【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第三章

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1名無しさん@ピンキー
主従を扱うスレです。


生意気な女主人を陵辱する従者
大人しい清楚なお嬢様に悪戯をする従者
身分を隠しながらの和姦モノも禿しくいい

お嬢様×使用人 姫×騎士 若奥様×執事など
主従であればなんでも良し
姉妹スレ、関連スレ、保管庫は>2あたりに。

◇前スレ◇
【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第二章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1156941126/

◇前々スレ◇
【従者】主従でエロ小説【お嬢様】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1124876079/
2名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 20:01:52 ID:lUJ3wIJ3
◇姉妹スレ◇

男主人・女従者の主従エロ小説
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1164197419/


◇その他関連スレ◇

【ご主人様】メイドさんでSS【朝ですよ】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1141580448/

巨乳お嬢様
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1139409369/

男装少女萌え【8】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163153417/

お姫様でエロなスレ5
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1166529179/

◆◆ファンタジー世界の女兵士総合スレpart3◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163919665/

●中世ファンタジー世界総合エロパロスレ●
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1145096995/


◇保管庫◇
http://vs8.f-t-s.com/~pinkprincess/lady_servant/ (初代スレがまとめてあります)
http://wiki.livedoor.jp/slavematome/d/ (まとめ中)
3名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 20:51:23 ID:Sy1YriLg
2ゲット?
>>1
4名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 21:50:31 ID:Jj3ZIEYm
>>1おつ
5名無しさん@ピンキー:2007/01/23(火) 00:41:02 ID:DbiETq8+
>>1
殿下に乙あれ!!
6名無しさん@ピンキー:2007/01/23(火) 03:48:23 ID:qQmncW68
>>1お嬢様、乙の時間にございます。
7名無しさん@ピンキー:2007/01/23(火) 04:33:24 ID:9mn+Wzz2
>>1
お嬢:ご苦労様だこと。褒めて遣わすわ。
8名無しさん@ピンキー:2007/01/24(水) 18:20:31 ID:MGDGS+9i
>>1
乙!

苦労人使い魔×マイペース主人の電波がおりてきたので頑張ってみようと思う
9前スレの686:2007/01/25(木) 16:51:35 ID:3ICKroE4
前スレで質問させてもらった686です。
女将軍と傭兵 投下させてもらいます。
出会い編書いたらなんかド長いことに…
10<<鬼を憐れむ唄・第一夜>>:01:2007/01/25(木) 16:53:25 ID:3ICKroE4
<<鬼を憐れむ唄>>

 噎せ返る程の熱波の中を歩く物がいる。
 陽炎の中を、豪く無様に歩く物がいる。
 辺りは一面焼け野が原で、視界に移る色は赤と黒の二色である。
 熱い。
 歩いてゆく物は、人間の形をしている。
 男と、女。
 男が、意識を失った女を背負いながら歩いているのである。
 熱気に朦朧とする意識の中、男を支えているものは背に負う女から伝わる優しい鼓動。
 まだ、生きている。
 食い縛った唇の脇を、また汗が流れ落ちた。
 無意識に踏み込んだ足元の焦げた大地が不意にぐずと崩れて、男は前のめりに躓いた。
 勢いで、まるで人形のように力のない女の体が、男の背から滑り落ちかけ、
 「……ッ」
 男は慌ててその華奢な体に手を回して、煮え滾る土に女が触れる前にようよう止めた。
 「……ミルキィユ」
 がっくりと仰け反った、折れそうに細い首に手を当て、男は何度かその頬を指で撫ぜながら、女の名を呼んだ。
 長く透明質な睫がゆっくりと開かれることを期待して。
 女は、ミルキィユと呼ばれた女は目を覚まさない。
 男はしばらくそうやって女の顔を眺めていたが、
 やがて、ひたひたと滴り落ちる己の汗が、彼女にまで及んでいることに気付いて、その汗を拭い、再び彼女を背に負った。
 また、苦行とも思える行程に踏み出す。
 果ての見えない焦土の中を、歩いてゆく二人がいる。
 男が、意識を失った女を背負いながら歩いてゆくのである。
 よろめきながら歩く男の名は、ダインと言う。


 出会いは偶然。
 その夜は暗かったように思う。
 見張りの交代時間を迎え、ようやくありついた夕飯……と、言うよりはいくらか早い朝飯を掻き込み、
 咀嚼ついでに見上げた空に月はなかった。
 ような気がする。よく覚えていない。
 半分眠りかけた頭で、それでも貧乏性か普段の癖か、飯は詰めるだけ詰め込んで、
 ダインは睡魔に追い立てられるように立ち上がった。
 ぼりぼりと無精ヒゲの生え始めた頬を掻きながら、一般兵が所狭しと寝転がる宿泊小屋とは名ばかりで、
 むしろ掘っ立て小屋だと、皆が不平を垂らす木戸を開き、すれ違いざま肩の触れた交代要員に唸り声ひとつ返しながら、
 無造作にブーツの紐を緩め、皮手袋を枕元に脱ぎ投げて、男臭い隙間に潜り込む。
 ブーツを脱がない癖は、長年に染み付いた職業病のようなものだ。
 次の交代までおよそ四時間。
 騒々しい寝言と鼾と歯軋りを聞きながら――それも慣れた耳には子守唄にしか聞こえない――頭の上まで湿気た毛布を引っ張り上げ、
 訪れた開放感にダインはようやく大きな欠伸を漏らした。
 野営地である。
 ここは、束の間訪れた静寂の中の戦場であり、そしてそこにいる彼は、傭兵軍の一員だった。
 傭兵軍とは、正規の騎士団や職業軍人とは畑が違う。傭兵には守る国王も、領土も存在しない。
 その集団は、戦いが自分自身に直接的にまたは間接的に関係があろうとなかろうと、金銭のやり取りによって雇用される集団である。
 時節も、正逆も関係ない。
 彼らの基準はただひとつ、「命と金を天秤にかけて儲かるかどうか」それだけだ。
 ダインが傭兵の道に進んだ理由も、同じところにある。
 金が欲しい。
 実に単純明快だった。
 幾度とない死線を渡り歩き、その度に生き残り、
 大金を手にして尚、傭兵家業を続ける彼に付けられた、ありがたくない二つ名は「守銭奴」。
11<<鬼を憐れむ唄・第一夜>>:02:2007/01/25(木) 16:54:54 ID:3ICKroE4
 初めて耳にした時、ダインは自分事ながら思わず大笑した。
 まったく似合いの渾名だと思ったからだ。
 そしてそう呼ばれることを気にしない。
 彼のモットーもまた、「命と金を天秤にかけて儲かるかどうか」、それだけだったからだ。
 その名が付いてからも、幾度となく戦場に出かけ、今もまた戦場に身を置く。
 ――俺ァひょっとすると殺人狂とか言うヤツなのかもしれねェなァ。
 そんな風に思うこともある。
 だがそれ以上は考えない。
 面倒くさいからだ。
 今回ダインが大金に釣られて決めた任務地は、攻城戦。
 厄介だとは思ったものの、それでもまだ篭城しているほうに比べればマシな方だと、すぐに考えを変えた。
 皇国軍に反旗を翻したのは、現皇帝に不満を持つ旧臣一派。
 不満を掲げた拳は次々に砕かれて、残るはこの城の主ルドルフ公ただ一人である。
 四方を囲まれた相手に、援軍は来ない。
 篭城とは、自軍からの援軍の望みが期待できるときにのみ、有効な手段である。
 援軍のない防衛戦は、言ってみればジリ貧でしかない。
 次第に底の見え始める食料と、水。
 増えていく死傷者。
 どん底に下がった戦意。
 どれをとっても最悪で、経験したことのあるダインは、出来れば、と言うよりかなり避けたい戦いである。
 正直なところ、自分が向こう側だったら途中で逃げ出すかもしれない、などと物騒に思った。
 傭兵の基準とは矛盾しているかもしれないが、それでも命あっての物種。
 今回ダインの属したエスタッド皇国軍は、ほとんどを傭兵で固められていた。
 皇国、と名のつく割には珍しいものだと、ダインはふと思ったものである。
 彼の今までの常識で思うと、神官騎士だの皇帝騎士が雁首揃えていておかしくない。
 もっとも、ダイン並びに従事している傭兵にしてみれば、
 無駄に権威を掲げる無能集団との接触がないこと、その事実だけで満足であった。
 軍紀だとか敬礼だとか、無駄な部分に労力を割いて、実際の戦闘面で活躍できなければ全く持って意味がない。
 貰った金の分は働いて返す、それが傭兵の言い分だったからだ。
 ところで。
 鬼と呼ばれる将が、この軍にいるのだと言う。
 傭兵間で密やかに囁かれている噂である。
 酒に酔い食らった誰かの流言だろうと、誰もが最初は気に留めもしなかったが、思えばそもそも戦場に酒はない。
 軍紀により飲酒を制限されているだとか、そういうことではない。
 自分の身は自分で守らないとならない世界で、泥酔することは以ての外なだけだ。
 節制できない命知らずは、既にこの世に亡い。
 割とシビアな世界なのである。
 この軍に、新規の傭兵は見えない。
 皆、戦場の敵で味方で、付き合わせたことのある馴染みの顔だ。
 つまり、ダインほどではないにしても、幾度も死線を潜り抜けたことのある、
 簡単に飲酒には逃避しない、臆病者ばかりである。
 ――慎重と呼んで欲しいね。
 一人ごちながら、ダインは寝返りを打った。
 噂の出所はどこだろうと、かなり信憑性の高い話なのかもしれない。
 そこまで思った彼を、人肌にぬくもってゆくざらついた毛布が、夢も見ない暗闇へと意識を引きずり込む。
 あたたかなそれは、少しだけ女の肌に似ている。
 大きな揺り篭。
 そのまますぅと意識が途切れ、
 途端、先頭を告げる半鐘が割れんばかりに鳴り響いた。
12<<鬼を憐れむ唄・第一夜>>:03:2007/01/25(木) 16:56:29 ID:3ICKroE4
 付随して、突き上げるような地鳴り。
 ぱらぱらと急ごしらえの天井から、埃が舞い散る。
 眠っていた辺りの男達から、殺気の込もった呻きが漏れた。
 ダインも同じように、呻き、
 いっそこのまま、素知らぬ顔で寝続けられないものかと、無理な願いを思ったものの、
 そうも言ってられない。
 渋々と起き上がる。
 手探りでブーツの紐を締め、手袋をはめ、ブレストアーマーの付け心地を確認して。
 獲物の長剣と短弓を腰に挿し、最後に一振りの短剣をブーツの脇に潜ませて立ち上がった。
 小屋の外、恐らく馬止めの木柵のところからだろう、剣戟の音と怒号が聞こえる。
 この様子では、戦闘終了とともに、休息時間の終わりだ。
 ここ最近、売れすぎた名前の祟りか、明らかにダインを狙ってくる輩が多い。
 ――俺の素っ首一つ取ったところで今更戦況は変わらないだろうによ。
 そうも思う。
 若しくは、守銭奴ダインの首に、相手方の上官がいくばくかの賞金を賭けているのかもしれない。
 満足に眠りを取れていないふらついた頭で、
 「……の野郎」
 豪く物騒な声。
 唸った。


 応戦の場へと躍り出ると、同じように宿泊小屋から飛び出してきた傭兵の一人が、見張りは何をしていた、と叫んだ。
 「見ていましたよしっかりと!」
 比較的新顔のまだ若い青年兵が、離れたところで誰に言うとでもなく怒鳴っていた。
 「見てたらなんで見落とすんだよ!」
 「この闇夜に黒く塗装した騎兵を見つけろと言う方が無理でしょうが!」
 「気合の問題だろう気合の!」
 それぞれに、眼前に迫る敵方と切り結びながらも野次を飛ばしあっている。
 戯れているのだ。
 本気になってしまっては、それはただの虐殺に過ぎないと、心のどこかで恐れているから。
 相手方の先陣を切らされているのは、やはり同じ傭兵軍である。
 金に目が眩んで、身を振る先を間違った、愚か者の集団とも言う。
 だが、それは自身の今の状況と紙一重であると言うことを、彼ら自身が知っている。
 いつ、こうなってもおかしくない。
 だから、なるべくなら殺したくはない。
 殺したくはないが、頭上に剣を振り翳されては、反撃せざるを得ない。
 そんな葛藤する思いが男達の中に渦巻いている。
 軽口でも叩いて慰めあうしかない。
 「……ふざけた公爵さまだ」
 ダインのすぐ側で不機嫌な声がした。
 見やった。
 「ヤオ」
 ダインとの腐れ縁は戦場一の、巨漢である。
 呼ぶと、視線は抜け目なく辺りへ配ったまま、ヤオは皮肉な笑いを一つ投げやってくる。
 「いい夢」
 見てたのによ。
 凄むところへ、いいじゃねェかとダインは慰めて見せた。
 「俺なんか夢も見てねェよ?」
 返されたものは薄い笑い。
 野営地に対して、丁度横腹へ直角に敵軍は突っ込んでいた。
 防備の薄い、相手が楽に突っ込める角度である。しかし逆を返せば、急な戦線離脱もまた、ない。
 深く食い込んだ先陣は、この奇襲が運試し程度の襲撃でなく、はっきりと殺意の意思表示。
 要は、相手軍が全滅するのが先か、ダイン達の皆殺しが先か、そのどちらかでしかないと言うことを示す。
 死を覚悟した人間は厄介だ。
 楽に勝てる相手ではなさそうだった。
 どこかで断末魔の声が上がり、ダインの耳がふと反応する。
 聞いた覚えのある声。
 仲間の声である。
 「間違ってる」
13<<鬼を憐れむ唄・第一夜>>:04:2007/01/25(木) 16:57:46 ID:3ICKroE4
 よよよと、隣で戦斧を振るうヤオがおどけたように泣き声をあげた。
 「用兵の何たるかをさっぱりわかっちゃいねェ」
 「……そんなモンかな」
 意識を、傍らにいる男に向けなおしながら応えた。
 奇襲は、先手必勝。
 通常は獲物に音もなく忍び寄り、砲撃もしくは射撃とともに、まずは相手を混乱に陥れる。
 例え目的が、敵の殲滅だったとしても、近寄った分だけ被害を被る可能性のある接近戦は、一番後回しにしようとするもの。
 それが怨恨目的のない傭兵同士の戦いなら尚更だ。
 威嚇射撃もなしに、
 「なんだっていきなり突っ込む必要がある」
 嫌な連中だ。ヤオが呟いた。
 相手の目的は、
 「玉砕か?」
 死なば諸共。
 主に忠誠を誓う騎士団を道連れに散ろうと言うなら、それはそれで話のつじつまが合わないわけではないが、
 金銭契約の傭兵に忠誠心は皆無だ。
 「一人で死ぬのが怖いか」
 ダインは吐き捨てた。
 それを耳にし、ああ嫌だ嫌だと首を振る隣の男が、瞬間膝から崩れるように仰け反る。巨体に似合わない俊敏な動作である。
 残像の中に白く光る刃。
 「挨拶も無しかよ!」
 崩した体勢のまま、手にした戦斧でヤオは無造作に地面と平行に薙ぎ払う。
 ぶつりと鈍い音と共にぎゃ、と悲鳴。
 暗い中にも何かの迸る音。
 鉄錆の臭いが空気に溶ける。
 「……汚すなよ、ヤオ」
 後始末を考えろ、とうんざりした声のまま、やはり背後から忍び寄った敵の一人をダインは長剣で薙いだ。
 「お前の方が汚してんだろうよ」
 くく、と含み笑い。
 その声を背後に聞きながら、前から襲い掛かる数人の中にダインは飛び込む。
 長年の戦場の主だけはある。
 斬り付けると言うよりは、優雅に舞うようなその動き。
 今は流石に暗くて見えないものの、音だけでも感心するような、無駄のない戦い方。
 「おいおい……」
 交戦中にも余裕がある。彼は不意に上空を見上げ、心外そうな声を放った。
 「あちらさん……櫓にまで御登頂なさってんぜ?」
 前方から無謀にも飛び掛ってきた相手を、一刀両断に切り結びながら、言葉につられてヤオもまた振り仰いだ。
 「本当だ」
 間の抜けた声で同意が返る。
14<<鬼を憐れむ唄・第一夜>>:05:2007/01/25(木) 16:58:49 ID:3ICKroE4
 「どうするよ」
 「行ってくる」
 一人、また一人と血の海に沈めながらヤオが尋ねたのに返し、同時にダインは梯子に走った。
 人間は、頭上からの攻撃に対して一番無防備だ。
 頭上より射撃でもされようものなら、数では完全にこちらが有利ではあるものの、豪い手傷を受けることになりかねない。
 襲撃前、見張り櫓に何人がいて、今現在敵方が何人いるのか見当も付かなかったが、
 どうも加勢に行ったほうが良いとダインは判断した。
 と、言うよりは、これ以上戦いを長引かせられて余計な後始末を増やしたくなかったのと、
 自分の所属する獅子模様の軍旗が、蹂躙されることが少々癪だったせい。
 辺りに飛び交う火矢。
 野営地内は、混戦状態に陥った様子。
 「くそ」
 梯子に足をかけて唸りながら、その矢来の中をまるで無頓着にするすると伝うダインの動き。
 一種無防備とも見える背中。
 「気をつけろ、」
 噎せ返る血煙の中で、ヤオが笑った。
 彼の隆々たる腕に彫られた髑髏のタトゥーも、一緒になって笑っていた。
 「馬鹿とナントカは高いところが好きと言うからな」
 「……そのナントカじゃないことを祈りたいね」
 物騒な笑顔をダインもそのまま返す。
 歳の割には老成した顔、やはり髑髏と同質の微笑み。


 身軽なのが自慢である。
 暇つぶし、見張り櫓に登るまでの時間を競った賭けには、まだ誰にも負けたことがない。
 ダインが梯子の先端まで辿り着くのにおよそ十秒弱。
 少し前に座興よろしく目隠しをして上ったこともあったが、いつもの通りふらつきもよろめきもしなかった。
 戦勝祝いで久しぶりに飲んだ酒のあとも、物は試しと手をかけてみたが、やはり変わることがない。
 生来のバランス感覚の賜物だと吹聴しまくった記憶もある。
 櫓の上はそう広くない。
 長剣は鞘に戻してある。
 代わって咥えた短剣は、武器としては少々頼りなくはあったが、愛用のそれにダインは全幅の信頼を持つ。
 見張り台の鼠返しの陰から、様子を伺う。
 剣戟の音は聞こえてこなかった。
 「……全滅させたか」
 全滅したか。
 ふと見下ろせば、味方は善戦している模様で、
 そのまま、躊躇いなくダインは見張り台へと飛び込んだ。
 
 朱。
 
 暗闇の中だったのに、
 色として見えるはずはないのに、
 それは酷く沁みる光景だったのは、何故だろう。
 悪酔いしそうな鉄錆の臭いが、辺り一面に充満していて、その中に人影がぽつ、と立っていた。
15<<鬼を憐れむ唄・第一夜>>:06:2007/01/25(木) 16:59:50 ID:3ICKroE4
 ダインには見覚えのない立ち姿。
 虚脱感にも似た、その光景。
 彼が息を呑んだ音を聞きつけたか、<そいつ>がこちらを振り向く。ゆらりと空気が崩れたような気がして、
 刹那。見蕩れた。
 だらりと垂らした片手に、冗談かと思うほどの長さの大剣。
 全身に血液を浴びたその姿は凄惨。
 辺りに他に気配のないところを見ると、<そいつ>が敵方を叩き伏せたか、
 それとも味方を皆殺したか。
 東の空が僅かに白み始める明け闇の中で、ダインを見つめる瞳には一切の光がなかった。
 即座に鮫を連想した。肌が粟立つ。
 ――コレは、危険だ。
 培った本能が、ダインに語りかける。
 とは言え、ここでこの奇異な人影に背を向け、さようならと降りるわけには流石に行かないだろうし、
 そもそも<そいつ>が見逃してくれそうにもない。
 無言で短剣を構えると、それを合図に辺りの闇が急速に濃縮されたように皮膚にまとわり付く。
 相手がこちらに対して、そしてこちらが相手に対して、殺気を放ち始めた為だ。
 ――やべェ。
 自身を叱咤しながらもダインは空気に呑まれる。
 こんなことはあまり無い。脇の下を冷たい汗が伝った。
 体が重い。
 滑るように、<そいつ>が動いた。
 無理矢理体の動きを取り戻したダインが、は。と間一髪仰け反るところに、必殺の篭った一撃。
 避け損なった髪が数房宙に散った。
 返しざま<そいつ>の逆刃。
 二度目は避けきれず、手にした獲物で危うく受け流す。
 短剣を握り締めた右手が斬撃の余韻に震えた。
 ところに三度目の右からの刃。
 「野郎」
 紙一重で抜いた腰の長剣で、防ぐ。
 そのまま勢い、相手の足を蹴り上げた。
 よろめいて、隙を作るかと思った<そいつ>はダインの意に反してそのまま、重力に逆らわずに倒れた。
 「な……?」
 体が。
 獣のように、頭より先に動いた。
 伏せ避ける。
 そこに突き立つ長大な剣。
 ダン、と言う音が彼の耳に響く。
 床板に深々と突き立つ切っ先。彼の頭すれすれの位置。思わず凝視した。
 次の一撃だとか、相手の動きを封じるとか、これは、考えていない。
 捨て身の攻撃だ。
 はたと気付けば、辺り一面の倒れ伏した敵か味方かの体は、塊ですらない。
 肉片。
 ――コレは、危険だ。
 「野郎」
 跳ね起き、反撃とばかりダインは短剣を突きつけた。
16<<鬼を憐れむ唄・第一夜>>:07:2007/01/25(木) 17:00:52 ID:3ICKroE4
 その攻撃を<それ>は避けようとはせずに、
 片腕に確かに片刃が食い込んだ感触がする。しかし<それ>は呻き一つ上げはしなかった。
 食いしばって、ダイン。相手の体から飛び散る飛沫が頬を濡らした。温もりの残る液体。
 すかさず振りかざしたもう片方の長剣は、無造作にも見える、その実渾身の力の篭った一撃で払われた。
 低く宙を舞った刃が、やけに硬質な音を立てて床へと突き刺さる。
 目の端で獲物を眺めてダインは舌打つ。
 短剣一振りでは、この大剣は受け止めきれない。
 気付いて思わず数瞬呆けた。
 受け止めきれないと言うことは、死ぬと言うことだ。
 自身が死ぬと言うことが、ダインには理解できなかった。
 死ぬのが怖くないといえば嘘になる。
 戦闘にいつも痛みは付いて回ったし、幾度か終わりを覚悟した傷も負ってきた。
 それでも、死ななかった。
 俺ァこんなところで終わるのか。
 そんな豪く冷静な声が頭の中で聞こえる。
 視線を上げると、音もしない斬撃が顔面に迫っていた。
 上手く逃げ道は封じられていて、飛ぶより他に道はなさそうだった。
 がむしゃらに相手の鳩尾を蹴り上げ、流石に一瞬見せた<それ>の隙に、
 ダインは躊躇うことなく櫓の手すりを飛び越える。
 無論、手すりの向こうは空である。
 頬へ、風を切る感覚とともに透き通るような痛みと、猛烈な熱さ。避け切れずいくらか斬られたのだ。
 落下しかけたダインの首筋に、容赦ない二撃目が襲った。
 「ちィッ」
 駄目だ。避ける術が無い。
 瞬間ダインは思わず喘ぐ。
 「畜生ッ」

 一筋。光。

 いつの間にか、夜明けであった。
 血で血を洗う戦場の光景をも、光は浮き立たせ、
 束の間どちらの兵士も東を思う。
 次々に差し込み始めた光は、見張り櫓にも手を差し伸べた。
 落下するダインの姿を<それ>が見やって、
 途端、
 退いた。
 刹那、火花を散らして手すりに逸らされたのは、大剣。
 無造作に、次の動作も無いままに振り下ろしてきた勢いのまま突き立った。
 その動きを視界に納めながらダインは落下してゆき、
 「ご……っは」
 受身を取る余裕すらなかった彼は、ものの見事に背中をしこたま打ちつけた。
 空気が肺腑から全て叩き出されて、彼は七転八倒する。
 「おいコラ大丈夫か」
 涙を流して苦悶するダインを見て、ヤオや他の傭兵仲間が近寄ってくる。
 どうやら大勢は決した模様。
 確認してダインは、呼吸困難からようやく立ち直り、ようよう立ち上がった彼の体の真横へ、
 突如唸りとともに銀の一筋が流れ落ちる。
 ざく、と音がした。
 「……ってオイ」
 見咎めてから一呼吸遅れて冷や汗が噴出す。
 刺さっていたのは、ダインの長剣だった。
 上から投げ落とされたのだ。
 「忘れ物だ」
17<<鬼を憐れむ唄・第一夜>>:08:2007/01/25(木) 17:02:02 ID:3ICKroE4
 ふらつき、口を拭うダインの耳に、涼やかな声が飛び込む。
 慌てて顔を上げると、梯子から降りた先程の相手が、真っ直ぐに彼へと向かって来た。
 「て、めェ……」
 腰を低く落とし身構える彼に、まるで邪気の無い様子でずかずかと<それ>は近付き、
 「う、」
 ダインの喉から思わず声が上がる。
 柔らかな栗色の目をしていた。
 太陽を背にした相手は、長身のダインよりも頭二つ分は小さく、細身と言うよりは華奢と言うのが正しい。
 全身をくまなく覆い隠した真っ黒な上下。それにキルティング加工されたクーロスアーマー。
 今は、血によって赤く染め抜かれていた。
 纏わり付くのを煩わしそうに払いのける髪は、とても長い。
 その色は、白というよりは透明。
 皇かに通った鼻筋と、くっきりと弧を書いた眉。
 無骨な戦場に似合わないほど、可憐だ。
 先程の大剣は、既に鞘に仕舞われて背に負われている。
 とても綺麗な少年なのである。
 先頃の粘ついていた殺気が嘘のように、まるで警戒心の無い動作でダインの前に立つと、
 「悪かった」
 詫びた。
 「は?」
 まるで突拍子も無い声が出た。
 「暗かったのでな。敵方の残兵と見誤った。貴様があの有名な守銭奴傭兵か」
 「はァ?」
 まるで悪びれも無い声で、彼の又名を口にして、興味津々な視線を投げかけ、
 それから、ぱっくりと割れたダインの頬を眺めて眉をひそめた。
 「手傷を負わせて仕舞ったな。許せ」
 そう言って手を伸ばし、不意に少年は彼の頬に触れようとする。
 何とはなしに気恥ずかしくて、ダインは思わず一歩退いた。
 「こ、こんなのはカスリ傷に過ぎねェよ。……それよりも、アンタは一体」
 「アンタではない。わたしの名はミルキィユと言う」
 ダインの言葉を軽快に遮り、跳ねるような動作でミルキィユは応えた。
 「はァ、……ミルキィユ……。……様?」
 様と慌てて付け足したのは、少年の身に纏う鎧や装飾が、実にシンプルだったものの、
 細かで高価な細工がされているのに気が付いたからだ。
 「上官と呼べばいい」
 「……上官?」
 そこまで鸚鵡返しに呟いて、思考の止まっているダインの背後であ、と声が上がり、彼は振り返る。
 「なんだよ」
 「……確か、この軍の将軍がそんなような名前だったような」
 「鬼と呼ばれていただろう」
 にっと白い歯をこぼしてミルキィユ。好奇心を含んだ男たちの視線を意に介さない。
 「……アンタが鬼将軍か……」
 ぼんやりと繰り返したダインは、そこでようやく少年の右腕から、血が滴っていることに気が付く。
 「アンタ、そう言えば」
 夢中で突き付けた短剣の確かな手応えを、ダインは思い出していた。
 「ああ、」
 彼の視線に気付いて、ミルキィユは軽く右腕に手を当て、そう深い傷ではない、と言った。
 ――嘘付け。
 あの手応えは、かすった程度のものではない。その位は判る。
 いくら追い詰められていたとは言え、ダインも傭兵の端くれだ。
 貫通しないまでも、かなり深く突き刺さった手応え。
 「お前の頬と天秤にかけて差し引きゼロだな」
 そう言ってミルキィユが笑ったので、ダインもそれ以上言及できなくなって黙った。
 「皆、ご苦労だったな」
18<<鬼を憐れむ唄・第一夜>>:09:2007/01/25(木) 17:04:01 ID:3ICKroE4
 噂に聞こえた鬼将軍とやらに、物珍しげに辺りに群がり始める男たちを見回し、
 「散った同胞の体は丁重に葬ってやって欲しい。それが終わったら腹ごしらえをして、報襲に移る。
 長引いてもこの季節、尻にカビが生えるだけだ。今日明日で片を付けよう。以上。解散」
 てきぱきと指示すると、ミルキィユは踵を返して颯爽と去ってゆく。
 「……なんか、鬼のイメージと随分違うよな……」
 その背中に思わず見蕩れた傭兵の一人が呟くところへ、幾人もが首を縦に振った。
 「……若いよな」
 「あの顔で将軍か……」
 ぼそぼそと、今見た鬼将軍談義に花を咲かせ始める仲間を背後に、ダインは一人不機嫌そうに少年の姿を見送った。
 点々と、土の上に咲く赤い花が、傷の深さを物語っていたからだ。


 そのまま、ミルキィユの姿を見ずに数日が過ぎた。
 この戦いが始まってからの三ヶ月、一向に姿を見なかったのだから、
 数日程度で再び見える、とは流石に甘い考えだとダインも自身苦笑した。
 露払いを引き受ける傭兵軍と、その背後に本部を置く将軍だの元帥だのとは、そもそも全く接点が無い。
 ――噂を目にしただけでも役得かねェ。
 そうも思う。
 攻城戦は、圧倒的にダイン達エスタッド軍の勝利で幕を閉じた。
 まだ数週間はかかると、ダインなどはそう踏んでいたのだったが、
 実際のルドルフ軍には、もう城壁どころか各城門を守備し切る力も残されてなかったらしい。
 と、言うよりは今朝方、奇襲をかけてきた傭兵一隊が最後の戦力だったとも言える。
 従来の、最後の一兵まで戦い抜こうとする気概は既に公爵の騎士軍に無く、
 呆気なく白旗を掲げて降参する姿に、気負っていたダインたちはかなり拍子抜けした。
 あの少年の示したとおり、二日と半日での決着だった。
 戦勝祝いに、糧食部隊から各グループに労いの酒が配られる。
 今夜ばかりは、無礼講だ。
 この夜ばかりはと、今まで張り詰めていた神経分、傭兵達もあちらこちらで大いに盛り上がっている。
 追随して、この戦が終わって契約が切れてしまえば、
 いくら糧食庫に酒樽が積んであっても、傭兵達には縁の無いものになるのだから、
 だったらいっそ呑める分は呑んでおいたほうが。
 などという多少貧乏臭い計算も中には含まれていたりもする。
 ダインもまた大いに飲んで盛り上がった。
 こちらが気の毒になるほどに壊滅した相手だ。
 酒宴の隙を狙っての、最後の報復攻撃が出来そうな肝のある将も見当たらない。
 腹帯緩めて散々に、喰らった。
 戦場に名の通った傭兵であるから、知り合いも多い。また、この機会に近付きたいものもいる。
 差し出されるままに杯を口に運んで、気付けば既に深更。
 辺りの仲間も泥酔して寝崩れている者が多く目立ち始め、
 ふと、軽く催してダインは立ち上がる。
 守銭奴と呼ばれる傭兵はまた、酒に強いことでもかなり有名で、
 今日だけでもヤオと二人で四分の一樽ほどは呑み開けただろうか。
 瓶にしておよそ25本。
 流石に真っ直ぐに歩く、と言うわけにはいかない。
 頬を、ぼりぼりと掻きながら焚き火から離れる。
 流石に夜は冷えた。
 少年に付けられた彼の傷は、鋭く真っ直ぐ斬られていたから痕も残らず綺麗に治りそうだった。
 とは言え、ダインは流れの傭兵家業であって、深層の姫君ではなかったから、
 例え痕が残るだろうと言われたところで、ああそうかと応えるより無かったが。
 ――いいさ、むしろハクが付く。
 豪快に笑い飛ばした。
 ただ、傷口が塞がる際のかさぶたが、ダインは苦手だ。
 痒い。
 見ているほうが痛いから毟るなと、周りから苦情を聞かされてもついつい手が伸びる。
 今もまた、掻いていた。
 用を足したついでに酔い覚ましにと、野営周りをぐるりと周回するのは癖の様なものだ。
 奇襲は無い、と判っていても体がついつい確認に回る。
 大分酒宴の場からは離れ、つい先日幾つもの仲間の体を葬った裏手に回ると、
 「また会ったな守銭奴」
 静かな声がした。
19<<鬼を憐れむ唄・第一夜>>:10:2007/01/25(木) 17:05:02 ID:3ICKroE4
 一瞬身構えたダインは、その声の主を確認して肩から力を抜く。
 篝火に照らされて、声の主は、肩越しに振り返って柔らかに笑っていた。
 「……アンタか」
 「上官と呼べ」
 酒臭い息で返すところに、ぴしりと跳ね返るミルキィユの一声。
 それにダインは構わずに、少年の傍らへ、ふらふらした足取りで近付く。
 「……なんだ、アンタ酔ってねェな」
 意外な声を上げる。
 目の前に立つ少年からは、酒の臭いがしない。
 ミルキィユは頷いた。
 「うむ」
 「まだ、酒に呑まれる歳……かぁ?」
 「そうではない。今日は呑みたい気分になれなかった。それだけだ」
 そう言って、ミルキィユはダインに背を向け、
 彼が邪魔しに訪れるまでそうしていたのだろう、また地面へ跪いた。
 動きに自然にうながされて、同じく地面へと目を落としたダインが見たのは、
 簡素な土饅頭の上に一輪ずつ手向けられた、黄色の小さな花。
 ダインは、その花の名を知らない。
 「なんだ。アンタずっとそうやってたのか」
 「そうだ。存外時間がかかるものだな。早くに終わる予定だったが」
 「ふぅん」
 夜風に震える花弁を、何とはなしに眺め、ダインは頬を掻きながら生返事する。
 「……いちいち花ブッ挿して祈り捧げてたら、明け方になっても終わらないぜ」
 「自己満足なことは判っている」
 次の土饅頭へ体を運びながら、ミルキィユは静かに答えた。
 「わたしがこうして祈ったところで、逝ってしまった彼らが戻ってくるわけでも、浮かばれるわけでもない。
 故郷に残る彼らの家族もまた、悲しみが癒えるわけでもないだろう。……判ってはいるのだ。
 ただ、こうしないとわたしの気が済まないので、こうやって祈る。それだけだ」
 「ふぅん」
 ――そんなモンかね。
 その返事は酔った頭でも不謹慎な気がして、流石にダインは飲み込んだ。
 「じゃあよ、」
 「ん?」
 「俺が死んでも、そうやってアンタは祈り捧げてくれるのかね」
 ふと、思いついた戯れを口にしてみる。
 「さぁ。どうだろう」
 くく、と肩を揺らして、ミルキィユは笑った。
 「そうしてほしいなら、そうしてほしいと今のうちに言えばいい」
 「……俺ぁ一週間後、皇都着いたら無職の身だぜェ?不吉なことは言わない主義だ」
 肩を竦めて返すダインへ、心配ない、と低い声が囁いた。
 「あ?」
 「心配ない。すぐに仕事が見つかる。皇都に帰還次第、次の任務地だ。募集をかける」
 「……アンタがか?」
 「そうだ。休まる暇が無い」
 貴様と同じく有望だから。
 そう言って邪気の無い顔でミルキィユは笑う。
 見ているダインまでが楽しくなるような、そんな笑顔である。
 「貴様の名を聞いていなかったな」
 不意に笑いを収めて、それでもまだ唇の端に微かに名残を見せながら、ミルキィユは尋ねた。
 「……俺ァ、ダインだ」
 「ダインか。いい名だ」
 少年は鷹揚に頷いて、それから、
 「ダイン。貴様さえ良かったら、次の任務地にも来て貰えると助かる」
20<<鬼を憐れむ唄・第一夜>>:11:2007/01/25(木) 17:05:57 ID:3ICKroE4
 そう言った。
 「俺……か?」
 言われてダインは首を傾げる。今回の攻城戦で、特段目立った活躍をしたわけでもない。
 「うむ」
 「……俺のどこが、将軍様はお気に召されたんでありましょうかね?」
 「わたしと切り結んだろう」
 「そりゃ……あの時は悪かったよ。こっちもアンタが味方だとは思わなかった」
 「貴様は強い」
 言い訳がましく呟いたダインへ、違うと首を振って見せながら、ミルキィユは重ねて言った。
 「あの時わたしも、貴様を敵だと思ってたから必死だった。正直床に転がされたときは、死を思った」
 「いやそれは……」
 言われてダインは立つ瀬が無い。彼もまた必死であったし、死を覚悟したからだ。
 ダインが思っていたほどに、相手をしていたミルキィユにも余裕は無かったらしい。
 「……明けの光に互いに救われたな」
 だから、そう言ってやった。
 そうだな、とミルキィユが小さく笑う。
 「殺さなくて良かった」
 言ってから、ダインはふと気付いて、
 「そういやアンタ、腕の傷はどうなった」
 「う、ん……?」
 問いに、思わず語尾を濁したミルキィユへ、ぴく、とダインは反応した。
 「アンタ……ちょっと見せてみろ」
 言うが早いか、ダインはさりげなく背後に隠しかけた、少年の腕を取る。
 酔った勢いも兼ねてはいた。
 「……おい」
 包帯を巻いたミルキィユの腕は、驚くほどに華奢。
 ダインの手のひらで、握りつぶせるほどに細い。
 腕を取った瞬間に、苦痛の声を呑む音が、ダインの耳に微かに届く。
 「おい」
 巻いた包帯には、まだ赤い染みが所々に滲んでいる。
 ダインの頬の傷より、よっぽど深いのだ。
 「……アンタ……」
 「もう、ずっと、良いのだ。神経が傷ついていたわけでもない。獲物も手に取れる。心配は、」
 いらない、とまるで自分が痛そうに、しかめ面になったダインへ言い訳がましくミルキィユは呟き、
 彼の腕より逃れようと身をよじる。
 「平気だ。放してくれ」
 「……細っせェなァ……。これじゃ、いくら将軍様つったって、女押し倒して抱けねェだろう?」
 「え?」
 逃れようとする様に、思わずダインは悪戯心を起こして、揶揄するように目を細め、
 「知らばっくれるなよ。皇都じゃ、さぞかしモテるだろう?何でか知らんが、女はキレーな顔ってのが好きだぜ」
21<<鬼を憐れむ唄・第一夜>>:12:2007/01/25(木) 17:08:56 ID:3ICKroE4
 手を放してやりながら言った。
 単に酔っ払いの絡みと、取れないことも無い。
 「アンタいくつよ」
 「17だが」
 「じゃあ今が一番お盛んな時期だろうさ?俺も十代の頃は大変だった」
 目の前の少年は、自身と一回りちょっと歳が離れているのだと知り、ダインは急に先輩よろしく頷いて、少年の肩を叩く。
 「今日の酒盛りにしたってそうだ。アンタ、もっと呑んで喰わねェと、でっかくならんぜ?
 こんな女みてェな体つきじゃなくて、俺を目指せ、俺を」
 どん、と張り切ってがっしりした胸板を叩き、俺に任せろとダインは笑ってやった。
 「まァなんだ、良かったら今度一緒に妓館にでも繰り出そう。安いが良いトコ知ってるんだ。
 将軍様も、もっと下々の生活をお知りになったほうがいいってコトよ」
 俯いてしまったミルキィユへ、恐らく恥らっているのだろうとダインはそう踏んだ。
 ――まだまだ青臭ェガキか。
 「なに、心配するなって。アンタ、ちょっと見た感じ女みてェだが、
 そう言う年下の可愛い男のコを、好きな女も俺は知ってるからよ」
 俯いたミルキィユは、長い髪の影に隠れて表情が良く伺えない。
 「な?」
 同意を求めて、ダインは少年を下から覗き込んでやった。
 「お、女みたいと言うのは誰のことを指しているのだ」
 「アンタに決まってんじゃねェか。……なんだ、意外に気にするタチかァ?」
 何かを堪えるようなミルキィユの声に、内心首をかしげながら、ダインは真っ直ぐに少年の顔を指差してみせる。
 一呼吸、二呼吸。
 「……も、も、も、も、」
 「……あん?」
 も?
 小刻みに震え出した細い肩を見て、なんだ寒いのか、などとダインが口にしようとした瞬間。
 硬く握り締めた鉄拳が、躊躇い無くダインの横頬に叩き込まれ、

 「もとより女だこの大馬鹿者!!!」

 不意を食らった酒臭い傭兵は、ものの見事に勢い吹っ飛んだ。
 彼が、ミルキィユの懐刀と噂に上るのは、未だ先の話。
 大の字に倒れた彼を、故意にぎゅっぎゅっと踏みつけて、ミルキィユは長い髪をなびかせ、憤然と去ってゆく。
 逆さになった後姿を見送りながら、痺れる頬に手を当て、ダインは情けなく呟いた。
 「お……女……?」
 守銭奴傭兵ダイン。
 そのまま混沌の闇に意識が紛れ込んだ。

* * * * * * * *

以上です。
前スレに入らなそうだったので、こちらに投下させてもらいました。
22名無しさん@ピンキー:2007/01/25(木) 22:40:44 ID:gWWIHlvf
GJ!!>>9
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 続き!続き!
 ⊂彡
男装スレも読んでる自分としてはとにかく将軍がたまらん


むかーし読んだエロ本で、
恋する魔女っ娘が恋愛の魔術を完成させるために使い魔を呼び出すんだけど、
出てきたのは魔女っ娘の幼馴染の悪魔。
で、嫉妬した悪魔に…
ってのがあったんだけど、これも主従になるのかな?
23名無しさん@ピンキー:2007/01/25(木) 23:40:38 ID:egdYO/t4
うわぁ〜また何か凄いのキター!

GJです!
あー続きが楽しみ〜
しっかし、ここといい姉妹スレといい
マジで職人さん神レベルだよ……
本当にありがとう!
24名無しさん@ピンキー:2007/01/26(金) 00:19:14 ID:lK0zjcxA
読み応えあってサイコー。
どう心を寄せあっていくのか楽しみでならん。wktkしながら続きを待たせてもらうよ。

>>22
魔女っ娘を主として使い魔の契約を結んだら主従だと思うぞ。
さあ、思いきって投下するんだ!
25名無しさん@ピンキー:2007/01/26(金) 01:00:54 ID:1rbhAWZb
>>10-21
いやー面白かった
奇襲受けてからの描写とかすごく好みだ
よければ続きもぜひ
26兆し・1:2007/01/26(金) 18:39:30 ID:nhapMQQp
前スレ79の「若頭×お嬢系が見たい」を「若頭×お嬢さんが見たい」だと勘違いしてました。
ついさっき、勘違いに気づいたよハハハハ。

そんな勘違いから生まれたSS投下。

若頭×組長の娘。年の差あり。でもエロはなし。ちょい長め?
今はまだ組長の娘に「主」の意識がないので「主従」っぽくないですが、主従の関係強化とエロはおいおいってことで。


-----------
「兆し」

1.

 わたしのママはクラブを経営している。当たり前だが、クラブといっても「ク」にアクセントがくるほうのクラブだ。
 お客さんは会社の経営者や政治家といった人たち。ちょっとした高級クラブといったところだ。会社経営者にもいろいろ種類があって、もちろんその中にはヤクザだって含まれる。
 そもそもそのクラブをママが開く時に資金を出してくれたのは、ヤクザの組長なのだから。
 ママの名前は長浜都(ナガハマミヤコ)。資金を出してくれたヤクザは島津隆尚(シマヅタカヒサ)。
 関東の裏社会を支配する広域暴力団の2次組織・東征会の幹部であり、島津組の組長。そしてわたしとお兄ちゃんの父親だ。


 なんで苗字が違うかといえば、ママは戸籍上は結婚していないからだ。ヤクザの奥さんで内縁状態の人は多いようだけど、ママの場合はそれともちょっと違う。
 父には正式な妻も、内縁の妻もいない。いるのは愛人関係の女性だけ。ママのほかに子供がいる人はいないみたいだから、愛人たちの中でも少し別格なのだろうけど、でもはっきりと言われているらしい。
 「お前は愛人で女房ではない」と。
 だからなのか、わたしたち兄弟には父親との記憶がほとんどない。一緒に住んでいるわけでもないし、誕生日にプレゼントをもらった記憶も、一緒に食事をした記憶も、もしかしたら笑いかけてもらった記憶もないかもしれない。

 それでもわたしたちが父を嫌わなかったのは、ママのためだ。
 昔はママは今自分が経営しているようなクラブでホステスとして働いていて、夕方出勤する時はいつも憂鬱な顔をしていたものだ。
 だけど父が店に来ると連絡をしてきた時だけは、うきうきと少女のように頬を染めて一番気に入っている服を着て上機嫌で出かけていった。
 そんな嬉しそうなママを見るのが好きで、どうして父はいつも一緒にいてくれないのだろうと不思議に思っていた。その疑問を投げかけるとママが悲しそうな顔をする理由もよくわからずに。
27兆し・2:2007/01/26(金) 18:40:20 ID:nhapMQQp
2.

 昼休みのチャイムが鳴った。窓際の席のわたしはぼんやりと外を眺めていたが、友人の声で我に返った。
「瀬里奈(セリナ)! 早く行かないとパンなくなっちゃうよ!」
「あ、ごめん。万理(マリ)。今行く」
 わたしは財布を持って駆け出し、万理とふたり売店へ向かう。売店は食欲旺盛な高校生で埋め尽くされ、わたしたちは近寄れもしない。
「あーん。ヤキソバパン〜」
「ヤキソバパンだけでいい? 他に欲しいのは?」
 大袈裟に嘆いた万理の声にかぶせて、背後から声がした。お兄ちゃんだった。
「お前は何食うんだ」
「あ、同じのとグレープフルーツジュース」
 待ってな、と頭を軽く撫でられ、あっという間にお兄ちゃんは売店の中へ入っていく。
 はっと横を見ると、目にハートマークを浮かべた万理がお兄ちゃんの後姿を見つめている。
「かっこいいわよねぇ……。長浜先輩」
 お兄ちゃんは妹のわたしから見てもかっこいい。
 父譲りの切れのある顔だち、がっしりとした体、頭の良さを持ち合わせていて、入学時点から今まで女子生徒の間で人気ナンバーワンだ。
 そんな女子生徒を見るにつけ、父がいかに女の人にもてるのかを教えてくれるような気がしたものだ。
 わたしがこの春入学してまず言われたのは、「あなた、長浜尚(ナガハマショウ)の妹ってホント?」ということだった。
「ほら、適当に買ってきたぞ」
 お兄ちゃんが本当に適当にいくつか買ってきたパンの中から、わたしと万理は自分が欲しいものを選び礼を言った。
「そういやさ、親父、結婚するらしいぞ」
「は?」
 今更? ようやく? と言いかけたわたしに、お兄ちゃんは雑誌をわたしにつきつけた。ほとんど見たことのない、いわゆる実話系の雑誌。
 そのページには大きな文字で「島津隆尚(39)ついに結婚! お相手は20年思い続けた幼なじみの女性(34)!?」と書いてあった。
 ママだってまあ、父と知り合って20年だよね? 幼なじみだったんだ? だけど、そこに載っていた女性の写真はどう見てもママとは違う女性だった。
 お父さんはとうとうママを捨てるの? わたしたちはママごと切り捨てられるの?
 唐突に自分たちの未来への不安がわたしを襲う。
 ママはどうなるの? わたしたちはどうなるの? わたしの疑問に、お兄ちゃんは口をつぐんだ。
28兆し・3:2007/01/26(金) 18:41:30 ID:nhapMQQp
3.

 午後の授業はほとんど覚えていない。昼休み、お兄ちゃんと別れて教室に戻ったわたしは、パンをかじりながらその雑誌を穴が空くほど読んだ。
 読んだものの、内容はやはりほとんど頭に入ってこない。
 わかったのは、父が結婚するのはママでも、今いる愛人の誰でもなく、7年前に姿を消して最近再会した父の幼なじみの女性であるということだけ。
 わたしは言いようのない感情を抱えたまま、家に戻った。
 家の前には黒塗りのでっかい車と人相の悪い男が待機していた。お父さんが来てるんだ。わたしはますます暗い気持ちになって、玄関に向かった。


「ただいま」
 玄関にはお兄ちゃんのローファーと、ぴかぴかに磨かれている、いかにも高そうな黒い革靴。靴を脱ぎリビングへ顔を出す。
「いらっしゃい」
 父に対して「いらっしゃい」は普通じゃないよなあと、自分で言いながらいつも思う。だけど我が家では、どう考えても「いらっしゃい」だ。
「瀬里奈。話があるから着替えたらいらっしゃい」
「着替える必要ない。今でいいよ」
 すでに着替えてダイニングの定位置の椅子に座っているお兄ちゃんの横に座る。父はソファにゆったりと腰掛けて煙草を吸っている。ママはその横に座ってお茶を急須から入れていた。
「ふたりの顔が見えねェな。こっちへこい」
 ずっしりと重みのある低い声。自分の言うことに逆らう人間はいないと思っている声。ぐずぐずしているとすぐに怒鳴られる。
 子供相手だから本気じゃないとママは言うが、睨む顔と殺気を漂わす声だけで人を殺せそうな雰囲気をかもし出している。これで本気じゃないなら、本気で怒ったらどうなるんだろう、と想像して震え上がったことがある。
 わたしとお兄ちゃんはL字形ソファセットの、ママと父の向かいの床に直接座った。
「今度の冬に、俺は都とは違う女と結婚する」
 へー、今度の冬なんですか。床に座っている自分とは違う自分が心の中で呟いていた。
「都は来月になったら、自分の実家へ帰って、そこで地元の男と結婚する」
 へー、ママ、実家なんてあったんだ。そりゃあるか。
 へー、ママ、結婚するんだ。
 って、え、結婚?
「えっ!? ママ、どういうこと?」
 驚かないということは、お兄ちゃんは先に聞いていたのかもしれない。仏頂面のお手本のような顔をしてそっぽを向いていた。
「このまま俺のところへ来て東京に残るか、もしくは都の実家へ行くか、どっちにするか考えろ」
 父は煙草を灰皿に押し付け、立ち上がるとわたしたちを見下ろして言った。
「どっちでも俺はかまわん。お前たちの好きにしろ」
 わたしは本日何度目かの「茫然」という感覚を味わっていた。
29兆し・4:2007/01/26(金) 18:42:57 ID:nhapMQQp
4.

 父はそれだけ言うとさっさと出て行ってしまった。ママはわたしたちをじっと見つめ、ごめんね、と呟いた。
「ごめんね、勝手に決めてて。今年のお正月、京都の実家から――あなたたちのおじいちゃんから電話があって、地元のある企業の社長さんとお見合いしないかって言われて……」
 そしておじいちゃんとやらは、その社長さんを連れてママの店に来たのだそうだ。社長さんは奥さんを亡くしていて、子供はいない。一目みてママを気に入って、是非後妻に、と言ってくれているのだとか。
 その後も何度か京都からママを訪ねてきて、お客としてお店で飲んだり、その後一緒に食事をしたりしていたらしい。


 それで思い出した。わたしの高校の合格祈願、といってママがくれたお守りが、京都の北野天満宮のものだったことを。いったいいつ京都へいったのかと思っていたが、もしかしてお父さんがくれたものかもしれないと思い、わたしはママに訊いたのだ。
 「これ、お父さんから?」と。その時ママは少しためらい、そして頷いた。
 お父さんがわたしにお守りをくれた。今までわたしのことなんか何もきにかけてくれなかったお父さんが、と思うと無性に嬉しかった。
 だけど本当は、その社長さんがわたしのことを聞いて、ママに渡したものだった。そのうち社長さんがわたしたちのお父さんになるのだから、とママはもうその時には心を決めていたのだろう。


「お父さんが結婚するから、後釜を探してたの?」
 わたしは言った。横にいたお兄ちゃんがぎょっとしてわたしを見たほどの、暗い声だった。
「違うわ。隆尚さんの結婚のことは、ついこの間聞いたのよ」
「それでいいの!?」
 わたしはママに怒鳴った。
「20年も籍も入れてもらえないで、子供ふたりをひとりで育てて、愛人扱いされたままで、あげく他の女と結婚するって言ってるのよ、お父さんは!」
 ボロボロと涙が零れてくる。お兄ちゃんが横でわたしの手をそっと握ってくれた。それでもわたしの気持ちは収まらない。
「ママ、お父さんにずっとバカにされてたんじゃないの!?
 面倒かからなくって、都合のいい時に抱ける、都合のいい女だって思われてたんじゃないの!?
 きっとそうよ。だってヤクザなんだもん、女なんて利用するだけなのよ! 最低よ! あんな男!」
「瀬里奈!」
 パシッと音がして、わたしの頬が赤く染まった。ママがぶったのだ。
「ママもママよ! お父さんの結婚のこと知らなかったんなら、どうして他の人と結婚しようとするの!?
 お父さんのこと、本当は好きじゃなかったの? 自分のことを好きと言ってくれる人なら誰でもいいの?
 わかんない、わかんないよ! ママのバカ!」
 わたしは叫び、じくじくと痛む頬を押さえて、涙もそのままに家を飛び出した。
30兆し・5:2007/01/26(金) 18:44:07 ID:nhapMQQp
5.

 靴を履いて飛び出したものの、カバンを置いてきたのでわたしは途方にくれた。取りに戻る気にもならなかったし、誰かと遊びにいくにしても財布も携帯もないから連絡のつけようがない。
 結局わたしは街をうろうろした挙句、わたしの顔を知っている父の子分に見つかってしまった。子分はお父さんに言いつけようとしたので、それを阻止しようとしてわたしは子分と言い争った。その時、
「お嬢さん、どうしたんですか」
 わたしを見つけた子分とは別の、優しい声がした。
「辻井さん……」
 その人を見つめたわたしの顔が涙でひどいことになっていたからか、彼、辻井さんはぎょっとしてポケットからハンカチを出してくれた。
「こんなところを泣きながら歩いてたら、危ないですよ」
「その危ないことをするのが仕事のクセに」
 ハンカチで涙をぬぐいながらわたしは言った。
「はは、確かにそうですな」
 辻井さんは小さく笑って、後ろにいる子分に事務所へ戻るように指示を出した。
「カシラはどうするんで……?」
「野暮なこと訊くんじゃねェよ。とっとと行け」
 一喝された子分が慌てて立ち去ると、辻井さんはわたしの肩に手を置いて、歩き始めた。


 往来から離れた公園の前まできて、辻井さんはわたしの顔を覗いた。背の高い辻井さんがわたしの顔を覗くには膝を曲げる必要がある。まるで子供に話しかけるかのように、辻井さんはわたしに言った。
「お嬢さん、何かありましたか?」
 わたしはうつむいていた顔をあげて辻井さんを見た。赤い夕日を背にわたしに微笑みかけている辻井さんは、その顔だけみるととてもヤクザには見えない。
 短く刈り込んだ髪、狭いおでこ、普段は恐いのに笑うととたんに優しくなる目、四角い顔、太い首。
 幼い頃わたしが泣いているといつも髪を撫でてくれた、不器用そうな大きな手で、今日もまたわたしの髪をそっと撫でてくれた。泣かないで、と言いながら。
 一度は止まっていた涙が、また溢れてきて止まらなかった。わたしは声を上げて辻井さんの大きな胸の中で泣いた。
31兆し・6:2007/01/26(金) 18:46:10 ID:nhapMQQp
6.

 ほとんど子供と接することがなかった父の代わりに、わたしたちに父か兄のように接してくれたのが、辻井さんだった。
 父がまだヤクザとして駆け出しだった頃からずっと一緒にいる、父の盟友。どんな時も父と一緒にいて、父が組を立ち上げた今は若頭として父を支えている人。
 ヤクザの子だからといじめられていたわたしは、いつもお兄ちゃんとふたりで遊んでいた。みんながブランコで遊んでいれば、砂場で。ジャングルジムならブランコで。
 だけどいつもふたりだった。他の子供たちが母親に呼ばれて家に帰っていっても、暗くなっても、わたしたちはふたりで遊んでいた。
 あまりに遅くまで遊んでいると、いつも辻井さんがやってきてはわたしたちを家に連れて帰ってくれた。「こんなに遅くまで遊んでたら危ないですよ」と言って。
 初めて肩車をしてもらったのも、ママとは違う腕にだっこされたのも、全部辻井さんだった。
 そのうちわたしとお兄ちゃんはそれぞれの友達を見つけ、友達と遊ぶようになってからは彼はあまり現れなくなった。
 同じ街にいるだけに道ですれ違うこともあるが、その時も会釈や挨拶をするだけで、わたしたち兄弟からヤクザの影を少しでも減らそうとしてくれた。
 話す機会も少なくなったけど、それでもわたしの中で彼は、ずっと優しいお兄さんのままだった。
 泣いているわたしの身体をそっと包み、泣き止むまでずっと髪を撫でてくれた辻井さんの、その広い背中に泣き止んでからもわたしはしがみついていた。
「お嬢さん、座りましょうか」
「嫌。このままがいい」
「お嬢さん。……ほっぺた。痛いでしょう」
 優しく、だけどはっきりと、辻井さんはわたしの肩を押して自分の身体から離した。公園の中のベンチへわたしを促して座らせ、給水場でハンカチを濡らし、絞って手渡された。
 そのハンカチを自分の頬に当てる。冷たくて、頬の腫れだけでなく気持ちもすっと落ち着いていくようだった。
「何かありましたか?」
「ママと……お父さんのこと……」
 そう言うと、ああ、と合点がいったように彼は呟き、大きく息を吐いた。
「どっちのことが聞きたいですか?」
「ママのことか、お父さんのことか?」
「ええ。話せる範囲のことはお話しますよ。……とはいっても、お母さんのことは自分も兄貴からの話しか知りませんがね」
 わたしは考えた。何が気に入らなかったのだろうか、と。
32兆し・7:2007/01/26(金) 18:49:04 ID:nhapMQQp
7.

 お父さんがママではなく違う女性を、生涯の伴侶として選んだこと?
 ママは選ばれなかった。その女の人よりもママのほうが劣ってるってお父さんが言っているようなきがすること?
 そして、わたしはそんな「劣った女」の子供だということ?
 それとも、ママがわたしたちに内緒でお見合いしていたこと?
 今までママはママ自身のことはなんでも話してくれていたと思っていたのに、裏切られたこと?
 ママが、自分を選ばなかった男をあっさり捨てて、違う男になびこうとしていること?


「わかんない……。お父さんが、違う女の人と結婚するっていうのもショックだったけど……。ママは、お父さんのこと、好きじゃなかったのかな」
 ぽつりぽつりとわたしは自分の思いを口にした。それを辻井さんは黙ってきいてくれた。話しているうちに、頭に上った血がようやく下りてきて、張り裂けそうだった胸も落ち着いてきた。
「お父さんは、ママのこと好きじゃなかったのかな。都合いいから繋ぎとめてただけなのかな」
 そんな内容のことを何度も繰り返していると、ようやく辻井さんが話し始めた。独特の、掠れた声で。
「違いますよ。兄貴は確かに女性関係は派手ですが、子供を作ったのは都さんとだけです。
 他の女性とは長続きしませんが、都さんとはこんなに長く続いてる。
 それにね、昔はよく兄貴を女性のところへ送ったり、迎えにいったりしましたがね。都さんのところへ行く時だけは、車の中でじっと黙ってるんですよ」
「どういうこと?」
「他の女性の時はね、仕事の話をしながら行くんです。
 でも都さんと会う夜は、『ヤクザ』じゃなくて『男』に戻ってるんですよ。
 一番いいカッコをしてね、都さんは何を作ってくれてるだろうか、とか、どんなカッコをして待っててくれてるだろうか、なんてぽつりと話してね」
 それはわたしが全く知らない父の姿だった。父が、『父』だけでなく『男』でもあることを、今更ながら知った。
 一番いい格好をしてママのところを訪ねる父は、確かにただの男だ。クラスの男の子が、次のデートに着ていく服を雑誌で探しているのと大して変わらない。そして父を待って料理を作るママも、恋する女そのものだ。


「兄貴は確かに都さんを愛してますし、都さんも兄貴を愛してると思いますよ。それを疑ったら、ふたりが可哀相ですよ」
 はっきりとした口調で辻井さんはわたしに言った。その言葉を信じようとすればするほど、父がママと結婚しない理由がわからない。
「じゃあどうしてママと結婚しないの……?」
「それは……」
 辻井さんが口を濁した。さっきまでの口調とは正反対だ。
「お父さんはその幼なじみの人を選んだ。ママはやっぱり、選ばれなかった。劣ってる女なんでしょ。そうなのよね?」
 いっとき落ち着いていた感情がまた湧き出してくる。駄々っ子のようにわたしは横に座る辻井さんの胸を叩いて叫んだ。
「ただでさえヤクザの娘って言われてるのに、選ばれなくて捨てられた女の娘だなんて、わたしなんか女のクズなんだ。だからママもわたしには何にも話してくれなかったのよ!」
 落ち着いて、という辻井さんの言葉が聞こえたが、湧き出してきた感情は止まらなかった。
 ママが一大決心をして、これから新しい生活を迎える大変な時期だというのに、わたしが心配しているのは自分の女としての価値、自分の存在価値のことだけだった。それがママを二重に裏切っているような気がして、罪悪感を打ち消すためにわたしは叫んでいた。
「どうせわたしなんて生まれてこなきゃよかったのよ!」
 胸を叩いていた腕をぐいと掴まれ、そして彼の顔が目の前にあった。いつの間にか辻井さんはわたしの腰に腕を回していて、その腕でわたしを引き寄せた。自分の唇が塞がれていることに、そこで初めて気がついた。
33兆し・8:2007/01/26(金) 18:52:53 ID:nhapMQQp
8.

 辻井さんの薄い唇がわたしの唇をゆっくりと吸う。
 わたしの口を割って辻井さんの舌が入ってくる。驚いて身体を動かそうとしたが、強い力で逆に抱きすくめられる。辻井さんの硬くすぼめた舌先でわたしの舌をなぞっていく。
 一番奥にたどり着いたその舌は、今度は今までなぞっていたわたしの舌を絡めとった。脳髄がとろけるような刺激がわたしの身体を走る。
 そのうち舌が抜かれ、辻井さんの唇はわたしの上唇をそっとついばみ、鼻の頭に触れ、そして名残惜しそうに離れていった。
 どうしていいかわからず、ただ高鳴る胸が静まるようにと手を置いてわたしは彼を見た。辻井さんに掴まれているところだけ、腕が熱くて燃えそうだ。
 わたしの背中に回っている腕の感触だけで、背中がわなないていた。
「自分は今でも覚えてるんですよ。
 15年前、あなたは都さんのおなかの中でなかなか成長しなかった。このままじゃもしかしたらダメかもしれない、と医者に言われて、見たこともないほど激怒していた兄貴の姿を。
 やっと出産までこぎつけて、分娩室の中からあなたの泣く声を聞いた時の兄貴の心底嬉しそうなほっとした顔を」
 ぎゅ、ともう一度辻井さんはわたしを抱きしめた。
「その時一緒にいた尚くんをこうやって抱きしめて、お前のお母さんはえらいぞ、と何度も呟いた細い声を」
「……」
「恥ずかしそうに、ちょっと遅いクリスマスプレゼントだな、と自分に言ったあの笑顔を。自分は覚えてるんですよ」
 辻井さんの声が泣いているように聞こえた。


「だから、生まれなかったほうがいいなんて、二度と言っちゃあいけません」
 わたしを抱きしめる彼の腕が震えていて、逆にわたしの震えは止まっていた。ただ、広い彼の背中を抱き、彼の胸の中で彼の鼓動を聞いていた。心臓の音が一番人間が落ち着く音なのだ、ということを実感していた。
「それに……。お嬢さんは十分お綺麗で魅力的ですよ。女のクズなんかじゃありません、決して」
 わたしの二の腕をじんわりと辻井さんは撫で上げる。
 トクン。
 急に顔が赤くなった。先ほどのキスを思い出して、一旦は落ち着いた心臓がまた高鳴ってきた。
「兄貴と都さんのお嬢さんなんですから。自信を持って大丈夫ですよ」
「わたしじゃなくてママとお父さんが魅力的だってコト……?」
「いいえ。お嬢さんはお嬢さんとして、とってもいいオンナですよ」
「辻井さんにとっても……?」
 辻井さんの腕の中で、彼を見上げる。
「は……?」
「わたし、辻井さんにとって、女として魅力、ある?」


「ありますよ」
 にっこり笑い、ふいにまたわたしを抱きしめた辻井さんはわたしの耳元で囁いた。
「理性を保たないとこの先まで進んでしまいそうです」
 キュウンと胸と下腹部が締めつけられた感触がして、ドキドキ高鳴る鼓動は最高潮に達し、頬から火が吹き出そうなくらい顔が火照った。
 火照ったのは顔だけでなく、キュンと鳴った下腹部からとろりと液が溢れてきて、下着が濡れた。
 これが「カンジる」ってことなのかな、と蕩けた頭で考えた。
 恥ずかしいとかいやらしいとかそんなことは思いもせず、ただ、もっと触れて欲しい、もっと抱きしめて欲しい、そんな衝動で一杯だった。
「進んでも……いいよ?」
 恐る恐る言ってみた。
 すると辻井さんはもう一度軽く笑って、わたしのおでこに小さく口づけて言った。
「大切なお嬢さんにそんなことはできませんよ。さあ、落ち着いたなら帰りましょう」
 立ち上がり、わたしに手を差し伸べる。その手を取って立ち上がると、辻井さんはわたしの頭をぽんぽんと叩き、わたしの手をさりげなく外した。
 家まで歩く途中で探しにきたお兄ちゃんと遭遇したので、辻井さんはお兄ちゃんにわたしを託して、街へと戻って行った。
 わたしの身体と心に、熱情の兆しを残して。
34兆し・9:2007/01/26(金) 18:55:42 ID:nhapMQQp
9.

 お兄ちゃんと家へ戻ったけど、わたしはママと話をする気になれなかった。
 辻井さんにはああ言われたけど、やっぱりママの気持ちを理解することができなかったからだ。
 お父さんのことを愛しているから、わたしたち兄弟をひとりで育てたんだと昔ママは言っていた。他の男の人にいろいろ誘われても、お父さんへの気持ちがあったから、ここまでひとりで育ててきたんだと。
 なのにどうして今になって、ママは他の男の人と結婚しようとしているのか。お父さんを心から愛しているといったのは本当はウソなんじゃないだろうか。生活費をふんだんにくれ、お店の開業資金をくれたのがお父さんだから、しかたなくひとりでいただけなんじゃないのか。
 結局、お父さんに抱かれているのもお金のためだけなんじゃないんだろうか。
 わたしの頭の中をぐるぐるとそんなことが駆け巡り、わたしはママの顔を見られなかった。


 家に帰ってすぐに自分の部屋へ入り、じっとそんなことを考えていた。
「瀬里奈。入るぞ」
 お兄ちゃんがドアをノックして入ってきた。
「お前、どうするんだよ」
 ママと行くか、お父さんといるか、どっちを選ぶのか。お兄ちゃんはそれを確かめにきたのだ。
「わかんない……」
「オレは東京に残る」
 お兄ちゃんはきっぱりとそう宣言した。
 もう少しで大学受験で、志望校はどれも東京にある。一度京都へいくよりもこのまま東京にいるほうがいい。
 ママと行くことを当たり前のように考えていたわたしには、青天の霹靂とでも言うべきお兄ちゃんの宣言だった。だからわたしはごねてみた。お父さんと一緒にすむことになるんだよ、と。
 京都に行ったって親父と暮らすことになるんだぜ? とお兄ちゃんは口の端で嗤って言った。だったら知ってる親父のほうがいいじゃねえか。
「お前は、オレと離れて暮らしたりしないよな」
 いきなりお兄ちゃんが真剣な顔でわたしを見つめてそう言った。
「母さんには新しい生活が待ってる。そりゃあ初めての生活だから大変かもしれない。だけど、母さんを必要としてる男がいるだろ。だけどオレたちにはオレたちしかいないんだぜ?」
 それを聞いたら確かに東京に残ったほうがいいような気がしてきた。
 それに、お兄ちゃんと離れて暮らすのは嫌だ。いつも一緒にいて、いつもわたしを守ってくれるお兄ちゃん。離れ離れになるなんて、そんなの考えられない。
「そうだね」
 ぼんやりとそう答えた。本心は、ママと一緒にいるのが嫌だったからかもしれない。ママが、新しいお父さんと一緒に幸せに暮らすのを見るのが嫌だったからかもしれない。
「じゃあ、決まりだな。母さんに伝えてくるよ」
 お兄ちゃんは微笑んで、大丈夫だよ、とわたしの頭を撫でてから部屋を出て行った。
 話を聞いたママの悲しそうな顔が思い浮かんで、やっぱりママと行くと言おうと立ち上がった瞬間に、辻井さんとのクラクラするような甘い口づけの感触が自分の唇に戻ってきた。
 どくんとわたしの下半身が疼き、ママと行ったらもう辻井さんには会えないと気づいた。
 わたしはまた床に座り、傍にあったクッションを胸に抱きしめて辻井さんの名前を呼んだ。唇をそっと指でなぞりながら。


 バカなわたし。辻井さんは20も年上で、わたしみたいな小娘なんか相手にするわけないのに。
 ヤクザのキスを本気にしちゃうなんて、バカだ。
 そもそも、わたしは別に辻井さんのことが好きなわけじゃない。単に、いつも優しいお兄さんがほんのちょっとキスしてくれたのが嬉しかっただけ。好きとか恋とかじゃ、ないんだから。
 そうよ、あの人はやっぱりヤクザで、ヤクザにしてみれば高校生だますのなんて、朝飯前なんだから。信じちゃだめよ瀬里奈。
 必死で自分に言い聞かせたが、それでもこみあげてくる甘い波に、わたしはなんとか逆らおうとした。
35兆し・10:2007/01/26(金) 19:06:58 ID:nhapMQQp
10

 辻井が事務所のドアを開けると、島津は応接セットのソファで新聞を読んでいた。
 長い付き合いだが、今も昔も島津は変わらない。
 黒い髪をゆったりと襟足のあたりまで伸ばして軽く形をつくった髪型は、今の若者の髪型と大差ない。昔の喧嘩で作った額の傷を隠すための長い前髪を、いつもうっとうしそうにかきあげている。
 薄く日焼けした肌に直接シャツをまとい、イタリア製のスーツをさらりに着こなし、大振りの指輪をいくつも指にはめるスタイルも、シルエットこそ時代とともに変わってきたが昔からそのままだ。
 才気と狂気がない交ぜになったようなオーラを発し、鋭い眼光で相手を射抜いたかと思うと、突然人懐こい笑みを浮かべて翻弄する。
 ドスの効いた重低音でヤクザをビビらせるその声も、女を口説く時には媚薬のように甘い。ホステスの中には、島津に見つめられただけ濡れ、話しかけられただけでイッてしまうと言う女もいるくらいだ。
 急激にのし上がっていく様と、いざ戦闘となった時の腕っぷしの強さを背中の刺青とひっかけて暴れ龍と称される、東征会きっての武闘派だ。腕力だけと思われがちだが、これがところが経済にも政治にも強い。
 そんな二面性、いや多面性のある島津の魅力は、昔から変わらない。むしろ昔よりも実力も貫禄もついてきた今のほうが、彼の魅力は増しているともいえるかもしれない。
 だからこそ、この組の男たちは島津のために命を張る。島津をたてるために日々走り回る。その筆頭が、まぎれもない自分であることを辻井は自覚している。
 島津の変わらない不遜な姿を見てほっとする自分を自虐的に嗤うことはあるが、島津を自分の世界から消してしまうことは考えられない。
 そんなことを思いながら、微笑さえ浮かべて辻井は目の前の島津を見る。
 ソファの上の島津は、そんな辻井の心を知ってか知らずか、辻井の姿をちらりと見ることもしない。


「組長、遅くなりまして申し訳ありません」
「おう。まあいいさ。今日は特に何があるわけでもねェからな」
 そう言うと島津は読みかけの新聞を無造作にソファに放り投げる。若い衆がそれを慌てて拾い、丁寧に端を揃えてたたみ、テーブルに戻す。
 テーブルにある煙草入れから煙草を取り出し、口に咥えると即座に若い衆がライターを取り出す。。
「あ、あれ」
 音はするが火が点かず、若い衆は脂汗をかいて何度も何度もライターのスイッチを押す。その脇から辻井が自分のポケットのライターを取り出して火をつけ、島津の口元へ差し出す。
 島津は煙草を近づけ、満足そうにライターを持って顔を青くしている若い衆の顔に煙を吐きかけて、くつくつと笑う。
 彼の教育係をかねている兄貴分の男がバカヤロウ! と彼の頭を張り倒したのを見て、島津は肩をすくめて組長室に向かった。もちろんドアはまた違うチンピラがさながら自動扉のように開けるのだ。
「辻井よ」
 組長室へ半ば入ったところで、島津が振り向きもしないで声をかけた。
「はい」
「ちょいと野暮なことを訊きたいんだがな」
「……はい」
 島津の後を追って辻井も組長室へ入る。ふたりが入ったのを合図に、ドアはやはり自動ドアのようにするりと閉まった。
36兆し・11:2007/01/26(金) 19:16:57 ID:nhapMQQp
11.

 島津は何食わぬ顔で、正面の大きなデスクの後ろにそびえる革張りの椅子にふんぞり返った。足をデスクに投げ出し、くわえ煙草のまま胸ポケットから取り出したジッポライターのフタをカチカチと開け閉めする。規則的な金属音が組長室に響き渡る。
 ふと島津の視線が辻井に向く。次の瞬間、パチン、とライターのフタが閉まり、辻井の顔をめがけてライターが投げつけられた。飛んできたライターは直立不動で立っていた辻井の頬にあたり、コトリと床に落ちた。辻井の頬に赤い傷ができ、血がにじんだ。
「俺の娘に手ェ出すな」
「そんなこと、するわけないでしょう」
 ライターを拾いながら辻井が言った。ライターをデスクに乗せると、その手をガツリと掴まれた。
「せめて、瀬里奈が他の男を知ってからにしろ」
「いまどきの女子高校生は進んでますからね。もしかしたらもう条件満たしてるかもしれませ……ッ」
 熱ッという呻きを辻井は寸でで堪えた。島津が吸っていた煙草を辻井の手の甲に押し付けたのだ。
「チッ。根性焼きって年でもねェな」
 くだらねえと吐き捨てて島津は新しい煙草をパッケージから取り出した。その煙草を辻井に向けて振って、帰れ、と意思表示する。
 押し付けられてデスクに転がったままの煙草を灰皿へ片付けてから、入り口に向かうべく島津に背を向けた辻井の背中に、矢のような島津の視線と言葉が突き刺さった。
「キスで止まっといてよかったな。うちの若頭が女子高生の誘惑に負ける男じゃなくて、ほっとしたぜ俺は」
 辻井の動きが一瞬止まる。コツン、とまたライターが背中に投げつけられる。
「いいか、俺はプライベートでお前にお父さんとは呼ばれたくねえ。気色悪ィ」
「肝に銘じておきます」
 振り向き、ライターを拾ってデスクに再び置いた。
「失礼します」
 一礼し、組長室から退室する。一体どこからそんな情報を仕入れるのやらと、辻井は背中に冷や汗をかきながら扉を閉めた。
 暴れ龍もなんだかんだ言って人の親だな。
 思わず辻井は笑みを零した。


 組長室を出ると、事務所の電話が鳴っている。若い衆がそれにちゃんと対応していることを満足そうに見ながら、辻井はあちこちから届けられる回状に目を通した。
 目の前にちらつく瀬里奈の身体の残像を消すために煙草を口にくわえた瞬間、組長室の扉が派手に開く。
「辻井ィ。 大人の女に会いに行くぞ」
 あてつけのようにニヤリと笑う。運転手役の若者が車のキーを片手に表へ飛び出していく。
「お供いたします」
 辻井は煙草をパッケージに戻して立ち上がった。
 お前らは適当にこれで遊んで来い、と財布から万札を無造作に抜き取り部屋にバラ撒きながら、島津は表へ出ていく。その背中を追いながら辻井は、ついさっき忘れようとしていた唇の感触を思い出していた。



----------了
37名無しさん@ピンキー:2007/01/26(金) 19:34:21 ID:nhapMQQp
以上です。
書いているうちに島津のキャラが変わってきてしまった。
きっと参考までにと読んだswitchの津ーさんのせいに違いないw


書いてて自分で気持ちよかったので、またこの人たちでなんか書かせてもらいます。
ネタをくれた前スレ79さん、ありがとう。
38名無しさん@ピンキー:2007/01/26(金) 21:05:40 ID:aHseZhvz
わぉ、昨夜に引き続いてまた新たな神の出現が!
前スレのネタ話からこ〜んなGJな作品書いて下さるなんて……
続き、ワクテカしながら待ってます!
39名無しさん@ピンキー:2007/01/26(金) 22:48:42 ID:xMrJtM0e
辻井モエス辻井!!!
ダークスーツの男良いよ…!
40名無しさん@ピンキー:2007/01/26(金) 23:04:35 ID:mT5FE4/r
続きが気になる!
41名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 00:31:22 ID:3h+ISch3
将来が見定まらない女子高生と若頭の明日はどうなるんだ!?
ぜひぜひ続きを書いてください。
お願いします。
42名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 09:58:06 ID:uKZNGSDo
日本名のキャラは随分と久しぶりのような
期待してます
43名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 21:37:12 ID:QDaQnuUe
どうにかして現代日本で妄想してみようと思ったが、主従のシチュが思いつかん。
上司と部下じゃ違うしなぁ。
44名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 21:52:12 ID:85hL18fG
今の日本社会は主従関係って概念無さそうだしな
45名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 22:23:09 ID:0JS8G0hg
財政界の上のほうはそれなりにお嬢様じゃなかろうか?
皇太子妃とかさ。旧家のお嬢様ってカンジ…でもない…か

若頭×お嬢さんGJGJGJ!
個人的には辻井とお嬢さんにも萌えたのだが
密かに島津本命でホレたwカコヨス
46名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 22:37:38 ID:8fFxv5cq
こ、皇太子妃はマズイんじゃね((゚Д゚;)))ヲヲヲワダ…ッ
すんげー事をいうな。
現代日本じゃなければまだ何とか…だけど。

旧家お嬢様がいいな。

あと上司と部下の関係ならバリバリやり手の女社長とその秘書(男)とかどーよ。
社長はやり手とみせかけて実はドジッ娘でもいい。
夜は鬼畜の秘書が全てを取り仕切ってんだよ。
47名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 22:57:25 ID:0JS8G0hg
自分でも補足しておかないとまずい気がしたのでしておく。
スマン。皇太子妃は例えだったんだ。あの実家位のレベルの家柄、という…
あとは落ちぶれ公家とかかね?

鬼畜秘書はいいな。
48名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 23:08:39 ID:qL1NFN+d
皇太子妃の実家はごにょごにょ……キミツヒ……チッソ……



皇室でいうなら、女主男従でサーヤと黒ちゃんとか、
男主女従で、今上陛下と美智子様とか
49名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 23:25:21 ID:1QDKY68W
ナマモノに例えるのは危険だからやめてくれ。
それと、ここは男主で女従はスレ違いです。
50名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 00:46:16 ID:gYDnde4G
>>48
あのやけにスカウターが似合う彼か。
51名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 02:02:53 ID:J0ktWrCI
スカウターがはち切れんばかりの妄想力を持つ奴らがいると聞いて飛んできました
52名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 12:01:55 ID:dHvW6viW
>>43
自衛隊とか、警察のキャリアとノンキャリとか……?
主従ってかんじではないわなー。
53名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 12:36:43 ID:dPJuALA0
>>52
自衛隊の隊長と副官(または隊員)とかなら比較的主従じゃないかね?
54名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 14:56:22 ID:dssj2uEw
伝統芸能の師弟関係なら現代も通用しそうだけど。
家元と師範代、家元の娘さんと内弟子さんみたいな。

旅館のおかみさんと支配人…はベタかな。
55名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 18:28:51 ID:ncyQ4sGa
前スレ埋めに書いた姫様の続き書いてみた。
過去編と現在編投下します。
56過去編:2007/01/28(日) 18:30:10 ID:ncyQ4sGa
一人になると母はいつも泣いていた。
悲しげな啜り泣く声に少女は胸が締め付けられる気がしたものだった。
そんな母が他界して数年が経ち、少女は母の涙の理由が理解できる歳になった。
母は概ねすべての女がそうであるように弱かったのだ。
男のいいなりになるしかない、弱い女であった。
あのような弱い女にはなりたくないと少女は思う。
母が懸想した相手への恋情を捨てきれなかったように、少女もまた芽生えた想いを捨てることなどできないと悟っていた。
母のように泣き暮らすのを避けるには強くなるしかない。
男と対等に渡り歩けるだけの強さが欲しかった。
大切な人を手放さずにすむだけの力が欲しかった。
少女は恋をしていた。
少女は愛を知ったのだ。
「それは違う」
少女は手にしたペンを机に叩きつけ、顔をしかめて青年を見た。
「大事をなすには多少の犠牲はやむを得まい」
「殿下が正しいのでしょう。私は人の上に立つ器量は持ち合わせておりませんから」
「お前は優しすぎるのだ。しかし、民を守る為には時に残酷とも思える手を取らねばならんこともある。心を殺すことができなければ己だけでなく国や民まで滅ぶ」
青年は曖昧に頷き、悲しげに少女を見つめた。
「殿下はご立派になられましたね」
少女は怪訝そうに眉をよせた。
「何が言いたい?」
「あなたをそこまで追いつめるものは何ですか?」
澄んだ蒼眸が青年の瞳を射抜く。
「男の真似事などやめにして、女としての幸せを手にしてはいただけませんか?」
青年の黒い瞳は悲しみだけを映し出す。
「女としての幸せとは何だ。私にそれが手に入るのか?」
少女の瞳が蒼く煌めく。
「私は町娘とは違う。好いた相手と想いを交わすことはできない。愛していると口にすることすら私には許されない。私は産まれながらの道具だ」
自嘲めいた笑みが少女の口元に浮かぶ。
「男に産まれたならば違う道もあったろう。いっそ男装して男として生きようかとも思った。だが、私はもう男にはなれぬ」
少女の声が掠れ、青年は息を飲む。
「男にはなれぬよ。私は女でありたい」
「姫様……」
「道はあるさ。今、探っている。そのためには帝王学だろうが花嫁修業だろうが何だってやる。役に立つなら何だってな」
少女は椅子から立ち上がり、青年の側へ歩みよる。
背の高い青年を見上げ、少女は弱々しく微笑む。
57過去編2:2007/01/28(日) 18:31:11 ID:ncyQ4sGa
「だから、そんな顔をするな。私は望んでこうしている。心配はいらない」
こつんと青年の胸に額を当てる。
「私は大丈夫だ」
青年の腕が少女の肩に近づき、けれどそれは触れる手前でぴたりと止まる。
しばらく躊躇し、青年は腕を下ろした。
「どうか、ご自愛下さい。ご無理はなさらぬよう」
青年の腕が近づく気配を感じていた少女はその腕が離れた瞬間に落胆の吐息をついた。
無理をしていないわけではない。
抱きしめて、この場から攫ってくれたなら、町娘のように素直に愛を語らうことができるのに。
きつく抱いてくれたなら、その時はただの女になれる。
女の幸せを手にできる。
「お前は……優しすぎるのだ」
攫ったところで現実は優しくない。
苦労するのは目に見えている。
王宮育ちの少女には外の世界は厳しすぎるだろう。
青年はそれがわかっているから、少女に触れることはしない。
それでも、二人で手を取って逃げることができたならと思わずにはいられない。
叶わぬ望みを胸に抱き、少女はしばしの間目を閉じて青年の腕を待つのであった。


以上。
58現在編:2007/01/28(日) 18:33:58 ID:ncyQ4sGa
どれだけ無理をしてきたのだろう。
未だ幼さの残る少女の寝顔を見ていると胸が締め付けられた。
触れてしまう前に側を離れるべきだった。
嫁いだ少女についていくのでなく、国に残るべきだった。
こうすればよかったという後悔はとめどなく湧き上がる。
しかし、その時に戻れたとしてもきっと離れたりはできなかっただろう。
少女の手を掴んで離さないのは自分自身だ。
艶やかな黒の瞳に涙が浮かび、溢れ零れて少女の頬に落ちた。
青年の存在が少女を不幸にしていると思う。
出逢わなければ一国の王女としての幸せを掴むことができただろう。
なぜ愛した人は皆不幸になるのか。
青年は理不尽な仕打ちの意味を神に問いかける。
細い首には赤い痕が残っている。
他人のつけた所有の証。
少女は他の男の妻だ。
「姫様」
涙が溢れて止まらない。
「姫様」
そっと少女の首に手を添える。
このまま力を込めてしまえば、少女は自分だけのものになるだろうか。
僅かに力を込めた瞬間、少女の目がゆるりと開かれる。
「……姫様」
少女は一瞬で青年の意図を理解したようで、優しく微笑んだ。
「姫様、私は……」
弾かれたように少女の首から手を離し、青年は少女に覆い被さって唇をよせた。
舌に吸い付き、呼吸すらも困難になるほどに激しく貪る。
夜着を引き裂くほどに荒々しく少女の肌を露わにしていく。
青年は少女の足を掴んで開かせ、一気に体を沈めていった。
唇を離すと少女の口からは苦痛の呻きが漏れた。
数時間前に抱き合ったばかりでまだ中は僅かに潤いを残してはいたが、いきなりの挿入に体は苦痛を感じる。
青年は少女の体をきつく抱きしめる。
律動を開始するわけでもなく、青年は少女を抱いたまま微動だにしない。
少女は気遣わしげに青年の様子をうかがい、宥めるように背を撫でた。
「私はあなたの側を離れるべきかもしれません」
首筋に唇をよせ、青年が言葉を放つ。
「これ以上あなたを苦しめたくはない」
肩に噛みつき、青年は少女の腰を抱いて緩やかに動き出す。
言動に行動が伴わない。
離さなければ思えば思うほどに、強く結びつこうと体は動く。
「お前など不要だと仰って下さい」
「んっ! きさま、は…ばか、か……あッ、あっ」
「仰っていただかなければ、私は」
少女の体に残る所有の証に唇をつけ、証を塗り変えていく。
59現在編2:2007/01/28(日) 18:35:10 ID:ncyQ4sGa
「いわな、ければ…んッ、はな…られないならっ! はなれ、るな……ふ、ぁっ」
体ごと腰を叩きつけて少女の最奥を抉る。
愛おしさが溢れて零れだしてしまいそうだった。
涙の伝う青年の頬に触れ、少女は何度も涙を拭う。
「愛しています。……愛してる、姫様、愛してる……愛してる」
再び唇を塞ぎ、青年は少女の存在を確かめるように体を撫でていく。
その夜、青年は少女の中に幾度も精を放ったのだった。
「どこにも行くな」
事後、身仕度を整える青年の背に少女は言葉を投げた。
「頼むから、どこにも行かないでくれ」
縋るような言葉に青年は曖昧な表情を浮かべる。
否定も肯定もせず、少女の頭を撫でる。
「私も、私もお前を」
少女の唇を青年は塞ぎ、言葉を吸い取ってしまう。
「私はあなたのことだけを思っています。いつだって、いつまでも」
「約束して。離れないと、約束してくれ」
「離れません。側におります」
青年が約束すると少女はようやく安堵の息をついた。
「私に嘘はつかない。そうだな?」
それでも念を押す少女に青年は苦笑を返す。
横になった少女の手を握り、髪を撫でながら青年は少女が眠りに落ちるのを辛抱強く待った。
「姫様、側におります。私の心は常にあなたの側に」
眠る少女の額に口づけ、青年は寝台から離れる。
扉前から少女の寝姿を見つめ、青年はぎゅっと手を握りしめた。
「あなたをこれ以上苦しめたくはないのです。どうかお許し下さい」
恭しく頭を下げた青年の脳裏に浮かぶのは、出逢った頃の少女の手の優しい温もりだった。


以上。
60名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 23:38:44 ID:akTtsJX5
待ってー!!
行かないでーーーー!!!!
61名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 02:39:54 ID:QQb2O7NR
>>59-60の流れに不覚にもワロタw
GJ!
62名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 05:59:32 ID:dT5fsTa1
続きキター!
前スレで要望したものですが、
職人さん本当にありがとう!
姫さま切ないよ……
青年、行かないよね?ね?
63名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 14:07:28 ID:FXxQ3Wca
急展開というやつかコレわ
64名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 19:23:15 ID:q4tf20/5
若頭&お嬢さんと、青年&姫君にニヤニヤしっぱなしの自分がいます。
あああ主従っていいですね!
自分も、続き投下してみます。
65<<鬼を憐れむ唄・第二夜>>:01:2007/01/29(月) 19:25:00 ID:q4tf20/5
<<鬼を憐れむ唄>>

 往来の多い大通りを歩いている。
 正午少し前。通りは、大変な賑わいである。
 昼時の食材を買いに来た主婦。母から使いを頼まれ、走ってゆく子供。
 早目に仕事を切り上げ、飯にありつこうとぶらつく役人。
 軽食屋の客引きの声。日雇いの仕事を探す者。昼間から酒精でも引っ掛けたか、やけに声の大きな者。
 中にはその人の多さにかこつけて、懐を狙う不貞の輩も紛れ込んでいるようだ。
 皇都エスタッドの大通りである。
 その通りを、ダインは歩いている。
 傭兵仲間の巨漢ヤオほどではないが、ダインもまた図体がでかい。
 身長は六尺。かなりの長身だ。
 これで、すらりと細身なら、他人の目にも見栄えも良く映るのかもしれないが、
 あいにく無骨で鋼のような筋肉質に覆われている。
 高さ自体は人並み外れて、と言うほどに大袈裟ではない。ただ、幅のあるおかげで大きく見られることが多い。
 大きく見られること自体は、何らダインに支障は無いので、自身も気にしていない。
 むしろ、対峙した相手を恐怖させる効果があるなら儲けモノ、と思っている節がある。
 しかし、人混みは苦手だ。
 よくぶつかる。
 戦場で獲物を振り回し、力任せに薙ぎ払う行為は得意な彼でも、細やかな動作というものは身についていない。
 今も、人の多さに閉口していた。
 「体のでかさも、仇になるものなのだな」
 妙に感心した声が不意に背後から聞こえて、ダインは振り返る。
 「……お嬢じゃねェか」
 「上官と呼べ」
 振り返った視線の、頭二つ分下にあった顔を見つけて彼が呟くと、
 口調ほどには気にした様子も無くミルキィユが応えた。
 「なんだ、随分こざっぱりした格好してるんだな」
 遠慮と言う言葉はダインには無い。
 じろじろと上から下まで、目の前の少女の姿を睨め回し、
 「もっとこう、女女な格好してるもんじゃないのかね」
 割と本心からそう言う。
 戦場では知る由も無かったが、皇都に戻ってきてから、それとはなしに耳に入ってきたのは、
 「鬼将軍」と呼ばれるミルキィユの噂だった。
 曰く、実は将軍職だけではなく現皇帝の異父兄弟である、とか、
 曰く、有能なその仕事ぶりの割に、皇帝取り巻きからの風当たりは強い、とか。
 「着飾るのは性に合わない」
 そう応えたミルキィユの格好は、確かに質素である。
 戦場で常備している鎧金具を身につけていない分、ずっと質素だ。
 細身の体の線が、浮き彫るような黒の鎧下。朱色のサッシュ。手袋。皮の軍用ブーツ。
 目立つ大剣は背負っておらず、代わりに細工の施された細剣を腰に挿しているのが、唯一の装飾品と言える。
 実にそれだけなのだ。
 「供の一人もつれていないのかアンタ」
 辺りにミルキィユ以外の誰もいないことを確認して、ダインは首を傾げる。
 「将軍様なら、こう、もっとお連れの部下がいるだろ」
 「残念ながら人望がなくてな」
 ずけずけと物言うダインの言動に、全く気分を害した様子も無く、
 「貴様がお供で付いてくるか?」
 「お断りだね。俺ァ単独行動が好きなんだ」
 「冗談だ」
 肩を竦めてミルキィユは応えた。
66<<鬼を憐れむ唄・第二夜>>:02:2007/01/29(月) 19:25:57 ID:q4tf20/5
 竦めた肩に、糸のように長い髪が纏わり付く。それを面倒くさそうに後ろに流し、では、と彼女は手を上げる。
 「邪魔をしたな。見かけてつい、からかいたくなった」
 「……誘い文句にゃまだ日が高すぎらァな。アンタ、飯は済んだのか」
 「まだだが?」
 「じゃあ、」
 付き合えよ、そう言ってダインは、手近な飯屋の看板を指し示す。
 「俺もまだなんだ」
 にぃ、と笑いながら入り口に進んだ。


 うまそうに飯を食う女が、ダインは好きだ。
 女らしさと言うものなのかもしれないが、上品ぶって、やたらと食べる時間が長い女は、余り好みではない。
 単に、短気な性格なのかもしれない。
 熱いものは熱いうちに頬張るのが、自身好きなせいかもしれない。
 お近づきになった女と、飯屋に足を運んだはいいが、
 料理の原型が判らないほどに、細切って食べるのを見て、萎えた事もある。
 自分勝手な性分である。
 好みの問題なのだから仕方ない。
 目の前の少女は、実に幸せそうに、運ばれた料理を食らっている。
 感心したようにダインは眺めていた。
 「どうした。冷めるぞ」
 あまりにぼんやり眺めるものだから、流石に気づいてミルキィユが顔を上げる。
 怪訝そうに眉を寄せている。
 ――無自覚か。
 腹の中で呟いてみた。
 「……いや。うまそうだなと思って」
 「なんだ。一口食べたいのならそう言え」
 そう言って、皿をダインに寄越してみせる。
 「いや……そうじゃなくて」
 「?判らん奴だな」
 僅か高めのアルトが、耳に心地よい。
 傾げた首は、折れそうなほどに細い。
 粉をはたき、紅の一つ注してなくても、涼やかな女気は隠せない。
 今になって思えば、どうしてあの時、目の前の少女を男だと思い込んでいたのか、自身不思議だった。
 「腹でも痛いのか?」
 頬杖付いて思わず考え込むダインを、半ば本気で心配したのか、ミルキィユが向かいの席から覗き込んだ。
 「いや……、」
 途端、わっ。と。
 喚声が沸いた。
 狭い店内である。
 もちろん二人も振り返る。
 20人も入れば、溢れかえってしまう店の入り口付近で、どうやら小競り合い。
 給仕の娘が盆を胸に当て、身を竦めて立ち尽くしている。
 目の前には赤ら顔の兵士が二人。
 腹を押さえ、床にうずくまった店主。
 酔った兵士が女に手を出し、諌めに入った店主が蹴倒された様子だった。
 辺りの客の多くは、野次馬根性で眺めてはいるものの、助太刀する手合いもいない。
 下手に手を出して、酔った頭に油を注いでしまっては、余計厄介なことになりかねない。
 「なんだァ?」
67<<鬼を憐れむ唄・第二夜>>:03:2007/01/29(月) 19:28:09 ID:q4tf20/5
 うっそうと呟き、しばらく様子見を決め込もうとした、ダインの横をすぅと通り過ぎる白い影。
 「ってオイお嬢……!」
 止める暇もなかった。
 引きとめかけた指は宙を掴む。
 そのまま、ミルキィユは恐れ気も無く兵士二人に近づくと、
 いつの間にか手にしていた水差しの中身を、彼らの頭上に盛大にぶちまけた。
 「冷てェェ……ッ」
 「何すんだこの野郎!」
 怯えた娘に手を伸ばしかけていた二人は、殺気立ち振り向く。
 「この大馬鹿者共」
 乱杭歯をむき出す男達に、顔色一つ変えることなく、ミルキィユは凛と言い放つ。
 「嫌がっているだろう。放してやれ」
 「なんだてめェは」
 顔色変えた男達は、水を掛けた相手が小娘一人だと気付き、たちまち下卑た笑いに代った。
 「随分と可愛らしい助太刀だなァ?」
 先刻のダインとは違う意味で、上から下まで彼女を睨め回す視線。
 ミルキィユは平然と立っている。
 と言うよりは呆れ顔である。
 「……姉ちゃん、俺らは別に苛めてた訳じゃないのね?ちょっと外に出て俺達とイイコトして遊ぼうって」
 「……よく見りゃ姉ちゃんもまぁまぁの体付きしてんじゃねェか。お兄さんたちと遊ぼうぜェ」
 にやにやと口の端を歪め、給仕娘はどこへやら、
 照準をミルキィユに定め直して、彼等は腕を、細い体へと伸ばしかけた。
 「つまらん連中だな」
 迫る腕に恐れる風も無く、大胆にもミルキィユは、欠伸と共に小馬鹿にした。
 「……んだとォ……?」
 「台詞がありきたりすぎて笑える」
 「……このアマ……ッ」
 にやけた笑いから、怒りの表情に置き換わった彼らが、彼女の胸倉をつかもうとした瞬間、
 ばしり。
 と、しんと静まり返った店内に、小気味よい音が響いた。
 「いっ……てェェ……」
 「ダイン」
 兵士二人の呻きに、そこで初めて、困惑を含んだミルキィユの声が被さる。
 抜きかけた細身の剣を見止めたダインが、即座に席を立ち、自身の短剣で二人を打ち据えた音であった。
 もちろん、鞘は抜いていない。
 「店内で刃物沙汰は、ちょっと物騒だろお嬢」
 薄く笑ってみせる。
 「まァ、アンタなら峰打ちさせるつもりなんだろうが」
 む、と彼女が口を噤んだのを確認し、
 「なんだったら俺が相手になんぜ」
 隣に並ぶと、床に転がった二人を見下ろす。
 「……畜生……なんだ、男連れだったのか!」
 後頭部を抑えた兵士二人は、痛みに涙を滲ませながらぼやいた。
 生意気な口を利くのはともかく、非力な小娘一人ならまだしも、
 壮年の男連れでは、例え酔っていても勢いというものが違う。
 更にその男が、物騒な笑みを浮かべた巨躯であったなら。
 そして腰に挿した長剣と、今手に持つ短剣の使い込まれ具合を、酔眼でも尚確認したなら。
 二対一であっても、ダインのほうが格が上、と判断する能力はまだ持ち合わせていたのか、
 覚えていろ。
 最後までありきたりな捨て台詞を吐いて、兵士二人はぎらついた目でダイン達を睨み、
 だがそれ以上手を出してこようとはせずに、唾を吐き捨て、店を出て行った。
 「すごいな。どこもかしこもベタすぎる」
 ミルキィユは、ぱちぱちと瞬いて妙に感嘆している。拍手もしそうな勢いだった。
 凍っていた店内に、やがて息を吹き返したかのように、音が戻ってくる。
 皇都では、酔った兵士の絡んだ喧嘩事など、日常茶飯事だ。
68<<鬼を憐れむ唄・第二夜>>:04:2007/01/29(月) 19:29:09 ID:q4tf20/5
 客もそれに慣れている。
 何事も無かったかのように、食事を再開するもの。
 丁度いいタイミングと、勘定を支払い、席を立つもの。
 ひそひそとこちらを眺めながら、何事か囁いているもの。
 おそらくはダインか、もしくはこの勝気な少女の正体を、耳にしたことのある者なのだろう。
 見るとはなしに、彼は店内をぐるりと眺め、大きく息をつく。
 表に出て一戦するかと踏んでいたので、多少拍子抜けしたせいもある。
 一方ミルキィユは、蹲っていた店主に手を貸し、立たせてやり、しきりに感謝された。
 「良かったな。将軍様の株は上がるぞ」
 先に、席に戻っていたダインがそう揶揄してやると、少女はにっと笑う。
 「この程度で上がる株なら、苦労は無いな」
 飄々としたものである。
 鼻に掛けることもない。
 大いにダインは気に入った。
 「だが」
 腰を下ろし、再び料理に手を伸ばしかけたミルキィユの、不意に煌かせた眼光は、猛禽類のそれである。
 「手出しは無用だった」
 「……あん?」
 「アレは皇帝軍の将校クラスだ」
 「すげェな」
 そうダインが呟いたのは、酔った兵士二人の身分に感心したからではない。
 皇都の人口は、併せておよそ三十万。内の二割が職業軍人という大軍事国家である。
 それだけ近隣の国々が安定しなかったとも、未だ大陸を制覇する力を持つ一国が無いとも言える。
 どこの国も、起興から終焉までを戦いに明け暮れて過ごしていたのだ。
 そしてそれは、大国と言われるエスタッド皇国もまた、例外ではない。
 二割の六万。
 もちろん、全ての人数が皇都に結集することは、まず無い。
 それぞれ小分けに分類され、各分都市や、山塞に居を置く。
 皇都に寝起きしている者は、そのおよそ三分の一ほどだろうか。
 それにしても大変な量である。
 戦争時の全体数が、では無い。
 職業軍人とは。その名の通り、平素より軍職に就いているものを示す。
 で、あるから無論、いざ事が起これば、更に人数は増える。
 傭兵を雇う。国民より徴兵を募る。同盟国と連絡する。
 皇国の強さは、戦略ではない。虱潰しの質より量、である。
 正攻法でもあった。
 そして、軍人が多いと言うことは、その統制されているそれぞれの部署の数もまた、多い。
 人数が集まっても、それでまとまりが無ければただの雑兵群である。
 うまく統括できるようにまとめるのは、至難の業なのだ。
 事細かに分類されていた。
 最高位が元帥。その下に上級将、さらに中級、下級といった具合である。
 因みに、ミルキィユはその中の下級将に入る。
 ただしこれは、叩き上げた才能ゆえではなく、多分に、皇帝の異父兄弟である、身分からの職位であろう。
 鬼将軍の噂が芳しくないのは、その手腕ではなく、そう言ったやっかみのせいだと、ダインはふんでいる。
 軍人ほど、上下関係や肩書きを気にかけるものも無い。
 けれどミルキィユにおいては、戦いの勘は天賦のものがあると、先日の戦ぶりをみて彼は思っている。
 いずれは周りも、その才能に口を挟むこともなくなるだろう。
 何しろまだ、若いのだ。
69<<鬼を憐れむ唄・第二夜>>:05:2007/01/29(月) 19:30:09 ID:q4tf20/5
 それはさておいて。
 つまり、人数に比例して、やたらと数が多い。
 将軍職からしてみれば、部隊長と言う下の下の下の存在の顔触れを、
 ミルキィユは、事細かに覚えているということなのだ。
 並外れて記憶がよいのか、日頃人一倍の努力をしているのか。
 ――きっと後の方なんだろうな。
 ダインは一人ごちた。
 「面倒なことになりかねない」
 ミルキィユの言っているのは、雇われ兵である傭兵と、職業軍人との衝突があるかもしれない、という危惧だ。
 「まぁ、」
 同じく料理を掻き込みながら、ダインはにやと笑った。
 「そうなったらそうなったで」
 捻じ伏せるさ。
 肩書きの無い彼は、気楽なものである。
 なにせ、目の前にある出来事が全てだったから。
 案の定、そんなダインを眺めて、ミルキィユはやれやれと溜め息をつき、
 それから、唐突に、慌てた動作で服の隠しをまさぐって、
 「大変なことに今気付いた」
 酔った兵士二人を目前にしても、変えなかった顔色を青褪めさせて、彼女は彼に耳打ちする。
 深刻な表情である。
 つられてダインも身を乗り出した。
 「……なんだァ?」
 「持ち合わせが無い」
 本気で慌て始めるあまりのギャップに、
 込み上げた爆笑と共に、ダインは噴飯し、たいそう彼女の顰蹙を買った。


 男が室内を歩いている。
 品の良い調度に装飾された、全体的な色調は薄灰色の、しっとりと落ち着く部屋の中である。
 絨毯の毛足も、踝までめり込むほどに深い。
 足音を感じさせることの無い部屋である。
 見る目があるものが見れば、かなりの金額がかけられていることが判ったろう。
 その中を、落ち着き無く、歩き回っている。
 「……陛下」
 苛立ちを低く抑えたような、相手の返事を促すような、
 けれど、失礼のない程度には敬意を滲ませた、絶妙なバランスで、男が苦々しげに何度目かの問いを口にした。
 返される視線は、やはり何度目でも同じ事で無言。
 「考え直してはいただけませぬのか」
 なじる。
 男は皇軍の一上級将である。
 午後も半ば過ぎ、あと少しで今日の仕事も終了、と言うところで部下から苦情を受けた。
 街中で、傭兵と皇国兵士が小競り合いを起こした、と言うものである。
 いつもなら捨て置く。
 小競り合い程度に、いちいち首を突っ込んで仲裁していては、身が持たないからである。
 面倒くさい。
 聞き捨てにならなかったのは、その騒ぎの中に、どうやら例の女将軍が紛れていた、と言うことだ。
 彼女を糾弾するには、もってこいの機会である。
 男は、彼の将軍の存在を認めていない。
 部下の報告に喜んで耳を傾けた。
 大きな声では憚られるものの、同僚各位に女将軍についての悪評を、流布するときもある。
 実務経験とか、能力の有無とか、若いとか、そんな理由はこの際どうでもいい。
 ――女の癖に小賢しい。
 男権の世界に女がいるのが嫌だ。
 とことん気に食わないのである。
 ある種の逆恨みにも似ている。
 できることなら、苛め倒して今の地位から追い払いたい。
 しかし面と向かって彼女へそう告げるのは、風聞もあるし、彼女そのものの肩書きがそれを許さない。
 皇帝と異父兄弟。
 仲間内、酒に酔ったついでにグチを垂れるしか、発散方法が無い。
 ゆえに、揚げ足は、取れるときに最大限、取るに限る。
70<<鬼を憐れむ唄・第二夜>>:06:2007/01/29(月) 19:31:42 ID:q4tf20/5
 「こちらとしても困るのです」
 幸い男は、皇帝への直言可能な肩書きを持っていたから、
 「ミルキィユ将軍御自ら、我が軍の規律を乱されては、下にも示しが付かんでしょう」
 豪く困った顔をして、目の前の皇帝を見やる。
 片肘を執務机に凭れさせ、煙った視線が外を眺めていた。
 心ここにあらずの態であった。
 男は聞こえない程度に、小さく舌打ちする。
 エスタッド皇帝。
 その名と、風体がここまでずれている人物も珍しい。
 陽に透かすと、蜘蛛の糸にも似た金糸が、白磁の頬を縁取り、それは柔らかに渦巻いて床へとなだれ落ちる。
 柳眉。
 ともすれば伏せがちな睫は女と見紛う程に長く、切れ長の眦までも淡く覆う。
 通った鼻梁。薄い、血の気を感じさせない硬質の口唇。
 うすものを羽織った細い肢体が、物憂げに椅子に深く沈む。
 どこもかしこもまったく作り物じみている。妖艶な陶器人形にも、似ている。
 絶世の、との賛辞がまさに似合う容貌なのである。
 仮に。
 隣接しあう国へ献上品として差し出されていたなら、たちまち国王は虜となったろう。
 妓館にいたなら間違いなく、国一番の、と前置きが付いたはずである。
 数多の粉黛も霞む。
 傾国の美女と言っても差し支えない。
 もし、彼が女であったなら。
 皇帝は、男であった。
 「……私に、どうしろと言うのだね」
 沈黙を破って不意に室内に声が響く。
 不機嫌な声色である。
 薄氷が砕ける寸前に、震え打つ音にも似ている。
 「ですから。はっきり申し上げますと、ミルキィユ将軍は、我が軍における風紀の乱れの原因にもなると思」
 言いかけた言葉が途中で遮られる。
 皇帝が、刹那男を直視したせいだ。
 冷え切った薄茶のガラス玉がまともに男を貫いた。
 明らかに、殺気が混じっていた。
 「で?」
 「……え、ですから、その」
 次の瞬間には、すぐまた視線は伏せられていた。
 促され、しかし男は言葉の続きを失い、戸惑う。
 「君の言葉をまとめると」
 皇帝が、深く沈んでいた椅子から身を乗り出し、真っ直ぐに男を見た。
 起こった微風に、片袖がひらひらと風に揺れる。
 左肩口より、中が無い。
 かたわなのである。
 「君の直属の部隊の部下である将校が、昼日中から職務中というのに飲酒行為に及び、
 市民に迷惑をかけた際に、そこに居合わせた、ミルキィユ第五特殊部隊下級将軍が、
 怪我人も出さずにその悶着をうまく取り収めたと。
 そして君としては、自ら部下を律するべき立場にありながら、他部隊の将軍の手を煩わせてしまった。
 それにたいして、君は大変申し訳なく思っており、
 本来ならば例え微罪とは言え、軍法会議にかけると共に、君の、部下への教育指導態度を、
 改めなおさなくてはならない立場にありながら、現在は多忙ゆえにそれはなかなか難しい。
 仕方が無いので、物事の前後こそ異なるが、こうして私の許に謝罪しにやってきたと。
 できればくれぐれも、彼女にはよろしく伝えて欲しい。本当に感謝している。
 ……そういう解釈でいいのかね」
 「……は、」
 皇帝は指折りながら、静かに、しかし一気にまくし立てた。
71<<鬼を憐れむ唄・第二夜>>:07:2007/01/29(月) 19:32:46 ID:q4tf20/5
 実は、悶着のあったことは陳情したものの、飲酒云々について、男は一切口に上らせていない。
 報告した覚えの無い事実に、男は何度か口を開閉させ、
 「な、何故それを」
 ようやく声を絞り出した。
 「いやなに」
 微かに肩を落として首を振りながら、皇帝は薄く笑う。
 獲物をいたぶる笑みである。
 「君達からのミルキィユ将軍に対する意見が、あまりにもこのところ多いもので、
 現在の軍職に、彼女を推薦した私の立場上、これは監督を怠ってはいけないと思ったのでね。
 特に皇都に帰還している際は、それとなく彼女の行動を監視するように、私が直に手配した。
 ……そうだったね、ディクス」
 「はい」
 皇帝の最後の促しに、それまで陰に控えていた大柄な黒甲冑姿の男が、すっと足を踏み出す。
 皇帝直属の護衛の一人である。
 「……恐れながら、私が市井に出向いて聞き調べました。
 店主、及びに事の発端になったと思われる、給仕女への質疑応答、
 さらには騒動の起こった際、店内にいた客からの証言も取れております。
 こちらに書類としてまとめてありますので、もしお疑いのようでしたら目を通していただければ」
 「……ぬ、ぬ、」
 ミルキィユを、不利な状況に追い詰めるつもりでやってきた場で、逆に自分の不備を指摘され、
 男は歯軋りしながらも、唸るしかない。
 下手をすると自分の地位が危うい。
 嫌な汗が背筋に伝う。
 「ところが、だ」
 そんな男の様子を楽しげに眺めながら、皇帝は更に酷薄な笑みを浮かべた。
 「念のために、問題のミルキィユ将軍にも、事の是非を問うてみたのだが、
 これが、実に彼女はそんな騒動は一切起こらなかったと、そう言うのだよ。
 確かに自分はその店を訪れはした、けれど話に聞くような事は何も起きていない。
 普通に食事を済ませ、何事も無く店を後にしただけだ、
 きっとその兵士が夢でも見たのではないかと、そうとしか自分には思えない、と。
 ……そうだったね、ディクス?」
 「はい」
 「と、言うわけでね。君の部下はきっと、連日の激務のために白昼夢でも見たと私は思うのだがね。
 それを信じた君は、大変に部下思いの良い上司の鑑であるとは思うものの、
 少し早計だったのでないかね。ここに来た分、帰っても仕事が残っているのだろう?
 ご苦労だった。もう下がってもいい。大層楽しい物語だった」
 皇帝は、そう言い終えると、ひらと片手を振って、退室を促す。
 物語、と称してこの件については不問にすると、暗にそう言っていることに男は気付き、
 最初の勢いはどこへやら、我が保身が無事であったことに豪く安堵して、
 敬礼もそこそこに、そそくさと執務室を後にした。
 「……よろしいのですか」
 しばらくしてから、ディクスと呼ばれた黒甲冑が、静かに問いかける。
 「何をだね」
 執務机に山と詰まれた懸案書類を、面倒くさそうに斜め読みしていた皇帝がやはり静かに返す。
 「放って置いては、また有事の際に騒ぎ出すのが目に見えております。
 ミルキィユ様の御為にもなりますまい。今のうちに、騒ぎの芽は摘んでおいたほうがよろしいのでは」
 先程の男が聞いたら、卒倒したろう。
 丁重な言い方とは裏腹に、ディクスは物騒な内容を呟いた。
 それがねェ。
 皇帝は早々にやる気をなくして、書類を放り出すと長く息を吐く。
 「……実は、ミルキィユ自身が、放っておくことを望んでいるのだよ」
 言いながら皇帝は立ち上がり、執務机へ背を向けた。
 一枚ガラスの向こう、皇軍の演習の行われている中庭を見下ろして、僅かに口唇を緩める。
 そこでは、女将軍が張り切って兵士と剣を交わせていた。
 兵士達の士気も高い。
 下の連中からは大層支持されていた。
 彼女を気に食わない顔で眺めるのは、将校クラスの上官ばかりだ。
 実力を実力と、素直に認める兵士達は、鬼と呼ばれる女将軍を慕っている。
72<<鬼を憐れむ唄・第二夜>>:08:2007/01/29(月) 19:33:42 ID:q4tf20/5
 「それは、」
 「そして私も同意見だ。ああいう者はね、どんな形であれ、叩く対象が一つ目に見えてあったほうが、
 他の部分に不満の種を抱えないですむ。そういう単細胞な生物だ。叩かれるのは致し方ない」
 ガラス越しでも良く通る声で、ミルキィユが何か、剣術を指南している。
 畏まって拝聴している若い兵士の顔は、憧れの将軍に直に指導されて、嬉しそうだった。
 「保身を第一に考えるああいう者ほど、大軍を動かすときに必要なものは無いのだよ」
 ……それは武人であるお前にもよく判るだろう?
 触らなば落ちん、の風情で、皇帝は視線を部下へと戻す。
 まったく言動と容貌が一致しない。
 「保身第一な者は、もちろん一撃離脱のような、芸の細かい用兵は期待できないが、
 その分異常に慎重だ。病的なほど、と言ってもいい。
 大軍を動かす際に必要なのは、戦略の奇抜さではない。凡庸であれば凡庸なほど向いている。
 そして彼等は、その大役にぴったりと言うわけだ。手駒を減らす必要は無い」
 「……切れ味の良い刃は、敵ばかりか味方も、傷つけることになり兼ねませんな」
 ――わたしは、陛下の刀になります。
 遠く昔、耳にした言葉が蘇ってくる。
 「そう言うことだ」
 言って、皇帝は再び視線を中庭へ向けると、
 「あれは強い。よく切れる」
 ぽつ、と放った言葉はどこか憂いを帯びていた。
 控えたディクスも、つられて外を眺めやった。
 中庭ではミルキィユが、皇帝とその護衛に注視されているとも露知らず、
 夕日を浴びながら、練習用の木剣を片手に、汗を流している。


 同じ話題を別の場、別の時にしている。
 「わたしは陛下に二度、命を救われているのだ」
 どうせこの先、貴様もいつかは耳にするだろう。と、ミルキィユはそう言う。
 結局、何故か次の日も、ミルキィユに付き合うことにしたダインである。
 訓練を行っているから、顔を出すといい。
 前日別れる際に、彼女がそう言った。
 誘われたのを良い事に、持ち前の好奇心で、物見遊山がてら城の中まで付いていった。
 普段は入ろうとも思わないものの、もし仮に試したところで、門前払い食らわされる城門も、
 ミルキィユの通達があったらしく、敬礼と共に通過できるので、それだけは妙に小気味良い。
 そのまま、行われていた午後の訓練とやらに、巻き込まれた。
 最初はミルキィユが、稽古を付けてやっているところを、隅の方で暇そうに、ダインは眺めていたのだが、
 午後の日差しに、うつらうつらし始めたのを見た彼女が、唐突に彼を紹介したのだった。
 「ちなみにそこにいる男は、ダインと言う」
 傭兵ダインの名は、皇軍間でもかなり有名であったらしい。
 守銭奴の又名か、戦場の主の又名か、どちらで有名なのかは、ダインには判別できなかったが。
 ああ、と物知り顔で頷くものが多い。
 「貴様も訓練に参加だ」
 鬼将軍、有無を言わさず強制参加だった。
 渋々と重い腰を上げる。
 眠い。面倒くさい。やる気がない。
 けれど素振りの一振りもすれば、それは平和惚けた顔で半目になっている男ではなく、
 獲物を追い詰めようとする、傭兵の持つそれである。
 遠巻きに囲んでいる兵士が、あまりの豹変振りに、思わず後ずさった。
 流石にミルキィユは動じない。じっと彼を見ている。
 良い機会だから、ダインの実力を評価してやろうと言う魂胆も、見え隠れする。
 ただし邪気がない。
 楽しそうなのだ。
 ――まぁどうせ暇だったし。付き合ってやっても、いいか。
 ぼりぼりと頭を掻いた後に、ダインはその、女将軍の容赦ない視線にはっきりと向かい合う。
 両手に木剣を握っている。
 戯れに似た喧嘩を、買う気になったのだ。
 じっと見つめていたミルキィユが、にっと笑う。
 彼の気の流れが変化したことを、的確に読んでいる。
73<<鬼を憐れむ唄・第二夜>>:09:2007/01/29(月) 19:34:51 ID:q4tf20/5
 ――叶わねェなァ。
 笑顔が眩しい。
 逆行のせいだと、思うことにした。
 やると決めたら、何事にも本気になるのがダインの癖だ。
 大人気ないとも言う。
 いつの間にか自身も随分楽しんで、気が付くと、既にとっぷりと暗かった。
 「遅くまで悪かったな」
 夜風に少女の髪がなびく。
 既に兵士達は帰った後である。
 「よい気晴らしになった」
 「いや。こっちも楽しかったぜ。最近ナマってたしなァ」
 「そうか」
 笑う。
 「アンタ……女のくせに、なんで将軍なんぞになろうと思ったんだ?」
 その笑顔に、ふと思いついた疑問をダインは投げかけた。
 「ふむ」
 大きな瞳を瞬かせて、不意にミルキィユが声を潜める。
 煌きに引きずり込まれそうな錯覚がある。
 「聞きたいか」
 「……聞きたいね」
 「では、涼みがてら話してやろう」
 そう言って彼女は先に歩き出す。
 日の落ちた中庭を巡る回廊は、点々と篝火が焚かれており、歩く分には申し分ない。
 少し後に続いて、ダインも彼女と同じくゆっくりと歩き出す。
 火照った体には、寒風も心地よい。
 「わたしが皇帝陛下と異父兄弟ということは、どこかで聞いたろう?」
 「ああ」
 ダインは頷く。皇都に帰還して一週間もこの都に滞在すれば、嫌でも彼女の噂は耳に入る。
 「小さい頃はここにいなかったそうじゃねェか」
 「そうだ。ここより馬でも二日ほどかかる場所の、小さな村で暮らしていた。
 この都に引き取られたのは、そうだな。7つ……8つだったか」
 「小せぇなァ」
 返してダインは気が付く。
 目の前を歩く少女は、今でも十分「少女」なのだと。
 その語り口調と、落ち着いた物腰で、戦場では随分と大人びた雰囲気を醸し出しているが、
 思えば未だ17歳の少女なのである。
 「異母兄弟ならまだしも、異父兄弟だ。庶子でしかない。皇帝の血はまったく継いでいないのだからな。
 だから、城内に部屋を貰うわけにも行かない。皇都の町外れに居を構えて、そこで暮らした。
 今もそこにいるから、貴様も何か困ったことでもあったら、訪ねてくると良い」
 「……何もなかったら、だめかね」
 「え?」
 なんでもない。
 漏れ出た言葉に慌てて手を振り、ダインはミルキィユの話を促す。
 おかしな奴だとミルキィユは笑う。
 「わたしが12の時にな。前皇帝が逝去し、兄である陛下が皇位に就かれた。
 或る日。引継ぎの混乱に乗じて、兄を快く思わない一派が、クーデターを起こしたのだ。
 クーデターの首謀者は、取り巻きであったはずの兄の重臣一派。担ぎ上げた対抗馬は、わたしだった」
 思わずダインはミルキィユを見つめる。彼女の背中はとても静かだ。
 前を向いた表情がどうなっているのか、ダインには判らない。
 「兄は、生まれてより心の臓に穴があるそうだ。強い体の持ち主ではない。病がちで良く伏せる。
 激務には耐えられない皇帝は皇帝にあらず、などと余りにも馬鹿馬鹿しい看板を掲げて、
 彼等はわたしを持ち上げたらしい。……らしい、と言うのは、愚かにもわたしは、事が終結するまで、
 城内で、何が起きているのかも知らなかったと言うことだ。普段どおり、ままごとでもしていたか」
 一陣の風が吹く。
 吹き流された透質な髪が、夜空に乱れた。
 「彼等はな。皇帝の玉座に詰め寄り、退位を迫ったのではない。
 刺客を物陰に潜ませ、ひと思いに命を奪おうとしたのだ。結果としては暗殺には失敗。計画の漏洩。
 あるものは国外に逃亡し、あるものは自刃し、またあるものは投獄された。
 ……ただし兄は、左腕を失った」
74<<鬼を憐れむ唄・第二夜>>:10:2007/01/29(月) 19:37:32 ID:q4tf20/5
 ダインは思う。
 もとより心臓の弱いものが、大量出血を伴う重傷を負った場合どうなるか。
 ――簡単なことじゃねェか。
 衝撃に耐え切れず、まず心臓が音を上げる。出血死以前に、ショック死しかねない。
 「兄は死ななかった。生死の境を二ヶ月以上さまよった末に、それでも、」
 ダインの声なき声を聞き取ったように、ミルキィユが低く囁く。
 「……それでも。何も知らなかったとしても。
 わたしと言う存在がいる限り、また、同じことが繰り返される可能性は、捨てきれないだろう?
 事が収まった後に、周りはわたしを始末しろと兄に言ったようだ。災いの種は未然に排除しろと。
 わたしはそこに至って、ようやく事の次第を知ったわけだったが、仕方がないと思った。
 もともと、皇都に引き取られたのも、その時分まだ皇太子であった、兄の一言があったからなのだ。
 その兄の命の安否に、わたしが邪魔であるなら、謹んで命を差し出そうと思った。
 それが、命の恩人に報いるわたしなりのけじめだと、そう思っていた」
 わたしは兄に二度、命を救われているのだ。
 ミルキィユの小さな声は、風に溶けて消える。
 「……お嬢、」
 「兄はな。それらの忠言を全て退けたのだ。権力で捻じ伏せて、周囲を黙らせた。
 普段、余り御自分の意見を主張するお人柄ではないから、周囲も黙るしかなかったようだ。
 わたしはそれを聞いて、居ても立ってもいられなくなり、無理を言って兄に目通った。
 どうか、わたしを殺して欲しい。邪魔にはなりたくない。言ったわたしに、兄は言った。
 ……”生きなさい”と。盾になるから、全てから守る盾になるから、生きなさいと」
 「お嬢」
 細い肩が小刻みに揺れている。
 ダインは腕を伸ばしかけ、自重する。
 「だから、わたしは誓ったのだ。生まれ故、わたしは決して兄の……陛下の盾にはなれない。
 盾になれないのなら、わたしは刀になろうと。皇帝に牙をむくものを叩き斬る、刀になろうと」
 ミルキィユは振り返る。
 振り返った少女の頬は乾いていた。
 「以上が昔々のお話だ。聞き応えがあったろう?」
 笑う。
 「お嬢、……アンタ」
 「なんだ。深刻な顔をするな。三十路男が、陰気面ではこちらの気も塞ぐ」
 そう言いながら、ミルキィユはぶるりと大きく身を震わせ、
 「涼むつもりが冷えてしまったな。これでは風邪をひく」
 眉を寄せるダインに向かって、咳払いをして向かい合った。
 「今日はご苦労だった。体を休めてくれ」
 僅か首を傾げて微笑む。
 微笑を見て、ダインは初めて痛々しいと思った。
 虚勢だ。
75<<鬼を憐れむ唄・第二夜>>:11:2007/01/29(月) 19:38:49 ID:q4tf20/5
 そう思った。
 片肘を張り、大股で闊歩しないと、たちまち膝から崩れてしまうから。
 快活に笑っていないと、すぐに涙が零れてしまうから。
 柔らかな栗色の瞳の中に、裸足で泣いている小さな小さな子供が見える。
 ――コレは、危険だ。
 眺めるダインの頭の中で、いつぞやの嫌な予感が鳴り響き、
 「な、」
 気が付くと、思わずその腕を引いていた。
 華奢な体がダインの胸板に当たる。
 一瞬だけ抱きしめた。
 風に煽られて銀糸が舞い、それが元通り背中に流れる頃には、少女は腕の中より消えている。
 弾かれたように数歩後ろに、ミルキィユが飛び退っていた。
 痩せた野良猫の目をしている。
 口唇を戦慄かせ、幾度か湿らせて言葉を選んだ後に、
 「あまりわたしに関わるな」
 掠れた声音で囁いた。
 ――コレは、危険だ。
 見つめるダインの脳裏に、今一度言葉が走った。
 風の中に、鬼がいる。


* * * * * * *

以上です。
76名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 20:31:23 ID:T0rIsuD/
思わず震えた。

主従関係が、出来上がる過程もいいなぁ。
序章の最初への繋がりを遥かに思うと、
全然エロがなくても、許せそう。
でもそっちの展開も期待!
まだ相当かかるかな?
77名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 23:52:34 ID:8Rz3EPE9
大作のヨカーン
78名無しさん@ピンキー:2007/01/30(火) 13:04:49 ID:+jemcBLF
「兆し」を書いたものでございます。
みなさま感想ありがとう。反応もらえると次回作書く筆も進むってもんです。
がんばります。

>>45
島津のほうがエロは辻井の数倍書きやすいのですが、明らかにココ向けのキャラではないので…。


姫と青年の関係の急展開やら、ミルィユの意外な過去やら、盛りだくさんですな。
青年は姫から離れてどこへ行っちゃうのかとか、ダインとミルキィユは今度どうなって序章のあのシーンへ向かっていくのかとか、ワクワクしっぱなしです!
どちらも続き、楽しみに待ってます!
79名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 03:00:48 ID:1LcGGxWI
青年と姫様。
ハッピーエンドにはほど遠いけれど完結編投下します。
80名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 03:01:54 ID:1LcGGxWI
花が降り注ぐ。
風にさらわれた白い花弁は祝福のシャワーのように青年に降り注いだ。
大木を背に、青年は王宮を眺める。
国中が喜びに溢れていた。
誕生した子は黒い巻き毛と蒼い瞳の男児であるという。
遠巻きにでも姿を目にしたいと思うが、僅かでも視界に入れば側へ駆け寄ってしまいそうだ。
せめて、幸せでいてくれたならと願う。
待望の男児を抱き、幸せに微笑む姿を思い描く。
城を離れて数ヶ月。
青年の心を占めるのは今なお麗しの姫君だけであった。
一度は国を離れようとした青年であったが、少女の側を離れることができず、城下で暮らす日々だ。
風の噂に王太子妃の名がのぼるだけでよかった。
安寧な生活を送っているならばそれでよかった。
幸せになってほしいと思う。
青年が側にいなければ少女も分を弁えぬ願いなど持つはずがない。
これでよかったのだと青年は自らに言い聞かせる。
花が降る。
ひらり、ひらりと舞い落ちる花が青年の頬に触れた。
不意に涙が頬を伝う。
この胸の痛みは何だろう。
狂おしいまでに自分をせき立てる、この痛みは何だろう。
青年はきつく拳を握り、王宮を見上げた。
いつか、時が経てばこの痛みも消えてなくなるのだろうか。
自嘲めいた笑みが口元に浮かぶ。
この痛みが消えてなくなる時がきたら、その時はきっと──……



81名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 03:07:17 ID:1LcGGxWI
悲哀も歓喜も憎悪も快楽も、揺りかごで眠る子は何も知らない。
罪深いまでに無垢な赤子は静かに夢を見る。
父譲りの黒髪と母譲りの蒼眸を持った赤子を見る度に少女は胸を痛めた。
独りになったのだと悟った朝、一度は死を決意したというのに赤子がそれを許さなかった。
子を孕んだのだと知った時には乾いた笑いがこみ上げ、ひとしきり笑った後は涙が涸れるまで泣いた。
愛した人の子と思えば、泣きたくなるほど愛おしく、殺してしまいたくなるほど疎ましい。
こうして少女は枷を負ったのだ。
自ら命を絶つことを許されぬ身となった。
これからは子を守らねばならない。
そっと赤子の頬に触れる。
柔らかな感触が指に伝わり、嗚咽がこぼれた。
望んでいたのはこんな結末だったのだろうか。
必死になって力を尽くした結果がこれか。
少女の頬を伝い落ちた涙が赤子の頬を濡らす。
愛おしい。
愛おしく憎らしい。
赤子の頬を少女は再び撫でる。
せめて立派に生きよう。
近隣諸国が恐れ敬うほどに立派な王に育て上げよう。
青年がどこにいようと、耳を塞いでも伝わるほどに、子とともに立派に生きていこう。
決意を秘めた眼差しで、少女は赤子の寝顔を眺める。
いつかこの子が立派な王になったなら、その時は、その時は自由になることが許されるはずなのだから。


おわり



若頭とお嬢も傭兵と姫将軍も続き楽しみにしています。みんなGJすぎる!!

個人的には島津と都の若かりし頃とか読みたかったりする。主従じゃないからスレ違いになるんだろうけど。

陛下と護衛みたいな距離感も好きだ。やおいとかでなく単に主従として。
82名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 08:05:46 ID:fmLrZrNY
ハッピーエンドは好きだけど、主従だからこそのやるせない終わりも好きだ
てゆーか、GJ!!
83名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 09:50:03 ID:qLhT0XBN
ここはかつての使用人×お嬢様てあり?

昔ひどい扱い受けてた使用人が成り上がって戻って来て
今は没落しちゃった家の、気位の高いお嬢様を愛人にする。
当然お嬢様は猛反発。それを凌辱調教するっていう……

って今このスレ純愛もの好きな人多いからこの時点で
ドン引きされてそうな内容なんだけど。
84名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 11:45:39 ID:xfMs2OKd
いや、俺的にはありだと思う。読みたい
注意書きしとけばおkじゃね
85名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 16:58:03 ID:Xvy79Q4N
>>81感動した。
86名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 17:26:19 ID:qb7XFeeq
>>81 全米が泣いた。
   俺も泣いた。GJ!!!
87名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 20:26:23 ID:niAT3R5q
>83
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 陵辱!陵辱!
 ⊂彡     調教!調教!

88名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 23:36:29 ID:vh+o/6hu
ほんの数日来てない間に神々の饗宴があったとは!
兆しも鬼〜も青年と姫様も、どれもこれも素晴らしいよ、禿萌だ。
わくわくしたり涙したりと、それぞれの世界に浸らせてもらった。
ここは良スレなんてもんじゃないな。

>>83
純愛も好きだが凌辱調教も好物だ。待ってるぞ。
89名無しさん@ピンキー:2007/02/01(木) 02:39:57 ID:8+aAbZtz
>>83
まさかメイド服じゃないだろうな…どっかのサイトで読んだ事があるんだが…





いやそれはそれで美味しかったので是非読ませて下さいごめんなさいごめ(ry
90名無しさん@ピンキー:2007/02/01(木) 11:31:56 ID:wDRGkBRz
>>89
ddbの『180 〜reverse〜』か?
自分は痛々すぎて読了することができなかったが
91名無しさん@ピンキー:2007/02/02(金) 02:41:03 ID:1hXYr1bv
保守
92名無しさん@ピンキー:2007/02/02(金) 04:00:44 ID:+4PK2DVm
>>90
サイトの名前を書く辺り確かにお前も痛いな
93<<鬼を憐れむ唄・第三夜>>:01:2007/02/02(金) 19:00:26 ID:OJf2OXBB
>>83
下克上!下克上!
慇懃だった使用人の急変楽しみにしてます。

話の流れを読まずに投下。
長い目で見てもらえればありがたいです。


<<鬼を憐れむ唄>>

 ――俺ァ尻の青い餓鬼か。
 思わず自身で突っ込んだ。
 酒場で卓に突っ伏し、ダインは頭を抱えている。
 抱えながらも、飲みかけの酒の入ったグラスを放すことはしない。
 そこは酒好きの意地である。
 孤独に管を巻いている。
 もう片手には、朱の差したガラス細工の髪飾り。無骨な指で、けれど壊さないように握り締めていた。
 皇都に戻って一息付くか付かないかの間に、すぐさまミルキィユの名で募兵の看板が掲げられていた。
 もとより参加に否はない。
 応募する気満々のダインだった。守銭奴傭兵と呼ばれる所以である。
 金と命を、天秤にかけて金を選ぶ。
 こればかりは面倒に感じる、登記だの面接だのを一応済ませて、晴れて明日出陣、と言うところまで漕ぎ着けた。
 皇都の喧騒とも、しばらくの別れとなる。
 運が悪ければ永遠の別れともなるだろう。
 もしも、の状況をダインは考えない。
 戦場で体が竦んでしまうのは困るだとか、
 考えるという行為そのものが弱気の徴だとか、
 出陣前からゲンが悪いだとか、
 大層な理由はない。考えることが面倒くさいだけだ。
 差し迫ったら行動する。
 頭より先に、体が本能的に動くタイプであった。
 獣に似ている。
 であるから、明朝出陣の伝達を聞いても、特に高揚も感慨もない。
 「明日か」
 それだけ応えた。
 しばらくは装備の最終点検に気を紛らわしていたが、不意に思い立ち、宿を出る。
 妓館に行く気になった。
 深い理由はない。
 気が向いたから、それだけだ。
 皇都エスタッドには、国の認可する妓館が数多く存在していた。
 軍国家であったから軍人が多いのだ。
 必然的に、男女の比率に大幅な差が出来る。男が圧倒的に多い国なのである。
 国政として、妓娼を積極的に斡旋せざるを得ない。
 問題を放っておけば諍いが起き、諍いは上への不満に発展する。
 それでなくても路地裏を安心して歩けないようでは、皇都の民政に従事する役人の沽券にも関わる。
 躍起になって推奨していた。
 足繁く訪れるといった事はないまでも、独身であり男であるから、ダインもたまに利用する。
 仲間の内には、契約金全てを女に散財しては、また戦場に出かける強者もいるらしいから、
 ダイン自身はかなり淡白なほうかもしれない。
 もっとも、そんな絶倫の傭兵仲間と、比べる事それ自体が間違っているような気もする。
 興味がないわけではない。
 ただ、それ以外全ての事柄においても、同じように興味がある、それだけなのだ。
 移り気な性格というのかもしれない。
 妓館の立ち並ぶ遊郭街は、彼が寝泊りしていた安宿から、少し離れた場所にあった。
 夕暮れ時の路地を、ぶらぶらと歩いて行った。
 夕飯の支度をしているのだろう、辺りの民家より、炒め物だの煮物だの匂いが宙に漂って、
 鼻をひくつかせ、思わずダインは腹を鳴らした。
 鳴らしたついでに目に留まったのは、小さな露天市だった。
94<<鬼を憐れむ唄・第三夜>>:02:2007/02/02(金) 19:01:38 ID:OJf2OXBB
 淡い橙、ランプの光に照らされて、路地と路地の交差する小さな広場にいくつかの露店が軒を並べていた。
 彼らもそろそろ帰り支度。
 興味をそそられて、ダインは近づく。
 「いらっしゃい」
 気配に気付いて店の親父が顔を上げた。
 何の気なしに覗き込むと、ガラス細工の髪飾り。ちりちりと光を反射して、豪く綺麗だった。
 銀細工や金細工と比べると、強度こそ劣るものの、商品価値はかなり高い。
 ガラスそのものが貴重品である。
 王城や豪邸ならばまだしも、そもそも民家にガラス窓はない。
 吹き通しの石枠に、紗を張って光を取り入れていた。
 気軽に手に入る品物ではないのだ。
 「イイ人にひとつ、兄さんどうだね」
 親父の言葉に乗せられて、ダインはしげしげと細工を眺める。
 前回の攻城戦の契約金は、そのほとんどがまだ懐にあった。使う暇がないままに次の戦いに行くからとも言う。
 一つ二つ買ったところで、そうそう財布の痛むものでもない。
 どうせ妓館に行くのなら、いっそ絶倫仲間の真似をして、女の歓心を買うのも悪くはないか、と思いついた。
 大柄な体を窮屈に屈ませて眺め回す。
 細工の柄は様々で、黒い薔薇。白梔子。紅木蓮。
 じっと眺めているうち、自身でも気付かないままに、選ぶ対象が変わっていた。
 妓娼はどこかに消えている。代わりに脳裏に浮かんでいたのは、折れそうに細い首。
 あの髪に、よく合う色を探していた。
 ふと見やると、寒天質のガラスに閉じ込められた、一筋入る赤が目に鮮やか。赤と言うよりは、朱。
 ――似合うだろうな。
 手に取っていた。
 「気に入ったかい」
 「この、」
 花は。
 小指の先程の小さな花弁が、幾重にも寄せ合った模様。
 必死に集まる形が、何故か少しだけ淋しそうで、ダインの中でそれが少女の姿と重なった。
 「エンゼルランプさ」
 「ふぅん」
 ダインはその花の名を知らない。
 けれど確かに、赤の小さな鐘形は、ひとつひとつはランプにも見えた。
 「……ランプねぇ」
 「そうさ。花ってのはね、一輪ずつに意味があってね。女ってのは意外にそういうのも気にするのさ。
 イイ人にあげるなら尚更だ。”大嫌い”なんて意味を込めた花を贈っても、嫌われるだけだよ」
 「ややっこしいモンなんだな」
 首を捻る。
 風の中に見たあの鬼は、花の意味を知っているだろうか。
 彼にとって花と言えば、ひとくくりに綺麗なもの、程度の意味しかない。
 「ちなみにこれァ、どう言う意味なんだ」
 興味本位で尋ねていた。
 「ああ……その花の意味は、」
 
 そして今に至る。

 ――どうする。
 盛大に溜息をついていた。
 力強いその肩も、心なしか落ちている。
 右手を酔眼の前に持ち上げる。薄暗い酒場の明かりに透かしてしげしげと眺めてみる。
 透質なそれは光も透過し、果敢ない影をダインの頬に落とした。
 「陰気臭ェぞオイ」
 頭上から声が降る。
 ゆっくりと視線を上げると、ダインを見下ろしている巨漢の姿が視界に入った。
 「ヤオ」
95<<鬼を憐れむ唄・第三夜>>:03:2007/02/02(金) 19:02:45 ID:OJf2OXBB
 「陰気臭ェってより、どっちかっつーと乙女臭ェな。
 思わせぶりな溜息つきながら、手酌酒かっ食らうなんざ、どっかの奥方か、深窓の姫君に恋でもしたかよ」
 上機嫌で向かいに腰を下ろす。
 「まァ……当たってるような外れているような……」
 曖昧な笑みで応じながら、ダイン。聞いてヤオが目をむいた。
 「待てよオイ。守銭奴が恋なんざ、臍が茶沸かすどころか、明日は雪が降るぜ?」
 「うるせェよ」
 今は一人で管を巻きたい気分なのだ。
 しかし、誰かに愚痴を垂れながら、呑んだくれて潰れてしまいたい気もする。
 「あのよ」
 「なんだよ」
 脇の椅子を引き寄せ、その上に横柄に足を投げ出しながら、
 「こう……棘の付いた高い鉄柵の向こうに、豪く綺麗な花があったとするだろう」
 ダインは不貞腐れた声を出した。
 巨体に似合わず、意外に細やかな性格のヤオは、普段と違うダインに付き合う気になったのか、
 本格的に腰を据え、手持ちの瓶から彼のグラスに盛大に酒を注いだ。
 勢いよく、酒が卓上に溢れる。
 「花がどうした」
 「だからよ。花がよ。目には見えて、手を伸ばせば届きそうな位置にありそうで、
 その実怖い番犬か何かが見張ってやがって、入れない庭に、花が咲いているとするよ」
 「……お前、花泥棒でもするつもりか」
 「違ェよ……」
 ある種の、花泥棒であるような気がしなくもなかったが、
 「例えだよ例え」
 不機嫌に訂正した。
 「……入れない庭に花か」
 「そうだ」
 「絶対に、入れない庭に花か」
 「そうだ」
 「それはどうしても手に入れたい花か」
 「……そうだ」
 「そうだなァ」
 俺なら。
 酔ったダインの、けれど真剣味を含んだ眼差しを感じたのか、ヤオは腕を組んでうう、と唸る。
 向かいでダインは酒を呷った。
 しばらく、天井を染みを眺めて悩んでいた巨漢は、やがてぽつりと、
 「俺ァ多分、見ているだろうなァ」
 そう言った。
 「……見てるのか」
 聞いてダインは鼻を鳴らす。
 「見ているな」
 「……手に入らねェんだぞ」
 「でも見ているな」
 「……指咥えて、見ているだけしかできねェんだぞ」
 「でも見ているな」
 「どんなに喚いても、駄々捏ねても、地団太踏んでも、絶対絶対取れなさそうな花なんだぞ」
 「それでもきっと、喚いて、駄々捏ねて、地団太踏みながら、俺ァ見ているだろうな」
 「そうか……」
 「……どうしたんだいきなり」
 押し黙りかけるダインを本気で心配したか、向かいの席からヤオが身を乗り出す。
 そんな腐れ縁仲間に、薄く笑って返しながら、ダインはもう一度ちらりとガラス細工を見た。
 透明な氷の真ん中に、囚われる朱色の花が見える。
96<<鬼を憐れむ唄・第三夜>>:04:2007/02/02(金) 19:04:13 ID:OJf2OXBB


 真夜中を回っていた。
 歓楽街も流石に灯を落とし、街は全体静まり返っている。
 店仕舞いだと酒場の店主に追い出され、今更妓館に行く気も失せて、当てもなく酔い覚ましぶらついて、
 気付くと屋敷の前にいた。
 やがてもうすぐ朝が訪れる。
 ダインは立っている。
 中心部からはかなり外れた、街外れの屋敷の前に立っている。
 寝静まった街と同じで、屋敷も静寂に包まれていた。
 仮に彼が呼び鈴を鳴らしたところで、侍従すら起きて来ないと思えるほどに。
 ――ならす、つもりもねェがね。
 低く呟く。
 予想以上に――或いは以下に――屋敷は豪く小ぢんまりとしていて、この家の主人の気質そのもののようだ。
 使用人の数も少なそうだった。
 あるいは、あの様子だと一人で暮らしているのかもしれない。
 そうも思う。
 明日出立の準備を整えて、きっとこの女主人は早々に眠りに就いたのだろう。
 隣国の敵将と、対等に戦えるように。
 部下である各将校に、何も言われないように。
 そして刀となって、縦横無尽に働くために。
 俯き、握り締めていた指をそっと開くと、ガラス細工がちりちり光る。
 その花の意味はね。
 聞いて思わずぎょっとした。
 無意識に、似合う色を選んだだけだった。
 あまりにも、的確に己の有耶無耶な気持ちを言い当てたから、薄気味悪くも思った。
 それから、
 少女に対する感情を、仕方無しに認めようと諦めた。
 ――惚れた、っていうのかね。
 胸のうちで繰り返す。認めようと諦めながらも、往生際が悪い。自身よく判らない。
 17の彼女と30の自分。
 将軍の彼女と一傭兵の自分。
 皇女の彼女とただの男の自分。
 手に入らないにも程があると、苦笑する。自嘲だったかもしれない。
 遮光された寝室の窓を見る。
 小石でも投げつけて窓枠に当てれば、少女はきっと目を覚ます。
 呼び出す口実はこうだ。「ちょっと困ったことが出来たから」。
 非常識なと、呆れて怒り出すだろうか。
 それとも彼女なら笑って聞いてくれるか。
 ダインは一人肩を竦めた。
 少女の顔を見た瞬間、自分は何も言えなくなりそうで怖い。
 幾多の戦場を潜り抜けた自分が、
 時には敵を、嫌と言うほど屠ってきた自分が、あまりにも臆病だ。
 それは、確信である。
 ――起こす、つもりもねェがね。
 もう一度呟く。
 砕かれないように慎重に場所を選んで、玄関先の植え込みに、髪飾りを置いた。
 置いた端から光が零れて、夜気に溶けて立ち昇る。
 その花の意味はね。
 思い切りがついたように、一度大きく深呼吸すると、
 踵を返し、残り僅かな睡眠を貪るために、安宿の寝床に向けて大股で立ち去った。
 取り残されたエンゼルランプが、星を映して静かに揺れる。
 「あなたを守りたい」
 エンゼルランプの花の意味だと親父は言った。


 わたしの生まれたむらは、小さなむらでした。
 皇帝へいかのいる都より、馬で走っても二日はかかると、母さまは教えてくれました。
 ちずを開いてみても、名前がのっていないほど、ほんとうに小さな小さなむらだったのです。
 そのむらに、わたしは母さまと二人で暮らしていました。
97<<鬼を憐れむ唄・第三夜>>:05:2007/02/02(金) 19:05:35 ID:OJf2OXBB
 父さまはいません。
 じこでいのちを落としたのだと、母さまはいいます。
 そうお話するときの母さまは、とても悲しそうなので、わたしはそれ以上聞けません。
 けれど、聞くひつようもあまりないほど、わたしはしあわせに暮らしていました。
 とても優しい母さまと、とても優しいむらの人たち。
 けっして裕福ではなかったけれど、飢えたことはありません。
 母さまといっしょに畑をたがやし、種をまき、糸をつむいで、はたを織り、
 ささやかではあったけれど、たいそうしあわせだったのだと思います。
 ある晩。
 今まで聞いたこともないような、母さまのとてもとてもこわい声におどろいて、目が覚めました。
 起きて、ますますおどろきました。
 鬼のようなかおをした母さまが、家の戸口に立って、わたしをよんでいるのです。
 母さまのうしろ、開けはなされたとびらから見える、赤くて黒い光景です。
 なにが起きたのか、わたしにはわかりません。
 けれど、なにかとんでもなく悪いことが起きた、それだけはわかっていたように思います。
 こおりつくわたしに、母さまは一歩一歩ふみしめるように近づき、
 それから、のこぎりで切られた木が、ひめいをあげて倒れるように、
 ばったりと倒れてしまいました。
 ――母さま。
 とび起き、近づいたわたしのうでを、母さまはそれは強い力でにぎり掴んで、
 ――にげなさい。
 そう言うのです。
 ――にげなさい。
 そして母さまは動かなくなりました。
 優しかった母さまの白い首に、一本の矢がささっていることに気づいたのは、
 ずいぶんと、母さまをながめていたあとだったと思います。
 ふしぎと涙はでませんでした。
 涙のながす理由まで、わたしはたどりつくことができませんでした。
 しばらくしゃがみこんでいて、そのあと、立ち上がると、
 母さまの、ざらざらして、けれどあったかだった手のひらは、するりとはなれてゆきました。
 母さまは、二度と動きませんでした。
 あたまの中は真っ白でした。
 なにが起きたのか、やっぱりわたしにはわかりません。
 真っ白なまま、母さまの立っていた戸口に近づいてみると、
 あいかわらず外は赤くて黒くて。
 そうです。むらは、燃えていました。
 ごうごうと、とてもおそろしい音が、真っ黒な空いちめんからとどろいて、
 赤いような白いような火のこが、はらはらとまるで雪のようにふってくるのです。
 それはなぜか、おそろしいはずなのに、とてもきれいな光景でした。
 どこもかしこも、燃えていました。
 両どなりのおじさんとおばさんの家も、
 ようきなパン屋さんの家も、
 気むずかしい学者さんの家も、
 大きな犬をかっていた肉屋さんの家も、
 みんなみんな、燃えているのです。
 外にでても、だれもいません。
 もしかすると、みんな、母さまのように、動かなくなってしまったのかもしれません。
 四方を炎にかこまれて、わたしはどこにも行けませんでした。
 ――死ぬんだ。
 そう思いました。
 母さまの死んだときといっしょで、こわくはありませんでした。
 かなしいと思う心が、なくなってしまったのかもしれません。
 ただ、とてもあつくって、苦しくって、気がつくとわたしは、袋小路に立っていました。
 後ろは炎でいっぱいでした。
98<<鬼を憐れむ唄・第三夜>>:06:2007/02/02(金) 19:06:25 ID:OJf2OXBB
 前も炎でいっぱいでした。
 わたしはもうどこにも行けません。
 目の前に水の入った甕がありました。
 わたしは思わず、その甕に頭をつっこんで、
 その甕に頭をつっこんで、
 その甕に、


 愕然と目を見開く。目の前に横たわるものは闇。
 呼吸をすることも忘れて凝視した。
 しばらくは、かっと目をむき、闇を凝視し続ける。肢体が硬直して言うことを聞かない。
 遅れて玉の汗が噴出す。伝う。頬を、こめかみを、目尻を。
 目元を伝う水滴が涙にも思えて、乱暴に瞬きしようとする。動かない。
 汗が酷く沁みた。
 恐る恐る吐く息が震えている。
 こわい。
 体が震えだす。
 神経がささくれているのが判る。
 挑むように、目を逸らすこともできずに、目の前の虚無を睨み続けた。
 ――夢。
 ようやく起き上がれるようになった頃には、かなりの時間が経過していた。
 起き上がる。纏わりついた髪を無造作に流す。
 全身が冷え切っていた。
 両腕で自身を抱きしめるように立ち上がった。
 白々と空が明け始めていた。もうじき、朝が来る。
 ――夢。
 未だに強張る体を無理矢理に動かして、枕元の水差しに手を伸ばした。
 グラスに注いで一息に飲み干す。渇いた喉が引き攣れる。
 「夢」
 声に出して呟いてみた。
 室内に声が空しく反響し、それでようやくミルキィユは長々と溜息とつく。
 溜息をつくと、不意に笑いが込み上げ、彼女は一人くつくつと肩を揺らす。
 いやな夢を見ていた。
 昔の記憶だったかもしれない。よく覚えていない。
 不穏な悪夢は、朝の訪れと共に部屋の片隅へ、追いやられていったようだった。
 だから彼女は、朝が来るまではなるべく四隅を見ない。
 夢が残っていたら困るからだ。
 不自然に目を逸らして室内を歩く。硬い石床に靴底が当たる確かな反動。
 ――これは、夢ではない。
 ゆるく首を振った。
 「馬鹿馬鹿しい」
 未だ寝惚けている己の意識を鼻で笑って、窓辺による。光を浴びたかった。
 遮光布を引く。
 だが外は、ミルキィユが期待したよりもまだ薄暗い。朝日が昇るのはもう少し後になりそうだった。
 それでも窓から身を乗り出して、外の空気を胸いっぱいに吸い込む。
 ようやく闇の残滓が体から抜けてゆく気がする。
 そのまま目を閉じて幾度か深呼吸し、
 開いた瞳に、ちり、と輝きが反射する。頭をめぐらせる。
 玄関脇に、その反射するものが置かれていることに、ミルキィユは気付いた。
 好奇心が湧く。勢い窓から飛び降りる。どうせ、咎める者もいないのだ。
99<<鬼を憐れむ唄・第三夜>>:07:2007/02/02(金) 19:08:09 ID:OJf2OXBB
 植え込みに近づき、しげしげと眺め下ろした。
 ガラス細工が薄明かりに光っている。
 「ふむ」
 落し物ではないように見える。
 意図的に、ここに置かれたものである。
 頬に手を当て、しばしその送り主を思った。
 最初は兄かとも思ったが、彼ならば、こんな無粋な送り方はしないだろう。
 時と場所を、最大限に利用するだろうと思う。
 根性は悪いが、センスだけは良いのだ。
 けれど、そもそも互いに贈り物をする間柄ではない。
 部下の誰か。
 そうも思ったが、上官である自分に、
 例え無記名だろうと、そのまま、剥き出しのままで置いてゆくだろうかとも思う。
 手にとって眺める。
 可愛らしい細工物だった。
 透明なガラスの中に、幾房かの朱の花が吹き込まれていた。
 ミルキィユは首を傾げる。
 見覚えのある花のような気もする。確か、城内にこんな形の花があった気もする。
 名は知らない。
 誰もいないのを良い事に、髪に挿してみた。口唇がほころぶ。飾り物を貰ったことなど一度もない。
 ちり、と微かな擦過音が、明け方の空気に透って鳴った。
 その音に満足して、彼女は部屋へと引き返す。
 紗を閉めると、冷えた褥に横になる。掛け布を被って体を丸めた。
 掛け布の遮蔽された空間の中、もう一度、贈り物を手に取って、眺める。
 ――誰だろう。
 こんなにも、無骨で無粋で無神経な送り方をする送り主は。
 ふと、脳裏をよぎる瞳がある。
 息苦しいほど真っ直ぐに、無遠慮に見つめてきた瞳がある。
 引き寄せられた胸板。
 ――まさか。
 苦笑した。思い込みも甚だしい。
 寝惚けているせいにした。
 胸元に大事に抱え、胎児のように丸まって眠る。
 あたたかい。
 何故か酷く、安心した。


* * * * * * *
以上です。
100名無しさん@ピンキー:2007/02/02(金) 21:27:11 ID:aZzjA2Rx
うおおおおおっ!!!
GJ!
101名無しさん@ピンキー:2007/02/03(土) 00:01:47 ID:O6SSg1Tm
GJ!
このシリーズ好きだ
102名無しさん@ピンキー:2007/02/03(土) 01:05:39 ID:lEzjiAV0
投下しても平気かな

・護衛×閣下
・オリジナル
・自分としては長め
・ぬるい
・・・よか?
103名無しさん@ピンキー:2007/02/03(土) 01:06:14 ID:JtuvLX8D
ばっちこい
104護衛×閣下:2007/02/03(土) 01:10:35 ID:lEzjiAV0
あんがとー。ちょっちどきどきしてますよっと


おいガルム、とやや掠れた声に名を呼ばれ振り返る。石の床に良く響くこの声の主に仕えてもう五年を越した、聞き間違う筈もない。

「なんでしょう閣下」

努めて平静に応える。八つ下の上司は、珍しく魔術師の方の正装をしていて、予定に閣下が大司祭に謁見する事が入っていたのを思い出した。
水底のような色のゆったりとしたローブ、ビーズやら宝石やら羽やら細々とした装飾品は彼女の肌の白さを際立たせる。
殆ど普段着に成り下がってしまっている、軍服の方が少女の危うげな色気を醸しだすようで、気がかりだったのだが。この衣装もよくないな、彼女の率いる兵たちの顔を思い出して認識を改める。
イヤイヤイヤ、小さくも恐ろしい兵団長さまだ。もし、知れたとすれば次の戦場から帰って来られなさそうだ。

閣下、もといニーズヘッグ・ユアン、女、十八歳。
彼女の肩書きはあまりにも長すぎるので抜粋する。ユアン大佐は成り上がりのマホーツカイでオヒメサマのゴシンユウで戦争の天才である。
今では貴族であるが、元々は孤児だったと聞いた。確かに貴族では中々ない見目をしていた。
貴族といえば金髪か銀髪で目は青や緑が相場であるが、閣下は奴隷階級によくある黒髪だった。 奴隷は様々だが、大抵は黒髪黒目である。
だが閣下は黒髪金目だ。これが閣下が閣下たる所以である。
優秀な魔術師は年を経ると赤目か金目になるらしい。あれだ、ゴーゴンとか、へ・へてろくろみあ?というやつだ。
難しい話が入るべきなんだろうが、つまり閣下は大変な有望株なのだ。

やっと小休止を得ただろうに閣下は走ってここまで参られて、俺の上着を引張った。近づくと春のような匂いがふわりと広がる。ツン、と顎を伸ばして猫のような目が上目遣いに俺を映す。
まるでキスをねだるような仕草だ。いや、そんな訳が。

「なあ話があるのだ。お前の部屋は近くか?遠いのなら私の部屋に行くのだが」

閣下と俺は軽く30センチは高さが違うので、俺の注意を惹くためかよく服をキュッと掴んで、引く。
小動物然としている。ポケットにはいりそうだ。いやまさか。

「執務室ではいけませんか、どちらもあまり近くはないでしょう?」
「ならぬ。私的な話なのだが、むむ?まあよい。じゃあ私の部屋だ、ちょい待ち」

パっと私から手を離すとバっとローブの裾を捲くった。ちらりと脚が見えた。人通りが無いとはいえ一応廊下である。

「閣下!はばかりください」

思わず出た鋭い声に閣下の肩が揺れる。
訥々と言い聞かせたい。年頃なのだからもう少し気にして欲しい、あなたの部下の九割以上男なんです、遠征ばかりしてたから溜まってるんです、と。

「!な、なんだ、札を出しただけだぞ。ほホラこれですぐ部屋に、ゆけるぞ」

語尾が震えていたようにも思う。そりゃそうである。場合によっては閣下を抱えて戦場を走り回る護衛の一人が、無意識とはいえ凄んだのだ。力の差を知っているからこそ怖いものいうのは沢山ある。
あわてて謝罪を口にする前に閣下は壁に手を入れた。
冷たい指が手首に触れ、そのまま引かれた。骨までやわらかそうだ。口に入れて舌を這わせて爪の先から根元までしゃぶる自分を想像して身震いした。
105護衛×閣下:2007/02/03(土) 01:15:13 ID:lEzjiAV0
経験しなければ解らないだろうが、壁抜けは気持悪い。対面しても解らないだろうが、閣下の執事は腹黒そうだ。
ガラボネっぽい執事は茶だけ淹れ退出した。射殺すような視線を残して。…絶対カタギじゃない。

あまり居ないという閣下の部屋は広い。日当たりがいい。絨毯の毛足が長い。クッションがいい。金持ちだ!と内心興奮しつつ、クッションに触れた。まじで持って帰りたい。
ぼけーっとしていると、閣下と目が合った。ニヤリと笑う閣下。
その笑みに戦場の閣下を思い出して、ソファから転げそうになりながらも姿勢を正す。
閣下が若くして兵団長の位置についたのは、獰猛な笑みの裏で構築された策と魔方陣の結果だ。

「持って行っても良いんだぞ?」
「いえ、謹んでお断りします。ところでお話とは?」
「…この書類にサインが欲しい。旧字は書けるか?」

左手で空をまさぐるようにすると閣下の手に一枚の上等な紙が現れた、羽ペンも。
軍の識字率は低く、ましてや貴族階級に使われる旧字のどは一部の者しか読み書きが出来ない。素直に首を横に振る。それについて閣下はなんのリアクションもせずに、浮いたインク壷にペンを挿す。いざ、というポーズで閣下の動きが止まる。

「いかがなさいましたか」
「む、いや、なんだ。お前の、ファミリーネームは、知らなくて・・・悪い」

口ごもる閣下の顔が、小さめの鼻を中心にしてサアッと朱に染まる。本心から恥じているようだ。何千何万と自分の下にいるのだから、そんなことを気にすることも無いのに。
いじらしい。いやいやまさか!笑顔で大軍を屠る閣下にそんな可愛げが…あったの?

「申し訳ありません閣下。私はあいにく家名を持ち合わせておりません。私の名前はガルム。後ろにも前にもスペルも何もありません、ガルムと申します」
「うん。そうだな、私も元は何もない。…では、GARUMとGARMどちらがよい?」

やけに清々しい笑顔で閣下は俺のガルムという名を綴った。五文字と四文字のガルム。前者は見覚えがある。
あれ?俺、調味料?…背中が寒くなった。少し迷った振りをして、後者を指差した。
おーけーおーけーがーらーむっと、表情とは逆に硬質な文字で俺の名を綴る。
紅潮した頬は桃のようで摩れば匂いたちそうだ。
柔らかな桃の肉からしたたる果汁は、閣下のふっくらとした唇から零れ落ち、喉を伝って鎖骨まで到達する。閣下は艶然とした笑みを唇に浮かべ、拭ってくれないかガラム…

「おい、ガラム?名を私が書いてしまったから、代わりに血判が欲しいのだが。よいな?」

ペンをあごに軽く当てて小首をかしげる閣下に、二つ返事で親指を切る。ぎゅうぎゅうと力強く押し付けて、閣下を見た。
ものすごく嬉しそうである。
でも閣下の笑顔はどうしても戦場しか思い出せない。年相応の笑顔であるというのに、大抵は作戦が成功したときにみるものだというのだから、勿体無い。

「ところで、閣下」
「ん、許す」
「あのーこの書状の内容は一体?」
「お!やっとツっこんだな?聞いておどろけ、これはな、被扶養者申請だ」

はっはっはと笑う閣下にツっこむつーか突っ込みたい。
意味が解らない。ヒフヨウシャってなんですか?と。あとシンセーってのも下っ端には本当にわからない。手を挙げる。

「閣下」
「なんだ、許す」
「ヒフヨウシャとはなんでしょうか?」
106護衛×閣下:2007/02/03(土) 01:21:42 ID:lEzjiAV0
あんまり俺がアホなものだから、閣下も呆れたに違いない。
柔らかそうな唇からため息が漏れるのを見て、流石にクビかなーと思っていると。その淡い花のような唇が目の前に迫った。
半開きのそれから小さい歯が覗く、ガラボネの紅茶の香り、ちょっとだけ濡れている。それは一度ちろりと赤い舌を出して、大きく開いた。閣下の金の眼の奥、瞳の暗い部分も良く見える。
近すぎる。さっきの妄想の続きか?いやまさか、そう思い動こうととすると、ガリっと、いや音はしなかった多分、強く鼻を噛まれた。
何が起きたのか把握できず、もっと短かったかもしれないが、噛まれたのは俺の鼻だ!噛んだのは誰だ!現実だった!と気がついたのは数えで10くらいだった。
死んでた、戦場なら俺死んでた。
膝の上に柔らかい重みを感じて身を引く、すると背もたれにボスンっと一度はねて横滑りするように倒れた。
体重を掛けられ、装飾品がぶつかり合って小さく音を立てた。あごのあたりをついばむように噛まれる。
ハッと正気に戻り、閣下の肩に手を添える。薄い、力を入れなくとも外れそうである

「閣下!お戯れを」

ソファに寝てる俺、その上の閣下。
さっきのガラボネ執事でもいれば、本当にお戯れで済むのだが、ふたりっきり。その上、閣下の顔がえろい。この表情のえろさは俺の言葉では表現できないだろう。悔やまれる。
震える睫毛、桃のような頬、薄く開いた唇は濡れて光っている。んふ、と閣下が息を浅く吐いた。獣に良く似た瞳が俺に向いた。明るい琥珀の瞳に俺の姿がぼんやりと映る。
本当に冗談じゃない。閣下と俺がくっついたらバッシングと批判とブーイングと全部否定しかない。妄想で充分だ、ということにしといて。

「先ほどの答えよ。私はガルムを、お前を囲いたい。なァ、いいだろう?
私はお前を好いているし、お前に不自由はさせんぞ?私がだめなら、他に女を呼んでもいいんだぞ?その女も一緒に面倒みてやるし、子供だってかまわない。
なんだ故郷に恋人でもおるのか?なあ、だめか?
私がどれだけお前を好いていても、お前は嫌やか。こんなわがままは範疇外なんだろう?変わった眼をした気味の悪い、こんなっ、ひゃっ」

自分の言葉にトラウマを刺激されるのか、だんだんと涙が溜まっていった閣下の瞳は、まるで池に映る月のようなそんな儚い色に変わっていた。
久しぶりに泣くのか、それとも泣いたことがないのか、はんはんと浅い呼吸を繰り返して喘ぐ。いつの間にか開いていた襟に涙が降る。
107護衛×閣下:2007/02/03(土) 01:25:14 ID:lEzjiAV0
「っう、ふっ、ぁあん、ふっぅ、ぅぅつ」

手を身体の前で組んで震える姿は、どう変換しようとも、快感を受け止めきれずそれでも耐えようとする女の痴態に重なってしまう。
相手は閣下!閣下は八つ下!初めて会ったときは12歳!
魔法の呪文を唱えてどうにか息子よ鎮まれ。さっきまでとは正反対でその先を想像するのを堪えて、どうにか頭だけでも冷静にしようと努めるのだが。

「ガぁルム、ぅ、なあ。ひぅ、私、だめ、っう、なの?」

涙の量が少ないからあんなに苦しそうなのか、それとも逆か。閣下の眉は下って、眼の周りは赤くなっている。ぎゅーって抱きしめてキスしてそのままやりたいけ、ど!俺は首を横に振る。そして声に出して拒絶する。

「・・・ダメです。いけません。絶対になりません」

言い切った。
本当はすごいやりたい。はずかしいかっこさせてアンアン言わせたい。でも俺言えた!
深呼吸をして起き上がろうとするとバチンッ!と俺の頬から音がした。
盛大な音の割に全然痛くない、ということは閣下の手はものすごく痛いということだ。
ああもうこれだから暴力になれていない人は可愛い。そのまま真っ赤なてのひらを俺の両頬に添え、喰らいついてきた。
今度は倒れなかった。
108護衛×閣下:2007/02/03(土) 01:27:52 ID:lEzjiAV0
 不意に触れた身体は戦場より何倍も熱く、柔らかい。
乱暴な口付けは俺の口の端を破って進んだ。痛みに一瞬竦んだ隙を狙って舌を入れられた。探るような舌の動きも、濡れた目じりも、うっすら入った眉間の皺もみんな愛しい。
でも応えるわけにはいかない。断固!受け付ける訳にはいかない。反応しつつも手が伸びそうになってもぼうっとしてきても…ダメ。だめ、もうやだ。
数秒前にした決意とは裏腹に、つい舌が出てしまった。応戦してここでダウンさせてしまえばいい、そう前向きに考えて閣下の背を抱いた。
あごに手を添える、あごは細くて小さくて、口の中は狭いし短いし、歯も小さい。口を開けさせて指をそっと差し込んだ。本当に口が小さい、第二間接程度で奥歯に触れた、舌と指一本だけで口の中はもう一杯だった。
フェラはできないなと考えてしまった自分がおぞましい。唾液が手首まで伝って、指を抜く際に舌先でつつかれた。恥ずかしい。
閣下はやる気なのに俺だけしらふとか、いや色々ギリギリだけど前からずっとギリギリだけど。
そうこうしている内に閣下の手が下りてきて上着のボタンをぎこちない手つきで外してゆく。あとついでって感じで膝で股間ぐりぐりしないで!ホント俺泣いちゃうって。起ちそうで起たない絶妙なテクニックとかもうどこで覚えてきたの!
はふう、とうめいて閣下の舌がやっと退いた。涙目で真っ赤になって震えちゃって、辛かったのか肩で息をしている。窒息する瀬戸際まで追い詰めるほどに犯したい。
小さい声で閣下が何か言った。言葉も震えていてほとんど聞き取れない。閣下はキスで赤くなった唇をもう一度うごかした。

「…どうして、ガルムには効かないの?」
「…なにがですか」

意味深な言葉に思わず半眼になる。表情とかキスとかですか、それとも普段からですか。既に随分なダメージが蓄積されてますよ。

「クスリ盛ったのに、なんで効かないの?わ、私辛いのにぃ!もう、や、じゅくじゅくするのに、おしりとか気持ちわるいのにっ。ねえなんで!」

ぎゃーーー、と叫べたらどんなに良かっただろうか。その断末魔もなく理性はお亡くなりになられた。
閣下を膝の上に抱きなおして、ローブの上から太腿をなぞる。ひやん!と声があがった。
閣下が媚薬の類いを使ったのならば、逃げられない。
へろんとした閣下を放置する訳にはいかないし、放置したらしたで処刑は免れない。
最悪死んで、ラッキーなら左遷で、生きてるだけでいいよ。妾ってなんなの、自由じゃなくても生きてりゃいいや、ラッキーじゃん閣下とできるよ。
殺されるならせめて、一回。好き勝手しようと決めた。
後ろ指さされても構わない、死にたくないしやりたいし。今度こそ本物の決意だ。
109護衛×閣下:2007/02/03(土) 01:29:20 ID:lEzjiAV0
「閣下。本当にいいんですか」
「いいの?ごめんねごめん、ぇっ!」

太腿のあたりををさすると面白いように声が出る。ローブの脱がし方がわからないので、下からたくし上げる。

「ひゃ!あ、脱ぐ脱ぐ!汚すのだめ」
「はあ、ちょっとわからないんで脱いでくれますか」
「へ!あハイハイ!」

閣下が俯いてごそごそと襟元を探る間も脚を撫でると小さく嬌声が上がる。衣擦れの音がして腕に重たい布が落ちた。閣下は見慣れぬ薄いシャツにミニスカート姿で、既にシャツに手をかけていた。
ブラジャーは着けておらず、体格の割に大振りな乳房があらわれた。着やせするのだな、と思いつつ閣下の頭を撫でる。気持よさそうに目を細める仕草が本当に猫のようだ。身じろぎして俺の頭に飛びついた。
揺れる乳房から、香か甘い匂いが漂う。鎖骨をたどって、付け根を舐め上げる。ぴちゃぴちゃと音を大きく立てて舐める、吸う。
吸っても吸っても中々痕がつかないので、歯を立てて痕を残した。大きく反応した表情を下から覗いて、尻を撫でる。胸と違って肉が薄いのでやや心配である。わざとゆっくりとさすりながら中心に向う。
無機質なまでに白い身体が色づいていく様は壮観だった。

「ふやああん!あっあっあっあ」

いいところを触れたのか一際甲高く声を上げて、強く全身を押し付けてくる。
鼻と口を胸に覆われて苦しいやら、嬉しいやら。谷間で息をするたび、脚の付け根に添えた指を動かすたびに頭の上で犬のような猫のような悲鳴が上がる。ショーツに指をかけるとひっ、と息をのみ閣下の胸が弾んだ。一度深く息を吐く。どこもかしこも閣下の匂いがする。

「大丈夫です。閣下、閣下を傷つけるわけないでしょう?さあ楽になさってください」
「へいき?ガルム、も楽になる?、ひゃ!」

ショーツをずらして親指の先を入れ、すぐに抜いた。
110護衛×閣下:2007/02/03(土) 01:30:34 ID:lEzjiAV0
「ふぁ!ちょ、やあ」
「勿論気をつけますから、平気です。閣下もどこが良いか仰ってください」

肌に唇を当てたまま告げると、力が抜けたので、すでに機能を果たさないショーツを一息に取り去り、乱暴に指を入れる。耳に馴染んできた悲鳴にあわせて屈伸する。
充分濡れているのだが狭くて、自由に動かすにはきつい。前を軽く摘むようにすると逆効果で締まってしまった。入り口の近くで指を曲げると、あ、あ、あ、あ、と断続的に閣下の口から漏れていた声が止み、力なく折れた。果てたのだろう、ナカが緩くなった。
指を二本三本と徐々に増やしてバラバラに動かす、前も弄ることを忘れない。果てたことでさらに敏感になった身体は芯がないようで、あのクッションよりもずっと気持ちよかった。
血の気の引いた閣下の手が俺の額に触れる。つめたい。肩に胸を押し付けて、腰を揺らした。すっかり硬くなった乳首が引っかくように縦に動いた。また声が大きくなって続く。
なんだか自慰に付き合っているような気分にさえなるが、大きくほとを開いて突き刺した。きつい。丁寧に慣らしたはずだがまだきつい。閣下は放心したようにぼうっと、俺の目を見た。
「・・・痛いですか」
「・・・ううん。へいき、痛いのはね、慣れてる。…乱暴にしてもいい…」
「…そういうことは口にしちゃだめですよ」
「…うん。ねえ…ちゅうして、おっぱい触って?」

まだまだ動くには痛いし、どうにか無理矢理入れたけど千切れそうだ。小首をかしげての可愛らしいおねだりだ、無下にできるかコノヤロー。
軽いついばむようなキスをしながら胸を揉みしだいて応える。おっさんはねちっこいんだぞ、としつこいくらいとがりを捏ねくりまわす。
次第に下も馴染んできて、前後に動かせるくらいにはなった。閣下の腰が左右に揺れているのが確かなしるしだ。

「あ、あ、ふあ、ね、うごいて、ふ、いいんぁ、だ、うんん」
「辛かったら言って、下さい」
111護衛×閣下:2007/02/03(土) 01:34:29 ID:lEzjiAV0
ゆっくりと動き出す。下から突く動きの浅いものの繰り返しでは絶頂には至らないのか、物欲しげな顔をしている。
潰すといけないから安易な正常位に持ち込めず、張り出た腰骨の上を掴んで持ち上げて落とした。閣下の重みで一気に奥まで届く。
閣下はひゃあん!とないて、もっとと懐いた。緩んだかと思うとまたぎゅうぎゅうと締め付けてくる。いきそうでいけない心地よさはいけない。
そうがっつく年でもないというのに、俺は閣下の薄い尻肉を掴んで責めたてた。強弱をつけて遅く速く、閣下が楽しむように、俺が楽しいように。
あいだ閣下の嬌声と涙は降り続く。出そうとすれば手が伸び、無理矢理に戻される。閣下が自分で奥まで入れようとする度、ナカのすべりが良くなる。

「はぁん、なまがめまされよ、はっ、うちくるぬきもうす、はっ、いじむくらわっ、ん」
「・閣下!?何を」

なにかの呪文を唱えられた。まずい。
急に締め付けが強くなる。それと同時に、肩を喰われた。そのまま搾り取られるように、痛みと解放を同時に感じて、射精した。
「っ!…はぁ、閣下?」
「ふ、中ででたな。よし、じょう、はっ、できだ。ガルム、ガルム私の犬…契約がなされた。
もう、遠くへは行けない。故郷に、帰ることも叶わない。
おまえは、私の従っ僕だ。はあ、代わりに、私はおまえに、やれるものすべて与える。私が、死ねば破棄、され、る」

哄笑して閣下は切なげな顔をした。

「今、殺すか」

俺は首を横に振る。最中に噛んだのだろう、血が滲んだ閣下の唇を舐め上げる。
「そんなのいままでと変わりませんんよ。
…ところで閣下。辛くありませんかつーか抜いてもいいですか。もう俺殺されるかと思いました。
本当に俺の頭ン中見えたら閣下卒倒モンです、斬首ものです。俺すんごくスケベなんですよ、いろんなことさせてるんですよ。本当にいやらしいんですよ、復活しそうだから抜いてもいいですか」

へらっと笑って、一気に吐露すれば閣下はきゅっと締め付けて、悪戯が成功したように笑った。

「心配ない、私もいやらしいんだ」

ね、だからもう一回。そう強請る閣下の声はヘビのささやきのようだった。


おわり!ごめんなんかいろいろ
名前は北欧神話より
112護衛×閣下の人:2007/02/03(土) 01:36:42 ID:lEzjiAV0
これちゃんと載ってるか確認すると恥ずかしくなるんだな
呪文きにしちゃだめだぞ
はやくねろよ
113名無しさん@ピンキー:2007/02/03(土) 01:37:03 ID:rU629UMD
GJ。
閣下も護衛もかわいいな。
いいもの読ませてもらったよ。
114名無しさん@ピンキー:2007/02/03(土) 01:59:34 ID:al87YLUa
鬼を憐れむ唄:せかしちゃいかんとわかっているんだが、読んだそばから
早く続きをーっ!と、先が気になるやら楽しみやら。
次も期待してます。

護衛×閣下:なんだよ〜、おまえら相思相愛なんじゃん!と盛大に冷やかしたくなった。
なんか愉快な気分にさせてくれたよ。ありがとう。
115護衛×閣下コネタ:2007/02/03(土) 09:46:26 ID:lEzjiAV0
鬼のとか若頭とか「つづきを・・・」とヒイヒイなる。たのしみだよ
ウザップルいれたら、仕事いくよ。なんかごめんありがとう

閣下「突然だが私は他人の思考が読める」
護衛「はあ、マホーツカイですもんね」
閣下「・・・」
護衛「・・・」
閣下「ムッツリ」
護衛「では、オープンに参りましょうか」

護衛「ボツになりましたが、俺たち元々は陵辱ネタでした」
閣下「・・・どのような」
護衛「度重なる閣下の我侭に切れた大臣に派遣された俺が口とか後ろとか前とか縛ったり異物をいれたり」
閣下「それはまた…」
護衛「最終的にはグロでした」
閣下「純愛の流れが続いていてよかった」
閣下「そういえば、私の乳に魔力が貯蓄されているという、ネタもあったな」
護衛「そこらのカアチャンは全員魔女か!と我に返ったやつですね」
閣下「…爆弾を抱いていたことになるな」
護衛「本当に大人しい流れでよかったです」

消費して悪い
116名無しさん@ピンキー:2007/02/03(土) 12:41:21 ID:dHRumZzZ
>>111
GJ
普通に良かったよ
117名無しさん@ピンキー:2007/02/03(土) 13:26:29 ID:O1tvfHW4
>護衛×閣下
GJ!面白かった
ガルムの心境ってのか、内心での口調というのか、要は地の文か、
それがところどころ砕けた感じになるのが好きだ
118名無しさん@ピンキー:2007/02/03(土) 20:30:46 ID:M5nbq5lM
鬼を憐れむ、GJ過ぎる!
髪飾りさしてみるミルキィユかわいいよ。
いまいちヘタレなダインせつねぇよ。
119名無しさん@ピンキー:2007/02/04(日) 08:14:19 ID:SkMzKKNL
>>115
小ネタに笑った。確かにある種の爆乳だな。
120名無しさん@ピンキー:2007/02/04(日) 22:12:52 ID:8qSJ/E3j
二三日前にはなかったまとめサイトのカウンターが300越えててびっくりした
結構ここって人いるんだな
121名無しさん@ピンキー:2007/02/05(月) 15:10:30 ID:RqGuyu91
ミルキィユもダインも閣下もガルムもみんな可愛いよ。
爆乳な閣下も陵辱される閣下も見てみたかったなw

そんなわけでひっそりと小ネタ投下。

--------------
「欲情」

 瀬里奈は辻井に会いにきていた。
 繁華街であるS街の中心から少し外れた住宅街。それでも繁華街の真ん中にある組事務所にはすぐに駆けつけられる距離。
 そんなところにあるマンションの一室が、辻井の住まいだった。そしてその部屋の風呂場で、瀬里奈は辻井と抱きあっていた。
 公園でされた口づけよりも濃厚な口づけを交わす。瀬里奈は必死で辻井の広い背中に手を回して抱きつき、執拗に自分の口内をむさぼる辻井の舌の動きに身を任せた。
 口を離すとふたりの唾液が糸を引いてふたりをつないだ。それが自分と男とのつながりを示すもののように思えて、瀬里奈は目を輝かせる。


 辻井がゆっくりと腰を屈めながら、瀬里奈の首筋から胸元へと唇を這わせる。瀬里奈の身体が震えたのをみて、小さく笑った。
「怖いですか」
「ううん」
 怖くないよ、と潤んだ瞳で瀬里奈は目の前の辻井を見つめた。
 そこには、夢にまでみた辻井の裸体があった。たくましく盛り上がった腕。広い胸。均整の取れた筋肉の腹。――そして張りつめて腹についている赤黒い男の象徴。瀬里奈の下腹部がとくんと疼く。
 辻井は裸の瀬里奈を見て、綺麗ですよ、と微笑んだ。恥ずかしがって胸を隠していた瀬里奈の腕に触れる。
「綺麗な胸も見せてください」
 瀬里奈が恐る恐る手を下ろすと、辻井はもう一度綺麗だと呟き、胸の谷間に顔を埋めた。瀬里奈の白い肌に、紅色の男の証がついていく。
「あ……ん」
 瀬里奈の太ももを温かいものが伝っていく。その溢れた欲情の蜜を辻井の指がすくいとった。
「あ……」
 胸を唇と手の平で愛撫しながら、辻井は余った手を瀬里奈の足の間に侵入させる。じっくりと時間をかけて瀬里奈の中を愛撫していく。
「いいですか」
 辻井は囁く。瀬里奈が頷くと、すでに甘い蜜が溢れてきているそこへ、とうとう――。



「はぁ……ん」
 思わずもらした甘い声が部屋に響く。
 辻井さん――。
 お嬢さん、という声を想像して、瀬里奈は自分で自分の胸を揉み、泉をかきまわし、クリトリスをいじる。
 瀬里奈はあの日以来、辻井のことを思ってはこうやって自分の火照りを慰めている。こんな風に誘ってくれたらいいのに、と欲情ばかりが胸にこみあげる。
 瀬里奈が挿入している指は一本から二本に増え、その指が肉壁を擦り、撫で、奥へと進む。
「あ、あぁぁ……は……ん……」
 ベッドに腹這いになり、腰をつき上げて自分の指を突き入れビチャビチャと音をたてる。
 初めての時は痛いっていうけど本当かな。でもどんなに痛くても、辻井さんにされるならわたし死んでもいい。
 瀬里奈は必死で見たこともない辻井の身体を思い描き、経験したことのないセックスを想像する。
 わたし、なんていやらしいの。
 悪い事をしているような感覚が瀬里奈をさらに興奮させ、風呂あがりで火照った体がもう一度桜色に染まっていく。
 ねェ、もうわたし、気持ちよくて変になりそう……。
 いいですよ、もっと気持ちよくなってください。
 そんな会話を勝手にしながら、瀬里奈の指の動きは一層激しさを増していく。
「んんっ、ああぁんん!」
 瀬里奈は思いつめた声を出し、ぐったりとベッドに倒れこんだ。
 指を引き抜くと、どろりと自分の白い欲情の跡が指にまとわりつく。
 ごろりと仰向きになり、裸の胸を抱きしめながら、瀬里奈は何度も辻井の名前を心の中で呼んだ。
 答えてくれるはずもない男の声が、聞こえた気がした。
「愛してます、お嬢さん」
 と。
122121:2007/02/05(月) 15:16:47 ID:RqGuyu91
-----------了

終了マークいれてなかったや。
以上です。

123名無しさん@ピンキー:2007/02/05(月) 15:58:43 ID:o+5QfIU3
一番槍GJ!
124名無しさん@ピンキー:2007/02/05(月) 22:57:58 ID:/EnX7c0h
あげ
125名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 13:24:37 ID:cjgUQAYN
構想中ではあるが、書いてみたいものがあるのだが…被ってるとあれだしなぁ…と思う


・巧妙に隠してあるが実は相愛なお嬢様と執事(お互いに片思いだと思っている)
・お嬢様に婚約者が決まる(実際は身売りと言えるレベル)
・実兄に相談
・実兄が騙し討ちよろしく執事に薬を盛り、寝台に縛りつけ
・お嬢様、執事に乗る


な展開なんだが…………どうなんだこれは?
126名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 13:43:35 ID:Iuf0jYFo
>>125
やたら急展開だな
127名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 14:16:04 ID:d7agPfuc
>>126

いや、要点をまとめるとそうなる、っつーだけ。
説明不足ですまん
128名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 15:49:53 ID:HLJIrM+B
>>125
>・お嬢様、執事に乗る

凄く見てみたい!!!
129名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 17:24:56 ID:ErVmgvvK
●閣下と護衛…護衛がまったく護衛にならないくらい強い閣下に惚れました。
●お嬢さんと辻井…想像世界の辻井も格好いいです。低い声いいなぁ。
●お嬢様と執事…wktkして待ってます!

長文投下ゆきます。
今迄で一番長くなりましたギャーすいません。
130<<鬼を憐れむ唄・第四夜>>:01:2007/02/07(水) 17:27:09 ID:ErVmgvvK
<<鬼を憐れむ唄>>

 絶壁、と言っても差し支えのない山城の、崖か谷か城壁か、判別のつかない壁に張り付いていた。
 ダインである。
 足場と呼べるものは、僅かな隙間に差し込んだ短剣のみである。
 交互に、一対の小さいが頑健な短剣を岩壁に差し込む。支えるのは腕力だ。
 全力で体を持ち上げ、片腕で姿勢を保つと更に斜め上へ差し込む。持ち上げる。
 手の平が汗でぬめる。
 それが冷や汗なのか否か、冷静に分析する余裕は、流石にない。
 苦痛に顔が歪む。歯を喰い縛った。
 歪みついでにひょいと、気を紛らわすように遥か下を見た。
 闇がわだかまり、はっきり見えない。
 けれどその中に、少女が立っているはずである。
 ――見上げているのだろうな。
 そう思った。

 
 「力のあるものを選抜したい」
 野営地にてミルキィユが声をかけてきたのは、その日の行軍の疲れと共に晩の質素な食事も済んで、
 夜明け前の見張り交代までそろそろひと寝入りしようかと、ぼんやりダインが火にあたっていた時のことだった。
 「力、てなァ」
 脇に居座り、ひたすら無言で意地汚く飯を掻き込むヤオを横目に流すと、
 「言葉が足りなかったな。身軽で、力のあるものが数人欲しい。できれば夜間行動の経験がある者が良い」
 眉を上げてミルキィユは言い重ねる。
 「じゃ、俺ァ無理だわァ」
 目立つし。
 一言、早々に脱落宣言を発してヤオは肩を竦め、再び飯を掻っ込んだ。
 「なんだ。夜這いでも仕掛けようってェのか」
 「まぁ、そうだ」
 「マジか」
 ミルキィユの応えに、ダインが目を剥く。
 「お相手は、どこの貴公子だ」
 「あれだ」
 「どこよ?」
 ひょい、と彼女の指差す方向を肩越しに振り返り、ダインは喉の奥で呻く。
 「……三国一の美男子じゃねェか」
 「思慕は、叶わなければ叶わないほどに燃える、と言うだろう」
 指し示す遥か彼方には、四方鉄壁の、山城がある。
 国境に位置するそれは、小さいながらもたいそうな意味を持つ城砦であり、
 そこが落ちるという事は即ち、国乱を意味した。
 なにしろ、国境と言うのは、国と国との、地図上で仕切られた目には見えない境目であり、
 侵犯しただの侵入しただの、いざこざの耐えない厄介な線である。
 またそこは、いざ事が起こった際、一番に盾となる防壁であり、
 そうでなくとも通事の哨戒任務は、重要な任務であった。
 端的に言うと、「敵方をいち早く発見し、それを本国へ伝える」。それが山城の最上任務である。
 であるから、小高い場所に築城されることが多い。
 見張り場が盆地では意味がないからだ。
 ミルキィユの指差した山城は、
 エスタッド皇国と同程度の面積と国力を持つ、王国アルカナと、それに隣接する王国とに位置した。
 「詳しく言うとだ」
 いつの間にか、ヤオとダインの間に割り込んで、ミルキィユも炎に手をかざしていた。
 夜は吐く息までも白い。
 「本隊が、アルカナの本隊へ向けて今晩進軍を開始する。これは陽動作戦だな。囮だ。
 相手本隊の注意を引き付けている間に、わたし達が別行動にて、あの山城へ奇襲を仕掛ける。
 奇襲後、制圧。
 山城より狼煙を上げて、アルカナ本国へ、隣接国の進撃の情報を与えて、混乱させるのが狙いだ。
 その後我が軍の本隊が、混乱する敵本隊へ総攻撃を仕掛ける。わたしたちは速やかに撤収。
 本隊へ帰還し、合流する」
131<<鬼を憐れむ唄・第四夜>>:02:2007/02/07(水) 17:28:18 ID:ErVmgvvK
 「……また臨機応変を強要されそうな、力押しの作戦だな、お嬢」
 「上官と呼べ」
 呆れた声をダインが上げるとすぐさま、ミルキィユが返してくる。
 「少人数で行動したい。貴様の方が仲間内には詳しいだろう?」
 「別行動中に、アルカナ軍に発見されたら、」
 「助けはない。取り囲まれて討ち死にだろうな」
 「本隊の総攻撃のタイミングが悪かったら、」
 「それも討ち死にになるな」
 「撤収前に、あっちの一隊が山城へ攻めて来たら、」
 「骨は拾ってやろう。名残なく逝け」
 きっぱりと言い切る女将軍に、がりがりと頭を掻いて無言で返し、
 それからダインは、幾人かの仲間の名を上げた。
 手にしていた小さな紙に、頷きながらその名を書き込んでいた彼女は、
 「半刻後に準備を済ませて、全員揃えておいて欲しい。夜は冷える。身支度はしっかりな」
 言って立ち上がり、切れのある動作で去ってゆく。
 「……って俺かァ」
 肩を落としてダイン、盛大に溜息をついてみせると、
 「契約分は働いて返す。傭兵の鉄則だろう」
 背中越し、呟きと共にミルキィユが含み笑った。
 まったく、叶わない。


 夜間の隠密行動に必要な第一は「音を立てない」。それに尽きる。
 身軽な動きだとか気配を消すだとかは、その次の問題である。
 ぶつかり合って音を立てる鎧の類も、野営地に置いてきた。
 身を守るのは皮の上着と、その下に着込んだ厚手の防護服、それだけである。
 見つかれば命はない。
 山城へ向かって、日の落ちた荒野を馬で駆け、その馬も麓で降りていた。嘶きは意外と闇夜に響く。
 息を潜ませて城砦の裏山より登山した。
 先頭に立つのはミルキィユ。地の利に詳しい。
 次いでダイン。その後ろに彼の選んだ数名が、やはり音もなく忍び歩いている。
 背には、油柴を背負っていた。
 城砦内の各所に火を熾し、混乱に陥れようとしているのだった。
 派手に燃やす必要はない。ボヤ程度で十分だ。
 目的は城砦を燃やすことではなく、鎮圧することであったからである。
 アルカナ王国のその山城は、三方をせり上がった城壁で囲まれている。
 篝火の数も、見回る兵士も多い。
 そこから攻め込むことはこの人数では不可能である。
 だからして、ミルキィユは残る一方の城砦の背後、絶壁をよじ登って侵入することを、男達に告げた。
 そちらは見張りが極端に少ない。
 油断ではない。
 少ないと言うことは即ち、そこを上る自体、かなりな確率で不可能だと言うことだ。
 谷底に立つと、見上げるだけで頂の見えないその壁に立って、一同は思わず無言になった。
 獣ならともかく、人間がここをよじ登ることはどう考えても曲芸に近い。
 上から縄でも垂れているならともかく。
 「……ってちょっと待て」
 厳しい顔つきで腕をまくり、壁に近づいたミルキィユが視界に入って
 「アンタが上るのか」
 ダインは思わず尋ねていた。
 「そうだ」
 事も無げに彼女は頷く。
 「まずわたし一人が上にゆき、上り縄を垂らす。それを伝って貴様達は来るといい」
 まくった腕は、何故大剣を振れるのか、不思議なほどに細くて、
 「俺が行く」
 背中の油柴を下ろし、彼女の行く手を阻んで彼は言った。
 勢い半分であった。
132<<鬼を憐れむ唄・第四夜>>:03:2007/02/07(水) 17:29:23 ID:ErVmgvvK
 「お嬢じゃ、無理だろう」
 「しかし。ここを上るのは一番危険なことだ。
 この作戦を言い出したのはわたしだ。わたしが責任を取らないでどうする」
 「ここまで連れてきておいて今更危険もクソもあるかよ。いいんだよ。
 アンタに任せて、俺らがアホ面で突っ立ってるってのも、寒い話じゃねェか」
 「しかし、」
 「……アンタは将軍様なんだからよ、俺らに命令すりゃいいだろうが」
 「上の見張りに見つかれば命がない。そんな危険なことは命令できない」
 「いいんだよ」
 なお頑なに首を振るミルキィユの髪を、ぐしゃぐしゃとかき混ぜて、ダインは笑って見せた。
 「いいからアンタは命令しろ」
 糸のように細いそれは、掌の中で柔らかにもつれ絡まる。
 「ダイン」
 困ったように首を傾げて、それでもミルキィユはしばらく躊躇っていたが、
 やがて、不敵に見つめるダインの視線を受け、その栗色の瞳を真っ直ぐに上げた。
 では。
 口唇が、ゆっくりとほどかれる。
 「上官命令だ。ゆけ」
 「……承知」
 にやつく。
 まるで騎士だと自身に突っ込みながら、彼は絶壁に足をかけた。
 「お前ら、姫君をしっかり守っておけよ」
 台詞を捨てていくことも忘れない。
 「安心しろ」
 二人のやり取りを眺めていた数名が、潜めた声で返す。
 「お前を生きデコイにして、俺らはちゃんと逃げるから」
 聞いた守銭奴、年甲斐もなく拗ねた。


 風が騒いでいる。
 山の上はこんなにうるさかったか。
 アルカナ王国の城砦の指揮を任された男は、そう思い、ぐるりと辺りを見回した。
 太守と言う肩書きがある。
 城壁の上である。
 歩哨が彼を見止めて慌てて敬礼するところに、鷹揚と頷く。
 「ご苦労」
 労いの言葉一つ掛けてやりながら、その実、内心腹立たしくて仕様が無い。
 辺境に飛ばされて一週間になる。
 寒い。
 つい先日まで、本国に勤務していた身が、何故このような僻地に飛ばされたのかと言えば、
 理由も言い方もいろいろあろうが、早い話が艶話である。
 まさか知られまいと、国王の気に入りの侍女に、こっそり手を出したのが間違いだった。
 覆水盆に還らず。事は直ぐに露見した。
 簡単なことである。相手方の女が、国王に直奏したのだ。
 後悔という言葉は、本当に後になって悔やむのだなと、妙に納得したりもした。
 発覚後。一言弁解する間もなく、速やかに山城へ転任になっていた。
 出世街道をはっきりと踏み外した瞬間でもあった。
 ――だから女は嫌だ。
 自分のことを棚に上げて、大いに文句を垂れた。
 自業自得と言う文字は、男には無い。
 華やかだった王城勤めとは打って変わって、この、素朴と言えば聞こえはいいが、
 粗末で貧しい城砦暮らしに、早くもうんざりし始めている。
 女っ気ひとつない。
 兵士達はよく務まるものだと、感心すらしている。
 轟、とまた、ひとしきり突風が吹き荒れ、城壁に掲げた旗が水平に薙ぐ。
 しかめ面でそれを眺めた。
 寒い。
 気晴らしがてら城壁を一周した後に、部屋で酒でも呷って眠ってしまおうと思い、
 こうして供を伴い、形ばかり外に出てきたものの、これでは一周する間に風邪をひきそうだった。
 やめた。
133<<鬼を憐れむ唄・第四夜>>:04:2007/02/07(水) 17:30:34 ID:ErVmgvvK
 即座に予定を変更して、太守は踵を返す。
 早々に寝床に潜り込みたい気持ちでいっぱいだった。
 石段を降りかけた彼の耳に、遠く騒ぎの声が飛び込んできたのは、その時だ。
 「……なんだ」
 振り返る。
 見晴らしだけは良い。
 南側の飼料小屋辺りに、数人が集まっているのが見え、
 「何事だ」
 苛つきながら声を出した。
 「は、」
 側に控えた侍従が、伸び上がって暫し様子を眺めていたが、
 「ボヤ騒ぎのようですな」
 肩を竦めてこちらも同じく、やる気のない声色。
 出世株と見込んで、仕えたのが間違いだった。そう思っている素振りもある。
 主人以上に、早く室内に戻りたい様子が見え隠れしていた。
 「暖を取るために点した炎が、この風で飛んだのでしょう」
 「……なるべく早めに事を抑えろ。本国に私の監督責任が問われては」
 「……は、」
 この期に及んで、未だ本国の風聞を気にする男であった。
 脇に控えた侍従は、少々うんざり気味の様子。
 しかし、そこは仕えてはや幾星霜、なけなしの自制心と忠誠心を掻き集めて応えた。
 「後ほど伝えておきましょう」
 「うむ」
 城砦の重要さをまるで理解していない男達が、今度こそ部屋へ戻ろうと石段に向きなおり、
 ぬっ、と。
 目の前に閃光が走った。
 「……ん」
 形ばかりの太守は、のろのろと視線を落とし、首筋に突きつけられたそれを確認する。
 鈍色の。
 「太守殿であらせられるか」
 轟く風の合間より、静かな声が耳に届いた。
 「ん?」
 「抵抗は無意味だ。おとなしくされたい」
 突きつけられている物が、刃と言うことに気づいたのは、しばらくぼんやり眺めてからのことだった。
 「貴様、」
 次いで頭に浮かんだのは、突きつけた者への怒りだ。
 太守である自分に対して、剣を突きつけるとは何事か。
 どんな風習がこの山城にあるのか知らないが、だから田舎者は嫌なのだ。
 「き、貴様、ただで済むと思うな」
 そう言って傲然と振り返った。
 振り返り目を見張る。
 闇夜に白くぼう、と光る姿がある。
 正直亡霊でも出たのかと男は思った。
 肌も髪も白い人間と認識するまでに、またかなりの時間を要した。
 「貴様、どこの配属だ」
 絶対に、絶対に処罰してやる。
 そう心に誓って問い詰めた男の首筋に、やはり動かぬ刃。
 「……状況を飲み込めておられないらしいな」
 呆れた声で目の前のそれは言った。
 「はァ?」
 思わず間抜けた声が出る。
 そもそも、こんな特異な風貌の兵士をこの砦で見たろうか。
 男は首を捻った。
 少年のようにも、少女のようにも見える、まだ若い兵士である。
 どちらにしても豪く綺麗だった。
 例えるなら、蘭の艶やかさでなく、この山頂付近に咲く名もなき花の可憐さである。
 声色が女のそれだ。だが女は、この砦にいない。
 「わたしはエスタッド皇国の将である。この山城を、乗っ取らせて頂く」
 凛と通る声が、疑問符満面の男の耳に染み入り、
 数秒。
134<<鬼を憐れむ唄・第四夜>>:05:2007/02/07(水) 17:31:55 ID:ErVmgvvK
 「エ、エ、エ、エスタッド皇国だと!」
 男は、初めて声を荒げる。部下はと慌てて見やれば、既に床に昏倒済みである。
 「動くな」
 言って女が、僅かに剣を滑らせた。
 つう、と薄皮一枚、首に痛みが走る。
 強張った体に、風が轟々とうねり、当たった。
 華奢な女は微動だにしない。男はあっさり両手を掲げて、抵抗の意思のないことを伝える。
 と言うよりも、実は未だに状況がよく飲み込めていない。
 エスタッド皇国、の言葉につい反応しただけのことだ。
 半ば茫然自失の態であった。
 降参した男に、女の朱唇が、にぃと横に吊上がる。
 紅を注したのかと思うほど、つややかな口唇である。
 見蕩れ、直ぐに、
 理不尽だ。
 腹を立てた。
 ――だから女は嫌だ。
 もう金輪際女とは縁を切ろうと、出来もしないことを固く誓った男であった。


 夜明けを迎えて、灯火台から「隣国軍の接近あり」の狼煙が三本立ち上る。
 エスタッド、アルカナ両軍共にこの狼煙を確認しているに違いない。
 同盟を結んでいるはずの、隣国からの有り得ない侵略に、敵軍もその本国も慌てふためいている筈だ。
 その隙を突いて、エスタッド本軍は、苛烈な総攻撃を開始する手筈になっている。
 今頃は全軍進撃の合図でも、送っているだろうか。
 目下に広がる平野を見下ろしながら、ダインはふと思った。
 アルカナ本国が狼煙を信じて、この山城へ向けての増援軍を出立させるには、まだ今少しかかりそうだ。
 なにしろ、軍部と言うのはどこの国でも、やたらと腰が重いものだったから。
 臨機応変に動くには、巨大に過ぎる。
 それはエスタッド皇国とて例外ではなく、その分、やたら小回りのきくのは、傍らの鬼将軍である。
 規律に縛られない。
 本人以外のほとんどを、本国の職業兵士でなく、傭兵を多用するところにも、それが見られる。
 真正面からの突撃より、主に遊撃や霍乱作戦が多いのも、
 きっとその辺りに起因するのだろうと、ダインは踏んでいた。
 その鬼将軍、一所に集められた兵士を眺めやっていた。
 砦の兵全数、がんじがらめに縛り上げ、城壁の下に転がしたのだった。
 もちろん好色面の太守、並びにその部下も同じ境遇に陥っている。
 太守を引き立たせ、首筋に剣を突きつけて脅すと、兵士達は呆気なく投降に従った。
 あるいは、
 無能そうに見える太守を、兵士一同見捨てるのではないかという、密かな危惧もあったのだが、
 任務に忠実で朴訥なものが多かったのだろう、滞りも一切無かった。
 目的は果たされたのだから、傷つけるつもりもミルキィユには無いようで、
 ただし、
 この状況をアルカナ本国に連絡されては困る。
 であるから、緊縛の結びは堅い。
 命の保障に安心したか、兵士達は、おとなしく転がされるに任せているようだ。
 一人を除いて。
 山城が敵国に乗っ取られ、自分達が捉えられたという事実に、ようやく行き着いた様子であった。
 「……しばらく窮屈な思いをさせるが」
 喚く好色漢を見下ろしてミルキィユ。
 「援軍が到着したら、きっと発見してもらえるだろう」
 「き、き、貴様、一体どこの誰なんだ!名乗れ!」
 「わたしはエスタッド皇国第五特殊部隊を任される、ミルキィユと言う者だ」
 「……ミ、ルキィ……ユ」
 聞き覚えがあるのだろう、幾度か男が口の中で名前を転がし宙を睨んだ。
 「ミルキィユ……ミルキィユねェ……」
 無遠慮に名前を連呼する姿に、呼ばれた本人はまるで平然としていたが、
 傍らで形ばかり、剣を突きつけていたダインは、妙に腹が立った。
 ――この状況がわかってねェのか。
 判っていないのだろう。
135<<鬼を憐れむ唄・第四夜>>:06:2007/02/07(水) 17:32:38 ID:ErVmgvvK
 頼むからやめてくれと、言わんばかりの視線で男を眺めるのは、兵士達の方である。
 彼等は理解している。
 司令官であるミルキィユの機嫌一つで、捕虜の命は左右されるのだ。
 けれどその緊迫感と言おうか、臨場感、追い込まれた絶命感が、まるで目の前の男からは感じられない。
 ――阿呆か。
 頭を掻いてダインはそう断定した。
 間違っては無いだろう。
 やがてその阿呆は、額に手を当て、
 「まさか、貴様」
 はた、と思い出したのだろう、唐突に押し黙る。
 罵声が止まり、辺りはようやく静かになった。
 兵士達はほっと肩を落とす。
 「そうだ……貴様……」
 驚きに見開かれた男の瞳は、なぜか徐々に悪意に満ちた、陰湿な視線へと変化し、
 舐る。
 「そうか……貴様がミルキィユか……」
 にいい、と下品な笑いを張り付けて、男が歯茎を剥き出した。
 「……風の噂に耳にしたぞ。第三王子を……殺して逃げた女だな」
 その声のあざとさに、ダインは思わずミルキィユを振り返る。
 「さあ」
 対するミルキィユは、下卑た言葉にもまるで動揺を見せない。
 「奪った命が多すぎる」
 片眉を上げて鼻で笑った。
 戦場で、奪ったのだろうか。
 僅かに引っかかったダインを尻目に、
 「ご苦労だった」
 やりとりの事など忘れたように、彼女は捕虜に背を向け、大きく一つ息を吐くと、控えた傭兵達にそう告げた。
 夜を徹しての隠密行動に、目の下に隈を作った顔が並んでいる。
 しかし流石にそこは鍛えた職業傭兵、各々意外に元気そうである。
 褒める言葉を、面映そうに聞いていた。
 「残りの戦は、本軍の”有能な”将軍共に任せよう。わたし達は戻って昼寝だ」
 「上官。作戦は、帰るまでが作戦ですよね」
 「上官。俺らに慰労手当は付きますか」
 冗談交じり、にやにやと笑う顔を見回して、ミルキィユもまた口の端を上げる。
 「そうだな。いっそ盛大に酒盛りでもするとしようか」
 途端上がるのは歓声。
 後はそれぞれ山の麓の馬止めへ向けて、速やかに行動するのみである。
 長居の理由は無い。
 同じく去りゆこうとする彼女の背中へ、嘲笑と共に追い被せるのは呪いの言葉だ。
 「闇夜に踊る化け物が!陽の許へさらけて付いて来る者はいないのだな!」
 振り向いた少女はいっそ凄艶だ。
 剣を突きつけた手前、最後まで居残っていたダインは、その顔にぞく、と背を震わせた。
 笑っていた。
 少女は笑っていた。
 ダインに理由は判らない。
 ただ、その笑顔があまりに美しかったので、
 「……てめェはうるせェよ」
 不穏な声で低く呟き、問答無用とばかり、足元で喚く男の鳩尾に、拳を入れて黙らせた。
 二発。
136<<鬼を憐れむ唄・第四夜>>:07:2007/02/07(水) 17:33:30 ID:ErVmgvvK


 「早馬が届きました」
 規則正しいノックと共に、部屋に入室を許可された侍従が、咳払いを一つして、広げた紙を読み上げる。
 「アルカナ王国軍霍乱作戦に成功し、自軍本隊がアルカナ軍本隊へ、かなりの打撃を与えた模様です。
 なお、アルカナ軍は一時本国への撤退。我が軍は深追いせずに皇都よりの連絡を待つ、以上です」
 「ほう」
 片頬杖付いて、その報告を聞くともなしに、読書に興じていたエスタッド皇国の皇帝は、
 侍従が、慇懃に腰を折って退室したのを見止めると、伏せ目がちの視線を流して艶然と微笑んだ。
 「霍乱作戦、か」
 その笑みは氷結。
 「どう思うね、ディクス?」
 「……おそらく、ミルキィユ将軍率いる第五特殊部隊が、要の部分を担ったのでしょうな」
 皇帝が、彫像のように脇に控える黒鎧に返事を求めると、応えは静かに返ってくる。
 完結に求めた答えを返してくる腹心の護衛に、機嫌を少し良くしながら、皇帝は喉の奥で笑った。
 「現地の上級将軍共は、下への人使いが少し荒いね。
 ……しかし、これでまた、内心腸煮え繰りながらも、彼等はあれを認めざるを得なくなる」
 「判っていてからかっていらっしゃる。陛下も人が悪い」
 「……退屈を持て余していると言って欲しいね」
 少しはこっちの身にもなって貰いたい、そう言わんばかりの素振りで皇帝は頭を振った。
 頭を振り、思わし気な溜息を一つ吐く。
 自身の刀がまた、研ぎ澄まされていることが嬉しくもあり、悲しくもある。そんな吐息である。
 そして憂う。
 「ディクス」
 「はい」
 「これは私の冗談なのだが、もし、あれがね。前々皇帝と、ある女性の間に生まれた子であるならば、どうする」
 「冗談ですか」
 「冗談だよ」
 「……それは、大変な騒動になりましょうな」
 分を弁えたディクスはやはり静かに答えた。動じない。
 「話のし甲斐が無いね」
 とうに倦んでいた本を思い切りよく閉じ、皇帝は窓の外を眺める。
 夜である。
 己の顔しか窓には映らない。
 鏡に映った己の瞳の中に、あの光景を思い出す。
 一生忘れられない、残酷で悲しい物語。
 「君はまだ、仕えていなかったから知らないだろうが」
 母は、美しく聡明な女だった。
 皇帝がまだ少年だった頃のことだ。顔はあまり覚えていない。
 少年が母と、一緒に暮らした年数よりも、離れて過ごした年数の方が遥かに多いのだ。
 栗色の瞳と髪を持っていただとか、近寄るたびに甘いやさしい匂いがしただとか、
 断片的な記憶は数多くあるものの、それらを集めた姿が無い。
 一つだけ言えるのは、笑った姿は見たことが無かった、それだけだ。
 身の置き所が無くて申し訳ないと、怯えたような、困ったような、
 淋しい顔をしていたことだけ、少年は覚えている。
 なにしろ、その時分はまだ、自身は皇太子ですらなかった。
 皇帝である祖父と、皇太子である父。そして跡継ぎの冠だけはとりあえず抱いたものの、
 生まれてよりの心臓の欠陥で、ベッドから起き上がれない生活を送っていた自身。
 母は、彼を生みながらなお、身分の低いままであった。
 城内の一角の、小さな部屋で寝起きしていたことを覚えている。
137<<鬼を憐れむ唄・第四夜>>:08:2007/02/07(水) 17:35:44 ID:ErVmgvvK
 祖父は、凶皇帝と影で囁かれていた。傲慢で、奔放で、人一人殺すことに何の躊躇いもなかったようだった。
 父は、狂太子と影で囁かれていた。神経質で、陰険で、父である皇帝の影に押さえ付けられて暮らしていた。
 もとより、愛情は無かったのだ。
 或る時。
 祖父が母に手を付け、形ばかりの家族は崩壊した。
 もっとも、まだ幼かった少年は、なぜ家族が崩壊してしまったのか理解することが出来なかった。
 ただ、祖父と父が血みどろの確執を繰り広げるのを、黙って眺めるだけだった。
 眺めているうちに、やがて時は経ち、少年は嫌でも理解する。
 祖父も父も愚かなのだと。
 母は、随分と心を痛めていたように見えた。
 とても優しい母であったのだ。
 とても優しく、そして弱い女性だったのだろう。
 その内に、母は赤ん坊を身ごもる。
 祖父の子であった。
 祖父と父の諍いは日を増して激しくなり、とうとう彼女は、城内より姿を消した。
 その日も同じように、発作を起こして苦しい呼吸を繰り返す、少年の枕元に母はそっと近寄り、
 ――ごめんなさい、ぼうや。
 小さな声で呟いたのだった。
 身分の低いことを口実に拒まれ、一度も枕元に侍ったことの無い母だった。
 ――あなたを置いてゆくわたしを許して。
 そして凍るように冷えた手を、少年の胸に当て、泣いた。
 熱を持った体に、その手はひんやりと心地よい。
 許して。許して。
 泣きながら繰り返す。
 発作の苦痛に霞む瞳で、幼い少年は母を見上げる。
 とても美しい泣き顔だと、思った。
 涙が、まるで朝露のように次から次へと零れ落ちて、
 弾けた涙は温かかった。
 気がつくと母は枕元にはおらず、城内にもいないことを後で知った。
 祖父と父は、半狂乱になって彼女を捜したが、ついぞ行方は判らないままだったようだ。
 滑稽だと、思った。
 なにも大切なものが見えていない。
 少年は笑うことをやめた。
 数年の月日が流れ、
 祖父は死に、父が皇位を次いで、少年は正式に、皇太子となった。
 しばらく後に。
 庸として知れなかった母の行方が、不意に皇都に齎されたのだった。
 齎されるべきではなかったのだ。今はそう思う、
 慎ましやかに母子二人、生活していればそれでよかったのだ。
 けれどその時少年は、知らせを聞いて喜んだのだった。
 優しかった母と、その母の子と、また皇都で一緒に暮らせる、
 皇都で今度こそ幸せに暮らせると、信じて疑わなかった。
 祖父はもういない。
 父は母を愛しているのだろう?
 小さな小さな村に、大軍が派遣されたのを知ったのはそのすぐ後であった。
 父は、長年神経を患って、おかしくなっていたのだ。昔愛した女を慈しむ心は、もうどこにも無い。
 代わりに、憎んだ。
 母と、祖父の子と、そして母子を匿った村を。
 少年の、新しい家族が出来る喜びは無残にも打ち砕かれたのだった。
 駆けた。
 病身も発作も関係ない。
 押し止める付き人を振り切るようにして、馬を走らせた。
 ただ今一度、生きている母を、兄弟を、一目見たかった。
 助けたかった。
 ――村は。
 「私が、その知らせを受けて村に駆けつけたときには、既に手遅れであったよ」
 淡々と語る皇帝は、物憂げではあったが表情は無い。
 ――村は。
138<<鬼を憐れむ唄・第四夜>>:09:2007/02/07(水) 17:36:36 ID:ErVmgvvK
 一面焼き尽くされ、原形を留めてすらいない。草一本二度と生えないように、塩まで巻かれていたのだ。
 身の毛のよだつ、憎悪であった。
 そんな父を少年は憎いと思い、同時に酷く哀れに思った。
 淋しい男だったのだ。
 愛した女を、そんな形でしか手に入れることが出来なくなってしまった、男だ。
 少年は焦土へ足を踏み入れる。
 僅か焼け残った防衛柵が、余計に虚しかった。
 生き残っていないのは百も承知で、少年は生き残りを捜そうとした。
 いるはずがない。
 彼の父は、一人残らず殺せ、そう勅令したのだから。
 逃げ惑う村人を、遠巻きに囲んだ皇軍が、的よろしく射殺したのだから。
 未だに大地が燻り、黒煙が立ち込めて、辺りは夜のように暗かった。
 身震いしながら少年は歩いた。
 地獄と言うものがもしあったのなら、まさにこの光景だろうと思った。
 ふと見やった視界の端に、おかしなものが見える。
 元は家であったろうその隙間に、棒切れに似た残骸が見えたのだ。
 おかしな角度の伸びたそれが、近づくうちに小さな子供であり、
 その子が、水の張ってあった甕に頭を突っ込んで、気を失っているのだと判る。
 全身を酷く焼かれていて、虫の息の子供を、少年は思わず抱きかかえた。
 ――殿下。
 付き人が慌てて少年を諌める。
 ――それはもう助かりません。
 ――助けろ。
 助けろ。
 助けろ頼む助けてくれどうかお願いだから助けて欲しい。
 焼け残った消し炭のような子供に縋り付きながら、少年は初めて、駄々を捏ねて喚いた。
 周りは豪く驚いたようだった。
 生まれてこの方、聞き分けの良い子を演じ切ってきた少年であったから。
 どんな発作が起きても、誰にも告げずじっと耐えているような少年であったから。
 小さな村の、たった一人の生き残り。
 自身の祖父と父が起こした、余りにも愚かな対立の結末。
 少年の剣幕に、周りもそれ以上は何も言えなくなって、
 彼の気が済むならばと、皇都にその子を助け運び、手を尽くして治療したのだった。
 意識が戻るまでに幾日かかったか。
 「子供は、生き延びたのだよ」
 皇帝の声が低くなる。
 「瞳を開けて、見つめてきた瞬間の戦慄きを、私は一生忘れないだろうね」
 地獄を見ただろうに、その瞳はあまりに無邪気に過ぎた。
 「真っ直ぐな瞳であった」
 覗きこんだ少年に雷にも似た衝撃が走る。
 走る程度の生易しいものではない。衝撃に、打たれた。
 「切ない瞳であったよ」
 窓に映る皇帝の瞳は冷えている。
 ディクスと呼ばれた黒鎧は、視線を追って皇帝の表情を伺い、黙然と床へ視線を落とした。
 「……あれは、私が命を救ったなどと思っているようだが。救ったのではない。私が救われたのだ」
 無くした左腕に手を当てて、皇帝は静かに語っている。
 「十まで持たぬと散々言われて、何故か再来年には三十だ。もう十二分に生きた。
 そろそろあれの幸せを願っても職務怠慢にはなるまい」
 「……ミルキィユ様は、陛下のお気持ちを汲んでいらっしゃいます」
 「あれの涙を止めることは出来ても、あれを笑わせることは私には出来ない。
 ……戦場にあれの居場所があればいいのだけれど」
 傷つけられた腹が引き攣る。
 前屈み、そのまま無言で皇帝は彼方へ思いを馳せた。
139<<鬼を憐れむ唄・第四夜>>:10:2007/02/07(水) 17:37:34 ID:ErVmgvvK


 ぐふ、と喉から奇妙な音を立て、巨体が崩れる。
 今まで横にいた腐れ縁の旧友が、反吐を吐きつつ倒れた瞬間だった。
 「ヤオ……ッ」
 悲痛な呻きが、ダインの喰いしばった唇より漏れ出す。
 「畜生……ッ」
 肩に手をかけ、揺さぶる。
 朦朧とした友の焦点は、もはや合わさることが無い。
 がくがくと揺さぶっても、首の座らない赤子のように、それは豪く頼りなかった。
 それでもなんとか、ダインの搾り出した声が聞こえたか、
 「……悪ィ…ダイ……ン…あとは、……たの、ん、……」
 息も切れ切れに、ようようそれだけを呟くと、ヤオはそのまま闇の底に沈む。
 行き先は地獄である。
 「畜生……」
 歯軋りしながらダインは、向かい合った敵に鋭い眼光を叩き付けた。
 「よくも、ヤオを……」
 悔しさ故か苦痛故か。涙が滲み出る。
 「なんだ。降参か」
 鋭いと思っているは己だけで、とっくに濁って据わりの無い、ダインの眼光を受けても敵はびくともせず、
 逆に鼻で笑って返してくる。
 「口ほどにもない」
 辛辣な一言である。
 向かい合わせで座っている。
 既に辺りは、朋友の抜け殻で、埋め尽くされていた。
 皆、突っ伏す。
 生き残っているのは、既にダインだけである。
 その彼もまた、満身創痍、今しも倒れる一歩手前だ。
 折れそうな心を支えているのは、もはや意地だった。
 目の前の、酒の注がれた杯を睨みつける。
 勢いで腕を伸ばし、砕けんばかりにそれを掴むと、持ち上げ同時に一気に呷った。
 自暴自棄であった。
 「ほう」
 感心した声が向かいより聞こえてくる。
 少女の声だった。
 涼やかな顔をしている。
 「まだゆくか。後でどうなっても知らんぞ」
 ミルキィユが頬杖を突いて眺めている。
 意識朦朧としかけるダインと相反して、ミルキィユに少しの乱れもない。
 心底楽しそうだった。
 ――事のきっかけは、きっと仲間の誰かの、何気ない一言だったのだ。
 曰く、あの将軍を酔わせたら、一体、何上戸になるのか賭けないか、とかなんとか。
 悪戯心全開であった。
 ダインも嬉々としてそれに乗った。
 普段飄々としている少女が、一体どこまで乱れるものか見てみたい、純粋な好奇心が半分。
 白い肌が、酒精に火照らされて桜色に色付くところを見てみたい、などと言う邪心も半分。
 仲間内でひとしきり盛り上がったところに、折り良く彼女が見回ってきたのだ。
 「お嬢も一緒にどうだ」
 そう言ったように思う。
 本来ならば、戦場で酒を呷る行為を傭兵は嫌う。
 はずではあるが、先日のアルカナ王国本隊への霍乱作戦が功を奏し、
 現在、手酷く打撃を受けたアルカナ王国は、エスタッド皇国に一時の休戦協定を申し入れたようだ。
 ただし、「一時の」ではあるので、状況次第では再び進軍という可能性も大きいのだが、
 それにしても今日明日の問題ではないようで、
 とりあえずは戦場に駐屯する一隊は、暇を持て余す事になったのだった。
 先日の褒美と称して、ミルキィユ将軍の名で、糧食隊より酒樽が届けられた。
 据え膳食わぬは何とやら。
 目の前に横たわる、美しくも艶かしいワイン樽の腰ラインを眺めて、飢えた狼達はごくりと喉を鳴らす。
 結局は自己責任と誰かが言い出し、樽が開けられると、あとは無礼講になった。
 誘われて最初は、遠慮していたミルキィユだったが、
140<<鬼を憐れむ唄・第四夜>>:11:2007/02/07(水) 17:38:30 ID:ErVmgvvK
 「鬼将軍も酒には負けるか」
 の一言に、酒宴に加わる気になったらしい。
 腰を据えていた。
 何の弾みか、いつの間にか、呑み比べに転じていた。
 下手すると一口か二口で、彼女は倒れるのでは、当初のそんなダインの心配は杞憂に終わった。
 外見と本性と、こうも異なる人物はそうそういないだろうと彼は思う。
 乱れない。
 どころか、酒豪のダインと同量を飲んで、まるで平然としている。
 「……アンタ、……その体のどこに……酒が入るんら……」
 重ねて言えば、ダインの方はとっくに限界を超えていた。
 脂汗が噴出す。
 頭の九割はとうに痺れて動かない。
 ――負けてたまるか。
 突っ伏しかけて、奥歯をもう一度噛み締める。執念である。
 霞んだ瞳で見やると、未だ全く変わりのないミルキィユは、流れる動作でまた一杯、杯を空ける。
 「あまり、よい酒ではないな」
 余裕綽綽たるものであった。
 「……畜生……」
 絶望と戦いながら、ダインが杯に震える指を伸ばす。
 「もうやめておけ」
 その手を不意に引き止める、しなやかな腕がある。僅かに混じる心配の声。
 「見苦しい」
 「うううぅうぅうるせェ。俺ァいける、まだいけるぞ」
 抑えた腕を邪険に払おうと振りかけて、驚いてダインは動きを止めた。
 彼の手のひらを、そっと少女が撫ぜている。
 使い古したボロ布を、乱雑に巻きつけたその手のひら。
 「痛むか」
 尋ねた彼女の方が、痛みを堪える顔をしていた。
 「ああ、」
 鈍った頭に、言葉がゆっくりと飛び込んで、ダインは小さく笑ってみせる。
 「慣れてらァ。なんともねェよ」
 城壁とは名ばかりの、崖の土壁に挑んだ彼の手のひらは、戦場で普段使い込んでいるとは言え、皮が裂けて血が滲む。
 全体重を支えて、小半時ばかり曲芸業を演じたのだ。仕方がない。
 油薬を適当に振り掛けて、布を巻きつけたダインだった。
 「……すまない」
 俯いた表情は、髪に隠れて見えなくなる。
 「なんだよ、急に」
 「無茶をさせた」
 「……良いんだって」
 「ダイン」
141<<鬼を憐れむ唄・第四夜>>:12:2007/02/07(水) 17:40:37 ID:ErVmgvvK
 「あのな、アンタは確かに将軍で、お姫さんで、俺よりずっとずっとお偉いさんで、
 一人で何でもこなせる、自立した立派な大人なんだろうがな、
 全部が全部ってワケじゃねェけどよ、でもよ、こう、もうちっと俺らを……ていうか俺を!
 頼ってもいいと思うワケよ?頑張りゃあアンタは、きっと全部自分で出来ちまうんだろうけどよ、
 こう、なんつうかな、守る守られるみたいな……関係って言うかな。
 そりゃ俺ァ傭兵だしな、金も権力もねェから、アンタの盾にァなれないかもしれねェけどよ?
 でもよ、盾にはなれなくてもよ、アンタが刀なら、俺ァ鞘くらいにはなれると思ってるワケよ。
 鞘だよ鞘。うん、この例えァいいな。なァ?」
 呂律のまるで回らない口を無理矢理動かして、ダインは言った。
 既に絡み酒である。
 酔った勢いで、何かとんでもないことを口にしている感が無くもなかったが、
 それを冷静に判断する脳髄は、60杯辺りでとっくに放棄していた。
 「俺ァ、アンタからしたら随分と頼りないだろうけどよ、これでも、」
 ――これでも。
 「これでも?」
 「これでも……ん?なんだァ?」
 首を捻る。意味を成さない言葉の羅列の、続きは思いつかなかった。
 そんなダインを、眺めていたミルキィユが、やがて感心したのか小さく呟いた。
 「変わった男だな。傭兵とはそう言うものなのか」
 「なんだよ」
 「……側にいたいと言うか」
 「そりゃ……刀が鞘だけ置いていっちまったら、意味ねェだろうさ」
 「わたしに関わると死ぬぞ」
 「俺ァ死なねェよ」
 「死にたがりか。自ら不幸になろうと言うか」
 「まとめて幸せにゃあ……なれねェもんかね」
 「さあ」
 どうだろうな。
 俯いたミルキィユは、小さく笑う。
 ようやく見えた笑顔に安堵して、ダインは卓に突っ伏した。
 体はもはや限界である。
 「では、ダイン」
 「うん?」
 暗転してゆく視界の中、ミルキィユが静かに、自身の手のひらに口付けるのが見えた。
 ――そんなことしたら汚れるぜ。
 言いかけてもう全く口が回らないことに気が付く。
 「貴様は私の側にいろ」
 僅か羞恥らったミルキィユの声が聞こえたのを最後に、ダインもまた、仲間と同じく闇に沈んでいったのだった。
 幻聴だったのかもしれない。

* * * * * * *
以上です。
長さについては申し開きできません>osz
142名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 18:08:29 ID:7qJ/EcVg
うおーおもしれ〜。
読み終わるとすぐに続きよみたくなっちゃうんだよな。
これからも楽しみにしてやす。ではノシノシ
143名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 23:21:01 ID:6n6sRi5n
GJGJ!!!
面白ければそれで良し!
長さどころか、続きが気になって仕方ないよ!
144名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 23:51:07 ID:k47EkFJ3
やべぇ〜〜ミルキィユかわいいよーー!!
どんなエロを見せてくれるのか楽しみで楽しみで…!
これを楽しみに毎日きている漏れ


鬼を〜の作者さんの別の作品が読んでみたいんだが
教えてはくれないだろうか…
145名無しさん@ピンキー:2007/02/08(木) 00:24:41 ID:70QnLJ4Z
>>125
姫スレに似たような展開の話があるよ。
でも書き手によって雰囲気は大分違ってくるから
気にせずチャレンジしてみたらどうかな。
146名無しさん@ピンキー:2007/02/08(木) 00:35:41 ID:PaLVKJvo
>145
自分もそれ思い出してた
147名無しさん@ピンキー:2007/02/08(木) 00:36:46 ID:1EA50TSQ
>>144
見つけた俺は勝ち組
148名無しさん@ピンキー:2007/02/08(木) 00:39:40 ID:fDyzBFX+
またアイーシャとジンが読みたい。
ラブラブになってからの2人がみたい。
作者さん続き書いてくれないかな。
149名無しさん@ピンキー:2007/02/08(木) 03:18:02 ID:MY8eYKI8
>>144 漏れも・・・
ミルキィユで最近妄想してしまっている
処女だと勝手に妄想。敵軍に陵辱も妄想w

下種だなorz

>>147 オシエテチャンになっちゃうが是非おしぇーてほすぃ
中世スレの魔女ちゃんはわかただよ。たぶんだが
150名無しさん@ピンキー:2007/02/08(木) 03:57:06 ID:MY8eYKI8
魔女ちゃん違うかもだなん。うそつきでごめそん。
他スレではどこに降臨しているんだ作者すわ
151名無しさん@ピンキー:2007/02/08(木) 10:21:01 ID:JOTBs24W
ミルキィユがスゲェ好きだ。
職人さんGJ!!


兄×ミルキィユも良いな。性的な意味ではなく。
お兄様の愛に涙が出そう・゚・(ノД`)・゚・
急かすつもりは無いけど、続き待ってます!!
152名無しさん@ピンキー:2007/02/08(木) 16:13:12 ID:OXVnh317
小ネタ的にお嬢様と執事を投下してみる。



私の宝物は、とても少ない。

お祖父様とお祖母様が誕生祝いに、と下さった薔薇の温室。
その次の年の誕生日に同じように下さった、温室に置いてある長椅子。
愛しんで下さるお兄様と、お兄様の従僕。
そして

愛しい、人
私の愛しい執事。



お気に入りは温室の長椅子で微睡むこと。
はしたないとは思うけれど、こうしていれば探してくれる。
あの声で目を覚まし、あの手が壊れ物でも扱うように私を起こす。
「靴を」と上目遣いでねだれば、暫しの躊躇の後、恭しく靴を履かせてくれる。





とても愛おしい日々。
他に何も望まない。

ああ、どうか。
どうかお願い、傍にいて



お嬢様だけ…しかも小ネタになっているのか……orz
153144:2007/02/08(木) 17:26:18 ID:1EA50TSQ
>>144
スマンかった。間違ってた。
俺は負け組み orz
154147:2007/02/08(木) 17:27:20 ID:1EA50TSQ
漏れ147だった…。
連投すまん。吊って来る。
155名無しさん@ピンキー:2007/02/09(金) 00:42:48 ID:JcOE3bxw
>>152
GJ!
続きを期待。
156名無しさん@ピンキー:2007/02/09(金) 10:05:22 ID:UBNbvhYz
自分も見つけました>作者さんのサイト
けど、鬼を憐れむ唄、全年齢の小説検索サイトに登録していらっしゃるのはどうなんでしょうか?
いったん年齢制限ありの掲示版に投稿したもの、しかもこれから性的描写があるとほのめかされているものを
まだ性的描写はないといえ、全年齢の対象の人の目に触れるような行為は疑問に思います。
157名無しさん@ピンキー:2007/02/09(金) 11:07:57 ID:uzZoO8FI
性描写のとこだけ別の話に差し替えるかも知れないし
新しくサイト作ってそっちで続けるかも知れない

どっちにしろ重箱の隅つっつくのはどうかと思うよ
158名無しさん@ピンキー:2007/02/09(金) 13:20:20 ID:s8DHqtnn
拝啓父上様を見てて、女将さんと竜さんの関係もいいなぁと思った。
長年側で見守ってるってのもいいね。
159名無しさん@ピンキー:2007/02/09(金) 15:50:35 ID:FppU2gcy
作者さんサイトもってたのか…!
お嬢様と執事さんのが泣けたんで鬼を憐れむも期待してるんだが
応援してるから是非がんばってくれ

まだ今のところエロないし、
エロのところが制限付きになれば問題はないと思われ

>>152
GJ!!!是非続きと詳しく・・・!
160名無しさん@ピンキー:2007/02/09(金) 15:55:32 ID:aBLHGea7
>>148
俺はエステルとゲイルの続きが読みたいよ
161名無しさん@ピンキー:2007/02/09(金) 21:38:24 ID:yp5xjRqk
ざっと作者さんの書きこみ見てみたが、

性的描写今後入ります発言は作者さん本人は言ってないわけで
お嬢様執事見てたら純愛モードかもしれないわけで
つかサイトうんぬんの話題はスレ違いなわけで

前スレでもそうだったが、たまにサイト晒し書きこみがあるのは荒らしにしか見えない


162名無しさん@ピンキー:2007/02/09(金) 22:26:45 ID:UBNbvhYz
>純愛モード
エロパロ板でエロがなければ、それこそ板違いではないんでしょうか?
正直、作者さんには、いつエロに入るのか、というか、ここでエロを書くつもりがあるのかないのか、はっきり聞いておきたいです。
163名無しさん@ピンキー:2007/02/09(金) 23:31:39 ID:NyYVpsQy
ここで流れを変えるSS書けたらかっこいいのにな。
仕方ないからネタ振りでもしようや。

執事:乱れ着衣の半裸でエロなど手ぬるうございます。
全裸に靴下のみ。これでこそ完璧です
お嬢様:やかましい
164名無しさん@ピンキー:2007/02/09(金) 23:35:45 ID:UOuM4kYp
でもこのスレって、女主人に男従者って関係が何よりの価値でエロはその次じゃないのか?
そりゃあるに越したことはないけど、エロ要素がない過去作品だってあるし、そんな白黒つけることはないと思うんだが
165名無しさん@ピンキー:2007/02/09(金) 23:40:27 ID:UOuM4kYp
空気読めてないのは誰だって話だなorz
王族の女司令官と平民から叩き上げの参謀、つーかクシャナ殿下とクロトワが見たい
166名無しさん@ピンキー:2007/02/09(金) 23:43:47 ID:EHcPj8+u
>>165
ドンマイ

ならば俺は、忍者飛翔のような現代風和物が読みたいと呟いてみる
167名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 00:37:29 ID:moXLCKMS
女艦長と男副長の話が読みたい
168名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 02:27:31 ID:kT6By3nZ
艦長と副長ならヘンケン艦長とエマ中尉の逆バージョンみたいな関係がいい。
エマ中尉は副長じゃないけど。
169名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 03:00:06 ID:aHkGB4F+
>>152なんだが…お嬢様のみになってしまったから執事を投下しようかと
ふらりとやってきてみれば、なんだか悩むレスがあって悩んでいる。
エロのエの字もないからな

>>155>>159
ありがたくも応援をもらっているが…
170名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 04:45:43 ID:UoAbDHhR
>>169
自分的には是非投下してほしい
確かにここはエロパロだが、エロ無しは絶対投下してはいけないって言うのもなー…
スレの主旨に合った、職人さんのクオリティ高い作品が読めるだけでも自分は満足と思うわけです
171名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 09:39:31 ID:jZr0L1Tr

>スレの主旨
ときどきは、すれたいをよみなおしてやってください ('A`)



最近の非エロ率は高すぎだろ常識的に考えて……
172名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 10:01:49 ID:zAwwC3uj
このスレの一番の主旨は主従関係だな
173名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 10:04:01 ID:KbB5FcQm
ふむ……それでは出直してくる
174名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 10:34:20 ID:G82EGy6X
非エロであれ何であれ、書いてくれる事がありがたいと思う。

でなければスレは発展しないだろ。

グダグダいってるやつ、自分で書け。

と思うのは自分だけか。
175名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 15:11:13 ID:VKMLON0B
「ぁ…っは……も……やめ…………っひぁ」

身体を桜色に染めて貪欲に咥え込み、淫らに喘ぎながらも制止の言葉を紡ぐ。
「やめよ、と仰せになられますか………ご冗談を。貴女様の中は私を咥え込んで離そうと致しませんよ?……ほら、このように」
ぐじゅり、じゅぷ、と淫猥な音を響かせて攻め立てる。
白濁の飛び散る、まさしく美乳と呼ぶに相応しい形の良い胸に指を這わせ、そしてその頂にある、ぷくりと自己主張してやまない箇所を、きゅぅ、と摘み上げる。
「ひぁん!」
「とてもよい声でお啼きになられますね。お教え致しました私としましても、とても嬉しゅうございますよ」
それにしても、とさらに言葉を続ける。
「まさか、貴女様がここまでだとは思いも致しませんでした。……まるで娼婦のようでございますよ?」
くすり、と娼婦のよう、を強調しつつ耳元に囁きかけ、反応を窺う。
「ち…ちがっ……ぁ…わ、わた……あぁ!」
快楽に潤む瞳から、ぽろ、と零れ落ちる涙を舌で掬い取る。
「何が違うのでございますか?咥え込んだ私をきつく締め付けて、中で何度も爆ぜさせたではございませんか。これほど短時間でこのようになるとは……娼婦ほども経験を積めばどのようになるのでございましょうね?」
「や……やぁ…ぁんっ!」
否定の言葉を紡ぐこともままならず、ふるふると弱弱しく首を振る。
しかしいくら否定しようとも、深く咥え込んで離したくない、と締め付けていることは最早隠しようもない。
「そろそろ、まいりますよ」
ぐりぐりと奥に押し付けるようにしながら、絶頂へと押し上げていく。
「ぁ、あぁぁぁ!」
絶頂を迎えた内壁にぎゅうぎゅうと締め付けられ、襲われた射精感に逆らうことなく、最奥に精を放った。



「お嬢様!!」
叫びながら跳ね起き、思わず辺りを見回す。
見慣れた自室であることに安堵し、深く息を吐いた。
「お嬢様……私は…」
頭を抱えて蹲り、目を瞑れば先程の夢が甦る。
大切な、愛しいお嬢様を無理矢理に組み敷いて処女を散らせ、口での奉仕を強要し、何度も犯した。
あれが願望だと言うなら、なんと浅ましい。
「申し訳、ございません…このように浅ましい私は貴女様のお傍にいる資格はないと思います。……ですが…離れたく、ないのです。……どうか、どうかお許しください」
176名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 16:01:48 ID:moXLCKMS
>>175
GJ
しかしこの後汚れた下着を自分で洗う執事を想像してしまった俺はBJだ
177名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 16:03:35 ID:5nsI+UTk
……ブラック・ジャック?
178名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 17:10:36 ID:hsbWe87z
>>175
狂おしいまでに続きを所望する!
179名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 21:49:12 ID:K+j9OmQx
ずっと前にエロだけか出会い編あったほーがいいかって作者さん聞いてた覚えが
あるのだからエロあるにきまってるじゃないか…!
出会い編があって話が長ければ長いほどエロのときモエるじゃあないか!
きっとエロは長く濃くしてくれるにきまってるじゃa





きっとダインは体力あるからミルキィユをねかせねェぞう
漏れ的にはミルキィユ陵辱ってゆうのもモエるが
それは作者さんにしかわからない…
180名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 21:56:06 ID:K+j9OmQx
しまった。話題にのりおくれた…スルーで…

ならば漏れツンデレお姫様みたいよ
前スレの最後の梅なお姫様と従僕の話詳しくみたい
ずっと待ってるんだが…さくしゃさーーーん
と叫んで見る。

ってか>>175 も、もっと…!続きを!(。д゚*)ハァハァ
181名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 23:51:13 ID:kT6By3nZ
お嬢さまとアンドロイド青年の恋物語とかあり?
ちょっと書いてみたいんだが。
182名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 23:53:22 ID:PxWSVmSX
その青年が従者かどうかで色々変わってくると思うが個人的には見たい
183名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 23:57:39 ID:eGuSZ/vX
何故だろう、>>179-180から腐臭を感じる。

それはともかく、俺はぶっちゃけエロの有無なんざどーでも良いと思ってる。
何時だかハーレムスレにヘルシングの台詞改変で「この板にはSSを読みに来たのであって、エロの有無は二の次」と主張していた奴もいたし。
実際、投下されたSSのほとんどが非エロSSなスレもあるし、中にはそれっぽく見せて実際にはヤっていないなんて変則的なスレもある。
「エロパロ板なんだからエロが無きゃダメ」なんて言われたら、ちょっとした小ネタすら拝めなくなっちまう。
184名無しさん@ピンキー:2007/02/11(日) 00:25:11 ID:6gSLwbsa
>>181
アンドロイド×人ものは大好物です(*´Д`)
飢えているのでぜひお願いします。
このスレの趣旨は「従者×お嬢様」なので、それを満たしていれば可能かと。
苦手な人用にはNGワードをつければいいと思います。

>>183
同意。
あったら嬉しいけど、皆面白い話書く人ばかりだからエロなくてもどうでもよくなる。
185名無しさん@ピンキー:2007/02/11(日) 00:29:34 ID:SHVLhiBl
>181
恋物語じゃなくてエロを書けよエロを!

>183
誰も非エロは絶対投下するなって言ってないだろ?
でも、スレ違いなのをわきまえて、事前に予告、いつからエロに入るかも予告。
ホンネを言えば、はなからエロ書く気がないのなら、
チラシの裏に書くなり、自分のサイトに篭るなりしろ。
エロを大切に思って、エロのためにこの板に来ている人間もいるんだ。

自分は書き手で、このスレに投下したことはないけれど、
いつか形になったら投下してみたいプロットもあった。

ss考えるのは自分だけのオナニーだけど、
エロパロ板に投下するのは公開オナニー。
人様に読んでもらうのだから、面白いエロを!萌えるエロを!
ストーリーに絡んだエロを!説得力のある自然なエロを!
推敲して推敲して飽きて自分のちんこが反応しなくなっても推敲しても
エロい!勃った!濡れた!今晩のおかずにする!抜いた!と思ってもらえるエロを!
エロを!エロを!エロを!


エロ無しでもおkおk、むしろエロは必要ない、エロなんてあるに越したことはない、
あったらうれしいけどなくてもどうでもよい
なんて言われた日にはちんこしおしおだお(´・ω・`)



それと、とりあえず↓
エロくない作品はこのスレに7
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1161876969/

何レスも何レスも使って連載するのに、エロ書くつもりがないのなら、こっちに落として誘導でもいいだろ?
スレ違いなのに延々と非エロを落とすほうが荒らしに見えるよ。
186名無しさん@ピンキー:2007/02/11(日) 01:54:09 ID:c6oqV9JG
一理あるけどそこまでエロに固執するのもドンびき。
書いてくれる人がいるからこのスレがなりたってるってのも忘れるな。

嫌なら読まなきゃいいだろ。
187名無しさん@ピンキー:2007/02/11(日) 03:24:03 ID:fbP1oeJr
前に書いた人外ペットと飼い主お嬢コンビ投下する。
188ルゥとセラス1:2007/02/11(日) 03:26:32 ID:fbP1oeJr
ぎゅっと後ろからルゥに抱きすくめられた状態でセラスはマニキュアを落としていた。
爪の一つ一つを丁寧に拭い、本来の色へ戻していく。
セラスの肩に顎を置き、ルゥはぱたぱたと尻尾を揺らす。
「セラス、まだー?」
「待ちなさい。あと三本」
「僕、早くしたい」
かぷっと首に噛みつき、腰に回されていた手が胸に触れる。
「待ちなさいったら」
ぶかぶかのシャツだけを身につけているセラスと風呂上がりで全裸のルゥ。
二人が腰掛けているのは天蓋付きのセラスの寝台だ。
初めて結ばれて以来毎日のように求めてくるルゥのために、セラスは寝台を大きなものに買い換えたのだ。
二日に一度はルゥの求めに応じて、同じ寝台で休んでいる。
「ルゥ、だめよ……あ、んッ」
待ちきれないとばかりにシャツのボタンを外し、ルゥの唇が背中に触れる。
発情期はいつまで続くのだろうかというのが近頃のセラスの悩みだ。
少なくとも二ヶ月は経過しているのにルゥの欲望は収まる気配がない。
しかし、可愛いルゥのために欲望を満たしてやると決めたからには求められれば応えるしかない。
それが飼い主の義務というものだ。
「セラス、いい匂いだ。大好き」
最後の一本を落とし、セラスはコットンを屑籠に放った。
「もう、ルゥったら」
セラスの作業が終わったのを確認し、ルゥはセラスを寝台に押し倒してのしかかる。
「約束」
にこにこと微笑むルゥをセラスは赤い顔で見上げる。
「……本当にするの?」
「うん。したい」
「私、やっぱり」
ルゥの手が太股を伝い、下着を脱がせようと指をかける。
「やっぱりだめはなしだよ、セラス」
恥ずかしそうな顔をしながらもセラスは素直に腰を上げてルゥに協力した。
下着を脱がせるとルゥはセラスの足を大きく開かせる。
「恥ずかしくないよ。セラス、とてもきれい。それに、おいしそうな匂いがする」
身を屈め、セラスの足を肩に掛けてルゥは足の付け根に顔を寄せていく。
ここに口づけることだけはセラスがどうしても嫌がっていたけれど、さんざんお願いしてようやく約束を取り付けることができた。
ルゥは花に似たセラスの秘められた場所にそっと舌を這わせた。
割れ目に沿って何度も舌を這わせていく。
じわじわと密が溢れ始め、ルゥのいうおいしそうな匂いが増していく。
舌を尖らせ、割れ目に押し込むとセラスの体がびくりと震えた。
189ルゥとセラス2:2007/02/11(日) 03:28:16 ID:fbP1oeJr
セラスは顔を真っ赤にして、声が漏れてしまわないように腕を口に寄せている。
それでも、ルゥが舌を動かす度にくぐもった声が僅かに漏れる。
「ぁ…ふっ、んッ……あっ…」
ぴちゃぴちゃとルゥのたてる水音が次第に大きくなっていく。
初めは嫌がっていたセラスだが、いつしか自分から腰を揺らして刺激を求め始めていた。
溢れる蜜を啜りとるように舐め、ルゥは熱心にセラスを味わう。
「セラス、気持ちいい?」
唇を離し、ルゥはセラスに問いかける。
少しだけ躊躇して、けれどすぐにセラスは頷いた。
ルゥは安堵の吐息をついて、再び秘部に舌を這わせる。
そして、今度は茂みをかき分けて淫核に触れた。
初めは指で押し潰すようにして撫で、皮を剥いて舌で触れる。
「きゃああっ!! ルゥ、だめ……や、あッ、ああっ」
敏感なセラスの反応に気をよくし、ルゥは秘部に指を差し入れて刺激しながら淫核を舌で押し潰す。
セラスから溢れ出した蜜はルゥの手だけでなくシーツまで濡らしていく。
「ルゥ、あッ…もう、いれて……おねが、い」
「うん、わかった」
指を引き抜き、ルゥは猛った陰茎を押し当てる。
それはほんの少し力を加えただけでセラスの中へ飲み込まれていく。
「あ……すごい。いつもよりぬるぬるしてる」
ぴたりと腰が密着するほど奥まで挿入し、ルゥは満足げに息をつく。
すくい上げるように乳房をこね、セラスの唇に吸いつく。
腰を抱き、ルゥは緩やかに律動を開始した。
「あっ、あん…んッ……ひあっ、あっ、あッ」
「いい、セラス……すごい」
理性を投げ出すのはあっという間で、ルゥはめくるめく快感の波に身を投げ出して欲望のままに腰を打ちつけていく。


190名無しさん@ピンキー:2007/02/11(日) 03:31:51 ID:mnWgKCz/
アホな例えで悪いが、自分的には

主従スレ=本命の彼女
主にエロ期待してるスレ=セフレ

こんな感じ。もしエロなんかあったら物凄い勢いで夢幻の世界へ逝ってきますが、
無くてもハァハァ出来ない事はない
今現在のエロ厨(☆矢スレにも似たような奴いた希ガス)にとっちゃ
このスレのエロはセフレなんだろうよ
しかも>スレ違い て…
思いっきり>>1見てない発言を…
191ルゥとセラス3:2007/02/11(日) 03:31:52 ID:fbP1oeJr
全身に伝わる快楽から醒めたのはセラスの中で何度目かの欲望を吐き出してからだった。
肌に白濁とした液体を散らして胸で呼吸するセラスから体を離すと、繋がっていた場所からセラスの体に散ったものと同じ液体が大量に溢れだした。
「セラス」
ぎゅっと抱き締め、セラスに頬ずりする。
「僕、セラスが大好き」
ぱたぱたと尻尾が揺れる。
「あのね、もう少し、加減ってものを覚えなさい」
息も絶え絶えにセラスが呟く。
ルゥは悪びれなく微笑んでセラスの頬に口づけた。
「僕、本当はもっとしたかったけど我慢したよ」
「私の体力ってものを考えて。ルゥに合わせてたら死んじゃうわ」
溜め息混じりに言い切られ、ルゥは不満げに頬を膨らませる。
「セラスだって気持ちよさそうにしてたくせに」
ぼそりと呟くとセラスの眉間に皺が寄る。
「ルゥ」
こぼれた声の冷たさに慌ててフォローを入れようとしたルゥにセラスはぴしゃりと言い放つ。
「私がいいって言うまで一人で寝なさい」
本気で怒っているわけではないだろうが、セラスの地雷を踏んだことくらいはルゥにもわかる。
気持ちよさそうだったは失言だったかもしれない。
「やだよ。セラス、ごめんなさい。ゆるして」
ちぎれんばかりに尻尾を振り、背を向けてしまったセラスの背中に頬をこすりつける。
結局その夜ルゥはセラスの機嫌が直るまで謝り続けたのであった。


おわり

192名無しさん@ピンキー:2007/02/11(日) 04:32:44 ID:mnWgKCz/
豚切った。スマン

正直続きが来るとは思わなかったので驚いた
設定的に急展開をむかえるのか、それとも「ま、いっか」とマターリ続いてくのか
どちらもありそうな危うさで妙にハァハァした
ルゥ君にケモノっぽさのディティールがもうちょいあってもイイかな
193名無しさん@ピンキー:2007/02/11(日) 10:20:12 ID:UaANiGOt
>>190
スレタイ…
194名無しさん@ピンキー:2007/02/11(日) 10:44:07 ID:+D/i9yVC
185のいうこと分からんでもないなぁ。
例えばの話18禁とか21禁をうたってるサイトの作品が全然エロくなかったら
ちょっと「おいっ!」と言いたくなるのと同じような理屈だろ?

エロくない作品を投下するなとは言わない。
でもそれはあくまで小ネタとか、エロとエロの間の繋ぎとかだと思う。
そう思ってるのは自分だけなのか?

件の作品は、前置き長いって言ってたやつだと思うけどこの先に
エロがあるなら外野は気にせずそこまで突っ切ればいい。面白いしね。

ただ、もしも結末までホントにエロがなくてまだまだ続くなら移動して
誘導かけた方が無難だとは思うけど。
【エロくない作品はこのスレに】も名作多いし。

つかエロパロ板にエロを求めるのをエロ厨呼ばわりって…。

>ルゥとセラス
イイヨイイよー! ルゥはやりたい盛りなんだな。
このシリーズだとエシェンバート×セラスが見てみたかったり。
彼がセラスのお抱え研究者なら主従の範疇だよな!と期待。
195名無しさん@ピンキー:2007/02/11(日) 11:44:00 ID:W4H4O3oC
>>152>>175を投下した者なんだが……

自分もエロに至るまでに結構かかると思うんで、考え中だ。
とりあえず、小ネタなのを投下しつつ、この論争がある程度下火になるまで様子を見てどうするか考えようか、という気もしてくる。
気にしてくれている人もいるようだが。
196名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 02:52:41 ID:GdZ1MGp8
先にエロがあるなら別にどれほど長かろうがOK。
しかーし、エロなしで完結したらやはり文句が出るかもな。
個人的には直接的なエロじゃなくてもエロス感じられれば
満足だがそれも人の感じ方次第だと思う。
エロ板だし、エロスレなんだし、エロありは当然の前提かと。
それを悪いことのように言うのは(・A・)イクナイ!!

それに、保守代わりにと書いてくれるようなショートには
絶対エロ入れろというような人は今までにもいなかっただろ。
住民の大部分はその辺のバランスはわかっていると思う。
書き手も読み手も含めて。
197名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 20:09:31 ID:zZ1TduQA
正直いってエロ無くて気に入らないならその作品を読み手がスルーするのが
一番いい気がする。書き手さんを大事にしないとスレは寂れてしまうし。
エロも大事なんだけどエロに至るまでの過程も自分は楽しみにしているから
そこまで厳しくしないでほしいなというのが正直な感想。
自分はこのスレのエロない作品とかコネタに触発されて今SS書いてみてる
ところなんで極端なエロ無しSS禁止にはならないことをキボン
198名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 23:41:41 ID:pGMGxN+n
>>152でお嬢さまは凄く乙女チックな事考えてるのに、
>>157で執事はエロエロでワラタ。

エロパロ板だからエロい雰囲気くらいは欲しいけど、
主従というだけでエロスを感じられると思う。
199名無しさん@ピンキー:2007/02/13(火) 01:09:07 ID:WRxuu51A
>>196
ワンパターンだな
・エロなし作品を他スレへ誘導
・エロへの予告まで強制
・サイト晒し疑惑を持たれる(藁)
・誤爆スレで反対意見を荒らし扱い
・ついでにやってるだけのエロを否定

ここまで厨な行動しといて
風向き悪くなったら「エロありを否定するな」だって?
誰もそんな事を言っている奴はいない
少なくともエロが恥ずかしくて書けないわなんてアホな書き手はいないし
被害妄想で論点すり替えてんじゃねータコが
200名無しさん@ピンキー:2007/02/13(火) 01:48:02 ID:7EPHBxYp
196だがいったい何を言ってるんだかサッパリわからん('A`)
誰かと間違えてるようだな。
201名無しさん@ピンキー:2007/02/13(火) 02:27:47 ID:2bjhj324
>>199
興奮し杉 落ち着け
202名無しさん@ピンキー:2007/02/13(火) 02:39:50 ID:TMHFF25l
言ってる本人がもっとも厨臭い言葉使いで、
もっとも被害妄想臭いってのは出来杉。
一人二役で荒らしてるんだろ。
スルー汁。
203名無しさん@ピンキー:2007/02/13(火) 12:59:03 ID:naN1qgwr
いくら後々エロがあるからとはいえ、少々作品投下しにくい、と言わざるを得ないな…と思いつつ、小ネタ投下。



2回の小さなノックの後、微かに扉が開く。
「お兄様?」
「ああ、お入り」
「お話って、なに?」
「可愛い妹にプレゼントを、と思ってね」
「プレゼント?」
誕生日というわけでもなく、記念日というわけでもない。
首を傾げていると、目配せを受けた従僕が二つの箱をテーブルに並べて置いた。
「開けてごらん?」
悩んでいても仕方がない、と納得し、片方の箱を開ける。
もう片方は、箱を持ってきた従僕が蓋を取り去った。
「!」
思わず凝視してしまっても無理はあるまい。
中身が下着のセットであったからだ。
「……お兄様?」
真意を問うように問いかける。
声が微かに震えてしまったのは仕方ないだろう。
「なんだい?」
「これは、なんですか?」
「下着のセットだね」
「わ、私…こ、こんな…!」
かぁ、と頬が紅潮する。
「ベビードール、総レースの上下、ガーターベルトにストッキング……その位、かわいいものだよ。もっと過激なものもあるんだからね」
「でもっ!」
「あれを篭絡したいんだろう?」
「………」
「沈黙は肯定と取るよ。さ、どちらにする?…勿論、両方使って構わないが」
どちらにするか、と聞かれても、答えられるものではなく…
兄は再び口を開く。
「私はこちらの黒がいいと思うね。セクシーだし。…お前はどう思う?」
主に問いかけられれば、従僕は答えるしかない。
「…畏れながら…私は白をお勧め致します。黒も、たしかにようございますが……」


兄と兄の従僕とお嬢様。

白のセットか、黒のセットにするか、甲乙付けがたいので小ネタとして…
どちらがいいだろうな、これは


>>198
>>157は最初、エロ無しの小ネタだったんだが差し替えた。
そのまま投下できずにな…

204うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
205うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
206うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
207うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
208うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
209名無しさん@ピンキー:2007/02/13(火) 18:05:56 ID:Wjny2W2S
>>203
これは前の話と繋がってるんだよな?
題名なり鳥なりつけてくれると助かるんだが
210名無しさん@ピンキー:2007/02/13(火) 18:13:06 ID:2z0/nWkz
今更だけど>>165は同好の士。
殿下の凛々しさは神。
クロトワとの主従関係には脳髄がやけるほど興奮する。

てなわけで頑張ってみるよ!待ってて165!

そのかわりにお前の殿下も寄こせ(´∀`)ヨゴセ
211名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 09:05:39 ID:tNPmY/bN
246 名前: 名無しさん@ピンキー 投稿日: 2007/02/13(火) 17:53:10 ID:fQ6S9RwO
こんな新板ができました。エロなしの創作作品はこちらでどうぞ。

【文芸・書籍総合(仮)】
http://book4.2ch.net/bookall/

●ここは読書家達がジャンルを超えて集まる板です
・【ライトノベル板】【ミステリー板】【SF・Fantasy・Horror板】【一般書籍板】【絵本板】【児童書板】【創作文芸】】【文学板】【詩・ポエム板】【詩文学板】【古文・漢文板板】等
では板違いとなり扱えない文芸・書籍に関する話題もこちらで取り扱います。
・ふさわしい板が他にある内容のスレッドはそちらの板でお願いします。
・出版業界、書店、新人賞、Web小説、キャラクター、二次創作作品などといったものもどうぞ。
・漫画、官能小説は対象外です。他をあたって下さい。
・ふさわしい板が他にある内容のスレッドはそちらの板でお願いします。
●内容の重複するスレッドは削除対象となります。
・既にあるスレッドを有効活用するよう心がけましょう
・立てる前に、似た趣旨のスレッドがないかどうかを必ず確認してください。
212名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 09:36:36 ID:qH8etdj9
姫殿下と宰相なら『楽園の魔女たち』の
ダナティアとリーン・イプスもなかなか。

「あたくしの肖像画にムチをもたすのはおやめ!」って言ってるくらいだしSMプレイで。
まさに主従。
213名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 11:55:03 ID:HRkdajQU
お嬢様と執事のSSをタイトル付けて小ネタを取り込みつつ投下しようと思うが、どうだろう
しばらくはエロなしなんで躊躇中
……まぁ、近いうちに、だが
214名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 16:10:54 ID:t/RC/DOn
>しばらくはエロなし
俺は一向に構わん! と宣言しておこう
215名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 16:17:06 ID:3Rbo4XDO
>しばらくはエロなし
上に同じく!
216鬼の中身 ◆0RbUzIT0To :2007/02/14(水) 16:46:51 ID:+XQPGpsF
しばらく留守しておりました。
自分の書き込みが荒らし元になってしまって申し訳ないです。

スレの流れから、エロ無し板に移りますドロン。
では、誘い逃げのように思うので、その部分に至りましたら、こちらに投下しにきます。

>>156
エロ部分はこちらにのみ書き込んで、
サイトの方は角川Sや富士見F程度に思っていました。
217名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 17:03:15 ID:ja9/q7Zg
>>216
最終的にエロ入るなら、逆にエロ無しスレ行かない方がいいと思うぞ
まあ、どちらにしろ続き待ってます
218名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 19:35:11 ID:SqyhFbw3
>>216
自分も、エロ無しスレ行かないほうがいいと思うぞ
最終的にエロに至るなら、このまま投下していって構わないと思うが
それに楽しみにしてたしな
219名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 21:11:12 ID:rW5z27Py
>216
ここに投下してくれー!
今までもエロなしで終わった作品たくさんあるじゃないか
このスレ始めてくれた作品をこのスレで途中も最後も読みたいよ



220名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 21:34:45 ID:9JEcXRnf
エロでもエロい。
エロなしでもその何気ない仕草やただよう雰囲気がエロい。
それがエロパロじゃないか!

職人様行かないでくれ!
エロパロ板歴長いが今までエロなしの良作もたくさん見てきたぞ。
このスレの条件はただ1つ、主従であることじゃないのか?
221名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 21:49:38 ID:YA3u1vop
ていうか書き込みを読むとここの住人の多くは現状にそれなりに
満足していると思われるので、現行のままでいいんじゃないかと
思うんだがどうか。
エロくないのイクナイ!と言ってるのって1人か2人っぽい。
スレのSSほとんどがエロに至る予定のないSSだとしたら板違いだろうけど、
そんなことはないからね。

という自分もエロに至る予定があるのなら長編歓迎だ。
エロなし小ネタもおいしくいただける。
エロパロ板にあるからって「何が何でもハードエロ」しなくてはならない
わけじゃなくて、エロレベルはともかく「エロを含む話しが書ける場所」
なんじゃねえの?
スレが進めばエロなしの話し、シーンが続くことだってたまにはあるさ。
だが長い目でみれば短い間のことだ。
そういうゆらぎすら受け止められるスレだと、末永くやっていけるように
思えるんだがな。
222名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 22:40:49 ID:lx0U//dD
>>216さま
行かないで〜!お願いします……
投下をホント楽しみにしていた一読者としては、
ここで続きが見られないのは辛いです。

>>219さんや>>220さんのおっしゃるとおり、十分「主従萌え」
してるし、ハードなエロとかじゃなくても作品の持つ世界観、
雰囲気だけでもすごく引き付けられてますよ〜。
  
223名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 23:04:15 ID:mSMpFFkX
新規も続きも投下しにくい雰囲気、いい加減やめないか?
萌えネタだの主従談義のほうが未練がましい行かないでコールよりも
ずっと投下しやすいと思うんだけど。

216も、話の先にエロがあるならスレ違いじゃないんだし
様子見て、ほとぼり冷めた頃にほいっと投下しちゃえば良かったのに。

とりあえず新規職人候補の181と210に期待。
つか陵辱調教の83にも期待してるんだけどまだかなぁ…。
224名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 23:12:21 ID:mSMpFFkX
あと>>222はしばらくROMってた方がいいんじゃないかと小一時間。
他スレでそのノリでやってみ。瞬殺されるから気をつけたほうがいい。
225名無しさん@ピンキー:2007/02/15(木) 00:36:11 ID:tiCSCgQR
とにかく、エロ有りもエロ無しも奮って御投下ください。
226名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 00:32:01 ID:mZCdznW8
>>187
続きがキテター!GJ!
私、以前、前回の話を読んで禿萌えた者です(*´Д`)
当時は、ルゥの純粋な愛にキュンとしました。
次回の発情期にはこの2人どうなるのかな、と気になって想像したくらいです。
今回もイイ…。本来、発情期じゃないはずなのに、発情するルゥモエス!
続きが来るとは思わなかったのでうれしいです。
227名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 00:40:59 ID:mZCdznW8
あ、発情期が終わったというわけではないんですね。
連投ゴメソ
228名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 01:17:09 ID:LyhZwbkD
読み手が自己紹介って……
229名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 01:19:19 ID:0Rn6mhlt
自分もコレ凄い萌えた。
もうちょっと世界観が知りたいです、職人さま。
230名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 17:20:03 ID:+UQR6eZN
スレ違い・亀レス・荒らし行為と理解している上で一言グチらせてくれ。

エロ定義した奴らのばかばか。
231名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 17:42:53 ID:J34f2taa
理解してるならすんな。

この板には吐き捨て御免のスレがあるんだからそっちに
書き込むくらいの知恵がはたらかないのかお前は。
232名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 18:09:50 ID:J34f2taa
↑の書き込みだけだと微妙なので雑談してみる。

職人さん来るまで主従古今東西でもやらないか。
新たな主従ものを発見できるかもだし。

とりあえずほい
つ漫画『ろまんが』菊花&コンチ主従

小学生なのにダイナマイトバディなツンデレお嬢様とその世話係(金髪碧眼美青年。だけど変態)
少女漫画なのに話のそこかしこで下ネタ全開。
233名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 18:29:28 ID:ixvej8md
先生!古今東西のやり方が判りません…!
234名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 21:11:54 ID:J34f2taa
あれっ、知らない?
したら悪い、地域限定の呼び名だったのかも知れんな。
俺が古今東西て呼んでるゲームはしりとりみたいな遊びで
お題を決めたらそれに沿ってどんどん言っていくっていうやつ。

例えばお題が『果物』なら、いちご・バナナ・メロン…て繋げていく。

で主従古今東西の場合は、漫画でもゲームでもいいから好きな主従をあげていく感じで。
簡単な説明とかをプラスしてくれればモアベター。

出てきた中に、自分が知らない主従もので好みのがあったら
買って見てみようかと思って話題振ってみた。
235名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 21:24:16 ID:ixvej8md
詳しい説明ありがとう!一つ賢くなったよ。
名前は知っていたんだけどな。
では早速。

つ漫画『花咲ける青少年』花鹿&立人
いろんなタイプのいい男が出てくる中、主を一途に思う従に萌えた。
ところどころのチャイナ服も萌えた。
ついでに自分の気持ちを押し隠して職務を全うしようとする姿に禿萌えた。

チト古いけどね。
236名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 22:02:42 ID:Yi9nTwa7
榛名しおりの『マリア外伝 マゼンタ色の黄昏』。
13歳かつ不倫のくせにひたすら切なくてどこまでも綺麗な純愛。
下記作品の外伝だが単体で読める。

同作者の『王子リーズ』もいい。一生独身を貫いた女王エリザベスの少女時代の話で
相手は護衛長官の少年。後に宰相になって一生女王の傍にいる。

両方とも身分が壁になる描写が切ない。
あとメイン以外も主従カップルがちらほら。

あとスレ違いになるが男主女従で『マリア ブランデンブルクの真珠』。
この三作合わせて本棚の永久レギュラーだ。

小野不由美『十二国記』の陽子と景麒や
須賀しのぶ『流血女神伝』のカリエとエドの関係もツボだ。
「こんな女が主なんて認めない」状態から
「この人のために生きる」に変わっていくのがたまらん。
お互いが誰よりも大切な相手でありながら
完全な恋愛にならんのもツボ。

ごめん語り出すと止まらない。
237名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 22:14:50 ID:Yi9nTwa7
あ、よく考えると『マリア』は男主女従ですらなかったかも。重ねてごめん。
ついでにもう一作『12月のベロニカ』を挙げとく。
幼なじみの眠り姫とそれを守る騎士の話。
ただし幼なじみが描写が濃厚で主従色は薄い。
238名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 22:42:16 ID:yzYcJqT4
…古今東西は基本的に一人一個ずつだ象。
コイツゥ( ´∀`)σ)∀`)←236
語りたくなる気持ちは分かる。主従はいいもんな。
慶国主従(十二国記)は自分も禿萌えだ。ビバ主上!

とりあえず自分も一つ。某エロゲの元アイデア『旧Fate(Character materialより)』
から【沙条綾香・旧(男)セイバー主従】。

最弱の魔法使いが最強の使い魔(サーヴァント)を引き当てるっていうの
女主男従の方が自分は好きだなぁ。

おまけに沙条は素晴らしい眼鏡っ娘。その上、貧乳(推定)でツンデレの
トリプルカウンター持ちですよ。こんなにエロゲのヒロインらしいのに
設定変更勿体無いよ…。この娘いたらヒロインの中で一番好きになったと思う。
男セイバーも格好良いし設定だけでどんぶり3杯はいけるね。
239名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 23:52:45 ID:7mF6zmYb
司馬遼太郎の『韃靼疾風録』だな。
主命で大陸まで送り届けることになった姫を守るため、彼女を妻と偽装したら本当に好きになって
しまって主命との板ばさみで葛藤する様がたまらん。
240名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 00:09:33 ID:N8sW47dR
小説で主従と考えると、
男同士の物語ばかりが頭に浮かんで(801じゃなくてな)
女主人x男従者 がなかなか浮かばないな…

戦記ものは特に。

花田一三六の、女皇帝アイーシャ(アイシャだったかも)と
その周りの兵士の話とか、当時wktkして読んだが、
一部文庫化されてないんだよな……orz
241名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 00:11:14 ID:zyVAU1CG
十二国記シリーズだけど主従違いだから書かせてくれ
『図南の翼』の珠晶と頑丘が好きだ。金持ちの娘が家出して王になるために旅をする、んで護衛と道案内のために自由民を雇う。旅の途中で価値観や立場の違いから諍いも起きるんだが……って話。かなり歩み寄りもあるんだが、最終的には別離エンド。
とりあえず読んでくれ。ほとんど外伝だからこの巻だけでも大丈夫だww
242名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 00:38:53 ID:lvK/dN14
161 :イラストに騙された名無しさん :sage :07/02/17 00:23:56
>>236
一言言わせてくれ。王「女」リーズだ。801は勘弁。

戦記もの…? かどうかは分からないが『黄金のアイオーニア』
女将軍と流れの傭兵(実は敵国のスパイ)の許されない恋愛。
ずっと様付けだったのにベッドシーンで呼び捨てになるのが萌え。
243名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 00:40:46 ID:lvK/dN14
>>236
一言言わせてくれ。王「女」リーズだ。801は勘弁。

戦記もの…? かどうかは分からないが『黄金のアイオーニア』
女将軍と流れの傭兵(実は敵国のスパイ)の許されない恋愛。
ずっと様付けだったのにベッドシーンで呼び捨てになるのが萌え。
244名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 00:43:14 ID:lvK/dN14
うわ連投すまん、あと>>242の一行めもコピペミスだ。
245名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 00:47:57 ID:N8sW47dR
ん?>>236は普通カップル書いているんじゃないのか?

って書こうとして、もう3度ほど読み返し、
>>243が言いたいことを理解したw
246名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 01:14:10 ID:5IeFs9Ky
ラ板と言えば、合う本スレの過去ログでずばりこのスレな依頼があったよ。
ちょっと長いがせっかくなので貼っておく。


945 :2006/05/07(日) 06:20:14 ID:Lr6QDEy+
大変次元の低いリクエストですいませんが。お願いします…
【読みたい本の傾向(A)】
主人公カップルの構成が女子キャラのほうが身分が高い作品を探しています。
(ファンタジーだったら姫と騎士、現代ものだとお嬢様と護衛とか教育係りとか…)
厨趣味で本当にすいませんが、ヘタレ下僕系じゃなくてかっこよくて
頼りになる従者でお願いします。最終的にまとまるなら裏切り展開とかもOKです。
アンネローゼとキルヒアイスみたいな感じでお願いします。
(客観的に見てへたれ下僕でも設定上は頼りになるというようなキャラを希望します。)

【Aの既読作品……好き】 金蓮花「砂漠の花」 「月の系譜」 
漲月かりの「BLOOD+ロシアンローズ」須賀しのぶ「帝国の娘」(この話だけ限定)
【Aの既読作品……苦手】 既読はないのですが、女王様と下僕というより
は姫とそれを守る騎士みたいなのでお願いします。
【Aの既読作品…その他】 前田珠子「破妖の剣」 ゲームですが、
Fateのアーチャーと凛のようなサポート系の主従でもいいです。
【A以外で好きな作品】 橘香いくのさん、谷瑞恵さんあたりが好きです。
あまり少年向けは読んだことはありません。フルメタルパニック、
オーフェンあたりは楽しく読みました。
【長編or短編】 せめて文庫1冊ぶんくらいの分量希望ですが、短編でもかまいません。
【好みの絵は】 絵はとくにこだわりません。
【古い作品は】 可
【ライトノベル以外は】可
【そのほかに】 主といってもあまり傲慢な女王様ではなくて、
従を信頼しているデレとツンならデレ分多目のかわいい娘さんでお願いします。
247名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 01:15:30 ID:5IeFs9Ky
948 :2006/05/07(日) 09:35:22 ID:6eltjvi1
>>945
星宿姫伝が姫と騎士だけど、騎士複数で逆ハー。
それでもいいならお薦め。

―――――――――――――――――――――――――――
949 :2006/05/07(日) 10:14:47 ID:TCmUbeNZ
>>945
「約束の柱、落日の女王」(いわなぎ一葉・富士見ファンタジア)

誰からも頼られてない若い女王と、
突然世界に現れた頼りになる騎士(主人公)の物語
既読作品ってのを知らないけど、一応合ってるのでは?
一巻完結だけど、同じ主人公の別世界の続編も出てる

 950 :2006/05/07(日) 11:12:09 ID:j8ge0pK1
 >>945
 >>949には悪いが、続編はあまり評判が良くないので、読むときは慎重に。
 自分は評判が悪いのを知りつつ、特攻して後悔したorz
 一作目は本当にオススメ。

 952 :2006/05/07(日) 11:20:59 ID:TCmUbeNZ
 >>950
 オレも2巻3巻買ってはいるが読んでないw

―――――――――――――――――――――――――――
956 :2006/05/07(日) 13:12:15 ID:tmesYMJm
>>945
「ちょー美女と野獣」(野梨原花南、コバルト文庫)とか。
・・・あ、これ男側は一応「元王子」だったか。
248名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 01:16:35 ID:5IeFs9Ky
957 :2006/05/07(日) 13:41:40 ID:6exnP87i
>>945
よし、ここへ逝け! 素晴らしい良作揃いだぞ!
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1124876079/
……いやごめん冗談です。

真面目なオススメ。
榛名しおり『マゼンタ色の黄昏』と『王女リーズ』
両方とも講談社ホワイトハートから出てる。一冊読み切り。

前者はハプスブルグの血をひく公爵夫人と宰相の
身分違いかつ不倫な許されざる恋。
設定だけ聞くとマダムとおじさまのお色気たっぷりなエロって感じだが
実のところ、どこまでも切なく綺麗なティーンの恋物語。
なんせ出会いは13歳だしな。けなげで誇り高い少女、
騎士道精神という要素に惹かれるなら即買いだ。
自分はこの人の作品ではこれが一番好きだ。

後者は処女王エリザベス一世と彼女の寵臣ウィリアム・セシル卿――
の、これまたティーン時代の物語。姉の迫害を受け
口がきけない第二王女リーズと護衛官セシル少年が主役カップル。
歴史ものとしてはイマイチだが恋愛ものとしては素晴らしい。
少年時代のサー・フランシス・ドレイクとかもいい。ちなみにリーズの母、
アン・ブーリン妃の主従の恋のエピソードも数行だが出てくる。
多分特にこっちが好みに近いと思う。
249名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 01:17:24 ID:5IeFs9Ky
959 :2006/05/07(日) 15:12:18 ID:KkUFaFXK
>>945
微妙にあってないかもしれんが。

毛利志生子「外法師」全五巻
外法師の少女(外見は)と彼女の父に拾われて以来その家に仕えるようになった従者、という組み合わせ。
ただし恋愛臭はあるけど薄い。
同作者の「深き水の眠り」シリーズも一応主従かも。従が人じゃなく蛇神みたいなもんだが。

高殿円「マグダミリア」
一応女王様とその教育係の話。
でも遠征王といい、ある意味「へタレ下僕系」なんだよなー。
でもおいしいところ取りはしっかりするので一応。

中華でもOKなら、
今野緒雪「夢の宮〜薔薇の名の王」「十六夜薔薇の残香」
夢の宮の薔薇シリーズは主従でいいと思う。

あとはでたばかりなので比較的手に入れやすい森崎朝香「玄天の花嫁」
国のため敵国の王の側室となった姫とその王室のために働くスパイみたいな形だが、
一応主従といってもいいんじゃないかと。

藤原眞莉「天帝譚」シリーズははじめはおてんば姫と横柄な教育係だった。
そのうち対等っぽくなり敵対したりもするが。

あ、明確な主従というわけじゃないが主従っぽいのが榎田尤利の「神話の子供たち」シリーズのサラ編。
未来で、運命の少女と呼ばれるサラと、彼女の血を輸血されたおかげで助かった青年が主従っぽい。
250名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 01:17:57 ID:5IeFs9Ky
969 :2006/05/07(日) 21:19:47 ID:YNpLs7jh
>>945
『風の歌星の道』冴木忍著・角川スニーカー文庫
お姫様の護衛をするハメになった盗賊の話。ヘタレではないがチンピラ。
あと絶版。

―――――――――――――――――――――――――――
999 :2006/05/08(月) 17:54:57 ID:VAdcatS4
>>945
藍田真央『黄金のアイオーニア 青き瞳の姫将軍』角川ビーンズ文庫

自治国ティレネを勝利に導く姫将軍として名高い少女アイオーニアと
美しい異国の傭兵の恋愛もの。多分条件にも好みにも合ってると思う。
一冊読み切りだしさほど高くないのでぜひ読んでみて。



いくつかかぶってるな。…つぅか誰だここに誘導してる957はw
251名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 01:23:11 ID:NFk+35Ku
誰も頼んでないのに暴走するのは止めましょう
252名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 01:25:17 ID:NtU0IrOr
うしおととらの外伝の1話の石姫と無明。
平安の姫と随身。恋愛かどうかは?だけど萌えるよ。
253名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 01:51:50 ID:lvK/dN14
>>250
それ自分だ。いや『アイオーニア』の方。

>>251
主従情報は多いほうがいいじゃないか。
絡むよりオススメ教えてくれよ。

>>252
同意。あの話ほんと好きだ。
吹雪様最高。何より無明がいい男すぎる。
254名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 09:51:25 ID:rtN/2nzc
『笑う大天使』川原泉・白泉社の和音と俊介が好き。

冷め切った両親の間に生まれた和音と、
親を亡くして当たり屋をやっているところを和音の父に拾われ、
秘書兼養育係となった俊介。
ある日降って沸いた和音の見合い話で互いの気持ちを自覚する。
255名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 10:17:45 ID:lQLdJVbE
>>254
 
「笑う大天使」は漏れも考えたが、キャラ名を忘れて言えなかった(恥)。 
和音の両親も、主従という訳ではないがそれに近いものがあった。 
プロポーズの言葉を間違えると、後々こういう事に‥
だったが(笑)中々萌える展開はこのスレ的に合致していると思う。
256名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 18:06:30 ID:N8sW47dR
少女マンガの方が女主男従多いのかな。
257名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 18:27:53 ID:9JIyUNFD
>>256
そういや少女漫画ネタが多いな。

んじゃ少年漫画から。GS美神の1エピソード
『ある日どこかで!!』のマリア姫とドクター・カオス。

不死の秘術を修めたほどの天才だけど世間にはまだ認められてない
錬金術師カオスと、彼のパトロンである田舎領主の一人娘マリア。

「しょせん人間一度は死ぬ〜(中略) ならば、惚れた相手と共に死ぬのもまた一興!」
「お供します、どうかご随意に!」

のやりとりがたまんね〜。姫との“その後”も泣かせる。
258名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 20:09:09 ID:sCKNHTaA
>>236の情熱にあてられたのか
「王女リーズ」「マゼンタ色…」を探して本屋三軒はしご。
どこにも置いてなかった…orz
259名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 23:23:42 ID:N8sW47dR
密林だ!
密林を探せ!!
260名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 23:56:45 ID:0mDXr+K4
『天使な小生意気』の美木と坂月もオススメ。
エロも恋もないけど坂月の忠実さがすごい。
主人公の恵も超お嬢さまなので男キャラを従者のように従えててイイ感じ。
261名無しさん@ピンキー:2007/02/18(日) 02:15:10 ID:p+pQuM6U
吸血姫美夕 
自分が少女と従順な大男の組み合わせが好きなのはここが原点な気がする
何かまず雰囲気がえろい
「新」でラヴァが一度離れた後、また自分の意思で下僕になるあたりとかが好きだった

>>257
GS美神読んだはずだけど思いだせない
何巻ぐらいの話?
262名無しさん@ピンキー:2007/02/18(日) 02:51:45 ID:epRJJmPG
スレはあるけどWのリリーナとヒイロが好きだ。
コロスと言ったり護るといったり行動の一貫しないやつで
話もトンデモだったけど未だに好きだ。
263名無しさん@ピンキー:2007/02/18(日) 03:23:02 ID:HOQbS+FK
てるてる×少年 高尾滋

現代まで続く忍の里のお姫様と、幼い頃にその姫に忠誠を誓った忍者の話
姫への恋慕を堪える姿が良い
でも結局我慢できてなかったりするんだけど
264名無しさん@ピンキー:2007/02/18(日) 09:05:17 ID:HZRY8PFp
ゲーム幻想水滸伝2のテレーズ&シン。
お嬢様市長と寡黙護衛。
あんまり活躍しないけど・・・。
265名無しさん@ピンキー:2007/02/18(日) 12:57:47 ID:iHLYMKkm
…古今東西には参加できん…が、主従に脳内侵食されている……
お嬢様と執事を考えて眠ったのに、見た夢は姫と騎士だった……何故だ

…これは書けという啓示なのか?
266名無しさん@ピンキー:2007/02/18(日) 13:25:18 ID:/5sWWhON
>265
それは書けという啓示だ。wktkしながら待ってる。

ゲームOKならGBA版ファイアーエムブレム聖魔の光石のゼトとエイリーク
陥落する王城から姫を連れて脱出する騎士(小説版では何気に馬同乗イラスト付き)
姫を護りつつ敵と戦って騎士が怪我したのを気遣って自分も強くなろうとする姫
支援会話に一喜一憂しつつプレイした。
267名無しさん@ピンキー:2007/02/18(日) 13:51:44 ID:628C7F60
>>266
支援Aでのえええeeeeeeeeッ!?ってのが後日談で大逆転だからな。
ゼトが問題にすべきは身分差よりも年齢差じゃないかと思うw
しかしやつのハイスペックはアレだな、本当に完治しない重傷の持ち主なんだろうか?
268名無しさん@ピンキー:2007/02/18(日) 18:00:09 ID:msQBnIb7
DQ4のアリーナ姫と神官クリフト。

おてんば姫をあたふたしながら追いかける青年神官に萌えたものよ。
初代4の姫様への恋心チラ見せがたまらなくストイックでいい。
小説版の押し倒し部分のみ神w
269名無しさん@ピンキー:2007/02/18(日) 19:51:18 ID:HZRY8PFp
>>268
自分もアリーナとクリフトが主従萌えの原点だなあ
これがなかったら主従にハマらなかった
エニックスありがとう。
270名無しさん@ピンキー:2007/02/18(日) 20:14:58 ID:W6UNfHkU
BASARAの銀子と柿人。無花果セツナス
271名無しさん@ピンキー:2007/02/19(月) 01:24:45 ID:YwynURn1
∀ガンダムのディアナ様とロラン
ディアナ様のおかげでお姫様萌えに目覚めた
ロランのおかげで従者萌えに目覚めた
最終回の2人の幸せそうな姿に感動してマジ泣きした
272名無しさん@ピンキー:2007/02/19(月) 06:25:23 ID:Ln1kI+CS
BASARAなら茶々と座木もそうだよね?
273名無しさん@ピンキー:2007/02/19(月) 09:02:44 ID:GFbob2iY
>>261
たしかコミクス16巻後半〜17巻前半のエピだったと思う。
読んで損はない。若カオス格好いいしマリア姫は神可憐だし(飛び蹴りするけど)。

もいっちょ椎名高志で。
『MISTERジパング』濃姫と光秀。

従兄弟で幼なじみで主従なんてたまらん。幼い時は肩車とかして遊んでやってた
姫なのに成長したら臣下の侍として忠誠を誓ってる光秀がいい。

ただ惜しむらくは濃姫が光秀を別に何とも思ってないところ……orz
ここまで設定あったらひそかに愛しあっててもいいのになぁ。
274名無しさん@ピンキー:2007/02/19(月) 09:37:08 ID:lc0oLT1N
仮面ライダーが“家来”に変身
2月19日6時5分配信 スポーツニッポン


 今年1月まで放送されたテレビ朝日「仮面ライダーカブト」に主演した水嶋ヒロ(22)が、
ライダー卒業後初のドラマでラブストーリーに挑むことになった。
番組は、3月23日放送の同局「彼女との正しい遊び方」(後11・15)。
黒川智花(17)が演じる幼なじみの“家来”という役どころ。
仮面ライダーからの“変身”ぶりが注目される。

 仮面ライダー史上、最強にして最高の“オレ様”キャラから一転、
水嶋が、わがままな女の子に振り回される高校生・恭史役に挑戦する。
番組は、同局が主催する昨年の新人シナリオ大賞に選ばれた作品。
黒川演じる優奈と恭史は小学生の時、2人きりの時は姫と家来になり、
誰かに知られるまでその関係を続けるゲームをスタート。
高校生になっても約束を守っている2人の恋愛模様を描く。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070219-00000022-spn-ent
275名無しさん@ピンキー:2007/02/19(月) 09:55:48 ID:FExzkjlt
>>258
『王女リーズ』はいいぞー。
自分は姫スレの過去ログで紹介されてた時の
「姫+主従要素」というワードに反応して読んだんだけど
マジ悶えまくった。リーズ可愛いよリーズ。
ちと古い本だから新刊書店よりもブックオフの方が
見つけやすいかも。たぶん105円で手に入るよ。
>>272
あ、うっかりしてた。あれも激しくツボだ。
子供時代の回想とか炎に飛び込んでいくシーンとか
すげえ好き。何より座木さんのヤキモチ萌え。

地味だがアルスラーン戦記のイリーナとヒルメス。
イリーナ身体弱いのに身籠もってたんだよな。
この二人のベッドシーンは気になる。
276名無しさん@ピンキー:2007/02/19(月) 12:06:38 ID:Im6+jlFY
ロマサガ3のシャールとミューズいいよいいよ
没落貴族の令嬢と利き腕不自由な騎士が
一つ屋根の下に住んでるだなんて、そんな
277名無しさん@ピンキー:2007/02/19(月) 21:57:15 ID:HNkS4Ut7
Fateの赤い主従。
あの関係は燃えというか萌えというか、すごくいい!!
278「十六夜慕情」・1:2007/02/20(火) 01:01:50 ID:w2hPVJJa
古今東西に参加したいが、主従カップルが思い浮かばない。
その代わりにSS投下していきます。

お嬢様×使用人息子。エロはあり。

-------------------------------

「十六夜慕情」

 1.

 四季折々の花が咲く整備された美しい庭。
 雑草一本生えていない芝生の間を縫って歩き、ようやくたどり着ける西洋風の白亜の屋敷。
 ここは明治から続く旧財閥系の企業グループ総帥の屋敷。
 そして凌一(リョウイチ)はそのお抱え庭師の息子だ。敷地内の北のはずれにある使用人たちの住む長屋の一室に、家族で住まわせてもらっている。
 高校2年生だが、学校にはほとんど通っていない。家族と住む部屋に帰ってくることも少ない。
 ただ数週間に一度、この家の末っ子である和花子(ワカコ)が全寮制の女子高から帰ってくる時を除いて。

 和花子は屋敷に帰ってくると必ず、裏庭の奥にある小さな東屋に凌一を呼び出す。
 東屋にはもちろん使用人は不要に立ち入ることは禁止されている。
 子供の頃から庭師であった父親の仕事について手伝いをしていた凌一は、その東屋の庭に咲く花が好きで、たまに目を盗んでは花を見ていたのだ。
 咲いている花は野の花で、初めて和花子に出会った時は蓮華草や白つめ草などの可憐な花が咲き乱れていた。
 その周りを父が手入れをしている豪華な色とりどりの薔薇の垣根が囲んでいる。
 幼いある日、父の仕事の手伝いが嫌になり、腹立ちまぎれに蹴飛ばした庭の彫刻が欠けてしまったのを見て青くなっていた時だった。
 がさりと音がして、はっと凌一がそちらを振り向くと、そこには白いワンピースを着てふわりと髪を風になびかせている天使がいた。
「どうしたの?」
 凌一に笑いかけるその声まで、鈴のような美しさだった。
 結局、和花子が屋敷の主人に謝ってくれて事なきを得た。
 その後にこっそり凌一を覗き見て、ぺろりと舌を出して笑った和花子に、どうしようもないほど惹かれていった。
 この人のためならなんでもしようという本能が芽生えた瞬間でもあった。
 それ以来、和花子はよく凌一をこの東屋へ誘い、ふたりでお茶を飲んだり本を読んだりとして過ごす。
 凌一は父に内緒で和花子のために花を手折ってやり、欲しいものがあるといえば取ってきてやる。
 和花子が優しい時間を凌一に与え、凌一は献身的な愛を和花子に注ぐ。たった数年の、穏やかな日々だった。
 使用人の息子とあまりにも仲が良いことを屋敷の主人が懸念し、和花子は全寮制の高校へ入れられた。
 残された凌一は、学校に通うこともほとんどしないまま父の仕事を手伝っていた。そのうちに荒んでいき、暴力にあけくれるようになる。
 東屋は凌一が荒んでいく姿に合わせて寂れていき、庭だけが美しく輝いていた。
279「十六夜慕情」・2:2007/02/20(火) 01:02:52 ID:w2hPVJJa
2.

「また喧嘩したの? 凌ちゃん。ホラ、ここ怪我してるわ。大丈夫?」
 屋敷へ帰る前に必ず手紙を書いてよこす和花子が、裏口から屋敷に戻った凌一を見つけて駆け寄った。
 既に太陽は沈み、月が出ていた。
 凌一はふてくされたまま何も言わない。
「最近、ここに帰ってきてないって聞いたわ。どこにいるの?」
「お嬢さんには関係ない」
 和花子へのささやかな反抗は、彼女を「お嬢さん」と呼ぶことだ。
 そう言うといつも彼女は、あなたまでそんな風にわたしを呼ばないで、と綺麗な眉を上げて怒る。小さな赤い唇を尖らせ、桜色の頬を膨らませて。
「わたしには名前があるわ」
「でもあなたは屋敷のお嬢様で、俺はその使用人の息子だ」
 頑なに抵抗してみても、どうせすぐに凌一の負けでこの舌戦は終わる。
「どうしてそんな哀しいことを言うの」
 さっきまで上がっていた眉が今度は下がり、尖らせていた唇はわなわなと震え、大きな瞳の縁には透き通った涙が溢れ、頬に零れんばかりだ。
「確かにそれは事実だけど、でも、わたし……」
 白く細い手が凌一の胸に添えられる。温かいぬくもりのある手だった。Tシャツ一枚の凌一の胸にそのぬくもりが伝わってくる。
 きっと自分の胸の高鳴りも和花子に伝わっているに違いない。
 もうこれだけで、凌一は負けを認める。最初から勝てる気も勝つ気もないのだ。
 凌一にとって、和花子を悲しませることは一番の罪悪だ。逆に、和花子を微笑ませるためなら、何でもできる。
「すみません」
 謝ると、和花子が涙をぬぐって凌一を見上げて微笑み、そっと胸に寄りかかってくる。
 これが和花子でなければ、身体を抱きしめて唇を奪い、そのまま押し倒すところだ。
 ぐっと拳を握って衝動を堪える。荒々しく和花子の身体を押しやった。
「あんまり俺に近づくと、また旦那様に怒られますよ」
「いいの。でもあなたが怒られちゃうわね」
「俺はもうほとんどここには帰ってないですし。どうでもいいですよ、俺のことなんか」
「良くないわ。わたし、あなたが心配で」
 東屋の庭の上に座ろうとするので、凌一はTシャツの上に羽織っていた薄いシャツを脱いで、芝生に引いてやった。
「ありがとう」
 にっこりと笑いかけられる。もう一度拳を握り、心を落ち着かせようと空を見上げた。
 すると和花子も凌一に習って夜空を見上げる。
「今日は、十六夜なんですってよ」
「いざよい?」
 芝生に座り、和花子は話し始めた。
 満月の次の日のほんの少し欠けた月。一晩中出ているから「不知火月(いざよいつき)」とも書く。
「ずっと月明かりで明るいから、夜を知らないって意味なんだって」
 月明かりが和花子の顔を照らし、白い肌が透き通り、からすの濡れ羽色の髪が夜に解けていく。
 昔和花子に読んでもらった御伽噺の、月からきたお姫様のようだと凌一は思った。
280「十六夜慕情」・3:2007/02/20(火) 01:03:51 ID:w2hPVJJa
3.

 じっと黙っていた和花子が、距離を置いて座っている凌一を見つめた。
「凌ちゃん。わたしが今日なんで帰ってきたか、わかる?」
 嫌な予感がして、答えることをためらった凌一は、長いこと押し黙ったあげく、吐き捨てた。
「知るもんか。俺には関係ない」
 それを聞いて和花子が小さく哂った。
「そう……そうね……。凌ちゃんには関係ないのよね」
 スカートを握り締めた手に力がこもっている。
「明日、お見合いするの。お見合いっていったって、もう決まってて、単なる顔合わせ。高校卒業して、短大を出たらその人のところへお嫁にいくの」
「へ……え」
「もう決まってるの。決められてるのよ。もうすぐ世紀末だっていうのに、信じられないわよね」
 風が吹き、垣根が揺れた。和花子の長い髪が風にそよぎ、その風に逆らうように和花子は頭を振る。いやよ、いやなの、と。
 じり、と和花子がにじり寄ってくる。月がうす雲に隠れ、あたりが少しだけ暗くなる。
「お、お嬢さん……」
「和花子よ」
 にじり寄ってきた、ずっと大切に見守り、見つめてきた和花子がすぐ目の前にいた。吐息さえも感じられる。
「お父様はね、もう、すぐにでも籍をいれさせるなんていうのよ。
 自分たちの汚いお金と権力への欲望のために結婚させるくせに、わたしには身も心も綺麗なままでいろっていうの」
 和花子の小さな手が凌一の胸を叩く。握っても小さく力のないその拳が、凌一の理性を叩いて壊していく。
「わたし、そこまでお父様の思い通りにはなりたくない。凌ちゃん、お願い、わたしを抱いて」
「お嬢さん……」
「和花子よ」
 普段は優しく柔らかなくせに、これと決めたら絶対に自分を曲げない人だった。
 ずっと握ってきた拳も、もう限界だった。
「俺なんかで、いいんですか」
「あなたがいい。ううん――あなたじゃなきゃいや。凌ちゃん、あなたじゃなきゃ、いやなの」
 うす雲に隠れていた月がもう一度顔を出し、銀色の明かりの下で、凌一は初めて和花子の身体を抱きしめた。
 抱きしめたその身体は、細くて軽くて折れそうだった。だが、ただただ、温かかった。
281「十六夜慕情」・4:2007/02/20(火) 01:05:08 ID:w2hPVJJa
4.

 和花子の頬を手で包み、唇を指でなぞる。ふっくらと柔らかな唇を軽く吸い、一度唇を離す。
「凌ちゃん……」
 潤んだ瞳で和花子が凌一を見る。
 力任せに身体を引き寄せ、背中を撫でながら口を割り舌を差し入れた。
 ためらいながら凌一の舌に和花子は自らの舌を絡めてくる。
「ん……ふ……ぅん」
 和花子が凌一のTシャツの背中を握り締めた。舌を吸ったまま、和花子が着ているブラウスのボタンに手をかける。びくりと和花子の身体が震えた。
 ためらいがちに手をとめると、和花子が手を重ねた。唇を離し和花子を見ると、微笑んで頷いた。
 いいのよ、大丈夫。わたしに任せて。
 同い年のくせに和花子が姉さんぶって言う時の顔だ。だがどこか不安気に瞳が翳っている。
「大丈夫。俺に任せてください」
 今日は凌一が同じ科白を言った。雷が鳴り響いて怯える和花子をなだめる時のように、優しい顔で。
 ゆっくりとボタンを外し、服を脱がせて下着を剥ぎ取る。月明かりに小さな乳房が揺れた。
 お互いの服を全て脱ぎ捨て、ふたりはもう一度唇を重ねた。凌一はそのまま和花子の首筋に唇を這わせた。和花子の指が凌一の肩をすべる。
 乳首を口に含み、硬くなったそれを甘噛みする。
「はぁ……ッん」
 もう片方の乳房を揉みしだき、空いた手で和花子の腰を撫でる。その手が和花子の茂みにたどりつく。その瞬間、和花子の身体がびくりと跳ね上がった。
 もう一度唇を重ねた。そうやって和花子の怯えを少しでも和らげてやりたかった。
「俺に身体を預けて。大丈夫。俺が、あなたを傷つけたことはないでしょう」
「うん……」
 言われるままに力を抜いて凌一の身体に和花子はもたれかかってきた。首に手をかけ、ぎゅっと凌一の頭を抱きしめている。
 和花子の背中から腰へと手を移動させ、そっと地面に広げた自分のシャツの上に和花子を横たえた。
 粘着質な水音をたてて、凌一は和花子のまさしく花をまさぐり、熱くたぎった泉の中へと指を進める。
 柔らかくほぐれるように。痛みが少なくなるように。
「ん……ああ、あぁ」
 喘ぎ声が凌一の耳朶を打ち、既に大きく硬くそそり立つ男根に更に血が集中していく。その根元に手を添えて、凌一は蕩けきった和花子の入り口へ先端をあてがった。
「息を吐いて、力を抜いて」
 少しづつ少しづつ、時間をかけて凌一は和花子の中へ男根を差し入れていった。凌一の背中に痛みが走る。和花子が爪を立てているのだ。
 のけぞり、脚を開き、自分の下で破瓜の痛みに耐えて顔を歪めている和花子のまぶたに口づけた。
 男根を締めつける和花子の中を掻き分けて、ゆっくりと奥へ、奥へと凌一は快感を求めて進む。
 ようやく最奥に突き当たった瞬間、和花子が背中をのけぞらせた。
「あぁぁ……ぁ……はぁッ」
「――和花子」
 たぎる思いを吐き出すように言うと、荒い息をしながら和花子は瞼を開いた。
「初めて、名前で呼んでくれたね」
「何度だって、呼んでやる。何度だって、何度だって……」
「嬉しい……凌ちゃん」
 欲望のまま激しく突き上げないようにと注意しながら、和花子の中を行き来する。その度に和花子は苦悶と官能の間で揺れ動く表情を見せた。
 和花子、和花子、と何度も名前を呼びながら、凌一は己の先端に集中し、熱くぬめりながら抱きしめてくる和花子の襞の間を動く。
「あぁ、好きよ、大好きよ、凌ちゃん……ッ」
 凌一の名前を叫び、和花子はもう一度のけぞった。凌一の身体に回していた腕に力がこもり、白い喉を月にさらけだした。
 その喉にキスをして、凌一は和花子の中から弾けんばかりになっている男根を抜き、芝生の上に白濁の証を撒き散らした。
282「十六夜慕情」・5:2007/02/20(火) 01:09:48 ID:w2hPVJJa
5.

 汗だくになった身体同士で、お互いの汗をこすり合わせるようにして抱き合った。
 何度も口を吸い、舌をどれだけ絡ませても物足りないと和花子は凌一から離れようとしなかった。
 あるいは気づいていたのかもしれない。手を離せば飛んで消えてしまうほど儚い夢であることに。
「風邪、引きますよ」
 脱ぎ捨てた自分のTシャツで和花子の身体をぬぐう。名残惜しそうに和花子は身体を離し、服を着た。凌一も下着とズボンをつけ、立ち上がった。
「ねェ」
 和花子が何かを言おうとする前に、口を塞いだ。
「俺が必要な時は、いつでも俺を呼んでください。どこにいても、あなたの元へ飛んでいきます」
 不安な夜があれば、今夜のことを思い出せばいい。いつだってあなたのそばにいるから。
 凌一の喉仏に和花子が触れた。
「俺は、いつも、いつまでもあなたのものです」
「凌ちゃん、わたし」
「お幸せに。あなたが幸せであれば、俺も幸せです」
 そしてきびすを返し、少年時代の思い出が詰まった東屋の庭を立ち去った。
 途中長屋の自宅へ寄り、シャツを見つけてそれを羽織る。既に寝ていた両親には声をかけずに、扉を閉めた。


 そのまま屋敷を出て、ある男を捜して街を歩いた。
 その男は、小さなビルの地下にあるプールバーにいた。狭いフロアに置かれたビリヤードの台に向かって球をついている。
「まだあの話、いきてますか」
「ああ? 俺の舎弟になれって話か?」
「はい」
 男は凌一を上から下まで眺め、最後に凌一の顔をじろりと一瞥した。
「おい、マイヤーズもってこい。ロックグラスにストレートでな」
 カウンターの中のバーテンダーへ声をかけた。
「そのうちうちのオヤジから盃もらえるように頼んでやるよ」
 男がラムを半分呷る。
「俺は、あなたの兄弟分になるつもりはありません。子にしてください」
「そうは言ってもなあ……。ふたり親を持つわけにいかないぜ」
「なら、飲み分けではなくて七三でも六分四分の兄弟で」
「わかったわかった。オヤジに言ってみるさ。じゃあ、先に俺から盃渡しとくぜ。そのうち俺が組を立ち上げた時には、お前がナンバー2だ」
 もう一口男はラムを飲み、グラスを台に置くとキューで凌一のほうへ押しやった。
 手元に滑り込んできたダークブラウンの液体を凌一は飲み干した。
「よろしくな、辻井(ツジイ)」
「はい。よろしくお願いします」
 男が勢いよくキューを玉に当てた。玉はラシャの上を転がり、全ての玉がポケットに吸い込まれていった。
 こうして、島津(シマヅ)と凌一は兄弟分となった。
283「十六夜慕情」・6:2007/02/20(火) 01:15:51 ID:w2hPVJJa
6.
 
 東征会幹部の木崎組組長である木崎親分から盃をもらい、極道として生きていた辻井の耳に、短大を卒業した和花子が結婚したという噂が届いた。
 白いウェディングドレスが青空に映えて、花婿も花嫁も幸せそうに笑っていたと、聞いた。
 その姿を想像して、よかったと思う反面、狂おしいほどに花婿に嫉妬している自分もいた。
 あの唇を。あの胸を。あの腰を。あの熱い中を、彼女の全てを独占する男に。
 共に達し、彼女の中にそのまま吐き出しまどろむことができる男に。
 もう一度もしも会うことがあっても、それでもまだ和花子は俺を求めてくれるだろうか。
 そんな不毛な疑問を首を振って頭から消し、辻井は他の女を抱く。愛情はかけらも抱けないが、孤独と空虚を少しでも癒すために。


 下積みの期間を終え、組の中でも島津と共に実力を認められてきた頃、もう何年も連絡を取っていない父親が辻井を訊ねて来た。
「お嬢さんから手紙だ」
「冗談はよしてくれよ」
「冗談なんかじゃない。お嬢さん、離縁されて戻ってきてるんだよ、屋敷に」
 手紙の内容は分かっている。いつものところで待ってるわ。その1行だけだ。
 辻井は屋敷へ向かった。
 懐かしい東屋は、成長した今となっては小さく感じた。その小さい庭に、彼女はいた。げっそりとやせ細り、虚ろな目をして。
 ヤクザとなった今の辻井には馴染みともいえる姿だった。
 麻薬に犯され、支配された人間の姿をして、和花子は座っていた。
 抱き上げると人間とは思えないほどの軽さで、言い知れぬ怒りと絶望が腹の底から湧き上がってくるのがわかる。
「りょうちゃん……?」
 ねェ、つれてにげて。あの夜に戻ったように和花子はそう呟いた。にげて。にげて。いっしょににげて。つれていって。
 そう呟いて、震えながら和花子は空を見る。もう目の焦点があっていない。辻井を見つめてくれた瞳はぽっかりと虚空を映すだけになっていた。
 あの時和花子の言葉を遮らなければよかったと、今更ながら後悔の念にかられる。
「そばを離れてすみませんでした。もう決して離れません。もう二度と、離しません」
「うれしい……りょうちゃん」
 たった一度だけ抱いた夜と同じことを和花子は辻井の腕の中で言った。
 もしもまた会うことがあったなら、もう一度彼女のぬくもりを感じられるかもしれない。
 果てしない孤独を癒していたそんなわずかな希望が、遠くないいつかには消えてしまうことを、辻井は悟った。


 島津とごく身近な兄弟分に祝福されてふたりは結婚したが、その1ヵ月後、和花子は狂い泣いて病院で死んだ。
 十六夜の月が空に輝く夏の夜だった。
 かぐや姫は月に帰る時、不老不死の薬を愛した帝に送ったが、帝はそれを一番天に近い山頂で燃やしてしまったという。
 そして帝は悲しみに打ちひしがれて詠う。
 
 あふことも涙にうかぶわが身にはしなぬくすりも何にかはせむ(「竹取物語」より)

 死なぬ薬どころか、確実に身体を蝕む薬で辻井の大切なお姫様は天国へ逝ってしまった。
 そう。もう会えないのなら、何があったとしたって、役には立たないのだ。
 胸が張り裂けるとはこんな気持ちなのか。
 辻井は生まれて初めて、声を出して泣いた。
284「十六夜慕情」・7:2007/02/20(火) 01:23:43 ID:w2hPVJJa
7.

 薬物に走り死亡した和花子だったが、対外的には病が原因で離縁され、亡くなったことになっている。
 今日は命日だというのに、家族の誰かが来た気配もない。いつものことか、と辻井は肩をすくめた。
 初めて結ばれた時も、和花子が亡くなる時も空で見ていた十六夜の月が出ている夜中に、毎年辻井は墓参りにくる。
 花を供え、水をかけて線香を焚く。手を合わせて立ち上がると、後ろから声がした。
「もう11年か」
 島津が花を持って立っていた。同じように線香を焚き手を合わせて、辻井の隣に並んだ。
「オヤジ。来て下さったんですか」
「当たり前だ。お前の嫁さんの祥月命日だ。忘れるかってよ」


 寂しくて、寂しくて、堪らなかったの。わずかに正気に戻るといつも和花子はうわ言のように言った。
 誰もわたしを見てくれない。あなたみたいに優しく抱いてくれない。寂しかったの。
 ごめんなさい。弱いわたしを許して。ごめんなさい。
 孤独を味わっていたのは自分ではなかったのだと、辻井は知った。愛されて幸せにしていると思っていた分、悔しくて哀しかった。
 その後島津は和花子の嫁ぎ先の家の乗っ取りを開始した。ありとあらゆる手を使い、島津はそれを成し遂げた。
 取引先、取り巻き、バックボーン、会社、家族、友人、愛人、自宅、資産。
 辻井と共に怒ってくれた島津は、全てをじわじわと奪っていった。
 結果、和花子の夫であった男は、借金で首が回らなくなり車で海へ飛び込んだ。
 味わえばいい。大切にしていたものを奪われていく絶望を。
 知るがいい。希望は常にかなうわけではないことを。
 男が海に飛び込んだ翌日、辻井は男の会社の代表権を引き継いだ。


「ひとつだけ、今でも後悔していることがあるんですよ」
 墓地を歩きながら辻井は言った。何も言わずに島津は辻井の一歩前を歩いていく。
「和花子の前を立ち去る前に、俺は何故か、自分の思いを告げていなかったんです」
 すきだ。
 たった3文字の言葉なのに、その言葉を口にすることをためらってしまった。そのことが未だに悔やまれる。
 結局、和花子は辻井の愛情の言葉を聞かずに死んでいった。正気を失ってから何度告げようと、もう彼女には聞こえていなかっただろう。
「なんで、ためらってしまったのか、今でもわからないんですよ」
 じゃり、と音を立てて島津は立ち止まった。
「満月の夜よりも少し遅い時間に、ためらいがちに出てくるから十六夜っていうんだろ。いざようってのはよ、ためらうって意味もあるんだ」
 ふと空を見上げ、ぽつりと言った。
「ちょっとの間しか知らないが、お月さんみたいな子だったな。満月じゃなくて十六夜の月だなんて、控え目でいいじゃねェか」
 帰ろうぜ、夜の墓場はヤクザでも怖え、と島津はおどけて歩き始めた。
「そのためらいがなければ、満ち足りてたかもな。――まあ、次があるんなら、そん時はためらうなよ」
 この男のためには何があってもためらわないようにしようと、歩き出した島津の後ろを辻井はついていった。


―――了
285名無しさん@ピンキー:2007/02/20(火) 01:24:49 ID:w2hPVJJa
以上です。

本編も頑張ります……。
286名無しさん@ピンキー:2007/02/20(火) 01:49:32 ID:6Z3F36uD
面白くてびっくりしたGJ
短編ですっきり終わるのもいいなぁ。
287名無しさん@ピンキー:2007/02/20(火) 02:25:03 ID:hu4wCTjM
>>285
GJ!!
何かと思って読み始めたら、辻井の過去話だったとはビックリ!
切ない、切ないよ、辻井〜っ!
これ読んでから本編読むと、また感慨深いですな…。
マジGJ!!萌えと切なさが止まらない。
288名無しさん@ピンキー:2007/02/20(火) 09:01:47 ID:Esj3+MsQ
うぉ〜極道ものいいな!切ねぇえ、GJ!
辻井ならボンドとかゴルゴみたいに毎回ヒロインが変わってもいいかも。

ついでに極道つながりで主従古今東西
『くじびきアンバランス』
律子(会長)&如月香澄(副会長)

詳細はググルでよろ。会長かわいいよ会長。
大分雰囲気は違うけど副会長が極道の娘。
クールだけど会長のことが大好き。
289名無しさん@ピンキー:2007/02/20(火) 11:58:14 ID:ruwpuKRm
GJ!GJ!
凄く良いものを読ませ頂きましたー!
『本編』も是非読みたいのですが、どこにありますか?ごめんなさい、どなたか教えて下さい!
290名無しさん@ピンキー:2007/02/20(火) 12:35:24 ID:NRB/uS6V
You、過去スレならともかく今スレくらい探そうぜ。
でも主従スレらしくジーヴスになってやるよ。

Yes, ma'am. Main story is here.
>>26-36,>>121

翻訳サイト使ったから英語の変さは気にするな。
291名無しさん@ピンキー:2007/02/20(火) 12:56:38 ID:8PGjHxvR
>>290 惚れた。
是非我が屋敷に仕えてくれ。
……ワンルームだが……
292名無しさん@ピンキー:2007/02/20(火) 15:39:30 ID:vNO9kwdp
お嬢様と執事、始まりの始まりを投下する。…短いが。
エロはなし。ちびっ子だから。

始まりの始まりのため、名前は意図的に出していない。
293Il mio augurio:2007/02/20(火) 15:40:16 ID:vNO9kwdp
かつてないほどに優しく柔らかく、頭を撫でられる感触に、少年はゆるりと重い瞼を押し上げた。
「め、さめた?」
さらさらと落ちかかる夜闇の長い髪と夜の海を模した瞳の少女が顔を覗き込む。
少年は驚き、身を退こうとするが身動きすらままならず、眉を顰める。
「うごいちゃだめ。おねつがあったの」
拙い口調で告げられる言葉。
反芻するように目を閉じ、そうして思い出す。

あの、雨の降る朝のことを。
腕を掴まれ、引き摺るように歩かされ。
車に押し込まれて知らない土地に連れて行かれ、通りかかった公園に降ろされた。
しかし、少年は無感動に走り去る車を見送った。
公園のベンチに座り、激しさを増していく雨に打たれながら、ぼんやりと考える。

――――これで終わる、と。

考えることに疲れ、希望を持つことすらできず、何もかもを諦め――どうでもよかったのだ。
むしろ、楽になれる…と思ったほど。
雨に打たれ続けて意識をなくした後、この少女が見つけたのか、と少年は納得する。



改めて見回せば、少年が暮らしていた所と遥かに違う広い部屋と高そうな家具。
そしてふわふわと柔らかく自分を包み込む寝具。
「…こ…は…」
「ここ?ここはわたしのおうち。あなたをみつけてつれてきたのも、わたし」
掠れて聞き取り難い声であるにも関わらず、少女は理解したらしい。
同じ年頃の子供より、遥かに聡い印象を受ける。
「しばらくあんせいにしてなさい、って、せんせいがいってたの。だからね、ゆっくりおやすみしていいよ」
優しく優しく撫でながら、少女は言葉を紡ぐ。
あまりにも優しい少女の仕草に、疲れ切った少年がうとうとと微睡み、眠りに落ちるのにさほど時間はかからなかった。





少年の容態が落ち着いて話ができるようになり、屋敷の当主たる老人が話を聞こうと少年を休ませている部屋に向かうと、すでに先客があった。
少年をずっと気にしていた少女だ。
話をしたがる少女の為に膝をつき、その話に耳を傾ける。
「…本気かな?」
少女の話を聞き、抑えた声で問いかけると、すぐさま答えが返ってくる。
「うん。あのこがいいの」
「……彼が起きて、自分のことを話してくれなければ決めようがないことは、わかるね?」
窘めるように、宥めるように言い聞かせる。
「うん、わかってる。わたしはのぞむだけで、きめるのはあのこ。……でもねぇ、おじいさま。あのこ、だれかそばにいたほうがいいとおもうの。…………まいごなの」
「迷子、か…。…しばらくは家で預かるから、そんなに気になるなら、傍にいてあげなさい」
「うん!おじいさま、だいすき!」
きゅう、と抱きついてくる少女を抱き締めて頭を撫でながら、ベッドに眠る身元の知れぬ少年のことを見つめる。
あんな雨の中……もしも少女が見つけなければ、次の日の新聞には少年の死亡記事が載っていたはずだ。
厄介なものを拾ってきた、と思いつつも、少女の望みならできうる限り叶えてやりたいとも思うが、そう簡単なことではなく…。
294Il mio augurio:2007/02/20(火) 15:41:51 ID:vNO9kwdp


密やかな話し声に、元より眠りの浅い少年は意識を浮上させて身じろいだ。
「あ、おきた!」
ぱたぱたと軽い音を立ててベッドに駆け寄る少女を感慨なく見やる。
よいしょ、という掛け声と共に、少女はベッドによじ登り、じ、と少年の顔を見つめた。
「おはなし、できる?」
きょとりと首を傾げ、問いかける。
「話?…何?」
「あのねぇ、おなまえ!ずっとききたかったの」
名前……そう呟き、少年は考え込む。
「?…おなまえ、わすれちゃった?」
「忘れて、ない。……わからない」
「わからない?どういうことか、言えるかね?」
「呼ばれたこと、ないから」
「ご両親は?」
「……母という女と、その女の男なら、知ってる」
あまりの物言い。
窘めようにも、その昏い表情に言葉が出ない。
「僕は、あのまま死んでよかった……誰も、要らないから…」
「だめ!」
少女が叫ぶ。
「あなたがいらないなら、わたしにちょうだい?」
「これ、やめなさい」
窘める声が聞こえているだろう少女は、しかし言葉を止めなかった。
「わたしが、いる、っていう。わたしがあなたのそばにいる。ずっと、そばにいる」
少女はその手で、きゅ、と少年の手を握り締める。
「ふたりでいれば、まいごにならなくていいの。そうすれば、さみしくないでしょう?かなしくないでしょう?……ね?」
「僕が、要る……?」
呆然としながら、少年は問いかける。
「うん、いるの。いてほしいの」
「………要る?」
震える声で、もう一度同じ問いを口にする。
「わたしのそばにいて」
少女はわずかの迷いもなく、きっぱりと口にした。
「っ!」
涙が、零れた。
後から後から、とめどなく。
涙腺が壊れたのではないかと思うほどに。
少年が意図したものではない。
真っ直ぐに、ひたむきに望まれたのことのない凍えた少年にとって、それはまさしく衝撃だった。
世界が変わってしまうほどの。
しかしそれを為した少女は、目を瞬き、首を傾げるのみ。
「ねぇ、だめ?」
首を傾げたまま、少女は更に問いかける。
必要としてくれるこの少女の傍にいることが、とても素晴らしいことに思えた。
しかし、声は音にならず、ただ頷くことしかできない。
もどかしく思いながらも、何度も何度も頷く。
零れる涙、そのままに。


すべてを否定され続けた少年にとって、必要とされたのは初めてのことだった。
295Il mio augurio:2007/02/21(水) 15:54:01 ID:KXtJp9OY

「……仕方のない子だ……」
ふぅ、と溜息をつき、少女の頭を撫でながら苦笑する。
少女がこれほどに執着するものはあまりない。
しかも、人間にとなると、稀少、といっていい。
しかし、その執着する人間に名前すらないとは。
いや、調べればわかる。老人にはそれを為すだけの力がある。
後々問題があっては困るので、無論内々に調べるが。


「でも、こまったの。…わたし、おなまえよびたいのに、よべないの……」
名前を呼べないことがよほどに悲しいのか、しゅん、として呟く少女。
その様に、つきん、と胸のどこかが痛んだ気がするが、少年にはどうしようもなく。
「そうだな、名前が呼べないのは不便だな」
「ねぇ、おなまえ、どうしよう?」
「別に…どう呼ばれてもいい」
「だめなの!おなまえはだいじなの」
なんだかおかしなことになった、と思いつつも少年が答えると、すぐさまダメだと言われてしまう。
はぁ、と溜息をついて答える。
「でも、何がいいかなんて、わからない」
「なら!わたしといっしょにしよう!」
「一緒?僕は、一応男だけど……」
同じ、といわれても、この少女と同じになど出来ようはずもない。
少年は男なのだから。
「うん、わかってるよ。だからね、おんなじじをつかうの」
「同じ?」
「そうなの。……ねぇ、おじいさま。おんなじじで、おなまえ、かんがえて?」
困る少年にくすりとし、老人は助け舟を出してやる。
「暁、の字で、かな?」
「うん!」
「わかった、わかった。考えてあげよう。…君もそれでいいかな?」
こくりと頷く少女に笑みかけ、老人は少年を見る。
特に異論はない、というより、どうでもいい少年は、こく、と頷いて肯定の意を伝える。
少年が頷いたのを見て、老人は考え出す。

しばらく考え、ひとつ頷き。
「暁良、というのはどうかな?」
「あきら?」
「どうかな?」
あきら、あきら…と、繰り返し呟き、こくり、と少女は頷き。
「あきら……うん、いいね。きれい」
「君はどうかな?」
「暁良……。僕が、暁良?」
「うん、あきら。………やだ?」
困ったように少女を見つめ。
「いい、けど…僕、君の名前、知らない」
「あ!そうだった!あのね、わたし、はつせ ときか、っていうの」
「名乗るのが遅れてすまなかった。……私は泊瀬由貴(よしたか)、という。この屋敷の主だ」

296Il mio augurio:2007/02/21(水) 15:54:50 ID:KXtJp9OY

苦笑しつつ、由貴は重ねて言う。
「とはいえ、名前だけではどうにもならないのはわかるかな?」
「名前があっても、いないのと同じ…」
「そう。君が君のことがわからなければ、戸籍、というものがない状態と同じだ。」
「戸籍…」
そんなもの、どうやって得ればいいのか、見当も付かない。

「私に提案があるのだが、聞いてみるかね?」
「提案?」
「君に、戸籍を用意してあげよう。欲しいなら、養い親もな」
もっとも、と更に続ける。
「君が以前の名前を知りたい、元の所に帰りたい、というならば、そちらを調べよう」
は、として暁良は由貴を見上げる。
今、この人は何と言った……?
半ば呆然としつつ問いかける。
「わかる、の…?」
「わかるとも」
「いい、いらない。戻っても、きっとまた捨てられる」
「そう、か。ならば、暁良になるか?」
「なる。そのほうが、きっといい」
「誕生日は今日で良いな?」
「うん、今日でいい。今日が僕の生まれた日」
「では、手配することにしよう」
「でも……戸籍って、そう簡単に手に入るの?」
「腹を決めてしまえば、私にとってその程度のこと、造作もないでな」
含みのある言い回しが引っかかるが、気にしないことにする。
ふと、見下ろすと、話についていけなかったのか、暁香は眠っていた。
暁良の服を、きゅぅ、と握り締めて。

それを見つつ、暁良は呟く。
「でも、僕には返せるものがない」
「心配せずとも良い。この子……暁香の相手をしてくれればな。そろそろ、側仕えがいると思っていたのだ」
「側仕え?」
「暁香の兄には我が家に代々仕える家の子が選ばれたが、この子が気に入る者がなかなかおらずに困っておったのだよ」
「身元の明らかでない、怪しい子供でいいの?」
「良いも悪いも、この子は君がいいらしい。あまり執着というものを知らないが…君に関していえば、ひどく気に入っているらしい。だめだといっても、聞かんだろう」
答えに困り沈黙する暁良。
それに、と由貴は言う。
「……私に、ひいては泊瀬に媚を売ろうと考えるような輩の子供は、暁香の傍に置けんのでな」


――――さぁ、どうする?


そういって、うっすらと微笑んで手を差し出す由貴を見つめたまましばらく考え――
暁良は、その手を取った。





それが、すべての始まり。
297Il mio augurio:2007/02/21(水) 16:02:23 ID:KXtJp9OY
トラブル発生でまとめて投下できず、一日過ぎてしまって申し訳ない。
ともかく、始まりの始まりはこれにて終わり。

戸籍の偽造は犯罪です、等の突っ込みは心の中でのみお願いする。
298名無しさん@ピンキー:2007/02/22(木) 01:36:48 ID:xGpUxnoE
名作のヨカーン!続きをwktkして待つ
299名無しさん@ピンキー:2007/02/22(木) 02:25:42 ID:oN8WdcY6
>>285
遅ればせながらGJ!
>>297
続き期待してます。

そういや、祖父母が従業員×主人の娘って組合せだったの思い出した。
ばあちゃんはお手伝いさんを連れて嫁いで来た程、お嬢だったらしい・・・。
300名無しさん@ピンキー:2007/02/22(木) 02:56:54 ID:zu8tXXWL
>>299
そりゃすげぇ。リアルな例もやっぱりあるんだなぁ。
もし何かいい話があったりしたならばkwsk
301名無しさん@ピンキー:2007/02/23(金) 00:36:20 ID:FthPBoem
悪魔と女魔法使いの話を投下します。

書いてたら前置きがかなり長くうだうだ続いてしまったので
エロだけ抜き出して再構成してみた。細かい事はあまり気にしないように。

とにかくツンデレ女魔法使いが呼び出した悪魔に「きゃっ、いやーん」な
目にあわされる話という事でFA。

以下が注意点。駄目そうだったら全部で7レス分なので飛ばして読んでね。

・悪魔と魔法使い。契約による主従関係。
だけど悪魔が忠実でも従順でもないので主従色は薄気味。
・軽く陵辱? とりあえずラブラブエロではない。
・(あまり活用できてないけど)触手があるって事は便利だね!
302悪魔と魔法使い:2007/02/23(金) 00:37:14 ID:FthPBoem

「……それで、あんたが俺を呼び出した張本人てわけかい?」
そう言うと、魔法陣の上の空間にあぐらをかいた悪魔はにやにやと薄笑いを浮かべてみせた。

その姿に魔法使いの娘、アヴェンディアは戸惑いを隠せない。
彼女は魔物の中でも例えば鷲や獅子、小さいものではコウモリといったような、
獣の姿の魔物ならば見慣れていたのだが、“彼”のようにどう見ても人間にしか
見えないようなものを呼び出したのは初めてであったから。

燃えるような赤毛に、陽にやけた肌。どこか少年めいた顔立ち。
どこからどう見ても目の前の悪魔は、アヴェンディアにとっては自分と同じ年頃の
青年にしか見えなかった。人と違うのは彼の下半身に黒光りする尻尾が
九本ついていることくらいか。

だが、内心の動揺を悟られまいとアヴェンディアはふん、とばかりに胸をはり
居丈高な口調で「だったらどうですの!」と声を張り上げた。
気の強そうな美貌にその仕草は良く似合っていた。
それを見て、悪魔は怒るでもなく逆に、愉快そうに目を細めた。

「いいね、その鼻っ柱の強さ。……気に入ったぜ。
どうせ暇してた所だ、あんたと契約してやるよ」
宙に浮いたままくるりと逆さまになり、悪魔はアヴェンディアを指差した。
周囲にかしずかれて育ったアヴェンディアは他人に指差される事に慣れていない。
その無遠慮な態度にどこか不快さを感じ、眉をあげた。

「……わたくし、まだ一言も契約するなどとは言ってないはずですわよ」
「だったら何で俺を呼び出したって言うんだよ。
願いを叶えさせるためだろ? それなら契約しなきゃあなぁ」
アヴェンディアのつっけんどんな物言いにも悪魔はどこ吹く風だ。
諦めたようにアヴェンディアは小さくため息をついた。
303悪魔と魔法使い:2007/02/23(金) 00:37:51 ID:FthPBoem
「いいですわ。……ではまずお前の名を名乗りなさい」
「はは、まだ契約もしてないのに主人づらかい。まぁいいぜ、教えてやるよ。
俺の名はイェールイェール。略してイェールとでも、ダーリンとでも好きなように呼んでくれ。
契約さえしてくれりゃ、あんたが呼べばいつだって俺はあんたの前に現れる」
イェールイェールと名乗る魔物は彼女の前でかしこまって礼を取った。

「ではイェールイェール、お前に告げましょう。わたくし……魔法使い
アヴェンディアはお前と契約します」
そこで言葉を切ると、一旦自らの胸に手を当てアヴェンディアは厳かにこう宣言した。
「……契約の代償はわたくしの魂」
それを聞き、イェールイェールはぴゅいっと口笛を吹いた。

「魂たぁまたえらく張ったな。願いはなんだ? 
あんたが望むなら何だって叶えてやるよ、ご主人様」
そしてケタケタと笑いながら軽口をたたく。
アヴェンディアはそれを睨みつけて黙らせると、不敵ともいえる笑みを浮かべた。

「わたくしの願いは……そう。ある男の死、よ」

『死』という言葉はあまりにも簡単に口に出されたが、それに強い思いをかけている事は
アヴェンディアの表情からも察することができた。一瞬眉をぴくりと上げた
イェールイェールだったが、すぐに愉快そうな表情を作ると
ぱん、と音を立てて両手を合わせた。

「よし、契約は成立だ! 願いはお前の望む人物の死、そしてその代償はお前の魂。
それで違いねぇな?」
「ええ」
彼女がそう答えてうなずいたその瞬間だった。
アヴェンディアは思わぬ事にあっと驚いて目を見開いた。
イェールイェールの尾のひとつが彼女の両手首を縛り上げ、宙づりにしたからだ。
304悪魔と魔法使い:2007/02/23(金) 00:38:32 ID:FthPBoem

「ちょ……っと、一体何のつもりですの!?」
怒りにまかせて抗議をするが、イェールイェールは取り合おうともしない。
先ほどと同じような、にやにや笑いを浮かべてアヴェンディアを見つめている。

「まぁそう怒りなさんな。いわゆる手付金てやつだよ。これも契約のうちってね」
そう言ってイェールイェールはアヴェンディアの胸元に手をかける。
そして服の上から柔らかなふくらみに触れた。

「な、何を考えているんですのっ、この無礼者! や、……お離しなさいったら!」
逃れようとじたばたと暴れるが、アヴェンディアの手首を拘束する尾は少しも
ゆるむことはなく、むしろ更に強く彼女を締め上げた。
きしり、ときしむ音をたてながらイェールイェールは尾を動かし、彼女の体を
自分の傍へと近づける。彼女の服を掴み勢い良くそれを引くと、布が引き裂ける
乾いた音が響いて、イェールイェールはそれを楽しげに聞いていた。

「…………ッ!」
声なき悲鳴をあげてアヴェンディアが身をよじると、破りとられた布の隙間から
白い肌がちらちらと見えた。そうしてのぞいた乳房を布という邪魔者なしに
イェールイェールは強く掴みあげた。そのまま一定のリズムを持ってもみしだく。
「や……、いやっ! 嫌ぁ」
彼の手から逃れようとアヴェンディアは体を揺らしたが、イェールイェールは
無理やりに彼女の体を自らの元へ引き寄せて、耳元に囁いた。

「まぁ、あんたがどうしても嫌だってんならやめたっていいんだぜ。
俺は全然構やしねぇ。……さ、どうする?」
305悪魔と魔法使い:2007/02/23(金) 00:39:12 ID:FthPBoem
文字通り悪魔の囁きにアヴェンディアはためらいの表情をみせた。
彼女の心の中に、自らの純潔への思いと殺してやりたい男への憎悪が錯綜して駆け巡る。
その揺れる二つの思いの隙間から、浅黒い肌の粗野な男の姿が一瞬浮かんで消える。
それは一瞬であったが目を灼く逆光のように激しいものであった。
アヴェンディアが心を決めるのに充分なほど。

ぎゅっと目をつぶると、アヴェンディアは静かにこう始めた。
「……わかりましたわ。お前にこの身を捧げましょう。
その代わりわたくしの願い、必ず叶えるんですわよ」
「任せな」
悪魔は唇の端に笑みを浮かべたようだった。くんっと縛めの尾に引かれ、
更に高くアヴェンディアの体が引き上げられる。
何をされるのか強張る彼女の体にイェールイェールの別の尾が触れた。

「ひゃうっ」
長いスカートの裾から悪戯な尾が入り込み、アヴェンディアの柔らかな丘を押し上げた。
先端が器用に下着をずり下げながら、アヴェンディアの固く閉じた入り口を開こうと試みる。
「やっ……、んん」
それと同時にイェールイェールは自らの手をつかい、アヴェンディアの乳房を
こねまわし始めた。そしてすべすべした感触を楽しむように指を滑らし先端の、
尖り始めた乳首をぎゅっとつまみあげる。
「あぅっ!……や、やめてちょうだい。目的は……これ、ではないのでしょう?」
頬を紅潮させながらアヴェンディアが訴える。だがイェールイェールは
悪戯っぽく肩をすくめただけで、愛撫を繰り返し始めた。
「まあ、どうせなら楽しくやりたいじゃないか。あんたも気持ちいい方がいいだろう?」

ねっとりと耳朶を舌でなぶられて、アヴェンディアは身を震わせた。
306悪魔と魔法使い:2007/02/23(金) 00:39:55 ID:FthPBoem

「ああ……ふ、あぁん」
尾は、アヴェンディアの芯をつつき刺激しながら、時折先端を差し入れていく。
潤い始めたその入り口は、ちゅ、くちゅ、と卑猥な音を立て始めていた。
「や……、ああぁ、ああん……」
尾は、そうやってアヴェンディアを導きながらもけして中奥へと入り込み
彼女を解放する事はしなかった。与えられる快楽に身もだえながら、
高みに昇りつめられない苦しさにアヴェンディアは身悶えていた。

「んぁぁっ!」
乳首に爪を立てられてアヴェンディアはピクンと体を動かした。
じんわりと下半身が充血し、更に蜜がにじんでいくのが自分でもわかり
頬を赤らめる。その様子を悪魔が愉快そうに見ているのは矜持の高い
アヴェンディアには耐えられないことであった。
「……いつまでこんな風にわたくしをもてあそぶつもりですの!?
す、するなら早くすればいいではありませんか!」

遂にアヴェンディアが爆発すると、彼女のうなじに唇をあてて印をつけていた
イェールイェールは顔をあげ、笑い声をあげた。

「いきなり突っ込んだりしたら痛い目みるのはあんただろうに。
わがままなお姫さんだなぁ」
「きゃっ」
彼自身の指に秘所をいじられてアヴェンディアは小さな悲鳴をあげた。
「……そろそろ大丈夫かな」
蜜をかきとりイェールイェールはそんな事をひとりごちる。

そしてアヴェンディアを後ろから抱きかかえるとスカートをたくしあげ、
白い臀部をあらわにさせた。

「ひっ……」
肉を割られ、背後から濡れた入口を確かめられて、屈辱と羞恥、そして恐怖に
アヴェンディアは息をのんだ。割れ目をイェールイェールの指先が辿っていく。
「あ……、あ…」
こらえようとしても漏れてしまう自分自身の声が、アヴェンディアには忌まわしかった。
307悪魔と魔法使い:2007/02/23(金) 00:40:27 ID:FthPBoem

「お姫さん、良いこと教えておいてやるよ。こんな風に我慢できない時は
“あなたが欲しいの”って言うんだよ」
だが、それを言うか言わないかのうちに、言葉尻はアヴェンディアの悲鳴にかき消された。
指や、イェールイェールの尾とはくらべものにならないほどの質量が彼女の内を
蹂躙し、その苦痛にアヴェンディアは喉をのけぞらせて耐えた。

「あっ、あ、あ……」
空気を求めて口を開く。痛いのか苦しいのかアヴェンディアは自分でも分からなくなっていた。
足をもちあげられ、イェールイェールが更に侵入してくるのを自らの体で感じていた。
彼が身動きするたびに引き裂かれるような痛みがはしる。
それを必死に訴えるのと、イェールイェールはアヴェンディアの体を支えながら指示を出した。

「力を抜け……って。ほら、息を吸うんだよ……そんなに力まれたら俺も抜くに抜けねぇ」
「だって……わたくし、わたくしどうしたらいいのか……あっ」
内部に納まったまま、少しずつ肉茎を動かしていたイェールイェールは
アヴェンディアの心地よい場所をついに捉らえたようであった。
そこを重点的につついてやると、アヴェンディアの緊張が少しずつほぐれていく。
「んっ、う……ああっ、痛っ、いたいわ……」
「痛いだけじゃないだろう」
先走りの精と、アヴェンディア自身の愛液、そして破瓜の血が交じりあい、
抽送の度にじゅぶじゅぶと水音が聞こえていた。
既にアヴェンディアは痛みだけではなく快美さを覚えており
出し入れされるたびに敏感になるそこに、無意識ながら感覚を集中させていた。

「あ……ああああっ」
イェールイェールはアヴェンディアの腰のあたりを掴み、最奥まで一気に刺し貫く。
初めて淫らさを覚えさせられた肉の鞘はそれを受け入れ、くわえ込むためにきゅうと狭まった。
その刺激でイェールイェールは勢い良く彼女の坩堝に白濁液を吐き出した。
308悪魔と魔法使い:2007/02/23(金) 00:41:06 ID:FthPBoem

*******

イェールイェールが引き裂いた服のかわりに彼が魔法で出した
淡い黄色のガウンを羽織ると、アヴェンディアは念を押すように言った。

「手付金とやらはこれで払いましたわよ。これからはわたくしの
使い魔として存分に働いてもらいますからね」
「コトが終わったらすぐそれかい。処女を捧げた相手に何か甘い言葉でもないのかね」
そう揶揄する言葉をアヴェンディアは鼻で笑い飛ばした。

「何を言ってるんですの。お前は悪魔、わたくしはお前を使役する魔法使い。
お互い好きあって結ばれたわけではありませんのよ。
お前があくまで契約の一環だというから応じたまでですわ!」
アヴェンディアはつん、と横を向いた。
イェールイェールはくすくす笑いながら宙で一回転をする。
「さっきまで俺の腕の中であんなに可愛かったのにもうこれだよ」

「……お前が不満だろうと何だろうと、わたくしは契約にそってお前の主になったのですからね。
願いはしっかりと叶えてもらいますわよ。よろしくて?」
するとイェールイェールは猫のように瞳孔を細くすると、にぃっと深く笑んでみせた。
そしてアヴェンディアの手を取るとその甲にうやうやしく口付けた。

「もちろんですとも、ご主人様」

*******
終わり
309悪魔と魔法使い:2007/02/23(金) 00:43:36 ID:FthPBoem
おしまい。
エロだけ抽出したからこれでもだいぶ削ったんだけど
それでも7レス消費だもんなー。
起承転結をきちんと盛り込みながらも簡潔に、物語性+エロを
盛り込む職人はほんと尊敬する。

ではでは
310名無しさん@ピンキー:2007/02/23(金) 01:11:01 ID:mdcrLwxx
>>309
(;゚∀゚)=3 gj!続きが気になるっす。
あの男の死を願う理由とか、二人がどんな関係に
なってくのか気になるので続編きぼんです。
311名無しさん@ピンキー:2007/02/24(土) 11:29:05 ID:kN31n6gt
>>310
ありがとー。また何か書けたら来るわ。

圧縮来るらしいから保守代わりに古今東西の続き
つ悪魔つながりで『クロノクルセイド』ロゼットとクロノ。
312名無しさん@ピンキー:2007/02/24(土) 15:05:25 ID:lqGAzVFo
広告の漫画なんだけど、
お嬢さまと書生の恋が途中から思わぬ展開にw
ttp://www.sodateyou.net/kuchicomic/manga01/seo.php?c=0
313名無しさん@ピンキー:2007/02/24(土) 17:34:23 ID:kN31n6gt
>>312
超笑った!
なんだよ『飛ぶ鳥を落とす勢いのインターネット会社』ってw
しかもお嬢さまSEO対策万全だし。
314名無しさん@ピンキー:2007/02/24(土) 22:22:33 ID:lTH0Jzf1
ここどうなるのかな(´・ω・`)
でもって古今東西
以前出てた気がするけど、本格的に連載開始ぽいので
「寡黙なお嬢様」
ttp://anime.livedoor.com/theater/25.html
315名無しさん@ピンキー:2007/02/24(土) 22:28:30 ID:LZ4MpVER
>>312
パソコンがスゲー浮いてるww
でも(・∀・)イイ!

ところでお父さんの会社が倒産、が駄洒落にしか見えなかった件
316名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 00:20:07 ID:LOQQseGw
>>315
大昔、ワープロを使っていた頃に「お父さん」と打鍵したら
「御倒産」と変換されたことを思い出した。
父さんと倒産は分かちがたいセットなんだよ。
317名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 14:34:53 ID:zbiMRPt7
塩野干支郎次(ユーベルブラット)のエロマンガで書生とお嬢様ものがあったな。
あれは良かった…が、タイトル忘れちゃった
318名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 14:39:02 ID:8i84YxBR
>>317
『幻燈の交わり』だな。
確かにあれは良かった。
319名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 15:15:38 ID:zbiMRPt7
>>318 そうそう、それそれ。
320名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 16:35:25 ID:fVtcrtwJ
古今東西に参加できるような主従……
思いつかんから、小ネタ投下
321名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 16:36:49 ID:fVtcrtwJ
そなたは馬鹿よ…」
窓辺の椅子に座ったまま遠くを眺めながら呟く姫の声に、傍に控える騎士はその横顔を見つめた。
「愚か者め」
「馬鹿で愚かで構いません」
「愚か者めが」
「はい」
愚か者め、そう吐き捨てるように呟き、姫は両手で顔を覆った。
あぁ、と嘆く声が騎士の耳に届く。
「姫……」

嘆きが止み、長い沈黙の後、姫は囁くように呟いた。
「………我が騎士よ」
「はい」
「あの、幼い約束は…まだ有効か?」
「はい、勿論です」
「私があの男の妻となり、王妃となった今でも、か」
「はい」
あの、遠い日の約束は今も騎士の胸にある。
姫が国を守るために嫁ぎ、この国の王妃となった今でも。
たとえ約束が果たされることが永久になくとも。
「だからそなたは馬鹿なのだ。…国へ戻れば、条件は満たされよう?」
「そうですね」
「ならば!何故戻らぬ!?」
「我が姫のお傍を離れてまで、条件を満たそうとは思いません。何より、姫を一人にしたくありません」
はらはらと頬を伝う涙を拭い、騎士は微笑む。
「私はいつまでも、姫の傍に。どうぞ、私から、姫を護る栄誉を奪わないでください。……さもなくば、今この場で、私の命を絶ってください」
す、と跪き、静かに笑みを浮かべて見つめる騎士を、姫は抱き締めた。
「愚か者!」
詰る言葉とは裏腹に、姫は騎士をきつく抱き締める。
騎士は抱き締めたいと思う気持ちを必死に御し、されるがまま。
「どこへなりともお供します。私の全ては、御身のものです」
322名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 16:40:20 ID:fVtcrtwJ
とかいうのはどうか?


って、ああ!
初っ端「が抜けてるよ………orz
323名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 22:27:28 ID:2EaRCsp9
>>321
GJ!こういう王道ネタは大好きだ
続けて欲しい

ところで聞きたいんだが
金で雇われた護衛と女主人(?)ってのはこのスレの主旨に合ってるんだろうか
324名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 23:14:51 ID:yiv06kbI
>>323
ありだと思うぜ。
325名無しさん@ピンキー:2007/02/26(月) 00:27:48 ID:5zi0Q99Y
犬「信号青だから信号渡れるね!」のガイドラインスレより

447 名前: 水先案名無い人 [sage] 投稿日: 2007/02/17(土) 01:24:10 ID:MxgAcTyG0
王  「働くの!?きみ、働くの!?ねぇ!奴隷!奴隷働く!?」
奴隷「あぁ、働くよ」
王  「本当!?大丈夫なの!?辛くない!?」
奴隷「あぁ、奴隷だから大丈夫だよ」
王  「そうかぁ!僕王だから!王だから奴隷の体力わかんないから!」
奴隷「そうだね。わからないね」
王  「うん!でも平気なんだ!そうなんだぁ!じゃぁ働かせていいんだよね!」
奴隷「そうだよ。働かせていいんだよ」
王  「よかったぁ!じゃぁ働こうね!奴隷働こう!」
奴隷「うん、働くね」
王  「あぁ!大丈夫だから奴隷働けるね!ね、奴隷!」
奴隷「うん。国の成り行き見てていいよ」
王  「あぁー奴隷と僕は今国を守っているよー!平和だねぇー!」
448 名前: 水先案名無い人 [sage] 投稿日: 2007/02/17(土) 01:29:28 ID:MxgAcTyG0
王  「攻めてくるの!?敵国、攻めてくるの!?ねぇ!大臣!敵国攻めてくる!?」
大臣「あぁ、くるよ」
王  「本当!?大丈夫なの!?危険じゃない!?」
大臣「あぁ、奴隷に戦わせるから大丈夫だよ」
王  「そうかぁ!僕王だから!王だから戦争わかんないから!」
大臣「そうだね。わからないね」
王  「うん!でも平気なんだ!そうなんだぁ!じゃぁ安心してていいんだよね!」
大臣「そうだよ。安心してていいんだよ」
王  「よかったぁ!じゃぁいつものままでいようね!普通でいよう!」
大臣「うん、落ち着こうね」
王  「あぁ!奴隷が戦ってるから国が守られるね!ね、大臣!」
大臣「うん。戦闘見てていいよ」
王  「あぁー奴隷と敵国は今戦っているよー!奴隷気をつけてねぇー!」
449 名前: 水先案名無い人 [sage] 投稿日: 2007/02/17(土) 01:37:05 ID:MxgAcTyG0
王   「嬉しいの!?これ、嬉しいの!?ねぇ!出世!出世嬉しい!?」
元奴隷「あぁ、嬉しいよ」
王   「本当!?嬉しいの!?不満じゃない!?」
元奴隷「あぁ、身に余る光栄だから大丈夫だよ」
王   「そうかぁ!僕王だから!王だから元奴隷の気持ちわかんないから!」
元奴隷「そうだね。わからないね」
王   「うん!でも嬉しいんだ!そうなんだぁ!じゃぁ階級上げていいんだよね!」
元奴隷「それは。私からは何も申すことはできないんだよ」
王   「よかったぁ!じゃぁ出世しようね!奴隷出世しよう!」
元奴隷「うん、ありがとうね」
王   「あぁ!奴隷立派だから奴隷やめれるね!ね、大臣!」
大臣  「うん。なぜこんなことを」
王   「あぁー奴隷を僕は出世させているよー!大臣の目がなんだか怖いねぇー!」
326名無しさん@ピンキー:2007/02/26(月) 00:28:46 ID:5zi0Q99Y
450 名前: 水先案名無い人 [sage] 投稿日: 2007/02/17(土) 01:44:20 ID:MxgAcTyG0
王   「去るの!?国、去るの!?ねぇ!元奴隷!元奴隷旅に出る!?」
元奴隷「あぁ、旅に出るよ」
王   「本当!?どうしてなの!?突然じゃない!?」
元奴隷「あぁ、去りたいだけだから大丈夫だよ」
王   「そうかぁ!僕嫌だから!嫌だから旅に出てほしくないから!」
元奴隷「ごめんね。旅にでるしかなくてね」
王   「うん!行っちゃうんだ!そうなんだぁ!じゃぁついていっていいんだよね!」
元奴隷「だめだよ。どうしてそうなるんだよ」
王   「いやだぁ!元奴隷いかないで!元奴隷好きなのう!」
元奴隷「うん、忘れてね」
王   「あぁ!大臣見てないから王様さらえるね!ね、元奴隷!」
元奴隷「うん。さらわないよ」
王   「あぁー元奴隷を僕は今引きとめようとしているよー!どこにもいかないでぇー!」


452 名前: 水先案名無い人 [sage] 投稿日: 2007/02/17(土) 01:51:31 ID:MxgAcTyG0
王  「退屈なの!?これ、退屈なの!?ねぇ!大臣!大臣いる!?」
大臣「あぁ、いるよ」
王  「遊んでくれる!?大臣は平気なの!?暇じゃない!?」
大臣「あぁ、もうすぐ食事の時間だから大丈夫だよ」
王  「そうかぁ!僕暇だから!暇だから食事の時間楽しみだから!」
大臣「そうだね。楽しみだね」
王  「うん!さぁ食事なんだ!おいしそうなんだぁ!じゃぁ食べていいんだよね!」
大臣「そうだよ。食べていいんだよ」
王  「よかったぁ!じゃぁ食べようね!食事食べよう!」
大臣「うん、食べようね」
王  「あぁ!なんか変な味だから食事残すね!ね、大臣!」
大臣「うん。王様なんだから残しちゃダメだよ」
王  「あぁー大臣と僕は今変な食事を食べているよー!意識がなくなってくるねぇー!」


453 名前: 水先案名無い人 [sage] 投稿日: 2007/02/17(土) 01:57:59 ID:MxgAcTyG0
村人  「号外だよ!?これ、号外だよ!?ねぇ!そこの人!そこの人買う!?」
元奴隷「あぁ、買うよ」
村人  「本当!?大丈夫なの!?お金あるのかい!?」
元奴隷「あぁ、旅費はたっぷりあるから大丈夫だよ」
村人  「そうかぁ!貧相に見えるから!貧相に見えるからお金持ってないと思ったから!」
元奴隷「そうだね。貧乏そうだね」
村人  「うん!でもお金あるんだ!そうなんだぁ!じゃぁ売っていいんだよね!」
元奴隷「そうだよ。売っていいんだよ」
村人  「よかったぁ!じゃぁ渡すね!号外渡そう!」
元奴隷「うん、この記事は本当かね」
村人  「あぁ!王様倒れて目覚めないからこのままだと大臣が王になるね!ね、お客さん!」
元奴隷「うん。売り続けてていいよ」
村人  「あぁーお客さんは今すごい顔で走ってったよー!なんだろうねぇー!」
327名無しさん@ピンキー:2007/02/26(月) 00:30:48 ID:5zi0Q99Y
454 名前: 水先案名無い人 [sage] 投稿日: 2007/02/17(土) 02:04:15 ID:MxgAcTyG0
大臣   「戻ってくるの!?元奴隷、戻ってくるの!?ねぇ!ものども!ものどもであえ!?」
ものども「あぁ、撃退するよ」
大臣   「本当!?大丈夫なの!?元奴隷強いじゃない!?」
ものども「あぁ、この人数なら勝てるから大丈夫だよ」
大臣   「そうかぁ!俺様大臣だから!大臣だから戦いわかんないから!」
ものども「そうだね。わからないね」
大臣   「うん!でも勝てるんだ!そうなんだぁ!じゃぁまかせていいんだよね!」
ものども「そうだよ。まかせていいんだよ」
大臣   「よかったぁ!じゃぁ戦ってね!元奴隷が来ないよう!」
ものども「うん、落ち着こうね」
大臣   「あぁ!数がどんどん減ってくから俺様逃げるね!ね、お前たち!」
ものども「うん。逃げていいよ」
大臣   「あぁー手下どもが元奴隷に今やつざきにされているよー!追いつかれるねぇー!」


455 名前: 水先案名無い人 [sage] 投稿日: 2007/02/17(土) 02:18:23 ID:MxgAcTyG0
王   「夢なの!?これ、夢なの!?ねぇ!元奴隷!元奴隷いる!?」
元奴隷「あぁ、ここにいるよ」
王   「本当!?大丈夫なの!?怪我してるじゃない!?」
元奴隷「あぁ、かすりキズだから大丈夫だよ」
王   「そうかぁ!僕泣いてるから!泣いてるからキズよく見えないから!」
元奴隷「そうだね。わからないね」
王   「うん!でも現実なんだ!そうなんだぁ!じゃぁ笑っていいんだよね!」
元奴隷「そうだよ。ずっと笑ってていいんだよ」
王   「よかったぁ!じゃぁもう行かないでね!どこにも行かないで!」
元奴隷「うん、ずっと女王の傍にいるね」
王   「あぁ!大臣もういないから邪魔するもの誰もいないね!ね、元奴隷!」
元奴隷「うん。きみを愛しているよ」
王   「あぁー元奴隷と僕は今ついに結ばれるよー!平和な国を作りましょうねぇー!」

                                      - おわり -

奴隷×女王に萌えると同時に大臣にも単体萌えした。
割とこのスレ、有能な女上司or賢いお嬢様が多いけど、こういうあほッ子女王を支える有能気苦労従も見たいなぁ。
328名無しさん@ピンキー:2007/02/26(月) 02:59:00 ID:/rBTNKJr
>>325-327
よし、リライト頼む。
329名無しさん@ピンキー:2007/02/26(月) 03:30:40 ID:C5uLQKU3
ただのコピペかと思ったらちゃんと繋がっててバロスwwwwww
330名無しさん@ピンキー:2007/02/26(月) 15:05:02 ID:903rdd2K
「………姫?」
問う騎士の声は、困惑に揺れる。
それを聞き流し、座らせた騎士の膝に座った姫は擦り寄り、その肩口に顔を寄せた。
「大人しくせよ。そなたはただ、椅子になっておればよい」
「王に見つかれば、ただではすみません」
焦がれる姫に擦り寄られ、吐息すらも感じられる距離に眩暈を起こしそうになりながらも、騎士は努めて平静な声で窘める。
「王?……あの男がここに来るものか。婚儀の後、訪うたことが一度でもあるか?」
くつくつと、姫は哂う。
「気に入りの寵姫の元におろうよ。……あの男は私に世継ぎを望んでなどおらぬ」
「姫…」
「だが、それでよい。あの男の子など産みとうもないわ」
怖気が走るわ、と言いつつ姫はさらに擦り寄る。
「教えてやろう、婚儀の儀式としての行為のおり、あの男は言ったのだ。
―――――其の方が我が元に大人しくしていれば、其の方の国には手を出さないでいてやろう――、とな」

くつくつ、くつくつ、と哂う姫に騎士の心は痛む。
先程姫が告げた王の言葉も相俟って、王に対する憎悪は弥増す。
間違ってもこんな風に哂う方ではなかった。
綻ぶ花のように、麗しく笑む方だったのだ。


「……帰りたい、ですか?」
「そうだな………帰れるものならば」

かえりたい…と小さく小さく呟き、擦り寄ったまま眠りに落ちてしまった姫を騎士は抱き締める。
それはそれは優しく姫の髪を梳き、その髪に口付け、力の抜けてしまった姫の手を取ると恭しく、愛おしそうにその手に口付けを落とした。


「――赦し難い」

表情すらも消し去り、呟く騎士の声は、聞く者を須く凍て付かせることができるだろう声音だった。

331名無しさん@ピンキー:2007/02/26(月) 15:07:22 ID:903rdd2K
続けてみた

SSにしてみようかと思うが、どうか?

332名無しさん@ピンキー:2007/02/26(月) 15:46:25 ID:SvuAy5F8
>>331
ばっちこい
333名無しさん@ピンキー:2007/02/26(月) 16:43:45 ID:oy3TJaZo
>>331
騎士の忠誠心とそれに心を救われる姫のお話になるのかな?
かなり期待できそう、いつでも投下してくれ。
334名無しさん@ピンキー:2007/02/26(月) 17:55:59 ID:/rBTNKJr
(騎士よ)起て!
(王を)撃て!
(因習を断ち)斬れ!
335青信号の犬1:2007/02/26(月) 19:32:45 ID:R6MjJerd
>>325-327に触発されて

「いんやー今日も寒いねえ!大臣クン」
あっけらかんとした声が暗い廊下に響いた。兵士らをその声の方へと向うようにと、大臣が指図する。
年若い大臣は声の主を認めて、米神を押さえるポーズをとる。
「わざわざ、家畜小屋までいらっしゃったんですか?女王陛下」
「なんだね!いいじゃあないかぁ、自分の国のホリョくらい見たって!触ったって!」
女王陛下、と呼ばれた少女は両手を広げて大臣に文句を言う。
少女、いや、女王が動くたび衣装から、豊かな髪から芳しい香が漂う。
大臣の言う家畜小屋、捕虜収容室とは対照的な香りだ。既に(この部屋だけでも)死人が複数名でており、ほのかな死臭が糞尿に吐寫物の臭いと混じり悪臭を放っている。
「それにしてもひどいニオイだねえ!まいっちゃううね!てかどーするんだい?このひとたちは」
鼻をつまむ仕草をする女王に、大臣は大げさにため息をついて見せモノクルを掛け直す、「私は呆れています」ポーズをする。そして随分と冷え切った目をして、女王を臨む。
「陛下はどのようなお考えをお持ち・・・で?」
「ヤダなあ!ヤダなあ!大臣クンよ!私に意見を仰いでおいて馬鹿だとまた言うんだろう!?いいかげんお説教は飽き飽きさ!
・・・ホラいつものよーに君がどう指揮するのか待っているだろ!サアサア、早くしておくれよ」
ふんぞり返った女王を横目に、満足そうに微笑むと大臣は言った。
「代表を連れて来なさい」
336青信号の犬2:2007/02/26(月) 19:34:02 ID:R6MjJerd
「働かせてください!ここで働かせてください」
「・・・大臣クン、君はセントチヒロのカミィカクシィというジャパニメーションを観たかい?」
「あの会社の話は私に合いません」
上記は家畜のように繋がれた男の一番である。
物語の流れからすれば、登場する捕虜→反抗的な態度→教育的指導→砂を噛む思い、というのが王

道なのだが、この男は違った。
入場と共に土下座。そして開口一番に就職希望宣言。全入学時代がやってきたというのにだ。
スレッドの消費を考慮し、要約させていただく。
>>325の447を参照
大臣は女王と捕虜の(一方的な)やりとりを横目に、帳面を取り出し書き付けた。
「あなたがたの食事は保障しますが、他は面倒見ませんよ。それでも良いのなら、誓約書にサインを」
床に這って名を書き付ける捕虜の姿を見届けると女王はのーてんきな声で放った。
「よかったねえ!まもろうね!私と君と大臣クンの国!」
捕虜と大臣は気を殺がれた声で、「そうだね。まもろうね」とこたえた。


楽しいぞコレ?皆もやってみるといい
つづきは、また
337名無しさん@ピンキー:2007/02/26(月) 20:55:16 ID:30UTVTKJ
楽しそうだ!w
こういうの嫌いじゃない。
そしておバカちん女王はエロが似合いそう。
ちょっとロリぽくなりそうだけど。

自分もおバカ系女主人でこんなん考えてみた↓

「この印籠が目に入らぬかぁー。わらわは先の副将軍が息女、水戸光姫であるぞ。控えーい!」
「姫…ご自分で言っては駄目ですよ」
「それは我らの役目です」
「うううるさーい!お前達、やっておしまいなさーい!」

というおにゃのこ水戸黄門。
台詞が悪役なのは仕様です。
姫とお付きのカクさん(スケさんでもいいけど)とは
ただならぬ関係進行中。いっそ3Pでもあり。
338青信号の犬3:2007/02/26(月) 23:59:49 ID:R6MjJerd
>336続き

均衡状態にあった隣国が動きはじめた、という報告を耳にして女王の顔は輝いた。
元首という立場、妙齢の女性であるにも関わらず、城の廊下を走りぬけ大臣の政務室の扉を開ける。
「攻めてくるの?攻めてくるの?隣国と戦争になるの?ねえ戦争?第一次大臣戦争勃発なの?」
「そうですね。攻めてくるようですよ。大臣戦争は終結しましたけど」
乱れた裾を指摘すると、大臣は女王に茶を勧め、仕事に戻る。
「本当?大丈夫なの?危なくない?財政難だったりしない?」
「ええ、大丈夫です。この間の捕虜も奴隷もいますし、植民地けっこうありますし」
「しょくみんちかー、アレだな!コーヒーとれたりするところだ!」
「そうですね。香辛料採れたり金山があったりするやつです」
メイドのエプロンを握ったりソーサーをなぞったりと、落ち着かない様子でいる。
本当に言いたいことをその場になって探す、女王の悪い癖であり、過去教育係であった大臣としてはとてつもなくむず痒い行為であった。
「なんです、気持悪いですね。さっさと仰い」
わざとけしかければ、バネのようにはねる。
「気持悪いとか言うのはないと思うよね!・・・ホラ王様だから!戦争とかチスイとかわかんないから!このままでいいのかな?とかおもうけど結局王様だから!どうしていいかわかんないから!」
女王の視線は大臣の手元の書類に向けられ、本棚に向けられ、メイドに向けられ、大臣に向けられた。
「そうですね、わかりませんね」
メイドに目配せをする。すぐさまメイドは退出した。使用人は壁ではあるが、壁に耳ありだ。危険は少ない方がよい。大臣は移動し女王の前にしゃがみこむ。下から大臣が見上げても、女王は机の書類を観ている。
「うん。でも平気なんだ!大臣がやってくれてるから!平気なんだろう?安心してていいんだよね?」
「そうですよ。安心しててくださいね」
自由に動く手を捕らえる。華奢では有るが、柔らかい。
「そうかー、いいのかー。普通にしてればいいんだな!いつもどおりだものな!」
「はい。落ち着いていましょうね」
手首に指を這わす。普段より熱が高い。即位して初めての侵攻だ。恐れるのも無理は無い。
「うん!おちつくぞー。でもドキドキするな!」
「いつもどおりに、任せてくださいね」
女王のワンピースのボタンをひとつひとつ外してゆく。ワッフル地のそれは柔らかく香っていた。
「ねえねえなんで脱がすの?ホラもうすぐ戦争じゃないか!いけないよね!」
「そうですね、寝間着で部屋を出るのはいけませんね。でも・・・いつもどおりでしょう?」
大臣の指は裸の腹をなぞった。柔らかな肉をそのまま這うようにしてのぼって行く。ほのかなふくらみに手を添えて大臣は告げる。
「あなたは見てるだけでいいんですよ」


犬「信号青だから信号渡れるね!」のガイドラインスレのパロディになるんですかね?
339名無しさん@ピンキー:2007/02/27(火) 12:40:40 ID:ry9o9oSU
なんかよつばっぽいな。
340名無しさん@ピンキー:2007/02/27(火) 19:20:56 ID:aqptkbay
アンドロイドものを考えてるんだけどさ、この設定でエロ入れるのって難しくね?
男側が人間の場合なら、女性型のロボ相手に欲情したりもするだろうが、その逆は……
341名無しさん@ピンキー:2007/02/27(火) 19:54:24 ID:kMaZzyzs
>>340
そこはそれ、プログラムが誤作動したとか何とか。
「これは、この気持ちは何なのでしょう……、私の中の
論理回路にはないはずなのですが」とか何とか。
要はエロパロ板なんだから何でもありって事だ。

むしろいっそ女性向けセクサドールにしちゃえば
手っ取り早くないかな。
342名無しさん@ピンキー:2007/02/27(火) 20:19:35 ID:aqptkbay
>>341
なるほど、何でもありかw
俺が考えてたのは、
「若き女社長×彼女を幼い頃から世話してきたアンドロイド秘書」
って設定の主従関係だったんだけどね、これがどうにも……。
343名無しさん@ピンキー:2007/02/27(火) 22:11:42 ID:SCaAFnHM
しかもそれが女社長の経営する会社で
父からの五つのお祝いがその従者で
そいつは旧型で「私を廃棄して新しい従者を」みたいな事を言うが
社長は「私はお前がいい。分からないなら体で証明してやる」みたいな


ごめんなさい
344名無しさん@ピンキー:2007/02/27(火) 22:44:51 ID:acysjoKW
萌えるじゃねえか、この野郎!
345青信号の犬4(エロ):2007/02/28(水) 00:28:16 ID:npEoeu5K


大臣の手のひらは胸を包み、つめたい指はその頂をゆっくりとこねはじめた。そこはすぐに立ち上がり、淡く色づく。女王は身体をまるめて、大臣の両頬を掴んで鼻が触れそうなほどに寄せる。
「いいのか?いつもどおりで、仕事が出来なくて、みてるだけで・・・本当にいいのか?」
「いいんです。なにもしなくとも。そこにあれば」
うるんだ翡翠の奥にはなにも見えない。近すぎて、歪み、そこに何かあったとしても大臣が認めることは出来ない。
お慈悲を、と小さく呟いて唇を合わせた。
女王はそろそろと舌をさしだし、大臣の舌に誘われ絡まられ息も荒くなってゆく。苦しさに逃れようとすればするほど大臣は追い立てる。
耐え切れないというように肩に触れて引き離そうとすれば、逆に手を纏められ口付けはますます激しくなる。さしても大きくないはずの水音が、ぬめった舌の感触が女王の意識を乱してゆく。ぐったりとした女王に大臣はつまらなさそうに離れた。
「昔はキスが一番お好きでしたのに」
女王はゆるゆると首を振って否定する。唇をたどって喉元まで唾液でてらてらと光り、火照った頬には絹糸のような髪が張り付く。それをやさしく梳いてやると、女王は咳き込んだ。
「・・・ッは、くちびるがはれそうなのは、いやだ」
「我慢なさい、すぐによくなるんですから。ほら、濡れてきてるじゃないですか。苦しい方が良いんでしょう?」
「ちがっ」
指で割れ目をなぞられると、息を飲んで女王はその箇所を見た。今度はゆっくりと指を押し付けるようにして形をたどる。むず痒そうに女王は身をよじる。構いもせず大臣は指を曲げ差し入れる。
「あ!・・・だめ」
「だめ?だめ。そうですか」
大臣は乱暴にかき回した後、指をすぐさまひっこめ、代わりに頭をそこへ近づける。へそをぺろりと舐め上げると女王にしゃぶりついた。ひとつひとつのパーツを丹念に舐め、一滴も溢すまいと太腿に伝う蜜を啜る。女王は大臣の頭に手を添え苦しそうに喘ぐ。
「だめっ!ああ、だめ・・!だめだよ・・」
ひときわ大きな水音を立て、口を離す。涙と興奮にぬれた女王の目を見つめ、大臣は怪訝そうな口調で問う。
「何がだめなんです?仰ってくださらないとわかりかねますよ」
「足らないんだ!はやくっ・・・はやく、いれてよ・・・」
「堪え性がないですねえ」
呆れたような口調とは逆に大臣の目は笑っていて、女王を見据える。女王はこの目が苦手だ。幼い頃からずっと傍に居て時たまこの目に晒されたが、何を考えているかわからない大臣が怖かった。
女王自ら両脚を大臣の肩に掛けると、あの恐ろしい目に見られたくなくてつよく目を瞑った。大臣が小さく笑ったのが伝わる。
「そんなことをしてもね、してあげませんよ」



明くる朝、女王は御自ら庭を眺望できるテラスに立ち兵士たちを鼓舞された。
彼らは先陣隊であり、一番の辺境・激戦地に回される。奴隷階級も捕虜たちを中心に編成されていたその隊は苦々しい面持ちで伏せていることを女王は知らない。
彼らも一般兵と同じ様にあつかわれると思っている。首級を挙げれば一足飛びすると信じている。そんなこと一般兵内でも中々有りはしないのに。
勿論、大臣らが彼らに条件付で生活保障を申し出たことも、知らないだろう。


一部完
346名無しさん@ピンキー:2007/02/28(水) 00:32:59 ID:npEoeu5K
>>3373P黄門さま・・・呟いて威力に驚くよコレ

アンドロイドの流れとかすっげー気になります。
乙女回路とかあったりしない?
てか萌ゆる

 青信号犬つづけてていいのか?エライ長そうなんだが・・・
347名無しさん@ピンキー:2007/02/28(水) 02:10:29 ID:K9dNAvsL
先の展開が分かってるのに面白い。
青信号犬の続き、是非!
348名無しさん@ピンキー:2007/02/28(水) 03:09:05 ID:mZmcRcnA
アンドロイド物といえば、「銀色の恋人」だなあ……

>>346
続き楽しみにしてる!
349名無しさん@ピンキー:2007/02/28(水) 13:32:10 ID:wfrJ9YIq
>>332
>>333
頑張っている…が………困った…

ラスト3パターン思いついて悩んでる
……でもグッドなのが1つってどうよ…orz
350名無しさん@ピンキー:2007/02/28(水) 16:39:27 ID:M5euTJIE
>>349
俺はできればハッピーエンドにして欲しいな。
351名無しさん@ピンキー:2007/02/28(水) 17:45:12 ID:SCKJh5kx
>>340
アイザック・アシモフの「お気に召すことうけあい」を読んでみ
352犬の人:2007/02/28(水) 20:42:12 ID:npEoeu5K
ありがとう、続けさせてもらいます
ええと、>>325分まで今日は投下します。

>>349
一番気に入ってるの書いてていただきたい

>351
トニイだっけかロビイだっけか、奥様×ロボだよね?
353青信号の犬5:2007/02/28(水) 20:46:33 ID:npEoeu5K

 ふたつの季節を飛び越え、戦争は決着した。
多くの予想と覚悟を裏切って早々に勝利を収めたが、それは逆に数多の労働力を失ったことを示す。
先陣隊は盾となり槍となり、成果を挙げ進駐し、後から進軍する軍団の舗道となった。
しかし本部から禁止されていたにも関わらず、
後々のことを全く考慮しない現地での無理な徴発や略奪をはじめとする暴力行為は近隣から非難の的となり先陣隊の活躍は泡と消えた。そして彼らは処分された。

 だが、捕虜のリーダー格であった男は残された。
カビのにおいのする石牢に隔離され、捕虜は読み書きを牢屋番に習う日々がそれから半年は続いた。
ごくたまに牢屋番とは違う兵士が訪れ、手紙らしきものを捕虜に見せた。
崩され滲んだ文字は兵士には理解できず、兵士は「一応おめえの郷の言葉なんだがなあ、あの方は字が乱雑だから」と口にし、封筒ごと捕虜に渡す。
あの方?捕虜は顔に疑問符を貼り付けて、金釘流の(かろうじて)文字をなぞりはじめた。

〔わたし は えらいです ここで かぞくしんじゃた たいへんでした しかし がんばるよいです すこしで らくになります (解読不能) にはゆっときます よくなります〕

「おい、なんて書いてあるんだ?俺には全く読めん。言えなきゃ別に構わねえんだが」
捕虜は口を動かし、単語の羅列を組み替えて予測した。文法もつづりもなにもかもが拙く、理解しかねる。こどもの言葉?それとも、どせいさんの?捕虜は兵士に尋ねた。
「この手紙には『あと少しの辛抱で身体が楽になる』とあります。俺の処刑が決まったのですか?」
捕虜の言葉に驚いて、兵士は手紙を奪い取った。
よくよく見れば熊のような兵士は、山賊のような形相をして薄桃の便箋を穴が開くほどみつめる。そしてポイッと捕虜にそれを放り出すと自身のあごを撫でた。
「あー俺にはやっぱり読めねえんだがー、よくよーーく見れば大臣殿の名前が書いてある。・・・ような気がする。
それに、あ゛ーーおめえは、おめえがどう思ってるかは知らねえが、国に貢献したことになってる。だから、死なねえ、少なくともあいつらみてえにはならねえ。・・たぶん」
 そしてある日突然、石牢を追い出された。
捕虜は改めて覚悟した。処刑の日が来たのだろうな。
自身の気質ゆえに同胞の行為を―必要だった、なさねばならなかった―許せずに、彼らを見殺しにした罪悪感が捕虜を責めた。
捕虜は信仰を持たなかったが、牢屋番が言う裁きがあるのならば、彼らも自分も地獄に落ちるのだろう。
目隠しをされ、籠に乗せられる。別れを告げると牢屋番は言った。お前ツいてるよ。
354青信号の犬6:2007/02/28(水) 20:47:20 ID:npEoeu5K

 固い床に転がされたかと思うと、次にはごつい婦人が視界を埋め、たくましい婦人たちに洗い場に投げられた。垢の下から出てきた皮膚が赤くなるほど擦られ、髪は泡が白くなるまで洗われる。
口の中には妙な液体を入れられ、手足は拘束されて爪を切られる。すっかり伸びた髭や頭髪も椅子に固定された状態で整えられ、捕虜はこれらを新しい拷問だと思ったほどだった。ぐったりとなすがままの捕虜に衣服を着ける。
そうして強靭な婦人たちは好き好きに―見れるモンになったじゃないかとか、ウチの旦那の方が男前だよゥとか、着やせするねえメアリ羨ましいんじゃないかいとか、そのドテっ腹だものねエとか―口にして姿見を置いた。
どこにでもある平凡な、何らここの国民と変わりない若い男がそこにはいた。
その若い男を自身だと確かめると、捕虜は婦人たちに問う。おれ、なにされるんですか。
きょとん、とした捕虜の肩を豪快に叩き婦人らは声を大きく上げて笑った。涙目になりながら婦人のひとりが言った。マエより悪いようにはならないだろうヨ。
 槍を突きつけられて、捕虜は女王に対面した。
近衛兵らしき二人の男に連れられ、広間に入る。捕虜が女王の目に入るのはこれが二度目だった。
女王の横には、やはり大臣が不服そうに控えていた。捕虜が平伏すると大臣は書状を取り出した。
「貴様はわが国との戦いにて敗戦したる国の民であるが、先での戦いにてその身をわが国の王と民と国家の為に投じ貢献したことを賞し、わが国の民として貴様を迎え入れる」
大臣の冷たい視線を首に感じて捕虜は答える。視線だけでも射殺されそうだ。
「ありがたく存じます」
「・・・では、わが国の王と民と国家に忠節を誓いこれからもわが国の繁栄に励め。・・・女王陛下のお言葉を頂戴するが良い」
息を吐くと同時に大臣の視線が強くなる。捕虜の背中を汗が伝った。頭を更に深く下げることを視線で強要される。
「お前はもう捕虜ではなく、わが国の民である。民は子であり、王は父母である。・・・私は至らない王ではあるが、民には誠実であろうと思う。お前は私たちがお前たちにした―」
大臣の視線が捕虜から女王に向けられる。捕虜は安堵を憶えたが、逆に女王は言葉に詰まり萎縮した。温度を感じさせない瞳が女王を貫く。女王の口はわなわなと震え、まぶたは伏せられた。大臣が静かに下るよう命じる。
「本当にアリガタイのか?不満じゃないのか!私は捕虜のことなんぞ考えたこともない!うれしいのか?わからない!お前は私を殺し報復したいと思わないのか?わからないぞ私には!」
「下りなさい!陛下お止めなさい、陛下!下れ!」
女王の言葉の途中途中大臣が恫喝する。珍しく声を荒げる大臣におびえ、近衛兵は慌てて元捕虜を起こし連れ出そうとする。豪奢な扉が閉まろうとするとき女王の叫び声が届いた。
「その男の三階級特進を許可する!!心して励め!」
355青信号の犬6:2007/02/28(水) 20:51:21 ID:npEoeu5K
あ、ごめん。わかりづらいな。今日はここまでです。次エロ
356名無しさん@ピンキー:2007/02/28(水) 21:00:36 ID:lr7cI2eb
どせいさんに不覚にも吹いた
GJ!
357名無しさん@ピンキー:2007/02/28(水) 23:01:36 ID:2qAYZeuZ
女王可愛いよ、女王。
GJ!!
358名無しさん@ピンキー:2007/03/02(金) 05:18:14 ID:upP+4g6p
外交官と遊女なんてどうだろう?
359名無しさん@ピンキー:2007/03/02(金) 11:17:48 ID:n3/DucCE
階級差はあるが「主従」じゃなくなるんじゃないか?
360名無しさん@ピンキー:2007/03/02(金) 13:36:28 ID:SYn+ZMJ5
>>350
>>352
折角だから、全部使うことにした。
エンドはグッドで、バッドは話の途中で夢オチとして出してみようと思う。
折角思いついたんだしな、リサイクルだ
361唯一:2007/03/03(土) 14:02:32 ID:X1am5TOD
「…夜が明ける……」
豪奢なベッドに横たわったまま顔を覆う姫君の声は、到底初夜が明けた花嫁のものとは思えないほど。
覆う両手の下で、瞳の縁に溜まる涙が耐えかねたように、一筋零れた。

「――なら…天にも昇る心地であったろうよ……」



「姫様…ファリナ様、お目覚めでございますか?」
国から付き従ってきた侍女が扉の外から声をかける。
ファリナは起き上がり、深く息を吐いて口を開いた。
「……起きている。入るが良い」
その言葉に従い、侍女は室内へと足を踏み入れる。
「姫様、お加減はいかがでございますか?」
「良い、とは言えぬな。…のう、セフィラ……アルスレート…は?」
「アルスレート様は暫く後にお越しになるそうでございます。それまでにお召し替えを済ませてしまいましょう」
「そう、だな…」
ゆっくりとベッドを降りると、心得たようにセフィラはそっとファリナの身体を支える。
そこで初めて、セフィラは主の唇に滲む血に気付いた。
「姫様…唇に血が…」
「……昨夜のものであろう」
ずっと、噛み締めておったから…と告げるファリナをセフィラは思わず抱き締めた。
そのセフィラの腕は侍女ではありえない、しなやかな筋肉の付いた、武器を持つことに慣れた者の腕であった。
ファリナに従ってきた侍女はその差こそあれ、その全てが武器を扱うことが出来る。
侍女の姿をしていても、侍女でないものもいる。
事実、セフィラは騎士の称号を持つ。ファリナに忠誠を誓う、女性騎士なのだ。
更に言うなら、アルスレートの副官の一人でもある。

「何故セフィラが泣くのだ」
ぽたり、と落ちて夜着に染みを作るものに苦笑しつつもファリナはセフィラを撫でる。
本当に泣きたいのはファリナだろうに、あやすように撫でる手にセフィラはますます泣けてくる。
「そろそろ泣き止まぬか。アルスレートが来てしまうであろう?」
「はい…申し訳ございません」
セフィラがようやく腕を放すと、しかたのないやつじゃ、とファリナが苦笑しながら涙を拭う。
「湯浴みをしたいのう」
「お手伝い致します」
「いや、よい。そなたは着替えを用意してくれまいか?」
「わかりました」
湯殿に向かうファリナを見送り、見られたくないのだ、とセフィラは思う。
ならば肌を隠すデザインのものが良いだろう、と考えて衣装を選んでいく。
勿論装飾品にも手を抜かない。
己の不手際で、大切な主が見縊られては一大事だからだ。

湯浴みを済ませて戻ってきたファリナの着替えを手伝い、装飾品で飾っていく。
ファリナが長椅子に座るのを助けると、丁寧に丁寧に、癖のない美しい青銀の髪を梳る。
362唯一:2007/03/03(土) 14:04:58 ID:X1am5TOD
こんこん。

慣れた強さのノックに、くすり、とセフィラは笑う。
「お越しになられたようでございますね」
「うむ。……入るがよい」
音も立てないようにゆっくりと扉が開かれ、アルスレートが姿を現す。
「おはようございます」
常となんら変わらぬ穏やかな声。そして、柔らかな微笑。
微塵の変化も感じないアルスレートに、ファリナは内心安堵する。
それを隠しながら、ファリナは口を開く。
「いつもより遅いのではないか?」
「申し訳ありません、少々用があったものですから」
「用?」
来たばかりのこの国に一体どんな用があるのか、とファリナは怪訝に思う。
それが表情に出てしまったらしく、アルスレートは苦笑するとファリナの傍に跪いた。
「以前頼んでおいた物をわざわざここまで持ってきてくれましたので、受け取りに行っていました」
「早朝にか?」
「持って来てくれただけ有難いというものですよ。本来なら、こちらから出向かなければならないのですから」
「そういうものか…」
「そういうものですよ」
くすくす、とアルスレートは微笑う。
「それで、何を取りに行っておったのだ?」
「左手をよろしいですか、姫?」
疑問に思いながらもファリナが左手を差し出すと、恭しくその手を取り、一度その甲に口付ける。
そして懐から箱を取り出して蓋を開け、その中のブレスレットをファリナの左手首に巻きつけた。
「姫に差し上げるにはいささか貧相かと思いますが、少しでも慰めになれば、と思いまして」
離れるアルスレートの手を残念に思いながら、ファリナは腕を引き寄せてブレスレットに目を落とす。
「!!」

一目で名匠が施したと知れる、繊細にして精緻な意匠。
花びらを一枚一枚重ねて作られた、様々な花。それを繋ぐのは本物と見紛うほどの葉。
そう、例えるならば、花冠だろうか。
そして。
いかに名門といえど早々容易く入手できるはずもない宝石が、並ぶ花々にある一際大きな花の中央に座していた。
花は、国に咲く花のうちでファリナが特に好むもの。
宝石は、彼らの国のごく限られた地域でしか産出されない。
その全てが、国を思い起こさせるもの。

「アルスレート…」
「気に入ってくださるなら、幸いです」
やんわりと微笑むアルスレートがこれを入手する為に一体どれほどの労力を費やしたのか、ファリナには見当も付かない。
傍で、哀しげに痛ましげに目を伏せたセフィラに、考え込むファリナは気が付かなかった。
363唯一:2007/03/03(土) 14:06:07 ID:X1am5TOD

心ゆくまでブレスレットを眺め、ファリナは息を吐いた。
そして、呼ぶ。
「アルスレート」
「はい」
「ここに座れ」
ぽんぽん、と長椅子を叩き告げるファリナ。
跪いたままのアルスレートがそれに躊躇していると、ファリナに腕を引かれる。
騎士たるアルスレートにはたいした力ではないが、元よりファリナに逆らおうなどとは思わない。
故に、腕を引かれるままに長椅子に座る。
座る位置が端であったのは致し方なかろうが。
「よし」
座ったアルスレートを満足げに見て頷き、ファリナはころり、と横になった。
ちょうど、アルスレートの膝の上に頭が乗るように。
「姫!?」
「動くでない。私に怪我をさせる気か?」
ファリナがそう言えば、アルスレートはぴたり、と動きを止める。
ファリナは満足そうに瞳を閉じ、アルスレートの手を掴むと、自分の閉じた目蓋の上にその手を乗せた。
「姫?」
「休む。昨夜、儀式が済んであの者が早々に出て行った後も眠れなかったのでな」



364唯一:2007/03/03(土) 14:06:40 ID:X1am5TOD
冷えてはいけない、とファリナの身体に掛け布をかけるように言うアルスレートに従い、セフィラはそっと、起こさないように持ってきた掛け布をかけた。
すぅすぅ、と静かな寝息をたてて眠るファリナを見つめ、セフィラは呼びかける。
「団長」
「私はもう、団長ではありませんよ。譲ってきましたからね」
「アルスレート様」
「なんですか?」
はぁ、と溜息をつき、名を呼ぶと、即座に応えが返る。
「このままにしておくおつもりですか?」
「政略結婚で、初めから上手くいくことなど早々ないでしょう?」
「そうではありません!姫様、姫様は!」
「静かになさい、セフィラ。姫が目を覚ましてしまいますよ?」
ぐ、とつまり、口をつぐむセフィラ。

セフィラがアルスレートとファリナの想いを知ってしまったのは偶然だった。
ファリナが愛おしげにアルスレートを見上げ。
ファリナが視線をそらした後、まるでそれを知っていて呼応するかのように、愛しげにやんわりと、常の笑みよりももっと柔らかい笑みを浮かべてファリナを見つめ。
――最もそれは一瞬で、気付いた者はセフィラ以外いなかった。
ファリナは気のせいだろう、と言い、アルスレートにはあっさりと、それが?、と言われたが。

そうして視線を落とすと、ファリナの腕が目に入る。
「それ、は…」
セフィラが見ている物に視線を落とし、アルスレートは納得する。
「仕方ないでしょう。今更、指輪など贈れませんからね」
「あと少し、でしたのに……あと少しで…」
「それこそ、詮無き事、ですよ。………まぁ、悔やむ気持ちがないわけではありませんが」
「それならば、どうして…」
「全ての愛が、実を結ぶわけではありません。その逆が、ずっと多いのですよ」
それは正論だ。
だが、伝え合っていないとはいえ、何故想い合う二人が裂かれなければならない?
それが表情に出てしまったのか、アルスレートは言葉を続ける。
「いかに名門とはいえ、私が当主となれるわけではありませんからね。陛下にとっては、あれが精一杯の譲歩だったと思いますよ?」
「でも、アルスレート様なら、もう将となっていてもおかしくはありません」
「そう思わない方がいらした。……それだけのことですよ」
「あれは妨害です。ご子息のもとに姫様を降嫁させたかったから…」
「そうですね。でも、もう何を言っても遅いのです」
ファリナを見つめる視線はどこまでも柔らかい。
それだけでどれほどの想いが籠められているのか、わかるほどに。
「姫が幸せなら…私のことなど、どうでもいいのです。私はただ、姫の傍に在り、姫を愛するだけ」


長い沈黙の後、セフィラは問いかける。
「………もし、姫様が幸せになれなかったら?」
「そうですねぇ…そんなものは罪悪ですから」
にこり、とつり上がる口元は冷笑を湛え。
共に戦場に赴き、笑みを浮かべたまま鬼神の如く敵を屠るアルスレートを知るセフィラですらも震えるほどの。
目を細めて冷笑を湛えたまま、酷薄な言葉を紡ぐ。



―――この王家の血を根絶やしにし、国を瓦解させて地図から消してしまいましょう
365唯一:2007/03/03(土) 14:09:20 ID:X1am5TOD
あ、エンド入れ損ねた。
申し訳ない
366名無しさん@ピンキー:2007/03/03(土) 14:20:22 ID:cGdu1EZM
>>365
GJ!
鬼畜化ルートもありそうな展開に期待
367名無しさん@ピンキー:2007/03/03(土) 21:48:10 ID:uZGUXcmW
これはいいね。
主従の中でもいちばん好きなパターンだ。
続きに期待。
368青信号の犬7(注意):2007/03/04(日) 00:50:12 ID:8b0a4vn2
謁見の間のすぐに小部屋があり、そこに連れられ強く頬を叩かれた。
赤くなった頬もそのままにぼんやりと大臣の顔を見上げる。うつろな色を宿した瞳が大臣を映す。

→1.原作沿いルート
   王「分岐?これ、分岐なの!?ねぇ!降臨!ネガティブマン、降臨!?」
   大臣「ああ、鬱的展開だよ」
   ・・・・ということで、苦手な人は注意しようねえ〜!

  2.大臣ルート
369青信号の犬7:2007/03/04(日) 00:53:52 ID:8b0a4vn2
→1.原作沿いルート

何が起こったのか理解できない、という表情で女王は大臣を見上げる。
半開きの唇にふつりと鮮やかな色をした血の珠が浮かぶ。未だに痛みを知覚していない女王を酷くさめた目で大臣は見た。薄氷のような瞳の中に女王がゆらぐ。
薄い唇をゆがめて大臣は言う。
「馬鹿」
たった一言の罵倒ではあるが、それは硬質さを持って女王に刺さった。一拍置いて女王の顔に焦りの色が現れる。大臣は何度も言う。

「あっあっあっあぁ、ごめんなさい!ごめんなさい!ねえ!やめてっ、ねえ、ごめんなさい!」
腕を頭上にあげ女王はうずくまる。大臣もそれを追ってしゃがみこみ、その腕を強く掴んだ。男にしては細身であるというのに、掴まれた痛みに女王はうめく。
「私は貴女の兄上じゃあないんですよ。そんなに怯えることないじゃありませんか」
耳元に唇を寄せて大臣は酷薄な笑みを浮かべる。米神を軽く吸うと、女王は小さく悲鳴をあげた。
耳や目元をくすぐるように大臣はくちで触れる。女王はそれを唇を噛むことで耐えた。
大臣の片手はドレスの襟ぐりを彷徨い、くつろげると鎖骨から徐々に上がってゆく。歯を立てて女王に口付ける。血がつよく薫る。探しあてた舌を削るようにして絡めとる。

ひたりと、喉元を大臣の手が覆う。白く華奢なものである。脈が速くなるのが伝わって、女王は離れようとするが無駄に終わる。ドレスを片手で器用に脱がしつつ大臣は徐々に力をかけてゆく。
苦しさからか、女王の目が細められぼとぼとと涙が溢れた。それはそのまま顎を伝って、大臣の手を濡らす。口だけでも放してやる、少し離れて見るその表情は大臣の歪んだ劣情を煽るだけだ。
突き飛ばすようにして長椅子に押し倒す。開放された気管は懸命に動き出し、待ち望んだはずの空気は女王の肺をちりちりと刺激した。
「!っ・・・は、ケホッ!ケホッ、コホッ・・・!***っ」
激しく咽ながら女王は大臣の名を呼んだ。すがるような声を大臣は一蹴する。
「そんな目で見ないで下さい・・・もっといじめたくなる。
 ・・ああ、あの時の彼のように抱いて差し上げましょうか?」
嗜虐的な笑みを浮かべつつ、赤くなった箇所に爪をたてた。喉が上下するさまが微細に伝わる。
「やめて!***やだ、はなして!ちがうのっ」
女王はもがき大臣から逃れようとするが、その間にもドレスは腰にかろうじて纏わるまでになっていた。
「ちがう!ちがうの!あ、あにうえは」

乾いた音が狭い部屋に響く。
「何が違うのです。事実は事実として認めなさい」
「やめてえ・・・」
黙りなさいと大臣は目で制す。すると女王は両手で顔を隠し、それ以外の抵抗をやめた。
鎖骨を舌でなぞりながら膝で脚を割る。女王はすすり泣いた。乱暴にされたことで兄との、大臣との記憶がごちゃまぜになりそうだった。
いじわるや冷たくされたことは沢山あったが、父王も后も誰も女王を見てくれなかった中で、ずっと一緒に居てくれたのは大臣だ。兄の話相手になるために連れられた筈だったのにいつのまにか女王の教師として近くにいた。
兄は后に似て玲瓏であり聡明だったが残虐で、よく幼い女王をいびり倒しては笑っていた。その響く笑い声を聴いて駆けつけるのは母ではなく、大臣。
女王の中で大臣はずっと「やさしいもの」のカテゴリの属していたのだ。詩歌ができぬと馬鹿にされても、いびつな刺繍を鼻で笑われても。
気の触れた兄は大臣の前で女王を穢した。兄は父王を殺し、母である后も殺め、妹をも手にかけようと訪れたのだ。その際大臣は片目の視力を失い、女王は一年余り言葉を失った。
不必要までに過保護な大臣と侍従らは綿菓子のように女王を甘やかしてきた。
だが、それも終わるのだ。悪魔のような兄を知るものは皆わずらって倒れていき、もう大臣とボケ始めた乳母しか残っていない。
370青信号の犬8(エロ):2007/03/04(日) 00:55:52 ID:8b0a4vn2

せつない嬌声がもれた。女王の荒れた呼吸は熱を孕み、その熱に浮かされたように瞳がゆらめく。
大臣の愛撫に慣れさせられた身体は、心とは裏腹にとろけてゆく。執拗なまでの愛撫に顔を隠していた手さえ、大臣のそれを受けようと強く押し付ける始末。冷静になろうとすればするほど自身の快楽の種を見つけてしまい、更に羞恥は昂ぶってゆく。
平素と変わらぬ顔で大臣は翻弄し続ける。痛みとも快楽ともつかぬものばかりが女王を追いたて弄ぶ。
いつもの、じゃれあいの延長のような行為ならばここで終わりだ。
ぎりぎりまで追い詰めておいて、そこで終わりにしてしまう。秘所に大臣が侵入することはあっても、それは指で。猫が捕らえた獲物を甚振るように、そのさきはない。求めても与えられない。

だが今は違う。
大臣は女王に告げた。「兄がしたようにする」と。甦る恐怖と共に暗いところからふつりと湧き上がる欲望。
とうとう潜り込んだ大臣の指を、きゅうっとしめつける。肉芽を摘まれて果てかける。それでは物足りなくて大臣にすがる。もっと欲しくて、懇願する。
「・・もっと、ちょうだぃ…いれてぇ。さみし、さみ、しいよ」
知らずに腰が揺れた。腰骨を掴んだ大臣の手に力がこめられると同時に、もう一本指がすべりこむ。二本に増えた指は早々に馴染み、ばらばらと胎内でうごめく。
「もう一本いれます。・・・貴女が私好みに育ってくれて、本当に嬉しいですよ。
 今回は私がしますけど、次はあの男にやらせてみましょうか。あれはよく彼に似ている…そう思いませんか?」

身体のうちに何か生き物がいるようだった。軽かった水音は粘り気を含んでぐちゃぐちゃと響き、聴覚を刺激する。あの男、というのが誰を指すのかはわからぬが、凄艶な笑みに恐れをなして女王はいやいやと首を振る。
そんなことより――はやくいれてほしい。
「***っ!さみし、い。せ、つないよぉ」
大臣は呆れたように息を吐いて指を抜く。そして息をつく間も与えずに、自身をあてがい先端をうずめた。
ヒュッ、と女王の喉が鳴った。むず痒い感覚に密かに狂喜する。長く、求めていたことが現実になるのだ。
ずぶずぶと入り込んでくる雄をよだれを出して受け入れる自分はなんて浅ましいのだろう。
挿入されただけで全身がひくついた。充分すぎるほどに慣らされたためか、喜びが勝るのか痛みは感じない。
「物欲しそうな顔をしないでください、はしたない」
「!ひゃんっ」
上気してはいるが無表情の大臣に咎められて、何故か内股がひきつった。大臣の眉根が寄せられる。叱責されて反応した自分が恥ずかしい。
ずるりと引き抜かれる感触におもわずつぶやいた。
「・・・どうして?」
「どうしてでしょう?なんだか面倒になりました。そうだ、乗って動いてくれませんか」
手を引かれて起き上がる。密着していた部分が外気に触れてぶるりと震えた。大臣は体勢を整えると女王を支え、ゆっくりと降ろした。
息が抜けない。女王はより増した圧迫感に息を詰める。先までとは違い、だるそうな雰囲気の大臣を見て悲しくなった。そして気付く。

もしかして、わたしは大臣に・・・焦がれていたのか・・・?
 ・・・・・・だが大臣はわたしを愛してはくれぬのだ。

泣きながら自身の快楽を追い求めて女王は腰を前後に動かした。大臣の手を胸に抱きしめ、一心不乱に腰を動かす。そうして大臣が果てたか知れないまま、意識を手放した。
371青信号の犬9:2007/03/04(日) 01:00:50 ID:8b0a4vn2
自分の上で崩れ落ちた女王の衣服を整え、大臣は女王を子供のように抱え上げた。
そのまま女王の部屋へと連れて、ベッドに横たえる。身体を清めるということは大臣の頭には無い。なぜならまだ、用事があるからだ。大臣は赤く染まった頬にやわらかく口付けて部屋を出て行く。
すぐに戻ってきた大臣は手押し車に一人の男を載せていた。元捕虜である。手足を拘束され、猿轡を嵌められ、これでは捕虜であった頃より待遇が悪い。
ガタンと音を立てて車輪が浮き、落とされる。蹴落とされなかっただけましだと思うが、代わりにしこたま肘を打ちつけた。
背中に体重をかけ固定し、大臣は一本の針を突き刺した。痛みに元捕虜がうめく。頭上で声がした。
「五分。五分でよくなります」
指先に熱が溜まるのを元捕虜は感じた。次第に全身まで熱が巡る。大臣は元捕虜の上に腰掛けたままなにやら語った。重みで身体がひりひりとしている。理不尽な扱いは多く受けてきたが、無性にイライラとした。
「イけないんですよね。どうにもね、イけないんですよ。ねえ、君ちみどろの女性に勃ちます?」
知るか、と言いたいが口は塞がれていて抗議できない。上から動かない大臣を振り落とそうとして身をよじると身体の異変に気がついた。
「ED?これ、EDかな?でも、一応は勃つわけです。むしろこう・・・奉仕している時の方が楽しいというか」
布が擦れて痛かった。下着が元捕虜を締め付ける。床に押し付けられた事で陰茎が立ち上がり始めたのを強く自覚した。元捕虜の頭を疑問符が駆け巡る。
「大抵嫌がるんですけど、みんな口だけですし。挿入してもねえ、精神的にイけないから。精神的に?気持いいと言えば気持いいんですけど…どうも」
何もせず触れてもいないのに達しそうだ。頭上で下らない話を男にされて達するのもバカバカしい。だが男は痛いほどに張り詰めてきている。
「うーん。求める愛しかたが違うんでしょうねー?」
372青信号の犬10:2007/03/04(日) 01:01:38 ID:8b0a4vn2
懐から時計を出して大臣は立ち上がった。重みから解放される振動に達しそうになり、口内の布を強く噛んだ。
「五分経ちました。君はベッドの女性を好きにしていいですよ。殺めるといけないので手枷は嵌めたままどうぞ」
拘束を解かれ、下をくつろげられる。平時ならば屈辱の他ないが、今だけはそのまま女性の下に駆け出しそうだった。元捕虜はその場にとどまり、熱をやりすごそうとする。見かねて大臣は声を掛けた。
「チャッチャッと入れて出した方がいいですよ。変に我慢すると脱水で死にますよ」
元捕虜は心中で謝罪の言葉を並べ立てるとベッドに近づく。その上には女性が、女性というには幼すぎたが所々に欝血の痕がなまめかしい体が横たわっていた。
音を立ててつばを飲み込む。元捕虜は大臣を振り返った。大臣は酒を口にしていた。これから行うことを余興にされているようで、酷く侮蔑された気になる。
「どうしたんです?辛いでしょう。ああ、酒はやりませんよ。まあ…薬入ってますから、ダメってこともないでしょうけど」
「違う。・・・このひとは、王ではないのですか」
喉がカラカラに渇いていた。薬が強すぎる上、女に欲情したのか静かに炎がともる。
「そうですよ。彼女はここの王です。それがどうかしました?」
ケロッとして口にした大臣を恐ろしく思う。謁見時の鋭い視線もそうだが、倫理観を持ち合わせていなさそうな今の声音も奥が知れない。
「さあ、さっさと犬のように腰をふりなさい。眠たくなってきました」
あくびをかみ殺すかのような顔をしつつ、向けられた殺気に急かされて元捕虜は女王に向き直った。

自由にならない手で、少しでも女王の秘所をほぐそうと手を伸ばす。襲を拡げるとこぽりと少量の白濁液と愛液がこぼれだす。
イけねーって言ってたじゃねーか
内心突っ込みつつどうにかそれらをかきだすと、白濁液が大臣の放ったものではない事に気がつく。顔を近づけると今までとは比べられぬほどの女が匂いたち、それが女王から分泌されたということを思い立つ。
「遠慮も準備もいりませんよ。ホラずずいと」
言われなくとも、元捕虜は男根を無防備な秘所にあてがい一気に貫いた。獣のように腰を打ち付ける。
肌が打ち合う音が何度も響く。悪夢を見ているかのように呻いた女王から逃れるように、元捕虜は白い肌を欝血の数まで焼き付けるように見つめ続けた。
早々に中で爆ぜるが熱は冷めず、何度もむさぼる内に女王も反応を徐々に現してくる。途切れ途切れに大臣の名を呼んだ。それに返事をすることは無く、元捕虜を促し大臣はただ座していた。
とろんとした瞳が元捕虜を捉えて言い放って伏せられる。
「・・・あに、うえ?」
それきり反応が返らないにも関わらず、元捕虜は精を放ち重なるようにして伏せた。


大臣は意識のないふたりを前にしてひとりごちた。
「子供ができたらどうしましょうか」
しばらくして、考えても仕方がない、というように紙を持ち出し書き付ける。
いつでも始末できるように近くに置いておこう。近くで武芸に秀でた者が多い場所。――城の警護につけよう。
「子供ができたらどうしましょうか」
楽しみでしょうがない、というように大臣は呟いた。


*長さの問題で9キモくて悪いな!
373名無しさん@ピンキー:2007/03/04(日) 01:04:16 ID:8b0a4vn2
>>364
GJ!王道大好き!

>>360
ハチ公のように待つよ
374名無しさん@ピンキー:2007/03/04(日) 03:29:05 ID:JlWkU0Vg
>>216
エロ部分はこちらに投下ときいて待ってた。
サイトを必死に見つけていて今日ようやく見つけた。エロなし部分も読みたかったから。
そしたらさ、完結してたんだ。将軍と傭兵は完結したんだな。
エロはもとから書く気なかったのか?
勝手なこというようだけど>>216の言葉信じて投下待ってたから裏切られた気分だよ。
書く気なかったんなら適当なこといわんでほしかったorz
375名無しさん@ピンキー:2007/03/04(日) 03:38:52 ID:YqVtm47d
>>374
中間部分の補完みたいな形で書こうと思ってたのかもしれないだろ。
本編にエロは無くても、サイドストーリー的に書こうと思ってたかもしれないし。
エロ無しは投下すると荒れるから、エロの無い部分をここに落とさずサイトに書くのも当たり前。
お前こそ憶測で適当な事言ってないで下半身裸で正座して待ってろ。
376名無しさん@ピンキー:2007/03/04(日) 08:00:26 ID:YIUUkQ6w
儲乙
377名無しさん@ピンキー:2007/03/04(日) 09:39:23 ID:luXhrBDH
お前ほんとにしつこいな。そんなにあの人が憎いのか。
でも楽しみにしてたのか?複雑だな。愛憎ってやつだな。

OK!愛憎ネタは嫌いじゃない。
それをネタにSS書いてみるかw

>青信号の犬
よくここまで話ふくらませたな!すげーよお前。
楽しみにしてっから頑張ってね。
鬼畜大臣て響きだけでエロくて好きだよ
378名無しさん@ピンキー:2007/03/04(日) 13:26:50 ID:zWpXCUsT
>青信号の犬
突発で始まったのにホントすごいよ、読み応えあった。
大臣の壊れっぷりが好きだな。
別ルートも楽しみに待たせてもらいます。

>>374
ウゼーッ!
本当に好きなら番外編か外伝としてエロ投下していただけると嬉しいと
職人さんにお願いするぐらいにとどめておけ。
そういう態度が職人さんをここから遠ざけてしまうと思わないのかね。
379名無しさん@ピンキー:2007/03/04(日) 14:19:50 ID:ci03Xjpz
>>365
王道でイイネ〜。
続きがっつり待ってますよ!

>青信号の犬
みんな言ってるけど、あれをここまでふくらませるなんてすげーぜ。
けだるい鬼畜大臣って単語だけでエロい。
大臣ルートってのも期待してます。
380唯のヤツ:2007/03/04(日) 14:35:24 ID:aMv9grrO
>>366
>>367
>>373
>>379
応援ありがとう
思ってたよりも受けが良いんだな…

陵辱も盛り込んでるからなぁ…少々…いや、かなりか?
痛い展開になるかもだが…うっかり頑張るさ

あ、ところで、グロいのってどのくらいなら大丈夫なんだ?
381名無しさん@ピンキー:2007/03/04(日) 14:40:48 ID:U/VlhrL1
グロは注意書きすれば問題ないと思う
382名無しさん@ピンキー:2007/03/05(月) 13:10:48 ID:6pmJ7jJH
>青信号の犬
何か色々ツボった(*´Д`)ハァハァ
正直最初は女王がアホの子ってどうよ?って思ってたけど、この女王は可愛すぎ。
個人的にグロいのはドンと来いだ!
383名無しさん@ピンキー:2007/03/05(月) 23:05:44 ID:47BU8qw+
新作期待AGE
384名無しさん@ピンキー:2007/03/06(火) 23:31:44 ID:YcFBqjZQ
主従古今東西

薬師寺涼子警視と泉田警部補
上司からのラブ光線が強いパターンだけども…
385名無しさん@ピンキー:2007/03/06(火) 23:51:42 ID:/t8LeOpa
>384
・∀・)ノシノシ
自分もお涼泉田は目下最萌の主従

泉田は素の状態で「お涼は生きてるからこそ美しい」とか
「(お涼に危険が及ぶ時には)私が盾になるしかないだろう」
なんてモノローグが出てくるあたり、単に自覚してないだけで
意識下では涼子にメロメロなんじゃないかと思う。

原作ではまず有り得ないんだけど、お涼が素直に打ち明ける&
泉田が自覚したら最凶のバカップルになりそうな悪寒w
386名無しさん@ピンキー:2007/03/07(水) 00:21:19 ID:Yz5oxImb
kwsk
387島津組組員:2007/03/07(水) 02:14:24 ID:1E9vLtWC
いつも古今東西をぶったぎってすまない。参加したいけど思い浮かばないんだチクショウ。

「兆し」の続きを投下します。

今のところ5章で完結の予定です。今回は第1章を。

エロは2章から各章にある(予定)。2章のエロはおまけみたいなもんですが…。
なお、寝取られ要素、暴力描写が後の章で出てきます。苦手な方はスルーよろしくです。
388涙雨恋歌 第1章 秋霖 1:2007/03/07(水) 02:16:33 ID:1E9vLtWC
「涙雨恋歌」 (なみだあめれんか)


 この間借りたハンカチ。瀬里奈は男物のハンカチにアイロンをかけながら貸してくれた男のことを思う。
 そのことを思うとどうしても、あの日自分の心に芽生えた気持ちに考えが辿りついてしまう。そしてその気持ちをどうしようかと考えて、堂々巡りの思考をもてあますのだ。

1.

「瀬里奈、コゲくさいぞ」
 風呂から上がってきた兄の尚が、リビングでアイロンをかけている瀬里奈に話しかける。
「えっ!? あ、きゃあああああ」
 思いにふけり過ぎて、そのハンカチにはしっかりとアイロンの形の焦げ痕がついてしまっていた。瀬里奈の叫びに尚は驚き、妹が身体を震わせている場所までやってきた。
「何やってんだよ、スイッチ切れ」
 べそをかいて床にぺたりと座っている瀬里奈をよそに、尚はアイロンのスイッチを切り、コンセントを引っこ抜いて片付けてしまう。
「この間辻井さんに借りたヤツか?」
 瀬里奈はこくりと頷く。
「どうしようお兄ちゃん」
 世界の終わりを宣言されたかのようにおいおい泣き始める妹の頭を撫で、尚はため息をつく。
「新しいの適当に買って、素直に謝るんだな」
「許してくれるかな」
「あのなあ、ハンカチ一枚くらい大したことないだろ」
 ヤクザがハンカチ一枚で大騒ぎするかってんだ。そもそも返す必要もないと思うぜ、オレは。
 惚れたんじゃないだろうなあ……。尚は心の中でうめく。確かに辻井さんは男らしいし優しいけど。
「ホラ、風呂入ってこい。オレはもう部屋にいくから。アイロン台は片付けとけよ。それから、もうすぐ引越しなの忘れんなよ」
 瀬里奈が頷き、アイロン台をたたんでいるのを見てから尚は自分の部屋へ戻る。
 まあ、オレのクラスの女も年上の男がかっこいいって言ってるしな。そういう年頃なのかなあ。
 母と仲違いしたあの日から、瀬里奈の様子がおかしいのは気づいていた。
 ぼんやりと頬杖をついては、大きなため息をつく。何かあったのかと問うてもなんでもないと首を振る。わたしなんかじゃつりあわないや、と呟いたのを聞いて、やっと合点がいった。
 父親不在で育ったが、強烈な存在の父親のことはこの街にいれば嫌でも耳に入る。
 瀬里奈は自分たちを省みない父親を恨みつつも、その父親に憧れ、認められたくて必死だった。
「ファザコンみたいなもんなのか?」
 机に向かい、尚はそう呟いた。
「だからってなあ」
 嫌だぞ、オレ、あんなでっかい人が弟になるの。頼むよ瀬里奈。
389涙雨恋歌 第1章 秋霖 2:2007/03/07(水) 02:18:51 ID:1E9vLtWC
2.

 翌日、学校が終わってから瀬里奈は友達の万理と一緒にデパートへでかけた。
 万理は最近大学生の彼氏ができ、明日の土曜日が彼の誕生日だからプレゼントを買うのだ、と鼻歌交じりだ。それに便乗して瀬里奈も替わりのハンカチを買おうと思ったのだ。
「で、ハンカチ焦がしたの?」
「う、うん」
 電車の中で瀬里奈は万理に買い物の理由を説明した。万理はあははと明るく笑って、瀬里奈の肩をボンと叩く。
「バッカねー。まあそういうドジなところが瀬里奈っぽくていいけどさ」
 セレクトは任せなさい! と胸を張る万理を見て、瀬里奈も笑った。
 常に明るい万理は中学からの友人だ。
 万理が地元S街の学校ではなく電車で通うことになるH街にある今の私立高校へ行くと言ったから、瀬里奈も猛勉強をして同じ高校に入ったのだ。
 ヤクザの娘だということを、「ふうーん」の一言であっさりと受け入れ、「でも瀬里奈は瀬里奈でしょ。あたし、瀬里奈のこと好きだから友達になりたいの」と言ってくれたかけがえのない親友。
 その万理の目下の関心ごとは、大学生の彼氏。どれだけかっこよくて優しいかを瀬里奈に毎日語る。一緒に食事に行ったり、遊びに行ったりしているからか、最近は瀬里奈と一緒に遊ぶことが少なくなってきていた。
「でさ。ついでに、下着売り場も行きたいんだよね」
「いいよ」
「彼がさー、セクシーなやつより可愛い下着のほうが似合うって言うからさ」
「そういうもんなの?」
「ま、あたしは彼が気に入ってくれればなんでもいいんだけどさ」
 だって結局脱ぐんだし、と万理は笑った。


 結局万理の彼氏へのプレゼントを選ぶだけで散々時間を使い、瀬里奈の買い物は20分もかからないうちに会計まで済んでしまった。その次に向かった下着売り場で、万理は花の刺繍がふんだんに施されたラズベリー色のブラジャーと、セットになってるショーツを選んだ。
「瀬里奈、こんなの似合いそうだね」
 そう言って万理が出してきたのは、すっきりとしたデザインで胸の谷間のところに蝶がとまっている、薄いブルーのさらりとした手触りのブラジャーだった。一緒についているショーツもブラジャーと同じさらりとした素材でできていて、やはり真ん中に蝶がとまっていた。
 ここですよ、ここを触ってくださいよ、と蝶が男を誘っているかのようなデザインに、瀬里奈はドキドキしながらもそれを握りしめた。
 この下着を脱がしてもらえる日がくるのかなあ。
 そんなことをぼんやり思いながら、レジに向かった。
390涙雨恋歌 第1章 秋霖 3:2007/03/07(水) 02:20:13 ID:1E9vLtWC
3.

 デパートを出るともうすっかり日は暮れていて、しかも雨が降っていた。
「あちゃー、降るっていってたもんね。天気予報。雨続きでやんなっちゃうね」
「だね。万理、傘は?」
 あるよ、と万理はカバンから折りたたみ傘を取り出す。瀬里奈も同じように傘をさし、おなか空いたね、という瀬里奈の言葉を合図にふたりは近くのレストランへ向かった。
 晴れていようが雨が降ろうが、女の子の話題は大して変わらない。特に今夢中になっている彼がいる万理の場合は、寝ても覚めても彼のことばかりだ。
 傘の中で笑いながら、ふたりの少女は目当てのレストランへ向かって街を歩いていく。
 ちょっと高いんだけど、結構おいしいんだよ、と万理は説明する。内装はこんなで、メニューはこんなで……と続けて最後に、ウェイターがかっこいいのよぉ、あたしの彼なんだけど、としめた。
 なんだ、結局のろけですか? と瀬里奈が言うと、万理はえへへと照れ、照れ隠しのように目的地を指差した。
「あそこの角を曲がったところ」
「ねえ、あの女の人綺麗じゃない?」
 万理が指差したちょうどその場所の軒先に、ひとりの女性が立っていた。


 はっきりとした顔立ちの顔を凛と前に向けて立っている。すらりとした長身の女性で、道を通る男が軒並み彼女に視線を向けるような美人だ。
「うん。オトナのオンナって感じ」
 万理がみとれてそう言うと、店の前に一台の車が止まった。光沢のあるチタンカラーのスポーツタイプの車だ。
 道行く人が息を飲んで見とれていると、運転席から男が現れた。
 ダークグレーのブリティッシュスタイルスリーピースを厭味なく着こなしている。瀬里奈の前を歩いているビジネスマンのスーツとは格と値段が明らかに違っていることは、男性のスーツに詳しくない瀬里奈でも分かる。
 ネクタイからポケットチーフ、白いシャツ、黒い靴に至るまでが完璧な英国紳士だ。
「あ……」
 男は後部座席から傘を取り出し、傘を広げてひょいとガードレールをまたいで店の前へ向かう。そのまままっすぐ歩き、軒先に立っている女性に何かを話しかけ、傘をさしかける。
 女はにっこりと微笑み、その傘の中に入る。男も微笑みを返し、軽く女に口づけ、女の肩をそっと抱く。
 ガードレールが切れたところから助手席まで傘に入れて歩く。
 背後の車をちょっと首を回して確認し、開けたドアから彼女が助手席に滑り込むとそっと閉めた。
 ぐるりと車を回って運転席側へゆき、傘をたたんで後部座席の扉を開けて傘を中へ入れて、男は運転席に乗り込んだ。
 その一連の動作がまるで洋画を見ているかのように決まっていて、万理はうわあかっこいい、と感嘆の声をあげた。
「大人の恋人同士で、なんか理想的だわぁ」
 パパがよく見てる昔のハリウッド映画みたい。万理が話し続けているが、瀬里奈にはそれが遠くに聞こえた。
「どしたの、瀬里奈」
 傘を持つ手が震えている瀬里奈を万理が覗く。いつの間にかこみ上げてきていた涙が一粒、頬を伝った。
「もしかして……?」
 こくりと瀬里奈は頷く。運転席に乗った男は、どう見ても辻井だった。
391涙雨恋歌 第1章 秋霖 4:2007/03/07(水) 02:22:18 ID:1E9vLtWC
4.

 万理に引っ張られて、瀬里奈は目的の店の窓側の席で声を押し殺して泣き続けていた。
 ウェイターが水とメニューを持ってやってくる。さらさらとした茶色い髪の毛の、きれいに日焼けした男だった。
「よう、万理。この子? 親友の女の子って」
「宏太さん!」
 あっけらかんと明るい声で水とメニューを二人のテーブルに置いた。そのウェイターを見て万理が目を輝かせた。
「あら? どうしたの、彼女、泣いてるの?」
 瀬里奈を見てウェイターが万理に訊ねた。瀬里奈は肩を震わせたままだ。
「んー。憧れてた男性が、すんごい美人とキスして、一緒に車に乗ってくのを見ちゃったんだよね」
 万理がひそひそとウェイターに事情を話す。
「じゃあ、俺、もうすぐバイト上がりだし。もう一人俺のダチも一緒に上がりだから、そしたら4人で飯でも食いにいこうぜ。だからここではお茶だけにしとけ、な、万理」
 ぽん、と万理の頭を撫で、軽くウィンクをして宏太は奥へ戻っていった。


 瀬里奈は家に帰りたいと言ったが、それを万理が説得した。楽しいことして忘れようよ、と。
 忘れられるとは思わなかったが、このまま家に帰ってもただ泣いているだけだろうし、と瀬里奈もようやく同意した。なかば投げやりな気持ちになっていたことも否めない。
 ふたりは紅茶をオーダーし、万理の恋人のシフトが終わるのを待った。瀬里奈も泣き止み、万理のノロケ話を笑いながら聞いていた。
「お待たせ」
 ウェイター姿から私服に着替えた宏太がふたりの席へやってきた。
 ウェイターの白いシャツに黒いパンツという格好の時は随分と大人びて見えたが、私服になるとぐっと歳が近く見えた。
「行こうぜ。会計しといたから」
「えっ、そんなの困ります」
 ためらっている瀬里奈の背中をポンと気軽に叩いて、これくらい気にしないで、と宏太は笑った。
 3人で店の外に出る。雨はまだ降っていたが、もうしばらくすれば止みそうな程度にまで、雨脚は弱まっていた。


 夕暮れ時からすでに夜に変わっており、街はネオンで彩られ昼間よりも明るく、美しくなっている。街を歩く女性の服や化粧も、昼間よりも派手に濃くなっていて、ネオンで照らされた偽の美しさを見せる街とお似合いだった。
 制服の瀬里奈は身の置き場がないように感じて、どうにも居心地が悪い。
 瀬里奈の父や辻井はこの偽の街を、暴力で仕切っている。それを夜の街はいつも瀬里奈につきつけてくる。
 だからあまり瀬里奈は夜の街を歩くのを好まない。どこでどう父とつながってくるか、瀬里奈には想像ができないからだ。
 おかげでこの街に住んでいながら、どこにどんな店があるのかということを瀬里奈はほとんど知らない。むしろこの街でアルバイトをし、夜の街を自在に泳いでいる宏太たちのほうが詳しいのだろう。
 店を出たところで待っていた男を、宏太は瀬里奈と万理に紹介した。智也、と名乗った男は、宏太の大学の先輩だと言った。
 もう大学は卒業していて、今は自分の店を持つためにここで勉強中なのだと。すでに社会人だからなのか、宏太よりも落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
 傘をさして待っていた智也が、さりげなく瀬里奈を自分の傘の中に入れてくれる。気づけば万理は宏太の傘の中に入っていて、自分の傘は出してもいなかった。
 宏太と智也の間で行き先はすでに決定されているらしく、ふたりは迷わずにどこかへ向かって歩いていく。
 カラオケボックスや居酒屋の客引きを鮮やかに避けながら、瀬里奈と万理をかばい女の子ふたりの歩調に合わせて。
392涙雨恋歌 第1章 秋霖 5:2007/03/07(水) 02:23:26 ID:1E9vLtWC
5.

 歩くごとに父の事務所に近づいていく。
 瀬里奈は誰にも会いませんようにと祈りながら歩いていた。
 そう思っていたのに、道の向こう側に一番会いたくない人物を見かけた。父と、そしてそのそばにいる辻井だ。どうやらこの近所の店に入っていたらしい。
 父は車に乗り込むところで、辻井はそれを見送っていた。通りは人相の悪い男が一列に並んでおり、他の通行人はみんなそこを避けて通る。
 車が発進し、一礼していた辻井が顔をあげた。その瞬間、ネオンの明かりが辻井の顔をオレンジに染めた。
 似合わない。辻井さんにネオンの明かりは似合わない。
 じゃあ何が似合うのかと問われれば、瀬里奈には答えられないのだが、それでもネオンや電飾は似合わないと独り言ちた。
 それは瀬里奈が辻井に対して抱いている幻想なのかもしれない。辻井が瀬里奈にヤクザの顔を見せることはほとんどなかったために、抱いてしまった理想像なのかもしれない。
 だが今の瀬里奈はその幻想にすがるしかなかった。
 ネオンや夜の街が似合う男の人と、制服の子供はとてもじゃないけどつりあわない。
 そんな男の人に似合うのは、夕方見た、あんな綺麗な大人の女性だけ。
「そんなのイヤ」
「瀬里奈ちゃん?」
 思わず声に出していた瀬里奈を、隣にいた智也が覗き込んだ。
 道の向こう側では辻井が配下の男たちになにやら指示を出し、そしてネオンの中を歩いていく姿が見えた。
 たった道路一本隔てただけの距離にいるのに、その距離が瀬里奈にはひどく遠く感じた。生きる世界が違っているようだった。


 どれほど思っても、どれほど望んでも、手の届かない望みなら望むだけ無駄なのかな。
 あんなに綺麗な女の人がそばにいるんなら、わたしみたいな子供を好きになってくれるわけない。
 敵うわけない。綺麗で、スタイルもよくて、辻井さんと同じくらい大人で、多分同じ世界にいる女の人。
 どうしたらいいの。どんなに願っても手の届かないものがあるなんて、思ってもみなかったよ。
「もうすぐだよ、お店」
 道の向こう側を茫然と眺めている瀬里奈に、智也はにっこりと笑いかけた。その笑顔はまだ大人の男になりきれていない青年の顔で、智也が瀬里奈の世界に近い人間だと思わせた。
「行こう」
 そっと肩を抱かれ、瀬里奈はその手のぬくもりに何故かほっとしていた。
393涙雨恋歌 第1章 秋霖 6:2007/03/07(水) 02:24:48 ID:1E9vLtWC
6.

 辿りついた店は、繁華街から少し離れたところにある一戸建てを改造したイタリアンレストランだった。
「瀬里奈ちゃん、失恋したんだって?」
 最後のデザートとコーヒーを食べている時に、宏太が突然訊いた。
「失恋っていうか。単に憧れてただけだし……」
 瀬里奈がぶつぶつと呟いている間に、万理が智也に説明をする。
「さっき初めて見たけど、渋くてかっこいいおじさまだったなあ。で、これまたかっこいい美人とキスしてたんだよね」
「へえ。まあそんな渋いおじさんだったら女の人もほっとかないんじゃねーの?」
「だよねぇ」
「つーか、そんなトシで女のひとりやふたりいないと逆に危なくねぇ?」
「そういやそうだよね」
 万理と宏太が頷きあっている。他人事だと思って、と瀬里奈は思うが、こうやって話していると気が楽になっていった。手の届かない人なんだって、今日よくわかったから。
「だいたい瀬里奈はお兄ちゃんッ子だからなぁ」
「なんの関係があるのよ」
「あるよ。あんなにかっこいいお兄ちゃんがいれば無理もないけど、先輩ばっかり見てたから、他の男に目がいかなかったんじゃないの?
 それで初めて好きになったのがあんなオジサンなんて、瀬里奈よっぽどだよ」
 よっぽど、なんなのよ……と瀬里奈は言葉に詰まった。万理が言うことも一理あると、常々思っていたからだ。
「まあまあ。瀬里奈ちゃんの年頃だと、それくらい大人の男に憧れる気持ちも分かるけど、もっと身近にもいい男はいっぱいいるよ?」
 智也の言葉に、瀬里奈は顔を上げて智也を見つめた。それって、自分がいるよって言っているんだろうか。
 前髪の下から熱い瞳が瀬里奈を見つめ返していた。その瞳に射抜かれて、ドキリと胸が高鳴る。
「さ、帰ろうぜ。いくら明日休みでも、ふたりとももう帰らないとまずいだろ」
 智也の言葉で、4人は立ち上がり、家路につくことにした。店の外に出ると、もう雨は止んでいた。


 店の前で、宏太と智也が何かを話している。万理と瀬里奈のほうをチラチラ見ながら打ち合わせをしているかのようで、瀬里奈は何か落ち着かない気持ちになった。
「じゃ、オレたちはここで」
 宏太は万理の手を引き、じゃあ、と手を振って夜の闇に消えていった。
 智也さんってかっこいいじゃん、頑張りなよ、と万理が去り際に耳打ちしていった。
「送るよ」
 残された瀬里奈に智也が笑いかけた。
「家、どこ?」
「えっ?」
「この近所なんじゃないの? 家まで送るよ。もう遅いし」
「駅でいいです。お兄ちゃんに交番まで迎えにきてってメールしたから」
「そう。じゃあ駅の交番の前までな」
 おれ、そんなに危ない男に見えるかなあ、と智也はおどけて笑う。
394涙雨恋歌 第1章 秋霖 7:2007/03/07(水) 02:26:18 ID:1E9vLtWC
7.

 地下にある交番へ向かうために地下街への階段を下りる。階段の踊り場で智也がぐいと瀬里奈を引き寄せた。
 見た目よりも逞しい智也の腕が瀬里奈の腰をしっかりと抱いている。密着した状態に驚いて、瀬里奈は智也を見上げた。
 見上げた智也の顔つきの真剣さに戸惑う。洋服越しに感じる智也の身体に、智也の鼓動にためらう。
 自分の早い鼓動も伝わってしまう、と思うと急に恥ずかしくて顔が赤くなった。
 そっと智也の手が瀬里奈の頬に触れる。
「また会ってくれるかな。今度はふたりきりで」
「え……」
「おれ、自分の直感信じてるんだ」
 心臓の音が大きい。外にも聞こえてるんじゃないか。ドキドキ胸を打つ音しか聞こえない。
「一目惚れってあるんだな。初めてだよ」
 鼓動の向こうから、智也の声がする。
 聞きたいと願った低く掠れた声じゃない。もう少し高くて、もっと柔らかで若くて明るい声だ。
 腰を抱く腕に力がこめられ、一層強く智也の身体を感じた。
 頬に添えられていた手が、顎に移り、智也の顔が近づいてくるのも感じた。
「好きだよ――瀬里奈」
 まつげ、とっても長くてたくさんあるんだ。だからあんなに深い目をしているんだ。
 瀬里奈がそう思った瞬間、智也の唇が瀬里奈の唇に触れた。
 いつの間にか、両腕で抱きしめられていた。
 瀬里奈はゆっくり目を閉じる。


 地上では、また雨が降り始めていた。
 むせ返るような雨の匂いが地下街に漂う。
 その匂いから逃れようと、瀬里奈は智也の胸に顔を押しつけた。
「雨、よく降るね」
 智也が瀬里奈を抱きしめながらそう言った。
「秋の長雨、なのかな」
 智也の声も瀬里奈には届かない。自分の心臓の音で、鼓膜が破れそうだった。
 仄かに智也の胸から香水の香りが漂ってきて瀬里奈の鼻腔をくすぐった。その香りを胸に入れようと息をする。
「もうお兄さん迎えに向かってるの?」
 その言葉の意味に気づき、心臓がもう1オクターブ高く鳴る。
「今日は帰らないで。君をもっと深く抱きたいんだ」
「だって、初めて会ったばっかりなのに」
「言っただろ、一目惚れだって。好きになったら、初めても何も関係ない。そうだろ」
 信じてよ、遊びじゃない、本気なんだから。そう訴える智也の声に瀬里奈の理性が揺らいでいく。
 揺らいで揺らいでようやく智也の顔を見上げると、智也は微笑みを浮かべて瀬里奈を見ていた。
「ごめん。今日は送り狼しないでちゃんとお兄さんの元に送るよ」
「あ、ご、ごめんなさい。あの、わたし……」
「おれ、焦ってたみたいだ。ごめんな。瀬里奈ちゃん可愛いから、うかうかしてたら誰かに持っていかれそうな気がしてさ」
「そんなこと、ないよ。わたし、万理みたいにもてないもん」
 じゃあ他の連中が見る目ないんだよ、とおおらかに笑い、行こうかと瀬里奈を促した。
395涙雨恋歌 第1章 秋霖 8:2007/03/07(水) 02:28:58 ID:1E9vLtWC
8.

 兄との待ち合わせ場所の交番へたどり着く。その間ずっと智也は瀬里奈の手を握っていた。その手を握り返すと、智也が恥ずかしそうに笑った。
 それから尚がくるまで、ふたりは何も話さなかった。尚の姿を遠くに見て、瀬里奈が兄に向かって手を振った時、智也が口を開いた。
「瀬里奈ちゃん、来週の土曜日空いてるかな。おれ、バイト休みだから、どこかへドライブにでもいかない?」
「えっ」
 突然の誘いに瀬里奈が口ごもっている間に尚がやってきて、智也は考えておいて、また連絡するから、と言い置いて去っていった。
「誰?」
「万理の彼氏のお友達」
「ふうん」
 自分が歩こうとしなかった夜の街を自在に歩いている智也についていけば、もしかしたら自分ももっと大人になれるのだろうか。
 立ち去った智也の後姿を瀬里奈は見つめた。その後姿は、優しそうでしなやかで軽やかで頼もしくみえてならなかった。
 優しいところは同じなのに。
 いつも張りつめた空気を持つ辻井と比べて、瀬里奈はため息をついた。
 しとしとと細く静かに降る雨の中を兄とふたりで歩く。
 兄と歩くのは安心する。いつも自分を守り、自分をかばってくれると分かっているからだ。
 それと同じ安心感を与えてくれる男が辻井だった。智也と歩いても、そう感じるようになるのだろうか。
 瀬里奈の心は定まらず、智也と辻井の間を行ったりきたりだ。考えても考えてもどうしたらいいのかは答えが見えない。
 まるでずっと降り続く秋の雨が地面を濡らしていくように、その悩みは瀬里奈の心を重くしていく。


 玄関を開けると、母が迎えてくれた。都も今帰ってきたところのようで、まだ着物を着て髪を結ったままだった。
「おかえりなさい。遅いわね」
「ただいま」
 尚だけが都に返事をした。瀬里奈はまだ母から顔を背けてしまう。
「気をつけなさいね」
「大丈夫だよ。遅くなる時はオレが迎えに行ってるし」
「あなたも気をつけるのよ、尚」
 京都への移住にあたり、店を譲る段取りなどもあるらしく、都は最近いつもに増してくたびれた顔をしている。
 尚と瀬里奈がふたりとも東京に残ると知り、さすがに落胆の色を隠せなかった都だが、その決断を覆そうとすることはなかった。
 寂しいわ、とだけ呟いた母は今まで見たこともない哀しそうな顔をしていた。
 そんな思いをしてまで、どうしてママは京都へ行くの? ママはお父さんのこと、どう思ってるの。本当に好きな人は誰なの?
「ママ」
「なあに?」
「お父さんと、どうやって知り合ったの?」
 リビングのドアを開けようとしていた都の動きが止まった。
「共通の――知り合いがいたのよ」
「一目惚れだった?」
「初めて会った時、目と目があって、時間が止まったかと思ったわ」
 都の目が遠くを見て、まるで母が20歳くらいの娘に戻ったかのように見えた。
「じゃあ……。京都の人は?」
 瀬里奈が訊くと母はふっと微笑み、言った。
「彼に見つめられて、止まっていた時間が動いたわ」
 さあ、もう寝なさいと都は言い置いてリビングへ入っていく。
「ママ。一目惚れって信じる?」
 リビングへ追っていき、訊いた。
「――運命の人って、いるものよ」
 母にとっての運命の人は誰だったのか。そんな質問を拒む背中が、瀬里奈の目の前にあった。
396涙雨恋歌 第1章 秋霖 9:2007/03/07(水) 02:31:00 ID:1E9vLtWC
9.

 電子音が暗い部屋に鳴り響く。ヘッドボードに置いた携帯電話に、島津は寝そべったまま手を伸ばす。
「誰だ、こんな時間に」
 思わずボヤくと、横で寝ていた女も目覚めてくすりと笑った。
「まだ1時すぎじゃないの」
「うるせェな、俺が寝てる時間は遅い時間ってことなんだよ――なんの用だ、瀬里奈」
 均整の取れた筋肉で覆われた上半身を起こした。だるそうに前髪をかきあげる。
『お父さん、一目惚れって信じる?』
 電話口の我が子は真剣な口調だ。その真剣さに思わず島津は答えをためらう。そもそも尚ならともかく、瀬里奈が島津に電話をしてくること自体が初めてだった。
「一目惚れしない女をその後本気で抱く気にはなれねェな」
『抱くって……。じゃあ本気じゃなかったら抱けるの?』
 電話の向こうで絶句した娘に、身体だけ抱くんなら簡単だぜ、と答える。
「心まで抱いてやるには会った瞬間から惚れてねェと無理だな」
『一目惚れしたら、その日のうちにそういうこと、できる?』
「相手によるな。本気で惚れてりゃセックスは最終目的じゃあないからなあ。ま、惚れてようがそうじゃなかろうが、そうそう強引なことはしねェかな」
『じゃあ、強引にしなかったってことは、本気で好きってことなの?』
「男によるだろ。自分に自信のねェ男かもしれないし、そういう効果を狙ってんのかもしれねェしなあ」
『もっとわかりやすく教えてよッ!』
 なんで俺が怒鳴られなきゃなんねェんだよ。呆れて首を振ってから、横に寝ていた女にビールを持ってこいと指示する。


 彼女が持ってきたビールを呷り、沈黙が続く電話の向こうの娘に話しかけた。
「瀬里奈よ。お前、誰かに惚れたか?」
 零れて胸を伝うビールを、女が舐め取っている。その肩をビールを持つ手で抱き、黒い髪に口づける。
 まだ残っているビールの缶を女に渡した。瀬里奈が抗議をしている声が聞こえたが、気にせず続ける。
「本気で惚れたんなら、相手にちゃんとぶつかれよ。身体だけじゃなくて心もぶつけねェと、心を抱かれずに終わっちまうぞ」
『本気で好きかどうかなんて、どうやったらわかるの……?』
「おいおい、瀬里奈。お前、辻井に会いたかったり、触れたかったり、触れて欲しいとか思ったことないか?」
 横でビールを飲んでいた女がむせた。驚きに目を見張り、島津を見ている。その顔は昼間辻井が車に乗せた女のものだ。
『な、なんでそこで辻井さんの名前が出てくるの!』
「思ってんだろ、それが惚れたってことだ。わかったな。それから、誰にどこでいつ抱かれようがが文句言わねえが、避妊だけはしとけよ。俺ァまだ孫はいらねえぞ」
 横の女が肩を震わせて笑っている。
『やっぱり、お父さんに訊いたのが間違いだったよ』
 盛大なため息とともに、電話は切れた。


 かけてくる時も突然なら切る時もいきなりかよ、と吐き捨てる。携帯電話をベッドに投げ捨て、女が飲んでいたビールを取り上げて飲み干した。
「チッ。ガキがいっちょまえなこと言うから目が覚めたじゃねェか」
 背中を向けて寝ている女の身体を後ろから抱きしめて、首筋に大きな音をたてて口づけた。
「俺の娘のクセに晩熟(オクテ)で困るぜ」
「都さんのお嬢さんだから慎ましいのよ」
 背中から唇を離し、女の身体を自分の方へ向けた。自分を見上げている瞳を島津は見つめ、やがて口の端で笑って言った。
「へらず口は閉じるに限る……か」
 島津が女の身体にのしかかり、ゆっくりと深く口づける。ふたりの身体が重なり、甘い吐息と香りが暗い部屋を包んでいった。


(2章へ続く)
397島津組組員:2007/03/07(水) 02:35:57 ID:1E9vLtWC
以上で「涙雨恋歌 第1章 秋霖」終了です。

続きもがんばります。
398名無しさん@ピンキー:2007/03/07(水) 03:07:19 ID:QZOB6MQo
>>397
GJ
続き期待してます
399Il mio augurio:2007/03/07(水) 15:27:18 ID:ptGm1SJv
間章を投下する。

……まだ主従じゃない…が。
次はちゃんとお嬢様と執事…使用人?になるから、大目に見てくれ

400Il mio augurio(間章):2007/03/07(水) 15:28:42 ID:ptGm1SJv
療養もそろそろ良いだろうという頃、由貴は書類を持ち、一人の少年を連れて再び暁良の元を訪れた。
「気分はどうかな?」
「だいぶいい」
「そうか、それはなにより。これを見てもらえるかな?君を引き取っていい、と言っている者たちだ」
そう言いつつ差し出された何組かの夫婦の書類を受け取り、暁良は目を通す。
「この人たちが?」
「そうとも」
「でも……僕……」
暁香の傍にいたい、とは言えず、困ったように由貴を見上げる。
由貴はふむ…、と顎に手をやり、考え込むとしばらくの後に口を開いた。
「暁香の傍を離れたくない、のかな?」
問われた暁良は恥じる様に俯く。
しかしそれは明確な答えで。
「ふむ…なるほど?ならば……この者たちが良かろうな」
そういって、一組の夫婦を選び出す。
「夫は執事、妻は私の妻の薔薇園の世話をしている。人柄は私が保証しよう」
こく、と頷き、了承の意を示す。
暁香の傍にいられるようにしてくれるなら、他はどうでもいい、と思ったのだ。
「では、そのように手配しよう」
にこりとしつつ、由貴は書類になにやら書き足していく。
由貴は書き足した書類を小脇に抱え、ああ、そうだ、と言って背後に控える少年に目配せした。
す、と由貴の背後に控えていた少年が進み出る。
「これは暁香の兄の側仕えでな。これについて学ぶと良かろう、と思って連れて来たのだよ」
「お初にお目にかかります。私は暁香お嬢様の兄君、瑶葵(たまき)様の側仕えをさせて頂いております、薫野 氷雨(しげの ひさめ)と申します。
こちらのお屋敷には代々仕えさせて頂いておりますので、私のことは氷雨、とお呼びください」
にこり、と人好きのする微笑を浮かべ、氷雨は柔らかな声音で告げる。
「あ、えと…よろしく、お願いします?」
氷雨にとても優しそうな印象を受けた暁良は、戸惑いながら頭を下げた。

では後を頼む、と言い置いて由貴が出て行くと、氷雨は暁良に告げた。
「まず、早急にその言葉遣いを改めなくてはいけませんね。貴方の養い親になる夫妻は泊瀬家の使用人です。
使用人は、主人に無礼な口を利いてはなりません」
こくり、と頷くと、氷雨の目が細められる。
「それもいけません。理解できたら、はい、と言いなさい」
「は、はい」
「いいでしょう。…貴方には、様々なことを学んでもらいます。一般教養は言うに及ばず、私達の業務を。
なかには、およそ一般常識から外れるようなこともあります。ですが、暁香お嬢様のお傍にいたいなら…それは必須です」
「は、はい」
「私は厳しいですからね、心しなさい」
「はい」


初顔合わせから、しばらく過ぎた。

最初のうちは一般教養、使用人の業務を詰め込まれ、覚えることの多さに混乱したこともある。
しかし、それが必須なのだと言われるなら、それを全て覚えなければならない。
なかでも暁良が一番梃子摺っているのは、紅茶の淹れ方。
なかなか暁香の好む紅茶にならないのだ。
暁香は「いいこでまってるー」と言っていてくれるのでその期待に応えたい、と暁良は思うのだが。
如何せん、そんな事などしたことはなく…むしろさせてもらった記憶などないので戸惑いが先に来てしまう。
これではいけない、せめて飲める紅茶を淹れられるようにならなくちゃ…そう思い、何度も紅茶を淹れる練習をする。

401Il mio augurio(間章):2007/03/07(水) 15:30:17 ID:ptGm1SJv

ぱしん!

「……お話になりませんね」
「っ!」
鞭による容赦ない一撃をその身に受け、暁良は苦痛に顔を歪めた。
それを目を細めつつ見つめ、冷たい声音で氷雨は告げる。
「暁香お嬢様の御為に、貴方は強くならねばなりません。貴方に求められているのは、高い教養と、戦闘能力です」
氷雨が戦闘能力、と告げたところで、暁良は氷雨を見上げる。
「名門泊瀬……その直系であらせられる暁香お嬢様の御身に不逞を働く者がいないとも限りません。何時如何なる時も主を護れる様になることが必要なのです」
「でも…じゃなくて、ですが…」
そこまでせずとも、護衛がいるのでは?…という疑問が暁良の顔に出たのだろう。
その疑問に答えるように氷雨は言う。
「無論、護衛はいます。でも、その護衛が常時暁香お嬢様の護衛を出来るか、といえば、答えはノーです」
それはそうだろう。
どちらかと言えば強面の護衛が常に張り付いていたら、息苦しいだろう。
それに、その護衛が付いていけないところも出てくる。
いずれ暁香が通う学校など、その最たる場所。
「う…じゃなくて、はい」
「なにも私のようになれ、とは言いません。少なくとも、暁香お嬢様の盾になれるようにはなりなさい」
さすがに氷雨のように、は無理だ、と暁良は思う。
先日、大人相手に氷雨が鍛錬しているところを見学させてもらったが。
鍛錬を始めたばかりの暁良には無理としか言いようがない。
氷雨は主に仕えるために幼い頃より鍛錬を重ね、すでに大の大人にすら引けを取らないのだ。
「は、はい」
「暁香お嬢様が大切なら、強くおなりなさい」
そうだ、と暁良は思う。
暁香に何かあれば、自分の存在意義が失われてしまう、と。
これはそうならないための鍛錬なのだ。
「はい」
「よろしい。では、続けますよ。……どこからでもかかっておいでなさい」

402Il mio augurio:2007/03/07(水) 15:35:39 ID:ptGm1SJv
戦える執事、氷雨は結構重要だったりする。
……お嬢様に性教育したりとか、男女の営み教えたりとか?
403名無しさん@ピンキー:2007/03/07(水) 21:14:54 ID:Yz5oxImb
続きをいい子で待ってる。
氷雨さんって実はj(ry?
404名無しさん@ピンキー:2007/03/08(木) 02:46:43 ID:txZAUUyw
戦闘能力と聞いてスカウターでもつけてんのかと思った
GJGJ
405唯一:2007/03/09(金) 15:48:34 ID:aNRgUw6j

「セフィラ」
「はい」
呼ばれ、セフィラは振り返る。
アルスレートは窓辺で小鳥達に餌をやるファリナをちらり、と見て、すぐにセフィラに視線を移した。
そうして、徐に紙を取り出して差し出す。
「これを頭に叩き込んでおいてください」
差し出された紙切れを受け取り、セフィラはそれに目を落とす。
何かの見取り図のようなものだ。
「これは?」
「この城の脱出経路図ですよ。赤く線を引いてある通りに行けば、城外に出られます。要所要所に目印がありますから、迷いはしないと思います」
「アルスレート様は?」
愚問だとでもいうように、アルスレートは微笑う。
調べ上げた脱出経路をつぶさに見、見取り図を書いたのはアルスレートなのだ。
「もう覚えました。貴女が覚えたら、喰べるなり燃やして灰にするなりして抹消してください」
「何か、起こるのですか?」
「いいえ?起こるわけではありませんよ。備えあれば憂い無し、といったところです」
セフィラが不安げに問いかければ、苦笑しつつアルスレートは答える。
―最近は少々不穏ですからねぇ…
そう呟くアルスレートに、なるほど、とセフィラは納得する。
それはセフィラも当然感じていたからだ。
ファリナに従って来た当初から、不穏ではあった。
だが、このごろはそれももう、いつ爆発してもおかしくない気がしていたのだ。
王に危機感はあまりないようだが――



王は民に慕われていない。
先王が逝去した後、温和で知られた世継ぎの王子、他の兄弟姉妹たち悉くをあらゆる手でもって殺し、王となった。
それを批難する者、先王の臣、世継ぎの王子と他の兄弟姉妹の支持者たちは処刑されたり、投獄されたり、辺境に送られたりしている。
故に、表立っては誰も言わないが、本来なら王位にあるはずのない王の正当性を疑問視する者は多い。
また、王が暴虐であること、数代前の王が閉ざした後宮を復活させたことも挙げられる。
美しいと評判の女――無論、王の眼鏡に適う美しい女、ではあるが――が次々と後宮に召し上げられた。
それが人妻であろうと、婚礼を控えていようと、恋人がいようとまったく関係なく。
応じなければ武力で脅し、奪うように攫うようにそれはなされ。
王の興味がそがれると、召し上げられた女達は帰されはした。
帰されたと言っても皆、物言わぬ骸で、だが。
そうして変わり果てた妻や恋人や姉や妹、あるいは母や娘を目の当たりにし、何とも思わぬ訳はなく。
静かに確実に、彼らは憎悪を募らせていった。
―――指導者が現れれば、すぐさま反乱が起ころうほどに
あらかた国内の美しい女を狩り尽くすと、次は他国への侵攻が開始された。
無論のこと抵抗はあったが、小国の抵抗など物の数ではなく。
近隣の小国を次々と蹂躙し、属国としていった。
当然の如く、美しい女を狩りながら。

なかには贅沢できるなら後はどうでもいい、という女もいないではなかった。
しかしそれは当然、少数派であったが。
その女達は王に媚を売り、寵姫として贅を尽くしているのだ。
嘆き、悲しみ、苦しむ女達を尻目に。
406唯一:2007/03/09(金) 15:49:21 ID:aNRgUw6j

「そなたは馬鹿よ…」
窓辺の椅子に座ったまま遠くを眺めながら呟くファリナの声に、傍に控えるアルスレートはその横顔を見つめた。
「愚か者め」
「馬鹿で愚かで構いません」
「愚か者めが」
「はい」
愚か者め、そう吐き捨てるように呟き、ファリナは両手で顔を覆った。
あぁ、と嘆く声がアルスレートの耳に届く。
「姫……」
今のアルスレートには、ただ姫の傍にあることしかできない。
アルスレートが動くことができるほどの下地が整っていないために。


嘆きが止み、長い沈黙の後、ファリナは囁くように呟いた。
「………我が騎士、アルスレートよ」
「はい」
「あの、幼い約束は…まだ有効か?」
「はい、勿論です」
「私があの者の妻となり、王妃となった今でも、か」
「はい」
あの遠い日の、ふたつの約束は今もアルスレートの胸にある。
ファリナが国を守るために嫁ぎ、この国の王妃となった今でも。
たとえ、その約束のうちのひとつが果たされることが永久になくとも。
約束はすでに、アルスレートの中では誓約と言ってもいいほどになっている。
「だからそなたは馬鹿なのだ。…国へ戻れば、条件は満たされよう?」
「そうですね」
「ならば!何故戻らぬ!?」
「我が姫のお傍を離れてまで、条件を満たそうとは思いません。何より、姫を一人にしたくありません」
はらはらと頬を伝う涙を拭い、認識の差があることを知りつつアルスレートは微笑む。

始祖王の盟友であり、常に始祖王の傍にあった誇り高き騎士の系譜。
その直系であるアルスレートが嫡男であれば、何の問題もなくファリナを娶ることができた。
しかしそうではないため、ファリナの両親たる国王と王妃から条件を提示された。
その条件の内容は想いを打ち明け、ファリナを望んだアルスレートに対する国王と王妃の、最大限の譲歩だった。
ファリナはアルスレートが父王と母后に提示された条件を知っているが、そのためであることまでは思いもしない。
ただ、そんな条件を提示されてもアルスレートにはどうしても叶えたいことがあるのだ、と思っただけで。
そして、幼い約束のためにアルスレートが傍にいる、ということだけは理解していた。
それで構わなかったから、アルスレートもファリナに告げることはなかった。
告げていれば何か変わっただろうか、ともアルスレートは思うが…おそらく、現状に変わりはなかったろう。
民が害され苦しむことを憂え、嫁ぐことを決めるような方なのだから。
ファリナに付き従うことを決めたアルスレートに、国王と王妃はそれこそ何度も問うた。
――耐えられるのか、と。
それに対するアルスレートの答えは「耐えます。姫の傍を離れ、生きられるとは思いません」というものだった。

「私はいつまでも、姫の傍に。どうか私から、姫を護る栄誉を奪わないでください。……さもなくば、今この場で私の命を絶ってください」
す、と跪き、静かに笑みを浮かべて見つめるアルスレートを、ファリナは抱き締めた。
「愚か者!」
詰る言葉とは裏腹に、ファリナはアルスレートをきつく抱き締める。
アルスレートは抱き締めたいと思う気持ちを必死に御し、されるがまま。
「どこへなりともお供します。私の全ては、御身のものです」
407唯一:2007/03/09(金) 15:50:08 ID:aNRgUw6j

私の全ては御身のもの、たしかにアルスレートはそう言った。
それを覆すつもりは、アルスレートにありはしないが。
長椅子に座らされたのはいい、それはまだ理解できる。
最近はよく膝枕を所望されるようになっていたから。
だがこの状況は理解できるものではない。
――何故に膝の上に姫が座るのだろうか?
「………姫?」
問うアルスレートの声が、困惑に揺れたのは仕方なかろう。
それを聞き流し、座らせたアルスレートの膝に座ったファリナは擦り寄り、その肩口に顔を寄せた。
「大人しくせよ。そなたはただ、椅子になっておればよい」
「王に見つかれば、ただではすみません」
焦がれる姫に擦り寄られ、吐息すらも感じられる距離に眩暈を起こしそうになりながらも、アルスレートは努めて平静な声で窘める。
「王?……あの者がここに来るものか。婚儀の後、訪うたことが一度でもあるか?」
くつくつと、ファリナは哂う。
「気に入りの寵姫の元におろうよ。……あの者は私に世継ぎを望んでなどおらぬ」
「姫…」
「だが、それでよい。あの者の子など産みとうもないわ」
怖気が走るわ、と言いつつファリナはさらに擦り寄る。
「教えてやろう、婚儀の儀式としての行為のおり、あの者は言ったのだ。
―――――其の方が我が元に大人しくしていれば、其の方の国には手を出さないでいてやろう――、とな」

くつくつ、くつくつ、と哂うファリナにアルスレートの心は痛む。
先程ファリナが告げた王の言葉も相俟って、王に対する憎悪は弥増す。
間違ってもこんな風に哂う方ではなかった。
綻ぶ花のように、麗しく笑む方だったのだ。
アルスレートが好んでやまない、麗しい花のような、春の柔らかな日差しのようなそれが次第に失われ。
こんな、およそファリナに似合わぬ笑みに変わってしまった。
それを苦々しく思いながら、アルスレートは問いかける。

「……帰りたい、ですか?」
「そうだな………帰れるものならば」

かえりたい…と小さく小さく呟き、擦り寄ったまま眠りに落ちてしまったファリナをアルスレートは抱き締める。
それはそれは優しくファリナの髪を梳き、その髪に口付け、力の抜けてしまったファリナの手を取ると恭しく、愛おしそうにその手に口付けを落とした。
しっかりと眠っていることを確認すると、アルスレートはファリナを抱き上げる。
アルスレートにとって世界で最も価値のある、得難く尊い重みが両腕にかかり、口元を綻ばせた。
腕に抱いたまま寝台に運び、そっと横たえる。
そして掛け布をかけてやり、微かに眉が顰められたのを癒すように何度も頬を撫でる。
愛に満ちたそれは、眠っているファリナの顰められた眉を解き、穏やかな寝顔に変えるほどのもの。
それに安堵したアルスレートは自らの唇に指で触れ、その指でファリナの柔らかく甘い色を湛える唇を辿った。



「――赦し難い」

表情すらも消し去り呟くアルスレートの声は、聞く者を須く凍て付かせることができるだろう声音だった。

408唯のやつ:2007/03/09(金) 15:53:16 ID:aNRgUw6j
以前小ネタとして投下したものを取り込んで投下した。
こんなもんでいいのか、と思いつつ。

……次、もしくはその次に、陵辱ネタが来る…はず
………多分
409名無しさん@ピンキー:2007/03/09(金) 16:12:21 ID:F/SwmFnw
>>402
GJ。
やはり時代の最先端は武闘派使用人か。
410名無しさん@ピンキー:2007/03/09(金) 19:42:56 ID:JSLTa8gG
使用人はやはり戦えんとなぁ。
美味しい紅茶を淹れるスキルと、戦えるのは必要だろう。
……投げたフォークが壁に刺さったりとかな。
411名無しさん@ピンキー:2007/03/09(金) 22:59:41 ID:jO5wpiYA
投げたフォークが壁に刺さるで小ネタ妄想したんで投下する。
412アンドロイドとお嬢さま 1:2007/03/09(金) 23:02:30 ID:jO5wpiYA
「ヴィーヴィー! あなた、なんてことをっ」
 青ざめてずるずると床に座り込む少年に駆け寄り、オーガスタは傍らに膝をついた。わなわなと震える様に同情を感じながら、オーガスタはヴィヴィアンをきつく睨みつける。
「失礼いたしました。手が滑りました」
 恭しく頭を下げるヴィヴィアンにオーガスタは憤然と言い放つ。
「手が滑った? どういう滑り方をしたらバターナイフが壁に刺さるのよ」
「バターのせいでしょう」
「ヴィヴィアン!」
 オーガスタは立ち上がり、両手を腰に当ててヴィヴィアンを見上げる。片や怒りの熱さで刺し貫き、片や常と変わらぬ静かさで受け止める。大きな温度差を持った視線を絡ませたまま、二人は沈黙の内に会話する。
 ほうっておけば日が暮れるまで続くであろう無言の攻防を中断させたのは座り込んでいた少年だった。
「か、帰る!」
 怯えた表情でヴィヴィアンを見上げ、オーガスタが口を開くよりも早く少年は出口である扉へと駆けだした。
「……まただわ」
 ぽつりとオーガスタは溜め息を落とす。
「あなたったらどうしていつもそうなの?」
 オーガスタが少年の背を眺めている間に移動していたヴィヴィアンは壁からバターナイフを引き抜いていた。
「どうしてお行儀よくできないの?」
 バターナイフを机に置き、ヴィヴィアンはオーガスタをまじまじと眺める。
 机の上には先ほどヴィヴィアンが用意していたティーセットがそのまま置かれている。
「お言葉ですが、マスター。私は行儀よくしているつもりです。行儀が悪いのは彼の方でしょう」
 ヴィヴィアンの手がオーガスタの髪に触れ、淡い色のそれを一房手にとる。
「あなたの髪に触れました」
「ちょっと触っただけじゃない」
「いいえ、マスター。それは許し難い行為です」

413アンドロイドとお嬢さま 2:2007/03/09(金) 23:03:47 ID:jO5wpiYA
 ゆっくりとヴィヴィアンの顔がオーガスタに近づき、手にした髪に口づける。
「あなたに触れてよいのはいつかあなたを娶る幸運な男性のみ。それ以外の男性が触れようとしたならば私は全力でそれを阻止します」
 くらり。
 軽い眩暈がオーガスタを襲う。前半はともかく、後半の台詞はオーガスタの体温を上げるには十分すぎるほど効果的だ。
「あなただって触れるじゃない。同じだわ」
「はい」
 髪から手を離し、ヴィヴィアンはおっとりと微笑む。
「いいえ、マスター。私はあなたのもの。あなたの一部といっても過言ではありません。例えば、あなたの手があなたの髪に触れたところで取り立てて騒ぐほどの問題はない。私があなたに触れるのは、それと同じです。違いますか?」
 それは詭弁というものではないだろうか。
 決定的に何かが違うと感じながらも、頬を撫でるヴィヴィアンの手の心地よさがオーガスタに考えることをやめさせる。
「それとも、私に触れられるのはお嫌ですか?」
 首を傾げるヴィヴィアンからオーガスタは視線を逸らす。
「嫌なわけないじゃない。……性悪アンドロイド」
 オーガスタが拒絶を口にしないことに満足し、ヴィヴィアンは真っ赤な顔から手を離した。
「さあ、紅茶をいただきましょう。冷めてしまっては台無しです」
 改めてカップに紅茶を注ぎ始めるヴィヴィアンをオーガスタは少し恨めしげに見つめるのだった。


おわり

414名無しさん@ピンキー:2007/03/09(金) 23:24:02 ID:JSLTa8gG
GJ
言ってみるもんだな。
415青信号の犬10:2007/03/10(土) 00:47:26 ID:8XgR8087

 その日は珍しく大臣がいなかった。サポートが無い代わりにボロを出さぬよう、
気を張り詰めて挑んだためか疲れ果ててしまい、夕食が済むとベッドに倒れこんだ。
小言を投げかける者もいない部屋は静かだ。そこに硬質なノッカーの音が響き、
女王の意識を持ち上げた。
メイドが招き入れたのは二人の兵士だ。メイドは彼らの顔と名を確認し、女王に
耳打ちした。
「あちらの茶髪の方が新入りだそうですの。・・・あの、元捕虜の」
遠慮がちに手で示して、心配そうに女王を見遣る。茶髪―元捕虜が敬礼する。
「・・大丈夫だ、おまえも一緒だろう?あの二名が今夜の警護か・・・ご苦労」
二人の兵士は再び敬礼し退出した。やはりメイドは不安そうに主をみた。

 退室して兵士とは二手に別れる。巡回をかねて、暇を持て余すように城内を
さまよい歩く。
あれから一ヶ月近く。若いメイドや掃除婦などは別だが、随分城の人間も元捕虜に
なれたものであからさまな警戒を向けるものは少なくなっていた。
陽気な性格の料理番たちがその筆頭で、つい今も夜食と共に焼き菓子を渡された
ばかりだ。仕事や鍛錬は楽とは言えないが心地よい者が多い。
一人を除いて。
その一人―大臣がゆったりと近づいてくる。
「夜分、お疲れ様です」
形式として声を掛けると、ふと大臣が手をあげた。今気がついた、という様子に
元捕虜がわずかに眉をしかめた。
正直な男なのだ。
天敵とも言える大臣を前にして心穏やかにもしてもいられない。
「やあ、ご苦労ですね。あれから21日経ちますが、ここには慣れましたか?」
苦虫を潰したような顔をした元捕虜を知ってか知らずか、やけににこやかな表情で問う。
気色悪い、と思いはするがぐっと耐える。
「はい。皆よくしてくれています」
「ああ君は好青年風ですから、もてるでしょう。今晩は陛下の所でしたね…
あそこのメイドは容色の良い者が多いですから、気をつけなさい。
うっかり手を出すと痛い目を見ますよ、我が強い者ばかりですからね」
絶句する。あの日の大臣はいったい誰であったのだろうか?目の前の人間とは
似ても似つかない。自分は悪い夢でも見ていたのか・・・
「そ…れは大臣殿の実体験からですか」
「君の想像に任せますよ。・・・さて、投薬(あれ)から21日経過しますが、身体に
異常はないですか?今は無くとも、もし何かあるようだったらこれを飲みなさい。
あえて調節せず、雑草風味にしてみましたが」
友人同士のような会話に吐き気を催していると、小瓶を渡された。
にごった緑の薬液が封入されている。確かにまずそうだ。
礼を言ってその場を離れようとすると声がかかる。
「もし、調理場を通るなら彼女に茶を持っていってあげてください。・・・・・・くれぐれも襲ってはいけませんよ」
誰が・・・!
心中で大臣をけちょんけちょんに叩きのめして、逃げるようにその場を離れる。
胸ポケットの小瓶をしっかりと押さえて。
416青信号の犬11:2007/03/10(土) 00:48:42 ID:8XgR8087
 ひっそりと咲く花のような笑顔が、愛らしいと思った。

メイドは差し出したティーセットと元捕虜をいぶかしげに見て、それでも女王の
下に通した。豊かな黒髪のメイドはそっと配置に戻ろうとした元捕虜に目敏く
気付き、宣告する。
「アンタに毒見をしてもらいますからね」
大臣殿から…と訳を話そうとすれば、メイドがジロリと制す。女王には蕩けそうな
ほどの笑みを向けるというのに。この城の者はみな、女王に甘い。
勧められるがままに腰を下ろす。簡素だがすわり心地の良い椅子だ。
だが居心地が良いとは元捕虜には思えなかった。
元捕虜から少しばかり離れた―一息では届かない―位置に女王が伏していた。
華奢なテーブルに豪奢な金の髪が広がっている。その間から覗く表情は暗く見える。
「・・・・・・失礼を承知でお尋ねします。何か・・・何かお悩みでも・・・?」
恐る恐ると、しかし沈黙に耐えがたく尋ねれば、女王はゆらりと身を起こした。
疲労の色が残る顔ではあったが、それが幼い顔立ちにあいまってどこか危うげな
雰囲気をかもし出していた。猫のように細められた目と、かすれた声が元捕虜に向けられる。
「悩み?ああ、大したことはない・・・疲れているんだ、ただ。ちょっと、近頃は何もないんだが・・・」
「悩み?悩みがあられますの?陛下、よろしければわたくしめに教えてくださいな!?」
乱暴にカップを元捕虜に押し付けてお飲み!と命令し、メイドは女王の膝元へ
駆けた。推測するに大臣の言は正しい。
ヒエラルキー最下位の元捕虜は茶を一息に飲んだ。うまいな、とおざなりな感想を抱き
つつ、ほんのりとあたたかいカップを包む。あのメイド言うことはきついが、
キチンと仕事をしている。
「どうして全部飲んでしまうのですの!もう!」
「・・・ハア、スミマセン。大臣殿の言付でお持ちしたので、そんなに警戒しなくとも」
「大臣殿からだろーがアンタからだろーが関係ないですの!お毒見は少し残し
ておくのが常識なのですのよ!もぉう!サテは初お毒見ですのね!わからない
なら正直に訊くのですよ!恥ずかしがっていては何もはじまりませんもの!
サアサ、陛下!忠実なる手足であるノノコにお話ください?」
困ったように、嬉しさを隠せないように、女王は笑みを浮かべた。

「秘密だよ」

つづく!
活性化してきたね!楽しみだね!
417名無しさん@ピンキー:2007/03/10(土) 01:18:19 ID:6nFdYvmS
青信号の犬の王女に萌えて萌えて仕方ない。
どうにかしてけろ!
418名無しさん@ピンキー:2007/03/11(日) 00:48:32 ID:BAEDF5ie
アホの子の女王といえば、マシロ陛下を思い出すな
419Il mio augurio:2007/03/11(日) 16:19:16 ID:2g447hFD

「…お嬢様、暁香お嬢様。お起きになってくださいませ」
何度も呼びかけられ、暁香はゆっくりと意識を浮上させた。
ぼんやりとした視界に、黒が見える。
「あ、きら?」
名を、拙く呼ぶ。
口元を覆い小さく欠伸をして、暁香は何度か瞬いた。
ようやく像を結んだ瞳に暁良の姿が映りこみ、ふわり、と暁香は微笑む。
それにどくり、と胸を騒がせながらも暁良は眉根を寄せ、窘める。
「またこのようなところでお休みになられて……お風邪を召されてしまいますよ?」
「大丈夫よ、風邪を引く前に暁良が起こしてくれるもの。………起こして」
す、と差し伸べられた暁香の手に、わずかに躊躇してしまう。
「暁良」
「失礼致します」
催促するようなそれに押されるように、断りを入れて手を取る。
軽く引き、わずかに開いた暁香の背と長椅子の間に腕を滑り込ませ、そっとその背を支えて起こす。
きゅ、と暁香が肩にしがみつくのがわかる。
それだけで至福を感じ、暁良は薄く笑む。
「ありがとう」
頬に一瞬の柔らかなぬくもりを感じ、ちゅ、という可愛らしい音。
頬に口付けられたのだと理解した途端、胸が早鐘を打つ。
それを綺麗に隠し、僅かに距離を取る。
「……つまわないわ」
むぅ、と可愛らしく口を尖らせ、拗ねたように見上げる暁香の瞳とかち合う。
「お戯れが過ぎましょう、暁香お嬢様」
「つまらないわ、すっかりポーカーフェイスになってるのだもの」
昔は照れたりして可愛かったのに、と呟く暁香に苦笑しつつ暁良は答える。
「慣れでございましょう」
そんなわけはない。ただ、動揺を押し隠すのが上手くなっただけだ。
今とて、まだ鼓動は早い。
「お部屋に戻りましょう。温かいお紅茶をお淹れ致します」
「暁良」
「はい、如何なさいました?」
「靴、履かせて?」
僅かに長いスカートの裾を乱し、靴下に包まれた足が現れる。
「暁香お嬢様……」
「履かせて」
困ったように見つめれば、有無を言わさぬ言葉に跪く。
「…承知致しました」
僅かの躊躇の後、壊れやすい芸術品に触れるように、そぅっと暁香の足を両手で包み込むようにしてほんの少し持ち上げた。
それを片手で支え、もう片方の手で揃えられた靴を持って履かせる。
靴を履かせた方の足を下ろすと、待ちかねたようにもう片方の足が現れる。
その足にも、先程と同じように細心の注意を払って靴を履かせて下ろす。
「これで、宜しゅうございますか?」
「いいわ」
す、と立ち上がり、暁良は暁香が立ち上がるのを待つ。
しかし暁香は長椅子に座ったまま、一向に立ち上がる気配がない。
「暁香お嬢様?」
「だっこ」
幼子がねだるような声音は甘い響きを帯び。
すぅ、と差し出される細く白い両腕。
潤んだように見上げる両の瞳。
恐ろしく破壊力のあるそれらに、ぐらぐらと揺れる理性を厳しく律し、平静を装いながらそっと抱き上げる。
落ちないように首に腕を回してくる暁香に、暁良は苦笑を零す。
大切な主を落とすような愚を犯すほど、暁良は脆弱ではない。
見た目ではわからないが、一切の無駄なく鍛え上げられた暁良の身体は同年代のそれとは比較にならない。
いかにスポーツで鍛えようと、暁良のようにはならない。実戦に即した鍛え方だからだ。
無論、氷雨に敵うものではないが。
420Il mio augurio:2007/03/11(日) 16:20:21 ID:2g447hFD

振動を与えないようにゆっくりと咲き乱れる薔薇の間を進む。
温室の扉を開けて外に出ると、温室との温度差にか、暁香は暁良の首に回した腕に力を込めてしっかりとしがみついた。
一方、しがみつかれる暁良は堪ったものではない。
暁香がしがみついてきたことにより柔らかなふくらみが押し付けられ、ただでさえ危うい理性が決壊しそうだ。
それを何とか押さえ込んで邸内に入る。

玄関先でこのままがいい、とごねた暁香に苦笑しつつメイドが靴を脱がすという一面もあったが、無事に暁香の自室に辿り着く。
室内に入り、長椅子に歩み寄ると、僅かの衝撃もないように暁香を長椅子に降ろす。
惜しむようにきゅ、と一度抱き締め、暁香は腕を解いた。
「これで、ようございますか?」
「ええ、いいわ」
「それでは紅茶をお淹れ致しましょう」
一礼し、室内に設けられている簡易キッチンへと向かう。
そうして暁香から死角となるそこで大きな溜息をつき、深呼吸をして心を落ち着ける。
それから手早く紅茶の用意をし、トレイに乗せて暁香のもとへ戻る。
それを慣れた仕種でカップに注ぎ、暁香の前に音を立てないように置く。
暁香がカップを持ち、口元に近づけるのをじっと見つめる。
こくん、と暁香ののどが上下する。
「おいし。…氷雨の紅茶も美味しいけれど、暁良の紅茶が一番好きよ。何もかも、私好みだもの」
「恐縮にございます」
「一番、大好きなの」
「ありがとう、ございます」
万感の想いを込めて告げられた暁香の言葉に、暁良は思わず言葉に詰まってしまう。
暁香が言ったのは紅茶のことだと言い聞かせ、いいように解釈してしまいそうになった自分を、暁良は恥じる。
しかし、その暁良の解釈は間違ってはいなかった。
暁香は紅茶を褒めながら、暁良が一番好きだ、と言っていたのだから。

「本当。以前とは比べ物にならないわ」
くすくす、と小さな声で暁香は笑う。
「そのような…昔のことを引き合いに出さないでくださいませ。恥かしゅうございます」
困ったように笑い、僅かに顔を俯ける。
しかし長椅子に座る暁香にはそのせいで暁良の顔が良く見え、またくすくすと笑ってしまう。
「暁香お嬢様…」
困ったような、窘めるような呼びかけに何とか笑いをおさめる。
「でも、今は一番好きよ。氷雨のより、ずっと」
にこり、と美しい笑みが浮かぶ。

輝くばかりの笑みでそんなことを言うなど…と暁良は思う。
しかしそれを表に出すことはしない。
「それはようございました。私も研鑽を重ねましたかいがございます。これからもより暁香お嬢様のお好みに合うよう、精進していく所存にございます」
「そんなこと言わなくても、何もかも私の好みなのにね?」
くすくす、と笑う暁香を見つめつつ、暁良は更に言葉を重ねる。
「それは暁香お嬢様のためにお淹れしておりますから。暁香お嬢様に喜んで頂けますなら、これ以上の喜びは私にはございません」
「……ありがとう」
ほんのりと染まった頬を両手で押さえ、ふんわりと暁香は微笑んだ。

421Il mio augurio:2007/03/11(日) 16:22:42 ID:2g447hFD
という感じで暁香と暁良主従の日常。

…暁良は暁香の足にうっかりむらむらしてるがな
422名無しさん@ピンキー:2007/03/11(日) 17:06:39 ID:TEWNs6Pm
>>412
アンドロイド×お嬢様ktkr!
いいですね、ヴィヴィアン本気でそう思ってそうなところとか!
ヴィヴィアンに引っ張りまわされてるお嬢様も可愛い(*´Д`)

>>419
暁香お嬢様の我がまま可愛い!
最後の紅茶を褒めるwシーンがイイ。「何もかも私好み」ってw
この二人に氷雨がどう関わってくるか楽しみです。

二つとも続きをwktkして全裸でお待ちしております。
423護衛×閣下ネタ:2007/03/12(月) 01:26:01 ID:urgSc7CB

―――花芽は恥辱に震え田村の息がそこにかかる度、その奥濡れそぼった秘裂
から牝の匂いが沸き立つ。小百合はもうたまらないというように懇願した。
「やっ、め…なさ、ぃ…やめてぇ…!」
「ああ、お嬢様お嬢様」
醜い容姿に似合いの槍が、誰も踏み入れたことのない花園を蹂躙してゆく。
「いやあああ!やめてぇええ・・!」
美しい少女の尻を醜男の芋虫のような指が這っていた。小百合はこみ上げてく
る胃液をどうにか嚥下する。
 田村は自身の欲望を叶えたのだ。あの、窓から物鬱気に温室を臨んでいた少
女を手の中に。
土臭い小屋に田村の荒い息と小百合の叫び声が満ちる。――


・・・で、閣下?何故このような本を?」

眩暈がする。テーブルに置いてあった文庫本を数行読んだからだ。少々マニアックなエロ本でも誰も恥ずかしくないし怖くも無い。まあ、恋人とかに見つか
ったら最悪かもしれないが。
だが、残念なことにここは閣下の部屋だ。齢十八の女性が読むものじゃない。
おおらかな民族だっているだろうが、少なくともこの国はそーゆーの推奨しな
い。
『女とは、森であり水であり獅子である』
こーゆー女性像をどっちかつーと望んでいる。誇り高き魔術師である閣下が持
つには疑問を抱くシロモノである。だって恋愛小説じゃないんだぜ?オヤジ向
の『庭師の背むし男が深窓の令嬢に襲い掛かる』小説なんて少なくとも十代向
じゃあない。コアすぎる。
元々ベットにいた閣下は深くシーツを被ってしまった。きっと中で赤くなるか
頬を膨らませているのだろう。くつくつと笑いながら膨らみの近くに腰を下ろ
した。

「ねえ、これ読んだんですか?」
「…!バカイヌめ!」

畜生、と漏らすところでそれなの?
やっぱり真っ赤な顔をした閣下がシーツの下から現れてもごもごしながら俺に
言う。

「私とて知らなんだ!義父上に渡されたの!犬に読み聞かせなさい、って…
 だれがこんな内容だと思う!思わないだろう?義父上のスケベ!スケベだっ
 て知ってたけど!まだ三十の癖に!さっさと嫁獲れ!てかガルム名前で呼べ
 よ!うわあああああああん」

俺の名前を呼びながら抱きついてくる。嗚咽を漏らす真似をするのでそれに倣
って背をさする。あ、また下着つけてない。
どれもこれも閣下の義父の(偏った)教育故か。美形だけど破滅的と名高い貴族
の顔が浮かんだ。以前ご挨拶したときは本当に大変だった。
『(ベッドデハ)ナニシテルヒト』って質問初めてだった。

「アレ会うと昨日はしたのか?って訊くんだぞ…。用事で三日連続実家にいる
 とするじゃないか、すると毎朝訊いてくるんだぞ!だれとするっていうんだ!」
「何をです?」
「………せっくす」

恥ずかしい!というようにぎゅっと身を寄せた。閣下からはなんだか落ち着く
香りがする。護衛なんだから緩みきるのもだめだけど。
抱き返すとダッコちゃんみたいに閣下は納まった。
ほんのり赤い耳に息を吹きかけると大げさなまでに震える。何回かしたけど敏
感すぎやしないかこの人。
424護衛×閣下ネタ:2007/03/12(月) 01:28:55 ID:urgSc7CB

「ひとりでもできますよ」
「何を…」
「セックス」

電流が走ったような顔で閣下は固まった。戦のたんび地割れや雷落とそうとす
るくせに、怯えたような表情で俺を見上げる。

「……どうやって?」
「こうやって」

指が充分に余る手首をそっと掴んで自身の胸に触れさせる。閣下の指がそっと
先端に触れるよう導く。その小さな手を覆うようにして動かさせると、空いた
手で俺を小突いた。全然いたくない。

「バカイヌ!」
「いたいですよ〜それに閣下じゃないですか訊いてきたの。それでですね…」

小突いた方の手も合わせて下のほうに持ってゆく。両手で同じ様に円を書く。
怪訝な顔の割に何も言わずに俺の手に沿う。ぴったり付けて前後に動かしたり
爪の先ではじいたり。しばらく上から合わせているうちに閣下も要領を掴んだ
ようで自ら動き始めた。はまっちゃったらどうしよう。およびでないよな…

「ふっ…」

「あっ!……んっ……」

「ああ…ぅっ、あんっ!………んぅぅ」

閣下の堪えた嬌声に思考はずぶずぶと降下してゆく。
教えなきゃよかった。訊かなきゃよかった。読まなきゃよかった。バカ俺。

「んぅ。…ガルム、やっぱりなんか足んない」
「…かっか!」
「バカイヌめ。名を呼べといったろう」

バカ俺。抱き潰すくらいに腕の中の人を抱いて倒れた。スプリングのよいベッ
ドにふかふかのシーツ。それにいい匂いのする恋人。

「ニーズさんだいすきです」
「……ばかいぬ」

おわり

ハヤテも執事だったな…バカ俺。
425名無しさん@ピンキー:2007/03/12(月) 01:30:03 ID:urgSc7CB
ごめんあげちゃった…ばかおれ
426名無しさん@ピンキー:2007/03/12(月) 01:38:57 ID:3l6uiGDt
かっ、閣下あああああ!
もうダメ、悶絶。またお会いできるとは思いもよらず。

ガルム頑張れw
427名無しさん@ピンキー:2007/03/12(月) 01:43:32 ID:Ia+dwdSK
>>423-424
おお、またガルムと閣下の話が読めるとは。
GJ!
428Il mio augurio:2007/03/12(月) 16:44:06 ID:SFeivV4v
全裸待機は気の毒なので…
副題:性教育その一

を投下することにする。
429Il mio augurio:2007/03/12(月) 16:44:38 ID:SFeivV4v

「宜しゅうございますか、暁香お嬢様。御身を容易く男に与えてはなりません」
「与える?」
「はい。もっと解り易く申し上げますなら、御身に触れさせてはなりません」
「でも、暁良は触れてるわ?それに氷雨だって…」
「私も暁良も、弁えております。残念ながら、私共のように弁えている男ばかりではございません。
女と見れば、あるいは穴さえあれば…という輩もいないわけではございません」
「穴?」
「少々、お勉強致しましょうか」
疑問顔の暁香に氷雨は苦笑を零し、ゆっくりと歩み寄った。




「あ、ぁ…や、やめて、こんな……」
「何を仰いますか、もうこんなにとろとろにして蜜を滴らせて……」
溢れる蜜をたっぷりと掬い、指に纏いつかせて暁香の眼前に持っていく。
てらてらと妖しく光る氷雨の二本の指から顔をそらそうとするが、顎を捉えるもう片方の氷雨の指がそれを許さない。
「御覧なさい。使用人に触れられて、はしたなくも零れたお嬢様の蜜ですよ?」
くすりとしつつ、ゆっくりと、揃えていた指を離す。
すると氷雨の指にまとわりつく暁香の蜜が、離れた指と指の間に糸を引いて橋をかける。
「あっ、あぁ…」
かぁ、と赤くなり、わななく桜色の唇にもう一度揃えられた氷雨の指が押し当てられる。
口を開くまいと口を閉ざすが、ついに唇を割られ、蜜に塗れた氷雨の指が進入を果たす。
「如何ですか、御自分の蜜の味は?」
「…む、ぅ…ん、んぅ」
氷雨の指は暁香の口内を我が物顔で蹂躙し、逃れようと縮こまる舌を撫で回す。
苦しげに寄せられた眉が氷雨の苛虐心を煽る。
「もっと、苛めてあげたくなります」
にぃ、と氷雨の口元が歪む。
その恐ろしい笑みを見ないように、暁香は強く目を瞑った。
それに薄く笑み、暁香の口内を蹂躙する指を引き抜く。
ようやく引き抜かれた指に安堵していると、ひんやりと冷たい指先が太腿に触れる。
はっとして身を起こそうとするよりも、ひんやりと冷たいのが自身の唾液によるものと気付くよりも早く、氷雨は暁香の脚を左右に大きく割り開く。
「い、いやぁぁぁ!」
誰にも見せたことのないそこが、氷雨の目に曝される。
「いやだ、やめて、と言いながらこれなんですから…まったく困ったものですね」
くすくすと笑いながら、氷雨はそこに指を這わせる。
何とか逃れようと暁香は脚を動かそうとするが、それは容易く氷雨に阻止される。
「さっきはここを苛めてあげましたからね……」
そう言いつつ、氷雨の指は花芯を弄り、弾く。
「きゃぁん!」
呼応するように暁香が甘い声を上げて身体を波打たせる。
声を上げてしまった屈辱から暁香は顔を歪め、氷雨を睨め付けた。
暁香にとっては精一杯のものだったろうが、氷雨にとってはそそるものにしかならず。
「中に、指を入れましょうか…そろそろ疼いてきたでしょうから」
つぷり、と暁香の内部に氷雨の指が滑り込む。
「ぁ……」
初めて受け入れる異物に、暁香は小さく声を上げた。
「さすがにこれだけ濡れていれば、指一本くらいなんともありませんか…もう一本、入れましょうか」
一旦引き抜き、もう一本添えて二本にし、もう一度内部に侵入する。
「や…ぃた…や、め…」
「大丈夫ですよ、すぐに良くなります」
苦痛に呻く暁香に薄く笑んだまま氷雨は告げる。
そして休みなく指を動かし、暁香の弱点を暴き出していく。
氷雨の指が弱いところを掠めていく度に、暁香の苦痛を訴える声は甘く蕩けていく。
「あ、あぁ…ん……ふ、ぁん…」
430Il mio augurio:2007/03/12(月) 16:45:59 ID:SFeivV4v


「もうすっかり気持ち良くなりましたね。ここも、美味しそうに私の指を咥えていますよ」
音を立てて掻き回していた氷雨が唐突に、く、と指を折り曲げる。
「あぁぁんっ!」
びくん、と暁香は身を躍らせ、無意識ながら氷雨の指を締め付ける。
「おや、いっちゃったんですか?」
ひくひくと蠕動する内部に今気付いたように、氷雨は問いかける。
しかし暁香には答えられるものではなく。
「…ふむ…まあいいでしょう」
もとより答えは求めていないが、氷雨はそう呟く。
そしてすでに猛り、怒張する自身を露にし、暁香の蜜を擦り付けるように何度も秘裂を行き来する。
暁香の蜜に塗れた自身を狙いを定めて押し当てると、氷雨はそっと暁香の耳元に囁いた。
「今度は私を満足させてもらいましょう」
「あ、い、いや…や、やめて……い、やぁぁぁぁぁ!」
めり、と――




「あ…あの…」
恐る恐る暁良は瑶葵に呼びかける。
瑶葵は本から視線を上げ、暁良を見た。
「うん、どうしたんだい?」
「いつまで、お続けになるおつもり、なのでございますか?」
「いつまでって…これからがいいんだろう?」
いや、うんたしかにそうだけど、などと内心で暁良は思うがそれは言わない。
かわりにずっと疑問だったことをぶつける。
「何故、登場人物の名前が、暁香お嬢様と氷雨さんなのでございますか…」
「いやぁ、そのほうが面白いかと思ってね」
がくり、と脱力しそうになるが、そこは耐える。
「より臨場感を出すために使用人は氷雨に読ませたし、お嬢様は暁香が読んだし、その他は私が読んだんだけど…気に入らなかったかい?」
「いえ、そうではなく…勉強、なのではございませんでしたか?」
「勉強だろう?…嫌がるお嬢様を犯す、って辺りは」
「………」
何かが違う、と思わないではないが、暁良は口をつぐむ。
黙っておいたほうがよさそうな気がする。
「とにかく、世の中には嫌だと言っている女を犯すのがいる、っていうのはわかったと思うけど?」
いやうん、いるけどさ…でもこれ小説だし、というツッコミも飲み込む。
「でもお兄様…私、よくわからなかったわ?」
きょとり、と首を傾げて暁香は言う。
「そうなのかい?」
「えぇ、わからない言葉がたくさん出てきたもの」
「…まぁ、たしかに棒読みだったけどね……氷雨」
苦笑しつつ瑶葵は忠実な従僕の名を呼ぶ。
「はい、瑶葵様」
「父上と母上の意図がどこにあるのかは知らないが…無知では色々と困るし…男女のことを教えてやってくれ」
「はい、承知致しました」
「わかってるとは思うが、ヤるなよ?」
「心得ております」
431Il mio augurio:2007/03/12(月) 16:48:27 ID:SFeivV4v
……最初から聞かされてた暁良はすぐにでも個室に行きたかろうな、と思う

暁良いじりの部分は削除しといたが…
432名無しさん@ピンキー:2007/03/12(月) 23:56:02 ID:8BhF6xiV
うはwそうきたか
GJ!!また正座で待ってるよ!
433名無しさん@ピンキー:2007/03/13(火) 03:52:43 ID:zSDcmMTe
GJ!

なぜか氷雨は女だと思い込んでたから男だと気づいて驚いたw
434名無しさん@ピンキー:2007/03/13(火) 10:45:51 ID:GitPa52Y
まとめに関して質問。
辻井と瀬里奈のシリーズ、とりあえず「島津組(仮)」と
入れておいたんだがそれでもいいだろうか?
435島津組組員:2007/03/13(火) 13:54:41 ID:NpKwO1EN
>>434
まとめサイト、一気に更新されてますね。いつもお疲れ様です。

>辻井と瀬里奈のシリーズ、とりあえず「島津組(仮)」と
>入れておいたんだがそれでもいいだろうか?

ありがとうございます。(仮)を取って「島津組」でかまいません。


最近は投下のタイミングをうっかりすると失ってしまうほど、SS沢山投下されて、賑わっててよいですね。
どれもこれも楽しみにしています。


というわけで「涙雨恋歌 第2章 村雨」を投下します。
全10節とちょっと長くなりました。
今回はエロありです。辻井のお仕事エロなので、瀬里奈とは関係ありません。ある意味寝取られ…?
436涙雨恋歌 第2章 村雨 1:2007/03/13(火) 13:57:18 ID:NpKwO1EN
1.

 島津が治めているS街は、都内有数の歓楽街だ。
 元々は違う組のシマだったが、その組が解散する際に、島津の親分である三代目木崎組組長が譲り受けた。
 木崎組は、関東から北に勢力を置く誠道連合東征会の中で有数の名門として名を馳せていた。
 「木崎」という名前を受け継ぐことを重んじて、二代目も三代目も親分となると、木崎の姓を名乗っていた。
 親分である三代目組長が東征会会長になり、跡目を島津の兄貴分であった男に譲った時、同時に島津は島津組を立ち上げた。
 それにより、誠道連合東征会四代目木崎組内島津組と名乗るようになった。
 しかし四代目は長く続かなかった。
 チャイニーズマフィアとトラブルを起こして凶弾に四代目が倒れた後、バラバラになりかけた木崎組を強引にとりまとめ、マフィアと互角に戦い抗争を勝利で終えたのが、島津だった。
 東征会はその功績を認め、木崎組を解体、組員を島津組に吸収させて三次団体とした。
 関東に若いがたいした極道がいると、「暴れ竜」のふたつ名とともに島津の名を知らしめた事件であった。


 島津の戦闘能力を支えるのは豊富な経済力だ。
 幅広い人脈を元に、バブルの残り香があった頃に株や不動産、投資で堅実に稼いだ。
 その稼いだ金で宗教法人と病院を買収した。それらをマネーロンダリングに使い、綺麗になった金を資金としてあらゆる業界に手を広げていく。
 経済活動を担っているのが、辻井とともに島津の片腕として知られる伊達という男だ。元々は弁護士資格を持つ企業コンサルだった伊達は、島津の配下に入ってからその手腕を発揮する。
 いまや日本経済を代表する大企業にもその影響力を及ぼし、島津は小さな国の国家予算よりも資金を持っているのではと裏では囁かれているのは、伊達の功績だ。
 伊達は辻井とともに島津の舎弟として三代目木崎組組長に盃を下ろしてもらい、この業界に入った。
 島津が組を立ち上げた時、辻井以下全舎弟分が島津を親とする盃直しをしたが、伊達だけは島津の舎弟に留まった。
 島津組顧問という島津と並列に近い役職につき、島津の抑止力としても機能している。


 表の経済活動を支えるのが伊達ならば、裏の稼業を一手に引き受けるのが辻井だ。
 木崎組を吸収したとはいえ、島津組の子分の数は多くない。少数精鋭を狙った島津が、必要ない組員を体よく分家して本家に預けたり、次々と引退させたりしたからだ。
 残したのはイキのいい根性の座った男たちばかり。その男たちをまとめあげるのが、若頭である辻井の責務だ。
 組結成後、島津に惹かれて島津組の門を叩く若い衆のうち、下積みの苦労に耐え、かつ辻井の眼鏡にかなって構成員となれる者はごく僅か。
 だが、その僅かな男たちが島津を「オヤジ」として慕い、島津のために手足となって動くのだ。
 辻井の仕事は彼らをまとめることのほかに、他組織との外交や組内のシノギのとりまとめ、義理事での島津の名代などと広範囲にわたる。
 みかじめ料や用心棒代として金銭を貰っている店からの相談事は、今はほとんどが辻井よりも下の若い衆にいくのだが、たまに辻井に連絡がくることがある。
 そんな中でも辻井以外で問題解決ができそうなものであれば彼らに回してやる。
 時間が取れないという物理的な理由もあるが、問題解決時に支払われる相談料や解決料を若い衆に回してやり、顔をつないでやるためだった。
 だが中にはどうしても辻井が対応しないとまずい場合もある。
 相談者が街の実力者である場合や、島津組として長く世話になってきた人であったり、問題が複雑で対外要素が含まれそうな場合がそれだ。
 そして瀬里奈が島津に電話をしている頃、事務所にかかってきた電話はそのうちの「長く世話になってきた人」からだった。
437涙雨恋歌 第2章 村雨 2:2007/03/13(火) 13:58:13 ID:NpKwO1EN
2.

 風呂に入り、ベッドに横になった瞬間に辻井の携帯電話が鳴った。事務所詰めの若い衆からの電話だった。
『明日のご予定に入れていただきたいことができましたので、今日中にご連絡いたしました』
「どうした」
『「ラグジュアリー」の麻衣さんから電話がありまして。相談したいことがあるから明日の夜、店に来て欲しいとのことです』
 『ラクジュアリー』はS街にあるソープランドの中でも高級店として有名な店のひとつで、島津組がケツモチ(面倒を見ている)している店である。
 麻衣はソープ嬢としてはベテランであり、店の看板娘として顧客には役人や政治家などそうそうたる面々を抱えていることで知られている。
 まだ麻衣が新人として店に入ってきた5年前に、見込みがあるということで店長から島津とともに紹介された。
 最初のうちは島津が可愛がり指名を入れて若い衆に相手をさせていたが、入店1年目を境にぐんと指名数が増えてきた。
 そのため、それ以降は彼女から顧客の情報を引き出す時だけ、辻井が相手をしている。
 だがそんな時はだいたい辻井に直接、電話をかけてくる。
 そうではなく事務所へわざわざ電話をしてきたということは、情報提供ではなく本当に相談があるということであろう。
「わかった。22時頃に行くと伝えておけ」
『わかりました』
 頭の中で明日のスケジュールの最後に予定を加え、辻井は眠りについた。


 翌朝、辻井は迎えに来た若い衆の運転する車で静岡へ向かった。
 島津組と友好関係を結んでいる組の顧問職にいた男の葬儀に参列するためだった。
 都内を出た時には晴れていた空も、葬儀中に雲が垂れ込めてきて、精進落としで顔をあわせた同業者と話をしている間に雨に変わっていた。
 「葬儀中に降らなくて良かった」などと言いあいながら、参列したヤクザたちはおのおの帰宅の途についた。


 強い雨の中を事務所に戻ると、事務所では伊達が応接セットでくつろいでいた。
「叔父貴、ご無沙汰してます」
「今夜の商工会議所での寄り合い、悪いが俺も参加させてくれや」
「わかりました。オヤジに伝えておきましょう。ここから直接向かわれますか?」
 伝えておきましょう、と言った瞬間に、若い衆のうちのひとりが島津付の男の携帯電話へ電話をかけている。
「そうだな。7時からだったか」
「ええ。7時から1時間程度です。その後、食事の席が用意されてます」
「あんまり長く俺がここにいると若いのが可哀相だからな。6時半前に戻ってくるさ」
「はい。お気をつけて。おい、北田。お供しろ」
 北田と呼ばれた男がへい、と返事をして伊達の後を着いていった。
 その後辻井は事務所宛に来ている手紙や回状、各種案内状を処理し、時間通りに戻ってきた伊達を見送った。
438涙雨恋歌 第2章 村雨 3:2007/03/13(火) 13:59:02 ID:NpKwO1EN
3.

 事務所番が食事の準備をし始めているのを見て、静岡で買い求めてきたお茶と海産物を思い出す。
「悪いな、忘れてたよ。これ、みんなで食え」
「カシラも召し上がりませんか?」
 事務所の端にある厨房からは、炊き立ての米のいい匂いがしていた。
 今日の食事当番は元は板前をしていた和田なので期待できますよ、と薦められ、久しぶりに一緒に食卓を囲むことにした。


 普段は剣呑としている事務所だが、食事の時は和やかな雰囲気が漂う。
 そこにたとえ若頭がいたとしても、同じことだ。むしろ尊敬する若頭と親しく話すチャンスだと、若い衆は目を輝かせる。
 駆け出しだった昔を思い出しながら辻井は食卓を囲み、島津から預かっている男たちと話をする。
「カシラ、オレこの間女に振られたんです」
「カシラ、今度こんなシノギしようと思ってるんです」
「カシラ、来月、両親が東京来るんです」
 ヤクザだ極道だと肩肘張っている彼らも、一皮剥けばただの若者と同じだ。むしろ家庭環境に難があった者が多いためか、島津を父親、辻井を兄貴代わりに慕っている姿は、まるで子供のようでもある。
 そんな男たちの他愛のない話を聞く。時には笑い、時には厳しく叱り、時には慰めるように。
 若い衆が食事を交代し、辻井は自分のデスクに戻った。更に仕事をこなし時計を見ると8時近くだ。一杯酒を飲んでから『ラグジュアリー』へ向かうのに、ちょうどいい時間だった。
 出る支度をしていると、ひとりの若い衆が戻ってきた。
「お疲れ様ッす、カシラ」
 その男、青山は島津のシノギの中でポルノを専門にしている。裏ビデオのショップを経営し、裏ビデオを撮影し、売り込みをチェックする。数人の舎弟を使って、薄利多売になってきているこのシノギをよく回している。
 青山は辻井ににこやかに挨拶をする。
「もう終わりか、青山」
「はい。後は来月のラインナップのDVDをチェックするだけです」
 ショップに並べる作品を青山は全て見ている。怪しげなところから売り込みにくるものの中には、見るに耐えないものもある。ヤラセならともかく、正真正銘の強姦モノや盗撮モノがよく持ち込まれるのだと、青山は笑って言う。
 今はインターネットの動画配信サイトに押されて、なかなかビデオが売れないので大変だ、と他の組の男が話していたのを思い出し、青山にそのことを訊ねる。
「うちもそういうのを作ったらどうだ。初期投資と人材確保はなんとかしてやる」
「本当ですか。よかった、企画書書きますよ?」
 元は営業マンだった青山が冗談半分で言った。
「何が必要かをまとめたもんは欲しいな。人材は伊達の叔父貴に頼むから、案外ちゃんとした企画書がいるかもな」
 任せてください、すぐに初期投資分もお返ししますよ、と張り切った青山を誘って、辻井は飲みに出た。
 雨はもうすっかり止んでいて、空気がひんやりと秋の気配を漂わせていた。
439涙雨恋歌 第2章 村雨 4:2007/03/13(火) 13:59:40 ID:NpKwO1EN
4.

 青山と別れ、涼しい空気で酔いを冷ましながら、辻井は約束より少し早い時間に『ラグジュアリー』の裏口を叩いた。
 裏口からは店長の坂上が顔を出し、辻井を応接ルームに通した。
「辻井さん、ご足労おかけして申し訳ありません。麻衣はもうすぐ空きますので、そうしたらお部屋へご案内します」
 辻井と坂上の前にコーヒーが運ばれてくる。男性従業員の質がいいことでも『ラグジュアリー』は有名だ。
「いや、麻衣と話す前に坂上さんとも話がしたくて、お忙しいだろうとは思いつつも、早い時間に来たんだ」
 近況を話し合いながらコーヒーを飲んでいると、従業員が麻衣の準備ができたと声をかけた。
「麻衣と、この間入った新人のひな子ってのがいます。ひな子についての相談なんです。申し訳ないですが、聞いてやってください」
「ふたりを占有するのか。じゃあ、ふたり分だ。クローズまで貸切にしておいてくれ」
 ぽん、とスーツの内ポケットから分厚い札束を取り出してテーブルに置く。
「よろしくお願いします」
 坂上が頭を下げた。
 
 
 ボーイに案内されて麻衣の専用ルームへ向かう。扉の前で辻井はボーイの手に一万円札を数枚握らせてやった。
 ぺこりとお辞儀をしてズボンのポケットにしまってから、ボーイは扉をノックした。
「麻衣さん、お連れしました」
「ありがとう」
 扉が開き、薄いスリップドレスを着た麻衣が現れた。大きな胸でドレスの布がはちきれそうだ。何かドリンクを買ってきて、とボーイに金を渡す。
「久しぶりね、辻井さん」
 にっこりと微笑みながら、辻井のスーツの上着を脱がせる。
 それをもうひとりの女の子がハンガーにかけた。その子の顔にはひどい痣ができており、辻井は目を疑った。
「相変わらずわたし好みの身体だわ」
 言いながら辻井の胸板を人差し指でなぞる。その手を払って、辻井は部屋の中のベッドに腰掛けた。
「今日は仕事の話なんだろう、真由子」
 公称25歳の麻衣の本名は真由子。麻衣は島津と辻井には自分を本名で呼ばせている。ふたりはお客じゃないから、というのがその理由だ。
 そんな小さなことで恋人気分を味わい、こちらの手の内にいてくれるのなら安いものだ、と島津も辻井もいつも本名で呼んでいる。
「で、その子の痣のことか」
 ボーイがドリンクを届けにきたのを、もうひとりの女の子が受け取った。ベッドの前の小さなテーブルにグラスとペットボトルを載せ、辻井には缶ビールが差し出された。
「この子、ひな子っていって、最近入ってきて、結構人気あるわけよ。で、あたしも可愛がってるんだけどさ。
 昨日、出勤してきたらこの子がこんな痣作ってて店長に怒られてるから、びっくりしてどうしたのか聞いたわけ」
 恋人に殴られたんです、とひな子は痣のある顔を覆って泣きながら話し出した。
440涙雨恋歌 第2章 村雨 5:2007/03/13(火) 14:00:20 ID:NpKwO1EN
5.

 もともとその恋人に貢ぐためにソープで働き出したのだが、欲しいと言われた金額を出せなくて殴られたのだと言う。
 それまでは愛されていると思っていたが、殴られたことでやっと目が覚めた。彼はわたしを愛しているのではなく、金づるとしか見ていないのだ、と。
「顔だけじゃないんだ、この子」
 麻衣が、脱ぐようにひな子に促す。
 ひな子は立ち上がり、カーディガンを床に落とした。腕には強く掴まれた痕があり、手首は紐で縛られた青黒い線状の痕がある。
 更にひな子はキャミソールとスカートを脱ぎ捨て、下着だけになった。
「ひでェなこりゃ」
 明らかに蹴られ、殴られたのであろう傷と痣がそこここに残っている。
 医者によれば傷自体は大したものではなく、ひどい痕が残っているだけなのだそうだ。
「これじゃあ仕事にならないだろ」
「仕事どころか、もうこの子男が怖いって泣いて大変だったんだから。だからここにいるのも辛いくらいなんだよね、ひな子」
 こくりと頷き、大きな目に涙を一杯ためてひな子は立ちすくんでいた。
「別れさせるだけなら簡単だが、それでいいんだな」
「取り返したいものがあるんです」
 もういいから服を着ろ、と辻井が言い、麻衣がカーディガンを肩からかけてやっているとひな子が恐る恐る言った。


「ここに来る前、わたし彼と恋人同士だと思ってた頃にしてたセックス、ビデオに撮られてるんです」
 恋人同士だから恥ずかしがることないよ、とふたりの間では道具を使ったり野外や車でのセックスが日常茶飯事だったという。
 それらを全部ビデオに撮られているのだと、ひな子は言った。
 殴られたおとといの夜、別れると告げると男はおもむろにテレビをつけ、DVDを再生した。そこには自分が彼に道具を使われているシーンが映っていた。
 「別れてもいいが、これをお前の家や親戚たちに送りつけてやる」と脅され、何も言えなくなってしまった。
 ひな子はそもそも大学生で、田舎の両親から仕送りを受けて学校に通っている。
 両親はまさか娘がソープで働いているとは知らないし、ましてやそんなDVDを送りつけられたらどうなるかわからない。
「やりくちが俺たちみてえだな。警察行く気はないのか。立派な脅迫と暴行だ」
「脅迫だの暴行だのなんて大した罪になんないでしょうが。また戻ってきて殴ったらどうすんのよ」
 麻衣のいうことを聞いていると、ヒモに殴られた情婦全部を守らなくてはならない理屈になってしまう。今回だけだと麻衣を言い含めた。
「わかった、いいだろう。マスターとコピーを全部回収することと、その男と別れられるようにすればいいんだな。
 どうせ明日は店に出られないだろう。明日、うちの若い者をよこすからそいつに詳しいことを話してくれないか」
 横から麻衣が、この子、男恐怖症になっちゃってるって言ったのに、男、しかもヤクザと会わせるの? と言った。
「俺も男だしヤクザだぞ」
「まあそうだけど。若い者って誰よ」
「うちで調査担当してる男と、高瀬だよ」
「もういいです、大丈夫です。わかりました」
 麻衣が辻井に絡んでいる間に、ひな子が顔を引きつらせて辻井に頷いた。
 身体に触れられなければ大丈夫ですから、と言うひな子に、それはないから安心するようにと辻井はなだめた。
441涙雨恋歌 第2章 村雨 6:2007/03/13(火) 14:01:15 ID:NpKwO1EN
6.

「明日の10時、大通りにある『リリィ』って喫茶店に来てくれ。俺も最初はいるが、途中で抜けなきゃならん。詳細はうちの若いのに伝えてくれ」
 喫茶店の場所を簡単に教え、ひな子が頷いたのを見て、上着から財布を取り出して金を麻衣に渡した。そのまま上着を着ようとすると、麻衣のしなやかな手がそれを制した。
「帰ろうとしてる? もしかして」
「まだ何かあるのか?」
「ひな子、男が怖いんだって」
 ね、とひな子に笑顔を向ける。ひな子は麻衣に答えて頷く。
「バンス(前借り)もあるからさ、まだしばらく抜けられないんだよこの店」
「それが俺に何の関係があるんだ」
「男が怖いのに、この店で働けるわけないじゃないの。辻井さんなら、優しくしてくれるんじゃないかと思って」
 辻井は眉をひそめて麻衣の顔を見た。
「俺はリハビリまで請け負った覚えはないぞ」
 するりと麻衣は辻井のネクタイを抜き取り、シャツのボタンを外していく。
 途中でひな子を目で呼び、ひな子が震える両手で麻衣の後を引き継いでボタンを外し始めた。
「リハビリの後はあたしがたっぷりサービスするって」
 ふふと笑った麻衣に、そっちが目的だったんじゃないのかとうっかり口にしそうになり、麻衣を睨むことでそれをかろうじて防いだ。


 帰ることを諦めて、ひな子の頬に手を添えて顔の痣を指で触った。商品を慰めるのも仕事のうちか、と独り言ちる。
「可哀相にな。こんなに殴られて。痛かったろう」
 ひな子の身体の痣や傷の痕を優しく指で撫でていく。
「怯えてもいいんだ。恋人に暴力振るわれたら、怖いわな。なあ、ひな子。ちゃんと泣いたか? 泣いてないなら、俺でよきゃ泣いていいんだぞ」
 うわあ、とひな子が泣き出して辻井の胸に飛び込んだ。
 その頭を撫でてやりながら、いつの間にかバスタブに湯を溜め始めている麻衣を手招きした。
「今日は悪いが時間がない。真由子、お前もまとめて相手してやるから、来い」
 麻衣が満面の笑顔でバスルームから戻ってきた。
442涙雨恋歌 第2章 村雨 7:2007/03/13(火) 14:02:11 ID:NpKwO1EN
7.

 泣いているひな子が辻井のシャツを脱がす。
 麻衣が背後から辻井の腰に手を回して、ベルトを外しファスナーを下ろして下着ごとスーツのパンツを脱がせた。
 なかなか泣き止まないひな子を抱きしめると、震えの治まらない身体を何度もさすってやる。
 唇ではなく、髪の毛や耳たぶ、首筋にそっと口づけ、綺麗だと囁き続けた。
「綺麗だ、ひな子。大丈夫。俺もここの客も、お前を傷つけることはしない。みんな綺麗で可愛いひな子に会いたくて来るんだ」
 な、とひな子に微笑みかけると、ようやくひな子が泣き止んだ。
 にこりと笑えばまだあどけない少女のような笑顔で、辻井はふと瀬里奈のことを思い出す。
 最近は泣いてる女を慰めることが多いな、と声に出さずに笑い、ひな子の唇にゆっくり唇を重ねた。
 すぼめた舌先で辻井の口の中をまさぐり始めたひな子から、唇を離した。
「今日は仕事じゃないから、そんなことはしなくていい。俺が大切に抱いてやるから、お前は何もするな」
 もう一度口づけながら、器用に片手でひな子のブラジャーを外す。肩紐を落とすと、ひな子の豊満な乳房が辻井の裸の胸に当たった。
「ああ、綺麗な胸だ。大きくて、柔らかくて、真ん中で硬くなってるのも赤くて堪らなく綺麗だ」
 屈んでその胸に舌を這わせる。唇で乳房を吸い、舌で乳輪をなぞった。もう片方の乳房を手でゆっくりと揉み、指で乳首を転がす。
 ひな子が小さく喘ぎ声を上げ始め、その声を聞いて麻衣の手の中の辻井の男根もぎりぎりまで張り詰めた。


 ひな子と麻衣を全裸にして、辻井はベッドに横たわった。
 おいで、とひな子に向かって腕を広げ、腹の上に乗せた。ひな子の股間はすでに濡れていて、腹の上に彼女の愛液が垂れる。
「俺のキスで感じてくれてるのか。可愛いなひな子は」
 辻井の上に覆いかぶさって恥ずかしがっているひな子の頭を撫で、顔の前にあるひな子の胸をもう一度愛撫する。
 愛撫しながら、ひな子を膝立ちさせて、胸に舌を這わせながら時折ひな子を見上げる。
 気持ちよさに口を半開きにしているひな子が更に恥ずかしがり、白い太腿に汁が垂れ出してくる。
 次第に下へうつり、へそから下がる小さなハートのピアスを口に含み、ピアスに隠れていた下の肌を吸う。汗がじんわりと滲んでいて、金属の味に混ざって塩の味がした。
 片手では執拗に胸を揉み、もう片手は指先で舐めるように身体のラインに沿って下へ下へと撫で、尻のふくらみを掴んで割れ目へとねじ込ませた。
「はぁ……ん……んふ」
 揉んでいる胸が反り返り、桜色の乳首が更に硬く尖る。尖った先端を人差し指でこりこりとねぶり続けた。
 尻の割れ目から指は段々と前に進む。
 辻井の舌はゆっくりと時間をかけて茂みの上まで到達し、ひな子の蜜でベトベトに光っている太腿へ伝っていく。
 その間に麻衣が辻井の股間に顔を埋めていた。舌と手と唇を使った麻衣のフェラチオはさすがトップコンパニオンの技で、辻井の射精感も高まってくる。
「ひな子、俺の顔の上に来るんだ。お前のあそこも見せてくれよ」
 ためらいがちに辻井の顔の上に身体を置いたひな子の腰を抱え、辻井はひな子の赤い花芯を舌先でつつき、弾いた。
 同時に、腰から下りてきていた指をすでに濡れてぐしょぐしょになっている蜜壷に入れる。
「あぁん……ッ……う……んッ」
 ひな子が気持ちよさそうな声をあげる。
 たっぷりと唾液を含ませた舌で、ひな子の蜜を舐め取りながら花芯をつつき花弁をすくい上げる。
 無理やり入れられたのか傷ができていて、舌が当たるとひな子は痛がった。可哀相にな、と言いながら、その傷跡に唾液をたっぷりと含ませた唇を寄せてキスをした。
443涙雨恋歌 第2章 村雨 8:2007/03/13(火) 14:06:24 ID:NpKwO1EN
8.

 辻井の下半身では、麻衣が自ら硬くさせた男根を持ち、亀頭で自分の秘裂を行き来させて喘いでいる。
 すでに麻衣からも大量の蜜が溢れていて、辻井の亀頭から出ている透明な汁と混ざってぐちょりと音を立てていた。
 先端だけでなく竿の部分も麻衣はさすり、その入り口の襞が辻井をまさぐっていた。
 時折亀頭を中に入れて、カリの部分を縁に引っ掛けるようにして出し入れし、腰を回して麻衣は自分の欲情を高めている。
 麻衣の喘く声とひな子のか細い泣くような声と、ふたりの立てる水音が部屋の中で混ざり合い、響いていた。
 ふたりの快感が高まるに従い、辻井自身も高まっていき、麻衣が握る手の中で血管を浮き立たせて硬く、大きく、反り返っていった。
「ね……ねぇ辻井さん、入れて、いい?」
 とうとう麻衣が上ずった声で辻井に訊いた。いいぞと答えたときには、もう麻衣は辻井のそそり立つものを手で支えて自ら腰を落としていた。
「あぁん……やっぱり一番好きよ、辻井さんのが、一番大きくて好き……」
 辻井を咥えこんで歓喜の声を上げた麻衣が、自分の前で感じているひな子の胸に手を伸ばす。
「ひなちゃん、あなたのおっぱい、柔らかくて気持ちいいわ」
 麻衣がひな子の胸を揉み、辻井が秘裂をかき分けて中の襞を舌で責める。
「わたし、あいつにひどいことされて……汚いです」
「そんなことないさ。赤くてあったかくて、甘いいい味がする。綺麗だ、ひな子。もっと感じて、いい声聞かせてくれ」
 ふたりの上下からの責めにひな子は背中を仰け反らせて達し、辻井の顔に温かい液を雨のように降らした。


 ベッドに倒れこんだひな子を優しく撫でながら、辻井は麻衣の身体を突き上げ、腰を回し、荒々しく胸を掴む。
 麻衣の腰を高く持ち上げて叩きつけるようにして落とす。落とす瞬間腰をひねって突き上げ、麻衣の最奥を突く。何度も繰り返しているうちに麻衣の締めつけが一瞬強くなった。
「んんッ――ああ……あああぁぁッ!」
 麻衣が絶頂に達して大きく叫ぶ。ふっと締めつけが緩くなった時を狙って、再び辻井は自らの腰をひねりながら麻衣を突き上げた。
 麻衣の一番奥に当たった瞬間にその一番奥へ精液を放つことで、麻衣の快感を更に高みへ引き上げて、辻井自身も果てた。
 辻井の精を受けた麻衣が崩れ落ち、荒い息の中で辻井の唇を塞ぐ。客とは絶対にキスをしない、と公言している麻衣のキスを受けられるのは、彼女の恋人以外では島津と辻井だけだ。
 その特権をゆっくりと辻井は味わい、起き上がると軽くシャワーで身体を流し、バスタブに身を沈めた。
 するとひな子と麻衣もバスタブに入ってきて、両脇に寄り添った。
「もう大丈夫か、ひな子」
「はい。ありがとうございます。でも……あの、わたしにも――ください」
 いいぜ好きにしな、とひな子の耳元で囁く。両手に抱く双方の女の額に軽くキスをした。お湯の中で、ひな子が辻井のペニスを、麻衣が陰嚢を優しく撫で始めた。


 再び立ち上がってきたのを見計らってひな子が辻井を自分の中へ導いた。麻衣のこなれた膣とは違う若い膣が辻井をぎちぎちと締め付ける。
「お客さんも沢山いるし、彼氏も何人もいたけど、辻井さんのが一番大きくてステキよ」
 太い首筋に唇を這わせて麻衣が言った。ひな子が横で腰を動かしているとは思えない、のんびりとした会話だった。
「そんなことあんまり言うなよ。オヤジが拗ねるぞ」
 笑いながら辻井は返した。時折ひな子の動きに合わせて腰を突き上げてやる。その度にひな子の鼻にかかった甘い声がバスルームに響いていく。
「島津さん? 島津さんはアレの形が最高にいいのよ……イヤだ、思い出しちゃったじゃない」
 今度は島津の身体を思い出しているのか、麻衣はうっとりと天井を見ている。
「島津さんと辻井さんとどっちがどうなんて言えないわ。良さが違うの。どっちも最高で、どっちも好きよ」
「真由子が誉めてたって言っとくよ」
 苦笑して、もう一度ふたりを強く抱きしめ、ひな子の腰を掴んで立ち上がった。そのままバスタブを出てマットにひな子を横たえる。
「気持ちいいか」
 ガクガク首を縦に振って答えたひな子の胸をしゃぶりながら、腰を動かしてひな子を責めたてる。既に達して感じやすくなっていたひな子はすぐにまた頂点へ上った。
 それを見て辻井は中からまだ屹立したままの自身を抜いた。マットの上で放心状態のひな子と、バスタブに寄りかかっている麻衣のふたりにキスをしてバスルームを出る。
「本当に時間がないんだ。悪いな」
 不服そうなふたりの女を置いて、辻井は服を着る。ひな子に明日の約束の時間を念押しして部屋を出た。
444涙雨恋歌 第2章 村雨 9:2007/03/13(火) 14:07:19 ID:NpKwO1EN
9.

 帰り際、店長室にいる坂上に声をかける。
「随分ひどい痣になってるな、あの子。どれくらいかかるんだ?」
「元通り綺麗になるまでは1ヶ月くらいだとか。まあ、目立たなくなって仕事に復帰できるまでには3週間くらいですかね」
 辻井が取り出した煙草に、坂上がすかさず火を点けながら答える。
「あれでも麻衣の次かその次くらいには人気があるんで、うちとしても困ってるんですよ」
「もし男が来たら、連絡をくれないか」
「わかりました。面倒なことに、ひな子に訊いたら写真一枚、携帯の写真ひとつ持ってないってんですよ。本人に面通ししないとわからないってのが、やっかいでして」
 面倒なことになりそうだな、と辻井は頭を振って店を出た。
 家に帰る途中の車の中で、辻井は夏目と高瀬に電話をかけた。


 翌日、辻井は9時過ぎに待ち合わせの『リリィ』へ向かった。一番奥の4人掛けボックス席に、既に夏目と高瀬が座ってコーヒーを飲んでいた。
「おはようございます、カシラ」
「ああ、急で悪いな。他のシノギのほうは大丈夫か」
「そちらは大丈夫です」
 そして辻井が事情をざっと説明する。
「しばらく義理事で都内を離れるから、夏目、お前が主導で頼む」
「わかりました。あと、青山さんにも協力をお願いしようと思ってます」
 すでにふたりで簡単な打ち合わせはしていたようだ。
 DVDを見せられたと言っていたことから、もしかしてその映像が出回っていないかどうかを調べてもらうのだろう。
 待ち合わせの10時を少しすぎた頃、店にひな子が入ってくる。キョロキョロと店の中を見回し、辻井の姿を見つけると頬を染めて近寄ってきた。
 ブラウンの花柄プリントチュニックにスキニーデニムをあわせて、トートバックからテキストやノートを覗かせているひな子は、どこからどう見ても普通の女子大生だった。
 薄いサングラスをかけて、顔の痣をごまかしているのが痛々しい。
「ひな子、隠し事はするなよ。全部洗いざらい話すんだ、いいな」
 ひな子が頷いたのを見届けて、ふたりに後を任せ、辻井は『リリィ』を後にした。


 その後東征会本部へ寄り、島津とスケジュールの打ち合わせをしてから、旅支度をしに自宅マンションへ戻る。
 見事な夕焼けが部屋を茜色に染めていた。
 男の旅など持ち物は大してない。まして今回はそのほとんどが喪服一枚で済んでしまう旅だ。
 今年の猛暑は自堕落な生活を送ってきた老人たちには堪えたらしい。全国あちこちで大幹部と呼ばれるような大御所が死の旅路についていた。
「行き先は極楽か、地獄か。どっちなんだろうな」
 部屋の片隅の仏壇に手を合わせて、辻井は部屋を出た。
445涙雨恋歌 第2章 村雨 10:2007/03/13(火) 14:08:08 ID:NpKwO1EN
10.

 事務所へ向かう途中、辻井の足は何故か瀬里奈を抱きしめた公園に向かっていた。
 薄暗くなって子供ももういない。周りの家の窓から明るい光がカーテンから漏れてきて道を照らしていた。
 ベンチに座り煙草を一本吸っていると、パラパラと雨が降り出した。にわか雨ならいいが、と辻井は空を見た。
 公園の外から瀬里奈が辻井を見ていた。昼間会ったひな子と似た格好をしている。思わずひな子の嬌声と快感に酔った顔が浮かび、チッと舌打ちしてその映像を消す。
 そのまま立ち去ろうとしたが、瀬里奈が傘を差し出してきた。煙草を靴の裏で消し、パッケージのビニールに入れる。
「傘、ないの? うちまで送ってくれればこの傘、あげるよ」
「事務所までですから、濡れていきますよ」
「なんでここにいるの」
「お嬢さんがもう泣いてないかどうか見にきたんですよ」
「泣いてる。あれからずうっと泣いてる。心配でしょ? だから一緒に来て」
「その割には涙の痕が見えませんねえ」
 親指の腹でそっと瀬里奈の目の下をなぞった。
「心で泣いてるのよ。いいから一緒に来るの」
 珍しく強い調子の瀬里奈に負け、辻井は瀬里奈から傘を受け取り肩を並べて歩き始めた。


「辻井さんは、初めて会った女の子にキスとかできる?」
 いきなり瀬里奈が辻井に訊いた。キスして欲しいという謎掛けじゃあないよな、と思いながら、辻井は考える。
「若い頃ならそんなこともあったかもしれませんね」
「その人のこと、好きだった?」
「本当に好きな人ならね、キスなんかしなくても、一緒にいられるだけでもいいもんですよ」
「じゃあ、初めて会った時にキスするのは好きじゃない証拠なの?」
 そうとも言い切れないですね、と辻井が言い、瀬里奈がわっかんない! と肩を落とした頃、ちょうど瀬里奈の自宅に到着した。
「お嬢さん。お嬢さんを一番大切にしてくれる男を選んでくださいよ。それが一番、いい男なんですから」
 島津は辻井に数え切れない大切なものをくれたが、その中でも特別に大切なものが尚と瀬里奈だった。
 大切に見守り慈しむ存在。それは辻井を暴力とは違う日常を思い出させてくれる存在でもあった。
 そんな、ずっと見守ってきた大切な宝物も、いつか他の男の手に渡る日がくる。瀬里奈を少女から女へ変える男と出会う日がくる。
 その日を祝福するためにも、瀬里奈を大切にしてくれる男を選んで欲しかった。
 門扉に手を掛けた瀬里奈が、辻井を振り返った。
「辻井さんはわたしのこと大切?」
「もちろん大切ですよ。大切なお嬢さんです」
「じゃあ辻井さんがわたしを愛してくれればいい。そうすればわたしこんなに悩まない。辻井さんのバカ」
 ガチャン、と門がしまる音がした。呆然としている辻井を残して、瀬里奈は家の中に消えていた。
 ちょっと見ていない間に、瀬里奈はどんどん大人に、そして女になっていく。
 小さな子供だった瀬里奈の成長が嬉しいような寂しいような、複雑な気持ちを抱えて辻井は歩き出した。
 瀬里奈と歩いていた時に傘に入りきらずに濡れた半身が、妙に熱かった。
446島津組組員:2007/03/13(火) 14:11:27 ID:NpKwO1EN
「涙雨恋歌 第2章 村雨」 以上です。

あ、(3章に続く)っていれるの忘れてた。
まあその、続きます。
447名無しさん@ピンキー:2007/03/13(火) 15:08:28 ID:C7K1NGOz
うはww
続き投下しようと来たらいいもん見た
GJ!

続きは日を改めることにする
448名無しさん@ピンキー:2007/03/13(火) 18:24:23 ID:haKEZjYR
>>446
いままでコメ入れた事なかったんですが、島津組シリーズ大好きです。
硬派な作風がとにかくカッコ良くて、引き込まれながらROMってます。
続きを楽しみにしています!
449名無しさん@ピンキー:2007/03/13(火) 18:55:14 ID:gVHCgA4c
あっちの話も気が向いたら完結させてくれ
450名無しさん@ピンキー:2007/03/14(水) 20:23:21 ID:JO7LQZYJ
島津組シリーズ、エロシーンより瀬里菜と辻井の絡みだけで萌えちまう(*´Д`)ハァハァ
続き待ってます!
451青信号の犬12:2007/03/16(金) 01:05:57 ID:lUDQj7Dl

 ベットの上には裸の女がいた。絹のような光沢のある上等な布で目隠しされており、ときおりその柳眉が寄せられる。
女はこれから何が起こるか理解していないのだろう。元捕虜はため息を飲み込む。おぼつかない足取りでようやくその傍にたどり着くと大臣が肩を揺らして笑う。
大方、薬でふらふらと―衣服どころか下着までとられ―無様ななりの自分を嘲り笑ったのだろう、元捕虜は霞がかった意識で思う。
いいように操られ、それでも命が惜しくて抵抗できない自身が憎かった。
否、そんなものは建前だ。
元捕虜は――女と交じりたかったのだ。
あらかじめ指示された通りにベットに乗り上げると固めのマットレスが大きく揺らぐ。
自身の体幹の安定すらまともに取れない状態だったが、どうにかそれの上に胡坐をかいて落ち着いた。
「たまには貴女にしてもらおうと思うのですけれど、どうでしょう?」
大臣が女の耳に―触れるか触れないかの位置で―ささやいた。その言葉や声音こそはやわらかいものだったが、たしかに有無を言わせぬ剣呑さを含んでいた。
熱っぽい女の吐息が漏れると同時に元捕虜は背中にヒタリと鋭いものを突きつけられたように感じた。
実際、背には何も触れてはいない。
それはおそらく大臣の―――


 既に立ち上がった雄に手を添えて、小さな赤い舌が丹念に先端を舐め上げる。
ぱくりとそのまま咥えた。思っているよりも深く咥えてしまったのだろう、女は咳き込む。
すべて口に含めはしないが、それでも懸命に口淫を再開する。咥えなおし、ちゅぱちゅぱと幼子のように吸った。
「ん、ふぅ………ぁふ……」
自身の唾液や、元捕虜の先走りの濡れた感覚を追いかけて舐め続ける。こそばゆい刺激に元捕虜は声を堪える。
大臣の手が後ろから伸びてき、女の頭をゆっくり撫でた。
「そう、初めてにしては上出来です。…さあ、手を動かして…」
「ふっ、……ぁ…ん、ふ…」
激しくなった手での愛撫に、つるりと女の口から元捕虜が抜け落ちた。女は驚き、寂しさの混じった声を上げる。
「あ、ん…どこぉ、どっかいっちゃった……あ、やだぁあ」
つい離してしまった男根を捜し、ぺちりと近くにある男の脚に触れた。
瞬間女の声があがる。
「やだ!***じゃない!」
目隠しをべとついた手でずらし女は―女王は元捕虜を見上げた。
自分の後方で大臣が呆れたような声を上げたのを元捕虜は聞いた。
女王は元捕虜の顔をじぃいっと見、恥じ入ったように後ずさりシーツをかぶった。その顔には興奮とは違う朱に塗れていた。
「やだああ***!大臣はぁ?!どうして?どうしているのぅ?あ、あ、あ、どうしようやだよぅやだよぅ」
どうしてよいのか固まっている元捕虜に大臣はガウンを投げ、そのままでいるようにと言う。大臣はシーツに包まって元捕虜から裸身を隠そうとする女王の背中を優しく撫でた。
「どうしたのですか陛下?何か恐ろしいことでもありましたか」
「だ、大臣?本物だな!……どうしよう、ぼくちがっ、私は……ああ!」
着衣の乱れがみられない大臣に女王は青ざめた表情を見せ、むせび泣いた。
混乱していて、何度も何度も同じ言葉を繰り返す。
「ああ!やだぁあ…やだよぉぅ…やだ、みら、れっ…ちゃった」
トンっと後ろ首に手刀をいれると、スイッチが切れたように女王は静かになった。擦れて赤くなった唇の端から一筋唾液が伝う。
「今晩はもういいです。動けますか?部屋と女を用意します。そこで薬を抜くと良いでしょう」
452青信号の犬13:2007/03/16(金) 01:07:33 ID:lUDQj7Dl
平坦な声に自身が萎えていくのを感じた。この男は自分の国の統治者に―自分を慕っている人間にどうしてこのような真似ができるのだろうか。
「いえ、結構です。……服を返していただけませんでしょうか」
返事は無く、大臣は元捕虜を見た。時折、このような酷く乾いた目を大臣は他人に―例外なく女王にも―向ける。許容もなく慈悲もなく、かといって拒絶もなく凪いでいる。
「……やめませんか、おれ、これ以上あのひとのこと、あのひとが自分のこと
 かわいそうだ、って思うようになることにこれ以上加担したくありません。
 あのひと言っていました。やさしいひとばかりで、不安になる、と。捨てら
 れるとき怖くなる、と言っていました。どうして!…どうして、そんな目で
 陛下を見るんです!あんな風になるほど依存させておいて、どうして…!!」
切迫した声で散らしても、大臣の目は変わらない。大臣は投げ出していた脚を組むと言った。
「…最後のだけ答えましょうか。今さっき彼女が取り乱したのは、私の所為ではないでしょう。
彼女は、君が彼女を好いているように彼女も君を好いているから、ですよ。」
後は勝手にしろとばかりに大臣は立ち上がった。元捕虜はシーツに包まれた女王を見て、大臣を見上げる。出て行こうとする大臣を呼び止め告げた。

453青信号の犬14:2007/03/16(金) 01:08:51 ID:lUDQj7Dl

 晴れの日に出立は出来なかった。元捕虜は曇天を窓から仰ぎ、調理場に向う。
使用人らが中心に使う途はあまり広いとはいえない。それの奥から少女が駆けてくる。
いつかのメイドだった。随分と走り回ったのだろう、所々髪がほつれていて指摘するとうるさいですの!と返ってきた。
「陛下がお呼びですのよ、きっとアンタの話はおもしろくないこともなかった
 から出先から手紙を送れ、とかでしょうけど。とにかく呼んでるんですの!
 食料は私が貰っておきますから、スグむかいなさいな!ホラ、さっさと!」
尻を蹴とばされ、しぶしぶメイドが来た方へ歩き出す。後方から聞えた走りなさい!という言葉に手を振るとメイドが今度はタックルしてきたので走った。
硬い廊下はそうでもないが、女王の部屋へと近くなる程廊下は走りづらいものになってゆく。足の裏がひっくり返るような気がした。
ノックをして名と所属を言った。それから扉を開ける前に、それは内側から開かれた。
女王が自ら元捕虜を自室へと招いた。元捕虜は固辞した。女王が少しだけ眼を伏せた。
「…どうしても去るの?国を、去るの?ねぇ、旅に出るの!?」
「ええ、遠くまでいきます」
女王の声は少し震えていたようにも聞えたが、あえて元捕虜は追及せず、平静に答える。
扉に触れていた女王の手が元捕虜の上着へと伸びた。しっかりと布を掴む。
「本当?どうしてなの?突然じゃないか…」
「ええ、ちょっと他をみたいと」
長い睫毛を震わせて元捕虜を見上げた。泣いたのだろうか、したまぶたがほんのりと腫れていた。
気がつけば憂いの表情ばかり見ている。
「やだよ!もうちょっとここにいたっていいじゃないか!大臣に言われて出てくわけじゃないんだろ?!」
涙が眼にたまっていき、決壊寸前の赤い眼でキッっと元捕虜を睨みつける。
そう、これだ。元捕虜が初めて見た女王はこのように感情の起伏がはっきりとしていた。
今までが、異常だったのだ。夜な夜な国王の痴態を目にするなどあるわけなかったのだ。
「すみません、いかなくちゃ」
「やだぁぁみんな置いていっちゃうんだ!連れてっててよ」
ぶわあっと決壊した。幾筋もの涙が女王の頬を伝うが、それに意も止めず元捕虜に食って掛かる。
「だめです」
「だめええ、やだぁあ…君が好きなの!なんで好きな人は私を置いてっちゃうの!?いっちゃやだ……」
強く元捕虜の上着を引いた。だが力のない女王には精々生地を伸ばす程度にしかならない。ぐいぐと諦めず引く。
元捕虜はその手をゆっくりとほぐし、遠ざける。
「…忘れてください、これからまだまだあるんですから」
「ねぇ、連れて行ってよ…お願いだから…」
反動で床にへたりこんだ女王は俯いたまま何度も何度もおねがいと繰り返す。
今度は足にすがり付いて、言う。
おねがいいっしょにつれてって。
元捕虜は長く息を吐いた。そしてスルリと足を抜く。
「城(ここ)から連れ出してくれるならだれでもいいんですか?」
「ちが…!ちがうの!そんなこと…」
「お世話様でした陛下。遠くにありましても国と陛下を案じております。…では」
最後ににこりと笑みを女王に向けて捕虜は来た道を戻っていく。
元捕虜が角を曲がって、その先の扉を開けて、調理場へ着いて、裏門をくぐっても女王は床に座り込んだままだった。
「やだ……いっちゃ、やだ」
いくら呟いても、元捕虜はおそらく戻ってこない。女王は額を床にこすりつけた。ひんやりとしていて、いつか触れた元捕虜の手とは違う温度。
だけれど、冷えた頬より温かかった。

「おいてかないで」


つづく
(おひさしブリーフ!)
454名無しさん@ピンキー:2007/03/16(金) 01:15:56 ID:dXGKG7Su
おお、リアルタイム! GJ!
455名無しさん@ピンキー:2007/03/16(金) 02:41:14 ID:BK9lZ6P/
ひゃっほうGJ!
女王様かわいいよ女王様(;´Д`)ハァハァ
456唯一:2007/03/16(金) 05:08:06 ID:VersR0L4

そう長くない眠りから覚めたファリナは傍にある、知った気配に唇を吊り上げた。
馴染んだ気配を持つ、愛しい男の名を音に乗せる。
「アルスレート」
「はい」
応えはすぐに返る。
ファリナが気配を悟ることができるように、アルスレートもファリナの目覚めを知っていた。
そうして、横たわったまま差し出されたファリナの手を自らの手で包み込む。
硝子細工にでも触れるように、ただやんわりと。
包み込む手を、きゅ、と握り締めて、その手を頼りにファリナは起き上がる。
その間アルスレートは微動だにしない。
起き上がると一度顔を俯け、ファリナはアルスレートを、ひた、と見据えた。

457唯一:2007/03/16(金) 05:08:37 ID:VersR0L4


「……そなた、私の為にどれほどのことができる?」
「早急にでしょうか?それとも、どれほど時間がかかっても構わないのでしょうか?」
それによってできることが限られてくる。
だからこそ、答える前に聞いておかなければ、とアルスレートは思う。
「そう急く必要はない。だが、悠長に時間をかけてはならん」
これはまた曖昧な…と思うが、アルスレートは考える。
あらゆる事象を想定し、結論を導き出す。
答えるべき言葉は、一つしかない。
「………世界を滅ぼすこと以外なら」
「これはまた、随分大きく出たものよ」
「どれほど時間をかけてもよい、と仰せになるなら、世界すらも我が姫の御前に跪かせてみせましょう」
「世界すら掌中に収めるか」
ファリナは思わず苦笑を零す。
しかし見つめてくるアルスレートの瞳に、それを為すつもりがあると悟る。
そうか、と小さく呟き、ファリナはアルスレートの手を力任せに引いた。
それに逆らうことなく、アルスレートは寝台に膝をつく。
きしり、と寝台が小さく軋んだ。
掴んだ手はそのままに、ファリナはアルスレートの首に腕を回して抱きつく。
不安定になるファリナを支えるために、アルスレートはファリナの腰を抱いた。
座れ、と言うファリナの指示に従ってアルスレートは寝台に腰掛ける。
次いで望まれるだろうと思い、ファリナを膝に乗せた。
やや不満げな顔をしたファリナは身動ぎし、向き合うと跨るようにして座り直した。
ぎょっとしたアルスレートを満足げに見、ファリナはその首に両腕を絡めた。
そして、吐息がかかるほどに顔を近づけ、まことか?、と問い質す。
驚愕と混乱を遣り過ごしたアルスレートは、ふぅ、と息を吐いて答えた。
「はい。我が姫がお望みになるなら。如何な手段を以ってしても、必ず」
「数多の犠牲を払っても、か?」
それこそ愚問だとでも言うように、アルスレートは苦笑する。
「どれほどの血を流し、屍の山を築いたとしても、我が姫が望まれるものの前では塵芥に過ぎません。取るに足らぬことです」
「取るに足らぬ、か」
アルスレートは肯定の意味をもって微笑む。
世界とただ一人の人と、どちらを取るか、と問われれば、迷うことなくただ一人だ、と即答することができる。
アルスレートにとって価値のあるものはファリナただ一人なのだ。
「では…私の望みなら、なんとする?……そなたが忠誠を誓う姫として、ではなく、な」
「同じことです。私は、姫である御身に忠誠を捧げたのではありません。忠誠を捧げた相手が、たまたま姫である御身であっただけ。
もしも御身がただの娘であったとしてもなんら変わりはなかった、と断言できます。
私は、貴女という方に忠誠を捧げた……それだけのことです」
「姫、という肩書きも関係なく、私、という一人の人間に、ということか?」
「はい。ですから…我が姫はただ、そうとお望みになればいいのです」
「ならば――――」
ファリナが望む声はあまりにも小さく、音にはならなかった。
しかしアルスレートはそれを理解すると、嬉しそうに微笑んだ。
これ以上はないとでもいうような、歓喜を、至福を、恍惚を含んだ笑み。
そうして睦言を囁くかのような甘さを帯びた声で告げる。
「主命に従います」
458唯一:2007/03/16(金) 05:09:24 ID:VersR0L4

その瞬間、甘く柔らかなものが唇に押し当てられた。
ファリナは驚き固まるアルスレートの唇を舐めて甘噛みし、舌を侵入させようと試みる。
「ん…ふ……ぅ、ん」
何とか侵入させた舌をアルスレートの舌に絡めて甘く啼く。
それは拙く、しかし懸命で、だからこそアルスレートの情欲を煽った。
思うさま絡めて貪りたい。
舌を絡めるだけでは足りない、もっともっとと望む感情を理性で捻じ伏せ、そっと引き離す。
薄く開かれたファリナの唇から赤い舌が覗いた。
その、舌から繋がる銀糸を指先で拭う。
「………嫌か」
悲しげにファリナの眉が寄せられる。
「そうではありません。私が姫を疎むことは決してありません。それだけは何が起こってもありえません。ただ……ここがどこか、お忘れなきよう願います」
「……」
言葉にする代わりに、ファリナはアルスレートを強く抱き締め、アルスレートはファリナを柔らかく包み込んだ。
459唯一:2007/03/16(金) 05:10:15 ID:VersR0L4



からん。かららん。

扉が開く音に、店内の者は目を走らせた。
その場所には不釣合いな男がゆっくりと店内に足を踏み入れる。
「お綺麗な騎士さんよぉ…来るとこ、間違ってねぇかぁ?」
「いいえ、間違ってはいません。……ここが、反乱を起こそうとする者達が集まるところなら」
ざわ、と店内が殺気立つ。
武器に手をかける者までいる。
それを歯牙にもかけず、カウンターまで進むと腰を下ろした。
ぴりぴりとした空気を気にすることなく酒を注文する。
酒を出してやりつつ店主は問いかけた。
「あんた、何考えてんだよ?」
「どうやって王を殺そうかなぁ、ってとこですかねぇ…」
まるで天気の話でもするかのように、酒に口をつけつつ軽い調子で告げる。
「あんた、騎士なんじゃねぇのか?」
「王に忠誠を誓った覚えはありませんね。ついでに言えば、この国がどうなろうと私の知ったことではありません」
「あんた、変わってるな?」
「そうですか?でも私はこの国の人間ではありませんし。私の主に害が及ばないなら、後はどうでもいいんですよ」
「あんたの主?」
「えぇ」
にこり、と浮かぶ微笑は幸福そうで、本当にその主を大切に思っていることが窺える。
一体誰なのか、と思う店主に男は告げた。
「この国の、王妃陛下ですよ」
その声は大きくはなかったというのに、しん、と店内が静まり返る。
「じゃ、あんたが!?あんたがあの!?」
「あの、が、どれを指すか知りませんが……まぁ、そうです。私がアルスレート・イスクルです」
いくつもある呼び名のどれを言っているのかはわからないが、それを肯定する。
そこはアルスレートにとってどうでもいいことなので流したのだ。
しかししばらくすると、まさか、マジかよ、などと囁き合う声が聞こえる。
460唯一:2007/03/16(金) 05:11:10 ID:VersR0L4


「で、本題はなんだ?」
「おや、わかっていたんじゃないんですか?」
声をかけてきた男に、くすり、と口角を吊り上げる。
決まりきったことを、といわんばかりに。
「こんなとこに来んのはまぁ…そうだろうとは思うけどな」
「では、用件を済ませますか」
「そうしてくれ」
「資金と情報の提供、ですかね。…無論、ただで、とは言いませんけど」
「条件はなんだ?」
「決まっているでしょう?………我が姫に手を出さないでいただきたい」
それ以外に何があるのか、というようにアルスレートは告げる。
「つってもなぁ…?」
「お飾りの王妃に一体どれだけの価値があると?王の寵姫の方が価値があるでしょう」
身籠ったようですしねぇ…そう呟けば面白いくらいに食い付いてくるのがわかる。
「それは本当か?」
確認するような声音に頷くと、そいつはまずいなぁ、という声があちこちで漏れる。
計画を急いだ方がいいな、という声も聞こえる。
「私が手を下してもいいんですけど、面倒ですから」
我が姫がお望みになるなら、吝かではありませんが。
そう呟くアルスレートに
「あんたほんと、主人以外のためには動く気がないんだなぁ」
「ありませんね。彼の方は私の唯一の主。至上の御君。私の神であり、法であり、世界です。
それに、私のただひとつの愛を捧げる方、ですから」
ひゅ、と驚愕に息を呑む気配がする。
それに構うことなく、アルスレートは続ける。
「叶うなら…私がこの手で幸せにしたいと願う、たったひとりの方。
でも、幸せに微笑んでいてくれるなら、それが私の手によってでなくても構わないとも思っているんですよ」
本当にそう思っているのだと容易に知ることができる、甘く柔らかな、美しい微笑。
けれど。
次の一言で、それは霧散する。
「我が姫は微笑まない。……それだけで、私が牙を剥くには十分です」
一切の温度を感じない、冷たいという言葉では表現できないほどの響きを持つ声が紡がれる。

「――それで?貴方方はどうしますか?」
461唯一:2007/03/16(金) 05:14:06 ID:VersR0L4
続く

我が姫、とかいて、わがきみ、と読んでくれまいか

462唯一:2007/03/16(金) 05:19:44 ID:VersR0L4
そう呟くアルスレートに、呆れたように男は言った。

つのが切れてた……ばかだおれ
463Il mio augurio:2007/03/17(土) 14:47:45 ID:3byBz66/

「では、まずは男性器と女性器についてお勉強致しましょうか」
「そのあたりは学校で学んだけれど?」
「テキストで理解なさいましたか?現物もご覧になっておられませんのに」
「それは…」
口篭る暁香を見つつ、現物見せるのか?、と暁良は内心ツッコミを入れるが口には出さない。
言われていることもあるが、迂闊なことを口にすれば薮蛇になりそうな予感がひしひしとするからだ。
「まぁ、お見せしても構わないのでございますが…それはおいおい、ということに致しましょう」
「じゃぁ、どうするの?」
「教材を御用意致しました」
とんでもないものには違いないよな、と思っている暁良を尻目に、用意したという教材がテーブルに置かれる。

まずは本。医学書レベルのもののようだ。
氷雨はそれをぺらぺらと捲り、生殖器の項を開く。
暁良はろくでもない教本でなくてよかった、と胸を撫で下ろしたが、次にテーブルに置かれた物に目を剥く。
「!?」
「これ、なぁに?」
そのうちの一つを暁香は手に取り、氷雨を見る。
「なんだかふにゅふにゅしてる…」
「それは男性器を模しものでディルド、あるいはディルドーと呼ばれる玩具でございます」
「でぃるど?」
きょとりと首を傾げて目を瞬く様は可愛らしいが、その発言と手にあるものはいただけない。
「はい、左様にございます。それは男性器についての教材でございます」
「こんな手触り、なの?」
「そうでございますね、おおよそそんなものかと。人体に近い素材を使用してございますから、より本物に近いかと思われます。もっとも現物はそれのように冷たくはございませんが」
じぃ、と興味津々といった風情で見つめる暁香に、暁良はなんだか居た堪れない気分がしてくる。
「………ずっと疑問だったのだけど……」
「何でございましょう?」
「ここって、どうしてこんな形なのかしら?」
男性器のカリの部分を指先で撫でながら暁香は氷雨に問う。
「某州立大学研究チームによりますと、性行為時に他の男の精液を掻き出すために発達した、ということでございます」
「ふぅん?そうなの」
つーか、氷雨さんあんたどこからそんな知識入手したんだよ!?しかもそんな淀みなく答えたりとかして!?暁香お嬢様もそんな簡単に納得しないで疑問に思ってください!
などと暁良が内心で暴走している間に講義は進む。
「陰嚢、陰茎、亀頭、亀頭冠…一般的にはカリと呼ばれる部分でございますね。それから、尿道口となります。とは申しましても男性の場合、ここから精液が出るのでございますが」
指で指し示しつつ氷雨は説明していく。
「ああ、それから、この形状は勃起している状態でございますので。常の状態とはやや異なってまいります」
「そう、なの?」
「常にこの状態ならば、動き難くて仕方ありませんでしょう」
じぃ、と氷雨の股間を思わず注視し、暁香は頷く。
「……そうかも?」
「私の股間をそう注視されても困るのでございますが」
苦笑しつつ氷雨は言う。
しかしそれほど困っている、といった風情ではない。
「じゃぁ、暁良ならいいの?」
「や、やめてくださいませ!?」
ぐるぐると脳内を暴走させていた暁良だが、悲鳴のように叫ぶと、暁香が暁良のほうを見るより早くしゃがみこんだ。
「……だめなの?」
慌てっぷりに一瞬驚いたものの、暁香は氷雨を見上げて問いかけた。
「通常は恥ずかしいものでございますからね」
「氷雨は?」
「恥ずかしがっていてはこのような講義などできませんでしょう」
たしかに、と納得し、暁香は先を乞う。
464Il mio augurio:2007/03/17(土) 14:49:09 ID:3byBz66/

「勃起の経緯については後ほどDVDでお勉強することに致したいと存じます。玩具では理解できませんでしょうから」
こくり、と暁香が頷くと、氷雨は筒状のものを取り上げる。
「それは?」
「これは女性器を模したものでホール、あるいはオナホールと申します」
「ほーる…」
「はい。内側は男性が快感を得やすいように作られておりますので、参考にはなりませんが。多少の誇張はございますが、これならば外性器のほうの勉強になりましょう」
いやいやいや、そうじゃなくて!そんなの暁香お嬢様に見せないでくださいよ!?
などとしゃがみこんだまま暁良は内心で悶える。
無論そんな暁良を氷雨はしっかりきれいにスルーする。
暁香に至っては気付いていないが。
「こう見ますと、女性が仰向けになっている時と同様の状況でございます」
こう、と示しつつ暁香の目の前に差し出す。
「外から大陰唇、小陰唇でございます。大陰唇は体の他の皮膚と同様の色をしておりますが、小陰唇のほうは血管が多いためにピンク色をしております。
性的刺激を受けますと充血して膨らみ、更に刺激に敏感になってまいります」
「それでえーと…これが、くり…くり、とりす?とかいうの、よね?」
「そうでございますね。陰核、という言い方もございますが。クリトリス、のほうが一般的でございましょう。…ところで暁香お嬢様?」
「なぁに?」
「どこでそのようなお言葉をお知りになられました?」
そうですよ、どこでそんな言葉をお知りになったのですか、暁香お嬢様ー!?
本当は問い詰めたいが、開始前に氷雨に口出ししないように言われているので口を挟めない。
当然、薮蛇を恐れたものでもあるが。
「えぇ?お友達が言っていたの。気持ちいいって」
「なんとも素晴らしいご友人でございますねぇ…」
いやいや素晴らしくないから!誰か知らないけど暁香お嬢様に変なこと吹き込まないでー!
暁良の悶絶は続くが、それを気にする氷雨ではないし、暁香は気付いてすらいない。
ので、ある意味放置されたまま、更に講義は続く。
「ここが膣口でございます。この内側に処女膜、というものがございます」
「えぇ…と…初めての時に破れる、とかいう?」
「一般的にはそう言われておりますが、運動をしたり、タンポンなどを挿入するときにも破れる場合がございます。
また、始めから完全に塞がっているものではなく、穴が開いておりますから、膜、というのも語弊がございますが。
ですので、破る、破れる、には、実は該当しないのでございます」
「へぇ…そうなの」
初めて知った、と暁香は目を丸くする。
「便宜上、破れる、と表現致しますが…破れれば、多少の出血を致します。出血をしても、十分に濡れて潤っていれば痛みを伴わないこともございます。
また、激しい性行為によって膣内部が傷つき、裂けて出血する場合がございます」
「難しいのね」
「あまりそう認識されておりませんが、大変デリケートな器官でございますから」
つかなんでそんなに詳しいの氷雨さん!貴方男だよね!?
会話の一つも聞き漏らさないように躾けられている暁良は、悶絶しつつも全て耳に入れてしまう。
若い暁良には辛いが、哀しい使用人の性である。
「膣の内壁は口の中と同じような粘膜でできており、粘膜をたぐり寄せたように沢山のひだがございます。
また、子宮からの分泌液や膣自身からの分泌液で常に湿って潤った状態になっております 」
「おりものとか?」
「はい、一般的には体外に排出された分泌液はそう呼ばれておりますね。
ですが、性行為の際は十分に愛撫して興奮させ、愛液を分泌させる必要がございます。
これは性感を高める、ということのみならず、保護という役割も兼ねております。でなければ、大変痛い思いをなさるかと存じます」
「痛いのはやだ…」
眉を顰め、嫌そうな顔をしつつ暁香は言う。
「それが普通でございます。……子宮は…学校で学ばれた通りでございますから、割愛致したく存じますが、如何致しましょう?」
「えぇ…と…ええ、いいわ」
こくり、と頷きつつ暁香は頷き、手に持ったままだったものをテーブルに置いた。
「宜しゅうございますか、暁香お嬢様。伴侶には配慮のできる男性を選ばれませ」
465Il mio augurio:2007/03/17(土) 14:52:51 ID:3byBz66/
つーかんじで、副題:性教育その二
なんか微妙になってきたからこれで投下。
実はこの後、フェラチオ講座があったりしたんだが……どうする?
466名無しさん@ピンキー:2007/03/17(土) 17:30:28 ID:3pf9+/lI
>>462
従者がいい感じに狂ってるのが読んでて面白いな
GJ!
467名無しさん@ピンキー:2007/03/17(土) 20:26:10 ID:JgQCDCnL
笑っちゃいかんのかもしれんが、笑ったw
GJ!
468名無しさん@ピンキー:2007/03/18(日) 02:39:26 ID:mFfRmK7s
>>465
GJ。
なんっつーモノ教材にしてんだよ……ww
ってか、DVDはナニ見せるつもりだ。
469名無しさん@ピンキー:2007/03/18(日) 12:43:17 ID:9lBu2ceI
>>468
DVDでは愛撫(自慰とフェラチオ含)と挿入を予定しているが?
氷雨は確信犯なので、わざとそんなもん選んだんだな。
暁良いじりのために。……むしろ暁良の受難か?

470名無しさん@ピンキー:2007/03/18(日) 13:26:15 ID:1l6xyQl8
>>466
いい感じに狂ってるのが表現できてたか。
よかった。ありがとう。
もうちっと頑張ってみるよ
471名無しさん@ピンキー:2007/03/21(水) 12:53:25 ID:W70wHgTS
職人降臨期待age
472護衛×閣下:2007/03/22(木) 00:14:10 ID:UGK7JpgZ
前の職人から4日経ってるのか…だからこんなに上なのか…
、としんみりしたので特急仕上げた。アラばかりだ。だが投下する。

「閣下尺八を山羽で発見する(仮題)」

 閣下は俺の腿に手を置き、神妙な顔をして俺を見上げた。
ごくり、とその白い喉が上下する。布越しに震えた手の温度が伝わり制止の声をかけたくなる、が声が出ない。
また、まじないをかけられたのだ。声を出そうとすれば乾いた喉がヒューヒューと鳴る。
 ジベレリンとかいう術よりマシだ。やらせはしなかったが、説明だけで青くなる術を沢山閣下は会得している。実践されたら大抵の男は腹上死でその人生を終える。
手早く状態を説明するならば、腰から下と声を拘束されたのだ。
追記として、ひとつ。俺は被虐ではない。
 何故このような状況へ追い込まれたのだろうか。ただ俺は断っただけだというのに…
ベルトのバックルに伸びる手を掴んで止める。白い手の甲に赤い花のような文様が映えていた。

「やらせろ!」

 目元を恥ずかしそうに染めて言うセリフじゃない。
慌てて両手でその口を塞ぐ。表情とやってることが違いすぎます。
口を塞ぐと顔がもう半分も見えないし、息もし辛いと思うが、閣下はにんまりと目を細めた。
うって変わって素早い動作でベルトを引き抜き前をくつろげ、手を置いた。
――チンコの上に。
俺の頭の中の警鐘が甲高い音を立てて鳴り響く。
慌てて閣下の手をどかそうと重ねれば余計に押し付けるような形になってしまう。閣下がぴくりと肩をゆらした。

「…あったかい?」
そりゃあもちろん身体の一部ですからね!

 どうにか手を離させると今度は首を動かしてまで近づこうとする。
なんでこんなに今日はしつこいんだ!!はやくフェラからはなれなさい!!
あくまで俺は閣下が善がってんのを見るのが好きで、されるのは二の次なんです!
そんなに強い力は出せないので、堂々巡り。これがもう三十分近くつづいていた。
あきらかに焦れている閣下が三回目の脅しをかける。

「上も拘束するぞ」
473護衛×閣下:2007/03/22(木) 00:14:46 ID:UGK7JpgZ
 強姦、という言葉を知っていらっしゃるでしょうかニーズヘッグ・ユアン大佐…
力なく俺は首を横に振り、観念した。というかテイネンした。
してやったり、という表情で閣下は背伸びをして頬にキスをする。
下着の上から恐々となで上げ、そいつをひっぱりだした。まだ柔らかいそれを持ち上げてまじまじと見つめる。
何がおもしろいのだか…

「この状態は初めて見るな。成人は皆、こういう風になっているのか?いや、個人差はあるか。
 あれだな、ほんとにカメみたいだ。おもしろいなツルリとしてるぞ。
 む、最中とは違うな…ふにふにしている。ああ、まだ勃起していないから、か?
 …しかしよく収まるものだ。大きくないか?」

 摘んだり、引張ったり、計ったり、自身の腹を撫でながら観察した後、竿を握り先端をちろりと舐めた。
上下に扱きながら食むように刺激していく。つたないながらも、必死な姿に徐々に硬くなる。そして決心したようにぱくりと咥えた。
やはり閣下の口は小さい。それでも無理矢理に入れようとして激しくむせた。

「っ!…はぁ、すごいな人体の神秘だ…ガルムおまえ、どうやって私にいれてたんだ」

 神秘的な思考回路の持ち主である閣下はそれでもあきらめず、ぴちゃぴちゃと音を立ててなめまわした。
さっきので懲りたのだろう。今度は余裕を持ってその小さい口に含んでみたり、横からかぶりついたりと試行錯誤するように動き回る。
それでも、生来の器用さからかそれともセンスが良いのかイイ場所をついてくる。

「ん、ほほひぃくなっは……っちゅ、そうだ袋もか?なめ…いや揉むのか」

 思い出したように付け根をぎゅっと握られる。悲鳴をあげそうになった。あああげても音にならないのか。
そうして摩るような動きのあと、やわやわとしかし摘むように包み込んだ。袋も張っているのがわかる。
両手で揉みながら扱きながら、舌先を差し込まれた。痛みに意識が飛びそうになるがそれも一度だけですんだ。
閣下の手が自身へと伸びていた。目を瞑って、懸命に咥えながら腹部に触れる。
つい最近まで処女だったというのに、著しい発展である。
……あれ?俺最初も襲われてない?どうなの?結果的に和姦だろうけど…
ちぃっとばかしトリップしていると、閣下は握ったまま膝に乗ってきてそのまま内腿にこすりつけた。
挟んで動くと愛液がとろりと絡みついた。充分すぎるほどに湿っていて、閣下の息も上がっていた。
あとでの仕返しにビビリながらも閣下まで手を伸ばした。
へそのあたりを布の上からなぞって降下する。まだクリトリスに到達しないうちに、閣下の膝は震え崩れた。
474護衛×閣下:2007/03/22(木) 00:15:27 ID:UGK7JpgZ

「ぁ、や、ひざがたた、ない」
「ニーズさん?」

 崩れた際に一気に挿入ってしまい、へなへなと俺によりかかる。
それに前後して拘束が解けた。足がだるいし、喉が渇いていた。
やわらかい黒髪を撫でながらもう一度名前を呼ぶ。

「あ、やん!…ちょ、しゃべる…なぁっ」
「へ?ニーズ?ニーズさん?どうしたんですか」
「ばかぁあ、しゃべっ、るなって!言った…」

手のひらを口に押し付けられる。そのまんなかを軽く舐めるとサッと手を戻した。
腰を抱えてゆっくりと横たえる。体勢を逆転させて閉じ込めた。閣下の足が放さないとばかりに絡む。
こめかみに近づいて、意識して低い声を出すと濡れた瞳が俺を映した。

「俺の番ですよ」
「ひっ…ちょ、もっムリヤリしないからぁ!…しゃっ、べ…ないでっ」

どうして、と首に指を這わせたまま尋ねるとそっぽを向いて答えた。横顔が赤い。

「こえ、ちがうひとみたい、やだ」

 自分ではわからないが酷く掠れているらしい。別人に犯されているみたいで嫌なのか。
繋がったまま上体を捻って、閣下はシーツをつよく握っていた。肩が震えている。
本当に怖いのか。

「バックでしましょうか」
「やだぁ!いや!だめ!ナシナシ!」
「散々いじめた癖にいいますか。俺は嫌だと言ったのに、声は盗られるし身体は動かないし…」

 上体にあわせて閣下の身体を動かす。ごりごりと削るような、しぼられるように中もうごく。
閣下の右手が何かを掴もうとして宙に投げ出された。

「ごめ、ごめんなさ…も、術は使わないからぁ…がる、む」
「本当に?風呂屋の真似事も、真夜中に野営テントに突入もしませんね」
「うん」
「…約束できますか?」
「うん。だから、はやく」

 うなじに口付けた。白い背の肩甲骨までたどる。額を背中に擦りつけたまま乳房を揉むと喘ぎと共に抗議の声があがった。
だけれどそれもすぐ消える。後ろから何度か突けば、いやいやと首を振って簡単に果てた。

 【割愛】

 最中に「何故突然フェラチオをするにまで至ったか」と問いただせば、
大親友の聖女様から「殿方はそれをされるととても気持がよいそうですわウフフ」と教わったという。
ついでに、世話役を籠絡せんとしているという情報も入手した。
俺はもうあの女を聖女とは呼ばない。メアリ・アンからメアリ・アン・シ・モネタに改名すればいい。畜生。
475名無しさん@ピンキー:2007/03/22(木) 01:52:50 ID:2i8UbgaA
>  【割愛】

(゚д゚)
476名無しさん@ピンキー:2007/03/22(木) 02:55:45 ID:xYrwFT4F
>>475
あっち向け。
477名無しさん@ピンキー:2007/03/22(木) 16:21:32 ID:ghUjhUTj
GJ!
女の子が積極的なのは俺の好物だ
しかもフェラ有りとなればもう!
478名無しさん@ピンキー:2007/03/22(木) 17:07:29 ID:zApmmNJp
GJ! 
エロい閣下が上官で、ガルム苦労するな……。うらやましい苦労ではあるがw
479島津組組員:2007/03/23(金) 15:37:42 ID:WAWUjz6L
スレの残り容量が不安ではありますが、埋めがてらに「涙雨恋歌 第3章 知身雨」を投下します。
計算上は足りるはず……。

今回はエロあります。前戯たっぷり目、寝取られエロですので、苦手な方はスルーの方向で。
ただ、NTRにあるような背徳感とかそういうのは一切ありませんので、NTR好きの人には物足りないでしょう。

ではどうぞ。
480涙雨恋歌 第3章 知身雨 1:2007/03/23(金) 15:39:08 ID:WAWUjz6L
1.

 どうしよう、あんなこと言っちゃった。あんなことが言いたかったんじゃないのに。
本当は、キスしてたあの女の人誰? って訊きたかったのに。しかもわたしを愛せばいいなんて、そんなこと言うつもりなかったのに。
 瀬里奈はリビングの厚いカーテンの陰からそっと門を覗く。
 辻井が瀬里奈の渡した傘を差して立っている。大きな辻井の身体に比べてビニール傘は小さすぎて、窮屈そうだった。
「おかえりなさい。誰かいるの?」
 キッチンから都の声がして、慌てて瀬里奈はカーテンを閉めて母に振り向いた。
「な、なんでもない。誰もいないよ」
 言いながらもう一度カーテンの隙間から門を見る。もう、激しく降る雨筋しか見えなかった。
「瀬里奈と一緒にご飯食べられるのも、もうあとちょっとだけね」
 都は食卓に箸を並べ始めた。
「やっぱり行くの?」
「ええ。ごめんなさいね」
「どうしてなの。お父さんのこと、嫌いになっちゃったの?」
「違うわ。あなたたちのお父さんのこと、嫌いになるわけないでしょう」
 食器棚に向かい、食器を取り出しながら、都はそう言った。
「……疲れちゃったの。救急車やパトカーの音に怯えるのにも、もう来てくれないかもしれないって不安なのにも。ママ、もう疲れちゃったのよ。ごめんね、瀬里奈」
 弱々しい疲れた笑顔の母がやけに小さく見えた。
「お正月に会って、その時にはもう決心してたのよ。でも、隆尚さんの顔を見るたびにその決心が揺らいで……」
 静かに食事の用意をしながら、都はぽつぽつと話している。瀬里奈に話をしているというよりは、独り語りのようだった。
「だから、隆尚さんが結婚するって聞いた時には、ほっとしたの。これでもう迷わずに京都へ行って、山上さんと結婚できるって」
 京都の人は山上さんっていうんだね、と瀬里奈は心の中で母に話しかけた。


 母はその後も話し続けた。
 島津を愛していたのは本当だ。愛人だと人は言うけれど、島津はお金だけでなく愛情も注いでくれた。都にだけは、子供を作ることも許してくれた。
 だが心の奥底は見せなかった。悩みを打ち明けたり愚痴をこぼしたりすることは一切なく、何かを都に要求することは一度もなかった。
 そして決して、都の気持ちを受け取ることだけは、絶対にしなかった。物であれ、心であれ。
「多分、それが彼なりの割り切り方なんだと思うけど。寂しいものよ、一方通行なんて」
 そんな一方通行の思いをずっと抱えているのは、寂しくて不安で疲れてしまったと自嘲した。
「京都に電話して、結婚しますって言ったら、山上さんは喜んでくれた。自分を選んでくれてありがとう、って。ママの気持ちを受け取って喜んでくれた。だから、心底嬉しかった」
 だから京都へ行くんだと、都は瀬里奈に言った。もう島津の背中を追うのは、やめにするの、と。
「瀬里奈。あなたを大切にしてくれる人を、あなただけを一番に愛してくれる人を選びなさい」
「辻井さんと同じこと言うね、ママ」
 あははと笑いながら瀬里奈が言うと、都は急に厳しい顔で瀬里奈に向かった。
「あの人はやめなさい。辻井さんは、暴力やお金であなたを傷つけることはしない。だけど、あなたを一番には思ってくれない。『ヤクザ』であることを第一にして、あなたを傷つける」
 尚を呼んできて、と都は言った。
「あの人が命より大切にしているのは、島津隆尚――あなたのお父さん。辻井さんがあなたに優しいのは、あなたが大切な親分の娘だから。あなたを長浜瀬里奈として見てくれているんじゃないのよ」
 ドアに手をかけて、瀬里奈は振り向いた。
「その前に、辻井さんがわたしを選ばないよ、ママ。心配いらない」
「ママと同じ苦しみを味わいたくないなら、辻井さんはやめなさい」
 ドアを閉めて尚を呼ぶために階段を上る。
 わたしを長浜瀬里奈個人として見てくれているわけじゃない。そんなことはわかってる。
 あくまでわたしは島津隆尚の娘、付属品。そんなことはわかってる。
 そもそも辻井さんと付き合うなんて、あの綺麗な女の人に勝てるなんて、そんなことありえないし。
 ママにとっての山上さんと同じ人を見つけなきゃいけないってことも、そんなこともわかってる。
 わかってる。わかってるけど――じゃあわたしはどうすればいいの。
 瀬里奈は兄の部屋のドアをノックした。
481涙雨恋歌 第3章 知身雨 2:2007/03/23(金) 15:40:43 ID:WAWUjz6L
2.

 母と兄、そして自分の3人での食事。
 都が休みの日は必ず行われている儀式。平日はほとんどすれ違いで顔をあわせることのない母子が、家族であることを再確認するための儀式だった。
 その儀式を終えて、瀬里奈は自分の部屋に戻った。携帯電話を見ると智也から来週の返事を待っているというメールが届いていた。
 自分を大切にしてくれる人を選べ。
 母と辻井が同じことを言った。
「あなたはわたしを大切にしてくれる?」
 携帯電話のメール画面を見ながら、その向こうにいる青年を思い出して瀬里奈は呟いた。


 返事遅くなってごめんなさい。来週の土曜日、楽しみにしています。
 瀬里奈がそんなメールを送信してすぐ、携帯電話が鳴った。
『瀬里奈ちゃん、返事ありがとう。催促して悪かったね。休憩してたらメールがきたから、嬉しくて電話しちゃったよ』
 智也の明るい声が電話から聞こえてくる。
『ねえ、もしよければ、もうすぐバイト終わりなんだけど、これから会わない?』
 思わず時計を見た。食事を終えたとはいえ、まだ8時前だ。普段ならこの時間は万理と遊んでいることも多い。
『ダメかな?』
「ううん、行く。お店へ行けばいいですか?」
『店の隣に、チェーンのコーヒーショップがあるからそこで待ってて。9時には行けるから』
 じゃあ後でね、と智也は電話を切った。
 瀬里奈は電話をベッドに放り投げ、立ち上がりバスルームへ向かう。
 バスタブの中で瀬里奈は自分の小さな胸に触った。以前辻井を思って触れた茂みにも触れた。
 智也の顔を思い出す。さっきの電話の声を。金曜日の熱いキスと吐息と強い抱擁を。茂みからそっと奥へ指を動かした。
 辻井のことを思うだけでとろとろ蕩けてきたそこは、なんの反応もなかった。
 きっと、これから少しずつ好きになっていくにつれて、彼のことを思うだけで濡れてくるに違いない。
 瀬里奈は自分にそう言い聞かせて、バスルームから出た。
 胸の真ん中に大きな飾りリボンがついているチュニックワンピースとデニムに着替える。化粧をするために部屋の鏡に向かう。
 肩につくくらいの黒い髪。ふんわりと顔にそってカールさせた毛先にワックスを塗りこむ。
 都譲りの大きな目。瞳の色が薄いので、ハーフと勘違いされたこともある。マスカラをつけアイラインを引いて瞳を強調する。豊かな唇にグロスを軽くつける。
 頬骨が出ているのと、鼻が万理よりも低いのが、瀬里奈の悩みだ。ノーズシャドウも少しいれる。
 鏡に向かってにっこりと笑う。大丈夫、きっと可愛いよ、わたし。独り言ちてから、瀬里奈は慌しく階段を下りる。
 リビングの向かいの部屋が、都の部屋兼寝室だ。そのドアをノックして、万理と遊んでくる、と都に嘘をついた。
「気をつけなさい」
 都はただそれだけ言った。その言葉の裏に、何百、何千の気持ちを込めていたことに、瀬里奈は気づいていなかった。


 待ち合わせのコーヒーショップを見つけ、窓際のカウンターに座る。時間は9時ちょっと前。もう智也が来ているかもと店の中を見回したが、まだ来ていないようでほっとした。
 カップを持った時、隣に女が座った。ふっといい香りが仄かに漂ってきた。どんな人がつけているのかと、その人を見た。
 辻井と一緒に車に乗っていったあの女性だった。ただ細いだけではない、鍛えられたしなやかな細い身体。
 黒いワイドパンツとノースリーブのカシュクールブラウス。その身体にはアンバランスなほどの豊かな胸がブラウスを突き上げている。
 自分の格好がとたんに子供っぽく感じて、恥ずかしくなる。
 思わずあッと声を出してしまった瀬里奈を、不思議そうに彼女は見て、微笑んだ。
「誰かを待ってるの?」
 その外見と同じような凛とした涼やかな声だった。
482涙雨恋歌 第3章 知身雨 3:2007/03/23(金) 15:41:37 ID:WAWUjz6L
3.

 こんな大人の女になりたい、綺麗になりたい、今すぐに。そうすれば、いろんな悩みが解決するかもしれない。瀬里奈は思い切って彼女に声をかけた。
「あ……あの。あなたみたいに、綺麗に、大人の女性になるにはどうしたらいいんですか」
「あなたの年頃には、あなたの年頃の魅力があるものよ。大人になんかそのうち嫌でもなってしまうから、急いでならなくてもいいと思うけど」
 突然の瀬里奈の質問に、一瞬驚いた表情をしたがすぐに微笑みを浮かべてその人は言った。
「好きな人に好きだって言ってもらって、可愛いねって誉めてもらって、大切にしてもらって、抱いてもらった数だけ、綺麗になれるのよ」
 座っているだけで、前の道を通る男も女も彼女を見ていく。
 この間は黒のストレートヘアだった髪が、今日は濃いブラウンの髪色で髪全体にゆるいウェーブがかかっている。
 大きな目は二重まぶたと黒く大きな瞳で神秘的にすら見えるアーモンドアイだ。すっと通った鼻筋と薄めの唇。
 エキゾチックな美女にも見える彼女は、一体どれだけの人にどれだけの数の言葉や愛情をもらったのだろう。
「好きな人に?」
「そう。女は、男に誉めてもらった数だけ綺麗になってく。彼にたくさん愛してもらって、大切にしてもらいなさい」
 彼女は辻井に一体どれだけ愛してもらっているのだろう。辻井は一体どれだけ彼女を大切にしているのだろう。そう思うと、胸が疼いた。
 その時、智也が窓を叩いた。辻井のことは忘れよう、この人に大切にしてもらおう。智也の笑顔を見て、瀬里奈はそう思った。
 彼女がちらりと智也を見て、瀬里奈に向かってもう一度微笑んだ。応援されているような気がした。
 食器を片付け、彼女にぺこりと頭を下げ店を出る。智也が店を出た瀬里奈の横に立った。
「久しぶり――でもないか。おれがずっと君のこと考えてたから、随分会ってないように思うだけだね」
 にっこりと笑い、瀬里奈の手を取って歩き出した。その感触は家を出る前にバスタブの中でしていたことを思い出させ、瀬里奈は赤面した。
 食事まだだから軽く食べるところでもいい? と訊かれ、うん、と俯いたまま答える。
「どうしたの、具合悪い?」
 俯いた瀬里奈の顔を覗き込むように智也が身体を近づけてきて、瀬里奈の頬はますます赤くなっていった。智也の唇にばかり視線がいってしまう。
「ううん、なんでもない」
 精一杯普通を装ってそう言った瀬里奈の頬に、なら良かった、と軽く口づけて智也は歩き出した。


 雨ではあるが、連休の中日の夜ともあって、どの店も空席を待っている客が並んでいる。その中を智也はすいと扉を開けて入っていく。
「電話あってすぐに予約しておいたんだ」
 智也が連れてきたのは、多国籍風カフェレストランだった。食事が済んでるならデザートでも頼むといい、とメニューを開いてくれる。
 生ハムとチーズのオープンサンドイッチにカプレーゼ、生ビールを智也は頼み、瀬里奈はコーヒーとチョコレートケーキを頼んだ。
「ごめんね、急に会いたいなんて言って。正直、オーケーしてくれると思わなかったから、嬉しいよ」
 それぞれの頼んだものが届いてから智也が微笑んだ。
 瀬里奈は両親のことを話そうかと思った。母の告白を聞いてからも、まだなんとなく釈然としない気持ちが残っている。
 父と母はそれでいいかもしれない。お互いの道を見つけて、それに向かっていこうとしているのだから。
 だけど、じゃあわたしは? お兄ちゃんは? 新しいお父さんにしろお母さんにしろ、今更お父さんお母さんって呼べっていうの?
 ふたりとも、わたしたちのことどうでもいいと思ってるのかと、納得がいかなかった。
 だが結局、瀬里奈はその話はしなかった。利己的に聞こえてしまうかもしれない。智也に、そんな面を見せたくなかった。
 子供っぽい悩みだと、笑われそうだった。


 いつの間にか智也は前の彼女に振られた話をしていた。振られて落ち込んでいた時にちょうど瀬里奈が現れた、と。
「瀬里奈ちゃんはどう? ずっと憧れてた人に彼女がいるってわかって、その恋は終わったわけでしょ?」
 急に自分の話になり、瀬里奈は驚いて飲んでいたコーヒーにむせた。辻井の背中を思い出し、それを忘れようとした。
「そんな時にさ、違う人が現れたら、その人のこと好きになったりしない?」
 智也が微笑んでいた。その視線に瀬里奈が気づき、智也の目を見る。瀬里奈の手に智也の手が重なった。智也の印象と同じ、さらりとした感触の掌だった。
「今日は帰らなくていいよね」
 思わず瀬里奈は頷いた。智也の瞳の熱さと、掌の涼しさが瀬里奈の素肌を伝っていった。
483涙雨恋歌 第3章 知身雨 4:2007/03/23(金) 15:42:39 ID:WAWUjz6L
4.

 傘を差したふたりは無言で歩いた。しばらく歩いてたどり着いた5階建てマンションの4階の角が、智也の部屋だった。
 ドアを開けると機械の音がした。大きな一部屋を天井までのパーティションで区切ってあり、そのうちの一部屋は、ぎっしり様々な機材で埋め尽くされていた。
 それぞれが動いているらしく、真っ暗の部屋の中でモニターの光が青く光り、機械の動作音が途切れなく聞こえた。
 エアコンが効いていて、帰ったばかりだというのに涼しい空気が漂っている。
 もう一部屋はクローゼットに大きなテレビとベッド、低いテーブルがあるだけの部屋だった。テレビの横には姿見、テーブルの上にはお酒の瓶とグラス。
 智也は機械がある部屋へ入り、ロールカーテンを下ろす。しばらくしてからダイニングに戻ってきて冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
「あ、瀬里奈ちゃんは未成年か」
 言いながらミネラルウォーターのボトルも出して瀬里奈に渡す。缶ビールを飲みながらテーブルの前に胡坐をかいて座り、瀬里奈を呼んだ。
「おいでよ」
 瀬里奈はためらいながら智也の横に座る。持ったままだったペットボトルを智也が奪い取る。そのまま瀬里奈を抱きしめた。
 地下道で抱きしめられた時よりも、智也を近くに感じる。智也が腕を動かすたびに筋肉も動き、その動きに瀬里奈は吸い込まれていく。


「昨日、家にいる時も、バイトしてる時も、誰かと話してる時も、ずっと瀬里奈ちゃんのことが頭に浮かんでた」
 智也の息が瀬里奈の耳をくすぐる。胸が熱くなってきている。
「どうしようもなくなって今日、メールした。その時はさ、メールの返事がくればいいと思ってた。なのに、返事が来たら今度は声が聞きたくなった」
 智也の掌が瀬里奈の肩にあった。さらっとした掌。男にしては細くて白い綺麗な指。それが肩から背中へ移動する。
「電話して、声を聞けたら、次は会いたくなった」
 耳元で囁いていた智也が身体を起こし、瀬里奈を見つめた。
 とくん。
 瀬里奈の下半身が反応した。
「会えたら、抱きしめたくなった。抱きしめたら……」
 瀬里奈を見つめていた目がぎゅっと閉じられた。何かを言いたいが、言葉にできないといった風に、智也は軽く首を振って息を吐いた。
「ああ――君が好きだ、瀬里奈」
 コーヒーショップを出た時にそれしか見えなかった、智也の形のいい唇が、瀬里奈の唇に重なる。
 智也の長い舌が瀬里奈の口を割って滑り込む。背中を撫でていた手は頭と腰をしっかりと抱え、指がうごめく感触でぞくぞくと背中が震える。
 瀬里奈の舌をじっくりと舐め上げた後、智也は瀬里奈の舌を絡め取り、唾液を流し込んだ。
 ゆっくりと智也が唇を離す。それまで口の中を動いていた舌が唇を舐めている。智也の唇の感触を直に感じて、瀬里奈の身体はぴりぴりと反応していった。


「初めてだよね」
 頷いて瀬里奈は目を開ける。
「嬉しいよ、瀬里奈の最初の男になれて」
 カーペットの上に押し倒される。洋服の上から智也が瀬里奈の身体に触れていった。瀬里奈の体の線をなぞるように、首筋から肩、腕、腰とその手は動いていく。
 やがて瀬里奈に覆いかぶさって、智也は瀬里奈の身体に口づけを落とす。胸元に唇を這わせ、口でブラジャーを押し下げる。
 身体をなぞっていた手を背中にやり、ブラジャーのホックを外した。ふるん、と小ぶりの胸が洋服の下で震えた。
 我慢できなかったかのように智也は瀬里奈のチュニックを脱がした。手を上にあげて袖を抜くついでに、ブラジャーも取り去った。
 胸、隠さないで、と言って智也は瀬里奈の下半身に手を伸ばす。ジーンズのボタンを外してファスナーを下ろしそこに手を差し入れる。
「濡れてるよ、もう、下着もぐしょぐしょだよ」
 恥ずかしくて瀬里奈は智也から顔を背けた。やわやわと智也の指が瀬里奈の恥丘を撫でる。親指がすっと下着の中へ滑り込んできた。
「立って。そう、おれに見せるようにして、脱いで」
 ベッドに背を向けて座ったままの智也の前に立ち、困惑しながら瀬里奈はジーンズを脱いだ。小さなブルーの布地だけが、瀬里奈を覆っていた。
「それも脱いで。おれも脱ぐから」
 智也は座ったまま自分の服を脱いだ。智也のボクサーパンツの上からは既に濡れて光っているものが顔を覗かせていた。
 初めて見る、男性器だった。視線が、避けようとしてもそこに注がれてしまう。
 それに気づいた智也が、にやと笑って己の先端部分を撫でた。
「瀬里奈の裸を見ただけで、もうこんなになってるよ。ねえ、全部見せて」
 瀬里奈の太腿にに口をつけながら、智也がそう囁いた。
484涙雨恋歌 第3章 知身雨 5:2007/03/23(金) 15:44:10 ID:WAWUjz6L
5.

 ゆっくりと、震える手で下着を下ろしていく。手で身体を隠そうとするのを阻止され、瀬里奈は恥ずかしさで身をよじった。
 足をぎゅうとくっつけ、顔は背けて横を向く。蛍光灯の白い光の下で、瀬里奈の白い肌がだんだん赤みを増していった。
 じっと上から下までを観察するように眺めた智也がようやく立ち上がった。
「お尻にほくろがあるんだね、瀬里奈」
「なんで知ってるの……」
 ほら、ここに、と智也が瀬里奈のなめらかな尻に指で触れた。
「後ろみてごらん」
 振り向くと、瀬里奈の身体がちょうど姿見に映っていた。自分の裸の身体を鏡に映して見たことはある。自宅の部屋で鏡の前に立つことは何度もある。
 だが今はその後ろに、同じく裸身を晒す智也がいた。
 瀬里奈よりも一回り大きな智也が、後ろから瀬里奈を抱きしめた。
 智也の華奢な手が瀬里奈の胸を掴んでいる。指が乳首をそっとこね回す。黒い茂みを梳くように撫でる。
 それを全部、瀬里奈は鏡で見ていた。


 突然首筋を智也が吸い、驚いた瀬里奈の足を膝で割った。瀬里奈が足を閉じる前に、智也の手が奥へと進んでいた。
「あ……あぁぁ……っ」
 思わず上ずった声をあげてしまう。
「初めてなら、ここも慣らしておかなくちゃ、後が痛いから」
 瀬里奈のそこはすでにくちゅ、ぐちゅ、という粘着質な音を立てるほど、濡れていた。
「こんなに濡れてる。いやらしいね……でもそんな瀬里奈が好きだ。もっと、もっと、濡れてよ」
 耳元に口をつけながら智也は瀬里奈に囁き続ける。胸をまさぐる指も止まることはない。後ろにいる智也の肩に、瀬里奈は頭を預けるようにして快楽を味わっていた。
「乳首も硬くなってるじゃないか。ああ……こっちの、瀬里奈の芯も尖ってきてる」
「あんっ、はぅっ……ああ……あああああぁ」
 割れ目をなぞっていた指が、包皮をめくって芯に触れた。その瞬間、瀬里奈の身体が震えてきて声を上げた。
「ここ、気持ちいい?」
 親指で陰核をねっとりとねぶっていた智也の手が、急にそこを離れて瀬里奈の顔の前に現れた。中指と人差し指で瀬里奈の唇を撫でる。撫でているうちに開いた口へ、その指が入ってくる。


「この指。瀬里奈、見て」
 すぽんと口から指を抜き、ついた唾液を頬にまぶした。瀬里奈に自分の指を見るように要求して、智也の手は再び瀬里奈の秘所へ向かう。
 鏡に映るその手の動きを追ってしまう自分が嫌だった。嫌だと思っていても、見てしまう自分はもっと嫌だった。
 さっき自分がしゃぶった指が、首から徐々に下へ向かって進み、黒い茂みをかき分けてもうひとつの自分の口に入っていく。
 智也の指が秘裂をさする。襞の一枚一枚を丁寧に撫で、蜜を滴らす泉の中へゆるゆると侵入する。その指先の動きひとつひとつや智也の息遣いで、ますます泉は蜜で溢れてくる。
「自分でやるのとは違うだろ?」
 智也の指が身体の中でうごめいている。自分で入れた自分の指とは全く違う動き。全く違う感覚。瀬里奈は背中を反らせて感じていく。
「いや……ぁっ、い……あ……ッ」
「いやじゃないだろ。気持ちいいって、こっちの口は言ってるよ」
 いつの間にか2本の指が中に入っていて、瀬里奈の肉襞をしゃくるように責めていた。理性はすでに飛び、ただ快感を求めて瀬里奈の身体も動いていた。
485涙雨恋歌 第3章 知身雨 6:2007/03/23(金) 15:48:47 ID:WAWUjz6L
6.

 ふいに、自分の身体をしっかりと抱いていた瀬里奈の手を智也は握った。後ろからの抱擁を解き、指を抜いて瀬里奈を正面から見る。
 握られていた手を、智也の下着の上にあてられる。そこには既に硬く立ち上がった智也のモノがあった。
「脱がせてくれる?」
 頷いて、両手を添えて脱がせる。開放された男根は反り返り、智也の下腹部に音を立てて当たった。
 智也は自分の男根を瀬里奈に触らせた。手を添えて扱くように動かせる。瀬里奈の手の中で、更にそれは大きくなる。
「キスして」
 瀬里奈は不安気に智也を見て、そして跪いた。手で持っている赤黒い怒張した肉の棒の先端に、口をつける。
「ああ、瀬里奈。気持ちいいよ。口に入れて、しゃぶって」
 ちゅ、と口をつけた先端部分を、口に咥える。
「そう、上下に動かして……そう、もっと奥まで……」
 智也の言う通りに必死で口を動かす。
「鏡見て」
 ちらりと鏡を横目で見る。立っている智也の足元にうずくまり、智也の前に跪き、股間に口を寄せて顔を高揚させている自分が見えた。
 ひどく卑猥で、すぐに瀬里奈は目をそらした。恥ずかしくてたまらなかった。


 気持ちいいよ、と智也は瀬里奈の頭を撫でる。
 ようやく智也が瀬里奈を立たせ、そして抱きしめた。腰を押さえてベッドへ押し倒し、不安に揺れる瀬里奈の瞳を閉じるようにキスをして、膝を割った。
「痛かったら、言ってね」
 智也は瀬里奈の足を抱えて自分の肩へ乗せる。
 ぬるぬるとしている亀頭を瀬里奈の秘裂にあててゆっくりと腰を埋めていく。たっぷりと濡れていたからか、それとも過去に自分でしていたからか、挿入はスムーズだった。
「あぁ……ああ」
 目をぎゅっとつぶり、瀬里奈は自身の中へ異物が入ってくる圧迫感に耐えた。そこだけが、熱く燃えるように感覚を持ち、ぐちゅりという粘液の音がやけに大きく耳に響く。
 最後に智也が根元まで押し込んだ時に、瀬里奈は目を開けて息を呑み悲鳴を上げた。
 その後はほとんど覚えていない。智也がひたすら腰を振っているのをうっすらとした意識の中で見ていた。
 身体の痛みと突き上げられる衝撃に耐えながら、瀬里奈の頭にあったのは何故か父の顔だった。
 「避妊だけはしとけよ」
 冗談めかして言っていたが、あれは父なりのメッセージだ。ちゃんとそういうことをしてくれる男を選べよ、という。
 「お嬢さんを大切にしてくれる人を選んでください」
 辻井の言葉も思い出す。この人はわたしを大切にしてくれると言った。それを信じちゃいけないかな。
 最後に会った時の公園に座っていた辻井の姿を思い出した瞬間、智也が何もつけずにそのまま自分の中にいることに気づいた。
 妊娠の恐怖に怯えて瀬里奈の頭が急に目覚める。その時、感極まって呻いた智也が瀬里奈の中から自身を引き抜き、瀬里奈の腹の上に射精していた。
 撒き散らされた白い濁った液体の熱さと対極に、瀬里奈の心は冷えていた。


 智也が瀬里奈の身体と自分自身をタオルで拭き、瀬里奈の横に寝そべった。
 ちゅ、と音をたてて瀬里奈の額に口づける。
「あの……智也さん……その、直接……」
 口ごもりながら瀬里奈が避妊の話をすると、智也がごめん、と謝った。
「あんまり瀬里奈が可愛いから、夢中だったんだ。ごめん。次からはちゃんとつけるよ」
「うん……」
「でも、もし、今ので何かあったとしたら、おれ、ちゃんと瀬里奈のご両親に挨拶いく覚悟はあるから」
 そんなことしたらお兄ちゃんとお父さんに殴られてひどいことになるんじゃないかしら……と思いながら、ひとまず瀬里奈は安心した。
「瀬里奈。もう、離さない。大切にする、好きだよ……」
 ほらね、と瀬里奈は父と辻井に向かって言う。この人はわたしを大切にしてくれるって言ってるよ。安心でしょ?
 隣の部屋でうなっている機械の音に混ざって、ますます強く降る雨の音が聞こえた。智也を信じようとする瀬里奈の心を揺さぶるような、そんな雨の音だった。
486涙雨恋歌 第3章 知身雨 7:2007/03/23(金) 15:50:23 ID:WAWUjz6L
7.

 次の日の火曜日、校門で尚と別れ急ぎ足で教室へ行く。万理に話がしたかった。智也の話ができるのは、万理だけだったからだ。
「万理、おはよう――どうしたの? 元気ないね」
 おはよう、と返す声に力がない。いつも元気で明るい万理が上の空だ。なんとなく、智也とのことを話すきっかけを失って、瀬里奈はそのまま自分の席についた。
 お昼を一緒に食べていても、休み時間に話しかけても、ずっと万理は上の空だった。授業が終わり、いつもの通り万理と帰ろうとすると、万理が今日は一緒に帰らない、と言った。
「今日は、ちょっと佐倉と一緒に帰る。ごめんね瀬里奈」
 佐倉ひとみという同級生を、瀬里奈はあまり好きではなかった。学校の中でもトップクラスの容姿を持つ彼女は、教室にいる時間よりも夜の街にいる時間のほうが長い。
 あちこちで男をとっかえひっかえ遊んでいると噂され、クスリやウリもやっているともっぱらの評判だ。
 万理が何故ひとみと一緒にいるのか、途端に不安に襲われる。
「万理、宏太さんと何かあったの?」
「えっ。なんでそんなこと訊くの、瀬里奈。何にもないよ、何にも。瀬里奈こそ、智也さんとどうなのよ」
 智也と過ごした昨夜のことを話した。喜んでくれると思った万理が、何故か暗い顔になった。
「そ、よかったね瀬里奈。気をつけなよ。じゃあ」
 ひとみが万理を呼ぶ声がして、万理は鞄を持ち駆け出した。
 瀬里奈は久しぶりにひとりで帰宅の途についた。ひとりで乗る電車はつまらなくて、瀬里奈は時間をもてあました。


 次の日は朝から万理はひとみと行動を共にしていた。瀬里奈が声をかけても、曖昧に返事をしてそっぽを向いてしまう。
 そしてその次の日、瀬里奈が教室へ入ると、クラスの女の子が瀬里奈を呼んだ。
「ちょっと瀬里奈! 万理が停学だって! エンコーしてたってマジ!?」
「嘘でしょ? 援助交際って、万理が? なんで?」
「なんか、昨日の夜、オッサンとホテルから出てきたのを見つかったらしいよ。佐倉も一緒に停学だよ。あいつはとうとうって感じだけど、まさか万理がねえ」
 そこまで話したところで、担任教師が教室に入ってきた。授業は全て頭の上で通り過ぎていった。
 何度も万理に連絡をしようと携帯電話を取り出した。だが、なんと切り出していいのか言葉が思い浮かばず、その都度瀬里奈は携帯電話を鞄にしまった。


 早々に帰宅してから、ようやく決心して瀬里奈は電話をかけた。長い間呼び出し音が鳴り、やっと万理が電話に出た。
『何よ、瀬里奈。あんたもわたしを笑ってるわけ?』
「そんなつもりじゃ……」
『そうよ! お金もらってオジサンと寝たわよ、あんたが憧れてたあの人くらいの年のオジサンと。なんで? 宏太さんが好きだから、好きだからやったのよ、後悔してないわよ!』
「宏太さんが好きだからって、どういうこと? 身体売るなんてどうして?」
『お金貸して欲しいって言われたのよ。何よいい子ぶっちゃって。あんたのお父さんなんか、売春してるお店からお金もらってるんでしょ。大元締めじゃない。
 お母さんだって愛人じゃない。愛人なんて援助交際とおんなじよ。お金もらって男と寝て、それで暮らしてるんだもん』
 今まで、瀬里奈の両親のことを悪く言ったことがなかった親友が、あしざまに罵っている。
『売春してる両親の子供のくせに、綺麗事言わないでよ。じゃあ何、お金がないって言ったらあんたが貸してくれたの? 違うでしょッ!?
 好きな人が困ってたら、なんとかしてあげたいって思って何がいけないのよ。あんたは違うの? 智也さんに助けてって言われたらそう思わないの?
 ああそうか、智也さんはそんなこと言わないのね。よかったわね、お幸せに。もうあんたの顔なんか見たくない!』
 ブツリと切れた携帯電話を、瀬里奈はベッドに放り投げた。悲しくて、涙が零れた。


 宏太に話が聞こうと思いたち、家を出る。なんで万理にお金を貸してと言ったのか、知りたかった。
 瀬里奈は初めて会ったレストランへ行った。宏太も智也も今日はシフトに入っていないと言われた。
 店を出てしばらく歩き、携帯電話を取り出す。智也のメモリーを呼び出し、電話をかける。
 電源が入っていないか、電波の届かないところに……というメッセージが聞こえ、苛立ちまぎれに瀬里奈は携帯電話をそばの壁に叩きつけた。
「瀬里奈?」
 智也の声がした。思わず、智也の胸に飛び込んだ。一瞬驚いた智也が、優しく抱きしめてくれた。
487島津組組員:2007/03/23(金) 15:55:07 ID:WAWUjz6L
以上。4章に続きます。

容量、ぎりぎりでしたね。危ない危ない。
スレたてにチャレンジしましたがダメだったので、できればどなたかやっていただけませんでしょうか。

以下テンプレ-------------------------

【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第四章

主従を扱うスレです。


生意気な女主人を陵辱する従者
大人しい清楚なお嬢様に悪戯をする従者
身分を隠しながらの和姦モノも禿しくいい

お嬢様×使用人 姫×騎士 若奥様×執事など
主従であればなんでも良し

◇前スレ◇
【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第三章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1169463652/

◇過去スレ◇
【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第二章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1156941126/

【従者】主従でエロ小説【お嬢様】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1124876079/
488島津組組員:2007/03/23(金) 16:05:08 ID:WAWUjz6L
◇姉妹スレ◇

男主人・女従者の主従エロ小説
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1164197419/


◇その他関連スレ◇

【ご主人様】メイドさんでSS【朝ですよ】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1141580448/

巨乳お嬢様
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1139409369/

男装少女萌え【8】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163153417/

お姫様でエロなスレ5
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1166529179/

◆◆ファンタジー世界の女兵士総合スレpart4◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1173497991/

●中世ファンタジー世界総合エロパロスレ●
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1145096995/


◇保管庫◇
http://vs8.f-t-s.com/~pinkprincess/lady_servant/ (初代スレがまとめてあります)
http://wiki.livedoor.jp/slavematome/d/ (まとめ中)
489名無しさん@ピンキー:2007/03/23(金) 19:09:49 ID:c444OYvV
GJ!携帯電話が壊れないか心配です

ついでに立てました
【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第四章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1174644437/
490名無しさん@ピンキー:2007/03/24(土) 00:37:12 ID:fICqrN4k
うめ
491名無しさん@ピンキー:2007/03/24(土) 01:21:41 ID:U7A7qMAA
ふと思ふ。
島津なら鬼島津でも良かったのでは?
492名無しさん@ピンキー:2007/03/24(土) 09:08:57 ID:4mUMSyl4
あ、あ、あ。
月の下に姿態が映える。
白い素肌が水音と共にしっとりと湿気て、なんとも艶かしい。
「……お前……こんな。……こんなことをして。決して許しませぬよ」
真珠色に光る小さな八重歯を喰いしばりながら、
迫り来る快感に堪え震える姿はたいそう淫靡である。
ぱちゃん。女の向こうで金魚が跳ねた。
夜目にも赤い、金魚である。
女が何故か気に入って、日ごろ愛でている、小さな金魚である。
その水飛沫にさえ目を細めて喘いでいる。
「……御簾中様」
地べたに身体を押さえつけ、自身を静かに沈めながら、
女へ顔を近づけて武士は耳元へ囁いた。

「埋め」
493名無しさん@ピンキー:2007/03/26(月) 16:35:36 ID:aoLcAtmR
衣擦れの音とともに白磁の肌が露わになった。
月明かりと相まって昼間とは違う妖艶な色香を女の肌は醸す。
朱をさした紅唇、濃い睫毛に縁取られた瞳。
きつく拳を握りしめて女を見れば、黒が茶を射抜いた。
金縛りにあったように女の瞳から目を離すことができない。
こんなことはいけない。男の中で警鐘が鳴り響く。万が一にも旦那様に知られれば男の命はなくなってしまうだろう。
「埋めて、下さらないの?」
しかし、命の危機を前にして尚抗いきれぬ魅力が女にはあった。
「奥様」
女が男に向かって一歩足を踏み出した。
「私は──」
男がそれ以上何かを口にする前に女は男の胸に飛び込んだ。
そして、男の首に腕を絡めて唇を吸う。
観念したように男の舌が女の舌を絡めとり、女は心の中で密かに安堵した。
これでようやく足りない何かが埋まるような気がしていたからだ。
494名無しさん@ピンキー:2007/03/27(火) 02:38:58 ID:VxhcEw3q
495名無しさん@ピンキー:2007/03/27(火) 04:37:27 ID:Q7ajKfHM
「埋めましょう。
 仮令この身体が朽ち果てようと埋めてみせましょう。
 それが、あなた様に我が身を捧げた私にできる、最初で最後の」
496名無しさん@ピンキー:2007/03/27(火) 05:36:54 ID:wIrEqJ7R
 己が名を呼ぶ、慈愛に満ちた声に騎士が振り返ると、見慣れた天女がそこには佇んでいた。
 上品な絹織り物を纏った華奢な肩には、腰までしなやかに伸びた黒髪が掛り、
開け放たれた窓から燦々と降り注ぐ日の光を浴びて淡く煌めく。
 蒼白い静脈が薄く浮き出た素肌はそれとは対照的に、純白の絹で覆ったように
透き通るようで、髪の色と相成って一層優雅に感じる。
 翠緑色の眸に宿った眼光は天高く昇る陽を連想させた。
 仄かに漂う彼女の暖かな香りは、全身に染み渡るようで心地好い。

 城の中庭に面した窓の枠に両手をついて、彼女は外界を仰ぎ見た。
「今日も良い天気ですこと」
「そのようですな」
「こんな日は、外に出て新鮮な空気を吸いたいものね」
 ふと、髪をなびかせて振り向いた翠緑と視線が絡む。思わず赤面する。
「お前、今日は暇なのですか?」
「いえ……」
 これから午後の修練の指導がある旨を小さく俯きながら告げると、酷く残念そうに肩をすくめて見せた。
「申し訳ありません。他の者にお頼み下され」
「私はお前が良いのに」
包み隠さず指名を受けるのは嬉し恥ずかしくとも、期待に沿えずに少々歯痒い。
「お前は、何の為にそうしているのですか?」
 不満げに彼女は問う。顔を赤らめながらも、騎士の返答に迷いは微塵も見られない。
「貴女の為に」
「私の為に?」
「はい――貴女に救われたこの命、続く限り御身の為に尽しましょう」
 そうまで言われては、騎士を引き止めるのは気が引けたらしく、
「斯様なものの言い回し、一体何処で覚えたのでしょうね」
 と彼女がくすくすと笑う。それに合わせて、漆黒の髪がふわりと揺れた。

 こうして彼女が時折見せる表情は、式典や儀式の際に民衆に向けられるような、
虚空な作り笑いとは違う。どこまでも無邪気な、幼子の如き笑顔。
 見る者の心の奥底を癒してくれる、そんな力を持っている。

――彼女が微笑む事は少ない。

 そんな笑顔を常日頃から目の当たりにすることが出来る自分は、何と幸せなのだろうか。
 きっとこれは、今まで不幸に不幸を重ねてきた自分を憐れみになられた神様からの、
賜り物なのだと信じる事さえある。
 口許が綻ぶのを咳払いで隠し、二の句を継いだ。

「では、失礼致します」
「はい。お前も無理はせぬように」
「勿体無い御言葉です」

 そう言うと、彼女の眼前に跪き手を取る。きめ細やかな手の甲に口付けると、
直ぐに踵を返して陽だまりの回廊を引き返していった。
「……」
 妙に熱を持った自身の手をぎゅうと握り締めたまま、背を向けて遠ざかる騎士を
彼女は無言で見つめ続けていた。
497名無しさん@ピンキー:2007/03/27(火) 05:42:57 ID:wIrEqJ7R
以上
埋まったかな?
498名無しさん@ピンキー:2007/03/28(水) 00:18:52 ID:xXSq9rUV
埋まるのか
499名無しさん@ピンキー
「我が…君」
感極まったようにそう呟き、彼は跪いた。
玉座の君主に対するようなそれに、彼女は驚きに目を見開く。
彼女は女王でもなければ姫でもない。
上質の衣を身に纏う美丈夫に、こんな風に跪かれるような身分ではない。
むしろ、跪かなければいけない身分にあるのだ。
どうしたらよいかわからず、彼女は跪いて項垂れる彼を見つめた。
「永い、永い間…お探ししました。ようやく、見えること叶いました…」

彼はゆっくりと顔を上げ、彼女を見つめる。
その面に浮かべられるのは、花ですらも恥らってしまうかのような微笑。
嬉しそうな、幸せそうな、恍惚すら伺える微笑に、彼女は息を呑む。
今までそんな微笑を向けられたことは、覚えている限りでは、ただの一度もない。
「貴方、は…」
呆然とした問いかけが彼女の口から漏れる。
「私は貴女様の僕。ただただ、貴女様のためだけに生きる者です」
「わ、私…」
言いかける彼女の言葉を遮るように彼は言う。
「私が貴女様の敵になることはありません。信じて欲しいとも、信用して欲しいとも言いません」
けれど、と彼は続ける。
「私と共に来て頂きたいのです。貴女様の、あるべき場所へ」
「あるべき、場所?」
「はい」
「でも、私……ここから、出られない。私には、なにも決めることができない」
「いいえ、望んでいいのです。…何を望まれますか?」
「……もう、こんなのは嫌!嫌なの!」
ぽろぽろと涙を零し、彼女は顔を覆った。
「わかりました。貴女様を縛る全てを薙ぎ払いましょう」
至極当然、とでも言うように彼は微笑み、優雅にゆっくりと立ち上がる。
「我が君にこのような辱めを与えた者を、生かしておくつもりはありません」
その声は冷たい熱を孕み、思わず顔を上げた彼女は震える。
それに気付き、彼は甘く蕩けるような柔らかな微笑を彼女に向ける。
「暫しお待ちください、我が君」
くるりと踵を返し、彼は部屋を出て行く。
その彼の背を見送った彼女は、呆然と立ち竦む。
そして同時に、既視感を覚える。
何故だかわからない。
だが、初めて見る彼の後姿を、知っている気がする。
「私…………知って、る?」