尚隆の目がふっと和らいだ。
「…悪かった。そんなにいきりたつな。お前が気に病むことはない、と言いたかった
だけだ。」
「あ、いえ。…私の方こそ失礼しました。本当に延王にはお世話になりっぱなしで…
いくら感謝してもしきれません。」
「なに、お前はよくやっている。現代(いま)の倭に生まれ育った者であれば、戦場
に在るのは辛かろうに。」
「はい…辛いです。でも…自分のために戦ってくれる人たちがいることに目を瞑って
いる方が辛いですから。」
そう凛として言い切った陽子を尚隆は美しいと思った。顔かたちではなく、その真っ
直ぐな心のありようが誰よりも美しいと。
二人の視線が絡み合った。
自分をひたと見つめる翠の瞳に、尚隆は新鮮な感動を覚えていた。尚隆の前では誰
もが平伏する。こんな風に尚隆と目を合わせる者が何人いるだろうか?―対等な一人
の人間として尚隆に接してきたものが、これまでにいただろうか?
陽子もまた、尚隆に見つめられて落ち着かない気分を感じていた。強さ、優しさ、
名状しがたい魅力を秘めた瞳。陽子は圧倒され、底知れない深みに飲み込まれそうな
錯覚にとらわれた。―そう、あなたが先頭にたって戦ってくれているのに、私が隠れ
ているわけにはいかない。あなたは雁のためだと言うけれど、やはりどうしたってこ
れは私の戦いなのだから。思わず知らず、陽子の頬を一筋の涙がつたっていた。
「…陽子?どうした?」
「あなたがご無事で本当によかった!ケガをされたときいて本当に心臓がとまるかと…!!」
翠の瞳からとめどなく涙が零れ落ちる。
「すみません…。お見苦しいところを…。」
「いや…。」尚隆はそっと手を伸ばして陽子の涙をぬぐってやった。陽子ははっと驚い
て目を見開いた。美しい翠の瞳を。若く、真っ直ぐな曇りのない瞳を。…そして、その
瞳にこめられた熱い思いを見てとった瞬間、尚隆は自分の体もまた熱を帯びてくるのを
感じた。尚隆は陽子の手をとると、その手のひらにそっと口付けした。陽子は驚いて体
を固くしたが、口付けされた手を引っ込めたりはしなかった。尚隆はそのまま陽子を抱
き寄せるとそっと唇を重ねた。
「え、延王…?」陽子がうわずった声をあげる。
尚隆はかまわず陽子をさらにきつく抱きしめて、再び口付けた。陽子は期待と恐れとで
目を固く閉じ、尚隆のなすがままに任せていた。尚隆は陽子の唇を軽くついばみながら、
掌で陽子の乳房を探った。
「あ…。」陽子はなお戸惑っていたが、知らず知らずのうちに愛撫に反応しはじめてい
た。尚隆に触れられたところが燃えるように熱くなる。体の奥深いところがじんじんと
痺れるようだった。
尚隆は手を伸ばして陽子の衣服の紐をほどきにかかった。その一方で自分の舌を陽子
の唇に押し当て、それを開いた。
陽子は頭の中が真っ白になった。下腹部がじんわりと疼くが、決して不快な感覚では
ない。疼きはやがて熱へと変わり、温かいものが体内を流れ落ちていくのがわかった。
そうして絡みつく尚隆の舌に必死になって応えているうちに、気が付けば腰布だけを残
し全裸に近い姿にされていた。
「!!」陽子の全身の肌が紅潮する。
尚隆は陽子を衾褥の上に押し倒した。そして腕を固定していた布もろとも、自身の衣服
を脱ぎ捨てる。だが、左の上腕部にはまだ痛々しい包帯が巻かれたままだ。
「延王…お体に障ります…。」
「なに、大丈夫だ。慶の宝重のおかげでな。」尚隆はくつくつと喉の奥で笑い声をたて
た。尚隆は陽子の上に覆いかぶさり、きつく抱き締めた。肌と肌が密着し、互いの体温
が一つのものとなった。そして唇から首筋、胸へと唇を舌を這わせながら、手は陽子の
太股の内側をなでた。
「あっ!!」
陽子は咄嗟に身を引いてしまった。そして激しく後悔する。―拒絶の意志ととられなか
っただろうか?そしてまた次の瞬間、尚隆の愛撫を心待ちにしている自分に気がつき、
赤面するのだった。
「力を抜け。楽にしていろ…。」
「…はい。」尚隆の声に素直な応えを返す。
尚隆は腰布の上から陽子の秘所を指で愛でた。布一枚隔てて尚隆の指を感じる微妙さに、
陽子は声をあげて身をよじった。腰布はすでに湿り気を帯びていた。一方で、尚隆の唇
と舌は陽子の乳房を攻め続けている。収縮し隆起した乳首を軽く咥え、舌で弄ぶ。乳房
と秘所に同時に与えられる刺激に陽子の息遣いは荒くなるばかりだった。
尚隆もまた激しい昂ぶりの中にあった。逆上していたと言ってもいい。五百年を越え
る長き生において、数え切れぬ女を抱いてきたというのに、この少女のすべてを貪りつ
くすような強い欲求にかられていた。尚隆は陽子の体にたった一つ残されていた薄布を
するりと取り去った。陽子は反射的に足をぴったり閉じた。尚隆は―相変わらず陽子の
胸の谷間に顔をうずめていたのだが― 一瞬顔をしかめたが、くっくと笑いながら腿の
間に手をこじ入れた。赤い柔毛の茂る丘を手で探り、温かい湿った場所に辿りついた。
花弁の一枚一枚を、これ以上なく優しくかつ丁寧に愛撫する。
陽子は思わず叫び声を漏らした。下腹部の疼きがますますつのる。尚隆の指のさら
なる刺激を自ら求め、自然に足が開き腰が浮いていた。
尚隆はふっと笑うと、温かい割れ目に指を差し入れた。そして小さな突起を探し当
てると、強く早くそれを揺り動かした。乳首を吸いながらも、絶え間なく指を動かし
続ける。陽子はいまや羞恥もなにもかなぐり捨てて身悶えていた。唇からもれるのは
激しい喘ぎ声だけ、腕を尚隆の背中にまわし、しがみつくように抱きついてきた。
そろそろ潮時か。尚隆はゆっくりと上体を起こす。陽子が切なげなまなざしを投げ
かけてくるのに笑顔で応えてやる。そして、すっかりいきりたち、激しく脈打つ物の
先端を、そっと陽子の裂け目にあてがった。陽子の体がびくんと震える。尚隆は陽子
のまだ誰も受け入れたことのない場所へ、慎重に入っていった。
「あっ…!!」陽子が小さく悲鳴をあげる。
尚隆は眉をひそめて少し引いた。ほんの少し前後させつつ、ゆっくりと進んでいく。
陽子の吐息が再び甘く熱いものに変わったのを見て、尚隆は一気に突き進んだ。
陽子は歓喜の声を上げた。痛みがなかったわけではない。だが、もはや陽子にとって
痛みさえも快楽をいや増すスパイスのようだった。尚隆が腰を二度三度と動かすた
びに陽子の唇から短い叫びが漏れた。
尚隆は陽子とつながったまま膝をついて上半身を起こした。陽子がいぶかしげな視線を
おくってきた。尚隆は薄く笑って、陽子の右足をほぼ垂直になるように抱えあげると、自分の
右足を陽子の左足の下に滑り込ませた。足を交差する形に絡ませると、尚隆は再び陽子
を突いた。
「ああんっ!!」さきほどよりずっと深く強く攻められて陽子は身をよじった。
尚隆は何度も何度も容赦なく陽子の内奥を突く。陽子はもう声も出ない。
やがて、一瞬息が止まるような衝撃と共に一際大きな波が陽子の体内を駆け抜けて、
体中のすべての感覚をさらっていった。それに和するように尚隆もまた、堪えに堪えてい
た欲求を陽子の内で爆発させた。
尚隆はまだ息が整わぬままの陽子の緋色の髪を優しく撫でてやった。陽子にすれば、あ
まりにも濃密すぎる時間であった。異性と手ひとつつないだことのなかった生娘が、初体
験で絶頂にまで導かれたのだから。女を愛する術に長けた男が、加えて初めて恋をした少
年のような熱情を叩きつけたのである。これで陥落しない女はまずいまい。
「…少し無理をさせすぎたか。悪かった。」
「いえ…。」
陽子は目を閉じたまま、くすりと笑った。
「延王…。」
「ん?」
「今更なんですけど…というか順番が逆みたいなんですけど…好きです…初めて会ったと
きから、ずっと好きでした…。」
尚隆は黙って陽子の髪を撫で続けた。
「私…玉座を望むと決めたものの、とても不安だった。だって、ここは私にとってまったく
知らない世界なんだもの。私は、ここでは生まれたばかりの赤ん坊と一緒なの。こんな王
じゃ、民にとってはいい迷惑なんじゃないかって。でも…。」
陽子は熱いまなざしを尚隆に向けた。
「あなたを愛して…愛されて…何というか、私はここにいてもいいんだと思えたの。
あなたは私がこの先この世界で生きていくための理由なの。…迷惑ですか、こんな考え。」
「いや…。」
尚隆は陽子の瞼に軽く口付けた。
「俺は喜んでお前をここにつなぎとめる鎖になろう。」
「嬉しい…。」
尚隆は自分の上腕に陽子の頭をのせ、胸に抱き寄せた。
これまでに偽王軍をだいぶ切り崩してはきたが、陽子が真の王であるという事実が浸透
するまでに、もう二、三日はかかるだろう。つまり、あと数日は厳しい戦局が続くという
ことだ。
─だが、今は。今だけは。
少女のぬくもりを腕に感じながら、尚隆は静かに目を閉じた。
─終わり─
キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━( )━(゜ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!!!!
>>933 GJ!
これまであまり陽子×尚隆って読んだ事がなかったんですけど、なかなかいいものですね。
次も期待してます!
キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* !!!!!
職人さんキテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
GJGJGJGJ!
だれか飯をついでくれー!
938 :
蘭玉LOVE:2006/02/20(月) 02:08:05 ID:v0+cylxE
蘭玉たんが(麻原)将校の手下の黒衣に輪姦陵辱されていっちゃう小説はまだですか?
蘭玉たんがレズッ気のある陽子に押し倒されてそのまま濡れ濡れになる小説はまだですか?
蘭玉たんが精通を迎えた弟に性教育してやる小説はまだですか?
蘭玉たんがインポテンツに悩む労相のチンポをたたせてあげる小説はまだですか?
蘭玉たんが殺された後、その死体を将校に弛緩される小説はまだですか?
蘭玉たんがドラ○ンボールで復活して陽子の後宮に入る小説はまだですか?
蘭玉たんが死んだ後天に召されて仙になって天帝にセックス奉仕する小説はまだですか?
>>938 それだけ様々なネタを妄想する力があるなら自分で書けるんじゃないか?
試しにやってみなよ。
投下してくれるか分からない職人さんをただ待ってるよりもずっと早いぞ。
>938
君に新作を期待する。
テカテカしながら待ってる。
941 :
蘭玉LOVE:2006/02/21(火) 07:34:57 ID:jeNeSBNk
書けりゃ苦労しないよ!
でも陽子に水寓刀の柄で粘着に攻められる蘭玉たんハアハア
>>938 神と呼ばれる人だって最初はそうだよ。
悩んでもいい、時間を掛けてもいい、938の煩悩を形にしてみたら良いじゃないか。
それに、これは自分だけかもしれないが、エロはそのキャラを好きじゃないと書けないから、
そんなに蘭玉たんが好きな938の話を是非とも見てみたいよ。
938が蘭玉たんネタを書くことによって、新たな蘭玉ファンが
生まれるかもしれないしね。
書く事は大変かもしれないけど、頑張って!
期待してる。
ていうか本音をいうとそんなにネタがある938が羨ましいよ…。
>>942 そうだよな、妄想の数が多い分だけネタの引き出しが多いって事だもんな。
>>938 具体的なイメージはお前さんの中にあるんだろ?
たとえばさ、941のネタを例にとってみるけど、まず時期や時間はいつなのか、
二人のいる場所はどこなのか、どんな服装をしているのか、蘭玉がどんな体位で
攻められているのか。
攻め方だっていろいろあるじゃん?
陽子が背後から蘭玉を抱きかかえるようにして言葉責めしながらじっくりねっとり愛撫するとか、
あるいは蘭玉自身に水寓刀を持たせて自分で慰めているところを陽子が視姦してるとか。
ネタだけ提供して誰かに文章を書いてもらっても、必ず自分のイメージと違うところが出てくる。
自分が考えているネタを細部まで完璧に文章へ起こせるのは自分自身しかいないんだ。
だからがんばれ
>>938!
ところで、ここって次スレどうします?
最近、過疎り気味だから、立てても即死しそうな気配が…
985くらいかな
よってたかってアク、レスでなんとか延命させてるうちに
>938が連投
保守してみる
麟にフェ○してもらう妄想しながら保守
補習を受けます
乙悦
私の横には美麟が、と妄想保守
崑崙に知り合いはおりませぬ
一年前は人大杉
今は妖魔も出ない
過疎の夢
最近YOUTUBEでアニメ見て 再過熱しました
(´(工)`)ノ皆様お久しぶり
お帰り!!
上のだと、帰れって意味に取られそうだ。
ウェルカムって意味だよー
書庫の司書さんはいったいどうしてしまわれたのだろうか・・・・
投下の絶えた今こそ、過去のSSで萌えを補給したいのだが。
>957
>3へ行ってこい
エロパロ板の過去ログってあったのか!
気づかなかった
まとめサイトの管理人いつもサンクス
次スレが立つかどうかが不明なので駄文を投下します。ご容赦を。
一日も早く神が降臨し、次スレとスレが栄える事を願っております。
初書きと初投下ですので住人様に失礼がありましたら、先にお詫びをします。
神の作品と比較すると、あまりにもエロが不足気味かも知れませんがお許しを。
設定は「ありえない月祥」です。やや鬼畜傾向ですのでお嫌いな人はスルーで。
「豹変 1/8」
―――いつまでも清く 美しいままでいておくれ 儂の愛しい 愛しい白珠よ―――
主上は何故 喪の色と呼ばれる『白』を愛したのだろうか
『清廉潔白』と評される ご自身の気性の故からなのか
愛する一人娘を常世で珍重される宝玉に、よく譬えられた
最も希少な宝珠――『真珠』――其れは健康・長寿・富の象徴
純粋無垢な娘に育つようにとの願いを込めて付けられたであろう
両親より贈られし、祝福されたその名前
『祥瓊』と字をされた少女は、与えられた名に恥じぬ美貌の持ち主に成長した
容姿だけではなく聡明で利発、清麗艶美とまでに賞賛されたる『蒲蘇の一瓊』
まさに理想の娘
主上ほどの方が何故 ご存じなかったのだろうか?
あまりにも純粋な『白』は人の目を眩ませる
眩しさのあまり 思わず瞳を閉じて
身の内に潜む闇を 気付かせてしまう
愛しくて 愛しくて 愛しくて
狂おしいほどに 愛しくて
罪と知りながら 染めずにいられない
純白の雪を 汚さずにはいられない
――男という『獣』の本能を――
「豹変 2/8」
恵州・新道の里家に匿われていた、先の峯王が公主・孫招。
その出自が露見して、恨みに駆られる村人達に処刑されかけた。
州師が出動し身柄を州城に保護してから、丸三日が経つ。
城内の最奥、内宮にある一室。牀榻の奥に眠る影が、透ける絹の向こうで幽かに動いた。
わずかに首を廻らし唇が開く。紺に縁取られた睫毛から菫の蕾が綻び始める。
力の入らない身体を無理に押し上げ、半身を起こす。
頭が朦朧として自由が利かない。かろうじて肩で息を継ぐ。
「…お目覚めでございますか。主をお呼びいたしますので、しばらくお待ち下さい」
房室に控えていた女官だろうか?声を発して、直ぐに視界から姿を消してしまった。
(………ここは……ど…こ……?)
幄の向こうに、ぼんやりと映る房室には見覚えが無い。
窓から差し込む陽の光が、床を茜色に染め上げていた。
しつらえは控えめな造りで、辺りの空気は心地よい香と墨の残り香がした。
置いてある調度品と薫物の趣味の高さから、主の人柄と身分が推し量れる。
絹布を除けて牀榻を降りようとすると、わずかに足が届かない。
たどたどしい動きで腰をずらし、裸足のままで床に降りる。
あてどなく数歩踏み出してみては、改めて房室の中を見廻す。
鷹隼宮ほど豪華ではないが、里家よりは明らかに上等の房室。
(……里家……そうだ、私、私は…里家で…村人に……)
『公主だ!!公主が此処に居るぞ!』『殺せ!』『生かしておくな!』
渦巻く罵倒、怨嗟の叫び。身に降り注ぐ石礫。車裂きの為に引き摺り出された雪の広場。
石張りの床から伝わる冷気と痺れに似た恐怖の残像が、足元から全身に這い上がってくる。
「豹変 3/8」
突然、軋んだ音と共に空気が割れた。
先触れの女官が二人ほど音も無く房室に滑り込む。
開かれた扉の奥から一人の若い男が姿を見せて視線が釘付けになった。
この三年、憎んで、憎んで怨んだ男。
父と母、麒麟を弑逆した簒奪者。
私の全てを奪い取った忘れようも無い顔。
「……月渓……」
「……衣服を着なさい……」
逸らされた視線よりも早く、羞恥の炎が全身を廻る。
自分の身を包む肌が総毛立ち、瞬く間に粟立った。
「!」
慌てて衝立の後ろに隠れる。小卓に、くすんだ色あいの衣服が畳まれて置いてあった。
(このような褐衣に袖を通せ、と言うの…!)
だが、それ以外に身に纏えそうな物などは無く、怒りと屈辱に顔が歪む。
床下に顔を向けながら歯をくいしばり、着替え終えると衝立の陰から出る。
(…あの時に死んでいたなら、こんな思いをせずに済んだのに!!)
月渓が主人だと言う事は、ここは恵州・州城なのだろう。
両の眦に浮かぶ熱と涙を必死で堪える。惨めさと恥辱のあまり眩暈を起こしそうだ。
おめおめと生き恥を曝している自分自身の存在を、祥瓊は激しく呪った。
「豹変 4/8」
床下を向いて決して顔を上げようとしない娘の姿に、失望よりも哀れみが込み上げてくる。
守ってやりたいと思うのに全身から棘を生やしたような拒否と虚勢が、むしろ痛々しい。
当然の事だ。彼女の笑顔が我が身に向けられる事など、未来永劫あろう筈も無いのに。
それでも心の底で、かつては目にした微笑を目にする事を渇望していたとでもいうのか。
「…醜い」
我知らず、どこまでも愚かな自分への自嘲の言葉が口に出る。
だが、その言葉を目前の自分に向けられた侮蔑と取った祥瓊が己の矜持に火を点けた。
怒りの表情を隠そうともせずに紫紺の瞳に炎を浮かべ、可憐な唇から毒を吐く。
「お前が、そう仕向けたのだろう!簒奪者!」
「…恭へ行っていただく。あなたが国に居れば徒に民の心を、乱す」
(――違う!)
即座に否定する、もう一人の自分。―――乱れているのは己の心だ。
彼女が州城に来てから一睡もしていない。
掌固の兵に臥室を厳重に守らせ、即座に鷹隼宮に向け登城した。
官吏らとの慌しい合議も押し切って彼女を託す旨を記した恭への親書に白雉の脚を捺す。
公主に同情的な一部の官吏達の中には、恭国へ彼女を預ける事に反対する意見も挙がった。
「何故、恭国なのです!地理的に近いとはいえ供女王は気性の激しい御方。
国交は途絶えましても、まだ大国・範や、主上と誼のあった柳の方が――」
(――――解っている。―――解っている、解っているのだ!そんな事は!!)
その方が彼女にとっては、まだ良い待遇が為されるだろう事などは百も承知だ。
けれども心の底で叫ぶ自分がいる。胸に燻ぶる嫉妬の炎で身が焦がれそうになる。
祥瓊の助命の為に、あらゆる手段を尽くした。ずっと、ずっと見詰めてきた愛しい白珠。
罪に塗れた己の手で触れる訳にはいかなくとも、他の男の手に委ねるなど気が違えそうだ。
「豹変 5/8」
こちらを決して見ようとしない男に『侮られた』と感じた祥瓊は皮肉交じりに答えた。
「恭へ行け、ですって。この国から追放しようと?」
「そうではない。その様にとられるのも無理は無い、だが…」
順を追って釈明するよりも早く、鋭い舌鋒で祥瓊が噛み付いた。
「お前に命を施されるくらいなら、妖魔にでも喰らわれたほうがマシよ!!」
「!!」
頭の何処かで鋭い音が弾ける。主上より拝領した硯を割った時に似た――あの音が。
背後に向けて右手を鋭く振りかざすと控えていた女官らが慌しく退がった。
二人きりになった房室の空気が急に濃密に転じて重苦しい雰囲気が立ち込める。
己自身が最も怖れていた禁忌の罪を抑える箍は、たった今、砕け散った。
繋ぎ止めていた理性が激情へと逆流して、男の双眸に凶暴な光が生まれる。
それは獲物へと狙いを真っ直ぐに見定める、一匹の獣へと豹変した瞬間だった。
今まで見たことも無い月渓の鋭い視線を受けて、祥瓊は思わず身を竦ませた。
身を翻す隙すら無く、あっという間も無しに間合いを詰められ両の手首を掴まれる。
もの凄い力で食い込む戒めの痛みに、抗う声すら挙げられない。
「――では、貴女のお望みどおり御身を妖魔に喰らわせましょう。祥瓊さま」
「なっ…!?」
何を、と問い返す言葉など最後まで言わせず、強引に顔を重ねて唇を奪う。
驚愕に見開かれた紫紺の瞳が瞬く間に凍りつき、顔色が蒼白に変わる。
力任せに華奢な腰と紺青の髪を掴み寄せ、頤の角度を変えては深く、深く口付ける。
舌を差し入れて膨らみの谷間を割り口腔に広がる甘い蜜を貪欲に、しゃぶり尽くす。
細い首を捻じ切りそうな勢いで顎を持ち上げ、娘の身体を折れんばかりに強く抱きしめる。
絡まりあった二人の姿は、蛇が捕らえた獲物に巻きつき飲み込もうとする姿に似ていた。
朱に染まった房室の床に伸びる歪な黒い影が、程なく消える様に夕闇に呑まれて消えた。
「豹変 6/8」
――何が起きているのか、解らない。
全身を包む熱と痛みに、思考が溶けそうだった。
目の前を押し潰す息苦しさから逃れようと、出口を探して必死に藻掻く。
口中に熱く溶けた吐息の熱が流れ込む。舌も唇も噛み千切られてしまいそうだ。
脳天から串刺しにされたような衝撃に耐えられず、膝が砕ける。
砂のように崩れ落ちる身体と矜持を、祥瓊は己の意思で保つ事が出来なかった。
獲物を逃すまいと、月渓は細身の身体に更に力を加えて床に押し倒した。
背中に伸ばされた腕が白い項を包む襟足に指を掛け、一気に引き降ろす。
生皮を剥かれるにも等しい恐怖に陥った祥瓊が、たまらず悲鳴をあげる。
「嫌あぁああっぁあっっー!!」
絡みつく獣の爪から渾身の力を込めて、懸命に足掻く。
びくともしない腕の檻から、必死で逃れようとする。
辛うじて、こじ開けられた僅かな身体の空間が、逆に己の死角となった。
鋭い速さで潜り込んだ男の指が、着衣の帯を引きちぎるように解いた。
あれほど疎んでいた衣を拾おうと、慌てて祥瓊の指が布を掻き寄せる。
(――逃がしは、しない)
忙しなく男の両手が祥瓊の身体中を弄り、衣を引き剥ごうと爪を立てて襲い掛かる。
無造作に千切られる花弁のように一枚、一枚と確実に身を包む布が毟り取られていく。
身を仰け反らせて必死に足を宙に浮かせて、もがく姿は水の中で溺れている子供のようだ。
妖魔が狩り立てた獲物を嘴で啄ばむように誰の目にも触れた事の無い肌が曝されていった。
露わになった薄い肩から首筋、顎へと伸びる白い稜線に月渓は何度もむしゃぶりつく。
生暖かい舌の熱と滑りが巻き起こす嵐に、祥瓊の身体の芯にまで怖気と痺れが走る。
必死に腕を振り解き、懸命に爪を立てるが何の役にも立たない。
肩を激しく揺らして抵抗するが、却って身を包む衣が滑り落ちるだけだ。
絶望的な思いで逃れようとしても、為す術も無く欲情の牙に呑み込まれていく。
もはや彼女の身を守るものは、一枚の頼りない小衫のみとなってしまった。
「豹変 7/8」
漁られた魚のように跳ねる身体を、月渓は悠々と肩に抱え上げた。
捕らえた獲物は巣穴の中で、ゆっくりと味わえば良い。
「嫌あぁあぁぁっ!離してえっ!!」
暴れる手足の動きなど、蜉蝣の羽ばたきにも劣る――――声を限りに叫んでも無駄な事。
牀榻に押し込まれ、衾褥の上に無造作に転がされる。
雪よりも冷たい白絹の感触に、祥瓊の身体が固まった。
褥の上を逃げ惑う手は容易く捻じり上げられ、頭上に纏められる
「妖魔の好物、というのが何かご存知か?」
両の手首をもぎ取るかのような戒めを、軽々と片腕だけでこなしながら
右手で滑り落とすように月渓は己の袍を脱ぎ、冠の紐を解く。
「玉、なのですよ。極上の玉に妖魔は酔うのです。――――――まさに貴女のような」
褐色の厚い胸板は、並みの武官よりも遥かに逞しく鍛え上げられており
引き絞られた弓に似た腕の筋肉は、鋼鉄の柱のように磨き上げられている。
玉に狂った、かの戴国の驕王でさえもが、感じ得無かったであろう―――――この至福。
かくも、美しい女身を創造した天帝には、感嘆の念を禁じえない。
寝乱れた瑠璃の髪、涙に濡れる菫青色の瞳。恥辱に噛み締められた、珊瑚の唇。
その全てが輝く真珠色の肌に埋め込まれていて、艶かしい光を放っている。
『王宮で囀るだけの籠の鳥に、国と民の姿と自らの力で生きる翼がある事を知って欲しい』
公主の生存は内乱の元だ、と彼女の死を望む諸侯・諸官を無理矢理に説き伏せ身を匿った。
娘の成長と将来を案じつつも、密かに時の呪縛を解いてしまった事を恐れる自分がいた。
主上の掌中の珠に抱いた恋慕の情。愛おしい気持ちが高じて狂いそうな程に彼女を欲した。
絶対的な身分の差、稚い少女の姿のままで高嶺の花として見詰めるだけで良かったものを。
天道に叛いた以上、人道に背くまいと必死に耐えたが結局、私は人の心を喪い獣に堕ちた。
「豹変 8/8」
乱れた小袗の襟元から零れる白桃の谷間は、飢えを満たすには充分過ぎる程に熟れている。
薄物一枚の奥に隠れた腰の括れは、身中に湛えた蜜と美酒の香りを漂わせる酒壷のようだ。
恐怖に青ざめた顔色と羞恥に染まった紅色の肢体の落差が、堪らなく牡の劣情をそそる。
「…男など皆、妖魔なのですよ。祥瓊さま…お忘れなきよう」
背けられた頬に唇を寄せて耳朶を食み舌で舐る。蕩けそうに甘い食感に脳髄が陶然となる。
絹繻子の柔肌に触れたいと逸る心に共鳴してか、か細く震える窮鳥の耳に囁きかけてやる。
「………!!」
耳に全神経が集中しているのか、密かに解かれた腰紐の乱れに全く気付かない。
早くこの爪で至高の楽の音を奏でたくて、奏でたくて仕方が無い。
諸芸百般を修めた、この娘の最も得意としたのは歌唱である。
王宮の宴で高く、高く歌い上げる娘の美声は此の世の桃源郷を想わせた。
(…最高の歌を聞かせてくださいませ、祥瓊さま。この、私にだけ…)
密かに忍び込ませた一本の指先で滑らせるように、脇から腰の曲線に沿って辿る。
「ひゃぁああぁっ、ああぅんぅんっっ!」
まさに打てば響く、といった名器の音色に恍惚となる。
しっとりと吸い付く肌の肌理は磁石のように指を引付けて離さない。
ビクビクと跳ねる獲物の反応に腰の熱が一気に沸点に達する。
膝を割って馬乗りになり獲物を褥に縫い止め、一気に小衫の襟元を剥ぐ。
稀少な紺青の翅の蝶、その断末魔の叫びは何物にも換え難い蟲惑的な魅力だ。
身体を左右に捩って激しく抗う姿態など、獣にとっては究極の媚態に過ぎぬ。
芳の冬は、長い。歓喜の咆哮が体中に轟きわたる。
今宵の饗宴は、始まったばかりだ―――存分に、楽しませてもらおう。
終
968 :
960です:2006/03/10(金) 19:46:48 ID:UwD9ooPd
以上で終わりです。スミマセンでした。
期待はずれ、拍子抜けされるのを覚悟で投下しました。
個人的に桓祥が好きなので、馬鹿野郎!許せん!と
お叱りをいただける神の作品を希望しています。
本当にゴメンナサイです…
投下 乙!
なかなかエェデェ〜
970 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/10(金) 23:01:08 ID:T1+DBNUi
おおっ 投下だ! せっかくだから揚げ
GJ
972 :
960です:2006/03/11(土) 00:00:35 ID:UwD9ooPd
ID変わる前に支援を下さった方々に厚く御礼申し上げます。
少しでもスレの発展に貢献できたらば幸甚に存じます。
出来れば新スレが早く立てられて、神の作品を読みたいです。
クレクレ厨でスミマセン。神よ、新スレと作品をよろしく。
973 :
テンプレ案 :2006/03/12(日) 00:10:25 ID:Z0tHIoWq
974 :
テンプレ案 :2006/03/12(日) 00:12:39 ID:Z0tHIoWq
976 :
テンプレ案 :2006/03/12(日) 00:18:46 ID:Z0tHIoWq
スレ情報は最新に直した。
「スレが読めません」スレも、古いけど専用ブラウザのリンクは大体生きてたんでのせといた。
後は好きに改良してください。
乙です〜!
月祥グッジョブ!
最後に良いのきたな。
もっと続きが読みたいところ
月渓は自分をロリコソにしてしまった永遠の13歳・祥瓊に対し複雑な想いを抱いていた
からな〜。そんなコンプを切り捨てるために泣く泣く祥瓊を仙籍からはずしたわけだ。
だが、育った祥瓊を見たとき、自分はロリではなく祥瓊を好きだっただけだと気付いた。
ほんとによかったなと思う。泣ける話だ。
>自分はロリではなく祥瓊を好きだっただけだと気付いた。
気づいたんじゃなく新しい嗜好に目覚めただけ