【友達≦】幼馴染み萌えスレ10章【<恋人】

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1名無しさん@ピンキー
幼馴染スキーの幼馴染スキーによる幼馴染スキーのためのスレッドです。


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8代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ8章【<恋人】
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7代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ7章【<恋人】
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6代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ6章【<恋人】
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5代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ5章【<恋人】
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4代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ4章【<恋人】
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3代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ3章【<恋人】
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2代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ2章【<恋人】
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初代スレ:幼馴染みとHする小説
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*これまでに投下されたSSの保管場所*
2chエロパロ板SS保管庫
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■■ 注意事項 ■■
*職人編*
スレタイがああなってはいますが、エロは必須ではありません。
ラブラブオンリーな話も大歓迎。
書き込むときはトリップの使用がお勧めです。
幼馴染みものなら何でも可。
*読み手編*
つまらないと思ったらスルーで。
わざわざ波風を立てる必要はありません。

2名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 04:05:33 ID:4o2KH2Od
ついに2桁の大台ですね。
では、新作・連載の続きをともに待ちましょう。
ジークおさななじみ。
3名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 04:22:20 ID:B1pA8pqb
>>1乙です。
4名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 04:36:44 ID:FgEzijLx
>>1乙!
このスレでもどんな話が来るか楽しみだ
5名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 04:41:05 ID:hWGoeQbz
乙ななじみ!
そろそろシロクロの続きがくるんでないかとwktk
6名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 09:07:47 ID:aNPBS4bk
>>1
7名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 19:43:13 ID:+utxUHcw
>>1

中高一貫男子校にいたおいらは完全に幼なじみとの接し方を忘れてしまったわけだ
社会人なって久しぶりに会ったんだが気まずいのなんの
8 ◆tx0dziA202 :2006/10/28(土) 20:10:11 ID:99M7rFKX
僭越ながら、保守代わりに投下させてもらいます。
こんなものが新スレの最初というのもなんですが……
9our treasure town is rusted whitely:2006/10/28(土) 20:10:55 ID:99M7rFKX
「ガッデム!何で負けるんだ? 確変どうなってんだ、これ。
ちくしょ、もう一回だ、もう一回!」
「……やるからには本気でやってくださいよ……。これじゃ何のためにこんなところまで来ているのか分からないです……」
「……」
「あやー、やっぱこうなるわけね。」

目も眩む人工灯火が明滅し、この世の物として自然ではありえない音塊が飛び回る。
この場は、一歩ここのガラス張りの自動ドアから出た時のテンションでは相応しくない場所だ。
行われているのは饗宴、それも機械による娯楽がこの盛り場の骨子の正体なのである。

一行がこの場、ゲームセンターに入って約半刻――。
その時分のメンバーの台詞が上記のものである。
あえてどれが誰のものかを言えば、上から淵辺、四条、高槻、雛坂という順となっている。
余談ではあるが、半刻とは一時間程度を指すことを追記しておこう。

現在、彼らは10mち離れていないものの、明らかに2グループに分かれている。
まんまと挑発に乗った四条と淵辺の、前者が後者を蹂躙するだけのパズルゲーム台グループ。
そして、入店当初のうちはその二人を眺めていたものの、暇なので店内で適当に時間を潰すことにした高槻、雛坂のグループである。

「……分かってるなら止めて欲しいんだけどね、雛坂。何で毎回毎回同じ事を……」
特に何かをやることもなく手持ち無沙汰な高槻が、左前方に離れた四条と淵辺の対戦台を気にしつつ弾幕シューティングの筐体に齧り付いている雛坂に問いかけた。

「ん? 楽しいからに決まってんじゃない。……っとと。あんただって何だかんだ言いながら……よっ、楽しんでるくせに。ねじくれた精神だわね、と、行けボンバー!!くたばりやがれー!」
「……雛坂、画面に合わせて体動かしても意味無いよ。それと最後の僕かゲームかどっちに言ったの?」
「誤ー魔ー化ーさーなーいーの。うりゃあ、落ちろカトンボー!! ほんと素直じゃないわよねー、あんたたち……。あー!死んだー! 当たってない、当たってないでしょ今の!!」

雛坂はジト目+横目で高槻を一瞥。その瞬間ボスに撃墜されたため、ち、と舌を鳴らしつつ休憩することにする。
舌を鳴らしたのは何も集中力の回復のためのみではなく――すぐ近くに立っている少年に向かう、とある少女の感情への少年自身への苛立ちも含んでいた。
「……こんな朴念仁のどこがいいのかしらね。」
空虚で、しかし確実に人を圧迫する店の雑踏にまぎれ、その自己否定すら漂う呟きは高槻には聞こえない。
差から、雛坂はもう一言だけ、自分を納得させるために言葉にする。
「……でも。だからこそ、私はおこぼれに預かれてるのよね……」
雛坂の眼が物憂げな色に満ちていることには気づかない。
皮肉気に口端を歪める彼女自身も、一人だけ立ち位置の違う高槻も――

「? 何か言ったかな。」
届いたのは、彼女が何かを口にした気配のみ。
高槻が彼女を再度視界に捕らえる頃にはすでに、雛坂はその顔を、からかい癖はあるが、気風が良く誰にでも好かれる“雛坂神子”の明るい笑みへと切り替える。
「んー、別に? 何にも。それよかタキもいつもんとこに行ってきなさいよ。
退屈でしょ?」
投げやり気味に告げつつ顎を傾け、雛坂はここに引きずり込むたび高槻が必ず向かうその場所――フライトシミュレータを差した。
そこに先刻の憂鬱さは微塵も見出せず、故に高槻は彼女への関心をさほど持たずにまったく別のことで気落ちした顔を彼女に返す。

「……手持ちがないんだよ。」
高槻はそう項垂れがちに言ってポケットをひっくり返す。成程、そこには何も財布のようなものは無い。
「そのくらい別に貸してあげるわよ。……あれ、古本屋に行ってたのにお金は?」
懐に手を入れながら、雛坂はふと疑問に思ったことを片眉を下げながら口にした。
雛坂は変な所で繊細(淵辺に言わせれば神経質)である事は高槻の中で承知の事実であり、胸元に手を入れて硬直する雛坂の石化を解くために、疑問を解消しておく事にする。
「取り置きを頼みに行っただけだから。明日はもう正月だし、臨時収入が入るまで売らないで欲しいってね。」
10our treasure town is rusted whitely:2006/10/28(土) 20:11:26 ID:99M7rFKX
「なる。……と、はい。とりあえず二千円ばかしでいい?」
ようやく茶色く古ぼけたがま口を取り出す。
胸ポケットに入れたとばかり雛坂は思っていたが、実の所それはズボンのポケットから出てきたので必要以上に高槻の眼が痛い。
……とは言っても、高槻自身にそんな非難は全く浮かんでいないので、単なる被害妄想の類であることに雛坂は気づき、余計にばつが悪くなった。
それを打ち消すためのからからという笑いをつけ、両替は自分で行えという旨を高槻に伝える。
了解とばかりに目線だけで肯定を告げる彼を尻目に、伸びをしながら、みし、と体をならして雛坂も立ち上がった。

「どうしたんだい?」
「ん。そろそろ終わらせないとね、あの二人。」
指差す先には四条と淵辺。淵辺はどうやら頭に血が登っているようで、むきになって四条に挑み続けているようだ。
と、四条がこちらのほうに引きつり気味の笑みを向ける。どうやら“へるぷみー”とでも言いたいらしい事は高槻はすぐに感づくが、さてどうすべきか。
ふと隣を見れば、雛坂は腕を組んで苦笑。
「ミズキチは一見マイペースに見えて押しに弱いし、セーギは懲りることを知らない……ってか、ああやって格上の相手に挑むこと大好きな“男の子”だし。
やれやれ、ってとこよね。」
「……?」

余りにも自然に告げられた雛坂のあきれ台詞ではあったが、少し高槻はそこに引っかかりを覚えた。
わずか数瞬で、高槻は思考を展開させる。
押しが弱い、という雛坂の四条観。そこに多少の疑問を抱いたが、彼女にとってはそうなのだろうと思考を強引に自己完結させることにする。
自分は四条にいつも引っ張りまわされているが、何せ雛坂は天性の皆のリーダーだ。
四条の生徒会長という肩書きは殆ど飾りで、生徒会の活動の殆どは彼女が決めているといっても過言では無い。
そのつけが自分独りに回ってくる高槻にとってはもう少し活動を自粛してもらいたいのだが、マイペースな四条よりも人使いが荒いのは確かだ。
彼女にとっては、高槻を引っ張りまわすに十分な四条のマイペースさすらも十分押しが弱いと感じられるのだろう――と。
高槻の思考がここまで到達するのにわずかに一秒足らず。
まあ、どんな考えがあるにせよ、雛坂の行動力なら十分二人を止められるだろう。

「あー……。悪いね。任せたよ。」
僕が行ってもやることないしなあ、と高槻は自分の分をわきまえて雛坂頼りに。
「? 何であんたが謝る必要があるのよ。」
「いや、四条の後始末するのは僕の役割だしさ。」
歯に衣着せぬ高槻にも先ほどと同じ笑いを見せて、雛坂は
「んじゃ、任せなさいな。」
と、高槻のいる場所を離れ、二人に向かっていった。


「くそぉ、やらせはせん、やらせはせんぞ!」
「あの……そろそろ本当に終わりにしたいのですけど……」
困り顔ながら笑みを絶やさない四条と、台詞の裏腹、心底楽しそうにやはり笑みを浮かべる淵辺。
……と。淵辺の筐体の上に影が差した。
影は四条が気づいたと同時に彼女を回りこむように前方へ移動し、その姿が淵辺にまとわりつくように覆いかぶさった。
「い・い・か・げ・ん・に・しなさいっ!」
「うおおっ!!」
いきなり後ろから首を掴まれ、淵辺が軽度のパニックに陥る。
「ギ……ギブギブギブ! 落ちる! 落ちるって!」
手の行う動作が“掴む”から“絞める”に変わったため、抜け出そうと淵辺がもがく。
動きが次第に激しくなってきたのだが、店の中で暴れられても困るため、とりあえず雛坂は手を離すことにした。

「ゲ、ゲホ、ゲ、ゴ、ゴホッ…… いきなり何しやがる!!」
店の中にこそ響かないが目の前の人間には十分大声と感じられる強さで、淵辺は背後の人間――雛坂に怒鳴った。
「何かしてんのはセーギのほうでしょうが……
ほら、ミズキチ困りきってるじゃないの。さっきからもう30分近く経ってんのよ?」
対する雛坂は、しかし慣れたもの。
別段怯えることもなく、すまし顔で四条を筐体前から引っ張り出して立たせる。
「あ、あらあらあら?」
効果は覿面。即座に、苦笑する四条を目の前に淵辺は怒気を削がれることになった。
11our treasure town is rusted whitely:2006/10/28(土) 20:12:06 ID:99M7rFKX

「え? あ……、すまん水城。」
「いえ、たまにはこういうのも悪くないかと思います。
……とはいっても、やっぱりこの空気には慣れませんね。 もう少し静かなら来るのに抵抗はないんですけど……」
左手を筐体の上に寝かせ、右手のみで片耳を抑えながら眉を下げた微笑の四条をよそに、淵辺は本気ですまなそうに脇を向いている。
が、なんとも言えなさそうな顔で雛坂が自分を見ていることに気づき、慌てて視線を下にそらした。

「……そういえば、薪は?」
四条は自体が一段落してすぐ高槻がいないことに気づく。
視線を淵辺から雛坂にスライドさせながら、先ほどまで一緒でしたよね、と呟くように雛坂に問うた。
笑みの割合を少なくして、少しばかり戸惑うような表情の四条に対し、雛坂は別の話題にすり替え、答えを言わない。

「ミズキチってば、本当にタキの事好きなのねぇ……」
……と、雛坂が言い終わる前に、四条の顔が一気に赤く染まった。
「え? あ、あ、あ、あの……みみみ神子さん!?
こ、こんなところで何を、ええと、公序良俗に反することを言うんですかぁっ!
ふざけないで下さい!」
……と、四条がよくよく見てみれば、雛坂からは茶化す様子はさほど感じられない。
四条は一瞬疑問に思うが、同時に今の自分の取り乱した態度に気づき、びくり、と震えた。
「――――!!」
小動物がごとく、四条は怯えを見せる。
そんな四条に対し、雛坂は腰に手を当て苦笑。労わりの意思を込めた、優しげな目つきで四条を見据える。

「だいじょーぶ。あのバカはずっとあっちで自分の世界浸ってるから。
私たちの前でくらい、少しは気ぃ、抜きなさいな。ね?」
「……神子さん……」
潤んだ眼で、長身には相応しくない上目遣いをする。
「ったく。あんたも疲れる生き方選んでるわよねぇ……」
雛坂の、中身とは裏腹な包容力ある語調に、四条はようやく平常心を取り戻した。
にこりと春の花のような笑みで雛坂に答えを返す。落ち着きある口調は、今しがた狼狽していた少女とは似ても似つかない。

「……自分で選んだやり方ですから。それに、こういう性格が私の理想なんですよ。
……結局、内心自分でどう思っていようと、他の人から私が落ち着いた人格にさえ見えれば、それが私の性格といって差し支えはないのだろうと思いますし。」
一息。
「……ほんと、子供っぽい考えですよね。
大人びた性格を演じていれば、子供じみた自分を露呈しなくてすむ、なんて……」
眉を下げた四条の笑み。
そこにどれだけの想いを込めているのかは、四条自身しか知りえない。
だから、雛坂は何も言えず――ただ、目を瞑るのみ。
人の絶対量の少なさにもかかわらず、取り繕ったように電子音が鳴り響く騒がしい店内とは裏腹に、沈黙が場を支配しようとしかけたとき――
12our treasure town is rusted whitely:2006/10/28(土) 20:12:41 ID:99M7rFKX
「それって、十分大人だろ?」
「……え?」
不意に、その空気を吹き飛ばす軽い声が二人の耳に聞こえた。
その主は、ずっとだんまりを続けていた淵辺正義だった。
「んー……二人の話に割り込んじゃ悪ぃかと思って黙ってたんだが、ちと言わずには置けなかったんでな……」
鼻の頭をかいて、淵辺はその先を言い渋る。
「あ、照れてる。柄でも無い。」
「うっせ……」
揶揄するような口調の雛坂に照れ隠しのぞんざいな言葉を投げたが、それをきっかけに淵辺は続きを言い始めた。
「……ま、大人ってのは一言で言うなら“我慢できる”奴のことだと思うんだよな、俺。
んで、水城は色々我慢して、それでもなおそうやって自分の理想貫こうとしてる。
俺からしてみりゃ、そんな水城は中身も外面もおんなじだよ。演じるも何もない、素のままの水城が水城の演じてる水城でな……
って、何支離滅裂なこと言ってんだ俺。ええとだな、もっと分かりやすく言うと……」
何度か口をもごもごとさせ、頭をかきむしる。
うまく言語化できず、もどかしがる淵辺に、しかし四条はくすくすと、口元に手を当てながら満面の笑みで感謝の意を伝えた。
「……有難う御座います、淵辺さん。」
10pにも満たないが、しかししっかりと頭を下げる四条と、明後日の方向を向きながらも目端でしっかりと彼女を捕らえている淵辺。
そんな穏やかなやり取りを見て、雛坂は場違いにも一瞬表情を消した。
が、すぐににやにや笑いを取り戻し、肩を竦めながら顎で方向を指し示す。

「あーそうそう、あっちよ、ミズキチ。いつものとこ。」
「……? 何がですか?」
言いながらも四条は雛坂の示した方向を顔を向ける……と、
そこには大型の乗り物型の筐体が置いてあるスペース。それだけで四条は雛坂が何を示していたのかすぐに気づいたようである。
「……成程。そういうわけですね?」
「ん。そゆこと。」
二人合わせて顔を見合わせ、頬を緩め合う。
見れば、そこには黄色い自転車に乗った高槻。彼が必死にそれを漕ぎつつ見つめる先には、空中をふらふら頼りなげに蛇行する人力飛行機を映し出した画面がある。
四条は柔らかな笑みを見せ、
「……本当、いつも変わらないんですから。」
と独り言。
そのまま淵辺と雛坂のほうを髪をなびかせながら振り向き、告げる。
「私、少しばかり薪のところに行かせてもらいますね?」

それを聞いた二人はそれぞれの返答を返す。
淵辺は片手を挙げてウインクをしながら、雛坂は親指を立ててにやつきながら。
「OK、俺たちゃこの辺りにいるからな。」
「二人でしっぽり楽しんできなさいよー!」
雛坂の台詞に顔を赤らめながらも、電子音が鳴り響きランプが明滅する店の奥へと四条は歩み始める。
と、数メートルも進まないうちに四条は立ち止まり、振り向きながらお返しとばかりに笑みを返す。
「お二人こそ、蜜月の時間を楽しんでくださいな!」
言い終えると四条は急いで俯き、早歩きになって高槻のもとへと向かっていった。


四条が高槻のもとまで着き、なにやら話し始めるまで硬直する淵辺。今の顔の向きではよく見えないのだが、どうやら雛坂も固まっているらしいということは感じ取れた。
人を呪わば穴二つ、とはよく言ったものである。
が、そのままじっとしているのもそれはそれで気まずいものであり、それ故に淵辺はどうにか雛坂に話しかけることにした。
「……まいったね。蜜月だってよ。全く、俺らそんな柄でもないのになあ……、な、ミコ。」
たはは、と笑いながら後頭部に淵辺は手を置き、オールバックが崩れないように頭を掻いて返事を待つ。
……しかし。
数秒待ったが、雛坂からの返答は返ってこない。
「……ミコ?」
肩透かしをくらい、淵辺はすぐ隣にいる小さな影に視線を向けた。
するとそこには、
「……柄でもない、か。そう……だよね。」
俯きながら、無意味に手を絡ませて淵辺を見ようとしない雛坂がいた。
声には先ほど四条を茶化していたときの張りがなく、その目は緩いウェーブを描いた髪に隠れ、見えない。
13our treasure town is rusted whitely:2006/10/28(土) 20:14:18 ID:99M7rFKX

「……すまん、ミコ。」
雛坂の漏らした呟きに、自らの失言が原因と悟った淵辺は取り繕うように謝罪を向けるが、
「……ね、正義。」
雛坂はそれを無視し、下を向いたまま語りかけた。
声色はますます青色を混じらせ、淵辺に対する呼び方も、本名を読み替えたいつもの呼び方ではなくなっている。
「……やっぱり、私の告白、無理して受け入れる必要なんて……なかったんだよ?」
じっと、感情を殺して放つ詞。
「……今ならまだ引き返せるよ。だってさ、正義は、正義が好きなのはさ……」
雛坂はゆっくりと、淡々と言葉を紡ぐ。
周りで煩く電子音が鳴っているにもかかわらず、ぼそぼそと呟くような言葉は、ひび割れた岩の上に落ちた水滴のごとく二人の間に染み込んでゆく。
内部まで行き渡った水は、岩を浸食して破壊へと至らしめる。ならば、言葉が浸食して破壊するものは何か。

……それ故に、淵辺の感情は逆に一気に燃え盛った。
「馬鹿野郎! んなこと言うな!」
「だって! ……さっきもさ、楽しそうにしてたでしょ……
……私は、昔から一緒にいるだけだもん。あんな楽しそうな正義、私と何かしてるとき見たことないもん……」
感情を押し殺したはずの声は、しかし、震えに満ちている。
それに気づいた淵辺は、だから無理やり雛坂の肩を掴んで自分のほうを向かせた。
彼女の四肢は力なく、赤子にそれを行うかのようにたやすく動かすことが出来た。
そのまま淵辺は雛坂の頭頂部と顎を持ち、くい、と首を上方へと角度を変えさせ、自分も雛坂を見下ろすのではなく、しっかりと目を合わせながら、あやす様に優しげで、しかし真摯な声色で話しかけた。
「……なあ、ミコ。あいつが別のヤツを見ているからって、その代用品にお前を使ってる、なんて思っているなら大きな間違いだからな。」
「……。でも、」
「でもも糞も無い。俺は、おまえと一緒に居ると他の誰よりも落ち着けるから、お前の告白を受けたんだ。
……それを、疑うのか?」

「……。」
雛坂は答えない。
既に淵辺の手は顔から離されている事もあり、再度俯いて目元を隠す。
「……ミコ。」
「――く。」
淵辺の更なる呼びかけに対し、突然、雛坂が体をくの字に折った。それも、痛みか何かをこらえるように。
よからぬ不安に駆られ、淵辺は雛坂を掴んでがくがくと前後に揺する。
「ミコ?……ミコ! どうした!?」

「く……あはははははは!こ、こんな簡単にコロッと行くなんて……
く、クサ……台詞クサ……
お腹、いた…………あっははははは!!」

腹を押さえ、雛坂は失敗した福笑いのような顔をした人間を見るがごとき笑いを見せる。
その拍子に上げた顔を淵辺が見れば、そこに浮かんでるのは哄笑の表情。
はじめ、あっけに取られていた淵辺だが……
今の状況に気づくと、ふつふつと怒りが湧いてくるのを止めることは能わなかった。
何しろ自分が常日頃から、内心気にしていることをネタにして笑われたのだ。学校では面倒見がよく、多少では怒らない兄貴分として通っている彼でも我慢に耐えないことはある。
「……テメ。」
雛坂に聞こえるか聞こえないくらいの声で呟いた淵辺は、一瞬で顔を染めると同時、眼前でまだ笑い続けている雛坂の頭を両握り拳で挟みつけた。
「あっはははははは……あ、せ、セーギ、あっははははは、ちょ、痛い、痛いって……
あっはははは……!ご、ごめ……」
ぐりぐりと拳をねじ回され、頭を両サイドから万力のように締め付けられながら、いまだに雛坂が笑いを止める様子は無い。
14our treasure town is rusted whitely:2006/10/28(土) 20:15:03 ID:99M7rFKX
「おーまーえーなー! 悪ぃと思ってんだったらいい加減笑うのやめろっての!!
……ったく、人の純情弄びやがって。ほら、こういうときはなんて言うんだ? ミコ。」
「せ、セーギ、私もう謝った謝った! ぷ、く……いた、痛い痛ああ!」
雛坂の発する声が本当に痛みを帯びてきたため、淵辺はとりあえずそこで許してやることにした。
腕を組みながら、先ほどまでわざわざ首を傾けて合わせていた視線を上から見下ろす形に変えて睨み付ける。
「うー…… 酷いなぁもう。ほら、涙出ちゃった。あー、止まらない……」
「自業自得だ、バカモン。これに懲りたら……」
……と。怒りを静め、あきれたという意思表示のぞんざいな言葉を投げかけようとした淵辺はしかし、そのことに気づいた。

雛坂の目の中が、ずっと泣き続けていたかのように、真っ赤に染まっていることに。
少し小突いたくらいでこれ程目が充血することなど――ありえない。
淵辺はその意味を考えようと顎に手を当てるために手を動かしたが……しかし途中でやめた。
雛坂は小突かれたために涙をこぼしたと言ったのだ。
……なら、それが本当なのだろうと淵辺は自分に言い聞かせ――言うべきことを言うことにした。
「二度とこういうことネタにすんじゃねえ!! ……わかったか!?」
同時、雛坂の頭に拳骨を落とす。
まきを割った音に近い小気味いい音が衝突場所から響き、雛坂は、
「あう〜……、いったぁー……」
両手で頭を抑え、体育座りのような姿勢でうずくまった。
心なしか、旅行でしばらくぶりに我が家に帰ってきた時のような、うれしそうな表情で。



降る雪はいつの間にかやみ、それ故に路上は解けた雪の灰色とアスファルトの灰色という似て異なる2色に埋め尽くされている。
道の両側もやはり、灰色。古びた武家屋敷の塀は、基部こそ石垣ながらも年月に薄汚れ、今の季節はその石垣すら雪に埋もれ、その精密に組まれた石の頭しか見えることは無い。

――黄昏時のこの時刻、空は一面黄土色に染まり、見通すことは能わない。
夕日を雪雲が遮り、その黒い己の色に暁の色を混成させているためである。

……もはや日も暮れるこのとき、どこにでも居そうな四人の若人が武家屋敷の一角を目指して歩いていた。
わずかに先行く二人は腰より長い黒髪を持つ白いコートの女性と、わずかにウェーブを描いたショートカットの少女の二人。
後ろを歩く者の一人、暮れ行く空を二羽のカラスが北西から南西へと向かうのを何気なく立ち止まって見終えた、丸い眼鏡をかけた苦労人特有の雰囲気を持つ少年が、背中を見せてすぐ先を行く、髪の毛をオールバックにした親しみやすさ漂う男子に話しかける。
15our treasure town is rusted whitely:2006/10/28(土) 20:15:45 ID:99M7rFKX

「……そういえばさ。さっきみたいな事は止めてほしいんだけどな……」
ぴたり、と足を止め、その長身の青年――淵辺は首だけで振り返り、そのまま冷や汗を掻きながら絶句。
「……まさか見てたんじゃねえだろうな。」
顔の半分以上がこちらを向いているのを確かめ、少年こと高槻はわずかに頷く。
そして、腰に手を当て、はあ、と一息。
「……あのさ。二人がそういう関係なのは知ってるし、そのことに文句を言うわけじゃないけどさ……
公衆の面前であんなふうにいちゃつくのは止めてほしいなあ……」
「……時々思うんだがな。アレがんなシーンに見えるようなら眼科行け。」
話しかけられた淵辺は、ポケットに手を突っ込みながら横目を向ける。
その矛先の高槻は、しかしなぜそんなふうに言われるのかと頭の上にいくつも疑問符を浮かべている。
……興味あることや義務とか義理とかの厄介事にゃ信じらんねー集中力発揮すんのに、身の回りへの関心はとんと駄目と来たか。
毀誉褒貶のいずれにも当てはまることを淵辺は内心思うが、別に口に出すことはしない。
しない、のだが……どうやらすぐ斜め前の雛坂は感づいたらしい、軽く肘打ちで小突かれた。

だがしかし、当事者の高槻は全く理解していない様子である。自分のために雛坂が淵辺に注意してくれたことに気づきもせず、それどころか彼女の肘打ちに対して思ったことは、
「惚気るのは勝手だけどね……」
……と、当然見当違いの解釈しか見えていない。
「そもそもさ、せっかくの年末年始なんだから二人きりで過ごしたい物なんじゃないの?
わざわざ僕たち呼び出さなくてもさ。少なくとも僕はそうだな。」
高槻の言に、四条までも首を突っ込んで、そうですねー、とくすくす微笑みながら頷いており、気分を良くした高槻は恥ずかしげもなく理想のパートナー論を訥々と語りだした。
こうなると高槻は止まらない。普段抑圧されている分、話すときはいくらでも話すのがこの男だ。

「きょ、今日みたいなのは皆で楽しんだほうが得だろ!?
俺達ゃ皆で過ごしてるほうが性に合うんだよ!なあミコ!」
「そうね!こ、こうやって皆で騒いで遊ぶのタキもミズキチも好きでしょ!?楽しかったわね!!」
この二人にペースを握られると、いつまでも高槻がひたすら演説を続け、四条がイエスウーマンと化すのは分かりきっているので、淵辺達はは無理矢理テンションを高めて話題を変えることにする。
話を止められた高槻は嫌な顔こそしないが、淵辺と雛坂を哀れむようにみた。
やるせない気分になりながらも、淵辺と雛坂は古本屋での再現を阻止することに成功して、安堵の息を気づかれないように漏らす。

そんな二人を渋い顔で一瞥した高槻は、何とはなしに苦笑いしている四条と顔を見合わせ、目の前の二人と同じように同時に溜息をついた。
「……僕と四条はゲームセンターは嫌だって言ってたんだけどね……」
「あはは……。ま、まあ、そう頻繁に行きたいところではありませんね……」


高槻の言葉に彼の気苦労など知る由もない淵辺が、水城はともかくお前はんなこと言ってねーだろ! と無責任かつ的確な突っ込みを心の中だけで言っている時、
「ま、どっちにしろ時間は潰したほうがよかったでしょ?」
と雛坂が四条に向かってウインクしながら口を紡いだ。
16our treasure town is rusted whitely:2006/10/28(土) 20:16:20 ID:99M7rFKX

が、話を振られた四条は、どういうことかといぶかしみながらも微笑むという器用な事をしている。
しばらく、ん〜、と顎に手を当て考えていた彼女は、しかし降参するように、
「? すいません、少しばかり事情が飲み込めないのですけど……」
と、眉をハの字にした笑みで雛坂に問い返した。

あー……、と、あらぬ方を雛坂は向いていたが、ぽりぽりと耳の前を掻きつつ口を中途半端に開けて返答。
「ほら、妹さん……今年、受験でしょ? 邪魔しちゃまずいかと思ったわけ。」

照れながらの彼女の言動を聞いて、四条は一瞬納得。
と、それと同時に眉根を下げ、申し訳なさそうな顔を作る。
「ええと……それはそうなんですが。」
「ん?」
「そこまで気にしなくても、別に問題はありませんよ?」
……と、感謝と謝罪の入り混じった表情の四条。
ちょっとした理由で、彼女の妹は受験勉強をする必要などないからだ。

「いいっていいって。単に遊びたかっただけってのもあるしね。」
……と、黙り込んでしまった四条に対し、それをふきとばすように子供のような表情であっけらかんと笑う雛坂。
彼女に対し、四条はいくつか何かを言おうとしたが……止めておく事にした。
……もう、数十メートル先に見えているのは、四条の家だ。
話すことがあれば、ゆっくりとそこで話せばいいだろう。
だから、四条は小走りで独り玄関に駆け寄った。
自らの手でかんぬきを外し、ゆっくりと門を押し広げながら、言う。
「……では、ようこそいらっしゃいました。」
真面目な顔つきになり、深々と帽子を取りながら頭を下げる。
上体を持ち上げ、大急ぎで被りなおした時にはすでにいつもの笑み。
「……さて。楽しい年末を過ごしましょう?」

門の向こうには十数メートル先まで広がる玉砂利敷きの道と、枯山水。
早く炬燵に入れてくれー、と、両手で体を抱きながら全速力で門を通り抜ける淵辺と、そんな淵辺を、全く、子供なんだから……と微笑ましそうに見つめたあと、首の動きだけで早く来るように、と高槻を促して淵辺を追う雛坂。
マイペースで歩きつつ、そんな二人を見送る高槻は、ふと辺りが早宵闇に包まれていることに気づいた。
空気は寒く、古びた電灯の光は黄色みを帯びて彼を照らす。
また雪が降りそうだな、と彼は思い、……そして、止めていた足を動き出す。
向かうは先ほどから門の横で白い息をはいている、白い服に黒い長髪の少女。
待つ必要なんてないのにね、と呆れ顔で告げることを考え、彼は苦笑を漏らす。
まだ夜は始まったばかり。皆で過ごす年末は、さぞかし楽しいことになるだろう。
きっと自分が苦労することになるんだろうけど。
考え、高槻は新雪を踏みしめてゆく。
……そして。言うべきことを言いながら、傍らの少女と一緒に門の中へと同時に一歩を踏み入れる――――
17 ◆tx0dziA202 :2006/10/28(土) 20:18:05 ID:99M7rFKX
一応、前スレの>538からのものの後編だったのですが、とりあえずこれで後編は終わりです。
お付き合いくださった方、有難うございました。
18名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 23:31:32 ID:aNPBS4bk
GJ!
神子と正義の関係が良いなぁ。
高槻と四条に加えて二種類の幼馴染みが楽しめた。
19名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 16:54:17 ID:4ZJN+oyT
GJ!!
神子の微妙な感情の描写が楽しめた。
高槻と四条の話の続きも読みたいなぁ。進展するのかこいつら!?
20名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 22:59:00 ID:AfE+pKBO
楽しく読まさせてもらいやしたが…作者さん京都か大阪の人のような気がしてならんのです

>>7俺もそういう経験ある
こういうの題材になりそうだな
21名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:16:07 ID:4uNkzB2U
>前スレラスト
一年たって後日談も見れるとは!すばらしい
激しい夜の詳細をkwsk!
22名無しさん@ピンキー:2006/11/03(金) 03:26:21 ID:d0ooKBvh
剣太と鞘子の話を待ってるのは俺だけじゃないと思うんだがそこんとこみんなどうよ
23名無しさん@ピンキー:2006/11/03(金) 08:10:01 ID:dulhqeEQ
>>22
自分も待ってる
24名無しさん@ピンキー:2006/11/03(金) 20:56:52 ID:2TJ4e55t
別に待ってない。
25名無しさん@ピンキー:2006/11/03(金) 23:22:24 ID:YlWkEfqz
「ふぅ…」
窓の外の夜空を見やりながら何度目かわからない溜息をついた。どうしようもなく鬱だ。
「まさかあいつがな…」
大学合格後、地方から出てきて下宿を始めて数週間、ようやく生活にも慣れてきたのに…


話は夕方にさかのぼる。夕食の準備でもせねばと、近所のスーパーに出かけた。男でも作れるようなものでも、とレトルトの棚を見ていたところ―

彼女はいた。セミロングの黒髪、くっきりとした二重、どことなくあどけなさを残した美少女が。
26名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 00:01:01 ID:6thMGiGh
俺はこいつを知っている。こいつと日が暮れるまで遊んだこともある。…とは言っても、6年前のことだが。
―沖原玲。今俺の目の前で、缶詰めとにらめっこしている女性の名前。その真剣な目つきは6年前と変わらない。けれど今目の前にいる幼馴染みに俺は、話しかけることが、どうしてもできなかった。
ふと彼女がこちらを向いた。
27名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 00:05:51 ID:YlWkEfqz
ほんの一瞬、目が合う。
そう、俺がとっさに視線をそらし、この場から立ち去ることを選択するまでのほんの一瞬。
その数秒の間に俺は確かに見た。彼女の目に、懐かしい友に出会ったときの驚きが。けれど俺はその目に応じることなくその場を去った。応じることが、どうしてもできなかった。


「馬鹿か、俺は。」
薄曇りの夜空を見ながら、己のへたれっぷりに、思わず自嘲する。
28名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 00:07:59 ID:6thMGiGh
中高一貫の男子進学校にいて、全くと言っていいほど女性経験の無い自分に。社交性の無い自分に。そして、幼なじみとの再会を避けた自分に。
俺は怖かったのだ。あの頃のように、もう本音ではしゃべれない、自分の弱さを気付かれるのを。勉強しかせず、人間的に成長することなく大人になった自分を。
そんな自分に、あいつに話しかけることなど、到底、出来やしなかった。
29名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 00:11:14 ID:fuFU26qV
……リアルタイムで書くより、テキストとかで書いて、一気にやったほうがいいぞ
30名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 01:05:51 ID:6thMGiGh
改行がうまくいかなかった

もうやめとこう
31名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 16:10:15 ID:c4/B4TT+
いや続きを是非に…!
32名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 22:28:52 ID:FxMHfPkn
流れぶった切りですみません
前スレ>>549-557の続きを投下します
今回はいつもより少しだけ長めです
33それはまるで水流の如く 6:2006/11/04(土) 22:30:07 ID:FxMHfPkn
『もう口利かないっ』
そう言って涙目で膨れたのは幼い私。
傍に立つ男の子は、手にした蛇のオモチャを手持ち不沙汰に弄ぶ。
『ごめん、チィちゃん。もうしないから』
『やだ。ナァくん嫌いっ』
私の顔を覗き込む男の子の顔は、逆光になっていて良く分からない。
涙で揺れる視界の端で、男の子の手が掲げられたのが見えたけれど、私はそっぽを向いたまま。ぽんと頭に手が乗せられても、男の子の方を向きはしない。
『ごめん。ホントに、もうしない』
ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でる男の子の声は優しい。
しばらく撫でられるがままになっていた私は、やがてゆっくりと男の子を見上げた。
『ホントに?』
『ホント。絶対しない。指切りげんまん』
私の頭を撫でていた手で小指を差し出す男の子を私はじっと見つめる。
おずおずと小さな手を差し出すと、男の子は私の小指を絡め取った。
逆光の筈なのに、彼がにっこりと笑ったのが分かった。



「千草ぁ、いつまで寝てるの」
まどろみ半分の状態で布団に包まっていると、遠くから声が聞こえた。
寝惚け眼を擦りながら起き上がると、キンと冷えた朝の空気が体を襲う。
「三ヶ日だからって、いつまでもダラダラしてないの、千草ぁ」
「はぁい。今起きるぅ〜」
ドア越しに聞こえる母の声に返事をして、二度寝の誘惑を振り切り布団を出る。
暖かなパジャマから冷たい服へと着替える。吐く息は白く、気温の寒さが伺えた。
34それはまるで水流の如く 6:2006/11/04(土) 22:31:04 ID:FxMHfPkn
ボサボサの髪の毛に申し訳程度に櫛を通し、スッピンのまま階下に降りると、呆れた表情のお母さんが朝食の後片付けを始めている所だった。
「全く。先生になっても変わらないのねぇ、アンタは」
「去年まで学生だったもん。そう直ぐには変わりません」
「屁理屈言わない。早く食べちゃいなさい」
態と唇を尖らせると、お母さんは苦笑しながらキッチンへと引っ込んだ。

新年三日目。
年末から実家に戻っていた私はダラダラと怠惰な日を送っていた。
いつも忙しい教職は、クリスマスらしい事なんて何一つ無く。唯一、門田先生と彼の御両親と一緒に晩御飯を食べに行ったぐらいで、あっと言う間に冬休みに突入した。

十二月を目前にしたデート──って言っても良いのか悩むんだけど──以来、特に代わり映えのしない日々。
だけど気付けば、私は彼の事を考える事が多くなっていた。

門田直樹。二十六歳。
私の先輩であり同僚。そして幼馴染み。

とは言っても、私達の間には十三年の隔たりがある。
私にとっては人生の半分以上の長さ。門田先生にしてみても、ほぼ半分の長さ。
そう簡単に取り払えないだろうと思っていた隔たりは、この九ヶ月余りの時間で殆んど意味を無くしていた。
その大半が門田先生のお陰なのは言う間でもない。

記憶の彼方に埋もれていた思い出と、新しく作られて行く思い出。
その両方がバランス良く私の中で蓄積されて行くのは、何を於いても門田先生のお陰に他ならない。

だから。
私が今好きなのは、昔の「ナァくん」の面影じゃなく。単なる同僚でもなく。
職場の人達は誰も知らない秘密を共有している、「門田直樹」自身だ。

35それはまるで水流の如く 6:2006/11/04(土) 22:32:00 ID:FxMHfPkn
お雑煮とお節の残りなんて言う見事に手抜きされた朝食を食べながら、私はぼんやりと今朝見た夢の事を思い出していた。

あれは確か、私が幼稚園の年長の時。
門田先生が小学校で作った蛇のオモチャで、私を驚かせようとした時の事だ。
今思えば、牛乳パックと輪ゴムで作られた簡単な工作だったんだけど、当時の私は見事にそれに引っ掛かって。
わんわん泣き喚く私の声に、同じ社宅に住んでいた「カナちゃん」や門田先生のお母さんが、何事かと外に飛び出して来た。最終的に、おばさんにこっぴどく叱られた門田先生は、自分も半分泣きそうになりながら膨れたまんまの私を慰めてくれたっけ。

「覚えてるもんだなぁ」
半分溶けかかったお雑煮のお餅を食べながら、私は頬を緩めた。
たぶん門田先生に会わなければ、思い出す事もなかっただろう遠い記憶。
けれど今は、そんな小さな思い出がある事すら嬉しくて堪らない。

何だか情けないと思うけれど。
それだけ私は門田先生の事が好きなんだろう。

「千草、アンタ今日の夜には戻るのよね?」
洗い物を終えたお母さんが私を現実に引き戻す。
鯛の切身を頬張りながら、私は壁に掛けてあるカレンダーを見上げた。
「そのつもりだけど。何で?」
「いつまでもダラダラしているから、登校拒否にでもなったのかと思って」
「…………」
折角一人娘が帰って来たって言うのにこの台詞。
人が悪いのか何なのか。
眉根を寄せた私は何も言わず、ズズリとお雑煮を啜った。

36それはまるで水流の如く 6:2006/11/04(土) 22:32:54 ID:FxMHfPkn

「あ〜、重っ」
その日の夜、独り暮らしのマンションに戻った私は、玄関先にどっかりと荷物を下ろして溜め息を吐いた。
大学時代もそうだったけれど、実家に戻る度に荷物が増えるのはどうしてなんだろう。
中身の殆んどはお米やら野菜やら。お母さんが気遣ってくれているのは分かるけど、女の細腕には負担が大きい。
食糧を纏めてキッチンに置いた私は、残る荷物を持って部屋に入った。
「……新年の挨拶……ねぇ」
着替えの類を衣装ケースに仕舞うと、残りは一つの紙袋。両親が二人して持たせてくれたソレは、門田先生の御両親宛ての荷物だった。
中身は恐らく、お酒か何かだろう。彼処の家、皆揃って酒飲みだから。

『学校が始まる前に、ご挨拶に行きなさいよ』
そう他人事のような口調で言ったのはお母さん。
娘の気持ちなど露知らず紙袋を手渡したのはお父さん。
昔から付き合いのある門田先生とうちの両親は、今でも時々電話で遣り取りをしているらしく。更に娘と息子が同じ職場と知ってからは、よりいっそう頻繁に連絡を取っているようで。
『アンタもお世話になってるんだから』
「ハイハイ。分かってますよぉ」
蘇る母の声に一人ボソリと呟いてみるけれど。
どうしたもんかと、私は携帯と紙袋を交互に見つめた。

生憎、とでも言おうか。
向こうの家とは年明けに会う約束はしていない。となれば、必然的に私から連絡をしなきゃならない訳で。
電話が苦手な私としては、中々に勇気の要る事なのだ。
普段は門田先生がお誘いを掛けてくれるもんだから、すっかりソレに甘えていた。そのしっぺ返しがこんな形で来るなんて……。
「……むぅぅ」
悩みに悩んで小一時間。
握り締めた携帯のフリップを開く頃には、夜の十時を過ぎていた。

37それはまるで水流の如く 6:2006/11/04(土) 22:34:02 ID:FxMHfPkn

翌日。
結局、昨夜は連絡を取るのを諦めて朝になってから電話をした私は、一人門田先生の家にお邪魔していた。
おじさんは今日から仕事。門田先生は大学時代の友達と新年会だとかで、お昼過ぎにお邪魔した時には、もう家に居なかった。
「嬉しいわぁ、チィちゃんが来てくれて」
コロコロと笑うおばさんは、言葉通り私を歓迎しているのか、お菓子やら飲み物やらを絶やさない。
この数ヶ月ですっかり馴染んでいた私も、居心地の悪さを感じる事もなく、のんびりとおばさんとの会話を楽しんだ。
「チィちゃん、晩御飯どうする?今日はおじさんも直樹も外で食べてくるから、良かったら一緒に食べない?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
夕方近くになって席を立ったおばさんの言葉に、私は素直に頷いた。

独り暮らしで何が一番辛いって、一人で食事をする事。
慣れてしまえば何て事はないんだろうけど、年末から実家に帰っていたせいだろうか。正直、一人で居る事すら辛かった。
面白くないと言うか。つまらないと言うか。
何でも良い。誰かと何かを共有したい。

そんな気分だったもんだから、私が帰ろうと荷物を纏めたのは、午後九時を過ぎようかと言う時間だった。
すっかり長居してしまった私だけれど、おばさんは始終にこやかで。嫌な顔をするどころか、お土産にと晩御飯の残りをタッパーに詰めてくれた。
「直樹が居たら送らせるんだけど」
「いや、良いですよ。いつまでもお守りさせるのも悪いし」
「良いのよ。あの子、番犬程度にしか役に立たないんだから」
…………。
母親ってのは、何処の家も大差ないのかな。
笑うおばさんの台詞に頷く事なんて出来る訳もなく、私はハハと空笑い。
「それじゃ、また」
「えぇ、今度は焼き肉ね」
軽く頭を下げて別れを告げると、年の割に若いおばさんはヒラヒラと片手を振って私を見送ってくれた。

38それはまるで水流の如く 6:2006/11/04(土) 22:34:59 ID:FxMHfPkn
門田先生の家から駅までは少しばかり距離がある。
住宅街のど真ん中。ポツポツ点る街灯と立ち並ぶ家から漏れる明かりで、それなりに夜道は明るいけれど。その代わり、通り掛る人影は皆無に等しい。
冬の寒さもあいまってか、私の足は自然と早くなって行く。

うぅ…寒い。何でこんなに寒いんだろう。
冬だからってのも勿論あるけど、さっきまでおばさんと一緒に居たせいもあるんだろう。
暖かなあの家と人気のない夜道。どっちが居心地が良いのかなんて訊く間でもない。

駅までの道のりを急ぎ足で歩く私は、すれ違う人の顔すら見ていなかった。
だから、いきなり声を掛けられた時はびっくりした。
「チィちゃん?」
「ふぁっ!?」
色気がないのは重々承知。驚きで目を丸くした私が顔を上げると、そこに居たのは門田先生だった。
「何してんだよ、ンなトコで」
私の悲鳴よりも私が此処に居る事の方が驚きだったのか、きょとんとした顔付きの門田先生。
少し鼻の頭が赤いけれどお酒の臭いはしないから、たぶん寒さのせいだろう。
「や、さっきまで家にお邪魔してたんで。帰る途中……」
「あ〜、そっか」
ふぅんと納得したように頷いて門田先生が鼻を啜った。
「なら送る」
「え?でも……」
「気にすんな。帰んのがちょっと遅れるだけだし。それに、お袋にバレたらどつかれる」
肩を竦めて苦笑した門田先生を見上げ、私も思わず小さく笑った。
おばさんなら遣り兼ねない。
39それはまるで水流の如く 6:2006/11/04(土) 22:36:01 ID:FxMHfPkn
お酒が入っているせいか門田先生は少し饒舌で、馬鹿な事を言っては声も無く笑い。浮かんだ笑みはいつもとは違う。
どう言えば良いんだろう。
僅かに頬を緩めたり。楽しそうに目を細めたり。
擬音を付けるとするならば、『ふ』の一文字が良く似合う。

二人で並んで歩くのは、もう、当たり前のようになっていた。
歩調もさっきまでとは違ってのんびりとしていて。

離れ難い、なんて思っちゃいけないんだろうけど。
出来れば少しでも長く、門田先生と一緒に居たい。

そう思う私の気持ちを門田先生が知る筈はない。
けれど。
「チィちゃん、こっち」
「へ?……駅は真っ直ぐでしょ?」
不意に門田先生が右に曲がった。
足を止めて門田先生を見ると、彼はマフラーの中に口許を半分埋めたまま、私の方を振り返る。
「寄り道、寄り道。送り狼にゃなんねぇからさ」
軽い口調はいつもの事。冗談なのか本気なのか、例に因って判別不能。
ただ一つ違うのは、いつもみたいに勝手に歩いて行くんじゃなく、門田先生は数歩離れた先で私を待っていた。
「……何処行くの?」
少し躊躇ったあと。私は小走りに門田先生に駆け寄った。

結局の所、私はこの人には勝てないと思う。
惚れた弱味ってヤツだ。

私が隣に来るのを待って、門田先生はまたゆっくりと歩き始めた。
「ン〜……ま、行けば分かる」
「こんな時間なのに?」
「邪魔が無くて良いじゃん」

……ちょっとちょっと!
凄く意味深な言葉にも聞こえるのは、私の気のせいじゃないわよね?

門田先生の様子を伺うけれど、やっぱりいつもと変わらない。
返す言葉も無く黙り込んだ私の姿をチラリと見て、門田先生は少し眉を上げて目を細め、面白い物でも見るような表情で私を見下ろした。
「取って食いやしねぇよ。何考えてんだよ」
「べ、別に何もっ」
慌てて視線を逸らした私の隣で、クツクツと笑う門田先生の声が聞こえた。
40それはまるで水流の如く 6:2006/11/04(土) 22:37:32 ID:FxMHfPkn

暫くして。
門田先生が足を止めたのは、古びた神社の前だった。
「初詣…?」
「大正解」
間抜けな表情と同じ間抜けな声で問掛けると、門田先生はダウンジャケットに両手を突っ込んだまま、歩みを止める事無く石段を登って行った。
「正確にゃ二度目だけど。チィちゃんと来るのは初めてだし」
少し猫背になった姿勢の門田先生が鳥居を潜る。
その後ろ姿を見つめながらあとに続いた私は、石段を登りきると辺りを見渡した。

小さな鳥居に小さな社。社務所と覚しき建物と手水場以外は特に何もない、そんな場所。
三ヶ日ともなれば人気もなく酷く閑散としているけれど、それが逆に清謐な空気を醸し出している。

「チィちゃん」
名前を呼ばれ振り向く。
社の前に立った門田先生が手招きをしている。
歩み寄ると門田先生は少し頬を緩めたまま、財布から硬貨を二枚取り出した。
「ン」
差し出されたのは五円玉。
促されるままに受け取ると、門田先生は財布を仕舞って社の方に向き直った。
小さな放物線を描き、門田先生の持つ硬貨が塞銭箱に納まる。
それに倣って私も受け取った五円玉を塞銭箱に投げ入れると、小さく柏手を打って両手を合わせた。

今更、願い事なんて一つしか思い浮かばない。

その一つの願いを心の中でしっかりと唱えると、私は目を開けた。
私の隣では門田先生がやけに真剣な顔付きで、まだ何かを願っている最中だった。
やがて門田先生は顔を上げると、隣に立つ私を見下ろした。
「何願った?」
「今年も良い一年でありますようにって」
本当の事なんて言える訳ない。
ありきたりな答えを返すと門田先生は少しだけ表情を和らげた。
「ふぅん。ま、大丈夫じゃね?」
「だと良いけど。ナァくんは?」
何故か自信たっぷりな物言いが疑問だったけれど、私はそれには触れずに同じ質問を返した。
でも、門田先生は笑ったまま答えてはくれない。
「内緒」
「……ずるっ」
『ふ』と笑った顔に思わず見惚れそうになって、慌てて視線を外す。
拗ねた子どもみたいな口調に我ながら飽きれてしまう。
けれど門田先生は私の様子なんか気にもせず、社に背を向けた。
41それはまるで水流の如く 6:2006/11/04(土) 22:39:28 ID:FxMHfPkn
「そう言うなって。ホレ、戻るぞ」
言ってヒラヒラと片手を振る。
それでも撫然とした表情を維持していると、不意に門田先生の手が伸びた。
「体、冷えるぞ」
「っ…!?」
思わず小さく息を飲んだ。
荷物を持たない私の手を門田先生の手が握り締める。
そのまま軽く引っ張られ、私はたたらを踏みながら門田先生の隣へ。
さっきよりも近い距離に心臓が跳ね上がった。
「冷てぇな、チィちゃんの手」
言いながら私の手を握り直すと、門田先生はいつもの薄い笑みを浮かべた。

「ナァくん、酔ってるでしょ」
「え?普通」
「嘘。絶対酔ってる」

自分でも驚くぐらいに冷静な声が出たけれど、それは頭の片隅のもう一人の私の仕業だ。
その証拠に、私の胸の中は得体の知れない動揺とか混乱とか。言わばパニックの源である代物が、上へ下への大騒ぎ。
耳のすぐ傍で心臓の音が聞こえる。

「いつものナァくんじゃないし。エスコートとかって言葉、無縁でしょ?」
「酷ぇな、チィちゃん」
「あれ?違った?」
門田先生が何かを言うと、私の口は頭が理解する前にスラスラと言葉を紡いで行く。たかが手を繋ぐぐらい、何て事ない筈なのに、全ての神経回路が左手に集中していて、今どんな話をしているのかも分からない。
でも、それで良い。
現状を認識してしまったら、たぶん。嬉しさとか恥ずかしさとか。そんな感情に流されて、訳の分からない事を口走ってしまうだろうし。

無意識に冷静な自分を作り出す。
これが防衛本能ってヤツかも知れない。

手を繋いだまま神社を出て、また駅までの道をゆっくりと歩く。
そうしているうちに、私は徐々に落ち着きを取り戻していた。
42それはまるで水流の如く 6:2006/11/04(土) 22:40:32 ID:FxMHfPkn
いや、冷静になった訳じゃないけど。少しは落ち着いて今の状態を認識出来るようにはなって来た。

「新年会だったんでしょ。どれだけ飲んだの?」
「あ〜…ビール二杯に焼酎。ロックで三杯ぐらいか」
「それだけ飲めば充分じゃない」

門田先生の態度はいつもと全然変わらなくて。だから私も必死になって何事もない風を装い続ける。
さっきの角を右に折れると駅はもうすぐ其処だ。
赤信号に足を止めると、門田先生は首を傾げながら視線を宙に走らせた。
「ンな酔ってるように見えるか?」
「見えるって言うか…酔ってなきゃこんな事しないし」
繋いだ手に視線を落とす。
少しだけ持ち上げると門田先生は私の手を握り返して喉の奥で笑い声を漏らした。
「じゃあ、酔ってる事にしとく」
「…じゃあ、って何ですか」
顔を上げて門田先生を見上げると、あの笑顔が目に入る。口先を尖らせる私の言葉に門田先生は笑ったままだ。
この笑顔はずるい。卑怯だ。
いつもの薄い笑顔とは違って、この笑顔は私の思考を狂わせる。
こんな笑顔、学校じゃ見た事ない。
「だから、これも酔ってるせい」
そう言った門田先生は、不意に手を離すと私の頭に手を乗せた。
まるでバスケットボールを掴むみたいに、私の頭を両手で持って引き寄せる。
何が起こったのか理解出来ない私の頭は門田先生の胸元に預けられる。その直後、ポンポンと子どもをあやすような心地良い振動が後頭部に伝わった。

本日二度目の混乱。

抱き締められてる訳じゃない。
いや、でも。
頭だけはしっかりと門田先生の胸に抱かれていて。

煙草の匂いがする。

「お、青だな」

頭の上でそんな声が聞こえたかと思うと、私の頭は自由になった。
43それはまるで水流の如く 6:2006/11/04(土) 22:41:36 ID:FxMHfPkn
反射的に顔を上げると、門田先生は何もなかったみたいに、また私の手を握って歩き出した。

──ち、ちょっと待って。
今、何があったのよ!?

ざわざわと胸の中を蠢めく熱が、喉の奥から昇って行く。
頬が熱い。耳の奥が張り詰めている。

馬鹿みたいに呆けた私は、引っ張られるようにしていつの間にか駅前に到着していた。
「か…な……」
門田先生、とか。ナァくん、とか。
私の手を引く彼の名前を呼ぼうとしたけれど上手く声が出て来ない。
「酔っぱらいぃっ!」
何とか言葉になったのは一言だけで、それも小さな叫び声。
門田先生は足を止めると、私の声にクツクツと笑い声を漏らした。
「だから言ったじゃん、酔ってるせいだって」
「で、でもでもっ!」
思考回路はプッツンきたまま、一向に回復の兆しを見せない。
口が回らなくなった私はパクパクと金魚のように口を開いたり閉じたりするだけで。
ちょうど電車が到着したのか、改札を抜ける人達が私達の傍らを通りすぎた。
「ほら、帰るんだろ?」
私の手を離し、門田先生がお手上げのポーズを取る。
私は尚も何かを言おうと口を動かしてはいたけれど、結局言葉は出てこなくて。深い吐息を一つ漏らすと、ぶら下がったままだった右手の荷物を持ち直した。
「ナァくん、訳分かんない」
ふて腐れたような低い声。その小さな呟きが耳に届いたのか、門田先生は片眉を下げて眉間に皺を刻んだ。
「……そのうち分かる」
「はい?」
益々持って意味が分からない。
怪訝な表情を返した私だけど、門田先生はすぐに笑みを取り戻すと、手を下ろしてダウンジャケットに突っ込んだ。
「今日はもう遅いし。何なら家まで送るか?」
「結構ですっ」
これ以上一緒に居たら心臓が持たない。
妙な悔しさと恥ずかしさと。そんな気持ちが胸の奥深くで暴れている。
熱った頬は隠し様がないけれど、私はフンとそっぽを向くとバッグからカードを取り出した。
「それじゃ、おやすみなさい」
「ン、気を付けてな」
必要以上に語気を強める私の姿に、門田先生は楽しそうに笑う。
改札を抜けて振り返ると、門田先生はまだ私を見送ってくれていた。

44それはまるで水流の如く 6:2006/11/04(土) 22:42:42 ID:FxMHfPkn

暖かさの残る左手をコートのポケットに突っ込む。
一人になってようやく冷静さを取り戻した私は、今日の出来事を思い返していた。

ホントに、訳が分からない。
何であんな事したんだろ。
動揺しまくりだった私の姿は、今になって思えば滑稽その物。
あそこまで狼狽しちゃ、やましい気持ちがありますって言ってるようなもんだ。
──って事は、もしかして……。
ハタと思い当たった事に私は血の気が引くのを感じた。

──……バレた?…門田先生の事が好きだって言うの……。

愕然とした想いで電車のドアに手を突く。
漏れた溜め息に、近くに座っていたおじさんが胡散臭そうにこっちを見たけれど、私の方はそれどころじゃない。
それって滅茶苦茶気まずくない?
て言うか間違いなく気まずいし。
「……どうしよ…」
ハァ…と深い溜め息を溢した私は、いつの間にかズレた思考にも気付かなくて、自分の想いの行方だけでいっぱいいっぱい。


だから門田先生がどんな気持ちだったかなんて考える余裕もなく。


来るべき新学期が酷く憂鬱に思えて、ただただ溜め息を溢していた。
4532:2006/11/04(土) 22:45:43 ID:FxMHfPkn
今回はここまで

あと二回で終わる予定ではありますが、もしかすると一回になるかも



エロを入れるかどうするか悩む……
46名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 23:57:05 ID:f3xD5BYo
GJ!
エロ無しでもいい!
後一回でもいい!
無理せず書いてくだせい!
47名無しさん@ピンキー:2006/11/05(日) 22:34:43 ID:Q69YDK7B
同じく。
>32氏にとって一番いい形で書いてください。
次回もすごくすごく楽しみにしています。
48アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 00:23:27 ID:Vp3ESZJI
 始めまして、初カキコです。
最近ここの板を見始めてハマり、自分も投下してみようと思ったのですが、
ローカルルール(?)みたいのがよくわからず、ビクビクしてます。
40キロくらい書いたのですが、これくらいの量ならまとめて投下してもいいんでしょうか?


というか、ここの人たちめちゃくちゃレベル高いんでしり込みしてるだけなんですが。
49名無しさん@ピンキー:2006/11/07(火) 00:30:16 ID:YFzRtlhM
何事にもまず投下だ(゚∀゚)
50アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 00:35:56 ID:Vp3ESZJI
投下してみます。
序盤幼馴染っぽい要素0ですごめんなさい。
前言い訳はこれくらいにして、残りの言い訳は最後にします。
51アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 00:37:08 ID:Vp3ESZJI








「おはよう速水」
 机につっぷしていた所をナニモノかに揺すられた。
 学校の机につっぷしてるっっつうことは寝てるっていう事で、
  寝てるっていう事は眠いっていう事で。
「おやすみ」
「いや、次移動だぞ?」
  ん、移動? 首を持ち上げる。
 移動ってことは体育っていう事か、つまり跳び箱だな。
 どうりで敦は体操着姿なわけだ。
「次の次の授業はここだから結局戻ってくる事になる」
「昼休み中寝てる気かよ」
 かもねー。
「無視すか」
 ……
「いってるぞー」
 ……
 家で寝てないからか、眠い、だから仕方ない。
 あーでも昨日もさぼっちまったからなあ、まあいいか、
 こんなんで跳び箱なんてしたら死ぬしな、それは危ない。
「お前ホントにさぼるんかい」
 十秒としないうちに敦が戻ってきた。
「一一 うるさい、本気で眠いから勘弁してくれー」
「はー、じゃあ俺もさぼるか」
「静かにしててくれよー」
 はぁ、俺何で学校来たんだろ。意味ねーな。
 こやって教室で寝るのも結構いいもので、ちょっぴり罪悪感な感じが最高。
 …………
 眠い眠い。
52アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 00:37:43 ID:Vp3ESZJI

「おーい、昼だぞー?」
 ……うるさいな。
 ってもう昼か、結局敦をさぼらせちゃったのは、ちょっと悪い事したかも。
 顔をあげると教室の蛍光灯の光で視界が歪んだ。
「まじで重傷だな……大丈夫か?」
「ああ、昼か、昼だね……御免、後で金払うからコーヒー買ってきて」
「ん、顔青いぞ、保健室行った方がいんじゃねえの?」
「行くのもめんどいっす」
「そか、じゃ行ってくるわ」
「サンキュー、今日は優しいね、そんな敦を愛してるよ」
「へーへー」
 流石に三日ほぼ完徹はこたえたかぁ。
 でも次は化学だから、気合い入れないと訳わかんなくなるから、ちゃんと起きて無くちゃいけないから、
 5分くらいしたら敦が帰ってくるだろうから、コーヒー飲んだら始動しよう……
 ……
 ……
「おーい、買ってきたぞってせめて起きてろよ」
「……ああ、おはようさん。アリガト」
「おはようさんねぼすけさん。ほれコーヒー」
「ん、……」
 コーヒーの缶を空け、とにもかくにも流し込む。
「てかどうしたのよ、今日は?」
 敦が心配というよりは呆れた感じで俺を見た。
「いや、まあ……ほら、トリノオリンピックはトリノでやってるんだよ?」
「よ? ってなんで疑問系なんだよ。別に俺がとやかく言う事じゃねえけど体には気をつけろ。
 今日のお前は尋常じゃないぞ?」
 やばいなあ、真面目に心配されてるのかもしれない……。
 ていうか敦、こうしてみると優しいしすげーイイ奴だな。
「マジで愛してるよ、敦」
「マジで大丈夫か? 速水」
 と、丁度自分でもなんだか大丈夫じゃない気がし始めた時、始業のチャイムが鳴った。
 じゃな、と敦が行ったので俺も残りのコーヒーを全部飲み込む。
 だめだ、少しくらい眠気が取れても体力とか根本的な問題が解決してない。
 ちゃんとした休養が必要みたい。
 


53アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 00:38:27 ID:Vp3ESZJI
6時間目の授業を華麗にスリープスルーして放課後。
 と思いきや今日は7時間目にLH(長めな連絡確認の時間)があったらしいです。
 あれですよ、来年度の修学旅行の打ち合わせですよ。
 班分けとかそういうやつですよ、みんな騒ぎます収集つかなくなります眠くなります寝ます。
「起きろー速水……いや、やっぱいいや」
 いいやってなんだよー、と敦を睨む。
「……起きちゃったよ、何?」
「いや、班は俺とお前と、あとの女子二人は適当でいいか?」
「適当は止めてよ? 特に松本さんとか勘弁ね、敦といちゃつくから」
 説明はいらないと思うが敦の彼女、松本さん。
「一生寝てろよってかクラスちげーよ」
「ホント残念だったね」
 ゴツン、と拳が「いい加減にしないと永眠させるよボクちゃん?」語ってきた。
 かなり残念らしい。
「わっ、……結構いい音したけど、だいじょぶ?」
 強制暗転した視界を上に引っ張りあげると、榎本さんが敦の脇に立っていた。
 呆れたように敦が。
「大丈夫だよ、こいつ今日は3分の2くらい寝てたから痛みは3分の1くらいのはずだ」
 すごい理論だ、中途半端に説得力が無い。
「ん、おはようさんあやや」
「おはようさんおさぼりさん。額、赤くなってるよ?」
 まぢでか。
 俺は額をさすりながら榎本さんに問いかける。
「あややウチの班?」
「そう、適当な女子二人の一人だよ」
「敦は松本さん以外みんな適当さ、っとぉ怒らないでくれよ」
「へー、今でもアツアツなんだ?」
 熱々な敦君にナチュラルに油を注ぐ榎本さん、すばらしい連携です。ここは繋ぐしか無いでしょう。
「そうそう、この前こいつ俺と映画見る約束ドタキャンしてさあ、
 理由は、まあ察してくれって感じだったらしいにゃ」
「へー、羨ましいにゃ」
「女の子は羨ましいかもしれないけど、男としては友情の儚さに涙する所だにゃ」
「へーそうなん、にゃんだあ」
 沈黙。
 俺に再び語りかけようとしていた敦の拳も沈黙。
 頬を微妙に染めながら噛んだ事を恥じる榎本さん。
「……いや、俺のキモいキャラ付けの一環である語尾付けを生かそうとしてくれた。
 その君の厚意を俺は笑ったりしないよ?」
「おーけい、最悪のフォローをありがとね」
54アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 00:39:03 ID:Vp3ESZJI
「おーけい、最悪のフォローをありがとね」
「おい」
 心に宿るサドの神が目覚めてしまいそうな感じに、
  程よく羞恥に染まった榎本さんの顔にときめいていたら
 敦に現実へ引っぱり戻された。
 何? と顔で聞くと顎で榎本さんの脇を見るように促される。
 視線を向けると、榎本さんの後ろで硝子が黙って突っ立っていた。
 成る程、適当のもう一人か。
 入学してからほぼ一年、彼女は俗に言う問題児っていうやつで会話はさておき、
 コミュニケーションっていう言葉を知らないかのようなクールっぷり。
 どれくらい学校での彼女がCOOLかっていうと、例えば俺がこうやって、
「おはろーさん、烏徒さん」
 と、手を振っても反応しない。
「烏徒さん、このメンバーでいい?」
 早速立ち直った榎本さんが硝子に声をかけるも、ほんの小さく頷いただけだった。
 硝子も割と彼女とはマトモにコミュニケーションを取っている、これでも、かなり。
「おーはーろーおー」
 俺が更に力強く手を振ると、今度は冷ややかな視線を送られた。
「うっ、ごめんよぉ。調子に乗ったのは謝るから黙れこのクソとかいわないでくれよお、
 いや、ウザいなんて言われなくても解ってるよ?」
 相変わらずきっついなあ、視線が。
「オッケー決まったな。じゃー、リーダーは速水でメンバー表提出してくるな」
 寒々しい空気に絶えかねたのか、敦が席を外そうとするがちょっと。
「いやいやいやいや、リーダーって、何その面倒臭さが凝縮されて当社比二倍みたいな響きは」
「はいはい、分かったよ。リーダー俺でいいかな?」
 主に硝子の方を見ながら確認する敦。
「意義なーし」
 俺と榎本さんが手を挙げる。
 敦の視線に気付いたのか硝子もコクリと頷く。
 それを確認して先生の所に用紙を持っていく敦。
 んで、流れ解散となった。
55アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 00:39:43 ID:Vp3ESZJI
「ええっと、ただいまーあ?」
 帰ってみると人の気配がしない。
 お父さんも帰って無いみたいだ、まあまだ5時前だし。
 寝室のドアをあける。当然誰もいない。
 あー、やばい。布団をみたらロングホームルームの間は忘れていた眠気が……。
 まだ昼間、ではないけど早いしちょっと寝てしまおうか。
 でも今寝たら起きられない気がする。
 それは不味い不味い、だってそんな事したら、いや駄目だ駄目だ。
 駄目、早く体を起こせ、せめてしわになるから征服を着替えろ。そんでできれば飯まで耐えろって。
 あ、意識 が。




 ……最悪。
 着替えもせず、夕御飯も食べずに十時間も寝てしまいました。
 眠り過ぎのせいで、眠くてだるくて重い体を起こす。
 取りあえず、お腹が空きました。
 そういや昨日は昼御飯もコーヒーだけだったっけか。
 あ、敦にお金返してない。
 財布の中身は……よし、大丈夫。
 それじゃあコンビニ行って飯買って来よう。
 そろそろと寝室を出る。まだ皆寝てるだろうからなるべく音は立てないように。
 そうだ、戻って来るのはなんだか面倒だから鞄も持っていってしまおう。
 ペンケースくらいしか入っていない鞄を掴んで、今度こそ家を出た。
 寒い。
 てかすっげー暗い。
 戻……でもお腹空いてるしなー。
 諦めてエレベータで一階まで降りる。
 暗くて寒くて退屈なので、寝ぼけた頭の中は直ぐにカップラーメンと肉マンの二択でいっぱいになる。
 いや両方食べればいいんだけどさ。
 

「暇でーす」
 誰にでもなく呟いてみた。すると自分は暇だっていう事を再確認できた。
 そりゃあそうだよねー。なんたって家を学校の始業時間の5時間以上前にでたもんねー。
 現在6時。空はもうちゃんと明るくなったけど、
 既にコンビニにあるマンが雑誌(エロいだけのも含めて)読み終わっちゃったよ。
 なんか今さら帰るわけにはいかないしな。みんなそろそろ起きそうだし。
 よし、あと2時間半がんばるぞー。
 
56アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 00:40:16 ID:Vp3ESZJI

「てな事があったんだよ」 
「そうか、つまりバカなんだなお前は」
 朝、自分の席でぼーっとしてた所で、よれよれに形態変化した俺の征服を見た敦が、
「帰ってみたら家が無くなっててやむを得ず野宿でもしたのか?」
 と、ホント微妙にかすった事を言ってきたので、
 今朝5時間程暇な時間を過ごす事になった経過を話してみました。
「つうか帰れよ、一回」
 もっともな事を仰られる敦。最近彼の呆れ顔がお馴染みになってきたなあ。
「いやまあ……意地?」
「だからなんでお前は疑問系なんだよ。まあいいけどさ」
 あ、そうだ。
「敦、はい。昨日はサンキュな」
 敦に150円手渡す。
「ん、てか三十円多いぞ。細かい小銭ないのか?」
「んーと、つりはとっときな?」
「だからなんでお前は……っと、じゃあ俺戻るな」
 予令が鳴った。と殆ど同時に教室へ入ってくる担任。
 また後で、と背を向け自分の席に戻る敦。
「あー、マジで心配かけちゃってるなー」
 その背中にもう一度、心の中で頭を下げてみた。



 そこまで寝過ぎたってわけでもないのに頭がぼーっとしていて、今日の授業は右から左。
 おそらく5時間もぼーっと過ごしたせいで、ギアが上がらなくなってしまってたんだと思う。
 今日は朝からテンション上がらないしなー。
 ダメダメ、せっかく頑張ってキャラ作ってるんだから頑張らないと。



「たっだいまー」
 ああ、おかえり。とリビングの方からお父さんの声が聞こえてきた。
 うっ、帰ってたのか。正直進んで顔を合わせたくはないんだけどな。
 まあ晩御飯の時にいやでもあわせるんだから一緒一緒、と扉をあける。
「おや、鞄くらい置いてきたらどうだい? それとその征服はどうしたんだい、しわだらけじゃないか?」
 お父さんはイスに座ってニュースを見ていた。
 その口調とか外見とか、そりゃあもう16歳の子供がいるとは思えない程に若い。
「ちょっと、昨日変な格好でねちゃっ……てさあ、まあ明日から休日だし、なんとかなると思うよ」
「明日からニ連休か、羨ましいかぎりだ。私達のころなんか土曜日……、とまあそれは置いておいて。
 その、体調は大丈夫かい?」
 と真剣な顔。
 いかんな、最近周りに心配掛け過ぎてる。
 大丈夫大丈夫、と笑って返してみたけど、その顔は未だに心配してますって言ってる。
「今日だって、何時もの稽古があるだろう? 何でもマトモに寝ていないそうじゃないか、
 もしかしたらその征服のしわも、そのせいなんじゃないのか?」
「大丈夫、だよ。昨日はかなり寝たし……あ、昨日の夕食はごめんなさい。
 今日も稽古には普通に行ってくるよ、今日はちゃんと夕飯食べるから」
 と、これ以上何か言われちゃう前にリビングから逃げる。
 ふぅ、まいった。みんなみんな良い人過ぎるよ。


57アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 00:40:51 ID:Vp3ESZJI
 稽古場は家から10分くらいあるいた所にあるんだけど、その途中で。
「あ、速水君」
 やほー、と手を振る榎本さんに遭遇しちゃいました。
「あ、そうか。これから稽古なんだね」
 ニマニマと笑う彼女、俺が胴着姿を見られるのが恥ずかしい事知ってるみたいです。
「まーね。あれ、榎本さん家こっちじゃないよね?」
 確か学校に対して90度くらい違うとこに住んでたと思うんだけど。
「うん、ほら今日烏徒さんさぼっ……休んだじゃん」
「あー、多分さぼったで正解だと思うけどそれは」
 てか学校来て無かったのかあんにゃろう、てか一日学校いて気付かない俺もやばいな。
「それで今日のプリントを持ってく所」
「にゃるほど、大変だね。まー学校でマトモにコミュニケーションとれてるの、
 榎本さんくらいしかいないしにゃー」
「誰かさんなんて、かんっっぜんに無視されてますからねー?」
 と、にっこり皮肉。どうやらもう語尾付けには乗ってくれないみたい……似合ってンのににゃー。
「でもホントさ、勿体無いよね、烏徒さん」
 ふと彼女がぽつり、ともらした。
「えーと、何が?」
「だってさ、彼女すっごい可愛いのに誰とも関わろうとしないじゃん」
 そりゃ仕方ないのかもしれないけどさ、と続けた顔は、何だか嫉妬まじりのような。
「はあ、つまり彼女は中身がアレじゃなければ、めちゃめちゃモテモテだろう、と?」
「そうそう、誰かさんは既にぞっこんっぽいけどね?」
 またまたニマニマ笑みでこっちをうかがってくる。
「チガイマス」
 全く、榎本さんは時々無駄に鋭いなぁ。
 当の彼女はにゅふふ、としたリ顔をした後、割と真剣な顔になって。
「でもさ、割と功をそうしてると思うよ。速水君の努力」
「え?」
「だって、速水君はああいうけど、私としては一番彼女とコミュニケーション取れてるのは、
 まぎれも無く君だと思うもん」
 一一一一……っ。
「っ、またまたぁ。半端な慰めはいらないよーだ」
 自分でも声が動揺してるのがわかる。
「確か、同じ中学校から来たんだっけ? それも関係してるのかもね」
「っと、俺そろそろ行かなくちゃ」
 自分でも不自然だと思うけど思わず会話を切った。
 ん? と不思議そうな顔をするも、またねと手を振り去っていく彼女。
 一一ふぅ。
 鋭いにも程が在りますよ、榎本さん。
 委員長気質というか何と言うか、優等生は周りへの気遣いが半端無いんだなあ。
「うわやっばい」
 とか言ってるうちに、ホントに急がなきゃ不味い時間になってた。
 それから3時間、火照った体を慣らすように体を動かした。


58アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 00:41:29 ID:Vp3ESZJI
「たーだーいーっま」
 シャワーと着替えは向こうで済ませてたから、そのまま居間に入る。
「うわっ、すっごい」
 リビングに入ってみると広めのテーブルに御馳走御馳走御馳走!!
 その尋常では無い光景にパニックになる。
「えっちょっ待、誕生日? 俺違うよ? 誰っ? ていうかなんでまだ誰も食べて無いの
 ごめん俺待ってた?」
 ほらほら落ち着いて、お父さんの苦笑まじりの声になだめられる。
「これはその、遅くなってしまったけど、君の歓迎会みたいなものなんだ」
 俺をさとすような声、歓迎会?
「え? それって」
 困惑した俺は視線をお父さんから外してお手伝いさん、
 はキョトンとしているのでスルー。
 そしてこの場にいる最後の一人、
 硝子へ向ける。
 
「司が一時的にも私の義弟になった記念なんだってさ」

 すると、小さく意地の悪い色を称えた笑みが待っていた。
 あー、そういうことか。最近、人の親切に浸り過ぎてる気がしてきた。うん駄目、ちょい泣きそう。
「誰が弟だよ、誰が」
 俺のつぶやきに、はははと笑いがもれる。
「泣かないでよ? 格好わるい」
 よりいっそう意地悪になりやがった目を睨み返す。
「泣いてなんかないやいっ、皆ありがとうございますです!」
 この家に来て五日間。いや、母が入院してからだろうか? 
 何時の間にか張り詰めていた俺の何かが切れた気がした。
 いや、そんなに泣かれるほど感謝されるような事はしてないはずなんだが、
 と困惑気味のお父さん。
 あらあら、と全然困った感じのしない笑顔を浮かべてるお手伝いさん。
「全く、変な弟」
 感謝の言葉はいくら言っても足りないだろうから、
 取りあえず今は御飯の美味しさを楽しもうと思う。


59アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 00:42:05 ID:Vp3ESZJI

 俺、速水司がこの家に預けられたのは丁度今から一週間前。
 午後7時過ぎ、一週間に及ぶ学校生活の疲れでだれまくってたとこに電話がなった。
「はいもしもし。はい、速水です。
 はい、そうです、そうですが……病院?」
 いきなり何だろうかと思えば、ついさっき車にはねられた母が病因に搬送されたという。
「はい、はい総合病院さんですねっ、それで大丈夫なんですか?!」

 まあ電話の内容はよく覚えて無い。
 んで、いざ病室に駆け込んでみると。
「母さんっ!?」
「はいはい、大声ださないの。ここは病院なのよ」
 無駄に、いやホント無駄に落ち着いてる母さんがいた。
「えっ、うん。それで大丈夫なの?」
 そこまで落ち着かれると逆に焦るんだけどってくらい何時も通りの母さん。
 ベッドに横になってこっちを向いているその目は、いつも通り力を称えている。
「はあ、相変わらずこの子ったらマザコンなんだから。
 大丈夫に決まってるでしょう」
「マザコンじゃねえよ決まってねえよ、第一夜にいきなりひかれたなんて言われたら、
 もしかしたらって思うのが普通だろ!」
 ドラマの見過ぎ、一蹴された。
 その後俺はけが人に向かって、文句とか色々、言っちゃってた気がする。
 いや、動転してたとはいえ……うん忘れよう。
 で、色々と疲れ切ってた所に不意打ちが来た。
「でさあ、私自身はぴんぴんしてるつもりなんだけど、
 これ3、4ヶ月動けそうにないのよ」
「え、それって結構やばいんでない?」
「うん、私は不味い病院食があるけど、あんたがねー。
 まあ料理はそこそこできるからなんとかなるかもしれないけど、正直毎日は辛いだろうし」
「いや、飯じゃなくて母さんの方は……」
「だから大丈夫だって」
 大丈夫じゃねえだろ、っつてもこの人的には大丈夫、なんだろうなあ。
「でさ、あんたをどうにかして家事の魔の手から守ってやれないかなー、
 と思ってたらさ、丁度良い話が来てねー」
 すっごい楽しそうな母さん。とても怪我人とは思えませんね。
 ……なんだろうなあ、タノシミダナーホントニ。
「要望があったので、あんたを烏徒さん家にレンタルする事にしたの」
 ワーイワーイ。
「何それ、え? すごい話しが見えないよ」
「やあねえ、怒らないでよ」
 大丈夫だよマイマザー、まだパニくってるだけだよまだ。
「だってねえ、いくらもう16だからってこんな物騒な世の中、
 一人息子を一人でほっとくわけにもいかないし」
 何時事故とかに合うか分からないのよ? と大変説得力のあるお言葉。
「でさ、生活費とかもあっちで負担してくれるっていうし、お金持ちなのねーあそこ。
 ほら、なんていったっけ。お手伝いさんもいるくららしいし?」
 ちッ。
 
60アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 00:43:13 ID:Vp3ESZJI
ちッ。
 笑顔で舌打ちしてやる。
「だから怒らないでよ。それに真面目な話、向こうから頼んできたくらいなのよ。
 多分、硝子ちゃんがらみで」
 一一ああ、そうか。
 なるほど合点がいった。ただこの傍若無人な生命体が悪ふざけをしたわけじゃあないんだ。
 俺と硝子は幼馴染み、幼いころはよく元気に遊んだものなんだが。
 ある事件をきっかけに、硝子は俺以外とはありとあらゆるコミュニケーションを殆ど取らなく、いや取れなくなった。
 数年の努力もむなしく、硝子は未だに社会復帰の兆しすら見せない。
 準、引きこもり。
「オーケー、分かった」
「あら、物わかりの良い子で助かるわ」
 しょうがないだろう、ウチは経済的にそんなに余裕があるわけじゃあない。
 保険で100%カバーできるわけじゃあないんだ。
 てかそんなんどうでも良くて、俺も硝子を、なんとかしてやりたかった。
「ふう、じゃあ俺はもう帰るよ。終電やばそうだし」
 気がついたらすっごい話し込んでた。
「ん、硝子ちゃんによろしくねー」
 荷物をまとめて病室を出る。去りぎわに、
「精々リハビリにはげみなよ、この親バカ」
 感謝の礼を言った。
61アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 00:44:07 ID:Vp3ESZJI
「いやー大変だったねー、司君。ほらもう一杯」
 で、居候先の歓迎パーティーで未成年なのにお酌をしてもらってる俺がいる。
「あ、すいません」
 それを笑顔で受ける、この親子はざるか。
 つうか酒の消費量おかしいぞこの空間。
「あんまり量を飲ませてはいけませんよ? 司さんは未成年なんですから」
「そうですね、未成年ですからね……いや硝子、それは原液で飲むもんじゃないぞ?」
 ジンの瓶の首を掴んでいた手が止まる。
 きょとん、とした顔でこちらを向く硝子。
「レモンはのせるよ?」
「違うって、それだと40%が39、8%くらいになるだけだって。せめてロックで……
 てバカー、もう飲むな飲むななんだその脇に隠してある空の瓶はぁ!」
 16の女の子が飲む量じゃない。てゆうか日本人の量じゃない。
「あらあら硝子さん、司さんの言う通りですよ。もうお休みになられては?」
「そうだもう寝ろ。俺もそろそろ寝るから」
 少し赤みを帯びた顔は否定の意を示した。
「まだ大丈夫」
「大丈夫とかそういう土俵に立つなっつうの」
「硝子さん、司さんが来て嬉しくてついはしゃいでしまうのは分かりますが、
 本当にそろそろお休みになられては?」
 なにか気になるフレーズでもあったのか、ぴたりと動きをとめる硝子。
 そして席を立った、それがあまりに急だったから、
「硝子、照れてる?」 
 悪戯心で聞いてみたら、硝子はふらりと顔だけ振り帰って、
「調子に乗るな愚弟」
 めっちゃ睨んできた。
「その弟っての、やめない?」
「なんで? 愚弟」
「いや、ホントの姉弟じゃないし、そもそもホントの姉弟でも弟とか呼ばないしさ。
 第一、なんか硝子は姉って感じしないんだもん。今までどおりにしてよ」
 ちぇっ、つまんねーの、の顔の後。
「わかったよ、司。これでいいでしょ?」
「うん、おやすみ」
 と、今度こそ本当に目線を外して寝室へ向かう硝子。
 さて、俺もそろそろ眠りたいんだけど、
 正直このお父さんがいるかぎりそうはいかないんだろうな。
 夜は、長い。

62アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 00:45:30 ID:Vp3ESZJI



なんか自分でやりすぎた感がでてきたので空気読んで止めます。
真面目に、どうやったら文章っぽい文章が書けるのか教えてほしいです……。
63名無しさん@ピンキー:2006/11/07(火) 00:50:42 ID:74ZSBal5
殊更に卑下するぐらいなら投下しないほうがいいと思うよ。

あんたがいい文章だと思うような人の作品を写経のように模写すれば、文章は書けるようになると思う。
64アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 01:14:06 ID:Vp3ESZJI
 ういっす、ありがとうございます。
もうしないっす。
65アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 01:33:33 ID:Vp3ESZJI
 推敲終わったとこまで張って今日は寝ます。
もうちょっとお付き合いください。
66アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 01:34:05 ID:Vp3ESZJI
「おはよう」
 一一っっっっ!
「……おはよう」
 早く起きてよね、朝御飯片付かないでしょ、と硝子。
 否、パジャマ姿の硝子。
 やばい、不覚にもドキドキシテシマッタ。
「そっちだって起きたんなら早く着替えろよ」
 なんて苦し紛れに照れ隠し。
 にやり、意地悪そーな顔。
「スケベ」
 自爆。
 そうですよね、おいらがいたら着替えられないですよね、今直ぐ出るよ許してよ。
 と、起き上がってみたらぐらりと視界が揺れた。
 ボスっ。
 再び布団に落ちる俺。
「あれ?」
 つうか気持ち悪ッ、あれ、何でだ何でだ?
 二日酔いね、昨日相当飲んでたみたいだし、と心配そうな硝子。
 否、あきれ顔の硝子。
 やばい、不本意ながら何も言い返せない。
 だいたいあれはあなたのお父さんが俺に……。
 駄目だ、真面目に気持ち悪い……こうゆう時は水分だ。
 無理矢理に体を起こしてみる、よし歩ける。
 ふらふらと寝室のドアノブを目指すもその遠さに早くも挫けそう。
「つうか、なんで硝子は平気なん?」
 当然だけど後ろから返事は無かった。
67アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 01:34:35 ID:Vp3ESZJI

 本当に軽めの朝食と、本当に多量のお茶を飲んで、体が何とか落ち着いてくる。
 食事中なんどもお父さんに謝られたんだけど、どう考えても自業自得な気がした。
 で、今は寝室っていうか硝子の部屋。
 この家に来てみて、俺って無趣味だったかなあ、と感じる事が増た。
 何故って彼女がパソコンでゲームやってる間、俺すっごい暇なの。
「硝子さーん、暇なんですけどー」
 シカッティング。
 ……いやいや、泣くな俺。
 寂しくて死にそうなのでこっちから硝子に歩みよってみる事にする。
 特に俺が近くに来ても気にした様子のない硝子。視線をパソコン画面に移すと、
 凄まじくリアルな3Dのキャラクター達が、レトロな町並みの上に溢れかえっていた。
「うわっ、すっげーな」
 ニュースで見た事ある、オンラインゲームってやつだ。
「ちょっと待ってて、あと10分くらいで終わるから」
 一瞬ちらりとこちらを向いて、再び硝子は視線を画面に戻した。
「終わったらコンビニ行こう、そんで飲み物とか買おう」
 今朝お茶を1L消費しちゃったから。
 コクリと頷く硝子。ふと親指を除いた8本の指が、まるで豪雨のようにキーを叩いてた。
 ブラインドタッチ、なあんて生易しいものじゃない。
 画面に打ち込まれる文字を見てると、普通に喋るのと変わらないくらいのスピードがでてる気がする。
 暫くその奥義を拝見させていただいた。
 硝子の手がやっとキーボードから離れてマウスを握る、どうやらもう終わりみたい。
 ログアウトのボタンを押……ってプレイ時間1140時間!?
 え? ちょっと待て、もしかしなくても地球が一回自転するのに要する時間は24時間だぞ?
 ……50日弱? 
「終わったよ、行くなら行こう司」
 そうだね。なるべくでなくてもあなたを家に置いとか無い方が良い気がしてきた。
 このままじゃあ準じゃなくて、ホントに引きこもりになっちゃいそうだ。
 まあいい、それを何とかするために俺はここでお世話になってるんだから。
「うん、久しぶりのデートだね」
 そういって、極自然に手を差し出してみる。
「そうね司、前世以来かしら?」
 硝子は俺を一瞥すると、華麗に手をスルーして上着を羽織った。
 俺も上着着よう、なんだか凄く寒い。



68アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 01:35:24 ID:Vp3ESZJI
前世は当然言い過ぎだけど、硝子と買い物に出かけたのはやっぱり凄く久しぶり。
 最後に行ったのは中学校三年生の時の修学旅行の前日だったけか。
 行くつもりが無かった、なんていうふざけた主張で頑に拒む硝子をむりやり引っ張って、
 一緒に必要な物を買いに行った。
「硝子さん、ナチュラルにお酒をカゴに入れてますがそれは何時飲むんですか?」
 持ち物に「飲み物」とか書いてあったのを見て、
 普段飲んでる飲み物を買おうとした硝子を止めた記憶が、中学生なのに。
 で、今も。
「硝子さん、買うなとは言わないからさあ、もうちょっと自粛しようよ」
 合計で2Lを超えちゃうアルコールがカゴに入った所だった。
 ピクリと手をとめるとそのまんまの体勢で顔をこっちに向ける硝子。
「今日明日明後日の分。知ってると思うけど私昼間でも飲むから」
 知ってるけど容認しないし、つーか明後日学校なんだけど。
「明日もくればいいだろ、そんなに買い込まれると今日どんだけ飲まれるか不安なんだけど」
「そんなに暇じゃないし」
 暇でしょうが。
「太るよ」
「大丈夫、精神が痩せ細ってるから」
 笑えないなぁ。
「せめて甘いものとかにしない? 代用品になるかも」
「逆にお酒進みそう」
「でもさぁ、お酒ばっかだとやっぱ……待って、何時の間にか増えて無い?」
 ずっと目を合わせてたはずなのに……油断もスキもない。
 その後、なんとか硝子にそれ以上のアルコールを買わせないようにしながら、
 お茶と暇つぶしの雑誌を買った。
 ……どんなデートだよ。


 硝子を家まで送って多量のアルコールと申し訳程度のお茶を冷蔵庫にしまうと、
 今日もいつもどおり3時間の稽古に向かった。
 土曜日は翌日が休日なのもあって実戦メインのハードなのが組まれている。
 ハードというか1対3とかただの無謀だろう。
 まあ文句を言うつもりはさらさらないが、完全に二日酔いが抜けきったわけじゃあない。
 つうか何が言いたいかっていうと、無理。
「はい、5分休憩。そのあとラスト15分!」
 はー、はー、っあ、ぜー、ぜー。
 けふっ、ごほっごほっ。
 息がもたない。
 死ぬ、かと、おもった。つうか、次はホントに死ぬ。
「ラスト一本!」
 休憩、みじか、すぎ。
 でも、立たないと、もっと死ぬことになる、ので、殆ど完全にオちた体を無理やり引っ張り起こす。
 構えをとって3人と対峙、当然のように殴りかかってくる。
 とても裁ききれないので後ろに下がるんだけど、それにも限界がある。
 なんとか一定の間隔で切り返さないといけない、けど。
 ドスン、とわき腹に蹴りを貰って一瞬色々持っていかれそうになる。
 つうか蹴りっぱなしかよ。ろくに引きのない体重が乗っただけの足を、
 蹴られた衝撃でくの字に折れた体で無理やり掴んで床に叩き落とす。
 完全に間接とった。勝ち、なんだけどね、1対1なら。
 
69アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 01:36:23 ID:Vp3ESZJI
 帰るとお父さんに呼ばれた。
 さも当然のように硝子はパソコンの前に帰ってしまった。
 ちなみに何でか硝子は家にいるイコールパソコンに座ってる、みたいなものなのに
 目は良かったりする。
 まあそんなどうでもいい事はおいておいて。
「どうゆうことだい、司くん?」
「どうゆうことって、何がですか?」
「私がいない間に、硝子を勝手に家の外に連れ出した事だ」
 顔は笑っているのに、空気が張り詰めてるのは内心穏やかで無いからだろう。
 お父さんの言いたい事は分かってはいるんだけど、ここは引けない。
「勝手にって、硝子は普段自由に外に出る事もできないんですか?」
「そもそも硝子は自分から外に出たりはしないよ」
 んなこと当然のように言うなっつーの。
「いや、そもそもそれが問題なんだよ。だから俺は一一」
「話を摺り替えないでもらえないかい?」
 変化球はダメですか、どうやら本気で怒ってるみたいっすね。
「じゃあ、家にずっと置いておくつもりなんですか?」
「そういう話しではなくてだね」
「そういう話です、硝子を具体的にどうするつもりなんですか?」
「硝子を二度と危険な目に合わせるわけにはいかないんだ」
「じゃあ、ずっとこの家で飼っていくつもりなんですか?」
 あえて嫌な言葉を使わせてもらった。
 まさか昨日にこにこと酒を飲みかわした人とこんな風に相対するとは。
 ……当然予想してたけどね。
「飼うつもりなんてない、けれど今の硝子に普通の生活をさせるわけにはいかないだろう? 
 色んな意味で」
「普通の生活をさせないでいいんですか?」
 ふう、とため息をつくお父さん。
「私のやり方が気に入らないのはよくわかった、じゃあ君はいったいどうしようっていうんだい?」
「どうもこうも、あなたは硝子を社会復帰させるために俺を養ってるんでしょう? 
 ならすることは一つです」
「具体的には?」
「普通の生活をさせるに決まってるじゃないですか?
 一日中家に引きこもって、パソコンいじってるなんて年頃の女の子としては異常ですよ?」
「そんな事が可能だと? 硝子がもし危険……」
「可能にするために、俺はあの日からずっと十分努力してきました」
 言えた、これ以上ないくらい緊張してるけど、一番肝心な事を言えた。
「鳴る程」
70アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 01:36:54 ID:Vp3ESZJI
「鳴る程」
 お父さんの雰囲気がいつもの柔らかいものになった。
 さっきまでのプレッシャーから解放される。
「君の意思は伝わった、だから司君の事にこれから口出しは極力しない」
 ただし。
 と、一瞬さっきの数倍のプレッシャー。
「硝子にもしもの事があったら、たとえ司君でもただではおかない」
 息が詰まった、けれどすぐに素早く回復させて。
「例え死んでも守ります。だからそんな脅しは無意味ですよ」
 迷い無く、言った。
 ふう、とお父さんはため息をつくと、半ば呆れが入ったような穏やかな笑顔を見せた。
「全く、うちの硝子を相当好いているようだが、そんなにアレはいいものか?」
 何を言い出すんだろうこの人は。
「分かってるんでしょう? めちゃめちゃ可愛いんですよ、とにかくホントに。
 あんなに見た目も仕種も性格も可愛いのは他にいませんって」
「硝子も変な子に好かれたなあ、まあ君ならあげてもいいと思ってるよ、正直」
「ナイスプレッシャーです。義父さん」


71アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 01:37:54 ID:Vp3ESZJI
 リビングのドアを開けた途端、酒瓶を持った硝子が目の前から睨まれた。
「まだ、そんな事思ってたの?」
「……っ、びびったあ。盗み聞きかよ」
「コップ取りに来たんだけど、入れる空気じゃなかったから」
「懸命だね、お父さんまじになるとめちゃくちゃ恐いな」
「どっちかっていうと、司の方がマジに見えた」
「そうか?」
 こくりと頷く硝子。
 そのまま下から覗き込まれる、硝子ってこんなに小さかったか?
「まだ、本気なんだ」
「……たりまえ」
「そっか、それはなんか、ごめんね」
 そんな申し訳なさそうな目するなよ。
「ほんとにすまないと思うなら謝るなよ」
「ごめん、無理かも」
「お前、最悪」
 笑えねえ。
「どうなったら、諦める?」
「ホンっと最悪だな」
「だって、こんなに私だけしてもらって、いろいろ。
 すごく申し訳ない」
「なんとかは見返りを求めないって定型文があるんだよ」
 なんでそんなに辛そうな顔するんだよ。
 ……なんでってわけでも、ないか。
「死人には勝てないっていうのも、きまりだよ」
「その定型文は物語り終盤で論破されんだよ」
 なんて強気な事いってても、正直厳しい。
 お父さんのプレッシャーの方が百倍ましだ、なんたって俺自身が硝子にこんな顔させてるんだから。
「はあ」
 思わずため息をついてしまう。
「お互い、辛いね」
「なんだかそれはおかしくないか?」
「飲む?」
「だからおかしいだろ」
「飲まない?」
「飲むに決まってるだろ」
 っつうか、んなんだから諦められないんだよ。
72アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/07(火) 01:38:53 ID:Vp3ESZJI

今日はもう寝ます。
ありがとうございました。
73名無しさん@ピンキー:2006/11/07(火) 01:56:43 ID:CbAdyOuP
なんかこの雰囲気超好みなんだが
74名無しさん@ピンキー:2006/11/07(火) 03:17:09 ID:qkzhNXgK
―が一になってるのは何故?
75名無しさん@ピンキー:2006/11/07(火) 22:01:50 ID:MdE3D8Uw
幽霊が最高でした。ラブい。エロい。
76名無しさん@ピンキー:2006/11/07(火) 22:35:41 ID:/ETy4H1m
やった!また新しい神が来た!
77 ◆NVcIiajIyg :2006/11/08(水) 02:13:13 ID:NbCASQ1e
思ったより長くなる感じだったので一回区切りました。
前スレ>531の続き。
さよなら幽霊屋敷(中)。次こそ(下)です。

あとあんまりバカでもエロでもなくてすいません。
78『さよなら幽霊屋敷(中)』1/7 ◆NVcIiajIyg :2006/11/08(水) 02:16:24 ID:NbCASQ1e


時間が経つのはあっという間、光陰矢のごとしというように。
気温は次の週にまた下がっては上がり、
終業式の後の春休みがやってきた。


『なあー、行こうよ。行こうって』
『や。やだ。お姉ちゃんにもあそこ、入っちゃいけないって言われたよ。ゆうれいいるんだって』
『だいじょうぶだって。そんなやつぜんぶやっつけておれたちの基地をつくろうぜ!ガシューン!
 なんかあったら守ってやっからさ、なー、行こうよ、なー』
『……えー。んー。啓ちゃんがまもってくれるなら、いってもいいかなぁ。
 じゃ、わたしおひめさまね。啓ちゃんがまりおね!』

そんな会話をして金網の隙間をくぐったのは十年以上前のことだ。
行った先にいたのは、小学生の悪ガキ達で花火を盛大にやっていて、
後始末を俺達に押し付けて散ってしまった。
火傷しそうになったあっきを守って、重いバケツを転がすように水をぶっかけると、大人びた笑い声がした。
――びしょぬれの俺たちが幽霊に出会ったのは、あの時だ。


最近になってデート用にと通い出したあの迎賓館には、今でもその時の幽霊が住み着いている。
晩飯後の茶を注ぎながらお袋が話しているのによれば、あそこに、
廃校寸前のいくつかの中学校を統合して新しい校舎を作る計画が決まったそうだ。

「…は?」

テレビを見ていた視線が固まる。
――あまりにも突然だった。
今聞いた話をもう一度お袋が繰り返す。

「でもあそこ、夜中も学生が出入りしたりして危ないみたいだしね。ちょうどいいのかもしれないわね」

チャンネルを親父にいつのまにか、勝手に変えられた。
一足遅れた晩飯と、酒を喰らっている。
けどそんなのはどうでもよかった。
途中まで聞いたところで俺は玄関脇のコートを引っつかんでいた。
79『さよなら幽霊屋敷(中)』2/7 ◆NVcIiajIyg :2006/11/08(水) 02:17:31 ID:NbCASQ1e




亜月の家の戸を何度も叩いたというのに、誰も出てこなかった。
混乱しすぎて思い当たらなかったのは我ながらくやしい。
いなくて当たり前だ。
今日の昼から亜月の姉さんの大学卒業祝いで、明日まで帰ってこないのだ。
足を返して自宅のガレージに飛び込みサドルからランプを蹴る。。
夜道を自転車の全速で飛ばして、屋敷に忍び込んだのは夜十一時も過ぎた頃だった。

安物のようなステンドグラス。
蔦の絡むアーチ型の門は銅製。
結婚式場として作られかけて取りやめられ、廃墟になった俺たちの秘密基地は夜になると妙な雰囲気があった。
月の出ていない夜で雲が重く垂れ込めていた。
春といっても夜はまだまだ気温が低い。
門の前で息を整えてから、ノブを押して怒鳴りこんだ。

「みのり!みのり、いるか!」
「……え?うっそ、啓伍?」
ひょっこりと、シャンデリアから顔を出して逆さになったまま幽霊が俺を探した。
見つけた途端、首を傾げて笑顔になる。
「一人で来るなんて珍しいわねー。どしたの?アツキと喧嘩でもした?
 それとも、もっと別の何かだったかしら。お姉さんになんかお願いでもあるの?」

あくまで彼女は、あっけらかんといつものように俺を迎えてきた。
くるりと中で反転してからゆっくりと降下し、俺の腰くらいに足先がくる高さで浮いたまま髪に手をやっている。
80『さよなら幽霊屋敷(中)』3/7 ◆NVcIiajIyg :2006/11/08(水) 02:19:28 ID:NbCASQ1e

うっすらと。
雲がよぎり、月明かりがほんの少し建設途中の屋根の隙間から差し込んできた。

屋敷全体にチョークの跡があった。

測量の後があちこちに見える。
顔を上げると、みのりは似合わないくらいじっくりこちらを見て笑みを浮かべていた。
「見られちゃったね。さすが情報が早いか」
「……ばっか。新聞屋なめんな」
沈黙が過ぎた。
妙に顔を見づらくて、逸らしていたのが、あまりにも長いので気になってまた幽霊に視線をうつす。
……こめかみがひくついた。
こっちはそんなだったのに、浮かぶセーラー姿がちょっとにやにやしてやがった。
「うっわー!啓伍ったら、も・し・か・し・て〜。
 大好きなお姉さんがいなくなるのとか、気になるわけ?さみし?」
「馬鹿!俺は本気で心配してるんだよ!!」
やけになって怒鳴りつけるとまたすこし普通の顔になって、ぽつりとみのりは呟いた。
ほんの少し、雪がとさと崩れるようなさり気無さで宙に浮く手が高度を下げる。
「……うん。それはごめん。啓伍が寂しくてたまらないのは分かってるから、言わなくて大丈夫よ」
みのりがこんな風にしおらしいのは珍しかった
なんか話してることはアレだが。
ざらつく床が透明の足先につくところまで降りてくる。
「……だってしょうがないじゃない。もう大分前から、日中にも測量とか、来てたのよ?
 啓伍もアツキも、学校があったから知らなかったんでしょうけど。
 あ、結構ね、解体屋の人たち、かっこいいのよー。力仕事してる男は違うわー」

それこそ知らなかった。
学校に行っていたから平日昼のここなんて分かりやしなかったのだ。
81『さよなら幽霊屋敷(中)』4/7 ◆NVcIiajIyg :2006/11/08(水) 02:20:26 ID:NbCASQ1e
なんでこんなに痛いんだか分からんかった。
頭を抱えるように自分の前髪を掴む。
春先とはいえ吹き込む風はひどく冷たく、頬をこれでもかというほどに冷やしてくれた。

「……なんで黙ってたんだよ」
「聞かれないから。それに、
 二人ともきっと、そういう顔をすると思ったからよ。
 あたしは、別に、構わないのにね。だって死ぬわけじゃないじゃない」
「…そういう顔ってなんだよ」
掠れた声で呟くとみのりは眼を伏せたまま声を立てて笑った。
「泣きそうな顔。アツキの顔も想像つくわね」
「ばっ、な、泣きそうなわけ…!」
言葉に詰まって苛立ったので傍の階段に乱暴に腰を落とした。
古風なセーラー服姿のまま、幽霊がふわりと隣に座る。
くしゃぐしゃと髪をかきむしる。

くそ。

ほんとに、本当に亜月を連れてからくればよかった。
82『さよなら幽霊屋敷(中)』5/7 ◆NVcIiajIyg :2006/11/08(水) 02:21:46 ID:NbCASQ1e

実は昔からそうだった。
いくらかっこつけて、亜月の彼氏面をしてみたって結局肝心なところで
亜月ががーんと前に出て俺を盛りたてて太陽みたいに周りをぶっ飛ばしてしまうのだ。

亜月がいないと俺はただの情けないガキでしかないとこれでも一応知っている。
せめて亜月の前では、かっこいい姿を見せたいと気張るから少しはましな自分でいられるって寸法だ。

「これでもお姉さんね、あんたたちのそういうところが好きだったのよ」

十年来ずっと下品なことばかり紡いできた声がBGMみたいに耳を通って脳に伝わっていく。
本来この声がこうであるべき柔らかで軽やかな言葉だった。

「――うん、でもしょうがないわ。あたしも引越しをせざるをえないのね。新しい建物って、苦手だし。
 啓伍に昔助けてもらったみたいに、火も怖いから、工事中の火花もできれば見たくない。
 こういう、壊れかけた古い建物の方が好きなの。慣れているの」
「ここ、結婚式場のために作られたのよね。
 おぼえている?啓伍、昔こっそり耳打ちしたでしょう。
 ここでアツキとけっこんしきをあげるんだって。あれ、笑っちゃったわー。ばかよねもう。
 ま、ここんとこある意味結婚式みたいなことしてたけどね、いつも。先週だって廊下でやってたの見たわよ?
 ほんと盛んよね、啓伍ってば若さゆえにがむしゃらで、感心しちゃったわ―ていうか思ったより早」
83『さよなら幽霊屋敷(中)』65/7 ◆NVcIiajIyg :2006/11/08(水) 02:22:41 ID:NbCASQ1e

「…おまえ、さ。なんだよ。ここの地縛霊とかじゃないのか?」

遮って聞くとみのりは目を丸くして、んー、と目を閉じた。
セーラー服の裾を持ち上げるように膝を抱える。
階段敷きのワインレッドを、白い三つ折りソックスの指先が擦った。
「違うの。お姉さんには秘密が多いんです」
意地悪そうに愉快に、にっこりと幽霊は俺に顔を近づけて笑う。
改めてみると、本当に。
気がついたら俺達とこいつは同い年くらいになっていた。
……なんだろう。
ここに真夜中に、走ってきた理由は、こういうことを話すためじゃなかったんだ。
ほんとに亜月がいないと俺はよくずれる。
こんな晩には今すぐにでもあっきに会いたい。
「みのり」

『お姉さんに何かお願いでもあるの?』
最初に聞かれたとおりの用件だ。
馬鹿だから、こんなに話してからでないと、思い出せもしなかった。
「ねえ。
 今度、アツキを連れてお別れに来てくれる?
 未練なんてあんたたちだけだし、そしたらさっさと引越すことにするわ」
「行くなよ」
「ありがと」
「……だから行くなって」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。」
「だから!おまえがいなくなったらつまんねえんだ。あっきもおまえのこと大好きなんだぞ。
 おまえだって、俺たちが好きって言ってたじゃねえか!行くなよ!」
84『さよなら幽霊屋敷(中)』7/7 ◆NVcIiajIyg :2006/11/08(水) 02:24:59 ID:NbCASQ1e
まるであの日近所の子を無理矢理引っ張って、
ここに忍び込んだ時の様な駄々のこね方だと思った。
でも目の前の幽霊は、あの時みたいに笑ってついてきてくれる幼馴染とは違った別の存在だった。
すうっと冷たい感触が肩に乗る。

「十年もすっかり忘れてたくせに。ばぁか」

感情のない呟きが染み入るように鼓膜を通る。
夜風の冷たさを不意に知った。

「いいからアツキを連れてきなさい。
 あ、流石にいつ人が来るか分からないから、セックスはダメよ。
 その代わりに、あんたに助けてもらった借りを返すわ。結婚式をしてあげる」

冷たかった半透明の空気が離れる。
久我山みのりは、セーラー服のまま後ろ手を組んで浮き上がり、華やかに笑ってロビーからすっと消えて行った。

夜に融けるのを追って見上げれば崩れた壁の隙間から、雲がゆっくりと星の合い間をよぎっていた。
秘密基地の天井は、ただの塗装がはげたコンクリートでしかなかった。

……そっか。
ここ、壊されちまうんだ。

お気に入りの基地が壊される悔しさに、亜月より一足先に俺は黙って泣いた。
春めいた冷たい風が、葉を出した木を一生懸命ざわつかせていた。


(下)につづく
85 ◆NVcIiajIyg :2006/11/08(水) 02:26:07 ID:NbCASQ1e
というわけで次で終わります。ではまた時間ができましたら。
86名無しさん@ピンキー:2006/11/08(水) 05:01:34 ID:1GiCYop4
ええよええよ。
87名無しさん@ピンキー:2006/11/08(水) 07:29:47 ID:GpO/5HkS
お姉さん、続き期待してます……!
88名無しさん@ピンキー:2006/11/09(木) 16:35:23 ID:ka9ZF7HE
風景描写がやっぱり秀逸。
◆NVcIiajIyg師、続き待ってます!!
89 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/11/10(金) 02:50:47 ID:seod/IwH
規制に引っかかって遅れてしまってスミマセン。
その上今回やたら長いので今日明日の二日に分けて投下します。

ではエロ無しの前編から。
90シロクロ 11話 【1】:2006/11/10(金) 02:52:36 ID:seod/IwH
「休憩入りまーす!」
教室に私の声が響く。
「はーい」「お疲れー」
クラスメイトのみんながそれに答える。
――ウェイトレスとウェイターの格好で。
かくいう私もウェイトレス服を身に纏っているのだけど。

私立式坂高等学校。
元は色坂高等学校だったが平成3年に改名され、今の名前になった。
でもその年の文化祭、すなわち色坂祭の名前の変更を学校関係者一同が忘れてしまい、
そのせいで「式坂高校」と「式坂祭」の年数がずれてしまうという事態になってしまい、
文化祭を「色坂祭」と呼ぶか「式坂祭」と呼ぶかで今でも先生達が揉めているらしく、
現在は「式坂祭(仮)」と言うことで落ち着いてるようだ。
・・・(仮)を着けることを承認する方が問題な気もするけど。
まあそれはともかく。
私たち3年8組もコスプレ喫茶という出し物で参加していた。
91シロクロ 11話 【2】:2006/11/10(金) 02:53:24 ID:seod/IwH
「あ、綾乃!」
教室を出ようとする私を同じくウェイトレス姿――なぜか「サブチーフ」という文字が書かれた
ピンクの腕章を着けている――のみどりちゃんが制止した。
「何、みどりちゃん。今啓介を探しに行くトコなんだけど」
「白木ならアンタが休憩入るの待ってたんだけど・・・」
「ホントッ!?」
それを聞いた私は風を切りそうな勢いでみどりちゃんに駆け寄った。
それに若干引き気味になったみどりちゃんに構わず問いかける。
「それで啓介はドコッ!?」
「ココ」
そういってみどりちゃんは店員側のスペースの隅を指さした。
そこには私の幼馴染みにして恋人――啓介が椅子に座ったまま居眠りしていた。
まあしょうがないと言えなくもない。
朝から料理の仕込みを手伝ったり客と揉めたり今まで忙しそうにしてたし。
でもそれとこれとは話が別。
「もう、しょうがないわね・・・」
私は溜め息混じりにそう呟くと啓介に歩み寄って彼の肩を掴み、
「け・い・す・け・起きなさ〜い!!」
揺さぶりをかける。
が、彼の瞼はぴくりとも動いてない。
「十数える内に起きないと・・・」
「・・・くかー・・・」
起きる様子無し。
その態度を挑発と解釈した私はカウントダウンを開始した。
「十、九、八、七、六、五――」
と、ここで私は起きなかった場合に何をするか考えてないことに気付いた。
でも反応無いのでお願いだから起きて啓介と思いながらも続行。
「――四、三、二、一、ゼロ」
「・・・くかー・・・」
起きる様子が全くない。
92シロクロ 11話 【3】:2006/11/10(金) 02:54:29 ID:seod/IwH
「・・・ホントに寝てる・・・」
仕方ない。少し恥ずかしいけど最終手段。
そう決心すると私は啓介を抱き寄せ、
「啓介、おきて・・・」
そう呟くと彼の耳を甘噛みした。
周囲からおお、やうわ、などの声が漏れるが無視。
そのままの姿勢で5秒(きっちり数えた)後、
「な・・・・・・!」
唇と身体全体に伝わっていた感触が消え、悲鳴が聞こえた。
そちらの方へ視線を向けると私の抱擁から逃れた啓介が顔を真っ赤にしてこちらを見ていた。
彼が何か言おうと口を開くが、途中で彼の唇に当てられた私の指と台詞に遮られた。
「お客さんがいるから大声たてちゃダメ」
「お客さんのいるところでンな事するのはアリかい」
啓介が半目でツッコミを入れるが私はそれを無視。
と、みどりちゃんが手を叩きながら割り込んできた。
「はいはい、夫婦でイチャつくのもそこまでにしなさい」
「誰が夫婦だっ!?」「まあ、みどりちゃんったら♪」
同時に違うリアクションをする私と啓介。
「まあ夫婦はともかく婚約ならしてるけどね」
「してねぇよっ!」
そう叫ぶ啓介にみどりちゃんは冷ややかな視線を向け、
「アンタそれ本気で言ってる?」
「?、ああ」
小さく溜め息をつき、
「綾乃っていっつもアンタがあげた白いリボンしてるわよね?告白事件からずっと」
「ああ、それが?」
わっかんないかなあ、とみどりちゃんは頭を掻きながら小さく呟くと
出来の悪い生徒に説教する教師のように人差し指を立て、
「それって婚約指輪も同然よね?『コイツは俺のもの』ってしるし」
その発言を受けた瞬間、啓介が凍りついた。
93シロクロ 11話 【4】:2006/11/10(金) 02:56:43 ID:seod/IwH
・・・ああ、そんな解釈もアリか・・・。
とりあえずフォローしてあげよう。
「みどりちゃんみどりちゃん、これは啓介が昔くれたものだから。
夏に海行ったときも着けてたし」
そういって私はリボンを巻き付けた髪の一房をヒラヒラと振ってみせる。
と、啓介がこちらに視線を向けてきた。
その眼差しは「頼むからこの状況をどうにかしてくれ」と語っていた。
あくまでカンだけど。
とりあえず私は彼に力強く頷くとみどりちゃんに解説した。
「つまり昔から私は啓介のものだから♪」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!!」
ほんのちょっぴり涙目になった啓介が勢いよく立ち上がる。
「ほらもう泣かないの。男の子でしょ?」
「誰のせいだよっ!?って頭撫でるな抱きしめるな頬擦りするなあああ!!」
「すっかりラブラブよね・・・」「見てるこっちが恥ずかしくなるよな・・・」
「見てないで助けろよ!」
そう叫ぶ――もはや客への遠慮は忘却の彼方のようだ――啓介の肩をクラスの男子の一人が掴み、
「貴様に選択の余地を与えよう。
第一に、遺書を書いて死ぬ。
第二に、辞世の句を残して死ぬ。
第三に、ダイイングメッセージを残して死ぬ。
第四に、誰にも知られることなく一人寂しく死ぬ。
さあ選べ十秒以内に一二三四五六――」
「全部却下だっ!っていうか結局死ぬんじゃねえか!」
「やっかましい羨ましすぎんだよこの野郎死ねぇっ!」
その発言に頷く男子数名から目をそらして啓介は溜め息をついた。
「・・・ったくなんでこんなことに・・・」
「啓介が居眠りしてたせい」
「ぐ・・・」
啓介がいめくと同時、周囲から多数の拍手や口笛の音が聞こえた。
94シロクロ 11話 【5】:2006/11/10(金) 02:59:00 ID:seod/IwH
「っていつの間にか客増えてるしっ!?」
言われてみると確かにお客さん――というか野次馬――が増えた気がする。
「アレがあの校内新聞に載ってたバカップルか・・・」
「マイク使って告白だなんて真似できないわよ・・・」
「ありゃあウチにも聞こえとったわい。若いモンはいいのう・・・」
周囲から聞こえる声――聴力は良い方だ――の内容をしっかり吟味してから一言。
「大評判ね、私たち」
「誰のせいだっ!?」
「・・・お互い様だと思うけどな」
そう呟いてると、啓介が私の抱擁から逃れてしまった。残念。
「騒がしくなってきたな・・・」
そう言いながら店の奥から誰かがこちらに近づいてきた。
今回の発案者で反対意見を屁理屈で黙らせてしまった黄原君だ。
黄原君なのだが――――
「「・・・・・・」」
私と啓介は彼を見ると同時に沈黙した。
彼は何故かみんなとは違う格好をしていたのだ。
服装は共通のウェイター服で「チーフ」の赤い腕章を着けてるけどそこは問題ではない。
「「・・・何そのチョビ髭」」
私と啓介が同時にツッコミを入れるが黄原君は動じることもなく、
問題の髭――言うまでもなく付け髭――を撫でて一言。
「『喫茶店にはお約束の渋めのマスター』だ」
黄原君の発言を聞いた私たちはお互いに顔を見合わせて口を開く。
「全然似合ってないし渋くもないと私思うんだけど」
「というかコスプレ喫茶に何故マスターがいるんだ」
「何故ツッコミのときは息ピッタリなんだお前達は」
95シロクロ 11話 【6】:2006/11/10(金) 03:00:37 ID:seod/IwH
そうツッコミを入れる黄原君に啓介は半目になった視線を向け、
「っていうかもしかしてそれがしたかったから企画を立てたのか?」
「そんなことはない」
と、無意味に胸を張って黄原君は口を開く。
「ただ単にみどりにフリフリの格好をしてもらいたかっぐはっ!?」
「あ、ゴメン秀樹。ツッコミ欲しそうだったからつい」
脇腹へ肘を機転にしたチョップという過激ツッコミの姿勢のままあっけらかんと言うみどりちゃん。
黄原君は脇腹を押さえて二、三度咳をすると復活し、
「ま、まあそれはともかく」と言いながら啓介に向かって手を差し出した。
「ありがとう。お前たちバカップルのおかげで商売繁盛だよ」
「・・・そりゃあよかったな。俺達もお前たち新聞部のおかげで一躍有名人だよ」
啓介は棒読みで返事をすると手を握り替えした。
手の甲に筋が浮かび上がるほどの力で。
「ふっふっふっふっ・・・」
「はっはっはっはっ・・・」
でも黄原君は眉一つ動かすことはなかった。
96シロクロ 11話 【7】:2006/11/10(金) 03:02:01 ID:seod/IwH
「あ〜〜、疲れた・・・・・・」
夕焼け空を背景に、俺は猫背の姿勢のまま帰路についていた。
今日は疲れた。心身共に。
綾乃をこっそり撮影しようとする客に注意したり料理の仕込みを手伝ったり
綾乃を口説こうとした客に注意したり大量の料理を運んだり綾乃を触ろうとした客に注意したり
ウェイトレス服のままの綾乃と一緒にいろんな出し物を見て回ったり
綾乃とともに周囲の好奇の視線にさらされたり――――
そこで殆ど綾乃がらみなことに気付いて余計に疲れが出た。
が、なんと言っても決め手はアレだ。
後片付けの手伝いをするために残ることになった俺は、
待とうとする綾乃に『先に帰って飯の用意しといてくれ』といって先に帰そうとし、
綾乃は少し顔を赤くして頷いた。
やけに素直だと思ってたら別れ際にまた唇を奪われ、
『じゃあ先に帰ってご飯の用意してるわね♪あ・な・た♪』
とかいってすぐさま帰っちゃったもんだから残された俺は周りから総攻撃を受けてしまった。
殺意のこもった視線が十三人分、好奇心のこもった視線が二十二人分といった割合で。
彼らに寄れば、『先に帰って飯の用意』の発言が同棲してるみたいな言い方に聞こえて、
恋人と言うよりはまるで新婚夫婦のように思えた、とのことらしい。
まあ俺の言い方が悪かったからだろうけど、
ここまでの仕打ちはあんまりじゃなかろうか。
だが、まあ俺にも役得があったし、と思うと少しは気が紛れた。
ふと、俺は自分の唇を指でなぞってみる。
自分の唇の感触しかしないが、綾乃が何度も唇で触れた場所だと思うと――
「ままー、あのおにいちゃんわらってるよー」
「しっ、指さしちゃいけません!」
・・・・・・泣いてないぞ。くそう。
97シロクロ 11話 【8】:2006/11/10(金) 03:03:50 ID:seod/IwH
そんなことを考えてながら歩いてるとすぐに自宅についた。
俺は玄関の鍵を開けドアを開き、
「ただいま〜・・・」
「おかえりなさい♪ご飯にする?お風呂にする?それとも――」
即座にドアを閉めた上で鍵もかけた。
はっはっはっ今何か幻覚と幻聴があった気がするが気のせいだそうに違いない
何やらデジャブがするが気のせいだったら気のせいだじゃあ飯でも喰いに――
背後で鍵とドアが開く音が鳴り、
「ドコ行くの啓――――」
俺は声の主を抱きかかえて家に入った。

「・・・今度はなんだよその格好は」
玄関に入るなり、俺は目の前の少女――綾乃を睨みつけた。
――実際には睨むふりして彼女の格好を上から下まで眺めてるんだけど。
カチューシャから天に向かって生え、半ばあたりで重力に負けて折れ曲がり、
尖った先端をダラリとさせた人間にはあり得ない白く長い耳。
肩紐のない黒いワンピース型の水着――のようなもの――の尻に付いた白い毛玉。
素肌の上に申し訳程度につけられたカッターシャツから切り取ってたような白い襟と赤い蝶ネクタイ。
手首にボタンひとつで止められた白いバンドのようなもの。
脚のラインを隠すことを完全に放棄したストッキングと微妙に踵の高い黒いサンダル。
どこからどう見ても――――
「バニーさんだけど見て解らない?」
「俺が聞いてるのはその格好をしてる理由だ!」
思わず声を荒げてしまう。
98シロクロ 11話 【9】:2006/11/10(金) 03:04:58 ID:seod/IwH
しまった、と少し後悔するが綾乃は笑顔のままであっけらかんとした表情で答えた。
「義兄さんと義姉さんが『この格好したら進展間違いなし!』って親指立てて言ってきて」
「・・・二度とあの二人の戯れ言を真に受けるな」
「いやさすがに私も真に受けた訳じゃないけど『じゃせっかくだから』ってことでノリで」
「尚悪いわっ!」
二度目の絶叫にはもはや遠慮はなかった。
ふと、頭に浮かんだ疑問を口にしてみる。
「・・・なんでサイズピッタリなんだ?」
「兄さん達から渡されたのは姉さん用だったからサイズ合わないんで、
今回の式坂祭の衣装用意してくれた直ちゃんに相談して作ってもらっちゃった♪」
「『もらっちゃった♪』じゃねえぇぇぇ!!それアイツラ全員に知れ渡ってるって!!!」
三度目の絶叫ツッコミにもやはり綾乃は怯みもせずに「まあそれはともかく」と呟くと、
「どう?この格好」
その場でくるりと一回転して見せた。
その動きに合わせて彼女の重そうな乳房が揺れてその動きに目が集中しそうになるがそれはともかく。
「・・・まあいいと思うが」
「ありがとっ♪」
そういって綾乃は満面の笑顔を見せると俺の手を取り、
「じゃご飯にしよ♪今日はこの格好でいつもの1.5倍(当社比)の愛情注いで作ったから♪」
「その格好でかよっ!?っておい引っ張るなって!」
四度目の絶叫ツッコミは妙なテンションの彼女には聞こえていないらしく、
俺を強引に引っ張っていく。
そのとき俺は思った。
やっぱり尻も柔らかそうで丸くてエロい形をしている、と。
99 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/11/10(金) 03:08:39 ID:seod/IwH
今日は以上です。
明日はややエロなシーンとなります。

っていうか題名に11話aって入れるの忘れた・・・orzマイドゴメイワクオカケシマス
100名無しさん@ピンキー:2006/11/10(金) 03:12:29 ID:vYttsgBi
GJ!!&リアルタイム記念!!
今回は学園祭ですか。
次は微エロ含みですか。
後編、今から裸で正座して待ってます。
101名無しさん@ピンキー:2006/11/10(金) 03:33:23 ID:53FmBe74
なんつうかもう実にGJ!テンション高くていいよねw

自分も規制で書き込めなかったクチなんだが、そんな間に中日だかの選手だったかが、
引っ越して離れ離れになってたけど年に一度くらいは会ってた野球チームのマネージャーだった
幼馴染と結婚と言うニュースを見て和んでしまった。
102名無しさん@ピンキー:2006/11/10(金) 12:05:28 ID:4aDabn6j
kwsk
103名無しさん@ピンキー:2006/11/10(金) 12:13:13 ID:AVRBFEp5
ttp://chuspo.chunichi.co.jp/dragons/tp2006/tp1103-2.htm

ということだそうだ
カーリングの小野寺選手以来の祝い事だな
104名無しさん@ピンキー:2006/11/10(金) 13:46:16 ID:53FmBe74
>>103
おお、それだそれだ。サンクス。お幸せになって欲しいものだ。
105 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/11/11(土) 06:55:09 ID:2kbYeYfI
後編行きます。
106シロクロ 11話b 【1】:2006/11/11(土) 06:56:50 ID:2kbYeYfI
「ふふふふふんふんふふふふ〜ん♪ふふふふふんふんふふふふ〜ん♪」
キッチンから水の流れる音と微妙に調子の外れた鼻歌が聞こえてくる。
食器を洗っている綾乃が口ずさんでるものだ。
そして俺はそれが終わるのをソファに腰掛けて待つ。
甲斐性無しと言うなかれ。
手伝おうとすると『今日は啓介いっぱい仕事してたから休んでなさい』と怒られてしまった。
・・・まあ気遣いは正直嬉しいが。
と、その音と鼻歌が止まり、
「皿洗い終わったよ〜」
「おう、お疲れ」
そう返しながらキッチンの方に振り向くとちょうど綾乃が出てきたところだった。
「エプロンをしたバニーというのはこれまた斬新だな・・・」
「ムラムラした?」
「するかっ!」
悪態をつきつつも彼女から目をそらす。
彼女の姿を正視できないからだ。
チラリと綾乃の方へ目を戻すと、
ちょうど不服そうな顔をしながら白いリボンでポニーテールにしていた髪をほどき、
エプロンを外そうとしているところだった。
何気ない動作のはずなのに着替えを覗いてるような気になってしまい、
彼女が俺の視線に気付かないうちにまた目をそらしてしまう。
107シロクロ 11話b 【2】:2006/11/11(土) 06:57:43 ID:2kbYeYfI
「・・・情けない・・・」
唇の動きだけでその台詞を表現する。
正直に言おう。
すっごくムラムラしてます。
腰まで届きそうなほどにのばした黒くて柔らかそうな髪とそのアクセントになった白いリボン。
隠しきれずに上部分が露出した形の良い豊かな乳房とそれらが寄り添うことで出来た深い谷間。
露わになった贅肉のない二の腕、肩、鎖骨、背。
胸や腰を強調するように細く引き締まったウェスト。
着衣が食い込むことでより一層肉感を表現した尻。
ストッキングに覆われていつもとは違う色気を醸し出す脚。
そして、「少女」と「女性」の中間の子供っぽさと大人らしさが同居した整った顔立ち。
それら全てが俺の目には魅力的に映っていた。
いや、よほど特殊な趣味をしてない限りは今の彼女に心惑わされないものはいないだろう。
最初に理性をダムにたとえたのは誰だろうか。
その心のダムが崩壊寸前な今ならその人の気持ちが分かるような気がする。
・・・ヤバいなホントに。
何かの拍子――要するに抱きつかれたりキスされたりすると――に決壊してしまうかもしれない。
「啓介」
「ど、どうした?」
突然の呼びかけに努めて平静を装って返事をする。
同時に慌ててさっきから起立姿勢な倅を足で挟んで隠す。
それに気付いているのかいないのか綾乃は俺の隣に座り、
「私って、魅力ない?」
あまりにも突然の発言に、俺はソファからずり落ちた。
108シロクロ 11話b 【3】:2006/11/11(土) 06:58:34 ID:2kbYeYfI
「・・・な・・・、何をいきなり・・・」
慌てて座り直す俺に、綾乃は口を尖らせて、
「だって海行ったとき義姉さん達の方を先にじろじろ見たんだもん」
そういってそっぽを向いてしまった。
・・・バレてたのか・・・。
俺は軽く咳払いして――多少誤魔化そうという意図があったのは
否定できない――言い訳じみた説明をした。
「俺はケーキのイチゴは最後に食うタイプなんだよ。それぐらい知ってるだろ?」
「そりゃあ、わかってるけど・・・」
今度はうつむいてしまった。
「水着の女の人のグラビア写真集なんて持ってるし」
「なんで知ってる!?」
まさか隠し場所がバレた!?
「この前啓介を起こそうとしたら机の上に全開のまま置いてたけど」
「・・・捨てたのか?」
「隠し場所だと思うところに直しておいた。勉強机の裏」
・・・ビンゴだよオイ。
「図星みたいだから補足するけどあくまでカンだしその中は見ても触ってもいないから」
「・・・お気遣いありがとう」
俺がそういうと、綾乃は不機嫌な表情を隠しもせずに俺を睨みつけてきた。
109シロクロ 11話b 【4】:2006/11/11(土) 06:59:28 ID:2kbYeYfI
その様子を見て、俺はもしやと思ったことを聞いてみた。
「・・・嫉妬した?」
「そりゃあ嫉妬ぐらいするわよ。彼女なんだから」
そういって頬をふくらませる綾乃。
その様子を見て、不謹慎にも可愛い、と思ってしまった。
それと同時になんだか『心のダムが〜』とか考えていた自分がすごく恥ずかしくなってきた。
「綾乃、ゴメ――――」
「謝るのはナシでしょ?」
謝罪の言葉は途中で俺の唇に当てられた綾乃の指と台詞に遮られた。
何となく唇を動かしてはいけないような気になって黙ってしまうと、
綾乃は首ごと視線を下に向け、
「・・・まあこのカッコは効果あったみたいだし、
この件はそこの正直さと元気さに免じて許してあげる」
そういって俺の股間をしげしげと眺めた。
俺もつられてそっちを見ると、隠していたはずの俺の――まあいわゆる男根が
テントを張ってその存在を自己主張していた。
おそらくソファからずり落ちたときに出てしまったんだろう。
「な・・・!?」
思わず何か言い訳してしまいそうになるが、綾乃は俺の唇を指でつまむことでそれを阻止した。
「まあ、男の子なんだからある程度は仕方ないけど・・・」
そう言うと綾乃は俺の唇から指を離してその手を俺の手に乗せ、
「啓介がそういう目を向けるのは、私だけにして欲しいから」
決壊した。
110シロクロ 11話b 【5】:2006/11/11(土) 07:00:15 ID:2kbYeYfI
「・・・・・・啓、介?」
綾乃の呆然としたような声で俺は正気を取り戻す。
気がつけば俺は綾乃をソファの上に押し倒していた。
ゴメン、とか、済まない、とかは欠片も思わなかった。
ただ、目の前にいる少女が愛おしくて、どうしても彼女の全てが欲しかった。
綾乃は少しの間驚きの表情を見せていたが、
「・・・うん」
表情を真剣なものにかえて頷き、たどたどしくキスをしてきた。
「ん・・・」
いつも通りの触れ合うだけのキスのつもりだったのか綾乃はただひたすら唇を押しつけてくる。
だが俺はそこで終わらず、半開きだった彼女の口に強引に舌を入れた。
「!?」
俺の突然の行為に綾乃が目を見開くが構わずに舌を限界まで突き入れ、先端で綾乃の舌を突く。
口の中が見えるわけがないので己の舌から伝わる感触だけでしか判断できないが、
俺は執拗に自分の舌で綾乃の舌――と思う部分――を責め立てる。
先端で突き、なぞり、全体で絡ませる。
それを満足するまで繰り返し、唇を離すとお互いの唇が唾液の糸で繋がっていた。
それを舐め取ろうと舌を伸ばす。
と、綾乃が伸ばした舌とぶつかった。
多分同じことを考えていたんだろう。
そのことを少し嬉しく思うと自分の舌を使って綾乃のそれを舐め始めた。
綾乃もそれに答えて舌を絡め合わせる。
111シロクロ 11話b 【6】:2006/11/11(土) 07:01:31 ID:2kbYeYfI
「啓介・・・」
「ん?」
「口だけじゃなくて、他も・・・」
その言葉に素直に従い、まずは胸を責めることにした。
両手は既に綾乃の両胸に触れている。
・・・すっげえ柔らかい。
軽く指を曲げるだけでそれが簡単に彼女の乳房に埋まっていき、
確かな弾力でそれを押し返そうとしてくる。
そう言えば手で触るのは初めてな気がするが今はどうでも良い。
今の俺の意識は目の前の双丘とそれに触れた自分の両手に集中していた。
だが俺はあえて揉みはせず、露出した部分の曲線を指でなぞっていく。
最初は右手の人差し指から。
そして中指、薬指、小指と続き、親指まで動かすと左も同じように。
それぞれの指がまるで無数の軟体生物のように二つの柔肌を蹂躙していく。
その動きを止めぬまま綾乃の顔を見ると、明らかに紅潮していた。
「気持ちいい?」
「・・・わかんない。自分じゃこんないやらしいさわり方しないし・・・」
「やかましい」
「・・・自分から聞いてきたのにっひぁっ!?」
最後の悲鳴は俺が彼女の首筋を舐めたからだろう。
そして両手も指を這わせるのをやめ、彼女の豊かな果実を鷲掴みにし、
十指を突き立てるように揉みしだき始めた。
弾力の割にその二つのふくらみは手の中で自在に形を変えていく。
そして俺の手のひらに押し返すと言うよりは吸い付くように触れた乳肉が張り付いてくる。
112シロクロ 11話b 【7】:2006/11/11(土) 07:02:11 ID:2kbYeYfI
「すごいな・・・」
「・・・ありがと」
いつもとは違う、顔を赤らめたまま礼を言う彼女の顔。
それは俺の知らない顔だが、
「なんか今の綾乃の顔、すごく可愛い」
「えっ・・・!?」
その言葉に頬を赤らめる綾乃。
が、俺はそれをあえて無視してゆっくりと右手を彼女の脚へと手を運ぶ。
指先が太ももに触れ、やはり指を這わせる。
ストッキングとそれを通して伝わる彼女の肌の柔らかさは乳房には及ばないが、
それでも俺の肉欲を煽るには十分すぎた。
その感触を味わいながら、左手を彼女の尻とソファの間に潜り込ませる。
綾乃の尻の柔らかさと弾力が彼女自身の重みによって強調され、
俺の手一杯にその感触を自己主張していた。
そして俺の指が綾乃の秘所に触れ――
「待って!」
――る寸前に綾乃に制止された。
113シロクロ 11話b 【8】:2006/11/11(土) 07:15:25 ID:2kbYeYfI
「ええとね、啓介」
綾乃は彼女にしては珍しく俺から目をそらし、
「すごい言いづらいんだけど言わなきゃいけない大事なことがあるの・・・。
あ、でもこうされるのが嫌なんじゃなくてあくまで確認なんだけど」
普段にはない長い前置きを挟んで綾乃は俺に言った。
「・・・今日、危険日なの・・・」
その言葉を聞いた途端、俺は高ぶっていた感情が一気に冷めていくのを感じた。
それを察したのか、綾乃は恐る恐るといった口調で俺に聞いてきた。
「・・・ゴムは?」
「・・・買ってない」
その台詞を聞いた綾乃は、俺に目線を合わせると頭を下げた。
「ホントにゴメン・・・。私から誘っておいて・・・」
顔を上げても彼女はなおも謝罪の言葉を口にした。
「ごめんね・・・」
瞳を潤ませながら再び口を開こうとする彼女の動きを俺は彼女の頭を撫でることで阻止した。
「大丈夫」
何の根拠も脈絡もない発言。
だが俺は彼女の目から溢れそうな涙を止めるために言葉を紡ぐ。
「お前を不安にさせた俺が悪いんだから。だから、泣かなくてもいい」
「・・・うん」
そう答えて目元を拭う綾乃に俺は頭を下げる。
「俺の方こそゴメン。ろくに準備も確認もせずに押し倒して――」
俺の謝罪の言葉は、綾乃が俺の頭を抱え込むことで阻止された。
114シロクロ 11話b 【9】:2006/11/11(土) 07:16:37 ID:2kbYeYfI
「大丈夫」
先ほど啓介から言われたばかりのことを私は本人に言った。
「絶対に最初から上手くいくって言うワケじゃないし」
胸に抱いた啓介のつむじに語りかけるように私は続きを言う。
「ゆっくりでいいから、いっしょにやっていこうよ」
「・・・ああ」
啓介はそう返すと顔を上げて私と目を合わせた。
と、私の胸元に彼の目尻からこぼれた水滴が落ちた。
「・・・啓介」
「・・・なんだ?」
私はあえて、答えの解りきった質問をした。
「もしかして泣いてる?」
「・・・泣いてない」
予想通りの反応。
でも、私はなおも彼に問いかけた。
「だって、目元が濡れてる」「汗掻いただけだから」
「でも・・・」「汗だ」
「・・・うん、そうだね」
私は微笑みながらそういうと啓介の頭を抱きしめ直して彼の顔を隠した。
「いっぱい汗流しちゃって良いから。私がびしょ濡れになるくらい」
その代わり、と私は続け、
「私には遠慮とかしなくていいから、思いっきり甘えたりしていいからね。
昔から啓介って遠慮ばっかりして損してるんだから」
それを聞いた啓介は言った。
謝罪の言葉ではなく、感謝の言葉を。
「・・・ありがとう」
「どういたしまして」
そう返した私は彼の髪を撫で、
「「ただいま〜・・・」」
帰りの遅かった義兄さんと義姉さんが私たちを見て硬直した。
115シロクロ 11話b 【10】:2006/11/11(土) 07:18:01 ID:2kbYeYfI
はいここで現在の状況確認。

私は露出過多なバニーさんスタイルで啓介は私の胸に顔を埋めてて、
その上抱きしめあってソファの上で横たわっている。
うん言い訳不可能。
どうみても現行犯です。本当にありがとうございました。

「「じゃ、がんばって」」
「「ああ待って二人とも〜!!」」
私たちは遠ざかろうとする兄さん達を必死に呼び止めようとした。

結局、誤解を解くのに30分かかってしまった。
116 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/11/11(土) 07:20:55 ID:2kbYeYfI
今回はここまでです。

次こそは・・・、次こそは本番を・・・!
117名無しさん@ピンキー:2006/11/11(土) 07:52:13 ID:vX0jZYpW
GJGJGJGJGJGJGJGJGJGJ
118名無しさん@ピンキー:2006/11/11(土) 12:38:13 ID:jL8jk0oT
age
119名無しさん@ピンキー:2006/11/11(土) 12:56:13 ID:A30jxWVC
ぐはっ!寸止めでこの破壊力か…!
しかし場合が場合だともっと言い訳できない現行犯だったよなw
120アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/11(土) 21:50:52 ID:3F3MzMGV
 
 神様による連続投稿の後で、
非常に気がひけるんですが後半部分を投下したいと思います。
51〜71の続きです。
あと、−が一になってるのは……自分の使ってるソフトだと一の方が直線に見えてたんですが、
いざ投下してみたらあれれ、って感じです。
読みにくいかも知れませんが―の意味ですので。
121アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/11(土) 21:51:58 ID:3F3MzMGV
「でっさー、その硝子って子がさー、何時までもウジウジウジウジ幼馴染みのこと引きずってるの」
 まずいなあ、一人で一瓶開けちゃったよ。
「そりゃああんな最期じゃあ引きずるのも分かるけどさぁ、
 頑張って振り向かせようとしてるこっちとしては、ねえ?
 なんか対象外にすらされてない、そんな感じすらするんだよねぇ」
 その幼馴染みもすっごい良い奴だったから、わからんでもないんだけどね。
「あー、ショウはさ。なんつうか完璧だったんだよなぁ。
 喋り方とか微妙に幼くて、どこか抜けてるとこが在るっていう欠点も含めて、完璧だったんだよね。
 人としてっていうより、憧れの対象として」
 もし女だったら俺が惚れる側だったかもしんねーしなぁ。
「俺がこっち越してきた時にはもう硝子とショウは知り合っててさ、
 子供心に俺は硝子に一目惚れみたいな感じだったんだろーけどさ、勝ち目ない感じだったんだよね」
 思えば奴には生前にも勝った記憶がないなぁ、どうりで俺の性格も直立にひん曲がるわけだ。
「でも一緒にいれて楽しかったんだよね、悔しいことに。
 すげー楽しかった。だから妥協してあのままで良かったんだよね、十分だったの」
 なんだけど。
「ところがね、硝子はイイとこの娘だったからさあ、
 冗談みたいだけど、一回誘拐されちゃったことがあんだよね」
 結果的に、硝子は無傷で助かった。少なくとも、肉体的には。
「ショウもバカだからさあ、俺みたいにスミに隠れてブルブル震えてれば良かったものをさあ。
 呆気無かったよー、あんな完璧な奴も文明の力の前では何の意味も無かったね」
 一緒に公園で遊んでいた所を俺等3人は拉致られた。
  で、四時間以上も薄ぐらい倉庫に放り込まれて。
  駆け付けた警察だかSPだかわからない奴等に対し人質を縦にする犯人。
  硝子を助けようとするショウ。銃声。悲鳴。暗転。
「で、残ったのは幼馴染みの事が忘れられないヒッキーと臆病な馬鹿」
 もう一度酒を煽る、あ、やべっ。
 ……意識が一瞬飛んだ、やべーやべー。
「硝子、ねた?」
 めちゃくちゃ自分だけ喋っていたので硝子に視線を向けてみる。
 みると頬を机に載せてこっちをほんのり赤くなった顔で見返していた。
「その物語の主人公はホント馬鹿だよね、もう何年たったと思ってんの?
 それなのに、週四日もウチのSPに護身術みたいの習ってンだよ?」
  俺に、硝子を守る力があれば、みたいなつもりだった、始めたきっかけ。
「あー、そりゃ激馬鹿だ。でも諦めねーよ」
「バーカ」
122アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/11(土) 21:52:29 ID:3F3MzMGV
「あー、そりゃ激馬鹿だ。でも諦めねーよ」
「バーカ」
 と、赤い顔を笑みの形に歪ませる。
 何かそれが、すげーエロい感じだった。
 ドサっ。
「……?」
 気がついたら、押し倒してた。
「……犯っちゃうの?」
 本当にただ、先生に因数分解のやり方が分からないんです、どうすればいいですか?
 みたいな感じで見返された。
「どうしよっかな」
 なんて間抜けに返した俺に。
「意気地なし」
 なんと自分から唇をぶつけてきた。
「!?」



123アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/11(土) 21:53:11 ID:3F3MzMGV







 翌日はまだ日が登りきっていない時間からデート。
 まあ彼女にとっては昨晩消費しきってしまった物を買いにいくついで、みたいな感じなんでしょうか。
 約束どおりお父さんは何も言わずに了承してくれた。
 さて、最初で最大の問題は何処で何をしようということで。
 日夜バーチャルの美しい世界を東奔西走している彼女を、如何にリアルで楽しませようか。
 ここでゲームセンターとかに連れて行ったら本末転倒な気がするし、
 かといってファンシーショップに連れてっても……似合わねー、気がする。
 つうか、素でファンシーショップに連れて行くオトコってのも苦しいな。
 映画、興味ねー、俺が。
 遊園地、趣味じゃねー、硝子も。
 と、袖をひっぱられる。
「どうした?」
 振り返ると全身黒いのが睨んできた。
 ワンピースなんて可愛らしいもん持ってんのか?
 うん、というか、それ以外にそれらしいもの持ってない。
 ……寒いぞ?――とは朝の会話。
「歩くの速い」
「ああ、ごめん。考え事してた」
 全くこれこそ本末転倒じゃないか。
「そういう男って、どうかと思う」
「いやいや、本当にゴメンナサイ」
「自分で連れ出しておいて」
 心が痛くなってきたので前を向いて歩き出した。
 真冬の寒さが肌を刺す。夕方から雪が振るかもしれないと予報される程の冷気。
  そんななか俺達は色々と微妙な距離を保っていた。 


124アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/11(土) 21:53:42 ID:3F3MzMGV
 取り合えず妥当なところでショッピングモールに行ってみる。
  家からバスに20分程揺られるとひときは目立つ大きなアーケード。
 その中に最近なんだかピンク色の看板掲げたアイスクリームの店が出来たのを思い出し、
 硝子の珍しく女の子らしい一面である「甘いもの好き」(レスザンお酒だが)を狙ってみました。
「司ってこういう店来るの?」
 「変かな? 男子は甘いもの苦手なんていうのは都市伝説だぞ?」
 「そういう訳じゃなくて……で、来るの?」
 「いや、流石に男一人でこういう店はちょっと」
 「のわりには良く知ってたわね?」
  と、既にチョコレートをクリアし、その下にあるストロベリーの攻略にかかりながら硝子。
 「地味にでもポイント稼ぎにいくから」
  顔を突き合わせながらその向いで未だ一つ目のチョコレートの球体をかじる俺。
 「真冬に? アイス?」
  ……そうでした。冬のオリンピックの真っ最中でしたね、トリノは北半球ですよね。
 「……こんな時期にオープンするこの店が悪い」
  ホントに上手くいかない。
  いやになる程甘くて冷たい口は喋るのもおっくうにする。
 「全く、私じゃ無かったらマイナスな所よ」
  と、思い掛けないほど優しい硝子。
 「次別の女の子と来る時は気をつけるように」
  でも結局冷たい。きっと冷たい物を食べてるせいだ。
  というかやっぱり微妙に怒ってるのでは?
 「で、次はどうするの?」
  もう残りはコーンとストロベリー1/3となった硝子。
  早すぎです、頭痛くなったりしないんでしょうか?
 「もうちょい待って、俺まだ半分」
  しかもそろそろキツイ、甘いものは好きだけど、
  普通に朝食食べた2時間後に二段は明らかに選択ミスだった。
 「頂戴、司喋りながらだと食べるの遅い」
  しょーが無いでしょ。
 「あい」
  と食べかけのミントを手渡す。
 「関節ちゅー、とか言ってみる」
 「昨日ホントのちゅーしたでしょ」
  と全く動じた気配のない硝子、面白くない。
  もっと中学生みたいな反応を期待したのに、あり得ないけど。
  さあ硝子がこれを食べ終わるまでに次を決めないといけない。
  計画性ないなあ、俺。
  でもこうやってアイスクリーム頬張ってる硝子を見てるのはかなり楽しいぞ。
  ……だから考えろって、俺。

125アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/11(土) 21:54:13 ID:3F3MzMGV

  どうしても硝子を喜ばせるような場所に見当が立たなかったので、
  自分の買い物に付き合わせることにした。
  元々なんでもよかったのか、硝子はあっさりとオーケーをくれたのがせめてもの救い。
  自分でも今日はなんだか空回りしている気がするが、ここは突っ走ろう。
  この前縁が破れてしまったバッグの代わりを買って、
  後はこのいつもは味も素っ気も色気も無い格好をしている硝子が、
  折角ワンピースなんて着てるのでそれに見合う小物を捜してみる。
 「私そういうの興味ないから」  
  なんて態度なのは分かってたから俺が選ぶ。
  でもやはり女の子、初めてくる……のか?
  とにかくこういう小物店に興味が少なからず在る様子。
  先程から帽子のコーナーをうろうろしているので、俺も硝子に似合いそうなのを捜す。
  ふと硝子が縁の無い帽子を深めに冠った。
 「どれどれ、見せてみんしゃい」
 「……」
  あー、駄目だ。
 「駄目、目が隠れちゃってる」
  ひょいっと帽子を取る。
 「そんなに隠れて無かったよ」
  その帽子が気に入っていたのか残念そうな硝子。
 「俺がダメなら駄目なの」
 「まあ、そうなんでしょうね」
  俺が選んだのをぽすんと被せてみる。
 「うーん、俺としてはすげー可愛いんだが」
 「じゃあ駄目ね」
 「なんだよそれ」
 「あはは」 
  なんていいながら鏡の前まで行くと、満更でも無い様子で細かく微調整してみたり。
  なんだかその仕種が、何時もよりも服装も相まって凄く可愛く見えたりしてみたり。
  その後も色々迷ったようだが、結局俺の選んだのを買った。
  ……当然俺が金は出したぞ?
  まあ、こいつ金持ちだから有り難みはそんなに無いかもしれないけど、
  そこはほら、気持ちで。


126アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/11(土) 21:54:45 ID:3F3MzMGV

  なんて雰囲気のあるデートを楽しんで、もう6時だ。
  アーケード街だから分からなかったが外は雪が降り始めているらしい。
 「そろそろ帰るか」
  頷く硝子。
 「ん、今日は楽しかったか?」
  再び頷く。
 「そうか、それなら幸いです」
  うやうやしく礼をする俺。でも顔をあげると悲しそうな硝子の顔。
 「でも、駄目」
  ……。
 「そっか、それは残念。次回も頑張るよ」
  合格点は、もらえなかった。
 「もう、止めてよ」
 「嫌だね」
 「絶対私は駄目だと思うよ」
 「俺もそう思うまではやめないよ」
  辛そうに首をふる硝子。
 「私、ずっとショウの事好きだから」
 「もう死んでる」
  冷たく言い放ってやる。
 「だからこそ、ずっと好きだから」
 「っ……」
  だったらそんな半端な態度を取るなよ。
 「じゃあお前、俺の事嫌いかよ?」
 「その質問は卑怯だし、それに的外れ……」
 「じゃないよ」
  っていうか知ってるんだよ。
 「何処がよ?」
 「だってお前、俺の事好きだもん」
  っ。息を飲む硝子。
 「じゃなかったら、俺とっくに諦めてる」
  目を閉じて俯いて、硝子は何かを堪えるように立ち尽くした。
  と、いきなり。
 「! 硝子!!」 
  突然走り出す硝子。
  アーケード街の出口へと向かって一瞬で人込みへ消えた。
  慌ててそれを全力で追う。
  途中何度も人とぶつかるがしったこっちゃ無い。
  アーケードを出たところで硝子は黒い車に乗り込んだ。
  っくそ! やっぱSPつけてやがったか。
  見覚えのある車に毒づく。
  あのお父さんも余計な事をしやがる。
  急発進した車のナンバーを覚える、追う。
  しかし外は早くも積もりはじめた雪で足場は最悪に近かった。
  中々の豪雪。
  構わず、ただひたすらに、走る。

127アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/11(土) 21:55:20 ID:3F3MzMGV


  一一昨夜。
 ドサっ。
「……?」
 気がついたら、押し倒してた。
「……犯っちゃうの?」
 本当にただ先生に、因数分解のやり方が分からないんです、どうすればいいですか?
 みたいな感じで見返された。
「どうしよっかな」
 なんて間抜けに返した俺に。
「意気地なし」
 なんと自分から唇をぶつけてきた。
「!?」
 ただ、唇を合わせるだけ、何もしない、形式だけのキス。
  お互い、目は開けっ放しだった。
  それが、最悪だった。
  口は塞がってたのに、俺は硝子の言葉を聞き取ってしまった。
 「ごめんなさい」
  ゆっくりと、でも強く硝子を引き離す。
  硝子は、俺を哀れみやがった。
  まるで自分は第三者のように。
  まるで自分とは関係無いかのように。
  まるで自分の心はそこには無いかのように。
  硝子の方を見ると既にもとの位置に座って、ばつが悪そうにしていた。
 「ごめんなさい……」
  また謝りやがった。
 「明日」
  勝手に自分の口が動き出す。
 「明日、デート。それで許してやる」
 「うん……解った」
  泣きそうな顔で了承してくれた。


128アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/11(土) 21:56:16 ID:3F3MzMGV

  こういう時に限って車は信号に引っ掛かってくれない。
  日々鍛えていた事がこんな風に役にたってしまうとは、
  硝子を守る為に始めた事なのに、彼女を追うのに役立つ。なんて、皮肉。
  もう15分以上全力疾走を続けている、
  2度程見失ったがナンバーを頼りになんとか追跡を続けている。
  雪のせいかできた渋滞につかまったのか、やっと距離が縮まりだして、
  残り50メーターくらいまで追い詰めた。

  と、その時。
  それは、唐突に。

  
  車の隣を、走っていた、トラック、

  ーーーーー ーーーーー!!
  倒れて、下敷一一
 「硝子!!」

  走る。
  雪に足を取られたトラックが硝子の乗った車に倒れこんできやがった

  叫ぶ。
  トラックの運転手が助手席の方から這い出して来る

  硝子!
  運転手を殴り殺したいところだが

  硝子!
  トラックの積み荷が出火している。

  叫ぶ。
  なによりも先ず先に

129アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/11(土) 21:56:46 ID:3F3MzMGV


  叫ぶ。
  車に駆け寄ると前のドアからSPが出てきた。
 「おい硝子は!?」
 「ここは危険です、早く離れて下さい司様!」
 「硝子はどうしたってんだよ!」
 「今私が助けますから、司様どうか」
  冗談じゃない、こいつは硝子を車内に残してでてきたんだぞ?
  俺は会話を諦め行く手を阻むSPに抜手を打ち込む。
 「っが!」
  手加減無しの一発が刺さると、前のめりに倒れた。
  また、SPにならっていた護身術が皮肉に生きた。
  そんなのは無視して後部座席の窓を叩く。
 「硝子、硝子!」
  硝子は後部座席で正面を向いてぼーっとしていた。
  こっちを向くとふらりと笑って。
 「早く逃げなよ、危ないよ」 
  なんて目で見てきた。
 「ざっっけんな、今開けるからな!」
  しかしドアが拉げて開かない。
  車が丁度拉げてSPが出てきた助手席の方からでは、硝子を助けだせそうにない。
  後部座席のドアに力を込める、とにかく込める。
 「もういいよ、私司に沢山酷い事した」
 「だから償えよ! 俺を幸せにしろよ!」
 「でも、私はショウを選んだんだよ?」
 「あいつの事は忘れろとは言わない! でもお前のせいじゃない!」
 「でも私と一緒にいなければ……」
 「うっさい! んなこと言うな、あいつが自分でやったことだ!
  あいつだって、あいつのせいでお前はトラウマもらって!
  あいつのせいで俺以外とは会話できなくなって。
  あいつのせいでこんなに苦しんでんじゃねえか!」


130アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/11(土) 21:57:31 ID:3F3MzMGV



  一一3人で誘拐された、あの日
  目の前で、自分のせいで、イチバンスキナヒトを、殺された硝子は

  『声』を失った。

  いろんな医者が手を打ったが回復の兆しはいっこうにみえず。
  彼女は完全に喋る事ができなくなっていた。
  それでも俺は硝子に話し掛け続けた。
  まわりは彼女がふさぎ込むのを半ば仕方ないと諦める中。
  俺はとにかく話しかけ続けた。

  そうしたらあるとき、硝子の『言葉』が聞こえた。

  聞こえた、というより解った。
  彼女の目を見たら、彼女の言いたい事が解るようになっていた。
  

131アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/11(土) 21:58:02 ID:3F3MzMGV

  俯く硝子、そうされると俺は硝子の言葉が聞こえなくなってしまう。
 「硝子! おい、おい!!」
  トラックの火がヤバい、もうつかんでいるドアですら熱くなっている。
  中も相当暑いはずなのに、硝子は一向に動こうとしない。
 「返事しろよ!!」
  ぴくりと首を持ち上げて、歪んだ顔を向けてきた。
 「嫌だよ、逃げてよ司。死んじゃうよ」
  お前は。
 「自分の事だけかよっ! 俺に二回も好きな奴見殺しにさせんのかよ!
  んなもん一生に一度でも多すぎんだよ!」
  びくっ、と硝子が体を震わせる。
 「自分のせいとか考えるな、さっきも言ったけどそれってすっげー失礼だぞ!
  俺達は自分の為にやってんだよ! 自分がそうしたいからやってんだよ!」
  またもや俯いて言葉を遮断してしまう硝子。
  構わず続ける。
 「つうかどう考えても今回のはお前のせいじゃねー!
  素人丸出しの運転手が悪いんだよ! 
  だから気にすんな。そんで俺と一緒に生きろ!
  俺はあいつと違って死んだりしない! だからお前も死ぬな!!」

  すると、
  車内から、『声』がした。
 「私はまだ、ショウの事が好きで」
  ぽつりぽつり
 「でも、でも司も好きで!」
  ぽたりぽたり。
 「そんな、だけど……いいの?」
  大粒の涙と共にそんな言葉を落とした。
 「十分すぎんだよ、んのバカ」
  硝子の声が聞こえた。
  今まで唯一彼女の言葉を理解して、しかし一度も彼女の声が聞くことは出来なかった。
  何年も聞きたかった声。硝子の声。
  その声が聞こえた。
  そんな俺が。
  こんなショボい扉を開けられないはずもなく。
  がぎんっ!!
  骨とか筋肉とかに思いっきり負担をかける、今の音はドアと俺の体の音かもしれない。
  ぶっ壊したドアを脇へよけると、硝子が飛びついてきた。



132アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/11(土) 21:59:01 ID:3F3MzMGV



 「硝子!」
  警察とか色々いって疲れ果てて家に帰ってくると、義父さんがかけよってきた。
  もう2時を回っていたが、玄関でまっていたらしい。
 「大丈夫だったかい硝子、怪我は?」
 「大丈夫よ、父さん」
  硝子の声を聞いて目を見開く義父さん。
 「俺の、勝ちっすね」
  にやりと笑ってやる。
  それを取り戻したのは、俺なのだ。
 「……ああ、そうだね」
  苦笑される。
 「じゃあ、さっそく悪いんですけどしけこむんで」
  そう言って硝子の手を握って寝室へ向かう。
 「え、ちょっ。しけこむって!?」
  硝子が戸惑いの声をあげる。
 「意気地なしとかさんざ言われたからな、男としてのプライド取り戻さないと」
 「あらあら、お疲れでしょうに……若いですねぇ」
  のんびりとお手伝いさん。
  義父さんは固まっているんだろうか? 
  後ろから何か硝子の声が聞こえるのが嬉しくて、つい顔がにやける。
 「あーもうエロい顔して、ちょっと、御飯は?」
 「今から食べるからいらない」
 「下品!!」
 「あはははは」



133アルコール ◆piEfblYWC. :2006/11/11(土) 22:05:39 ID:3F3MzMGV


 ……はい、おしまいです。
エロい所は、また機会があれば投下します。
でも、基本的にこの二人のお話はこれで終了です。

 また、筆がのったらここに投下したいと思います。
私にはこのくらいの長さ(短編?)が限界ですが。

 最後に、ちょっとくらい面白いと感じてくれた人、
つまんねー……けどなんとなく読んでやったぜって人、
とにかく、読んでくださった方々、本当にありがとうございました。
では、できればまた。
134名無しさん@ピンキー:2006/11/11(土) 22:17:39 ID:lp3yoQhb
ktkr

諦めない男はカコイイ
135名無しさん@ピンキー:2006/11/12(日) 00:57:34 ID:AwAOMmmS
熱いねぇ。こういう男は大好きだぜ!

出来れば二人の熱い夜もよろしく!!
136名無しさん@ピンキー:2006/11/12(日) 01:36:34 ID:g0i3SnX6
作者さん乙です
この文体いいなぁ。こういうのを書けるようになりたい。
137伊南屋:2006/11/12(日) 14:34:12 ID:dJxcfGOa
 あー、死にてーなー。
 そう考える事は大して珍しくもない。
 例えばそれは、翌日に控えたテストが既に大惨事確定な感じの時とか。
 淡々と世界への絶望を書き連ねた小説を読んだ後とか。
 あとはそう。
 昔から好きな女の子に恋人が出来た時とか。
 そんな感じの時だ。
 と言うか。
 今の自分はこれらに完璧に当てはまっていた。
 お隣さんの幼馴染みが好きだった俺は、彼女が恋人を作ったと、よりにもよってテスト前に知らされ、勉強が全く手に付かなくなった。
 そうなるとテストの結果が惨憺たるものであることは想像に堅くなく、仕方なく俺はすっぱり諦める事にした。
 気分転換に父親の部屋にある本棚から適当に小説を選び、読み始めてみれば。それは世の中の不条理や神の不在を嘆き。あげく「人の命の価値は、その人間の体重と同じ重さの生ゴミと同じだ」なんて台詞が飛び出る話で、思い切り落ち込んでしまった。
 あー、死にてーなー。
 ぐるぐると思考がループする。
 回る思考は負に沈み螺旋を描く。
 いっそ世界滅亡しねーかなー。
 そんな事まで考えるあたり最悪だった。
 もう、ひたすらに鬱だった。
 そんな風にヘコんでいると、部屋の窓がノックされた。
 こつこつとガラスを叩く音。
 相手は分かってる。俺がこんな状態になってる大元の原因だ。
「修矢、起きてる?」
 カーテンに覆われた窓の向こうから名を呼ばれる。
 ――ああ、くそ。声聴くだけでちょっと嬉しいじゃねえか。恋する乙女か俺は。
 いや、確かに恋はしているんだけどさ。……失恋したけどさ。
 落ち込みを深くしながら鍵を開けてやる。
 カラカラと音をたて、サッシが開けられた。
「ゴメンね? 勉強中だった?」
 そう言って部屋に入ってきたのは、肩口まで髪を伸ばした少女。俺の好きな、女の子。
 吉川冬雪(よしかわ ふゆき)だった。
 彼女は屋根伝いに行き来が出来る為、たまにこうして俺の部屋を訪れるのだ。
「なんだよ、こんな時間に」
 時計を見れば時間は十一時。いつもならこんな時間にはまず来ない。
「ん、ちょっとね。相談したい事があって」
 その言葉に俺の思考が警告を叫ぶ。
 聞くな。これは今のお前には辛い話だ。現実を突きつけられるぞ。後悔するぞ。
 そんな風に。
 そんな心の警鐘は無視して、俺は必死に平静である事を取り繕う。
「何だよ? 言ってみ?」
138伊南屋:2006/11/12(日) 14:36:34 ID:dJxcfGOa
「えっとさ……。テスト明けにデートに行くことなってさ。だから男の立場からアドバイスして欲しいなって」
 ――ああ。やっぱり後悔してしまった。
 否が応でも知らしめられる。冬雪が俺ではない人間の恋人になったのだと。
 あー、死にてーなー。
 また、思考が絶望に染まる。
 必死にそれを抑えつけ、当たり障りのないアドバイスをしてやる。
 冬雪は熱心にそれを聞いていた。
 いくつかの質問と応答を繰り返し、それなりの方向性が掴めたらしい。
 冬雪は礼を言って、来た時と同じように、窓から自室へと戻って行った。
 俺はそれを見届けると、カーテンを閉め、ベッドに身を投げ出した。
 そっと、届かない問い掛けを今はいない彼女に投げ掛ける。
 ――なあ、知ってるか? 冬雪。俺はお前を想うと死にたくなるんだ。それくらいに好きなんだ。
 今でも想ってる。
 一緒に居たいよ。だけど、一緒は痛いよ。
 居たいんだ。痛いんだ。
 その夜。
 名雪が俺以外の人間の恋人になってから何度目だろう。
 眠れぬままに俺は枕を涙で濡らしたのだった。
139伊南屋:2006/11/12(日) 14:37:54 ID:dJxcfGOa
 涙が止んで。
 俺は眠れないでいた。
 好きな女の子が自分以外の男と、デートすると聞いて何も思わない奴が居るとすれば。俺はそいつの恋心、ひいては愛情を疑わなければならない。
 つまり俺は、冬雪の相談が元でこうして一睡も出来ずに朝を迎えたのだ。
 太陽が黄色いぜ。
 有名な一節を呟いてしまう程に正常な思考は失われつつある。
 完徹した後ながら隈が出なかった辺りは幸いと言うべきか。
 家族に感づかれる事もなく、普段通りの朝を過ごす。
 それにしたって致命的だ。
 勉強をして眠らなかった訳でもなく、加えて精神状態は最悪。今期のテストは救いようが無さそうだった。
 呆ける頭で準備を済ませ、家を出る。
 照りつける太陽が心底鬱陶しい。
 あんまりムカつくんで中指を立て、太陽に向かい“FUCK OFF”。
 こんな事する辺り相当にマトモじゃない。
 流石は徹夜ハイとでも言うことか。
 それでも習性のままに足の運びは学校へ。
 なんかフラフラするなー。体が軽いんだか重いんだか分かんねー。
 そんな事を考えつつ歩く。
 そういえば冬雪と一緒に登校しなくなったのは何時からだったか。
 昔はあんなに一緒だったのに。
 朝から晩まで二人で遊んで、あの頃は楽しかった。掛け値無しに満ち足りていた。
 意識は過去へと向かう。
 取り敢えず。

 俺が覚えているのはここまでだった。
140伊南屋:2006/11/12(日) 14:40:18 ID:dJxcfGOa
 記憶、現実と思考が乖離して。
 意識は過去へと向かったままだ。
 懐かしい景色。まだ幼い俺と冬雪が二人、仲良く手を繋いで歩いてる。
 余りに幼過ぎて、恋心なんか知らなかった。
 それでも俺は冬雪が大好きで、きっと冬雪も俺が好きだった。
「ねえ、しゅーくん」
 幼い冬雪が口を開く。
「なぁに? ふゆちゃん」
 まだお互いをそんな風に呼び合っていた時の事。
 あれは確か、どちらかの家で、ままごとをして遊んでいた時だった気がする。
「しゅーくんはしょうらいなんになるの?」
 他愛の無い問い。その時の俺は何と答えたのだったか。
「わたしはね、しゅーくんのおよめさんになる!」
 ――ああ、そうだ。俺はこう答えたんだった。
「じゃあ、ボクも! ボクもふゆちゃんのおよめさんになる!」
 言葉の意味はよく分からなかったけれど、ずっと一緒だって事は分かってた。
 だからそう答えたのだ。迷い無く。
「やくそくだよ! おとなになったらけっこんするの!」
 そう言い出したのはどちらからだったろうか。
 それは幼さ故の単純な約束。だけど、願いにも似た、真摯な想い。
「じゃあ、ゆびきり!」
 そう言って絡めた小指の感触を、俺は今も覚えてる。
141伊南屋:2006/11/12(日) 14:42:31 ID:dJxcfGOa
 気が付くと白い天井を見上げていた。
 目が覚めた事にすら気付かずに。
 未だはっきりしない脳には、音が届かずに、耳の機能を失ったのかと不安なる。
 しかしそれは、自らの呼吸音が否定してくれた。
 ここにあるのは、唯ひたすらの静けさ。
 鼻を突く消毒液の匂いが、ここを病室だと思わせる。改めて辺りを見渡そうとベッドに横たえられている体を起こそうとした。
 しかしそれは、激痛によって叶わない。
 ――何があったんだ。
 自分の身に何が起きたのか。記憶を掘り起こすも、全く思い至らない。
 恐らくは記憶が飛んでいる。
 恐慌を引き起こしそうな心を無理矢理抑えつけ、視線だけを巡らす。
 薬品の瓶。白い天井。バイタルサインを映す機器。体に掛けられたシーツ。
 そういった物が、やはりここが病室である事を告げてくる。
 体の感覚はあまりない。きっと麻酔がまだ効いている。
 自分は一体どれくらいの時間を、この病室で過ごしたのか。
 天井を見上げて考えいると病室のドアが開けられた。そこに居たのは。
「冬雪……」
「修矢、目が覚めたの!?」
 半ば突進するような勢いで冬雪が突っ込んでくる。
 瞳に涙を浮かべ俺を見る姿に、ああ、やっぱり好きだな。なんて、場にそぐわない事を思った。
「なあ冬雪。俺……一体何があったんだ?」
 その言葉に冬雪が顔を曇らせる。
「覚えてないの……?」
「ああ……全く」
「そっか……。修矢はね、交通事故にあったの。それで三日間意識が戻らなかった」
 三日間。そう聞いて真っ先に思い浮かんだのは、テストが受けられなかったという事だった。
 人間てのはこういう時に結構どうでも良い事を気にするらしい。
「それで、俺の怪我。酷いのか?」
「腕とか何ヶ所か骨折してる。左半身を特に。ただ命に別状は無かったって。内臓も無事」
「……それだけか」
「――……うん」
「……そうか」
 体は麻酔が効いていて自分の感覚ではどうなっているのか分からない。
 一応、状態が知れて良かったか。
「心配かけたな」
「……ううん」
 場を重い沈黙が支配する。
 互いの息遣い以外は、耳が痛くなる程の静寂。
 時が止まったかの様な静けさ。
「せ、先生とか読んでくるね」
 停滞を破り、焦ったように冬雪が病室を後にする。まるで、逃げ出すかの様に。
 取り残された俺は深い溜め息を吐きながら、ベッドに身を深く沈めた。
142伊南屋:2006/11/12(日) 14:47:55 ID:dJxcfGOa
 その後、医師から俺の現状について説明があった。
 その際に聞かされた俺の体の状態は思った以上に俺の心を打ちのめした。
 左半身を強く打ったらしく、特に左半身に怪我が集中していた。
 左鎖骨骨折。左上脚骨折。右肩脱臼。
 そして。
 左手切断。
 俺は左手を失っていた。
 手首から先が完膚無きまでに潰されたそうだ。治療の施しようなんか毛の先ほどもなかっただろう。
 冬雪は、俺が聞いた時この事は言っていなかった。知らなかったのだろうか?
 否。答えは否だ。
 冬雪は知っていてそれを隠した。
 そんな事、すぐに分かることなのに。
 それでも、俺を憐れんで黙っていた。傷つけないために、余計傷つくだけなのに。
 ふとある思考がよぎる。
 あー、死にてーなー。
 冗談なんかではなくそう思った。
 無論、そんな勇気は俺には無かったが。
143伊南屋:2006/11/12(日) 14:49:23 ID:dJxcfGOa
「なあ冬雪。お前確か明日デート……だったよな」
 医師の説明の後、病室に戻って来た冬雪に俺は尋ねた。
「うん。でも行かないよ。修也がこんな風になってるんだもん」
「……行けよ。遠慮すんな。俺は割と平気だし、別にお前がいる必要は無いだろ」
 しばしの沈黙の後、冬雪は答えた。
「……行かないよ」
「……っ! 行けよ!!」
 俺の怒鳴り声に、冬雪が身をびくりと震わせる。
「行けよ! 明日はデートに行け、ここには来るな!」
「……どうして?」
 ――そんなの、こんな姿を。冬雪に同情されるような、惨めな姿を見られたくないからだ。
 それを俺は言葉にせず、ただ「来るな、行け」とだけ返した。
 冬雪の顔を見る事は出来なかった。「どうして」と聞いた声が震えていたから。
「……行けよ」
 これで最後だと、言外に込める。
 冬雪はどんな顔をしていたのか。
 しばらく黙り込んでいたが。
「分かった」
 とだけ言い。荷物をまとめ帰り支度を始める。
 その間、耐え難い沈黙が満ち、俺は冬雪と目を合わせないよう、必死に窓の外に視線を向けた。
 背後で病室のドアが閉まる気配がした。
 言葉もなく冬雪が去っていく。
 俺独りになった病室は余りに静か過ぎて。
 まるで世界に独り切りみたいだった。
144伊南屋:2006/11/12(日) 14:52:07 ID:dJxcfGOa
 目が覚めれば昼下がり。
 瞳に映るのは昨日から眺め続けた変わり映えのない白い天井。
 未だに麻酔で感覚の曖昧な体も相俟って、夢なんじゃないかとすら思う。
 まるで白い世界にふわふわ浮かんでるみたいだった。
 憂鬱な気分は昨日から変わらずのまま。
 点滴の垂れる様子を見つめながら呆けていると、病室に人が訪れた。
「調子はどう?」
 余りにも普通に、そこに冬雪が居た。
「……行けって言っただろうが」
「うん、だから行ってきた。用事だけ済ませて帰ってきたけど」
「何だよ、用事って」
「有り体に言えば別れ話。貴方とはやっぱり付き合えません。御免なさい。……って」
 耳を疑った。
 別れ話?
「何で、そんな……」
「“関係無い”。関係無いんだよ、修也の怪我とは。これはずっと決めていた事」
 冬雪はそう言って、少しだけ寂しげな笑みを浮かべる。
「私の欺瞞はこれで終わり。……ようやくね」
 ――なあ、何言ってんだよ。分かんねえよ。
「“しゅーくん”あのね?」
 昔みたいに、俺を呼ぶ。
「私達、ずっと一緒だったでしょ? 本当に小さかった頃から、今の今まで」
 そこまで言って一呼吸。
「私は、それが怖くなった」
 ――何が、何が怖いっていうんだろう。
 冬雪はそれを語り出す。
「ずっと同じ町で、ずっと同じ人と、ずっと同じ様に過ごす。それは確かに、幸せの一つの形なんだと思う。でも思ったの。私は思っちゃったの。それは凄く狭い世界で生きていく事なんじゃないかって。檻に囚われて生きるのと同じだって」
 俺の右手に冬雪の手が重ねられる。
「そんな時に告白されて、チャンスだって思った。広い世界を知れるって。――実際、色々知れたよ。楽しい事も、そうじゃない事も。……でも、何も変わらなかった。何も。私自身が、私の想いが」
 冬雪と目が合った。
「それで気付いたんだ。私が居た世界はとても狭かったけれど、それでも確かに私の居場所だったんだって。私の想いが限られた選択肢から消去法的に選ばれたんじゃないって」
 その、言葉の意味は。
「ねえ、しゅーくん」

「私はしゅーくんが好きなんだよ」

 
145伊南屋:2006/11/12(日) 14:54:53 ID:dJxcfGOa
 俺はすぐには答えられなかった。それでも必死の想いで言葉を紡ぐ。
「……俺は、昨日思ったんだ。お前に憐れみを向けられたくないって。左手の事を最初隠されてたって知った時、悔しくて、情けなくて死にそうだった。だから、あの時一緒に居て欲しくなかった」
 動かぬ体がもどかしい。軋む身体を無理矢理に動かす。
「何でか分かるか? どうして俺が、悔しくて、情けなくて、お前と一緒に居たくなかったか」
 痛むな、震えるな、動け、俺の体。
「俺も同じなんだ」
 辛うじて動く右腕で冬雪を抱き寄せる。
「好きなんだ。俺も、冬雪の事が好きだ」
 ――ああ、簡単じゃないか。俺は動く。言葉もある。こうして冬雪を捕まえて、想いを交わす事が出来る。十分だ。
 俺達はどちらからともなく、唇を重ねた。
 曖昧な感覚の中。腕の中の冬雪の体温だけが、やけにはっきりと伝わる。
 心の底から愛しくて、離れたくなかった。
 けれど二人はゆっくりと唇を離す。
「指輪、交換出来ないね」
 少し荒い息を吐きながら冬雪が言った。
 悼みに耐えるような表情で。
「……なあ冬雪」
 俺は右腕に力を込めた。
「結婚ってのは契約なんだそうだ」
 冬雪は少し震えていた。
「互いに指輪を交換し、誓いをたてる。指輪にかけて、一生愛すると」
 俺は冬雪の肩の震えを抑えるように、きつく抱き締める。
「……俺はもう、その契約は出来ない」
 左手を失った俺は誓いをたてる事は出来ない。
 ――でも。
「冬雪、右手出して」
 恐る恐る冬雪が右手を差し出してくる。
 俺はその右手の小指をとり、そこに自分の小指を絡めた。
「だけど約束はできる」
 きつくきつく小指に力を込める。離れ得ぬよう、二度と解かないとばかりに。
「――約束するよ。俺は残された一生。冬雪を愛して生きる。……いや、冬雪を愛する為に生きるよ。――絶対に、必ず」
 残された右手で誓いはたてられない。それでも約束は出来るのだ。
 幼い子供の頃の様に。
 ただ純粋な願い。“ゆびきり”の約束。
「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーます」
 いつかの様に謡う。心の底から、叶え、と。この約束を守る、と。
 願いにも似た、真摯な想い。
 そして、言葉と共に、一生をかけた約束は交わされる。

「ゆーびきーった」


Fin.
146伊南屋:2006/11/12(日) 15:01:44 ID:dJxcfGOa
 このスレの皆さんは初めまして。伊南屋(いなみや)と申します。
 暗い内容でしかもエロなしですが投下させて頂きました。
 問題点の指摘とか感想とか頂けるとすごいありがたいです。
 後はこんなの読んでみたいとかのリクエストも募集してます。
 未熟者ではありますが精一杯頑張りますので。

 それでは以上。伊南屋でした。
147名無しさん@ピンキー:2006/11/12(日) 15:13:59 ID:6k/SCvgz
ktkr

今度は逆に情けない主人公だな。
冬雪の心の動きが今ひとつ分からないというか違和感ある。
148名無しさん@ピンキー:2006/11/12(日) 20:33:07 ID:JLE8UMSt
けどGJ!!
149名無しさん@ピンキー:2006/11/13(月) 00:28:03 ID:aNpgIKSb
こういう幼馴染に恋人ができて、けどいろいろあってハッピーエンドな話がよみたいなーって思ってたから、よかった。
…はずなんだが、どーもしっくりこないな。
うまく言えんが…冬雪は告白してきた男が別に好きでも何でもないみたいだし、それなら修矢への想いへもなんら影響を与えない気がするんだよなー。

と、これだけだとチラシの裏だ、ってことで一つ。
人体切断とか直接の描写はなくてもそういう展開など人を選ぶ可能性がある時は、投下前に一言断っておいた方がいいかも。
150名無しさん@ピンキー:2006/11/13(月) 06:23:36 ID:sAuDMm/4
左手切断の手術がいつ行なわれたのかははっきりしないが、少なくとも目覚めてから
一日経ったなら、麻酔は体に残ってねえんじゃねえの? とか必要ないから削ったん
だろうが、大事故なのにしゅーくんの家族が全然出てこない所とか違和感が残って
駄目だった。
151伊南屋:2006/11/13(月) 07:02:27 ID:vKfWK11d
 率直な意見ありがとう御座います。
 全体的に描写不足って事ですね。いつも二次創作で書いてたから共通認識が多くて説明的な文を書くのに慣れてないんだと思います。

 懲りずにまた書いてるんで投下の際にはまた指摘等お願いします。
152名無しさん@ピンキー:2006/11/13(月) 07:37:04 ID:oaNvG8ds
描写不足というより展開不足かな。
踏むステップを一足飛びにして最後まで進んでるイメージ。

主人公へ相談する程度にはデートを楽しみにしていた(と読める)のに、
別れ話してすぐ主人公へ告白ってのはフツーにだめー★だろ。
相談する時に主人公を試してガッカリするそぶりとか、
事故前後に主人公に惚れ直すシーンとかあればなあと。

それにこの主人公、悩んで事故って拒絶しただけじゃん。
最後の展開がかなり浮いてるよ。
153名無しさん@ピンキー:2006/11/13(月) 16:56:12 ID:8M5hbuwV
GJ!意見を真摯に受けとめてね。
次回作期待してるよ!
154 ◆NVcIiajIyg :2006/11/13(月) 22:00:10 ID:76m3Gqxl
だけど約束はできる、ていうのがいいなーと思ったです。

>>84の続きになります。
ちょっと長くなりましたが、今回で終わりです。
エロが書けたので満足した!満ち足りた!
155『さよなら幽霊屋敷(下)』1/12 ◆NVcIiajIyg :2006/11/13(月) 22:01:28 ID:76m3Gqxl




重い扉を押し開けて、秘密基地を首だけで覗いた。
ギギイと耳を押すみたいに蝶つがいが軋む。

「みのりちゃーん。来たよ」
「アツキ!待ってたわ、いらっしゃい!」
お目当ての女の子は、なぜか普段と違う奥の廊下から嬉しそうに滑ってきた。
一旦ふわりと浮いているのを待ちきれなくて駆け寄って、抱きしめようとした。
冷たい感覚だけが身体をすうっと通りぬけ、そのまま勢い余って前に倒れたら
膝を思いっきり段差にぶつけて立ち上がれなくなった。
「うう……」
そうでしたさわれませんでした。
すごくかっこ悪い。
落ち込みながら痛い身体を抱え込む。
「ばかねー。何度もやってるのに、全然懲りないんだから」
くすくすと笑って、転んだわたしを友達がのぞきこむ。
見上げた先にスカーフが薄く皺を作り、襟元からは鎖骨が見えていた。
ん?とみのりちゃんは目を見開いた。

連れてこられる途中で話を聞いて、啓ちゃんを外において説得に来たのだった。
まだ一緒にいたいって、
啓ちゃんは諦めてても私は絶対諦めないんだからって、言おうと思っていたのに。
笑い顔を見たら何も言えなかった。

泣きたいくらい優しい声が陽射しみたいに降ってきた。
「アツキ、どうしちゃったの。啓伍は外にいるんでしょう?」
空色に透けた幼馴染の幽霊は、きれいだった。
黒髪は長くて光の輪を作るくらいつややかで、私の薄い色のくせがある髪とは全然違う。
意地悪そうにいつも笑っている口元は何かを言いたげにつぐまれていて
プリーツスカートがうっすらと足首と靴の間だけ見せていた。
みのりちゃんは、啓ちゃんが初めて好きになった女の子だ。
156『さよなら幽霊屋敷(下)』2/12 ◆NVcIiajIyg :2006/11/13(月) 22:03:09 ID:76m3Gqxl

「もしかして。みのりちゃんは、幽霊じゃないのかな」
「今頃何を言っているの?」

みのりちゃんは悪びれもせずに目を細めた。

「足があるのに、幽霊なわけがないじゃない。
 ずっと、勘違いしたままかと思っていたわ」
それはそれで面白かったんだけどね、と何だか分からない女の子は静かに笑う。
そっか。
私達にそんなちょっとしたとこでも合わせてくれていたんだ。
「でも、みのりちゃんはみのりちゃんだよ」
「ありがと。ま、触れないし歳もとらない、おまけに身体がないんだから、幽霊みたいなものよ?
 あまり間違ってはいないわ。違いなんて、割と好きに動けることくらいかしら」
「そっか。そうだね」
でもどこも行かないでと言おうとして口をつぐんだ。
差し出された細い腕に、触れると、うっすらと冷たくてやっぱりさわれなかった。
立ち上がって少しだけ私より高い背の女の子が、知らない制服で向かい合う。
わたしを上から下まで眺めてみのりちゃんは腰に右手を置いた。
「白いセーターに薄い桃色スカート、いいじゃない。ウエディングドレスになるわよね」
ふと表情をなくして彼女は廃墟を見渡した。
私は行かないでと言おうとした。
ステンドグラスからきれいな色とりどりの光が落ちていた。
「今日は結婚式にはいい日ね」
みのりちゃんは目を和らげる。
「話は聞いてるでしょ?啓伍を呼んできて」
「い、」
「ん?」
「……行かないで、みのりちゃん」
蚊が鳴くみたいな声にしかならなかった。
みのりちゃんは薄い色の瞳で私を眺めて溜息を漏らした。
「まったくもう。似たもの同士なんだから」
157『さよなら幽霊屋敷(下)』3/12 ◆NVcIiajIyg :2006/11/13(月) 22:05:24 ID:76m3Gqxl
軽く窓側に視線を移してまた戻し、みのりちゃんは私の額を軽くでこぴんする。
外で春一番が吹く。
廊下の古びた窓がいっせいにガタガタ、と震えてガラスを木枠にぶつけていた。
「あんたたちが成長してくの、見るの、正直困るのね。
 初めて遊びに来たときはあんなにちっちゃかったのに今同じくらいだし、胸おっきくなるし毛は生えるしさ」
ちょっと恥ずかしくなって俯く。
こんな時まで彼女は彼女らしいので余計にみのりちゃんの声は寂しく耳に届いた。
「アツキたちはそりゃずっと仲がいいままだけど、もうあのときとこんなに変わってるじゃない。
 ちゃんと濡れるようになって勃つようになって、キスだってずっといやらしくなって、手とかつないでた頃とは大違い。
 あ、それはいいのよ。楽しいし間違ったことしてるわけじゃないもの大いにやりなさい?」
私の顔を見てすぐにみのりちゃんは触れないのに肩を叩いてくる。
なんかそれでこそみのりちゃんだ。
少し笑うと、向こうも笑ってセーラー服のプリーツが揺れた。
「でもね。
 二人がずっと一緒に成長していくの、もう見たくないの。
 楽しかったけど、うれしいけど、二人が好きだけど見たくないの。
 あたしはいつまで経ってもこのままなのが分かって悔しいの。だから、気分転換に引越しするのよー」
そしてまたガタガタと風が吹いたのが空から吹き込んできて窓を揺らした。
胸がぎゅっとなって見ていられなかった。
幼稚園の頃からの友達だった、この人じゃない女の子の笑顔をきっと忘れないだろうと思った。
冷たい気配に手を伸ばした。
もちろん、ちゃんとはさわれなかったけど。
「アツキは、啓伍と結婚するのはいや?」
「ううん」
尋ねられたので軽く首を振った。
「高校卒業したら、そのうちしようって話してる」
「よかった。無理強いじゃないなら思う存分できるわね。
 もうお姉さんには教える知識はないから、あとしてあげられることっていったらこれくらいなんだもの」
いつもの楽しそうな口調がみのりちゃんに薄く戻ってくる。
太陽を仰ぐと小ぶりな廃墟に視界が濁る。
昔は、もっともっと巨大なお城みたいなところだと思ってた。
住んでいたのはお姫様じゃなくて意地悪で気まぐれでえっちなことを言うのが大好きで、
幽霊みたいで幽霊じゃない不思議な一人ぼっちの女の子。
私はこの友達にしてもらったたくさんのことに返せるよう、一体何ができるだろう。

「うんお願い。外に来てるから。啓ちゃんを呼んでくるね」

とやっと私はいつもの声で言った。
そして望みどおりに結婚式をしてもらうことにした。
158『さよなら幽霊屋敷(下)』4/12 ◆NVcIiajIyg :2006/11/13(月) 22:06:56 ID:76m3Gqxl




――その日は晴れていたことは確かで、確か三月の終わりだった。
幽霊屋敷が壊される年の例年よりも暖かい春。

結婚式のことを、今でもちゃんと覚えてる。

セロファンみたいなステンドグラスは少し割れて、でもお日様で輝いていて。
銅でできたアーチ門には建設予定地、の金属板が打ち付けられている。



「とはいってもあたし、ちゃんとした誓いの言葉なんて言えないわよ。
 キリスト教徒じゃないもの。
 病めるときも健やかなるときも…、ときにこれを愛し……あぁだめだ、
 やっぱり覚えてないのね」
入ってきた啓ちゃんと並んで中央階段の下に立ち、
セーラー服の女子高生は階段の少し上に浮いていた。
みのりちゃんが肩を竦めて口元をつりあげる。
「それにしても、ほんと、いい趣味だと思うわあんたたち。
 いいやもう、あたし流にやるわね。並んで?
 もう、啓伍もっと寄るの!そうそう」
「はいはい。こんな感じでいいのかよ」
啓ちゃんも合わせているのか少しちゃんとした服を着ていた。
私はみのりちゃんが言った通りの白いセーターと桃色の薄いスカートで、指輪はないけど髪飾りはしてきていた。
肩を抱くくらいの距離で啓ちゃんが寄り添う。
暖かいにおいがした。
啓ちゃんからは薄いインクと畳のにおいがいつもする。
みのりちゃんの半透明のセーラー服にまた、日光が差し込んだ。
「うん、いいわ」
にっこり笑って、階段を三段上がり足首がくるりと回った。
「アツキ」
「う…はい」
「いい返事ね」
肩から力が抜けて頬が緩んだ。
見た目は同い年くらいなのにやっぱり、みのりちゃんはお姉さんみたいだ。
159『さよなら幽霊屋敷(下)』5/12 ◆NVcIiajIyg :2006/11/13(月) 22:07:50 ID:76m3Gqxl

「アツキは胸がおっきいのね。
 それはなんのためにあるのかお姉さんが教えてあげましょう。
 赤ちゃんが生まれても遠慮なくお乳をむさぼれるように、子どもにいっぱい栄養をあげられるように、
 そしてなおかつ我慢のきかない啓伍もさわっていられる余裕分もとっておくために、
 大きいのよ。とっても確かなことだわ。
 
 それから、啓伍ががむしゃらでちょっと早いのが何でかっていうのも、知ってるわ。
 アツキと、これからいつかできるかもしれない家族を誰よりも真っ先に
 いつどんなときでも守りにいけるように、そう生まれついているのよ。

 神様――どんな神様だか知らないけど、あたしをここに留め置いている神様はね、
 啓伍とアツキをつがいで創ったのだわ。
 そうして、間違っても二人が出会わないことのないように、
 幸せな時を受け得ることのできる限り長く味わってもらえるように、
 あんたたちの生まれる場所をあんな近く同士に置いたのよ。
 だから二人が結婚するのは当然のこと、すてきなこと、
 この世が願ったこと、これからを幸せにしていくためのことだわ。
 どう、これに賛成する、アツキ?啓伍とそんな風にやっていきたい?」

「うん」
十字の神様の誓いの言葉とはちっとも似てはいなかったけれど。
みのりちゃんらしくてとっても素敵な祝福だった。
首を軽く縦に振って啓ちゃんの腕に触れた。
啓ちゃんがこちらを一秒間、嬉しそうに見た。
「啓伍はどうかしら。アツキをずっと、今までどおり今まで以上に大事に守って
 一緒に生きていくのは素晴らしいことって思わない?」
「言われなくても思ってるっての」
啓ちゃんが頷いている。
肩越しに斜め後ろを窺うと見たこともないくらい幸せな顔をしてたので、
まるで恋を自覚したときみたいにどきどきした。
血がからだの中ではやくなるのを腕と指が感じた。
160『さよなら幽霊屋敷(下)』6/12 ◆NVcIiajIyg :2006/11/13(月) 22:08:50 ID:76m3Gqxl

「じゃあ二人で向き合って、抱きしめあって、キスをして。」

おずおずと啓ちゃんはからだの向きを私に変えさせるように肩を掴む。
改めて向き合うと気恥ずかしかった。
その瞬間急に、思いもよらずに強く思いっきり抱きしめられた。
啓ちゃんの体温は、あったかい。
ずっとここで生きていけたらみのりちゃんの言うとおり、きっと何より幸せだ。
「キス、舌を入れてもいいわよ」
「入れねーよ!黙ってろ!」
相変わらずの大好きな幼馴染たちの声。
私は啓ちゃんに回した腕に力を込めて胸に頬を押し付けた。
唇を近づけて、短いキスをした。
顔を離してみのりちゃんの立っていた方向を二人一緒に見る。
みのりちゃんは私たちの脇を回って、奥の廊下へ続く道を滑っていった。
「ついてきて」と目が言っていた。
手をつないだまま小走りをまぜて追っていく。
あまりこっちに入ったことがなかった。
暗い廊下に窓から差し込む春の日差しがぽつんぽつんと四角いあかりを落としていた。
角を曲がって、ようやく両開きの扉の前に立つとみのりちゃんは手招きした。
「ここ、入ったことないでしょう?…開けて」
昔鍵がかかっていたはずの、開かずの場所だった。
なぜか今日は鍵がかかっていなかった。
二人で扉を片方ずつ押して開く。
161『さよなら幽霊屋敷(下)』7/12 ◆NVcIiajIyg :2006/11/13(月) 22:09:44 ID:76m3Gqxl

深い空色に、桃色の花びらが吹いていた。
風はまだ少し冷たくて木々は伸び放題。
それでも芝生は柔らかく緑の絨毯になっていた。

四つ全部を建物に囲まれた、外から隔絶された秘密の中庭。

小さい頃は窓まで頭が届かなかったから見えなかった。
最近は夜にしか来ていなかったから、知らなかった。
きっと手入れもなっていなかったと思うのに、こんなにきれいだなんてびっくりした。
みのりちゃんは目を薄く開いて、手を広げて寄り添った私達に向かい合うと、抱きしめるように手を肩と肩に置いた。
ちょっとだけ冷たかった。
「結婚おめでとう、二人とも。
 法律上するのはもっと先かもしれないけど、初めての結婚式はあたしがしたことを忘れないで」
「忘れるもんか」
とても、小さな、でも確かな声で。
啓ちゃんが呟いていた。
なので思わず泣きそうになった。
啓ちゃんが察してくれたのか、大きな手に後ろ髪を撫でられる。
ひやりとした温度が肩から遠ざかって高い空で鳥の声がした。
「この場所が壊れたら、学校になるのよね。
 いつかあなたたちの子どもが通うのかしら。楽しみだわとても。
 あたしも七不思議のひとつになったりできたら、楽しいかもしれないけど、でもだめね」
くすくすと肩を揺らしてスカーフが透け、みのりちゃんは背を向けて中庭の木に歩いていく。
そのままセーラー服が一瞬見えなくなってまたうっすら元に戻った。
私は啓ちゃんの手を引いたままで思うより前に先へ踏み出した。
「みのりちゃん!!」
大声に啓ちゃんがびっくりしているのが手で分かる。
「私、私だって悔しかった!だってみのりちゃんきれいで、明るくて、頭が良くて!
 また啓ちゃんがみのりちゃんを見るようになっていきそうで悔しかったの。
 だけどみのりちゃんのことはやっぱり大好きだったんだよ。
 一緒にいて楽しくて、嬉しくて、いつも励ましてくれて」
162『さよなら幽霊屋敷(下)』8/12 ◆NVcIiajIyg :2006/11/13(月) 22:10:41 ID:76m3Gqxl
みのりちゃんが振り返った。
長い髪が大きな木の幹を遮って揺れる。
わたしは深呼吸して、涙を最後までこらえた。
「みのりちゃん、今までありがとう!」
啓ちゃんの顔は見えなかったけど、みのりちゃんは私の後ろの高さに視線を合わせて
悪戯っぽく目を細め、それから少し視線を下げて私にも笑いかけた。
桃の木の枝が撓むくらいに揺れて花びらが空に散る。
「知ってるわ」
幽霊の女の子は手を振った。
つなぐ大きな手が力を痛いくらいに強くする。
「またね、アツキ、啓伍。気が向いたらまた会いましょう。とっても楽しかった!」

春一番がどっと吹いた。
風の強さに思わず閉じた目を開いた時にはただ春の光だけが桃の木に降り注いでいた。

後ろから、いつもの腕が抱きしめてきたので手に手を添える。
なんとなく、空を見上げて呟いた。
「啓ちゃん」
「ん?」
「しない?」
「人来たらどうすんの」
「ここでなんて言ってないよお」
振り返ると唇が濡れたものに当たって舌がすくわれた。
柔らかいのと柔らかいのでしばらく押し付けあいながら、呼吸もできなくなるくらいにキスをした。
前髪をなでるように掻きやられて耳の傍から指が入り、顔を抱かれて口の奥まで探られる。
でもいつもみたいなただのとろけるようなものじゃなく、もっと暖かい春みたいな感覚だった。
送られてきたつばをこくりと飲んで、差し出した赤い舌先同士で擦りつけあう。
「ぁ、はー…は」
「はぁ、ふ、んぁ…」
啓ちゃんの息も私の息も荒くてどこまでも風に混じっていた。
163『さよなら幽霊屋敷(下)』9/12 ◆NVcIiajIyg :2006/11/13(月) 22:11:43 ID:76m3Gqxl
芝生に腰を落として樹に背を預けて太陽に目が眩むままで、下唇をなぞりあう。
それから歯茎に温い水を塗り込まれるので背をそらした。
また、唇だけで何度かついばむようにされる。
「啓ちゃ……あ、ん、ふぅ」
頬に触れたのが今度は耳をしばらく唇で押して、また舌を絡める普段のに戻った。
弱く吸いあうたびに足の指から砂糖菓子みたいにくずれやすいものに変わっていくみたいだった。
頬を撫でられながら髪を梳かれて一度唇が離される。
「あっき」
引いた糸を啓ちゃんが手で拭ってくれて、それからきゅっと抱きしめてきた。
…何気なく耳元を暖める息に身体が震える私は、ほんとにえっちだ。
風の強い中庭で。
「俺、亜月が大好きだ」
最初に俺からちゃんと言えなかったからさ。と言い訳みたいに続けて、啓ちゃんは背中に回した腕を強くした。
私はといえばなんだかもうにやけてしまって幸せなのか嬉しいのか胸がいっぱいなのか分からない。
「もう、啓ちゃんたら」
ふと重なる膝の上に当たるものを撫でてみると、こら、と頭を軽く叩かれた。
「そういうのはどっか、ホテルに入ってするの。あっきホントえろいな」
そんなこと言いながら啓ちゃんは嬉しそうだ。
くすくすと笑ってじゃれあっていたら我慢できなくなって、
最後にもう一度秘密基地で結局いつもみたいにしてしまった。
「や。や、やぁ……も」
抱き合ったシャツをかきむしるようにして何度も背を丸める。
啓ちゃんの上着を絨毯みたいにして、座った彼の上に座り込むようにして
ゆっくりとスカートに隠れた部分が沈んでいく。
…うっすらと輪郭しかないのがすごいえっちだ。
そんなことを思っている私も、きっとそうなんだろうなあ、と肩に頬を預けて息を漏らした。
「亜月。動くぞ」
「ん……」
ゆさり、と身体が持ち上がった。
首にかかる啓ちゃんの息が荒くて何度も私を呼びながら中をかき回してくる。
164『さよなら幽霊屋敷(下)』10/12 ◆NVcIiajIyg :2006/11/13(月) 22:13:08 ID:76m3Gqxl
セーターの裾から入り込んだ手が胸のさきっぽを摘まんで弄るたびに声が出てしまう。
それから強くもみあげられて服の上から吸い付かれたのでおなかが力を強めた。
「んっ、ひゃぅっ」
「可愛い」
嬉しそうに啓ちゃんが小刻みに突き上げ始めると水が
湿気の籠もるスカートの中でぐっしょりこぼれて濡れていく。
途中でひと休みし、唇を合わせて奥まで吸いあう。
空が眩しいくらい青くて、ときどき春の風が吹いた。
「あ。やだ、止まんない」
軽い花粉症のわたしはそれもあって涙が止まらなくて何もかも分からなくなってきて自分から動き始めた。
啓ちゃんがすごく嬉しそうに動きを合わせてくる。
パン、と何度も打ちつける音が外から完全に壁に囲まれた場所で段々大きく早く響きはじめた。
私はもう泣いている叫びしか出せなかった。
「……き、あっき、俺、もう」
「ふあ、ぁ、あー…ん、やあ!あ、ああ!あああ!!」
抱きしめられて奥までぐっと突き上げられたとき真っ青な空が見えた。
とても気持ちが良くてびっくりして、何が何だか分からなくなったのはあのときのが初めてだ。
声も出ないままいってしまって、しゃにむに背中を抱きしめた。
「あ、…ぁは、は……ふ」
指先から頭の天辺までが白い光で染まって花の香りに力が抜けて
そのかわりに中まで啓ちゃんがしっかりと注ぎ込んでいる。
混ざった呼吸がすごくうるさい。
抱き合いながら一緒に震えて、草の上に崩れ落ちた。
土のにおいがした。
「人、来てないよな」
「……たぶん。来なくてよかったー」
「あっき、なんか、すごかったな」

お互いに力を抜いて笑って、そよぐ若草と流れる雲を見ていた。
啓ちゃんの胸に当てた頬をずらして揺れる桃の枝と高い高い水色を見る。
もう冷やかしに来る女の子はいなくて。
でも、ちゃんと、あの花咲くみたいな笑顔は心の奥に残っていた。

その年の夏に迎賓館は跡形もなく壊されて、新しい中学校の建設が始まった。


165『さよなら幽霊屋敷(下)』11/12 ◆NVcIiajIyg :2006/11/13(月) 22:14:44 ID:76m3Gqxl

**



軍手を持ち手に擦り、白く溶けていくの息を眺めた。
三月下旬のこの頃には、朝の空気は日を追うごとにあたたかくなってくる。

結局旭家の三男で跡も継がない気楽な三男坊の俺は、駅前の専門学校に進学した。
その間に亜月は家事手伝いをしながら料理の専門学校に通ったりして、付き合い始めて六年が過ぎている。
それも先週卒業した。
うむ、今日こそが勝負時だ。
予定は少しずつ変わっても、変わらない毎朝の日課は今も欠かしたことがない。
亜月がおじさんの手伝いで牛乳ケースをトラックに運ぶのがずっと日課であるように。

裏手の道路でおじさんと亜月が配達ケースの運び出しをしている。
ちりん、とベルを鳴らしてブレーキで止まると、亜月がふとこっちを向いた。
「あ!おはよ、啓ちゃん」
「よ、あっき。おはよう。おじさんも、はい朝刊」
「おう啓伍、いつも偉いな。で、いつ婿に来んのよ」
「もう、お父さんうるさいってば」
亜月がおじさんの背中を押して黙らせて、朝刊を受け取って笑う。
朝の風はいつしか肌寒さがなくなり、太陽も少しずつ高くなっていた。
朝連の中学生がジャージでもう町外れに向けて走っていたりする。
ペダルを踏み込もうとしたその日には、近所の枝に色がつきはじめていた。

「啓ちゃん」

幼馴染の優しい声に振り返る。
「ん?」
面影のある色素の薄い少女が手を振って笑った。
「いってらっしゃい!」
まるであの日の幽霊のように、華やかで、でももっと穏やかな毎日を
手をつないできたそれは懐かしい光景だった。
とはいえもちろん俺は亜月しか見ていないに決まっている。

「ああ。行ってきます。おじさん、そろそろ挨拶に行くから」

よし言った超自然!
心の中でガッツポーズをしてペダルを力強く踏み込み次の配達先へ角を曲がる。
そろそろといわず、配達帰りに寄っていこう。
花びらがひとつ新聞束の上に落ちて、ビニールの間から入り込んだ。

166『さよなら幽霊屋敷(下)』12/12 ◆NVcIiajIyg :2006/11/13(月) 22:15:15 ID:76m3Gqxl

**



――思いもかけない嬉しい置き台詞を残して、自転車が新聞を乗せて走っていく。

お父さんが微妙そうな(自分でいつも言ってたくせに)むっつり顔で配達に出て行くトラックに乗り込んだ。
私は見送りながら、えへへと笑って新聞を抱き込み、さっきの言葉を心の中で繰り返す。

そしてこういう話題になると、いつだって大事な大事なお友達との誓いを思い出すのだ。

みのりちゃん、今頃どこにいるのかな。

そんなこんなで、
私達は今日も元気です。
今年も桃の花が咲きました。


『幽霊屋敷』完
167『さよなら幽霊屋敷』0/0 ◆NVcIiajIyg :2006/11/13(月) 22:16:09 ID:76m3Gqxl

++


十五年後の同じ春。

二人は中学校に上がった双子の娘から七不思議のひとつ
「カップルでいるとどこからともなく聞こえる少女のからかい声」の話を聞くことになる。
(どちらがPTA役員をやるかで久方ぶりの大喧嘩になったとかならないとか)
 ……今も変わらぬ彼女の軽口に再会できたかどうかは、ご想像にお任せいたします。


こんどこそ完。
168 ◆NVcIiajIyg :2006/11/13(月) 22:19:24 ID:76m3Gqxl
最後まで書けて楽しかったです。
読んでいただいた皆様に感謝を。ありがとうございました。
ではまたいずれ、お会いしましょう。
169名無しさん@ピンキー:2006/11/13(月) 22:34:54 ID:s0uITapr
全俺が泣いた。冬に近づく昨今、読後感も暖かくてイイ!
170名無しさん@ピンキー:2006/11/13(月) 22:45:03 ID:3lQZMslC
BRAVO!!
これからの極寒で物理的にも精神的にも厳しい季節、暫くは戦える気がしました。

改めて◆NVcIiajIyg氏に心からの感謝を。そして、また時が来たらまたよろしくです。
171名無しさん@ピンキー:2006/11/13(月) 23:21:07 ID:1DYUIq5f
職人さんGJです。

何気にここはコンスタントに作品があがってていいですね。
新顔の伊南屋さんや◆piEfblYWC等にも是非とも常駐してほしいものです。
172名無しさん@ピンキー:2006/11/14(火) 01:34:37 ID:dsnE11dQ
◆NVcIiajIyg氏、次回も期待しております(;゚∀゚)=3
173名無しさん@ピンキー:2006/11/14(火) 09:54:49 ID:jw8SCOlU
うーむ、さわやかな読後感。
まっことすばらしいぜよ。
174名無しさん@ピンキー:2006/11/16(木) 23:17:10 ID:SVBgzSF7
前スレ>>494->>499の続きを投下する予感!
175Sunday:2006/11/16(木) 23:18:07 ID:SVBgzSF7



 17年という時をかけて、ようやく繋がれた互いの想い。



 長く、大きく、いつまでも切れることのなさそうな強い絆。



 だけど片想いの時間が長ければ長いほど、そこには全てが積み重なっていく。



 受け止める立場だけに圧し掛かる、唯一にして絶対の枷。



 その想いの、重さも増していくわけで――――



「……ふぅ」
 紗枝達が浮気騒動で盛り上がっているその頃、バイトで汗水流している真っ最中である
渦中の人物はというと。仕事に就いてから必ず5分に1回はこうして溜息をついていた。
もっともその意味合いは、浮気沙汰で心を砕く彼女のものとは、ベクトルが180度近く
違っているのだろうが。
「あー……ったく」
 おそらく本人からすればその行為はまったく無意識なのだろう。それだけに、周りから
すれば鬱陶しいことこの上ない。

「今村さん、辛気臭くなるからやめてくださいよ」

 客足がピタリと途絶えたタイミングを見計らって、後輩であり学年が上がっても相変わらず
紗枝達のクラスメイトでもある兵太が、半分くらいくたばっているこの男に注意を促す。
しかし一瞥もくれることなければ目立った反応を示すことなく、彼はただただ何も無い
虚空をぼんやりと見つめ続けている。その様は、中身空っぽの抜け殻そのものだ。
「ンだよ…クソッ」


 今村崇之、22歳。職業は相も変わらずフリーター。恋人は一応、付き合いの古い幼なじみ。


 悪態までついてしまうのは、欲望に殉じた自分の行動の浅はかさを呪ってのことか、
それとも言い訳できないような場面を、最愛の相手にバッチリ目撃されてしまったという
最悪の偶然に対するものなのか、それは崇之本人以外には誰にも分からない。
「はぁー…」
 そしてまた盛大に肩を落とす。沈没して海底の砂地に埋もれてそのまま魚達の住処に
なってしまいそうな勢いで、その表情が沈んでいく。
「兵太」
「はい」
「残りの業務お前に一任して俺帰っていいか」
「高校生に代理責任者の立場を委ねるのはどうかと思いますよ」
「冗談だ馬鹿野郎」
 気晴らしの一環だったのだろうか、軽く後輩を弄りなじる。どうやらただ今の時間、店長が
他の業務で不在ということで、働いている面子の中で最もキャリアの長い彼が代理責任者の
任を仰せつかっているようだ。
176Sunday:2006/11/16(木) 23:20:54 ID:SVBgzSF7

「そんな後悔するならなんで浮気なんかしたんですか」
「……」
「平松、学校でもすげー落ち込んでましたよ?」
「……うるせーな、色々あんだよ俺にも」
 どうやら兵太にまで浮気の事実は知れ渡っているようで、普段はおもちゃ扱いする後輩
にまで溜息交じりに詰問されてしまう始末。流石に自分に非があるという事実はしっかりと
認めているようで、返す言葉も具体性に欠け歯切れが悪い。

 こんな筈じゃなかった。あの場に紗枝がいるだなんて、思ってもいなかった。そもそも、
最初から浮気が主な目的だったわけでもない。結果的には浮気になったのだからそこは
言い訳するつもりは無いが。
ただ、その娘とはお互いスッパリ気持ちよく別れることが出来たおかげで、今現在でも
友人として関係が継続中だったわけで。そして日頃溜まった愚痴を聞いたり聞いてもらったりして、
たまの気分転換をしているところを紗枝にバッチリ見られてしまったのである。
 もちろん、それから先に他意のある行為に及ぼうと画策してたのも事実なのだが。けれど
全ての非が自分にあるわけじゃない。こっちにだって言い分はある。

(言えるわけないよなぁ…ダサすぎる)

 そしてそれこそ彼が浮気に走ることになった発端なのだろうけど。相手の気持ちか
はたまた自分のプライドか。それを口に出すことはどうにも憚られた。


 頭の中で今回の事情を説明する自分と、そうしたことでの彼女の反応を想像してみるものの、
今度はふてくされて枕で殴られるだけでなく、下手したらグーどころか鈍器が飛んでくる
場面がありありと想像できる。幼なじみで付き合いが古いせいか、ほとんどの行動パターンは
予測できるのだが、今回に限ってはそれがマイナス方面に向かって一直線に伸びている。

 多分今頃は、仲の良い友人達とファミレスで浮気されたことの相談でもしているのだろう。

「この際全部暴露した方がもう楽になれるんじゃないですか」
「……お前に言ったところでどうなるもんでもねーだろ」
「言って今より気分的にキツくはならないと思いますけど」
「……」
「? どうしました?」
「お前…、だんだんものの言い方が真由ちゃんに似てきたな」
「それは今村さんをやり込めることが出来たという褒め言葉として受け取っておきます」
「皮肉だボケ」
 言葉はすぐに返したものの、やりこめられてしまったのは紛れも無い事実。どうやら
事の詳細を白状するべきかどうか迷っているようだ。ただ、相手が立場的にも年齢的にも
目下だという現実が、本人のプライド的に許されない事項に当たるのだろう。

 しかもこの後輩は、かつて森本真由という紗枝の親友のスパイとして活動していた前歴
がある。崇之と紗枝の顛末を詳しく時には色をつけて彼女に話されたせいで、年下二人に
喫茶店で冷たい目線と重たい台詞を吐かれたあの時の事は、崇之の中では汚点にも等しい
過去として、今もなお頭の片隅を傾け続けている。
 まあその二人は、彼が紗枝のことを妹ではなく、一人の異性として捉えて、付き合いだす
きっかけを与えてくれた人物でもあるのだが。はっきり言ってそんなもん結果論である。

 自分が紗枝と付き合うことが出来るようになったのは、自身の正直な言葉と、気持ちと、
まだ紗枝の中にも抑えこんだはずの気持ちが、完全に封じられてはいなかったからという
事実がもたらしてくれたものなのだ。だから付き合い始めて直後には、兵太からは再三に
渡って「俺に感謝してくれたっていいんじゃないですか」と言われたものの、「うるせぇ」
の一言と、一発の拳で何度も沈め続けたものだった。
 この男、プライドが絡むと思考が薄っぺらくなるらしい。
177Sunday:2006/11/16(木) 23:22:09 ID:SVBgzSF7

 かといって高校時代の友人達には、紗枝との幼なじみという関係を散々からかわれたと
いう過去があるせいかあまり詳細を打ち明けたくない。事実、たまの飲み会で彼女と
付き合い始めたことを酔いに任せて公表した時、その場で骨が折れてしまいそうなくらい
痛い目に遭っているのだ。

『なんだ、結局やっぱり付き合い始めたのか』
『充分想定の範囲内です』
『あんだけあいつは妹だ妹だと声高に主張してた癖にねぇ』
『つまりこいつは、兄妹同士であっても気持ちがあれば大丈夫と言う重度どころかもう
元には戻れないところまで来てしまっている、最強最悪のシスコンというわけでOK?』
『近親相姦…背徳的なシチュエーション……』
『で? 付き合い始めてからも相手に"お兄ちゃん"とか呼ばせたりしてんの?』
 
 ただでさえひねくれているこの男が、付き合いの長い友人達に全てを打ち明け、どんな
反応を示し示されたか。少なくとも、新たなトラウマじみた記憶として脳裏に刻み込まれた
のはまず間違いない。
 そういうこともあってか、他にこのことで相談というか愚痴をこぼせる相手を、敢えて
選ぶのであれば。目の前の後輩以外に存在しえない事態に陥ってしまっていた。

「ちっ」
  
 どっちにしろ、このまま胸の内に全てを抱え込んだままでは何の打開策にもならない。
そりゃまあ、本当に潔白だったのに浮気だ浮気だと喚かれて何度も何度も枕でバシバシと
叩かれ、それがあまりにもうるさくて隣に住んでいる人から苦情を言われてしまったり
するのはゴメンだが、今回は本当に浮気まがいの行為をおこなってしまっている。
またそんな目に遭うのが心の底から嫌で彼女から逃げ回っているのは確かだが、それでも、
そろそろお顔を会わせてちゃんと話をする機会を持たないと、崇之にとって更に御免被る
事態になりかねない。

「仕方ねーな……」

 とうとう観念して、口を割ることを決意する。どうせ自分から紗枝に直接伝えたところで
彼女は「浮気」という事実だけを口やかましく責め立ててくるに違いない。ならば、第三者
からも事実を語ってもらって、いざ実際に会った時に少しでもこちらの事情を知ってもらって
おいた方が説得もしやすい。 
「……ったく、んじゃ仕事終わったら話してやるよ」
「楽しみにしています」
 今まさに入り口の自動扉をくぐろうとしている客の様子を見つめながら、二人は端的な
言葉を交わす。崇之はその時間を利用して、あの時の詳細を順序良く語る為に頭を回転
させ始めるのだった―――




178Sunday:2006/11/16(木) 23:23:56 ID:SVBgzSF7



「元カノかぁ……それはちょっとキツいね…」
「だから別れたほうが良いって言ったでしょ」
 一方その頃のファミレスでは、"浮気相手は元彼女"という衝撃かつ最悪の事実が発覚し、
場の雰囲気が急速に変わりつつあった。
「それが出来るならこうしてここで皆に話したりなんかしないよ……」
 言葉尻が微かに震える。話していくうちに目撃したその時のことを、強く思い起こして
しまったようだ。
「でもさー、それどういう状況で見たわけ? 『二人が歩いてるところを見た』ってのは分かった
けどさー、まだ詳しく話してもらってないからアレなんだよね」
 またしても空気と紗枝の気持ちを読めていない茶髪の台詞により、残り3人の背景には
ピシャーンという擬音と共に雷が落ちる。
「あんたねぇ……」
「少しは考えて発言したら?」
「なんで。二人で歩いてるところ見られただけで浮気扱いされたら、あたしなら溜まった
もんじゃないけどね」
「そういうことじゃないでしょ。なんで傷口抉ろうとすんの」
「いいよ、別に。詳しく話すから」
 この様子からすると、どうやら浮気だという確たる証拠を彼女は握っているようだ。また
鋭く変化していく表情に、三人は思わず喉を鳴らして唾を飲み込む。

 紗枝からすれば、自分を振り回すような崇之の行動に、戸惑いを隠せずにいた。特に最近に
なってからは、付き合いだす以前には決して見られなかった行動反応を目の当たりにし、
自信を失いつつあった。だから、助けを求めたかった。

 ずっと、ずっと好きだったのだ。その想いは五ヶ月程度付き合ったくらいでは、決して
満たされるものじゃない。スカートの裾をギュッと握り締めると、表情とは裏腹に彼女は
淡々と語りだす。



 それは、今から三日前のこと。



『はぁ…』
 この日は土曜日でその時の時間帯は昼下がり。たまの休日を利用してか、駅前は普段よりも
多くの人ごみに覆われていた。家族連れ、カップル、友人同士。いくつもの喧騒が交錯し、
注意を促すクラクションの音も、交差点あたりから頻繁に届く。
『……』
 そんな中、紗枝は一人とぼとぼと俯きながら歩みを進めていた。半端におめかしされた身なりも
手伝って、周りからは随分浮いてしまっている。

ギイッ

 鉄柵同士を繋ぐチェーンに腰を下ろし、目の前で過ぎ行く雑踏を、ただボンヤリと見つめ
始める。その実、何も目に映していないような虚ろな表情は、感情さえも希薄にさせて
しまっているほどだった。
『ふぅ』
 二度目の溜息。無為に携帯を開き、リダイヤル欄を液晶に映す。最新の欄には、つい
数時間ほど前に連絡を取った、この世で一番大好きな人の名前。


『今村 崇之』


 脳裏に彼の顔が浮かぶと同時に、苛立たしげに携帯を折りたたんだ。
 
179Sunday:2006/11/16(木) 23:26:04 ID:SVBgzSF7

 これでもう一週間も顔を見ていない。やれバイトだの、やれ飲み会だの理由をつけられては
逢瀬を断られ続けられるのが、ここのところの日常だった。

『今度ちゃんとお前の為に時間を割くから』

 電話の向こうから申し訳なさそうにそう弁解するのが、会えないことを謝る彼の口癖だと
気付いたのはいつのことだったか。最初は「お前の為に」という言葉に心をときめかせてた
ものの、今ではうんざりしたような気持ちが増すばかり。好きだけども、好きだから。
だから余計に腹立たしかった。

 それだけに、週末の今日に賭けていたところもあった。以前謝られた時に、今日はバイトが
無いということはちゃんと聞き出していたし、他の用事も無いという確認も取った。そして
満を持して、彼の携帯に電話をかけた。その結果が、これ。
『悪い、違う地方に行ってた友人が急に地元に帰ってくるらしくてさ』
 

 ショックだった。


 やっぱり崇兄にとってあたしは、妹みたいなものなのかな。後ろを向いた考えが頭の中を
巡りだす。


 それに順ずるように沸き上がってくる、疑惑。


『……』
 だけどそれは、考えたくなかった。実は一度、その手の考えに囚われたことがあるからだ。
バイトがあるからという理由で自分と会うのを断った崇之が、街中で見知らぬ女の子と
歩いているのを目撃し、その場面を見ただけで早とちりしてしまい、結果揉めに揉めた。
 ちなみにその時の真相は、バイト先へ向かう途中に偶然出会った同僚と、共に仕事先へ
向かう途中を紗枝が目撃しただけだったのだが。その事実を知るまで、ずっと事情を説明
しようとしていた彼の言葉に耳を貸さず、ひたすら泣き喚いて枕で叩き続けていただけに
余計にバツが悪かった。謝ったら許してくれたけど、自分自身が許せなかった。

 本当に潔白だった一番好きな人を最初から信じられず、クラスメイトの兵太にその女性が
バイト先の同僚であるということを証言してもらえるまで、信じることが出来なかった。
彼は女性経験をそれなりに積んでいたのに、自分はそういう経験がゼロに等しかったことによる
負い目もあったのかもしれない。
 あの時はそのせいで、互いに傷つけ傷ついた。だから、今回もきっと考えすぎなだけだ。
 

 そう思い込むと、若干気分が楽になる。まだ付き合い始めの頃、まだ少し自分の殻に
閉じこもっていたと感じたのか、彼は毎日会いに来てくれた。

(そうだよね……あの時、凄く心配してくれたし)

 口では心配してねーよとか暇だったんだよとか言ってたけど、あの頃の彼が、毎日の
ようにバイトをしていたのを紗枝は知っていた。だから尚更に嬉しかった。そんな感謝の
思いが心の中に灯っていることもまた事実だった。
 だから、今度はちゃんと信じよう。そう強く決意する。ここ最近会える機会が減っている
のも、単に運悪くすれ違ってるだけだ。


 崇兄をちゃんと信じよう。一番大事な人なんだから、一番信じるべきなんだ。

180Sunday:2006/11/16(木) 23:27:57 ID:SVBgzSF7


『なんかさ、昔を思い出すよね。あの頃もこうやって……』
『あのよ、昔話をするために呼んだのか? お前が今付き合ってるのと上手くいってない
からっつーから俺は…』
『お互い様なんじゃないの? この前メールで『子守の気分だよ』とか言ってたの誰よ』
 そう紗枝が決心したと同時に、彼女の目の前で交わされていく一組の男女の会話。



 バキリパキリと、音を立てて全身を巡る血が凍っていくようだった。



 信じようと、固く心に誓った直後だったのが余計に堪える。



 急速に青白くなっていく顔色をそのままに、彼女は立ち上がりふらついた足取りでその
男女を追いかける。考えての行動じゃない、勝手に身体が動いた。

 その二人に紗枝は見覚えがあった。男性の方は言うまでもない。17年以上も一緒に育って
きたのだ。そして女性の方にも彼女は見覚えがあった。忘れられるはずが無い。張り裂け
そうな気持ちを抱えたまま、祝福した相手なのだから。
『しょーがねーだろ、あいつはお前と違って身持ちが堅いんだよ』
『だからって私のところ来る? あーあ、彼女さんかわいそ』
『呼んだのはお前だろ』
『来たのはそっちでしょ』
 
 いくら恋愛事に慣れてないといったって紗枝だって馬鹿じゃない。身持ちが堅いという
のが誰を表しているのか、今の恋人と上手くいってないという元カノの女性が、どういう
意図を持って彼と会おうとしたのか、そして何故来なくてもいい呼び出しに、彼は大人しく
やって来たのか。


 視界が、足元が、信頼が、感情が。五ヶ月前の早朝の駅前の交差点での思い出も含めて、
全てがぐらつき始めていた―――――――

181名無しさん@ピンキー:2006/11/16(木) 23:30:13 ID:SVBgzSF7
|ω・`)……



|ω・´)9m ミンナガノゾンデナイテンカイナヨカン!



|ω・`)……



|ω・`;)ノシ ゴメンネ、マダマダコレカラダカラネ


  サッ
|彡

182名無しさん@ピンキー:2006/11/16(木) 23:35:59 ID:V8Bjs7xx
チィ……先はまだか!?
気になって眠れないんだがどうしてくれる的なGJ
183名無しさん@ピンキー:2006/11/17(金) 00:00:31 ID:K8hu2U36
GJGJ!!
続きが気になる展開!
付き合ってハッピーエンド!ではない展開だから更に気になる!
184名無しさん@ピンキー:2006/11/17(金) 00:04:56 ID:GCcqRUqt
う〜ん…orz

続き楽しみにしてます。
185名無しさん@ピンキー:2006/11/17(金) 01:29:59 ID:wrmsfZdT
お前さん、またそんな……ちくしょう!
GJ!じゃないかっ!
186名無しさん@ピンキー:2006/11/17(金) 18:27:27 ID:qHs83AS2
悔しいな…ただ、続きを待つだけしかできないこの身が…。
いつまでも待ってますノシ。
だから続きを下さい…。
187名無しさん@ピンキー:2006/11/18(土) 11:25:39 ID:q9eEcRW7
那智子の話を未だに待ってる俺
188名無しさん@ピンキー:2006/11/19(日) 01:22:59 ID:/AzOKNX9
くそお・・・。色々考えてはいるんだけどなぁ・・・。

双子の幼馴染とのお話を考えていたら・・・いつの間にか後輩やらなにやらが出てきてハーレムっぽくなっちまったよ!

189名無しさん@ピンキー:2006/11/19(日) 02:09:17 ID:jA7DWYWq
ネタが被った!?
俺はみんな同級生の幼馴染みハーレムだが。
190名無しさん@ピンキー:2006/11/19(日) 10:22:27 ID:pX/Fomho
ド田舎の学校で生徒は数人。
男子は1人。
加えて担任は姉代わりだった年上幼馴染。
これ最強。
191名無しさん@ピンキー:2006/11/19(日) 19:54:06 ID:zXnOZ3By
>>187
同志を見つけた。俺も俺も
192名無しさん@ピンキー:2006/11/19(日) 20:13:36 ID:GbafhnMX
>>191
よう俺。
193名無しさん@ピンキー:2006/11/19(日) 22:30:02 ID:fjRU7eMC
完結してない連載が結構あるよな。
正直全部続きが気になるわけだが……
194Sunday:2006/11/20(月) 01:00:37 ID:sbLDDyQs
剣太と鞘子はガチ
195名無しさん@ピンキー:2006/11/20(月) 01:01:10 ID:sbLDDyQs
しまった……orz
196名無しさん@ピンキー:2006/11/20(月) 01:03:22 ID:1XrMOHMN
名無しの中に……一人だけ職人がおる……



お前(>>194)やー!
197名無しさん@ピンキー:2006/11/20(月) 02:41:04 ID:0RXhz+xq
>>194-195
ドジっ子(*´Д`)ハァハァ
198名無しさん@ピンキー:2006/11/20(月) 09:16:11 ID:7iTrUeuM
>>194
崇之と紗枝もガチ
199名無しさん@ピンキー:2006/11/20(月) 21:22:05 ID:g9Iq7G9r
>>194
続き待ってるよ〜
200名無しさん@ピンキー:2006/11/23(木) 20:12:36 ID:wFNzpEYB
Sunday待ち
201名無しさん@ピンキー:2006/11/23(木) 20:17:21 ID:ikXeTS95
なら俺はシロクロを待とうか
202名無しさん@ピンキー:2006/11/25(土) 11:27:33 ID:J1cpATx8
じゃあ俺は幼馴染みの先生達を待つ。
203名無しさん@ピンキー:2006/11/25(土) 12:05:03 ID:CHJ5p99N
なら俺は服を脱ごうか
204名無しさん@ピンキー:2006/11/25(土) 13:58:03 ID:R+3dw/ss
風邪引くなよ
205名無しさん@ピンキー:2006/11/25(土) 14:55:50 ID:tEFGxLfa
なら俺は>>203に毛布をかけてやろう
206名無しさん@ピンキー:2006/11/25(土) 18:45:11 ID:3NLiTCJ5
>>203
お前俺のケツの中で小便しろ
207名無しさん@ピンキー:2006/11/25(土) 22:20:57 ID:Y4QDMvHR
>>206
        ゙i         l.  だ ど 
  は 気     ir‐'´ ̄`゙`'ー.| 
         l:::::::: ,. '"´ ゙̄!  い う 
  ? 分     l:::: /     '、      . 
          /::. l       ヽ 
        /::::::. ',        `'ァ---‐'" 
ー-、、. .-‐'"::::::::::::::.ヽ 
    .l :::::::::::::::::::○`'ー 、 
     ', ::::::::::::::::::::::::::::::.〈      ノ! 
     '、 :::::::::::::::、-一'"ヽ 、___, ' i 
       ヽ ::::::::::::::::::`::::"::::::::::::: / 
       ゙i. ::::::::::::::::: ___, '" 
       / i ::::::::::::::: /l ',';.   `''ー-、 
     /l:::: ';:::::::::::: ::::i:i.:::::';:::::::: l:::. i:.ヽ__,.. 
    / ..::i.::::: ';:::`ァ::::ヾ」:i.:::::';:::人 |:: i::::::/::: 
  / .:::::::::l.::::::、';:::':::l::.';::::l ::::: }:(::::)|: i::/:/ 
. /_ :::::::::::::l.:::::l: iヾ:::l:::::';:| :::::/::(::::)|i:/ '"::::::::: 
.ヽ.ヾ::::::::::::::::ヽ.:|::.|:::.ヾ::::::゙| :::/::::::Y::l´ ̄ ̄ ̄ 
208名無しさん@ピンキー:2006/11/25(土) 22:54:35 ID:DeBiRCj1
: : : : : : : : : ο: : : : : l:::::;: '"、
、: : : : : : /: : : : : : ; '"   l
.ヽ: : : : /: : : : : ; '"     / /
 ヽ  /   ./   _,. r:::::l':シ
、. /ヽ. /   , _'" __|::::::lヽ
  i l::l.l '  /'" ,.r‐'""|:::::l/
  | V | / ./; -っ: :|:ツ:o:ゝ   蝶・サイk
.ヽ.l o.l,/l/∠: ー'_´_;/.//
'" i. i  `'ー.、._    /::o:::ニャ:
'"/ V:ヽ`'ー、::::::o::``r'"  /:/
'"  | : ヽヾ`ー`::、:::::::::::::::ィ''":



↓元の流れに
209名無しさん@ピンキー:2006/11/26(日) 00:32:08 ID:HkkOR3rn
Sunday待ち
210名無しさん@ピンキー:2006/11/26(日) 03:33:38 ID:LTqcyu7E
age
211名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 23:53:40 ID:b3WWSwyC
このスレの幼馴染みは素晴らしいですね。
実際の幼馴染みいるけど全然ちがうよ・・・
212名無しさん@ピンキー:2006/11/28(火) 01:12:05 ID:sPEbngR1
幼馴染は心の中にいるんだ。
213名無しさん@ピンキー:2006/11/28(火) 01:21:08 ID:vfXHjLTx
職人さん続き待ってます
214名無しさん@ピンキー:2006/11/30(木) 13:45:18 ID:gLJH+7vm
最後の投下から二週間経ったわけだが
215名無しさん@ピンキー:2006/11/30(木) 13:57:01 ID:3vn596TO
一番上に上がっていたのでwktkしてやってきた俺ガイルorz
216名無しさん@ピンキー:2006/11/30(木) 14:16:32 ID:W1EtOw6d
元々波があるスレだからな
投下が始まったらまた怒涛の神作品のオンパレードだよ
217名無しさん@ピンキー:2006/11/30(木) 14:28:17 ID:guvtvqu+
218 ◆K4f74q9XQ6 :2006/11/30(木) 16:19:28 ID:KMwjbl30
並んで歩く隣に居るのは、穏やかな表情の彼。
温厚な彼は滅多な事じゃ怒らなくて、あたしは彼の笑顔を見るたびに安心する。

ちっちゃな頃から、何かやらかすのはあたしと決まっていて、彼はそんなあたしに巻き込まれながらも、いつものんびりとしたペースで付いてきてくれた。

なのに。

「ごめん、いつまでもくっついてちゃ駄目だよね」

不意に彼がそう呟いた。

「……え?」

何を言われた分からなくて、足を止めたあたしは彼を見つめる。
数歩先を歩いて彼も足を止めると、躊躇いがちにあたしを見つめ返した。

「僕らももう良い歳だし、幼馴染みだからって、あんまり君にくっついてると迷惑だろ?」
「そ…そんな事あるわけ無いじゃない!いきなり何言ってるのよ!」
「だって……」

あたしの剣幕に押されたのか、彼が口ごもる。
口を閉ざしたら駄目になってしまうような気がして、あたしは彼に歩み寄るとその胸元をガシと掴んだ。

「アンタはずっとあたしと一緒に居なきゃ駄目!それとも、一緒に居たくないの?」

もしも頷かれたらどうしよう。
そう考えはしたけれど、これだけは絶対譲れない。
彼はあたしの勢いに目を丸くして瞬きを繰り返すと、やがて困ったような笑顔を浮かべた。

「……そんな事ないよ」

シャツを握る私の手に自分の手を沿え、やんわりと引き剥がす。
かと思うと、彼は唐突に私を引き寄せると、力強く抱き締めた。

「っ!?」
「そう言ったからには、ちゃんと覚悟しておいてね」

真っ赤になって身動きが出来ないあたしの頭上に、穏やかな彼の声が降る。

「保守…させて貰うからさ」
219 ◆K4f74q9XQ6 :2006/11/30(木) 16:20:59 ID:KMwjbl30
保守がてら短文を投下。
教師物書いてる奴です。
今更ながらトリップをつけてみたり。
220名無しさん@ピンキー:2006/11/30(木) 16:25:52 ID:XDNp9kBf
>>219
続きを待ってるよ。
221名無しさん@ピンキー:2006/11/30(木) 17:13:54 ID:/0RAyQX7
>>219
GJ!
この前の保管娘とかこんな感じのSS好きだW
222名無しさん@ピンキー:2006/11/30(木) 18:48:49 ID:xouyFo3E
神よ・・・我に光を
223名無しさん@ピンキー:2006/11/30(木) 23:09:53 ID:Qqu/gDng
ほっ、保管娘ーッ!!ほっほっほあっほあーッッッ!!
224名無しさん@ピンキー:2006/12/01(金) 09:16:15 ID:CV3UmmvH
>>223
おちつけ





ほっほっほあっほあーッッッ!!
225名無しさん@ピンキー:2006/12/01(金) 23:07:19 ID:UuGHHJaK
>>216
しかしむらがありすぎだ。
226名無しさん@ピンキー:2006/12/02(土) 01:30:30 ID:AL3SXxMX
むくり、と。彼は起き上がる。
彼はとある理由で一人暮らしをしているため、家事も一人でこなさねばならなかった。
あくびをしながら自室のドアをあけると、良い匂いと人の気配が台所から感じられた。
「あいつらか・・・。」
彼は頭をかきながら苦笑し、服を着替えてから台所に向かった。

「よう、おはようさん。」
「あ、おはよう!って何よそのだらしない態度は・・・。起きぬけなのは分かるけど、もうちょっとしゃっきりしなさいよね。」
「まぁそういうな姉よ。こんな彼も素敵ではないか。」

台所で食事の用意をしているのは、彼の幼馴染の双子の少女であった。

姉は黒髪を見事なポニーテールにまとめており、快活な印象を与える美少女であった。

対して妹は、同じく美しい黒髪を、こちらはストレートにおろしている。知的でクールな印象だ。
もっとも、彼に対しては好意を素直にぶつけすぎる所があった。

「しかし、お前ら今日はどうしたんだ?特に朝食の用意を頼んだ記憶は無いんだが・・・。」
「お母さんがね?おかずが余ったから持って行けって。ついでに朝ご飯の用意もしてやりなさいってね。」
「うむ、まぁそれはあくまで口実で、私も姉も一秒でも早く君に逢いたかっただけなのだがな。」
「!!な、何言ってんのよ妹!!あ、あくまで幼馴染の腐れ縁として心配しているだけでそんな・・・!」
「そんなに照れるな姉よ。私を見習ってもう少し素直になれ。今時ツンデレは流行らんぞ?」

こんないつものやりとりを見て、彼は思わず苦笑していたのだが、ふと真顔になった。

「なんか・・・いつも悪いな。本当にすまな・・・・むぐ。」

そのまま喋ろうとしたのだが、姉妹二人から口に人差し指を当てられては喋れない。

二人は彼の目をじttぽ見つめてくる。彼はまた苦笑し、表情で「分かった」と告げる。

二人が人差し指を離した後、彼は笑みを浮かべて言った。
「二人とも・・・本当に有難うな。すごく感謝してる。」

その言葉を聞いて二人はとびっきりの笑顔を浮かべた。

「まったく・・・。あんたの世話を焼けるのは私と妹ぐらいなんだから、ちゃんと感謝してよね?」
「こちらこそ有難うだ君よ。あらためて惚れ直したぞ!」

この3人がドタバタしつつも楽しい日常を織り成していくのだが、それは別の機会に語ろう。
227名無しさん@ピンキー:2006/12/02(土) 01:32:52 ID:AL3SXxMX
時間が出来たらちゃんとキャラの名前とかつけて書きます。とりあえず保守代わりということで。
228名無しさん@ピンキー:2006/12/02(土) 04:07:14 ID:k64Iw6CZ
幼馴染みにツンデレ+素直クールか。
…(´∀`)
229名無しさん@ピンキー:2006/12/02(土) 06:43:28 ID:9XFbZQIR
これは良作の予感ですよ、奥さん!
230名無しさん@ピンキー:2006/12/02(土) 16:03:04 ID:Zj6smTxV
奥さん…ハァハァ
231名無しさん@ピンキー:2006/12/02(土) 17:11:55 ID:uV8mpZI8
人妻で幼馴染み?
232名無しさん@ピンキー:2006/12/02(土) 17:19:37 ID:uDZnHgPk
そりゃどんなNTRだ
233名無しさん@ピンキー:2006/12/02(土) 21:02:27 ID:ifMN3PBt
人妻の幼馴染を寝取るエロゲがあったな…
234名無しさん@ピンキー:2006/12/02(土) 21:07:57 ID:qZhwm4Q6
ふたりの兄嫁?
235名無しさん@ピンキー:2006/12/02(土) 22:21:18 ID:qgGHixki
>>226


   こ   れ   は   名   作   の   予   感


236名無しさん@ピンキー:2006/12/03(日) 00:23:00 ID:W1oHhuM+
>>226
素直クールな幼馴染みものが読みたかったんだ
続きを激しく期待
237名無しさん@ピンキー:2006/12/03(日) 13:34:46 ID:IkatqQwZ
気のせいだろうか、幼馴染みキャラにはツンデレが多い気がする
238名無しさん@ピンキー:2006/12/03(日) 14:35:37 ID:G4PE1/HB
最初からデレデレだったら、話として盛り上がりがなくなるからな。
239名無しさん@ピンキー:2006/12/03(日) 15:54:54 ID:WtZEpWDl
幼馴染みは恋を知ってツンからデレになるんですよ。
240名無しさん@ピンキー:2006/12/03(日) 16:09:01 ID:nLepI2ZZ
幼馴染は最初デレで恋を知ってツンになりデレに変わるというのを書く猛者はおらんのか
241名無しさん@ピンキー:2006/12/03(日) 16:13:24 ID:WtZEpWDl
梅子タンの話はそれっぽくなかったか。最初デレ→ツン→デレ
まあそれ以上に坊ちゃんがツンデレだったけど。
242名無しさん@ピンキー:2006/12/03(日) 19:50:07 ID:TI9bk/Rf
>>238
貴様はシロクロ好きな俺を敵にまわしたな!!!!!!1
243名無しさん@ピンキー:2006/12/03(日) 20:02:35 ID:FiUjUJWW
>>238
綾乃タソに謝れ
244名無しさん@ピンキー:2006/12/03(日) 22:02:52 ID:leLlhCBQ
そういやシロクロのヒロインと今宵の〜のヒロインは態度が対照的なんだな
片方が希望されたらもう片方も合わせるように希望されることが多かったが
なんとなくその理由がわかった
245名無しさん@ピンキー:2006/12/03(日) 23:11:17 ID:Ebl1WcIe
はやく紗枝が幸せになる話が読みたいよ、神様
246名無しさん@ピンキー:2006/12/04(月) 00:34:52 ID:qbiy3IvJ
うむ、全くその通りだ。
247名無しさん@ピンキー:2006/12/04(月) 00:37:15 ID:SfHjx+Wp
あれ、付き合い始めてめでたしめでたしで終わったんじゃなかったの?
248名無しさん@ピンキー:2006/12/04(月) 01:39:49 ID:IGoMjki0
>>247
前スレ>>494>>499を見るんだ
249名無しさん@ピンキー:2006/12/04(月) 08:53:47 ID:q3YlrPLp
>>247
つ【保管庫】
続きがあるよ
250名無しさん@ピンキー:2006/12/05(火) 23:29:18 ID:our+vbJC
いきます。
251名無しさん@ピンキー:2006/12/05(火) 23:30:42 ID:our+vbJC
「ねーまさとき。わたしたち、ずっといっしょにいられるかな?」
「そんなのきまってるだろ。おれとゆいとまいは、これからもずっといっしょだぜ。」
「それはとてもうれしいな。そうすると、わたしとまさときとゆいと、さんにんでけっこんするということになるな。」
「けっこんってさんにんでもできるの?」
「けっこんとは、すきなひとどうしがするものだそうだ。だから、さんにんでもだいじょうぶなはずだ。」
「ようし!おれがんばってふたりをしあわせにするからな!」
「うん!よろしくねまさとき!」
「わたしたちも、きみをしあわせにしてあげるからかくごしておけ!」



むくり、と少年は起き上がった。
「一体何年前の事を夢にみてんだ俺は・・・。」
そう言って頭をかく。

少年の名前は「高村 正刻(たかむら まさとき)」。高校2年生。とある理由で一人暮らしである。
身長は160前後と低めである。ただし、顔はなかなか整っている。漆黒の髪と瞳が印象的であった。

「さて・・・。ちっと早いが食事の準備をするか。何があったっけな・・・。」
そういって、まずは顔を洗ってさっぱりしようとドアを開けると、何かとても良い匂いがした。
台所の方からである。さらに、人の気配もした。

「あいつらか・・・。まったく。」
苦笑しながらそうつぶやくと、彼は着替えて台所へ向かった。

台所で食事の準備をしていたのは、彼と同い年で、同じ学校へ通う、幼馴染の双子の少女であった。

「よう、おはようさん。」
「あ、正刻おはよう!って何よそのだらしない態度は・・・。起きぬけなのは分かるけど、もうちょっとしゃきっとしてよね。」
「そういうな唯衣よ。私はこんな正刻も素敵だと思うぞ。」

先に挨拶をしてきたのが姉である「宮原 唯衣(みやはら ゆい)」。身長は165前後。
スレンダーな体つきだが、凹凸はしっかりしている。ちょっと気の強そうな瞳を持ち、美しい黒髪を見事なポニーテールにまとめている。

妹の名は「宮原 舞衣(みやはら まい)」。身長は175前後とかなり高い。
スタイルは抜群で、見事な体型をしている。クールで知的な雰囲気を持っており、長く美しい黒髪を、こちらはストレートにおろしていた。
もっとも、正刻に対しては好意を素直にぶつけすぎるところがあるが。
252名無しさん@ピンキー:2006/12/05(火) 23:31:32 ID:our+vbJC
「で、お前ら今朝はどうしたんだ?特に朝食の用意を頼んだ記憶は無いんだが・・・。」
「お母さんがね?おかずが余ったから持って行けって。ついでに朝ご飯の用意もしてあげなさいってね。」
「うむ、まぁそれは口実で、私も唯衣も君に一秒でも早く逢いたかっただけなのだがな。」
舞衣がそういうと、唯衣はかぁっと顔をあからめて必死に否定をした。
「!!な、何を言ってんのよ舞衣!!あんたはともかく、わ、私はあくまで幼馴染の腐れ縁としてこいつを心配しているだけで、別にそんな・・・!」
そんな姉の態度に、やれやれといった態度で答える舞衣。
「そんなに照れるな唯衣よ。私を見習ってもう少し素直になれ。今時ツンデレは流行らんぞ?」

こんないつものやりとりを見て、彼は思わず苦笑していたのだが、ふと真顔になった。

「なんか・・・二人とも、いつも悪いな。本当にすまな・・・・むぐ。」

そのまま喋ろうとしたのだが、姉妹二人から口に人差し指を当てられては喋れない。

「正刻・・・いつも言ってるでしょ?こういう時の「ごめん」とか「すまない」とかは、いいっこなしにしようって。」
「そうだ。私たちが言って欲しい言葉はそんな言葉ではない。君ならちゃんとわかっているだろう?」

そう言って二人は正刻の目をじっと見つめてくる。彼は苦笑し、二人の指をどかすと笑顔を浮かべて言った。
「二人とも・・・本当に有難うな。すごく感謝してる。これからもよろしく頼む!」

その言葉を聞いて、二人はとびっきりの笑顔を浮かべた。
「まったく・・・。あんたの世話を焼けるのは私と舞衣くらいのものなんだから、ちゃんと感謝してよね?」
「こちらこそよろしくだ正刻。あらためて惚れ直したぞ!!」
253名無しさん@ピンキー:2006/12/05(火) 23:32:10 ID:our+vbJC
その後、正刻が身だしなみを整えている間に、双子は食事の準備を進めていた。
もっとも、実際に調理をしたのは唯衣で、舞衣は食器を用意したりする手伝いだけだったが。

「舞衣はなぁ・・・。何で殺人料理ばっかり作っちまうのかねぇ・・・。」
身支度を整えた正刻がテーブルについてそう言ったのに対し、舞衣はぷぅっと頬をふくらませた。
見た目に反したこういう子供っぽい行動を時々とるのが舞衣の癖である。
「今は確かにちょっとアレな腕だが・・・しかしな!今に見ていろ?いつか母さんや唯衣より料理の腕をを上げて、君をメロメロにしてやるからな!」
「はいはい、こいつをメロメロはどうでもいいけど、あんたが私や母さんを料理の腕で追い越すのは正直無理だと思うけどねー。」
そう言って唯衣は完成した料理を手際良くテーブルに並べていく。どれもかなり美味しそうだ。
「舞衣。コーヒーを淹れておいて。これだけは私、あんたには勝てないのよねー。」
「そうなんだよなー。唯衣が淹れたコーヒーも美味いけど、舞衣のが淹れたコーヒーは別格だもんなぁ。」
「ふふっ、ありがとうな正刻。お礼に君のコーヒーには私の愛をたっぷり注いでやろう。」
「んなもん注がんでいいから普通に砂糖とクリームを入れてくれ。」

こうして賑やかながらも楽しく食事を終えた三人は、登校の準備を始めた。
といっても準備をしたのは正刻だけで、双子は食事の後片付けをしたのだが。
やがて、準備を終えた正刻が二人に声をかける。
「よし、待たせたな。じゃあ行くとするか!」
「ちょっと待って正刻。はい、これお弁当。残さずちゃんと食べてよ?」
「おぅ有難うな。心配すんな、そんなもったいないことしねーよ。」
「さて、では準備も整ったようだし、行くとするか。」
「あいよ。さーて、今日も一日頑張りましょうかね。」
「正刻・・・。おっさんくさいよ・・・。」
「だがそれが良い!!」
そんなやりとりをしながら三人は賑やかに学校へ向かった。


254名無しさん@ピンキー:2006/12/05(火) 23:36:04 ID:our+vbJC
とりあえずこんな感じです。エロに行くのはかなりあとになりそうですが、必ず書こうと思います。
明日も休みだから、もちっと頑張りましょうかね。ではー。
255名無しさん@ピンキー:2006/12/05(火) 23:37:46 ID:BTPASyB/
これはwktk
作者さん頑張って下さい
256名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 00:41:34 ID:fuZqJZzK
久しぶりの作者降臨age
257名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 01:00:47 ID:0hjCZCuW
いきます。
258名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 01:02:02 ID:0hjCZCuW
三人は並んで学校への道を歩く。
真ん中が正刻、その右に唯衣、左に舞衣といった形だ。身長差のせいで、ぱっと見た感じ、仲の良い姉妹弟に見える。

しかしながら、少なくとも同じ学校に通う生徒でそう思うのは誰もいないだろう。
何しろ宮原姉妹は目立つ。二人ともとびっきりの美少女なのに加え、それぞれが活躍しているからだ。

唯衣は合気道部のホープである。男子でも彼女に勝てる者はいない。ポニーテールをなびかせて闘う彼女には男女問わずファンが多い。
さっぱりした明るい性格で、さらに料理をはじめとする家事全般が得意なのも、その人気の理由である。

舞衣は生徒会の副会長で、次期会長になるのは確実と言われている。さらには成績も抜群で、学年のトップ3から落ちたことは無い。
運動神経も抜群で、生徒会の業務があるため特定の部活動には所属していないが、それでも助っ人を頼まれる事は日常茶飯事だ。
当然人気も高いのだが、彼女は普段から正刻スキスキオーラを発散し、あまつさえ行動に移しまくっているので、男子からはある意味手の届かない存在と諦められている。
もっとも、それでも告白しようとする連中は後を絶たないが。

そんな人気者と行動を共にする正刻は、昔から羨望と嫉妬の対象だった。
しかし、彼自身がそれを苦痛に感じたことはほとんど無い。
幼い頃は、周りから冷やかされて恥ずかしく思った時もあったが、しかし彼女らと一緒にいることが彼にとっては何より楽しく、幸せなことであった。
ゆえに、周りから何を言われようが彼は二人から離れようとは思わない。嫌がらせも気にしない。
もっとも、舞衣の行き過ぎた愛情表現には多少辟易しており、あまりいちゃいちゃするな、といつも言っている。
舞衣はそんなことを言われようと態度を変えはしないが。

もっとも、最近はそういった正刻に対するやっかみも減ってきた。それは、彼自身がいわゆる「変わり者」に分類される人種であると、知れ渡ってきたせいもある。

その「変わり者」である理由の一つが、今彼らの間で話されていた。
259名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 01:04:42 ID:0hjCZCuW
「ところで正刻・・・。まさかとは思うが、今年もあの件を提案する気か?」
「当たり前だ。あれを成し遂げるのは俺の悲願だ。たとえ今年が駄目だとしても、俺は来年も必ずやるぞ。」
「あんたってば本当に変態よね・・・。幼馴染じゃなかったら、とっくに縁を切って半径5メートルには近づかないわ。」

彼の悲願。それは・・・図書館に18禁コーナーを作るということだった。

正刻は図書委員をしている。彼らが通う高校には、大きな図書館がある。司書もいるくらいだ。
さらに、通常図書委員というのは簡単なことしかしない場合が多いが、ここの学校では違った。
図書館の貸し出し業務や掃除はもちろん、新しく入れる本の選定や、今ある本の管理、入荷した本のチェック、パソコンへの登録など専門的なことまで任される。
もちろん全てまかせっきりという訳ではない。そのために司書がいるし、他の業務をする人もいる。図書委員でも、必ずそういったことをしなければならないわけではない。
しかし、このシステムは本好きには魅力あるシステムであり、それを目当てに入学する者もいる。
かくいう正刻もその一人であった。
そして彼には常日頃不満に思っていたことがある。それが18禁ということであった。
俗に18禁と呼ばれるモノは、むしろ18未満にこそ必要なものだと彼は考えた。
そこで、新しい本の入荷の選定の際に、そのことを提案したのだ。

結果は・・・いわずもがな、であった。しかもそれをネタではなく本気でやろうとするあたりがもうアレだ。
そんなこんなで、彼は「宮原姉妹のおまけ」から「学校一の変わり者」にランクアップしてしまった。

黙っていれば、彼自身もかなりの美形なのに、それをこれっぽっちも感じさせない。あるいはそれも、彼の魅力なのかもしれなかったが。

そんな微妙な空気を振り払うかのように、唯衣が正刻に話しかける。
「ま、あんたの変態的計画はどうでもいいけどね。ところで明日の夜は空いてる?」
「まぁ空いてるけど・・・。どうした?」
「父さんと母さんが、一緒に食事しようって。父さんはまた新しいお酒を買ったから、晩酌に付き合ってほしいみたいよ。」
「まぁ明日は土曜だし別に構わんが・・・。しかしおじさん・・・高校生を普通に酒に誘うなよなぁ・・・。」
「まぁ良いではないか。父さんも、男同士で飲みたいんだろう。ついでに泊まっていけば良い。」
「それって朝まで飲めってことか?お前らも少しは付き合えよ・・・ってやっぱいい。むしろ君たちは飲まないで。お願いだから飲まないで下さい。」

正刻の脳裏に、誤ってこの二人に酒を飲ませてしまったこと時の事が蘇った。正直、二度とあんなことは起きてほしくない。いや、起こさせない!

彼がそんな決意をしていると、学校に到着した。
「そんじゃお前ら、またな。」
「うん!あんたも授業中居眠りしちゃダメだからね?」
「まぁ安心しろ。クラスが別でも、君が居眠りをしたらすぐに膝枕をしに行ってあげるからな。」
「勘弁してくれよ・・・。」
そういって、三人はそれぞれのクラスに分かれていった。



260名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 01:07:23 ID:0hjCZCuW
以上です。ちょっと急いだせいでだいぶアレな出来になってしまいました。
もっと精進しないといけませんね。では。
261名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 20:06:15 ID:llm/abbf
ちょっと見ねえ間に新しいシリーズが投下されてたとは
かなりGJだぞ
262名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 03:42:31 ID:um5y8tZX
ゆいとまい…獣神ライガーか!
263名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 13:09:10 ID:l81aNnGM
今週のヤンジャンに載ってた幼馴染みの話がせつねぇ・・・
264名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 13:28:03 ID:StfTznHX
kwsk
265名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 19:07:17 ID:l81aNnGM
幼馴染みの女の子はヤリマンで男とやっては捨てられる。
主人公は捨てられて泣いてる女の子をラブホまで迎えに行くくらい女の子のことが好き。
ある日また新しい男ができたと喜ぶ女の子をみて主人公はおそいかかる。
でも女の子が泣いてるのを見ておそうのをやめてずっと好きだったと告白
女の子も本当に好きなのは主人公だと気付き付き合っていく。
みたいな話
266名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 01:01:44 ID:E3d1Lyx1
やっぱりカキコがあったか……
俺にとってはかなりの鬱展開だった
267名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 01:12:36 ID:GR2r4X9e
最初二行でたまきん思い出した
268名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 01:18:24 ID:0+cWjP/3
純愛スキーでちょっと処女厨のおれにも鬱展開だった

好きな幼馴染みがヤリマンって・・・
269名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 08:55:43 ID:d258anOc
さっき見てきた
俺は好きだぞ
270名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 01:55:16 ID:L++T6vj2
あれは男が悪い。
さっさとケリつけてりゃ済む話だった。

でもまあ丸く収まったんで良かったじゃないか。
271名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 06:56:11 ID:GNx+rJEn
age
272 ◆tx0dziA202 :2006/12/10(日) 16:48:21 ID:9JWAZpHF
保守代わりにちょっとしたものを。
>9-16と同じ系列の話で、情景描写重視で心情を出来る限り省いたあちらとは違い、コメディ調の話です。
雑文ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
273What is her dream? Isn`t it false?:2006/12/10(日) 16:49:13 ID:9JWAZpHF
「はあ……」
何度溜息をついたかな。今日だけだったらそうでもないけど、今までの合計はきっと4桁いくかも

ね。
私にこんな事をさせている原因は、今も隣にいるこのアホなノッポ。
……オールバックなんて時代錯誤な髪型して格好いいと思ってんだから救えんわね、ほんと。
おまけに何なのそのブーツ。カウボーイみたいなギザつき円盤……名前は知らないけど、そんなモ

ンくっつけて……
どっから拾ってきたのよ、んなモン。
しかもわざと穴の開いたズボンはいてるし。
あーもう! みっともないたらありゃぁしないわね。

「はあ〜……」

ホント、溜息がでるわ。こんな事してるこいつにも、付き合ってやってる自分にも。
「ん? どーした、ミコ。さっきからうるせぇな」
「あ〜、何でもないわよ何でも。せっかくの休みをこんな事に費やしてる神子さんは偉いなあ、と

、自画自賛しただけ〜」
めんどくさそうにぷらぷらと手を振りながら言ってやる。
ま、めんどくさいのは事実だし、自分を褒めたいのも本音だけどね。

横目でこのバカを見やってみれば、そりゃ当然のごとく嫌そうな顔。
「オマエな。自分から協力するっつっといてそりゃないだろーが」
あー、小学生ん時のいじめるバカ男子の気分が判った気がするわ。確かにこういう顔見んのはおも

しろい。
同意できるな、うん。
そんな時は、こいつは名前の通り偽善っぽい行動してたわけで。
ちゃらんぽらんな外見に似合わないまっすぐな性格は、いざこいつがいじめられる立場になったの

なら凄いいじりやすそうだわ。

「……オイ、聞いてんのか? ミコ」
「はいはい聞いてますって、セーギ。んで私にどーしろと」
「……もう少し真面目にやってくれ。俺一人に迷惑かかるならいい……いや、良くねえがそれはそ

れとして、今日の用事はさ……」
「はいはいOK問題なーし。のーぷろぶれむ。そんぐらいいくら私でも覚えてるわよ」

続きを言おうとして、胸がちくりと痛んだ。
……やれやれ。所詮は自己満足で欺瞞と分かってるんだけどなあ……
一瞬浮かんだ黒い感情を押し込める。
274What is her dream? Isn`t it false?:2006/12/10(日) 16:50:13 ID:9JWAZpHF
「……愛しのミズキチの誕生日だもんねぇ。そりゃ張り切るのも無理ないわ」
にやりと笑って言ってやる。
と、その瞬間セーギの顔が真っ赤に染まった。うわ、文字通り後ろに跳びすさるリアクションなんてはじめて見たわ。
「ば、ばばばばばばば馬鹿ヤローッ!! 何てこと言いやが――――」
ゴキブリとエビの合いの子の様な動きをしたセーギはそのまま歩道の段差につまづいて……

「「あ」」

そのまま車道に向けてすっころんだ。
きれいな放物線のスローモーションを描く。
どっかの素人投稿番組で見たなー、こういうの。そん時ゃ当然お約束どおり――

ビイィィィィィッ!!

……お約束どおり、トラックが来た。
うわ、すんごいデコトラ。中華街の装飾そのまま持ってきたような龍のレリーフが異様に目立つ。
国宝モノのデザインだわね。
なんか知らないけど今日は異様にレトロなものに縁があるなあ……
それにしても“愛羅武勇”っつーセンスはどうかと思うけど。

「ぬわああぁぁ、たたたた助けろこのダホッ!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬー!!!!」

……あ、すっかり忘れてた。
見ればセーギは足をむしったコオロギみたいな動きでじたばたしてる。
緊張してまともに動けないってとこ?
幼馴染だけに、情けなさが際立つなあ。
このままぎりぎりまで放っておいてもそれはそれで愉快なことになりそうだけど――
ま、何か間違ったりでもしたら夢見も悪くなりそうだし。
さすがに西瓜割りするには9月は遅いかな、とも思うわけで。

んー、でも。せっかくだしなあ。
「ねえねえ、助けてあげる事へのお駄賃は?」
「んなこと言ってる場合かー!! 助けやがれこんちくしょう!!」
「1.私の生徒会の雑用を引き受ける
2.私に今度食事をおごる
3.今度の日曜私に付き合う
4.一万頂戴
ライフライン、残るはテレフォンとフィフティフィフティです!」
「ふざけんなァーッ!! 選べるかあっ! 地味にカツアゲ入ってるし!」
「ドロップアウトを宣言ッ! ……。ファイナルアンサー!?」
「タメるな、あの人再現すんじゃねぇ! うーわあぁぁ、マジでやばいって!」
チ……いいチャンスだと思ったんだけど。しゃーないか。
275What is her dream? Isn`t it false?:2006/12/10(日) 16:50:50 ID:9JWAZpHF
「はいよ……っと」
デコトラが後数メートルで来るタイミング。
とりあえず手を伸ばして掴んでやる。
……しっかし。フツーは構図逆じゃないの? これ。
150cm無い私が180超えてるヤローを抱き起こしてもシュールな絵にしかならんわよ。
なんてどうでもいいことを思っていたら……
「へ?」

うわ、重っ!!踏ん張りきかないって!!
「んなに力込めないでよ!」
「普通に掴んでるだけだろ!」
まず。真剣にまずい。
このままこのアホごとデコトラに引きずり込まれそう。
嗚呼……全くもって女らしくないけど、外聞気にしてる場合じゃないか。

「どっ……せ、ええぇぇりゃあっ!!」
渾身の力で、思いっきり腕を引っ張る。
セーギの体が持ち上がり、不意に反動が無くなった。
何かが抜ける様な感触がして――――



気がつけば、セーギが私の上に覆いかぶさってた。
「……ッ!」
なんとなく手が出た。
思い切りアッパーを水月に叩き込む。
あ、ねこ蹴ったときみたいな声出した。
「……て、め…… 怪我人に何しやがるっ……」
「どこが怪我人よ! 転んだだけでんな様子ちーとも見えなかったわよ。
そもそも女押し倒してずっと堪能してるような煩悩男が怪我してるわけないでしょーが!」
「起き上がれねぇんだよ! テメーのせいで!!」
「……は?」

よくよくみたら、セーギが肩を反対の手で抑えて悶絶していた。
……あのー。これってもしかして。
「……肩、抜けた?」
「……たぶんな」
「うっわ、貧弱」
「うるせぇ!!」
怒鳴るなり、セーギは獣っぽい声出して脂汗を流し始めた。
もっと先の事考えて行動すりゃいいのにねぇ。
276What is her dream? Isn`t it false?:2006/12/10(日) 16:51:27 ID:9JWAZpHF
ま、取りあえずは現状把握、と。
ここは歩道。取りあえずデコトラから逃げるのにゃ成功。
で、今私はこのデカ男に押し倒されてる形になってる。
そのバカは肩が抜けてろくに動けない、と。
……。
よくよく考えてみたら、かなりアブないわね。
顔が火照ってきたの自分でも分かる。
目が泳いでいたら、不意にバカと目が合った。
私の顔色に気づいたのか、いきなりこいつがわめき出す。
「このバカ!! 誰がテメーなんか意識するか!この自意識過剰女!」

……ムカつく。
だけど、それ以上に。
「……そんなに魅力ないかな、私」
まあ確かに背は低いけど、他の部分は平均行ってんだけどな。
この天然パーマ気味の髪は自分でも好きじゃないけどさ。
はあ……

ん? 何か静かだと思ったら。
「……悪ぃ」
……こりゃ、もしや。
あ、自分でも意地悪い笑い浮かんでんの分かるわ。
「へぇー…… つまりは私に欲情してるってコト? ふーん」
「ばっ……んな訳ないだろーが!!」
「はいはいそういう事にしときますよー、と」
よっこいせ。
ようやっと抜け出せたー。疲れさせてくれるわ、全く。
さあてと、これからどうしようかな。
何にせよ、ま、とりあえずは……

「セーギ。家に来んさい」
「……何でだよ。まだ買い物終わってないんだがな」

この期に及んでこいつは…… それどころじゃないでしょうに。
「用事も何もその腕じゃねぇ……」
兎にも角にも手当てしてからね。と、まあそのぐらい分かるとは思うんだけど。
「今日が無理そうなら明日でも明後日でも付き合ったげるから。はいはいさっさと立ってせかせか歩く! OK?」
「……わーったよ」

ったく、素直じゃない事。
片手だけで器用に立ち上がったセーギは、本気で痛そうに脱臼した肩抑えてる。
「……なんか抑えてよっか?」
「……いや、別に……」
「遠慮しないの。じゃあ急ぐけど……痛むなら言ってよ?」
「……ああ」

……ったく、やせ我慢して。この馬鹿の側に寄り添って、動かないように両手で押さえる。
まあ、セーギにゃ悪いけど、今日はちょっと嬉しかったかな。少しだけ脈はあるみたいだし。
……ま、そんな脈といえるレベルでもないけどね。

ずっと、こうしていられたらいいのにな。
……私はそう思っているだけだけど、そこからはすぐに黒い想いが溢れてくる。
あの子、水城はきっと正義には振り向かない。ほぼ確信できる。
……その時。水城がこいつを振ったとき。私はそこにつけ込まないで居られるだろうか。
そうしない自信は……ない。
そんなことしても嬉しくも何ともないだろうって分かってるのに。


……いつか。何の躊躇いもなく、一緒に居られるようになれればいいな。
ただ、私はそう思う。
277 ◆tx0dziA202 :2006/12/10(日) 16:53:21 ID:9JWAZpHF
以上です。
一番上の、メモ帳の設定のせいでおかしいことに…… 読みづらくてすみません。

一応、四条と高槻の話のおよそ3ヶ月前の出来事の外伝と受け取ってください。
この間にこの二人は付き合うことになるわけですが……
何があったのかはご想像にお任せします。

……出来るだけ早く本編のほうも書きたいです。
278名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 09:24:39 ID:mtSaU+/o
GJ!
本編にwktk
279名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 19:26:28 ID:psis4tbq
紗枝ちゃんどこー?
280名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 03:42:40 ID:11OSMGPp
居酒屋にて。
「かんぱーい!」
「かんぱーい!じゃねぇわよ。せっかく可愛い幼馴染が帰ってきたんだから、洒落たバーの一件も予約しなさいよ」
「お前ごとき、場末の居酒屋で十分。ってか、今日連絡寄越して予約が取れるわけないだろ」
「あぁもう、それくらいの気くらい利かせないと、彼女に逃げられちゃうよ?」
「いねぇよ彼女なんて。大体、職場の同僚なんてオッチャン・オバチャンばっかだってのに、出会いなんかあるか」
「逃げられる以前の問題かぁ。ま、この調子じゃ、出会いがあってもねぇ」
「そういうお前はどうなんだよ。大学の連中と合コンとかやるんだろ?」
「もうダメダメ。何度か行ったけど、ロクな男いないし、狙いつけても、他の子に持ってかれちゃうし」
「どうせ、一番人気のイケメンとか狙ってんだろ?やめとけよ、ちょっと可愛くても、お前の性格じゃ話にならん」
「へぇー、言ってくれんじゃない。その話にならん奴をお嫁さんにするんだーって嬉しそうに言ってたのはどこのどなただったかしら?」
「いつの話だよ!その言い方からすると幼稚園の頃か?んな約束、無いようなもんだろ」
「……もし、今でも本気にしてるって言ったら?」
「本気にしてるような奴は合コンになんか行きませんー」
「ちっ、あんたも成長したわね」

「はぁー、彼女欲しいなぁ」
「はぁー、彼氏欲しいわねぇ」

【続きません】
281名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 09:36:42 ID:yaRATAgN
いや、続くよ
282名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 11:50:45 ID:8EQNYLR2
これは続く
283名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 20:40:32 ID:FG5DOKcp
と言うか続けてくれ
284名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 23:17:08 ID:MYu3lWr2
「しゃぁねぇ、この際手近なところで妥協するか……(今更マジには言えないからな)」
「ちょっとぉ! 私にも選ぶ権利があるわよ……(とっくに選んでるけどね)」
285名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 11:28:00 ID:SaHchJN2
なにこの照れ屋さん共
286名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 20:14:40 ID:VK4j62or
これは良い幼馴染ですね
287名無しさん@ピンキー:2006/12/16(土) 04:15:41 ID:Hq60GiI3
幼馴染みの先生達マダー?
288名無しさん@ピンキー:2006/12/16(土) 04:44:12 ID:o/Dhj2AA
このスレで言うのも何だが、ラブるばかりが幼馴染じゃないと思うんだ。
我々は、恋愛対象外の魅力と言う奴を、今一度見直すべきではないか?
289名無しさん@ピンキー:2006/12/16(土) 08:54:57 ID:fi8e3tAV
>>280
こういう関係マジで(・∀・)イイ!!

激しく続き求む!?
290名無しさん@ピンキー:2006/12/16(土) 16:06:57 ID:twDT2oXy
288さんの意見、激しくわかる気がする。
例えばギャルゲ・エロゲにおいて、非攻略キャラほど魅力を感じたこと
がないだろうか。
ヒロインの親友ポジションのため攻略不能。
だが、選ぶならヒロインよりもその娘を‥‥というようなことが。
291名無しさん@ピンキー:2006/12/16(土) 16:41:09 ID:xSIapLX+
あ〜、付かず離れずの関係が個人的にツボ
292名無しさん@ピンキー:2006/12/17(日) 02:16:47 ID:WrAE8R9p
だが実際作品をつくるとなると、ちと難しい気がするなぁ。

まぁ、個々人が書けそうな方で頑張ると。俺も双子の続きを頑張って書くよ。
293現実逃避の名の元に:2006/12/17(日) 02:50:56 ID:XKg678S9
一部ですが投下しようと思います。
294現実逃避の名の元に:2006/12/17(日) 02:58:54 ID:XKg678S9
「俺ってさ、かっこいいのか?」
「えっ?」
何の脈絡も無しに突然聞いてきたのは私の幼馴染みである加勢隆太郎。
そしてそれに対して動揺して立ち止まっているのが私、朝日瞳だ
「なあ俺ってかっこいい?」
私が立ち止まっているのに気付き振り向くながらもう一度同じ質問を繰り返してくる。
「な、何言ってんのよ。あんたなんかがかっこいいわけないじゃない」
早歩きで隆太郎に追い付きながらそう答える。
「やっぱり。俺もそう思うんだよ。」
そう言っていつもの笑顔を見せ、一人で納得して黙りこくってしまった
「ちょっ、ちょっと結局何なのよその質問。」
質問の意図が分からず、少し苛ついてしまう、それにちょっと嫌な予感がした
「いや、ちょっとな。」
そう言って言葉を濁す
「ちょっとって何なのよ、気になるじゃない。ちゃんと言いなさいよ。」
「んー、でもなあ。まあ瞳ならいいか。これは誰にも言うなよ。実はさ今日学校でラブレターをもらったんだよ。」
「えっ?」
その瞬間私の思考が停止する。




続く
295現実逃避の名の元に:2006/12/17(日) 03:13:09 ID:XKg678S9
「おい、瞳?大丈夫か?急に涙流したりして、なあ大丈夫か?」
オロオロする隆太郎。それを見て、少し平静を取り戻した私は慌てて涙を拭う
「な、何でも無いわよ。ちょっと目にゴミが入っただけよ」
「こすっただけでゴミ取れるか?何だったら目薬貸すぞ?」
「大丈夫って言ってるでしょ。それよりそのラブレターって誰からよ。」
「ん?確か五組の黒川さんって人からだったと思う。」
黒川さんって言えば、一年のころ同じクラスで仲良かったからよく知ってる。スタイル抜群で、性格も良くて誰に対しても分け隔てなく接する良い子だった。
それに私なんかとは比べ物にならないほど綺麗で整った顔立ちの子だった。
「それであんたはどうすんのよ、黒川さんと付き合うの?」
恐る恐る核心に近付く
「いやその子とは初対面だったんだよ。だからもしかしたらドッキリかもって思ってさ。」
それで自分の顔がかっこいいか聞いてきたって訳ね。こいつらしいわ、本当に。やっぱりちょっとズレてるわね。






今日の分はこれで終了です。
296名無しさん@ピンキー:2006/12/17(日) 11:31:52 ID:+R+3XcTU
wktk
297名無しさん@ピンキー:2006/12/17(日) 11:51:37 ID:+v5JnTna
wktk
298現実逃避の名の元に:2006/12/18(月) 01:53:46 ID:Et/tMV5g
昨日の続きを投下します
299現実逃避の名の元に:2006/12/18(月) 01:59:36 ID:Et/tMV5g
「瞳は確か黒川さんと一年のころ同じクラスだったよな?外見は見れば分かるんだけど内面は分からないじゃん、それで黒川さんってどんな人だった?」
黒川さんは冗談で告白するような人じゃない、きっと本気なんだろう。ここで私がそのことを言えばきっと隆太郎は黒川さんと付き合ってしまうだろう
隆太郎とは子供の頃からずっと一緒で、その頃からこいつの隣は決まって私、それは高校二年生になった今でも変わってしない。今更誰かに譲れるわけない
「黒川さんって見た目はああだけど本当はすっごい性格悪いの。裏では男女問わずみんなの悪口言ってるのよ、知ってた?」
「知らなかった、全然そんな風には見えなかったよ。見た目はあんなに綺麗なのに性格はそんなに悪いのかよ。」
隆太郎の顔は本当に驚いているようだった。
ごめんね、黒川さん。他のものは譲れてもこいつの、隆太郎の隣だけは絶対譲れない。
「でも黒川さんってめちゃくちゃ性格悪いんだな。」
300現実逃避の名の元に:2006/12/18(月) 02:05:22 ID:Et/tMV5g
ちょうど私の家に着いたとき、ふいに隆太郎がそう呟くのが聞こえた。
「どうして?」
私は家の前で立ち止まってそう聞き返した
隆太郎もそれに気付いて家の前で立ち止まる
「だってさ、俺と瞳って付き合い長いけど、瞳が人の悪口言うの初めて聞いたもん。それに瞳はどんなに嫌われてる奴でも良いところを見付けてたじゃん。そういうところ俺、好きなんだぜ。それじゃあ、また明日な。」
「えっ?」
そう言って隣にある自分の家に入って行く隆太郎。私はそれを本日三度目の間抜けな声でしか見送ることが出来なかった。
「おかえりなさい。あら、まあまあまた隆くんと何かあったの?」
家に帰るとお母さんがいつものように出迎えてきた。
「何にもないわよ」
「嘘。だって瞳ちゃん顔真っ赤よ。」
えっ?私は慌てて顔を触る。熱い。
「やっぱり何かあったのね。何があったの?お母さんが相談に乗ったげるわよ。」
「もうお母さんには関係ないでしょ、ほっといてよ」
私はお母さんを振りきって二階の自分の部屋に入る。そのままベッドに倒れこみ隆太郎の言葉を思い出す。
好き。隆太郎はLIKEの意味で使ったのだろうけど、それでもやっぱり幼馴染みから好きって言われるのは嬉しい。




301現実逃避の名の元に:2006/12/18(月) 02:07:01 ID:Et/tMV5g
今回はこれで終了です。今回、変な文字数ですみませんでした。
302名無しさん@ピンキー:2006/12/18(月) 09:13:44 ID:cxymUa2z
修羅場のヨカーン
303名無しさん@ピンキー:2006/12/18(月) 22:20:17 ID:IY9pmS57
続き投下のヨカーン
304Sunday:2006/12/18(月) 22:21:59 ID:IY9pmS57



 嘘だ。うそだ。ウソダ。



 こんなの嘘だ、信じたくない。



 ずっと崇兄を信じようって決めたのに。その矢先なのに。



 なのに、こんなのない。



 ひどいよ、崇兄。



 あたしのこと、好きだって言ったくせに。



 あたしだって……崇兄のことだけが好きなのに。大好きなのに。



 まだまだ……いっぱい構って欲しいのに。



『しょーがねーだろ、あいつはお前と違って身持ちが堅いんだよ』
『だからって私のところ来る? あーあ、彼女さんかわいそ』
『呼んだのはお前だろ』
『来たのはそっちでしょ』
 だけど、目の前で交わされる会話は紛れもなく現実そのもので。逃げ出したい。今すぐ
背を向けて、反対方向へと走り去ってしまいたい。
 なのに身体はなおも彼らを追いかける。体内の臓器が全て機能を停止して冷え切って
しまったような、そんな冷たさを内に秘めたまま。脚が勝手に進んでいく。
『いいのー? 幼なじみさんと付き合ってるんでしょ? バレたら後が…』

『バレなきゃ問題無いだろ。それに俺が今ここにいんのは向こうに問題があるからだしな』



『問題って何?』



 身体、地面、空気。その瞬間、全てが凍てつく。空間がそこだけ切り取られ、隔離される。

『さ……紗枝…?』

 我慢できずに話に割り込んだわけではなかった。そういう次元の話じゃなかった。気が付けば
問いかけていた。問いかけられた彼は、恐る恐るこちらに振り向き、彼女の名前を掠れた声で呟く。
305Sunday:2006/12/18(月) 22:23:41 ID:IY9pmS57

『ねえ、どういうこと? 問題ってなに? 崇兄……今から何しようとしてたの?』

 目がかち合って、彼の瞳はより一層見開かれ揺れ動く。


 紛れもなく、彼は彼女の「彼」だった。


 今村崇之。物心ついた時にはもう「崇兄」という愛称で呼んでいて、ずっとずっと一緒に
育ってきたのだ。後姿だったとはいえ、今更見間違えるはずもなかった。

『この人……昔崇兄と付き合ってた人だよね? 答えてよ、何しようとしてたんだよ』

 そしてもちろん、崇之の隣にいる女性が誰であったかも紗枝はしっかりと覚えている。
忘れられるはずが無い。泣きそうになるのも、叫びたくなるのも、全てを耐えて、自分の
気持ちを必死に隠しながら、一度はこの二人を祝福したのだから。
『あーらら……お邪魔になりそうだから、私帰るね』
『ちょ、お前待てって…』


『崇兄!!』


 突然の大声に言葉を失う周りの人々の替わりに、その瞬間強く吹いた風に揺られ、並木の
葉っぱが擦れてざわりと騒ぎ立てる。

 修羅場の気配を感じ取り、面倒はゴメンだと退散しかける元カノを彼は呼び止めようと
したものの、それよりも大きな声で名を呼ばれ、起こしかけた行動を止めざるをえなかった。
その間に、彼女は雑踏の中へ姿を溶け込ませていってしまう。

『いや、これはその……偶然そこで出会って…』
 流石に口八丁で鳴らしたこの男も、今回の状況では舌と頭がちゃんと回ってくれない様子。
『……』
『別にさ! その、なんだ…えー、特別な意図があって会ったわけじゃ…』


『話、聞いてたんだよ。あたし』


『……』
『子守の気分だとか、バレなきゃ問題ないとか、こうしてこっそり会ってるのはあたしにも
問題があるとか…全部……聞いてたんだよ…?』
 大きかったのは最初の一言だけで、あとは俯いて、微かに震えて、消え入りそうな涙声で。
顔を手で覆わずに口をギュッと結んだ様子を見せるのは、せめてもの強がりで。
『…と、とりあえずここ人目があるから。な? ちょっと、違う場所で……』
『答えてよ…崇兄……』
 周りの目を気にして、崇之に手首を掴まれようとする。だけどそれを振り払う。そんな
ことよりも先に、答えが聞きたかった。
306Sunday:2006/12/18(月) 22:25:52 ID:IY9pmS57


 悲しいけど、信じたいから。辛いけど、嘘だと思いたいから。


 少しでも早く、この気持ちから解放されたいから。


『ほんとのこと、言って…?』


 だから、なりふりは構わなかった。


『……』
『……』
 
 崇之は大きく息を吐く。頭を掻いて発すべき、返すべき言葉を捜しているようだった。
その眉間に、これまで以上の強い皺が走る。それまでずっと逸らし続けていたこちらの
視線を、今になって初めて見返してくる。

 そして。


『その……悪かった』


『……!』


 刹那の後。



 カッコウの鳴き声に代わりに響いた、ひどく乾いた爆ぜる音。



 ひりつく頬を指先で撫でると、頭を抱えて天を仰ぐ。顔を顰めて舌を打つその様子は
彼女から見ても痛々しく映った。


 赤く染まっていく目でそんな自失した様子の彼を睨みつけると、紗枝は微かな嗚咽と共に、
地面を叩く足音を残して走り去ってしまう。甘く疼き続けた少し前の日々に嘲笑われたようで、
惨めな思いを噛み締める。
 背後から、足音は追いかけてこない。それが余計に悲しくて、視界はただただ歪むばかりだった。
 わずか五ヶ月、まだ半年にも満たない僅かな時間。それなのに、既に大きくすれ違って
しまっていることに、紗枝はこみ上げる悲しさをせき止められなかった。

『今なら言える、何度でも言えるさ』

『なーに照れてんだよ、恋人同士だろこ・い・び・と』

 痛くて、辛くて、何に対してこの感情をぶつけたらいいのか分からなくて。それを誤魔化す
ように、彼女は人垣の間を縫うように走り続ける。


 全てが、もう遠い昔のことのようだった―――

307Sunday:2006/12/18(月) 22:27:51 ID:IY9pmS57





「はー……そりゃもう確定だねぇ」
「疑惑じゃなくて、向こうも認めちゃったんだ」
「どうしようもないわね」
 紗枝の臨場感溢れる詳細を聞き終わり、溜息とともに返される三様の印象。長々とした
体験談を語り終えた当人はというと、喉を潤す為に話の合間に頼んだお代わりのオレンジ
ジュースを口にしている。やがてカラン、と氷の音を立ててそれを飲み干し、今度は鼻から
息を吐いた。食道や胃に冷たい感覚が走り、少しだけ気分が改まる。

「それから会ったり話したりしてないの?」
「……何度か事情を聞こうと思って連絡したんだけどね。はぐらかされるばっかりで」
「話は? 取り付けなかったの?」
「さっきのメールがその返信」
「……はー…っ、大変ね」
 あれから平静を取り戻し、詳しい事情を聞こうとするものの、反応は一向に返ってくる
気配も無いようで。何を考えているかは分からないが、向こうは向こうで傷つけ追い詰め
られてるのは確かなようだ。

「もう…どうすればいいか分かんないよ…」

 経緯を詳しく語ったことで、またまたその時の感情がぶり返してきたのか、またしても
頭を垂れ、周りの喧騒に消え入りそうなほど小さな声で一言だけ漏らす。
「あー……じゃあさ、考え方変えてみようよ」
「……?」
「どういうこと?」
 このまま話題共々彼女が萎れるのをあまりに不憫と思ったのか、三つ編みの娘が提案を
してくる。

「ずっと以前に紗枝から聞いてきたお兄さんのイメージを思い浮かべるとさ、そんなに
悪い人に思えないし。もしかしたら、紗枝の方にも問題があったのかもしれないよ?」

「え…」
 びしいっ、と人差し指を眼前に立てられ、紗枝は思わず面食らう。
 自分に非があるだなんて、考えること自体無かった。彼女にとっては、崇之の行動が
何の前触れも無く突然振って沸いたものだったからだ。
 気持ちだけなら誰にも負けない自信はある。だけど、それを彼が喜んでくれるか、他の
人より自分が勝っていると思える魅力と捉えてくれるかは別問題だった。

「そう? 私が会った限りではいい加減な人だったけど」
「真ー由ー、気持ちは分かるけどいつまでも意固地にならないの。前は『良い人だ』って
言ってたじゃない」
「……自分の見る目の無さを恥じたいわ」
「『おかしな人だけど、紗枝が好きになるのも分かる』だっけ? そう言ってたじゃない」
「なになに、恋愛に興味ない真由がそんなこと言ってたの!? うっわ横恋慕じゃん!」
「ええ!? そんなの困るよ!」
「……」

 ずずずずずずっ

 過去の発言をほじくり返され、真由は残り少なくなった梅昆布茶を啜ることに終始する
ことで話題から逃げ出してしまう。馬鹿らし過ぎてただ単に言い訳するのが面倒なだけ
なのだろうが、普段必要の無い時以外はあまり喋らない彼女だけに、こんな状態になって
しまうとこの場で口を割らせるのはもはや不可能だろう。
308Sunday:2006/12/18(月) 22:31:41 ID:IY9pmS57

「はいはい変な解釈して勝手に盛り上がらないの。話を戻すけど、どう紗枝? 何かない?」
「でも、あたし心当たりとか」
「無くったっていいの。あたし達が判断するから、とりあえずその崇兄との付き合いだして
からの思い出とか言ってくれない?」 
「おぉ面白そう、たまには他人の恋路も聞くもんだよね」
「……うー」
「言いづらいならこっちから色々訊くから、答えてくれないかな」
「…うん、分かった」
 本当はあんまり話したくないけれど、他に手立てがないのなら仕方がない。今更この
友人達に、隠し事をしたってしょうがない。

 
「じゃーさーじゃーさー、早速聞くけどキスは何回くらいしたの?」


「……え゛」


「や、何回くらいしたかでどれくらいお互いに好きなのか分かるじゃん」
 茶髪娘のプレーボール直後の内角ストレートのような質問に、思わずどもる。隣にいた
三つ編みの娘は不躾な質問をする彼女に呆れた目線を送るものの、止めに入らないという
ことは、彼女もまた詳細を知りたいらしい。
「えと……えっと…」
 親友達の猛攻に紗枝はわたつきながら、指を一本一本丁寧に折って数を数え始める。
付き合って半年近く経つのだ。そんな簡単に、しかも確実に数えられるわけない筈なのだが……


「うーん…十回くらいかな」


「少なっ!」
「え、ちょ……それ本当?」
 ところがどっこいあっさり答えを出す紗枝。どうやら彼女達が密に過ごした時間は、
想像以上に少なかったらしい。

「え…少ないのかな」

「少ないって!」
「どう考えても少ないよ!」
 友人達が声高にそう口にするのも無理はない。単純計算すれば一ヶ月に二回という頻度
なのだ。いくらなんでも、あまりにありえない。
「でも…だって、崇兄もそういうことやろうって言ってこないし…」
「いちいち口に出してするもんじゃないでしょうが! 大事なのは雰囲気雰囲気!」
「そ、そういうもんなの?」
「ほんっと大事にされてるね、箱入り娘みたい」
「されてないよ! からかわれてばっかりだし!」
 どうやら世間一般で言う「付き合う」という行為と、紗枝の中での「付き合う」という
行為は随分とズレが生じているらしい。
309Sunday:2006/12/18(月) 22:33:32 ID:IY9pmS57


「はー……流石にお兄さんに同情したくなるわ」
「こういうことに関しちゃお子様だとは思ってはいたけど、まさかここまでねぇ…」
「……お子様で悪うございました」
「だってさー、いくらなんでもあんまりだよ?」
「お兄さんにとっちゃ生殺しのような五ヶ月間だったかもね」
 信じていた友人達が突然敵に回ってしまいそうなこの事態に、紗枝のわたつきはいよいよ
止まらなくなる。


「そんなことないって。だっていきなり、し…舌とか入れてくる時もあったんだよ」


「ほほう舌ですか、これはエロいですね」
「なんかあんたさっきから台詞がオヤジ化してない?」
「あはは、良いじゃん別に。でもまあ、そんな様子じゃまだやることヤってないんだろうね」

「うぅ……」
 恋愛経験の拙さか、別に言わなくていいことまで暴露してしまう。しかも、言っても
いないことまでズバリ当てられてしまう。
 勇気を振り絞ってカミングアウトした爆弾発言も大した効果を示さず話のツマにされる
始末。友人達のそんな反応に、紗枝の中にも自分にも非があるんだろうかという気持ちが
芽生えかける。
「でさ、あんたその時どうしたの?」
「……」
「まさかディープなのやっといてそこで終わったわけじゃないよね?」


「…いきなりだったから、びっくりして、その、崇兄のこと思わず突き飛ばしちゃったん
だけど……別にいいよね? 仕方ないよね?」


「……」
「……」
「……」

「だ、だってあれは崇兄が悪いんだよ? 何も言わずにいきなり、し、してくるし」

 今度こその衝撃のカミングアウトに触発され、信じられないものを見るような目つきに
なった六つの瞳に射抜かれながらも、必死に自分の正当性を訴える。

「採決を取ります。紗枝にも問題があると思う人」

 ばっ

 しかし、そんな必死の主張も虚しく、ほぼ同時に挙がる右腕三つ。二人は当然としても、
崇之に対して否定的なスタンスを取っていた真由まで手を挙げている。
310Sunday:2006/12/18(月) 22:35:14 ID:IY9pmS57

「う〜〜、なんで真由まで……」

ずずずずずずっ

 梅昆布茶を全て飲み干し、湯飲みをテーブルにゴトリと置くと、不平を口にされた真由は
ゆっくりと紗枝の方へ視線を送る。
「一つ、聞きたいんだけど」
「な、何かな」
 普段口数が少ない友人だけに、こういう時の威圧感は崇之以上である。


「それって付き合ってるって言えるの?」


 見えない拳銃が紗枝の心を貫く。それほど威力のある質問だった。

「付き合ってるよ! 付き合ってなかったら…そんなこと……し、しないよ」

「……」
 いささか誤解を招きそうな発言ではあるものの、確かにその通りなのだが。いかんせん
回数と頻度が少なすぎる為に、そう思わざるをえない。
 
 真由からすれば紗枝の行動の方が不可解だった。あれだけ崇之のことを好きだった彼女だから、
いざ付き合い始めたら、トントン拍子で関係が進むものとばかり思っていた。

 しかし現実は、その真逆。感情が表に出やすい彼女だから、普段ならすぐに考えていることが
分かるのに。今回はまるで気持ちが読めない。こんなこと、今まで一度も無かった。
それは幼なじみの彼も同じなのだろう。でなければ浮気なんてするはずが無い。


 〜〜〜♪〜〜〜〜♪〜♪〜〜♪♪〜


 その時だった。紗枝の携帯電話がけたたましい音を放ち始める。流れ始めたこの着メロは
メールではなくて電話の方だ。
友人達に裏切られしょんぼりとしながらも、彼女は携帯の液晶画面を開く。そしてそこに
表示された名前を見ると。


「崇兄だ……!」


 思わず紗枝がそう漏らしたのとほぼ同時に、友人達三人が一斉に彼女の方へ振り向く。
真剣な話をしているはずなのにどこかしら緩んでいた妙な雰囲気が、その瞬間サッと消え
失せてしまった。

 つい数時間前には、まったくもってやる気のない返事をしてきたのに、今更何の用事が
あるんだろう。何か言い忘れていたことでもあるのだろうか。でもそれなら、メールで
伝えた方が手っ取り早い。
 液晶画面を見つめながら、不安が募る。何を言われるのか怖くて、そして何を言ってしまう
のか自分でも分からなくて。何度も話をしようと思って出来なかったのに、突然かかってきた
電話に落ち着きを失いつつあって。あの一連の出来事も、またありありと脳裏に浮かんでくる。

〜〜〜♪〜〜〜〜♪〜♪〜〜♪♪〜

 そんな紗枝の気持ちを知ってか知らずか、彼女の携帯電話は、淡々と着メロを流し続けるのだった―――――


311Sunday:2006/12/18(月) 22:37:59 ID:IY9pmS57
|ω・`)……



|ω・`;)ノシ ゴメンネ、ミンナガオモッテタヨウナテンカイジャナクテゴメンネ



|ω・`;)ノシ ソノウチクルカモシレナイカラマッテテネ


  サッ
|彡
312名無しさん@ピンキー:2006/12/18(月) 23:01:32 ID:zdr20XNq
もどかしい・・・
だがGJ
313名無しさん@ピンキー:2006/12/18(月) 23:07:49 ID:cxymUa2z
久々にGJ!

俺はそろそろこんな展開になってもいいんじゃないかと思ってた
314名無しさん@ピンキー:2006/12/19(火) 00:22:14 ID:lhcgUGf2
紗枝ちゃんキタ━━(゚∀゚)━━!!!

ずっと待ってたんだよ
315現実逃避の名の元に:2006/12/19(火) 01:08:05 ID:Q9F+29ri
素晴らしい作品の後に投下するのは、大変恐縮ですが、今日の分投下します。
316現実逃避の名の元に:2006/12/19(火) 01:12:14 ID:Q9F+29ri
でも素直には喜べない。それは私があいつに嘘をついたから、ただ隣を譲りたくなかった私のわがままからの嘘。
本当のことを言ったほうがいいのか、でもそれだと…ん〜って、そもそも何で私があいつへの告白でいちいち悩まなくちゃいけないの、隆太郎のくせに生意気よ。でも私はそんなあいつのこと…




「瞳、ご飯よ〜。」
ん、どうやら私は眠ってしまっていたみたい。
「は〜い、今行く。」
返事をして下に降りていく。結局答えは出なかった。
「いただきます。」
どうやら他の家族はみんな食べ終わっいたみたい、私一人の夕食。と、そこに母親が目の前に座ってくる。それもニヤニヤした顔で
「何?」
痺を切らした私が先に沈黙を破る。
「別にィ〜。」
明らかに何かあるのに持ったいぶっている態度。どう考えても精神年齢は私より低いだろう。
「そう。」
ここはわざとそっけなくするのが母親との長年の付き合いでわかったこと。
「そんなにそっけなくしないで、もっと聞いてよ〜、瞳ちゃん。」
そう言いながら私の隣に移動してくる。移動してくる姿はどっちが子供かわからない。
「はいはい、何かあったんですかお母さん。」
待ってましたとばかりに話始める。
317現実逃避の名の元に:2006/12/19(火) 01:20:10 ID:Q9F+29ri
「実はね、さっき隆くんのお母さんから電話があって知ったんだけど隆くん、告白されたらしいのよ。」
「そうなんだ。」
おばさんのことだ、きっといつもと様子の違う隆太郎に気付いて問いただしたに違いない。
「あれ?慌てないの?」
予想と違う私のリアクションに、少々ガッガリしているようにも見える母の顔。
「当たり前でしょ、何であいつが告白された程度で、私が慌てないといけないのよ。」
「ふ〜ん、それでね隆くん、その子と付き合うらしいのよ」
「う、嘘、一緒に帰ったときはそんなこと一言も言って無かっ」
はめられた。案の定、母親の顔は最初のニヤニヤ顔に戻っていた。
「あれ〜?隆くんのことじゃ慌てないんじゃなかったのぉ?」
相手の神経を逆撫でするような言い方。私は少し苛立ちながら無言でご飯をかきこみ続ける。
すると今度は急に真剣な顔になったと思うと、
「まあ、さっきの告白を受けるって言うのは嘘なんだけどね。それはそうと瞳、あんた隆くんが告白されてたこと知ってたわよね?」
「う、うん。」
普段とは違う雰囲気に圧倒されて思わず頷いてしまう。
「あんた隆くんが他の人と付き合ってもいいの?」
「あいつが誰と付き合おうと私には関係ないもん。」
母さんは溜め息を一つつきながら、
「瞳、少しは自分の気持ちに素直になりなさい。あんた隆くんから告白されたとき、どう思った?」
「別に。なんとも思わなかったわよ。」
「嘘つきなさい、あんたが嘘ついてもママにはちゃんと、わかるんですからね。」
「お母さんなんかにそんなことわかるわけないじゃん。第一、これはあいつの問題で私には全く関係ないの!」
だんだんと興奮してくるのが自分でもわかる、なに熱くなってんだろ、私。隆太郎のことなんかで。
318現実逃避の名の元に:2006/12/19(火) 01:24:56 ID:Q9F+29ri
以上で今日の分は終了です。大変見苦しいお話ですいません。
319名無しさん@ピンキー:2006/12/19(火) 03:44:17 ID:0yR5+H7t
謙遜は要らない。とりあえず完結させてくれれば良い。話はそれから。
320名無しさん@ピンキー:2006/12/19(火) 06:50:16 ID:zfndow3A
幼馴染み最高ぅダッゼ!!
二人ともGJダッゼ!!!
321名無しさん@ピンキー:2006/12/19(火) 08:46:56 ID:B9NDgYhZ
イイヨイイヨー
322名無しさん@ピンキー:2006/12/19(火) 09:46:15 ID:2zTPw3Qi
どっちも切ない!でもGJ!
323名無しさん@ピンキー:2006/12/19(火) 10:09:43 ID:jWviv1eQ
どっちも良い!続きまってる、GJ!
324名無しさん@ピンキー:2006/12/19(火) 13:29:53 ID:FzTeRO2y
>>318
良い作品をありがとう
ただ、前の作品が投下されてあんまり時間経ってないのにすぐ投下するのは
ちょっとどうかと思うな
325名無しさん@ピンキー:2006/12/20(水) 01:19:04 ID:x6BpwYbW
幼馴染の双子の美人姉妹と同時に結婚した男…
うらやましぃ

ttp://ameblo.jp/thaiad/entry-10021879720.html
326名無しさん@ピンキー:2006/12/20(水) 01:29:52 ID:iD8tIeS+
>>325
両親も公認ということで最早言うべき言葉が思い当たらぬw
末永く三人で幸せに生きて頂きたいものだ。しかし世界は広いよなw

…双子姉妹が同じ男が父親の子供を産むと、いとこであり、異母兄弟だが、
DNA的には実の兄弟?
327名無しさん@ピンキー:2006/12/20(水) 02:10:41 ID:r0mkHkqp
>>326
一卵性ならそう言うことになるのかなぁ
328名無しさん@ピンキー:2006/12/20(水) 13:05:46 ID:XBPJ35bx
いや、ならんでしょ。
確率だけの話なら双子でなくとも同一の遺伝子を持つ兄弟姉妹も有り得るわけだから。
“DNA的には”って考え方自体間違ってると思うんだ。

つうか幼馴染みスレの話題じゃねえやな。
329名無しさん@ピンキー:2006/12/21(木) 01:19:54 ID:aMKv4SSi
a
330名無しさん@ピンキー:2006/12/21(木) 01:21:29 ID:aMKv4SSi
age
331名無しさん@ピンキー:2006/12/21(木) 01:23:49 ID:aMKv4SSi
俺は今京都に来ている。昔住んでいた懐かしい故郷だ。まぁ10年以上前の話なんだが。じゃあなぜ俺がここにいるかって?
まぁなんやかんやで色々あってな、説明するのは面倒だからここまでにしておこう。
京都に来たのは観光などのためじゃあない。ここにちょっと居座る事になったから出向いたのだ。しかも高校生の俺一人で!
ふざけた話だよまったく・・・。
今江恭介それが俺の名前、16歳で高校2年生。ルックス普通、ほんとに普通だ。
そんな俺だがあても無くここに来たわけじゃない、何だか知らないが親の知り合いか何かの家で俺を預かってくれるらしい。
親にもらった地図とバックを抱え途方にくれてる俺・・・俺に明日はあるのかな・・・・。
とまぁ馬鹿なこと言うのもこれくらいにしといてさっさと俺を預かってくれる家を探さないとな。

恭介:「えーっと地図地図っと・・・なになに、目印は有名なお寺金閣寺、その周辺の家、家主の名前は有賀さん・・・んだよこれ!
説明ばっかで道が分からねーじゃねーか!
あんのバカ親どんだけ適当に書いてやがんだ!・・・どーすんだよ、来て5分でもう最悪の事態を招いてるよ・・・。
仕方ない、聞いてみるか・・・」
俺は近くの交番に向かい道を教えてもらう事にした。生まれて初めて入った交番に少し緊張しながら道を聞いてみると意外と近くにある事が分かった。
丁寧に地図までもらい一応もう大丈夫そうだ。ここから20分程度で着くらしい。さすがは警察官、細かいところまでよく把握してる。
俺は警官にお礼の挨拶をし地図を見ながらそこへ向かった、途中地図を見ているのに迷ったりしながら進んだため倍の40分かかってやっと有賀さんの家に到着した。
そこは家・・いやお屋敷と言った方いいか、とにかく大きな建物が目の前に現れた。
恭介:「ほんとにここであってるのか・・・?うちの親がこんなお金持ちの人と友達っていうのが信じられない。
けど表札に有賀って書いてるしな・・・・・よ、よし!とりあえず入ってみ・・・」
?:「どちら様ですか?」
恭介:「え?」
不意にかけられた声に驚き体が止まる。一呼吸置いてから声のしたほうに振り返ってみる。
するとそこには制服姿で弓道の道具らしいものを持っている今時に珍しい綺麗な黒髪のストレートヘアの女の子が立っていて、自分の事を少し怪しげに思ってるような目でこちらを見ている。
胸はC・・いやDはあるだろう。ルックスは抜群、これが美少女っていうのかな・・・?
そんな事を考えていると
332名無しさん@ピンキー:2006/12/21(木) 01:24:33 ID:aMKv4SSi
美少女:「あのー・・・どちら様でしょうか・・・?何かうちに用でも・・・?」
恭介:「あ、えっと俺は・・その・・・あ、有賀さんに御用があって来た者でしてそれで・・その・・」
突然の事であって対応がきかずアタフタしていると
美少女:「ちょっと待っててください、今家の者を呼んで来ますから」
そういうと彼女は家の中に入っていった。その間俺は頭の中が真っ白でボーっとしているだけだった。数分後、彼女は自分の母親らしい女性を連れて家から出てきた。
母親:「えっと・・どちら様でして?」
恭介:「い、今江恭介です!名前を言えば分かるって親に言われて来たのですが・・・?」
母親:「恭介君!?恭介君なのね!大きくなったわねー、おばさんの事覚えてる?昔はよく遊びに来たでしょう」
・・・・・え?俺この人と知り合いだったっけ?よく遊びに来た・・・?
恭介:「あの・・・どこかでお会いしましたっけ・・・?」
母親:「あら、覚えてない私の事?まぁ仕方ないわよね、10年も前の話ですもの。ね、恭ちゃん」
その呼び名で呼ばれたとき一瞬にしてすべての記憶が蘇った。
恭介:「く、久美子おばさん!?」
母親:「そうそう!やっと思い出したみたいね。」
恭介:「じゃ、じゃあまさかあの子は・・・・」
彼女の方を見てみると彼女も何かを思い出したように驚いた様子の顔でこちらを見ている。
恭介:「み、美琴・・・?」
美少女:「恭介君・・・・?」
恭介:「お、お前・・な、なんで・・・」
もはや言葉にならなかった、彼女は俺の幼馴染の有賀美琴。10年前によく遊んだ女の子だった。
美琴:「きょ、恭介君こそ・・・な、なんでここに・・・?」
母親:「色々あってね、恭介君をうちで預かることにしたのよ。教えてなかったっけ?」
美琴:「そ、そんな事聞いてないよお母さん!何で教えてくれなかったの!」
母親:「いいじゃない、結果分かったんだから。びっくりした?」
美琴:「びっくりするに決まってるじゃない!もう、お母さんのバカ!」
そういうと美琴は家に走って入っていった。俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。これから無期の時間、幼馴染の家に住む事になった事だけは俺の頭の中に刻まれていた。
恭介:「・・・・マジかよおい・・・」
333名無しさん@ピンキー:2006/12/21(木) 01:25:38 ID:aMKv4SSi
朝を迎えた。昨日の事があってあまり眠ることが出来なかったためか妙に体が重い。
重い体を無理矢理起こして辺りを見渡してみる、目についた時計はもう10時を過ぎていた。こんな時間まで寝ていたのは初めてだ、よほど疲れていたのだろう。
そんな事を考えながら部屋を出てみる。どうやら今日も天気は快晴のようだ、強い日差しが俺の瞼に差し込んできた。
目を擦りながら台所に行ってみる。
「あら、起きたのね恭ちゃん。よく眠れた?」
そこには和服姿で家事を淡々とこなす久美子おばさんの姿があった、寝ぼけているせいか反応が少し遅れる。
「あ・・はい睡眠はよく取る事が出来ました。けど何か体が重くて・・・」
「そう・・まだ寝てても良かったのよ?今日は特に用事があるわけじゃないでしょう?」
「用事はないんですけどあんまり寝てるのもあれかなと思って・・・とりあえずもう起きます、だいぶ体も軽くなってきましたし」
「ならいいんだけど・・・あ、朝食はここに置いといたから適当に食べててね。おばさんちょっと買い物に行ってくるから」
「すみませんわざわざ。あれ、そういえば美琴は・・・?」
「ん?ああ、あの子なら部活に行ったわよ弓道の、もうすぐ帰って来ると思うけど・・・」
「弓道・・・あいつまだ続けてたんですか?」
「そうなのよ。弓道の試合である人にどうしても勝ちたいって言っててね、かれこれもう10年以上続けてるのよ。
よく飽きないで続けられるわよね」
「そうだったんですか。そういえば・・・ある人ってのは一体誰なんですか・・・?」
「それがね、ある人っで誰なの?って聞いても教えてくれないのよ。約束したからとしか言わなくてね。あの子頑固だから」
「そうですか・・・頑固なのはあの頃から変わってないんですね」
そんな事を話していると玄関の開く音が聞こえてきた、どうやら美琴が部活を終えて帰ってきたらしい。
「ただいまー・・・あれ、恭介君その格好・・・もしかして今起きたの?」
「あ、ああそんなとこかな。それよりお前まだ弓道やってたのか・・?」
「うん、悪い?」
「いや・・そういうわけじゃないけどさ・・・ただ随分と長続きするなーと思って」
「色々あってまだやめたくない・・・いややめれないの方が合ってるかな」
「ある人との約束でか?」
「そうそう約束・・・って何で恭介君がその事知ってるの・・・?・・・お母さんね恭介君に話したの・・・!」
「お、お母さんちょっと買い物に行ってくるから」
「ちょっとお母さん!誰にも喋っちゃ駄目って言ったのに!」
美琴は苦笑しながらそそくさと家を出て行こうとする久美子おばさんに文句を言っている、すると久美子おばさんが何かを思い出したように
ぴたりと体を止めて俺の方に向けた。
「そうそう恭介君、明日からあなたも美琴と同じ学校に行ってもらうことになってるの。だからそのつもりでいてね、それじゃあ」
「え、学校!?ちょッ、久美子おばさん!そんな急に言われて・・・行っちゃったよ・・・明日から学校かよ、それに美琴と同じ学校か・・・
というわけだからそこんところはよろしくな・・」
美琴の方に振り返ると同じように驚いた様子だった。美琴は我に返り持ち物を持って自分の部屋に戻っていく
「学校で変なことしないでよ恭介君・・・私にも迷惑かかるんだからね」
「変な事って何だよ・・・別にそんなやましい事しねーっての。はぁ・・・とりあえず朝飯食っちゃお・・・」
俺は少し冷めた朝食を食べながらため息ばかりついていた・・・

今日はここまでです
334名無しさん@ピンキー:2006/12/21(木) 02:15:41 ID:WM9foBJc
335名無しさん@ピンキー:2006/12/21(木) 09:20:15 ID:tARdfR6j
句点の位置がおかしい。おかしすぎる。

地の文がくどい・・・一人称形式をうまく読ませるだけの
文章力が足りてない気がする。

悪いがあまり読む気がしなかった。
336名無しさん@ピンキー:2006/12/21(木) 12:24:54 ID:lLFKOj5f
会話文の時に
人名:「台詞」
って形にするのは止めた方がいい。
あと冒頭でそれまでのいきさつを色々あったで済ませるのは手抜きだと思う。
詳しくなくて良いから軽く言及すると良いかな。
337名無しさん@ピンキー:2006/12/21(木) 14:34:42 ID:UudeBI9n
和風美少女スレにもまったく同じものが投下されているんだが。
338名無しさん@ピンキー:2006/12/21(木) 21:11:46 ID:xhDY3BaA
幼馴染みで和風だからどっちにも投下しちゃえってことか?
339名無しさん@ピンキー:2006/12/21(木) 23:52:10 ID:agTpqDN7
IDが違うね。
和風美少女スレに投下されたのを、aMKv4SSiが転載してるんだろ。

向こうのスレで、シナリオ風のは指摘されてたし、本人なら直すだろ。
340現実逃避の名の元に:2006/12/22(金) 01:16:14 ID:jlytNUlK
>>317の続きです
341現実逃避の名の元に:2006/12/22(金) 01:17:34 ID:jlytNUlK
「やっぱり気付いてないのね、あんた、嘘つくとき必ず耳たぶを触るクセがあるのよ、知ってた?」
嘘、と言いかけたがいつのまにか私の手が耳たぶを触っていることに気付きその言葉を飲み込んだ。
そして母さんは今度は優しい顔になって諭すそうに言葉を続けてきた。
「いい、瞳。ここで自分に正直にならないと、一生あなたはこのことで後悔することになるわよ、それはちゃんと覚えておきなさい。」
「……」
「瞳、返事は?」
「…はい。」
ご飯を食べ終え、流しに食器を置く。
「あっ、洗い物はお母さんがやっとくから。先、お風呂入っちゃってて。」
そう言ったお母さんの顔は、また元の無邪気な子供の顔に戻っていた。
「うん。じゃあ、先入るね。」
私の頭の中は、ぐちゃぐちゃだった。お風呂で体を洗いながら、髪を洗いながらもずっと考えていた。
私はあいつのこと本当は、どう思ってるのか、そして隆太郎は私のこと、どう思ってるんだろうか。
――ザアァ
真っ正面からシャワーを浴びる。水圧が強くて顔が少し痛い。
「うぅ、私、わたしどうしたらいいの?隆太郎の隣も離れたくないし、嘘ついたままも、嫌。ねぇ!私どうしたらいいの?」
342現実逃避の名の元に:2006/12/22(金) 01:21:13 ID:jlytNUlK
――ザアァ
その瞬間、溜め込んでいたものが溢れ出すのがわかった。




「お風呂、空いたから。」
母親にそう告げ、二階に上がろうとする。
「泣いて少しはすっきりした?」
「うそ、声漏れてた?」
驚いて、振り返る。
「その顔見ればわかるわよ、でもやっと答えが出たみたいね。」
「うん。」
「じゃあ幸運を祈ってるわね。」
「うん、ありがと、お母さん。じゃあ、おやすみ。」
そう言って二階に上がり部屋に入る。そして私は携帯を取り隆太郎にメールを送る。
――コンコン
しばらくして窓を叩く音がした。来たみたいだ。深呼吸を一回して窓を開ける。
「ごめんね、こんな遅くに。」
「ん?いーってそんぐらい、気にしないって。それより話って何だ?」
時刻が時刻だけに早めに用件を聞きたいらしい。ここまで来たら後戻りはできない、さあ言うのよ、私。言いなさい。
「うん。あのね黒川さんのことなんだけど。」
「黒川さんがどうかしたのか?」
「黒川さんがすっごい嫌な人って言ったけどね、本当はすっごい良い子で性格も優しい子なの。それでね、それでね、私、隆太郎の隣を譲りたくなかった、だからそんな。嘘ついちゃったんだ、ごめんね、本当にごめん。」

343現実逃避の名の元に:2006/12/22(金) 01:23:41 ID:jlytNUlK
言葉を入れられないように一気に喋った。でもこれでいい。隆太郎に嫌われても本当のことだけは伝えたかったから。
「なんだそんなことかよ。話があるって言うからドキドキしてたのに。」
「えっ、えっ?どういうこと?」
予想外の隆太郎の返答に気が動転してしまう。
「だから、黒川さんのことが嘘っていうのは、最初っからわかってたってこと。」
「何でそんなことわかるのよ、あんた黒川さんとは会話したことないんでしょ。」
「俺が十何年お前と付き合ってると思ってるんだよ。瞳が嘘つくときの癖ぐらい知ってるって。」
「じゃあ黒川さんの話が嘘って知っててあんたは…」
だんだんと怒りが込み上げてくる。私の苦しみは何だったの?
「あの〜瞳?その黙ってたのは悪かったけど―「うるさいっ!」」
「最低、私がどれだけ悩んだか知ってるの?もうあんたなんて知らない、黒川さんと付き合っちゃえばいいのよ!この馬鹿、アホ、早く出てってもうあんたの顔なんて見たくない。出てって、出てってよ!」
隆太郎を部屋から追い出し、枕に顔を押し付ける。さっき涙を流し切ったと思ったのに、涙は止めどなく溢れてきた。




344現実逃避の名の元に:2006/12/22(金) 01:28:09 ID:jlytNUlK
――ピピピピピ
機械音が頭に響いてくる。
泣き疲れて寝てしまったらしい。我ながら情けない。
しかし習慣とは恐ろしいもので精神は疲弊しきっているのに、体は無意識の内に学校の準備を始めている。
でも学校に行く途中も、着いてからも、そして授業中も周りの声は全く頭に入ってこなかった。
途中、友達も心配して話しかけてきてくれたようだが、頭に入って来ず、気のない返事しか返すことはできなかった。
そして気が付いたら放課後になっていた。帰ろう、そう思い靴箱で靴を履き変えていると男子の話し声が聞こえてきた。
「ぉいっ聞いたか?……さんの告白。まさか加勢に……とは信じられないだろ、加勢のくせに。」
ふいに聞こえてきたのは隆太郎の話題。どうやら黒川さんの告白の話のようだ、よく聞き取れはしなかったがおそらく二人は付き合うことになったのだろう。おめでとう、加勢と黒川さんなら末永く付き合っていけるだろう。
私はそう思いながら、フラフラと家路に着くのだった。



家に着いて最初に母親が何か言ってきた、しかしそれすらも頭に入って来ず、そのまま自分の部屋に入る。昨日と同じようにベッドに倒れ込む。心の底から絞り込むように呟く。
「隆太郎…。」

345現実逃避の名の元に:2006/12/22(金) 01:30:32 ID:jlytNUlK
何時間経ったのだろうか。いつの間にか外は真っ暗になっていた。
何もする気になれない、私はこれからどうするのだろう。私は並んで歩く隆太郎と黒川さんを見て笑って祝福できるだろうか、たぶん今はとてもじゃないけどできない。もしかしたら一生できないかもしれない。
――コンコン
えっ?
ガバッと、身体を起こす。
嘘、だよね。ただの空耳と思い込もうとするのにダメ押しのようにもう一度窓が叩かれる音がする。
急いでカーテンと窓を開ける。
「よっ、元気か?」
そこには捨てられた子犬のようにブルブルと震えた隆太郎だった。「ちょっ、あんたいつからそこにいるのよ、早く部屋に入りなさいよ。」
「おう、悪いな。じゃ、上がらせてもらうわ」
隆太郎を部屋に入れ、窓を閉める。外は吐く息が白いほど冷えていた。
「ごめん、隆太郎。今、何かあったかい物持ってくるから。」
こんなに寒い中にいて風邪でも引かれた、私のせいみたいじゃない。
「動くな!」
後ろに振り返ろうとすると、突然隆太郎に命令される。
「何?突然どうかしたの?」
「瞳の顔見るとちゃんと言えないかもしれないから、そのままの格好で聞いてくれ。」




346現実逃避の名の元に:2006/12/22(金) 01:32:14 ID:jlytNUlK
今回はこれで終了です。なんかバラバラですみませんでした
347名無しさん@ピンキー:2006/12/22(金) 02:06:55 ID:0ZSI0KKx
ひ、ひどい・・・。こんなところで止めるなんて・・・。

ね、ねぇ・・・お願いだから・・・続き・・・早くして?
348名無しさん@ピンキー:2006/12/22(金) 03:13:29 ID:5mlj937v
>>280の続き。

「よぉ〜し、もう一軒行くぞぉ〜!」
「そんな千鳥足でまだ呑む気かよ。てか、いい加減帰らないと、おばさん達心配するぞ」
「だーいりょーぶ!おかーさんにアンタと一緒だって連絡したら、なら安心ね、だってー」
「それでいいのかよおばさん……」
「おかーさんってば、孫が楽しみねって言ってたよー」
「…オイコラ、お前意味わかって言ってるか?」
「わーってるってー。だーから、もう一軒はしごしてもらーいりょーぶー!」
「イカレてやがる。呑みすぎたんだ」
「ほら早く早くぅ〜!……うぷっ、ぎぼぢばるい……」
「ほら言わんこっちゃない。ほら、そこの公園まで頑張れ」
「青姦するほど安くないぞぉ……うくっ」
「ワケわかんねぇ事言ってんじゃねぇっ!レディは道の真ん中で吐かない!せめて吐くなら側溝に……うわぁっ吐いたっ」

【今度こそ続かない】
349名無しさん@ピンキー:2006/12/22(金) 03:44:13 ID:U76wt+j+
続け!
350名無しさん@ピンキー:2006/12/22(金) 05:28:02 ID:hmUbPOOY
ドキドキ
351名無しさん@ピンキー:2006/12/22(金) 06:38:14 ID:/arSrQZ1
続いて欲しい単発ものといえば>>226なんかもろにそうだな
352名無しさん@ピンキー:2006/12/22(金) 08:32:34 ID:eud7znHo
イイヨイイヨー
353現実逃避の名の元に:2006/12/22(金) 23:54:37 ID:jlytNUlK
>>345の続きです
354現実逃避の名の元に:2006/12/22(金) 23:56:07 ID:jlytNUlK
「う、うん。」
いつもなら反論するところだが、いつもとは違う真剣な隆太郎の口調に圧倒される。
隆太郎の深呼吸する音が聞こえる。
「瞳。俺、瞳のこと好きだ。ずっと俺の隣にいて欲しい。俺の隣はお前しかいない。」
目の前が真っ白になる。心臓も呼吸もありえないぐらい早くなってきている。でも、
「何言ってんのよ、あんたは黒川さんと付き合うことになったんじゃないの。」
そう。隆太郎は黒川さんと付き合うことになったはずなのに。
「黒川さんからの告白は断った。」
「嘘。だって黒川さんは性格も良いし、スタイルだっていいし、文句のつけようがないくらい美人なのに。もしかしてまた私をからかってるの?」
「からかってなんかいない、俺は真剣だよ。黒川さんは確かに美人かもしれない、でも俺はお前が好きなんだ。」
「私なんか黒川さんみたいにスタイルも良くないし、顔だって普通だし。私なんか全然ダメきゃっ」
突然後ろから抱き締められる。
「それでも、それでも俺はお前が好きだ。」
突然の隆太郎の行動に私の中で塞き止められていたものが溢れてくる。




355現実逃避の名の元に:2006/12/22(金) 23:58:31 ID:jlytNUlK
「ぐすっ、私なん、か嫉妬深くてひっく、隆太郎に、も素直になれないのに、そんな、そん、な私なんかで、も、ぐすっ、好きって言っ、てくれるの?」
泣きながら隆太郎に本音をぶつける。
「あぁ、好きだ。側にいてほしい。瞳はどうなんだ?俺のこと、好きか?」
最後の部分は明らかに語気が弱い。きっと隆太郎も不安なんだろう。でも私の答えは決まってる。涙を拭き、隆太郎の方に振り返る。








「―――俺のこと、好きか?」
今までの会話からフラレる可能性は高い。でもこれを言わなきゃ一生後悔するし、黒川さんにも悪い。瞳がゆっくりと振り返ってくる。一瞬のはずなのにすごくゆっくりに見える、心臓は限界を越えて脈打っている。
「やっぱり無理だよな、お前のことむぐっ」
言葉を何かで遮られた。いや、その何かというのはわかってる。瞳の口唇だ。
「プハァッ、お前いきなり何してんだよ。」
やっと口唇同士が離れる。おそらく俺の顔は真っ赤だろう。
「う、うるさい、これが私の返事なの!」
なんだよそれ、ていうか瞳も顔真っ赤だし。
「あのできれば、口で返事をしてもらいたいんだが。」
告白の返事がキスとは、いくらなんでも大胆すぎるぞ。




356現実逃避の名の元に:2006/12/23(土) 00:03:56 ID:qSfOJKQe
「何言ってんのよ、ちゃんと口で返事したじゃないのよ。文句ある?」
なんかヤケクソみたいだけど、瞳は瞳なりに素直になった結果なんだろう。
「わかった。じゃあ今から俺と瞳は恋人同士だ。」
「ま、まあ、そういうことになるわね。」
「じゃあ、その今度はいきなりじゃなくてお互い同意の上で、したいんだけど。」
とりあえずちゃんとキスはしときたい。
「何言ってんのよ、私たち今付き合い始めたばかりなのよ、そんないきなり、し、したいとか言われても困るし。」
「頼む。俺が好きならさせてくれ。」
ずるい言葉だけど、こう言わなきゃきっと瞳はキスさせてくれないだろう。
「……わかった。でも、恥ずかしいから、ちょっと目瞑ってて。」
「マジで?わかった、しばらく目瞑っとく。」
ヤバい、緊張してきた。落ち着け俺。ここで失敗すれば末代までの恥だ。落ち着け。精神統一しろ。明鏡止水の心だ。よし、だいぶ落ち着いてきた。
「もう、いいよ。」
ゆっくり目を開ける。そこには目を閉じて口唇をちょっと突きだして待ってるぅ―ってそこには明鏡止水の心を一瞬で破壊する光景が広がっていた。
「ヒトミサン、ヒトミサン、アナタハナゼシタギスガタナノデスカ?」




357現実逃避の名の元に:2006/12/23(土) 00:06:19 ID:qSfOJKQe
一応今回はここまで終了です。途中でID変わってしまいましたが同一人物です、すいません。
358名無しさん@ピンキー:2006/12/23(土) 00:11:39 ID:LbJ9Sr8W
ショクニンサン、ショクニンサン、アナタハナゼワレワレヲナマゴロシニスルノデスカ?

GJです。暴走娘カワイスw
359名無しさん@ピンキー:2006/12/23(土) 02:46:23 ID:cv1i3l6x
下着姿ワロスww
このままつっぱしるんだ
360名無しさん@ピンキー:2006/12/23(土) 10:07:29 ID:hk1i+9/P
イイヨイイヨー
361現実逃避の名の元に:2006/12/24(日) 01:24:05 ID:4HzYiPzd
>>356の続きです
362現実逃避の名の元に:2006/12/24(日) 01:25:26 ID:4HzYiPzd
「う、うるさいわね。いきなり裸は、そのやっぱり恥ずかしかったのよ。」
なんともズレた返答だよ。しかし瞳って意外と胸、あるなぁ。着痩せするタイプなのか。それにしても綺麗な胸だなぁ、それに柔らかそうだっていかん、いかん。後ろに向いて何とか見ないようにする。このままじゃいろいろヤバい。
「その、したいってどういう意味かわかってる?」
「わ、わかってるわよ。そのセッ、って女の子になに言わせるのよ、この変態。」
「いやいや、違うよ。俺はただ瞳とキスしたかっただけだったんだけど。」
「えっ?」
後ろから瞳の驚いた声。おそらく瞳は真っ赤になってるだろうな。それで慌てて服を着て、今日は終わりだな。
「わかったんならちゃんと服着ろよな。風邪引くぞ。」
「…あんたさっき私の下着姿見たよね?」
「いやそのえっと。」
「見、た、の、よ、ね?」
俺の頭を後ろからガッチリと固定して、無理矢理瞳のほうに振り向かされる。
「痛い、痛い。俺が悪かった。」
「見、た、の、よ、ね?」
俺の頭を持ったまま再度尋ねてくる。
「はい、見ました。すいません。」
即座に土下座をして許しを乞う。
「私の下着姿だけ見ておいて自分は見せないなんて不公平よねえ?」



363現実逃避の名の元に:2006/12/24(日) 01:30:25 ID:4HzYiPzd
おかしいだろうと思い、顔を上げて反論する。
「いや、それは瞳が勝手に脱いだだけであって…。」
「不公平よねえ?」
顔を近付けて明らかな脅迫行為をしてくる瞳。そして顔と一緒に近付いてくる二つの膨らみ。そして俺にも一つの膨らみが出来上がる。これはまずい、とりあえず瞳を落ち着かせないと。
「お、落ち着け、瞳。お前の言ってることは、めちゃくちゃだぞ。下着見たから下着見せろとか小学生の発想だぞ。」
「だって、だって私、隆太郎の言葉勘違いしてこんな格好しちゃって後戻りできるわけないじゃない。それとも私の身体そんなに魅力ない?」
「いえ、十分魅力的です。」
急にしおらしくなって、うわめづかいでそれを言われると、絶対否定できない。いや事実魅力的だし。
「じゃあ、隆太郎も脱ぎなさい。」
一転、俺に下着姿のままで襲ってくる瞳。突然のことに慌て、そのまま押し倒される。
「ちょっ、さっきのは演技かよ。」
「さあ、脱ぎなさい。」
「ま、待て。何でズボンからなんだよ。下はまずい、本当まずいから。」
「「あっ」」
予想通り大きくなった俺の息子を掴み、固まる瞳。
「いや、これはそのあのあれだ一種の生理現象、生理現象だから。」
しどろもどろに弁明する俺。そして固まったままの瞳がゆっくり口を開く。



「骨?」


364現実逃避の名の元に:2006/12/24(日) 01:32:26 ID:4HzYiPzd
今回はこれで終了です。エロまでいけなくてすいません。長ったらしくてすいません。
365名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 10:00:50 ID:dY2O6b/M
イイヨイイヨー
366名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 22:42:58 ID:WrvyNoVe
シンクロ
367名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 23:27:46 ID:GRO2Dl8/
それはまるで
368名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 00:17:11 ID:RTttoaAL
シロクロ
369名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 00:49:20 ID:umluZKM7
綾乃タンマダー?
370現実逃避の名の元に:2006/12/27(水) 03:03:09 ID:JPk/lzR1
>>363の続きです
371現実逃避の名の元に:2006/12/27(水) 03:03:55 ID:JPk/lzR1
「……」
もはや俺は何も言わなかった。いや、何も言えなかった。ただ瞳の発した言葉に固まっていた。しかしその間も瞳は止まらなかった。
「ん〜、骨よりはちょっと柔かいかなぁ。」
瞳よ、触りすぎだ。
「もうズボン剥いで直接見ちゃえ。」
脱がせようとする瞳の手を掴みながら、注意する。
「待て、瞳。このズボンはパンドラの箱と同じだ。脱がしたら、もう後戻りはできん。だから止めろ。」
「そっか、ごめん。嫌だったね。じゃあ止めるね。」
「わかればよろしい。」
そうそう、素直が一番だぞ。ん?でもこれさっきと同じパターンじゃ―
「えいっ。」
はい、脱がされましたよ。しかもパンツごと。そして出てきたのは既に臨戦態勢の俺の息子。
「隆太郎…、病気、なの?」
なにこの純粋少女。いくらなんでもそれはないだろ。もしかして子どもの作り方とか知らないんじゃないのか。と心配してしまう。
「あぁもう後戻りできないからな。」
ガバッと立ち上がり、上着を脱いで全裸になる。そしてそのまま瞳に覆い被さるように上に乗る。
「いいのか?」
最終確認をする。しかしダメと言われても止まれないだろうけど。
「うん。その優しく、してね。」


372現実逃避の名の元に:2006/12/27(水) 03:06:41 ID:JPk/lzR1
ぐはっ、かわいい、かわいすぎるぞ、瞳。
了承を得て、ゆっくりとブラジャーのホックを外す。かわいらしい純白のブラから現れたのは、お茶碗をひっくり返したような形の良い綺麗な胸。
「ごめんね、胸、小さくて。」
本気ですまなさそうにする、瞳。「何言ってんだよ、こんな綺麗な胸、嫌いになるわけないだろ。」
それに、俺は巨乳はそんなに好きじゃないしな。
いよいよ胸に触ろうと手を伸ばす。若干、震えているのは気のせいにしておいてくれ。
そしてとうとう胸に触れた瞬間。
「きゃっ」
驚いて、手を離す。
「す、すまん、瞳。大丈夫か?どこか痛かったか?」
動揺する、俺。まさかここまで無器用とは。我ながら情けない。
「ううん、違うの。隆太郎の手が。」
「俺の手?」
意味を理解できない俺に、瞳は俺の手を取って俺の顔に当てる。
「冷たい…。」
暖房の効いた部屋にいるとはいえ長時間外にいたんだ。すぐに暖まるものでもない。
「そうか、じゃあ手は使わないほうがいいな。」
「手を使わないってどうするつもりよ?」
「こうするんだよ。」
その言葉と同時に乳房に顔をうずめる。
「きゃっ」
この悲鳴はただの驚きとしてとらせてもらおう。はっきりいって顔はさっきから真っ赤になってりして十分暖かいからな。


373現実逃避の名の元に:2006/12/27(水) 03:08:13 ID:JPk/lzR1
最初は乳房に顔をうずめて胸の感触を楽しむ。やわらけぇ、こんなに柔かいなんて反則だろ。これは病み付きになりそうだ。
「なんか隆太郎、子どもみたい。」
「男はみんないくつになっても子供なんだよ。」
そうしてしばらく胸の感触を楽しんだ後、いよいよ本格的に愛撫に取り掛かる。
ふいに右の淡いピンク色の乳首を口に含む。
「あんっ」
なかなか感度はいいようだ。そのまま舌で乳首をねぶるように口の中で転がす。
「――んぅ、ふぁっ。」
右ばかり攻めるのをやめて、今度は左を攻めようと口を離す。右の乳首は見事に固くなっていた。
「すごっ…、本当にたつんだ。」
「女の子にそういうこと言うな、変態。」
何度目かの変態の称号の授与。俺はめでたく変態の地位になれたんだな。
「よし、じゃあ今からもっと変態なことするぞ。」
開き直って左の乳首にむしゃぶりつく。
右は舌で転がすだけだったが、左は甘噛みも混ぜてみる。
「あんっ、噛むの、だ、だめぇ。」
どうやら甘噛みがお気に召したらしい。そのまま左右の乳首を交互に甘噛みしたり、舌で転がしたりしていた。
「はぁ、はぁ、隆太郎ばっかりにさせて、はあ、られない。私にもなにかさせて?」



374現実逃避の名の元に:2006/12/27(水) 03:10:23 ID:JPk/lzR1
今回は以上です。空気読んでなくてすいませんでした。
375名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 04:36:56 ID:Qp6kkLVL
イイヨイイヨー!
376名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 23:48:30 ID:umluZKM7
イイヨイイヨイイヨー!
377現実逃避の名の元に:2006/12/28(木) 01:09:30 ID:DvtTd0I0
>>373の続きです。
378現実逃避の名の元に:2006/12/28(木) 01:12:42 ID:DvtTd0I0
息も絶えだえに瞳はそう訴えてくる。
「わかった、じゃあ、その口でしてもらえるか?」
「口で?」
何を?と言いたけどな顔。やっぱりわかってないみたいだな。
「これを瞳に嗜えてほしいんだけど。」
目線で教えてる。瞳もゆっくりと俺の目線の先を追う。
「無理無理、そんな大きいの嗜えられるわけないわよ。」
そうだよな、お互い初めてなのに、何いきなり無理難題を押し付けてるんだよ、俺は。
「でも、あんただからしてあげる、ううん、したい。隆太郎を気持よくしてあげたいの。」
「瞳…、わかった。頼む。でも無理はすんなよ。」
「うん。」
体を入れ換えて、瞳が俺の上になる。こらっ、ツン、ツンするな。そんなに汚いものじゃないぞ、多分。
「えっと、どうすればいいの?」
「じゃあ、とりあえず舐めてくれるか?」
俺の指示に従い恐る恐る舌を出し、まるでアイスクリームを舐めるかのようにチロチロと舐め始めた。
「どう?」
「ん?かわいいよ。」
「そ、そうじゃなくて気持ちいいかどうかを聞いてるの。」
「今し始めたばっかりだろ。」
「まだ気持ちよくないんだ…。」
アイスクリームを舐めるようなやり方から、急に口に嗜わえだす。
「うおっ!」
突然のことに思わず腰を引いてしまう。
「ごめん、大丈夫?」
「大丈夫だ。ちょっと瞳の歯が当たっただけだから。あんまり無理するなよ、初めてなんだからさ。」


379現実逃避の名の元に:2006/12/28(木) 01:14:50 ID:DvtTd0I0
「う、うん。」
明らかに元気がない。なんとかしないと…、そうだ!
「じゃあさ、手コキしてもらえるか?」
「テコキ?」
エロに対して無知すぎるぞ。これは後で教育しないとダメだな。
「つまり俺のを瞳が手で掴んで上下に動かしてほしいってこと。」
「わかった、やってみる。」
そう言ったものの、しばらく躊躇していた。しかし意を決して俺の愚息を掴み、きごちなく扱きだす。
「こ、こんな感じ?」
「うん、結構いいかも。」
嘘だ。実は結構いいどころか、相当いい。瞳の柔らかな手の感触とぎこちないが絶妙な扱き。とても初めてとは思えない。
「ひ、瞳、本当に初めてか?」
「あ、当たり前じゃない。どうしてそんなこと聞くのよ。」
「いや、お前の手コキかなり気持ちいいからさ。」
「へぇ〜、気持ちいいんだ。じゃあこんなのはどう?」
そして急に扱くスピードを加速させる、と思ったらゆっくりと扱きだす。微妙な緩急が一気に絶頂感へと導く。
「うぉっ、ヤバい。ちょっ、やめろ、瞳。出るから。ヤバい。」
なんとか瞳の手を止めさせる。
はぁはぁ、ヤバかった。もう少しで瞳の顔に発射するところだったぜ。
「なに?気持ちよかったんじゃないの?」




380現実逃避の名の元に:2006/12/28(木) 01:19:02 ID:DvtTd0I0
「いや、気持ち良かったからすぐにでもお礼をしたいと思ってな。」
納得していないようだったが強引に態勢を入れ換えさせる。
いよいよ最後の砦に取り掛かる。
「脱がすぞ。」
「うん。」
瞳の純白の下着をゆっくりと脱がす。
そこには薄く生えた茂みとうっすらと濡れた割れ目。そしてぷっくりとしたピンク色の肉豆。
「ん?濡れてる…のか。」
「な、何言ってんのよ。濡れてるわけないじゃない。」
「だって、ほら。」
指ですくって、瞳に見せる。
「こ、これは汗よ、汗。この部屋暑いじゃない。きっとそれが原因よ。絶対、あんたのさっきの胸への愛撫のせいじゃないんだからね。」
「はいはい。」
瞳の言葉はスルーして、本格的に愛撫に取り掛かる。
まずぴったりと閉じた割れ目に人指し指をゆっくりと挿れる。
「あん、ふぅん、ぁあ。」
拙い指使いながら、敏感に感じてくれる。
しばらくすると愛液で指もシーツもびちゃびちゃになる、そして指を動かす度に、くちゅくちゅと音がでる。
「ぁ、あ、ン、ふぅん。もう、ダメだ、から」
何度もびくびくと小刻に痙攣しながら言葉を発する。
その言葉で人指し指を抜き、真っ赤に充血にした肉豆を摘む。
「ひィん、それダメ、ん、だめ。ぁん、おかしくなっ、ちゃうから。」
どうやらここが一番感じるみたいだな。それがわかると肉豆を集中的に攻めだす。そして、
「だ、だめ。イく、イっちゃうっ――」
びくんっと大きく跳ねたあと、それっきり体をぐったりと弛緩させる。
「おいっ、おいっ。大丈夫か?瞳。」
ペチペチと頬を叩く。調子に乗って無茶しすぎたみたいだ。
「ん、り、隆太郎?」
「瞳、気が付いたのか?ごめんな、俺無茶しすぎたみたいだ。今日はもうこれで止めるよ。」
「もう、そんな状態で言われても説得力ないわよ。」
瞳の目線には限界まで隆起し、たっぷりとヨダレを垂らした俺の愚息が。
「はははっ」
もう俺は笑うしかなかった。何せ言ってることとやってる状態が違うんだからな。
「最後まで、して、いいよ。」
「…わかった。でも無理はするなよ。」
「うん。」
愚息を掴み、ゆっくりと瞳の割れ目に当てる。
「行くぞ、瞳。」
「うん。」


381現実逃避の名の元に:2006/12/28(木) 01:20:23 ID:DvtTd0I0
今回は以上です。最後までいけませんでした、すいません。
382名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 02:16:13 ID:tn1RM3k3
豆エロイヨエロイヨー!
383526 ◆3T03eKWVoU :2006/12/28(木) 06:41:18 ID:P7pM7cpQ
うつむた剣太の耳が赤く染まっている。
私に動揺してくれていることに何だか物凄い優越感を感じてしまって、口元が緩む。
木の根元に座り込んだ剣太を見下ろしたまま、何か言いたくて、でも何を言ったらいいのかわからない。
「……私ばっかりじゃずるいから」
結局私の口から出てきたのは、奇襲に対する言い訳だった。
だってなんか、今更だけど……かなり、恥ずかしいことをした気がする。
「は?」
訝しげに見上げてくる剣太が私の言葉を理解していないことがわかり、ちょっとムッとしてしまう。
「だからっ!私ばっかり剣太にドキドキするのが悔しいの!だからっ……!」
私の言葉が途切れたのは、剣太のせいだ。
剣太が、私の手首を掴んだから。
掴んだ挙げ句に引っ張って、私をまた白いワイシャツにくっつけたから。
「鞘子、俺にドキドキしてんの?」
「なっ……何でっ……!そんなのしてない!」
予想外の剣太の言葉に、反射的に否定の言葉が出る。
してない、なんて真っ赤な嘘だ。説得力の欠片もない。
だってこんなに頬が熱い。
「今自分で言ったじゃん」
小さく笑いながら、剣太が腕の力を強めた。
あぁ……もう本当に勘弁して欲しい。
これ以上抱きしめられたら、羞恥心を飛び越して心地いいと思ってしまう。
そんなのはなんだか負けたみたいな気分になるから……本当に勘弁して欲しい。
「だから違うって……!」
黙ってたら剣太の言葉を肯定しているみたいで、それが嫌で向きになって私は否定の言葉を重ねる。
そんな私に「うん」と頷いた剣太はなぜだか腕に更に力を込めた。
「ちょっと……苦しいって」
「俺、嬉しい。鞘子が俺にドキドキするの」
剣太は卑怯だ。
こんなこと言われたら、私はもう何も言えなくなってしまう。
強がりの言葉さえ奪われてしまったら、私はもうどうすればいいんだろう。
剣太の腕の力は緩められたけど、やっぱり私は顔を上げることすらできなくて……次の行動が起こせない。
「鞘子」
ゆっくりと、でも逆らえない力で剣太が私の肩を掴み上半身を起こす。
私達の間にできた距離は、それでも数時間前までには考えられなかったくらいに近くて。
なのに、私はもう、視線を逸らすことが出来なくなっている。
熱くなった頬も、過呼吸寸前の心臓も、悲しさも優越感も……自分で手に負えなかった全ての感情が、剣太の視線に捕らわれてしまっている。
距離が出来たことで視界に入るはずの、土の茶色も枯葉の黄色も空の青色も……全部の色が頭から消えてしまう。
先に瞼を伏せたのは私だったのか、剣太だったのか。
重ねられた唇の柔らかさに、そんな疑問は全て呑み込まれてしまった。
(男の子の唇も柔らかいんだ……)
そんな当たり前のことを初めて知った気になる。
角度を変え、触れ合う面積を変え続けられるこの行為に私がグチャグチャの思考を手放した頃。
頭のてっぺんに、剣太の手が添えられた。
グイッと頭を前に押され驚いた私の唇が、何か柔らかく熱い物に触れられた。
続いて強引にソレが進入してくる。
「ん…………っ!」
くぐもった私の声は無視されてしまった。
舌が絡められ、唇が舐められ、歯列がなぞられ――――――――息継ぎすらままならないそれらの行為が何度も繰り返され、私の息があがっていく。
なぜだか、非道くもどかしい気分になる。
舌をなぞり舐め、互いの唾液が混じって、吐き出す息さえも呑み込まれるこの距離がもどかしい。
(もっと)
白くなった思考でそれだけを思う。
(もっと)
こういう思いを、本能と言うのだろうか。
(もっと)
近付きたい。
欲しい。
全部が。
幼馴染みの全部が、欲しい。
384526 ◆PGuMXHUDvk :2006/12/28(木) 06:42:06 ID:P7pM7cpQ
時間の感覚なんてとうになくなっていた。
ようやく離れた唇を、今度はひやりとした風がなぞる。
「……は、ぁっ……はぁ……」
酸欠、だ。
呼吸が上手くできない。
それでも。
「鞘子……鞘子……」
私の名を呼びながら再び何度も私に口づける剣太を拒否できない。
(全部、剣太のせいだ……全部……)
剣太以外の景色が見えない、なんて思ってしまうのも。
何も考えられないのも。
もっと、剣太に近付きたいと思ってしまうのも。
剣太が欲しいと思うのも。
全部剣太のせいだ。
だから――――――――剣太の掌が私の胸に触れても、私は拒否できないんだ。
「……鞘子」
耳元で囁かれた自分の名前をどこか遠くで聞きながら、私は無言で剣太に視線を向けた。
「……いい、か?」
何が、って聞き返したかった。
剣太の言葉の意味をはっきりと受け取っているのにそれを言葉にして欲しいと思った。
だけど。
酸欠と眩暈がそれを許さなくて……私は小さく頷くことしかできなくて。
「……鞘子」
幼馴染みが私の名を呼ぶ声が世界で一番好きな音なのだと、私はその時初めて知った。
385526 ◆PGuMXHUDvk :2006/12/28(木) 06:42:46 ID:P7pM7cpQ
久しぶりすぎて鳥間違えました。ごめんなさい。
386名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 10:23:10 ID:MDQRjJ0w
久しぶりすぎて不覚にも会社で勃ちました。ごめんなさい。

GodJOB!!
387名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 12:02:17 ID:K9joxQry
うお―――――
続きがキター!
待ち続けた甲斐があった
388名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 12:33:30 ID:qOTq1rQR
一瞬、自分の目を疑ったぜ

キタ-のAA貼りたいけどアク禁…
389名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 14:05:06 ID:iJilP8GN
キタ━━(*´Д`)━━!!
390名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 15:51:40 ID:QBACw9VH
キタ━━(*゚ω゚)━━!!
391名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 14:10:53 ID:Pu9DlrN7
久々に
         ∧∧  ∧∧
キタ━━━━ (*゚∀゚) (∀゚*)━━━━━━!!!!!!!!!!!!
     彡 ⊂   つ⊂  つ  ミ
   ((   ⊂、 /   \ 〜つ   ))
     ミ   ∪  ≡  U′  彡
392名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 01:37:11 ID:Y63/uAwR
保守
393名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 16:31:14 ID:mYzwPBwK
(・A・)保守
394名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 18:51:31 ID:5s0OghYx
紗枝ちゃんどこー?
395名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 15:24:15 ID:6BE9oh2Q
多分ここー
396Sunday:2007/01/06(土) 15:25:19 ID:6BE9oh2Q

『……』
『……』
 物言わぬまま、二人は対峙する。彼は、疲れきった表情のまま。彼女は、随分と居心地の
悪そうな表情のまま。

『あ、あの…ごめんね?』
 
『……』
 おずおずと頭を下げると同時に、彼はそこから視線を逸らす。煙草を再び吸わなくなって
から口に寂しさを覚えることが多くなったのか、代わりに飴玉を口の中で転がし続ける。
『…た、崇兄』
『いいよ、もう』
 溜息交じりの言葉に、彼女の顔に失意の色が浮かび上がった。そんなつもりで言ったわけ
じゃないのに、相手を誤解させてしまって。顰めた面のまま額を掻くと、腰を上げ、膝を
立てて彼女に近づく。

『怒ってないから』

 悪いことをしてしまって、罪の意識を覚えた子供をあやす様に。顔を間近に近づけて、
できる限り優しい声が出せるように気を付けながら、ゆっくりと囁く。
『……』
『誤解するのも仕方ねえさ。俺がそういう奴だっていうのは間違ってないしな』
 ポンポンと軽く肩を叩きながら、あらぬ誤解から激しく自分を責め立てた彼女を慰める。
本当は頭を撫でたかったのだけど、出来なかった。それが彼と彼女の間でどういう意味を
表すかを考えた時、出来るはずもなかった。
『でも…』
 話が進まない。さっきからこの繰り返しだった。気にしてないと何度言って聞かせようと
しても、彼女は全く耳を貸してくれない。
『紗枝』
『……っ』
 そんな苛立ちが、名前を呼ぶ時に僅かにこもってしまう。幼なじみだったから、そんな
微かな気持ちの変化にも気付かれて、彼女の身体はビクリと震えてしまう。

ぎゅっ

 埒が明かなくなって、慰める意味合いも込めて、腕を巻きつけ彼女の頭を胸元に抱え込む。
手の位置をずらして背中を優しく叩いて、紗枝が落ち着くようにゆっくりと撫でまわす。そうしたことで
深く吐き出された息が、微かに首筋を撫でた。
『それでも悪いと思ってるなら、せめて謝るのはやめてくれ』
『……』
 だけど普段、こういう時は絶対に寄り掛かってくる身体が、この時は頑なにそれを拒み
続ける。不自然な体勢のまま、それは宙に浮き続ける。

『ごめんなさい、ごめんなさい……』

 やっぱり、彼女は謝るのを止めない。それまでの自身の行動言動が、あまりにも酷いもの
だったという自覚が、あったのだろう。
『……』
 気付かれないように、浅く短く息をつく。


 バレている。


 怒ってるわけじゃなかったけど、辛かった。同僚と歩いてるところを目撃されただけで
しこたま殴られひたすら罵倒されてしまったのは、悲しかった。
397Sunday:2007/01/06(土) 15:26:23 ID:6BE9oh2Q

 しかも誤解を解いたのは自分の言葉ではなく、バイト先の後輩であり彼女のクラスメイト
でもある人物の証言であり、結局自身の言動行動は何ら影響を及ぼすことはなかった。
その事実が、あまりに虚しくて。

 俺は、そこまで信頼されてなかったのか。

 俺のこと、そんなに疑ってかかってたのか。

 揺れる回る、そんな言葉。混じる乱れる、複雑な感情。
 だけど、相手が彼女なら、幼なじみの彼女なら。意地っ張りですぐ怒鳴るくせに、そんなに
気持ちが強くない彼女が相手なら、不平不満を言い出す気持ちにはなれなかった。付き合いだす
以前のことも思い出せば、それは仕方なかった。

(落ち着かせるまで……待つしかないか)

 舌で飴玉を弄びながら一人ごちる。鬱屈した気分が胸の奥から延々と湧き上がってくるのを、
いつまで経っても止めることが出来ないでいた―――




「まぁ、…そーいうわけだな」
 バイトを終えて、横に並びながら歩道を練り歩く男が二人。無精ヒゲを蓄えうなだれている方の男が、
もう一人の背の小さな男に話しかけている。言うまでもなく崇之と兵太だ。

「長々と説明してもらってありがたいんですけど、俺そこら辺の事情を知ってるんですけど」
「? なんでだよ」
「や、だって。今村さんの話の中にも出てきたじゃないですか。俺の名前が」
「あぁ…そういやそうだな」
 誰だって分かる話でさえ把握できていないと言うことは、余程ダメージが大きいらしい。
「……重症っすね」
「怪我した覚えはねぇ」
「そういう意味じゃなくてですね」
「うるせーな、分かってんよ」
 心に余裕を持てないと、人はこうまで言動が変わってしまうものなのか。眉間に皴を
寄せたこの気難しい顔が彼にとっていつもの表情になってしまったのは、一度目の浮気騒動が
起こってからのことだ。


『嫌いだ……、崇兄なんか……大っ嫌いだ……っ』


「……」
 ふと思い出す、かの意地っ張りな言葉。言葉とは真逆の意味がこもった告白の返事は、
いかにも彼女らしくて、いじらしかったのを覚えている。

 だけどあれからもう五ヶ月。なのに関係は思っていた以上に進展していない。それが今回、
この男が不埒な考えを彼女以外の女性に抱いた原因だった。
 
 確かに最初は、恋愛に慣れてない彼女に合わせてあげようと腐心した。煙草の煙を嫌う
相手の為に、また常習性がつき始めていたそれを再び禁止することにした。向こうから
甘えてきたがるなら全て受け入れたし、自分から無理やり何かを求めるようなことは、
なるべくしないように心がけた。冗談交じりではあったが、座椅子になって欲しいなんて
言われた時は顔の緩みが止まらなかった。
398Sunday:2007/01/06(土) 15:27:51 ID:6BE9oh2Q

 だけど甘やかせば甘やかすほど、彼女はその状態に満足するばかりだった。デートを
重ねても、手を繋ぐことにさえ一向に慣れてくれる様子が無かった。口付けした回数も、
両手で数えることが出来る程度だった。
 理由は分かっていた。数ヶ月ぶりに、いつも通り話すことの出来る環境に舞い戻れただけ
で嬉しかったんだろうと、理解はしていた。だけど、納得するのがどうにも難しかった。
態度は以前と何も変わっていなくて。それは昔から親に言われ続けたような「兄妹」の
ような関係そのままで。気付いた時の失望感は、相当なものだった。

 だから、まあ、なんと言うか。そういった機会が久々にあった時に、らしくもなく暴走して、
舌を絡めてしまったわけで。

 紗枝の嫌悪感は想像を超えていた。驚かれるかもしれない、そのくらいに考えていた
だけに、彼女に口を抑えられ突き飛ばされたのはショックだった。やっぱりまだ、「恋人」
よりも「兄妹」に近い対象として捉えられていることも合わせて。
 
 違う異性の味を知っている崇之には、それは浮気の理由としては充分すぎた。

 彼女がようやく見せてくれた恋人としての表情が、無実の罪を事情も聞こうともせず
先入観だけで責め立て泣きじゃくる姿だったのも、あまりにもあんまりな現実だった。


『嫌いだ……、崇兄なんか……大っ嫌いだ……っ』


 詰問の時に最後に吐かれた台詞は、いつぞやのものと同じもの。一度目は嬉しかった言葉に、
二度目はこれ以上ないくらいに落胆させられた。

 大事にしたかった。だけど、大事にしすぎた。俺とあいつと、どっちが発端だったんだろう。

 いつまで経っても、答えは出ない。
 妹として扱ってきた幼なじみと、恋人として付き合うことがここまで難しいとは思わなかった。



「まぁ、なんとなく事情は分かりましたけど。それでも今村さんに落ち度が無いわけじゃ
ないと思いますけどね」
「それに関しては……気の迷いって奴だな」
 直接言葉は出てこないものの、それが何を言っているのかは明らかだった。こちら側にも
擁護されるべき点は多々あるものの、だからといって犯してしまった行為を正当化する為の
ものにはならない。
「平松……すっかり落ち込んでますよ」
「……」
「見てらんないですよ、ほんと」
「……だろうなぁ」
 
以前なら、後輩に今のような歯に衣着せぬ言い方をされれば、すぐさま手を飛ばすか、
威嚇し返すのが常だった。

「はぁー……やべーよな」

 なのに今では、そんな気分はなかなか沸いてこず、逆に自分を責めるばっかりなのが、
どうにもらしくない。
399Sunday:2007/01/06(土) 15:28:47 ID:6BE9oh2Q

「最近会ってないしなぁ。どうすっか」
「? なんで会わないんすか? 早く言い訳しとかないと余計こじれると思うんですけど」
「そうなんだけどな……気が乗らなくてなー」
「ンな理由で連絡とらなかったら、取り返しのつかない事態になると思いますよ」
「……」
 意地っ張りな奴だから、いくら好きでいてくれたって態度に腹を立ててしまって衝動的な
行動に出るかもしれない。実際、それが原因で別の人と付き合ってた時期もある。

「……ちっ」

 あんな思いはもう二度としたくない。もう半年近く前のことではあるが、あの時の最悪な
気分は今でもはっきり思い出せる。
 
「よぉし電話かける!」

 気持ちの切り替えが早いのが、崇之の一つの特徴でもある。
 そんな思いに後押しされて、ポケットからシャキーンという擬音と共に携帯を取り出す。
素早くボタンをカコカコ押して紗枝の番号を液晶に映して、決意を込めた叫びを上げた。
何事かと傍を歩いていた通行人に振り返られるが、そんなこと気にしない。

「……」
「……」
「……電話、かけるぞ」
「どうぞ」
「……」
「……」
「……本当に、かけるぞ」
「……だからどうぞ」
「……」
「……」
「……止めるなら、今のうちだぞ」
「かける勇気無いんなら無いって言えばいいじゃないですか」

「ぐっ……!」

 
げしっ!


「痛って!」
 やっぱり勢いだけの行動には、限界があるようで。
 不躾な言葉ばかり浴びせかけてくる後輩に強烈なローキックを浴びせ、容赦ない攻撃を
加える。久方ぶりの制裁も、その理不尽ぶりは相変わらず健在のようである。
「何すんですか!」
「お前こそ、随分偉そうな口叩くじゃねーか」
 口元は笑っていながらも目はまるで笑ってない不自然すぎる表情で、不躾な態度を取る
後輩を脅しにかかる。

「あいつのことで頭抱える俺がそんなにおかしいか? あ?」

「え、あ、いや……お、おかしくないと思いまっす!」
 襟元をぐっと掴み上げて更に威嚇すると、兵太は直立不動になって声を変なところで
裏返らせながら言葉を返してくる。
400Sunday:2007/01/06(土) 15:29:58 ID:6BE9oh2Q

「けっ」
 戒めの意味を込め開いた方の手で生意気な口を叩いていた後輩の頭をバシッと叩くと、
押し飛ばすように手を放す。その後輩の方はというと、忘れかけていた恐怖感がぶり返して
きたのか、そのまま近づくことなくどんどんと距離をとっていく。

「おい、どこ行くんだよ」
「あ、じゃあ、俺、このまま、失礼、したいと、思い、ます、ええ」
「あー? お前の家こっちだろ」
「いえ、あの、ちょっと、所用を、思い、出しまして、はい」
 あまりの恐怖感にあてられたのか、まばたきの回数が段違いに増え、口調までカタカタ
と途切れがちになる始末。誰がどう見ても変な人にしか見えない。

「そ、それじゃあ失礼しまっす! 何とか頑張ってくださいっす!」
「おーい」

 すたこらさっさと逃げ出していく後輩に声をかけるも、振り返ることも無く逃げ去っていく。
やりすぎた気がしないでもないが、まあこれで奴の舐めた発言を今後封殺できるのだとしたら、
然るべき処置だったと考えるべきだ。
「……」
 さて。
「……」
 さてさて。あんなどうでもいいのは置いといて、問題は本題である。

 改めて液晶画面を見つめなおす。そこにある名前は、さっきと変わらず一番見知った、
一番大事なはずの存在の名前が表記されたままだ。
「……んー」
 立ち止まり、携帯電話の角をカツカツと額にぶつけながら、考え込む。こんなことなら、
さっきあんなやる気のないメール返さなければ良かった。

 話しかけるのはいいとして、問題はどうやって彼女と円滑に会話をするかだ。電話なら
お互い黙り込むわけにもいかないが、かといって直接会いに行く勇気は今のこの男には
無いわけで。他の女の子ならともかく物心つく頃からの知り合いであり、妹のように大事に
してきた娘が相手なのだから、それだけ慎重にならざるを得なかった。だったら理由が
あったにせよ浮気するなよという話になるのだが、今更そんなこと言っても仕方ない。

「……ちっ」
 素直に謝ったとしても、それをすんなり受け入れてくれるだろうか。疑惑だけであそこ
まで怒り悲しんだ彼女である。

(まぁ……あそこまで怒ったってことは、それだけ俺のことを好きだってことだよな)

 謝るだけでダメなら、せめて喜ばせてあげないといけない。ここ最近、彼女とは距離を
とっていたから、そのことで寂しさを感じていたのかもしれない。あの時、無言で横っ面を
叩かれたのも、そこらへんに一つの理由があるのだろう。
(……誘うか)
 併せてデートに誘えば、頑なな気持ちも少しは溶かすことが出来るのではなかろうか。
本来なら一緒にすべきものではないが、他の娘ならともかく、相手は紗枝なのだ。恋人と
しての面が薄く、未だに兄妹やら幼なじみとしての面が強いのなら、むしろその方がいい
かもしれない。謝るだけだと事態が好転しないのは、逆の立場ではあったものの既に立証
されている。色々と皮肉な話であるが。
401Sunday:2007/01/06(土) 15:31:21 ID:6BE9oh2Q

 場所はどこでもいいが、時期は早い方がいい。謝るのはその時だ。幸い明日はバイトが
昼過ぎには終わる。もし断られたら、次の約束を取り付けられるまで粘る。もし向こうが
指定してきた日時にバイトがあっても兵太と交代すればいい。奴が断ったら殺せばいい。
「……」

ピッ

 そこまで考えた時、親指が勝手に動いた。今の今まで尻込みしていたわりには、思ってる
以上に気持ちが逸っていたらしい。やっぱり、なんだかんだ言いながらも彼女の存在は
たくさんの意味で特別なのだ。

プルルルルルルッ、プルルルルルルッ

 コール音が鳴り始めてから一つ胸を撫で下ろす。着信拒否にされてなくて良かった。まあ、
向こうから何度か連絡もあったから元々その可能性は低かったろうけど、それでも安心
出来たことに変わりはない。

ピッ

『……も、もしもし』
 向こうが電話に出た途端、ホッと一息ついていた心臓が、軽く跳ね出す。声を聞く限り、
相手も若干身構えているようだ。早まる鼓動に連動するように、脳から信号を送ったわけ
でもないのに、脚が勝手に前へ前へと動き出した。

「あぁぁぁ、も、もしもし?」
『……何その声』

 せめて冷静な振りだけでもするつもりだったのに、裏返った第一声で余裕が無いのが
あっさりバレてしまった。らしくない、とことんらしくない。頭をガリガリと掻いて気分を
改めながら、咳払いをして声色も改める。
「あーー、元気か?」
『……誰かさんのおかげで元気じゃない』
「そっ…か。まぁ……そうだよな」
少し疲れたような声が、電話の向こうから聞こえてくる。やっぱり、随分と気持ちを
傾けてしまっていたようだ。
『何か用?』
「…いやな、明日バイトが昼上がりなんでな。その後にどこか出かけないかと思ってだな」
 やばい、焦りっぷりがいつまで経ってもどこまでいっても止まらない。一聞かれただけ
なのに二も三も答えてしまって、向こうが若干引き気味なのが見なくても分かる。
『……』
 その証拠に、デートのお誘いをしてみても反応が一向に返ってこない。いつもなら、
何かしらすぐに言ってくるのに。まあ、事態がいつもじゃないからこういう状況なのだが。
「おーい、聞こえてるかー?」
 不安に駆られて、問いかけ直してみる。
『そんな大声出さなくても聞こえてるよ…』
「……そうか。…で、どうだ?」
 もう体裁を保つのがもうどうでもよくなって、逸る気持ちを押しとどめるのを諦める。
というか、こっちも必死な様子を表した方が、向こうの気持ちもより揺り動かされるかも
しれない。まあ、そんな打算を考える以前に本当に必死なわけで。
『…この前、あたしが誘った時は断っただろ』
「まぁ…その罪滅ぼしも含めて、な。他にも色々話しないといけないこともあるだろ?」
『それは……そうだけどさ』
 拗ねだす紗枝を相手に、必死に食い下がる。
402Sunday:2007/01/06(土) 15:33:15 ID:6BE9oh2Q

 一時の紗枝の所業反応に、少しばかり鬱陶しさを感じだして浮気に走ってしまったものの、
やっぱり一番好きなのが今電話で話してる相手だっていうのは変わってなくて。それを
再確認させられてしまう自分の行動に、苦笑が漏れ後悔が募る。

「……ダメか?」

 だけどその感情を、はっきり口にするのは嫌なわけで。自分から一歩引いて、向こうの
反応を窺う。


『……………………………………………………わかった』


「そうか」
 長い沈黙の後の承諾の言葉に、崇之は携帯電話を握っていない方の手を、一瞬だけ強く
ぐっと握り締めた。

「どっか行きたいところとかあるか?」
『別にどこでもいいよ』
「分かった。んじゃ昼の一時に駅前で待っててくれ」
『うん』

 湧き上がる感情を右手右腕心臓だけに押しとどめ、他の箇所は平静を保ち続ける。明日
どこへ連れて行ってやろう。とにかく、機嫌を直しつつ楽しませてやらないといけない。
非常に難題ではあるが、何とかなるだろう。相手の性格は、ちゃんと把握しているわけだから。
「それじゃ、明日な」
 とりあえず帰って算段を立てないといけない。今まで紗枝とのデートで特に肩肘張らず
自然体で楽しんでたのが幸いした。普段との格差を見せ付ければ、それだけ機嫌を直せる
可能性も高くなる。
 アドレナリンが分泌され、急速的にテンションが高くなっていく。
『あ…崇兄』
「ん?」
 と、電話を切ろうとした寸前、向こうから呼び止められた。


『……遅れてもいいから、ちゃんと来てよね』


 一抹の寂しさと、ほんのちょっとの苛立たしさが入り混じったような声色が、そんな台詞を
電波に乗せて耳に届いてくる。
 
403Sunday:2007/01/06(土) 15:34:16 ID:6BE9oh2Q

 速足になりかけていた両脚が、再び速度を落としていく。少し俯いて、痒くもないのに
頭をぼりぼりと掻き乱す。

「……ああ、分かってる」
『……うん』
「それじゃな」
『…うん』

ピッ

「……っ」
 再び携帯電話の角で、自分の額をカツカツと軽く殴りだす。
 
 随分、寂しそうだった。会って浮気のことを問い詰めようだとか、会ったら思いっきり
殴り飛ばしてやろうだとか、そんな感情よりも、ただ本当に寂しそうな声が印象に残った。

(あ゛〜〜〜〜〜っ!)

 自分の浅はかな行動に反吐が出る。寂しがり屋な奴だってことも、分かってたはずなのに。
彼女に対する想いや印象が、多々抜け落ちてしまっていて戸惑いを隠せない。

 まあ起きてしまった、過ぎてしまったことはこの際しょうがない。とりあえず、考える
べきことは、明日のことだ。とりあえず、本屋に寄って洒落た飯屋を紹介している本でも
探すことから始めよう。いつもはファミレスばっかりだったわけだし。

 ポケットに残っていた飴玉を袋から取り出し口に含むと、舌先で転がす。伝わる微かな
甘みが、ほんの少しだけ疲れた頭を癒してくれる。そこでようやく、ほんの少しだけ余裕を
取り戻すことが出来たのだった。

 
 しかししかし、晴れ間が垣間見れた彼の心とは裏腹に。広い空は今日もまた、いつもの
ように白く黒く濁り続けるのだった――――



404Sunday:2007/01/06(土) 15:35:57 ID:6BE9oh2Q
|ω・`)……



|ω・´)9m ハナシガダルッダルナヨカン!



|ω・`;)ノシ ゴメンネ、トウカオソイクセニテンカイモオソクテゴメンネ


  サッ
|彡

405名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 16:02:10 ID:jZV1jSab
なんかニヤニヤのしすぎで顔が攣りそう
406名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 16:06:44 ID:OgoX6FD6
相変わらずGJです!次が楽しみだ〜
407名無しさん@ピンキー:2007/01/08(月) 00:14:06 ID:5wr1xqv3
遅れながら>>404 GJ!
408名無しさん@ピンキー:2007/01/08(月) 12:00:47 ID:mC905XG4
「何ぃ告られたぁ!?」
「はっはっはっ、どうだ羨ましかろう」
「しかも相手は芹沢かよ!チクショウ狙ってたのに!」
「これでオレもめでたくモテナイ同盟から脱退だな」
「コイツ調子に乗りやがって!許さねぇ!」

「あ、おっはよー。お二人さん、朝からラブラブだねー」
「オッス。お、そうだ。『わたし、綺麗?』」
「ふががっ!?」
「あははははは!今時口裂け女かい!」
「いやー伸びる伸びる。いい男が台無しだなぁ?」
「ふがごっが、ふがぐがっ」
「ん?『 い い ぞ、も っ と や れ 』?」
「ふぉんふぁわふぇ……あるかぁぁ〜い!」
「うわぁっキレた!」


「………朝っぱらから男3人でじゃれあうなよ」
409名無しさん@ピンキー:2007/01/09(火) 01:54:42 ID:BxhLH8nG
……どうして男の幼馴染は話題にされないのか。
410 ◆K4f74q9XQ6 :2007/01/09(火) 10:26:59 ID:irwRqGf5
>>44からの続きを投下します。
結局エロ無しで、今回で完結となります
411それはまるで水流の如く 1:2007/01/09(火) 10:28:13 ID:irwRqGf5

私が思っているよりも、人は私の事なんて気にしていないのかも知れない。
そう思う程に、新学期を迎えても、私の回りには何の変化も無かった。

冬休みの、たった一時間やそこらの出来事なんて、彼にとっては大した事じゃなかったみたいで。
学校が始まってから、顔を会わせた門田先生は、憎らしいぐらいにいつも通りだった。

私が意識し過ぎなのかな……。
いや、でも普通は意識するよね。
好きな人と手を繋いで、頭だけとは言えハグされて。
今思い返しても心臓がいつもより早く脈打つし、頭の芯は麻痺したみたいに真っ白になるし。

だけど。
どうしてあんな事をしたのか、なんて訊ける訳がない。


そんなこんなで、どうにも宙ぶらりんな気持ちを抱えたまま、慌ただしい日々は過ぎて行った。


マラソン大会も近付いた一月末の金曜日。
いつものように出勤すると、教務の玉置先生が私に近付いた。
「長谷部先生。今、茜ちゃんのお母さんから電話があって、茜ちゃん風邪でお休みしますって」
「茜ちゃんが?」
「インフルエンザも流行ってるし、そうじゃなきゃ良いんだけど」
言われてみれば、昨日は茜ちゃん、少し具合いが悪そうだったのよね。
クラスでも二人、風邪で休んでる子が居るし。
「長谷部先生も気を付けて下さいね」
「はい」
狭い教室の中じゃ、一人が風邪をひくと芋蔓式と言っても良いくらい、二人三人と風邪をひく。
それは勿論生徒だけじゃなく、毎日一緒に居る私達教師にも有り得る話。
一応、基本の手洗いとうがいは欠かさずやっているけども、ひく時はどうやったってひく。それが風邪ってもんだと思う。
玉置先生が自分の席に戻ったので、私は荷物を纏めると更衣室へと向かった。
私服からジャージに着替え職員室に戻る。一時間目の国語の用意をしていると、カタリと隣の席の椅子が引かれた。
412それはまるで水流の如く 2:2007/01/09(火) 10:29:04 ID:irwRqGf5
「おはようござい…ま……」
隣の席の主は門田先生。
顔を上げた私の言葉は最後まで紡がれなかった。
いつものようにジーパンにダウンジャケット、マフラーと言った姿の門田先生の口許に、見慣れない代物が見えたせいだった。
「おはよ」
少し掠れた、篭った声。
眉間に皺を刻んだ門田先生は、マフラーを椅子の背もたれに掛けると鞄を机に置いて椅子に腰を下ろした。
「門田先生…風邪ですか?」
「あ?…あァ。ちょっと喉がな」
忌々し気にマスクを引っぺがし咳払い。
思わず眉根を寄せた私の方を見る事もなく、門田先生は今日の授業の準備を始めた。
「大丈夫?熱は?」
「薬飲んで来たから。…それに金曜だし」
「…どんな理屈ですか、ソレ」
「明日明後日休めるし、一日ぐらい無茶しても平気って事」
あっさりと言い切りながら、それでも喉の調子が悪いらしく、喉の奥で咳をする。
その様子を横目で見ながら、私はひっそりと溜め息を吐いた。
──子ども達にうつったらどうすんのよ。
子ども達から貰ったのか、門田先生の日頃の不摂生のせいなのか、それはこの際問題じゃない。
問題があるとすれば、子どもを預かる身であるなら、悪影響を与える状態で学校に来るべきじゃないって事だ。
「……無理しないで下さいよ」
門田先生と子ども達。それぞれに対する心配と不安を半分半分で告げると、門田先生は横目で私を見て、分かってるとでも言いたげに小さく笑った。

413それはまるで水流の如く 3:2007/01/09(火) 10:30:13 ID:irwRqGf5

放課後。
子ども達を送り出して職員室に戻ると、先に教室に戻っていた門田先生が、ノートパソコンと格闘していた。
酷い猫背でキーボードを叩いては、時々ゴホと喉を唸らせている。
「お疲れ様です」
「ん?お疲れ」
声を掛けて席に座る私に、一瞬視線を寄越しはするけれど、直ぐにその視線はディスプレイに向けられた。
職員室には共用のデスクトップ型パソコンが四台設置されていて、それとは別に二台のノートパソコンもある。
父兄への配布プリントや学校便りは、基本的に学校のパソコンで製作する事になっているからだ。
ひょいとディスプレイを覗き見ると、二月に配布する学校便りの文字が見えた。
「風邪、大丈夫ですか?」
「ん〜、まぁまぁかな」
話し掛けても、半分ぐらいは聞いてないんだろう。
生返事にも似た口調で言いながら、門田先生は眉間に皺を刻んだ。
学年別に配布する学校便りの製作は、主に門田先生の担当。
生徒指導や広報と言った風に、教師にも色々と役割があるのだ。

雑務をこなしながら時折隣の様子を伺う。
不機嫌そうな表情は変わらないけれど、手は休む事なくキーボードを叩き、視線は会議の内容をまとめた資料とディスプレイを往復している。
宿題にしていたプリントを片付け、来週の授業で使う教材を準備すると、今日の仕事は終わり。
黙々とそれらをこなした頃には、もう外は薄暗くなっていた。
「終わったぁ」
カクリと門田先生が頭を垂れたのは、私がジャージから私服に着替え更衣室から戻った時だった。
「お疲れ様です」
「ん〜。あ、悪ぃんだけどコレ、印刷頼めるか?」
「良いですよ」
フロッピーディスクを抜き取った門田先生は喉を鳴らしながら顔を上げる。
いつもなら印刷まで自分で済ませるんだけど、流石に今日はそこまで気力がないらしい。
快く了承した私がフロッピーディスクを受け取ると、門田先生はもう一度「悪ぃな」と苦笑した。
「来週で構わねぇから」
「今日やっちゃいますよ。もう仕事もないし」
「働き者だねぇ、長谷部センセは」
「わお、皮肉ですか?」
「誉めてるんだよ」
冗談めかして態と唇を尖らせた私を見て、門田先生はいつもの薄い笑みを浮かべる。
私も頬を緩めると、手近なパソコンを立ち上げて、受け取ったばかりのフロッピーディスクを差し込んだ。
414それはまるで水流の如く 4:2007/01/09(火) 10:31:13 ID:irwRqGf5

プリントアウトを終え印刷室へと向かう。
人気のない印刷室で印刷機を回している間にも、外はどんどん暗くなって行く。
何気無く時計を見上げると、午後五時を少し回った時刻。
特に用事のない先生方が次々に学校を出て行く中、私はぽつんと印刷機の前で印刷が終わるのを待っていた。
──大丈夫なのかな、門田先生。
一人になると想うのは、やはりと言うか門田先生の事。
風邪が心配だから、なんて理由じゃないのは、もう充分分かっている。
この際開き直らせてもらうけど、好きな人が風邪をひいて心配しない方がどうかしてる。

とは言っても、門田先生は実家暮らし。
私みたいに独り暮らしだと、色々と大変だろうけど。おばさんがいるんだから、早目に帰って休む方が良いんだろうな。
お見舞いなんてしなくても、たぶん来週にはケロッとした顔で学校に来るだろうし。

そんな事を考えているうちに、印刷機が動きを止める。
吐き出された藁半紙の束を掻き集め、明かりを落として職員室に戻ると、玉置先生が一人残っているだけだった。
「あれ?……門田先生は…」
門田先生の机には、まだ鞄が残っている。
いつもなら煙草を吸いにパーテーション奥の来客室にいるんだけど、奥にも人の気配はない。
プリントを机に置いて、きょろきょろと辺りを見回す。
せめて一声掛けて帰らないと、このままってのはどうにも落ち着かない。
すると、私の様子に気付いた玉置先生が、資料から顔を上げて私に声を掛けた。
「門田先生ですか?」
「あ、はい。印刷が終わったんで」
「少し休んでから、薬かっぱらって帰るって。保健室に行きましたよ」
「じゃあ、保健室見て来ます」
礼を言って職員室を出る。その足で直ぐ向かいの保健室の扉を開けると、電気もついていない部屋の中で、門田先生がベッドに倒れているのが見えた。
415それはまるで水流の如く 5:2007/01/09(火) 10:32:30 ID:irwRqGf5
「ち、大丈夫ですか!?」
思わず駆け寄る私に気付き、門田先生がのっそりと体を起こす。
具合いが悪いのか何なのか、半目で私の姿を確認すると、門田先生はまたベッドに転がった。
「薬、場所分かんなかったから……人前で転がる訳にゃいかねぇだろ」
「……あぁ」
言われて納得。
養護の池上先生は、今日は昼から出張中。それに加えて、仕事に対するプライドの高い門田先生が、同僚の前で情けない姿を見せる筈がない。
熱がどれくらいあるのかは分からないけれど、門田先生が平気な顔をしてるからって、見抜けなかった私も馬鹿だ。
「印刷、終わりましたから。大丈夫ですか?」
「たぶん。……チィちゃん、薬持ってねぇ?」
「あ〜…絆創膏しかないですね」
辛そうに額に手を遣りながら門田先生が軽く咳をする。
生憎、私も薬のある場所なんて分からない。
心配になって近付くと、門田先生は目を閉じたままで深い溜め息を吐いた。
「帰れますか?」
「……ん〜」
私の声に門田先生は小さく頷く。けれど一向に動く気配はない。

どうしよう。
放って帰る訳にも行かないし……。

ただただ門田先生を見つめるしか出来ない私は、困り顔のまま手近な丸椅子を引き寄せた。
そんな私の気配を察したか、門田先生が薄らと目を開ける。
椅子に座る私を見て、門田先生は額を滑らせるようにして前髪を掻き上げると、困ったように小さな笑みを浮かべた。
「何で帰らないんだ?」
「何でって……」
「少し休んだら俺も帰るし、チィちゃんが心配するこっちゃねぇだろ?」
「でも…」
門田先生の声は優しい。
子どもを叱る時のような、言い含める時のような穏やかな声。
それでも席を立てずにいると、門田先生は再び体を起こした。
「そんなに心配すんなって。単なる風邪だろ」
「…でも……心配だし」
「何で」
「っ……」
門田先生の表情は変わらない。
ただ視線は真っ直ぐに私に向けられていて、私は思わず視線を逸らして俯いてしまう。

答えは簡単。
だけどそれを告げるのは、はっきり言って難しい。
416それはまるで水流の如く 6:2007/01/09(火) 10:33:31 ID:irwRqGf5
言い淀む私の事をどう思ったのかは分からないけれど、門田先生は一度大きな咳をすると、深々と溜め息を吐いた。

「……んな顔されっと、期待すんだけど」

…………はい?

──期待……する?

言われた言葉を脳裏で反芻。耳の奥が張り詰めたような錯覚が、私の思考回路を奪う。
顔を上げると不意に私の体に強い圧力が掛った。



目に映るのは黒い髪と白い壁。
身体中を包むのは熱い何か。



抱き締められていると気付いたのは、後頭部に回された手が私の髪を優しく梳くのを感じたからだった。

「あんま心配されると、俺の事が好きなんじゃねぇかって思う訳。……まぁ、あながち間違いじゃねぇんだろうけど」
「え……あ、えぇ!?」
「うっさい」
私を抱き締めたまま、門田先生が小さく笑う。
動揺を丸出しにした私は彼の腕の中で目を丸くして、身動きも出来ない。
私の髪から首筋、耳の裏へと触れる門田先生の指が熱い。
「……勘違いなら謝るけど、チィちゃん、俺の事好きだろ」
熱い吐息が耳に掛る。
問掛けじゃない。
断定的な口調で告げられた言葉が頭の中を揺さぶる。
その声は少し震えていたけれど、それに気付いたのはかなりの時間が経ってからだった。
417それはまるで水流の如く 7:2007/01/09(火) 10:34:40 ID:irwRqGf5
真っ白になった頭の中で必死になって門田先生の言葉を辿る。
答えは遠の昔に分かっているのに、喉の奥で色んな言葉が詰まっていて、声が上手く出せない。
耳の後ろに心臓が移動したみたいに、うるさくて何も聞こえない。体の芯が酷く熱くて、このまま蒸発しそうな錯覚を覚える。
「返事は?」
黙りこくった私を促すように、門田先生が少しだけ腕の力を緩めた。
でも、まだ顔は見えない。
どんな顔で──どんな眼差しでいるのか分からないのが不安を煽る。

気付けば私は門田先生の背中に手を回していた。

「好き…です。……凄く」

しがみつくようにして力を込めた手とは裏腹に、私の声に力はない。
だけど、理性や羞恥心を無理矢理押さえ込んだ言葉は、静かな保健室の中でやけにはっきりと自分の耳に返って来た。

「ナァくんじゃなくて…門田先生じゃなくて。……直樹さんが、好きです」

想いが完全に伝わる事は有り得ない。
心の奥で感じる気持ちを言葉にするのは余りにも難しい。
それでも、言葉にしないよりはする方が、自分の想いは伝わりやすい。

いつだったか、私の先生が言った言葉だ。
その時は良く分からなかったけれど。今は先生の言いたかった事が良く分かる。

伝えなきゃ駄目なんだ。
気持ちも。想いも。心の中で感じる全てを、言葉に出来る限りは。

色んな気持ちが内混ぜになっていて、動揺しているのか興奮しているのか。
ただ、ぎゅっと門田先生の服を掴んで目を閉じていると、門田先生の腕は再び力を増して私の体を包み込んだ。
「良かった。勘違いじゃなくて」
「……?」
「俺も好き。千草の事」
はっきりと私の名前を口にして、門田先生は私の顔を覗き込んだ。
目を開けると、門田先生の笑顔が目に入ったけど、それはいつもの薄い笑みじゃない。
冬休みに見た、酷く穏やかな眼差しと優しい笑顔が、私の視界いっぱいに映る。
「チィちゃんじゃなく、長谷部センセでもなく、俺も千草の事が好きだから」
ゆっくりと門田先生の顔が近付く。
熱った頬とジンジンと響く耳鳴りの中、反射的に強く目を閉じると、熱く柔らかな感触が私の唇に触れた。
418それはまるで水流の如く 8:2007/01/09(火) 10:37:09 ID:irwRqGf5
しがみつく手に力を込めながら思わず息を飲む。
私の頭を支える門田先生の指が耳に触れる度にくすぐったいけれど、それよりも唇に与えられる刺激の方が強くて、頭の中は完全に真っ白になっていた。
息をするのも忘れて、門田先生にしがみつくのが精一杯。
二度三度、緩く唇を吸い上げられ解放されると、私は大きく息を吐く。
そこを狙ってでもいたかのように、再び唇が塞がれた。
あらがう間もなく舌先が差し込まれ、私の舌を絡め取る。
「っ…ん……」
鼻に掛った、声にもならない音が鼻先から漏れた。
少し苦い門田先生の舌が私の舌に絡められ、その感触が私の頭を麻痺させる。
ドクドクと耳のすぐ近くで聞こえる鼓動がうるさい。
少し開いた唇の隙間からあえぐような呼吸をしていると、やがて名残惜しそうに門田先生の唇が離れた。
「……熱、上がりそう」
そんな事を呟いて私の肩に顔を埋める。
時間にしてほんの数秒。
だけど恥ずかしさは並大抵じゃない。
顔を見るのも見られるのも恥ずかしい。
照れ隠しに私も門田先生の肩に顔を押し付けながら、もう一度門田先生を抱き締めた。
「熱上がったら、チィちゃんのせいな」
「……自業自得って言いません?」
「言わね」
私の後頭部を撫で回す門田先生がおかしくて、ついくすくすと笑いを溢すと、門田先生は不服そうに、更に私の頭をぐしゃぐしゃにした。

419それはまるで水流の如く 9:2007/01/09(火) 10:38:15 ID:irwRqGf5

いつまでも抱き合ってる訳にはいかないと、保健室を出たのは数分後。
私と門田先生は、揃って帰路についていた。
まぁ、名目上は風邪の門田先生を私が駅まで送るって事にはなってるんだけど。
私の手は、しっかりと門田先生の手に繋がれている。
──誰かに見られたらどうすんのよ。
なんて事を考える。

でも。
離せないし、離したくない。

「熱だけでも計れば良かったな…」
再びマスクを着けた門田先生は、時折咳を繰り返す。
隣を並び歩く私は同意も否定も出来ず、曖昧に頷いた。
体温計の場所も分からなかったんだから仕方ない。
「あ、そうだ」
もうすぐ駅への分かれ道と言う所まで来て、不意に門田先生が立ち止まった。
交差点の信号は赤。
前にも一度、こんな事があった気がする。
門田先生が私を見下ろすけれど、マスクとマフラーに顔の半分以上が隠されていて、その表情は全然読めない。
──……何か…ヤな予感。
つられて門田先生を見上げると、門田先生は目を弧にして口を開いた。
「チィちゃんち、近いよな」
「……近いけど…」
「泊まって良い?」

…………。

「ハイ?」

思わず固まった笑顔で首を傾げた私だけど、門田先生は飄々とした態度でさらりと言い切った。
「離れ難いと思わねぇ?」
「っ……!!」
へ、変化球とかナイ訳!?この人はっ!
直球ど真ん中ストレートな言葉に、私の言語中枢は真っ二つ。
「俺は離れ難いけどな」
目を真ん丸にして凝視する私の前で、空いた手でマスクをずり下ろした門田先生は面白そうに笑う。
「な、う……あ…」
パクパクと開いたり閉じたりする隙間から声は出るけど、言葉になる気配は全くない。
420名無しさん@ピンキー:2007/01/09(火) 10:39:13 ID:OJhoEUYK
支援!
421それはまるで水流の如く 10:2007/01/09(火) 10:39:40 ID:irwRqGf5
いつの間にやら青に変わった信号で、通り掛る人達が私達をチラチラ見ては通り過ぎる。
「……へ」
「ン?」
「変な事…しない?」
返事を待つ眼差しに耐えきれなくなり、俯いてボソボソと呟く。
真っ赤な頬はたぶん、髪に隠れて見えないだろう。良い歳してと思うかも知れないけど、恥ずかしいもんは恥ずかしいんだって。
私の表情は門田先生に見えない。私にも門田先生の表情は分からない。
でも、返ってくる答えは容易に想像がつく。
「保障は出来ねぇな」
予想通りの答えを返した門田先生は、私の手を引くと駅ではない方角に向け歩き出した。
「な、ナァくんっ!」
「『直樹』」
「へ?」
マンションへと半ば引きずられるような形で歩きながら抗議にも似た声を上げる。
けれど門田先生は、私の方なんて見向きもしない。
「直樹って呼べるまで帰らねぇ」

……。


…………何ですと?


「さっき呼んでくれたろ?『直樹さん』って」
「いや、アレは不可抗力で!て言うか風邪なら帰ろ!?」
「嫌。千草に看病して貰う」
「ぐっ!」
どさくさに紛れて名前を呼びながらも、門田先生の歩みが緩む様子は欠片もない。
子どもの我が儘だって此処まで酷くないんじゃない?
第一、こんな調子じゃあ心臓が幾つあったって足りやしない。
「いつまでも餓鬼の頃みてぇな呼び方しててもしゃあねぇだろ。もう、単なる幼馴染みじゃねぇんだからさ」
必死になって制止をかけようとする私に、門田先生はニヤリと笑って足を止めた。
見下ろす表情はいつものそれで。
この九ヶ月、見飽きるぐらいに見慣れた薄い笑顔をした門田先生に、勝てる筈なんてない。
ずるくて、意地悪で、人を玩具にして楽しむこの人の性格は、もう嫌と言う程分かっている。
「……悪化しても知らないから」
軽く睨み上げながら精一杯の憎まれ口を叩いた私は、繋いだ手に態と力を込めて歩き出す。
門田先生は咳にも似た笑い声を溢したけれど、それ以上は何も言わずに、素直に私に手を引かれていた。
422 ◆K4f74q9XQ6 :2007/01/09(火) 10:43:54 ID:irwRqGf5
以上です。

長々と続けてしまいましたが、今まで感想を頂いた皆様に感謝!
また何か思い付いた時には、お邪魔させて貰おうと思いつつ名無しに戻ります。

有り難う御座いました!
423名無しさん@ピンキー:2007/01/09(火) 10:53:09 ID:OJhoEUYK
>>422
Gっ…Jっっ!!!!!!!
いやぁ、いい幼馴染みをありがとうです!
お疲れ様でした。
…二人の挙式&初夜をみてみたいなぁ(ボソリ

>>404
続き…wktkしながら待ってます。
424名無しさん@ピンキー:2007/01/09(火) 11:41:17 ID:UIZix2+K
GJ!
425名無しさん@ピンキー:2007/01/09(火) 17:40:25 ID:aXteGPk8
GJ!
毎回続きが楽しみでした。
欲を言えばエロも読みたかったw
426名無しさん@ピンキー:2007/01/09(火) 19:29:20 ID:EQCDpD1q
GJ!GJ!GJ!
だが終ってしまったのが少し悲しい。
ぜひ続編を!
もちエロを期待。
427名無しさん@ピンキー:2007/01/09(火) 22:44:40 ID:NCzryvyI
いやー すごいよかった。
こんなにじっくり悶えされられる告白シーンは久々に読んだ。GJ。GJ。
エロは歓迎だがこのくらいくすぐったいまま終わったほうが雰囲気出てる気もする。
428名無しさん@ピンキー:2007/01/09(火) 22:53:29 ID:yBbcZ9Fq
GJ!!
恋愛の時の期待と不安の混ざる感じがたまりませんでした。
終わるのは残念ですが、また良い幼馴染がありましたら
ぜひ読ませて頂きたいです・・・
429名無しさん@ピンキー:2007/01/10(水) 00:19:06 ID:/H7CoKSQ
最高にグッジョブだぜ!!!
430名無しさん@ピンキー:2007/01/10(水) 16:11:14 ID:gsLGP34U
恋愛っていいなあと思えました。
はあ〜、どきどきした。。。
431名無しさん@ピンキー:2007/01/11(木) 02:42:14 ID:xfMQtKvk
ときめきをありがとう
432名無しさん@ピンキー:2007/01/11(木) 16:11:34 ID:cst2pJyo
すみません。携帯でチマチマ書いていたのが出来たので投下します。
・処女作品です。
・エロなしです。
・時々文がおかしいかもしれません。
・ちょっとつじつまあってないかも?
433蜜柑の皮:2007/01/11(木) 16:12:44 ID:cst2pJyo
僕は上嶋浩介。僕には仲の良い幼馴染みがいる。中野綾香って言うんだ。
お互いとも両親が共働きで昔からよく遊んでいた。何時のころからだろう。彼女のことを好きだと気付いたのは。
しかしなんと言ったらいいのか・・・彼女はとても傍若無人と言うか我が儘と言うか。
とにかく昔から彼女には振り回されるのが常である。


例えば今日も。



せっかく土曜だというのに嵐のようにやって来た彼女にたたき起こされた。
「突撃隣の朝ごはーん。」「すみません、うちは朝御飯は作らないんですよぉ。」
「じゃあ、作ろうか?」
ビックリして思わず、
「綾香が?」
って聞き返したら
「いや、浩介が。」
不当なしかし彼女の前では当たり前な返答が帰ってきた。
「・・・・帰ってください。」
「いいよ?朝御飯食べたらね?」

「・・・分かったよ。作りましょう。」結局口で勝てる訳がなく結局作るはめになった。惚れた弱味もあるけど。
たまにならまだしも、最近は土日になると我が物顔で上がり込んでくるのには少々手を焼いている。



少し遅め(と言っても9時だが。)の朝食を終えると綾香はこれまた我が物顔でテレビをみながらコタツで蜜柑を食べていた。今食ったばっかりだろぅ・・・。
まぁいいさ。どうせ言ってもきかないし。
僕もコタツに入ったら綾香がお茶を持ってきて、と催促した。
いや、茶ならならそこに・・・はぁ紅茶ですか。そうですか。
434蜜柑の皮:2007/01/11(木) 16:13:32 ID:cst2pJyo
しばらく、コタツでボケーッとしてたら、綾香が
「ねぇ、浩介は彼女いないの?」
「はぁ?なに言ってるのさ。小中高と一緒で彼女いたことあった?だいいち、いたら今ここにいないよ。」「・・・そっか。ほしくないの?彼女。」
「う〜ん今はほしくない・・・わけあるか。めっちゃほしい。」
「そう。好きな人はいないの?」
「いるにはいるけどさ。」「ふ〜ん。見込みはありそうなの?」
「全然。」
「ふ〜ん。」
それっきり綾香は黙りこんでしまった。気まずいったらない。
「綾香は?」
「何が?」
「好きな人。いないの?」「いるけど、振られたも同じよ。」
「綾香を振るなんて大した奴だな。」
「しょうがないのよ。好きな人がいるんだって言ってたわ。」
「そっか・・・」
今度はこっちが黙りこむはめになった。
それから会話のないまま30分位過ぎたころ綾香が一旦帰るといって出ていった。その日はそれっきり、綾香は家には来なかった。
おかげで綾香が帰ったあと綾香の事ばかり反芻してしまって、その日は一日微妙な気分で過ごさなくてはならなかった。

次の日綾香が普段はしない化粧(リップぐらいは付けてるだろうけど)をしてやってきた。
「おはよう。出かけるから準備しなさい。」
「・・・まだ眠いんだけど。」
「いいから早く着替えてきなさい。五分よ。五分で来なかったら死刑ね。」
「解ったよ。」
渋々従う。だが内心ちょっと嬉しかった。綾香が僕を誘うことなんて滅多にない。だけど出掛けるなら電話くらいしてくれよ。
435蜜柑の皮:2007/01/11(木) 16:14:18 ID:cst2pJyo
五分で着替えて綾香が向かったのはショッピングモールだった。中には映画館も入っている。
綾香はなぜか不機嫌そうで何が原因なのかは知らないがとにかく理由が気になった。


ショッピングモールを不機嫌そう一言も喋らずに徘徊したあと中にあるファミレスで昼食をとることになった。
気まず沈黙を打ち破ったのは綾子だった。
「昨日いってた好きな人って誰なの?教えなさいよ。」
「えっ、それはちょっと勘弁。」
「いいから言いなさい。私が知ってる人ならうまく行くようにしてあげるわ。」綾香はつまらなそうにそう言った。
「いくら綾香でも(寧ろ綾香だから)言えないよ。その人との関係が崩れるのは嫌だし・・・。」
「いいから言いなさいって言ってるのよ!人の気も知らないで。」
いきなり綾香が声をあらげた。
「ムリだよ綾香。」
「そう。どうせ私は浩介にとってみればとるに足らないような幼馴染みでしかないし、信用も出来ないってわけ?どうせとるに足らない幼馴染みよ。信用できない人間よ。悪かったわね!」
支離滅裂だ。めちゃくちゃだ。何をそんなに怒っているんだかさっぱりだ。
「そんなこと言ってない。大事な幼馴染みにそんなこと言わないよ。いいから少し落ち着きなよ。」
「・・・っく」
怒っていると思ったら泣いていた。
全く想定外だ。何で泣いてるんだ。
「ちょっと綾香。どうしたんだよ。今日ちょっと情緒不安定だぞ。」
「悪かったわね!情緒不安定よ。ヒステリックよ!」駄目だ。ヒネクレモードだ。しかし放っておくわけにはいかないので努めて冷静に
「ヒステリックなんて言ってないだろ?綾香を信用できないわけでもないよ。教えるから泣き止んでよ。綾香は笑ってる方が似合うよ。」
すると落ち着いたのか、コクンと頷くと
「ごめんなさい。少し取り乱しちゃった。」
「良いよ。それより料理来たよ。食べて気分を落ち着かせよう?食べ終わったら話すからさ。」
「ごめんね。浩介。」
それから綾香は少しはにかみながらゆっくりと料理を食べていった。


レストランをでていつもより少しゆっくりと帰り道を歩く。
綾香には途中の公園ではなすよ、と言ったのでこっちも覚悟を決めなければ。

何でこんな事になったのやら。今から緊張して心臓だけ月に飛んでいってしまいそうだった。
436蜜柑の皮(ラスト):2007/01/11(木) 16:15:52 ID:cst2pJyo
公園についてベンチに座り僕はゆっくりと話始めた。「綾香。僕の好きな人はね、我が儘で唯我独尊を地で行くような人で、でもそれをカバーしてしまえるほど可愛くて優しいそんな人だよ。」
「ふ〜ん。その人の本当に好きなのね。」
綾香はうつ向いたままといった。
「うん。好きだよ。」
「そうなんだ。・・・それで?誰なのよ。」
「ここまで来てなんだけどやっぱり言わなきゃ駄目かな?」
「言いなさい。言われたらこっちも諦めがつくわ。」「諦め?」
「こっちの話よ。いいから教えて。」
僕の心臓の鼓動はレッドゾーンに突入したようだ。バクバクいっている。それを誤魔化すかのように大きく息を吐くと僕は目の前の大切な人にその名前を告げた。
彼女の名前を。
彼女は最初頭に?マークを浮かべていたが、理解したとたんまたポロポロ泣き出した。
そうだった。綾香は泣き虫だったんだ。いつも強がっていたんだ。僕は愛しいその人を胸に抱き寄せると綾香は少し声を出して泣いた。
綾香は泣きながら返事をしてくれた。もちろんOKだった。
「ずっと、ずっと昔から好きだったよ。綾香。でも怖くて言い出せなかった。あの関係が崩れたらと思うと怖くて怖くてしょうがなかった。ごめんよ。」


「私もずっと昔から好きよ。でも私なんか興味ないんだと思ってた。お化粧しても、お洒落してみても浩介は怖いぐらいにいつもの浩介で、きっと嫌われてるんじゃないかと思ってた。面倒臭い奴だと思われてると思ってた。」
その時、彼女がどうして毎週毎週土日に家に来ていたのも僕に我が儘を言うのもなんとなく分かった気がした。
きっと不安だったんだ。
僕もそうだったように、互いの関係が薄れてしまうことに。自分勝手な解釈だけどきっとそうなんだろう。そうしたらなんだろう。優しい気持が関を切ったように溢れてきて、綾香が愛しくて堪らなくなった。

自然と互いの顔が近付きキスを交した。
唇が触れるだけの軽いキスだけど。爪の先まで痺れるような情熱と衝撃そして快感だった。綾香のことをキスしながらギュッと抱き締めた。誰にも渡したくない。僕の僕だけの綾香。もう、はなさない。

急に綾香が身じろぎ始めた。
「んーんー!」
唇をはなすと後ろに母さんが立っていた。
「浩介。アンタとうとうやったわね。」
「うわっ何でこんな時間にいるんだよ?」
「今日は午後休。まっ浩介もほどほどにしなさいよ。」

速攻親ばれって・・・



結局両方の親にもこの事は知れわたり、この後暫くこのことをネタに恥ずかしい思いを味わうこととなってしまった。
437名無しさん@ピンキー:2007/01/11(木) 16:17:06 ID:cst2pJyo
以上ですた。もっとうまくなって出直します。
438名無しさん@ピンキー:2007/01/11(木) 16:18:45 ID:qfIEJnop
ほんわかした
439名無しさん@ピンキー:2007/01/11(木) 16:52:53 ID:gJqE4E62
文章は読んで書いて上手くなるから、気にする事はない

んな事よりも二人の微笑ましい雰囲気がツボだ
GJ!!
440名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 00:52:23 ID:lQdh1Zqd
いきます。
441名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 00:54:27 ID:lQdh1Zqd
正刻は教室に入ると、親しい友人たちに挨拶しながら自分の席へと向かった。
ちなみに彼の席は一番窓側の列、その真ん中あたりである。
自分の席に着いた彼は荷物を机に入れながら、後ろの席の少女に声をかける。

「よ、おはようさん鈴音。」
「おはよう正刻!んふふー、しかしキミ達は朝からラブラブだねぇ。見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうよ!」
「あのな・・・。俺はただ幼馴染達と普通に登校しただけだろうが!下らねーこというな!大体俺達がそんな関係
じゃないことは、お前もよく知ってるじゃねーか!!」
「そんなに怒らないでよぅ。ちょっとしたスキンシップじゃないかぁ。そんなに邪険にされちゃうと、ボクショックのあまり
泣いちゃうよ?」
「お前がこんな程度のことで泣くタマかよ・・・ったく。」

そう言って頭をかく正刻のことを、まるで猫のように目を細めて「にひひー」と笑いながら見る少女。

少女の名は「大神 鈴音 (おおがみ すずね)」。正刻とは中学からの付き合いである。ついでに言うなら、彼とはその時から
ずっと同じクラスだ。
身長は160前後。さらさらの髪をショートにまとめており、眼鏡をかけている。全体的にスリムな体つきだが、決して痩せぎすという訳ではない。
陸上部に所属している彼女の肢体は、むしろ鍛え上げられてしなやかであった。その表情とあわせると、まるで猫のようである。
442名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 00:56:04 ID:lQdh1Zqd
こいつめー、うりうり、とちょっかいをかけてくる彼女の相手をしながら、しかし正刻はこれはこれで良いか、とも思っていた。

彼女と初めて出会ったのは中一の時であったが、その頃の彼女は今とは真逆であった。
まったくの無表情。眼鏡の奥の瞳に感情は感じられず、ただ一人で本を読んでいた。
体からは周囲を拒絶する雰囲気を発散しており、まさしく孤独、であった。

しかし、正刻や唯衣、舞衣達と様々な出来事を経験するにつれ、彼女に変化が起きてきた。
本好きであったが同時に走ることも大好きだった彼女は陸上部に所属し、少しづつではあるが、周囲とコミュニケーションを取るようになった。
さらに中三の時には生徒会会長にも立候補し、同じく立候補していた舞衣と熾烈な選挙戦を戦い、僅差で勝利。この時の選挙戦は、いまだに語り草
となっている。

それらを正刻は同じクラスで、ずっと近くで見てきた。
過去の彼女を知る正刻は、現在の明るい彼女を見て感慨にふけることもあった。
もっとも・・・。

「そりゃそりゃ!うりー!」
・・・人差し指で彼のほっぺたを過度にぐりぐりしてくる彼女を見ると、少しはあの頃のような落ち着きもあった方が良いなぁ、と思ったりもするのであった。
443名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 00:57:47 ID:lQdh1Zqd
「このアマ・・・。ちょっとは落ち着けってーの!!」
ぐりぐりしてくる彼女の指を払い、顔面を鷲?みにする。
「きゃん!ちょ、ちょっと正刻!女の子相手にアイアンクローだなんてあんまりだよぅ!」
「うるさい!お前が調子に乗りすぎるからだろうが!ちっとは反省しろ!」
「ごめーん!反省してますぅ!だからこの手を離してくださいご主人様ぁ!!」
「!?バ、バカ!誤解されるような発言をするな!!」

あわてて正刻は手を離す。鈴音は開放された頬をすりすりしている。
「いたた・・・。まったく酷いねキミは。大体これくらいのスキンシップで怒ることないじゃないか。舞衣なんか、もっと過激なこともしてるじゃないか!なんでボク
だけアイアンクローを食らわなくっちゃいけないんだよぅ?」
「舞衣を例にだすな。大体、俺は別に色々してくることを許しちゃいないんだぞ。」
「それでも結局許しちゃうんでしょ?まったくキミは舞衣に・・・いや、あの二人に甘いねぇ。・・・羨ましいなぁ。」
最後の言葉は殆ど言葉にならない呟きだったので、正刻には聞き取ることは出来なかった。
「ん?なんか言ったか?」
「べっつにー。・・・あ、先生きたよ。ほらほら前を向いた向いた。」
不承不承前を向いた正刻の背中を、鈴音は猫のような、そして優しげな顔で眺めていた。
444名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 01:01:21 ID:lQdh1Zqd
短いけど以上です。
タイトルを考えているのですが、中々良いのは思いつきません。難しいですねぇ。では。
445名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 01:25:48 ID:r3UeezRO
おお、待ってました!
GJですよ!

双子もいいけど、鈴音に何があったのかも気になります…

ただ、揚げ足取るようで何ですが、
生徒会に立候補するのって中二じゃないでしょうか?
中2で選挙→中三途中で交代 だと思ってました。
お話の本筋に関係ないことで済みません。
446名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 01:40:57 ID:lQdh1Zqd
ご指摘どうもです!
っつーか、選挙をやるのが2年か3年か迷ったのですが、なんとなく3年にしてしまったのですね・・・。
ちゃんと調べりゃよかったですー。では!
447名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 12:09:27 ID:QN5mkciD
眼鏡っ子にアイアンクローとは、凄いスキンシップですな
続きに期待
448名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 15:41:40 ID:1RuzbC7I
二期制の生徒会なら別におかしくないですよ。
4月〜10月と11月〜3月とかもありえるんで。
449名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 19:05:16 ID:r3UeezRO
二期制は考え付きませんでした。
ちょっと検索したらでて来ました。
自分こそちゃんと調べればよかったですね…

済みませんでした。
450名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 23:58:25 ID:YJUYmSDX
>>444 GJ!!
他板では閉鎖祭りになってるがココはいつも道理まったりでイイな(*´Д`)
451名無しさん@ピンキー:2007/01/13(土) 12:04:28 ID:HbBdnkx6
ここは2ちゃんねるじゃなくて、ぴんくちゃんねるだから閉鎖しないんじゃね?w
452名無しさん@ピンキー:2007/01/16(火) 02:43:37 ID:XlvOpj5Y
保守
453名無しさん@ピンキー:2007/01/16(火) 22:33:33 ID:UJ1NtJi/
紗枝チャンまだー?
454名無しさん@ピンキー:2007/01/17(水) 00:24:44 ID:RiC+gdg0
お前な、書き手さんの事考えろや。
適当に催促して、書いてくれたらgj程度しか書かねぇだろうが。
無償で書いてもらってるんだから俺らは静かに待つべき。
455ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/01/17(水) 01:12:23 ID:lfxpjzGK

バスルームに立ち込める湯気が、心地よく少女を包み込んだ。背筋を伸ばしながら、軽く身体を動かした。軽くシャワーを浴びて、浴槽にはいる。
湯に浸かりながら、鈴奈(れな)は溜息をついた。両手で湯をすくいあげ、顔を洗う。穏やかな時が流れていく。
甘美なまどろみに誘われ、鈴奈は浴槽の縁に下半身を横たえた。ほっそりとしたしなやかな若い肢体が、ゆるやかに湯の中で揺れた。
天井から落ちた雫──ポチャンと音を立てて湯の表面に小さな波紋を広げた。透明感漂う少女の粉雪のように白い肌──うっすらと桜色に染まっていく。
(天馬(てんま)ちゃん……あたしの天ちゃん……)
心の中で何度も恋人の名前を呟いた。愛しい天馬の横顔を思い浮かべただけで、胸が切なくなった。指が湯に沈んだ肌を滑っていく。
無意識だった。疼く女の性──そっと指を這わせた。鈴奈の薄桃色の乳首が固くしこった。子宮に感じる生命の息吹。淡い光に心が包まれる。
「あ……ああ……」
皮を被った肉芽を指腹で刺激した。細い喘ぎが喉から漏れる。天馬の愛撫を思い出しながら、鈴奈は自分を慰めた。天馬の体臭。天馬のぬくもり。
ほんの僅かな時間ですら、離れているのが辛かった。ふたりはいつも一緒だった。幼馴染だったふたりは、今では恋人同士だ。
身体が火照った。ゆっくりと中指を内部に挿入する。内部はうなるように熱く煮え滾っていた。痛切だった。一瞬、鈴奈は苦悶の表情を作った。
「ああ……んん……ッ」
昂ぶった。ただ、昂ぶり続けた。しとどに濡れる紅百合の花弁──溢れる蜜液が湯を汚した。下腹部に密集する薄い翳りがゆらめく。
色素の薄い花弁は初々しくも、はっきりと女の証しを示していた。少女はある時期を境に女へと生まれ変わる。
鈴奈が浮かべている表情──愛しい男を思う女の顔だ。魅力的な丸みを帯びた真っ白い臀部に、小ぶりだが形の良い紡錘型の乳房。
全体的に柔らかな女らしい身体つきだ。濡れ羽色の長い髪に、アーモンド形の瞳が愛くるしかった。美しかった。
眉毛は細く筆で引いたようにすらりとしており、秀麗な、中立ちの相貌は、同性から嫉妬と羨望の眼を向けられるだろう。
ガラス細工のヴィクスドールのように美しい少女だ。その清純な色気は、少女と女の狭間にいるものだけが持つ特有の色気だ。
(天ちゃん、切ないよ……あたし……すごく切ないよ……)
「あああ……ああ……ッッ」
呻き声が激しさを増した。潤んだ瞳が輝く。官能の渦に隋道が収縮した。鈴奈がオーガズムに達した。酷く寂しいオーガズムだった。
456ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/01/17(水) 01:12:53 ID:lfxpjzGK
      『汝の欲するままになせ。それがすべてのルールなのだ』
                      ──アレイスター・クロウリー「麻薬中毒者の日記」


エスの甘ったるい匂いが天馬の鼻腔粘膜を撫でた。溶液のこびりついたスプーンを舌先で舐める。
口から放したスプーン──粘つく唾液が糸を引いた。貴重なマブネタだ。無駄には出来ない。
神からの贈り物──エスは素晴らしい。これさえあれば残版でもグルメ料理と同じ味が楽しめ、どんな醜悪な存在でも愛しく思えてくる。
左腕の肘の付け根をゴム管で縛り上げ、親指を握りこんだ。心臓が激しく胸壁を乱打した。脳髄がビブラートする。
浮き出た静脈──ニードルをぶち込んだ。青い血管がマンコにぶちこむ寸前の童貞ペニスのように破裂しそうになった。
ローションに濡れたニードルは、スムーズに血管の中を突き進む。流石はドイツ製──最高のインシュリン注射器だ。
注射器を引いて血液と溶液を混ぜて遊ぶ。逆流する血が渦を巻きながら注射器内部の溶液と戯れ、綺麗な赤い水中花を咲かせた。
ゆらめく水中花を凝視する。首を鳴らしながらエスをたっぷりと血管に流し込んだ。細胞が歓喜に叫んだ。
ドーパミンが放出され、脳内が一気に冴え渡った。過剰分泌されるドーパミンが体内を駆け巡った。
混じり気なし──極上のエスだ。北朝鮮ルートが壊滅してからエスが高騰し、これほどの雪ネタは滅多にお目にかかれなくなった。
背筋にドライアイスを押し付けられたような冷たい感触が湧き上がる。身体が芯まで冷え切った──股間の血液が凝固する。
内臓が発するロック──リズムよく鼓膜を打った。心臓は十六ビートを刻みつけ、肺がホルンを響かせた。悪くない。
落書きまみれの薄汚れた壁──もたれかかった。注射器を投げ捨てる。床に視線を落とした。
散らばった注射器と針が天馬の目に飛び込んできた。踏み潰した。プラスチック注射器の砕けていく音がまぬけに聞こえた。
白い快楽のはきだめだ。不潔な公衆便所にはよく似合う。メタンフェタミンの恍惚──天馬は喘いだ。イク寸前の女の喘ぎに近かった。
酔っ払いの小便と糞がこびりついた黄ばんだ便器──漂うアルコールと醗酵したアンモニアの臭気が天馬の鼻を突いた。
便器にはみ出している黄色い粘液の物体──半ば乾いた反吐だ。水分を失い、表面がくすんでいる。
ぶちまけられた反吐の表面──咀嚼されかけのナルトがかろうじて原形を留めながら、浮かんでいた。
黄ばんだ便器、注射針、麺の溶けかかった反吐、ナルト、吐き気を催す悪臭。何もかもが素晴らしかった。
リーバイスのジーンズを脱いだ。勃起したペニス──強く握りしめた。脈打つ鼓動が伝わった。しごいた。網膜に広がる極彩色に輝く世界。
クスリだけが、全ての苦痛を癒す。クスリだけが、灰色の風景を塗り替える。天馬はエスに耽溺した。
亀頭の先端に施されたピアスを引っ張った。尿道に迫る熱い奔騰──ホワイトリキッドが薄汚れた壁にぶちまけられた。
          *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *
ジョリーロジャーのダウンジャケット、レイバンの薄いサングラス、小羽を模ったゴローズのネックレス、ヴァンキッシュのグリッターデニム、
右手の人差し指と中指にはめられたA&Gのシルバースカルリング。
全て女達から買い与えられた品物だ。女は金になる。だから天馬は女を食う。
457ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/01/17(水) 01:16:02 ID:lfxpjzGK
中でも天馬のお気に入りはこのスカルリングだ。相手の顔面をぶちのめす時に、指輪がスムーズに相手の頬を切り裂くのが快感だった。
天馬はほとんど自分の金を使ったためしがない。女達が支払ってくれるからだ。天馬も悪ぶれず様子もなく、平然と女達に金を使わせる。
天馬の容姿は抜きんでて美しい。日本人離れ──というより常人離れしている。巧緻な芸術品だ。
秀麗無比とさえ言える完璧な美貌──華麗な孤を描く切れ長の二重瞼、エキゾチックに切れ上がった目尻、
綺麗に整った鼻梁、薔薇の花弁を連想させる唇、曲線の美しい顎のライン。
軽くウェーブのかかったメッシュの細い髪が、不思議な色香を醸し出す。女達には天馬が凛々しい天使として映る。
全体的に鋭角な顔の輪郭、特に素晴らしいのが一際目立つその瞳だ。黒真珠のような光沢を放つ黒い瞳は女達を妖しく包み、虜にした。
人が美と感じる最大公約数的なバランスによってのみ、天馬は構成されている。現世に生まれたアドニスだ。
月は羞恥に雲で己の身を閉ざし、花ですら頬を染めて眼を伏せる美貌。生まれついてのジゴロ、スケコマシ。
女達はこぞって天馬に貢ぎ、天馬は黙って金と品物を受け取った。受け取った金でクスリを買って、打った。
今では立派なシャブ中だ。その、美しい見た目とは裏腹に、天馬の心は完全に腐り切っていた。
渋谷センター街のマクドナルドで注文した、やたら甘ったるいコーラを啜りながら時間を潰す。昨日から何も腹に入れていなかった事を思い出した。
食欲が湧かない──当たり前だ──エスを打っていれば食欲なんて湧くはずがない。横を振り向いた。SCGPが見回りをしていた。

中年親父が汗をかきながら集団で行動する姿ははっきりいって醜悪だ。中年親父の暇つぶしか。馬鹿らしい。
ご苦労様な事だ。天馬は欠伸を噛み殺した。退屈だ。暇を持て余しながら、天馬は親指の爪を舐めた。
時計が十時を回った。109を抜けて道玄坂に向かう。路上に散乱するタバコの吸殻が視野にちらついた。道端の空き缶を蹴飛ばした。
道玄坂二丁目、センター街と比べて周りは薄暗かった。デニムのポケットからパッケージの潰れかけたラークを取り出し、唇の先端に挟む。
ジッポーライターでタバコに火をつけようとヤスリを強く擦った。火花が飛び散る。何度か試してようやく火がついた。オイル切れ間近だ。
鈍い痛み──親指の皮膚が、ライターのヤスリで何度も擦られたせいで赤くなっていた。星のない夜空を見上げ、天馬は唇を舐めた。
「クスリが欲しいなぁ」
458ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/01/17(水) 01:18:37 ID:lfxpjzGK
ようやくまことのスレッドにめぐり会い申した。無頼の月日今は悔ゆるのみ。
今日ただいまよりSS職人の礼をとらせて頂きたく……
459名無しさん@ピンキー:2007/01/17(水) 02:15:26 ID:FoogOAhJ
>>458
何じゃこりゃー! が第一声
展開の読めなさに期待が高まります
マイペースで構いません。是非続きを!
460名無しさん@ピンキー:2007/01/17(水) 09:08:14 ID:5zB9sqTM
明らかに、今までなかったような空気の作品だな
この流れが吉と出るか、凶と出るか……

ただ今は、続きを望みたいところだ
461名無しさん@ピンキー:2007/01/17(水) 10:12:39 ID:3zFN2Lkd
期待
462名無しさん@ピンキー:2007/01/17(水) 11:07:14 ID:wSSuPOv3
SSってレベルじゃねーぞ!!
続きに期待…する一方で、不安でもある。
どう化けるかな?
463名無しさん@ピンキー:2007/01/17(水) 20:23:44 ID:SLiTWWZs
秀作の予感
464名無しさん@ピンキー:2007/01/17(水) 21:28:31 ID:PiZqUBHi
>>458
> ようやくまことのスレッドにめぐり会い申した。無頼の月日今は悔ゆるのみ。
> 今日ただいまよりSS職人の礼をとらせて頂きたく……
>
そうですか、ハーレムスレはお気に召しませんでしたか、残念。
465名無しさん@ピンキー:2007/01/18(木) 00:14:37 ID:TcYx3BsE
>>464
やっかみっぽく聞こえるから、そういう言い方はやめとけ。
こっちにも向こうにも迷惑かかるし。

いろんなスレで職人さんのSSが読めるんだから、いいじゃないか。
466名無しさん@ピンキー:2007/01/18(木) 18:08:20 ID:aUU0CYDd
毒島まだー?
467466:2007/01/18(木) 18:11:50 ID:aUU0CYDd
>>466
誤爆。
おとなしくROMります。
468名無しさん@ピンキー:2007/01/19(金) 00:02:23 ID:Btz0qGGd
正直、剣鞘と白黒と日曜日って、保守変わりになるくらい
このスレに浸透してる希ガス

というわけで保守
469ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/01/19(金) 00:29:17 ID:CyEY6tQb
テーブル席に肘をつきながら、天馬はゲップを漏らした。背の低いスツールに座りながらコロナビールをラッパ飲みする。
乾いた喉にビールの炭酸がやけにひりついた。二本目のビールを注文した。異常に喉が渇いてしょうがない──典型的なジャンキーの症状だ。
エスのせいで唾液が分泌されず、つねに唇と口腔内が乾く。隣の席に座っていたドレッドヘアーの少年──明(あきら)が天馬に声をかけた。
「アップジョン(ハルシオン)とチョコ(ハッシッシ)の良いのがあるんだけど、買ってくんねえ?金本さんに上納金、払わねえとやべぇんだよぉ」
明のすがる様な卑屈な眼差し──本性が垣間見えた。明は金本のパシリをしている。明は金本の飼い犬だ。つねにゴマをすっている。
命じられれば、尻尾を振ってどんな汚い事でも明は平然とやってのける。仲間を裏切れと命じられれば平気な顔で裏切り、
親兄弟を殺せと言われれば、平然と殺す──もっとも、それが自分の利益に繋がればの話だが。
自分の利益になるなら、明は金本も殺すだろう。明はむかつく位、したたかだ。金本が明を含む餓鬼どもに慕われるのは、何も人徳があるからじゃない。
ふたりの共通点はどちらも強者に媚びを売り、弱者を足蹴にするという所か。
ろくでなしでジャンキーの自分が言えた義理ではないが、明も金本も最低のクズだ。
(せっせとあのチビデブにゴマでもすってろよ、この薬局屋(ヤクの売人)野郎)
天馬は心でひとりごちた。ビールがまずくなる。金本の醜悪な顔が天馬の脳裏をよぎった。ジンマシンが出そうになる。
金本──明神組の若衆、明達のグループのケツ持ちをしているヤクザ。ガキどもにあれこれ命じては、得意がっているうすら馬鹿野郎だ。
蟹のように平べったい顔とはれぼったい一重瞼、身長は百六十センチにも満たず、コレステロールの塊に憑りつかれた三段腹が突き出ているデブ。
精妙に禿げ上がった頭部は完璧な波平スタイルだ。何より酷いのが、腋から漂う生酸っぱい饐えた匂いだ。
金原は腋臭だった。あの匂いには辟易させられる。口臭も凄まじかった。一度、吐きそうになったのを覚えている。
こんな男だから女には縁がない。金本は何をトチ狂ったのか男に走った。元々、その気があったのかもしれない。
出来る限り、近寄りたくない人物だった。天馬は金本を歩く生ゴミだと思っている。
「なあ、頼むよぉ。お願いだから買ってくれよぉ」
「ああ、わかったから買うよ。じゃあとりあえずチョコ、これで買えるだけちょうだい。アップジョンは僕にはキックがないからいらない」
デニムの尻ポケットからクシャクシャになった万札を無造作に五枚抜き取って、明の胸に押し付けた。明が嬉々として受け取る。
「サンキュー、じゃあこれ」
470ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/01/19(金) 00:30:18 ID:CyEY6tQb
腋に抱えた黒いバッグから三つのアルミホイルを包みを取り出し、天馬の掌にのせる。ホイルの中身は茶色い樹脂──ハッシッシだ。
「これでなんとか今月分のノルマはクリア出来たぜ」
「もう用がないならあっちいけよ」
野良犬を追っ払うように邪険に手を振った。明の表情が曇る。無視した。一息にビールを飲み干すと席を立つ。家に帰ってマリファナでも吹かしたかった。
「おい、どこいくんだよ」
「うるさいなあ、僕が何をしようとお前には関係ないだろう」
「そう、嫌うなよ。友達だろう」
「ふざけんなよ、馬鹿野郎。誰がテメエなんかダチなもんかよ」
明の相貌が怒気に白く褪色していく。明はキレると赤くならずに白くなる。こういう手合いは手加減を知らない。喧嘩になればトコトンいってしまう。
明は今まで何人もの喧嘩相手を再起不能に追い込んでいる。背骨がへし折れるまでバッドで殴りつけられ、半身不随にされた者。
腎臓が破裂するまで蹴り続けられ、苦痛に身悶えながら自分の血の小便にのたうちまわる相手。明は今までに二度、少年院に服役している。
それでも、明は絶対に天馬に手出しはしない。明は天馬の凶暴さを骨の髄から知り尽くしていた。下手に手を出せば──こっちがあの世行きだ。
天馬は生まれついてのヤクネタ(めちゃくちゃヤバイ奴)だ。ギャング、チンピラなら天馬の名を聞いて震え上がらない奴はいない。明は毒づいた。
(人がいい顔すりゃ図に乗りやがって……このシャブ中の狂犬風情がよ……)
歯軋りをしながら天馬を睨めつける。握りしめた拳──怒りに震えた。胃がむかついた。このまま拳を天馬のドテッ腹にめり込ませてやりたかった。
女よりも綺麗なツラを歪ませ、激しくむせながらうずくまる天馬──想像しただけで激しく興奮してしまう。妄想は自嘲へと変わった。
そんな事を出来るわけがなかった。そこまで肝は据わっていない。拳をめり込ませた瞬間、天馬のバリソングナイフが自分の喉笛を掻っ切っているだろう。
「じゃあね。あばよ」
天馬は振り返りもせずに、店を出て行った。店内に残された明──眼で追い続けるように、天馬の背中を睨みつづけていた。
471ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/01/19(金) 00:31:22 ID:CyEY6tQb

全裸のまま、等身大ミラーの前に立った。舌を出した。色々と表情を作って遊ぶ。二分もしない内に飽きてきた。大きく伸びをする。
右肩から胸にかけて彫り上げられたクローバー模様をあしらったブラックのトライバルタトゥー、
亀頭の先端にぶらさがっているピアッシング──プリンスアルバートだ。ピアスの種類はC型の形状をしたサキュラーバーベル、
わりとお気に入りのピアスだった。ピアスとタトゥーは天馬の個人的な趣味だ。来週は背中に新しいタトゥーをいれる予定だ。
台所の冷蔵庫を開け、中からヨーグルトを掴みだす。賞味期限の日付が半年前のヨーグルト──食えないことはないだろう。悪くても腹を壊すだけだ。
酸味のきついヨーグルトをほおばりながら、時計を見た。時計の針は午前七時五十七分を指していた。あと三分ほどで鈴奈が迎えに来る。
丸一日、風呂にはいっていない。熱いシャワーを頭から浴びたかった。
リビングルームのイスに座りラークに火をつける。眠気覚ましの一服だ。テーブルの上に置いてあるアルミの安っぽい灰皿に灰を落とした。
「鈴奈、早く来ないかな……」
半分ほどの長さになったラークをもみ消す。ドアの鍵が開く音がした。鈴奈が迎えにきたのだ。天馬の顔が無邪気にほころんだ。
女は金づるか食い物程度にしか考えていない天馬も、鈴奈だけは別だ。肉親にすら心を開かない天馬も、鈴奈だけには自分の心を許す。
「おはよう天ちゃん。迎えに来たよ。早く服着ないと学校に遅れちゃうよ」
屈託のない微笑を浮かべた鈴奈が、リビングルームのドアから現れた。
「学校いくの面倒臭いよ。身体だるいし……今日はもう休もうよ」
「そんな事ばっかりいって、ちゃんと学校いこうよ。もう三日間も無断欠席してるんだし……あ、ちょっと、天ちゃんったらっ」
天馬が鈴奈に抱きついた。胸に顔を埋めて何度も頬をこすりつけてくる。突然の出来事に鈴奈は少しだけあせった。
「そんなことしちゃ駄目ったらッ」
472ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/01/19(金) 00:32:13 ID:CyEY6tQb
鈴奈を呼び声を無視する。ショートコートを脱がし、天馬が白いミニスカートに手をかけてパンティーごと引きずり下ろした。
ブルーのニットシャツだけの姿にされた鈴奈。愛くるしかった。たまらなく愛しかった。ペニスが激しく硬直する。 
「それよりもエッチしようよ、エッチ」
鈴奈の首筋を軽く舐めながら、猫撫で声で甘えるように鼻を鳴らした。天馬の唇が、鈴奈の唇に重なった。乳房をまさぐりながら、舌で歯茎の上を突く。
「て、天ちゃん、本当に駄目ッ……んん……ッ」
「好き、好きだよ。鈴奈……愛してる……」
舌と舌が蛇のように絡み合い、互いの唾液を求めた。鈴奈は自分の思考が霞がかっていくのを感じた。天馬の熱い吐息に身体が蕩けてしまいそうだった。
「はぅん……ッ、あ、あたしも天ちゃんが好き……大好き……ッ」
くぐもった喘ぎ声を漏らしながら、鈴奈は身悶えた。やがて天馬の指先が下腹部へと向かい、柔らかな花弁に触れた。官能のさざ波が揺れる。
蜜液に濡れそぼる花の割れ目を指腹で玩弄しながら、唇をそっと離した。切なそうに欲情の露に輝くふたりの瞳。あまりにも美しかった。
「ねえ……僕もう我慢できない……」
ペニスを熱い花弁に押し付け、天馬は鈴奈を床の上に優しく横たわらせた。灼熱するペニスの体温が鈴奈の花弁に伝わった。
「あたしも天ちゃんのおちんちんが欲しい……」
473ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/01/19(金) 00:36:15 ID:CyEY6tQb
正気にては大業ならず、幼馴染み道はシグルイなり。

>>464  
すいません、シグルイネタ使いたかっただけなんです。
ハーレムは投稿用の作品、すでに書き上がってるんですが
修羅場スレ向きな内容になってしまい、現在修正中です。
474名無しさん@ピンキー:2007/01/19(金) 04:13:28 ID:P37ZzAxb
金本はぬふぅなわけだな。
それはいいとして、明がいつ鈴奈の存在に気付くかwkwkしてきたぞ。
475Sunday:2007/01/20(土) 16:18:02 ID:DH4R/A6E

 何がきっかけだったのか、どこに強く惹かれたのか、それが自分でもよく分からなくて。
だけど物心ついた時から、彼女にとって彼は「いちばん好きな人」だった。兄妹みたいだね、
そう言われるのがいつも不満で、それを耳にすると決まって口を尖らせていた。それだと
どれだけ仲が良くても、誰より一番傍にいることが出来ないと思えたからだった。
 彼女の心の中で、最初から彼はその場所に立ち続け、そして動かなかった。例え彼自身が
彼女と兄妹のような関係を望み、また彼女自身も表面上はそれに付き合っていても、そこから
一歩も動くことは無かった。

 だからなのか。

 妹じゃ、やだ。

 兄妹じゃ、やだ。


 もう彼に、異性として意識されないのは、いやだ。


 長すぎた一方通行な想いは、やがてそんな状況に反発し始める。泣きたいくらいに積み
重なり続けた、気持ち感情想い出は。心という名の器には、もう一杯に溜まってしまって、
溢れ出すしかなかった。

 結果的には、一度関係が潰えた後に、夢の中でも見ることの出来なかった夢の先を、
今こうして手にすることが出来たけれど。今度は、彼の我侭に付き合っていただけだった、
兄妹のような関係を長く続けすぎたせいか。それともそれが、あまりに心地良すぎたせいか。
昔からの触れ合い方が邪魔をして、上手く自分の気持ちを彼に注ぐことが出来なくなって
しまっていた。

 だけど、それでも好きっていう気持ちだけは、変わらないままで。

 なかなか会ってくれなくっても。例え浮気をされたとしても。それだけは、いつまでも
決して変わることは無いのだった―――― 




「うぅ…」
 ベッドの上でへたり込みながら、微かにこもるうめき声一つ。そのまま両膝を抱え込んで、
紗枝はその体勢のままごろんと横になる。
 顔だけふいと動かして、枕元の壁に打ち付けられたコルクボードをじっと見つめる。
右半分には、これまでもそこに貼り続けていた、崇兄との懐かしくて大切な兄妹のような
思い出写真が。そして残り左半分には、この五ヶ月で新たに作り出した、「いちばん好きな人」
である崇兄と、恋人同士としての軌跡を残したたくさんのプリクラが貼り付けられている。

 今でも、夢じゃないかと思ってしまう時がある。

 一度眠ってしまったら、波に攫(さら)われる砂の城のように、脆く儚く跡形も無く
この関係が崩れ去ってしまうんじゃないか、そんな危機感が常に隣に居座り続けていた。
やっぱり今がどれだけ幸せであっても、一度全ての終わりを告げられてしまった黄昏時の
河川敷での出来事が、今でも忘れられないでいた。
476Sunday:2007/01/20(土) 16:19:22 ID:DH4R/A6E

(……)
 だから、どうしても彼の行動に敏感に反応を示してしまう。自分と彼の性格を熟知している
だけに、この気持ちに自信は持てても、今の関係には持てないままだった。実際、彼には
浮気をされてしまったし、以前からも以降も避けられてばかりでもあったし。

「はぁ……」

 そんなことをされるってことは、もう飽きられちゃったってことなのかな。でもそれなら、
今更デートに誘ってくれるわけないし。でもずっと逃げてたのに、どうして今なんだろう。
もしかして、何か特別なことがあるとか?
 
 答えの分かるはずも出るはずもない問答を、頭の中で延々と続けてしまう。

コンコン

「ご飯だって言ってんでしょ。何やってんだい」
「うわあっ!」
 うずくまってそんな後ろ向きの思考に囚われていると、突然の母親の来襲に素っ頓狂な
声をあげてしまう。夕食の呼びかけにもまるで気付かなかったということは、よっぽど
深く考えこんでしまっていたようだ。
「ちょっとお母さん! 勝手に部屋に入ってこないでよ!」
「ドア全開にしといて何言ってんだろうねこの子は」
 部屋の扉は、開いているどころか90度以上完全に開ききっている。それなのにノックを
してくれたのは、一応の礼儀だったのだろう。
「しかもなんだいその格好は。そんなんで寝てると風邪引くよ」
「うるさいなぁ、分かってるよ」
 母親の指摘に文句を言いながら、身体をシーツで隠す。何故なのかというと、紗枝は今、
下着しか身につけていないのだ。普段の彼女ならば、自分の部屋にいても服装はちゃんと
しているのだが、なんというか間抜けな姿である。
「分かってるんだったら、なんで下着姿で寝てたんだい」
「考え事してたんだってば。もういいじゃんー」
 素直に親の小言に耳を傾けられなくて、自分だけの時間と空間を邪魔されて、ついつい
へそを曲げてしまう。

「考え事ねぇ……」

 言い返すと、呆れ混じりの溜息を吐かれてしまう。そんな母親の態度が、強く気に障って
しまって、いささかむっとしてしまう。
「……なに?」
 ぶすくれだって、何か言いたそうにしている母親に問いかける。

「ま、崇之君にデートに誘われたのが嬉しいっていうのは分かるけどね」

「なっ」
 なんで分かるの、と、その一言に込めて反発してしまう。すると、また大仰に溜息を
つかれて、なんだか哀れんだような目で見下ろされてしまう。
「……こんなに部屋散らかしといてよく言うね」

「う゛っ…」

 言われて恐る恐る部屋中をぐるりと見回してみると、確かにヒドい有様だった。机の上や
床一面のありとあらゆる場所に、衣類がところ狭しと散乱してしまっている。春服だけに
限らず、コートまでそのへんに脱ぎ捨てられているのだから、普段家中の掃除を一手に
引き受けている母親の気持ちを考えれば、溜息をつきたくなるのも仕方ない。
477Sunday:2007/01/20(土) 16:20:29 ID:DH4R/A6E

 まあ、鏡の前で明日のデートの服を選んでたら、崇兄とのことを考えてる過程で思考が
脇道に逸れていき、段々と不安な物思いに耽りだしてしまったのが実情なのだが。無意識に
ここまで部屋を散らかしてしまうということは、やっぱり色々と不満を溜め込みながらも
久々の彼からのお誘いが嬉しくて、それが今から楽しみで楽しみで仕方ないのである。
 だけど彼女の性格が、それを口に出させない。そもそも崇兄とのことは、この母親には
言いたくない。

「別にお母さんには関係ないでしょ。片付けなら自分でやるし服着たらすぐに行くから、
下で待っててよ」
「普段は色気があるんだか無いんだかよく分かんないスポーツブラとかいうのばっかり
なのに、なーんだか随分と可愛いの着けちゃってまー」
 この場面を見られてしまったことが恥ずかしくて情けなくて、とにかくとりあえずこの
部屋から出て行ってもらおうとするものの。すぐにシーツで隠したのに、モノは試しと
普段は着けないようなペパミントグリーンの色した可愛らしい柄の下着を身につけていた
ところをしっかりと目に留められていて、それをからかわれてしまう。油断していたとは
いえ、完全に赤っ恥である。

 こういう問答が始まると、この母親は実は自分じゃなくて崇兄の産みの親なんじゃない
だろうか、そう思ってしまうのはもはやいつものこと。

「こりゃ孫の顔が見れるのもそう遠くないかもねぇ」
「おかーさん!」
「ほほほ、早く降りてきなさいよ」
 母親の言葉に非難の声をぶつけて、更に追い討ちをかけようと傍にあった枕を掴んで
投げ飛ばすが、当たる寸前のところでそれをかわされ廊下に姿を消されてしまう。
「もー!」
 真剣に悩んでいたことが、すっかり頭の中から消え去ってしまっていて。それだけでも
十分腹立たしいのに、これからあの母親と一緒に食卓を囲まなくてはいけないのかと思うと、
肩まで怒ってしまう。

 紗枝が母親に崇兄とのことを言いたくない理由はこれなのだ。親同士の仲が良く、また
母親自身も彼のことをいたく気に入ってるせいか、何かあればすぐに弄ってくるのである。
余談になるが、付き合い始めたことを報告した時、夕食には赤飯が出され、正月でもない
のに食卓に鯛のお頭や数の子が並んだとかなんとか。

 嫌々ながら手早く服を着て、わざとドタドタ大きな音を立てて一階に降りダイニングに
向かう。するとそこには母親だけでなく、父親も椅子に座って待ち構えていた。どうやら、
深く考え事をしている間に仕事から帰ってきていたらしい。
「呼ばれたらすぐに来なさい」
「……ごめんなさい」
 謝りながらも、この状況に紗枝の気分はより一層盛り下がってしまう。

 普段は物静かで穏やかな表情を携えているのだが、この父親も崇兄と紗枝のことに話が
及ぶと、途端におかしなことを口走り始めるのである。しかもその顔に変化があるわけでも
なく、普段通り真面目な雰囲気のまま、相好や口調を崩すことも無いのだから、ある意味
母親より性質が悪い。

「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
「…………いただきます」
 一家団欒の夕食が始まるが、紗枝の緊張は一向に解けない。食卓に並んだ今日のおかずは
彼女の大好物であるブリ大根であるというのに、蕩けそうなくらいにほぐれたブリの身や、
だし汁をたっぷりと吸った大根の味が、そんな気分のせいか全くと言っていいほど舌の上に
溶け出してこない。
478Sunday:2007/01/20(土) 16:21:37 ID:DH4R/A6E

「母さん、今日の献立は旨いな。実に沁みる」
「あらそうかい。我ながら良くできたと思ってたから良かったよ」
 戦々恐々とする彼女を尻目に、二人はごく自然に取り留めの無い会話を始める。だけど
彼女にはそれが、これから始まる論争の幕開けの合図にしか思えなかった。
「ふむ…」
 今度は違う器に盛られたたくわんを箸で掴みポリポリとかじりながら、父親は幸せそうに
顔を綻ばせる。今度はたくわんの感想でも言うのだろうか。

「『でぇと』か…。母さん、私達の頃はどんなことをしていたんだったかな」
「そうねぇ、映画とかよく見に行ってたわね」

「っ!?」
 分かっちゃいたものの、あまりに脈絡の無さ過ぎる話の取っ掛かり方に、噛み締めていた
白米を、思わず正面に座っていた父親の顔に噴出しぶちまけそうになる。
「あぁそうだったな、懐かしい話だ。もう二十年以上も昔になるんだなぁ」
「見たい映画がいつもバラバラで、どっちかが折れるまで苦労したわねぇ」

(も…もう喋ってたんだな)

 母親が降りてから自分が降りるまで、二分と掛からなかったはずなのに。なんでこういう
ことはすぐ話すんだろう。
 なんとか落ち着いてから母親にじろりと一瞥をくれるものの、にやりと笑われ返され、
更なる愉快な気持ちをプレゼントしてしまう。その表情がまた腹立たしくてカウンターを
食らってしまう有様で、ちょっと泣きたくなってくる。

「しかし母さん、親子揃ってもたったの三人というのは、やはり少し寂しいな」


ちら


「そうだねぇ、せめてもう一人くらいいると違うんだろうけどねぇ」


ちらっ


 そうこうしているうちに、紗枝に襲い掛かる次なる攻撃。もとい口撃。
「……」
 暗に崇兄を連れて来いとでも言いたいのか、それともさっさと孫でも作って顔を見せて
欲しいとでも言いたいのか。どっちか分かんないけれど、どっちにしてもいい迷惑である。
というか、現役女子高生の自分にこれ以上何を期待しろというのか。

 崇兄が浮気をして、その場面をしっかり自分が抑えてしまって、そのせいで実はここの
ところ彼と上手くいってないという今の状況を、包み隠さず事実そのままありのままに
伝えたら、このろくでもない両親はどんな顔をするのだろう。

 だけどそれを言えば、更に迷惑な自体になりかねないので言いたくなるのを喉元でぐっと
堪える。何より、もう両親に余計な迷惑をかけたくないという気持ちもあった。

「……別に。あたしは弟でも妹でもどっちでもいいよ」

 だからわざと曲解して、二人の意図するところとは見当違いな答えを返してご飯をかき込む。
ちなみに本来は大好きなはずのブリ大根は、諸々の理由により、相変わらず未だに味が
さっぱり分からないままである。

479Sunday:2007/01/20(土) 16:23:05 ID:DH4R/A6E

「まー、食事中になんてこと言うんだいこの子は」
「時と場所を考えなさい」

「〜〜〜〜〜〜〜っ!」
 家の外じゃ崇兄に、家の中じゃ両親に弄られ続けているというのに、こういうことに
まるで耐性が出来ない自分に嫌気が差してくる。好きな人といい親といい友人といい、
どうして自分の周りにはこういう人種ばっかり集まるのだろう。

「あたしが崇兄とどうしようとあたし達の勝手でしょ。お父さんもお母さんも余計なこと
言わないでよ」

 半ばヤケ気味になりながら、思いっきり拗ねた表情で減らず口を叩き返す。そもそも、
こういうのは当人同士でどうにかしていくものなんだから、いちいち余計な茶々を入れないで
欲しい。
「ん? 誰がいつ崇之君の話をしたんだ?」
「お父さん、この子も一応年頃なんですからそのへんを詮索するのは野暮ってもんですよ」
 父親の白々しいにも程がある言葉に、母親もいかにも「あらやだ」と言った感じで手を
こまねきながら、やんわりと注意を促す。なんなのだろう、さっきから目の前で繰り広げ
られるこの三文芝居は。
「ふむ、それもそうか」
「そうですよ。この子にもプライベートというものがあるんですから」
 よくもそんな台詞言えたもんである。ドアを開きっぱなしだったとはいえ、ついさっきまで
部屋で色々と勘繰ってきたのはどこの誰だったか、忘れたとは言わせない。
 
 崇兄のことであれこれ弄られるのはいつものことだが、今日はいつにも増してそれが酷い。
もしかしたら自分は、どこかの橋の下から拾われてきた捨て子なんじゃないだろうか。
でないと、この性格の違いと遺伝のされなさが説明できない。

(もうやだぁ……)
 おもちゃにされて平静は保てないわ、大好きなブリ大根の味は全く分からないわ、ほんと
悲しくなる。これが違うおかずだったら、舌が味を感知してくれるのを待たずに、とっくの
昔に箸を置いてるのに。

 と、そんな感情任せの考えが浮かんだ直後に、それにピンときてしまう。 
 

 まさか。


 この場に留まらせる為に、あたしの大好きな食べ物を食卓に並べたんじゃないだろうか。


 いやでも、いくらなんでもこんなことする為だけに食べ物で釣るとか、あまりにも行動が
幼稚すぎる。
 今目の前にいるのが崇兄だったらピンときた時点で箸を置いてるけど、相手が自分の両親
だからこそ、微かな一縷の希望というやつを持ってしまう。
「おやどうしたんだい。せっかくあんたの好物作ったんだから、もっと食べなよ」
「今日の出来は格別だぞ、食べないのか」
「……」
 しかしながら、そんな紗枝の考えをばっちり見透かされていたかのように、二人に同時に
声をかけられてしまう。

 結論。


 希望なんて持つんじゃなかった。


480Sunday:2007/01/20(土) 16:25:01 ID:DH4R/A6E

ばしっ!

「ごちそうさまっ!」

「あらもういいのかい。あんたがたくさん食べると思って、たくさん作ったのに」
「もっとちゃんと食べなさい。お母さんにも悪いだろう?」
「明日食べる! 今日はもういい!」
 怒り狂いながら食器を洗い場まで持っていっていくと、来た時と同じようにドカドカと
音を立てながらダイニングを後にして階段を上っていく。

どさっ

「もうっ!」
 床にぶちまけられた自分の服を踏まないようにベッドに近き、身体をドッと投げ出して
寝っ転がる。天井にしたり顔の両親が浮かび上がり、避けるようにごろんと横向きになる。
「もう……」
 悩んだって仕方ないことは分かってるし、事態が好転したことなんて一度も無いけれど。
ここのところ、彼と会って出来た楽しい思い出なんて全く無いけれど。だけど自分が幸せに
なるには彼の存在が必要なのだ。
「……」 
 とりあえず明日だ。明日になれば意図も気持ちも本心も、きっと全部話してくれるはずだ。

 ふと、考える。今の自分と昔の自分と、どっちが幸せなのだろう。ずっと片想いしてて、
兄妹を演じて崇兄と一番上手くいっていた頃と。付き合い始めて、どうしてか分からない
けどすれ違うことが多くなってしまった今と。

 崇兄がそういう人だってことは、付き合う前から分かってた。
 元カノと上手く行かなくなった理由は、いつも彼の浮気が理由だった。まあ本人曰く、
「向こうに問題があったから、俺も他所を見ざるを得なかった」とか言い訳していたけど。
別れたと聞く度に心のどこかでそれを喜んでる自分がいて、だけどそんな醜いことを考えて
しまう自分が物凄く嫌だった。

『バレなきゃ問題無いだろ。それに俺が今ここにいんのは向こうに問題があるからだしな』

 思い出したくないのに思い出してしまう、一番見たくなかったあの時の情景。
 ということは、友人達が言うように何か自分の態度に問題があったんだろうか。態度を
何一つ変えなかったことが、本人には気に入らなかったのだろうか。
「……」
 そういえば、付き合いだしてから崇兄は少しだけ変わった。いや、変わったというより、
昔の崇兄に戻ってしまったようだった。
 どれだけ長く知り合ってても、恋人に見せる面ってのは違うもんなんだと、彼がいつか
語っていたのを思い出す。だけど自分の表情は、もう全部見せてきたつもりだった。何一つ
隠さず曝け出すのが、彼女なりの愛情表現だった。

「……」

 それなら、明日それを違う形で見せつければいい。そう考えると、いくら悩んでいても
まるで決めらなかった服装を、あっさりと決めることができた。服の波を分け入って、
コートの下に敷かれてあったそれを探り出す。手で埃を払い、部屋の明かりに透かしてみる。
(似合わないかもしれないけど……笑われないよね)
 それをぎゅっと握り締めまじまじと見つめると、紗枝はそれをベッドの上にそっと置く。

「笑ったら……怒るからね」

 そして、コルクボードに打ち付けられた崇兄の写真を見て、静かに呟いた。

 服装選びを終え部屋の掃除を始める為に、床を占領している衣類を全て回収し始める。
部屋を元の状態に戻す頃には、時計は日をまたごうとしていた―――
481Sunday:2007/01/20(土) 16:25:56 ID:DH4R/A6E





 翌日。

「いってきまーす」

 正午を過ぎてから、彼女はその言葉と共に家を出た。ご飯は、少しだけ食べた。昨日の
残り物だったブリ大根は、今度はしっかりと味わうことが出来た。
 あまりファッションには興味が無いから、服装を決めるのは本当に難儀だった。けれど
自分のことに聡い崇兄なら、普段は着ることのないこの衣装を着ている意味を、きっと
分かってくれるはずだ。そんな、淡い淡い期待を抱き続ける。

 紗枝の性格を簡単に表すなら『明るく』て、『元気』で、『意地っ張り』。そんな彼女だから、
普段から活発に動けるような衣装を好んだ。動き辛くなるようなものはあまり身につける
ことがなくて、ズボンを穿くことが多かった。
 多分、制服以外でこれを着たのは、正確に言えば穿くのは五年ぶりくらいになるんじゃ
ないだろうか。ひらひらしててすーすーしてて、そういう感覚が恥ずかしくて丈は長めのに
したから随分と動きにくい。けど、自分の気持ちの変化を気付いて欲しかったからこれに
決めた。


 スカートをはためかせ、傘を差して紗枝は待ち合わせ場所へと歩き出す。


 天気は生憎の雨だった。激しいというほどではないが、それでも傘を差さないといけない
くらいに雨脚は傍を歩いていた。空を見るに見事に灰色一色だったけれど、雲の流れは
速いから、時間が経てば止んでくれるだろう。
 期待と不安が激しく入り混じった感情が、ほんのちょっとだけ重たくて。だけどそれを
振り切るように、紗枝は歩の進めを速めるのだった。

 雨は、降る。

 湿気の多さが纏わりついて、それがまた少しだけ不快だった。

 遠くで聞こえるサイレンの音が、街からの喧騒を際立たせる。
 
 待ち合わせの時間まで、まだ少し余裕があった。


 期待よりも不安が自分の胸の中で大きくなりつつあることに、紗枝は気付かなかった―――――


482Sunday:2007/01/20(土) 16:27:13 ID:DH4R/A6E
|ω・`)……



|ω・`;)ノシ ゴメンネ、カンケイナイハナシハサンデゴメンネ



|ω・`;)ノシ ツギカラハテンポハヤメルカラネ


  サッ
|彡
483名無しさん@ピンキー:2007/01/20(土) 22:14:07 ID:zpHO3rOT
GJ!
どうなるかわくわくするぜ!!!
484名無しさん@ピンキー:2007/01/21(日) 00:28:26 ID:/IfefOD/
ぎがばけっ

 
G……っJ!!!
ニヤニヤが止まらねぇ(´∀`)
485名無しさん@ピンキー:2007/01/21(日) 06:07:36 ID:7VdHra9W
紗枝ちゃん愛してる
486名無しさん@ピンキー:2007/01/21(日) 09:25:52 ID:FKK1VFWX
何この不安を煽る引き!!
先を気にせずにはいられないじゃないか……策士め
487名無しさん@ピンキー:2007/01/24(水) 19:34:23 ID:e/LDV/R+
すまん、流れ豚切りかつ既出かもしれんが、一つ聞かせてくれ
幼馴染って、辞書的には

子供のころに親しくしていたこと。また、その人。

なんだが、いまいち期間的な範囲が分からん
実際、いつ頃から付き合いがあればそう言える?
中学校からとか小学校高学年からとかってのは単なる親友?
488名無しさん@ピンキー:2007/01/24(水) 20:01:47 ID:oVIRSr+/
そいつが何歳かにもよるぜ
中学生の幼馴染は幼稚園〜小学校低学年あたりだろうし、
大学生の幼馴染は中学くらいまでを含むかもしれん
爺さんの幼馴染は(通ってたなら)高校くらいまで含むかもな
489名無しさん@ピンキー:2007/01/24(水) 22:05:54 ID:JxckWuyq
単に付き合いが長いだけなら昔馴染みという感じだろうし、
幼馴染と呼ぶならやはり小学校低学年あたりまでに馴染んでるのが
望ましいような気はするな
490名無しさん@ピンキー:2007/01/25(木) 00:31:12 ID:JTqMfvF8
個人的には、やはり保育園に入る前〜保育園(幼稚園)〜小学低学年くらいからの付き合いが幼馴染みというイメージがある。

既存の漫画とか小説もそのくらい設定が多くない?

中学生くらいだと、仲のいい異性友達だと感じてしまう。
491名無しさん@ピンキー:2007/01/25(木) 12:50:42 ID:AaNTBfkQ
だがそれがいい
492名無しさん@ピンキー:2007/01/25(木) 13:03:24 ID:54CdKNmF
>>488-490 487です
とりあえず今書いてるのは小3、4辺り→高校(現在)まで一緒っつーやつ
期間も年齢も微妙だからどう位置付けていいか分からんのよ
(なら設定変えろよとかいうつっこみは無しの方向で)
493名無しさん@ピンキー:2007/01/25(木) 16:25:32 ID:IROUzkVj
十分幼馴染のような・・・。
494名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 08:44:35 ID:WoqvM2jX
そうなのか、トン
495名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 23:12:47 ID:HChkgpIA
なんとなく個人的には保育園or幼稚園以下の付き合いってイメージがあるけど、小3、4だからって問題はないと思う
ようは、友達以上恋人未満で親しければいいわけだしな

というわけで>>492に超期待
496名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 19:56:59 ID:J5GOmryT
幼馴染みvs幼馴染みってないかな?
引越しとかで別れた昔の幼馴染みが現れて現在進行形の幼馴染みと三角関係に……
497名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 20:12:54 ID:oS05Ugsv
その結末は結局どちらかの幼馴染みが寝取られるわけか
498名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 20:21:40 ID:SMYLhE9a
寝取られは勘弁だが>>496のパターンは読んでみたいな
ハッピーエンドな方向で
499名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 20:30:06 ID:+kvtxcRa
血の繋がって無い姉妹も広義の幼馴染みに含めれば嫉妬スレにありそうだが
500名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 21:40:13 ID:j1svaWbq
>>498
With Youを思い出すなぁ・・・
501名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 22:16:14 ID:sgdQM51i
ツンデレandクーデレの双子幼なじみSSとか
502 ◆6Cwf9aWJsQ :2007/01/28(日) 22:59:19 ID:ii2aytH8
久々に投稿行きます。
503シロクロ 12話【1】:2007/01/28(日) 23:00:35 ID:ii2aytH8
正月どころか三が日も過ぎて冬休みも残りわずかとなった冬の朝。
「今日もいないのかな・・・綾乃」
俺はそう呟きながら住み慣れた道を歩いていた。
それも一人で。
まあいつもならこんな時間に外を出歩くこともなく自宅にいるはずだが、
それはいつも俺のそばにいてくれる少女がいるからだ。
つまり今――――綾乃がそばにいない。
彼女が両親の実家の田舎の方に帰省してるからだ。
その上娘大好きパパ(綾乃談っていうか自分で言うな)がここぞとばかりに
強制家族旅行に行っちゃったもんだからいつ頃帰ってくるかも――彼女自身にも――分からない。
さらには彼女の携帯の電波が弱いので時たま携帯の電波の届かないこともしばしばあり、
お互いに連絡することもままならない。
そんな事言われればすぐにでも会いたくなるのが人の性。
なのでここ数日、俺は毎日朝昼晩の三回は彼女の家に足を運んでおり、
今も振り袖に身を包んだ参列客の脇を通り抜けて黒田家宅へと向かっているところだ。
ぶっちゃけストーカーみたいだが現在綾乃欠乏症な俺としてはものすごく深刻な問題だ。
いつもは当たり前のようにそばにいるのにいざ会えないとなるとすごくつらい。
幼なじみでその上に付き合ってるとはいえ結局は仲のいいだけの他人だ。
家に帰れば会える家族とは違って、下手をすれば接点すら簡単になくなる。
実際、十年前には些細なことが原因で断絶状態になってしまった。
今日だっていつもなら綾乃に起こされている時間をとうに過ぎて今さっき起きたばかりだ。
まあむこうにはむこうの都合があるだろうし、綾乃だって俺と同じ気持ちのはずだ。
現に昨夜長電話してくれたがそれぐらいで満足できるほど俺は大人じゃない。
とりあえず八つ当たり気味に友人達に年賀状代わりの嫌がらせメールでも送ってやったら、
『ただいまおかけになったナイスガイは、彼女と初詣中です。顔を洗って出直しやがって下さい』
『俺とみどりとの幸せな時間を邪魔した罪は重い。具体的には死刑を超越した超死刑』
などの頭の悪いノロケメールをよこしてきやがった。
全くロクな奴らじゃないなあの年中ラブコメ全開野郎どもと自分のことを棚に上げて思ってみる。
504シロクロ 12話【2】:2007/01/28(日) 23:02:12 ID:ii2aytH8
二人ともなんだか幸せそうで腹立つので八つ当たり気味に、
『・・・お前らはいいよな・・・、どうせおれなんかしばらく彼女に会えないよ・・・』
と、やさぐれメールを送り返してやったが、
『・・・・・・・・・ドンマイ』
『お前は今、泣いていい。泣いて、いいんだ』
などの同情メールが送られてきてさらに鬱になってホントに泣きたくなった。
いや待て俺。俺ってこんなキャラだったか?元がどんなキャラかは知らんが。
ダメだ。なんだか思考がまとまるどころかどんどんカオスになっていく。
・・・なんでこんなに落ち着かないんだろう・・・。
答えは解りきっている。綾乃がいないからだ。
彼女が長期間そばにいないというのは過去に二度経験してるが、
慣れるどころかむしろその経験が不安に拍車をかけて悪循環を形成していた。
再会からもうすぐ一年になるが、既に彼女の存在はこれほどまでに大きくなっていた。
いや、以前から寝ても覚めても綾乃のことばかり考えてた気がする。
イカン。今気付いたが重傷だ。俺の方こそ綾乃にぞっこん(死語)じゃないか。
あー何か綾乃に会うのが恥ずかしくなってきた。いや会える保証はないけど。
「とはいえ家に帰ってもなぁ・・・」
今日はいつもは仕事やら何やらでいない両親も兄も家にいる。
だが――いつもそばにいるはずの彼女がいない。
彼女一人がいないだけだ。
それだけだが――――
「やっぱ寂しいよな・・・」
「何が?」
「そりゃあ綾乃が・・・」
そばにいないから、と続けようとする。
と、そこで俺はいつのまにか自分の隣に誰かいることに気付いた。
慌てて足を止めてそちらに振り向くと、そこには1人の振り袖姿の少女がいた。
彼女は俺が立ち止まったことに気付くと俺にあわせて足を止め、俺に笑顔を向けた。
俺が今もっとも会いたかった少女――黒田綾乃が。
505シロクロ 12話【3】:2007/01/28(日) 23:03:11 ID:ii2aytH8
「あ・・・・、綾乃?」
あまりにも唐突な再会に俺はとまどってしまうが、綾乃はいつも通りの笑みを崩さず、
「私がどうかした?」
「あ、いや、その・・・」
俺はさっきの続きを言うことは阻止しようとした。
本当のことを言うのは――――恥ずかしすぎる。
というわけで話題を逸らす。
「・・・いつ頃からいた?」
「啓介が『綾乃に会いたい・・・』って言ってたところあたりから」
「言ってねえよそんなこと!」
考えてはいたけど。
「いやそんなこと考えてるかなーって思っただけなんだけどね」
・・・なんでわかるんだコイツ。
と、綾乃は俺の内心を表情を見て察したのか笑みをニヤリとした形に変え、
「会いに来てくれたんだ?」
「い、いや・・・」
あまりの照れくささに、俺はつい否定の言葉を出してしまう。
が、綾乃は俺に笑み――ニヤリとしたものではなく暖かみのある笑顔――を向け、
「ありがとう・・・」
「・・・おう」
久しぶりに見た彼女のその表情にドキリとしてしまい、つい素っ気ない口調になってしまう。
まあ彼女はそれをわかってるのか文句一つ言わないが。
・・・本当に、いい顔で笑うよな。
そう思ってると、綾乃は柔らかな唇を開き、
「私もそう思って啓介の家に行くところだったんだけど・・・」
そこでいったん言葉を句切ると俺の手を取り、言った。
「ウチ、寄ってく?ここからならこっちの方が近いし今なら私しかいないけど」
506シロクロ 12話【4】:2007/01/28(日) 23:04:41 ID:ii2aytH8
「新年あけましておめでとうございます」
綾乃は自分の部屋に着くなりそう言いながら正座して頭を下げた。
「あ、はい、こちらこそ」
ついつられて正座してお辞儀する俺。
・・・結局言われるがままにきてしまった。
っていうか年頃の女の子が自室に同世代の男を連れ込むなんていくら何でも無防備すぎないか綾乃。
俺仮にも一度彼女を押し倒したことがあるのに。
それ以降はまだないし二度とああいうことにならないように――勝手に――自粛してるけど。
まあ毎日異性の部屋に平気であがりこんでるけどアイツ。
信頼されてるのかOKサインなのか・・・。
前者であることを信じよう。
しかし、さっきから何か彼女の様子がおかしいような・・・。
その内心を悟られないようにあまり関係ない話題を出す。
「いつ頃帰ってきた?」
「ついさっき北海道から帰ってきたとこ。父さん達は実家の方に親戚のみんなと飲み会だって」
「お前は行かなかったのか?」
「親戚の人たちってみんな私より一回りは年上だし・・・」
綾乃は桃色の着物(黒だと喪服に見えるからか)の袖に包まれた腕を左右に振りながら
それに、と付け加え、
「やっぱり、啓介に早く会いたかったし♪」
そういいながら俺に笑顔を向ける。
しかし、俺は見逃さなかった。
彼女の視線がなぜか一瞬、何かを期待するようなものになったのを。
お年玉を心待ちにする子供のように。
「い、いや、金は払わんぞ!いくら付き合ってるとはいえ金を要求するなんて・・・」
「・・・なにいってんの?」
「いやただの気の迷いだだから冷めた目でこっちを見るな」
・・・どうやら違ったようである。
というわけで思考続行。
507シロクロ 12話 【5】:2007/01/28(日) 23:07:15 ID:ii2aytH8
金でないとしたら何か。
綾乃という人物がどういう性格かを考えればすぐに答えは出る。
俺に関することだ。
自惚れるつもりはないが、それほど思われてるという自信はある。
しかしそれがさっきの違和感と関係が・・・。
あった。それもすごく簡単な答えが。
「綾乃」
「なに?」
文字通り小首をかしげる綾乃に俺は疑問を投げかけた。
「今日は、抱きついてこないのか?」
俺がそう言った途端、綾乃は目を丸くした。
が、すぐに表情をいつもの――例えるなら天使のような悪魔の――笑顔に変え、
「してほしいの?」
その笑顔と言葉に嫌な予感を覚えた俺は、慌てて自己弁護を開始。
「い、いやそういう訳じゃないけどな、したいのならさせてやらんこともないというか、なあ?」
「・・・何そのツンデレ」
そう言って半目を向ける綾乃に、俺も同じく半目を向け、
「恥ずかしくて本音を言えないシャイな男の葛藤を分かってくれよ頼むから」
「それでも本音を聞かせてほしい乙女心をいい加減理解してほしいんだけど」
あっさりかえされ、俺は深く溜め息をつく。
「甲斐性無しだな俺・・・」
「大丈夫。それも込みで好きだから♪」
「・・・否定しないんだな」
追加で溜め息をつくと、綾乃に頭を撫でられた。
「子供扱いするな!」
「してないわよ。ただ単に可愛がってるだけ♪」
「それを『子供扱い』って言うんだ!」
そう叫ぶがやはり綾乃の表情は変わらぬ笑顔のままだ。
くそう。何か意味もなく負けた気分だ。
508シロクロ 12話 【6】:2007/01/28(日) 23:10:08 ID:ii2aytH8
「とゆーわけでさ」
「・・・なにが『とゆーわけで』なのかは知らんが何だ?」
俺の言葉に綾乃は笑みをさらに濃くして、言った。
「啓介の方から、抱きしめてくれない?」
意外な返答に、俺は思わず肩をこけさせてしまった。
「・・いつも通り自分から抱きつけばいいだろ・・・」
「いやー、振り袖って動きづらいし派手に動くと着乱れるし」
へらへらと笑いながらそういうと綾乃は両腕をそれこそ何かを受け止めるように上げ、
「というわけでお願いします」
にっこりと笑顔を俺に向けた。――――ただし目は笑ってないが。
・・・しかたない。
心の中でそう呟きつつ、俺は綾乃の身体をゆっくりとした動きで抱きしめた。
「・・・これでいいか?」
「・・・うん」
そう言って幸せそうに微笑む綾乃。
その笑顔を見てるとこっちまで幸せな気持ちになってくる。
「やっと会えた・・・!」
綾乃はそう言いながら俺の肩に自分の額を乗せ、
「寂しかった・・・!」
「・・・ああ」
俺の背に手を回し、自分自身も俺の身体を力一杯抱きしめる。
俺も、綾乃の柔らかな髪に頬をすり寄せ、彼女の耳元にささやくように言った。
「・・・俺も、会いたかった・・・」
「どのくらい?」
意地悪そうな声音で質問する綾乃に、少し迷ってから正直に答えた。
「あまりの寂しさに、ここ数日、朝昼晩の3回ずつここに来るぐらい」
「・・・ぶっちゃけストーカーみたいね」
「何でそんな事言うかなぁっ!?」
あははと笑いながら綾乃は俺の叫びを――耳元で叫んだにもかかわらず――無視。
509シロクロ 12話 【7】:2007/01/28(日) 23:11:22 ID:ii2aytH8
そして慰めか謝罪のつもりか俺の頭を撫でながら、綾乃は俺の耳元で甘えるような声でいった。
「キスしよっか?」
「・・・まあ別にいいけど」
俺の言葉に綾乃は小さく頷くと、唇を軽く俺につきだした。
が、それだけだ。
それ以上動くこともなく、ただ俺に期待と焦りの入り交じった視線を向けていた。
「・・・何で動かないの?」
「啓介の方からして」
「・・・・・・なんで?」
俺の疑問に、綾乃はさも当然というような表情で答えた。
「私、啓介からキスされたことないんだけど」
・・・言われてみれば確かにそうだ。
ファーストキスの時も昔風呂でおぼれた時一緒に入ってた綾乃に『人工呼吸』と称して奪われたし。
って何で覚えてるんだ俺。忘れてたらとぼけることも出来たかもしれないのに。
俺は生まれて初めて自分の記憶力を呪った。
「いや、その・・・、それは・・・・・・」
そこで俺の脳裏に反撃手段たり得る記憶が蘇った。
「あ、ほら!お前の誕生日の時・・・」
「私の誕生日のは同時だったからノーカンです」
「ちっ・・・」
ダメでした。
露骨に舌打ちして顔を背けるが、綾乃は俺の頬に手をあてて強引に自分の方を振り向かせ、言った。
「だから、啓介の方からして」
その表情は、微笑。
だが、目は真剣そのものだった。
正直逃げ出したいが顔を確保されてて脱出は不可能。
「・・・わかったから目ぇ、つぶってくれ」
「イヤ。啓介の顔が見えなくなるし」
即答された。
510シロクロ 12話 【8】:2007/01/28(日) 23:12:23 ID:ii2aytH8
「・・・まったく・・・」
ついクセで溜め息をついてしまうが、綾乃はそんな俺を見て表情からわずかに力を抜き、
「もう少ししおらしい方がよかった?」
彼女の提案に俺は首を横に振り、自分なりに真剣な表情で言った。
「綾乃は綾乃のままがいい」
その言葉に綾乃は笑顔で頷いた。
「ありがとっ♪」
綾乃がその言葉を言い終えて唇と同時に、俺は自分のそれをそこに重ねた。
不意打ち同然のその行為に、綾乃は怒りもせずに目を細めた。
そのまま舌で綾乃の唇をつつく。
それだけで俺の意図を理解したらしく、口を半開きにして俺の舌を迎え入れた。
「・・・ん」
以前のように舌で彼女の口内をつつき、舐め始める。
と、逆に俺の舌に何かが触れてきた。
おそらく綾乃の舌だと判断し、自分のそれを使って責め立てる。
綾乃も負けじと、自分の舌を俺の舌にこすりつける。
絡み合う舌と舌。
その感触やとろけるような綾乃の表情を楽しみつつ、俺は彼女の着物の帯に手をかけ――
――ようとしたら、綾乃に舌を噛まれた。
511シロクロ 12話 【9】:2007/01/28(日) 23:13:09 ID:ii2aytH8
「#$%&’@*^¥〜〜!?」
自分でも何言ってるか分からない奇声を上げながら即座に綾乃から離れる俺。
いや実際にはそこまで痛くはなかったんだけど、驚いてつい大声を上げてしまった。
そんな俺の様子がおかしいのか変わらぬ笑みのまま綾乃は言った。
「今日はここまで」
「・・・え〜」
「・・・不満そうね」
あからさまに嫌そうな声を出す俺に綾乃は少し呆れ気味な視線と言葉を投げかける。
「仕方ないでしょ。お父さん達いつ帰ってくるか分かんないし」
「・・・そんな事言われましても、このもてあました性欲をどうしろと」
「・・・何か最近、啓介ってキャラ変わってきてない?」
俺にジト目を向けながらツッコミを入れる綾乃。
どうやらお互い意志を曲げる気はなさそうだ。
「・・・仕方ないわね・・・」
綾乃は溜め息混じりにそういうと、
何を、と俺が思うより速く俺の頭を自分の胸に押しつけるように力一杯抱きしめた。
そして俺の耳元に優しげにささやいた。
「これで勘弁してくれる?」
「はい。」
脳による思考よりも早く俺はそう答えた。
512シロクロ 12話 【10】:2007/01/28(日) 23:14:14 ID:ii2aytH8
「今度の土日、泊まりに行ってもいい?」
リビングに場所を移し、私服に着替えた綾乃は突然そんなことを言ってきた。
俺はコーヒー――綾乃に出してもらったもの――を口にしつつ、彼女の言葉の一部を繰り返した。
「・・・今度の日曜って・・・」
「そ。啓介の誕生日♪
あ、もちろん明日からまた遊びに行くからね〜♪」
綾乃の発言を半分聞き流して俺は物思いに耽る。
まあ周囲では付き合う前から恋人どころか夫婦として通ってるし(俺としては不本意だが)、
紆余曲折はあったモノの現在は既にそういうことをしてもいい関係ではあるとも思うのだが・・・。
「どーしてもその日じゃないとダメか?」
「・・・いやなの?」
瞬間、綾乃の目つきが鋭くなった――――ような気がした。
ヤバい、と思ったので慌てて訂正する。
「い、いや、そ−ゆーワケじゃないんだが・・・、
ほら、俺らって受験生だしこの時期は自粛した方が」
「こないだ私たち二人ともA判定もらったし、2,3日ぐらいなら大丈夫だと思うけど」
そうあっさりと答える綾乃を見て、
俺は彼女が彼氏の家に泊まることの意味を理解していないのではとふと不安に駆られる。
無論、俺も男だ。
彼女が自分ちに泊まるなんていうイベントは俺にとっても魅力的だし、
好きな女の子に誕生日に来てほしくないわけではない。
が、俺には前回暴走して男性ホルモンに従いすぎてしまった苦い経験がある
・・・お泊まりなんてされた日には、ヘタすりゃ俺、前以上に獣と化すぞマジで・・・。
が、俺の思惑に気付いてないのか綾乃はそれに、と呟くとそこで頬を手に染めて
俺から視線をわずかに逸らし、
「・・・その日は、安全日だから・・・」
バッチリ理解していました。
513シロクロ 12話 【11】:2007/01/28(日) 23:15:45 ID:ii2aytH8
そのことに唖然とした俺を気にせず綾乃は逸らしていた視線を俺に向け直し、
「初めては中にって、決めてたから」
「・・・万が一当たったらどうするんだオイ」
「大丈夫。ピル飲めばいいから」
あっさりとそう返す彼女に俺は半目を向ける。
「・・・確かアレって、身体に悪いんじゃなかったっけ?」
「一回だけだから大丈夫だと思うけど」
「でもなあ・・・」
俺はこの期に及んでも綾乃の言葉に頷けずにいた。
彼女の態度に、違和感を覚えたからだ。
というよりも、ここまで綾乃が歯切れの悪い言葉で、その上ここまで食い下がるのは珍しい。
いつもだったらワガママを言ってるようで俺が本当に嫌がってるかどうかは解っており、
ことは――まあ完全にないとは言えないが極力――しないのに。
と、俺がそんなことを考えてると綾乃は俺に恐る恐るといった口調で、
「本音言っていい?」
何て上目遣いで言ってきた。
ちくしょう、男の弱点を的確に突くとは!
もしや狙ってやってるのでは、とたまに思う。まあどちらにせよ勝てないからどっちでもいいけど。
「・・・どうぞ」
猛烈に嫌な予感がするが、俺が勇気を最大限まで振り絞ってそう答えると、
「理由なんてどうでも良いから、私は少しでもあなたと一緒にいたいし、
二人で一緒に今よりもっと先のプロセスに進みたい」
そう言うと彼女は小首をかしげて聞いてきた。
「それじゃだめ?」
「とんでもない」
気がつけば、俺の口から了承の言葉が出ていた。
俺が自分のミスに気付いたときには既に綾乃は俺に抱きついていた。
・・・俺って一生、綾乃に勝てんかもしれん・・・。
抱きつかれたときの勢いのまま綾乃と一緒に後ろに倒れ込みながら、
俺はあきらめ半分の思いでそう考えた。
514 ◆6Cwf9aWJsQ :2007/01/28(日) 23:20:33 ID:ii2aytH8
今回は以上です。
今更正月ネタ・・・スンマセンめっさ遅れました。
次回はここまでかからんようにせねば。

・・・・・・ぁ、今回エロがない・・・。
515名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 23:24:47 ID:dPJuALA0
土日の早急なる到来を要請いたします!
516名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 23:25:43 ID:GZUBYnDb
Gooooooooooooooood
Jooooooooooob!!!!!!

サイコー!!!
517名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 23:39:38 ID:FJsZL7gn
もう一山有りそうな雰囲気ですが、GJ
518名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 01:29:44 ID:JK2UOuci
作者さんGJ!
519名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 02:14:21 ID:0XQ7+N51
久しぶりのシロクロに続きワクテカです
520名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 06:50:25 ID:VSC0zMOP
やったッ!! さすが ◆6Cwf9aWJsQ 氏ッ!! 俺達にできないむっはーな表現を平然と書いてのけるッ!!
そこにしごれる、あこがれるゥ!!

いやほんとGJですよ。まったり待ってますので、続きを期待してます。


>>496
幼馴染スレの初代スレの連載トップバッターを飾ったお話がそんな感じだった。
作者さんは双方のルート+αを律儀に書いてて、けっこう盛り上がってたよ。
521名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 08:14:35 ID:VjXBVwTK
>>520
その話を読みたいと思ってるんだがなかなかみつからないんだよな。 
保管庫からも消されてるし
522名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 09:21:19 ID:/ESNvJC2
God joob
523名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 14:14:13 ID:FXxQ3Wca
>>496
あ○゛きちゃんとか冬のアレとか思い出す
524名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 20:38:49 ID:9v3d35yC
神の後でこんな駄作は気が引けますが、暇な人は読んでみてください。
5251/365 (1):2007/01/29(月) 20:40:28 ID:9v3d35yC
 そうだな、オレの心理に微妙な変化が現れたのはいつ頃だっただろうか。
 うん、小学校の時は確実にただの幼馴染だった。それは間違いない。なにしろ六年生まで普通に一緒に風呂入っ
てたからね。え? 普通じゃないの? ……そうなんだよ、小学生とはいえ、女の子と風呂に入るのは普通じゃな
かったんだ。中学に上がった頃から、周りの反応が妙に気になりだしたんだ。わかるだろう? とにかくあの頃っ
ていうのは、人にからかわれたりするのがもの凄く嫌な時期なんだ。今は開き直ってしまって何もかもがどうでも
良くなってるけどね。あいつはアホだっていう目で見られるのが一番生きてくのに楽なんだよ。
 ……まぁ、それもどうかと思うが。
 すまない。話を戻す。
 すると、やっぱり中学からあいつを意識しだしたということになるのかなぁ。とりあえず、あいつがブラジャー
つけてるのを知った時には動揺してしまったような記憶があるからな。オレ、アホだからどうしていいかわからな
くてね。「ブラジャーは胸の大きい女の子がつけるんだよ。おまえはそのどっちにも該当していない」と言ったら、
思いっきり股間を蹴り上げられたんだ。まぁ、その、あいつはそういう暴力的な女なんだ。いや、オレの発言にも
問題はあったかも知れないが、普通の女の子は股間は蹴らないぜ。君だって、女の子に股間を蹴られたことはない
だろう? あるって言った人はこんな所にいないで今すぐSM板池。
 そんな感じで、オレの方は人目を気にする小市民へと順調に成長していったのだが、あいつはそうじゃなかった
みたいだ。オレは学校ではなるべくあいつと話さないようにしていたんだけれど、あいつはクラスの友達がいよう
がいまいが、平気でオレの教室に入ってきて話してくる。普通は、他のクラスに入る時は多少は気にするものだと
思うが、あいつにそんな常識は通用しない。完全無欠の俺様王国の住人だからだ。女の子なのに俺様っていうのも
おかしい気もするが、そんな表現があいつにはぴったりとくるんだ。
 あいつについてもう少し知りたい? そうだな。あいつはオレと同じ高校一年生。やたら元気な女だよ。テンシ
ョンが高くて、なかなかの美人で愛想もいいから男にも女にも人気がある。陸上部のホープで、勉強している所を
見たことがないわりには成績も良い。うーん、ただ一言、「アホ」と形容されるオレとはえらい違いだな。
 そんなわけで、学校のいわゆる身近なアイドル、それがあいつ、優希という存在なんだ。
 大して話したこともないような男子が遠くからあいつに憧れたりするわけさ。ああ、もしそうなら、物理的にも
心理的にも奴に一番近い距離にいるオレの心に、今までとは違う変化が現れたとしたって、それは仕方のないこと
じゃないかな。そうだろう?
5261/365 (2):2007/01/29(月) 20:41:17 ID:9v3d35yC
 「おーす!」
 昼休みのひと時、オレが教室で弁当を食べていると、背後からどん、と手加減無用に肩を叩かれた。
 「ごほごほっ」
 オレは丁度口に放り込んだ白飯が気管に入り、猛烈にむせる。
 「ごめんごめん」
 まったく悪そうに言わずにオレの前の席にどっかりと勝手に座った女、それは優希だった。
 「何すんだよ!」
 「ただの挨拶じゃない、挨拶!」
 「むせただろうが!」
 「そんなこと気にしない気にしない」
 ニヤニヤしながら優希は言うが、これはこいつがオレを尋ねてA組に来る時に必ずやる儀式のようなものである。
空気の読めていないことに、奴はこれをオレが面白いと思っていると勘違いしているようなのだ。
 「……で、何の用だ?」
 オレが言うと、優希は腕組みをして、うーん、と考え込んだ。こいつは女の子らしくないことに、オレの前の席
に座る時には、椅子の背もたれを跨ぐように座るものだから、股が大きく開いてしまう。必然的に、短めのプリー
ツスカートは上がってしまい、優希の陸上で鍛えたすっきりとした太腿が露わになってしまうのだ。なんだかオレ
は落ち着かない気持ちになって目を泳がせる。
 「こら、よそ見してないでちゃんとあたしの話を聞きなさいよ」
 優希はオレの頭をぐわしと掴んで引き寄せた。優希の整った顔が目の前に近づく。これは危険な距離なのではな
いだろうか。優希の特徴はとにかく大きな瞳である。吸い込まれるように魅力的な瞳をしており、これが表情の変
化にともなってクルクルと色を変える。それが、ただでさえ豊かなこいつの感情表現に伴うものだから、優希の瞳
はもはや蠱惑的なまでの魅力を放ち、それが色気とは無縁の態度と相まって危ういバランスを形作っているのだっ
た。当然、こんな瞳を目の前に見せられたオレの心臓はどきどきと脈打つことになる。
 「聞くから、放せよ」
 優希はぱっと手を離した。
5271/365 (3):2007/01/29(月) 20:42:07 ID:9v3d35yC
 「相談したいことがあるから、明日純一の家に行くね」
 ちなみに純一とはオレの名前のことである。
 「なんだ、そんなことか。勝手に来たら良かったのに」
 オレの家と優希の家は一軒家のお隣同士。小さな頃から自由に行き来していたから、勝手知ったるなんとやらで、
お互いの部屋なんて知りつくしている。ただ、中学の三年ぐらいからはさすがに行き来する回数も激減したけども。
 「先に言っておかないと、エロ本隠せないでしょ?」
 優希がにやっと笑って言う。
 「こ、こら、あまり大きな声で言うな。人が誤解するでしょ」
 オレが慌てて押しとどめると、この空気の読めない少女はますます調子に乗るのである。
 「先に言っておかないと、愛読書の投稿ニャン2倶楽部を隠せないでしょ!」
 「バカ、今のは振りじゃねえ!! ちょ、やめろっ!! や、やめてください、優希さん……っ」
 「愛読書のスーパー写真じゅ……もがっ」
 オレは必死になって優希の口を両手で塞ぐ。
 「もが……ぺっ、何すんのよ!」
 「いい感じに痛い雑誌の名前を言うんじゃねえ!!」
 「ほんとのことじゃない」
 「URECCOだって読んどるわ、ボケ!!」
 「知るかぁぁぁぁ!!」
 あんまりじゃれ合っていると周囲の目も痛くなってくるし、オレの名誉も著しく毀損されるのでオレは適当な返
事を返してさっさと優希をA組から追い出した。まったく、ちょっとした台風みたいな女だ。
 しかも、見せたことがないはずのオレの蔵書のチェックをしてるとは、侮れん。ちゃんとURECCOをベッド
の下に囮として隠しておいたのに、本棚の裏の本命投稿ニャン2倶楽部を探し当てるとは一筋縄ではいかない。
 ……なお、出版社の名誉のために言っておくと、投稿ニャン2倶楽部とスーパー写真塾は大変素晴らしい雑誌であ
る。
ttp://www.coremagazine.co.jp/index2.html
5281/365 (4):2007/01/29(月) 20:42:57 ID:9v3d35yC
 さて、投稿ニャン2倶楽部に気をとられすぎたオレは、優希が家に来ると言ったのをすっかり失念してしまってい
た。次の日、うっかりとゲーセンで連勝してしまい帰宅が遅くなってしまったのだった。
 だから、自室のドアを開いた時にも何も考えていなかった。ところが、中には電気が点いており、すぐに、女の
悲鳴があがったのだ。
 「な、なんだ? 泥棒か?」
 「泥棒が悲鳴をあげるか!」
 中にいたのは優希……、もっと詳しく言うと、制服を脱ぎかけの優希だった。そう、シャツははだけて、胸元の
白いふくらみが覗いている。下にいたってはスカートが足元に落ち、ピンク色のカラフルなショーツが丸見えだ。
しかも、紺色のハイソックスだけは履いたままなので、何か普段見ることのできない部分が露わになっているのを
強調し、ひどくエロティックな光景になっているのだった。
 「で、出てけ!」
 いつもは物事に動じない傾向のある優希だが、さすがに慌ててオレの方に手元にあった何かを投げてきた。オレ
はびっくりしてすぐに部屋の外に出てドアを閉じる。ああ、びっくりした。ちなみに何を投げて寄越したのかと思
ったら……ショーツとお揃いのピンク色ブラジャーだった。色気のないやつだから、てっきり白い下着をつけてる
と思ってたのに、オレの知らない所であいつも色気づいてるんだな……。
 オレがブラジャーを眺めながらセンチメンタルな気持ちになっていた所、部屋の中から優希の呼ぶ声が聞こえて
きた。
5291/365 (5):2007/01/29(月) 20:43:38 ID:9v3d35yC
 「それで? 相談てなんだ?」
 オレはたった今、頬にできた青痣をさすりながら言った。ちっ、乱暴な女だ。
 優希はでかいTシャツ一枚に、下もやはりだぶだぶのスウェットパンツを履いている。どうやらオレを待ってい
る間にジュースを飲んでいたらこぼしてしまい、勝手にオレの服に着替えている最中だったらしい。しかし、やは
り男物だから優希にはかなり大きく、右肩あたりは気を抜いたらはだけてきてしまい、あいつの細くて白い肩がそ
の度に露出してしまう。男物のTシャツを着ている所が倒錯的な淫靡さを醸し出している。
 「その前に……CDラックの中にさりげなくエッチDVDを入れておくのは良くないと思うよ」
 「……おまえは人ん家でそんなのばっかり探してんじゃねえよ」
 「CD聴こうと思ったら普通に出て来たんだよ」
 優希はアロマ企画の『舐め殺し寸止め地獄3』を放って寄越した。良かった、これならまだセーフか……。
 「ねえ、藤井フミヤの『TRUE LOVE』はどこにあるの?」
 「ラックじゃなくて、デッキの上にあるはずだよ」
 優希は盲点になっていたオーディオデッキの上のCDの山から『TRUE LOVE』を探し出し、それをデッキに挿入
して流しはじめた。これから話をしようってのに音楽鳴らすな。しかし、落とし気味のボリュームで、静かにアコ
ースティックが流れ始め、藤井フミヤの少しだけ哀愁を帯びた歌声が部屋に響き始めた。
5301/365 (6):2007/01/29(月) 20:44:24 ID:9v3d35yC
 「まぁいいよ。それで?」
 「ああ、実はね」
 と優希はすっと伸びた細い眉根を寄せ、難しい顔をした。
 「あたし、告白されちゃったんだけど……」
 オレは『舐め殺し寸止め地獄3』を取り落としそうになった。
 「な、なんだって。誰に……?」
 「陸上部のキャプテン」
 陸上部のキャプテンは確か大会で記録を残している三年生だ。前に見たことがあるが……、オレが逆立ちしても
敵わないような男前だったと思う。
 「純一はどう思う?」
 優希は、まっすぐにオレの目を見た。ああ、これなのだ。目を大きく開いて、その瞳にオレは吸い込まれそうに
なる。
 「そんなの……優希の好きにしたらいいだろう」
 オレは内心の動揺を隠して、わざとぶっきらぼうに言った。
 「冷たいなぁ」
 この、考えなしの天然女は頬をふくらませてまた何事か思いをめぐらせた。
 「……ねえ、純一」
 「なんだ?」
 「なんでみんな、恋とかしたがるのかな?」
 優希は首を傾げる。
 「なんでって、そりゃ楽しいしワクワクするからじゃないか?」
 「あたしは別にそんなことないけどなぁ……」
 どうやらこの女は、女としての身体の成長に対して心の成長が追いついていないようだった。やれやれだ。この
有様では、万が一付き合ったとしても、陸上部のキャプテンもさぞや苦労するに違いない。
 「……純一は?」
 心はお子様なこの女は、女としての魅力に溢れきった視線でオレをまっすぐに見る。
 「え?」
 「純一は、恋をしたり誰かと付き合ったりしたいの?」
 「そうだな……そりゃ、してみたいさ」
 「ふうん……付き合って、何をしたいの?」
 おそらくこの天然女は素朴な疑問として訊ねてきたものと思う。だが、今目の前の女に複雑な感情を持っている
オレは、とても困ってしまうのだ。
 「そりゃ、一緒に帰ったり、電話したり、休日にはデートしたり……だろ」
 「それって、あたしたちがいつもやってることでしょ」
 きょとんとした顔をする天然小悪魔。
 「あたしたちって、付き合ってることになるの?」
 「なるわけないだろう。そうだな……、うん、キスをしてないぜ」
 「キス? それをしたら付き合ってることになるの?」
 「そりゃそうだろ。他人とはしないからな」
 「キスってそんなに凄いの?」
 「そりゃあすげえよ」
 「それって、『舐め殺し寸止め地獄3』で得た知識?」
 「ば、バカ。それはもっとすげえんだよ! エッチビデオのくせに寸止めなんだぞ。どんだけMなんだよ!!」
 くすくすと優希は笑ってから、ふと真面目な顔になった。真面目になったり、冗談を言ってみたり、この女の縦
横無尽な展開に振り回されるのはまったくたまったものではない。
5311/365 (7):2007/01/29(月) 20:45:14 ID:9v3d35yC
 「キス……してみる?」
 「……え」
 優希は何を思ったのか、すっと立ち上がり、オレの肩をがっしりと掴んで、目を見開いたまま顔をゆっくりと近
づけてきた。オレは、心臓がつぶれんばかりになって硬直する。藤井フミヤの弾くアコースティックギターがなぜ
かオレの胸に切ない感じを呼び覚ます。付き合いだけはやたらと長いが、優希の瞳をこんなに長く近くで見たこと
が今までにあっただろうか。そして、この小悪魔は唇を開いて言った。
 「……ウソに決まってるじゃない、アホ」
 「……え」
 優希にアホと言われたが、まさにその通りのアホ面をオレはしていたに違いない。
 「あたしだってそこまで軽くないよ。ファーストキスは大事にしたいと思ってるんだから」
 優希はケケケ、という感じで笑った。今オレはこいつの尻に悪魔の尻尾を見たぞ、この性悪娘が。まさに寸止め
地獄じゃないか。
 「ファーストキスは大事に大事にして、一生忘れない記念にするんだ」
 夢見るように言う優希。恋に興味はないくせにキスには興味あるのかよ。
 優希は、元の席に帰ろうとして屈んでいた膝を伸ばし、振り返ろうとした。刹那、長すぎるスウェットパンツの
裾を踏んでしまい、フローリングの上で滑る。
 「!」
 「優希!」
 一瞬の出来事だった。からかい半分で元々近づいていた優希の顔とオレの顔がさらに距離を詰め、優希の悪質な
冗談は本当になった。そう、オレと優希の唇が重なったのだ。
 バランスを崩した瞬間に、本能的にオレと優希は手を伸ばしお互いの身体を掴みあっていた。
5321/365 (8):2007/01/29(月) 20:45:51 ID:9v3d35yC
 「……」
 「……」
 なぁ、優希。嫌ならすぐに唇を離せよ。そして……、そんな大きな瞳でオレの目を見続けるんじゃない。なにか、
とても落ち着かない気持ちになるじゃないか。そうしている間にも、藤井フミヤのギターがアコースティックらし
い温かみと少しの切なさを帯びたコードを奏で続けるんだ。ああ、この曲って、こんなにも胸に迫るものがあった
かな? もう何十回も聴いたはずなのに、全然知らなかったよ。
 多分、3秒くらい唇は合わさっていたのではないだろうか。体感時間はその百倍くらいあったけどな。
 オレと優希は同時に唇を離し、距離を取った。
 「いや……ごめん。わざとじゃないんだ」
 オレが慌てて取り繕うように言うと、優希はなんだか怒ったような表情をした。
 「なんで謝るの」
 「え、そりゃ、悪かったかなと思って」
 優希は鼻を鳴らした。
 「撤回しなさい」
 その剣幕にいささか動揺して、オレはすぐにまた謝る。
 「ごめんって言って、ごめん」
 なんだ、こりゃ。こんな間抜けな謝罪がいまだかつて存在しただろうか?
 それでも優希は一応納得したのか、表情から険がとれた。
 「もう帰るわ」
 と優希は言って、荷物の類を整理し始める。そう言えばブラジャーをせしめたままだった、とオレが思い出してポケッ
トを探っていると、
 「純一」
 とオレを呼ぶ優希の声がした。
 「なんだ?」
 ひょいとブラジャーを取り出して渡そうとした所で不意に眩しいフラッシュが炸裂し、「撮ったのかよ!」という某芸
人のツッコみメッセージが流れる。見ると、優希が携帯のカメラでオレを撮った所なのだった。
 「あーっ、あたしのブラなんか持ってるから、変な写真になっちゃったじゃん! 下着ドロの写真みたいよ?」
 優希はたった今撮れた画像を確認しながら言う。
 「うわ、消せよ、そんなの」
 「ダメだよ、せっかく面白いのが撮れたから友達に見せないと」
 「こら、おまえのせいでまたオレの評判が下がるだろうが!」
 「やーだよっ」
 携帯を没収しようとしたおれの手をかいくぐって走っていく小悪魔。けらけらと笑っている。どうやら、当分この女は
お子様のままだな。
5331/365 (9):2007/01/29(月) 20:46:39 ID:9v3d35yC
 さぁ、これでオレの話は終わりだ。
 結果を言うと、優希はあっさりと陸上部の男前を袖にしたらしい。あまりの鮮やかさに、こいつは最初から受け入れる
つもりなどなかったのではないか? とオレは思ったりもする。
 オレと優希はどうなったのかだって? どうもならないよ。何かの間違いで身体の一部が触れ合った。ただ、それだ
けの話さ。オレと優希が今度どうなるかなんてわかりはしない。優希はあの通りのお子様だし、オレ自身だって恋がなん
なのかなんてわかっていないんだ。
 偶然のキスがきっかけになってすぐに付き合うことになりました、なんていうのは夜九時台のドラマの中だけの話だよ。
優希は相変わらず、昼休みには飯の途中でオレの肩を叩く空気の読めなさっぷりを発揮しているし、いつものように、そ
の後には色気のない応酬が繰り返されている。変化なんて何もない。強いて言えば、あいつの携帯はオレから電話すると
TRUE LOVEの着信が流れるようになったらしい。まぁ、それくらいの、ごくごく些細な変化に過ぎないのさ。
 ああ、そうだ。あと、今までは無頓着だった携帯の待ち受け画面を頑なに見せなくなったな。何が写っているか聞いた
ら、「大変卑猥なもの」と言っていた。16歳の乙女の待ち受けが卑猥なものというのもどうかと思うが。
 いずれにしてもそんな、優希が初めてオレに持った秘密は、あの日オレが抱えてしまった大きな秘密に比べたら、きっ
とほんの小さな、そう、ほんとに小さな秘密に過ぎないはずなのさ。


                                       了
534名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 20:47:52 ID:9v3d35yC
これで終わりです。よろしくお願いします。
535名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 21:12:42 ID:abMd8Fw4
>>534
あんた、いいもの作るじゃないか!!GJ!!!!!
536名無しさん@ピンキー:2007/01/29(月) 22:04:07 ID:pjYLEorn
最近は新しい職人さんが増えて地味に活気があるなぁ( ´∀`)
537名無しさん@ピンキー:2007/01/30(火) 00:35:24 ID:f6g1N7wD
1/365を見て365レスもの超大作かと勘違いしてびっくらこいた
538名無しさん@ピンキー:2007/01/30(火) 00:36:00 ID:MIVuwJu4
俺はこれから365回も投下するのかと思ってびっくらこいたw
539名無しさん@ピンキー:2007/01/30(火) 02:32:14 ID:Zrytabmy
俺も毎日連載かと思ったさw
実際は、とある一日、みたいなふいんきなんだろうけど
何はともあれGJ
540名無しさん@ピンキー:2007/01/30(火) 02:58:19 ID:8Dni6b8L
タイトルも笑ったが
『舐め殺し寸止め地獄3』がしつこく出て来てワロス
噴くの堪えるのにどんだけ辛かったか
541名無しさん@ピンキー:2007/01/30(火) 04:40:26 ID:gLuLESPG
>>537
2004年6月17日から2005年11月28日にかけて投下されて
3スレにまたがり
総レス数、489レスという作品が存在するのをご存知ですか?

542名無しさん@ピンキー:2007/01/30(火) 10:16:25 ID:7kgUf2Z2
2002年から現在に至るまで12レスにわたり連載され続けてるSSもあるけどね。
543名無しさん@ピンキー:2007/01/30(火) 11:06:41 ID:ABcheylw
>>541-542
ぜひ両方タイトルとURLをkwskプリーズ
544名無しさん@ピンキー:2007/01/30(火) 11:42:23 ID:7kgUf2Z2
>>543
ZガンダムSSだから・・・
ガノタじゃないと楽しめないけど、それでも良いなら。

http://www.eonet.ne.jp/~spiritshout/vote/index.html
545名無しさん@ピンキー:2007/01/30(火) 11:48:03 ID:ABcheylw
>>544
おお、Thx.
なんかすごいね。
546534:2007/01/30(火) 19:43:31 ID:zY9bHmaf
しまった、タイトルしくじった……orz
読んでくださった方ありがとうございました。
547名無しさん@ピンキー:2007/01/30(火) 19:51:28 ID:I1p4sRq+
>>534
GJ!!
欲を言わせて貰うと、2/365、3/365と続いて欲しい。てか続け。続けろ。続けて下さいお願いしM(ry
あと、>>527で煙草吹いたのは俺だけじゃない筈。
548名無しさん@ピンキー:2007/01/30(火) 20:20:42 ID:zY9bHmaf
>>547
ありがとうございます。
また、別の主人公を用意して投稿させていただきたいと思ってますので、
その折にはよろしくお願いします。
549ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/01/30(火) 22:42:16 ID:smdxcGaQ
アクセス規制やっと解除されました……二週間近くかかっていたような('A`)
今回はアナル成分(男も含め)とちょっとした暴力シーンはいるので嫌いな方はNGお願いします。
550ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/01/30(火) 22:43:21 ID:smdxcGaQ
鈴奈の黒い瞳が潤んだ。両眼を閉じた。長い睫を飾った瞼が、羞恥に痙攣した。天馬が鈴奈の瞼と頬を舐めた──皮膚が敏感に反応した。
「鈴奈……」
包皮を剥かずに鈴奈のピンクパールを鈍色に光るピアスで撫で摩った。上下に動きながら、微細にテンポよくクリトリスを刺激する。
鈴奈が鋭く反応した。熱く柔らかい肉とは対照的な冷たく硬質な感触が、鈴奈の女芯に一味違った喜悦を与えた。充血していくクリトリス。
「ひゃうぅん……ッ」
鈴奈が声をあげた。ペニスの先で円を書きながら、天馬は仰向けになった鈴奈の双腿を押し広げ、きつい膣口にペニスを埋没させていった。
鈴奈の花弁内部の構造は、素晴らしく緻密で官能的であり、淫らだった。めくるめく快美感がふたりの五感を駆け回る。
極上の名器だ。内部の細やかな襞がペニスを優しく包み、表面を揉みしだいた。熱く滾る蜜液がふたりの毛むらを濡れそぼらせる。
「ああ……鈴奈、鈴奈……ッ」
腰を激しく前後に揺すりながら、天馬は喉仏を小刻みに蠢かせた。鈴奈の裸体の上で天馬は踊った。踊り続けた。
「天ちゃん……ッ」
天馬の裸体に汗が滲み出た。額に浮き出た珠の汗が鈴奈の頬に落ちる。鈴奈の色白の相貌──細く美しい眉根がつらそうにたわむ。
蜜液が天馬の陰嚢までヌメらせ、熱く粘りつく狭隘な隋道がペニスをきつく食いしめた。表面が焼け爛れてしまいそうだ。
喜悦に鈴奈が頤をのけぞらせ、喘ぐ。ザーメンと愛液が混ざり、むあッとするような熱気を放つ。雄と雌の強い性臭が室内に溢れた。
頭のてっぺんまで串刺しにされるような感覚が鈴奈を襲った。天馬がリズミカルに鈴奈の花弁を突き上げる。
エクスタシーの津波が押し寄せた。甲高い嬌声をあげて、天馬にしがみつく。鈴奈の甘い匂いが天馬の鼻腔を刺激し、内なるエロスを昂ぶらせた。
「ああッ、天ちゃん、あたしッ……もう……ッ」
汗を飛び散らせながら飢えた獣のように、ふたりは性の快楽と互いの生肉を貪った。追い詰めた。追い詰められた。
ふたりは獲物であり、同時に狩人だった。血がざわめいた。激しさを増す動き。ペニスが火柱と化した。
「んん……いいよ、いっても。僕も、もういきそうだよッ」
狂奔する法悦の稲妻が、ふたりの背筋を貫いた。尿道に走る鋭い痛み──天馬は強烈なストロークを膣壁に叩き込んだ。
脈動するペニス──白い礫が炸裂した。収縮する花弁にザーメンを放射させていく。
「ああぁぁ……っ」
鈴奈が嗚咽に声帯を震わせた。熱い液体が内部を満たしていく感覚──裸身を跳ね上げながら、鈴奈はハイレベルのオーガズムを極めた。

「もう学校、完全に遅刻だよ」
熱いシャワーを浴びながら、鈴奈が咎めるように言った。天馬の身体をお湯で濡らし、ボディーソープを含ませたスポンジで胸と脇腹を優しく洗ってやる。
汗でべとついた肌に熱いお湯の刺激が心地よかった。排水溝に吸い込まれる水の音が鼓膜を小さく揺さぶった。
「学校なんてゆっくりいけばいいじゃん」
悪びれた様子もなく、天馬は答える。身体を洗われて気持ちがいいのか、眼を細めて水滴の浮かぶ天井を眺めていた。幼い我が子を洗う母親の気分だ。
「天ちゃん、お尻洗うから後ろ向いてね」
551ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/01/30(火) 22:43:58 ID:smdxcGaQ
スポンジをタイルに置き、天馬の身体を反転させた。しなやかで美しい臀部だ。白磁のように滑らかな尻──割れ目を掌でくつひろげる。
指先にめり込む尻肉の感触に鈴奈の胸が躍る。清楚なすぼまりが見えた。襞が少なく、形も小さく整っている。色素の薄いアヌスは紅サンゴ色だった。
そっと鼻先を近づけ、匂いを嗅いだ。体臭に混じったアヌス独特の生々しい香り──不意に、その部分を舐め清めてやりたくなる。
(ふふ、天ちゃんの匂い……可愛い……)
他人の体臭、汚れは絶望的に不愉快な代物でも、愛しい相手のものであれば、それは興奮の起爆剤になる。鈴奈の温厚そうな二重瞼が優しい光を湛えた。
「……鈴奈。あのさ、あんまりそこ見られると……恥ずかしいんだけど……」
天馬の声に鈴奈がハッと我に返る。恥ずかしそうにうつむく天馬の横顔に、鈴奈の母性本能がくすぐられた。鈴奈は逡巡した。逡巡は一瞬だった。
小さなアヌスに、鈴奈は唇を押し付けた。唇で表面を甘く吸いながら、舌を這わせる。天馬がビクッと身体を硬直させた。
「え、ちょっとッ、鈴奈何やってんだよッ!」
生温かい肉片がアヌスを動き回る感触に驚きの声を発しながら、天馬は鈴奈の頭部を押さえつけた。それでも鈴奈は舐め続ける。
「き、汚いから舐めないでよッ」
「汚いなら天ちゃんのお尻、あたしが舐めて綺麗にしてあげるよ……ううん、汚いなんて思わない……だって大好きな天ちゃんのお尻だもん」
性的なニュアンスは感じられなかった。母猫が仔猫にしてやる行為に近い。肉襞が舌でめくりあげられた。
肛門粘膜を鋭い快感が貫く。鈴奈の舌が内部でクルクルと回転するたびに、下腹部がジーンと熱くなった。
「くうぅッ……あ……ッ」
男にしては清澄すぎる艶っぽい喘ぎが、天馬の声帯から発せられた。
数分ほどアヌスを舐め回し、鈴奈がやっとストップする。アヌス舐めは初めての経験ではない。他の女達から何度もされたことがある。
それでも鈴奈に舐められるのとでは恥ずかしさの度合いが違った。羞恥が快感を上回ってしまい、素直に楽しめない。
「どうだった、天ちゃん?」
優しい笑みを湛えながら、鈴奈が天馬の上気した横顔を眺めながら尋ねた。鈴奈の屈託のない大きな瞳が少しばかり憎らしくなる。
「鈴奈……」
天馬が素早く鈴奈の背後に回り、腰を両手で鷲づかみにした。お返しをしてやるつもりだった。ぐいっと尻を突き出させ、天馬がしゃがむ。
「次は僕の番だよね?」
「あ、あたしは自分で洗うからいいよッ」
「駄目だよ。僕がどれだけ恥ずかしかったか、鈴奈にも教えてあげるよ」
麗臀の谷間を左右に広げられ、鈴奈が腰を振って抵抗する。天馬が鼻を鳴らして匂いを嗅いでいるのが、鈴奈にもはっきりとわかった。
「これが鈴奈のお尻の匂いか。なんかすごくエッチな匂いだね」
鈴奈の薄桃色のアヌスは、とても排泄器官とは思えぬほどに美しかった。ふっくらとした肉の蕾に、天馬は興奮気味に生唾を呑んだ。
排泄器官を覗き込まれ、匂いを嗅がれるのは思春期の少女にはつらい。特に今日は朝、トイレを済ませてきたばかりだった。
鈴奈の眦に羞恥の涙が浮かんだ。小粒の涙が一滴、頬を伝って落ちた。
「鈴奈のお尻の匂い嗅いでたら……なんかまたチンコ立ってきたよ」
たっぷりと秘めやかな香りを堪能し、天馬がわざと乱暴にアヌスにむしゃぶりつく。アヌスに舌を潜り込ませ、直腸内部を荒っぽく掻き回した。
「あ……ああッ、天ちゃん、もっと優しく舐めて……ッ」
552ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/01/30(火) 22:44:35 ID:smdxcGaQ
鈴奈の長い髪が振り乱れた。悦楽の余燼が蘇る。恥かしい反面、それでも嬉しかった。
天馬が自分の汚い部分まで愛しんでくれる幸せ──鈴奈は心からそれを実感した。
天馬の執拗なアヌリングス──含羞とアクメに晒されながら鈴奈は悩ましく、熱い吐息を漏らしていった。
              *  *  *  *  *  *  *  *  *  *
結局、家を出たのは午前十時を過ぎてからだった。整然と並んだ机と椅子。シャープペンシルのカチカチと鳴る耳障りな音。むかついた。
かったるい授業──途中でエスが切れてトイレで一発キメた。さっさと早退したかった。鈴奈が駄目だと言ったので我慢した。
授業が終わって学校を出ると、その足で鈴奈と一緒に繁華街に買い物に出かけた。私服なので着替える必要もない。
途中で寄った宝石店でティファニーのオープンハートネックレスとお揃いのピアスを買い、鈴奈にプレゼントした。お互いの耳にピアスをつけてやる。
「ありがとう」
和んだ表情の鈴奈が何度も天馬の頬にキスをした。予想外の喜び様に天馬は呆気に囚われたが、それでも嬉しい。ふたりは仲睦まじかった。
鈴奈が死ねば天馬は生きていけないだろう。それは鈴奈も同じだ。いつも寄り添いながらふたりは生きてきたのだ。
鈴奈が指先の天馬の掌に触れた──天馬が優しく握りしめた。穏やかな時間がふたりを包み込み、流れていった。

明の腹部に拳がめり込んだ。逆流する胃液。胃袋がめくれあがる激痛──拳が何度も腹部を打ち抜いた。痛みに脈拍が上昇した。
食道を灼く胃液をかろうじて飲み込み、明は奥歯を食いしめた。じっとりと汗ばむ額、耐えるしかなかった。
繰り返される屈辱──どす冥い殺意が明の胸裏を満たす。金本の耳をつんざく怒号、延々といたぶるようにストマックに叩きつけられる拳。
「この腐れボケェェがぁぁッ!!!」
憤怒に顔面を赤銅色に染めた金本が、怒鳴りちらしながら明のドテッ腹を殴りつづけていた。強張る首筋の筋肉──脂汗がぬめついた。
「ふざけんじゃねえぞぉぉッッ、誰がテメエらのケツ持ちしてやってんだよぉぉぉッ!!ああぁッ!?」
醜貌をさらに歪ませながら、金本が明の顔面に唾を吐き捨てた。肩で息をする度に、金本の吐き気を催す野良犬の糞のような口臭が明の鼻腔を襲った。
「ず、ずいばぜん……れ、れもあいづら人数づれでぎてぇ……」
明が痛みに呻吟しながら、濁音混じりに金本に向かって説明した。苦痛に腹部を押さえ、うめく明の横顔──金本の容赦ない拳が飛んだ。
顎に当たった。唇が切れた。脳が振動した。一瞬、目の前が暗転した。鉄錆の味が口の中に広がっていった。
「ふざけんじゃねえぞ、この半グレ(不良)がぁッ、俺たちゃヤクザなんだよぉ!テメエらガキと違って喧嘩に負けましたじゃなぁ!
明日からオマンマが食えねえんだよぉッ!いいかっ、一週間待ってやるから『フール』の頭潰してこいやぁッッ!」
髪の毛を引っつかみ、何度も揺さぶりながら明の耳元で金本がわめく。唾が頬に飛んだ。鼓膜がキンキンと痛んだ。こめかみが震えた。
関節が軋み、明はあえいだ。
「わ、わがりまじだぁ……」
「わかりゃいいんだよ。いいか、どんな手使ってでもケジメは取って来いよ。なんなら天馬にでも頼んだらどうだ。
おまえなんかよりゃよっぽど使えるぜ。親父も兄貴達もあいつのことは高く買ってるからぜ」
(金本……その天馬に泣き入れたヤクザはどこのどいつだよ……この腐れ豚が……)
金本が引っ掴んだ明の髪の毛を離してやる。むせながら何度も明がかぶりをふった。かぶりをふりながら──明の眼は憎悪に燃え立っていた。
553名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 11:19:01 ID:52Xf+0Vb
イイヨイイヨー
554名無しさん@ピンキー:2007/02/01(木) 23:24:40 ID:moP8eDXi
>>475-482の続きを投下させていただきまする
555Sunday:2007/02/01(木) 23:26:27 ID:moP8eDXi


『もー、寝るのはともかくイビキまでかくなんてひどいよ』
『しょうがないだろ、寝起きにラブロマンスとかありえねーよ』
『……寝起きなのにまた寝たのはどういうことなんだよ』
『二度寝ってやつだな!』
『堂々と言うなっ』

 雪がちらつく曇り空の下、二人は口喧嘩を交わしながら街を練り歩く。だけど身長差の
ある背丈が、そんな様子を仲睦まじく変えてしまう。クリスマスという特別な日を彩る、
様々な色をした街のイルミネーションが、どことなく気持ちを浮つかせてしまう。
『まぁそう言うなって。今日は一日中一緒にいてやるから』
 そしてこうして笑顔を携えながら彼女と接するのが随分と久しぶりのことだったから、
いつも以上に優しい言葉をかけてしまっていた。
『……別に嬉しくないし』
『はいもろバレの嘘頂きましたー』
『別にどっちだっていいし!』
『そうは言いながらも顔は赤い紗枝ちゃんであった』
『うっさい!』

 そんないつもの会話がとてつもなく懐かしくて。相変わらず可愛らしくて意地っ張りな
反応を見せる彼女を見ていて、思わず頬が緩む。
 これまでずっと想いを寄せてくれてたことも手伝って、どうして今まで彼女を異性として
捉えてこなかったのか、自分で自分が不思議になる。いつも通り何気ない会話一つ一つが
充分な満足感を与えてくれて、つられて口元も歪みだす。

『何ニヤニヤしてんだよ、気持ち悪い』

 そんな様子が彼女の癪に障ったのか、いつも以上に痛烈な言葉を浴びせかけてきた。
 口調が乱暴だからこそ、照れたり頬を染めたりするのが余計に可愛く見えたりすることに、
彼はようやく気付くのだった。
『相変わらず減らねぇ口だな。また手繋いで欲しいのか?』
『やだ、あんな恥ずかしい真似もうしたくない』
『俺が手を振りほどいた後、その手を差し出してきたのはどこのどなたでしたっけ?』
『記憶にございませんー』
 会話が止まらないのは、こうして普段通り話が出来るようになったこと自体が随分と
久しぶりのことだから。久々なら所々に不自然な会話が起きても不思議じゃないのだが、
それが全く起きないところに、二人がこれまでどんな関係を築き上げてきたかが表れている。

『じゃ、もう繋いでやんね』

 目には目を、歯には歯を、そして幼い態度には幼い態度を。そう言い捨てると、大仰に
彼女から顔を逸らし、並んで歩いていたお互いの距離も少しだけ離れる。ちなみにこの男、
こんな態度をとってはいるが今年で23歳である。
『……』
 すると空いてしまった距離を埋めるように、彼女は黙ったままついてきた。速足になると
同じように速足で追いかけ、歩調を緩めるとこれまた同じようにゆっくり歩いて距離を
保とうとする。だけどそれに反発するように、目線はこれまた彼の方とは逆に向いたままだ。

『おや』
『……』
『おやおや』
『……なんだよ』
『ん? 別にー?』
 片やにやついたしたり顔。片やぶすくれだった不満顔。これがお互いに一番よく見せる、
いつもの表情。ほんと、まさにこれが愉快で仕方ない。
556Sunday:2007/02/01(木) 23:28:06 ID:moP8eDXi

『別に繋いで欲しいなんて言ってないだろ』
『別にまだ何も言ってねぇ』
『わざとらしく「おやおや」とか言ってただろ、何だよそれ』
 今度は口を尖らせたまま噛み付いてきた。どうやらもう彼女の頭の中では、今日のこれが
「はぢめてのデート」という特別な出来事だっていうことが、消え去りかけてしまっている
ようだ。
『いやぁ? 文句ばっかり言ってる割には、ついて来るんだなと思ってな』
『それは…だって、今日一日一緒にいてくれるって言ったし』
『お前は別にどっちでもいいんじゃねーの?』
『崇兄がそう言うから聞いてあげてるだけだよ!』
 図星をついたり、言い訳出来ないような矛盾をつきつければ大声張り上げてしまう性格は、
まるで出会うことのなかった四ヶ月の時を挟んでも、ちっとも治せなかったようだ。

 それが嬉しくて、また底意地の悪い笑みが深くなる。

『そうだな』
 だけどそれを必死に打ち消すと、映画館に入る前と同じようにぎゅっと手を繋ぐ。
『……っ』


『俺は、お前と一緒にいたい。手も繋ぎたい』


 今までふざけた雰囲気をスッと打ち消して、また彼女の方へ振り向いた。
『……』
『それじゃダメか?』
 手は、振りほどかれない。それどころか、少しだけ力を込められる。
『……そこまで言うなら…まあ……』
『そか!』
 途中までだったその言葉を遮ると、これまで以上に強く手を握り返した。

『たっ…崇兄が言うから仕方なくだよ! あたしがしたいわけじゃないんだからね!』
『分かってるって、紗枝もぎゅってしたかったんだよな』
『しーたーくーなーいーっ!』
 だけどそんな真摯な態度を見せるのはやっぱりほんの一瞬だけなわけで。なんでそんな
ことをするかというと、そうした方がよりよくからかえるわけで。

『じゃー昼飯でも食いに行くかー』
『その前に手を放せー!』
 
 付き合い始めてから一週間目での、初めてのデート。

『俺が繋ぎたい、それで良いっつったろ―――』
『やっぱり駄目ぇ――――』

 この時は、まだ信じていた。彼女をずっと大切にしていけると。決めていた。彼女をもう
泣かさないようにしようと。そう信じてた、決めていたはずなのに。

 だけど、感情はいつも揺れ動くもの。あの時の気持ちを、今の崇之は持ち合わせては
いなかった。だからこそ、焦りが募って平静を保てなかった。

 また、この頃のように戻りたかった――――


557Sunday:2007/02/01(木) 23:29:20 ID:moP8eDXi


「ありがとうございましたー」

「いらっしゃいませー」

 時刻は丁度正午を挟む昼飯時。入れ代わり立ち代わりやってくる客の数に目まぐるしく
なるような忙しさを覚えながらも、崇之はちらちらと時計を盗み見ながら業務に打ち込む。
(あと少しだな……)
 時計の針が数字の6に差し掛かれば今日の分の業務は終わりだ。最っ高に忙しい時間帯に
途中で抜け出させてもらうのはなんとも気が引けてしまうが、それでも今日の彼にはそれが
どうでもいいように思えてしまうくらい大事な予定がこの後に控えている。今日のシフトの
時間を同僚達に確認された時は随分と恨めしい顔で睨まれはしたが、そこはまあ恋人との
大事な時間を割くために、彼らには犠牲になってもらおう。

 天気は雨。それほど強いわけでもないが、傘を差さないといけないぐらいに雨脚が近い。
紗枝はもう待ってたりするんだろうか。傘持ってなかったらどうしてるだろう、駅構内に
入って雨宿りでもしているだろうか。なんにせよ、早く会いに行ってやりたい。

 時計はまもなく、数字の3あたりを指そうとしている。あと15分強だ。この中途半端な
時間が妙に長ったらしく思えてしまうのは多分気のせいじゃない。つーか終わって欲しい。
「注文はいりました、並一丁お願いしまーす」
ここ最近、ずっと意図的に紗枝を避けてきたのにおかしな話だ。それもこれも、約束を
取り付けた時の彼女の台詞が原因だった。

『あ…崇兄』
『ん?』

『……遅れてもいいから、ちゃんと来てよね』

『……ああ、分かってる』
『……うん』
『それじゃな』
『…うん』

 随分と寂しそうで、本当に会いたがっているんだなという気持ちが色濃く伝わってきた
あの日の会話。
 正直、勢いで電話をかけたものの、あの電話の時点で恨みつらみをぶちまけられても
仕方ないと思っていた。だけど、返ってきたのはただ会いたい会いたいとせがまれ続けた
寂しそうな言葉だった。

 それが、頭の隅に張り付いて離れない。

558Sunday:2007/02/01(木) 23:30:58 ID:moP8eDXi


「ありがとうございます、××屋××駅前店です」

 接客している背後から、電話の応答をする同僚の声が聞こえてくる。外線がかかってくる
のは別段珍しいことじゃないから、大して気にもせず業務に打ち込む。
「あ、店長お疲れ様です」
 電話の主は店長らしい。時間になれば責任業務を受け継いでもらうのだ。早く来て欲しい
のだが。そこはまあ、店長なのだから色々と忙しいだろうし仕方ないのだろう。
「ありがとうございましたー」
 正面にいた客に空っぽになった丼を無言で差し出され、それを受け取り流しに溜めた水に
漬ける。逸る気持ちを抑えて、黙々と働き続ける。


「えっ! 大丈夫ですか!?」


「…?」
 と、外線で店長と話をしていた同僚が途端に大きな声を張り上げる。働いていた従業員も
カウンターに座っていた客も、何事かと一瞬そちらに視線を向ける。
「あ…はい、分かりました。それじゃ、失礼します」
 それに気付いて口元を隠して小声になりながら応答している。どうやら、店長の身に
何かあったらしい。

「今村さん、あの、ちょっとお願いします」
 同僚は電話を切ると、硬い表情のまま崇之に話しかけてきた。その様子になんだか嫌な
予感を覚えながらも、彼は客の迷惑にならないよう、その従業員と共に奥に引っ込む。
「なんだ」
 こちとらもうすぐ大事な用事が控えているのだ。出来れば、面倒な事態は御免被りたい
ところなわけで、それだけに若干の苛立ちを覚える。
 しかし、その同僚が打ち明けた話というのは、いろんな意味で最悪のものだった。

「あの…店長が事故に遭ったらしくて」

「は!?」
「本人から電話かかってきたんで命には別状無いみたいですけどね。信号待ちしてるところを
後ろから追突されたそうです」
 そういえば二十分くらい前、サイレンを鳴らしたパトカーや救急車が店の前を通過して
いったのを思い出す。どこかで事故でも起こったのかとは思ってはいたが、まさか店長が
当事者だったとは思いもよらなかった。
「じゃあ…、店長は…」
「一応病院で検査してくるとか」
「そうか……まあ、軽傷ってのが不幸中の幸いだな」
 一つの懸念があっさりと立ち消え、安心したようにフッと短く息をつく。
 しかし、もう片方の懸念は消えることなく更に大きく膨らんでしまったことに、直後に
気付くのだった。

「それでですね。運転してたのが会社の車だったらしくて、病院を出てからも事故処理に
負われるんだそうです」

「……」

 どくんと一つ、鼓動が大きく脈を打つ。それがひどく、不快だった。

559Sunday:2007/02/01(木) 23:33:07 ID:moP8eDXi

「それで、その……悪いけど今村さんに引き続き…業務を続けて欲しいと」
 そこまで聞かされた時、頭がくらっとよろめいてしまった。そんなことだろうとは思っては
いたが、やっぱりいざ耳にするとダメージは桁違いだった。
「……」
「今村さん?」
「……ああ、聞いてる」
 頭を抱えて、ふらふらと壁によりかかる。よりによって、何でこんな時にこんなことが
起こるのか。浮気現場を見られたときといい、あまりにもタイミングが悪すぎる。
「何か予定でもあるんですか?」
「あー……、まぁな」
 まさか自分の恋人とデートするんだとは言えない。適当に相槌を打って言葉を濁す。

 職場には必ず責任者か、もしくはその代行業務を引き受けることが出来るサブチーフが
一人いなくてはならない。崇之はアルバイトだが、キャリアが長いので非公式ながらその
立場に立つことを許されていた。そして現在、彼以外にその役職に就ける人物は出勤して
いない。
 つまり、代わりのチーフが来るまで彼はこの場にいないといけないのだ。


 どうしよう、マジでどうしよう。こじれにこじれた紗枝との関係を、一気に取り戻そうと
今日という日を待ち望んでたのに。時間だって遅れるつもり無いというのに。強烈な眩暈が
身体に襲いかかってくる。

「……ちと、レストにさせてくれ。代わりに来てくれるサブチーフがいないか連絡したい」
「分かりました。でも、もしいなかったら…」
「そん時は残るよ。しょうがねえだろ」
 本当は今すぐ駆け出したいがそんなこと出来るわけもなく。断腸の思いで言葉を吐き出す。
紗枝も大事だが、自分の生活を支える仕事も大事だ。バイトだからとはいえ、立場もある。
疎かには出来なかった。

 ずるずると足を引きずってロッカールームにたどり着くと、自分のロッカーを開けて
私服のポケットから携帯電話を取り出す。
 そこで強く大きな溜息が漏らす。頭を抱えたって仕方ないのだが、こんな悲惨なことが
あっていいのだろうか。デートにさえ行ければ、彼女の機嫌を治す自信は大いにあった。
彼女の思考パターンは嗜好なんかはほとんど熟知している。それだけに、賭けていた。

 痺れかけた頭に活を入れようと、またカツカツと自分の額に携帯の角を打ちつける。
天井を見上げながら、鬱屈した気分のままロッカーにもたれしゃがみこむ。
 一応連絡はしてみるが、代わりに来てくれる奴が現れる可能性はかなり低い。話も事態も
突発的すぎるからだ。しかも帰りたい理由がデートなのだから、それを話せば、向こうから
すれば溜まったもんじゃないだろう。
 シフトを確認してみると、店長の後に責任者代行が現れるのは18時と書かれてある。
ということは最悪、その時間まで働かなくてはならないということだ。いつになったら
あがれるかどうかも分からないのだから、紗枝に待っていて欲しいと言うべきか、それとも
また次の機会を設けるべきかもすぐには決めかねてしまう。


「はー……」
 がりがりと頭を掻き毟る。胃の中を鉄の重りで占領されてしまったかのように身体全体が
重たい。そんな気分を溜め込んだまま、彼はカコカコとボタンを押し始めるのだった―――
560Sunday:2007/02/01(木) 23:34:39 ID:moP8eDXi




 昼下がり。風が植えられた木々を揺らしながら、サァーっと一瞬強く吹き抜けていく。
紗枝はそれを身体に受け、はためかさないようスカートを抑えた。
「……」
 駅前に設置された時計は、長い針が10のあたりを過ぎようとしている。

 崇兄が遅刻魔なのはとうの昔から知っている。それは、付き合い始めた今でも変わって
いない。何度かデートはしたけれど、約束してた時間通りに来てくれたことなんてほとんど
無かった。
「……」
 だから、まだ不安を感じる必要なんて無いのに。なんで今日はこんなに胸がざわつくん
だろう。久々に彼と会うのが、そんなに怖いのだろうか。自分の鼓動が分からない。

 昨夜悩みに悩んだ服装は、風にはためくベージュのフレアスカート、ミルク色を基調と
したカットソーに、その上には羽織った薄手のリボンカーディガンという組み合わせ。
普段の活発的でシンプルな服装とは一線を画すような季節を強く意識したもので、それに
あわせて普段は跳ねっ返りが多い髪の毛も、今日は若干大人しくなっている。

 親友と買い物に行った時に「似合うから」と半ば強引に買わされたものだったのだが、
自分では似合っているのかそうでないのかよく分からない。それだけに、その姿で立って
いるだけで照れが混じる。
 
 早く、早く来てよ崇兄。恥ずかしいよ。

 雨の中、傘を差して顔を隠せているのが不幸中の幸いだった。駅の構内で雨宿りをする
選択肢が無いわけでもなかったけど、待ち合わせの場所は「駅前」だったから、できれば
そこから動きたくなかった。一刻も早く、見つけて欲しかった。

 この格好を見たら、どんな反応をされるんだろう。とりあえず付き合う前の崇兄だったら
指をさしてきながら腹を抱えてげらげら笑うんだろうけど。今の崇兄なら、ここのところ
ずっと会ってもいなかったのだから、素直に似合ってると言ってくれそうな気がした。

 慣れなくて恥ずかしいけど、それと同じくらいにちゃんと「女の子」の格好をした自分の
姿を見て欲しかった。
561Sunday:2007/02/01(木) 23:36:48 ID:moP8eDXi


〜〜〜♪〜〜〜〜♪〜♪〜〜♪♪〜


 その時。手にしていたバッグの中から、振動と共にメロディが流れ始める。この着メロは
誰かさん専用のものだ。性格も考え方もひねくれた、だけどいちばん大好きな誰かさん
専用のものだ。
「……」
 普段ならかかってくるだけで嬉しくなるそのメロディも、ここ最近は聞く機会がまるで
無かった。しかもこのタイミングでかかってきたことに、家を出た時から胸に宿り続けて
いた不安が、大きく膨らんでしまう。

ピッ

「……もしもし」
 お願い、気のせいであって欲しい。そう強く願いながら彼女は電話に出る。
『あぁ…もしもし』
 向こうからひどく疲れたような、ひどく打ちひしがれたような声が返ってきた。だけど
町の喧騒や雨音が聞こえてこない。
ということは、彼はまだバイト先にいるのだ。


 その声色を聞いた時、紗枝は自分の予感が当たってしまったのだと直感する。


『今、どこだ?』
「一応、待ち合わせの場所にいるけど……」
 溜息が強く混じっていて、言葉が聞き取りにくい。何があったのかは分からないけど、
だけどこれから何を言われるかは、もう分かってしまっていた。

『……』

「だめ、なの?」

『…え』

「崇兄、来れないの?」

 雨が降っていてくれて良かった。雨が地面を叩けば、それだけ自分の声が歪もうとして
いるのも誤魔化してくれる。
『泣くなよ…』
「泣いてない」
 歪んでいたのは声だけじゃなくて、視界もだった。傘を深く被らせて、周りの人からは
自分の顔が見えないように遮る。
『……』

「泣いてないってば!」

 途端に黙ってしまった彼に、もう一度強く叫び返す。だけどその後、鼻を啜ってしまう。
これじゃ、泣いていると教えてしまっているようなものだ。そんな自分が物凄く情けなく
なってしまう。
562Sunday:2007/02/01(木) 23:37:58 ID:moP8eDXi

『その、な。俺と交代するはずの人が、急に来れなくなったんだ。だからその分、俺がまだ
職場にいないといけなくなってな』
「……」
『一応サブチーフ扱いしてもらってるんでな。責任者代行出来るの、俺しかいねーし……
だから、その……』
 もう一度強く鼻を啜る。しゃくりをかみ殺すだけで精一杯だった。雫は流れてないけど、
瞳には溜まり始めていた。

「分かった」

 これ以上話をしたくなくて、これ以上声を聞かれたくなくて。そんなすぐに納得なんて
出来るはずもないのに、分かった振りをする。
「もういい」
 言葉を選んでいられる余裕なんて無くて、かろうじてそれだけ言い放つ。

『待て紗枝、それで…』

ピッ

 まだ何か喋っていたけれど、それ以上聞く気になれなかった。仕事の都合なのだから、
崇兄はちっとも悪くないし、仕方ない。だけど、そんなすぐに割り切れない。彼の言葉の
続きが、終わるまで待ってて欲しいという台詞でも、日を改めてまた今度という台詞でも、
どっちにしても失望してしまうのだから聞きたくなかった。

 どうせ崇兄は知らないんだ。あたしが、今日どれだけ楽しみにしてたか知らないんだ。

 約束なんて、しなけりゃよかった。どうせ、守ってくれたことの方が少なかったのだ。
一人おめかしをして、家を早く出て待ちぼうけを食らって、結局崇兄は現れない。
 もういい。こんなこと望んでいたんじゃない。こんなこと経験するために、彼を好きに
になったわけじゃない。ずっと一緒にいて欲しかったのに、ずっと時間を共有したかった
だけなのに。そんなことも叶えてくれないくらい、あたしのことはどうでもいいんだ。
ひどい、ひどいよ。こんなのないよ。

 彼には何の非も無いことは、もちろん分かっている。だけどこれが引き金となって、
これまでも我慢していた不満が噴出してくる。何かじゃなく、誰か。誰かじゃなく、彼を。
そうでもしないと、自分の気持ちを保つことが出来なかった。


 電話を切った後も、彼女は携帯を握り締めたまま立ち呆ける。


 雨は降る。雨脚はまだまだ弱まることもなければ、これ以上強まることもない。駅前で、
彼女は一人寂しく佇み続ける。傍を横切り駅に入っていく、駅から出てくる通行人には、
気に留められることもない。
 
 涙を流すことなく、傘の柄をぎゅっと握り締め。紗枝はその中から微かな泣き声を零し
続けるのだった――――――

563Sunday:2007/02/01(木) 23:39:10 ID:moP8eDXi
|ω・`)……



|ω・´)オレッテモシカシテドSナノカモシレナイ



|ω・`;)ノシ ゴメンネ、マタコンナテンカイデゴメンネ


  サッ
|彡
564名無しさん@ピンキー:2007/02/01(木) 23:47:11 ID:PaioBbMP
このドSが!
GJ
565名無しさん@ピンキー:2007/02/02(金) 00:12:19 ID:ZJcgyJsl
作者さん乙です
566名無しさん@ピンキー:2007/02/02(金) 03:26:36 ID:02MfHzlG
>>563
じゃあyouの事を信じて待ってる間が堪らない自分はきっとM。
全く…焦らすのが得意なんだから…。
 
あ、GJ!
567名無しさん@ピンキー:2007/02/02(金) 04:07:25 ID:+4PK2DVm
>デートにさえ行ければ、彼女の機嫌を治す自信は大いにあった。
>彼女の思考パターンは嗜好なんかはほとんど熟知している。

この辺見て何となくそう思った
568名無しさん@ピンキー:2007/02/02(金) 11:49:42 ID:75kkGNHp
GJなんだが、ちょっと引っ張りすぎかなとか思った。
何となくみおつくしとか韓国ドラマ風?
>(物語上の)都合のいい時に事故
569名無しさん@ピンキー:2007/02/02(金) 13:40:09 ID:MKP7/opd
>>567
俺はそこ読んでナルシストっぽく思えた
作者が
570名無しさん@ピンキー:2007/02/02(金) 13:54:13 ID:jSWuNrNP
あくまで小説の中の話だから。
571名無しさん@ピンキー:2007/02/02(金) 14:08:34 ID:bMBj2BrI
>>568
タイミングの悪い事故とか一昔前の漫画なんかにはありきたりな展開だろ
572名無しさん@ピンキー:2007/02/02(金) 16:19:30 ID:MKP7/opd
>>571
あんまフォローになってねえなw
573名無しさん@ピンキー:2007/02/02(金) 17:56:53 ID:bmk0Hxt9
ご都合主義だろうがなんだろうが別にどーでもいいよ、面白ければ。
というわけで作者さんGJ!
574ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/02/03(土) 02:07:00 ID:E99/9lAA
(なんて様だよ……明……お前の成りたかったもんはあんなクソヤクザの使いパッシリかよ……)
ズキズキと痛む脇腹を押さえ、明は咳き込んだ。瞳が険しくなる。下唇を噛み、地面を睨み付けた。タバコに火をつける。
フィルターを挟んだ指先が震えた。きつく眼を閉じて、タバコの煙を深々と肺に送り込む。いくらか落ち着きを取り戻した。
どうすればいいのか──いくら考えても出る答えはすべて同じだ。フールの頭──四海(よつみ)を殺ること。無性に笑いたくなった。
フールのバックには、歌舞伎町に事務所を構える東条会が控えている。フールの頭以下幹部の何名かは東条会の構成員だ。
明神組が四十三団体の傘下に収め、枝の組員を含めれば構成員数九百人を超える大所帯である組織に対して、東条会は僅か二百人足らず。
それでも東条会は明神組と同等の金看板を掲げている。東条会は筋金入りの武闘派集団だ。その歴史は明神組以上に長い。
東条会は戦後の時代、関西の極道社会にその名を轟かせた殺しの軍団、柳瀬次郎が率いた柳瀬組の流れを汲む。
東条会の代紋は明神組の代紋以上に恐れられていた。東条会は末端の組員も含めて猛者が揃っている。少数精鋭だ。
明神組と東条会の両組織は現在のところ敵対関係にある。両方とも折り合いが全くつかないのだ。当たり前だ。
同じ獲物を食い漁るハイエナどもが仲良く出来る道理などどこにも見当たらない。特に餌場が少なくなった今、共存共栄など幻想に過ぎない。
明神組と東条会が衝突するようになった直接の原因──MDMAの密輸ルートを巡っての対立だ。もっとも、抗争の火種はその前から燻っていたが。
ヨーロッパマフィアのほうから、両組織にコンタクトしてきたのがそもそもの発端だ。

歌舞伎町を橋頭堡(きょうとうほ)に自分たちのルートを作り上げるのがマフィアの目的だった。
日本では人気を誇るMDMA──抜け目のないマフィアが見逃すはずがなかった。ただし、行動はすぐには起こさなかった。
麻薬ルートで一番難しいのは末端の密売ルートだ。大抵のルート壊滅はこれが原因とされている。
末端からイモヅル式に大型のルートまでもが摘発されるのだ。マフィアは慎重に検討した。取引は信用できる相手でなければならない。
そして吟味した結果、マフィアは両方の組織に話を持ちかけた。
交渉の結果、取り分はマフィア側五十%にそれぞれの組織が二十五%ずつだ。二十五%──年間にして五十億の純利益。
表向きではそれで話し合いはついたものの、腹の底では両者共に互いの潰し合いを画策していた。年間五十億受け取るよりは百億のほうがいい。
猿でもわかる計算だ。マフィアにしてもどちらの組織が潰れようが関係ない。残ったほうの組織と取引するだけだ。
むしろそちらのほうがマフィア側にとっても都合がいい。二つより一つの組織と取引したほうが摘発される確率が低くなる。
マフィアが、二つの組織にわざわざ渡りをつけたのも双方の組織力が伯仲していたからに他ならない。
どちらかを選べば、どちらかが取引の邪魔をするのは火を見るより明らかだ。警察以上の情報収集力を誇るヤクザをマフィアは甘く見てはいなかった。
暴対法の締め付けで激しい抗争は表面では押さえつけられてはいるが、それでもヤクザはヤクザだ。ヤクザの本質とはその常軌を逸した暴力性にある。
殺した相手は埋めればいいのだ。死体が無ければ事件は立証されない。かくして双方の組織で、血で血を洗う抗争が勃発した。
575ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/02/03(土) 02:07:40 ID:E99/9lAA
ポツポツと静かに降り注ぐ愁いを帯びた雨が、暗い舗道を濡らした。頬を叩く雨雫──指先で追い払った。金本の言葉を反芻する。
──四海のタマ、どんな事してても殺ってこいや。必ずだぞ。わかったな。
(俺ひとりで四海を殺るなんて絶対に無理だ……俺達が束になったところで敵うかどうかもわかんねえってのによ……)
頭を抱えた。水分を吸ったドレッドヘアが重かった。右親指の爪を噛んだ。噛み続けた爪と肉がえぐれ、血が流れた。明はあせっていた。
(クソ……一体どうすりゃいいんだ……天馬なら確かに四海を殺れるかもしれねえ。だけどあいつが引き受けるとは到底考えられねえよ
……いっそのこと、このままフケちまうか……命あっての物種だ……だが……どこに逃げるってんだ……?)
あらゆる思考が錯綜した状態のまま、明は路地裏から表通りに出た。足取りはおぼつかない。明は己が情けなかった。たまらなく情けなかった。
どこまで歩いたのだろうか。いつのまにか明は人気の無い繁華街の裏通りに踏み込んでいた。最初に眼にとまったのは鉄の赤錆びた小さな看板だ。
眼を凝らし、看板を見る。看板には錆で滲んだ文字で『Cross Road Blues』と書かれていた。浮き出た文字はかろうじて読める程度だ。
相当古い店なのだろう。とりあえず明は店に入ってみることにした。いつもならこんな店は素通りしてしまうだろうが、今は気になって仕方が無い。
中で考えれば何か良いアイディアが浮かびそうな気がした。窮屈そうに軋む木製のドアを膝で押して店の中に入った。
店内はお世辞にも広いとはいえなかった。カウンターの奥で、マスターらしい初老の男が黙々とウイスキーグラスを磨いている。客は誰もいない。
出来すぎている。まるで不出来な映画のワンシーンだ。明はある種の違和感を感じた。少なくても自分みたいな者が入るような店ではない。
出ようかと迷った。そこで初老の男が微笑みながら、明に声をかけた。静かだが、限りなく優しい声だった。
「いらっしゃい、何か飲むかい」
明は端のカウンターに腰を下ろした。身を縮みこませるように前屈みになった。磨き上げられたヒッコリーのカウンターに視線を据えた。
何を注文すればいいのか咄嗟に思いつかず、とりあえずバーボンを頼んだ。強い酒が欲しかったせいもあるのだろう。
グラスに注がれる赤みがかった琥珀色のワイルドターキーに視線を移した。無言でグラスを受け取り、一気に胃袋へと呷った。
「いくら若いからってそんな飲み方してると身体に毒だよ」
「喉が渇いててね。二杯目からはゆっくり飲むさ」
アルコールが回り始め、雨で冷えた身体が温まってくる。募った苛立ちが不思議と薄らいだ。空になったグラスをマスターに差し出す。

再びグラスに注がれたバーボンを今度は少しずつ飲む。店内に流れる音楽に耳を澄ませた。ブールスかジャズのどちらかなのだろう。
どちらなのかは明にはわからなかった。何気なくマスターに尋ねてみる。本当に何気なくだ。
「マスター、店でかかってる曲って何?」
「ああこのブルースはね、ロバート・ジョンスンの『Cross Road Blues』っていう曲さ。この店の名前もロバート・ジョンスンのこの
曲名にちなんでつけたんだよ。どうだい、いい歌だろう」
「歌詞が気になるんだけど、俺って英語だめなんだよな……」
576ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/02/03(土) 02:11:27 ID:E99/9lAA
明がマスターに笑い返した。一つ咳をして、マスターがしわがれた声で歌いだす。調子っぱずれで、やけに粋な歌声だった。

四辻へ行って、ひざまずき
四辻へ行って、ひざまずき
神のお慈悲をお願いした、この哀れなボブをどうか救ってくださいと
 
ああ、四辻につったって、乗せてもらおうと手を振った 
ああ、手を振ったのだけど
誰もおれを知らないらしく、みんな通り過ぎていくばかり

四辻に立つうちに、日は落ちていく
四辻に立つうちに、日は落ちていく
間違いなくこの哀れなボブも沈んでいく

走れよ、走れ、友達のウィリー・ブラウンに伝えてくれ
走れよ、走れ、友達のウィリー・ブラウンに伝えてくれ
今朝すぐに四辻に来たけれど、おれはだんだん沈んでく 

四辻に出かけていって、あっちこっち見回した
四辻に出かけていって、あっちこっち見回した
ああ、優しい女がおれにはいない、悩み苦しむこのおれに

マスターがそこで何度も深呼吸をした。一分ほど深呼吸が続いた。明はいつのまにか涙ぐんでいた。
明は涙ぐみながら、マスターのブルースに耳を傾けていた。涙を隠すように顔を斜めに向け、うつむいた。うつむいたまま、バーボンをすすった。
痛切だった。限りなく痛切だった。明は感動に泣いたのではなかった。哀しみに泣いたのだ。わけがわからなくなった。頭がどうにかなっちまいそうだ。
「……ブルースの本質はね、つらくてやりきれない気持ちなんだよ。前にもこの曲を聞いたお客さんが店で他の客と喧嘩になってね。
そのお客さん、ナイフで刺されて死んじゃったよ。もう随分昔の話だけど。わかる人にはわかるんだよね……この曲の悲しみが」
「ブルースってさ、俺生まれて初めてきいたんだよ……」
577名無しさん@ピンキー:2007/02/03(土) 10:01:57 ID:pdLBBtc3
支援
578名無しさん@ピンキー:2007/02/03(土) 12:44:14 ID:3OBI1e6Y
あ!「ラック」がきてるー。
このハードな雰囲気が好きです。いつも楽しみに待ってます〜。

『Cross Road Blues』はほんと名曲ですよね。

579名無しさん@ピンキー:2007/02/03(土) 15:35:26 ID:3OBI1e6Y
ごめん、sage忘れてるのに今頃気づいた。

のでsage
580名無しさん@ピンキー:2007/02/06(火) 00:43:48 ID:F8zAcGdF

ジリリリリリ
無機質な目覚ましの音。俺はこの音が嫌いだ。何故なら、俺を眠らせないから。さぁ寝よう。



やべっホントに寝ちゃった。
「母さ〜ん、弁当は〜?」
寝てるし・・・
俺の家は俺が母親を起こし飯を作ってもらうことになってるいるから、俺が寝過ごすと即座に昼飯抜きになってしまう。
まあ仕方ない学校へ行こう。昼飯は葵と高瀬から奪う事にしよう。
いつもの如く遅刻寸前で教室に駆け込むと、いつもの如く河合不動明王様が待っていた。
「こらっ安井、毎日毎日遅刻寸前で来て、今日こそ成敗してくれるわっ。」
今時成敗ってなんですか?とは言わない。
「遠慮しときますよ、河合せんせ」

「遼君、今日もまたやってるね〜」
「葵もそんなニヤニヤして見てないで助けてくれよ。」
こいつは岩松葵、小一からの付き合いだ。ほとんど幼なじみに入るな。しかもかなりの顔の造作で頭もよろしい。
「何で〜?。寝坊してくる遼君の自業自得じゃん。それに小一からず〜っと続けられたら助ける気にもなんないよ〜。」
性格はお茶目なのかな?女の子っぽいところもあるがな。
「へぇへぇ、俺が悪うござんした。」
「ま〜た朝っぱらから仲いいな。」
581名無しさん@ピンキー:2007/02/06(火) 00:44:47 ID:F8zAcGdF
「遼君、今日もまたやってるね〜」
「葵もそんなニヤニヤして見てないで助けてくれよ。」
こいつは岩松葵、小一からの付き合いだ。ほとんど幼なじみに入るな。しかもかなりの顔の造作で頭もよろしい。
「何で〜?。寝坊してくる遼君の自業自得じゃん。それに小一からず〜っと続けられたら助ける気にもなんないよ〜。」
性格はお茶目なのかな?女の子っぽいところもあるがな。
「へぇへぇ、俺が悪うござんした。」
「ま〜た朝っぱらから仲いいな。」
でこれが高瀬博文。いい奴だが馬鹿だ。俺が言えた口じゃないけどね。がオタクの癖に彼女まで持っていやがる。
「高瀬〜、我々のどこが仲がいいんだよ?ご主人様と奴隷の関係だろ〜」
「だっ誰がご主人様よ!」
「こらっ安井と高瀬。ペチャクチャと喋ってんじゃない!」
「先生、葵は?」
「岩松は優秀だから何してもいいの。
お前等みたいな赤点常習者とは違うんだよ」
むう、差別はイカンな
「差別だ!それに古文と歴史、公民は学年Top10に入る我々を捕まえて赤点常習者とは何事ですか。」
「それだけだろうが。他は全部赤点じゃないか。」
「スミマセン」
これでも昔は頭よかったんだけどな〜


お昼時

さあ、たかり作戦開始だ
582名無しさん@ピンキー:2007/02/06(火) 00:46:07 ID:F8zAcGdF
「腹減った〜、葵〜何かくれ〜」
「遼君また?。自分のお弁当は?」
「親が起きなかった。」
「つまり、遼君が寝坊したから、おばさんが起きれなくて、作れなかったのね?購買で買ってきたら?」
「御名答。さすが我が幼なじみ。だが俺に金がないことは失念してるらしいな。」
「はぁ。ほらこのおにぎりと唐揚げ上げるよ。」
「さんきゅー。」
よし次は高瀬だ。
「高瀬何かよこせ」
「次は俺かよ。ほい、我が野菜軍団を上納しよう。」
「うむ、貰ってしんぜよう。
しかしお前本当に野菜嫌いだな。なんとか飯の体裁は調ったな。いただきます。」
「野菜なんか食わなくても生きていける!」
元気に言うなよ。と心の中で突っ込みつつ、もらった飯にぱくりつく。

「うふっ」
「なんだよ葵〜。キモいぞ。」
「キモイとは何よ。
いやね、本当においしそうに食べるなぁって」
「そうか?自分じゃわからん。この唐揚げうまいな、おじさんに美味しかったって伝えといてくれ。」
「ありがとっ」
583名無しさん@ピンキー:2007/02/06(火) 00:46:54 ID:F8zAcGdF
「何故お前が言う?」
「いや別に、なんでもないよ。」
「鈍感」「だな」
「おぉ高瀬に中川までなんだよ?」
中川は高瀬の彼女だ。
「「別に〜」」
わけわからん。変な所でハモるな。とりあえず、
「なんだよ、キモいな。」 と言っておこう。
「解ったから、食べなさいって。」
葵にオコラレマシタ

帰宅時

「葵〜たまには一緒に帰ろうぜ。」
「遼君には二日に一辺がたまになの?まぁいいや一緒に帰ろ。」
「細かい事は気にしないに限るぜ。さぁ、行こうぜ」
「はぃはぃ」
何故か葵は、絵の具やリコーダーまで持って帰っている。
「で、何でそんな大荷物なの?仕方ない一つ持ってやるよ。」
勝手な好意を押し付け葵の荷物を奪い、葵と並んで帰る。
一日で一番大事な時間かもしれない。
葵いい匂いするなぁ、こいつ人気あるんだろうなぁ。
「ねぇ」
「おお、急になんだ?」
「いや、別になん
「ごめんちょっと待って。座らせて。」
はぁ、はぁ、胸が締め付けられて苦しい。そのうえ一気に体が重くなる。胸が痛い、胸が痛い、胸が痛い………
584名無しさん@ピンキー:2007/02/06(火) 00:49:32 ID:F8zAcGdF

「大丈夫?最近頻繁になってるじゃん。遼君、それ病院行った方がいいよ。」葵が心配してくれてる。答えなきゃ。
「べ、別に大丈夫だよ。」そこで一息ついて
「どうせ、大人しくしてればすぐ直るし、大丈夫だよ。心配してくれて、ありがとな。」
「その自己診断が危ないっていってるの。本当に最近つらそうだよ。」
「大丈夫だって。ただの不整脈だよ。心配しなくても大丈夫。さぁ行こう。」そんなことはない。最近痛みが強くなっている。でもそれを隠し通したかった。
そう思い、俺は心配そうな葵の頭を撫でてやった。
まだつらいけど、これ以上葵に心配かけるわけにいかない。
「ホントに大丈夫?遼君はただでさえ体弱いんだから。」
「Ok、オッケー。で何言いかけたんだ?」
「い、いや。今日もおばさんは家にいないの?」
なんか引っ掛かるけど言いたくないなら聞かないのがマナーだ。
「うん、今日も遅いみたい。」
「オッケー、おかず持って7時位に行くね」
「あいよ」
葵と別れ、なんとか家に転がり込むと同時にへたりこんでしまった。はぁやっぱり変な意地張らなきゃよかった。
さっきの発作で予想以上に体力を削られたらしい。
585名無しさん@ピンキー:2007/02/06(火) 00:50:14 ID:F8zAcGdF

俺の体力を執拗に削り続けるこれに始めてなったのは、小六の頃だった。がその頃は親が離婚してしまった直後であり生活を一人で支える母親に何も言えなかった。だからこの事を知っているのは、葵と高瀬くらいのものだろう。

また、親が離婚したのに伴い、一人でいる時間が大幅に増え、一人でしなきゃいけない家事もするようになった。だからこそ今ではそんじょそこらの女子にも家事で負けない自信がある。
葵には敵わないけどね。
葵の家も父一人、子一人の家庭で始めて会った時からそうだった。

そして何時からか一人で飯を食うのも寂しいと言う事で互いがどちらかの家に集まって夕飯を食うことになった。

でその為に飯を炊いている訳だ

ピーンポーン
玄関のチャイムがなった。もう来たのだろう。

「開いてるよ〜」
「こんにちは。おかず持って来たよ。」
「あいよ。飯もう少しで炊けるから、並べといて〜ほい、味噌汁」
「はいはい」
全く、我々は呆れるほど息が合うなぁと内心苦笑していたら、葵からは葵をぼーっと見てるように見えたらしい
「ねぇ、ぼ〜っとしてないで手伝ってよ。」
怒られてしまった
「は〜〜い。ご飯炊けたし食べようぜ」
586名無しさん@ピンキー:2007/02/06(火) 00:52:19 ID:F8zAcGdF
まだ続きます。
一応ほのぼの系です(^^;;
初心者ですので、悪い所があればビシバシ批評お願いしますm(_ _)m
587名無しさん@ピンキー:2007/02/06(火) 03:52:57 ID:XwaMjmpP
>>578
ちょ、「ラック」は氏のコテハンやぞ?
588名無しさん@ピンキー:2007/02/06(火) 03:58:06 ID:hr0d8csY
まず、改行がなってない。顔文字はやめれ。句読点の付け方が変。
会話文の最後に句点は付けないし、読点が付いてない所もある。
「〜」の使いすぎ。日本語表現が変。ぱくりつくって何?
それに方言も控えたほうが良い。

説明や表現が蛇足の部分が気になった。

例えば
>>581
>でこれが高瀬博文。いい奴だが馬鹿だ。俺が言えた口じゃないけどね。
>がオタクの癖に彼女まで持っていやがる。

            ↓普通はこう書くと思う

で、これが高瀬博文。いい奴だが馬鹿だ。が、オタクの癖に彼女まで持っていやがる。

>「差別だ!それに古文と歴史、公民は学年Top10に入る我々を捕まえて
>赤点常習者とは何事ですか。」

得意な科目は2つまでで良い。重要じゃないんだし。
3つ挙げてるせいで会話のリズム感が崩れてる。Topはカタカナで書くべき。
続く所も、

「他は全部赤点じゃないか。」
「うっ…」

みたいに簡潔にしたほうが良い。



初めてにしては書けてると思うけど、読書量が少ない気がする。
でも良い雰囲気出してると思うから気が向いたら続きを投げて欲しいな。



589名無しさん@ピンキー:2007/02/06(火) 07:18:23 ID:eqcKnc07
>>586
批評と言うほどじゃないけど、気になった点を。

>「しかしお前本当に野菜嫌いだな。なんとか飯の体裁は調ったな。いただきます。」
この、台詞が話口調じゃないところ。
一度口に出してみると分かるけど、「○○だな。××だな」のような話し方は普段の生活じゃ滅多にないし
この場合「なんとか飯の体裁は調ったな」は地の文で書いた方が良いと思う。

> 「オッケー、おかず持って7時位に行くね」
>「こんにちは。おかず持って来たよ。」
これも蛇足的。
強いて言うなら、先の文は二人にとっていつもの事だろうから「何時に行くか」だけを書いた方が、あとの文が生きる。

基本的に会話ってのは、人物の関係が成り立って生まれる物だから、二人ないし三人の間で不必要な事は喋らせない方が良い。
読者が分からない、説明が必要な部分は地の文に回すべき。
話の書き方にも寄るけども。

個人的感想は、全体的に地の文が足りない。
たぶん、自分でも説明不足だと思ってると思うので、一日寝かせてから、口に出してみるのをおすすめする。
何が足りないのか、どこが余計なのか、意外と分かるから。

長々とスマソ。
続きが気になるので、書けたらまた投下して欲しい。
頑張れ!
590名無しさん@ピンキー:2007/02/06(火) 10:09:13 ID:6l6zxYDU
>葵と遼
けっこう書き方が散漫な気がするけど
熱意と幼馴染愛が伝わってきてほっこりした。

がんばって欲しいです。
591名無しさん@ピンキー:2007/02/06(火) 21:52:59 ID:4tcnWGXS
確かにまだ整ってない感じがあるかもしれないけど、話自体は面白いぞ
続き頑張ってくれ
592ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/02/07(水) 00:48:45 ID:yT8a8Sek
投稿します。バカップルが駄目な方はNGで。
593ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/02/07(水) 00:49:16 ID:yT8a8Sek
グラスのバーボンを口に含んだ。細めた明の眼は、どこか遠くを見ているようだった。己の十八年間の人生を振り返る。
頭をかすめるのは辛い出来事ばかりだ。楽しい思い出など一つも無い。思えばロクでもない人生──自分のようなクズにはお似合いか。
己に嫌気が指してくる。親からは捨てられ世間からは疎んじられて、それでも這いつくばってなんとかここまで堪えてきた。
今まで、チンピラヤクザに顎で使われるのを我慢してきたのはいったい何の為だったのか。この世界でのし上がるためではなかったのか。
「なあ、マスターさん。そのロバート・ジョンスンってのはまだ生きてるのかい?」
「ジョンスンは一九三八年に恋人に刺されて死んだ。二十七歳の若さでね。彼が残していったのは二十九曲のブルースだけだった」
マスターが口の端を歪めて見せた。グラスを片手で揺らしながら明が静かに呟いた。
「二十七歳で死んじまったのか……それでも何か残して死んでいけたなら人としての悔いは無かったかもな……」
「ジョンソンは十字路で悪魔に魂を売り渡したんだ。あの天才的なギターのテクニックと引き換えに。その代償に悪魔は彼の魂を持っていって
しまったんだろうね」
「悪魔に魂を売り渡したのか……」
ブルースに脈々と流れる感情──それは奴隷として虐げられてきた者達の怨みであり、憤りであり、失意だった。明の喉仏が上下する。
グラスの酒を飲み干して立ち上がった。尻ポケットからビニール製の財布を抜き取り、飲み代をマスターに手渡す。つり銭を受け取って明は店を出た。
(俺も……この世界でのし上がれるってんなら喜んで悪魔に魂を差し出すぜ……このまま、惨めな負け犬になるくらいなら……
殺されちまったほうがマシだぁぁッッ!!)
腹の底で鬱屈していた怒りが爆発した。雨粒を振り落とす夜空を睨みつけ、明が叫んだ。それは魂の発露であり、慟哭だった。
「天馬ぁッ、俺は知ってるんだぜぇッッ、優しくてすげえ美形の恋人がお前にいるってのをよぉぉッッ、それなのによぉぉッッ!
おめえは他の女とやりまくってしかもゼニ貰って、そのゼニでクスリなんか買いやがってぇぇぇッ!
なんでおめえはそんだけ恵まれてるんだよぉぉぉッッ、なんでそれだけ女から愛されるんだよぉぉぉッッ!
俺なんか今まで、一度だって誰からも愛されたことなんかねえのによぉぉぉぉッッッッ!!
俺がポリ公に怯えながら、こそこそヤク売って金本からスズメの涙ほどのちんけなゼニしか貰えなかった時によぉぉッッ!
テメエはどっかのキャバクラのホステスとホテルにしけこんでおマンコやって小遣いをたっぷりと貰ってやがったんだろうがぁぁぁッッ!
ああぁッッ、不公平だぁぁッッ!神様は不公平だよぉぉぉッッッ!俺だって良い女とやりまくりてえよぉぉぉッッ、金が腐るほど欲しいよぉぉッッ!
美味いもんを腹いっぱい食ってみたてえよぉぉぉッッッッ、良い服着て女つれてベンツを乗り回してみてえよぉぉぉッッッッ!!!!
なんでだぁぁッッ、血に飢えた狂犬のお前がッッ!俺と同じ穴のムジナのお前が幸せでなんで俺が不幸なんだよぉッッ!幸せになりてえよぉぉッッ!
誰でも良いッッ、誰でもいいからよぉぉぉッッ!俺に愛をくれよぉぉぉぉッッッッ!!!!!!!!!!ああぁぁッッッ!
ひとりでもいいから親友が欲しいよぉッッ、優しい恋人が欲しいよぉッッ!!
それとも俺みてえな虫ケラは惨めに死んでいくしかねえのかよぉぉぉッッッッ!!!!!!!!!!
あああああああああああああああぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!!!!」
明は泣いた。泣き喚いた。降り注ぐ雨はあたかも明の涙を覆い隠すように、激しさを増していった。
594ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/02/07(水) 00:50:04 ID:yT8a8Sek
              *  *  *  *  *  *  *  *  *  *
         『聖なるかな!聖なるかな!聖なるかな! 世界は聖なるかな! 魂は聖なるかな! 皮膚は聖なるかな!
          鼻は聖なるかな! 舌、陰茎、尻の穴は聖なるかな! すべての物質は聖なるかな!
          すべての人間は聖なるかな! すべての場所は聖なるかな!すべての日は聖なるかな!
          誰もが天使である!』
                          ──アレン・ギンズバーグ「ギンズバーグ詩集」

鈴奈が天馬の腋下を匂いを嗅ぎながら、屹立するペニスを優しくしごいた。天馬の体臭は僅かにだが、ミルクの匂いがした。鈴奈はこの香りが好きだ。
妖しげな心地に誘われてしまいそうになる。鈴奈は腋下を舌で舐めた。肌に舌を這わせたまま、ゆっくりと天馬の胸まで回遊する。
「ああ……」
薄いグミの実のように色づいた乳首を唇でついばんだ。前歯でコリコリと甘咬みする。鋭い快感と痛みが、同時に天馬の脊髄を走り抜けた。
肋骨が浮き出た天馬の脇腹に鈴奈は掌を押し付ける。細身のしなやかな身体だ。一見すると華奢だが、触れれば柔軟な筋肉がついているのがわかる。
互いの肌を触れ合わせるのは気持ちがいい。どこかほっとする。温もりを感じると人は落ち着くものだ。
「僕の身体って痩せてて貧相だよね。鍛えても筋肉つかないし、なんか悲しいよ」
照れくさそうに天馬が髪の毛をかきあげた。斜め使いに眼を伏せる。ひどく女性的な仕草だ。鈴奈が天馬に身を寄せ、皮膚に密着した。
「そんな事ないよ。綺麗な身体だよ」
天馬がそっと鈴奈を抱きしめた。ストレートヘアの黒髪から、淡い石鹸の清潔な香りに混ざった鈴奈の体臭が、フワッと天馬の鼻腔粘膜に忍び込む。
何故か胸が張り裂けそうになった。このままずっとこうしていたい。このままずっと──鈴奈と抱き合っていたい。
「……ありがとう、鈴奈」
天馬が背筋から腕を下降させ、鈴奈の双臀を強く抱く。鈴奈の顔を窺いながら、尻房の中心部に指を沈ませていった。
アヌスを傷つけないようにゆっくりと、細心の注意を払って奥まで入れる。肛門粘膜に感じる天馬の指先──鈴奈は喉を振るわせた。
ペニスの芯が硬くなり、根元から匂うような情欲が這い昇った。形の良い鈴奈の乳房が、天馬の胸板で押し潰れる。
鈴奈も同じように、天馬のアヌスに自分の指先を嵌入させた。互いの肛門を指で弄びながら、口づけをする。鈴奈の引き締まったウエストが揺れた。
半開きの唇に天馬が舌を滑り込ませた。キスの感触を味わいながら、ふたりは肉欲の愛に没頭した。歯茎を舐めて唾液を交換する。
絡み合う舌は蛇のように口腔内でのたうった。鈴奈の首筋から漂う清純な色気が、天馬の心を痺れさせる。
愛を確かめ合うようかのに、ふたりは互いの唾液を求めた。切なさが胸を刺した。鈴奈の唇を天馬が舌で弾く。
「天ちゃん……」
鈴奈がうっとりとした声で囁いた。それ以上の言葉はいらなかった。欲情の露に濡れた鈴奈の瞳が、全てを物語っていた。
今のふたりにとって、言葉はあまりにも無粋だった。互いの瞳を見つめるだけでいいのだ。それだけで事足りた。淫靡な色合いが鈴奈の頬を染めた。
595ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/02/07(水) 00:52:50 ID:yT8a8Sek

両太腿の間に腰を入れ、激しく前後に動く。強張ったペニスの切っ先が、子宮口をグリグリとえぐった。入り口がペニスを締め付けてくる。
顔を左右に激しく振って鈴奈は髪を乱した。溢れる蜜液がペニスの根元を濡らし、恥骨同士が当たった。当るたびに鈴奈が
「あううぅ……ッ」
と低く喘ぎながら、天馬の背中に爪がめり込むほど、強く抱きついてくる。裸体がうねった。張りのある鈴奈の真っ白い臀部がきゅっとすぼまる。
割れ目の内部にある薄襞が、法悦に天馬の亀頭に吸い付く。鈴奈の敏感な感覚器官を探るように、ペニスをグラインドさせた。
「ああ、天ちゃん……あたし、気持ちよすぎてどうにかなっちゃいそう……ッ」
膣壁の細やかな凹凸の感触に、天馬が身震いする。下腹部が熱くなった。鈴奈の狭隘な陰部に、このまま射精してしまいそうになる。
「このまま鈴奈の中に出したいよ……」
「いいよ……ッ、このままあたしの中に出してもいいよ……ッ、ううん……出して欲しいッ!」
表面の体温とは異なる膣内部の熱が、どんどん上昇していく。オーガズムの兆しだった。天馬は昂ぶった。亀頭が膨れ上がる。
一旦腰を引き、猛然とラストスパートをかけた。細かい汗が額に浮かび上がってくる。ふたりの息遣いに混じり、熱気と汗の匂いが立ち昇った。
肢体を弓なりに反らして鈴奈がすすり泣いた。獣のように低い呻き声をあげ、天馬が子宮にホワイトリキッドを放出した。
              *  *  *  *  *  *  *  *  *  *
天馬と鈴奈は、のんびりと井ノ頭通りを散歩していた。鈴奈が天馬の二の腕にしがみつく。センター街を抜けて道玄坂に向かった。
「ねえ、鈴奈。今日は何して遊ぼうか」
「天ちゃんは何がしたいの」
「別にってところかな。しいていえばクラブにいってビール飲むとか」
「クラブよりもカラオケいかない?」
「じゃあカラオケいこうか」
道玄坂のカラオケボックスにはいった。ハイネケンとペプシを注文する。鈴奈は酒が飲めない。ふたりで二時間近く歌った。喉がいがらっぽい。
息が続かなくなり、天馬がソファーにへたりんだ。肺が熱かった。ビールを飲んで渇きを潤す。
「歌うのってやっぱり楽しいね」
「僕はちょっと休憩、疲れちゃった。鈴奈はよくそこまで歌えるね。疲れないの?」
「うん、あたしは平気だよ。楽しいことならずっとしてても疲れないもん」
「全く元気だね」
「ふふ」
鈴奈がマイクを握ったままクルリと回転した。無邪気に微笑んで見せる。天馬もつられて微笑んだ。鈴奈がマイクを天馬に差し出す。
「じゃあもう一曲、一緒に歌おう」
「ええ、勘弁してよ……」
「だめ。ほら早く」
嫌々ながら天馬はマイクを受け取った。鈴奈が横に並ぶ。ふたりのデートはまだ始まったばかりだ。
「じゃあ、いくよ」
596名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 03:31:01 ID:+Q6+sOZ2
えーと、今回はこれで終わりですかね?
正直GJですし、こういうバカップル大好きなのですが、出来れば投下が終わった旨を告げて下さるとありがたいです。

というか、実は早く感想やGJを書き込みたかったんですが、まだ投下あるかもと思って1時間以上待ってたんですよwwwww
597名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 10:12:38 ID:wgnza53V
ラックさんGJです!では負けずにこちらも投下します!
598絆と想い 第4話:2007/02/07(水) 10:13:27 ID:wgnza53V
正刻は彼らに謝るように片手を上げて言った。
「すまん、今日は先約があってな。また今度一緒に食おうぜ。」
そう言うと、友人たちが一斉に溜息をついた。
「そうか、まーた宮原姉妹と一緒に昼飯を食うのか……。羨ましいなぁ……。」
「いいさいいさ、どうせ男の友情より女の方を取るような冷たい男だもんなぁお前は。」
「まったくお前はブルジョワだよ!どうせ俺たちゃしがない労働者だよ!蟹工船だよ!!」
正刻は一応言い訳をしようとしたが、宮原姉妹を待たせるなんて言語道断、何様だと教室から締め出された。
「ったく、あいつら……。」
正刻はぽりぽり頭をかく。大切な友人達ではあるが、こういう時の扱いはひどいと思う。
「ま、いいか。どうせあいつらも飯食ったら忘れるだろ。」
そう一人ごちて、正刻は目的地である屋上へと歩きだした。

「おーい正刻、ちょっと待ってよー。」
途中購買部で好物であるトマトジュースを買った正刻は、鈴音に呼び止められた。
「ん? どした鈴音。」
「唯衣や舞衣と一緒にお昼食べるんでしょ? 折角だから、ボクもご一緒させてもらおうかなって。
あの二人とご飯食べるの久しぶりだし。」
「そういやそうだな。んじゃ一緒に行くか。」
「うん! いこいこ!」
そう言って正刻は歩き出し、その後を鈴音が嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねながらついて行った。
599名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 10:14:03 ID:wgnza53V
「おーい、正刻、鈴音、こっちだー!」
屋上に着いた正刻と鈴音を見つけた舞衣が手を振って二人を呼ぶ。
彼らの通う高校の屋上はかなり広く、またよく整備されていた。ベンチや木や花、芝生までも植えられており、
ちょっとした公園といった風情だ。
その芝生にシートを敷いて、唯衣と舞衣が座っていた。
手を振り返した正刻と鈴音がそちらに向かう。
「いやー、二人とお昼を食べるのも久しぶりだねぇ。」
よいしょ、と鈴音が腰をおろす。
用意していた水筒からお茶を正刻以外の面子に渡しながら唯衣が応えた。
「まぁね。最近正刻はちゃんとお弁当を自分で作ってたしね。私が作るのも久しぶりだったかも。」
すると、弁当の包みを解きながら舞衣が溜息をついた。
「まぁそれはそれで正刻がちゃんとしているという事で安心なのだが、しかし寂しいのが問題だな。
私は毎日でも一緒に昼食をとって、『あーん』としてやりたいのだが。」
「そんなモン断固拒否だな。」
正刻はトマトジュースの缶を振りながらむっつりと答える。
その様子を見て、鈴音があははと笑う。
「いやー、やっぱりこの面子で集まると楽しいねぇ。クラスがバラバラなのが残念だよ。
来年は全員が同じクラスだと良いんだけどねぇ。」
「まったくだ。せっかくの高校生活なのに、正刻と一度も同じクラスになれないなんて悲しすぎるぞ。」
タコさんウィンナーを食べながら舞衣が言う。そんな妹に苦笑しながら、唯衣も箸を進める。
「ま、正刻と一緒にいると大概迷惑をかけられるんだけど、フォロー出来るのも私たちぐらいだしね。
3年目くらいは一緒のクラスになって、ちゃんと周囲に迷惑かけないよう見張らなくっちゃいけないわよね。」
「何だよ、俺そんなにろくでもないことばっかりしてるかぁ?」
『してるよ。』
唯衣の物言いに反論した正刻であったが、三人同時にハモった断定をされてちょっとたじろいだ。
「な、何だよ。何もハモって言うこたないだろ……。」
そう言うと、ヤケになったように猛烈な勢いでトマトジュースを飲み始めた。
その様子を見て、三人娘は声をあげてまた笑った。
600名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 10:14:36 ID:wgnza53V
笑ったせいで出た涙を拭きながら、唯衣は正刻に尋ねる。
「で、どう? 正刻。今日のお弁当は? 結構自信作なんだけど?」
「うん? あぁ、美味いぞ。特にこの唐揚げ、前より美味くなったな。何かやり方変えたのか?」
「あ、やっぱり分かった? 実はお母さんとね……」
そう言って二人は料理についての話を始めた。
今更だが唯衣が正刻の弁当を作ってきた時にはこうして4人で集まって昼食をとるようになっている。
唯衣が正刻の感想をなるべく早く聞きたがったからだ。
唯衣の主張としては、食べてる最中の、生の感想を聞きたいということだったが……
「……どう考えてもこじつけだよねぇ……。」
「全くだな。一緒にお昼を食べたいなら、私のようにハッキリ言えばいいんだ。」
「舞衣はハッキリ言い過ぎやり過ぎだとボクは思うけどなぁ……。」
「何を言う。気持ちは伝わらなければ意味が無い。私は私の気持ちを正刻に伝えるべく、日々努力しているだけだ。」
「もう十分伝わっているというか、重荷になってる気がするけど……。」
そう言いながら食事を終えた鈴音はお茶を一口啜り、ふぅと息をついた。
「……でも、ま、そういう前向きなところは見習いたいと思うけどねぇ……。」
「そうだな。唯衣はもちろんだが、鈴音ももっと素直になるべきだと私は思うぞ。」
舞衣が正刻と唯衣に聞こえないよう鈴音に囁いた。鈴音はちらり、と舞衣を見て答える。
「ご忠告ありがと。……だけどいつも思うけど、キミはボクや唯衣が正刻と仲良くしててもあんまり嫉妬しないよねぇ。余裕かな?」
「そんなことは無いぞ。」
舞衣もお茶を飲みながら答える。
「もちろん私だって嫉妬はする。……だが、私は正刻を愛しているが、君達のことも大好きなんだ。
だから、こうして皆で集まることがとても楽しいし、幸せなんだ。」
「舞衣……。」
鈴音は舞衣の言葉を聞いて、胸に暖かいものが広がるのを感じた。
「まぁ、だからな。」
舞衣はお茶のおかわりを注ぎながら何気なく続けた。
「私が正刻と結婚をしたら二人を愛人として囲うつもりでいるし、二人のどちらかが結婚しても、
私を愛人として必ず囲ってもらうつもりでいるのだがな。」
ぶ─────────ッ!!
胸に浮かんだ暖かい気持ちを噛み締めながらお茶を飲んでいた鈴音は、盛大に吹き出してしまった。
「げほッ!ごほッ……!」
「お、おい、どうした鈴音!大丈夫か!?」
事情を知らない正刻と唯衣が心配そうに鈴音に声をかける。舞衣は背中をさすってやっている。
二人に大丈夫だから、と声をかけた後、ずれた眼鏡を直しつつ鈴音は舞衣を軽く睨んだ。
「……まったく、キミって奴は……。正刻よりよっぽどロクでもないよ……。」
「?」
きょとんとしている舞衣を見て溜息をついた後、鈴音は先ほどの正刻のようにお茶を飲み干した。
601名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 10:15:39 ID:wgnza53V
食事が終わった後も4人で楽しく話をしていたが、休み時間の終わりを告げる予鈴が鳴り響いた。
「さて、じゃあ行くとするか。」
軽く伸びをして正刻は立ち上がった。
「まったく、楽しい時間はあっという間だな。これで正刻とはしばらくお別れ、か。」
舞衣が寂しそうに呟く。そんな彼女の方をぽん、と叩いて鈴音が言う。
「まぁまぁ舞衣。まーたすぐに逢えるんだから。そんな遠距離恋愛中なことをいうのはやめなよ。」
「私にとってはクラスが違うのは十分遠距離なんだがな……。」
「はいはい。それじゃみんな、戻るわよ。正刻、食事の後だからって居眠りするんじゃないわよ?」
唯衣に釘を刺された正刻は、頭をかきながら答える。
「了解。さーて、午後も頑張るかね!」
そう言って正刻はもう一度、うーんと伸びをして歩き出した。

602名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 10:19:25 ID:wgnza53V
しまった!コピペミスです。冒頭にこちらが入ります。


そして昼休み。正刻は唯衣に作ってもらった弁当を持つと、席を立った。
「あれ? 正刻どうした、俺たちと昼飯食わねーのか?」
いつも昼食を一緒にとる友人たちが声をかけてくる。


それとタイトルを一応つけました。内容と絡むかは微妙ですが……。
しかし展開が遅い……。もうちょっと上手く書けるよう頑張ります。ではー。
603名無しさん@ピンキー:2007/02/08(木) 21:27:01 ID:O9O2S35Q
gj
604名無しさん@ピンキー:2007/02/11(日) 00:14:12 ID:qLjOwc4w
おお、作品が投下されてる!GJですよ!
でもずいぶん過疎っちゃってますね……。みんなどこかに行っちゃったのかな……。
605名無しさん@ピンキー
ホワイトリキッドw