【邪気眼】二つ名を持つ異能者達【其ノ伍】

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1テンプレ1/2
ここは【二つ名】を持つ異能者達が普通の人間にはない【第三の眼】を使って
架空の現代日本を舞台に異能力バトルを展開する邪気眼系TRPスレッドです。
登場キャラクターの詳細、各用語、過去ログのミラーは【まとめwiki】に載っております。

*基本ルール
[壱]参加者には【sage】進行、【トリップ】を推奨しております。
[弐]版権キャラは受け付けておりません。オリジナルでお願いします。
[参]参加される方は【テンプレ】を記入し【避難所】に投下して下さい。
[肆]参加者は絡んでる相手の書き込みから【三日以内】に書き込むのが原則となっております。
   不足な事態が発生しそれが不可能である場合はまずその旨を【避難所】に報告されるようお願いします。
   報告もなく【四日以上書き込みが無い場合】は居なくなったと見なされますのでご注意下さい。

*参加者用テンプレ
名前:
性別:
年齢:
身長:
体重:
職業:
容姿:
眼名:○○眼
能力:
人物紹介:
2テンプレ1/2:2011/07/24(日) 22:54:10.86 0
*まとめwiki
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達@wiki
ttp://www35.atwiki.jp/futatsuna/pages/1.html

*避難所
P C:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1254052414/
携帯:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/computer/20066/1254052414/

*過去スレ
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1274429668/
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達【其ノ弐】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1286457000/
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達【其ノ参】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1292605028/
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達【其ノ肆】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1294751568/
3テンプレ2/2:2011/07/24(日) 22:55:14.97 0
↑名前欄は2/2の間違いです。訂正。
4御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/07/25(月) 23:40:33.73 0
前スレ>>226>>229->>232
篠がマンションの屋上から二人を眺めていると、二人は近付き始めた。

(会話をするつもりなのか、それともいきなりドンパチやりだすのか……。
 もう少し様子を見てみましょう)
立っていた屋上の淵に腰掛け、二人の様子を見る。
二人は更に近付き何かを話しているようだが、ここからでは遠くて聞こえない。
「もうちょっと近づければいいんだけど──ん?」

ヴー、と言う振動が通信機に連絡が入ったことを知らせる。
「私よ。どうしたのメイ?」
『先程起こった強盗事件の詳細な情報が入りましたのでご報告を、と』
「そう。何がわかったのかしら?」
『はい。被害に遭ったのは厨弐市内北部に位置する極道、『応龍会』の屋敷。
 盗まれたものは『落葉』と呼ばれる時下数億円のダイヤモンドです』
「ヤクザ屋さんがダイヤねぇ……。ま、いいわ。泥棒さんについては何かわかったのかしら?」
『いえ、残念ながら……。先程エリが伝えた以上のことは何も』
「……わかったわ。報告ありがとう。あ、ちなみに泥棒さんはもう見つけたから」
『は……見つけたのですか?』
「ええ、見つけたわ。今私の遥か下にいるわよ」
『それで、どうされるのですか?』
「一人だったら捕まえてもよかったんだけど……もう一人いるからねぇ」
『もう一人?窃盗犯は二人いたということですか?』
「さぁ、それはわからないけど。でもあの子──紅峰 閃莉がいるのよ。
 これから少し面白くなりそうだから、通信切るわね」
『お待ち下さい。まだ報告が──』
メイが言い終わる前に通信機を切り、ポケットにしまう。そして再び眼下の二人へ目を向けた。

篠が通信をしている間に、二人の状況は変わっていた。マスクの少女が紅峰に向かって掌を翳し、攻撃を仕掛けたのだ。
突然の爆発音と共に周囲の街灯が折れ、紅峰に向かって倒れ掛かる。紅峰はとっさにバックステップし、倒れてきた街灯をかわす。

(爆発──と言っても爆弾を使ったものではなさそうね。炎も煙も出ていない。
 "能力(ちから)"を使えば見えるかも知れないけど……。これだけじゃまだ分からないわね)

「さぁ、この街の異能者の力を見せてもらおうか……! 我が能力、その"眼"に刻み付けるといい――!!」
先程の会話は聞こえなかったが、今度はハッキリと聞こえた。紅峰の反撃の合図だろう。
紅峰が腕を振るうのと同時に、彼女の前に青白く光る電流が迸る。
「我が電振眼は雷を司る力。その迅さは天雷に匹敵する――行け、雷(いかづち)の矢よ!」
再び紅峰が叫ぶと、棒状に変化したそれは真っ直ぐにマスクの少女へ向けて放たれた。

(閃莉の方は雷、か。幅広く使えそうな能力ね。さて、そろそろ本格的な戦闘が始まりそうだけど……。
 もし万が一、閃莉が殺されるような事態になったら適当に助太刀でもしましょうか。
 ここであの子を失うわけにはいかないわ。"あの人"との約束の為にも──)

篠がそう決意した矢先、眼下の闘いでは更に進展があった。
紅峰の攻撃をマスクの少女が防ぎ、再び攻撃。紅峰の右腕に先程街灯をへし折った爆発が襲い掛かった。

「……!予想の斜め上を行く展開の速さね。あまり悠長に構えてる暇はないかも」
誰に言うでもなく呟くと、座っていた場所のコンクリートを蹴って、地面に向かって飛び出した。
空中で一回転し、二人から少し離れた場所に着地。そのまま木に隠れて二人の様子を窺う。

「──『エアプレッシャーノヴァ』──。周囲の空気を圧縮し、対象にぶつけて炸裂させる爆弾だ。
 こいつは後二発、あんたの周囲に漂っている。そして俺の意思一つでいつでもあんたに向かう。
 さぁ、どこから来るかな? 右か、左か、それとも──」

(なるほど──空気、ね。それならさっきの爆発も納得がいくわ。
 さて、ちょっと閃莉が劣勢かな?いつでも出られる準備をしておかなくちゃ)

【御影 篠:引き続き黒羽と紅峰の戦いを観戦。場所を二人の近くの木の陰に移動】
5二神 歪@代理:2011/07/26(火) 19:45:22.45 0
前スレ>>228

どさどさ、と音がした。
本部の受付に、別のスイーパーが来ているのだ。
荷物を降ろしたような音は、縛られた動かない男達を床に転がしたからだ。
全員、血で衣服の大半が赤黒く濡れているが、生きているようだ。

「逃走中の…ターゲットを、捕まえた。確認してくれ。」

スイーパーは少年だ。長い白髪と黒のシャツだが、彼の衣服も濡れている。
返り血か自分の血かも解らないほどだ。

照会が終わり、男達はずるずると引きずられていく。
受付の男がため息をついた。

「ありがとう、『赤い靴(レッドブーツ)』。しかし全く、今日は騒がしい日だ。
スイーパーへの依頼が多すぎる、しかも一つはヤクザ者からのでっかい依頼だ。
少し休んでからでも良い、この後も動けるか?」

少年はこくりと頷き、血に濡れた右手を突き出した。

「ああ、すまん、忘れていた。ほらよ…残りの現金は口座に振り込んでおくよ」

そういいながら、受付の男は赤い血の詰まった輸血パックを数個、報酬代わりに少年に渡す。
少年は大事そうにそれらをしまうと、ベンチの獅子堂に眼を向けた。

「彼は行かないそうだぞ?」

少年は頷く。出来れば少し休みたいところだが、衣服に血がしみこんでいるため横にはなれないだろう。
軽くため息をついた少年は、先程貰った輸血パックに白いストローを差して、飲み始めた。

【二神 歪:本部にて回復、獅子堂と同室】
6獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/07/26(火) 21:58:07.42 0
>>5
―――暗い。その無音の闇の中にある扉の形をした光。いや、扉が光っているのか。
その扉を押し開けるとそこに居たのは1人の女。仮面で顔を覆っているが間違いなく女とわかる。
女の前にあるのは白いキャンパス。片手に筆を、もう片手にパレットを持っている。
キャンパスに描かれていたのは地球―――そしてそれを包み込むかの様に巨大な掌があった。
その完成を待って用意された額縁。そこに書かれている題名は“支配”。
直感した。阻止せねばならないと。筆を叩き折るべく銃を向けた―――その手の甲にある“眼”は『紫』。
あの暗く輝くサファイアの様な『蒼』ではない。全てを飲み込む様な深い深い『紫』だった―――

「っ!」
獅子堂は驚愕で目を覚ましベンチから飛び起きた。そう、先程の光景は夢だったのだ。
炭化しかけた右腕のライダーグローブを剥ぎ取り手の甲を見る。いつもと何も変わらない青い“眼”だ。
溜息交じりに安堵すると、壁に掛けられた時計を見て受付へと向かう。
(夢に教えられる…か、違和感の正体が掴めた気がする。俺の知らぬところで何か巨大な歯車が軋みだしている)
それにしても―――と獅子堂は夢の最後を反芻する。
(あの紫色の“眼”は何だ…?)
紫は高貴さ、そして狂気を顕す色だ。何かの暗示なのか…それとも未来の自分自身か。
ジリリリリ…と受付の電話が鳴る。再び思考の迷宮に入り込むのをその音が止めた。

「はい、こちらISS本部……はい、居ます…獅子堂、お前に電話だ」
「誰から?」
「岡崎 蓮子(おかざき れんこ)」
「代われ…どうしました、オーナー」
「『オーナー』は店だけにしろって何度言ったと思ってるんだい、弥陸?」
「そうでしたね…ところでどうしたんですか、蓮子さん」
「一応心配してやったんだよ。なんだか胸騒ぎがしてね」
「丁度いいです。コートとグローブがお釈迦になったので“創って”頂きたい。代金は俺の口座から引いてください」
「了承。せいぜい油断しないことだよ。あんたは“私のもの”だ…そうだろ?」
「…そうでしたね。では」
獅子堂は電話を切った。目の前にいる連絡員の男は笑いを堪える様な表情で獅子堂を見ている。
「何が可笑しい?」
「蓮子さん、ねえ…最古参のスイーパーとそういう関係だったのか? お前?」
「あの人は既に引退して何年も経つ。最古参という表現は少々語弊があるな。それと―――」
目の前の男の瞳をじっと覗き込んで言葉を続ける。
「―――あの人と俺との間にあるのは、そんな軽いものじゃあない。愚弄するようならその首吹き飛ばすぞ」
「わかったわかった。そう睨むな…」
連絡員を軽く脅して再びベンチに戻ろうとすると、獅子堂の目に1人の男の姿が留まった。
その全身は血まみれ。返り血か負傷かもわからない。そのくせ平然と立っている。おまけにストローですすっているのは輸血パック。
(一般人から見たら異常極まりない光景だな。いや、それよりも…)
「…初めて見る顔だな、アンタ」

【獅子堂 弥陸:奇妙な夢を見た後、二神 歪に声をかける】
7二神 歪@代理:2011/07/27(水) 00:59:49.12 0
>>6
血を飲む度に体の傷が塞がり、そして溢れていた力と憎悪が静まって行く感覚がある。
血の味にはもう慣れた、というより、体が美味いと感じるようになってしまった。
全てはこの邪気眼のせいであり、おかげである。

(傷が回復しきったら、行くか)

そう考えていた時、ベンチに居た大柄な男の電話が終わった。
衣服は少し焦げているようだ。火を扱う邪気眼使いにでも出会ったか。

男は何やら連絡員と話した後、こっちの方を見ているようだ―――


「…初めて見る顔だな、アンタ」

ふいに投げかけられた言葉に、少し驚くが、すぐに二神は口を開く。

「当然だ。俺は今年からスイーパーになったから」

血をジュースのように飲んでいる光景を見て不快感を抱いたか、と考えて、
輸血パックを急いで飲みきる。衣服に関してはどうしようもなかった。

「二神歪だ。『血』が不快だったら謝る。残りは外で飲む」

軽く頭を下げるが、形式だけのものだ。
恐らく在籍の長い相手に対しても、彼は特に気負わなかった。

話している間に左手の甲を貫通していた傷が治っていった。後には傷跡だけが残る。
これで完治、いつでも動ける。

【二神歪、回復を完了し、獅子堂と会話する。】
8秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/07/27(水) 18:45:42.18 0
>>227続き
「た…大変です社長! 侵入者が…!」
社員の一人が秘社に知らせる
「侵入者、ねぇ…。監視カメラの映像は…っと。…たった一人か。舐められたものだな…。社長権眼、迎撃部隊突撃!」
監視カメラで確認した侵入者の行き先に、能力で迎撃部隊を50人程送り込む秘社。因みに迎撃部隊は待ち伏せ、対侵入者などの戦法を得意とする能力者集団である

「ヒヒヒ、侵入成功! この俺の能力、『スタン眼』…威力こそ低めだが、手から電気を出してライオンを気絶させられる!
どんな追っ手が来ようと関係…っ!?」
侵入者は思わず息を詰まらせる。追っ手が来たり、待ち伏せされていたりすることは予想していたが…数が多すぎたからだ
侵入者一人に対して50人。生半可な能力者では到底太刀打ちできない、数の暴力ーー人海戦術である
「ッチィ…! 仕方ねぇ、金は手に入った! ここは退却だ…!」
侵入者の男は戦闘になる前に引き返そうとする。良い判断だ。だが…
「っ……!?」
数歩歩いたところで、足が思い通りに動かなくなる。足下を見ると…
足が粘着性の床に捕らわれていた。罠である。しかしおかしい。さっき来たとき通ったが、その時はこのような罠はなかった。そう、まるで引き返してから新たに仕掛けられたような…
もちろんこれは能力によるものだ。迎撃部隊の一人の眼、罠眼…自分の目の届く範囲の地形を罠に変える能力である
判断は良かったが、相手が悪かった。
身動きできない侵入者に50人がかりで襲いかかる迎撃部隊

「ま…待ってくれ! 金は返す! 命だけ…」
言い終わる前に侵入者は意識を手放す。そして、気づくと外にいた。今まで何をしていたのだろう。思い出せない。まあいいか。帰ろう…
侵入者の男はビルに侵入した記憶と、秘密結社『秘境』に関する記憶を失った。処理部隊の一人、『忘却眼』の能力、「触れたものの記憶を奪う」である
「よし、皆お疲れさま」
労いの言葉も忘れない秘社
【秘社境介:侵入者を撃退】
9獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/07/28(木) 21:47:01.84 0
>>7
「当然だ。俺は今年からスイーパーになったから」
ほう、と獅子堂は微かに呟きながら感心した。目の前の相手はまだ少年といって差し支えない外見。
何より新参者にしては見事な手際だ。フロアにいるスイーパーは自分と目の前の少年のみ。
そして床に残る引きずられた様な血の跡から鑑みるに、恐らく数分前に幾人かの異能犯罪者が連行されている。
目の前の少年の風体と照らし合わせると、彼が犯罪者を生け捕りにし此処までやってきたということだろう。
(それにこれだけの負傷…相当な激戦だったのか? それでもなお余力を残している…いや…)
獅子堂は気付いた。少年が血を啜るにつれて傷が塞がり、その腕にみなぎる力が徐々に静まっていくことに。
(…逆だ。傷付いている時の方がより大きな力を感じる。そして血を飲む事で治癒を行う…初めて見るタイプの能力だな)
「二神 歪だ。『血』が不快だったら謝る。残りは外で飲む」
じろじろと観察していたことで相手を誤解させてしまったらしい。二神と名乗った少年は軽く頭を下げた。
獅子堂は何か不快感を覚えたわけではない。自分のやり口の方がよほど残虐でおぞましいだろう。
「いや、何も頭を下げることはない。俺の名は獅子堂 弥陸。『蒼魔』だの『銃王』だの大袈裟な呼び方をする奴もいるけどな…」
それだけ話すと獅子堂はコートを脱ぎ捨て、先程剥ぎ取った右腕のライダーグローブとひとまとめにした。
それを頭上へと放り投げ、銃を真上に向けてトリガーを引く。銃口から迸った炎が一瞬でコートとグローブを灰にした。
「どうせ使い物にならなくなったのならこの方が身軽でいい…おい」
話しかけた相手は連絡員の男。
「気が変わった。応龍会からの依頼を受けよう。蓮子さんにはもう少し謝礼金を渡さないとな」
「そう来ると思って1人分の枠を空けておいたぞ。では今から任務開始とする。依頼内容をプリントしてあるから読んでいけ」
「…気が利くな」
コートの下に身に着けていたライダージャケットのファスナーを首まで上げ、得物をベルトに収める。
膝まで届くロングブーツをしっかりと履き直し―――獅子堂は二神の方を向いた。
「アンタも来るか? 共闘ってのも悪くはないだろう?」

【獅子堂 弥陸:二神と会話を交わし、応龍会からの依頼を承諾。二神に共闘を持ちかける】
10二神 歪@代理:2011/07/29(金) 10:02:19.99 0
>>9
「いや、何も頭を下げることはない。俺の名は獅子堂 弥陸。『蒼魔』だの『銃王』だの大袈裟な呼び方をする奴もいるけどな…」

獅子堂の言葉は、予想とは違って不快感を含んでおらず、二神は僅かに目を見開いた。
こきこき、と左手を動かして、傷の問題がないことを確認する。いままで一度も問題が起きたことは無いが。

『銃王』。聞いたことがある。ここに来て余り日がたたない内に、本部の局員やスイーパーから何度か耳にした単語だ。
となれば、彼が銃に関する邪気眼を持っている事は間違いない。銃を使うが銃でなく、魔を使うが魔ではなく――

そう思った矢先に、彼の銃が焔を吹き上げ、不必要な衣服を一瞬で燃やし尽くした。
魔銃というのはどうやら本当のようだ。

「気が変わった。応龍会からの依頼を受けよう。蓮子さんにはもう少し謝礼金を渡さないとな」
「そう来ると思って1人分の枠を空けておいたぞ。では今から任務開始とする。依頼内容をプリントしてあるから読んでいけ」
「…気が利くな」

獅子堂もまた、自分と同じ応龍会の依頼を受けるようだ。
たかだか窃盗犯罪にしては、長引きすぎている印象もあるが―――

「アンタも来るか? 共闘ってのも悪くはないだろう?」

考えながら依頼された場所に向かおうとした時、不意に獅子堂から共闘を持ちかけられ、二神は怪訝そうに振り返る。

「共闘――?」

いつもなら、待機室で会ったスイーパーは皆同じように自分を避けたものだが。
どのような勝利を収めても必ず血みどろになる彼の周りには、今まで一人の共闘者も居たことが無い。

「――未経験だ。俺の能力や戦闘のスタイルは、貴方の『魔銃』と相乗効果を生むとは、保障できない」

好奇心、か、と二神は心の中で呟いた。奇異なものへ向けられる目つきも慣れている。
興味を持ってついてくる変わった人間もいたが、そのような関係も、好奇心の鮮度の劣化と共にすぐに消えてしまうのだ。

「同じ敵を撃破するなら、俺への誤射だけはしない事だ。自動的に俺の邪気眼の攻撃対象に入る」

そう言い捨てて、二神は踵を返た。本部を出ていく間際に、ぼそっと呟く。

「同じ場所で戦うなら…貴方への出来る限りの配慮はする。」

それが共闘を望んだ獅子堂への、彼の出来る最大の譲歩だったのだろう。
そのまま二神は本部から依頼された場所へ向かう。そう、異能者の激闘が行われているその場所へ。
後には赤い血の跡だけが残った。

【二神 歪、獅子堂の誘いを断り、単身で黒羽と紅峰の戦闘地点へ乗り込む】
11黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/07/29(金) 22:07:18.06 0
音もなく忍び寄った二つの空気爆弾は、とうとう黒羽の目論見通り紅峰の腹部と背中に着弾──
前後から凄まじいほどの圧力を容赦なく浴びせかけた。
致命傷にはならずとも、アバラの何本かは確実に粉砕される衝撃──
(!)
たまらず苦悶の声を漏らす紅峰。しかし、それは黒羽も同様であった。

「ただじゃ食らわない……やはり戦闘慣れしているな」

どこか敵を称える様に聞こえる台詞を吐く黒羽。
そんな彼の左肩にはいつの間にか激しい電撃傷があらわれていた。
何故、そんなものを負ったのか……当然黒羽は理解していた。
(目に見えない攻撃に対し、迂闊に動くのは却って危険と判断して、咄嗟に攻撃に転じるとは……。
 しかも、相討ちを狙ったものではない。しっかりと頭部をガードしてやがった……)

思わぬ反撃に小さく舌打ちをしながらも、やがて黒羽はフッと笑った。

「……こんな手応えは久しぶりだ。少し、あんたを舐めてたぜ。
 あんたは俺がその気になって闘うに値する──」

言いかけて、途中でふと何かに気がついたように口をつぐむ黒羽。
その時、彼の視線は紅峰にではなく、彼女の背後に広がる遥か先の暗闇に向けられていた。
そう、彼が意識を向けたのは、遠くから聞こえ近付いて来るサイレンの音であった。
(……やれやれ)
根元から折れ、道路に横倒しになった電柱を見て、黒羽は複雑そうに溜息をついた。
突然送電がストップした為、異常に気がついた近隣住民が報せたのだろうが、
その原因を作ったのは他でもない自分自身なのだから、
闘いはこれからだと思っていた彼としては何とも皮肉な話である。

「……ここまでだな。俺の存在はあまり世間に知られたくはないんでね」

紅峰に向けられていた掌が、地面へと向けられる。
直後、ボンッ──と、掌から真下に位置する地面が突如として爆ぜ、土煙を盛大に巻き上げた。

「あんたとはまた遇うかもしれないな。この続きは、その時だ」

土煙を一瞥して、素早く踵を返した黒羽は、音もなく暗闇の中へと消えていった。
その場に、倒れた電柱と深く抉れた地面の、二つの闘いの痕跡を残して──。


(紅峰……紅峰、か……。確かあの財閥のかつての当主に、一人娘がいたと聞いたことがある。
 今は確か行方不明になっているはずだが……まさかあの女が……)

暗闇の中を音もなく疾走する黒羽の足が、突然止まった。
彼の目の前には、草ぼうぼうの土地の中心に、煙突のある石造りの崩れかけた建物が一件。

(……いずれにしても、俺には関係のない話だがな)

壊れかけの扉を蹴破って、かび臭い暗闇の中へと押し入った黒羽は、
部屋の奥を睨みつけるように見据えると、やがて小さく呟いた。

「火葬場か。……俺らしいな」

【黒羽 影葉:紅峰との戦闘を中断し、現場を立ち去る。
        現在地・現場から約1km西に位置する山林近くの廃火葬場。】
12黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/07/29(金) 22:12:11.51 0
ageておきます
13獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/07/30(土) 20:55:37.77 0
「―――俺の能力や戦闘のスタイルは、貴方の『魔銃』と相乗効果を生むとは、保障できない」
聞かされたのは拒絶の言葉ではなかった。だが同時に承諾の意があるというわけでもない。
獅子堂とて自分と二神の能力が最初からシナジーを形成するとは考えてはいなかった。
急造のコンビではせいぜい二神が接近戦を行い、そこに自分が攻撃補助に回る程度だろう。
「同じ敵を撃破するなら、俺への誤射だけはしない事だ。自動的に俺の邪気眼の攻撃対象に入る」
(イマイチ信用されてないか? それとも…複数でパーティーを組むことに慣れてない感じだな…)
二神の発言から集団行動に馴染めない一匹狼的な雰囲気を獅子堂は感じ取っていた。
何か言葉を掛けようと考えているうちに、二神の姿はビルの外へと消えていた。床には血の跡が残るのみ。
「…女だけじゃなく男にもモテるのが本当のいい男らしいが、どうやら俺は違うらしい」
頭をかきながら呟くと、応龍会の依頼の詳細が書かれた書類に目を通し始めた。

―――被害にあったのは『落葉』という名の時価数億円のダイヤモンド。更に奪還すべく犯罪者に立ち向かったヤクザ数人が重軽傷。
目撃証言によると犯人は覆面で顔の下半分を隠した女らしい―――

書類の内容を反芻しながら、より詳しい状況を情報を得るべく応龍会の屋敷へと向かって移動する。
移動と言っても徒歩ではない。街灯の頭を蹴っては次の街灯へと飛ぶように宙を翔けていく。
着地と跳躍の瞬間に、両手に持つ『パーフェクト・ジェミニ』の銃口からは青いリング状の光が迸っている。
魔弾『テンペスト』の応用で極めて短時間で消滅する衝撃波を発生させ、その反動を利用しているのだ。
「…っと、アレが応龍会の屋敷か」
街灯の上に片足で立ちながら、裏社会に身を置く者たちの根城を視界に収めた獅子堂。
その目に留まるのはまだ真新しい血痕。そしてあちこちに点在する爆発らしき痕跡。
(…爆発にしては妙な跡だ。加熱された形跡もない…空気だけが炸裂した様な…
 協会に依頼が来たってことは異能犯罪者に違いないが…手馴れてるって感じだ)
獅子堂は現場の状況から標的の能力を推測し始めた。まずは敵の力を知ること。それが戦闘の第一段階だ。
(追撃は恐らくこの場で振り切っている…ん?)
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。そしてその音が向かう先の一帯が停電している。
(恐らくは…!)
獅子堂は再び街灯を跳躍し、闇の中へと飛翔していった。

【獅子堂 弥陸:サイレンの音で異常を察知し黒羽と紅峰の戦闘地点へ移動開始】
14紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/07/30(土) 22:38:48.61 0
>>11

厨弐市北部の山奥――件の応龍会の屋敷から数キロ離れた山奥に、今は使われていない廃れた小屋があった。
大正の時代――応龍会がこの付近を根城にする以前から建てられていたという歴史のある建築物だ。
その古い小屋の入り口から奥へと生々しい血痕が続いておりそれを辿った先には――目を伏せて苦しそうに体を横にしている少女――閃莉が居た。

「グッ……カハッ……!傷は癒えても……血が、足りんか……」

見るとあの男との戦い――異能力でいくつもの爆発を受けたはずの閃莉の体は、大量の血痕こそ衣服に付いているものの、なぜか大きな傷などはどこにも見えなかった。
だが、血が足りないと言った彼女の言葉通り血の巡りが悪いのか、顔色は悪くどこかグッタリとした様子である。
それから数分後、閃莉は気だるそうに体を起こして、思考を巡らせ始めた。

「とにかく、スイーパーの連中が前に抜け出せたのが幸いだな……まぁこの街に居る以上は"紅峰"のジジイ連中に気付かれるのも時間の問題か……
だが、あの男ではない他の異能力者といつ出くわすか分からん……何にせよ――」

ガンッ――!

閃莉が壁を殴りつけると、建物全体が大きく振動し、古びた屋根に染みこんでいた雨水が一斉に床へと落ちた。

(力を付けないとな……この巨大な街で戦い抜く力……そしてこの"禁じ手"を使いこなせるほどの力を――)

そして閃莉は自らの右眼を閉じ込めている眼帯に手を掛け――毟る様に解いた。
そこには彼女の左眼とも、両手に宿りし金色の魔眼とも違う、銀色の眼が在った――。

―――――

閃莉が外に出ると、眩い月明かりが閃莉を明るく照らした。
雷が起こるほどの豪雨は既に去っており、先ほどの戦場とはまるで別世界のような心地よい静寂が辺りを支配していた。

――あんたとはまた遇うかもしれないな。この続きは、その時だ――
「ああ――また遇う、か……そうだな。次相見えた時には、私の全力を以って相手をしよう……――」

フッと口の端に小さく笑みを浮かべると、手に持った眼帯で再び右眼を戒め、小山の麓に見える巨大な邸宅へと向けて歩き出した――

【紅峰 閃莉:戦場を離脱して山奥の小屋で休憩した後、応龍会の邸宅へ向かう。時刻は9時前】
15御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/07/31(日) 03:29:29.56 0
>>11>>14
篠の見ている前で、紅峰が体の前後から衝撃を受ける。
見た目にはそれほど酷い怪我ではなさそうだが、あの衝撃では肋骨が何本か折れているかもしれない。

(あれがエアプレッシャーノヴァ──厄介な能力ね。
 ──っと、それよりも閃莉だわ。流石に今のはまずい。助けないと)
飛び出そうと足に力を込めて、しかし途中で中断する。
「……こんな手応えは久しぶりだ。少し、あんたを舐めてたぜ。
 あんたは俺がその気になって闘うに値する──」
どうやら攻撃を食らったのは紅峰だけではなかったらしい。マスクの少女の肩にも傷があった。
それは高熱による焼き傷──即ち電撃によるものだ。

(閃莉もただで食らったわけじゃないのね。でもこのまま続けたら危ないかも──)
今度こそ飛び出そうとしたその時、マスクの少女がふと視線をこちらに向けた。
(気配は消してたつもりだけど……バレた?)
しかし少女はこちらに何かを仕掛ける素振りはない。それどころか、視線が微妙にずれている気がする。

(私──いや、私の後ろを見ている?)
そう、少女は篠ではなく、正確にはその背後に広がる暗闇に目を向けていた。
(一体何が──ああ、そういうこと)
やがて篠も少女が暗闇を見ている理由に気が付いた。サイレンの音が聞こえるのだ。
(こちらに近付いてくる──そこの倒れた電柱が原因かしらね)
恐らく付近の住民が突然の停電に驚き、異常を感じて通報したのだろう。

「……ここまでだな。俺の存在はあまり世間に知られたくはないんでね」
少女はそう言うと地面に掌を翳し、またしても爆発を起こし、大きな土煙を巻き上げた。

煙が晴れた先には、少女の姿はなく、倒れた電柱だけが転がっていた。
(逃げられた、か。相当場慣れしてるわね。──あら?)
そう、"倒れた電柱だけが転がって"いたのだ。
(──)
額に手を当て、天を仰ぐ。マスクの少女だけではなく、接触を試みようとしていた紅峰まで消えていたからだ。

(まぁいいでしょう。機会はいくらでもあるわ。それよりも今は──)
倒れている電柱に近付き、そっと手を当てる。
「リバイヴ──」
そしてそう呟くと、まるで時間が巻き戻ったように電柱が折れた土台に吸い寄せられ、電線も含めてあっという間に元に戻った。

「これでよし、と」
あれから同じことを数回繰り返し、すべての電柱を元通りにした。
「これで警察程度じゃ何があったかまでは分からないでしょ。スイーパーでも気づくかどうかってところかしらね」
満足気に現場を見直し、一つ頷く。
「さ、早いとこ私も逃げなきゃ。疑われちゃたまらないわ」
そう呟き、暗闇に向けて飛び出した──。
16御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/07/31(日) 03:31:30.61 0
「メイ、私よ。これから応龍会に向かうわ」
『先程の窃盗犯はどうされたのですか?』
「逃げられたわ。あの子もろとも、ね」
『そうですか。あ、先程の報告の続きですが』
「ああ、そういえばまだ何かあるって言ってたわね。何かしら?」
『お嬢様が廃ビルに出向く際乗って行かれたバイクですが、破壊が確認されました』
「破壊……?何だ、使わなかったのね。 スイーパーとしては合格だけど、人としては不合格ね」
 ま、いいわ。行ってくるから」
『お気をつけて』

通信の間に応龍会の邸宅付近に到着し、歩いて現場に向かう。
現場では黒服達が慌しく動き回り、怒号が飛び交っていた。

「こんにちは。いえ、今の時間ならこんばんは、かしら」
「あぁ?何だあんた、今は忙しいんだからどっか──」
「ISS本部ビル所属の御影です。連絡を受けて参りました」
黒服の言葉を遮り、ライセンスカードを見せる。それを見た途端、黒服の顔色が変わった。

「──!?こ、これは失礼しました。まさかあなたほどの御人が来られるとは思いませんで」
どうやらこの男は下っ端のようだ。本来あまり接触がなく、相容れることはないスイーパーに敬語で話している。
「構わないわ。私も偶々近くを通りかかった時に連絡を受けたものだから。現在の状況は?」
「はっ……『落葉』を盗んだ賊は未だ逃走中。手掛かりも掴めていません」
「そう。長と話がしたいのだけど」
「どうぞ。ボスは今は奥で休んでおられます」
「ありがとう。貴方は戻っていいわよ」
黒服に礼を言い、邸宅の奥に向かって歩き出した。

館の中を進む。ある程度奥まで来ると、外で飛び交っている怒号もほとんど聞こえなくなった。
もう暫く進むと、明らかに他とは違う造りの襖があった。恐らくこれがボス──"彼"の部屋なのだろう。
前に立ち、外から声をかける。
「失礼します」
「誰だ」
「ISS本部ビルより派遣されましたスイーパーの者です」
「──入れ」
襖を開けて中に入る。そこは、いかにも極道のボスらしい広々とした和室だった。
その部屋の中央に胡坐をかいて座る男が一人。
「お久し振りですわね。会長」
「いきなり何を──あんたもしや、御影の……?まさかあんたが来るとはな」
「父の代では良くして頂き、ありがとうございます。亡き父に代わって御礼申し上げますわ」
正座して頭を下げる。
「なに、あんたの親父にもいろいろと世話になった。お互い様だ」
「そう言っていただけると助かります。それにしても……この度は大変でしたわね」
「フンッ、まったく使えない部下どもだ。相手は一人だと言うじゃないか。
 宝石一つ碌に守れない上に、スイーパーにまで助けを求めるとは」
「まぁそう言ってあげないで下さい。彼らだって必死に守ろうとしたはずですわ。ただ──相手が悪かった、としか」
「本来ならスイーパーなんぞに頼りたくはなかったんだがな……。まぁ、あんたが来てくれたと言うことで我慢しよう」
「ありがとうございます。私も面子も保たれますわ」
「『御影 篠』といやぁ、スイーパーで知らねえヤツはいねえだろう。なんせ実質トップみてえなもんだからな」
「そんな、私なんてまだまだ若輩ですわ」

話を一旦終え、篠は襖に視線を送った。
「どうした?」
「いえ、予感──とでも言いましょうか。近いうちに人が来そうな気がしまして──フフッ」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、篠は襖から視線を外し、再び組長と話し始めた。

【御影 篠:戦場から離れ、応龍会の邸宅に到着。最奥の部屋で組長と会話中。現在時刻PM9時半】
17二神 歪@代理:2011/07/31(日) 22:09:15.62 0
二神は走っていた。
邪気眼により能力が高まっているとはいえ、彼の能力は非常時以外余り役に立たない。
せいぜい、普通の人が振り返るような速さで走れるのみ。
血だらけの体が目に付かないように、黒いフード付のコートを羽織り、赤が飛び散った白髪が目立たないようにした。

いくらか走って、応龍会の邸宅にたどり着く。
ふと見ると、あろうことか遠くの街灯の上空を飛ぶ獅子堂の姿が見えた。
何時の間に追い越されたのだろうか、それは走るというよりも反動で跳躍するように、一っ飛びにどこかへ向かっている。

みると、戦闘の跡が獅子堂の向かったほうへ続いていた。

(さて、…どちらに動く)

普通に考えれば、応龍会の方はスイーパーよりも他の団体に任せた方が良さそうだ。
既に盗難がおきており、ここに戦闘部隊を置く意味が無い。
ならば、獅子堂の後を追う。奴が有益な何かを見つけているかもしれない。

そう考えて、邸宅に背を向け、彼は獅子堂の行った方へと走り出す。
時々見える青い光を目印に、たどり着いた其処は戦場だった。

「…爆発能力…か…?」

追いついた二神は獅子堂に問う。
この惨状はまさしく爆破された跡のように見えた。
現場がめちゃくちゃになっている事で、追跡は難しいように思えた。

【二神 歪、黒羽と紅峰との戦闘地点で獅子堂と合流】
18獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/08/01(月) 21:30:03.84 0
>>17
「…随分と派手にやらかしたみたいだな…」
辿り着いた場所は恐らく十数分前までは戦場と化していたのだろう。路面の各所が抉れている。
そして今は数台のパトカーが道路に陣取り、警官が右往左往している。だが彼らでは何が起こったか理解できないだろう。
「…爆発能力…か…?」
後ろを振り向けばそこには二神の姿があった。獅子堂は彼を一瞥すると言葉を続ける。
「応龍会の屋敷にもそっくりな爆破の痕跡があった。その線で合ってるだろう。それより―――」
「貴様ら! 動くんじゃない!」
言葉を遮ったのは1人の警官。よく見れば獅子堂と二神に拳銃を向けている。
(…ま、無理もないか)
獅子堂はベルトに2丁の拳銃をぶら下げ、二神はコートを着込み隠しているとはいえ血を滴らせている。
ただでさえ警官殺傷事件があった矢先、事情を知らない者には2人は異能犯罪者に見られても仕方ない風体だった。

「―――俺たちはISS所属のスイーパーだ」
獅子堂はライダージャケットのポケットからライセンスカードを取り出した。街灯に照らされたカードの角が鋭く煌めく。
「っ! 失礼しました!」
まだ若い警官は拳銃を仕舞うと頭を下げた。その顔には若干だが怯えの表情が見て取れる。
「こう言っちゃなんだが、これはあんたらには荷が重すぎる事件だ。かといって現場検証を邪魔する気はない。俺達が去るまで静かにして欲しい」
「承知しましたっ!」
「OK…二神、見ろ」
爆発で抉れた地面の一か所を覗き込みながら二神に声をかける。その手には微かに茶色に濁った水晶のような石の破片を握っていた。
「閃電岩って言ってな、落雷級の超高圧電流を受けると一部の鉱物が変質してこうなる。恐らく―――」
「―――爆破能力をもつ窃盗犯と電気を操る何者かがここで戦闘を行ったと?」
「だろうな…ポリスメン、通報があったろ? 内容は?」
「はっ、爆音と同時に停電が起きたとのことでした。既に復旧しているようですが…」
突然話を振られて驚いたようだが、若い警官はすぐに返事を返した。
(送電の電気を利用したか、あるいは爆発によって電柱、電線がダメージを受けたか…)
右手で顎を撫でながら獅子堂は再び思考を巡らせ始めた。
(恐らくは後者だろうな。でなきゃ―――)
―――不自然すぎる。路面のあちこちを抉っておきながら電柱だけ無事なのはかえって不自然。
何より獅子堂が違和感を覚えたのは数本の電柱。あくまで感覚に過ぎず、理論的には説明できないが、何らかの“力の残滓”を感じたのだ。
「二神、俺は応龍会の屋敷に戻る。あくまで感に過ぎないが、そこに答えがある気がする」
それだけ言って獅子堂は跳躍、街灯の上に着地する。
「…気が向いたら着いて来い」
再び青いリング状の衝撃波を銃口から噴出させながら宙を翔けていった。

【獅子堂 弥陸:二神と合流後、再び応龍会の邸宅へと向かう】
19紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/08/02(火) 19:57:56.57 0
>>16

山小屋を出てから数刻。閃莉は真新しい男物のスーツに身を包み、応龍会の屋敷の廊下を同じように黒のスーツを着た男に連れられて歩いていた。

「先ほどは大変失礼を致しました"閃莉嬢"。下の者が貴女様に無礼な態度を取ってしまった事をお詫び致します。
ですが、今まで行方を眩ましていたあなたがまさかいらっしゃるとは思わず……――」

そう言い、申し訳無さそうに屈強な体躯を窄める男の名は高崎。
閃莉が幼少の頃から応龍会の幹部として身を置いており、この屋敷の警備の管理を一任している男である。

「こちらこそ色々とすまないな高崎。私を受け入れてくれた吼一郎殿には感謝しなければな……」

応龍会は"龍神 吼一郎(たつがみ こういちろう)"を総締めとして古くから続くヤクザ組織である。
一見他の暴力団と変わらない印象を受けるが実際は周辺住民とも友好的であり、弱者を助け強者を挫く、古くから伝わる極道を貫いた集団である。
その応龍会と親密な関係にあった紅峰財閥の一人娘である閃莉も彼らと度々接しており、まるで自分達の子供のように愛されていた。

「何を仰られるか。私……いや、我々はいつの時代、どんな状況下でも閃莉嬢の味方ですよ。さ、こちらです」

高崎は一つの襖の前で立ち止まり、閃莉の後ろへと下がった。
白い空を背景に金色の龍が描かれた襖。閃莉が幼少の頃から見ていた応龍会の総締め、龍神 吼一郎(たつがみ こういちろう)の部屋へと続く扉である。

「ボスはこの奥でお待ちになられています。……お言葉ですが閃莉嬢、ボスはスイーパーの方とお話しております。敵対側である閃莉嬢を
なぜお呼びしたのかは私には分かりませんが……どうかお気をつけを」
「む……そうか。ありがとう高崎。仕事に戻ってくれ」

高崎は一歩身を引いて閃莉に一礼すると来た道を戻っていった。
20紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/08/02(火) 20:00:15.03 0
そして閃莉は一人奥へと進み、吼一郎の部屋の前に立つとゆっくりと戸を叩き声をかけた。

「吼一郎殿――紅峰 閃莉、参りました」
「来たか……入れ」

閃莉はその声に静かにうなずくと、扉を開き中へと足を踏み入れた。

「これは閃莉嬢――しばらく見ねえうちに見た目も力も逞しくなった……」
「お久しぶりです吼一郎殿。……こちらの方は?」

部屋の中央にはドッシリと構えている吼一郎とそれに向き合って座る女がいた。
女は一瞬意味深な視線を送ると、小さく笑みを浮かべて閃莉を見つめていた。

「おっと、すまねぇ。こちら、御影家の跡取りの篠さんだ。そしてコイツが紅峰財閥の閃莉嬢だ」
「御影家の……。紅峰 閃莉と申します。今は訳有って家を離れておりますが……」
(あの御影家の子息がスイーパーか……まぁ私も言えた事ではないか。だが、もし本当ならば二年前の事件の事も知っているはず……――)

お互いに軽い自己紹介をすると閃莉は篠と並ぶ様に着席し、それを見計らってか吼一郎は話を始めた。

「さて、閃莉嬢も既に聞いただろうがつい先程この屋敷が賊に侵入されてな――」

吼一郎は賊の襲撃から篠が来た事までの全ての経緯を閃莉に話した。
だがそれを聞く一方で彼女は内心困惑していた。スイーパーは"異能犯罪者"と呼ばれる人間全ての敵。
吼一郎が犯罪者である閃莉とスイーパーである篠を対面させたその意味を閃莉は理解していなかった――

【紅峰 閃莉:応龍会の屋敷にて御影 篠、龍神 吼一郎と会談中】
21御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/08/03(水) 02:21:28.84 0
>>20
真面目な話は一時中断し、篠は応龍会のボス──龍神 吼一郎と雑談をしていた。
篠の両親が存命だった頃の話、亡くなってからの話──話題には事欠かなかった。

(もうそろそろかしら。どちらが先に来るか──)
篠は話しながらも、先程自分で言った来客のことを気にしていた。
(街中のスイーパーに発信したのなら、彼の下にも行っているはず。
 それでも彼──獅子堂君が来るかどうかは五分、ってところね。そして──)
篠は二組の来客を予想していた。一つはスイーパー。しかしこちらは誰が来るかまでは予測できない。
街中のあらゆるスイーパーに連絡が行ったのだ。誰が来ても不思議ではない。

(──紅峰 閃莉。彼女は必ずこの屋敷にやってくる。もはや予想ですらない、確信と言ってもいいわね。
 彼女は二年前の事件を知りたがっているはず。となれば所縁(ゆかり)のあるこの屋敷に必ず訪れる)
先程の闘いから幾許か時間が経過している。
この街に戻ってきたばかりで何の手掛かりもない彼女は、傷が癒えたらすぐにでも行動を起こすはず──篠はそう読んでいた。
そしてその読みは見事的中することとなる。

「吼一郎殿――紅峰 閃莉、参りました」
控えめなノックと共に声がする。
(来たわね──)

「来たか……入れ」
吼一郎の言葉の後、静かに襖が開けられ、一人の少女が部屋に入ってくる。
忘れるはずもない──つい数時間前まで目にしていた姿だった。

「これは閃莉嬢――しばらく見ねえうちに見た目も力も逞しくなった……」
「お久しぶりです吼一郎殿。……こちらの方は?」
紅峰が吼一郎に問いかけながらこちらに視線を送ってくる。
その視線に対し、篠は笑みを浮かべていた。しかしその胸中は様々な感情が渦巻いていた──。

「おっと、すまねぇ。こちら、御影家の跡取りの篠さんだ。そしてコイツが紅峰財閥の閃莉嬢だ」
「御影家の……。紅峰 閃莉と申します。今は訳有って家を離れておりますが……」
(憶えてなかった、か……。ちょっとショックね)
「御影 篠よ。貴女の事も、貴女の家の事も一応事情は聞いているわ」
互いに自己紹介を済ませ、紅峰が篠の横に座るのと同時に、吼一郎が口を開いた。
「さて、閃莉嬢も既に聞いただろうがつい先程この屋敷が賊に侵入されてな――」

そこから先は篠にとっては二度目となる話だったので、簡単に聞き流していた。
横にいる紅峰を見ると、吼一郎の話を聞いて困惑しているようだった。
表情に変化は見られないが、篠には紅峰の困惑が手に取るように分かった。
まだ二年とは言え教師をしてきた身。様々な生徒に接してきたこともあり、その感情の機微を読み取ることは難しくはなかった。

「──と言うわけだ」
やがて吼一郎の話も終わりを迎えた。
「さて、俺は少し失礼させてもらう。暫くしたら戻ってくるから、それまで寛いでてくんな」
そう言い残し、吼一郎が席を立ち、襖を開けて部屋の外へと消えた。

「さて、紅峰さん──いえ、閃莉。改めて聞くけど、私のこと憶えてない?」
吼一郎が去った後、紅峰と二人残された篠は、不意に紅峰に問いかける。
いきなり質問を投げかけられたからか、はたまた別の理由でか──紅峰は混乱しているようだった。
「ああ、無理に思い出そうとしなくていいわ。忘れてるならそれでいいから」
必死になって記憶を辿っているであろう紅峰に声をかけ、一旦落ち着かせる。
「変な事聞いてごめんなさい。困らせるつもりはなかったの。それでここからが本題なんだけど──」
間を置くために一旦瞳を閉じる。
篠が瞳を開いた時、その雰囲気は先程までの穏やかなものから一変し、鋭い視線──"御影家当主"の顔になっていた。

「貴女の求めている二年前の事件の真相……。もし私が知っていると言ったら──貴女はどうする?」

【御影 篠:龍神 吼一郎との会談を終え、紅峰に質問を投げかける】
22秋雨 凛音 ◆12CyiaxYIQ :2011/08/03(水) 13:52:08.62 0

「……私になにか……用ですか?」
凛音は困っていた。
ここは人通りの少ない路地であり、そこで凛音は黒服を着た角刈りとスキンヘッドの男二人に絡まれていた。

「なぁ、あの盗賊女は流石にこんなガキじゃなかったと思うぞ」
「うるせぇ。手当たり次第だ。なにがなんでも見つけなきゃならねぇんだよ、あのダイヤをよぉ」
(私を誰かと間違えてる?……迷惑だなぁ。いや、でも……)
自分の記憶では盗みをした覚えはないが、“凛音の記憶は当てにならない”のだ。
彼女は他の邪気眼との接触により無理矢理開眼させられたタイプの能力者だ。
その弊害か、彼女は能力の使用している際の記憶が不安定なのだ。
だから今の自分には覚えがなくても、“能力を使用しているときの自分”が盗みを働いたかもしれない。
(でもそんなことはならないよう気を付けてるし、それにもし警察に突き出されたら困るし……)
一ヶ月前に養護施設から抜け出してきた身であるため、警察に会うことはタブーなのだ。
逃走を決断すると、凛音は男達の隙をついて咄嗟に駆け出した。

「もしかしたら、バッグの中にでもダイヤが……って、あァ!? まてコラ!!」
スキンヘッドの男に肩に掛けていたバッグを勢いよく掴まれて逃亡を阻まれてしまった。
あまりの力強さにバッグの口が開いて、中の荷物が辺りに散らばった。
「ッ……は、離してください」
「あぁ? 誰が離すかよぉ。ほら見ろ、やっぱこいつが犯人だぜ。逃げようとしたのがなによりの証拠だ」
「マジかよ。俺が見たのはもうちょい背のたか……」
「……あ? どうした?」
スキンヘッドの男が固まっている角刈りの男の目線を追うと、そこには凛音のバッグから飛び出した物品が散乱している。
そして、その中で黒く輝くカード状のものを発見する。
「おい、あれって……」
「ス、スイーパーライセンス? てことは、こいつは……」
そこにあったのは紛れも無く本物のライセンスであった。
それは、凛音が両親を探すための唯一の手掛かり。
父親のものだと“思われる”ライセンスカードなのだ。

「し、失礼しました!!」
「貴方がスイーパーだとはつゆしらず失礼なことを!!」
「は、はぁ……」
凛音は散らばった持ち物を拾い集めつつ、適当に相槌を返した。
ライセンスはどうやら写真や個人情報などの書いてある表が地面に接して落ちいたようだ。
(これのおかげで助かったのかな。ラッキー、かな……いや、こんな人達に絡まれた時点でアンラッキーかも)

「あの、もしかしてうちの組――応龍会の依頼を受けて頂いていますか?」
「え? あー、はい、そうですね……多分」
この人たちヤクザなのかな、と思い改めて凛音は緊張する。
「では、えっとこれが例の盗賊女の写真です。遠景で撮ったので画質は悪いですが……」
写真を受け取ると、そこには顔を隠した髪の長い女性の姿が写っていた。
黒服の男達に囲まれていても全く怯んだ様子が見えない、なんとも凛々しい女性だ。
「ほら、やっぱりこのスイーパーさんとは髪とか全然違うじゃないか」
「あァ!? カツラとか変装してる可能性もあんだろうがぁ!……と、いうことで
 俺たちも捜索を続行しますんで、これで失礼します」
そう言い残すと男達はさっさと薄暗い路地から抜け出していった。

「……どうしようかなぁ」

手に持ったカードを眺めつつ、凛音は考えた。
このライセンスカード、実はISS本部――協会のシンボルマークが書いてある裏側は普通だが、
表側は綺麗に焼き焦げていて、名前以外は全く何が書いてあるか読めないのだ。
このカードについて聞こうと思い、凛音はわざわざ施設を抜け出して、協会のあるこの町にまで来たのだが……
(……そうだ。さっき貰ったこの写真の人が異能犯罪者なら、他にも何人かスイーパーが雇われてるはず。
 じゃあ、この人を探せば必然的にスイーパーさんもそこに居る可能性も高いし、その人に聞けばいいんじゃ……め、名案かも)
そうと決めると凛音は写真しか手掛かりのない盗賊を探すことにしたのだった。

【秋雨 凛音:厨弐市北部で応龍会と接触後、ダイヤを盗んだ犯人を捜し始める】
23秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/08/03(水) 18:17:49.77 0
>>21
「──と言うわけだ」

「さて、紅峰さん──いえ、閃莉。改めて聞くけど、私のこと憶えてない?」
「ああ、無理に思い出そうとしなくていいわ。忘れてるならそれでいいから」
「変な事聞いてごめんなさい。困らせるつもりはなかったの。それでここからが本題なんだけど──」
間を置くために一旦瞳を閉じる。
篠が瞳を開いた時、その雰囲気は先程までの穏やかなものから一変し、鋭い視線──"御影家当主"の顔になっていた。

「貴女の求めている二年前の事件の真相……。もし私が知っていると言ったら──貴女はどうする?」
「……」
その、当主同士の会合を盗み聞く者が一人。分厚いコートにマスク、サングラス、ハンチングキャップで身を覆い尽くしているため、性別も年齢も見当がつかない――幼子でないことは確かだが
しかし、彼―もしかしたら彼女かも知れないが、ここは仮に彼とおこう。彼は会合の現場に確かに居て、しかも特に隠れているわけでもないのに、その存在に誰も気づかない。
何故か? 言ってしまえば、それは彼の能力に因る物である。『脇役眼』。同じ空間内に自分以外の人間が三人以上存在する場合、周囲の人間は誰も自分の存在に気づくことができない。
但し、体の一部が誰かに触れれば、たちまち能力は解除されてしまう。そして、一度気づかれれば、そこを離れるまで二度と使えなくなる。そんな能力である。
彼は秘密結社『秘境』の偵察・諜報部隊の一人、密井偵寡(みついさだか)。社長、秘社境介の命で、この会合の諜報に来たのだ…
「…雰囲気が変わりましたね。引き続き偵察します」
小さな声でそう呟く。しかし、それでも誰も気づかない。そういう能力なのだから。
「……」
再び黙り始め、静かに御影と紅峰の話を盗み聞く密井。
【秘社境介:密井に応龍会の偵察をさせる
 密井偵寡:応龍会を偵察】
24黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/08/03(水) 19:33:20.63 0
『忌避屍毒(デッドリークーデター)』──。
代々窃盗を生業とする一家の長で、かつては裏の世界でも割と知られた盗賊の二つ名。
そしてこれは、盗みだけを良しとするという家の掟に背き、
自らの快楽の為だけに平気で殺人を犯す凶悪異能犯罪者の二つ名でもあった。

“あった”とは……そう、この名を持つ人物は既にこの世にいないのだ。
今からおよそ四年前に、スイーパーと思われる人物に殺害されたからである。


「もう、四年も経つか……」
市内北西に位置する寂れた廃屋の中で、黒羽 影葉は改めて思い返した。
自分の運命の分岐点となった四年前のことを。
そして再確認した。自分の目的の一つ、『忌避屍毒』を殺した人物を探し出すということを。

「……」
手首に巻かれた腕時計を確認する。時間は午後九時。
応龍会で窃盗事件が発生してから二時間が経過していた。
ふと立ち上がり、ガラスの割れたはめ殺しの窓に近寄った黒羽は、外を窺った。

雨が降ったせいだろう、じめっとした湿った空気が肌を撫でる。
だが、既に外は降り続いていた雨があがり、不気味なほどの静寂に包まれていた。
(現場から1kmにあり、人気のない場所。スイーパーが嗅ぎ付けてくるとしたらそろそろか)

ゴソッと、服のポケットをまさぐった黒羽の手は、微かに緋色に輝いていた。
「さて……果たして何人がこの光に引き寄せられるかな」

【黒羽 影葉:現在地変わらず。現時刻PM9:00ごろ】
25獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/08/03(水) 22:01:04.42 0
数分後、獅子堂の姿は応龍会の屋敷の門前にあった。
屋敷の中からは夜に似つかわしくない、殺気立った喧騒が聞こえてくる。
無理もない。道義を弁えているとはいえ仮にも極道。その本拠から一財産が奪われたばかりなのだから。
ふう、と一息ついて獅子堂は背後を振り返る。そこに二神の姿はなかった。
(追いかけてくるかは分からないが…来るなら来るで、来ないなら来ないで構わんな…)
門の脇には来客用の呼び鈴があった。古めかしい邸宅に相応しい風情ある物だ。

リーン、リーンと2回鈴を鳴らすと中から門へと足早に駆けてくる音がした。
「名前と要件を告げろ」
「…獅子堂 弥陸、ISS本部から派遣されたスイーパーだ」
ぎい、と門が半開きになると中から黒服に身を包んだ男が現れた。
「ライセンスを見せて頂きたい」
「…」
無言でライダージャケットのポケットからライセンスカードを取り出す獅子堂。
黒服の男は念入りにライセンスを確認すると門を大きく開いた。
「確認した。中へどうぞ…と言っても余り人様に見せられる状況ではないが…」
確かに、と獅子堂も口には出さないが同感だった。
数時間前までは贅を凝らしながら決して華美でなく、しっとりと落ち着いた美しい庭園だったのだろう。
だが今では各所に爆発の跡、銃痕、無残に折れた木々が無様に晒されている。
「申し遅れた、私は高崎と申す者。屋敷の警備を一任されているが、この体たらく…恥じ入るばかりだ」
「相手が悪かったのさ、自身の力量の限界を超えた厄は防ぎようのない天災と同じだ」
「…そういうものかね。それにしても今日は来客が多い。招かれざる盗賊、御影の御息女、閃莉嬢…っ!」
「…どうした?」
「い…いや、何でもない」
高崎があわてて口を閉じたのを獅子堂は見逃さなかった。そしてその動揺も。
(…センリ?…聞いたことはあるが…俺に聞かれるとまずい名前なのか?)
怪訝そうに目を細めて記憶を漁り始める。確か数年前にとある財閥の総帥が殺された事件があった。
そして同時に行方不明になったその総帥の娘の名が―――

「―――紅峰 閃莉」
「なっ!?」
「何を狼狽している?…ああ、確かに俺に知られてはいけない名だな…」
「ぜ、全員この男を拘束しろ! 閃莉嬢に仇なす男だ!」
その一声で周囲の黒服たちの表情が一変した。手に手に銃を鈍器を持って獅子堂を取り囲む。
「貴男は危険だ、『ガンスリンガー』。悪いが大人しく―――」
「―――やめろ」
高崎の言葉を遮ったのは低く、しかし朗々と威厳をもって響く声。その主は他ならぬ龍神だった。

【獅子堂 弥陸:応龍会邸宅へ移動。龍神と会う】
26名無しになりきれ:2011/08/04(木) 16:51:15.31 0
2ちゃんねるは社会の底辺が集まる場所
27二神 歪@代理:2011/08/05(金) 04:22:48.02 0
「OK…二神、見ろ」

その言葉に二神は地面を覗き込む。見覚えの無い色をした、石の破片。

「閃電岩って言ってな、落雷級の超高圧電流を受けると一部の鉱物が変質してこうなる。恐らく―――」

自分なら全く情報として活用出来ないだろう。
それはつまり、電気を操る何者かと窃盗犯が戦った後である。
落雷級の高圧電流は避けられたのか、それともそれを食らってなお逃げたのか、いずれにせよ窃盗犯は
凶悪な電気の能力を前にして逃げ延びている。

「二神、俺は応龍会の屋敷に戻る。あくまで感に過ぎないが、そこに答えがある気がする」

獅子堂はそういって行こうとしたが、一言付け足した。

「…気が向いたら着いて来い」

そして直ぐに能力を使った跳躍で姿が見えなくなる。

獅子堂の方がスイーパーとしての経歴も長く、経験がある。
着いていくのは得策に思えたが、彼は応龍会とは反対の方向に歩いていく。

彼にとって、何が起こったか、はどうでも良い事なのだ。
謎が謎としてある、それだけのことだ。雷を使う能力者は、敵では無い。ならば無視する。
彼―――スイーパーとしての二神歪にとって大切なことは、一刻も早く自分の手で犯罪者を倒す事、それだけだった。

二神がスイーパーになってから短期間で成果を挙げてきたのは、まるで機械のように単純化された行動を突き詰めてきたからだ。
すなわち敵を見つけ、倒す。それ以外の事には全く注意を払わない。
事件の内容も特に気にしない。窃盗犯だろうが連続殺人犯だろうが、やることは同じだ。
更に言えば、周りの被害も気にしない。この攻撃を避ければ一般人に被害が行くといった状態でも、彼は迷わず避けるだろう。
故に人質は彼には通用しない。結果として救うことはあっても。

すべては敵を倒すという目的を達成するために、ただそれだけを考えて動けること。それが彼の強みでもあった。

(交通機関は本部が調べているし応龍会も手を伸ばしているだろう。ならばここからまだ自力で逃走、もしくは隠れている。
そして、この戦闘の跡。死体や戦闘不能者の無いこの戦闘に、『勝負はついていない』。実力がある程度拮抗した相手だったのだろう。
ならばこれだけ派手にやっておいて犯人だけが無傷ということはあり得ない。
犯人の能力が爆発であり、相手の能力が電気である以上、『現場の血痕は犯人のものでは無い』。
目撃証言から、犯人は単独の可能性が高い。戦闘能力が単体で高いなら、わざわざ治療者(ヒーラー)を連れているメリットも無い。故に)

犯人は近くで、回復しながら潜伏中。それが二神の結論だった。
もし外れていても良い。ほかのスイーパーが何か掴んだなら、それを利用すれば良いのだ。

フードを被り、走り出す。近くの人気の無さそうな区域を虱潰しに。
聞き込みをすると同時に、大量の攻撃的な『邪気』を撒き散らして動く。
敵はこの邪気の量を感知して何かしら動きを見せるだろう、と予測したのだ。

二神がその場所に辿り着いたのは、凡そ一時間半後。
運良く4つ目の捜索場所で彼は当たりを引いた。

目撃証言、場所の有意性、そして何より―――現場にあった血と同じ、微かな匂い。
返り血だろうか、逃げるときに付着したのか。血と強い親和性のある二神は、それを無意識に感知した。

(――近い。)

目の前の景色の奥。一際人気の無いその場所に、いまは使われていない家があった。
耳が痛くなるような静寂の中、彼は一歩一歩廃屋に近付いていく。
撒き散らしていた邪気を潜め、ただただ敵をその場所に確信した足取りで、着実に彼は黒羽に迫りつつあった。

【二神 歪:獅子堂と別れて黒羽を単独で捜索し、潜伏場所へ辿り着く。】
28紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/08/05(金) 18:45:53.59 0
>>21,>>25

「さて、俺は少し失礼させてもらう。暫くしたら戻ってくるから、それまで寛いでてくんな」
一連の出来事を説明し終えると、吼一郎は立ち上がり部屋の奥へと姿を消した。
外は何やら騒ぎが起こったらしく、ドタバタと床を踏んだ振動が微弱ながら伝わっていた。

「さて、紅峰さん──いえ、閃莉。改めて聞くけど、私のこと憶えてない?」
この静寂を打ち破るかのように篠が閃莉へと質問を投げかけた。

(御影家の娘……どこかで見掛けた……か? おそらく何らかの式典で見掛けたのだろうが……何か引っかかるな――)
かつては父に連れられて数々の組織の重鎮と顔を合わせて来た閃莉だが、彼女自身が友好的な関係を持つ事はそう多くは無かった。

「ああ、無理に思い出そうとしなくていいわ。忘れてるならそれでいいから」
篠は、思考を巡らせている閃莉を労わるように一度声をかけ、さらに言葉を続けた。

「変な事聞いてごめんなさい。困らせるつもりはなかったの。それでここからが本題なんだけど──」
篠は静かに瞳を伏せ、言葉に一旦間を置く。
本題――この言葉に閃莉は僅かながら身構えていた。
少なからずこの二人は敵同士――会談の場とはいえ、いつ戦闘になってもおかしくないと閃莉は考えていた。

そして伏せていた瞳を篠が開くと、そこには父と同じ雰囲気――当主の顔があった。

「貴女の求めている二年前の事件の真相……。もし私が知っていると言ったら──貴女はどうする?」
思いがけない篠の言葉に、閃莉はハッと表情を変え、彼女を睨みつける。
先程までの冷静だった彼女の表情はどこにもなく、その顔は怒りと憎悪で満ちていた――

「御影 篠……あぁ全て思い出したよ。"あの時"以来か――」
一瞬、昔の事を懐かしむようにフッと笑みを浮べた閃莉だが、その表情はすぐに憎悪の表情へと戻る。

そして閃莉は篠と真正面に向かい合うように座り直し、静かに口を開いた。
「……では篠、全て話して頂こうか。父さんの話と聞いて黙っていられるほど私も穏やかではないから……ッ!」

外が本格的に騒がしくなったのはそれとほぼ同時の事だった――。

【紅峰 閃莉:御影 篠と会話。外が騒々しい事に気付く。】
29獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/08/05(金) 21:29:04.11 0
>>28
獅子堂と龍神の視線が交差する。言葉はない、だが2人は目で互いに言わんとする事の全てを語り合っていた。
その光景を見て黒服の男達の背に緊張が走る。ある者は得物を握り直し、ある者は龍神の言葉を待って―――
「―――獅子堂、俺が言いたいことは1つだけだ。閃莉嬢は君が思っている様な…そう、親殺しなどでは決してない」
「…仮にもスイーパーたる俺に、その言葉を信じろと?」
「君も岡崎 蓮子の下に身を置く者…あの時、彼女が動かなかった事が何よりの証拠足りうるのではないかね?」
「………」
己の“所有者”たる岡崎 蓮子の名を出されて沈黙する獅子堂。その目には僅かだが困惑の色が浮かんでいた。
紅峰 閃莉と言えばISSのブラックリストのトップに近い位置にありながら、長年に渡って行方不明だった人物。
そしてそれを庇う裏社会の一大組織の長。俄かには無実を主張するその言葉を鵜呑みにはし難い。
「俺の名において閃莉嬢の無実を誓おう。だから君も…誓ってほしい、彼女に危害を加えないことを」
「…了承した。俺も誓う…我が主、岡崎 蓮子の名において。だが―――」
一呼吸おいて獅子堂は言葉を紡ぐ。
「―――万が一、彼女から危害を加えられた場合は俺も自衛行動に移る…いいな」
「…分かった。全員、得物を仕舞え! 客人に無礼があってはならんぞ!」
龍神の一喝で次々と武器を納め始める黒服たち。それを目にしながら獅子堂は思考を巡らせ始める。
(…紅峰 閃莉に直接会えば分かる…蓮子さんに授かった“能力”で…しかし、今になってこの街に戻ってきた理由は一体…)
そこに駆け寄ってきたのは先程まで言葉を交わしていた高崎。
「客人、応接間にお越し願おう…無礼を許してほしい」
「…気にしてはいない。俺も思慮が足りなかったようだ」

【獅子堂 弥陸:龍神との会話を終え、紅峰と御影のいる部屋へ向かう】
30御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/08/06(土) 04:33:26.86 0
>>23>>28>>29
「御影 篠……あぁ全て思い出したよ。"あの時"以来か――」

篠の言葉を聞いた紅峰は、一瞬懐かしむような表情になったが、すぐに表情を変えた。
それは敵意、殺意、憎悪、怒り──様々な負の感情が入り混じった表情だった。
場所が場所なら今すぐにでも飛び掛ってきそうなほど篠を睨んでいる。

(まぁ、ある意味で予想通りね。私と閃莉はお互いの立場を考えれば"敵同士"──。
 でも、まだ彼女にも理性は残っているみたいね。ここが恩のある応龍会だからかしら)
篠は紅峰の視線を正面から受け止め、しかし涼しい顔をしていた。
それは予想できていたからだ。紅峰に二年前の話題を出せばこうなる──と。

「……では篠、全て話して頂こうか。父さんの話と聞いて黙っていられるほど私も穏やかではないから……ッ!」
紅峰がこちらに体後と向いて座り直し、改めて言ってきた。
「そうね、じゃあ話をしましょうか。と言っても、私もすべての情報を持っているわけでは──?」
篠も紅峰に向き直り、話し始めた矢先、ふと違和感を感じて口を閉じる。
(ん……これは──視線?)
現在この部屋には篠と紅峰以外の人物はいない。それなのに紅峰のものではない視線を感じる。
軽く周囲を探るが、部屋の中はもちろん、襖の向こうにも人の気配はなかった。

(誰かいる──?まぁ気のせいかもしれないけど。
 何にせよ、吼一郎さんならともかく他の人物に聞かれていいものではないわね)
先程感じた視線──今は感じないが、用心に越したことはないだろう。

「んーやっぱり気が変わったわ。まずは自分で情報を集めなさい。他人に聞いてばかりでは駄目よ。
 貴女もそのつもりで戻ってきたんでしょ?貴女がこれ以上は無理ってところまで情報を集めたら──その時は全てを話すわ」
そう言って先程までの穏やかな雰囲気に戻る。この話はお終い、と言う合図だろう。
紅峰の方もそれに気が付き、先程までの剣呑な視線を収めた。

「と言っても貴女は今お尋ね者状態。まずは──そうね、明日私の家にいらっしゃいな。
 場所は分かる?市内北部の丘の上よ。夜にでもいらっしゃい。昼間は仕事があって家にいないし、貴女も都合がいいでしょう。
 貴女がこの街で動きやすくなるようにしてあげるから」
紅峰に告げる。向こうにとっても悪くない条件だったのだろう。渋々と言った感じで頷いた。

「素直に聞いてくれて助かるわ。──今は詳しい話は出来ないけど、いくつか重要な点だけ先に言っておくわ。
 二年前の事件──"私は現場にいて事件を目撃している"。でも、"私の能力は電気を操るものではない"。
 このことから言える事は──分かるわよね?。それと……これを言うのは家の者以外では貴女が初めてだけど──」

深く息を吸い込み、再び真剣な眼差しで紅峰を見る。

「私は"スイーパー"でもあり"犯罪者"でもある。そしてどちら側にいようと私は常に貴女の味方だから」

紅峰の今の表情から感情は読み取れない。今言われたことを信じて整理しているのか、それとも疑っているのか──。

(まぁ、どちらでもいいわ。この場で戦闘になるよりはマシよ)
吼一郎の部下が持ってきてから一度も口をつけず、すっかり冷め切ってしまったお茶で喉を潤す。
その時、廊下の方からバタバタと慌しく動き回る足音が聞こえてきた。

(誰か──いえ、スイーパーが来たのね。となると──)
「閃莉、これからこの部屋にスイーパーが来るわ。でも、何があってもこちらから手を出しては駄目よ。
 来ると言っても貴女を捕まえることが目的ではないはずだから。もしそうなら吼一郎さんが通すはずないもの」
紅峰に軽く言い含めておく。別に戦闘が起きても問題ないのだが、後始末が厄介なのと、吼一郎に迷惑をかけるのが躊躇われたからだ。

(ま、最悪私が権力とか色々使って何とかするけど)
などと暢気に考えながら、篠はもうすぐやってくるであろう来訪者を待っていた──。

【御影 篠:紅峰との会話を終え、獅子堂の来訪に気が付く】
31秋雨 凛音 ◆12CyiaxYIQ :2011/08/07(日) 03:24:07.21 0
>>22
二年前。
私の記憶はこの厨弐市の山中から始まった。
微かに頭に残っていたのは、顔がハッキリと見えない父の姿。
手に持っていたのは父が付けていたストールと黒いライセンスカード。
目が覚めたとき、私は恐怖と不安に支配された。
暗い森の中を歩き続けたが、帰るべき場所も会いたい人も思い出せなかった。
それからは目覚めた能力を恐る恐る使用しつつ、山中を生き延びて街についた。
しかし私は、汚れた身なりを不審に思った警官に声を掛けられて恐怖を感じてそれからも一人の生活をしばらく続けた。
他にも異能犯罪者とスイーパーの闘争に巻き込まれたりもしたが、彼らは私が陰で隠れているといつの間にか消えていたのだった。
そして山中から目を覚まして三週間経った日に私はとある保護施設に入ることとなる――

  ■

荷物になるバッグやらをコインロッカーに預け、手の邪気眼を隠すための包帯を新しいのに巻きなおすと
凛音は早速ダイヤ強盗を捜すことにした。
といってもその目的は犯人を捕まえることではなく、捕まえようとする人間に用があるのだ。
スイーパー。
凛音が持っていたライセンスは恐らく父のものだ。
だから、同じスイーパーにこのライセンスについて聞けばなにか父の事が分かるかもしれない。
協会に直接行くのも手の一つだが、あらぬ誤解で警察や施設の人に連絡されたら困るのでそれは出来ない。

「まぁ、本部があるほどだからスイーパーの数は多いだろうけど……見つかるかなー」
あても無く凛音は歩き始めるも、そうそう手掛かりなんて見つかるわけがない。
何度かさっき出会った黒服の男達と同じ雰囲気を持った人たちを見かけるも、彼らも彼らで苦戦しているようだった。
「もしかして、この作戦は無茶だったかな――?」
と、そこで突然右手の邪気眼が疼いた。
        デッドビースト
凛音の能力は「餓獣」という生命体をこの目から召喚することだ。
「餓獣」は高い戦闘能力を持つが、それだけでなくセンサーのように他の邪気眼に過敏に反応するのだ。
(いままでも、何度かこんなことはあったけど……ここまで強いのは、はじめて。一体、なにが――)
まだ能力を完全には使いこなせていない凛音には分からなかった。
彼女の邪気眼が反応していたのが、二神 歪が振りまいた攻撃的な『邪気』であることを。
(……右手が静まらない。何かに反応してる?……行ってみるしか、無いのかな)
凛音はさっきよりも足取りを重くして、右手の疼きにしたがって北を目指した。

  ■

(右手の疼きは治まったけど、ここはどこかな……)
ふらふらした足取りで歩いていると、気が付いた時には山の中にいた。
さっきまでの疼きは嘘のように消え失せ、ただの黒い眼(まなこ)に戻っていた。
(なんだか、いかにも盗賊とか逃走犯が潜伏してそうな山だけど、もしかしたら……)
凛音は二年前のホームレスな日々を少し思い出しつつ、慎重に山を登り始めた。

【秋雨 凛音:黒羽 影葉が隠れている山に到着】
32獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/08/07(日) 21:18:43.19 0
>>30
「…岡崎女史からはよく君の話を聞く…あんな若造が随分と立派に成ったものよ」
「蓮子さんと知己の仲だとは初めて聞いたな、龍神殿。それに俺の事も知っているとは思わなかった」
獅子堂と龍神は廊下の床を軋ませながら応接間へと歩いている。そして部屋の襖を開ける為に黒服の男達が2人を追い抜いて行く。
「繁華街は外道どもの手がよく伸びる。オールドキング開店の際に少々手回しをしたのが切っ掛けだった…」
龍神の目は遠く懐かしい日を思い出していた。
「彼女は俺に語った―――自分を超える最強のスイーパーを作らねばならない―――と」
「そして蓮子さんは、俺を選び、全てを伝えて後継者にしたと?」
「彼女の真意が何かまでは知らんよ。言える事は唯一つ、君はそれに相応しいと判断されたのだろう」
「………」

今度は獅子堂が過去に視線を飛ばす番だった。
異能犯罪者に家族を奪われ、自身も死に掛け、力に目覚め、初めて人を殺めたあの日。
消える筈だった命の灯火を再び燃え上がらせた、岡崎 蓮子のあの時の手の温もり。
そして今なお消え去ることのない異能犯罪者たちへの憎悪、怒り、狂気…

「御影、閃莉嬢…龍神だ。入るぞ」
(…御影? 高崎も言っていたが、あの御影か?)
意識を現在に戻すと襖は静かに開けられ、入室を促された。
「…先程の約束、守ってもらうぞ」
「…相手がその気でなければ守り通すつもりだ」
部屋へ入るや否や畳の上にあぐらをかき、じっと正面を見据える獅子堂。その視線の先には御影の姿があった。
(やはりあの御影…ISSの事実上のトップが何故ここに? そして―――)
僅かに目線をずらして、今度は紅峰を見据える。
(―――この娘が紅峰か…確かに“親殺し”等ではないようだ。だが―――)
獅子堂は感じ取っていた。紅峰が心の底に秘める怒りと憎しみを。
(―――俺にそっくりだ…)
くくっ、と暗い笑い声が獅子堂の口から漏れた。

【獅子堂 弥陸:御影と紅峰に会う】
33黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/08/08(月) 18:58:21.10 0
>>27
暗闇の中、まるで眠ったように閉じられていた黒羽の瞼が、ふと開いた。
ゆっくりとだが着実に近付いて来る一つの微かな気配に気がついたのだ。
(来たか)
黒羽はスイーパーが接近していると即座に確信した。
真夜中、人気のない街外れの廃屋に、ただの一般人が一人で近付いて来るのは不自然であったし、
なにより一般人ではまず不可能なレベルで、意図的に気配を隠蔽しているのを感じたからである。

──黒羽の目が、鋭く暗闇の先を射抜く。
瞬間、針のように研ぎ澄まされた殺気が、建物外へ向けて放たれた。
これは単なるありきたりな威嚇を意味するものではなく、
「下手な小細工は無意味。堂々と入って来い」という、黒羽なりの意思表示であった。

程なく、それに応えた相手が、今度は気配を包み隠さずして建物のドアを開いた。
──現れたのは、白髪の少年。
そう、白髪だが、その顔立ちには若干幼さが見て取れる。恐らく黒羽よりも年下であろう。
(年下のスイーパーなど珍しくはない。が……恐らくは)
黒羽はマスク越しに小さく息を吐いたが、それが無意識の内の溜息であったのは、彼ですら気がついていなかった。

(まぁいい。まずは現れた敵を倒す。“奴”を見つけるまで、俺はそれを繰り返すだけだ──)

──ピンッと、何かが黒羽の指から弾かれた。
暗闇に舞い上がり、辺りに緋色の輝きを振り撒く球状のそれは、
くるくると回転しながらやがて重力に従って落下し、パシッと黒羽の手に収まった。

彼を追ってきたスイーパーならば、その球体が何なのか直ぐに判るだろう。
そして気付くはずだ。彼のその行動が、「取り返せるものならやってみろ」という、無言の挑発であるということに。

「──」
建物内の空気が一瞬にして張り詰める。互いに明確な宣戦布告があったわけでない。
だがその時、闘いの火蓋は、確かに切って落とされていた──。

【黒羽 影葉:廃屋にて二神 歪と対峙。戦闘に突入】
34二神 歪@代理:2011/08/09(火) 07:32:50.10 0
>>33
気付かれた、咄嗟にそう感じた。
刺すような殺気を自分が向かう方向から感じる。
気配を消してもこの距離で敵を察知出来る犯人。相当に戦闘に慣れて居るのだろうが、だとすれば。
だとすれば、何故直ぐに通報されるような派手な盗難事件を起こしたのか。
絶対に捕まらない自信があるのかとも思ったが、だとすれば逃走経路での戦闘で相手の能力者は撃破されてしかるべきだ。
戦闘力に自信を持つ一方で、逃走や潜伏という手段を用い、更に盗難の手口も逃走経路の手配も準備されていない。
これらが意図的なものであったとしたなら、犯人の目的は盗難そのものでは無く、自分を追わせ、スイーパーを集めること。

つまり、ここに居るのは逃走に失敗した盗難事件の犯人では無く、計画を順調に進めた狩人だ。
そして自分はこれからあの廃屋に、――『犯人』」にとって本番のステージに、入っていく事になる。

彼は気配を開放し、廃屋の扉を開いた。どのような理由があれ、彼のやることは決まっている。
犯人を倒す。それだけだ。

居たのは、写真で見た犯人と同一人物だった。後ろでくくった黒髪が、彼女のため息と共に少し沈む。
獲物を見せびらかすような動作に、二神は不快そうに眉をしかめた。
彼にとって、その挑発は無意味だ。彼の目的は宝石の奪還でなく、あくまで犯人を倒す事なのだから。
不快だったのは、犯人の動作それぞれが、スイーパーとしての二神に対しての少しの失望や諦め、妥協などを含んでいた事だった。
これまで生きてきた中での様々な負の感情がそれに伴って、臓腑の底に少し現れていた。侮蔑、嘲笑、etc、etc.

「俺では…不満か」

自嘲気味に二神は犯人に対して声をかけ、羽織っていたコートを脱ぎ捨てる。
学生制服を改造したように見える、黒ずくめの衣装に、白髪が落ちた。

「まぁ、良い。」

軽くステップ。拳の具合を確かめて、――突如、急激な加速、跳躍。
犯人に対しての間合いを詰め、重心を極度に前方にかけた上段廻し蹴りを側頭部を狙って放つ。
バックステップでそれをかわされても、回転を利用して即座に右の貫き手が犯人の脇腹に迫る。
それは回避や防御をほぼ捨てた、無呼吸の動作だった。
格闘の型は自己流のようで非常に荒いが、放つ一撃一撃は全て急所を狙っている。

貫き手を捌かれた時、逆の手は二神の体の背後にまわっていた。
次の瞬間、その手が背後から何かを引き抜く。隠し持っていたのは、稠密な長い鉄の棒。
どこかの工事現場から無造作に引き抜いてきたかのようなカギ型の鉄棒、その先端を、
引き抜いた勢いのまま黒羽の肩口へと振り下ろした。

【二神 歪、黒羽と廃屋にて戦闘開始。】
35秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/08/11(木) 15:13:19.97 0
>>30>>32
「そうね、じゃあ話をしましょうか。と言っても、私もすべての情報を持っているわけでは──?」
(――ッ! しまった! 一瞬、一瞬だけ気を抜いて気配を漏らしてしまった…! 気づかれたか…?)
案の定、御影は周囲の気配を探っている。この脇役眼(のうりょく)は気配さえも完全に消せるのだが、さっき一瞬だけ気配を出してしまった。
勘が鋭ければ気づかれるかもしれない…固唾を呑む密井
「んーやっぱり気が変わったわ。まずは自分で情報を集めなさい。他人に聞いてばかりでは駄目よ。
 貴女もそのつもりで戻ってきたんでしょ?貴女がこれ以上は無理ってところまで情報を集めたら──その時は全てを話すわ」
と、穏やかな雰囲気に戻って言う御影
(気づかれた…わけではないようですが警戒はされてしまいましたね…いや、一応警戒は最初からしていたのでしょうけど…
これでは全ての情報を盗聴(き)けませんが…仕方ありません)
今度は集中して、自分の能力を使用し話を盗み聞く密井
「と言っても貴女は今お尋ね者状態。まずは──そうね、明日私の家にいらっしゃいな。
 場所は分かる?市内北部の丘の上よ。夜にでもいらっしゃい。昼間は仕事があって家にいないし、貴女も都合がいいでしょう。
 貴女がこの街で動きやすくなるようにしてあげるから」
「素直に聞いてくれて助かるわ。──今は詳しい話は出来ないけど、いくつか重要な点だけ先に言っておくわ。
 二年前の事件──"私は現場にいて事件を目撃している"。でも、"私の能力は電気を操るものではない"。
 このことから言える事は──分かるわよね?。それと……これを言うのは家の者以外では貴女が初めてだけど──」
「私は"スイーパー"でもあり"犯罪者"でもある。そしてどちら側にいようと私は常に貴女の味方だから」
(成程…彼女は電気操作系の能力者でなく、二年前のとある事件を目撃している…と。
…? スイーパーであり、そして異能犯罪者でもある…? 二重スパイということでしょうか? とにかく、この情報はなかなか有力ですね)
ちなみに密井が見聞きしている情報は秘境の上層部の一人の能力、『心網眼』―味方同士の心と脳をネットワークで繋ぐことで、情報や感覚を共有させる能力―により、本部に直接送られている
つまり万が一密井が敵に見つかるようなことがあっても、直ぐにフォローできるようになっているのだ
「閃莉、これからこの部屋にスイーパーが来るわ。でも、何があってもこちらから手を出しては駄目よ。
 来ると言っても貴女を捕まえることが目的ではないはずだから。もしそうなら吼一郎さんが通すはずないもの」
(む、誰かが来るようですね。なるべく入り口と窓から離れましょう。指の一本でも触れられれば私の能力が解けてしまう)
そう心の中で呟き、入り口と窓から離れか警戒する密井
「御影、閃莉嬢…龍神だ。入るぞ」
(…まぁ、流石に大事な会合に窓からは入りませんよね)
「…先程の約束、守ってもらうぞ」
「…相手がその気でなければ守り通すつもりだ」
(さて、これでもう一人増えましたね。さぁ、できる限りの情報を盗聴(ききだ)すとしますか…)
【密井偵寡:偵察続行】
36黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/08/11(木) 20:45:20.25 0
>>34
繰り出された回し蹴りをステップでかわし、間髪入れず放たれた手刀を手の甲で弾く。
隙はない裁き方だ。しかし──
「──」
黒羽は一瞬目を見開いた。いつの間にか肩口に向けて鉄の棒が迫っている。
要するに初めの蹴りや手刀は布石だったのだ。
(抜け目のない動きだ。意外にも接近戦で力を発揮するパワーファイターか)
黒羽の掌が、奇妙なほどの緩やかな動きを持って、鉄棒の先にかざされる。
まるでどうぞ貫いてくれといわんばかりに。

しかし、鉄棒はそんな無防備な掌を貫くことはなかった。
どうしたことか、わざわざ掌を避けるように軌道を変え、代わりに床を突き刺したのだ。
突然少年の気が変わり、敢えて外したのだろうか?
いや違う。これは黒羽の能力によって外されたのである。

掌をかざした時、黒羽はそこを中心にして目に見えない盾(シールド)を展開させていた。
それは彼が『エアロシールド』と呼ぶ、圧縮空気の膜。
その膜に侵入した物体は、内部で強い空気抵抗を受け、
まるで受け流されてしまうかのように軌道が不自然に変わってしまうのである。

「フッ」
マスク越しに小さく笑みを漏らす黒羽。
攻撃が外れたことで、少年に生まれたほんの一瞬の隙──
それを見逃してやるほど彼は甘い性格ではない。

ふっと腰を浮かして、少年の右側頭部に放ったのは強力な左脚の上段蹴り。
それに対し少年は素早くしゃがみ込み、蹴りの軌道上から逃れることを選択した。
本来ならば咄嗟に右腕でガードしがちなタイミング。
それをかわすという方法をとられたことで、次に思わぬ隙を生んだのは黒羽の方であった。
そう、少なくとも──少年にはそう見えたことだろう。

──マスクで覆われた口元が、人知れずニィと弧を描いた。
その瞬間、鳴り響く激しい炸裂音。煙幕のように舞い上がった土埃。
そして、少年に向けて激しく飛び散った鉄棒の破片。
こちらが本命。少年と同様、彼も初めの攻撃は布石だったのだ。
(味な真似をしてくれた例だ)

もうもうと立ち込める土煙を見据えながら、地に着けた軸足に力を入れてジャンプした黒羽は、
くるんと空中で一回転して、後方数メートルの場所に着地した。

【黒羽 影葉:煙幕を張り、更に鉄棒を爆破してその破片を二神に飛ばす】
37紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/08/11(木) 21:59:44.02 0
>>30,>>32,>>35

少なくとも篠は私に協力しようとしてくれている――私は……彼女を信じても良いのだろうか――)

やがて閃莉は考えを止め、篠と同じように冷えたお茶に手を付けようとする。
だが、ふとその手を止めると篠の背後をキッと睨みつけた。

「ん……?」

その違和感は確かのものだった。篠の背後の空間が、人一人分僅かに"歪んで"いるのだ。

「あ――」

そして閃莉が口を開こうとした瞬間――バタバタと忙しい足音がこちらへと向かってくる事に気付く。
篠もそれに気付いたのか、廊下の方を一瞬見やると、閃莉の方へと向き直った。

「閃莉、これからこの部屋にスイーパーが来るわ。でも、何があってもこちらから手を出しては駄目よ。
 来ると言っても貴女を捕まえることが目的ではないはずだから。もしそうなら吼一郎さんが通すはずないもの」

スイーパー……その言葉に閃莉は意識が向いてしまい、自然と身構える。
だが篠の言ったとおり、吼一郎が閃莉の居る場にそれを通すはずがなかった。
やがて足音が止まると――それは来客者がこの間に来た事を意味していた。

「御影、閃莉嬢…龍神だ。入るぞ」

その吼一郎で側近の男が襖を開き、そこから現れたのは長身の体格の良い男だった。
黒い長髪に黒一色のコート。そして猛禽類の如く鋭いその視線は篠をジッと見据えていた。
(やはりスイーパー……篠の事も当然知っているか……)

やがてその視線は閃莉へと移り変わると、男はフッとほくそ笑んだ。
心中を見透かされているかのような悪寒を彼女は感じていた。
だが自ら立ち上がると閃莉は男の前に立ち、口を開いた。

「お初にお目にかかる、私は紅峰閃莉……吼一郎殿が迎え入れたという事は貴方に交戦の意思は無いという事だな。
ならば、こちらも誠意を持ってこの会談を行いたい――」

そう言うと閃莉は部屋の中央へと向かい、体を屈めながら静かに左手を床へと置いた。

「まずはこれから私の行う事に謝りたい。"電流"に気をつけてくれ」

瞬間――閃莉の髪が金色に輝くと、閃莉の左手から電流が床へと放出される。
流れ出した電流は部屋中を駆け巡り、一瞬で屋外へと放出されてゆく。

「少々この場に相応しくない者が居たのでな……さあ姿を現すがいいッ!」

閃莉が篠の背後を睨みつける。すると空間が少しずつ歪んでいき、一つの形が浮かび上がり……そこに新たな人間が現れた。

【紅峰 閃莉:獅子堂 弥陸と接触。密井偵寡の能力を解除させる】
38二神 歪@代理:2011/08/12(金) 12:46:56.14 0
>>36
隠していた鉄の棒を振り下ろしながら、二神は違和感を感じていた。
相手に驚きの色はあった。だが、それに対する行動が伴わない。

(手を――かざしている…?)

そして、インパクトの直前に拳に感じたおかしな手ごたえ。
軌道が変えられている。鉄棒での攻撃が横に逸れて、ダメージを与えること無く床に突き刺さった。

(くッ、何が…?!)

武器の鉄棒を捨て、迫り来る側頭部への衝撃をしゃがむことで回避する。

(ここから一気に決める――ッ!)

右手を固めて貫き手の準備をしながら、敵に突き刺そうとしたところで、二神はそれに気付いた。
黒羽の、雰囲気。マスクで解らないが、あれは――哂っている!!!

幾度も経験した嘲笑に体は敏感に反応した。だが、頭で不意打ちを理解しても、体は準備できなかった。
直後に、爆発音が響き渡った。

―――

もうもうと立ち込める土煙の中から、人影がだんだんと濃くなっていった。
黒羽の方に向けて、近付いてくる。

「あぁ――色々考えたが、よく解らないな。単なる爆破能力でなく、圧力を操る能力、が一番的を射ているように思える」

鉄棒の爆発を至近距離で受けながら、その声はさも当然の如く落ち着いていた。

「射程距離は未だ不明だが――、一人である事は間違いないだろう。獲物も確認した、真贋は解らないが」

本部への報告。もしも自身が失敗した時の為に、能力にある程度あたりをつけてから増援を呼んだのだ。

「さて、しかし、やってくれたな――」

煙の中から、少年の影が現れた。が、その姿はとても今までの平然とした口調から連想できるような状態では無かった。
左目が無い。破片を受けたのか、眼窩から抉れているようだ。左手中指、薬指欠損。その他細かい傷が十数か所。
鮮血に床が染まる中、彼は左眼窩奥に刺さった破片を抜き取った。苦痛に顔が歪んでいる。恐らく、そのままの出血では長くは持たない。
そして、そうする間にもどんどんと強く、大きくなっていく、二神の邪気―――鮮血に似た赤い霧が彼の体を包んでいた。
黒羽に向けられる、憎悪、憎悪、憎悪―――それは、少年のものではなく、彼の左手から発せられていた。

「―――後悔するぞ。」

ドン、と音がしたのは、彼が床を蹴ったからだ。
超低姿勢から急激に加速した二神は、残る右目で敵を捉える。
速度、筋力、視力。今の二神の状態は、すべてが桁違いに底上げされている。
あふれ出した血が彼の右手に集まり、大きな爪の形で固まった。レッド・アームズ、出血と引き換えに形作られる彼の本当の武器。
そして、その赤い手が拳を握り、激情のままに振るわれた。

『エアロシールド』は実に正しく機能した。即ち、圧力により敵の攻撃を阻害する。
だが、彼の拳は逸れなかった。それどころか、一瞬の減速の後、赤い拳はその空気抵抗を一気に突き抜けたのだ。
能力によるガードのみに頼らなかった黒羽はその攻撃を回避したが、思っていた以上のスピードで突き抜けた拳にタイミングを狂わされた。

まるで踊るように、二神の体がくるんと周る。回転を利用した左足の後ろ回し蹴りというトリッキーな大技。
その攻撃の軌跡を描きながら、鮮血が足に集まり赤い装甲を形作る。
レッドブーツ
『赤い靴』の名の通り、血の武器と化した足が冗談のようなスピードで、真横から黒羽に襲い掛かった。

【黒羽、負傷。増援を呼びつつ黒羽との戦闘を継続する。能力発動中】
39御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/08/12(金) 13:08:48.71 0
>>32>>35>>37
廊下の方から複数の足音が近付いてくる。もうすぐこの部屋にやってくるだろう。
(さて、誰が来るのか楽しみね)
紅峰は先程の篠の"スイーパーが来る"と言う言葉のせいか、少し緊張しているような状態だった。
(しかしこの部屋……やっぱり"誰か"いるみたいね。さっきのは気のせいじゃない。
 姿を見せないと言うことは、目的は盗聴──かしら)
篠は近付いてくる足音に耳を傾け、周囲に気を配りつつ、お茶を飲みながら待っていた。

「御影、閃莉嬢…龍神だ。入るぞ」
やがて足音は部屋の前で止まり、襖の外から吼一郎の声が聞こえてきた。
そして襖が開かれ、吼一郎が入ってくる。それに続いて部屋に入ってくる長身の男がもう一人。

(やはり来たわね。『銃王』──獅子堂 弥陸)
長身の男──獅子堂は部屋に入るなりドスッ、と胡坐をかいてその場に座り、こちらに視線を向けてきた。
こちらをも視線を向けることで返す。次いで獅子堂は篠の横にいる紅峰に視線を向ける。
紅峰を暫く眺めると小さく、しかし暗く笑った。
(彼の過去は知らないけど、何か閃莉と通じるものがあったのかしらね)

その光景を横で眺めていた時、不意に紅峰が立ち上がり、獅子堂の前に立って口を開いた。
「お初にお目にかかる、私は紅峰閃莉……吼一郎殿が迎え入れたという事は貴方に交戦の意思は無いという事だな。
ならば、こちらも誠意を持ってこの会談を行いたい――」
獅子堂にそう告げた紅峰は、部屋の中央に向かい、床に手をついた。

(何をするのかしら?さっきのセリフから考えて彼に攻撃、ってことはないでしょうけど)
その様子を篠は少し心配しながら見ていた。

「まずはこれから私の行う事に謝りたい。"電流"に気をつけてくれ」
結果的に言うと、心配は杞憂に終わった。篠は一瞬ヒヤリとしたが。
紅峰の手から発せられた電流は、一瞬で部屋の床や壁を伝い、外へ逃げていった。
篠は紅峰の行動の真意が分からなかったが、それはすぐに明らかになった。

「少々この場に相応しくない者が居たのでな……さあ姿を現すがいいッ!」
言葉と共に紅峰が篠の背後を睨み付ける。追って篠もそちらに目を向ける。
すると篠の背後の空間が陽炎のように歪み、やがて人の形となり、完全な人間になった。

「成る程ね。"もう一人"いるのは分かってたんだけど、どこにいるのか分からなくてどうしようかと思ってたわ。
 私の能力で探そうとしたら、この家が原形を留めていなかったわ」
現れたのは厚手のコートにマスク、サングラス、帽子をかぶった見るからに暑そうな出で立ちの人間。
身に付けている物のせいで顔も体型も分からない為、性別や年齢の判別は出来ない。
しかしこの場にこうしている以上、誰かの差し金であることは明白だった。

「そっちの人も気になるけど、まずはこっちね。
 初めまして、でいいのかしら?お互い顔も名前も知っているけど、こうして面と向かって話すのは初めてよね」
座っている獅子堂に話しかける。向こうも気づいてこちらに顔を向ける。
「あなた、さっきこう思ってなかった?"何故自分の所属する組織のトップがこんなところにいるのか?"」
クスクスと笑いながら言ったその言葉に、獅子堂の表情が僅かに動く。
「別にからかっているわけじゃないのよ?まぁ、あなたの疑問ももっともよね。
 吼一郎さんには失礼だけど、本来ならこの程度の事件で私が出てくることはない。
 しかし事実として私はここにいる。それは何故か?──答えは簡単よ。
 偶然近くを通りかかった時に連絡が来たから立ち寄っただけ。ま、吼一郎さんと知り合いだったって言うのもあるけど」
獅子堂は納得していないようだったが、篠はとりあえず話を終わらせた。

「さて、今度はこっちね」
先程紅峰の電流によって姿を現した侵入者に歩み寄る。
「どこの誰かは知らないけど──乙女の秘密を知ってタダで帰れるなんて思ってないわよね?」
篠は笑顔で冗談交じりに言っているが、その体からは気圧される程の威圧感が滲み出ていた。
部屋の空気がビリビリと震えるような錯覚が起こる。気の弱い人間なら気絶してしまいそうな程の凄まじい圧力が部屋を支配する中、篠は侵入者をジッと見つめていた。

【御影 篠:獅子堂が部屋に到着。挨拶の後、密井 偵寡を尋問】
40秋雨 凛音 ◆12CyiaxYIQ :2011/08/12(金) 15:39:12.87 0
>>36>>38
山を登り始めて、数刻。
山の景色は“目覚めた”直後を思い出すのであまりいい気分ではないが、いまはあの時の遭難経験に感謝しなければいけない。
凛音はその小柄な体躯とは裏腹に楽々と道なき道を進んでいった。
(でもここに犯人がいるっていう確信はないし、あまり深く行かない方がいいかな……)
一旦引き返すことを考え始めたその時だった。

突如、山中に爆発音が鳴り響いた。

「え……!?」
反射的に振り向いた先にはそう遠くない距離に土煙が上がっていた。
(こんな山奥で爆発ってただごとじゃない……よね)
まさか、邪気眼使い同士の戦いが?
もしかすると、そこにあのダイヤ強盗がいるかもしれない。
その直感を信じることにした凛音はゆっくりと慎重に現場へと向かった。


土煙があがった場所から数十メートル離れた茂みに凛音は身を隠した。
そこから見えるのは二つの人影。
片方は黒尽くめの長髪。遠目だが、あれは写真に写っていた女性だと確信する。
片方はフード付きコートを着た白髪の男だ。右手が赤いのは能力か何かだろうか。
念には念を入れて、十分距離を取っているが邪気眼使い同士の戦いではこの距離は絶対安全圏ではないだろう。
それは今までに何度か遭遇した異能の戦いを見た経験から来る予想だ。
(フードの人がスイーパーとは限らないし、しばらく様子見かな)
不意に自分の邪気眼が疼くのを感じる。
ここに向かう途中でも何度か疼いたが、近づくごと疼きが強くなるようだ。
(最近は大人しかったのに、この街に着いてからどうしたんだろ……)
右手の痛みはひとまず無視して、凛音は目線の先の光景に集中することに決めた。

【秋雨 凛音:黒羽、二神の戦闘を遠くから観察】
41獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/08/12(金) 21:46:00.70 0
>>35>>37>>39
「お初にお目にかかる、私は紅峰閃莉……吼一郎殿が迎え入れたという事は貴方に交戦の意思は無いという事だな。
 ならば、こちらも誠意を持ってこの会談を行いたい―――まずはこれから私の行う事に謝りたい。“電流”に気をつけてくれ」
目の前に紅峰が立ち、挨拶を済ませるが否や、部屋の中心に移動し手をついた。
次の瞬間、微弱な電流が部屋全体を走る。獅子堂はその意を理解できなかったが―――
「少々この場に相応しくない者が居たのでな……さあ姿を現すがいいッ!」
紅峰が睨む先に自身も視線を送るとそこには人の姿が現れた。
(成程、こういう事か…蓮子さんに授かった能力でも捉えられなかったとは、修業が足りんな、俺も…)
自嘲しつつベルトに納めたままの『パーフェクト・ジェミニ』を両手に握り、いつでも『惑星』を発射できるよう引き金に指を掛ける。
急所はあえて外すつもりである。どれ程の時間を潜伏していたのかは分らないが、とりあえず目的を聞き出すべきと考えたからだ。

「そっちの人も気になるけど、まずはこっちね。 初めまして、でいいのかしら?
お互い顔も名前も知っているけど、こうして面と向かって話すのは初めてよね」
突然、御影に声を掛けられ思わずハッとする獅子堂。その目は僅かながら訝しげな色を含んでいた。
(…この女…)
「あなた、さっきこう思ってなかった? “何故自分の所属する組織のトップがこんなところにいるのか?”」
(見抜いている。俺の考えていることをかなり正確に…それよりもこの感覚、どこかで…)
御影の笑い顔からその心中を読み取ろうとしたが不可能だった。だが、この女は何か大きな秘密を抱えている。そんな直感を獅子堂は得ていた。
「別にからかっているわけじゃないのよ? まぁ、あなたの疑問ももっともよね。 吼一郎さんには失礼だけど、
本来ならこの程度の事件で私が出てくることはない。 しかし事実として私はここにいる。それは何故か?―――答えは簡単よ。
 偶然近くを通りかかった時に連絡が来たから立ち寄っただけ。ま、吼一郎さんと知り合いだったって言うのもあるけど」
(…嘘は言っていない、だが全てを語っているわけでもない、といったところか…
!―――そうだ…夢に出た“あの女”とそっくりなんだ…)
所詮は夢、そもそもあの夢に何か意味があったとは断定できない。だが夢は時に第6感として機能することもある。
(だが、この場は皆に協力する方針で動くべきだな)
自身が巨大な権謀術数の渦の中心に近しい存在となるか、あるいは只の傍観者となるか等、
今考えたところで意味はない。
幸いにも紅峰の能力の片鱗も垣間見た。恐らく彼女は窃盗犯と一戦交えている。
この騒動を切り抜けたら情報を得て、再び任務に戻ればいい。
(まあ、無事に事が済めばの話だがな…)
「どこの誰かは知らないけど──乙女の秘密を知ってタダで帰れるなんて思ってないわよね?」
御影のただならぬ気迫に、若干気圧されながら獅子堂は思考を巡らせていた。
―――その手に『パーフェクト・ジェミニ』を握りしめて―――

【獅子堂 弥陸:御影、紅峰との会話を終え、密井 偵寡に対して臨戦態勢をとる】
42秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/08/13(土) 17:29:42.68 0
>>37>>39>>41
「まずはこれから私の行う事に謝りたい。"電流"に気をつけてくれ」
そう言うと紅峰は床に手を付け、電気を流す。それは部屋中を駆け巡り、屋外へと放出される…
その攻撃…電流に『触れて』しまった密井の能力は当然、解除される
「少々この場に相応しくない者が居たのでな……さあ姿を現すがいいッ!」
じわじわと空間が歪み、姿を露にする密井偵寡。そこにいる全員が密井に敵意を向ける。獅子堂は銃に手をかけている
「成る程ね。"もう一人"いるのは分かってたんだけど、どこにいるのか分からなくてどうしようかと思ってたわ。
 私の能力で探そうとしたら、この家が原形を留めていなかったわ」
「…はぁ。やれやれ、気づかれてしまいましたか…」
女性とも、男性ともつかない姿で、女性とも、男性ともつかない声を出す
「あの時一瞬でも気配を漏らしてしまったのが原因なんでしょうかねぇ…。いやぁ、反省です」
年齢も、子供のようには聞こえないが、老人のようにも聞こえないが、それでも、詳しく判別するのは難しい、そんな声
(…社長。見つかってしまいました。どうしましょう?)
(OK。まだ攻撃はしてこないみたいだね。なら問題ない。そのまま続けて。できるだけ情報を引き出すんだ。危険になったら私が連れ戻す)
(了解(ラジャー))
心網眼のネットワークで、連絡をとる密井
「さて、今度はこっちね」
先程紅峰の電流によって姿を現した侵入者に歩み寄る。
「どこの誰かは知らないけど──乙女の秘密を知ってタダで帰れるなんて思ってないわよね?」
その言葉は冗談混じりのようにも感じるが、そこから発せられる威圧感は並のものではない。生半可な者なら立つこともできないくらいに
「…流石、御影家当主と言ったところでしょうか。怖いですね…
 逃げられると思っているか、ですか。さて、この場には電気使いと銃使い。そして恐らく強力な破壊力を持つであろう貴方で三人。その全員に狙われている。
やれやれ、私も年貢の納め時、って訳ですか…。…納める気はありませんがね!」
密井がコートを靡かせると、仲から玉のような物が数個出てくる。それは転がっていき、煙とガスを発する。催眠ガスである
密井のサングラスとマスクは、ガスマスクにもなっているのだ
「…これくらいでどうにかなるとは思っていませんが、このガスをどうにかするには何かする必要があるはずです。少年漫画じゃないんだし、気合で吹き飛ばすとかあるわけないですよね?
だから、見せてもらいますよ。貴方達の手札…!」
ガスの煙幕の中でそう呟く密井
「逃げられるとは…勿論思っていますよ。僕は貴方達の情報を沢山得て、貴方達は僕の情報をちっとも得られない状態でね…」
ちなみに密井はいつでもこの場から逃げられる。秘社の能力、社長権眼。それを使えば、いつでも彼を呼び戻せるのだから…
【密井偵寡:催眠ガスの煙幕を張る
秘社境介:密井に危険が及べば、すぐにでも召還する準備はできている】

43黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/08/14(日) 01:19:56.01 0
>>38
手応えはあった。だが、当然これで終わりなはずがない──。
「あぁ――色々考えたが、よく解らないな。単なる爆破能力でなく、圧力を操る能力、が一番的を射ているように思える」
そんな思いに応えるかのように、やがて土煙の中から少年は現れた。
全身を激しく傷付かせた、ボロボロの格好で。

「……」
ダメージは負ったが、生きてはいる。ここまでは黒羽の予想通りである。
しかし、にも拘らず、黒羽は心のどこかで一抹の不安を覚え始めていた。
(妙だな)
その原因は少年の発する気配にあった。
普通、肉体が激しく傷付けば、それだけ戦意は否応なく衰えるものだ。
だが目の前の少年はどうだ。衰えるどころか、更に激しく高まっているではないか。

「―――後悔するぞ。」
黒羽には、それについて思考を巡らす時間はなかった。
ドン、という地を蹴る音がすると同時に、黒羽の間合いに少年が入り込んできたのだ。
「!!」
繰り出される右手に対し、黒羽も咄嗟に左手を差し出し、そこを中心にエアロシールドを展開。
が──その瞬間、黒羽は一瞬我が目を疑った。
受け流すはずの空気抵抗もなんのその、少年の真っ赤に染まった右手が一直線に向かってくるのだ。

(チィ!)
思いもよらぬ展開に回避を余儀なくされた黒羽は、直撃の瞬間に自ら後方に跳んだ。
結果、突然後方に加速されたことで、少年の突きは外れた。
しかし、少年はまるでそれを予知していたかのように、攻撃を連続させていた。
ありえない身のこなしから回し蹴りを、しかもご丁寧にもその脚に赤い装甲を纏った、
破壊力抜群とわかる蹴りを放ったのだ。
(速い! 体の動きは俺と五分──いやそれ以上か!)

無傷での回避は不可能。咄嗟にそう判断した黒羽は、空気弾を形成した右手を迫り来る踵にぶつけた。
直後に、ぐにゃりとひしゃげて、激しく炸裂する空気弾。
その爆発は少年の脚は勿論、黒羽の掌もろとも巻き込むものだった──。

爆発の圧力によって少年は吹っ飛び、黒羽も更に後方へと吹っ飛んだ。
上手い具合に着地した黒羽は、ズキズキと鈍い痛みを発する右手を
ひゅっと縦に振って、滴る鮮血を床に叩きつけた。
(俺に自らの技で負傷させるとは……想像以上のスイーパーだ。少しばかり──)

ハラリ。口元を覆っていたマスクが、真っ二つに裂ける。
それは、先程バックステップでかわしたと思っていた手刀が、
実は完全には回避できておらず、僅かばかりかすっていたという証だった。
(……前言撤回。俺は、こいつをかなり甘く見ていたようだ)

口元から落ち、首に垂れ下がったマスクを無造作に引きちぎった黒羽は、
これまで終始閉じていた唇を、ふっと開いた。
「名を聞いておこうか」

紛れもない男の声。それに面食らったような顔の少年を一睨みして、彼は続けた。
その右手の上に、周囲の暗闇を赤々と照らす、紅の光球を出現させながら。

「再起不能程度で済ますつもりだったが、俺の顔を見た以上はそうも言っていられなくなった。
 ──後悔すると言ったな。残念だが、後悔するのは俺を本気にさせた貴様の方だ」

瞬間、彼の手の上で滞空していた光球が──
空気中の元素が圧縮され、強力な爆発エネルギーを満載した爆弾が少年に向けて放たれた。
それも数を一瞬に四つに増殖させて。
「消し飛べ、この『メテオライトボム』でな」

【黒羽 影葉:右手負傷。『メテオライトボム』を放つ】
44御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/08/14(日) 21:58:19.16 0
>>42
「…流石、御影家当主と言ったところでしょうか。怖いですね…
 逃げられると思っているか、ですか。さて、この場には電気使いと銃使い。そして恐らく強力な破壊力を持つであろう貴方で三人。その全員に狙われている。
 やれやれ、私も年貢の納め時、って訳ですか…。…納める気はありませんがね!」

侵入者はそう言って着ているコートを翻した。するとその中から球体がいくつか飛び出し、周囲に転がる。
次の瞬間、その球体から勢いよく煙が噴き出した。
(煙幕……?いえ、これは──)
「ケホッ……!」
感じるのは目と喉の痛み。どうやらこの煙には催涙ガスも含まれているようである。

「…これくらいでどうにかなるとは思っていませんが、このガスをどうにかするには何かする必要があるはずです。少年漫画じゃないんだし、気合で吹き飛ばすとかあるわけないですよね?
だから、見せてもらいますよ。貴方達の手札…!」
侵入者は尚も喋り続ける。ガスの影響を受けていないところを見ると、あのサングラスとマスクがガスマスクの役割を果たしているのだろう。

(やってくれるじゃない。でも──)
煙が催涙ガスと分かってからの篠の行動は早かった。すぐさま上着のポケットからハンカチを取り出し、口に当てる。
次いで庭園に面している大き目の窓を全開にし、換気を行う。この間僅か数秒。
最年少でライセンスを取得してから今まで、数多くの事件に関わってきた篠。彼女にとってこの状況はまったく予測できないものではなかった。
同じ室内にいる紅峰や獅子堂、吼一郎の様子は分からないが、何らかの行動は起こしているだろう。

「逃げられるとは…勿論思っていますよ。僕は貴方達の情報を沢山得て、貴方達は僕の情報をちっとも得られない状態でね…」
窓を開けたとはいえ、室内には未だ煙が充満している。隣にいる人間すら視認出来ない煙の中、侵入者は三度口を開いた。
その間に篠は、上着を脱いで顔をカバーしつつ、侵入者に接近していた。
声の位置からして、侵入者の位置はあの場から動いていない。位置さえ分かれば視界がなくとも接近するのは容易だった。

足音を殺して侵入者の背後に回り込み、腕を締め上げる。いかにガスマスクを着用しているとはいえ、相手も視界がない状態。
まさか直接自分に向かってくるとは思わなかったのだろう。突然背後より襲ってきた篠に対応できなかったようだ。
どうやら身体能力もあまり高くないようだ。能力と装備から察するに、諜報活動専門と言ったところだろう。

「勘違いしているようだけど──あなたの情報なら既に得られているわ。あなたは気付いていないでしょうけど。
 どんな些細なものでも情報は情報。存在がばれない内に逃げていればよかったわね」
部屋の外では怒号と沢山の足音が聞こえる。どうやら外に出た煙で吼一郎の部下が異変に気付いたようだ。

「逃げられるなら早く逃げた方がいいわよ?これ以上情報が出ることもないしね。
 それに、この中の誰かがあなたの言う"手札"を見せたら、あなた無事じゃすまないもの。もっとも──」
ギリギリと腕を閉める力を強めながら、侵入者に囁きかける。
「──逃がすつもりはないけれどね」
最後の一言は、底冷えするような低い声で呟いた。

【御影 篠:煙幕を突破し、密井偵寡を拘束する】
45獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/08/15(月) 19:57:29.40 0
>>42>>44
「…流石、御影家当主と言ったところでしょうか。怖いですね…
 逃げられると思っているか、ですか。さて、この場には電気使いと銃使い。そして恐らく強力な破壊力を持つであろう貴方で三人。
その全員に狙われている。 やれやれ、私も年貢の納め時、って訳ですか…。…納める気はありませんがね!」
密井のコートから球体が零れ落ちると、そこから煙が噴き出し始めた。
「ケホッ……!」
咳き込んだのは御影。その顔を見ると目には微かだが涙が浮かび、痛みを堪える表情が見て取れた。
(催涙ガスか…しかし、逃げ切れる算段があるのか?…再び能力を使えば可能かもしれんが…)
部屋には獅子堂、御影、紅峰、龍神の4人。屋敷の内外にも恐らく数十人が警備にあたっている。
おまけに屋敷は高い塀に囲まれ、門には警備が集中している。普通の人間なら突破は絶対に不可能だ。
「…これくらいでどうにかなるとは思っていませんが、このガスをどうにかするには何かする必要があるはずです。
少年漫画じゃないんだし、気合で吹き飛ばすとかあるわけないですよね? だから、見せてもらいますよ。貴方達の手札…!」

(…いや、煙幕に頼るという事は今までの能力はもう俺達には通じない。それでいてこの余裕…確実に逃げ切る自信を持っている…だが…)
獅子堂は微かに嗤った。手札が見たいだと?―――いいだろう。カードを切り、相手の戦略を粉砕してくれよう。
そして偽りの優勢に心躍らせた者が、すぐに己の愚かさに気付き、泣き崩れる様を見物してやろうではないか。
「逃げられるとは…勿論思っていますよ。僕は貴方達の情報を沢山得て、貴方達は僕の情報をちっとも得られない状態でね…」
気付けば庭園の窓が開けられ、ハンカチを手に当てた御影が煙の中に走り込んでいく。
(中々の手際だ、そして相手の意表を突く行動…ISSトップの名は伊達ではない、か)
数秒後、微かだが密井のうめき声が聞こえた。そして煙幕の薄い部分からは御影が密井の腕を締め上げる姿が見える。
そのまま自分も突入し、密井を組み伏せるべく駆け寄ろうとするが―――獅子堂の右腕が痙攣したのはその瞬間だった。

「っ! やはりこのガス、皮膚からも…!」
そう、ガスは皮膚からも吸収されるタイプのもので神経性の毒素も含んでいたのだ。
御影が密井を締め上げているが、恐らくこのままでは10秒も持たず倒れてしまうだろう。
「御影! 少々のダメージは覚悟しろ!!―――魔弾『悪魔の蒼腕』!」
獅子堂の叫びとともに左手の拳銃の下の銃口から放たれたのは、掌の形状をした青く光るオーラだった。
オーラは音速を超える勢いで部屋を飛び回り、広がるガスを“掴む”と密井と御影を中心とした球状にガスを収束させ、“握る”。
そして上の銃口から第2の魔弾が放たれる。その着弾位置はオーラの手首だ。
「魔弾『火線(かせん)』―――複合魔弾『炎獄掌(えんごくしょう)』!!」
2度目の叫びとともに青白いオーラは真っ赤に燃え上がり、“握って”いる球状のガスを瞬時に焼き尽くした。
次の瞬間、獅子堂は密井に向かって駆け出した。左手に握る拳銃の銃口からは2本の銃剣が生えている。無論、ただの物理攻撃であるわけがない。
「魔弾『封滅刃(ふうめつじん)』―――貴様の能力! そして貴様に対する能力の影響を封じる!」
その刃に貫かれたものは一時的に異能を失うだけでなく、獅子堂が許可した能力以外の影響を受けなくなる。
つまり、恐らく密井が当てにしている他者の能力も封じることになるのだ。
「しゃあっ!!」
獅子堂の掛け声とともに、魔弾『封滅刃』が密井の腹に突き刺さった。

【獅子堂 弥陸:魔弾を用いて密井の逃亡を妨害する】
46二神 歪@代理:2011/08/16(火) 06:50:04.56 0
>>43
入った、そう確信した。このタイミング、この場所ならば、レッド・アームズにより武装した左足の攻撃は避けきれない。

「―――ッ!?」

だが、インパクトの直前に、空気が炸裂した。それは敵にとっても至近距離。爆破能力を封じるために無理矢理に接近戦を仕掛けたのだが、相手の覚悟がその上を行った。

(まさか、あの距離で爆破してくるとは…ッ!)

『レッド・アームズ』による血の武装は、緩衝材の役割も同時にこなす。故に彼の左足にはほとんどダメージが無いが、
武装に使われていた血液は衝撃で弾け飛び、床に赤い模様を描いた。この血はもう操れない。
滴り落ちる傷からの出血は更なる武装を作るには足りず、結果として彼は左足の武装を失った。
着地した相手を見ると、マスクが裂けていた。貫き手が掠ったのだろうが、その顔に二神は違和感を覚える。

「名を聞いておこうか」

そんな言葉が、ふいに相手の口から漏れた。声音は男のもの。まさか――いや、やはり男で間違い無い。事前情報が間違っていたのだ。
本部に早急に報告する必要性があるが、果たしてそんな時間があるか、それまで自分の『ブラッディ・アサルト』状態が持つか。確実に死の時は迫っている。
報告の為にも、生き残る必要がある。そう考え、敵の手の上に現れた紅色の光球に警戒しながら、二神は答えた。

「二神 歪、正式なスイーパー、だ。お前の名は、聞いても教えてくれないのだろうな」

「再起不能程度で済ますつもりだったが、俺の顔を見た以上はそうも言っていられなくなった。
 ──後悔すると言ったな。残念だが、後悔するのは俺を本気にさせた貴様の方だ」

「消し飛べ、この『メテオライトボム』でな」

ギリギリのタイミングだった。一瞬で分裂して迫る紅球から彼は逆方向に飛ぶ。だが避けられそうも無い。至近距離での爆発は、確実に死ぬ。ならば―――
ブラッド・レイ
赤い光線。それは損傷部位の骨などの組織を混ぜ込んだ超高圧力の血の噴射だ。その衝突エネルギーで金属すら切断出来る血のビームだが、
彼はそれを敵の浮遊する爆弾の爆破の為に使った。くぐもった爆発音が連続で響き、ガァン、と壁に何かが叩きつけられる音が響いた。
二神は壁に叩きつけられていた。爆風で一番手前にあった右手の肘から先が血の武装ごと吹き飛び、さらにそれは二神の体に突き刺さり、
肋骨を数本砕き肺を傷つけていた。壁に叩きつけられたことで、背骨も一部が砕けていた。それでも二神が『これだけの損傷で』済んだのは訳がある。
二神は4発の爆弾をタイミングをずらして手前で爆破し、最初の爆風で吹き飛ばされることで残りの爆破の衝撃を緩和したのだ。

(負ったダメージは計り知れないが…『殺せなければ』俺にとっては意味が無いッ!)

更に強大な邪気が二神を包み込む。ダメージ量の増加に伴い、邪気眼から供給される『力』が増大したのだ。
相手から与えられるダメージをもって、相手以上の力を手に入れようとする二神の戦闘スタイルは、常に泥沼の闘いを生み出す。
レッドブーツ
『赤い靴』が今まで超えてきた死線は、この状態の更に先にある。まだ、彼は死なない。だが、出血量と体内組織の限界が迫っている。
もって120秒前後。既に人一人が余裕で死ぬ量の血を彼の体は吐き出しているのだ。だが、その血は彼の力にもなる。
           アームドコンプリート       リミット
「レッド・アームズ、武装完了。その血をもって限界まで舞え」

二神のその姿は、異形と呼ぶ他無かった。彼の下半身は赤い装甲に包まれていた。残った左手も、赤い大きな爪と化していた。
損傷部位も硬化した血液でその役割を補われ、背骨が砕けているにも関わらず彼は起き上がり、足を一歩前に踏み出した。
狂気に彩られた眼が笑う。その武装によって底上げされたのは、単純な脚力。赤い足が、蹴る動作の初動に入る。
緩やかな動きで彼の軸足は深く沈み、右足は振り上げられ――、『途中の動作をすっ飛ばし』、――振り抜いた右足だけが残った。
全てが一瞬、そこに赤い軌跡だけを残して。

床が飛来した。

超脚力に抉り取られた火葬場の石の床の一区画が、黒羽目掛けて、あろうことか高速で。
そして二神は黒羽に向かって走り出す。床とほとんど平行になりながら、圧倒的速度で黒羽に接近する。

【二神 歪、名と所属を明かし、戦闘継続。致死ダメージにより武装と増強を最大限まで引き出し、床を抉り飛ばして攻撃。更に黒羽に接近中】
47黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/08/16(火) 07:38:18.09 0
>>46
連続した爆発音に続き、肉を叩いたような耳障りな鈍い音が火葬場内に轟いた。
黒羽の視線が僅かばかり横へとずれ、「フン」と鼻息を漏らしたのはその時。
不快そうだが、それでいてどこか称えているように聞こえるのは、恐らく気のせいではないだろう。

視線の方向には、更にその体を激しく傷付かせながらも、未だ闘う意欲を失っていない少年の姿。
メテオライトボムをまともに……しかも四発もその身に受けたならば、
如何にタフな人間だろうが戦闘不能に陥っていても不思議ではない。
そうならなかったということは、つまり……少年はまともに受けていなかったということになる。

(飛び道具か。接触の寸前にメテオライトボムを爆破し、ダメージを最小限に……。
 なるほど『二神 歪』、か……。やはり“奴”ではなかったが、こんなスイーパーがいたとはな)

再度、手の上に光球を出現させた黒羽は、口の端をニヤッと小さく歪めた。
頬から、ツゥーっと一滴の汗を垂らして。
(そして……どうやら解ってきたぜ、こいつの能力が……)

           アームドコンプリート       リミット
「レッド・アームズ、武装完了。その血をもって限界まで舞え」
多少、くぐもった声で少年は呟いた。肉体を、自らが発する強力なオーラと、真っ赤な装甲で包み込んで。

(間違いない、こいつは“傷付く度にパワーアップ”している。恐らくそういう特性の能力──。
 単純な身体機能では、もはやどうにもならないレベルまで差がついていると見るべきだろう。
 これ以上の肉弾戦は……俺に危険なだけだな)

チラッと、目だけを天上に向けた黒羽は、直後に力強く跳び上がった。
それは、偶然にも少年が──もとい、二神が床の一部分を抉り飛ばしたのと同時であった。
ドガン! っと、直撃を受けた壁がもろくも崩れ去っていく様を眼下に見届けながら、
穴の空いた天上から建物屋上へと飛び出した黒羽は、そこからまた素早く跳躍した。
48黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/08/16(火) 07:41:35.55 0
家庭の事情により、物心ついた頃より『隠密(しのび)』の修行を課せられ、
ひたすら肉体を鍛えられてきた黒羽は、通常の成人男性の比ではない跳躍力を持つ。
例え邪気眼を持つスイーパーであっても、その能力次第では彼の動きにはついてこれないだろう。
しかし、彼が敵に回した二神 歪という少年は、そんな彼を遥かに超越した動きができるのである。

ドォン! という轟音と共に、建物の天上がまるごと崩れ去る。
そして巻き上がる煙を振り切って、弾丸の如く空に向かって飛び出てきたのは二神。
そう、彼は天上を薄紙の如くぶち抜いて、空に舞った黒羽に追いすがってきたのだ。

(とんでもないパワーとスピードだ。やはり狙いは接近戦か)

そう思っている内に、早くも跳躍の限界点に達した黒羽は、その眼前に二神の到達を許してしまっていた。
もはや格闘で迎え撃てるだけの拮抗した身体機能は存在しない。
かといって、掌の上に作り出された爆弾をぶつけるわけにもいかない。
先程の空気弾よりも強力な爆弾、至近距離で爆破すれば今度こそ無事ではすまないからだ。

絶対絶命──。しかし、そんな状況下に置かれても、当の黒羽はフッと笑っていた。
追い込まれたのはむしろ二神の方だと、そういう思いがあったからである。

「追いついた、ここで仕留める……、そう思っているのか? ──残念だったな」

──黒羽の体が、突然、グンと上昇し、二神を置き去りにしたのはその時であった。
空中での突然の加速という人間ではありえない技。それを可能にしたのは彼の能力。
彼は、小さな空気の塊を作り出し、それを足場にして更なる跳躍を果たしたのだ。
応龍邸からの逃亡時に見せた、高さ六メートルはあろうかという塀を一瞬の内に越えた跳躍力。
その力の正体こそ、正にこの“空中跳躍”だったのだ。
                                                    ボマー
「二神と言ったか。名乗った礼に教えてやろう。俺の名は『黒羽』。またの名を──『爆弾魔』という」

紅の光球が放たれる。しかも、素早く次々と無数に容赦なく──。
どれだけ命中し、どれだけ外れたのかもはやわからない。
黒羽が地面に着地して、やっとその手を止めた時、辺りに広がるのは焼き尽くされた大地のみであった。

「……二人組みだったとはな。そろそろ出て来い、この焼野原の中では貴様の視線は嫌でも感じる」

じろっと睨めるような視線を、黒羽は背後の暗闇に送った。

【黒羽 影葉:火葬場を中心に半径10mの範囲を破壊し尽す。負傷は右手だけに留めるが体力減少。
        秋雨 凛音に気がつくが、二神とコンビだと思っている】
49秋雨 凛音 ◆12CyiaxYIQ :2011/08/17(水) 22:37:08.93 0
>>46-48
(考えてみれば、もしコートの人が負けたらどうしよう。ここはISSに通報……って私はケータイ持ってなかったな)
そんな凛音の不安を助長するように、遠景で窓越しに見えるコートの男の体がみるみる鮮血に染められていく。
その戦闘の凄まじさから、今度は別の不安がこみあげてくる。
もしかして、これは本気でヤバい事件ではないか?
素人が関わっていいモノではないか?
そんな思いが凛音の中で膨れ上がっていき、無意識に二歩三歩あとずさった、その時だった。

轟音と共に二つの人影が上空へ飛び出したのだ。

その荒々しい跳躍により、廃屋の屋根は半壊した。
二つの人影が月明かりに照らされて、凛音はその姿がすごく幻想的だと場違いなことを思った。
しかし先に飛び出した人影がおこなったのはそんな甘い考えを吹き飛ばすほどの激しい攻撃だった。
黒服の人影がさらにもう一度空中で跳躍し、その手から眩いばかりの破壊の光球を降らしたのだ。

「きゃ……!?」
光の雨は地上の廃屋と草木を破壊しつくし、凛音のいた茂みにまで爆風を吹き荒らした。
黒服が地面に降り立った時にはそこはただの平地となっていた。

もうだめだ。
これは凛音の予想以上にヤバい事件だ。
似たような現場を昔遭遇したため、パニックにこそ陥らなかったもののこれは今までで一番危ない状況だった。
攻撃を受けたコートの人がどうなったかは分からないが、このままでは自分も危ない。
(ここは逃げなきゃ……逃げなきゃ……)
震える足で来た道を振り返った。
そのまま走り去ろうとした時に、不意に視線が背中に刺さる。

「……二人組みだったとはな。そろそろ出て来い、この焼野原の中では貴様の視線は嫌でも感じる」

気付かれた。
今から走り出しても、さっき見た跳躍力を考えればすぐに追いつかれる。
どうする? どうする……どうする……

 ■

ザッザッザ、と凛音は草木を掻き分けて暗がりから抜け出した。
そこには先程まで居た場所とは違い開けた大地がある。

「……さ、さっきケータイでISSに通報しました。もう少しでスイーパーが来ます」

凛音は暗闇から盗賊の目の前へと姿を現した。
足の震えは茂みから出る前に抑えられたが、冷や汗が止まらない。
それでも出来るだけ凛とした態度で、黒服の人物と対峙した。

時間稼ぎだけでいい。
今相手に言ったのは当然嘘だが、
これだけ派手な戦いがあれば本当に警察かスイーパーは来るはず……はず。
それにもしコートの人が生きてたら、私はその人を見殺しにすることになる。

凛音は相手の顔から眼を逸らさず告げる。
「だから、早く逃げた方がいいですよ。あと数分で…………あれ? 男?」
しまった、と凛音は慌てて口を閉じる。
盗賊の男も自分の素顔を見られたことに気が付いたようだ。
犯罪者が、しかも顔を隠していた逃亡犯が自分の顔を見られたらどうするか。
それは凛音にも容易に想像できた。
(いやいやいやいや、まだ分からない。でも、もし“そうなったら”……)
凛音は邪気眼がある右手をぎゅっと握り拳にした。
使うしかない、と決意を固めて。

【秋雨 凛音:黒羽、二神の前に姿を現す。黒羽の素顔を見たため戦闘を覚悟する】
50紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/08/19(金) 10:53:59.59 0
>>39,>>41,>>42,>>44,>>45

「成る程ね。"もう一人"いるのは分かってたんだけど、どこにいるのか分からなくてどうしようかと思ってたわ。
 私の能力で探そうとしたら、この家が原形を留めていなかったわ」

歪んだ空間から姿を現したのは、コートを羽織り、帽子とマスク、サングラスで容姿を隠した人間だった。
その風貌は単独で動いている人間のようには見えず、諜報に特化しているかのように閃莉には見えていた。

(スイーパー……ではないのか? ならば"組織"――?)

「そっちの人も気になるけど、まずはこっちね。
 初めまして、でいいのかしら?お互い顔も名前も知っているけど、こうして面と向かって話すのは初めてよね」

篠は座っていた男に近寄り、声をかける。しかし篠を見る男の眼は彼女を信頼していないようにも見えた。

「あなた、さっきこう思ってなかった?"何故自分の所属する組織のトップがこんなところにいるのか?"」

(スイーパーのトップ……そんな名の知れた人間がなぜ犯罪者に加担する? 一体何を考えている……御影 篠――)

「別にからかっているわけじゃないのよ?まぁ、あなたの疑問ももっともよね。
 吼一郎さんには失礼だけど、本来ならこの程度の事件で私が出てくることはない。
 しかし事実として私はここにいる。それは何故か?──答えは簡単よ。
 偶然近くを通りかかった時に連絡が来たから立ち寄っただけ。ま、吼一郎さんと知り合いだったって言うのもあるけど」

納得していない様子の男だったが、篠は話を終わらせ、新たに現れた侵入者へと近づいていく。

「どこの誰かは知らないけど──乙女の秘密を知ってタダで帰れるなんて思ってないわよね?」

(――ッ!)
瞬間、空気が震えるような、巨大な何かに押し潰されるような感覚が閃莉を襲う。
その原因は篠にあった。笑顔で侵入者に話しかけている彼女だったが、そこから滲み出る威圧感は生半可な物ではなかった。

「…流石、御影家当主と言ったところでしょうか。怖いですね…
 逃げられると思っているか、ですか。さて、この場には電気使いと銃使い。そして恐らく強力な破壊力を持つであろう貴方で三人。その全員に狙われている。
やれやれ、私も年貢の納め時、って訳ですか…。…納める気はありませんがね!」

そう言って侵入者はコートを翻す。すると中からいくつかの球体が飛び出し、勢いよくガスを噴出し始めた。

「ケホッ……!」

直後、篠が苦しそうに咳きこむ。
目尻には涙を浮べていることから、おそらく催涙スプレーの一種なのだろう。

(神経に干渉する物ならば――私には効かない)
閃莉は能力を解放し、電流をその体にまとわせた。
装電――微弱な電気を体内に巡らせて、体内で干渉する効果を中和していく技である。

(だが……この状況でどう動くか見せて貰おう……スイーパー!)
51紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/08/19(金) 10:54:42.01 0
「…これくらいでどうにかなるとは思っていませんが、このガスをどうにかするには何かする必要があるはずです。少年漫画じゃないんだし、気合で吹き飛ばすとかあるわけないですよね?
だから、見せてもらいますよ。貴方達の手札…!」

煙幕が部屋を覆っていく中、侵入者の声が木霊する。
最早逃げ場の無い状況でも、その声は震える事も無く自信に満ち溢れていた。

「逃げられるとは…勿論思っていますよ。僕は貴方達の情報を沢山得て、貴方達は僕の情報をちっとも得られない状態でね…」

だがその直後――窓が開かれ、微かに侵入者の呻く声が聞こえ始めた。
徐々に煙が薄れていく中、薄っすらと浮かび上がるのは背後から腕を締め上げられている侵入者と篠だった。

(手際の良い動きだが……この煙では長くは持たんな……)

「御影! 少々のダメージは覚悟しろ!!―――魔弾『悪魔の蒼腕』!」

男が高らかに叫びその直後一発の銃声が部屋に響き渡った。
すると青白い腕が現れ、充満している煙を"掴んで"いき球状に収束していく。
そして侵入者へと一対の銃を構える男の姿が煙の中から現れた。

「魔弾『火線(かせん)』―――複合魔弾『炎獄掌(えんごくしょう)』!!」

再び高らかに叫ぶと、青白い腕が炎の如く赤く燃え上がり、球状になっていたガスを焼き尽くした。
それと同時――男は侵入者に向かって駆け出した。片方の銃からは2本の刃が伸びている。

「待て、ここで殺してしまっては――ッ!」

男のその唐突な行動に、今まで動かなかった閃莉は声を上げながら駆けていく。

「魔弾『封滅刃(ふうめつじん)』―――貴様の能力! そして貴様に対する能力の影響を封じる!」
「しゃあっ!!」

侵入者の腹に"魔弾"と呼ばれた刃は突き刺さる。
だがその刃は深くは刺さっていない様で、出血量も致命傷に至るものではなかった。

「なるほど――能力の無力化か……」

閃莉は男の隣に立ち小さく笑みを浮かべながら一瞥し、侵入者を睨みながら静かに口を開いた。

「さて、これで"詰み"だな。貴様の背後の組織について全て吐いて貰おうか……ッ!」

彼女はゆっくりと左手を侵入者に翳しながら言葉を続ける。

「ちなみに自害しようとしても無駄だぞ? 私の能力で貴様の体を麻痺させる事だって出来る――」

その彼女の言葉には微かながらも威圧するには充分なほどの殺気が含まれていた――

【紅峰 閃莉:二人の動きを傍観した後、密井 偵寡を尋問】
52二神 歪@代理:2011/08/19(金) 19:25:26.27 0
>>47-49
天井から外に脱出する黒羽を、二神は瞬時に追った。このまま逃げられると面倒だと思ったが、意外にも黒羽は更に上に跳躍していた。
チャンスだ。彼の装甲は脚力を強化している。あの距離なら、余裕で追いつける。跳べ。
能力に付随するタイムリミットは、二神に無意識の焦りを与えていた。その焦りは、彼の頭から警戒の二文字を消し去ってしまったのだ。
あと少しのところで、二神の体は黒羽を逃した。あろう事か、黒羽の体が更なる跳躍をしたのだ。

「追いついた、ここで仕留める……、そう思っているのか? ──残念だったな」
「―――ッ!?」

しまった。成すすべが無い。二神ははっきりと確信する。彼の能力は圧縮では無く―――大気を操っているのだ。
スローモーションの時間の中で、先ほどの鉄棒の爆破を思い出す。鉄棒は全方面に爆発せず、二神の方にだけ破片を飛ばした。
つまり、鉄棒自体を圧縮したのでは無く、その近くの空気の圧縮と開放が鉄棒を砕いたのだ。
この跳躍は、完全なトラップ。空中は、敵のフィールドなのだ。

                                                    ボマー
「二神と言ったか。名乗った礼に教えてやろう。俺の名は『黒羽』。またの名を──『爆弾魔』という」

詰めを誤ったか、と小さく呟き、眼前に迫る紅球を見据えた。
視界が真っ赤に染まっていく―――彼は、覚悟を決めて自分の手を真っ直ぐ上に伸ばす。生き残らなければ―――
地面に落ちたとき、最早痛みは無かった。焼け付く暑さと、感覚の麻痺。意識が飛ばなかったのは、これまで積み重ねた遥かな痛みと経験の為だろう。
だが、彼の体はほぼ死んでいた。焼き尽くされ、吹き飛ばされ、一目で死を確定出来る程の損傷だ。意識もすぐに消えうせるだろう。
装甲はただの血に戻っていき、暖かいプールに入ったような感覚になる。邪気眼の力にする為の血すらも無くなり、強化能力のすべてが解除されたのだ。
ただ上手く――、そう、彼の左手は上手く彼の胴体の上に被さっていた。焦げて穴の開いた腹の上に、左手が乗っている。上手く行った。
左手は微小な動作で黒羽に生きていることを気取られること無く、血を垂れ流す腹にあいた穴から中に少しだけ侵入する。
そこには硬く温い感触があった。赤黒く軽い金属の箱が、彼の体内に無理やり押し込まれていたのだ。
中指がゆっくりその箱の表面をなぞり、小さな窪みを見つけ、ゆっくりと押す。
金属の箱が開いた。中には、無傷の輸血パックが幾つか入っており、二神はパックのテープを破り、それを握る。
ぬるい血が箱の中に満たされていく。同じ動作をゆっくりと繰り返し、すべてのパックの中の血は絞り出されて箱を満たした。
53二神 歪@代理:2011/08/19(金) 19:26:24.78 0
彼は血を飲むことで回復が出来るが、ではその補給用の血はどうするのか。
彼の体は能力ゆえに大きく傷つく事が多く、服の中に入れていたのでは破れたり使い物にならなくなる。
ほかの場所、例えば火葬場に向かうまでの道路の下など、隠すことも出来るが、その場合動けなくなった時は意味が無い。
事実今回も二神は火葬場の周りに輸血パックを仕込んでいたが、爆撃のような黒羽の攻撃により使い物にならなくなっているだろう。
つまり、一番安全かつ合理的な場所は、二神の体内なのだ。輸血パックが傷つくような損傷を受けたならば、それは戦闘を回避し体を回復するタイミングと等しい。
丈夫で軽い金属の箱が輸血パックを損傷から守り、ボタンで箱を開ければ直ぐにパックが使える。
戦闘前に腹を裂き、箱を入れた状態で血を飲み腹をふさぐことで、彼はこの唯一の隠し場所を作り上げたのだった。

左手の邪気眼を、血のプールに浸す。どくん、どくんと、『眼』が血を飲み始めた。
経口摂取の方が効力は高いが、邪気眼でも直接血を飲むことが出来る。まずは、これで体表以外から体を蘇生し、
気取られぬよう生存ラインまでこの体を引き上げる。
損傷部分が、ゆっくりと治っていき、血は損傷箇所を避けて巡り始める。
まずは、生き残る事だ。


だが、黒羽の次の一言は完全に予想外だった。

「……二人組みだったとはな。そろそろ出て来い、この焼野原の中では貴様の視線は嫌でも感じる」

パートナーを組んだ覚えは無い。誰だ、もう一人は。
だが、彼の体は首を横に向けることすら出来なかった。

「……さ、さっきケータイでISSに通報しました。もう少しでスイーパーが来ます」

声は、女のものだった。自分と同い年か、少し下のような声。

「だから、早く逃げた方がいいですよ。あと数分で…………あれ? 男?」

まずい。彼女は奴の秘密に気付いてしまった。恐らく、消される。
自分の呼んだ応援は、もう来るだろうか。戦力が整っていたならば、それまで彼女が凌げれば助かる可能性は高いのだが―――

【二神 歪、戦闘不能。情報を伝えることを第一に、気取られないよう体内に仕込んだ輸血パックによって回復中。】
54秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/08/21(日) 18:06:10.60 0
>>44>>45>>50>>51
「逃げられるなら早く逃げた方がいいわよ?これ以上情報が出ることもないしね。
 それに、この中の誰かがあなたの言う"手札"を見せたら、あなた無事じゃすまないもの。もっとも──」
「…出ない情報を無理矢理搾り出す…。それが私のやり方ですよ。それに貴方からは出ないとしても、他の人はどうでしょうねぇ?」
この状況で、落ち着きを失わない。諜報人の鑑である
「──逃がすつもりはないけれどね」
「……やれやれ、万事休すですね」
押さえられながらも、逃れる方法を思案する密井
(さて、一応念のため神経性の毒ガスを混ぜておきましたが…有効に働く確率は低いでしょうねぇ…)
「っ! やはりこのガス、皮膚からも…!」
「御影! 少々のダメージは覚悟しろ!!―――魔弾『悪魔の蒼腕』!」
その事実にいち早く気づいた獅子堂が、能力を使って対処する
「魔弾『火線(かせん)』―――複合魔弾『炎獄掌(えんごくしょう)』!!」
炎の魔弾により、御影と密井を包み込んでいたガスは焼き尽くされてしまった
「魔弾『封滅刃(ふうめつじん)』―――貴様の能力! そして貴様に対する能力の影響を封じる!」
「!?」
まずい、と一瞬思うが、どうしようもない。直ぐに次の作戦を考える密井
(時間操作系の能力者をお願いします!)
当たる前に、心網眼で秘社に伝える

その頃…
「…『封滅刃』、密井の能力と、密井に対する能力の影響を封じる、か…。これで私の能力で密井を呼び戻せなくなったわけだ…考えたな」
(時間操作系の能力者をおねがいします!)
「…へぇ、なかなか分かってるねぇ。それじゃあ、注文通りと…あと少し向こうに送り込むとしよう。戦いは数。相手の裏をかき、相手の隙をつく…」
秘境のメンバーを何人か御影家に送った秘社

その頃…
「しゃあっ!!」
掛け声とともに、密井の腹に刃が刺さった
「っ…!」
「なるほど――能力の無力化か……」
「さて、これで"詰み"だな。貴様の背後の組織について全て吐いて貰おうか……ッ!」
「ちなみに自害しようとしても無駄だぞ? 私の能力で貴様の体を麻痺させる事だって出来る――」
ゆっくりと密井に手を翳しながら、殺気の篭った声で言う紅峰
55秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/08/21(日) 18:06:20.19 0
「…………………………合格」
御影に拘束され、獅子堂に刺され、紅峰に脅されているこの状況でそう呟く密井。誰もがその耳を疑うことだろう
「私…つまり侵入者の一瞬の隙に瞬時に気づき、正体を暴き出す。その後の毒ガスによる奇襲にも慌てることなく瞬時に適切な行動をとった。
そして獅子堂さんの、私のガスに混じっている毒を見抜き、対応したという功績も高得点です。『封滅刃』により私の能力だけでなく、私に対する能力の影響も封じたのはいい判断でしたよ。
さらに諜報人というのは正体が暴かれそうになると自害し、情報を封印しようとするもの…それを電撃で封じる紅峰さんも高得点です。故に全員合格。おめでとうございます」
表情を変えることなく(マスクとサングラスで見えないが)語りだす密井
「…あ、申し遅れました。私、誇束株式会社、社員の密井偵寡と申します。全国にチェーン会社があるので有名だと思うのですが、一応名刺をお渡ししましょうか?」
コートから名刺…誇束株式会社としての姿の名刺を三枚取り出す密井。拘束されてこそいるものの、それくらいのことはできるようだ。器用である
あなた方はお聞きになっていないと思いますが、実はスイーパーの会長と我が社の社長には少し繋がりがありまして。この試験は我が社の社長が提案したんです。
『スイーパーである御影と獅子堂の、侵入者に対する対処能力をテストしよう』って。紅峰さんはスイーパーではないようですが…その場に居合わせた人物との協力も試験の内ですので」
勿論真っ赤な嘘であるのだが、矛盾が見当たらない
「信用できませんか? …そもそも私はあの時、貴方達を一瞬で殺傷するガスを使うこともできたはずです。それを普通の煙幕と催涙ガスで済ませた。…毒に関しては心配有りません。しばらく身体は痺れますが、半日もすれば問題なく動けるようになる代物ですので」
表情も変えず、さっき思いついた作り話をそれっぽく語る密井
「繰り返しますが、合格です。…と言いましても、合格するのは分かりきっていたといっても過言でありませんから、まぁ確認のための試験と思っていただければ幸いです」
サングラスとマスク、そしてコートのせいで、何を考えているか全く読めない
と、次の瞬間、何者かが御影の足を掴む。そして、どこかに引きずり込もうとしているようだ。『影潜眼』…身体を影に変える、影に潜り込む、影に他人を引きずりこむ、影を操るなどと言ったことができる能力者だ
勿論御影は直ぐに対処するであろうが、不意打ちゆえに、一瞬、一瞬だけ腕の拘束が緩む。その隙を逃がさず、密井は腕から脱出する
咄嗟に判断したのか、紅峰が電撃で足止めを狙うが、その電撃は外れる…否、別の方向に引き寄せられた。
『誘雷眼』。自分の身体に電撃を引き寄せ、電撃を浴びることで身体能力を増す。…異能者には、電撃使いが多い。だからその電撃使いの異能者に対抗するために採用された、秘境のメンバーである
そして三人目が現れる。と直ぐ後に、周りの全ての動きが止まる。『時操眼』。邪気眼エネルギーを消費することで、時間を操ることができる異能者だ。
邪気眼エネルギーの上限を100とすると、邪気眼エネルギーを1消費することで5秒間時間をとめられる。そして、能力非使用時に1分経つことで、1エネルギーが回復する
即ちエネルギーを全て消費すれば8分20秒止めていられる計算だ。…尤も、そんなことをすれば1日動けなくなるのだが
それにより、自分以外のあらゆる物の時間を止める『時操眼』の使い手。勿論、その止まった時間の中で動けるのは本人ただ一人……ではない。
この止まった時間の中で自由に動くことのできる人物はもう一人いる。それは密井偵寡。なぜか? 獅子堂の『封滅刃』を食らったからである。
『封滅刃』…対象の能力と、対象に対する能力の影響(使用者が許可した能力者の能力は除く)を封じる魔弾。それはつまり、敵の能力は受けるのに、自分の能力が使えず、更に味方の能力による援護も受けられないと言うことである…
が、それは逆に言えば、『味方の能力であれば効かない』と言うこと。故に『味方』である『時操眼』の使い手の時間停止能力は密井には通じない。故に、自由に動くことができる。敵の技を逆手に取る、『秘境』の十八番である
止まっている時間の中を疾走し、密井と『時操眼』は脱出。そして気を逸らすためだけに呼び出された二人の異能者は、時間停止が解けた後直ぐに秘社が召還した
跡に残されたのは、三枚の名刺。そこには誇束株式会社の住所や電話番号が書かれていた
【密井偵寡:逃走。但し大ダメージ】
56黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/08/21(日) 19:34:12.05 0
>>49>>52>>53
圧倒的な肉体能力を誇った二神とコンビを組むもう一人の実力者。
果たしてどれほどいかつい男なのかと警戒を強めた黒羽であったが、
そんな彼の前に足音を鳴らして現れたのは、意外にも白いワンピースを着た可憐な少女であった。

「……」
ただ、それ以上に意外であったのは、その彼女が真っ先に吐いた台詞。
「……さ、さっきケータイでISSに通報しました。もう少しでスイーパーが来ます」

てっきり宣戦布告が来るものと思っていた黒羽にとって、これは首を傾げる展開であった。
二神とコンビを組むスイーパーであるなら、何故まず自ら闘おうとせずに、真っ先に増援を呼んだのか。
自分自身の能力(チカラ)が戦闘に不向きだからか?
なるほど、そう考えればこれまで二神を助けようとせず、敢えて傍観者たるに徹していたのもうなずける。

しかし、──ISSに通報しました──スイーパーがきます──という何とも釈然としない言い回し。
これではまるで、黒羽の事件を知らない、単なる一般人のようではないか。
──あるいはそうなのか?
そんな疑念が確信へと変わったのは、またしても彼女の一言が切欠であった。

「だから、早く逃げた方がいいですよ。あと数分で…………あれ? 男?」

犯罪者を前にあろうことか逃亡を勧めるなど、スイーパーがするはずがない。
黒羽の視線が、一瞬、包帯で覆いつくされた彼女の手に注がれた。
──怪我をしているのか? もし、そうでないとするならば、包帯の下にあるのは──。
(なるほど、どうやら事情を知らない、通りすがりの異能者といったところか)

黒羽は、夜風になびく前髪をかきあげて、フッと小さく不敵に笑った。
増援がくる? 確かに一般論からいえば、それは逃亡犯にとって非常に危険な事態である。
しかし、初めから逃げ果せることを目的としていない彼にとっては、むしろ好都合なのだ。

「それがどうした」
黒羽は、少女が突き付けた現実(ピンチ)を、真っ向からものともせずに一蹴した。
「興味本位で近付いただけなら、気付かれる前に逃げておけばよかったものを。
 俺の正体を知った以上……このまますんなりと帰すわけにはいかなくなった」

ザッザッと、ゆっくりとだが着実に距離を詰める黒羽は、やがて掌の上に、再び紅い光球を出現させた。
それは臨戦態勢に入った証──。

「だが、俺は殺し屋じゃないんでな、できれば人を殺めたくはない。……特に女はな。
 だから安心しろ──あの男とは違って、貴様は再起不能程度で済ませてやる──」

──周囲を紅く照らす爆弾が、再び暗闇を舞った。

【黒羽 影葉:秋雨 凛音と戦闘に突入。メテオライトボムを放つ】
57御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/08/21(日) 21:22:26.63 0
>>45>>50>>51>>54>>55
(そろそろキツいわね……少し吸い過ぎたかしら)
侵入者を拘束するまではうまくいったものの、その過程で煙幕を吸い過ぎたようだ。体が徐々に痺れてくる。
「御影! 少々のダメージは覚悟しろ!!―――魔弾『悪魔の蒼腕』!」
そんな篠に、煙幕の向こうから獅子堂の声がかかる。
次いで篠もろとも侵入者の周囲を何かが包み込む。見ると、それは巨大な掌のようなものだった。

「魔弾『火線(かせん)』―――複合魔弾『炎獄掌(えんごくしょう)』!!」
再び獅子堂の叫びが聞こえる。
(さっき"握られた"これ……煙幕かしら。それに炎獄掌って、名前からして嫌な予感しかしないんだけど……)
そう思っている間に予感は的中し、周囲で赤い炎が燃え上がる。
(熱っ……!ちょっと乱暴すぎないかしら。女性もいるのよ?)
声を出さずに獅子堂を非難する。しかしそう思いつつも、服は全く焦げていなかった。
(ま、お説教は後でいいわね。とりあえずは最善の方法だと思うし)
煙幕自体の総量はそれほど多くなかったので、燃えている時間は一瞬だった。

「魔弾『封滅刃(ふうめつじん)』―――貴様の能力! そして貴様に対する能力の影響を封じる!」
煙幕の晴れた向こう側から、獅子堂がこちらに──正確には侵入者に向かって走ってくる。
左手に握られた拳銃からは刃が飛び出ている。宛ら銃剣のようだ。
「しゃあっ!!」
獅子堂の掛け声と共に、その刃が侵入者の腹に突き刺さった。

「さて、これで"詰み"だな。貴様の背後の組織について全て吐いて貰おうか……ッ!」
近くに来ていた紅峰が、手を翳しながら侵入者に向かって告げる。
「ちなみに自害しようとしても無駄だぞ? 私の能力で貴様の体を麻痺させる事だって出来る――」
殺気を孕んだ声で、静かに言い放った。

「…………………………合格」
暫しの沈黙の後、突然侵入者が口を開いた。意味不明な言葉と共に。
(合格?……どういうことかしら)
その言葉の真意が分からず、疑問を感じる。

「私…つまり侵入者の一瞬の隙に瞬時に気づき、正体を暴き出す。その後の毒ガスによる奇襲にも慌てることなく瞬時に適切な行動をとった。
 そして獅子堂さんの、私のガスに混じっている毒を見抜き、対応したという功績も高得点です。『封滅刃』により私の能力だけでなく、私に対する能力の影響も封じたのはいい判断でしたよ。
 さらに諜報人というのは正体が暴かれそうになると自害し、情報を封印しようとするもの…それを電撃で封じる紅峰さんも高得点です。故に全員合格。おめでとうございます」
「…あ、申し遅れました。私、誇束株式会社、社員の密井偵寡と申します。全国にチェーン会社があるので有名だと思うのですが、一応名刺をお渡ししましょうか?」
先程述べた"合格"と言う言葉の意味を語る侵入者──密井 偵寡。拘束されている中で名刺を数枚取り出す。

「あなた方はお聞きになっていないと思いますが、実はスイーパーの会長と我が社の社長には少し繋がりがありまして。この試験は我が社の社長が提案したんです。
『スイーパーである御影と獅子堂の、侵入者に対する対処能力をテストしよう』って。紅峰さんはスイーパーではないようですが…その場に居合わせた人物との協力も試験の内ですので」
淡々と語る密井。しかし篠はその言葉を全く信用していなかった。
(……嘘ね。彼は確かに変わり者だけど、こんなことをする人間じゃない。
 それに──獅子堂君ならまだ可能性はあるかもだけど、彼が"私に対して対処能力のテスト"?──ありえないわね、絶対)
58御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/08/21(日) 21:36:38.06 0
「信用できませんか? …そもそも私はあの時、貴方達を一瞬で殺傷するガスを使うこともできたはずです。それを普通の煙幕と催涙ガスで済ませた。…毒に関しては心配有りません。しばらく身体は痺れますが、半日もすれば問題なく動けるようになる代物ですので」
(これも嘘ね。もしそんなことしたら、本部はおろか、各国の支部だって黙っちゃいない。全世界のスイーパーを敵に回すことになるでしょう。
 とても逃げ切れるようなものではないわ)

「繰り返しますが、合格です。…と言いましても、合格するのは分かりきっていたといっても過言でありませんから、まぁ確認のための試験と思っていただければ幸いです」
(結局嘘だらけね。まぁ諜報員がそんな簡単に情報を喋るとは思ってないけど)
密井の語る話を百パーセント嘘だと結論付け、聞くのをやめた。

──その時、篠の足を何かが掴んだ。
(──!?)
足元という死角からの攻撃だったため、一瞬判断が遅れる。
(チッ……!『ブレイク』)
足元を見ずにトン、と床を軽く足で叩く。すると、叩かれた床が爆発したように吹っ飛ぶ。
崩れた床の中から人が一人吹っ飛んで行ったようだが、そちらには目もくれない。
その一瞬の攻防の間の僅かな隙に、密井は拘束を抜け出していた。
逃がすまいと紅峰が電撃を放つ。しかし放たれた電撃は密井に到達する前に、奇妙な屈折をした。
屈折した先には、邪気眼が見える掌を向けた人間。
(また増えた?さっきまではいなかったはず……。──まぁいいわ。今はあいつを逃がさないことだけを考え──)
そこまで考えて密井に向かって走り出そうとした瞬間、篠の思考は停止した──。

「……!」
次に意識が戻った時には、そこに密井を含めた侵入者の姿はなかった。
「逃げられたわね……。やってくれるじゃない──あら?」
未だに痺れの残る体の各所を擦りながら周囲を見回すと、床に名刺が三枚ほど落ちていた。
「誇束株式会社……?ふざけた名前ね」
怒りを込めて吐き捨て、名刺を乱雑にポケットにねじ込む。その時、ポケットの通信機が振動した。

「何かしら──増援要請?場所は……ここから西にある廃火葬場──」
そう呟いた時、獅子堂の表情がピクリと動いた。
「ま、大方さっきの泥棒さんを追って行った誰かが、手に負えないから助けてくれってところかしらね」
そう言うと、通信機をポケットに戻し、小さく伸びをする。
「私は遠慮しておくわ。まだ少し痺れるし、帰って調べたいこともあるから。
 ──それじゃ閃莉、私のことが信用できるなら、明日の夜にまた会いましょう」
紅峰にそう告げ、部屋の入り口に立つ吼一郎のもとへ向かう。

「吼一郎さん。部屋を壊してしまってごめんなさい。明日にでも直させておくから」
「気にするな。侵入者に気付けなかったこちらにも非はある」
「そう言ってもらえると助かるわ。でも壊したのは私ですし、責任もって修理しますわ」
「そうか。ならその言葉に甘えるとしよう」
「そうして下さいな。では後日また」

「ああ、それと──」
部屋を出るところで立ち止まり、くるりと振り返って獅子堂を見る。

「獅子堂君、女性はもう少し優しく扱わなきゃ駄目よ?」

教師の時のような口調で獅子堂にそう告げると、笑いながら部屋を後にした。

屋敷を出てから再び通信機を取り出し、自宅にいるメイドに連絡する。
「メイ?応龍会まで車を回して頂戴。今から帰るから」
『お疲れ様です、お嬢様』
「それと、エリに調べておいてほしいことがあるの。──誇束株式会社について、ね」

【御影 篠:応龍会を後にし、自宅へ戻る】
59獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/08/22(月) 20:59:29.29 0
>>51>>54>>57
(手応えあり…!)
魔弾『封滅刃』が密井の腹の肉に突き刺さったのを、獅子堂は文字通り手で感じ取っていた。
刃の先端から根元へとじわじわと血が滴り落ちてくる。異能を封じる事に特化している為、殺傷力は高くはない。
そのうえ急所は外し、傷もそう深くはない。だがこれで密井の能力、そして当てにしていただろう逃亡手段も封じた。
(こいつの落ち着き様からして逃亡手段は他者による…恐らく空間転移に近い能力。だが無駄よ。俺が意識している限りな…)
そこに紅峰が駆け寄って来る。そして殺気を孕んだ声で侵入者を恫喝する。
「ちなみに自害しようとしても無駄だぞ? 私の能力で貴様の体を麻痺させる事だって出来る――」
圧倒的優位に立った獅子堂、御影、紅峰。その3人に向かって侵入者が吐いた言葉は―――
「…………………………合格」
(…合格…?)
全く唐突で予想もしなかった言葉に一瞬だが唖然とする獅子堂。だが銃を持つ手の力は緩めない。
「―――あなた方はお聞きになっていないと思いますが、実はスイーパーの会長と我が社の社長には少し繋がりがありまして。
この試験は我が社の社長が提案したんです。『スイーパーである御影と獅子堂の、侵入者に対する対処能力をテストしよう』って。
紅峰さんはスイーパーではないようですが…その場に居合わせた人物との協力も試験の内ですので―――」
(…有り得んな)
密井の長々とした弁明を口に出しこそしないが一蹴する。
そもそもスイーパーの資格を得る際に、誰もが厳しいテストをクリアしてスイーパーとなる。そして訓練等は専用に設立された施設で行われるのだから。
(―――そうか! これは時間稼ぎ…すぐにこいつの増援が来る!)
腹に刺した刃に力を込める―――それと御影の体勢が崩れるのは同時だった。

御影が足元を蹴りつけると、先程までは影も形もなかった彼女の足元の空間から人間が現れ床もろとも吹き飛んだ。
紅峰が放った電撃は密井に届くことなく、突然現れた別の人間の掌に吸収されていく。
もはや頼りになるのは魔弾『封滅刃』のみ。刃を深々と刺すべく左腕を突き出すが―――
次の瞬間、密井とその増援は姿を消していた。
(逃がしたか…意識に介入する能力者か?…いや…時間を止められた…?)
刃の先端から根元へ滴り床に零れ落ちる血痕が、密井が消える前後でほとんど変化していない事から獅子堂は如何なる能力を受けたかを理解した。
時間を止められてはその間に起きた出来事には―――止まっているのに間という表現もおかしいが―――対処不可能だ。
なぜならその間は獅子堂の知覚も思考も停止しているのだから。しかも“能力の影響を封じる”ことが却って仇となる結果だった。
(…完全に上をいかれた…蓮子さん、俺はまだまだ未熟者です…)
「何かしら──増援要請?場所は……ここから西にある廃火葬場──」
自責の念に駆られていた獅子堂を現実に引き戻したのは御影の言葉。
(…もしや二神か?…行くか)
刃を消し去り、本来の任務に戻るべくスイッチング・ウィンバックで精神を回復させる。
「私は遠慮しておくわ。まだ少し痺れるし、帰って調べたいこともあるから。 ──それじゃ閃莉、私のことが信用できるなら、明日の夜にまた会いましょう」

「ああ、それと──獅子堂君、女性はもう少し優しく扱わなきゃ駄目よ?」
その一言とともに御影は去っていく。獅子堂はその場に残った紅峰を一瞥すると口を開いた。
「…紅峰、俺も明日の夜、伺うかもしれんと御影に伝えておいてくれ―――それでは龍神殿、『落葉』を取り戻せたら朝一で再び参上する」
「了解した、武運を」
「では…」
玄関でライダーブーツを履いた獅子堂は青い光輪を迸らせながら、再び夜の街の空を翔け始めた。廃火葬場を目指して―――
【獅子堂 弥陸:応龍会邸宅を後にし、廃火葬場へ移動開始】
60名無しになりきれ:2011/08/23(火) 19:45:53.57 0
その目気色悪すぎこっち見んな。オタク男
61秋雨 凛音@代理:2011/08/25(木) 04:06:23.73 0
>>52-53>>56
「それがどうした」
「え……」
凛音が精一杯の勇気を振り絞り告げた言葉を、男は簡潔にそう言い返した。
そして次の言葉はさっき凛音が思い描いた通りのものだった。

「興味本位で近付いただけなら、気付かれる前に逃げておけばよかったものを。
 俺の正体を知った以上……このまますんなりと帰すわけにはいかなくなった」

余裕の表情を見せる盗賊はこちらへと真っ直ぐ、確実に距離を詰めてくる。
その手には紅い光球。
そう、この場所を平地にした原因であるあの光球だ。
(……怖い。けどやらなきゃ……大丈夫、時間を稼ぐだけでいいんだ――)

「だが、俺は殺し屋じゃないんでな、できれば人を殺めたくはない。……特に女はな。
 だから安心しろ──あの男とは違って、貴様は再起不能程度で済ませてやる──」

放たれた光球は一瞬で四つに分裂し、囲むように凛音に接近した。
男の言葉とは裏腹にまともに喰らえば華奢な少女の体ぐらい簡単に吹き飛ばせるだろう。
(――お願い!)
凛音は右手の包帯を解き、邪気眼を晒した手を掲げ――

そして、光球が轟音と高熱をまき散らして爆発した。

爆風で土煙が盛大に舞い上がり、凛音の姿を一時的に完全に覆い隠した。
だが、土煙が徐々に晴れていくとそこに居たのは凛音ではない。
そこにあったのは――高さは三メートル近くはあろう白刃の山だ。

「ありがとう、スーちゃん」
中から凛音の声が聞こえると、その声に反応するように山が蠢く。
剣山の一部が起き上がり見せた姿は――それは大蛇であった。
全長が軽く十メートルはありそうな蛇が、とぐろを巻いて凛音を全方位から守護したのだ。
冗談のようにデカい蛇は通常の蛇とは違い、尖った鱗を剣山のように逆立たせていた。
餓鬼眼。      デッドビースト
全てを喰らい尽くす『餓獣』を召喚する邪気眼を持つ凛音は、このような怪物達を使役することが出来た。

「この子は『バジリスク』のスーちゃん。私の力はこの子を呼んで、戦ってもらうこと」
凛音は唯一鱗が逆立っていない頭部に乗り、相手を見据えた。
(この子達『餓獣』の大きさは私の消費するエネルギーで変わる……少し辛いけど、
 これだけの大きさならそう簡単に私に攻撃は届かないはず)
その時、右手の邪気眼の疼きと頭痛を感じた。
まだ邪気眼を完全に扱えない凛音は長時間での使用は記憶障害の可能性があるため、あまり長期戦は出来ない。
だから、これは賭けだ。

「先に言っときます。この子は私の命令に従うだけで、実際はスーちゃん自身の意志で動く。
 だから――誤ってあなたを殺してしまうかもしれない」
それは先ほどと同じ、逃亡を促す警告だったが盗賊はそんなものを聞くわけは無かった。
相手の眼がそれを顕然と示していた。

やるしかない。
「スーちゃん、手加減なしでお願い!」
凛音の言葉を受けて、バジリスクがその大剣の切っ先のような尻尾を相手に目掛けて勢いよく伸ばした。
目的はこのまま突き刺すことでなく、相手に巻きつき動きを止めることだった。

【秋雨 凛音:黒羽と戦闘開始。『バジリスク』を召喚】
62黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/08/27(土) 01:46:02.76 0
>>61
轟く爆裂音。舞い上がる土煙。鼻をつく焦げついた臭い。
メテオライトボムは着弾し、その破壊力を確かに如何なく発揮した。
しかし、黒羽は煙をじっと凝視したまま、表情一つ変えようとしなかった。
少女自身にダメージはない──それがわかっていたからである。

そんな彼の表情から、ふと驚きの色が現れたのは、視界を覆い尽くしていた煙が消えたその時──。
「この子は『バジリスク』のスーちゃん。私の力はこの子を呼んで、戦ってもらうこと」
そこにいたのは、黒羽を見下ろしている少女と──
全身を刃物のように鋭く尖った鱗で固めた、あまりにも巨大な蛇であった。
元々、少女は異能者であると踏んでいた。故に一瞬で勝負が決するとは最初から思っていない。
とはいえ、今、眼前に広がる光景は、黒羽の予想の遥か上を行くものだったのだ。

(バジリスク……蛇の王か。そう名付けるだけあって大した防御力だ。俺のメテオライトボムにも無傷とは)
すっと、目線だけを左腕に回した黒羽は、手首の腕時計を見た。
時間は午後十時調度。少女がいつISSに通報したかは定かではないが、
仮にその時間を今から五分程前とするならば、
増援が到着するまでは遅くとも残り五分程、つまり十時五分頃までになるだろう。

「先に言っときます。この子は私の命令に従うだけで、実際はスーちゃん自身の意志で動く。
 だから――誤ってあなたを殺してしまうかもしれない」
目を彼女に戻すと、彼女を頭に乗せた蛇と思わず目が合った。
──動物、特に爬虫類に近い存在の心理を読み取る術は、流石の黒羽も持ち合わせていない。
が、蛇のギョロっとした不気味な瞳から感じるのは、紛れもない殺気──。
(あの化物を相手にしつつ、増援の連中を相手にするのは骨が折れる。……要は五分がリミットか)

黒羽は、指の関節を派手に鳴らした。
「スーちゃん、手加減なしでお願い!」
そしてそれは、少女が反撃の狼煙を上げたのとほぼ同時のことであった。
刀剣の切っ先のように鋭く研ぎ澄まされた尻尾を、重低音を響かせながら伸ばしてきたのだ。
(速い。このまま貫く気か──、いや──それにしては直線的な軌道ではない。
 これは──なるほど、蛇らしく体に巻きつき締め上げる気か──)
63黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/08/27(土) 01:55:35.17 0
無駄な肉が一切ない、しなやかで鍛えられた肉体も、巨大な蛇の前では小枝も同然。
もし捕まれば、抗う術なく全身を粉砕されてしまうだろう。故にここは回避するしかない。

──跳び上がる黒羽の足元を、太い丸太のような尻尾がかすめていく。
回避は成功。だが、すぐさま大きく口を開けた蛇の頭が、丸呑みせんと迫ってきたではないか。
「プレゼントだ」
しかし、黒羽の反応も早かった。瞬時に出現させたメテオライトボムを数発、呑まれるより早く投げ放ったのだ。
次々と炸裂する爆弾が着弾点を中心に灼熱と轟音を連続して撒き散らしていく。
今度こそ無事では済まないだろう──。
そんな確信めいた思いが篭った黒羽の目が、大きく見開かれたのはその直後であった。

「──ッ!!」
蛇の頭部が、牙を光らせて再び向かってきたのである。何と蛇は無傷だったのだ。
何という防御力──。これでは再度メテオライトボムをぶつけたところで結果は同じだ。
かといって、再びかわすことができるだろうか? いや、そもそもそれに何の意味がある?
相手にダメージを与えられないのであれば、かわしたところで結局何も好転しないのだから。
(……何て化物だ。まさかここまで強力な能力だったとは……驚いたぜ。
 増援が来るまでに片付けるには……どうやら一か八か、やるしかなさそうだ)

心で覚悟を決めた黒羽は、これまでにない力強さをもって左拳を握り締めた。
そして、牙を突き立てんと大口を開けて迫る蛇に向けて、左腕を勢いよく突き出した。
──ボギッ、ゴキャッ。
飲み込まれた腕が、上下からの凄まじい圧力によって激しく軋む。
骨は間違いなく粉々。左腕はしばらく使い物にならないだろう。
しかし、そんなことなど眼中にないというように、黒羽は蛇と──そして少女だけを平然と見据えていた。

「貴様の外皮(うろこ)は俺の攻撃すら弾く。だが、果たして内部(なか)はどうなんだ?」

不敵に笑う黒羽。その時、口内にある彼の左手は、眩いばかりの紅い輝きを放っていた。

「脳漿ぶちまけな──」

──蛇の体内から、爆発音が轟いた──。

【黒羽 影葉:左腕を犠牲(骨折箇所多数)にして蛇を体内から爆破する】
64紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/08/27(土) 20:40:57.68 0
>>54->>55,>>57->>58,>>59

「…………………………合格」

唐突に呟いた目の前の侵入者言葉に閃莉は、絶句するがその手を降ろすことはなく射殺さんばかりの視線をぶつけた。
三人の異能者に囲まれながらもこの中性的な人間は臆せずに言葉を続けた。

「私…つまり侵入者の一瞬の隙に瞬時に気づき、正体を暴き出す。その後の毒ガスによる奇襲にも慌てることなく瞬時に適切な行動をとった。
そして獅子堂さんの、私のガスに混じっている毒を見抜き、対応したという功績も高得点です。『封滅刃』により私の能力だけでなく、私に対する能力の影響も封じたのはいい判断でしたよ。
さらに諜報人というのは正体が暴かれそうになると自害し、情報を封印しようとするもの…それを電撃で封じる紅峰さんも高得点です。故に全員合格。おめでとうございます」

侵入者は淡々と言葉を続ける。

「…あ、申し遅れました。私、誇束株式会社、社員の密井偵寡と申します。全国にチェーン会社があるので有名だと思うのですが、一応名刺をお渡ししましょうか?
あなた方はお聞きになっていないと思いますが、実はスイーパーの会長と我が社の社長には少し繋がりがありまして。この試験は我が社の社長が提案したんです。
『スイーパーである御影と獅子堂の、侵入者に対する対処能力をテストしよう』って。紅峰さんはスイーパーではないようですが…その場に居合わせた人物との協力も試験の内ですので」

(聞いた事もない名だな……命乞いでもする気か――?)

「信用できませんか? …そもそも私はあの時、貴方達を一瞬で殺傷するガスを使うこともできたはずです。それを普通の煙幕と催涙ガスで済ませた。
…毒に関しては心配有りません。しばらく身体は痺れますが、半日もすれば問題なく動けるようになる代物ですので」

この密井偵寡と名乗る者の言葉に閃莉は一抹の不安を感じていた。
ここまで追い詰められた人間がなぜこうも捲くし立てる様に話を続けているのか?
そして閃莉は一つの結論に辿りついた。

「繰り返しますが、合格です。…と言いましても、合格するのは分かりきっていたといっても過言でありませんから、まぁ確認のための試験と思っていただければ幸いです」

「これは……陽動――! 篠ッ!」
65紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/08/27(土) 20:42:22.20 0
だが時既に遅し――。
長々と喋り続けていた密井が話を終えると同時に、密井を背後から拘束していた篠の体が"影"の中へと沈んでいく。
だが閃莉の眼は拘束を抜け出した密井へと向いていた。

「貴様は逃がさんッ!」

閃莉が左手で空を切ると軌道上に二本の雷の矢が現れ、密井を貫かんと直進する。
しかしその雷撃は密井に当たる瞬間、"曲がった"。

「アンチ異能者か……ッ!」

矢が向かった先には一人の男がニヤリと笑みを浮かべながら閃莉に挑発するかのごとく視線を向けていた。

――無数に存在する異能力の中には当然『相性』がある。
その中でも特定の物・現象を"無力化"・"吸収"する力を持つものも存在する。そういった存在を閃莉達はアンチ異能者と呼んでいた。

そして閃莉の眼がその男を捕らえた瞬間――

「ッ!?」

そこには何もなくなっていた。
同様に密井も消え去ったようで、篠とスイーパーの男が静かに立ち尽くしていた。
誰もこの状況で何が起こったのかも理解できない中、篠が懐から通信機を取り出し連絡を取りだす。

「何かしら──増援要請?場所は……ここから西にある廃火葬場──」

その時、銃を携えた男――獅子堂の表情が動いた。

「ま、大方さっきの泥棒さんを追って行った誰かが、手に負えないから助けてくれってところかしらね」

(あの爆発男か――そんな所に潜んでいたとはな……)

「私は遠慮しておくわ。まだ少し痺れるし、帰って調べたいこともあるから。
──それじゃ閃莉、私のことが信用できるなら、明日の夜にまた会いましょう」

閃莉はその言葉に答えず彼女に向き直し静かに目を伏せた。
答えは返さなくても分かっている――篠はそれを理解していると分かったからこそ閃莉は言葉を返さなかった。

そして吼一郎と会話して部屋を去っていく篠を見送ると、獅子堂が唐突に口を開いた。

「…紅峰、俺も明日の夜、伺うかもしれんと御影に伝えておいてくれ―――それでは龍神殿、『落葉』を取り戻せたら朝一で再び参上する」
「……分かった」
「では…」

そして部屋に残った吼一郎の方を向きなおし、閃莉は彼に話しかけた。

「さて……吼一郎殿、私がここに来た理由……」
「紅峰財閥……か、いいだろう。だがまずは部屋を移すとしよう」

吼一郎の言葉に小さくうなずくと、閃莉達は屋敷の奥へと歩きした――

【紅峰 閃莉:屋敷の奥へ移動】
66獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/08/27(土) 20:57:31.25 0
「―――ったく、随分と派手にやらかしたな?」
獅子堂は足元に向かって―――正確に言えば足元に倒れた二神に向けて口を開いた。
つい数十秒前に廃火葬場に辿り着いたがそこに建物はなかった。爆撃を受けたかの様な焼け野原と化していたのだ。
「ああ、動くな。折角治りかけた傷が開くぞ…あと、口を開けろ」
起き上がろうとボロボロの体に鞭打つ二神を制止する。そして左手に持つ拳銃の銃口から刃を生やし、右の手首に浅く切れ込みを入れた。
右手に力を込めて握り、血を噴出させると、獅子堂は仰向けに倒れたままの二神の口に滴る血を注ぎ始めた。
血を吸収することで肉体のダメージを回復する―――二神の能力を多少なりとも理解している獅子堂なりの処置だった。
「400mLほどくれてやる。少しはマシに―――」
その言葉を遮ったのは爆発音。音のした方向を見ると微かに煙が上がっている。
「―――犯人とスイーパーか?」
質問に対して二神は首を微かだが横に振った。
「正体不明か?」
今度は二神は首を縦に振った。獅子堂は溜息をつくと刃を赤熱させて手首の傷口を焼いて止血した。
(本当に今夜は慌ただしい。今日だけで何人知り合いが増えたことやら…)
まずは二神、そして紅峰、御影、龍神、妙な結社の構成員。そして今から現在戦闘中の異能犯罪者と謎の人物とも顔を合わせるのだろう。
“運命の導きによって人は出会い、宿命に駆られて戦いに身を投じる”―――獅子堂の主、岡崎 蓮子がかつて言った言葉だ。
何故、今になってそんなことを思い出したのかは分からない。ただ直感と本能が何かを告げているのを感じるのだ。
「二神、完治するまで動くな。俺は行く」
再び爆発音が響く。その方向へ向けて獅子堂は駆け出した。

【獅子堂 弥陸:二神と合流し治療を手伝い、黒羽と秋雨の戦闘地点へと移動開始】
67二神 歪@代理:2011/08/28(日) 13:15:31.13 0
>>66
謎の少女と黒羽の戦闘の中で、二神はゆっくりと回復していった。
死体同然の体は、内側から、それと知られることなくその機能を取り戻していく。

(彼女の能力は――召還のようなものか?現実に居ない怪物を生み出す能力――黒羽も一筋縄ではいかないようだ)

左手の眼は体内に保存してあった新鮮な血を飲み切ろうとしていたが、体の回復は完全とは行かなかった。
地面に埋めた保険の輸血パックも掘り出す必要がある、と二神は考える。

(恐らく応援はもうすぐ来るだろう、だがそれが奴の狙いだとすると、――本部に待機させる異能者も居た方が良い)

正体を現した黒羽の情報を持つものは、一人でも多ければ良いだろう。
そんな事を考えていた矢先、聞き覚えのある声が響いた。

「―――ったく、随分と派手にやらかしたな?」

これは、獅子堂の声か。増援に来たのが数少ない知り合いだとは思わず、驚いて立ち上がろうとするが、それを獅子堂が制止した。

「ああ、動くな。折角治りかけた傷が開くぞ…あと、口を開けろ」

言われるがままに口を開くと、其処に鮮血が注ぎ込まれた。獅子堂の血だろう。
本部の奴に、増援要請が俺の場合は輸血パックを持ってくるように徹底させなければ。
人体模型のように体表が露だった体は、血液の経口摂取により肌色を取り戻し始める。

「400mLほどくれてやる。少しはマシに―――」

そこで、大きな爆発音が響く。黒羽がメテオライトボムを使ったのだろう。

「―――犯人とスイーパーか?」

いや、と答えようとして声が出ないことに気付き、首を振る。
 アンノウン
正体不明と犯人が戦闘中。それを何とか伝える。獅子堂は何か考えた後、傷口を止血した。
不十分だった血液の補充により、彼の体は加速度的に回復する。

「二神、完治するまで動くな。俺は行く」

そういい残し、獅子堂は戦闘音の方へと向かった。

それからの時間は長かった。
普通に考えれば奇跡的な、ビデオの早回しのような回復速度も、じれったいものだった。
体表の回復がすべて終わった時点で、彼は立ち上がった。何事もなかったかのような体の動き。ただ、衣服や靴は真っ赤に染まっている。

「―――第二ラウンドだ。」

二神はそう呟いて、獅子堂の後を追った。


【二神 歪、獅子堂の助けを借りて傷の回復を完了させる。遅れて獅子堂の後を追う】
68秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/08/28(日) 17:27:16.68 0
「げほ…なんとか脱出できました…。『封滅刃』の効果も切れましたし」
傷だらけで歩く密井
「きゃは、酷い姿だねぇ、みっちー」
「誰がみっちーですか…げほ」
『時操眼』の能力者――時野谷 刻(ときのや きざむ)の肩を借りている密井
「きゃはは、良いじゃないかよぉ別に」
「はぁ…。あ、そろそろ着きますね」
「きゃはは、覚悟しときなよ〜」
「う…」
こうして、秘密結社『秘境』本社ビルに到着する二人。エレベーターで上に上がる
「んじゃーボクはここまで! 後は一人でがんばってねー」
「了解です…ありがとうございました」
刻と別れ、社長室の扉を叩く密井
「入っていいぞ」
社長室に入る密井
「…すみません、社長。見つかってしまった上にここまでの失態を…」
「いやぁ、良いんだよ。問題ない。君は私の命令に忠実に従っただけだろう。
確かに君はあの時一瞬気配を漏らしてしまったが、結果オーライ――それで彼女等が気づかなかったら、スイーパーや応龍会はその程度の存在と言うことになってしまっていたからね。
ま、最初から気づくって分かってたということさ」
「…ありがとうございます」
「さて、医療班!」
『社長権眼』を使い、医療班を数人呼び出す秘社
「密井を医務室に連れて行ってやってくれ。治療をする」
「了解しました、社長」
医療班によって、医務室に運ばれる密井。尤も、『秘境』のメンバーには回復系能力者も居るため、直ぐに治療は終わるだろうが
「さて、密井が持ってきてくれた情報を整理しよう。御影篠。私の担任ですね。スイーパーであり、異能犯罪者でもある。二重スパイの可能性あり。密井が聞いた言葉と、影中が受けた攻撃から察するに、『破壊』に関する能力である可能性あり」
影中とは、影中潜人(かげなかせんと)…『影潜眼』の能力者だ。彼も少し負傷しているため、医務室で治療中である
「次に紅峰閃莉。紅峰財閥当主の一人娘。能力は電撃。そして獅子堂弥陸。スイーパー。能力は魔弾の具現化…なるほど。いやぁ、まさか御影先生が本当に異能犯罪者だったとは…。あの人には不思議な雰囲気があったからなぁ」
パソコンで密井の集めた情報を整理する秘社
「さて、異能犯罪者紅峰。彼女は優秀だ―うちの社員に是非欲しいが…手強そうだよな。ま、どんな手を使ってでも、この秘密結社『秘境』のメンバーにしてやるさ」
良い機会なので、ここで秘密結社『秘境』の紹介をしておこう。秘密結社『秘境』…誇束株式会社として日夜活動を続ける結社…その活動内容は地域のゴミ拾いから異能犯罪者との戦闘にまで及ぶ
殆どの社員は秘社によって雇われており、その全てが秘社を信頼している。その中には元・異能犯罪者や金で買収された者もいるが…今では忠実な社員である
社内の機械や戦闘用ロボなどを開発するついでにあらゆる新製品も開発しており、販売している。厨弐市のレストランなどにも何人かメンバーがいるのだ
そしてその大きな目的は…またの機会に。
「さて、そろそろ出かけよう…新しいメンバーも欲しいことだしな」
『心網眼』によってメンバー全員に外出を伝え、本社ビルから出る秘社。ちなみに秘社の『社長権眼』は秘社自身も対象にできるが…基本的に移動は徒歩である
【密井偵寡:帰還 秘社境介:メンバー募集のため外出】

69御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/08/29(月) 02:23:30.53 0
メイの運転する車で自宅へ戻ってきた篠。車を降りて玄関へ向かう。
ギィ、という音と共に大きな木製のドアを開けて中に入った。

「お帰りなさいませ。お嬢様」
玄関でメイドが二人で迎えてくれる。いつものことなのだが──
「ただいま。いつも言ってるけど、出迎えはいらないわよ?貴女達も仕事があるんだからそっちを優先しなさい」
「これも私達の仕事の一つですので。ご容赦下さい」
「そうですよー。私達から仕事を取り上げるんですかー?」
出迎えをやめろと言った篠に二人が抗議の声を上げる。これもいつものことである。篠は溜息を吐いた。

「エリはどこかしら?頼んでおいたことがあるのだけど」
スーツをの上着を脱いでメイドに渡すついでにエリの所在を尋ねる。
「エリですか?彼女だったら──」
「いつもの場所ですよ」
後ろから声がかかる。メイが車を入れて戻ってきたようだ。
「ご苦労様。エリのところに行くわ。貴女もいらっしゃい」
「かしこまりました」

メイを伴ってエリのいる部屋に向かう。
メイの言う『いつもの場所』──それは階段を下りた地下にある部屋だった。
「エリ、入るわよ」
一声かけてから部屋に入る。そこには巨大な空間が広がっており、所狭しと機材が並んでいる。
篠はあまりこの手の機械には詳しくないのでどれが何をするものなのかは分からなかったが、この部屋の主はそうではない。

「あ、お嬢様。お帰りなさいませ。メイもお勤めご苦労様」
「ただいま。頼んでおいた件、どうなっているかしら?」
「『誇束株式会社』ですね?一応調べてはありますが……」
彼女にしては珍しく歯切れが悪い。エリは頭をかきながら答えた。
「微妙な返事ね。何かあったの?」
「いえ、とにかく情報が多すぎて……。必要な情報だけに絞るのに時間がかかっているんです」
「多すぎる……?どういうことかしら」
「色んなことに手を出しているみたいです。やっていることに統一性がなくて……。何でも屋ってところですかね。
 あ、でもいくつか分かったこともあります」
「教えて」
「あまり重要ではないと思いますが……。まず、社長の名前は秘社 境介。年齢は十七です。
 この年齢にして、既に莫大な資産を持っています。一体どんな手を使ったのやら……」

エリがさりげなく言った情報。しかし篠には聞き覚えのある名前が聞こえてきた。
「ちょっと待って。秘社ですって?」
「ええ、それがどうかしましたか?」
「──その子、うちの生徒よ」
「へーそうなんですかー……って、ええええええ!?」
エリが素っ頓狂な声を上げる。メイも僅かに驚いてるようだった。

「それは……本当なのですか?」
驚いたポーズのまま固まっているエリに代わり、メイが篠に尋ねる。
「ええ、本当よ。頭のいい子だとは思ってたけど……まさか会社を持っていたとはね。
 しかしそうなるとまずいわ。彼に私の秘密がばれている可能性──いえ、確実にばれているでしょうね。
 まったく……とんだ伏兵だわ」
溜息を吐く篠。しかしその顔に焦りや怒りはなかった。寧ろ──

「でも、これで少し手間が省けたかも、ね──」

嗤っているその顔には、明らかな愉悦の表情が浮かんでいた。
70御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/08/29(月) 02:26:16.73 0
「それじゃあ私は部屋に戻るから。何かあったら──」

「あ、待ってください。もう一つ報告が」
部屋に戻ろうとした篠をエリが呼び止める。
「何かしら?」
「先程連絡した廃火葬場での戦闘ですが──」
「ああ、それなら彼──獅子堂君が向かっただろうから大丈夫じゃない?彼強いわよ?」
「それもそうなんですが、どうやら第三者がいたようです。能力の反応がありました」
「第三者?元々闘ってたスイーパーの子じゃなくて?」
「はい。その人物はスイーパーではないようです。登録がありませんでした。
 あ、ちなみにそのスイーパーの人なら特定できました。名前は二神 歪。今年から活動を始めたようです」
「へぇ、新人ってわけね。私の知らない子だわ」
「あ、獅子堂さんも火葬場に到着したみたいです」
「そう、なら安心ね。貴女は引き続きさっきの会社について調べて頂戴。何かあったら私に報告なさい」
「了解しました」
「じゃ、戻るわ。メイ、紅茶を入れて頂戴」
「かしこまりました。すぐにお持ち致します」

地下から戻り、自室に向かう途中、篠は考えていた。
(秘社 境介……接触してきた目的は何かしら。私の周囲を探るため……?
 いえ、違うわね。それならこの家に来てもおかしくはないし。万が一来たとしても無駄だけどね。
 ま、考えるだけ無駄よね。分からないんだから)
考えている間に自室に到着していた。扉を開けて中に入り椅子に深く腰掛ける。

「お嬢様、紅茶をお持ち致しました」
ノックの音と共に、扉の外からメイの声が聞こえる。
「どうぞ」
「失礼します」
静かな声と共に、メイがお茶の道具を乗せた台を押して入ってきた。

「さっき、あの子に会ったわ」
「あの子──紅峰 閃莉、ですか?」
「ええ。うちに来ないか、って言う誘いもかけておいたわ」
「……来るでしょうか」
「それは分からないわ。私はあの子じゃないもの。来てくれれば嬉しいけど、ね」
フフッ、と笑みを浮かべ、窓の外を見つめる。街の喧騒は遠く、虫の声しか聞こえない。

「ああ、そういえば──」
紅茶を半分ほど飲んだところでカップを置き、メイに顔を向ける。
「何でしょう?」
「さっき、応龍会の邸宅で能力をつかったわ」
「──!?よろしかったのですか?」
「ええ、あの場はああしていないと私自身怪我をしていたかもしれないし」
「そうですか……。ならば仕方ありませんね」
一瞬驚いたような表情になったメイだが、すぐにいつもの表情に戻る。
「心配してくれたのかしら?」
「当たり前です。もしものことがあってからでは──」
「大丈夫よ。見せたのはほんの一端だし。私が本気を出せば──どうなるか分かるでしょう?」
「ええ、存じ上げております。もしお嬢様が本気を出されたら──この規模の街など、五分と保たないでしょう」
「そう言うこと。だから私は決して本気は出さない。この街が好きだしね。
 万が一本気を出すようなことがあっても、範囲は限定するわ。この街を壊さないように、ね」

メイとの話を終え、飲みかけの紅茶を一気に飲み干す。
「さて、泥棒さんはどうなったかしらね。そして閃莉は──来てくれるかしら?」

【御影 篠:自宅へ到着】
71秋雨 凛音@代理:2011/08/31(水) 01:36:54.86 0
>>62-63>>66-67
尾を使っての拘束攻撃を躱されると、凛音はバジリスクが持つ牙の毒を用いた戦法に切り替えた。
しかし、それは間違いだった。
何のためにこんなサイズでバジリスクを召喚したのか?
何のためにバジリスクの頭部に乗ったのか?
噛み付きはそれらの答えを否定してしまう戦法であった。
恐らく、凛音は焦ったのだろう。
見えない時間制限と、自分の身を守る防壁への過信。
それらが合わさった結果、凛音が大地にその身を叩き付けられることになったのは何ら不思議でもなかった。

 ■

「っ……」
地面に投げ出された凛音が不格好な受け身をとって着地した。
雨が降った後のぬかるんだ土が付着した顔を上げると、横たわったバジリスクが目に入った。
攻撃を喰らった頭部は原型こそ残ってるものの、皮膚が裂けて至る所から出血している。
生きてはいるだろう(邪気眼を通じてそれは分かった)、だが恐らく戦闘の続行は無理だ。
バジリスクを消して避難させると、片腕を犠牲にして蛇の王に特攻を仕掛けた男がこちらに近づいてくる。
男の左腕も重傷のようだが、凛音を捻り潰す力ぐらい余裕で残っているだろう。
(ど、どうする? 新しく『餓獣』を呼ぶべき? …………ダメ、これ以上は)
頭痛と邪気眼の疼きが一層強まって、凛音を苦しめた。
バジリスクがやられたことが影響してるのだ。

「逃げ……逃げなきゃ……」
力無い声を吐きつつ、凛音は走り出そうとしたが足をぬかるみで滑らせてバランスを崩した。
あ、と思ったがすでに体は傾いて重力に引っ張られていた。
しかし、凛音の体を倒れる途中で何者かが受け止めた。
筋肉質の力強い男の腕だった。
見上げると、そこにはオールバックに鋭い眼光を備えたコート姿の男性の顔がそこにあった。

「……あなたは?」
その問いに男は、自分は本部のスイーパーであることを話した。
(間に合ったのかな……)
フラフラの少女を見てスイーパーの男は全てを悟ったように、
凛音を近くの木陰に隠れるよう指示した後、黒尽くめの盗賊に近づいて行った。
遅れて、先ほどのフード姿の男がこの場に到着した。
(よかった、あの人は大丈夫だった……)
最後の気がかりが無くなったことで、凛音は少し安心して息を漏らした。


――――チッ
(いまの……舌打ち? なんだろう、空耳かな)

【秋雨 凛音:獅子堂、二神が参戦し、自分は少し離れた位置で待機】

72獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/08/31(水) 20:52:10.65 0
>>71
木々を掻き分けて灰色の煙が立ち昇る場所に辿り着き、最初の目にしたのは巨大な蛇だった。
自然界ではありえない威容を誇る巨体。だが無残にも、その頭部には無数の裂傷が走り、血を垂れ流して横たわっている。
(…アンノウンによる能力の産物か…)
蛇の姿は徐々に景色に同化するように薄れていき、その陰で見えなかった2人の人間の姿が露わになった。
1人は地面に倒れかけた灰色の髪の少女。身に纏うワンピースは泥にまみれ、その顔には怯えの表情が見て取れる。
そして少女を見下ろす長髪の男―――中性的な顔立ちだが獅子堂は一目で男と見抜いた―――その左腕は戦闘で負傷したのだろう。血みどろだった。
(十中八九、応龍会の屋敷から『落葉』を強奪したのは…あの男…しかし何故だ?)
獅子堂の頭に浮かんだのは非常に単純な疑問。何故、宝石などを強奪したのか?
現金ならともかく、宝石はロンダリングに非常に手間がかかる。如何なるルートを以っても高度に発達したISSの捜査網を潜り抜けることは不可能。
それも裏社会に身を置く者達の一財産となれば尚更である。その目的は金銭などではない事は明白だ。
(もしや…スイーパーを誘き出すことが目的なのか?―――っ!)
思考を中断して駆け出した。男が少女に向かってゆらりと歩き出したのを目にしたからだ。
少女の正体も不明。異能犯罪者の可能性もある。
(だが、ここはあの娘を保護する方向で動くか…後でISSに引き渡せばいい)
逃げ出そうと走り掛ける少女がぬかるみに足を取られよろめく。獅子堂はそれに追い付き、腕で受け止めた。

「……あなたは?」
「…ISS本部所属のスイーパー…『蒼魔の銃王(ガンスリンガー・ジ・イーヴィルブルー)』」
目の前の少女が心身ともに疲弊しているのを獅子堂は見て取った。
(…邪気眼の力を制御できていない…スイーパーではないな…とりあえず監視下に置く必要がある)
「巻き込まれないように木陰にでも隠れていろ」
少女はその言葉に従い、大木の後ろに身を潜めた。同時に獅子堂は二神の到着に気付く。
(共闘ってわけか。まあ、元々俺が言い出したことだ)
両手を腰のホルダーに回し、『パーフェクト・ジェミニ』を引き抜く。直後1発の銃声が響き渡る。
だが実際に発射された弾丸は計20発。それらは青白く輝きながら獅子堂の周囲を旋回し始めた。
「―――『落葉』を返してもらおうか、シーフ」

【獅子堂 弥陸:黒羽に対して臨戦態勢に入る】
73黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/09/01(木) 02:34:23.47 0
>>66>>67>>71
少女が召喚した蛇──バジリスクは、体中から体液を撒き散らして大地に沈んだ。
それとは対照的に、平然として大地に足を着けたのは黒羽。
その光景は黒羽が一か八かの賭けに勝ったことを意味するものであった。

もしも、バジリスクの体内が、メテオライトボムの衝撃に耐えうるものだったら……
死んでいたのは、間違いなく黒羽の方であったろう。
(もっとも……)
折れた左腕をさすりながら、黒羽は倒れたバジリスクを改めて見下ろした。
(こいつは死んではいないようだがな……)

さすっていた手が、グッと強く握り締めるものに変わる。
大蛇の方は瀕死へ追いやったが、それを使役する肝心の本体の方がまだ残っている。
勝負はまだついていないのだ。
「後もつかえてるんでな……これで終わりだ」
突き刺すような視線を向けながら、一歩一歩、若干の早歩きで少女に近付いていく。
それを見た少女は慌てて背を向けて走り去ろうとするが、
あまりに慌てすぎたか、土のぬかるみに足を取られて転倒してしまった。
こうなれば、黒羽としては殺傷力の高い攻撃を繰り出し、一気に勝負をつけたいところである。

「……」
しかし次の瞬間──黒羽は攻撃するどころか、あろうことかその動きすらも止めていた。
何故か? 答えは簡単。
少女の背後から、黒羽の敵意を真っ向から受け止める二人の人物が現れたからである。
その内の一人は黒髪をオールバックに決め込み、コートとライダージャケットを着込んだ男。
そしてもう一人は──死んだと思われたあの二神 歪であった。
(あいつ……生きていやがったのか。しかしどういうことだ。衣服は確かに血まみれだが、体は生気に溢れている。
 とても一度は死に掛けた男の姿には見えん。まるで魔法でも使ったかのように…………)

黒羽は視線を二神と共に現れたもう一人の男へと向けた。
(回復能力者、か? ……いずれにしても、恐らく確かなのは……)
そして、確信した。彼こそが、恐らく少女が呼んだ増援のスイーパーであろうと。

「──」
ジロジロと舐めるように見据える黒羽の目が、突如として警戒するような細目となったのはその時だった。
男から発せられた突然の銃声──。と同時に男の周囲を取り巻く青白い複数の発光体。
この不可思議な光景は、間違いなく彼が異能者であることを示すものであった。

「―――『落葉』を返してもらおうか、シーフ」
74黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/09/01(木) 02:40:24.58 0
自分が何者で、何が目的なのか、それらを全て込めた短い言葉。
まどろっこしい前置きや小細工は一切ない、堂々とした振る舞い──
黒羽は思わずニヤッと笑い、懐から緋色に輝く球体を取り出した。
「お目当てのものはここだ。奪れるもんなら、奪ってみな」
ピンと、空中に弾かれた宝石が、やがて落下し再び懐へと収まっていく。
堂々たる敵には、駆け引きや小細工は一切ない、相応の態度で迎え撃つ。それが黒羽のやり方であった。

──目で二人を交互に牽制しながら、黒羽は自分の現状を省みた。
右手には爆裂傷、左肩には電撃傷、左腕には骨折──しかも体力は半減している。
加えて敵は二人……あるいは少女次第で三人となる状況となれば、
闘いが長引けば長引くほど不利になるのは疑うまでもない。
とはいえ、それを承知しているのは恐らく敵とて同じ。
故に先手を取り続け早期に決着をつけるという理想の展開は望むべくもないだろう。
(まぁ──それもやりようだろうがな──)

右手の動きを確かめるように、微かに五指を奮わせた黒羽は、不意に掌をすっと前方へ向けた。
直後に、その掌を覆い隠さんと現れたのは、紅い光球メテオライトボム。
それを見た二人は即座に身構えた。突如現れた奇怪な球、その正体を知らなければ当然の反応だ。
正体を知っていれば尚のことだろう。
──身構え、自然にその意識が派手な光球に注がれる。その心理を、黒羽は利用した。

「くらえ──」
その一言と共に巨大な爆発音は挙がった。
──しかしそれは、メテオライトボムが放たれ、それが着弾した音ではない。
爆発音を挙げたのは、メテオライトボムよりも先に作り出し、
事前に二神ら二人のスイーパーに撃ち放っていたエアプレッシャーノヴァであった。

数は四つ。ただ、爆発と共に土煙が盛大に巻き上がったことから、恐らく多くは命中しなかったのだろう。
姿形が目に見えぬ透明だからこそ操作も難しい。それが欠点。
しかし、それを熟知している黒羽が、この結果を想定していないはずがない。
「お待ちかねの本命だ──」
小さく呟く黒羽の手から、メテオライトボムが勢いよく射出──その瞬間に四つに分裂した。
向かう先は当然、煙幕に包まれた二人の男である。
ただ、そのどれもが馬鹿正直に真正面から向かっているわけではない。
視覚を封じた煙幕を最大限に利用する為、二人の前後左右、四つの包囲から向かわせたのだ。


死角からの同時多角攻撃。普通の人間ならば避けられるものではない。
が、相手はスイーパー。特に先に対戦した二神の強さを知る黒羽は慎重であった。
攻撃の結果を見ずに、彼は斜め背後の空中に向かって高くジャンプしていた。

二神の尋常ならざる身体能力は、爆弾を無傷でかわし、瞬時に煙を抜けて接近戦に持ち込むだけの速度がある。
そうはさせない為に──そして、出てきたところを空中から狙い撃ちにする為に、敢えて背後に跳んだのだ。

【黒羽 影葉:獅子堂、二神と戦闘開始。煙幕を上げ、四方向から爆弾を向かわせる。更に自身はジャンプ】
75御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/09/01(木) 05:02:25.36 0
紅茶も飲み終わり、メイも去った後、篠は自室で寛いでいた。と、そこに新たな来訪者を告げる音──ノックの音がする。

「お嬢様ー。少しいいですかー?」
「エリ?入っていいわよ」
扉が開く音と共に、エリが部屋に入ってくる。手にはノートパソコンを持っていた。

「どうしたの?あの会社について何か分かった?」
「い、いえ、そちらの件はまだ調査中です。今回は別件──と言うわけでもないのですが」
エリはまたしても歯切れが悪く切り出す。その顔には申し訳なさそうな表情が浮かんでいた。

「どうしたの?何かあったのなら報告して頂戴」
「は、はい。先程話に上がった火葬場での戦闘、及び『落葉』を盗んだ賊の続報みたいなものですが……」
「──話して」
「はい。衛星カメラで姿を追っていたのですが、何分暗かったもので、ハッキリと姿が捉えられなかったんです。
 それが先程、ようやく姿を捉えられたのでご報告をと思いまして」
そう言ってノーとパソコンをこちらに向けてくる。そこには全身血まみれの男と全身黒ずくめの"男"が闘っている場面が映し出されていた。

「これは──フフッ、そう言うことだったの」
その映像を見た途端、篠が小さく笑う。
「どうされたんですか?何か──」
「──火葬場。まだ闘ってるのよね?」
「え?ええ、まだ戦闘中のはずですが……」
エリの言葉を遮って質問する。エリは困惑したように答えた。

「エリ、私は用事が出来たわ。ちょっと出かけてくるから、メイにも言っておいて」
「はぁ……え!?ちょ、ちょっとお嬢様──!?」
エリの返事を聞かずにクローゼットから着替えを取り出し、手早く着替えを完了する。
「じゃ、行ってくるから」
そして最後に真紅のコートに身を包み、髪を纏めて眼鏡をかけて、窓から夜の闇へと飛び出していった。

屋根から屋根へと跳躍する紅い物体。篠である。少なくなったとは言え、この時間でも人通りはある。
道行く人々が口々に指を差して何か言っているが、まったく気にも留めずに疾走する。

「まさかあなたが泥棒さんだったとはね──黒羽 影葉君」
そう──先程エリに見せてもらった映像。そこには篠のよく知る人物が映し出されていた。
黒羽 影葉──篠の勤める厨弐学園で、篠の受け持つクラスにいる男子生徒である。
「物静かな子だとは思っていたけど……裏ではこんなことをしていたのね。──素敵だわ」

やがて火葬場だったと思しき荒地が見えてくる。
「あらあら……随分と派手にやってくれたみたいね。あまりこの街を壊さないでほしいものだわ」
そうして戦闘が肉眼で確認できる位置まで近付き、手近な木の枝に飛び移る。そこで、すぐ下に人の気配がするのに気が付く。
そちらに目を向けると、辛そうな表情の少女が自分のいる樹にもたれかかっていた。
(人……?ああ、彼女がエリの言ってた第三者ね。ま、どうでもいいわ)
一瞬少女の方を見たが、すぐに興味をなくして戦闘の方に集中した。

(彼が二神君ね……。映像でも見たけど、本当に血塗れなのね。でもやたらと生気を感じる──。
 血を流す程強くなるのかしら?不思議な能力ね。制限も多そうだけど)

闘っている二神に視線を向け、観察を終えると、今度は黒羽に視線を向ける。
(黒羽君も只者じゃないわね。閃莉との戦闘の時もそうだけど、動きに無駄がない。
 それに彼は身体能力が向上する能力者じゃないはず。だとすれば、素であの動きが出来るのね。
 あの年であれだけの動き……一体どんな環境で生きてきたのかしら。興味が尽きないわね。
 でも……怪我をしているみたいね。数も二対一……。劣勢、かしら)

そうして戦況を分析していると、目の前で大規模な爆発が起こった。黒羽が引き起こしたものだ。
(今ここで彼に死なれては面白くないわね。ちょっと獅子堂君とも闘ってみたいし。
 それに──うちの生徒と分かれば、やらせるわけにはいかないわ)

【御影 篠:犯罪者フォームに着替えて火葬場に到着。黒羽が劣勢になれば助けに入る】
76獅子堂 弥陸@代理:2011/09/04(日) 00:25:30.85 0
>>74
「お目当てのものはここだ。奪れるもんなら、奪ってみな」
不敵な挑発と共に黒羽は『落葉』を指で弾き宙に舞わせた。そして微かな緋色の輝きがその懐に入った瞬間―――それが戦いの始まりとなった。
黒羽の右の掌に赤い光球が浮かぶ。数時間前に炎を操る異能犯罪者と戦ったばかりの獅子堂はデジャヴを感じながらも油断なく身構えた。
「くらえ──」
周囲に爆風が巻き起こる。盛大に吹き上がった土煙のせいで1メートルの視界すら利かなくなった。
だが獅子堂は焦らない。廃ビルでの戦闘、応龍会邸宅での失態を繰り返すことの無いように氷の様な観察眼で全てを見抜いていた。
(煙幕で視界を封じたところに本命をぶつけ…更に死角からの追撃、セオリー通りの戦術…だが―――)
「一歩も動かずに全てをいなして見せよう」
その言葉と共に青白いオーラの腕が銃口から放たれ、周囲の土煙を一瞬で薙ぎ払った。応龍会で見せた『悪魔の蒼腕』である。
そして周囲を見渡せば四方から赤い光球が近付いて来ていた。『惑星』を1つの光球に対してそれぞれ5発ずつ向かわせ―――各々の弾丸は正五角形を形作る。
次の瞬間、弾丸同士の間に閃光が走るや否や、弾丸を各頂点とした五角形の青い光壁が現れた。
「盾の魔弾『シールド・フォース』―――如何なる威力を以っても突破は不可能よ」
光壁に衝突したメテオライトボムは盛大に弾けるが獅子堂の言葉の通り、爆風、火炎、熱波の全てを完全に遮断した。
「―――そして分かるか? 地上に姿が無いってことは九分九厘、空中に居ますって言ってる様なものなんだよ」
見据えるのは背後の斜め上の空中。その視線の先に捉えた黒羽は僅かだが驚愕の表情を浮かべていた。
そこに襲い掛かる凶悪なまでの威力の衝撃波。魔弾『テンペスト』が放たれたのだ。
バランスを崩して落下を始める黒羽。獅子堂は右手の拳銃の銃口から『封滅刃』を生やして自らも空中に跳躍する。
「この機は逃さん!」
叫びと共に刃を黒羽の左胸―――心臓の位置へと突き出した。

【獅子堂 弥陸:メテオライトボムを退け、自身も空中へ跳躍。空中近接戦へと持ち込む。】
77秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/09/04(日) 18:25:38.75 0
「さて、外に出たのはいいが、紅峰…年上だからさんをつけるべきか。紅峰さんが何処にいるか分からないな…」
ふむ…と考えながら歩いている秘社
「そういえば火葬場に能力者がいるという噂を耳にしたな…。優秀な者が居ればわが社に引き入れるか」
そんなわけで、火葬場へと足を進める秘社
「ここからなら見つからないだろうし…万一見つかったとしても態々私の方を優先する可能性は低いだろう…」
丁度黒羽たちからは死角になる位置から、戦闘の様子を見始める秘社
「…獅子堂さんも居るようだな。…で、あとは、黒羽先輩まで?(クラスは同じだけど、年上だし) …あ、不登校の二神君も…皆優秀そうだ」
小さく呟く秘社。いや、大きかったらそれはもはや呟いてるとはいえないのだけれど。
ちなみに秘社が17歳で黒羽と同じクラスなのは、早生まれだからである
「ん?」
ふと向こうの屋根を見ると、なにやら赤い服を着た女性が見える
「…あれは御影先生か? どうしてこんなところに…?」
秘社境介は意外に眼が良いのである。眼鏡? 伊達眼鏡です
「とりあえずこの後先生に着いていけば紅峰さんには会えるだろう。ま、それより戦闘の分析だ…」
再び、戦場に目を向ける秘社
「…それは良いが煙のせいでよく見えないな…。いや、一応誰が誰かは分かるが」
戦闘を見学する秘社
「…ほう、魔弾で撃ち落して…成程、良い手だ。そしてあれは恐らく『封滅刃』…。対能力者に関しては無類の強さを誇る魔弾だな…さて、先輩はどうするのか」
空気をクッションにして体勢を立て直すとか? などと考えながら様子を見る。
【秘社境介:火葬場にて戦闘を見学。『秘境』の新メンバーを探している】


78黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/09/05(月) 03:40:31.39 0
>>76
左右前後からの挟み撃ち。逃げ道といえば真上しかない。
大人しく挟み撃ちにされればよし。真上に逃げれてもまたよし。
どちらにせよ、黒羽のペースであることに変わりないのだ。

──立ち込める煙を眼下に見届けながら、黒羽は敵の行動を待った。
今か今かと、文字通り手ぐすねを引いて。
(!?)
しかし、ほくそ笑みかけた黒羽の表情が、不意に変化したのはその時であった。
辺りを包み込んだ煙幕がいきなり消し飛んでしまったかと思えば、
突如として出現した見慣れない青い五角形の壁に、メテオライトボムが防がれたのである。
「―――そして分かるか? 地上に姿が無いってことは九分九厘、空中に居ますって言ってる様なものなんだよ」
男の声。そして直後に訪れる暴風──いや、衝撃波か。
いずれにしても、これは不意の反撃。黒羽の予想にはなかった展開である。
「……!!」
それでも黒羽は、咄嗟に自身の前面にエアロシールドを展開、威力の相殺を図ったが──
予想の上を行く物理的衝撃は、威力の大半を削がれながらも最終的にシールドを通過──
体のバランスを崩すには十分な衝撃を黒羽に浴びせかけた。

(シールドを破り尚これだけの威力……、このスイーパーも相当な腕を持ってやがる)
落下しながら、黒羽はまず自分を睨むように見据える二神を見やり、
次いでこの隙を逃さんとばかりに真正面から急速に接近してくる男を見やった。
月明かりに照らされて、男の持つ銃の先端が微かに光っている。
銃口には、いつの間にか銃剣のような刃が取り付けられていたのだ。
(だが──)
一瞬、黒羽の右手が慄くように震えを見せたのはその時。
それは、瞬く間に眼前にまで接近した男が胸に向かって躊躇なく刃を突き出したのと同時であり、
そして──“それ”が起こったのと同時でもあった。
             アイツ
「分かるか? 何故、二神が空中に跳び上がって来なかったか」

──真正面からではなく、男の“真横”から発せられた、平然とした黒羽の声──。
平然と──そう、彼は突き出された刃をその身に受けず、かわしていたのである。
足元に作り出していた空気の塊を蹴り、体ごと真横に移動(スライド)することで──。
 アイツ                    フィールド
「二神は知っていたからさ。空中が、俺の庭であることをな。──隙だらけだぜ」
79黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/09/05(月) 03:47:04.51 0
無防備な横っ腹に、黒羽は右手に作り出した透明な爆弾、エアプレッシャーノヴァを叩きつけた。
敢えて破壊力抜群のメテオライトボムにしなかったのは、爆発時の巻き添えを恐れた為であるが、
それでもエアプレッシャーノヴァは黒羽がわざわざ技に用いるほどの爆弾。
炸裂時に撒き散らされた圧力は、黒羽に物理的ダメージは与えずとも、容易く背後の空間へ撥ね飛ばした。
(お次は──)
地面と平行に飛んでいた黒羽の体が、距離を重ねていくと共に落下を始める。
ザシャァァァ、と音を鳴らして地面を滑り、両手両足を着けてその動きを止めた黒羽が真っ先にしたことは、
爆破した男の生死を確認することではなく、もう一人の敵である二神 歪の位置を確認することであった。

すかさず二神がいた方向に鋭い視線を放つ黒羽。
しかしそこには、予想通りというべきか、あるいは懸念通りというべきか、既に彼の姿はなかった。
その代わり視認したのは、月明かりに映し出された背後の影──。
(次は、やはりこいつか!)
針のような突き刺す殺気が迫るのを感じた黒羽は、体を左に傾けて移動しようとしたが──
刹那、左の肩から手首にかけて走った痛みが、その行動を断念・右への移動に転換させた。
「!!」
しかし、高速戦闘での一瞬の行動の遅れは、時に致命傷となりかねないもの。
今回は黒羽の柔軟な身のこなしもあってそれだけは避けられたが、
背後から首を貫かんとばかりに繰り出された凶悪な手刀は完全にかわすことを許さなかった。

──ポニーテールに纏めていた髪紐が千切れ、首の左頚動脈付近から血が噴出する。
眉を顰めながら、かわした体制から身軽に大地を移動し、二神から素早く距離を取った黒羽は、
追撃を阻む為の牽制として右手にメテオライトボムを出現させた。
「ハァ、ハァ」
もし、左に避けることができていたなら…………
こうして傷を負うこともなく、牽制ではなく攻撃の起点としてメテオライトボムを作れたことだろう。
それができなかった、つまり健在な片手をフリーにできなかったという事実は、
これまでの負傷がとうとう戦術上のハンデとなって現れ始めたことを意味していた。

(流石はスイーパー。初めの攻撃も無傷で退け、更にこちらの思惑に外れた展開に持ち込むとは。
 ……このままでは、早期決着は到底不可能。……じわじわと追い詰められるだけになりそうだ。
 仕方ねェ……あまり気乗りはしないが、“あれ”を使うか……)

乱れた息を整え、頬に伝った汗を腕で拭い去りながら二人を交互に見やった黒羽は、
最後に『銃使い』の方のスイーパーにじっと視線を合わせて口を開いた。
「殺す前に、一つ訊いておこうかスイーパー。……名前は?」

【黒羽 影葉:獅子堂にエアプレッシャーノヴァを叩き付け、更に名を訊ねる】
80二神 歪@代理:2011/09/06(火) 20:28:00.50 0
>>76 >>78-79

二神がかけつける頃には、能力者の少女は戦場から退き、獅子堂が黒羽と対峙していた。
獅子堂の言っていた共闘がまさかこんなところで起こるとは思わなかったが、二神の能力を把握しているスイーパーの増援は二神にとってもメリットがあった。
つまり、二神は『棘の盾』として動けるのだ。
獅子堂への攻撃を二神が防ぐことで獅子堂のパフォーマンスを維持し、さらに自身の能力『ブラッディ・アサルト』の発動を図れるのだから。
一発の銃声と共に、獅子堂の体の周りにいくつもの弾丸が旋回し始める。魔銃、その名に相応しい光景だった。

「―――『落葉』を返してもらおうか、シーフ」
「お目当てのものはここだ。奪れるもんなら、奪ってみな」

挑発的な言葉。間違いなく、黒羽の目的は宝石でなく、スイーパーなのだ。
二神は迂闊に近付きはしなかった。黒羽の使う圧縮空気の爆弾は視覚では捉えられない。

だが、黒羽の選択はそちらでは無く、赤い熱爆弾だった。これならば視覚で捉えきれるのだが、二神は何か引っかかるものを感じた。
恐らく…二神なら不意打ちで透明な爆弾を選択していただろう。威力で勝るとはいえ、こちらを選択する意味。
陽動だ。二神は咄嗟に気付く。見える方を囮に使い、見えない方を先に叩き込む。

二神が後ろに飛び退く。その瞬間に二神のいた場所が爆発し、粉塵を巻き上げた。
後少し遅ければ、命中していた――二神はその事実を冷静に判断する。そう、無傷の状態では当然の如く、黒羽の方が強いのだ。
巻き上がった粉塵は二神の視界を覆ったが、すぐにそれは掻き消えた。
獅子堂の能力だろうか、青白い腕の形のオーラが彼の銃口から放たれ、粉塵をなぎ払ったのだ。

「一歩も動かずに全てをいなして見せよう」

不敵な言葉。赤い熱爆弾が近付いて来るのが解ったが、獅子堂はそれを意に介さない。
何か策がある。二神はそう判断した。ならば、乗る。結果的に無傷ならそれで良いし、獅子堂の策が敗れたならば自分が盾になるのが最も効率が良い。
二神は獅子堂の作り出した魔方陣の内側に滑り込んだ。
81二神 歪@代理:2011/09/06(火) 20:28:43.96 0
「盾の魔弾『シールド・フォース』―――如何なる威力を以っても突破は不可能よ」

周囲で爆発が巻き起こるが、その内側には衝撃すらも入ってこない。

「―――そして分かるか? 地上に姿が無いってことは九分九厘、空中に居ますって言ってる様なものなんだよ」

獅子堂が見据える先に、黒羽の姿があった。前の戦いで見せた超跳躍。だが、あれは――罠だ。
魔弾が放たれ、黒羽はバランスを崩した。それを逃すまいと、獅子堂が銃剣を持ち跳躍する。

「獅子堂、罠だッ!!空中には行くなッ!!」

その言葉は遅かった。まるで黒羽だけが地面に立っているかのように、彼は落ちながら獅子堂の攻撃を避け、攻撃を叩き込んだのだ。
(透明な方の爆弾なら、あれだけで死ぬとは思えない。ならば――)
即座に二神は行動を開始した。黒羽は無限に宙に浮いていられる訳では無い。ならば、着地時を狙う。
爆風で弾き飛ばされた黒羽を追い越し、強引に回転する。遠心力と、刃物のような爪と指で、彼は黒羽の首を狙った。
一瞬の躊躇の後の黒羽の回避は少し遅く、二神は微かな手ごたえを感じる。恐らく首のどこかに傷を負わせただろう。
これ以上は深追いだ。黒羽が熱爆弾を操るそぶりを見せている。獅子堂を待った方が良いだろう。

「獅子堂!こいつは空気使いだ。主に空気の圧縮で技を作っている――透明な爆弾より、熱爆弾の方が威力は高い、気をつけろ。」
「…俺の能力は解ってるな?なら、周りにまだ幾つか『パック』が残っているはずだ。お前さえ動ければ俺は心配無用だ」

相手の情報と自分の情報を伝える。特に後者は重要だ。最低限の言葉で獅子堂にだけ解るように――
輸血パックでの回復は本部で見せていた。まだ〜はずだ、という言葉はいくつか無くなった可能性があるという暗示。
ならば、戦闘で無くなる可能性のある場所、つまり壊された廃工場の周りを調べることが出来る。獅子堂は埋められた輸血パックを探し出せるだろう。
つまり、獅子堂が生きてさえ居れば、二神は復活出来る。獅子堂は二神を気にせず、巻き込んでの攻撃も出来るのだ。
(増援のスイーパーが顔見知りを巻き込んで攻撃してくることなど想定外のはず。ならばチャンスさえあれば、一気に片がつく―!)

「殺す前に、一つ訊いておこうかスイーパー。……名前は?」

黒羽は、二神にしたように、獅子堂に向かってその質問をした。二神には、その質問に何の意図があるのか計ろうとしたが、解らなかった。
【二神 歪、獅子堂に持っている情報を伝える。】
82 ◆ICEMANvW8c :2011/09/07(水) 02:05:35.88 0
>>65
密井が去り、御影 篠が去り、獅子堂までもが立て続けに去り──
結局午後10時まで応龍会総締めの部屋に残ったのは紅峰 閃莉と龍神 吼一郎の二人だけとなっていた。

──いや、それは周囲の人間が、ただそう思い込んでいるに過ぎない。
実はもう一人、この部屋には誰にも存在を気取られることのなかった者がいたのだ。
しかし、そうなるとここで一つの疑問が浮上する。
密井が手荒な方法で発見された時、何故そいつは一緒に発見されなかったのか?
答えは簡単である。そいつは密井のように“部屋の中”には潜伏していなかったのだ。
ではどこにいたのか? それは誰も気にも留めなかった場所──天井裏である。

天井板に空いた小さな節穴から、突如ギョロッとした目玉が現れる。
その目玉は眼下で移動する紅峰と龍神の姿をゆっくりと追っていた。
(奥に移動するのか。何か重要な話をするようだが……これは聞いておくべきか?)
蜘蛛の巣が張り、埃の舞う暗がりの中を、微動だにせずじっと息を殺し続けるのは、
黒い装束に身を包んだ、スキンヘッドの小柄な男であった。
名は『雁 九十郎(がん くじゅうろう)』。
この男、実は密井よりも先にこの邸宅を訪れ、およそ二時間も天井裏に潜んでいたのだ。

(……それにしても、まさか俺よりも先に『落葉』を盗んだ奴がいたとはなァ……)
九十郎はここに至るまでの経緯をふと思い返した。
彼はちょっとした理由あって『落葉』の在り処を長い月日をかけて調べていた。
その在り処が判ったのがつい数時間前のことである。
ところが、やっと見つけ出したと意気揚々としてその在り処に向かい、ついてみたらどうだ。
邸内は大騒ぎ。警察は来るわスイーパーは来るわで騒然としている。
何があったのか──それは直ぐに判った。何と一足速く落葉が盗まれたというではないか。
彼は直ぐに落葉を盗み出した者の足取りを追おうとしたが、肝心の犯人の情報を持ちえていなかった。
そこで考えたのは、邸内に集い始めたスイーパー達を利用すること。つまり、会話から情報を得ることであった。
かくしてその目論見通り事は運び、後は無事に邸宅を脱出するだけとなっているのだが……

(おっと、見失っちまうぜ。とりあえず情報は多い方がいい。しっかりとマークしておかねーとな。
 『天使(あまつか)』サマにはもう携帯で情報を送ったことだし……)
これは潜入や情報収集を得意とし、それで生きていた人間の性というべきものなのだろうか、
彼はリスクのことなど忘れ、少しでも多くの情報をゲットしようと欲をかいたのだ。
──そしてそれは、これまで完璧に事を運んでいた九十郎の、最大の過ちとなるのであった。

──ガタン。
(しまっ!)
イージーミス。
何と節穴から目を離し、体勢を変えたその瞬間に、体のバランスを崩して音を立ててしまったのだ。
それを聞いた途端、移動する二人の足がピタリと止まったのは言うまでもない。
こうなってはもう動けない。逃げようにも隠れようにもその術がない。
(あっちゃ〜〜! こりゃ流石にダメかァ……?)

暗闇の中、額に浮かんだ脂汗を、九十郎はゆっくりと拭った。

【雁 九十郎という男が紅峰らの会話を聞こうとするが、音を立ててしまう】
83獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/09/07(水) 18:20:30.89 0
>>78-81
バランスを崩して空中を落下する標的、その胸に突き出される刃、それは外す事など有り得ない必中絶命の一撃と成る筈だった―――
「分かるか? 何故、二神が空中に跳び上がって来なかったか」
正面に捉えていたはずの男の体が、ステップを踏むかの様に真横に移動し、突き出した刃は空を切る。
「二神は知っていたからさ。空中が、俺の庭であることをな。──隙だらけだぜ」
(…くそ!…やはり…)
腕を突き出して無防備となった半身の脇腹に加えられた衝撃。先程とは打って変わって、今度は獅子堂が撃ち落される結果となった。
(超高密度に圧縮された空気! これが正体か!)
脇腹に受けた衝撃の感触、そして視界が不自然に歪む様子から獅子堂は盗賊の能力を読み取った。
幸いにも身に纏うライダージャケットは防刃、耐爆性まで備える特殊強化繊維で出来ている。
そして巻き添えに成る事を恐れたのだろう、威力が抑えられていたこともあって肉体へのダメージは軽微。
だが問題はそんなことではない。先程の攻撃によって、激しく回転しながら地面へと高速で落下しているのだ。
84獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/09/07(水) 18:21:43.89 0
「流石にこのまま落ちたら死ぬよなあ!」
軽口を叩きつつ両手の拳銃のトリガーを連射する。発射されたのは魔弾『テンペスト』である。
衝撃波が木々を折り、地面を穿ち、乱反射する。だがそれは敵を狙った悪足掻きではない。
その反動を利用して落下速度の減速と着地体勢を整えようとする試みだ。
それは功を奏し、足元から斜め後ろへと着地するよう体勢の立て直しに成功。泥を撒き散らしつつ滑りながら大地に降り立った。
そしてほぼ同時に地面に降り立った盗賊の姿を目で追う。そこには月明かりに照らされた人影が2つ。
(…タイミングといい、位置取りといい、中々やるじゃねえか二神…)
対処不可能の距離から高速で振り抜かれた二神の手刀は、盗賊の首を僅かだが確実に切り裂いていた。
血の噴き出る首の傷を庇いながら盗賊は二神から距離を取り、再び掌に赤い光球を発生させる。
深追いは危険だと判断したのだろう、二神も追撃することなく獅子堂が駆け寄って来るのを待っていた。
85獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/09/07(水) 18:23:24.46 0
「獅子堂!こいつは空気使いだ。主に空気の圧縮で技を作っている――透明な爆弾より、熱爆弾の方が威力は高い、気をつけろ。
 …俺の能力は解ってるな?なら、周りにまだ幾つか『パック』が残っているはずだ。お前さえ動ければ俺は心配無用だ」
「…ラジャー」
それよりも、と獅子堂は思考を巡らせ始めた。
(どうやって『落葉』を傷付けずに取り返すかねぇ…)
懸念はその一点である。宝石、貴金属は僅かな傷が付いただけでその価値を失う。
既に龍神に『落葉』を取り戻すと言った矢先、砕け散った残骸や消し炭になりかけた灰を奪還したところで意味がない。
(下手に大威力の魔弾は使えない…決め手に欠けるな…かと言ってシケた弾丸は防がれる…)
「殺す前に、一つ訊いておこうかスイーパー。……名前は?」
(あ?)
思考を遮ったのは盗賊の言葉―――それを聞いた獅子堂の脳内にある感情が沸き起こる―――それは愉悦と狂気。
「殺す前に、ねえ…くふっ! くはははははは!! 前にもそんな事を言ったゴミがいたぞ! 『忌避屍毒(デッドリークーデター)』がなあ!」
『忌避屍毒』という言葉に目の前の盗賊が反応した。まるでよく知る相手を引き合いに出されたかのような反応だった。
「塵芥が掃除人を殺す! 何とも笑わせてくれるじゃないか! アァッハハハハハハハハ―――殺してやるよ」
狂人のように笑い声を響かせ―――その直後の氷の様に静かな一言。獅子堂の目に宿るのは尋常ならざる殺気。
その視線になぞられるだけで身を切り裂かれる様な、絶対零度の鋼の刃の如き殺意が全身から溢れ出し始めた。
86獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/09/07(水) 18:25:47.03 0
常人ならざる異様な雰囲気を纏い始めた獅子堂の様子に、味方であるはずの二神すら距離を置き始めた瞬間、銃声が響き渡る。
左手に握る拳銃のリボルバー弾倉部から、獅子堂自身の肢体へ向けて放たれた4発の『悪魔の蒼腕』だった。
そのオーラを両腕、両脚から全身へと纏い始めて数秒後―――獅子堂の体全体から青白いオーラが溢れ出した。
「―――俺は獅子堂 弥陸。『蒼魔の銃王』と呼ぶ者もいる―――」
次の瞬間、10メートルは離れていたはずの相手の文字通り目の前に獅子堂の姿が現れた。
「―――貴様を殺すモノの名だ」
まさにゼロ距離から放たれたオーラの鉄拳。直後、盗賊の懐から緋色の輝き―――微塵に粉砕された『落葉』だった物―――が溢れ出した。

【獅子堂 弥陸:黒羽の言葉によりトラウマが爆発。暴走状態に陥る】
87黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/09/08(木) 21:15:44.51 0
>>83>>84>>85>>86
「殺す前に、ねえ…くふっ! くはははははは!! 前にもそんな事を言ったゴミがいたぞ! 『忌避屍毒(デッドリークーデター)』がなあ!」

男の発した一言に、黒羽は一瞬──ピクリとその目尻を動かした。
(何故、こいつがその名を──)
当然の疑問であった。『忌避屍毒(デッドリークーデター)』とは、既にこの世にはいない犯罪者の二つ名。
確かに、長い間スイーパーをやっている者ならば、知っていても不思議ではない。だが、腑に落ちない。
何故目の前の男は、突然とその名を引き合いに出したのか──。
「…………」
偶然かもしれない。彼の記憶の奥底にあるかつての『忌避屍毒』の姿が、
目の前の不届きな盗賊・黒羽 影葉と重なり、つい口走ってしまっただけなのかもしれない。
──そう解釈することはできた。だが──既に黒羽の心は、ある一つの仮説に確信を抱いていた。
すなわち──目の前のスイーパーこそが、『忌避屍毒』を殺害した張本人であろうと。

(そうか……そういうことか。……とうとう、とうとう見つけたぜ。あいつを、『親父』を殺した野郎をな……!)
滞空していたメテオライトボムを消した黒羽は、無意識の内に笑い出していた。
だが、それは実の父親を殺害した仇が、こうして目の前にいる事を喜んだものではない。
『前にもそんな事を言ったゴミがいたぞ!』という先程の男の言葉が、
不意に脳内でリフレインするたびに可笑しく聞こえるようになったからである。

(『物は盗んでも、命は盗むことなかれ。もしやむを得ず命奪うならば、その者の名を生涯胸に留めよ。
 それが我ら隠密くずれ唯一の美徳と知れ』……。その教えを自ら破った人間が……おかしなものだ)

目を瞑る黒羽の脳裏に、やさぐれた風貌の中年男が浮かび上がった。
一時の間を置いて、それを頭から振り払った黒羽は、大きく深呼吸して再び男を見据えた。
「──?」
その時、ふと顔色を変えたのは黒羽であった。目の前で佇むコート男の様子がおかしいのだ。
「塵芥が掃除人を殺す! 何とも笑わせてくれるじゃないか! アァッハハハハハハハハ―――殺してやるよ」
先程までの冷静沈着な姿はどこへやら、突然と狂ったように叫び声をあげている。
それは正しく豹変といってよかった。

「殺してやる、か……。何が起こったのか知らんが、どうやら正気じゃなさそうだな。
 ……いや、俺に対する言動がじゃない。今の貴様そのものが、だ」
その認識は、男から徐々に遠ざかっていく二神の行動からして、間違いなく的を射ていたものであろう。
黒羽は小さく溜息をついた。こんな男と闘うことを望んでいたわけではない────そういいたげに。
だが、そう思ってはいても、相手がその心理を読み取る必要はどこにも無い。
ましてや仮に読み取ったとしても、こちらの意図に従う理由などありはしないのだ。
(やれやれ……、ならば……その理由を作ってやるまでだ)
88黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/09/08(木) 21:18:47.54 0
「―――俺は獅子堂 弥陸。『蒼魔の銃王』と呼ぶ者もいる―――」
狂気に歪んだ顔のまま、自身を青白いオーラで包み込んだ彼──獅子堂を見据えて、黒羽は悠然と構えた。
それは互いに戦闘再開を合図するものでもあった。
「―――貴様を殺すモノの名だ」
先手を取ったのは獅子堂。文字通り一瞬の内に眼前にまで接近し、オーラを纏った拳を放ってきたのだ。
立ち尽くすばかりの黒羽もそれと同時にエアロシールドを展開、攻撃を阻もうとするが──
とてつもないスピードをもって放たれたそれは、シールドを瞬時にぶち破り、その先に聳える黒羽の胸を捉えた。

「ゴフッ!」
肋骨の折れる音が体内を駆け巡り、咽から込み上げる苦痛が血反吐となって辺りに撒き散らされた。
しかし、黒羽は眉一つ動かさず、悠然とした表情を崩さなかった。
本来であれば体を貫通されるだけの威力がある鉄拳。
それに耐えることができたのは、血反吐と共に周囲に散っていった緋色の破片──
そう、落葉がエアロシールドに続く二段目のシールドとなって衝撃を削ったのである。

「──運が良かった──もしそう思っているのだとしたら、とんだ間抜けだぜ」
殺気も怒気も、あらゆる感情を宿していない奥底の見えない漆黒の瞳が、獅子堂の瞳の先にある意識を抉った。
瞬間、これまでだらんと下げられていた右手が、目にも止まらぬ速さを持って獅子堂の腕を掴んだ。
「貴様は、俺の体のどこに落葉があるか知っていた。にも拘らず、貴様は胸を狙った。何故だ?
 俺を殺すと再三宣告しておきながら、微動だにしなかった俺を仕留め損ねた。何故だ?
 ──分からないならヒントをやろう。貴様が、“さっきまでの貴様じゃねェからさ”──」

ふと、獅子堂を掴んだ手が離される。
しかし、腕の拘束を解かれたはずの獅子堂が、一瞬呻き声のようなものを挙げたのはその時だった。
それもそのはず、彼は今その腕をその足を──全身をくまなく締め付けられているのだ。

「──『透鎖強縛(しゅうさごうばく)』──。鎖状にした空気の塊を貴様に巻きつかせ固定した。
 二神とやらが言ってなかったか? 『空気の圧縮で技を作っている』とな。
 俺がこの能力を爆弾に使うだけの能無しと舐めてたか? それとも、他の技は空中移動ぐらいだと高を括ってたか?
 俺の能力に気がついていながら、感情のまま拳を振るう為だけに迂闊に近付くのは“今の貴様”ぐらいなものだ。
 狂気に支配され、思考能力が限りなくゼロになる……笑わせるな、そんなザマで俺を倒せると思っているのか?
 こんな無様な男を倒す為に俺はこの四年間を過ごしてきたわけではない……。
 わかるか獅子堂 弥陸──? 俺は……この黒羽 影葉は、貴様を探し続けていた。
 貴様が『忌避屍毒』を──俺の父、『黒羽 幻蔵(くろばね げんぞう)』を殺したその時からな」

遠くから様子を窺っている二神を視線で牽制しながら、黒羽は続けた。

「だが、勘違いするな? 俺は別に復讐する為に貴様を探していたわけじゃない。
 ……貴様は奴をゴミと言ったな? ……その通りだ、奴は罵る価値も無い最低のクズだった。
 俺に家の教えを説いておきながら、奴自身は酒と博打に溺れた挙句黒羽家を食い潰し、
 そればかりか己の欲望を満たす為だけに家族を売り飛ばして金に替え、更にそれすらも使い果たすと、
 終いには小銭目当てに殺傷を繰り返すだけの小物に堕落(成り下が)った。
 ──あんな奴は死んで当然だった。奴を殺してくれた貴様には感謝こそすれ、恨みなんぞ微塵も無い。
 だが、それでも俺は貴様を倒さなくてはならない。堕ちたとはいえ、かつての隠密・黒羽家19代目当主を屠った男。
 黒羽家最後の当主として俺がすべきことは──獅子堂 弥陸! “今の貴様”ではない“真の貴様”を倒すことだ!
 俺はそれを、隠密・黒羽家400年の最後を飾る華とする──」

【黒羽 影葉:肋骨を折られ、更に負傷が拡大するが、獅子堂の動きを封じる】
89二神 歪@代理:2011/09/10(土) 07:23:28.95 0
>>71,>>87-88,>>83-86


「殺す前に、一つ訊いておこうかスイーパー。……名前は?」

獅子堂の様子がおかしくなったのは、その言葉を聞いてからだったろうか。

「殺す前に、ねえ…くふっ! くはははははは!! 前にもそんな事を言ったゴミがいたぞ! 『忌避屍毒(デッドリークーデター)』がなあ!」
「獅子堂…?!どうした、おい!!くそッ!」

(明らかに様子が違う!黒羽の言葉が、何か鍵になったのかッ!?)

「塵芥が掃除人を殺す! 何とも笑わせてくれるじゃないか! アァッハハハハハハハハ―――殺してやるよ」
「獅子堂、奪還任務を忘れるなッ!」

駄目だ、聞いていない。殺意の奔流は、あろうことか無制限に周囲に撒き散らかされた。
(敵味方の判別は、ついている―――のか?)
じり、と二神は後ずさる。この状況は、まずい。中途半端な味方は敵より怖いのだ。

「殺してやる、か……。何が起こったのか知らんが、どうやら正気じゃなさそうだな。……いや、俺に対する言動がじゃない。今の貴様そのものが、だ」

対する黒羽は冷静にその状況を見つめていた。銃声と共に、腕の形のオーラが4発獅子堂の体に放たれ、獅子堂はそれを纏う。

「―――俺は獅子堂 弥陸。『蒼魔の銃王』と呼ぶ者もいる―――」
「―――貴様を殺すモノの名だ」

瞬間移動と見まがうような超高速の移動。おそらくあの状態は、基本状態の二神の戦闘力など軽く超えている。
二神は僅かに舌打ちした。獅子堂のその拳によって、スイーパーとしての仕事が完全に失敗した事を察したからだった。
止める間もなく、『落葉』の破片が地に落ちていく。
あの拳の入り方からして、内臓にもダメージが行ったようだが、二神は知っている。黒羽はこれで終わらない、と。

「──運が良かった──もしそう思っているのだとしたら、とんだ間抜けだぜ」
「貴様は、俺の体のどこに落葉があるか知っていた。にも拘らず、貴様は胸を狙った。何故だ?
 俺を殺すと再三宣告しておきながら、微動だにしなかった俺を仕留め損ねた。何故だ?
 ──分からないならヒントをやろう。貴様が、“さっきまでの貴様じゃねェからさ”──」

圧縮空気の盾を貫いた拳は大分減速していたはずだ。ならば、黒羽はもう次の手を打ってくる。

「引け、獅子堂!体勢を立て直せ!」

しかし、声は届いたとしても遅すぎた。

「──『透鎖強縛(しゅうさごうばく)』──。鎖状にした空気の塊を貴様に巻きつかせ固定した。
 二神とやらが言ってなかったか? 『空気の圧縮で技を作っている』とな。」

(圧縮空気の鎖!今のアイツで壊せないなら、『ブラッディ・アサルト』未発動の今の俺にも破壊出来ない道理!)

この時点で、二神の目標は獅子堂の生還に変更される。任務遂行に失敗したなら、限り無く損失を抑えなければならない。
90二神 歪@代理:2011/09/10(土) 07:24:53.78 0
(だが、黒羽の牽制は、ダミーだ。黒羽は恐らく俺の能力に大方アタリをつけただろう。ならば、牽制攻撃は俺の糧になってしまうことを知っている。)
(俺の能力がバレてからの第二ラウンドは、一撃必殺の戦いになる!相手は俺の能力が発動する前に葬りたい為に、大技を駆使してくる可能性が高い!)
(俺がまずクリアしなければならないのは、どのようにして致命傷未満の攻撃を出させるか、それにつきるッ!)

ならば。二神は自身の左手小指を右手で握り、それを一気に折り曲げた。

「―――ッ!!!!」

苦悶の表情を浮かべながら、さらにそれをねじり切る。生々しい断面から血が噴き出したが、――自傷行為では能力は発動しない。
彼がこんな行動に出たのは、唯一の飛び道具でもある、鎖を切断出来る技の発動の為だった。

「ブラッドレイッ!!!!」

光線と見まがうような、高圧の血液の噴出。
不純物を混ぜて貫通力を高めたその高圧の液体は、地を切り裂き、そして獅子堂の周りの空気を切断することに成功する。
切断光線に巻き込まれないよう、黒羽は数歩飛びのき、その隙にもう数発のブラッドレイを撃ち、獅子堂の束縛を解く。
だが、状況は好転したわけではない。二神のブラッドレイは血量を消費する諸刃の剣である。
それはすなわち、二神の全力戦闘時間が短くなったことを意味している。

「獅子堂、お前にはこいつは任せられない。」

距離をとり、失った小指から血を流しながら、二神は吐き捨てた。流れる血が逆流するように動き、小指部分に赤く薄長い刃を作り出す。

「行くぞ黒羽。第二ラウンドだ」

そしてそのまま間合いを詰め、刃で薙ぎ払う。圧縮空気の盾の間を縫うように、二神は黒羽の隙を探していた。
だが、本当の狙いはその前の血の光線にあった。飛散した血は、隠れていた少女の下まで届いており、
二神はその血を操作したのだ。

『オレをコウゲキしろ』

飛散した血は少女の手前の地面にこのような文字を描いていた。

【二神 歪、獅子堂の束縛をとき、黒羽と戦闘再開。秋雨 凛音にメッセージを送る】
91獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/09/12(月) 21:03:27.77 0
>>87-90
獅子堂の黒い瞳の奥には殺意と狂気の奔流が渦巻いている。だがその意識は現在には無かった。
―――家族を守るべく盾にした身を貫かれ、切り裂かれ、叩き潰され、原形すら留めなかった父親の姿。
「自分はどうなってもいい、子供だけは助けてくれ」と泣き縋り、犯され、揚句に首を捻じ切られた母親の姿。
薪でも炉にくべるかの様に、無造作に炎の中へ放り込まれ、絶叫の果てに炭の塊と化した幼い弟の姿。
そして二丁一対の拳銃から無尽の弾丸を浴びせられて、驚愕の表情のまま絶命した男の眼に映った自身の姿―――
―――消える筈だった命の灯を繋いだのは…名前は分からない。ただ『命脈眼』という言葉だけを覚えている。
その男は助からない重傷を負いながらも、獅子堂 弥陸と岡崎 蓮子の生命と能力を文字通り『繋いで』力尽きてしまった。
それからの数年間、家族の仇を討つべく修業に明け暮れ、数々の任務に身を投じ、死線を潜り抜けてきた。
そして遂に家族の仇の片割れを討つ日がやってきた。雷雨の中の死闘。決着は余りにもあっけなかった。
『忌避屍毒』は獅子堂の放った青い閃光の如き剛腕の一撃でその胸を貫かれ、血飛沫を上げて絶命したのだった―――
92獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/09/12(月) 21:04:27.51 0
―――霧散する緋色の輝きを目にして、獅子堂の意識はようやく現在に戻ってきた。
「──運が良かった──もしそう思っているのだとしたら、とんだ間抜けだぜ」
漆黒の瞳が獅子堂を見据える。そして目の前の盗賊が力強く右腕で獅子堂の腕を掴み、締め上げる。
「貴様は、俺の体のどこに『落葉』があるか知っていた。にも拘らず、貴様は胸を狙った。何故だ?
 俺を殺すと再三宣告しておきながら、微動だにしなかった俺を仕留め損ねた。何故だ?
 ──分からないならヒントをやろう。貴様が、“さっきまでの貴様じゃねェからさ”──」
(お…俺は一体…俺は…)
「かはっ…!」
盗賊の右腕が離れたのと同時に獅子堂は全身を強烈に締め上げる力を感じ、呻き声を上げた。
身動きすらままならない、特に気管と頸動脈を圧迫する力は凄まじく、瞬く間に意識が遠のいていく。
「──こんな無様な男を倒す為に俺はこの四年間を過ごしてきたわけではない……。
 わかるか獅子堂 弥陸──? 俺は……この黒羽 影葉は、貴様を探し続けていた。
 貴様が『忌避屍毒』を──俺の父、『黒羽 幻蔵』を殺したその時からな」
(そうか…こいつは…こいつは…)
復讐の為か、と言いかけたがその言葉を口にする前に、黒羽が言葉を紡ぐ。
「だが、勘違いするな? 俺は別に復讐する為に貴様を探していたわけじゃない。
 ……貴様は奴をゴミと言ったな? ……その通りだ、奴は罵る価値も無い最低のクズだった。
 俺に家の教えを説いておきながら、奴自身は酒と博打に溺れた挙句黒羽家を食い潰し、
 そればかりか己の欲望を満たす為だけに家族を売り飛ばして金に替え、更にそれすらも使い果たすと、
 終いには小銭目当てに殺傷を繰り返すだけの小物に堕落(成り下が)った。
 ──あんな奴は死んで当然だった。奴を殺してくれた貴様には感謝こそすれ、恨みなんぞ微塵も無い。
 だが、それでも俺は貴様を倒さなくてはならない。堕ちたとはいえ、かつての隠密・黒羽家19代目当主を屠った男。
 黒羽家最後の当主として俺がすべきことは──獅子堂 弥陸! “今の貴様”ではない“真の貴様”を倒すことだ!
 俺はそれを、隠密・黒羽家400年の最後を飾る華とする──」
(矜持…誇り…の、為……か…)
意識の外から二神の声が響き、全身の束縛が解かれた。
だが既に脳への血液の循環を阻害され続けた獅子堂の意識は、暗い闇の底へと沈んでいくのみだった。

【獅子堂 弥陸:黒羽の透鎖強縛を受けて意識を失い倒れ伏す】
93黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/09/12(月) 23:01:55.77 0
>>90
「ブラッドレイッ!!!!」
その一声と共に、殺気が放たれたことを感知した黒羽は、咄嗟に背後に向かってジャンプした。
直後に眼前をかすめたのは赤い光線──。いや、恐らくそれは正しい表現ではない。
光線の飛来と共に鼻を突いた強烈な血の臭いが、黒羽にその正体を理解させた。
(火葬場で使った飛び道具──恐らく自らの血液を高圧で飛ばしたもの)

着地した地点から前方を見る。赤い刃を指に形成した二神が、高速で接近してきていた。
「行くぞ黒羽。第二ラウンドだ」
その宣言と同時に息をつく間もなく始まったのは二神お得意の高速肉弾戦。
気を抜けば容赦なく差し向けられる刃をその身に突き立てられてしまうだろう。
ところがそのような状況下にありながらも、黒羽の意識が向かう先は目の前の二神ではなく、
その遥か後方で佇む獅子堂たった一人であった。
“倒すべき敵”──彼がそう認識していたのは、もはや獅子堂一人に絞られていたからである。

「……第二ラウンド……? そうだな……俺と獅子堂 弥陸のな」

背後に向けてバックステップを続けていた黒羽の体が、不意に前方に加速した。
面食らった顔をする二神の横を難なく通り抜けた黒羽は、獅子堂をその攻撃射程におさめた。
「目が醒めたか? さぁ、見せてみろ! 俺の父を屠ったその力をな!」
一度握られ、そして開かれた掌の上に、紅い爆弾が姿を現す。
それは獅子堂 弥陸との第二ラウンドが開始されたことを意味するもの────
そう、黒羽の目論見通りならばそのはずであった。しかし──

「!?」
不意に黒羽の足元から土埃が巻き上がる。彼の体は攻撃する寸前に急停止していた。
自分の体に何かしらの不具合が生じたからではない。異変があったのはむしろ、獅子堂の方であった。
──彼の体が一瞬グラリとよろけたと思えば、次の瞬間には力なく倒れ付したのだ。

「……どうした、起きろ」
出現させた爆弾を放ち、彼の頭近くの地面に大穴を空ける。しかし、無反応。
死んだ? そうではない、呼吸音は感じられる。
ならば油断を誘う為の演技? 恐らくそれも違う。
そんな手を使うような人間ならば、初めの攻撃で既に死んでいただろう。
ということはどういうことか? 答えは一つしかない。正真正銘、彼は今“落ちている”のだ。

戦闘中の気絶という、何とも呆気ない幕切れ──。
この時点で勝者と敗者を分けるとするならば、勝者は黒羽に違いない。
しかし黒羽は、そんな勝利を望んではいなかった。
「……本当に貴様はこの程度だったのか? 悪い冗談だ。……おい、何とか言ってみろ」
倒れ付す彼に近付いた黒羽は、胸倉をつかんで無理矢理に立ち上がらせた。
「俺を殺すんだろう? ならば今すぐ起きろ。それとも俺に殺して欲しいのか?
 ……悪いが俺にそんな趣味は無ェんだ。ほら、目を覚ませよ……何とか言ってみろよスイーパー!」
いくら叫んでも、いくら強く胸倉を掴んでも、答えはいつまで経っても沈黙。
気抜けしたように、胸倉を掴む黒羽の手から力が抜かれるまで、そう時間はかからなかった。
94黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/09/12(月) 23:06:11.68 0
バタリと、再び地面に落ちる獅子堂を見下ろして、黒羽は腕を震わせた。
(こんな奴に……こんな奴に……! こんな奴に殺される男が、俺の父だったのか……!
 こんな奴を俺はこの四年間、追い続けていたのか……! ……正に、悪い冗談だ……)

「フッ、フフフフ……」
気付けば自嘲気味に笑い始めていた。
──情けない。獅子堂を誘き出そうと、敢えて窃盗を繰り返していた自分が。
彼を隠密・黒羽家の最後を飾る華にすると、勝手に決め込み意気込んでいた自分が。

獅子堂が倒れ付すその横で、ひたすら笑い続ける──
その様子を半ば唖然と見続けていた二神に、黒羽はふと視線を向けると、一つの溜息の後にこう切り出した。
「……おい、ヤクザの組長に伝えておいてくれ。宝石をぶっ壊しちまってすまなかった、とな。
 俺は行く……。もう貴様にも、この男にも興味は無いんでな。
 それでも俺を追いたきゃ好きにしろ。まだ捕まるわけにはいかないんでな、気は進まねェが相手になってやるぜ」

背を向けて去っていく黒羽に、先程にはなかった哀愁が漂っていたのは気のせいではないだろう。
戦闘意欲を失った彼の姿に、果たして二神が何を思うか。
仕留める絶好のチャンスと思うか、それとも一先ず戦闘を無事に終わらせる機会と見るか、それは彼次第である。
ただ、獅子堂が倒れ黒羽が去っていくこの光景は、確かに一つの闘いが終わったことを印象付けるものに違いなかった。

闘いが終わるならば、またいつか始まる時がある。それは道理だ。
といえども、まさかこの直後に──それも黒羽との闘いに参加していなかった者の手によって、
新たな闘いの火蓋が気って落とされることになるとは──果たして誰が予想していただろうか。

「──」
これまでとは全く別の方向からの殺気。
そして、それが放たれた瞬間に眼前を横切った『白い小型の円盤』が、黒羽の目つきを再び鋭いものへと変えさせた。

「はっはっは、どこでコソコソしてんのかと思ったらよォ〜、案外派手にドンパチやらかしてんじゃねぇのよ。
 お陰で見つけるのが簡単だったぜぇ、なぁ? ──落葉泥棒サン」

声の方向を見ると、そこには草木を掻き分けて二神との間の空間に文字通り割って入る、
紺色の修道服のようなものをラフに着こなした金髪の若い男がいた。
増援のスイーパーだろうか? それは判らない。だが、雰囲気からして“一般人”ではなさそうである。
そしてもう一つ確かなのは、さっきの謎の円盤──
正体が何なのかは解らないが、少なくともそれを飛ばしたのはその金髪ではないということ。
何故ならば、金髪が現れた場所と円盤が飛んできた方向が、全く一致しなかったからである。
(?)
ふと円盤が飛んできた方向を見ると、そこにはまたも修道服を着た、ピンク色の髪をした女の子。
彼女からは異能者のような雰囲気は感じない……が、これまた妙な雰囲気を持っている。
黒羽をじっと見つめる目には感情が感じられなく、男のように口を開こうとする気配もない。
俗な言い方をすればどこか“ロボットのよう”であった。
(……なんだ、こいつら……)

【黒羽 影葉:二神らとの戦闘を中断。去ろうとするが、謎の男女の登場により足を止める】
95御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/09/13(火) 02:02:30.93 0
結論から言うと、篠の出る幕はなかった。

黒羽は二対一の状況でずっと戦っていた。黒羽の能力を全部知るわけではないが、あの二人を相手によく頑張った、といったところだろう。
対する獅子堂と二神も、二人という数での有利をうまく生かせず、黒羽を攻め切れなかった。
結果、獅子堂の気絶による黒羽の戦意喪失という、何とも言えない幕切れになったのである。

その時、ポケットの通信機が振動した。
闘いの様子を木の上から見ていた篠は、一つ嘆息すると、ポケットから通信機を取り出す。

「どうしたの?」
『現在の状況はどうなっていますか?』
「そうね、戦闘は終了。泥棒さんも戦意喪失しているわ。私は何もしてないけど」
『何もしてない?戦闘には参加していなかったのですか?』
「ええ。私の出る幕はなかったみたいね」
『それは喜ばしいことです。それで、落葉はどのように?』
「こっちは少しつまらないわよ……。それと落葉なら砕けたわ、粉々に」
『砕けた、ですか……。大丈夫なのですか?』
「あら、私の能力を忘れたの?それと私が今いる場所も」
『──そうでしたね。失礼致しました』
「別に誤ることはないわ。ただちょっと問題はあるけど、ね」
『問題、と言いますと?』
「私が今『ブラッディ・マリー』なの忘れた?このまま出て行って落葉をどうこうするのはちょっとまずいわよ」
『確かに……。どうされるおつもりで?』
「このまま出て行って無理やり破片だけ集めていくことも出来るけど……。あまり上策じゃないわね。
 ま、安全に事を運ぶならこのまま皆帰るのを待って破片を回収、復元ってところね。吼一郎さんに渡すのは明日以降になるかしら」
『了解しました。いつ頃お戻りになられますか?』
「それはちょっと分からないわね。皆が帰るまでいなきゃいけないわけだし。貴女達は寝ててもいいわよ」
『そのように言われて、私が何とお答えするか分かっておいででしょう?』
「はいはい。暖かい紅茶でも用意しておいて頂戴」
『かしこまりました』

通信を切り、ポケットにしまう。そして視線を三人に戻す。
「……おい、ヤクザの組長に伝えておいてくれ。宝石をぶっ壊しちまってすまなかった、とな。
 俺は行く……。もう貴様にも、この男にも興味は無いんでな。
 それでも俺を追いたきゃ好きにしろ。まだ捕まるわけにはいかないんでな、気は進まねェが相手になってやるぜ」
黒羽は二人──内一人は気絶しているが──に背を向けてその場から去ろうとしていた。二神もまだ動かない。

(このまま皆帰って行きそうね。そしたら落葉の破片を回収して任務完了ってところかしら)
特に障害もなく、スムーズにことが運べるだろう──篠はそう考えていた。しかし──その考えはすぐに崩れ去った。

「はっはっは、どこでコソコソしてんのかと思ったらよォ〜、案外派手にドンパチやらかしてんじゃねぇのよ。
 お陰で見つけるのが簡単だったぜぇ、なぁ? ──落葉泥棒サン」

黒羽の眼前を通り過ぎて行った白い円盤のような物体。それと同時に聞こえる第三者の声。
篠はまず最初に円盤が飛んできた方向を見た。そこには修道服のようなものを着た、桃色の髪の少女。
その顔には感情らしいものは浮かんでおらず、宛ら機械のように冷たい瞳だった。

次に声のした方を確認する。そちらには、これまた修道服のようなものを着た金髪の男。
(あの二人、何者かしら。少なくともスイーパーではないわね。ここに来た目的は何かしら。
 それに黒羽君だけに攻撃した理由もわからないし……)

そこまで考えて、ふと思いついたことがあった。
(もしかして……"ここから去ろうとした"黒羽君を攻撃した?だとしたら、彼らの目的は黒羽君達をここに留めること……。
 即ち、"ここから逃がさないようにすること"。そこから導き出される結論は──多すぎて絞れないわ。
 とにかく、目的が分からない以上、最低限の警戒はしておいた方がいいわね。私がいることがバレてるかどうかまだ分からないし)

【御影 篠:引き続き樹の上で待機】
96紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/09/13(火) 17:41:53.34 0
>>82

遠くで騒がしく人の行き交う音が響く。
応龍会が厳重に保管していた『落葉』、それを巡る騒動の処理と先の侵入者の事件の処理で応龍会は慌しく活動していた。
その音を耳で捕らえながらも閃莉の視線は目の前に広がっている光景へと向けられていた。

「この庭は昔から変わらず美しいな……」

小さな石が敷き詰められた平地に点々と存在する大きな石。枯山水と呼ばれる日本庭園の様式の一つである。
その美しき石の庭を眺めながら、閃莉と吼一郎は長い木造の廊下を歩いていた。

「そうだな……昔から何一つ変わらねえのはここだけかもしれねえ……」

意味深に呟く吼一郎。
閃莉が小さい頃から見ていた背中も今の彼女の目にはどこか小さく映っていた。

「吼一郎殿――」

閃莉は唐突に彼の名を呼んだ。
吼一郎は歩くのを止め、小さく肩を竦ませると閃莉の方へとその身を反転させた。

「……分かっている、俺の知っている事を全て話そう――」

今、この場に在るのは静寂。
風すら吹かない夜に、二人は敵対しているかのように対立していた。
しかし、不意にその静寂は終わりを告げた。

──ガタン。

その音は天井に響く足音。
閃莉と吼一郎は言わずとも、何が起こったのかを理解していた。
――新たなる侵入者である。

「まだネズミが居やがったか……チッ、責任は俺が取ろう――」

その言葉と同時、周囲の空気が突然ビリビリと震え始め、一瞬にして天井が軋み、崩れ落ちる。
そしてそこから小柄な男が二人の前に飛来した。

「……暴重眼」

暴重眼。その名の通り重力を操る力。
スイーパーではないため公式な記録は残されていないが、龍神 吼一郎もまた邪気眼使いである。
当時を知る者や応龍会の面々からは『暴龍』の名で畏怖され、また尊敬されている。

吼一郎は態勢を崩して倒れている男の前に立ち、その首を片手で掴むと一気に持ち上げた。
男はジタバタともがき抵抗しているが、それを掴む吼一郎の腕はビクともしていない。

「盗賊……侵入者……そしててめぇ……今の俺は心底穏やかじゃねぇんだ」

その声色から、閃莉と話していたような雰囲気はなくただ、強大な殺気だけが彼を包んでいた
そして大きく息を吸い込み、射殺すように男を睨むと爆音の如き声で叫んだ。

「どう落とし前つけてくれんだ!? アァッ!?」

その怒号で大気が大きく震え、木々で休んでいた鳥達が一斉に飛び立った。
閃莉もまた、強大な異能者を前に恐怖していた――

【紅峰 閃莉:龍神 吼一郎と共に雁 九十郎と接触。吼一郎が九十郎を捕らえる】
97 ◆ICEMANvW8c :2011/09/14(水) 02:46:01.81 0
>>96
さぁ、どうする? この絶体絶命のピンチを、どうやって切り抜ける?
攻撃を仕掛けてみるか? いやダメだ。幸いにも九十郎の存在に気がついているのは二人だけ。
下手に騒ぎを大きくしては更に絶望的な状況になりかねない。

かといって、このままなすがままに引きずり出されるのも賢明とは言えない。
最悪の事態の中で最善の結果を残すには、とにもかくにも相手に主導権を渡さないことが肝要なのだ。
(……やーれやれ、仕方ねぇなぁ)
従ってここは一か八か──自ら彼らの前に姿を現し、まず自分のペースに持ち込もう。
そしてこちらが観念したと思い込んでいる二人の隙を見て逃げ出そう。
九十郎はそんな皮算用を描きながら、静かに天井板に手をかけた。しかし──

「!?」
その瞬間、不意に体を襲った圧し掛かるような重みに、九十郎は再び体のバランスを崩した。
「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
バキバキと薄い板をぶち抜く音──そして、ドスンという音と共に腰に響いた衝撃。
……彼が我に返った時、既に彼の体は天井を突き抜けて、部屋の畳に沈み込んでいた。
「あたたたた……! い、一体何が……って、おわぁ!?」
重苦しい感覚から一転、今度は体が浮かぶような感覚に、九十郎は何を考える間もなくすっとんきょうな声をあげた。
だがすぐに何が起こったかを理解し、口を噤んだ。
彼の体は浮かんだのではない、和服を着た大柄な男──龍神 吼一郎に首を掴まれ持ち上げられていたのだ。
(このオヤジ……さては異能者か! いきなり実力行使とか誤算だったぜ! 駆け引きもクソもねぇ!)

「盗賊……侵入者……そしててめぇ……今の俺は心底穏やかじゃねぇんだ」
「あ、あはは、そりゃあそうでしょうなぁ……って! ぐぇぇぇぇぇえ! ちょっと放してくれ!」
「どう落とし前つけてくれんだ!? アァッ!?」

呼吸ができない苦しみに足をばたつかせてもがく九十郎など気にすることもなく、龍神は怒号を響かせた。
こうなっては彼が納得するようなことを言わない限り放してもらえないだろう。
「くく、苦しい……! わぁーった、わぁーったよ! 俺の事を話してやるからとにかく放しやがれ!!」
その一声を聞いて、ふと掴む力を緩んだのを感じた九十郎は、
彼の腕を振り払って畳の上に着地し、素早く後方に数メートル後ずさった。
直後にズイっと一歩前に出る龍神。それはあたかも「早く話せ、さもないと」と脅しているかのようだった。

「ゴホッゲホッ! ……ったく、短気なオッサンだぜ。年寄りは気が長ェって相場が決まってんのによォ。
 ……しゃーねぇ、話してやるよ。俺の名は『雁 九十郎』。『エンジェル』っつー組織に所属してる密偵だ」
98 ◆ICEMANvW8c :2011/09/14(水) 02:54:18.41 0
──『エンジェル』。それは近年、厨弐市で結成された新興宗教団体の名である。
もし、龍神と紅峰の二人がスイーパーであったら、この時、果たしてどんな顔をしただろうか?
というのもこの組織、入信した者は誰でも『神の遣い』・世に幸福を齎す存在になれることを謳い、
厨弐市を中心に急速に信者数を伸ばしていることで知られているのだが、
一方でISSの中では、一部のスイーパーを中心に、彼らが信者を増やし続ける背景には
『異能』が絡んでいるのではないか、という認識が広がりつつあることで知られていたのである。

「任務はあんたが持ってるっつー噂の宝石を手に入れ、俺のボスに渡すこと。あ、理由は知らねーよ。
 情報を盗むのが俺の仕事なんだが、今回は物を盗むってんでちょっとばかし調子が狂っちまったぜ。
 一足先に盗られるわ、あんたらには見つかっちまうわでなァ……。……そんな怒った顔すんなってば。
 ヤクザ(あんたら)だってヤバイ事やってんだろ? お互い様じゃねぇの。まぁ、大目に見てくんなって」

追い詰められた人間の所業とは思えないヘラヘラとした態度を見せ付けられて、
若干ながら龍神はその眉を吊りあげたようだった。
それを見た九十郎は、一転して表情を硬化させると、やがてふぅと大きな溜息をついた。

「やれやれ、許してくれねぇってか? ……そらねぇぜ組長サンよぉ。
 ──こっちは秘密を知ったあんたらの口を封じないで済まそうってんだから──」

──不意に九十郎の目つきが変わり、右掌が二人に向けられた。
掌に在るのは真っ白な瞳に透明な強膜を持つ『眼』。──邪気眼──いや、邪気眼とは少し様子が違う。
透けて見える眼球内部には無数の配線とコンピュータのチップのようなものが埋め込まれているのだ。

「光れ『光輪眼(こうりんがん)』!! そして放て!! 『エンジェル・ハイロウ』ッ!!」

九十郎が力強く唱えたその瞬間、邸内にある全ての灯りが一斉に点滅を始めた。
電気系統に異常が発生したのか? それとも、偶然にも一斉に電球に寿命がきたのだろうか?

──そうではない。これは九十郎の持つ謎の邪気眼が、邸内の光を全て吸収しているのだ。
そして掌の先に次第に形作られた“光の輪”──それこそが彼が『エンジェル・ハイロウ』と呼ぶモノ。
その正体は邸内にある全ての光とそれが持つ熱をリング状に集束した光線(カッター)。

「ハハハハハ! 俺には何の力もねェと油断してたかァ!? 残念だったなァ!!
 俺はこの隙にとんずらさせてもらうぜぇ!!」

光のリングが二人に向かった。

──この時、知る者はまだ誰もいなかった。
これから数十分後、応龍会邸宅から1kmほど西に離れた場所にて、
九十郎が放ったリングと全く同質のモノが、闇夜に舞うということを──。

【雁 九十郎:機械仕掛けの謎の邪気眼を発動させ、『エンジェル・ハイロウ』という光のカッターを繰り出す】
99獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/09/14(水) 22:13:36.69 0
>>93-94
「―――弥陸」
意識の底から静かに響いてくる聞き覚えのある声。獅子堂が瞼を開くと目の前には岡崎 蓮子の姿があった。
「なんとか踏み止まった…ギリギリだったね。前にも教えた筈だよ。心の底に潜む闇は人によって違うと。アンタの場合は―――」
「―――狂気、でしたね…自覚はしていますよ。自律が利かなくなるのが困りものだ」
自嘲気味に苦笑いしながら周囲を見渡す。立つ場所はひび割れた氷河のような白い浮島。
それらを包み込みながら時折波打つ漆黒の闇。そして仄暗く明滅しながら宙を漂う白銀の微粒子。
岡崎の異能―――その名を『闇照眼(あんしょうがん)』という―――によって作られた精神世界に今、2人の意識はあるのだ。
「貴女に初めて会った時も此処でしたね、蓮子さん」
「…私たちの命と異能が『繋がった』時だね。忘れもしないよ、あの馬鹿がアンタに最期に掛けた言葉を―――」
一瞬の静寂。その直後、2人は同時に、同じ言葉を吐いた。
「「―――復讐したいか? 命をやるから、自分でやりな―――」」
その言葉が獅子堂の、スイーパーとしてのスタートラインだった。
家族を惨殺した異能犯罪者への絶対にして完全なる報復。それだけの為に獅子堂は生きてきたのだ。
「復讐しようが家族は還ってこない。そんな事は百も承知でした…いや、大切な人を取り戻せると思っている復讐者なんて1人もいないでしょう。
 それでも…俺は唯々、奴が誰かを傷付けることが、生きていることが、その存在自体が赦せなかった…」
「………」
100獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/09/14(水) 22:15:02.37 0
モノクロームの心象風景。その浮島に獅子堂は力なく座り込んだ。
岡崎はうな垂れるその姿をどこか悲しげに見つめていた。
「奴を殺して、それでも戦いは終わらなくて…そして今日、出会った。奴の息子に…」
「…そして自分が何のために戦っているのか、生きているのか分からなくなった…いや、目を背けていたモノを眼前に突き付けられたんだね」
そこにあるのは百戦錬磨にして冷酷非情、絶対応報の代行者たる『蒼魔の銃王』の姿ではなかった。
自身の存在意義を問う、物憂げな只の青年の姿だった。
「人はこの世に生を受け、生きる意味を知ろうとする―――私は全てを見通すこの『闇照眼』を永遠に受け継がせる為に生きる。
 弥陸、悪滅もいいだろう。私からいずれ完全に『闇照眼』を受け継いだ後にどう生きるもアンタの自由さ―――!?」
突然、驚愕の表情と共に岡崎の言葉が止まる。その視線は闇の彼方へと向けられている。
「…やはり来たか…」
「弥陸!?」
「退いて下さい、蓮子さん…アレは…俺の問題ですから…」
立ち上がった獅子堂が見据えるモノ。それは紫の炎に包まれた魔銃『パーフェクト・ジェミニ』だった。
そして自身の手の甲の邪気眼を見つめる。その色は暗い蒼ではない、全てを飲み込む様な禍々しい紫だった―――

【獅子堂 弥陸:気絶中、精神世界にて自身の邪気眼の異変に気付く】
101秋雨 凛音@代理:2011/09/15(木) 07:58:31.97 0
凛音が大木の陰で窺う中、戦況はハイスピードで変化していった。
一進一退の攻防を凛音はただ見ていることしか出来なかった。
(……どうしよう。私の目的はライセンスを手掛かりに父さんを探すこと。
 だから、スイーパーにさえ出会えればここにこだわる必要はないんだけど)
しかし、凛音は何故かここを離れる気にはならなかった。
スイーパーの男とフードの赤い人がどうにも気になるのもあるだろう。
(それに邪気眼が……というか邪気眼を通して『餓獣』達がなんだかざわついてるし。
 うーん、近くに誰か居るのかな?)



そして状況は急展開を迎えていた。
メッセージを受け取った凛音が用意した攻撃の準備が無駄になり、盗賊がこの場を離れようとした時だった。
謎の円盤が盗賊の目の前を横切り、そのまま虚空へと消えた。

「はっはっは、どこでコソコソしてんのかと思ったらよォ〜、案外派手にドンパチやらかしてんじゃねぇのよ。
 お陰で見つけるのが簡単だったぜぇ、なぁ? ──落葉泥棒サン」

円盤の発射された方向とは別の位置に金髪で修道服の男が立っていた。
凛音は新たにISSから送りこまれたスイーパーかと思ったが、それが合っている自信は無かった。
そしてもう一人、円盤の発射されたであろう位置には桜色の髪に男性と同じく修道服を来た女性だった。
その表情は酷く無機質で、まるで作り物のようだった。

(男の人が言ってる『落葉』が、ダイヤのことならやっぱりあの人はスイーパー?
 ……そろそろ離れないと危ないかな)
今更な後悔をしつつも、凛音は倒れたスイーパーを含めて五人の様子を見続けることにした。

【秋雨 凛音:大木の木陰で隠れつつ待機。頭痛と疼きは治まった】
102秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/09/15(木) 18:41:20.12 0
>>94
「獅子堂さんの様子が変わったり、黒羽先輩の持ってる『落葉』を獅子堂さんが壊したり、まぁ色々あったが…
勧誘する暇がないな…。クラスメイトのよしみで黒羽先輩くらいは誘っておきたいんだけど」
戦闘の様子を流れ弾なんかに気をつけながら確認し、勧誘のタイミングを測る秘社
「……おい、ヤクザの組長に伝えておいてくれ。宝石をぶっ壊しちまってすまなかった、とな。
 俺は行く……。もう貴様にも、この男にも興味は無いんでな。
 それでも俺を追いたきゃ好きにしろ。まだ捕まるわけにはいかないんでな、気は進まねェが相手になってやるぜ」
そんな台詞を吐き、自嘲気味に去っていこうとする黒羽。その姿には哀愁が漂っている
「む、勧誘するチャンスか? いや、いくら私が卑怯を信条とするとはいえ空気ぐらいは読んだほうがいいな」
その黒羽を追おうとして、思いとどまる秘社
「まぁ、様子を見ながら勧誘を…」
と、そのとき、前方を白い円盤が横切った
「はっはっは、どこでコソコソしてんのかと思ったらよォ〜、案外派手にドンパチやらかしてんじゃねぇのよ。
 お陰で見つけるのが簡単だったぜぇ、なぁ? ──落葉泥棒サン」
金髪の若い男と桃髪の修道女が黒羽の前に現れた。…というかピンク色の髪の人間なんて現実じゃめったに見ないよな
(なんだ、この人達…。服装的に何かの宗教の信者のように見えるが…。ピンクの方からは生気を感じられないな…ロボット、みたいな…
さっきの円盤といい、宗教っぽい人物といい…もしかして『エンジェル』か?)
秘密結社『秘境』の耳は早い。既に『エンジェル』の存在は知っているのだ
(とりあえず様子を見よう。で、敵だったなら不意討って闇討とう)
二人の様子を窺う秘社
【秘社境介:男女の出方を窺っている】
103二神 歪@代理:2011/09/15(木) 20:12:48.87 0
>>91-92,>>93-94,>>95

おかしい。黒羽の意識は、こちらに向いていない。
戦闘の中で、二神はそれを感じ取る。無論、二神の意識も一部は黒羽では無く、身体強化能力『ブラッディ・アサルト』を発動する為の
『味方からの攻撃』の方に向いていたのだが、……一撃でも『入れてしまえ』ば相手の身体能力を追い抜いていくこの能力を前に、
意識が散漫ということはあり得ない。

そして、彼は一つの結論に達する。獅子堂と黒羽、この二人は互いに互いを縛っているのだ。
獅子堂は黒羽を、黒羽は獅子堂を狙わずにはいられないほどの、それほどの因縁。
でなければ、あの冷静な黒羽や獅子堂がここまで取り乱すことなど無かっただろう。
そして、黒羽がスイーパーを誘き出すように盗みを働き、潜伏した理由も、獅子堂にあるのだ。

(因縁――因縁か。)

その言葉を噛み締める。
親友が死んだあの日、二神は親友を助けることは出来なかった。
二神は通り魔に襲われた時、友を見捨てて逃げ出した。
それすらも失敗し、無様に下肢を切断され、高笑いを残して通り魔が去ったあと。
俺は―――――アイツの血を飲んだのだ。

今となっては、自分が何を思ってそんな行動に出たのか解らない。
助かりたい一心で?迷信を信じて友の心を残す為?解らないが、結果として、彼は助かった。
『直系の邪気眼使い』であった親友の血を飲んだことで、新たな邪気眼、『血傷眼』を発動して。
「この邪気眼は何の能力も無いんだよ」、と苦笑しながら言っていた友の言葉を思い出す。
事実、スイーパー業にもつかず、異能犯罪者も輩出しなかった彼の家系は『眼』があるだけで、平穏そのものだった。

だが、二神は思うのだ。その、彼の邪気眼には隠された能力があったのではないか、と。
恨んだもの、憎んだものに取り憑き、『邪気眼』という形で、消えない呪いを与えるような。
誰かの中で生き続け、一生の咎を背負わせるような呪いを与える能力があったのではないか、と。

ならば自分は咎に答えなければ。友のような犠牲者を出さない為にも。
呪われたのは通り魔ではなく自分なのだ。いつか許されるその日まで、許してもらえるその日まで。

自傷行為にも似た、二神の自責の思考回路は、そのように考えていた。
フラッシュバックした過去に、一瞬時間が停滞するような感覚を覚えた。
104二神 歪@代理:2011/09/15(木) 20:14:00.19 0
「……第二ラウンド……? そうだな……俺と獅子堂 弥陸のな」

しまった、そう思うより早く。黒羽がこちらの懐に飛び込んでくる。全くの予想外の行動に、二神の反応は遅れていた。
獅子堂の方へ黒羽を行かせてしまう。即座に地を蹴り反転して黒羽を追うが、黒羽もまた、様子がおかしい。
倒れ伏した獅子堂に、罵倒を浴びせ、
―――まるで相手にして貰えなかった子供のように、夢の潰えた青年のように、家族を亡くした初老のように―――
濃密な怒りと絶望の感情をのせた叫びがこだまする。


狙えば、決まっていたかもしれない。二神は彼を攻撃する事も出来た。
だが、目の前の黒羽は『危険では無い』と、感覚が告げていた事が、二神に隙を作っていた。
笑い続ける黒羽が、ふと二神に話しかける。

「……おい、ヤクザの組長に伝えておいてくれ。宝石をぶっ壊しちまってすまなかった、とな。
 俺は行く……。もう貴様にも、この男にも興味は無いんでな。
 それでも俺を追いたきゃ好きにしろ。まだ捕まるわけにはいかないんでな、気は進まねェが相手になってやるぜ」

追いかけよう、と体が動いたが、結局足を止めた。相手は負傷している。仕留めるには絶好のチャンスだ。
だが、今の二神は『保障』を失っている。体内の輸血パックという奥の手は失われており、獅子堂もいつ起きるか解らない状況だ。
死ぬのが怖い訳では無い。親友の変わり身である『血傷眼』の宿る体を壊す訳には行かないのだ。
それは、彼の『ルール』だ。許されるまで、死を賭ける事は出来ない。決して。

「――――落葉を無傷で奪還出来なかった…これで俺の『任務』は失敗だ、好きにしろ。だが、どのみちお前は俺が捕まえる。」

最初に一人で仕留めそこなった俺の責任でもある…その事実を噛み締めて、黒羽に宣言した。


その時である。急に空間の質が変わった。先程までの一種弛緩した空気から、じわじわと不快な、戦いの切欠の空気へと。

「はっはっは、どこでコソコソしてんのかと思ったらよォ〜、案外派手にドンパチやらかしてんじゃねぇのよ。
 お陰で見つけるのが簡単だったぜぇ、なぁ? ──落葉泥棒サン」

「誰だ。――お前達、所属のスイーパーか?」

増援というなら解る。だが、ならば何故先程に加勢しなかったのか。
手柄を求めるスイーパーは多くいるが、その類かもしれない。

(待て。もしかして、――――)

彼は両の目を閉じ、他の感覚器官を最大限に活動させて周囲の様子を探る。
小指の怪我程度では通常時と比べてもそれほど感覚は研ぎ澄まされてはいないが、今確認している以外にもう一つ、気配を察知する。
つまり、彼等は3人組かも知れないということだ。

二神は警戒しつつ、獅子堂の方へ向かい、意識の回復を図る。

【二神 歪、男女の二人組みに問いかけ、周囲を警戒しつつ獅子堂を介抱しようとする。御影の存在はうっすらと気づいたが、場所は解らない。】
105黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/09/16(金) 00:32:53.92 0
>>95>>99>>100>>101>>102>>103>>104
二人組みの闖入者。スイーパー? それとも犯罪者? あるいは通りがかりか?
そんな黒羽の疑問を代弁するように言ったのは、二神であった。
「誰だ。――お前達、所属のスイーパーか?」
それに対し、まずキョトンとし、続いて大きく笑い出したのは金髪。
「カカカカ! 流石はスイーパーだねぇ、クソ下らねぇ冗談を言うのが上手いときたもんだ!
 俺らをスイーパーなんぞと一緒にすんじゃねぇよォ! もっと高貴な存在──そう! エンジェルさァ!」

エンジェル──それを聞いて、これまでやり取りを呆然と静観していた黒羽は、眉をピクリと動かした。
彼も分類上は異能犯罪者、しかも裏世界の情報に通じた盗賊である。
スイーパーから評判の悪い組織というのは自然と耳に入ってくるのだ。
(エンジェル、だと? あの怪しげな宗教団体のか? ……なるほど、だから妙な格好をしているのか)

ザシャ。横から聞こえてきた小さな足音。
金髪から目を外しピンク髪の女を見ると、彼女が一歩だけ近付いてきていた。
攻撃の意思があるのか、それともそうでないのか、相変わらず何も読めない眼をしている。
「──『茜(あかね)ェ』ッ!!」
金髪の大声。茜──それが名前なのだろうか、途端に少女がビクリと体を震わせた。
「俺ァ命令してねェぞ! 勝手に動くんじゃねェよスカタン!」
茜と呼ばれた少女に表情はない。が、動くなという言葉を守っているのだろう、その足はピタリと止まっていた。
金髪はそんな彼女をひと睨みすると、ペッとつばを吐き捨てて、黒羽を見やった。

「ったく、これだからオツムが弱い奴ァ……。おっと、ンなこたァどうでもいいんだ。
 そこの長髪、あんたが落葉を盗んだってこたァ調べがついてる。俺の目的はそれさァ。
 痛い目見ない内にとっとと渡すんだな。あんたも異能者のようだが、その腕じゃ満足に闘えねェだろ?」
彼は手を差し出し、ふてぶてしいばかりの表情で得意気に言った。
確かに負傷し体力は半減している。戦闘は避けられるものなら避けた方がいいだろう。
とはいえ、先程までの黒羽であったら敢えて闘いを挑んでいたに違いない。
しかし、落葉そのものを失い、闘う理由を無くした今の黒羽が、その気になることはなかった。

「欲しけりゃ勝手に持っていけ。貴様の足元にあるのがそれだ」
「あん? ……テメェ、舐めてんのか? 俺が欲しいって言ってんのは宝石だと──」
足元に積もった、ただの灰を見て激昂する金髪。
これまでの経緯を知らなければ確かに馬鹿にしているようにしか聞こえないだろう。
やれやれと、一つ大げさに溜息を吐いた黒羽は、事情を説明しようと口を開いた。

「──スカタンはお前だ『餓鬼野』。その長髪が言っていることは間違いじゃない。
 この場に来るのが遅れたお前が何も知らないだけだ」
しかし、それより先に会話に割り込んできた声が、黒羽の口を再び閉じさせた。
透き通るような声──これは女に違いない。
確かめるように視線を向ければ、今度は二神の後ろから、同じような修道服を着た少女が現れていた。
同じよう、といっても、服はやけに丈が短くスリット入りで、他の二人とはまた別物のスタイル。
だが、それよりも特徴的だったのは、ピンク色のツインテールを頭に乗せたその顔である。
(……こいつ……いや、こいつら……)

「……『明(あかり)』ィ……」
彼女を睨みつけて呻る様に言う金髪。
黒羽は明と呼ばれたその少女と先程の茜という少女を交互に見やった。
髪型や格好も違えば、態度や物腰もまるで違うが、その顔は全く同じ──。
そう、恐らく彼女らは双子なのだろう。
106黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/09/16(金) 00:57:47.96 0
「私は見たんだ。そこに倒れてる奴が、その長髪が持ってた落葉を粉々にしたのをね」
「……へっ。流石、優等生は違うねェ。“足りない力”は行動力でカバーするってかァ?」
「……調子に乗るなよ、餓鬼野……。脳の足りないお前にだけは言われたくないんだ」
「おお、怖い怖い。力がねェと余裕までなくなっちまうのかい。こうはなりたくねェなァ、アハハハハ!」

互いに嫌味や皮肉を言い合うその様子を静観しながら、黒羽は一つの疑問を感じていた。
落葉──応龍会から盗み出したあの宝石。そんなに多くの人間に狙われるものなのか?
確かに時下数億の値打ちがあるのは知っていたが、それだけで怪しい宗教団体にまで狙われるものだろうか?
単純に金が欲しければ信者から巻き上げた方が安全で確実なはずだし、
足がつくことなど度外視で手っ取り早く現金を望むならば、適当な銀行を襲った方が効率がいいはずだ。
(……それとも、落葉には他に何か秘密が……?)

思考の迷路に迷い始めた黒羽を我に返させたのは、明という名の少女の言葉だった。
「とにかく、だ──この破片は回収する。“あのお方”の『神樹眼』を持ってすれば、再生は容易い。
 ……行くよ、茜」
二神の横を抜け、餓鬼野と呼ばれた金髪の足元に積もる灰を掴み取った少女明は、
もう一人の少女茜を見やって、くるりと踵を返した。それに伴って茜もテクテクと足を進めついていく。
しかし、残った闖入者の内、餓鬼野ただ一人だけは、黒羽と二神を見据えたまま動かなかった。

「おい、明ィ……お前はこいつらが異能者だってのは知ってるんだろう? いいのかァ、無視してよォ?
 ここにはこいつらが残した“情報”が沢山残ってるじゃねェか。あの人の望みの一つを叶えるチャンスだろう?」
ふと足を止めた明は、ゆっくりと彼の方へ振り返った。
「だから、“それ”は既に私が回収した。
 ……お前が言いたいのはそれじゃなく、単に“後始末”をさせろと言いたいだけなんだろう?」
餓鬼野は答えない。だが、彼女の言ったことを肯定するかのように、口元はニィっと笑っていた。
「……フン、野蛮人が。好きにしなよ。だけど、私らは手を貸さないよ」
その言葉を残して、再び足を進めた明が、茜と共に森の中へ消えていく。
──それを横目で眺めていた餓鬼野は、次第に歪めていた口から笑い声を漏らし始めた。

「ククク、何言ってやがる。そんなの当たり前じゃねェか。
 俺ァなァ……テメェら“もどき”の力を借りようとはハナから思ってねぇんだよォ!」

(──)
空気が変わった。
元々、男からは普通ではない雰囲気があったが、今、男の体を取り巻いているのは尋常ではない殺気。
その殺気は明らかに黒羽と二神に、そして木陰にいた秋雨にも向けられていた。
「何だかんだ言って、結局初めから闘(や)る気だったのかい。いちいち面倒な野郎だ」
言いながら、低く体を構えた黒羽は、ふと二神を見やった。
「俺の足を引っ張るなよ」──そう言うつもりだったのだ。
しかし、戦闘前のそんなやり取りをする間など、黒羽には与えられていなかった。

「いいのかァ!? 余所見しててよォ!! こっちは準備万端なんだぜェ!!」

その叫びと共に向けられた左手に在るのは、機械の『眼』──。
そして放たれたのは、大小無数の『小型の円盤』──いや、これは光の『リング』か。
(──邪気眼、それも機械の──! これは──まさか『人工邪気眼』!)

「ハハハハハハ! くらいやがれェェエ!! 『エンジェル・ハイロウ』ォオオオオオオ!!」

【黒羽 影葉:エンジェルの一人、『餓鬼野』と戦闘突入。】
【無数のエンジェル・ハイロウが黒羽、二神、秋雨、そして近くに居た秘社、御影に向かう】
107獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/09/17(土) 17:38:11.46 0
>>99-100 >>105-106
白と黒の精神世界に現れた、紫の炎を纏った魔銃。それは微かに上下に揺れ動きながら、獅子堂へ向かってゆっくり近付いてくる。
「久しいな『パーフェクト・ジェミニ』よ」
『…先程の有様、いささか失望しかけた…だが貴様は殻を破った。遂に我等の主と成るべき者へと、その魂を昇華せしめた…』
「仇の息子に教えられるってのも皮肉なもんだがな」
『それだけではあるまい? つい先程までの迷いが一瞬で消え去った…何故だ』
「…蓮子さんの言葉さ」
獅子堂は岡崎へと視線を向けた。その目には一片の迷いも無く、清らかに澄んだ光が宿っている。
「『闇照眼』を永遠に受け継がせる…俺は受け継ぐ者だ。そして受け継いだものは更にその先へと進ませねばならない。
 …お前も受け継がれてきたんだろ? お前の主に相応しい者に成って、いずれその先へと進ませてやるさ」
口調はあくまでも穏やかで、しかし凛とした決意を持って獅子堂は言葉を紡ぐ。
その様子を間近にする岡崎も、進むべき道を見出した息子を見守る母の様な眼差しを送っている。

『―――では継承の儀を執り行う…我等をその手に取るがいい』
魔銃の言葉に従い、銃身をその手に握る―――その瞬間、獅子堂の体は紫の炎に包まれた。
「弥陸!」
思わず叫び声を上げて駆け寄る岡崎。だが獅子堂は漆黒の瞳でその動きを制する。
「これは魂の炎…命を奪うものじゃあない……魔銃よ、これは試練…そうだな?」
『然り。貴様の強き意思を示せ。さもなくばその魂、焼き尽くされる』
炎が獅子堂の体の中へと収束していく。その脳裏には様々な記憶と意思が入り乱れていた。
『パーフェクト・ジェミニ』を作り出した異能者の記憶。その力に溺れてその身を魔道に染めた者の意思―――
それらは百数十年に渡って連綿と受け継がれてきたのだ。並の人間では無数の心に精神を蝕まれ廃人になりかねない。
だが獅子堂はそれに耐え抜き、ゆっくりと言葉を紡ぎだした。
「…力そのものに善悪はない。それを行使する者の魂が光と闇を生む…いや光と闇の境界など元より存在しない。
 魔の力を宿そうとも俺の魂はそれには屈しない! 俺は俺の忠義、信念、理、成すべきことの為に全てを受け入れよう!」
―――次の瞬間、紫の炎が爆ぜた。そして炎はオーロラの様な光の帯に姿を変えると獅子堂を包み込む。
手の甲の邪気眼を見ると邪悪な紫色の光は影を潜め、再びサファイアの様な蒼の暗い輝きを取り戻していた。
108獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/09/17(土) 17:39:32.84 0
『…我らの力の源は人間の暗黒面。しかし貴様はその力を操りつつも魂は魔に染めず…見事だ』
「…なんて言葉を掛けたらいいか分からないけど…良くやったよ、弥陸」
「『闇照眼』の力も俺を助けてくれました。やっぱり俺は貴女にずっと守られてきたんですね、蓮子さん」
2丁の拳銃を腰のホルダーに収めてじっと岡崎を見つめる。岡崎は微かに赤面しつつ、指を鳴らした。
刹那、精神世界を包み込む波打つ闇はプラネタリウムの様に現実の光景を映し出した。
「ゆっくり感慨に浸ってる場合じゃなさそうだね…」
「…確かに」
映し出されたのは二神、黒羽、先程助けた少女、謎の少年、御影、そして奇妙な修道服に身を包んだ3人組。
感じるのは新たなる戦いの気配。そして全身の感覚が再び現実へと戻っていく。
「行ってきます、蓮子さん」
「応、行ってきな」

次の瞬間、獅子堂の意識は現実に覚醒した。
「ハハハハハハ! くらいやがれェェエ!! 『エンジェル・ハイロウ』ォオオオオオオ!!」
意識を取り戻し、立ち上がって耳にしたのは金髪の男の叫び声。そして目にしたのは飛び交う無数の光輪。
「―――俺は寝覚めは機嫌が悪ぃんだよ」
獅子堂の言葉と共に響き渡る1発の銃声、だが発射された弾丸は4つの銃口から1発ずつ。
それらは獅子堂の意思のままに青白い閃光を帯びて超音速で飛び交い、光輪のことごとくを貫き、消失させた。
「―――魔弾『奇術王の流星』―――えらく下卑たテンシ様だなぁ、おい」

【獅子堂 弥陸:精神世界にて邪気眼を支配。意識を取り戻し。新たな力に覚醒して戦闘状態に突入】
109御影 篠@代理:2011/09/18(日) 02:36:40.01 0
>>104>>105>>106
「誰だ。――お前達、所属のスイーパーか?」

いきなり現れた二人組みに対して、二神が尋ねる。
質問された内、金髪の男の方が心底おかしそうに笑い出した。
「カカカカ! 流石はスイーパーだねぇ、クソ下らねぇ冗談を言うのが上手いときたもんだ!
 俺らをスイーパーなんぞと一緒にすんじゃねぇよォ! もっと高貴な存在──そう! エンジェルさァ!」

(エンジェル──ああ、あの怪しげな新興宗教ね。最近信者を急激に増やしているらしいじゃない。
 あまりにも急増するものだから、影には異能者が絡んでいるんじゃないかって噂もあるくらい)
男が放った『エンジェル』と言う単語──それは篠も最近よく耳にする単語であった。
表でも裏でも犯罪に関わっている──そしてどちらにおいても厨弐市全域に顔の利く篠にとって、その手の情報はいち早く耳に入る。

                              エンジェル
(トップは……確か天使、だったかしら?成る程、"天使"とはよく言ったものだわ。
 それにしても……彼らがエンジェルの一員だって言うのなら、どうやら噂は本当みたいね)
そう考えている内に桃色の髪の少女が一歩、黒羽に近付く。相変わらずの無表情で、何を考えているか分からない。
「──『茜(あかね)ェ』ッ!!」
と、突如男が大声を上げる。桃色の髪の少女──茜はその声にビクリと身を竦ませた。
「俺ァ命令してねェぞ! 勝手に動くんじゃねェよスカタン!」
どうやら男の方が立場が上のようだ。茜がそれ以上その場から動くことはなかった。

「ったく、これだからオツムが弱い奴ァ……。おっと、ンなこたァどうでもいいんだ。
 そこの長髪、あんたが落葉を盗んだってこたァ調べがついてる。俺の目的はそれさァ。
 痛い目見ない内にとっとと渡すんだな。あんたも異能者のようだが、その腕じゃ満足に闘えねェだろ?」
視線を黒羽に戻し、脅すように迫る男。対する黒羽は、どこか冷めた表情だった。

「欲しけりゃ勝手に持っていけ。貴様の足元にあるのがそれだ」
黒羽は顎をしゃくり、男の足元を指す。そこには粉々になった落葉"だったもの"があった。
「あん? ……テメェ、舐めてんのか? 俺が欲しいって言ってんのは宝石だと──」
足元を見て、最初は理解していなかった男も黒羽の言葉を理解し、次第に怒りの表情へ変わる。
黒羽は溜息を吐いて首を振った。親切にも落葉が"そうなった"経緯を説明するつもりなのだろう。

「──スカタンはお前だ『餓鬼野』。その長髪が言っていることは間違いじゃない。
 この場に来るのが遅れたお前が何も知らないだけだ」
そこに、またしても初めて聞く声が割って入る。声のする方に視線を向けると、そこにはやはり修道服を着た少女が一人。
ただ、他の二人とは少し服のバリエーションが違った。髪はピンクのツインテール。

「……『明(あかり)』ィ……」
餓鬼野と呼ばれた男が新たに現れた少女──明を睨み付ける。
「私は見たんだ。そこに倒れてる奴が、その長髪が持ってた落葉を粉々にしたのをね」
「……へっ。流石、優等生は違うねェ。“足りない力”は行動力でカバーするってかァ?」
「……調子に乗るなよ、餓鬼野……。脳の足りないお前にだけは言われたくないんだ」
「おお、怖い怖い。力がねェと余裕までなくなっちまうのかい。こうはなりたくねェなァ、アハハハハ!」

(あんまり仲は良さそうじゃないわね。宗教の中ってこんな感じなのかしら)
皮肉の応酬をしている二人を、そして先程から動かないもう一人の少女を見て、ふと篠は思った。
(あら?あの二人……顔が似てるわね。姉妹かしら。それとも──クローン……なわけないか
 それよりも気になるのは、彼らの落葉に対する異常な執着。吼一郎さん、アレ、ただの宝石じゃないの?)
ここにはいない落葉の持ち主に問いかけるも、当然答えは返ってこない。疑問の答えは先延ばしになりそうだった。
110御影 篠@代理:2011/09/18(日) 02:37:59.89 0
「とにかく、だ──この破片は回収する。“あのお方”の『神樹眼』を持ってすれば、再生は容易い。
 ……行くよ、茜」
ふと視線を戻すと、明りは餓鬼野の足元に落ちていた落葉だったものを掬い取り、茜に声をかけた。
明りが踵を返して歩き始めると、それまでピクリとも動かなかった茜もその後に続く。
だが一人──餓鬼野だけはその場を動こうとしなかった。

「おい、明ィ……お前はこいつらが異能者だってのは知ってるんだろう? いいのかァ、無視してよォ?
 ここにはこいつらが残した“情報”が沢山残ってるじゃねェか。あの人の望みの一つを叶えるチャンスだろう?」
立ち去ろうとしていた明に声をかける。すると明は足を止め、振り返って餓鬼野に告げた。
「だから、“それ”は既に私が回収した。
 ……お前が言いたいのはそれじゃなく、単に“後始末”をさせろと言いたいだけなんだろう?」
その言葉に対して餓鬼野は何も答えなかったが、三日月形に歪んだ口元はそれを肯定しているに等しかった。

「……フン、野蛮人が。好きにしなよ。だけど、私らは手を貸さないよ」
そう言い残し、今度こそ明達は森の中へと去って行く。
(ちょっと、流石にそのまま逃がすのはまずいわ。落葉だけでも置いていってもらわないと)
そう思い、明達が去っていった方角へ跳ぼううとした。しかし──

「ククク、何言ってやがる。そんなの当たり前じゃねェか。
 俺ァなァ……テメェら“もどき”の力を借りようとはハナから思ってねぇんだよォ!」

餓鬼野のその言葉を聞いて、跳び出すのをやめた。
と言うのも、その一言で周囲の空気が変わり、戦闘のそれへと変化したからだ。
餓鬼野の体からは溢れんばかりの殺気が漏れ出ている。
篠の方には向けられていなかったが、あれだけの殺気──無差別攻撃の可能性が出てくる。

「何だかんだ言って、結局初めから闘(や)る気だったのかい。いちいち面倒な野郎だ」
黒羽の方もどうやらやる気のようだ。腰を落とし、戦闘体制に入っている。
(そう言えば……彼、腕を骨折しているじゃない。餓鬼野とか言う男の実力がわからない以上、少し危険だわ)

「いいのかァ!? 余所見しててよォ!! こっちは準備万端なんだぜェ!!」
黒羽をどうしようか考えていた時、餓鬼野の叫び声が響き渡った。その左手には──
(あれは……まさか『人工眼』!?いよいよきな臭くなってきたわね、エンジェル!)
餓鬼野の左手には明らかに人工のものと思われる"眼"があった。
それは篠も最近になってしばしば目にしたことのある──主にマリーの時──代物だった。

「ハハハハハハ! くらいやがれェェエ!! 『エンジェル・ハイロウ』ォオオオオオオ!!」
その叫びと共に、無数の円盤──よく見ると真ん中に穴が開いている──が飛んできた。
それは正しくエンジェル・ハイロウ──"天使の輪"だった。

立っていた樹から勢いよく跳び出し、空中で回転して地面に降り立つ。丁度黒羽達と餓鬼野の中間の辺りだ。
「あらあら……自然は大切にしなきゃ駄目じゃない」
頬に手を当て、呆れたような表情で餓鬼野を見る。そしてクルリと振り返り、黒羽達にも視線を向けた。

「初めまして。と言っても『表』に出てきたこと自体初めてだけど。私の名前は『ブラッディ・マリー』。
 別に憶えなくても結構よ。どうせすぐに喋れなくなるんだから」
周囲に悟られずに黒羽を庇うように再び自然に餓鬼野の方を向き、クスクスと挑発するような笑みを浮かべた。

【御影 篠:戦場に姿を現す】
111秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/09/19(月) 19:00:01.58 0
>>104-106
「誰だ。――お前達、所属のスイーパーか?」
そんな二神の質問に対し、
「カカカカ! 流石はスイーパーだねぇ、クソ下らねぇ冗談を言うのが上手いときたもんだ!
 俺らをスイーパーなんぞと一緒にすんじゃねぇよォ! もっと高貴な存在──そう! エンジェルさァ!」
キョトンとした表情の後、大笑いしながら答えた金髪の男
(ふむ。やはりエンジェルだったか…。さて、どうしようか)
「──『茜(あかね)ェ』ッ!!」
大声をあげる金髪
「俺ァ命令してねェぞ! 勝手に動くんじゃねェよスカタン!」
茜、と呼ばれた女性の表情は変わらなかったが、言いつけを守って足を止めていた
(茜、と言うのかあの少女は。この情報は重要だな。心網眼で全員に伝えよう)
心網眼の力で、結社メンバー全員にこの情報を伝える秘社
「ったく、これだからオツムが弱い奴ァ……。おっと、ンなこたァどうでもいいんだ。
 そこの長髪、あんたが落葉を盗んだってこたァ調べがついてる。俺の目的はそれさァ。
 痛い目見ない内にとっとと渡すんだな。あんたも異能者のようだが、その腕じゃ満足に闘えねェだろ?」
「欲しけりゃ勝手に持っていけ。貴様の足元にあるのがそれだ」
「あん? ……テメェ、舐めてんのか? 俺が欲しいって言ってんのは宝石だと──」
「──スカタンはお前だ『餓鬼野』。その長髪が言っていることは間違いじゃない。
 この場に来るのが遅れたお前が何も知らないだけだ」
女性の声。 ピンク色のツインテールで、修道服を着た少女。そしてその顔は、茜と呼ばれた少女と瓜二つだった…同じ、と言ってもいい
「……『明(あかり)』ィ……」
彼女を睨みつけて呻る様に言う金髪
(そしてあっちは明か。名前的にも顔的にも双子という線が強いか?)
その情報を、やはり心網眼で伝える秘社
「私は見たんだ。そこに倒れてる奴が、その長髪が持ってた落葉を粉々にしたのをね」
「……へっ。流石、優等生は違うねェ。“足りない力”は行動力でカバーするってかァ?」
「……調子に乗るなよ、餓鬼野……。脳の足りないお前にだけは言われたくないんだ」
「おお、怖い怖い。力がねェと余裕までなくなっちまうのかい。こうはなりたくねェなァ、アハハハハ!」
(仲悪いな、こいつら。…組織としては致命的じゃないか? 喧嘩するほど―というわけでもなさそうだし)
『秘境』の大きな特徴は、構成員全員の仲が良いということである。故に、どのような組み合わせでも連携ができる、というのが強みなのだ
「とにかく、だ──この破片は回収する。“あのお方”の『神樹眼』を持ってすれば、再生は容易い。
 ……行くよ、茜」
「おい、明ィ……お前はこいつらが異能者だってのは知ってるんだろう? いいのかァ、無視してよォ?
 ここにはこいつらが残した“情報”が沢山残ってるじゃねェか。あの人の望みの一つを叶えるチャンスだろう?」
落葉を回収し、帰ろうとした茜に対し、好戦的な表情の餓鬼野
「だから、“それ”は既に私が回収した。
 ……お前が言いたいのはそれじゃなく、単に“後始末”をさせろと言いたいだけなんだろう?」
「……フン、野蛮人が。好きにしなよ。だけど、私らは手を貸さないよ」
「ククク、何言ってやがる。そんなの当たり前じゃねェか。
 俺ァなァ……テメェら“もどき”の力を借りようとはハナから思ってねぇんだよォ!」
「何だかんだ言って、結局初めから闘(や)る気だったのかい。いちいち面倒な野郎だ」
完全に臨戦態勢なる餓鬼野
「いいのかァ!? 余所見しててよォ!! こっちは準備万端なんだぜェ!!」
「ハハハハハハ! くらいやがれェェエ!! 『エンジェル・ハイロウ』ォオオオオオオ!!」
その広げられた左手にある『機械の眼』から放たれる、無数の光輪。その一部が、秘社のもとにも飛んできた
「『社長権眼』…防衛線(バリアライン)…」
『秘境』の中でも、『防御力』に秀でた能力を持つメンバーを数人召喚し、光輪を全て防ぐ
「影撃ち(シャドーアタック)」
さらに、全快した(早い)潜人を召喚し、餓鬼野の後ろの影から攻撃させる。勿論、影で
【秘社境介:エンジェルハイロウを防ぎ、影から不意打ち】
112秋雨 凛音@代理:2011/09/21(水) 12:59:17.04 0
>>105-106
「カカカカ! 流石はスイーパーだねぇ、クソ下らねぇ冗談を言うのが上手いときたもんだ!
 俺らをスイーパーなんぞと一緒にすんじゃねぇよォ! もっと高貴な存在──そう! エンジェルさァ!」

エンジェル。
本来、この街に着いたばかりの凛音がその怪しげな宗教団体の名前を知る筈がなかったが、偶然にも覚えがあった。
(街で見かけたウサン臭い宗教勧誘ポスターに書いてあった文字が『エンジェル』だったような。
 あの修道服も高貴な存在って言葉も、確かポスターに載っていたはず)
記憶が二年より以前が途切れている凛音は出来るだけ『現在(イマ)』を忘れないよう努力している。
思い出の少ないことからくる自己防衛のような行為だったが、その記憶力は意外と父親探しをする上で役立っていた。


ここで新たな人物がこの場に現れた。
「──スカタンはお前だ『餓鬼野』。その長髪が言っていることは間違いじゃない。
 この場に来るのが遅れたお前が何も知らないだけだ」
「……『明(あかり)』ィ……」
明と呼ばれた女性はピンクのツインテールで金髪男――餓鬼野と同じ修道服を着ていた。
さきほど茜と呼ばれた人と顔が瓜二つなので、恐らく二人は双子か年の近い姉妹なのだろう。
餓鬼野と明は二人で勝手に口論を始め、盗賊やフードの人そっちのけで険悪なオーラを放っていた。
(仲悪いなぁ……二人とも口悪いし。宗教団体も結局は組織だから、やっぱり一枚岩じゃないのかな)

「とにかく、だ──この破片は回収する。“あのお方”の『神樹眼』を持ってすれば、再生は容易い。
 ……行くよ、茜」
明は足元のダイヤの残骸を集め、もうここには用がないとばかりに踵を返した。
茜もそれに連れ添って、ここを去ろうとする。
そこに凛音は違和感を覚えた。
(あの人達がスイーパーじゃなく、怪しい宗教関係者ならどうしてあのダイヤを狙ってるんだろう?
 高価な物なんだろうけど、盗んだ人間を追いかけて丁寧に破片を回収するほどの物なのかな)

不可解な謎に凛音が取りつかれてる間に、場の雰囲気が一転していた。
「ククク、何言ってやがる。そんなの当たり前じゃねェか。
 俺ァなァ……テメェら“もどき”の力を借りようとはハナから思ってねぇんだよォ!」
餓鬼野が放った殺気が辺りを満たし、凛音の邪気眼がそれに同調して痛みをあげた。
(うっ!……あの人、私にも殺気を向けてる? 餓獣がこんなに興奮するなんて、今までない……)

「いいのかァ!? 余所見しててよォ!! こっちは準備万端なんだぜェ!!
 ハハハハハハ! くらいやがれェェエ!! 『エンジェル・ハイロウ』ォオオオオオオ!!」

その名の通り、天使の輪の様な形状をした鋭利なリングが辺りに飛散した。
凛音はそばの大木を盾にして、リングから逃げようと後ずさった。
「え!? あ、しまっ!」
後ろに下がった足は地面を踏むことなく、沈んでいった。
「きゃあああああ!」
凛音の背後は急な斜面であり、それに気付かなかったのだ。
斜面をを小さな体が転がっていき、途中に生えていた樹に体が衝突することでようやく止まった。
しかし、
「…………」
凛音は後頭部を地面からはみ出ている強固な根にぶつけ、気を失ってしまった。

キュイン――キュイン――

気を失った凛音を取り囲むように、エンジェル・ハイロウが樹の枝を切り刻みつつ周囲を回り始める。
どうやら放たれたリングのなかには追尾性があるものが混ぜられていたようだ。
そして、リングが螺旋を描くように包囲する円を縮めて凛音の体に飛び掛かった
113???@代理:2011/09/21(水) 13:00:24.77 0
「やれやれ、こんな所でくたばったら犬死以下だぞ。凛音」

長く黒い影が、連続する風を切る音と共にに凛音の周りを駆け抜けた。
その直後、金属同士が激しくぶつかり合うような音と火花が夜の森を舞う。

「まったくさっさと俺様を出せばいいものを、下手に粘りやがって。
 さっきのロンゲ盗賊野郎との戦いも俺様ならあんな不様は晒さなかったぞ。第一、隠れ方からしてダメだったしな」
凛音……いや“凛音だったはず”の少女の声は凛音と声質は同じだが、若干低くなった声音でそう呟いた。

「さてと、バジリスク。とっととその投げ輪をぶっ壊せ。ほっておいて、また追いかけられでもしたらかなわん」
少女の目の前にはあのバジリスクが今度は直径十センチほど、長さは五メートルの大きさで現れていた。
鱗が所々剥がれた頭部とその周りには酷い傷があるものの、どうやら眼や器官に関わるほどのものではないらしい。
ウロボロスのマークのように丸くなっているバジリスクの体はエンジェル・ハイロウの空洞部分を貫いていた。
まるでいくつものカードをひとまとめにする単語帳のリングのようにだ。
少女の言葉を受けて、バジリスクはとぐろを巻くように動き、一つずつリングを噛み砕き、食い潰していった。
すると、バジリスクの傷が目に見えて速度で治っていく。

「ふふ、やはり邪気が含まれてるモノのほうが治りは速いか。よし、じゃあ後は……」
少女はバジリスクの頭を片手でガシッと掴むと、そのまま釣竿のように先端の尾をしならせて投擲した。
目標はさっき転げ落ちる前までいた場所のそばにあった樹の太い枝であった。
剣山の様に尖った尾が枝に食い込むと、バジリスクは驚異的な筋力を使って少女を引っ張り上げた。
「よっ」と軽く幹に着地すると少女はバジリスクを消し去って、息を殺して気配を消した。

(ふふ、出来れば俺様も混ざりたところだが今はまだスイーパー共に目を付けられるべきじゃない。
 ここで高みの見物とさせてもらおう。エンジェルとやらの目的は分からないがすでに姿を見られたからな、念のため情報収集しても無駄にはなるまい)

少女は凛音がしそうにもない唇の端を吊り上げた妖艶な笑みを浮かべる。
彼女は凛音が二年前無意識に作り上げた名も無い第二人格。
孤独と記憶喪失とで生まれた莫大な不安と恐怖に飲まれない為に生まれた対抗手段。
凛音の想定する上で最も『強い』とされる人格なのだ。

(ま、凛音は俺様のことなんて知らないし、記憶が飛んでるのは俺様が出てる時じゃなく能力を使ってる時だと思い込んでるみたいだがな。
 それはさておき戦況は……おや、なんだかまた新しい奴が登場してるじゃないか)

【???:先程まで御影がいた位置で戦場を静観】
114二神 歪@代理:2011/09/24(土) 01:59:12.67 0
>>106,>>108,>>109->>110,>>111,>>112->>113

「カカカカ! 流石はスイーパーだねぇ、クソ下らねぇ冗談を言うのが上手いときたもんだ!
 俺らをスイーパーなんぞと一緒にすんじゃねぇよォ! もっと高貴な存在──そう! エンジェルさァ!」

エンジェル。エンジェル…ッ!?
聞き覚えのある言葉に、一瞬二神は戸惑った。どこだ、どこで聞いた…?!スイーパーの資料では無く、実際に声として聞いたことが…
だが、思い出すより早く、資料の中の情報が記憶から引き出される。エンジェル――怪しげな新興宗教団体、だ。
どうやら黒羽の落葉を追ってきたらしいが、……目当ての品物は破壊されている上に黒羽には戦闘意欲は無い。
だが、伝えたところでこいつらは引き下がるだろうか…?

「──スカタンはお前だ『餓鬼野』。その長髪が言っていることは間違いじゃない。
 この場に来るのが遅れたお前が何も知らないだけだ」

後ろに、ふいに新たな人影が現れた。餓鬼野と呼ばれた男の仲間だろう。良く見れば『茜』と呼ばれた少女と顔立ちが同じである。

(俺の後ろ――ッ!?俺が察知した1名とは、別物――こいつ、気配がまるで無かった…ッ!)
(だが、おかしい。餓鬼野はともかく、後ろの『明』はその光景を見ていたにも関わらず…粉々になったものを『直して』まで欲しがっている…)
(『方法』は問題じゃない、再生能力者はたくさんいる、が――この宝石には、資産的価値以外に――何かあるッ!)

情報、という言葉が耳に残ったが、この略奪者達はどうも協力する気が無いらしい。餓鬼野一人を残して双子は去っていく。
放たれる殺気。通常の、『人』のものではありえない。

「……邪気眼使い、か…ッ!」
「何だかんだ言って、結局初めから闘(や)る気だったのかい。いちいち面倒な野郎だ」

二神の言葉に、黒羽が返し、こっちを見やった。一瞬警戒したが、そういう事では無いらしい。

(犯罪者と共闘――?!くそッ!!!正直言えばしたく無い、が…『犯罪者』を目の前で殺されるわけにも――まずは『餓鬼野』、コイツ、かッ!)

「いいのかァ!? 余所見しててよォ!! こっちは準備万端なんだぜェ!!」

だが、二神の予想とは違い、彼は邪気眼使いなどでは無かった。左手に埋め込まれた、機械の眼……
(何だ、こいつは……ッ!?)

「ハハハハハハ! くらいやがれェェエ!! 『エンジェル・ハイロウ』ォオオオオオオ!!」

光のリングが放たれた。弧を描き、接近する。その時――
115二神 歪@代理:2011/09/24(土) 02:00:39.38 0
>>106,>>108,>>109->>110,>>111,>>112->>113

「―――俺は寝覚めは機嫌が悪ぃんだよ」

二神の後ろから獅子堂の声がした。響き渡る銃声は彼の覚醒を物語っていた。

「―――魔弾『奇術王の流星』―――えらく下卑たテンシ様だなぁ、おい」
「獅子堂!…起きたか。――次、腑抜けたら承知しないからな」

起き上がった仲間に、二神は口の端だけで笑う。
だが、『餓鬼野』の放った光の輪は、他の場所も狙っていた。そう、二神が探知出来なかった能力者が居るのだ。

「あらあら……自然は大切にしなきゃ駄目じゃない」

樹上から現れた正体不明の女性、これが二神がうっすらと探知した一人であろう。
そして餓鬼野の影から攻撃が放たれる。これは、目の前の女性のものだろうか。
そして、後ろから聞こえた悲鳴。あれはおそらく隠れていた少女のものだ。
どう動くか、二神は一瞬逡巡し――正体不明の女性を計算に入れず、『餓鬼野』から情報を搾り取る事を優先した。

「先に行くぞ」

二神は黒羽、獅子堂に合図を送り、一瞬早く駆け出した。
全身の血の量は全快とは程遠いが、まだ成人男性1人分以上の血は流れている。
小指の怪我だけでは『ブラッディ・アサルト』の強化も小さく留まるだろうが、相手がこちらの能力を知らないなら、敵の攻撃を利用して強くなれるのだ。

(――近距離戦闘じゃ、強化された俺に勝てる奴はいない!俺の役割は『特攻』、敵が眼の離せない爆弾だ。)
(敵の攻撃を引き受けることで間接的な『防御』にもなるッ!得体の知れない邪気眼だが、一撃くらいでは死なない筈だッ!)

女性の傍を通り過ぎながら、小強化された動体視力で女性を観察する。だが、個人特定にあたるような特徴は見当たらない。

(ブラッディ・マリー…聞いたことはあるが、…もしかして犯罪者、か?)

だが、女性は二神に対して積極的に仕掛けては来なかった。二神は女性の傍を素通りし、体を捻る。
右の正拳、を意図的に空振り、その回転力で相手の肩口に左足の後ろ回し蹴りを叩き込もうとする。

「何がしたいか知らねェが、一撃で落としてやるッ!」

無論、二神には一撃で決められるという思惑は無い。無謀な特攻を相手から見て正当化する為の言葉だ。
それに、これを避けても影の攻撃が継続するだろう。相手がこちらに気を取られれば―――

【二神 歪、餓鬼野に攻撃。黒羽、獅子堂と共闘姿勢。ブラッディ・マリーとは接触しない。】
116黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/09/24(土) 02:51:02.48 0
>>107-115
向かってくる大小無数のリング。一体、これは何なのか──。
黒羽はその正体について思考を巡らしかけたが、直ぐに止めた。
何にしてもここはまず避けておくのが得策。
得体が知れないのならば尚のこと──、変に気を取られて迂闊に喰らうわけにはいかないからだ。
(──)
しかし、かわそうと左右にステップを踏みかけた黒羽の足が、ピタリと止まったのはその時であった。

「初めまして。と言っても『表』に出てきたこと自体初めてだけど。私の名前は『ブラッディ・マリー』。
 別に憶えなくても結構よ。どうせすぐに喋れなくなるんだから」
不意の、正面からの声。それは紛れも無く新手の闖入者を意味するものに違いなかったが──
真に驚くべきは“そこ”ではないことを、黒羽だけは同時に理解していた。
何故ならその声は、彼の知っているものであったからである。
(──『御影 篠』──!)

髪型も違う、格好も違う。しかし、一度見たら忘れようもない色の深い瞳に、長いブロンド。
間違いない──闖入者のは御影 篠という名の女。
黒羽 影葉が通う学園に所属し、彼のクラスを担当している教師だ。
(この女──間違いなく異能者! ──しかし、何故ここに──!)

意外。その極めつけとも言える事態に、流石の黒羽も呆気にとられるしかなかった。
今、自分が戦闘の最中にいることなど忘れて。
「!!」
そんな彼に改めて自分の置かれた状況を再認識させたのは、御影を中央に据えた視界の端に映った光の輪だった。
御影という存在にいくら黒羽が気をとられても、放たれた無機質な攻撃までもが気を取られる道理はない。
動きを止めたコンマ数秒という刹那に、御影の横をすり抜けたそれらは容赦なく黒羽の至近にまで迫っていた。

──考えるよりも早く、黒羽は体を横に倒し、右手のみを大地に着けた器用な体勢を取った。
様々な高さから水平に飛んでくるリングが、地面に浮いた体の隙間を狙ったかのように抜けていく。
時間的に能力発動による回避ができないのであればこれしかない──というような曲芸的即応。
しかし、攻撃の最中に意識を離したそのツケは、流石に完全なる無傷での回避を許さなかった。

「チッ!」
頬に走った痛み。皮膚が裂けていく感覚。
大地から手を離し、再び文字通り地に足をつけた黒羽は、痛みを発する頬を手で素早く拭った。
耳の方向へ真横に走る一文字の切り傷と、そこから垂れるドロっとした生暖かい血の感触──。
そこで彼は確信する。リングという形状、実際に体に受けた傷、そしてそれとを比較して感じる違和感……
それらを統合し導き出されるその答えを、すなわち技の特性とその正体を。

(接触と同時に肉体や精神を侵食するタイプの技ではなく、物体を切断するという単純な物理攻撃。
 だが……患部が凝固し、傷の深さに比べて出血量が少ないところを見ると、ただの鋭利なカッターじゃない。
 恐らく、熱か。……いわばあのリングは強力なレーザーメスのようなものだろう)

餓鬼野が放ったエンジェル・ハイロウという名の光のカッター。
それが人工邪気眼によって生み出されたものならば、
茜というあの少女が放ったと思われる先程の円盤、あれも恐らく全く同質のモノなのだろう。
となると、エンジェルの構成員の大半は同じ人工邪気眼を持つ異能者だと推察できるが……
(人工邪気眼の欠点は、本来の邪気眼に比べて能力の応用性が極めて低いということだ。
 従って殺傷力のある能力であっても、総合的な戦闘力は異能者に比べて格段に低い例が多い。
 にも拘らず……あの双子は平然と金髪にこの場を任せ、金髪自身も一人で勝てる気でいる。
 ……単に身の程知らずなだけか、自信過剰なだけなのか……、それとも……)

次なる攻撃を警戒しつつ、黒羽は相変わらず一人高笑いを続ける餓鬼野に疑念の目を向けた。
117 ◆ICEMANvW8c :2011/09/24(土) 03:01:11.73 0
>>107-111
「──ほぉっ?」
ある者はかわし、ある者は能力で防ぎ──
さも当然というように次々と致命傷を回避していく様を見て、餓鬼野は驚嘆に近い声を挙げた。
無数と表現されるほどに放った大量のリングは、気付けば全てまともに当たることなく闇夜に消えていた。
「こいつァ驚いたな。あんだけの数のエンジェル・ハイロウにもまるで動じねェとはよ。
 しかも……中には間髪入れずに反撃してくる奴がいるときたもんだ。流石はスイーパーといったところかァ?」

真正面から向かってくる二神を見やり、餓鬼野は左手を向けた。
だが──向けた方向は二神が迫る正面にではなく、それとは真逆の自身の背後──。
「けどなァ──」
光を発する彼の手が、コンマ数秒かからずに唸りを挙げる。
瞬時に生み出されたエンジェル・ハイロウが超高速で放たれたのである。

──光のカッターが軌道上のもの全てを切り裂き、闇夜さえも切り裂いて遥か彼方に消えていく。
それを見届けぬまま即座に左手を正面に返した餓鬼野は、急ブレーキをかけて止まった二神にニヤリと笑い、
続いてその視界の端に現れていた秘社を見据えて続けた。

「甘ェんだよ。そもそもスイーパーってのは犯罪者を倒してナンボの存在だろうが?
 武士道やら騎士道やらを気取って正々堂々叩きのめしにかかる奴ばかりじゃねェってのはガキでもわかるぜ。
 ククク……誤算だったなァ。テメェらの連係に俺が気付かねェとでも思っていたのか?」

不意に餓鬼野の視線が横に外れ、秘社と同じくして現れた闖入者──御影を捉えた。

「……もっとも、誤算という意味じゃ俺も他人のこたァあまり笑えねェがな。
 まさか俺に気付かれずにここに潜んで奴がいたとはよォ……
 しかも、そいつら含めてほぼ全員に俺の『光輪眼』がほとんど通用しねェときてやがる。
 まぁ……飛び入りの“データ”は後ほど回収すりゃいいし、
 光輪眼のような人工眼は、俺にとっちゃ“おまけ”みたいなもんでしかねェけどなァ……」

御影のみを収めていた視界を次第に広げ、やがてその場に居る全員を視界に収めた餓鬼野は、
これまで終始服の中に仕舞っていた右手を出し、ゆっくりと掌を広げていった。

「俺ァ相手を一方的に甚振るのが好きなんだけどよォ……どうやら今のままじゃそうもいかねェらしい。
 ──だから、使わせてもらうぜ。俺の本当の能力(チカラ)をよォ──!
 ククク、後悔するといいぜ! てめェら俗物如きが俺を本気にさせちまったことをなァッ……!」

──餓鬼野の体を異様な気が取り巻く。
それはこれまでのような殺気とは全く違う、これまでに感じたことのない異質な“何か”であった。
そしてそれを、それぞれが肌で感じ取ったその時──開かれた掌が、前に差し出された。
118黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/09/24(土) 03:06:30.14 0
開かれた掌──。
その中央に、黄色い瞳と奇妙な斑模様の眼球を持つ邪気眼が在るのを見て、黒羽は我が目を疑った。
人工眼と邪気眼を持つ異能者。そんなものは本来、存在し得ないはずだからである。
(バカな、両手に眼を持つ存在など聞いたことも……! エンジェル──こいつらは一体──)

「驚いたって顔をしてやがんなァ? だがなァ、驚くのはこれからだぜェ!!
 ──さぁ、今こそその力を示すがいい! 我が『魂換眼(こんかんがん)』よッ──!!」

その声が耳に届いた瞬間──訪れたとてつもない頭痛は、瞬時に視界を黒く染め上げていった。
ブラックアウト──意識を失う寸前の前兆だ。
「がはっ!」
一体、何をされたのか。自分の体に果たして何が起きたのか。
目が見えず、何も解らない──そんな中で、黒羽は確かに聞いていた。
周りから一様に悲鳴や苦悶の声が挙がっていたことを。

「俺の魂換眼の射程は半径10m! 解るかァ? てめェら全員ハナから俺の術中にいたんだよォ! ハハハハハハ!」

秒を刻む事に激しさをましていく痛み──遠ざかっていく餓鬼野の声。
ここで意識を失うということは戦闘の敗北を意味するだけでなく、もはや『死』を意味するものと同義である。
(グッ……、まさかこんな攻撃をしてくるとは……)
黒羽は唇を噛んだ。いや、この時、恐らく誰もが死を覚悟したのではないだろうか。
しかし──結論から言えば、黒羽や他の人間が、この場で意識を失うことはなかったのだ。
何故なら意識を失いかけた瞬間、突然とこれまでの痛みが嘘のように引いたからである。

「……」
ゆっくりと目を開ければ、そこにはこれまでと全く何変わらぬ風景が広がっていた。
所々大穴の空いた地面、リングに切断された大木の幹、そして相変わらずこちらを見据えて立ち尽くす餓鬼野。
表面上は何も変わっていない。自分が死んでいるわけでもない。
だが、餓鬼野が何か異能を発動させたことは紛れも無い事実。
それでは、餓鬼野は果たして何をし、何を起こしたというのだろうか?
「一体……」
何気なくその疑問をふと口にしかけた黒羽だったが、彼は直後に顔を硬直させて口をつぐんでいた。
その理由は彼が感じた自分自身に対する大きな違和感。「一体……」と呟いた時の自分自身の声。

────これは、“自分の声”ではない────

(まさか!)
黒羽は咄嗟に周囲を見回した。自分と同様、次々と起き上がる面々の顔が飛び込んでくる。
二神、獅子堂、御影、そして────黒羽 影葉!!
自分の体を見る。細い腕に小柄な肉体──服は泥まみれのワンピース。
(これは──あの女の──!!)

「──クククク、ようやく気がついたようだな。これが俺の邪気眼・魂換眼の能力(チカラ)──!
 射程内にいる全ての生物の魂を『入れ替える』能力だ! そう……“魂だけ”をなァ!
 もう解ってるかァ? テメェらは不慣れな肉体(カラダ)に加え、使ったこともねェ邪気眼を使わなきゃならねェのさ!
 これだけのハンデを背負って、果たしてこれまでのように俺と闘えるかなァ!? フハハハハハハハハッ!!」

既に勝利を確信したかのような餓鬼野の高笑いが、辺りに響き渡った。

【黒羽 影葉:餓鬼野の能力により魂が入れ替わる。現在の肉体と邪気眼は秋雨 凛音のもの。
        不慣れな肉体と邪気眼を持ったことによって戦闘力大幅ダウン】
【なお、魂はそれぞれシャッフル状態にあるので、誰の肉体に誰の魂が入るのかのルールはありません。
 つまり、黒羽の魂が秋雨さんの体に入っても、秋雨さんの魂が黒羽の体に入るとは限らないということ。】
119獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/09/24(土) 12:57:32.69 0
>>114-118
(力が溢れる…今まで経験した事も無いほどに…素晴らしい、これが『魔銃』の真の力か…!)
百数十年に渡って連綿と受け継がれ、継承者達が編み出してきた技、増長させてきた力、そして戦闘の経験。
それらが凄まじい奔流となって獅子堂の肉体と精神を駆け巡る。
(だが、油断はしない…)
高揚を鋼の自制心で抑え、氷の様な瞳で餓鬼野と呼ばれた男を見据える。
「獅子堂!…起きたか。――次、腑抜けたら承知しないからな」
口の端をほころばせる二神に獅子堂は微かなウインクで返事を返した。
「あらあら……自然は大切にしなきゃ駄目じゃない」
嘲笑を込めた皮肉と共に木の上から姿を現したのは御影。だが先程、応龍会の邸宅で同席した時と雰囲気が違う。
「初めまして。と言っても『表』に出てきたこと自体初めてだけど。私の名前は『ブラッディ・マリー』。
 別に憶えなくても結構よ。どうせすぐに喋れなくなるんだから」
(ブラッディ・マリー?…成程、違和感の正体はこれか…まあいい、追及は後回しだ。今は―――)
再び眼前に飛び込んできた数個の光輪。それらが一直線に並んだ瞬間に、獅子堂は左手の拳銃のトリガーを引きつつ薙ぎ払う仕草を見せる。
刹那、光輪の全てが霧散した―――拳銃の銃口から約1・5メートル先まで、青白いオーロラが揺らめいている。
「―――魔弾『青幽剣(せいゆうけん)』―――とにかく『落葉』を取り戻さなくてはな」
(―――そしてこの『エンジェル』とやらが何を目的にしているかを突き止めるかが先決だ)

「甘ェんだよ。そもそもスイーパーってのは犯罪者を倒してナンボの存在だろうが?
 武士道やら騎士道やらを気取って正々堂々叩きのめしにかかる奴ばかりじゃねェってのはガキでもわかるぜ。
 ククク……誤算だったなァ。テメェらの連係に俺が気付かねェとでも思っていたのか?」
(…やはり気付くか…自信過剰の馬鹿ではないな、少なくともこいつにとって必勝の策を用意している…)
スイーパー、異能犯罪者、アンノウン―――ここにいる全てが『エンジェル』と名乗る金髪の男に敵意を注いでいるのは明らかだ。
そして誰しもが一筋縄ではいかない者ばかり。立場を越えて謎の闖入者―――そいつはこの場の全員に敵意を持っている―――を撃破すべく、
無意識のうちに連携を取っていたのだ。それを前にしても余裕を崩さない自信はどこから来るのか?
「―――俺ァ相手を一方的に甚振るのが好きなんだけどよォ……どうやら今のままじゃそうもいかねェらしい。
 ──だから、使わせてもらうぜ。俺の本当の能力(チカラ)をよォ──!
 ククク、後悔するといいぜ! てめェら俗物如きが俺を本気にさせちまったことをなァッ……!」
ゆっくりと餓鬼野が掌をかざすと、そこには黄色い瞳と奇妙な斑模様の眼球を持つ邪気眼があった。
「驚いたって顔をしてやがんなァ? だがなァ、驚くのはこれからだぜェ!!
 ──さぁ、今こそその力を示すがいい! 我が『魂換眼(こんかんがん)』よッ──!!」
(これが奴の切り札! 『闇照眼』よ! あの力を見抜け!)
獅子堂が右の掌を開くとそこには漆黒の瞳―――不完全ながら岡崎から授かった全てを見通す『闇照眼』である―――があった。
120獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/09/24(土) 13:01:51.05 0
漆黒の邪気眼と餓鬼野の邪気眼の目線をあわせる。瞬間、獅子堂は理解した。餓鬼野の持つ『魂換眼』の能力を。
「っ!」
『魂換眼』の能力が餓鬼野を中心とした球状に広がり、迫ってくるのを感じ取ると、獅子堂は着地姿勢など考える事無く後ろに飛び退く。
そしてその力が自身に及ぶ直前に獅子堂は右手に持つ拳銃から刃を発生させ、自身の腹に突き刺した―――
「一体……」
その声の主は先程助けた正体不明の少女。だがその口調は黒羽のものだ。
「──クククク、ようやく気がついたようだな。これが俺の邪気眼・魂換眼の能力(チカラ)──!
 射程内にいる全ての生物の魂を『入れ替える』能力だ! そう……“魂だけ”をなァ!
 もう解ってるかァ? テメェらは不慣れな肉体(カラダ)に加え、使ったこともねェ邪気眼を使わなきゃならねェのさ!
 これだけのハンデを背負って、果たしてこれまでのように俺と闘えるかなァ!? フハハハハハハハハッ!!」
「―――五月蝿いんだよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
獅子堂は左手に握る拳銃の引き金を引いた。
「ハッ!?」
発射された弾丸は餓鬼野の右の頬をかすめて一筋の裂傷を負わせる。そして青い閃光はUターンして左の頬にも裂傷を与えた。
「…俺たちが“俗物”なら貴様は差し詰め“下種”ってところか?」
「―――ばっ馬鹿な…! なんで手前は変わってねェんだ!?」
両の頬から血を滴らせながら餓鬼野はたじろぐ。恐らくこんなことは今まで1度も無かったのだろう。
答えは至ってシンプルなものだ。先程、獅子堂が自身の腹に突き刺したのは魔弾『封滅刃』。
               ・・・・・・・・・・・・・・
刃をその身に受けた者の能力と、その者への能力の影響を封じる魔弾だったのだ。
だが獅子堂自身の能力は依然として健在―――精神世界で完全に支配した邪気眼の力が半ば暴走状態とも思える程に高まっている。
それは能力を封じる影響を優に超えてなお有り余るものだった。
「貴様の戦術は魂を入れ替え、能力を発揮できない相手を一方的に弄る―――それだけなんだろう?」
右手の拳銃の銃口から刃を取り外し、腹に刃を突き刺したままゆらりと餓鬼野へ向かって歩を進める。
その様はさながら幽鬼のようだ。そして右手の拳銃の銃口からも不可視の剣が現れ、青白い光の揺らめきを纏う。
「く…来るんじゃねええええ!!」
「魔弾『蒼朧剣(そうろうけん)』―――相手が悪かったな…如何なる戦術、戦略も我が魔弾の前では全て貧弱! 『降魔蒼纏(ごうまそうてん)』!!」
餓鬼野の掌から放たれた無数の光輪。しかしそれは、獅子堂の纏った青いオーラに触れるが否や、全て掻き消された。
「う…うああ…」
「恐怖に呑まれた貴様に最早勝ち目はない…俺以外の奴らに―――例え奴らが不完全な状態であっても―――敗北するのは必定だ。俺は貴様の仲間を追う…」
獅子堂は『落葉』の残骸を持った2人の女の行方を追うべく森の中へと歩を進め始める。
「万が一、俺が戻るまでに貴様が生き延びていたとしても…お前は俺に殺される。理解できたかエンジェル?―――いや、フォールン」
獅子堂の姿は暗い森の中へと消えていった。

【獅子堂 弥陸:『魂換眼』の能力を無効化。魔弾で武装し、餓鬼野に“恐怖”を植え付けて明と茜を追跡し始める】
121御影 篠@代理:2011/09/25(日) 00:00:58.29 0
>>113->>120
篠が餓鬼野に立ちはだかって数瞬、戦場は一時的に硬直した。
背後からは息を呑む音が聞こえる。恐らく黒羽が自分の正体に気付き、そしてここにいることに驚いているのだろう。
(あー、そういえば黒羽君は私の声を知ってるんだっけ。なら変装しても無駄だったね。
 この調子だと獅子堂君も気付いてるはず。迂闊に喋ったのはまずかったかしら)
そんなことを考えていると、前方にいる餓鬼野から再びエンジェル・ハイロウが放たれた。
篠はその場で器用に身を捻り、光の輪をいなした。篠の横を通り過ぎたそれは、そのまま後ろにいた黒羽達へと向かっていった。

黒羽は多少傷つきながらもかわし、二神は篠の横を通り過ぎて餓鬼野に突っ込んでいく。
(何の考えもなしに突っ込んだとは考えにくいわね。さしずめ、敵を油断させて能力で自身を強化ってところかしら。
 敵さんは彼の能力を知らないわけだし、いい考えね。──出血しすぎなければいいけれど)

「──ほぉっ?」
餓鬼野が感嘆したような声を上げる。
「こいつァ驚いたな。あんだけの数のエンジェル・ハイロウにもまるで動じねェとはよ。
 しかも……中には間髪入れずに反撃してくる奴がいるときたもんだ。流石はスイーパーといったところかァ?」
自身に向かってくる二神を睨み付け、餓鬼野は左手を翳す。するとそこから二神に向かって高速でエンジェル・ハイロウが放たれた。
直線上にいた二神はすぐに止まり、光輪をかわした。

「甘ェんだよ。そもそもスイーパーってのは犯罪者を倒してナンボの存在だろうが?
 武士道やら騎士道やらを気取って正々堂々叩きのめしにかかる奴ばかりじゃねェってのはガキでもわかるぜ。
 ククク……誤算だったなァ。テメェらの連係に俺が気付かねェとでも思っていたのか?」
餓鬼野の視線がこちらを向く。その瞳は不自然なほどの自信に満ちていた。
「……もっとも、誤算という意味じゃ俺も他人のこたァあまり笑えねェがな。
 まさか俺に気付かれずにここに潜んで奴がいたとはよォ……
 しかも、そいつら含めてほぼ全員に俺の『光輪眼』がほとんど通用しねェときてやがる。
 まぁ……飛び入りの“データ”は後ほど回収すりゃいいし、
 光輪眼のような人工眼は、俺にとっちゃ“おまけ”みたいなもんでしかねェけどなァ……」

(おまけ、ねぇ……。まさかとは思うけど──)
餓鬼野の言葉に、嫌な予感がした篠。奇しくもその予感は的中する。
「俺ァ相手を一方的に甚振るのが好きなんだけどよォ……どうやら今のままじゃそうもいかねェらしい。
 ──だから、使わせてもらうぜ。俺の本当の能力(チカラ)をよォ──!
 ククク、後悔するといいぜ! てめェら俗物如きが俺を本気にさせちまったことをなァッ……!」

(──!やっぱり!人工眼の他に固有の能力を持っていたのね!これは少し厄介かも)
人工眼とその人物固有の邪気眼を併せ持つこと。
一般人には到底不可能なその事象を、目の前にいるこの男は平然とやってのけている。それだけでこの男の実力は推して知れる。
(相手の能力が分からない以上、迂闊に複数で飛び掛るのは危険ね。少し可哀想だけど、ここは二神君に盾になってもらって──)

「驚いたって顔をしてやがんなァ? だがなァ、驚くのはこれからだぜェ!!
 ──さぁ、今こそその力を示すがいい! 我が『魂換眼(こんかんがん)』よッ──!!」
響き渡る餓鬼野の叫び。その声を聴いた瞬間、激しい頭痛と共に視界がぼやけ始めた。
(何……これ……!?これがあの男の固有能力ってわけ……!?)
ふらつく頭を抱え、次第に遠くなる意識の中、篠は死を覚悟した。殺気を纏った敵前での意識の喪失。それはイコール死である。
「俺の魂換眼の射程は半径10m! 解るかァ? てめェら全員ハナから俺の術中にいたんだよォ! ハハハハハハ!」
薄れ行く意識の中、餓鬼野の高笑いを聞きながら、今更遅いと知りつつも篠は後悔することしか出来なかった。
122御影 篠@代理:2011/09/25(日) 00:02:25.71 0
死を前に意識を手放そうとした瞬間、なくなりかけていた意識が急速に回復した。
「……?」
死を覚悟していた篠にとって、その出来事を理解するには少々時間が必要だった。
目を開けば、先程と何ら変わらぬ風景。目の前には相変わらず餓鬼野が立っている。
そしてその餓鬼野と"自分"の間に立つ"見覚えのある女性"の後姿──。

(女性……?あれって、もしかして私?)
そう、篠は"自分の後姿"を見ていたのだ。事態に気付き、慌てて自分の体を見回す。
(この服装……黒羽君、か。そう言えば腕が痛いわね)

「──クククク、ようやく気がついたようだな。これが俺の邪気眼・魂換眼の能力(チカラ)──!
 射程内にいる全ての生物の魂を『入れ替える』能力だ! そう……“魂だけ”をなァ!
 もう解ってるかァ? テメェらは不慣れな肉体(カラダ)に加え、使ったこともねェ邪気眼を使わなきゃならねェのさ!
 これだけのハンデを背負って、果たしてこれまでのように俺と闘えるかなァ!? フハハハハハハハハッ!!」

しばし立ち尽くしていた篠だったが、餓鬼野の高笑いで我に返る。
(今は戦闘中。敵の目の前で棒立ちなんて攻撃してくれと言っているようなものだわ。
 幸い黒羽君の闘いは二度この目で見ている。見様見真似でも攻撃くらい──!)
そう思い、黒羽の真似をして空気を圧縮しようとする。しかし──

「──クッ、思ったようにいかない……!」
見ただけであって実際に使用したわけでもない能力では、うまく扱えないのは道理であった。
(このままじゃまずいわね……。ん、そう言えばさっき──)
この場をどう切り抜けようか考えていた篠だが、ふと先程の餓鬼野の言葉を思い出す。

『俺の魂換眼の射程は半径10m! 解るかァ? てめェら全員──』

(──そう、この能力の射程はあの男から半径十メートル。ならそれ以上離れれば能力の影響はなくなるってわけね)
結論に至った後の篠の動きは早かった。
目の前にいる自分の体──誰が入っているかは分からない──を抱え、後ろに飛び退る。
そして先程樹の上にいた時に下にいた少女のところまで後退する。
「ねえ、あなた。誰だか分からないけど、とりあえずあいつから離れない?このままじゃまずいと思うの」

目の前ではいつの間にか獅子堂が餓鬼野を追い込んでいた。
しかしどういうわけか、餓鬼野に止めを刺さず、先程の二人組が消えた森に向かって行く。
(何処へ──まさか、落葉を奪い返しに?だとしたら願ったり叶ったりだわ。
 別に落葉を取り戻すのは私じゃなくてもいいわけだし。今は元に戻ることに専念しなくちゃ)

【御影 篠:『魂換眼』の影響により、黒羽 影葉の体に入る。戦闘能力が大幅に低下
       秋雨 凛音の中にいる黒羽に『魂換眼』の影響圏外への後退を持ちかける】
123黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/09/25(日) 22:34:33.45 0
>>120>>122
「ハァ、ハァ……! クソが……クソッたれがァ! まさか、まさか俺の能力が通じねェ奴がいるとは……ッ!」
ギリッと歯軋りしながら、餓鬼野は去っていく獅子堂の後姿を恨めしそうに睨みつけた。
それこそが、奥の手を封じた人間に対してできる、唯一の抵抗であると言うかのように。

──獅子堂と餓鬼野、その二人のやり取りを遠目から静観していた黒羽は、
餓鬼野に動揺が生まれたのを見て直ぐに体を低く身構え、静かに足を一歩踏み出した。
隙あらば加速をかけて間合いに入り込もうというのだ。
しかし、一歩二歩と、音を殺した歩行を三度続けた時、不意に餓鬼野の目がギロリと向けられた。
「俺が……この俺が恐怖に呑まれただと……? 俺の敗北が必定だと……?
 ……ふざけやがって。満足に音も殺せなくなったゴミ相手に……この俺が、この俺が負けるかよォッ!!」

──餓鬼野の左手が大きく輝き、そして瞬いた。
その輝きは文字通りの一瞬にリング状となって収束し、黒羽目掛けて撃ち放たれる。
黒羽は真横にステップすることでその攻撃軌道から外れることに成功するが、
にも拘らずその瞬間に黒羽の口から漏れたのは、まるで苛立っているかのような大きな舌打ちであった。
かわしたという結果が残ったものの、彼にとってはそこに至るまでの過程があまりに不本意だったからである。
(余裕を持って回避したつもりが、直撃と紙一重のタイミングだと……!
 俺の意識にカラダがついてこれていない……あの女の肉体ではそれだけアンバランスになるのか!)

「ねえ、あなた。誰だか分からないけど、とりあえずあいつから離れない?このままじゃまずいと思うの」
その言葉と共に横へ並んできたのは、彼──黒羽 影葉──のカラダを持つ“誰か”。
この場に居る者の中にオカマがいないとするならば、言葉遣いからして中身は御影か蛇遣いの少女のどちらかだろう。
まぁ、全身からどこか大人びた雰囲気が感じられるところを見ると、恐らく前者なのだろうが──
いずれにしてもまず一つ言えることは──
「……俺の声で女言葉は止めろ、背筋がゾッとする……」
もっとも、この様子を“少女自身”が見ていたら、今頃同じようなことを思っているに違いない。

「何ゴチャゴチャ言ってやがんだァ、おい。まさか俺から逃げようって相談をしてんじゃねェだろうなァ?
 言っとくがよォ、俺から距離を取れば能力が解除される……そう思ってんのだとしたら大きな間違いだぜ?
 一度魂が入れ替わった奴ァなァ、例え俺から何百km離れようとしばらくは元の肉体に戻れねェんだよォ!
 それとも……それとも何か? 動きづらいその体で、本当に俺から逃げ切ろうってのか?」

ジャリ──と一歩、餓鬼野は音を立てて足を前へ踏み出した。
その顔に浮かぶ薄ら笑いは、「試してみるか」というような挑発的な笑みにも見えた。
(奴は人工眼も使いこなす異能者。今のままでは恐らく逃げるのは不可能……。
 ……まぁ、逃げるつもりはハナから無かったが……しかし、この状態で果たして勝てるのか……)

黒羽は目だけを自分の周囲に向け、それぞれの顔を順々に一瞥して言った。

「……おい、このカラダの持ち主、女の魂は今どの肉体に居るんだ?
 ここに居たら返事しろ、そして俺に教えろ。貴様の邪気眼の能力を……!」

知ったところで使いこなせるかは判らない。にわか仕込みほど危険なものはないのも承知している。
でも、それでも、知らなければならない。肉体にハンデがある以上、異能で対抗するしか道はないのだ。

「いや、貴様だけじゃない……俺も、そしてお前らも、もはや全員が全員に能力を明かす必要がある。
 この場を生きて切り抜けるには奴を倒すしかねェ。隠し事は無しに協力し合わねェと、やばいぜ……」

【黒羽 影葉:秋雨に邪気眼の能力を問い、更に全員が能力を明かす必要があると説く】
124 ◆ICEMANvW8c :2011/09/26(月) 03:18:47.06 0
跡形も無くなった廃火葬場から更に西へ進むこと数百メートル。
のどかな田園風景が広がるその場所の一角に、修道服に身を包んだ奇妙な集団がいた。
「回収できたのか?」
そう言ったのは、その集団の内の一人である、頭からフードをすっぽりと被った眼帯の男。
「落葉は破壊されていた。けど、その破片はこの通り回収済みよ」
と、懐から粉末の入った透明なビンを取り出したのは、ピンクのツインテールが特徴的な少女──
戦場を一足早く離脱したあの明という人物であった。
「破壊……だと?」
男が何を言わんとしているのか、それをいち早く察知した明は、すぐさま顔を横に振って答えた。
「壊したのは私じゃない。こいつを盗んだ泥棒とスイーパーが闘い、その過程で破壊されたんだ。
 今、餓鬼野の奴が一人で残って後始末をしている。奴のことだ、時間をかけて料理する気だろう。
 私たちは今の内にアジトに──」

ガシ。足を進め掛けた明の腕が背後から掴まれる。
明が振り返ると、彼女の腕を掴んでいたのはもう一人の少女、茜であった。
「……誰か、来る……後ろから……」
その言葉を聞いてその場に居る全員が茜の背後を見やった。
といっても、見えるのは人気ない田園と、山まで続く外灯一つ無い暗い農道のみ。
耳を済ませたところで聞こえてくるのは夏虫の鳴き声。とても人が来るような気配は無い。
しかし、既にこの場にいる全員は、誰かが来ることを確信していた。
恐らく、それだけ茜という少女には全員が信頼を置ける程の“何か”があるのであろう。

「さては餓鬼野のバカめ……一人討ち漏らしたな。ったく、大口叩いてこれじゃ世話ないよ」
「だが、餓鬼野の居る場所からは依然として複数の戦闘反応が感じられる。
 九十郎は泥棒の場所に向かったのは二〜三人と言っていたはずだが……
 今残っているのは後から来た増援の連中か? それとも、こちらに向かっているのが……」
「いずれにしても、私らの敵であることは間違いなさそうだ。九十郎の情報もアテにならないな」
「部下によると、その九十郎も先程から連絡が途絶えたままだそうだ。
 もし捕まったのだとしたら……このまま餓鬼野一人を残して行くのは少々危険だな」

明は全員を見渡した後、小さく溜息をついて言った。

「……わかった、じゃあ私がちょっと様子を見てくる。あいつは死んだっていいけど、
 もしあの場所に新手が現れたのだとしたら、そいつらの“一部”を回収しなきゃならないからね」
「それでは、ここに来るであろう追跡者の始末は俺たちがやろう」
「なら茜、天使様のもとへ落葉をお届けするのはあんたがやりな。他の奴には渡すんじゃないよ」

投げ渡されたビンを丁寧に握り締めた茜は、無表情のまま小さくコクリと頷いた。

「行くよ!」

バッ。地を蹴る音と共に、全員の姿がその場から消える。
明は来た道とは別のルートから再び戦場へ、茜は組織のアジトへ、そして眼帯男率いる集団は追跡者のもとへ……
それぞれ向かっていったのである。

【明:獅子堂と鉢合わせしないルートから戦場へ向かう】
【茜:組織のアジトへ向かう】
【眼帯男とその一団:田園地帯の中で獅子堂を待ち受ける。数は総勢15名。全員が光輪眼を持つ。
             ただし、眼帯男だけは光輪眼プラス別の邪気眼を持っている】
125秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/09/26(月) 18:41:27.06 0
>>117-118>>123
「けどなァ──」
正面に二神が居るにも拘わらず、餓鬼野の手は後方に伸びていた。と、言うことはつまり―
(気づかれたか…! 『社長権限』、強制送還(リターン)!)
不意打ちに気づかれ、反撃を受けると察知した秘社は、すぐさま潜人を社内に戻した
潜人が居なくなった背後を、無数の光輪が駆け抜ける。それは闇夜さえも切り裂いて、彼方へと消えていった
(危なかった…。影に潜らせればかわせたかもしれないが、もしものこともあるからな)
「甘ェんだよ。そもそもスイーパーってのは犯罪者を倒してナンボの存在だろうが?
 武士道やら騎士道やらを気取って正々堂々叩きのめしにかかる奴ばかりじゃねェってのはガキでもわかるぜ。
 ククク……誤算だったなァ。テメェらの連係に俺が気付かねェとでも思っていたのか?」
(…私はスイーパーではないがな。だが、この程度の卑怯は奴には通じないのか…。では、更なる作戦を考えるとしよう)
そんなことを考えながら、眼鏡をかけ直す秘社。そして、秘社を見据えていた餓鬼野の目は御影の方へと動いた
「……もっとも、誤算という意味じゃ俺も他人のこたァあまり笑えねェがな。
 まさか俺に気付かれずにここに潜んで奴がいたとはよォ……
 しかも、そいつら含めてほぼ全員に俺の『光輪眼』がほとんど通用しねェときてやがる。
 まぁ……飛び入りの“データ”は後ほど回収すりゃいいし、
 光輪眼のような人工眼は、俺にとっちゃ“おまけ”みたいなもんでしかねェけどなァ……」
(つまり…人工眼以外に別の邪気眼を持っているということか…? 人工眼は無能力者しか使えない物ではなかったのか…? エンジェル…調べてみる必要がありそうだ)
「俺ァ相手を一方的に甚振るのが好きなんだけどよォ……どうやら今のままじゃそうもいかねェらしい。
 ──だから、使わせてもらうぜ。俺の本当の能力(チカラ)をよォ──!
 ククク、後悔するといいぜ! てめェら俗物如きが俺を本気にさせちまったことをなァッ……!」
(…!!)
餓鬼野の身体の回りから、異様な気が漂ってくるのを感じる秘社。それは、さっきまでの殺気とは全く違う、異常で異質な何かだった―
「驚いたって顔をしてやがんなァ? だがなァ、驚くのはこれからだぜェ!!
 ──さぁ、今こそその力を示すがいい! 我が『魂換眼(こんかんがん)』よッ──!!」
掌を開き、眼を開き、言う餓鬼野
(こんかん眼? 恨感、金艦、根乾、魂観、魂換…)
「ぅ…ぁ…」
『魂換』の言葉を聞いた瞬間から、餓鬼野の能力を推理していた秘社。しかし、その考えがまとまる前に、激しい頭痛が秘社を襲った
「俺の魂換眼の射程は半径10m! 解るかァ? てめェら全員ハナから俺の術中にいたんだよォ! ハハハハハハ!」(頭痛…意識が沈んでいくような…いや、これは寧ろ“意識が身体から離れて”行く感覚か…?と、言うことはつまり…)
頭痛に苦しまされながらも、必死で推理する秘社。そして、気づいたのか気づかなかったのか、最後の力を振り絞り…
(皆、緊急事態だ…! 私ではない存在が私の中に入るかも知れない…! だから今から私が許可するまでは、全員『誇束株式会社』の社員を名乗るんだ…)
そして、秘社は意識を失った―――
「う…」
眼を開けると、広がっていたのは今までとは違う風景…いや、餓鬼野を見ていることに変わりはないのだが、その視点が違う。
そして、自分の声でない声が、自分の口から出る。そして何より、眼鏡をかけていない―
(この体は、私の体ではない―ということはやはり…)
「──クククク、ようやく気がついたようだな。これが俺の邪気眼・魂換眼の能力(チカラ)──!
 射程内にいる全ての生物の魂を『入れ替える』能力だ! そう……“魂だけ”をなァ!
 もう解ってるかァ? テメェらは不慣れな肉体(カラダ)に加え、使ったこともねェ邪気眼を使わなきゃならねェのさ!
 これだけのハンデを背負って、果たしてこれまでのように俺と闘えるかなァ!? フハハハハハハハハッ!!」
秘社は、彼の能力を『魂を入れ替える』能力か『意識をのっとる』能力であると推理していた。答えは前者…




126秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/09/26(月) 21:11:02.22 0
後者よりは、まだましだった
「私の体は…」
すぐに、秘社は自分の体を探し始めた
「そこね」
周囲を確認し、自分の体が今御影篠であることが分かったので、極力女言葉を使う努力をする秘社。頑張り所が間違っている気がする
自分の体を確認すると、すぐにそこに駆け寄った。そして、自分の体の掌ー丁度邪気眼の位置に、手を当てる…握手の要領で
「『社長権眼』、社員契約(コントラクトハンド)」
秘社の『社長権眼』によって召喚するメンバーになるためには、条件がある。それは、『秘境(誇束)の社員になりたいという明確な意思をもって、社長権眼に触れること』である。この時、秘社本人ーつまり社長権眼の所有者の
意思は優先されない。『絶対に仲間にしたくない』などと思っていない限り、その契約は成立するのだ。
そして今秘社の体には別の人が入っていて、御影の体には秘社が入っているーつまり、この瞬間、秘社は半ば強制的に、御影を社員にすることができるのだ
(…私だ。復帰した。…と言っても体は他人のものだがな)
『秘境』のメンバーの一人の能力、『心網眼』は、新しいメンバーが増える度に、このメンバーの脳にも接続されるように設定されている。だから、秘社はそれを利用し、社員とのコンタクトを可能にしたのだ
(緊急事態だ。誇束株式会社社員一同として、ここにいる全員に協力してくれ)
などと伝えていると、不意に秘社ー今は御影の体が宙に浮く。否、担ぎあげられた
「黒羽先輩?」
体は黒羽の物であったが、御影の体である自分を持ち上げたということはー
「マリーさんですか」
後ろに居そうな名前で呼ぶ秘社。決して御影とは呼ばないあたり、空気を読んでいるのだろう
御影は、有効範囲から外れれば能力が解除されると推測し、餓鬼野から離れて行った。しかし…
「何ゴチャゴチャ言ってやがんだァ、おい。まさか俺から逃げようって相談をしてんじゃねェだろうなァ?
言っとくがよォ、俺から距離を取れば能力が解除される……そう思ってんのだとしたら大きな間違いだぜ?
一度魂が入れ替わった奴ァなァ、例え俺から何百km離れようとしばらくは元の肉体には戻れねェんだよォ!
それとも……それとも何か? 動きづらいその体で本当に俺から逃げ切ろうってのか?」
確かに、確かにこの体は動かしづらい。元より動けないから、動かしづらいわけではない。寧ろ、“動け過ぎる”から、動かしづらいのだ。
秘社は頭脳明晰で強運、類い稀なるカリスマ性を持つが、運動神経に関してはからっきしなのだ。つまりこの体をコントロールしきれないし、細かい動作も難しい
「右手、左手、右足、左足、首…」
秘社は御影に運ばれながら、しきりに手足首を動かしていた。もちろん、体の感覚に慣れるためだ
「いや、貴様だけじゃない……俺も、そしてお前らも、もはや全員が全員に能力を明かす必要がある。
この場を生きて切り抜けるには奴を倒すしかねェ。隠し事は無しに協力し合わねェと、やばいぜ……」
と、黒羽の言葉を聞き、
「私の能力は『社長権眼』。誇束株式会社の社員とアイテムを召喚、召還する能力ですわ…違うな。
あたしの能力は『社長権眼』って言って、誇束株式会社の社員を召喚、召還する能力なんだけど…勘違いしないでよね! 別にアンタ達の為に言ってる訳じゃないんだから! そう、独り言、独り言よ! ………こんなキャラじゃなかったな。
私の、能力。『社長権眼』。誇束株式会社の社員とアイテムを召喚、召還できる。…確かにクールではあったが、ここまでではなかったな。
まぁ兎に角私の能力はそんな感じです。因みに私の体は眼鏡をかけたスーツの青年ですよ」
少し遊び心を見せながら、自分の能力を伝える秘社
「私の能力は味方が多いほど強力になります。ですから皆さん、誇束株式会社の社員になりませんか?
…社員になるにはなりたいと思いながら私の邪気眼側の手を握ればいいですよ」
半分は戦力強化のため、半分は『秘境』メンバー補充のため、交渉を持ちかける秘社
「…いえ、確か隠し事は無しでしたね。言い直します。私の『秘密結社』に入ってください。方法は先程と同じです
勿論後から払えるお礼は払いますし、それなりの待遇も約束しますよ。如何です? ここを切り抜ける為にも、悪くない話だとは思うのですが」
しかしそれでは足りないと判断したのか、自分の株式会社が秘密結社であることを明かし、再び交渉を持ちかける秘社
【秘社境介:in御影篠。自分の能力を明かし、会社の正体を明かし、入社を持ちかける】
127獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/09/28(水) 06:31:54.04 0
>>124
雲間から微かに月明かりが指す森の中を、獅子堂はさながら一陣の風の様に駆け抜ける。
特別に夜目が利くわけではない。時折、小枝にコートを引っ掛けながら力任せにそれらをへし折りつつ2人の女の後を追う。
「チッ…邪魔だ!」
コートに絡まる草木が鬱陶しくなったのか、獅子堂はコートを脱ぎ捨てる。
そして左手を前方へとかざす。『闇照眼』の漆黒の瞳がドクンと脈動する―――次の瞬間、追跡する2人組が通ったルートが銀色の陽炎となって仄暗く明滅し始めた。
『闇照(ヤミテラス)』―――見えざるモノを見る能力。岡崎から授かった『闇照眼』の能力の片鱗である。
(…追い付くためにルートは最短を取る…直線の道を作るしかないな)
決断は早かった。右手の銃口の『蒼朧剣』が藍色に輝き始める。そして輝きが最高潮に達した瞬間、その刀身を振り抜きつつ、2つ目のトリガーを引く。
「魔弾『弧月閃』! 『テンペスト』!」
刀身から放たれたのは鋭い三日月を思わせる高密度エネルギーの刃。それは前方へ向かって約5メートルの幅に渡って目にも止まらぬ速さで前進し、
触れた木々をレーザーで焼切るかのように切断していく。そこに衝撃波の魔弾が炸裂―――幹を切断された木々が吹き飛ばされると、1本の道が出来ていた。
「…環境破壊も大概にしねぇとなぁ…蓮子さんにどやされるぜ…」
うそぶきながら作り上げた最短ルートを駆け抜ける獅子堂。そして廃火葬場の脇を抜け、田園地帯へと辿り着く。

「っ!」
田園地帯に足を踏み入れた獅子堂が目にしたもの―――それは総勢15人に及ぶ修道服の一団だった。
「これほど早く来るとは…大したものだ」
獅子堂の姿を目にして口を開いたのは、頭からフードをすっぽりと被った眼帯の男。
「…全て最初から計画済みってことか。『落葉』は既にここには無い…俺を足止め―――いや、始末するために待ち伏せていたってわけだ」
周囲を見渡せば、修道服の一団は自分を中心に円陣を組み獅子堂を包囲。そしてその手には白い光―――餓鬼野の掌にあった人工邪気眼と同じものが明滅している。
「包囲する側、される側…どちらが有利かなど語るまでもないだろう。君が大人しく諦めてくれれば俺達も手荒な真似をせずに済むのだが―――」
ガフォン、と銃声が響き渡り獅子堂の真後ろに陣取っていた修道服の女が倒れた。その額には穴が空き、炸裂した後頭部からは脳漿が飛び散っている。
「き、貴様…!」

「…戯けたコト吹いてんじゃねえぞ、隻眼のエンジェル様よ…手前らみてえな怪しい集団はロクな事考えねえって相場が決まってる。
 『落葉』には重大な秘密がある…何かは分からねぇが、手前らの行動がそれを証明して―――」
「―――貴様! よくも我が同志をぉぉぉぉ!!!」
仲間が殺されたことに怒りを覚えたのだろう、左右からフードを被った男達が突進してくる。
そして飛び交う無数の光輪―――餓鬼野がエンジェル・ハイロウと呼んだものと全く同じものだ。
だがその光輪も餓鬼野が放ったものと同様に、獅子堂が纏うオーラに触れては消滅していく。
「なっ!?」
「馬鹿な! エンジェル・ハイロウ―――があっ!」
驚愕に顔を歪ませた2人の男達は次の瞬間、獅子堂の放った弾丸によって両目を、額を撃ち抜かれて倒れ伏す。
「おのれぇ! 許さん!」
「…ほう…」
次に襲来したのは機械の邪気眼から生み出された光の剣。獅子堂がそれを『青幽剣』で受け止める―――
「―――ぎゃああああ!」
刹那、攻撃を仕掛けたはずのフードの男は右腕を抑えてのたうち回っていた。その右腕の手首から先は地面に転がり、機械の邪気眼がショートしている。
「『青幽剣』の刃は1つではない。俺の意思ひとつで自在に数も形状も変わるのだ…このようにな!」
獅子堂が地面でのたうつ男の心臓へと『青幽剣』を振り下ろす。オーラに覆われた不可視の刃は心臓を貫き、同時に首、頭部、右肺をも貫いた。
「…包囲するか、されるかなんてのは問題じゃない。力の重厚が勝敗を決める…高くついたが良い授業になったろう?」

【獅子堂 弥陸:修道服の集団と戦闘開始。現時点で4名を撃破】
128???@代理:2011/09/30(金) 01:06:47.02 0
>>116-121>>125-126
「……くっ……なにが起きた?」
暗かった視界に月夜の明かりが戻り、徐々に意識が覚醒していく。
気を完全に失う、その直前まで追い込まれた五感が突然体に戻っていくのを感じる。
(確か俺様は樹の上で見物していた筈だが……何らかの攻撃で落下したのか?)

回復した視界の中で第二人格である少女はありえないものを発見する。
(あれは凛音か? ……なら、俺様はいま――)
視線を下げて、自分の姿を確認する。
夏にも関わらず、暑苦しい真っ黒の学生服に黒いコート。
視界の端に捉えた前髪は老人のようにしろく、傷だらけの腕も青白い色をしている。
服装を確認する途中で、己の精神の中に眠っている凛音を発見し、自分でも気づかないくらい小さい溜息をもらした。
                 ヤ
(こいつはさっきまで盗賊と殺りあってた血塗れ野郎の格好……いや、体か。
 これは催眠術か? それとも……まさか、人間の精神を入れ替えるなんて奇天烈な能力があるというのか?)
体の具合を確かめると、小指やその他数か所から傷を負っているのに逆にそこから力をが溢れるのを感じる、という奇妙な感覚を味わった。
(この感覚……どうやら、俺様の推測は後者が正しいようだな)

「──クククク、ようやく気がついたようだな。これが俺の邪気眼・魂換眼の能力(チカラ)──!
 射程内にいる全ての生物の魂を『入れ替える』能力だ! そう……“魂だけ”をなァ!
 もう解ってるかァ? テメェらは不慣れな肉体(カラダ)に加え、使ったこともねェ邪気眼を使わなきゃならねェのさ!
 これだけのハンデを背負って、果たしてこれまでのように俺と闘えるかなァ!? フハハハハハハハハッ!!」

餓鬼野の声でいまは敵の目の前だという事を思い出し、相手に体を向けた。
だが、その後は「蒼魔の銃王」と名乗ったスイーパーが能力を無効化し、餓鬼野を圧倒した後、明と茜を追って走り去った。

あまりの出来事にスイーパー以外の人間はただそれを見ていただけだった。
「俺が……この俺が恐怖に呑まれただと……? 俺の敗北が必定だと……?
 ……ふざけやがって。満足に音も殺せなくなったゴミ相手に……この俺が、この俺が負けるかよォッ!!」
やけくそのようにリングをこちらに投擲する餓鬼野。
目標は凛音――いや、凛音の体に入った誰かだ。
「ち……」
狙われたのは自分の体だ。助けようとしたが、少女が何とかする前に狙われた『凛音』は自分で回避してくれたようだ。

「ねえ、あなた。誰だか分からないけど、とりあえずあいつから離れない?このままじゃまずいと思うの」
「……俺の声で女言葉は止めろ、背筋がゾッとする……」
女口調で話す盗賊と、それを少々乱暴な口調で返す凛音。
どうにも違和感を覚える光景だったが、これで盗賊には「ブラッディ・マリー」と名乗った女が、凛音にはあの盗賊が入ったことを理解した。
(フフ、敵の攻撃を喰らったってのにこいつは笑っちまう光景だな。まぁ、凛音は俺様が表に出てる時とさほど変わらんか)

「何ゴチャゴチャ言ってやがんだァ、おい。まさか俺から逃げようって相談をしてんじゃねェだろうなァ?
 言っとくがよォ、俺から距離を取れば能力が解除される……そう思ってんのだとしたら大きな間違いだぜ?
 一度魂が入れ替わった奴ァなァ、例え俺から何百km離れようとしばらくは元の肉体に戻れねェんだよォ!
 それとも……それとも何か? 動きづらいその体で、本当に俺から逃げ切ろうってのか?」

餓鬼野はご丁寧に自分の能力を自分で解説した。
この男、どうにも傲慢なところがあるようだ。今の説明も余裕があってのものだろう。

「……おい、このカラダの持ち主、女の魂は今どの肉体に居るんだ?
 ここに居たら返事しろ、そして俺に教えろ。貴様の邪気眼の能力を……!
 いや、貴様だけじゃない……俺も、そしてお前らも、もはや全員が全員に能力を明かす必要がある。
 この場を生きて切り抜けるには奴を倒すしかねェ。隠し事は無しに協力し合わねェと、やばいぜ……」
129???@代理:2011/09/30(金) 01:08:30.12 0
                        そんざい
(……さて、どうしたものか。別に今ここで俺様という第二人格がバレても、さして問題はない。
 だがもしこいつらと再会し、それが原因で凛音に感づかれるのは困るな。凛音が俺様を認識することで、俺様にどんな影響があるか分からんからな)
ここは凛音の演技でもして乗り切ろうかと決めたときには、別の人物が先に話し始めていた。

「私の能力は『社長権眼』。誇束株式会社の社員とアイテムを召喚、召還する能力ですわ…違うな。
 あたしの能力は『社長権眼』って言って、誇束株式会社の社員を召喚、召還する能力なんだけど…勘違いしないでよね! 別にアンタ達の為に言ってる訳じゃないんだから!
 そう、独り言、独り言よ! ………こんなキャラじゃなかったな。
 私の、能力。『社長権眼』。誇束株式会社の社員とアイテムを召喚、召還できる。…確かにクールではあったが、ここまでではなかったな。
 まぁ兎に角私の能力はそんな感じです。因みに私の体は眼鏡をかけたスーツの青年ですよ」

ブラッディ・マリーと名乗り、真紅のコートを着た女性があれこれ語調を変えながら自分の能力を説明した。
中身はマリーと同じく途中からこの場に現れたスーツ姿の青年。
つまり消去法でいくと、いま自分が入っているフード男はその『社長権眼』とやらを持つ青年の体の中という事か。

「私の能力は味方が多いほど強力になります。ですから皆さん、誇束株式会社の社員になりませんか?
 …社員になるにはなりたいと思いながら私の邪気眼側の手を握ればいいですよ
 …いえ、確か隠し事は無しでしたね。言い直します。私の『秘密結社』に入ってください。方法は先程と同じです
 勿論後から払えるお礼は払いますし、それなりの待遇も約束しますよ。如何です? ここを切り抜ける為にも、悪くない話だとは思うのですが」

(邪気眼に触れろ、だと。こいつ、この場を利用して俺様たちと自分の能力になんらかの繋がりをつくる気か。
 恐らく能力が強力になるというのは本当だろうが、あっさりと文字通り手を結んでいいものか)
青年の提案に悩んだが、そんな余裕がないことを敵が知らせてきた。

「おいおい、まさかテメェらよォ。この俺が親切にテメェらの自己紹介タイムを待ってやるとでも思ってんのかァ?
 俺はなァ、いつもこの能力で相手を『狩る』ときは相手が悩み、戸惑い、そして絶望する姿を見て殺すのを楽しみにしてんだァ。
 だから、とっとと全員不様に逃げ惑えよォ! でねェと、おもしれェ狩りにならねェだろうがァ!!」

餓鬼野は左手にエンジェル・ハイロゥを複数生み出し、それをまとめて投擲する。
五人全員がそれに反応し、リングは後方へと消えていった。
(いや……違うな……)
リングは今まで通り虚空へと消えることは無く、この平地の周囲を囲むように巡回し始めたのだ。

「ククク、流石に五人バラバラに逃げられちまったら一人ぐらいは逃がしちまうかもしれねェからなァ。
 だがこうして、『柵』を造れば誰一人としてこの俺からは逃げられねェぜ――」

餓鬼野は舌なめずりしつつ、新たに直径一メートルはある大きさのエンジェル・ハイロウを作り出す。
それをまるで普通の剣を扱い、調子を確かめるように二、三度軽く振り回した。
どうやら、あのリングを使い接近戦を仕掛けてくる気のようだ。

(フフ、少し賭けでもしてみるか……)

「皆さん、俺……私が時間を稼ぎます。その間に能力の確認となにか策でも考えておけ……じゃなくて、考えてください。それと――」
凛音に――自分の体に顔を向け、自分を見下ろすという奇妙な感覚を体感しつつ、告げた。
「私の『餓鬼眼』は、所有者が自分たちを従えるに値する者だと判断すれば力を貸してくれるはずだ……はずです」
(凛音はあれで、意思がとてつもなく強いところがあるからな。果たして、餓獣どもはあの盗賊をどう見るかな)

一応、凛音の口真似をして軽く説明を済ませながら、名も無い少女は拳でもう片方の手を叩き、軽く準備運動をする。
その際に、小指の傷口から血がビチャビチャッと地面に血痕をつくった。
(やはり、こいつは血を流すほど強くなる能力者か……一番長く見ていた奴の中に入れたのは不幸中の幸いか)
130???@代理:2011/09/30(金) 01:09:49.68 0
「オラァ! そろそろ行くぜェェェェ!!」
「……フフ、来いよ、脳筋野郎」

こちらに突進する餓鬼野に向けて、誰にも聞こえない声で呟くとフード男の体は地面を蹴って前へ駆け出していた。
体のバランスが何度か崩れそうになりながらも、転倒することなく接敵した。
餓鬼野は左手のリングを横薙ぎにして、斬りかかる。
しかし名も無い少女はそれを“伏せて躱し”、そのまま伏せた体をバネにして“カウンターのアッパーカットをお見舞いした”。

「なァ!?」と餓鬼野は困惑しつつもそれを避けつつ後ろに跳び、一度距離を置いた。
対して名も無い少女は勢いをつけすぎたのか、腕に振り回されるようにひっくり返ったもののすぐに立ち上がった。

「バカな――なんでテメェはそこまで『動ける』!? 普通は慣れない視点や、もとの体とのバランスの差で下手すりゃ走ることもままならないはずだァ!?
 それをテメェは――!!」

ここでニヤ、とフードの男の顔が……名も無い少女が笑った。
他の連中には背を受けているため、餓鬼野だけがその余裕と嘲笑をふんだんに盛り込んだような笑みを目撃した。

「テ、テメェも俺をバカにする気か!? このゴミがァァ!!」

餓鬼野が右手にも同じ大きさのリングを取り出し、二刀流で襲い掛かる。
(フ、俺様も一か八かだったんだよ。俺様は自分の二つの特性に賭けた。まずは俺様が凛音の恐怖や不安に対抗するために生まれたこと。
 こいつのおかげで俺様には恐怖や不安への耐性……いや、いっそのことその手の感情が無いといってもいい。だから、慣れない体でも冷静に誤差を修正し、対応できた。
 そして、俺様の誕生には『餓獣』どもからの干渉があったこと。その結果、俺様のなかには獣のような闘争本能が埋め込まれている。
 さっきの回避や拳も、人間としては全く型になってないものだが、『本能』による反射的な行動だったから、あそこまで素早く動けたってわけだ)
餓鬼野の乱撃をフード男の体はのらりくらり、と回避する。多少は皮膚をかすめていくが、この男自身の能力のおかげでダメージには至らない。
(おまけにこいつの体の筋肉は肉弾戦に強いようだからな。オマケに邪気眼の能力は傷にも強い、と好条件が揃い踏みだ。
 つまりは、完全に体を操れなくとも、獣のような反射的行動で避けることは不可能ではない、ということだ。)
名も無い少女は体全体を使って、まるで猫のように避けつつ、アイコンタクトで他の四人に話し合いを進めるよう促した。

(さて……とは言ってもののこいつも相当の手練れ。今は余裕を崩され、頭に血がのぼった状態だから何とか回避できてるが、長くは持たんだろう。
 まぁ、倒すべき敵がいる前でヒソヒソと作戦会議をするなんて俺様の性に合わんしな。この体でもう少し遊びつつ、他の四人に期待でもしとくか……フフ)

凛音の理想を餓獣が歪めた結果で生まれた少女は、その歪んだ笑みを浮かべつつ、月夜の下に天使の輪と踊り続けた。

【???:餓鬼野の怒りを誘い、時間稼ぎ。防戦一方】
131 ◆ICEMANvW8c :2011/10/01(土) 19:36:11.19 0
>>127
瞬く間に四人の構成員が躯と化していった光景は、男達に驚きと恐怖を与えた。
「なんだ……これは!」
「我等と同様の人工眼使いを、ほんの数秒で……!」
次第にどよめきが広がっていくその様は、まるで波立たぬ水面に石を投げ入れたが如し──
数の上で圧倒的優位な立場であればあるほど、「まさか」という事態には脆いものなのだ。

しかし一方で、まるで時が止まっているかのように、全く動じていない者もいた。
「ほう……流石に強いな、スイーパーは。餓鬼野が討ち漏らすわけだ」
被っていたフードを外し、緑色のクセ毛を星空の下に曝したその人物は、片方しか開かない目を意味深に細めた。

「つ、『月影』様……」
隣に居たフードの女性が目を丸くする。
彼──月影という男がフードを外したという事は、彼が“『戦闘態勢』に入った”事を意味するからである。
「全力だ。お前らの持てる力全てを注ぎ込んで、この男を始末しろ」

彼が闘うということはどういうことか……それを彼女は知っていた。
彼女にとって……、いや、この場に居るエンジェルにとって、彼は決して闘わせてはいけない男なのだ。

「は、ははっ! 我等一同一切の慢心を捨て、全力で挑むことをここに誓約致します!」

女性が隻眼に跪き、そう宣言した同時──どよめきが消えた。
そしてそれぞれが改めて目の前の敵を見やった時、彼らの表情はこれまでとは一変していた。
顔には敵に対する優越感や余裕は勿論、もはやちょっとした不安や恐怖の色すらなく、
唯一あったのは気迫だけを無理矢理前面に押し出すような鬼気迫るそれのみであった。

「いいか! 月影様のお手を煩わせるようなことがあってはならない! 
 如何なる犠牲を払おうとも、この男は必ずや我等の手で始末するのだ! ──さぁ、ゆくぞ!!」

女性の一声と共に──数人の男女が空中に跳んだ。
そして彼らの掌に形成され、素早く放たれたのはお馴染みのエンジェル・ハイロウ。
だが、今更獅子堂に効果があるはずもなく、命中する寸前に飛散し、消失していく。

「うおおおおおおおおお!!!」
その瞬間だった。大地に残った数人の男達が雄叫びを挙げながら獅子堂に突進したのだ。
「ぐああああ!!」
「うぎゃああ!!」
しかし、そのような無謀ともいえる突進が、しかも二度目となれば獅子堂に通用するはずもない。
一人、また一人と反撃によって体中を撃ち抜かれては、無残に屍と化していく。
それでも──それでも彼らは前身を止めなかった。死ななかったのか? いやそうではない。
彼らは常人では理解し難い狂気と執念でもって屍と化したその肉体を動かしたのだ。
「があああああああああ!!!」
そしてその執念は、ついに獅子堂に届いた。
それぞれがとてつもない怪力を生み出し、彼の四肢にしがみついたのである。

「よくやったぞお前ら……!」
それを目の当たりにした女は小さくそう漏らした。
そして、空中に居る同志達に目で援護の合図をかけた後、その両腕に光剣を宿して飛び掛った。

【新たに四名死亡。残るは月影含む七名】
【人工眼使い:数は六名。内五名が空中から再度エンジェル・ハイロウを放ち、一人が接近戦に持ち込む】
132 ◆ICEMANvW8c :2011/10/01(土) 21:29:33.98 0
>>98
エンジェル・ハイロウを放ち、その隙に逃げる──。
その作戦はまんまと成功した──少なくとも九十郎だけはそう思った。
しかし──
(っ!?)

九十朗が高く跳躍しようと足に体重を乗せた瞬間、彼の体は床の中へと沈み込んでいった。
偶然その部分だけ床が腐っていたからそうなったわけではない。
床が破れたのは彼の身体が尋常じゃないほど重くなっていたからである──。
「なな、なんだ……!!」
「教えてやろうか?」
身動き一つ取れず苦しそうに呻く九十郎を見据えて、龍神はその右手を九十朗に差し出した。
いや、正しくは見せ付けたのである。その手に在る、異能者としての証を。

「俺の邪気眼の名は『暴重眼』。能力は重力を操る。お前の体重を通常の十倍ほどにしておいた。
 お前程度の力じゃ逃れることはできんよ」
「ぐぐ……がはぁ! ちく……しょぉ!」
「ペラペラと喋ってくれてありがとよ。その礼に、これからお前を天国に送り返してやるよ。
 ……生まれ故郷に無料(タダ)で送ってもらえて嬉しいだろ? なぁ、エンジェルとやら」
「!! やっ、やめ──」

龍神の手に在る眼が凶悪な光を放つ。
瞬間──グシャア! っというモノが潰れる音を発して、とうとう九十朗は物言わなくなった。
龍神の直ぐ隣にいた紅峰が九十朗が沈んでいった穴を覗き込む。
中には地下数メートルの位置にまで減り込み、文字通り平たく潰れた九十朗の姿があった。

「エンジェル……エンジェルか。落葉を狙っていたことといい、あの機械の眼……恐らく人工邪気眼。
 ……胡散臭いとは思っていたが、ただの宗教団体じゃなさそうだな。……誰かおるか?」
「はっ、ここに」
龍神が呼んでからものの数秒もかからずに、背後から一人の黒服──
高崎という名のあの男が現れた。龍神はその彼を見やるとこう告げた。
「ISSに報せてやれ、エンジェルは異能犯罪者集団である可能性が高いとな」
「はっ。ですが、我々がISSに……」
「連中(エンジェル)も落葉を狙っている以上、我々もただ座して待つわけにはいくまい。
 依頼したスイーパーが落葉を取り戻したとしても、奴等に再び奪われては何の意味もない。
 だが、ISSが奴らを異能犯罪者だと認めれば、少しはやりようもあるだろう」
「……承知いたしました」

すっと音も無く消えていく高崎を見届けた龍神は、頭上に昇った月を見上げて小さく呟いた。
「……落葉……まさかあれが狙われる日が来ようとはな……。
 “あの時”の二の舞だけは避けなきゃならねェ……そうだろ? 『蒼月(そうげつ)』よ……」

【雁 九十郎:死亡】
133御影 篠@代理:2011/10/02(日) 23:17:26.74 0
>>123>>126>>129
「……俺の声で女言葉は止めろ、背筋がゾッとする……」

篠が話しかけた少女は心底嫌そうな表情でそうつぶやいた。
「あなた、黒羽君ね?言葉使いが嫌なら訂正するわ。……こんな感じでいいか?」
普段使うことのない男言葉でそう言うと、少女──中身は黒羽──の表情が幾分和らいだ。

「……おい、このカラダの持ち主、女の魂は今どの肉体に居るんだ?
 ここに居たら返事しろ、そして俺に教えろ。貴様の邪気眼の能力を……!」
黒羽が元の体の持ち主である少女に向かって能力の説明を求める。
「いや、貴様だけじゃない……俺も、そしてお前らも、もはや全員が全員に能力を明かす必要がある。
 この場を生きて切り抜けるには奴を倒すしかねェ。隠し事は無しに協力し合わねェと、やばいぜ……」
そして少女だけではなく、この場にいる全員に能力の説明を求める。
篠は一瞬迷った。彼らがこの先自分にとってどういう位置づけの存在になるか分からない。
そんな相手に易々と己の能力の種明かしをしてもいいものか。

(リスクは決して小さくはない──けど、今ここで生き残れなくちゃそれを考えるだけ無駄ね)
「私の能力は『社長権眼』。誇束株式会社の社員とアイテムを召喚、召還する能力ですわ…違うな。
あたしの能力は『社長権眼』って言って、誇束株式会社の社員を召喚、召還する能力なんだけど…勘違いしないでよね! 別にアンタ達の為に言ってる訳じゃないんだから! そう、独り言、独り言よ! ………こんなキャラじゃなかったな。
私の、能力。『社長権眼』。誇束株式会社の社員とアイテムを召喚、召還できる。…確かにクールではあったが、ここまでではなかったな。
まぁ兎に角私の能力はそんな感じです。因みに私の体は眼鏡をかけたスーツの青年ですよ」
篠が結論に達したところで、横から声がかかる。見るとそこには自分の姿が。
(会話の内容からして、私の中に入っているのは秘社君ね)
篠の姿をした秘社は更に続ける。
「私の能力は味方が多いほど強力になります。ですから皆さん、誇束株式会社の社員になりませんか?
…社員になるにはなりたいと思いながら私の邪気眼側の手を握ればいいですよ」
「…いえ、確か隠し事は無しでしたね。言い直します。私の『秘密結社』に入ってください。方法は先程と同じです
勿論後から払えるお礼は払いますし、それなりの待遇も約束しますよ。如何です? ここを切り抜ける為にも、悪くない話だとは思うのですが」
134御影 篠@代理:2011/10/02(日) 23:17:59.72 0
(私は御免だわ。あんな事しておいて手を組めですって?冗談じゃないわ)
応龍会での出来事を思い出し、若干顔をしかめる篠。当然と言えば当然の反応だ。
「おいおい、まさかテメェらよォ。この俺が親切にテメェらの自己紹介タイムを待ってやるとでも思ってんのかァ?
 俺はなァ、いつもこの能力で相手を『狩る』ときは相手が悩み、戸惑い、そして絶望する姿を見て殺すのを楽しみにしてんだァ。
 だから、とっとと全員不様に逃げ惑えよォ! でねェと、おもしれェ狩りにならねェだろうがァ!!」
そこへ餓鬼野からの声がかかる。どうやら余り時間をかけてはいられないようだ。

「皆さん、俺……私が時間を稼ぎます。その間に能力の確認となにか策でも考えておけ……じゃなくて、考えてください。それと――」
唐突に二神が喋り出す。しかし口調は本人のものではない。
(獅子堂君は影響を受けてなかったみたいだし、二神君の中には黒羽君が探してる体の持ち主が入ってるって事ね)
「私の『餓鬼眼』は、所有者が自分たちを従えるに値する者だと判断すれば力を貸してくれるはずだ……はずです」
それだけ告げると、二神の体の少女は突進してくる餓鬼野に向かって突っ込んでいった。宣言通り時間稼ぎに向かったのだろう。

「私──いや、俺の能力も教えておいた方がいいな。時間がないから詳しい説明は省く。
 俺の『結壊眼』はモノの結合と崩壊を操る能力だ。有機無機は問わん。
 ま、慣れてない奴にはちと扱い辛いかも知れんが、そこは自分で何とかしてくれ」

篠は自分の能力を告げ、餓鬼野と闘う少女にチラリと目を向ける。
少女は餓鬼野の攻撃を紙一重でかわし──かわしきれていないものもある──何とか保っているようだ。

「今は何とかなっているが、恐らくあの少女も長くは保たんだろう。だが、餓鬼野は今頭に血が上っている。
 今なら慣れない体の俺達でも勝機はあるってわけだ。だがバラバラに動いたって勝ち目は薄い。
 さ、どうする?」
(とは言ったものの、戦略的には秘社君と黒羽君が足止めして、私かあの女の子が打ち込む──って方が良さそうね。
 私が自分の体なら私がやってもいいんだけど……無い物ねだりは出来ないわね)

【御影 篠:能力を明かし、連携の為の策を考え始める】
135獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/10/03(月) 19:54:22.05 0
>>131
敵の心臓に突き刺した『青幽剣』を引き抜く。不可視の刃もこの時ばかりは血で赤く染まっていた。
だがそれもつかの間。チキッとトリガーを引く乾いた音と共に、刃に電流が走る。
電流を受けた血は瞬く間に水分を失って凝固し、固形の成分も一瞬で灰と化して夜風に乗って崩れ去っていった。
「なんだ……これは!」
「我等と同様の人工眼使いを、ほんの数秒で……!」
人工邪気眼を持つ修道服の集団にどよめきが広がっていく。恐怖は水の様なもの。一瞬でも気を抜けば薄紙を浸したように伝播し、思考と判断力を麻痺させる。
そして敗北は全体へと広がる。戦闘意欲を失った時点で、その集団は敗走軍に等しいのだ。
(…呆気ないな、エンジェルとやらも…所詮―――)
「ほう……流石に強いな、スイーパーは。餓鬼野が討ち漏らすわけだ」
(―――? こいつは……!)
獅子堂の心中での嘲笑を遮ったのは隻眼の男。部下であろう10人の集団と違い、冷静さを依然として保っている。
そしてその男はフードを脱ぎ払い、細めた目で獅子堂を睨み付けた。同時に獅子堂は感じた。隻眼の男の未知なる威容を。
「つ、『月影』様……」
「全力だ。お前らの持てる力全てを注ぎ込んで、この男を始末しろ」
「は、ははっ! 我等一同一切の慢心を捨て、全力で挑むことをここに誓約致します!」
女が跪いた瞬間に空気が変わった。一瞬で先程までの混乱と焦燥が嘘のように消え去り、10人の表情が鬼気迫るものへと変貌したのだ。

「いいか! 月影様のお手を煩わせるようなことがあってはならない! 如何なる犠牲を払おうとも、この男は必ずや我等の手で始末するのだ! さぁ、ゆくぞ!!」
(…恐怖を背にした気迫…月影…あの眼帯男はそれだけの“何か”を秘めているのか?)
次の瞬間、数人が空中に飛び上がり無数の光輪を放つ。だがそれも吹き上がる青いオーラに触れては散滅していく。
「…物覚えの悪い奴らよ。その程度では―――」
「うおおおおおおおおお!!!」
「―――!?」
空中からの攻撃はフェイントだった。地上に視線を戻すと、雄叫びと共に4人の男達が獅子堂めがけて真っ直ぐに突進して来る。
「気でも触れたか!!」
獅子堂の言葉と共に撃ち出される無数の銃弾。それらは生命活動に不可欠な部分を正確に撃ち抜き、命の灯火を掻き消していく。
「…命を懸けるだけで活路が見出せるなら世話はない! 所詮は―――」
「があああああああああ!!!」
「―――なっ!?」
間違いなく即死に近いダメージを与えた。それにも関わらず4人の男達は恐るべき執念をもって死んだ体を突き動かし、獅子堂の肢体にしがみつく。
(この尋常ならざる気迫! 死を恐れた故のものはない! 月影といったか…奴が動く事はこいつらにとってそれほど恐ろしいことなのか!?)
死に際しての火事場の馬鹿力―――それは念動力の魔弾で強化された獅子堂の膂力と五分。
「よくやったぞお前ら……!」
そして目の前には2本の光の剣を構えた女。空からは全精力を振り絞ったのだろう、先程とは比較にならないエネルギーを秘めた光輪が獅子堂めがけて飛来した。
136獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/10/03(月) 19:55:43.53 0
「もらったああああ!!」
光の剣を構え、突進してくる女の叫び。あと数秒で刃は獅子堂に届く。その表情は勝利を確信したものだった。
だが絶体絶命であろう状況のはずだが、獅子堂の顔からは対照的な余裕の表情は消えない。
「……勝つと思うな、思えば負けよ…甘い。甘すぎるよ、手前らは―――ふっ!!」
腹筋に力を込める。先程の餓鬼野の能力を回避するために自身に突き刺した『封滅刃』が、目の前の女の人工邪気眼めがけて回転しながら飛び出した。
「くっ!?」
両手の拳銃に気を取られていたが故の予想外の反撃。『封滅刃』は人工邪気眼の中核らしき白色の光球をかすめる。
その瞬間、女が両手に構えた光の剣が一瞬だが消え去った。そして『封滅刃』に抑えられていた獅子堂の力が完全に解放される。
獅子堂が全身に纏う青いオーラは更に色濃く輝き、爆発的に吹き上がる。
「し、しまっ―――」
「―――っらあああ!!」
躯と化した男の体をしがみつかせたまま、目にも止まらぬ速度で放たれた獅子堂の回し蹴り。
真正面から峻烈なる一撃を胸に受けた女は、血反吐を吐きながら吹き飛ばされる。
そして田園に響き渡る4発の銃声―――4本の『悪魔の蒼腕』が現れ、両腕両脚に絡みつく死体を引きはがし、
空中から襲い掛かるエンジェル・ハイロウへと投げつける。まさしくそれは“肉の盾”だった。

「おのれ! 貴様、またしても!」
「許さん、許さんぞ!!」
空中から投げかけられる呪詛の声。そして残る5人は再びエンジェル・ハイロウを放つべく、構えた。
「…痛みは無い、一撃であの世に送ってやろう…」
そんな彼らに死の宣告を返す、獅子堂の暗い声。その声と同時に先程放たれた4発の『悪魔の蒼腕』が集い、巨大な鉤爪を持つ掌と成って5人の前に現れた。
「ひっ!?」
「こ、これは!」
「―――魔弾『デモンズ・クロウ』―――切り裂け!!!」
獅子堂の掛け声とともに巨大な鉤爪が5人の体を正中線に沿って切り裂いた。
「こ、こんな馬鹿な…こん…な…がっ!」
辛うじて生きていた女の額に風穴を開けると、獅子堂はついに月影と相対した。
「残りはお前だけだ…Mr.One Eyed Angel…」

【獅子堂 弥陸:エンジェル構成員14名を撃破。月影と対峙する】
137黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/10/04(火) 01:15:00.95 0
>>125>>126>>128-130>>
「…いえ、確か隠し事は無しでしたね。言い直します。私の『秘密結社』に入ってください。方法は先程と同じです
勿論後から払えるお礼は払いますし、それなりの待遇も約束しますよ。如何です? ここを切り抜ける為にも、悪くない話だとは思うのですが」
『誇束株式会社』という聞き慣れない企業の構成員──
“私の”という言い回しから考えると、恐らくその会社を組織したトップなのだろうが──
今現在、御影の肉体に入っているそいつが言ったことは、耳を疑うような内容であった。

「……この状況にかこつけてスカウトか。何をしている会社かは知らんが、仕事熱心なことだな。経営者の鏡だ」

それに対し、各自が沈黙を貫く中、黒羽だけは皮肉混じりに吐き捨てた。
確かに現状は切羽詰っている。生き残ることを第一に考えるならば、彼の提案に乗るのも一つの手かもしれない。
しかし、会社の社員になるということは、彼の下に就かなければならないということである。
どんな企業形態なのか、何を目的として活動しているのか、それすらも明かされていないのでは、
仮に彼の下に就いてこの場を切り抜けたとしても、その先どうなるかわかったものではない。
危険を切り抜けようと思う余り甘言に乗り、結果、新たな危険を背負うことになっては目も当てられないだろう。

「皆さん、俺……私が時間を稼ぎます。その間に能力の確認となにか策でも考えておけ……じゃなくて、考えてください。それと――」
今度は二神が言葉を発した。二神、といっても、それは肉体であって中身は当然別の人間である。
ここで整理しておくと、現在までに蛇遣いの少女の肉体に黒羽が入り、黒羽の肉体には御影が入り、
御影の肉体には誇束株式会社の青年が入っていることまで判明している。
残る魂は二神と蛇使いの少女。そして残る肉体は二神と青年の肉体だ。
そこまでわかれば、後の振り分けは簡単な消去法で判明する。
つまり、二神の肉体に入っているのは蛇使いの少女で、青年の肉体に入っているのが二神だろう。

「私の『餓鬼眼』は、所有者が自分たちを従えるに値する者だと判断すれば力を貸してくれるはずだ……はずです」
最後に、こちらをチラッと見やり、彼は──いや、彼女は餓鬼野へ向かっていった。
(『餓鬼眼』……従えるに値すると判断すれば、か……)
黒羽は言われた彼女の言葉を喉元で反芻し、思案した。
力を貸す、すなわちその時がバジリスクと呼ばれたあのような化物を召喚できる時なのだろう。
問題は、果たしてそれができるかどうか……そしてできたところで、召喚した化物を自在に使役できるかどうかだ。
召喚できたということは邪気眼が力を認めたということ、できれば使役できるものと思いたいが、楽観はできない。
黒羽がこれまで鍛え、自在に操れるようになった邪気眼は全く別のタイプ。
野球の選手にムチを渡したところで突然調教師になれるはずもないのだ。
(だが、やるしかない。例え自分に危害が及んだとしても……やらなければならない。
 ……いいだろう、どの道も茨の道となれば、ここで賭けてみたっていいはずだ)

「今は何とかなっているが、恐らくあの少女も長くは保たんだろう。だが、餓鬼野は今頭に血が上っている。
 今なら慣れない体の俺達でも勝機はあるってわけだ。だがバラバラに動いたって勝ち目は薄い。
 さ、どうする?」
と御影。黒羽は少女から視線を離すと、今度は彼女に視線を向けて口を開いた。
「……俺と二神、そしてそこのあんた(秘社)で奴に切り込む。
 あの女と合わせて四人がかりとなれば、流石の奴も動きは一瞬でも鈍るか、止まるかするだろう。
 そこで残ったあんた……御影サンが隙を見て奴を仕留める。
 この場にいたあんたのことだ、どうせ俺の能力は確認済みなんだろうから敢えて能力の説明はしないが……
 いいか……一発だぜ。初めの一発で奴の急所に当てろ。恐らくあんたじゃそう何発も爆弾は作れねェはずだ。
 それに一発目を外したら奴も警戒する。そうなるともうチャンス無ェと見た方がいい」

再び少女と、そして餓鬼野を見やった黒羽は、最後に「……頼むぜ」と言い残し、力強く大地を蹴った。
138黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/10/04(火) 01:25:46.87 0
「クソがァ!! ちょこまかとォ!!」
ひらり、ひらりと身軽に攻撃をかわしていく少女に、餓鬼野は声を荒げた。
完全に遊ばれている──彼自身、そう思っていたからこそ余計に腹立たしいのかもしれない。
だが、傍目から見ると確かに少女の動きは見事だが、恐らく長続きはしない──
そう断言できるほどに、徐々にだか着実に、動きのキレというものが落ち始めていた。
「ナめんじゃねェぞこのクソガキィイイイッ!!」
夜空に轟く程の叫び声をあげた餓鬼野は、直後に左腕に光剣を宿して背後を振り返った。
そこには攻撃をかわし続け、彼の背後に跳躍していた少女──。
頭に血が昇っているとはいえ、流石に異能者。初めは翻弄されていた動きも、次第に見えるようになっていたのだ。
「ハハハハハ!! ぶった切ってやるぜェッ!!」
鬼のような凶悪な形相で餓鬼野の左腕が差し出された。
──だが、それは振り向いた場所にいる少女に向かってではなかった。
向かった場所はそれとは正反対の、黒羽が接近してくる方向──。

「──まずはテメェをなァ! 言っただろうがよォ! 不意打ちはガキでもわかるってなァッ!!」
剣の切っ先が顔面に向かって一直線に迫りくる。
しかし、それでも黒羽は眉一つ動かさなかった。裏をかかれ、反応する余裕がなかったのではない。
気付かれることも初めから計算の内だったのである。
「うっ!?」
不意に視界を覆った白い布は、餓鬼野を呻かせた。
目潰しの役割を果たした布の正体は、少女の肉体が身につけていたワンピースのスカート。
この一瞬の間を作る為に、黒羽が予め引き千切っておいたものだった。
「年頃娘のあられもない姿が見たかったってか? 残念だったな」
剣をかわし、視界を封じられた餓鬼野の眼前に容易く踏み込んだ黒羽は、
彼の左腕を素早く掴み、更にもう一方の手で首根っこを掴んで全体重を前方へ乗せた。
勢いと体重で餓鬼野を地面に押し倒し、そのまま動きを固定するつもりなのだ。
(チッ!)
しかし黒羽の誤算は、今の肉体が元の肉体ではなく、小柄な少女の肉体であったことだった。
押し倒せるはずが、倒れない──。成熟してない少女の体では、大の大人を押し倒すには軽すぎたのだ。
「……小賢しいことしてくれるじゃねェか」
ガシッ。首根っこを掴む左腕が、餓鬼野の右手に掴まれる。引き離そうというのだろう。
そうはさせじと力を込めるが、少女のか細い腕では対抗できるだけの力強さは生まれない。
ググッと、徐々にだがゆっくりと引き剥がされていく。
「軽いんだよ、全てがなァ! テメェの力じゃ俺は殺せねェんだよォ!!」
顔に被さっていた生地が、夜風に舞ってどこへともなく消えていく。
現れた餓鬼野の顔は嘲笑うかのような笑みを浮かべていた。

「そうかい──なら使ってやるぜ。貴様を殺せるだけの力をな」
──餓鬼野の表情が硬直したのはその時だった。左腕を掴む黒羽の右手の力が、突然強まったのだ。
しかもそれだけではない。黒羽の右腕全体が、突然一回りも二回りも大きくなっていくではないか。

「な、なんだ……なんだこりゃ──── !? ──うぐぅああああああああああああああ!!!!」

──次の瞬間、餓鬼野があげた声は、これまでとは全く異なるものだった。それは絶叫であり、悲鳴。
何と彼は、一瞬の内に左肩からその先の腕を“噛み千切られていた”のだ。
突如として黒羽の右腕から出現した、巨大な蛇によって──。
現れた化物、失った左腕──餓鬼野は理解が追いつかぬ事象を前に混乱したように叫び続けた。
だが、わけがわからなかったのは黒羽も同様であった。
(発動したぜ、能力が……! しかし、俺の右腕と一体化している……! 召喚が不完全だったのか……!?)
右腕の肉と一体化した蛇の皮膚が、徐々に肩の方まで接近してきている。その度に痛みが走った。
(しかも、段々広がってきている! やばい……このままだと俺自身が蛇になっちまうのか……!)

「チクショォオ……!! チクショオオオオオオオオオッ!! よくも、よくも俺の腕をォオオオオオオオ!!」
肩から血を噴き出し、激痛に目を血走せた餓鬼野が、懐に手を入れた。
そして取り出したのは大型のピストル。銃口は大地に膝を着き、侵食の痛みに眉を顰ませる黒羽に向けられていた。
「殺してやるゥゥウウウッ!! 殺してやるぜこのクソ野郎ォオオオオオオッ!!」

【黒羽 影葉:餓鬼眼の発動に成功するが、不完全召喚によって右腕が蛇と一体化してしまう。コントロール不可】
【餓鬼野 殺魔:蛇に左腕を食い千切られ、光輪眼の使用が不可能となる。ピストルで黒羽を射殺しようとする】
139 ◆ICEMANvW8c :2011/10/05(水) 21:48:51.04 0
>>135>>136
最後のエンジェルが地に沈み、立っているのが獅子堂一人となっても、月影は依然として表情を崩さなかった。
「残りはお前だけだ…Mr.One Eyed Angel…」
そんな彼が「フッ」と口の端を緩めたのは、改めて獅子堂と目が合わさった時のことだった。
「勝つと思うな、思えば負け……か。……妙なものだな。
 俺には、今のお前の表情(かお)こそが勝利を確信しているもののように見える。
 ──言っておくが、お前が部下を全滅させたのは俺にとっては好都合以外の何物でもない」

パサ。月影の左手から皮の手袋が落ちる。
露になったその手には、特徴的な機械の眼を持つ人工眼──光輪眼が埋め込まれていた。
だが、月影はこれまでのエンジェルのように、それを見せ付けるよう真似はしなかった。
見せ付けるように前に出しのは、それとは逆の腕──手袋がはめられたままの右手であった。
それも、すっ……と、スローモーションのような不気味な緩やかさで。

「何せ俺の能力は、敵だけじゃなく部下までも巻き込み、無差別に殺してしまうんでな……。
 さぁ、地獄に誘ってやれ──『朽滅眼(きゅうめつがん)』──」

──手を覆っていた皮手袋が消えていく──。
まるで“風化”しているかのように、手袋の組織が砂のような微粒子になり、夜風に乗って散っているのだ。
そして完全に手袋が無くなった時、露になったその掌の真ん中に在ったのは──
死んだ魚のような濁った瞳に、眼球部分が所々腐りかけている気味の悪い邪気眼であった。

「──朽ち果てろ──『ザラキエルウインド』──」

それは月影が唱えたのと同時に紫色に発光し──やがて、腐臭のする生暖かい風を起こした。
それも一方にではなく、衝撃波のように彼を中心とした全方位に。

【月影 葬一:『朽滅眼』を発動。『ザラキエルウインド』という必殺技を繰り出す】
140秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/10/06(木) 18:34:08.99 0
>>128-130,>>133-134,>>137-138
「……この状況にかこつけてスカウトか。何をしている会社かは知らんが、仕事熱心なことだな。経営者の鏡だ」
その場に居るほぼ全員が秘社の提案に閉口する中、黒羽だけは皮肉混じりにそう言った
「私──いや、俺の能力も教えておいた方がいいな。時間がないから詳しい説明は省く。俺の『結壊眼』はモノの結合と崩壊を操る能力だ。有機無機は問わん。
 ま、慣れてない奴にはちと扱い辛いかも知れんが、そこは自分で何とかしてくれ」

 「クククッ…残念です。貴方達が謎に包まれている私の結社の招待を知りたいというのなら、社員として、スパイとして内側から操作すれば良いのに…。
まぁ、嫌なら仕方ありません。何ならこの戦い限定の社員でも良いし、嫌になったらいつでも解雇して差し上げるのですが…」
そんなことを言いながら、手に握った石に御影の能力を試してみる秘社
(…割れたな。成程、では手に触れていない物はどうだ?)
そこで、道端に落ちている石にも能力を発動してみる。しかし何も起こらない。そんなことを続けているうちに、能力の使い方を理解した
(成程、直すには近くに有るだけで良いが、壊すには体の一部が触れている必要があるのか…。そして実体のない物も壊せるらしい)

「皆さん、俺……私が時間を稼ぎます。その間に能力の確認となにか策でも考えておけ……じゃなくて、考えてください。それと――」
凛音に――自分の体に顔を向け、自分を見下ろすという奇妙な感覚を体感しつつ、告げた。
「私の『餓鬼眼』は、所有者が自分たちを従えるに値する者だと判断すれば力を貸してくれるはずだ……はずです」
「今は何とかなっているが、恐らくあの少女も長くは保たんだろう。だが、餓鬼野は今頭に血が上っている。
 今なら慣れない体の俺達でも勝機はあるってわけだ。だがバラバラに動いたって勝ち目は薄い。
 さ、どうする?」
「……俺と二神、そしてそこのあんた(秘社)で奴に切り込む。
 あの女と合わせて四人がかりとなれば、流石の奴も動きは一瞬でも鈍るか、止まるかするだろう。
 そこで残ったあんた……御影サンが隙を見て奴を仕留める。
 この場にいたあんたのことだ、どうせ俺の能力は確認済みなんだろうから敢えて能力の説明はしないが……
 いいか……一発だぜ。初めの一発で奴の急所に当てろ。恐らくあんたじゃそう何発も爆弾は作れねェはずだ。
 それに一発目を外したら奴も警戒する。そうなるともうチャンス無ェと見た方がいい」
「了解です。マリーさんの能力は大体理解しました。体にもだんだん慣れてきましたし」
そう言って、手に握り締めた石を指ではじきやすい形に壊し、自分(御影)の髪の毛を巻きつける秘社

「──まずはテメェをなァ! 言っただろうがよォ! 不意打ちはガキでもわかるってなァッ!!」
不意打ちに対応する餓鬼野だが、動揺する様子はない
「そうかい──なら使ってやるぜ。貴様を殺せるだけの力をな」
──餓鬼野の表情が硬直したのはその時だった。左腕を掴む黒羽の右手の力が、突然強まったのだ。
しかもそれだけではない。黒羽の右腕全体が、突然一回りも二回りも大きくなっていくではないか。

「な、なんだ……なんだこりゃ──── !? ──うぐぅああああああああああああああ!!!!」

「チクショォオ……!! チクショオオオオオオオオオッ!! よくも、よくも俺の腕をォオオオオオオオ!!」
肩から血を噴き出し、激痛に目を血走せた餓鬼野が、懐に手を入れた。
そして取り出したのは大型のピストル。銃口は大地に膝を着き、侵食の痛みに眉を顰ませる黒羽に向けられていた。
「殺してやるゥゥウウウッ!! 殺してやるぜこのクソ野郎ォオオオオオオッ!!」
(拙いな…! ここは一か八か、試すしかない! ブレイク・ショット!)
親指で先ほどの石を弾き、餓鬼野のピストルを狙う秘社。彼の狙いはこうだ
『体の一部には、髪の毛も含まれるはず。つまり、髪の毛を何らかの方法で対象に触れさせることができれば、遠くにあるものにも能力を発動させられるはずだ』
勿論確証はない。なので本人も走って餓鬼野に向かう。石が失敗したら自分の手で触れるつもりだ
【秘社境介:ブレイク・ショットでピストルを狙う。自分も走る】
141二神 歪@代理:2011/10/07(金) 01:22:00.28 0
視界がぼやける。此処はどこだ?!

いや、体がおかしい。上手く動かない――
自分の体が他の場所で喋っているのを、聞いているという奇妙な感覚。
だが、大まかな事態は把握出来た。精神と肉体が入れ替わっているのだ。

ならば――真っ先にしなければならない事がある。

「いや、貴様だけじゃない……俺も、そしてお前らも、もはや全員が全員に能力を明かす必要がある。
 この場を生きて切り抜けるには奴を倒すしかねェ。隠し事は無しに協力し合わねェと、やばいぜ……」

黒羽のものであろう言葉に、彼も同意する。
自分の肉体に入っているのは、あの少女のもの。
自分が入っているのは得たいの知れない『社長』のものだ。

だが、自分の能力を説明しようとした時、自分の入っている肉体の『声』がそれをさえぎった。

「私の能力は味方が多いほど強力になります。ですから皆さん、誇束株式会社の社員になりませんか?
 …社員になるにはなりたいと思いながら私の邪気眼側の手を握ればいいですよ
 …いえ、確か隠し事は無しでしたね。言い直します。私の『秘密結社』に入ってください。方法は先程と同じです
 勿論後から払えるお礼は払いますし、それなりの待遇も約束しますよ。如何です? ここを切り抜ける為にも、悪くない話だとは思うのですが」

それに対し、冷たい表情で二神は告げる。

「俺は辞めておく。というより、俺をそれにリンクさせない方が良い。俺の能力にはデメリットがある。血を飲まなければ死んでしまうという、な。」

そして、自分の体に入っている少女に聞こえるように叫んだ。

「聞こえるかッ!俺の能力は間近で見ていたから解るとは思うが、…傷を負えば負うほど強くなる!五感や身体機能が強化される!
そして、もう一つ!!!血を飲むことで傷が回復する!この2つだけだ!
俺の体に残っている血液は恐らく1.5人分程度だ!一定以上の血が無くなれば邪気眼が己の体を養分にし始めちまうから、
早めに血を飲めッ!」

(くそ、よりによって社長権眼ッてェ訳の解らねェ能力か。身体機能は元の体の方が高いが…コイツは自分で戦うタイプじゃァねェのか)

彼の体は今、社長権眼を持つ男のものだ。つまり、心綱眼による社長と社員同士の会話も『社長』として聞けている。
今は御影の体に入っている秘社に、それを前提として語りかけた。

「…お前の『社長権眼』に登録されている能力を教えてくれ。ここで言うのがはばかられるなら心綱眼で話してくれても良い。
今の俺の手持ちの戦力を知りたい。そして、無論――あンたの入っている『女』の能力も使えるんだろうな?なら――」

ここからは心綱眼で、秘社と話をする。

(俺はヤツに接近し、タイミングを見計らって『お前を召還』する。なるべく体は無事なようにするが、無機有機問わない崩壊を操るその能力なら大分戦況を動かせるはずだ。)
(その間に、新しい眼の使い方を考えておいてくれ)

それだけ言うと、二神(in秘社)は黒羽とは別方向から餓鬼野に近づいた。
左腕が飛んだことを確認し、取り出されたピストルを真横から蹴り上げようとする。

(くそ、けり技は得意だが…威力が、速度が無いッ!)

だが、その成否は問題ではない。
この場所に、不意打ちで秘社(in御影)を召還する事こそが肝心なのだ。

「『社長権眼』、召還、―――『結壊眼』ッ!」

御影の体が、餓鬼野の真上に召還された。

【二神 歪、ピストルを蹴り上げようとし、御影の体に入った秘社を餓鬼野の付近に召還しようとする】
142獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/10/08(土) 10:19:28.86 0
>>139
獅子堂は眼前に立つ唯一の生き残り―――月影の心中を読み取るべく、左の掌の『闇照眼』を向ける。
(余裕…部下の死などでは動じていない…そして確実に俺を殺す自信を持っている…)
2人の視線が交錯する。その瞬間、月影の口元が僅かに緩んだ。
「勝つと思うな、思えば負け……か……妙なものだな。 俺には、今のお前の表情こそが勝利を確信しているもののように見える。
 ──言っておくが、お前が部下を全滅させたのは俺にとっては好都合以外の何物でもない。
何せ俺の能力は、敵だけじゃなく部下までも巻き込み、無差別に殺してしまうんでな……さぁ、地獄に誘ってやれ──『朽滅眼(きゅうめつがん)』──」
その言葉と共に月影が突き出した右手の手袋が、ものの数秒で崩れ去り、塵が風に乗って消えていく。
そして露わになった右手の邪気眼―――それは獅子堂が今まで見た事も無い薄気味悪いものだった。
濁り、腐敗しかけたうつろな瞳―――ゾンビなどが実在するとしたらこんな目をしているだろうか。
「──朽ち果てろ──『ザラキエルウインド』──」
「―――『闇照』! あの力を見抜け!」

餓鬼野の能力を見抜いた時と同様に、紫色に光る『朽滅眼』と『闇照眼』の視線を交錯させる。
だが、その必要はなかったと言えるだろう。月影の周囲の野草が瞬く間に枯れ、腐敗し、崩れ落ちていくのだ。
「っ!……これは……」
屍と化したエンジェル達の肉が爛れ、血が腐り泡立ち、骨が見えたと思った数秒後には、それすらも風化して跡形も残らない。
そして『闇照』で月影の能力を完全に読み取るのと、腐敗の風が『青幽剣』と『蒼朧剣』を蝕み始めるのは同時だった。
(―――物質を分解する超強力な異能バクテリアの発生とその拡散! 射程距離約50メートル!)
「ソードパージ!―――『テンペスト』!」
月影から20メートル程の位置にいた獅子堂の判断は早かった。刀身の半分を失った1対の剣を月影めがけて撃ち出す。
そして最大出力で放たれた『テンペスト』の反動と強化された身体能力を以って『ザラキエルウインド』の射程限界まで退避したのだ。
「…勘が良いな、スイーパー。いや、何らかの手段で俺の能力を見抜いたのか?」
「さあ…どうだかな」
軽口を叩きつつも獅子堂の頬に一筋の冷や汗が流れる。放った2本の剣は月影に届くことなく空中で文字通り消滅したのだ。
(…俺の中ではかなり高位の魔弾だった…それが通じないとなると…)
響く銃声。それに合わせて10発近い弾丸が月影へ放たれる。だが全方位から向かったそれらも空中でボロボロに崩れ去った。
「無駄だ」
「…やはりか」
「お前の『落葉』の奪還は失敗だ。俺の『ザラキエルウインド』を振り切って茜を追う事など不可能。
 俺のこの力は攻防一体の魔法陣の如し…近付く事すらままならん―――この様に」
「っ!!」
月影が獅子堂へ向かって1歩踏み出す。それだけで獅子堂の眼前の植物が朽ちていく。
能力の射程距離に入ることは死を意味する。獅子堂はゆっくりと歩み寄って来る月影からギリギリの距離を保ちつつ後退する以外なかった。

「妙だな…」
「……何がだ?」
「お前の持つ銃は極僅かだが俺の力の射程圏内に2,3回入った。にも関わらず全く無事…そのフォルムといい、ただの拳銃ではないな?」
「…『パーフェクト・ジェミニ』は不滅の魔具…まあ、言っても分からんさ!」
獅子堂は更に月影から距離を取る。そして右手の拳銃のトリガーを引き『火線』を放った。
(異能の産物とはいえバクテリアは生物に過ぎない…それにほとんど何でも朽ち果てさせるが“地面”は無事だ…例外もある。そしてこの炎が通るのなら…勝機はある!)

【獅子堂 弥陸:防戦一方になるが魔弾『火線』で牽制。『ザラキエルウインド』の限界を見極めようとする】
143秋雨 凛音@dora31314:2011/10/10(月) 14:22:32.65 0
>>137-138>>140-141
「クソがァ!! ちょこまかとォ!!」

エンジェル・ハイロウが発する鈍い光が、ベールとなって名も無い少女の頬を掠める。
少女はすぐに能力を発動させ、その傷を七割ほど回復させた。
(完全に操れるわけではないが、これなら十分だ。この体の持ち主が、1.5人分の血液はあると言っていたからな。
 ただ、早めに血を飲めとも言っていたが、この服には血液パックなんてものは備えられていない。さて、どうしたものか)
不安にも満たないただの素朴な疑問のような思いを巡らせていると、またもや餓鬼野の攻撃が軽く腕に触れた。
(段々と動きが読まれてきたか? 今の俺様は先読みも駆け引きもなく、ただ体を動かしているだけだからな。
 まだ持ちはする。しかし、そろそろあの四人になにかしらのアクションを起こしてもらいたいとこだな)

「ハハハハハ!! ぶった切ってやるぜェッ!!」
力任せのステップで餓鬼野の背後に回った瞬間、餓鬼野はそれに反応し、左手の光剣(別の能力か?)を振るった。
とっさに左腕を盾にしようとしたが、光剣がこちらに襲い掛かることはなかった。

「──まずはテメェをなァ! 言っただろうがよォ! 不意打ちはガキでもわかるってなァッ!!」
その切っ先が獲物として捉えたのは、盗賊が何に入った凛音の体だったのだ。
どうやら、少女を囮にして餓鬼野に奇襲する作戦のようだったが感づかれてしまったようだ。
あれは凛音の体であり、名も無い少女の体でもある。少女は防御の構えを解いてフォローに回ろうとしたのだが――

「うっ!?」
突如現れた白い布が、餓鬼野の視界を奪った。
その正体は凛音が着ていたワンピースの裾であった。
「年頃娘のあられもない姿が見たかったってか? 残念だったな」
ミニスカートとなったワンピースを着た凛音の体は、餓鬼野をそのまま地面に押し倒そうと左腕と首元を掴んだ。
だが、倒れない。
何の訓練も受けていない凛音のか弱い体では、戦闘に優れた成人男性を押し倒すことは出来なかったのだ。

「……小賢しいことしてくれるじゃねェか
 軽いんだよ、全てがなァ! テメェの力じゃ俺は殺せねェんだよォ!!」
餓鬼野の顔を覆っていた白い生地が風に流されていく。その下から現れた顔は勝利を確信した笑みを浮かべていた。
だが、名も無い少女は駆け寄る足を止めた。
凛音と同じく餓獣に認められ、奴らを使役することを許された少女には分かる。
あの盗賊は餓獣を呼び出そうとしている。

「そうかい──なら使ってやるぜ。貴様を殺せるだけの力をな」
「な、なんだ……なんだこりゃ──── !? ──うぐぅああああああああああああああ!!!!」
餓鬼野の左腕を掴んでいた凛音の右腕がどんどん膨張していく。
そして、餓鬼野の腕を引き千切る――いや、噛み千切ったのだ。
凛音の右腕はなんと三度召喚された、あの蛇の王バジリスクと化していた。
(腕がバジリスクになっただと。餓獣は盗賊を認めたのか?……いや、違う餓獣共も『戸惑っている』のだ。
 精神が違う主の体なぞ、体験したことなんてあるはずがない。今は困惑の中で無差別に、それこそ凛音の体をも食い尽くそうとしているのか)

「チクショォオ……!! チクショオオオオオオオオオッ!! よくも、よくも俺の腕をォオオオオオオオ!!
 殺してやるゥゥウウウッ!! 殺してやるぜこのクソ野郎ォオオオオオオッ!!」
腕ごと邪気眼が破壊された影響か、名も無い少女たちを囲んでいたエンジェル・ハイロウの『柵』がガラス細工の如く砕け散った。
そして攻撃手段を失った餓鬼野は懐から拳銃を取り出し、凛音の体に向ける。
盗賊と餓鬼野は両者とも苦悶の表情を浮かべている。盗賊はバジリスクに『浸食』されているダメージで銃弾を避けられそうになかった。
今度こそ手助けが必要だと判断し、名も無い少女は駆け出した。

だが次の瞬間、ガンッ!と餓鬼野の拳銃に高速で発射された小石が命中し、銃身が砕けるように破壊された。
そして、その直後にあのスーツ姿の青年の体に入ったフード男が拳銃を蹴り飛ばしたのだった。
スーツ姿の青年とフード男の連携プレーで、銃弾は発射されることはなかった。
(さっきのスイーパーとのやり取りから見て、フード男もスイーパーなのだろうが中々いい判断をするじゃないか。
 あの野郎も拳銃なんか取り出したって事はもうヤケになっているな。なら、そろそろこの戦いも終わりだな)
144秋雨 凛音@dora31314:2011/10/10(月) 14:24:40.96 0
「クソオオオオオ!!この俺が、この俺が、この俺がこんなクソ共に負けるかアァァァァ!!こんな、こんな大半がガキな野郎共に!!」
「いい加減諦めたらどうだ? お前は最初から傲慢が過ぎたんだ。プロのスイーパー二人に(内一人はどっか行ったが)それと互角に戦っていた犯罪者に戦力も分からぬ人間二人とこの俺様。
 こんな不確定要素満載でワンサイドゲームをしたかったなんて、欲張り過ぎなんだよ」

小声で餓鬼野の耳元で呟きつつ、名も無い少女は餓鬼野の残った左腕を締め上げ、もう片手で首を後ろから腕全体を使って締め上げた。
もうこの体勢になれば技術なんていらない。ただ力をかければもう動けまい。

「『社長権眼』、召還、―――『結壊眼』ッ!」
少女の拘束の目的は、爆破能力を持った盗賊の体に入ったマリーと、いま上空に現れたマリーの体に入ったスーツの青年に攻撃のチャンスを与えること。
それを察し、抜け出そうと餓鬼野は腕の出血を省みず暴れるが、完全に拘束したこの体勢を片腕で抜け出せるはずもない。

「さぁ、そこのお前でも、上のお前でもいい。とっとと決めろ」

【???:餓鬼野を拘束、御影と秘社にトドメの一撃を促す】
145 ◆ICEMANvW8c :2011/10/10(月) 18:10:04.07 0
>>142
獅子堂の放った火炎は月影の絶対領域である半径50mを見事に突破──。
正しくその狙い通りに月影までの距離をぐんぐんと縮めていった。
しかし──火炎が迫り来る最中にあっても、月影はその瞳から冷静沈着な色を失わなかった。

「……確かに、燃え盛る火炎の中では生きとし生けるもの全てが死に絶える。
 しかし、仮にその火炎に耐え切るバクテリアがいたとしたらどうだ?」

そして、それは月影の口元から小さな言葉が紡がれるのと同時であった。
彼の眼前に達し今正に全身を包み込まんとした火炎が突如として消失してしまったのである。
月影は一歩前へ踏み出し、それに合わせるように後ずさる獅子堂に意味深に細めた視線をぶつけた。

「俺の能力を見抜いている……という考えはどうやら間違っていなかったようだな。
 しかし、お前のその力もどうやら限界があるようだ。
 俺の作り出すバクテリアは生命力が高く、どのような環境にも即座に適応し、あらゆるものを餌とする。
 それは火炎や光線のような高エネルギー体であっても例外ではない。
 お前の火炎程度では一時的に動きを鈍らせることはできても、死滅させることなど到底かなわんのだ」

ザワ。周囲の木々の枝や葉が風に吹かれ、擦れ合う。
その時、月影はその音に混じって、確かに小さく「フッ」と笑みを漏らしていた。

「そしてついでにもう一つ、お前の“眼”で見抜けぬことを教えてやろう。
 確かに『ザラキエルウインド』の射程は半径50m。だがそれは、能力の射程を意味するものではない──」

瞬間、獅子堂の周囲にある木々から、ボトボトっと次々に何かが落ちた。
それは大量の小鳥であり、大量の昆虫。しかもそれらは一様に腐りかけていた。
ザラキエルウインドを放ったのか──? いや違う。
何故なら大量の小動物が落ちたその木々は、月影から50m以上放たれた位置にあるからだ。

では何が起きたのか──? その疑問に答えるように、月影は言った。
その顔を悪意でどす黒く染めながら──。

「俺の能力射程はその場の状況に応じて無限に変化するのさ。
 理解るか? 撒き散らされたバクテリアは、既に周囲の風に乗って更に辺り一面に広がっている。
 もはや逃げ場など無いほどにな──。さぁ、年貢の納め時だなスイーパー?」

右手と右足がその指先から、そして左脚が大腿部から朽ちていく獅子堂を、月影は冷酷に見据えた。

【自然風によって更に広範囲にバクテリアが撒き散らされ、獅子堂の右手右足、左脚が朽ちていく】
146獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/10/11(火) 16:52:30.66 0
>>145
「―――さぁ、年貢の納め時だなスイーパー?」
どす黒い悪意と醜い勝利の愉悦が混ざった死の宣告。周囲のモノよりは獅子堂の肉体へのダメージの進行は遥かに遅い。
全身に纏ったオーラが防壁の役割を果たしているのだ。だが、それでも確実に死へと向かいつつある右手の指先を、獅子堂は虚ろな瞳で見つめていた。
「下手に時間を稼ぐよりも、あっさり死を受け入れた方が苦痛は―――?」
無駄な抵抗をやめて死を受け入れろ、と言いかけた月影の表情が変わった。
「―――ダイヤモンドダスト…?」
獅子堂の頭上から、月明かりを受けて煌めく氷結した結晶が無数に舞い降りてきたのだ。
そして月影は目を疑った。防ぎようの無いはずの周囲の腐敗が止まり始めたのだ。
「『ザラキエルウインド』が…馬鹿な! 何が起きている!? 貴様、何をした!?」
「相手の力を見誤った…認め、受け入れるべきだな。敗北と死を―――月影、お前がだ」
獅子堂の言葉の最後は月影の目前から聞こえてきた。まさに瞬間移動、彼我の距離を計算するなら獅子堂の移動速度は音速にも匹敵した。
「ぶぐっ!!」
その姿を認識するのと同時に放たれた獅子堂の強烈な正拳突き。内臓にダメージを受けたのだろう、月影は血反吐を吐きながら後方へと吹き飛ぶ。
それを跳躍しながら追い抜き、獅子堂は月影の右腕付近で肢体を縦方向に1回転させる。直後、月影の右腕が肩から滑るように断裂した。
「がああああああ!!!」
切断面からは一滴の血も流れ出さない。血が、肉が、骨の髄が、完璧に凍り付いていたのだ。
そして切り落とされた右腕には4本の『封滅刃』が突き刺さっている。丁寧にも、その内の1本は『朽滅眼』の瞳を貫いていた。

「スイーパー! 貴様! 一体何を―――!?」
倒ている自分を見下ろしているはずの獅子堂の姿を見て、月影は言葉を失った。
獅子堂の姿は火山の噴火の如く爆発的に吹き上がる紺碧のオーラに覆われて、もはや辛うじて人影が見える程度。
そのオーラの周囲には青白い稲妻が渦巻き、上空からは身も凍る冷風が吹き下ろしてくるではないか。
「お前は言ったな、『俺の作り出すバクテリアは生命力が高く、どのような環境にも即座に適応し、あらゆるものを餌とする』と。
 その限界を超えてやっただけさ…魔弾『雷珠(らいじゅ)』…テラボルト、メガアンペアの極超高圧電流下で存在する生物がいるかな?」
「―――っ!」
「そして最も重要なのが温度だ…魔弾『冥王の吐息(ブレス・オブ・ハデス)』…絶対零度に限りなく近い超低温では物質を構成する原子そのものが止まる…」
「そ、それでは貴様は…!」
「…超巨大なプラスのエネルギーと超マイナスのエネルギー…相反するする2つの魔弾で貴様の能力を破った。
戦ってる最中に喋り過ぎなんだよ、手前は。ベラベラと情報を相手に与えてどうするんだ? それで勝つ気でいたのか?」
「お、おのれええええ!!!」
月影はまだ戦う気力を残していた。左手の『光輪眼』を起動させ、オーラの中の獅子堂目掛けて切り掛かったのだ。

ギィン、と刃が打ち鳴らされる音が田園に響き渡る。獅子堂が両手に握る魔銃の銃口からは再び『青幽剣』と『蒼朧剣』が生え揃っていた。
「修道服を緋色に染めて、名の通り美しく残酷に天に召されろ―――エンジェル」
「きっ、きさ―――があっ!」
月影の左手首が不可視の刃によって切り落とされる。それに端を発する斬撃の連打。
魔銃の銃身がグリップの役割を果たし、それによって可能となる極めて精妙にして幽玄なる剣裁き。
十数回に渡って振り抜かれた斬撃が終わり、月影の姿は物言わぬ肉片と化して地面にばら撒かれていた。
「―――魔弾の狩人は魔王によって断罪され、最期を迎えるらしいが…魔王はお前ではなかった」
獅子堂はもはや原形をとどめぬ“月影という男だった物”に向かって独り語散る。
「俺はまだまだ死ぬわけにはいかん。『闇照眼』を受け継がせ、『パーフェクト・ジェミニ』を受け継がせ、俺を超える後継者を生み出すまではな…っ」
突然、獅子堂が膝をつく。飛躍的に高まり半ば暴走状態に陥ったまま能力を酷使し、邪気眼のエネルギーが底を尽いたのだ。
(…これでは『落葉』奪還は不可能…しばらく…眠るか…)
仰向けに体を横たえた獅子堂は眠りの世界に入った。僅かに生き残った虫の音を聞きながら。

【獅子堂 弥陸:月影を撃破。邪気眼のエネルギーを使い果たし、睡眠状態に入る】
147秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/10/11(火) 18:21:11.51 0
>>141>>144
「俺は辞めておく。というより、俺をそれにリンクさせない方が良い。俺の能力にはデメリットがある。血を飲まなければ死んでしまうという、な。」
(その程度の弱味(デメリット)、私の結社では問題になりませんよ。そもそも我々は皆弱さを抱えた集団なのですから。
…医療班には、『周囲の元素から体の構成物を生成する』能力者や、『生物の臓器や血液などを、他の個体の体に合う性質に変化させて自由に移植させる』能力者、なんてのも居ますしね
…ですがまぁ強要はしませんよ。いつか気が向いたときにでも気が変わったときにでも魔が差したときにでも――私の手を握ってくれればそれで済むのですから)
他の人間に悟られないように、『心網眼』によるコネクトを利用して言う秘社
「…お前の『社長権眼』に登録されている能力を教えてくれ。ここで言うのがはばかられるなら心綱眼で話してくれても良い。
今の俺の手持ちの戦力を知りたい。そして、無論――あンたの入っている『女』の能力も使えるんだろうな?なら――」
(俺はヤツに接近し、タイミングを見計らって『お前を召還』する。なるべく体は無事なようにするが、無機有機問わない崩壊を操るその能力なら大分戦況を動かせるはずだ。)
(その間に、新しい眼の使い方を考えておいてくれ)
(ええ、無論先ほど登録されたばかりの私(御影先生だけど)もその能力で召喚できますよ。勿論、あなた自身もね。
…ですが、手持ちの戦力を言うことは…否、“今この場で手持ちの戦力全てを言うことはできません”。別に隠してるとか、そういう次元ではなく――単純に数が多すぎて、時間がないんです
…なのでここは一部だけ紹介しておきましょう。制限はあるものの、時を操ることのできる『時操眼』の使い手、大勢が居る場では決して存在を気づかれることがない『脇役眼』の使い手、手で触れた物を超高速で好きな方向に飛ばすことができる『即席弾眼』の使い手、です)

148秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/10/11(火) 19:21:44.77 0
(そして了解です。止めを刺すとはいかぬまでも、奴の戦闘意欲をバキバキに壊してやりますよ)
『心網眼』で、二神の提案と質問に答える秘社


「さぁ、そこのお前でも、上のお前でもいい。とっとと決めろ」
「了解ですっ! さぁ、vs餓鬼野殺魔編はこれにて終幕! 入れ替わり立ち代わりのいざこざ劇にも終止符が打たれます!
では、これにて。挨拶代わりの…ライダーキック、もとい『ブレイクキック』!」
上空で体制を整え、餓鬼野の体に蹴りを食らわせる秘社。さらに、命を奪わないように、しかし反撃も防御も連絡も逃走もできないように、筋肉と骨格を破壊した
「さて、もし貴方が改心して私達の魂をもとに戻して、エンジェルの情報を洗いざらい吐いて、私の『結社』に入るのならば命だけは助けましょう。
さらに我々の医療班によってその無くなった腕も再生してあげます。結社での境遇もそれなりに保証しましょう」
「…ですがもしも断った場合…マリーさんによって貴方の体のどこかが爆破されることになります。
さて、どうします? 断れば貴方の体はボロボロに壊れて、下種な手を使いながら惨めに負けた負け犬になる。
断らなければ、貴方は保身の為に忠誠を誓った組織を裏切った外道になる…
まぁどちらにしても。貴方の生き方が変わるなんてことはないでしょう。ですがどちらにしても、貴方のプライドはここを境に折れ曲がりますから…」
「しかし、選択の余地があるとも限りませんがね! 飽くまでこれは私の独断による言葉であり! 後ろにいる皆さんには何の関係もない…。さぁ、色々と早めに決めた方が良いですよ?」
身動きの取れない餓鬼野の心に、ここぞとばかりに追い討ちをかける秘社。もちろん、御影の止めを邪魔する気はない
【秘社境介:餓鬼野に『ブレイクキック』を当て、体を破壊する。
更に交渉(というか脅迫)を持ちかけるが、他の人がどうしようと気にしないようである】
149御影 篠@代理:2011/10/11(火) 23:05:10.51 0
>>137>>138>>140>>141>>143>>144>>147>>148
「……俺と二神、そしてそこのあんた(秘社)で奴に切り込む。
 あの女と合わせて四人がかりとなれば、流石の奴も動きは一瞬でも鈍るか、止まるかするだろう。
 そこで残ったあんた……御影サンが隙を見て奴を仕留める。
 この場にいたあんたのことだ、どうせ俺の能力は確認済みなんだろうから敢えて能力の説明はしないが……
 いいか……一発だぜ。初めの一発で奴の急所に当てろ。恐らくあんたじゃそう何発も爆弾は作れねェはずだ。
 それに一発目を外したら奴も警戒する。そうなるともうチャンス無ェと見た方がいい」

黒羽が静かに語る。
「そうだな……。さっき試してみたが、いきなり技を出せ、と言われても無理のようだ。
 だがある程度集中する時間があればそれなりのモノは出せるはずだ。その時間をあんたらが稼いでくれるんだろ?」
篠は黒羽の言葉に同意しつつ、周囲にいる他のメンバーを見回して尋ねた。
皆言葉には出さず頷きもしなかったが、この場では沈黙が肯定を意味する。
その空気を読み取ったのか、黒羽が先行して飛び出していった。

先行した黒羽が餓鬼野と戦闘を開始した。
(流石ね。あの女の子の体であそこまでやるなんて)
黒羽は餓鬼野の攻撃を容易くかわし、懐へ踏み込むと、そのままの勢いで押し倒そうとする。
しかし餓鬼野の体は倒れず、逆に腕を掴まれた。このままでは形勢が逆転するのも時間の問題だろう。
(──!まずい、何とか──)
飛び出そうとして踏み止まる。自分は止めを任された身。こんなところで出て行っていいものか?
篠が逡巡していると、状況──否、少女の体に変化があった。
餓鬼野に押し返されそうになっていた黒羽。しかしその右腕に大きな変化が起こった。
少女のものであった細い右腕は太く膨れ上がり、体表には鱗のようなものまで見られる。

「な、なんだ……なんだこりゃ──── !? ──うぐぅああああああああああああああ!!!!」
その瞬間、餓鬼野はこれまでにはない凄まじい悲鳴を上げた。
その悲鳴の元は、紛れもなく彼の左腕。彼の右腕は肩から先がなかった。
では失われた左腕は何処へ消えたのか?答えは簡単である。
食われたのだ。──彼女(かれ)の右腕に出現した蛇によって。

「チクショォオ……!! チクショオオオオオオオオオッ!! よくも、よくも俺の腕をォオオオオオオオ!!」
「殺してやるゥゥウウウッ!! 殺してやるぜこのクソ野郎ォオオオオオオッ!!」
怒りと痛みのあまり、餓鬼野は我を忘れて錯乱状態だった。
残った右腕で懐から拳銃を取り出し、その銃口が彼の体に組み付いたままの黒羽に向けられる。

その時、隣にいた自分(秘社)が親指で何かを弾いた。暗くてよく見えなかったが、どうやら小石のようだ。
(石……?餓鬼野の注意を引こうとでもしてるのかしら?──いや、彼のことだから、何か考えているはず)
そう思い餓鬼野の方を見ると、いつの間にか秘社──消去法でいくとあの中に入っているのは二神だが──が餓鬼野に接近していた。
餓鬼野の死角から接近し、取り出した拳銃を蹴り上げようとする。
その直後、秘社が放った小石が拳銃に命中、銃身が破壊された。残った部分も二神に蹴られ、餓鬼野の手から離れた。

「クソオオオオオ!!この俺が、この俺が、この俺がこんなクソ共に負けるかアァァァァ!!こんな、こんな大半がガキな野郎共に!!」
尚も吠える餓鬼野。この状況でまだあれだけの闘争心が残っているのは流石といったところだろう。
だが次の瞬間には、最初に餓鬼野と闘っていた少女が餓鬼野を拘束しにかかっていた。
「『社長権眼』、召還、―――『結壊眼』ッ!」
そこに二神に召還された秘社が、餓鬼野の真上から襲い掛かる。
150御影 篠@代理:2011/10/11(火) 23:06:24.11 0
「さぁ、そこのお前でも、上のお前でもいい。とっとと決めろ」
「了解ですっ! さぁ、vs餓鬼野殺魔編はこれにて終幕! 入れ替わり立ち代わりのいざこざ劇にも終止符が打たれます!
では、これにて。挨拶代わりの…ライダーキック、もとい『ブレイクキック』!」

自分の体に入った秘社が、餓鬼野に上空から蹴りを決める。
恐らく体の内部が破壊されたであろう餓鬼野は、もう動くことも出来ないはずだ。

(流石に頭がいいだけはあるわね。完璧とまではいかないまでも、能力を使いこなしている。
 でも……ネーミングセンスは微妙ね)
下らないことを考えつつも、止めを刺す準備を始める。
(さっきは咄嗟の出来事でうまく能力が発動できなかった。でも今は違う。
 彼の能力は二度目にしている。集中すれば出来るはず。雑念は捨てるのよ、篠)
心を落ち着かせ、余計な考えは頭の中から追い出す。
(初めて能力を使った時のことを思い出すのよ。集中して、自分の思い通りになるように念じる。
 あの時は破壊の力だったけど……。今は空気を操ることね。空気を詰めて圧縮──)
すると篠の周囲に空気が密集し始める。それはだんだんと密度上げ、それに比例して縮小していく。
やがて掌の中に収まったそれは、黒羽が使ったものと同様、もしくはそれ以上の威力を秘めたものになっていた。

(ここまで時間をかけてこれが精一杯、か。やっぱり本人のようにうまくはいかないわね。彼は瞬時にこれをやっていた。
 それにもう一度同じ事をやれって言われても出来るかどうか微妙だわ。でも──)
「一発あれば十分、だな」
ポツリと放った最後の一言は自分に、そして共に戦っている人間に向けられたものでもあった。

「……いくぞ」
力強く大地を蹴り、拘束されている餓鬼野に向かっていく。
何やら秘社が餓鬼野を勧誘──あるいは脅迫か──しようとしているが、篠は足を止めなかった。
「下らんことをしていないでどけ。お前も巻き添えを食うぞ。それにこんな奴は生かしておいても意味はない」
近くにいた秘社に声をかけ、下がらせる。
「あんたは大丈夫だな。傷付くだけ強くなるんだろ?それに拘束しておいてもらわないと暴れられた時に困る。」
餓鬼野を拘束している少女にも声をかける。次いでうずくまっている黒羽にも声をかけた。
「お前には申し訳ないが、恐らくこの一撃でお前の左腕は使い物にならなくなるだろう。
 技を出せたまではよかったが、うまいこと制御できないからな。
 まぁ安心しろ。元に戻ったらちゃんと治してやる」
返答は待たずにそのまま走り抜け、餓鬼野の目の前に到達した。

「さぁお祈りの時間だ。ところでお前は誰に祈るんだ?神か?天使とかいう奴か?
 ──まぁどっちでもいい。誰に祈ったところでお前の死という結果は変わらんからな」
餓鬼野の目の前に圧縮した空気を持つ左腕をちらつかせる。
「い、いいのかよ。俺を殺せばエンジェルの情報が手に──」
「この期に及んで命乞いとは、見上げた根性だな。
 だがそんなものは後からいくらでも調べられる。今ここでお前に聞かなくてもな」
餓鬼野の命乞いを、冷たく切り捨てる。『魂換眼』を使われた時点で、篠は餓鬼野を生かしておくつもりはなかった。
「おとなしくあの女達と逃げてればよかったなぁ。そうすればもうちょっと生きられたものを
「クソォォォォォォォォ!!俺はこんなところで死ぬような人間じゃ──」
「いいや、お前はここで死ぬべき人間だよ。じゃあな」
餓鬼野の最後の叫びを遮って言い放ち、左手に持つ圧縮された空気の爆弾を餓鬼野の顔面に叩き付けた。

ぶつけられた餓鬼野の頭は弾け跳び、血と肉片が辺りに飛び散った。
爆発の影響で篠は後方へ吹き飛ばされたが、何とか体勢を立て直す。
「さて、これで一先ず終わったな。──ん?」
意識と視界ががぼやけ始める。『魂換眼』をかけられたときと同じ状況だ。
「術者が死んで元に戻るってわけか。短い時間だったが、中々有意義だったな」
フッ、と満足そうな笑みを浮かべ、篠は意識を手放した──。

【御影 篠:戦闘終了。魂換眼の影響がなくなり、肉体が元に戻る】
151黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/10/15(土) 03:27:55.50 0
>>140>>141>>143-144>>147-148>>149-150
意識が薄れていくと共に、右腕の痛みがひいていく──。
いや、ひいたというよりは、実際は意識そのものが無くなったので痛みを認識できなくなっただけだ。
目覚めれば、また腕はズキズキとした鈍い痛みを脳に訴えかけるだろう。

結果は正にその通り。意識を取り戻した黒羽は、まず相も変わらずの腕の痛みに顔を顰めた。
だが、直ぐに安堵感をその顔から漂わせた。
何故ならば、痛みを発する腕が、先程までとは左右逆になっていたからである。
(一定時間が経過したのか、それとも術者が死んだからか……。まぁ、今となってはどうでもいいことか)
視線を自らの体に向ければ、そこには見慣れた黒い学生服に、見慣れた形のボディ。
そう──元の肉体に戻れたのである。

「……」
完全に骨折し、ブランと下がった左腕を抑えながら、黒羽は前方を見やった。
そこには顔面を無残な肉塊に変えられ、大の字になって倒れている餓鬼野の姿があった。
鋼鉄をも破壊するエアプレッシャーノヴァをくらえば、それは当然の光景といえる。
当然──だからこそ、黒羽は心の中で賛辞を惜しまなかった。
互いに深い仲ではない。むしろ互いに敵意や殺意すら抱いてもおかしくはない、そんな顔ぶれ。
そんな連中が、突然と付け焼刃の連携を課せられるという無理難題を突きつけられながらも、
それぞれ与えられた仕事を平然とこなし、結果、当然のように敵を駆逐した──簡単なようで簡単ではない。

「……約束だ、治せ」
素直ではないのか、それともわざわざ口にして心中を伝える程の仲ではないと判断したのか、
戦闘を終えた黒羽の第一声は、心中とは裏腹のぶっきらぼうなものだった。
そして、その言葉と共にぬっと御影の前に差し出されたのは、かつてない方向に折れ曲がった左腕。
本来なら全治は数ヶ月、驚異的な回復力を備える異能者にとっても完治に数日は要する程の怪我だが、
彼女は物体の結合を操る異能者。完治させることなど恐らく数分──いや、数秒とかからないだろう。

(それにしてもこの女……確か『ブラッディ・マリー』と名乗っていたが……一体、何者だ?
 生徒の俺が異能者である以上、教師の中に異能者が居ても不思議はないのは確かだろう。
 しかし、果たしてこいつが俺にとって無害な存在でありえるか、それはまだわからない。
 ……スイーパーか? ならばここに現れたのも増援の要請を受けたからか?
 ……いや、だとしたらエンジェルが現れるまで身を潜めていたのは何故だ。
 俺を殺るつもりなら、いくらでもチャンスがあったはず…………)

「────」
夜風に煽られて、ザワつく木々の音が黒羽を現実に引き戻した。
その時、既に治療は完了しており、気付けばうざったい程の痛みは腕から消えていた。
黒羽は回復した腕の動きを確かめるように二、三度掌を開閉させると、
やがてその特徴的な長い髪の毛を夜風に靡かせながら全員を一瞥した。
「俺は獅子堂(あの男)の後を追う。エンジェルなどどうでもいいが、落葉に何の秘密があるのか気になるんでな。
 ……お前らもお前らで好きにすればいいが、俺の邪魔だけはしてくれるなよ」

くるり。体を反転させて彼らに背を向けた黒羽は、その言葉を残して深い闇夜の中へ走り去って行った。

【黒羽 影葉:戦闘終了。骨折を治してもらい、獅子堂の後を追う】
152御影 篠@代理:2011/10/15(土) 17:41:53.87 0
>>151
再び意識が回復した時、視点は先程と変わっていた。
先程、意識を失う直前まであった左腕の痛みは嘘のように消えている。
篠は周囲を見回して自分の姿がないのを確認した後、自分の体を見る。そこには真紅のコートを着た女性の体があった。

(ちゃんと戻れたみたいね。よかった)
元の体に戻れたことに安堵し、先程自分が殺した男──餓鬼野を見やる。
顔面部分は判別不能なほど破損し、周りには血と肉塊が飛び散っており、先程までの自分──黒羽の持つ技の威力を物語っていた。
(しかし──急造とは言えよくやったわね、皆。とても不慣れな体とは思えない程に)
本来あのような状況に陥った場合、精神と肉体がうまく噛み合っていない為、うまく能力を発揮することすら至難の業である。
にも拘らず、ここにいる全員はどのような形にせよそれぞれ能力を使って見せた。
奇跡と呼べるレベルの神業。それを難なくやってのけたのだ。

(改めてここにいる人間のここの能力の高さが窺えるわね……これから先、面白くなりそうね)
未来(さき)のことを考え、笑みを浮かべる篠。そして視線を先程まで黒羽が入っていた少女──秋雨 凛音に向ける。
(それにあの子──さっき明らかに雰囲気が変わってた。最初に見た時はちょっとオドオドしたような感じだったけど……。
 性格……いや人格、か。ま、こんな時代だもの。人格の二つや三つ、持ってたっておかしくはないわ)
考えに結論を出すと、秋雨から興味を失くしたように視線を外す。
(どっちだっていいわ。私の邪魔をするようなら排除するだけだし、ね)

「……約束だ、治せ」
秋雨のことを頭から追い出すと、目の前にいきなり腕が突き出された。黒羽のものだ。
折れた腕はありえない方向に曲がり、ひしゃげている。常人ならとても平静を保っていられないだろう。
それを黒羽は多少顔を顰めながらも、極普通の声音で話している。流石といったところだろう。
「そう言えば治療する約束だったわね。いいわ、少し待ってなさい」
そう言い、黒羽の左腕を包むように掴む。
「『リバイヴ』」
時間にして一秒ほど──瞬く間に黒羽の腕は元に戻っていた。結合を操る篠にとって、この程度は造作もないことである。

「俺は獅子堂(あの男)の後を追う。エンジェルなどどうでもいいが、落葉に何の秘密があるのか気になるんでな。
 ……お前らもお前らで好きにすればいいが、俺の邪魔だけはしてくれるなよ」
元に戻った腕を確認した後、黒羽がそう言って暗い森の中へ去っていった。

(さて、私はどうしようかしら。
 一番いいのは、獅子堂君が残りのエンジェルを倒して落葉の破片を持ち帰ってくれること。
 次点として落葉を持って行った女を足止めなり交戦なりしていること。
 最悪でも……その女が何処へ向かったかくらいは掴んでいて欲しいものね)
獅子堂と黒羽の去った方角を見つめ、考えを巡らせる。
(そう言えば私のこと、仕方ないとは言え喋っちゃったけど大丈夫かしら?
 ま、バレたところで大した問題はないんだけど、変に探りを入れられても厄介だわ。
 ……いずれ何らかの形で釘を刺しておく必要がありそうね)

「私も行くわ。仮に獅子堂君(彼)落葉を取り戻せていたとしても、粉々じゃ吼一郎さん(あの人)に合わせる顔がないわ。
 それに落葉の秘密──興味あるし、ね。
 さっき黒羽君も言ってたけど、あなた達も好きにするといいわ。来るもよし、帰るもよし……各自の自由よ」
これからの行動に結論を出してそう言い放つと、残る三人に背を向け、手近な木の枝に飛び移ると、そのまま森の中へ飛び去っていった。

【御影 篠:黒羽の治療をし、黒羽とは別ルートで獅子堂を追う】
153獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/10/16(日) 09:25:18.50 0
>>146>>151>>152
意識が戻った時、その目に入ってきたのは波紋の広がる闇。そして明滅する白銀の微粒子。
「ここは…」
そう、『闇照眼』によって造られる心象風景の中で獅子堂は目を覚ましたのだ。
「…どうしてここに…」
「貴様に伝えなければならん事が起きた。それにはこの場所が相応しかったのだ」
独り言に対して言葉を返したのは腰のホルダーに収められた2丁の拳銃。獅子堂はそれを手に取り睨むように見つめる。
「伝えるべき事とは?」
「…何でも構わん。貴様の思いつくまま魔弾を放て……撃てるものなら、な」
返事の代わりに響き渡る銃声。青白く輝く弾丸が思うままの軌跡を描いて宙を貫く。
そして銃口から生え揃う銃剣。修羅の如く剣舞に身を躍らせ、刃を闇の彼方へと撃ち出す。
だが、次の瞬間だった。『火線』を放とうとトリガーを引く―――だが乾いた音が響くだけで、銃口からは一片の火の粉も現れないのだ。
「…馬鹿な…!」
続いて『雷珠』を撃ち出そうとするがそれも不発。それだけではない。『青幽剣』も『蒼朧剣』すらも現れない。
「……『パーフェクト・ジェミニ』…お前が伝えようとしていたのは、こういう事か…?」
「貴様こそはもしや、と思ったが…我等の勘違いだった。それだけの事だ」
「どういう事か詳しく―――」
「―――まずは貴様の能力で探った方が深く理解できる…その後、我らが語ろう」
「……『闇照』……」
獅子堂は“魔銃”を握りしめ、『闇照眼』の力を発動し、次の瞬間に自分に何が起きたかを理解した。

「俺も“通過点”に過ぎない…という事か…」
「然り。『封滅刃』、『青幽剣』、『蒼朧剣』は貴様の3代前…自らを“呪縛の剣豪”と称した男の魔弾だ」
僅かに項垂れる獅子堂の内心を知ってか知らずか、1対の銃は言葉を続ける。
「本来、我等に適合した者は…己の魔弾を編み出し、我等に刻み付け、我等を限りなく全能に近付ける為だけに存在する。だが、例外が起こった―――それが貴様だ」
「俺が例外?」
「貴様が我等を手にした時に3人分の異能力、生命力、そして全てを見通す異能によって貴様の魔弾以外も使いこなした」
確かに、と獅子堂は納得した。
(月影を倒した時の『雷珠』も『冥王の吐息』も俺が編み出した技じゃない…何か…できるのが当然の様に…)
「…限界を超えた異能の酷使により、貴様は力を失った…これから使えるのは貴様の魔弾だけだ」
「俺が編み出した魔弾は――――――念動力」
「然り。それと基本となる技のみでこれからを戦い抜き、我等を相応しき者に継承させねばならぬ。
だが悲観する事も無い。貴様の潜在能力は高い。その分、“力”は集約され、より高度に洗練されていくだろう」
「…泣き言吐いても、どう足掻いてもそれが定めか…まあいいさ、これからも頼むぜ」

次の瞬間、獅子堂の意識は現実に覚醒した。仰向けになっていた体を起こすと、そこには黒羽と御影の姿があった。
「…この肉片がエンジェルの幹部だ。今まで俺が戦った相手の中でもトップクラスの強敵だった…」
何か言いたげな2人を見据え、獅子堂は右手でその動きを制する。それは“追うな”というサインだった。
「エンジェルはただの新興宗教団体じゃあない。何か恐るべき目的を持つ戦闘集団だ…『落葉』はあきらめろ。まずは龍神に話を聞くべきだ。
 彼なら何かを知っているはず。ただの物好きでアレを手にしたわけじゃなさそうだしな…」
まだまだ邪気眼のエネルギーは回復していない。ふらつく足元がそれを物語っていた。
感情が複雑に入り混じる視線を送ってくる黒羽の目をじっと見据え、獅子堂は言葉を紡ぐ。
「…決着は必要だ。俺もお前も、人生を前に進めるために…だが今はその時じゃない…あと―――」
今度は御影に鋭い視線を送る。
「―――御影、聞きたいことは腐るほどあるが…とりあえずシャワーと食事と寝床を頼む。今日は本当に……疲れ…た…」
(我ながら…無様……)
内心、自嘲しつつ朦朧とする意識を振り絞り、言うべきことを言うと、獅子堂は再び眠りの世界へと落ちていった。

【獅子堂 弥陸:黒羽、御影と合流。エンジェルの追跡を諦めるよう進言し、再び倒れる】
154秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/10/18(火) 19:57:08.30 0
>>150
意識が薄れ、視界がぼやけはじめる。『魂換眼』で魂が入れ替わるときと同じ感覚。つまり――
「…どうやら戻ったみたいだな」
自分の体を確認しながら、呟く秘社。能力の都合上積極的な戦闘をしていないので、怪我はほぼない
「…さて、結局勧誘は失敗してしまったわけだが。皆は獅子堂さんが向かった方向に行ったみたいだな…
いや、私の体に入っていた男と二重人格らしき少女がまだ残っているが…。だがその前に」
『心網眼』によって、社員と接続、指令を送る秘社
(今、新興宗教組織『エンジェル』と戦っていたのは知っているな? 詳しく調べてくれ。どうも怪しい――そして、弱者(われわれ)の、結社(われわれ)の敵である可能性が高い。くれぐれも注意するんだ)
「さてと。戦闘も終わって落ち着いたことですし、改めて。貴方たち、私の結社に入る気はありませんか? 欲しい物は可能な限り用意しますし、嫌になったら別に辞めてもかまいませんよ。
社員になったからと言って私の奴隷のように身を殺して働く必要はありませんし、結社に害をなさなければスイーパーだろうと一般人だろうと異能犯罪者だろうと関係ありませんよ。
我々は弱者の味方です。除け者の隣人です。落ちこぼれの親友です。不幸者の仲間です。社会不適合者の友人です。いじめられっこの友達です。憎まれっ子の兄弟です――
如何です? 我々と一緒に、弱さで以って強きを制し、世界に、社会に、優秀な人たちに我々の存在を認めさせませんか?」
そしてこの場にまだ残っている二神と秋雨を、秘密結社『秘境』に勧誘する秘社。
秘密結社『秘境』は、つまるところ『弱者の弱者による、弱者のための組織』である。たとえばいじめられっこだったり、両親や教師から虐待を受けていたり、
考えを社会から認められなかったり、先祖が島流しにあっていたり、一族丸ごと社会の除け者にされていたり、自分の能力でもがき苦しんでいたり――
そういう『弱さ』を抱える『外れ者』を集め、社会貢献し、そして社会のあらゆるシェアを『秘境』の物にしていき、『秘境』なしでは成り立たない社会にして、自分たちを除け者にした社会に、世界に、自分たちの存在を認めさせる―
そんなことを目的に、日々活動と拡大を続ける組織である。『秘境』のポリシーは、『弱さで以って強きを制す』、『数、其れ即ち力』、『硬い友情、惜しまぬ努力、手段を選ばぬ勝利』などである
自分たちの能力と立場、弱さを最大限利用して強者を制し、力で劣る相手には数で勝負し、社員同士の絆は何より硬く、どんなピンチでもあきらめずに打開策を模索し、そしてどんな手を使ってでも勝つ。それが、秘密結社『秘境』である
【秘社境介:二神と秋雨を勧誘】
155二神 歪 ◆WS9cBo9MH6 :2011/10/20(木) 02:31:42.78 0
>>154

体の動きを確かめる。元の体だ。何だか不思議な感覚だが…
そして、秘社の体の中にいた時に感じた、彼の眼の能力。多数の意思が集合した、初めて体験する『他の眼』は…
彼の能力を伸ばすきっかけを与えたとも言えた。

「一瞬ながら『多の中の1つ』となる経験、か。そうは出来ないな。その点に関しては俺はあンたに感謝する。」

秘社にそう言い放つ。

「だが、あンたの要請にはこたえられない。俺は、俺自身として敵と立ち向かい、勝利しなければならない。
――それは、俺のこれからの命にかせられた義務だ。多の中の一つとして、では無く。俺自身が戦いたいんだ」

「だから、あンたに属することは…出来ない。」

拒絶の言葉。だが、彼は自分の信念により、秘社の誘いを受けるわけにはいかないのだ。

(あれだけの数の意思を纏め上げる、その人間としての力…そこに、俺は脅威を感じる。
安心感がある。信頼感がある。だが、だからこそ俺は、それに頼るわけにはいかない)


「…俺は、落葉を追うぜ。あんたも着いて来るならこれば良い。まぁ、あの連中は誘うにしても上手くは行かないだろうがな。」

そういうと、御影の向かった方へと走り出す。


そこにあったのは、倒れている獅子堂の姿だった。
この様子だと、残りのエンジェル達と激戦の上、取り逃がしたのだろう。

「…落葉のかけらも取り戻せずじまい、か。……獅子堂は俺が運ぶ。取り合えず休息が必要だろう」

先ほど拾った、地面に隠してあった輸血パックを開き、血を飲み干す。口の周りが真っ赤に染まり、彼の体の傷が修復されていく。

「情報をまとめたい。落葉について、エンジェルについて。スイーパー本部で得られる情報もあるだろうが…俺は取り合えず、落葉の持ち主の所へ向かう。」


二神は獅子堂を背負い、歩き出す。

【二神、獅子堂を背負い応龍会へと向かう。】
156黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/10/20(木) 21:58:41.88 0
>>153>>155
戦場から西へ進むこと数百メートル。そこは市街に位置する田園地帯。
舗装もされていない細い砂利道の周りを、人気のない広大な田園が延々と続くただけののどかな場所。
季節が夏になれば、昼は鳥たちが、夜は虫たちの大合唱が始まるのが恒例だ。
ところが、いざ着いてみればどうだ。そこに虫の大合唱などない。
ただ、草木一本生えていない不毛の大地が、しんと静まり返っているだけであった。

──果たして、何があったのか。それは異能者からすれば考えるまでもないこと。
今さっきまでここで闘いがあったに違いない。それもかなり激しい闘いが、である。
(獅子堂とエンジェルか。この様子では、奴も相当手こずったと見える)
ふと視線を落としたその先には、一人仰向けに倒れている獅子堂がいた。
気を失い、更に何箇所か負傷があるようだが、敵の姿がないところを見ると既に、
決着は獅子堂の勝利という形でついているのだろう。
(相手はあの女か? それとも、また別の……)

敵の死体を確認しようと、周囲の暗がりに目を凝らし始めた黒羽だったが、
彼がその行動を中止するまでものの数秒とかからなかった。
これまで全く動かなかった獅子堂が不意にむくりと起き上がったからである。
「…この肉片がエンジェルの幹部だ。今まで俺が戦った相手の中でもトップクラスの強敵だった…」
黒羽と、いつの間にか背後についていた御影の存在を認めた彼は、
自身の周囲に散らばる無残な肉塊を指してそう言った。
しかし、肝心の“その続き”を口にしようとはしなかった。そう、落葉の奪還に関してである。
真っ先にそれを口にすべきのスイーパーがしなかった……つまりは結果は察しろということなのだろう。
こうなると黒羽としては自力で落葉の秘密を暴かなければならない。
だが、獅子堂はそれを見越していたのだろう、即座に遠くを見据えた黒羽にこう続けた。

「エンジェルはただの新興宗教団体じゃあない。何か恐るべき目的を持つ戦闘集団だ…『落葉』はあきらめろ。まずは龍神に話を聞くべきだ。
 彼なら何かを知っているはず。ただの物好きでアレを手にしたわけじゃなさそうだしな…」

獅子堂と目を合わせた時、黒羽は微かに意味深に目を細めた。
「……?」
違和感。彼は違和感を感じていた。雰囲気が先程とは違うのだ。
闘った時、突然獅子堂は狂気に支配された。そして目覚めた時、今度は何かを悟ったような顔付きとなり、餓鬼野を圧倒した。
だが今は、その時とも違う。言葉遣いこそ変化はないものの、その声に相手の肌を痺れさせるような威圧感が無い。
「…決着は必要だ。俺もお前も、人生を前に進めるために…だが今はその時じゃない…あと―――」
獅子堂はそう言い、最後に御影にボソっと声をかけると、再び瞼を閉じていった。
(何だ……この変わり様は……? まさか多重人格だとでもいうのか……?)
思う黒羽に、今度は背後から声がかかる。
「…落葉のかけらも取り戻せずじまい、か。……獅子堂は俺が運ぶ。取り合えず休息が必要だろう」
現れたのは二神だった。彼は真っ赤な液体を飲み干し、瞬く間に体の傷を治すと、さっさと獅子堂を背負った。
彼は先程の戦闘で『血を飲むことで回復する』と言っていたが、なるほどどうやらその通りのようだ。
これだけの回復能力があるなら、黒羽に瀕死の重傷を負わされながら、直ぐに戦線に復帰できたのも頷ける。

「情報をまとめたい。落葉について、エンジェルについて。スイーパー本部で得られる情報もあるだろうが…俺は取り合えず、落葉の持ち主の所へ向かう。」
そう言い、踵を返していく二神を見て、黒羽は小さく「無駄だな」と零した。
ただ、別に応龍邸に向かうこと事態に何ら益がないことと吐き捨てたわけではない。
「落葉の秘密……それを例え応龍会のボスが知っていたとしても、お前らには話さないさ。
 あの男はスイーパーにすら秘密が漏れることを恐れている。
 だから、お前らにも単なる宝石としか伝えなかったんだろうからな」

黒羽、彼もまた、背を向けた。そしてこう続けた。
「俺はあくまでエンジェル(奴ら)から聞き出す。もっとも……奴らが知っていればの話だが。
 ……さっきの獅子堂(その男)の話じゃないが、今はまだスイーパー(お前ら)と決着をつける時じゃない。
 いわば一時の停戦状態。俺の行動にもしばらくは目を瞑っていてもらうぜ、スイーパー。
 そして御影サン──俺もあんたも、互いに聞きたいことはあるだろうが、今は後回しだ……」
ザッザッ。そういい残して、黒羽は一人、二神とは反対方向に去っていった──。

【黒羽 影葉:単独行動へ移る】
157秋雨 凛音 ◆6funKT.qpA :2011/10/21(金) 22:38:27.76 0
>>151-152>>154-155
視界が歪み、自分という存在が内側から引っ張られるような感覚に陥る。

「……ようやく、この体に戻ってこれたか」
目の前が一度暗転し、気が付いた時には自分の体は慣れ親しんだ小柄な少女のものになっていた。
ただ一部分を除いては。
(さて、まずはこの右腕のバジリスクを邪気眼に還すか)
右腕と同化していた大蛇をまずは落ち着かせ、そして徐々に右掌の邪気眼へと押し戻していく。
漆のように黒いその眼の周囲には黒い煙のようなものが渦巻き、その中へとバジリスクは還っていった。

(それにしても他者の体に他者の眼か。少々厄介な出来事だったがそれなりに楽しめたか。
 不満があるとすれば、俺様が一撃も放つ機会が無かった事ぐらいだが……ん?)
視線を感じ、気付かれないレベルで確かめるとそれはブラッディ・マリーのものだった。
(なにか感づかれたか? まぁ、それぐらいならさして問題ではないか。……なら、これ以上戦闘がおきる気配もないし、凛音にこの体を返すか。
 この二人なら別に凛音に危害を加えることもなさそうだしな。それじゃあ、おはよう凛音――)



「……ん?」
気が付くとそこはさきほど盗賊が平地へと変えた旧建物跡。
目の前にはその犯人である盗賊とフードの男と餓鬼野の攻撃と共に現れた女性と見知らぬスーツの男だ。
(って、あれ餓鬼野は? えーと…………っ!?)
視線を動かすと、そこには顔面を爆弾で吹き飛ばされたように無惨な姿となった餓鬼野が横たわっていた。
皮膚が焦げ、筋肉が飛び出し、頭蓋が砕かれたその姿を見て凛音はとっさに片手で口を抑える。
(……これは、私また能力を使ってて記憶が飛んだ? でも私の能力だと死体がこんなになるわけないし、いまここにいる人たちと協力したってことかな)
他にも自分の体など調べると、ワンピースの丈が破れて短くなってたり、少し泥の汚れが多くなっていたり自分が戦闘したことを物語っていた。
周囲を見渡すと、あの明や茜と呼ばれた女性も居ないので、どうやら戦闘自体は終わってるようだ。

「俺は獅子堂(あの男)の後を追う。エンジェルなどどうでもいいが、落葉に何の秘密があるのか気になるんでな。
 ……お前らもお前らで好きにすればいいが、俺の邪魔だけはしてくれるなよ」

「私も行くわ。仮に獅子堂君(彼)落葉を取り戻せていたとしても、粉々じゃ吼一郎さん(あの人)に合わせる顔がないわ。
 それに落葉の秘密──興味あるし、ね。
 さっき黒羽君も言ってたけど、あなた達も好きにするといいわ。来るもよし、帰るもよし……各自の自由よ」

あまり状況も把握出来ないまま、現状は進む。
盗賊と女性はあの男(誰かは分からない)とやらを追って、この場を去っていった。
いまここに居ない人物を考えると、恐らくあの銃使いのスイーパーのことなんだろうけど――
(自分からスイーパーのもとへ行く、ってあの盗賊さんは和解でもしたのかな。いや、でも確か落葉は粉々になったわけだし……うーん)
二年前に自分ひとりの時に記憶が飛んだときと違って、周りの人間と“ズレ”が出来ることははじめての経験だった凛音は大きく悩んだ。
158秋雨 凛音 ◆6funKT.qpA :2011/10/21(金) 22:39:42.56 0
「さてと。戦闘も終わって落ち着いたことですし、改めて。貴方たち、私の結社に入る気はありませんか? 欲しい物は可能な限り用意しますし、嫌になったら別に辞めてもかまいませんよ。
 社員になったからと言って私の奴隷のように身を殺して働く必要はありませんし、結社に害をなさなければスイーパーだろうと一般人だろうと異能犯罪者だろうと関係ありませんよ。
 我々は弱者の味方です。除け者の隣人です。落ちこぼれの親友です。不幸者の仲間です。社会不適合者の友人です。いじめられっこの友達です。憎まれっ子の兄弟です――
 如何です? 我々と一緒に、弱さで以って強きを制し、世界に、社会に、優秀な人たちに我々の存在を認めさせませんか?」

「え?」
見知らぬスーツの男の突然の誘いに、間の抜けた声を凛音は出した。
この男だけは記憶を失う前に見た記憶がない。あの赤スーツの女性もほとんど後ろ姿しか見れなかったけど。

「一瞬ながら『多の中の1つ』となる経験、か。そうは出来ないな。その点に関しては俺はあンたに感謝する。
 だが、あンたの要請にはこたえられない。俺は、俺自身として敵と立ち向かい、勝利しなければならない。
 ――それは、俺のこれからの命にかせられた義務だ。多の中の一つとして、では無く。俺自身が戦いたいんだ。
 だから、あンたに属することは…出来ない。
 …俺は、落葉を追うぜ。あんたも着いて来るならこれば良い。まぁ、あの連中は誘うにしても上手くは行かないだろうがな。」

フード男はそれだけ言い残し、凛音には一瞥もくれずに盗賊達のように闇夜の森へと駆けて行った。
残ったのは自分と見知らぬ男の二人。
(き、気まずい……とにかく、なにか言わないと。えーと、えーと)

「ごめんなさい。私もその……結社?には入れません。確かに私もどちらかというと弱い人間です。自分が誰なのかも分からないほどに。
 でも、それは私が自分自身で乗り越えるべき問題なんです。だから私はその『優秀な人たちは見返す』ていう目標には協力出来ません。すみません。
 ……えと、それじゃ私もこの辺で」

相手が自分とどういう関係か分からぬため、とにかく失礼のないよう丁重に断って凛音は男性に背を向けた。
向かうのは盗賊達とは別に、ちゃんとした舗装された道路だ。
近くの看板を見るとここは火葬場のようだったので、当然この道も街へと続いてるだろう。
(さっきの人には悪いけど、私は自分ひとりの力で父さんを探さなきゃいけない。そうじゃないと、自分に納得が出来ない……それに)

「あの人、なんか胡散臭いし……」

しれっとキツイ本音を漏らしつつ、凛音は山を下る。
【秋雨 凛音:秘社の誘いを断り、公道から街へ下りる】
159御影 篠@代理:2011/10/22(土) 10:37:33.49 0
>>153>>155>>156
黒羽とは別ルートで森の中を進むこと数分。
もしかしたらあの女に出くわすかもしれないと言う僅かな期待をかけて移動していたが、それが叶う事はなかった。

やがて視界が開けてきた。森が終わり、外に出たという所だろう。
そこには広大な田畑が広がる田園地帯とでも呼ぶべき光景が広がっていた。
本来ならば、様々な作物が作られている緑豊かな場所なのだろうが、その面影は欠片もなかった。
目に映るのはただひたすらに何もない土地。生き物はおろか植物すらいない空しい土地が続いているだけだった。

(ここで戦闘があったことは確かね。獅子堂君の能力を考えると、ここまで何もなくなるのはおかしい気がする。
 とすると、これは相手方の能力……。獅子堂君の体が無事なところを見ると、勝ったということでいいみたいね)
倒れている獅子堂と、その傍に立つ黒羽の姿を確認し、二人に近付く。と、不意に獅子堂が体を起こした。

「…この肉片がエンジェルの幹部だ。今まで俺が戦った相手の中でもトップクラスの強敵だった…」
獅子堂の言葉に目を凝らすと、確かに彼の周囲に肉片らしきものが散らばっていた。
篠はそれを一瞥すると、獅子堂の言葉の続きを待った。
「……?」
しかしいつまで立っても獅子堂はそれ以上喋ろうとしない。そこで篠はその意味を察した。
本来なら相手の殺害報告よりも優先されるべき落葉奪還についての情報。
それが最初に出なかったということは、奪還は失敗、落葉を持った人間には逃げられた、と言うことなのだろう。

(私達が闘っていた時間を考えると、今から探しても見つかる確率は限りなくゼロね)
すぐにでも追いかけようと思った篠だが、獅子堂が去ってから自分達がここに来るまでの時間を計算し、それは無理だと判断する。
「エンジェルはただの新興宗教団体じゃあない。何か恐るべき目的を持つ戦闘集団だ…『落葉』はあきらめろ。まずは龍神に話を聞くべきだ。
 彼なら何かを知っているはず。ただの物好きでアレを手にしたわけじゃなさそうだしな…」
そこに合わせたかのように、獅子堂が釘を刺すように二人に言った。
(……仮にここで落葉を諦めたとしても、結局は同じところへ行き着くだけ。
 どの道、これから先エンジェルとの接触は避けられそうにないし)

「―――御影、聞きたいことは腐るほどあるが…とりあえずシャワーと食事と寝床を頼む。今日は本当に……疲れ…た…」
篠が考えを巡らせていると、不意に獅子堂から声がかかった。
「あらあら……注文が多いわね。これでも私、一応あなたの上司なんだけど?」
軽い調子で返すも、既に意識を失っていた獅子堂から返事が帰ってくることはなかった。

「…落葉のかけらも取り戻せずじまい、か。……獅子堂は俺が運ぶ。取り合えず休息が必要だろう」
新たな声が背後より聞こえた。二神が到着したようだ。何かを飲みながらこちらに歩いてくる。
すると、彼の体の傷が見る見るうちに癒えていく。どうやら飲んでいたのは輸血用の血液のようだ。

「情報をまとめたい。落葉について、エンジェルについて。スイーパー本部で得られる情報もあるだろうが…俺は取り合えず、落葉の持ち主の所へ向かう。」
そう言って獅子堂を背負い引き返していく二神。その背中に声をかける。
「そ、ならその後にでも私の家にいらっしゃい。部屋は沢山余ってるから、よければあなたも休んでいくといいわ。
 場所は──この街の北にある"城"よ。丘を登れば見えるはずよ」
(吼一郎さんのところへは行くだけ無駄になると思うけど、ね)

「俺はあくまでエンジェル(奴ら)から聞き出す。もっとも……奴らが知っていればの話だが。
 ……さっきの獅子堂(その男)の話じゃないが、今はまだスイーパー(お前ら)と決着をつける時じゃない。
 いわば一時の停戦状態。俺の行動にもしばらくは目を瞑っていてもらうぜ、スイーパー。
 そして御影サン──俺もあんたも、互いに聞きたいことはあるだろうが、今は後回しだ……」
二神に続き、黒羽もこの場を去ろうとする。それを横目で見つつ、篠も歩き出した。
「そうね……今度お茶でも飲みながらゆっくりお話しましょう。あなたの話、面白そうだわ」
(私の邪魔になるようなら、例え自分の生徒と言えども容赦はしないわよ?)
最後の一言は口には出さず、篠は暗い森の中へ姿を消した。

【御影 篠:自宅へと戻り始める】
160獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/10/23(日) 20:26:16.76 0
目が覚めると最初に視界に入ったのは、和風の造りの天井。
「―――ここは…」
「お目覚めか、岡崎女史の弟子よ」
今何処にいるのかという獅子堂の簡単な疑問に答えたのは応龍会の長、龍神だった。
「……事の経緯は二神という少年から聞いた。君の口からもご説明願いたいものだな」
「あいつは何処に?」
「部屋の外だ。庭園を眺めている…さて、当事者の君から話してもらおうか」
すっと差し出された人肌ほどの日本茶を数秒見つめ、茶碗を掴み一気に飲み干すと、獅子堂は居心地悪げに言葉を紡ぎ始めた。
「…『落葉』を盗んだ奴は金品欲しさではなかった。親の仇である俺を探し続け、その手段の一環として盗みを繰り返してきたようだ」
「ほう…」
「そして二神と俺とで奴と戦い…途中で俺のトラウマを爆発させる言葉を奴が吐いて、俺が逆上して…その、なんだ、結果として『落葉』を粉微塵にした」
「…誰が」
「…俺が」
その言葉を聞いた龍神はただただ呆れた顔で獅子堂を見つめる。当然と言えば当然だろう。
奪還すると言って飛び出して行った人間が、肝心の物を取り逃がすどころか完全破壊したのだから。
龍神の心中を察しつつ、居心地が悪そうに頭を掻きながら獅子堂は話を進める。
「問題はその後…『エンジェル』と称する宗教団体―――龍神殿も聞いたことはあるだろう―――が現れ、そいつらに『落葉』を奪われた」

『エンジェル』、その単語を聞いた龍神は僅かだが眉をひそめる。その様子を獅子堂は見逃さなかった。
「逆に質問させて頂こう。龍神殿、『神樹眼』という言葉に聞き覚えは? そして『落葉』に関して…ちょっとした逸話でも構わない、いわゆる“裏”の話をご存じないか?」
「……………」
投げかけた2つの質問。それを聞くが否や龍神は鉄の様に固く沈黙を始めた。
1分程だろうか、獅子堂と龍神は互いに沈黙を守ったまま複雑に視線を交錯させる。
「…知らないなら、教えたくないなら“知らない”の一言で済むのにな。沈黙は否定にはならないんだぜ」
沈黙―――それは全容、あるいは一部を知っているが教えたくない、または教えたものかどうか迷っているというサインに他ならないのだ。
ふっと溜息をつくと獅子堂は腰のホルダーの2丁の銃を確認し立ち上がる。それはこの邸宅を去るという意思表示に他ならない。
「世話になった。まあ、期待せずに吉報をお待ちあれ」
皮肉を込めて一言投げかけ、障子を開くとそこには二神の姿があった。
「…お前にも世話になった。俺は今から御影の屋敷へ行く―――パンの一欠けらぐらい頂戴できるだろう」
それだけ言うと獅子堂は屋敷の門まで足早に移動し、丘の上の御影の屋敷へ向かうべく、夜の街へと出て行った。

【獅子堂 弥勒:応龍会邸宅にて体力を回復。御影の屋敷へ向かうべく夜の街を移動開始】
161黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/10/25(火) 00:18:54.35 0
二神や御影らと別れてから何分、何十分が経った頃だろうか。
彼──黒羽 影葉は、市内中央から若干東よりに位置する貧民街、いわゆるスラム街に来ていた。

息が詰まりそうな程に密集したこじんまりとした建物は、そのいずれもがボロボロ。
道路にはゴミが散乱し、時折、汚らしい服を着た老若男女が鼾をかいて寝ている。
耳を澄まさなくとも、自然とどこからともなく聞こえてくるのはロック風の爆音、怒号や悲鳴交じりの絶叫。
同じ市内にありながら、ここはその他の場所とは明らかに一線を画した異質な世界であった。

そんなところを、学生服を着た男が堂々と徘徊すれば、当然目立つ。
たまにすれ違う人々は、場違いな奴が来たとばかりにジロジロと視線を送ってくる。
だが、そういった連中は、ただ見ているだけである分、対応としては遥かにマシだ。
中には鴨が葱を背負って来たというようにやさぐれた目をギラつかせる者もいるのだから。

そういった奴に目をつけられた場合、多くは運命が決まりきっている。
脅され、金品を強奪され、更には暴力を振るわれ、挙句の果てには陵辱される……。
しかし、黒羽の場合は例外だ。彼は既にこの世界よりも深い闇の世界を知っている。
ナイフをちらつかせて意気揚々と絡んだ者も、彼と目を合わせた瞬間に“格”の違いを悟り、尻込みするのだ。
そしてやがて無言のまますごすごと引き上げていく。
だからこの場所を闊歩したところで彼にとっては何の問題もないわけだが……
そのような輩といちいち顔を合わせることだけでも面倒なのは確かである。

では、何故わざわざここに来たのか。
それは別に何のあてもなく歩き回った結果、たまたま辿り着いた……
というわけではなく、ある人物に直接逢う為である。
「……どうやら、無事息災のようだ……」
小さく独りごちた黒羽の足が、とある一角で止まった。
見上げた彼の前に在るのは古びたコンクリート造りの建物。その横には『朱雀堂』と書かれた看板。
その姿は以前彼が足を運んだ時と何ら変わっていないものだった。
少々の懐かしさに浸るように吐息を漏らした黒羽は、埃で汚れたガラスドアに手を掛け、開いていった。

「いらっしゃ……おや?」
入店早々鼻をついたのは生臭く、ジメッとした臭い。そして耳にしたのは少々しわがれた女性の声。
その女性は、ドアの前で立ちずさむ黒羽からおよそ数メートル前方のカウンターに居た。
灰色の髪の毛、黒と赤を基調とした着物、暇を持て余していたのか、その手には新聞とタバコ。
「なんだい、誰かと思ったら黒羽のせがれじゃないか。こんな夜中に非常識だよ」
フゥーっと、口からヤニ交じりの煙を吐き出して、その女性は灰皿にタバコを押し付けた。
いや、女性……であることは間違いないが、厳密には老女と表現するべきか。
もっとも、ふてぶてしいその態度に、黒羽に叩き付ける鋭い眼光は、
彼女を一瞬老女であることを忘れさせる程の威圧感を感じさせてくれるが。

「よく言う。夜中でも店を開いてんのはあんただろう。客に言う台詞かよ」
黒羽は呆れたように言い、つかつかとカウンターまで歩み寄った。
「客」という言葉を聞いて老女は目を丸くし、次いで微笑を浮かべた。
「おや、冷やかしかと思ったら用があったのかい。……で? 何が欲しいんだい?」

名を『雀舞 美緑(すずまい みどり)』というこの老女は、この建物で漢方薬局を営んでいる。
このようなスラム街に在りながらも固定客はそれなりにいるようだが、彼女にとって漢方は趣味に過ぎない。
彼女の本業は裏社会に生きる者達を相手にビジネスをする『情報屋』なのである。
「何が欲しい」とは、「何の情報が欲しいのか」と訊いている事に等しいのだ。

「エンジェルとかいう宗教団体──奴らの真のアジトを知りたい」
「エンジェル……あぁ、最近よく耳にするねぇ。……何で知りたいんだい?」

「あんたには関係ない」──そう言い掛けて、黒羽は口をつぐんだ。
そう言ってしまえば最後。「目的も教えずに情報だけが知りたいなんて虫が良すぎないかい?」だの、
「目上の人間に対して言葉遣いがなってない」だの、延々と長話が始まるからだ。
当然、情報を貰えば金は払うわけで、金を払うのはこっちだからいいだろうと理屈をこねたところで彼女には通じない。
情報を買うのに正当な理由があるかどうか、彼女にとってはそこが重要らしいのだ。
ここで意地を張ってもしょうがない。黒羽は「やれやれ」と零した後、ぽつりぽつりと事のあらましを語り始めた──。
162黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/10/25(火) 00:31:58.56 0
落葉を盗み出したこと──スイーパーと闘ったこと──そして現れたエンジェルのこと──
その全てを語り終えた時、雀舞は二本目のタバコを吸い終え、三本目に口をつけていた。
「なるほどねぇ、ようやく親父さんの仇が見つかったってところに、そのエンジェルが現れた。
 そして破壊された落葉を回収して去っていった。あんたは彼らが落葉に拘るその理由が知りたいわけだ」
コクリと頷く黒羽を見やり、しばしトントンと指で机を叩いた雀舞は、三度タバコを灰皿に押し付けた。

「……『魔女の秘宝』……」
聞き慣れない単語に、黒羽は頭に?を浮かべたが、その意味を問うより先に雀舞が答えを明かした。
「お前が盗んだ落葉、その宝石の別名さ。……お前の想像の通り、あれはただの宝石じゃない。
 あれは中世から近世にかけてのヨーロッパにおいて『魔術』の……
 特に『悪魔召喚』の儀式の際に用いられたと言われているシロモノなんだよ。
 それがいつしか落葉という名で世に流れた……お前が盗み出したのはその一つさ」
「……それを、何故奴らが?」
雀舞は更に続けた。

「実際の悪魔召喚の際にどれだけの効果があったのかは定かじゃないが、あれは人智を超えた物体だ。
 破壊された……と言っただろう? それは違う。あれは破壊されたところで自然に再生しちまうんだよ」
「元通りに修復する、自己再生機能があるというのか? ……バカな」
「バカなもんかい。何故なら証人がお前の目の前にいるんだからね」

自らに向けて親指を立てるのを見て、黒羽は思わず「え?」と呻った。

「大昔に、ちょっとあってね。あれは本来人目に触れちゃいけないもんなんだよ。
 だから龍神の吼ちゃんがきちんと保管してたんだ。それをあんたが盗んじまったもんだから……
 やれやれ、吼ちゃんもこの歳になってえらい難儀を背負い込んだもんだねぇ」
「ちょっと待て。その言い様だと婆さんはあのヤクザと知り合い……」
「当たり前じゃないか。この街に古くから居る異能者ならあたしを知らない奴なんざいやしないよ。
 ほら、ISSの現会長、『虎将(こじょう)』だってあたしの知り合いさ。これでも若い頃は色々とあったもんさ」
「……そういえば、婆さんも異能者だと聞いたが」
「ま、ISSの臨時スイーパーとして手伝ったこともあったけどねぇ、それも昔の話だよ」

昔を懐かしんでいるのか、どこか遠い目をする雀舞。黒羽は頭をかいた。
(只者じゃないとは思ってたが……道理でこの世界で生きられるわけだ)

「とにかくだ、あんたにゃ落葉を持ち出し、人目に曝した責任がある。
 奴らのアジトを教えてやるからきちんと落とし前をつけてきな。これ以上、大事になる前にね」
黒羽としてはエンジェルから落葉の秘密を聞き出せればそれでよく、落葉を奪還する気はなかったのだが、
雀舞にこうまで言われてしまってはもはや奪還を大前提にしなければならない。
面倒とは思ったが、しょうがない。黒羽は溜息をつきながら「はいはい」と軽く頷いた。
「奴らは市内中央区の教会を教団の本拠としているが、それは表向きに過ぎない。
 教団の中でも極一部の人間しか知らない秘密のアジトが実は北部の山の中に在るんだよ。
 そこは元々はある富豪の別荘だった建物だが、十数年前に売りに出されて依頼買い手がつかず、今じゃ廃屋になっている。
 ツタに包まれた赤レンガ造りの巨大な西洋館だ。行けばわかるはずだよ」

「市内の北か。それはそうと婆さん、あんたは落葉について他にも──」
トントンと指で机を叩く音が言葉の先を遮った。
「場所はもう教えたよ。一体、何グズグズしてるんだい。
 お前さんのやる事はここに金を置いて、とっとと目的を果たしに行くことじゃないのかい?」
「…………また来る」

黒羽は、懐から取り出した札束を無造作に投げ渡すと、くるりと踵を返して店を後にした。
ふと時計を見ると時刻は午前一時を回っていた。途端に全身を疲労感が襲う。
無理もなかった。何せ今夜は常に動きっぱなし、闘いっぱなしだったのだから。
「夜明けを待つか……」
吹き付ける夜風に盛大に髪をはためかせて、黒羽は何とはなしに月を見やり、そして最後に朱雀堂を見やった。
(まだ全てを話す気はない、か……。……まぁいいさ、今はな……)

【黒羽 影葉:朱雀堂を後にする。スラム街→自宅へ】
163秋雨 流辿 ◆6funKT.qpA :2011/10/25(火) 00:48:09.39 0
ここは協会が管理する『ISS直轄総合邪気眼研究所』――通称『イデア(IDER)』である。
世界でも数えるほどしかない邪気眼を専門に扱う組織であり、その中で最も研究が進んでいる所でもある。

そのイデア内の暗闇の通路を一人の中年男性が歩いていた。
男は蒼い作務衣の上に黒色に染められた白衣――黒衣を着る、という何とも珍妙な姿であった。
顎には無精ヒゲを蓄え、水分が少なくパサついてる髪を赤い紐で文字通り一総に縛っていた。
唯一のオシャレなのか、首には藍色のストールを巻いているがやはり作務衣にも黒衣にも似合ってはいなかった。

「ふん、俺が抜けてからどれほどここが成長したのか見に来たが……期待外れだったようだな」
髭を掻きつつ、男はそんな独り言を呟いた。
しかし、その言葉から裏腹に表情には落胆の色は見えず、むしろ最初から期待していなかったようにも見える。
「邪気眼の原理究明、邪気の制御、対邪気眼使い用の各種兵装。どれも俺が抜けた八年前からなんも変わっちゃいない。
 設備だけは良くなっていくが、それだけだな。俺の理論を下手に弄って改悪したようなデータばかり。まったく、情けないとは思わないか――――九条くん?」
「……やはり、思い違いではなかったか」
無精髭の男が振り向いた先には一人の青年が立っていた。
童顔で十代のようにも見えるが、醸し出す雰囲気や立ち姿にある貫禄がそんな若さで出せるものではなかった。
少なくとも二十後半である青年は清潔感のある綺麗なスーツを身に纏い、端整な顔には縁なしのメガネが掛けられている。

「何故、あなたが――いや、貴様がここに居る」
「冷たい事を言うなよ、九条くん。君がこの関東地区地区長に就任できたのは俺の推薦のおかげだろ?」
「一体、何年前の話をしている。今の私は地区長ではない、副会長補佐だ。その程度の情報なら、貴様の耳にも届いてるはず」
少し苛立った声を上げる九条に対して、男は「おや?そうだったか?」と本気で知らなかった風を装った。
しかし今の九条はそうやって、怒りでもしなければ――昔のようにこの軽口にでも乗らなければ精神が持たない状況でもあった。
こんな所で“この男”と出会うとは全く想定していなかったのだ。取り乱さなかっただけでも上出来と言える。

「しかし、ここの警備システムは俺が出て行った時から少しもヴァージョンアップされてないとはな。流石にいささか不用心ではないかな。
 まぁ、俺以外の者に扱えるプログラムにはしなかったから当然と言えるか。おかげでこうして悠々と散策が出来るわけだ」
「なにが目的でここに来た? まさか追われる身である貴様がただの散策でここに来るはずがない。
 八年前に副会長の身でありながら研究所のデータを盗み、自身の部下達と共に無断脱会した貴様が!さぁ答えろ、秋雨 流辿(あきさめ るてん)!」
声を張り、悠然と問い詰める九条。だが、自然と振るえる拳を強く握っていた。
164秋雨 流辿 ◆6funKT.qpA :2011/10/25(火) 00:48:50.59 0
「目的か……」と無精髭を掻く流辿は九条のほうへ歩き出した。
少なくとも九条はそう認識した。だが、一歩踏み出したと思った時にはすでに九条の目の前には流辿が立っていた。
「な……!?」
「そうだな、本題に移ろうか。なに、別段特別なことをしに来たわけではない。ちょっと九条くんにメッセンジャーになってほしいだけだ」
流転が肩に軽く手を乗せると、九条がガクッと膝を折って膝頭を床に着けた。
これは何らかの能力を発動したわけではない、ただ邪気を撒いただけだ。流辿が常日頃からセーブしていた自身の邪気の、その何分の一かを解放しただけなのだ。
だが、それだけでもう金縛りのように動けはしない。強すぎる邪気はただ漂っているだけで他者の体を蝕み、縛り付ける。
決して九条が弱いからではない。彼は自他共に認める強者(つわもの)だったが、協会の元副会長はそれ以上の強者ならぬ化物だった。

「俺は明日、正確には今日の十三時に何らかの大事件を起こす。これは犯行予告ではない、試験通知だ。あんたらが俺の脱会後の八年でどこまで堕落したか計ってやる。
 心して掛かれよ、上手く解決すれば死傷者はゼロにできるだろうが、下手をすれば過去に類を見ないほどのコトが起きるぞ」
「ぐ……今の貴様に何ができる? 元副会長派の人間は全て遠い支部送りか、ISSの息がかかった組織に無期限警護任務の名目で監視しているのだぞ……?」
「確かに抜けるときに連れて来た六名じゃ、出来ることは限られるが、いまはちょっと協力者が居るんでな」
「まさか、異能犯罪者と手を組んだのか!? そこまで堕ちたか秋雨流辿!」
「今更何を言うか、九条くん。協会を裏切った時点で俺も立派な異能犯罪者だよ」
そう話を締めると肩に置いていた手は放され、九条の体はそのまま重力に引っ張られて床に倒れこんだ。
最後に「会長にちゃんと伝えるんだぞ」と言い残して、黒衣を着た背中は闇の中へと紛れていった。

【秋雨 流辿:ISSに宣戦布告。この情報は明朝にて全スイーパーに伝達される】
165秋雨 流辿 ◆6funKT.qpA :2011/10/25(火) 01:49:36.61 0
修正
「俺は明日、正確には今日の十三時に何らかの大事件を起こす」→「俺は明日、正確には今日の十三時厨弐市で何らかの大事件を起こす」
166秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/10/25(火) 18:48:50.55 0
>>155>>158
誇束株式会社、もとい秘密結社『秘境』の社長、秘社境介の誘いに、まず二神が答える
「一瞬ながら『多の中の1つ』となる経験、か。そうは出来ないな。その点に関しては俺はあンたに感謝する。」
「……どういたしまして」
この『どういたしまして』に深い意味はない。まして皮肉や嫌味などではない。
「こんにちは」と挨拶されたら「こんにちは」と返すように。「お帰りなさい」と迎えられたら「ただいま!」と返すように。
「感謝する」というお礼の言葉には「どういたしまして」で返す、それだけのことだ
「だが、あンたの要請にはこたえられない。俺は、俺自身として敵と立ち向かい、勝利しなければならない。
――それは、俺のこれからの命にかせられた義務だ。多の中の一つとして、では無く。俺自身が戦いたいんだ」

「だから、あンたに属することは…出来ない。」
「へぇ…そうですか…残念。でも誤解無きよう言っておきますと、我々秘境のメンバーは、常に多の中の一つでありながら、常に自分として戦っていますよ。
個人を生かして多数を生かす、というのも我が秘境のスローガンなのです」
残念そうな手振りで答えた後、付け加えるようにそう言う秘社
「…俺は、落葉を追うぜ。あんたも着いて来るならこれば良い。まぁ、あの連中は誘うにしても上手くは行かないだろうがな。」
「そうですねぇ…私も彼らは手強いと思いますよ。彼らに私の誘いを利用する卑怯さがあれば話は別ですが、私の秘境(しんねん)は些か世間からの風当たりが強いですからね――
それと最後に二つだけ。私たちの仲間に、秘境の社員になれないというのなら、せめて友達になりましょう。今度御影先生や黒羽先輩とかも誘って、遊園地にでも行きましょう。
私たちは皆で協力し合い、一人の敵を倒しました。その事実に揺るぎはありません。…そう言う意味では、もう友達なのかもしれませんがね。
そしてもう一つ。これは言うまでもないことですが、一応念のため。人間が一人で何でもできると思ったら、それは大間違いですよ。人間は、一人じゃ何にもできやしない。
だから人は仲間を作るのです。友達を作るのです。敵を作るのです。他人を作るのです。第三者を作るのです――
ま、たまに孤独を好む人、というのも存在するわけですが、他人がいなければ孤独を好むことすらできないでしょう。それだけです。では、行ってらっしゃい、二神さん」
随分と長々とした見送りの言葉を投げかける(というか寧ろ投げつける)秘社。その言葉が二神に届いたかは知らないが、二神は振り返ることなく、この場を後にした

「……」
暫しの沈黙が流れる。所謂『気まずい』空気と言う奴である、しかし秘社は動じる様子はない
「ごめんなさい。私もその……結社?には入れません。確かに私もどちらかというと弱い人間です。自分が誰なのかも分からないほどに。
 でも、それは私が自分自身で乗り越えるべき問題なんです。だから私はその『優秀な人たちは見返す』ていう目標には協力出来ません。すみません。
 ……えと、それじゃ私もこの辺で」
とにかく、何かを言わなければ、という責任感(あるいは義務感か強迫観念か)に背中を押されたように、答える秋雨
「そうですか…。やれやれ、最近は孤独好きな孤高の戦士が多すぎて困りますね。まぁ、いいですよ。入るも入らないも貴方の自由ですから。
ま、戦っていた時の貴方は貴方であって貴方でありませんでしたからね。実質初対面の私の話を信じろというのも無茶な話でしょう。
まぁ、それはそれとして一応念のため言っておきますと、『べき』とか『ねばならない』で自分の行動を決める人生ほど、詰まらない人生はありませんよ――
――なんてことを多寡だか17年程度しか生きていない私が言ったところで説得力は限りなく0に近いわけですが。ま、一応念のため、質問しておきます。答えるも答えないも貴方の自由ですよ
――貴方はその問題を自分自身で乗り越える“べき”だと思っているんですか? それとも乗り越え“たい”と思っているんですか? もし後者なら、私は貴方を本気で諦めざるを得ません。では、行ってらっしゃい」
二神に行ったのと同じように、『行ってらっしゃい』で見送る二神。そして秋雨は結局この質問には答えなかった。大方胡散臭いとでも思われているのだろう。だが、それは仕方のないことである
167秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/10/25(火) 23:45:41.38 0
>>153>>160-162
「やれやれ、一度に二人もの人間にフられるなんて、本当に傷つきますね…。本当、泣きそうな気分です」
…これほど、白々しいという表現が似合うものはない、というような言い方で呟く秘社。成る程確かに胡散臭い
「む…?」
心網眼による感覚共有で、秘社の目と耳に情報が入る
「獅子堂さんが戦ったエンジェル幹部がこいつで…。そして落葉は諦めろ、と。なるほど…」
因みに秘社は落葉にそこまで執着がない。お金を稼ぐ手段ならいくらでもあるし、落葉の秘密を知りたいとも思っていない。しかし、利用できるなら利用しよう、くらいには考えている。
「さて、私も…我々も行動を起こすとするか。もっとも、我々は常に行動しているのだがな…」
因みに、獅子堂と合流した御影達の会話を見聞きしていたのは密井偵寡である。あの時は不注意で紅峰に気付かれたが、そういう事故さえなければ偵寡の『脇役眼』に気付くことのできるものは存在しないのだ
(このものは者と変換しても物と変換してもなんら影響はない)視覚、聴覚は勿論、嗅覚、触覚、味覚、第六感、探知能力、GPS機能でさえ、この能力発動中の偵寡を感知することはできないのだ

「…知らないなら、教えたくないなら“知らない”の一言で済むのにな。沈黙は否定にはならないんだぜ」
「そーだよ、たつがみおじちゃん。ちんもくは金、ゆーべんは銀っていっても、このばあいのちんもくはこーていととらえられかねないんだから」
と、応龍会ともスイーパーとも全く関係のない少女…というよりも幼女が、お茶をすすりながらそう言った
彼女の名前は飯喰 ぐるめ(いいばみ ぐるめ)。秘密結社『秘境』のメンバーの中でも、割と初期に入った、大罪七人蜂(シンセブンスターズ)、“暴食”を担当している
さて、今、現在この空間において、彼女の存在に気づいていない者は皆無である。にもかかわらず、当たり前のようにお茶を飲み、当たり前のように会話に参加している。
この場に彼女が居ることに違和感を感じるものは居ないーーーー獅子堂も、かつて『暴龍』と恐れられた龍神も、そして飯喰本人でさえも。
ちなみに言うとこのお茶、他でもない龍神本人が渡したものである。気付いていないなら、そんな芸当が出来るわけもない…だったらなぜ、当たり前の様に違和感なく、彼女がこの場に存在出来るのか?
それは、言ってしまえばつまり彼女の能力によるものである。『総喰眼』…体の至るところに口を出現させ(もっとも、これはおまけのようなものだが)体の如何なる場所からでも、如何なる物でも食べることができる。
そして、食べた物の能力や性質を吸収する、“暴食”の名に相応しい、そんな能力。それで彼女は、彼女がこの場に居ることによって生じる違和感を、欠片も残さず食べ尽くしたのだ
ぬらりひょんという、人に気づかれず勝手に家に上がり込み、お菓子やらお茶やらを食べて帰る妖怪が居るが…彼女は、飯喰ぐるめは、気付かれたうえで、お茶を飲みながらのうのうと居座っているのだ…これ程恐ろしいことはない
相手に気付かれない能力は、言ってしまえば気付かれればそこで終わりだ。拷問やら尋問やらが待っていることだろう。しかし、気付かれたうえで、その存在の違和感を感じさせない能力というのは、手の打ちようがない。
だって、そこにいるのが当たり前で、寧ろ居ない方がおかしいのだから。
「ん…じゃ、わたしもそろそろかえるね! ごちそうさま、たつがみおじちゃん」
獅子堂がこの場から離れて、もうこの場所に居る必要はない、と判断した秘社の命で、なんの違和感もなく帰っていく飯喰。
彼女は最初から何の違和感も出さず、最後まで何の違和感も残さず…しかし確実に、応龍会を喰い荒らしていった。暴食担当の名に偽りはない
168御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/10/26(水) 02:55:51.79 0
(落葉、か。家にある資料になら何か載ってるかも……)
自宅への帰り道、篠は考え事をしながら歩いていた。
先程メイに一通り終わったことを連絡したところ、車を寄越すと言ってきたが断った。
それは考え事を纏めるためでもあり、街の警戒をするためでもあった。

「ただいま」
何事もなく自宅へと帰り着き、扉を開ける。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
玄関ホールの掃除をしていたメイがすぐさまこちらに歩いてきた。

「ただいまメイ。私がいない間に何か変わったことは?」
「いえ、特に」
「……何も?誰かが訪ねてきたとかは?」
「いえ、誰も来ていませんが……」
「……そう。ならいいわ」
「……?」
頭の上に疑問符を浮かべているメイと別れ、篠は地下へと向かった。

地下室の扉を開け、中に入る。そこには無数のモニターが光っており、その中心に一人のメイドが座っていた。
「エリ、首尾はどうかしら?」
背後から声をかけると、そのメイド──エリは一瞬ビクッとしたが、すぐに振り向いた。
「お、お嬢様。お帰りなさい。それといきなり後ろから声をかけるのはやめて下さいって言ったじゃないですか!」
怒ったように頬を膨らませ、声を上げるエリ。しかし篠はそれに見向きもせず、モニターを眺めて続けた。
「善処するわ。それよりも新たに調べて欲しいことがあるの」
「何でしょう?例の会社のことですか?」
「その件はもういいわ。粗方分かったから。調べて欲しいのは別のこと。
 一つはエンジェルという宗教団体のこと。そしてもう一つは──『落葉』という宝石のことよ」
「落葉、ですか。今回盗み出されて、果ては粉々になったって言う……」
「ええ。どうやらあれ、ただの宝石じゃないみたい。私も資料室で調べてみるから、何かあったら教えて頂戴」
「分かりました。何かあったらメイに頼みます。"あそこ"は内線も何もないですから……」
エリに調査を頼み、篠は地下を後にした。

「ここね……」
数分後、篠は古びた大きな扉の前にいた。錆びたプレートには薄っすらと『資料室』と書かれている。
鍵を開け、扉を開ける。錆びた蝶番がギギィ、と音を立てて扉は開いた。
部屋に一歩踏み込むと、そこは巨大な本棚がズラリと並ぶ広大な部屋だった。
部屋の奥は視認出来ない。厨弐市にある市立図書館より広いだろう。
入り口付近にあった電灯のスイッチを入れる。ボウッと灯りがつき、室内が薄明るくなった。
「ここになければ情報屋を頼るしかないわね……。出来れば避けたいけど」

かび臭い室内を探し始めて三十分。結論から言うと、目的のものは思いの外早く見つかった。
本棚の隅に置かれていたそれは、明らかに他の本と装丁が違った。
視界いっぱいに映る本の山は、そのどれもが豪華な装飾や表紙、丁寧な字で題名が書かれていたりした。
しかしその本だけは何の装飾もなく、しかも題名すら書かれていなかった。
篠は吸い寄せられるようにその本を手に取り読み始めた。
169御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/10/26(水) 02:58:04.27 0
中身は怪しげな儀式や召喚魔術など、見るからに胡散臭い内容のものが記されていた。
「はずれね。ちょっと期待したんだけど──」
そう言って棚に戻すべく本を閉じようとした時、篠の指は止まった。
「ちょっと、これ……嘘でしょ?」
開かれたページに描かれていたのは、落葉とそっくりの宝石のようなもの。
白黒で描かれているため色などは分からないが、形は落葉そのもの。つい最近目にしたのだ、見間違いはありえない話だった。

「これ、いつの時代よ……。悪魔召喚、なんてグリモワールなんかが出回ってた頃の話じゃない。
 一体何世紀前の話よ。そんな時代から落葉は存在していたと言うの……?」
震える指でページをめくるが、それ以上詳しいことは書いていなかった。

「収穫はあったわね。落葉がどういうものか大まかには分かったわけだし。
 それにしてもうちのご先祖様は何であんな本を持っていたのかしら……?」
ふと湧いた疑問だったが、どうでもいいか、と言って考えないことにした。
否、考えても仕方がないのだ。理由を聞こうにもその人物はとうの昔にこの世を去っている。
それこそ降霊術でもしない限り無理だろう。もちろん篠にそんなことを試す気は毛頭ない。

「しかし何故それを吼一郎さんが持っていたのかしら。──愚問ね。一線を退いたとは言え彼も腕利きのスイーパー。
 私の父や岡崎 蓮子、そしてうちの会長である虎将さんなんかと肩を並べていた能力者。
 きっとやむない事情があって預かったのね。そしてその情報をひたすら隠し、ただの宝石として扱ってきた……。
 ──黒羽君、やっちゃったわね」
ここにはいない教え子の顔を思い浮かべ、苦笑しながら資料室を後にした。

「それにしても何でエンジェルの連中は落葉の秘密を知っていたのかしら。
 うちにある文献でさえ詳しいことは載ってなかったのに……」
落葉について考えながら歩いていると、前からメイが小走りでやってきた。
「そんなに慌ててどうしたの?」
「エリからの連絡で、お嬢様をお呼びしに行こうと思っていたところです。何でもすぐ来て欲しいとか」
「何かしら……?すぐ行くわ」

メイからの連絡を受けて地下の情報室に来た篠を待っていたのは、何とも言えない顔をしたエリだった。
「……エリ、どうしたの?」
「あ、お嬢様。いえね、さっき頼まれた事を調べるついでにお嬢様達が闘っていた相手の事を調べてたんですよ」
「そう。それで?」
「はい。お嬢様達が遭遇したのは男女合わせて三人。その内闘ったのが男一人。
 残った女二人は戦場から離脱。うち一人は暫く戦場付近に留まっていましたが、もう一人はすぐにそこから離れました」
「……続けて」
「その離れた方の足取りを追っていたのですが……このお屋敷の先にある山中で足取りが途絶えました」
「そこの山で……?確かにあそこは強力な磁場のせいでGPSなんかも機能しないけど……」
「どうしてその場所に向かったのかは分かりません。しかし何らかの理由があるに違いありません。例えば……アジトがある、とか」
「エンジェルのアジトは市内中央区にある教会のはずよ?こんな山奥なんて聞いたことも──」
「──秘密のアジト、ってやつじゃないですか?悪の組織にはありがちですよ」

エリの言葉に対し、何を馬鹿な、と言い返せない自分がいた。
確かに姿を見た自分達を殺しにかかってきたところを見ると、もはやエンジェルはただの宗教団体とは思えない。
エリの言葉にも一理ある。一般の信者が知らないような場所に別に居を構えていても何ら不思議ではないのだ。

「この奥の山となると……確か金持ちの別荘があったはずだわ。
 私も父様から聞いたことがあるだけだから詳しい場所までは分からないけど……今は誰も住んでないはずだわ」
「きっとそれですよ!山奥の廃屋、悪の組織にはうってつけです!」

何やら瞳を輝かせて興奮しているエリは無視して、篠は一人思考に耽る。
(もし仮にそこがアジトだったとして……流石に一人で行くのは危険すぎるわね。
 ま、とりあえず獅子堂君を待ちましょ。考えるのは後でも出来るし、今はとりあえずシャワーが先ね)
結論を放棄すると、篠は地下を後にした。

【御影 篠:自宅に到着。落葉の秘密の一部とエンジェルのアジトの手がかりを得る】
170秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/10/26(水) 18:08:53.76 0
>>167続き
「……『魔女の秘宝』……」
「お前が盗んだ落葉、その宝石の別名さ。……お前の想像の通り、あれはただの宝石じゃない。
 あれは中世から近世にかけてのヨーロッパにおいて『魔術』の……
 特に『悪魔召喚』の儀式の際に用いられたと言われているシロモノなんだよ。
 それがいつしか落葉という名で世に流れた……お前が盗み出したのはその一つさ」
「……それを、何故奴らが?」
そんな雀舞と黒羽の会話を、盗み聞く者がいた。否、“居た”という表現は正しくないのかもしれない。なぜならその犯人は、この場には存在していないのだから。
結論から言えば、盗み聞きをしているのは財塚 集(たからづか しゅう)。大罪七人蜂の“強欲”担当である
(くひひ、こんな良い情報(もの)、こいつだけに独占させるか。お前の見るものも、聞くものも、全て私のものだ―)そんなことを朱雀堂からは遠く離れたところで思う集。彼の能力は『蒐集眼(しゅうしゅうがん)』。
本人が強く欲したものを、近くの何かを媒介に集め、異空間の収納庫に収納し、自由に取り出したり使ったりする能力である。
つまり黒羽と雀舞の会話は、黒羽が見た光景は、全て黒羽に届いた後、近くの地面に集められ、異空間に収納され…蒐集されたのだ
「…………また来る」
(ちっ…もうおしまいか。もっと私の知識欲を満たしたかったが…仕方ない、私も帰るとしよう。
私も金を払えば情報を得られるのだろうが、この世に金より大切なものなど存在しないからな)
あくまでも、何よりも金を優先する集。そして、何の犠牲(リスク)も払うことなく、莫大な情報(リターン)を得た。
ノーリスク、ハイリターン。やはり暴食のみならず強欲の名にも、偽りはなかった…

(ご苦労様。よくやったね。今度給料アップしとくよ。
…さて、『落葉』の招待は魔女の秘宝で、エンジェルのアジトは北部の山奥か。アジトに関しては大方予想通りだな。
では、エンジェルをどうするか…卑怯(さくせん)を考えるか。スパイ買収脅迫賄賂詐欺色仕掛け…勝つためなら手段は選ばないさ)
【秘社境介:エンジェルと落葉の情報を得る】
171リキッド:2011/10/30(日) 07:49:39.05 0
きs
172 ◆ICEMANvW8c :2011/10/30(日) 18:59:27.56 0
市内北の山奥にひっそりと佇む巨大な洋館。
外壁がツタにびっしりと覆われていることから、近隣住民の間では「ツタの館」と呼ばれている。
そのおどろおどろしい外見から、一時期は心霊スポットとしても有名であったが、
地理的な不便さもあって現在では訪れる者はほとんどいないという。
それ故に──人々の多くはまだ知らなかったのである。
亡霊などよりも遥かにタチの悪い悪魔のような者達が、ここに住み着いていたことを。


──カツン、コツン。
館内部に張り巡らされた石畳の上を、ピンクのツインテールが特徴な少女──『二条院 明』は歩いていた。
この洋館、ツタの館は南北に二つの館が連なる造りをしている。
明がいるのは一階に出入り口がある南の館だが、彼女が向かっているのはこの先──すなわち北の館。
先の戦闘での戦果をボスに報告するため向かっているのだ。
「さて……」
ふと足を止めた明は、おもむろに顔を上げた。
そこにあるは、聳え立つ巨大な木造の扉と、その左右に据え付けられた松明。
この扉を開ければ北の館──。
ゴホンと一つ咳払いして、彼女は重たい扉をギィィィと開いていった。

──次の瞬間、彼女が目にしたのは、内部を煌々と照らす無数の松明の灯り。
広大な空間に広がる大聖堂、高さ数十メートルはあろうかという巨大な天使の像……
そして、空間の調度中心部に輪になって集まる、数人の男女の姿。
その誰もが同じような修道服を身に纏い、輪の中心部に居る男に向かって跪いている。
堂々と佇むその男の存在を認めた時、明は自然とその輪に歩み寄り、同じように跪いていた。

「二条院 明、只今戻りました」
その声を聞いて、中心に居るその男が初めて彼女に顔を向けた。
「お帰りなさい。お話は全て茜さんから聞かせていただきましたよ」
額と目の周りに気味の悪い紋様を刻み込み、頭髪を全てそり落とした威圧感ある風貌とは対照的に、
その声は非常に柔らかく、その口調は酷く丁寧であった。
声も口調も普段とは変わりない。だが、落葉を手に入れたことで恐らく上機嫌なのだろうと、明は察した。
それ故に躊躇っていた。戦場から持ち帰った事実を、果たして伝えていいものかどうか。

「これは私が採取したスイーパー達の“細胞”です……まずはお受け取り下さい」
と言って明が差し出したのは、透明なビン。その中には髪の毛や凝固した血の塊が入っていた。
それを男の取り巻きの連中が素早く回収すると、男は「ご苦労様です」と微笑を浮かべた。

「……」
「どうしました? 用が済んだのならば、早く自室へ戻ってお休みなさい。さぞやお疲れのことでしょう」
「はっ……。ですがもう一つ、お伝えしなければならないことが……」
「……『凶天使』餓鬼野と『死天使』月影の敗北とその死、ですか……?」
「!?」
「驚くことはありませんよ。貴女が戻り、彼らが戻って来なかった……それくらいのことは想像がつきます」
「申し訳ありません。彼らにあの場を任せた、私の責任で……」

言いかけた明を、男の手が遮った。

「誤ることはありませんよ。想定外の事態というものは時に起こるもの」
男は懐に手を入れ、そこから透明なビンを取り出した。明は、その中のモノを見て驚愕した。
「それは……!」
「破壊されたはずの落葉です。私も驚きましたよ。まさか自己修復機能を有しているとはね。
 ……やはり人智を超えた物質で構成されているとは噂ではなかった。後はこれが……」

「──失礼します。天使様にお目通りを願いたいと申す者が参っております」
今度は男の、天使と呼ばれた彼の声を、扉を開き入ってきた者が遮った。
天使は扉に目を向けると、鬱屈した表情をした複数の男女が、既にゾロゾロと入ってきていた。
「おやおや、迷える子羊達ですか。安心なさい、私が貴方方の生ける道を照らして差し上げましょう。
 もう二度と迷わぬように……ね」

【二条院 明がアジトへ戻る。】
173 忍法帖【Lv=4,xxxP】 :2011/10/30(日) 22:01:34.63 0
僕も素晴らしい非現実的な邪気眼ですよねー!?♪。
174獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/10/31(月) 20:29:40.99 0
「―――成程、成程…『エンジェル』がねぇ…で、随分と嫌な臭いがしてきたじゃあないか、弥陸?」
「…どう表現すればいいか分かりませんが、俺に言わせれば“鉄と火の臭い”です」
ここは『オールドキング』の一室。岡崎と獅子堂がスイーパーとしての連絡、報告を行うための部屋である。
御影の屋敷に向かう途中、獅子堂は事のあらましを伝えるべく立ち寄ったのだ。
ちなみに獅子堂がスイーパーであるという事実は、パブで働く同僚の中にも知る者はいない。
そしてこの部屋も普段は所謂“開かずの部屋”として扱われ、2人がこうして会話を交わしている事を知る者もいない。
「この際はっきり言っとくけどね弥陸、明日の昼頃からアンタは忙しくなる…猛烈にね」
「…いつもの予感ですか?」
「いや、戦闘力に長けた人材を抱える派閥に緊急通達があったんだよ…行方をくらましていた元副会長が犯行予告してきたってね」
「元副会長……8年前の、確か秋雨とかいう…」
「異能犯罪者と手を組んだらしくて、下手すると大勢死ぬ、みたいなこと抜かしやがったらしいよ」
大勢死ぬ―――その言葉を聞いた獅子堂の様子が変わった。黒羽の言葉でトラウマが爆発した時と同じ豹変ぶりだった。
だがそれも数秒。再び岡崎と目を合わせた時には、暗い狂気は片鱗も残ってはいなかった。
「阻止します…必ず」
「お待ち」
決意と共に椅子から立ち上がり夜の街へと出向こうとする獅子堂に岡崎は声を掛けた。

「さっき言ったろ、コートとグローブの新調を頼むって」
「…もう出来たんですか?」
「アンタは直ぐにお釈迦にするからね。まあ、そんな仕事ばかり回してくるISSも悪いんだけどさ…
それで業を煮やした馴染の職人の自信作が1時間ほど前に届いた。ジャケットにブーツもおまけでね」
そう言った岡崎はテーブルの下から2つのトランクを取り出すと、無造作にこじ開け、中身を露わにした。
「材料費300、加工費400、謝礼金1500。今後私達の一派の最高装備になる一式だ。さ、一張羅を纏った勇姿を拝ませておくれよ」
その言葉を聞いた獅子堂は着ていた衣服を脱ぎ捨て、トランクの中身を掴み始めた。
数分後―――漆黒のジャケット、ロングブーツ、ライダーグローブ、そして逢魔が時の空の青紫と闇色を混ぜたようなロングコートを纏った姿がそこにあった。
「…随分重いですね。まあ、問題ありませんが…」
「表層は複合金属繊維で防弾、防刃。その内側は厚い最先端のエンジニアリング高分子繊維で耐衝撃性、耐火性を確保。
 心臓を始めとする人体急所を守るために強化合金板を何か所も直接打ち込んであるからね。当然さ。
 それに重いってことは物理で習ったろう、F=m・a。相手の攻撃を受けても動きが阻害されにくいって事にも繋がる。それから―――」
「―――あー、もういいです。防御力が飛躍的に高まったのは実感してます。そのくせに動きの柔軟性も十二分だってことも」
「なんだ、面白くない…まあいいさ。とりあえず御影の所、行ってきな。バイクも用意してあるから」
「感謝します」
扉を開けてそこに鎮座しているバイクに跨ると、赤いテールランプの尾を引いて、獅子堂は御影の屋敷へと疾走していく。
その後ろ姿を優しい眼差しで見送ると、岡崎は呟いた。
「…必ず生きて帰るんだよ。アンタにも弟子を育ててもらわなくちゃならない。その候補も選んであるんだからさ…」
175獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/10/31(月) 20:32:36.57 0
―――時刻は午前1時30分。獅子堂の姿は御影の屋敷の門前にあった。
総工費はどれ程だろうか、一個人の邸宅にしては余りに巨大。ちょっとした城と言っても構わない豪奢な屋敷だ。
「格差ってやつを感じるね…どんだけ金持ちなんだ、あの女」
と言っても、戦闘用とはいえ原価と加工費で5百万を優に超える衣服を身に纏う獅子堂がこんな台詞を吐くのも十分におかしい。
(…呼び鈴は……あった。一応鳴らしとこうか…普通は出ないだろうが)
リーン、と鈴が鳴ると屋敷の中からも同様の音が微かだが聞こえてくる。来客は屋敷全体に伝わるように出来ているのだろう。
十数秒後、呼び鈴の隣のインターホンからノイズが走った。
「…どなた様でしょうか?」
「獅子堂という者だが―――」
「―――存じ上げません。お帰り下さい」
再び獅子堂は呼び鈴を鳴らす。
「今何時かご承知ですよね?」
「当然。午前1時―――」
「―――非常識です。お帰り下さい」
(…こんな時間に応答できる方も十二分に非常識だろうが…)
内心、呆れながらも獅子堂は一足飛びに門を飛び越えて屋敷に侵入した。その両脚には青い念動力の光が宿っている。
(力は集約し洗練される、か…確かに力の増大を感じる…明日の昼までに慣らしておかないとな…)
そんなことを考えながら着地した瞬間に警報が鳴った。見れば草むらの中には赤外線のセンサーが。
「…やっぱり不味かったか?」

【獅子堂 弥陸:御影の屋敷に侵入。警報が鳴る】
176黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/11/02(水) 02:02:56.17 0
「──昨晩発生した──は──であり──警察は────それでは、次のニュースです」
ふと耳に飛び込んできた女性の声で、黒羽は目を覚ました。
ガバッと身を起こして声の方に目を向ければ、そこには有名な女性キャスター。
彼女は数年前に買った液晶テレビのど真ん中に収まり、ただ延々とニュースを伝えていた。
部屋の電灯も、テレビもつけっぱなしで、制服姿のまま寝ていた自分──
何があったのか──彼がそれを思い出すには、およそ数十秒の時が必要であった。

(そうだった……。軽い食事とシャワーを済ませた後、テレビを眺めている内に寝てしまったんだ。
 やれやれ、世話しないな。体はやたら重いというのに、もう朝か……)

コキコキと、体中の関節を鳴らしながらのそっと起き上がった黒羽は、窓のカーテンを勢いよく開け放った。
目にしみるほどの朝日、窓越しからも聞こえてくる蝉の声、そして自動車のエンジン音、人々の喧騒。
間違いなく時は朝。それでは正確な時刻はどうだろう?
再びテレビの液晶に目を向ければ、キャスターの胸元辺りでデジタルの文字がAM8:45を表示していた。

本来ならばそろそろ自宅を出なければ学校には遅刻する時刻。
しかし、黒羽はあくまでマイペースだった。慌てる様子も無いまま、台所で食パンと牛乳を頬張ると、
だらだらとした足取りでバスルームに行き、出てくればこれまたゆっくりとクローゼットへ足を運んだ。

クローゼットの中は同じデザインの制服が何十着とズラリと並んでいる。
だが、別にこのままその一つを着て、学校へ行く気だったわけではない。
これから赴く先は戦場であると既に昨晩の時点で決まっていた──
だからこそ遅刻など気にも留めず、慌てずゆっくりとしていたわけだ。
もっとも、客観的には戦場へ赴く為の格好が学生服というのもどこか妙なのだが、
それも彼にとっては私服が制服であり、戦闘服が制服であるに過ぎないからである。

彼は厨弐学園の指定制服が気に入っていた。
特に男子学生用制服タイプC、ファスナー式のが(ちなみにブレザーがAで、ボタン式学ランがB)である。
このまま行けば来年にも学校を卒業することになるが(出席日数の面で厳しいが)、
仮に学生ではなくなっても、彼は来年以降もこの制服を私服として着続けるだろう。
服は基本的に無地で、学生服にありがちな学校のイニシャルやワッペンもこれには縫い付けられていない。
基調色は個人的に最も気に入っている黒色で、魅了されるには十分といっていいシンプルなデザインなのだ。
しかしその一方で、若干の不満もあった。
「……やれやれ、あれは処分だな」
シャワーを浴びる前に脱ぎ捨てたボロボロの制服を見て、黒羽は舌打ちした。
不満とは耐久性であった。元々、普通の学生向けに作られているもので、戦闘には不向きなシロモノ。
異能者に攻撃されれば当然服は直ぐに破けるし、熱されれば無残に焼け焦げる。
だから多くのストックが必要になるし、どうしても金がかかってしまう。
これは異能犯罪者として生きる黒羽の唯一の悩みの種と言えるかもしれない。

「さて、と……」
全身を真新しい制服で包んだ黒羽は、ボロボロの制服をゴミ箱に投げ入れながら、
玄関で何の変哲もなさそうな黒の革靴を履いて、朝日が照りつける世界へと飛び出していった。
向かう先はエンジェルの本拠地があるという市内北区。
黒羽が住むアパートは市内中央区に位置し、学校まで徒歩でおよそ十分ほどの距離の場所にある。
故に道を歩けば必ず人とすれ違うし、北へ向かえば北区から通う生徒と正面から遭遇する事もある。
その際、「こいつ、何で逆走してるんだ?」的な視線を感じることも多々あるが、別に気にはしない。
それもそうだ。いちいち他人の目を気にするような人間なら、とっくの昔に学生が本業になっていただろう。

「……げっ」
ただ、もし、彼に気になる目があるとするならば、それは一つ──
非行少年の取締りを目的とした補導員の目であろう。
遥か遠くの路上で佇む中年親父が、学校とは正反対の方向へ進む黒羽を見て、その眼を鋭く光らせたような気がした。
捕まれば実に面倒。黒羽はすかさず進路を変え、そのまま逃げるようにして狭い路地裏に入っていった──。

【黒羽 影葉:一日目終了、二日目の朝に突入。エンジェル本拠地へ向かう。現在位置:市内中央区。現時刻:AM9:30】
177御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/11/02(水) 12:21:41.62 0
>>175
篠は地下室を出て二階にあるバスルームへ向かっていた。
(そう言えば、獅子堂君はともかく二神君はどうするのかしら。
 一緒に来てくれれば動きやすいんだけど……。彼の協調性に期待するしかないわね)

「ふー……」
風呂は命の洗濯、とはよく言ったものである。
体を洗い、湯に浸かると今日一日の疲れが流れていくようである。
(それにしても……今日は色々あったわね。
 落葉の盗難に始まって、閃莉との再開、獅子堂、二神両名の戦闘能力の確認。
 それにエンジェルの襲来とその実態……。極めつけは黒羽君と秘社君が異能者だったってことね。
 まさか自分のクラスの生徒が二人も能力者だったなんて……驚きを通り越して感心するわね)

じっくりと湯に浸かり、一日の疲れを落として浴室から出る。そして鏡の前に立ち、自分の姿を見つめる。
(これから先は何が起こるかわからない。最悪命を落とすことになりかねない。
 でも一度関わった以上投げ出すわけにはいかない。それに父様との約束もある)
パシッ、と両手で軽く顔を叩く。そして顔を上げると、そこにはいつもの不敵な笑みを浮かべた篠の顔があった。
「大丈夫。それに私は一人じゃない。使える駒は少ないけど、一人一人が癖のある人間ばかり。
 うまくいけば敵のキングも取れるかもしれないわ」
気持ちを切り替え、篠は着替えを始めた。

着替えを終えて浴室から出ようとすると、リィーン、と呼び鈴の音がした。
「あら、こんな時間に誰かしら……って呼び鈴を鳴らすような人物は一人しかいないわね」
応答できる箇所は屋敷内に何箇所かあるが、今自分の近くにはない。
「ま、誰か出てくれるでしょ。私の客人となれば丁寧に対応するだろうし」
と楽観的に考え、篠は髪を乾かすために自室へと向かった。

自室に到着し、ドライヤーを探していると、何やら屋敷の中が騒がしい。
バタバタと走り回る音が複数聞こえる。何かと思ってドアを開けようとすると、内線が鳴った。
「どうしたの?」
「お嬢様、侵入者です!」
内線をかけてきたのはエリのようだ。
「侵入者?さっき呼び鈴鳴ってなかった?」
「何でも対応したメイドが時間的に非常識だと言うことで追い返したらしいです。
 それでも諦めなかったようで、現状に至るわけです」

エリの説明を聞いて、篠は頭の中で違和感を感じた。
(二回も対応した?と言うことはつまり、呼び鈴を二回鳴らしたということ。
 ただの賊なら呼び鈴を鳴らすわけないし──あ)
そこまで考えて気が付いた。侵入者の正体は──
「獅子堂君、ね。そう言えば皆に彼が来るって言ってなかったっけ」
自分のミスだと気付き、嘆息する。そして繋がったままの内線でエリに伝える。
「エリ、皆に伝えて頂戴。侵入者は私の客人だから下手なことはしないように、と。
 対応は私がするからいいわ。それと警報を一時的に切っておいて。耳が痛いわ」
「わ、分かりました。ではそのようにします!」

数秒後、鳴り続けていた警報が止まり、屋敷の中に静寂が戻った。走り回っていたメイド達も落ち着いたようだ。
自室で着替えを済ませ、玄関に到着した篠。扉を開けて外に出る。
周囲を見回すと、草むらで腕を組んで立っている獅子堂の姿を確認し、歩いて近付く。
「あなたって意外と常識がないのね。一歩間違ったら不法侵入で警察のお世話になるところよ?」
獅子堂は頭をかきながら下を向いている。非常識だと言うことは分かっていたのだろう。

「ま、いいわ。シャワーと食事だったかしら?ついてらっしゃい、部屋に案内するわ」
クルリと獅子堂に背を向け、屋敷に向かって歩き出した。

【御影 篠:獅子堂を発見。屋敷の中へ案内する】
178獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/11/04(金) 18:30:06.02 0
>>177

屋敷全体に鳴り響く警報は収まらない。今まで暗かった部屋、廊下にも明かりが点きメイド達が慌てた様子で走り回っている。
センサーの赤外線ビームの照射から逃れて、獅子堂は窓からの視界を遮るであろう草むらの中に身を潜めた。
身を潜めたといっても堂々と仁王立ちして、若干気まずそうな様子で腕を組んでいるのだが。
(やーっぱ“ISSの”って言った方が良かったか? この調子だとメイドの一団がナイフでも投げながら襲って来そうな…)
そんな事を考えていると突然に警報が鳴りやんだ。それから1分程だろうか、御影が玄関から現れ、草むらの中の獅子堂を見つけた。
「あなたって意外と常識がないのね。一歩間違ったら不法侵入で警察のお世話になるところよ?」
確かに、と自身の行動を省みる。スイーパーであるが故に与えられた超法規的権利を利用する内に常識というモノが薄れていたのだ。
ばつが悪そうに頭を掻いていると、御影が着いて来るようにという仕草をして屋敷に戻ろうとしていた。
「ま、いいわ。シャワーと食事だったかしら? ついてらっしゃい、部屋に案内するわ」
「…感謝する」
獅子堂も御影に従って屋敷の中へと入っていった。

数分後―――通された部屋に戦闘服と得物を洗いざらい放り出し、獅子堂はシャワーを浴びていた。
そして浴室の鏡に映った自分の体を見つめた。数えきれないほどの古傷がその身に刻まれている。
どれ程多くの死線を潜り抜けてきたかを、数多の傷は無言のままに雄弁に物語る。
その傷跡の中でたった1つを獅子堂はじっと見つめていた。
―――他でもない、家族の仇、あの黒羽の父親との死闘の際に負った傷である。
(あの日から、俺と黒羽 影葉との因縁は始まっていた…いや、奴の父が俺の家族を奪った時から…)
復讐、それは光ある世界の終焉であり、果てし無く続く暗黒の螺旋の始まりである―――岡崎が獅子堂の命を救った際に放った言葉だ。
シャワーの元栓を閉じ、最後に落ちてきた一滴の水を拳で打ち抜く。その動きは仇である『忌避屍毒』を討った時と全く同じものだった
「決着はつける。因果の螺旋は断ち切る。必ず…最早、俺達は命の遣り取り以外に語り合う術など持たないのだがな―――」
(―――それが“どちらかの死”でしか終止符を打てないモノであったとしてもだ)
砕けて落下する無数の雫の中に自分と黒羽の姿を無意識に投影すると、獅子堂は浴室を出た。
179獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/11/04(金) 18:31:35.47 0
食卓は豪華なものだった。かといって御影が気を利かせたわけではない。獅子堂が立場も弁えず注文を重ねた結果だ。
“大きな戦いの前にはたっぷり食って、たっぷり寝て、たっぷり準備運動を”―――これが獅子堂のスタイル。一種の儀式の様なものなのだ。
正に貪る様に料理を平らげる獅子堂を、御影は微笑を浮かべて見つめている。
それに気付くと獅子堂は食事の手を止め、御影と視線を合わせ複雑に交錯させ始めた。
30秒程経っただろうか、口を開いたのは獅子堂。

「…御影、貴様がISSの事実上のトップであることは…俺も分かっている“つもり”だ。
 強権を発動できることもな…だが―――」
グラスに注がれたブランデーを一気に飲み干して言葉を続ける。
「―――貴様は先程言ってしまった。自分が『ブラッディ・マリー』であると。
それは俺が今、最も危険な犯罪者として追い続けている人物の二つ名だ…勘に過ぎないがな」
僅かだが御影の表情が曇る。そして獅子堂に次の言葉を促した。
「貴様の本性が“どちら側”なのか、目的は何なのかなど知らん。だが、これだけは言っておく―――」
獅子堂は再び料理を貪り酒を呷る。そして時計の秒針が丁度1回転した時、終の言葉を紡いだ。
「―――“貴様の理想”が“俺の正義”に反するのなら―――完全撃滅する…それだけだ」
再び視線が交錯する。だが獅子堂は御影の心中を読み取る事などしなかった。
これはある種の宣戦布告。逆に自分が“ISSから離反した裏切り者”というベールを被せられても、自分の信義の為に戦い抜くという宣言。
その正義と信義が、社会倫理あるいは絶対多数の善に反するとしてもだ。
「…午前7時に起こしてくれ、朝食は結構。あと、腕慣らしに丁度いい戦闘用メイド
―――貴様の事だから抱えているだろう―――に昼まで俺の相手をするよう手配を頼む…以上」
御影の刺すような視線を背中に感じながらも、全く気後れしない様子で獅子堂は食堂を出た。

そして案内された部屋に戻り装備を整えると、白銀の月光が差し込む窓際に椅子を移動させ座り込む。冴え冴えとした麗光を浴びながら獅子堂は独り語散た。
「…“狩人の月(ハンターズ・ムーン)”だな…俺に闇と魔の加護のあらんことを」
その一言を言い終えるのと同時に、獅子堂は深い深い眠りについた。

【獅子堂 弥陸:1日目終了。御影の屋敷にて休息を取る】
180秋雨 流辿 ◆6funKT.qpA :2011/11/06(日) 17:26:38.16 0
>>157-158
「あ、あのありがとうございます。わざわざ私の荷物を取りに行くのに車を出してもらって」
「いやいや、いいってことよ。オレ達がスイーパーさんに落葉奪還の依頼を出したんだ。これぐらいの手助けは普通だって」

後部座席でオレンジ色のショルダーバッグと共に座っていた凛音が礼を言うと、
助手席に座っていたスキンヘッドの男が明るい声で返した。
その隣の運転席では角刈りの男が丁寧な手つきでハンドルを握っていた。
この二人は凛音が山中での事件に遭遇する前に出会った応龍会の二人である。
凛音が後からやってきた本部のスイーパー(死体や現場検証が目的だろう)の目を掻い潜りながら山を下り、
自分のバッグを預けたコインロッカーへふらふら歩いている所にこの二人と邂逅したのだ。
二人は凛音の泥だらけの体と、一部が破けてさらに血痕までついたワンピースを見て、凛音の身を案じてくれた。
そしてわざわざ自前の車(黒塗りのレクサス)を出してバッグを回収したのち、今に至るわけだ。

「それにしても、なにがあったんだ? 報告では第三者の介入で落葉は破壊された、て聞いたが」
角刈りの男が前方の暗い街並みを見つめたまま問いかけてきた。
最初出会った時こそ、二人は敬語だったが凛音がそれをやめるよう頼んだらあっさりと打ち解けた口調になった。
まだ凛音がスイーパーである、という誤解は解けてないが。

「そりゃ、お前スイーパーである秋雨さんがこんな格好になってんだぞ。とてつもねぇ戦いがあったんだよ」
「そういや、俺たちが探してる最中に遠くで花火が上がるような爆発音があったけど、もしかしてあれもか」
「ええ、私じゃありませんけど……」

二人は興味深そうにいろいろと聞いて来るが、凛音は答えられるもの以外には曖昧な返事をしていた。
なにせ落葉粉砕後に現れたあの餓鬼野という男が、光輪を放った直後からの記憶がないのだ。
全くないという訳ではないが、それは目覚めた直後にさっきまで見ていた夢を思い出そうとするときみたいに言葉で言い表せないほどのあやふやなものだった。
凛音はこんな自分を弱いと思うし、怖いとも思う。自分の体が完全に自分の物ではないような錯覚に陥る。
しかし、不思議とそれに恐怖や不安を湧き上がってこない。
その手の暗い感情はあらわれても、すぐにどこか遠いところへ流れていく。
(うーん、私って楽天家なのかな。普通はあんな思いをしたら施設に帰りたくなる気もするけど……普通は……ね)

「これから、どうするんだ? 協会に戻るのなら送っていくが」
「……え? あ、えっと、じゃあお願いします」
少し意識を会話から外していた凛音は少しもたつきながら返事をする。
しかし、正直言ってほぼ考えなしで保護施設から飛び出してきた凛音にとって行くあてなんかあるわけなく、いまのとりあえず頷いただけだった。
(降ろしてもらったら、あとは適当にその辺の公園にでも野宿しようかな。あ、じゃあその前に)

「あの、二人に聞きたいことがあるんですけど、秋雨流辿ってスイーパー知りませんか?」
「秋雨……あんたの家族か? 俺たち極道の業界じゃ聞いたことないな」
「……いや、オレは聞いたことあるぜ」

その一言に反応し、凛音は後部座席からすごい勢いで前に乗り出して問い詰めた。

「ほ、本当ですか!? 多分、とかおそらく、じゃなくて!?」
「うお!! ちょ、危ねえって!! 落ち着け!!」
スキンヘッドはなんとか凛音を後部座席に座り直らせ、話を続けた。
「オレもあんま詳しい事を知らないけどよ、確か昔にISSの副会長をしてたが、研究施設かなんかを壊した罪で“追い出された”んだっけか」
「あぁ、そんな話俺も聞いたことあるな。多分、組長ならもっと詳しいだろうけど」
「じゃあその組長さんに会わせてください。お願いします」
「時間が時間だが、まぁスイーパーの人なら大丈夫か。分かった、うちの組まで送ってやるよ」
角刈りの人は交差点で隣りの車線へUターンをすると、車を北へと走らせる。

(ま、まさか、初日で手掛かりが掴めるなんて。しかも副会長? それだけ偉い人なら探し出して会うことも難しくないよね。もうすぐ会えるのかな……父さん)

【秋雨 凛音:応龍会の人間に保護され、そのまま応龍会の屋敷へ向かう】
181秋雨 凛音 ◆6funKT.qpA :2011/11/06(日) 20:10:47.16 0
名前ミス
182御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/11/07(月) 17:55:07.77 0
>>179
獅子堂を屋敷の中に案内し、用意させておいた部屋に通す。
部屋には備え付けの浴室がある。大浴場まで案内する必要はないだろう。

獅子堂が部屋に入ったのを確認し、その場を去る。そして向かった先は食堂。
そこにはコック姿のメイドが二人おり、厨房へ続く扉の前に立って篠を待っていた。
「さて、と。彼は今シャワーを浴びてるわ。食事の用意だけど、残念ながら私は彼の嗜好を知らない。
 そこで、食事は彼の注文したものを作って頂戴。聞いてから作るのだから、多少時間がかかっても構わないわ。
 もし彼が文句を言うようなら私が何とかするから、貴方達は調理に集中して」
「はい。お嬢様」
「腕が鳴りますね!」
その後、シャワーを終えた獅子堂がメイドに案内されて食堂に現れたのを確認し、コック達は厨房へ入っていった。

結論から言うと、厨房は阿鼻叫喚の地獄絵図だっただろう。
獅子堂は客人と言う立場を(意図的に)忘れ、あれやこれやと注文を繰り返す。
その種類もさることながら、量も半端ではなかった。そして頼むペース。
女性しかいないこの屋敷では、一人辺りが一度に食べる量はあまり多くはない。
厨房からは時々悲鳴や物が落ちる音などが聞こえてきていた。

(あらら……二人じゃ厳しかったみたいね。応援でも呼ぼうかしら?)
そんな厨房の悲鳴をBGMに、目の前に座る獅子堂は食べ始めから変わらぬペースで食べ続けている。
篠はその姿を肴に、静かにワインを飲んでいた。

(ホント、よく食べるわねぇ。見ているこっちがお腹一杯になっちゃいそうだわ)
篠の視線に気が付いたのか、獅子堂が食事を中断し、こちらを見た。
互いに無言のまま視線を交わすこと数十秒。静寂を破ったのは獅子堂だった。

「…御影、貴様がISSの事実上のトップであることは…俺も分かっている“つもり”だ。
 強権を発動できることもな…だが―――」
獅子堂のグラスにはブランデーが注がれている。その琥珀色の液体を一気に呷り、言葉を続ける。
「―――貴様は先程言ってしまった。自分が『ブラッディ・マリー』であると。
それは俺が今、最も危険な犯罪者として追い続けている人物の二つ名だ…勘に過ぎないがな」

(流石、とでも言っておきましょうか。表沙汰になるような事件はこの間が初めての筈だけど……)
僅かに表情を変え──と言ってもこの場は相手にわかりやすいようにだが──獅子堂の言葉を聞く。
「貴様の本性が“どちら側”なのか、目的は何なのかなど知らん。だが、これだけは言っておく―――」
そう言うと、止めていた食事の手を再び動かし始めた。

一分ほど経っただろうか。獅子堂がこちらを見て再び口を開いた。
「―――“貴様の理想”が“俺の正義”に反するのなら―――完全撃滅する…それだけだ」
それだけ言うと、しばし視線を交わした後、三度食事を再開した。
(私の理想とあなたの正義、ねぇ。フフッ、面白いことを言うのね。私がいつあなたに理想の話をしたのかしら?
 生憎と私は理想の為に動いているわけじゃない。強いて言うなら──)
「…午前7時に起こしてくれ、朝食は結構。あと、腕慣らしに丁度いい戦闘用メイド
 ―――貴様の事だから抱えているだろう―――に昼まで俺の相手をするよう手配を頼む…以上」
いつの間にか食事を終えていた獅子堂は、それだけ言うと食堂を後にした。
(あなたと同じ"己の正義"──ただそれだけよ)
183御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/11/07(月) 17:57:10.55 0
メイとエリを呼んで自室に戻り、三人で月を見ながら再びワインを飲み始める。
「どう思う?彼」
正面に座るメイに向かって声をかける。二人はそれぞれ自分の好きな酒を飲んでいるようだ。

「そうですね……少し危険な感じがします。それに僅かですが心の奥に狂気が見え隠れしている気がします。
 何か重度のトラウマでも持っているのでしょうか?」
篠は先程黒羽と闘っている時に見せた獅子堂の狂気じみた言動を思い出した。
「さぁ?私は彼の縁者じゃないし詳しくは知らないわ。でも何かあるのは間違いなさそうね。エリはどう?」
「ん〜、特に危なそうな人には見えませんね。識者かと言われると微妙ですけど」
先程の侵入劇を思い出しているのだろう。難しい顔をしながら答えた。

「正反対の意見をありがとう。──あ、そうそう、さっき彼に明日の朝から昼ごろまで誰か闘える人間を寄越せって言われたんだけど……。
 エリ、貴女が相手してあげなさい。得物的にも丁度いいでしょ?」
「え、私ですか!?か、勝てる自信ないですよぉ〜……」
いきなりの指名に、情けない声を上げて項垂れるエリ。
「別に勝たなくていいのよ。どうせ彼も暇潰しのつもりで言ったんでしょうし。
 どうしても勝ちたいなら"アレ"、使ってもいいわよ?」
「"アレ"ですか?ん〜そうですねぇ……許可も貰ったことだし、やってみます。
 ただし!期待はしないで下さいね?」
「同じ事を何度も言わせないで頂戴。勝たなくてもいいって言ってるでしょ?
 七時に起こすよう言われてるから……七時半に闘技場に行けばいいでしょ。起こすのと案内するのはメイにお願いするわ」
「かしこまりました。しかし、起きて三十分では朝食を食べる時間がないのでは?」
「朝食はいらないそうよ。エリ、間違っても大怪我なんかさちゃ駄目よ?」
「さっきの話と矛盾してる気が……」
「ゴム弾にでも代えておけって事よ。手術してる時間なんかないんだから」

それから程なくしてお開きとなり、二人は帰っていった。
「とりあえず……エンジェルを潰すことが出来れば実質この街でISSに匹敵する集団は消えるわ。
 後は彼等が何か情報を知っていればいいのだけど……」
呟きは次第に小さくなり、やがて静かな寝息に変わった。

翌朝、時刻は六時半。篠は一人闘技場にいた。あと一時間もすればエリや獅子堂を連れたメイが来るだろう。
闘技場の至るところに崩れた後や瓦礫が残っており、当時のまま残されているのが分かる。

篠は闘技場の中心で目を閉じて佇んでいた。頭の中には過去の記憶がよみがえる。
(ここに来るのも久し振りね……。最後に来たのはいつだったかしら。
 父様と修行したときだから……ざっと十年前ってところね)
当時を振り返り、今は亡き父と幼き自分の修行風景を思い出す。
父は当主として仕事をこなしながらも、その間を縫って自分の修行に付き合ってくれた。
あの頃があるから、今の自分がいるのだ。父は偉大だった。
(父様……いつか必ず貴方に追い付き、そして追い越してみせる。異能者としても、当主としても──)

それから暫くして──篠は数分のように感じた──闘技場の扉が開く音が聞こえた。
目を開けて振り返ると、そこにはエリとメイ、そして獅子堂がいた。獅子堂が若干不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
「ようこそ。私はあくまで見ているだけだから気にしないで。それと、闘うにあたって注意点があるわ。
 うちのメイドに大怪我させたらただじゃ置かない。多少の怪我なら大目に見るわ。
 あと屋敷を壊したらその分だけ弁償。この二つさえ守ってくれれば好きにやって構わないわ。
 但し、もし私がどんな意味だろうと危険だと判断したらその場で止めに入るわ。OK?」

【御影 篠:一日目終了。二日目開始。御影家闘技場にてエリと獅子堂の対戦を監視。現在時刻AM7:30】
184 ◆ICEMANvW8c :2011/11/09(水) 00:13:56.01 0
夜明けを迎えた市内北の洋館──通称、ツタの館──。
日の出と同時に召集を受けた二条院 明は、颯爽とした足取りで本館である南の館──
通称、『大聖堂』へ向かっていた。
(こんな早くに召集──何か良くない報せでも入ったのかしら──? いや、今は──)
明は目を瞑り、頭を軽く左右に振った。
例え何があったにせよ、今あれこれと考えるのはいささか小心が過ぎるというものだ。
それに、答えは直ぐにわかる。先走る必要などない。
目を開いた時、明は既に目の前にまで達していたあの巨大な扉のみに意識を集中させていた。

「二条院 明、入ります」
ギィィイイ。扉を開き、中へと足を進めた明を待っていたのは、
巨大な天使の像の足元に構えられた豪華な玉座に腰掛ける組織のボス・天使と、
その前で微動だにせず片膝ついて畏まる、幹部の面々であった。
「一体……何事でしょうか?」
幹部の列に加わり、同じように跪く明に、真っ先に答えたのは天使であった。

「つい先程、“彼ら”が明日……正確には今日の午後にでも立つという報告が入りましてね」
「彼ら……まさか、元・ISS副会長とやらの、あの一団ですか?」
天使は「フッ」と笑ったに留まったが、それは正に肯定の意を示したもの以外の何物でもなかった。
「我々が落葉を手にしたその日に彼らが立つ……ISSの注意は嫌でも彼らに向けられるでしょう。
 我々にとっては正に好都合。……いや、これは計画通りと言うべきでしょうか。少なくとも、あの方……」
「?」
「……いや、何でもありませんよ。とにかくこれで我々は影のように動き回ることができる。
 我々の計画は、現時刻を持って第二段階へと移行します、皆さん宜しいですね?」
「「ははっ」」

天使の眼下に集う一同が一斉に頷いた。
だが、その中でただ一人、列の端に居た老人だけが「ですが……」と続けていた。
「一つ気になるのが餓鬼野と月影を倒したというスイーパーの一団。
 他のスイーパーはいざ知らず、彼らは我等に対し、何らかの策を講じているやもしれませぬ」
「……確かに、最悪、我等のアジトが彼らに知れた場合も想定しておかなければならないでしょう。
 しかし、万が一そうなったところで、何を恐れることがあるのですか?
 攻めてきたなら返り討ちにしてやればよいまでのこと……我等にはそれだけの“力”がある、そうではありませんか?」

天使の瞳の奥に、不敵な色が滲んでいるのを見て、老人はすかさず深く頭を下げた。
「御意……僭上な物言い、どうかお許し下され」
天使はそれを満足げな表情で見据えると、玉座からすっと音も無く立ち上がり、全員を見渡した。

「明日、我等はこの街の頂に立ち、哀れなる子羊達の道標とならねばなりません。
 何故なら、それが偉大なる神の御意思であり、神の遣いである我等に与えられた使命なのですから。
 失敗は許されません……どうか皆さん、それをお忘れなきように……」
「「ははっ」」

一同の声が、再び鳴り響いた。

【エンジェル幹部、夜明けと共に流辿の一派が立つことを知る】
185獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/11/11(金) 15:56:51.21 0
>>183

(―――弥陸)
頭の中に響く声。僅かに目を開けると東の空が薄気味悪い朝焼けに染まっている。
時計を見ると6時30分。部屋に人影はない。それにも関わらずはっきりと聞こえた声。
獅子堂は別段、不思議にも思わなかった。答えは至って単純。岡崎が『闇照眼』を発動しているのだ。
(…蓮子さん、こんな朝からどうしたんです?)
(いいから来なよ。ちょっとばかり伝えなきゃいけない事が出来たんだよ)
ふう、と一息ついて意識を現実から精神の奥深くに飛ばす。時間にして1秒にも満たない。
獅子堂の眼前にはモノクロームの心象世界が広がっていた。そこには当然ながら岡崎の姿が。

「弥陸。私は騒動が起きる前に街から離れる」
「…賢明な判断です。しかし、護衛は?」
「一線を退いた年増を追ってくる奴はそうそう居ないさ。それに護衛にも心当たりはある」
「貴女が言うのなら心配はしないでおきます…他にもありますね?」
「他っていうか本題だけどね―――弥陸、アンタと私の異能が繋がっていると言っても『闇照眼』の支配率は8:2ってトコだ。
言うまでも無いけど本来の持ち主である私が8だね―――それを5:5になるまでアンタに能力を与える」
「…何故です」
その問いには答えず、石膏造りめいた白色の浮島の地をゆっくりと踏み締めながら岡崎は近付いてくる。
そして無言で獅子堂の手を握り、祈るような仕草で優しく包み込んだ。
「『魔銃』の異変は私にも伝わっていたからね…アンタの力を全てにおいて引き上げなければ苦戦は必至。
 口で言うより実際に経験するしかないね。予告の時間までに可能な限り慣れろとしか言えない」
「……分かりました」
次の瞬間、獅子堂の両手の甲の邪気眼が青い光を放ち始めた。異能力が伝わっているのだ。眩い輝きが数秒続いた後、岡崎が手を放す。
「…生きて帰るんだよ。至上命令だ」
「はい、必ず…」
2人の視線が交錯する。お互い柄にもなく顔を赤らめていたが、漆黒の波紋にメイドの姿が映るや否や表情が戦士の顔に戻る。
「―――嵐が来るよ。鉄と火と血のね」
岡崎の言葉を最後に心象世界は消え去り、獅子堂の意識は現実に向かっていった。

「獅子堂様ー? 獅子堂さまー?…お寝坊さんですかー? しし―――」
「―――起きたよ」
「わ!?」
予期せぬ反応だったのだろう、金髪の少女は漫画の様なポーズを取りながら後ずさった。
「わ、私、エリと申します。昼までお相手仕ります。えーと隣にいるのが―――」
「―――メイと申します。闘技場にご案内します」
「…闘技場?」
「はい、腕慣らしには調度いい場所ですよ」
「…ちょっとトイレと洗顔を済ませてくる。部屋の外で待っててくれ」
「「はい」」
2人の声がハモるのを背に獅子堂はバスルームへと入った。
(いや、そういう問題じゃなくてだな…あれか、超のつく金持ちは変人が多いのか?)
186獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/11/11(金) 16:02:31.61 0
2人のメイドに案内されながら、獅子堂は自分の非常識さを棚に上げて御影一族の財力に内心唸りつつ付いて行った。
外から見た屋敷の大きさに相違なく部屋の数は膨大。応接室も昨晩通された一室にとどまらず、書庫も複数。
そして辿り着いた場所、そこは正に闘技場だった。と言っても古代ローマのコロッセオではない。
ISSの戦闘訓練機関にも匹敵する設備を備えた、3次元的にも十二分に広大な一室だった。
そこには御影の姿があった。何故ここに? という表情を浮かべた獅子堂に御影が答える。

「ようこそ。私はあくまで見ているだけだから気にしないで。それと、闘うにあたって注意点があるわ。
 うちのメイドに大怪我させたらただじゃ置かない。多少の怪我なら大目に見るわ。
 あと屋敷を壊したらその分だけ弁償。この二つさえ守ってくれれば好きにやって構わないわ。
 但し、もし私がどんな意味だろうと危険だと判断したらその場で止めに入るわ。OK?」
「了解…エリとかいったか? 同じ銃使い同士、せいぜい楽しもうじゃないか」
「は、はひぃ…って、何で私の得物が分かったんですか!?」
「…体の動き、仕草からなんとなくな…あとメイ、君も相当な体術者だろう」
「よくお分かりで」
「2対1でも構わん。むしろその方が体慣らしに丁度いい―――さあ来い」
会話の間に獅子堂とエリの距離は約10メートル離れていた。そして互いに戦闘態勢に入る。
直後、エリがスカートを翻らせ、太ももに括り付けていた拳銃を掴み取りトリガーを引く。
(!?)
獅子堂は驚愕した。その動きにではない。トリガーを引くエリの姿が半透明で、実体は未だ拳銃を掴んでいたからだ。
(『闇照眼』…未来予知?…いや、次の動きを脳が極めて精確に予測している!)
刹那、響き渡る2つの銃声。エリの銃声に僅かに遅れて獅子堂の銃が火を噴いた。
「な!?」
驚愕の声の主はエリ。無理もない、放たれた弾丸が獅子堂の弾丸によって空中で撃ち落されていたのだ。
次の瞬間、再び銃声。獅子堂が弾倉部から放たれた青い念動力の光を全身に纏う。
「降魔蒼纏―――本気で来いよ。準備運動ってのは肩で息するぐらいじゃないと意味がない」
その言葉によって火が付いたのか、エリは獅子堂の心臓、右肺に狙いを定めてトリガーを引く。
それを後方宙返りで避け、体と床の間の空間を銃弾が貫いていくのを眺める獅子堂。
先程と同じく、未来予知じみた幻視によって次に何が起こるかを予測したが故に可能な、超人的な回避。
(脳がパンクしそうだね。蓮子さんが慣れろって言ったのはこういうことか)
「次は外しません!」
「…!」
エリの宣言。その狙いは宙を舞う獅子堂の体ではない。狙いは着地時―――地面に降り立つ瞬間の両足首の位置を先読みしている。
そして放たれる弾丸。それは間違いなく獅子堂の両足にヒットするはずだった―――

「えぇ!?」
素っ頓狂な叫びを上げたのはエリ。獅子堂の体は足元にオーロラめいた光が集中したかと思うと床から30センチ程の中空で、
着地することなく更なる跳躍を見せたのだ。そしてコートを翻らせながらゆっくりと体を回転させて周囲を見渡し宙に浮いていた。
(黒羽が空気でやっていたのを思い出して…今の俺なら不可能ではないと思ったが…否、俺の方が恐らく上だ!)
念動力で自身の体を宙に持ち上げ、獅子堂はほくそ笑んだ。
「色んな意味で本気で来た方が良いぜ。お嬢さん方…」

【獅子堂 弥陸:2日目開始。準備運動でエリを翻弄する】
187秋雨 流辿 ◆6funKT.qpA :2011/11/14(月) 00:24:48.78 0
「夜が明けたな」
暗い部屋のなかで、その闇に馴染むような黒衣で身を固めた流辿が呟く。
流辿はビニールで覆われたソファーに寝転んだ体勢で自らの邪気眼を眺めていた。

ここは流辿とその同志たちが根城とする、とある廃ビルである。
このビルは二十年ほど前に様々なペナントを入れたショッピングモールとして造られたが、
経営主である会社が倒産し、市街から少し遠いという微妙な立地条件も相まって今まで放置された物件だった。

「どうだ、『チェシャ猫』。アレの製造のほうは」
「まぁ、ボチボチってところだね。でも心配しないで、正午までには確実に間に合うから」

チェシャ猫と呼ばれた青年はその名に相応しい笑顔で応じる。
彼は黒スーツの下に派手な柄物のシャツを着て、まるでホストのような格好で流辿の傍らに立っていた。
明るめの金髪に童顔というほどではないが実年齢よりも若くみられる顔が遊び人のような印象に拍車をかけていた。

「流辿さんが昨夜イデアから材料を持ってきたおかげで、より精度の高いモノが作れるでしょう」
「そのお陰で九条くんに見つかっちまってガラじゃねえ見栄をはっちまったがな」
「嘘言わないでくださいよ。警備システムをハックする時に極小の痕跡を残して九条さんに見つかりに行ったんでしょう?」
バレてたか、と流辿はイタズラが発覚した時の子供のように笑った。
「でも、実際にこれほどの規模で行うのは世界初でしょう。さてさて、どんだけ成果があがるのやら」
「念のため言っとくが、今回のはいまの協会の中で即座に動けるスイーパーの把握とエンジェルから意識を遠ざけることだ。
 今回は向こうさんの『ボス』のオーダーと俺らのメリットを組み合わせた結果(さくせん)なんだよ。科学者として楽しむもいいが、ミスるなよ」
「私情を挟むなって事ですか? 無理でしょ、そんなの。僕らは私怨だけでこの八年動いてたようなものなんですから」

流辿は邪気眼を眺めるのをやめ、ソファーから体を起こした。
そのまま家具売り場のエリアだったところから、中央の一階から最上階の手前まで吹き抜けになっている区画に移動する。
チェシャ猫もそれに同伴する。

「私怨か。確かに、今の俺にはそれしか残っていないのかもな」

吹き抜けから一階のフロアを眺めると、なにやらパイプやチューブが大量に取り付けられた大型の機械が鎮座されてあった。
その周りで流辿の部下とエンジェルから派遣された信者達が忙しく動いている。

「エンジェルの連中はどうします? 彼らの目的は悪魔召喚っぽいですよ」
「いまは放っておけ。そんなオカルトめいた目的じゃ、下手に手出しする方が危ない」

流辿は上を見上げると、吹き抜けのさきはガラス張りの天井になっており、照明器具越しに朝の光が降り注いでいた。
欠伸をした後流辿はもう一度寝る、とだけ言い残して再びソファーへと向かっていった。

【秋雨 流辿:正午の作戦に向けて準備中】
188秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/11/14(月) 18:54:10.48 0
夜―
秘社境介は、『秘境』のメンバーの一人、暴條 火燐(ほうじょう かりん)はツタの館の傍に居た
「爆発的に、任務を遂行する…」
そんなことを呟きながら、ぺたぺたと透明なシールを壁に貼っている。
彼女の邪気眼は『起爆眼』。触った物を爆弾に変え、それを好きなタイミングで爆発させることができる
ただし、手で持てる程度の大きさの物しか爆弾化できない
「そろそろ、貼り終わるな…」
こっそりひっそり爆弾化したシールを貼り終えた火燐。何を隠そう、彼女は元国際的テロリストなのだ。爆弾を仕掛けるのはお手の物である
「任務完了。爆発的に帰還する」
『ご苦労様。『社長権眼、帰還指令』!』
任務を終えた火燐を、結社に帰還させる秘社
「さて、改めて任務ご苦労様。後は明日に備えて休んでいてよ」
「了解だ、社長。爆発的に体力を回復させることにする」
(どういうことだ…?)
そんなこんなで、秘境メンバーも体を休めることにした
(夜襲をしようとも思ったが、朝のコンディションに影響が出る可能性がある為、爆弾を仕掛けるだけに止めた)

そして、朝―
「では、これより秘密結社秘境、社内会議を始めます」
まじめな様子で切り出すのは秘境の社長、秘社境介
「お願いします。今日、エンジェルのアジトに強襲しに行くんでしたっけ?」
「その通りだ。さて、今回の作戦についてだが…」
密井が尋ね、秘社が答える
「おほほほ、どんな作戦でもどんときなさい!」
大罪七人蜂、傲慢担当の豪嬢院 姫君(ごうじょういん ききみ)が自身満々に言う
「相変わらずの自身ね。妬ましいわ…」
嫉妬担当の羨藤ねたみ(えんどう‐)が言う
「貴様ら、黙って社長の話を聞くのである!」
そんな2人を嗜める憤怒担当、斑鳩 花鶏(いかるが あとり)。こんな名前だが男性である
189秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/11/14(月) 21:06:37.43 0
「うん。ありがとう花鶏君。さて、では今回の作戦だが…」
「………………で、こうきたら……………、御影先生や黒羽先輩とかとの連携も忘れずに…………」
「………………………だ。分かったな?」
「「「「「「「「了解っ!」」」」」」」」」」
秘密結社秘境の心をひとつにし、エンジェル戦への意気込みを高めるメンバー
「そして、エンジェルの信者と対するときは何よりもまず勧誘を優先するんだ。新興宗教の信者になるということは、十中八九弱者(こちら)側の人間なんだろうからね」
「では、皆で朝食を食べたら私は行くとしよう。君達、秘境メンバーとしての名に恥じぬよう! どんな手を使ってでもエンジェルを脅威でなくしてくれたまえ!」
【秘社境介:社内会議を終え、朝食、出撃準備】
190 ◆21WYn6V/bk :2011/11/15(火) 20:15:47.87 0
>>186
「了解…エリとかいったか? 同じ銃使い同士、せいぜい楽しもうじゃないか」
篠が言った注意を聞き終えた後、獅子堂がエリに向き直ってそう言った。
「は、はひぃ…って、何で私の得物が分かったんですか!?」
突然の指摘に驚くエリ。闘ってもいない相手が自分の得物を知っていたのだから無理もないだろう。
「…体の動き、仕草からなんとなくな…あとメイ、君も相当な体術者だろう」
「よくお分かりで」
対してメイは冷静に返した。知られても困ることはないのだろう。
「2対1でも構わん。むしろその方が体慣らしに丁度いい―――さあ来い」

(先手必勝。いきますよ!)
太腿に装備しているホルスターから素早く銃を抜き、引き金を引く。その間僅か〇.三秒。
常人なら反応すら出来ない速度での発砲。しかし相手は常人で括れるような人間ではない。
(左右、もしくは上に跳ぶか、しゃがんで避けるか……。さぁどうします?)

直後、獅子堂の動きを見ていたエリはとんでもないものを目にする。
「な!?」
獅子堂は避けなかった。それどころか、向かってくる弾丸を撃ち落したのだ。
そして獅子堂の銃から再び銃声が聞こえた。
「降魔蒼纏―――本気で来いよ。準備運動ってのは肩で息するぐらいじゃないと意味がない」

(成る程……。お嬢様もそうですが、スイーパーというのは化け物ばっかりですね。
 では──お望み通り本気(マジ)でいきます)
すぐさま獅子堂の急所へと狙いを定め、二発の弾丸を撃ち出す。
しかしそれも跳んで避けられる。まるでこちらの動きが読まれているかのごとく──。
(本当にそうなのかもしれませんね。ならば──!)

「次は外しません!」
再びエリの銃が唸る。しかし弾は獅子堂の体に向かってはいない。
弾の向かう先は獅子堂と地面の間──そう、着地時に足をつくであろう場所だ。
(空中に跳んだからには着地のタイミングを変えることは出来ません。今度こそ──)

「えぇ!?」
再度叫んだエリ。着地するかと思われた獅子堂の体は、地面に届く前に再び跳んだのだ。
「色んな意味で本気で来た方が良いぜ。お嬢さん方…」
獅子堂は空中に留まり、不敵な笑みを浮かべて挑発してきた。

「そこまでやりますか……。何と言うか、言葉がでませんねぇ」
呟きながら、クルリと後ろを向いて歩いていく。
「ああ、心配しないで下さい。武器を変えるだけですから。それくらいはいいですよね?」
怪訝そうな顔をした獅子堂に自身の行動の意味を説明しておく。
そしてそのまま壁際まで行き、スライド式の扉を開け放つ。そこには様々な銃器が所狭しと置かれていた。

「ん〜どれがいいかなぁ……。お、これにしましょう」
エリが手にしたのはアサルトライフル。黒光りした銃身が陽の光を受けて鈍く光を反射した。
そして元いた位置まで戻り、銃身を構える。
「お待たせしました。では──いきますよ?」
そう言うや否や、狂ったかのように乱射するエリ。弾丸は一発たりとも獅子堂には向かっていかず、壁や天井の方に飛んでいく。

「いいんですか?避けなくて」
動かない獅子堂に向かって声をかける。獅子堂は何を言っているのか、とでも言いたげな顔をしている。
「周りをよく見たほうがいいですよ?」
いつの間にか獅子堂の周囲に弾丸が密集していた。その全てが獅子堂に向かって飛んでいく。
どうしてそうなったのか?──それは『跳弾』と呼ばれる技術である。
常人なら出来てハンドガンで一、二発がいいところだが、エリは先程乱射した弾全てを跳弾にしていた。
(もし私の動きが読まれているとしても、放たれた弾丸までは読めないはず。さぁどうしますか?)

「うまく避けて下さいね?まだまだ時間はあるんですから」

【エリ:獅子堂の周囲を跳弾で囲む】
191 ◆ICEMANvW8c :2011/11/17(木) 03:55:06.29 0
「市内で最も大きい建物といえば何か?」
道行く厨弐市民にそう訊くと、返ってくる答えは決まってこうである。
「ISS本部ビルさ」

国際スイーパー協会、通称ISS──各先進国に支部を持つ、世界でも指折りの巨大組織。
その本拠地は、厨弐市中央区に広がるおよそ3万uという広大な敷地の中心に、
面積3000u、総階数100、高さおよそ400mという、正に組織の規模に相応しい巨大な造りをして聳えていた。
外周部は組織の堅固さを表すようなこれまた巨大で頑丈な壁にすっぽりと覆われ、
内部には幾重にも張り巡らされた高性能セキュリティシステムが常に侵入者に目を光らせ、ネズミ一匹逃さない。

人は言う。「ここはホワイトハウスより厳重な建物だよ」と。
そう……確かにISS本部は、一見すると何一つ欠けた部分のない、文字通りの完璧な建物であるように見える。
だが、どんな人間にも必ず欠点があるように、物事に完璧など得てしてありえないもの。
それはこのISS本部ビルといえど例外ではありえなかった。
たった一つ、決定的に欠けていたものがあったのである──。


バァン!!

本部ビル99階──。
その階に唯一存在する部屋のドアが、突然けたたましい音を立てて開かれたのは、
ようやく太陽が月に代わって空に昇り始めようかという時のことだった。
「大変です!」
と発し、血相を変えて入ってきたのはスーツに身を包んだ黒髪の美人。
彼女は本部のとある重役に仕える秘書の一人だ。名は──いや、この際名は問題ではない。
重要なのは彼女の身の上話などではなく、彼女が仕えている人物なのだから。
「何ですか、騒々しい。いつも言っているでしょう? 用件は手短に、かつ端的に、そして静かにと」
広々とした室内の奥から返って来たのは、粗暴さのない静かな男の声。
女性は「申し訳ありません」と謝りながら、急ぎ足で声のもとへと向かった。
その先には、前面ガラス張りの壁を背に、白いデスクに腰掛け、スラスラと書類にペンを走らせる男が一人。
前髪を左右非対称に分けたストレートの銀髪、整った鼻筋、目は二重で長い睫、インテリ風の銀縁眼鏡。
特徴は多々あるが、それらを一つに纏めて表現するならば、ハンサムという言葉が最も適当であろう。

そのハンサム男を前にした女性は、そんな顔立ちに見とれることなく、彼のいう用件を口早に並べていった。
「先程、IDERから通達がありました。
 それによりますと、元ISS副会長『秋雨 流辿』が、我々ISSに宣戦布告を発したとのことです!
 警備部や治安維持部の方々が、至急、『会長』の判断を仰ぎたいと詰め掛けてきております!」
これまで一定のペースで書類を書き続けていた男の手が、ふと止まった。
だが、それも束の間。男は数秒と経たぬ内にまた、何食わぬ顔でカリカリとペンを鳴らし始めた。
192 ◆ICEMANvW8c :2011/11/17(木) 03:57:56.06 0
「……会長は二年前からインド支部新設の為に本部を留守にされています。
 その為、現在本部の最高責任者は『副会長』であるこの私です。ならばまず私の判断を仰ぐのが筋というもの。
 それとも彼らは、ここ二年、会長が不在であるということをご存知なかったのでしょうか?」
「い、いえ……恐らくそのようなことは……。突然の報せに、気が動転していたのだと……」
「……まぁいいでしょう。とにかく、警備部には本部ビルと市内のISS施設の警護を固めておくように。
 治安維持部は、至急スイーパーに動員令を発し、敵の襲撃に備えて市内の見張りを強化させるよう伝えて下さい。
 後は相手の出方次第です。一先ずはこれでいいでしょう」
「わ、わかりました」

女性は「しかし」と接続語を続けたいのを我慢して、言葉を唾と共にゴクリと咽の奥へと押し込んだ。
わざわざ宣戦を布告してくるだけの敵に対し、命令はISS本部内の二部門のみが対象の至って初歩的なもの。
スイーパーですらない素人ながら、少々、対応が甘いのではないか……そう思えたのである。
しかし、相手は副会長と遥か上の立場の者。だから差し出がましい真似は控えようと、敢えて何も言わなかったのだ。

ISS本部に欠けたもの。それは現職の会長が不在という、その一点に尽きた。
現会長は、情報屋の雀舞や応龍会の龍神などと旧知の仲で、かつては凄腕の異能者だった男である。
故に今でも洞察力や判断力にも優れ、どのような時であっても最善の命令を下すことで知られている。
しかし、現在本部を任されている副会長──『九鬼 義隆(くき よしたか)』はそうではなかった。

彼も元はスイーパーではあったが、その活動期間は極めて短く、突出した実績を残したわけではない。
その為か、彼が副会長になれたのは、人望や上に立つ器量や能力を評価されてのことではなく、
単に会長が苦手としていたデスクワークに長けていたからで、運が良かっただけ────
というのが通説となっており、実際、彼の手腕や判断力を公に批判する者も多く存在するのが現状だ。

「どうしました? 用が済んだのなら戻って結構ですよ」
「あ? い、いえ……実はもう一つ気になることが……。
 先日、宝石窃盗の件でISSに依頼してきた者達から追加の連絡がありまして、
 何でもエンジェルという宗教団体がその窃盗事件に絡んでおり、
 しかもその組織そのものが異能犯罪者集団ではないかと、そう申しているのですが……」
「それを確かめて欲しい、と? 残念ですが、それには及びませんよ。
 そもそもその言葉だけでは何の証拠もないでしょう。証拠を掴む為に依頼したい、というならまだしも、
 そうでないならスイーパーを派遣するにもISSが保有する資金で派遣しなければなりません。
 知っての通り、現在ISSはインド支部創設の為に資金繰りが非常に厳しいのです。
 無駄金を一銭でも使う余裕は、我がISSにはないんですよ……」
「……」

もし、虎将会長だったら、何て言っただろうか?
「そうじゃな、わしが自腹で調べてやってもよいな」などと言ったのではないだろうか?
そんなことを思いながら、女性は「失礼します……」と小さく残して、部屋を後にした。

カリカリカリ。
女性が去った99階の副会長室では、無機質な筆記音だけがいつまでも響いていた。

【ISSの治安維持部を通じて市内のスイーパーに流辿の宣戦布告の報と街の警備が伝えられる。】
【ISS副会長が『九鬼 義隆』であることが明かされる。】
193獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/11/17(木) 18:13:45.14 0
>>190

「そこまでやりますか……。何と言うか、言葉がでませんねぇ」
その言葉と共にエリは背を向ける。更なる弾丸の飛来を予想していただけに、獅子堂は若干拍子抜けだった。
「ああ、心配しないで下さい。武器を変えるだけですから。それくらいはいいですよね?」
そして開かれたのは一見壁にしか見えないスライド式のドア。そこには古今東西の名品と謳われた銃器が並ぶ。
(…やっぱり非常識だ。俺じゃなくてこいつらが。一体、御影の一族はどういう出自なんだ?)
「ん〜どれがいいかなぁ……。お、これにしましょう」
呆れかえる獅子堂の思考を遮ったのは、エリが取り出したアサルトライフルの銃身の鈍い輝き。
(数で勝負か!)
「お待たせしました。では──いきますよ?」
獅子堂の予想は見事に外れた。幻視が必ずしも九分九厘の精度で未来を予測するとは限らない。
加えて増大した『闇照眼』の能力を完全に駆使する自信が無かったが故に、目の前で起こる事に集中した獅子堂。
だが、新たに得た力に不信感を抱いたことに後悔させられるのには、1秒たりともかからなかった。

エリのアサルトライフルが暴走した鼠花火の様に火を噴く。だがそれは反動を制御しかねた故のモノではないと直観する。
そして次の瞬間だった。無数に飛び交う弾丸の先に、先程と同様に未来の幻視が発生する。
部屋中に放たれた数十発の弾丸それぞれに、同じ数だけの半透明の幻影が先んじる。
(気持ちワりぃ! 3D酔いとかいうレベルじゃねえぞ―――っ!!)
「周りをよく見たほうがいいですよ?」
獅子堂が気付くのとエリの忠告は同時だった。幻視の弾丸は跳弾と化して自分に向かっている。
それと全く同じルートを辿って本物の弾丸が四方八方から飛来しつつあったのだ。
「うまく避けて下さいね?まだまだ時間はあるんですから」
(『闇照眼』! 精神世界へ!)
意識を現実からモノクロームの心象風景の中へと飛ばす。岡崎に泣き言をこぼす為ではない。
この精神世界の中では時間を圧縮し、現実世界の時間より長く時を稼ぐ事が出来るのだ。
無我の境地、あるいは走馬灯、あるいは死域。それを自ら作り上げ高速で思考を行う。
黒い波紋が波打つ虚空は自身の姿と、それを包み込む無数の跳弾を映し出している。
「…避けるに避けられねえな、こいつは…少々荒っぽいし、邪気眼のエネルギーも使うが…やってみるかね」

瞬間、意識が現実に戻る。まだまだ時間はある、と言いつつも勝ったと言わんばかりの笑みを浮かべるエリに内心苛立つ獅子堂。
「『悪魔の蒼腕』―――」
両手に握る『パーフェクト・ジェミニ』の合計4つの銃口、28のリボルバー弾倉部から青い光が溢れ出す。
「―――全弾発射(フルファイア)!!」
雄叫びと共にトリガーを引くと32本の腕のオーラが発射され飛び交う。
距離にして0・5メートルまで迫っていた跳弾のことごとくを、念動力の魔弾は弾き飛ばし、捻じ切り、叩き潰す。
視線を飛ばすと御影とエリが心底驚いた、あるいは呆然とした様子でこちらを見ている。
「…残念賞だよ、エリちゃん」
皮肉たっぷりに言い放ち、今度こそ床に着地する獅子堂。だが終わりではなかった。

「つっ!?」
背後からその足元を狙って振り抜かれた強烈な足払い。襲撃者は他ならぬメイだった。
一歩間違えれば獅子堂諸共、跳弾の餌食になりかねないというのに、それを掻い潜り完璧なタイミングで格闘戦に持ち込んだのは驚愕に値する。
全く予想だにしなかった一撃で獅子堂は片膝をつく。間隙入れず追撃に入るメイだが―――
「しゃあっ!」
獅子堂の方が僅かに速かった。床に着いた膝を軸として回転、その勢いのままに回し蹴りを放ったのだ。
「くっ!」
両腕でそれを防いだメイだったが、回し蹴りの勢いそのままに獅子堂は足で寸勁を放ち、メイの右膝が崩れる。
「きゃっ…」
響き渡る銃声。バランスを崩したメイの体を『悪魔の蒼腕』で掴み、エリのいる方へと放り投げる。
「…だから本気で来いと言ったのに」

【獅子堂 弥陸:跳弾の包囲網を退け、メイも戦闘に加わる。現在優勢】
194名無しになりきれ:2011/11/19(土) 20:38:50.58 O
てす
195御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/11/21(月) 18:24:12.41 0
>>193
エリの放った跳弾はもはや回避不可能な距離まで迫っていた。
(これなら流石にダメージは与えられそうですね。でも油断は出来ません)
獅子堂がダメージを受ける前提で次の行動を開始するエリ。しかしその足はすぐに止まる事になる。

「『悪魔の蒼腕』―――全弾発射(フルファイア)!!」
獅子堂の叫びと共に彼の持つ銃から青いオーラの腕が飛び出す。その数三十二。
それらは周囲にある跳弾を悉く無力化していく。エリはその様子をただ見つめることしか出来なかった。
(これがスイーパーの力ですか。何ともでたらめですねぇ……)

「──エリだけでは少々厳しいようですね」
二人の闘いを見ていたメイが、静かに呟いた。
「そうみたいね。でもこれはあくまでも肩慣らしだから貴女まで出る必要は──」
そう言って隣を見ると、既にメイの姿はなかった。
「しょうがないわねぇ。何だかんだであの子も熱いところあるわ」
微笑みながら再び開始される戦闘に目を向けようとした時、一人のメイドがこちらに小走りで近付いてきた。
「お嬢様。少しよろしいでしょうか──」

「…残念賞だよ、エリちゃん」
こちらの心中を見透かしたように言い放ち、ようやく獅子堂が床に着地した。
「残念賞、ですか。それはどうでしょう?」
獅子堂の皮肉にも顔色を変えず言葉を返すエリ。それには理由があった。
「つっ!?」
獅子堂の着地の瞬間を狙って背後より音もなく放たれた足払い。──メイだ。
そう、エリには獅子堂の背後より無音で近付くメイの姿が見えていたのだ。
(メイってば、変に心配性なところがあるからなぁ。でもこれで──!!)
突然の襲撃に流石の獅子堂も反応できず、床に膝を突く。そこにメイが追撃を入れようとするべく動く。しかし──

「しゃあっ!」
獅子堂は恐るべき反応でメイより僅かに早く反撃した。
「くっ!」
メイも素早い反応で放たれた回し蹴りを防御する。しかし続けて放たれた攻撃で膝が崩れる。
「きゃっ…」
そして先程の青い腕で体を掴まれ、エリのいる方へ投げ飛ばされた。

空中で体を回転させ、滑りながらも着地するメイ。その顔には僅かに驚きが表れていた。
「あの状態から反撃してくるとは……恐れ入りました。しかも今の技は発勁の一種。中国拳法も学ばれているのですか」
エリには獅子堂が何をしたのかよく分からなかったが、あらゆる近接格闘術を習得しているメイにはすぐに分かった。

「このままでは良くて均衡、悪くてジリ貧ですね。エリ、お嬢様から許可も頂いていることですし、アレ、使いましょう」
「うーん、そうですねぇ……。模擬戦とは言えあっさり負けてしまってはお嬢様に申し訳ないです。
 ここは一つ、抵抗してみますか!」

二人が普段は決して外さない手袋を外して獅子堂に向き直る。エリは銃を持った腕をダラリと下げ、メイは軽く構えを取る。
「さて、まずは私からいきましょう」
メイが目を閉じて集中する。すると、彼女の体が薄っすらと金色の光を発し始めた。
「『強身眼』──この力をお見せるすのはお嬢様以外では貴方が初めてです」
「じゃあ、次は私ですね!と言っても私はメイみたいに目に見えて分かるわけじゃないんですけど……」
と言いながら獅子堂に向けて拳銃で一発発射する。獅子堂は軽く体をずらしてかわしたが──
「──!?」
突然の背中の痛みに振り返るが、そこには何もない。──否、正確にはゴム弾が一発転がっていた。
「『歪曲眼』──それが私の能力です。効果のほどは身をもって分かりましたよね?」

「では始めましょう。エリ、サポートは頼みましたよ」
「まっかせて下さい!バッチリサポートしますよ!」
「参ります。──『瞬』」
メイが獅子堂の背後に現れて回し蹴りを繰り出したのと、エリがアサルトライフルを撃ち出したのはほぼ同時だった──。
196御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/11/21(月) 18:25:44.22 0
「お嬢様。少しよろしいでしょうか──」

深刻な表情のメイドに呼ばれて闘技場を出る篠。
「どうしたの?──緊急の用件みたいね。話して」
メイドの表情からただ事ではない様子を察知し、話を促す。
「はい。実は先程ISS本部から連絡がありました。
 何でもIDERにISSの元副会長が現れ、ISSに宣戦布告したとの事です」
「元副会長……名前は分かる?」
「確か──秋雨、だったと思います」
「結構よ。それだけ分かれば十分だわ。ありがとう」
「失礼します」
報告を終えたメイドは一礼し、その場を立ち去ろうとした。

「──待って」
しかし篠が何かを思い出したような表情でそれを遮る。
「はっ、何でしょうか」
「貴女、悪いけど"あの子達"、呼んでおいてくれない?」
「彼女達を、ですか?差し出がましいようですが、何故?」
「宣戦布告をしたということは、それだけの理由や目的があると言うこと。つまり──何らかの勝算を持っている可能性が高いわ。
 そうなったら会長のいない今のISS本部では対処しきれない。
 大規模な市街地戦になった場合、本部や各施設の守備に住民の避難、誘導……。
 混乱で末端まで指示が回らない状態が必ず生まれるわ。──トップがあの男ならなおさらね」

篠の分析を黙って聞いていたメイドは驚いた表情のまま固まっていた。
「さ、流石です、お嬢様。たったあれだけの情報でそこまでお考えになるとは……」
「ありがと。そうなった時の為に彼女達を呼んで街に送り出しておく。
 彼女達なら各自適正な判断を下して、その場の状況に合わせて自分で動くわ」
「かしこまりました!大至急連絡しておきます!」
「お願いね」
走り去っていくメイドの後姿を暫し見つめて、篠は闘技場に戻った。

メイとエリ、そして獅子堂の闘いはまだ続いていた。
(二人とも能力を使っているのね。エリはともかく、メイも熱くなってる証拠ね。
 フフッ、許可を出したとは言え肩慣らしなんだからそこまでする必要はないのに)
二人の様子を見つめる篠。その顔には若干の苦笑いが浮かんでいる。
(とは言え、その方が決着が早くつくわね。さっきの情報もあるし、彼には悪いけど決着はなるべく早い方が理想だわ。
 そうね──後三十分ってところかしら。それ以上長引くようなら止めなくちゃね)

【エリ:『歪曲眼』を発動。獅子堂にアサルトライフルを撃ち出す
 メイ:『強身眼』を発動。獅子堂の背後に回りこみ、攻撃を開始する
 御影 篠:秋雨 流辿の宣戦布告の報せを受ける】
197 ◆ICEMANvW8c :2011/11/21(月) 23:53:54.59 0
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198 ◆ICEMANvW8c
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