【邪気眼】二つ名を持つ異能者達【其ノ参】

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1テンプレ1/2
ここは【二つ名】を持つ異能者達が通常の人間にはない特殊な【オーラ】を駆使して
架空の現代日本っぽい世界を舞台に能力バトルを展開する邪気眼系TRPスレッドです。
ルール、テンプレ、まとめサイト、避難所、過去スレは>>1-2に。

*基本ルール
・参加者には【sage】進行、【トリップ】を推奨しております。
・版権キャラは受け付けておりません。オリジナルでお願いします。
・参加される方は【テンプレ】を記入し【避難所】に投下して下さい。
・参加者は絡んでる相手の書き込みから【三日以内】に書き込むのが原則となっております。
 不足な事態が発生しそれが不可能である場合はまずその旨を【避難所】に報告されるようお願いします。
 報告もなく【四日以上書き込みが無い場合】は居なくなったと見なされますのでご注意下さい。

*参加者用テンプレ
・能力は【万能になり過ぎない】よう気をつけましょう。
・パラメータの基本ランクは【S→別格 A→人外 B→逸脱 C→得意 D→普通 N→機能無し】になります。
 最低ランクが普通(常人並)であるのは異能者はオーラによって自然と肉体が強化されている為です。

【プロフィール】
名前:
性別:
年齢:
身長:
体重:
職業:
容姿:
能力:
キャラ説明:

【パラメータ】
(本体)
筋  力:
敏捷性:
耐久力:
成長性:
(能力)
射  程:(S→50m以上 A→20数m B→10数m C→数m D→2m以下)
破壊力:(能力の対人殺傷性)
持続性:
成長性:
2テンプレ2/2:2010/12/18(土) 01:58:46 0
*まとめサイト
・用語、登場キャラクター等の詳細はこちらで確認できます。
 参加を考えている方はまず【FAQ】に目を通しておきましょう。
http://www35.atwiki.jp/futatsuna/pages/1.html

*避難所
P C:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1254052414/
携帯:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/computer/20066/1254052414/

*過去スレ
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1274429668/
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達【其ノ弐】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1286457000/
3球磨川 禊ψ ◆DMZBuMECHA :2010/12/18(土) 06:46:26 0
『この避難所は、完全に管理放棄で、無法地帯となっていますので、別の避難所を使った方がいいのではないかな?』
4球磨川 禊ψ ◆DMZBuMECHA :2010/12/18(土) 06:49:32 0
『おっと。このスレが荒れる火種を投げ込んだか?』『私はもう知りません。パスね。』
5赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/12/18(土) 21:26:02 0
前スレ>>238
「……私に対して、キミが嘘を言っていたとは思わない。だから、私も全て事実で答えよう」
「……信用されるのは嬉しいが、疑われていた事実にゃあ驚きだな」

用心深いという事なのだろうけれど。
もう少し彼女の介入行動が早ければ、あのワイズマンサイドの男達と敵対しているところを目撃されてさえいれば、
もう少しの信頼は得られてただろうに。
しかし赤染は自身の性格上、相手の信頼を得たりする行為は苦手―――というより好みではないのだ。
なのでこの場で信頼関係をどうこうする気は現時点で赤染にはなかった。

「キミが闘ったという腕輪のない連中は、恐らく私がつい先程闘った奴の仲間だ。
 そいつも腕輪がなく知性がなかった。私の仲間はそいつを『狂戦士』……と呼んでいた。
 何でもかつてカノッサによって作り出され、処分されたはずの異形とのことだが、
 どういうわけかそいつらが今も生き残り、この島をうろついているらしい……。

 ……そしてキミのいう噂についてだが、それは確かだ。
 三ヶ月前の出来事といい、その噂といい、キミがどこで聞いたかは敢えて聞かないがな」

バーサーカー
狂戦士。
今さっき話題に出したカノッサの単語が再び出てきた事に多少驚きもあるものの、
赤染にはなんとなく推測はついていた。
(あの『CO』のタトゥー……あれはカノッサを表すものだったか。
 ってことはだ。ワイズマンやピエロはカノッサの関係者なのか……?)
海部ヶ崎の話し方から察するに今回の件は二ヶ月前の続きという訳ではないのだろう。
続き、というより派生か。
カノッサはその存在が壊滅しても尚、多くの人間に影響を及ぼす程に巨大だったという事だ。
そこに焦点をあてて考えてみると、やはりそんなものを相手に勝利を得た彼女が只者ではない事を感じさせる。
6赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/12/18(土) 21:27:27 0
ワイズマンに繋がるこの情報はとても重要な事だが、もうひとつの情報の方も大事である。
赤染個人としては、そちらの方が重大かもしれなかった。
「……狂戦士、ね。多少は相手の素性が分かると安心できるな、色々と。
                             、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 で、三つ目の質問だが、やっぱ噂は本当なんだな。となると、俺はこれ以上お前と一緒には居られないな」
その言葉と共に、赤染は縁側から腰を上げた。
そしてバツが悪そうに、頭を少し掻いた。

「これは自分勝手な言い分なんだが、このままじゃ意味が分からねぇだろ? だから一応簡易的だが説明しておく。
           、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 まぁ、一言で言えば『幾億の白刃』は俺の一番大切な人を殺したんだ。
 ……あぁ、勿論お前に何の関係もないことは分かってる。でもな、やっぱ一緒に居るとごちゃごちゃ考えちまうわけよ。
 他人には言えねぇような薄汚い考えが出ちまうわけだ。だから、勝手だがここで話を打ち切らさせてもらうぜ」

赤染は民家の庭を横切って、そのまま玄関前の正門に手を掛ける。
「安心しな。俺の目的も恐らくお前と同じく打倒ワイズマン一派だ。だから……また会うかもしれねぇな」

最終的に。
赤染は海部ヶ崎との信頼関係を打ち砕いた。
もとよりあるかないかも分からない程だったが、赤染はここで完全に打ち砕き、むしろマイナスにした。
それが一番だろうと。
これもまた、自分勝手な考えであることは自覚していた。

【赤染 壮士:民家の敷地から出て行こうとする】
7海部ヶ崎 綺咲:2010/12/19(日) 17:22:41 0
>>5>>6
「これ以上、お前とは一緒にいられない」──。
赤染のこの言葉を聞いた時、海部ヶ崎が真っ先に思ったのは「あぁ、やはりな」であった。
『幾億の白刃』との関係を訊かれた時、予感しないことではなかったのだ。

『幾億の白刃』は彼女にとって良き父親、良き人間であったかもしれない。
しかし、他人にとっては必ずしもそうではないことくらいは子供でも解ることだ。
ましてや父親は殺し屋。自分の知らぬところで誰かに恨みを買われていても不思議はないのだから。

「これは自分勝手な言い分なんだが、このままじゃ意味が分からねぇだろ? だから一応簡易的だが説明しておく。
           、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 まぁ、一言で言えば『幾億の白刃』は俺の一番大切な人を殺したんだ。
 ……あぁ、勿論お前に何の関係もないことは分かってる。でもな、やっぱ一緒に居るとごちゃごちゃ考えちまうわけよ。
 他人には言えねぇような薄汚い考えが出ちまうわけだ。だから、勝手だがここで話を打ち切らさせてもらうぜ」

赤染本人が言うように、海部ヶ崎自身が直接関わっているわけではない。
かといって、彼の気持ちを否定することなどできはしない。
当事者の血縁者ともなれば尚のことであろう。
赤染の言葉を、海部ヶ崎はただ無言で受け止めることしかできなかった。

「安心しな。俺の目的も恐らくお前と同じく打倒ワイズマン一派だ。だから……また会うかもしれねぇな」

そう言い残して去ろうとする赤染を、海部ヶ崎は「待て」と呼び止め、言った。

「……一つ言い忘れた。私の仲間が言うには、かつて狂戦士は14人にいたらしい。
 その内の何人が生き残り、この島にいるのかはまだ判らないが、
 どうやら知性を持った厄介な奴らが生き残っている可能性があるとのことだ。
 とするなら、私達が倒したのはいわば雑魚に過ぎない。……キミも気をつけろ」

海部ヶ崎は赤染とは逆方向に進み、裏口の戸を開けた。
そして、最後に小さく──
「私を憎むなとは言わない。だが、次会う時も、互いに協力できる関係でありたいものだな。赤染 壮士」
と言うと、気配を殺してその場を後にした。

次に海部ヶ崎が目指すは未だ未調査の島の北東部。
その方角を見据えながら、海部ヶ崎はぽつりと独りごちた。
「気をつけろ……か。気をつけただけで何とかなるなら、苦労はない。我ながら陳腐な言葉だな」

【海部ヶ崎 綺咲:民家を離れ島の北東部に向かう】
8神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/12/19(日) 19:58:25 0
前スレ>>240
「か、は…ッ!」

菊乃の放ったボディーブローは的確に男の脇腹に突き刺さった。
人体急所に打ち込まれたその衝撃は内蔵に至り、まともに呼吸も出来ないだろう。
だが、その瞳に諦観の色はなかった。寧ろ今まで異常の強い意思が見える。
まだ何か仕掛けてくる――!そう思った次の瞬間には、菊乃の後頭部に何かが激突していた。
震動する頭を抱えて背後を見やると、先程男が掴まっていたスーツケースが見えた。
恐らく最後の力で反撃してきたのだろう。直撃はしたものの然したる威力はなかった。
とは言え、高速で動いている菊乃に当てることは難しい。
しかしインパクトの瞬間、つまり自分の体に密着している状態でなら当てることは可能だ。

「しかしそれを実行するとはねぇ…。中々根性あるじゃないか」

軽い脳震盪の為暫く膝を突いていた菊乃だが、やがてゆっくりと立ち上がる。
そして先程の攻防で吹っ飛んで行った男の方に目を向ける。
男は倒れたまま立ち上がれず、しかし同じ場所に落ちてきたスーツケースにしがみついている。
恐らく先程同様スーツケースに掴まって脱出するつもりなのだろう。
倒れている様子を見るに戦闘の継続は不可能だろう。
元より菊乃もこれ以上戦闘を続けるつもりはなかった。
パチンッ、と指を鳴らす。その合図で周囲の重力が元に戻った。

「能力を解除した。これで逃げやすくなるだろ?
 …もう分かってると思うけど、アタシは最初からアンタを殺すつもりなんてない。
 さっきも言ったけど、別にこのゲームに乗ってるわけじゃないからね。
 強い能力者は多いに越したことはないのさ。…色々な意味でね。
 これもさっき言ったけど、アンタ筋は悪くない。もっと戦えば強くなるよ」

そこまで言うと、男に対して背を向けた。

「さて、と。アタシは行くぜ。アンタも戦って生き残るつもりなら精々気をつけな。
 この先"手加減してくれる"奴なんているかどうか分からないからな。
 アタシは神宮 菊乃。縁があったらまた会おうぜ、『研究者』サン」

男の返事を待たず、ひらひらと手を振って立ち去っていく菊乃。
――そう、本気で殺そうと思えばチャンスは何度でもあった。
家を破壊した直後然り、ボディーブローを打ち込んだとき然り――。
更に言えば、出会った瞬間に問答無用で攻撃していればその時点でも可能だった。
しかし菊乃はそれをやらなかった。
それは菊乃自身ゲームに乗っていたわけではなく、個人の目的の為に戦っていたからであった。


男と戦っていた場所から離れ、その前まで少女と話していた場所の近くまで戻ってきた。
(そういや海部ヶ崎達は離れちまったみたいだな。ま、別にいいか)
そんな事を考えながら足を進めると、少女の姿を視界に捉えた。
誰かと会話をしているようで、先程のモニターを展開している。

「よう、さっきはすまなかったな。改めて話を――」

そう言いかけたところで、少女が会話していた人物が視界に入る。
それは数時間前に行動を共にした斎葉と鎌瀬であった。

「おや、また会ったねぇ。不思議な縁もあるもんだ。
 さて、さっきは途中で切れちまってすまなかったが、今度は大丈夫だ。
 ここじゃなんだから、適当にどっか入ってゆっくり話さないか?」

少女の方を見て、菊乃は軽く笑みを浮かべながら告げた。

【神宮 菊乃:戦闘終了。天木から離れ、夜深内に再び接触】
9鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/12/20(月) 14:51:40 0
>>241 現>>8
『いえ、特別大切なものだという訳ではありません
 このモニターと同じように‘創った’物です
 ところであなたはこのラジコンの中にいた人の本体でしょうか?』
(モニター…要するに何かを創る能力でしょうか…? どこか優君に似ていますね…)
「ええ、そうです。僕が貴方のラジコンを改造して操作しました、斎葉巧と申します」
「僕はその友達の鎌瀬犬斗です…」
夜深内の言葉に答え、ついでに自己紹介をする斎葉と鎌瀬。するとそこへ…
「よう、さっきはすまなかったな。改めて話を――」
先程会った人物…神宮菊乃がやって来た
「おや、また会ったねぇ。不思議な縁もあるもんだ。
 さて、さっきは途中で切れちまってすまなかったが、今度は大丈夫だ。
 ここじゃなんだから、適当にどっか入ってゆっくり話さないか?」
「お久しぶりです神宮さん」
「ま…また会いましたね…」
神宮に挨拶する斎葉と鎌瀬
「ところで僕達お邪魔ですか? もしそうならお暇しますけど」
【斎葉&鎌瀬:夜深内と会話中、神宮と再開。挨拶する】
10天木 諫早 ◆0i7FhSLl8w :2010/12/21(火) 02:29:04 0
>>8

スーツケースへのオーラの充填が終わるよりも前に、背後で動く気配がした。
やはり、あの一撃は威力不足だったのだ。しかし、やれるだけの事はやった。悔いは無い。
…だが、その後に彼女がとったのは彼にとって予想外の行動だった。
指を鳴らす、乾いた音と共に体がふわりと浮くような感覚があった。それが元の重力だと気付くのに、少し時間がかかった。

「能力を解除した。これで逃げやすくなるだろ?
 …もう分かってると思うけど、アタシは最初からアンタを殺すつもりなんてない。
 さっきも言ったけど、別にこのゲームに乗ってるわけじゃないからね。
 強い能力者は多いに越したことはないのさ。…色々な意味でね。
 これもさっき言ったけど、アンタ筋は悪くない。もっと戦えば強くなるよ」

何故、強者が必要なのか、その理由はなんとなく解った。
彼女(達?)はこのゲームに対しての反逆を行おうとしている。
彼女の異常性に隠れて見えなかった意図が鮮明に見え始めた。

「さて、と。アタシは行くぜ。アンタも戦って生き残るつもりなら精々気をつけな。
 この先"手加減してくれる"奴なんているかどうか分からないからな。
 アタシは神宮 菊乃。縁があったらまた会おうぜ、『研究者』サン」

手を振って立ち去る相手に、彼は精一杯力を振り絞って、声をかけた。

「天木諫早、だ…ッは、格好がつかねェからな、次までにゃァ追い越す。必ずだ。」

もう見えなくなった後で、彼はごろんと仰向けになり、空を見上げる。

「手加減されちまッた、かァ…世の中そんなに甘くねェな、これじゃァはじめから自分の死に場所すら選べ無かったッて事だ。
気に食わねェが、借りを返すまでは…死ぬわけにはいかねェ。俺は生かされてるンじゃねェ、生きてるンだって実感がよォ」
「欲しくて…欲しくて仕方がねェんだ…ッ!」

嗚咽だった。彼が最初に出会った能力者は、彼をわざと生存させた。彼以外の全てを葬り去って、意味深に彼を生かしたのだ。
それはただの遊びだったのかも知れない。彼に更に苦しみを負わせる為の戯れだったのかもしれない。
その決定に、彼の意思は全く関与出来ず、彼はその時から『生かされて』いた。そして、今回も。

「ッは、とりあえずは休憩、回復だ…身を隠せる場所に、潜むべきだな。オーラで感知出来るタイプの奴も居るだろうから、なるべく負傷部分だけにオーラを留めなければ…」

スーツケースに引きずられるように、彼は林の中へ身を隠す。大樹を背にして、患部にオーラを集中し、ほう、とため息をついた。
ケースからゼリー系の食料を取り出して、流し込む。傷の応急処置を行い、それが限界だったのだろう、体中の力が抜けていく。

「少し、休むか…」

【天木 諫早、戦闘終了。傷の回復の為、南西の林に潜伏する。】
11海部ヶ崎 綺咲:2010/12/22(水) 18:02:17 0
北東に進むこと数十分──海部ヶ崎が辿り着いた先は、緑に囲まれた湖のほとりであった。
湖──とはいっても、昨晩見た廃校近くの湖とは違う。
あれは島の西、ここは島の東に位置している。

「ここにも湖が。そうか、この島は西と東に二つの湖があるのか」

改めて、辺りを見回す。その眺めは南西と北東とでは正に対照的である。
来た方角である南西方向に木々は一本もなく、見えるのは人工的な建物ばかり。
それとは逆の北東方向には、数十年かあるいは数百年か、
とにかく長い間、人の侵入を阻み続けてきたような鬱蒼たる原生林が広がっている。
唯一、人の手が入った痕跡を思わせるのは、湖岸近くにひっそりと佇む朽ちた寺院くらいだろう。

「この先はずっと原生林が続いているようだ。
 仮に手掛かりがあるとしても、探し出すのは骨が折れそうだな」

溜息混じりにつぶやきながらも、海部ヶ崎は原生林奥地へと進んでいく。
ワイズマンを打倒すると決めたからには、どんな困難を前にしてもやるしかないのだ。
(それにしても……)
ところが進み始めて僅か十分。海部ヶ崎はふと妙なことに気がつき、その足を止めた。
気配が無い。人間の気配は勿論だが、小動物の気配すら感じないことに。
緑の少ない街の中ですら小鳥のさえずりが聞こえたというのに、
広大な原生林の中で鳥の鳴き声すら聞こえないということがあるのだろうか?

「もしかして……“何か”を恐れている? それで近付けないのだとしたら……」
思わず突拍子もないともいえる仮説を独りごつ海部ヶ崎。
突拍子もない……確かに、増幅された不安が口を出たまでといえばそれまでである。
実際、当の本人である海部ヶ崎も、この時はまだ半信半疑であった。
そう──“この時”は──。


「ご名答──この島の生き物は俺達を恐れている──だからここには近付かねェのさ──」
「──!? ──ぐっ──」

不意の声。そして、不意に腹部に走った重い衝撃。
海部ヶ崎には何が起きているのか理解できなかった。何も考えることができなかった。
できたことと言えば、何故かこれまで置き去りにしてきたのはずの光景が視界に舞い戻り、
今度は逆に物凄い勢いで過ぎ去ってゆくのを、ただ呆然と見つめるだけだった。

──ドォオン! という破壊音が鼓膜を揺さぶる。
それと共に、視界を流れ続けた景色が止まり、海部ヶ崎は我に返った。
そしてやっと自分の身に何が起きたかを理解した。
あぁ──自分は吹っ飛ばされたのだ──元来た道を戻ってきてしまったのだ──と。

「くっ……」
海部ヶ崎は、苦しそうに腹部を押さえながら身を起こし、チラリと背後に目をやった。
そこには苔むした巨大な大木が無残に根元から折れていた。
元々、寿命が近付いており、内部から腐りかけていたのもあるのだろうが、
それでもポッキリと折れているということは、それだけ勢いよく直撃したということだろう。

目線を横にずらすと、今度はあの朽ちた寺院が見える。
やはり、スタート地点に戻ってきてしまったのだ。それも一瞬の内に。
「くそ……誰かが気配を殺して潜んでいたのか。
 不意打ちとはいえここまで規格外のパワーを持つ者とは一体……」

「規格外? 今ので規格外とは、貴様の実力も底が知れるな」
「──!!」
再度、突然の声。海部ヶ崎はすかさずその方向に目を向けた。
するとそこには、ザッ、ザッと土を踏みしだきながら近付いて来る、一つの影があった。
12海部ヶ崎 綺咲:2010/12/22(水) 18:09:17 0
「貴様か……一体何者だ!」
海部ヶ崎がただすと同時に、その影は正体を白昼の下に曝け出した。
現れたのは、全身をダークブルーの装束に身を包み、切れ味鋭い眼を持った若い男であった。

「俺か? 俺の名は『ジャック』! この世で最強を誇る『狂戦士四傑』の一人だ!
 ……といっても、貴様には何のことだか解らんだろうがな」
「ジャック……? 狂戦士四傑……?」

狂戦士──それ以外は全く聞き覚えのない言葉に、海部ヶ崎は考え込むように視線を下に落とした。
(『狂戦士四傑』……四傑……四人……?)
そして、四人……それを連想した時、海部ヶ崎の脳裏に氷室の声が蘇った。
『だが……No.11〜14までの上位の狂戦士は違う。彼らは常人と変わらぬ知性を持ち、能力がある。』

瞬間、パズルのピースが全て合わさったように、彼女は理解した。
氷室の言っていた上位の狂戦士──その一人が、ついに現れたのだと。
(そうか……そういうことか……! ならば!)

スラッと、白銀色に光り輝く刃が抜かれる。
これまで、彼女はできうる限り対話によって戦闘回避の道を模索する姿勢をとってきた。
しかし、それはあくまで、相手が標的の人物ではなかったからに過ぎない。
標的である『敵』に対しては元より闘い以外の選択肢を選ぶ気などないのである。

「手掛かりを探す手間が省けたというものだ。ワイズマンの下に案内してもらうぞ! 狂戦士!」
「……遊んでやってもいいが、俺は雑魚に興味はない」
ジャックと名乗る狂戦士が、すっと一本、人差し指を立てる。
「一太刀だ。一太刀だけ“喰らってやろう”。それで遊んでやるかどうかを決めてやる」
「なっ……!」
海部ヶ崎は驚いたが、直ぐにその体をわなわなと慄かせた。
一太刀で闘うに値する存在かどうかを確めるなど、侮辱以外の何物でもない。

「面白い……。ならばその一太刀で終わりにしてみせよう! 行くぞ!」

言うが早いか、海部ヶ崎は身を屈め、全体重を利き足に乗せた体勢から、一気に大地を蹴った!
それによって生まれた爆発的推進力は肉体を容易にジャックのもとまで運ぶ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ────」
そして、至近距離にまで迫ったところで、刀を空間ごと裂かんほどの勢いで振り下ろした!
「ああああああああッ!!!!」

タイミングは完璧。刀に伝わらせた力も十分。紛れも無く、勝負を決めるつもりで放った一撃──。
しかし──次の瞬間、海部ヶ崎が漏らしたその声は、勝利の咆哮ではなく驚愕のそれであった。

「──何──だと──?」
刀はジャックの首に命中していた。にも拘らず、首は無傷──!
薄皮一枚傷付かず、血雫一滴流すにも至らなかったのだ。
「何てこたァない。貴様の太刀筋では、俺には通用しねェってだけだ」
「──くッ!」

咄嗟に後ろに跳び退き、およそ十メートルほどの、普段よりも大きな間合いを取る海部ヶ崎。
彼女は動揺していた。それには目の前の現実がショックだったというのもある。
だがそれ以上に衝撃であったのは、刃が直撃する瞬間、男のオーラが激しく猛ったことだった。
(あれは『気昇(きしょう)』! しかし、バカな! 一瞬とはいえあのオーラの量は……!?)

『気昇』。それは通常以上のオーラを体に纏い、全身の肉体を最も強化する技術のこと。
その強化具合は纏うオーラ量に比例されるが、彼が気昇によって展開したオーラの量は、
これまで海部ヶ崎が見たこともないほどの凄まじいものだったのだ。
(斬撃の威力を相殺するだけのオーラを内在しているとは……こいつは……!)
13海部ヶ崎 綺咲:2010/12/22(水) 18:16:25 0
「貴様の実力は判った。その程度なら遊んでやる気はねェ。かといって生かしてやる気もねェ。
 だから、一瞬で片付けてやる。“俺の能力(こいつ)”でな──」

ジャックの右手に極端な量のオーラが集まり、徐々に何かの形を成していく。
「──『リッター・ゲヴェール』──と、俺は呼んでいる」

彼が『リッター・ゲヴェール』と呼んだモノ──それは茶色の小銃と思わしき物体であった。
(銃を具現化……? 飛び道具が奴の能力か──)
銃口を向けるのを見て、海部ヶ崎は低く身構え、視線を引き金にかけられた指先に集中する。
通常の人間であれば例えどんなに警戒したところで弾丸を避けることはできないだろう。
だが、海部ヶ崎の場合はタイミングさえ間違えなければ回避は十分可能だし、
尚且つその反射神経とスピードをもってすれば攻撃に転ずることも可能なのである。
(奴を倒すには最大の力を込めた一撃をぶつけなければ不可能だ。
 その為には……銃弾をかわしつつ、何としても接近戦に持ち込まねば)

「銃弾程度のスピードなら避けられる、そんな顔だぜ?
 ──だがな、甘ェよ。かわされるようなモンを、わざわざ具現化するわけねェだろ?」

「!!」
一瞬、周囲の木々が、何かに怯えるようにザワッと慄いた。
同時に海部ヶ崎の背筋にもザワリとした戦慄が走る。
何かヤバい──! 咄嗟にそう感じた海部ヶ崎が、更に後方に跳び退く。
しかし、それは危機を脱するための回避動作と呼ぶには、あまりにも遅すぎるものだった。

「──『リッター・シュラーク』──!!」

銃口が唸りをあげて、巨大な光を放つ。
その正体は銃弾などよりも遥かに速く、そして遥かに強力な破壊エネルギーを帯びたオーラの破壊光線。
(な──に──!?)

為す術なくそれに飲み込まれた海部ヶ崎は、呻き声一つ、叫び声一つあげず、
あるいはあげることもできずに、やがてその意識を閉じていった……。

彼女を飲み込んだ後、光線はそのまま湖に突き刺さり、湖底で盛大に炸裂。
その爆発はとてつもない轟音ととてつもない巨大な水柱を湖面に生み出した。

「他愛ねぇ。この程度で反逆を試みるとは笑わせる。ワイズマン様はここの連中のことを少々買い被っておられたな。
 こんな奴らなど、四傑(俺たち)にとっちゃ虫けらのようなものよ……フフフフフ」

噴き上がった水が、湖の上空に巨大な虹を架ける。
それを満足そうに見つめながら、首筋にNo.11のイレズミを持つ狂戦士は笑った。

【海部ヶ崎 綺咲:死んではいないがダメージ大。意識を失う】
【NPC:狂戦士No.11登場】
14赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/12/23(木) 12:27:16 0
>>9
門を半分ほど開けたところで、背後から「待て」と海部ヶ崎に呼び止められた。
赤染はその声に反応し、振り返った。

「……一つ言い忘れた。私の仲間が言うには、かつて狂戦士は14人にいたらしい。
 その内の何人が生き残り、この島にいるのかはまだ判らないが、
 どうやら知性を持った厄介な奴らが生き残っている可能性があるとのことだ。
 とするなら、私達が倒したのはいわば雑魚に過ぎない。……キミも気をつけろ」

「あの狂人どもがまだ十人以上もいる可能性なんて、ましてや上位種がいるなんて考えたくもねぇな。
 ま、気をつけてはみるさ」

海部ヶ崎は赤染の反対側に位置する裏門から敷地を出て行き、最後に
「私を憎むなとは言わない。だが、次会う時も、互いに協力できる関係でありたいものだな。赤染 壮士」
とだけ、言い残しこの場を去っていた。
民家で姿が見えなくなると、気配を消したのか、煙のようにその存在を消失させた。

「……『幾憶の白刃』の娘がお前の様な奴じゃなく、下種な野郎だったらこの場で襲い掛かってただうなぁ、おい。
 って言っても、だからお前を認められるかどうか……ましてや」

この感情にケリを着けられるかどうかは、また別の問題だろうな。

赤染はここで考えを切り替えて、歩を進めることにした。
特に当ても無いのだが、とりあえず住宅街の外を確認しようと方角を北西に定めた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

見えてきたのは駅だ。
そこらの地方都市とも代わり映えしない立派なものだ。

「人も住んでねぇのに線路敷く意味あんのか? ったく、この世界にゃ訳の分からん
 金の使い方をする人間がいるようだなぁ、おい」
と貧乏かつ、ボロ道場の経営もしている赤染は切実な文句を垂れた。
そこで、視界に人影を捉えた。

赤い。
紅い。
どこまでも朱いコートを着用し、その下もまた赤いスーツを着用している。
そして、その赤に映えるように艶やかに輝く長い黒髪。
それは、まるで赤染とは非対称なカラーリングだった。

「まさか……おいおい……なんでまた……」
「おや、久方振りじゃねーの? ってか、あれか。お前もこんなゲームに参加させられてんの?
 ふはは、そりゃ災難だったな……あっはっはっははははははは」
「何が可笑しいんだよ。ってかいや、マジでなんで居んだよ、おい」

緋縅愛鷹(ひおどし あしたか)。
彼女は現赤染の師(本人は認めていないが)にして、纏火大道流の現後継者。

「あぁ? いや、そりゃあれだよ。あたしも参加させられてんの。この狂ったゲームに。ふふ」

まるで子供のような笑みを浮かべる愛鷹。
そして、それを不可解なものを見る目で見つめる赤染。
混乱する赤染の頭の中に懐かしくも、聞き飽きた笑い声が響き渡った。

【赤染 壮士:北西の駅にて緋縅愛鷹と邂逅】
15神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/12/23(木) 20:46:21 0
>>9
「お久しぶりです神宮さん」
「ま…また会いましたね…」
鎌瀬と斎葉が挨拶を返してきた。相変わらず鎌瀬は少しビクビクしている。
「ところで僕達お邪魔ですか? もしそうならお暇しますけど」
「そうだな…。アタシは別に聞かれて困る話はないけど、こっちの方が――」

そう言って少女の方を見た時、微かな音と震動が伝わってきた。
方角は東の方、現在地から対角線上に街を進んだ先だ。
(多分戦闘が起きてる。あっちは確か…海部ヶ崎の行った方角だったはず。
 性格は真面目すぎて好きじゃないが、アイツは決して弱くはないはず。
 まさかとは思うが…嫌な予感がするな)
鎌瀬達は気付いていないようで、普通に会話をしている。
「すまんね、また用事が出来ちまったようだ。ちょっと行ってくる。
 アンタらは街から出ない方がいいかもな。戦う自信があれば話は別だけど。
 …あ、そうだ。今度こそアンタの名前、聞いておこうか――」

前回聞きそびれた少女――夜深内 漂歌から名前を聞く。
「んじゃ、死にたくなければ迂闊な行動は控えろよ?じゃあな」



鎌瀬達に別れを告げた後、街を斜めに横断するように北西に向かって走る。
その間も、嫌な予感は頭から離れなかった。
やがて、街の境界線を示す錆付いた線路と古ぼけた駅舎が見えてきた。
その先には田園地帯が広がっている。

「そんなに急いで何処へ行くのかしら?」

線路に差し掛かった時、何処からか声が聞こえた。
立ち止まって辺りを見回す。すると、その人物は駅のホームに佇んでこちらを見ていた。

「何モンだ、アンタ」

普段ならこの急いでいる状況で余計な相手をする菊乃ではない。
しかしこの相手からは、何か普通とは違う気配がする。
(何だコイツ…上手く言えねぇけど普通とは違う…)
その『何か』が分からなかった菊乃だが、次の言葉でその違いを理解した。

「私?私は『クイーン』。『狂戦士四傑』の一人よ。…まぁあなたに言っても分からないでしょうけどね。
 そうね…こう言えばいいかしら?"ワイズマン様の忠実なる部下"である『狂戦士四傑』の一人、と」

『狂戦士四傑』という単語に聞き覚えは無かったが、その後は違った。
その女――『クイーン』は確かに言った。『ワイズマン』と。

「ハッ、ありがてえこった。まさかそっちから出張ってくるとはね。嬉しくて涙が出てくるよ」
「そう、それはよかったわ。でも残念、あなたじゃ私とダンスを踊るには役不足だわ」
「役不足かどうかはやってみなけりゃわからねえ。アンタこそアタシのステップについてこられるか?」
言い終わる前に駆け出す。
『重力減少』をかけたので、その速度は風の様に速い。
「フッ!」
一瞬でクイーンに肉迫し、無意識の内に使用した『重力の戦槌』でボディー目掛けてフックを放った。
16神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/12/23(木) 20:47:03 0
「ダメね、その程度じゃ」
クイーンは先程の言葉通り、まるで踊る様にヒラリと回転し、菊乃の攻撃を避けた。
「この程度でいい気になってんじゃねえ、よ!」
フックの時に踏み込んだ足を基点に、足払いを放つ。
「ダメダメ。そんなステップじゃ私について来られないわよ?」
これも軽くバックステップすることでかわされる。
しかし菊乃の狙いはそこだった。
(一瞬とは言え地面から足が離れた。ここだ!)
「ハッ!」
素早く体を起こし、足払いの遠心力をそのままに鋭い回し蹴りを放つ。
体が宙に浮いている状態ではかわしようがない。
更に、バックステップをした事により若干体制が崩れている。菊乃は直撃を確信した。

「当然そう来るわよねえ…。ま、ここまで出来れば及第点かしら」
軽く溜息を吐いたかと思うとクイーンは予想外の行動に出た。
何と迫り来る脚に向けて掌を向けたのだ。
遠心力の乗った回し蹴りが腕一本で止められるはずがない。
更に『重力の戦槌』の効果も上乗せしているのだ。下手をしたら肩から先が無くなるかもしれない――。
――しかし、そんな菊乃の考えはあっさり打ち砕かれた。

「なにっ…?!」
クイーンは向かってきた脚の上に手を置き、宙返りの要領で一回転し、攻撃を避けたのだ。
地に足がついていない状態からのこの回避行動。最早常人の域ではない。

一瞬呆然としていた菊乃はすぐに我に返った。しかしその一瞬でクイーンは次の行動に出ていた。
着地した足を基点に、今度は向こうが回し蹴りを放ったのだ。
脚を戻し、咄嗟に『気昇』で防御体制をとる。時間的に充分とは言えないがダメージを軽減することは出来るはずだ。

「フフッ、その程度でいいの?」

しかし次の瞬間、菊乃は吹っ飛ばされていた。駅舎に激しく激突し、壁を粉砕して突き抜ける。
数回地面をバウンドし、ようやく止まる。
(チッ、今のは…『気操』か!しかし何つー密度だよ…。こっちの防御が紙みてーじゃねーか)
ホームからこちらにゆっくりと歩いてくるクイーンを睨みつける。
そこで初めてクイーンの容姿をはっきりと見た。
修道服を改造したような黒い服に切れ長の眼、そして鮮やかな金髪の若い女だった。
「だから言ったでしょ?その程度でいいの?って。
 …そんなに怖い顔しないでよ。折角のかわいい顔が台無しよ?」
「はっ、敵に何を言われたって嬉しかねえよ」
「つれないわねえ…。ま、いいわ。
 ダンスもそろそろ終幕にしましょうか。私も暇じゃないのよ」
クイーンは10m程先で立ち止まった。
「ちょっとだけ見せてあげる。私の能力(ちから)を、ね」
そう言ったクイーンの右手にオーラが密集していく。それも半端な量ではない。
やがてそれは紫を基調とした面に、向かい合った鶴が描かれた一枚の扇子になった。
17神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/12/23(木) 20:47:43 0
「――『神楽耶』――それがこの子の名前よ」

「大層な名前だな。ただの扇子だろうに」
「そうね。でも、ただの扇子じゃないから大層な名前がついてるのよ。
 …じゃ、始めましょうか」
言葉と共に『神楽耶』にオーラが密集していく。それにつれて『神楽耶』は光り輝いていった。
やがて当初の紫とは異なり、金色(こんじき)の地になったそれは神々しいまでの光を放っていた。

「――行くわよ――」

瞬間、ゾクッと背中に怖気が走り、体が硬直した。
(ヤバい――!)
頭の中で警鐘が鳴り、凍結した思考を再起動させる。
しかしそれは遅すぎた。
視界には既に彼女はおらず、気配も感じない。
「何処を見ているの?私はここよ?」
直後、背後から声がした。
「――!!」
振り向く間も惜しんで体を前に投げ出す。しかしそれでも攻撃は回避しきれなかった。
背中に鋭い斬撃を受け、衝撃で地面を転がる。
(…ッ、やべえな…。痛みはねえが結構深い。
 こういう時痛みを感じねえってのは不便だな…。体の状態がわかりゃしねえ)

「これでこの子がただの扇子じゃないって事、分かった?」
クイーンはその場から動かずに話しかけてくる。
(しかし近付かれなきゃあの斬撃も食らわねえ。若しくはアイツの動きが分かれば――そうか!)
攻略の糸口を見つけた菊乃。早速試してみる。
「気配が分からなくても本体が見えてりゃ関係ねえ。
 行くぜ――『重力増加』」
言葉と共に周囲の重力が高くなる。そしてそれはクイーンも例外ではなかった。
「何か体が重いわねえ。あなたの仕業?…って当たり前か」
然して気に留める様子がない。しかし確実に効果はあるようだ。
(これで後ろを取られることもねえ。今度はこっちの――)

――ゾクリ――

先程の比ではない戦慄が体中を駆け巡った。
(何か来る――途轍もなくヤバい何かが――!)
襲い来る戦慄を振り払って走り出した瞬間、それは来た。

「――『鶴翼閃』――」

クルリとその場で一回転した後に、扇子を持つ右手が勢いよく振られた。
すると高速で何かが飛来してきた。
それはオーラによる斬撃。それも恐ろしく巨大な。
その斬撃が、文字通り鶴が翼を広げたように飛んできた。
「クソッ、そんなの反則だろうが…!」
既に走り出していた為に避ける間もなく直撃する。
「グッ…ゴホッ…!」
腹部に直撃し、盛大に血を吐きながら田んぼに突っ込んだ菊乃。
「クソッ…何なんだよ…アイツ…は…」
その言葉を最後に、彼女の意識は闇に落ちて行った――。

「この程度で私達に挑もうなんて、見くびられたものね。
 ワイズマン様はこんなのばっかり集めたのかしら…」

最後にそう言い残し、No.12の刺青を首筋に入れた狂戦士は東にある湖の方角へ歩き去った。

【神宮 菊乃:瀕死の重傷を負い、意識不明】
【PC(NPC):狂戦士No.12『クイーン』登場】
18 ◆21WYn6V/bk :2010/12/23(木) 23:38:29 0
訂正
>>15
× 街を斜めに横断するように北西に向かって走る。
○ 街を斜めに横断するように北東に向かって走る。
19夜深内漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/24(金) 00:28:36 0
>>9 >>15
「ええ、そうです。僕が貴方のラジコンを改造して操作しました、斎葉 巧と申します」
「僕は友達の鎌瀬犬斗です…」
二人が名乗ったので
『私は夜深内漂歌という者です。』
と表示すると同時に
「よう、さっきはすまなかったな。改めて話をーー」
すると、こちらに気づいたのか
「おや、また会ったねぇ。不思議な縁もあるもんだ。
 さて、さっきは途中で切れちまってすまなかったが、今度は大丈夫だ。
 ここじゃなんだから、適当にどこか入ってゆっくり話さないか?」

「お久しぶりです神宮さん」
「ま…また会いましたね…」
「ところで僕達お邪魔ですか?もしそうならお暇しますけど」

「そうだったな…。アタシは別に聞かれて困る話はないけど、こっちの方がーー」
と話していると神宮さんは何かに気づいたのか遠くの方を見ると
「すまんね、また用事が出来ちまったようだ。ちょっと行ってくる。
 アンタらは街から出ない方がいいかもな。戦う自信があれば別だけど。
 …あ、そうだ。今度こそアンタの名前、聞いておこうかーー」
『そういえばまだでした。私は夜深内漂歌といいます。』
20夜深内漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/24(金) 00:44:38 0
神宮さんはこれを見た後
「んじゃ、死にたくなければ迂かつな行動は控えろよ?じゃあな」
といって別れて北西の方に走っていった
(…一段楽したら追いかけようと思ってたけど、どうしよう…
 先に行動控えるよう言われてしまった)
取りあえず私は目の前にいる二人の会話に集中することにした。

【夜深内 漂歌:神宮と別れた後斎葉と鎌瀬と再び会話する事にする】
21鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/12/25(土) 12:46:01 0
>>15>>19>>20
「すまんね、また用事ができちまったようだ。ちょっと行ってくる
アンタらは街から出ない方がいいかもな。戦う自信があれば話は別だけど」
「戦う自信…な、ないですね…」
「私は後ろの方でメカを作るタイプなもので」
要するに二人とも自信が無いようだ
「んじゃ、死にたくなければうかつな行動は控えろよ?じゃあな」
「あっ、はい。さよなら…」
「さようなら」
急ぐ神宮を見送る二人
(…うーむ。あんなに慌ててどこへ行くのでしょう?
見に行きましょうか。ステルスモード)
神宮の行動を怪しんだ斎葉は、ラジコンを神宮が行った方角へ飛ばす。その時、ラジコンに付けておいた光学迷彩も発動しておいた
「何しに行ったのでしょうか、神宮さん。気になりますね…。貴方はどう思います、夜深内さん?」
「あ、あの人に限ってしし死ぬようなことはないでしょうけど…」
「いや、もしかしたら分かりませんよ…?」
【鎌瀬&斎葉:神宮と別れ、夜深内に話す。また、ラジコンを神宮の方へ飛ばす】
22夜深内漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/26(日) 01:30:32 0
>>21
私が二人の会話に戻ると二人も同じようなことを考えていたのか
神宮さんの向かった方に先ほどのラジコンを飛ばした
あれでは感づかれるな、と思っていると
驚いたことに光学迷彩まで装備していたのか途中で視覚的には見えなくなった
(かなり改造してあるな…)
ラジコンを見送った後、二人は
「何しに行ったのでしょうか、神宮さん。気になりますね…。貴方はどう思います、夜深内さん?」
「あ、あの人に限ってしし死ぬようなことはないでしょうけど…」
「いや、もしかしたら分かりませんよ…?」

『そうですね…死ぬようなことはないとは思います。
 しかし、危険を未然に防ぐためわざと自主的に行く
 ことが多そうなので一応心配した方がいいとは思います。』


【夜深内 漂歌:斎葉の質問に対して返答】
23氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/12/26(日) 17:02:01 0
ズズズズズ……。
遥か遠くの空からの鳴動を聞いて、氷室は目をその方向へ向けた。
(でかい衝撃波。誰かが派手に動いているな。あの方角は……東か)

「隙ありぃーー!!」
それと共に声があがり、氷室の死角からハンマーを手にした太い腕が振り下ろされた。
声をあげたのはNo.170の大北という中年の男。
氷室は先程から複数の異能者と戦闘中で、彼は未だ戦闘を継続中の最後の一人だったのだ。
仲間を次々と沈めていった敵が見せた唯一の隙。彼にしてみれば絶好のチャンス。
しかし、誤算があったとすれば、それは氷室にとっては隙でも何でもなかったことだろう。

「……へっ?」
思わず間の抜けた声を出す大北。
振り下ろされた重いハンマーは、氷室の脳天上五cmの位置で、ピタリと止められていた。
止めたのは他でもない氷室の手。それも、か細い人差し指一本だけで、である。
「わざわざ敵に隙があることを教えてどうするんだよ。それじゃあ当たるわけないだろ?」
氷室の指がピンと接触部を弾く。
ハンマーは、それだけで音を立てて木っ端微塵に崩れ去ってしまった。

「ヒッ! な、なんなんだお前! 一体、何モンなんだ!?」
「物覚えの悪い男だね。466番の異能者だと言っただろ? それ以上でも、それ以下でもないんだよ」
強烈な眼光を叩きつけられた大北は、戦意を損失したように後ずさりし、哀願する。
「まま、待ってくれ! お、俺は、俺はまだ死にたくない! 俺には娘と妻がいるんだ!
 家と車のローンだって残ってる! まだ死ぬわけにはいかないんだ!」
「バーカ」
「たたた、たすけ──ひげっ!?」
氷室の姿が大北の視界から消え、その瞬間、首筋に手刀が叩きつけられる。
大北は目をぐるんと裏返し、白目を剥いたままバタリとのその場に伏せた。

「私がいつ殺すと言ったんだよ。お前らの命なんか興味はないさ」
言いながら一瞥する彼女の目には、およそ十人の男女が折り重なって倒れていた。
ただ、その誰もが首筋に痣があり、息がある。
以前の彼女であったら気を失わせて済ませるようなことはせずに、
情け容赦なくその首を切り落としていたことだろう。
氷室自身にまだ自覚はなかったが、それがカノッサの乱以降、彼女に起こった精神的な変化の一つであった。

「さて……」
氷室は再び東の方角を見据えた。
その頃にはもう鳴動は治まっていたが、一つの懸念が意識をその方角に向けさせたのだ。
すなわち、北東に向かうよう指示した、海部ヶ崎のことである。
「聞こえるか? 今どこだ?」
無線に喋りかけても、返ってくるのは「ザー」という音だけ。
故障や何らかの電波障害が起こっているのでなければ、
海部ヶ崎の身に何かが起こったと考えるのが自然であろう。

(まさかとは思うが……やれやれ、いちいち手のかかる奴だ)
内心で毒づきながらも、氷室は東の方向に駆け出した。それは無意識の行動だった。
無意識の内に海部ヶ崎の身を案じ、その体を突き動かしたのだ。
それも精神的な変化の一例、といっていいだろう。

「狂戦士との闘いを考えれば、今あいつに死なれては困る」
疾走しながら彼女の下へと向かう理由を紡ぐが、それはまるで自分に言い聞かせるようで、
または誰かに言い訳でもするかのようで、どこか滑稽であった。
24氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/12/26(日) 17:08:34 0
>>17
北の田園地帯の果てから進むこと十数分──氷室は東の湖付近に辿り着いていた。
(大きな気が弾けたのは恐らくこの辺りだ。
 しかし、昨晩、海部ヶ崎が言っていた西の湖とはまた別に湖があるとはな。呆れた広さだ)

辺りを見回しながらオーラを探っていく。
(……微弱だが、確かに近くに一つ。……あそこか?)
氷室が見た方向は、錆び付いた線路と隣り合うようにして佇む、建物があるところであった。
恐らくこの島にあるいくつかの廃駅の一つであろう。気はどうやらその辺りから感じられる。

ザッ、ザッ、と敢えて大きな足音を鳴らしながらそこへと近付く。
その間、感知した気が動いたり、またその大きさが変化する様子はない。
ということは、気の持ち主はこちらに気がついていないのだ。
つまり、意識がない状態か、あるいは瀕死状態にあると窺い知ることができる。
それは氷室の推理した海部ヶ崎の身に起きた状態と一致する。

しかし、気に接近する途中の田圃の中で氷室が目にしたのは、
全身血だらけにしながらゴミのように打ち捨てられた、海部ヶ崎以外の者の姿であった。
(海部ヶ崎じゃない? しかもこいつは──)
足早に駆け寄り、すっと屈んでその顔を確かめると、それはあの神宮と名乗る少女。
やはり気を失っているようで、息はしているものの、腕や脚は力なくダラリとしている。

「私が感じたのはこいつか……? ……まぁいい」

氷室は立ち上がると、腹部の傷口目掛けて蹴りを放ち、同時に微量の冷気を送り込んだ。
蹴りを受けて神宮の体が二度、ゴロリと転がる。
手荒いが、傷口は既に冷気によって患部奥まで凍りつき、出血を止めていた。

「止血はした。生きているなら目を覚ませ」

言うと同時に、これまでダラリとしていた神宮の腕や脚がピクリと動いた。
意識を取り戻したのだろう。それを見て、氷室は続けた。

「そして誰と闘ったのか説明しな。
 あれだけの気だったんだ。相手はそんじゃそこらの異能者じゃないだろ?
 ……四傑の一人なら、尚更話してもらわないとな」

【氷室 霞美:北の田園地帯で計10人の異能者(中級レベル)と交戦後、神宮と接触。
        海部ヶ崎の所在は未だ不明】
25赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/12/27(月) 00:25:56 0
>>14
愛鷹は駅の改札口へと続く階段に腰掛けていた。
綺麗な真紅のコートが汚れるのを全く気にしていないようだ。
コートの前は開けられていて、そのしたに着ている赤いスーツも遠目でもよく目立つ。
そして艶やかで長い黒髪。
歳は二十後半だろうに(本人が断固として教えない)その笑顔はまるで高校生ぐらいのそれだ。
(まさか、アシ姐も参加者に入ってたとはな……いや、いまはそれよりも、だ)
赤染は二ヶ月前に出て行った時となんら変わりのない愛鷹の様子を確認すると、質問した。

「それよりも、ここ二ヶ月どこほっつき歩いてたんだこの馬鹿が。おかげでこっちは一人であのボロ道場経営してたんだぞ、おい」
「先祖代々受け継いできた道場をボロ言うなって言ってんでしょ。いや、あたしも悪いとは思ってるわけよ。
 でも、そんな大変じゃないでしょ。門下生だって一人だし」
「大変なんだよ。お前忘れてんだろ。お前、失踪する一週間前ぐらいに近所のガキ大量に入門させたじゃねぇか」
「あぁ……まぁ、でも樋口くんも居るし、大丈夫しょ? あの優秀な樋口くんがいればさ」
「確かにガキを除けば唯一の門下生だった樋口くんが居れば多少――って話を逸らすな」

赤染は多少の苛立ちを込めて、頭を少し掻く。
いつもこうなのだ、会話のペースが乱されるというか――どんどん脱線していく。
言葉をいくら重ねても、なかなか話が進まない。

「――よし、組手しようか。二か月ぶりにさ」
「あぁ? 意味分かんねぇよ。だから、二ヶ月なにをやってたかのを――」
「おら、行くぞ」

気付いた時には愛鷹は飛翔していた。
階段の狭い段差を蹴って、真紅のコートと黒髪をひろげて。
空中で一回転し、その長い右足を遠心力を武器に振り下ろした。

「うりゃ、纏火流――『紅焔』!」
「な――!!」
赤染はそれを頭上で腕を交差して、ガードする。

「紅焔が二段攻撃なの忘れた?」
愛鷹が今放った右足とは逆の、左足を振り上げる。
その爪先が赤染の顎を狙う。
赤染はガードを解いて、バックステップを踏んだ。
支点となった右足が宙に浮いたことで、バランスを崩した愛鷹は左足を空振りした後、着地する。
「ったく、じゃあこの組手に勝ったら教えろよ。空白の二ヶ月について」
「その方があんたも燃えるんなら、いいよ」
二人は走りだし、その拳を交えた。
26赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/12/27(月) 00:27:08 0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここで一度、若干の複雑さを持つ『纏火大道流』と赤染との関係について説明しよう。

まずはその出会い。
赤染が初めてその力強く、一撃必殺を主とする格闘術を目撃したのは――戦う相手としてだ。

その時の赤染は死にかけていた。

肉体的にではなく、精神的に。
能力の暴走を起こしていたのだった。その炎熱の異能を振り回し、辺り一面を焦土に変えんとする勢いだった。
それを止めに入ったのが、緋縅愛鷹と――その姉、緋縅藍紗(あいさ)だった。
彼女たち姉妹は曾祖父から続く伝統ある格闘術、『纏火大道流』を継ぎつつも、裏の世界――カノッサや『幾憶の白刃』などが
属していた世界で情報屋や護衛任務を生業とし、その収入で道場の維持費や生活費を稼いでいた。
しかし、彼女達がその場に居合わせたのは偶然のようなものだった。あるいは運命のようなものか。

果たして、赤染は止まった。
その後に赤染を引き取ろうと言い出したのは藍紗だった。
勿論、愛鷹は猛反対した――当然の反応だった。
だが、藍紗も引かなかった。
「この子はまだ、助かる可能性がある。私はその可能性を潰したくない」と。
裏の世界で生きる以上、殺しにためらいを持ってはいけない――また、余計な危険を背負ってはいけない。
でなければ死ぬのは自分だからだ。
それでも、そのぐらい大きな危険(リスク)を背負ってでも藍紗は赤染を引き取ったのだった。
それから赤染は二人と共に生活し、姉弟同様の関係となった。

それが、今から十二年前――藍紗が死んだ日の約四年前の出来事。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ハァ……ハァ…くそ、相変わらずのすばしっこさだなぁ、おい」
「ん〜、パワーもスピードも技術も相変わらず高水準だけど、やっぱ二ヶ月じゃ対して変わんないか。まぁ、しゃーないか」

線路上で二人は対立していた。
近くのホームの屋根やベンチは所々砕けていて、それが組手レベルの被害では無いのは明らかだった。
だが、それに比べて二人には目立った傷一つどころか、アザ一つ見られない。

「確か私の拳が二発と蹴り一発カスって、あんたのは拳一つだからあたしの判定勝ちね。やりー」
あはは、とお得意のスマイルを放ちつつ親指を立てられた。
若干うざい。
「だから、あたしの秘密の二ヶ月間は永遠に闇の中ね、あっはっは」
「……あぁ、もういいよ。別にアシ姐が勝手にいなくなんのはこれが初めてってわけじゃねぇしな」
「じゃ、いい気分転換になったし、あたし行くわ」
片手をひらひら振って、愛鷹はそのままこの場を立ち去ろうとした。
まるで雑談を打ち切るような気軽さで。
「いや、待てよ、おい」
「なぁに〜?」
「どうせ、アシ姐もワイズマンって奴を止めにいくんだろ? なら、一緒に――」
「ダメ。実は、あたしそれ以外にも追っかけてることがあんのよ。だから単独行動の方が楽なのよ」
「なんだよ、それ」
「あたしに勝ったらそれも教えてやんよ」
その言葉を最後に、愛鷹はフェンスを飛び越え、赤きコートと黒き髪をはためかせ、この場から去って行った。

「元気でなにより――っていうには後味悪りぃなぁ、おい。くそ、さっさと俺も本来の目的に戻るか」
頭を掻きつつ、赤染は愛鷹と反対側のフェンスを蹴破った。

【赤染 壮士:緋縅愛鷹と別れ、駅周辺を探索する】
27鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/12/27(月) 20:36:11 0
>>22
『そうですね…死ぬようなことはないと思います。
しかし、危険を未然に防ぐためわざと自主的に行くことが多そうなので一応心配した方がいいとは思いますよ。』
「そうですよね。やはりもしものときのことを考え……っ!」
なにやら動揺した声を出す斎葉
「…大変なことになりましたよ…。神宮さんが倒れています。恐らく状況からして誰かにやられた可能性が高いです…。それも相当な実力者に…」
どうやらクイーンにやられた神宮を見つけたようだ
「え、あの神宮さんが!? それってそうとうやばいんじゃない!? 
万が一僕が戦うようなことになったらあっと言う間に消し炭だよ…!」
相変わらずネガティブな鎌瀬。だが強ち間違ってもいないだろう
「ええ、だからそう言っているのです。どうしましょう…
む、どうやら誰かが神宮さんを介抱しているみたいですよ。これで大丈夫でしょうか…?」
【斎葉巧:倒れた神宮をラジコンで発見。ラジコンの姿は見えないが感覚が鋭ければ気づくかもしれない】
28神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/12/28(火) 16:16:21 0
>>24
「止血はした。生きているなら目を覚ませ」

体に衝撃と冷気を感じ、意識が戻ってくる。
「ん…ここ、は…」
「そして誰と闘ったのか説明しな。
 あれだけの気だったんだ。相手はそんじゃそこらの異能者じゃないだろ?
 ……四傑の一人なら、尚更話してもらわないとな」
目を開けるとそこには見覚えのある人物が立っていた。──氷室 霞美である。
「闘い…?そうか、アタシはやられたのか…。
 かなり手酷くやられたな…。アンタが治療してくれたのかい?」
体を動かして自分の体を確認する。すると、傷を負った箇所は氷によって止血されていた。
痛みはないが、体が動きにくいところからかなりの重傷だったようだ。
氷室の方を見ると、そんな事はいいから早く話せ、とでも言いたげな表情をしていた。
「わかったわかった。そう急かすなよ、こっちは怪我人なんだぜ…」
そう言いながらも、痛みを感じないので表情に苦痛の色はない。
オーラで治癒を開始しながら、菊乃はゆっくりと先程起こった出来事を話し始めた。

「アタシは最初戦闘の気配を感じて街を抜けようとしてたんだ。
 そしたら駅のところに女が一人立ってた。
 名前は…そう、『クイーン』とか言ってたな。
 あと、『狂戦士四傑』とも言ってた。アンタ何か知ってるか?
 アタシにはさっぱりだ。ワイズマンの手下ってことは分かるけどな」
氷室の顔を見ると、何か心当たりがあるようで思案顔をしている。
「四傑って事はあんなのが後3人もいるのか。…こりゃ結構骨が折れるかもな」
一つ溜息を吐いて空を仰ぐ。
「それにあの強さ…。
 アタシはアンタ程強くはないしアンタの強さも知らない。
 でもそれなりに弱くもないつもりだ。
 正直なところ…あいつらはアンタでもタイマンはキツいんじゃないか?」
考え込む氷室をよそに、ポツリと呟いた。



「――そうだ、海部ヶ崎。海部ヶ崎がヤバいかも知れないんだ」
少し時間が経ち、治癒もだいぶ終わった頃、菊乃は起き上がりながら呟いた。
その言葉に、氷室が僅かに表情を変えてこちらを向く。
「そう、そもそもアタシが移動してたのはそれが目的だったんだ。…途中で邪魔が入ったけどな。
 場所は確かここから北東のはずだ。アンタ、仲間なら通信手段とか持ってないのか?」
氷室に尋ねるも、返ってきた返事はいいものではなかった。
「そうか…。ならやっぱり直接行ってみるしかねえな。アンタも仲間を放っておく程薄情じゃないだろ?
 …それにお互い戦力は一人でも多い方がいい。違うか?」
氷室は黙り込んでいる。
恐らく治癒したとはいえ重傷だった菊乃を連れて行くリスクを考えているのだろう。
「あー心配しなくても足手纏いにはならねえよ。テメェのことくらいテメェで何とかするさ。
 それに、いくら病み上がりだからってそこら辺の雑魚に遅れはとらねえよ」
その言葉に納得したのか、それともどうでもよくなったのか、氷室は嘆息すると道案内するように促してきた。
「んじゃ、行きますか。…死んでなきゃいいけどな」
不吉な呟きをもらしながら、菊乃は氷室と共に歩き出した。

【神宮 菊乃:意識回復。氷室と共に海部ヶ崎が戦闘していた地点へ向かう】
29夜深内漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/28(火) 17:23:52 0
>>27
「そうですよね。やはりもしものときを考え……っ!」
斎葉は何かに気付きそして
「…大変なことになりましたよ…。神宮さんが倒れています。恐らく状況からして誰かにやられた可能性が高いです…。それも相当な実力者に…」
(えっ、そんなこと…)
「え、あの神宮さんが!?それってそうとうやばいんじゃない!?
万が一僕が戦うようなことになったらあっと言う間に消し炭だよ…!」
(…神宮さんが倒されるなんて…相手はいったい…)
「ええ、だからそう言っているのです。どうしましょう…
む、どうやら誰かが神宮さんを介抱しているみたいですよ。これで大丈夫でしょうか…?」
一応傷による命の危険は少なくなったようであった
『相手にラジコンを通して何か伝えたらどうでしょうか
恐らく遅かれ早かれ気付いてしまうでしょうし、
あちらには敵意はないようなので
こちらに神宮さんを運ぶか、あちらで一時的に見てもらい
その間に私たちが神宮さんを迎えに行くというのがあります。
そうすれば、包帯や薬品は私の能力で作れますので簡単な治療はできます。』
30氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/12/28(火) 23:02:23 0
>>28
「闘い…?そうか、アタシはやられたのか…。
 かなり手酷くやられたな…。アンタが治療してくれたのかい?」

傷の具合を確かめるように体を動かし、氷室を見上げる神宮。
氷室は無言のまま、ただその静かなる瞳で彼女をじっと見下ろす。
まるで、状況を考えれば、それ以外にないだろうといわんばかりに。

「わかったわかった。そう急かすなよ、こっちは怪我人なんだぜ…」

そうして神宮はゆっくりと明かし始めた。己の身に何が起こったのか、その一部始終を。
──氷室にしてみれば、それは正に予想通りという内容であった。
神宮を瀕死の状態に追い込んだのは四傑の一人、『クイーン』と名乗る女だったのだ。
(やはり四傑の仕業か。ジョーカーに続いてクイーンもその正体を白昼の下に曝したということは、
 奴らもそろそろ積極的に殺戮を開始し始めたと見るべきだろうな。
 ……待てよ、だとすると通信を途絶している海部ヶ崎もあるいは……)

思案を巡らせていると、不意に神宮が起き上がった。
「――そうだ、海部ヶ崎。海部ヶ崎がヤバいかも知れないんだ」
海部ヶ崎──丁度頭に浮かんでいたそのキーワードを神宮の口から聞いたことで、
思わず氷室は考えるのを中断して、ジロリと目だけを彼女へと向けた。

「そう、そもそもアタシが移動してたのはそれが目的だったんだ。…途中で邪魔が入ったけどな。
 場所は確かここから北東のはずだ。アンタ、仲間なら通信手段とか持ってないのか?」

北東。それは氷室が指示した方角に一致する。
神宮がどうやって海部ヶ崎の居場所を知りえたのか疑問が残るが、
仮に彼女が何らかの方法で海部ヶ崎のオーラを判別できる術があるとするなら、
恐らく言っていることは間違いではないのだろう。
そしてむしろそう考えればこそ、氷室の抱いた懸念は一層の信憑性を増すのである。
(あの鳴動は確かにこの辺りから発していた。……あれが神宮とクイーンの闘いの音でなければ、
 やはり、海部ヶ崎と別の誰かの戦闘音か。誰かが……そう、恐らく高確率で四傑の誰か……)

「そうか…。ならやっぱり直接行ってみるしかねえな。アンタも仲間を放っておく程薄情じゃないだろ?
 …それにお互い戦力は一人でも多い方がいい。違うか?」
無言で考えている内に、神宮は氷室の長い沈黙を「答えられない」、
つまり「通信手段などない」の意だと受け取ったようだった。
もっとも、無線があっても連絡が取れないのだから、あながち間違いでもない。

「あー心配しなくても足手纏いにはならねえよ。テメェのことくらいテメェで何とかするさ。
 それに、いくら病み上がりだからってそこら辺の雑魚に遅れはとらねえよ」
「……それは心強い」
オーラの効果によって治癒されながらも未だ深い傷を残す神宮に対し、
氷室は一つの溜息の後、皮肉混じりに切り返した。
そして自分の前へ出て先へ進むように軽く顎をしゃくった。

「んじゃ、行きますか。…死んでなきゃいいけどな」
「いいから早く行け」

氷室は神宮が進む方向の先を見据える。向かう先はどうやら湖。
その湖の上空には、どういうわけか巨大な虹が架かっていた。

【氷室 霞美:東の湖へと向かう】
31 ◆ICEMANvW8c :2010/12/28(火) 23:20:07 0
狂戦士──それはかつてカノッサが創り上げた怪物。
とっくの昔の処分されたはずの存在が、今もこうして島中をうろついている。
その理由をジョーカーと名乗る狂戦士は、
処分寸前に島の主であるワイズマンに救い出されたから、と言った。

──恐らくそうなのだろう。だから彼ら狂戦士はこの島に居る。
だが、その理由を知る者も知らぬ者も、あるいは狂戦士の存在を知っても知らなくとも、
参加者にとっては常に等しく危険な状態に置かれていることに変わりない。
狂戦士が求めるもの、それは戦闘。もし出会えば、そこに話し合いの余地はない。
決着がつくまで……どちらかが相手の命を奪うまで闘い続けなければならないのだ。

「ハァ、ハァ……!」
だが、中にはそれを知ってか知らずか、狂戦士との闘いを放棄する者もいる。
南西から北西にかけて一文字に連なる森林地帯を北に向けて疾走するこの少年──
いや、青年だろうか? ともかく、彼はその一例であったろう。

「全く、他に参加者は沢山いるだろうに、何で僕を追うかなー?」
「ウガァァァァアアアアアアッ!!」
「うわわ!」

後方僅か一メートルにまで迫ったスキンヘッドのマッチョ男が、
獣のような声を発してブンブンと腕を振り回す。
その際に爪先がチャカ、チャカと、青年が腰に下げた剣の鞘に当たり、更に恐怖を煽る。

「ちょっと止めてよー! 僕はキミと闘えないんだってばー! って、どうせ言っても無駄だよねー……」
「ウヴァオオオオオオッ!!」
「わぁぁ! いい加減にしてよー! どこまでついて来るのさー!」

逃げれば追われる、追われれば逃げる。
この不毛な追いかけっこが開始されてから既に一時間が経過していた。
追う側のマッチョ男の首筋にはNo.2の文字が刻まれている。そう、彼は狂戦士なのだ。
だからいくら走っても何も感じないのだろうが、追われる側の男も大きく疲労している様子がない。
その体力には驚愕すべきものがあるが、真に驚くべきはその風貌であろう。

「緑の黒髪」というものを具現化したような綺麗でサラサラな髪の毛。
男性とは思えないような体つきに、どこか女性を思わせるような声質。
そして、そこらの下手なアイドルよりも整った顔立ち。
これで二十歳の青年だというのだから現実とは冗談よりもタチが悪い。

そんな彼の名は「王将 みちる」。
この島に居るということは、当然ながら異能者である。
彼の実力には不明な点が多々あるが、少なくとも表面上の動きから見れば、
レベルはかろうじて中級に滑り込めるくらいのものだ。
狂戦士の下級相手なら、闘えないほどではない。作戦次第では勝つこともできるだろう。
それでも彼が終始逃げに徹しているのは、闘わずに済ませたいと思っているからである。
いうなれば世の中、何も好戦的な異能者ばかりではないということなのだろう。

「しつこいなー! 撒くために森に入ったのにー、もー!」
王将青年の視界が突然開ける。それは森の終わりを意味していた。
だが、その代わりに真っ先に目に飛び込んできたものがあった。
それは明らかに人工的な建物──無人となった駅であった。

「あ!?」
途端に王将の声色が変わる。偶然、向かう先に人がいるではないか。
しかも強そうな男だ。……ふっと、微かに王将の口元が意地悪く歪む。
彼は執拗についてくる追跡者を、その男に倒して貰おうと考えたのだ。
「だーれーかー! たーすーけーてー!」
吸い込んだ息をありったけの悲鳴に換えて、王将は男に向かった。

【赤染 壮士のもとに『王将 みちる』という謎の青年が接近する(狂戦士を連れて)】
32夜深内漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/28(火) 23:38:41 0
【夜深内漂歌:斎葉に提案をする】
33天木 諫早&エース ◆0i7FhSLl8w :2010/12/29(水) 04:32:33 0
体を休めていた天木は、不穏な物音のせいで浅い眠りから覚めた。
音がしないように、ゆっくりと立ち上がり、周りを伺う。特にこれといっておかしいところは無いように見える…
が、その後ろの茂みから突然、男が立ち上がった。
完全に気配を殺して天木に背後から近寄っていたその男は、両手を上げ、交戦する意思が無いことを示す。

「まって、いや、その…戦おうとした訳じゃ無いんだ。俺は参加者じゃぁ無い、この島に元々居た人間だ。」

確かにその男の腕には腕輪がついていない。
が、黒のジャケットから覗いた手首を見るだけでも、相当鍛えられている事が解る。
そう、体格だけで見るなら、確実に何か武術を嗜んでいると推測出来るだろう。
顔つきからして、年齢は20歳前後だろうか。その表情は、何かを堪えるような、ひどくばつの悪い顔をしていた。

「…肘まで服をまくって見せてくれ。…なるほど、確かに腕輪が無いな、ゲームの参加者じゃァねェようだが…」
「お前はこの島で行われているゲームの事を知っているのか?…いや、知らねェはずはねェな、気配を殺して近付いてきた、さっきの様子じゃァ。
俺はこのゲームに参加する前に、『主催者』側の奴に言われた言葉がある。すなわち、【この島には異能者しか入れない】。
つまり、お前は異能者だが…ゲームには参加してねェッて事だ。もしかして、『主催者』側の人間か?」

その言葉に、男は詰まってしまう。
まさか、こんなに直ぐにバレるとは思っていなかったのだ。

「…なるほど、『主催者』側のようだな。どういうつもりでシラをきるのか知らねェが、…何しに近付いてきた?」
「俺は…俺は…オマエヲコロスタメニ…」
「…ッ!?」

圧倒的な殺意が目の前で膨れ上がったのを感じて、天木はすかさず後ろに飛び退いた。
鋼球を数個取り出し、オーラの充填を始めるが、コンマ数秒で男は天木の目の前まで距離を詰める。

「くそ、早ェ…ッ!」

天木は逃げながら、鋼球を操り男への攻撃をしかけた。頭部への強力な一撃、くらえばもう立ち上がれないだろう。
しかしあろうことか、男は高速で近付く鋼球をそのまま「殴った」。一瞬、男は拳にオーラを纏い、その手がブレたように見えた。
鋼球の正面衝突に男の拳は難なく耐え、更に鋼球は不自然な振動と共に空中で破裂する。

「…どういう能力だ、身体がバカみてェに強化されてンのは解るが、ただがむしゃらに殴っただけじゃァあァはならねェ!」

必死で逃げるが、男はそれについて来る。操作して放つ武器の攻撃も全て弾かれ、更に武器が使用不可能になるまで粉砕されてしまう。
直ぐに天木は追い詰められた。天木の体力では男から逃げ切れず、男がトドメの一撃を天木に放とうとする。

「はァ、はァ…くそ、ただじゃァ死なねェぞ、俺ァッ!」

『凶弾』(キラーショット)。逃げ回る中で、鋼球にオーラの充填が完了していた。超速の砲弾に男は反応しきれず、横っ飛びに避けるが弾は腹をかすり、肉を抉り取る。
しかし、男は直ぐに起き上がり、もう一度距離を詰めていた。傷の痛みなど何とも無いかのように、拳を振り上げ、そして…

「ア、アアアァァァァッ!…グ、く…お、い、お前!早く逃げろ、俺から逃げて、くれ…じゃないと、殺してしまう…ッ!」

突然男の様子が急変する。脂汗を流しながら、必死で体の内部と戦っているかのように。天木は即座に体を翻し、森の中へ消えた。

「あ、危ねェッ!あいつ、二つの自我があるみてェだった…殺人衝動と、もう一つ…まともな方は、何を考えてンだ?」

だが、その答えは天木には解らない。わかるのは、もう一度あの男に狙われればそれまでということだ。

「…気配を消す技、オーラの集中…あれが基本的な戦闘スタイルみてェだな、色々教えてくれたじゃねェか」

走るうちに、天木は田園地帯に入っていた。川に沿って進む彼の眼に、東の湖が見えてくる。

【天木 諫早、基本的戦闘方法を実戦で知り、東湖に近付く。謎の男、西湖周辺で待機。多大な戦闘オーラを放ちながら、己の殺人衝動と戦っている。】
34海部ヶ崎 綺咲:2010/12/29(水) 23:58:15 0
──海部ヶ崎は、絶え間なく聞こえる波の音で目が覚めた。
「こ……ここは……」
ボンヤリと焦点が合わない目を凝らしながら、手をグッと握り締める。
すると、ジャリっとした、砂の粒が擦れあう感触が手に伝わった。
波の音、そして砂の感触……自分がどこにいるのか、把握するにはそれだけで十分だった。
「どこかの湖岸か……痛ぅッ!?」
起き上がろうと腕に力を入れた途端、全身にとてつもない激痛が走る。
海部ヶ崎は仰向けに倒れ伏しながら、かすれた目で全身を見渡した。

「……くっ……」
かすんでいた視界が徐々に慣れるに従って、
自分の身がどのような状態にあるのかがハッキリとしていく……。

服は、タンクトップ右肩から右胸にかけてが裂け、その下の下着を露に。
ショートパンツは更に露出の激しいものとなり、少し太ももを動かしただけでショーツの端が見え隠れする。
だが、服以上にボロボロであったのは自らの体であった。
体中の至る所の皮膚が破け、出血し、酷い箇所になると肉が抉れ無くなっている。

ところが、それを見た海部ヶ崎がまず漏らした声は、安堵のものであった。
「……良かった……“この程度”で済んで……」
ジャックが放った破壊の閃光は、確かに絶大な威力があった。
しかし、閃光が放たれた瞬間から直撃まで、彼女が何もしていなかったわけではない。
直撃のその時まで、彼女は自らを中心とした空間に強力な磁場を展開し、
地面から集めた砂鉄を自らの前面を覆うシールドのように変え、衝撃を軽減していたのだ。

でなければ、肉体はとっくの昔に塵も残さず消滅していたか、
あるいは仮に一命を取り留めても、手足の何本かが吹き飛び、
この先二度と立ち上がることのできない無残な体に変えられていたはずであろう。

「とは……言ったものの……ぐっ」
腕を上げて、胸元に持っていく。それだけで容赦なく激痛が走る。
これではしばらく満足には動けない。今、敵が現れたらお終いである。
こうなったら、後で何と嫌味を言われようと、何と思われようと氷室(仲間)を呼ぶしかない。
しかし、胸をまさぐった海部ヶ崎は、直ぐにその手段も失われてしまったことを知った。
「……私の体は耐え切れても、これは耐え切れなかったか……」
無線が内蔵されていた小型のチップは、無残にも真っ二つに割れていた。

「回復するまで……運を天に任せるしかない、か……」
どうせ動けないなら、眠っていた方がマシだろう……。
海部ヶ崎は胸に置いた腕を砂浜に下ろすと、そのままぐったりとした様子で目を閉じた。

【海部ヶ崎 綺咲:現在地、東湖の南側の砂浜】
35神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/12/30(木) 05:12:28 0
>>31
氷室と共に歩くこと数十分──。
田園地帯を抜けた二人の目の前には大きな湖が広がっていた。

「確か戦闘が起こってたのはこの辺のはずだ。ん──気配が結構多くて特定できないな」
周囲の気配を探ってみたが、湖の周辺にはそれなりに人がいたようで海部ヶ崎の気配を特定できなかった。
この気配探知も、実は機械化の恩恵だったりする。
菊乃自信は気付いていないが、実験の際に中にレーダーを埋め込まれていたのだ。
その為、以前カノッサが使っていたスキャナーの様なことが生身で可能なのである。
「一人一人潰していくのも面倒だしなぁ…。ここから見てみるか。
 …森の中とかだったら見つけられねえな」
左目の望遠機能を使用し、湖畔をゆっくりと見回していく。
その様子を横で見ていた氷室の目には、菊乃が肉眼で周囲を見ているように見えたのだろう。
何をやっているんだこいつは、という目で菊乃を眺めていた。
「──お、あれか?おい、いたぞ!」
その言葉に氷室はまさか、という顔でこちらを見た。
「驚いてる暇はねぇ。タネならあとで明かしてやる。
 それよりも海部ヶ崎だ。倒れたまんまピクリとも動かねぇぞ……。
 それに全身傷だらけだ。…生きてるのかも怪しいくらいにな」
それを聞いて、氷室も思うところがあったのか、舌打ちをしながら駆け出した。
菊乃もそれに続いて走り出す。目的地付近にいたもう一つの存在に気がつかずに──。


湖畔をぐるりと回って海部ヶ崎が倒れている地点に辿り着く。
一足先に着いていた氷室は、既に海部ヶ崎の意識の確認をしていた。
一目見ただけで海部ヶ崎の状態がわかったのだろう。流石に菊乃の時の様な乱暴な治療はしなかった。
「おい、大丈夫なのか?」
心配そうに声をかける菊乃。
氷室から返ってきた返事は、傷は酷いが眠っているだけ、というものだった。
「そうか……。生きていて何よりだ」
素直に海部ヶ崎の身を案じる菊乃。しかしその直後──

「あら驚いた。こんな短時間で動けるようになるとはね」

自分でも氷室でもない、しかし聞き覚えのある声が背後より聞こえた。
弾かれるように振り向く。そこには──『狂戦士四傑』の一人、クイーンが立っていた。
「テメェ…あれだけやっといてまだ気が済まないのかよ。
 とんだキチガイ野郎だな」
「失礼ね…。勘違いしないで頂戴。私は別に戦いに来たわけじゃないわ。
 つまりはあなた達が目的じゃないって事。私は──あら?」
クイーンの視線が氷室を捉えたところで止まる。
「あなたは……フフッ。こんなところでお目にかかれるとはね」
当の氷室は訝しげな顔でクイーンを見ている。
「氷室…コイツがさっき話した『クイーン』だ」
そんな氷室に言葉をかける菊乃。
次の瞬間、氷室の目つきが鋭いものへと変わった。
「あらあら、怖いわねえ。
 ま、さっきも言ったけど今回は別に戦いに来たわけじゃないの。
 ジャ──近くに用事があって来たのよ。
 それに私に構ってる暇はないんじゃない?その人、重傷なんじゃないの?」
海部ヶ崎を指差して告げるクイーン。確かに今は海部ヶ崎の治療が優先だ。
「余計なことに気を回さずに、その人の治療に専念した方がいいんじゃない?
 …じゃ、私はもう行くわ。こう見えて暇じゃないのよ」
そう言い残し、この場から立ち去るべくクイーンは踵を返した。

【神宮 菊乃:海部ヶ崎を発見。同地点でクイーンと接触】
36鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/12/30(木) 20:05:24 0
>>29
『相手にラジコンで何か伝えたらどうでしょうか
恐らく遅かれ早かれ気付いてしまうでしょうし、
あちらに敵意はないようなので
こちらに神宮さんを運ぶか、あちらで一時的に診てもらい
その間に私たちが神宮さんを迎えに行くというのがあります。
そうすれば、包帯や薬品は私の能力で作れますので簡単な治療はできます』
「了解しました。…おや、女性が神宮さんに何かしてるみたいですよ。……傷口が凍っています。冷気を扱えるのでしょうか?
…え?
大変です! 病み上がりにも拘わらず神宮さんがどこかに走っていきました!追跡します!」
ラジコンで神宮を追跡する斎葉。呼びかける隙はなかった
「あ、あの人も無茶するよね…」
「全くです。いくらサイボーグだからと言っても、万能じゃないし、不死身でもないんですから!」
『神宮サン!神宮サン!』
追いかけながら、ラジコンから音を出す斎葉
【斎葉巧:神宮一行をラジコンで追跡】
37赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/12/30(木) 23:57:38 0
>>31
駅周辺を探索した結果はあまり良いものではなかった。
まず駅内部を隈なく見て回ったが、やはり昨夜寝泊まりした喫茶店同様に食材以外のモノはほぼ何もなかった。
電話はもちろん、島の地図なんて気の利いた物も当然存在しなかった。
次に駅の屋根へと上り、街を見下ろし、その街の広さに愕然とした。
駅だけではなく、街自体もその辺の地方都市と同様の面積を有していたのだ。
これに加え、西には湖、北には田園地帯、更にその先には山が連なっていた。

「こりゃあ、ワイズマン達を探し出すのは骨が折れるなぁ、おい」
屋根から飛び降り、三十メートルもの高さを落下したのち、赤染は着地した。
オーラで強化された――それも接近戦型(タイプ)の異能者にはこれぐらい何でも無い事だ。

(さぁて、これからどうするか。こっちから探すのは難しいが、向こうから接触させる方法なんてのもありはしねぇ。
 ……取り敢えず、一度街に戻って狂戦士を探すか。今朝に出会った様な奴らも倒した方がいいだろうし、もしかしたら、
 海部ヶ崎が言ってた知性を持った狂戦士って奴に遭遇するかもしれねぇ)

あまりにも希望的観測が多い指針を決め、街へと歩き始めた。
その直後であった――――

「だーれーかー! たーすーけーてー!」

視線を九十度右にやると、そこにはこちらに駆け寄ってくる二つの人影。
いや、よく見ると手前の女性が奥の男性に追われているようだった。
そして、「だれか」、と言いつつも彼女は一直線にこちらに助けを求めてきた。
ここで赤染がとる行動は決まっている。
なにせ彼は人助けを目的とした『纏火大道流』の使い手なのだから。
38赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/12/30(木) 23:59:36 0

「そこまでだ、一旦止まれハゲ野郎」

女性が自分の背後に回り、男が目の前で停止した所で赤染はそう言い放った。
赤染がハゲ野郎と称したスキンヘッドの男の様子はハッキリ言って異常だった。
眼は瞳孔を開き、口周りは涎で汚れており――その正体は首筋に刻まれていた。

「『CO』に『2』のタトゥー……早速見つけたが嬉しくはねぇぞ、おい」
そう、この男は狂戦士だったのだ。
恐らく背後に回り、完全に自分の背に隠れた彼女は不幸にもこの狂った戦士と遭遇したのだろう。
「仕方ない……とは言いたくないが、お前ももう眠れ」
赤染は構えるまでもなく、いきなり蹴りを相手の腹へと放つ。
狂戦士も当然それを腕で防御するが、次の瞬間にもうひとつの衝撃が狂戦士の顔面を襲った。
頭突き。
蹴りをはじめから捨て牌として、本命は頭突き(これ)だったのだ。

(狂戦士は能力は使わない――この仮説多分あってる。ならとっとと決めるか)
赤染は拳を腰に据えるように構え――『気焔』を打ち放った。
その拳は頭突きで体勢が崩れた狂戦士の胸部に突き刺さる。
だが、前のようにその胸を吹き飛ばすことは無かった。
『気焔』の衝撃はいつものように炎熱を付与されたのではなく、全て炎熱に変換され、内部のみを焼いたのだ。
ジュワァ、と肉が焦げる音が二人の体内に響いた。
狂戦士の心臓は炭と変わらないモノに成り果て、それはその男の最期を意味していた。

「…………ちっ」
二度と起きる事は無くなった狂戦士を赤染は肩に担ぎ、駅の人目につかない所に壁を背に座らした。
それを女性は不思議なものを見る目で眺めていた。
その女性のもとへと赤染は近づき、話しかけた。
「もうあいつは襲ってこない。安心しな。で、嬢ちゃ…………うん? もしかしてお前男か?」
ここで始めてその驚愕の事実に赤染は気付いた。
(驚いたな。アシ姐も年齢十歳詐欺な顔してるが、こいつは性別詐欺な顔してやがる。
 全く、この島に来てからは驚くことばかりだな)
「いや、まぁいい。それよりも怪我とかは無いか? あぁ、ないならそれでいい。
 俺の名は赤染 壮士。お前と同じく俺もこの殺人ゲームに参加させられてる」
男性は「緑の黒髪」としか言い表せない髪をしていて、声だけじゃなく顔立ちも女性と間違えそうな端整さだった。
そして、その端麗な顔の次に眼についたのは腰の刺突剣(サーベル)。

「ん? お前、武器持ってるのになんで使わなかった。この島にいるならお前も異能力者なんだろ?
 なら、それが飾りとは思えねえが」

【赤染 壮士:王将 みちるを助け、会話する】
39天木 諫早 ◆0i7FhSLl8w :2010/12/31(金) 14:33:10 0
>>35 >>34
東湖に近付くに連れて、天木は何か威圧感のようなものが高まっていくのを感じた。

「これが気ッて奴だなァ、もっと正確にわかるようになれればいいンだが…」

やがて、天木は湖のほとりに4つの人影を見つけた。
一人は何事か話した後、踵を返し、そしてもう一人は、先程戦って負けた、あの重力使いだった。

(…なるほどなァ、この状況で何人かでチームを作ってるッて事ァ、あいつらゲームに参加してねェンだ。
つまり、ゲームに勝利する事じゃァ無く、もっと別の方法でこの島からの脱出を図ってるッてェ事だな。
だから、アイツは俺を殺さなかった…。つまり、あいつらは俺を攻撃しないはず。近付いても大丈夫だ。)

考えながら、近付く。

「よう、また会ったなァ、重力使いィ。そこに居るのは何だァ?お前の仲間か?」

神宮が驚いたように振り返り、納得がいったように表情を戻した。
隣の女性に何事か説明する。恐らく、先程の接触の事を話しているのだろう。
そこまで考えて、横たわっているのが先程自分が攻撃した相手であることに気付いた。
恐らく自分のつけた傷では無い、他の何かにやられたのだろう、ボロボロになっている。

「何だ、こりゃ…どうやったら此処まで傷つくんだ?!」

かけよって、傷跡を眺める。
一瞬氷室が制止するような素振りを見せたが、構わずに近付いた。

「酷い怪我だ…ちょっと待ってろ、役に立つかは解らねェが」

眉をしかめながら、スーツケースの中をかき回し始めた。多数の武器や資料の中から、医療パックが出てくる。

【天木 諫早、神宮達に接触。海部ヶ崎の手当てを始める。】
40氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/12/31(金) 18:01:08 0
>>35>>39
近くで見る湖は予想よりも一層広く、大きいものであった。
できることならこの付近に海部ヶ崎がいるとは考えたくはない(探すのが面倒だから)。
しかし、状況証拠から、ここで戦闘があったことは確かであるようだった。

氷室は視線を湖の奥へ奥へ、中心部へと進めていく。
それにつれて、透き通るような綺麗な湖水から徐々に濁りが見えてくるのだ。
恐らく普通の人間が見たのでは判らない程度の僅かな濁り。
人間離れした視力を持つ氷室だからこそ肉眼での視認が可能なのだが、
氷室が見るにその正体は、湖底深くに沈殿していたはずの泥とプランクトンの死骸。

循環器のようなものが無人の島の湖の底に設置されているとは思えない。
とするなら、何らかの衝撃で湖底の泥が湖面まで噴きあがったと考えるべきだろう。
そして恐らくその衝撃が、雨上がりでもない湖に虹を架けたのだ。
(何らかの強い爆発がここで起き、それが鳴動となったんだろう。
 それに海部ヶ崎が巻き込まれたなら……今頃は湖の底か、それともいずこかの湖岸か……)

チラっと、隣の神宮に目をやる。
彼女はあくまで氷室とは全く違うあらぬ方向を見つめている。
何をやっているんだ──と、氷室は溜息をついた、その時だった。

「──お、あれか?おい、いたぞ!」
突然、神宮が声をあげたのだ。
傍らで半信半疑な目をする氷室を他所に、神宮はどこかへ一目散に駆けていく。
「驚いてる暇はねぇ。タネならあとで明かしてやる。
 それよりも海部ヶ崎だ。倒れたまんまピクリとも動かねぇぞ……。
 それに全身傷だらけだ。…生きてるのかも怪しいくらいにな」
「やれやれ……これまた突然だな」
氷室は小さく息を吐き、次いで舌を鳴らしてその後を追った。

──結論から言えば、神宮が言ったことは事実であった。
海部ヶ崎は生きてるのかも怪しいくらいの重傷で、南側の湖湖岸に伏していたのだ。
「……」
神宮よりもそこに一足早く駆け付けた氷室は、黙ったまま素早く脈を確かめた。
脈は……ある。重傷だが心臓はまだ動いており呼吸をしている。
「おい、大丈夫なのか?」
神宮の不安を打ち消すように、氷室は即座に平然と答える。
「……傷は深いが、眠っているだけだ。しばらくすれば起きるだろう」

ただし、最後の言葉だけは根拠がない。
もしかしたらこのまま衰弱して、二度と起き上がることはないかもしれない。
それだけ見た目は死人のそれに近く、脈も不規則であった。
(これだけ深い傷が全身に及んでいると、冷気による応急処置が逆に止めになりかねない。
 ……やれやれだ……)

「あら驚いた。こんな短時間で動けるようになるとはね」
突然の、第三者の声──。咄嗟にその方向を見ると、見たこともない女が立っていた。
「……何だお前?」
純粋な疑問を繰り出す氷室。だが答えたのはその女ではなく、神宮であった。
41氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/12/31(金) 18:09:39 0
「氷室…コイツがさっき話した『クイーン』だ」
「ほう……お前が……」
氷室は屈めていた腰をゆらりと上げ、氷のような視線を叩きつける。
しかし、そんな強烈な眼光もものともせず、女は──いや、クイーンは平然と構えた。
「あらあら、怖いわねえ。
 ま、さっきも言ったけど今回は別に戦いに来たわけじゃないの。
 ジャ──近くに用事があって来たのよ。
 それに私に構ってる暇はないんじゃない?その人、重傷なんじゃないの?」

……そんなことは言われなくても解っていることだ。
数で言えば三対一。しかし、その内一人は意識のない重態で、もう一人も負傷している。
いくら氷室といえどそんな二人を庇って、四傑の一人と闘うことなどできはしない。
だからこそ戦闘を裂ける為に“威嚇”をしたのだ。
もっとも、それは効果はなかったようだが、結果的に相手はここから立ち去るというのだから、
下手に深追いはせずに黙ってそうさせてやるのが望ましい。

「行かせてやれ。今はその方が好都合だ」

踵を返して立ち去っていくクイーンを尻目に、氷室は海部ヶ崎の腕を掴み、肩に回した。
その時、氷室の眉がピクリと動く。感覚が何者かの気配を捉えたのだ。
それも明らかにクイーンのものではない、別の誰かのものだった。

「……」
振り向くと、そこには顔中にピアスをつけた若い男が立っていた。
「よう、また会ったなァ、重力使いィ。そこに居るのは何だァ?お前の仲間か?」
男の第一声を聞き、神宮が何かと呟く。
波の音に遮られてよくは聞こえなかったが、どうやら顔見知りであることは確からしい。
「何者だお前? 何しに──」
「何だ、こりゃ…どうやったら此処まで傷つくんだ?!」
男は、訊ねる氷室を完全に無視してその横を通り過ぎ、倒れる海部ヶ崎に近付く。
そして持っていたスーツケースを開き、何やらと取り出した。

「……」
氷室はすっと静かに男の傍らに立つと、瞬間男の首根っこを掴み、その腹に拳を叩き込んだ。
ドボオ! と鈍い音を発しながら、男の体が空中に舞って五、六メートル先の湖に落ちる。
死んではいない。死なないよう、敢えて五、六メートル吹っ飛ばすくらいに手加減したのだ。

「海部ヶ崎(こいつ)に勝手に触るな。私は、何者かと訊いたんだ。医者か?」
男の気から彼に悪意が無いことは判る。恐らく善意でやったことだろう。
しかし、仲間の命が掛かっている以上、恐らくなどという曖昧な判断で、
正体も判然としない者に治療を任せるわけにもいかないのだ。

「神宮(こいつ)の知り合いだか何だか知らないが、
 私は得体の知れない奴に仲間の身を任せるほど他人を信じているわけじゃない。
 もう一度訊く、お前は何者だ? 何しにここへ来た? 返答次第じゃ……解るな?」

氷室が手をグッと握り締める。
それだけで、指の関節がコキ、コキと、盛大な音を立てて鳴った。

【氷室 霞美:海部ヶ崎発見。天木に拳を叩き込み、何者かと問う】
42 ◆ICEMANvW8c :2010/12/31(金) 18:14:54 0
>>37>>38
「そこまでだ、一旦止まれハゲ野郎」
王将が助けを求めた男のこの言葉で、バトルは始まった。
ここまでは王将の目論見通りの展開である。
そして結果から言ってしまえば、軍配も彼の予想した通り助けを求めた男に上がった。
しかし、たった一つだけ、彼の予想を遥かに上回ったものがあった。

それは決着までのスピード。
一分、あるいはそれ以下という短い間に、勝負が決まってしまったのだ。
(へぇ……)
その鮮やか過ぎる速攻劇は、王将に感嘆の息をつかせるに十分であった。

「もうあいつは襲ってこない。安心しな。で、嬢ちゃ…………うん? もしかしてお前男か?」
今度は男の方が驚いた様子で王将の全身を窺うように見る。
無理もない。一見すると女性そのもののような体付きに顔付きをしているのだ。
むしろ、初対面で直ぐに性別を見抜く方が特異といえるだろう。

「あはは、良く女に間違われるんだ。何なら証拠見せようか?」
……証拠。それが何を意味するのか……男であれば察しがついた時点で首を横に振るだろう。
実際、男も直ぐに拒否の意を示し、話題を変えてみせた。

「いや、まぁいい。それよりも怪我とかは無いか? あぁ、ないならそれでいい。
 俺の名は赤染 壮士。お前と同じく俺もこの殺人ゲームに参加させられてる」
「赤染 壮士……かぁ。あ、僕は──」
「ん? お前、武器持ってるのになんで使わなかった。この島にいるならお前も異能力者なんだろ?
 なら、それが飾りとは思えねえが」

続いて吐かれた言葉に声を遮られた王将は、少しムッとした口調で言い返した。

「もぉー、僕の名前は“お前”じゃないよ。王将 みちる。歳は二十歳。趣味はショッピング。
 好きな物はケーキとあんみつ。靴のサイズは25.5。えーとそれからそれから……
 そう、とにかく人の話は最後まで聞かなきゃダメってこと。でないと……」

人差し指を左右に振りながら、あーだーこーだと言い始める王将。
だが、やがて話が脱線していることに気がついたのか、
振っていた指をピタリと止めると、少し気まずそうにコホンと咳払いして仕切りなおした。

「……えーと、何だっけ? あ、そうそう、まずはお礼言わなきゃ。どうもありがとう。
 ホントどうなることかと思ってたから助かったよー。
 あのままだと地球の果てまで逃げなきゃならないところだったもんねー、ホントにさー……
 ……あ、ごめんごめん。また脱線しちゃった。えーと……それで何だっけ?」

けろっとした顔をしながらまた話を振り出しに戻す。
どうやら彼はどこかヌけてるだとか、マイペースだとか、そういった類の人種らしい。
気付けば呆れたような視線が腰の辺りに注がれている……
そこで、彼はやっと何を訊かれたのかを思い出したようだった。

「あ! これを何で使わなかったのか、だっけ?
 別に大した理由じゃないよ。闘いたくない相手だったから、抜きたくなかっただけなんだ。
 上手く撒ける自信もあったしねー。まぁ、結果は一時間の追いかけっこになっちゃったんだけど」
自分に苦笑したということなのだろうか、王将の口からクスッとした声が漏れる。
……だがその顔も、一つの間を置いて急に神妙なものとなった。

「……ところでさ、助けてもらってこういう事を言うのも何なんだけど、どうして僕を助けたの?
 ルールだと自分以外は全員敵のはずでしょ?
 助けなければその敵が一人、あるいは二人まとめて消えたかもしれないに、どうして?」

【王将 みちる:質問に答えた後、逆に質問する】
43神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/01/01(土) 04:36:57 0
>>39>>41
「行かせてやれ。今はその方が好都合だ」

踵を返したクイーンが立ち去るのを、氷室と二人見送った。
確かに今の状況を考えれば、下手に戦闘しない方が得策だ。
ましてや相手は狂戦士四傑、如何に氷室といえど勝算は五分だろう。
更に傷を負った仲間──菊乃を数に入れるかは分からないが──を庇いながらとなると、勝算は更に下がるだろう。
この場だけはあの狂戦士の行動に感謝しなければならなかった。


傷ついた海部ヶ崎を、氷室が肩を貸すような状態で担ぐ。その時──
(──誰か来る)
第三者の接近する気配を感じた。先程立ち去ったクイーンではない。
氷室も気配を感じたのか、僅かに表情が動いた。

「よう、また会ったなァ、重力使いィ。そこに居るのは何だァ?お前の仲間か?」

振り返るよりも早く声がかかる。──それはつい最近聞いたことのある声だった。
「やれやれ…アンタかい。
 コイツはさっきアタシにやられた自称『研究者』だ。殺しはしなかったんだが…。
 まさかこんなに早く会うとはね」
去り際に自分の名前は伝えたが、相手の名前は聞かなかったので分からない。
なので職業と思しき呼称で隣にいる氷室に伝えたが、その時丁度湖畔に波が来た。
男には聞こえない程度の小声で言ったので、波のせいで氷室に聞こえているのか怪しかった。
「何者だお前? 何しに──」
「何だ、こりゃ…どうやったら此処まで傷つくんだ?!」
質問する氷室を相手にせず、男は海部ヶ崎に近付き、持っていたスーツケースを開いた。
中には様々なものが入っているが、ごちゃごちゃしていてよく分からない。
(何だコイツ?最初に会った時と随分態度が違うな…)
悪意がないのは分かっていたが、まだこの男を信用しきれているわけではない。
(そもそもコイツ、さっき海部ヶ崎のこと攻撃してなかったか?)
数時間前の攻防を思い出し、男の行為を止めようと近付こうとする。
「……」
するとそれより早く氷室が無言で男の傍に行き、徐に首を掴んで素早く腹に拳を叩き込んだ。
鈍い音を発しながら宙を舞い、数m吹っ飛んで湖に着水する男。
あの程度ならあの男も死にはしないだろう。──暫くはまともに喋れないかもしれないが。
「海部ヶ崎(こいつ)に勝手に触るな。私は、何者かと訊いたんだ。医者か?」
湖の中でもがく男に向かって氷室が質問を投げかける。
「神宮(こいつ)の知り合いだか何だか知らないが、
 私は得体の知れない奴に仲間の身を任せるほど他人を信じているわけじゃない。
 もう一度訊く、お前は何者だ? 何しにここへ来た? 返答次第じゃ……解るな?」
拳を握り、氷室が脅しをかける。
「氷室も少し落ち着け……と言いたいところだが今のはアンタが悪い。
 いきなり出てきた挙句、名乗りもしないで倒れてる仲間に近付かれちゃ誰でもこうするさ。
 アタシもアンタを完全に信用したわけじゃないしな。
 …そもそもアンタ、何でここに来た?一度は自分が攻撃した人間の傷を診た理由は?
 それにアタシも今海部ヶ崎(コイツ)に死なれちゃ困るんだよ。色々と聞きたいこともあるし、話すこともあるんでね。
 事と次第によっちゃさっきの続き、やらせてもらうぜ?……勿論、命懸けでな」

腕を組んで、殺気を込めた鋭い視線を男に送った。

【神宮 菊乃:天木に、東湖に来た理由と海部ヶ崎に対する行動の真意を問う】
44天木 諫早 ◆0i7FhSLl8w :2011/01/03(月) 01:47:56 0
>>41 >>43
「ひでェ事しやがるなァ、まァ、それで良ィ。」

まるで予測していたかのように、天木は攻撃された瞬間に自分の体をオーラで包んでいた。ダメージはほとんど無い。
湖から天木が浮かび上がる…ように見えた。鋼球を操り、その上に乗ることで水の上に立っているのだ。

「神宮(こいつ)の知り合いだか何だか知らないが、
 私は得体の知れない奴に仲間の身を任せるほど他人を信じているわけじゃない。
 もう一度訊く、お前は何者だ? 何しにここへ来た? 返答次第じゃ……解るな?」
「氷室も少し落ち着け……と言いたいところだが今のはアンタが悪い。
 いきなり出てきた挙句、名乗りもしないで倒れてる仲間に近付かれちゃ誰でもこうするさ。
 アタシもアンタを完全に信用したわけじゃないしな。
 …そもそもアンタ、何でここに来た?一度は自分が攻撃した人間の傷を診た理由は?
 それにアタシも今海部ヶ崎(コイツ)に死なれちゃ困るんだよ。色々と聞きたいこともあるし、話すこともあるんでね。
 事と次第によっちゃさっきの続き、やらせてもらうぜ?……勿論、命懸けでな」

氷室の声が聞こえていないかのように、天木はピアスだらけの唇を吊り上げる。

「その反応なら『俺は』十分アンタ達の事を信じられるンだ。無遠慮に近付いたのは悪かった、わざとだ。
今ので確信出来た。…アンタ達はゲームに乗らずにこの島から抜け出す何らかの策を持ってるンだなァ。」

その結論に辿り着いたのには理由がある。
このゲームを正攻法でクリアするなら、チームを組むと言う事は成立しがたい。
最後にどちらが先に裏切るかのタイミングが難しく、また極端に戦力差がある場合、弱いほうが警戒するからだ。
つまり、チームを組んでいる以上、そのチーム全員で脱出できる何らかの策があって行動している可能性が高い。
増してやそのチームの中に、自分を殺さずに経験だけ与えて生かした少女が居るのだから、正攻法のゲームクリアを目指さない集団とみて妥当だろう。

そこに、更に天木は保険をかけた。
瀕死の仲間へ、不審者が好意を持って近付いた時の反応。予測出来ない事態に、それぞれの本音が見えるはずだ。
もし天木を素通りさせるなら、余りに警戒心が無さ過ぎる。たとえ策があっても、この先に期待出来ない。
天木相手に本気で戦闘態勢に入るならば、瀕死の仲間を軽く見すぎているだろう。仲間の結束は偽りである可能性が高い。
反応はベスト。命をかけて信じるに値する。

「先程の無礼は許して欲しい。俺としてもアンタ達を信じるためにああするしか無かったンだ。アンタ達が本当に仲間なのか、確認したかった。
俺ァ天木。名は諫早だ。職業は研究者なンだが、能力創なら幾つか診てきた。今なら俺はそこに倒れてる女の蘇生が出来る筈だ。
怪しい動きを見せたら直ぐに攻撃してくれて構わねェ。俺の今のオーラ量ならあっさり死ぬぜェ」

そのままの距離を保って、神宮と氷室に話しかける。

「その見返りといってはなンだが、俺もアンタ達の仲間に入れて欲しい。
先程のやりとりで、アンタ達がゲームを正攻法でクリアしねェのは解った。だからチームを組んでいるンだな。
どういう策かは知らねェが、俺にはゲームを正攻法でクリアする事は恐らく出来ないだろう。アンタ達に乗らせて欲しいンだ.
…アンタ、…神宮も、そういうつもりで俺を生かしたンじゃ無いのかィ?」

まだ信用しきっていない、という視線に、男は更に口を開く。

「俺は主に操作系の能力を使う。オーラを触れさせて、スーツケースの中の武器を操って戦うンだ。医療パックもその中だ。
今はオーラを注入していねェから、俺が操れンのはこの鋼球だけだ。
…俺の能力は教えた。本当かどうか、神宮に確認を取ってくれねェか。…信用して欲しィ。
一度はそいつを攻撃した身だが、その時はゲームをクリアするつもりだッたンだ」

深呼吸する。先程の、男の恐怖がよみがえり、彼の視線は不安げに下に落ちた。

「だが、あンな奴がうじゃうじゃいるンなら俺のクリアは不可能だ。あの腕輪の無い能力者にはどうやっても勝てる気がしねェ。
不意打ちくらいしか出来ない俺にはあの能力はキツ過ぎる。…YESかNOか、どちらにしても早めに頼む。その女が手遅れになる前に」

氷室達の方をもう一度見る。赤のカラーコンタクトがきらりと光った。

【天木 諫早、氷室と神宮に名乗り、手の内を明かす】
45夜深内漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2011/01/04(火) 01:43:16 0
>>36
「了解しました。…おや、女性が神宮さんに何かしているみたいですよ。……傷口が凍っています。冷気を扱えるのでしょうか?
…え?
大変です! 病み上がりにも拘わらず神宮さんがどこかに走っていきました!追跡します!」
そう斎葉さん言ったということはラジコンを動かしたのだろう
「あ、あの人も無茶するよね…」
「全くです。いくらサイボーグだからと言っても、万能じゃないし、不死身でもないんですから!」
(あれ、そのことは二人とも知ってたんだ…
 まぁ、取り合えずどうしよう…)
『…いっそのこと、こちらから追いかけませんか?
 ある程度であれば大き目の“乗り物”も製作可能なので。
 まぁ、あまり能力者の攻撃には意味がないですが…』

【夜深内漂歌:場所を移動することを提案】
46赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2011/01/04(火) 02:01:19 0
>>42
赤染の言葉に少年は不機嫌そうな表情をとった。
今のサーベルについての言及が、なにか相手の気に障ったのかと赤染は思ったが――

「もぉー、僕の名前は“お前”じゃないよ。王将 みちる。歳は二十歳。趣味はショッピング。
 好きな物はケーキとあんみつ。靴のサイズは25.5。えーとそれからそれから……
 そう、とにかく人の話は最後まで聞かなきゃダメってこと。でないと……」

どうやら、“お前”呼ばわりの方が原因のようだった。
(なんというか……)
少年のような外見の青年――王将 みちるはコホン、とひとつ咳払いをして話題を切り替えた。

「……えーと、何だっけ? あ、そうそう、まずはお礼言わなきゃ。どうもありがとう。
 ホントどうなることかと思ってたから助かったよー。
 あのままだと地球の果てまで逃げなきゃならないところだったもんねー、ホントにさー……
 ……あ、ごめんごめん。また脱線しちゃった。えーと……それで何だっけ?」

(……分かりやすい喜怒哀楽や話の進まなさだとか、アシ姐との共通点が多い奴だ。
 まぁ、アシ姐は計算だが、こいつは天然でこれなんだろうがな)

いくら待っても王将は話を再開しないので、赤染は呆れ半分に腰のサーベルへ視線を送った。
その行為で王将もようやく質問の内容を思い出したようだ。

「あ! これを何で使わなかったのか、だっけ?
 別に大した理由じゃないよ。闘いたくない相手だったから、抜きたくなかっただけなんだ。
 上手く撒ける自信もあったしねー。まぁ、結果は一時間の追いかけっこになっちゃったんだけど」

ようやく話が本筋に戻ったが、その回答に若干の違和感を赤染は覚えた。
闘えない――のではなく、闘いたくない。
その言葉から察するにみちるは完全に戦闘能力を保有していない訳ではないのだろう。
つまり何かしらの事情で逃げ回っていた事となる。
別段珍しいことではないが(一時間も逃げまわっていたという点以外は)、
しかし何故か赤染はその違和感が気になった。
47赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2011/01/04(火) 02:11:19 0

「……ところでさ、助けてもらってこういう事を言うのも何なんだけど、どうして僕を助けたの?
 ルールだと自分以外は全員敵のはずでしょ?
 助けなければその敵が一人、あるいは二人まとめて消えたかもしれないに、どうして?」

先程の回答について聞いてみるかどうか少し悩んでいると、
王将は今までとは打って変わって、神妙な顔で質問を述べた。

――なぜ自分を助けたのか、と。

その問いに赤染は寸分の迷いなく、こう答えた。
「どうしても何も、まず俺はそのルールってのに従っちゃいねえからなぁ。従うどころか刃向ってる最中だ。
 だから俺はおま……王将を殺す気もないし、助けを求めたられたら手を伸ばしてやる。
 正直、それがまともな人間の判断だと俺は思ってんだ」

後半は愚痴がはいったが、それは赤染の本音だった。
いくら状況が状況だろうとみながみな、簡単に人殺しへと変貌できるような人間ばかりとは思いたくない。
赤染もさっきのような――最早人間としての尊厳も、理性もない改造人間を殺せるのも、相当な決意を昔したからだ。
それを弱さと言われようと、赤染は恥じないし、否定もしない。
ただ、今朝ピエロにも言われた『甘さ』ではないと言い切れる。
自分は最良の結果を得る為に全力を尽くしているだけだ。そこに甘い手心など、一切存在しない。
それが赤染 壮士という男だった。

「そういうわけで、あまり俺と一緒にいるのはやめておけ。
 確かルールには『正体を探る者への死』ってのもあったはずだろ。
 だから、俺と一緒にいるとまたさっきみたいな奴に襲われちまうぞ」

そこまで自分で言ってから、自分の見落としに気付く。
(そうだ、奴らが反逆者を殺すには直接自分たちが出向く他ねぇじゃないか。
 さっきのような低レベルな狂戦士じゃあ、時間が経てば手練れの人間に全滅させられるのは目に見えてる。
 狂戦士の数も最大で十四人と、多くはねぇ。海部ヶ崎の言葉が事実なら、案外早めに上位種の狂戦士に出会えるかもしれねぇなぁ、おい)
そうと分かれば、余計にこの少年をこの場に留まらせる訳にはいかない。
そんな思いを胸に、赤染は王将みちるの言葉を待った。

【赤染 壮士:王将 みちるに警告する】
48氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/01/04(火) 16:36:11 0
>>43>>44
「氷室も少し落ち着け……と言いたいところだが今のはアンタが悪い。
 いきなり出てきた挙句、名乗りもしないで倒れてる仲間に近付かれちゃ誰でもこうするさ。
 アタシもアンタを完全に信用したわけじゃないしな。
 …そもそもアンタ、何でここに来た?一度は自分が攻撃した人間の傷を診た理由は?
 それにアタシも今海部ヶ崎(コイツ)に死なれちゃ困るんだよ。色々と聞きたいこともあるし、話すこともあるんでね。
 事と次第によっちゃさっきの続き、やらせてもらうぜ?……勿論、命懸けでな」

氷室に続いて、神宮が更に男を問い詰める。
しかし、返答次第では自らの血の雨を降らせかねないこの状況を前にしても、
男の表情が不安や動揺によって揺らぐことはなかった。

「その反応なら『俺は』十分アンタ達の事を信じられるンだ。無遠慮に近付いたのは悪かった、わざとだ。
今ので確信出来た。…アンタ達はゲームに乗らずにこの島から抜け出す何らかの策を持ってるンだなァ。」

氷室は握り締めていた手を、ゆっくりと開いた。
(……こいつ、試したのか)

「先程の無礼は許して欲しい。俺としてもアンタ達を信じるためにああするしか無かったンだ。アンタ達が本当に仲間なのか、確認したかった。
俺ァ天木。名は諫早だ。職業は研究者なンだが、能力創なら幾つか診てきた。今なら俺はそこに倒れてる女の蘇生が出来る筈だ。
怪しい動きを見せたら直ぐに攻撃してくれて構わねェ。俺の今のオーラ量ならあっさり死ぬぜェ」

天木と名乗るこの男は、殴られることを承知の上で敢えて近付いたというのか?
しかし、もしも氷室が手加減しなかったら、今頃彼の腹には大きな穴が開いていてもおかしくない。
その危険性を知りながらも、敢えて賭けてみたというのだろうか?
氷室が、正攻法ではないゲームの攻略を企み、更に無用な殺生を極力避けている人間であると。
それとも、あるいは本気で殴られても、致命傷には至らない自信があったのか……。
(……いずれにしても、度胸だけはあるようだな)

「面白い」
目を瞑り、小さく独りごちた氷室は、やがて目を開けて横の神宮と目を合わせた。
それは、天木が自分が操作系の能力者であると明かし、
それを彼女に確かめて欲しいと言った直後のことであったが、
氷室の視線はそれを確かめたものというわけではなく、
「私はこいつを連れて行く」──と、さりげなく自らの意を示したものであった。

「だが、あンな奴がうじゃうじゃいるンなら俺のクリアは不可能だ。あの腕輪の無い能力者にはどうやっても勝てる気がしねェ。
不意打ちくらいしか出来ない俺にはあの能力はキツ過ぎる。…YESかNOか、どちらにしても早めに頼む。その女が手遅れになる前に」
49氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/01/04(火) 16:39:57 0
「……手遅れ、だと……? フッ、私をあまり見くびるな……」
不意の地面からのかすれるような声に、一同の視線が集中する。
そこで見たのは、いつの間にか意識を取り戻していた海部ヶ崎の姿であった。
「容易く死ぬほどヤワな鍛え方はしていない……」
確かに自力で意識を取り戻しただけでもその生命力と精神力の強さは感嘆に値する。
しかし、眉を寄せ、苦痛に耐えるような表情で吐かれては、「はい、そうですか」と済ますわけにもいかない。

氷室は再び海部ヶ崎の腕を自分の肩に回すと、そのままおぶるような形で担ぎ上げた。
「な、何を──」
「既に我々の所在は敵の一人に知られている。ここに長く留まるのは危険だ。
 どうせ満足に動けないだろ? 足手纏いになりたくなければ大人しくしてな」
海部ヶ崎にしてみれば、仲間とはいえいつか追い抜くと心に決めた相手の手を借りてしまうのは、
戦士としての異能者としてのプライドが許さないだろう。
だが、我を通すことが「足手纏いになる」と言われれば、反論などできるはずもない。
「……すまない……」
海部ヶ崎は、氷室の背に顔をうずくめて、小さく弱々しい声で言った。

海部ヶ崎を抱えた氷室は、天木と神宮の二人を一瞥すると、くるりと翻った。
「一つ言っておこう。私が選んだ道は、この殺し合いを正攻法で攻略するよりも、険しく困難な道のりだ。
 死はこれまでに以上に身近なものとなるだろう。……それでもよければ勝手にしろ」
そしてそういい残し、南の方角へと進んで行った。
あてもなく……というわけでは決してない。
人の気配がない、寂れた工場の存在をその方角に認めたのだ。

「氷室……私はジャックという奴に遭った」
道中、何の前触れもなく海部ヶ崎がぽつりと呟いた台詞。
海部ヶ崎はそれ以上何も言いはしなかったが、ジャックという名の存在に出会い、闘い、
そして敗北を喫したと遠まわしに言っていることは明らかであった。
(ジャック……やはり四傑の一人に出会っていたか。
 私のところにはジョーカーが、神宮のもとにはクイーンが、そして海部ヶ崎にはジャックが……
 未だ我々(参加者)に正体を明らかにしていないのはキングのコードネームを持つ者だけ、か)

ザワッと風が吹き、近くの草木が揺れる。
ふと見上げた空では、既に太陽が真上より西にずれた場所に昇っていた。
(……あるいは既に、この島のどこかで誰かと接触しているのかもしれないな)

──顔を下ろし、前を向けば、目標の工場は目と鼻の先であった。

【氷室 霞美:海部ヶ崎を連れて場所を移動。東湖から南にある工場へ。現時刻:昼すぎ】
50 ◆ICEMANvW8c :2011/01/04(火) 16:43:53 0
>>45>>46
赤染の返事は早かった。
「どうしても何も、まず俺はそのルールってのに従っちゃいねえからなぁ。従うどころか刃向ってる最中だ。
 だから俺はおま……王将を殺す気もないし、助けを求めたられたら手を伸ばしてやる。
 正直、それがまともな人間の判断だと俺は思ってんだ」
答えるまでのスピードといい、迷いのない顔つきといい、彼が言ったことは嘘偽りのないものだろう。
「ふーん」
初め、王将の反応は素っ気無いというか、どこか聞き流している感じであったが、
その内、何か思うところでも見つけたのだろうか、
まるで心の中では彼の言葉を何度も反芻しているかのように、
「うんうん」と漏らしながら、あるいは呻きながら小さく頷きを始めた。

「そういうわけで、あまり俺と一緒にいるのはやめておけ。
 確かルールには『正体を探る者への死』ってのもあったはずだろ。
 だから、俺と一緒にいるとまたさっきみたいな奴に襲われちまうぞ」

続く赤染のこの言葉で、王将の意識が心の中から戻ってくる。
「え? あぁ……あはは、確かに。でも、実は僕、正体を……」
頭を掻きながら王将が言う。いや、実際は何かを言い掛けたに留まる。
何故ならこの時、他の第三者の声が、タイミングよく遮ってしまったからだ。

「オーッホッホッホ!」
甲高い声。それは赤染めの背後、数メートルの場所から発している。
赤染が振り向き、それと同時に王将の意識もそこへと向けられる。
本来そこは何も物体のない、ただ空間だけがある場所だ。
しかし、ジッと目を凝らしていくと、まるでカメレオンが保護色を解くかのように、
徐々に存在を露にするものがあった。
「またお会いしましたねぇ。えーと、確かお名前は……赤染サン、でしたか?
 ホホホ、“お迎えに上がりました”よ」
──現れたのは気味の悪い仮面をつけたピエロ。通称、ジョーカーと呼ばれる人物であった。

「さ、参りましょう。嫌と言っても無駄ですよ。もう“時間切れ”です」
時間切れ──この男(?)は何を言っているのだろうか。
そもそも赤染を迎えに来たとは、どういう意味なのだろうか。
恐らく、赤染にとって疑問はつきぬところだろうし、いくら考えても合点のいく答えを導出できないだろう。
それも無理はない。何故なら、彼がこの疑問を解くには、実はちょっとした発想の転換が必要だからだ。

つまり──あたかも赤染に対して言っているように聞こえるが、実はそうではない。
赤染以外の人間に対して言った言葉なのではないか──と。
それが誰か、指し示す答えは一つ。この場にいるジョーカー、赤染以外のもう一人──。
51 ◆ICEMANvW8c :2011/01/04(火) 16:49:12 0
ズンッ!!
不意に肉を裂く耳障りな音と、続いてポタ、ポタと真っ赤な液体が地面に滴る音がする。
その時、苦悶の声をあげたのは赤染 壮士──ただ一人。
彼は背中から胸にかけてを瞬時に貫かれたのである。
銀色の細長い刀身によって……しかも、背後から……。

「……助けを求められたら手を差し伸べる、って言ってたね。やっぱり僕には理解できないよ。
 異能者を見たらまず敵と思って警戒しないと。でないと、こうなるんだから」
王将がニッコリと笑う。その手に狂戦士を相手にしても抜かなかったサーベルを握って。
「けど、それでもボクはキミが凄いと思う。さっきも僕の言葉に微妙な違和感を感じ取ってたでしょう?
 答えには気付かなかったみたいだけど、説明のつかない違和感が気になっただけでも大したものだよ。
 でもね、“闘いたくない”というのも“闘えない”っていうのも、実はどっちも間違いじゃないんだ」

ズッ……と剣を引き抜き、素早く納刀する王将。
瞬間、傷穴から血飛沫があがり、同時に王将は続けた。

「だって、自分の“仲間”と闘えるわけないでしょ? もっとも向こうは敵に見えただろうけどね。
 下位の狂戦士にも知性があることにはあるけど、それは主人と認めた人に従える程度のもの。
 敵を殺せと命令されたら、主人以外の人間に対し見境なく凶拳を向ける、その程度なんだ。
 彼は僕が仲間でしかも格上の存在であることを理解できなかった。だから僕も狙われたの。
 まぁ、今から思えばいいスリルを味わえたかなーなんて思ったりするんだけど。あはははは♪」

悪意に満ちた愉悦や、下卑た笑いのそれとは違う、純粋無垢な笑い声が響き渡る。
それと共に、ふと強い風が吹いた。首を覆っていた王将の後ろ髪がまとめてフワッと上がる。
……首筋に何かが見える。それは、『CO』の文字と『13』の数字──。

「そろそろ参りましょう……宜しいですね? 『キング』」
「あっ、うん? もうそんな時間? 早いなー、たまの自由時間なのにさー」
キング──。
ジョーカーにそう呼ばれた王将は、ピタリと笑うのを止めて、すっと赤染の横を通り過ぎていった。

【王将 みちる:赤染の胸を貫く。正体が四傑最後の一人『キング』と判明】
>>50アンカミス。×>>45>>46>>46>>47
52鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/01/06(木) 15:08:17 0
>>45
『…いっそのこと、こちらから追いかけませんか?
 ある程度であれば大き目の“乗り物”も製作可能なので。
 まぁ、あまり能力者の攻撃には意味がないですが…』
「そう…ですね。その方がいいでしょう。それでは車をお願いします。僕が入り込んで操りますので」
「あ…スペックは普通より高くしといた方がいいよ…僕が居ると劣化しちゃうから…」
夜深内の意見に賛同し、車を要求する斎葉と鎌瀬
【鎌瀬&斎葉:夜深内の意見に賛同】
53神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/01/06(木) 19:34:55 0
>>44>>48>>49
「その反応なら『俺は』十分アンタ達の事を信じられるンだ。無遠慮に近付いたのは悪かった、わざとだ。
今ので確信出来た。…アンタ達はゲームに乗らずにこの島から抜け出す何らかの策を持ってるンだなァ。」

男のその反応を見て、氷室が拳を収める。
(やっぱりな…)
そう、菊乃は気付いていた。
男に悪意がない時点で良からぬ事はしないだろうと踏んでいたのだ。
しかしあくまでも海部ヶ崎は氷室と共に来た仲間であって、自分はこの島で出会ったに過ぎない。
その為、疑うという行動を取った氷室に合わせていたのだ。
──とは言ったものの、菊乃自身先程の言葉に嘘はなかった。
この男を完全に信用しているわけではないし、こちらに悪影響があるようなら殺す考えもあった。
「先程の無礼は許して欲しい。俺としてもアンタ達を信じるためにああするしか無かったンだ。アンタ達が本当に仲間なのか、確認したかった。
俺ァ天木。名は諫早だ。職業は研究者なンだが、能力創なら幾つか診てきた。今なら俺はそこに倒れてる女の蘇生が出来る筈だ。
怪しい動きを見せたら直ぐに攻撃してくれて構わねェ。俺の今のオーラ量ならあっさり死ぬぜェ」
男──天木は挑発とも取れる口調でそう言った。
先程の氷室の攻撃の際も、もし氷室が手加減などせず本気で殴っていたら天木は今頃この世にいなかっただろう。
そして今のこの言い方……。
自分の命が惜しくはないのだろうか?
若しくは自分の命を担保に、この場で殺されるかもしれない賭けに勝つ自信がある?
(暫くは目を離さない方がよさそうだな)
「面白い」
氷室がこちらを見る。しかしその瞳は確認を取ろうとするものではなかった。
『こいつを連れて行く』──そう無言の内に語りかけてきたのだ。
本人も言ったように、確かに天木は操作系の能力の持ち主だ。
しかしそんなことは何の問題でもなかった。
例えどんな能力を持っていようと、自分にすら勝てなかった男だ。
氷室相手にどうあがこうと勝ち目などあるはずもない。
氷室自身もそれは理解しているはず。故に連れて行く、という選択をしたのだろう。
例え途中で裏切ろうとも大した障害にはならない──という確信を込めて。

「アンタがそう決めたんならアタシにとやかく言う権利はないよ。好きにしたらいいさ」
氷室に反対の意思はないことを伝える。
「だが、あンな奴がうじゃうじゃいるンなら俺のクリアは不可能だ。あの腕輪の無い能力者にはどうやっても勝てる気がしねェ。
不意打ちくらいしか出来ない俺にはあの能力はキツ過ぎる。…YESかNOか、どちらにしても早めに頼む。その女が手遅れになる前に」
「……手遅れ、だと……? フッ、私をあまり見くびるな……」

天木の言葉に対して聞こえてきた返事は、自分達の足元からだった。
三人の視線が地面に集中する。
視線の先にいたのは、先程まで気を失っていたはずの海部ヶ崎であった。
「容易く死ぬほどヤワな鍛え方はしていない……」
あれ程の怪我にも関わらず、この短時間で意識を取り戻したことには驚かされた。
しかし意識を取り戻しただけで、傷が治ったわけではない。
とりあえず命に別状はないようだが、早急に手当てが必要なことに変わりはない。
氷室が再び海部ヶ崎を担ぐ。
そしてその場で振り返り、鋭い視線でこちらを射抜いた。
「一つ言っておこう。私が選んだ道は、この殺し合いを正攻法で攻略するよりも、険しく困難な道のりだ。
 死はこれまでに以上に身近なものとなるだろう。……それでもよければ勝手にしろ」
氷室はそれだけ告げると、海部ヶ崎を背負って南の方角へと歩き出した。
「死ぬことが怖くねえ、っつったら嘘になるな。でも覚悟は出来てる。
 クイーンに借りも返さなくちゃならねぇし。やられっぱなしは性にあわねえ。
 戦力は一人でも多い方がいい。だろ?」
それは氷室に対しての言葉か、はたまた独り言か──。
菊乃が呟いた言葉は、踏み出した足音に掻き消された。

【神宮 菊乃:氷室の後を追って南の工場へ】
54クイーン:2011/01/06(木) 21:02:44 0
先程の三人と別れた後、クイーンは島の北東にある森に来ていた。
──そう、海部ヶ崎とジャックが戦った森である。
彼女はジャックに会う為に、彼の戦っている気配がしたこの森にやってきた。
しかし彼女が着いた時、既に戦闘の気配はなかった。
恐らく終わった後どこかに移動したのだろう、ジャックの姿もなかった。
「あーあ…。無駄足になっちゃったじゃない。もう、どこ行ったのよあの男は…。
 帰っちゃったのかしら」
付近の寺院の石段に座り、頬杖をつく。
溜息を吐いてみても状況は一向に変わらない。
「ま、いいか。いざとなったら"あいつ"が勝手に探してくれるでしょ。
 私が躍起になって探す必要はどこにもないのよね」
一人で納得し、石段から飛び降りる。そして来た道を戻り始めた。


三人と別れた辺りまで戻ってくると、既に彼女達の姿はなかった。
どこかに移動したのだろう、辺りにそれらしい気配はない。
(確か重症の子がいたはずよね。治療しに行ったか、それとも──。
 ま、どうでもいいか。死んでなきゃいずれ会うわけだし)
三人を興味の対象から外し、市街地へ向けて再び歩き出そうとしたその時。
(あら…?何かしら、この音)
クイーンの耳が何かの音を捉えた。それはモーターの音とプロペラの音。
音のする方角を見る。しかし視界には何も映らない。
しかし確実に音は聞こえる。──どうやらヘリコプターのようだ。それもラジコンの。
「へぇ…面白いわね、光学迷彩(ステルス)なんて」
ヘリを撃ち落そうかとも考えた。実際に微かに聞こえる音から位置は特定できていた。
「ま、面白いからいいか。おーい」
ヘリに向かって手を振ってみる。
ヘリは気付いたかそうでないか、暫く滞空した後どこかへ去っていった。
「何よ、返事くらいしてくれたっていいじゃない」
つまらなそうに口を尖らせていたが、やがて踵を返しゆっくりと歩き出した。


当初の予定通り、再び街へ戻ってきた。
とは言ってもあてがあるわけではなく、既に散歩に近いものになっていた。
「あーいつまでブラブラしてればいいのかしらね…。
 前みたいに誰か通りかかってくれないかしら?そうしたら暇つぶしにもなるんだけど」
もはやジャックのことは頭になく、いかにして暇を潰すかだけを考えていた。
線路に沿って歩いていくと、行く手に小学校と小さな公園が見え始めてきた。

【クイーン:街の北部の線路を西へ向かってゆっくりと移動中】
55夜深内漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2011/01/07(金) 00:14:30 0
>>52
「そう…ですね。その方がいいでしょう。それでは車をお願いします。僕が入り込んで操りますので。」
「あ…スペックは普通より高くしといた方がいいよ…僕が居ると劣化しちゃうから…」
『了解です。では、実物の2/3ほどの大きさでいくつかの機能は破棄されますが
 耐久力とハイスペックさでは良い
 化学防護車を出力します。』

その後5分ほどかけて出力は終了し、
一般車両とではやや大きめの車両が目の前に完成していた。
『少し小さくしたので高さがきついかもしれません。
 気をつけて乗ってください。
 あと、斎葉さん用になっているので
ほとんどの機能は斎葉さんにしか動かせないような仕様です。』

【夜深内漂歌:車両の出力を完了。】
56天木 諫早 ◆0i7FhSLl8w
>>48 >>49 >>
「面白い」

その言葉に、天木は若干安堵する。了承と受け取って良いだろう。仲間と騙し後ろから攻撃される可能性もあるにはあるが、
それならば彼女達がそうでは無いことに賭けた自分の負け、ただそれだけだ。
予防線は無かった。ただ自分の都合の良い目に張っただけだ。
今までそうしてきたように、彼は自己決定する際に自分の命の重みなど毛ほども感じていない。

「……手遅れ、だと……? フッ、私をあまり見くびるな……」

驚いて声の方を向くと、あの重症の女が体を起こしていた。能力だけでは片付かないその強靭さに、内心天木は肝を冷やした。
もし説得の方法を間違えていたら、恐らく自分はあっさり死んでいただろう、と。
海部ヶ崎が氷室に担がれ、氷室がそのままこちらを振り返る。

「一つ言っておこう。私が選んだ道は、この殺し合いを正攻法で攻略するよりも、険しく困難な道のりだ。
 死はこれまでに以上に身近なものとなるだろう。……それでもよければ勝手にしろ」
「死ぬことが怖くねえ、っつったら嘘になるな。でも覚悟は出来てる。
 クイーンに借りも返さなくちゃならねぇし。やられっぱなしは性にあわねえ。
 戦力は一人でも多い方がいい。だろ?」
「正攻法の攻略が0%なンだ、例え1%以下でも生還の可能性の芽があるあンたらに賭ける。持てる力は全て貸すつもりだ。」

神宮に続き天木も答え、氷室に付き従う。しばらく無言の時が続いた後、おもむろに海部ヶ崎がかすれた声で放った言葉は、

「氷室……私はジャックという奴に遭った」

という彼には意味が解らないものだった。
ほかの二人がそれでも意味を読み取れている事から、ジャックという人名がこの事件に関わっている事を知る。

「・・・すまねェ、ジャックッてなァ誰だ?恐らくこのゲームの黒幕だとは思うが、俺はお前等が何を目指して動いているのかは知らねェ。
アンタらの計画に関わる奴の名前なンだろ?良ければ計画と、その人名の持つ意味を教えてくれ」

神宮は半ば呆れたように、歩きながら天木の知らない情報を教えた。狂戦士の事、その中でも特に危険な4人。
そして黒幕であるワイズマンについて。其処まで話せば、天木も大まかな計画が理解出来た。ゲームの作成者を消せば、ゲームなど意味が無くなるという訳だ。

「だが、あンたらの話じゃァ、狂戦士はオーラはあるが固有の能力までは持ってねェンだろ?
俺が出会った奴は腕輪が無かったから狂戦士だと思うが、固有の能力をちゃんと持ってたぜ。ッて事は、狂戦士4傑の中の一人だとは思うが・・・奴は男だった。
ジャックに海部ヶ崎がやられたンなら、同時刻に交戦した奴はジャックじゃねェ。ジョーカーの顔は俺も見てるが、奴でもねェッて事は、俺が出会ったのはキングッて事になるンだが・・・」

出会ったのが例外中の例外である事に気付かず、天木は間違った結論に辿り着いていた。

「・・・そんな奴から出会えて生き残れたのは幸運だったッてェ訳か。・・・お、着いたな」

廃工場の中は声が変に曇って聞こえる。天木はスーツケースを開き、医療パックを取り出し、海部ヶ崎の応急処置をしていく。
スーツケースの中からオーラを込められたワイヤーの先端が飛び出し、工場の入り口付近の地面に突き刺さった。もう片方の先端は天木の手首に巻かれているようだ。

「入り口周りの地面の下にワイヤーを忍ばせておく。上から圧力がかかる・・・つまり踏まれた場合、直ぐに解る。」

オーラを更に注入しながら、皆に聞こえるように説明した。

【天木 諫早、情報を得て工場に到着。警戒と海部ヶ崎の治療を始める】