申し訳ありません。残り容量を考えずに投下してしまいました……
とりあえず即落ち防止に、前スレのSSを最初から投下します。
1.
「あー、明日ですか……実は父方の祖父母の家に挨拶に行く予定でー」
「ふーん、そうなんだ」
意識はしなくても、私の声は冷たくなる。
その瞬間、電話の向こうで望月が震え上がるのが分かった。
「すいません……あの、三日以降なら開いてるんですけどね」
「いいわよ、別に」
「ほんと、すいません。今度妙高さんの好きなキノコ照り焼きスペシャル奢りますから」
「いいわよ、ほんと。気にしないで。じゃ、今年もよろしくね」
「あ、妙高さん――?」
私は望月近衛の返事を聞かず受話器を置いた。
これで全滅。
もともと、大晦日の夜に元日の初詣に誘うなんてのが無茶なんだけどさ。
私はアドレス帳を閉じ、部屋に戻ることにした。
そもそものきっかけは大晦日の夜、友人の古鷹青葉との電話だった。
かけたのは私だったけど、いつの間にか青葉の方が離してくれなくなった――年が明ける寸前まで。
あれは年が明ける五分前。突然青葉が口ごもるようになり……
「ごめんなっちゃん。十二時になったら創一郎くんに電話する約束なの、ごめんね」
ってわけ。
冷たいとは思う。でも当然だとも思う。
カップルになって初めて迎えるお正月。大事なイベントは全部クリアしていくべき。
でも、青葉の言葉で私は突然寂しくなった。
で、そんなわけで年が明けてから友達に電話しまくり、初詣に一緒にいかないかと誘ってみた。
それこそ同じ学校の友達から始まって、最後には創一郎の友人・初芝くんとか望月とかにまで声をかけてみたけれど。
まあ、結果はご覧の通り。
友達にはみんな振られちゃうし。
従兄の祐輔が我が家に引っ越してくるのは再来月だし。
うちにいるのは正月休みで安心して酔っ払ってるお父さんと、それに付き合うお母さんだけ。
今年のお正月は退屈な、本当に退屈なものになりそうだった。
明けて元旦のお昼。
とりあえずおせちとお雑煮、それにお年玉という大事なイベントを済ませた私は、出かけることにした。
別に用事なんてない。
いくらなんでもこんな地方のベッドタウンじゃ正月に開いてる店もないし――ひとりで初詣に行くことにした。
お母さんは何か不満げで、家にいなさいと言ったけど私は無視した。
家にいて、つまんないお笑い番組なんて見てたら、それこそ虚しくて死んじゃいそう。
そうそう、年賀状も私を家から逃げ出すきっかけだった。
だって当然その中には青葉や、彼氏の創一郎からのものもあるはずだから。
それを見たくなくて、私は年賀状に一枚も目を通さず外に出た。
向かったのは近所にある、小さな小さな神社だった。
普段なら子供の遊び場になって、時々爆竹なんかが破裂して、神主さんが怒って……
私と青葉は近くのお店で買ったアイスキャンデーを食べながらそれを笑って見ている、そんな場所。
でも今日はそんなこともない。
綺麗に掃除された境内は閑散としていて、冷たい風に枯れ葉が転がっているだけだった。
私は砂利を踏みしめる音を聞きながら、ゆっくりと歩いて行く。
おみくじやお守りを売っている小さな建物では、バイトの巫女さんが退屈そうにあくびしていた。
手水所で手を濡らし、ハンカチで拭きながら拝殿へ向かう。
お賽銭箱の前に立って、私はさて、と一息ついた。
何をお願いしたものか。
家族の健康? 学問成就? それとも……「今年こそ彼氏が出来ますように」?
何にしても、私は今の生活に不満はないと言えばないし、あると言えば不満だらけだった。
まあ、どうでもいいや。
私は財布から奮発して百円取り出すと、それを賽銭箱に放り投げた。
「何をお願いしたんですか?」
私が目を開けたとき、隣から不意に声をかけられた。
低い男の声。神主さんだろうか。
誰もいない神社に、女の子が一人。確かに声をかけたくもなるかもしれない。
「それは――」
声のした方に振り返りながら言いかけた私は、言葉に詰まった。
だってそこにいたのは、祐輔だったから。
2.
「あけましておめでとう」
いつも通り、優しく笑う祐輔が私を見ている。
驚いて言葉が出ない。口をぽかんと開ける私は、かなり間抜けだったと思う。
「……どうして?」
何がどうしてなのか。確かに祐輔がここにいていけない理由はない。
でもおかしい。
だって彼の家はここから特急に乗って三時間以上かかるんだから。
「ちょっと、用事があってね」
私の変な質問にも、祐輔は平然と答えた。
「用事って何ですか?」
重ねて聞く。元旦に一人で出かけてる私が聞くのも変な話だけれど。
「……おばさんから聞いてないの? 僕の母親が入院している病院は、この町にあるんだ。
僕がこっちに住もうと思ったのもそのせいなんだけど」
「入院、してるんですか?」
初耳だった。
思えば私は昔の祐輔を覚えてないどころか、今の祐輔のこともろくに知らない。
でも、それ以上のことを聞く勇気はなぜか無かった。
祐輔もこの話は終わったとばかりに私に微笑みかける。
「なっちゃんは? まさかひとりで初詣?」
「……そのまさかです。友達にみんな振られちゃって」
そう言うと祐輔はおかしそうに声を上げて笑った。
私はちょっとむっとした顔をする。でも祐輔はまだ笑ってる。
「ははは……そうか」
「そうです」
ひとしきり笑った後、祐輔は改めて私を見た。
「じゃ、今からデートしようか」
「は?」
何を言ってるんだこの人。
でも祐輔の目は真剣だった。顔は笑ってるけど。
「今初詣を済ませた人を誘うのはどうかと思うけど、隣町の本山大社に行こう……どう?」
「……センスないですね」
「ほっといてよ」
そう言いながらも、祐輔は私の答えなんか待つ必要もないって感じで私の手を取った。
そして、私もいつの間にか手を握り返していた。
本山大社は、先ほどの神社とは隔絶した混み具合だった。
家族連れや友達同士の若い集団、静かに散策する老夫婦。
参道の両側には無数の出店。食べ物の店から立ち上る煙には、こげた醤油のおいしそうな香りが混じる。
警察の人たちが交通整理に立っているけれど、みんなそんなのどこ吹く風だ。
まさにお正月。
思わず私は嬉しくなって祐輔の顔を見上げる。
見返す祐輔の顔もわくわくしてるのが分かる。繋いだ手も何だか踊ってる。
「なっちゃん、昔からお祭好きだもんね……覚えてる?」
「それくらい覚えてますよーだ」
軽口だって飛び出しちゃう。
さっきまでの憂鬱な気分が嘘みたいだった。
人の流れにあわせながら、私は周りの人たちを観察する。
私は晴れ着を来た女の子とそれに寄り添う男の子、という二人連れに目が行ってしまう。
きっと恋人同士なんだろう。
女の子は晴れ着姿に恥ずかしそうで、でも彼にもっとよく見てもらいたいのが手に取るように分かる。
男の子はいつもと違う彼女の様子に、ちょっと困ってる。素直にかわいいって言ってあげればいいのに。
普段はそれを羨望とも嫉妬ともつかない気持ちで見つめる私だけど、今日は違う。
何しろ今日は祐輔がいてくれる。
もちろん、彼は私の従兄。でもたぶん周りの人たちにはそんなこと分からない。
きっと私たちは……。
それが仮初めのものでも、そう周りに誤解されるってのは、悪くない気分だった。
そういう目で見ると、祐輔はなかなか悪くない顔をしてる。
頭は悪くないんだし、見た目も及第点。うん、青葉に紹介しても、恥ずかしくはないかな。
もしかして私は今年ついてるかもしれないな、なんて。
馬鹿なことを考えながら、でもその馬鹿な考えを愉しみながら私はうきうきと歩いていた。
「あ、わたあめ。ね、買ってかって?」
「……今から参詣するんだけど」
こんな風に、ちょっと子供っぽいお願いもすんなり出来てしまう。
どうせ背伸びしてみても、祐輔にとって私は子供なんだから、たまには子供の立場を満喫してもいいよね。
困り顔の彼の手を取って、私は祐輔をわたあめ屋さんの方に引っ張っていく。
数分後には、私は大きなわたあめを満面の笑みを浮かべながらほおばっていた。
「何でわたあめってこんなにおいしいんだろう」
「うーん、やっぱり雰囲気だろうね。だってただのザラメもん、これ」
「そーいうロマンのないこと言ってると、もてませんよー」
そんなことを言いながら歩く。
苦笑する祐輔は、隣から私のわたあめを手でちぎっては自分の口に放り込んでる。
時々彼が取ろうとする瞬間、わたあめをさっと遠ざけてみたり。
こんな風にふざけながら食べると、「ただのザラメ」も天国みたいな味がした。
拝殿にたどり着いたときには、もうわたあめは綺麗に私たちのおなかに納まっていた。
巨大な賽銭箱が設置されていたけど、やっぱり今日の人ごみじゃ、なかなか前に進めない。
背伸びしたり、前の人の肩越しに様子を伺っていると、祐輔に突然肩を掴まれた。
驚いていると、私の体をコートで包むようにして、祐輔が私の後ろに立った。
彼の体が背中に密着する。
あたたかい。
まるで抱きすくめられてるみたい。
「時々後ろからお賽銭投げる人がいるからね。用心のため」
「あ……あ、ありがとう」
確かに、背の高い祐輔が後ろにいてくれれば安心だ。
でも、ちょっと恥ずかしい。
いくらカップルに見えるといっても、これはちょっと馬鹿っぽいかも……。
恥ずかしいような嬉しいような気分でいると、頭の上から祐輔の声がした。
「そう言えば、なっちゃんの七五三もここだったねえ」
「あー、あの写真の?」
こっくりとうなづく祐輔の顎の先が、私の頭に当たった。
わあ。こんなに近づいたの、初めてだ――。
「あのときも二人で飴食べたね。もちろんちとせ飴だけど」
「うーん、覚えてないですねー」
そう言いながら私はあの写真を思い出す。
三歳の私は、祐輔と嬉しそうに手を繋いで写真に写っていた。
こういう思い出話なら悪くない。それどころか、もっと聞きたいと思う。
あの時の私も、今の私と同じ気分だったんじゃないかな、って。ふと、そんな気がした。
三歳だって、立派なレディだ。かっこいい男の子と一緒で、悪い気はしない。
そして、十六歳はもっと立派なレディ。
素敵なエスコートつきのデートを楽しむことぐらい、とっくに知ってる。
ようやく私たちの番が回ってきた。さっきと同じ、奮発したお賽銭を放り込み、手を合わせる。
並んで手を合わせたとき、ちょっとだけ祐輔の方を見た。
かしこまった顔の祐輔を、私はその時初めて見た。
何を祈ってるんだろう。本気でそれを知りたいと思う。
でもその様子が余りに真剣だったから、私はあえて尋ねるのは止めておいたけど。
そんな風にお参りを済ませて、私たちは鳥居の方へと戻ることにした。
鳥居をくぐると、流石に人ごみはまばらになってくる。
ちょっとした開放感に、私は踊るようにくるっと祐輔の前に回った。
彼の両手を取って、ちょっと首を傾げてみせる。
「さて、これからどうしましょう?」
「あー。そのことなんだけど、実は……」
祐輔が少し困った顔をしたから、思わず私もつられる。
どうしたの? そんな言葉をかけようとしたとき。
「あ、羽黒ー、こんなところにいたー!」
後ろから女の人の声がした。
3.
そこにいたのはジーンズを履いた、髪の長い女性だった。
すらっとしていて、背は私よりもずっと高い。祐輔より高いんじゃないかって思うくらい。
くっきりした眉毛に、鋭い眼光。でも、怖いくらい美人だった。
「何してんのよ、探したんだから」
「いや、ちょっとね」
「あー、何? 可愛い女の子連れてさ。彼女? 愛人?」
含み笑いで近づいてくる彼女を、祐輔は鼻で笑った。
それだけで、この二人が長い付き合いなのが分かる。
「そんなわけないだろ。 こちら、妙高那智子ちゃん。話、したよな?」
「あー、羽黒の従妹の子ね。はじめまして、高校の同級生の千代田千歳です」
千代田さんは愛想よく私に頭を下げた。
突然の乱入者に私はあっけにとられている。
「面白い名前だろ? 学校じゃ『チィチィ』って言われているんだよ」
「やーめーてーよ。おっさん俳優のあだ名じゃあるまいしー」
そう言って千代田さんは祐輔を小突いている。
でも慣れているのか、祐輔は笑いながらそのパンチを軽く手で受け止めていた。
「もう初詣済ませちゃったの? 何よ、待っててくれたっていいじゃない」
「何言ってんだよ、約束の時間までまだ三十分もあるぞ」
「あー……そうだっけ?」
千代田さんはそう言われると途端に頭を掻いてそっぽを向いた。
子供っぽい仕草だけど、綺麗な人がやると妙に色っぽい。
「大体、わざわざ人を呼び出しておいて、その言い草はないだろ」
「だって羽黒、年末こっちに来るって言ってたでしょ。ついでよ、ついで」
「何のついでだよ」
「あんたはもう大学決まってるじゃん。たまには受験生の息抜きに付き合ってよ。実家に戻っても勉強三昧でさあ」
わざと疲れた声を出す千代田さんに、祐輔はやれやれと頭を振っている。
「千代田の偏差値なら確実に合格圏じゃないか。そんなに焦ることないだろ」
「おぉ、その大学に推薦で入っちゃった人は、やっぱ余裕よねー」
ぽんぽんと、まるで漫才みたいに続く掛け合いに、私は口を挟む余地がない。
いつの間にか、私は祐輔の手を離してしまっていた。
いや祐輔が軽く動いた拍子に、私の手は自然に祐輔の手を離してしまっていた、というのが正しい。
傍観者になって、私は祐輔と千代田さんの会話を半ば呆然と見守った。
なんだ。
私は、ただの時間つぶしだったのか。
そう思った瞬間、心に大きな穴が開いたような気がした。
まるで、ハートの真ん中を大砲で撃ち抜かれたみたいな、そんな感じだった。
時々千代田さんに叩かれながら、祐輔は楽しそうに会話を続けている。
口ほど困った様子もないし、それどころか口元はかすかに緩んでいる。
(何よ)
なぜだか知らないけれど、私は瞬間的にここから駆け出してどこかに行きたくなった。
二人が気づかないうちに走って、走って。
駅まで走って、家に帰って、そのままベッドに飛び込んでしまいたい。
そう思った私が半歩後ろに下がったとき、やっと二人は私の方に振り返った。
「――あ、ごめんごめん。とにかく、そういうわけだから、祐輔ちょっと借りるね」
そう言って小首を傾げる千代田さんは本当に綺麗で。
私は言葉もなくうなづくしかなかった。
そうだよ。
私はただの従妹だもん。
向こうに先約があるなら、譲るのが筋ってもの。
さらに二、三歩後ずさる。
「なっちゃん、ごめんね。また埋め合わせはするから。お父さんお母さんによろしくね」
祐輔の顔を見れない。
お願いだから、早くどっか行っちゃってよ。
自分から去るの、とっても辛いんだから。
……でも、二人は私を見つめるのを止めてくれなくて。
耐え切れなくなった私は、挨拶もせず、踵を返して走り出していた。
――結局、私は夕方まで家に帰らなかった。
駅前で開いてるゲームセンターを見つけて、お年玉を五千円も無駄使いした挙句、ようやく私は家路に着いた。
はああぁ。
力ないため息しか出ない。
こんなことなら、家でおとなしくテレビでも見てればよかった。
そもそも、祐輔に会ったのが失敗。
だって、あんなに楽しかったはずなのに、もう今じゃ嘘みたいに思い出せない。
わたあめの味も、苦い。
従妹だからって、酷いじゃない。
血がつながってると言っても、私だって女の子なんだ。
優しくされたら嬉しいし、放り出されたら寂しい。そんなの当たり前なのに。
時間つぶしなら、時間つぶしと先に言ってくれれば、あんなにはしゃいだりしなかったのに。
そしたら、今だってこんなに……。
目頭が熱くなって、私は力強く私は目を拭った。
ぽつりぽつりと街灯が灯っていく住宅街を、とぼとぼ歩く。
時々どこかから漏れてくるおいしそうな夕飯の匂いが、私にはひどく残酷に思えた。
やがて、私の住むマンションが見えてくる。
誰もいない管理人室の前を走りぬけ、エレベーターに飛び込む。
気ぜわしく、何度も四階のボタンを押す。
ドアが開き、廊下を通って、ペンキを塗り直したばかりの我が家のドアの前に立った。
コートのポケットから鍵を取り出し、静かに開ける。
「こんな時間まで、何してたの!」
お母さんはたぶんそう言って怒るだろう。それもまた、憂鬱だった。
「こんな時間まで、何してたの?」
私を迎えたのは、予想したとおりの言葉だったけれど、そのトーンは穏やかなものだった。
いや、それどころか、それはお母さんの声ですらなかった。
「ゆうすけ……さん?」
私は台所から顔を出した彼を、朝会ったときと同じくらい間抜けた顔で見つめていた。
とっくりセーターにジーンズのラフな格好で、手にはビール瓶を握っている。
「おーい、祐輔くーん、那智子帰ってきたのかー? ちょうどいい、お酌させよう。
こんな遅くまでひとりでふらふらしてた罰だ」
奥から酔っ払ったお父さんの声がした。どうやら、二人で飲んでいるところらしい。
「祐輔さん、どうして……」
「何言ってるの。私が『今日は祐輔くん来るから家にいなさい』って言おうと思ったら、もうあんた家を飛び出してたんじゃない」
「僕、年賀状にもちゃんと書いておいたんですけどね」
祐輔の陰から、今度はお母さんが顔を出した。二人は困った子だとでも言いたげに、顔を見合わせている。
「ほら、早く着替えてきなさい。晩御飯出来てるから」
そう言うとお母さんはおせちの入ったお重を持って居間の方に去って行った。
残されたのは祐輔と、私。
「……なんで」
「ん?」
「なんで、千代田さんと一緒じゃないんですか?」
そう言われても、祐輔は私の言ってることが分からないといった表情だった。
やがて何かに気づいたのか、祐輔は肩をちょっとすくめる。
「アイツ今晩は彼氏と過ごすんだってさ。全く、いい時間つぶしに使われたよ」
そう言って少し怒った顔を作ってみせる。
正直、呆れた。
――だって、それはあなただって一緒でしょう?――
でも、その言葉をぐっと飲み込み、私は笑顔を作る。
「とりあえず約束通り、今日の埋め合わせしてくださいね」
「え? あ、うん、いいけど……」
「じゃあ、はい」
私は黙って手を伸ばす。
いぶかしげな顔をする、祐輔。
「お年玉。とりあえず五千円でいいです。あなたのせいなんですから」
「は? いや、意味がわかんない」
「わかんなくてもいいですから、約束ですよ?」
「え、は、ちょ、ちょっと。なっちゃん? なっちゃーん!?」
戸惑う祐輔を残して、私は笑いながら自分の部屋に戻った。
うん。今年の元日はいい一日だった。
それもこれも、あの神社に最初にお参りしたせいかな。
だって、本山大社みたいに大勢にいっぺんにお願いされたら、神様だって大変じゃない?
でも多分、今日あの神社でお願いしたのは私ぐらいのもの。きっと神様も最優先で願いを聞いてくれたんだ。
そう。
私はあの小さな神社でお願いした。
「どうか、祐輔と仲良くなれますように」って、ね。
本当に失礼しました。
それでは、今後のスレの発展を願いつつ……
12 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/05(木) 18:41:01 ID:Vrxq00k7
GJです
いや〜青葉薄情もんだなぁ
13 :
http://music5.2ch.net/test/read.cgi/musicjf/1135260799/1:2006/01/05(木) 19:00:08 ID:mNZxjpY5
即落ち回避
まあしょうないでしょうな。
神降臨しすぎでみんな興奮して、スレ容量なんか
気にも留めてなかったというところで。
んで、◆ZdWKipF7MI氏も神なんだから困ったもんだ。
ほしゅ
ほしゅ
>11
ほのぼのしていて良い。続きが楽しみです。
ほしゅ
ちょっと質問。
幼馴染をテーマにしてれば、時代物でもありですかね?
もちろん。
もろちん。
もろちん
ゴメソ
まだ30もいってないね
ほしゅ
保守がてらに小ネタ。 &はじめて書き込んでみる
幼馴染の馴染み方
「トキヤ、はやく行こー?」
「ああ、ソラ。今行くよー。けどさ」
「どうしたの?お祭り行くんでしょー?早くしないと御神輿通り過ぎちゃうよ?」
「イヤ、なんつーか……こっちに引っ越してきた頃は珍しかったけど
こう、毎年だと新鮮味がなってきたかな、と。あ、いや見に行くけどさ」
「……そうだね、今年も、だもんねー」
「……なんだよ、ニヤニヤして」
「ん。なんか、さ。『今年も』って言えるほど、当たり前になったんだなって思って。
トキヤと一緒にお祭りに行くことが。そう考えたら悪くないかなーって」
「……ふぅん。かも、な」
「まぁ、新鮮味に欠けるのは確かだけどね…えへへ、柄にもないこと言ったかな」
「……んん、あ〜……あのさ、」
「ん?」
「その、なんだ、『これから』もよろしくな、ソラ」
「……! うん! よろしくねトキヤ♪」
まず>25、GJ!!
時代物もいいが、SF物もいいぞ。
北条司の「天使の贈り物」という短篇がけっこうよかった。
幼馴染みとの間にできた娘が未来からやってくるやつ。
>>25 つづきは?馴れ初めは?勿論書いてくれるんだよな(゚∀゚)?
くりーむしちゅーのたりらりなんとかで幼なじみネタのあるあるドラマ
つんでれ系をまなかなのまなが演じてる
俺も見てた。
当然っつうか、だが、押さえる所押さえた内容だったなぁw
・先週から見なきゃ見なきゃとずーっと思ってた
・毎週ほとんど見てる
人生って残酷ね
>>30 雑な箇条書き程度でよければ流れ書こうか?
>>26 なにそのダディフェイス。
まあ、あの娘は未来から来たわけじゃないが。
ママは小学四年生も幼馴染みもの?
一日経って記憶はおぼろげなんだが…
・ヒロインは勝気な大学4年生。隣に住む彼は二つ年上の会社員。明るいが鈍感。
・小さい頃彼はいじめられっこで、ヒロインがよくかばっていた。
・ある日彼に話があると呼ばれ、行きつけのバーへ。ヒロインは彼に告白しようとしていた。
二人同時に話を切り出したため、ヒロインは先を譲る。彼「俺、好きな人ができたんだ」
・酔った彼を家に連れて行くヒロイン。部屋にて意を決して自らも告白しようと振り向くと、彼は寝てる。
・数日後、彼「週末、あの人をデートに誘うことが出来た。プレゼント選びに自信がないから手伝ってくれ
こんなこと頼めるやつはお前しかいない」と、窓越しに相談。
週末はヒロインにとっても大切な日だったのだが、それは言い出せず、彼の買い物を手伝うことに。
・ヒロインが勧めたネックレスを買うことに決めた彼。さらに彼はヒロインに熊のぬいぐるみを差し出す。
彼「お前の部屋にある汚いぬいぐるみなんか捨てて、こっちを飾れよ」
ヒロインブチ切れて彼引っ叩いて一人帰る。
・実はその「汚いぬいぐるみ」は、幼い頃彼が「お婿にもらってくれる?」と言った際にヒロインに
プレゼントしたものだった。
そのときヒロインは「それは女の子が言うセリフでしょ。でも、いいよ」と応える。
そして彼は大人になったら、同じ日に同じ言葉でプロポーズすることを約束。
・彼はヒロインが怒った理由に気付かぬまま、週末、想い人とデートに。ネックレスは不発。彼女の性格は悪い。
間が持たなくなった彼がカーラジオをつけると、よく聴いていた、そしてヒロインは今も聴く番組がやっている。
・ラジオ投稿「私には好きな人がいます。結婚の約束もしました、といっても小さな頃の話ですが。
今日はその約束をした日です。ですが今、彼には好きな人がいて、今日はその人と会っているはずです」
そして流れるヒロインの好きな歌。彼はそこでヒロインの想い、そして今日という日の意味に気が付く。
・約束をした木の下で一人泣きながら佇むヒロイン。そこに走ってきた彼。
「お婿にもらってくれ」「それは女の子が言うセリフでしょ。でも、いいよ」そして手をつないで歩き出す二人。
以上終了。読みづらければ申し訳ない。展開が急かつ強引なのは俺のせいではないw
正直うろ覚えなので、補完大歓迎。
よけいな演出とかタレントの顔映す小窓とかなかったらベタすぎてそれなりの視聴率とれそうな感じだった。
変化球は一切なかったがかなりつぼだった。
こんな直球ど真ん中なドラマがやってたのかw
>>38 つうかそういう趣旨だからね。
OLだか100人のアンケートによるドラマにありがちなことをまとめた映像を観て、
展開を予想するクイズってのが本来の話。
既に学園ドラマとか恋愛ドラマ片思い編などなどがやってる。
角でぶつかって悪態付き合って勤務先に行ってみたらぶつかった男が赴任してきてたとかね。
「お婿に貰ってくれる?」はありがちなのか……OLにとって
>>40 流石にセリフ内容まではアンケートじゃないだろなぁ。
アンケート結果は「昔した約束をもう一度」ってあたりまでじゃないかな?
お話としてありがちというだけで実際によくあるというわけではなかろう
>>35 その約束の木には相合傘で二人の名前が彫られてたんだよな
で、ヒロインはそれを見て泣き出したんだっけか
そしてそんな流れも空気も一切遮断して前スレ311-320
の続きを投下してみるテスツ
『ねぇねぇ、たかにぃ』
『ん? どーした紗枝』
『えっと、た……たかにぃはどんなコがタイプなの?』
『? なんでそんなこと聞くんだ?』
『それは…その……い、いいからこたえて!』
『そ、そーだな……明るくて元気な娘かな』
『あかるくて……げんき……』
『それがどうかしたのか?』
『ううん、なんでもない―――――――』
ジリリリリリリリッ
…………………―――――――ん?
ふああぁぁぁ。
……眠い。
相変わらずうるせぇ時計だ。セットしたのは俺だが。
『い、いいからこたえて!』
……夢、か。随分昔の夢だったなー。
まだ俺が10歳ぐらいの頃のだから、紗枝は6、7歳ってとこか。
あの頃の紗枝は確か、素直なだけじゃなくて大人しかったんだよな。だから珍しくデカい
声出したんで驚いたもんだ。まぁ、今じゃすっかり真逆な性格になってるんだけど。
で? 何で俺はたまの休日にも関わらずこんな早い時間に起きてんだ?
えーっと、うーん……あ、そうそう、紗枝達を海に乗せて行ってやらにゃならんのだった。
やっぱめんどくせーな、寝坊したことにしてバッくれようかな。今日は確か、行きつけの
パチンコ店が新台入荷なんだよな。
ピリリリリリリッ、ピリリリリリリッ
…………何なんだこのジャストなタイミングわ。
ピリリリリリリッ、ピリリリリリリッ
見るまでもないとは思ったが、携帯を開いて一応相手を確認してみる。
願わくば違う人でありますように……よし、祈り終えたし相手の名前を確認だ。
『平松紗枝』
……
…………
……………………
……はーっ。
自分の携帯の通話ボタンを押すのに、こんなにためらう事なんて今まであったかな。
ぶっちゃけ今すぐ電話を切りたいんだが、ちゃんと出ておかないと今度は半殺しにされ
かねない。
ピッ
「もしもーし」
「……こんな朝っぱらから電話掛けてくんな」
「モーニングコールだよ。それに崇兄のことだから、時間通り起きたとしても面倒がって
二度寝するかもしれないだろ」
はい、その通りです。
ここまで行動パターンを見抜かれているってことは、俺も根は単純なのかもしれん。付き
合いが長いだけじゃここまで読まれないと思うんだが。
「皆を待たせるわけにはいかないから、崇兄には早めに来ておいて欲しいんだけど」
「あー分かった分かった。今から行ってやるよ」
紗枝の家に行くのは随分と久しぶりだな。とりあえず一人暮らしを始めてからは一度も
無い。俺が行かなくても向こうから勝手に来るしな。
ここからあそこまでちょっと遠いんだよなー。実にかったるい。
「それじゃ待ってるから。早く来てね」
ピッ
ったく、誰のためにこんな朝早くに起きてると思ってんだ。
少しは感謝の気持ちを表したっていいだろ。寝癖のまま行ってやろうか。
あー……よくよく考えりゃ、俺ってなんて人が善いんだろう。
折角の休日を潰して、恋人でも兄妹でもない、ただの知り合いでしかない女の言うことを
聞いてやるんだからなぁ。うう、余りの献身ぶりに涙が出そうだ。
さあ、アイツへの文句は会った時に直接言ってやるとして、そろそろ準備するか。
顔洗って着替えて、寝癖もちゃんと直して……と。必要最低限のものは持ったし、行くか。ぼろアパートでピッキングされると一発で開くだろうが、一応鍵も掛けておいて、と。
よし出発。
ふぁー、しかしあちぃ。泳ぐには絶好の天気かもしれんがアスファルトの上を歩くには
きつ過ぎる。肉体年齢50代だし。帽子被っといてよかった。無精ヒゲ剃ってなかったこと
に今更気付いてしまったがもういいや。まだすぐそこだけど、家まで帰るのめんどいし。
やがて河川敷に出て、坂の上の歩道をゆっくり練り歩く。ここを真っ直ぐ歩いてしばらく
行ってから一つ角を曲がったら紗枝の家だ。そういやこの河川敷も懐かしいな。ここら辺
には公園が無かったから、昔はよくここで遊んでたんだったな。野球少年団が試合やって
るのを見て、俺達もすぐ近くでやってたら、グラウンド内に何度もゴムボール打ち込んで
えらく怒られたこともあったっけなぁ。あの時の俺は若かった。今も若いけど。この場合
はもしかしたら幼かったって言った方が適格か。
ミーンミンミンミンミンミンミーン
ジージージージージー
歩道から見て河川敷から逆側に植えられた木々からは、今日もセミの鳴き声が木霊する。
頭の上の空は青一色が広がり、中心街の方の地平線の向こうからは入道雲が広がっている。
ここまで夏日和って感じなのも珍しいな。この河川敷で遊んでいた頃は、夏休みの天気は
毎日こんな感じだったような気もするが。
将来に不安を感じることなんてことは無かった。年を重ねれば重ねるほど、大きくなれば
なるほど、毎日が楽しくなっていくもんだとばかり思ってた。まだ幼稚園児だった紗枝も、
俺の後ろをちょこちょこついて来るばっかりで。置いていくとすぐ泣きだすんだよなぁ。
当時は少々鬱陶しかったが、今の紗枝を見てるとあの頃の面影を少しくらい残しておいても
良かったのかもしれんな―――
「ふー」
……着いた。やーっと着いた。紗枝の家ってこんなに遠かったかな。思ったよりも時間
かかっちまった。久しぶりに夏の炎天下の中を歩いたから、頭が茹りそうだぜまったく。
さて、紗枝はどこにいるのか……っていた。車庫に収容されたワンボックスカーの後部
座席で四つんばいになってシートの上を雑巾で拭いている。車の中を掃除しているみたい
だな。扉を開けたままホットパンツ穿いて尻をこっちに向けているもんから、結構エロい
アングルだ。
「……」
うーん、普段なら何とも感じないんだがこの間胸を触ってやったしなぁ。見ているだけ
というのも面白くない。ここは上だけじゃなくちゃんと釣り合いを取っておくとしよう。
忍び足で近付いて……っと。
わしっ
「ひゃうっ!?」
紗枝の尻を思いっきり掴むと、紗枝の体がビクンと跳ね上がった。何とも可愛い悲鳴が
返ってくる。これは面白い。どれ、もう一回さわさわと……
「な、ちょ……、ちょっと崇兄!?」
「あぁ、構わず掃除続けてていいぞ」
もう片方の手もホットパンツの上に這わせて指をわにわにと動かす。
んー、中々な手触りだ。グラインドも悪くない。胸といいひょっとしてコイツ、結構良い
体しているんじゃなかろうか。
「や、やめろってば!!」
バキッ!
「うぐぁっ!?」
紗枝が突然曲げていた足を跳ね上げるようにピンと伸ばし、その踵が俺の鼻にクリーン
ヒットしてしまう。思いっきり顔面を蹴られ、地面に大の字になって倒れこんでしまった。
「痛ってぇー!!」
思わず抑えた手に赤い液体がくっついている。鼻血が出てしまったようだ。
おのれ紗枝……何てことしやがる!
「い、い、い、いきなり何するんだよ!?」
逃げるように車の外に出ると、両手で尻を押さえて俺を睨みつけてくる。というよりは、
突然のことに平常心を保てなくなっている。顔の色は最早言うまでもないだろ。
「何って……スキンシップだっ」
ポケットに偶然入っていたティッシュを丸めて鼻に突っ込んでから、拳をグッと握って
自信満々に答える俺。
「こんなスキンシップの取り方があるわけないだろ!」
「ははは、何言ってんだ紗枝。現に今ここに存在しているじゃないか」
「本気で怒るよ!!」
顔が赤い理由は、恥ずかしいだけが理由じゃなかったらしい。
どうでもいいが、朝っぱらから元気な奴だ。
「ちょっと! ちゃんと聞いてる!?」
「うるせーな、そんくらい別にいいだろうが」
「なっ……!」
紗枝の言い分はもっともだが、だからといって折れてやるつもりなど無い。
今俺がこの場にいるのは、他ならぬコイツの為だ。詭弁? ナンデスカソノ言葉ハ。
「お前が海に行きたいからって理由で、休日に朝早くから叩き起こされたんだぞ。それも
滅多に無い休日を削ってだ。なのにお前はお礼を言うどころか感謝もしてきやがらねえ。
それどころか、俺がこうして来てるのも当然だと思ってんじゃないのか。なんなら今すぐ
帰っても良いんだぞ、俺はちぃーっとも困らんからな」
この前は紗枝の雰囲気が怖くて言い出せなかったが、今日はガツンと言ってやる。
甘い顔するとすぐつけあがりやがって。本当に困った奴だ。
「うぅ……」
紗枝は言い返せない。当たり前だ、俺の言ったことは紛れもない事実なんだからな。
見る人が見れば、もしかしたら理不尽なのかもしれんがそこは気付かない振りで。
「でも、だからってこんな……」
まぁーだ口答えすんのか。こうなったらもっと過激に攻めてやろう。
ガシッ、ドサリ
「え…」
紗枝の両肩を荒々しく掴んでやると、扉が開いたままだった車の後部座席のシートに体
を押し倒す。でもって顔の両横に手を付いてやる。丁度紗枝の体の上に覆いかぶさる感じ
になった。
「なんなら……」
少ーしずつ、少ーしずつ顔を近づける。もちろん俺は脅かしでやっているんだが、こう
いう経験が無い紗枝はきっと気付かないだろう。
「ぁ……あ……」
「本気で襲ってもいいんだぜ?」
付いていた手を折り曲げ、今度は肘をつく。
紗枝の吐息が届くくらいに近い。歯を磨いて間もないのか、微かに歯磨き粉の匂いがした。
朝っぱらから一体何やってんだ俺は、という至極もっともな考えが頭に浮かんだが、もう
ちょっと悪戯したら紗枝がどう反応するか見たかったので、構わず続行することにする。
「た、崇兄……」
少しばかりとろついた目でたどたどしく俺の名前を呼ぶ紗枝。おいおいおいおい、中々
に良い雰囲気ぢゃねーか。冗談のつもりだったが据え膳喰わぬは何とかという言葉もある
ことだし、もうちょっと行動をエスカレートさせてみることにした。空いた両手で紗枝の
前髪をかきあげ額をコツンとくっつける。吐息がくすぐったいがそんなことは勿論顔には
出さない。そして……
「何やってるんですか?」
背後から投げかけられた、なんとも冷静な女の子の声が耳に届いた。
「んー?」
「ま、真由!」
俺と紗枝の声が同時に響いた。
振り向くと紗枝と同じくらいの娘が佇み、じいー、っとこっちの様子を窺っている。
森本真由――――紗枝の一番の親友であり、コイツの友人の中で唯一俺とも知り合いの
女の子だ。後ろ髪がピンと跳ねているから一見活発そうに見えるんだが、取り乱したりす
ることが無く、結構クールな面を持っている。本当に紗枝と同い年なのか疑わしく思って
しまうこともよくある。だから知り合って間もない頃は俺もよく騙されたもんだ。この前、
紗枝に電話を掛けてきた女の子って言えば分かってくれるかな。ちなみに顔立ちは狐っぽい。
「おー、舞ちゃん久しぶり」
「真由です」
ちなみにこの娘と会ったとき、俺は彼女の名前をわざと間違える。そして彼女はそれを
笑顔で返す。これが挨拶代わりであり、最早暗黙の了解である。
「ちょっ、真由! 見てないで助けてよ!」
一瞬だけ完全に忘れ去られた紗枝が、ひどく焦った様子で喚く。
体を起こして振り向いたせいで紗枝はある程度体を動かせるようにはなったみたいだが、
俺が抜け出せないように圧し掛かっている為、脱出することは出来ないようだ。ひたすら
ジタバタともがいている。
「で、何をしてるんですか?」
その言葉を無視してまた聞いてくる。お前、紗枝の親友じゃないのか。
真由ちゃんにとって、親友を助けることよりも俺が紗枝に覆いかぶさっているこの状況
を知ることの方が優先事項なようだ。ここまで冷静だと流石にちょっと怖いぞ。
しかしいつまでもこのままでいるわけにはいかない。至極分かりやすい答えを返すことにした。
「うん、見ての通りカーセック……」
ドコォッ!!
「ぐおっ!!?」
っがー! 痛ってぇぇー! つーかマジ死ねる…!!
油断していたところに、零距離からのボディブローが鳩尾に食らっちまったようだ。
殴られた痛みと、呼吸が出来なかった苦しさが同時に襲ってくる。こいつはキツい……!
「げほっ、げほっげほっ!」
「このスケベ! 変態! 一回死ね!!」
俺の体を突き飛ばすと、紗枝は逆側の扉から素早く車の外へと逃げ出してしまう。
ちっ、真由ちゃんが来なければもっと面白い事態になってたかもしれんのに。
「相変わらず仲がいいよね、紗枝とお兄さん」
「どこがっ!」
一部始終を堂々と拝見していたというのに、しれっとした表情で紗枝に話しかける真由ちゃん。
うーん、こうして見るとなんでこの二人が親友同士になれたのかよく分からんな。
紗枝をからかって反応を楽しんでいるところを見ると、もしかしたら彼女も俺と同類
なのかもしれん。
「こ、今度やったら筵(むしろ)でぐるぐる巻きにして川に叩き落すからね!」
顔どころか耳までトマトみたいに真っ赤にしながら、紗枝が怒鳴ってくる。
「分かった。じゃあ今度は腰や太ももあたりをチェックすることにしよう」
また殴られたり蹴られたりするのは嫌だから、とりあえず妥協案を提出してみる。
「同じことだろっ」
悲しいことに速攻で棄却されてしまった。もう少し考えてくれたっていいだろ。つまらんなぁ。
「ところで他の皆はまだなの?」
「ああ、真由が最初だよ」
今日海に行くのは、俺を除いて六人だったな。ってことはあと来るのは四人か。果たして
どんな面子なのやら。
「おはよーっす」
っと、言ってるうちに誰か来たみたいだな。
反応して振り向くと、俺と同じくらいの背格好で顔中日焼けした、これまた紗枝と同年代
の男子が一人立っている。俺と同じくらいってことは身長170半ばってとこか。
「ハッシー、おはよう」
その男子に向かって紗枝が挨拶を返す。
短髪なところといい締まった体といい、見た目からして何かスポーツやってるっぽい。
俺ほどじゃないが中々良い面してやがる。
「平松、森本、ちゃんと遅れずに来れただろ?」
「うん、ちょっと不安だったけどちゃんと来てくれて良かったよ」
「橋本君が私の次に来たって言うのも意外だけどね」
「おいおい、二人とも言ってくれるな」
輪を囲んで談笑を始める三人。なんでもないことから会話がどんどん膨らんでいく。
ああいうのを見ると、高校生の時にもっと楽しんでおきゃ良かったなって羨ましくなる。
俺も昔の友人達と関係が切れたわけではないが、あまり会うことはない。
まあ、話をするためだけにわざわざ会おうとは思わないが。だってやっぱり面倒臭いし。
「で、だ」
盛り上がりかけた話を突然断ち切ると、その橋本君がこちらにグルリと向き直った。
「えーっと、平松…さんのお兄さんですか?」
それまでの自然体な感じから一転、恐る恐るといった感じで俺に話しかけてくる。
どうやら、俺が紗枝の実の兄だと勘違いしているようだな。
「ああどうも、紗枝がいつもお世話になってます」
面白そうなのでなりきることにした。
「ちょ……」
訂正しようとした紗枝の口を、真由ちゃんが背後から手で塞ぐ。
アイコンタクト無しでここまで意志が疎通できるとは。俺達って凄いね。
「やっぱり。でもあんまり似てないっすね」
「兄妹が似てちゃまずいと思わんかね。絵的に」
「はっはっは、確かに」
別段面白いことを言ったつもりは無いのだが、何かやたらとウケている。
俺にそんな人を笑わせられる才能があるとは思えんが。
「あ、俺は橋本って言います。今日はお願いしますね」
「どーも」
おもむろに差し出された手を握り返す。
「普段からうるさい奴だから。迷惑かけて悪いね」
「いやいや、おかげで毎日楽しませてもらってますよ」
「あれでも昔は可愛かったんだよ。素直で大人しくてな」
「素直で大人しいですか。ということは今とは真逆だなー、想像がつかねえ」
「だろ?」
おお、話が噛みあう噛みあう。こいつとは相性が良いのかもしれんな。
「もがーっ!」
俺と橋本君の会話を遮断するかのように、変なうめき声が聞こえてきた。
「真由ちゃん、そこの珍獣もうちょっと静かに出来ないか?」
「これ以上は無理です」
獣は常に凶暴なようで。何をそんなにいきり立っているんだろう。
いや、もちろんやっぱり理由は分かっているんだけどね。
「いい加減なこと言うなっ!」
と、ようやく口を開放され早速噛み付いてくる。
まったく、さっきから怒鳴ったり怒ったりうるさい奴だな。
「いい加減なことなど俺は何一つ言ってないぞ、紗枝」
「じゃあ崇兄とあたしがいつ兄妹になったんだよっ」
「ら? 兄妹じゃないの?」
「この人は紗枝の昔からの知り合いなの。幼なじみなのよ」
困惑しかけた橋本君に、真由ちゃんがナイスフォローをいれてくれる。
同時に、彼の眉間に浮かんだ皺がスッと消え去る。俺と紗枝が『兄妹のような関係』だと
いうことを理解してくれたようだ。頭の回転も速いね。見た目といい、こいつ結構モテる
んじゃないかな。
「はぁ〜、ややこしいな」
「ややこしくしたのはこの人だけどね」
そう言うと、真由ちゃんは俺に鋭い視線を浴びせてきた。
早速掌を返しやがったかこの娘っ子は。狐に似てるだけあって、いい性格してやがる。
「でもよ、"嘘"はついてないぜ?」
とりあえず言い訳しておく。そう、嘘はついていない。俺がさっき口にしたことは全て
真実だ。橋本君の最初の質問にも、イエスノーで答えたわけじゃないからな。
「言い訳になるかっ」
まぁーだ怒ってやがる。尻触ったことといい、こりゃ相当腹立ててんな。
「だったらお前も俺のこと"崇兄"なんて呼び方すんな。ややこしいだろうが」
「し、しょうがないじゃだろ。物心ついたときにはそう呼んでたんだから」
それこそ言い訳にならんだろう。そう呼び始めたのはあくまでコイツだ。そもそもお前
が俺の紹介を事前にしときゃ、こんなことにならなかったんだろうが。
「「おはようございまーす」」
今度は複数の声が届いた。声からして男と女だな。
振り向くと、一組の男女が随分寄り添いあって立っている。
「おはよう。二人とも、一緒に来たんだ」
それまでの赤い顔はどこへやら、いつもの様子に戻った紗枝が挨拶を返す。
顔色はコロコロ変わる癖に、気持ちを切り替えるのはやたらと上手いな。
俺が会うたびにコイツをからかってるから、そういうのに慣れたのかもしれない。
「うん。途中で偶然出くわしたから、一緒に来ちゃった」
「こいつったらよ、ここに来る途中で迷った挙句にパニくってんだぜ。傍から見てて随分
面白かったよ」
「それは言わないでって言ったじゃない! 第一自分だって途中で財布忘れたとか言って
喚いてたでしょう。しかもお尻のポケットに入ってたし」
「う、うるせえっ!」
来たと同時に二人して口喧嘩し始める。なんなんだこいつらは。なんかどこかのテンプレ
みたいな会話をしているような気がするのは果たして俺の気のせいなのか。
「おいおい、喧嘩も良いけど今日お世話になる人が目の前にいるんだから、ちゃんと挨拶
しろよ。車を運転してくれるためにわざわざ来てくれたんだぜ」
睨み合い唸りあう二人に向かって橋本君が、呆れ交じりに声をかけながら俺を紹介する。
そこで初めて俺がいることに気付いたのか二人はハッとした表情になって俺の方へと向き直った。
「あ、ど、どうもスイマセン。俺は小関って言います」
「と、戸部です。今日はありがとうございます」
「ほいほい。今日運転させてもらう今村って者ですよ」
いきなり醜態見せてしまったバツの悪さからか、二人とも歯切れ悪い。俺は俺で、毎回
社交辞令を口にするのも面倒になってきたから、名乗るだけにしてその場から少し離れる。
しかし名前が小関に戸部か。あんま話に絡まないっつーか、忘れ去られそうな名前だな。
こんなこと言ってしまって全国の小関さん戸部さんごめんなさい。
全員揃うまで、おじさんとおばさんに挨拶でもしてくるか。紗枝やその友達にも余計な
気を使ってもらいたくないし。車出してくれるんだし、一言何か言っておかなきゃならん
だろうからな。
ガチャリ
「どもー、おはようッス」
玄関の扉を開けて声を張り上げると、トタトタと音を立てながら奥から二人の人物が姿を
現す。言うまでも無く紗枝の両親だ。
「あらー、崇之君久しぶりだね。ちゃんと毎日ご飯食べてんのかい?」
「死なない程度には食ってるよ。おばさんも相変わらずなようで」
「そうかい? これでもちょっと白髪が増えてきてるんだけどね」
明るく笑い飛ばしながら、おばさんは髪の毛を弄ってみせる。言われてみれば、赤茶色
に染め抜かれた髪の毛が少々目に付いた。でも久々に会ったけど、豪快なモノの言い方と
サバサバした性格はまるで変化がない。
「崇之君」
遅れておじさんも口を開く。こちらはおばちゃんと違って、物静かで温和な雰囲気を
漂わせている。そういや今日は日曜だったか。だからこの時間になっても家にいるんだな。
「おじさんも久しぶり。車を貸してくれてどうも」
「いやいや、君も紗枝のワガママに付き合ってくれて申し訳ないね。折角の休日だったん
だろう?」
顔の皺は随分と増えてしまってて、髪の毛も全体的に若干薄くなったようだけど、眼鏡
の奥の穏やかな表情はこれまたまったく変化が無い。紗枝もこの親父さんの血を少しでも
濃く受け継いでいたら、俺にあそこまで玩具にされることは無かっただろうに。
「はっは、いつものことだって」
「それなら尚更だ。今度、紗枝にはちゃんと言っておくよ」
「大丈夫だよ。あれでも色々役に立ってんだから」
「そうか? 済まないね」
「いえいえ、お構いなく」
まあ、あいつが家に来ないと何の味気もない実につまらん生活になっちまうからな。
そういう意味では助けてもらっていると言えるかもしれん。
「なら甘えついでに崇之君、お願いがあるんだけどさ」
そしたらまたおばさんが口を開く。
「俺に?」
「そう、君に」
今まで洗いものをしていたであろう濡れた手をエプロンで拭きながら、気兼ねする様子
など全く見せずに話しかけてくる。
「いい加減あの娘を貰ってやってくれないかい?」
何を言ってくるのかと思えば、程よく心臓に負担が掛かりそうな御言葉だ。
「ははは、中々面白い冗談で」
思わず噴出しそうになったが、そこは流石というかやはり俺。外面を取り澄まして至極
全うな言葉を返す。
「あたしは本気だよ? 今更どこの馬の骨とも知らないようなのを連れて来られるより、
よく見知った子の方があたし達も安心出来るってもんさ」
「……確かにそれは言える」
普段は真面目なおじさんまでこんなふざけた申し出に同調している。
二人で『おも○っきりテレビ』の嫁婿問題で悩む視聴者の電話相談でも見たんだろうか。
なんつーか、なんだな。
「それに崇之君も、半分位はもうあたし達の息子みたいなもんだからね」
「……確かにそれも言える」
をーい、ちょっと待ってくれー。
「初孫は男の子で何人か産んでもらいたいねえ。ウチは紗枝一人、女の子だけだったから」
「そうだな、ついでに崇之君の血が濃い方が良いんだが」
勝手に話を進めないでいただきたいものだ。
なんで子供の話にまで発展してんだ。いくらなんでも話が飛躍し過ぎだろうが。
「俺もいい加減だぜ。20になる前には煙草は吸ってたし、付き合う女はとっかえひっかえ
だったし」
久しく会っていなかったせいか、お二方とも俺がどういった人物であるか忘れかかって
いるらしい。これ以上夢物語を膨らませないためにも、ここはしっかり訂正しておこう。
心なしか、自分を卑下しているような気もするが。
「何言ってんだい。あんたが自分の言うとおりの根っからの駄目人間なら、紗枝があそこ
まで懐くわけないだろう」
果たしてあれは懐かれていると言っていいのだろうか。体よく利用されているような気
もするんだが。まあ、その代わり俺も散々アイツをからかいまくってるけどな。
「さっきぼろっカスに言ってた割には随分評価してんだね」
「まあね。人を見る目はある娘だから」
そうなのか。いくら俺でも紗枝の一から十を知っているわけじゃないから、今の言葉は
結構新鮮だったな。
「ごめん、遅れたー!」
弾んだ息を混じらせながらのでっかい声が、玄関外に響き渡る。
お、最後の奴も来たみたいだな。じゃあ俺も準備するか。
「じゃあおじさんおばさん、そろそろ行くわ」
「行ってらっしゃい」
「鍵はこれだ」
「あ、どうも」
おじさんから差し出された鍵を受け取り玄関の扉を開ける。
「一応車のメンテナンスはしておいたよ。寿命は近いが、海まで往復するくらいなら充分
持つだろう」
「およ、わざわざすんません」
礼を述べる為に一度振り返り、そして二人に向かって会釈を返す。
「廃車寸前だから、好きに乗ってくれても構わんよ」
「うっす」
「出来れば暗くなる前に帰ってきてね」
「あー、善処してみるよ」
パタンッ
相変わらずだったなぁ。やっぱ少しばかり老けていたのは寂しかったけど。
まあ、俺が今年で22になるんだし仕方ねえか。時間の流れってのは残酷なもんだな。
外に出て紗枝達がたむろってる方へと視線を向けると、さっきはいなかった、一番最後
に来た奴が他の五人にひたすら謝っている。髪の毛がドエラいことになってるから、寝坊
でもしたんだろうな……って、ん?
「オイ、お前兵太か?」
その顔が見知った顔によく似ていたので、ついつい声をかけてしまう。するとそれまで
皆に頭を下げていたそいつが、こちらの方へ視線を向き直った。で、俺の顔を認識すると
同時に、ギクリとした表情を浮かべる。
「げっ! い、今村さん何でここに!?」
………………
「お前"げっ"って何だ"げっ"って」
やっぱり俺の知り合いだったようだ。
つーかてめぇ、普段俺のことをどう思ってやがったんだ。
「あー! スイマセンごめんなさい!!」
「今更遅えよ」
逃げる兵太の襟首を掴もうと腕を伸ばす。が、寸前のところでかわされてしまった。
相変わらずすばしっこい奴だ。
「崇兄、兵太のこと知ってるの?」
「知ってるも何も、バイトの後輩だよ」
そう、夏休みになると同時に、俺のバイト先に新人として配属されてきたのが目の前に
いる斉藤兵太君だ。ちなみに教育係は他でもない、俺である。
更に言っておくと、先に言っていた予想外に出来の良い仕事熱心な新人というのもこいつ
のことである。まあ、これもひとえに教育係である俺のおかげであるわけだが。
「ちょ、ちょっと今村さん! バイトしていることは内緒にしてくれって言ったじゃない
ですか!」
「うん、まるで憶えてない」
答えるのが億劫だったので、ポケットの中の、いつも愛用しているパイプを取り出して
歯噛みする。それにだって本当に憶えてねーし。
「そんな……口封じのお礼に飯まで奢ったのに……」
文字通りがっくりと肩を落としやがった。一挙手一投足が大げさな奴だ。
ガシリッ
その隙を突いて、奴の頭を鷲掴みにする。ったく、男のくせして細けーことでグチグチ
言いやがって。そんなんだから背も小っちぇえんだよ。
「何か文句あんのか? んん?」
「あ……いや、何でも…ない……デス」
「 だ っ た ら 話 は 終 わ り だ 。異議は?」
「イエ、アリマセン」
「よし」
以上再教育完了。俺の言うことはよく聞く奴だから、手なずけるのは簡単である。いや、
俺って本当、後輩思いな先輩だよね。
「崇兄は準備出来てる?」
「ああ、俺の方は問題ねえよ」
兵太への教育が終わると同時に、紗枝が問いかけてきたので鍵を見せながら答える。
「じゃ、全員揃ったしさっさと行くか」
「「「「「はーい」」」」」」
橋本君の言葉を皮切りに、全員ゾロゾロと車の方に向かっていく。どうやらリーダーは
彼みたいだな。年長者だからって俺がしゃしゃり出てきたら面白くないだろうし、空気も
悪くなるだろうから今日は日陰に位置取ることにしよう。
じゃあ乗り込むか。ワンボックスタイプは運転したことないが、ATだから多分大丈夫
だろう。この前運転した時(つっても半年くらい前なわけだが)は、中央分離帯を乗り越えて
対向車とぶつかりそうになったがそれは言わないでおこう。皆に余計な心配をさせる必要
は無いよな、うん。俺ってマジ優しい。
「崇兄ー、早くー!」
「分かった分かった。ちょっとくらい待てんのかお前は」
逸りたてる紗枝の言葉をいなして、鍵を片手で遊ばせる。
そしてゆっくりと運転席に近付いていった――――
63 :
43:2006/01/13(金) 22:53:33 ID:bHaKfYwo
|ω・`)……
|ω・`)ノシ イ、イマサラナウエニキセツカンマデムシシテゴメンナサイ
サッ
|彡
お久しぶりハァハァ
>>43 気にスンナよ〜
おもろいからなぁ〜
また、たのむでぇ〜
まってるよぉ〜w
うおGJ!
紗枝可愛いよ紗枝。
乳もまれたり尻もまれたり、押し倒されたり大変だけど…
さらっとセクハラをやってのける崇にこれからも期待してます!
67 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/14(土) 20:20:51 ID:9dx2OvOA
age
68 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/18(水) 16:05:52 ID:gReGwoB5
保守
淋しいな〜
そのうち誰か投下してくれるでしょ
私も手がすいたら投下するし
すいません、お久しぶりです。
今からちょっと投下します。
どうにかこうにか硬直は解けましたが、湯船の中にいるのに、とてもではないですが、リラックスする気にはなれません。
と、いいますか。すでに湯船の中で三十分。リラックスどころかそろそろゆでだこになりかけてます。
「……うー」
どうしよう。
いや、どうしようもこうしようもなく、こうしてみいちゃんの家でお風呂に浸かっているというのは、
やっぱりその、そういう事になってしま、う。ので、しょうか。
―――あう。
だ、ダメ。ダメですやっぱダメ。ぜったいダメ。
そりゃみいちゃんのことは大好きですし、さっきのアレでちゃんとこ、こここ恋人、どうしになったわけで。
だからその、どうしても凄く嫌とかいうわけではもちろんありませんが、こんないきなりっていうか不意打ちっていうか、
そういう関係になってしまうのは、正直かなりちょっとすごく怖いですし、それにその、そもそも高校生らしいモラルの問題で、
何ていうか、あのその、そういうことはもっとこう、彼氏彼女らしいお付き合いをきちんとした上で、そのもうちょっとこう、
自然な流れでいつかそのうち行うべき事で、さっき告白して気持ちを確認しあったばっかりで初めてキスして
それで、いきなりこんな事しちゃうっていうのは、いくらなんでもやっぱり間違いっていうか絶対ムリー!
だってわたし今ちょっとお通じ悪いせいでおなかぽこって出ちゃってるしオデコにニキビ出来ちゃってるし、
お湯で流れちゃって眉毛半分ないし、夕方泣きながら寝ちゃったせいで瞼腫れてて今すっごいブスなのにー!
……や、やっぱり逃げるしかありませんっ。
そう後ろ向きな決意を固めて浴槽から上がろうとした瞬間。
「まーゆー? オマエなにやってんだよ、長風呂にも程があるだろー」
「ふわあッ!?」
ずる、ばしゃ。どぼん、げほ、げほげほげほっ!
不意打ちに声をかけられたせいで、湯船の中で引っくり返ってしまいました。
うう、鼻にお湯入ったぁ、いたいようー。
「……何やってんのオマエ。大丈夫?」
「きゅ、きゅうに、おどかさないで、ください、ようー…」
――あれ? なんか、声がやけに近いような。
……顔を上げると、洗い場に、みいちゃん、がーッ!?
「ぎゃー! なんな、なんで、いるんですかっ!?」
「あんだけ派手に音がしたら、心配だろうが。俺ァ、自分ちの風呂で溺死体になられるのは嫌だぞ?」
「すいませんねえっ! もうだいじょうぶですっ! だいじょうぶですから出て行ってくださいっ!」
「いやいやいやいやいや。やっぱり心配だなァ、心配だとも。――心配だから、俺も一緒に入ってやろう」
――――はい?
言うなり、シャツに手を掛けて、いそいそと脱ぎだします。
「いーやーあーっ!!」
「まあまあ、そんな遠慮すンなよ」
「してませんっ! わ、わたし、もうあがりま――」
す。って、駄目だーっ! わたし、素っ裸じゃないですかーっ!
みいちゃんに背を向けて、浴槽の隅に出来るだけ体を縮こませます。
背後で、服を脱ぐ音が止んで掛け湯を使う音がしてきます。
「……そこまで詰めなくても、浸かれるぞ」
ざぶり。と、お湯が溢れて、みいちゃんが浴槽に入ってきます。
「……ばか」
「馬鹿ときたか」
「ばかで不服なら、へんたいですっ。なに考えてるんですか、すけべっ」
「うわあー、酷ェ言い草だなァ。俺は、オマエさんが溺れやしないか心配だっただけなのにー?」
よくもまあ、ぬけぬけと。
「どこの星からきた嘘つき星人ですかあなたはーっ!」
くそう、こんな状況じゃなけりゃ、ぜったいぶってやるのにー!
とてもじゃないですが、みいちゃんのほうを向く事なんか、できません。
うううう。どうしたらいいのーっ!?
「――ちょいと、足、のばすぞー」
後ろから、わたしの体を挟むように、足が二本伸びてきます。
「わ、ちょ、ちょっと…っ!」
「……オマエも、ンな窮屈な格好してないで、もうちょっと楽な姿勢取ればいいじゃないか」
背後から。肩をがしりと掴まれて、後ろに引っ張られます。
うひあ。と叫ぶ暇も無く、みいちゃんに後ろ向きに抱っこされるような体勢になってしまいました。
背中に自分以外の体温と何もさえぎる物の無い皮膚の触感を感じ、うわあ。と跳ね起きようとする身体を
押さえるように、おなかの前で腕を組まれ、がっちり抱え込まれてしまいました。
「――逃げンなよ。頼むから」
だ、だって、恥ずかしいんですよう……っ!
必死になってじたばた暴れますが、腕の力が緩む気配はちっとも無く、お湯だけがどんどん量を減らしていきます。
先程からずうっと湯船に浸かりっぱなしで湯中りを起こしかけていた事もあって、へにゃりとみいちゃんの胸に頭を持たせかけてしまいました。
「お、大人しくなったな」
……ぐったりしてる。っていったほうが正しい表現だと思います。
お湯の中で、ひょい。と持ち上げられ、みいちゃんの膝の上で横抱きに抱えられるような姿勢にさせられます。
何を。と言いかけたところで、本日二度目の口付けをされました。
「――んっ」
下唇を軽く咬まれ、前歯の裏を侵入してきた舌に擽られ、びくり。と身体が緊張しました。
何度も角度を変えて口付けられ、その度に口の中のあちこちをみいちゃんの舌が舐めてきます。
「……ぁ、はぁ……っ!」
下腹部にきゅう。とした痛みにも似た感覚が走り、何故か腰のあたりから力が抜けて行ってしまいます。
目の前にぼんやりと霞がかかり、みいちゃんの唇と舌と、ぺちゃぺちゃという水音しか解らなくなってしまい、そうに――。
「――っ! や、やぁっ!」
ふにゃり。と、胸を触られる感覚に悲鳴をあげます。
「うや、み、みいちゃんっ! お願いですから、ちょっと待って……っ!」
むりやり唇と手を引き剥がします。
「―――なンで待て?」
一応止まってはくれましたが、ものすごく不満そうなジト目でこっちを睨んできます。
と、いうよりも、完全に目が据わっててかなり怖いんですがみいちゃん……っ!
「……なァ、まゆ」
「は、はい……?」
怖いくらいに平板な声で名前を呼ばれます。
「あのな、そんッなに俺の事、嫌か?」
ち、違います、違いますよっ!?
別にみいちゃんの事がイヤとか嫌いとかじゃないんです、ないんですけどっ!
「い、いえあのっ!? わ、わたしが思うにですねっ、こういうコトは、お互い相手をよく理解して
じっくりとお付き合いを深めた上でっていうか、その、いつかそのうち、自然な流れで行うべき事で――」
がっちり抱え込まれた腕の中から逃れようと、水音を立てて暴れます。
「……生まれてこの方17年。間に2年と少し抜けたの勘定に入れても15年の付き合いだろが、俺ら」
上半身を強く引き寄せられ、後ろから私の首筋に頭を持たせかけるようにして、こっちの顔を覗き込まれます。
「……いまッさら。わざわざ深めなきゃならねェ仲でも無ェだろうが。
違うか? 俺ァな、それこそオマエの身体のどこにホクロがあるかまで知ってんだぞ」
そ、そりゃそうなんですけども。
「……あの、ちょっと……。……怖い。です」
そういうと、みいちゃんは真剣な顔でわたしの目をじいっと覗き込んできました。
「――あのな、難しいかも知れねェが、信用してくれ。
自覚したなァ12の時だが、多分、俺はそれよりずっと前からオマエの事、好きだったよ。
なァ、まゆ? 俺がさ、オマエさんの優しさに、どんだけ救われてたか」
少し照れくさそうに目を伏せてそう言い、もう一度、真剣な目でわたしの目をまっすぐ見て言いました。
「――できるだけ優しくする。約束する。だからな、童貞やるから処女よこせ」
……なんだってこう、甘い空気に冷や水ぶっかける言動しかできないのでしょうかこの人は。
「さ、最後の一言が凄く余計ですよっ!?」
「ああスマン。つい本音が」
「本音なんですかっ!? なんなんですかっ、そ、その、そういう事だけが目当てだって
思われても仕方ないですよこの状況っ! お願いですからちょっとは隠してくださいなっ!」
「ふざけンなよ、身体目当てだと? 馬ッ鹿野郎。身体だけで満足できるワケが無ェだろが。
全部欲しいンだよ俺は。なァ、真由子。俺の気持ちも身体も全部やるから、オマエの全部、俺によこせ」
……まったくもう。
わがまま。自己中。自分勝手の王様気質。
「……みいちゃんらしいなあ、もう。しょうがないんですから……」
いつのまにか、全身の緊張が抜けているのに気づきます。
くすくす笑いながら、憮然としているみいちゃんに顔を近づけて、唇に触れるだけのキスをします。
「わたしも、みいちゃんの事、大好きですよ。……それじゃ、あの、お互い交換って事で……」
言いかけた途端に抱きしめられ、胸やお尻に手が伸びてきます。
「ちょ、まっ、こ、ここではイヤ――っ!
お布団、お布団まで待ってくれないと、ホントに嫌いになりますからね――っ!」
ポカスカと頭や肩を叩きながらわめくと、ちっ。とあからさまに舌打ちをしてからようやく腕を離してくれました。
我慢できそうに無いから先にあがる。と言い残してそのままさっさとあがっていってしまいます。
……なんか、うれしはずかし初体験。という理想のシチュエーションには程遠いなあ……。
すいませんでした。
次こそはちゃんとした濡れ場をかけるように精一杯努力したいと思います。
それでは、またそのうち投下させていただけたら幸いです。
失礼しました。
あ、誤解されやすいですが、
瑞穂の発言は全部本音というか本能トークなので、
言ってる事は全て本気です。
ああ、野郎がこんだけストレート発言男でもそれはそれでいいかもしれん。
幼馴染としちゃレアかもしれんが。
79 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/20(金) 10:16:36 ID:Hmr2tO7n
なんつーかもうGJ!
元女だとは思えんって元から心は男だったかっつーか
おにんにんの問題は解決済みだっけ?
久しぶりですな
わくわく・・・
SSの男たちテラウラヤマシス
漏れなんてオサナに告ったら彼女がレズになってたからなorz
それはそれで楽しそうなんだが・・・
>>1スレ812氏
GJ!
瑞穂の長年の思いがついに…というところでしょうか。
ここまで欲望に忠実だと逆にすがすがしさを感じます。彼の本気度は伝わってますよー
>>82 それはそのネタでSSを書いて欲しいということか?
いやその物語は切ないだろ
86 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/20(金) 21:54:57 ID:Hmr2tO7n
>>82 ちょ・・・・・・それ、俺と同じ状況・・・・・・orz
なんかハードな人生を歩んでいる人が多いな(´・ω・`)
それを癒すためにも、やはり「レズになってしまった幼馴染みと、彼女を恋した男の子の物語」を……駄目?
傷えぐってどうするwwww
あれ?なんで俺が3人いるんだ?orz
まあ、今も付き合っててもそんな癖でてるんだ
俺の奥さんorzrz
そろそろ現実に戻ってこい
うむ。失恋野郎や貴様の奥さんの話などどうでもいい。
大事なのは幼馴染だ幼馴染。
幼馴染の方が現実なの?
94 :
とりあえずアゲ男:2006/01/21(土) 23:58:29 ID:HMpjxlUv
アゲ
2個もへんなカキコすまそorz
ちょくら逝ってくる。
ただ、これだけは言わせてくれ。
漏れの奥は幼なじみだ〜
つまり実話を基にしたSSを投下すると。
そういうことでありますな?
99 :
恥じらい肛門丸:2006/01/22(日) 21:14:20 ID:GshLpepl
「キャー!理香子のやつ、男物のパンツ穿いてる!」
この一言で、女学の名門、したたか女学院高等学校の二年一組の教室内が騒然とな
った。なんと、クラスで一、二を争うお調子者の加藤理香子が、ショーツではなく縞模様
のトランクスを穿いていたのである。
「何騒いでんだ、お前ら」
体操服に着替えようとしていた理香子は、顔を赤く染めて自分を囲むクラスメイトたちを
不思議そうに見た。確かにトランクスを穿いてはいるが、だからどうだというのか。理香子
の顔には、そう書いてある。
「ねえ、理香子・・・それ、男の人の下着でしょう」
「見りゃ分かんだろ」
「やっぱり!い、いやらしい!」
「お下劣よ、理香子!」
またもや教室内は大騒ぎとなった。クラスメイトは皆、理香子を見てはいやらしいだの、
生臭いだのと叫ぶ。ある者は頬を染め、またある者は縞模様のトランクスを食い入るよう
に見ては、ため息を漏らすのだ。
「いいな〜、理香子。彼氏持ちなんだ」
「へ?私が彼氏持ち?」
まさか、と言いかけた所で、理香子は口をつぐんだ。どうやら皆は、何か勘違いをしてい
るらしい。縞模様のトランクスをブルマの中へ押し込みながら、理香子は曖昧な笑顔を
作った。
>>98 いや、SSにするほどじないから。
はしょって書くと
中・高・大と学校同じ。付き合っておらず。→「一人暮らしの部屋代は安く」と二人ですみはじめ。
→就職しても「慣れたところだしなぁ」と二人で住み続け
→「10年同棲記念で何かするか」→「じゃいっそのこと結婚でも」→「いいね」
こんな感じだから
おいおい、投下中だぜ・・・
投下キター!
「そういえば理香子には、幼なじみの彼氏がいるもんね。恭平君だっけ?公立のコでしょ」
「あ、ああ、そんなのもいたっけな・・・」
確かにクラスメイトが言う通り、理香子には家族ぐるみでお付き合いをしている幼なじみが
いる。名は幸田恭平といって、中々の男前だが恋愛関係に及んでいる訳ではなく、あくまで
も仲の良い異性でしかない。
当然、肉体関係はおろか、キスすらした事が無かった。ついでに言うと、理香子はまだ無垢
である。
「パンツはその彼のなんだよね?ってことは、理香子はすでに穴開きかあ・・・」
「家も隣同士らしいよ。きっと、そのパンツは彼に命令されて、穿いてるのよ。俺の精液がこ
びりついたパンツを穿いて、学校へ行け・・・とか、言われて」
「いやらしい!理香子は、恭平君とやらの肉奴隷なのね!」
クラスメイトたちが何やら怪しい妄想を始めると、理香子の顔が引きつった。
「あの、私は別に・・・」
そう言いかけた時、
「理香子はクラスで唯一の彼氏持ちだから、羨ましいな〜」
と、誰かが情感たっぷりに言うので、理香子はつい、調子に乗ってしまった。
「・・・まあ、私も嫌いじゃないしね・・・そういうの」
どこか影を帯びたように、呟く理香子。ちなみに、言いながらブルマから色々はみださぬよう
膝を曲げて身だしなみを整える格好になっていて、それが恐ろしくみっともない。
「処女喪失はいつなの」
「小六・・・だったかな」
「は、早い!凄いなあ、理香子は」
「そうかな。フツーじゃないの、今時は・・・」
もはや退けぬ。理香子は一躍、時の人となった自分に集まる羨望の眼差しに酔っていた。
「ねえ、理香子。精子飲んだ事、ある?苦いって本当?」
「うん、あるよ。苦いけど、慣れると普通に飲める。まず〜い、もう一杯!って感じで」
「なんか、青汁みたい」
「実際、青臭いよ。皆も飲んでみれば?」
「あたし、絶対に飲めない。オチンチンから出る汁なんて」
「彼氏のだったら飲めるよ。まあ私の場合、恭平に仕込まれたって感じだけど・・・ふっ・・・」
今の理香子は、嘘に嘘を重ねる状態だった。性に疎いクラスメイトを騙すのは気が引けた
が、どうせここは女ばかりの学院。ばれる事もなかろうと、たかを括っていたのだが──
「ねえ、理香子。ちょっと、彼氏の写真、見せてくれない?」
無邪気なクラスメイトのこの言葉に、理香子は心臓が止まりそうになるほど驚かされた。
「しゃ、写真?」
「うん、写真。撮ってるでしょ?ケータイとかで」
「あ、あるよ・・・」
理香子は携帯電話を手繰り、恭平の写真を探した。
(確か、お正月に並んで撮ったやつがあったはず・・・)
毎年、両家は年始の挨拶を合同でやっているので、写真ならいくらかある。理香子は背に
冷たい汗を流しながら、なんとかお目当ての写真にたどり着いた。
「はい、これ」
幸い、ケータイにはツーショットの良い感じの写真が残っていた。向かって右に理香子、
左に恭平が写っている。ちなみに理香子は自他共に認めるお調子者らしく、おせち料理
の伊勢エビを頭の上に乗せながらのスマイルを写真に収められていた。
「うわあ、格好良い!いいなあ、理香子」
「羨ましい!この彼に毎晩、いやらしい事をされてるのね。ねえ、肉奴隷ってどんな気分
なの?」
「まあ、ご主人様に仕えるメイドみたいなもんよ。やりたい時にだけ来いって命令されて・・・
ふふ、でも私、拒めないの。だって、恭平の事、愛してるから・・・」
理香子は自分が悲劇の主人公にでもなったようである。本当の話をすると、恭平は理香
子を妹のように扱う優しい少年だった。好意はあるような無いような、微妙なバランスが保
たれており、それがまた心地良かった。しかし、今はそれを隠して、やたらと大人びた所を
見せねば気がすまない理香子。まさにお調子者の本領発揮と言えよう。
「ねえ、理香子。男と女って、付き合いが長くなるとお尻の穴でセックスしたりするって、
本当?」
「あ、それ、あたしも聞いた事ある。それに、縄で縛ったり、浣腸したりするって」
「便秘気味のやつには良いね。そう言えば理香子は、便秘知らずだもんね。やっぱり、
やってるんだ。ねえ、お尻の穴でするセックスって、どんな感じ?教えてよ」
「えーと、それは・・・」
クラスメイトたちの尽きない好奇心に、理香子は徐々に追い詰められていた。おまけに
皆、女学院育ちゆえ知識に偏りがある。理香子は内心、焦りを感じていた。
その晩、理香子は隣家の恭平を訪ねた。そして、開口一番──
「私を肉奴隷にして下さい」
と、土下座をしながら、頼んだ。もちろん、恭平はズッコケて座っていた椅子から転げ落ち、
脳天をしたたかに打った。
「いきなり、何を言うんだよ」
「だって、私・・・皆に、そう言っちゃったんだもん」
理香子は涙目になって、今日あった出来事を打ち明けた。学校にトランクスを穿いてた行っ
た事、そしてそれが原因で自分に恭平という彼氏がいる事になり、様々な性行為を営んで
いるという話になった事などを、包み隠さず言った。
「・・・という訳なのよ」
「ふむ。俺がお前の彼氏という話はともかく、どうしてトランクスなんて穿いて行ったんだ?」
「フレンチパンティの履き心地が良いって聞いて、欲しくなったんだけど、高くって手が出な
かったの。そんで、形が似てるトランクスを試してたんだ。百円ショップで買ったんだけど、
中々の履き心地でね」
「アハハハ!バカバカしい!アハハハハハハハハ!」
「笑うな!こちとら、真剣なんだよ!」
「これが笑わずにいられるかってんだ!このお調子者!アハハハハハハハハハハハハ!」
恭平は文字通り、腹を抱えて笑っている。この幼なじみのお調子者っぷりは知っているが、
まさかここまでとは思ってもみなかったからだ。
「ひとしきり笑った所で、話を戻すわよ。ねえ、恭平。あなた、アナルセックスってした事
ある?」
「無いよ」
「じゃあ、普通のセックスは?」
「それも無い」
「困ったわね。私のクラスじゃ今、恭平はSM狂いで女を女とも思わぬ色キチガイって扱
いなのに」
「おい、ちょっと待て!なんだそれ」
恭平は思わず身を乗り出した。自分の預かり知らぬ所で、おかしなプロフィールが作成
されてはかなわない。
「ちなみに私は、小六の時に無理矢理あなたに処女を奪われた、可愛そうな美少女って
事になってるの。そんで、肉奴隷。アソコの毛は剃られ、恭平専用って刺青がお尻に掘
られてるってね。ちょっと脚色されてるけど、その設定でよろしくメカドック」
「お、お前ってやつは・・・あのなあ、したたか女学院には、俺の知り合いだって居るんだ
ぞ!もし、そいつがその話を真に受けたら、どうすんだよ!」
「実はもう、同じ中学出身の連中の耳には入ってるの。嘘って怖いね。ひとつの嘘をつき
通すために、たくさんの嘘をつかなければならないなんて」
「大馬鹿者!」
温厚な恭平もさすがに怒った。が、理香子はそれを屁とも思わず、話を進めるのである。
「とりあえず縄とイチジク浣腸。それに、シェービングクリームと剃刀持ってきたから、これ
でひとつよしなに・・・」
「俺にどうしろって言うんだよ」
「あなたドラクエとか得意でしょ。これを組み合わせて、何が出来るか考えるのよ」
理香子に促された恭平は、目の前に並んだ道具を睨みつけ、考え込んだ。そして、
「分かった!」
そう言うや否や、まずシェービングクリームを手に取り、自分の顔に塗りたくった。次いで、
剃刀をあごに当て、大して濃くも無いヒゲを根こそぎいく。縄はまわしのように腰に締め、イ
チジク浣腸は頭の上に乗せ、大銀杏を気取った。そしておもむろに成った、と叫んだ。だが
理香子は瞬きひとつせず、
「それで面白いつもりか」
と、怜悧な顔で言うのである。恭平の懸命なボケを足元から掬った形だった。
「・・・悪かったよ」
「真面目にやろうよ。ね」
理香子は静かにカーテンを閉めた。恭平も観念したのか、階下にいる両親に様子を気取ら
れぬよう、部屋の鍵をかける。
「なあ、理香子。言っとくけど俺は、セックスなんてした事ないんだからな。お前もちゃんと
協力しろよ。パンツ脱いで股開いて、さあ──ってのは、無しだぜ」
「うん」
二人とも経験が無いので、すべてぶっつけ本番である。多少の不安はあるが、なんとか
なるだろうと理香子は思っていた。
「電気消すぞ」
恭平が室内灯を消したので、理香子の体が残光に照らされる。ちょうど理香子は上着を
脱ぎ、恭平に背を向けたままブラジャーを外している所だった。
「何か恥ずかしいね」
「あ、ああ」
「恭平も脱ぎなよ」
「分かってる」
慌ててズボンを脱ぐ恭平の目に、今度はショーツを脱ぐ理香子の姿が映る。背を丸め、
前かがみになった理香子は膝まで下げたショーツを、左足、右足と交互に抜き、それを
部屋の片隅に放り投げた。何かその様が妖婦じみていて、恭平は股間に激しい血の滾
りを覚えた。
「恭平、チンチン勃起してる?」
「う、うん」
「ちょっと見せて。味を知っておきたいの」
理香子は跪き、恭平の前へ傅いた。そしていきり勃つ男根を手にすると、何の躊躇も無く
それを舐める。
「ああ・・・理香子、やばいよ」
「うーん、特に味はしないなあ・・・匂いはあるけど」
案外、無味に近いので理香子は落胆したご様子。しかし、本番はこれからである。理香子
は気落ちせず、次のステップへと進んだ。
「恭平、とりあえず縄で私を縛って、ケータイで写真撮ってくれない?」
「え?なんで?」
「クラスの友達に見せてやるんだ。ホラ、私、肉奴隷って事になってるから」
「処女のくせに」
「いいから早く。言われた通りにして」
あまり気は進まないが、頼まれれば嫌とは言えないので、恭平は理香子の上半身を
縄で縛り、ベッドへ寝転がした。その姿を、彼女は自分のケータイに記録してくれと言う。
恭平は複雑な思いを胸中に秘めつつ、淫らな被写体をカメラに収めていった。
「どう?私、エッチな顔つきになってる?」
「うん。エロいと思うよ」
「そうかあ・・・ふふッ、ありがとう、恭平」
理香子は自らポーズを幾度も変え、シャッターを切ってとせがんだ。その時、恭平は理
香子の女陰に光るしずくに気がついた。
「お前、濡れてるじゃん」
「えへへ・・・ちょっと、興奮してるかも」
理香子は足を高く組み替えた後、体を後ろ向きにした。そして尻を高く上げ、後ろ手に
縛られた上半身をベッドに預ける。
「・・・恭平。オチンチン、お尻に入れて・・・で、それも写真に撮って」
「え?お尻って、お尻の穴にか?」
「そう。私、アナルセックス大好き女って事になってるの・・・」
理香子は声を潜めて呟き、肩を揺らした。尻を揺らしたつもりなのだろうが、縄の戒め
のせいで体全体が揺れている。
「尻の穴にチンポコ、入るのかな」
「大丈夫よ。私、毎朝、それよりも太いのを、そこからひり出してるんだから」
「・・・ちょっと、それの匂いがする」
「拭きが甘かったかな。女って、そういうもんよ」
少し恭平の男根が柔らかくなった。男は案外、デリケートなのである。
「初体験がケツって、イヤだなあ。なんか、変態っぽくて」
「いいのよ。恭平はウチのクラスじゃ、変態以上の存在なんだから」
「頼むから、いつか皆の誤解をあらためてくれよな。そんじゃ・・・」
恭平はシェービングクリームを男根に塗り、理香子の菊蕾へも塗った。
「ひゃッ!何か、変な気分・・・」
「指がすんなり入ったぞ。これなら、チンポコも入るかも」
「入れてもらわなきゃ、困るのよ」
桃尻を割り、恭平の男根が理香子のすぼまりを狙う。男根の先はすでに半ばまで没して
おり、あと一息で恭平は己が分身を理香子の胎内へ収める事が出来るのだ。
「ううッ!入っていく!」
「ああッ!入ってくるッ!」
次の瞬間、理香子の背がぐんと反った。尻を見ると、物の見事に恭平の男根がそこを穿っ
ている。そして、理香子のケータイはシャッター音を響かせ、秘密めいた若い男女の痴態
を収めていくのであった。
それから一ヵ月後。理香子はクラスの中で、ちょっぴり浮いた存在になっていた。
「ねえ、アヌス・・・じゃなくって、理香子。最近、彼氏とはエッチしてるの?」
「まあね」
「大変でしょ。アナルセックス好きの彼氏を持つと」
「もう、慣れたから」
言いながら理香子は歯噛みしていた。出来れば、こんな質問をしてくるやつをぶっ飛ばし
てやりたいとさえ思っている。しかし、つとめて冷静に振舞っていた。
実は最近、クラスの中で一人、処女とオサラバした人物が現れて、その時の様子を事細
かにクラスメイトへ報告したのである。すると、これまで唯一、男を知る(ふりをしていた)
理香子の性癖が一般的ではない事に、皆が気がついてしまったのだ。特に、アナルセッ
クス好きという所にツッコミ甲斐があり、理香子は肛門性交が大好きな女子高生という、
珍妙な認定をされる羽目となる。しかも男物のパンツを穿く、変態M女というレッテルも
頂いた。もう、フルコースである。
その上、性交中の写真をケータイに収め、それをクラスメイトたちに自慢げに見せてやっ
た事が痛い。内容はすべて、私は変態ですと言わんばかりの物で、その香ばしさは超
高校級。精液を飲むとか、私は肉奴隷ですなどと言った事も全て、裏目に出てしまった。
「エッチなメイドくらいにとどめておくべきだった・・・」
後悔しても後の祭り。理香子は生来のお調子者ぶりを反省し、しばらくは大人しくして
いようと思うのであった。
おしまい
ブワハハ・・・GJ
ハハハハ…
GJ
こやつめ
GJ
さすが…GJ!
いつもいつもGJ。
お調子者最高ー!
ハハハ・・・こやつめ
ハハハハ・・・
GJ!
<<雪炬燵熱弁>>
「へえ、それで二人は付き合い始めたんだ。確か清水先輩って大学サッカーでも有名だったもんね。」
差し向かいで炬燵に入って話す。お正月特有の贅沢とも言える。
窓の外では昨晩から深々と雪が降っていて町並みは凍りついたように物音一つしない。
けれど今、暖色に彩られた涼子さんの部屋の中では珍しくローリングストーンズなんかが掛かっている。
「うん。だいぶ前に清水君が大学のリーグ戦で得点王を取ったとか京子は言っていたな。
残念ながらJリーグ入りは適わなかったらしいけれど。」
炬燵に座り込み、ぎりぎり座れる位まで下半身を炬燵に突っ込んだ態勢で話していた涼子さんは
蜜柑を一切れ口の中に放り込みながらもむもむと話している。
話の途中で炬燵の中から脚を蹴飛ばしてきたりして、よく言えばリラックス、常識的に見れば中々に行儀が悪い。
「それでもすごいよ。」
「うん。大した物だ。」
2人で頷きあう。先程まで涼子さんの高校生のときの同級生、箕郷京子さんの事を話していたのだ。
極度に緊張症の幼馴染である清水先輩との恋物語はハラハラあり、ドキドキありと中々手に汗を握らされた。
涼子さんは中々に話し上手だ。
記憶の中の清水先輩というと涼子さんの同級生、つまり自分から見れば一つ年上でやたらとモテると噂の
サッカー部のエースの人という記憶しかないので女の子が苦手な清水先輩や、
コンプレックスから他の女の子と付き合ってしまう清水先輩の話なんかは新鮮で目から鱗だった。
まあ誰でもコンプレックスの一つや二つは持っているものなんだろう、とそう思わされる話だった。
( _,, -''" ', __.__ ____
ハ ( l ',____,、 (:::} l l l ,} / \
ハ ( .', ト───‐' l::l ̄ ̄l l │
ハ ( .', | l::|二二l | ハ こ .|
( /ィ h , '´ ̄ ̄ ̄`ヽ | ハ や │
⌒⌒⌒ヽ(⌒ヽ/ ', l.l ,' r──―‐tl. | ハ つ │
 ̄ ', fllJ. { r' ー-、ノ ,r‐l | ! め │
ヾ ル'ノ |ll ,-l l ´~~ ‐ l~`ト,. l |
〉vw'レハノ l.lll ヽl l ', ,_ ! ,'ノ ヽ ____/
l_,,, =====、_ !'lll .ハ. l r'"__゙,,`l| )ノ
_,,ノ※※※※※`ー,,, / lヽノ ´'ー'´ハ
-‐'"´ ヽ※※※※※_,, -''"`''ー-、 _,へ,_', ヽ,,二,,/ .l
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ `''ー-、 l ト、へ
ぐはっ、割り込んでたごめんなさいorz
「清水先輩というとなんだかすごくモテてたという記憶しかないんだけどなあ・・・」
「皆色々と大変なんだ。恋愛というのは一杯の人に好きだと言われても、
一人の人だけを好きだと思っていても結局同じだけの苦労をするんだな。」
そういって涼子さんは笑った。笑いながら涼子さんは炬燵の上に物憂げに手を伸ばす。
「涼子さん、その蜜柑何個目?」
よしもう一つ、と炬燵の上から蜜柑を取り出す涼子さんにとがめるように声を掛ける。
む、と涼子さんは手を止める。
僕の計算が正しければ午後1時から3時までの間で涼子さんは既に4個の蜜柑を平らげている。これが5個目だ。
因みに昨日は確か10個くらいを平らげている。段ボール箱一箱買っておいた蜜柑はもう既に残り少ない。
正月休みだからといってあんまり親の仇のように蜜柑ばかり食べるのもどうかと思うのだが、
果物の好きな涼子さんは炬燵に根を下ろすと蜜柑が止まらなくなるらしい。
「体が蜜柑色になるよ。」
「蜜柑はビタミンが豊富だから体に良いんだ。」
返答になっていない言葉を呟きながら涼子さんは蜜柑を手に掴んだ。
部屋のストーブはカンカンと燃えていて、部屋中が暖かい。
物憂げなお正月の夕方。夕食の時間まであと少し。
コンポからはミックジャガーの歌う少し緩めのロックンロール。
こういうだらだらとした時間は案外と過ぎるのが早くて、
だらだらとしているようでいてそれなりに幸せなのだろうと思う。
「そうそう、その後の話だ。匠君、私が高校3年生の時の話なんだけどな。」
ぺりぺりと蜜柑の皮を剥いて、涼子さんは話し始めた。
@@@@
校門から私の足できっかり542歩。
下駄箱の入り口のは校舎からは逆側で野球部とサッカー部が練習するグラウンドを迂回するようにして行かなくてはいけない。
更にスロープ状になっている部分をぐるりと地下一階分降りて、下駄箱に着く。
この学校の一年生はこの下駄箱の所為で大抵一度や二度は遅刻をする。
その上、下駄箱は無駄に広くて電灯が所々切れていて暗くて夕方、
すっと暗くなる時刻なんかは逢魔ヶ時と言う言葉を思い出すくらいにとても怖い。
その代わりと言ってはなんだけれど、人がいないから人目を忍ぶのにはもってこいだ。
放課後カップルがこそこそと隅っこに取り付けられているベンチに座って何かを話していたりする。
そして、この学校でラブレターを人目に付かず入れるとするなら、ここしかないのだ。
つまりだから、毎日毎日隣でにらみつけている私の目を避けるようにコソコソとあいつは下駄箱を空けるのだ。
---ばさばさばさ
予定調和のように白いのやらピンク色やらの手紙が落ちる。
いくつかはすのこを潜って冷たい色をしたリノリウムの床に散乱する。
いつもの事だ。慣れている。
そして目の前のこいつは困ったな。と言うような顔をしてそれを拾うと無造作に鞄に突っ込む。
別に手紙と言ってもこいつの下駄箱がポストな訳でもこいつが郵便配達のバイトをしている訳でもない。
どちらかと言うとポストと言うより郵便箱に近い。
あいつの下駄箱には住所があって、何故だかピンク色や白色の手紙がよく舞い降りると言う訳だ。
ふん、と私は顔を逸らして歩き始めた。
ニヤニヤしちゃって。そんな手紙は捨てれば良いのだ。気に入らない。
そもそも第一、何でこんなに異常にもてるのかと言う話なのだ。
奴の風采は別段ジャニーズみたいにカッコ良い訳じゃない。
まあ確かに顔はすっと鼻筋が通って美男子と言えなくもないけれど。
サッカーをやっているからか蟹股で何を着ても似合わない。大体いつもジャージばかり着ている。
それに口下手だし、私にはどちらかというといつもぼんやりとしていて口を半開きにしているようなイメージがある。
それに子供の頃は何をするにも不器用だったし、苛められては私の後ろに隠れて泣いていたりしたのだ。
きゃあきゃあ言っている女の子たちは知らないだろうけれど、こいつは幼稚園の頃、
一緒にお風呂に入った時に水を掛けたら泣いてしまう位に泣き虫だったのだ。
まったくもって情けない男だ。
なんでこんなにもてるのだろう。本当にわからない。
「京子、待ってくれよ。」
慌てて追いかけて来るあいつを振り切るように歩く。
なんでこんなに苛苛とするのか。
大変なばっかりじゃないかと思った。
ただの幼馴染だった時はこんなことは無かった。
勿論ほのかに気にかかってはいたから色々と思い悩んだりもしたけれど、
それでも何であんな奴がそんなにもてるのだろうと首をかしげる方が多かったのだ。
「何を怒ってるんだよ。」
「別に。」
何がサッカーだ。少々上手いくらいで何でそんなにもてるのだ。
大体もてはやす女も女だ。
田村亮子が何十連覇しようとも、レスリングがいくら強くとも男たちは全然ちやほやとしないではないか。
男女差別だ。
少々サッカーが出来る位、何なのだ。
「別にって怒ってるじゃないか。」
「怒ってなんかない!」
そもそも何なのだという話だ。
付き合い始めた。それは良い。
それなのになんで私が後ろ指を刺されなくてはならないのだ。
「清水君も手近なところで我慢したんだぁ。」じゃない!
手近なところで我慢された覚えはまったく無い。
女の子と話せないという奴の泣き顔を知らないからそんな事が言えるのだ。
「ふーん・・・箕郷さん、清水君に付き合って貰ってるんだぁ。」じゃない!
いつからあの泣き虫がそんなに偉くなったのだ。
ずっと一緒にいたから、あいつの事は誰よりも知っているのだ。
昨日今日サッカーの試合を見てきゃあきゃあと叫んだ女が何を言っているのだ。
私は振り向いて叫んだ。
「何よニヤニヤしちゃって!そんなに嬉しいならそっち行っちゃえばいいじゃないか!
いっつもいっつもラブレター貰って、私には何にも言ってくれない癖に!馬鹿ぁ!」
残響が下駄箱内にぐわんぐわんとこだまする。
あいつは吃驚した顔をして立ち止まった。
少し悲しそうにぼりぼりと頭を掻いている。
ええい。言った後に後悔するのなら、言わなければ良いんだけれど。
@@@@
夕暮れの光が店内に差し込んでいた。
窓際に掛けられている柱時計はもうすぐ5時を指そうとしている。
「つまり恋人が、愛の言葉をささやいてくれない。」
と、恋する乙女にはそれが不満だった訳だな。と目の前に座っている友人の岸涼子は口にした。
学校帰りのフィッツジェリコには誰がいるかわからないというのに、周り中に聞こえるような大声で。
いつも涼子はてんでそういうことに無頓着だ。
その声の大きさに隣の客に聞こえたかと私は周りを見回す。しっと手を口に当てると涼子は不思議そうになんだ?という顔をしている。
まったく判っていない、と思いながら私は溜息をついた。
どう見ても恋人に甘い言葉をささやいて貰いたがるようなタイプじゃあない。
涼子に相談したのは人選ミスだったかもしれない。
「確かにそういう一面もあるんだけどさ。そう言ってしまうとなんだか自分が我侭を言っているみたいじゃない。」
ふう、と溜息をつく。
「いいじゃないか我侭で。私には恋人はいないけれど、もしいるのであればそう言う事はきちんと言って欲しいと思う。」
「あれ、涼子もそういうこと言って欲しい人?」
涼子の言葉が少し以外で、私は慌てて聞き返した。
どちらかというと岸涼子は独立独歩なタイプで男の子に甘い言葉を吐いて欲しいとかそう云う事を言いそうなタイプじゃあない。
そう思っての言葉だったが、涼子は心外な。という風に目を丸くした。
「当たり前じゃないか、私だって女の子なんだ。もしそういう関係の男性がいれば、恋心は色々と言葉を尽くして語って貰いたい。」
涼子はぼうっと宙を見ながら「君の瞳に恋するまで、僕は死んでいたようなものさ、ベイビーとか言って欲しいな。」
などと物騒な事を呟いている。
堅物と思えばこれだ。中々に掴み所が無い。
「へえ。ふーん。それは匠君にって事?」
ふとからかう種を思いついてニヤニヤとしながら聞いてみた。
匠君と言うのは図書委員の涼子が図書室で声をかけた年下の男の子だ。
真面目そうな風貌をして、図書室でヘッドバンキングをする迷惑な奴だから注意するために声をかけたとか言っていたが真実はどうだか怪しいものだ。
とにかくその声をかける半年前、図書室に変な奴がいるという話をし始めて以降、
美人の癖に男嫌いで浮いた話の一つもなかった涼子はその男の子の話ばかりしている。
変な奴はいつの間にか名前が判明していて事ある毎に匠君が匠君がとそれはそれはかしましい。
寧ろ恋する乙女という形容詞は私よりも涼子の方に似合うのじゃないか。と私は思う。
「む、匠君はそういうのじゃない。」
そう言いながらも涼子はぎくりと体を震わせた。カチャカチャとフォークが皿に当たる。
体中に動揺が走っているのは隠し切れていないが、耳まで赤くしなかった所はさすがだ。
「じゃ、どういうのよ。」
「匠君は弟みたいな物だ。別段男女交際をしているわけじゃないのだから関係が無い。
それに大体今日は京子が相談があると言ったのであって私の事はどうでも良い。」
むむむ、と私達は睨み合う。
「そもそもだ。話は戻るが、清水君は京子になら普通に話せるのだろう?緊張するのは京子以外の女の子だ。そうだとしたら京子に愛の言葉を囁かないのは緊張するからしないからではなく、そもそも清水君の資質にあるんじゃあないか?」
ふん。と目を逸らしながら涼子は中々に耳に痛い正論を言ってきた。
そうなのだ。
気に入らない事に奴は例えばサッカーの話になればワールドカップがどうの、
やれストイコビッチがどうなのビスマルクがどうなのと実に饒舌に話す。
その癖、腹立たしい事にそれ以外の話に関しては途端にああだのうんだのと実に歯切れが悪くなる。
目の前の涼子はふん、と胸を逸らすと又スパゲティーをつつき始めた。
いつの間にか2皿目のスパゲティーもあらかた皿の上から消えてしまっている。
いくらフィッツジェリコのスパゲティーが美味しく、そして相談を掛けた私の奢りだからと言って2皿は食べすぎだ。
指摘するとどうせ私は太らないからとか我慢するのは体に良くないとか理屈を捏ねるのだろうがそれはそれで腹が立つ。
「でも、それだけじゃないかもしれないじゃない。もしかして私の事をそれほど好きじゃあないとか、」
「清水君がか?それはないだろう。」
「でも、前に由香って娘と付き合ったし、もしかしたら」
そんな事は無いとは思う。それでも不安に思うことは不安に思うのだ。それを吐き出す。
「あのな。京子。」
と言って目の前の涼子はカタン。とフォークを置いた。
と言っても食べるのを止めた訳ではない。食べ終わったのだ。
「何を馬鹿な事を言っているんだ。京子と清水君は一度好きだとお互いに確認しあったのだろう?なら大丈夫だ。
心配なんかする事はない。京子が言って欲しい言葉があるならこう言って欲しいと清水君に言えば良い。
して欲しい事があるならこうして欲しいと言えばいい。それだけじゃないか。
大体言って欲しい事があって、それを言ってもらえる立場なのにその希望を伝えないで唯待っているなんていうのは贅沢な話だと私は思う。」
それより食後にコーヒーが飲みたいんだけれど、良いだろうか。と、目の前の親友は空になったコップを振りながら言った。
「そうかなあ。わからないな。」
私はコーヒーまで集られては堪らないと自分のお冷を涼子に向かって差し出しつつそう答えた。
@@@@
涼子の言葉はなんとなく判るもののなんとなく腑に落ちず。
次の日も次の日も、あいつがサッカー部の練習だった事を良い事に私は一人で帰った。
いつもなら図書室で帰りを待ったりもするのだが、そんな気分にもなれなかった。
そして週末の金曜日。
授業を終え、私はふらふらと下駄箱に歩いた。
涼子でも誘ってフィッツジェリコで自棄スパゲティーでもと思ったが、
奴は真面目な顔で「匠君が勉強をするなどと言っているんだ。まったく仕方が無いから数学でも」
云々と嬉しそうに言いだしたのでふん。と言って捨ててきた。
あれからずっと、無性にむしゃくしゃとした気分だった。
部屋の窓は締め切ってカーテンを引いた。あれから一言も話していない。
なんだか何もかもが気に入らない。
私は苛苛とした気分を抱えながら下駄箱の蓋を開いた。
と、中から何かが落ちて足元に当たったのを感じた。
足元をじっと見る。
ほいと持ち上げてみると、小さな封筒に汚い字で「京子へ」と書いてある。
この字は知っている。あいつからだ。ぼうと手紙を見つめた。
練習前に入れていったのだろうか。
----そして。
私はなんだ、こんなものかと思った。
ラブレターを貰うなんてこんな事なんだ。と。
貰ってみるとなんと言う事は無い。
なんだそうか。というようなものだ。
開いてみようとして、その手を止めた。
中に何が書いているかなんて大体想像がつく。
口下手な人間が饒舌に手紙を書けるわけなんてない。
でも。何故だか口元が緩むのを感じた。
ロクに喋れないあいつは何を考えてこれを書いたんだろう。なんて書いてあるんだろう。
あいつはきっと随分頭を絞ってこれを書いたんだろう。
きっと何時間も。週末まで掛かって。
涼子の心配なんかする事はない、と言う言葉を思い出した。
なんだ。あいつはちゃんと私の事を考えてるんじゃないか。
私は笑った。
現金にもなんだかさっぱりとした気持ちになりながら、私は一人で笑った。
手に持った手紙を鞄にしまう。
私が奴からもらった初めてのラブレターは家に帰ってからじっくり読もう。
きっと読むに耐えた物じゃあないだろうけれど。
苛苛していた気持ちがすっと消えていくのを感じた。
そう。何を苛苛としていたのか。
幼馴染だからといって、彼女だからといってあいつの事を好きなほかの女の子より偉いわけなんかじゃない。
私だってあいつにラブレターを渡してきゃあきゃあと騒いでいる皆と一緒じゃないか。
踊らされて、馬鹿みたいに狼狽して少しの事で舞い上がったり大笑いしたりして。
でも先程までの気持ちはどこへやら、今それは何故だかちっとも嫌ではなかった。
涼子の言う通りだ。私だって好きだと言って欲しかったらラブレターを出せば良かったんじゃないか。
今度書いてみよう。大好きだって。好きって言ってほしいんだって。
とんとんと靴を履いて、下駄箱の中をもう一度確認する。
うん。残念ながらラブレターは一通だけ。
これからも貰える事は無いかもしれない。
なんて言ったって私の事を好きになったらライバルはあいつなのだ。
でもそれで良いのだ。今度は私の番だ。
昨日までの嫌な気持ちはすっかりと消えて、なんだか私はニコニコとしている様な気がする。
なんて、なんて単純な。呆れ果てる。
でも、そういえば涼子が言っていた。
「君の瞳に恋するまで、僕は死んでいたようなものさ、ベイビーとか言って欲しいな。」
うん。今思うに悪くないじゃないか。中々素敵だ。言われてみたい。
そう思いながら外へと駆け出す。
うん。馬鹿みたいだ。自分でも思う。
でももしかしたらそれは自分が今、十分に幸せだからかもしれないと、私は思った。
☆★
だむぅっと机が叩かれる。先程までの怠惰な雰囲気はどこへやら。熱弁である。
「つまりだな、ラブレターの意味が判るか、匠君。清水君はだな。彼女に対して直接的に愛の言葉は囁けなかったかもしれないが、
彼なりのやり方で一生懸命に工夫をしたんだ。不器用な形ではあるだろうが。
京子は不器用だなんだと文句を言いながらそれがとても嬉しかったんだ。」
いつの間にか昔話はお説教へと形を変えていた。
話の途中から俯いてしまった俺にブンブンと手を振り回しながら話していた涼子さんが何かを言いたげにキッと見下ろしてくる。
いつの間にか蜜柑は食べ終わっている。
うん。最近、涼子さんはロックンロールに例えずとも実に上手い具合にお説教をする術を身に付けてきている。
「京子は嬉しそうだったなぁ。」
最近ラーメンを食べに行ったり、本屋に行ったりといった事ばかりで
あまりロマンチックな努力に欠けていることを涼子さんは言っているのだろう。
確かに手を抜きがちだったかもしれない。
「はい・・。以後気をつけます。」
お説御尤もで御座います。自然頭も垂れる。
今度の日曜日、偶には夜景が綺麗な所とか、可愛い人気者の鼠のいる遊園地なんかはいかがなものだろうか。と脳内でリストアップする。
「経済力だとか、女性に対する理解力とか、最近ではそういうのが男性の魅力みたいに取りざたされているようだけど
私はそういうのは判らない。お金は一緒に稼げばいいし、理解しあうのなんて御互いが努力して当たり前だ。
そんな事よりだな。」
涼子さんは一つ息をつく。
「美しくいようと努力する事を、女性らしくあろうとする事を努力する女性を嫌いな男性がいないように、
きっとロマンチックに振舞われる事が好きじゃない女性なんて、いないんだ。
お互いがそうであるべき姿、そういう事を忘れるのは良い事ではないと、私は思う。」
そこまで言って涼子さんは蜜柑をもう一つ手にとると、うん。と言いながら炬燵から立ち上がった。
「さて匠君、行こう。」
手を伸ばしてくる。
「どこへ?」
座り込んだまま問い返すと涼子さんは何をいっているのだと云うような顔をして真っ白になっている窓の方を指差した。
いつの間にか深と降り続いていた雪はやんで、外はからりと晴れていた。
窓の下を見ると先程までの人一人いない雰囲気から一変して近所の子供だろうか。きゃいきゃいと何か騒いでいる。
「雪が降っているじゃないか。雪だるまを作りに行こう。大きいのを作った方が勝ちだ。」
そして。
匠君は判っていないな、こういうのをロマンチックな誘い方というのだ。と言ってにっこりと笑った。
了
---------------------------------
もはやお正月SSでもない時期ですが。
でも週末雪が降ってちょっとお正月気分でした。
明けましておめでとうございます。
では。
ノシ
感動した。色々広がる世界とか人間関係とか文章とかひっくるめて心から感動した。
GJです。
キタコレ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
GJ!!
いつもながら素晴らしいです。
こうまですっと情景が頭に浮かんでくる文章なんて商業作品でも少ないのでは。
尊敬します。
GJです。前の作品からも含めてこういう話大好きです。
匠涼子シリーズ大好きです
また書いてください
GJ。
楽しく読ませていただきました。
GJ!!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
久々の投稿感謝です。やっぱりほのぼのしますなぁ…
自分のを元に結婚ネタとか書くんだろうな
俺そのゲーム知らないし…別にいいんじゃない?
おもしろいほうがジャスティス
幼馴染みエロが書きたくなったので、短編やってみました。
お約束全開ですが、まあ御勘弁を。
150 :
1/14:2006/01/25(水) 17:30:24 ID:J6uFD8xI
「告白」
1.
「……あの、この前の手紙の返事なんですけど」
「…………うん」
俺はごくりと息を呑む。
緊張の一瞬。
学校の屋上、放課後。俺は女の子と二人きりだ。
相手は大谷サキちゃん。俺たちの学年では一、ニを争うかわいいお嬢様。
夕日が彼女の顔をオレンジに照らし出す。
「お断りします」
あ、ああああ――――
その瞬間、俺は思わず膝をつきそうになるほど脱力する。
とはいえ、「尊敬する人:ラオウ」の俺は何があっても膝はつかないのだ。
いや、格好をつけても意味無いが。
「ど、どうして……?」
聞いても無駄だと分かっても、聞いてしまう男の性(さが)。
そして、答えてしまうのは女の引け目。
サキちゃんは顔一杯に作り笑いを浮かべながら答えた。
「だって……久我山くんの言葉、信用できないもん」
「そ、そんなことない! お、俺は入学以来ずっと、大谷さんのこと見てた――」
決め台詞を吐こうとした瞬間、サキちゃんの目線が鋭くなった。
すげえ、怖い。
「それ、C組の向井さんにも言ったよね、二週間前」
げ、げげっ。ばれてる。
「一ヶ月前には私のクラスの桐原さんに告白したんでしょう?」
な、何故そんなことまで?!
打ちのめされた俺を、サキちゃんは軽蔑するように見下ろしている。
夕日が山の向こうに消え、俺の心もくらーく闇に沈んでいくようだった。
「そういう人、わたし嫌いなんです」
最後の一撃を放って、サキちゃんはさっさと非常階段を降りて行ってしまった。
俺、久我山高志の、今年に入って五回目の失恋だった。
151 :
2/14:2006/01/25(水) 17:30:51 ID:J6uFD8xI
***
「ほんと、久我山は最低だね」
その日の帰り道、俺は洵子といっしょに帰っていた。
奈良橋洵子。幼稚園以来の俺のお隣さん。腐れ縁なのか、小学校はもちろんだが、中学高校とずっと同じだ。
昔から口うるさい女だったが、高校になった今では「キツイ」としか言い様が無い。
への字に結んだ口といい、一重の細い目といい、くっきりした眉といい、コイツの性格をよく表している。
「うっせーなー。俺はただ好きになったから『好きです』と伝えただけだ。それのどこが最低だ」
「だって、二ヶ月で五人に告白って、どう考えてもおかしいでしょう」
ふん、と鼻を鳴らし、洵子は長い黒髪を手でかきあげた。
俺を叱るときのいつもの仕草。
これをやられると、何故か俺は口の中でもごもごとしか言い訳できなくなる。
二人で並んで帰る道のりが長い。
洵子の無言の抗議が、ほんの五センチ横からひしひしと伝わってくる。
俺は家までの街灯を一つ一つ数えるようにして、早く帰り着くことだけを考える。
こいつに捕まったのが災難だ。
洵子は図書委員なんてものをやってるせいで、俺が帰るのを目ざとく見つけやがる。
図書室からは校舎の入り口から校門まで丸見えなんだ、ウチの高校。
「……だいたい、どうして久我山はそんなに彼女なんか欲しがるの」
軽蔑したような言い方。ちょっと嘲笑うような響きも混じってる。
半笑いで、俺の方をちらちら見ている。
くそ、むかつくな。
でも、俺はそれを黙殺するほどの度胸は無い。
「だってさ、後藤も灰神楽も、ガンまで彼女持ちになっちまったんだぜ。 俺だけ独り身って、おかしいだろ?」
三人とも俺の友達。ガンは小学校以来の洵子と共通の友達だ。
だが、そう答えた途端、洵子はぷっと吹き出した。
「後藤くんの彼女はずっと部活で一緒だった子で、お互い息ぴったり。灰神楽くんは頭いいし優しいし、至極当然。
ガンちゃんなんて、小学校から好きだった子にやっと告白したんだもの。久我山とは真剣さが違うでしょう」
「奈良橋はなんでいっつもガンの肩持つんだよ」
俺は不満げに睨みつけ、ちょっと足を早める。
でも、俺より運動神経のいい洵子は、ぴったりと俺の隣についてくる。
「つまり見得なわけね。呆れた」
「見得じゃねーよ、男には色々あんだよ」
「例えば?」
意外そうな顔をしている洵子に、俺はまた口ごもる。
こいつの「何で」と「例えば」はしつこくていけない。でも、答えるまで質問を止めないのを、俺は知ってる。
「……例えば、馬鹿にされるんだよ。その、『チェリー君』とか言われてよ」
「――――サイッテー」
ぞくりと俺の体が震えた。
恐る恐る洵子の顔を伺うと、眉間に深さ八ミリぐらいのしわを作って、俺を睨んでいる。
しまったと思っても、もう遅い。
「女の子の体目当てなんだ。最悪、最低、ケダモノ、ヘンタイ」
「う、うっせーな。仕方ないだろ、そういうの気になるんだから……」
言い訳にもならない言い訳をして、俺はまた押し黙る。
洵子も、もう口を聞こうともしなかった。
幸運にも、俺たちの家はもうすぐそこだった。
「じゃあな」
「最低男。さっさと死んじゃえ、ば――か!」
俺にそんな言葉を投げかけ、洵子は振り向きもせず家の中に消えて行った。
ちぇっ、何だよ。
俺の苦悩と焦りが女に分かるかってんだ。それこそ、あんなトカゲみたいな冷血女に。
閉じられた洵子の家の扉にべーっと舌を出し、俺は隣に建つ自分の家に向かった。
152 :
3/14:2006/01/25(水) 17:31:13 ID:J6uFD8xI
2.
それから何日かたった日曜日。
夕食後、突然電話が鳴った。
相手は後藤の野郎だった。そして、俺を待っていたのは、一番聞きたくない報告だった。
全身の力を吸い取られたようになって、俺は二階の自室に戻る。
ベランダに出て、手すりにもたれかかり、夜空を見上げた。
はあぁぁぁー。
でっかいため息をつく。
それが聞こえたのか、俺の姿を見つけたのか、隣の家の窓が開いた。
「なーにたそがれてんのよ。またフラれたの?」
肩越しに聞こえる洵子の嘲笑を、俺は首を振って否定する。
「後藤から電話があってさ」
ぽつり、と呟く。
「今日、彼女とデートだったんだと。そんでさ……ラブホ、行ったんだって」
「そういうこと安易に言いふらすから、あんたは最低なのよ。本気で死んだら?」
洵子に馬鹿にされても、俺はもう全然平気だった。
なんつーか、もうダメージを受けるだけ受けたから、これ以上殴られても痛くないっていうか。
なんか、友達が遠くなっていくような気がした。
後藤が大人の階段昇ってる同じ頃、俺は相変わらず休日をFFの攻略に費やして。
皆はバレンタインのチョコはどんなのがもらえるのか、彼女のお菓子作りの腕前自慢してるってのに。
土日でレベル○○まで言ったぜーなんて話、あの三人の前でしたらいい笑いもんだ。
遊びに誘っても断れること増えたし、共通の話題もだんだん無くなって。
あーあ……。
学校、行きたくねえなあ……。
「何、人の話無視してぼんやりしてんのよ」
「うおっ」
突然すぐ隣から声をかけられ、俺はのけぞった。
いつの間にか洵子がすぐ傍に立っていた。
何しろ俺たちの家の二階はベランダのおかげで握手できるぐらい近い。
女でも軽く渡れる幅だ。
「……そんなにさ、セックスしたいわけ? 何で?」
洵子はもう完全に理解できない、といったように首を傾げている。
そう直球で聞かれると俺も困るけど、言ったようにコイツの「何で?」はしつこい。
「したいっていうかさ、友達がみんなその話してるのに、俺だけ除け者になるのが嫌っつーか」
「久我山の考えること、ほんと、これっぽっちも分からないわ」
二人並んで手すりにもたれかかりながら、俺たちはしばらく黙った。
俺は別に洵子に分かって欲しいわけでもないし、洵子は洵子で、自分なりに考えをまとめているようだった。
と、そのとき洵子が小さくくしゃみをした。
大丈夫か? と声をかけるより、洵子が動く方が早かった。
「とりあえずここ寒い。久我山の部屋いこ」
そう言い終わる前に、洵子は勝手に俺の部屋に続く扉を開けていた。
153 :
4/14:2006/01/25(水) 17:31:41 ID:J6uFD8xI
「……で、セックスだけどさ。久我山は『一番好きな人』としたいと思わないの?」
「『セックスしてえよー!』って思うのも『一番好き』の範疇に入るんじゃねえの。俺はそう思ってるんだけど」
というのは友達からこっそり回してもらった十八禁ゲームの台詞の受け売りだが、俺は割とマジだった。
「それ、原因と結果が逆よ」
「そうかなあ」
洵子は俺のベッドに腰をかけ、脚を組んで俺を見下ろしている。
というのは、俺が床にあぐらをかいているせいで、相手の方がずっと視線が高いからだ。
なんだかそういう体勢だと、一方的に裁かれている気分になる。
俺がむきになるのは、そのせいかもしれん。
「だいたい、今『一番好きだ』って思ってる人間が、その後もずっと好きでいる保証なんて無いぜ?」
「それでも、初めての経験が好きでもなんでもない人とだった、なんて何か惨めな気持ちになりそう。
『今は好きじゃない、でもその時は真剣だった』の方がやっぱり納得もいくでしょう?」
「女は膜あるし、最初とその後は全然違うから、そうかもしれないけどよ」
「うわ、最悪」
「ほっとけ」
そこまで言って、洵子はまた何か考え込んでしまう。
俺の方は議論する気はもともとないし、声をかけたりしなかった。
「……そっか。男の子にとって、初めてなんて大事じゃないのか」
ふと、洵子が呟く。
「何か言ったか?」
――ううん、何にも。
洵子がそう答えて、この話題は打ち切りになった。
「つーか、意外」
「何が」
洵子はもう話題に飽きたのか、俺のベッドの固さを確かめたり、本棚に手を伸ばしたりしている。
考えてみりゃ、コイツが俺の部屋に来たの、小学五年生以来だな。
「奈良橋の口から、『私の初めては一番好きな人にあげたい……』なんて乙女チックな言葉が出るとは思わなかった」
「だっ、だだだだ、誰がそんなこと言ったのよ!?」
おーおー、焦ってやがる。
図書委員一筋の洵子は、俺たち男子一同のエロトークがどれだけえげつないかなんて知るわけない。
ついに俺は勝機を見出した。
「さっき言ったじゃん。『私の純潔は、私の大好きな人に捧げたい……その人のためなら、破瓜の痛みも喜びですぅ』って」
「人のせ、台詞に、へ、へ変な、脚色すすすすんな!」
動揺した洵子は、俺に向かって枕を投げつけてきた。
へん、そんなもん当たるかよ。
「いやー、奈良橋もなかなか乙女心に溢れてたんだなー。やっぱお前も女なんだな」
「だから! そーいう女とか男とか安易な線引きしないで! 誰でもいいからセックスしたいなんて変態は久我山だけよ!」
顔を真っ赤にして怒ってる。ほんと耐性無いなあ。
でも、こんなにからかい甲斐のある奴だったかな? まあいいや。もう眠いし、そろそろ決め台詞吐いて追い出そう。
「誰でもいいなんてこと、ないぜ」
「……えっ?」
突然深刻な口調で呟く俺に、洵子は意表をつかれたようだ。
俺は上目遣いに、洵子をじっと見つめる。
「奈良橋みたいな女の子だったら……話は別だけどな」
「!!!!」
言葉にならない悲鳴を上げて、洵子が後ずさった。
わたわたとベッドの布団を持ち上げ、俺との盾にしてる。
さー、これで終わりっと。「馬鹿変態、死んじゃえ!」の台詞が出て、こいつも帰るだろ。
やれやれ、と俺は洵子が投げた枕を拾うために立ち上がった。
部屋の隅に転がっているそれを拾い上げ、ぽんぽんとホコリを払う。
さて、そろそろ例の台詞が……。
そう思いながら振り返った俺が見たのは、耳まで真っ赤になりながら、ベッドの上でうつむいている洵子だった。
154 :
5/14:2006/01/25(水) 17:32:05 ID:J6uFD8xI
3.
「わ、私も……」
「はァ?」
布団をいじくりながら何か言ってる洵子に、俺は眉をひそめる。
げ、待ておい。
「私も、久我山なら、別に…………いい、けど」
「ちょ、ちょっと待て! 馬鹿、何じょーだん本気にしてるんだ! 大体お前さっきと言ってることが違うし!」
「……へ? な、何が?」
おい、自分で「一番好きな人としかしない」って言ったじゃねーか。
はっと何かに気づいたように顔を上げる洵子。
顔を真っ赤にしながら目を見開いてるさまは、いつものへの字口の洵子とは別人みたいだった。
俺は「冗談だ、じょうだん」と何度も繰り返す。
ようやく俺が言った意味が分かったのか、洵子は慌ててベッドから立ち上がった。
「あああああ、あた、当たり前じゃない! わた、わ、わたし、私だってじょ冗談で、冗談で言ったに決まっ……イタっ」
あんまりどもり過ぎて、舌を噛んだらしい。
俺から逃げるように壁に後ずさり、何度も「冗談冗談」と呟いている。
ちょっと怖いぞ。
「そうよ、冗談…………冗談、なんだ」
「…………」
突然、洵子の声が沈む。
いや、確かにさ、ヤらせてくれるなら……って思わないことも無いけど。
それは、洵子にだけは考えちゃ駄目だ。
他の女の子は「カワイイ!→ヤリたい!」のコンボが決まるけど、洵子はそういう対象じゃなくて、もっと何ていうか。
妹っていうか、姉っていうか、仲間っていうか、触れちゃいけないっていうか――アレ?
俺何を考えてるんだ?
お互い顔を染めながら、小さな部屋で見つめ合い、黙りこくっている。
まずい。この空気は非常にまずい。
とにかくさっさとこいつを追い出さなくては。
俺はそう思うと、ぱっと洵子の腕を掴んだ。
その瞬間、洵子の体が強張る感触が伝わってくる。
でもそんなの無視して、俺は洵子をベランダの方に乱暴に引っ張って行った。
戸を開け、洵子の背を押しながら言う。
「じゃあな、また明日! 俺寝るから!」
ところが、洵子は追い出そうとする俺の手をぎゅっと握って離さない。
荒っぽく振りほどいても、すぐ握り直してくる。
手を振りほどく、掴まれる、また振りほどく。それが何回か繰り返された。
「……してみたいんでしょ」
振り向いた洵子の顔は、いつもみたいに俺を凄い形相で睨んでいる。
口を真一文字に結んで、眉がぎゅっと真ん中によって、目が釣り上がっていて。
でも、普段俺はそれを「ウザってえ」としか思わないけど、今は――かわいい、と思う。
知らず知らずのうちに、俺は洵子の問いにうなづいていた。
それを見て、洵子は、
「……そんなら、よろしい」
とだけ言った。
155 :
6/14:2006/01/25(水) 17:32:43 ID:J6uFD8xI
***
何で、俺と洵子は服を脱いでるんだろう。
洵子が恥ずかしいって言うから、灯りを消した俺の部屋は真っ暗だ。
ぼんやりと月明かりに洵子の姿が浮かび上がっている。もちろん、細かい様子はよく分からない。
ただ、一枚ずつ服を脱ぎ捨てる衣擦れの音だけがやけによく聞こえた。
「……わ、私だけ脱いだってしょうがないでしょう。く、久我山も脱ぎなさい」
「あ。わりぃ……」
咎めるような口調に、俺は慌てて上着を脱ぐ。
実際、こいつの前で服を脱ぐことにさほど抵抗はない。中学の頃にもそういうシチュエーションはあった。
でも、今日は学生服から私服に着替えるわけでもないし、ましてや……
上半身はTシャツ一枚になって、ズボンに手をかけたとき、俺の手が止まった。
ハダカ見せるなんて出来ねえー。
「なあ」
「……なにっ」
怖い。最悪に不機嫌なときの洵子の声だ。
でもとりあえず言うべきことは言わないと。
「とりあえず、いきなり裸は止めねえ? 俺すごく恥ずかしいんだけど」
暗闇の向こうから、ちょっと呆れたような、でもほっとしたようなため息が聞こえた。
「……じゃ、とりあえず下着は残す。それでいい? 私はブラとショーツと、あとキャミね。久我山はシャツとトランクス」
「お前の方が一枚多いのかよ」
「……うっさいな! じゃあ久我山はパンツ一丁がいいの?」
なんでそこで俺だけ減るんだよ。目茶苦茶じゃないか。
とは思ったけど、反論する勇気はないので黙って言うとおりにする。
互いに下着姿になったところで、俺たちは向かい合った。
洵子が着けているのは、ごくごくシンプルな白で飾りの無い下着だった。
キャミソールは実用本位のデザインだし、ショーツなんてお尻全体をすっぽり覆う、子供パンツだ。
そういや、洵子はジーンズのときに下着の線が出るのが嫌だ、とか前に言ってたっけ……。
「……じ、じろじろ見てないで、こっち来なさいよ」
「お、おう」
睨みつけられながら、俺は一歩、また一歩と洵子の方に近づく。
アイツが少し上半身を仰け反らせるのが分かった。きっと、後ろに逃げ出したいんだろうけど。
でもそれを必死で堪えてる、そんな感じだった。
拳一つぐらいの隙間を空けて、俺たちは向かい合う。
洵子が、相変わらず怖い顔で俺を見上げていた。
俺はどうしていいのか分からず、しばらくその顔を見つめる。
見慣れた顔なのに、今じっと見つめてみて、初めて俺は色んなことに気づく。
例えば、いつの間にかそばかすが増えたこととか、右目の方に小さな泣きぼくろがあることとか。
でも、変わってしまったように思っても、やっぱり目の前にいるのは、小さい頃の面影を残す奈良橋洵子だ。
156 :
7/14:2006/01/25(水) 17:33:12 ID:J6uFD8xI
「……キス」
「うん」
目をつぶって、そっと唇を持ち上げる洵子の肩を、俺は両手で抱く。
とりあえず、第一の関門としては当然予想されたことだが、俺はとんでもなく緊張していた。
ロボットみたいに顔を近づけながら、荒れた唇をちょっと舐めておく。
考えてみりゃ、俺の初キスだなあ……洵子も初めてなんだろうか。
コイツが男に言い寄られてるなんて話、聞いたこと無いし、見た覚えも無いから、俺が初めての相手なんだろうな。
そう思うと、俺は不思議な感慨を覚えた。
唇が触れる瞬間、突然洵子が目を開けた。
鼻と鼻が触れ合う距離で急ブレーキ。
「……一つだけ、お願い…………っていうか、約束して」
「……おう、い、言ってみ」
そう言ったはいいものの、洵子がえらく焦らすから、俺はどんな無理なことを約束されるのかどきどきモンだった。
まさか、ヤラせてあげるからヴィトンのバッグでも買え、とか……ってそれじゃ援助交際か。
そもそも洵子はそんなこと言い出す奴じゃないしな。
「……あのね」
泣き出しそうな声で洵子が言う。
「…………してる間だけでいいから……昔みたいに名前で呼び合うこと。いい?」
「それだけ?」
こっくり。
小さくうなづく洵子に、俺も乾いた声で「分かった」と答えるのが精一杯だった。
昔みたいに、名前で。
「じゃ、いくぞ……洵子」
「うん、高志」
洵子の唇はゼリーみたいにぷるぷるしてた。
いや、それはアイツが、いやアイツも俺も、震えていたせいかもしれない。
唇同士を重ねる軽いキスは、いつまでも続いた。
俺は誰に教えられたわけでもないのに、ごく自然に洵子の唇を、自分の舌で割っていた。
そのまま大胆に舌を相手の口に差し込む。
「ん……」
洵子は最初、うめき声を上げて逃げようとした。
でも、俺はその体をぎゅっと抱きしめて逃げられないようにして、さらに舌を洵子の口に押し込んだ。
抵抗していた洵子も、やがて諦めたのか、体の力を抜いて俺を受け入れ始めた。
それどころか、俺の舌を自分の舌で優しく舐めてくれる。
まるで子猫の傷を癒す親猫みたいに……
「痛っ」
洵子が突然叫んだので、俺たちは慌てて顔を離した。
「どうしたんだ?」
「くがや……あっ違、た、高志の舌が……さっき噛んだところに当たった」
「……それは、洵子が間抜けなだけじゃん」
俺がそう返すと、洵子は俺が初めて見る表情――ガキンチョみたいな膨れっ面をして見せた。
やべ。すげー可愛く見える。
「……キスはもういいよ。次いこ、次」
「お、おう」
157 :
8/14:2006/01/25(水) 17:33:39 ID:J6uFD8xI
そうだ。こっからが本番なんだ。
…………大丈夫か、俺? 本当に出来るのか?
そんなことを思いながら、洵子を優しくベッドのほうへ導く。
二人揃ってその上に腰掛け、俺は洵子の肩を抱く。
「ま、まず……」
「脱がして」
洵子はそう言うと、俺の手を取ってキャミソールの肩紐に導いた。
俺はされるがままになって、洵子を包む白い薄い布を一枚剥ぎ取る。
その下から現れたのは、たった今脱がせたキャミソールと同じぐらい、真っ白な洵子の肌。
いつもは制服の下に隠されて、全く日焼けしていないんだから当たり前だけど、でも俺はちょっと驚いた。
嘘みたいに白い。何ていうか、病的っていうか……洵子がこんな色白だったなんて、全然知らなかった。
その白い体が、洵子の興奮した荒い息遣いに合せてゆっくりと脈打っている。
思わず俺はお腹に指を這わせていた。
「ひ、やん……! な、何?」
「あ。いや、その、すげえ白いから、本当に肉か? とか思っちゃって……」
「……人をバービー人形みたいに言わない」
「はい。すんません」
褒めてるんだけどな。何で怒られるんだ。
それはともかく、俺はしばらく洵子のお腹を両手で撫でていた。
洵子も、呆れたような顔をしながら、俺がしたいようにさせてくれた。
「……あの、お腹ばっかりで、いいの……?」
洵子にそう言われて、俺ははっと我に帰る。
そうだ、まだまだ関門はたくさん残っている。ブラも、ショーツもまだ脱がせていないんだから。
でも……はっきり言って愛撫の仕方なんか知らないし。
戸惑っていると、洵子はまた同じように俺の手を取り、黙ってブラのホックに導いた。
「こ、こう、か?」
「ん……そ、あ……そう……」
ぱちり、と小さな音がして、洵子のブラジャーが外れた。
不安定に肩で引っかかっているそれを、俺は震える手で外す。
するり、とそれが脱げ落ちると、洵子の胸が露になった。
「……ないな」
「し、失礼な! こ……これでもBカップなんだからっ!」
「ちゅ、ちゅうとはんぱ……」
バキッ
殴られた。
やべ、目茶苦茶怒ってるじゃん。目の奥に殺意が宿ってるよ。
「……う、うん。これぐらいがちょうどいいかもな」
フォローにならないフォローをしながら、俺は胸に手を伸ばす。
触る段になると、さすがにお互い言葉が出ない。
俺は勇気を振り絞って、下からちょっと揉んでみる。とたんに、洵子は痛みを堪えるような表情を浮かべた。
痛いのか? そう思って俺が手を止めると、洵子は不満げな視線を投げてくる。
触る。「あっ」
さらに力を入れて触る。「ふぅ……」
乳首もちょっと触ってみる。「……んっ!」
それを指の腹で転がしてみる。「え、あ……あっ!」
いつの間にか俺は洵子の胸に夢中になっていた。
洵子も、俺の触るのに合せて艶めかしい吐息を吐いている。
まるで洵子を操縦してるみたいな錯覚を覚えた俺は、考えられる限りの色々な刺激を与えてやった。
158 :
9/14:2006/01/25(水) 17:34:15 ID:J6uFD8xI
次第に興奮してきた。
俺は口に溜まった唾を飲み込み、黙って洵子の本陣……内股の方に手を伸ばしていった。
そのとき。
「んぁっ……あ、ちょ、ま、待った!」
「な、なんだよおい」
ここまで来て「やっぱ嫌」何て言われても、止める自信ねーぞ。
でも、押し倒したらやっぱり犯罪か? うわ、どうしたらいいんだ。
なーんて俺の葛藤にはお構いなく、洵子は俺をまっすぐに見ながら言った。
「一緒に脱いでくれなきゃ……やだ」
そんな上目遣いで言われたら、従うしかないじゃないか。
くそう、かわいいなコノヤロ。
俺は洵子の期待を帯びた視線を感じながら、Tシャツを脱ぎ、さらにトランクスに手をかけた。
洵子も自分で言い出したことだから、俺が下を脱ぐのに合せて、丸めるようにショーツを脱いでいく。
太ももを微妙に交差させて、一番大事なところを見えないようにするのが、ずるい。
何しろ俺の元気棒はもうどうやったって隠しようが無いくらい張り詰めていたから。
俺がトランクスを脱ぎ捨てるのと、洵子が足の先から丸めたショーツを抜き取るのはまさに同時だった。
お互い全裸になって、黙ってお互いを観察する。
ちょっとむっちり気味の太ももの間に、黒い茂みが僅かに覗いている。
洵子がわずかに体を動かすたび、太もも同士が擦れ合い、黒々とした陰毛が微妙な陰影の中で揺らめく。
「……えっと」
洵子が口ごもる。
「…………とりあえず、正直に感想言おうか? あ、怒るのは無し」
ね? と洵子、首を傾げる。俺もつられてうなづいた。
「えっと、じゃ俺から……お前、ちょっとダイエットしたほ……痛い痛い痛い痛い!!」
腕をひねることはねーだろ! というかどこで覚えたそんな技!
「最後まで聞けよ! で、でもその、綺麗っていうか……やらしい、と、思いますハイ」
「……最初にそう言いなさい」
はい、すんません。
俺が頭を下げると、膨れ顔がようやくほころんだ。全く、難しい奴だ。
俺が言い終わると、洵子が改めて俺の体をまじまじと見た。
そうじっくり見られると、さすがに俺も辛い。何しろ特に運動もしてない体だし。
元気棒も、学校のトイレで見比べた限りはとても「御立派」とは言えないレベルだし……。
なんて思ってたら。
「……ちょっと、びっくりした」
てな答えが返ってきた。
意味が分からず、俺は首をひねる。
「……だって、昔はつるんつるんだったのに、色んなところに毛が生えてるんだもん。
すね毛なんて、うちのお父さんみたいだし、お、オチンチンにもモジャモジャと……ちょ、ごめ、びっくりして、ぷっ。
ぷはっ。ぷはははははははははははははははははははははははは」
洵子は口を押さえたかと思うと、突然笑い出した。
笑いのツボに入ったのか、俺が睨んでも肩を震わせてまだ笑っている。
「ははははは…………。あー……ごめん。でも、おあいこだよ?」
「うー。少し納得いかんが、まあよしとしよう」
洵子の声が止み、俺が憮然とした表情を崩すと、また沈黙が戻ってきた。
ついに最後の関門だ。というか、ゴールだ。
それはお互い分かっているのか、洵子も俺も身動きできない。
159 :
10/14:2006/01/25(水) 17:34:38 ID:J6uFD8xI
「……とりあえず、私仰向けになろうか?」
「そ、そうだな。頼む」
洵子の提案に、一も二もなく賛成する。
ベッドに仰向けになる洵子の顔の脇に手をついて、俺はヤツに覆いかぶさった。
顔と顔が近づく。
「えっと、いきなりは、むり、だと、お、おもいます」
「……俺もそれぐらい知ってる」
そう言うと、俺は片手を洵子の両脚の間にするりともぐりこませた。
返って来る反応は、固い。
「緊張すんな」
「だって…………」
洵子の口が、声を出さずに動く。
『スマイル、スマイル』だって?
言われて初めて、俺はものすごい形相で洵子を睨んでいたことに気づいた。
洵子の仕草でちょっと落ち着きを取り戻す。
それから、わざとにっこりと営業スマイル。
洵子も、それに同じような笑顔を返してくれた。
手を茂みの方に伸ばしていく。
さわ、と触れたところで、洵子に確認を取るように目線を向ける。
うなづきが返って来る。
俺は思い切って洵子の「モノ」に指を添えた。
ため息みたいな声を上げて、洵子は俺のタッチに応える。
どうしていいか分からない。だからとりあえず俺は上下に擦るようにして洵子を愛撫していく。
「あ、そ、いっ、あ……いぃ……かも」
「お、お前オナニーとかしないのか?」
普段ならぶん殴られそうな質問にも、洵子は無言で首を振るだけ。
つーことは、初めて気持ちよくするために触られてるわけか。
じゃ、優しくしてやらないとな……。男のそれとは違って、繊細だっていうし。
ときおりピクピクと体を震わせながら、洵子は未知の感覚に耐えている。
俺は頭の中で「優しく、優しく」と呪文のように唱えながら、洵子の体をほぐしていった。
「……そろそろ、いい、と、思うんだけど」
俺の指に、洵子の湿りがたっぷり絡み付いている。
それが多いのか少ないのかは分からないけれど、これ以上続けてもあんまり変わらないんじゃないか、と思う。
俺の言葉に、それまで目をつぶっていた洵子がうっすら目を開け、そして……
無言でうなづいた。
160 :
11/14:2006/01/25(水) 17:34:54 ID:J6uFD8xI
俺は自分の棒を持って、ゆっくり洵子へと導いていく。
先端が洵子の入り口に達した。すごく、熱くなってる。これ、本当に人間の体なのか、ってくらい。
「ここでいいのかな……」
「た、たぶん」
洵子があいまいに同意したのを確認して、俺はぐっと力を入れた。
「あっ……!」
悲鳴を噛み殺すのが俺にも分かった。
そして、洵子の中は思っていたより遥かにきつく、これ以上は絶対入らないとしか思えなかった。
気持ちいいとか何とかいうより先に、「入れていいのか? 間違ったところに入ったんじゃないか?」という考えが湧く。
「洵子、もしかして、これ……」
「た、たぶん合ってるから……大丈夫だ、か、ら……」
息も絶え絶えにそういう洵子が、たまらなく愛しい。
そして、同時にこれ以上彼女を傷つけたくないという思いが頭一杯に広がる。
でも。
やめようか、そんな言葉が出るより先に、洵子は俺の背中に両手を回してきた。
そして、俺を見つめながら黙ってうなづく。
洵子の覚悟を知って、俺は勇気を分けてもらった気がした。
下半身に細心の注意を払いながら、自分の分身を洵子の奥へと思い切って導いた。
「ぁ、あっ……あああっ……!!」
俺が中に進むたび、洵子は苦しそうな声を上げる。
でも、俺はもうためらわなかった。最後の最後まで入れたところで、ようやく先端に硬いものが当たるのが分かった。
「はぃった……の?」
「ああ……みたい……」
そう答えたものの、俺にも確信はない。
さらに、俺を締め付ける圧迫感と、脈動、さらに温かさが、俺の思考を奪っていた。
俺はいま、洵子と一つだ。
そう思うと、もう俺は耐えられそうにもなかった。
とても「動く」どころの騒ぎじゃあない。
堪えても、どんどん最後の一線を越えるべく俺の中で何かが高まっていく。
「あ、洵子……ごめ、も、もう、俺、だめみたい……」
洵子は全て分かった、とでも言いたげにうなづくと、さらに俺の体を抱きしめた。
「大丈夫だから……なか……」
それだけで俺は彼女の言いたいことを理解する。
そして、その言葉は俺の限界を振り切るのに十分だった。
「あっ、で、でるッ……」
「ん、んんっ……た、たかし…………」
射精の瞬間、俺は洵子を力一杯抱きしめていた。
全身で洵子の温もりを感じながら、俺は果てた。
161 :
12/14:2006/01/25(水) 17:35:15 ID:J6uFD8xI
***
射精が終わっても、俺たちはしばらくベッドの上で抱きしめあっていた。
どちらともなく、顔を近づける。
磁石のSとNみたいに、俺たちの唇は引き寄せあった。
触れ合うだけだったけれど、長い長いキス。
唇が離れたのが、終わりの合図だった。
互いに無言で体を離す。
俺がティッシュで性器にこびりついた自分の白濁液を拭っていると、洵子の手が横から伸びてきた。
そのまま、洵子もティッシュを何枚か取ると、あぐらをかくような体勢で「後始末」を始めた。
背を向けあったまま黙々と処理する。
先に洵子がベッドから降りた。
床に脱ぎ捨てられた下着と服をかき集めると、さっさとそれを身につけていく。
俺はその一部始終を見ながら、自分も服を着ることにした。
互いに裸なのに、不思議ともういやらしさは感じない。
「じゃあね、久我山。また明日」
「ああ、お休み奈良橋」
洵子がベランダから出て行くのを見送り、カーテンを閉める。
かすかな愛液と精液の匂いだけが、俺たちの営みの名残を感じさせた。
162 :
13/14:2006/01/25(水) 17:35:37 ID:J6uFD8xI
エピローグ.
「……あの、この前の手紙の返事なんですけど」
「…………うん」
俺はごくりと息を呑む。
緊張の一瞬。
学校の屋上、放課後。俺は女の子と二人きりだ。
夕日が彼女の顔をオレンジに照らし出す。
「馬鹿じゃない、あんた」
あ、ああああ――――
その瞬間、俺は思わず膝をつきそうになるほど脱力する。
相変わらず眉間に皺を寄せた顔で、洵子は俺を見下ろしていた。
ついに俺も膝をついてしまったのだ。
「勘違いしないでよね。確かにセックスしてあげたけどさ。だからって久我山のこと好きになったんじゃないんだから」
「……やっぱり、そーですか」
「だいたい、久我山の言うこと、信用できないもん」
「そ、そんなことない! お、俺は生まれてからずっと、奈良橋のこと――」
決め台詞を吐こうとして、俺は思いとどまる。
その言葉は、奈良橋へのラブレターにも書いた。「生まれてから、ずっと好きだった」って。
でも、そんな飾った言葉でごまかせるような関係じゃないこと、俺も洵子も分かっている。
大体嘘なのは明白だ。
「ごめん。あれ嘘」
あっさりとゲロする。
肩をすくめながら、洵子は俺の方に近づいてきた。
「……で? 本当はどう思ってるわけ?」
なぜか穏やかな顔をしながら、洵子は俺の言葉を待っている。
「……この前セックスしたとき、初めてお前のこと、かわいいと思った」
「……ふーん」
「それまで考えたことないくらい、お前のことがかわいく見えた。だから、これからもお前とセックスしたい」
「……それが、久我山の本心って訳だ」
俺は堂々とうなづく。
そう。
もう一度あんな夢みたいな経験できるなら、俺はなんだってする。
163 :
14/14:2006/01/25(水) 17:35:54 ID:J6uFD8xI
洵子はしばらく逡巡した後、俺のほうを見てきっぱり言った。
「とりあえず言っとく。『最低、最悪、ヘンタイ、ケダモノ、死ね!』」
「……はい」
反論の余地無しだ。
ま、こんな台詞で彼女になってくれる女の子がいたら、こっちが驚くけどさ。
なんて。なにやらすがすがしい気持ちになって、俺は洵子に背を向ける。
やれやれ、俺の今年に入ってからの六回目の……
「でも、今から言う二つの約束を守るなら、またしてあげないこともない」
「……は?」
振り向く俺。
夕日を背に仁王立ちになる洵子の顔はよく見えない。
でも、笑ってるような……?
「約束その一。私を目一杯気持ちよくして」
間違いない。洵子、笑ってる――
「約束そのニ」
俺は自然と笑みを浮かべる。
声を合せて、俺たちは言った。
『昔みたいに、名前で呼び合うこと』
(終わり)
もう神としか……
すげー!!!
お約束展開なのにここまで神作品が書けるなんて。
ただ残念なのは、句点の間のスバラシサを接続詞や言葉のクドさで消してしまってる点がちらほら。
推敲のときは音読すべし。
このスレはクオリティ高いですな。勉強になるの通り越して絶望。
>推敲のときは音読すべし。
……物書きやってるのでその方法はよく見ますが、やってみると羞恥プレイにしか思えません('A`*)
GJ!
>>166 確かに
1人暮らしならまだしも、実家暮らしで音読推敲を家族に聞かれでもしたら……(((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
音読が無理なら自分の脳内でドラマ化かアニメ化して音声付で再生する。
違和感があったら修正。
・・・というのを今思い付いたがどうか。
久我山、久我山……
ああ、あのどもるデブの
久我山・・・久我・・・
ああ、あのツンデレVPパイロットの
◆ZdWKipF7MI 氏えろす。
関係ないけど、幼馴染ものには三角関係がつきものだと思うのは俺だけでしょうか。
初代スレ81氏のとか◆ZdWKipF7MI氏のとか。
三角定規プレイはちょっと…
第三者が割り込まないと
それまで動かなかった二人の関係を進めることが難しいからじゃないかな
物事にはきっかけがないとね
174 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/28(土) 12:50:25 ID:aN6MSBUY
過疎だなぁ…
「トモー」
昼休み。 真琴は先生に呼ばれてて一人で御飯を食べてると、突然背中から諭笑が抱きついてきた。
不意打ちできた重みと衝撃にびっくりして、飲み込んでいたものが逆流しむせた。
「だ、大丈夫かよ?」
「だ、誰のせいよ!」
苦しむことしばし、涙を堪えて諭笑の方を振り向くと
「お、トモもうちょっと右寄ってみ」
「え……こう?」
「そうそう。そうすると潤んだ目尻が艶っぽいのと柔らかいのがくぁっ」
全然悪いと思っていないみたいなので取り合えず肘鉄。
「つか、いつもアンタが前に回してる手はあたしの胸にしっかり当たってるんだけど。あれはノーカンかい」
「あー、そうだったか?」
「今も当たってるでしょうが」
言われて諭笑は気が付いたらしい。
「おーそう言えば」
そう言って手を離すかと思いきや。
むにっと
腕をあたしの胸に沈めてきた。
ふにふにと数回、柔らかさを確かめるように上下する腕。
――胸、触られてる?
怒りとか羞恥よりも先に、困惑と疑問が頭の中に湧いた。
「――ええっとさ」
振り返るとかなり近くに諭笑の顔があって。
すごい近くから目を覗き込まれて、正直どきっとした。
「んー?」
あたしのどきどきはどこ吹く風、といった様子でマイペースに首を傾げる諭笑。
やっぱりこれはあたしの思い過ごしで、彼にとってはいつもの延長上に過ぎないんじゃないかと思えてくる。
「あたし今諭笑にセクハラされてない?」
「されてないぞ」
そうですか。やっぱりあたしの被害妄想ですか。
「痴漢はされてると思うけだはぁっ」
「自覚があるんだったらやめんかいっ!」
目の前にあった顔を肩に乗せて、二本の腕で迷う事なく締め上げた。
「ちょ、ちょっと待てトモ! これ息できね……!」
「うるさい痴漢は問答無用で情け無用で可及的速やかに社会的に死ね」
「社会的じゃなくて肉体的に死ぬ死ぬ死ぬ!」
「何やってんの二人とも」
正真正銘呆れかえったという感じの声に振り向けば、真琴が声そのまんまの表情をして立っていた。
真琴の後ろのほうにいる丸山さんも呆れた、というより正直ひいてますねごめんなさい。
「痴漢に私刑」
「智世ー、今は普通人のマルちゃんもいるんだから言葉に気をつけなさいー?」
うわ、あたし一般人枠にいれてもらえてないんだ。
……まあそうだろうけど。丸山さんのひきまくってる様子からしても。
「う、んとね。諭笑があたしにセクハラしたから怒ってた」
「ええっ?!」
結構大きく驚く丸山さんとヒュウっと口笛を吹く真琴。
ええと。この場合はどっちの反応が普通なんだろう? 絶対真琴のは普通とは違う気がする。
「セクハラだってよ高坂君。これは一歩前進かなあ?」
犯罪者への? と突っ込みをいれそうになったけど丸山さんがいる手前、そうそう迂闊な事は言えなかった。
けど一歩前進って、何が?
答えを求めて諭笑の方を振り返ると諭笑は見たことのない表情を浮かべていた。
照れて嬉しそうな、少し後ろめたそうな。まるでカンニングして百点とったのを褒められたような感じの淡く苦い笑み。
けどその表情は、あたしが振り返ってからほんの刹那で消えてしまった。
後に残ってるのは、いつものお気楽そうにほにゃっと緩んだ顔。
……何なんだか。
少し釈然としないものを感じながら締め上げていた腕をほどいて諭笑の腕を弄ぶ。
あたしにされるがままになってた諭笑の腕だったが、不意にひょいと右手だけあたしの支配下から逃げ出して、机にあった紅茶のペット
ボトルを手に取った。勿論それはあたしので諭笑のじゃない。
「あ、ちょっ」
とと言い終わる前に視界の隅でペットボトルが豪快に斜めになって、中身の水位が目に見えて下がっていった。
「人のを飲むなっ!」
「いいじゃんか、紅茶くらい」
「よーくーなーいいぃぃっ」
奪い返そうとがばっと伸ばした手をひょいっとかわされる。
そうでなくても諭笑の方が腕は長くてあたしには不利なのがむかつくのに、こういう時の諭笑の動きはやたら機敏でさらにむかつく。
がばっ、ひょい。がばっ、ひょい。
ああもう、埒が明かない。
業を煮やしたあたしは諭笑の紅茶を持つ手を左手で押さえつけ、右手でなお抵抗する諭笑の手首から遂に紅茶を奪還したのだった。
「片手に両手はずるいぞトモー」
「うるさいバカ。食べ物と飲み物の恨みは凄いんだからね」
また獲られたら嫌だからあたしは急いで奪還した紅茶を一気飲み。
もともと半分飲んであったそれは5口半くらいで空になる。
「あ、間接キス……」
「んうっ?!」
な、なんだそりゃ?!
「うお、トモまたかよ。大丈夫かー?」
諭笑に背中をさすってもらってなんとか息を吹き返す。
真琴の戯言だったらここまでダメージはなかったと思う。
人間不意打ちには弱いということなんだな……なんてイマイチ自身でも訳の分からないことを思いながらあたしにクリティカルを食らわ
せた主を見た。
「えと、大丈夫ですか? 水上さん」
「う、うん……」
「久しぶりに智世がうろたえてる所見たわぁ。やっぱアレね。何気ない一撃が一番くるのよねー」
真琴はにやにやしてる。
「私だと二人のいちゃつきに介入できないしー」
「何、それ」
これ以上変なことを言わないでよ。と言外にこめた不機嫌な声を返すと、真琴はにやにやしつつ肩をすくめて、席に戻ってった。
いつもはこの倍以上囃し立ててくる真琴だけど、今日はここらで終わりにしてくれるらしい。
ほっとしつつも、なんかもやもやした気持ちでいると、丸山さんがおずおずとした感じで口を開いた。
「えっと、高坂君今日の事聞いてる?」
「ああ放課後のか? 佐川に聞いた」
何のことかは分からないが、文化祭の集まりだろうか。
特に今日は何もなかった筈だから、急な集まりなんだろう。大変なんだなあ。
丸山さんは諭笑と、あたしの頭越しに二言三言会話すると「それじゃあ」って言ってグループに戻っていった。
「……っつー訳で悪いトモ。今日は一緒に帰れないから」
「ふうん、ご苦労さんね」
「おー」
予鈴が鳴って諭笑が席に戻っていく。
しかし、最初に諭笑は何の用事でこっち来たんだろう。
まさかとは思うけど……今日は一緒に帰れないって言う為?
「まさか」
ふと湧いた思いを口で否定する。
だってあたしと諭笑はよく一緒に帰ってるけど、それはたまたまが重なってるだけだ。
約束して帰ってるわけじゃないんだから『一緒に帰れない』なんて断りを入れる必要だってない。
たまたま家の方向が同じで、たまたま諭笑が幼馴染の弟分で気安い仲だから。
本当にそれだけだ。
それ以上の理由なんて、あるわけがなかった。
用事があったんじゃないかなんて、あたしの思い過ごし。
アイツはただなんとなくであたしにふざけて抱きついてきたんだ。
ホント、犬みたいな奴だ。昔から何も変わっちゃないんだから。
「ね……彩太もそう思うよね?」
何故あたし達はこんなところにいる。
歌に合わせて手拍子取りつつ、そんな事があたしの頭の中をぐるぐる巡っていた。
時は放課後。場所はカラオケ。
天気は雨。さっきまで真琴と一緒に商店街をふらふらして遊んでたんだけど。
周囲は佐川君・本庄君・新田さん――諭笑の友達グループの人がいる。
まあ正直、諭笑と真琴としかろくに話さないあたしと違って二人はかなり交流が広い。
ちょっと用があって真琴を待たせてて戻ってみたら、なんか真琴が佐川君達と話してて。
「特にする事もなかったから」と真琴の提案で、佐川君達に混じってカラオケに行くことになったんだけど……
繰り返そう。
何故あたし達は、こんな所にいる。
あたしと隣の人の座っているところは微妙に隙間が空いている。
真琴は誰かと話してるし……お豆扱いですか、あたし達は。
彩太が苦笑してるのが分かる。
まあ、しょうがないかな。と思いながらぼーっとしてると、目の前にドサッと予約本とリモコンが置かれた。
「水上さん、歌わないんですか?」
「ん……さっきから予約してるんだけどね。でもしたそばから何予約したのか忘れちゃって」
『鶏頭じゃないんだから覚えてなさいよ!』
歌ってた真琴がマイクで野次を飛ばして、周囲の子が笑った。
新田さんと一緒に歌って一息ついてると、ポケットの携帯が鳴った。
取り出してみると、相手は諭笑だった。
「誰?」
「ん、諭笑だった……ちょっと行ってくるね」
「いや、ちょっと待ってくれます? 水上さん」
外に出ようとすると佐川君が呼び止めてきた。
? と振り返ると彼はちょいちょいと手招きしてくる。
あたしは彼の言うままに近寄って、携帯を手渡した。
輝かんばかりの笑みを浮かべながら通信ボタンを押す佐川君。
「……よう、高坂!」
ガチャン ツーツー……
いきなり切ったらしい。そんな音が携帯から漏れていた。
数秒後。
再び着信を告げる携帯に、満面の笑みを浮かべつつ佐川君はこっちにそれを返してくれた。
「もしもし諭笑?」
「トモ女に戻ったか。良かったぜ」
「――何馬鹿言ってるの。今の佐川君だよ」
「あー? 佐川? 何でトモが佐川と一緒にいるんだ?」
「ん? ちょっとね」
「ちょっとって何だよ……」
とんとん
背中をつつかれ促されて、あたしは佐川君と電話を変わった。
「つう訳で高坂、俺等水上さんとカラオケいるからな……そう境ビルの所の……そう……悔しければまあ走ってくることだなわははは」
ぷつっ
高らかに笑いつつ携帯を返してくれた佐川君。
「凄く楽しそうだけど、何言ってたの?」
「『今から15分でそっち行くから待ってろ』だそうですよ」
あたしの問いに佐川君は諭笑の言葉を答える。今から諭笑がこっちに来るらしい。
しかも15分って……かなり走らないと間に合わないと思うんだけど。
「さーて何分で来ますかね高坂は」
「ん……18分くらいかなあ」
楽しそうな佐川君にそう応えて、テーブルに散らばってたお絞りを一箇所に寄せておく。
それから息を切らした諭笑が部屋に転がり込んできたのは、きっかり15分後の事だった。
「水上さんって意外と楽しい人ですよね」
カラオケを切り上げて、ちょっとお腹がすいたから、時間のある人で何か食べていこうって事になって。
あたし達は『いつみ食堂』の暖簾をくぐった。
で、注文したあたしがきつねうどんをすすってる時、不意に音羽君がそんなことを言ってきた。
音羽君は、つい最近転校してきた人だ。ちなみに席はあたしの隣だったりする。
「どういう人だと思ってた?」
「うーん……怒らないで聞いてくれます?」
「内容によるよ」
笑顔で言うと、音羽君は微妙に固まった。……何言おうって、思ってたんだか。
まあ予想はついてるけどね。
「ええと。もっと物静かで……」
「怖い人だと思ってた?」
あたしの言葉にちょっと迷って、音羽君は苦笑しつつ頷いた。
「ガラ悪い人と喧嘩して、怪我して……長いこと入院してた、って聞いてましたから」
なんじゃそりゃ。
喧嘩って……噂に尾鰭が付き捲ってるなあ
「トモー」
「ん」
名前を呼ばれて、あたしは諭笑に七味を渡した。
受け取った諭笑は何を言うこともなく唐辛子をうどんにかける。
特に何てことない事……の筈なんだけど。
「何。皆して、そんなじろじろと……」
「あー?」
なんだか生温い視線とか感じるし、佐川君とか曖昧な笑顔を浮かべてる。
……何なんだか。そう思ってると新田さんが手を上げてきた。
「ねえねえ諭笑クン」
「あー?」
「諭笑クンと水上さんって付き合ってどれくらいになるの?」
「はあっ?」
なんだそりゃ?!
諭笑への質問だったけど、そのあんまりな内容にあたしは思わず素っ頓狂な声をあげていた。
「え? でもいつも一緒に帰ったりしてるし、今みたいにあうんで通じちゃったりしてるの見てると、絶対そうだとしか見えないんだけど」
新田さんの言葉に頷いたり同意の言葉をあげたりする皆。佐川君まで頷いてた。
彩太はじっとあたしを見てる。
「ねえねえ、本当の所、どうなの?」
「それは……」「諭笑はただの幼馴染だよ」
自分でも思いの外、強い声が出た。
あたしの声に、場が一瞬しんとなる。
それを破ったのは音羽君だった。
「幼馴染、って?」
「……あー、オレとトモな。まあ家が近くて付き合いもあってさ。幼稚園から学校まで一緒でさ……まーそういうこった」
「腐れ縁かあ。高校まで続くなんて凄いじゃん。でも……」
なにか続けようとしてはっとした様に口を噤む新田さん。
周知の事実なんだから、そんなに気を使わなくてもいいのに。
「あたしらの方が一歳年上でしょ? だからあたしらが小学校に上がる時とか『オレも同じがいい』って諭笑が無理言ったもんよ。その十
年後に同じ学年になってるんだから、まあ現実って時々奇遇よね」
笑いながら軽く言うと、あからさまにほっとした顔をされてしまった。
気を使われてるんだか使ってるんだか、分からなくなってくるなあ。
いつみから出てみても、まだ雨は降り続いていた。
「こうやって雨が降るごとに、寒くなってくんだよなあ」
「降って止んでって、しばらく天気は不安定らしいよ」
「なるべく学校行くときと帰る時だけは、降って欲しくないね」
「後、外で体育ある時ね」
そんな事を喋りながら、コンビニでビニール傘を買って皆と別れた。
諭笑と二人で、いつもよりちょっと遠い道を帰ってく。
皆と別れてから、珍しく諭笑は何も言わなかった。
疲れたんだろうか。と思いつつ無言のまま歩いていく。
丁度横断歩道が赤になって立ち止まった時だった。諭笑が口を開いたのは
「……珍しいよな」
「え?」
こんな強く迷ったような諭笑の声を、あたしは滅多に聞いたことがなかった。
だからあたしも少なからず困惑してしまう。
「珍しいよなって、今日みたいなの?」
諭笑は頷く。
「だってさ、今までトモはオレが誘ったってついて来なかったじゃないか」
「ん……」
言外に非難があるのを感じながら頷く。
2年前。まだ諭笑がここにいない時のあたしだったら、積極的に誘ったり誘われてたりしただろう。
『だろう』じゃなくて『していた』と言うべきか。実際そんな感じで過ごしてたし。
でも、今のあたしは……
「仕方ないじゃん。あたし1年留年しちゃってるし、そんなのいると場が盛り上がらんでしょ?」
今の学年で2年過ごした訳だけど。他の同学年の人とあたしに微妙な齟齬があるのは変わりがない。
丸山さんとか佐川君とかが砕けた口調じゃなくて、微妙に丁寧語で話しかけてくるのもそのせいだと思ってる。
「今日はそんな事なかっただろ?」
「ん……でも御免。この後でも誘われても行かないと思う」
「何でだよ。じゃあ今日のはなんだったんだよ」
「今日は偶然よ偶然……ホントはね。場が盛り上がらないとかじゃなくて、そういう所行った後がちょっと辛いの」
齟齬や隙間があっても皆に悪意があるわけじゃない。ちょっと遠慮とかがあるだけだ。
「今日は、楽しくなかったのか?」
「そんな事ない。ただ、今になってずしって来てる」
本当に、あの時は気にしていなかったんだ。佐川君があたしだけに丁寧語とか、新田さんがあたしじゃなくて諭笑に聞いた事とか。
あの時は何ともなかったちょっとした隙間が、過ぎた今になってずしっと来る。
我ながら嫌な性分だなあって思うけど、変えられる部分じゃないんだから仕方がない。
「それは気にしてもしょうがないだろ」
「……ん、そうなんだけどね」
「気にしてもしょうがない訳だから悪い部分は全部天気のせいにしちまえ。トモがずしってきてるのは雨のせいだ。そうしとけ」
「なにそれ」
滅茶苦茶な責任転嫁に思わず笑ってしまう。
けど諭笑は笑ってなくて、本当にそう思ってるらしかった。
信号が青に変わる。
「雨なんて、さっさとあがればいいのにな」
その一言を最後に、あたし達は家まで無言で歩いていった。
明日も雨だと、天気予報は言っていた。
見上げれば狭く区切られた壁の上に草が簾の如くかかっていて、その向こうは網の目を透かすようにしてしか伺えなかった。
雨が降っている。草からひっきりなしに垂れてくる水滴と、背中の方に当たる水流が土砂降りの雨をしらせてくる。
体が凍ったように冷たくて、そのくせ喉の奥はからからで渇きっぱなし。
声が出ない。出そうとするだけの力がない。
怖くて不安で泣きたい気持ちがぐるぐるぐるぐる鉛のように重くなっていく。
――ああ、そうか。
その時、鮮やかにそれが閃いて。あたしはすとんと納得していた。
そうか――
連打とは言わないけど、十分に失礼なレベルで連続してなるチャイムの音に目を覚ました。
……朝っぱらから何なんだ。新手のピンポンダッシュか?
そんな風な寝覚めがいい訳がない。多分今のあたしは凄く目つき悪いだろうな。
本当にピンポンダッシュだったとしたら、いやそうじゃなかったとしても一発ガツンとしないと気がすまない。
ダッシュで部屋から出ていきなり玄関のドアを開けた。
「うわっ!」
勢いよく開けられたドアは至近距離にいた犯人をいい音たてて殴りつけた。
「朝から近所迷惑なことをするから因果応報よ」
「近所迷惑以前にさっさと起きろよ!」
顔を抑えながら抗議の声をあげた近所迷惑な奴は、諭笑だった。
「あらお早うこんな早くに起きるなんて珍しいわねでも人の寝覚め最悪にさせたのは悪いわよ覚悟なさい」
「いいから落ち着けトモ。そして時計を見ろ」
言われて突きつけられた諭笑の腕時計は7時45分を指していた。
「――って完璧遅刻じゃない!!」
「さっきからそう言ってるだろーが!!」
言ってない。
そういう突っ込みはさておきあたしは慌てて部屋に戻った。
まだあたしは目が覚めたばかりで、着替えもしていなかった。
閉めた部屋の扉の向こうで、諭笑の足音がした。
「勝手に家あがらないで! っていうか遅刻するから先行ってて!」
「メシ抜く気だろ。トモが身なりやってる間になんか作ってやるから、道すがら食え」
「だからそれだと諭笑が遅刻するでしょうが」
「ここまで来たら一蓮托生だろ。いいから黙って早く着替えとけ」
「……ん、ごめんね」
「謝るなよ」
それから本当に黙って着替えた。
カーテンの向こうから漏れる光は弱く、雨の降る音が静けさを助長していた。
夢見が悪かったのは雨のせいだろうか。
どんな夢だったかはっきり思い出せないけど、凄く嫌な夢だった事だけは分かる。
枕に触れると布地が寝汗でしっとりしていた位だから。
着替えて鞄を持って、洗面所で顔を洗って髪を纏めて。
それから玄関に行くともう諭笑が待っていた。
「おー、遅かったな」
「女の子は色々用意があるの」
「そうか」
特に追求することなく諭笑は手に持ってたおにぎりを投げてよこした。
「ありがと」
「バスはかなり待つことになるからそこで食っとけ。家出たら速攻走るぞ」
「ん」
傘を持って玄関を出て。
鍵を閉めた後あたし達は傘もささずに走り出した。
冷たい雨の中にも金木犀は甘く香り、秋が深まっているのをあたしに教えていた。
いい作品の後の投下はすごく緊張します。
ようやっと折り返し地点。これを1ヶ月で完了させようとしていたかつての私はアホです。
季節がずれててごめんなさい。
いやーGJ。
情緒溢れておりますね。
彩太の存在薄かったね
しかしGJ
テレ朝でここの連中向けっぽいドラマがやってる…タイトルからして…
エロなし・淡白描写・単発ですが、投下させて頂きます
携帯からなので見辛い点があれば申し訳ありません
では
186 :
指輪 1:2006/01/31(火) 16:05:38 ID:xoPmWdLb
信也と美紅は幼馴染みだ。
例え年の差があったとしても、幼馴染みだ。
都築信也、十八歳。
高校三年の受験生。
梶谷美紅、二十四歳。
高校の家庭科教師。
同じ学校に通っているのは、単なる偶然だとしか言いようがない。
放課後の印刷室で、信也はぼけーっと突っ立っていた。正確には、コピー機の前で、コピーが終わるのを、ぼんやりとした表情で待っていた。
生徒会書記が風邪で欠席したために、生徒会会計の信也は、代理で今日の議題を纏めたノートをコピーしているのだ。
これが終われば、生徒会担当の教師に資料を渡して帰るだけ。
カシャンカシャンと軽快な音を立てながら、資料を吐き出すコピー機を眺めながら、信也はハァと小さな溜め息を吐いた。
「何、年寄り臭い溜め息を吐いてるの」
隣に立つ美紅が、信也の様子を見咎めて、小さな苦笑を浮かべた。
狭い印刷室の中、美紅は明日の授業で使うプリントを印刷するために、輪転機の前に立っている。ゴゥンゴゥンと回る派手な音が、コピー機の音と重なって煩いぐらいだ。
信也はチラリと美紅に視線を送ると、態とらしく首を回した。
「疲れてんですよ、梶谷センセ」
普段ならば使う事のない丁寧語。学校に居る間は、二人は教師と生徒として振る舞わねばならない。
去年、美紅が赴任してきてから、それは二人の間では暗黙の了解だった。
美紅はフフと笑い声を零すと、輪転機に背中を預けて、信也へと向き直った。
「まだまだ若いでしょ、都築クンは。そんな事言ってると、老けるのが早くなるわよ?」
「なっても構いませんよ。先生の雑用から解放されるんならね」
皮肉めかして言う信也に、美紅は何の反応も示さない。
その代わりに、チラと隣の職員室の様子を伺うと、口許に笑みを浮かべた。
「そう言わないの。今日はショウガ焼きだから」
顰められた声は、コピー機と輪転機の音に重なるが、それでもしっかりと信也の耳へと届く。
信也も職員室へと視線を投げると、動きの止まったコピー機に手を伸ばした。
「いつも悪いな」
「どう致しまして」
コピー機からノートを取り出し、吐き出された資料を纏める。信也は一度も美紅の方を見る事はないが、美紅は気にする様子もなく、信也を眺めていた。
「少し遅くなるかも知れないけど、ご飯だけ用意しといて」
「了解」
やはり美紅を見る事なく、資料を軽くヒラつかせる。
少し遅れて動きの止まった輪転機に向かう美紅を残し、信也は印刷室を後にした。
187 :
指輪 2:2006/01/31(火) 16:07:00 ID:xoPmWdLb
信也の母親が交通事故で怪我をしたのは、つい二週間ほど前の事だった。
幸い、命に別状はないが、足を骨折したせいで、入院生活を余儀なくされている。
信也の父親は仕事と母親の見舞い。兄は北海道の大学に行っているので、必然的に家事は信也が受け持つ事になったのだが。
信也は、これまで碌に家事などした事がない。
荒れる一方の都築家を見るに見かねて助け船を出したのは、向かいに住む美紅と美紅の母親だった。
たった四日で家事を挫折した信也とは違い、美紅は掃除も料理も得意分野。家庭科教師の名は伊達ではない。
家に帰った信也は、覚束ない手付きながらもご飯の用意を済ませると、眺めるだけのテレビを付けて、居間のソファに寝転がった。
六月。本来ならば受験勉強に勤むべきなのだが。
エスカレーター式に上がれる大学に進むつもりでもあるし、その為に必要な単位は十二分に取得している。偏差値も一つ上どころか、三つぐらい上のランクも狙えるほどだ。
よって然程勉強する気もない信也は、此処数日の慣れない環境の変化のせいか、睡魔に誘われるまま、とろとろとまどろみに身を委ねた。
小一時間ほど惰眠を貪っていただろうか。インターホンの音に目を覚ますと、ニュースは既にバラエティ番組へと変わっていた。
のそのそと起き出し玄関へと向かう。
扉を開けると、買い物帰りかスーパーの袋を手にした美紅が、息を切らせて立っていた。
「びっくりしたァ」
開口一番、美紅は告げると、頭半分は背の高い信也を見上げた。目は大きく見開かれ、胸元に手を当てて呼吸を整える。
まだ眠気の残る表情の信也は、美紅の言葉の意味が掴めない。
いや、例え寝起きでなかったとしても、分からなかったに違いない。美紅の悪い癖は、主語も述語も何の脈絡もなく言葉を紡ぐ点にある。
それでも、信也は馴れた様子で、美紅が部屋に入るのを待って扉を閉めた。
「通り魔があったんだって。警察とか、色々」
「……ふゥん。犯人は?」
「捕まってないみたいよ?あ、ご飯用意した?」
「あァ」
「最近物騒よねェ。狙われたらどうしよう」
話をあちらこちらに飛ばしながら、美紅は台所へと向かう。
学校に居る時とは随分と様子が違うが、美紅曰く「公私を分けているから」だそうで。
産まれてから十八年間、そんな美紅を見慣れた信也は、呆れる事もなく美紅の後に続いた。
188 :
指輪 3:2006/01/31(火) 16:08:28 ID:xoPmWdLb
「お醤油と胡麻油」
「はいよ」
「信ちゃんも気を付けなさいよ?通り魔って言うくらいだもの。今時、誰が狙われるかなんて分からないんだから」
「美紅の方こそ」
「あたしは大丈夫」
「……根拠は?」
「ないわよ、そんなの」
軽口を叩きながらも、美紅は勝手知ったる何とやらで、包丁とまな板を引っ張り出す。
冷蔵庫を開けチューブに入ったショウガを取り出すと、信也にそれを押し付けて、スーパーの袋を漁り出した。
「お醤油と混ぜておいて。信ちゃんまで怪我したら、叔父さん寂しがるでしょ?」
美紅の指示通り小皿にチューブショウガを取り出した信也は、ムと眉を顰めると、包丁を持つ美紅の背中に視線を投げた。
「……問題はそこか?」
「勿論よ。あたしも寂しいし?この包丁、研いだ方が良くない?」
「あ〜…そうか?分かんね。つか、美紅のが狙われやすくねェ?仮にも女だし」
「仮は余計。混ぜたらキャベツ剥いて洗って。終わったらテレビにゴー」
「人の話聞けよ……」
思わず突っ込む信也にも耳を貸さず、美紅は手際良く調理を開始する。
これ以上何を言っても無駄だと知る信也は、深い溜め息を吐くと、キャベツを包むラップを無造作に取り払った。
出来上がったショウガ焼きを突付きながら、信也はぼんやりとテレビを眺めていた。
夕食を作り終えた美紅は、既に自分の家に戻っている。
調理の間も、美紅はさっきの様子でポンポンと話を続けていたが、ショウガ焼きの出来には関係がない。
好物が美味ければ信也も文句はなく、時折外を走るパトカーの音を耳にしながら、黙々と食事を続けていた。
一人の食事を終え、空になった皿を流しへと運ぶ。洗い物を済ませようとシャツの袖を捲った時、視界にチカと輝く物が写った。
小さな指輪。
恐らく美紅の物だろう。料理をする時に外して、そのまま忘れてしまったに違いない。
「粗忽者め」
苦笑いを浮かべて指輪をズボンのポケットに仕舞う。
洗い物を済ませたあと、信也はズボンのポケットに手を突っ込みながら家を出た。
189 :
指輪 4:2006/01/31(火) 16:09:51 ID:xoPmWdLb
向かいの部屋のインターホンを押して、待つ事暫し。ドアを開けたのは美紅の母親だった。
「あら信ちゃん」
「今晩は。美紅居ます?」
「えェ。美紅ー、信ちゃんよ」
部屋の奥へと美紅の母親が声を投げる。
入れ替わるようにして奥から姿を現した美紅は、先程とは違いラフな出立ちで、口をもごもごと動かしていた。
「ふん?何?」
学校では決して見せない、気の抜けきった姿。童顔もあいまってか、どう見ても年頃の女性とは思えない。
「忘れ物」
ズボンから指輪を取り出し美紅に差し出す。
美紅は口の中の物を飲み下すと、へにゃりと表情を緩めて指輪を受け取った。
「わざわざありがとね。いつでも良かったのに」
「ウチにあっても仕方ねェだろ」
「あァ、それもそうね」
ふむりと小さく頷いて、左手に指輪を填める。
美紅の指にぴったりとおさまった指輪を見ると、信也は小さな吐息を漏らした。
「美紅も、そんなの着ける年頃になったんだなァ」
「何よそれ。信ちゃんの方が年下でしょ?」
信也の言葉を嫌味と受け取ったのか、美紅の眉間に皺が寄る。その表情は何処か幼さを感じさせるので、信也は美紅の不機嫌な表情が好きだった。
思わず表情を綻ばせた信也だが、美紅の表情は変わらない。
「もォ…馬鹿にしてるでしょ」
唇を尖らせ睨み付けた美紅に、信也は慌てて首を横に振った。これ以上勘違いされては堪らない。
「してないよ」
「どうだか」
「ホントだって。美紅も大人なんだなァって、感心してんの」
「やっぱり馬鹿にしてるー」
ぶーぶーと文字通り抗議の声を上げる美紅に、信也は苦笑にも似た曖昧な笑顔を返すのみ。
そんな二人の遣り取りを知ってか知らずか、奥から美紅の母親の声が飛んで来た。
「美紅ーっ、早く食べちゃいなさいっ!信ちゃんも上がってらっしゃい」
「いや、もう帰るんで。親父も帰って来るし」
美紅の頭越しに返事をすると、あらそう?と残念そうな声が聞こえる。
美紅は信也を見上げると、先ほどまでの表情は何処へやら。にっこり笑いながら指輪を填めた手をヒラつかせた。
「アリガト。叔父さんに宜しくね」
「あァ。おやすみ」
「おやすみー」
声と同時に美紅が扉に手を掛ける。
完全に扉が閉まったのを見届けると、信也は重い溜め息を一つ吐いた。
閉める間際まで、ゆらゆらと揺れていた左手の薬指に光る輝きが、妙に信也の脳裏にチラついていた。
190 :
指輪 5:2006/01/31(火) 16:11:07 ID:xoPmWdLb
それから数日。
友人達と他愛ない雑談を交す信也の耳に、その言葉はいきなり飛び込んできた。
「マジで!?奥っちゃんと美紅センセ、付き合ってんの!?」
昼休み。
自分と同じように雑談を交す女子達の一人が、大袈裟な程に驚いたような声を上げた。回りの女子達は、その少女を抑える風もなく、ウンウンと頷いている。
「たぶんだって」
「いや、マジ臭くない?どう見ても奥っちゃん、美紅センセに気ィあるっしょ」
「そうそう。バレバレだっつーの」
「じゃ、美紅センセの指輪も……」
「奥っちゃんからのでしょ、絶対」
美紅の指輪の存在に、恋とオシャレに過敏な女子生徒が気付かない筈はない。
信也が初めて気付いたのはつい先日だったが、美紅に改めて問う気はなかった。プライベートな事にまで口出し出来るほど、信也に勇気がなかったからだ。
だが、相手が相手と知れば話は別だ。
奥村雄平、二十七歳、国語教師。
恐らく美紅に次いで校内で若い男性教師は、女子の言葉を借りれば若くてイケ面。少しばかり気障な風もあるが、女子からすると「大人の余裕が漂っている」との事。
「奥っちゃん」の愛称も、女子が付けたのが始まりだ。
確かに顔の造作は悪くはないが、だからと言って性格もそうかと言うと、信也は首を捻りたい。
時として放たれる嫌味にも似た気障な言葉は、男として以前に人として嫌悪感が走る。それは他の男子生徒も同様なようで、一部の男子生徒は(やっかみも含んでだろうが)彼の事を良くは思っていないらしい。
要するに、男子生徒からは嫌われているが女子生徒からは親しまれている教師の見本。それが奥村だった。
191 :
指輪 6:2006/01/31(火) 16:12:12 ID:xoPmWdLb
「くやしー。奥っちゃん結婚する気かなァ」
「するんじゃない?美紅センセなら」
「可愛くて料理上手なんて、贅沢すぎるっつの」
「アンタ家庭苦手だもんねー」
女子達の話は尽きる様子もなく、キャイキャイと続いている。
そんな中。
「な、信也」
知らず聞耳を立てている自分に声を掛けられ、信也はフッと我に返った。
友人の一人が此方を向いて、不思議そうな表情をしている。
「あ…悪ィ。ぼーっとしてた」
まさか、他人の話を盗み聞きしていた、などと言える筈もなく。眉尻を下げて力なく笑うと、友人はしょうがないなと言いたげに肩を竦めた。
実際のところ、信也は美紅に、噂の真偽を確かめるつもりはない。
美紅には美紅の事情があり、彼女の好みがあると言うもの。例えそれがいけすかない教師が相手だったとしても、信也には出来ない。
したくても出来ないならば諦めるしかない。
年の差同様、諦めるべき問題だとは思いながら、信也は小さな溜め息を零した。
しかし、信也の気持ちとは裏腹に、その機会はいともあっさりとやって来た。
192 :
指輪 7:2006/01/31(火) 16:13:28 ID:xoPmWdLb
その日の夜。
内心、信也は美紅とどう接するべきなのか困っていた。
普段通りで良いのだろうが、いざ普段通りと思えば思う程、妙な力が入ってしまう。結果として自室に引き込もる、と言う受験生特有の手段を取っていたのだが。
食卓に並べられた夕食を目にした信也は、思わぬ光景にパチクリと瞬きした。
この二週間余り、美紅が共に夕食を取る事はなかった。だが、食卓に並べられているのは、確かに二人分の食事。
それが信也の父親の分でない事は、美紅が食卓についている事からも明らかで。
不思議がっている信也などお構いなしに、美紅は箸を取った。
「……叔母さんは?」
「今日はフラワーアレンジメントの講習。遅くなるから先に食べなさいって」
「……叔父さんは?」
「飲んで来るって」
何とか捻り出した信也の疑問にあっさりと答えながら、美紅はイタダキマス。と手を合わせる。
よりにもよって、あんな話を耳にした日に。
そう思いはしたが、食事をしない訳にはいかない。
信也はひっそりと溜め息を零すと、いつもの席に腰を下ろした。
向かいで食事を始める美紅の左手には、きっちりと例の指輪が填められている。
その事がどうにも居心地が悪く、信也は努めて視線を外そうと試みた。
しかし、気になる物は仕方ない。
美紅は相変わらずの調子でポンポン話していたのだが、信也は生返事を返すばかり。
自分の不自然さに、美紅は気付いているのだろうか。
「美紅」
「ン?」
「その指輪、どうしたんだ?」
あらかた食事も終わった頃、信也は我慢に耐えきれず口を開いた。
何の事かと言いたげに、間抜けな表情でお茶をすすっていた美紅だったが、信也が向けた視線の先に、漸く質問の意味が分かったらしい。
湯飲みを置き、両手を合わせてゴチソウサマと呟くと、美紅はへらりと気の抜けきった童顔で笑った。
「予防策」
「…………は?」
きっかり三秒の間を空けて信也は眉間に皺を寄せた。
そんな信也に、矢張へらりと笑う美紅は、薬指から指輪を引き抜きながら言葉を続けた。
「最近鬱陶しいんだもの。コレがあったら、少しは大人しくなるかなァと思って」
抜いた指輪を手の中で転がしながら、いつものように主語のない言葉。
その様子はぞんざいで、どう控え目に見ても、指輪を大切にしているようには思えない。
193 :
指輪 8:2006/01/31(火) 16:15:13 ID:xoPmWdLb
完全に黙りこくった信也だったが、思考回路はフル回転。美紅もそれが分かっているのか、ポンポンと指輪を弄びながら、口を開く様子はない。
──指輪は決して大切な物ではない──鬱陶しいから予防策──女子の噂話──
推論を纏めるのは容易だったが、それ以上に妙な虚脱感に襲われて、信也は小さな吐息を漏らした。
「そっか……なんだ…」
後の言葉は意識した物ではない。
だが、それを聞き咎めた美紅は指輪を食卓に置くと、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「心配した?あたしに恋人が出来たんじゃないか、とか」
あからさまなからかい口調に、再び信也の眉間に皺が寄る。
憮然とした表情でお茶を飲み干した信也は、フンと鼻を鳴らすとそっぽを向いた。
「別に。物好きな奴でも居んのかな〜、とか思ってただけ」
なるたけ自然な風を装った言葉に、美紅は一瞬黙り込んだ。
ちらりと様子を伺うと、何かを考えるかのように、視線をきょろりと泳がせている。
その視線が自分を捕えたかと思うと、美紅は少しだけ苦笑混じりに食器を片付ける手を再開させた。
「信ちゃんって物好きなんだ」
どこをどうやったらそんな結論が出るのか。呆れた信也は、思わず溜め息を零した。
「あのな……。俺がいつ美紅の事好きっつったよ」
強気の態度に出られれば、意地を張ってしまうのはいつもの事。
再び視線を外した信也に、美紅はふうんと興味のなさそうな頷きを返したが、表情を戻すと席を立った。
カチャカチャと食器の触れ合う音がする。
横目で美紅を見遣ると、美紅は口許に笑みをにじませていた。
二人分の食器は、一度で運べる量ではない。
食卓に頬杖をつき、依然そっぽを向いたままの信也だったが。二回目に食卓に現れた美紅は、食器を手にするとにっこりと笑った。
「あたしは好きよ。ずーっと」
何でもない事のようにさらりと告げられ、信也の思考回路はフリーズした。
たっぷり十秒。
我に返った信也が台所の方を見ると、台所に立つ美紅の背中が視界に入る。
「だからァ」
まだ信也が此方を向いていないとでも思っているのか、少しだけ張り上げられた間伸びした声。
無言で背中を見つめる信也は、続く言葉の予感に頬杖を解いた。
「ちゃんと、予防策じゃないのが欲しいわねェ」
誰から、などと聞く気はない。今の会話の流れで言えば、該当する人物など自分一人しか有り得ない。
194 :
指輪 9:2006/01/31(火) 16:16:44 ID:xoPmWdLb
衝撃の告白と言うには、少しばかりムードがない気もするが、美紅にそれを求める方が間違っている。勿論信也にも。
信也は眉間に深く皺を刻むと、仏頂面で食卓に置かれたままの指輪を手に取った。
「世間体ってモンがあるだろーが……」
ボソリと呟いた声が美紅に届いたかどうか。美紅は台所で鼻唄を歌っている。
そんな美紅の背中に向けて信也は意を決して口を開いた。
「安物なら買ってやる」
信也の言葉に美紅の鼻唄がピタリと止む。
振り返った美紅の顔を見ると、幼い顔に満面の笑み。
「婚約指輪はそれなりの値段にして頂戴ね」
雰囲気ぶち壊し。
そんな言葉が頭の奥を掠めたが、信也は何も言わずに頷くと、手にした指輪をゴミ箱に放り投げた。
以上です
気侭な年上女に振り回される、冷静年下男を書きたかったのですが、描写が追い付かず玉砕orz
精進して出直して来ます
ウホッ リアルタイム。
いやいやなかなかいい雰囲気っすよ。
乙でした!
ぐっじょぶ〜
男は苦労するねぇ…続編期待。
シリーズ化きぼん
投稿行きます。
もう日も沈んだ休日の街を一人で歩く。
たったそれだけのことが妙に悲しく感じるのは何故だろう。
そんな詩的な事が頭に思い浮かぶ。
まあ要するに一人で寂しいだけなんだが。
仲間内で唯一彼女いないし何か疎外感。
まあ家に帰っても両親は旅行中だし
担任でもある兄は嫁さんとイチャついてるだろうから居心地悪いだけだが。
「あの・・・。」
そんな寂しいことを考えていると誰かに声をかけられた。
「はいはい・・・。」
声のした方を向く。
そこに立っていたのは、一言で言うと、美少女だった。
綺麗とも可愛いともとれる整った顔立ち。
卵形の輪郭。
流れるような長い髪。
女性らしい身体のライン。
それらがバランスよく配置された娘であった。
彼女と目が合う。
すると何故か彼女は俺を見つめたまま硬直した。
「ええと・・・、俺が何か?」
何か気に障るような事したか俺?
目の前の少女はそんな俺の疑問に気付かず躊躇いがちに聞いてきた。
「もしかして白木啓介君?」
「あ・・・、はい、そうです・・・。」
何故か敬語で答える俺。
「・・・!」
彼女の顔がみるみると歓喜の色に染まり、
「会いたかった・・・!」
いきなり俺に抱きついてきた。
「なっ・・・・・・。」
「久しぶりー!元気だった?」
少女が気軽に声をかける。
が、こちらはいきなり女の子に抱きつかれたという事実に気が動転してそれどころではない。
鼻先をくすぐるシャンプーの匂いやモロに当たってる弾力のある物体の感触、
何より少し動くだけな触れてしまいそうなくらいに近づいた彼女の笑顔に
心奪われそうになるが決死の思いでそれを阻止。
というか女の子に抱きつかれただけで何ここまで動揺してんだ俺と
頭の中の冷静な部分が訴えてくるが今はそれどころではない。
(・・・久しぶり?)
どういうことだろう。女の子の知り合いなんていないのに俺。
いや、いた。
子供の頃に一緒に遊んだ少女。
いつも一緒だった少女。
そして、家庭の事情で俺の前から姿を消した少女。
その面影が
「もしかして・・・、綾乃?」
「うん!」
少女――黒田綾乃は嬉しそうにそう答えた。
「じゃあこっちに帰ってくるのか・・・。」
「うん!」
俺たちは夜の街を二人で歩いていた。
もう夜遅くなので俺が綾乃を家まで送ることにしたためだ。
「学校はもう決まってる?」
「明日から私立式坂高等学校の2年8組に入るんだって。」
「ウチのクラスかよ!?」
兄貴の仕業か!?この狙いすましたかのようなクラス編入は!?
「あ、そうなんだ。」
何がおかしいのか彼女はくすくすと笑う。
「でも、安心した。」
「何が?」
彼女は笑みのまま俺に言った。
「やっぱり啓介って、昔優しい啓介のままだなあって。」
「・・・そんなことない。」
俺は彼女から目をそらし、
「俺、一度お前を裏切ったからな・・・。」
「啓介・・・。」
会話が途切れる。
その後、俺たちは目的地に着くまで無言のままだった。
「じゃあ、また明日な。」
「あ、ちょっと待って。」
去ろうとした俺の肩を綾乃が掴む。
「昔から啓介に言いたかったことがあるの。」
「言いたかったことって――――!?」
綾乃は自分の唇を俺のそれに重ねた。
唇を離すと彼女は俺に満面の笑みを浮かべ、
「私、昔からずっとあなたのことが好きです。」
綾乃はそう言い残すと門をくぐり、玄関に入っていった。
そして、ドアを閉める直前、
「返事はいつでも良いからね。」
直後、ドアを閉めた。
残された俺は長い間その場に立ちつくしていた。
「――――ということがあったぐげがっ!?」
昨日のこと(流石にキスされたことは隠した)を話し終える直前。
俺は突然話を聞いていた友人の一人に殴られた。
「な・・・何するんだよ!」
「やかましい!!」
俺の文句を遮って俺を殴り飛ばした長身の体格の良い友人――赤峰博人は言葉を続ける。
「てめえそんなに羨ましい体験をしやがって・・・!
男として俺は貴様を許せねえ!!この場で成敗してやる!」
「・・・お前彼女いるだろうが・・・。っていうか声デカすぎだ。落ち着け。」
もう一人の眼鏡をかけた細身の友人――黄原秀樹が冷静に赤峰にツッコミを入れる。
「馬鹿野郎!それとこれとは話が別だ!
そう言うシチュエーションが羨ましいと思うのは男として健全だ!!」
「へえ。そうなんですか。」
その発言を聞いた途端、黄原の発言の後半を無視して大声を出していた赤峰が硬直した。
固まった赤峰の後ろにはいつの間にか背の低い(自己申告152a)少女――青野直美が立っていた。
「博人君は自分から告白もできないような女の子は嫌なんですね・・・。」
「いや、直美、そう言う意味じゃ・・・。」
赤峰は半泣きになる青野を必死になだめ始めた。
その隙に俺は退避。
「ふう、助かった・・・。」
「安心するのはまだ早い。」
戦略的撤退を試みる俺の肩を黄原が捕まえる。
「・・・ナニカヨウデセウカ?」
「さっきの話をもっと詳しく聞かせてもらいましょうか?」
いつの間にか俺の前に長身の少女――吉村みどりが俺の前に立ちふさがっていた。。
「まだ何か隠してることがあるだと新聞部部長のカンが告げているのよ・・・。」
「イイエ。ナニモナイデスヨ?」
「カタコトで言ってる時点で説得力がないぞ。」
「く・・・。」
俺にもう逃げ場はないのか・・・?
と、そこでチャイムが教室に鳴り響いた。
同時に教室のドアが開き、担任である兄が入ってきた。
「さ、朝礼やるから席に着けー。」
「チッ、時間切れか・・・。」
「命拾いしたわね・・・。」
渋々とどこぞの三流悪役のような捨てぜりふを残して席に戻る黄山と吉村。
「た、助かった・・・。」
俺は拷問から解放されたことに安堵する。
しかしこのときの俺は知らなかった。
まだ地獄は終わってないことを。
「今日からこのクラスに入ることになった黒田綾乃です。
よろしくお願いしまーす。」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
クラスの男子のほぼ全員が歓声を上げる。
・・・まあルックスは良いからなアイツ。
と歓声を上げなかった男子の内の一人である俺は人ごとのように思う。
「あ、啓介おはよー!」
彼女が脳天気に俺に声をかけた瞬間。
その場の全員の好奇と殺気の入り交じった視線が俺に集中した。
・・・いやみんな怖いよ・・・。
「じゃあみんな綾ちゃ・・・黒田に質問無いかー。」
その一言をきっかけにクラスメートが次々と質問していく。
「身長体重3サイズは!?」
「身長は164センチ。後はご想像にお任せします。」
「誕生日と血液型は?」
「9月3日生まれの乙女座で、A型です。」
「好きな食べ物は?」
「美味しい者なら何でも。」
しかし綾乃はそれらに怯むことなく答えていく。
赤峰が声を上げた。
「啓介とはどういう関係なんですかー!?」
「幼馴染みです。3歳の頃からずっと一緒でした。」
おお、と歓声が起こる。
「あの白木が先物買い・・・!」「未来を見据えて手を付けるとはやるな・・・!」
「赤峰よりはマトモな方だと思ってたのに・・・。」「やはり奴も獣(ケダモノ)か・・・。」
何か凄い事言われてるよ俺・・・。
と、そこで歓声を上げなかったもう一人―黄山が手を挙げる。
「ドコまでしましたか?」
涼しい顔して露骨に聞くなよ・・・。
その質問を受けた綾乃は赤らめた頬に手をあて、
「キスまでなら・・・。」
俺は思い切り頭を机に打ちつけた。
「ちょ、ちょっと待てぇ!」
流石にそろそろ止めねばならない。
周囲の突き刺すような視線と額の痛みを無視して体を机から引きはがして立ち上がる。
「た・・・、確かに子供の頃したけどな・・・。」
とりあえず本当のことを言う。
ただし必要な部分を意図的に省いてるのでみんなは子供の頃の戯れだと思うはずだ。
まあ言い訳臭いのは重々承知してるがこうでもせんと俺の身の安全がヤバイ。
「でも昨日「うわああああああぁ!!」れ際にキスし「うわああああああぁ!」」
わずか2秒で俺の思惑はいとも簡単に打ち砕かれた。
「アレか?再会の勢いって奴か?」「そのまま一気に?」「「「「キャー!」」」」
「いや、さっきキスまでと言ってたし・・・。」「いやいや、嘘という可能性も考えるべきだ。」
何かみんな好き勝手言い始めてるし・・・。
吉村に至ってはメモまで取っている。
「うああああああああああ・・・・・・。」
あまりの恥ずかしさとプレッシャーに圧され、俺はどこからか聞こえてくる嗚咽をBGMに
机に突っ伏した。
・・・嗚咽?
聞こえる方に目を向けるとそこには涙を流してうつむく兄の姿があった。
「・・・ああ・・・、綾ちゃんがいなくなってから家族からしか
義理チョコももらえないほど浮いた話一つ無かった啓介に遂に春が・・・!」
そう言うと兄は目元に拳をあてて涙をぬぐい、
「・・・この愚弟の保護者として、今日という日を神に感謝する・・・!」
「黙れ愚兄!」
そう叫んだところでチャイムが鳴った。
ああ、これでこの地獄から解放される・・・。
「次の時間俺の担当だし構わず続けてー。」
「「「「「「「はーい!」」」」」」」
「このクラスにマトモな奴はいないのかー!」
俺の絶叫は全員に無視された。
昼休み、とりあえず俺たちは屋上に逃げ込むことに成功した。
1月半ばのこの季節、こんな寒いところに来る奴はいないだろう。
「ゴメンゴメン。調子に乗りすぎちゃった。」
「・・・・・・お前なー。」
今更の謝罪への抗議代わりに哀愁たっぷりのため息をつく。
しかし綾乃はそれを気にもしない。
「逃げてよかったの?」
「あのまま教室にいたらまた質問攻めに合うからな。流石に疲れた・・・。」
お前を教室に残したらまた余計な事言いそうだし、という台詞は心の中に止めておく。
「私の手繋いだまま何処かに逃げたって言うのは十分話題になると思うけど。」
「手?」
「ほら。」
そう言うと綾乃は自分の右手を俺に見えるように持ち上げる。
そこにはしっかりと俺の左手が握られていた。
というか俺の方から握ってる。
「ゴ、ゴメン!」
暖かく柔らかい感触に思わずドキリとしてしまい、慌てて彼女の手を離す。
が、綾乃は怒りもせずに笑顔で俺を見ていた。
「啓介のそう言うところ、可愛い♪」
「・・・ほっとけ。」
ぶっきらぼうに返すが綾乃は笑顔を崩そうともしない。
くそう。何か調子狂う。
「まあ、いろいろあったけどさ・・・。」
そう言うと彼女は俺に笑顔のまま言った。
「これからもよろしくね?」
「・・・ああ。」
そう返事をすると俺は空を見上げた。
寒い風に似合わないくらいの強い日差しが雲の切れ間から降り注いでいた。
今日のところは以上です。
コンセプトは【好き好き光線出しまくりな幼馴染みに振り回される男】です。
でも描写が足りないし展開が急すぎたかなーと反省。orz
もっと精進します。
尚、登場人物の名前の色縛りは遊びですので深い意味はありません。
「変な名前w」ぐらいの気持ちで受け取って下さい。
神が光臨なさった
神北ー(゜Д゜;)
GJ!!
>>195 良かったですよー。こういう話は結構好きだったりします。
クールぶっても尻に敷かれる男。創作意欲を掻き立てられるな、と。
>>207 いい! こういう直球な話は良いと思います。
物語の鍵は「一度裏切った」という部分なんでしょうか。続き期待してます。
>>207 おおおおおおっぐじょぉぉぉっぶ!続き期待ですよ!
ちょっとピンポイントでツボですよ、奥さん!(奥さんって誰よ)
いやーええもん読ませて戴きましたーありがたやありがたやー
>>207 教室での展開がベタだからこそ、ギャグっぽいものをよく練ってくれると
おじちゃんは嬉しい
>>207 【好き好き光線出しまくりな幼馴染みに振り回される男】
好きシチュキタ━(゚∀゚)━!!!!!
ストライクです。ツボです。
楽しみにしてます、がんばって下さい
神が連続なところ悪いんだが
「甘え上手な幼馴染み」っていう言葉に、ときめきはするんだが、具体的にどんなこと言ったりしたりするのかが妄想できない。
誰か教えてくれないか。
>>215 考えるな。感じるんだ。内なるパトスのままに。
217 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/02(木) 17:52:57 ID:yVAzL3tM
>>207 GJ!!!!!!!!!!!!!続き期待してます。
218 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/02(木) 19:04:18 ID:hhVlwiky
割り込んで書きます。無粋で申し訳ない。
友人は異性の幼馴染に憧れる。
そりゃあ、俺だって憧れる。彼らの言う様に甲斐甲斐しくて、面倒見がいいような幼馴染なら金払ってでも欲しいくらいだ。
しかし、現実とはかくも非情なもの。
俺の隣の幼馴染は・・・。
「ほら、起きれ〜。朝だぞ〜。」
ゆさゆさ。
また来ましたよ、あいつが。だが幼馴染よ。俺はバイトで疲れているんだ。休ませてくれ。
そんな思いを込めて寝返りをうつ。
「ありゃま。幾度となく行われてきた仕打ちすら恐れることなく私に抵抗するか。そうかそうか。仕方ない。」
気配が少し遠ざかる。これで安眠が約束された。・・・いや、待てよ。そうじゃない。何かこの後恐ろしいことがあった気が・・・。
「さあ、あと5秒猶予をあげようじゃない。5、4、3・・・。」
・・・まあ、いいか。
「・・2、1。」
ビチャッ!
頬に何か不快な感触。思わず目が覚め、飛び上がろうとする。
「あ、こら!動くな!まだ途中なんだから!」
ちょ、ちょっと待ってください。あなた、私を起こすのが目的じゃなかったんですか?
そう思っている間に頬を何かがシュッシュッと伝う。
「よし!完璧!あ、起きて良いよ。」
俺は促されるままに起き上がる。
「・・・で、今日はなんて書いた?」
「今年の干支。」
片手に筆を持ったまま、幼馴染は満面の笑みを浮かべてそう言った。
「・・・酉か!?」
「戌です。おはよう、純君。」
「・・・最低な朝をいつもありがとよ、悠。」
「どういたしまして!ほら、早く起きて顔洗わなきゃ。ドンドン落としにくくなるよ、墨。」
「お前が部屋から出ていくならすぐに出る。」
「別に私は朝だちなんて気にしないわよ?」
そう言って、悠が純の股間にそっと手を置く。
「・・・あれ?起ってないよ?」
「そういう日もある。というかいいから部屋から出て行け。」
「・・・もしかして、あれですか?性的興奮を感じても血が集まらず、海綿体が膨張しない。いわゆる・・・」
「いいから出て行け!」
・・・幼馴染。なあ、友よ。こんな幼馴染でもお前は良いと言えるのか?
・・・駄作で申し訳ない。一応、読みきり。ご要望があれば続きを書かせていただきます。
続きを書かない……やめてくれ、そんなこと。
この心の猛りをどうしてくれるんだ。
ともかく、GJ!!
素直クール系幼馴染か。いいなあ
221 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/03(金) 00:23:50 ID:oPipeRsm
>>219さんアリガトウです。では、稚拙ながら続きを。
昼休みというものは普通仲間と一緒に食べるものだと思う。いや、そのはずだ。
だが、俺は違った。
「おそ〜い!」
ニコニコしながら言われても叱られた気がしない。
場所は屋上。春、秋は良いが、冬にもなると寒くて食事を摂る場所には適していない。
だが、俺と悠はいつもここで昼飯を食べる。
個人的には友達と食べたいのだが、一回無視した際、教室まで押しかけられて以来仕方がなくしたがっている。
「しょうがないだろう。購買混んでたんだから。」
「私みたいにお弁当にすれば良いのに。」
そう言って悠が小さなお弁当の中身をを見せるように持ち上げる。
プチトマト、ブロッコリー、玉子焼き、ウインナー。
小さいながらも色合いを綺麗にまとめられたお弁当箱。中身も簡単なもので構成されているが、何か暖かいモノを感じる。
「それなら悠が俺の分も作ってくれよ。」
「や〜だよ♪」
何が嬉しのかニコニコしながらご飯を口に運ぶ悠。俺も昼飯を食べる事にした。
「あのさ〜。」
「ん?」
「純君って童貞?」
「・・・昼食中に不適切な話題だな。」
「じゃあ、昼食後にしよっか?」
結局その話は終わらないのかよ。
「・・・童貞なら何だってんだよ。」
「ん〜、別に〜。」
俺の言葉に何故かニコニコしている悠。こいつ、俺が童貞だって悟りやがったな。
「あ、純君ほっぺにソースついてる。」
悠が純の頬を優しくなぞり、手についたソースを口に咥える。
「ん〜、おいし。」
「ちょ、おまえ・・・」
恥ずかしいことするなよ、とは言えなかった。
本人は満足そうに鼻歌なんぞ歌っている。
幼馴染。そう、それだけ。それ以上の感情を悠は持っていない。
それでも、その仕草一つ一つにドキドキせずにはいられない。
幼馴染は距離が近すぎる。近いから、遠くならない代わりにそれ以上近付けなくなる。
何故、自分はこの女を好きになってしまったのか?
悠は純より一つ年上のお姉さんという設定です。
少し、照れくさい感じですね。申し訳ない。
申し訳なくなんかない!!
私は一向に構わんッッ!!!
うむ、いい感じだ。
これからも是非書いて欲しい。
ワクテカ
225 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/03(金) 15:18:19 ID:oPipeRsm
バイトで疲れた体を引きずって家に帰る。
早く寝よう。そう思って夕食もそこそこに自分の部屋へ。
「あ、おかえり〜。」
いつものことだが、何故この人はこうも勝手に人の部屋に入るのだろうか?
制服を着たまま悠はベットにちょこんと座っていた。
「勝手に部屋に入るなって。」
「いいじゃない。じゃあ、私の部屋にも勝手に入って良いから。」
ニコニコとしながら平然とそんなことを言う。
「悠の部屋を荒らしてやる。」
「じゃあ、窓の鍵開けとくね。」
言葉に詰まる。
なんて無防備なんだろうか?無防備すぎる。幼馴染とはいえ異性なのだ。
「で、何読んでんの?」
「ん?純君の参考書。」
参考書?俺はそんなものは持ってないぞ。と、思いながら覗くと、そこには絡み合う男女が描かれていた。
俺の隠していたエロ本!?
「何読んでんだ!」
取り上げた。
「いや〜、純君もエロ本とか読むんだね。」
「・・・。」
恥ずかしさで顔が真っ赤になっていくのが分かる。心臓もバクバクいっている。
悠が立ち上がる。
「一つ質問♪なんで、シチュエーションが幼馴染のばかりなのかな?」
嫌な汗が体中から吹き出る。悟られたか!?
「ほれほれ〜。答えなさい♪」
悠の顔は悪戯を愉しんでいるように無邪気に笑っていた。
もちろん、この後は質問に答えるんだよね?
でもって、それは肉体言語で答えるんだよね?w
>>225 GJ。ちょっと萌え転がりますね(・∀・)
ごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろ。
228 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/03(金) 21:38:45 ID:oPipeRsm
悠にエロ本を見られた。
しかも、何かを愉しんでいるように俺の瞳を覗いてくる。
「・・・そ、それは、その・・・。」
「それは?」
「・・・な、何でもいいだろう!勝手に人のもの読むなよ!」
もう逆ギレしか道は残っていなかった。
しかし、悠は余計に楽しそうにしている。
「ほら、よく考えてみよう?幼馴染にエロ本見られて、問い詰められて、今を逃すと嫌われちゃうかもしれないよ?純君、私に何か言うことがあるんじゃない?ピンチはチャンス、なんだよ♪」
何を言っているのか、分かった。
悠は、俺が好きだって知っているのだ。
ピンチはチャンス。告白するなら、今しかないぞ、そう言っているらしい。
つまり、始めから悠の計画に乗せられたという事になる。しかし、たしかに、悠の言う通りだ。言うなら今しかない。
覚悟を、決めた。
「・・・お、俺は!」
覚悟は決めたが声が、言葉が口から中々出てこない。悠はニコニコしながら俺を見ている。
「俺、は・・・。」
声が、出ない。
「ほら、頑張れ♪」
「・・・悠が、好き、だ。」
何とか、言えた。悠は笑みを浮かべている。
「もう一回。今度ははっきりきちんと。」
「・・・俺は悠が、好きだ。」
今度はまだまともに言えた。悠が俺に抱きついて来た。
「よく出来ました。」
その声は嬉しそうで、何故か少し震えていた。
「私も好きだよ、純。」
悠が始めて呼び捨ててで俺の名を呼んだ。
心臓がバクバクうるさかった。
ちょいと無理な展開ですね。もう少し続きます、しばしお付き合いください。
229 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/03(金) 22:08:30 ID:oPipeRsm
いつから悠は、俺が悠を好きだって知っていたのだろうか?それを聞こうとした時だった。
「・・・今日ね。友達がね。純君を紹介して、って言って来たんだ・・・。」
その声は震えていた。
「えっ?って思った。急に気が気じゃなくなった。」
悠は力を込めて純をギュッとする。
「純君は私の幼馴染で、だから毎日私が起こして、私が面倒見て、それで、それで。」
「・・・もう、何も言うな。」
つまり、二人とも考えていたことは一緒だった。
どちらも不安だったんだ。近すぎるこの距離がとても不安だったんだ。
「・・・もう、いいよね?」
「何が?」
「純って呼び捨てにして、いいよね。」
「当たり前だ。」
と、ここまではなんとかこの嬉しさの余韻に浸って忘れていたが。そういえば、悠と抱き合っているわけで、つまりその、暖かくて柔らかい感覚が胸に当たっているわけで、それにとても良い匂いがするわけだ。
自分とはこれほど抑制の効かない男だっただろうか?
股間に血が集まっていく。
「・・・あ。」
ビクッと悠が反応する。驚きの目で純を見る。
・・・バレた。
「・・・よかった。」
純がニコッと笑う。
「朝、不安だったんだ。もしかして純は再起不能かと思ったから。」
いや、恥らえよ。女だろう?そう思って悠を見ると目が潤んでいた。引き込まれるような、とても魅力的な瞳。もう我慢の限界だった。
「その、・・・いいか?」
悠はニコっと笑う。
「その前にやることは?」
悠が背伸びして目を瞑る。
・・・ああ、そういうことか。
悠のみずみずしい淡いピンク色の唇に、俺はそっと自分の唇を重ねた。
(*´д`)<イイヨイイヨー
でも投下はまとめてやるべきかと。一応マナーとして。
228を書いてる内にもう少し書きたくなってリアルタイムで書いたんだろう
それはそうと、ここまで積極的なのもいいね(*´∀`*)
本文も面白いが、IDが面白い
>>228-229 GJです。ごろごろごろ。
欲を言えばもうちょっとだけ悠タンの小悪魔モードが見たかったかなぁ。
>>232 「おっぱいぺろりSM」だもんなぁw
235 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/04(土) 14:00:53 ID:i1byXfzu
投稿してみます…始めの方だけで申し訳ない…
236 :
235:2006/02/04(土) 14:03:19 ID:i1byXfzu
アゲてしまった…申し訳ない^^;
「不良な幼馴染」
「ジリジリジリジリうっせぇんだよ!糞目覚ましぃ!」
隣の家から怒声が聞こえる…まぁ、何度も聞いたので特に驚きはしないが…
最近はあの声が目覚まし代わりだ、いや…強制的に目覚ましだ…
にしても、もうそろそろ電話が来るはずだが…今日は遅いな…
「かならず〜僕等は出会うだろう〜♪」
俺の携帯から着歌のカルマが流れ出す…着やがった…
出たくねぇが…出ねぇとやべぇからな…
ピッ
「もしもし〜?」
「お、結城、起きてるか?」
「起きてるよ…起きてねぇと電話に出れねぇだろ…」
「ハハハッ!そりゃそーだ…じゃあ下で待ってっから〜」
プッ ツーツーツー
チッ、相変わらず自分勝手な奴だぜ…
しかたねぇ…行くか…せめて、もう少しマトモな幼馴染が欲しかったな…
下に行くともう幼馴染の雪菜が待っていた
「結城!遅せぇぞ!」
「あぁ…わりぃ」
全く…しょうもない事でいちいち因縁つけやがって…何か恨みでもあんのか…
「ほら、さっさと用意しろ、行くぞ」
普通に俺のチャリの後ろに座って命令を下してくる…
下僕とご主人様ってかぁ…少なくとも中学2年まではこんなんじゃなかったのになぁ…
「早くしろ〜聞いてんのかぁ!」
「今行くって…昔はもう少しおしとやかだったのになぁ…」
「あぁ!?なんだ?文句あんのか?」
「はいはい、俺が悪かったよ」
いちいち口喧嘩してやるほど俺は暇人じゃない…
チャリの後ろに雪菜を乗せて学校に向かって走る…もっとも雪菜は途中のゲーセンで降りるのだが…
「……結城ってさぁ…彼女いるのか…?」
「はぁ!?」
いきなり何聞くんだ…
「だから〜彼女いるのかって聞いてんだよ!」
少し顔が赤いのは気の所為だ、うん…そんなはずねぇ…
「いねぇよ!そんなもん」
「そっか…」
「オメェは…彼氏なんて居なさそうだな〜」
いつも乗せてやってんのに礼すら言わねぇ…からかってやるか…
「なっ…あ、あたしだって彼氏くらい…」
「ほー…なら今度会わせてくれよ」
「そ、それは…」
「何出来ねぇの?」
コイツに彼氏がいねぇ事ぐらい調査済みだぜ…
雪菜の表情を楽しみにして後ろを振り向くと…
238 :
235:2006/02/04(土) 14:22:53 ID:i1byXfzu
ちょっと次の奴にミスを発見したので、直してから、また投稿します^^;
C
前スレからの続きになります、微妙に間が空いてしまってすみません。
「んん……ん……ぷはっ」
お互いがお互いを吸い合う音が響く。
キスから離れれば体事の抱擁。
抱擁が終わればキス。
その繰り返し事に熱が高まり、熱い吐息がお互いをくすぐる。
「晶ちゃん……」
亜矢ネエがうわごとのように俺の名前を呼び、すがり付いてくる。
その手が俺のシャツに触れ、捲り上げていく。
「男の子だね……固い」
素肌をさすりながら、そんな事を言ってくる。
何となくそれが面白くなくて、服の上から亜矢ネエの胸を触ってみる。
「ひゃん!」
唐突な刺激に、間の抜けた声を出す。
亜矢ネエの胸はさほど大きくは無いが、それでも柔らかく形を変えていく。
ワンピースとは又違う布地の感触は、下着だろう。
「ちょ……晶ちゃん」
「亜矢ネエは女の子だな……こんなにも柔らかいんだから」
くつくつと笑う。
首に手を回され、唇を塞がれた。
「ん……服、脱ごうか?」
少しだけ緊張した面持ちで、亜矢ネエが言って来る。
勿論是非も無いが、ただ一つ――
「良いけど……亜矢ネエのは俺が脱がしたい」
俺の提案に、亜矢ネエがきょとんと目を瞬かせる。
「なあに、それ。そんな事したかったの?」
「いいじゃないか。なんかそうしてみたいんだよ……駄目?」
唇を尖らせて視線をそらす。
自分でも何となくマニアックだとは理解している。
理解しているが、やってみたいのだ。好きな女の子の服を脱がせるという行為を。
亜矢ネエはなんだか困った弟を見るような眼で見ていたが、くすくすと笑って身体を預けてきた。
「はい、どうぞ。背中にファスナーがあるから」
「あ……ああ」
肩越しにゆっくりとファスナーを降ろし、噛み合わせの音と共に亜矢ネエの素肌が露になっていく。
あまり外に出ることが無い故の真っ白な肌が、いまはうっすらと汗ばんで色づいていた。
その華奢な背中に広がる黒髪が、艶っぽく光を照り返す。
「腕……伸ばして」
「うん」
子供にするように言って、ワンピースをするすると抜いていく。
「う……」
これはやばい。
自分でやっておいて何だが、相当に興奮する。
何度も何度も唾を飲み込んでしまう。
俺はもしかしたら変態なんだろうか。
抜き取った服を、ベッドの下に置く。
「うあ……ッ」
振り返って、眼に焼き付いたその姿。
ベッドに横たわる、下着姿の亜矢ネエ。
ピンク色に薄っすらと色づいた上下の下着。
呼吸でゆっくりと蠕動するなだらかな胸。
小さい頃から知っている亜矢ネエの、艶やかな姿。
そんな視覚だけで、脳髄が痺れるような快感が全身を震わせる。
「晶ちゃんも……脱ご?」
頷き、シャツに手をかける間も亜矢ネエから視線を離さない。
脱いだ衣服を、床に投げ捨てる。
「はい、抱っこして」
広げた手をそのまま抱いて、密着する。
汗が媒介となったように、お互いの体温が直に触れ合う。
俺の胸で、亜矢ネエの胸が潰れて形を変える。
真っ白な首筋が美味しそうで、かぶりつくように唇を這わせる。
「ん……はっ……」
唇が触れるたび、亜矢ネエの体がふるふると震える。
背中に回された細い手が、切なげに俺の背を掻く。
ちくりとする痛みすらも、今の俺には鈍い快楽になる。
「晶ちゃあん……」
潤むような声で、俺を呼ぶ。
答える代わりに、ぎゅうと抱きしめる。
歪んだ肩紐が肩から抜け落ちた。
了承も取らず、そのまま剥ぎ取る。
「や……ちょっと……ぁんっ!」
小さな抗議もそのままに、剥き出しの肌に舌を這わす。
小さいけれど、崩れていない双丘が俺の舌先で形を変えていく。
「ちょっと……晶ちゃん!」
「でも……亜矢ネエも嫌じゃないだろ?」
顔を埋めながら、真ん中の突起に吐息を吹きかける。
そんな些細な刺激にすら、背をよじらせて過敏に反応する。
その可愛らしさに、なんだかどんどん興奮が高まっていく。
「それに……こっちの方が俺はいいし」
胸に耳を当てる。
どくどくどくと、俺と同じように早鐘を打つ亜矢ネエの鼓動が、直に響いてくる。
亜矢ネエの心臓の音、亜矢ネエの呼吸の音、亜矢ネエの温かさ。
それら全てがいとおしくて堪らない。
「もう……子供なんだから」
「母体回帰って奴かも……亜矢ネエが温かいから」
亜矢ネエが俺の頭を撫でてくる。
その間も、お互いの愛撫は止まらない。
肌をすり合わせ、舌を這わせ、時には吸い付き、手で撫でる。
ドロドロトロトロと、お互いの快楽が混ざり合って嬌声が耳朶を打つ。
最早どれがどちらの声すらかもわからない。
「んく……ふっ……」
お互いの手が下着にかかり、少しの硬直が場を支配する。
「いい……よね?」
「ああ……」
する、と二人の下着を床に落とす。
俺のは既に充血しきっており、亜矢ネエが目を丸くして注視していた。
「こんなの……入るのかな」
もじもじと閉じる真ん中、控えめな茂みが目に入る。
写真やビデオでは何度も見た事がある、恥ずかしながら亜矢ネエそのものを想像してした事もある。
けれど、そんなのが比べ物にならない程、心臓が高鳴る。
知らず、唾を飲み込む。
「やんっ……ちょっと待って」
指を差し込むと、しっとりと湿った感触。
それがどの程度なのか俺にはわからないが、少なくとも嫌じゃないしるしと言うことは解る。
「亜矢ネエも人の事言えないな」
「……晶ちゃんの馬鹿あ……んっ」
差し込んだまま、表面を撫でるように捏ねまわす。
受け売りのやり方だが、それでも亜矢ネエは身体をくねらせて喜んでくれる。
切なげに吐息を吐き出す唇に、自分のそれを重ねる。
俺の昂ぶりを受け渡すように、激しく食み、唇ごと吸い上げた。
「ん……んん! んうう!」
上と下、鈍い快楽に亜矢ネエがしがみついてくる。
「ぷはっ……んうっ!?」
口を離し、酸素を求めた一瞬に舌を絡める。
驚いたように引っ込めた亜矢ネエは、けれどすぐに答えてくれる。
擦れ合う肌と肌、絡み合う足と足、繋いだ手と手。
亜矢ネエと触れ合うのが、こんなにも気持ち良いなんて。
「はっ……はあ……息が切れるよ、晶ちゃん」
「亜矢ネエ……ごめん」
どちらとも無く離れ、一息つく。
謝って見たものの、全く興奮が収まらない。
「……」
何となく、お互いのそこを見やる。
俺のは言うまでも無く、殆ど暴走一歩手前といってもいいほどだ。
「晶ちゃん……」
「亜矢ネエ……その、いいかな?」
何となくそのがっついた状態が気恥ずかしくて、俯く。
ぎし、とベッドが軋む音と共に、亜矢ネエが生のままの姿で寝転がった。
「痛くしないで、優しくしてくれるならいいよ」
蕩けるように、笑う。
それが、限界だった。
「亜矢ネエ!」
覆い被さり、位置を合わせる。
「んっ……ふうっ」
温かい壁に包まれながら、亜矢ネエの中を進む。
亜矢ネエの苦しげな吐息を聞きながら、俺はそれでも止まれなかった。
腰が溶けて亜矢ネエに吸い込まれるような、そんな快楽が俺の全身を走る。
「痛っ……い!」
僅かな抵抗を突っ切り、そのまま全部入れる。
そこでようやく動きを止める事が出来た。
「あ……きら……ちゃん」
「ごめん……止まらなかった……」
言っている間にも、滅茶苦茶に動き出したい衝動に駆られる。
それ程に亜矢ネエの中は気持ちがいい。
純潔の証と亜矢ネエの体液が交じり合って、ドロドロの刺激がたまらない。
「もう……馬鹿……」
勝手な俺を、それでも亜矢ネエは涙目で受け入れてくれる。
そんな亜矢ネエが愛しくて、手を繋ぎながらキスをかわす。
正真正銘、身も心も繋がったままの口付け。
「ん……動く?」
「いいの……?」
ふわりと微笑んで、頷く。
「んく……んんんっ!」
ゆっくりと抜き、またゆっくりと差し込む。
その度に、ぬめるような快感が俺を包む。
掌で、胸を刺激する。
柔らかに形を変える膨らみが、手と眼にこの上なく淫靡な快感を伝えてくる。
「晶ちゃん……晶ちゃん……晶ちゃん!」
俺を逃がすまいと、亜矢ネエがしがみついてくる。
お互いの腰が、深く差し込まれるように妖しくうねる。
「亜矢ネエ……っ!」
次第に早く、ぱんぱんと乾いた音が部屋に響く。
「ん……あんっ! はんっ! ああっ!」
亜矢ネエの手が再度俺の背中を掻く。
負けじと亜矢ネエをきつく抱きしめる。
腰以外でも、まるで繋がるようかのようにお互いの身体を密着させる。
「はん……ちゅ……んんんっ!」
舌を絡め、その度に深く突き入れる。
亜矢ネエの中が反応して、ぎゅうと収縮した。
腰からも胸からも口からも快感が溶けてきて、脳髄が痺れるようにそれのみを感じさせる。
「晶ちゃん……だいすきぃ……!」
「ああ……亜矢ネエっ!」
短かった繋がりは、それでも俺に既に限界を伝えていた。
ぐい、と今まで一番深く早く亜矢ネエの中に突き入れる。
「く……んんんっ!」
「亜矢ネエっ!」
そのまま、繋がったまま二人とも果てる。
亜矢ネエに覆い被さるようにして倒れこみ、汗でベトベトの身体を重ね合わせた。
お互いの乱れた呼吸だけが、部屋の中で静かに響く。
「しちゃったね……」
くすくすと微笑みながら、亜矢ネエがこちらを向いていた。
汗で額に張り付いた髪が、先ほどまでの情事を生々しく物語っていた。
「う……うん」
そんな生々しさが気恥ずかしくてつい俯いてしまう。
「なあに、今更恥ずかしがっちゃって」
つんつんと、細い指先が俺をあやしてくる。
快楽が抜けきらない俺には、それすらも刺激となってしまう。
亜矢ネエの肩を抱き、引き寄せる。
「亜矢ネエとずっと一緒に……居たい」
「そうね……晶ちゃんとずっと一緒に」
夕暮れの光、茜色の空の中で。
俺達はそう誓い合った。
ここまでになります。
あんまりエロく無くて申し訳ない。
晶が微妙におっさん臭いのは仕様です。
後1エピソードほどを入れて、この話を締めようと思います。
いつも感想をくれる住人の皆さん、ダラダラとしたペースに付き合ってくれて有難うございます。
次の話は出来るだけ早く投下したいと思います。
それでは次の機会にまた。
いや、けっこうエロいっしょ(*´д`)
続き期待してますよー。
なに?最近は神が光臨するのが、ここの流行なわけ?
みな…さん…ωGJ…で……す。ハァ…ハァ……し過ぎ……て、…
レス……を、か……く……体……力…がな…………
(返事がない。どうやらただのハァハァ死体のようだ)
最近の感想は凝ってるんだね
こんなに書き手さんが降臨すると、いやでも凝ってしまうんだよ。
たぶん。。。
251 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/07(火) 11:56:30 ID:T+7SjgRo
割り込みでまた書かせていただきます。
「く、くそぉ。・・・何たる屈辱!」
と俺の幼馴染は眼に涙を浮かべながら、下着だけをつけた状態で立っていた。
「綺麗だぜ、美香。」
幼馴染の名を呟きながら、そのままベッドに押し倒した。透き通るように白い肌。大きすぎない形の良い乳房。キュッと引き締まった腰。スベスベのお尻。
全てが今、俺のもの。
美香のアソコに手をあてる。そこは既に湿っていた。
「何だ。やる気満々じゃないか。」
「こ、これはちがっ!」
「何が違うんだ?」
そういって秘部を優しくなぞる。
「ひゃっ、いや、駄目!そんな!」
「あれ?また濡れてきたな。やっぱりやる気満々じゃねえの?」
「ち、ちが・・・う。」
強情な女だ。お仕置きが必要だ。
ヌプ。
「ヒャァッ!」
指を一本第一間接まで埋める。中は熱くいやらしく蠢いていた。
「まだ強情張るか?」
そう言いながら指を最後まで埋めて動かす。返事はなく、かわりに喘ぎ声が返ってきた。
ヌチュ、ヌチャ、ヌプ!
わざといやらしい音が出るように指を動かす。それだけで美香は顔を真っ赤にさせて悶えていた。その表情が、俺の独占欲を掻き立て、直ぐに中に入れたい感情が沸き起こる。
「さて、そろそろ楽しませて貰おうか。」
そう言って美香の秘部に自分の隆起したソレをあてがう。美香は顔を真っ赤にさせながら「殺してやる。」と二回呟いた。それが余計に俺の征服欲を掻き立て、そして俺は一気に自分のイチモツを突っ込んだ。
252 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/07(火) 17:03:59 ID:T+7SjgRo
指で感じた感覚よりも膣は熱く、俺を楽しませるために蠢いていた。
美香の顔を見ると、一気に突っ込まれたからか半ば放心状態になっていた。
「さあ、美香。お前の膣を楽しませてくれ。」
そう言って乱暴に前後運動を開始する。わざわざ俺の興奮を高めるために美香は可愛らしい喘ぎ声を出す。
いやらしい水音と美香の喘ぎ声。自分のあそこをねっとりと包む、暖かく絡みつくような膣。それらは俺の射精を早めるには十分だった。
「美香。このまま膣に出すぞ。!」
その声は美香には最早聞こえていない。すでに快楽に溺れ、何がなんだか分からないようだ。それでいい。それでいいんだ。美香は俺のもの。
俺はそのまま乱暴に前後に動かし、そして美香の膣にどす黒い欲望の塊を発射した。
気持ちの良い脱力感、女に対しての満たされていく征服欲何もかも気持ちいい。
不意に腹に激痛が走り、俺は目を覚ました。
「起きんか、馬鹿者!」
眼を開けると自称大和撫子の美香が憤然の態度で立っていた。腹を見ると彼女の重たそうなバッグが乗せられている。
「・・・美香さん。できればもう少し優しく」
「起こさないからな。」
「ぐっ!」
「起きたならさっさと着替えろ。私だってお前のせいで遅刻したくはない。」
そう言ってさっさと部屋を出て行ってしまった。
俺はため息をつきながら体を起こす。
ヌルリ。
股間に嫌な感触があった。
これは、いや、そう、こんな感覚一つしかない!だが、確かめざるを得なかった。
ズボンをそぉっと開ける。
「・・・やっぱり無駄弾撃っちまった。」
以上です。エロくなくて申し訳ない。
がんば
夏、まとわりつく空気と、網戸の外の入道雲。
予想通りの夕立。
この町特有の雷を伴う雨は、光と音と物質とでこの町を覆う。
雷雲の薄闇に隠されたこの部屋で、私たちは絡み合う。
網戸から吹き込む空気が、私たちが発する熱気と混じり合って部屋を混沌とした。
吹き込んだ雨、熱した素肌に心地よかった。
水しぶきがはじける音、繋がった場所からもう少し重い音。
「ん・・・美秋くん・・・」
美秋くんを見下ろして。
体を重ねて感じる、永遠のような夏の一瞬。
遠くでは、雷が鳴っていた。
今年の夏は、暑かった。
「ほんと、仲がいいわね、あの子達」
先ほど一緒に出かけていった息子と姪っこを思い出し、そんな言葉が出ずにはいられなかった。
「仲がいいのはいいことじゃない、夕美」
蝉時雨が家の中まで満たす、そんな「夏」の中で(古い家にクーラーなんてものがあるはずもない)
楓姉さんは涼しげに微笑んだ。母娘は似るものなのだろうか、もみじちゃんと同じような微笑みだった。
私、藤野夕美の息子、藤野美秋はつい先日に私の姉、藤野楓の娘藤野もみじと恋仲になった。
それ自体大いに歓迎することだし、私もうれしいのだが・・・。
「よすぎるのも問題、っていうことよ、姉さん」
「やっぱりそうよね・・・」
眉を寄せてため息をつく。姉さんはどんな表情をしても綺麗だった。・・・ずっと、それが羨ましかった。
あまりしたくはない話だけどね」
姉さんの家で私と二人だけ。話をしてしまうのにはいい機会だと思う。姉さんは、こころもち真剣な顔でうなずいた。
「美秋たちの、まあ、性交渉なわけ。最近はいつも二人で美秋の部屋にいるわね、私が帰ると。
それで、まあ、二人の様子、特に美秋だけども、見てればなにをしていたかくらいはわかる」
覚悟はしたと言え、姉さん相手にこんな話をするのも気が引ける。顔が熱い。
「・・・まあ、それだけならまだいいのよ、私も似たようなものだったしね。
で、もみじちゃんが帰ったあとに美秋に聞くのよ。・・・なあ、その、避妊はしたかって。
我が息子ながら素直に育ってくれたわ、すぐにわかった、してないって」
ここで一息つく。やはり、もみじちゃんを責めるようなことを言うのは気が引けた。
「・・・原因はきっともみじね。美秋くんなら夕美に言われたこときかないことないからね。
そして、それすら破るようなお願いは、もみじしかできないもの」
姉さんから言ってくれて助けられた。
しかし、それはなんの解決にもならなかった。
私の中で否定しながらも、ある意味予想通りだった。
美秋たちが避妊しないのは、もみじちゃんの意思だということ。
美秋が避妊をしてないというのは、実はさしたる問題ではなかった。
なにより問題だったのは、美秋が私の希望よりももみじちゃんの希望を優先したこと。
そして、それはなにより衝撃的なことだった。
美秋が避妊するということは、私の犯した冒涜によって、ほぼ確実なことのはずだった。
それをすら破ったということは、私が、完全に、美秋にとってもみじちゃんの次になってしまったということだった。
「・・・夕美」
姉さんが、心配そうに私を見ていた。姉さんは昔からこうだった。いつも私に優しかった。
それが嬉しく、悔しかった。
「もう、いいじゃない。ね、夕美は本当によくやったんだから、もう、いいじゃない」
私が、美秋に向けた感情は、母親の愛情なんてものではなかった。
だったら、父親の、あの人のことを伝えないなんてことができるはずがなかった。
あの人、義明を亡くした私の、生の慰めとして美秋を見ていたに過ぎなかった。
「本当に・・・私は、あの子の親である資格なんて、無いよ・・・!」
自嘲的な笑みすら出なかった。嗚咽が混じった。本当に私は情けない。
「そんなことないよ。あなたは立派に美秋くんを育てた。そろそろ巣立つころだったのよ、美秋くんも、夕美もね。それに・・・」
もみじの倒錯的な愛情も、私にも責任があるしね。姉さんは、そう言った。
「もみじが本当に妊娠なんてことになったらどうしようもないから・・・」
姉さんでは、もみじちゃんを止めることはできなかったらしい。
「夕美が、もみじを説得するしかないわね。あの子の一番のライバルはあなただったんだから」
二人、苦笑した。
「でも、私はふられちゃったから、息子に」
だから。
「最後に、お願いだけしなきゃね。・・・それも、本気で」
「夕美、それじゃあ・・・」
私の犯した罪。美秋に、彼の父親に関して真実を教えなかったこと。
もしかしたら、美秋に罵られるかもしれない。
今までの関係を壊してしまうかもしれない。
それでも、美秋の母親として、せめてこれだけはしなければならない。
「本当のこと、二人に話すよ。私と、義明のこと」
美秋の父は都会のつまらない男などでは無い。
私が愛したもうひとりのよしあき、義明は、彼が死ぬまで十数年、ともに連れ添った仲であった。
私は決心をした。私と美秋が、全てのしがらみを解き、本当の親子になるための。
そして、もみじちゃんに、認めてもらうための。
お久しぶりです、うぃすです。
初めて読む方もそうでない方もすみません、続きというわけでもないのですが
「なにこれ」てな方はもしよかったら倉庫にあるのをお願いします。
美秋の母親である夕美の若い頃の幼馴染とのお話ってことで進めていきたいとおもいます。
と、いうわけでこれからほんの少し、お付き合いください。
ではー
相変わらずいいなぁ・・・。
いい話の予感…
久々にキタ━━━━!
期待してる、頑張れ。
どこかがお高い
バレンタイン……幼馴染み……失敗しちゃったけど……
か、勘違いしないで……義理に……義理に決まってるじゃない……
何か俺の頭の中で囁く声がする
>>264 その囁きを心の赴くままに書き込むんだ!
出尽くした感が
僕こと、藤野美秋は甘いものが好きである。チョコレートとか。
その中でもほかと比べられないくらい好きなチョコは、やっぱり僕の幼馴染、
もみじが作ってくれたものである。
「おはようございまーす、もみじ、行くよー」
中学の3年生のバレンタインの朝、藤野家までもみじを迎えに行く。
母さんによって麻に藤野家に預けられていたため、幼稚園からの習慣だった。
一度習慣になると止めることが難しく、また、恥ずかしいけど僕ももみじもその習慣が好きだったから、ずっと続いていた。
「美秋くん、おはよう。それじゃ、今日もがんばっていってらっしゃい」
かえでおばさんの声に続いて、制服のもみじが出てきた。
「おはよ、秋ちゃん。それじゃ、行こうか」
制服はつまらない紺のブレザーだったけど、それでももみじはかわいく見えた。
学校に近い僕たちは自転車での通学が認められていなかった。
そういうわけで、その日も僕たちは見慣れた道を歩いていた。
「秋ちゃん、今日は何の日か知ってる?」
嬉しそうに聞いた。
「俺は、もみじがチョコくれる日としてしか記憶してないけどね」
まだ自分のことを俺、って呼んでいた。
「うん!それでいいの。本当は好きな男の子にチョコあげる日なんだけど、秋ちゃんは私からしかもらえないからね。
かわいそうだから今日一日一緒にいてあげる」
「・・・まあ、いいけどさ」
一緒にいるのはだいたいいつものことだったけど、やっぱり嬉しかった。
ただ、もちろんこれは、僕がもみじ以外の女の子からチョコをもらわないようにするための妨害だったけど。
教室に入ると、教室はいつもと違う浮き足立った雰囲気になっていた。
まあ、もらえないとわかってはいても期待してしまうのが男だからね。
「おー、藤野。ちょうど今日のことについて話してたんだけど、お前はどれだけもらえるのかって、
あー、お前は例外だったな、悪い」
話を振られてすぐに謝られた。困った。いいけどさ。
「俺は、バレンタインにもみじ以外からチョコをもらった記憶が無いんだ」
友人たちは羨むような、哀れむような微妙な表情を浮かべるだけだった。
「秋ちゃん、次は理科室だよ」
もみじは、宣言どおりずっと僕と一緒にいた。
もみじの努力のかいもあり、その年も僕はもみじ以外からチョコをもらうことはなかった。
2月はまだ日が短い。
二人で帰るころには陽は落ちかけていた。
「今年も私だけだったね、秋ちゃん」
「・・・そうだね」
思うところが無いわけではなかったけど、僕は何もいえなかった。
「じゃ、秋ちゃん、これ!お返し、期待してるね!」
「あ、うん。ありがとう、もみじ」
きれいにラッピングされたチョコをもらう。間違いなくくれるってわかっていても、やっぱりすごく嬉しいものだった。
「・・・本当に、期待してるんだからね、毎年・・・」
僕にぎりぎり聞こえるくらいの声で、寂しげに笑う。
僕はまだ、その言葉からどういう意味を引き出せばいいのか、それにどう反応すればいいのかわからなかった。
もみじが好きなのはもちろんだったけど、その「好き」がどんな性格のものなのか。
僕に責任が果たせるんだろうか。もみじのこと、本当に好きだったから、答えは出せなくて。
もみじの家の前で立ち止まる。陽は完全に落ちて、藤野家の門の街灯の明かりだけが僕たちを照らした。
「ね、秋ちゃん・・・」
もみじが口を開いた。胸にありえなくらいの衝撃が走った。
「これは、ほんとうに特別なチョコ。食べて、くれる・・・?」
もみじはポケットからチョコを取り出し、口に咥えた。そして、目を閉じた。
あたりは誰もいなかった。
僕と、もみじだけだった。
目の前にはチョコを咥え目を閉じたもみじ。
頼りない明かりの下でも、もみじが綺麗なのはわかった。
白い頬には朱が混じり、まつげがかすかに震えていた。
もみじが僕に何をしてほしいのか、わからなかった。
わかるのが、こわかった。
一瞬が、永遠と感じられた。
僕はまだ、答えを見つけられなかった。だから、僕は。
もみじの肩をつかむ、びくっと震えた。
ごめん、まだもみじの望むことはできそうにない・・・。
突き出されたチョコを思い切りかじる、硬い音と共に、チョコは割れた。
二人の唇は、つい交わることはなかった。
もみじの目が開けられた。悲しげな目だった。
「それじゃ、また明日!」
逃げるように走り出した。
美秋くんは、その年も答えをだしてはくれなかった。
「・・・意気地なし」
でも、予想通りだった。それでこその美秋くんだから。
それでも。
「期待してたんだけどな、今年もダメか・・・」
いいもん、まだ先は長いし。残されたチョコをかじる。
「・・・苦いなぁ」
それが、去年のバレンタイン。
「そうだよ、美秋くんがもっと大人だったらこんなに苦労しなくてすんだのに!」
「いや、こんなときに蒸し返さないでよ」
その一年後のバレンタイン、つまり今、その僕たちは無事にこうして抱き合っていた。
「でも、本当にいろいろあったね」
「・・・そうだね」
今日なんかも、母さんは藤野家に行ってくれて、この家を二人きりにしてくれた。
「この一年が無ければ、きっとこうしてもみじと抱き合うこともできなかったよ」
「またそんなこと言って・・・ん・・・」
もみじの胸に触れた。抱くたびにもみじの体は女性らしくなっていく、気がした。
「ん、いま、もしかしてとっても失礼なこと考えてなかった?」
「いや、そんなことはないよ」
もみじは本当に鋭い。
「だめ、言うこと聞かないとゆるしてあげない」
僕にしなだれかかった。そのチョコとって、命令した。もみじ手作り、すごくおいしかった。
また口にでも咥えるのかな、思ったのもつかの間、もみじは自分で食べてしまった。
次の瞬間。
「うお、ん!んむむ!」
もみじは僕にキスをした。すぐに舌がはいってくる。舌と一緒にチョコも入ってきた。驚いた。
「・・・ん。今年はちゃんとたべられたね」
未だ混乱の収まらない中で、なんとかチョコを飲み込む。
もみじを見ると、ものすごく満足そうな顔をしていた。涙が見えた気がしたのは、見間違えと言い切れるだろうか。
「・・・おいしかったよ」
もみじを抱き寄せた。
今年は僕も伝えられるよ。
大好きだ、って。
あわわ 連続になってしまって心苦しいですが、うぃすです
バレンタイン記念?ということでひとつ
これだけ読んでもわかるように、とは思ったんですけどね
とまあそんなところで つづきも書いてる途中です
これからもどうかよろしくです
それではー
偶然早起きしてたら思いっきりリアルタイム!!
GJ!!連続はむしろいいことだ!!
これからもがんばってください。
>>271 乙!
もしかして、悲恋かなと思ったんですが、ハッピーエンド(?)でよかったです。
続きがあるとの事なので楽しみに待ってます〜
ここの住人は本当に口移しが好きだなwwwww
去年も無かったか
>>274 それを憶えているお前が
一番口移し好きなのではないか
去年のバレンタインの頃のスレを見てるけど、当時沙穂たんが良かったな
書き終わったー!
間に合ったー!
というわけでバレンタインネタの第2話です。
本日は2月14日。すなわちバレンタインデー。
この日は特別な日だ。
自称・恋する乙女である私、黒田綾乃も例外ではない。
しかし、問題があった。
「もう学校が自由登校なのよね・・・。」
ウチの学校は2月7日に学期末テストが終了し、13日までにテストが返却され、
赤点が3つ以上ある人は補修だが、それ以外は自由登校なのだ。
私たちは特に問題なかった――赤峰君とみどりちゃんを除いて。
まあ平均点スレスレな私と啓介も少々――というかかなり――危なかったのだが。
閑話休題。
そういうわけで私に残された手段は一つ。
すなわち、自宅に押しかけて直接手渡し。
そうと決まれば実行あるのみ!
というわけで、今、私は白木家の目の前にいる。
先ほどインターホンでの会話で中に入る許可は得た。
「おじゃましまーす。」
そういいながら私は白木家に突入した。
不用心な事に鍵のかかってないドアを開けると居間の方――子供の頃から何度もあがらせてもらって
いたうえ、こちらに戻ってからも何度か来ているので間取りは理解している――から
「いらっしゃーい。」と声がした。
声のしたところ――居間に行くと啓介がこちらに背を向けてソファに腰掛けてテレビを見ていた。
「何か用か・・・。」
「けーいすけー♪」
「どわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
彼がこちらに振り返るより早く、私は彼の後ろに抱きついた。
顔合わせるたびにしたいのだが啓介からは「人前でするな」と言われて以来自粛している。
だが今は二人きりなので何の問題もない。
なのでこうやって抱きつくのは久しぶりだ。
すぐ近くに啓介の赤くなった顔が見えるのも良い。
つけっぱなしのテレビの音を無視して私は強く啓介を抱きしめた。
「ああ・・・。いい抱き心地・・・。」
「・・・セクハラ親父みたいだな・・・。」
愛しの人の抱き心地を堪能していたのに本人が失礼な発言をしたので頬をつねってやることにした。
「いてててててててててて!ちょ、ちょっと待った!」
「何?」
とりあえず手を啓介の頬から離す。
啓介は頬をさすりつつ(よほど痛かったらしい)言った。
「そろそろ離れてくれないと・・・。」
啓介が発言を最後までする前に、彼の声を遮るように足音が近づいてきた。しかも複数。
それには声もついてきた。
「どうしたー?」
「何か大きな声がしたけどー?」
「な、何でもない!何でもないから来るな二人とも・・・!」
その声を無視して足音の主達が現れた。
「遅かったか・・・。」
何故か絶望したような声を出す啓介。
「おお、綾ちゃんいらっしゃい。ほーら啓介、にっこり笑ってー。」
「いらっしゃーい。そうそう、綾乃ちゃんも顔すり寄せてー。」
携帯で私たちを撮影しながら挨拶する足音の主二人。
昔からの知り合いの啓介のお兄さんの蒼太さんとその恋人
(まだ結婚していないが私たちには「嫁さん」と呼ばせたがっている)の倉木茜さんだ。
私も二人に挨拶する。
「こんにちは。蒼太義兄さんに茜義姉さん。」
「待て。」
私の発言に即座に――いやいやながらも撮影協力した――啓介の待ったがかかった。
「どうかした?」
「なんだ今の「にいさん」「ねえさん」って。」
「昔からそういう呼び方だったでしょ?「そうたにいさん」に「あかねねえさん」って。」
私はしれっとそう言うが啓介はまだ首をかしげたままだ。
「その「にいさん」と「ねえさん」の呼び方にものすごく違和感があったんだが・・・。」
「「「気のせいじゃない?」」」
「兄貴まで女言葉で言うなぁぁぁぁぁぁ!」
啓介がツッコミ(突っ込むポイントが違う気がするが)を入れたのと義兄さん達が
携帯の撮影ボタンを押したのはほぼ同時だった。
その後、私たちは啓介の部屋に移動した。
「というわけで、ハイ♪」
ベッドに腰掛けた私は隣に座る啓介に鞄から取り出した物――すなわちチョコを差し出した。
「ああ、ありがとう・・・。」
とまどいつつもチョコを受け取る啓介。
「もしかして、チョコ嫌いだった?」
「いや、そういう訳じゃないんだ・・・。」
そういうと何故か啓介は遠くを見つめ、
「そういや今日ってバレンタインだったんだなあって思って・・・。」
あえて深くは聞かないことにした。
こういうときは話題を変えてあげよう。
「胸にチョコを挟んで「召し上がれ♪」とか言って渡したほうがよかった?」
「いや、それは無理。」
「な・・・!」
その言葉に私は絶句した。
「失礼な・・・!私結構胸あるのにー!」
「そう言う意味じゃねー!っていうか声デカイよ!」
「いや分かって言ってるんだけどね。」
「確信犯かよっ!?」
すかさずツッコミを入れる啓介。
だが私は――ツッコミの時に啓介がした――一つの挙動を見逃さなかった。
「今、私の胸見てた。」
「あ・・・、それは、ええと・・・。」
途端にしどろもどろになる啓介。
どうやら図星だったらしい。
「私の身体に興味ある?」
とりあえずしなを作って聞いてみる。
ややあって、
「まあ・・・、ない、わけでは・・・。」
目をそらしつつも――少々言い訳がましいが――否定しない啓介。
つまりは肯定らしい。
こういう身体に産んでくれてありがとうお母さんお父さん。
「やだもう、男の子なんだからぁ♪さあ、私の胸にレッツ・ルパンダイブ!」
私は熱を持った頬に手をあててひとしきり身をくねらせた後、両手を広げて胸を張る。
そんな私を見てさらに顔を赤くする啓介。
・・・可愛い・・・。
耳まで真っ赤にした啓介の姿を見て私はそう思った。
だがまあ、そろそろやめておこう。
ひとしきり何処かの専用機色に染まった啓介の姿を観察して満足した私はこういった。
「まあ冗談はこれくらいにして、チョコ食べて食べて!」
「そう思うなら落ち着いて食わせてくれ・・・。」
文句を言いつつも啓介はチョコの包装をはがす。
すると中からミルク色のでっかいハート形チョコが姿を現した。
そのチョコを見て啓介が一言言った。
「直球だな・・・。」
「「白木」だけにホワイトチョコにしてみました。」
「いやそこじゃなくて。この字の方。」
そう言って啓介が問題のチョコに書かれた文字を指さす。
そこにはチョコで「I LOVE YOU(はあと)」と書かれてあった。
いや書いたの私だけど。
「ストレートにもほどがあるぞ・・・。」
「じゃあ「一万年と二千年前から愛してる」とか「好き好き好き好き好き愛してる」とか
「愛って何だ?ためらわないことさ」とか書いた方がよかった?」
「・・・マトモなの書く気はないんだな・・・。」
「失礼な!この愛を伝えようと大真面目に書いてるのにー!」
「尚悪いわ!」
チョコを渡してからどれぐらい時間が過ぎただろう。
啓介はまだチョコを口にしようとしていない。
「食べないの?」
「昔お前のチョコ食って腹壊したことがあるから・・・。」
「う。」
痛いところを突いてくる。
「だ、大丈夫よー。あれからちゃんと料理するときは味見するようにしたしー。」
手をひらひらさせつつ弁解するが啓介はまだ訝しげな目を向けている。
むう。こうなったら仕方ない。毒味だ。
私は啓介が手に持ったチョコに顔を近づけ、端の方をかじった。
「あ・・・。」
「ほら、おいしいよ?」
上目遣いで(チョコをかじった姿勢のままだったので)啓介に微笑みかける。
「・・・あの・・・。」
「どうかした?」
「これって間接キスじゃあ・・・。」
「あ・・・。」
流石にこれは考えてなかった。
予想外の出来事に――自分がしたことだが――顔が赤くなってるのが自分でも分かる。
「ま、まあ、直にチューしたことあるし、間接ぐらいダイジョーブだってダイジョ−ブ!
ささ、一気にがばっと!」
恥ずかしさ――もしくは他の何か――を誤魔化すように一気にまくし立てる。
が、それもあまり持たずすぐに静寂が部屋を満たす。
「・・・いただきます。」
「・・・どうぞ。」
そう言って啓介はチョコの端の方――私がかじったところ――に口を付け、
噛み千切るように切り離した。
いやよりにもよってそこから食べますかアナタ。
そう思ったがこれ以上話がこじれるのもアレなので黙っておくことにした。
そう葛藤してる間に啓介はチョコを咀嚼し、飲み込んで一言。
「・・・美味しい・・・。」
「ホント!?」
啓介の発言に私は思わず身を乗り出した。
少しだけ啓介が後に顔を引かせたがそれでも私たちの顔は息がかかるぐらいに近づいた。
「いや自分で「美味しいよ」って言ってただろ・・・。」
「好きな人に言われるのは別よ。」
微妙に目をそらそうとする啓介に私は笑顔でキッパリと断言した。
「女の子って好きな人にほめられるだけで、その日一日が幸せになれるの。」
「そういうもんか・・・。」
「そういうもんよ。」
私が再び断言すると、啓介は納得したのか「ふーん。」と頷いた。
「というわけで・・・。」
言いながら私は頭を啓介に突き出した。
「ご褒美に撫でて。」
上目遣いに啓介の顔を覗き込むと、彼の顔は予想通り朱色に染まっていた。
「・・・マジですか?」
「本気と書いてマジです。」
三度目の断言。
「・・・しょうがないな・・・。」
文句を言いつつも、啓介は私の頭に手を乗せ、丁寧に撫で始めた。
くすぐるような感触が心地よい。
「・・・いつまでやれば良いんだ?」
「後30秒・・・。」
「エライ安上がりだな、おい。」
結局、啓介は一分くらい撫でてくれた。
その後啓介はチョコを食べつつ私と今まさに補修中の友人やその恋人達がどうしてるだの
先ほど撮影された写真の出来がどうのだのあまり中身のない話をした。
でも、私はそんな他愛ないことでも、啓介と一緒にしているだけで嬉しかった。
「御馳走様でした。」
「いえいえ、どういたしまして。」
お互いに頭を下げる。
何故か顔を上げるタイミングも一緒だ。
そしてまた同時に吹き出してしまった。
「あのさ・・・。」
「なに?」
啓介は何故か目を泳がせて「あー」だの「うん」だのつぶやいき始めたが、
やがて決心が付いたのか私に目を合わせてこう言った。
「来月の14日、どっかに遊びに行くか?」
「・・・うん!!」
私は笑顔で頷くと、喜びを押さえきれず彼に抱きついた。
余談だが突然抱きついたせいか啓介はその勢いを受け止めきれず、
そのまま二人ともベッドに倒れ込んでしまい、二人とも別れるまで顔が真っ赤だったのは
私たち二人だけの秘密だ。
今回は以上です。
次回はホワイトデーのデートをホワイトデーに投下予定です。
100点だ!
誰がなんと言おうと100点をやろう!
ならば、俺は120点だ!!
なら僕は警察官!
じゃあ僕は(ry
>>287 良かったよー。ホワイトデーも期待してるわ。
>>287 俺を萌え殺すつもりか!
ホワイトデーも期待してます〜
>>279 ◆6Cwf9aWJsQさんに連続する形で失礼します。
一日遅れですが、バレンタインSS投下させてもらいます。
294 :
1/5:2006/02/15(水) 06:13:28 ID:uHzVEO3I
『二十円の気持ち』
いつもと変わらない学校からの帰り道。違うのは、今日が二月十四日ということだけだ。
そしてそれが、最大の違いでもある。
男たちはこの日一日、悲喜こもごもの様子を見せた。
あるいは本命チョコに喜び、あるいは戸惑い、あるいは……一つも貰えず、それでも往生際の悪い奴もいる。
ここにも、一人。
「玲さー、今日何の日か知ってる?」
「知ってる」
夕暮れの住宅街を、二つの人影が歩いている。
学生服の少年と、ブレザー姿の少女が。
少年は、玲と呼ばれた女の子の周りを、まるで子犬みたいにぐるぐる回っている。
そんなじゃれついた様子にも、彼女は顔色ひとつ変えない。
制服を着崩し、髪を茶色に染めた少年と、まるで制服カタログのモデルのような、一分のすきもない黒髪の少女。
対照的な二人は、それでいてぴったりと馴染んでいた。
「……ほんとに分かってんのか? 今日は二月の十四日なんだぜ」
「うん」
玲の返事は控えめで、しかも単調だった。
「二月十四日ってことは――バレンタインデーだ」
「知ってる」
玲の前後を、少年は行ったり来たり。
でも、玲はまっすぐ前を見つめたまま、足取りを緩めない。
両手でしっかりと握った鞄が、スカートの前で揺れる。
無視しているわけではない。その証拠に、玲の視線はちゃんと相手を追い続けている。
「俺と玲もさー、付き合い長いじゃん?」
こくり。
玲がうなづくと、少年はチャンスとばかりに彼女の顔を覗き込む。
「保育園からだもんなー。ほんと長いよなー」
「十六年」
何の抑揚もなく玲は答えた。だが、少年の方は大仰に振り返る。
「そう十六年も一緒なんだ。十六年! そんな付き合いの奴、男でもいないぜ、俺」
「うん」
感慨深げにうなづいている彼の横で、玲はやはりマイペースに歩いている。
295 :
2/5:2006/02/15(水) 06:14:03 ID:uHzVEO3I
ひとしきり演説を終えたところで、少年はちらりと玲の様子を伺った。
相変わらずの玲に、ちょっと頭を掻く。
昔から、彼女は感情表現に乏しい。
といっても、けっして冷たい人という訳じゃない。
友達に何か嬉しいことがあれば精一杯の笑顔で喜ぶし、話題の恋愛映画でぽろぽろ泣いたりもする。
ただ……それがなかなか表に現れにくいだけ。
古い付き合いだけに、それはそういうものだと諦めている。
「私もいない。トモくんだけ」
不意にそう言われて、トモは驚いた。
だが長い付き合いのこと、何を言っているのかぐらいすぐに分かる。
自分も、それほど長い付き合いの友人はいない、たとえ女の子でも――そう言いたい訳だ。
「じゃーさ、分かってるだろ?」
「? 何が?」
初めて玲が表情を変えた。
にんまりと笑うトモの顔を、上目遣いに覗き込んでいる。
黒い瞳には無数の「?」が浮かんでいた。
「だからさ、俺と玲は長い付き合いで、今日はバレンタインだ。だから――何かあるだろ、ほら。
曲がりなりにも十六年の付き合いがあれば、義理もしがらみも、色々あるわけだし」
「……なに?」
まくし立てるトモの横で、玲は小首を傾げる。
さすがのトモも、ちょっと困った顔をした。
「――昔っから、そうだよな」
はぁ、とため息をついて、トモはすねたように鞄を振り回して見せる。
玲は「はてな?」と首を傾けたまま、そんな様子を見守っていた。
「お前、一度もチョコくれたことないじゃん。小さい頃からずっと」
不服げに言われても、玲の「はてな?」ポーズは変わらない。
「欲しいの?」
真正面からそう切り出され、トモはちょっと戸惑った。
その聞き方はごく自然で、まるで「私の消しゴム、貸して欲しいの?」みたいな雰囲気だ。
「あー……そりゃあ、欲しいかって言われれば、まあ、欲しい、んだけど……」
思わず言葉を濁す。
小学校ぐらいまでは、玲がチョコをくれないことを気にも止めなかった。
何しろ男と女がちょっとでも仲良くすると、徹底的にからかわれるのが小学生の世界だ。
学校ではトモは玲と口も聞かなかったし、一緒に帰ることもめったにしなかった。
ただ家がごく近所だから、自然と一緒になってしまうことはあったけれど……。
それを友達にからかわれるのがいやで、わざと玲に意地悪したりもした。
だから、玲がバレンタインに何の興味も示さないことを、小学生のトモは心の底から感謝したものだ。
でも、やがてトモの考えは変わった。
小さい頃からずっと一緒だった女の子、玲。
彼女のバレンタインへの態度は、小学校のときも、中学校のときも、高校生になった今も、変わらない。
296 :
3/5:2006/02/15(水) 06:14:31 ID:uHzVEO3I
**
「やっぱさ、そのー、義理チョコぐらいくれてもいいだろ? 妹だってブツクサ言いながらくれるぜ?
お袋だって――ま、これはマジで要らないけど」
「そうなの」
トモの家庭の様子を、玲が知らないはずはない。
けれど、玲はいつでもトモの話にちゃんと相槌を打つ。
いつでも、必ず。
しばらく無言で二人は歩いた。
沈黙も、トモと玲にはいつものことだった。いまさら気まずいとも思わなくない。
こつ。こつ。
靴の音が響く。
二人で歩く帰り道は、いつも、ちょっとゆったりとした時間が流れている。
「じゃ、あげる」
不意に玲が言う。
びっくりして振り返るトモに、玲はちいさくうなづいた。
「そこで、待ってて」
そう言うと、玲はトモを置いて、一軒のコンビニへ向かった。
それはときおり、二人が下校時に買い食いするところだった。
一週間ほど前から「バレンタイン・フェア」ののぼりや看板が、賑々しく飾られていた。
玲と一緒にその横を通るたび、トモは彼女の顔をそっと観察していた。
しかしいつも、玲は無関心に通り過ぎて、トモを密かに落胆させた。
しばらくして、玲が出てきた。
あくまで落ち着いた足取りで、ゆっくりとトモのところに戻ってくる。
「おまたせ」
そう言うと、玲はそっと手を差し出した。
「…………チ口ルチョコ?」
玲の手のひらに載っていたのは、四角い小さなチョコレート。
二十円の、赤い包装紙に包まれたチ口ルチョコだった。
297 :
4/5:2006/02/15(水) 06:14:56 ID:uHzVEO3I
トモの言葉にうなづき返し、その手にチョコを乗せる。
呆然とするトモを置いて、玲は再び歩き出そうとした。
その肩をトモは荒っぽく掴む。
「待てよ。怒ってんのか」
「どうして?」
初めてトモは玲の口調に苛立った。
ロボットみたいに正確で、単調で、絶対変わらない、そんな口調に。
「だって、こんなの無しだろ!」
「それ、チョコ」
「そりゃ、そうだけどよ!」
それも立派なチョコである。チョコが欲しいというからあげたのに、何の不満があるのか――
玲の言いたいことが分かるだけに、トモは余計に言葉を荒げた。
トモは自分をロマンチストと思ったことはない。
玲がロマンチストだと思ったこともない。
でも、もう思い出せないくらい小さい頃から一緒だった二人だ。
きっと初めて渡すチョコレートには、何かプラス・アルファがあるはずだ。
そう信じていたのに。
手にころんと転がった二十円のチョコを、思わず地面に叩きつけそうになる。
「……もっと、何かあるだろ!? 義理でもさ、こう、気持ちっていうか、何か……!」
「……よく、わかんない」
玲は困り果てた顔をして、それでもやはり淡々とつぶやく。
「だからよ!」
トモはそう叫びかけて、はっと口を抑えた。
そこで初めて、玲が悲しそうに目を伏せているのに気づいたから。
知らず知らず、玲を問い詰めていたことに気づく。
「十六年の付き合い」を口実にチョコを貰おうってだけでも厚かましいお願いだ。
それは義務で挙げたり貰ったりするものじゃなく、「気持ち」なんだから。
トモは自然に頭を下げる。
「ごめんね」
けれど、先に謝ったのは玲だった。
トモの目を避けるようにうなだれて立っている。
298 :
5/5:2006/02/15(水) 06:15:20 ID:uHzVEO3I
「……ごめん、俺がちょっと興奮しすぎた」
言い訳のように言ってから、トモは玲の頭に手を置く。
いつの頃からだろう。トモの身長が玲のそれを抜いた頃から始まった、仲直りの合図。
「十年以上の付き合いだからさ。分かってるつもりになっちゃうけど……やっぱ、分かんないことってあるよな」
「うん」
うつむいたままの玲の頭を軽く撫でる。
「『これからもよろしくー』とか『今までありがとうね』とか、なんか、そういうの、期待してたんだよ」
「うん」
「でも、そんなの俺が押し付けるもんじゃねえよな。
それにそんな台詞、玲らしくねえし……お前がそんな奴じゃないこと、分かってたつもりなのになァ……
ごめんな。義理チョコなんだから、これで十分だよ。ありがと、玲」
「…………」
トモはそう言うと、包みを破ってチ口ルチョコをぽいっと口に放り込んだ。
甘い。心が温かくなるような甘みだった。
「さ、帰ろうぜ」
日は既に傾いている。二人も、コンビニも、町並みも、オレンジに染まっていく。
トモは玲に笑いかけながら、その腕を取った。
「違う」
玲の言葉に、トモは足を止めた。
鼓動が早くなる。
何しろなまじ付き合いが長いから……トモは玲の言いたいことがすぐ分かる。
今、口に入れたのは義理チョコなんかじゃない――ってこと。
「トモくん。好き」
振り返るトモを、玲は顔を真っ赤にしながら見つめていた。
「…………トモくんは……?」
まだ口に残るチョコレートの欠片を、改めて舌で転がす。
うなづくトモに、玲は初めての――十六年一緒にいて初めて見せる、大輪の笑みを浮かべた。
(終わり)
うおおおおおお!!玲カワイス。トモくんカワイス。二人ともテラカワイス。
気持ちの微妙なすれ違いの描写がうまいなぁ。
いいもの見せてもらった!GJ!!
この幼馴染コンプレックスが!
300
>>298 GJ!いい話ですね〜
しかも玲が素直クールっぽいのがたまらない…
ぜひ、次の作品も読んでみたいです。
いつもこれぐらい垢抜けてればいいのに
>>277 沙穂ってどのSSの人だったっけ
>>302 452 ◆mRM.DatENo 氏だね
前スレで続きが投下されてた
俺も好きだなあ
GJ!!いい話やなあ
>>301 クールだが素直じゃないと思われ。
おまいら本当に幼馴染みの頭撫でるの好きだな
真面目な話、女の子は「親しくも無い男に髪や頭を触られるのはすごくイヤ」らしい。
大学のサークルで聞いて回った範囲だが、肩を抱かれるのと同じかそれより嫌という子もいたな。
なるほど、幼馴染だからこそなせる業か
……この時期だから職人さん達も忙しいのかな、やっぱ
test
ほしゅ
最近書き込みが減ったのでとりあえず即興で書いた短編(つーか番外編)投下します。
「啓介ー!起きなさーい!遅刻するよー!!」
朝早くから聞き慣れた女――綾乃の声が俺の耳に響いた。
毎朝思うが何で朝っぱらからテンション高いんだコイツ。
俺低血圧だから朝弱いのに。
いや低血圧と寝起きの弱さは関係ないというが俺は朝が弱いわけだから
両者の関係は決して無関係とはああ訳解らんようになってきたとにかく寝よう。
今日は兄も親もいないから毎朝起こしに来る悪魔さえ退ければぐっすり眠れるはずだ。
「・・・おやすみ・・・。」
「寝るなー!」
引き寄せようとした布団が引っ張られる。
慌てて布団を掴み直そうとするがそれより速く俺の手から布団が離れた。
そうはさせるか!
俺は瞼を閉じたまま(眠いから開けるのがつらいのだ)布団が引っ張られた方向
(目を閉じているので当てずっぽうだが)へ素早く手を伸ばした。
指先に何かがあたる。布団の感触だ。
迷わず俺はそれを掴み全力で引き寄せた。
「わっ・・・!」
綾乃が悲鳴を上げるが構うことなく手にした布団を抱きしめた。
だが抱きしめた感触は布団とは違うものだった。
ついでに言うと重みもある。
流石に気になって目を開ける。
すると綾乃の顔がすぐ近くにあった。
「え・・・!?」
俺は疑問符を浮かべながらも自分が抱きしめたものを見る。
それは布団ではなくどう見ても綾乃の身体だった。
と、顔を赤くした綾乃が口ごもりながら疑問に答えた。
「け、啓介がいきなり布団引っ張っちゃったから、
バランス崩して一緒に倒れちゃって・・・。」
「そ、そうか・・・。」
そして沈黙。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
お互いに何も言わない。重苦しい沈黙。
ただお互いに見つめ合うだけだ。
綾乃の身体の感触が熱を持っていくのが解る。
いやもしかしたら俺の熱かもしれない。
綾乃の表情も驚きから熱を持ったものへと変わっていく。
多分俺も同じだろう。
そして俺の身体を綾乃が抱きしめ――
――ようとしたところでいきなりけたたましいベルの音が沈黙を破るように鳴り響いた。
二人同時に音のする方を向くと、そこには俺愛用の目覚ましが存在を自己主張していた。
「・・・ごめん。」
「・・・ううん。」
お互いに冷や水を浴びせらた様な気分になった俺たちはどちらともなく身体を離した。
「ふんふんふんふふふんふんふんふんふ〜ん♪」
あれほど赤面していたというのに、登校時には綾乃は鼻歌を口ずさむほど上機嫌になっていた。
「何でいつにもましてハイテンションなんだよ・・・。」
「さっき啓介に抱きしめられたから♪」
「・・・そんな恥ずかしいことサラリと言うなよ・・・。」
恥ずかしいので目をそらそうとする。
が、目が自然と彼女の方を向いてしまう。
しかも彼女の身体を上から下へと視線を移そうとしてる。
ふと、先ほどの抱きしめた感触を思い出してしまう。
彼女の身体は暖かくて柔らかかった。
俺にかかった重量もそこまで重いというわけではなくむしろ軽い方だろう。
なんて言うか、当たり前だが昔より成長したんだなあ綾乃。
ってさっきから何女の子の身体について真剣に考えてるんだ俺。
・・・こんなキャラだったかな俺・・・。
何とか視線を遠くに持ってきてそんなことを思う。
でも、不思議と悪い気はしない。
誰かと一緒に送る日常。
そして変わっていく自分。
こんな日常も悪くない。
もしかしたらこれから、俺はコイツと・・・。
「どしたの啓介?私を抱きしめて欲情した?」
「するか!」
いや、それはないかと俺は即座に心の中で前言撤回した。
今回は以上です。
とりあえずこういう積極的な女の子は突然のハプニング等で赤面するときが
かなり萌えると思います。(赤面しなくてもありですが)
>>315 乙です。
番外編ということは続きは無いんですよね、残念。
何だか読んでみたくて仕方がありません…(^_^;)
それにしても投下が少ないのは試験とかあるからですかね〜
早く以前のような状況に戻る事を願っております。
>>316 マジレスすると21歳以上の学生、つまり大学生3年生以上なら
殆どの人が試験を終えていると思う
どちらかというと就活で忙しいのでは?
せめてネット自体を18禁にすることってできんのかなぁ
確かにエロパロ以外でも21歳未満多いよなぁ
やっぱり21歳以上かは文章で判るのかなぁ
経験の豊富さとか・・・
上の様な稚拙な事しか書けないのに23歳の俺ガルフォード
文章って経験だけど、それは人生経験じゃなくて執筆の経験だからな
あと、どのぐらい活字に親しんだかも問われる
文章だけで年齢を判断するのは難しいと思う
暑い夏は、続いていた。
あの、僕ともみじの関係を決定的に変えた旅行から数日が過ぎた。
はじめのうちこそ、以前と変わらず図書館に二人で行ったりしていたが、今では僕の家にもみじが来て宿題なんかをするようになった。
それと言うのも、僕は母さんと二人暮らしだから、母さんが仕事に行けばもみじとふたりきりになれるからで、
要するに好き勝手できるということで。今日も、二人僕の部屋にいた。
「暑いね、美秋くん」
もみじが言う。白のキャミソールに黒のミニスカートという、夏らしいといえば夏らしい格好だった。
もみじはよくこの配色の服を着ている。今更ながら、もみじの二面性をよく表していると思う。
いや、二面性というわけではないかもしれない。もみじの純粋な感情と、その純粋さ故の限度を知らない愛情表現と。
そして、それを受け入れる僕と。
もみじは下敷きで風を起こしていた。長い黒髪が幾筋もなびく。額には汗が滲んでいた。
服の中に風を送り込む。ブラをつけていなかった。肩に紐がひとつしかなかった時に気づくべきだった。
柔らかそうな肌には同じように汗がにじみ、胸の、色が違う部位が見えたような気がしたところで、慌てて目をそらした。
だめだ、今日こそは勉強しなくては。
もみじが家に来るようになってから、僕の宿題は見事なまでに進まなくなった。
もみじと二人きりで、しかもこれほど無防備で(恐らく故意
まあ、勉強なんてできるわけがなく。
意識をノートに集中する。二乗してマイナスになんてなるわけないじゃん、と悪態つきながら、まったく勉強にならなくて。もみじが動いた。
「そんなに、見たくないの?」
耳のすぐ横で、声がした。耳が甘く痺れた。
首にもみじの腕が回される、背中には柔らかい感触。
「そんなわけ・・・ない」
もみじと向かい合う。やっぱり、今日も我慢できなかった。
気づけば部屋は薄暗くなっていた。遠くには雷雲。すぐに夕立が来るだろう。
キャミソールのおなかのほうから手をなかに入れる。汗の水気。成長しきっていない胸のふくらみ。
「ねえ、もみじ・・・」
「・・・いいの、このまま」
もはや恒例となったやりとり。避妊具を使うかどうかという。もう形だけだけど。
使わなければならないとはわかってはいたんだ。母さんにも言われたし、自分でもそう思ってた。
けど、もみじがそう望んだから、僕は拒否できなかった。
いや、拒否できなかったなんていうのは言い訳で、僕自身がそう望んでいたのかもしれない。
もみじの望みが、僕を完全に取り込みたいということだった。
そして、きっと僕自身、他の誰でもなくもみじに篭絡されてしまいたいと思っていた。
僕たちは少し間違えているのかもしれなかった。
でも、長い時間をかけて育んだ二人の想いが繋がったとき、こうなることは恐らく決まってしまったのだと思う。
「んっ、美秋くん、入ったよ・・・?」
僕ともみじが、もっと深いところで繋がりたいって望んだって、それは自然なことで。
もみじが僕の上に乗りその熱を感じた。
熱い息遣いと夕立、雷鳴。
僕はもみじによって身動きがとれないようになってしまっていた。
でもそれは、今まで気がついていなかっただけで、僕がもみじを好きになっていたときからすでにそうなっていた。
だから僕はもみじを抱きしめた。どうしようもなく、愛しかった。
「最近、もみじちゃんとはどう?」
夜、ぶしつけにそんな質問をされた。
「どう・・・、って言われても」
少し前に僕が避妊をしていないことは話してしまった。不思議なことに母さんは答えを聞いただけで何も言わなかったけれど。
そうでなくても、母さんにもみじとのことを話すのはできれば避けたいことだった。
どうしてだか母さんを裏切ったように感じてしまうから。
旅行のあともみじと恋人になれたことを喜んでくれた母さんだけど、それと同時に落胆していたことは僕にはわかった。
台所から、食器をすすぐ、水の流れる音が聞こえる。不意に、その音が止まった。
「美秋、もみじちゃんのこと好きよね?」
本当のこと、母さんに言うのは気が引けたけども、答えた。
「・・・好きだよ」
母さんは僕に背を向けたまま続けた。いつの間に、母さんの背中はこんなに小さくなったんだろう。
「・・・母さんはね、どれだけ美秋に嫌われたとしても、美秋のこと、愛してるから」
「っ!母さん、一体何を・・・」
何を言っているの、そう聞こうとして、やめた。多分、大体のことはわかっていた。
思えば、僕と母さんの関係だってある意味いびつで。
僕の心が完全にもみじに移ってしまった以上、僕と母さんだって新しい関係を始める必要があったのだ。
恐らく、なにか大きな告白があるに違いなかった。内容まではわからなかったけど。
「大事な話をしなきゃいけないの。明日、もみじちゃんを呼んできて」
連れて行きたい場所がある。そう言われて僕ともみじは母さんに連れられて歩いていた。
思えば、この3人でどこかに行くことはなかった気がする。
全て決心を胸に秘め、母さんは僕らの前を歩く。
無言だった。何か話をする雰囲気でもなかった。
連れられてきたのは藤野家の墓場だった。
「夕美さん、お盆はまだじゃ・・・?」
もみじが当然の疑問を投げかけようとして、止めた。
母さんは、周囲にまったく気がつかないほど、墓石をじっと見つめていた。
なにかを懐かしむような、でも寂しげな表情を浮かべ、何事か呟いていた。
そして、確かにこう言った。
「長い間ごめん、ヨシアキ・・・」
「母さん、それってどういう・・・?」
あ、とか言って、母さんはようやく僕たちに意識を戻した。
「美秋、もみじちゃん、今から大事な話をするから最後まで聞いてほしいの」
青空、どこまでも澄んだ青。蝉の声、生命を削る合唱。
「美秋、あなたの父親は、ここに眠っているの」
この夏は、本当に暑かった。
なんだか本当に進まないんです、うぃすです。
早く幼馴染スレにふさわしいものにもっていきたいんですけどね
ようやく次から幼馴染ものをできると思います
そんなんで次からはもう少し早く書けるかもですので
どうかこれからもよろしくです。ではー
>>325 いつも楽しみにしています。
続き頑張って下さいね〜
互いに20歳を過ぎた幼馴染の話よ、再び降臨願う。
うぃす氏いつもながらGJ。
>327
そんなのあったっけ、台風のやつか
お弁当つくってあげてる幼馴染みの話が欲しい。
昔そんな話があったようななかったような。読みたいね。
331 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/05(日) 17:59:26 ID:o4RBJy3x
一ヶ月ぶりに上げとく
初めて身体を重ねてから幾度もの月日が流れた。
夏が終わり、秋が過ぎ、冬が去って、春。
相変わらず亜矢ネエは季節の変わり目に寝込むし、俺は俺でそんな亜矢ネエに寄り添っていたり寄り添われていたり。
つまりはまあ、何ら変わることの無い日常を送っていた。
俺たち二人の関係を除いて。
学校が始まった瞬間に俺たちの関係は知れており
――後で聞いた所によるとその日の内に亜矢ネエが新谷にメールで報告していたらしいが――
周りの扱いもそのようなものになった。
とは言え、元からそういった二人として扱われていたので、劇的に変わったという事は無い。
例えば俺たちが二人で帰れるように気を使ってくれたり、俺達が話している時はあまり横入りしてこない、その程度のものだ。
俺達も俺達でそんな環境を享受していたし、唇や身体を重ねる回数も増えていった。
俺の腕の中で悦ぶ亜矢ネエ。
亜矢ネエの中で震える俺。
その度に二人の心が溶けて交わっていく。
そんな亜矢ネエは今、やはり体調を崩してベッドに伏していた。
そして俺も変わらず、その側で読書しながら看病している。
そう言えば、一つだけ劇的に変わった事がある。亜矢ネエの寝相だ。
今までは微動だにしなかったものが、最近はもぞもぞと何かを探すように動く事がある。
それが隣に寝ている俺だと気付いたのは、いつものように抱き合った夜、子供のようにしがみついてきた亜矢ネエに目を覚まされた時だった。
今もそうだ。
何の夢を見ているのか、自分の隣をまさぐるようにして手が泳いでいる。
「どちらが子供なんだか……」
指の腹で髪を撫でてやると、仄かに体温が伝わってきた。
指を掌に置いてやると、幼児のようにぎゅっと握り締めてくる。
「ん……晶ちゃん」
その刺激にか、薄っすらと覚醒した。
寝惚け眼を瞬かせながら、こちらに微笑んでくる。
「おはよう、亜矢ネエ。気分はどう?」
起き上がろうとするのを支えてやりながら、聞いてみる。
寝巻きが幾分か汗を吸っているので、後で着替えさせなければならないだろう。
「くぁ……大分良くなったよ」
嬉しそうに指を握り締めたまま、にっこりと笑う。乱れた髪がうなじに張り付いて、なんとも艶かしい。
「そう……良かった」
「夢を見てたの」
唐突に、亜矢ネエが口を開く。
その眼はどこか遠くを見ているかのように、茫洋としていた。
「私がいて、晶ちゃんがいて、他の皆もいて、それがずっとずっと続くような、そんな夢を」
「亜矢ネエ……」
そんなはずは無いのにね、と自嘲気味に笑う。
その動作が何故だか哀しくて、俺は亜矢ネエをぎゅうと抱きしめた。
柔らかく、女の身体が俺の腕にしっとりと絡み付いてくる。
「いつか言ったろう。俺は、俺だけはずっと亜矢ネエの側に居る」
「うん……私も」
季節が巡り、年が流れていくように、俺たちの周りも不変ではいられない。
けれど、せめて俺だけは変わらずに。
「病める時も健やかなる時も……そしていつか逝った時も。俺達は共に」
「ずっと側に」
まるでままごとの結婚式のような拙いやり取り。
だが、今の俺達にはそれこそが何よりの誓いとなった。
そうして、誓いの最後は口付け。
寝起きでかさかさの亜矢ネエと、興奮で震えた俺の唇が重なり合う。
「ん……」
故人曰く『愛せよ、人生においてよいものはそれのみである』。
この言葉が真実になるように、俺は一生涯かけて亜矢ネエを愛しよう。
心の底から、この人が大切だと言えるように。
だから、俺達は何万回だってこの台詞を紡ぐ。
「愛してるよ、亜矢ネエ」
「私も貴方を愛しています。晶ちゃん」
これで終了になります。
自分の遅筆のせいで長々と続けてしまいましたが、読んでくれた皆さん有難うございました。
今まで感想をくれた方々、とても励みになりました。
根気の無い自分が初めて書いたSSを完成させる事が出来たのも、スレの皆さんのお陰です。
それでは、機会があればまたいつか……。
長く続けて最後がこれか
441 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:2006/03/06(月) 14:34 ID:kp6EcOff
発言がアレなら
SSもアレですね
GJです
336 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:2006/03/06(月) 17:00 ID:kp6EcOff
長く続けて最後がこれか
↑
そこらじゅうのスレでどうみてもご機嫌斜めです。
本当にありがとうございました。
作者さんお疲れ様。GJ
GJ&お疲れ様。
そこらじゅうじゃないんじゃ
まあどっちにしろ確信犯だけど
死んだりとか、泣かせ展開にならなくて良かった
お疲れ様…
お疲れさまです。
病弱な幼馴染みって事で
展開にドキドキしてましたが、
最後まで見続けて何か安心できました。
次回作も期待して待ってます。
番外編や外伝も楽しみですがw
>>185の続編、短編です。
ありがちな病気ネタでスマソ
343 :
触れる手 1:2006/03/07(火) 23:00:56 ID:IytIfcCv
美紅が風邪をひくのは、そう珍しい事でもない。
性格と違って体は神経質に出来ているのか、季節の代わり目には、決まってゴホゴホと咳き込んでいる。
夏も盛りだと言うのに、ベッドに伏せっている美紅を見下ろし、信也は小さな溜め息を吐いた。
高校受験の時には良く訪れた美紅の部屋。
しかし、受験勉強が終わってからは、入る理由もなく、約三年ぶりになるだろうか。
シンプルな白と木目調の家具で統一された部屋は、片付けが行き届いている。
「ごめんねー、いきなり」
いつもよりも、幾分顔色の悪い美紅は、額に貼った熱冷まし用のシートを剥がしながら、へにゃりと力のない笑みを浮かべた。
信也は肩を竦めただけで、何も言わずに新しいシートを用意した。
344 :
触れる手 2:2006/03/07(火) 23:04:39 ID:IytIfcCv
信也の家も美紅の家も、揃って共働き。
普段ならば、わざわざ看病に行く事もなかったのだが、信也の母親は自分の入院の一件以来、梶谷家に恩返しをする機会を狙っていたらしい。
美紅が病気と知るや否や、受験生である信也の事情も素知らぬ振りで「夏休みなんだから」と、半ば無理矢理、信也を梶谷家に差し出したのだ。
信也としても、心配をしていなかったと言えば嘘になる。見舞いがてら、一日ぐらいは美紅の様子を見に行こうとは思っていたので、拒む理由もない。
美紅も信也の成績は承知していたので、都築家母親の申し出を有り難く拝了する事にした。
とは言っても、家事が一切駄目な信也に出来る事と言えば、こうして身の回りの小さな事をするぐらい。
それでも美紅にしてみれば、病気故の心細さからか、信也が居るだけで始終笑みを浮かべていた。
フィルムを剥がしたシートを手に、額に掛る前髪を退ける。
暖かさよりも熱さを感じる手はそのままに、シートを額に貼り直してやると、美紅は瞼を閉じて吐息を漏らした。
「熱いー」
「当たり前。黙って寝てろよ」
子どものように口を尖らせる美紅から、無用になったシートを受け取った信也は、苦笑を浮かべながらシートを丸めてゴミ箱に放り投げた。
顎のすぐ下まで布団を引き上げてはいる物の、発する熱もあってか、美紅は居心地が悪そうに、モゾモゾと寝返りを打つ。
そんな美紅を横目で見ながら、信也は少し離れた化粧台の椅子に腰を下ろした。
345 :
触れる手 3:2006/03/07(火) 23:05:56 ID:IytIfcCv
外からは、蝉の鳴き声がうるさいほどに聞こえる。時折、はしゃいだような子どもの声が響き、それもまたすぐに消える。
特に見るような物もなく、何とはなしに本棚に視線を向けると、学校の教材やら書店で購入した料理の本やらが、サイズ別にきちんと並べられていた。
小さな木製のテーブルにはノートパソコン。仕事以外では使う事もないらしく、コンセントは丸めて床に投げ出されていた。
「信ちゃぁん」
呟くような力の無い声。
ふとベッドへと視線を移すと、布団の端から美紅の左手が揺れている。その薬指には、銀色の輝きがちらちらと見えた。
「何?」
「あーつーいー」
「……当たり前だって」
いまだゆらゆらと揺らす手は、手招きのつもりだろうか。
子ども染みた所作に思わず笑いながら、信也は再度美紅に近付いた。
傍らに腰を下ろし、揺れる手を取る。
それまで目を閉じていた美紅は、信也の手の感触に薄く瞼を押し上げると、嬉しそうに微笑んだ。
「優しいね」
「……普通」
病人と酔っぱらいの言葉は、聞き流す方が良い。
そう言ったのは信也の兄だっただろうか。
不意を突かれた信也は、態とぶっきらぼうに返事を返すと、美紅の視線を避けるようにしてそっぽを向いた。
美紅は指を絡めるように、信也の手を握り返す。
「照れてる?」
「照れてない」
「ホント?」
「………しつこい。病人は寝てろ」
ぎゅっと力を込めて手を握ると、美紅はクスクスと笑いながら、再び目を閉じた。
外の喧騒を聞きながら、信也は美紅が眠りに落ちるのを待つ。
やがて、握る手からふっと力が抜けると、信也は美紅の手を握ったまま美紅を見た。
間近で寝顔を見るのなんて、部屋に入る以上に久しぶりだ。
昔は夏休みの度に、美紅と兄と三人で遊んでいたし、疲れたら揃って昼寝もしていた。しかしそれも、十年近く昔の話。
「……ホント…変わったなぁ…」
幼さの残る寝顔を眺めながら、信也はぽつりと呟く。
それなりに年を取り、互いに対する気持ちも変化している。変わらないのは年の差と、美紅の自由奔放さぐらいじゃないだろうか。
「いつになったら、勝てるんだろうな」
思わず深い溜め息を零しながら、信也は握り締めた手を持ち上げると、指輪の填った薬指に触れるだけの口付けを落とした。
以上です。
これからも、ちまちま短編を投下したいと思いますので、その時はよろしくお願いします。
GJ!
美紅タンカワイス(*´Д`)
ただ文章中の「、」多さが気になった
なんというか、ほっとするお話ですね。
次も期待しています〜
お邪魔します。あたたかくなってきたので短編投下します。
前スレ>564まで連載していたのの番外になります。
プロポーズの少しあと。
荷造りを少しずつしてダンボールに遠い海を越えさせる。
中にあるのは衣服だったり蔵書だったり、仕事道具だったり宝物だったりした。
そういうことなら手は貸さないから自分ですべてやりなさい。と
兄には突き放されているのでアルバイトで培った手つきで
割と易々と荷造りはマイペースで進んでいった。
半年かけて引越しをする。
外の緑は初夏の風と相まって青々しい。
また旅に出たくなった。
そろそろやじきた仲間が外国周遊から(無事であるなら)戻ってくるはずなのだが。
一休みと茶を頼み縁側で両足の裏を合わせる。
古い屋敷の景色にも飽きたと思っていたのに、
いざ去るとなるとこの庭も妙に名残惜しくなっていた。
「お茶くらい自分で入れてください」
頼んだのと違う女中がやってきて、孝二郎に引っ掛けそうな手つきで
急須と湯呑をやや乱暴においた。
そしてそのまま隣に座った。
黙って備前の湯呑を取り上げ口をつける。
懐かしい味がした。
「茶入れるの、美味いよな」
昔から不思議と上手い。
お湯さえ満足に沸かせるのか疑問な幼い頃から、隣の女中はとても上手かった。
まあ自分はお茶が熱くて飲めなくて、
冷めるまで放ってどこかに行ってしまって、
帰ってきた頃には飲んでくれなかったひどい折角入れたのに!と
不機嫌になった少女に喧嘩を吹っ掛けられたものだったのだが。
もう一口飲む。
思い出すと少し笑えた。
隣では不服そうな顔をしてお客扱いの女中が僅かに赤くなっている。
「梅」
「はい?」
「荷造り手伝え」
「嫌です。琴子様にも、あんまり甘やかすなって言われたし」
鳥が鳴き、最近よく迷い込む黒猫が縁の下から追い駆けていった。
ぽかぽかとする。
多少隣に気後れがした。
良家の次男坊という身分でなければ、この歳でここまで気楽な午後は送っていないだろう。
まあそれも。
籍さえ入れれば、暗黙のそんな身分すらなくなるわけで。
結婚を口にしたときに、それは夢だと彼女は思ったようだ。
愛しいことと、一緒に生きていくことは幼い日や青い春に信じているような同一のものではなかったし、
二十歳を越えて離れて戻れば、そんなことは二人ともとうに知っていた。
それでも肌の温さや指のかさつきを覚え、
年取るごとに手放した道は交わりにくくなることを思い知り、
もしこのまま共に生きていけないとしたらどうなるのか、
と考えずにはいられなかったのも事実だったのだ。
孝二郎はそういう意味で譲る気がなかった。
だから外聞も気にせず頭は下げたし、大人になったから縋ることも離さないこともできた。
見知らぬ大人に頼るしかなかった台風の夜に、憧れた半分にでも自分はなれたろうか。
――池の縁もすっかり葉桜になり、本格的に季節は初夏だ。
あくびをする。
「子供みたい」
隣で梅子がつぶやいてそんな単純なことに幸せそうに笑った。
その空気が腕にまとわりついてきた頃のはにかみと呆れるくらい変わっていなかったので、
「どっちが」
と拗ねた口調で孝二郎は婚約者に茶を差し出して軽く笑った。
これで終わりです。
雪がやっとなくなってきたので浮かれてしまいました。ではまた。
GJ!!
やじきた仲間wや琴子の馴れ初めや春海の行く末も少し気に
なってるけど、それはさておき。
またこの二人に逢えるとは思わなかったんで素で嬉しい。
GJ!GJ!GJ!
身の回りはいまだ冬ですが、おかげで頭の中身は春になりました
GJ!
なんていうのか、文芸部?とかにいた人が書きそうな文だ
とにかくGJです
やっぱ243氏の文章はいいですなぁ……。
もう、春なんだね。いやほんと。
>>357 俺は文学部だが思いっきりヘタレ物書きだorz
>>358文芸部と文学部は関係ないとオモ
>>243氏 何気ない二人のやりとりが死ぬほど俺を萌えさせます…GJ!!
毎度どーも。
バレンタインの二人で続き(ホワイトデー)書いてみましたー。小ネタですがどうぞ。
361 :
1/7:2006/03/14(火) 14:59:11 ID:T/3Necre
『分からない』
1.
「おー、智巳ぃー。久しぶりだなあ」
「お早うございます、晃さん」
トモは玄関を開けてくれた玲の兄、晃に向かって頭を下げた。
玲がトモの幼馴染みであるように、晃もまた小さいときから一緒に遊んだ仲だった。
自転車の乗り方や、ザリガニ釣りの仕方を教えてくれたのも、初めてエロ本を見せてくれたのも彼だ。
「……ちょっと痩せました? やっぱ大学、忙しいんですか?」
「んー、まあな。工学部だし」
たわいもない近況報告をしながら、晃はトモを玄関に導きいれる。
「しかし、智巳も元気そうで何よりだ。俺はな、智巳――」
そう言いながら、晃はトモの肩を両手で掴んだ。
そのまま、顔をぐっと近づけてくる。
「なっ……なんスか、晃さん」
「あ――――」
「……あ?」
肩を握る手に力がこもる。
「ありがとう、智巳ぃっ!!!」
がっしと抱きしめられ、智巳は悲鳴をあげる。
だが、もがいても体格のいい晃から逃れることは出来なかい。
「お、お、俺は兄として嬉しいっ! よく……よくあの玲をもらってくれる気になったなあああああああっ!」
そのままトモを抱き上げ、左右にぶんぶんと振り回す。
振り回されるたび、トモはひゃーひゃーと奇声を発した。
「いやー、何しろあの不感症ぶりだろ? 俺が着替えを覗いたって『キャーお兄ちゃんのエッチー』とも言わねーんだ。
このままじゃ貰い手がつかないまま行き遅れになっちまうんじゃないかと、俺はもう心配で心配で――」
ひとしきりトモで遊んだ後、晃は感極まったように目元を押さえた。
「ああ。だが天は玲を見放さなかったっ! まさかお前がアイツをもらってくれるとはなっ!!
俺が手塩にかけて育てたかいがあったというものだっ!」
「あ、あのー……」
一人で感動している晃に、トモはおずおずと声をかける。
昔から走り出したら止まらない性格なのだ。
今も、トモの声など意に介さず、一人で勝手に盛り上がっては納得している。
「……それにしても、玲が――あの玲がなァ……まさかお前に告白するなんて、なァ」
トモがすっかり諦めに入ったとき、ふと晃はしんみりとした顔を見せた。
学校からの帰り道にトモが玲から告白されてちょうど一ヶ月。
二人の関係は変わったようで変わっていないとも、全く違ってしまったとも言えた。
『……みんなにはないしょ』
あの日、別れ際に玲がそう言ったのは、たぶん恥ずかしいからなのだろう。
トモも何となく気恥ずかしさがあって、家族にも友人にも黙っておくことにした。
もちろん、いつまでも隠しておけるものでもなく、今ではトモの家族も玲の家族もすっかり知ってしまっている。
でも、まだ学校では二人はただの幼馴染みのままで、時々一緒に下校する以外、特別なことはしていない。
(なんか、普通って難しいな)
トモは教室で玲に顔を合わすたびそう思う。
今までできていたはずの普通の挨拶すら、なんだかぎこちない。宿題を見せてもらうのもためらわれるぐらいだ。
そんなとまどいは、玲からもひしひしと感じられて、
(これが付き合うってことなのかなァ)
と、今まで女の子と付き合った経験など無いトモは漠然と思うようになっていた。
362 :
2/7:2006/03/14(火) 14:59:37 ID:T/3Necre
「ところで玲は……」
「おお、あいつならまだ部屋で着替えてるぞ。もう昨日から大騒ぎでな。
『明日、トモくんと一緒……』とか呟きながら、山のような服やら靴やら抱えて右往左往してる。
お袋も『この服はトモくんの趣味だろうか』『この帽子はどうだろうか』『トモくんは』『トモくんは』……
なーんて、ひっきりなしに聞かれて少々グロッキーだぜ」
晃はそう言って苦笑する。
「ホワイトデーのお返しデートだって? 玲のヤツ、熱出しそうな勢いだぞ。まるで幼稚園児だねェ」
「ははは……」
トモはそう言って引きつった笑いを見せる。
昨日は寝られなかったのはトモも同じだった。
「今日も朝から化粧の練習なんかして。慣れてないもんだから口なんかまるでオカメ……いたたたたたたッ!」
突然晃が悲鳴を上げる。
トモが覗くと、膨れっ面をした玲が兄の背中を思い切りつねっていた。
「怒るよ」
そう言いながら、晃の背中の肉を捻り上げる。
「い、い、妹よっ。『怒るよ』と言いつつ既にキミは怒っているのではないかな?
言葉というものはもう少し正確にぃたたたたたっっ!! 痛い痛いっいたっ、ち、ち、血が出る! 血が出る!」
「謝って」
「はいっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいーっ!」
十分に晃に対するおしおきを済ませると、ようやく玲はトモに向き直った。
そのとたん黙りこんでしまう。
ちらちらと上目遣いにトモを見る仕草に、トモもまた思わず赤面する。
「……変?」
そう呟く玲の姿を改めてトモはじっくりと観察した。
白を基調にしたワンピースに、薄い紫のカーディガン。手には大きな丸いつばの帽子。
他の女の子ならば少し古風すぎるが、長い黒髪の玲には逆にぴったりに合っているように思えた。
化粧は諦めたのか、その顔は薄く日焼け止めを塗っただけ。
でも、ぽっと頬を染める朱色や、少し噛み締めた唇の薔薇色は、トモにはどんな化粧より輝いて見えた。
黙って首を振ると、玲はやっとほっとしたようにはにかんだ。
トモもそれにつられて笑う。
「いくか?」
「うん」
玲が靴を履くのを待って、二人は揃って外へ出る。
「あんまり遅くなるなよ〜」
晃の声に見送られ、二人は駅を目指した。
363 :
3/7:2006/03/14(火) 15:00:01 ID:T/3Necre
2.
今日の目的地は、電車で一駅のところにある「市民動物公園」。玲のたっての希望だった。
お金のない高校生のこと、トモは大変有り難かったのだが、初デートがそんなのでいいのかという不安もあった。
――でも。
「トモくん、ラスカル」
「いや、アライグマだろ」
玲が指差す先には、アライグマの檻がある。
トモの訂正も気にせず、玲は檻に走っていく。トモはその後ろをゆっくりと追う。
そのまま二人は並んで、言葉も交わさずアライグマを見る。
ちらちらと横目で玲の様子を伺うトモ。
檻の中を走り回るアライグマたちの様子を、まるで授業でも受けるみたいに真面目に見つめる玲。
楽しんでいることは、黙っていても伝わってくる。
(そーいうことは、よく分かるんだけどなー)
二人の間には指二本分ぐらいのわずかな隙間がある。
それが、トモには縮められない距離だった。
駅までの道すがらも、電車の中でも、動物園に着いてからも。そのわずかな距離が立ちはだかっている。
ましてや手などとてもつなげない。
(……ほんとに、俺といて楽しいのか?)
トモのことなどお構いなしの玲を見ていると、もし今日一人で来たとしても、玲は楽しんだのではないかと思う。
トモは、十分楽しい。
ぽつりぽつりと喋る玲の一言一言が、それが何気ない言葉であっても胸を高鳴らせる。
でも、その背後にあるものがトモには分からない。
告白しあうまではあれだけ分かった玲の気持ちが、今は昔ほど読み取れなくない。
玲の笑顔の向こうにあるのが、本当に恋愛感情なのか、不安になる。
それを今日朝からずっと考えていた。
檻の前には、二十分近くいただろうか。
トモは勇気を振り絞って口を開いた。
「……玲、あのさ、手――」
「あ……トモくん、はむすた」
言いかけた言葉を、玲が遮る。その指の先には、「動物ふれあい広場」の看板と、小動物の絵があった。
「ハムスターな」
昔から、玲はなぜか長音が苦手だった。「はむすた」だったり「はむすたあ」だったりする。
差し出しかけた手を引っ込めながら、トモは小さく息を吐く。
玲はトモにお構いなしに看板の方へ向かった。
「トモくん。触れるって」
手を振って自分を招く玲に、小さく手を振り返しながら、もう一度トモはため息をついた。
364 :
4/7:2006/03/14(火) 15:00:24 ID:T/3Necre
お昼は、玲の母が作った弁当をベンチで食べた。
玲は料理が上手なのだが、大変時間がかかる。今朝も手間取っていたところを見かねた母親が手伝ったらしい。
弁当は大きなトモ向けの弁当箱と、小さな玲のための弁当箱に分けられていた。
だから、トモが期待したような「トモくん、あーん」なんてこともなく、二人は静かに昼食を済ませた。
今は、デザートのソフトクリームを食べている。
今日は陽射しがとても強い。いわば「絶好のソフトクリーム日和」だった。
「うまいか?」
トモが尋ねると、玲は黙ってうなづく。玲はきな粉ソフト、トモはチョコバニラミックスを食べている。
溶けたソフトが垂れてこないよう、器用に舐め取る玲の口元に、トモは目が釘付けになる。
柔らかそうな唇の間から、ぺろりと伸びては乳白色の液を舐め取っていく玲の舌。
精一杯小さな口を開けてコーンにかぶりつく。
なぜかトモは目が離せない。
(……今日、キス出来るかな)
ふとそんなことを考え、体が火照るのを感じる。
玲と、キス。
今まで考えたことも無かったこと。けれど、恋人同士なら当たり前なこと。
(……まずは、手ぇ繋がないとな……)
それから腕を組んで、肩を抱けるようになって、それで――
トモにはまだ難関がたくさん控えていた。
「それ、おいしい?」
玲に聞かれて、トモは我に帰る。
彼女の視線は、トモのミックスソフトに注がれていた。
玲がほとんど食べ終えようとしているのに、トモのそれはまだたっぷりと残っている。
黙って玲の方にそれを差し出す。
玲はぱっと顔を輝かせ、口を近づけ、ぺろりとトモのソフトクリームを舐めた。
「ん」
玲は残った自分のソフトを差し出す。
「おう」
トモは短く答えて、コーンの端を齧る。
「私はこっち」
「そうか」
どうやら玲はミックスソフトはお好みじゃないらしい。そういう内容は、すぐ分かるのに。
(……間接キス、かなァ。これ)
トモの胸がまた高鳴る。
これまで十数年の間、互いの食べ物を味見しあうなんて普通にしてきた。
今ではその意味は違っている、少なくともトモにとっては。
玲がどう思っているか、トモは知りたいと思った。
365 :
5/7:2006/03/14(火) 15:00:47 ID:T/3Necre
3.
初めてのデートで玲の家族を心配させたくなかったから、トモは早めに動物園を出ることにした。
帰りの電車も、いつもの二人のように口数は少なかった。
夕暮れの駅から二人の家へと歩く今も、やはり会話は少ない。
それはトモと玲には当たり前で――付き合い始めたばかりの恋人としては少々不自然だった。
今も、手は繋いでいない。
何かのきっかけのたびに、トモは手を繋ごう、と言おうとした。
けれど、喉のところまで出掛かったところで、いつもその言葉は引っ込んでしまう。
一方の玲は、いつもどおりの距離を保ったまま、すたすたと歩いている。
トモもいつものように、玲の周りを行ったり来たりしながら、彼女の顔を覗き込む。
僅かに玲の目だけが、トモの動きを追っていた。
見慣れた四辻が近づいてくる。あの角を曲がれば、二人の家のある通りに出る。
(――あれが最後のチャンス――)
角にたつ電柱と、自分たちの距離を何度も目で測りながら、トモは歩いた。
あと十メートル。
玲は頭上を飛び去るカラスに目を向けていた。
あと五メートル。
玲はズボンのポケットに突っ込んでいた手を静かに外に出した。
あと三メートル。
玲に気づかれないよう、トモは静かに咳払いをする。準備OK。
一メートル。
トモは何度も頭の中で言うべき言葉を繰り返す。
そして。
――やはり何も言えないまま、トモと玲は角を曲がった。
「じゃ、ここで」
玲の家の玄関前で、トモがさっと手を上げた。
改めてトモの方に向き直り、きちんと手を前で揃えた姿勢で、玲はうなづいた。
「ありがとう」
「ああ、俺も」
「今日」
「うん。俺も」
ありがとう、今日は楽しかった。うん、俺も楽しかったよ。
好きあう二人には短すぎる言葉が、トモと玲の間ではもっと短い。
トモが笑うと、玲は恥ずかしそうに顔を伏せた。
「じゃあな、また明日」
トモは自分の言葉をきっかけに、思い切って振り返った。
いつまでも玲といたいけれど、玲の体に触れたいけれど、出来ない。
(あせっちゃ、駄目なんだろうな)
十六年の付き合いが、これだけ重荷になるとはトモは想像もしていなかった。
付き合いがあるだけ、今までと違うことなんてなかなか出来るもんじゃない。
(ま、そういうもんでしょ)
自分を言い聞かせ、トモは歩き出す。
そして、門の外に足を踏み出した。
門柱のところでくるりと体を回転させ、すぐ隣の自分の家へ。
街灯はまだ灯っていない。暗い道の向こうに、見慣れた我が家が見える。
思いを振り切るように家に向かって駆け出そうとした、その時。
366 :
6/7:2006/03/14(火) 15:01:17 ID:T/3Necre
「……トモくん! 待って!」
突然の大声に、トモは驚いて立ち止まった。
振り向くと、門のところに玲がいた。
普段出しなれていない大声を出したせいか、玲の息は荒い。
その呼吸に合せて、白い服に包まれた胸が緩やかに上下する。
「玲?」
「と、トモくんっ!」
もう一度叫ぶと、玲はぱっとトモへと駆け寄った。
まるで飛びつくように、トモへ体を預ける玲。自然と、トモは玲を抱きしめる格好になった。
玲の両手がすっとトモの首筋に絡まる。
信じられないぐらい強く、玲にトモは引き寄せられた。
――ちゅっ――
玲はためらうことなくトモの唇を奪っていた。
目をぎゅっとつぶり、力一杯自分の唇をトモに押し付ける。
重ねるだけのキス。マシュマロのような柔らかな感触が、トモに伝わる。
トモの思考はどこかに飛んでいき、ただ分かるのは玲の滑らかな感触だけ。
目を開けていても玲の姿はどこかに消え去り、彼女の臭いも、触れ合う体のぬくもりも、なかった。
それぐらい、玲のキスは強烈だった。
何秒か、何十秒かが過ぎ、玲はようやく力を緩める。
互いに荒い息をしながら、トモは火照った顔で抗議の声を上げる。
「お、お前突然……んっ! んんんっ!!」
だが、その言葉は再び玲の唇に塞がれてしまった。
逃れようと身をよじっても、玲の腕はトモを離さない。
やがて、トモは全てを玲に委ねることにした。
玲と溶け合い、一つになるような錯覚。
さらにそれを強めようと、トモは腕を彼女の腰に回し、ぎゅっと抱きしめた。
367 :
7/7:2006/03/14(火) 15:01:37 ID:T/3Necre
「お、お前、いきなりすんなよ……」
ようやく唇同士は離れたものの、トモと玲は抱きあい、顔と顔を寄せ合っている。
「だって……」
どういう顔をしていいのか分からない、といった様子で、玲は視線を彷徨わせる。
あえて言えばそれは泣き笑いの顔だった。
「決めてたんだもん……」
玲の言葉の真意が、ほんの数拍おいてトモに伝わった。
――今日、絶対キスするって決めてたから――
「あっ、バッ、ば、バカ……それ……」
「……トモくんも?」
驚いたような顔の玲に、トモは渋々うなづく。
二人は気まずそうに、それでも嬉しそうに見つめあった。
「だって……なかなかタイミングが掴めねーんだから、仕方ねえだろ」
「待ってたのに……」
「や、そ、それは悪かったけど……って! いやそれ、おかしいし! 手も繋がないでキ、キスなんて、とか思うし!」
「……いいもん、そんなの」
玲はそう言ってトモの胸に顔を埋めた。
お互いの胸の鼓動が痛いほど伝わってくる。
玲は緊張していた。トモも負けないくらい緊張していた。
でももう、彼女の気持ちが分からないなんて、これっぽっちも思わなかった。
「じゃ、じゃあ……」
「うん……」
トモの言葉に、玲は顔を上げた。頬には涙の粒が光っている。
二人は目を閉じる。
――もう一度、しよう?
(終わり)
追記:なお、この様子は玲の兄、晃によって一部始終を観察されており――
二人は当分の間これをネタにからかわれたのだが、それはまた別の話である。
(ぼけー)
・・・
はっ!?
やべー、いいもの読んで浸ってしまっていた。
仕事しなければ。
GJです。初々可愛いw
純粋ってのは、時におかしな人に思われるものなんだな…
しかし新聞記事で萌えたのは初めてだ
でも本当にD君が純粋かどうかはわからん。いや、変に純粋でないほうがいい。
高校になって冷たくなったからとかいってA子さんを刺すかもしれない。
えーと、この話の教訓は
・約束を忘れちゃダメ
・言いたいことがあるならハッキリ言う
・幼馴染万歳
の三本でいいのかな?んがっぐぐ
何か◆ZdWKipF7MI氏とネタが被りましたが投下いきます。
「・・・眠れん・・・。」
ある日の夜。
俺は寝る姿勢を変えながらそうつぶやいた。
原因は分かっている。
先月のバレンタインの時の事だ。
その日のことを思い出してみる。
あの日、綾乃はいきなり俺に抱きついてきた。
その時、背中に非常に柔らかい感触が――
がああああああああああああああっ!!
記憶戻りすぎだ戻りすぎ!
確かにあの時の感触は嬉しかったっていうか抱きつかれるたびにあの感触が
そう言えば再会したときよりも大きくって違う違う思い出すところはそこじゃない。
とにかく問題の時の会話を思い出してみる。
「来月の14日、どっかに遊びに行くか?」
「・・・うん!!」
「あんな事言うんじゃなかったなあ・・・。」
女の子と一緒に二人だけで何処かに遊びに行くなんてこれじゃまるで・・・
「・・・でーと・・・。」
思えば子供の頃からで、で、デート・・・に行ったことは一度もない。
なので何処に行ったら喜ばれるかなどと言うのは全然解らないのだ。
まあ今更後悔しても仕方ないと兄に相談したら、
「ちゃんと避妊はしろよ。」
と、十段階ぐらいすっ飛ばした意見を述べてきたので張り倒しておいた。
というわけで自力で考えるしかない。
まあ月並みだが、遊園地か、映画館かと言ったところだろう。
とりあえず長い間いられる遊園地と言うことにしておく。
「問題は金か・・・。」
財布の中身を確認。
そこには必死にバイトした成果として諭吉さんが3人降臨されていた。
よし、これで割り勘という情けない事態は回避できる。
よくやった俺。ありがとう俺。
しかし何で俺は何でこんな事で頭を悩ませてるんだろうか。
というか何であんな約束してしまったんだろうかと今更ながら思う。
「でもあんな顔されるとなぁ・・・。」
俺はそう言いつつ傍らに置いた携帯を開き、保存している画像を見た。
そこには綾乃と、彼女に抱きつかれた俺が映っていた。
バレンタインの日に馬鹿兄とその嫁に撮影されたものだ。
何となく消去せずにまだ持っている。
だが撮影された経緯はどうでも良い。
「問題はこの顔だ。」
そう言って俺は携帯の画像を改めてみる。
そこに映る俺たちの顔は、共に笑顔だ。
「なんでこんな顔したんだろ俺・・・。」
いやあの時はノリで・・・。
そう!ノリだ!ノリだったから仕方ないよな!
・・・・・・・・・・。
「・・・我ながら言い訳臭いな・・・。」
自嘲気味につぶやきながら今回の約束をしたときのことを思い出す。
あの時の本当に嬉しそうな笑顔。
子供の頃はいつも俺の傍で見せていた顔。
今もまた俺の傍で見せている笑顔。
この顔を、俺は一度、泣き顔に変えてしまった。
それでもアイツは、俺の傍にいようとする・・・。
普段ならすぐ来るはずの睡魔は、なかなか訪れなかった。
「・・・遅い・・・。」
ホワイトデー兼初デート当日。
俺は待ち合わせ場所の前で腕組みしつつ綾乃を待っていた。
ちなみに今の俺の服装は灰色Tシャツの上に黒ライン入りの上着、
少々使い込んだジーンズといった俺お気に入りの服装だ。
まあ仮にも女の子と二人だけで遊びに行くんだしオシャレに気を使わないわけにもいくまい。
「お待たせー。」
とか考えてると、後から聞き慣れた女の声が聞こえた。
「お・・・・・・。」
遅いと言いながら振り向いたその先にいる人物を見て、
俺は口を「お」の形にしたまま固まった。
そこに立っているのは予想通り綾乃だった。
が、俺が驚いたのはその服装だった。
黒いタートルネックの長袖Tシャツの上に白い上着、
ベージュのロングスカートといった服装だ。
露出度は少ないが身体の線が目立つ。
そう言えば再会したときもこんな感じだったし、
彼女はこういう服装が好みかもしれない。
「待った?」
「すごく。」
そう言って約束の時間を十分過ぎた時計を見せる。
それを見た綾乃の顔が申し訳なさそうに歪む。
が、俺が「気にするな。」と言いながら彼女の頭を軽く叩くとすぐ笑顔に戻った。
「じゃ、行くか。」
「待ちなさい。」
歩き出そうとした俺の肩を綾乃が掴む。
「せっかく気合い入れておしゃれしてきたんだから何か言うことがあるんじゃない?」
「ナンノコトデセウ?」
わざとらしい片言になった俺を見て綾乃は肩を落として吐息。
「思ったことを口にすればいいのよ。」
「思ったこと・・・。」
まあ言いたいことは解る。
「綺麗だ」とか「可愛い」とか言わせたいんだろう。
だが・・・・・・・・。
「ンな事恥ずかしくて言えるか!」
「いやらしいこと考えてたの?」
「違ーう!」
もはや綾乃との会話で恒例となった絶叫ツッコミを入れるが、
綾乃はそれにも動じずに言ってきた。
「じゃ、言ってみて。」
口は笑ってるが目がマジだ。
・・・仕方ない。
軽く咳払いして口を開く。
「・・・に、に・・・、に・・・・・。」
最初の一文字が口から出て、そこから先が出ない。
が、綾乃はそんな俺を怒りもせずに次の言葉を静かに待っていた。
彼女の期待の視線に耐えきれず視線をそらす。
やがて視線が綾乃の姿を完全に外したとき、言葉がようやく出た。
「似合ってる。」
聞こえるか聞こえないかくらいの声量。
これが俺の精一杯だった。
そのことが凄く情けなく思う。
そう思いつつ視線を戻すと、綾乃は俺に向かって笑顔を見せていた。
「ありがと♪」
「あ、ああ・・・。」
間抜けな返事を何とか返すが精一杯だ。
と、そこで俺はある点に気付いた。
綾乃の長い髪の一房に白いリボンが巻きついていたのだ。
「どうかした?」
「いや・・・。」
何だろう、あのリボン、何か見たことあるような・・・。
だがその疑問を口にすることなく、俺は綾乃を連れて歩き出した。
最寄り駅で切符を買い、俺たちは電車の座席に二人隣り合って座っていた。
「で、どこ行くの?」
「まあ、後のお楽しみだ。」
「ケチ。」
そう言って綾乃は微笑。
それから数分。
今現在俺たちは一言もしゃべれなくなっていた。
俺の肩に綾乃が頭を乗せて寝ているのだ。
柔らかな髪の質感。
鼻先にかかるシャンプーの香り。
何より無防備かつあどけない寝顔。
それら総てが俺の心臓を激しく動かす要因となっている。
『――次は、新多賀美、新多賀美です――』
アナウンスが次の停車駅を告げる声も何処か遠くから聞こえるようだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?あなうんす?
『――次は、新多賀美、新多賀美です――』
再びアナウンスが次の停車駅を知らせる。
ってそれ目的地だよオイ!
「オイ!綾乃!起きろ!」
俺は即座に眠り姫を起こしにかかった。
「何とか間に合った・・・。」
電車が駅が遠ざかっていくのを見送りながら俺はベンチに座り込んで安堵した。
「ゴメン・・・。」
隣の席に座る綾乃が申し訳なさそうに身を小さくする。
「寝不足?」
そう聞くと彼女はゆっくりと首を縦に振る。
「今日が楽しみで、あんまり寝れなかった・・・。」
「遠足前日の子供かお前は。」
呆れながらツッコミを入れる。
だが、楽しみにしてくれたというのは素直に嬉しい。
ちなみに俺もなかなか寝れなかったことは黙っておく。
「今日誘った甲斐があったなあ・・・。」
「早いって。そう思うのが。」
珍しく綾乃の方からツッコミが来た。
俺はそのことに苦笑しつつ立ち上がった。
「もう大丈夫か?」
「もちろん!」
そう言うと彼女も元気よく立ち上がった。
この分だと本当に大丈夫だろう。
「よし、じゃあ今日はパーッと遊ぶぞ!」
「おーっ!」
俺たちは腕を振り上げつつ声を張り上げて大股で歩き出した。
しかし周りの人たちの視線を受けてその足取りはすぐにコソコソとしたものになった。
駅から二人並んで歩くと、程なくして目的地に着いた。
「あ・・・。」
綾乃が驚きの声を上げる。
そこは俺たちが子供の頃に何度も行った遊園地だった。
「ここ、まだあったんだ・・・。」
そう言うと彼女は視線を俺の方に戻した。
「昔、よくここに来たよね?」
「ああ、懐かしいな・・・。」
彼女の笑顔を見て、ここにしてよかったと自分の判断が間違ってなかったことを確信。
「じゃ、行くぞ。」
「うん!」
俺たちは一日フリーパス券を買うと中に入っていった。
「世界が、世界が揺れる〜〜。」
そう言うと俺はベンチの座席部分に突っ伏した。
原因はさっきまで乗っていたジェットコースターだ。
最近改装されたらしいそれはもはや絶叫マシンというか。
だが綾乃は顔色一つ変えずに乗車中の様子を撮影した写真を真剣に睨みつけていた。
「写真写りが悪い・・・。」
その視線の先では俺の少々ブレた姿があった。
「無茶言うなよ・・・。」
俺の呟きが聞こえなかったのか綾乃は立ち上がると俺の手を取り、
「もう一回!」
「えぇ!?」
俺の抗議を無視して綾乃は俺の手を引いて再びジェットコースターの列に向かって歩き出した。
「で、何でそんなに怖がってるんだよ・・・。」
「だ、だって・・・。」
お化け屋敷内で、綾乃は思いきり俺にしがみついて心底怯えたような
――というか完全に怯えきった声を出す。
「こういう場所ってホントに出るって言うし・・・。」
「子供じゃないんだから信じるなよってかそんなにしがみつくなよ。」
「・・・昔、お化け屋敷に置いてけぼりにされたことあるし・・・。」
余計なこと覚えてるよこいつ。
「そ、それは申し訳なかったけど、ほら、当たってる、胸。」
「・・・カタコトで言わなくても解ってるよ。っていうかわざとだし。」
「・・・そういうことしれっというなよ・・・。」
でもまあ、こういう風に頼られるのも悪くはないしべつにいいか。
決して腕に当たる弾力が気持ちいいからとかではないと
自分に言い聞かせるように考えながらそう思った。
正午十分過ぎ、俺たちは適当な芝生の上に腰掛けていた。
無論、芝生はいるなの立て札は立てておらず、同じようにしている利用客も何人か確認できる。
まあこの時間帯ではみんな考えてることは一つだ。
「腹減った・・・。」
周りの利用客はみんな食事休憩だ。
「そう言うと思った。」
綾乃は苦笑すると鞄の中からレジャーシートを取り出す。
それを受け取って広げ、靴を脱いで腰掛ける。
綾乃も同じようにすると、鞄から大きな包みを取り出した。
包みを解くと中から重箱が現れた。
それの意味することは一つだ。
「弁当・・・?」
「頑張って作ったんだよ。」
そう言いつつ重箱を分解してゆく。
一段目は俵むすびやふりかけおにぎりが、
その上の二段目は唐揚げや卵焼き、タコさんウィンナーなどのおかず、
そして一番上の三段目にはウサギリンゴやオレンジなどのデザートが入っていた。
「気合入ってるなぁ・・・。」
「へへー。」
得意げに胸を張る綾乃。
ふと、一つの疑問が浮かび上がった。
「もしかして、寝不足の原因ってこれ?」
その言葉に綾乃は首を縦に振る。
よく眠れなかったのにこんな気合いの入った重箱弁当を作ってくるとは・・・。
とりあえずお礼代わりに頭を撫でてやる。
「よく頑張った。」
「・・・うん。」
綾乃の嬉しそうな声が聞こえる。
よく顔が見えないが彼女はおそらく照れた笑顔になってるだろう。
「御馳走様でした。美味かったです。」
「いえいえ、どういたしまして。」
そう言ってお互いに礼。
顔を上げると綾乃が俺の顔を見て、
「ケチャップついてる。」
「へ?」
俺が何処についてるか聞くより早く、彼女は俺の口元をハンカチで拭った。
「ハイ、とれた。」
「あ、ありがとう・・・。」
「どういたしまして♪」
そう言って俺に笑顔を向ける。
その顔を見て、不思議な子だと思う。
彼女には俺をからかったり振り回したりする小悪魔な面がある。
かと思えばこちらを気遣う大人びた面もあし、年相応に恥じらったり怖がったりもする。
小悪魔な顔と大人びた顔、そして年相応な顔。
「どっちが本当の顔なんだろう・・・。」
「何が?」
「いや、何でもない。」
そう言うと俺は表情を見られないように顔を背けた。
「うわ、高ー。」
本日の締めに、俺たちは今観覧車に乗っていた。
綾乃は俺の隣に座っている。
「何で隣に座る?」
「すぐ近くに好きな人がいる方が安心できるから♪」
「さいですか・・・。」
言っても聞かないのは目に見えてるので、好きにさせるようにする。
「ね、アレ見て!」
と、そう言うと綾乃はこちらに身を乗り出してきた。
「うわぁッ!」
とっさに身を引こうとするがこの狭い観覧車内にそんなスペースはない。
どうやらこちら側の窓から見える景色を見るために身を乗り出したらしい。
が、当然狭い車内でその上隣に座ってたので身を乗り出すと顔が近づく。
「夕日、綺麗・・・。」
「あ、ああ・・・。」
「あのあたりが前の私の家かな?」
「あ、ああ・・・。」
本日何度モカの間抜けな返事が口から出る。
ふと、綾乃がこっちに振り向いた。
反射的な動きで俺は顔を可能な限り後に引く。
そうしたら後頭部を壁にぶつけた。
それを見た綾乃が苦笑。
「大丈夫だって。別に何もしないし。」
「いや、またいきなりキスされるかと思ったんで・・・。」
「いったいどういう目で私を見てるのよ・・・。」
そう言いつつ綾乃が半目を向けてくる。
が、すぐに表情を笑みに戻して聞いてくる。
「期待した?」
「・・・別に。」
「ほ〜、じゃあ今の間と視線反らしは何故?」
そう言って顔をさらに近づける綾乃。
また顔を引こうとするが後頭部は既に壁に当たってる。
彼女の息が顔にかかる。
と、彼女は自分から顔を引いた。
乗り出した身を元に戻して、笑顔で言ってきた。
「大丈夫。返事ももらってないのにしないから。」
「俺、告白されたときに唇奪われたんだが・・・。」
「あ、あれは・・・。」
俺の問いかけに、綾乃は顔を少し赤くして、
「久々にあったから、つい・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
何も言えなくなってしまった。
「・・・ゴメンね?」
「・・・いや、怒ってる訳じゃ・・・。」
と、そこで観覧車の扉が開いた。
どうやらもう地上に戻ってきてるようだ。
「じゃ、行こっか?」
「・・・ああ。」
そう言って俺たちは観覧車から出た。
その後、遊園地を出た俺たちは、喫茶店で簡単な食事を取って帰路についた。
今日すなわちホワイトデーももうすぐ終わりだ。
そう思ったとき、俺の脳裏にある一つのことが浮かんだ。
「あ!」
思わず声を出してしまった。
驚いてこちらを向いた綾乃のある一点を指さす。
「そのリボン・・・。」
朝に抱いた違和感が消えるのを感じながら言う。
「俺が昔、ホワイトデーにあげた奴か・・・。」
その言葉に、綾乃の顔が笑みになっていく。
「覚えててくれたんだ・・・。」
「さっき思い出したんだけどな。」
そう言って苦笑。
「これ、普通に結んだら似合わないから、どうやって結ぼうか迷ったんだ。」
綾乃も苦笑しながら言う。
「変かな?」
「そんなことない。」
反射的に言う。
今度は素直に言えた。
たったそれだけでも、そのことが嬉しかった。
「ありがとう・・・。」
綾乃はそう言って笑顔を見せた。
今までの元気な笑みとは違う、微笑みを。
綾乃を家まで送り、その後は当然一人で帰宅だ。
歩きながら一人の人物のことを考える。
「綾乃・・・。」
自然と、その女性の名が口から出た。
実のところ、自分の気持ちには気付いてきている。
だが・・・・・・・・。
俺に、人を好きになる資格があるんだろうか?
かつて彼女を裏切った、この俺に・・・。
傷つけるかもしれないのに一緒にいるか。
それとも傷つけないために離れるか。
「どっちが正しいんだろう・・。」
そうつぶやくと、いつの間にか自分が立ち止まっていたことに気付く。
慌てて帰り道を歩き出した。
何故かその足取りは重く感じた。
今回は以上です。
次からは月一連載(登校日未定)+時々番外編という風になると思いますのでよろしくお願いします。。
まちがえた・・・。
×次からは月一連載(登校日未定)+時々番外編という風になると思いますのでよろしくお願いします。。
○次からは月一連載(投稿日未定)+時々番外編という風になると思いますのでよろしくお願いします。
どうもすみませんでした。
>>388 GJです。学生なだけに、登校日未定もあながち間違いではないかもしれんw
>>388 何故だか分からないが、あなたの書くものが好きだ。
続きを楽しみにしてる
>>388 ゆっくり書いてくださいね〜お待ちしていますので。^^
>>388 ゆったりまったりで好きなんですが、
苦笑しすぎじゃなかろうか
剣太と鞘子(だっけ?)のは打ち切りかなぁ
作者さんを信じて気長に待とうぜ。
そんな漏れはみーちゃんとまゆこ待ち。
剣と鞘か……エロいな
何回言うねん
カーリング代表のどなたかが結婚するらしいが、相手は幼馴染らしい。
カーリングにゃ全く興味ないが、それだけで祝福する気になるっつうのは不思議だ。ここ見てるせいか?
俺は祝福どころかショックだったが…
祝福してやれよぅ…それが、ここに集うものの情けって奴さぁ
じれじれ、男のモノローグっぽい、男が別の女とヤっちゃってる
がダメな人超逃げて直逃げて
すげぇじれったいです
彼女がそれを知らないことくらい、初めからわかっていた。
時々、ふと隣にいる存在を確かめないと怖くなる。
いつか離れていくという意識が常にまとわりついているからだ。
彼女は自由を求めないのに自由から好かれる傾向にある。
それは、腕をすり抜けて、隣を横切って、いつでも追いかけられたい魅力に似ている。
最近ようやくそれが分かってきた。
例えば結婚という枠に自分たちの関係を当てはめるとしよう。
あまりに日常すぎておかしくなった。
例えば恋人という枠に自分たちの意識を当てはめるとしよう。
首をひねりたくなった。
何故関係という関係に名前をつける必要があるのか。
この世では、「何も悪いことはしていない」、と叫ぶ為には正当な関係が必要だ。
それ以外では白い目で見られるだけ。
馬鹿げてくる。
正当な関係などこの世のどこにあるというのか。
嘘と建前と金にまみれた神聖な結婚は許されて、自由で愛に溢れた関係は許されない。
それでは正当を唱える意味とは何か。
不純異性交遊が大人になった途端生殖活動として認められるのは何か。
子供と大人の違いはどこに。
まあ、そんなことはどうだっていい。
楽しければいい。
愛しければ、それで。
今はまだそんな嘘さえ楽しめる。
だからこそ続けられる関係だって、ある。
目をつぶる。
笑顔が浮かぶ。
これが愛や恋になるなら、今はまだそんなのはいい。
名前なんか、どうだっていい。
いずれにしろきっといつか停滞して行き詰まってしまう関係なのだから。
白い背中が、身じろぎする。
その華奢な体を後ろから抱きしめて、秋良は思った。
(傷つけたなるぐらいやから、好きだのなんだの、ややこしくなることよう言わん
でもええねん)
その方がうまくいくのがきっと自分たちなのだと思った。
「ん…どうしたの、高馬あ?」
甘ったるい女の声が、秋良の淡い思考を吹き飛ばした。
瞬時に秋良は体を引きはがしていた。
「なんもない」
素っ気ない返事をあくびを噛み殺してする。
隣にいる女はそんな秋良の変化には気づかず、腕を伸ばして首に絡めた。
「ふふ。あたしたち、体の相性ばっちりじゃん。ね、愛してる」
秋良は耳を疑った。
体の相性がいいことと愛してるがどうつながるのか。
第一こっちは好きだのなんだの言って付き合った覚えはない。
勘違いをされてはたまったものじゃないと、釘をさすことにした。
「あんなぁ、お前がムリヤリ襲ってくるんが悪いんやぞ?俺に非はないで。無実
や、まっさらや」
美人に誘われて断らない男はそうはいないということだ。
女は眉間に皺を寄せた。
「なにそれ、意味わかんない。あたしのこと気になってたんでしょ?だからエッ
チしたんでしょ?ね、付き合おうよ」
女という生き物はこれだから恐ろしい。
セックスと恋愛がどこら辺で繋がるのか、秋良にはさっぱり分からない問題だ。
体は体、心は心と割り切れば、セックスまで行き着く場合はいくらでもある。
「意味わからんのはこっちや。大体お前付き合ってる男おるやろ」
「そんなのとっくに別れたもん」
「はあ?あれだけ好きや好きやて言うとったやんか」
「だって高馬の方が将来性もあるしスタイルもいいし、何よりかっこいいじゃな
い?友達に高馬と寝たなんて言ったら絶対羨ましがられるもん」
わけがわからない。
秋良はこれ以上この女と話をしていると頭が悪くなると思った。
おもむろに着替え始める。
「え?もう帰んの?えー、一泊してってよ」
「そないなヒマないわ」
「なんで?だって勉強するわけじゃないんでしょ?」
「明日朝早いんや。それと俺かてテスト前はノート写すぐらいするし」
「…………わかった」
女の甘ったるい声が、急にワントーン落ちた。
空気が固まる。
「違う子のとこ行くんでしょ。幼馴染みの」
秋良の喉が張り付いた。
「はあ?…ちゃうて」
「嘘だ。だってずっと見てたじゃない?あたしが誘った時だってさ。眠たそうな
目しちゃって。あの子だって見てたわよ、とろんとした……」
「ちゃう言うてるやろ。黙れや」
強い口調で秋良は女の言葉を遮る。
苛ついて、声を出すのも嫌になる。
女のごちゃごちゃとした生活感のありすぎる部屋が、風景に似合わず静まり返った。
「何よぉ、ヤリ逃げ!」という声を右から左に聞き流し、秋良は部屋を出た。
しかし、部屋を出て心に去来したものは、怒りではない。
漠然とした罪悪感だった。
アパートまでの道のりをとぼとぼと歩いていると、ふと口寂しさに襲われた。
女のキスのテクニックは相当のものだった。
あれをもってさらに甘い声で「愛してる」などと囁かれれば、大抵の男はイチコロだ
ろう。秋良の場合、その大抵の男の数に入らない理由が多少なりあったのだ。
その点で言えば、女の言った「違う子のとこでしょ。幼馴染みの」という言及は図星
といえば図星だ。
ただ付き合っている女でも好きな女でもないので、あけすけに言われて頷くことがで
きなかっただけだ。
幼馴染み。
その曖昧な関係をおよそ10年も続けている相手は、名を七倉みどりという。
彼女とは、秋良が小学校の時にみどりの家の隣に越してきてからの仲で、浅からず深
からずな、割と淡白な関係だった。ただ秋吉にとって、隣にいて一番心地良い人間は
みどりに他ならず、恐らく秋良を一番に理解しているのもみどりに違いなかった。
みどりは、父と母譲りの、クセが無い整った顔立ちをしているので、度々委員会で一
緒になった男子や、クラスで良く話す男子と噂になったものの、一度として付き合っ
た経験はない。少なくとも秋良の知る範囲では。
たまたま話す機会が増えた男子だけでも噂になるぐらいなのだから、秋良とみどりは
といえば数え切れないほど槍玉に挙げられたことがある。
だが、その度に、本人たちは周りの予想以上に冷めた、あるいは落ち着いた物腰で否
定していたので、カップルだ熱いだひゅうひゅうだなどという冷やかしの対象から常
に少しズレていた。
というのも、本人たちに明確な意識がないのだから当然といえば当然だった。
みどりとは家族のように親しかったが、だからといってみんなから冷やかされるよう
な関係ではない。
恋をはっきりと認識したことなど、互いになかったのだ。
けれど、ここ最近、秋良は以前にも増して、強く思うのだ。
あいつは、俺にとって何や?
幼馴染みだろう、と言われればそれまでだ。
確かにこれまでの関係はその一言で終始する。
しかし、秋良の感情はそれでは納得できなかった。
果たして、普通、幼馴染みとはここまで仲が良いものなのか?
とか、
あんまりにも一緒に居過ぎるだろう。
とか、
こんなに相手を気にかけるのはおかしい。
とか。
夜遅くに部活から帰って、電気がついていれば、「ああ、あいつか」と分かる。親父
は秋良の帰る時間帯にはいつも家にはいないからだ。
朝起きて、味噌汁のいい匂いがすると、「今日は作ってくれるんか」とぼやけた脳で
考える。
横目に、台所のエプロンをつけた後姿を確認してから、二度寝する。
小さい頃からなんやかやと手伝いに来て、それが中学あたりまではせいぜい母親のつ
くった煮物を届けに来るとか宿題をみる程度だったのが、高校に上がる頃には普通に
料理をつくりにきたり、洗濯物にアイロンをかけたり、泊まって行ったことも一度や
二度ではない。
姉のような、妹のような、…母親のような。
そんなくすぐったい気持ちの伴う存在。
それでいいか、と思う反面、どこかで胸騒ぎを感じてもいた。
本当に?という問い掛けと共に。
梅雨前の時期は夜が一番心地良いと秋良は思う。
だるい生温かさも張り詰めた冷たさもない、丁度いい清涼感で溢れている。
長年の友達の家が経営するコンビニを行き過ぎて二個目の十字路を曲がれば秋良の住
むアパートは見えてくる。
果たして、そのアパートの一階の一番奥の窓に、明かりは灯っているのか?
いや、それはないか。
ふ、と溜め息とも苦笑ともつかぬ息をもらし、秋良は数時間前の出来事を思い出す。
『ね、お願い、秋良。今日だけ付き合ってよ!』
クラスメイトの西田だった。
『……んな、急に言われてもな』
頼まれた秋良はあからさまにお断りの意思を表情に貼り付ける。
別に大した用事もなかったのだが、丁度みどりと廊下で鉢合わせして話に興じていた
ところに、ムリヤリ入り込まれてきて気分が悪かった。
ふと、隣を向くと、みどりと目があった。
ピンとくるものがあった。
『い、行ってあげたらいいじゃない。今日は部活もテスト前で休みだし、どうせろく
すっぽ勉強なんてしないんでしょ?』
やや戸惑いつつも、笑顔で勧めるみどりはあくまで親身な態度だ。
はたから聞けば、とても親切な意見だろう。
しかし、それとは少し違うことを秋良は知っている。
いつもは最初から最後まで意見を変えない秋良なのだが、このときは、魔が差した。
というより試したかった、みどりがどんな顔をするのか。
『…しゃーないな。お前がそこまでいうんなら、顔立てていったるか』
『マジ、秋良!?』
西田は大喜びで秋良の腕に抱きつく。
やめぇ、とその体を振り払いながら、そろりと隣を窺った。
秋良は少なからず驚いて、目を見張った。
最近では見る機会のなくなった、泣き出す前の顔と、それは重なった。
しかし、すぐに失せて、普段の人好きのする笑顔に取って代わる。
『じゃ、ごゆっくりね。私委員会あるから』
軽く手を振って、こちらに背を向ける。
父親似の色素の薄い髪が、一度だけ不自然に揺れた。
秋良は、動揺を隠し切れなかった。
自分が、あんな顔をさせたのだとようやく気づいのは学校から2キロも離れた町を
歩いていたときだった。
木造のぼろいアパートには、二つ三つ明かりが灯っていた。
そのうちの一つは、自分の住む部屋からだった。
時刻はまだ8時半だった。
秋良思わず足を止めて、すぐに、「ま、それもありか」と思い直し、歩を進めた。
ドアの前まで来て、ドアノブに手をかけた時、何か不思議な違和感が胸を掠めたが
気にせずに腕を引き、中に入る。
「おかえり」
いつもと同じ風景が、そこにはあった。
「けっこう早かったじゃない、ちゃんと楽しんできた?」
ご飯の用意された狭い机。台所には制服を着たままのみどり。脇には使い終えたエ
プロン。
自分を受け入れて迎える日差しにも似た笑顔。
「なにしてんの、そんなとこ突っ立って。ああ、もしかして今日は来ないと思って
た?残念でした。今日はおじさんから夕飯のリクエストを」
日常を日常と認識できない違和感。
どうしてこんなに凶暴な気持ちになるのか、分からなかった。
目に浮かぶそれと同じ笑顔を、無性に壊したくなった。
「西田と寝たわ」
「もらってたから…」
日差しが消えた。それと同時に、違和感もなくなっていた。
秋良は胸がすっとした。
いつもなら悪態をついて、それを小突いて、という展開が繰り広げられているその
温かい部屋は、一変して冷たい沈黙で覆われていた。
「……ふ、ふぅん。そっか」
無表情のみどりが、感情の混ざらない声を発した。
消えたはずの違和感が、また秋良の体中を駆け抜ける。
それをごまかすように無言で部屋に上がりこんで机の前に腰を下ろした。
いつもと同じみどりの向かい側の位置だ。
「そや、俺、物理のノートとってへん。後でみしてや」
思い出して、至って普通に秋良は言った。
「…あのね、あんたの場合、物理だけじゃないでしょ?」
一呼吸の間を置いて、みどりは疲れたように溜め息と声をこぼした。
「他はもう写してあんねん」
「ほんと、そういうとこだけ抜け目ないんだから」
「だけ、は余計や」
くだらない、けれど愛しい掛け合い。
目先の亀裂を埋めるように、それは始まった。
何年も前から続けてきた口げんかのような会話。
呼吸をするのと同じように、いつでも取り出せるけれどせずにいられない類のもの
だった。
食べ終えて、みどりが食器を片付け始める。
先ほどまでの空腹感はみどりの作った薄味の美味しい料理によって満たされていた。
しかし、秋良は何故か、飢餓感が増していく一方の自分の感情に気づく。
何が足りないのか、それを知っていても分かりたくはなかった。
先に振り返ってしまったら、みどりは消えてしまうかもしれない。
そう考えるとどうしたって代替品で間に合わさなければならなかった。
気晴らしや、西田のような女や、そういうあとくされのないものが一番丁度いい。
それによって生じる罪悪感など、みどりを想えば塵にしかならない。
(関係に名前なんかいらん)
絶対にそうだとは言い切れないけれど、少なくとも秋良はそうだった。
(けど、俺らには、……あいつには名前がいるんかもしれん)
間違っても自分が真っ当だとは言えないからだ。
「秋良」
秋良がぼっとしているのを見て取って、みどりが声をかける。
秋良はみどりの方を向かずになんや、と答えた。
みどりは食器を洗いながら、やはり秋良の方を向かずに言った。
「明日からは、自分でなんとかしてね。いつも、私が手伝いにこれるわけじゃない
んだから。…彼女でもないのにさ」
からかいを含んだみどりの声音が、どことなく震えていたと感じたのは気のせいだっ
たろうか。
秋良はカチャカチャという食器の鳴る音を呆然として聞いていた。
だから、一瞬みどりが何を言っているのか分からなかった。
しかし、じわりと、その言葉が、意味が、脳に染み込んでいく。
418 :
400:2006/03/22(水) 04:38:01 ID:TVumhdMf
とりあえずここまでウプ
まだ少し続きます
スレ汚しスマソ
うぉーじれってえ
GJ
GJ!
続き期待。
これはマジで期待してる
422 :
400:2006/03/23(木) 00:09:20 ID:CSIa/fiS
続き投下。419-421トンクス
じれじれ、男モノローグぽい、男が別の女とヤっちゃってる
エチなし
駄目な人腸逃げて。
補足:主人公の名前秋良高馬<アキヨシタカマ
父親と二人暮し
曖昧な関係には、いつか終わりが来る。
なぜならば、明確な輪郭を持った間柄とは違って、それはいつでも何にでも変化できる
ものだからだ。
家族にも、恋人にも、姉妹にも変じることができるが、それは逆に、一番大事な存在か
らも逸脱していると言える。
そうして、みどりはそうとは知らずにそれを続けてきた。自我の成長過程から、ずっと
秋良と一緒に。
秋良の望む名前のない関係は、みどりがそれに従う形でなければ決して成立しないものだ
った。みどりが一言イヤだといえば、それで終わる。
その危険性は、秋良自身が一番よく分かっていた。
分かっていたはずなのに。
「あたしとあんたは幼なじみだし、腐れ縁だけど、さすがに彼女には悪いシチュエーション
じゃない、これは」
「……ん」
(関係に、名前なんかいらんのや)
意地でも言い張りたかった。
そうして、自分のみどりに対する想いすら曖昧なままにしていたかったのだ。
みどりが幼なじみ以上に秋良を認識しないという事実に気づかないために。
けれど本当は、そんなことはもうずっと前から知っていた。
「けど、お前…」
何か言わなければ、と秋良は焦った。
一時の感情の昂ぶりで失言した自分を殴りたいと思いながら。
「ん?」
みどりの声は、変わらず澄んで、耳に慣れても時折はっとする、あの澄んだ声で。
かちゃかちゃと、いつもは心地よいはずの食器のぶつかる音が、今は耳障りで仕方なかった。
「お前、な」
今の苦しみと、未来の苦しみを比べられる余裕など、秋良にはなかった。
至福、と、大げさながらも呼べる「今」を置いて、何も大事なものなどありはしないと思った。
秋良は言った。
「冗談ここまで信じる奴も珍しいわ。本気にしたんか?」
強張っていなかったろうか。
不自然な笑みを作ってはいないだろうか。
取ってつけたように陳腐な言い繕い方だ。
嫌な汗を手のひらに感じながら、秋良は祈るように、食い入るようにみどりの背中を見た。
ほどなく彼女は振り向いた。
「…何言ってるのよ!ばかっあほんだらっ。タレ目っ」
―――あ。
数時間前に廊下で見せた、一瞬の表情がそこにあった。
秋良のよく知るみどりの顔。
泣き出す一歩手前の顔。
垂れ下がった眉、涙できらきらと光る瞳、笑っているようで笑っていない
口元のゆがみ。
ただ少し尖った唇だけは記憶と微妙に異なっている。
「なんて顔、…しとんねん」
さもなんでもないように、秋吉は悪態をつく。
そうでもしなければ、溢れ出して歯止めがきかなくなりそうだった。
感情が溢れて。
(これだから…俺には関係なんてどうでもええ)
その表情一つで救われている自分は、きっともうみどりに対しての感情の働きがイカレて
いるにちがいないと、思った。
恋愛や親愛を超越した何かが生まれるのだ、彼女に対してはいつも。
覚悟しなければならないのは、相手もそうだとは言い切れないということだ。
彼女の反応、彼女の言葉に救われている秋良とは違い、みどりは苦しんでいる。
みどりは恐らく、そうした秋良の一挙一動にこれから先苦しんでいくに違いないのだ。
そして秋良は、他からどう言われようと、彼女が自分によって苦しんでいることが嫌では
なかった。
むしろ嬉しくもあった。
足りないものを補ったと、錯覚できるほどには。
「そんなことはね、もっと早くに言ってよ!なによ。あたしがいちいちあんたに振り回さ
れてるのが、そんなにおかしいの?あたしはあんたの母親でも姉妹でも、ましてや恋人
でもなんでもないのよっ。どうしたいの!?あたし達のことを!」
きらきらと、みどりの目からは光が漏れていく。
いつもは白い透明な肌が桃色に染まった頬を、つっと流れて、ぱたっと床に広がった。
秋良はやはり、それに救われている気がした。
「別に。どうもせん。…どうもせんて」
「嘘よ、嫌なんでしょ、こういうのが。あたしだって…っ」
「落ち着けて。嫌やない。何も言うてへんやろ」
「だって…うっ」
突然、力が抜けたようにみどりがその場に座り込んだ。
ジャーという水道の音がその瞬間ようやっと耳に響く。
彼女は夕日を背にして、黒い背景になったように動かなかった。
しゃくりあげもしない。
「悪かった。試すようなこと言うて。せやから泣き止んどけ。な」
秋良が近付いて背中にそっと手を当てた。
「…なあ、七倉。俺はわずらわしいこと好かんのや。お前も知っとるやろ。彼女とか恋人
とか、そういう面倒なのは一等ダメや」
秋良は宥めるように、穏やかな声で告白する。
「そや言うたかて、お前のこと今までいっぺんでも面倒や言うて投げたことあったか?
ないやろ。お前は、そういうのんとは違うからや。どうでもええ言うてんのと違うぞ」
「…何言ってるか分からない」
みどりがようやくポツリと漏らした言葉は、拗ねた響きを含んでいた。
秋良は内心で噴き出しながらも、ええから聞き、とみどりの頭を撫でる。
彼女の、肩口で切り揃えてある色素の薄い髪が、さらっと揺れた。
「だから。…大事になぁ…。したいて、思てんねん」
一瞬、時が止まったかのようだった。
秋良自身、それを口にした自分に驚いていた。
あほか、何くさいこと語っとるん。
けれど口の方は意思に反して止まってはくれないようだ。
「家族でも、恋人でも、彼氏でも、きょうだいでも、なんでもええ。名前なんぞ適当に
後からなんぼでもつけたれ。お前の気済むまで。したら、俺はそれになったるから」
そこまで言うと、ゆっくりとみどりは顔を上げていく。
「やから、今はまだ、このままでええやろ?」
濡れた瞳で秋良を見上げて、何か言いたげに口を少し開くが、声にならないようだった。
けれど、何秒か経って、口の両端を、やはりゆっくりと持ち上げると。
彼女は声もなく笑ったようだった。
「なんでそこでウケんねん」
呆れ口調で秋良が突っ込むと、
「ごめん…でも」
と、それだけ言って、あとは声に出して笑い始めた。
からっとしたみどりの笑い方は、どこか綺麗で、見ていて気持ちの良いものだった。
秋良はみどりの苦痛に救われはしても、笑顔には代えられないと、その時改めて思い知った。
例えこの先、どれほど彼女を痛めつけても、手放せはしないのだから、この表情を焼き付けて
おかなければならない。
そんな風に思った。
分かってはいたけれど、みどりはやはり、秋良がどれほど大事に思っているか、知る由も
ないのだ。
だから、彼女が望むのなら、秋良は家族でい続けようという気でいた。
その代わりで彼女を一番に苦しめる権利を唯一自分が有しているのなら、安いものだった。
「分かった。秋良がそこまで言うんなら、このまま大事にされててあげる」
「へいへい」
「けど、そのかわり、一つだけ約束して」
「おお。望むところじゃ」
「うん。もし、…もし、本当に好きな人が出来たら、そのときはちゃんと言って」
さきほどまであれほど笑っていたのが嘘のように、今度のそれはこちらまで苦しくなるほどに
張り詰めたもの
だった。
「曖昧に終わらせないで。そしたら私も、きっぱり秋良から卒業出来るから。…ね」
そんな女はこれから一生現われたりしないだろうと思いつつも、秋良は確かに頷いた。
満足したみどりは、今さら自分の言ったことに恥ずかしくなったのか、ごまかすようにあはは
と、子供のように笑った。
絶対に現れない。
みどりの照れ笑いをからかいながら、秋良はそう思い直した
432 :
400:2006/03/23(木) 00:45:46 ID:CSIa/fiS
これで終了です。
ヌルポくてスマソ。
補足:この二人は両想い。
激しくGJ!
って秋良君はみどりの好意には気付いてるよね?
あんたすげぇよ! 名作だ!
435 :
400:2006/03/23(木) 01:22:17 ID:CSIa/fiS
433、434トンクス
>>433 気付いてないと思う。
すれ違いラヴだから。
そうなのか。幼馴染みの距離に慣れてしまった秋良君はみどりの
好意を受け入れる覚悟がまだ出来てないだけかと思ったよ。こんなに
わかりやすいリアクションしてるのに。
既に恋人気分の西田さんとモメそうだなぁ。とwktkしてしまう漏れは
修羅場スレ住人。
437 :
400:2006/03/23(木) 01:56:44 ID:CSIa/fiS
>>436 あ、そういう見方もアリか
勉強になる、トンクス
実はこいつらと一生付き合っている漏れ。
好評だったら消防とか厨の時とか成人してからとかウプしる
GJ!まさにスレタイ通りの良作だ。演出も結構好みだ。
あえて、ゴールの先を書かないのもまたニクイ。
>>436 修羅場で仏…いや、逆か?まぁいい、奇遇だな、俺もそこの眷属だ。
>>437 GJ!! こういうコンビが成人してそれなりに分別ついたあたりのを是非読みたい。
幼少時の話は多いけど、年を経た後の話って意外と少なかったりするもんで。
>>438 長年続いた幼馴染みの心地よい関係に訪れる変化。
いつも一緒だったのに、彼の事は何でも知っている筈だったのに。
ど う し て あ の 女 が 彼 の 隣 に い る の ?
幼馴染みの絡まない修羅場なんて修羅場じゃ無いよネ☆
420です。
期待した甲斐があったー!
>437
ちょっと待って、実は途方もない量書き溜めとかしてたりするの?
443 :
400:2006/03/23(木) 23:03:39 ID:sr1dreHs
修羅場…他人を絡めた修羅場は書きにくい…
むしろ修羅場にならんかも。
当人同士の修羅場ならなんとか…。
>>437 いや、ネタはあるがそんなにもない。
今んとこ消防と工房、成人後の三本ぐらいならある。
成人後はそのうち投下しとく。
444 :
400:2006/03/23(木) 23:05:12 ID:sr1dreHs
↑アンカーミスったorz
×<<437
○<<442
読ませますね。
じれったくてとても良かった。
微妙な関係のその微妙さを書けるってすごくうらやましい。
近々アニメ化される『西の善き魔女』の主人公らが
幼馴染みであることに気がついた。
>>446 アニメ化されるのかアレ。同じ作者の白鳥異伝も良い幼馴染みモノ
なんで時間があったら図書館ででも借りて読んでみ。
児童書板の荻原スレの書き込みの中に西の善き魔女は腐女子臭いから
苦手と言う人もいたので参考までに。女顔の少年が女装して女子高に
潜入とか主人公の親友のお姫さまが腐女子で自分の兄貴と少年の801
小説執筆するのが趣味だとか。
西の善き魔女は、そこんとこを眼をつぶれば、
幼馴染みの相手をはじめは兄弟としか思っていなかったりとか、
好きだと気が付いたら相手が離れて行ったりとか
王道があっていいんではないかと。
白鳥異伝はそれにお互い想いあっているけど敵対関係になってしまう
と云う要素も加わる。あと児童書のクセに初版はチョイエロ。
452 :
446:2006/03/24(金) 22:46:21 ID:ezj2JO8h
フィリエルとルーンで書いてくれんかなー。
アニメ放映してもスレ立たないだろうし。
>>452 いや立つだろ。結構前から出てるから世代も幅広いし
あの作者の著作ん中じゃかなり人気あるし
そんなもんかね?
放映は1クールだそうだし、職人さんがくるかどうか。
ま、それはそれとして、これ以上はスレ違いになるな。
幼馴染みは世話焼きが良いよねとか言ってみたり。
455 :
400:2006/03/25(土) 18:05:22 ID:ULp5YaTl
成人後の前に。
じれじれ、すれ違い、エチなし、男が他の女と付き合ってる
が駄目な人スルーヨロ。
名前の無い関係より後話。
456 :
無意識・過剰:2006/03/25(土) 18:07:59 ID:ULp5YaTl
残酷な無意識。
いとおしい共有。
虚しい言葉。
どれもなくてはならない、欠けてはいけない、彼らの本質だ。
無意識が言葉を虚しくさせる。
言葉が共有を残酷にする。
共有が無意識をいとおしむ。
―――ほんの、一瞬。
彼は時々、彼女にそれを感じていた。
いけないと思うほど、それは強く渦巻いていく。
体は正直に反応して、彼はその対応に心臓を止まらせることもしばしばだった。
不幸なのが、彼女の方はまったく、おくびにも彼を意識してはいないということだ。
457 :
無意識・過剰:2006/03/25(土) 18:08:50 ID:ULp5YaTl
彼と彼女は幼なじみで、曖昧な関係をおよそ10年以上も続けていた朴念仁同士だったので、
そのような意識など持てるときがなかったらしい。
しかし、彼の方が、先に振り返っていた。
そして彼女を強く強く大事だと、その時点ではもうわかり過ぎるほどわかっていた。
大事だからこそ、自分だけが壊しても良いのだ、というひどく身勝手な独占欲も生じていた。
示し合わせたように、彼女の方も彼ほどに親しい男などいたことがなかったので、
彼と彼女の関係は、ある種特殊な雰囲気を生み出していった。
危ういものだった。
暑さで解けてしまえる程度の、常に危うい空気が、二人の間で揺らいでいた。
お互いがただ無意識という脆い縄で縛っていた為だった。
458 :
無意識・過剰:2006/03/25(土) 18:09:52 ID:ULp5YaTl
「それはどうしたの」
私は言った。
開口一番に言ってやった。
やつの頬に妙な赤い痕がぽっかり浮かんでいたから。
そしてそれがなんなのか、私にはもう察しがついていたのだ。
「何がや」
答えをはぐらかしたのが答えだと言えた。
「とぼけても意味ないでしょうに、そんなに鮮やかな手形。また女の子泣かしたんでしょ」
嘆息しながら遠慮なくずばずばと言ってやれば、私の小憎らしい腐れ縁の君、秋良高馬は、
ちらと一瞥をくれただけでさっさと通り過ぎていった。
けれどその一瞬で私が見てしまったその表情は、怒っているかのような態度とは明らかに
意を異にしていた。
いたずらが見つかってどう言い訳をするか考えているような、そんな幼さすらある顔。
やつの背中がドアの向こう側に消えてしまう前になにか言ってやろうと口を開いたのに、
そこから出てきたのは短い溜め息だけだった。
いい加減からかう言葉も尽きてきて、罵りや説教すら思い浮かばないありさま。
それほど、秋良の女癖はひどい。
しかも本人、自覚ないから、さらにひどい。
「いつか刺されるんだから」
悔し紛れに口にしたのに、思いの外寂しげな響きを伴って、余計悔しくなるばかりだった。
通り過ぎた逞しい背中はもう視界にはない。
待ち人の去った場所から、私は、足取りも重く、ゆっくりと歩き出した。
459 :
無意識・過剰:2006/03/25(土) 18:10:55 ID:ULp5YaTl
少しガラの悪い目つきと、歯に衣着せぬ言葉と、裏腹の態度と。
それが私の知っている秋良。
17年間生きてきてそれが覆されることはなかった。
けれど、私の知っている秋良のほかにも、秋良はたくさん居る。
想像できない秋良が、私には決して見せてくれない秋良が。
それを思うと、胸が少し、重苦しくなる。
けれど私だって、秋良に見せていない私がまだまだいるのだ。
何も不思議なことじゃないし、決して悪いことじゃない。
例え恋人でも親子でも夫婦でも、明かせないことの一つや二つあって当然だ。
それは分かっている。
それでも、私の胸は、体は、誰かの傍にいる知らない秋良を思うと暗く深いところに落ちていくように
重くなる。
それを見ていいのは私だけだ、と。
それを知るのは唯一私だけだ、と。
笑いたくなるほどに馬鹿げた欲望が頭の中を埋め尽くしていく。
ああ、どうして。
きょうだいの様に、家族のように、親友のように、恋人のように、育ってきてしまったんだろう。
もし今この瞬間だけでも秋良の心を独占できるというなら、今までの思い出を捨ててしまっても
構わないだろう。
苦しい。
一人で居ると、悪い方へ考えが及んでいけない。
でも、一眠りすればまた普段どおりの私に戻っているだろうから、今はとことん落ち込んでおこう。
…秋良は今ごろ誰といるんだろう。
苦しい。
秋良の顔なんてもうみたくない。
それでも会ってしまえば心が躍るのだから。
460 :
無意識・過剰:2006/03/25(土) 18:12:53 ID:ULp5YaTl
なんやねん、あの女は。
まさかみどりに見つかるとは思っても居ない秋良だった。
不意打ちで、どう繕おうともボロが出てしまうことは分かりきっていた。
だからいっそのこと居直った。
正直、怒鳴られるのを覚悟して、みどりの居る場所に着くまでの間、どう弁明しようかと考えあぐ
ねていたぐらいだ。
けれど、みどりの反応も言葉も、秋良の予想からは大幅にはずれたものだった。
「それはどうしたの」
まるで、悪いことをした子供がごまかそうとしているのを叱る母親のような。
どこか呆れた風な口調。
それは、しかし、どこかで秋良も予想していた答えだったかもしれない。
自分たちの関係を繋ぐ、穏やかなようで不安定な空気。
あるいは呼吸。
互いを理解しすぎていて、乗り越えられない壁のようなそれ。
秋良自身、その見えない壁を打ち破れないでいるから、みどりを一方的に責めることはもちろん
できなかった。
けれど感情はそれほど素直に納得できるはずも無く、埋み火のような怒りが胸の奥でくすぶっていた。
「いっそ、ヤってまえばええんか?」
腹立ち紛れに口にしたが、それは現状の自分では到底無理なことだった。
滅茶苦茶にしたいのと同じくらい、秋良はみどりを大事にしたかった。
一時の感情に捕らわれてみどりを泣かせてしまうことを、なるべくなら避けたいのだ。
にっちもさっちも行かない状況と、感情。
そんなものに振り回されるのは、ごめんだと思っている。
しかし、みどりに関して、秋良が冷静でいることは近頃難題になってきていた。
行き詰まっていた。
幼馴染みという関係も、秋良の感情も。
461 :
無意識・過剰:2006/03/25(土) 18:14:25 ID:ULp5YaTl
こんな風にして彼と彼女は互いを縛りあい、けれどそれには気づかずにいた。
臆病だし、保守的だった。
若い二人は、軽い気持ちで自分の思い描く関係に至ることを、これは周りがどう言おうとも
完全に拒否した。
臆病以前に二人は幼かった。
しかし体は、遠慮なしに二人の精神を置き去りにして成長し続けていた。
無意識でいるには不自然な所まで来ていた。
462 :
無意識・過剰:2006/03/25(土) 18:15:19 ID:ULp5YaTl
「秋良、いるー?」
それから数日して、みどりは秋良の部屋を訪れた。
その日は最高気温32度を記録する真夏日だったので、みどりは出来ることなら家から出たくは
なかったし、ましてやその行き先が、最近微妙に顔を合わせづらくなってきている相手の所だ
ったものだから、なおさら動きたくなかった。
けれど、用事が割りと急を要することだったので、行かないわけにもいかなかった。
というわけで、歩いて一分もしない隣のアパートの、「秋良」と書きなぐってある表札の扉の
前に来たのだが。
「秋良?」
返事が無い。
みどりは、ほっとした反面、どこか落胆している矛盾した気持ちに気付く。
ふっと息を漏らして扉から離れようとしたとき、扉の向こう側から「ゴッ」という鈍い音が聞
こえた。
泣き止まぬ蝉の声でもなければ近くの道路工事の騒音でもないそれは、明らかに部屋の中に人
がいるという証拠を示す音だった。
「…あら〜泥棒でもいるのかな。物騒だわ〜。警察に電話したほうがいいよね〜」
我ながら中々の演技ではないかと思いながらポケットに押し込んでいた折り畳み式の携帯電話
を取り出す。
ぴぴぴ、と適当に番号を押していると、バタン、と何の前触れもなく所々錆びた青い扉が開い
た。
463 :
無意識・過剰:2006/03/25(土) 18:16:04 ID:ULp5YaTl
「わーった。わーったからその下手くそな一人芝居やめぇ。突っ込むタイミングも計れん」
襟ぐりにボタンのついた白いシャツに洗いざらしのGパンという、非常にラフな格好の、不機嫌
な顔をした秋良が応対した。
みどりは少々むっとした。
下手くそとはなによ。
結構自信があったつもりだった。
「寝ぐせついてますけど、泥棒さん」
悔しかったので言い負かそうとした。本当は寝ぐせなどついていないのだ。
「白い服に麺つゆ垂らしとる女に言われたないわ」
「え!?うそっ」
急いで秋良の視線の先を追って、自分の服を見下ろした。
けれども、ワンポイントの入った真白なシャツには、茶色い染みなど見当たらない。
「うそや。アホ」
してやったり、とばかりに、秋良は口の端を上げて意地の悪い笑みを浮かべた。
「なっ…」
やられた。
みどりは、ものの見事にしっぺ返しを食らった自分が情けなくて仕方なかった。
秋良をやりこめることなど、誰であっても無理なのだろうか。
それにしても何故、今日の昼食がそうめんだと分かったのだろうか。
疑問に思いはしたが、秋良が扉を開けたまま中に入っていったので、みどりは慌てて止めなけ
ればならなかった。
「あっ、秋良」
気付いた秋良は顔だけはこちらに向けて冷蔵庫から麦茶を取り出している。
「あのさ、今日はちょっと連絡伝えにきただけだから、すぐ帰るから…」
464 :
無意識・過剰:2006/03/25(土) 18:17:17 ID:ULp5YaTl
すると、一瞬。
何か妙な空気が二人の間に流れた。
先ほどのくだらないやり取りが贋物のように思えてしまう張り詰めたものだった。
だがそれは本当にほんの一瞬のことで、秋良は麦茶を冷蔵庫に戻すと、気だるげな足取りで玄
関に戻ってきた。
「そうけ。で、なんやねん」
あまりにも普段どおりすぎる秋良は、不自然過ぎるほど無表情だ。
雰囲気が硬くなったような気がして、みどりは、怒っているのだろうかと、少しだけ肩を縮めた。
「うん。物理の仁科先生が、いい加減補習受けに来いって。…あんた何日さぼったの?」
なるべく感情の混ざらないような言い方にして伝えると、秋良はげんなりとした表情で扉の枠に
寄りかかった。
「あ〜そういや、なんや仁科のオッサン真っ赤な顔で追ってくるもんやから逃げまわっとったら
そういうことけ。すっかり忘れとったわ」
「仁科のオッサンって…。なんで物理だけなのかしらね、秋良は。数学と似たよーな分野なのに
同じように要領よく勉強出来ないって、そこがわかんないわ、私からしたら」
「しゃーないやろ。頭の作りがそないなっとんねん」
「まあ、サッカーしか詰まってないよりかマシか」
「翔のアホのこと言うてんのやったらお前もよう言うようになったわ」
「違うわよ!九山くんはあれでいいの、あれが九山くんのいい所なんだから」
「なんでじゃ」
ちなみに、九山翔とは秋良とみどりの幼馴染みであり、秋良のライバル兼親友(本人は認めていない)
だ。更に、今では久山の恋人である霧島優とも幼馴染みといえばそれにあたる関係である。この
仲良し四人組(?)はまったくの偶然で小中高と一緒の学校になった。
465 :
無意識・過剰:2006/03/25(土) 18:18:21 ID:ULp5YaTl
九山翔は、秋良を陰としたら陽となる存在で、性格はまったくの正反対と言って良いほどだ。
唯一似た所があるとすると、サッカー馬鹿で自分勝手で周りを気にしないという所ぐらいだろうか。
なんにしろ、九山は、秋良とはまた違った意味で独特の雰囲気を持っている人物だった。
そして秋良の言い指したとおり、成績はよろしくない。
「そういえば、今日は部活休み?」
なんとなく途絶えた会話を、無理矢理に繋ぎとめようとして、みどりはどうでもいい話題を提供
した。
またしても矛盾した気持ちになった。
さっさと帰ってしまった方が気が楽なのに、熱さを我慢してまでこの場に取りすがっている自分
はなんなのだろう。
今さらではあるが、みどりはそうした自分の行動が秋良によって狂わされることを苦く思う。
大人を前にした幼子のようになってしまうのがわずらわしいのだ。
「おぉ。監督が居れへんでな。なんやクールダウンも必要やて騒ぎ出して、巻き添えくった。
コーチもどこぞに家族旅行らしいしな」
盆も近いししゃーないやろ、と付け加える秋良の表情は、どこか不貞腐れている。
当然といえば当然だ。
秋良はサッカーが趣味と言っていいくらいのサッカージャンキーだ。
練習を苦にも思わない愛好者が、大人の事情で中止されたのでは納得がいかないだろう。
近頃は後輩たちに教えるのも楽しいと思い始めたらしいので、高校最後の夏を迎えた秋良が
時間を惜しむのも頷ける話だ。
「そっか。そうね…」
誰にともなく呟いたみどりは、それにしても、と過去を振り返る。
466 :
無意識・過剰:2006/03/25(土) 18:19:13 ID:ULp5YaTl
出合った頃の秋良からすると、やはり昔とは違うのだと思わざるを得ない。
幼いことを抜きにしても、あの頃の秋良は周りを信用せず、自分の力だけを頼みにしていた。
周りと馴れ合うことなど考えもしない正に一匹狼だったのが、今ではチームでの自分の位置を
ちゃんと把握していて、しかも後輩の面倒までみるようになった。
昔から秋良は器用で、なんにしろソツなくこなせる人間だったが、この頃はとみにそう思う。
そしてそれを思うたび、秋良がみどりから離れていってしまうような気がして、気分が重く
なってしまうのだった。
「で、お前は」
唐突に秋良が話を振ったので、自分の思考に耽っていたみどりはすぐには反応できなかった。
「え?」
「なんかあるんか。他に」
「あ…」
何気なく聞いた秋良の言葉に、みどりは少しだけ胸が痛んだ。
自分で長く居られないと告げたくせに、いざ用がないなら行けと言われると、急に迷子になっ
た様に途方に暮れた。
今みどりの頭を占拠している感情は失望だった。
そう気付いたとき、みどりは、秋良が自分を引きとめてくれるのではないかという淡い期待を
抱いていたことを思い知った。
胸が、痛む。
「ううん、それだけ。じゃ、あんまり冷たいものばっか飲まない…」
ようにして、というみどりの言葉は続かなかった。
突然の介入者が現れた為だ。
467 :
無意識・過剰:2006/03/25(土) 18:20:38 ID:ULp5YaTl
「高馬」
少しキーの高い、可愛らしい声。
それが、彼女の出来うる限りの低い発声のせいで押しつぶされて響いた。
ともすれば蝉の声に掻き消されそうになるほど、抑えた声だった。
「市川…」
呟いた秋良の声もまた、低音で細い声だった。
しかし、言葉の形が見えるとしたら、どこもかしこも棘が生えているような介入者の声とは
違って、秋良はどこまでも平坦な抑揚のない声だ。
「どーいうことよ、いきなり別れるって。納得してないのに帰って。あたしがどんな思いで
ここまで来たか分かる?」
市川という苗字らしい彼女は、見事に波打つ長髪を手で払って、きっ、と秋良を睨んだ。
みどりから3m離れた所に立っている市川は、違う学校の制服を着ていた。
白く細い脚が、紺と緑のチェックのスカートからすらっと伸びていて、眩しい。
みどりは、早く立ち去りたかった。
けれど足がすくんで、まったく言うことをきかない。
下唇を軽く噛んで、呆然と市川を見る。
すると、今まで秋良の方に合っていた焦点が、素早くみどりの方へ移った。
「何よ、あたしから解放されたら、すぐ次の女?相変わらず早業ね」
言葉は秋良に向けられているのに、恨みの込められた眼差しは明らかにみどりを刺している。
二つの双眸が浮かべる色は、嫉妬の他に見受けられなかった。
みどりは思わず瞳を逸らした。すると、自然とその瞳が秋良と合う。
その瞬間、秋良が、意味ありげな笑みを口元に浮かべた。
468 :
無意識・過剰:2006/03/25(土) 18:22:41 ID:ULp5YaTl
みどりは内心で「うっ」とうめいた。
長年一緒に居た勘で、その笑みが良からぬ事を企んだ時のものだということが分かったからだ。
「せや。もう他の女で間に合うとる。ちゅーわけやから帰ってんか」
どうやら、市川の勘違いを逆手に取るつもりらしい。
都合よくその場にいたみどりを利用して、なんとか帰す作戦を思いついたようだ。
この作戦は、みどりと秋良の関係を知っている同校の者には通用しないが、秋良の事情を良く
知らない他校生相手には有効だ。
だが、みどりは冗談じゃないという不満でいっぱいだった。
なんで私が秋良の女性関係の尻拭いに駆り出されなくちゃなんないのよっ。
反論しようと体の向きを変えて秋良の方に一歩踏み出した。
が。
「俺から話すことなんもないし、今ええとこやから」
と言うと、秋良はみどりの体を片腕で抱き寄せて、部屋の中に引っ張り込んだ。
そして自分もすっと屋内に体を入れて素早く扉を閉め、鍵をかけた。
瞬く間の出来事だった。
「ちょっと、待ちなさいよ、詐欺師!色魔!」
扉の向こうから、甲高い叫び罵声が聞こえてくる。
469 :
無意識・過剰:2006/03/25(土) 18:23:16 ID:ULp5YaTl
秋良はついでに窓も閉めきって、部屋を完全に密閉させた。
「ちょっと秋良っ…」
これには流石にみどりも頭にきて、帰らせてもらおうと抗議の声を上げたが、それは叶わぬ
抗議となる。
思いの外近くにいた秋良が、みどりの口を手で塞いだためだ。
秋良は、ついでに、顔を鼻先三寸の位置まで近づけて、音にならない微かな声で言った。
「ええから、少し大人しくしとってくれ。借りは返すよって」
そんな言葉で納得できるはずもないみどりであったが、秋良の顔が近すぎて、掠れたハスキー
な声が脳に直接響いてきて、まるで麻酔でもかがされたように頭がぼうっとしていた。
体が硬く強張り、腰を軽く抱いている腕が、口元を覆う武骨な手が、焼けるように熱く感じ
られる。
秋良に文句の一つでも(大声で)言ってやりたいところだったが、自分の体の異常と、女の凄
まじいヒステリーな声に、みどりは降参するしかないと思った。
何気なく見回した部屋は、殺風景ないつもの古びた一室なのに、何故か初めて目にしたよう
な感覚に陥った。
こめかみから頬にかけて、汗がつっと伝う。
それが熱さからくるものか動揺からくるものかは、みどりにはわからなかった。
470 :
400:2006/03/25(土) 18:25:00 ID:ULp5YaTl
とりあえずここまで。
実は秋良にはモデルがいる
分かった人、華麗にスルーよろ
乙。
期待乙。
巧いなぁ
関西弁に意味がありますように
関西弁男と言えばコナンの日焼けした探偵か青が散るしか浮かばない。
新しい保管庫誰か作ってくれ
最近関西弁キャラといったら偽河内しか思いつかない
あいつがやけにウザったくて結構困る
479 :
400:2006/03/28(火) 18:06:39 ID:gLgEw0B8
続きウプ。471-473dクス。
>>475−478
スマソ、気にせんでくれ。
ただもしバレて叩かれたらと考えただけのチキンな漏れ
書かなきゃ良かった、逝ってくる
480 :
無意識・過剰:2006/03/28(火) 18:09:57 ID:gLgEw0B8
市川が秋良の部屋の前から立ち去ったのは、それから十分ほど経った頃だった。
それまで、秋良とみどりは、何故かずっと同じ態勢を保っていた。
別に動いていてもなんら支障はないし、密室の部屋の様子を外から眺められるはずもないの
で市川を気にする必要もない。
にも関わらず、二人とも玄関付近で立ったまま動けずにいたのだった。
部屋も、部屋の外も、もう蝉の声と道路工事の騒音以外は何も聞こえない。
秋良は、まずったな、と浅慮な自分の判断を呪った。
無防備なみどりを抱き寄せた結果、離れるに離れられない状況をつくってしまった。
第一に、だ。
この腰の細さをどーにかせえっ。
ものすごく抱き心地がいい。
いや、良すぎる。
そして、久しぶりに至近距離で感じるみどりの体や、匂いは、秋良の若い体には毒だった。
(落ち着けて…)
みどりに、女、としての認識を改めたのはごく最近のことだった。
もちろん、それまでも秋良はみどりを女だと認識していた。
しかし、この年になって、色んな知識を身に付けると、みどりをただの女だと片付けること
が出来なくなっていた。
幼馴染みで、きょうだいのように、親友のように、夫婦のように過ごしてきた、ただ一人の
女だ。
そんな女に対して、欲望を押し付けることなど、秋良には到底できなかった。
481 :
無意識・過剰:2006/03/28(火) 18:11:26 ID:gLgEw0B8
しかし、みどりは腹が立つほどいい女だ。
男として、この状況を利用したいという欲求は簡単にはねつけることができない。
悶々としていると、みどりが僅かに身じろぎした。
「あ、秋良…」
おずおずとしたか細い声が、やや下の方から聞こえてくる。
みどりは俯いていて、白いうなじや耳が赤く染まっている。
「ん、悪い」
条件反射でそう答えたものの、秋良は離れることをしなかった。
こんな機会は、もう二度とないかもしれない。
そう思った。
何故なら、二人が離れる時期がもうすぐそこまで来ていることを、秋良は悟っていたからだ。
これまでの女性経験から見ても、みどりが自分に対して恋愛感情を抱いているという結論は
見出せなかった。
もしかしたら、女の部分を抜きにした、人間としての本能的な独占欲なら、わずかに生じて
いるかもしれない。安堵感や絶対的な信頼を寄せてくれているみどりだから、もし秋良から
具体的な別れ話(恋人でもないが)を持ちかけたら、当然傷つくだろうし、あるいは拒絶する
かもしれないことは予想がつく。
前に秋良が他の女と関係を持ったことを打ち明けたとき、みどりは少なからずショックを受
けた。その反応を見て、秋良の欲望は一時的に満たされはしたが、やはり関係を壊すことは
出来ず、なんとかその場を取り繕って修復させた。
その時みどりは言った。
482 :
無意識・過剰:2006/03/28(火) 18:12:09 ID:gLgEw0B8
『曖昧に終わらせないで。そしたら私も、きっぱり秋良から卒業出来るから。…ね』
その言葉からも分かるとおり、彼女が秋良との間に望んでいるのは、情熱的な一時の愛では
なく、長く永続的に繋がっていられる親愛なのだ。
それは、もしかしたら恋愛の情とも言えるかもしれない。
そうした思いも一つの愛の形なのかもしれない。
けれど、秋良には自信がなかった。
みどりに対して、彼女の信頼を裏切らない程度の愛を与えてやれるかが、不安だった。
秋良がみどりに求めている、母親や家族への憧憬や、安らぎ、無償の愛。
それはもちろん真実だ。
だからこそ年頃になっても暖かな春の空気に似た繋がりを保つことが出来たのだ。
けれど秋良は、みどりよりも先に振り返ってしまった。
自分の足元から伸びた影が、どこに続いているのかを知ってしまったのだ。
丁度今から二ヶ月前ほど。
あの、やけに暑苦しかった、緑萌える初夏の頃に。
483 :
無意識・過剰:2006/03/28(火) 18:13:03 ID:gLgEw0B8
常ではあるが、秋良の親父が仕事でいない夜は、夕飯をつくらないことが多い。
秋良は家庭の事情から家事全般は大抵こなせるが、好き好んで自発的に行っているわけでも
ない。必要に迫られて身に付けたスキルを、必要に迫られていない状況で発揮するのは、
ただの労力の無駄だと考えていた。
自然と、一人で夕飯をとるときはインスタント食品に頼りがちになる。
それを見かねたみどりが、たまに料理を作りに来るようになったのはいつからだっただろう
か。最初の頃は秋良が始終傍についていないと危険なほどの腕前だったが、元々才能があっ
たのか特訓の成果か、スポンジが水を吸収するようにみどりはどんどん上達していった。
「秋良、どしたの、ぼーっとして。食べないの?」
高校三年の夏になっても未だ続いているまるで夫婦のような食卓の図は、年頃の男女が醸し
出しているとは思えないほど和やかな雰囲気だった。
その和やかさにいささか浸っていると、みどりが不思議がったように聞いてきた。
用意されている食事に手もつけずに考え事をしていたのだから当然のことだろう。
「食う。けど、お前、なんや最近肉に凝ってへんか。太るで」
条件反射のように憎まれ口を叩くと、みどりがむっとして箸を止めた。
「文句あるんなら食べないでいいけど。せっかくスタミナつくようなメニューにしてあげて
るのに」
「スタミナて…。なんぼなんでも二日連続で肉はないやろ。残りモン片付けるんもこっちや
ぞ」
「でもおじさんは喜んでくれてたじゃない」
「親父の胃が馬鹿になっとるだけや」
484 :
無意識・過剰:2006/03/28(火) 18:14:05 ID:gLgEw0B8
本当はみどりの料理にそんなに不満があるわけではない。
ちなみに昨日の献立は豚の生姜焼きで、今夜は鳥の唐揚げの梅紫蘇巻きな訳だが、秋良家の
口に合うようにちゃんと薄味に味付けされてある。
それを分かっている上で文句が出てくるのは、秋良にはどうしようもないことだった。
会話が途絶えると、みどりは再度食事に集中し始めた。
ぱくぱくと臆面もなく料理を口に運ぶみどりを見ていると、ふと今日の放課後に偶然耳にし
た会話を思い出した。
部活帰りに教室に行こうとしたとき、通りかかった隣の教室で、何やら男子数人が集まって
猥談に興じていた。普段の秋良なら気にするはずも無いのだが、丁度みどりの話になってい
た時だったらしく、不覚にも耳を傾けてしまったのだ。
「七倉は絶対処女だよな」
「あー、七倉ね。うん、俺もそう思う。つーか七倉が処女じゃなかったら1組の女子全員ヤ
リマンだろ」
ちなみにみどりの居るクラスは1組だ。
「あの秋良の幼馴染みなのに、食われてねーの奇跡じゃね?」
「なー。なんでかわかんないけど、秋良と噂んなる女子って七倉と正反対のタイプだしな。
正直、秋良の目疑うわ」
「あの二人って付き合ってねーの?」
「付き合ってたら秋良が女とっかえひっかえできるわけねーじゃん。あいつこの前北校の女
と噂になってたし」
「あれ、5組の西田とも付き合ってなかったっけ?」
「あれは西田が勝手に言ってただけだろ」
485 :
無意識・過剰:2006/03/28(火) 18:14:57 ID:gLgEw0B8
「つーかさー、俺だったら即やっちゃうけど」
「俺も秋良の立場だったらすぐ付き合うわ。ぶっちゃけ、浮気とかして七倉泣かせてみたく
ね?」
「えー、俺だったら一筋だな。七倉みたいなタイプってそうはいねーし。マジ理想だよな」
「理想だな。でも泣かせたい、ってのは賛成」
「お前の場合イかせたい、だろ?」
「言えてる」
ぎゃはははは、という馬鹿笑いが始まった所で秋良は立ち去った。
なんのことはない、ただの噂話だった。
この件に関しては中学あたりから尽きることなく的にされていたし、秋良もみどりも、互い
に諦めに近い感じでされるがままになっていた。
まともに相手をして馬鹿を見るのはこっちの方だ、と分かっていた。
しかし、何故か今日に限って、男子たちの話が引っかかったのは確かだった。
―――つーかさー、俺だったら即やっちゃうけど。
―――俺も秋良の立場だったらすぐ付き合うわ。
もし。
もしも、みどりが他の男と付き合うことになったら。
目の前で夕飯にありつくみどりを見ながら、そんな取りとめも無い考えがぽんと頭に浮かん
だ。
486 :
無意識・過剰:2006/03/28(火) 18:15:54 ID:gLgEw0B8
自分はどうするのだろうか。
これまでもそのことについては考えたことがあった。
けど、いつも行き着く答えは同じだ。
もちろん、祝福とまではいかないが、咎めはしないだろう、と。
みどりにしたって、秋良が他の女と噂になろうが、実際その現場を取り押さえようが、少し
注意するだけで特に何も言ってこない。
夕飯を作りに来るのをやめることもなかったし、二人の関係が大幅に変化することもなかっ
た。
しかし、自分のことは棚に上げて、秋良は、もしみどりが他の男と付き合ったら、その時点
で自分たちの関係は途絶えるだろうと思った。
みどりは、秋良のように、他人に対して一線を引かない。
特に親友には自分のことのように心配したり、要らぬほどお節介になったり、情に厚過ぎる
ところがある。そんな人間が、秋良のような存在を傍に置きながら、他の男と付き合うよう
な真似は絶対にしないだろう。
そうなると、必然的に二人の曖昧な関係は壊れる。
よく分からない感情が胸を突き上げてきて、秋良はその考えを否定した。
(なんで他の男の為に俺が離れなあかんのや)
それでみどりを手放すぐらいなら、いっそのこと自分のモノにしてやる。
そう思い至ったとき。
秋良ははっとした。
487 :
無意識・過剰:2006/03/28(火) 18:17:31 ID:gLgEw0B8
欲望が、一瞬で沸騰するのを感じた。
その時、計ったようにみどりがこちらに視線を向けた。
「秋良?」
辺りを涼やかに癒すような、凛として透き通った声。
こちらを不思議そうに見つめる瞳は、室内の侘しい灯りを映して輝いて見えた。
その、黒い大きな瞳に、秋良は自分を見つけた。
どくん、と心臓が跳ねた。
自分でもよく分からない、強い衝動が体中を駆け抜ける。
何故、みどりがこれほどに無防備でいられたのか、分からなかった。
秋良の中には、常に、こんなにも貪欲で手のつけられない本性があったのに。
それを、無意識では秋良も認識しつつ、まさかみどりにそれを晒すことは無いだろうとい
う強い自制によって今まで気付けなかっただけなのだ。
そして、気付いてしまったらもう元には戻れなかった。
秋良はみどりに欲情していた。
それも、たった一度のささいなきっかけによって。
それを確信したとき、秋良は少なからず失望した。
みどりを思って胸を満たすときの、まるで自分には似つかわしくない、あの純粋で無垢な
喜びはもう味わえないのだ。どろどろとした溶岩のような澱のような、そんな気持ちが付
きまとって全てを滅茶苦茶にしてしまうに違いなかった。
秋良はこめかみを伝う汗をゆっくりと手の甲で拭うと、食事に集中するふりをした。ちら
っとみどりに視線を向けると、彼女はいぶかしんで秋良を見ている。
露骨に目を逸らしたので、秋良はみどりの不興を買ったが、秋良は、自分の理性をかき集
めるのに必死で、気にしてはいられなかった。
488 :
無意識・過剰:2006/03/28(火) 18:18:32 ID:gLgEw0B8
鮮烈な印象を目に焼きつかせて、秋良はその日からみどりとなるべく接しないようにした。
部活のない空いた日はどうでもいい女と時間を潰すことが多くなり、自然とみどりの足も
秋良の家に向かなくなった。
けれど、それは逆効果で、結果としてみどりへの思いを深めるハメになった。
こうして久しぶりに会って抑制が効かなくなっているのが、その証拠だ。
「秋吉?…どうしたの?」
いい加減この幼馴染みは自分が女だということを自覚したらどうか。
そんな風にも思うが、この状況を少しでも長く続けさせたい秋良にとってはある意味で好
都合だった。
489 :
無意識・過剰:2006/03/28(火) 18:20:09 ID:gLgEw0B8
「なんもせんけど。お前、好きな男おるか?」
「は!?…い、いないけど」
「なら、ちっと黙っとけ」
「なっ」
どこかから、蝉の鳴く音と道路工事の騒音が響いてくる。
二人の他に誰もいないその部屋には、過ぎるほど五月蝿い。
だが、互いに自分の気持ちを抑制するので必死な二人には、何の音も聞こえていなかった。
490 :
無意識・過剰:2006/03/28(火) 18:24:40 ID:gLgEw0B8
二人とも、落ち着いて考えればすぐに分かるはずだった。
誰もいない部屋で、暑い中、男は軽く女の腰を抱き、女は抵抗もせずにじっとしている。
それが、どういう関係の成せる状況か。
しかし、哀しいかな、二人は恋がどういう感情か知らなかった。
長く家族に似た関係を続けていた二人は、肉体と精神が繋がっていることに気付いていな
かったのだ。
その日、熱さに任せて、二人を繋いでいた脆い縄は、ゆっくりと解け始めた。
しかし誰も知る由は無い。
本人たちですら、その変化を知ることは無かった。
491 :
400:2006/03/28(火) 18:27:11 ID:gLgEw0B8
終了です。
相変わらずぬるくてスマソ
GJじれったいよGJ
何視点?
こういうの好きかも…
GJなんだけど…これで終わりって言わないよね?
(・∀・)イイヨイイヨー
ん、保管庫の更新止まってるの?
499 :
400:2006/03/31(金) 23:59:40 ID:ZYiiYSV5
秋良とみどり書いた人です
しばらくパソ断ちするんで、成人後はいつウプできるかメドたたん。
今まで読んでくれたヤシd
逝ってくる
>>499 orz……
首を長くして待っておりまする
ぬおっ!?
3月32日って何だよww
すげぇwww異世界だww
503 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/32(土) 08:42:39 ID:Lv6jVKXx
うぉw異次元に記念パピコw
とりあえず、このスレに投下するのは初めてですが、一つ……どころか半分なんですけど投下させてもらいます。
スレ汚しにならなかったら幸いです。
アカシックレコードという言葉を御存じだろうか?
詳しい事は俺も知らないんだが、それによるとこの世の全ては予め決まってるとか何とかという事を高校時代の俺の友人が口にしていた。
そいつは妄想癖のある変人だった為、そんな電波話に毎日の様に付き合わざるを得なかった当時は別に感慨を持つ事もなかったが、改めて今思う。
案外、そういったものは本当にあるかもしれない。”運命”ってものが。
……何故なら、俺の目の前には偶然の産物にしては出来過ぎている事が起こっているからだ。
結局アカシックなんたらとか運命なんて物は、人間が幾つもの因果関係に対してこじつけたものなんだろう。
言葉ありきに現象があるのでは無く、現象ありきで言葉を当てはめる、と。その意味で、”運命”があってもおかしくない。
やれやれ。さて、こんな事をしくんだのは何処の誰なんだかな……
そんな事を一瞬で考え、俺は改めて目の前にいる人間を見直した。
そいつは呆けた顔をしている。程度はともかく、多分、俺も似た感じだろう。それでもこんなふうに冷静に考えられているのは、やはり高校時代に周囲の奇人たちに鍛えられたからだろうな…… 何があっても大抵の事では驚けない。
有り難くはないが。
……と、そんな脇道にそれた事を考えている最中、目の前のそいつはゆっくりと、言葉を放つ。
……9年ぶりに聞くそいつの俺に向けての第一声は、俺の名前だった。
「……カナ、くん……?」
……記憶通りの声。それどころか、全く成長していない様に見える、一部に需要があるかもしれない姿形。
いい年だというのに、薄い色の地毛をポニーテールにしたそいつ。
振り袖に全く似合わない髪型をしたそいつに、俺はかける言葉を捜す。
……これしか、ないだろうな。探る様に、試す様に、俺はそいつの名前を読んだ。
「……ミナト……?」
名前を呼ばれて、彼女は顔を綻ばせる。うっすらと涙を浮かべ、彼女……成瀬 港(なるせ みなと)はまた俺の名前を呼んだ。
「……カナくん…… 久しぶり……」
・
・・
・・・
……騒がしい都会の喧噪。幾つものビルが立ち並ぶオフィス街。
日本の首都……東京。
その一角。無数の車線が集まる交差点から少し離れた場所にある、数十階建ての銀色に輝くバブル期の建物。
日本有数の新聞社の本社であるこここそが、俺の勤める会社だ。
他の大抵のビルが見下ろせる部屋の中、窓からやや離れた俺のデスクに影がかかった。
今度うちの会社が協賛して行われる展覧会の資料。急にそれが見えにくくなった為、何事かと思い顔をあげる。
と、そこに居たのはつい最近入って来た後輩……何て名前だったかな?
同僚が今度入ってきた子は可愛いとか言っていた覚えはあるんだけどな。
まあいいか。その某子が俺に手を突き出した。
見れば、俺の湯飲み。
「……これをどうしろと?」
俺が顔を見ると、けばけばしい化粧をした名無しの権兵衛子は媚びる様な動きでデスクに茶の入った湯飲みを置く。
「ひっどーい!先輩の為に私がわざわざお茶を入れたんですよぉ!こーゆー時は、にっこり笑ってありがとーとか……」
「別に頼んでないから言う必要もないだろ。」
「うわー!そーいうの、クールでかっこいーですね、先輩!キマってる!」
……心底どうでもいい。第一、キメた訳じゃない。素でやってる事に一々そんな反応されると困る。
……まあ、飲んでやりゃ帰るか。実行に移す。
「どーですか?おいしくできたでしょ?感想聞かせて下さいよー!」
「……マズい。茶を煮る温度が高すぎる。水も少ない。茶の入れ方も知らないのか?」
言われた通り、感想を言った。が、アラン・スミシー子の癇に触ったらしい。
「……ちょっとカオがいいからって、調子のらないでよ。せっかくアタシが目を付けてあげたのに……」
……付き合ってられないな。どうも、女ってのは苦手だ。
ホモとか何とか俺に悪態をつきながら俺の前から去っていく。俺の同期の中村が、だから無駄だって言ったでしょとか口が悪過ぎだけど根性はそこまで曲がってないはずとか何とか。大きなお世話だ。
……女、か。
そういや、彼女はどうしてるんだろうか。俺が唯一一緒に居たいと思った……中学を卒業してから会えていない人間。
……いや、唯一ってのは語弊があるか……
一応、高校時代にも…… でも、あれは黒歴史だ、うん。別に奴には告白した訳でも無いし。一度話しただけで冷めたんだ、ノーカウント。落ち着けスネーク。
半ば誤魔化す様に、俺の記憶から一つの名前を呼び起こす。
……ミナト。
今、どうしているんだろうか……
と、聞き飽きた声が俺を中学生時代へのノスタルジーから引き離した。
「北光!北光 奏(きたみつ かなで)!ちょっとこっちへ来い。」
……俺をこんなふうに呼びつけるのは一人しかいない。
立場上逆らえないので、仕方無しに声の方へ顔を向ける。
「……何ですか?荻原(おぎわら)課長。」
そこにいるのは、長い黒髪がウェーブ気味になびく眼鏡の女性。
女性上司のテンプレートの様な出で立ちと性格を有する俺の上司だ。
彼女の前まで歩く。
「……さっきのことですか?いちお」
弁解はいきなり遮られた。
「ああ、そんな事はどうでもいい。お前の性格を知らないアイツの方が悪い。
なにせお前の口の悪さはもうどうしようもない。私ですら矯正できないんだからな。」
……嬉しくない理解のされ方だな。
「……じゃあ、なんです?」
と、荻原女史は勿体ぶった口調で話し始めた。
「……今し方お前が見ていた資料……なんだか分かっているな?」
「うちが協賛している展覧会のですよ。それがどうしたんです?俺を馬鹿にしているんですか?」
「……そうだ。ああ、最後の質問に対しての返答じゃないぞ?一応は。
……私たちは文化部として、かなりこの企画に力を入れているのは分かってるな?」
「ええ、まあ…… というより、俺もかなり関わってるんですが。後輩に旧士族がいるってコネを利用して、重文数点の展示を取り付けてあげたのは誰でしたっけ?
もう忘れたんですか、アリスちゃん?」
「下の名前で呼ぶなと言ってるだろうがっ!!」
うわ、でかい声…… 耳が鳴る。
はあはあと肩で息をする女史。この人は、愛栗鼠と書いてアリスと読ませる自分の名前が嫌いらしい。
……もう少し名前に相応しい愛嬌が欲しいと皆は言うのだが、この人はがんとして態度を変えない。何か昔にあったんだろうか。
……まあ、そんな事を考えている間に、女史は息を整えた。
「……まあいい。本題に入るぞ。
……お前の後輩は確かに強力な味方だが、まだまだ展示には品数が足りん。
そこで……だ。他にも後援者を確保する必要がある。」
「同感ですね。」
「……ほう、流石だな。それでこそ我が部の有望株だ。」
女史がにやりと口端を歪めた。
「……記事を書けって事ですか?宣伝の為の。」
「それにはまだ早い。いずれはお前か誰かに任せる事になるだろうが、今は保留だ。」
じゃあ、何をしろと言うんだろうか。
「そこで……だ。君にコネを作って欲しいのだよ。とある横浜の貿易商だ。」
……嫌な予感がする……
「……どうやって、ですか?」
彼女は真剣な顔つきで俺の方をじっと見た。
「……見合い、だ。」
「……」
「……」
沈黙。しかもやけに重い。
……見合い?俺が?
「……どうした?」
「……当然冗…談ですよね?アリスちゃん。」
「名前で呼ぶな。冗談言っている様に見えるか?」
「俺は遠慮させ」
「駄目だ。」
拒否権無しなのか?しかもまた遮られた。
「お前の事をいたく先方が気にいったみたいなのでな。実はもう日にちも決まっているんだ。三日後。覚えておいてくれ。
一応止めたぞ?おまえに付き合った女が手に入れられるものはストレスだけだってな。」
……言いたい放題だな。
俺が黙っているのをいい事に、女史は話を止めない。
「……まあ、そういう訳で、だ。頼んだぞ?北光。」
「俺はスケープゴートですか?アリスちゃん。」
「名前で呼ぶな。何を今更。」
「……」
皮肉のつもりだったんだが。
……何というか、何も言えない。
「……まあ、そこまで堅くなる事は無いさ。要はきっかけだ。形式だけでも構わない。最悪、見合いそのものは破談になってもあちらさんに好印象さえ残せればいい。
……そこの所のサジ加減はお前にかかっている。頼んだぞ。」
……はあ。疲れる事になりそうだ。仕方ないか……
「おお、そうだ!」
「……まだ何かあるんですか?アリスちゃん。」
「名前で呼ぶな。……一応、相手の写真を預かってるんでな。お前に渡し」
「要りませんよ。形式上だけでいいんでしょう? ……まあ、出来る限り上手く立ち回りますよ。」
今度は言葉をこちらが遮る。2度も遮られたお返しだ。ざまあみろ。
キャラに合わない台詞を思い浮かべつつ、何か言いた気な課長を残して俺は席に戻った。
さて……と、もう一度資料に目を通しておかないとな。
・・・
・・
・
……あれから三日。見合いの当日だ。
言うまでも無く、面倒くさい。
そもそもどうして俺なんだろうか。うちの部には俺の様なヒラより安定した地位で未婚の人もいる。
人柄も悪くないし、外見も見苦しくない。年齢だってまだ20代後半だったはずだ。
……溜息が止まらない。
今更どうしようもないけど、気の進まないまま会場である料亭に向かう。
今はタクシーの中、隣には立会人となる課長。
「はあ……」
「……どうした?北光。お前らし……いか、うん。」
「なんですか、それは。……どうかしない方がおかしいですよ。
第一、見合いなんて初めてなんですから……」
「何事も経験だ。特に、初めてのそれは何よりも肝心だ。」
「流石アリスちゃんは人生経験が豊富な事で。」
「名前で呼ぶな。誰が年増だ。」
「そこまで拡大解釈するって事は、自覚があるんですね。」
「貴様、後で覚えておけよ……」
いつも通りのとてもとてものどかな会話を続けて、タクシーは目的地へ。
座席がゴトゴト仔牛を乗せてゆく。
可愛い仔牛、売られてゆくよ……
部屋に入るなり、歳を召した執事風の人が話し掛けてきた。
「おお、北光殿ですな!ささ、どうぞそちらへ……」
言われるとおり、席についた。
……改めて、前を見る。
と、その方向には誰もいない。
「あの……」
「御心配なく。お嬢様はお召し替えをなさっています。」
……これだから。俺が何をしたって言うんだ……
「……しかし……」
? どうしたんだ……?
「……感慨深いですな。こう、なんというか……」
……俺のお相手の事か?晴れ姿を見る事になるってか……
その事をオブラートに包んだ言い方で告げる。俺にだってその位は気を使う事が出来る。
が、その執事風の人は否定。
「それだけではありませんな。……あなたの事ですよ。」
……どういうことだろうか。
その人はゆっくり微笑み、何かを告げようとする。……そこに。
「ご、ごめんなさ……あ、あれ?開かな……」
割り込んで来た声。
……どうやらお相手が来たらしい。
走ってきたのか、廊下から階段を下りる様な騒がしい音がした後、ふすまが鳴った。変に力を入れているのか、ふすまがどうやら引っ掛かっているみたいだな。
「……仕方、無いですな……」
息を一息付き、執事風の人が音源へ。
が、位置関係からして俺の方が近い。
何気なく、俺は立ってふすまを開けた。
……ふすまの前に居たそのお相手さんは、何故かふすまを開けるのに前に体重をかけていたらしい。道理で開かないはずだ。
すっ転ぶ様に、部屋に転がり込んできた。
「あ、あわわ、わ……とと。……ふう、セーフ……」
何とか倒れずにすみ、少々舌足らずな声とともに、ゆっくり彼女は息をついた。
……見るからに小柄な人だな。発育不良なんじゃないか?
と、ゆっくり彼女が顔を不げた。
「お、遅れてすいませ……」
彼女は……そいつは、あ、と声をあげて固まった。
そして、俺も。
「……カナ、くん……?」
目の前に居たのは……9年前、横浜のお嬢様学校に行った為に会う事の出来なくなった、俺が唯一まともに話せた女の子だった。
小さな体に不釣り合いな、大きなポニーテール。
昔いつも来ていた淡い水色のカーディガンではないが、それと似た配色の振袖。
……正直、9年前と殆ど変わっていない。それはそれで問題が有る気はするが。
そして……俺は、恐る恐るそいつの名を呼んでみた。
「……ミナト……?」
目の前の彼女は、まごついている。何か言いた気に繰り返し口をモゴモゴさせ、……それでいて、嬉しそうに。
目を少し閉じ、そして彼女は確認する様に、一音ずつ丁寧に、話し掛けてきた。
「……カナくん……」
……どう、返したらいいのだろうか……
分からない。
困惑する俺を見て、はにかむ様に微笑んで、彼女は言の葉を続ける。
「久しぶり……」
……。まずい。心なしか顔が赤くなっている気がする……
と、そこに割り込んできたのは
「ほうほう……お知り合いだったのか、成る程なぁ……
お前も存外隅に置けんなあ、え? ”カナくん”……?」
……言うまでも無く、愛すべき我が上司殿。
……ある意味、有り難いな。平常心を取り戻す事が出来た。なので、感謝の意味を込めて言う事は言っておく。
「……まあ、人並みの人生はおくっていますよ。平均から斜め上にブっ飛んだアリスちゃんとは違って。さっさと不思議の国にドードーと遊ぶ為に帰ったらどうです?」
「名前で呼ぶな。月夜ばかりと思うなよ、貴様。」
物騒な上司に穏やかに応対しつつも、俺はミナトの方から目を話せない。
「……えーと。」
「あ、あはは…… こういう時、どうしたらいいのかな……」
焦りを隠す様にミナトが苦笑。
何か言っておくべきだろうな……
……。
と、とりあえずは……
「……座った方がいいんじゃないか?ミナト。」
「え、あ……うん、そうだね。」
小さな歩幅も相変わらずのまま、茶運び人形の様に俺の前の席につく。
「……。」
「……。」
沈黙が場を支配する。
……気まずいな。
「「えーと」」
俺とミナトの声が重なった。
「……。」
「……。」
「そ、そっちから……いいよ? カナくん。」
「いや……ミナトの方からで俺は構わないけど……」
「あ……うん…… それじゃあ……」
……ふう。これでひとまずは……
「ひ、久しぶり、だね。」
「……それ、さっきも言わなかったか?」
「え?あ、あれ、そうだっけ……」
「……一応。」
「……。」
「……。」
……参ったな。いつもの調子が出ない。
……さて、これからどうしたものかな……
いろいろな意味で。
本当に、本当に、いろいろな意味で……
……とりあえず、今日の所はここまでです。
……なにかアリスちゃん(29)がヒロイン食っちゃってますが、そこはおいておいて下さい……
後編含めるとあまりに長くなってしまうので……
続きがいつ投下できるのか分からないのですが、覚えておいていただけると幸いです。
>>512 確かにアリスちゃんの方が目立ってますな…
それはさておき、続き楽しみにしてます〜
すまん正直アリスちゃん萌えだ!
(彼女の活躍を)期待している!
いやいや!俺はこれからミナトちゃんが目立ってくれることを信じてる!
ドジっ子ぽいしな、ポニテ好きだしな。
ついでに、24歳前後なのに見た目15歳くらい・・・ハァハァ
キザキャラ主人公おなかいっぱい
アリスちゃんは「気の強い娘がしおらしくなる瞬間に」スレか
「女性上位で優しく愛撫される小説」スレにSSを投下して欲しいです。
姉さんは、優秀なひとだった。
そして、素敵なひとだった。
―秋、その夕暮れ
少し年上のかえで姉さんは綺麗なひとだった。頭もよかったし、近所の人が「藤野さんの娘さん」
といえば姉さんのことだった。
幼いころに母親をなくした私の面倒も良く見てくれたし、私も、そんな姉さんが大好きだった。
家族と言えば私と、姉さんと父親だけで、地元の古い家だというのに当時珍しく核家族だった。
祖母も祖父もずいぶん昔に亡くなったということなので、どうやら早世の家系らしい。
その父親も、私とは幼いころからうまくいかなかった。単に、そりが合わなかっただけだと思う。
家の存続というつまらない荷物を勝手に重圧に感じ、一人で自分を追い詰める父を、昔から滑稽に思っていた。
勝手に厳格になり、私に「姉さんと同じ」を強要した。
周りにもそんな風に、私と姉さんとを比較しているのは幼さのもつ鋭い感性は気づいていた。
私は、到底姉さんにはなれなかった。でも、周りはそれを望んでいる。
すべてが不愉快だった。その不愉快の源が姉さんだというなら。
幼い私は、かえで姉さんへの憧憬が嫉妬、憎悪へと変わってしまうのを心から恐れた。
そして私は、無能な自分を憎むことで、それを乗り越えたんだ。
それから私は周囲に抗うようになった。
独り敵を作り続け、孤立することに喜びを感じる、私はそんな子供だった。
そんな私はひとりの男の子と出逢った。
私が幼稚園のころだったか、ともかく、義明と一緒になったのは小学校からだから、それ以前なのは間違いなかった。
ある秋の日だった。
一人の男性が家に来ていた。よく見る男の人だったけれど、どういう人かは知らなかった。
知りたくもなかったし、父親とそんな話をすることもなかったから。
けど、その日は珍しく子供を連れていた。男の子だった。
庭で一人遊んでいた私に気づいた彼は私に声をかけた。
「なにしてあそんでるの?」
「なわとび」
そっけなく答えたはずだった。幼稚園ではだれも二重跳びなんてできなかったから、私一人だけ出来ればみんなを見下せる。そう思って練習していた。
でも、彼は笑っていた。ただ笑顔で私を見ていた。
直感だった、彼なら。幼い私はそう思った、そして、実際にそれは当たっていた。
「・・・なまえ」
彼に訊いた。
「え?」
「だから、きみのなまえ」
もう一度、訊いた。
「あ、うん!僕はよしあき、きりのよしあき。きみは?」
「・・・ふじのゆみ。よしあき、なんさい?」
「6さい、ゆみちゃんは?」
どうやら同い年のようで、少し残念に思ったけど。
「おなじ、でも、私のことはゆみさん、ってよびなさい」
義明は怪訝そうな顔をして、でも、しっかりと頷いた。
「うん!ゆみさん、よろしくね!」
裏山のもみじは赤く色づき始めていた。
それが、すべての始まり。
一ヶ月以上も空いてこれだけかい、という・・・
お久しぶりです、うぃすです
私事ですがここで書き始めて一年になるみたいです
それはともかく
なんとか文章にできるようがんばりますのでこれからもよろしくです
保管庫の管理人さん、いつもありがとうございます
で、うぃす のところ、10以降別作品扱いお願いできますか?夕美と義明あたりの題で
よろしくお願いします
そんな感じです、それではー
wktk
いっぱい職人がいて恐れ多いのですが、投下
なあ由佳里。オレのこと忘れるなよ。
由佳里の両親が離婚すると聞いたのは、一週間程前のことだった。詳しい原
因を、オレの親は教えてくれない。きっと不倫なのだろう。中学生のオレに男
女の事情は悪影響と考えたのだろう。
「涼太。あたしお母さんについて行くことにしたから、もうすぐサヨナラなん
だ……ごめん」
オレの勝手な推測だが、父親に負い目があったのだろう。だから母に決めた
のだ。そんな父親に引き取られるのは、嫌に決まっている。
「謝るなよ。引越し先って遠いのか?」
「お母さんの実家って言ってたから、ここからじゃ簡単には行けない場所。そ
れほど田舎でもないんだけどね」
オレと由佳里は幼稚園の頃からの付き合いで、その当時は「結婚する」とか
行っていたらしい。
でもそんなのは、子供の無知故の言動で。
中学に入ってからだろうか。自覚はないが思春期に突入して、周囲の目も気
になり、自然と敬遠しあうようになった。
幼い男子女子がそのうち離れていく。当然の成長かもしれない。
互いの性別の違いを意識するのは決して悪くない。むしろある方が正しい。
「最近一緒に話したこと、ないよな」
「そうだね……涼太は野球バカだし。あたしもあたしで好きな人できたから。
この年になってベタベタしてるのも変でしょ」
幼馴染みの限界を痛感した。漫画では片方もしくは双方が想い合い、いつし
か結ばれていく物語が一般的だ。
でもオレ達の関係は、完全に区別されたもの。
「……お前、可愛くなったよな」
「何、突然。変な事言わないでよ」
「オレよりはずっと大人っぽくなって、部活とか遊びばっかやってるオレとは
違うんだなって」
女子は男子より早く成長する。よく言われることだ。
確かに女子の方が肉体的にも精神的にも、形成が早熟傾向だと思う。
「あたしは……涼太が野球やってるのって、なんかイイと思ってる。一番活き
活きて言うか、楽しそうだった」
オレのこと、見ていたんだな。
オレは無意識に由佳里を見ていて、由佳里もオレを見ていてくれた。
「もう会えなくなるから言うけど、好きだよ。でももう……会えないんだね」
もう、会えない。
「オレだって同じだよ。好きだから、余計に会えなくなるのが寂しい」
もう、会えない。
「最後くらい、幼馴染みはやめて、男と女になりたい……」
もう会えないから、想い出を刻み付けよう。絶対に消えない想い出を。
由佳里の全てを知って、それを心に焼き付けたい。
「あたしの……あげる。もらって欲しい」
「これが終わったら幼馴染みに戻る。約束だぞ」
もし行為が終わって、オレが由佳里を忘れられなくなっても、絶対に会いに
行ってはいけない。お互い、大人にならなければいけない。
反対に由佳里が訪ねて来ても、どうにかして身を隠そう。
何故こんなに割り切れるのかわからないし、本当に割り切れるかもわからな
い。でも今は由佳里が欲しい。
由佳里の家にはしばらく誰も帰ってこない。母親は手続きやらで多忙だと聞
いた。
ベッドに由佳里を寝かした。見慣れてしまっていたのか、由佳里の色香を意
識したことはない。魅力的な身体はオレの欲望を駆りたてた。
「あんまり堅くなるなよ。力抜いて」
「う、うん……優しくしてよ……」
優しくして。ありきたりな言葉なのに異常なほど響く言葉。
「できるだけ苦しい思いはさせないように頑張るよ。だから、その、任せろ」
オレに安心して任せられる知識も技術もない。言動から察すれば由佳里も経
験はないはずだ。処女喪失が苦痛を伴うのは知っていた。
「由佳里」
唇を重ねた。全てが未知の体験。キスですら酔ってしまいそうだった。
短く、何度も口付けをした。
しばらくすると、由佳里が舌を絡ませてきた。申し訳ない事をしたのかもし
れない。オレが手を引いてあげるのが最善だろう。
由佳里を抱き締めた。加減がわからなくて、少し不安だった。
抱擁すると由佳里の柔らかい感触が伝わってきた。甘い香りが気持ちを高ぶ
らせる。
「んっん……はぁ……ふぅ……ううん……ん……」
口内で唾液が混ざり合い官能的な音を立てる。隙間から由佳里の喘ぎが漏れて
くる。
背中に合った右手を胸に移動させた。小ぶりだが年相応なのだろう。これく
らいの大きさがむしろ可愛らしい。
「やっ……恥ずかしい……だめ、だめ、ひゃっ」
唇が離れてしまい名残惜しいオレは、その舌を首筋に這わせた。声が跳ねた
のはその所為だ。
「首が感じるんだな。すげー可愛い」
「やだぁ……んっ……あん……やっ」
歯を立てたり吸ってみたり、何か刺激を加えると正直に反応してくれる。
他の女も同じだろうか。頭に浮かんだ考えはすぐに消した。行為と途中で他
の女の身体について考えるのは、由佳里に失礼だ。
柔らかい胸に直接触れたい。その欲求は即座に行動に出た。服の下に手を忍
ばせ、腹を撫でながら上に手を滑らせる。
「すべすべしてて気持ち良いな、由佳里の身体」
「く、くすぐったいってば……やぁっ。えっと、前から外して……」
「前? あ、そういうことな。わかった」
あまり女性の下着の構造に詳しくなく、指示の意味すら理解に時間を要する。
しかし前後どちらが普通なのだろう。唯一残った疑問だった。
抱き合っているので外しづらかったが、試行錯誤した結果解除に成功した。
邪魔のなくなった乳房の感触を味わいながら可能な限り優しく愛撫する。た
だ柔らかいだけでなく、指を弾くような弾力も持ち合わせている。
由佳里の吐息が熱い。胸への愛撫は強くないものの、感情的な刺激は十分に
与えられるようだ。
「由佳里、滅茶苦茶可愛い。顔真っ赤だぞ」
「だって涼太がいっぱい弄るからぁ……変になっちゃうのぉ……」
気だるいと言うよりは甘い吐息混じりの声が色っぽく、瞳の潤みは純粋な輝
きを発している。
「あっちも欲しい……すごく熱くなっちゃってる」
「わかった。ちょっと足広げてくれ」
無言で頷いた由佳里は、おずおずと僅かに股に隙間を作った。
乳房を撫ででいた右手を、由佳里の核心に近付けていった。
身体を強張らせながら足を閉じなかった由佳里に、密かに感謝した。実は足
を閉ざしてしまうのではと予想していた。
都合良く由佳里はスカートで、プリーツスカートなのも手伝い、窮屈な思い
はせずに、秘部に到達した。
「これって、濡れてるんだよな。下着越しでもわかるくらいだ」
「やだ、こんなになってる……涼太。エッチなコだって思った?」
淫らな女だと思われるのは嫌に違いない。しかし気の利いた返答が出てこな
い。
「いや、オレなんかでも感じてくれたって考えると、少し嬉しい」
もちろんこの感想は正直なものだった。由佳里が恥ずかしそうに微笑む。
オレは陰部への愛撫を開始した。ショーツ越しに這わせてみると、由佳里は
体を縮めてしまった。
恥部を触られる羞恥に耐えている様子が性欲をそそる。
更なる快感を与えるべく、大体の目星を付けて敏感な部分を擦る。
「―――はぅん!い、あっ……気持ちいっ……あ……」
反応が強くなる箇所を把握した。そこを集中的に攻める。
「あ、あ……やだ、んんっ……そこは、だめ、だめだよ……」
理性が欲望を止められない。抵抗する間を与えず、乱れた由佳里の下半身を
露にした。
――――優しくするって決めただろ。
呼びかける声がした。欲望が爆発しかけた刹那、制止の声がした。
「急に脱がしてごめん。びっくりしたよな。もう大丈夫だからな」
「う、うん。ちょっと驚いたけど、続けて」
指がゆっくりと入っていく。押し戻されたり飲みこまれたり、そこは複雑な
動きをする。
破瓜の心配を考慮し、ある程度指を侵入させて止めた。どの辺りに処女膜が
あるかは検討が付かないので、慎重にならざるを得ない。
「痛くないか?」
「痛くないよ。恥ずかしいけど……その、むしろ……気持ち……」
その先は言ってくれない。快楽を自覚することは嫌なのだろう。
静かに指を動かす。卑猥な音を立てて由佳里のなかは溶けていく。
「や……はんっ……あ、だめ……あ……そこは、だめっ」
「どこがイイんだよ。ここら辺か?」
「あん、だめ、そこ、あ、だめ、あ、あ、あ」
溢れんばかりの体液で滑らかに動かせるので、つい調子に乗って激しく攻め
てしまった。だが乱れていく由佳里を見たい欲は止まるところを知らない。
オレの顔は由佳里の股にあり、舌は陰部を執拗に舐めていた。
「ふぁ、だめ、りょう、た、だめ、あ、りょうた!」
最も感度の良い部分を吸ったり舌で転がして、快楽を与え続ける。
由佳里の絶頂はすぐそこまで来ていた。
「――――っ!」
幾度か体を痙攣させて由佳里は果てた。
「由佳里。大丈夫か」
不規則な呼吸はなかなか落ち着かず、頷いてオレの呼びかけに応答するのも
辛そうに見える。
「続けてよ……途中で止めるなんてヤダから……」
由佳里の瞳には意志が灯っている。覚悟はできているようだ。
「わかった。痛いと思うけど我慢しろよ」
ズボンを下ろすと陰茎が膨らんでいるのがよくわかる。その欲望を覆う布を
下ろせば性器が外気に晒される。
多分オレのに怯えている。それでも由佳里は制止しようとはしない。
肉棒をあてがうと恐怖が増したのか、由佳里は本能的に足を閉じた。
抵抗は許さない。手で閉じるのを防いだ。
「大丈夫だから、オレに全部預けてくれ」
「……うん」
ガラス細工に触れるかのように慎重に、由佳里の膣へ押し込んでいく。奥へ
進むと痛みが走ったのか、オレの背中に爪が食い込んだ。
由佳里は呻きながら破瓜に耐えている。本当なら今すぐにでも止めたい。止
めれば由佳里を裏切ることになる。そう思うと続行しかない。
「くぅ……りょ、う……た……!」
残り僅かな時間で由佳里と完全に繋がる。きっと向こうも同じ気持ちのはず。
微塵にも快感は与えられないとわかっていながら、終わりへと進む。
「……全部入った、はず。頑張ったな」
「ホントに? ……すごく嬉しい」
――――そこから腰を動かしたりはせず、行為を終えた。
目的は肉欲を満たすことではなく、深く刻まれた何かを残す為だったから。
一生消えない痕を由佳里と分かち合い、一生消えない記憶を分かち合う。そ
れだけで良かった。
えーと、終わってるのかな?
乙!
>>529 終わってますよ
後日談くらい書こうかなとは思ったのですが、疲れて無理
処女が突かれて果てるのって現実味がない気がするので、処女を捧げるのみで完結
「ねえ、隆ちゃん。アレ取って」
と、炬燵に入って蜜柑を食していた麗奈が言うと、
「ホラ」
と、ベッドで寝転んでいた隆二が、そこらに放ってあった少年跳躍を投げて寄越した。
そして、再び麗奈。
「ねえ、そういえばそろそろお昼だけど」
「カツ丼、食いたいな」
「うん。私もカツ丼気分」
「電話しよう」
隆二は自室の電話から、近所の蕎麦屋に出前を頼んだ。その間、麗奈は蜜柑の皮を
ゴミ箱へ投げ入れ、飲みかけの烏龍茶のペットボトルに手を伸ばす。
「あ、それ、俺の飲みさしだぞ」
「うん。別にいい」
いとこ同士だからね──と、麗奈は目で言ったつもりだった。葉月麗奈に伊東隆二。
互いの母親が姉妹で、同じ年に生まれた二人は、暇があるといつも一緒に居る。今日
は麗奈が隆二の家へ来ており、夕方まで居座る予定だった。
「カツ丼来るまで、取り調べごっこでもやるか」
「いやよ。高校生にもなって」
隆二が電気スタンドを持ってきたので、麗奈は渋い顔をする。
「葉月麗奈。お前が、なすび一トンを強奪した事は分かってるんだ。さっさと白状して、
お縄になれ」
「ちっ、ちっ、刑事さん。私は何もしちゃいませんぜ」
一旦、渋い顔をしておいて、この有り様である。麗奈もこの手のノリが、嫌いな訳では
無かった。
「故郷のお袋さんが泣いてるぞ、葉月。なあ、素直になるんだ」
「ダンナ、私は本当に何もしてないんですよ。信じてつかあさい」
「いい加減にしろ。俺もいつまでも優しくないぜ。さあ、白状しないか」
隆二は電気スタンドを手に、麗奈から自白を強要した。刑事ドラマなどで良く見る光景
である。
「何だったら、体に聞いてやってもいいんだぞ」
「人権侵害ですよ。出来るものなら、やってみたら?」
「良く言った」
隆二が炬燵を部屋の端に寄せ、カーテンを閉めてから、麗奈に向かって言った。
「まず、身体検査からいこうか。着ている物を脱ぐんだ」
「えー?いやーん」
麗奈は腰をくねらせながら、胸を手で抑えた。口では嫌とは言いつつも、その仕草はど
こか楽しげである。
「窃盗の取調べなのに、どうして脱ぐ必要があるんですか?職権乱用だわ」
「脱がなきゃ、泣く羽目になるぞ──俺が」
「あんたがか」
がくっと肩を落とす麗奈。二人とも、ボケとツッコミの基本が出来ていた。
「罪を認めて脱ぐか、それとも認めずに裸になるか。お前に残された選択肢は、ふたつ
にひとつだ。さあ、どっちにする?」
「って、どっちも結局は、脱ぐんじゃないの!質問に、YESかハイで答えろって言ってる
のと同じよ!」
と言いつつ、麗奈はスカートのホックを、嬉々として外し始めた。犯人役の彼女にしてみ
れば、ここは見せ場である。
「身体検査って、どこまで脱げばいいんですか?刑事さん」
「もちろん、全裸だ」
「まったく、もう・・・」
麗奈は隆二に背を向けて、スカートとシャツを脱いでしまった。丸みを帯びた少女らしい
体には、ピンクのブラジャーとパンティが着けられており、清楚ながらも色っぽさを有して
いる。麗奈はそれらも手にかけ、まずはブラジャーを腕から抜く。
「後で裁判になった時、ひどいですからね。激しい人権侵害があったって、主張します
から」
「人権侵害とは?」
「艶罪(えんざい=冤罪)ですね。それと、婦女ボーボーの罪に問われます」
麗奈がパンティを脱いで振り向くと、その通り婦女のボーボーした物が露わになった。
言うまでもないが、陰毛の事である。
は、早く続きを……
婦女ボーボーって言いたかっただけってことなのでは・・・。
「それならば俺も言わせてもらうが、今のお前は猥褻物陳列罪を犯しているぞ」
「チン列罪は、女には適用されません。残念でした」
「いいなあ、女は」
「そのかわり、子産むシッコ妨害が適用されるから、どっこいよ」
法曹界に身を置く人間が聞いたら激怒しそうな会話が続く中、玄関の方から誰かの声が
響いてきた。聞きなれない、若い男の声だった。
「こんにちは。森市でーす」
それは、カツ丼を頼んだ蕎麦屋の名だった。すると、隆二は財布から金を取り出して、麗
奈へ手渡し、
「これで、カツ丼もらってきて」
「わ、私が?今、裸よ」
「靴下、履いてるじゃん」
などと言うのである。
「靴下だけ履いて、人前に出てったら痴女よ痴女!素っ裸の方が、まだましよ!」
激昂する麗奈。当たり前と言えよう。
「じゃあ、おまけしてパンツだけは許してやる。さあ、行け」
にやつく隆二に促され、麗奈は脱いだばかりのパンティを拾って一言。
「鬼・・・」
だが、ピンクのパンティを足に通すと、麗奈は部屋を出て玄関に向かったのであった。
「すいません。誰か居ませんかあ?」
蕎麦屋の出前は気が短いようで、勝手に玄関の扉を開けていた。そこへ、廊下の奥から
麗奈がやって来る。それも、かなり陽気に。
「すいませ〜ん。ちょっと、お風呂、入ってて」
麗奈は顔を真っ赤にしながら、乳房を抱きこむように手で覆いつつ、現れた。下半身はパ
ンティ一枚に頼み、後は陰毛が透けていない事を祈るばかりである。
「あっ、こちらこそ、すいません・・・」
出前に来た男は目を丸くして、その場に立ちすくんだ。女が何故、パンツ一丁なのか。いく
ら風呂に入っていたからといって、何もそんな格好で出て来なくても──男は一瞬の間に、
そんな事を考えていた。
「おいくらでしたっけ?」
「せ、千二百円です」
「じゃあ、二千円から。ぴったりじゃなくて、ごめんなさい」
「いいえ、そんな・・・」
麗奈からお代を受け取った男の手は震えていた。まだ二十歳前後だろうか、あまり女に縁
の無さそうな、線の細いタイプだった。それゆえ、半裸の麗奈が眩しいのであろう、おつり
を数えるふりをしながら、チラチラと柔肌を盗み見ている。
「暖かくなりましたねえ・・・お蕎麦屋さん、お花見には行きましたか?」
「いいえ、まだ・・・今週末に、大将たちと行く予定で」
「いいですね。じゃあ、カツ丼、頂いていきます・・・」
そう言って麗奈は、お盆に置かれたカツ丼に手を伸ばした。もちろん、隠していた乳房は
丸見えになる。
「いやん、恥ずかしい。あんまり、見ないで下さいね」
「あ、は、はい」
大きすぎず、小さすぎずの二つの果実は、手を放した瞬間、プルンっと揺れ、男の視線
を奪った。麗奈は努めて平静を装っているが、内心では卒倒しそうなぐらいに昂ぶって
いた。血走った男の目で裸を見られていると思うと、眩暈すら感じた。
「いい匂い。私、ここのカツ丼、好きなんです」
「そ、そうですか。また、どうぞよろしく・・・」
「気をつけて帰って下さいね」
蕎麦屋の出前は、本当に名残惜しそうに玄関から出て行った。その姿を見送ってから、
麗奈は隆二の待つ部屋へ帰って行った。
「カツ丼、お待ち」
「さっそく食べよう。そういえば蕎麦屋の出前、お前を見てどんな顔してた?」
「宇宙人にでも出会ったような顔してたわよ。これ以上、驚いた事無いって感じ」
「そっか。並みの反応だな」
隆二は炬燵を再び部屋の真ん中へ置き、麗奈と向かい合わせになった。
「で、お前はどうだった?」
「私?私は別に・・・」
「感じたんだろ」
「そう・・・かなあ」
麗奈は割り箸を手に取り、真ん中から割った。そして、さてカツ丼を食うべしと丼の蓋を
取る。
「お前、見られるの好きだもんな」
「やだあ。それじゃ私、変態みたいじゃないの」
「女は多かれ少なかれ、そういう傾向にあるものさ」
「どこで仕入れた知識よ。ねえ、もう服を着てもいい?パンツ一枚じゃ、バカみたいだし」
「どうせ、後で脱ぐ事になるぜ」
「・・・じゃあ、いいや」
隆二の言葉は、体を重ねるという意味である。だから麗奈は、服を着なかった。
「あ、隆ちゃん、あれ要る?」
「おう、要る要る。台所にあるから、持って来てくれよ」
「ちょっと待ってて」
そう言うと麗奈は立ち上がり、台所へ向かった。ちなみにあれ、というのは七味の事で、
二人ともカツ丼を食らう時には、これが必需品だった。
「やっぱりいとこだなあ・・・以心伝心、か」
あれ、とか、それ、というだけで、相手が何を欲しているのかが分かる。麗奈はそれが
不思議だった。ひとえに血縁のなせる技といえばそれまでだが、親子でも兄妹でもな
い二人が、どうしてここまで心を通わせる事が出来るのか、不思議でならないのである。
「そうなると、パンツが湿ってる事もバレバレだな。厄介だなあ・・・」
先ほど言われた通り、麗奈は見られるという事に妖しい愉悦を感じる時がある。実際、半
裸で蕎麦屋の前に出た時、軽い絶頂を感じていた。下着のクロッチ部分に、恥ずかしい
シミがあるのは、それが原因である。
「この後、セックスするんだろうから、またいやらしい事を言われるな・・・」
七味を持って帰る途中、麗奈は頭の中で隆二に抱かれる光景ばかりを浮かべた。逞しい
異性に女を貫かれると、麗奈はこの世のものとは思えないような快楽を得る。しかも、そ
れは隆二が相手の時に限って、素晴らしく高まるのだ。
「持ってきたよ、あれ」
「サンキュ。さっそく、かけてくれよ」
麗奈は自分のと隆二のカツ丼に、七味をさっさっとふりかける。食の好みも同じで、量った
ように同じだけ、七味はオン・ザ・カツ丼と相成った。
「これ食ったら、やろうな」
「・・・ウン」
隆二の問いに、麗奈は恥ずかしそうに答えた。きっとまた何度もいかされてしまう。そう思う
と、麗奈の食は進んだ。食って体力をつけないとやられっ放しになるので、箸はガスガスと
カツ丼を掘り起こした。
「あっ・・・」
隆二の男が、自分の最も深い部分を突き押して来ると、麗奈はそれの持ち主の背中に
爪を立ててやる。血の繋がった相手とのセックスは、愛憎入り混じった不思議な感覚が
身を包み、心を融かすような気がする。麗奈は隆二に突かれる度、唇から甘い吐息を漏
らしては、腰を捻っていた。
「痛いぞ。爪、立てるなよ」
「だって、憎いんだもん。隆二の事」
「何でだよ」
「こんなに、私のアソコをジンジンさせるから・・・あっ」
ぐっと男を押し込まれ、女の入り口が開くこの瞬間が良い。それを引き抜かれる時の、肉
襞が捲れるような感触も、麗奈にはたまらなかった。また、隆二も心得たもので、三浅一
深を心がけつつ、したたかに女を狂わせるのである。
「あッ、あッ、あッ・・・」
「・・・お前の中、吸い付いてくるぞ。いい気持ちだ」
「そんな事、言わないで・・・恥ずかしい」
耳元でそんな風に囁かれると、麗奈は顔をそむけてむずがった。女の道具を批評する
なんて、嫌な人だ。そう思うのだが、腰は淫らに動き続けている。
「俺、そろそろいきそうなんだが、中に出していいか?」
「いいよ・・・ぶちまけちゃって、隆二の精子・・・全部、受け止めてあげる」
「キスしようぜ、麗奈」
「・・・ウン」
絶頂時は、必ず唇を重ねて──特別、決め事がある訳ではないが、二人は決まって
そうしていた。これも、麗奈の不思議のひとつだった。
「ただいま」
その日、麗奈は夕方過ぎに自宅へ帰った。台所には母が居たが、隆二と一緒だった事
は言わなかった。
「ねえ、麗奈」
「なに、お母さん」
「あんまり、深入りしちゃ駄目よ」
そう言われて、麗奈はドキッとした。一瞬、母が何を言っているのか分からなかったが、次
の言葉で、麗奈は釘をさされる事となる。
「隆ちゃんは、いとこなんだからね」
母はそれ以上、何も言わなかったが、その意味はすぐに理解できた。
「・・・うん」
麗奈は力なく返事をするしか無かった。母は二人の関係に気づいている。それだけで、十
分なほど打ちのめされてしまったのだ。
「いとこ・・・か。中途半端だね、お母さん」
「そうね。だから、困るのよね」
血縁関係にあるが、結婚できぬ仲でもない。これがもし、兄妹などだったら、悲壮な覚悟で
愛を貫こうとするかもしれない。そうかといって、まったくの他人でもないので、結婚すると
言えば、親戚一同、変な顔をするに決まっている。そう、いとこ同士というのは、中途半端
なのである。
「誰かが、いとこの味は鴨の味って言ってたわね。そんなに良いの?」
「娘にそんな事、聞かないでよ」
「ふふふ・・・顔が赤くなってるわよ」
母の問いに、麗奈は答えなかった。まさか、良い加減でしたと答えるわけにもいかない。
「私、お風呂入るね」
「しっかり洗うのよ。お父さんが知ったら、ショック死するかも」
「お母さん!もう、女ってやだなあ・・・」
母は女の本能で、娘の中に隆二が放った子種がある事が分かるのか、意味ありげな
言い回しをする。もちろん、これにも麗奈は答えなかった。
脱衣所で服を脱ぎ、素っ裸になるといまだに女が疼いていた。隆二の男にさんざんに蹂
躙されて、随分と悲鳴を上げさせられたが、そこは今も貪欲に彼を求めている。
「いけない。たれてきちゃった」
後始末が至らなかったのか、女から白濁した隆二の子種が逆流してきた。麗奈はそれを
指で掬い、ぺろりと舐めてみる。
「・・・鴨の味には、程遠いな。でも・・・」
ジーンと下半身を疼かせる独特の苦味は、麗奈にとって、甘露のように感じるのであった。
おしまい
肛門丸氏、ごっつぁんです!!
「………………ふうぅ〜〜〜」
長ーい沈黙の後、長ーい溜息をつく寂しい人物が一人、禁煙パイプを咥えている。勿論、
言うまでもなく俺だ。目の前では俺が車に乗せて連れて来た連中が、人ごみに紛れて海と
戯れている。それこそ俺の存在を忘れているかのように……つーか忘れてるんだろうが。
まあ、なんで一人着替えずにひっそりと座り込んでいるかっつーと、俺が水着を忘れた
からなんだが。くそ……寝ぼけながら準備したから、一番肝心なものを忘れてしまった。
折角忙しい合間を縫って水着を買ってきたってーのに……はぁ。なんてこった。
ちなみにここに来るまでの道中、紗枝達に素晴らしい時間を提供してあげたことは言う
までもない。
「ジェットコースターに乗ってる気分だった」「曲がる時に片輪が浮いてた」「死んだじい
ちゃんが見えた」など賞賛の言葉も多数頂いている。
サービス精神旺盛な自分自身に惚れそうだ。
しかし、ずーっと奴らが泳いで遊んでいるところを眺めるのもつまらん。仕方ないな、
これを使って暇を潰すか。
パパラパッパパ〜〜♪ オペラグラス〜〜〜〜♪
よし、これで女の肢体を観さ……いやいや、日々、観光客の身の安全の為に心血注いで
くれているガードの人達のせめてもの労いとして、俺も監視業務を手伝うこととしよう。
じゃあ日差しが強いからキャップから麦わら帽子に被り変えてと。これで準備万端だな。
さてさて、ちらほら見かける地球外生命体はとりあえずスルーして……お、早速発見。
紗枝と同じくらいの年齢に見えるくらいだから高校生かな。ビキニなのは結構だが、もう
ちょっと膨らますところは膨らませて、引っ込ますところは引っ込ましてから着て欲しい
もんだ、70点。
次はどうだ……ぬう、あれはデカい。確実にFはあると見た。水着の露出が少ないから
体型が分かりにくくてそこが若干マイナスだがまあいい、顔立ちも充分及第点だな。85点
ってとこか。
…って、うお! おいおい海で競泳水着かよ。しかしイイネイイネ、お兄さんはそんな
無謀な挑戦をする若い娘さんが大好きだ。体も引き締まってるし、スカイブルーのテカり
具合もそそる。後ろで纏め上げた髪もしっかり似合ってるしどれもこれも俺のストライク
だね溜まんねーなひあっほう! おっと失礼取り乱した。とりあえず彼女には95点という
高得点をあげちゃおう。
んじゃ次は……
「何やってんの?」
「うおっ!? さ、紗枝か」
「さっきからニヤニヤしてて気持ち悪いんだけど」
「……驚かすなよ」
くそー紗枝の奴、背後からいきなり声掛けてきやがって。監視に集中してたもんだから
口から心臓が飛び出るかと思ったぞ。
「やることなくて暇だから海の監視業務手伝ってんだよ。だから邪魔すんな。俺のことは
いいから友達と遊んで来い」
「ふーん」
口を尖らせて唸りながらジト目で俺を睨んできやがる。
「んだよ、何か言いたいことでもあんのか?」
「女の人しか眺めてないのにそれって監視なんだ」
げっ、しっかりバレてやがる。そういやコイツ意外と人の行動には目ざといんだったな。
「何を言う紗枝、女性は男性よりも体力的にも身体的にも劣っている人が多いだろう?
まして海は波があり足がつかない分、プールや川よりも溺れてしまう可能性が非常に高い。
つまり俺が女性を優先的に、お前には女性しか見てないようにしか見えなかったかもしれ
んがそれは別になんらおかしくはないわけで「じゃあお年寄りの人は?」」
「……え゛?」
「小さな子供とかもっと危ないよ? 見なくていいの?」
「……」
しまった、用意していた言い訳が通用しない。
「そもそも監視員でもない崇兄が何で監視する必要があるわけ? おかしいよそれ」
かぁー、まったく小うるさい。人のささやかかつ男にとっちゃ当然でありしかも今の俺
にとって唯一と言っていい楽しみを奪おうとするとは。鬼かコイツは。
「泳ぐことも出来ねえし、お前らがいるからナンパも不可。ただ海を眺めるだけで時間を
潰せっつーのか」
「泳げないのは水着忘れた崇兄が悪いんだろ。そんなに暇なら、砂浜で遊んでりゃいいと
思うけど」
他人事だと思っていい加減なこと言いやがって。この歳になってお子様に混じって砂の
お城なんざ作れるかボケ。
「じゃあ泥ダンゴとかでも「やかましいわ」」
コイツの相手をすることはいつものことだが、こういう絡み方されるとやっぱり鬱陶しい。
せっかく久々に会ったクラスメイト達と遊んでりゃいいのに何でわざわざ俺に話しかけて
くんだよ。
「そりゃあ見てて不憫になったからに決まってんじゃん」
「……うるせえな」
何か子守をしてる気分になってきた。思わず頭を抱える。
「それに水着美女なら目の前にもいるだろー」
「は? どこにいんだよ?」
「ここに」
にっこり笑って自分を指差す紗枝。ああ……可哀相なことにこのお嬢ちゃんは夏の暑さ
で頭をやられてしまったらしい。不憫だね。
「寝言は寝て言え」
「ちゃんと起きてるってば」
一言くらいは何か言われると思っていたのだろう。悪態をついても全くへこたれない。
「ねえ、崇兄の採点だとあたしは何点くらいなのかな?」
しかも無謀なことに、自分の点数を聞いてきやがる。さっきの冗談が本当になりそうな
勢いだ。強情な奴だから俺が拒んでもしつこく聞いてくるだろうし、ここは紗枝の水着姿
を一瞥してとっとと答えることにした。
「そうだなー……減点方式で30点ってとこかな」
「なっ!」
紗枝の頭の辺りで、ガンッという高い位置からトンカチを床に落としたような音がした
のは、果たして気のせいだったのかそうでないのか。もしかしなくてもショックを受けた
みたいだ。くくく、いい気味いい気味。
「なっ、なんでそんなに点数が低いんだよ!」
納得がいかないようで、採点の内訳が知りたいらしい。
「余計に傷つくだけだぞ」
「……いい」
「後悔すんぞ」
「……早く言ってよ」
相変わらず強情な奴。
「そんなに知りたいんなら、包み隠さずしっかりはっきりゆっくりじっくり教えてやろう。
まず色気が無い、これでマイナス10点。胸も無い、マイナス10点。水着が似合ってない、
マイナス10点」
「……この水着、一生懸命選んだんだよ?」
一つ一つ減点対象を聞いてくうちに紗枝の表情がどんどん硬くなっていってたが、どう
やらここはスルー出来なかったようで口を挟んでくる。
「ビキニを着るならもう少し身体に凹凸が出来てからにしろ。でないと俺は認めん」
「タンキニなんだけど」
「大して変わらん」
「……」
あーあー拗ねちまった。
「どうすんだ。やめるかー?」
「…………聞く」
なんか意固地になってやがんな。まあ向こうから聞きたいって言ってきたんだから俺に
非は無い。つーわけで続行。
「そんじゃ続き言うぞ。自分自身を"水着美女"という虚偽の報告をし、審査員の心証を
著しく悪化させた。これがマイナス20点」
「何それ! 言いがかりじゃんかー」
「あほう、まだ二十歳にもなってないお前が"美女"を騙るな。"美女"とは最低でも20
を過ぎ、大人の魅力溢れるお姉さま属性を持つ女性にのみ許される輝かしい称号なんだぞ」
身の程知らずなお子様に世間の一般的解釈を教えてやる俺。紗枝の方はというと、また
言い返してくるのかと思ってたら今度は口を噤んでしまった。どうやら自身に大人の魅力
が欠けてるということは、ちゃんと理解しているようだ。
「……ううぅ、確かにそうかも」
お、珍しくしおらしい。まあ、これに懲りて少しは謙虚にふるまえ。
「じゃあ"水着美少女"に訂正するね」
「……更にマイナス10点な」
紗枝がまたブーブー言ってきやがるが、さっきからこめかみ辺りでビキビキと音がして
いてそれどころじゃない。触れてみると、若干血管が浮き上がってきている。お前、絶対
わざと言ってるだろ。いい加減制裁加えるぞ。
「フンだ、今更点数引かれたってもう関係ないもん。それより、あと20点マイナスされた
理由をまだ聞いてないよ」
かー! ここまでぼろカスに言われてまだ聞きたいのかよ。紗枝はもしかしたら筋金入り
のMなのかもしれない。ああ……昔の可愛い紗枝は一体どこへいってしまったのか……。
「ほら、早く言ってよ」
「言ってもいいが更に傷つくぞ」
「とっくに傷ついてるよ! もう何言われても大丈夫だから遠慮なくさあどうぞ!!」
急かしたり怒鳴ったり、こりゃ相当カリカリしてんな。さっさと理由を言ってとっとと
解放させてもらうか。
「そこまで知りたいんだったら教えてやるよ。あと20点マイナスした理由はな、審査対象
がお前だからだ」
「……へ?」
「俺たちは付き合いが長い。それこそ半分家族みたいなもんだ。そんなお前を今更公正に
審査することはやっぱ難しいって」
「ちょ、ちょっと待ってよ! だからって何でそんな点数引かれなきゃいけないわけ!?」
「それはお前が紗枝だからだ」
中間管理職で苦しむ現場叩き上げの艦長が駄目NTに己の分をわきまえさせるかの如く、
びしっと紗枝を指差しながら声を渋くして決める俺。んー、我ながら実にダンディ。
べしゃっ!!
次の瞬間、後頭部踏まれて俺の顔面が思い切り砂浜に埋まってしまったことに関しては
突っ込まないでくれ。
「お前いくら本当のこと言われたからって頭踏みつけるこたぁ無いだろ!」
「何が本当のことだよ! そんなふざけた意見なんか参考になるもんか!」
「んだとー!!」
「なんだよ!!」
「おーい平松ー、せっかく海まで来たってのに遊ばねえのかー?」
いつまで経っても俺と口論し続ける紗枝を見て、橋本君が大きな声を張り上げ呼びかけ
てくる。まあそりゃそうだよな、こんな所に来てまでいつもの如く口喧嘩を繰り返すのは
まさしく愚の骨頂と言える。
「ホラ、久々に会った友達もああ言ってんだしさっさと行け。目障りだ」
「崇兄こそ、本当の監視員の人たちに不審者に見間違われないでよ。最近海で盗撮事件が
多いみたいだしね」
「俺が盗撮とかするわけねーだろ」
「どーだか。さっきまで女の人ばっかり見てた癖に」
そう吐き捨てると、俺に向かって舌を出し皆がいるほうへと駆けていこうとする。
「紗枝ー、お前も一応女なんだから自分こそ気をつけろよー」
「大きなお世話ー!」
まあ、さっきまで好き勝手言わせて貰ったが、アイツに何かあったらおじさんおばさん
に会わす顔が無いからな。一応注意を促してみたが最後まで減らず口だったか。からかい
過ぎたな。
向こうに合流すると、真由ちゃんに茶々を入れられたらしくまた顔を赤くしている。何を
突っ込まれてるかは知らんが、どうせ顔が赤いのは日焼けだ、とか言い訳してんだろうな。
改めて遠くから紗枝を眺めてみる。意外と水着が似合っていたことにちょっぴり驚く。
そうか水着も少しばかり子供っぽいんだ、一人で納得。
「くあ……」
一息ついて、朝起きるのが早かったせいかあくびが出る。いよいよやること無くなっち
まったし、パラソルの下で寝ようかね。
「暇そうっスね今村さん」
「…兵太か」
紗枝がようやく向こうに行ったかと思ったら今度はコイツか。海で男を隣に喋るなんて
寂しいことこの上ないな。
「お前は遊んでなくていいのか」
「昨日、深夜近くまで別口と遊んでたもんで。皆に合わせて遊んでたら途中で疲れきって
持たないッスよ」
「あー、そういやお前今日寝坊してきたもんなぁ。もし今日がバイトだったら教育的指導
じゃすまなかったよな」
「で、罪滅ぼしに買ってきたんですけど。食いますか」
見ると、肉厚で美味そうなイカ焼きを手にしている。そういや朝飯食ってなかったな。
「ちっ、貰ってやるよ」
今日初めて見た食べ物が目に映ると同時に空腹感を覚えたので、迷うことなくそいつに
手を伸ばす。兵太から受け取ると、頭の部分にガブリと噛み付く。タレが染みててこれが
結構美味い。
「それにしても、今村さんと平松が知り合いだったとは思いませんでしたよ」
「教えてないから当然だろ」
続けて話しかけてくる。言葉を返すのも億劫だったが、イカ焼きを貰ったばかりなので
一応相槌は返す。しかし美味いねこれ、もぐもぐ。
「いやでも、平松に兄的存在の幼なじみがいるっていうのは知ってたんですけど、それが
まさか今村さんだったなんて……」
「オイちょっと待て」
今コイツはなんつった。知ってた? 俺の存在を? どういうことだ?
「いやー平松と話してると時々出てくるんですよ。"幼なじみのお兄さん"っていうワードがね」
俺の表情でその言葉の先を察したのか、ニヤニヤしながら兵太が言葉を続ける。ちっ、
あの馬鹿マジでガキだな。高校生にもなってそんな事言い触らすか普通。
「まあ、正確に言うと平松を茶化す時に森本が好んで使うんですけどね、今の単語」
「……」
兵太の笑みが更に濃くなった。
グイ、ガキキッ
「痛たたたたたたた! ギブギブギブギブギブ!」
教育的指導として、イカ焼きを口にくわえてから奴の腕を引っ張りアームロックをかけ
てやる。てめぇ俺をからかうなんざいい度胸してんじゃねーか。
「ちょすいませんってマジで折れる折れる折れるんぎゃああああああ!!」
余りの絶叫ぶりに、周りの人たちがこっちに振り向く。流石に視線が痛ーな。まだまだ
やりたりねえがここらへんで解放してやるか。
「あー、いててて……」
「次似たような口きいたらマジでへし折るぞ」
「……森本の話では口は悪いけど優しい人だって聞いてたんだけどな…」
「なんか言ったか」
「イイエナンニモ」
睨みを利かすと、兵太はカタカタと口を動かして直立不動になる。上辺だけの言葉という
気がしなくも無いが、ここはやらないでおいてやるか。
「で、ちょっと聞きたいんですけど」
相変わらず話の切り替えのタイミングが唐突な奴だな。意を決したかのように唾を飲み
込むと、ずずいっと顔を近づけながら口を開いた。
「平松とはどんな関係なんですか?」
「んー?」
「いや、もうちょっとこう普段はどんな関係なのか具体的に知りたいなーなんて思ってた
り思ってなかったり……」
あーあーこの手の質問か。昔から紗枝との関係はよく訊かれたからな。ちょっとばかり
うんざりするもんがある。
「普段の関係もクソも、さっき言ったとおり幼なじみは幼なじみだよ。知り合ってからの
時間が長かっただけで別にアイツが特別ってわけじゃねえさ」
「そんなもんなんですか?」
「そんなもんなんだよ」
何を期待していたのかは知らんが、ここはビシッと言っておく。
「へー……」
俺の答えが満足するものじゃなかったのか、急に気の抜けた相槌を返してきやがる。
「で?」
「で、とは?」
「なんでンな事聞くんだ?」
「え! いや! それは! あの、えっとですねそのー……ちょっと興味が湧いたっつーか、
いわゆる一つのですね」
「長○監督かてめーわ。まあ別にいいけど、あまり良い趣味してねえな」
と、そこまで言ってからはたと思い出す。
『紗枝、お前さ』
『ん? 何?』
『一緒に行くメンバーの中に好きな奴でもいんのか?』
『えっ……なっ、なんで?』
『ほーそうかそうか、紗枝には好きな人がいたのか』
『ちっ、違うよ! そんなんじゃないってば!』
『いやいや照れる必要は無いぞ。お前も年頃なんだからむしろ当たり前だ。あー、こりゃ
当日が楽しみだな。誰が紗枝の好きな奴なのか見極めないとなぁ』
『だからそんなんじゃないって! ただ友達と海に行きたいだけだよ!』
くくくくくく……すーっかり忘れてたな。
「ど、どうしたんですか今村さん、急にニヤニヤして」
「いやー、一つ楽しみがあったのを思い出してねー」
紗枝の方はというと、相変わらず砂浜でビーチボールやったりして遊んでいる。ビキニ
だからあまりはしゃぎすぎるとちと危ないかもしれんが、まあ大丈夫だろう。貧乳だし。
傍には真由ちゃんやら橋本君やら……えーと後二人の名前なんだっけ。
「小関と戸部です」
そうその二人。要するに俺ら二人を除いた五人で固まって遊んでる。
「ごっそさん、イカ焼き美味かったよ」
残り僅かになったイカの身を一気に頬張り串をゴミ箱へと投げ捨てる。しかし中途半端
な時間に食ったもんだから逆に小腹が空いちまったな。どうするか。
「いえいえ。で、さっきの続きなんですけど」
兵太の方はまだ俺の方に質問があるようだな。どれ、ここは俺の食欲を満たす為に働い
てもらうとしよう。
「おおっと、なんか中途半端に食ったから余計に腹減ったな。俺の胃袋は、イカ焼き一つ
じゃどうも足らないと見える」
腹をさすりながら一回り大きな声でわざとらしく口に出してみる。
「……」
「いかんなぁ、これは早急に更なる食物を補給せねばならんようだ。でないと頭に栄養が
回らなくなって普段覚えていることまで忘れてしまうかもしれん。こんな物忘れの激しい
俺に、食べ物を恵んでくれる優しい優しいバイトの後輩はいないものかなぁ」
「……分かりましたよ、次は何が食べたいんですか」
「それは済まないね、では焼きそばを一つを頼むよ」
持つべきものは優しい後輩だね、ふはははは。
兵太は大仰に溜息をつくと、ぶつくさ言いながら売店へと近づいていく。いやぁ後輩の
『善意』に私の心は洗われるようだよ明智君。後輩に奢らせるなんて、俺って最低だね!
「はいどーぞッ」
最初の時より渡し方や口調に棘があったような気もするが気にしない。箸と一緒に焼き
そばを受け取る。
「おうご苦労、大儀であった」
蓋を開けると、胃袋にズドンという衝撃を与える香ばしいソースの匂いが襲い掛かる。
空腹時に嗅ぐこの香りは、人類最強兵器と表現してもいいのかもしれない。匂いで死ねるな。
ズズーーーーッ
「おおぉ……美味え…!」
思わず実感。つい自分の腿をビタンビタンと叩いてしまった。普段コンビニに頼ってる
と、こういう手作りの食べ物のありがたみがよく分かる。
「で、さっきの話…」
「時に兵太君、飲み物はどこかね。喉が渇いて仕方ないのだが」
「……」
「んー、こりゃいかん。水分を補給しないと思考能力が低下してしまって思い出せる話も
思い出せなくなってしまいそうだ。気の付く後輩が買ってきてくれるといいんだが」
「分かりましたよ買ってきますよ!!」
「ご苦労。君の将来はバラ色だ」
怒り肩になりながら自販機に向かう兵太の背中にせめてもの労いをかけてやる。買って
きてもらったウーロン茶のペットボトルを受け取ると、一口ぐいっと煽る。やっぱり人間、
飲み食いしてる時が一番幸せだよね。
「で!」
「ん?」
「いい加減質問しても宜しいですか!」
「質問? なんかあったっけ?」
「……」
すぐ隣からギリギリという歯軋りと不気味なうなり声が上がり始める。冗談の通じない
奴だな。そんなんだから高校生になっても七夕の願い事に『背が大きくなりますように』
とか書いちまうんだよ、中学一年の時までサンタクロースの存在を信じていたという斉藤兵太君。
「関係ないじゃないですか!」
「うるせーな冗談だよ。ホラ、さっさと質問して来い」
とは言ったが、怒りながらも兵太本人が否定してないところから事実かどうか推察して
くれ。
「…………じゃ聞きたいんスけど」
流石にご立腹な様子。ここは真面目に答えてやるか。
「平松とは本当に"ただの"幼なじみなんですか?」
「んー?」
真面目に焼きソバを頬張りながら適当に相槌を返す。兵太が何か言いたそうな表情に
なるが、それには気付かない振りをした。面倒な事態は御免だからな。
「……他の娘とはちょっと違った感情持ってるとかそういうのは」
さっきの質問と大して内容が変わってない気がするんだが。まあ焼きそばと茶を買って
きてくれたんだし、ちゃんと答えてやるか。というか焼きそばと茶を奢ってまで、どうして
こんなこと聞きたがるんだか。
「まぁ持ってることは持ってるが、それでも妹みたいな感じかな。お前が思ってたような
感じじゃないことは確かだよ」
「はぁー……そうなんですか」
期待外れなような、安心したような何ともいえない反応を返してくる兵太。とりあえず
ショックを受けたっていう感じでは無さそうだな。かといって、別段物凄く嬉しそうにも
見えないが。喜びと悲しみの表情を足して二で割ったような、なんとも微妙な表情だ。
「兵太」
「何ですか?」
「俺からも質問していいか?」
「お断りします。俺にも焼きソバとお茶奢ってくれるなら別ですけど」
「けっ」
真っ当な答えを返された。
うーん、しかし気になる。こいつが紗枝のことを好きだとするなら、俺の答えにもっと
喜ぶと思うんだが。さっきの表情は何なんだろうな。考えてることが顔に出る奴だから、
気持ちを隠したとは思えんし。
と、なんとなしに紗枝達に視線を向けると、全員がこっちに近づいてくる。なんだもう
遊ぶのに飽きたのか? 兵太を呼びたいんだったらさっきみたいに向こうから声かけりゃ
いい筈だし。
「おーい、もう疲れたのか」
「そうじゃないよ。たださ」
「?」
「時間も時間だし、お腹空きませんか」
紗枝の言葉の続きを代弁した真由ちゃんの言葉に反応して、時計を見てみる。十二時半
を過ぎている。海に着いたのが十時半過ぎだったから、もう二時間も経ったのか。意外と
早いもんだな。中途半端な時間だと思ってたが、そうでもなかったな。
「崇兄は腹減らないの?」
「ああ、俺は…」
ゲップ
「……失礼」
口元を拳で抑える。しまった……もうすぐ昼時ならもうちょっと我慢すればよかった。
皆の目を見ると、案の定一様に白い。
「兵太、てめぇがイカ焼きなんか持ってくるからだぞ」
「俺は食いますか、と事前に聞いたはずですよ」
いい度胸だ。貴様は後で殺す。
「悪いね皆、そういうわけで俺はもう昼飯終わっちゃったから行ってきていいよ」
ペットボトルに残っていたお茶を飲み干しながら、手をプラプラさせて答えてみせる。
同時に紗枝が口を尖らせ不満そうな表情になったように見えたが、俺と目が合うとフイと
目を逸らす。そして、えーっと、その、誰だっけ?
「小関です」
そう、その小関君の陰に隠れてその表情を伺えなくなった。小声でナイスアシスト兵太。
でもお前は後で殺す。
「いやでも、それもどうかと思うんですよ」
「ん?」
「今村さん全然楽めてないみたいですし。せめて飯くらい一緒に食いましょうよ」
誰かと思えば橋本君だ。そういや紗枝と話してる時も兵太と話してる時も、時々こっち
をちらちら見てたな。あれは俺の様子を伺ってたってことなのかね。
「でも俺腹いっぱいだしさ」
「カキ氷とかありましたよ」
今度は兵太が向こうにフォローを入れる。明日からお前のあだ名はコウモリ君だ。次の
バイトを楽しみにしとけ。全員に広めといてやる。
「迷惑じゃね?」
「そんなことないですよ、"紗枝のお兄さん"なんだし」
橋本君がそう口にすると同時に、紗枝と真由ちゃんを除いた四人の顔がにやりと笑う。
噂を流した真由ちゃんは我関せずと主張したいのか、知らん顔して視線を逸らし、紗枝の
方はというと、散々そのことで弄られてたのだろう、頬に空気を溜めムクれっ面になった。
「そっかー。そこまで言ってくれるなら、一緒に行かせて貰いますよ」
ここで俺が過剰反応したら面倒なことになるので適当に受け流す。昔紗枝と一緒にいる
ところを友人に見られたら必ず弄られたからな。いつの間にか耐性がついちまった。紗枝
の方は一向に慣れないみたいだが。つーか紗枝の奴も弄られるのが嫌なら、何で俺にこんな
こと頼んだんだろうな。よく分からん。
海の家に視線を移すと時間的なものもあって既に混み入り始めている。こりゃ、早めに
行かないとマズいかもな。俺が腰を上げるのにつられて、兵太も立ち上がる。熱された砂
をサンダルで踏みしめながら、皆揃って海の家へと向かっていった―――
|ω・`)……
|ω・`)ノシ ス、スレヲヨゴシチャッテゴメンナサイ
サッ
|彡
うはwwwwwwwwwww
リアルタイムで見たwwwwwwwwww
読みながら更新ボタン連打ですよ。
何だか人間関係が色々複雑になっていきそうで楽しみですよ。
それから主人公はいい加減紗枝の気持ちに気づけよ! みたいな。
楽しみに次回を待ってます!
久々にGJです!
&あげ
この話好きだよ
幼馴染ものにはあまりない、爽やかでない主人公がいいw
良い・・・
>>530、GJ。
そこをなんとか…後日談キボン
コミック版Canvas2といい、やさぐれ系主人公はいいね。
すいません、今から投下します。
お風呂から上がり、みいちゃんの用意してくれたTシャツと短パンに着替えます。
シャツがぶかぶかすぎて、襟ぐりから胸がみえてしまいそうになって、少し困ります。
……少しばかり迷いましたが、ブラと自分のキャミソールはTシャツの下に着る事にしました。
いや、どのみち今から見せないといけないわけなんですけども。
うう、我ながら往生際が悪いでしょうか。でもどんな格好でどんな顔してみいちゃんの前に出て行けばいいのやら。
今さらながら、さっきの自分の言動を思い出すと恥ずかしさで頬に熱が上ります。
脱衣所からでると、リビングの方から気配がしました。
……てっきり、お部屋のほうにいるのかと思ったのですが。
「――……あのう。みいちゃん?」
リビングの入り口からおずおずと声をかけると、ぱっとこっちを振り向きました。
「お、おォ。上がったのか」
はあ。とわたしが肯くと、今まで座っていたソファーから立ち上がって、こちらに向かってきます。
「――部屋。行くか」
ぼそり。と呟くと、わたしの手をとって歩き出します。
廊下を手を引いて連れていかれ、みいちゃんの部屋に入って、でん。と存在感を放つダブルサイズのベッドに
思わず体が固まりました。
あうう。今から何するかっていうのはちゃんと解ってるし納得もしてるし、なによりわたしも望んだ事なのですが、
今更ながらに具体性を帯びてきたっていうか、いつも見てるベッドなだけに、なんかやたらめったらに恥ずかしいんですけどー!
「――……まゆ」
急にすぐ近くからみいちゃんの声が聞こえて、はい。と顔を上げた途端に口付けをされました。
思わず閉じてしまった唇を割り、前歯を一本一本、舌先で探るように舐められると、おなかの下のほうから、
なにかぞくぞくしたものが心臓まで登ってきて、鼓動が一気に乱れてしまいます。
「――っは」
勇気を出してこちらからも舌を伸ばしてみいちゃんの舌先に触れると、より強く抱きしめられ、深く口内を弄られます。
息が上手くできなくなってしまい、苦しくてみいちゃんの肩を叩くと、わたしの唇からは離れましたが、そのまま
つう。と耳朶に舌を這わされます。
「――……やっ! ちょ、ちょっと、みいちゃ、ぁ……っ!」
耳を軽く咬まれたり、穴の中に舌を入れて舐められて、ぐちゅり。という水音が鼓膜に、アタマの奥で響くたびに、
おなかの奥から登ってくるぞくぞくが強くなってきて、膝ががくがくと震えます。
やっと止めてもらったときには、すでにみいちゃんの胸にすがり付いてやっと立っていられるような状態でした。
「……な、なんでこんな変なことするんですかぁー……。ばかぁー……」
力の入らない手で拳を握り、目の前の胸板をぽくぽくと叩いたのですが返事はなく。
そのかわり、そのまま荷物でも持ち上げるみたいに抱き上げられて、ベッドまで運ばれてしまいます。
「――あ」
ぽふん。と優しく抱き下ろされて、見上げるとみいちゃんが覆いかぶさってきて、そのままちゅっ。と軽いキスを
され、そのまま耳や首筋に何度も口付けをされ、そっちの感触に気を取られている間にTシャツの裾から
みいちゃんの手が、するり。と入ってきます。
「……ひぅっ」
その手の冷たさに、思わず、情けない声が漏れてしまいます。
手は、そのままわたしのおなかを撫で、背中の方まで背骨を辿るようにしながら回ってきます。
「わ、ひゃあっ」
……ブラのホックがぷつり。と外されてしまいました。胸の辺りに、急に開放感が生まれ
ひどく心許無い気持ちになってしまいます。
「う、や、ちょ、ちょっと、みいちゃん…っ」
「待て。ってェのなら聞けねェぞ」
「あ、や、やぁ……っ!」
裾を捲り上げられて、おへそのあたりに口付けられました。
「ふぁ、や、くすぐった……!」
な、なにをするんですかーっ!?
そのまま、わたしの肌に痕をつけながら、唇が上のほうにゆっくりとあがってきます。
同時に、右手はおなかの脇をくすぐる様に撫でながら、胸の方に近づいてきます。
先ほど、ホックを外されたときから本来の用途を成さず、乳房の上に乗っかっているだけのモノになっていたブラを
そっとずり上げられ、胸の真ん中に口付けをされます。
……うう。ものすごく恥ずかしい……!
なんというか、まだ直接には触られていないのに、いえ、だからこそひどく気恥ずかしく、きまり悪い思いでいっぱいです。
みいちゃんの顔がマトモに見られないのですが、視線がわたしの――、その、無駄にでっかいみっともない乳房に注がれているのは、なぜかわかってしまいました。
どうしよう。泣きたい。眼の縁が、じわりと熱くなります。
「……かわいい」
……はい?
「まゆー。今、オマエ、かなり可愛いぞ」
驚く暇もなく、乳房を優しくつかまれ、ふにふにと揉まれます。
「うわー、凄ェな、やわらけー……」
「……ふ、う……」
「――痛かったか?」
「い、いえ、別に、痛くは……」
痛くは、ないのです。ただ、その、なんというか――。
――熱い。
みいちゃんに触られたところから、ぽかぽかと熱を持ったように、ひどく熱いのです。
「ん、あ、は――。ひ、ふあっ!?」
普通の皮膚との僅かな境。淡い桃色をした乳輪の際を爪先で微かに引っかくように触れられ、悲鳴が漏れます。
いや、だ――! なんで、これだけで、こんな――!?
そのまま、乳輪を優しく撫でるようにされます。それだけで、乳房がじんじんと熱を持つのが、自分でもわかってしまいました。
「……お。勃ってきた」
なにがですか。と聞き返すまでもなく、乳首がはしたないほど熱を持って、きゅう。と硬く尖ってきているのを自覚しました。
恥ずかしい。
羞恥のあまり、脳がまるで沸騰したかのようにぐらぐらとしてきます。
悲しくも無いのに、ほとんど生理的に涙が後から後からどんどんと湧いてきます。
「……泣くンじゃねえよ」
目じりに滲んだ涙を、そっと舌で拭われました。
「ご、ごめんなさい。わたし、あの。だいじょうぶ。ですから」
――イヤなわけではありませんから。
そういって、わたしからみいちゃんの唇に口付けをします。
すると、びっくりしたように目を見開いて、わたしの頭の真横に顔を埋めてしまいました。
「え。あ、あの、みいちゃん……?」
どうしたんでしょうか。
完全に私の身体を押しつぶすように乗っかられてしまっているので、ちょっと苦しいですし、それに、あの。
……みいちゃんはまだ服を着たままなので、シャツを捲りあげられて完全に露になってしまっているわたしの胸の、
その、……さきっぽ、が。みいちゃんの胸に当たってこすれてしまって、落ち着かないのです。
「みいちゃん、あの? どうしました?」
「――……ちきしょー、今のマジできた……」
耳元で、そんな呟きが聞こえました。
え? あのー?
「……まゆこー、最初に謝っとくわ、ゴメンな」
そう、意味不明なことを言われました。
「――優しくするって言ったけどなァ、あれ嘘だ」
え? ええ――っ!?
「無理。マジ無理。ちゃんと優しくするつもりだったけど、やっぱ無理。
―――オマエがあんまり可愛いコト言うのが悪い」
「ちょ、みいちゃ」
ん。と最後まで言うヒマもなく、硬くなっていた胸の尖りを爪で引っかくように刺激され、高い悲鳴が口から漏れます。
「や、ひゃ、ひぅ、ふ、んっ、んぅ〜!」
いつもの自分の声とは全然違う、鼻に掛かったような高い悲鳴を聞かれる事がたまらなく恥ずかしくて片手で口を覆います。
「おいコラ。手ェ除けろ。声聞かせろよせっかくなんだしよ」
や、やだ、そんなの無理ですよう……っ!
顔見られるだけでも凄い恥ずかしいのにー!
て、いうか、なし崩しにはじまったせいで、電気つけっぱなしなんですけどー!
「……それより電気消してください。こんな明るいの、わたしイヤです……」
「却下。俺は明るい方が楽しい」
即答ですかこんにゃろう。
「だ、だったら、わたしもうしませ――」
と、いい終わる前に、きゅうきゅうに硬くなってしまっている胸の尖りの先を、爪を立てるようにしてくじられます。
「や、ひぁんっ!」
その、強烈な刺激にびくん。と腰が浮き上がってしまいます。
「ず、ずるい、ですよう。それ、やめてください……!」
わたしがそう抗議すると、嬉しそうにニヤニヤと笑いながら、
「それ? それって何だよ? ちゃんと言わなきゃわかんねェぞ?」
などと言ってきます。
「だ、だからその、む、胸を」
「んー? 胸の、どこだってェ?」
「あ、あの、ですから。……ちくび、いじめるの、やめてください……!」
そこまでいうのが精一杯。恥ずかしすぎて、両手で顔を覆って枕に顔を埋めてしまいます。
頭をぽむ。と撫でられた後、ベッドの軋む音と一緒に体が離れた気配がした後、部屋が暗くなるのが、
瞼越しにも解り、顔を上げます。
ぱちん。と音がして、ベッドサイドのルームランプの柔らかい光が灯りました。
「――とりあえず、これでいいか?」
身体を起こして見上げると、ちょっとバツの悪そうな顔のみいちゃんと目が合いました。
「電気消せっていうけどなァ、俺からしたら暗いのはかなり哀しいんだぞ。
……せっかく好きな女抱いてるってェのに、顔も見えねェってのは、ちょっとなァ」
「はあ、あの、すいません……」
何故か思わず謝ってしまいます。
ベッドにぺたん。と座ったままの状態で抱きしめられ、背中をつう。と撫でられます。
捲れあがっていたシャツをすぽん。と脱がされ、肩に引っかかっているだけだったブラも剥ぎ取られ、
そのままお尻にまで手が伸びてきて短パンまで脱がされそうになります。
「み、みいちゃん、ちょっと待ってください……っ!」
「待たない」
「わ、や、で、でも、みいちゃん全然服脱いでないじゃないですかあっ!」
……そうなのです。
わたしのほうは、もう上半身には何も身に着けては居らず、下半身の方もすでに風前の灯なのにも関わらず、
みいちゃんのほうは、不公平な事に、さっきから全く脱いではいないのです。
「あ? ああ、そういやそうだな」
そういうと、ぱっぱと服を脱いでしまい、残ったトランクスにもあっさり手を掛けて脱ごうとします。
「わあっ! ちょ、ちょっとまってくださいーっ」
「……ンだよ。脱げっつったり、脱ぐなっつったり」
だ、だだだ、だってー。
「まァ、お互いガキの頃とは大分変わってるだろうしな。オマエさんは相変わらず毛ェ薄いみたいだけど」
そう言い終わって、肩を掴まれたかと思ったら、わたしは、ころん。とあっさりベッドの上に転がされてしまいました。
そのまま短パンを足からあっさり抜き取られてしまいます。
「きゃあっ!?」
わたしの片足を肩の上に抱え上げるようにして、足を開かせたかと思うと、膝の辺りから付け根に向かって、
内腿をつう。と舐めあげてきます。
そのまま、足の付け根のまわりを舐めたり、強く吸い上げてきたり、軽く咬んだりされてしまい、そのたびに
おなかの奥や、……脚の間が、きゅうきゅうと切なくなってきてしまいます。
胸のほうにも手を伸ばしてきて、やさしくたぷたぷと触られたり、そうかと思えば、指が埋まるほど強く握られたり、
もう完全に硬く尖りきってしまった乳首をイジメてくれたりしているのに。
……真ん中の、ソコにはなかなか触れてくれません。
自分でも、もうそこが恥ずかしいくらいに湿り気を帯びてきている事がはっきりと解ってしまいます。
ふ。と息を吹きかけられるたびに、びくり。と身体を跳ねさせてしまって。……みいちゃんも、もう気づいているのだと思います。
「――まゆ」
そう、耳元で名前を呼ばれ、すっかり湿ってしまった下着越しに、つう。とわたしの中心を撫でられます。
「……っあ、ひあ……っ!」
何度も下着越しに指で擦り上げられ、悲鳴を――いえ、嬌声をあげてしまいます。
恥ずかしさと自己嫌悪で、もう目を開けていられません。
そう思っていると、優しく髪を撫でられました。
「――無理しなくていいからな? 痛かったら、ちゃんと言えよ?」
そういうと、今まで下着越しの刺激だったのが、下着の股布の横から指が入ってきて、直接、わたしの中心に触れました。
「ふあ、あ、ひぁあんっ」
トクトクドクドクと、まるで心臓がソコに移ってしまったみたいになってしまいます。
「……うわ、スッゲ。まゆこー、オマエ、ぬるぬる」
「そ、そういう事、言わないで、くださいよう……っ」
みいちゃんが指を動かすたび、ちゅく。といやらしい水音がわたしの耳にまで響いてきて。
――ものすごく恥ずかしいのに、すごく気持ちが良いのです。
「や、あ、いた、あ……っ!」
急に、びり。と痛みが走ります。
「……あー、やっぱ、指だけじゃ無理かー……」
そう呟く声が聞こえると、するりと、あっさりと最後の下着が剥ぎ取られてしまい。
「わ、わあっ! ちょ、ちょっとみいちゃん、そんな事したら、ダメ――っ!」
気がつくと、わたしの足の間にみいちゃんの頭がありました。
必死で手でソコを隠そうとしますが、あっさりと払いのけられてしまいます。
「我慢しろ。つうかな、ちゃんとやっとかねェと、痛てェのはオマエだぞ?」
そういうと、さっきまでの指とは全く違う感覚が襲ってきます。
「……ふ、ん……っ! んん、ふ、ぅー……!」
やあ、だ、ダメ、変に、変になる、なっちゃいますよう……っ!
ナカをみいちゃんのゆびでこすりあげられて、いちばんきもちいい上のほうの尖りを、ちゅう。と吸われた瞬間。
「あ、だ、ダメ、らめぇっ! 見ないで、みないでくださ、あ、や、ふぁあん……っ!」
目の前が真っ白になって、がくがくと身体を震わせながら、わたしは達してしまいました。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――わたしのからだが少し落ち着くのを待っている間に、みいちゃんのほうも準備を済ませており。
「――途中でやめるの、無理だからな。泣いても喚いても噛み付いてもいいから」
「……が、頑張ります……」
こくん。とわたしが肯いたのを見て、腰をゆっくりと進めながら、みいちゃんがわたしのナカに入ってきます。
先端が、くちゅり。と音をたててわたしに触れたかと思うと。
「……いっ、うう〜……」
指なんかよりも数倍の質量。
ぎしぎしとわたしを押し広げて、みいちゃんのがナカにはいってきます。
「――は、はあ……っ!」
ちょっとでも楽に受け入れられるようにと、必死で深呼吸をします。
見上げると、みいちゃんも苦しそうな顔でわたしを見下ろしていました。
「――痛いか? ……痛ェよなァ」
「だ、だいじょぶ、ですよう。へいき、です」
必死の努力で笑おうとしましたが、上手く笑えていたでしょうか。
無言でぐっ。と腰を押し進めてきます。ん、きつい。けど、一番最初よりマシで、しょうか……。
気がつくと、みいちゃんは、わたしを抱きしめたまま、微動だにしておらず。
「あの、みいちゃん? ……ぜんぶ、入りました?」
んー。と返事が返ってきます。
「……まゆ。大丈夫か?」
「あ、は、はい……。あ、でも、動かないで、くださいね……」
はあはあと洗い呼吸をして、何とか息を整えて痛みと圧迫感を逃そうとします。
「あの、もう、だいじょうぶ、です」
そう、わたしが言うと、ゆっくりと腰を揺らめかせるようにしてみいちゃんは動き出しました。
――気を使って、くれてるんですね。
そう思うと嬉しく、痛みで引いていた体の熱が帰ってくるように思います。
「あ、は、んん――っ!」
みいちゃんが二人の間のぬめりを取って、親指でわたしの一番敏感な尖りに塗りつけ、刺激してきます。
あ、や、そっち、キモチいい……っ!
「んあ、あ、みいちゃ、みいちゃん……っ!」
好き、大好き、大好きです……っ!
「―――まゆこ……っ!」
耳元で、呻くように名前を呼ばれた記憶を最後に、ぷつん。と、わたしの意識は途切れました。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「――ふぁ?」
目を開けた瞬間、自分が今、どういう状況でどこにいるかを咄嗟に掴む事ができませんでした。
「……お。起きたか、まゆ」
背後から、裸の(わたしもですが)みいちゃんに抱きしめられているとわかった瞬間、一連の
記憶が怒涛のように蘇り、恥ずかしさのあまり布団の中に潜り込んでしまいます。
あうう。照れくさすぎて、みいちゃんの顔を見る事ができません。
「……オマエな、さっきまでアレだけの事しといて、いまさらそんな恥ずかしがるな?」
そうは言っても、恥ずかしい物は恥ずかしいんですよう……。
――って、アレ?
「み、みみみ、みいちゃんっ? すいません、今何時ですっ? わたし、どれくらい寝てましたっ!?」
「――あ? ンな長い事じゃなかったと思うが。まだ5時だぞ?」
ひ、ひいいいいいいいいいいっ!?
今日、おとうさん出張なので二人とも6時前には起きるはず――っ!
「す、すいませんみいちゃんっ! わたし、もう帰りますね――っ!」
みいちゃんの頭にすっぽり布団をかぶせて見えないようにして、大慌てで昨夜着てきた服に着替え、家に帰って
お風呂に入ります。
ちょうど、お風呂から上がって髪を乾かし始めた頃、両親の寝室から目覚ましが聞こえて二人が起きだしてきました。
幸い、二人とも夜中にわたしが抜け出したことには全く気づいていないらしく、今頃入浴している事も、昨夜
入浴せずに寝てしまったので、早起きして入ったという言い訳も疑っていない様子です。
……すぐ後に、みいちゃんが何食わぬ顔でやってきて、家族団欒+1で朝食をすませ、学校への道を二人一緒に歩きます。
大きな口であくびを連発しながら前を歩くみいちゃんの制服の袖を、思わずきゅっと握ってしまいました。
少しびっくりしたような顔でこっちを振り向かれ、慌てて手を離します。
や、やだな、つい浮かれてしまいました。
「――なにやってんだ、まゆ」
そ、そうですよね、すいません。
「手、繋ぐんだろ? 早くしろよ」
そういうと、わたしの手を取ってずんずんと歩き出しました。
梅雨明けも近い、青空の下。
二人で手を繋いで、一緒の道を歩きます。
このひとが、わたしのすきなひと。
いつもいつも長い事かかってすいません。
ずいぶん時間が掛かりましたが、とりあえずは一段落がつきました。
この二人のその後の話もつらつら考えてはいるので、また書く事ができたら、
投下させていただきたいと思っております。
それでは皆様、幼馴染み万歳。
まゆの反応、可愛いすぎるよ(;´Д`)ハァハァ
その後の二人も楽しみに待ってます。
起ちますた
キタ━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━!!!!!
GJ!地球を軽く8周するくらい首を長くしてお待ちしておりました。
このふたりの話凄く好きだ。
前スレで台風作品を投下した者です
流れぶった切りですが、投下させていただきます
前と同じく成人物で、コンセプトは再会で
私が小さな頃に住んでいたのは社宅だった。
三件の家が連なっていて、私の家は左端。
真ん中の家に住んでいたのは、もう中学生ぐらいの女の子がいる家庭。
私は「カナちゃん」と呼んでいて、遊んでもらった記憶もあるけれど、私が小学校に入学した年に引っ越してしまったので、細かいところまで覚えていない。
そして、右端の家に住んでいたのは私より少し年上の男の子がいる家庭。
「ナァくん」と呼んでいた事は覚えている。
でも「ナァくん」の家は「カナちゃん」の家と同じぐらいの時期に引っ越してしまった。
と言っても、私が小学三年まで同じ学校に通っていたから、たぶん近所に引っ越しただけだったんだろう。
でも、やっぱり私は「ナァくん」の事もうろ覚え。
そんな私は小学四年の時に、産まれ育ったこの街を離れる事になった。
平たく言えば父親の都合。
そして社宅は空になったけれど。
更に十三年。
大学を卒業した私は、新任教師としてこの街に帰ってくる事になった。
四月。
一年浪人はしたものの一応新卒の私は、まだ人気の薄い小学校の門をくぐった。
生徒よりも早く、教員は四月の始めに配属された学校へ顔を見せる事になる。
着任式と言う程でもないけれど、これから最低でも一年お世話になる学校だ。
始業式が始まるまでに仕事は山ほどある。
春休みの間は、以前から着任している先生は交代で休みになっているらしい。
私が顔見せに来たこの日も、全員が揃っている訳じゃなかった。
「新任の長谷部千草です、よろしくお願いします」
他の学校から赴任してきた先生に混じり挨拶をする。
他の先生方はベテランが多い。
固くなった私だったけれど。
私の母と同じぐらいだろうか。
人の良さそうな教頭先生が、私の様子ににっこりと笑った。
「よろしく。馴れないうちは大変だけど、何かあったら遠慮なく言ってね」
「はい、ありがとうございます」
「長谷部先生には二年を受け持ってもらう事になると思うわ。生徒も初めて「先輩」になるけど、まだまだ発展途上だから。一緒に成長していくぐらいの気持ちでね」「は…はい」
固さを残しながらも何とか挨拶を終え自分の席に着いた私は、まずは身の回りを整える事にした。
「門田先生見なかった?」
「煙草吸ってくるって言ってましたよ」
「教材屋さんの資料何処やったっけ」
「印刷室空きましたー」
あちらこちらで交される会話。
思っていたよりもフランクなのか、先生達の遣り取りには堅苦しさはない。
うん、これなら何とかやって行けるかも。
不安ばっかり抱えてたって仕方ないもんね。
受け取った資料を整え、机の引き出しを整理する。
明日は教科書の業者さんが来るとかで、まだ私の机の上は寂しい。
それでも片付けを終えた私がホッと一息ついていると、隣の席にバサリと紙束が置かれた。
振り向くと、さっきは居なかった男の先生が、まじまじと私を見下ろしていた。
ボサボサ頭にジャージ姿で、年の頃は私とあんまり変わらなさそうなんだけど。
……えーっと…。
他の先生が気にしてないってコトは、勿論この人も先生なんだろう。
で、資料らしき物を置いたってコトは、恐らく私の隣だろうし…。
「し…新任の長谷部です…。……よろしく」
物珍し気に私を見つめる視線に耐えつつ、何とか頭を下げて挨拶をする。
顔を上げると先生は「あぁ」と合点がいったらしく、椅子を引くとそこに座った。
「四年目の門田。…ま、一年間ヨロシク」
……人を馬鹿にしてるんだろうか、この人は。
飄々とした口調は何だか得体が知れない。
さっきの視線とは打って変わって全然私を見ようともしないし。
正直、ちょっとばかりムッとしないでもなかったけれど。
はぁ…と曖昧な返事を返して、私は自分の仕事に戻る事にした。
とは言っても、今日はもうする事ないのよね…。
教頭先生に指示を仰ごうにも、先生の姿は見えないし。
居場所がなくて迷う私だったけど、不意に後ろから声が掛った。
「門田先生」
振り返ると年輩の先生が眉を釣り上げている。
名前を呼ばれた門田先生を見ると、彼はあからさまに眉をしかめていた。
「部会会議の時間過ぎてますよ。早く会議室に来てください」
「あー、スンマセン。すぐ行きます」
「早くして下さいよ、まったく」
お世辞にもふさふさとは言いがたい頭を撫でながら、年輩の先生は足早に職員室を出て行く。
門田先生は立ち上がると、一部始終を眺めていた私を振り返った。
「梅田センセ。新任いびりが趣味みてぇな奴だから、何か言われても気にすんな」
「…はぁ」
「それと、片付けが終わったら今日はもう上がって良いぜ。教務の玉置センセに挨拶だけしとけよ」
さっきと変わらず飄々とした態度を崩さずそう言うと、門田先生はボサボサ頭を掻きながら職員室を出て言った。
……アドバイス…だよね、今の。
思ってたより悪い人じゃないのかも。
自然と溢れた笑みを隠さずに、私はゆっくりと帰り支度を始めた。
春休みが終わるとあっと言う間に始業式やら入学式。
怒涛のような日々は過ぎ、バタバタしていた私がようやく仕事に馴れたのは、四月も終わりに差し掛かった頃だった。
始めて受け持つ担任は予想以上に大変だったけれど、その分遣り甲斐なんかも感じられて。
それなりに充実した日々を送っていた。
そんなある金曜日の事。
「センセ、お暇だったら今日、飲みに行かね?」
放課後、教室から戻った私を待っていたのは、門田先生のお誘いだった。
職員会議もなく明日の準備を済ませればこれと言った用事もない。
私は席に付くと授業の準備をしている門田先生の方を見た。
「飲みに…ですか?」
「あぁ。歓迎会じゃねぇけど、若いセンセと話す機会があっても良いだろ」
そう言えば、ここ最近は忙しくてあまりのんびりしていない。
歓迎会みたいな事もしてもらっていないし、プライベートじゃ他の先生と話す機会がなかったのも確か。
「特に用事もありませんし、構いませんよ」
私が言うと門田先生は僅かに口許を綻ばせた。
「なら六時半に駅前で。俺、コレ片付けなきゃなんねぇから」
トントンとペンでつついたのは、保護者に配布する学級新聞用のプリントだった。
来週末には配らなきゃならないのに…大丈夫なのかな、この人は。
そう思いはしたけれど、私は敢えてそこには触れず、素直に頷く事にした。
「分かりました、六時半に駅前で」
「ん、何かあったら連絡するわ」
先生同士にも連絡網は存在する。
特にこの御時勢、何があるやら分かったもんじゃない。
私が学校に申告してあるのは、他の先生と同じく携帯の番号なので、門田先生も知っていて当然。
私は荷物をまとめると、一度帰宅しようと学校を出た。
こんな時、独り暮らしは身軽で良い。
六時半より少し前に駅に着くと、門田先生はもう来ていた。
流石にジャージ姿じゃないけれど、学校から直接ここに来たらしい。
「すみません、お待たせしました」
言いながら辺りを見回す。
でも……。
「いや、平気。じゃあ行くか」
「え?でも、他の先生は…」
私の言葉に門田先生は一瞬不思議そうに首を傾げた。
「いねぇ。俺とセンセの二人だぜ?」
……はい?
「そうなんですか?」
思いもよらぬ言葉に、私の目は丸くなった。
門田先生は大きく頷くと、気にする事なく歩き出す。
「でも若い先生とって…」
慌ててあとを追うと、門田先生はゆっくりと歩きながら口を開いた。
「若いじゃん、俺も長谷部センセも」
「いや、そうなんですけど」
「誰も他のセンセが来るなんて言ってねぇけど?」
……っ。
確かに……。
「居酒屋で良いよな」
「……何処でも」
やられた。
絶対確信犯だ、この人。
言葉を失った私の様子に門田先生は薄らと笑っている。
別に何かあるかもとか危惧してる訳じゃないけど、こう来られるとは……。
やっぱり得体が知れないわ、この人は。
居酒屋に入って三時間。
ビールとつまみを口にしながら、私と門田先生はとりとめもない会話を交していた。
門田先生は私と同じく二年を受け持っている。
新任の時から四年間同じ学校で、年齢の割には古株だ。
アルコールも手伝ってか、愚痴やら心配事やらを話すけれど、先生は嫌な顔一つせずに淡々とそれに応えてくれた。
「そう言やさ」
焼き鳥を口にしながら門田先生が口を開く。
私は三杯目のビールを注文すると、向かいに座る門田先生を見た。
「長谷部センセ、下の名前、千草…なんだよな?」
確認を取るような口ぶり。
普段の私なら不思議に思っただろうけど、アルコールのせいか私は素直に頷いた。
「そうですよ」
「……んー、そっか…」
私の予想に反して、門田先生は考えるように眉間に皺を寄せる。
いったい何だろう。
「どうかしたんですか?」
私の問いに門田先生はちらりと私を見ると、ガリガリと頭を掻いた。
「妙な事訊くけどさ」
「はい?」
「子供ン時……ここら辺に住んでたりしなかったか?」
……?
何でこの人が知ってるんだろう?
私はまじまじと門田先生を見つめる。
先生も返事を待つようにじっと私を見返している。
私の頭の中は依然疑問符まみれ。
ざわざわと漂う喧騒が、その沈黙を埋め尽していた。
「……小学生の時に…」
頼んだビールが運ばれて来た頃、ようやく私はポツリと呟いた。
それを聞くや否や、門田先生の表情に安堵の色が浮かぶ。
私は舐めるようにしてビールを口にするとジョッキを置いた。
「何で知ってるんですか?」
「覚えてねぇかな…」
嬉々とした表情を隠そうともせず、門田先生は言葉を紡いだ。
「チィちゃんだろ?同じ社宅に住んでたんだよ、俺」
………?
同じ社宅……?
その単語に私の頭はフル回転。
アルコールが入っているとは言え、まだまだ正常に稼働する範囲。
古い記憶を掘り起こす事しばし。
「………ナァくん…?」
自信なさげに問い掛けると、門田先生は嬉しそうににっこりと笑った。
「そう、門田直樹。良かった〜、間違いじゃなくて」
そう言ってビールを飲み干した門田先生──いやナァくんは、年相応ではあるけれど、記憶の彼方に薄らと浮かぶ子供の時と同じように笑う。
私は思わぬ出来事に言葉を失ったまま、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「長谷部なんてあんま聞かない名前だろ?名前見た時から、もしかして…と思ってたんだけど」
焼き鳥の串に手を伸ばしながら、門田先生は言葉を続ける。
「まさかホントにチィちゃんとは思わなくってさ。自信もなかったし」
「あ……うん」
私も意外よ、この展開は。
何だか急に頭の中が混乱して、私はグビとビールを飲んだ。
「でも良かった。いつ戻ってきたんだよ」
「大学の時…こっちの大学通ってたから」
「そっか」
まるで心配事がなくなったように門田先生は笑う。
けれど私は微妙に落ち着かない。
十三年は、はっきり言って長い。
いくら子供の時を知っていても、いきなりその時代には戻れない。
それは門田先生も同じらしく、それ以降は初対面の時と同じように、馴れ合う様子は見せなかった。
お店を出たのは、それから間も無くの事だった。
「今日はご馳走様でした」
「いや、こっちこそ。思わぬ収穫もあったしな」
ヒラヒラと手を振った門田先生は煙草の箱を取り出しながら、ゆっくりと駅へと向かう。
私は隣を並び歩いた。
「おじさんとおばさんにもよろしく。俺も親父とお袋に言うし」
「あ…はい」
やっぱり落ち着かない。
いや、居心地が悪いとかじゃないのよ?
ただ、幼馴染みなんだけど、どこまで接して良いのか悩むのよね。
そのせいか私は始終無言。
門田先生も黙ったまま、さして長くない道のりを二人で歩く。
私は駅に自転車を置いてあるので、送ってもらわなくて済むのが唯一の救い。
門田先生はどうやら電車通勤らしい。
「じゃあ、また」
改札の前で足を止めると、門田先生は返事もなく私を見下ろした。
「なぁ」
「はい?」
ポーカーフェイスの先生は、何を考えているのか本当に分からない。
落ち着きなく視線をさ迷わせるでもなく、門田先生は真っ直ぐに私を見ると、不意にニカリと子供のような笑みを向けた。
「今更だけど、俺チィちゃんの事好きだったんだぜ。だから…また会えて良かった」
何の屈託もなく言うけれど、先生はすぐに照れ臭そうに視線を外す。
私は一瞬きょとんとしたけれど。
「…うん。…私も、ナァくんが居て良かった」
少しだけ笑って見せると、門田先生はもう一度、安心したような吐息を吐いた。
「じゃ、また来週」
「はい、お休みなさい」
ヒラと手を振った先生はそのまま改札を抜けてホームへ向かう。
私も後ろ姿を見送ることなく踵を返すと、駐輪場へと向かった。
大人になった今、子供の時のように屈託ない付き合いは出来ないだろう。
「チィちゃんとナァくん」じゃなく「長谷部先生と門田先生」なんだから。
それでも。
不思議と心の奥はほっこりとしていて。
これから先の一年に、少し不安がなくなった私は、一人小さくガッツポーズをした。
592 :
582:2006/04/14(金) 03:36:59 ID:pNFPjvus
以上です
何だかスレの主旨とズレてるような気がしなくもないですが、こう言う幼馴染みもありかなと……
続きが書けましたら、また投下しに来ます
お目汚し失礼しましたー
学生じゃなくて先生の幼馴染みって新鮮かも…
GJ!
つい読みふけったぜ。
続きを所望する
595 :
名無しさん@ピンキー:2006/04/18(火) 21:29:24 ID:m72IdDyP
動きがないので浮上。
みんなたまには雑談しようぜ。
じゃあ剣太と鞘子の続きマダー?
とキボンヌしてみる
名前欄に残ってた……orz
雑談の場合とかコテつけない方がいいのかな
なんか嫌味とかになるかな?
>>598 そりゃ付けない方がいいに決まってる。何かと荒れる元になる
待っててくださった方、ありがとうございます。ごめんなさい。
短いですけど続きです。
10月の風は、私の嗚咽を攫ってはくれない。
子供みたいに声を上げて泣き続ける私を、剣太はどう思っているのだろう。
困らせたくなんかないし、こんなみっともないところを見せたくなんかないのに。
でも止まらない。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
どうしようもなくって結局滲み続けている視界に、真っ白なタオルが差し出された。
「……鼻水垂れてんぞ」
「っ!!」
剣太が「うぉっ!」と声を上げてしまうくらいの早さで、タオルを引ったくり顔を覆う。
(信じられない…!)
泣いてる女の子に向かって言う言葉が『鼻水垂れてる』?!
何を考えてるんだ、この幼馴染みは……!
タオルの隙間から剣太を睨む。
理不尽に睨まれた剣太は、苦笑しながらしかめっ面をするという器用な表情をしていた。
「……泣かれると困る」
ぼそり、と剣太がつぶやく。
「……うん」
私の声は自分でも予想外に小さくて、剣太に伝わっただろうか。
チラリと剣太を見上げると、剣太は笑っていた。
――――ああ。
なんで、どうして、こんな些細な事で心臓が馬鹿みたいに早く動くのだろう。
剣太の笑顔を見ただけで、どうしてピタリと涙が止まるのだろう。
馬鹿みたいだけど、本当に馬鹿みたいだけど、私が怒ったり、泣いたり、ドキドキしたり嬉しくなったりするのは全部、剣太が原因で。
それはもうずっと昔からそうで。
つまりは――――私は結局、剣太には勝てないんだ。
熱くなった頬を隠すように、私は再びタオルに顔を埋める。
「……剣太の馬鹿」
私だけがそうやって剣太に振り回されているのが悔しくて、意味もない憎まれ口を叩く。
でも剣太は、そんな私を笑顔で見つめるだけだ。
「鞘子」
名を呼ばれた。
それだけで私はまた馬鹿みたいに恥ずかしくなって、それを誤魔化すために口をつぐんだまま剣太を睨む。
私と向かい合う剣太は、再びしかめっ面をしていた。
「……俺、子供じゃねぇけど大人でもねぇぞ」
え?、と意味の分からない剣太の言葉に視線を上げる。
一定の距離を保ったままで、剣太は真っ直ぐに私を見つめている。
その目がいやに真剣で、私は剣太が緊張しているのだとわかった。
珍しく言葉を探るように、剣太がゆっくりと口を開く。
「……今だって、鞘子が泣いても何言ったらいいかわかんねぇし……」
「剣太」
「でもな」
私の言葉を遮った剣太が、一歩私に近づく。
「俺は男だから。だから、鞘子を守れるように早く大人になりたいって思ってる」
まさに衝撃だった。
私の心を強く打ち抜いた剣太の言葉に、くらりと視界が回ったような気さえしてしまう。
「……どうしよう……」
「鞘子?」
「どうしたらいいのかわかんない……私、何て言えばいいの……?どうすればいいの?」
嬉しいのか恥ずかしいのか悲しいのか。
自分の感情がわからない。手に負えない。
私の言葉に一瞬だけびっくりした剣太が、もう一歩私に近づいた。
「……笑ってくれよ。そんだけでいい」
「剣太……」
「……鞘子が嫌だってんならもう触らねぇから、だからさ、……いつもみたいに笑って怒れよ」
今度は剣太は動かない。一歩も踏み出さない。
距離を取った剣太はいつになく真面目な顔をしていて。
こんな風に頭がグチャグチャになっているときにすら、その顔にドキドキしてしまう私は。
「…………嫌、じゃない」
ようやく出した言葉はやっぱりそっけなくてかわいげのない物だった。
でも。
「私も、早く大人になりたい」
だって、いつまでもこんな風に泣いたりドキドキしたりしていたら私の身が持たない。
それに。
「……私より先に大人にならないで」
剣太にくせに、ってまた可愛くない言葉を付け足してしまうこの性格を自分でも嫌だと思うけど、でも剣太はすごく楽しそうに笑い声を上げた。
「鞘子らしいな」
「……なにがよ」
「変なところで負けず嫌いなとこが」
楽しそうというより嬉しそうに笑い続けたまま剣太が言う。
その態度が、やっぱり私よりも大人な気がして……嬉しくてくすぐったいのだけど癪に障る。
にこにこする剣太を動揺させてやりたくて、私は一気に剣太との距離を詰めた。
ちゅ
驚いて身動きをしなかった剣太にかけた奇襲は成功した。
ちゃんと、唇に。
「……ざまぁみろ」
そう言って剣太を見上げる。
「……降参」
白旗を揚げた剣太が、ずるずるとその場にへたりこんだ。
今回はここまでです。
続きます。
鳥間違えた……
これはこれはGJ
急かしたみたいで申し訳ない
続きキタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━!!!!!
ずっと待ち望んでいました
タオルで顔隠す鞘子がもう(*´∀`*)
初投下してみる
えろもラブ度も薄目
変な男の子と世話焼きな女の子の話。
606 :
かくれんぼ1:2006/04/20(木) 18:34:20 ID:1nuX7Eaw
その日あたしは、奇妙で少しおぞましい、でもちょっとわくわくするような、全体的に言えば悪夢のような体験をしたのだった。
思えば、幼稚園からのつきあいである徹は変であり、ぼやっとしていた。
連綿とぼやっとし続けていた。
道ばたで石ころにつまずくなんていうのは当たり前であり、服を裏返しに着ていたり、連絡帳を忘れたり、遠足の日に間違えてランドセルで来るなんて事さえした。
おかげであたしは、徹の分までしっかりしなきゃいけないようなことになり、要するにお世話係のようなものだった。
忘れ物はないかとか、雨の日に一人で帰れるかとか、いっつも心配してあげなきゃいけなかった。
水泳の時には、足がつって溺れないようにと、いつも近くで見てあげないと心配だった。
なのに、徹があたしより早く逆上がりが出来るようになったのは納得行かなかった。
でも、あたしの方がかけっこは早かったので、運動会ではあたしの方が得をした。
抜けている割には、頭は悪くないみたいで、算数はあたしと同じくらい九九が言えたし、作文ではよくほめられていた。
(たとえが変だと先生に注意されることもあった)
本を読むのが好きみたいで、徹の家に遊びに行ったときには、いつも本が散らかっていた。
あたしが好きなのはシンドバットの冒険の話だったけど、徹が読んでいたのは、もう少し漢字の多い本だった。
(ついでに言うと、徹はシンドバットの冒険よりアリババの話の方が好きだそうだ)
だからあたしは徹の読んでいる本を読んだことはあんまり無かった。
けれど、いつだったか、一度徹が絵ばっかりの本を熱心に見ていたときに、隣から覗き込んでみたことがある。
真っ青な綺麗な空が背景で、白いドレスを着た女の人が、白い傘を差して立っていた。
その顔の上に、なぜだか紫色の花が、どすんと乗っていた。
女の人の顔は、花で潰されてしまっていた。
なんだか気味の悪い絵だった。
なんで徹は、こんな絵がのっている本をずっと眺めているんだろうと不思議だった。
「ちょっと気持ち悪いよ、この絵。とーる、こんなのが好きなの?」
「リサの顔の上には花が乗ってなくて良かったよね。」
「当たり前じゃない。こんな人どこにもいないよ。」
「でもさあ、リサの顔は目をつぶっていても、やっぱり良いよね」
そう言って、徹は目をつぶって、あたしの顔をぺたぺたさわり始めた。
あたしは、徹は本気で頭がおかしいんじゃないかと心配した。
(あたしは三日に一回は必ず、頭がおかしいんじゃないかと心配した。
ちなみに今まで一番心配したのは、嘘くさい鬼の着ぐるみに本気で怯えて、あたしに縋って泣いていた時だ)
「なにやってんの。息がしにくいからやめてよ。」
そう言うと、目をつぶったまま、顔を近づけて、くんと鼻を鳴らした。
「あ、でも匂いも良いかも。」
こういう風に、こいつの言うことはいつもずれていて、あたしの苦労が少しでも伝わっているとはとても思えないのだった。
607 :
かくれんぼ2:2006/04/20(木) 18:35:10 ID:1nuX7Eaw
『それでね、その悪い子はね、誰よりも上手く隠れてしまったの。
かくれんぼの鬼もずっと探していたんだけど、全然見つからないのよ。
そのうちみんなはそのこのことを放っておいて、別の遊びを始めたの。
でもね、それでも悪い子はずっと隠れていたのよ。みんながその子のことを忘れて帰ってからもね。
そのうち暗くなったんだけど、それでもその子は出ていかなかった。なぜなら、悪い子だったからよ。
それからようやくその子がいないことに気が付いて、探し始めたときには夜になっていたの。
とっても寒い日だったのよね。
上手く隠れたものだから、次の日の麻にその悪い子がようやく見つかったときには、周りの雪とおんなじくらい、冷たくなっちゃっていたのよ。
というわけで、理沙も悪い子だとこんな目にあっちゃうんだから早く寝なさい。』
お母さんがこんな話をした次の日の天気は、薄曇りだった。
夏も間近だったけれど、ちょっと肌寒い日だった。
2年生の授業は4時間で終わる日だったから、午後はずっと近くの公園で遊んでいられる。
色鬼をして、ジャングルジムに競争で上って、缶蹴りをして。
それからかくれんぼになった。
あたしはなにか、まずいんじゃないかという気がした。
ジャンケンをして、鬼になったのはあたしじゃなくて、それも落ち着かない原因になった。
隣で相変わらずぼやっとしている徹の顔を見ると、なおさら心配になってきた。
「どうしたの?そわそわして。リサが、かくれんぼするのを怖がるわけないし」
何にも分かっている分けないこいつに、心配されたのが癪で、あたしはふいっと横を向いた。
「いーち、にーい、・・・」
鬼が数を数え初めて、みんなが走り出した。徹もどこかへと走り去っていく。
徹はどっか変だけど、悪いことをするだけの要領はないから悪い子ではないはずだと、むりやり自分に言い聞かせてあたしも走り出した。
「じゅーよん、じゅーご、・・・」
今日に限っては、数える声に追い立てられるようで、本気で怖い。
早く見つかるように、その辺の木のかげにさっさと隠れた。
「にじゅう!もーいーかい。」
「もーいーよ!」
急いで返事をしたけれど、徹の声は聞こえなかった。この近くではないらしい。
少し考えたら、いつも通りのかくれんぼのはずだ。
なんにも怖いことなんかない。
それでも息が、いつもより荒い気がした。
はあはあとうるさくなる息が、ますます自分を追いつめていくようで、あたしは自分の口に手の平を押しつけた。
ぐるぐるする頭に体がついて行かなくて、あたしはその場にしゃがみ込んだ。
「みーつけた!」
はっと顔を上げると、鬼が目の前に立っていた。
分かりやすいところにいたつもりなのに、あたしが見つかったのは最後から2番目だった。
まだ見つかっていないのは、徹だった。
案の定過ぎて、嫌になった。
608 :
かくれんぼ3:2006/04/20(木) 18:35:44 ID:1nuX7Eaw
やっぱり最後まで徹は見つからなくて、みんなは徹が勝手に家に帰ってしまったんだろうと、チャイムが鳴ったので帰ってしまった。
徹はいっつもぼやっとしているから、あたしもみんなに反対できなかった。
だけど、家に帰ってからも、どうしても気になって、普段は使っちゃ行けないことになっている受話器を取らずにはいられなかった。
焦っているのに電話の方では、のんきな呼び出し音がトゥルルルと響いていた。
がちゃりと出た相手は、徹のお母さんだった。
「あ、あの、川口ですが・・・」
「あら、理沙ちゃん?一人で電話が掛けられるなんて偉いわね。ああ、徹ね。徹ならまだ帰ってないみたいなの。あの子のことだから、またどこかで道草しているのかしら?せっかく理沙ちゃんが、電話を掛けてきてくれたのに。ごめんなさいね、後でかけ直させるから。」
「い、いえ、その、だいじょうぶです。失礼しました!」
がちゃりと電話を置いたときには、心臓がものすごい早さでばくばく鳴っているのが聞こえた。
やっぱり徹はまだきっとどこかで隠れているに違いない。
ぼやっとし続けたまま、明日の朝冷たくなって発見されてしまうかも知れない。
もう動かなくなってしまった徹のいつもぼんやり見開いているうす茶色の目に、雨がぴちょんと降ってくるようなイメージまで浮かんできて、なんだかそれは今にも本当になりそうで、居ても立ってもいられなくなってきた。
あたしは上着を一枚はおって、外へと徹を捜しに走った。
どんどんと周りは薄暗くなり始めて、それでも徹は見つからなかった。
徹が好きな木の下も、ジャングルジムの中も、団地の階段の裏側も(それにしてもどうしてこんなところが好きなのか)、思いつくところは全部探したのに、どこにもいなかった。
いつもはうざったいくらい近くにいるのに、今日に限って本当に影も形もなかった。
なんだか泣きそうになりそうで、とても馬鹿みたいだった。
徹は変な奴だけれど、あたしはそいつのことを大体分かっていると思っていた。
毎日面倒をみてやって、いつも心配してあげて、怖がっているときには手だって繋いであげたし、泣いている時にはお菓子もあげた。
それなのに本当は、徹がかくれんぼでどこに隠れているかも分からない。
あたしにも見つからないようなところに隠れているようなら、あんな奴は勝手に野垂れ死んじゃえばいいんだ、と思いながら、あたしはそれでも探し続けた。
どこにいるかは分からないけれど、きっとあたししか見つけてあげられないに決まっているのだから。
なに考えているのか全然分からない子だけれど、あたしが一番近くにいるのは間違いないのだから。
どっかで勝手に徹を冷たくさせるほど、あたしの今までの苦労と心配は軽くはないのだ。
だからきっと、あたしなら見つけられるはずだ。
609 :
かくれんぼ4:2006/04/20(木) 18:37:07 ID:1nuX7Eaw
もう夜になりかけた頃になって、空はいつの間に晴れたのか月が出ていた。
暗くなると気味の悪い人が出てどこかに連れ去られてしまうよと、最近になって先生にもお母さんにもさんざん言われて、いつの間にかランドセルには防犯ブザーが付くようになったけど、今のあたしはなんにも持っていない。
早く徹を見つけて帰らないと、徹どころかあたしまで心配されてしまう。
本当に焦ってきて、手のひらに汗がじわじわ滲んできたところで、あたしはふとまだ探していない場所を思い出した。
走って走って、息が切れてもまだ走って、喉の奥で心臓が破けるんじゃないかというくらい走って、たどり着いたそこは以前二人で秘密基地を作った場所だった。
遊んでいた公園の裏道に入ってすぐのところにあって、そんなに遠くじゃない場所にあるはずなのに、人通りがほとんど無い場所で、あたしも行くのは2年ぶりくらいで、ほとんど忘れていたのだった。
せまい空き地に塀がめぐらされていて、一カ所がたがたのぼろい扉から入ることが出来る場所で、中にはなにが取り壊された場所なのか、コンクリートの低い台がそこら辺にいくつか置かれていて、ここに二人でお気に入りのものを持ち込んで秘密基地を作ったのだった。
しばらくそこにあたし達は入り浸っていたのだけれど、何週間かしたら二人とも飽きてしまったので、ずっとそれから行ってなかった。
ここを見つけたときもちょうど初夏で、ほとんど変わっていない様子に、なんだかタイムスリップしてしまったような気がした。
ぎいと相変わらずぼけたような音を出す扉を開けて中を見回すと、薄ら寒いそよ風がぼうぼうの雑草を揺らしていた。
目をこらして、じろじろと辺りをさらに見てみると、
草に埋もれて、コンクリートに寄っかかって、徹がうずくまっていた。
ようやく見つけた。
あたしはもうたまらなくなって、とりあえず殴ってやろうと徹の元へと駆けだした。
目の前まで来ると、膝を抱えた徹がふらっと頭を上げてあたしの目を見た。
「やっと、見つけ、た・・・!」
息が切れて上手く声にならなかった。
よく見ると、徹は目が覚めたばかりらしく、いつもより2割り増しくらいぼんやりした目で、あたしを見上げていた。
「あ、リサが鬼になったの・・・?」
寝起きだからって、どうしてこいつはこんなにもぼやっとしているのだろう。
けれど怒る気持ちも萎えてしまって、それどころか泣きそうになってしまって、ぎゅうっと口をへの字に曲げてかみしめて、
涙がにじんできた目を何度もまばたきして、しゃくり上げそうな口元を手で押さえ込んで、こみ上げてくるものを押し戻すので苦しいのも、それもこれも全部徹のせいだった。
「リサ、泣きそうだよ?せっかく見つけられたのに。」
見つけて嬉しいどころか、怒ればいいのか、泣けばいいのか、とにかく頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「なんで、こんな、ところに、隠れてるの?分かるわけ、ないじゃない。ずっと、見つからなかったら、どうするつもり、だったの?」
「え、だってココはかくれんぼの範囲内だよ。それに、リサなら絶対分かると思ってたんだけど。今だって僕のこと、ちゃんと見つけたじゃない。」
「そんなこと、言ってると、いつかあたしのいないところで、勝手に冷たくなって、死んじゃうんだから・・・!」
「あ、でも、ここなら他の誰かじゃなくて、リサが見つけてくれるって思ったのは本当だよ。うん、リサが見つけてくれて、よかった。」
そう言って、嬉しそうにへらへら笑いながら、あたしを見上げている徹の顔を見ていると、もう本当に体の力が抜けてしまって、あたしはへたりと地面の上に座り込んでしまった。
610 :
かくれんぼ5:2006/04/20(木) 18:37:53 ID:1nuX7Eaw
ぺたんとしりもちをついて、徹の顔をにらみつけると、何が嬉しいんだかへらへらと笑っていて、心底安心しきっている様子を見ると、やっぱりあたしの方が馬鹿みたいだった。
がっくりとうなだれて下の方を見ると、あたしは少し奇妙なものが見えることに気が付いた。
徹のズボンの前が膨らんで、盛り上がっているようだった。
「何これ?どうしたの、とーる?」
心配になって聞いた途端に、徹は驚いたような呆れたような、ぽかんとした表情を浮かべて、こっちを見た。
「そっか、起きたばっかりだから。」
そう言って、徹はちょっと照れたようにうつむいた。
神妙にも恥ずかしそうにしている様子が徹らしくもなくて(奴は悪戯が好きな子に目の前で裸の女の人の写真を見せられても平然としていた)、この状態が何かは分からないけれど、あたしはいよいよ心配になった。
「まさか病気じゃないよね。怪我したの?それとも腫れちゃったの?痛くないよね?」
「あ、そうだ。」
あたしの心配を素通りして、徹はじゃかじゃかとズボンのホックとファスナーを弄くって、前を開けた。
そこにはあたしが見たこともない形をしたものがあった。
もちろんお父さんのや弟のを見たことはあるけれど、目の前にあるものは、元々おかしな形だったものがさらに変になっていた。
熱を持っているらしいそれには、喉の奥が疼くような気持ち悪さと、目を背けられないような何かがあった。
「ねえ、リサ。触ってみて?」
熱っぽい徹の声に、あたしはびくりと震えた。
「とーる、あたし・・・」
なぜだか分からないけれど、とにかく怖くて逃げ出したかった。
頭の中でどくどくと血が巡り、かんかんと警鐘がめいいっぱい打ち鳴らされていた。
なのにあたしは、ゆらりと震えるようなそれにそろそろと手を伸ばしてしまった。
611 :
かくれんぼ6:2006/04/20(木) 18:38:20 ID:1nuX7Eaw
触れた瞬間の思った以上の熱さに手を引っ込めたくなったけれど、これは徹なんだし、ことさら怯えている様子を見せてはいけないと思って、ぐっと握り込んだ。
すると、痛いと徹が叫んだので、今度こそあたしは飛びのいた。
「もう少し、そっとじゃないと痛いよ。丈夫なところじゃないから」
そう言われても、どうしたらいいかあたしに分かるわけがなくて、とりあえず触っても痛くないように、手のひらに唾を付けてみた。
指で全体にのばして、今度はそっと触れてみると、徹はひっと小さく呻いた。
風が吹くと冷たいのか、徹の肌一面に鳥肌が立った。
あたしは戸惑いながらもいそいそと指でもてあそんでいると、細く甲高い声で徹が悲鳴を上げた。
それでもあたしは手を離せずに、自分の唾液でぬめぬめとするのに手を滑らせながら、指をくるりと巡らせると、くしゃりと唾液が泡立った。
どこからか漏れてくる街灯の光を、唾液がてらりと反射していた。
自分の息が、はっ、はっと、短く荒くなっていた。
手のひらがひどく、熱かった。
徹がぬっと手を伸ばしてきて、細かく痙攣しながらあたしの腕を掴んだ。
血が止まりそうなほどの強い力に怯んで徹の顔を見ると、苦しそうに喘いでいた。
「リサ、リサっ」
上擦った声であたしの名前が呼ばれて、自分の喉が鳴ったのが分かった。
言葉も出ずに、ただ指で少し強く扱くと、腕を握る力が一層強くなって、徹は細く長い声を挙げて、ぐったりとあたしの肩にもたれかかった。
いつの間にか手の中のものは、力が抜けたようにぐにゃりとしていた。
あたしは目の前がくらくらした。
612 :
かくれんぼ7:2006/04/20(木) 18:39:00 ID:1nuX7Eaw
「今のなに?それに、とーる、本当に大丈夫なの?具合悪くないの?」
くたりとあたしの肩に寄っかかっていた徹は、ちょっとけだるそうに体を起こして、服を直してから、あたしの方をじっと見た。
「だいじょうぶ。リサは心配することないよ。」
そんなことを言われて心配しなくてすむようなら、あたしは苦労なんてしないし、とっくに徹の側にはいない。
「あたし、すっごくびっくりしたんだけど。これって、いけないことなんじゃない?とーる、怒られたりしない?」
「大人になってから、こういうことすると赤ちゃんが出来るんだって。リサもにいつかここに子供が出来るんだよね。すごいなあ。」
そう言って、徹はあたしのお腹の下をさらりとなでた。
今のあたし達は子供で、それなのにさらに子供なんて考えてみたこともなくて、そう言われるとなんだか不気味な気がした。
この前体育の授業の時に、よく分からないビデオを見せられて、こうやって子供が出来るんですと言っていたけれど、さっきのようなこととは雰囲気が違って、何もかもがあいまいなままだった。
赤ちゃんはコウノトリが運んでくるんじゃなくて、病院で生まれてくるっていうのは知っているけれど、それ以上のことは知らなかった。
少なくとも、こんなになんだかよく分からなくて、変なことをしなきゃいけないだなんて、誰も教えてくれなかった。
とにかくよくわからないけれど、これはお父さんやお母さんに知られたら叱られるに違いない。
なんの証拠もないけれど、あたしはそう思った。
「ねえ、とーる、あんた、今のこと絶対に、家族の人にしゃべっちゃ駄目だよ。」
「うん、リサがそう言うなら、わかった。」
徹にそこまで念押ししても、あたしはどうしても今までのことが信じられなくて、自分の手をじっと見ながら、何度も握ったり開いたりしてみた。
なんにも変わったところはないけれど、それでもまた、じんわりと熱くなってくる気がした。
「ごめんね、リサ。気持ち悪かった?」
またぼやっとした顔に戻って、徹があたしに聞いた。
「もういいよ、そんなの。それより早く帰らないと、おばさんに心配されちゃうよ。もうとっくに暗くなってるんだから。」
めずらしくも徹があたしのことを気遣ってくれたので(その前は幼稚園の時にあたしが転んで額から派手に血を出したときの、一回きりだ)、それに免じて許してやった。
少し困ったような、でも嬉しそうな徹の顔に、胸がざわついたせいだからでは、断じてない。
613 :
かくれんぼ8:2006/04/20(木) 18:39:50 ID:1nuX7Eaw
*
ということを思い出したのは、上擦った声で自分の名前を呼ばれた時だった。
「理沙、理沙っ」
下腹部に走る引き裂かれる痛みに圧倒される中で、唐突によみがえってきた記憶にわたしは苦しくなった。
つい数時間前まで私は上にのしかかっている奴に、性衝動がちゃんと存在していることなんてずっと忘れていたのだった。
徹はあの時から10年間、そう言った話題に特に興味を示すことも、素振りを見せることもなく、抱き寄せられたその瞬間まで、わたしは今度こそ本当に子供が出来るかも知れないこと(もちろん避妊はしている)をすることになるなんて、思いもよらなかった。
「あれ、理沙、なんだか変わった?」
まだ荒い息の混じる声で、徹に声をかけられた途端、現実とおまけに痛みまで戻ってきた。
「あ、また、きつっ、」
そう言われても、全身に力が入って、とにかくきつくて、あの時の興奮といけないという気持ちがそのまま流れ込んできて、今もあの時もよく分からないほどぐしゃぐしゃになったあたしは、徹の首に縋り付いて、近くなったその耳に囁いた。
「いま、思いだした、けどっ、・・・、ね、徹、あんたって、ずっと前から、知ってた、よね?」
徹は少し身を離して、きょとんとわたしの顔を見つめた。
「ああ、理沙は、やっぱり忘れちゃってたんだ。」
思った通り、徹の答えはあたしの問いかけに対して的はずれだった。
けれど、ちょっとはにかんだような顔は、あたしが10年前にあたしが徹を見つけた時の、その表情とよく似ている気がした。
「でもね、僕は、ずっと、憶えていたよ。」
そう言うか言わないうちに、体の内側から押し広げられるような圧迫感が強まって、わたしはくうと呻いた。
「思いだしてくれて、よかった。」
あの不思議な、悪夢にも似た思い出を、小学生の頃からわたしは、一度も思い返すことはなかった。
家に帰ってからも怖くて無口になったあたしは、数日間ずっとびくびくしているうちに、あの星の出ていた肌寒い日にあった出来事を、無かったことにしてしまった。
頭の奥底へと隠れてしまった、奇妙で少しおぞましい、でもちょっとわくわくするような記憶を、10年もかかって、わたしはようやく見つけだしたのだった。
ずっと動かないでいた(珍しいことにあたしの体を気遣ったのだろう)徹の体が、ゆるゆると動き始めた。
刺激というには強すぎる感覚が、私の体中でのたうっていた。
その元凶が憎らしくて、とても大事で、わたしは未だにどこか頼りないままの背中へと腕を回したのだった。
(了)
ぐっじょぶ!
2次成長期の頃の驚きと不安が描かれていて
GJ!でした。
10年後のエチにいく前の話希望とか言ってみる…
保守
ああ、こういうのもいいな……。面白い試みだと思う。
たった今書き上がったんで投稿行きます。
ホワイトデーの日から幾日ほどの時が流れ、桜が咲き、そして散っていく季節を迎えた。
つまりは新学期となり、俺達も三年生つまり受験生となった。
まああまり実感湧かないし俺はそれよりも考えるべき事があった。
すなわち――綾乃の気持ちにどう向き合うか。
そして今夜。遂に決心した。
彼女から離れよう。
俺が傍にいては彼女を傷つけてしまう。
――あの時のように。
これ以上――彼女に近づいてはいけない。
「・・・明日、綾乃と話し合わないとな・・・。」
そう結論づけ、俺はベッドに潜り込んだ。
「・・・遅い・・・。」
翌朝の早朝。
いつもより早く目が覚めた俺は目覚まし時計と長い間睨み合っていた。
時計は、いつもは見ることがない時刻を刻んでいる。
――――いつもならば綾乃に起こされるために見ることがない、時刻を。
ついでに言うと時計が鳴る時刻も過ぎている。
まあ起きてすぐに朝食以外の用意は全て済ませたから遅刻するほどってほどじゃないが
そろそろ余裕ある登校ための時間がなくなってきた。
「でも綾乃が来なきゃ始まらないからな・・・。」
正直な話出来ることならこんなこと言いたくない。
だけどこれはいつか言わなければいけないことだ。
でも――やっぱり辛い。
まるで悪さをして親に怒られるのを怖がってる子供のようだ。
と、そう思うと同時、軽快なメロディが鳴り響いた。
充電器に乗せていた携帯から流れるその音はメールの着信を俺に伝えていた。
まさか風邪とはな・・・。」
昼休み。
自分の席に深く腰掛けた俺は溜め息をつきながらそう呟いた。
綾乃からメールで連絡を受けた俺は、その後すぐに登校した。
なんだか拍子抜けしたが、少しだけ、助かったと思ってしまう。
そういうわけで普段なら六人で食べる食事も少しだけ静かな席になっていた。
「あー、綾ちゃんがいなくて、寂しいんだー。」
「違うっての!」
吉村のからかいにいつも通りに返す俺。
・・・せめてこいつ等の前じゃいつも通りにしないと・・・。
ちなみに友人連中には今回言おうとしていることは黙っている。
言えば絶対に「何言ってンだ早く告白しろ馬鹿。」と言われるのは目に見えているからだ。
「白木。」
不意に、黄原が俺に声をかけた。
「何だ?」
俺がそう返すと、黄原は彼にしては珍しく少しの間を置いて、こう言った。
「黒田と何かあったか?」
「いや・・・。」
「そうか・・・。」
意外にも黄原はそれ以上何も言ってこなかった。
その後、俺は午後の授業を受けても上の空だった。
いや、午前中からずっとそうだ。
ふと、俺は教室を見回してみた。
そこには当然綾乃の姿はなかった。
その事実を認めると、何故か綾乃の顔が頭に浮かんだ。
って何考えてるんだ俺。
綾乃から離れるって昨夜決めたばっかりだってのに。
離れる・・・。
俺が、綾乃から・・・。
彼女のいない自室。
彼女のいない教室。
ただそれだけだ。
それだけなのに。
――なんでこんなに世界が味気なく感じるのだろう。
私は泣いていた。
小さな身体ながらも自分の感情を全力で解放していた。
目の前の男の子が必死に止めようとするが、それでも涙は止まらなかった。
泣いてる原因は、その男の子だった。
私と彼が交わした約束。
彼が私にしてくれた、大事な約束。
彼はそれを破ってしまったのだ。
男の子がその理由を稚拙ながらも必死に説明していたが、私は泣き続けた。
解ってる。彼も約束を破るつもりはなく、むしろ必死に守ろうとして、しかし守れなかったことも。
しかし、次から次へと溢れ出る悲しみの感情を止める術を私は持たなかった。
と、不意に場面が切り替わった。
次に私が見たのは、車の中の景色だった。
窓ガラス越しに見える光景は見覚えのあるものだった。
私が生まれ育った街の光景。
それらはやがて自分の知る範囲の限界を迎え、
見覚えがあるか無いか判別できない場所に差し掛かる。
その景色の見覚えの有無を考え、ようやく答えが出た頃には既に車は見知らぬ土地を走っていた。
知っている景色は、もう見えない。
自分を泣かせた、あの男の子も、もう会えない。
そう気付いたとき、私の目に涙が溢れた。
だが、私は堪えた。
溢れた涙を拭き取り、それ以上涙を流さなかった。
自分が泣きじゃくったあの日から、彼は私を避けるようになった。
なら――もう泣かない。
泣き虫な自分を変えてみせる。
そうなれたら、今度こそ――
でも、あてがわれた新しい自分の部屋で1人になったとき。
布団にくるまって思いっきり泣いた。
誰にも泣き顔を見せたくないから。
もう彼に、泣き顔を見せないから。
だから、今日で泣くのは最後。
布団を噛んで声を殺し、涙を流しながら私は大事な人の名を呼んだ。
遠く彼方に離れた、あの男の子の名を。
「けいすけ・・・!」
「――――――――――――!」
目を開けると、そこにまず飛び込んだのは布団ではなく天井だった。
「・・・夢・・・?」
語尾に疑問符が付いたいるが、確信している。
すごく嫌な夢を見た。
彼に「裏切られた」記憶。
彼と会うことすら出来ずに突然訪れた別れ。
思い出すだけで身も心も凍りそうになり、私はそれに耐えるように自分の身体を抱きしめた。
と、そこで私はパジャマが所々を汗で濡らしていることに気付いた。
「凄い汗・・・。」
流石にこのままにしてたら不潔だし風邪が悪化しかねない。
心身共にコンディションは最悪だが人として最低限の身だしなみは整えねば。
「・・・着替えよう・・・。」
怠けようとする自分に言い聞かせる為にそう呟くと私はパジャマのボタンを外し始める。
いつもよりたどたどしい手つきだが慌てずに確実に一つ一つ丁寧に外していく。
ボタンを外し終わると、私は上下を即座に――といってもいつもよりは遅いが――脱ぎ捨てた。
上下ともに色気のない水色の下着が露わになる。
これも汗を吸って斑模様が出来ているので取り替えねばならない。
そう判断した私はまずブラの左側の肩紐を外して、
次に長い後髪を一度かき上げて、背中側のホックを外し――――
たところで部屋のドアが開いた。
「お母・・・。」
さん、と言葉を続けようとしたが声が出ない。
なぜなら、そこには母ではなく、啓介がいたから。
彼も彼で手に洗面器――中には布の固まりが入っているがそれが濡れタオルと気付くのに
かなりの時間を使った――を持ったまま立ちつくしていた。
私もホックを外した体勢のまま、指一本動かせずに固まっていた。
そのまま両者ともに無言。
「・・・ここに置いておくから。」
私より早く復帰した啓介はそう言って
手荷物を置くとドアを閉めた。
まだ動揺が抜けきってないのか大きな音が出たが
その音でようやく私はようやく正気を取り戻した。
流石に驚いた。
というか――見られた。着替え中の恥ずかしいあられもない姿を。
どうしようどうしよういや別に啓介になら裸見られても良いけど出来れば心の準備が済んでからに
して欲しかったっていうかこんな汗かきまくった姿は見て欲しくなかった下着だって勝負下着じゃ
無いしいや別に自分の身体に自信がないって訳じゃないむしろ自信満々だって啓介も興味あるって
言ってたし正確には言ってないけど頷いたしってああもう訳わかんなくなってきた落ち着け自分。
・・・とりあえず着替えよう。話はそれからだ。
そう思い直した私は着替えを再開した。
私も動揺が抜けきっていないのでさっきよりも効率は落ちてしまったが。
「・・・なにやってんだ俺は・・・。」
綾乃の部屋のドアの近くの壁にもたれかかりながら俺は自嘲気味につぶやいた。
さっきから心臓がバクバク言って止まらない。
くそう落ち着け俺の精神と心臓と下半身。
とは言ってもさっきから壁一枚隔てた先から布のこすれる音や「んしょ」「よいしょ」などの
彼女の声が聞こえ、落ち着くどころか先ほどの光景がよみがえりそうになる。
しかし「結構胸がある」と自己申告しただけあってなかなか良い身体してたなアイツ。
身体の線が解りやすい服装を着ることがが多いからスタイル良いのは知ってたが実際にその下を
見るのは初めてだいや下着姿だったし裸見た訳じゃないのが残念って思い出すなよ俺ああイカン
またドキが胸胸してって違う違う胸がドキドキしてきたってこら脳「胸」という単語に反応して
胸のあたりを重点的に思い出そうとするなでも確かにデカかったって畜生とにかく落ち着け俺。
とにかくこれは綾乃のせいだ文句を言わねば。
そう決心した瞬間、ドアが開いた。
「啓介ー?」
「すみませんでした。」
俺は即座に土下座した。
ヘタレという事無かれ。こういうのは大概男が悪い。
っていうかノックしなかった俺が悪いし。
そのままの姿勢で数秒。
綾乃が何かを言う前に身を起こし、尻餅をつくような体勢で、
「いや風邪ひいたって言うから流石に心配になって学校が終わってからすぐにここに来て
そしたらおばさんと一緒に綾乃の部屋に行ったらお前が汗だくで寝込んでたから
濡れタオルやら冷え○タシートやら持ってきて・・・。」
と、一気にそこまでまくし立てたところで綾乃が何か言いたげに口を開き、
しかし俺の発言のせいで黙っている事に気付き、言葉の連射を止める。
数秒してから、綾乃が口を開いた。
「心配して、くれたんだ・・・。」
「ま、まあな・・・。」
嘘は言ってない。
「・・・ありがとう・・・。」
そう言って綾乃はホワイトデーの夜と同じ笑みを向ける。
柔らかく、暖かい微笑みを。
私がこっちに戻ってくる前は白木家の家事は啓介ががやっていたらしい。
まあ最近は私や茜義姉さんががわざわざ来てくれるし面倒くさいので私達に任せっきりだったが
今回ばかりは私が風邪をひいているのでそうも言ってられない。
おかあさんもその話を聞いて「邪魔者は退散ー♪」と言って何処かに出かけてしまったし
実質料理できる人間は現在啓介ただ1人。。
というわけで久々に腕をふるうことになったのだが――
私が啓介が作ったお粥――溶き卵と細かく刻んだ人参が入ったもの――を口に入れた途端、
私の表情が不機嫌な形に歪んだ。
・・・この味・・・。
「・・・私のより美味しい・・・。」
「悔しかっただけかよ・・・。」
病気の私を気遣ってか、いつもより静かに啓介はツッコミを入れる。
そんな彼の態度を嬉しいと思うのは現金だろうか。
まあともかく料理で負けて悔しいのは確かなので
今度料理を教えてもらおうと思いつつとりあえず食事再会。
「ところでさ。」
「ん?」
皿の中身を半ばまで片づけたあたりで、私は啓介に問いかけた。
「聞きたいことと言いたいことが一つづつあるんだけど言って良い?」
「・・・聞きたいことからどうぞ。」
今の間に若干の違和感を感じたが気にせず私は言った。
「私の身体ってどうだった?」
直後、啓介が頭を机に落下させた。
鈍い音が鳴るが、啓介は痛みを感じないのかただ単に我慢しているのか
痛がるそぶりも見せずにジト目をこちらに向ける。
「言うと思った・・・。」
「期待に応えれて光栄です。」
「期待したんじゃねえよ!」
余裕が無くなったのかいつも通りの絶叫ツッコミを繰り出す啓介。
むう。人間余裕が大事だというのに。
そう思ってると、啓介はポツリと、
「良いと、思う。」
かの羽音のような小さい声でそう言った。
私は「よろしい」と良いながら大きく頷くと、言いたいことを言った。
「好き」という気持ちと同じくらい、昔から言いたかったのに言えなかった言葉を。
「啓介はさ、やっぱり昔から優しいよ。」
私の発言を聞き、啓介の目が見開く。
が、私は構わず続ける。
「本当に優しくなかったら、人を傷つけても平気なはずだよ。
でも、啓介はずっと、悪いコトしちゃったって思ってたんでしょ?
今日だってわざわざお見舞いに来てくれて夕食まで作ってくれたし。」
数秒の間を置き、啓介は首を縦に振る。
「だから、啓介はずっと優しい啓介のままだよ。」
そう言いきると、啓介は視線を下に向け、うつむいていた。。
が、やがて私の目を真っ直ぐ見てこう言った。
「・・・ありがとう。」
「どういたしまして♪」
満面の笑みを浮かべて答える。
あー何か本調子に戻ってきた。
「・・・俺からも聞きたいことがある。」
「なになに?」
啓介から質問なんて珍しい。
そう思うと彼は、やはり数秒の間を置いて、言った。
「今日、凄くうなされてたけどどんな夢見てたんだ?」
そう言われた私の表情が凍り付いた。
今日見た夢の内容を言うわけにはいかない。
言えば、啓介は私を気遣って自分の意見を曲げてしまう。
それは私の望む関係ではない。
だから――――出来るだけ笑顔を浮かべて私はこういった。
「忘れた。」
「・・・お前なぁ・・・。」
私の発言に、啓介はあからさまに肩を落とした。
ちょうど、食事が終わると同時に帰ってきたお母さんに片づけを頼み、(押しつけとも言う)
私は啓介を連れて部屋に戻り、ベッド(汗まみれだったシーツは啓介が取り替えてくれた)
に潜り込んだ。
その後、薬のせいか愛する人の手厚い看護のせいか幾分かマシになった私は彼としばらくの間
雑談をしていたが、すぐに眠気が訪れた。
それを察した啓介は「そろそろ帰る。」といい、部屋を去ろうとする。
が、私は彼に声をかけた。
「啓介。」
「何だ?」
彼が振り向く動きと連動するように私は上半身を起こす。
「今日は、来てくれてありがとうございました。」
私はそう言いながら深々と頭を下げた。
「・・・ああ。」
ぶっきらぼうにそう返すと啓介は「ちゃんと安静にしてろよ。」と言い残して部屋のドアを閉めた。
「さて、と。」
そう呟くと私は布団を被り直し、ベッドに倒れ込むようにして横になった。
寝起きと違って気分が良い。
今度は良い夢が見れそうだ。
そう思いながら、私は目を閉じた。
帰宅した俺は、自室のベッドに倒れ込むように身を預けた。
「・・・言えるわけないよ・・・。」
こんな俺を、優しいと言ってくれた少女。
「裏切った」俺を、好きだと言ってくれた少女。
そんな子に、「近づくな」なんて言えなった。
それこそ彼女を傷つけることだと解ってしまったから。
「ゴメン・・・、綾乃・・・。」
そうつぶやくと俺はその場で膝をついた。
目に涙が溢れ、視界が歪んでも俺はその場から動こうとしなかった。
今回は以上です。
残り要領わずかにもかかわらず長文の投稿となってスミマセン。
>>628 まさかリアルタイムで遭遇するとは思わなんだ。
続き楽しみにしてます!
630 :
sage:2006/05/01(月) 01:22:45 ID:eEKwgy2o
続き期待しまくり
GJ!
今回読んでて要所要所上手いなー、と思った。
そろそろ500kb近い?
635 :
名無しさん@ピンキー:2006/05/04(木) 16:48:58 ID:iPLKs210
次スレの季節か。
早いもんだな、もう500Kになるのか
次スレマダー?
投下する人がいなけりゃ、即落ちするだろう?
もし投下したいのに待っている人がいるなら、言ってくれれば俺立てるよ。
あと一週間もあればたぶん書きあがるんですが……
それまで大丈夫なんでしょうか。
8日も9日も10日も、12日も今日13日もずっと次スレが立つのを待ってた俺が来ましたよ
641 :
638:2006/05/13(土) 13:08:41 ID:WZjq+MVy
じゃあ、次スレ立てて良いのかな?
俺は保守カキコするぐらいしか出来ないが、職人さん頑張ってくれ。
642 :
638:2006/05/13(土) 13:15:01 ID:WZjq+MVy
じゃあ、こっちは埋め…ってことでいいのかな?
埋めコピペ
半年ぶりの里帰り。駅の改札を出た途端、真夏の日差しが照りつける。この暑い中実家まで歩くのかと
少しげんなりしていると「やっほー」能天気な、けれど聞き慣れた、懐かしい声が聞こえた。声のした
方をみると、幼稚園の頃からの腐れ縁の幼なじみが自転車によりかかって微笑んでいた。
「待っててあげたのよ。ほら、家まで乗せてってあげようと思って。」「マジ?助かるよ」幼なじみ
の機転に心から感謝し、僕はさっそく荷物をかごに載せて後ろに座ろうとすると、すでに幼なじみが
座っている。僕が口を開こうとすると彼女はにんまりと笑って一言、「あんたは前!」
そして僕はこの猛暑の中、自分の荷物と幼なじみとスイカの入った彼女の買い物袋を乗せて、長い坂道を
汗だくになって登っている。「ねー、スピード落ちてるよー。ほらファイト、ファイト!」彼女は僕の肩に
手をのせ少しよりかかりながら僕に発破をかける。「おまえ・・・・企んだな・・・」僕は息も絶え絶えに
つぶやく。「だってこの坂しんどいんだもん。」ケロリと言う。昔と変わらないへらず口。ようやく坂の頂上が見え始める。
坂を一気に下る。「やっほー!」爽やかな風が僕らの体を包む。「うわぁ、気持ちいーい!」
彼女の髪と白いTシャツがはためく。下りながらようやく一息ついた僕は「おい、俺になんか言うことあ
るだろ」と彼女に言った。この暑い中自転車を運転したんだ、彼女にありがとうのお礼くらい言ってもらっても
バチはあたらないだろう。「え?・・・あ、そっか」彼女は僕の背中に体をあずけた。彼女の髪のいい匂いがする。
「ごめん、忘れてた」彼女は微笑んで、下り坂からの風にかき消えそうな声で僕の耳元にささやく。
「・・・・・・おかえり」
なんつー懐かしいものを……
>>646 今となってはもう昔のことだが、2001年七夕、ラノベ板に「幼なじみは禁止!」というスレが立った。
そこには「幼なじみ撲滅委員会副会長」と名乗る
>>1がいた。誰もが最初はネタだと思い、
冷やかし目的でそのスレに訪れた。だが奴は本物だった。圧倒的なカリスマをもってあっというまに
ラノベ板住人の心を掌握し、今でも続く大派閥を築いた。奴の影響力は半端じゃなかった。
その勢いに危機感を抱いたラノベ板有志が対抗するために「幼馴染推奨スレ」を立て、
今でも古参は副会長と聞くと奴を思い浮かべるほどだ。
ここまで聞けばわかるだろう。
>>644は副会長のレスの一部だ。
暇なら目を通すといいだろう。
幼なじみは禁止!
ttp://natto.2ch.net/magazin/kako/994/994517207.html
>>646 この頃はツンデレという言葉も無かったんだろうか。
649 :
648:2006/05/14(日) 22:50:02 ID:W9j4LlWB
じゃぁ、俺も埋めこぴするぜ。
幼馴染というと思い浮かべるのは、学生服とセーラー服の幼いカップルがケンカしてるんだか漫才やってるんだか、二人のことを良く知っている人間で無い限り、なんとも判別しがたい調子で登校して行くシーンなのではないだろうか。
少なくとも、俺はそうである。
「お兄ちゃんどうしたのー?」
ということはだ。つまり、これは幼馴染ではなく子守りであるという結論になる。
目の前のだらけた格好をした娘は来年中学に入るとか。
俺より4つも年下で、目下恋する乙女真っ最中の少女である。
恋の対象は俺の部屋のクーラーと扇風機。というわけで、こいつは俺の部屋に入ってくるなり扇風機に抱きつくのだ。
このちびすけは俺の遠縁にあたる娘で、互いの家が近いことからもう十年来の長い付き合いだ。
悪いやつではないのだが、ここ数年、女らしさが出てくると同時にどうにも我が侭なところも出てきてしまって、俺に絡んでくることもしばしば。閉口することしきりなのだ。
俺には背中を向けているので表情はわからないが、タンクトップの胸元が涼しいのか、だらけた声がする。
俺の部屋にはクーラーもあるのだが、健康上の理由から冷房は25度程度でそれでも暑ければ、あとは扇風機をつけることにしている。冷えすぎた部屋はよくない。それに俺は扇風機がすきなのだ。
話によると、こいつの部屋には冷房が無いんだそうだ。 それですぐ近くの俺の部屋を別荘代わりに襲撃するってわけだ。
やつは扇風機を抱きかかえたまま、ずりずりっと俺に近寄ってきてコンビニの袋を俺に差し出す。棒アイスが二本。
「ずいぶん安い賄賂だな」
「ワイロじゃないよ、感謝の気持ちだよ」
ちょっと口を尖らせたが、すぐににっと笑う。
「お兄ちゃんねっ! 私がこの部屋に遊びに来ちゃうことそのものがワイロなんだよぅ。 ほらほら、女の子が遊びに来てうれしいでしょ?」
ショートパンツから伸びた、良く云えばスレンダー、悪く云えば貧弱な足で俺の膝のあたりをつつく。
俺は彼女をチラッと横目で見てから、アイスの袋をあける。そこで雄弁なため息を一つ。
「あっ。それって態度に問題あります。かわいくないよお兄ちゃん」
「ガリガリ君うめーなぁ」
無視無視、こんなやつの相手をするために俺の黄金の夏休みがあるわけではない。
「ほらほら、こんなにミリキ的な脚が見えてるんだよ?」
「ミリキじゃねーよ。ミリョクっていうの」
「ぐっ……そうともいうかも」
「別にいても良いから、静かにしてろよ。出てけなんて云ったことないだろ?」
「うん……そだけどぉ」
「出来れば、部屋の隅に行け。扇風機は貸してやるから」
「……」
「あと、壁のほう向いてろよ。そっちの棚のマンガ読んでいいからな」
「……」
「笑う時は枕を顔に当てて笑うと、音がしなくて良いぞ」
「うわぁ! そんなことばっか云って!」
いいかげんに切れたのか、彼女は激昂した声をあげる。
「お兄ちゃんのバカ! 意地悪! 彼女いないくせにぃ! お兄ちゃんなんか、夏休みに部屋の中でゲームばっかしてる青春をおくって 30代後半になってから枕を涙でぬらせばイイんだよ!」
やつは決然と立ちあがると仁王立ちで言い放った。心なしか瞳が潤んでる。いじめすぎたか。――ま、いいや。こいつ、立ち直るの早いし。俺は目を丸くしてガリガリ君を食ってやる。
「もう遊んであげないから!」
叫ぶが早いか部屋から飛び出していってしまう。
「あらら。云いすぎたかねー。……それにしても…」
電光石火の早業で扇風機とマンガを持っていったのはさすがだ。ちょっと感動してしまった。
――翌日。
てっきり今日はこないと思ってたのだが、やつはいつもより早めにやってきた。夏の日差しに溶けそうな真っ白い袖なしサマードレス。ふんわりと広がった柔らかいドレープのスカートから細い足首がのぞいている。
そのうえ両手で下げた扇風機。
いや、持ってたものを返しにくるのは当たり前なのだが。なにせ、こいつの今日の格好にはびっくりするほど、似合っていない。
「よぉ」
俺の挨拶を無視して、扇風機をセットする。すぐに畳の上にあぐらをかいた俺に向けて涼しい風がやってくる。極楽極楽。
いやぁ、気持ちいい。
クーラーのほうが涼しいけれど、気持ちいいのは扇風機だよな。扇風機最高!
とはいえ、何で俺に風が向かってくるんだ?
こいつが俺に扇風機の風をよこすなんて前代未聞。などと考えているといきなりあぐらをかいてた俺の膝によじ登り、背中を向けて座る。
「お、おまえ、いきなりなにすんだよ!」
びっくりした俺はのけぞりながら尋ねる。
「……今日はここで遊ぶ」
「遊ぶじゃねーだろ! 邪魔だろうが」
「邪魔しにきた」
可愛いげのない声でぶすっと云うわけだ。俺がなるべく密着しないように後ろへ身をそらせるとくっつくように後ろに体重をかけてくる。重くは無いが、バランスが悪い。
しかたがないので姿勢を戻すと、あんまり体重をかけないように寄りかかってくる。本当に邪魔をする気なのか。アホか、こいつ。
しかし、こうしてみてみると、こいつ、本当にちっちゃいんだな。
日に透ける明るい色の髪が、俺の顎の下にすっぽり入って、前に投げ出した足は、俺の膝を超えて白いスカートを花のように広げている。扇風機のわずかな風にあおられて、はらはらとなびく髪はどう考えても子供っぽいバニラのような甘い香りを持っていた。
気がつくと、やつは俺の手のひらに自分のをくっつけて真剣に見てる。
「3cmくらい大きい」
重大な発見をしたような声で呟く。
「俺が大きいわけじゃなくて、おまえがちいせーんだよ」
「そうか」
くっつけた彼女の背中から、ちょっと高めの体温が伝わる。じっとしてても彼女が後ろの……つまり俺を意識してるのがわかる。
相変わらず良くわからないやつだ。
「邪魔しにきた割には、静かだな」
「……あんまり邪魔にならないように、邪魔する」
小さな声で弁明じみたことを言う。
「――アイス食うか」
「うん」
「昨日、おまえが持ってきた残りのだけどな」
「うん……」
やつは体重を預けたままもじもじと身体を動かす。
「どした?」
「でも、もうちょっとこうして邪魔する」
どちらのだかは判らないけど、体温が少しだけ上がったような気がした。
GJなり。
萌え和む(´∀`)
書いておきたかった最後の話だけ。 埋め立て兼ねつつおさななじみばんじゃーい
***
小雨が降っていて濡れた木材のにおいがしていた。
父が留守だったので書庫に忍び込み、幾つかの資料をあさって家の歴史を辿っていた。
しばらくは邪魔が入らなかったが、ふと顔を上げた。
朝から縁側が軋んで走り回る足音が続いていたがいつしか泣き声に代わっている。
「孝二郎、梅子。うるさい」
廊下に出れば叔母が一人でいた。
目を合わせたまま瞬きをする。
泣き声は遠ざかっていた。
二つ年上の叔母はむしろ、従姉か姉か幼友達のようで何と呼べばいいのか常々迷う。
「…春海姉さん」
「孝二郎達は賑やかだよね。」
日本人形のようなおかっぱで、まだ中三の叔母はなんともないように言った。
肩を竦める。
「僕は、いつまでああしているんだか、と思うけれど」
「それは余計なお世話だよ宗一くん。宗一君のお世話はいつも余計」
腹立たしいことを言って学校帰りのセーラー服のまま、瞳を雨に移して彼女は欠伸をした。
背が低いので、最近伸びてきた宗一と同じくらいになっている。
「琴子姉さんは」
彼女の暴言を気にしてもしかたがないので話題を変えた。
春海はつまらなそうにデートだってーと答えて雨を見ていた。
「雨が見えますか」
通りかかると硝子戸に手を当てていたので、尋ねた。
本家で頻繁に世話を焼かなくては立ち行かなくなった今日この頃では、よく危なっかしく立つ女性の姿を見る。
「においはするよね」
細い女性はつぶやいて、本家の旦那を振り返りもせず空の方を見ていた。
「梅雨だね」
「そうですね」
すっかり背を越してしまったとふと思う。
宗一は立ち止まり叔母を見た。
弟夫婦は子ができたらしく、宗一自身もそろそろ縁組が纏まりそうだ。
相手はなかなか才知溢れる良家の令嬢で、立場の見劣りしなさについても
屋敷の存続に関しても申し分ない妻になっていただけそうだった。
「見えたらいいのに、と思ったりしますか」
「余計なお世話だよ宗一くん」
なんともないように春海は呟いて、眠いなーとむにゃむにゃした。
相変わらず勝手な人だと当主は思う。
たった三親等というその近さがそうまで遠くさせるものなのだったか。
掃除機の音がする。
梅雨の雨は夕立のように勢いよくもなく、ただ庭の色を濡らしていく。
置き忘れてきた古い色が、水に溶けて消えていくような、それは儚かった望外の幻想。