げんしけんSSスレ16

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1マロン名無しさん
「えーん荻上さんが冷たい!筆頭だった頃はあんなにSS書いてくれたのにー」
「絶望シタ!イツマデモSSすれヲ卒業デキナイ、すれ住人ニ絶望シタ!」
絶望しなくていいよ、スーちゃん。
ここは卒業の無い斑目時空だから。

とうとう原作にまで絶望先生ネタが…
そんな事より、シリーズ物から新作まで幅広いジャンルのげんしけんSSスレ。
いよいよ今回で第16段!
未成年の方や本スレにてスレ違い?と不安の方も安心してご利用下さい。
荒らし・煽りは完全放置のマターリー進行でおながいします。
本編はもちろん、くじアンSSも受付中。←けっこう重要

☆講談社月刊誌アフタヌーンにて好評のうちに連載終了。
☆単行本第1〜9巻好評発売中。オマケもすごかった!
☆アニメ「げんしけん2」放映終了!いい出来でした!
☆作中作「くじびきアンバランス」漫画連載終了&アニメ放映終了!いい出来でした!
☆単行本1〜2巻好評発売中。(巻末に、その後の「げんしけん」を描いたおまけ漫画有り)

前スレ
げんしけんSSスレ15
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1188136280/
2マロン名無しさん:2008/01/09(水) 23:40:37 ID:???
関連スレ
げんしけん(現代視覚文化研究会)まとめサイト(過去ログや人物紹介はこちらへ)
http://www.zawax.info/~comic/
げんしけんSSスレまとめサイト(このスレのまとめはこちら)
ttp://www7.atwiki.jp/genshikenss/
げんしけんSSアンソロ製作委員会(SSで同人アンソロ本を出してます)
ttp://saaaaaaax.web.fc2.com/gssansoro/top.htm
エロ話801話などはこちらで
げんしけん@エロパロ板 その3(21禁)
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1144944199/

3マロン名無しさん:2008/01/09(水) 23:42:08 ID:???
4マロン名無しさん:2008/01/10(木) 04:08:48 ID:???
スレたて乙です!
いつまでもSSスレから卒業できない住人がここにも。
5マロン名無しさん:2008/01/10(木) 06:33:10 ID:???
>>1乙!
前スレはほぼあなたの独壇場だったな。
今スレでは一矢報いたいと思う今日この頃。
6マロン名無しさん:2008/01/10(木) 07:28:49 ID:???
>>1乙!
7マロン名無しさん:2008/01/10(木) 08:37:45 ID:???
>>1おっつー
新年早々新スレとは縁起がいい
8マロン名無しさん:2008/01/10(木) 10:32:22 ID:???
>>1
一年離れてたけどすごい量…!
復帰予定なのでその時は宜しくデス
9マロン名無しさん:2008/01/11(金) 10:09:14 ID:???
ふひゃふひゃ
10マロン名無しさん:2008/01/12(土) 20:54:17 ID:1u23+qUE
age
1130人いる!の人:2008/01/13(日) 20:27:36 ID:???
すんません、今週はパスです。
話も中盤に来て、正直チトネタ切れ気味です。
実は屋外に出てからの話のネタはいろいろ考えてるのですが、屋内撮影の方は殆ど設定の羅列だけになりそうなんで、ここらで多少走るか、それとも細かく撮影風景を追って行くか思案中です。
再開まで今しばらくお待ち下さい。
12マロン名無しさん:2008/01/14(月) 23:44:07 ID:???
保守
13マロン名無しさん:2008/01/15(火) 23:58:10 ID:???
14マロン名無しさん:2008/01/16(水) 17:53:58 ID:???
「保守、っと。しかし保守としか書き込まないのもツマランでありますなあ斑目しぇんぱい」
「そう思うならきみがなんか投下すればいいだろー朽木くん。きみは書けないのか?血沸き肉躍るSSを」
「書けるもんならとっくにやってるでありますよ」
「うーむ……よし、俺たち二人で力を合わせるか。俺にだって創作用思考ルーチンがあるっつうところを見せてやろう」
「面白いっすね。ではネタは終了記念でくじアン、どうスか?小雪タン大活躍でひとつ」
「こんなのはどうだ。会長就任前夜、千尋は律子に……『現会長・律子ケッテンクラート』に、自分が会長をやり抜いてみせると決意表明しようとするんだ。ところがまだ現役である会長の周辺は危険が多く、なかなか近づけない」
「多少丸くなったとは言え副会長は引き続き脅威ですな、公私共に下心がありますし。うん、それに『現会長』の命を狙うことで栄誉を得ようとする不逞の輩が跋扈しておりましょう」
「いいぞ。そこで思案していた千尋に、小雪が気づいた。小雪はこう思うんだ。『わたし、おにいちゃんを助けたい!』」
「おお!超能力を制御するようになったスーパー小雪タンにかなう者はありますまい」
「ところが敵もさるもの、蓮子が山田をオーバーホールしている間にボディユニットを奪取し、これに人工頭脳を接続して戦わせる」
「マッスルボーン3……いや、5号くらいにしましょう!超パワーアップでござるよ!」
「小雪対マッスルボーンのガチ対決!飛び散る火花!」
「にゅるにゅると伸びる触手!」
「そう、見る間に小雪は生まれたままの姿に……って、え?」
「 ぬらぬらと淫猥に照り光る触手は小雪の未成熟な白い肌をみるみる蹂躙してゆく。
  『い……いやぁ……ッ』
  淫液に塗れた触手は彼女の集中力を奪い精神を乱し、超能力の発露を妨げ続ける。
  ただの少女と堕した小雪に触手に抗う術はなく、見る間に触手は彼女の両足を大きく割り拡げた。
  やがて触手はその中心に向けて新たな形態に変化し……そう、それはまるで猛り狂う大蛇のような鎌首をもたげて――」
「正気に戻れッ!!」
「あいたたっ!なにするでありますかしぇんぱい!」
「そんなガチエロ、SSスレに投下できるかあっ!」
「はっ!ワタクシは一体っ?」



結局二人は普通に『保守』とカキコすることにしましたとさ。
15マロン名無しさん:2008/01/16(水) 21:19:13 ID:???
「・・・大野先輩、なにをドアの前でこそこそと・・・」
「しーっ。しずかに〜荻上さん。今まさにまさかの朽×斑が展開されているのですよ!」
「へっ? ええー!」
「二人で血沸き肉踊る官能の〜」
「わわわ!!」
「荻上さんも聞きたくないですかあ?」
「いや、そ、そだことは・・・」
「聞きたくないんですか?」
「・・・・・・作品の参考にさせてください」
「もっと素直に言っていいんですよ。さ、こっちへ」
(盗み聞ぎなんがして、ずんまぜん・・・)


「って、この会話のどこが官能なんですか!」
「う〜、途中から健全な男性向け展開になっちゃいましたね。残念!」
「最初からそうだったのでは・・・でも、ま、一段落ついたようですし、部屋に入りましょうか」
「・・・荻上さ〜ん、冷静を装っても無駄ですよ」
「えっ?」
「もう、顔にピンク色で朽×斑って書いてありますもの」
「うっ。・・・ち、違いますよ!朽×斑←笹ですからっ!!」
「墓穴掘りましたね」



14氏GJ!
16マロン名無しさん:2008/01/17(木) 19:10:00 ID:???
>>14>>15
>14氏GJ!
こっ、これはどういうことなのでしょう?
>>14氏と>>15氏は別人で、後の人が前の人に触発されて続きを書いた、自然発生的リレー企画なのでしょうか?
いやあ、ある意味1番手としては理想的なSSですな。
例えるなら、笑点の大喜利で、楽太郎師匠辺りが1番最初にやる、お手本的な答えみたいな。
(で、歌丸師匠が「あっ、こりゃきれいだ。山田君、1枚やっとくれ」となる)
まあ最近投下の間隔が空きがちですが、まだまだ残されたSSスレの可能性を垣間見せてくれる、いい話でした。
それにしても、ワープするクッチーといい、新たな謎のカップリングをあみ出した荻上さんといい…
朽×斑←笹って、どういう状況なんだろう?
17マロン名無しさん:2008/01/18(金) 05:17:52 ID:???
>>14
>>15

これはよいリレーSSw
空気読んで投下しないあたり、朽木君も丸くなったもんだ。

大野さんと荻上さんの妄想ネタもヨスw 朽×斑←笹 なんという片思いフラグ…!!

>朽×斑←笹って、どういう状況なんだろう?
そりゃもう、こういう状態なんでしょう。
18マロン名無しさん:2008/01/18(金) 05:28:34 ID:???
ララ〜ル〜〜〜♪(アニメ2期5話のBGMっぽい音楽)

「ボ…ボクチン、こんなに胸が痛いの、初めて…ッ」
「…朽木くん?どうしたんだい、顔を赤くして。熱があるんじゃないかな…」
「はうッ!…ま、斑目先輩の手が、ボクチンの額に……!!ぼ…ボクチン…ボクチン…」
「…やはり少し、熱いようだ。今日は無理をせず、家に帰ったほうがいい」
「………っ、や、やさしい…斑目先輩………、ワタクシ……、ワタクシ……

ワタクシ辛抱たまりませーーーん!!!!!!!」

叫んだ朽木の背中から飛び出す触手。
「……く、朽木君!!??」
「イーッヒッヒッ、観念するでありますにょきれいな斑目先輩!!!」
「うわあああああ!!!」
ズッコンバッコン

*** 〜しばらくの間、シルエットでの映像をお楽しみください〜***

それを柱の影で見ていた笹原、悔し涙にハンカチを噛みながら、ヤケになって高坂の家に走るのであった。


******

「…とまあ、こんなモンっすかね…朽×斑←笹っての…」
「………荻上さん、今スランプでしょう?」
「…認めたくないものだな、若さゆえの(略)」

すいません、穴掘って潜ります……orz
19マロン名無しさん:2008/01/18(金) 23:59:36 ID:???
>>18
スランプか?
むしろ腕を上げたような気が…
20マロン名無しさん:2008/01/19(土) 02:05:26 ID:???
うほyひょww
21マロン名無しさん:2008/01/20(日) 21:25:32 ID:???
うーむ困った。
実は俺、「30人いる!」書いてる者なんですが、何だか原稿進みません。
初期こそ調子乗って週間連載やってたけど、段々原稿のストック切れて隔週連載になり、ついには連載中断状態。
実は後半の流れは大体出来ているのですが、そこまでどう繋ぐかが当面の課題です。
まあ待ってる人は少なそうですが、今しばらくお待ちを。
何とか近い内に、不定期連載ぐらいで再開しますんで。
では御免。
22マロン名無しさん:2008/01/20(日) 23:07:27 ID:???
>>21
いや、余裕で待っているのがここにいますが。
自分も昔SS書きをやっていたので、産みの苦しみはわかります。
氏のファンなので待ってますから無理のない範囲でがんばってください。
23マロン名無しさん:2008/01/21(月) 01:17:45 ID:???
氏が30人いたらいいのに(笑)
いつまでも待っております!

そして17氏は素敵にリレーをつなげていらっしゃる。
トップランナーの触手ネタはすごく…大きいです(インパクトが)
ボクチンを連呼するかわきもいいくっちーが、BLビジュアルで脳内に浮かびました!
潜らんといてくださいな〜
24マロン名無しさん:2008/01/21(月) 06:59:55 ID:???
200レスでもまだ途中クラスの連載が30本と聞いて(ry

>>21
のんびり書いてください。保守SSという新ジャンルもできたようでスレ沈没はなさそうだしw
25マロン名無しさん:2008/01/21(月) 07:19:41 ID:???
毎週月曜が楽しみでした。

朝っぱらから電車の中で、携帯で読んでニヤニヤしてた。
多分不気味な男でしたw
26マロン名無しさん:2008/01/21(月) 17:52:02 ID:???
「お久しぶりっす、斑目さん。朽木くんも……ってナニやってんスか二人で」
「おー笹原と荻上さん。早速で悪いがこの朽木くんを引っぺがしてくれないか?」
「にょおおお。斑目しぇんぱいプリーズでござるうう」
「!!!」
「どうしたの一体。就職苦戦してるって聞いたけど」
「しょれなんですにょ。週末に三重で役員面接あるんですが斑目しぇんぱいに付き添いを平身低頭お願いしてるんであります」
「……俺にはヒトデが二枚貝を絞め殺す姿の形態模写に見えるけど」
「AH!笹原先輩キビシーッ!まあ近いと言えば近いですかな。一緒に行ってくれれば叔父さん持ちでメシが食えるであります。松阪牛のとろける誘惑でこの御仁を篭絡しようとしているところですから」
「だからお前の付き添いはゴメンだって」
「そんなこと言わないで下さい。ほら、見えませんか?くつくつと気だるく甘い音を立てるすき焼き鍋が。箸で触れるだけで融け落ちんばかりにふるえるピンクの柔肉が。想像してください、薄い肉片をそっとつまむと透明な液体がとろうりと垂れ落ち――」
「く、朽……木、く、ん、っ?」
「舌の上でねっとりともてあそぶほどに汁があふれていくんです。先輩、興奮しているんでしょう?口と違って体は正直ですね、こんなになって……オレもですよ、ほら見てください。もう我慢できない、出ちゃいそうだ――よだれが!」
「わーっ、もう!やめてくださいこの狭い部室で!」
「ああっ笹原先輩なにを」
「なにをじゃないでしょ。斑目さん困ってるじゃない。やりすぎだよ」
「あああ笹原〜。恩に着るよ、俺だとどうにもコイツのペースに巻き込まれちまうんだ」
「斑目さんも斑目さんですよ。卒業してまで後輩にいいようにされてるってのはどうなんですか」
「ええ?俺も怒られてるの?」
「当たり前ですよ、あんなの目の前で見せられる方の立場になってください。俺がいないとなんもできないんですか?」
「にょ?笹原先輩ほんとはうらやま」
「うらやましくないっ!ただアレだよほら後輩として先輩があまりにもふがいないといろいろ……あれ?荻上さん?」
「ああっ!荻上先輩が鼻血を噴いて倒れておられるッ!?」



その夜。
「もしもし大野先輩……事実は妄想より奇なりって言葉、知ってますか?」
2726:2008/01/21(月) 17:53:57 ID:???
>>21
そんなわけで大丈夫ッ!書けたら投下してください。
俺もこんなんばっかりじゃなく起承転結のあるヤツも頑張るw
28マロン名無しさん:2008/01/22(火) 13:58:25 ID:???
住人達…遅いと言われようとこれだけは言っておかねばなるまい…
>>1乙!!

とりあえずアニメ二期のおかげで自己PRが成功したらしく一次審査に合格した俺が
笹原に感謝を込めて笹荻SSを…

ごめん無理。俺に書けるのは小ネタがせいぜいorz
それでも良ければその内書くよ。
29マロン名無しさん:2008/01/22(火) 18:04:52 ID:???
リハビリがてら小物を投下。
タイトルは『モシモシ』、4レス。

まいります。
30モシモシ(1/4):2008/01/22(火) 18:07:26 ID:???
『さ、笹原には連絡しといたよ。き、聞いたとおりだな、すげえヘコんでた』
『ありがとうございます久我山先輩。余計なお願い事……』
『いいって。実は荻上さんのすぐあと、本人からも留守電あったんだよ、れ、連絡欲しいって』
『え?……ああ、そういえば同人誌のこと』
『う、うん。田中に確認した。いいな、金髪キャラ』
『よくねッスよ、あんなの!』
『うわ、ほんとに嫌ってんだな』
『うえっ?あ、田中さんが言ったんですか。いやその、嫌ってるわけでは――』
『う、うはは。……楽しそうだな、現視研。相変わらず』
 あいまいな笑いでごまかしたが、実は一人だけ楽しそうでない人物がいる……それがこの電話に繋がっているのだ。
 事情をよく知らない久我山先輩に心配をかけるわけにはいかず、まあそうですね、と相槌を打つ。
『荻上さんにはオレもか、感謝してるんだぜ』
『へっ?』
 急な話題の転換に面食らう。
『荻上さんから電話もらうまで、田中以外の奴と話してなかったんだ、大学ん時の仲間』
 先輩が卒業して半年。新入社員の忙しさもあったろう、と思った。
『こないだ話しただろ?マンガ、またこっそり描き始めたの誰にも言えなかったからさ、笹原に言ったら笑われた』
『そ、それは……すいません』
『なんで荻上さんがあやまるんだよ?』
『え……いや、なんとなく』
『ふ、ふははは。まあいいや、他のみんなにもよろしく』
『はい。おやすみなさい』

 ……そんな会話をしたのが1週間前。
 私は今、シャワーを浴びながら先日のことを思い出していた。

 笹原さんは翌日から、目に見えて元気を取り戻した。もちろん、私がなにかしたなどとは思わない。あの電話にしたって、現視研の会員として、会長が自暴自棄になっているのを見ていられなかったからだ。
 部室で会話をすることはほとんどない。
 毎日一度は顔を出すが、笹原さんはいつも資料調べや履歴書書きをしていて、ちょっとこちらから話し掛けられる雰囲気ではない。しかも、いつでも在室している朽木先輩が『合宿、合宿』と呪文のように繰り返していて、笹原先輩は一区切りつくと部屋を出ていってしまうのだ。
31モシモシ(2/4):2008/01/22(火) 18:07:55 ID:???
 でもその代わり、メールや電話で連絡を取り合うようになった。忙しい笹原さんに代わって、大野先輩と私が自治会関係の仕事を分担しているのだ。……大野先輩もなんだかんだ言って仕事を私に振るので、結果的に、仕方なく、私が笹原さんと連絡を取らなければならない。
 もちろん報告事項だけで電話を切るのは失礼だから、一言二言は世間話もしている。他に話題もないので、漫画やアニメの話ばかりだし、その延長で就職活動の進捗を尋ねたりもする。笹原さんがまたターゲットを出版に絞ったのが判って嬉し……か、会員としても安心した。
 さすがに広くない出版業界、そろそろ求人も種が尽きてきたと言っていたのが不安だったが、先日ひとつ面接をこなしたと聞いた。
 鷲田社という、出版社に編集者を派遣する会社だという。そんな業種があるとは思わなかった。
 一次面接が社長で、おとといの午後受けた二次面接が編集者の一人。夏コミで『どうせなら採否は現場の人間に』と言っていた笹原さんの希望が奇しくも叶ったことになる。その晩、笹原さんから電話があった。
『荻上さん荻上さん、俺ね、黒木優の編集者に面接されちゃいましたよ』
『へ?……えっと、巷談社、また行ったんスか?』
『じゃなくてね、昨日話した鷲田社。ゆうべ遅く一次通過って連絡来てさ、今日行ったら面接担当者がマガヅンやってる人で』
『ええっ?え、そんなに大きな会社だったんですか?』
『いや……ちっちゃい、ん、だけど』
『はァ?』
 笹原さんの説明を納得するのにしばらくかかった。この日の面接は彼一人で、思い返してみると面接時間の大半をくじアンの話で過ごしたと言う。少し前に聞いた他社の面接レポと様子が違ったので、訊ねてみた。
『笹原さんあの、それで、前言ってた自己アピールとかそういうの、今回はやらなかったんですか?』
『……あ』
『え』
『ああぁぁあああ〜!』
『さっ、笹原さん?』
 さらにしばらく時間をかけ、笹原さんを慰めて。ただ、密度も濃く充実した面談であったらしいことと、面接官も笹原さんも会話内容に熱を持って打ち込んでいたということは私にも伝わった。
 進展あったらまた連絡しますね、と彼が電話を切った後も、私は受話器をしばらくもてあそんでいたのを憶えている。

「……ふう」
 熱めの水流のなかで、そっと息をつく。
32モシモシ(3/4):2008/01/22(火) 18:08:18 ID:???
 最近は、笹原さんのことを考える時間が多くなったように感じる。ま……まったく、世話の焼ける会長だっ。
 ふとした瞬間にあの柔らかな笑顔が脳裏をよぎるようになったのはいつからだろう。『いろはごっこ』を作っていた時?笹×斑妄想に目覚めた頃?斑目さんたちの卒業?夏コミに受かって、コスプレを見られた時?
 ……私の本が初めて売れた時の、あの笑顔を見た時?
 朝と言わず夜と言わず、不意に飛び込んでくる笹原さんの笑顔。退屈な講義の合間、原稿のペン入れが一段落した隙、休日に池袋まで出る電車の車中。早朝、至近距離に迫る笹原さんにたじろいで目覚めた時はさすがに頬の熱さがしばらくとれなかった。
 私は笹原さんを……そっ、尊敬、している。始まりはもちろん、同人誌を作った時だ。原口先輩を撃退した時ばかりはこれぞ会長と内心絶賛した。その後しばらく春日部先輩にセクハラ受けてたのはカッコ悪かったけど。ふふっ。
 原稿が進まなくて久我山さんと衝突したのも、今にしてみればそれぞれの熱意の行き違いだったと思っている。『代わりに自分が描こうか』などと口出ししたのは、よく考えれば笹原さんにも久我山先輩にも失礼だった。
 先日の夏コミでも、過去の亡霊が現れたりガイジン娘に翻弄されたり散々だったが、笹原さんはひとつひとつ私を支えてくれていた。結局あの人が横にいてくれなかったら、たぶん私は途中退場したりスーに気まずい思いをさせていただろう。
 だからその笹原さんが心を折りそうになっていた時、今度は私がなにかしてあげたかったのだ。
 普段自分からかけることなどない携帯電話を取り、久我山先輩に就職の時の苦労話を聞いた。こちらの近況報告に重ねて『実は笹原さんがちょっと苦戦してまして』と振ってみたら、様子を聞いてみようと快諾してくれた。
 先輩も同人誌の件で笹原さんを内心見直していたのだと聞き、嬉しくなった。
 数日たち、笹原さんの様子が変わったのが判り、もっと嬉しくなった。
 おとといの電話では久しぶりに、笹原さんの高揚した口調を聞いた気がする。
 あとは、笹原さんの就職活動が無事終わりを告げるのが待ち遠しい。そうしたら私は、笹原さんに……あれ?
 いやいや、そうでねくてッ。
 さっ、笹原さんが落ち着いて大学生活の最後を送れるように。そう、そのために、私は彼が就職に成功するよう祈っているのだ。
33モシモシ(4/4):2008/01/22(火) 18:08:48 ID:???
 体と髪を洗い、泡を流す。だいぶ長風呂になってしまった。こんなことなら浴槽に湯を張って温まればよかった。
 そろそろ上がる頃合かと考えながら、ぼんやりシャワーに打たれるまま考える。
 笹原さん。
 笹原さん。
 笹原さんは、私みたいなトラウマ女、嫌ェだよな。
 いや……そうでねく。嫌いとか好きとか、そういうのじゃなく。
 でも。
 でも……。
 堂々巡りが3周ほどしたころ、気づいた……電話、鳴ってる?

 脳裏に浮かんだのは、笹原さんの顔。

 体を拭く時間すら惜しい。そのまま飛び出して、受話器を手にとる。
「……っ」
 モシモシ、という言葉が出なかった。私の声じゃなく、まず最初に笹原さんの声を聞きたかった。
 息を止めて、待つ。
 永遠に思える一瞬が過ぎ、受話器からは聞きなれたあの声。
「あ、荻上さんのお宅でしょうか、笹原です……」
 きっと、嬉しい報告だ。そう直感した。これできっと。
 きっと、また。
 きっとまた、明日からはいつもの現視研の日々が始まるのだ。

 ……いや。
 きっとそれは、いつもより、これまでより、私が少しだけ……。

 私は、笹原さんの声が予想通りの言葉をつむいでいくのを、じっと聞くのだった。





おわり
34モシモシ(あとがき):2008/01/22(火) 18:21:53 ID:???
あれ?このスレ書き込み時間制限どうした?

ともあれ、アニメ2期最終回ネタでございます。
最終回直後、あちこちにシャワー電話オギーのイラストがうpされまくってたんですが、SS書きだってそのシーン書きたいんだい!ってことでひとつ。
個人的にはいつの間にかプライベートな電話をかける仲になっていた笹荻に少々の違和感を感じたのですが、とりあえずいい方に解釈してみたw

ありがとうございました。ちょっとブランクあると書き筋変わるな、大変大変。
35マロン名無しさん:2008/01/22(火) 19:26:00 ID:???
エロパロ落ちてたorz
36マロン名無しさん:2008/01/24(木) 20:21:45 ID:???
>>26
楽しそうだね、笹原卒業後の部室w
それにしても朽斑コンビ、もし笹荻来なかったらアッー1歩手前の状態だな…

>モシモシ
関西人なら誰でも1度は(つい電話口で)やったことのある、物真似みたいなタイトルですな。
まあそれはさておき、案外アニメ放送中は少なかったアニメ補完ネタ、お疲れ様でした。
久我山電話、アニメで見る分には誰かに頼まれたか、それともたまたま偶然かは微妙でしたが、ここでは荻上さんが黒幕ですか。
あり得る話ですな。
内助の功ぶりにGJ!
37マロン名無しさん:2008/01/25(金) 05:51:00 ID:???
>モシモシ

良作乙!荻上さんの、笹原を心配する心情が凄く伝わってきて良かったっす。
シャワーシーンは脳内補完いたしますたwww
38マロン名無しさん:2008/01/26(土) 22:08:16 ID:???
みんな小説版読んだ?
39マロン名無しさん:2008/01/26(土) 22:19:07 ID:???
>>38

そこは流せw
40マロン名無しさん:2008/01/26(土) 22:51:19 ID:???
>>39
ごめんなさい。
>>38だが、SS読み書きする人的にはどうかなと思って、訊いてみただけ。
スレ違いですね。
もうしません。
意見のある方、本スレでお待ちしてます。
41マロン名無しさん:2008/01/27(日) 02:11:33 ID:???
>>40
うう…こちらこそごめんなさい。
感想を言い初めるとかなり悪い方向にいっちゃいそうなので…orz
42マロン名無しさん:2008/01/28(月) 09:31:49 ID:???
なんだこの空気…w
小説版は店頭で探してまだ見つけてないYo!
怖いもの見たさというか避けて通れない道というか…
43マロン名無しさん:2008/01/28(月) 12:40:02 ID:???
そんな空気を打開するかのようにお礼レス(←それもどうかと思う)

>>36
>>37
感想ありがとうございます。
アニメは総論で言うとよくできていたと思うんですが、やはり合宿〜「ん」を描かなかった事でがっかりさせられた人が多かったと思われます。良作なのに燃料にできなかったのは俺の不徳orz
さて、オギーです。そんなわけで積極的なツンデレオギーです。本人、わかってますねコレw
1.久我山も自分から電話かけるタイプじゃないし、笹原に連絡取るのは不自然。
2.笹原も女の子にみずから電話する人間じゃない。あの「うりゃ」も(いろはごっこの時に相似させたんだろうけど)慣れてないのがまる判り。
3.そんな二人をわざわざ電話させるナンカがあるんじゃなかろうか。
4.とかイイワケはどうでもよくてオギーのシャワー電話描きたいよ描きたいよ(゚∀゚)

といった考察の末こんな話になりました。
よしレベルはともかくまだ書けるぞ俺。
また頑張ります。では。
44マロン名無しさん:2008/01/28(月) 19:40:20 ID:???
小説版。
「咲はイケメンオタではないか」というくだりで、クッチーが「空手でも習おうか」とかつぶやいていたが、SSのはぐれクッチー思い出した。
4544:2008/01/28(月) 20:12:56 ID:???
>>40-42の流れ無視してしまった……。
46マロン名無しさん:2008/01/29(火) 22:37:57 ID:???
まとめサイトの管理人の方、元気ですか?
そろそろSSスレ15が落ちますので、なにとぞよしなに。
47マロン名無しさん:2008/01/30(水) 22:56:32 ID:???
みんな元気?
48元気だZE〜:2008/01/31(木) 06:57:49 ID:???
「あ、あれ田中、久しぶりだな。大野さんと待ち合わせか?」
「久我山!なにスーツで登場してんだよ。あ、さてはお前サボリだな?」
「そ、そこの病院にアポあるんだよ、30分も早く着いちゃったから誰かいないかなって。なに見てるんだ?SSスレか」
「以前の常連が軒並みスランプらしくてな、ときどき投下もあるんだが、いかんせん活気がなあ」
「ああ、あの長編、俺も読んでるよ。せっかく良作なのに、確かにちょっと寂しいよな」
「文才も画才もない俺としては神降臨を待つしかないんだが」
「……あ。俺が挿絵でも投下してみるか」
「お前が?」
「じ、実はまた、描き始めてるんだよね。カエルかぶった会長くらいならパパっと描けるだろ」
「おお!そいつはいいな。タブレットもスキャナもあるが」
「俺はやっぱ、て、手書きだな」
「絵師降臨とは景気がいいぜ、このままイラストスレにしちまうか」
「ぜんぶ俺のターンってことか田中。俺を殺す気だな」
「はは……でも、なんか嬉しいな」
「な、なんだよ」
「いや、お前がまた絵やってるって聞いてさ。椎応出たらお前も斑目も就職しちまって、俺だけが専門学校入りなおしたりして、趣味一直線だったろ?なんつーかその、少し寂しかったりして」
「うへ、お前らしくねえ」
「人に話すなよ?」
「お、俺に言ったのが運のつき、みたいなことにならないよう祈っておくんだな」
「まいったな、こいつは。……どうだ?首尾は」
「んー……もう少し手を入れたいな」
「ああ、そうか。そろそろ時間だよな?」
「ん、家にもスキャナあるし、持ち帰ってUPしとくよ」
「楽しみにしてるぜ、じゃ、営業頑張れ」


その夜、SSスレには控えめな保守レスがあったのみで、絵師はとうとう降臨しませんでしたとさ。


「……久我山さん、そのイラスト、いつか投下するんですかねえ」
「ま、あいつらしいっつう話かな」
49マロン名無しさん:2008/01/31(木) 18:39:49 ID:???
「斑目しぇんぱい〜。こんなとこで油売ってないで一緒に就職課かハロワ行きましょうにょー」
「うるせっつんだよ。俺にはSSスレを保守するっつう崇高かつ重要な責務があるんだから放っといてくれ」
「そんなこと言ってると暴力天使が人格矯正しにやってきて押入れに寝泊りするようになるでありますよ」
「望むところじゃないか。俺のことはいいからお前だけでも真っ当な社会人になれ。ええい巻きつくなって」
「こんにちわ――あれ、お二人またやってるんですか」
「おーオギチン。ちゃーす」
「こんちわ荻上さん。OBかつ元会長として頼むんだけどこのくねくねクッチーをどうにかしてくれないか?」
「嫌です。あっでもスーが探してましたよ朽木先輩、もうすぐ来るから待っててください」
「アウチ!ミートハーするプロミスをフォゴットンしてたであります」
「ルーかっ!って、え、スーと約束?朽木くんが?」
「これから秋葉原を案内するんスよ。それもザ・ディープアキバをねフフフ」
「笹原さんにお願いするつもりでいたんですけど、朽木先輩がいいんだってスーが言うんですよ」
「もう何度かナビってますからね、最初は昌平小学校あたりで迷ってるのに偶然出くわしたんですが。お忙しい笹原先輩のお手を煩わせるにはおよばないでありますよ」
「ほう……ほー?ほーほーほー?」
「斑目先輩……今すぐそのフクロウみたいな妄想やめないといくら私でも怒ります」
「そうですにょしぇんぱい!ボクチンとスーはあくまでオタクの戦友として情報交換を行なってるだけなんであります!」
「ああスマンスマン。まあ濃さで計ればきみたち近いかも知れんよな」
「露店は外国人も多いのでスーの英語力はボクチンも大助かりであります。彼女はイラン人と目ヂカラで対等に渉り合うんすよ」
「英語力いらないじゃんか、それじゃ」

ガチャ

「カエルワヨ、バカイヌー」
「わおんっ!それじゃ失礼するであります、また明日」
「お、おう、さいなら……ねえ、荻上さん?」
「はい?」
「あれってデートなんじゃねーの?」
「……考えたくありません!」



某所で朽スーとか言ってた皆さんこうですかわかりません><
50マロン名無しさん:2008/02/01(金) 20:17:52 ID:???
>カエルワヨ、バカイヌー」
>わおんっ!

ハゲ藁。
いいじゃんいいじゃん、むごいじゃんw

スーにとって下僕的に虐げてもノリノリで返してくれる朽木は扱いやすいのでは?
51マロン名無しさん:2008/02/02(土) 22:11:23 ID:???
>>48
まあクガピーはせかすとキレるから、気長に待ちましょう…

>>49
朽スーフラグキター!
あの2人でアキバ探検ですか…
クッチーあらぬ誤解を受けた捕まりそう。
「ごっ誤解であります!わたくしもスーちゃんも大学生であります!」
「嘘こけ!漫画じゃあるまいし、お前はともかく、こんな大学生がいてたまるか!話の続きは署で聞く!」
52マロン名無しさん:2008/02/03(日) 18:58:06 ID:???
漫画サロンのスレって、日曜日の後半12時間以内に書き込みが無いとdat落ちするって本当だろうか?
どっかのスレで読んだ話だが、本当だったらまずいので、保守代わりに書いてみる。
53マロン名無しさん:2008/02/05(火) 20:06:06 ID:???
まとめサイトで前のスレ読み直してみたら、けっこう未完のままとか書き出しだけみたいなのがたくさんあるね。
筆者の皆さん、お元気ですか?
54マロン名無しさん:2008/02/06(水) 03:42:45 ID:???
署にて・・
「ふぇーん!僕チンなんにも悪いことしてないにょ〜〜!!」
朽木があの目障りな「クネクネ」をしながら喚いている。スージーはその滑稽な画を無表情で見つめていた。
「うるさい!君、自分がしたことがどういうことだかわかっているのか!?言葉が通じないことをいいことにこんな子供をつれまわすなんて!」
バンッと刑事が机を叩くと、一瞬朽木がおびえたように体を竦ませたが、すぐに反撃に出た。
「ぬぅぅ・・しがないオタクに濡れ衣を着せ手柄を故意に作り出し、私腹を肥やす不届き者め!これ以上の狼藉、断じてゆるさぬぞぉ!」
「・・・は?」
「逆キレ勝負で拙者の右に出る者はなぁし!いざ、尋常に勝負せよっ!」
ワケが解らず立ち尽くしている刑事に、朽木は一気にまくしたてた。刑事は一瞬何かを言いかけたが、それすらも馬鹿馬鹿しいとおもったのか、そばに立っていた婦人警官らしき人物に指示をだした。
「君、とりあえずこの子を親に返さんとだから、家の電話番号だけでも訊いてくれ。」
「はい。」
女はスージーの前にかがむと、母親が子をあやすような口調で話し始めた。
「よしよし、怖い思いしたね。もう大丈夫だからね。お姉さん、あなたのお母さんに迎えに来てもらうように頼んであげるから、おうちの電話番号教えてくれるかな?」(←英語)
女の問いかけにスージーは答えなかったが、代わりに彼女のお気に入りを言い放った。
「ヒンニューハステータスダー」
部屋には朽木が黙りこく程の沈黙が訪れた・・。


あ〜・・スーの台詞がテキトーだ〜><;;というより>>51氏の「あらぬ誤解」を間違って認識してないかどうかも心配w
55よしこれは競作の予感:2008/02/06(水) 18:23:24 ID:???
「……まったく、いい恥かきましたよっ」
「大野しぇんぱいありがとうごじゃいましゅうう。このご恩は一生〜」
「忘れてかまいませんから二度と警察の厄介にならないでくださいね!(以下スーには英語)スー、あなたもよ?風体から行動からいちいち誤解受けやすいんだから、パスポートと学生証は持ち歩きなさいって言ってるでしょ」
「イヌデハワタシハ倒セナイ」
「黙んなさい」
「さっきスーと話したんですけど大野先輩、お詫びと言ってはなんですがいかがでしょう、3人で夕食でも?」
「ええ、朽木くんとぉ?……まあ帰る方向も一緒ですし、スーを連れて帰らなきゃなりませんしね」

****

「とか言いながら1時間で沈没するってどういうことですかっ!」
「カンベンしてくださいだめなんです怖いんです長くて細くて穴が開いてて茶色のまだら模様とふかふかの気泡がボクチンを飲み込もうとするんです許してくださいブツブツブツブツ」
「しょうがないですねえ、せめて地元まで帰って来てたのがラッキーだったと諦めましょうか。スー、朽木くんタクシーに放り込んで私たちは帰りましょう」
「……」
「え、帰らない?朽木くんの酔いがさめるのを待つ?正気なの、こんなのでも男の人なのよ?」
「ナラバキミラノ神ノ正気ハ、ドコノダレガ保証シテクレルノカネ?」
「なにをふざけて――もう、なんですか、その目は。はいはい、付き合います付き合います。でもあと1時間だけよ」
「Thanks」
「あーあ、もう。迷子になったの助けられたからって義理立てするような相手じゃないでしょう?スーだって、いよいよになったらちゃんと帰ってこれたでしょうに。ちょっとトイレ行ってくるわね」
「……」
「うーんうーん、チーズとかきゅうりとかマヨネーズとか差し込まないで下さい海苔の入った衣をつけてカラリと揚げないで下さい」
「アア……チクショウ、チクショウメ」
「そんないけません平らに伸ばして蒲焼のタレで焼いたらウナギそっくりとか、いけません、いけませんたら」
「イイオンナダナ……コイツ」



誤解どころかよりいっそう大きいフラグ立ててみるテスト。
56マロン名無しさん:2008/02/06(水) 19:51:58 ID:???
>>54-55
GJw
つか元ネタわかりそうでわかんねーww
57マロン名無しさん:2008/02/06(水) 20:24:20 ID:???
ヘルシングで来たか。
58マロン名無しさん:2008/02/07(木) 22:04:01 ID:???
いいコンビかも、スー×朽木w
59マロン名無しさん:2008/02/08(金) 20:47:16 ID:???
連載時の劇中時間をリアルタイムと考えた、2008年2月現在の現視研の状況

荻上 卒業間近
大野 卒業してる…と思う
朽木 卒業してる…と思う
斑目 就職してるかどうかは別にして、部室には来てそう
スー 2年生会長に…なってたらいいなあ(来年も続投?)
恵子 部室は分からんが、笹部屋には乱入してそう
藪崎 卒業間近
加藤 卒業してる…と思う
ニャー子 3年生の終わりかけだから、就活中かな
荻上会長時の名無しの新入生(くじアン書き下ろし漫画によれば一応いるらしい) 会長になってたら、スーの相手に忙しそう
居るか分からない07年度新入生 もし居たらやっぱり大変そう
初代会長 多分その辺に居るな

この状況を踏まえて1本書けないかな?  
60マロン名無しさん:2008/02/08(金) 23:04:48 ID:???
え?リクエストですか?
書けるとは思いますが・・・
61マロン名無しさん:2008/02/09(土) 00:37:46 ID:???
>59さん

最近自分も年表作ってみたんだが、くじアン一巻と二巻のオマケって…
一年前(2006年)の話だったんかな…
そうじゃないと色々合わない気がする(大野さんと朽木君)
62マロン名無しさん:2008/02/09(土) 07:04:20 ID:???
>>59
大野さんがくじアンのおまけで単位が足りないと言ってた。のでオギーと一緒に
卒業となるはず。などと補完。
ちなみに椎応大学は秋入学の学生も卒業は春(入学から4年半後の3月)である
様子。卒業コスプレ撮影会の時の大野さんのセリフより。
63マロン名無しさん:2008/02/09(土) 12:13:15 ID:???
>>62
読み直してみると再来年って言ってるね。
と言うことは秋入学でも卒業は3月なのかな。
何か損だね、帰国子女の人って。
学費4年半分払うのかな?
それはともかく、>>62を踏まえて>>59改訂。

荻上 卒業間近
大野 卒業間近…でないとヤバイぞ
朽木 卒業してる…と思うが、仕事によっては部室出入りしてそう
斑目 就職してるかどうかは別にして、部室には来てそう
スー 2年生会長に…なってたらいいなあ(来年も続投?)
恵子 部室は分からんが、笹部屋には乱入してそう
藪崎 卒業間近
加藤 卒業してる…と思う
ニャー子 3年生の終わりかけだから、就活中かな
荻上会長時の名無しの新入生(くじアン書き下ろし漫画によれば一応いるらしい) 会長になってたら、スーの相手に忙しそう
居るか分からない07年度新入生 もし居たらやっぱり大変そう
初代会長 多分その辺に居るな

>>61
クッチーは普通に荻チンより1つ上だから、順調に行ってれば卒業してるはず。
64マロン名無しさん:2008/02/09(土) 13:31:11 ID:???
>初代会長 多分その辺に居るな

確かに居そうだ。
つかあの人,実は「部室の精」なんじゃないかとw
65マロン名無しさん:2008/02/09(土) 20:51:37 ID:???
まとめサイトに行ってみたら、15スレ目が更新されていた。
でも開けてみると過去ログ行きの表示。
ところが15スレ目まだ生きている。
これって15スレ目埋めてdat落ちさせた方がいいのかな?
ちなみにあと4KBだから、ちょこっと書いたらすぐ埋められる。
66マロン名無しさん:2008/02/10(日) 18:15:33 ID:???
「荻上さんは小説とか書かないの?」
「どうしたんですかいきなり。ああ、SSスレ見てたんですか」
「うん、保守でもカキコしとこうかなと」
「ストーリーは浮かぶんですけど、全部絵なんですよね私の場合。笹原さんこそどうなんですか?」
「俺は俺でプロットがねー。『いろはごっこ』の時も大変だったし」
「……私、なんか考えてみましょうか、やおい抜きで。いい話だったら笹原さん文章化してくれますか?」
「合作ってこと?いいね。くじアン?」
「くじ引きによる無理難題の連続でチームがバラバラになりかけて落ち込む千尋に、麦男が声をかけるんです。『千尋、お前の心はそんなもんだったのか?』って」
「うん、オーソドックスだけど入り込みやすい導入だね」
「4〜6Pくらいの漫画のつもりで、頭の中でコンテ切ってみたんです、今。えと……
  『憶えているか?うんと昔、神社の奥の森で遊んでいて、お前が靴をなくした時のこと』
  『ああ。母さんからの誕生日のプレゼントだったから、諦めるわけにいかなかったんだよね』
  『暗くなってもお前は靴を探し続け、ついには目的を果たした。俺の知ってる千尋は、あのときの千尋だよ。いつまでたっても』
  『麦……男……』
  『たとえひとりぼっちでも歯を食いしばって、結局またみんなを引き込んでゴールにたどり着く、優しくて、強くて、ひたむきな千尋だよ』
   麦男が千尋に歩み寄って、肩に手を。
  『千尋、お前ならきっと出来るさ』
  『む……麦男……っ』
  『うん?』
  『それなら……それなら、僕に』
   麦男を見つめる千尋の目が切なくうるんで。
  『それなら僕に……勇気を、分けてよ。ずっと麦男がいてくれるって信じられる、証拠を』
   そっと目を閉じて、顔を上に向けて……ああっ!?た、大変です笹原さんっ!」
「ど……どうしたの?」
「そこのコンテ帳とってください!これ6ページじゃもったいないです、いま32Pのプロットが浮かびましたっ!」
「ええっ?は、はいコレ」
「ああっ増えちゃった、40……48P?でも現生徒会の描写がいるからもう少し……もう笹原さん帰ってください、私ちょっとこれまとめたいんで!」
「ええぇ〜?」

結局SSスレには保守レスがカキコされ、雪見庵の夏の新刊が1冊増えたそうです。女性向けで。
67マロン名無しさん:2008/02/10(日) 23:42:52 ID:???
>>66
GJ!オギーのその豊かな想像力…すごいw
まさに才能だねw
68マロン名無しさん:2008/02/11(月) 00:19:30 ID:???
>>66
オギー最高!
ササヤンきっかけにアイデアが浮かんでいくオギーがほほえましいw

ササヤン、クガピーに没くらったネタを投下すればいいのに・・・あ、あれはエロか。残念
69マロン名無しさん:2008/02/13(水) 19:00:35 ID:???
荻上さんも引き算のおしゃれの出来ない、おしゃれ上級者なんだなあ…
70マロン名無しさん:2008/02/15(金) 03:47:07 ID:???
ttp://anime3.2ch.net/test/read.cgi/comic/1198847736/
もまいら、呼ばれていますよ。
71ここはバレンタイン無関係かorz:2008/02/17(日) 13:31:17 ID:???
「斑目、ウチの会社な、肉体労働者層が足りないんだが紹介してやろうか?」
「申し出はありがたいんだがなヤナ、そういう話は俺の風体を見てから考えるべきだと思う」
「ふむ、やはりそうか。久しぶりに会ったらプーだってえから驚いたぜ、まったく」
「面目ない。いろいろあってな」
「ま、深くはつっこまねえよ。聞いたところで俺が何かできるわけじゃないし。でも社員の話は絶賛募集中だからいつでも言ってくれ、1日30時間労働できる優秀な人材を求めている」
「はいはいと。ヤナ、お前趣味の方はこなせてるのか?」
「いま申し上げたとおりでな。たまの休日にこうして即売会に来ても、エモノを読了するのに1ヶ月かかる贅沢さだ。衣食が足りんと煩悩も枯れ気味だよ」
「よせよ、その若さで即身成仏かい」
「それより何か面白いネタはないか?睡眠が最優先なもんでとんと世事に疎くなってな」
「そういえばSSスレなんだが」
「お前の考える世事とはそこのことかい。まあいい、通勤時間に携帯で覗いてるよ。小物が多いがそこそこ人はいるようだな」
「漫研で投稿してる奴はいねーのか?」
「あっちの事情もいささか不如意だが、漫画作品に仕上がらないプロットを、薮崎が後輩に書かせているらしい。ほとんどは漫画サロンじゃなく数字板ゆきだそうだが」
「あのニャーニャー言ってた娘かな」
「恥かしがってなかなか教えてくれないんだが、一度本人の作と聞いて読んだことがある。けっこう乙女チックな仕上がりだぞ、まあカップリングは麦男×鏑木だが。しかもアニメ2期版」
「し……シブいな」
「彼女らの常識では、メガネキャラは基本ヘタレ受けらしい」
「俺も言われたことあるぞ、それ。……はっは」
「ん?どうした」
「お前もメガネじゃんか。薮崎さんや荻上さんの頭の中で、お前と俺の組み合わせとかもあるのかね」
「……俺は痛いの嫌だぞ、お前が受けに回れ。景色の多少悪いのはガマンして俺が攻めることにするわ」
「勝手なコトゆーな!」

「なー荻上ぇ」
「なんですか薮崎さん」
「お前トコの斑目さんとうちの高柳さん、どっちが受けやろ」
「両方ですよ、決まってます」
「そんなら誰が攻めるんや?」
「……今なら久我山さんが赤丸急上昇です」

なべて世はこともなし。
72マロン名無しさん:2008/02/17(日) 16:32:54 ID:???
>>71
>今なら久我山さんが赤丸急上昇です
コラァw
73マロン名無しさん:2008/02/17(日) 17:34:51 ID:???
>>71
う〜ん、くがぴーは…攻めかなぁ。。w
74マロン名無しさん:2008/02/17(日) 21:12:09 ID:???
>>71GJwww

「こ、こここれはお願いじゃな、ない、め命令だ」
75マロン名無しさん:2008/02/18(月) 09:21:29 ID:???
::::||ハ
::::||.ヾヽ
::::||ヮ゚ノ⌒
::::lとソ
76マロン名無しさん:2008/02/19(火) 00:06:49 ID:???
すんごい久しぶりに欝ラメ書いてみました。
短いです。
77「イカナイデ」:2008/02/19(火) 00:07:57 ID:???
どちらの春日部咲を選びますか?

A.いつも怒っている春日部咲
B.いつも笑っている春日部咲

俺は、迷わずBを選んだ。
そうしたら、本当に、笑っている春日部さんが、俺の側に居た。
俺の話を楽しそうに聞いてくれる。
腹がへれば、飯を作ってくれる。
抱き締めると、抱き返してくれる。
とてもとても幸せだった。
ずっと側に居てくれる?と聞いたら、微笑みながら、頷いてくれた。
幸福で、死んでしまいそうだ。
ああ、仕事も行かないで、ずっとこうしていたいと言うと、良いよ、そうしようと言う春日部さん。
その時、ふと思い出した。
78「イカナイデ」:2008/02/19(火) 00:09:14 ID:???
俺を叱る春日部さんを。
悪い事をすれば怒り、駄目な事を言っては叱られる。
強い春日部さんが、好きだった。
すっと、俺の側に居た春日部さんが立ち上がって、部屋を出ていく。
何で!?
俺の側に居てくれるって言っただろ?そう言って叫んだら、笑った顔で振り向いた。
俺には君が必要なんだ!産まれて初めてそんな言葉が出てきた。
寂しかった。
悲しかった。

ウソツキ

そう言って、春日部さんは出て行く。
呆然とする俺を残して。
……
……
……
真っ暗な部屋で目を覚ました俺は、頭を抱えて泣き叫んだ。

79マロン名無しさん:2008/02/19(火) 00:54:51 ID:???
笑いながら「ウソツキ」は……つ、つらい…

せつないよ、斑目。そしてGJ>>76
80マロン名無しさん:2008/02/19(火) 01:19:49 ID:???
これはイイ!
詩と言ってもいい感じですね
81マロン名無しさん:2008/02/19(火) 01:54:12 ID:???
すばらしい。
が痛い、痛いよ斑目。涙が出そうだ。
彼はたぶん今の今でもそうなんだろう。
82マロン名無しさん:2008/02/19(火) 12:45:46 ID:???
あうあ〜…
コレは痛い、痛いお…orz
展開とか文章はすんごい好きです。
83マロン名無しさん:2008/02/19(火) 20:51:34 ID:???
うひぃ……痛々しいです。
でもGJです!
84マロン名無しさん:2008/02/20(水) 00:14:58 ID:???
「イカナイデ」作者です。
>>79〜83
ありがとうございます。痛いと思って頂ければ本望です!
実は、これを思いついた時に落ちがもうひとつありまして、そっちは痛い以上なアレかと思ってボツにしたんですが、せっかく思いついたんで書いてみました。
内容はあまり変わってませんが、これ書いててちょっと泣きそうになりました。
85「行かないでよ」:2008/02/20(水) 00:15:50 ID:???
「どうして春日部さんが俺の部屋に居るの?」
「斑目が、そう望むから」
「ずっと居てくれるの?」
「斑目が望んでくれるなら」
「帰ったりしない?」
「うん」
「何処にも行かない?」
「うん」
「高坂の所にも?」
「うん」
「本当に?」
「うん」
「眠ったら消えたりしない?」
「うん」
「仕事に行ってる間に帰らない?」
「うん」
「目を離したら?」
「ここに居るよ」
………
………
………
86「行かないでよ」:2008/02/20(水) 00:17:31 ID:???
「眠るのが怖いな」
「うん」
「外にも行きたくない。春日部さんが消えそうで」
「うん」
「ねえ」
「うん」
「手を握ってて」
「うん」
「幸せだな」
「うん」
「ずっと側に居て」
「うん」
「離れないで」
「うん」
「何か、暗くなって来たな」
「うん」
「怖い」
「うん」
「此処に居て」
「うん」
「俺と居てよ」
「うん」
「……………行かないでよ」
「うん」
「消えないでよ……………」
「うん」
「春日部さん」
「うん」
「……好き……だよ……」
「うん」
「…………………………」
「うん」
87うすびぃ:2008/02/20(水) 01:48:38 ID:GcGfxk0N
高柳「げんしけんで話そうか、大野さんいるんでしょ」
斑目「ああ」

・・・・

ヤナ「よお、今仕事終わったよ悪い悪い」
マダ「いんや。俺もさっき来たとこ、お互い様だ。どっか入るか」
ヤナ「いやお前んちで部屋のみしようや」

ヤナ「・・・・・」
マダ「・・・・・」
ヤナ「どうだ、最近」
マダ「ん・・・アキバも最近行ってねーやな。仕事疲れもあるしよ」
ヤナ「ん。じゃ部室のほうは?」
マダ「ああ、メシは普通に食ってるぜ」
ヤナ「そっか、いいよな帰るとこがある奴は」
マダ「部室は家かw。んでもそれも今の部員がいなくなったらいかんよ」
ヤナ「でも今の連中も就職活動でなかなかあえんのだろ?」
マダ「ああ。でも大野さんは帰国子女だから今でもよくあうぞ」
ヤナ「んー、じゃなくて・・・」

88うすびぃ:2008/02/20(水) 01:49:58 ID:GcGfxk0N


サキ「ほらっ!そっち持って!手抑えるんだよ!」
マダ「ははははははいっ!」
ヤナ「もがががががっ」


マダ「!・・お前まさか!大野さんやめて・・!」
ヤナ「ちっちげーよ!」
マダ「・・・・・・・・・・」
ヤナ「・・・・・・・・・・///」

ちょっと険悪になった二人だった
89マロン名無しさん:2008/02/20(水) 06:15:03 ID:???
>「行かないでよ」
怖い、怖いよw
斑目の目の前にいる咲ちゃんの姿がどんどん希薄になっていくようで、それでもそこに
居つづけているような存在感だけがいや増して。
眠るのが怖いといっていた斑目はきっと、今は目を開けるのが怖いに違いない。
ヒュッ、て引き込まれた感じでした。ありがとう。

>うすびぃ
お前はまたこんな難易度の高い奴をwww
10回読んでなんとなく骨格を掴んだ。
文体といいアタマの中身といい相変わらず独特でなんつーか安心した。
ともかくありがとさん。
90マロン名無しさん:2008/02/21(木) 21:31:56 ID:???
>「行かないでよ」
ラストの…

「うん」

…が凄い怖い。


>うすびぃ
ヤナ、意外な展開だ。そりゃ険悪になるわw

つか、拉致った時に斑目は手伝わされてたのかwwww
91マロン名無しさん:2008/02/21(木) 21:40:26 ID:???
「イカナイデ」と「行かないでよ」を読んだ荻上さんが号泣。

「斑目さんかわいそ過ぎ!よーしこうなったら私が斑目さんに、いい男(ひと)紹介してあげよう!ねっ、笹原さん!」
「あの荻上さん、いい人の人の字が微妙に違う気がするんだけど…」
92マロン名無しさん:2008/02/24(日) 11:05:28 ID:???
やばい本スレが落ちた。
緊急に保守!
93本スレまで面倒みきれっかw:2008/02/24(日) 16:39:36 ID:???
「薮崎先パイ、このネームノートのバッテンついてる奴、また貰っていいですかニャー?」
「なんやニャー子、また人のネタでSS書くんか」
「先パイまでニャー子とか呼ばないで下さいよー。現視研の男の人たちその呼び方で確定しちゃったですー」
「私のボツネタ使ってるんやから多少の融通は利かせ。妙に評判ええみたいやし気ィ悪いわ」
「元ネタがいいからですよ。先パイのお陰ですニャ」
「え?そ、そう?そう思う?」
「先パイのプロットって、いいとこまで行ってるのに最後ぐだぐだになって中断っていうの、多いんですもん。シメのシーンつなげるだけで出来のいいのが完成――あわわ」
「そう思うんやったらオマエの作品にしてまう前に私にアドバイスなりせんかい!」
「先パイ、わたしの話聞いてくれないじゃ……なんでもないですニャ」
「よーし今ならちゃあんと聞いたる。今見とった麦×千の話、収拾つくというんやな?」
「ああコレですね。鏑木先生の惚れ薬が麦男に効いちゃって、千尋を襲っちゃう話」
「どうよコレ?麦男は最後に残った理性を振り絞って千尋を逃がそうとするんやけど、千尋が『いいよ……麦男が楽になるんなら』て!泣けるやろ」
「素敵な話ですよ。でもどうしてそこから二人がつながったまま鏑木先生とバトルになるんですか」
「え?だってここは騒動の元凶をとっちめな」
「そんなの最後のひとコマでオチにすればいいニャ。熱に浮かされた麦男の欲望と葛藤、麦男を受け入れる千尋の優しさと包容力だけで読者はおかわり三杯いけますニャ」
「そ……そうかな、だって起承転結のバランスが」
「それなら一回戦終わってから行けばいいです」
「でもそうすると話のテンポが」
「合体したまま鏑木先生のロボとバトルなんてテンポ以前に読み手が戸惑いますよ!こんなとこに『ここでラブラブリビドースプラッシュ(必殺技)?』なんてキャプションつけたらそりゃプロットも止まりますニャ」
「う」
「だいたい薮崎先パイはやりたいこと多すぎるんです。短編3本作れるアイデアをどうして1本でまとめようと――」
「ええいもう知らーん!好きにしたらええやろー!」
「あーまたですかニャー」



こうして801スレにまたSSが1本投下されたのでした。
94自治スレにてローカルルール議論中:2008/02/25(月) 17:26:18 ID:???
ここにSS書いてる人で、5月のオンリーイベントに参加する人いる?
会って激励したい。
95自治スレにてローカルルール議論中:2008/02/25(月) 21:51:11 ID:???


いくよー。

正確には、
>ここにSS書いてる人
じゃなく「書いてたけど休んでる人」だけど。
イベント用ネタを練ってるところです。

だけど激励なんて大げさなんでさり気なく挨拶しましょ。

96自治スレにてローカルルール議論中:2008/02/26(火) 01:06:40 ID:???
最近SSかいてないですが… 挙手
また書きたいにゃあ
97自治スレにてローカルルール議論中:2008/02/28(木) 22:35:28 ID:???
俺は未定。でもSSは久々に書いてます。未完成だけどorz
98自治スレにてローカルルール議論中:2008/02/29(金) 00:03:00 ID:???
オンリーイベントは無理だけど、現在執筆中。
前に勝手に連載してて、現在中断中だが、近々再開の予定。
99自治スレにてローカルルール議論中:2008/02/29(金) 00:26:42 ID:???
わお、こんなにいらっしゃるとは。
オンリー参加する方もされない方も応援してます!
特に98氏にwktk
100自治スレにてローカルルール議論中:2008/03/02(日) 19:20:54 ID:???
ふう、無事だったぜ。
日曜日だけは保守しとかんと、落ちそうで怖い。
101保守がてら短いの行きます:2008/03/03(月) 22:26:12 ID:???
荻上「スーちゃん、夏コミ当選したそうだけど、テーマは何で行くの?」
スー「初めてなので、無難なところで祖国のアニメを題材に、ノーマルカプで行く予定であります。ただ…」
荻上「ただ?」
スー「擬人化されているとは言え、動物キャラであります」
荻上「まあスーちゃんなら、その程度は想定内だけど」
大野「それでスー、肝心のカップリングは?」
スー「原作に忠実に、ミッキー×ミニーでやろうかと…」
一瞬凍結する2人。
大野「ス〜〜〜〜〜!!!!!!!」
荻上「あんた著作権料で破産するわよ…」
102アニマックスダグラム終了記念SS:2008/03/03(月) 23:41:33 ID:???
もう1本短いの行きます。

ここはサークル自治会室。
2年生になり、現視研の会長になったスーは、来年会計を担当する予定の1年生と共に、予算折衝に来ていた。
案の定、予算折衝は揉めた。
1年「会長、ここは自治会の意見を聞き入れて引きましょう」
スー「ココデ1歩デモ引キ下ガッテミロ。1歩ノ後退ハ限リ無イ後退ニ続ク。ココハ引ケナイ!引イテハナランノダ!」

そして翌日の部室。
大野「で、結局荻上さんが、スーの身柄を引き取りに行ったわけですか?」
1年「どうもすんません、荻上先輩。お手数をお掛けして」
荻上「まあそれは構わないけど…」
大野「でも何故そんなことに?」
荻上「自治会の会長さんが、昔春日部先輩に聞いた北川さんみたいな人で…」
荻上さんの話によれば、自治会長はかつての北川さんのように、実績の上がってないサークルの予算を容赦無くカットした。
それに対して前述の啖呵を切ったスーに、自治会長は言い放った。
「自治会には、これ以上現視研みたいな寄生虫に出せる予算は無い!」

1年「それで会長逆上しちゃって、何故か持ってたエアガン自治会長に向けて乱射しちゃったんです」
ため息を付く大野さんと荻上さん。
荻上「まあ予算があっただけ良しとしましょうか…」
スー「(狂ったように)ウエヘヘヘw」
大野「スー、いつまでリスキーなネタやってるの!」

103自治スレにてローカルルール議論中:2008/03/04(火) 02:19:30 ID:???
>保守SS

ちょwwwヤバスwwwwww
デ○○ニーネタとはなんてギリギリアウトな…
104自治スレにてローカルルール議論中:2008/03/04(火) 08:42:30 ID:???
いや、ギリギリでなくて場外大暴投だろうw
105自治スレにてローカルルール議論中:2008/03/04(火) 23:14:25 ID:???
>>102
[ダグラム終了記念]て、マニアックだw
記念ついでに捧げますw

(♪ダグラム主題歌/斑目版さらばやさしき日々よ♪)

♪いつの日かと怖れていた
 いつの日かと夢見ていた
 カタログ買って 食費削って
 闘う日 コミフェ〜ス

♪己縛る仕事投げ出し
 値段見ずに本を求める
 オタクの聖地コミフェ〜ス
 並べ始発に乗って

♪さらば〜リーマンの日々よ〜
 もお〜戻れない〜
 もお〜(オタ隠しを)キニシナイ〜
 退職のオタ マダラ〜メ
106自治スレにてローカルルール議論中:2008/03/05(水) 00:29:46 ID:???
ダクラムなんて名前も知らなかったけど、素敵なSSと替え歌に興味がわいて、おもわずぐぐっちゃったよ。
渋いOPだなあ!「己縛る〜」あたりの2行が元歌の開放感とだぶって特に笑えた。
でも…仕事にはもどってくれ〜

SS、北川似の自治会長ってのがリアル。
いるよね、卒業してった先輩のコピーみたいな性格してる後輩。
107自治スレにてローカルルール議論中:2008/03/05(水) 20:40:02 ID:???
昨日の部室はこんな感じかな。

荻上さんが部室に入ると、突如雨あられと飛んで来るBB弾。
荻上「なっ、何があったの?」
1年「あっ荻上先輩、会長止めて下さい!」
見ると部室の中では、スーが大容量の弾倉を付けた自動小銃のエアガンを乱射していた。
スー「(にこやかに)虐殺デース!」
108マロン名無しさん:2008/03/08(土) 01:32:13 ID:???
まとめサイトの管理人の方へ
そろそろスレ15を読めるようにして欲しいでおじゃる
109先週今週ネタなしっつか忙し杉:2008/03/09(日) 18:06:33 ID:???
保守
110マロン名無しさん:2008/03/12(水) 00:04:22 ID:???
とりあえず保守
111マロン名無しさん:2008/03/13(木) 01:33:21 ID:???
なんとなく保守
112マロン名無しさん:2008/03/15(土) 01:51:50 ID:???
新作マダー?
113マロン名無しさん:2008/03/15(土) 06:41:01 ID:???
言いだしっぺの法則というのがあってだな
114マロン名無しさん:2008/03/15(土) 13:54:53 ID:???
オンリー用原稿が片付いてからうpしたいです。
115ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:12:22 ID:???
かーなり久しぶりに投稿します。
以前単発で投稿していたネクストシリーズのプロローグです。
一応咲斑です。
前奏と言いつつ約五万五千字の長編になりましたので小分けに投稿します。
長編を投稿予定される方がいれば投稿をずらしますので申し出ていただれけば投稿予定を繰り上げます。
物語の都合上、スージーと斑目の相性が最悪です。
また斑目を必要上かなり貶めていますが他意はありません。
非日常系です。
書いているうちに良し悪しが自分ではワケワカンネくなりましたので忌憚のないご意見を聞かせていただければ。

では十分後に投稿開始します。
116ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:23:59 ID:???
○前奏

殺し屋は自身の中の冷静な自分が今している事が自殺行為である事を理解していた・・・。しかし今の彼には自分の生命の価値は路傍の石ほどの価値も無かった。
自分でも驚くほど醒めた目で自分の生命そのものを見ていた。
なぜならそれ以上のものを彼は自分の腕に抱いていたからだ。
殺し屋は胸に抱いたその存在・・・小さな赤子を抱きしめ、自分が殺した雇い主たちの血に
まみれた部屋を後にした・・・。



部下から「ボス」と呼ばれるその男は殺し屋の裏切りの報告を聞き顔をしかめた。実際、予想もしていなかったことだったからだ。
ボスは殺し屋を自分の部下以上に信頼していた。ボスは殺し屋の経歴には何の興味も示さなかったが、その確実な仕事ぶりに感心をしていた。
情を交えないその仕事ぶりに好意と尊敬さえ抱いていた。
奴の出身は・・・クロアチアだったかな・・・そんなことはどうでもいい。過去に何があったかは知らない。
だが自分の部下でさえも嫌がる汚れ仕事・・・臓器売買・・・子供でさえも・・・そんな奴が何故・・・。
好きだったんだがな・・・残念だ・・・とても残念だが、自分たちの扱う「商品価値」を損なうわけにはいかない。「暴力」という名の商品価値を。
ボスは命じた。
「追え。そして、殺せ。」
117ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:25:15 ID:???
○斑目晴信

今年も温暖化の影響か生暖かいが晴れ渡った冬空の中、斑目は大学に向かっていた。

「斑目さん? 久しぶりですね!」
聞き覚えのあるその声に振り向くと笹原だった。
「よう〜。久しぶり〜。」
いつもの間延びした口調で斑目は笹原に返事した。
「ご無沙汰ですね。再就職決まったんですってね。おめでとうございます。どちらに決まったんですか?」
と笹原は笑顔で聞いた。笹原は斑目の再就職を自分の事のように喜んでいた。といっても斑目の為ではない。いつまでも部室に居座るOBたちに不満をつのらせる自分の彼女の苛立ちが和らぐと思っていたからだ。

「ん〜。以前はあっちのほうに歩いて十分だったんだけど・・・。」
斑目は指を指して新しい会社の場所を示そうとした。
「ええ、ええ。」
笹原はにこやかに頷いてそれを聞く。
「今度はこっちのほうに歩いて十五分くらいかな!!」
「・・・・・・・・・・」
笹原はしばし無表情で斑目を見つめた。
「ん? どした?」と斑目が聞く。
「って!! あっ・・ぜん!ぜん!今までと変わらないじゃないですか!!」
笹原は珍しく激昂して言葉を詰まらせながら叫んだ。
「違うだろ! 五分も違うんだぞ! 五分も! 往復で十分だぞ! 貴重な昼休みが短くなるんだぞ!」
「まっ斑目さん、いつまで部室に通うつもりなんですか!」と顔を真っ赤にして笹原は叫んだ。彼女の不機嫌な顔が目に浮ぶようだ・・・と笹原は内心で思っていた。
「ほっほっとけ!!」

久しぶりに会った後輩の笹原と少しばかり気まずい会話をして別れた後、斑目は部室に向かって歩きながら思った。
(まあ・・・笹原の怒りももっともなんだよな・・・)
118ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:27:59 ID:???
笹原の怒りの背後に荻上会長の意向が隠れている事には気付いていた。
もっとも彼女の苛立ちは、すでに留年が決定した『お局様』(もっとも人から言われる前に自分からそう喧伝しているのだが・・・)のコスプレ教の布教活動に対してであって、自分への苛立ちはそのとばっちりと気付いてはいた。
このままでは自分の卒業記念にコスプレをすることになりかねないからだ。
一応、大学で社会人向けに開かれている講座の聴講生という名目で大学に通ってはいた。とはいえまるっきり現役でもない人にウロウロされるのは現役生にはたまらないだろう。
分かっている・・・分かってはいた・・・。あの人の・・・春日部さんのいない部室にどうして俺は通い続けているんだろうな・・・。あの人は今どうしているだろう・・・。
斑目はそう思いながら空を仰いだ。
119ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:29:47 ID:???
○春日部咲

自分の店をオープンさせてからしばらくたつ。今までは順調に経営は回っている。でも気を緩めてはいけない・・・。
大学卒業後、早くもアパレルショップのオーナーとなった春日部咲は思った。
生き馬の目を抜くこの業界で気を緩めるという事はすなわち失敗するという事だ。そういう例を私は何度も見ている・・・。

「ねーさん、入荷した新商品届いたよ。」
背後で聞きなれた声が聞こえる。
友人の妹でショップの店員として働いてもらっている恵子だった。
「店では『店長』って呼びなさいって何回も言ってるでしょ。」と咲は恵子を穏やかな口調でたしなめた。
「あはは、そうだったね、『店長』。さっそく店頭に出していいの?」
「うん、店頭に出しているやつは値引きするからバックヤードに下げといてね。」
「あいよー。」と楽しげに恵子は返事してきびすを返した。恵子はすでに専門学校は辞めている。もともと勉強は嫌いだったらしい。
『借金』のカタという名目だが恵子は今の仕事を本当に楽しそうにやっている。
恵子を見ていると昔の自分を見ているようだ・・・と咲は思った。
高校時代、咲は校則違反ではあったがアルバイトとしてアパレルショップで働いていた。
初めてのアルバイトだったが、そこのオーナー店長がとても良い人で咲に色々と接客や販売ノウハウなどを教えてくれた。
咲は買うか買わないか迷っているお客さんが自分の言葉で次第に心が変わっていき、目を輝かせて自分が勧める服を買っていってくれた初めての事を今でも覚えている。
今まで体験したことの無い感動であった。そこでの体験が咲の夢を決めた。

咲はその人が本当に好きだった。そして心から尊敬もしていた。彼女がショップ経営に失敗して故郷に帰った今でもその気持ちは変わっていなかった。
だから疎遠になったとはいえ、自分のショップを開店した時にはその尊敬する人に連絡した。
彼女はその報告を聞くと一瞬だけ言葉を失っていた。その間に自分の叶えられなかった夢への未練と羨望の気持ちが読み取れた。
しかし彼女は次の瞬間には心から喜んで「おめでとう」と言ってくれたのだった。
(あんなすごい人でさえ・・・)
咲は思った。
120ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:30:30 ID:???
「あ、ねー・・じゃない店長!、これ値引きどのくらいにする?」と恵子が考え事をしていた咲に声をかける。
「あー、三・・・いや売れないか・・・原価割れだけど半値にしてしまうか! 思ったほど売れなかったねー、仕入れ少なくしといて良かった。」と咲は答えた。
「そうだねー、じゃあ、これと抱き合わせで売っちゃおうか!」と恵子は別の冬物のセーターを手にとって咲に見せた。
「あ、いいねー。やるねー。任せたよー。」
自分のアイディアが咲に認められた事が嬉しいらしく、にこやかに恵子は閉店後の時間外だというのにいそいそと働いた。

その姿はまるで昔の自分のようだった。恵子の給料は借金の『天引き』という名目にしてるから安い。だが棚卸しもすすんで残業してくれているのだから、賞与って形でそれに報いたいと思っている。

もっとも恵子はそんな打算で手伝ってくれているわけではない。自分を心から慕ってくれているからだと分かっている。そしてこの仕事を本当に好きなのだ。

だからこそ失敗はできない・・・と咲は思った。
自分の出店の環境は尊敬する人よりも恵まれていた。だがそれを利用する事を躊躇ってはいなかった。誰も自分の環境は選べない。自分の置かれている環境を利用しなければ「負ける」だけなのだ。
121ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:31:24 ID:???
咲は自分の指に光る高坂からもらった婚約指輪をそっと触った。高坂が政府関係の仕事をするようになってからもらったものだった。
その後、父親にも高坂を紹介した。初めて高坂を見た父親はじろじろと高坂を見た。
たたき上げの商売人で自分の出資者でもある父親は高坂をしっかりと「値踏み」したようだった。
高坂はいつも通りの高坂だった。もちろん『仕事』の話はしない。
そしていくらか会話して高坂の「値打ち」を理解した父親はにっこりと笑って「高坂君、娘をよろしく頼むよ。」と言ったのだった。
最初は政府筋のコネクションに関心を持って高坂に会いたがった父親だったが、高坂のその人当たりのいい笑顔、そして控えめな物腰と機転や気配りのできる器量を見抜いて、自分の商売の片腕や娘の「パートナー」として相応しいと判断したようだった。
本心では自分の事業を娘に継いでもらいたいと思っている父親の干渉を好ましくないと思っていた咲は「あっあのさ・・・、コーサカってさ、オタクっつーか、アキバ系なんだよね・・・仕事も・・・。」と横槍を入れた。
おそらくアキバ系についても全く無知で関心の無い父親は豪放に笑いながら言った。
「ああ、少しぐらい変わった趣味があったって男の値打ちは変わらんよ! 私だって仕事のほかに趣味くらいあるしな! あっはっは」

そして父親は咲の方を見た。思い込みだとは思うが、その目がまるで「ほら見ろ、お前はやはり俺の娘だ。自分が利用できるものを見抜いてそれを利用する俺の娘だ。」と言っているようで嫌だった。

人望もあり理解もある父親の事は咲は好きだった。だが同時に抜け目の無い父親に自分が似ている事が疎ましく思われた。

恵子の事だって・・・私を慕ってくれているから・・・借金だってけっして・・・高坂の事だって・・・私は心から好きだから・・・。

そうなのだろうか? とふと咲は思うのだった。そして何故か斑目の事が思い浮かばれた。何故なのか咲自身理解できているわけでは無かったが・・・。
122ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:34:23 ID:???
○斑目晴信

斑目が部室であいも変わらず昼食をモソモソと一人で食べていると新入部員の一年生が一人そーっとドアを開けて部室を覗き込むように入ってきた。
「よう、そこで何コソコソしてんだい。入ってきたらいいだろ。」と斑目が新入部員に声をかけた。
「えへへ、『お局様』は今日はいないんですね。『会長』も。この時間だったら斑目さんしかいないと思ってました。」
ばつ悪そうに新入部員が一人部室に入ってくる。
「別に女性陣を邪険にする事も無いだろ。」と斑目はたしなめる。もちろん新入部員の彼の言葉に悪意は無い。
自分の新入部員の間での通り名も『主(ぬし)』と呼ばれている。
「あはは、いや、だって斑目さんとだったら気楽にエロゲーの話だって出来るけど・・・。」
「まあね・・・。」と斑目は新入部員の言葉に苦笑した。

ようやく新入部員も入ってくれて廃部の危機は免れた。最初は女性の比率が高くなって男子新入生の敷居が高くなったのか入部希望者はなかなか現れなかった。
創作系の女子新入生が一人見学に来たが、たまたま自分と朽木しかおらず、逆に緊張させて取り逃がしてしまった。
その事では荻上会長の不興を買ったものだった。もっとも新入部員が一見気難しげな荻上会長に馴染むのにも時間がかかったのだが。
少しばかり遅く催された新歓コンパで、これではいけないと荻上会長は一発芸に「絶対先生」のキャラ芸の『ここが勝負の分かれ目よ!』を決行した時には荻上会長の「成長ぶり」に驚いたものだった。
それでも荻上会長の精神ダメージが大きく部屋の隅でいじけていたのだが、その様子がむしろ新入部員の親近感を増したようだった。

とはいってもやはりまだ新入部員の出席率はまだ低い。理由はやはり先の理由からだろう。しかし現視研の存続にもう心配はいらないだろう。
今の上級生たちが卒業すれば自分たちが一年時の時のような状態に戻る事だろう。そして彼らたちで彼らなりのサークルを運営していくようになるのだ・・・。

(もう・・・俺がいる理由も無いんだよな・・・。)
斑目は思った。新人たちの定着に自分も貢献したという自負はある。しかしもうここでの自分の存在意義は無い・・・そう思った。
123ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:35:32 ID:???
「・・・上会長、しばらく卒業旅行に行かれるって聞いてます?」
「え? 何?」と斑目はぼんやりとして最初の言葉を聞き漏らした。
「やだなあ、聞いていなかったんですか? 荻上会長と漫研の藪崎さんと一緒に卒業旅行兼取材旅行と称して海外に行くんですって!」と新人は説明口調で斑目に聞かせた。
「あ、そうなの? あの二人、知らない間にずいぶん仲が良くなったんだね。」
「いえ、あの二人会う度に喧嘩してますよ。いまいちあの二人の関係は測りかねますね。」
「ははっ、違いない。」
「じゃあ、留守中、俺らしばらく気兼ねなく部室使えますね。よく会長仕事にここ使っていたんで遠慮してたんですよね。」
「まあ、羽目は外さないようにな。どれ・・・そろそろ俺は仕事だ・・・。」

(海外旅行かー。まあ、女友達同士でよく卒業旅行に行くとは聞くけどねー。あれ? でもスージーも一緒か? だろうなー。あの二人いつも一緒だし・・・)
124ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:36:36 ID:???


数日後、斑目は少しばかり残業をしてからクタクタになって帰宅した。手にはコンビニで買った晩飯の弁当をぶら下げている。
部屋の鍵を開けようとしたが、鍵が開いている事に気付いてギョッとした。
(いけねえ、鍵閉め忘れたか?! 盗まれるようなものは無いけどうっかりしてたなー。)
斑目は頭をかきながら部屋に入った。

「ふー、疲れた、疲れた。」
と独り言を言い、台所に向って冷蔵庫を開けた。

「オカエリ」
という声が聞こえる。

「ああ、ただいま。あれ? プリンが無い?!スージーお前食ったな・・・って!!!
お前何でここにいるんだ?! 鍵どうやって開けたんだ?!」
斑目は混乱してスージーに向かってわめきちらした。

スージーは斑目の混乱を意に介さず、コタツの台に頭をのせて、猫のように背を丸めている。頭には黒ネコ耳のアクセサリーをつけている。

突然、斑目の携帯電話が鳴る。
斑目が慌てて携帯のディスプレイを見ると荻上会長からだった。
『あ、斑目さん?! 荻上です! すいません、今空港にいるんですが・・・。スージーそちらにいませんか?!』
『荻上さんか!、今俺の目の前にいるよ! スージーも一緒に海外旅行に行くんじゃないの?!』
『すいません、スージーはお留守番してもらうつもりで、大野先輩にお願いしたんですが・・・。連絡の手違いで大野先輩は渡米していたみたいなんです。』
『だからって何で俺の家にいるわけ? スージーが?!』
『ええと、あの・・・ですから・・・スージーの世話をお願いできないでしょうか?! こんな事お願いできるのは斑目さんしかいないんです。』
だんだん話がかみ合わない事に斑目は気付いた。まるで飼っているペットを預かってほしいというような会話だ。成人した人を相手にして・・・。
125ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:45:13 ID:???
『何だって?! どういう・・・』
『だからですね・・・スージーには《生活能力》が無いんです!』
『は? そりゃまだスージーは学生だし、ましてや外国人の女性ができるアルバイトも限られているし《生活力》が無いのは当然でしょ?!』
『そうじゃないんです・・・。金銭面については後で大野先輩経由でアンジェラさんに請求してください。私が言っているのは《生活能力》、掃除と洗濯とか食事の用意とかしないんです。できないというんじゃなくしないんです。』

斑目はようやく意味を悟った。今までスージーが荻上会長と一緒にいるのは仲が良いからだと思っていた。何故か荻上会長が着ていた服をスージーが着ているのもサイズが同じな上、親近感の表れでそうしているかと思っていた。
だがどうやらそうでは無い。そして荻上会長自身スージーの世話をする事に何の疑問も抱いていないこの奇妙さ!!
それがスージーの才能か何かは分からないが、斑目がスージーに『見込まれた』という事を理解した。
斑目はスージーの方を振り向いた。

スージーはコタツの上にご飯茶碗をいつの間にか引っ張り出して置いている。そして手には箸を持っている。

「ゴハンマダー? チンチン
メシ ハヤク ダセ メシツカイ」

斑目は青ざめた表情で、きっとネコが人間の言葉を喋れたらそんな言葉を喋るんだろうなと思った。だが目の前にいるのは子猫では無い。
どんなに見た目が愛らしい美少女で、ネコミミを着けていようともその本質は猛虎・・・いや獅子なのだ。斑目は自分の生活の平穏がいまや風前の灯となった事を悟ったのだった・・・。
126ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:46:06 ID:???
○春日部咲

咲は久しぶりに咲のマンションに帰ってきた高坂の横顔を眺めていた。久しぶりだというのに高坂は新作のゲームのチェックに余念が無い。十八禁も含むが簡単なストーリーのチェックに留まり咲の前で過激な描写をプレイしているわけではない。
その高坂の横顔を眺めながら咲は言った。
「あのさー、今の仕事ってあんまりその手のゲームと関係ないんじゃ無かったー?」
「んー、これは仕事というより僕個人の関心からかな。といっても全く無関係ってわけでもないんだ。」と高坂は咲の方を向くわけでもなく、チカチカ光る画面から視線を動かさない。ほとんど瞬きもしない瞳はカラフルな画面の光の変化を反射して妖しく光っている。
咲はその妖しく光る高坂の瞳を見つめながら「ふーん。」と気のない返事をした。
最近は高坂も言動に気を使ってくれているが、相変わらず咲からアプローチしないと咲の事はほったらかしだった。
今ではそういう扱いも慣れた。

咲は思った。
かつて自分は『魔物』たちの棲む『悪の巣窟』にさらわれた『お姫様』を救うべく勇猛果敢に『悪の城』に乗り込んだ。その意気込みはまさに『勇者』のごときものだった。

だが『魔物』は『魔物』ではなく、ちょっと人付き合いの不器用な人たちなだけだった。そして自分はといえば救うはずの『お姫様』にお姫様だっこしてもらって慰められる始末。
今でもオタク趣味を理解する事は出来ないが、かつての自分の意気込みは何だったのかと咲は拍子抜けしたものだった。
127ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:47:18 ID:???
「ねえ・・・そろそろお腹すかない?」と咲が高坂に声をかけると「んー、そうだねー。」と関心の薄い声で返事を返す。
別に食事の心配する事も無いのだろうが、そうやって声をかけないと本当にずっと食事もしないでゲームしてそうな気がして怖いからだった。
高坂からは本当にそういう生活感が感じられない。まさかとは思うけど・・・本当に食事も睡眠も取っていないんじゃ・・・と思うときもある。
引き払った高坂のアパートも極端に食べ物とかベットの汗臭さとか有機的なにおいをさせなかった。元々清潔好きだからとしか
思っていなかったが、一緒に住むようになってくるとそういうのが気になってくる。

「じゃあ、あたしが何か作るね。えっと・・・。」
とテーブルから立ち上がって台所に向おうとすると高坂が声をかけた。
「あ、咲ちゃん、今日は僕が作るよ。疲れているでしょ。」
「え? でも・・・。」
「いいよ、遠慮しなくても。その代わり僕の代わりにこの『ドラクーンクエスト』を進めててくれる?」
「いいけど、わたしにもできる?」
「初心者の咲ちゃんでもできるよ。」
そう言って高坂は台所に向った。そしてリンテンドーDSの料理ソフトを観ながら料理を始めた。咲は高坂が次々ソフトを変えてプレイしているゲームに向った。
そのゲームは特に反射神経を必要としないRPGだったので咲にも容易にできた。

やってみると中々楽しい。
ゲームをしながら咲は高坂に声をかけた。
「大丈夫―? 余り買い置きしてないからできる料理って限られてるよ。」
「うん、ミートオムライスでいいよね。」
「うん、食べたい。」
高坂は熟練の手つきで料理を作る。食べる事には関心が薄いのにそういう事は要領よくこなす。
「おまたせ。」
128ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:48:24 ID:???
高坂が二人分のオムライスをテーブルに運んでくる。
咲はスプーンでそのオムライスを口に運ぶと思わず「美味しい!」と声を上げてしまった。
「こっ高坂、これ初めて作るんじゃなかったっけ?」
「うん、DSの説明でなんとか上手くできたみたい。」
「いや、普通料理の本とか説明見てもこうはいかないって。あたしなんか・・・火加減とか・・・。」
実際、咲も料理の本の説明に従って料理を作ってみる。しかし火加減とかフライパンの扱いとかが書いているわけではない。実際の料理で失敗する事も多かった。
しかし高坂のオムライスは上手に調理されたサフランバターライスにほどよい半熟の卵が綺麗にくるんであり、その上に市販ではあるがドミグラスソースが適度な暖かさでかけられており、生クリームも渦巻き状に綺麗に描かれていた。
材料は昨日の冷ご飯や買い置きの材料で特別なものなど無いが、本職の料理人でなければここまで上手く作れるとは思えなかった。
「うん、火加減とか手際のタイミングは以前テレビで観たことあったし・・・。」とあっさりとした表情で高坂は答える。
「あっあっそう・・・たはは。」
視覚情報だけで出来るはずも無いのだが、高坂に限っては簡単な事のように言ってのける。度々そういう光景を咲は見ていたが、今更ながら自分が苦労している事をあっさりやってのけられると少しだけ落ち込むのだった。
129ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:51:21 ID:???
咲は話題を変えてゲームの話をした。
「あのゲーム面白いよね!」
「うん、あれはゲーム機本体の売れ行きも左右するヒットシリーズだしね。」
「でもああいうのも仕事に役に立つの?」
「もちろん! 元々あのゲームもファンタジー小説の『腕輪物語』が発想の元だし・・・。」
と高坂がにこやかに質問に答える。
「あ、それならあたしも知ってるよ! 映画にもなったものね。」
「うん、そしてその『腕輪物語』の世界観も古代神話の『ギガウルフ』が大本だから、結局は恋愛ゲームに限らず全ての創作には神話的構造があるのさ。」
「ふーん。」
高坂にしてはオタク、特にサブカルっぽい踏み込んだ話をしてくれるな・・・と咲は思った。仕事が政府関係の仕事になってからは特にそういう話を意図的に避けている気がしていた。何か嬉しい事があったらしく、珍しくガードが低い・・・そんな気がした。

「何か嬉しい事があったの?」
「うん、ちょっとね。」

咲は上手くはぐらかされた事に気付いた。
(早急すぎた。失敗したかな・・・。)
ショップのお客さんのようにはいかない・・・。ましてや高坂なのだから・・・。身近にいる自分の彼氏が一番その心が分からないというのが実に情けない事だった。
130ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:52:46 ID:???
「話変わるけどさー。」
(搦め手からいこう・・・)
「この雑誌のファションリーダーの新作どう思う?」
咲は話題を変えてみた。といっても高坂に会ったら聞いてみようと思っていた質問だったが・・・。正直、咲にもこの目まぐるしいファッションの流行を把握できていなかった。暖冬の影響もあって冬物は予想より売れなかった。
先の事が分かったら経営者は苦労しない・・・と咲は思うようになった。よく経営者が占いを信じるという話も最近では分かる気がしていた。どんなに優れた経営者でも先の事は本当に分からない。特にこの業界は・・・。
(でもわたしには高坂がいる・・・。)
高坂は特にファッションに詳しいわけではなかったが、着こなしとか流行に対する直感とかの感性が鋭く、自分と気が合うと思っていた。だが仕事をするようになってからはその先見性に対する直感力に気付き始めていた。

「正直、この人の『影響力』ってあたしたち無視できないんだよねー。」とさりげなく質問してみる。
咲の意図を知ってか知らずか、高坂は首をひねりながら雑誌に指を指す。
「うーん、でも僕は名前は分からないけど、こっちの人の方が綺麗に着こなしていると思うよ。」
131ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:53:47 ID:???
高坂が示した人は少しづつだが流行に影響力を持ち始めているがまだファッションリーダーとまではいっていない人だった。彼女たちの世代交代も早い。だがいつそうなるかが誰にも分からないだけで・・・。
「そっそう・・・。」
平静を装ったが内心では心臓がバクバクいっていた。たぶんこの春物でリーダーは交代する・・・。誰もが今のリーダーの動向に注目して受注計画を立てている。もし新しいリーダーに合わせて大きい勝負をすれば・・・。
(勝てる!)
流石に業界のトップクラスとまではいかなくともどんぐりの背比べのグループからは頭一つ抜けられる!それを知っているのはわたしだけ! そんな打算が咲の頭を駆け巡っていた。この情報は『利用』でき・・・。
そこまで思考を駆け巡らせてからハッと気付いた。
(あたしコーサカを『利用』できるって思ってる?! 父親みたいに?! そんなことはない・・・あたしはコーサカを・・・)

「咲ちゃん? どうしたの?」
「ううん、何でもない。」
咲は少しだけ顔色を変えたが平静を装って引きつった表情で無理に笑顔を作った。
高坂にとって何か良い事でもあったのだろう。珍しく咲の心内に気付かずに考えに耽って喋り続けた。『影響力』という言葉が高坂の思考の何かに引っかかったらしい。
「でも本当に『影響力』って不思議だよね。僕の仕事もゲームを教育とか軍事シュミレーションとかの開発に活用しているんだけど、個人戦で組み立てられたゲームを実戦の集団戦に想定する作業が難航しててね。」
132ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:54:33 ID:???
「あ、そうなんだ・・・。」
ややぼんやりとした様子で咲は高坂の話を聞く。
「幸い、宗教的タブーで海外では人型ロボットの開発が遅れているけど、日本では進んでいるし、心理シュミレーションもゲーム化されてるしね・・・近い将来、対戦ネットでもカリスマを備えた集団戦の『王』が誕生するかもね!」
と高坂はゲームのモニターをしていた時の妖しい目の輝きを浮かべて言った。
そして珍しく『喋りすぎ』た事に気付いて言った。
「ごめん、咲ちゃん、つまらない話に夢中になって。」
そうしていつもの笑顔を咲に振り向けた。
「ううん、いいの・・・。」

こんな機会でしか高坂の心は覗けなかったことだろう。そして自分の心も・・・。わたし自身がこの人から離れられないと・・・。
そして咲は自分の愛している人の事を考えた。
コーサカに聞いてみたい。『勇者』がめでたく『悪龍』を倒して『お姫様』を救ったが、その『お姫様』の正体が実は『魔王』だった・・・そんな神話があったのかどうかと・・・。
133ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:56:21 ID:???
○斑目晴信

斑目はせっかくの休日を自分の為ではない買い物で潰していた。両腕には手一杯の買い物袋でいっぱいになっている。ヨロヨロよろめきながら近くの大型スーパーから家路についている。口には荻上から聞いた買い物メモをくわえていた。
「ええと、あと買い忘れは無いかな・・・。」
メモには事細かい指示事項が書き込まれている。たった一週間とはいえそれなりに日常生活に必要なものってあるものだな・・・と思った。
「ええと・・・うわ、こまけー。」
斑目はメモをのぞきこんで読み上げている。
「何々、食事は栄養のバランスを考えて野菜を多めにしてください。味は気にしなくてもいいです。何でも食べます。ほっとくと何も食べないので注意してください。古いものを放置しておくと食べてしまうので
早めに処分してください。どこかにふいにいなくなっても騒がないでください。そのうち帰ってきます・・・。野良猫かよ!」
ブツブツ言いながら斑目は昨日の荻上との会話を思い出していた。しかし預かるのは動物では無く人なのだ。しかも若い女性・・・。 
『あと着替えも出来れば・・・サイズはゴニョゴニョ・・・。』と荻上。
『嘘! 着替えも無いの!』
『家の鍵は私が持ち出してるんです。スペアキーも無いし・・・。』
荻上の背後では藪崎と思われる女性が『はようせんか! 飛行機乗り遅れるで!』と苛立った声が聞こえてきていた。
『ええとこれで大体終わりです。すいません!本当にすいません!』
134ネクストへの前奏:2008/03/15(土) 23:57:33 ID:???
荻上会長は何度も謝ってはいたが旅行の予定は変更せずに結局旅立ってしまった・・・。
(荻上さんもスーに『見込まれた』口なわけだ・・・。)と斑目は思った。
「すっかり『お姉ちゃん』らしくかいがいしく世話してたものな〜。何かおかしいと気付くべきだった・・・。まさかここまで生活能力に欠けていたとは・・・。」

荻上会長の話では出来ないわけではないらしい。ただ無頓着なだけで・・・。それが荻上会長にはほっとけなくているらしい。

「だからって勘弁してくれよ。」
斑目は女物の下着まで買うという恥辱プレイを大型スーパーでやるはめになっていた。下着のサイズやメーカーまできめ細かく指示していたので売り場の女の人の不審な目に晒されつつ聞きながらの買い物だった。
「歯ブラシ、櫛、タオル・・・あれ? 生理用品はいいのかな・・・。一週間だけだからいいのかな・・・って何で俺がそこまで気を配らなきゃならんのだ!」
斑目は顔を真っ赤にしながら、一人で勝手にあれこれ気を回して神経をすり減らしている自分の境遇に腹を立てた。

「あー、人と暮らすって本当に色々あって生々しいのな・・・。」
つくづく一人暮らしの気軽さを実感した。
(そういえば・・・春日部さんも高坂と一緒にもう暮らしているんだよな・・・。)
ふと斑目は咲の事を思い出した。これが彼女だったらどんなに良かった事か・・・。
135ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 00:00:59 ID:???
「今、帰ったよー。」
斑目はアパートに着くやスージーに声をかけた。まあ家に帰ったら誰かいるというのも考えようによっては悪くは無いな、それがたとえ「あの」スージーだとしても・・・。

「オカエリ」
スージーの声はする。が、声はすれど姿は見えない。
「・・・・・・」
斑目はすぐにスージーの居場所に気付いて押入れを開けた。
「開ケナイデヨ」

「・・・やっぱりここか・・・。何をしてるんだ? 小森霧ちゃんごっこか? 『愛の天使』って言うなよ。」
さすがに疲れてスージーのオタ会話に付き合う余裕は無かった。
「あ! さっそく俺のトレーナー勝手に着て! パンツは俺のはくなよ!」
とても見た目美少女に言う言葉では無いとは思ったがやりかねないから怖い・・・。
(アンジェラといい、スージーといいどうも調子が狂う。外国人オタクって皆こんなものか? なわけねーよな・・・) 

「飯作るなー。」
一人ならコンビニの弁当ですませるが、荻上の手前もあるし適当にはすませられない。斑目は慣れない手料理に挑戦した。
「ええと、あれ? 醤油どこだっけ? ん? 賞味期限・・・。ま、過ぎても大丈夫って誰かが言ってたしな。」
フライパンをガスコンロにかけて食用油を引いて熱していると携帯電話が鳴った。

『ああ、オフクロか。何? 米送ってくれた? それはどうも・・・。ん、もう少しこっちにいる・・・。誰かそばにいるのかって?誰もいねーよ』
美少女の皮をかぶったケダモノなら一人いますよ・・・と言いそうになったが母親にいらぬ詮索をされそうなので黙っていた。
136ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 00:02:15 ID:???
電話を切るとフーとため息が出た。
何か焦げ臭い・・・。
振り向くとフライパンから火が吹いていた。
「わー、ぎゃぽー 春日部さん二号になるー 消火器―消火器―!!」
とっさの事にパニックになった斑目のそばをスージーがすり抜ける。
そして大き目の蓋をフライパンにかぶせてあっさり鎮火してしまった。
「あ、そうすれば消えるのね・・・。」
目が点になった斑目をよそにスージーはテレビの前のコタツにもぐってアニメの続きを観た。

「ふー、気を取り直して・・・。」
斑目はガチャガチャ音をたてながら悪戦苦闘で何とかチャーハンを作った。
「さあ、特製レタスチャーハンの完成だ!」
そう言って斑目はテーブルに二つのチャーハンを運んだ。見た目はレタスチャーハンというより菜っ葉入り焼き飯といった具合だった。レタスは火が通り過ぎてシナシナ黒ずんで小さくなり、ご飯は所々かたまりになってこげていた。
(まっまあ見た目より味だよな・・・)
斑目は恐る恐るスプーンでチャーハンを口に運んだ。
「ブッ!!」
我ながらその不出来具合に感心した。
スージーの方を振り向くとスージーは平気な顔をしてパクパク食べている。
「おっおい、無理しなくていいぞ・・・。」
しかしスージーは平然とした顔ですっかり平らげてしまった。
「そっそうか! そんなに美味かったか! いや、俺ひょっとすると料理の才能あったんだな!」
自分が作った料理を残さず食べてくれるのは嬉しい。斑目が喜んでいるとスージーはスプーンを置いて言った。

「不味イゾー、ヨーイチクーン」

ガクッ!!

斑目は脱力してその場に崩れ去った。
137ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 00:03:26 ID:???
食事の後片付けも当然斑目の仕事だった。ガチャガチャ食器を洗いながら斑目は思った。
(結婚もしてないのに子供を置いて女房が逃げた亭主のようだ・・・)

「シャワー」
とスージーが突然言った。
「シャワー? ああ風呂ね。」

斑目は『指示書』に目を通した。
シャンプーの種類まで指定してある細かさだった。しかも髪を乾かす手伝いもしてあげてほしいとも言われた。
(しかし一体どこまで世話してたんだ・・・)
荻上の性分なのかこれがスージーの才能なのかは分からないが几帳面な世話好き『お姉さん』に荻上はすっかりなってしまっていたようだ。

バスタブは余り使ってなかったが一応洗った。ゴシゴシとスポンジで洗いながら斑目はこれでPee毛を探すようになったら人としての軸がズレちまうんだろうなとか考えて苦笑した。同時に涙がこみ上げてきた。
(あー、これが一週間・・・。すっかり所帯じみてるよ〜。荻上さん早く帰ってきてくれ〜)

「用意できたぞ〜」
スージーが脱衣所に入ると、斑目は曇りメガネを頭にのせながら買ってきたスージーの下着やパジャマを袋のまま手にして脱衣所に入った。
「ほれ、着替え〜」
するとスージーがX字で目潰しを突き出してきた。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁ」

斑目はゴロゴロと転げまわってのたうちまわった。
「おまえ、何て事をぉぉぉぉぉぉ、誰が見るか! 三次元ロリの貧・・・」
さらに追加で洗面器が飛んでくる。
「ぐわっ!」
138ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 00:04:56 ID:???
○春日部咲

咲はショップの狭いバックヤードの机に座って春物の発注計画書を作成していた。隣では恵子が時間外にも係わらず、値引きの札付け作業を黙々としていた。

咲は同時に高坂が言っていたファッションリーダーの動向をインターネットで調べていた。意識しないと気付かないが、その影響力にかげりが見え始めているような気がした。
(やはり今回もコーサカの予想が当たるのかな・・・)
周囲は今のファッションリーダーの志向にあわせて新商品の開発を進めているようだったが、もし高坂の推す人に合わせた商品をするなら今からしか無かった。一週間で商品開発できる大手資本とは違うのだ。それでも自前の製造部門を持ってて良かったと咲は思った。

ふと咲は隣に座っている恵子に声をかけた。
「ねえ、恵子・・・。」
「ん? 何? ねーさん?」
「この人知ってるよね。次のシーズンもやっぱりこの人かな? あんたらの周りではどう?」
質問の意味を理解した恵子は答えた。
「ああ・・・。どうかなー。あたしの周囲でも人気あるよ。けっこう真似している人も多いし・・・。」
「そう・・・。」
(勝負に出るのは危険かな・・・)
「んー、でもなー」
「何? 気になる言い方だよね。」
恵子は口をへの字に曲げて腕を組んで考え込んだ。
「この前のテレビでこの人ムカツク事言ってうちらの間でもヒンシュク買ったんだよねー。言ってる事がズレてきてるよ。」
「そっそうなの? じゃあこっちの人は?」
「あ! 知ってる! 知ってる! 」
139ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 00:06:25 ID:???
最近、芸能とかの情報に多忙で疎くなっていた咲には初耳の情報だった。昔はテレビのドラマの主人公のファッションが主流を作る時代もあったが今は多様化が進んで時代を一色に染める流行は無い。
しかし時代の『華』を持つ人というものは常にいる。でもその『華』もふとした事でなくなって次の『華』を持つ人に受け継がれる。流行の要素は複雑で一つの要因では決められないが、春先にはきっと何かの理由でリーダーは交代するに違いない。
(これが兆しかもしれない・・・)
高坂がこうした情報や動向を知っているとは思えない。天才・・・そうとしか言いようが無い。
(高坂は私の切り札だ・・・)
そう思うと同時に捕らえられた『お姫様』を助けるつもりが自分自身が『囚われの身』になっている事を実感した。もう自分の仕事を含めた自分の生活の中から高坂を抜くことはできない・・・そう思った。

黙々と仕事をする恵子を見て咲は言った。
「もう時間外でしょ?」
「あ、残業時間の超過なら気にしなくていいよ
、もうタイムカードは押したから。」と恵子は言う。
「そういう問題じゃなくて・・・」
「気にしないで。今日中にこれ終わらせておきたかったんだけど終わらなかったから。」
「友達と遊びに行けばいいでしょう。」
「いいの。今はねーさんと仕事してる方が楽しいから・・・。」
「・・・・・・・」
恵子の気持ちは嬉しかった。恵子の気持ちに打算は無いし自分も感謝している。しかし本心ではそれを助かっていると思っている自分がいる。『結果として』高坂や恵子を『利用している』自分がいる、父親同様に・・・。
140ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 00:08:58 ID:???
咲はふと尋ねてみたくなった。
「ねえ恵子、最近コーサカの事はどうなの?」
突然の質問に面食らって苦笑しながら恵子は答えた。
「え? 何? 急にどうしたの? 高坂さんと喧嘩でもしたの?」と逆に面白そうに尋ね返してくる。
「いや、そうじゃないけど・・・あたしら一応、恋敵じゃん。」と咲はニヤッと笑いながら恵子の方を見て答えた。
恵子もニッと不敵な表情で笑いながら咲と目を合わせた。
「まあね。」

「で、どうなのよ。」と咲が尋ねてくる。
「んー、そーねー。」
恵子は単純作業でこった体をほぐすように手を組んで腕を伸ばしながら咲の手元の婚約指輪に目をやった。

「自分でも分からないねー。どちらかといえば『おっかけ』みたいなところもあったし・・・。」
「オタク趣味には理解ある様子だったじゃない。」
「漫画は誰でも普通に読んでるし、同人誌だって普通に読めるよ。でもオタク趣味に限らず彼氏の変わった趣味に合わせるか目をつむるかくらい誰でもやるじゃん。オタク趣味じゃないけど前の男でそういうのいたし。」
「そんなもん?」
「じゃないの? 結局あたし『いい男』が好きだし・・・。『いい男』なら多少の事は目をつぶるもんじゃない? ま、そういうの女に限らないけど。」
恵子はしばし思案深げにしながら続けて言った。
「正直、オタクって事自体どうでもいいっていうか関心無いんだよね。兄貴もオタクだしその彼女だってオタクだし今更って感じ・・・。興味が無いってのが答え。」
141ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 00:10:19 ID:???
「じゃあまだ高坂を・・・。」
「好きだよ。でもねえ・・・。デートしたり彼氏としてならともかくねえ・・・。オタクという以前に・・・業界人とかも関係無しに・・・ねえ・・・。」
恵子がその先を言いづらい事に気付いて咲は言った。
「あー、もういい、分かった。」と咲は苦笑した。
「一回くらいヤれるならいいかな。」
恵子のその言葉に咲は笑いながら「この」と言って軽く恵子の頭を小突いた。
恵子は舌を出して笑い返した。

「そうか・・・まあ・・・そういうことなんだよね・・・。」
咲は物思いに耽りながらパソコンの画面に視線を戻した・・・。
142ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 00:14:46 ID:???
○斑目晴信

「勃たない・・・。」

斑目はこれまでのスージーとの『生活』を振り返って思い出していた。人が聞いたら外国人『美少女』との『同棲』生活をさぞ羨ましがることだろう。
(とんでもない・・・)
荻上さんも何を考えているのか・・・とも斑目は思った。独身独居青年の家にまるで旅行中に飼い猫を知人に預けるような気分で年頃の友人を預ける感覚が理解できない。
(いや、まてよ・・・。世話する感覚も預ける感覚もひょっとして荻上さん、同じ感覚なのか?!)
目の前には風呂上りのスージーがテレビの前に平座りしてパジャャマ姿でくつろいでテレビを観ている。斑目はメモの指示に従ってスージーの髪をドライヤーで乾かしている。
(女性の髪なんて乾かした事無いぞ〜)
斑目は当然ながら慣れぬ手つきでスージーの絹糸のように繊細な長い髪を櫛ですいでいる。
その見事な髪の触りごこちは自分の慣れない手つきで台無しにしてはいけない気分にさせる細さとしっとりとした感触と滑らかさであったので、斑目はまるでプロの美容師のような心持で余計神経を使った。
メモ紙にはその手順まで事細かく書いている。この指示を荻上が携帯で伝えていた背後で友人の藪崎のイライラした様子が伝わってきた事を斑目は思い出す。
(そりゃそうだ、旅行前にこんな・・・。しかしまあ、荻上さんいつもここまでしてやってたわけね・・・)
143ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 00:16:52 ID:???
荻上にも呆れるがその指示通りにやっている自分にも呆れる。当のスージーはこのような『ご奉仕』を当然のように受けてまるでお嬢様か貴族然とした様子ですっかり寛いでいる。
いや・・・この風呂上りでほんのりと紅く染まった白い肌でうっとりと気持ちよさげにしている様子は毛づくろいをしてもらっている猫みたいなものか・・・。

斑目はこの様子を少しだけ可笑しく思った。冗談で後でこのお返しの『ご奉仕』をしてくれるんですかと内心で思ったが、預かった荻上の手前もあるし、第一斑目自身がそんな不埒な感情が浮ばなかった。
(ロリツルペタ属性の俺がどうしちまったんだろうな・・・)

「スージー、この布団で寝てくれ。俺は明日も早いから静かにしてくれよ。」

そう言って斑目は万年床になりがちな自分のくたびれた布団とは別に予備で一組だけあったきれいな布団をスージーに用意して自分は部屋の隅っこに毛布に包まって寝た。暖冬の影響で特に寒さは感じられなかった。
(ここでエロゲーだったらすごいことになるんだが・・・)と斑目は苦笑した。
スージーの寝顔を覗くとスヤスヤと穏やかな表情で熟睡している。その寝顔を見ていればとてもエロゲーのような展開に持って行く気もなれなかった。そしてそのうち疲れで深い眠りについた・・・。
144ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 00:18:12 ID:???


朝起きるとすでにスージーはいなかった。さすがに朝の支度の用意までは出来そうもなかったので助かったと斑目は思った。

会社に出勤していつものように昼に大学の部室に顔を出すと新入生と一緒にスージーがいた。新入生たちは男女ともスージーに対しては何の気兼ねも無く接しているようだった。
というより適度にほったらかしにされていると言っても良かった。
スージーはスージーで勝手に漫画を読んだりしている。その脇で男子部員たちが男性向けのエロゲーの話をしても気にする様子は無い。部員たちもスージーが下ネタを普段から口にするので気兼ねをしないのだろう。
まさかとは思うが日本語が分からないと思ってるのかもしれなかった。

斑目が部室に顔を出すと部員たちはいつもの事のように軽く会釈して普段の仲間内の会話に戻る。すでに斑目は部室の空気のようなものとなっていた。
それはスージーも似たようなのだった。だが今日は少しばかり様子が違った。異変を与えたのは斑目だった。

「あれ? スージー、昨晩の服と違うけど着替えはどうしたんだ?」

その言葉に驚いたのは新入生たちの方だった。
「え?! 斑目さん?! スージー先輩と一緒に暮らしているんですか? 付き合ってたなんて知りませんでした!」

「ばっ馬鹿言え!」
斑目は否定するが、スージーは表情一つ変えずに漫画を読み続けている。

「でもスージー先輩と付き合うのはインコーですよ!」とふざけて新人の一人が言う。
「外国人でもホーレーって適用されんの?」
「おまえら違うだろ、スージーさんは会長と同じ歳だろ。」
「え? 俺、ステップで留学したから俺たちより年下かと・・・」
「外国人の留学ってステップ適用されたっけ?」
と周りの新入部員たちが口々に騒ぎ出す。
いまだにスージーは新人たちにとっても謎の存在だったらしい。
145ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 00:55:35 ID:???
携帯より
おさるさん規制により今夜の投稿はここまでが限界のようです
ここまでで三分の一くらいです。後日分割して投稿させていただきます
今夜はこれにて失礼します
146マロン名無しさん:2008/03/16(日) 01:08:57 ID:???
>ネクストへの前奏
久々の長編、お疲れ様でした。
って、携帯でやってたのこれ?
おさるさん規制以前に、電池が無くなりそう…
(まあ多分充電機につなぎながらの投下でしょうけど)

先ずは祝斑目再就職。
て言うか、また部室の近所かよ斑目!
やはり彼は二代目初代会長への道を歩んでいるのでしょうか。
春日部さん周辺の話が妙にリアルですな。
業界関係者なのかしら、筆者の方?
そしてスー、完全に猫ですニャー。
ちょっと飼ってみたい気も…

続きお待ちしてます。
147ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 22:58:40 ID:???
>>146
さっそくレスありがとうございます。携帯ではなくパソコンで投稿不能になった
のです。投稿不能を知らせないと何かあって「もうだめぽ」になったかと思われそうでした
ので携帯から投稿しただけです。
>リアル
知ったかぶりをでっち上げてるだけです。時事ネタもありますが実在の人物とは
特に関係ありません。

ではおさるさんが出るまで今夜も投稿を試みます。
148ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:01:10 ID:???
斑目は経緯を説明するとややこしいので適当に誤魔化したが、スージーの着替えの件については首をひねった。
(服の着替えなんか持ってたのか?!)

とうとうその夜はスージーは帰ってこなかった。携帯に電話してもつながらない。いなければいないで斑目は心配になる。次の日は休みなのでスージーを問い詰めよう。荻上さんの手前もあるし何かあっては面目がたたん、斑目はそう思って布団をかぶって横になった。

机の上のパソコンが眼に入る・・・。
(今日は・・・今日はもうさすがに帰ってこないだろう・・・)
斑目は毛虫のようにモソモソと机に這い寄り、パソコンのスイッチを入れた。

斑目は久しぶりにプリティーメンマをやってみた。
「・・・・・・・・・・」
「ん?」
「あれ?」
「たっ勃たない!」
149ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:01:38 ID:???


『は? 斑目さん?! 何ですって? ロリも巨乳も駄目? 忙しいのにそんなくだらない用事で電話なんかしないでください!

プツ

「あ! きっ切りやがった! 絶望した! 面倒をみてやった後輩がこんなにも冷たくなる世の中の不義理不人情に絶望した!」

笹原に電話して冷たくあしらわれた斑目はそう叫んだ。
再就職先の件、まだ腹立てていたのか?!

とも思ったが、相談の内容が内容だけにふざけていると思われたのかもしれなかった。

「やっやはり、彼女できて冷たい後輩より持つべきものは友だよな!」

そう言って斑目は久我山に電話した。
『まっ斑目・・・。悪いけど今日俺デッデートなんだ・・・。』と久我山。
『なっ何〜。うっ裏切り者!』
『べっ別にうっ裏切ってなんかいないんだけどな・・・。 じゃ、そういう事だから・・・。』

プツ

「・・・・・・・・・・」
150ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:03:43 ID:???


「で、それでどうして俺のアパートに来るんだよ?!」と田中は迷惑そうに訪ねてきた斑目をアパートの部屋に招きいれた。

「しっ知ってたのか?! 久我山の事!」
「ああ、知ってたよ。」
「まっまた俺だけ知らなかった!」
「いや、別に隠していたわけではなくて、久我山には大野さんとの交際を始める時に相談をしてもらった事もあったから、今回は俺が相談に乗ったから知ってただけだし。」
「だからって俺には!」
「いや、お前、喋るし、そういう真面目な相談ふざけて茶化すし・・・。」
「グッ」
「それにあいつの仕事って病院事務とか看護師とかと知り合う機会も多いからなあ。」
そう言いながら田中は散らかった部屋を片付けながら斑目の座る場所を部屋に作ってやった。

「ほら、ここに座れよ。」と田中は空けた場所に座るよう促した。
「ああ、すまん。」
斑目はそう言いながら、差し入れに買ってきた発泡酒やつまみを広げた。
二人は男だけで昼間から酒盛りを始めた。
「酒も高くなったよなあ・・・。」
「ああ・・・。最近は俺も発泡酒が主だ。」
「男だけで飲むのって久しぶりじゃないか?」
「だな。」
チビチビと発泡酒を飲みながらつまみをかじってシンミリとたわいも無い会話をしながら二人は飲んだ。
斑目は周囲をキョロキョロ見回してから田中に聞いた。
「大野さん、今アメリカにいるんだって?!」
「ああ・・・。」
その事にはあまり触れてほしくなかったのか田中の会話のトーンが少しだけ下がった。
「何だ? 喧嘩でもしたのか?!」
と茶化した様子で尋ねた。
151ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:04:47 ID:???
「ああ、そうなんだ・・・。」
「あ! あっソウナンデスカ・・・。」
斑目は気まずい事を聞いたと思い、肩をすぼめて発泡酒をズズッとすすった。
(田中の言う通りだ。俺はどうもシリアスな場面が苦手だ・・・。)

「ああ、気にするな。俺と大野さんの問題だ。お前に相談しようとは思ってないから。」
と田中は苦笑しながら言った。
斑目は少しだけ憤慨した様子で「おいおい、俺に相談しても無駄だって言ってるのか!」と言った。
「いや・・・そういう意味では・・・だって・・・なあ・・・俺、まだ学生だぜ・・・大野さん、気が早すぎるんだよ・・・。」
田中のその言葉に揉め事の中身を察した斑目は目を泳がせて場を誤魔化した。
「ん・・・まあ・・・だろ? だから正直、人の相談にのってやる余裕は無いが今日は聞いてやるよ、問題はスージーか?」
と二本目の発泡酒に手を伸ばしながら田中は聞いた。
「よく分かんねえよ。スージーがどこにいっているか知らないか? 預かっている責任みたいなものもプレッシャーになっているのかもしれない。」

「ええと、ちょっと待てよ・・・。」
田中は思い出したように戸棚に手を伸ばす。
「確かスージーの正式なホームステイ先の住所を大野さんから預かっていたような・・・あ、あった! これだ!」
と田中は戸棚からその住所の書かれている用紙を取り出した。
「何だそりゃ! 荻上さんの家に住んでいるからてっきりそっちが本当の家かと思ったよ。」
「なわけないだろう・・・。ここだ、ここだ。確か巣鴨だかどこだかの、昔、外交官の奥さんだった人の家が正式なスージーのホームステイ先らしい。もっとも普段は荻上さんの家に寝泊りしているから留学関連の法的な手続き上だけみたいだが・・・。」
そう言いながら田中はその用紙を斑目に渡した。
152ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:05:21 ID:???
「いや、助かるよ、住所・・・携帯じゃなくメモ用紙にメモさせてもらうわ。」と斑目は戸棚の上の筆記用具に手を伸ばした。

その拍子に戸棚から何かの箱が落ちてきた。その箱は床に落ち、その中身がばら撒かれた。
「なんだこりゃ? こりゃコン・・・お前なあ、いくら一緒に住んでいるからってこういうの人目につくところに置いとくなよな。」と斑目が苦言を呈した。
田中は驚いた表情で言った。
「え? 俺、そんなところに置いた記憶は・・・。」
「ありゃ、なんだ?」
斑目は箱から飛び出したその中身を手にとってシゲシゲと眺めた。
「あれ? これ? 穴が・・・。」
よく見るとその中身には全部ではないが一部に均等の間隔で針で穴が開けられていた。
「・・・・・・・・・。」
斑目は見てはいけないものを見た気がして天井を仰いだ。
「ははっ、これ・・・何かのメッセージ? これって本当に効果があるの?」
「いや・・・俺も分からん・・・。大野さん、耳年間みたいなところもあるからな・・・。」そう言いながら田中は驚愕の表情を浮かべた。
「 大野さんって時々『別人格』みたいに怖い所あるよな・・・。」
その斑目の言葉に中身を手にした田中はその穴を見つめながら叫んだ。
「大野さんをそんな風に言うな!」

驚いた斑目はすぐに謝った。
「あ、ゴメン・・・。」

「いや・・・俺の方こそ・・・。大野さん・・・俺が悪いのか? そんなに思いつめて・・・俺が追い込んだのか? 彼女を? 俺なんかとそんなに一緒に・・・。」
田中はその中身をじっと見つめたまま身じろぎしなくなってしまった。
153ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:05:56 ID:???
斑目もそれ以上何か言える雰囲気ではなくなってきたので鼻の頭をかきながら視線を泳がせていた。

ようやく田中が口を開いた。
「すまん・・・やはりお前の相談にはのってやれない。今は人生ってやつを一人で静かに考えたい気分なんだ・・・。」

「いや、俺の方こそ、スマンかった。助かったよ、このスージーのホームステイ先に行ってみるわ。」

斑目は田中のアパートを出るとビルの谷間風の寒さに身を縮まらせながら冬の空を仰いだ。
そして某青年誌で長期連載しているゴルフ漫画のように散文詩を呟いた。

『都会の空にもこんな澄み渡った蒼い空が輝く日もあるだろう。
散々めんどうみてやった後輩に軽く鼻で笑われる日もいつかは来るかもしれない。(実際来ましたよ)
いつまでも同志だと思っていた仲間もいずれは別の道を進む事もあるに違いない。
仲間が人生の岐路に立ち悩み苦しむ場に居合わせる時もあるかもしれない。
しかし今は自分のチ○コが役に立たない事が大事な斑目晴信 二十五歳と四ヶ月。』

「ああ、俺って詩人だなあ・・・。」
斑目はそう呟きながらスージーのホームステイ先にトボトボとした足取りで歩いていった。
154ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:06:45 ID:???


田中のアパートで教えられた住所の場所に電車を乗り継いで向うとそこは確かに存在した。門構えの立派ないかにも旧家という造りの家を前にして斑目はポカンとした表情でその門を見上げていた。

「はー、あるもんなんだなー、こういう家って・・・。地主さんか何かなのかな。『アホ姉妹』でも出てきそうだな・・・。」
控えめな雰囲気を漂わせているために見逃しがちだが、高層ビルやマンションの立ち並ぶ街並みの一角に時としてこういう趣き深い家が存在する。しかし意識してこうした家と向き合うのは斑目は初めてであった。

しばらくぼんやりしていると小太りの老齢のお手伝いさんらしき女の人が斑目に気付いて声をかけた。
「お兄さん、こちらに何か御用ですか?」
はっとして斑目は答えた。
「あ! すっすいません、こちらにスー・・・スザンナ・ホプキンスさんいらっしゃってます?!」
「あ、スーちゃんのお友達の方でしたか。ええ、きてますよ。どうぞ、こちらへ。奥様のところにご案内いたします。」

そう言われて斑目は立派な門をくぐって屋敷の中に案内された。高い塀に遮られて中は見えなかったが、中も相当に広い敷地で、庭も明らかに庭師が丹念に世話している事がうかがわれた。
(『お手伝いさん』だよ、『お手伝いさん』・・・。初めて見たよ、俺。メイドさんならよく見るんだけどな・・・。)
そんな事を思いながらお手伝いさんに案内されていくと、日当たりのいい縁側にスージーがいた。
傍には品のよい穏やかで知的そうな老齢の貴婦人が縁側に座って、ニコニコした表情でスージーの長い金髪を指を通してなでていた。
二人の傍に近づくと意図せずに二人の・・・というより老貴婦人の言葉が聞こえてきた。
155ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:07:28 ID:???
「あら、可愛い。懐かしいわねえ。スーちゃん、本当に変わらないわねえ、あなた。このお洋服だと似合うかしらねえ。古くからのお付き合いのある仕立て屋さんに今風に仕立て直してもらったけどおかしくないかしら?」
老貴婦人の傍ではスージーが縁側にちょこんと座り、頬を赤らめ、うつむき加減で老貴婦人がスージーのリボンを結びなおしているのに任せている。
スージーの服は戦後のレトロファッションを現代風に仕立て直している様子だった。ファッションの事は分からないがその服が上質の素材で作られている事は斑目にも察せられた。
「本当に・・・。私たちの頃も今の女の子たちみたいに自由におしゃれを楽しみたかったわねえ・・・。あら? お客さん?」

ようやく斑目の存在に気付いた二人は同時に斑目の方を見る。
お手伝いさんに紹介されて慌てて挨拶した斑目はしどろもどろに答えた。
「あ、こっこれはどうも! スージーが大変お世話に・・・いや違うか・・・。とっとにかくスージー! こんな立派なホームステイ先があるんなら早く言ってくれよ! じゃあ、もう心配無いな! 良かった、良かった。 そっそれじゃあ、スージーをよろしくお願いします!」

斑目が老貴婦人に挨拶し、玄関に向って歩き始めると背後で老貴婦人の言葉が聞こえてくる。
「あの方が今のスーちゃんの『執事』さんなのね。お優しそうな方で良かったわねえ。」

(『執事』?! いまいち話がかみ合わないが、まあお年寄りの言う事だし、記憶が混同しているんだろ)
老貴婦人の会話には少し違和感を感じたが、斑目はスージーを託して肩の荷がおりた事に安堵したので細かい事が気にならなかった。
156ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:07:57 ID:???
(良かった・・・。これでアレも直るだろ)
気分の良くなった斑目はそのままアキバに直行し色々と遊んだり買い物してからアパートに戻った。
夕方に部屋に戻るとドアの鍵が開いている。
(あれ? また閉め忘れた? いかんな、俺。)
玄関先には仕送りの小包が置かれていた。
「あれ? 宅配の人、勝手に置いていったのか? うわ、生ものだよ、オフクロこんなにキャベツ送ってもらっても困るんだよなー。食べきれないぞ、これ。」

斑目は小包を小脇に抱えながら部屋の奥に進んだ。
「あ、スージー、しばらくキャベツ炒めな。俺、それしか作れないから文句無しな・・・」

スージーがコタツに丸まるように座ってご飯茶碗を箸で叩いている。
「ゴハンマダー?、チンチン」

斑目は漫画かアニメのキャラのごときリアクションで部屋にスライディングするようにずっこけた。

「・・・って何でお前、まだここにいるんだ!!」
157ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:09:11 ID:???
○咲と晴信

スージーを預かってから三日目が過ぎた。斑目は仕事以外のほとんどの自分の時間をスージーに費やしている気がしていた。残業もせずに定時で帰ってばかりいた為に、休日の午後だけ出勤するはめになっていた。そして休みの午前もスージーの身の回りの世話に追われている。

そして今更ながらスージーの「アンバランス」さに戸惑う日々だった。

「くっじっびっき〜 あんばらんす〜」
と音程の外れた声で歌を歌いながら斑目はベランダでスージーの下着を干している。
昔の上流階級は人に身の回りの世話をさせるのが当然だったので羞恥心が一般庶民よりも少ないというが、スージーもまた斑目に対して「羞恥心」というものを感じていないようであった。
隣の部屋の主婦とベランダで顔を合わせたので斑目は会釈した。
「あ、どうも、おはようございます。」
そう言いながら、斑目はスージーのパンツを物干しにぶら下げてていた。仕事でめったに顔を合わせた事の無いお隣さんは女物の下着を干している斑目に対して奇異の表情を浮かべて会釈を返したが、斑目はもう人の目がどうでもよくなってきていた。

洗濯物を干し終わって、斑目はベランダから部屋に戻った。
「スージー、委員会に出す提出物、ここに置いておくぞ〜。荻上会長の頼まれ事くらい自分でやってくれよな〜。」
そう言って斑目は昨晩のうちにパソコンで作成した自治委員会あてのサークル関係の提出物をスージーに渡した。

「マダラメガ一晩デヤッテクレマシタ。」
スージーはすましてその用紙を受け取った。
「俺はジョバンナか!!」
そのつっこみには答えずスージーは食べ終わった朝食の皿を台所に片付けた。
「朝は『目玉焼き付きキャベツ炒め』、昨日は『焼肉のタレ風味キャベツ炒め』、一昨日は『ケチャップ風味キャベツ炒め』・・・俺も料理が上手くなったもんだ。」
「マズイ」
とスージーは素っ気無く言う。
「全部平らげてから言うな!」
158ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:27:07 ID:???
午後から半日出勤の為に会社に向う斑目は、大学に向うスージーとは同じ方向なので、アパートを一緒に出て同じ方向に歩いた。
近所ではこの衆目を集める外国人ロリ美少女と自分の組み合わせがどんな風に見えるかという事は正直気にならなかった。
何よりも『勃たない』のだからどうにかなるも何もどうにもならない。
(カンバック、マイチン○・・・)
やややつれ気味に重い足取りで斑目はスージーの後ろについて歩く。スージーを見てもため息しか出ない。

「じゃあ、俺はこっちなんで・・・。」

斑目は手を振ってスージーと別れた。スージーも手を振り返して大学に歩いていった。はたから見たらさぞ仲のいい恋人同士が同棲先から一緒に通勤、通学しているように見えることだろう。

斑目は少し早めに家を出たので、すぐに会社に顔を出したくなくて、近くの公園に向った歩いた。

「はー。」と疲れた顔で斑目は公園のベンチに腰掛ける。同時にベンチに同じように「はー。」という声をあげて腰を掛けた人がいた。

斑目がその人の方を向いてみるとそれは良く知る人だった・・・。そう…咲だった。

「あっあれ? 春日部さん?!」
「あっあれ? 斑目?!」

意外なところで意外な人にお互い顔を合わせた二人は戸惑いの表情を浮かべて驚いた。

「あっあれ・・・久しぶり〜」
「ほっほんと、久しぶり〜」

二人はしばらく会ってなかった上、以前ちょっとした事で気恥ずかしい思いをお互いした事もあって、やや照れくさげな顔をお互い付き合わせていた。
159ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:28:14 ID:???
「げっ元気してた〜」
「まっまあぼちぼちね〜」

「何か疲れてない?」
「春日部さんこそ。」

二人はとりとめの無い会話で間を取り繕っていた。

「その格好・・・仕事・・・忙しいの?」
「まあね・・・。スージー食事の用意で定時に帰ってばかりいたんで休日半日出勤デスヨ。」

「え? スージーの食事?! あんたら一緒に暮らしていたの?」
咲は驚いて斑目に聞き返した。
「イヤイヤ、一緒に住んでいるんじゃなくて・・・いや住んでいるんだけど・・・」
と慌てて斑目は訳の分からない言い訳をしながら手を振ってそれを否定した。

「別にあたしに気を使わなくてもいいのに・・・。」
そう言ってから咲は少しだけハッとして顔を赤らめた。
斑目もその言葉にハッとして顔を赤らめた。
以前、ふとした事で咲に自分の気持ちを知られてしまったからだった。

斑目はどうにかこうにか事情を手短に説明した。

「はー。荻上が海外旅行・・・。最近、現視研のメンバーに会っていなかったから知らなかったわ・・・。大野も渡米してたとはねー。」
咲は今更ながら卒業後の自分の生活が忙しく、またサークルのメンバーとの生活との接点が薄れている事を実感した。たまたま斑目と再会しなければ知らずじまいだったかもしれなかった。
(ま、普通はそんなものか・・・)と咲は自嘲気味に笑った。高坂とサークルだけが「オタク」との接点だったのだ。それぞれの生活がすれ違えばそんなものかもしれない。

「高坂君は元気かい? 仕事順調そうだねー。」と考え事をしていた咲に斑目が声をかけた。
160ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:29:12 ID:???
「コーサカならいつも通り。いつも通り過ぎるくらいだよ。仕事は確かに忙しいけど今の所なんとかなってるね。」
咲は笑いながら答えた。
高坂の話題については斑目も咲の「苦労」を知っているので察するように「ああ・・・。」と頷いた。

「再就職したとは風の噂で聞いていたけど・・・また大学の近くだったんだ?」
「ははっ、まっまあね・・・。」

久しぶりということもあったので、二人はそれなりに近況を伝え合った。珍しく斑目は咲を相手に饒舌にスージーとの奇妙な同居生活の苦労について語った。もちろんアレが『勃たない』という話は避けたが。

咲はケラケラ笑いながらその奇妙な共同生活の話を聞いてた。

「それは『災難』だねー。本当に何も出来ないのかな? スージーって? それとも出来るのにしないだけ?」
「どうかなー。何となく出来るのに無頓着って気もするけど・・・。とにかく極端なんだ。」
「あはは、コーサカと同じだ。でもコーサカは何でも出来るよ。この前も料理作ってくれてたし・・・。自分の事は何でも一人でやってしまうし・・・。」
「ノロケにしか聞こえません・・。」と斑目は苦笑しながら言った。
「違うって!」
咲は笑いながらそれに答えたが内心ではこう思ってもいた。
(自分がいてもいなくてもいいくらいにね・・・)

咲は斑目との会話の中で、高坂が自分を必要としなくても自分には高坂無しにはもはや「自分」というものが成り立たないという思いにとらわれた。咲は嫌々ながらもスージーの世話に振り回されている斑目をうらやましく思った。
どんなに不器用でもスージーは斑目を必要としていた。ふと恵子に聞いた事と同様の事を斑目にも聞いてみたくなった。

咲はバックからファッション雑誌を取り出して斑目に見せた。
161ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:30:03 ID:???
「ねえ、この人とこの人の違いが分かる?」
「え? いやあ、どっちも同じにしか見えないけど・・・。」
「ま、そうだよね。」
予想してた通りの答えに咲は少しだけ表情を曇らせてうつむいた。
「え? どうかした?」
咲の不可解な態度に斑目は怪訝な表情を浮かべて尋ねた。
「いや、何でもない。聞いてもしょうがない事だったよね、ごめん、悪かった。」
「なっ何だ、服の事は分からないけど聞いてもしょうがないって事は無いだろう!」
斑目はちょっとだけ憤慨した態度を取った。
「ごめん、そんな意味じゃなかったんだけど・・・。じゃあまたね!」
咲は戸惑ったままの斑目を残して立ち去った。
162ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:31:18 ID:???


斑目の午後出勤は外回りの業務を含むものだった。斑目は勤務予定表に予定を書き込むと会社の営業バンで訪問予定先を巡回した。そして当初の予定よりも早く業務が終わったので、不良営業マンよろしく斑目は湾岸近くで車を停めて休憩していた。

「はいはい、俺ダメオタリーマンね。」
斑目はだるそうにそう呟きながら
車の座席のシートをたおして携帯で匿名掲示板を覗き込んでいた。
ぼんやりと携帯の画面を眺め惰性でカチャカチャと携帯のボタンをいじっている。だが心は咲の事を考えていた。
(どうしたのかな・・・。高坂とうまくいってないのかな・・・?)

だからどうだというんだ、斑目晴信?
春日部さんが高坂と別れたからって自分に何を期待するというんだ?

斑目は携帯の画面に反射した自分の目を見つめて自問自答した。そのメガネごしに見える切れ長な目は死んだ魚のような目をしている。
(一体、何て目をしていやがる、斑目晴信!)

斑目は心の中でそう叫んだ。
そして心のどこかで咲が高坂とだめになってその彼女の心の隙間に入り込めたらと期待している自分に気付いて気がふさぐのだった。
(ああ、最低だな、俺は・・・。人の不幸を期待しているのか・・・。春日部さんが悲しむのを期待しているのか・・・)

「ハイハイ、ワロス、ワロス」
斑目はどうでもいいスレにどうでもいい書き込みをして送信した。
(俺が笑っているのはこいつでは無く俺自身だな・・・)
斑目は皮肉めいた微笑を浮かべて携帯を閉じた。そろそろ時間である。会社に戻らなければならない。
163ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:32:38 ID:???
斑目が車のシートを戻して外に目をやると湾岸の遠方から走ってくる人が見える。さっきまでは数台、斑目と同じように車を停めて休憩しているトラックや営業車が停車していたが、今は斑目の車しか停まっていなかった。
この場所は都内でも穴場の休憩スポットで公道や建物から離れた人気の無い場所だった。

コンテナが山積みで置かれ、輸入や港湾関係者以外は立ち入りできないのだが、時間帯によっては車を停車させても黙認された場所だった。

その場所に何故か人が走ってこっちに向っている。その手には何かを大事そうに抱えている。どうやら男のようだ。
その男は後方を振り返るとパスパスと音を何やら立てている。
「なっ何だ?」
男の後方からは数人の男が追いかけている。やはり手に持った何かをパスパスと音を立てさせている。

「あれ?」
男が近づいてくるにつれてその手にしているものがはっきりと見えた。それは・・・明らかに・・・拳銃だった!

「わわわ、密輸業者か? 密航者か?」
その拳銃にはサイレンサーらしきものが付いている。追いかけてくる男たちも同様にサイレンサーを付けているようだった。もっとも斑目自身は実物を見たわけでは無い。映画とかで見た通りのものだったのでそう思っただけだった。

慌てふためいた斑目は車を移動させるとか車から降りて避難するとかいう適切な行動がとれずにただ車の中で男の姿を目で追っているだけだった。
気が付くと男は運転席の脇の窓から斑目を見ている。
斑目は強張った顔をその男に向けた。
その男は欧米系のようだった。髪は黒髪なので人種は特定できなかった。斑目は殺されるか、車から引き釣り出されて逃走用にこの車を奪われるのかと思い、蛇に睨まれた蛙のように体が硬直して動けなかった。
164ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:34:07 ID:???
男の表情からは斑目の思っていた通りの事を考えているように読み取れた。しかし男は斑目の目をジーと見つめていた。
「?」
斑目はやはり体が動かない。ドアをロックするとかいう行動も頭に思い浮かばない。ただ男の顔を見上げて男の目を見つめているだけだった。
「・・・・・・・」
男は無言でしばらく斑目を見つめている。すでに最初に思っていた行動をする気は無いようだった。その間にも男を追いかけている複数の追手たちも斑目の車にどんどん近づいている。

追手が迫っている事に気付くとその男は即座に助手席の方に回ってドアを開けた。車を乗っ取られるかと思った斑目は男の予想だにしない次の行動に驚いた。
「『コノコ』ヲタノミマス」
片言だが確実に日本語と思われる言葉で男は喋り、腕に抱えていた「もの」をそっとやさしく助手席におろした。

そしてあっけに取られている斑目をよそに男は車から離れて追手に向って発砲した。
追手も車には気にも留めずに男に向って発砲を返した。男はコンテナの方向に、まるで動物が子供の身を守るためにわざと天敵の目を自分に向けさせるかのように、車から離れていった。
呆然とする斑目は助手席に置かれた「もの」に視線を下げた。
男の行動はまさしく斑目が連想した通りの事だった。それは「もの」ではなかった。斑目がそっと柔らかい布でくるまれた中身を覗いた。そのくるまれた布の隙間からは・・・すやすやと眠る赤ん坊の顔が見えたのだった。

車から遠く離れたコンテナの上に追い詰められた男が降伏する姿勢で手を上げていた。追手は警戒しながらコンテナによじ登って男に近づいている。
男はこちらを見ている。助手席に置かれているから外からは見えるはずは無いが、おそらく見ているのは斑目に預けたこの「赤ん坊」だろう。
165ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:34:50 ID:???
そして男はどこかの外国語で叫んでいる。おそらくは赤ん坊に対してだろう。英語ではなかった。聞き覚えの無いヨーロッパ系の言語だった。遠く離れてはいたが、男の表情は近眼の斑目にもよく見えた。男は涙を流していた。
そして男は上着を脱ぎ捨てると大声で叫んだ。上着の下にはダイナマイトらしきものが大量に体に括りつけられている。
追手たちはギョッとして慌てて男から離れようとした。しかし男が叫んだ直後に大爆音と共に業火が吹き上がった。追手たちはその炎の中に消えていった。

斑目はあんぐりと口を開けてその火の柱を見つめた。メガネには縦に火柱がうっすらと反射している。

「なっなんじゃこりゃあああああああああ」
斑目は伝説となった俳優の名セリフを口にして絶叫した。

そう・・・これが・・・これこそが・・・この業火と爆音こそが斑目の怒涛の生涯と伝説の始まりを告げるファンファーレであろうとは斑目はまだこの時には気付かなかった・・・。

『って勝手な事言ってるんじゃねえよ! 認めねーからな! こら!』
斑目はカメラ目線で指を指して怒鳴りつけている。

爆炎に飛び散ったコンテナの破片が斑目の乗る車のボンネットにガンとぶつかって地面に落ち、カラカラとしばらく音を立てていた・・・。
166ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:35:45 ID:???


ボスと呼ばれている男は部下からの報告を聞いて心から哀しんだ。ああ、俺はあの男が好きだったのに、どうして奴は俺を裏切ったのか・・・。そして同時にボスは喜びを抑える事が出来ずにニンマリとほくそ笑んだ。
あの赤ん坊の力は本物だ。俺は『世界』を手中に収めようとしている・・・。部下には任せられん。俺自らが向わなければ・・・。

「飛行機の手配をしろ。日本行きのだ。」

○斑目晴信

斑目は最善にして最低の選択を選んだ。

すなわち逃げた。

後から考えたらどんなに説明が困難でも警察を呼び、赤ん坊を引き渡せばよかったのだ。しかし斑目はそうしなかった。
自分でも理由は分からなかったが、社用車の助手席に赤ん坊を乗せたまま、彼は現場から遁走したのだった。

「どうかしてる・・・。何考えてんだ、俺・・・。」

斑目はそう呟きながら途中の赤信号で車を停止させていると助手席をコツコツと叩く音がする。見ると交通巡視員だった。
「あ、すいません。チャイルドシートの着用義務違反してらっしゃいますね。」
窓越しに交通巡視員は語りかけた。
慌てて斑目は窓ガラスを開けて答えた。
「あ、すいません・・・。」
(まずい・・・。社用車で社用中に・・・しかも免許の点数ヤベーぞ・・・)
「あっあの! 急な事情で慌ててたんです! すぐに取り付けますから! 見逃してください!」
言ってから我ながら馬鹿な事を言ったと斑目は思ったが意外な反応を交通巡視員は返した。
「・・・んー、そうですね・・・。そこにホームセンターがありますからそこですぐに取り付けてください。」
二人組みの交通巡視員は助手席に寝ている赤ん坊をジッと見ながらそう言った。彼らは赤ん坊の寝顔に魅入って和やかな表情を浮かべている。
167ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:36:34 ID:???
「はっはい!」
斑目は唖然としながらも交通警備員の「厚意」に甘えてホームセンターに向った。本来、交通法を警察に代わって代行する交通巡視員にあるまじき行為であった。自分といい、交通巡視員といいどうかしている・・・斑目はそう思った。

食品スーパーと併設されているホームセンターに入ると斑目は真っ先にATMに向った。手持ちの金ではチャイルドシートや他に必要なものを購入できないと思ったからだった。
もちろん赤ん坊を車中に置いておけないので、腕に抱きかかえている。

赤ん坊はスヤスヤと眠ったままでいる。
「うわ、高けえ・・・とほほほほ。」
斑目はチャイルドシートやその他、必要と思われるマタニティー用品を一式購入したがその費用に目を丸くした。現金で不足分は余り使っていないクレジットカードで継ぎ足して支払った。
「これでしばらくは新しいゲームとか買えない・・・」
涙目でさらにはサラリーマン姿のまま赤ん坊を抱えた斑目の姿は他の人には実に奇妙に見えた事だろう。
胸で赤ん坊を抱くタイプのペビーキャリーは性に合わないと思ったので背中におんぶするベビーキャリーを選んだ。

斑目は赤ん坊のおんぶの仕方を店員に教えてもらった。
「奥さんの具合悪いんですか?」店員は苦笑しながら尋ねた。
「まっまあ・・・そんなところです。」
適当な言い訳をしながら斑目は頷いた。
サービスセンターの女性がかいがいしくチャイルドシートの設置まで手伝ってくれた。妙にサービスのいい店だなとしかその時は斑目は思わなかった。

道路に出ると救急車やら消防車のサイレンがけたたましく鳴り響いている。どうやら爆破現場に向っているらしい。
ようやく事件に周囲の人間が気付いて誰かが通報したようだった。斑目は早急にその場から立ち去るべきだと思い会社に向って車を走らせた。
168ネクストへの前奏:2008/03/16(日) 23:48:37 ID:???
おさるさん規制になりましたので今夜はここまでになります。
この時点で半分くらいです。
完成はしてますので、お目汚しにあまり時間は取らないようにしたいとは思います。
169ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 22:40:32 ID:???
今晩も投稿にまいりました。
今晩のうちに投稿完了させたいとは思います。
170ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 22:42:08 ID:???


南米を拠点とするボスの一行はリムジンで国際空港に向っていた。リムジンの中でボスは傍にいる秘書役の男に小まめに指示を出していた。
「そうだ・・・。ジャングルの開発反対運動の先住民指導者は袋叩きにしておけ。駄目だ。殺すな、人権団体が騒ぎ出す。」
「分かりました。そう伝えます。」
秘書役の男はカチャカチャとノートパソコンを扱いなが答えた。
「あと・・・そうだな・・・。大豆相場を扱うファンドの投資はもっと増やせ。まだまだ大豆は価格が上がるぞ。頼むぞ、お前だけが頼りだ。他の馬鹿どもは金を稼ぐのがどんなに大変か分かっちゃいねえ。」
「はい、ボス。まかせてください!」
そう答えた秘書役はボスに頼りにされている事が嬉しかったのかニヤリと笑った。

男はかなりのインテリだったのだが酒と女に溺れてお決まりの転落をしたところをボスが拾ってやったのだった。投資の才能があったので重宝しているがボスはこの男を信用しているわけではなかった。

現に今も稼ぎの一部をつまんでいた。ボスは用心深かったので大きい金の動きやそれを扱う者には監視役をつけていた。
だが男はばれている事に気付いてはいない。ボスはこの手の男の性格を心得ていた。今は男の稼ぎの方が大きいので黙認しているだけだった。

「それにしても・・・その『赤ん坊』ってのは何なんですかい? 最終兵器って・・・まさかウィルス・・・。」
男は勝手な推測で勝手に顔を青ざめてボスに尋ねた。
「そんなんじゃねえ・・・。だが似た様なものかな・・・。」
(ただしウィルスのように実体があるわけじゃないがな)
ボスは薄ら笑いを浮かべてその質問にははっきりとは答えなかった。この「秘密」はどんなに信用できる人間にも知られてはならない。ましてやこんな男になど・・・ボスは内心でそう思った。
171ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 22:43:10 ID:???
「例の消失地点での目撃情報から男が『赤ん坊』を連れ去った事が確認できました。しかし誰かは分かりません。」
秘書役は日本に先発で送り込んだ部下の報告をボスに伝えた。
「そうか・・・。」
ボスはそう答えると思案にふけった。
今の日本では外国人はそう珍しくない。ましてや南米人の出稼ぎなど多くて珍しくもない。しかしそれでも派手な探索や行動をすればどうしても南米人の姿は目に付く。日系人の部下もいたが数は少なすぎた。今の人手では外国で探索するのは難しかろう・・・。

「闇サイトにその男の特徴でも流しますか?」
秘書役は陰湿そうに笑いながらボスの心の内を読んで尋ねた。
ボスはこの男に不覚にも心を読まれた事に内心で舌打ちしたがそれを悟られる事無く答えた。
「いや、駄目だ。逆にニセの情報で混乱する。」
ボスはそうした闇サイトが自分たちの仕事の領域を荒らすのが好きでは無かった。素人だけに質の悪い「サービス商品」や「情報商品」を売りさばく事で自分たちの「商品価値」まで下がる事に憤慨していた。
そして自分たちの「仕事」の誇りを損なう事を平気で言うこの男を内心で嫌悪していた。
「だが本職の奴らにはリークしておけ。もちろん『赤ん坊』の事は知らせるな。そいつらの動きを監視していれば少人数でも情報を把握できる。動きがあったら俺たちが成果をかっさらう。」
「分かりました。」
男は再びパソコンに視線を落とす。

ボスも窓の外の景色に目を移して考え事に耽った。
(まったく胸糞が悪い・・・。どうしてあの男は俺を裏切ったのだろう・・・。)
今更ながらボスは自分を裏切った殺し屋の事を惜しんだ。

「あ・・・それと・・・ガキの土産にアキハバラ
ってところでゲーム買うように頼まれてたな・・・。」
ボスは思い出したように呟いた。
「ぼっちゃまのですかい?」
「ああ、そうだ。俺にはさっぱり分からねえがな。アイドルなんたらとかいうやつだ。お前、買っとけ。」
「分かりました、ボスも大変ですね。」
ニタニタと嫌な笑みを浮かべて男は答えた。
172ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 22:43:37 ID:???
「ふん。」
ボスは鼻を鳴らした。
子供はマフィアの名門の出身の後妻との子だった。幼い頃の貧乏暮らしと栄養失調からか先妻との間には子供が出来なかったのでまだ小さかった。
組織の後継者にする気は無かった。アメリカのコーザノストラの子弟が名門化するように子供も普通の生活を送れることだろう・・・。俺とは違って・・・。権勢欲の強い後妻が余計な事をしなければ・・・。

スラムでゴミを漁っていたガキがいまや『世界』を手にしようとしているとはな・・・。ボスは笑いをこらえる事が出来なかった。自分がどうなっても名門出の妻子の事は心配はいらなかった。だからこの件がたとえ失敗しようと気にもならなかった。
大きな賭けに出る価値はあると思われた。妻子に執着は無かった。親族も一通り栄耀を得た。唯一気がかりの老いた母親も老衰で亡くなった。

ボスはその最後を回想していた。
「クソババア、誰のおかげでこんな豪勢な病室に入れたと思ってるんだ!」
老いた母親は豪華な病院のベットにたくさんの看護婦に傅かれながら、息子に顔を背けていた。
「こんな豪華な病院に入れるより息子にまっとうな人生を送ってもらいたかったよ。神様、どうかこの罪深い息子をお許しください。」
(あのババア・・・最後まで俺が天国に行ける様に祈っていやがった・・・)
回想から我に返るとボスは思った。
(この『力』はとても危険だ・・・。慎重に・・・用心に用心を重ねなければ『世界』を手に入れる事はできん・・・)
ボスは車の窓の外に見えた空港の飛行機に目を移した。
173ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 22:44:11 ID:???
○晴信とスージー

斑目は会社に戻ると少し離れた契約駐車場に車を止め、そこから会社に赤ん坊をおぶって向った。
非常識極まりないのは分かっていたが、何故か赤ん坊から離れる事が出来なかった。

「ただいま戻りました。」
事務所に入ると中の人間が斑目の方を向く。
当然のようにギョッとした表情で皆が驚いた。

(たははははは・・・)(汗)
斑目は引きつった顔で苦笑しながらその反応を受け入れていた。

「おっお前・・・独身じゃなかったのか?! いや・・・女房に逃げられたのか?!」
最初に体育会系の支所長が驚いて声をかけた。
「いや・・・まあ・・・そんなところです・・・たはは。」
あまり本当の事は言えないし、言い訳するのも面倒だったので適当に受け流した。そして怒声が飛ぶのを覚悟した。常識派のおかたい所長が子連れ出社を認めるわけがないと思ったからだ。ところが所長の反応は意外なものだった。
「・・・まあ男には色々ある・・・。しょうがないな。」
「へ?」
斑目はぽかんとしてその場に立ち尽くした。
すると赤ん坊が泣き出した。
「あらあら、おもらしでもしちゃったんじゃない?」
入社してから大学の部室でばかり昼食をしている斑目を快く思ってない年配の女性事務員が赤ん坊の泣き声に反応して傍に寄ってきた。
「ほら、貸してごらんなさい。あらまあ可愛い。娘の小さい頃を思い出すわ。まあ、この子も女の子ね!」
戸惑う斑目から赤ん坊を受け取り、手に持っていたオシメなどを斑目から受け取ると、昔取った杵柄からか手馴れた手つきで女性事務員は傍らの広い机の上で赤ん坊のオシメを取り替えた。

「ありゃ?! そうだったんですか?!」
斑目は目をそらしながら答えた。
「いやねえ、お父さんが知らなくてどうします?!」
174ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 22:45:36 ID:???
所長もまたこう言った。
「お前も大変だな・・・。立派だぞ、逃げた女の、血のつながってない子供の面倒を見るとは!」
とウンウン頷きながら腕組みしている。

「いや・・・あの・・・」
どうもそれぞれが勝手に自己解釈で物語を作っているようだった。
「ほれ、赤ん坊の面倒は彼女に任せて仕事しろ! 仕事!」
そう言って所長は机の上に視線を戻してパソコンで報告書の作成作業に戻った。
(え・・・あれ・・・嘘・・・)
戸惑いながらも斑目は自分の机に座ってデスクワークに入った。
(何から何まで妙だ・・・おかしい・・・でもまあ・・・いいか!)

結局、外回りから戻ってきた他の社員たちも一時は驚いて騒ぎ立てるが、すぐに当たり前の日常のように仕事に戻るのだった。

やがて定時になり女性事務員を始め同僚たちも帰宅の準備をし始めた。今週は残業が多いからという事で定時終業を奨励している週だったので誰も残業する者はいなかった。

「なんだ斑目、今日は残業か? 飲みに誘ってやろうかと思ったんだが・・・もっとも子供がいちゃ無理か。」
転職したばかりの斑目を直接指導してくれていた先輩が声をかけた。
「まっまあ・・・ソウナンデスヨ。」
スージーの世話で最近早く帰ってばかりだったので期日までの仕事が片付いていなかった上、今日のハプニングで定時のうちに終わらなかったのだった。
「ごめんなさいねー。赤ちゃん、お世話してあげたいんだけど家の支度があるしー。」
と年配の女性事務員も申し訳なさそうに斑目に声をかける。
赤ん坊は簡易のゆりかごに入れられてスヤスヤ眠っていた。斑目が気付かないベビー用品の品々を彼女がわざわざ買い足してくれていたのだった。
「いいえ! 何から何までスミマセン! ここまでしていただければ十分ですよ!」
斑目はペコペコ頭を下げて彼女の親切に礼を言った。
175ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 22:46:37 ID:???
「そ・の・う・ち・お返ししてもらうからいいのよー」
首にたるみのあるふくよかな顔をほころばせて年配の女性事務員はウインクしながらそう言った。
斑目は内心でウッと唸ったがおくびに出さず苦笑いして頭をかいた。

結局・・・残ったのは赤ん坊と斑目と管理職の所長だけだった。事務所に気まずい沈黙が流れる。

この所長は一般社員が業務を終了してからも居残る事が多かった。特に管理職としての特権があるわけでもないのだが世に言うみなし管理職としての仕事を黙々とこなす人物だった。
斑目はどうもこの人が苦手だった。入社したての頃に夏と年末には休みがほしいという事を所長に言ってみた。するとにこやかな表情でこう言うのだった。
「漫画祭? 入社したてで休みの相談とはいい度胸だな。そういう事は来年相談にのってやる。一年間の仕事ぶりを見てからな。」
と一蹴されたからでもあった。その時には転職に失敗したと後悔したものだった。

そんな所長が今日に限っては様子が異なる。携帯電話を開いてジッと画面を見ている。
「そういえば・・・ずっとガキどもと一緒に夕食とってねえな・・・。」
周りに誰もいないかのように所長は呟いた。

「おい、今日は帰るぞ。おまえも明日にしろ!」

驚いて斑目は答えた。
「いえ・・・今日までの期日の仕事が・・・。」

「明日の朝にしろ! 俺も明日の朝、残ってる仕事をする。残業しなくてすむだろ、お前も。お前のために事務所の鍵を開けてやるよ。」
「え? いや? その・・・。」

ありがた迷惑な事を所長はもう決定のように帰る準備をしている。事務所の戸締りはほとんど所長の仕事と言ってよかったので新人の斑目がする事は出来なかった。
176ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 22:47:39 ID:???
「この子を遅くまで事務所に居させるわけにもいくまい。ところで名前聞いていなかったな。何て名だ?」
「え? えと・・・そのう・・・。」
名前など分かるわけが無かった。とっさに斑目は思いついた名前を言った。
「はっハルコです!」
「・・・そうか・・・良い名だな・・・。言うな! 俺は何も聞かん! 俺には分かっている! お前も大変だな・・・。」

所長と「ハルコ」をおぶった斑目は会社を出た。外は少し肌寒かった。
「おお寒い。風邪をひくなよ。お前の心配をしているんじゃない。お前が風邪をひくとハルコちゃんが困るからな。じゃあ明日な。」
そう言って所長は『ハルコ』をおぶり両手にベビー用品を抱えて立ちすくんでいる斑目に背を向けて帰路についた。

口が悪く強引だがそう悪い人ではないなと斑目は思った。

アパートにたどり着くと鍵が開いている。もう驚くことは無かった。スージーがいる。しかしいつも驚かされてばかりいたが今回はスージーの方が驚くことだろう。この子の世話を手伝わせてやる。
斑目はそう思いながら部屋に入った。
「ただいま。スージー?」

部屋の奥を覗くと見慣れてはいたがこんな場所で見るとは思わなかったスージーの姿に斑目はびっくりした。

「イラッシャイマセー」
スージーはクラシックスタイルのメイド服に身をつつんでスカートを手で左右に広げながら軽く会釈した。

「ガッ!」

やはり予想の上をいくスージーの行動に驚いて、斑目は古いアパートのために斑目の上背より低い部屋の仕切りに頭をぶつけた。

「いてて。スージー、カンベンしてくれ。漫画やアニメのリアクションをしていたら体がもたない!」

斑目は頭を抱えながらスージーに小言を言った。しかし斑目が予想した通りの反応をスージーがしてくれたので斑目はスージーに勝った気がして少しだけ嬉しかった。
177ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 22:48:11 ID:???
「その子は・・・」
スージーが驚いた表情で赤ん坊を見る。スージーのこんな真剣に驚く表情を見たのは初めてかもしれない。

「ははは。驚いたろ? 説明すると長くなるし信じてもらうのも一苦労なんだが・・・。」

斑目は事の成り行きをスージーに説明しようとしたが、スージーが今までのおちゃらけた表情が一変し、今まで見たことも無い険しい表情に変わったのに驚いて口をつぐんでしまった。

「お前は・・・一体何なんだ・・・。いつも私の予想以上の事を引き起こす・・・。お前の存在自体が奇跡であり謎だな・・・。」

「スッ・・・スージー?!」
スージーの態度の一変と口調の変化に斑目は驚いた。

斑目の様子にお構い無しにスージーは言葉を続けた。

「成長が・・・遅すぎる・・・。今は『時』が満ちていない。『時』を待て! しかして希望せよ! では・・・ゴキゲンヨウ・・・。」

スージーは斑目が部屋に入ってきたのと同じ仕草でスカートを左右に広げながら会釈した。た。ただし異なるのはスカートの中から手榴弾がいくつも転げ落ちた事だった。

「おわわわわわ」
斑目は腕で顔をおおって身を縮めた。
今日の爆破事件の出来事が無かったらそんなに驚くことはなかったろう。斑目は身を縮まらせたまま目をつぶった。
「?」

そっと目を開けるとスージーの姿はどこにもいなかった。床にはオモチャの手榴弾が転がっていた。
「おっ驚かせやがって・・・。グレートラグーンのリベルタかっつーの! つーか・・・面倒事を察知して・・・逃げやがったな・・・。」
178ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 22:48:49 ID:???


「というか・・・何で日本なんですかね?」
秘書役の男が飛行機の座席の隣でボスに声をかけた。

「ん? そうだな・・・。日本に『誰か』がいるんだろう。そいつに接触させてはならん。まだ正体も分からないんだ。急がねばならん。『時』がすべてを決める。」

ボスは自分に言い聞かせるようにそう答えた。
(そうだ・・・『時』がすべてを決める)

『赤ん坊』の存在を知ったのは本当に偶然の事だった。今、北の大国で大統領予備選が行われている。現大統領の路線を引き継ごうとする泡沫候補から持ち込まれた話だった。

そいつがどういう経緯でその情報を手にしたかは分からない。

その泡沫候補は「裏切り」によってその情報を得る機会を得たという。そいつはもちろんヒスパニア系ではない。しかし今の自分の投資している事業の利害にかなえば人種など知った事では無い。誰でもいいのだ。
それは向こうも同じことだった。その候補が南米マフィアとの接点が無いからこそ自分に持ち込まれた話だった。
現時点ではその候補に勝ち目は無い・・・。
しかしその候補者が『赤ん坊』を抱きかかえてテレビに映っている姿が全国に放送されれば事態は一変する。
この『力』が本物と分かった以上もうボスはその候補者に『赤ん坊』を渡す気は無かった。

最初にその話を聞いた時には半信半疑だった。しかしこの事態がすべてを証明していた。『赤ん坊』を世話していた者たちはすべて『赤ん坊』の記憶を失っていた。赤ん坊の力に『墜ちる』わけにはいかない。

これまでに失敗は無かった。唯一失敗だったのは最強の手駒を差し向けてしまった事だった。赤ん坊を手に入れるには『最弱』の力でいいのだ。

「おい、向こうについたら、南米出身の出稼ぎでも誰でもいいから現地で乳母を雇え。『力』の性質を知っている分、俺たちが有利だ・・・。まだ今のところはな・・・。」
179ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:08:36 ID:???
○咲と高坂

咲は少しばかり後悔していた。以前にちょっとした事で斑目の前で失態を演じた事があった。だから斑目には負い目のようなものを感じていた。その斑目を戸惑わせるような真似をまたしてしまった・・・。

でも私が悪いんじゃない・・・。斑目が私の期待通りにしてくれないのが悪いんだ・・・。咲はそんな風な考えに行き着いてしまってからハッとして自分の考えがおかしい事に気付いた。

(一体私は何を考えているんだろう・・・)
斑目に高坂の代わりができない事くらい当たり前な事だろう・・・。斑目は斑目であって高坂じゃない・・・。そんな事は分かりきった事だ。

その日、咲は春物の新作の外注分の計画やオリジナル企画の発案を生産部門の担当者と打ち合わせした。
さすがにクタクタになったので現場を任せている恵子に電話して今日は直帰する旨を伝えた。

新宿の自宅マンションに着いて部屋のドアを開けようとすると鍵が開いている事に気付いた。当然合鍵を持っていているのは高坂しかいないのでドアを開けるなり高坂に声をかけた。

「コーサカ? いるんだ?」

リビングのドアは開いていたので、玄関からは奥のリビングがよく見えた。高坂はテーブルの前に立っていて咲に背中を向けていた。咲の声に高坂にしては珍しく動揺してビクッと背中を揺らした。
「あ・・・咲ちゃん、今日は早かったね!」
珍しく声も少し動揺している様子だった。
テーブルの上には何か箱のようなものが置かれていてそれを高坂はパタリと閉じた。

「何々? 何それ?」
咲は高坂の肩越しにその物体を覗き込んだ。

「たったいした事無いよ。ただのバイオリンさ。」
高坂はいつもの笑顔を咲に向けたが明らかに動揺している。咲が帰ってくると思っていなかった事は明白で見られたくないものを見られた反応をしていた。
180ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:09:56 ID:???
「アヤシイなー。コソコソしてー。」
咲は笑ってそう答えた。以前ゲームに負けてふてくされて以来、高坂が動揺しているのを見たのは久しぶりだったので咲は少し嬉しく思った。
「公社の友人から預かってと頼まれてね・・・。」
高坂はばつが悪そうに言った。
咲はテーブルの上に置かれているバイオリンのケースを見た。
「ふーん、バイオリンなんてすごいね。社会人になるとオタク趣味の人とだけ付き合うわけにもいかないものね。あ、さては女の人か!」

「あはは、咲ちゃんには参るなあ。余計な気を使わせちゃまずいと思ってさ。」

「コーサカらしくないね!」
そう言いながらも気を使われた事を咲は嬉しく思った。
その時、携帯のアラームが鳴った。
携帯を覗くと以前にスケジュールに入れていた予定の予告だった。
「あ! しまった! 明日会計士さんに会うんだった!」
会計ソフトで記録した帳簿は手元のノートパソコンに入っていたが納品書やら請求書は店に置いたままだった。しかも忙しくて整理していなかった。
「うわー、帰ってる場合じゃなかった!」
咲は慌ててそう言った。
「いいよ、今から僕、出かけるから必要なものショップに取りに行ってあげるよ。」
高坂は笑って言った。
「そっそう? 助かる! 今から会計士さんに手渡す資料、パソコンで作成するものもあるから店に戻っている時間が惜しかったんだよね。」

咲は高坂の申し出にホッとした。正直、恵子には現場を任せても安心だったが、経理関係やパソコンについては会計専門学校に通っていたのにさっぱり分かっていなかった。
携帯で高坂が取りに行く事を伝えておいたが伝えている内容を恵子が理解しているかも怪しい。しかし高坂なら頼んだ事を十分理解してくれていたので安心できた。
181ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:11:37 ID:???
「ごめんね! かまってあげられなくて!」
咲は高坂に謝った。
「ううん、僕は大丈夫だよ。八時頃には戻れると思うから。」
逆にそう言われてしまうとがっくりしてしまう。ブツクサ文句を言うくらいのほうがこっちも気が休まるというものだ。

咲はパソコンを広げて棚卸しの数字やらなにやらを入力し始めた。
(ああ、やだなあ、こんなのばっかり・・・店始めるの早まったかなあ・・・)
受注とか企画とか経理とか経営管理の仕事をするたびに咲は辟易してそう思うのだった。
製品開発についての人材は以前からのコネで調達できたが経理等については自分でやるしかなかった。
結局、夢をかなえたのはいいが好きな服の販売という現場の仕事は遠のくばかりか地味で面白みが無く慣れない経営の仕事ばかり増えていた。
「あ! 夕食どうしよう!」
咲は叫んだ。
「あ、大丈夫だよ。簡単だけど作っておいたから。」
とケロッとした顔で高坂はそう言う。
「お風呂の掃除は私が・・・」
「うん、もう洗ってあるからバスタブにお湯を入れるだけだよ。」
「あ・・・そう・・・ありがとう・・・助かる・・・。」
ぼんやりとして咲はそう言った。
高坂の気の配り様には驚かされる。そういう手ほどきをした「昔の女」でもいたんじゃないかと勘ぐる時もあったがさすがに面と向かってそれは聞けなかった。
(コーサカ・・・今の仕事辞めて私の手伝いしてくれないかな・・・)
つくづく忙しいと高坂に頼りにされるどころか高坂に頼りたくなってしまう。高坂の補佐ぶりは目立たず出しゃばらず色々気を配ってくれるのですごく安心できた。
笹原のサークル参加の時にもそれは発揮された。ちょっとした暴走もあるにはあったが・・・。
182ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:12:34 ID:???
「じゃあ、そろそろ出かけるね。」
高坂は外出の準備をしながら咲に声をかけた。
「あ、これ・・・」
少しぐらいは高坂の役に立とうと咲はバイオリンケースを手にした。
「ありゃ?うわ!」
想像していたよりも重かったので咲は思わず床に落としそうになった。
とっさに高坂が手を差し伸べてバイオリンを受け取った。
「こんなにバイオリンって重かったっけ?」
咲が慌てて尋ねると高坂は微笑を浮かべて答えた。
「ふふふ、『特注』なんだ・・・。僕の『ガンシリンガーガール』のための・・・」
「?」

咲は何となく誤魔化された気がしたが、忙しかった事もあり深くは突っ込まず高坂を見送った。

高坂は咲のショップに寄る前に自分の要件を片付ける為にとある高層ビルの本来では入る事の出来ない屋上に向った。
振り返ると屋上の建物の上に月光を背にして金髪を獅子のたてがみの様になびかせた少女が立っていた。
「ああ、来てくれたんですね。これが依頼の特注品です。」
月光を背にしたその少女は妖しい微笑を浮かべ手を差し伸べながら言った。
「ココニ契約ヲ結ブ。我ト共ニ血ヲ流セ。」
183ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:13:50 ID:???


「おかえりな・・・」
秋葉原のメイド喫茶のメイドはいつものようにお客を迎える挨拶をしようとして言葉につまった。
そのメイドはもちろんアルバイトで、メイドについても仕事としての意識しかなかった。同僚の中には本当にメイドコスが大好きで、熱いメイド愛について語る者もいたが彼女はそうではなかった。
仕事と割り切って思い入れがない分、最近ではアキバ系だけでなくもの珍しさから観光目的でくる人たちに対しても分け隔ての無い応対をしていると自分では思っていた。
お客の中には外国人も珍しくなかった。
しかし今日迎えたお客は明らかにそうした観光目的のお客とは異なっていた。
小柄だが眼光鋭く映画で見るような強面の南米系と思われる男の後ろには格闘家のように図体のでかい男と細身の上背の高い男がいた。
他の客も場違いな風体の異様さに気付いてビクビクしている。

ぎこちない表情で席に案内したメイド店員は日本語を話す背の高い男から注文を受けると逃げるように離れた。

小柄な男はキョロキョロと周りを見回したが、周囲の客たちは威嚇されていると思って慌てて目をそらしていた。

会話の内容は周りの者は分からなかったが、小柄な男と痩身の男が主に話していた。
『ここがメイド喫茶ってやつか。ガキに写真やサインを頼まれていたシコタン・・・ショタコン・・・何だか忘れたがその女優そっくりなメイドがいる店はここでいいんだろうな。』
『ええと・・・あ、すいません。別の店でした。』
『馬鹿野郎! まあいい。少しここで休むか・・・。』
『すみません。ここも悪くない
ですよ。』
『ふん、コーヒーは不味いがな。なんだこりゃ、これでもカフェなのか? メイドなんざ俺の家にもいるぞ。ババアだがな。それとも何か? 若い娘に何かサービスでもさせるのか?』
184ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:16:00 ID:???
『ここはそういう店じゃないんですよ・・・。』
『さっぱり分からん・・・。というかお前詳しいな・・・。』
『そっそうですか?!』
痩身の男は慌てて答えた。

『ふーむ。』
ボスはこの男が後妻や息子のご機嫌をとっているので息子の趣味に詳しくなっている事を察した。息子の趣味にとやかく言う気は無かった。自分の子供の頃とは時代が違う。
息子は息子で自分の人生を謳歌すればいいと思っていた。

『しかしコーヒーが不味いのは我慢ができんな。』
ボスはタバコをくわえた。痩身の男はさっとライターの火をボスに差し出した。
フーとタバコの煙を吐きながら言った。
『なんだ。灰皿すら置いてないのか。サービスの悪いカフェだな。』

顔をしかめるメイドたちに小突かれて店長が青ざめながら慌てて声をかける。
「すっすいません・・・ここは全席禁煙なんです・・・。」

『なんて言ってんだ? 禁煙? カフェでタバコが吸えねえなんて世も末だ・・・。』
ボスはコーヒーカップに吸殻を押し付けて捨てた。

『中国系や他の組織にリークした成果は出てるか?』
『まだですね。協力組織から武器の手配は済んでますが・・・。引渡しまで時間がありますから坊ちゃんの頼まれ事だけ片付けましょう。』

『オサナナジミとかさっぱり分からん。お前に任せる。』
『オサナナジミってのは幼馴染の事ですよ。』
185ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:17:04 ID:???
つまらなそうにしていたボスはその言葉にだけピクッと反応した。
『・・・俺の・・・先妻も・・・幼馴染なんだよ・・・。』
ボソッとボスは呟いた。
『ええっ! ボス! やりますねえ!』
何がすごいんだか分からないが痩身の男ははしゃいで言った。息子の影響でオタク化したらしい。
『そんなんじゃねえ・・・。』

そうだ・・・。俺とあいつとの関係はそんな話に聞くようなものではなかった。子供の頃酔うと俺と弟をしこたま殴る父親に嫌気がさして家出した。
街の浮浪児のグループに紛れ込んだ時に知り合ったのが先妻だった。当時はボロ着を着て顔は真っ黒でやせ細っていたので女とは思えなかったが・・・。
俺が食い物を盗むと店の店主はまだ子供の俺を容赦なく殴りつけた。俺をかばったとばっちりであいつも怪我をした。
医者にかかる金も薬を買う金もあるわけではない。文字通り俺たちは傷を舐めあったのだ・・・。
偶然だが日本には別な目的で来たいと思っていた。日本の英雄、ヒデヨシの生涯が自分と似ていると思っていたからだ。
先妻が不治の病にかかったとわかった時、マフィアから足を洗って余生を先妻と日本で暮らそうと思った。それだけの蓄えはもうあった。
だがその頃には俺は組織の重職にあり抜け出せる状況ではなかった。その当時のボスが許すはずがなかった。
素晴らしい人だった! 短気なところはあったがその欠点を上回る先見性と魅力に溢れる人だった。そんな境遇もヒデヨシと似ていた。一説ではノブナガを殺したのはヒデヨシという説もあるそうだ。
しかしそれを証明する事は今となっては不可能だろう。
だが俺は前のボスを殺した犯人を知っている。

俺だ。
186ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:18:06 ID:???
実行犯はもちろんあの殺し屋だった。だが物事は自分の思い通りにはならない。結局、ライバル視されていた古参の幹部との抗争に巻き込まれ足を洗う事が出来なかった。
そうこうしているうちに先妻は病気で亡くなり俺は先妻の死を見取る事もできなかった。

そして保身のために名門の家から後妻をもらって今がある・・・。

神様は何とひどいのだろう。神父に愛人まであてがってやったり、教会に高額の献金までしてやって尽くしてやってるのに、愛する人は俺を裏切って先に死んでしまう。
お前だけが俺の光だったのに!
俺はお前のいないこの糞ったれの世界に独りで生きていかなければならないんだぞ・・・。

『ボス?』
痩身の男がボスに声をかけた。
気が付くとサングラスの下から涙がこぼれている。
『何でもない。オサナナジミの事を・・・思い出していただけだ・・・。』

○斑目と咲

「スージー〜、夕飯出来たぞ〜。賞味期限が明日までの納豆かけご飯とキャベツ炒めの醤油味、贅沢にも鯖の味噌煮の缶詰付き・・・ってスージーいないんだった・・・。」

うっかり二人分作ってしまった斑目は苦笑した。すっかりスージーに『しつけ』られてしまったらしい。
今日は色々ありすぎて帰りに夕食の材料を買う気力も無かった。帰り際に隣の奥さんとすれ違いになり挨拶した。隣の奥さんは口をパクパクさせて驚いていたが面倒だったのでやり過ごした。
まあ驚くのも無理もなかった。朝に外国人の美少女と家を出て、帰りには背中に赤ん坊を背中に背負って両手には竹編みのゆりかごやベビー用品を抱え持っていたのだから。

「野良猫みたいにぶらぶらしてしょうがないスージーおねえちゃんですねー。」
やっと落ち着いたので斑目はゆりかごにいる赤ん坊の顔を覗き込みながら話しかけた。
「ダアダア アウアウ」
赤ん坊は斑目の顔を見て笑い出した。
落ち着いてみると赤ん坊は不思議な顔立ちをしている。
187ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:19:17 ID:???
黒髪とその顔立ちはアジア系を思わせるようで白人の顔立ちのようでもある。どちらかと言えば全ての人種の特徴を融合したような顔立ちだった。
目が特徴的で大きく見開かれた瞳は黒目が少し薄いように見えるが目の錯覚かキラキラと色々な色が信号のように煌いている。
手足は健康的で太く柔らかい。軽く頬に手を触れると驚くくらいふっくらツルツルしている。
最初はパウダーの匂いかと思ったが赤ん坊自身から甘い香りがたちこめている。
別にどこにでもいるような赤ん坊のようでそうとは思えない。どこかで会ったような懐かしい気持ちにさせた。
(不思議な子だよな・・・。)
斑目は部屋が乾燥しないように普段面倒がって使わない加湿器を出した。色々と年配の事務員の人から指導を受けたが中々慣れない事は難しい。
「さあ、ハルコちゃん安心してオネンネね。」
そう言って斑目は自分で勝手に付けた名前でその子を呼んだ事を一人で恥ずかしく思い顔が真っ赤になった。そして何よりそういうセリフを言う自分に一番驚いた。



翌朝、いつもの出勤時間よりも早く斑目は会社の前にいた。当然『ハルコ』は背中に背負っている。
「おお、遅れずに来たな。」
所長が白い息を吐きながらやってきた。
「待ってろ。すぐ事務所を開けてやる。ハルコちゃんに寒い思いはさせられんからな。」
「はあ・・・。」
「ん? どうした? 疲れた顔をしているな。」
「いえまあ・・・夜鳴きで・・・。」
「わははは。そうか俺も苦労したもんだ。今日は午前で上がっていいぞ。さすがに子供を連れて仕事は難しいだろう。明日も休みをやるから託児所なり親に頼むなり何とかしろ。」
「え・・・いいんですか?」
所長は色々と勝手に思い込んでいるみたいで気を使ってくれていた。
斑目はけっこう良い人かもしれないと思った。
「すみません。」
「何、気にするな。落ち着いたら馬車馬のように働いてもらうだけだから。」
188ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:20:39 ID:???


午後、昼休みに大学に行く気は無かった。今の状況を後輩たちに説明するのも億劫だ。斑目はすぐに自宅に戻ろうとした。
しかし人は会いたい時に会う事は出来ず、会いたくない時に会うものだ。

「斑目さん? この前はど・・・。」
背後で声がするので振り向くと笹原がいた。
「よう。」
赤ん坊を見た笹原はひきつった表情で言った。
「まっ斑目さん・・・とうとう・・・ゲームの世界と現実の区別がつかなくなって・・・人攫いなんて・・・」
「違うわ!!! はったおすぞ!」
ストレスの溜まる事続きだったからか斑目らしからぬ怒声を笹原に浴びせた。
「話せば長くなるが・・・それより!! スージー! お前の彼女の親友なんだからお前が何とかしろよ! 俺自身色々抱えてそれどころじゃないんだよ!」
斑目の論理もほとんど言いがかりに近いがスージーだけでも肩の荷を降ろしたかった。
「あ・・・スージー・・・ですね・・・いやー俺の仕事時間が不規則でとてもとても・・・さすが斑目さんです・・・じゃ・・・そういう事で・・・。」
笹原は冷や汗を流しながらソソクサと退散した。
「あ! 待て! そういう事でじゃないだろ〜(涙)」

斑目は自分を置いてしっかりと『大人』な対応を覚えた後輩の成長ぶりに感慨深いものを感じつつもいつまでも成長しない自分の不器用さに涙した。

とぼとぼと歩いているとさらに会いたくないやつが向こうから歩いてくる。しかも彼女らしき人と一緒に!
久我山は小柄な愛らしい女性と一緒に斑目の前に立って驚きながら言った。
「まっ斑目・・・おっお前とうとう・・・いっいくらなんでも調教するには少し幼なすぎるんじゃないのか・・・」
「おっお前もか!(涙) あーもう言い訳する気にもならん!」
「じょっ冗談だよ・・・。そっその子どうしたんだ?」
「といって真相を説明すると大変なんだが・・・親戚みたいなもんだよ。」
「そっそうか・・・斑目・・・お前、女に子供置いて逃げられた亭主の姿、ホッホント、にっ似合うな。」
「ほっとけ!」
189ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:35:22 ID:???
隣で大柄な久我山の袖を握っていた小柄な女性が久我山にささやいた。
「ねえ、クーちゃん、この人だあれ?」
「あー、だっ大学時代の同級生だよ。」
その小柄な女性はペコリと斑目に会釈した。内気そうなその女性に斑目も会釈を返した。
「ごっごめんな。時間が無いんで、こっ今度ゆっくり彼女を紹介するから・・・。」
「ああ、いいよ、いいよ、じぁあまたな。」

熊のようにのっそりとした久我山とその小柄な女性は二人連れ添って駅の方に歩いていった。

(かー、クーちゃんだとさ!)
一人だけ彼女の存在を教えられなかった斑目は少しだけいじけながらまた歩き出した。

そしてすぐ足を止めた。
運命の神はどうしても俺に嫌がらせがしたいらしい。向こうから一番会いたくない状況で一番会いたくない人が歩いてくる。

「あれー? 斑目じゃん?」
「こんにちは、斑目さん。」
咲と高坂が二人連れで歩いてくる。
「やあやあ、お二人連れで。」
斑目は冷や汗を流しながら『予測』通りの反応を覚悟して身構えた。
「うわー、可愛い! 斑目の親戚の子?」
咲は斑目の背中の『ハルコ』を覗き込んで尋ねた。
「へ? あ・・・うん、事情かあってね・・・。」
予想通りの反応では無かった事に拍子抜けした一方で「当たり前」の反応に少しだけ嬉しくなり斑目は顔を赤らめた。
高坂はその斑目の様子を無言で見つめている。
「名前は? 名前は?」
咲ははしゃいで聞いてくる。
「あ・・・ハルコ・・・。」
「あ、女の子なんだー 抱かせて、私にも抱かせて!」
190ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:36:38 ID:???
せがまれるままに「ハルコ」を背中から降ろして咲に手渡した。
「ぐっ偶然だねー。さっき笹原と彼女連れの久我山に会ったよ。」
照れ隠しにハイテンションで騒ぎだす斑目に赤ん坊に夢中な咲が赤ん坊をあやしながら「へー。クガピー彼女出来たんだ。ハルコちゃん、アバババ」と言葉を返す。

「久我山さんはともかく笹原君と僕たちは偶然じゃありませんよ。」と高坂が言う。
「へ?」
「笹原君は今日の昼休みに大学の漫研の漫画家志望の人の面談する予定があったらしく、電車で一緒になったんです。」
「あ、そうだったの。」
咲は斑目の方を向くと
「そうそう。私たちは午前中にこの近くの会計士さんのところに一緒に寄ってきてね。午後から時間空いたからコーサカが久々に大学の近くでデートしようって言ってくれてね・・。」
「ええ、昼近くに行けば間違いなく斑目さんがいると思いましたし・・・。」
高坂が言葉をつなぐ。
「俺に会いに来たの?」
「いいえ・・・。」
高坂はその質問には深く答えず赤ん坊の方に視線を向けた。
「・・・咲ちゃん、その子、僕にも抱かせてくれない?」
「え? あ、いいよ。」
咲は機嫌の良い『ハルコ』を高坂に手渡した。
「あううう」
『ハルコ』は高坂に抱かれると途端にむずがって泣き出した。
「ああ、僕は嫌われてしまったらしい・・・。」
高坂は珍しく落ち込んだ表情を見せた。
「あはは、さしものコーサカも赤ちゃんにはもてないみたいね!」
戸惑う高坂を見るのが嬉しいのかはしゃいで咲が言う。
「俺があやすよ。」
「んーんー」
『ハルコ』は機嫌が良くなり斑目に抱きついてくる。
「お父さんみたいね。ハルコちゃんは斑目が好きなのね。」
赤ん坊にもてても嬉しくは無いが咲からそう言われると悪い気はしなかった。
191ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:37:11 ID:???
「ねえ、もう一回抱かせて。」
咲は斑目からまた『ハルコ』を受け取った。

咲から少し離れた場所から咲には聞こえない声で高坂が斑目に聞いてきた。
「斑目さん、これから会社に戻るんですか?」
「いや、今日は早退して今から家に帰るよ。」
「じゃあ、僕たちのマンションまで来ませんか?」
「え?」
意外な申し出に斑目は驚いた。
「ハルコちゃんの事で本当はお困りでしょう? 今晩、僕が指定する場所に来ていただければ全ては解決します。」
「え? 高坂君、君は一体?」
「今は詳しい事情は言えません。信じていただくしかないですね。咲ちゃんにはナイショですよ。」
高坂は斑目から離れて咲に声をかけた。
「咲ちゃん、今からハルコちゃんと斑目さんと一緒にマンションに帰ろう。」
「え? いいの?」
咲はデートが中断する事よりも『ハルコ』と一緒にいられる事の方が嬉しいらしく笑顔でそう答えた。

「もちろん、ねえ斑目さん。」
振り返って高坂はそう言った。表情はいつもの笑顔だがその言葉には有無を言わせないという力強さが感じられた・・・。
192ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:38:40 ID:???


新宿に向う山手線の電車の中ではたまたま席が空いていたので『ハルコ』を抱いた咲を真ん中にして高坂と斑目が挟む形になった。
斑目は実に奇妙な状況になったもんだと思った。
少し離れたところで女性たちが『ハルコ』の方を見て色々とささやいていた。
「あの子、テレビのモデルやってるみたいに可愛いね。」
「どっちがお父さんだと思う?」
「あっちのイケメンの方に決まってるじゃん。」
「でも向こうのヨレヨレのシャツ着たくたびれたリーマンは赤ちゃんおんぶするやつ手に持ってるよ。」
「えー、でもー。」

(聞こえてますよー)
顔をひきつらせながら斑目は内心で思った。
咲たちにも彼女たちの会話は耳に入っているとは思うが特に気にしている様子は無かった。
「ねえ、私お母さんに見えるのかな・・・。こんな子いつか欲しいね。」
咲は高坂に話しかける。
「んー、そのうちね。」と関心の無い様子で高坂が答える。
「そう・・・。」
やや寂しげな咲の横顔を斑目は横目で無言で見つめた。結局、自分は二人の傍観者でしかない・・・そう思いながら・・・。

二人の住んでいるマンションには駅から少し歩いてたどり着いた。けっこう立派なマンションだった。
「入って・・・。散らかってるけど。」
咲に案内された部屋は言葉に反して清潔に整頓されていた。自分のボロアパートのとっ散らかった部屋とは大違いだった。
調度品も立派でテレビでみるような住まいの理想像のような趣だった。
「大野は一度来たことがあるんだけど・・・サークルの奴らで来たのって他では斑目が初めてかな・・・忙しくて内装とか余り手を入れてなくて・・・。」
193ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:39:52 ID:???
自分たちの家を見せるのが照れくさいのか咲は少し顔を赤らめて斑目に言い訳するように話した。
「イエイエ、全然。立派で驚きましたヨ。」
咲の顔を見ずに斑目は答えた。この言葉に偽りは無かった。オタクとかそれ以前に自分との境遇の違いを思い知らされた気がした。
斑目はベランダに目を向けていたので、丸メガネは反射してその心のあり方を覆い隠すように斑目の表情を隠した。

高坂はその斑目の心の内を見透かしているのかいないのかいつもの調子で斑目に声をかけた。
「ゆっくりしていってくださいね。僕は少し用事が出来たので出かけますが。」
「え? コーサカ、出かけるの?」
「うん、帰りは夜になると思うけどね。」

高坂は部屋を出る間際に斑目の傍によって耳打ちした。
「では後ほど連絡します。」

高坂が出て行くと咲はソファーにもたれかかってハーとため息をついた。
「コーサカの言うようにゆっくりしてってー。私も今日は仕事しない。」

「いいの? お邪魔じゃない? 俺たちがいたらゆっくり休めないんじゃないの?」
咲は笑って答えた。
「全然平気。一人でこの部屋にいても寂しいだけだし。ハルコちゃん寝ちゃった?」
ソファーの下に毛布やカバーシートを丸めてベビーベット代わりにして『ハルコ』を寝かせていた咲は『ハルコ』の事が気になるのかしきりにその表情を覗き込んでいた。
『ハルコ』は疲れたのかスヤスヤと眠っている。

「・・・・・・」
咲は静かにその表情に魅入って黙りこくっている。

斑目はその沈黙の間に耐え切れなくなって適当な会話を振った。

「立派なマンションだねー。うちのボロアパートとは大違い。家賃も高いんでしょ?」
我ながらつまらんありきたりな会話しか振れないと思いつつも他に思いつかなかった。
194ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:40:45 ID:???
「んー、まー、それなりにはするかな・・・。一応コーサカと折半するって事でコーサカ誘って借りたわけだし・・・。」
「いやー、二人の収入が無かったら厳しいよね。」
(折半でも厳しいと思うんだが・・・)
家賃の相場のほどは分からないが間違いなく二人の経済感覚は自分とは違うと思っていた。
「まー、結局二人とも家賃以外は別々に自由にお金使ってるわけだしねー。食費とか水道光熱費とかは自分が出してるけど、他の家具とかコーサカが出したりしてけっこう曖昧なんだよね。」

「よく分からないけど普通そんなもんでしょ?」

「ははっまあね。それがいいのか悪いのかは分からないけど・・・。」
少しだけ咲は寂しそうな表情を見せる。
「? まっまあでも二人とも仲いいよね。上手くやってるんだから問題ないでしょ? 二人はオサナナジミなんだし!」

「ふふっ、あんたらの幼馴染の感覚は理解できないけどね・・・。昔から知ってるからって幼馴染の事を全部理解出来ているとは限らないよ・・・特にコーサカみたいな人は・・・。」

「ひょっとしてまたストレスでも溜めてる?」
斑目は苦笑しながら咲に聞いた。

「え? あ、そんな事無いよ。まあコーサカは相変わらずだけどね。それでも最近はけっこう気を使ってくれているよ。」

「なら問題ないんじゃ。」
「お互い干渉も迷惑もかけない理想の関係ってだけの事よ。コーサカがいてくれると本当に助かるけどね。」
「またのろけですか?」
「そんなんじゃないって! 本当にコーサカは料理も作ってくれるし部屋も散らかさないし、トイレとかだって汚さないでいてくれるし・・・」
「彼氏自慢にしか聞こえません!」
斑目は笑って答えた。
「あっ、いや・・・何て言ったらいいのか・・・そつが無いというか如才無く気を配ってくれるのはありがたいんだけどそれが私を見てくれているかどうかとは違うと思うんだよね。」
195ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:43:10 ID:???
斑目は頭をかきながら言った。
「贅沢な悩みにしか聞こえないよ。」

「役に立つという事と必要とするのかされているかという事とは違うと思うのよ。ああ、分からなくなった。とにかくコーサカは昔っからニコニコしてばかりでさー。」
咲は高坂との昔話をし始めた。
「最初は馬鹿じゃないとか思ったわけよ。私に何されてもニコニコしてばかりで・・・」
「うわー、好きな子に意地悪するってやつだね。」
「うるさい。」
顔を真っ赤にして咲は答えた。
「それでさー、コーサカの笑う顔以外にも見たくて・・・私がここにいるって事を知ってほしくて・・・私を見てほしくて・・・。」
言葉が続かず咲はボロボロと泣き出した。
「あれ? どうしたんだろ? どうして斑目にこんな話しちゃったんだろ、私また斑目に迷惑かけた?」

「・・・高坂が・・・好きなんだね。」

「うん・・・。」
咲はそれ以上言葉が続かず、斑目もまたかけてあげる言葉が見つからずにお互い黙りこくった。

その沈黙を破るかのように『ハルコ』が目を覚まして泣き出した。
「あ、お腹すいたのかな? それともオシメの交換?」

「あ、俺のバックに一式入っているから!」

二人は慌ててパタパタと『ハルコ』の紙おむつを交換したり哺乳瓶の用意をしたりだのに奔走した。

「あちっ! そこ違うって!」
「どこどこ?」
196ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:43:59 ID:???
一段落すむと二人はハーと息をついでソファーにもたれかかった。
「何か新婚夫婦みたいな状況だね。」
咲がそう言うと斑目は顔を赤らめた。
咲は続ける。
「もしかしたら・・・もしかしたら・・・こういう事を私は求めているのかもしれない・・・。必要とされているって実感・・・。」
咲は『ハルコ』の顔を覗き込んだ。『ハルコ』は不思議な瞳の輝きを向けて咲に笑いかけた。

「もし・・・何かを失ってでしか得る事ができないとするなら・・・私の夢、理想・・・。遠回りでも私が私でいられるのなら・・・。」

咲自身一体どうしたんだろうと戸惑った。
この感覚は一体何なんだろう・・・。この子のせい? そうであるにしてもこの衝動は間違いなく自分自身のものだという確信はあった。

咲は斑目の方を向いた。
「私をずっと見ていてくれてたんだね。」
斑目もまた不思議な解放感の中にいた。それが『ハルコ』の力によるものか自分の内側からくるものなのか分からなかったが・・・。とうとう自分の中で形作られていた『言葉』を口にした。
「ずっと・・・春日部さんの事だけを見ていた・・・。」

二人は自然と手をからませあった。お互いの手の動きがお互いの心の動きを伝え合った。
言葉以上に手の動き、指の動き、目の動きで心を伝え合った。
咲が身を乗り出す。
「あ・・・駄目なんだ・・・俺。」
「何が駄目だというの?」
「あ・・・。」
斑目はそう言われてやっと気付いた。「自身」が甦っている事に・・・。
197ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:44:29 ID:???


そこから先の境遇、倫理、立場や価値観といった垣根の無い世界にいざなわれる事に何の抵抗もお互い感じなかった。


二人が我に返って顔を見合わせて笑うと同時に、二人は『ハルコ』の方を見た。

「赤ちゃんの前でこんなことになるなんてスゲー背徳的だね。これって浮気になるのかな。」
咲には不思議と高坂に対して罪悪感のようなものを感じなかった。
斑目も咲と同様に感じていた。
(不思議な・・・不思議な子だ・・・)

「あぶーあぶー」
ソファーの上の『ハルコ』はただ無邪気に微笑んでいた・・・。

その時、斑目の携帯からメールの着信音が聞こえた。
慌ててフォルダーを開くと高坂からだった。
内容は郊外の某所にきてほしいとの事だった。
窓の外はいつの間にか暗くなっている。
「春日部さん、行かなきゃいけない所がある。そろそろ失礼するよ。」
「そう・・・。」

気恥ずかしそうに二人は体を離した。
帰りの準備が出来ると咲は言った。
「私、じっくり考えてみる。どちらを選んでも後悔する事になるかもしれないし、どんな結果になるか分からないけど・・・。こういうの『選択肢』って言うんだっけ?」
咲は笑いかけた。
「う・・・ん。」
斑目はそれしか言えなかった。
自分が伝えたい事は伝えきった。
『選択肢』を選ぶのは今回は自分ではなく彼女なのだ。
198ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:45:16 ID:???
○『ハルコ』

斑目は『ハルコ』をおぶってマンションを出て駅に向った。高坂から指定された場所はけっこう遠い場所にあった。
指定された場所の駅に着くと車のクラクションが鳴った。音の方向を振り向くと高坂が車を運転していた。
「こちらです。」
斑目は言われるままに『ハルコ』を前に抱きかかえて後部座席に乗った。
「車なんて持ってたんだ・・・。」
「いえ、レンタルですよ。ここから少し遠いんです。タクシーとかでは駄目ですからね。」
「その場所に行きさえすればすべては解決するわけだね。」
「そうです。」
「それはつまり『ハルコ』と別れるって事なわけだ。」
「・・・・」
その質問には答えず高坂は言った。
「正直、あなたがその子に『選ばれた』事に嫉妬します。その子に『選ばれた』なら今の全てを捨ててもいいと思ってるくらいですから。」
高坂は微笑みながら言った。
(春日部さんもか・・・)
後部座席の暗がりで表情を隠しながら斑目は内心でそう思った。表情を読まれたわけではないのに高坂は察したように言った。
「いえ、咲ちゃんがどうのこうのってわけじゃないんです。咲ちゃんは好きです。でもその子が導いて僕に見せてくれる『世界』と比べる事はできないんです・・・。ゲームと現実は違うんです。そうでしょ? 斑目さん。」
自分の気持ちを知ってか天然なのか高坂はかつて自分が言った言葉を逆手に取るように語った。
「・・・・」
斑目はスヤスヤ眠っている『ハルコ』を軽く抱きしめながらその質問には答えなかった。

「ここです。」
郊外の真っ暗な人気の無い建物に着くと高坂はそう答えた。
「ここは?」
「ええ、例の道路財源の流用で建てられたハコモノなんですけど槍玉に挙げられて売却されたのはいいんですが使い道が無くて放棄されている建物です。」
「何でここにくれば全てが解決するわけ?」
「今に分かります。詳しい事を説明できなくてすみません。」
199ネクストへの前奏:2008/03/17(月) 23:58:50 ID:???
今夜で完投できるかと思いましたが規制が入りました。
あと少しなんで明日の晩には最後まで投げ切れそうです。
時間とスレを占有してしまい申し訳ありません
200ネクストへの前奏:2008/03/18(火) 00:46:16 ID:???
テスト 投稿可能なら一気に終わらせます
201ネクストへの前奏:2008/03/18(火) 00:46:46 ID:???
斑目は高坂に案内されてその廃棄されたハコモノの中に入っていった。高坂はブレーカをつないで建物内の照明を点灯させた。何故か高坂はここの建物の鍵を所有しその構造を良く知っているようだった。

そして会議用の講堂に案内されると高坂は言った。
「ここで待っていてください。正直・・・あなたの『力』がどれほどか興味あるんです。結果を期待しています。」
「え? それはどういう意味・・・。」
斑目が言い終わる前に高坂は入ってきた扉を閉めて出て行ってしまった。
「え? おい? ちょっと!」
扉をガタガタと揺らすが開かない。表から手早くチェーンで固定されたようだった。
「何それ? だっ騙したな!高坂!」

背後で声がする。いくつもある別の入り口からドヤドヤと複数のグループが入ってくる。見るとヤバそうな人たちばかりだ。人種も喋っている言葉も全部異なる。

斑目に迫ったグループの一人が片言の日本語で話す。
「ソノコヲヨコセ」
さらに別のグループも同じ事を言う。
「コッチニヨコセ」

オロオロしていると完全に包囲されている。
喋っている言葉も内容も分からないが判別
できるだけでもロシア語、中国語、英語と入り乱れている。

斑目は最善にして最低の選択を選んだ。

「ええと・・・どちらにこの子を渡せばいいですか?」
202ネクストへの前奏:2008/03/18(火) 00:47:34 ID:???


虫のしらせというようなものを感じたのは初めてだった。咲はすっかり暗くなったマンションの窓の外を見た。
マンションの窓から見える街の光の海の煌きは街が息づいている事を教えてくれる。

「斑目・・・」
咲は思わず呟いた。



「笹原、校正まだか?」
先輩の小野寺にどやされて笹原は慌てて返事を返した。
「あ、すいません、今出来ました!」
夜遅くまで仕事していた笹原は時間までに仕事を終わらせる事が出来てほっとしていた。
気持ちが緩まると余裕の無かった時には気に留めなかった事が気になりだす。
ふと日中の斑目への態度がぞんざいだった事が気になり始めた。
考えてみればスージーの世話する義理など無いのによくやってくれていたな・・・そう思って何か礼になるものは無いか思案した。
(あ・・・ツテでいただいた某同人作家の新作渡しときゃいいか! うんうん)

その時机の上に気分で飾っておいた花瓶の花の首がパタっと落ちた。
「あ・・・縁起悪りー。」
笹原はピンと花を指で弾いてゴミ箱に落とした。
(荻上さん、早く無事に帰ってきてねー)
203ネクストへの前奏:2008/03/18(火) 00:48:15 ID:???


旅行の日程をほぼ終えた荻上と藪崎は最後の宿泊ホテルの一室でみやげ物の整理をしていた。
「なんやそのガラクタ。」
「別にいいべ、好きで買ったんだから。」
「あんたみたいな買い物してるといつかボッたくられるで。」
「普通、海外旅行先のバザールで値切りなんてすっか?」
「何言ってんの。値切ってからが勝負やろ。」
「そんでツアーからはぐれそうになったくせに!」
「あんたこそ、ボーとガラクタに見惚れてはぐれそうになったくせに!」

二人は言い争いが日常であるかのように軽口を叩きあいながら買い物の整理をしていた。
へんてこな民芸品の像を見て藪崎は荻上に聞いた。
「これ・・・斑目さんへか?」
「そう・・・。変?」
「あんたのセンス疑うけど斑目さんにだし・・・ま、ええんとちゃう?」

二人が斑目へのお土産の話をしているとホテルの窓から流星が流れるのが荻上の目に入った。
「あ、流れ星! なんか人が死ぬ事連想しちゃうから嫌だな。」
「あほ、普通は願掛けするのが当たり前やろ。第一、人なんて今この時にもたくさん生まれてたくさん死んでるわ。」
「それもそうだね・・・」
204ネクストへの前奏:2008/03/18(火) 00:50:18 ID:???


「どちらに渡せばよろしいですか?」
斑目は叫んだ。

複数のグループで日本語の分かる者はそれぞれのグループに斑目の言葉の意味を伝えた。
グループ同士でしばらく口論が続いたかと思うとグループ間で銃撃戦が始まった。

斑目は『ハルコ』をおぶってゴキブリのようにシャカシャカと手足を動かして床を移動した。

「うまくいった! 漫画やアニメみたいにうまくいった!」

銃撃戦で吹っ飛ばされた椅子が眼前に迫る。
「ひぃぃいぃぃ 死んだらどうするぅぅぅぅぅ。」
障害物が多いためか抗争している者たちで死者らしき者はまだでてないようだったが、修羅場である事には変わりは無かった。
この混乱のすきに反対側の入り口に回りこむつもりだった。
「死にたくない、死にたくない、死ぬのは嫌だ。」
斑目はシャカシャカと手足を必死に動かして体移動している。
背中ではこれを遊んでもらっていると勘違いしているのか『ハルコ』が楽しそうに足をパタパタさせている。
「ハッハルコ! 遊んでんじゃないってぇぇぇ。」


ドシンと頭が何かにぶつかった。
見上げると異種格闘にでも出てきそうな巨体の男がいた。
男はぬっと手を伸ばし、『ハルコ』を奪い去った。

『よし、こっちへよこせ!』
ボスの手に渡った『ハルコ』は泣き出す。
ボスは自分の予想通りになった事を喜んだ。
他の犯罪組織にリークしたおかげで男の潜伏先が簡単に分かった。後は混乱に乗じて漁夫の利を得ればいい。
205ネクストへの前奏:2008/03/18(火) 00:51:20 ID:???
ボスは赤ん坊の『力』の事を知っていたので用心に用心を重ねていた。他の組織に渡した情報は正確ではない。正確な価値を知っているのは自分だけだった。
個人差はあるが赤ん坊の力のほとんどは視覚情報によるものだと思ったので、偏光度を強化したサングラスをかけた。
また聴覚による情報も極力避けるために補聴器を改造して赤ん坊の声をデジタル信号に変換させるようにした。また触覚による影響も心配だったので厚手の手袋やコートを着た。
それでもどれだけ影響力を排除できるか分からない。外には現地で雇った女性保育士を車に待機させている。
ボディーガードの男と痩身の秘書役の男には武器は持たせていない。特にボディーガードが「墜ちる」と自分でも手に負えない。
だから即座に射殺できるようにポケットに銃を忍ばせていた。

「何を!」
『ハルコ』を奪われて驚いた斑目はそう叫んだがボディーガードに蹴り飛ばされて壁に吹っ飛んだ。
「げふっ」
(うげえ、痛え・・・やっぱ駄目か・・・。このままでいろ、動かなきゃ春日部さんの所に生きて戻れる・・・戻りたい! だから・・・)

『よし行くぞ。急げ。』
ボスの一行がその場を離れようとすると斑目はヨロヨロと手を伸ばしてボディーガードのズボンのすそをつかんだ。
(何している、俺・・・)
その行動が『ハルコ』の力なのか自分の意思なのかもう分からなかった。メガネが吹っ飛んだ為にぼやけた視界の先には確かに『ハルコ』がこっちに向って手を差し伸べている。
ボディーガードは斑目の手を振り払って手を踏み潰した。
「あぐっうお」
もう苦痛を通り越して声にならなかった。
左手を見ると指が不自然にひん曲がって骨さえ見える。
『こいつどうしますか?』
206ネクストへの前奏:2008/03/18(火) 00:53:39 ID:???
『・・・・・』
ボスはほんのちょっとの間、無言で斑目を見つめていた。
『首の骨を折れ。用心に越した事は無い。』

ボディーガードの足が斑目の頭上に迫る。
あの足が振り下ろされれば自分の細首は簡単にへし折れてしまうだろう。

(馬鹿な事をした・・・。まあいいか・・・あの人に一生伝えきれない事を伝えつくしたし・・・。)

遠のく意識の中で巨体の男が吹き飛ぶのだけ見た。
(あれ・・・)
薄れゆく意識の中で金髪の少女が微笑を浮かべているのだけがぼんやり見える。
その少女は自分の手を出し、滴る血を斑目の口に含ませながら言った。
「グッジョブ」



ボスは目の前の光景を疑った。
巨体のボディーガードを吹き飛ばしたのは少女が手に持つ特殊改造された銃から発射されたゴム弾のようだった。
そのライフルの型には商売で扱った事があるので見覚えがあったが若干大きさとデザインが異なっていた。
少女の使いやすい大きさに改造され、さらには実弾と極力殺傷力を下げたゴム弾の両方発射できるようになっているようだった。

『なんだてめえは・・・。児童ポルノの撮影からでも逃げ出してきたのか?』

ボスの手に抱かれている『ハルコ』はいつの間にか泣き止んで好奇心の目で少女を見つめている。
少女は微笑みながら言った。
『天国ノ「時」ハ来タ』
207ネクストへの前奏:2008/03/18(火) 00:55:10 ID:???
次の瞬間講堂の照明が落ちた。
真っ暗闇の中でマフィアたちの悲鳴だけが聞こえる。

グア
ギャア

ボスは恐れおののいて壁沿いに入り口を探した。完全な闇を体験したのは初めてかもしれない。サングラスはもう意味が無い。
壁を確認するとボスはサングラスを捨てて手に抱いている赤ん坊を両腕で大事に抱えて壁に沿って逃げ出そうとした。

ボスは初めて恐怖を体験した。
いままで人間相手に恐怖を感じる事は無かった。彼の生い立ちは人の裏表や虚勢すら見抜く目を養っていたからだ。
だが目の前にいたのは人ではない!
照明が落ちた瞬間、ボスは見た。普通の人間なら暗闇に即座に対応できない。しかしあの娘は・・・サングラスごしにも見えたその猫のように闇で輝く目は確実に自分を見ていた・・・。

(野郎・・・。何で誰も殺さない?)
あちらこちらで悲鳴が聞こえる。しかし暗闇だったが周囲の気配で誰も絶命していない事は察せられた。
暗闇の中では研ぎ澄まされた野獣の息づかいだけが感じられる。
分かっていた。殺す必要は無いからだ。
極力無駄な殺しはしない。逆を言えば必要なら・・・という事だ・・・。人ではないからだ。
つまりは真相を知る俺だけは違うという事だ。
赤ん坊の力に墜ちても『世界で一番重要な情報』を忘れないように俺はマイクロチップに赤ん坊の情報を複数記録して隠している。
その在りかを喋るまでは生かされるだろう・・・。
だがその後は・・・。
208ネクストへの前奏:2008/03/18(火) 00:55:51 ID:???
(つまりは最初から俺を確実に捕捉する事が目的だったわけだ・・・)
『罠にはめるつもりがまんまと罠にはめられるとはな・・・。』

壁に感触を感じなくなった。入り口にたどり着いたのだ!
まだ逃げ切れるチャンスはある!

だが背後から絶望を宣告する声が聞こえた。
「言イ訳ハ地獄デ聞ク」

ボスはその言葉の意味は分からなかったが自分の運命を悟ってうめき声をあげた。
『糞が!』

○新世代への道

斑目は布団の中で窓からこぼれる朝日に自分の左手をかざして裏表をじっと見ている。
何故そうしているか自分でも分からない。
首をかしげながら布団から這い出した。

「・・・むっ、おっ! 『勃つ』ぞ! 俺は『勃つ』ぞ! わはははは、ロリも巨乳もばっちこいだ!」

一晩寝たら風邪は治ったらしい。
昨日は早退してしまい今日だけ休みをもらったが体調がいいなら有意義にアキバにでも繰り出して遊びにいってもいいなと斑目は思った。
「・・・・・・・・」
何か大事な事を忘れている・・・そんな気がする。一生を通して忘れてはいけないような何かを・・・。
「ま、気のせいか・・・。」
斑目は冷蔵庫を開けて朝食になるようなものを物色した。
「あ! スージーのやつ、また俺のプリン食べやがった!」
209ネクストへの前奏:2008/03/18(火) 00:56:19 ID:???


朝、ベットで目が覚めると隣に高坂が眠っている事に咲は気付いた。
「あれー? コーサカ、いつの間に帰ってたの?」
珍しく疲れた表情を見せる高坂は眠そうに言った。
「うーん、深夜に帰ってきたんだけど、咲ちゃんを起こしちゃ悪いと思ってさ。」

「そんなに疲れているなんて珍しいね。そんなに忙しかったんだ。」
「うん、実際の『ゲーム』のプログラムより『バグ』の後処理の方が大変なんだ・・・。」

「ふーん、よく分からないけど大変だったんだね。」
咲は眠っている高坂を残してベットから這い出た。
今日も忙しくなりそうだ。

「・・・・・・・」
何か・・・何か大事な事を忘れている・・・。そんな気がする。一生を通して忘れてはいけないような何かを・・・。

「気のせいね。」

「コーサカ〜 朝食何にする〜?」
210ネクストへの前奏:2008/03/18(火) 01:04:36 ID:???


その都市は大統領選挙の予備選を左右する激戦地であったので普段は閑静な街並みも選挙一色で賑わしい。
その街並みの一角の白いペントハウスで日本から来た古い親友を慰めている女性がいた。
慰めている・・・というより笑い転げている声が響いてくる。

『あーっはっはっは、避妊具に! 避妊具に穴を開けるなんて! あーっはっはっはっ、ソーイチーローが可哀想!』
『アンジェラ! もう! 馬鹿にして〜』
『ああ、ごめんなさい・・・。ブッププププ、シュール! シュールだわ! まさに「以心伝心」ね! 日本人は本当に神秘の民族だわ!』
アンジェラはしばらく笑いの余韻が収まらず腹を抱えて笑っていた。
傍では田中と喧嘩してアンジェラの家に転がり込んでいた大野がメソメソ泣きながらアンジェラに愚痴を言っている。
『私は別に田中さんがプロポーズしてくれない事を責めているんじゃないの! あの人の自分の自信の無さに怒ってるの! もっと、もっと自信を持ってほしいから・・・グスグス。』
『分かった、分かったわ。落ち着くまでもうしばらくここにいなさい。こうやって喧嘩しても長続きしてるからいいじゃない。』
『ごめんなさい・・・。でもアンジェラには私の気持ちは分からないわ。』
『あら? 得意のアメリカ人には繊細な感情は理解できないという理論?』
『そうじゃない・・・そうじゃないけど・・・。』
アンジェラはすくっと立ち上がって腰に手をあてがって言った。
『アメリカ人にも繊細な感情を理解する心はあるのよ!』
211ネクストへの前奏:2008/03/18(火) 01:06:11 ID:???
大野はアンジェラを見上げて彼女が言っている事も確かだと思った。
バストが大きい金髪の女性がアメリカ社会で知的に見られない社会的デメリットにアンジェラは憤慨していた。
だからアンジェラがアメリカ人とは異なる価値観や異文化、特に日本のサプカルチャーに興味を持ち、活発なショートカットを好む理由も分かる気がした。
『そうね・・・アンジェラなんか・・・交際しても続かないものね・・・。』
『シャラップ! それはそれ! いずれにしてもあなたがソーイチローと仲直りして日本に帰ってもらわないと日本の最新アニメの情報に出遅れるの!』
『ひっどーい!』


その時、部屋の向こうで電話が鳴った。
アンジェラは慌てて電話を取った。
『はい、あらスージー? え? こっちに帰ってるの? それはまた急な・・・。大丈夫? 今、こっちでは大統領選の予備選候補が拳銃自殺しちゃって・・・テロじゃないかって厳戒態勢なんだから・・・。』
アンジェラは少し小声になって続けて言った。
『まさか・・・あなた関係してないでしょうね?あなたの全てを知っているわけじゃないけど・・・私は永遠にあなたの守護天使なんですからね。』
アンジェラは窓の外の光景に目を移しながら電話口のスージーの声を聞いている。
『そう・・・そういえばマダラメはどうしている? え? ふと思い出しただけ。じゃあ後で迎えに行きます。』
受話器を下ろすとアンジェラはしばらく物思いに耽った。
アンジェラはふと自分の好きな詩を口ずさみたくなった。
212ネクストへの前奏:2008/03/18(火) 01:07:18 ID:???
『いまはただ聴くだけにしよう

わたしの聞くものをみな、この歌のなかへとましていき、音響をそこに役立てよう。

わたしは聞く。小鳥たちのさえずりを、成長する小麦のざわめきを、炎の饒舌を、わたしの食事を煮る薪のはぜる音を、

わたしは聞く、わたしの愛するひびきを、人間の声のひびきを、

わたしは聞く、ともに駆け、結合し、融けあい、追いかけあう、あらゆるひびきを、

都市のひびき、都市の外のひびき、昼と夜のひびき、じぶんを好いてくれるものにたいする話しずきの若者たち、食事どきの労働者たちの高笑い、

仲違いした友達間の怒った低音・・・』

アンジェラは窓の外の光景に魅入る。春を告げる暖かい日差しの下、せわしなく急ぎ足で道を歩く人たち・・・。
213ネクストへの前奏:2008/03/18(火) 01:08:49 ID:???
あの時・・・あの部室で見たものは・・・私が感じたものは何だったのか・・・。

アンジェラは再び詩を口ずさむ。

『・・・それは、わたしがじぶんで持っているとも知らなかったような熱情を、わたしからもぎとっていく、

それは、わたしを帆走らせる、わたしは素足で軽くたたく、わたしの両足はものうげな波に舐められる、

わたしは、痛烈な憤っている雹に打ちのめされ、わたしは息がつけなくなる、

蜜で甘くされた麻薬のなかに漬けられ、わたしの気管は死の欺瞞のなかで締めあげられ、

ついに最後に、謎のなかの謎を感ずるようにと、ふたたび気が静まるようになる、

そして、それこそ、われわれが《存在》と呼んでいるものなのだ。』

隣で大野が騒ぎ出している。
『アンジェラ〜、電話まだ終わらないの〜?』
『はいはい、カナコ、今行きますから。』
アンジェラはパタパタと隣の部屋に駆け出してドアをバタンと閉じた。

完 新世代に続く
214ネクストへの前奏:2008/03/18(火) 01:10:51 ID:???
終了です〜 なんとか今晩中に完投できたようです。
時間とスレの占有長々と失礼しました。
215マロン名無しさん:2008/03/18(火) 06:05:55 ID:???
大作、おつかれさまです!

ハルコを背負った斑目が笹原やクガピーに誤解されるくだりで笑が止まりませんでした。
あちこちで交わされるげんしけんの面々の会話も楽しかったです。
216ネクストへの前奏:2008/03/19(水) 00:23:00 ID:???
>>215
これはありがとうございます。非日常系で暴走気味と心配だったのてすが
そう言っていただくとありがたいです。会話については原作キャラと
ズレ(特にスージーと斑目w)が大きくなってないかという心配な所はありましたが(^^;
217マロン名無しさん:2008/03/19(水) 02:37:17 ID:???
長編お疲れ様でした。
もしやこの話は、あの話に続くのでしょうか?
218ネクストへの前奏:2008/03/19(水) 23:42:23 ID:???
>>217
ありがとうございます。
あの話というのが私が以前単発で雑に書いていた新世代シリーズの中の話
の一つを指すのであれば、時系列的にはそれに続きます。斑目の再就職の
他にも整合性が合わない点があるとは思いますが(汗)
219マロン名無しさん:2008/03/20(木) 19:48:44 ID:???
>ネクストへの前奏
乙ですGJ
日常と非日常のミックス具合や切り替えが上手いと思いました。いい刺激になりました。
生活能力ゼロで斑目に世話をさせてしまうスージーの生態が笑える。

一番可笑しかったのは、勃たない斑目が笹原に電話してソッコー切られる所。

>忙しいのにそんなくだらない用事で電話なんかしないでください!
>プツ

↑実は笹原、「オギーが居ない間にお楽しみ」の最中だったのかもしれないなwww
斑目同様プリティメンマのプレイ中だったりして……。
220ネクストへの前奏:2008/03/21(金) 01:01:43 ID:???
>>219
私も他の人の作品に刺戟を受けますのでそう言っていただくと心強いです。
感想レスには何とか間を置かずにレスしたいと思ってましたところさっそく
レスありがとうございます。
>プリティメンマのプレイ中
オギのいぬ間の(以下略
221マロン名無しさん:2008/03/22(土) 07:02:33 ID:???
>ネクストへの前奏

久々に覗きに来たら大作がっ…一気に読みました。
話にぐいぐい引き込まれます。
まっ…まだらっ…かす…か………

え、記憶に残ってないんですか
ちょっと逝ってきます

ウワアアン!!!

動揺してろくな感想かけずスンマセン
落ち着いたらまたカキニキマス
222ネクストへの前奏:2008/03/23(日) 00:27:07 ID:???
>>221
内容が内容だけにこれでいいのかと自問自答しながら書いてました。
動揺させてしまいましたか?! そんなわけだから人の客観的な意見は
参考になります。気長に待ってます。
223マロン名無しさん:2008/03/26(水) 19:33:13 ID:Aku3al33
あげ
224マロン名無しさん:2008/03/27(木) 09:42:46 ID:???
漫画の表現の自由と規制問題を議論しているスレです。

【表現規制】表現の自由は誰のモノ【89】
http://news24.2ch.net/test/read.cgi/news2/1206271160/
225マロン名無しさん:2008/03/29(土) 18:19:03 ID:???
ほっしゅ
226マロン名無しさん:2008/03/30(日) 19:19:17 ID:???
ほす
227マロン名無しさん:2008/04/01(火) 22:55:48 ID:???
228マロン名無しさん:2008/04/03(木) 01:15:46 ID:???
229マロン名無しさん:2008/04/05(土) 00:09:24 ID:???
230マロン名無しさん:2008/04/06(日) 18:35:22 ID:???
最近また保守が続くな
231マロン名無しさん:2008/04/06(日) 21:24:02 ID:???
誰か新作の予定は? 俺はネタギレ
232マロン名無しさん:2008/04/07(月) 10:08:48 ID:???
すまん。オンリーイベント用SSに取り掛かっているので……。
233マロン名無しさん:2008/04/08(火) 18:30:02 ID:???
>>232
つまり5月のGW明けには再び投下もあるでしょう。
つうか俺が投下する。
ネタはある。
234斑目さんの私はこうしてオタクした:2008/04/08(火) 20:05:21 ID:d97KSyx0
その頃の私、斑目はどうしても現実に負ける日々を送っていた

現実は栓抜きで額を割りにくる

多少の妄想で対抗するも実力が違いすぎる
そんなある日、私は大友克洋に出会う
「こんな世界があったのか!」
その後早坂 未紀、かがみあきらを見つける
背中に浮かび上がるオタクの三文字
「そうか、おれってオタクだったのか」
星に導かれ山にこもる
「手塚治虫では現実に勝てない」
モーションコミック、プチアップルパイ、アニメージュコミック
レモンピープルを片手に厳しい修行が続く
修行を終えた私は山を下り、現実に戦いを挑む
「現実!勝負だ!」
「くるか小僧」
シュピーン!ガガ!
ズズーン・・・・
今から思えば幼稚なふゅーじょんぷろだくと落としだった
しかし私は確かに現実に一矢報いたのだった
増長した私はオタク論がどーのといっちょまえぶったあげく
女子供に対してもオタクをオタクしてオタクするのであった
やがて報いの時はくる
気がつけば大学でサークルの後輩の彼女に横恋慕してるではないか

ふたたび現実のイス攻撃

有明ビッグサイト、同人ショップなどでオタクの自分を確認する
「やっぱり離れられない!!」
現実の攻撃は執拗である
しかし、私は負けない。真の妖精王になるその日まで!
235マロン名無しさん:2008/04/09(水) 06:36:07 ID:???
>>234
同年代で同趣味超GJ!
あじまだらめ素敵だよあじまだらめ
236マロン名無しさん:2008/04/09(水) 21:19:55 ID:???
何とカッコイイ自伝風SS!
頑張れ斑目!

栓抜きとイスwww
237予告:2008/04/09(水) 21:39:15 ID:???
【3】
その日の夜、大野加奈子は、田中総市郎のアパートに遊びに来ていた。
キッチンで二人分の晩ご飯を作っている。
田中のアパートのキッチンには、一人暮らしの男には不似合いな調理器具が置かれている。大野が「通い妻」的に料理を作ってくれることもあるが、道具自体は田中本人が選んでいる。モノを作ることが好きな彼らしく、道具にもこだわりがあるのだ。

「その人、国土館大から編入してきたそうなんです」
家事をしながら、大学やサークルの様子などを田中に話すのが、大野の楽しみにもなっていた。今日の話題のメインは、挨拶にやってきた隣のサークル会長の話だった。
話をしながら、フライパンにオリーブオイルをひき、スライスしたニンニクを炒める。
残暑も厳しい今、食欲をそそる香りが隣室へと漂い流れ、ガレージキットの買い置きを整理していた田中の嗅覚を刺激する。
ニンニクに程よい色がつき始めたら、ベーコン、トマト、ナスを加えていく。
「………その人が凄い個性的なんです。何というか………あ、」
火をかけてあった鍋がグツグツと音を立てているのに気付いた大野は、「報告」を中断して、壁に掛けてあるスパゲティサーバを取り出し、ゆでた麺を皿に移した。
あとはフライパンの中身を和えるだけだ。

田中は押し入れを閉めて台所に移動し、大野が和えたスパゲティを居間へと運んだ。
238予告:2008/04/09(水) 21:39:50 ID:???
「あ、ありがとうございます。……それで、その会長さん、すごい真面目そうな人でした。お名前も珍しくって……」

皿をコトリと置いた田中。
大野の口から出た、ふと耳に残る妙な響きの名前が、彼の心に引っかかりを生んだ。

「………?」
「どうかしました?」
「うーん……どこかで聞いた名前だね……」
しかし、どこで知った名前なのか、田中は思い出せずにいた。
「夏休みの間に編入してきた人ですよ。ご存知なんですか?」
「思い出せないな……」

田中がどっしりと腰をおろし、腕組みをして考え込んでいる時、大野が冷蔵庫からボウルを取り出した。
カボチャを茹でて崩し、ミキサーにかけ、ミルクと調味料を加えた冷製のスープ。
カップに移してパセリを加え、テーブルに登場した時には、田中の脳内から記憶検索の事など消え去っていた。
「うまそうだね」
「簡単なものですけど」
にっこりと笑う大野。小さなアパートの一室で、幸せな二人の食事が始まろうとしていた。





しかしこの時、田中は思い出すべきだったのだ。


239予告:2008/04/09(水) 21:42:03 ID:???
最近保守が多いので、オンリー用ネタの一部を投入してみました。
全体の内容は鬱じゃないよっと。

果たしてちゃんと完成するのか。
がんばれワシ。超がんばれ。
240マロン名無しさん:2008/04/12(土) 02:42:56 ID:???
>>234
何か元ネタがありそうな1人語りSS乙。
頑張れ斑目、妖精王になるその日まで…

その日まで部室に通い続けるのかなあ。

>>237>>238
うーむ、予告と言うだけあって、今のとこ全貌は分からんが、何やらいろいろと予感させるものを感じる。
完成品、気長に待ってます。
241マロン名無しさん:2008/04/13(日) 22:54:53 ID:???
日曜だけは怖いから保守
242マロン名無しさん:2008/04/16(水) 16:19:11 ID:???
>>1の原作にも絶望先生ネタがって、そんなのあったっけ
243マロン名無しさん:2008/04/17(木) 16:04:21 ID:???
コミック「くじびきアンバランス」2巻のおまけ漫画。
「原作」とは呼べないかもね。
244マロン名無しさん:2008/04/17(木) 21:22:31 ID:???
>>243
くじアンの方か
245マロン名無しさん:2008/04/20(日) 19:42:00 ID:???
保守
246マロン名無しさん:2008/04/21(月) 15:31:49 ID:???
 
247マロン名無しさん:2008/04/22(火) 02:17:30 ID:hVO3ZORy
大野=田中 のエッチシーンが欲しかった。 付き合い始めたばかりの時まだヤッてないって云ってて、その後の展開が見たかったなぁ。

でも毎日やりまくってんだろうなぁ
248マロン名無しさん:2008/04/25(金) 21:27:49 ID:???
そろそろ問題作(?)投下します・・・
最初、構想した時はギャグ・パロディのつもりでした。しかし、作品ができあがっていくうちに
シリアスな部分がどんどん増え、全然、当初の構想とは別物の作品にしあがってしまいました・・・
投下するべきかどうか迷いましたが、できあがっちゃったものは仕様がないと思い投下します。

投下前に言い訳するのもなんですが・・・
最初の構想の部分とできあがった作品の相違から 「ここからこんな展開になるってなんじゃそら?」
という超展開の部分とかキャラクターの性格とか「これ違う」(別次元の世界の話なので、違っててもしゃーないと
自分の頭の中で勝手に弁明)とか思われる部分もあるかと思いますが勘弁してやってください。
批判・中傷・抗議は一切、無視することにします。

つらつらと言い訳を書いてきましたが、まあとにかく読んでやってください・・・では、どうぞ。
249オギング(呪いの同人誌)1:2008/04/25(金) 21:29:03 ID:???
この物語は本編のげんしけんとは別次元の世界のお話・・・
この世界のげんしけんの物語は本編のげんしけん通りに進んでいますが
ただひとつ違うことが起こっていました・・・
それは荻上千佳が椎央大学に入学せず、当然、げんしけんにも入会しなかったのです・・・

そして笹原も咲ちゃんも高坂も大学を卒業して暫く後・・・約1年後・・・
これはそんな状況で始まった物語です。
250オギング(呪いの同人誌)2:2008/04/25(金) 21:30:14 ID:???
咲の洋服屋には恵子がほとんど住み込みといってもいい状態で働いていた。
仕事が終わった後は毎日のように咲と一緒に咲のマンションに帰り泊り込んでいる。
仕事場とマンションの行き帰りはほとんど咲の運転する車だ。
仕事上必要なので咲も忙しい合間をぬって自動車の免許を取り、新車を買ったのだ。
咲が恵子を傍においているのは仕事が忙しい中、少しでも手伝ってくれる人がほしかったからだ。
恵子の方は咲に借金しているという弱味もあるのだが、高坂と会うチャンスが増えるという思惑もあって
咲のところで働き始めたようだ。
ただ、肝心の高坂は仕事が忙しくほとんど帰ってこない。
咲としては高坂がいない寂しさを恵子がいることで紛らわすこともできた。
251オギング(呪いの同人誌)3:2008/04/25(金) 21:31:00 ID:???
その日も忙しい1日が終わり二人は咲のマンションに帰ってきた。
「あ〜 やっと明日、休みだよ〜」
恵子は背を思いっきり伸ばしながら叫んだ。
「どうすんの?明日」
「う〜ん・・・久しぶりにショッピングにでも行こうかなあ。」
二人は簡単なレトルト食品で遅い夕食を済ませ、食後の倦怠感と戦いつつなんとはない会話をしていた。
「ネエさ〜ん。高坂さん、今日も帰ってこないね〜。」
「ああ 今、ゲームの製作で忙しいらしい。」
「・・・ねえ。姉さん。」
「なんだ?」
「まだ、こーさかさん あきらめないの?」
「・・・おまえ どういう意味だ?」
などといういつものくだらない会話をしつつ咲が、ふとテレビの横を見ると、同人誌らしきものが置いてある。
そんなもの置いた覚えのない咲は
「これ何?」
といって同人誌を手に取ろうとして席を立った。
252オギング(呪いの同人誌)4:2008/04/25(金) 21:31:43 ID:???
「あ・・・それは・・・」
恵子の止める暇もなく、咲は件の同人誌を手に取った。
タイトルが目に飛び込む。
「『巻田君総受化計画』・・・なんだこりゃ?」
「あ〜 う〜 それは〜」
恵子の反応からみて、この同人誌はどうやら恵子のもののようだ。
恵子のことだ。咲の部屋に持ち込んだまま片付けるのを忘れ、置きっ放しにしていたのだろう。
そう思い咲は本を開いた。
「あっ。ダメ。見ちゃっ!!」
人にダメといわれれば、より見たくなるのが咲クオリティである。
恵子の本を取り上げようと伸ばした手をかわしてページをめくっていく。
本の中身は巻田という男がいろんな男にいろんな体位で弄ばされ犯されているBLのイラスト集だった。
「ぷっ・・・これ斑目に似てるよね。」
どうやら咲の壷にはまったらしい。咲はゲラゲラと笑いながらページをめくっていき、
あっという間に読んでしまった。
最後に裏表紙を見てみると井戸のイラストが描かれていた。
まるで写真のように本物そっくりな絵である。
253オギング(呪いの同人誌)5:2008/04/25(金) 21:32:34 ID:???
「あ〜あ 見ちゃった・・・見るなと言ったのに・・・」
恵子が眉間に縦皺をよせ、深刻そうな顔をしている。
「コレ、大野からもらったの?」
「ううん。違う友達。」
「大野以外でこういう趣味してる奴、恵子の知り合いにいるのか?」
「つきあいでいろいろイベントとか顔出してるうちにね・・・」
恵子の顔が曇っている。
「うん・・・どした?」
恵子は暗い顔をしたまま咲を真剣なまなざしで見つめた。
「ねえさん・・・それ・・・実はね・・・」
「な・・・なんだよ・・・どうかしたか?」
「それ・・・呪いの同人誌なんだ・・・」
「は?」
254オギング(呪いの同人誌)6:2008/04/25(金) 21:33:19 ID:???
「その同人誌を見た人は1週間後に同人誌の呪いを受けるんだよ・・・」
「・・・」
「アタシ・・・ちょうど1週間前に、その同人誌見ちゃったから・・・もうすぐ呪われるんだよね・・・」
「の・・・呪いって?死んじゃうの?」
咲が不安そうな顔をして恵子を見た。
恵子はゆっくりと首をふりおどろおどろしい声で話した。
「なんでも・・・この呪いの同人誌を見てからちょうど1週間後、見終わったのと同じ時間に・・・
見た人の性格が変わっちゃって・・・『おぎーおぎー』ってうめきながら・・・
BLとかやおいとか少女のイラストを描くようになったり・・・BLとかやおいのストーリーを
書きだしたりして・・・他のことは何もしなくなって・・・廃人同然になるそうよ・・・」
「・・・」
シーンとした静寂があたりを覆い重苦しい沈黙がほんの数秒間続く。
「あっ どひゃっははははは 」
突然、空気をつんざくような笑い声が爆発した。
「の・・・呪いの同人誌・・・ば・・・ばかばかしい・・・はらいたい。」
咲はおなかをかかえて大笑いし、恵子も涙を流して笑っている。
「ねっ・・・ばかばかしいでしょ・・・」
「こ・・・これのどこが呪いなんだか・・・ははは」
暫く二人の笑い声が部屋中にこだました。
255オギング(呪いの同人誌)7:2008/04/25(金) 21:40:32 ID:???
「ああ〜久しぶりだよ。こんなに笑ったのは」
ようやく一区切りがついた後、咲は立ち上がると恵子に言った。
「馬鹿なこと言ってないで、夕飯の後片付けお願いね。あたし、やっておくことあるから。」
そういって持っていた同人誌で恵子の頭をポンっと叩いた。
「あ〜い。」
間延びした返事を返して恵子は台所に立つ。
「その本、借り物でまた返さなくちゃいけないからそこにおいといて。」
「はいはい。」
咲は同人誌をテーブルの上に置くと、幾つかの書類を小脇に抱えて隣の仕事専用部屋に向かった。
「呪いの同人誌・・・ただのBL本じゃね〜か。どこが呪いなんだよ・・・」
咲の頭の中 巻田が男に弄ばれている場面がリフレインされ・・・そして巻田の顔が斑目に代わる。
咲はまた「あはは」と声をあげて笑った。
256オギング(呪いの同人誌)8:2008/04/25(金) 21:41:21 ID:???
斑目はベッドの中で寝返りをうっていた。目が覚めて時計を見ると午後6時だ。
斑目はついこの間、会社を辞めていた。
ついつい自堕落な日常生活が続く。
(ずっとアニメ見てたからな・・・)
斑目はずっと撮りだめしていたくじアンの新シリーズをようやく見終わり、最終話を見終わると同時に
そのままズルズルと眠ってしまったのであった。
久しぶりに見たケッテンクラート会長の姿が斑目に咲のことを思い出させていた。
(起きて飯でも食べにいくか・・・)
と思ったが、億劫でなかなか起き上がれない。
斑目の脳裏には春日部さんやげんしけんのことが浮かんでは消えていく。
咲が卒業してから斑目は春日部さんとは会ってない。げんしけんにも長いこと行っていない。
(今は朽木くんが会長だし・・・)
げんしけんにいっても朽木くんと二人では時間がもたない。自然に斑目の足も遠のいた。
朽木くんの
「新入会員が入らないにょ〜」
という悲鳴にも似た声を聞いたのが最後だったと記憶する。
(げんしけんも朽木くんの代で終わりだな・・・)
これもサダメなのかもしれない・・・そして横向きに寝返りしながら斑目の思いは再び
春日部さんのことに移っていく。
(もう会うことはないんだろうか)
そう思うと何ともいえない侘しさが心の底から湧き上がってくる・・・
257オギング(呪いの同人誌)9:2008/04/25(金) 21:41:56 ID:???
春日部さんのコスプレ姿を夢うつつに思い出しつつまどろみ始めたその時、斑目の携帯が鳴った。
(誰だ?)
寝癖のついた髪をかきあげ斑目は携帯に出た。
「もしもし・・・え・・・あれ??春日部さんっ!?」
その声は忘れもしない春日部咲の声だ。
「まだらめえ・・・いきなり電話してごめん・・・ちょっと相談があるんだけど・・・」
「はいっ!?はいい いいええ・・・」
「なんだ?どうした?」
「い・・・いやちょっと・・・今、取り込んでたんで・・・あはは。」
(春日部さんが????なぜ突然、俺に電話を???それもこんな時間に????卒業以来連絡がなかったのに???)
斑目は焦る気持ちを抑えつつ声を絞り出した。
「相談って・・・なんの??」
「とりあえず・・・できれば今すぐこっちにきてくれないか。」
「え?こっちって・・・春日部さんのとこ?」
「そうだよ・・・」
(な・・・なんだ!?いきなり電話かけてきたと思ったら春日部さんのところに来いって??
こ・・・これはまさか・・・)
「ダメか?」
「あ・・・いや・・・だ・・・だいじょうぶ・・・」
(静まれ!俺の心臓!!)
258オギング(呪いの同人誌)10:2008/04/25(金) 21:42:33 ID:???
「オギー・・・ オギー・・・」
ぶつぶつとつぶやきながら恵子は何かに取り付かれたように中学生くらいの少女のイラストを描いていた。
恵子の座っている机の上・下の床には下手なイラストとSSが書かれた紙が山のように積もっている。

「・・・・昨日の晩から一睡もせずにずっとこんな調子でさ・・・声をかけても上の空でさ。
何の反応もないんだよ。」
咲は疲れきった顔をして頭に手をやっていた。
「・・・ひでえな。こりゃ・・・」
斑目は言われたとおりに取るものもとりあえず春日部さんのマンションにかけつけていた。
「店・・・暫く休むことにしたからさ。ちょっと様子見ててくれる?」
と咲は斑目に恵子の様子を見るように頼み店のシャッターに『暫く休みます』という張り紙をしにいった。
斑目は咲のいない間、恵子を観察し、そして部屋を眺めた。
(初めてだな・・・春日部さんの部屋にくるの)
芳香剤だろうか?妙に気持ちいい香りが斑目の鼻をツンとつく。
しっとりと落ち着いた雰囲気の配色。自分の住んでいる部屋と雲泥の差の美しく掃除され
片付けられた部屋。
(いいなあ・・・女の子の部屋って)
よく考えると春日部さんに限らず女性の部屋に入ったのはこれが初めてだな・・・とふと思った。
259オギング(呪いの同人誌)11:2008/04/25(金) 21:43:10 ID:???
やがて咲が戻ってくる。
「ただいま」
「あ、お帰り。」
「ごめんねえ。遅くなっちゃって。」
「いや。いいんだ。」
「お茶も出してなかったね。今、出すから。」
「あ・・・いいよ。気を使わなくても・・・」
「何がいい?お茶?コーヒー?紅茶?」
「あ・・・コーヒー・・・」
恵子はこの間中、周りのことに全然気づかず一心不乱に絵を描いている。
斑目は咲の出してくれたコーヒーに口をつけながら尋ねる。
「いつからこんなんだ?」
「昨日の晩からだよ・・・」咲が答える。
「聞いたことある?呪いの同人誌って?」
「ああ・・・噂に聞いたことはある・・・まさか・・・」
斑目は恵子の方を一瞥した。
咲はポツリポツリと恵子がこういう状況に至るまでの状況を話しはじめた。
260オギング(呪いの同人誌)12:2008/04/25(金) 21:43:52 ID:???
(噂には聞いていたが・・・ホントに呪いがあるとはなあ・・・)
咲の話を一通り聞いた斑目は信じられない気持ちで頭をふった。
「都市伝説じゃなかったんだな・・・」
ポツリと呟く斑目。
「で?俺・・・どうすればいい?」
咲は考えこむように少し顔を傾け、その後、呟いた。
「なにか呪いを解く方法ってないかと思ってさ・・・」
「いや・・・わかんない・・・」
斑目は咲の顔を一瞥した。
咲は昨日一晩、寝てないらしくだいぶ顔がやつれていた。
「あ・・・いや・・・でも、完全に方法はないとは思えないし・・・
いろいろ調べてみれば何かわかるかもしれない・・・」
斑目は咲を元気付けようとして言った。
「ありがと・・・」
突然、咲ははーっと大きなため息を吐き、声を絞り出すように呟いた。
「笹原にはこのこと暫く秘密にしといてほしいんだ・・・」
恵子を預かっている身として責任を感じているのだろう。
「ああいいよ。でもいつまでもという訳にはいかないだろうね。」
(春日部さんはしっかり者で気が強そうだけど、意外と脆くて弱いところがあるんだよな・・・
火事の時もそうだった・・・そこがまたいいんだけど・・・)とは斑目の心の声。
(できたら笹原には早く話しておいた方がいいんだろうが・・・まあ自分のことじゃないから
冷静にそう考えられるんだろうけど・・・)
「・・・わかってる。何とか呪いを解く方法がわかれば・・・それにこしたことはないんだけれどね・・・」
そしてはぁとため息をついて続けた。
「あたしも見ちゃったんだよ・・・呪いの同人誌・・・あたしも1週間後には恵子みたいになってるんだ・・・」
261オギング(呪いの同人誌)13:2008/04/25(金) 21:44:29 ID:???
咲は斑目に呪いの同人誌のコピーを渡した。
「とにかく同人誌読んでみなきゃ呪いの原因も呪いをとく方法もわかんないじゃない。」
そういって斑目は咲に呪いの同人誌を見せてくれるように頼んだ。
最初は咲も斑目の身を案じて反対していたが、斑目が珍しく強く押す勢いに負けて
コピーを斑目に渡すことにした。
原本でなくコピーを渡したのは原本は恵子が友達から借りてきたものだし
読んだとしてもコピーだったら呪いがかからないのではないかとの考えからだった。
「ごめんね。こんなこと頼んじゃって。」
「いや。全然、問題ないよ。」
「でも、仕事大変なんじゃない?」
「あー。」
斑目はコピーを鞄に入れる手を止めて暫く宙を見ていたが決心して話した。
「その心配ないから・・・俺、会社辞めちゃったし。」
「えっ。」
一瞬、固まる咲。
「だから時間は有り余るほどあるんだ。」
「・・・聞いてないよ。」
「話してないからな・・・まあ大学出てから会う機会もなかったしな。」
「・・・別の意味で心配だよ。」
「はは・・・大丈夫だから。それじゃあ。また。」
262オギング(呪いの同人誌)14:2008/04/25(金) 21:45:07 ID:???
斑目はコピーを鞄の中にしまい、玄関までいく途中で、何か躊躇するように咲の方を振り向いた。
「あの・・・」
「なに?」
斑目は『高坂とはどうなってるの?』と聞きたかったのだが、声が出ない。
あわあわと暫く口をパクパクさせてようやく次の言葉を搾り出すように外に出した。
「なんで・・・春日部さん、俺に相談したの?」
「あ・・ああ・・・こういうこと一番詳しいのは斑目だろうと思って・・・
最初、大野に連絡したんだけど連絡がつかなかったんだよ。」
(そうだよな)と斑目は思った。
「高坂には相談しないの?」
「・・・高坂は忙しいしね・・・」
少しうつむきながら咲は答えた。
本音は高坂には迷惑をかけたくない・・・この事件に巻き込みたくないと咲は思っている。
高坂に相談すれば呪いの同人誌を高坂も読むだろう。そうなれば高坂も呪われることになる。
逆に考えれば斑目は呪われてもいいのかということになるのだが・・・
憂い顔でうつむく咲を見て何か慰めの声をかけようと、またあわあわと口を動かす斑目。
ようやく口をついて出た言葉は斑目も予想していない言葉だった。
「高坂とはいつ結婚すんの?」
「え?」
突然の質問に鳩が豆鉄砲食らったような顔をする咲。
「いや・・・まだ何も決めてないけどさ・・・何?その突然の質問?」
「あ・・・いや・・・ははは・・・なんでもないんだ。それじゃ。」
それだけ言うと斑目は慌てて部屋を出て行った。
263オギング(呪いの同人誌)15:2008/04/25(金) 21:46:39 ID:???
斑目に相談した翌日。咲が同人誌を見てから2日目。
ようやく大野と連絡がとれ、大野が咲のマンションにやってきた。
しかし、大野も呪いの同人誌の存在は噂に聞いたことがあるものの詳しい情報は持ってなかった。
「恵子が友達から借りてきたっていってたんだけど、誰から借りてきたか大野知ってる?」
咲が聞いてみるが、大野も知らないという。
友達に返そうにも恵子がこの状態なのでどうにも手がうてない。
もし恵子に本を貸した友達がわかれば、そこから何かわかるかもしれなかったが・・・

そんなこんなで2人で対策のようなものを考えながら、恵子の様子を観察していた。
恵子は相変わらず、少女のイラストと男同士のからみのBLややおいなど、訳のわからぬSSを描いている。
「凄い・・・」
大野は恵子の書いていたものが壷にはまったらしく興奮して読んでいる。
(人の気も知らないで)
そんな大野の予想通りの反応を咲は冷ややかな目で見ている。
(だけど恵子のこの状態をきちんと分析しないと・・・)
咲も恵子の書いたものを見始めた。
264オギング(呪いの同人誌)16:2008/04/25(金) 21:47:17 ID:???
どうやら恵子の描くものはイラスト・SS・まんがに分けられる。
BLややおいは有名なアニメかマンガのキャラクター同士のこともあるが、
斑目×笹原のようにげんしけんの人間同士というものもかなりあった。
そしてその中にはBL・やおいでなくきちんとしたストーリーのSSやまんがもある。
そのストーリーはとても恵子が書いたと思えないほど凝った話であった。
イラストはBL・やおいの他、全体の1/3を中学生の少女のイラストが占めている。
この中学生の少女の絵はお世辞にもうまいとはいえないが、目が大きく可愛らしい少女であることはわかった。
眼鏡をかけたりかけなかったり、服装などバリエーションが細部で違っているが、全部同一人物らしい。
(なんなんだろうな・・・この娘は・・・)
咲と大野は少女のイラストを見ながら首をひねった。
恵子はまた、ある程度、疲れがたまってくると眠るし、腹が減れば何か食べるしトイレにも自分でいく。
しかし、筆記具を取り上げると必要最小限のこともしなくなり、まるで廃人のように
ボーっと空中をみつめるだけになる。
ほおっておいたら確実に衰弱死するだろう。
これでは筆記具を渡して好きなだけ描きたいものを描かせてやるより他に仕方が無い。
265オギング(呪いの同人誌)17:2008/04/25(金) 21:48:27 ID:???
「ところで咲さん。」
大野は好奇心丸出しの顔で咲に話した。
「呪いの同人誌って・・・どこにあるんですか?」
「おまえには見せないよ。」
「えーケチ!!」
「いや・・・ケチとかそんなんじゃなく・・・おまえにみせたら多分、全部読んじゃうだろ?」
「ちょっとだけでいいですから・・・」
「呪われちまうよ。お前が呪われたら私が田中に呪われるよ。」
ぶーっと不機嫌そうな大野をなだめる咲。
大野も自分のルートでできる限り調べてみるといってマンションを後にする。

咲は大野が帰った後、今後のことを考えた。
(もし、このまま呪いを解く方法がわからなくて、私も恵子みたくなっちゃったら・・・)
それは咲にとって想像するだに恐ろしいことであった。
まず、せっかく苦労してようやく軌道に乗りかけている洋服屋の経営は駄目になる。
もし、後で呪いが解けたとしてもどんな理由にせよ一度、経営に失敗したとなれば業界における
咲の信用は失墜し、経営再開は最初の時に比べ遥かに苦労がかかるだろう。
次に高坂との恋愛もあきらめなくてはいけなくなるかもしれない。
よしんば高坂自身が咲のことをあきらめないとしても両親・親戚が今後のことを考えて
咲との恋愛をあきらめさせる方向に誘導するはずだ・・・
咲の頭に天使のような笑顔で両手をあわせて
(ごめんよ 咲ちゃん 僕、もっと普通の人がいいんだ)と謝る高坂の姿が浮かんできた。
「いやだああああああぁぁぁぁ。」
咲の魂の叫びであった。
せっかくうまく予定通りいっていた咲の人生計画が、こんなわけのわからない呪いなんかのせいで
ガタガタに崩壊していくことに咲は運命の理不尽さを感じずにいられなかった。
(ダメだ。ダメだ。悪いことばかり考えちゃ!まだ呪われたわけじゃないんだ。必ずなんとかなるっ!
そう信じてできる限りの手を打たないと・・・)
そう考え咲はネガティブな想像をふるふると頭を振って振り払った。
266オギング(呪いの同人誌)18:2008/04/25(金) 21:48:56 ID:???
咲が同人誌を見てから3日目
恵子が夜も昼もほとんど休むことなく描き続けるためノートが足りなくなってきたので
咲はノートと必要なものを買いに行こうと夕食を食べた後、出かけていった。
咲が一連の品物を買い終えマンションに帰りドアを開けようとすると鍵がかかっていないのに気づいた。
「誰?」
不審に思って中に入ると恵子が一心不乱にイラストを描いている横で恵子の描いたものを熱心に読んでいる
高坂がいた。
「こ・・・・高坂!!」
突然の来訪に咲は驚いた。
「あ。咲ちゃん」
高坂にはマンションの合鍵を渡してある。自由に出入りできるのだ。
「ちょっとだけ休みがとれたんで久しぶりに咲ちゃんに会いにきたんだ。」
高坂はいつものようにニコニコ笑っている。
「どうしたの?恵子ちゃん暫く見ないうちに完全におたくになっちゃって・・・目覚めたのかな?」
そういって高坂は笑顔で恵子の方を見る。
「・・・ああ・・・うん。」
咲はやつれた顔で返事をした。
267オギング(呪いの同人誌)19:2008/04/25(金) 21:49:26 ID:???
「今作ってるゲームは最高だよ。発売すれば爆発的にヒットするのは間違いない。」
高坂にしては珍しくエキサイトしているようだ。
「こんなゲームをつくるために僕はこのゲーム会社に就職したんだって今、思ってるほどなんだ。
暫く咲ちゃんと会えなかったけど、納期があと4〜5日後なんだ。それまでに完成させるから
その後、ちょっとだけ時間がとれるんだ。」
今までに見たことがないほど子供のようにはしゃぐ高坂を見て咲は何もいえなくなった。
そういって高坂は恵子の描いたイラストの紙を2〜3枚、手にとって続けた。
「恵子ちゃんの描いてるこのイラストの女の子、今度のゲームで使えそうだね。
それと幾つかSSを読んだんだけど、これとこれが使えそう・・・」
と言ってから高坂は気がついた。久しぶりに会うので喜ぶと思った咲が、元気がない。
高坂は自分のことを喋るのに夢中で咲の様子を気づかなかったことを反省した。
「具合でも悪いの?」
「ああ・・・うん・・・ちょっとだけね。大丈夫、すぐ治るから。」
そう応えた咲は高坂の横においてある同人誌に目を留めた。
『巻田君総受化計画』
咲は驚いた。
「高坂・・・もしかして それ・・・見たの?」
「ああ・・・うん。見たよ。こういうBLものも次のゲームの企画としてはいいかもと・・・あれ?咲ちゃん。」
咲は気が遠くなるのを覚えた。
268マロン名無しさん:2008/04/25(金) 21:58:34 ID:???
今回はここまでにします。
わかる人はわかると思いますが、『夏風萌の店』という短編は本来、この話の中に
いれようとしていれられず、独立してつくった話です。
前作との間にかな〜り間が空きましたが、すっかりニ○厨になってしまい、なかなか書く時間が
とれなかったのが原因ですw

・・・お粗末さまでした・・・では また。
269マロン名無しさん:2008/04/26(土) 02:27:38 ID:???
>>268
おもしろうござんした。続きが気になる!つうか読んでる俺たちも呪われる予感!

「……にじゅっちゅう?」
って素で思った俺は脳味噌が硬化してるw
270笹原さんは編集長:2008/04/26(土) 19:23:29 ID:MCb/hsnv
一人の女性が笹原編集長に原稿を持ち込んでいた
「ラブコメ物で、わりと自信作なんです」
「ラブコメ・・・」
笹原は眉をひそめた
「ラブコメかぁ」
横で聞いていた春日部さんがため息をついた
「ラブコメねー」
笹原の後ろに立っていた朽木君が否定的にうなずいている
「ラブコメじゃ・・・・・」
同じく後ろにいた田中さんが首を振っている
「ダメなんだ!ラブコメじゃダメんだ!!」
微妙な雰囲気に困惑しいる女性に笹原はダメ出しを始めた
「幼馴染み!委員長!すぐこーゆーむつかしいラブコメ用語がでてくる。ほらほらほらほら」
原稿を指さしながら次々に指摘していく笹原
「なんなのこの転校生とかつーのはなんなの」
「いや、だから学園で・・・」
「ほら学園!ほらスポーツ部!」
女性が説明しようとすると笹原をはじめ編集部員全員がダメ出しした
「子供がついて行けないんだよ!仲間うけなんだよ!」
一通りダメ出しをした後、笹原は静かに告げた
「ヤオイを描きなさい!」
「い、いやだ!あんな男の裸のかたまり描くくらいなら漫画やめる」
「まァまァ。やってるうちに気持ちよくなるんだから」
当然のように拒否して逃げ出そうとする女性を羽交い締めにして笹原は引き留めようとする
そして女性は朽木くんに隣の部屋に引きずり込まれていった
「洗脳しろ」
「た、たすけてー」
女性の断末魔が編集室に響き渡り消えた・・・
271笹原さんは編集長:2008/04/26(土) 19:25:02 ID:MCb/hsnv

「編集長、於木野先生がきたよ」
田中さんが笹原に告げる
笹原が振り返ると於木野は本棚を漁っていた
「BL、BLはどこだ。こんなとこにかくしやがって」
「てめ、アイデア出たのかよ」
「寝ないで自分の過去作品読んだのに何もでなかった。もうだめだ」
「腐女子が・・・」
笹原がアイデアを提案する
「腐女子が美少年と美青年が肩を組んでいるところを目撃したらどうすると思うね?」
「そりゃ当然、妄想ワープ120%でしょ」
BL本を抱えて於木野が答える
「帰ってすぐその妄想を漫画にすだ!わ、ちょっとまて!わーーーーー」
本を抱えた於木野が編集室を飛び出していった
「編集長、藪崎さんが病院を脱走してきたみたいよ」
春日部さんが窓を指さすとブラインドを押し上げて藪崎さんが部屋に入ってきた
「ダ作だ〜私が描いた作品以外はみんなダ作だ。私は痩身しゅじゅちゅしたんだ!うをーーー」
本棚に並ぶ本を片っ端から破り捨てる藪崎さんを笹原が必死に止めていた
その争乱の中静かに洗脳部屋の扉が開き、朽木くんに引きずり込まれた女性が出てきた
272笹原さんは編集長:2008/04/26(土) 19:25:47 ID:MCb/hsnv
笹原を指さし不適に笑う
「ハハー、ご都合主義」
次に落ちているヤオイ本を取り上げる
「ハハー、ヤオイあな」
「洗脳失敗だ。マニアになってしまったじゃないか」
笹原はため息をついて朽木くんと田中さんに医務室の久我山さんの所に連れて行くように指示した
医務室に行くとあどけない顔の少女が暴れていた
「やめてー、マニアだって人間なのよ!」
久我山さんは意に介せず一本の注射を少女に打ち込む
その注射器には純粋腐女子菌と書かれていた
その光景を目の当たりにみた女性は朽木くんと田中さんを振り払って笹原にすがりついて訴えた
「私おじいちゃんおばあちゃんにも好かれる健全なヤオイの本道をゆきたいと思います」
「わかってくれたか。よし、原作者付きだ」
編集室に戻った笹原はソファに座っていた大野さんに声をかける
「大野さん、ひとつこの若者を仕込んでやってよ」
「ませてください。編集長」
立ち上がった大野さんは女性に向かって語りかける
「リアリズムですよ、あなた。体験の重みです。わたしはこう見えてもヤオイ五段、BL二段でショタのほうも少しやってます」
大野さんの言葉に熱がこもってくる
「根底に流れるひゅーまにずむ!描くのではないんです。ヤオイをするんです」
大野さんは懐からびっしりと字で埋まった原稿用紙を取り出し女性に差し出す
「原作をうけとりなさい」
原稿を受け取った女性の中でなにかが切れた
「フハハハハハハハハハ・・・・」
笑いながらフラフラと窓に近づいた女性はそのまま外に飛び出してしまった
歩道に横たわった女性が最後に聞いたのは、無人の街を吹き流れる風の音だった
273マロン名無しさん:2008/04/27(日) 05:28:32 ID:???
>>234といい今回といいなぜ今さら吾妻なんだw
俺のハートを撃ち抜きおって。GJ!
274マロン名無しさん:2008/04/28(月) 22:46:59 ID:???
呪われた恵子はどうなるのか?本を読んでしまった咲・高坂、そして斑目の運命は?

・・・というわけで、オギング(呪いの同人誌)続き投下しま〜す。
275オギング(呪いの同人誌)20:2008/04/28(月) 22:48:07 ID:???
咲が呪いの同人誌を見てから4日目
夕方、斑目は家の近くの公園でコンビニ弁当を食べ、茶を飲んでいた。
斑目は思いつく限りの手段で呪いの同人誌について調べてみた。
当然、当の『巻田君総受化計画』は細かいところまで何度も見てみたが、
これといって手がかりのようなものは見つからなかった。
ネットでもいろいろと調べてみたが、よくわからない。
久我山・高柳・田中にも携帯で問い合わせてみた。
みな「調べてみる」といってくれたが返事はまだ返ってこない。
調査が行き詰ってきたので、雰囲気を変えることで何か他にいいアイディアが思い出せないかと思い
斑目は外に出て近くの公園で夕飯を食っていたのである。
しかし、これといった方法が思いつかない。
「はあ・・・」
斑目は空を見上げてため息をついた。
「これからどうしようかな・・・」
と、斑目の背中に人の気配がした。誰?と思って振り返ってみると
「わわっ」
斑目は驚きのあまり声を上げた。
276オギング(呪いの同人誌)21:2008/04/28(月) 22:49:32 ID:Z+dvIRcP
「やあ。久しぶり。」
そこには初代会長が立っていた。
「ど・どうしたんですか?こんなところに?」
「呪いの同人誌に関して調べてるそうじゃないか。」
「な・・・なんで知ってるんですか?そんなこと。」
「斑目くんがいろいろと調べてるっていう情報がボクのところに入ってきたんだよ。」
(え・・・でも誰も初代会長の連絡先って知らないんじゃなかったっけ?)
頭の中が?マークだらけになる斑目に対して初代会長が続けた。
「呪いの同人誌のことについてボクの知り合いの関係者が同人誌の作者と同じ中学校の卒業生という
娘を知っていてね・・・」
「え?」
「どうやら その同人誌に描かれているイラストは実在の人物をモデルにしたものらしいってことも聞いたよ。
その娘はそれ以上、詳しいことは知らないんだが、その町の中学生の女の子が中学時代に同人誌を描いたことは
間違いないそうだ。そこに行って調べてみれば何かわかるかもしれないよ・・・
その町の場所と中学校の名前はね・・・」
277オギング(呪いの同人誌)22:2008/04/28(月) 22:51:17 ID:???
「はい もしもし」
咲が携帯の電話が鳴ったので取ると斑目だった。
「あ 斑目。」
「役に立つかどうかわからないけど・・・情報が1つ入ってきたよ。」
「何?」
斑目は初代会長がさっき言ったことを咲に伝えた。
「で・・・その情報って、どんだけ正しいの?」
「・・・いや・・・わからない・・・つうか呪いの同人誌のことを俺が調べてるって情報も
どこから手に入れたかよくわからない。初代会長によると人伝手に話が耳に入ったってことなんだけど・・・」
少し間をおいて斑目はポツリと言った。
「初代会長が作者だったりしてな・・・」
「それ、ありうるかも。」
咲は深刻な顔で返事した。
「まあ、いいや。その情報が正しいかどうか、こちらで調べりゃいい話だ。」
「調べるってどうやって?」
「考えがある。」
278オギング(呪いの同人誌)23:2008/04/28(月) 22:51:56 ID:???
春日部さんが呪いの同人誌を見てから5日目の朝。
咲はくだんの中学校に電話した。
「はい。XX中学校ですが・・・」
「春日部咲と申します。申し訳ありませんが、少し調べていることがありまして・・・」
「なんでしょう?」
「そちらの卒業生で巻田という方はいらっしゃらないでしょうか?」
「あの・・・どういうことでしょうか?」
「こちらにとって大変、重要なことなんです。詳細を話すと長くなりますが・・・」
「・・・少しお待ちください・・・」
電話がおかれ暫く話合う声が聞えた。人が変わり年配の男が電話に出る。
「重要なこととはなんでしょうか?」
「いえ 詳細は電話で話すと長くなるので・・・ただ、本当に巻田という生徒がそちらの卒業生の中に
いるのかどうか確認したいだけなんです。」
「・・・巻田という生徒はいることはいましたが・・・」
どうも奥歯に物の挟まったような言い方だ。
「巻田という生徒はいたんですね?」
「はい・・・で、どういう用事なんですか?」
「『巻田君総受化計画』というのはご存知ですか?」
「・・・」
突然、電話の向こうの態度が硬化した。
279オギング(呪いの同人誌)24:2008/04/28(月) 22:52:29 ID:???
「そ・・・それは・・・」
「ご存知なんですね?」
「・・・」
「詳しい話は電話では無理のようですね。」
咲はそういうと電車のこととか出発する前の段取りとかを頭の中でさっと計算した。
「1度、そちらにお伺いして詳しい話を聞きたいのですが・・・よろしいでしょうか?」
「・・・ああ・・・はい・・・でも・・・それはちょっと・・・」
「本当に大変、重要なことで一刻を争いますので・・・できれば明日の午前中にお伺いさせて
いただきたいのですが・・・」
「うーん・・・」
「お時間はとらせません」
「ちょっと待ってください」
受話器の向こうで周りの人間と相談する様子が伺えた。
(いきなりの電話で戸惑っているのは仕方ない)
咲は、もし断られても強引に出向くつもりであった。
咲にとって相手の返事を待つのは長い時間に感じられたが、ほんの2〜3分程度の間だったのだろう
「たいしたことも話せませんが・・・それでよろしければ・・・」との返事が返ってきた。
「それでは、よろしくお願いします。」
そういって咲は電話を切った。
280オギング(呪いの同人誌)25:2008/04/28(月) 22:53:12 ID:???
ふうっ。と咲は息を吐き、斑目に電話した。
「初代会長の情報は正しかったよ。」
そういって咲はくだんの中学校に電話したこと、向こうの反応などを斑目に話した。
「そうか。これをきっかけに何とかなるといいね。」
「・・・それで、今日、これから用事を片付けて出かけるんだけど・・・」
「うん。」
「斑目も一緒にきてほしいんだ。」
「え・・・お・・・俺も一緒に行くの?」
「お願い。一人だと不安だし、二人の方が何かと都合がいいのよ。
特に”おたく”関係の情報に詳しい人がいると心強いわけ。そうなると頼めるの斑目しか
思い当たらないしさあ。お金が無いんだったらあたしが代わりに出してあげるから。」
「お・・・大野さんがいるじゃないか・・・・」
斑目は心臓の鼓動を抑えながら搾り出すように言った。
「私もできたら大野にきてほしいんだけど・・・」
しかし、大野には恵子のことを頼まないといけない。
「こ・・・高坂は?」
281オギング(呪いの同人誌)26:2008/04/28(月) 22:54:38 ID:???
高坂は今、とっても大事な時だ。あのはしゃぎぶり、喜びようを見たら大好きな人の仕事の邪魔はできない。
一般人の友達で頼めば来てくれそうな人は何人かいるが、おたく関係の話に詳しく時間が十分にとれる
(失業中だからだが)咲の知り合いは結局、斑目以外にいなかった。
(か・・・春日部さんと二人で東北旅行・・・)
しかも向こうからのお願いである。夢ではないのかと頬をつねりながらもOKした。
「お金は自分で出すよ。」
「無理してない?」
「大丈夫だよ。それくらいの蓄えはある。」
「来る時はきちんとした服装できてね。向こうに与える印象も重要なんだから。」
「ああ・・・わかってる。アキバ専用服でいくよ。」
「・・・なんか物凄く不安なんだけど。」咲の顔に縦線が入った。
その後、泊る宿の手配や旅行の計画など、斑目と細かいことを打ち合わせた。
恵子は咲が大野に帰ってくるまで預かってもらうように頼むことにした。
282オギング(呪いの同人誌)27:2008/04/28(月) 22:55:06 ID:???
咲は大野に電話する。
「斑目と二人で行ってくるからさあ、恵子のこと頼むよ。」
「はいはい。わかりました。行ってらっしゃ・・・え?・・・あの・・・ちょっと・・・
斑目さんと?咲さんが?・・・二人で・・・ええっ!!(突然 大声で)」
「おいおい変な誤解するなよ。別に何っっっにもないからな。あたしは高坂一筋だから」
「・・・・は、はい・・・で・・・でも・・・独身の男女二人で旅行するということは・・・
もし・・・何か・・・間違いが起きたら・・・」
「斑目は何にもしないよ。なにもできねーだろ。あいつ。」
「ええ・・・はい・・・そうですね・・・いや・・・万が一ということが・・・・」
「あいつがもし寝込みを襲う勇気があったらグーパンチでなぐってやる。」
「そうですね・・・ええ・・・そうですとも・・・咲さん・・・ええと・・・それじゃ・・・あのぉ・・・
がんばっていってきてくださいというか・・・きをつけていってきてくださいというか・・・」
「何だよ。気になる言い方」
(咲さん・・・もしかしたらと思っていたけど・・・やっぱ全然、気づいていない・・・)
咲が?マークをつけながら電話を切った後、大野は旅先で起こるであろう出来事を想像(妄想?)し、顔を赤らめた。
大野が考えていたことを咲は知らない。
283オギング(呪いの同人誌)28:2008/04/28(月) 22:56:23 ID:???
諸々の用事を済ませると、出発は昼過ぎになり、泊る宿につくのは夜になる。
咲が予定通り駅につくと、そこには既に準備を整え、”アキバ専用服”に身を包んだ斑目が
手軽なカバンを持って待っていた。
「早いね。待った?」と咲。
「い、いや全然・・・さ・・・さっきついたばかりだ・・・」と何に焦っているのか
少しどもりながら答える斑目。
咲は斑目の服装をちら見し
「普通のスーツにネクタイが良かったな」と頭をかきながらポツリと言った。
その後、二人は横に並んで立ち、お互いに話しかけないまま無言の時が過ぎた。
咲は定まらぬ視線であらぬ方向を見つめ、真剣に何かを考えている。
(言葉・・・かけづらいな)
斑目は違う方向に視線を泳がせながらチラチラと咲の様子を伺っていた。
やがて列車が来ると二人は無言のまま列車に乗った。
284オギング(呪いの同人誌)29:2008/04/28(月) 22:57:23 ID:???
「春日部さん・・・」
春日部咲・斑目晴信 2人の努力にも関わらず、結局、呪いの正体は突き止められず、
解決法も見つからなかった・・・
途方にくれた二人はただ沈み行く夕陽を眺めながら荒野に二人並んで座っている。
そんな時、斑目が突然、咲に声をかけたのだ。
突然のことにびくっとなる咲。
「言うべきか言わないでおくべきかずっと悩んでいたけど・・・やっぱ咲さんが・・・
意識を失ってしまう前に・・・僕の気持ちを知っておいてほしいから言うことにするっ!!」
そういうと斑目は意を決した表情をして目を瞑って遠くに叫ぶように声を出した。
「僕・・・心の底からずっと咲さんのことが好きでしたっ!!」
「待て」と咲が静止しようとしたが、時 既に遅かった。
斑目はぜえっぜえっと荒い息を吐きながら咲を見つめそっと肩を抱く
咲は少し抗いつつ顔をそむける。
「と・・・突然、そんなこと言われても・・・」
咲の顔は真っ赤だ。
「私には高坂がいるし・・・」
「関係ないっ!」
斑目は咲の肩をギュっと抱きしめて喚く
「この気持ち、どうしても抑えきれないんだっ!!」
突然の告白に呆然としながら咲はもう抵抗する意思も気力もなく斑目に身を任せてしまう。
二人は二匹のけだものとなり、お互いの身体を愛撫しつつ服を脱いでいった。
理性は完全にはじけとび本能の赴くままに身を任せていた。
(高坂ごめん・・・)
咲の脳裏に愛する人の笑顔が突然、現れたが、咲はそう一言謝るのが精一杯だった。
285オギング(呪いの同人誌)30:2008/04/28(月) 22:59:41 ID:???
(・・・などという展開になるのかしら?)
大野の部屋 
咲と斑目がどうなるかやきもきしながら妄想し、身悶えしている大野加奈子の姿があった。
横には「オギー オギー」とうなりながら恵子がやおいやBLのイラストを描いている。

二人は電車で真向かいの席に座っている。目的地に着くのはまだだいぶ先の話だ。
斑目は窓外の景色を見ながら、ちらちらと咲の様子を伺う。咲はかなり深刻に悩んでいるようだ。
いかん。なんとか元気付けなければ・・・そう思った斑目は勇気を振り絞って声をかけた。
「そ・・・そんなに悩まなくていいんじゃないかな?きっと、なんとかなると思うよ。」
咲は睡眠不足らしく真っ赤になった目を斑目の方に向けながら呟くように言葉を出した。
「一昨日、高坂がうちに来てさあ・・・」
びくっと斑目の肩が震えた。
「高坂も見ちゃったんだよお。『巻田君総受化計画』」
咲は頭に手をやり、次に顔を手で覆い隠す。
「こ・・・高坂には伝えたの?それが呪いの同人誌だってこと?」
咲は首を振って
「高坂、心配させたくないから何も言ってないんだ・・・このままだったら高坂も呪われちゃうんだよ。」
(俺も見てんだぞ。『巻田君総受化計画』。コピーだけど・・・俺の心配はしないのか?)
ちょっと斑目はむっとした。
「で、高坂はどうした?」
「すぐに仕事に戻ったよ。ほんのちょっと時間ができたからあたしに会いにきたっていってた。
今、大事な追い込み作業中で後、4〜5日したら一区切りつくからそうしたら2〜3日ゆっくりできるそうだよ。」
「春日部さんの様子見て、おかしいって気づかなかったのか?」
「私が気づかないようにしたんだよ。高坂はいつもと違うっていったけど、仕事で疲れてるってことにした・・・」
286オギング(呪いの同人誌)31:2008/04/28(月) 23:00:36 ID:???
少し間をおいて咲は続けた。
「でも高坂が休みを取った時には私は恵子みたいになってるかもしれないんだよね・・・」
そして顔に苦悩の色を醸し出しながら言うのだった。
「そうなりゃ店もこのまま永遠に休業するしかなくなるし・・・まだらめえ・・・
あたしどうしたらいいかわかんないよ。」
斑目は少し躊躇しながらぎこちなく答えた。
「・・・笑えばいいと思うよ。」
「はあ?」
おまえなにいってんの?という顔で咲は斑目をみつめる。
斑目は汗を浮かべながら思った。
(いかん・・・はずした)
咲は横を向いて小さな声で言った。
「斑目は真剣に私の悩み聞いてないんだ・・・」
斑目は慌てて言った。
「そ・・・そんなことないですよ。真剣でないなら一緒にこんなところまできてないですし・・・」
手をバタバタ振りまわし、焦って弁解する斑目の様子がおかしかったのか咲はぷっと笑った。
「ありがとう・・・少しだけ元気が出たよ。」
ようやくわずかながら笑顔が戻った咲に斑目も少し元気を取り戻した。

宿についたのは夜中であった。部屋は当然、二人別々だ。
疲れていたのでその日はさっさと風呂に入り、話すことも無くすぐに寝た。
287オギング(呪いの同人誌)32:2008/04/28(月) 23:01:37 ID:???
咲が同人誌を見てから6日目。
二人は中学校に行く。中学校は二人が泊っているところから電車で15分ほどかかる。
中学校では年配の頭の禿げた先生が応対に出た。小林と自己紹介された。
それぞれ初対面の挨拶を済ませた後、斑目と咲は職員室の一角にある来客用のスペースに案内され、
そこの革張りの長椅子に座った。部屋ではなく壁が無いオープンなスペースで職員室の周り中が見まわせる。
冷たいお茶が運ばれて二人の前に置かれた。
「さっそくですが、巻田くんのことでお伺いしたいことがあります。」
そういって咲は斑目が持ってきた『巻田君総受化計画』を見せると小林先生の顔色が変わった。
そしてちらっと咲の左後ろ側に目を配るのを咲は見逃さなかった。
「この本はどこで手に入れたんですか?」
「私は洋服店を経営してまして・・・そこでバイトで雇っている知り合いの娘から
手に入れたものです。」
そして一息いれて話をした。
「信じられないかもしれませんが、この本を読んだ人間は呪われるのです。」
まさかという顔を小林先生はした。
「本当なんです。バイトの娘が今、それで大変なことになっています。
私達はその呪いを解く方法をいろいろ調べている最中なんです。ですから、この本のことについて、
包み隠さず喋ってほしいのです。」
咲の小林先生を見る真剣な眼差しが本物であるとわかったのだろう。
暫く視線を左右に動かし躊躇していたが
「・・・さて、どこからお話したらいいか。」
と言い、少し間をおいてから続けた。
「あまり、当校にとって評判のよろしくない話ですし、関係者のこともありますので内密に願いたいのですが・・・」
288オギング(呪いの同人誌)33:2008/04/28(月) 23:02:22 ID:???
7年前の話。

荻上千佳という女生徒が当校にいた。もともと絵が好きでイラストなどをよく描いていた。
『巻田君総受化計画』はその子が同級生の巻田という実在の生徒をモデルにして描いたイラスト集なのだという。
最初、『巻田君総受化計画』は荻上千佳の親しい女友達の間に配られていたのだが、
なぜか荻上が知らない間に巻田君がどこからか手に入れ、巻田君はショックで不登校となり
他の中学校に転校していった・・・という。

先生の話はあらまし以上のようなものだった。
「その時の担任がわたすでした。」
先生は茶をずーっと啜りながら話終えた。
「荻上千佳さんは今、どこに?」
「・・・それが・・・」
言葉を濁す。
「7年前に巻田君が転校して、すぐ後に行方不明になってしまって・・・今も行方がわかりません。」
そういうと、先生はまた咲の左後ろの方にちらっと目をやった。
「そして、その荻上が行方不明になった後・・・職員室に厳重に保管していたその本も
どこかに消えてしまったのです。」
「誰かが持ち出したと?」
「そうなんでしょうが・・・・推測でしかわかりません・・・まぁ」
小林先生は茶をすすりながら話を続ける。
289オギング(呪いの同人誌)34:2008/04/28(月) 23:03:10 ID:???
「本が何冊、印刷されて配られたものか本当のところはわかりませんから、持ってきてもらった、その本が
職員室に保管してあったものか荻上が友達に配ったものの1冊かどうかわかりません。」
暫く沈黙が続いた。
「荻上千佳さんの住所を教えていただけないでしょうか。」
「う〜ん。行っても何もわからないと思いますよ。」
またちらと目をやる。
「とにかく調べてみないことには。」
「う〜ん・・・今は個人情報の扱いが・・・」
暫く腕組みをして考えていた小林先生だったが、すっと席を立って職員室を出て行った。
そして10分後に職員室に戻ってきた時、他の先生方と二言三言、小声で言葉を交わして席に戻った。
「これが荻上千佳の家の住所と電話番号です・・・荻上の家には私から一言、連絡をいれておきました。
母親が在宅されていますから、今からなら少しだけなら時間がとれるそうです・・・
できたらわたすも一緒に行くべきなんでしょうが・・・急なことで時間がとれませんもので・・・
くれぐれも内密に願います。」
そういうと1枚の紙片を渡した。
「本当にありがとうございます。お手数をおかけして申し訳ありませんでした。
また何かあったらお願いします。」
咲は丁寧に頭を下げる。直角に90度だ。斑目も咲に合わせて頭を下げるが角度が10度程度。
そして、咲は「失礼します。」といって部屋の先生方に丁寧に頭を下げながら職員室を出た。
290オギング(呪いの同人誌)35:2008/04/28(月) 23:04:05 ID:???
「ふう。」
学校を出ると休み時間なのだろうか、生徒が何人か校庭で遊んでいる。
すると咲はそのうちの一人に狙いを定めてつかつかと歩み寄る。
斑目は呆然と突っ立っている。
「ちょっと聞きたいんだけど。」
生徒の1人に声をかける。咲は満面の笑顔。
「何?」
急に見知らぬ若い姉さんに声をかけられどぎまぎしながら生徒は応えた。
「この学校に若い女の国語の先生いるよね?ちょうど、私くらいの歳のお姉さん。名前なんてったっけ?」
「若い国語の先生っつったら・・・藤本先生だよな。」
横にいる生徒が答えた。
「そんなこと聞いて何するつもりだ?」
「おねえさん何に見える?」
生徒同士顔をみあわせるが、顔には「わからない」と書いてある。
「保険の勧誘なんだ。知り合いの伝手でこの学校の先生紹介されてきたんだけどさぁ。
おねえさん間抜けだから名前すっかり忘れちゃって・・・」
てへっという感じで
「藤本先生の家はこの近くかなぁ?」
「うん。学校から近いよ。この道をまっすぐ200mぐらいいって、角を右にまがったところ。」
「ありがとー。学校まできたけど、やっぱ仕事中はむずいよね?直接、家訪れることにするわ。
手間取らせてごめんねー。」
そういうと満面の笑顔で生徒に手を振る。生徒も恥ずかしげに頬を赤らめながら手を振り返した。
291オギング(呪いの同人誌)36:2008/04/28(月) 23:04:50 ID:???
「行こ。斑目。」
離れたところで取り残されて様子を見ていた斑目をうながし、生徒の教えてくれた道に向かう。
少し行ったところで斑目が咲に言う。
「何?どういうこと?」
「斑目。気づかなかった?職員室にいた間、あの先生がちらちらっと私の後ろの方、気にして見てたの。」
「へ?そんなことしてたのか?」
ふうっと咲は(相変わらず鈍いなあ)という感じで頭をふった。
「そう。私の背中越しに何かを気にしてたの。で、おそらく何か、この本に関わる何かが後ろにあると
思ったわけ。で、多分、教師・・・事件に関わった人間がいるんじゃないかと思ったのよ。
最後に帰るとき、私、嫌に丁寧に先生一人一人に挨拶してたでしょ?あれは、視線の方向にいた先生を
観察するためだったの。で、ちょうどその藤本先生
ーー机の上に置いてある本で国語の教師だとわかったんだけどねーー
が私の目をそらしてちゃんと見なかったんだ。態度もどぎまぎしておかしかった。
・・・あの先生・・・何か知ってるよ。絶対。」
「で、名前を確認するために生徒に聞いてきたってわけか。」
(さすが客商売やってるだけあって観察力はすごいな。俺には真似できねー)と斑目は思った。
292オギング(呪いの同人誌)37:2008/04/28(月) 23:05:26 ID:???
生徒の教えてくれた道は途中から田畑が広がったところを突っ切っており
荻上千佳の家に向かう途中にあった。道路を右に曲がり藤本先生の家の場所を確認してから荻上千佳の家に向かう。
荻上千佳の家はかなり遠い。
もう昼なのでコンビニで弁当を買い公園で食事した後、地元のタクシー会社に連絡し、
タクシーで向かうことにした。

斑目と咲は荻上千佳の実家にきて、仏壇の前で手を合わせていた。
仏前の荻上千佳の写真は分厚い眼鏡をかけた目がくりりと大きい下膨れの顔の少女であった。
(かわいいじゃん)と咲は思った。
(恵子が書いていたほとんどの少女の絵はこれだ・・・やっぱりそうだったんだな)
(上石神井連子に似てるな)とは斑目の感想。
荻上の家は旧家の面影を漂わすかなり広壮な邸宅である。
二人は手をあわせて拝んだ後、後ろにいる小柄で品の良い老齢の婦人に向き合った。千佳の母である。
293オギング(呪いの同人誌)38:2008/04/28(月) 23:05:58 ID:???
「で、荻上千佳さんの行方に心当たりはないんですか?」
「はあ。まったく検討もつきません。」
「そうですか・・・」
荻上の母は目を押さえながら話し始めた。
「こんなことになるんなら。あんなに叱るんではなかったです。
・・・千佳は絵を描くのが好きな優しい娘でした。とても、あんなものを描くとは考えもしなかったです。
巻田と千佳とは恋仲だったようです。巻田の事件があって、わたすらも向こうの
・・・巻田君の親御さんからきついいわれて平謝りに謝りました。
それでわたすも千佳をきつく叱りますた。
千佳はわんわん泣きながら『もうわだす。二度とこんなもの描かねえから許してくんろ。』
といって、それまで貯めていたマンガやイラストを全部、処分していました。
千佳が行方不明になったのはそれから数日後のことです。」
荻上の母はハンカチで涙を拭いながら話す。
「千佳の部屋は千佳がいつ帰ってきてもいいようにずっとそのままにしてあるんです。」
「その部屋を見せてもらえますか?」
荻上の母は暫く考えてから言った。
「わかりました。」
荻上の母は庭の一角に作られたログハウスのような建物に案内した。
294オギング(呪いの同人誌)39:2008/04/28(月) 23:06:39 ID:???
その部屋には学習机と小型のガラスの机・・その上には型の古いラジカセそしてベッドがおかれていた。
中を一通り見渡すが荻上千佳のイラストや作品のようなものはない。
あの事件があって全て処分してしまったのだから当然だろう。
斑目と咲はお互い顔を見合わせる。
「これ以上、ここにいても何か手がかりは得られそうに無いな。」
帰ろうと後ろを振り向いたら、突然、目の前に一人の男が立ちふさがった。
背が斑目より頭1つ分高い。まだ顔に幼さの残っている男だった。
「姉ちゃんの部屋で何やってる?」
「あ・・・真治・・・」
「母ちゃん。」
荻上の母は咲と斑目に男を紹介した。
「これは千佳の弟の真治です。」
「はじめまして春日部咲と申します。」
咲は丁寧に挨拶する。斑目が続く。「斑目晴信といいます。」
「あの、荻上さんの行方不明のことをちょっと調べていたんです。」
そして何故ここに来たかおおまかな説明をした。
荻上の弟は話を聞いて真剣な表情をしたまま暫く黙っていたが、意を決したように口を開くと
驚くべきことを言った。
「姉ちゃんははめられたんだ。」
「はめられた?」
斑目と咲は真治くんの顔を見つめた。
「こ・・・これめったなこというもんでねぇ。」
慌てる荻上の母。
「姉ちゃん。失くなる前に言ってた。文芸部の皆にはめられたって。」
「その話、詳しく、聞かせてもらおうか。」斑目が言う。
弟の話はこうだった。
295オギング(呪いの同人誌)40:2008/04/28(月) 23:07:11 ID:???
文芸部で巻田君を主人公にしたホモ小説が書かれて、そのイラストを荻上が頼まれた。
イラスト集は文芸部の仲間のうちで極秘に配られ、外部には出さない約束であったにも関わらず
イラストの部分だけが巻田くんに渡ってしまって、事件となった・・・
そのことから荻上は文芸部の誰かがわざと自分と巻田くんとの仲を裂くためにイラスト集を描かせ
巻田君にイラスト集をこっそりと渡したに違いないと弟には話していたそうだ。
しかも荻上が失踪する当日、荻上千佳は弟に「今日は決着をつけにいく」と一言喋ってから登校したという・・・

「文芸部に藤本って娘はいなかった?」と咲が聞く。
「いた・・・っつーか、その藤本って人がホモ小説を書いたって言ってた・・・なんでしってんだ?」
「今、中学の国語の先生やってる人だよね。下の名前わかる?」
「・・・そうだ・・・確か智恵子っていった。」
「あの・・・この話は近所の外聞もありますので・・・その・・・田舎ですし・・・」
おろおろする荻上の母。
「他に仲良くしてた女の名前はわかる?」
「リーダーの女の名前が・・・中島っていったそうだ・・・」
「中島か・・・その人の家とかわかる?」
「中島は中学卒業してから引越した。今、どこにいるかわかんね。文芸部の仲間なら知ってるかもしんね。」

斑目と咲は二人に丁寧に別れの挨拶をし、家を出た。
「・・・だんだん話が見えてきたな。ここで何があったか・・・」と斑目。
「うん・・・」と咲は返事を返す。
二人はタクシーを呼ぶと藤本先生の家に向かった。
296マロン名無しさん:2008/04/28(月) 23:22:54 ID:Z+dvIRcP
荻上の行方は今、どこに?果たしてどんな事件がここで起こったのか?
恵子の呪いは解けるのか? そして斑目と咲の関係に進展はあるのか?
待てっ!!次号!!

・・・というわけで今回はここまで次回をお楽しみに〜
297マロン名無しさん:2008/05/01(木) 00:50:30 ID:???
作者様、乙です!
咲のすぐれた洞察力が、なぜ斑目に対しては働かないのか!!
せっかくの二人旅を、じりじりしながら読んでおります。
続き、とても楽しみです!
298マロン名無しさん:2008/05/01(木) 19:48:16 ID:???
続き超楽しみ!!
299マロン名無しさん:2008/05/02(金) 17:49:42 ID:???
♪くる〜きっとくる〜きっとくる〜♪

呪いの同人誌っていうアイデア爆受けですw
謎解き展開が楽しみ!
300マロン名無しさん:2008/05/02(金) 21:25:59 ID:INl8fQf0
>>297〜299
過分の賞賛 ありがとうございます
もしかしたら 「なんだよっ!!荻上を○子にしやがって!」などという方も
いらっしゃるのではないかと思い ちょっと気にしておりましたが、
面白く読んでいただけているようで 安心しました。 ほっ 

もしかしたら期待を裏切ることになるかもしれないと懸念しつつ続きを投下していきたく思います。
301オギング(呪いの同人誌)41:2008/05/02(金) 21:28:28 ID:???
藤本先生の家についた時は既に日が沈みはじめていた。
藤本先生はとっくに学校は終えて帰宅している時間だ。
家は中くらいのつくりだろうか。玄関のチャイムを鳴らすと初老の男性の声が聞えた。
おそらく藤本の父だろう。
「どなたさまでしょうか?」
「春日部咲と申します。藤本先生はご在宅でしょうか?」
「ちょっと待ってください。」
暫く玄関で待っていると戸の向こうに人の気配がする。
ガチャっとドアが開くと藤本先生が顔を覗かせた。
顔が強張っている。
「どうしてここがわかったんですか?」
声には怒気が篭っている。
「藤本先生は荻上さんの同級生で同じ文芸部というサークルで活動してましたよね?」
「荻上の家で聞いてきたんですか?」
頑なな姿勢は変わりそうも無い。
「荻上さんが失踪したことについて・・・」
「何も話すことはありません。帰ってください。」
けんもほろろな対応に斑目も咲も困惑した。
302オギング(呪いの同人誌)42:2008/05/02(金) 21:29:10 ID:???
そこで斑目は手に持っていた『巻田君総受化計画』を見せながら
「『巻田君総受化計画』の元になったホモ小説書いたのあんただろ?」と質問した。
藤本の顔色が変わったのを咲は見逃さなかった。
「そんな小説なんか・・・知りません。」
慌てて藤本が答える。
「困ったなあ・・・」
斑目は髪をかきながら何気なく本の表紙を見ようとして本を裏返した。
そして裏表紙の井戸のイラストが藤本の目に飛び込む。
「!」
明らかに驚いた表情をする藤本。
「ああああ・・・・」
そう声にならない声をあげてぺたりと床に座り込んだ。
この変化に斑目と咲はお互いの顔を見合わせる。
「何?なんなの?この井戸のイラストに何か見覚えがあるの?」
だが藤本はぶるぶる震えるばかりで答えようとしない。
咲はあきらめ、質問を切り替えた。
「中島って知ってるでしょ?」
その時、藤本の顔が恐怖で強張った。耳をふさぎ、目を覆う。
何かにひどくおびえている様子が二人にはありありとわかった。
303オギング(呪いの同人誌)43:2008/05/02(金) 21:29:45 ID:???
その様子を見た咲は斑目の方を向き、あきらめたように呟いた。
「この様子じゃ今、何か聞き出すのは無理なようね。」
そして怯える藤本先生の肩を抱きしめ、耳元に口を近づけるとできる限り優しい声音で囁くように話した。
「あなたを責める気はないの。あの時、何があったか、それを知りたいだけなの。」
そういうと咲は携帯番号と宿泊先の住所と電話番号を書いた紙をそっと藤本先生に渡した。
「もし・・・話したいことがあったらここに連絡してね。お願い。」

「あれでよかったの?」
斑目は大丈夫か?という感じで咲に尋ねる。
「今、きつく尋問しても心の扉は開かないでしょ?仕方ないけど、この場合、相手の頑なな心が溶けるまで
待つより他に方法はないわ。」
(待つっていってもなあ・・・後、1日しかねえぞ)と斑目は思う。
一息いれてから咲は言った。
「でも、手ごたえはあった。すっごく。公表できない秘密をずっと心にしまっているから
あんなに動揺するのよ・・・そしてその秘密は7年間、心に鍵をかけてしまってきたもの
・・・今、藤本先生は早く誰かに事の真相を話してすっきりしたくてたまらないでしょうね。」
確信ありげに断言する咲の横顔を見ながら斑目が喋る。
「これからどうする?」
「今日はもう遅いわ。一旦、宿に戻りましょ。」
そういうと二人は電車に乗って泊っている民宿に戻った。
304オギング(呪いの同人誌)44:2008/05/02(金) 21:30:18 ID:???
「おい。どうした?」
玄関の客を返した後、娘の様子が変なのを両親が気づいた。
藤本は「なんでもない」と言って自分の部屋に閉じこもり悶々としていた。
両親は心配して外から声をかけるも「一人にしておいてッ!!」と叫ぶ娘の声を聞いて
しぶしぶとドアの前を放れた。

藤本は悩んでいた。
いっそのこと全て話してしまおうか・・・そう決心しかけたその時、突然、携帯が鳴った。
(このタイミングで携帯が鳴るなんて・・・)
藤本は物凄く嫌な予感がし、ほんの2〜3秒、凍りついたように鳴る携帯をただ見つめていた。
(電話に出ずに切ってしまおうか・・・)
そう心の中で思うものの何か得体の知れない抗いがたい力に操られるかのように
携帯を取り、電話に出た。
「もしも・・・」
慌てて電話に出る藤本の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「藤本(フジモ)。久しぶり。」
「中島!!」
305オギング(呪いの同人誌)45:2008/05/02(金) 21:30:49 ID:???
藤本は恐怖で青ざめる。
(中島は・・・相変わらず・・・怖い・・・なんでこのタイミングで・・・)
「ちょっと嫌な予感がしてね・・・あたしの予感は当たるからさ。何か変なこと起こってない?」
暫く沈黙が続く。重い空気が二人の間を覆う。
藤本は恐怖でガタガタ震えながらようやく決心して話はじめた。

「今日、『巻田君総受化計画』持った男女が尋ねてきて・・・」
やっと聞き取れるほどの小さなかすれる声で藤本が口を開く。
「!・・・その本、どこで手に入れたんだ?そいつら」と中島

「荻上のこと調べてる・・・」

沈黙が2〜3秒 二人の間に流れる。中島が喋る。
「・・・藤本・・・わかってるな。」
306オギング(呪いの同人誌)46:2008/05/02(金) 21:34:47 ID:???
藤本がガタガタ震えながら喋る。
「・・・『巻田君総受化計画』の・・・裏表紙に・・・”井戸”が描かれているんだよぉ・・・」

「!!・・・井戸・・・!」

「あたし、もう我慢できない・・・もう黙っていることなんてできねえぇ。(悲鳴)」

「・・・裏切るのか?」

「そんな・・・裏切るとかそんなんじゃない・・・」
藤本は搾り出すように話した。

「もぅ・・・もう限界だよ・・・悪い。中島。」
そういうと何かをふっきるように意志の力を振り絞って藤本は携帯を切った。

「ちっ」

中島は勝手に切られた携帯に向かって舌打ちした。
307オギング(呪いの同人誌)47:2008/05/02(金) 21:35:20 ID:???
斑目と咲は宿に帰って、夕食を食べた。
お互いに会話はない。
昼間、バタバタと動いている間はそれで気がまぎれて大丈夫なように見える咲だが、一旦、落ち着いてしまうと
呪いのことが頭に取り付いてはなれないようで、気分が落ち込んでいるのが斑目から見てもよくわかる。
夕食後、咲は恵子の様子を確かめようと大野に電話をかけた。

「迷惑かけてごめん」と言うと大野は
「いいえぇ。全然・・・それより凄いですよ。咲さん。恵子さんの描くBLがどんどん凄くなってる・・・」
大野の興奮した喋りに(何 人事なんだよ)とちょっと不快になった。
「それより・・・咲さんの方こそ、何か進展がありましたか?」
「うん・・・あの同人誌に関わるいろんなことがわかってきたよ・・・」
「そうですか。何か呪いの解決に結びつくものとか?」
「・・・それはちょっとどうなるかわからないけど・・・」
「大丈夫ですよ。きっと何とかなりますよ。」
大野は咲を安心させようとして言っているのだろうが、逆に安請け合いすぎて咲には不快に感じられた。
(いけない 私、イラついてる?)
308オギング(呪いの同人誌)48:2008/05/02(金) 21:36:05 ID:???
心の底の複雑な感情を大野に悟られまいとしてできるだけ平静を装って声音を変えずに答える。
「そうだね。何とかなると思ってるよ。少なくともきっかけはつかめたと思う。」

暫く・・・といっても2〜3秒だが沈黙が続いた後、大野が口を開いた。

「え〜と・・・他になにもありませんか?」
「大丈夫、なにもないけど?・・・他にって何があるんだ?」
「あ・・・そのぉ・・・斑目さんのこととかぁ・・・」
(斑目?あぁそういや、大野の奴 旅先で何か変なことにならないかってやたら気を揉んでたなぁ)
咲にとってはどうでもいいことであった。
「何もなるわけないだろっ!!大野っ!!考えすぎだよっ!!」
心の底の苛つきが出てしまったのか咲は声を荒げた。

「・・・そうですか。」

「なんだよ?なんか物の言い方が残念そうに聞こえるんだけど。」

「き・・・気のせいですよぉ・・・あははははぁぁ。」
309オギング(呪いの同人誌)49:2008/05/02(金) 21:36:40 ID:???
「・・・今日はもう寝るよ。」
風呂に入った後、探索の疲れもあって、まだ早いと思われるものの二人とも寝ることにした。
明日も早くから動く予定だから無駄に起きている暇は無い。話すこともなかった。
斑目は自分の部屋に帰り布団の中で寝返りを打ちながら明日の最終日、
斑目なりにどう動くべきか必死に考えていた。
いろいろ考えていると目が覚めてしまいなかなか眠れない。もう夜も遅くなっていると思われるが
早く寝ようと焦れば焦るほど眠れなくなるのであった、
(ああ・・・だめだ・・・羊でも数えよう)
数えた羊が1000匹を超えるかと思われた頃、ふと気づくと襖が開く気配がする。
廊下の明かりがあいた襖から入ってくる。寝間着姿の春日部さんがこちらを見下ろしている。

「まだらめぇ。今日一晩、一緒に寝ていい?」
310オギング(呪いの同人誌)50:2008/05/02(金) 21:37:10 ID:???
思いがけない提案に斑目の目は飛び出すかのように開いた。
「えっ・・・そっ・・・そっ・・・そっ・・・」
言葉が出てこない。

「・・・一人だと眠れないんだ・・・お願い・・・ダメ?」

「ゼ・・・ゼンゼンオオケエデス。はい。」
斑目はようやくそれだけ応えた。
斑目の心臓は早鐘の様に鳴り響いている。
(ゆ・・・夢か???もしかして俺は夢を見てるのか?・????)
(夢なら覚めないでくれ!!)

咲は斑目の横に布団を敷き布団の中に入る。

(あ・・・一緒に寝るってそういう意味か・・・そりゃそうだよなぁ)
とは思ったものの隣で寝ているだけでも斑目にはドキドキものである。
311オギング(呪いの同人誌)51:2008/05/02(金) 21:38:02 ID:???
シンと静まり返った田舎の夜の民宿の部屋の中では咲のちょっとした
息づかいや寝返りさえも斑目の耳にビンビン響く。
「・・・ごめん・・・一人でいるといろいろ考えちゃって・・・なかなか眠れなくて・・・
頭がおかしくなりそうだったんだ・・・」
「斑目とこうしていられるのもあと少しかもしれないんだねえ・・・」
マダラメの横で咲が呟く。
その声音からどうやら今までないほど落ち込んでいる咲の様子を感じる。
斑目は(なんとかしなければ)と思うものの気ばかり焦って何も思いつかない。
斑目は自分の無力さが我慢できない。
もどかしさを感じるが、なにもできない。
言葉をかけようとしても思いつかない。

「もし・・・恵子みたいになったら・・・あたし・・・」

咲は泣いているのだろうか、嗚咽が漏れる。
(な・・・泣いているのか?もしかして泣いているのか???)

「ごめんねえ・・・斑目巻き込んじゃって・・・あたしったら・・・ホント自分勝手な女だから・・・」
咲が言葉にならない小さな声で呟く。
312オギング(呪いの同人誌)52:2008/05/02(金) 21:38:39 ID:???
「いや・・・こちらこそ、ついてきたのはいいけれど・・・全然、お役に立ててねえし・・・」
咲は天井を見ながら言う。
「そんなことはないよ。斑目が傍にいることで一人じゃないって思えるし・・・
結構、ここまで心の支えになってくれたんだよ。」
斑目は感激で涙が出そうだった。

「咲さん。」
(ん?)
今までにない呼び方に咲は?で斑目の方を振り向く。
(こ・・・ここで・・・ここで言っちゃおうか・・・)
(咲さん 好きです!!大好きです!!)
斑目の頭は極度の緊張と興奮で混乱した。出そうと思った声が出ない。
「大丈夫ですよ。きっと・・・なんとかなりますよ。」
やっと言えたのはそこまでだった。
「ありがと・・・」
小さな声で咲は呟き、また天井に目を向けた。

やがて安心したのか咲の寝息が聞こえてきた。
313オギング(呪いの同人誌)53:2008/05/02(金) 21:39:48 ID:???
咲はマンションにいる。
リビングで「オギーオギー」と呟きながら一生懸命何かを書いている。
高坂X斑目のBL漫画だ。

ふと後ろに人の気配を感じる。
振り向くと、高坂が嬉しそうに咲の描いている漫画を見ている。
「やっと咲ちゃんもおたくに目覚めたんだね。これでようやく僕たちの仲間になれたんだよ。おめでとう。」
そう言って拍手する高坂。
周りはいつの間にかげんしけんのメンバーに取り囲まれている。
初代会長・斑目・大野・久我山・田中・笹原兄妹・朽木が口々に「おめでとう」「おめでとう」
「おめでとさん」と祝いの言葉を咲にかけ、次から次へと拍手をし始める。
咲は真ん中ではにかむ様に照れ笑いしている・・・

「おたくに ありがとう 一般人に さようなら そして 全てのオギイスト達に おめでとう」

「ぎゃあっ!!」
咲が叫んで飛び起きると既に太陽が中天に昇り朝日が燦燦と輝いていた。

(・・・・夢か・・・・)

嫌な夢を見た。そう思い斑目の方を見ると斑目は口からよだれをたらしながら寝ていた。
斑目は昨日の夜、興奮して朝まで眠れず、朝近くになってようやく眠れたのだ。
314オギング(呪いの同人誌)54:2008/05/02(金) 21:40:41 ID:???
咲が同人誌を見てから7日目

このまま何も情報が得られなければ咲は恵子と同じように呪われて
やおいのイラストやSSを描くだけの廃人になってしまうだろう。

「今日はどうするんだ?」斑目が睡眠不足で真っ赤になった目をしばたかせながら咲に聞いた。
「中学校へ行って、中島のことを聞いてみようと思う。」
そう咲は返事をし、咲と斑目は宿を出た。

しかし、中学校へ行き、先生と会い中島のことを聞いてもはかばかしい答えは返ってこなかった。
「中島はいい子ですよ。」
先生方にはなぜか評判がいいみたいだ。
当時、荻上の属していた文芸部のメンバーについても聞いてみたが、有益な情報は得られなかった。
元ネタになったホモ小説も知らないという。

そして、なぜか藤本先生が休んでいた。
今朝、気分が悪いとかで休むとかの連絡があったようだ。
315オギング(呪いの同人誌)55:2008/05/02(金) 21:41:16 ID:???
二人は校庭の芝生に並んで仰向けに寝転んで目の覚めるような青空をぼんやりと眺めていた。

「手詰まりだな・・・」
「もう時間がないよねえ・・・」
「後、なにをするか・・・」
ちゅんちゅんとスズメの鳴き声が聞える。

「鳥が鳴いてる・・・」マダラメが言う。
「そりゃ鳥ぐらい鳴くだろう。」咲が答える。
気温がちょうど、人肌程度で最高に気持ちいい。
風も適度に吹いてちょうどいい涼しさだった。
ここらへんは風景も絶景だった。目の保養になる。
そんな美しい景色をぼんやり眺めているとなんだか呪いなんかどうでもいいような気分になってきた。
うららかな本当に長閑な時間が流れた。

「このまま、ずっとここで寝ていたいねえ。」と咲
「こんな和やかな気分は久しぶりだよ。」と斑目
草の青臭い匂いがつんと鼻をつく。
316オギング(呪いの同人誌)56:2008/05/02(金) 21:41:54 ID:???
咲が呟く。
「あたし達、結局、何やってたんだろうねえ。」
斑目が答える。
「呪いを解く方法を探ってたんだが・・・そのためには呪いの原因を見つけなくちゃいけないからなあ。
原因は荻上千佳という女の子にあるんだろうけど・・・結局、なぜこうなったのかもわからないし
荻上という娘の行方もわからない。」
「このままだと間に合わない・・・」
「ごめんな・・・力がなくて・・・」
咲は頭をふる。
「斑目のせいじゃないよ。」
その時、斑目の手に暖かいものが触れた。
咲の手だ。

(えっ)

咲が斑目の手をギュッと固く握り締めた。
咲の暖かい体温が手を通して斑目に伝わってくる。
斑目は驚き、心臓はバクバクと激しく鼓動した。
(こ・・・これは・・・なんなんだろうか・・・)
斑目がおそるおそる目を咲の方に向けると咲は気持ちよさそうに目をつぶって寝ていた。
精神的に疲れていたのだろう。
そのうち寝息を立てて眠り始めた。
穏やかに寝息をたてる咲の天使のような横顔を斑目はじっとみつめていた。
317オギング(呪いの同人誌)57:2008/05/02(金) 21:42:26 ID:???
やがて咲が目を覚ますと既に夕方だった。横を見ると斑目が寝ている。

咲は
「よいしょ」
と起き上がり、服についた草と土を払った。

「帰るよ。」
咲はそういって斑目を起こす。

夕日がまぶしい。
帰りの電車。
乗っているのは咲と斑目の二人だけだ。

ガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタン
電車の音が響く。
318オギング(呪いの同人誌)58:2008/05/02(金) 21:43:05 ID:???
咲は斑目に今後のことを指示していた。
「まず高坂に事情を説明して、恵子のことは大野と相談して笹原に伝えて、店のことは・・・」
咲は自分が呪われた後のことを一通り斑目に指示する。
指示を出す咲の目は既に悟りを開いているかのように諦観に満ちている。

(これもサダメかもしんない)

「もし、私が恵子みたいになったら・・・後のことは頼むね。斑目。」
咲はマダラメの方を向き、にこりと笑った。
その咲の笑顔は斑目が今まで見たこともないほど純粋で美しく輝いていた。
諦めとも違う何か覚悟を決めた人間の持つ美しさだった。
「まかせてくれ。その時は俺・・・がんばって呪いを解く方法を調べて
春日部さんを呪いから解放してあげるから。」
「・・・ありがと。」
咲はふっと笑った。
(なんだか気のせいか斑目が頼もしく見えるや)
319オギング(呪いの同人誌)59:2008/05/02(金) 21:43:37 ID:???
その後、思いがけない言葉が斑目の口から発せられた。

「い・・・いざとなったら・・・もし呪いが解けなくても・・・
俺が春日部さんの面倒を・・・一生、見てあげるよ。」

「はぁ?」

何寝ぼけたこと言ってんだ という眼差しで咲が斑目の方を見る。
「無職のお前にあたしの面倒見る甲斐性なんてねーだろ。」
(調子に乗りすぎ)という咲の冷たい目線に気づいた斑目は額に汗の粒を浮かべながら

「はは・・・冗談だよ。」

とごまかした。
咲は真正面を向き無表情になった。沈黙が訪れる。

「・・・ありがと・・・冗談でも嬉しいよ・・・」
気のせいか咲の頬が少し赤く染まったように見えたのは夕日が咲の顔に照り映えたせいだろうか

ガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタン

電車の音だけが響いていた。
320オギング(呪いの同人誌)60:2008/05/02(金) 21:44:31 ID:???
二人だけの空間 他に人は誰もいない

斑目は(このまま時間よ止まれ)と願っていた。

やがて電車は駅に止まった。
321マロン名無しさん:2008/05/02(金) 21:47:10 ID:INl8fQf0
今回の投稿はここまでっす。

ついに斑目が咲に告白!果たしてこの後、どういう展開が待っているのか!
そして呪いは回避できるのか!!藤本と中島は?

次回もサービス!サービスゥ!!
322マロン名無しさん:2008/05/06(火) 19:06:38 ID:GJHXiFsl
連休も終わりましたね。続きを投下します。
323オギング(呪いの同人誌)61:2008/05/06(火) 19:07:48 ID:???
駅をおり民宿に向かって二人連れ立って歩く。あたりはだいぶ暗くなっている。
二人とも無言。ざっざという足音しか聞こえない。いや周りから蛙や虫の声が聞こえる。
(春日部さんは今、何を考えているのだろうか)
斑目はそう思いちらちらと咲の顔を窺う。
咲は少しうつむき加減になっており表情が見えない。
斑目には咲が今、何を考えているのか想像もつかなかった。

(このまま春日部さんが呪われたら・・・)
春日部さんに声をかけるのも憚られるので、斑目は一人考える。
(廃人となって人形みたいになった春日部さんと二人っきりで一晩過ごすことになるのか・・・)
そう考えると自分の置かれている
”類まれなる・人生で一度きりしかないであろう”
状況を改めて認識し、思わず”エロい”妄想が頭をよぎる。
(いかん!それだけは絶対にいかんっ!!)
顔を真っ赤にしながら斑目は今、思い浮かんだ想念を振り払おうと頭を必死で左右に振る。
324オギング(呪いの同人誌)62:2008/05/06(火) 19:08:59 ID:???
やがて二人は宿に着き、無言のまま夕食を食べそれぞれ風呂に入る。
斑目は咲に声をかけたいと思うが何を言っていいのか相変わらず言葉が思い当たらない。
1時間後
斑目は風呂から上がって自分の部屋にいる。咲はまだ風呂だ。
(どうしよう)
風呂場で咲が呪いにかかったら俺が風呂場を覗きに行かなくちゃならんのか?

・・・あ・・・宿の人に通報すればいいのか・・・
325オギング(呪いの同人誌)63:2008/05/06(火) 19:09:40 ID:???
斑目がそんなことばかり考えていると斑目の部屋に風呂から上がったばかりの
浴衣に着替た咲が入ってきた。
風呂から出たばかりの咲は斑目がはっとするほど妖艶な色香を漂わせていた。

咲が斑目の横に座る。
(ええと・・・な・・・なに?)
咲はふうっと大きく溜息をつき、横を向いて斑目の顔を見る。
そして斑目の鼻先にぐいと顔を近づける。
風呂上りの石鹸の匂いがつんと斑目の鼻をつく。
(な・・・なんのつもりだろう?)
戸惑う斑目。
斑目は咲のスッピンの顔をこんな間近で見るのははじめてだった。
(きれいな肌だな。化粧しないほうがいいじゃん)
目が涙で潤んでいる。咲の顔はやはり天使のように美しい。
咲は斑目の目をまっすぐに見つめていった。
326オギング(呪いの同人誌)64:2008/05/06(火) 19:10:10 ID:???
「斑目・・・電車で言ってくれた事・・・うれしかったよ。」
斑目は思わず視線を咲からそらした。恥ずかしさで顔が真っ赤だ。
咲が言う。
「でも、あたしはやっぱり高坂が一番好きなんだ。」
斑目は咲から視線をそらしたままつぶやくように言う。
「わかってるよ・・・」
確認するように繰り返す。
「わかってる・・・わかってるけど・・・仕様がないじゃん。好きになっちゃったものは。
気持ちの整理がつかないんだよ。大学の頃からずっと・・・」
斑目はそれ以上、喋れなかった。
咲の唇が斑目の唇に触れたからだ。
びっくりして斑目は咲を見る。
咲は潤んだ瞳で斑目を見ながらいう。
「これは今までのお礼。最後のお別れのキスよ。いままでありがとうね。」
そういうと咲は視線を斑目からそらす。
咲の頬にはかすかに紅がさしていた。少し恥ずかしがっているようだった。
(なんだ春日部さんにも十分萌えがあるじゃん)
そうして咲はグシっと鼻をかみ、きっときつい表情に戻って言う。
「あたしが呪われた後で変なことはしないでよね?」
「ああ・・・うん・・・しないよ。神に誓う。」
327オギング(呪いの同人誌)65:2008/05/06(火) 19:10:35 ID:???
10分後 そこには「オギーオギー」と唸り続ける春日部咲の姿があった。
持ってきたノートにBLものを描き始めたので斑目はノートと鉛筆を取り上げた。
すると咲は廃人のようにぼーっと焦点の定まらぬ目つきで虚空を眺め
微動だにしなくなった。
(事前に聞いていたとおりだ。恵子ちゃんと同じだな)
斑目はそんな咲をじっと見つめる。
咲の顔を近くからしげしげと眺める。

(あたしが呪われた後で変なことはしないでよね?)

咲が最後に言った言葉が斑目の頭の中でリフレインする。
(わかってるよ)
そういいながら気づいたら斑目の手は咲の頬をなでていた。
(スベスベしてあったかい)
はっ!!・・・い・・・いかん・・・いかん・・・俺は何をやってるんだ・・・
われに気づきながら斑目は考えた。
(これぐらいは”変なこと”のうちにはいらないよな)
328オギング(呪いの同人誌)66:2008/05/06(火) 19:10:57 ID:???
斑目の脳裏には咲が呪われる前にキスした時の唇の感触がまだ残っていた。
無防備に斑目の前に咲の柔らかそうな半開きに開いた唇があった。
斑目はその唇に吸い込まれるように誘われ軽く咲とキスをする。
はっ!!・・・い・・・いかん・・・いかん・・・俺は何をやってるんだ・・・
われに気づきながら斑目は考えた。
(これぐらいは許容範囲内だよな・・・春日部さんが呪われる前に既に1回やっちゃってるし・・・)
そう思い、2〜3回、軽くキスを繰り返す。
と キスを繰り返すうちに浴衣がはだけて咲の肩があらわになる。
咲のつけている純白のブラジャーが斑目の脳裏に焼きつく。
斑目は慌てて浴衣を元に戻そうとするとその反動で咲がよろけ斑目の体によりかかってきた。
(うわ)
斑目の体に咲の身体が乗る格好となり咲の身体を斑目が抱いた感じになる。
咲の体温と心地よい石鹸の香りが直に斑目に伝わってくる。
(あぁ・・・こ・・これは不可抗力だしな・・・)
斑目は頭がぼーっとなりながらなんとか咲を元の態勢に戻そうとして焦って咲の身体を
仰向けに寝かせてしまう。
329オギング(呪いの同人誌)67:2008/05/06(火) 19:11:35 ID:???
「おっとと・・・」
その反動で咲の浴衣の帯がほどけ浴衣が開いて下着姿の咲の身体が斑目の目に飛び込んでくる。
仰向けに寝ている咲の下着姿の裸体の上に両手をついて斑目が乗っかっている格好である。
しかも斑目の左手が咲の右胸の上に置かれ、柔らかな感触が手のひらから伝わってくる。
(ああああああああ)
斑目は右手を慌てて引っ込める。目は渦巻状に変化し、顔は汗だくである。そしてだんだんと理性が吹き飛んでいく。
(あたしが呪われた後で変なことはしないでよね?)
(あたしが呪われた後で変なことはしないでよね?)
(あたしが呪われた後で変なことはしないでよね?)
咲が最後に言った言葉が斑目の頭の中でリフレインする。
(わかってるよ・・・一応わかってるけど・・・理性が壊れつつあるんだ・・・)
民宿の人は二人をカップルだと思っている。もしこの状態を見られてもそのままほっておくだろう。
斑目の手は咲のフロントホックブラへと向かいブラをはずしてしまう。
咲のこぶりだが形の良い乳房が斑目の眼に飛び込んできた。
乳首はきれいなピンク色だ。
斑目の頭の中で理性がボカンと吹き飛んだ。
(も・・・もうだめだ・・・春日部さん・・・ごめん)
理性の吹き飛んだ斑目の手が咲のむきだしになった乳房をつかもうとする。
(こ・・・これも・・・これも許容範囲内・・・”変なこと”のうちにはいらない・・・)
咲の乳房は予想以上に柔らかかった
「うん・・・」と咲が少し反応し斑目がビクンとなる。
感じることは感じるみたいだ。だが、すぐに元のぼーっとした状態に戻る。
(こ・・・これも・・・許容範囲内)
次に斑目の手は咲のパンティに向かう。
そしていよいよ咲のパンティに手をかけ脱がそうとしたその時
「斑目!!」
突然、咲が怒りの表情に変わり斑目をにらみつけた。
「は・・・はいいいいいいっ!!!!!!」
斑目は驚いて飛び上がる
330オギング(呪いの同人誌)68:2008/05/06(火) 19:12:08 ID:???
「なにニヤついた顔してるんだよっ!!」
「へ?」
咲の怒鳴り声に斑目は慌てて左右を見わたす。
まだ駅から民宿へとつながる道の途中であった。
目の前に民宿がある。
(やべ。俺 妄想してた????)
ふと目の前を見ると咲が険悪な怒りの表情で斑目をにらみつけている。
「何かスケベなことでも考えてたんだろ?」
斑目は咲から目をそらしながらこたえた。
「イ・・・イイエ ゼンゼンソンナコトハアリマセンデス」
「いーや絶対、スケベなこと考えてたっ!!どうせあたしが呪われた後、変なことしようとか
そんなこと考えてたんだ。」
「そ・・・そんな・・・そんなこと・・・考えるわけ・・・ないじゃないですか・・・
イヤダナア カスカベサン ハハハハハハハハハハハ」
331オギング(呪いの同人誌)69:2008/05/06(火) 19:19:46 ID:???
斑目は顔中に汗をだらだら流しながらしどろもどろに答える。
視線は左右に振れ咲の顔を直視しないようそらしまくっている。
咲の顔が更に怒りをまし(信用できねえ)といった感じで斑目を横目でにらむ。
「もうあんたなんか信用できないっ!!今から大野に電話してこっちへきてもらうっ!!」
咲は怒りながら携帯電話をバッグから取り出した。
「か・・・春日部さん・・・」
携帯電話をかけている咲に斑目は言い訳しようと混乱する頭をまとめるのに必死になる。
ピポパと携帯の番号を押す音が聞こえたその時
「!」
携帯をかけようとした咲の手が急に止まる。
斑目が驚いて咲の視線の先を見ると民宿の玄関に人影が一人ぽつんと立っていた。
「誰だ?」
人影が徐々にこちらに近づいてくる。驚いたことに藤本先生だ。
「藤本さん。」
「どうしたんですか?」
藤本先生は怯えた目つきをして口を開いた。
「全部、話します。あの時・・・何があったか。」
332オギング(呪いの同人誌)70:2008/05/06(火) 19:20:27 ID:???
民宿の部屋に藤本先生を招きいれる。
藤本先生はお茶を飲んで落ち着くと長年貯めていた澱を吐き出すように話し始めた。
「イラスト集を巻田に渡すよう指示したのは中島です。
全部、中島がシナリオを書いてやったことです。荻上を貶めようとして・・・」
咲と斑目は黙って藤本先生の話を聞いた。
「それで荻上は中島のことを疑って・・・確か荻上が行方不明になった当日の放課後、
二人は学校の裏山にある古井戸のところにいって、このことについて話をしようと・・・
荻上が中島に話していたのを・・・女子トイレで・・・私は横にいて話を聞いたのです。
その古井戸は隠れた場所にあって、みんなが仲良かった頃、秘密の場所としてよく遊びにいってたので
私もよく知っています。
そして・・・その中島と荻上が会った翌日から荻上の姿は見えなくなったのです。
その古井戸のある場所は・・・おそらく私達、文芸部のサークル仲間しかしらないでしょう。
そして荻上の姿が見えなくなった翌日の放課後・・・中島に私・・・呼び出されて
荻上と会ったことは誰にも喋るんじゃないといわれたのです・・・
あの時の中島の目・・・あんな氷の様に冷たい目はいままで見たことがなかった・・・
あんな怖い目・・・」
そう一気に言ってしまうと藤本先生は両手で顔を覆い、うっうっ・・・と嗚咽を漏らし始めた。
333オギング(呪いの同人誌)71:2008/05/06(火) 19:20:50 ID:???
「なぜ中島は荻上にそんな嫌がらせをしたんだろう?」
斑目が尋ねる。
「わかりません・・・ただ文芸部の皆は彼氏がいなかったから・・・一人彼氏をつくった荻上に
ちょっとジェラシーのようなものを感じていたのは確かです。皆が中島の提案に乗ったのも
シナリオ通りに動いたのも・・・そういうジェラシーがあったからだと思います。
・・・あと・・・中島に逆らうのが怖かった・・・」
「その古井戸は『巻田君総受化計画』の裏表紙に描かれてある古井戸と同じものだね。」
「そうです・・・でも・・・最初、そんな井戸のイラストなんてなかったのに・・・・」
「誰かが描き足したんだね。」と咲。
「だって・・・だって・・・文芸部の中でイラスト描けるのは荻上しかいなかったんですよ。
文芸部の人間しかその場所は知らない筈なのに・・・」
全てを白状してしまうと藤本は恐怖のあまりワっと泣き出した。
「ひでー話だ。許せねーな。」
怒りのあまり反吐を出すように声を絞り出す斑目に咲は目で合図を送る。
(落ち着け)
そして藤本の方に振り返り。
「よく話してくれた。ありがとう。今まで黙っていてつらかったでしょう。わかるよ。わかる・・・」
しくしくと泣き出す藤本を優しく抱擁し、髪をなでるのであった。
334オギング(呪いの同人誌)72:2008/05/06(火) 19:21:17 ID:???
「で・・・その古井戸の詳しい場所を知りたいんだけど・・・」
藤本がだいたいの場所を地図を描いて説明する。
地図が描きあがると咲は斑目の方を向き「いくよ。」と言って立ち上がった。
「待て。」
斑目は咲の手首を掴んだ。
「何?」
咲が振り返る。
「・・・これもう俺達の手に負えないよ。警察に連絡すべきじゃないかな。」
「警察に連絡するって・・・7年前の事件なんか当事者でもない私達がいっても門前払いだよ。」
「ん・・・」
「何か物的証拠でもあるんなら別だけどね。それに・・・呪いが私にかかるまで後、数時間しかないじゃない。」
「そ・・・そうか。そうだね。でも場所が・・・藤本先生も一緒にいきませんか。」
しかし藤本は何かに怯えたように座ったまま手で顔を覆い首をふるだけであった。
「これじゃダメでしょ。まあ、おおまかな場所は聞いてあるから大丈夫。」
咲は前を見つめ大股でさっさと歩き始めた。
「・・・勇ましい。」
斑目は咲に惚れ直すのだった。
二人はタクシーを呼んで学校の近くまで乗っていく。
335オギング(呪いの同人誌)73:2008/05/06(火) 19:21:43 ID:???
裏山の場所まで行くあたりは暗いので懐中電灯を持って藪の中に入る。
「痒い。」
蚊が沢山群がるのを振り払いながら2人は進む。
田舎の夜なのであたりはシンと静まり返っている。
咲と斑目は山の中に踏み入る。
黙っているのもなんだと斑目は喋り始めた。
「荻上さんは創造系の腐女子だった・・・」
斑目は言った。
「巻田くんの件が原因でこの世にいなくなってしまったけど、
いろいろと創りたい作品とか沢山あって・・・その潜在意識がこの世に未練となって残った。」
「うん」
「その未練が念となって・・・『巻田君総受化計画』に宿り・・・その本を見たものは
荻上さんの念が宿って荻上さんの代わりにそういう作品を創る作業をするようになったんだろうな・・・」
「多分ね」
「それは・・・本来は呪いではないかもしれないよね。」
「そうかもね・・・あった。」
咲が指をさした方向に古井戸はあった。真っ暗な中、懐中電灯の灯りを向けると古井戸にはしっかりと蓋がしてあり、
その上に人影が見えた。

誰かが座っているのだ。
336オギング(呪いの同人誌)74:2008/05/06(火) 19:22:42 ID:???
(こんな夜中にこんな辺鄙な場所で誰だ?)
斑目は背筋に寒気を覚えた。
咲が手に持っている懐中電灯で人影を照らす。
明かりの中に浮かび上がったその姿は短くカットした髪を茶髪に染めた
カジュアルな服装の若い女性であった。
(とりあえず幽霊じゃないみたいだ)
斑目はホッと胸をなでおろす。
女は落ち着いた目で咲と斑目を見る。

「どうやら全部、藤本に聞いたらしいな。」

咲は落ち着いた声で答える。
「・・・中島さんですね。」

「そうだ。」

女も落ち着いた声で答えた。
337マロン名無しさん:2008/05/06(火) 19:24:32 ID:GJHXiFsl
今回はここまで
いよいよ次回は中島VS咲です。
で多分、最終回っすね。ふんでわお楽しみに〜
338マロン名無しさん:2008/05/06(火) 21:20:03 ID:???
作者様乙です!
斑目のとまらぬ妄想に笑った後、オギーの井戸話でぞっとなりました。
不憫な子や、オギー・・・。

連休最後に素敵なプレゼントをありがとうございました〜!
339しびびび:2008/05/06(火) 23:37:06 ID:gAMVpr+J
(・д・)GWおわり
340マロン名無しさん:2008/05/09(金) 21:29:57 ID:???
>>338
読んでくださって ありがとうございます。
さて いよいよラストに向かって話は進みます。

最後まで読んでくださった方・・・がっかりしないでください。

ではいきます。
341オギング(呪いの同人誌)75:2008/05/09(金) 21:31:20 ID:???
「全て話してもらいましょうか。あの日、何がここで起こったか。
あなたが荻上さんにここに呼び出された後、何をしたか。」
中島は黙って咲をみつめる。
その表情は微かに笑っているように見える。

「おまえが荻上を井戸に突き落としたのか?」
咲が眉間に皺を寄せ嫌悪感を露にした目を中島に向けて尋ねる。
その声は怒気を含んでいる。
斑目は注意して中島の顔をみるが中島の顔には動揺の色は微塵も見られない。
ただ能面のような感情のこもっていない薄笑いの表情が顔面に張り付いているだけだった。

「・・・荻上は自分から落ちたんだぁ。」

中島が口を開いた。
中島がその後、話した内容は大要次のようなものだった。
342オギング(呪いの同人誌)76:2008/05/09(金) 21:32:11 ID:???
中島が荻上に古井戸の場所に呼び出された。
中島がくると荻上が中島に食ってかかった。
「なんで巻田くんにイラスト集を渡したの」
なきながら詰め寄る荻上。
中島は
「あんたを巻田みたいな男に渡したくなかったんだよ。」
そういって荻上をぎゅっと抱きしめる。
しかし、その中島を荻上は振り払いいきなり井戸の縁によじ登る。

「あたしはあんたのおもちゃじゃないっ!ここから身を投げて死んでやるっ。」
中島は腕組みし荻上の挑発的な行動を落ち着いて眺める。
そして挑発的な言葉を投げかける。

「どうせ脅しだろ。あたしにゃ効かねーよ。やれるもんならやってみな。」

荻上は中島の方をきっと睨みすえ 意を決したかのように井戸の中に飛び込む。
あっという間の出来事だったので、中島には止められなかった。
井戸から中を覗くと遥か下に荻上の服が浮かんでいるのが見える。
343オギング(呪いの同人誌)77:2008/05/09(金) 21:33:03 ID:???
とにかく・・・救急車だ。救急車を呼ばないと・・・いけない・・・

一瞬、そう考えたが、しかし、中島は思い直して救急車を呼ぶのを止めた。

(もし救急車を呼んだら、ここで何しているのかとがめられる)

いろんなことがバレてしまう。
そして・・・荻上は誰にも渡したくねえ・・・そういう思いが中島にとって何よりも優先した
・・・・荻上が古井戸の中にいる間、荻上は永遠に私だけのものだ・・・

・・・・

どうせ荻上は助からない・・・

・・・このことは私だけの秘密にしておこう・・・

そして中島は翌日、井戸の中を覗きこみ、荻上の存在を確認した上で井戸に蓋をした。
二人が会ったことを知っている藤本には厳重に口止めした。

中島は一通り話し終えると井戸の上に身を横たえて呟くように話した。
「荻上はあたしのもんだぁ・・・永遠にあたしのもんだぁ・・・」
そして不気味な笑顔でふふふと笑った。
344オギング(呪いの同人誌)78:2008/05/09(金) 21:33:47 ID:???
話を一通り聞き終わった咲と斑目の胸のうちに言い知れぬ怒りがふつふつとわいてくるのを
二人は抑え切れなかった。
(許せない・・・)
咲の顔が今までにないほどの怒りに満ちる。
ズカズカと咲は中島のところに歩み寄っていった。
斑目が止める間もなく咲のパンチが、ありえない距離から中島の顔に放たれた。

グワシっ!!

中島は顔を殴られ井戸の横にもんどりうって倒れる。

「おまえは最低だ!!」

咲は倒れた中島を怒りに燃えた目でにらみつけながら叫ぶ。

「自分の欲望のために他人を犠牲にするなんて・・・他人の命やいろんなものを
自分の欲望を実現するために犠牲にして恥じいらないなんてっ!!
しかもケシ粒ほども申し訳ないって気持ちがないじゃないっ!!」
345オギング(呪いの同人誌)79:2008/05/09(金) 21:34:34 ID:mWdXZg25
咲は怒りが収まらないのか、わなわなと肩を震わせながら叫び続ける。
咲の顔は涙でくしゃくしゃになっている。

「おまえのような人間がいるから・・・おまえのような畜生にも劣る人間がいるから・・・
可哀想な荻上・・・おまえの犠牲になった人間の気持ちを少しでも思い知れっ!!」

そういうと咲は更に1発、中島にパンチを叩き込む。
「うっ」
中島は中途半端に起き上がりかけた態勢だったが、咲のパンチを受けて、また地面に倒れた。

「・・・春日部さん・・・」
咲の後を追ってきた斑目はどうしていいかわからず咲の後ろであたふたと手をバタつかせた。
殴られた頬を手で押さえ中島はゆっくりと立ち上がりながら顔を咲の方に向けた。
その顔は未だ動揺の色は見えず相変わらず能面の様なかすかな笑みが張り付いている。

「ふふふ・・・」
そしてすばやく咲の耳元に顔を近づけた。
346オギング(呪いの同人誌)80:2008/05/09(金) 21:35:25 ID:???
意外な中島の行動に対応しきれない咲。
中島は咲の耳元で聞き取れないほどの小声で何事かを囁く。

「?????」
(何・・・なんていったの?)

困惑する咲。
そして中島はくるりと背を向け 

「あははははは」

と突然、狂ったかのような笑い声を残し、その姿は夜の闇に消えていった。
347オギング(呪いの同人誌)81:2008/05/09(金) 21:36:22 ID:???
後に残され呆然と立ち尽くす二人。
咲が
 はっ 
と何事かに気づいたように我に返ると
「斑目!!」と叫ぶ。

「は・・・はひっ。」と答えるマダラメ。
咲は懐中電灯で周りを探す。
と、古井戸からさほど離れていない場所に廃屋があり、
そこに使い古された斧が立てかけられてあった。
咲はその斧を手に取って古井戸に戻ると狂ったように斧を振り回して
井戸を塞いでいる蓋をぶち壊し始めた。

「お・・・おい・・・」
斑目は止めようとしながら呆然とその様子を見た。
「き・・・器物損壊罪になるんじゃないかな・・・」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」
咲は叫ぶ。
「荻上を助けなきゃ!!」
348オギング(呪いの同人誌)82:2008/05/09(金) 21:37:13 ID:???
「た・・・助けなきゃっていったって・・・もうとっくの昔に・・・」
「んなこたーわかってるってっ!!成仏させなきゃっていってるんだよ。」
「わ・・・わかった。」
斑目もとにかく手伝おうと回りに井戸の蓋を壊すものがないかきょろきょろとあたりを見回してみた。

咲の振るう斧によって井戸を覆っている板は半分が壊れ井戸の口が見え始めた・・・

「うわあっ!!」

咲が叫び声を上げるとその姿が斑目の視界から消えた。

「か・・・春日部さんっ!!」
斑目は咲の姿を探して左右に首をふるが、咲の姿は見えない。
それもそのはず咲は足を滑らして井戸の中に転落したのだ。
バッシャン
という井戸の水音が斑目の耳に響いた。
「だ・・・大丈夫かぁっ!?」
斑目は慌てて井戸の底をみようとした。
349オギング(呪いの同人誌)83:2008/05/09(金) 21:37:39 ID:???
しかし、夜のこととてその暗さの中では春日部さんの姿が確認できない。
「いたたたた。」
とうめく声が井戸の底から聞こえてきてようやくその無事が確認できた。
斑目は咲の様子を確かめようと井戸の中を覗き込もうとし、
更に深く上半身を井戸の中に突き出す。
その時、パニック状態になっていた斑目は胸ポケットにいれていた
携帯電話が井戸に落ちるのに気づかなかった。
「な・・・なんとかするからな・・・」

井戸の底では人のひざくらいの高さまで水があった。
「いたた。」
真っ暗な中で咲はうめいた。
(そうだ・・・このなかに荻上の・・・)
咲は心の底から湧き上がる恐怖心を抑えて少女の遺体を捜し始めた。
と、何か冷たいものが咲の手にあたった。

「うわああああああああああああ。」
その冷たいものは突然、ギュッと咲の腕をつかんだ。
350オギング(呪いの同人誌)84:2008/05/09(金) 21:38:21 ID:???
それだけでなく少女の身体のようなものが咲の腰のあたりに手を回してきた。

「ぎゃあああああああああああああ。」
咲の闇を劈くような恐ろしい悲鳴が井戸の底から響く。

「か・・・春日部さん。春日部さーーーーーーん。」
それに応えて必死に名前を呼ぶ斑目

少女は恐怖で身を震わしている咲の腹のあたりから両手を背中に回して抱きついてきた。
冷たく濡れた少女の身体が咲の身体にピッタリとくっついている。

(だめだ勇気を出さなきゃ)
咲は気絶しそうになる心を気力を振り絞って引き締める。
そして勇気を振り絞って少女に呼びかけた。
「お・・・荻上さん・・・荻上千佳さんだよね・・・?」
咲が震える声で尋ねると少女はこくんとうなずいたような気がした。
すると、その瞬間 少女の思い・・・その苦しみ・哀しみ・・・暗い井戸の底で長い間、
罪の意識に震えながら一人寂しく過ごしてきた少女の・・・が水が布に染み込むように
咲の心に染み込んできた。
(あ・・・・あ・・・・)
そのあまりの深い深い哀しみに咲は思わず声をあげて泣き出してしまった。
351オギング(呪いの同人誌)85:2008/05/09(金) 21:38:54 ID:???
嗚咽で喉を詰まらせながら咲は少女の濡れた冷たく小さな身体を抱き抱えた。

「可愛そうに・・・長い間、たった一人で耐えてきたんだね・・・
寂しさや苦しさや侘しさや罪の意識や・・・その他いろんな重荷を一人で背負って・・・
でも・・・もう大丈夫だよ・・・一人じゃないよ。
私がついているからね。」

咲は涙声で少女に囁くように・・・説得するように・・・少女の母であるかのように
優しい口調で語り続けた。
やがて咲を強く抱きしめていた少女の腕は安心したのか徐々に力を失っていった。
気がつくと咲がグッタリとしている少女を抱きかかえている格好となっている。

ピーポーピーポー

救急車のサイレンの音が遠くから徐々に近づいてくるのが咲の耳に聞こえてきた。
352オギング(呪いの同人誌)86:2008/05/09(金) 21:39:38 ID:???
荻上は生きていた。

7年前に井戸に投身自殺したのだから普通はとっくの昔に死んでいるはずだった。
しかし、どういう不可解な理由かはわからないが、
まるで、昨日、眠り込んだかのように健康な身体のまま生きて発見された。
ただその身体は投身自殺した中学生のまま成長は止まっているようだ。
関係者はみな信じられんという面持ちでみつめる。
専門家は
「極めて稀な事例だが・・・冬眠状態にあったんじゃないかな。」と言う。

それを聞いた斑目はコールドスリープかと思った。
冬眠を引き起こすホルモン「チロキシン」と冬眠から目覚めさせるホルモン
「テストステロン」という2つのホルモンが人間の体内でも見つかっている。
実際に人間が冬眠した場合、1分間の心拍数は通常の70回から1〜2回以下に変化し、
1分間の呼吸回数も1〜2回以下になると考えられさらに代謝量は100分の1以下に低下する。
状態次第では何年も冬眠状態で過ごすことができると考えられている。
冬眠状態では筋力等の衰えはおこらない。
そういや遭難して焼肉のたれとかで生きたとか言われたけど、
実際は冬眠状態にあったんじゃないかとかいわれてた人間がいたなあ
・・・などと斑目は考えた。
353オギング(呪いの同人誌)87:2008/05/09(金) 21:40:13 ID:???
周りがパトカーや救急車のサイレン 救急隊員や警察の人の喧騒でごった返す中、
咲は全身ずぶぬれのまま救急隊員から渡してもらった毛布をまとい震えて座っていた。
隣に座った斑目は咲を心配そうに見ている。
「よかったね・・・呪いかからなくて。」
時計を咲に見せながら斑目が安心させようと話をふる。

「・・・ほ・・・本当だ・・・呪いかかってないや・・・あはははは。」
ほっと安心する咲。
そしてブルブルと震えながらもようやく落ち着いてきた咲の脳裏に
井戸の底での出来事が蘇ってきた。
ぐすっ・・・ぐすっ・・・と鼻をすする音が聞え、斑目がおや?と思った瞬間
突然、咲は泣きじゃくりながら斑目に抱きついてきた。
「恐かった。恐かったようっ!!」
斑目は驚いて声が出ない。
咲の香水の香りが斑目の鼻をつく 服を通じて咲の体温が斑目に感じられる。
咲の髪の毛が斑目の頬をなで、咲の吐く息が胸に当たる。
(やべえ・・・)
胸の動悸がバカバカと早鐘のように早くなる。
心を決めて震える手で咲の肩を抱いた。柔らかい。そして思ったよりずっとか細く感じた。
(女の身体って・・・こんなに気持ちいいものなんだな・・・)
354オギング(呪いの同人誌)88:2008/05/09(金) 21:40:48 ID:???
斑目が生まれて始めて感じる暖かな人肌の温もりが斑目の身体に伝わってきた。
そして勇気を振り絞って蚊の鳴くような声でようやく声をかけた。
「だ・・・大丈夫だよ・・・大丈夫・・・俺が・・・ついてるからね・・・」
斑目は幸せの絶頂にあった。
(俺は・・・今日、この瞬間の・・・この幸せのために生まれてきたんだ・・・)
(俺はいつ死んでもいい・・・いつ呪われてもいい・・・)
斑目は心の中で呟いた。
355オギング(呪いの同人誌)89:2008/05/09(金) 21:41:19 ID:???
斑目が自宅に着いたのは時計の針が午後8時を過ぎるころであった。
その後、斑目は昨日の夢のような夜の出来事をぼうっと思い出しながら
全身から力が抜けたように呆けて座っていた。

あの事件があった次の日、春日部さんは斑目に新品の服を買ってくれた。
斑目のアキバ専用服が咲の涙と鼻水でぐしゃぐしゃにぬれていたからだ。
アキバ専用服は紙袋にしまってもってきていた。
咲の匂いと涙と鼻水の染み込んだ服・・・

この服は今後、大切な宝物としよう・・・と斑目は思った。
356オギング(呪いの同人誌)90:2008/05/09(金) 21:41:51 ID:???
今朝、二人は病院に荻上を見舞いに行った。
荻上はまだぐっすりと病院のベッドの上で眠っていた。
荻上の家族やその他、見舞いに来てくれた人の感謝の言葉を受け
事件も解決したと思われたので取るものもとりあえず2人は帰ることにした。
(大野に連絡しなくちゃ・・・)
咲も斑目も井戸に落とした際に携帯電話が壊れてしまったので、
病院から大野の携帯に電話したがなぜかつながらなかった。
民宿に帰ると咲のいない間に大野から連絡が入っていた。
民宿の人が「かなり心配していたようですよ」と言う。
民宿には昨日の時点で落ち着いた頃に二人の無事を救急隊員の携帯を借りて伝えていた。
そこで民宿の人が大野に二人の無事を伝えるとホっと安心していたとのことであった。
二人は民宿の電話を借りて大野に返事の電話をかけたが、やはりつながらない。
「おそらく、恵子が正常に戻ったので何かたまっていた緊急の用事でも片付けているんだろうか・・・
で、携帯のつながらない場所にいると・・・」
二人はそう楽観的に考えることにした。
その後、二人はすぐに荷物を片付けて宿を出、電車に乗って帰ってきた。
357オギング(呪いの同人誌)91:2008/05/09(金) 21:42:23 ID:???
咲は本当なら一旦、自分のマンションに帰った後、大野のマンションに直行する予定だった。
しかし咲が夜中に自分のマンションの前までくると人影がドアの前に立っている。
(誰?)
怪訝な顔をして確かめると高坂である。
「あ 咲ちゃん」
高坂が目の下にクマをつくりながらも今までにないほどの満面の笑顔でにこやかに咲に喋りかける。
「どうしたの?携帯に電話しても自宅に電話しても店に電話してもつながらないから心配して・・・
マンションまで来ちゃった。」
(あ・・・そういえば・・・・高坂、仕事に一区切りつくのは今頃だって言ってたな・・・)
いろいろあってテンパって忘れていた咲であった。
「ご・・・ごめん・・・急に対処しなくちゃいけない用事ができて・・・バタバタしてたんだ。
でも、無事に終わったから。」
「よかったぁ〜」
高坂はそういうと咲に抱きついてきた。
「えっ・・・ダメよ・・・高坂・・・ん・・・」
咲の口は高坂の口によってふさがれてしまう。
熱い口づけを交わしあった後、咲は高坂を放そうとする。
358オギング(呪いの同人誌)92:2008/05/09(金) 21:42:55 ID:???
「だめ・・・今、帰ってきたばかりで・・・シャワー浴びないと・・・」
「いいよ。このままで」
高坂は片手で咲を抱きながら片手でマンションのドアを開け、咲を中にひきずりこむ。
高坂が片手でドアを締め、咲の身体をまさぐり始めた時、既に咲は無抵抗になっていた。
(いいか・・・もう)
高坂も缶詰で働きづめで咲の身体に飢えていたのだろう。
実は飢えていたのは咲も同じである。
(疲れなんとかって奴だな・・・)
高坂と熱いキスを繰り返しいつのまにか裸になって抱き合いながらそんなことをうっすらと考えていた。
高坂と抱き合うのは久しぶりだし事件が解決したことで緊張の糸も切れていた。
ストレスからの開放が咲の抵抗を無くしていた。
咲と高坂は欲望の限りお互いの身体を貪りあい、長くて短い1夜が過ぎていった。
359オギング(呪いの同人誌)93:2008/05/09(金) 21:43:24 ID:???
咲と高坂がマンションで抱き合っている頃、斑目は相変わらず呆けて一人、座っていた。
と、突然、斑目の後ろで パラパラと本がめくれる音がする。
(なんだ?)
不思議に思い音のするほうをふりむくと牧田君総受化計画がいつのまにか背表紙を表に向けて
机の上に置かれていた。
「?」
斑目が不思議に思ってみていると背表紙に載っている写真のように精密に描かれた井戸から
目の錯覚か何か黒いものが左右に揺れながら出てきた。
(ア・・・アニメーション?)
最近の同人誌は凝ってるなあ・・・どういう技術なんだろ
とぼーっと考えている間にその黒いものは井戸からはいずり出てきた。
黒いものは少女の頭であり、はいずりでてきたのは少女だ。
少女は身体を左右に揺らしながらだんだんと近づいてくる。
(ありゃ。これ井戸の底から見つかった・・・荻上っていう女の子じゃないか?)
そう斑目がぼーっとした頭で考えていると少女の頭が裏表紙いっぱいにひろがり・・・
裏表紙をつきぬけて外に這い出てきたのである。
(すげーっ。これってホログラフィか?どうなってんだろ?)
同人誌から出てきた少女は机の上に立ち上がり顔の前に垂れ下がった髪をかきわけて大きな瞳で
斑目をじっと見つめた。
その瞳はあの古井戸のように一筋の光も見えない底無しの暗闇で覆われていた。
斑目はまるで魂がその瞳に吸い込まれるような気分に陥った。
360オギング(呪いの同人誌)94:2008/05/09(金) 21:44:02 ID:???
高坂は家に取りに行くものがあるからと朝、部屋を出て行った。
高坂が2〜3日まとまった休みが取れたので、久しぶりに一緒に出かけようということを
二人は決めていた。
咲のルンルン気分が一変したのは別れた後、すぐに大野からきた電話を取った時だ。
電話に出た大野の横から相変わらず「オギオギ〜」とうめく恵子の声が聞えてきた。
「あ!咲さん。・・・やっと連絡がとれた・・・とりあえず無事に帰られたようで・・・安心しました。」
とホっとする大野に対して咲の身体は硬直した。

「恵子・・・治ってないの?」
「あ・・・はい・・・ずっとこのままですが・・・」
「携帯・・・かかんなかったじゃん。」
「ごめんなさい。携帯電話、一昨日の晩にトイレに落して壊れちゃったもので・・・」

大野との電話をいそいで終えた後、呪いがまだとけていなかったことがわかり
斑目の身が心配になった咲は慌てて斑目のところへ様子を見に行く。
「斑目!いるか!!」
ドンドンとドアを叩く。だが返事がない。
ドアノブを回すとドアが開く。鍵がかかっていない。
「斑目・・・」
咲の耳に聞えてきたのは「おぎおぎ〜」と呟く斑目の声だった。
斑目は机に向かったまま必死で漫画を描いていた・・・
「斑目!!」
咲が必死で叫んでも身体を揺すっても反応が無い。斑目はただ一心不乱に漫画を描くだけだった。
361オギング(呪いの同人誌)95:2008/05/09(金) 21:44:37 ID:???
バタンっとドアをしめた咲の頭の中は考えがゴチャゴチャになって整理がつかなかった。
斑目もやればできるじゃん・・消費オタクから脱却して創造系に転進ってか?
・・・いや、そうじゃなくて・・・
なんで?なんであたしだけ助かったの?
このままでは高坂も斑目みたいになってしまう。
「おぎおぎ〜」と呟きながら1日中、荻上のSSやイラストを描き続ける高坂
・・・あれ?エロゲーのプログラマーとどこが違うんだ?
いやいや。仕事でやるんじゃないから金にはならない・・・じゃなくて
・・・私以外の女性に夢中になるのは嫌だ。
でも今までイラストとか私以外の女性に夢中になってたような・・・
つーかあれは二次元だし・・じゃなくて・・・ああ・・・何考えてんだかわかんない・・・
そうっ!!なぜ私が呪われなくて斑目や恵子が呪われたのかということ
・・・違いは何?何が違うの???
362オギング(呪いの同人誌)96:2008/05/09(金) 21:45:05 ID:???
咲は車を運転していた。助手席には高坂が乗り、呪いの同人誌を手にしている。
今朝、咲ちゃんに言われ、元の同人誌をコピー機でコピーして本にしたものだ。
後ろには恵子が「おぎー・・・おぎー・・・」と小さな声で呟いていた。

咲は混乱した頭で考えた。
呪いが解かれなかったのはまだ荻上が眠りから醒めないからだ。
自分が呪われなかったのはコピーした本を斑目に読ませたからだ。
呪いはできるだけ多くの人に伝播していくように本がコピーして配られていくのを
望んでいるのだ・・・
高坂を救うには手段は1つしかない・・・

(私は自分勝手な女だ・・・)
咲は自分のやってきたこと、これからやろうとしていることの苦悩に
身を引き裂かれる思いだった。
363オギング(呪いの同人誌)976:2008/05/09(金) 21:45:35 ID:???
咲の脳裏に中島の不気味な微笑が浮かぶ。
そして、その瞬間、あの時、小さくて聞き取れなかった中島の声・・・
・・・咲の耳元で囁いた声が・・・
突然、鮮明に咲の頭の中に響いてきた。

「あんたもいい子ぶってるけど、中身はあたしとおんなじ自分勝手な女なんだよ!
結局、あんたがやってることはあたしとおんなじじゃないか」

(そうだ・・・私は自分勝手な女だ・・・)
(斑目を犠牲にし・・・高坂を助けるために今度は笹原に迷惑をかけようとしている・・・)
そして中島のように強くはないとも咲は思った。
私は弱い女だ・・・中島のように罪の意識を負わずに他人を犠牲にして
自分の願望を達成する強さはない・・・
364オギング(呪いの同人誌)98:2008/05/09(金) 21:46:07 ID:???
「咲ちゃんどうしたの?」
気づくと高坂が咲の顔を覗いていた。
いつものように天使のような笑顔で・・・

「顔色が悪いよ?」
「あ・・・ちょ・・・ちょっと疲れてるだけ・・・」
そういうと咲は思いを振り切るようにハンドルを強く握り締めアクセルを踏んだ。

今は高坂を助けることだけ考えるんだ・・・余計なことは忘れよう・・・

車は笹原の家にスピードを上げて向かっていった。

〜おぎ〜♪きっとおぎ♪〜・・・(エンディング・テーマ)

〜オギング(呪いの同人誌)〜 FIN
365オギング(呪いの同人誌)99:2008/05/09(金) 21:46:33 ID:???
オギング(呪いの同人誌)バースディー 予告

同人誌を高坂に見せられた笹原は勃っちゃって入院している荻上に会いに行く、
そして、笹原はそのかわいさに思わず一目ぼれし、他に誰も部屋にいないのをいいことに
キスしてしまう。
すると なんと!荻上が目覚めたではないかっ!!
二人は相思相愛になり、今まで呪われていた者の呪いは全部、解けてしまう。

荻上は笹原の行っていた椎央大学へ晴れて入学することとなり、げんしけんに入って
朽木会長の下でつぶれかかっていたげんしけんを立て直すのであった。

・・・あ 最後まで書いちゃった・・・・
366オギング(呪いの同人誌)100:2008/05/09(金) 21:51:15 ID:???
・・・ただ、そうなっても荻上の呪いは完全に溶けず、
時々、「おぎーおぎー」とうめきながら夜中に
荻上のイラストを描いたり げんしけん関係のSSを書いたりする人がいるのです。

あなたは夜中に荻上のイラストを描いていませんか?
あるいはSSを無償に書きたくなったりしませんか?

そのまま放っておくと・・・たいへんなことになりますよ・・・
367マロン名無しさん:2008/05/09(金) 21:53:39 ID:mWdXZg25
ふう 一応、ちょうど100でしめれましたね・・・
オギング(呪いの同人誌)のお話は以上でおしまいとさせていただきます。
長らくのご声援・ご静聴 ありがとうございました。

またお会いできることがあればその時はよろしくです。
368マロン名無しさん:2008/05/12(月) 02:02:00 ID:???
おつかれさまでした!
リング初見の時の恐怖がよみがえりましたよ。
とくにラストの咲の心理描写あたり・・・
…って?あれ?99と100でがらりとハッピーエンドになってるww
369マロン名無しさん:2008/05/17(土) 23:54:29 ID:???
>>368
ご感想、ありがとうございます。
他に感想がないのは呆れられてるのかな?それも仕方ないか。

結果より過程を重視しましたので・・・って絶望先生か
この作品に関して作者の言いたいことは>>248に書いたのが全てです。
98までの1つの作品とした方が良かったかもしれませんが、
そうすると何か中途半端で終わった感じになって続きが読みたくなるだろうし
だからといって続けてもう1作品書くだけの力はなかったので、
こういう終わり方となりました。
ということで、読者の方々の中にはいろいろご不満はあるかと思いますがご了承ください。
370マロン名無しさん:2008/05/20(火) 00:20:34 ID:???
>369
呆れてなんかないぜ〜。

読むのが遅くなって感想も遅れましたけど、一旦解決したと見せておいて斑目が犠牲になるあたり、リング原作初見の怖さを思い出しました。

下敷きになっている話の主要登場人物を、げんしけんの登場人物にうまく当てはめていてお見事。特に咲は、ラストの自責も含めて女性らしさが活かされていたと思います(映画版リングも女性になって怖さが増した気がしたし)

何より、「見たら呪われます」というオギーのあのセリフと、トラウマな過去話をモチーフに、リングに結びつけるあたり、上手いパロディだと思いました。
次の作品にも期待してます!

371マロン名無しさん:2008/05/21(水) 08:02:24 ID:???
372マロン名無しさん:2008/05/22(木) 18:59:19 ID:???
>>370
ありがとございま〜す。

(「見たら呪われます」というオギーのあのセリフ)

まさしく370さんの言われるとおり、この一言が当作品を作る動機になりました。

(次の作品にも期待してます! )

構想はあるし、書きかけてるんですが・・・我ながら設定がむずかしずぎて前に進まない・・・
完成させる力ないわぁとちょっとあきらめかけてます。

ちなみに考えてる作品のタイトルは「咲と真琴」
ーー高坂の心の闇を中心にした作品です。
373マロン名無しさん:2008/05/24(土) 10:37:09 ID:???
>>372
いいねいいね!
新作期待
374マロン名無しさん:2008/05/25(日) 16:28:47 ID:???
久しぶりに短いのを投下。
375「無理」:2008/05/25(日) 16:30:04 ID:???
(そもそも、何で好きなんだろう)
斑目晴信は、部屋でパソコンのマウスを操りながら、ふとそう思った。
(付き合うなんて無理だし)
彼氏がいるのだから。
(しかも、自分でけしかけといて……)
ボウッとマウスをクリックする。
ディスプレイの中で笑う少女を見ながら、ぐるぐるととりとめのない思いが浮かんでは消えた。
(ああ、無理なんだな……)
奪うのも。
諦めるのも。
嫌いになるのも。
忘れるのも。
全部が。

こんな自分を叱ってくれないだろうかと考えて、苦笑した。
やっぱりそれも無理なのだ。
376マロン名無しさん:2008/05/25(日) 23:24:10 ID:???
読めば読むほどイイですこれ。
自分は長いのダラダラ書いちゃう方なので、簡潔でしかも深い話を書く人を尊敬しまつ。

何もかも「無理」だという袋小路の心理のなかで、「こんな自分を叱ってくれないだろうかと考えて、苦笑した」と自虐するあたりが好みです。
いかにも斑目らしい(涙)。
377マロン名無しさん:2008/05/27(火) 16:55:32 ID:???
切ないな
378マロン名無しさん:2008/05/28(水) 17:50:31 ID:???
うん
379マロン名無しさん:2008/05/31(土) 00:10:34 ID:???
しばらく来ない(正確にはアクセス規制で来れなかった)間に、また超大作が来てるな。
俺もそろそろ始動するかな、中断してた長編を。
380マロン名無しさん:2008/05/31(土) 00:43:13 ID:???
>>379
可能性(1):生殺しの人キタ━━(゚∀゚)━━━!!
可能性(2):アルエの人キタ━━(゚∀゚)━━━!!
可能性(3):筆茶屋の人キタ━━(゚∀゚)━━━!!
可能性(4):801小隊の人キタ━━(゚∀゚)━━━!!
可能性(5):うすじキタ━━(゚∀゚)━━━!!

あえて一番可能性ある人外したりして。
あ、もちろんネタですからお気になさらず>みなさま
381マロン名無しさん:2008/05/31(土) 13:33:18 ID:???
>>380
ネタはネタとして了解したが801小隊は完結してなかったか?ツメが甘ぇなベイベー
382マロン名無しさん:2008/06/01(日) 00:56:45 ID:???
俺、シリーズで長いのはまとめサイトに上がってから読んでるんだけど
最近更新まれだから読みためちゃってるんだよね。
まとめの中の人ってどうしてるん? オンリーかなんかで近況知ってる誰か?
383マロン名無しさん:2008/06/02(月) 12:56:47 ID:???
>>380を見て思い出したけど、確か筆茶屋って完結してないよね。
よみたいです。すごく。
384マロン名無しさん:2008/06/03(火) 00:10:30 ID:???
>>382
オンリーではスタッフとして頑張ってたみたいだよ。
一段落しただろうから俺も期待してる>まとめサイト
385ラすびぃ(1):2008/06/04(水) 18:41:57 ID:F21MvqbP
【あれから】

斑 (んー・・・ふと足を止めてしまうが、いざ笹原たちがいなくなると
   学内に入りづらくなるものだ・・フフ・・・ンー・・・んー)

サークル棟移転につき現棟は8月某日から解体工事を行いますので
それまでに棟内の備品・荷物を撤去しておくこと −大学案内

斑 「んーーーっ」
・・・・・・・・・・・・

斑 「フフ・・来てしまった。緊張するな。」コンコン ガチャ
女A 「うわっびっくりした」 
斑 「あ、ゎあごめんなさい」
女B 「なんですか?」怪訝そうに菊
斑 「あぁあのー私ここのOBでしてちょっと掲示板でサークル棟壊すって聞いたもんで
   荻上さんか朽木くんいるかな?」
女A 「オギウエ?ああ部長ですか?部長ならさっきどっか行きましたけど
    どーぞ勝手に入って下さい」
斑 「ぁ?ああどうも」ガチャ(改めてこんにちわ)
  「んー。。(香水の匂いがスル) んあっああ・・・か、春日部さん」



   

386ラすびぃ(2):2008/06/04(水) 18:42:50 ID:F21MvqbP
女 「え?」
斑 「え?なんで・・・髪ちょっと赤い?・・」
女 「え?ああ・・これエクステンションだけど・・てか誰?」
斑 「え、エクス?不良?・・復学?」
女 「不良ってw?だから誰?」
斑 「・・・春日部さんじゃない?」
女 「ああ・・あー、咲はあたしの姉だけど、あたしは舞だけど」
斑 「妹さん・・・アアソーデシタカ、ワタクシげんしけんでお姉さんと一緒だった
   マダラメです。でもなんでゲンシケンナンカに」
舞 「へえーお姉ちゃんの先輩なんだ」
斑 (うっ答えてモラエズ)「かっ春日部さんは元気カナー?」
舞 「ンーなんか忙しくて元気ないみたい」
斑 「へっ・・へーっ いやこのサークル壊すって聞いたから昔置いた私物取りに来ただけなんだな」
  「どっどうだいゲンシケンは」
舞 「んーおねえちゃんもあたしもエスカレーターの女子高生活だったから
   ここの話聞いてあたしも入ろうって思ったの。」
斑 「(やはり聞いておくべきか)き、君もおたくなわけ?w」
舞 「んー結構そうかも、お姉ちゃんがここから持ってきた漫画とか読んでだし」
斑 (むむーっ意外な反応 妹は少しカスタマイズされているのか、フフ
   しかし姉妹そろってオタクにしてしまうとは恐るべし、まだ現視研の威光は
   生きていたか)咲「あたしはオタクじゃないっつーの!!」)
   じゃ。。じゃちょっと失礼して昔ここにおいて言った備品とかを」
舞 「そーだ あなたマダラメさんだ。咲ちゃんがよく言ってたわ思い出した」
斑 「ぁ・・ぁあ///それはどーも」
387ラすびぃ(3):2008/06/04(水) 18:45:33 ID:F21MvqbP
ガチャ
女A 「あ・・まだ部長来ませんか」
斑 「ああ・・うん荻上さんもプロになって忙しいだろうしね。会えたらよかったけど」
女B 「あの人って・・昔からあーなんですか」
斑 「え?・・どーかしたのカナ?」
女A 「あの人最初は会員募集一生懸命だったのに、いざ入ったら何も口利いてくれないし
   何するのかって聞いたら”好きなことすればいい”って、プロの漫画家とかいうから
   どんだけ凄いのかと思ったら、今はどこかで描いてるわけじゃないし」
女B 「それにひどいんだよね、窓開けたら誇りが原稿にかかるとか切れちゃって、そんなら
   部室で漫画かくなって話!}
斑 (ムムーっ早くも崩壊の予感)「あ、あの朽木くんは?」
女A 「誰ですか?それ」斑(消えてますかーーっ!よく見たらアニメポスターもねえし
   フィギアもロッカーにあるのか、机には化粧品。うーん現視研の威光死んでます!)
ガチャ(おおっメバエタメ見っけ 持っていこう)

荻上「・・・・・マダラメさん」
女A/B「・・・・」
斑 「おお!荻上さん、お久しぶり」
荻 「お久しぶりです、ちょっと・・・外で」
斑 「ぉぉ・・おお・・じゃじゃっ春日部さん お姉さんにヨロシク」


388ラすびぃ(4):2008/06/05(木) 00:53:10 ID:r1jm3lLg
斑 「いぃやーあの掲示板でサークル棟壊すっていうからさー。
   いやーははは懐かしくてついぶらり、と笹原どうよー?忙しくて会えないかな
   げんしけんもすっかり変わっちゃっていやーもー」
荻 「さっき見たじゃないですか、私嫌われてるんですよ。それに笹原さんとは
   忙しくてケンカする暇もないです。」
斑 「そーかwそーだよねもうプロだし何かと忙しいよね」
荻 「漫画のほうも、一時期自己嫌悪で、わだしみたいのが、わだしの作品なんがを
   世間に出していいのかって、連載のほうもごちゃごちゃしちゃってしばらく出してないんです。
   あのですね。」
斑 「ん?」
荻 「わだしも今週で大学辞めるんですよ」
斑 「・・・・・」
荻 「あっ誤解しねで下さいね、今の子たちが嫌だとか、自暴自棄とかじゃないんでス
   わだしも多分マダラメさんと一緒です。このサークルが無くなるってのを機に
   も一度やりなおそって思って。柴崎って覚えてます?ほら漫研の・・」
斑 「んぁーー・・・ああーーうんうん」
荻 「今あいつあたしのアシやってくれてるんでス、そんでも一度やろうって今編集とも
   話しえtるんです。それに現視研の子もソリあわねって向こうは思ってるけんど
   でもあの子、春日部さん・・・あの子素質あるッス。わかるんす。だから
   だから、大丈夫だって。あの部室があったから・・あそこに先輩たちがいたから
   あだし、もう大丈夫だって。だから漫画に本腰いれていごって」
ブーブーッブーッ
斑 「・・・・・・・」
荻 「柴崎から電話でした、編集から呼ばれてるから来いって、先輩漫画でたら呼んでくださいね
   そんじゃあだし行きます。ども」



そっか・・・・・・・・そっか
389ラすびぃ(5):2008/06/05(木) 01:00:26 ID:r1jm3lLg
咲  「んあーーーー・・んっ舞 来るなら言ってよ〜ああ疲れた」
舞  「あっおっかえり」ぱりぱり
咲  「泊まってくならママに電話しときなさいよ」
舞  「んぁーい・・・あ、そだ。今日ね なんつったっけ。ま、ま?ま
    マダラメだ マダラメって人が現視研にきたよ、お姉ちゃん知ってる?」
咲  「ん?なんだって?」
舞  「まーだーらーめ」
咲  「・・・ああ」
舞  「反応うすーいの、なんかくたびれてる人だったけどあの人がお姉ちゃんをオタクにしたの?」
咲  「違うよ・・・で?何だって」
舞  「よろしくってそんだけ、お姉ちゃんの頃って楽しかったっていうけど実際どうだったの?」
咲  「んー?・・・そりゃ楽しかったよ。んあー着替えると楽だわー悪いけど
    お風呂沸かしてくんない」
・・・・・
舞  「あーお風呂気持ちよかった。いいよ入って・・あれどこ行くの」
咲  「うん、ちょっと外」
舞  「もう暗いし危ないよひとりで」
咲  「ちょっとすぐそこだよ」



咲  「・・・・・・・・・・」

     「・・・・あ、もしもし。私、春日部だけど、うん久しぶり・・」
390ラすびぃ(6):2008/06/05(木) 02:41:03 ID:???
   終
391マロン名無しさん:2008/06/05(木) 07:36:49 ID:???
続かないのですか!?
電話の会話が気になる!!
392マロン名無しさん:2008/06/05(木) 08:50:38 ID:???
相変わらず勝手な奴だw
でも雰囲気出てるな。久しぶりに読めてよかった。アンガトまた読ませてください。
そして柴崎って誰だ
393マロン名無しさん:2008/06/06(金) 16:44:39 ID:???
GJ
その後の展開が凄まじく気になるんだけど、>>390で盛大に噴いた。
続かないんでつか?
394うすびぃ:2008/06/08(日) 11:08:21 ID:???
柴崎→藪崎

私は電話の相手がマダラメだとは一言も言ってないですよ
カラカラカラw
395うすびぃ:2008/06/09(月) 14:25:21 ID:???
ダラ 「ま、水着姿を見れただけでもよしとするか ハハ」
笹原 「えっ・・・どっちのですか?」
ダラ 「どっちって・・・そりゃwちゃんと見れたのは一人だけ」
笹原 「あ〜あそれにしても大野さんの見れなくって残念でしたねw」
笹原 「はい?どうかしましたか?」
ダラ 「何でもねーよ!」ダラ 「え?え?」
恵子 「・・・・クカー」
笹原 (恵子・・・の見たかった?の・・・かな???こんなののどこがいいんだろ)

その晩

ダラ 「バカッ!バカ!笹のバカ、ボクが見たかったのはお前のだけだ!笹っ!」
ササ 「ああっ・・ごめんなさいっ いつになく強気攻めっ・・」
ダラ 「・・・」ンチュ
ササ 「んっ・」
ダラ 「バカなボクのササ。許さない!今夜だけはっ許さないっ!」
ササ 「んああーー」
396うすびぃ:2008/06/09(月) 14:32:41 ID:???
笹原  「ボツです」
荻上  「え?今までyaoiはおkだったのに・・」
笹原  「ダメなものはダメ。ボツというか廃棄」ガチャ

荻上  (んー・・・なんか笹原さんのツボを押してしまった。これはこれで
     新発見。今までのササマダものとは違うのか)


笹原  ごきゅごきゅごきゅ 「ぷはー(ボクだってね恋愛経験乏しいけど
    斑目さんと春日部さんのことくらい・・・知ったのそーとー後ダケド
    みんなで鈍感扱いして)・・・フフ でもまあ
    今日も繋がっちゃいましたよ・・・マダラメさん)


ダラ 「くしゅんっ」
久我山「か、か、風邪か?」
397マロン名無しさん:2008/06/10(火) 23:58:45 ID:???
待て?
最後の久我山は何だ?
まさか…
398うすびぃ:2008/06/11(水) 01:03:42 ID:???
(終)
399マロン名無しさん:2008/06/11(水) 02:12:49 ID:???
ちょwwww(終) のタイミングがwww
400マロン名無しさん:2008/06/11(水) 06:02:47 ID:???
ンチュ にニヤニヤしてもたwww
401マロン名無しさん:2008/06/14(土) 03:54:06 ID:???
うおおおおおおおおお!!!!!!
改めて見ると、パトレイバー面白れええええええ!!!!!!!

ハグレイバーの続きを書きたくなってしまった。
もうひとつの方もまだ未完だと言うのに…
402マロン名無しさん:2008/06/15(日) 23:03:30 ID:???
落ちてない…よね?
403マロン名無しさん:2008/06/16(月) 17:53:27 ID:???
おう
404うすびぃ:2008/06/17(火) 04:07:46 ID:ayISRzVy
「笹原」


ダラ 「笹原・・・あいつってサ、俺ら以外に友達いるのかな?」
田中 「そらいるだろ。同じゼミとかで」
久我 「まま、ま俺らと学年も違うし、笹原には笹原の世界があるだろ」  
   
春日部「そういえばここの人間以外と一緒にいるの見たことないね」
田中 「そういや俺らって意外と笹原のこと知らないな」 
ダラ 「まあw!俺らみたいな人間わ 色々ちょっと癖があるからな」
高坂 「でもサキちゃんにいきなり殴られたり女の子に距離おいたりしてないから
    案外高校のときはもてたりしてたんじゃないですかね」
一同 「ないない」
大野 「でっでもいい人じゃないですか」
春日部「ん その『いい人』ってフレーズが あれだね〜」
ダラ 「んー マンケンに友達があるでもなし、アニ研にもツテなし」
オギー「そ、そんな何もない人みたいに言うことないでしょう!」
春日部「んーオギーでさえマンケンに友達いるしね。ほらなんて言ったっけ
    あのぽっちゃりした・・」
大野さん「あ、でもでも加藤さんの話じゃマンケンの女の子たちには
     結構笹原さん人気あるみたいですよ」

わいわい

ドアごしに
笹原  (俺って・・・・・・・・)
405マロン名無しさん:2008/06/18(水) 00:58:55 ID:???
笹原には高坂という友達がwww
406うすびぃ:2008/06/18(水) 11:59:51 ID:???
(終)
407マロン名無しさん:2008/06/18(水) 21:56:37 ID:???
何てフリーダムな奴なんだw
408マロン名無しさん:2008/06/22(日) 23:14:35 ID:???
もう少しだ、あともう少しで投下出来る…
409うすびぃ:2008/06/23(月) 02:08:14 ID:lomrS74X
俺も。
最終回の後の話ある
410マロン名無しさん:2008/06/28(土) 02:20:59 ID:???
最近スレが長持ちするようになったなあ。
中4日も空けても過去ログ行きにならんな。
411マロン名無しさん:2008/06/29(日) 23:53:59 ID:???
念の為保守
412うすびぃ:2008/06/30(月) 19:15:04 ID:???
おらかかねーぞ
お願いしますって
お願いティーチャーしてくれないとやらないよ
最優先事項っていってkるえないと
413マロン名無しさん:2008/07/01(火) 19:17:20 ID:???
あっという間に7月だよ。
保守保守
414マロン名無しさん:2008/07/06(日) 00:08:28 ID:SrtKEFPv
保守
415マロン名無しさん:2008/07/06(日) 00:09:55 ID:???
スマン、ageてもた
416マロン名無しさん:2008/07/06(日) 04:37:42 ID:???
…いるシリーズの日垣と国松が気になってしょうがない。三次創作か……
417マロン名無しさん:2008/07/12(土) 07:37:32 ID:???
いるシリーズの続きが読みたい保守
41830人いる!の人:2008/07/13(日) 21:32:37 ID:???
ご無沙汰してます。
私生活でいろいろあって、長いこと執筆止まってしまって、ご迷惑をお掛けしております。
最近ようやく再起動しましたので、今しばらくお待ちを。

419マロン名無しさん:2008/07/14(月) 11:17:33 ID:???
良かった無事で(?
続き待ってるぜ!
420マロン名無しさん:2008/07/15(火) 23:20:02 ID:???
   
421マロン名無しさん:2008/07/17(木) 02:17:59 ID:???
いまさらながらにこのスレに辿り着いた俺。
Wikiに掲載されているSSの高クオリティに絶句。
まだSS全部は読んでいないが、とりあえず「11人いる!」の衝撃は咲のぐーパンチ並だったと言っておこう。
422マロン名無しさん:2008/07/18(金) 02:52:25 ID:???
・・・いる!シリーズの方はプロですか?
423ラすじ:2008/07/19(土) 01:20:32 ID:leAP493O
いえ私はしがないしめじ栽培を生業とした農家です
424マロン名無しさん:2008/07/20(日) 22:15:21 ID:???
>>423
意外と健康的な生活してることに安心した。
425マロン名無しさん:2008/07/21(月) 03:49:56 ID:???
おいしいよね、しめじ。
肉野菜炒めが最高。
426マロン名無しさん:2008/07/21(月) 16:33:42 ID:???
香り松茸味占地
427マロン名無しさん:2008/07/22(火) 04:37:58 ID:???
しめじは地球を救う
428マロン名無しさん:2008/07/23(水) 00:52:56 ID:???
何故かキノコスレになっている…
429マロン名無しさん:2008/07/23(水) 20:56:53 ID:???
時乃が喜びそうだな
430マロン名無しさん:2008/07/27(日) 23:58:57 ID:???
皆さん、この時期は夏コミ用の原稿を書いておじゃるかな?
431マロン名無しさん:2008/08/02(土) 22:56:06 ID:???
もうそろそこのスレも終わりかな・・・
今までよくもったもんだ。
432マロン名無しさん:2008/08/03(日) 22:24:48 ID:???
もうちょっとだけお待ちを。
今書いてる話、あと30ページ書けたら、とりあえず投下するつもり。
まあそれでも、多分未完だろうけど。
433マロン名無しさん:2008/08/05(火) 00:31:47 ID:???
ストフェス
 
 でかいリュックを背負って、男達は鉱山をさまよう。
 ビックサイトという巨大な鉱山を。
 金の鉱脈をさぐりあてたその顔はかがやき、
 さらなるお宝フィギュアを探してその目はぎらつく。
 
 8月の照りつける太陽の南中――人々に昼食時をつげる――も、この迷宮の中では関係ない。
 
 この恰幅のよい無精ひげの男も、ほかの探検者と同様、腹が減るのも忘れて展示場を歩いていた。
いや、腹は減っていない。食欲が好奇心と物欲に転換されているのだ。
外から見てもフィギュアの箱がごつごつとひしめき合っているのがわかるようなリュックのふくらみに、男は幸せをかみしめていた。
 
 と、突然、男のケータイが有名なゲームソングを奏でだした。
 男は、ん?と首をかしげると、もそもそとケータイをとりだす。
 その様子はおっくうそうにみえるが、これは彼が怠け者だからではなく、現在の彼の筋肉、神経、骨の髄の全てが『フィギュアサーチモード』になっており、ケータイに対応するのは想定の範囲外のアクションだったからに他ならない。
 
『たなかー! 大丈夫か?!』
 耳に押し当てるなり飛び込んできたキンキン声に、男はめんくらった。
「…お、おう、斑目」
『お、よーやくでたな。何回も電話したんだぞ!』
「ああ、悪い。気づかなかった」
『ところでお前、今ストフェス会場だろ?』
「ああ」
『なんともなかったか?』
「何が?」
『何がじゃねーよ! エレベーターが暴走したんだって?』
「…あー。そういえば、開始直後にちょっと騒ぎがあったみたいだ。そうだったのか…」
『負傷者多数の大惨事で、衛生兵を呼べ状態だったらしいけど、あ、田中は無事なん?』
「うん。ちょっと遅れてきたからね。今日は」
434マロン名無しさん:2008/08/05(火) 00:34:43 ID:???
『そっかー。うむうむ。無事で何より! 
 …いやね、もし、もしも田中が救護室行ってたら、俺が代わりにお使いしてやろうと思ってたところだったのよ。一回病院送りを体験すると、友人の大切さをしみじみ感じるもんでな…。
 ニュース見てからお前に電話したんだけど、でないじゃん。こりゃやべえんじゃねえか、ってすぐ家でて、今JR有楽町なんだけど……ちぇ、人の親切心を無にしやがって、こんにゃろめ!』
「…斑目、俺に怪我しててほしかったわけ?」
『あー、いえいえ、そんなことはございませんよ。今のはつい口がすべったってゆーか。
 ……んじゃ、俺、ビックサイト行くのやめて、アキバでおりるわ。じゃな』
「心配かけたな」
『おうよ! …でも、お前が開場時間に遅れるって、めずらしいな』
「…ん…まあ、ね」
『ははーん。何かあったな〜』
「……」
『君も男なら白状したまえ!』
「…まあ、そのうち連絡するよ……」
『?』
「……大野さんの実家って、アメリカなんだな」
『!』「じゃ」

 相手が次の言葉を口にする前に、男はいそいで電話を切った。
 ついでに、電源自体を落とした。

 今晩じっくり話すことになるんだろうな、いや、そのまえにみんなに知れ渡っていたりして。久我山には先に知らせておきたいが…

 現実を思い出しかけた頭を、男はゆっくり左右にふった。
 ここはストフェス。
 年金も、仕事も、結婚も、あと3時間は関係ない。

 そうして、男は、宝探しのスペランカー達の群に戻っていく。
 その体がふらついているのは、数時間前から立ちっぱなし、歩きっぱなしだったからだけではない。
 先日はじめてのアメリカ旅行から帰ってきたばかりで、まだ軽く時差に悩まされているのだった。
435マロン名無しさん:2008/08/05(火) 00:36:19 ID:???
<終わり>

長編の神々を待つ間に、少々…
せめてコミケは無事でありますように!
436マロン名無しさん:2008/08/05(火) 05:57:12 ID:???
GJ〜!時事ネタも不謹慎でないレベルでよろしかった。
怪我した皆さんの早のご快癒を祈ろう。
田中すごく男らしいぜ。いささかダメっぽいがw

それからスペランカーさまは耐久力ないから危険です><
437マロン名無しさん:2008/08/06(水) 01:33:06 ID:???
何たる時事ネタw
ひょっとしたらSSスレ初かも。
438マロン名無しさん:2008/08/10(日) 21:59:45 ID:???
あと20ページ…
439マロン名無しさん:2008/08/11(月) 03:16:50 ID:???
>>438 原稿ですか荻上さん?頑張ってください!

ーーーー
夏の夜、といってもまだ深夜というほどではない時間。
斑目の家にスーツ姿の笹原がふらりとやってきた。

斑目「おー、誰かとおもったら懐かしい顔! 仕事、順調か?」
笹原「やっぱ忙しいっす。とくにお盆休みに向けて、いろいろまとめにはいりますから…」
斑目「そっか。がんばってるな、笹原も。ま、立ち話もなんだし、入れよ」
笹原「どうも」
斑目「酒ねーけど、麦茶でいいな。 で、なんの用?」
笹原「いや、用ってほどのことではないんですけど…今日、コミケカタログ買いました?」
斑目「おう、あったりめーよ。販売日に買わなきゃ、オタクの名がすたるぜ!」
笹原「俺も買おうと思ってたんですけど、仕事が終わらなくて…。店はもうしまっちゃってたんで、これは斑目さんのとこいくしかないなって」
斑目「うれしーねー、そういってもらえると。ええ、ばっちりありますよお。CD版も買ったから、一緒にみるか?」
笹原「ありがとうございます。いやあ、販売初日にみなきゃ、なんか祭りって気分がしないんですよね」
斑目「笹原、立派になったなあ! 4年間の調教の成果だな」
笹原「調教、って言葉はやめてくださいよ…」
斑目「ハハハ、すまん! …あ、でも、カタログなら、荻上さんだって買ってないかい?」
笹原「いやあ、それが、仕事とコミケ、両方の原稿を抱えちゃって、今はスーパーサイヤ人のように血相変えて机に向かってます」
斑目「わぉ。それはカタログどころじゃないな…。…そうかあ、いまごろ全国津々浦々で、萌原稿が描かれてるんだなあ。俺に読まれるべくして生まれてくる萌原稿が!」
笹原「別に斑目さんを待ってるわけじゃないでしょ」
斑目「うぐっ……。笹原、ほんとに強くなったな…てか、容赦なくなった…これが、妖精脱出できたものの力なのかぁあああ!」
笹原「斑目さんにも、きっと出会いがありますって! とりあえず、CDカタログ見せてくださいよ。ね、ね!」

ーーーー
以上、438をみて、突発的にうかんだ1シーンでした〜
440マロン名無しさん:2008/08/13(水) 03:58:50 ID:???
最初の二行で、荻上さんの原稿的展開かと思っちまった
441マロン名無しさん:2008/08/13(水) 06:00:14 ID:???
>>439
この後二人の濃厚なカラミが・・・
442マロン名無しさん:2008/08/15(金) 04:29:55 ID:???
今年って、順調に行けば荻上さんって、もう卒業してるんだな。
今年の現視研の面々って、ただ夏コミに参加するだけかなあ?
それともスー辺りが仕切って、また修羅場ってるのかな?
443マロン名無しさん:2008/08/15(金) 20:46:48 ID:???
スーは、今頃コピー本をつくってるころじゃないかな?
444マロン名無しさん:2008/08/16(土) 00:01:53 ID:???
>>443
2日目か3日目なのかなw
445マロン名無しさん:2008/08/17(日) 23:29:32 ID:???
ちょっと近況報告。
以前書いていて、中断したまま放置してた長編の続きが、やっと100レス分書けました。
推敲出来次第、近日中に投下します。
(まあそれでも未完なんですが)
446マロン名無しさん:2008/08/17(日) 23:40:52 ID:???
>>445追記。
あとまとめサイトの管理人の人、もしいらしたら、そろそろスレ15を開けられるようにしといて下さい。
前どこまで投下したか、大体覚えてるけど、ちょっと自信が無いもので。
447マロン名無しさん:2008/08/18(月) 15:34:44 ID:???
448マロン名無しさん:2008/08/22(金) 01:59:48 ID:???
そろそろ夏コミ絡みの話が来そうな予感…
449オリンピック閉会記念1:2008/08/25(月) 02:16:42 ID:???
 ブティックからの帰り道、しょぼくれたラーメン屋のテレビがなんとなく目に映って、春日部咲は立ち止まった。

「ああ、今日でオリンピックもおしまいか…」

 2008年8月24日北京オリンピック閉会。
 開け放しの薄汚れた店内の安っぽいブラウン管テレビに、和気藹々とした各国の選手団が映っている。
 競技ではないせいか、席についている客(サラリーマンらしき背広姿がほとんどだ)の大半はテレビではなくラーメンにくびったけだ。
 そんな中で、Tシャツにリュックというだいぶ『ういた』男が、箸を手に持ったまま、じーっとテレビに見入っている姿はかなり目立った。
 咲はその男に見覚えがあるような気がした。
 むむっ、と目を凝らす。
 あっ、と小さく叫ぶ。
「斑目じゃん…」

450オリンピック閉会記念2:2008/08/25(月) 02:17:51 ID:???
「久しぶりだね、斑目!」
「んわっ!?」
 突然女性の声で名を呼ばれ、斑目はビクンと痙攣した。
 取り落とした箸がラーメンのどんぶりにぶつかって、カシャリンと音をたてる。 
「だ、誰だっ?!」
 と振り返って相手をみるなり、あっと固まる。
「か…かすかべ……さん」
「そうよ。なにびびってんの」
「あ、いや、ま、ね…
……こちとら名前をよばれるなんて、滅多にないことなんですよ」
「あっそ」
「おひさです春日部さん。…こんなとこで夕食? いつも?」
「んなわけないじゃん。ただの通りがかり。斑目見つけたからさ、つい入っちゃっただけ」
「ああ、サイデスカ」
 斑目は顔が赤くなった気がして、あわてて春日部に背を向けるとラーメンをかきこみはじめた。
「…見てたね」
 春日部の『見てたね』という声が『見えたよ』と聞こえて、斑目は軽いパニックに陥った。
「へ? 何が? 顔? え? 照れてないよ全然? ってか何?」
「何いってんの。オリンピック」
「んあ? あ、ああー、オリンピック、北京。え、俺見てないよ?」
「見てたじゃん今さっき」
「ああ…」

 …あれは、見てたんじゃなくて、『あの時』のことを思い出してたんだよ。そう言おうとして、斑目は口をつぐんだ。
 彼女が『あの時』のことなんて、覚えてるわけがない。
 もう4年も前のことなのだから。
 
 
 
451オリンピック閉会記念3:2008/08/25(月) 02:19:05 ID:???
ーー『あの時』ーー

 咲はげんしけんの部室に入ってくるなり、フィギュア雑誌をみていた大野に話しかけた。
「北島選手、すごかったねー!」
「え?」
 ……気まずい間。
「あれ? 大野、ひょっとして、北島選手知らないとか?」
「えーと、えーと、……プ、プロ野球ですかあ?」
「えーっ!? アテネだよっ!? 金だよ? おい、田中は知ってるだろ?!」
「うーん…。ニュースで時々きくけど…。 斑目は知らないか?」
 突然話をふられた田中は、困ったなという顔で、くじアン鑑賞中の斑目に助けを求める。
「ん? 何の話?」
「斑目も知らないよな〜。絵師でも漫画家でもないもんな〜」
「選手なんて肩書き、我々の専門分野にはなーい!」
 眼鏡をギラリと光らせて豪語する斑目、賛同してうなずく大野と田中。
 咲はあきれかえった。
「あんたら、いくらオタクでも世間の常識くらい知っておこうよ」
 斑目はアニメを一時停止にすると、体を咲のほうにむけた。
「世俗の知識に汚染されないことが、オタクの条件なのだ!」
「かっこつけて言うことか、斑目?
 ……じゃあ、あんたらはオリンピックみてないんだ……」
「そのとーり! 夏の祭典はオリンピックにあらず! コミケであーる!」
「芝居口調やめろ! 全然かっこよくないから!」
452オリンピック閉会記念4:2008/08/25(月) 02:20:14 ID:???
 一方田中は細い目をさらに細くして記憶の糸をたどる。
「うーん、オリンピックかあ……ああ、そういや俺、開会式は見たなあ」
「お、さすが田中!」
「世界各国の服がそろって、コスプレの参考になるんだよ」
「……あ。そう……」
「神話ネタが多かったから、ローブを魅力的に見せる方法がだいぶわかったよ」
 大野が目をきらきらさせる。
「本当ですか!? なら今度、ドラクエのティアラをやってみたいんですけど!」
 田中が照れながらも自身ありげにうなずいた。
「ああ、まかせて」
「やったあ!」
453オリンピック閉会記念5:2008/08/25(月) 02:21:05 ID:???
 田中と大野のおのろけを横目に、斑目と春日部は口論に花を咲かせる。

「オリンピックなんて、俺は絶対に見ないね!」
「なんで? 楽しいじゃん。見ててドキドキするじゃん!」
「萌えがない!」
「萌えるとか、萌えないとか、そういう基準で見るものじゃないでしょうが」
「いや、俺にとってはそれがすべてだね!」
「あんたらには限界に挑戦する人の美しさってのがわからんのかねえ」
「そんなことはない! ただ、漫画やアニメの方が、オリンピックより遙かに物事が壮大だからな。
 世界を救うために立ち上がるとか、ルール無しの死と隣り合わせな格闘戦を制するとか、そんなものに見慣れてたら、オリンピックなんかしょぼくって」
「オリンピックは現実なんだよ!? 空想の世界じゃないんだよ!?」
「だから空想にかなうわけないだろ?」
「あー、なんでわかんないかね〜。頭が変になりそう……」
「壺をつりあげたか? って言っても春日部さんにはわかんねーよな。
 まあ、根底の思想が違うから」
「うう〜」
「ま、俺だって、もし日本がオリンピック開催国になって、宮崎駿や押井守が新作アニメで開会式して、選手もモーションキャプチャーで全員美少女ポリゴンに変換して、全ての試合に格ゲーのような効果音やエフェクト入れてくれるなら、見てやらなくもないが」
「なにえらそーに。しかも、意味ほとんどわかんねー」
「ハッハッハ! わからなくて結構! こちとらオタク星人ですからね!」
 斑目はすっくと直立すると、片腕をぴんとあげて朗々と叫んだ。
「宣誓! 僕たちオタクたちは、オリンピックが二次元のものになるその日まで、テレビ中継を見ないことを誓いまーす!

 ……これやぶったら、ローソンの肉まんおごってもいいよ、春日部さん」
「ローソンの肉まんぐらいの決意なんだ」
「ちがわい! ただ、うっかり流れてるのが目に入るってこともあるだろうから」
「はあ…そんなに嫌うもんかねえ……」
 椅子に腰を下ろして、ため息をつく春日部だった。
 
 斑目は宣誓どおり、アテネオリンピックを見なかった。

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454オリンピック閉会記念6:2008/08/25(月) 02:22:28 ID:???
 しかし、それはもうだいぶ前のこと。
 『あの時』から4年。
 春日部さんに会うことがなくなって3年。
 定職につかないこと2年。
 北京オリンピックは、カップ麺以上のゴージャス感を味わいたいときに入る居酒屋やラーメン屋のテレビでぼんやりと見た。
 周りの人が食事そっちのけで日本バレーを応援するのを聞きながら、アニメ鑑賞会やニコニコ動画のような連帯感を少し味わった。
 『あの時』のことは、今日、閉会式のコスプレのような華やかな衣装を見るまで忘れていた。
 あの時堂々と宣言した自分でさえ忘れていたのだから、当然彼女が覚えているわけがない。
 もし『あの時』のことを言ってみても、彼女は『そんなことあったっけ』と首をかしげるだろう。それを思うと、すごく悲しくなった。
「コミケの列の光景と同じように、俺だけの心のフォルダにしまっておくのだ」
 斑目は小さくつぶやくと、コップの水をひとくち飲んだ。
455オリンピック閉会記念7:2008/08/25(月) 02:23:27 ID:???
 その時だった。
「そこ、空いてるよね」
 と、春日部が斑目の隣の椅子をガタリとひいた。
 まだ『あの時』のことに想いをはせていた斑目は驚いた。
「あれ? まだイラシタンデ?」
「なにその言い方」
 席に着いた春日部はメニューを手に取ってめくる。
「……んー、ないなあ」
「ナニガ?」
「ま、いいや。あのー、チャーシュー麺とビールください!あ、ビールは2つで!」
 注文してから、春日部は斑目をみてにんまりと笑った。
「斑目、あんたのおごりだからね」
「へ?」
「あんた、ずーっと前にさ、『オリンピックなんて見ない、見たら何でもおごる』って言ってなかったっけ?」
「……そ、そういや、そんなこともあったっけかね(肉まんだったはずだけどなー)」
「さっき見てたよね、中継」
「んー、正確には見てたとは言いがたいけれど……ま、そういうことにしておきましょう」
「ラーメンひとつぐらいでけちけちするなって!」
「ってか、春日部さん、チャーシュー麺高いって! ビールも俺のおごりですか!?」
「もち!」
「無職なんだから、もちっと手加減してくださいよ」

 斑目はすごく嬉しかった。
 あんな些細なことでも、この人は覚えていてくれたのだと思うと。
 あの頃ただの日常の一つの会話にすぎなかったものが、今こうして二人をつなぐ大切な架け橋になっていることを思うと。 

 二人は閉会式の中継を眺めながら、ぽつりぽつりと近況報告をはじめるのだった。
456オリンピック閉会記念ラスト:2008/08/25(月) 02:24:14 ID:???
その数分後。次回オリンピック開催地のロンドンのデモストレーションにて。

「なにい! アニメが流れると? ふむふむ……ほほう。これがロンドンの若手クリエーターのアニメか」
「へえ、アニメも世界に広がってるんだね。……まあスーやアンジェラのようなアメリカ人のオタクもいるぐらいだし」
「許せん! たしかに動きはいいが、写実的で萌えがない!」
「ああ、そこなんだやっぱり……」
「まあ、しかし、五輪でアニメが流れるとは、オタク史上記念すべき日になるのではなかろうか!
 アニメで世界がつながる日!
 この調子なら、宮崎駿や押井守のセレモニーというのも、いつかありえるかもしれん!
 いっそ新しくでっかいドーム作って、開催終了後はコミケに使ってはどうだろうか! ビッグサイトも随分狭くなってきたしなあ」
「わかる言葉で話せ斑目! てか、そんなにオタクが優遇されるオリンピックがあってたまるか!」
 

(終わり)
457マロン名無しさん:2008/08/27(水) 00:21:10 ID:???
>オリンピック閉会記念
>>448氏の予想に同感だったので、そろそろコミケの話が来るかと思えば、意表をついて五輪絡みとは!

タイムリーな話題に大学時代の思い出話を絡めて、「時の流れ」を感じさせるあたりが、リアルタイム展開をしていたげんしけんにピッタリですね。
げんしけんは時間がループしないで進んでいたからこそ、登場人物の卒業後の思いも積み重なっていき、切なさも増していくんだなぁと思いました。

GJ!
458マロン名無しさん
とりあえず宣伝だけ

なんかSS用の板ができたよ
できたてほやほやの新板

http://namidame.2ch.net/mitemite/ 創作発表

こういうことらしい

「新しく出来た小説(SS)やイラストなどを書いて(描いて)感想を貰う板です。
一次、二次、競作等幅広く受け入れています。
※PINK系該当作品は該当板へお願いします。」