【邪気眼】二つ名を持つ異能者達【其ノ弐】

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1テンプレ1/2
ここは【二つ名】を持つ異能者達が通常の人間にはない特殊な【オーラ】を駆使して
現代日本っぽい世界を舞台に能力バトルを展開する邪気眼系TRPスレッドです。
ローカルルール、テンプレ等は>>1-2に。

*ルール
・参加者には【sage】進行、【トリップ】を推奨しております。
・版権キャラは受け付けておりません。オリジナルでお願いします。
・参加される方は【テンプレ】を記入し【避難所】に投下して下さい。
・参加者は絡んでる相手の書き込みから【三日以内】に書き込むのが原則となっております。
 不足な事態が発生しそれが不可能である場合はまずその旨を【避難所】に報告されるようお願いします。
 報告もなく【四日以上書き込みが無い場合】は居なくなったと見なされますのでご注意下さい。

*テンプレ
【プロフィール】
名前:
性別:
年齢:
身長:
体重:
職業:
容姿:
能力:
キャラ説明:

【パラメータ】
※基本ランクは「S→別格 A→人外 B→逸脱 C→得意 D→普通(常人並) N→機能無し」の六つ。
  最低ランクが常人並となっているのは、オーラが使える分、非異能者より肉体が強化されている為。
(本体)
筋  力:
敏捷性:
耐久力:
成長性:
(能力)
射  程:(S→50m以上 A→20数m B→10数m C→数m D→2m以下)
破壊力:(能力の対人殺傷性)
持続性:
成長性:
2テンプレ2/2:2010/10/07(木) 22:11:05 0
*まとめサイト
用語・登場キャラクター等の詳細はこちらで確認できます。
参加を考えている方はまず【FAQ】に目を通しておきましょう。
http://www35.atwiki.jp/futatsuna/pages/1.html

*避難所(前身スレの避難所を引き続き使用しております)
P C:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1254052414/
携帯:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/computer/20066/1254052414/

*過去スレ
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1274429668/
3不知哉川 霊仙:2010/10/08(金) 06:56:07 0
虹色兄弟と合流したその場所は、市内東の海岸近くにある空き地であった。
元々、開発予定地区で、工事関係者以外の立ち入りは禁止されているということもあり、人気はない。
聞こえてくるのは波の音。見えるのは遠くの夜景とぽつんと置かれた作業員用の自販機だけである。
つまり、野宿にはうってつけの場所なのだ。

不知哉川は虹色達にこれまでの事情を明かすと、
夜が明けてからカノッサの本拠地に乗り込む意思を皆に伝えた。
皆が驚くことはなかった。特に口にせずとも、誰もがもはや解っていたことなのだろう。

「──ま、そういうわけやから、明日は宜しく頼むで、皆」
不知哉川は、ここから1kmほど離れたコンビニで、先程アリスが買ってきた……
というよりも、上手く口車に乗せ、買わせ(パシらせ)てきたオニギリやサンドイッチを頬張りながら、全員を見渡した。
「敵も数はそうおらんはずや。実質、敵は四天王とその他一人、あるいは二人くらいと考えてええやろ。
 数としてはほぼ互角になったちゅーわけや。後はそれぞれがやることをやれば、そう悲観した結果にはならんやろ。
 何せこっちには偉大な『ザ・ファースト』様がおられるんやからなぁ、ハハハハ」
などと、薄々自分が口車に乗せられたことに気付きつつあるアリスに、
要所要所で少々大げさに機嫌をとっておくことも忘れない。

「ふー……食った食った。
 後は寝るだけやな。今日一日闘い続きで疲れたわ。俺は先に休ませてもらうで」
空のビール缶をポイっと投げ捨て、一方的に会話を打ち切った不知哉川はゴロンと横になった。
釈然としないアリスからの追及を防ぐ為でもあったが、文字通り疲労していたのも確かであった。
それでも彼は寝付くまで、明日についてを考えざるを得なかった。
食事中は一人で楽観論をべらべらと繰り広げていた彼であったが、
口で言うほどの楽観主義者であったら、どれだけ幸せであっただろう。

(あぁは言ったものの……さて、何人生き残れることやら……。
 全員で生きて勝利を分かち合う……漫画のようには、いかんやろな……)

【不知哉川 霊仙:一日目終了】
4アリス・フェルナンテ:2010/10/08(金) 18:31:39 0
不知哉川達を乗せ、更に走ること数分。
海岸付近の空き地にて優達と合流した。
不知哉川は優達に事情を話している間に1km程先にあるコンビニで食料を調達してくれ、と頼んできた。
皆疲弊しているので、まだ動けそうな自分に頼む、との事だった。

「ふむ、そういうことなら仕方あるまい。事情の説明は任せたぞ」

へらへらと手を振る不知哉川を尻目に、手近な建物の屋根へと飛び乗った。
屋根から屋根へ移動していく。
街は驚くほど静かだ。昼間の抗争が夢であるかのごとく。
コンビニで買い物を済ませ、不知哉川達の元へ戻る。
事情の説明は終わっているようで、皆思い思いの場所に腰を下ろしていた。

「──ま、そういうわけやから、明日は宜しく頼むで、皆」

食事の最中、不意に不知哉川が口を開いた。

「敵も数はそうおらんはずや。実質、敵は四天王とその他一人、あるいは二人くらいと考えてええやろ。
 数としてはほぼ互角になったちゅーわけや。後はそれぞれがやることをやれば、そう悲観した結果にはならんやろ。
 何せこっちには偉大な『ザ・ファースト』様がおられるんやからなぁ、ハハハハ」

いやにこちらを持ち上げる発言をする。
あからさま過ぎて逆に怪しい。

(一体何故――あの男、我を小間使いの如く扱ったな…。
 いい機会だ、一度制裁でも加えて…時間と体力の無駄だな)

不知哉川の褒め殺しの意図を見抜き、仕返しをしようと思ったが、今後のことを考えて自重する。
決戦を前に無駄に消耗していいものなどないのだ。

「ふー……食った食った。
 後は寝るだけやな。今日一日闘い続きで疲れたわ。俺は先に休ませてもらうで」

飲んでいた酒の缶を投げ捨て、誰の返事を聞くでもなく不知哉川は横になった。
どうやら疲れが限界に来たらしい。
それは周りの人間を見ても同じようだった。皆一様に疲れが顔に滲み出ている。

(明日は決戦か…。母様はここにはいないが、降魔の剣の所在は判明した。
 それだけでもこの街にきた甲斐があったというものだ。
 さて、果たして何人生き残れることやら…。
 余裕があれば守ってやることも出来るが…難しいかも知れんな。
 最悪の事態も想定しておくか)
5アリス・フェルナンテ:2010/10/08(金) 18:33:07 0
――御月よ。我らが元に戻る日も近い。明日は総力戦。お前の力も必要になるだろう。
   力を、貸してくれるか?――

頭の中で御月に問いかける。

――何年振り、かな…。あの頃の姿に戻るのは…。
   最近まで本当にお前と言う、アリスという存在がキライだった…。
   我が物顔で体を乗っ取って、破壊と殺戮だけを繰り返して…。
   でも、今考えるとそれも意味があってのことだった…。
   力を貸せ…?言われなくたってそうする。
   優達、いや、みんなを守れるなら…――

――その意気だ。なに、案ずる事はない。我らが一つになれば筆頭だろうが頭領だろうが関係ない。
   その為には降魔の剣を手に入れなくてはならん。その戦いは厳しいものになるだろう。
   お前ももう休んでおけ――

御月に言い渡し、会話を遮断する。
明日は自分だけの力では乗り切れないだろう。
何しろ相手は自分が創り出した、自分にしか通用しない武器を持っている。
使用してくると見て間違いないだろう。
どんなに高く見積もっても、このメンバーの中では自分が一番強い。
敵は間違いなくこちらを押さえに来るだろう。
決して自画自賛ではなく単純な答えだ。
子供が親に勝てるわけがない。
直接的な子供、と言うわけではないが、どんなに遠くとも血縁であることに変わりはない。
言うなれば能力者、延いては異能者は全て自分の子供のようなものなのだ。

(子を守るのは親の務め、か…)

そんな事を考えていると、ふとあの少女の顔が頭を過った。
海部ヶ崎が連れていた少女。記憶喪失と言う話だったが…。

(どうにも引っかかる。何故あの少女はあんな場所で一人生き残っていたのだ?
 あの付近は激戦区だったはず。子供一人で生き残れるわけは…まさか)

頭の中で何かが繋がった。
ずっと感じていた違和感の正体が分かったのだ。

(そういうことだったか。ならば得心が行く。
 しかし、もう会うこともあるまい…。今更だったな)

思考を中断し、一度辺りを見回す。黒部以外は既に就寝しているようだ。
黒部は一人、腕組みをして考え事しているようだった。

「貴様も早く休め。貴様は病み上がりのようなものだ。
 明日の戦い、全力が出せませんでした、ではすまない。
 その時点で死んでいるからな」

黒部に言い渡し、自分も目を閉じる。
久しぶりにゆっくり寝られそうだ――

【アリス・フェルナンテ:一日目終了】
6虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/10/09(土) 13:10:18 0
「「「なるほど、そんなことが…」」」
不知哉川の話を聞いて呟く三人
「「「………」」」
アリスの買ってきたおにぎり(梅)を黙ってかじる三人
「不知哉川さん…。缶はしっかり潰して捨てて下さいよ…」
不知哉川の捨てた缶を回収する優。意外にきちょうめんのようだ
自販機で買ったミネラルウォーターと優が描いた歯ブラシで三兄弟が歯を磨く
「それじゃあ、僕たちも寝ようかな…。」
そう呟き三人は床に就く
「大丈夫かな、勝てるかな、もしかしたら寝てる間に襲われる、なんてことも…」
ぶつぶつとこれからの事を悲観する優だが、やはり眠気には勝てず…静かに目を閉じた
【虹色兄弟:一日目終了】 
7不知哉川 霊仙:2010/10/10(日) 00:06:54 0
「へっきし!」

不知哉川は自分のくしゃみで目が覚めた。
目を開けると、既に視界は明るく、東の海面を照らす太陽が昇っていた。
時計に目をやり時間を確認する。時刻は午前八時を過ぎたところだった。

「やれやれ、早いなぁ……もう朝かい。ふぁ〜あ」

大きな欠伸をし、眠い目をこすりながらも、不知哉川は起き上がる。
他の皆はまだ眠りこけていたし、タイムリミットまではまだ余裕がある。
体調を万全にする意味でも、もう少し日が高く昇るまで二度寝していても良かったかもしれない。
だが、季節は春とはいえ、冬の名残がある朝の潮風がそれを許さなかった。

「うー、寒ッ……。こんなとこでいつまでも眠りこけてたら風邪引いて余計体調が悪くなるがな。
 はよ起きて準備せや言うことやな」

不知哉川は、ペットボトルのミネラルウォーターでうがいを済ませると、
昨晩の夕食の残りであるおにぎりを二つ程手に取って、朝食を摂り始めた。
正直、彼に食欲はなかったが、それでも無理矢理胃袋に詰め込むしかない。
腹が減っては戦はできないのだから。

そうして彼が食事を終える頃になると、寝ていた他の面々も次々と起き出し、
彼と入れ替わりで朝食の席につき始めた。
初めに軽い挨拶を交わした程度でそこに会話はない。
それは彼らが緊張の為に気落ちしていたというよりは、
それぞれが談笑すら無駄なエネルギーの消費と思っていたからかもしれない。
いずれにせよ、この沈黙を重苦しい雰囲気というと、語弊があるのは確かであろう。

「さて、と……」

それぞれが食事を済ませ、準備を整え終えたのを見た不知哉川は、腕時計の針を確認した。
時間は午前九時。

「そろそろ行こか?」

振り返ると、既にアリスは獅子の形態へとその姿を変えていた。

「言われるまでもない、ってか? 流石、頼りになるお方やで」
たまに皮肉めいたことを漏らす不知哉川でも、これは本心であっただろう。
不知哉川、海部ヶ崎、黒部、そして虹色達六人は、彼女の背に乗って、
カノッサの本拠地がある角鵜野湖へ向けて移動を開始した。

【不知哉川 霊仙:カノッサアジトへ向かう。現時刻:二日目AM9:00】
8アリス・フェルナンテ:2010/10/10(日) 07:23:33 0
「へっきし!」

目覚ましは間の抜けたくしゃみだった。
そっと目を開けると、朝日と共に奇天烈な模様の半纏の背中が目に入った。
くしゃみは不知哉川のものだったらしい。寒そうに体を震わせている。

(人間は不便だな。この程度の気温で寒さを感じるとは)

そんな下らない事を考えつつ、目を閉じる。
そうしてもう暫く寝ようと試みたが、成功することはなかった。
仕方がないので起き出してきた他の面々と共に食事を摂る。
挨拶もそこそこに、皆黙々と食事を摂っている。

「そうだ、出発の前にお前達に渡しておくものがある」

食事中の海部ヶ崎と黒部に向かって告げる。
そして空中に手をかざすと、二つの光る宝玉が現れた。

「これは昨日優達に渡したものと同じものだ。これを持っていれば相互に通信が可能になる。
 持っていて損はないだろう」

海部ヶ崎と黒部にそれぞれ放り投げる。
二人はそれを受け取り、しげしげと眺めている。
不知哉川には昨日注入した力が残っているので、敢えて渡す必要はない。

「あ、ありがとうございます」
「役に立ちそうだ。有難く頂戴する」

二人の返答を聞き、軽く頷く。

「さて、と……」

不知哉川が時計を見ながら呟いた。そろそろ出発のようだ。
『楽園の守護者』に変身する。時間は無駄にしたくない。

「そろそろ行こか?」

不知哉川がこちらを見る。

「言われるまでもない、ってか?流石、頼りになるお方やで」

――下らん戯言はいい。さっさと乗れ――

不知哉川の皮肉を一蹴する。

――初めて乗せる者もいるな。しっかり掴まっている事だ。落ちても拾ってやらんぞ――

そして六人を乗せ、角鵜野湖へ向かって全力で走り出した。

【アリス・フェルナンテ:カノッサ本拠地へ移動開始】
9名無しになりきれ:2010/10/11(月) 16:48:32 0
きも
10名無しになりきれ:2010/10/11(月) 16:48:48 0
11不知哉川 霊仙:2010/10/11(月) 19:30:45 0
角鵜野湖。本来ならその周辺は緑と生き物が溢れる自然が広がっている。
だが、辿り着いた不知哉川が目にしたのは、それとは真逆の不毛の荒野であった。

「なんや、このクレーターは……」

大地を直径数百メートルに渡って深く削り取った巨大なクレーターの真ん中で、
不知哉川は唖然としたように呟いた。
周囲の木々は墨と化し、土に埋もれた岩石の表面が溶けていることから、
つい最近、ここで相当な爆発が起こったことは確かであるようだった。

「昨日のあの光……」
不知哉川の脳裏を、昨晩、轟音と共に西の空が赤く光った時のことがかすめる。
「やっぱりここだったんや。……チッ、化物ぶりを見せ付けてくれるやないか……」
彼は引きつった顔をしながら思わず地面の砂を蹴り上げた。
そこに海部ヶ崎が声をかける。
「霊仙さん、それよりもアジトへはどうやって入るんです? まさか湖の中を潜るのですか?」
「水深は400mもあるんやで? いくら異能者でも、生身の体で潜るのは自殺行為やろ」
「それでは……」
「大丈夫。ちゃんと地上から入れるルートがあるんや。この近くの洞窟がアジトへの隠し通路になっとるらしい」
「洞窟……ですか」
海部ヶ崎が辺りを見回すも、視界には焼け焦げた大地が広がるのみ。
「ディートハルトの記憶からだとこの辺にあるはずなんや。
 けど、もしかしたら、周りの大地と一緒に吹っ飛んでしまったのかもしれへんな」
顎に指を当てて「うーん」と呻る不知哉川。
そんな彼に、遠くの丘から呼びかける者がいた。それは黒部。

「おい、こっちへ来てみろ!」
と、手招きする黒部に、不知哉川達は互いに顔を見合わせて彼の元へと駆け寄った。
「なんや? 徳川埋蔵金でもあったんかいな?」
「価値としてはそれに匹敵するかもな。とにかく見ろ」
黒部がすっと指を指した場所には、地下に通じる人工的な通路が地表から顔を出していた。
それが、正しくカノッサのアジトへ通じる通路であることは、誰の目にも明らかであった。

「入口のある洞窟が吹っ飛んで、通路だけが地表に露になったんや。
 ある意味じゃ侵入し易くなって好都合だったかもしれへんな」
「あんな剥き出しの状態になっても、見張りを置いている気配はありませんね。
 誰でも来いと言っているのか、それとも中には罠が仕掛けられているのか……」
チラッと、海部ヶ崎の視線が不知哉川に向けられる。
確かに罠の可能性もある。敢えて慎重論を口にするのも彼女らしいといえばらしい。
しかし、慎重になるあまり、時間ばかりを取られるわけにもいかないのだ。
改めて皆に問うまでも無く、不知哉川の答えは決まっていた。

「いずれにせよここまで来たら慎重も大胆もないやろ。進むだけや」

その言葉に、全員が頷いた。
そして剥き出しになった通路の中へと、その足を進めていった。
12不知哉川 霊仙:2010/10/11(月) 19:34:43 0
どれだけ暗い通路の中を歩いた時だろうか。
ふと、視界の先に、白い光が広がっていることに不知哉川達は気がついた。
その光が通路の終わりを意味するであろうことは、
もはや誰が口にするまでもなく、全員が理解するところであった。

光に近付くにつれて自然、彼らは足早となり、終いには駆け出す。
そして足音を立ててその光へ一気に飛び込んでいった。

「──これは──」
飛び込んだ先で不知哉川が見たのは、近未来的な内装が施された広い空間であった。
いくつも個室があるのか、左右の壁にはスライド式の自動ドアがあしらわれている。
「まるでシェルターのような造りやな。秘密基地とはよくいったもんやで」
「感心もしていられませんよ、霊仙さん。どこに敵が潜んでいるかわからないんですから」
「わーっとるよキサちゃん。けど、前も言ったように、敵も数が少ない。
 最深部にいる雲水のもとに辿り着くまではあまり障害はないはずやで。
 ……お? あんなところに階段があるやないか」
不知哉川の視線の先には更に地下へと通じる階段が伸びていた。
その横の壁に「1F」の文字が記されていることから、どうやらここがアジトの1階なのだろう。
「雲水は地下25階のフロアにおるらしいからな。まずは一気に降りて──」
と、不知哉川が言いかけたところで、これまで黙っていた黒部の声がそれを遮った。

「障害が少ない? それはどうかな?
 私の耳には、さっきからいくつもの呼吸音が聞こえるんだが──」

その言葉が合図となったか、突然、周りの自動ドアが一斉に開いた。
そしてわらわらと黒い特殊な戦闘服に身を包んだ男達がライフルを手にフロアに出てくる。
その数は二十や三十は下らない。

「げっ! まだこんなに残ってたんかい! 異能者やないようやけど、また面倒な……」
「霊仙さん」
「なんや、キサちゃん」
「この場は誰かに任せて、他は階下へ向かった方がいいのでは?
 ここで全員が時間と体力を少なからず削られるのは得策ではないと思いますが」

海部ヶ崎の提案に、真っ先に賛同したのは黒部だった。

「賛成だ。ここはあの三人に任せた方がいいだろう」
と、黒部が顎をしゃくって指し示すのは、虹色兄弟であった。
「私は彼らの力量の全てを知っているわけではないが、恐らく四天王の相手をできるほどの力はない。
 しかし、戦闘員如きに遅れを取るほど実力不足ではないのも恐らく確かだ。
 彼らほどの適任者は他にいないだろう」

「……せやな。ここは彼ら兄弟に任せよ。よし、行くで!」

この場を虹色兄弟に託し、不知哉川ら残りの四人は、階段を駆け下りて行った。

【不知哉川 霊仙:アジト到着。1Fフロアに現れた下級戦闘員守備隊×30を虹色兄弟に任せ、階下へ向かう】
13虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/10/11(月) 21:32:03 0
>>12
「……せやな。ここは彼ら兄弟に任せよ。よし、行くで!」
みんなに下級戦闘員の相手を任された虹色兄弟
「了解しました」
「倒し次第追いかけますからね!」
「結構多い…」
それぞれ筆と画用紙とパレット、マイクとキーボード、本を構える
「一人につき10人を相手にするでいいよね!?」
「「OK!」」
「行かせない」
階段を降りる不知哉川たちを追いかけようとする戦闘員に
「貴方の相手は僕ですよ?」
優が鷹を描いてぶつける
「今日はこんなに集まってくれてありがとう! それじゃあいきます! 1曲目、海!」
海を歌い始める詞音
「いばら姫。昔々、あるところに…」
いばら姫を読む御伽
【虹色兄弟:戦闘開始】
14アリス・フェルナンテ:2010/10/12(火) 15:52:15 0
角鵜野湖に到着した後、黒部がアジトへの入り口を発見。
中へ侵入したのは良かったが、最初の階で守備隊につかまる。
無駄な消耗は避けると言うことで優達にこの場を託し、階下へ向かう。
――そして今に至る。

「1階であれだけいたのだから、まだいるのではと思っていたが…。
 予想が外れたな」

現在地下5階。
1階であれだけの数、しかも使ったのは下級戦闘員だ。
中級以上の異能者が残っていても不思議ではない。
しかし今に至るまで誰とも出会っていない。
これは充分おかしいと言えるレベルだ。

(罠?…いや違うな。先程から気配探知をしているが今のところ反応はない。…遥か下の3つ以外は。
 オーラを遮断する材質でも使っているなら話は別だがな。
 人員を温存している?…それならあの1階での戦闘員の使い方はおかしい。
 筆頭とやらは一体何を考えているんだ?…ん?3つ…?)

奇妙な違和感を感じる。残っているのは"四"天王だ。
しかし遥か下から感じる巨大なオーラは"3"つ。
明らかに不自然だ。それに態とこちらに探知させているような感じがある。
まるで自分達が気を逸らし、他の何かに気付かせないかのように。

「…不知哉川。四天王の気配が一つ足りない。
 四天王の中に奇襲を得意とする人間はいるか?
 生憎我は四天王はあの盲目の女――沙鈴しか会ったことがないのだ」

【アリス・フェルナンテ:不知哉川に四天王について尋ねる】
15不知哉川 霊仙:2010/10/13(水) 03:00:11 0
地下二階──地下三階──地下四階──
階段を駆け下り、フロアを駆け抜け、また階段を駆け下りていく。ただそれを繰り返す。
不知哉川達は一階のフロア以来、敵と遭遇していない。
それは不知哉川が予想した通りの状況であったが、
実際に敵の基地でそういう状況下に置かれると、かえって不気味に感じられた。

(ただでさえ薄暗く不気味やっちゅーのに……しかもここは敵の居城やで。
 いらんこと考えてもうて、妙に疑心暗鬼になってまうな)

思いながら、人気のない地下四階のフロア一気に抜け、また階段を駆け下りる。
地下五階のフロアはこれまでと同じように静まり返っていた。

(あるいはこれこそが奴らの仕掛けた心理的な揺さぶりなのかもしれへんな。
 とするなら、あれこれ考えるのは奴らの思う壺や。今は無心で進んだ方がええ)

五階フロアの中央部まで進んだところで、また視界に階段が現れる。
地下六階に繋がる階段だ。それを視線の先に捉えて、不知哉川は一気に加速する。
とそこで、これまでの沈黙を破るアリスの声が、不知哉川の耳に届いた。

「…不知哉川。四天王の気配が一つ足りない。
 四天王の中に奇襲を得意とする人間はいるか?
 生憎我は四天王はあの盲目の女――沙鈴しか会ったことがないのだ」
「?」
不知哉川は怪訝な顔をしながら、思わず立ち止まってしまった。
先頭を走る彼が止まったため、後ろを走っていた全員も一斉に止まる。
「奴らの誰かが奇襲してくる、そう言いたいんか?」
アリスは答えなかったが、確かにいささか愚問であったかもしれない。
そもそもそれ以外に聞こえようがないのだから。
「……奴ら全員の技量がどの程度のものか、そこまでは俺も知らへんからな。何とも言えん」
情報不足を理由に、不知哉川はそう答えるに留まった。

奇襲とは、まず自分の存在を周囲に隠蔽できるかどうか、
つまり気配を完全に消し去ることができるかどうかが鍵になる戦法である。
気配というものは、異能者にとってはオーラそのものと言い換えることができるものだ。

視認させないことは勿論、感覚でもオーラを感知させないことができるかどうか。
この技術の習得は一朝一夕で身につくものではない。
実際、不知哉川を含めたこのメンバーの中で、オーラを完全に隠蔽する技術を持った者がいるだろうか?
いたとしてもそれは精々ザ・ファーストとして生き続けて来たアリス一人くらいだろう。
他は視覚でオーラの存在を認識するのが精一杯な程度なのである。

圧倒的な実力を誇る四天王といえどそれはどうなのだろうか?
彼らがスキャナーという機械に頼っていたところを見ると、
どうにも感覚的な技術には疎いきらいがあるような気がしてならないが、断言もできない。
事実、アリスは気配が一つ足りないと、技術習得者の存在を暗に示しているのだから。
16不知哉川 霊仙:2010/10/13(水) 03:04:18 0
「とにかく、不意打ちには注意して進む。できることはそれしかないやろ」
不知哉川はそう結論付けるしかなかった。
気配を消した者の動向を掴める術がない限りはそうするしかないと解っているから、
黒部も海部ヶ崎も素直に頷いてみせた。

「あんたもそれでええな? アリ──」
と、不知哉川がアリスに向き直って、瞬間、顔色を変えた。
いや、それよりも早く、不知哉川は高く跳んでいた。
他の面々も、彼の咄嗟の行動を見て異常を察知し、ジャンプする。
“白い光”が彼らの足の裏を横薙ぎにかすめたのは、その直後であった。

(これは──)
不知哉川はその光に見覚えがあった。
故にこれが攻撃であることも、そして誰の攻撃なのかも、同時に理解していた。
恐らくアリスもそうであっただろう。

「四天王の一人──やっとお出ましかい」
着地しながら白い光が飛んできた方向を見据える不知哉川。
すると、やがてそこから無機質な笑い声を発して、一人の人物がその姿を露にした。
それはやはりあの槍使い──切谷 沙鈴であった。

「フフフフ……私が近くに居ることを察知するとはな。
 もう少し泳がせてやろうかと思ったが、気が変わった。
 貴様ら全員、ここで始末させてもらう──といいたいところだが」
手にした槍を肩に乗せ、彼女は一人ひとりを一瞥すると、最後にアリスで視線を止めた。
「私の相手は貴様一人にしておこう。『俺達の分も残しておけ』──と言われているのでな」

「私達は眼中にないか。おのれ、舐めるのも大概に──」
いきり立って腰に差した刀に手をかけようとする海部ヶ崎を、
不知哉川は手を差し出して制止する。
「感情的になったらあかんよ。なに、こちらにとっては好都合や。
 行かせてくれる言うならそうさせてもらおうやないか」
「しかし……我々が背を向けた瞬間、後ろからということも……」
「相手はアリスやで。いくら四天王でも、そんな余裕があるかいな」
「……確かに」
「なら、ここは任そ」

不知哉川はアリスに「フッ」と微笑みかけて、背を向けた。
そして黒部と海部ヶ崎を引きつれ、直ぐに五階フロアを去っていった。

「──アジトで決着を着ける──私はそう言った。
 貴様もその気があるから敢えて一人で受けて立ったのだろう?
 なぁ、『ザ・ファースト』よ……!」
切谷の声が、フロアに不気味に響き渡った。

【不知哉川 霊仙:五階フロアを離れ、更に階下へ降りていく】
17不知哉川 霊仙:2010/10/13(水) 05:33:03 0
アリスと別れてからおよそ10分──不知哉川達三人は、地下15階まで達していた。
この階は、これまでのように階段を下りたら直ぐにフロアに直結しているという構造ではなく、
降りた階段の先がまず巨大な扉で閉ざされているというものであった。
そして扉には大きなプレートが張られ、それには『修練の間』と記されていた。

「修練の間……? なんや、ここ」
言いながら、不知哉川が扉に触れて、体重をかける。
……ギィィィ。
その重そうな見た目とは裏腹に、扉は意外にも軽い感触を残して開いていった。

「ここは……」
中に足を踏み入れて、不知哉川は部屋を隅々まで染める赤い液体に、まず目を奪われた。
その液体は壁や床は愚か、高い天井にまで及んでいたのだ。
「気味のわる──うっ」
思わず手で口や鼻を覆う不知哉川、そして黒部と海部ヶ崎。
部屋の中は異臭で充満していたのだ。
それが血のニオイであるということは闘いを知る彼らには直ぐに気づくところとなった。
部屋全体に飛び散った赤い液体の正体は、正に血だったのだ。
「修練の間……トレーニングルームか何かと思っていたがな……。
 これではまるで“屠殺場”だ……」
と、吐き捨てるように言ったのは黒部。
そんな彼の顔が、更なる不快さに滲んだのは、その直後だった。

「──いかにも、ここはトレーニングルームだ──。
 といっても、我々(カノッサ)のは、マシーンやダンベルを並べる一般のそれとは違うがな」
良く澄んではいるが、どこか冷徹さを感じさせる男の声が、響き渡ったのだ。
その声の主の正体に真っ先に気がついたのは他でもない黒部であった。
「ディートハルト・アイエン……お前が二番手か……!」

彼の言葉に応えるように、部屋の奥の暗闇から正に死臭を漂わせた不気味な漆黒の戦闘狂が、
あのディートハルト・アイエンが颯爽と現れる。

「ここは別名『死の闘技場』。カノッサの構成員達が自らの生死をかけて腕を磨くところよ。
 これらの血は闘いに敗れたそいつらが流したものだ。そう、哀れな弱者のなァ、ククククク」
「貴様……自分の部下の命さえも弄んでいたというのか……!?」
不気味に笑うディートハルトに、敵意を露にしたのは海部ヶ崎。
「ん……? なんだ、この小娘は。フン、キャスの奴め、こんなゴミを俺に残してやったというのか。
 ゴミ処理は俺の性に合わん。そんなのは俺の後に控えてる奴らに任す」
「なっ……!!」
刀を抜きかける海部ヶ崎を、今度は黒部が止める。
「やめろ。お前達は先に進め」
「黒部……さん?」
「奴と私とは多少因縁があってな。その時の借りを返すためにも、ここは私が相手をする」
海部ヶ崎の前に出てディートハルトと視線を合わせる黒部。
そこでディートハルトが初めて顔色を変えた。
「ん? 貴様、どこかで見たな」
「つい先日世話になったばかりだ。ご丁寧にも脳に糸を埋め込まれてな」
「そうか……あの時の負け犬か。なるほど、どうやったかは知らんが洗脳を解いたらしいな」
「本当の負け犬はどっちか、試してみるんだな……」
18不知哉川 霊仙:2010/10/13(水) 05:38:17 0
足を軽く広げて、黒部が戦闘態勢をとる。
そんな黒部のもとに不知哉川が駆け寄り、小さな声で耳打ちする。
「奴のオーラの絶対量を超えない限り、『四肢掌握糸』は破れんへんで?」
黒部は驚いた。ディートハルトの技を知っているばかりか、破る方法すら既に知っていたのだから。
黒部も小さな声で問いただす。

「何故、お前がそれを……?」
「なに、そういう能力やからな。そしてもう一つ教えとくで。奴のオーラ量は四天王でも随一らしい。
 つまり、一時的にせよ四天王を圧倒するオーラを持たんと、奴は倒せんちゅーことや」
「……」
「今のあんたにはそれだけのオーラを練れる力量はないやろ?」
「……私に、闘うなというのか?」
「そうは言ってへん。少し力を貸してやろ思うてな。けど、どうせ二対一はあんたの望むところやないんやろ?
 それに俺もキサちゃんと離れたくないねん。あの娘は俺が守ったらなあかんからな。そこで、や……」

ゴニョゴニョとした、小声の会話が続く。
だが、ディートハルトが痺れを切らすよりも早く、その会話は終わった。

「いやぁー、待たせてもうてえろうすんまへんなー」
「作戦会議は終わったのか? ならば、貴様ら二人を今すぐまとめて──」
ディートハルトが両手を二人に向けようとするが、不知哉川はそこに口を差し挟んだ。
「おや? あんたが俺と闘うの?
 そらないでー、ゴミ呼ばわりしたこの娘の方が、俺より強いんやからなー」
ピタリと、ディートハルトの手の動きが止まる。
「この娘を先に行かすんやったら、俺も先に行かさんと筋が違うやろ?」
「フッ……フフフフフッ……。中々愉快な男だ。いいだろう、貴様も進むがいい。
 ここを抜けたところで、どうせ筆頭の下には辿り着けんのだからな」

不知哉川が海部ヶ崎を振り返りコクリと頷く。
そしてニカッとディートハルトに会釈すると、海部ヶ崎と共に彼の横を通り抜けていった。

「ゴミの相手をするよりは負け犬の方がまだマシか。
 ……さぁ、今度は生かしてはおかんぞ。五体をバラバラに引きちぎり、新たな血をこの部屋に吸わせてやる」
殺気を滾らせて、ディートハルトの顔が黒くくすんでゆく。
「私はこれまで、貴様ほどの反吐が出そうな残忍な悪党は見たことがない。覚悟してもらうぞ……!」
拳をグッと握り締めて、黒部が床を蹴った──。

地下16階に続く階段を駆け下りながら、海部ヶ崎は先程の黒部との会話の内容を訊ねた。
「彼には何て言ったんです?」
「なに、力を貸してやっただけや」
「はぁ……」
どこか曖昧な答えを聞き、海部ヶ崎はただ相槌を打つしかなかったが、不思議と不安はなかった。
不知哉川という男はみすみす仲間を見殺しにするようなことはしない。
自信を持って彼にあの場を託したということは、そこに任せられるという根拠があったのだろう。
彼女は自然とそう納得していた。

「兄弟にアリス、そして黒部……連中はともかく、問題はこの先に居る奴や」
「残る四天王は二人。雲水 凶介に氷室 霞美……」
「恐らく次は氷室やろな。キサちゃん、リベンジに自信ある?」
「正直言ってわかりません……けど、何としても勝たなければならないことは解っています!」
「──自信はないが闘志はある──。変に強がってないところがええで、キサちゃん」

【不知哉川 霊仙:『修練の間』を抜け、更に階下へ向かう】
19アリス・フェルナンテ:2010/10/13(水) 16:15:08 0
「奴らの誰かが奇襲してくる、そう言いたいんか?」

不知哉川は問いに答えたが、その答えはその答えは予想と違っていた。
これまでこのアジトを含め様々な情報を披露してきた不知哉川だったので、四天王の情報もある程度持っていると思っていた。

「……奴ら全員の技量がどの程度のものか、そこまでは俺も知らへんからな。何とも言えん」

しかし奴らに関しては情報不足だという。
それ程までに秘匿されてきた、と言うことだろう。
ないものねだりをしても仕方がない。

「とにかく、不意打ちには注意して進む。できることはそれしかないやろ」

結論としてはそれしかないようだ。
海部ヶ崎、黒部と言った他の面々も頷いている。
今はそれが最善の策だろう。

「あんたもそれでええな? アリ──」

そう言って不知哉川がこちらに向き直った瞬間、顔色を変えた。
そして地面から跳び上がったのを見て、こちらも跳ぶ。
何も言わなくても異常事態なのは明白だ。
直後に、足元を白い光が薙ぎ払って行った。

(この光――奴か)

不知哉川も襲撃者が誰なのか理解した様だ。
ならば――

「四天王の一人──やっとお出ましかい」

こちらが口を開くよりも早く、不知哉川が口を開いた。
そして声を向けた先、即ち光が飛んできた方向から、一人の女が出てきた。
それは予想通り盲目の女――沙鈴であった。

「フフフフ……私が近くに居ることを察知するとはな。
 もう少し泳がせてやろうかと思ったが、気が変わった。
 貴様ら全員、ここで始末させてもらう──といいたいところだが」

全員を一瞥した後、最後にこちらを見て視線を止めた。

「私の相手は貴様一人にしておこう。『俺達の分も残しておけ』──と言われているのでな」

どうやら沙鈴は端から自分一人を相手にするつもりらしかった。

(こちらとしても好都合だな。悪いが足手纏いがいない方が戦いやすい)

不知哉川達も話が終わったようで、不知哉川がこちらに向けて微笑みかけてきた。
口では言わなかったが、この場は任せる、と言う意味だろう。
そうして不知哉川は海部ヶ崎と黒部を引きつれ、階下へと向かっていった。
20アリス・フェルナンテ:2010/10/13(水) 16:19:26 0
「──アジトで決着を着ける──私はそう言った。
 貴様もその気があるから敢えて一人で受けて立ったのだろう?
 なぁ、『ザ・ファースト』よ……!」

沙鈴が少し興奮気味に話しかけてくる。
最初に出会ったときとは随分印象が違う。こちらが本性なのだろうか?

「フッ、光栄だな。かの四天王様からご指名を受けるとは。
 これは相応のもてなしをしなくてはならないな。
 半端なものでは失礼だろう?『キャス』よ」

冗談交じりに沙鈴に言葉を返す。
しかし沙鈴はそんなものを気にも留めず、戦闘態勢をとった。

「少しは場を和ませようと思ったのだが…要らぬ世話だったようだな。
 ならば話は早い。早々に貴様を片付けて皆の後を追うとしよう」

力を解放する。
湖に到着するまで『楽園の守護者』のために解放していたので、さして集中する必要もなかった。
それ以前にこれから始まる戦いに気分が高揚していたのもあった。

(人の事は言えぬ、か)

「さぁ始めようか、『盲目の魔槍使い』(ブラインドランサー)よ。
 まずは先程の礼だ、受け取れ」

周囲に無数のナイフ生成し、更にオーラでコーティングしたものを沙鈴に向かって高速で飛ばした。

【アリス・フェルナンテ:切谷 沙鈴と戦闘開始】
21切谷 沙鈴 ◆ICEMANvW8c :2010/10/13(水) 22:06:06 0
>>19>>20
「フッ、光栄だな。かの四天王様からご指名を受けるとは。
 これは相応のもてなしをしなくてはならないな。
 半端なものでは失礼だろう?『キャス』よ」
「……フッ」
アリスの言葉に切谷は鼻で笑い返すに留まった。
そして肩に乗せていた槍を下ろすと、切っ先のないその槍先をすっとアリスに向けた。
もはや問答無用、というわけだ。
「少しは場を和ませようと思ったのだが…要らぬ世話だったようだな。
 ならば話は早い。早々に貴様を片付けて皆の後を追うとしよう」
それを察したアリスも戦闘態勢に入る。
オーラが解放され、彼女が体表に纏うオーラの濃さがグンっと増す。
「さぁ始めようか、『盲目の魔槍使い』(ブラインドランサー)よ。
 まずは先程の礼だ、受け取れ」
瞬時に彼女の周囲に無数のナイフが出現する。
そしてそれが、間髪入れずに撃ち放たれる。
──速い。しかし、これはあくまで「先程の礼」という、小手調べに過ぎない。
他の異能者ならいざ知らず、四天王である切谷にとっては避けるまでもないものなのだ。

「──『百刃槍』──」
彼女がそう呟くと共に、向けた槍先から白い輝きが漏れる。
そしてその輝きは一瞬の内に増幅され、まるで無数の触手のように放射状に広がった。
切谷に向かっていたナイフの群れはさながら網にかかった魚群の如く、
次々に白き閃光に行く手を阻まれ砕け散っていく。
光が治まる頃には、空中を翔けたあの無数のナイフは一つ残らず地に沈んでいた。

「お遊びはここまでだ。次からは全力でかかってくるんだな。
 でないと、次で貴様は死ぬことになる──」
ゆらりとした槍を背中に回す切谷。
その瞬間、彼女のオーラも一段と充実し、それが魔幻槍全体を包み込む。
「伝説にもなった『ザ・ファースト』──その実力を、見せてみろ──」
魔幻槍が黄金色に眩しく発光する。これは何が起こる前兆なのか、恐らくアリスは覚えている。
「──くらえ──」
横薙ぎに振り払われた槍先から、プラズマを帯びた変幻自在の光刃が飛び出した。
これこそ、『雷刃槍』(ライトニング・ランス)。
かつて“手加減”をしながらもアリスを傷付けたあの技が、今度は“全力”を持って放たれたのだ。

【切谷 沙鈴:アリスに『雷刃槍』を繰り出す】
22アリス・フェルナンテ:2010/10/14(木) 01:06:08 0
「──『百刃槍』──」

放ったナイフは悉く地に落ちた。
相手の体には一本たりとも到達していない。

(やはりこの程度では小手調べにもならなかったか。少々失礼だったな)

「お遊びはここまでだ。次からは全力でかかってくるんだな。
 でないと、次で貴様は死ぬことになる──」

手にした槍――魔幻槍を背に回す沙鈴。
次の瞬間、彼女のオーラが爆発的に上昇し、魔幻槍を包み込む。

「伝説にもなった『ザ・ファースト』──その実力を、見せてみろ──」

魔幻槍がいよいよ輝きを増す。それは以前にも見たことのある光景だった。

(『雷刃槍』――以前喰らったあの技か。変幻自在なだけに完全にかわす事は不可能だろう。
 ならば――)

「──くらえ──」

魔幻槍が横薙ぎに一閃する。
その先端から、白光を帯びた光刃が繰り出される。
以前に見た電撃とは明らかに色が違う。

(あれは――プラズマか!厄介な代物を…全力、と言ったところか。
 だが、これを凌げんようでは話にならん)

一度見た技であれば、如何に威力が上がっていようとも根本的な性質は変わらない。
それ故に対策が立てられるのだ。逆にこれが初見の技であれば、前回と同じ結果になったかもしれない。

(さて、まずは目の前の攻撃を凌いでからだ)

『楽園の守護者』に変身する。
光刃は既に眼前に迫っている。まるでこの身を喰らい尽くさんとばかりに。
目を閉じてオーラを集中させる。
すると周囲に自らの体と同じ白銀に光る半円状の壁が展開した。

("守護者"の名、伊達ではないところを見せてやろう)

――『祝福の銀影』(プライウェン)――

その直後、『雷刃槍』が直撃し、プラズマがスパークして小規模の爆発が連続して起こる。
いくつか喰らったものの、プラズマはある程度壁で防げたが、光刃の方はそうはいかなかった。
壁を抜けて中へと侵入して来る。
しかしこれは予測の範囲内だったので、身を捻って直撃は避ける。
致命傷には至らなかったものの、脇腹を切り裂かれ血が吹き出る。
切り裂かれた痛みとスパークの衝撃で頭がふらついた。
23アリス・フェルナンテ:2010/10/14(木) 01:08:18 0
(グッ…流石にやるな…。だがこれでいい…!こちらの狙い通りだ!)

予想以上のダメージだったが、相手の一撃を凌ぎ反撃に移る。

(今度はこちらの番だな)

口を大きく開き、オーラを集束し始める。その輝きは徐々に大きくなっていく。
沙鈴は正面で槍を構えて佇んでいる。

(防げるものなら防いで見ろ。…無傷で済まされたら沽券に関わるがな)

チャージが完了し、発射体制に移る。
沙鈴もこちらの行動に気付いたようで、構えを取る。
だが遅い。このタイミングでは最早回避行動は間に合わない。
従って受け止めるしかないのだ。
爆煙が身を隠してくれたお陰で、うまいことチャージが出来た。
こちらも以前のように力を抑えたりはしない。紛れもない全力の一撃だ。

『原初の力、望み通り見せてやる。その身に刻みつけろ!』

念話を応用して、外部スピーカの要領で喋る。
この場に不知哉川達がいたら驚いたことだろう。
しかしそんな事は沙鈴には関係ない。彼女がこの姿を見たのは初めてなのだから。
即ち先程の理論が当てはまる。
この姿すら見たことのない彼女が、この姿でのみ使える技を知るはずがない――!

――『裁きの閃光』(ジャジメント・ストリーム)!!――

凄まじい轟音と共に、恐ろしく巨大な光の奔流が放たれる。
その速度は正しく光速。目にも留まらぬ速さで沙鈴に向かって行き、
建物が壊れるのではないか、とも思える規模の爆発を引き起こした。

【アリスフェルナンテ:『雷刃槍』を凌ぎ、『裁きの閃光』で反撃する】
24切谷 沙鈴 ◆ICEMANvW8c :2010/10/14(木) 03:44:24 0
>>22>>23
『雷刃槍』の切っ先がアリスに直撃する瞬間──
瞬き程の間もないほどの、文字通りほんの僅かな刹那の時に、切谷は確かに見ていた。
突如としてアリスの周囲に白銀色のバリアーが出現したことを。

プラズマの威力に反応して爆発が連続して起こる。
手応えの方はあった。そう、あったことはあったのだ。
だが、完全にヒットしたわけではないことを、切谷はその手の感触から気付いていた。

(バリアーで威力を殺いだか。私の『雷刃槍』を防ぐとは、大した防御能力だ)

と、感心しているの束の間、切谷は直ぐに新たな違和感に気がついた。
アイマスクに仕込まれたスキャナーが急激な異能の上昇を告げたのだ。
視界は爆発の煙によって塞がれ、何が起こっているのかは視認できない。
しかし、アリスが反撃態勢を整えたのであろうことは、疑う余地がなかった。

切谷は咄嗟に槍先を彼女の方向へと向ける。
だが、轟音と共に、突然視界が閃光に包まれたのは、その時であった。
その光は煙を消し飛ばし、フロア全体を飲み込んでいく──
それはアリスが放った巨大なオーラの波動──破壊光線であった。

切谷の体はそれにいとも容易く飲み込まれ、
そしてやがて、止めといわんばかりのとてつもない大爆発に曝されるのだった。

爆発の煙がおさまった時、地下五階のフロアには巨大なクレーターが広がっていた。
基地の床や壁は鉄を何層にも重ねた頑丈な構造(つく)りをしている。
そこに巨大な穴をあけたアリスの光線の威力がどれ程のものか、
どんな人間でも窺い知ることができるだろう。
普通の人間であればとっくの昔に消し炭になっているはずである。

──だが、それをくらった当の切谷は、残念ながら“普通”の人間ではないのだ──。

深いクレーターの真ん中に、一部分だけ削り取られていない無傷の足場があった。
そこに彼女は──切谷は立っていた。その周りに黄金色で半円状をしたシールドを広げて。

──『雷盾槍』(サンダー・シールド)──。
変幻自在の切っ先を半円状に広げ、自らの体を覆った防御の技である。
彼女はあのすさまじい光と爆発の威力を、この技によって殺していたのだ。
だが、流石にその全ての威力を殺しきることはできなかったようで、
シールドを解いた時、彼女は衣服のあらゆるところが焼け焦げていた。
そして視覚を補っていたあのアイマスクも、真っ二つに割れて地面に落ちていた……。
25切谷 沙鈴 ◆ICEMANvW8c :2010/10/14(木) 03:47:56 0
    カ オ
「……これを見た者は、他の四天王を除けば貴様が初めてになるだろう……」
切谷は無機質な声を響かせた。
彼女がマスクで隠していた部分は、火花を散らして剥き出しになった機械が見られ、
いつどこで負った傷跡なのか、凄まじい裂傷の痕が残っていた。
端整な下半分の顔とは真逆な、“醜い”といえるほどの顔の上半分。
そのアンバランスさにアリスがどのような顔をしているか切谷は知りたかったが、
生憎、完全に視覚を失った彼女にはそれを知る術はなかった。

「それにしても、私の『雷盾槍』をもってしても完全に威力を殺しきることができなかったとはな。
 流石に伝説になるだけのことはある。だが──」
軽くジャンプし、クレーターの及んでいないところに降り立つ。
そしてアリスのいる方角を目の無い目で見据える。
「あれだけの威力。そう何度も撃てるものではあるまい。
 “先にカードを切りながら”仕留められなかったのは誤算だったな」
口をニヤリと歪めると、再び槍先が黄金色に輝き始める。
それを見たアリスは、今度は攻撃が繰り出されるよりも先に、高くジャンプした。

切谷は視覚で彼女の存在を視認できない。
故に一箇所に留まるより、動き回って気配の在りかを気取られないようにと考えたのだろう。
確かに目でその存在を認識できない相手にとっては妥当な作戦である。
だが──アリスは正確に、彼女が跳んだ方向に顔を向けていた。

「残念だったな。私は目を失って以来、視覚に頼った生き方はしていない。
 どんなに速く動こうが、貴様の居場所など“音”と“オーラ”が導いてくれるのだ!」
槍先が眩しく発光し、再び『雷刃槍』がアリスに放たれる。
切っ先は上下左右、極めて不規則な軌道を描いて瞬時に彼女との間を詰める。
その動きを見切ることはどんな異能者であろうと不可能。よって不可避でもあるのだ。

……先程と同じくプラズマによる爆発が生じ、その感触が手に伝わってくる。
「──っ!」
彼女は先程と同じ違和感を感じ取り、思わず呻った。
それはあの白銀色のバリアーによって直撃を防がれたことを意味していたが、
彼女が唸ったのは、違和感が完全に同じでなかったことだった。
つまり、バリアーを貫通したであろう刃すら、手応えがなかったのだ。

(まさか──紙一重で避けた? ──それも空中で?
 ……たった三度で『雷刃槍』を無力化してみせるとは、流石だ……その一言に尽きる……!)
「だが──」
切谷は即座に槍を両手に持ち替え、更なるオーラを魔幻槍へと送り込んだ。
またしてもその槍先が眩しく発光する。だが、それは先程までの比ではない。
「私にはまだ“カードが残っている”のでな──! くらえ──『百雷槍』──!!」

叫びと共に、槍先から新たに数十とも数百とも思える無数の黄金色の軌跡が放たれた。
光と爆発──それに飲み込まれるのは、今度はアリスの方であった。

【切谷 沙鈴:ダメージをくらうも、その力は未だ健在。『百雷槍』を放つ】
26黒部 夕護:2010/10/14(木) 19:52:09 0
「おおおお────ッ!!」

黒部の力任せの拳打をディートハルトは軽くステップして横にかわす。
だが、黒部もそれを読んでいたか、着地したその場所から間髪入れずに蹴りを放ち、
ディートハルトの動きを逆用して逃げ道を塞いだ。

「フッ、筋肉バカが」
それでも慌てる様子無く、ディートハルトはその脚部に掌を向けた。
次の瞬間、黒部の脚から血しぶきがあがる。
彼の手から放たれた無数の『糸』が脚の肉を切り裂いたのだ。
「ぐっ!」
黒部が態勢を崩す間にディートハルトはひらりとジャンプし、
またおよそ数メートルの間合いを保った。
「貴様がそのパワーを活かせる接近戦に持ち込むことは前の闘いで判っている。
 だから俺はこうして近付かずに闘っていればいい。
 それだけで勝てる相手と判っているからなァ、ククククク」
「……それはどうかな……?」

再び黒部が勢い良く地を蹴ってディートハルトに接近する。
「フッ、バカの一つ覚えとはこのことだな」
繰り出された拳を今度はジャンプで避け、そのまま黒部の無防備な背後に回る。
そしてまた糸を繰り出す。
「なに──?」
だが、命中を確信した糸は、黒部の背中の前の空間で弾かれていた。
弾いたのは黒部が作り出していた『障壁』。
それも360度のあらゆる方角からの攻撃を防ぐ『固方』であった。
驚きで一瞬動きを固めたディートハルトの隙を、黒部は見逃すほど甘くは無い。
「──破ァッ!」
彼は体を左回転させながら背後に振り向き、
その勢いのままに加速させた左拳を、容赦なくディートハルトの右頬に叩き込んだ。

「ぐふぉっ!?」
ディートハルトが数メートル先にまで吹っ飛び後方の壁に叩きつけられる。
「チッ……」
それを見ても黒部は悔しそうに舌打ちをして見せた。
彼としてはクリーンヒットではなかったのだ。
何故なら、彼が叩き込んだ拳は『衝打』である。
本来であればディートハルトは首ごと捻じ切れるか、それとも顔を貫通させられていたはずだが、
彼は叩き込まれた瞬間、自ら後方に跳んで威力を軽減させていたのだ。

「……ペッ。……そうだった、貴様は妙な壁を使う異能者だったな。
 近付かなければ貴様の攻撃を受けないが、俺の攻撃も無力化されてしまうのか。
 これでは埒が……いや、身体能力で上回る分、貴様の方が俺より有利なわけだ」
壁からむくりと体を起こし、血まじりの唾と共にそう吐き出すディートハルト。
ダメージを受けたにも拘わらず彼の顔には余裕が滲んでいた。
黒部にはその理由が解っていた。ディートハルトには奥の手、『四肢掌握糸』があるからだ。

(いい判断はするが、身体能力自体は大したことはない。恐らく四天王でも最弱だろう。
 だが、あの技は厄介だ。ある意味ではこの男ぐらい、考えて能力を開発した奴はいないだろう)
27黒部 夕護:2010/10/14(木) 20:09:20 0
「いいだろう、同じ相手に二度も見せることは俺も初めてだが、もう一度使ってやる。
 『四肢掌握糸』をなァッ!!」
すっと右手を黒部に向ける。だが、黒部は動かない。
彼は『四肢掌握糸』を一度見て、どれほどのスピードで向かってくるかを記憶していたのだ。
(咄嗟に避けてしまえばその方向に放たれないとも限らない。
 慌てなくとも来る方向さえ判れば避けられる。紙一重でな……! だからギリギリまで引き付ける!)

「くらえッ!」
ディートハルトの右手から五本の透明な糸が放たれる。
(──見える!)
黒部は糸が眼前にまで迫ったところで、左に体を反らせつつステップしてギリギリでかわした。
そして直後に右の足首を捻って床を駆けた。向かうはディートハルト。
(奴は右手が使えない! 今が好機! 次の『衝打』で勝負を決める!)
黒部の右拳が青みがかってゆく。
「おおおおおおおおおお──!!」
精神が高揚し、自然、無意識の内に叫んでいた。
だがその叫びが木霊する中で、彼は確かに聞いていた。
鼻で笑みを零したディートハルトの声を──。

「──フッ、バカが。『四肢掌握糸』が両手で同時に放てないとでも思ったか──?」
気付けば、ディートハルトはフリーであった左手、向かってくる黒部に向けていた。
そしてその手からは、既に新たな糸が放たれていた。
(──しまっ──!)
このタイミングではもう避けられない。
(──くそおおおおおお──!!)
心の中で叫びながら、黒部は自分への怒りを露にするようにして、振り上げていた右拳を放った。
ディートハルトまでの距離はまだ数メートル残っている。これでは当然届かない。
半ばヤケクソ気味の行動だから黒部自身もそれは解っていた──しかし──。

「──なっ──ごほあぁっ!?」
突然、ディートハルトが下顎を見せて空中に舞った。
一体、何が起こったのか。
それは黒部よりも、吹っ飛ばされた当人であるディートハルトの方が理解していたことだった。

「こ、こいつ──! オーラを──飛ばしやがった──!!」

黒部は右拳に目を向けた。青みが掛かったオーラは消えていた。
いや、本来飛ばすことのできない『衝打』を、拳圧のようにして飛ばしたのだ。
それは彼が追い詰められたことによって成長した証であった。

「……『衝圧拳』……」
拳による攻撃射程が短いことが長いこと彼の弱点であった。
だが、それを克服する新たな技を土壇場で手に入れた。
それが齎す精神的な効果は、両者にとって全く対照的であった。

【黒部 夕護:『衝圧拳』を体得】
28アリス・フェルナンテ:2010/10/14(木) 23:25:26 0
>>24>>25
『裁きの閃光』が直撃し、凄まじい爆発が起こり、辺りを爆煙が包んだ。
やがてその爆煙がおさまってくると、目の前には巨大なクレーターが出現していた。

(手ごたえはあった…。この技で倒せるとは思っていないが、さすがに無傷ということは――)

しかし次の瞬間にはその考えを改めなくてはならなかった。
爆煙が晴れて姿を現したのは、クレータの中心に出来た無傷の足場と、そこに立つ沙鈴だった。
その姿は、完全に無傷とはいかないまでも、せいぜい服が焦げて顔を覆っていたマスクが壊れた程度だ。

(最大チャージにも関わらず、致命傷どころかさしたる傷も与えられてはいないようだな…。
 しかしあの槍、何とまぁ使い勝手のいいことよ)

沙鈴の持つ魔幻槍からは、半円状に広げられた切っ先が広がっていた。
おそらくはあれで威力を殺したのだろう。

    カ オ
「……これを見た者は、他の四天王を除けば貴様が初めてになるだろう……」

無機質な声が響く。
マスクが壊れ、そこから現れた素顔は普通の人間の顔ではなかった。
端正な下部とは異なり、上部には激しい裂傷があり、壊れかけの機械のような物まで見える。
いったい何があったのか――いや、自分には関係ない。
今は生死をかけた戦いの最中なのだ。余計なことを気にしている暇はない。

「それにしても、私の『雷盾槍』をもってしても完全に威力を殺しきることができなかったとはな。
 流石に伝説になるだけのことはある。だが──」

クレーターの外までジャンプしながら沙鈴が呟き、光を宿さない目でこちらを見る。

「あれだけの威力。そう何度も撃てるものではあるまい。
 “先にカードを切りながら”仕留められなかったのは誤算だったな」

ニヤリ、と初めて感情を露にして口元を歪める。
そして再び魔幻槍が光り輝く。

(そう何度も同じ手は喰らわん。こちらから先に動くべきか)

そう思い、高く跳び上がる。
マスクが壊れた沙鈴は視界がないはず。それならば動き続けて的を絞らせないのが定石だろう。
しかし沙鈴は正確にこちらを捉えていた。

「残念だったな。私は目を失って以来、視覚に頼った生き方はしていない。
 どんなに速く動こうが、貴様の居場所など“音”と“オーラ”が導いてくれるのだ!」

再び雷刃槍が放たれる。
『祝福の銀影』を展開してそれを迎え撃つ。

(一度目は初見だったが故に直撃、二度目でタイミングは計れた。ならば三度目で避けられぬ道理はない)

プラズマを防ぎ、壁を貫通してきた光刃も避ける。

(最早見切った。後は――)

反撃をしようと沙鈴がいるであろう方向に目を向ける。
先程と同様に爆煙が広がっているが、オーラを探知できるのはこちらも同じだ。
だが次の瞬間、沙鈴のオーラがまたしても跳ね上がった。先程とは比較にならない程に。

「私にはまだ“カードが残っている”のでな──! くらえ──『百雷槍』──!!」
29アリス・フェルナンテ:2010/10/14(木) 23:27:47 0
その叫びと共に、数え切れないほどの雷撃が周囲から襲ってきた。
そして今度はこちらが光と爆発に飲み込まれる番だった。

(クッ…さすがにあれで終わりというわけにはいかなったか。避け切れん――!)

防御も間に合わず、今度は直撃した。

『グハッ!』

凄まじい雷撃と共に床に叩きつけられた。
かなりのダメージだ。『楽園の守護者』でなかったら少々危なかったかもしれない。

『流石は四天王。予想を遥かに超える実力には舌を巻くばかりだ。
 だが"カードが残っている"のが自分だけと思うなよ?我を誰だと思っている。
 貴様ら異能者の祖にして、始祖の力を受け継ぎし者よ。
 原初の力、その真髄を見せてやろう』

アリスの体を光が包み込む。
常人なら目を開けていられない程の光だが、視覚を失った沙鈴には関係なかった様だ。
事の成り行きを静観している。むしろ何が出てくるのか楽しみ、と言った感じですらあった。
しかし期待は悪い方向に裏切られることになる。
光がおさまると、そこから現れたのは人間の姿をしたアリスだった。
しかしその体には変化が起こっている。
頭からは狼の如く耳が生え、口には牙、手足には鋭い爪、更には尻尾まで生えている。
長い髪は一つに束ねられ、瞳の色も鮮やかな金色に変化している。
服装も今までの動きにくい重そうな物(アリスには関係なかった)から、動きやすさを追求した無駄のない服装になっている。
上は臍が出るくらいのノースリーブジャケット、下は腿上くらいまでのホットパンツ。
常人から見れば唯の可愛らしい変化だが、見た目通りではない事が沙鈴にはわかっているようだった。
その証拠に、今まで冷静だった沙鈴がわずかに汗をかいている。
スッ、と目を開いて沙鈴を見る。

「恐れ入ったぞ、貴様の実力は賞賛に値する。我をこの姿にさせたのだからな。
 四天王の他の者達も皆この様な強者なのか?
 …何にせよ"子供"にこの姿、『楽園の狩人』(エデンズキニゴス)を見せたのは貴様が始めてだ。
 その意味でも貴様は今まで出会った"子供達"の中でも最強クラスだ。
 だが悪戯が過ぎる子供には仕置きをせんとな――」

先程の沙鈴の様に口元を歪め、ニヤリと嗤う。
そしてアリスの姿がぶれる。恐らく沙鈴の感じるオーラもぶれて感じているだろう。
感情に乏しいので定かではないが、戸惑いの表情をしているように見える。

「――何処を見ている?その方向には誰もいないぞ?」

直後、沙鈴のすぐ背後から声がした。
姿やオーラがぶれていたのは、超高速で動いた為に出来た副産物――残像だったからである。
沙鈴が反応するよりも早く拳を叩き込む。
それでも幾多の戦闘経験から来る勘が働いたのか、直前で前方に跳びながら槍を背に回し、先程のあの防御技を繰り出した。
しかしそれでも威力は殺せずに壁に叩きつけられ、更にはその壁を突き抜けて隣の部屋まで吹き飛んだ。
30アリス・フェルナンテ:2010/10/14(木) 23:28:28 0
「どうした?仕置きはこれからだぞ?」

沙鈴の吹き飛んだ方向を見向きもせず、喋りかける。

「この程度、驚くには値しないぞ。
 貴様程察しがよければ簡単に気がつくはずだ。
 注目すべきは名前――そう、"守護者"と"狩人"の違いだ。
 "守護者"とはその名が示す通り、守りの要だ。故に"守り"に特化している。
 ただ、守るだけではどうしようもないので一応の攻撃も出来る。…隙の多い技ばかりだがな。
 では"狩人"はどうか?――聞くまでもない。
 "狩人"とは狩る者。音もなく獲物に忍び寄り、一瞬の内にその命を奪い去る。
 つまり"速度"と"攻撃"のスペシャリストだ。故にこの程度の攻撃など造作もないと言うことだ」

言い終えるのとほぼ同時に、瓦礫の山から沙鈴が姿を現した。
先程よりも服の破れは多くなり、ところどころ出血はしているが、致命傷ではないようだ。

(やはりな。あの防御技とて万能ではないようだ。
 攻撃を防ぎきれていない)

 鍵になるのは――タイミング。
 向こうが技を発動させる前にこちらの攻撃を叩き込めばいい。
 タイミングは一瞬――攻撃の瞬間だ。
 如何に奴とて攻撃と防御を同時に行うことは容易ではない筈。
 そこに一瞬のタイムラグが生じる筈だ。そこに全力で叩き込めばいい。

(そうと分かれば、まずは攻撃をしてもらわねば困るな)

オーラを充実させる。
するとアリスの体が僅かに発光する。
これは能力の類ではない、純粋なオーラである。

(少しヒントを与えすぎたな…。こちらの弱点に気付いたかも知れん)

弱点――それは防御面である。
速度と攻撃を重視したため、防御能力がかなりダウンしたのだ。
並の異能者なら問題はないが、四天王ともなるとそうもいかない。
全力で防御したとしても、かなりのダメージは覚悟した方が良いだろう。
だがそれも、"攻撃が当たった場合"の話だ。

(要は当たらなければいいだけの話。この姿を持ってすれば雷撃も刃も無傷でかわせる。
 無論、上手く見極めればの話だが。
 一つ間違えればこちらも唯ではすまない。敗北は必死だろう。
 チッ、降魔の剣さえあれば…)

遥か地下にあるであろう降魔の剣を頭に浮かべ、すぐに掻き消す。
今は手元にないのだ。考えても仕方ない。

「――行くぞ。死にたくなければ凌いでみろ」

そして、再び残像を残してアリスの姿が消えた――

【アリス・フェルナンテ:『楽園の狩人』に変身。切谷に仕掛ける】
31黒部 夕護:2010/10/15(金) 21:04:44 0
空中でくるりと一回転してディートハルトは着地する。
口から流れ出た血を拭いながら黒部を見据えるその顔に、先程までの余裕は感じられなかった。

「チッ、まさか遠隔戦に対応できるようになっていたとは……それもたった一日で」

黒部が構える。
ディートハルトとは対照的に、その顔はどこか冷静さと自信に満ちていた。

「……これでお前に近付かなくとも闘える……射程は互角だ」
「互角……? フッ、笑わせるな。たった一発の拳圧如き、次は弾き返してやるまでだ」
「──そうか、ならば──」

黒部は構えの態勢から素早く腕を真正面に繰り出す。
青みがかった拳圧が放たれ、ディートハルトに向かう。
しかし、それは一発だけではなかった。その数は何と十を数える。
彼は一瞬の内に連続して十もの拳撃を繰り出していたのだ。

「なにっ──!? ぐおおおおおおおお──っ!!」

十もの『衝圧』を一気に体に受け、またしてもディートハルトが吹っ飛ぶ。
黒部は冷静な顔を崩さずも、技としてのしっかりとした手応えをその手に感じ取っていた。
『衝圧拳』は自分の拳撃のスピードに比例してその威力と射程が伸びるのだ。
では、もしも、自分が“全力”で拳を、それも連続して繰り出したらどれだけの威力になるのだろうか?
それを思うと身震いする思いがした。

「調子に乗るなよ! この蛆虫がァァーッ!!」
ディートハルトの手から透明な糸が放たれる。『四肢掌握糸』だ。
(……)
それを先程よりもギリギリのタイミングでかわす黒部。
それは精神的な遅れによって動きが鈍ったからではない。
むしろ余裕をもって紙一重でかわす精神力を、彼が身につけたからに他ならない。
「チィッ!」
ディートハルトはもう片方の手で避けた方向に『四肢掌握糸』を放つが、
それも紙一重でありながら余裕を持った回避行動でかわされてしまう。

「貴様の技は見切った。……悪いが当たる気がしない……」
「なんだと……!?」

黒部の精神的な成長は彼の身体能力をも最大限に引き出していた。
避けながら、また黒部は素早い拳撃を繰り出す。
青みがかった拳圧がまた空間を駆けるが、その数は先程よりも更に増えていた。

「ぐはぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
およそ二十もの『衝圧拳』が連続してヒットする。
内臓にまで至る重いダメージがディートハルトの口から更に流血を促す。
「ぐほっ! ……ま、まさか、ここまでの短期間にこれだけ成長するとは……」
「今のでおよそ二十か。今の俺なら、もっと増やせそうだ」
もはや余裕の表情は黒部の独占物になっていた。
32黒部 夕護:2010/10/15(金) 21:12:13 0
それでも、黒部は得たいの知れない不安感を抱き始めていた。
もはや攻撃の流れは完全に黒部に傾いている。それは疑いようがない。
にも拘らず、吐血しダメージが蓄積されているはずのディートハルトの目は、未だ狩人のそれであったのだ。
(なんだ……この不気味な目は……? まだ何か企んでいるのか……?)

「──確かに」
「?」
「貴様のパワーアップは俺の想定外だ。だが……俺の技全てを無力化できたと思うのは間違いだぞ?」

ディートハルトの右の人差し指がピクリと動く。
瞬間──小さな光がその指先から走った。
いや、それだけではない。気がつけば、光は黒部の周囲、上下左右あらゆるところで走っていた。

「──っ!?」
「やっと気がついたか。俺が何度、『四肢掌握糸』を放ったと思ってる。
 あれはわざわざバカ正直に敵の真正面に放たなければならない技とでも思ったか?」
「これは!」

黒部は目を見開いた。光は小さな『糸』に照り返されたもの。
まるで蜘蛛の巣のようになった糸が、いつの間にか黒部の周囲を取り囲んでいたのだ。

「──『操糸結界陣』──! 触れればその瞬間、体の自由を奪われる……!
 既に糸は貴様を取り囲んでいる。身動き一つ取れまい」

(これまでかわした『四肢掌握糸』の糸か……! いつの間に……!)

「さぁ、再び形勢逆転だな。後は貴様を結界に追い込むだけだ、ククククク」
ディートハルトの右手が淡いオーラの輝きに包まれる。
糸の攻撃がくるのだ。しかし、これでは回避できる方向が無い。
(奴の糸は俺の壁を透過して直接肉体を支配する……防御はできない。
 結界は前後左右上下、全ての逃げ道を塞いでいる! 少しでも動けばアウトだ!)

「最後くらい選ばせてやる。俺の手で直接操られるか、それとも結界にかかるか」
じり、じりとディートハルトが間を詰めてくる。
形成が逆転した事によって徐々に黒部に焦りが募り初める。
(チッ……ここまで来て……!)
だが、冷静さを失いかけたその時──不知哉川の言葉が、彼を正気の淵に留まらせた。

『ええか、“右腕”の力は相手に勝利を確信させまで温存しとくんや。
 油断してた時の方が効果はある。そしてその時が、あんたが勝てる唯一の機会や』

(──右腕──そうか──)
「うおおおおおおおおおおお!!」
黒部は雄叫びをあげ、そして目の前の結界に自ら飛び込んでいた。
右腕が糸に振れ、その瞬間、体の自由がきかなくなる。
「うあああああ!!」

「フッ、自暴自棄になったか。まぁ無理もない。ククク、後は貴様を料理するだけだ」
ディートハルトの顔が勝利を確信した笑みに歪む。
黒部が待っていたのは、正にその瞬間であった──。

【黒部 夕護:『操糸結界陣』に体の自由を奪われるが、勝機を見る】
33切谷 沙鈴 ◆ICEMANvW8c :2010/10/16(土) 02:57:54 0
>>28>>29>>30
手応え、今度はあった。それも当然である。
全ての稲妻が高速不規則であらゆる方角からその牙を向けるのだから、避けきれるわけがない。
それでも尚、切谷は手応えに不満を感じていた。
(『百雷槍』をもってしても尚、仕留めきれなかったか。 タフだな)

切谷は感じられるオーラの微量な変化から相手の状態がどのようなものか窺い知ることができる。
それによると、敵はダメージ大ながらも、まだ戦闘意欲を失ってはいないというものだった。
(……なに?)

敵の状態を推察しながら、その途中で切谷は眉を顰めた。
……おかしい。敵の異能値が上がっているのだ。
アリスに与えたダメージは間違いなく大きかったはず。
それによって弱体化するならまだしも、パワーが上がるのはどう考えても妙である。

「恐れ入ったぞ、貴様の実力は賞賛に値する。我をこの姿にさせたのだからな。
 四天王の他の者達も皆この様な強者なのか?
 …何にせよ"子供"にこの姿、『楽園の狩人』(エデンズキニゴス)を見せたのは貴様が始めてだ。
 その意味でも貴様は今まで出会った"子供達"の中でも最強クラスだ。
 だが悪戯が過ぎる子供には仕置きをせんとな――」
「『楽園の狩人』(エデンズキニゴス)……?」
アリスの言葉で、切谷はやっと一つのことを理解した。
『楽園の狩人』とやらがどのような姿かは知らない。
しかし、彼女が変身をしたということは確かであり、
そしてパワーが上がったように感じたのは、恐らくそれ故であろうということを。
(要はこれからが真の本気ということか……フッ、フフフフッ……化物にも、上がいたか……)

「――何処を見ている?その方向には誰もいないぞ?」
「──!?」
切谷は自分の耳を疑った。
オーラの存在は確かに自分の前方、およそ数メートルの距離に在ったはずなのだ。
それを認識しながら、いつの間にか彼女が自分の背後に回っている。
(そうか、残像のようにオーラを残して高速移動──目が見えないのを利用したか──)

今から振り向き、反撃態勢に入っても遅い。
そう判断した彼女は槍をそのままあらぬ方向へ向けたまま、シールドを展開した。
『雷盾槍』──。電気のシールドは一瞬の内に自らの背面にまで広がる。
もっとも、敵がシールド以上の威力を持って攻撃してくれば、ダメージは防げない。
いや、間違いなくそうなる。だが、それでもやらないよりはマシなのだ。

衝撃に強いボディスーツを難なく通して、背中に衝撃が走る。
切谷はその衝撃に抗う術もなく、そのまま勢い良く壁に衝突──
強固なその壁すら割れやすいベニヤのように貫通し、隣の部屋まで吹き飛ばされた。

「ぐはっ!」

口から血が飛び出る。『雷盾槍』で威力を軽減しながらも、壁を貫通させ、
ボディスーツと屈強な肉体を通して内臓にまでダメージを与えるのだから、
アリスの攻撃力がどれほど異能者の枠をはみ出しているか知れるというものだ。

「どうした?仕置きはこれからだぞ?」
突き抜けたフロアから彼女の声が聞こえてくる。
(……フッ……フフフフッ……)
心の中で不気味に笑いながら、切谷は壁に埋まった体を起こした。
34切谷 沙鈴 ◆ICEMANvW8c :2010/10/16(土) 03:02:02 0
「この程度、驚くには値しないぞ。
 貴様程察しがよければ簡単に気がつくはずだ。
 注目すべきは名前――そう、"守護者"と"狩人"の違いだ。
 "守護者"とはその名が示す通り、守りの要だ。故に"守り"に特化している。
 ただ、守るだけではどうしようもないので一応の攻撃も出来る。…隙の多い技ばかりだがな。
 では"狩人"はどうか?――聞くまでもない。
 "狩人"とは狩る者。音もなく獲物に忍び寄り、一瞬の内にその命を奪い去る。
 つまり"速度"と"攻撃"のスペシャリストだ。故にこの程度の攻撃など造作もないと言うことだ」

アリスが言い終えると同時に突き抜けた穴から切谷が姿を現す。
顔はダメージを感じさせないほど表情がない。
元々、表情があまり豊かではない彼女だが、今回はどこか異様な雰囲気が漂っていた。

「仕置きだと? ……ここにきて母親面は止めてもらおうか。
 母親とは、時に身を挺して我が子の安全を守る存在のことを指して言うのだ。
 ……わかるまい。貴様がその圧倒的パワーを盾にのうのうと自らの生を貪っていた頃、
 我々がどのような目に遭っていたかをな」

体全体からこれまで以上のオーラを放ちながら、彼女は槍を両手で構えた。
そして目の無い目から、視線を彼女へと突き刺した。

「速度と攻撃……なるほど、自らそう言うからにはこちらが先に攻撃を仕掛けても、
 私を仕留めてみせる自信があると見える。だが、そう上手くいくかな……?」
槍にオーラが吸い込まれ、輝きが増していく。
世には諸刃の剣という言葉がある。
極端な長所は同時に短所になりえるという大きな皮肉の例だ。
(あれは何かを犠牲にしなければ手に入れられない力……スピードはあっても防御力はない。ならば……)
切谷は気付いていた。アリスの弱点に。
だからこそ、彼女が賭けに出たことも解っていた。

「――行くぞ。死にたくなければ凌いでみろ」
ふっとその場からアリスの気配が消える。
いや、正しくはオーラの残像を残して消えたのだが、切谷が二度もそれに惑わされることはない。
今、彼女が感じているのはオーラの所在ではない。“音”なのだ。
関節の音、筋肉の膨張と縮小音、血液の流れ、そして心臓の鼓動──。
アリスがそれを消せない限り完全に切谷を誤魔化すことはできないのだ。

「凌ぐ? ──それは──」
故に切谷はまたしても正確に彼女の移動方向を把握していた。
そして、自らの認識と思考力に即応できるほどに鍛え上げられた肉体は、素早く正確に行動した。
移動先に槍先を正確に向け、そして照準を合わせたその瞬間に、槍の輝きを最高潮に持っていったのだ。

「──貴様の方だ──。くらえ────『雷光乱咲槍』────!!」

黄金色の光と、白い光が、まるで咲き乱れるかのようにその場を包んだ。
その軌跡の数はあの『百雷槍』すら比ではない。
アリスはいわば黄金光と白光の二つの軌跡のいわば二重網を突破しなくてはならないのだ。
これこそ、攻撃と防御を同時にこなす、攻防一体の戦陣──。

しかし、これは切谷の最大最強の技であると同時に、これまで封印してきた技でもあるのだ。
何故なら、凄まじい数の軌跡を繰り出すこの技は、その見た目通りにオーラの消費量が桁違いで、
しかも、媒体である魔幻槍の限界出力を軽くオーバーしてしまう欠点がある。
もし数秒以内に決着がつかなければ、そのままオーラが尽きるか、それとも魔幻槍が砕け散るか、
いずれにしても致命的な隙を生むことになるのである。
切谷 沙鈴……彼女も、自らが持つ諸刃の剣に、全てを賭けたのだ。

【切谷 沙鈴:正真正銘の全力で最大技『雷光乱咲槍』を放つ】
35アリス・フェルナンテ:2010/10/16(土) 07:59:10 0
>>33>>34
「凌ぐ? ──それは──」

沙鈴の顔がこちらに向く。
沙鈴はこちらの動きを正確に捉えていた。まぐれや勘ではない。
その証拠に、槍の先端は常にこちらを向いている。
そして魔幻槍はかつてない輝きを見せている。

(先程よりも察知が正確だ。これは――音か。
 呆れた聴覚だな。まるでレーダーだ。
 人間は五感の内一つが使えなくなると他の感覚が鋭くなると言うが…。
 視覚を失った事により手に入れた"武器"と言うわけか)

盲目の沙鈴がこちらの動きを正確に掴める理由を推察する。
しかし捉えられている事を承知の上で動き続ける。そうしなければ一瞬でやられるだろう。

(来る。今までで最大の攻撃が…!)

「──貴様の方だ──。くらえ────『雷光乱咲槍』────!!」

沙鈴の咆哮と共に黄金色の光と白色の光がその場を支配した。
まるで花が咲き乱れるようなその光景は、驚きを通り越して美しいとすら言える。

(既に人間の域を超えているな…。これ程簡単に攻防一体の攻撃を繰り出すとは。
 しかしこれだけの出力、そう長くは持つまい。もって数秒程度…。
 明らかに人間の出せるオーラの量ではない。体も武器も壊れるだろう。
 だがその数秒で勝負は決まる。さて、賽は投げられた。
 後はこちらの思惑通りいくかだ)

多少の誤算はあったが、狙っていた瞬間でもある。
襲い掛かる光の嵐を紙一重で交わしつつ、徐々に沙鈴に接近する。
だがそれすら容易ではない。一歩間違えれば忽ち雷撃の餌食になるだろう。
回避は慎重に、かつ大胆に行わなければならない。
しかしそれにも限界が訪れる。
沙鈴本体の周辺は、外周上とは比にならない程の雷撃が迸っている。
何発かは体を掠めた。体のあちこちから肉の焼ける嫌な臭いがする。
36アリス・フェルナンテ:2010/10/16(土) 07:59:52 0
(流石に限界か…かすっただけでこの威力…。
 直撃すればまず耐えられんな。運が悪ければ即消し炭だ)

沙鈴の体まで後2m。たったそれだけの距離が今は遠い。

(クッ…これまでか…!しかし、我は降魔の剣と母をこの手に納めるまでは死ねんのだ――!)

玉砕覚悟で最後の突撃を仕掛けようとした瞬間、場に異変が起こった。
雷撃の威力が減少し始めたのだ。恐らく沙鈴のオーラが限界に達したのだろう。
魔幻槍にもひびが生じている。

(向こうも限界のようだな…。とは言えこちらも既に限界。
 最早直撃を避けることすら難しい。ならば――!)

「互いに限界が近いようだな…。最後の勝負と行こうじゃないか」

敢えて迫り来る雷撃に向かって走りながら、オーラを極限まで高める。
普通なら視認出来ない筈のオーラだが、アリスのそれははっきりと見て取れるほど光り輝いていた。
それを自分の身に纏い、突きのポーズをとる。
得物は持っていない。否、必要ない。
何故なら――自分の体だからだ。

「この距離ならば互いに必中。後は互いの精神力が勝敗を左右するな。
 行くぞ…受けろ、我が最高の技を。『神殺しの槍』(ミストルテイン)!!」

足に込めたオーラを爆発させて更に加速し、ロケットの如く突撃する。
加速の瞬間、引き絞った腕を前に突き出し、その反動で更に加速する。
その姿は正に神をも穿つ槍の如し。
雷撃をその身に受けながらも、一直線に沙鈴の体へと迫る。
しかし沙鈴も黙って喰らうようなことはしない。
まるで命を燃やすように――実際に燃やしているかもしれない――最後の一撃と言わんばかりにオーラを振り絞る。
徐々に弱まっていた雷撃も、技を放った当初と同じ――あるいはそれ以上の――輝きを取り戻している。
沙鈴の体に槍先――に見立てた指の先端――が触れると同時に、無数の雷撃がアリスを包み込んだ――

【アリス・フェルナンテ:『雷光乱咲槍』に対し『神殺しの槍』で反撃。互いに技が直撃する】
37黒部 夕護:2010/10/16(土) 23:32:42 0
「……待ってたぜ、貴様が油断するのをな」
苦悶の表情から、一転して神妙な顔付きとなる黒部。
「ハハハハハ……は?」
その突然の変わりように、ディートハルトは高笑いを止めた。

「貴様の敗因を教えてやろう。それは、不知哉川の能力を知らなかったことだ!」
言い放つ黒部の体全体をこれまで以上のオーラが包む。
中でも、右腕を取り巻くオーラの輝きは抜きん出ていた。
(今こそ使わせてもらうぞ不知哉川──! お前が貸してくれたパワーを!)

『あんたに俺のオーラを貸したる』
戦闘前の会話で、不知哉川は確かにそう言った。
『オーラを……貸す?』
『そうや。俺の能力は他人のオーラを吸収し、そのオーラから情報を読み取るっちゅーもんやねんけど、
 実はもう一つおまけの力があんねん。それはな、吸収したオーラを自分や他人にプラスできるんや』
『……』
『つまり、パワーアップさせることができんねん』
そう言って、不知哉川は黒部の右腕を掴んだ。
『けどな、これはドーピングみたいなもんなんや。なんせ本来自分が持っていないパワーなわけやからな。
 長時間オーラをプラスし続けると全身の肉体は悲鳴をあげ、下手をすると死んでまう。
 だからあんたには右腕だけにその力を貸したるわ。一時的にディートハルトを凌ぐくらいに限定してな。
 ……それでも多少の反動があるやろうけどな。

 ……この力はあんたがオーラを全力にした時にのみ発動するようにしといたる。
 さっきも言ったがパワーアップはほんの一瞬や。せやから使うタイミングを間違えたらアカンで」

──使うタイミング……それは今この時を置いて他にない。
「あああああああああああああ──ッ!!」
不知哉川のオーラと、自らの右腕が纏うオーラがプラスされたその量は、
一時的にせよ、ディートハルトが練り出したオーラの絶対量を超えていた。
それはつまり、『操糸結界陣』が破られることを意味しているのだ。

「──破ァァァアッ!!!!」
黒部の叫びが轟くと共に、彼を覆っていた結界の糸が四散する。
「──ば、バカな!! こいつ、俺のオーラ量を超え──」
愕然とするディートハルト。
結界にかかり窮地に追い込まれたのは黒部ではなかった。
追い込まれていたのは初めからディートハルト・アイエン、彼の方であったのだ。

「貴様だけは許さん──“俺自身の手”で、直接カタをつける──」
「はっ!」
ディートハルトは我に返り、そして気がついた。
既に黒部が至近距離まで迫り青みがかったオーラを纏った拳を振り上げていることを。

「──おおおおおおおおおおおおおお──ッ!!」
これまでにない力強さをもって放たれた拳が、ディートハルトの無防備な腹部に叩き込まれた──。
38黒部 夕護:2010/10/16(土) 23:36:43 0
「──『衝圧』ッ──『拳』ェェェェエン──ッ!!!!」
『衝圧』の貫通力はディートハルトの腹部を貫き、
そして更に、拳から勢い良く放たれた拳圧は彼の背中に大きな穴を空けて、
文字通り彼を地獄へと吹き飛ばした。

「げぼぉぉおっ!?」
口から盛大に血を吐き出し、苦悶の表情というよりは愕然とした表情を浮かべたまま
ディートハルトは空に舞い上がり、そしてやがて地に沈んだ。

「ば……バカな……! この俺が、この俺がこんな……こんなゴミにッ……!」
「貴様は強かった。だが、“それだけ”だった……。
 ……地獄で、閻魔にも同じことを言われるだろうよ」
「……がっ、ふ……」
再度の吐血の後、ディートハルトは動かなくなった。
そして彼はもう二度と、言葉を喋ることはなかった。

「この部屋に、新たな血を吸わせたのは貴様の方だったな」
瞳孔を開ききって倒れ伏すディートハルトの亡骸にそう言い捨てて、
黒部は階段へ向かって歩き始めた。

いや、彼にしてみれば走っているつもりなのである。
だが、戦闘後の疲労に、負傷した足を抱えていては、そう思うとおり体が動かないのだ。
しかも結界を破った右腕は、これまで感じたことが無いほどの疲労感が残り、
加えて少しでも動くたびに激痛が走るという、深刻な状態にもなりつつあった。

黒部の頭に不知哉川の言葉が蘇る。
『それでも多少の反動があるやろうけどな』

「その反動がこれか……」
息を切らし、右腕の痛みに絶えず耐えながらも、黒部は最下層を目指して前進を続けた。

【黒部 夕護:戦闘終了。地下15階から階下へ向かう。】
【ディートハルト・アイエン:死亡】
39切谷 沙鈴 ◆ICEMANvW8c :2010/10/17(日) 04:33:20 0
>>35>>36
アリスは無数の攻撃的軌跡をかいくぐって接近してくる。
恐るべきは、彼女がまだ一発も直撃を許してはいないということだったが、
それでも彼女が限界に近付いているということは、切谷の知るところでもあった。

それが証拠に、驚異的な瞬発力で間合いを詰めたアリスが、先程から二メートルの地点で止まっている。
つまり、体力が尽きようとしており、回避しながらの接近が困難になりつつあるのだ。

もっとも、限界が近付いているのは切谷とて同じである。
体を包むオーラの膜がうっすらと消えかかってきたのだ。
それはオーラが尽きる前兆。そのことは他ならぬ彼女自身が最も理解していることであった。

「互いに限界が近いようだな…。最後の勝負と行こうじゃないか」

故に、アリスの言葉は切谷の望むところでもあった。
切谷は「来い」といわんばかりにニヤリと笑って見せる。
その瞬間、彼女はアリスの異能値が跳ね上がったことを感じ取った。
(文字通り、これが最後となるか……よかろう、是非に及ばず)

「この距離ならば互いに必中。後は互いの精神力が勝敗を左右するな。
 行くぞ…受けろ、我が最高の技を。『神殺しの槍』(ミストルテイン)!!」
アリスが加速して再接近してくるのを感じた切谷は、その“音”に全神経を傾けた。
それは、一体どの位置からどうやって、どれほどのスピードで何を放ってくるのか、
彼女の一挙一動が奏でる体の音を聞き、1ミリの誤りなく正確に彼女の位置と行動を看破する為である。

(──見えた!)
そして、時間にして僅か1秒にも満たないであろう瞬き程の間に、
切谷の驚異的な聴覚は、それら全てを明らかにしてみせた。
(──位置は私の真正面。腕を差し出している。加速した勢いままに私の体を貫く気か。だが──)
元々、槍先は真正面に近い場所に向けられていた。
それもあって、彼女には体内に残った全てのオーラを振り絞り、
尚且つ光の軌跡の範囲を絞り、全ての攻撃を真正面へと向ける時間的余裕が生まれていたのだ。
それはつまり、切谷の方が若干ながら有利ということである。

実力が拮抗した異能者同士の闘いでは、その“若干”が大きなアドバンテージとなる。
それは、すぐに結果として現れた。
ほとんど全ての攻撃的軌跡がアリスに叩きつけられる一方で、
切谷はその胸に槍か刀の切っ先に見立てた指の先端が軽く触れられたに過ぎない。

「賭けに勝ったのは私だ! さらばだ! ザ・ファーストよ──」

勝利を確信した甲高い声がフロア中に響き渡る。
だが、その直後だった──独特な金属の破裂音が、無情にも彼女の確信を打ち消したのは。
40切谷 沙鈴 ◆ICEMANvW8c :2010/10/17(日) 04:40:42 0
アリスを攻撃の渦に飲み込んでいた光がピタリと止み、
そして細かな破片と共に、竜の口に模された槍先がその柄から真っ二つになって地に落ちる。
(──これ──は──)
それは、切谷に勝利が砂上のもので、同時に敗北を認識させるものであった。
砕け散ったものは、ついに限界を超えた魔幻槍の変わり果てた姿だったのだ。

障害を失ったアリスの指先が容赦なく胸を貫く──。
串刺しになった切谷の姿は、もはや誰が見ても助からない、死に逝く者の姿そのものであった。

「ご……ぶっ!」
口から真っ赤な血が流れ出し、アリスの腕を染める。
もはや自力で腕を引き抜く力もない切谷は、
アリスが自らの意思で腕を引き抜いた後は、ただ力なく地に倒れるだけであった。

「目前の勝利を、自らの武器にフイにされるとは……な……」

言いながらも、切谷は気がついていた。自分の敗因を。
それは魔幻槍に亀裂が入っていたことに、アリスに神経を注ぐあまり気がつけなかったこと。
気がついていればもう少しやりようもあったかもしれない。
いや、諸刃の剣に賭けてしまったこと事態が、そもそもの過ちではないのだろうか。
それは翻って言えば、アリスという異能者との闘いを選んだ自分自身の過ち、つまり──
(私自身が……敗因、か……)

「フッ……フフフフフ……」
血を吐き出しながら、切谷は皮肉な現実に笑みを浮かべた。
そして、彼女を見下ろし立ち尽くすアリスに、擦れかかった無機質な声で言った。

「さ……らばだ……原初の……存在、よ……。
 地獄……で……ま…………た…………………………」

彼女はそれ以上はもう何も言わなかった。
地下五階フロアの戦闘──決着がついたのは、午前11時。
不知哉川らがアジトへ向かってより、調度二時間後のことであった。

【切谷 沙鈴:死亡】
41アリス・フェルナンテ:2010/10/17(日) 07:44:33 0
>>39>>40
互いの技が直撃する瞬間、アリスは自身の敗北を悟っていた。

(駄目か…!こちらの方があたりが弱い…!)

『神殺しの槍』の先端は沙鈴の胸に僅かに刺さる程度。
一方こちらは、聴覚に全神経を集中させ、こちらの攻撃の体勢を見極めた沙鈴の攻撃を一身に浴びる事となる。
結果は火を見るより明らかだ。
『楽園の守護者』に変身して全力で防御すれば耐えられるかもしれない。
しかしそんな時間はあろう筈もない。
瞬きした次の瞬間にはこの身は消し炭となり、一片の欠片も残らないのだから。

(口惜しいが、ここまでのようだな――)

諦観の念が頭を過ぎった直後、こちらを消し炭にする筈の雷撃が止んだ。
目の前の魔幻槍が音を立てて砕け散る。
沙鈴の体より武器が先に限界に達したのだ。
遮るものがなくなった『神殺しの槍』は、勢いをそのままに沙鈴の胸を貫通する。

「ご……ぶっ!」

沙鈴の吐血と貫通した胸から流れる血で、アリスの腕が鮮血に染められて行く。
沙鈴から腕を引き抜くと、その体は力なく床に倒れ伏した。

「目前の勝利を、自らの武器にフイにされるとは……な……」

沙鈴が呟く。どうやら自身の敗北の原因を悟ったようだ。

「まさかこの様な形で幕を引くとは…少々意外だったな。
 しかし我は言ったであろう?"子供"だ、と。
 己の武器の状態も把握しないで大技を連発するからああなるのだ」

砕け散った魔幻槍を一瞥し、視線を戻す。
そして地に伏せる沙鈴を見下ろしながら呟きかけた。

「だが、今回の戦いは運に左右されるものが大きかった。
 言ってしまえば、降魔の剣が手元にあったならばお前など分と保たずにこうなっていた。
 お前が武器の状態を把握していれば、この場に立っていたのはお前だ。
 互いに運の良し悪しがあったのだ。
 結果としてこうなったが、お前とは良い勝負が出来たと思っている」

「フッ……フフフフフ……」

沙鈴が血を吐きながら笑う。その笑みの真意は分からなかった。
一頻り笑った後、こちらに顔を向け、擦れた声で呟いた。

「さ……らばだ……原初の……存在、よ……。
 地獄……で……ま…………た…………………………」

その言葉を最後に、沙鈴の体は生命活動を停止する。

「そうだな。我とて混血、悠久の命を持つわけではない。
 どんな形にせよ、いつかは死が訪れるだろう。
 地獄で再び相見えたその時こそ、完全な形で決着を付けようではないか。
 先に行って腕を磨いていろ。我も現実世界で精進するとしよう」
42アリス・フェルナンテ:2010/10/17(日) 07:45:50 0
動かぬ沙鈴に最後の言葉を投げかけ、遺体に背を向ける。
これで自身の障害は突破した。後は皆に追いつくだけ。
上階の優達も気がかりだが、己の意思も含め、皆であの場を任せたのだ。
今更助太刀に行くような愚かな真似はしない。
他の皆に失礼であるし、何よりも優達の力を疑うことにもなる。
優達を信頼する証として自分に出来ることは、今は前に進み一刻も早く他の面々と合流することだった。

「さて、行くとしよう」

最後にちらりと沙鈴を一瞥して、階下へ向かって走り出す。
姿は元の状態に戻っている。あの形態でいるのは先頭時だけで充分だ。

――更に下の階へと下りていくが、やはり誰とも会わない。
ここまで来ると、最早雑兵など意味もないことは向こうも分かっていると言うことだろうか?
それともただ単に手駒が切れただけなのか――?
どちらにせよ、今敵に会わないのは好都合だ。体力とオーラの回復に集中できる。
そして沙鈴と戦ったフロアから十程下ったあたりで視界が開けた。
階段を下りてすぐ目の前に広い空間が広がっていたのだ。
しかしその光景は異様だった。
壁や床、天井に至るまであらゆる場所に大量の血液が付着していたのだ。

(一体ここは何の部屋だ?拷問部屋にしては広すぎるが――!?)

そんな事を考えていると、視界の隅に人影が映った。
この位置からでは顔が良く見えないが、その人物が倒れていることは分かった。
不吉な予感を抱えながらその人物に近付く。
だんだんと姿がはっきりしてきて、自分の仲間ではないことが分かった。
更にその人物は既に絶命しているようだ。ピクリとも動かず、周囲には真新しい血が流れている。

(この男は…?見知らぬ顔だな。
 しかしこの階層にいたことを考えると四天王の一人、だろうな)

遺体を検証する。すると腹部から背中にかけて、拳大の何かが貫通した跡があった。

(恐らく誰かが戦って倒したのだろう。この傷跡を見るに、不知哉川ではないな。
 あの男は肉弾戦向きではない。仲間の女は刀を持っていた。
 とするとあの大男、確か黒部とか言ったな…あの男がやったのか。
 自分以外の仲間に四天王クラスが倒せる者がいたとはな…)

そこまで推察して、ふと考え直す。
あまりに自然で気がつかなかったが、いつの間にか不知哉川達を仲間として認識している。

(フッ、仲間、か…)

今までは仲間などいなくとも、全て自分一人でこなしてきた。
故に仲間と言う存在は、アリスにとって無用の長物、邪魔なだけの存在だった。

(しかし今は…不思議と嫌悪感はない。むしろ好ましく思っている自分がいる…)

初めて生じた気持ちに戸惑い、暫くその場に立ち尽くしていた。

【アリス・フェルナンテ:戦闘終了。現在位置:地下15階、ディーハルトと黒部の戦っていた部屋】
43虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/10/17(日) 17:57:34 0
虹色優は戦闘員10人、A〜Jとの戦闘を担当している
「さあ、行くよ…。“烏合の衆”!」
優が大量の烏を描き、戦闘員に襲い掛からせる。…ただし、烏合の衆なだけに統率力は無いが
「! 烏!?」
「くそっ! なんて数だ! 」
「数で攻めるとは卑怯な!」
「いや、私達も人の事言えないから…」
「だが所詮烏は烏…。我々が手古摺る程の相手ではない」
大量の烏は一瞬戦闘員たちを怯ませるものの、簡単にやられてしまう
44不知哉川 霊仙:2010/10/18(月) 05:15:20 0
さしたる障害も無く、順調に最深部に近付いていた不知哉川と海部ヶ崎の二人の前に、
再び大きな扉が立ちはだかったのは、黒部と別れてよりおよそ20分後の地下22階でのことであった。

「地下22階『冷獄の間』……か。いよいよやな、キサちゃん」
不知哉川の声に頷く海部ヶ崎。
雲水は最下層の地下25階に自らのフロアを持っている。
事前に得た情報によれば、幹部に近い人間であるほど雲水に近い階層でフロアが与えられるという。
つまり、この先で待ち構えているのは、十中八九雲水を除くもう一人の四天王だけなのである。
「えぇ……。三人目の四天王、氷室 霞美……」
グッと力を入れて、腰に差した刀を握り締める海部ヶ崎。
その手は、微かに震えているようであった。

(武者震いか、それとも……。
 ……いずれにしても、もう後には引けへんのや。……行くで、キサちゃん」

扉に手をかけ、再度海部ヶ崎の顔を窺う。
海部ヶ崎は「準備の時間はいらない」と言わんばかりにコクリと頷くだけだった。

……ギィィィィイイ。
鈍い音を発して扉が開かれる。
それと同時に部屋から流れ出た冷たい空気が二人の肌を撫でた。

「なんや、寒ッ!」
「霊仙さん、中を見てください」

扉を閉め部屋の中へと足を踏み入れる二人。
そこで二人が見た者は、思わず別の世界へ迷い込んだかと錯覚するくらいの一面の銀世界であった。
吐いた息が白くなって見えるほどの極端に低温な空気、
天井からいくつも連なる巨大な氷柱、踏みしめると雪の足跡ができる床……。

「まるでここだけ冬の景色を切り取ってきたみたいやな。
 まだ春先やってのに、一体どういう趣味しとんねん」
「なるほど、冷獄か……。冷気を使うあの女らしい趣向だ」

「褒め言葉と受け取っておこうか」

「「──ッ!」」
突然の声に、二人は咄嗟にその方向を視線で突き刺した。
白く霞んだ視界の先から、黒い人影が足音を立てて迫ってくる。
そして姿が露になった時、「やはり」と呟いたのは海部ヶ崎であった。

「やはり貴女……いや、貴様か……氷室 霞美!」

【不知哉川 霊仙:地下22階『冷獄の間』に到着】
45氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/10/18(月) 05:20:02 0
二人組の侵入者が到着する五分前、氷室は司令室からの報告を受け、一瞬その顔色を変えた。
「切谷とディートハルトが殺られた? ……間違いないのか?」
『は、はい……異能反応が完全に消滅しましたので……信じられないことですが』
オペレーターの声は動揺を隠せないといったものだった。
それも致し方がない。何せ、四天王が二人も倒されたというのだ。
カノッサにとっては前代未聞の異例の事態である。

「……しょうがないね。私が奴ら全員を始末するよ。それでいいだろ?」

だが、氷室は直ぐに顔色を戻すと、特にこれといったリアクションもせず、
やけにあっさりとその現実を受け止めた。
それにはオペレーターの方が戸惑ったくらいである。
『は、はい……。お、お願い致します、氷室様……それでは』
スキャナーの通信が切れると同時に、氷室は溜息をついた。
「やれやれ、生き残りが『原初の異能者』だけというならともかく……
 まさかご丁寧にも全員私に押し付けて逝っちまうとはね。
 ……あるいは他の手だれも、それだけ強い、ただの不届きな侵入者ではないということなのか……。
 いずれにしても、奴らも『冷獄の間』(ここ)で終わりだけどね──」


──それから五分。
扉が開いた音と複数の声を聞いた氷室は、その不届きな侵入者の前へと足を進めた。

「まるでここだけ冬の景色を切り取ってきたみたいやな。
 まだ春先やってのに、一体どういう趣味しとんねん」
「なるほど、冷獄か……。冷気を使うあの女らしい趣向だ」

近付くにつれて声がはっきりと聞き取れてくる。
声は男と女の二人。その内の一つ、女の声の方は、氷室にはどこかで聞いた覚えがある気がした。
実際、その女の方は顔見知りであるような発言をしている。
(……何者だ? まぁ、いい。直ぐにわかる……)

「褒め言葉と受け取っておこうか」

と、敢えて口を差し挟み、自分の存在を気付かせる。
思った通りその二人は直ぐに彼女を見た。
それによって明らかになった二人の正体は、一人は半纏姿の中年男。見覚えはない。
そしてもう一人の女は、刀を腰に差した若い女。彼女の方はやはり見覚えがあった。

「やはり貴女……いや、貴様か……氷室 霞美!」
その彼女もやはり氷室と面識があるのか、名前までも知っていた。
氷室は懸命に脳の引き出しに仕舞われた記憶を探っていく。
そして意外と新しい記憶の中で、彼女の情報を見つけ出すのだった。

「確か……あぁ、そうだ。確か公園で人工化身の女と一緒にいた奴だな?」
「そうだ。貴様に殺されかけた。その節では世話になった」
「礼には及ばないさ。……それより、どういうマジックで復活したんだ? 瀕死だったはずだろ?」
「それは……」

彼女は初めて答え難そうに視線を泳がした。
氷室が怪訝な顔をしていると、そこに自分を親指で指した半纏姿の男が、
まるで自分をアピールするかのようにずいっと身を乗り出した。

「それはなぁ、この俺の力のお陰やで? この不知哉川 霊仙のなぁ!」
46氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/10/18(月) 05:23:51 0
不知哉川と名乗った奇妙な関西弁の男に訝るような視線を送る氷室。
だが、視線を送っていたのは彼女だけではなかった。
「霊仙さん……」
驚いたように、不思議そうにそう問いかけるのは刀を下げた女。
「えぇんやキサちゃん。どうせ俺の能力も直ぐにバレるんやからな」
それでも不知哉川は割り切っているというように軽い口調で言い返す。

「そうか、あんたが……余計なことをしてくれたもんだね」
「強いモンに嫌がらせするのが三度の飯よりも楽しいタチなもんでな。えろうすんまへんなぁ」
「違う、私はその娘の気持ちを代弁しただけさ。
 二度も死の恐怖を味わいたくないのに、余計なことをしてくれたってね」
不知哉川の嫌味に嫌味を持って返す氷室。
挑発や毒舌は、彼女も不知哉川に引けを取らない技能の持ち主なのだ。

「……えらい口が上手いやないか……」
不知哉川はそれ以上の応酬は避けた。
恐らく、彼女には挑発の一切が通用しないと感じてのことなのだろう。

「なんだと……!」
その点、直情的なのは彼のパートナーの方である。
刀に手をかけ、今にも飛び掛らんとする彼女を、不知哉川が宥めている。
そのタイミングを利用して、氷室は一つのことを訊ねた。
「ところでお前、名前は?」
またも答え難そうにする彼女に、今度は不知哉川が耳打ちする。
すると彼女は前を向き直ってはっきりとした声で答えた。
「海部ヶ崎 綺咲。……ここまで来たら、隠してもしょうがないのでな」

海部ヶ崎……その響きは、氷室にとってどこか懐かしさを覚えるものだった。
(……どこかで)
再び記憶の引き出しを開け始める氷室。
しかし、それだけはどうしても思い出せず、やがて「まぁいい」と頭から振り払った。

「さて、不知哉川に海部ヶ崎だっけ? そろそろ始めようか。こっちは暇じゃないんでね」
「魔水晶の完成を待つばかりのあんたらに暇がないとはおかしな話やな」
「私はお前ら二人の他に、もう四〜五人と闘わなきゃいけないのさ」

それは切谷、ディートハルトが敗北したことを、二人に暗に伝えたことを意味していた。
不知哉川がグッと拳を握り締め、海部ヶ崎はどこか安堵したような表情を浮かべている。

「……そういうことかい。二人の方は決着がついたってわけやな」
「後は、私たちだけ……!」
俄然、やる気が出たというように、二人はオーラをその身に纏い始める。
しかし、それこそ氷室の望むところであった。

「そう、初めから本気で来てくれた方が物事が単純でいい。
 どんな鈍感な奴でも、直ぐに実力差を思い知ってくれるからね」

氷室の両手に、鋭利な爪が形成された。

【氷室 霞美:地下22階『冷獄の間』にて戦闘開始】
47アリス・フェルナンテ@代理:2010/10/19(火) 20:18:10 0
暫くの間、時間にして10分程アリスはその場に立ち尽くしていた。
"仲間"と言う言葉について考えた結果、自分なりの結論を出した。

(仲間と言うものは単に邪魔なだけではない。時には必要な場合もある、と言う事か)

その結論に至った後、階下のオーラの反応を調べる。
2つほど下の階に1つ、更に下の階に3つの反応、その更に下に1つ。

(この反応、2つ固まっているな。不知哉川達か。
 もう1つあると言うことは、残る四天王の内筆頭ではない方と接触したか)

不知哉川達と氷室の接触を確認し、行動を考える。

(あの二人の実力を考えると、四天王に勝てる確率はあまり高くない。
 ここで助けに入ることは簡単だ。
 しかし、彼らも理由があったために今までの戦闘に参加しなかったのだろう。
 敢えて水を差す様な真似はするまい。それよりも近い方の反応、黒部と合流しておいた方がいいだろう)

不知哉川達の意思を尊重し、助けに行くことを止める。
そして再び、今度はゆっくりと階段を下りていった。

下り始めて5分と経たない内に、目的の人物を発見する。
その人物、黒部は体を引き摺るようにして歩いていた。

「随分と派手にやられたようだな?」

背後から黒部に語りかける。
黒部は弾かれたように振り返った。その表情は若干の驚きを表している。

「まさか、もうここまで追いついてきたのか…」

「貴様よりは優秀なつもりだからな。それに貴様の今の歩く速度を考えれば、追いつくのは容易い。
 そんな事より貴様、その体で何処へ向かうつもりだ?」

「愚問だな。階下に向かい仲間を助けに行くだけだ…!」

「その満身創痍の体で、か?行くだけ無駄だな。
 今行ったところで確実に足手纏いになるだけだ。盾にすらならん。
 貴様が今出来ることは、今後の戦いに備えて少しでも体を休めることだ。
 付き合ってやるからここで休んで行け」

黒部も納得したようで、頷くと壁に背を預けて座り込んだ。
少し離れた場所で自分も腰を降ろす。

(さて、後はあの二人に頑張ってもらうだけだな。死なないことを期待するしかないか…)

【アリス・フェルナンテ:黒部 夕護と合流。地下17階にて療養のため進行停止】
48不知哉川&海部ヶ崎:2010/10/20(水) 03:17:30 0
「実力差? そう自信を持っていながら、あんたのお友達は悉く倒されてきたんや。
 俺らを甘く見てるとあんたもそうなるで?」
「友達……? フッ……」
「何がおかしいんや?」
「何も知らないとはいいものだと思ってね。
 カノッサ(私達)が“友”などという甘ったるい関係で結ばれてるとでも思ったのか?
 彼らは同志であって、友ではない。私達を結んでいるのは共通の復讐心だけさ」
「復讐……?」
訝しく訊ねる不知哉川に、氷室はこう切り出した。
「……少し話してやろうか、カノッサのことを」
そして、これまで謎のベールに包まれたカノッサの過去を語り始めた──。

「“カノッサ機関”というのは、元々はこの国の国家機関のことなのさ。
 もっとも、非公開組織だったから、今でもその存在を知っているのは当時の当事者達だけだけど」

まず、その一言だけで、不知哉川達を驚かせるには十分だった。氷室は続ける。

「カノッサ機関は超能力者──つまり、私達のような異能者を集め、
 その超常的な力を研究・解明し、軍事利用するのが目的の研究機関だった。
 大勢の異能者、特に子供が秘密裏に集められ、
 私自身も10年前に孤児院からカノッサに連れてこられた。
 いや、私だけじゃない、他の四天王もそうだ。
 
 日夜、白衣を着た連中に体の隅々まで調べられ、訳のわからない実験をやらされたものだ。
 そして……そう、あれは私がカノッサに来てから三ヶ月が経とうとしたある日のことだった──
 突如としてカノッサ機関の廃止が決定したのさ。
 財政難に苦しむ政府が成果の上がらない機関を予算面を理由に廃止に踏み切ったという話だったが、
 それは表向きに過ぎなかった。彼らは恐れていたのさ。
 いつか、自分達の政府を転覆させるだけの力を持った存在が現れるのではないか、とね。
 その為に、奴らは軍隊までをも動員して、徹底して私達の処理にかかった。
 250名あまりの異能者が施設ごと生きながら焼かれ、銃砲の餌食になった。

 切谷というアイマスクをした女がいただろ? あいつは目が見えない、何故だかわかるか?
 その時、銃弾を両目に受けて、失明したからさ。
 ディートハルトという男も、胸に数発の弾丸を受けて死に掛けた。
 かくいう私も施設の火災に巻き込まれ、危うく焼け死ぬところだったが……
 皮肉にも炎から身を護ろうとする本能が冷気の能力を呼び覚まし、そのお陰で助かった。
 
 結局、250名の内、生き残ったのは私、切谷、ディートハルト、そして雲水の四人だけ。
 あの時、私達は雲水の復讐計画に乗ったのさ。
 奴らが排除しようとしたカノッサの名で、今度は逆に奴ら無能者共を排除してやろうとね」

氷室の冷たい視線が二人に突き刺さる。
不知哉川は胸に何かモヤモヤしたものを感じながらも、それでもはっきりと言い切った。
「……動機はよぉわかったわ。
 けどな、あんたらの復讐の為に、どれだけ罪のない人々が犠牲になったと思ってるんや?
 あんたらに、250人の仲間を殺した政府を憎む資格はあらへん!」

「別に死んだ奴らの仇を討とうと思ってるわけじゃない。
 言っただろ? 私達は、個人的な復讐心で繋がっているだけさ。
 誰が死のうが、そんなことは初めからどうだっていいのさ」
平然と切り捨てる氷室の冷徹な声に不知哉川はギリッと歯軋りをした。
「これまで苦楽を共にした仲間の生死さえも、あんたらには眼中にないってわけや……。
 ……なるほど、アリスや黒部が勝ったのも頷けるで。
 ただ非情なだけの連中に、護るべきものがある奴に勝てるはずあらへんからな」

すっと氷室の両の指が二人に向けられる。
「だったら試してみようじゃないか。お前らと私、果たしてどっちが勝つか」
49不知哉川&海部ヶ崎:2010/10/20(水) 03:22:29 0
「望むところや……!」
と、身を低く構えた不知哉川は、その視線をそっと彼女の脚に定めた。
海部ヶ崎から事前に氷室のスピードを聞いていた彼は、自然と接近戦を警戒していたのだ。

しかし、一方の海部ヶ崎は、両指を向けるという不自然な構えに別の狙いを感じていた。
「……これは……。……は!」
そして、公園での闘いを思い出した彼女は気がついた。
あの爪は、何も接近戦のみに威力を発揮するだけのものではないということを。
「霊仙さん! 避け──」
海部ヶ崎の声に、一瞬不知哉川の視線が氷室から外される。
氷室はその隙を逃さなかった。

「──『アークティッククロー』──」
両指から冷気の爪が撃ち放たれ、その一つ一つが散弾のようになって空間を駆ける。
事前に予測していた海部ヶ崎だけはジャンプしてそれをかわすが、
完全に虚を突かれた不知哉川は回避行動が遅れた。
二つ、三つ──鋭い爪が彼の身に突き刺さっていく。

「ぐあっ!」
「霊仙さん!」
「な、なぁに、これくらい……」

不知哉川は右の肩と左の脇腹、そして右胸に裂傷と凍傷を負いながらも、
特に気にする風も無く言ってのけた。これは別に彼が痩せ我慢しているわけではない。
実際、一発一発の『アークティッククロー』の威力自体はそれほど大したものではないのだ。
だが、それは当の氷室も、無論承知していることである。
故に彼女の目的は、初めからダメージを与えることにはなかった。

「──何のこれしきって? 知ってるよ──」

「──霊仙さん!」
海部ヶ崎が必死に呼びかけるが、不知哉川とて、いちいち指摘されずともわかっていた。
何せ自分の真後ろから殺気の篭った声がしたのだ。嫌でも気がつくというものである。
氷室の『アークティッククロー』は初めから布石であったのだと。
「くっ!!」
咄嗟に床を強く蹴る不知哉川。
しかし、氷室の殺気が炸裂するのは、それよりも速かった。

鈍い音が周囲に鳴り響く共に、不知哉川の口から、真っ赤な液体がゴボッと溢れ出る。
爪によって強化された氷室の手刀が、彼の背中から腹部までを瞬時に貫いたのだ。
これは、爪による負傷など問題にならないくらいの重傷であることは、誰の目にも明らかであった。

「意気込んだ割には呆気なかったね」
ズッ……と腕を引き抜き、既に死体を見るかのような目をして、
氷室は倒れ伏す不知哉川を見据えた。
「霊仙さん……!! おのれ……!!」
着地するより早く、海部ヶ崎が空中で壁を蹴り、氷室の右側背に向かって加速する。
今度は逆に氷室の死角を突こうというのだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッ!!」
腰に捻りを加えた抜刀の態勢から氷室の首目掛けて勢い良く刀を放つ。
もっとも、海部ヶ崎は四天王相手にこの一刀で決まるとは思っていなかった。
故に彼女は、既にかわされることを想定……いや、既に前提と捉え、
氷室のかわす方向を様々にシミュレートし、第二撃の攻撃パターンを組み立てていた。
しかし、それは氷室の実力を、いささか見誤った思考であった。

「なっ……!?」
海部ヶ崎は愕然とした。
氷室は避けなかったのだ。いや、避ける価値すらないと考えていたのか。
彼女は、放たれた刀身を、親指と人差し指だけで掴んで止めたのだ。
しかも、まるで背中に目があるかのように、少しも振り返らずに。
50不知哉川&海部ヶ崎:2010/10/20(水) 03:27:23 0
「私以上のスピードで掛かってくるか、完全に気配を消さない限り、いくら死角を突いたって無駄だよ。
 お前程度なら位置さえわかれば直ぐに対応できる」
海部ヶ崎の刀を封じたまま氷室が素早く振り返り、その際に彼女の右脇腹に左脚を叩き込む。
「ぐうっ!」
吹っ飛び、壁に叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべる海部ヶ崎。
彼女の頭には誤算の二文字が浮かんでいた。
かわすことを前提にしたことすら過小評価でしかなかった氷室の実力──
それでも、海部ヶ崎は一縷の望みをかけて、再び立ち上がった。

(いくら強いといっても、奴のスピードには私も食らいついていける……公園の時がそうだった)

彼女は、粘り強く闘っていくことに勝機を見出そうとしていた。
不知哉川は確かに致命的ダメージを負っている。
しかし、彼の能力はその傷すら治す。彼が復活すれば再び二対一、形勢が逆転する可能性はある。
それまで時間を稼ぐつもりなのだ。

「根性あるじゃないか。嫌いじゃないよ、そういうの。
 だけど、まだ自分の認識が甘いということに気付かないのかい?」
──氷室の全身の輪郭がピントの合っていない写真のようになってブレる。
そしてその姿は、やがて完全に海部ヶ崎の視界から消えた。
(──消え──)

「消えた」──。一瞬そう思った海部ヶ崎だったが、直ぐにその認識を改めた。
今のは消えたのではない。見えなかったのだと。
「フッ……」
氷室の吐息が彼女の首筋をくすぐる。
氷室は、公園の時見せたスピードとは次元の違う速さをもって、彼女の後ろに回っていたのだ。

「あの時のスピードが全力だとでも思ってた? 私がいちいち全力で闘うわけないだろ?」
「あ……う……」

海部ヶ崎は顔から汗を噴き出しながら、その場から微動だにできなかった。
背中にはあの冷気の爪が突きつけられている感触があったが、
彼女の動きを止めていた要因は別にあった。
それは、彼女の全身を覆い尽くすような、背後からの凄まじい殺気。
まるで蛇に睨まれた蛙の如く、自分の体が縮こまっていくのを海部ヶ崎は感じていた。

「カノッサを舐めんじゃないよ。
 私を倒せる可能性があるのは、雲水を除けば精々、噂のザ・ファーストくらいさ。
 こちとら雑魚(お前ら)なんかに容易く負けるほどヤワな人生送ってないんだよ」

氷室が一言発するごとに、肌に無数の針が突き刺したかのような痛みが走る。
ここに至って、海部ヶ崎は静かに悟った。自らの敗北を。
(ダメだ……どう足掻いても、今の私では……)

「そういわけだから、バイバイ──」
「──ッ!」

背後の殺気がまるで一本の槍に変形したかのような感覚を受けた時、海部ヶ崎は思わず目を瞑った。
そして死を覚悟した。だが、調度その時、フロアに木霊した声が彼女の命を救った。
51不知哉川&海部ヶ崎:2010/10/20(水) 03:31:10 0
「待てや……!」
氷室の手刀が、海部ヶ崎の首筋に触れる直前に、ピタリと止まる。
氷室が視線を向けたその先には、腹部を抑えながら彼女を睨みつける不知哉川が立っていた。
「霊仙さん……」
「……へへ、キサちゃんが時間を作ってくれたお陰や」
海部ヶ崎に笑顔で答える不知哉川。
それでも、その顔はどこかまだ痛々しい。
当然である。いくら回復能力があるとはいえ、あれだけの重傷だ。
ものの五分もしない内に完治するはずがない。
そんな彼が完治前に立ち上がったのは、文字通り海部ヶ崎を護るためであった。

「……キサちゃんを殺るんやったら、まず俺を殺ってからにしたらどうや。
 俺を真っ先に狙ったのも、俺の回復能力を使わせなくするためやろ?
 でも、俺はまだこうして生きとるんやで? 先にキサちゃんを殺すのは順序が逆やろ」
「そうだね、確かに」
首筋に向けていた手を下ろし、くるりと体を不知哉川へ向ける氷室。
金縛りから解放された海部ヶ崎は、ガクッと膝を突いてその場に蹲った。

「ハァ……ハァ……くそ……!」
体の自由が戻っても、彼女には動ける気力が残っていなかった。
それだけ僅かの間に精神的に疲労していたのだ。
彼女にできることといえば、そんな自分に怒りを向けるように静かに拳を握り締めるくらいであった……。

「まだ完治していないとはいえ、これだけの短い時間で立ち上がれるようになるとはね。
 ……やっぱり厄介な能力だ。次は、二度と復活できないように確実に殺す……」

氷室は全身にオーラを充実させてゆっくりと歩み寄る。
「へっ……できるもんならやってみぃ!」
不知哉川が横にステップする。瞬間、彼の姿もまたその場から消えた。
そして一瞬目を大きく開けて、直ぐに氷室も後を追うようにして姿を消した。
氷室も驚いていたが、最も驚いていたのは海部ヶ崎であった。

「霊仙さんにあんな力が──!? いや……あれは……」

いくつかの衝突音が鳴り響いた後、再び海部ヶ崎の視界に消えた二人が現れる。

「どうしたんや? 確実に殺すんやなかったんか? 既に三発、あんたに入れてやったで?」
「私も三発だ。……しかし、どういうことだ? 私と互角の力量だと……?」

(……互角……? まさか……!)
海部ヶ崎は不知哉川の決してありえない動きを目の当たりにして気がついた。
不知哉川は吸収したオーラを自分自身にプラスしている。
だから自分の実力以上の動きができるのだと。
だが、それは同時に、彼が抱える危険性をも示唆するものであった。

オーラとは体内に秘めた潜在エネルギー。個人差はあれど、その絶対量は決まっている。
オーラを水とするなら、その水を入れる“器”の大きさが人によって様々だからである。

では、自分の“器”の許容量を遥かに超える、多量のオーラを体内に収めたらどうなるか?
一時的には確かにパワーアップする。
しかし、必要以上に水を与えられた花が枯れてしまうのと同様、
やがて器から溢れ出したオーラは肉体に害を及ぼし、様々な障害を発生させるのだ。
溢れた量が多ければ多いほど肉体は悲鳴をあげる。
下手をすれば器ごと“内部破裂”を起こして死に至る場合もある──。

不知哉川が、これまで自らの器以上のオーラを吸収しておきながら無事であったのは、
彼の能力によって別の器が作られ、吸収したオーラがまるごとそこに隔離されていたからに過ぎない。
つまり、自らにオーラをプラスするという行為は、彼とて例外なく危険なのである。
彼がこれまでそれを使ってこなかったのもそれが理由なのだ。
52不知哉川&海部ヶ崎:2010/10/20(水) 03:40:05 0
パワーアップし得意な表情を浮かべるその顔とは裏腹に、
既に内心では、不知哉川は肉体が訴える耐え難い痛みに苦痛の声をあげ始めていた。
(アカン……もう体が言うことを聞かなくなってきたで……。
 五分は持つかと思っとったんやけど、これまでのダメージが予想以上に体を弱らせとるわ……)

「……今まで実力を隠してきた……にしては私の手刀を食らったのは妙だな。
 これだけの使い手が咄嗟に今のスピードの半分も出せなかったとは考え難い」
全てを見透かすような氷室の冷静な目が、不知哉川の目を捉えた。
不知哉川も精一杯のポーカーフェイスで悟られないようにカムフラージュする。
「フッ」
氷室はやがてうっすらと微笑を浮かべた。
(こいつ……)
思っていると、再び氷室の目が冷静なそれへと戻り、不知哉川を突き刺した。

「傷を治す能力……なるほど、それとは別の能力があると考えた方が自然だな。
 例えば、自分を強化するような能力とか……」
「……」
「それも僅かな時間だけだろう。五分か十分か……いずれにせよ、体への負担は大きい。
 そうだろ? 背伸びには得てしてそれくらいのリスクがつき物だ」
氷室が視線で突いたのは彼だけではない、彼の図星もであった。

(……全く、可愛くない女や……)
だが、思惑を呼んでいたのは彼も同じであった。

「その続き俺が言ってやろか?
 『だから私はお前が体の負担に耐えかねて力尽きるのを待てばいい』──やろ?」
「……!」
「悔しいが妥当な作戦や。こっちは時間制限つきなんやからな。
 そっちからすれば、何もパワー、スピードが拮抗している時に、無理に決着つける必要はあらへん。
 ……けどな、あんたはそれでよくても、こっちはそれじゃ困るんや。
 だから今の内に、無理にでも決着を着けさせてもらうで!」

再び不知哉川の姿が消える。海部ヶ崎は先程と同様に見えていない。
だが、見えていないのは今度は氷室も同じであった。

「バカな! どこだ!」
氷室が慌てたように辺りを見回す。
そんな氷室を嘲笑うかのような声が彼女の背後から発せられたのその直後であった。
「──ここや!」
「──なに!? ──うっ!」
突然、氷室の背後に現れた不知哉川は、素早く両腕を彼女の両脇に差し込んだ。
「へへ、これであんたの動きは封じたで!」
「お前……! その動きは……!」
「強化に上限があったと勘違いしたのが運のつきやったな、氷室 霞美!
 残念ながら俺の強化能力は吸収したオーラを物体にプラスするっちゅーもんで、そこに上限はないんや!
 つまり、やろうと思えばいくらでもパワーを高めることができる!」

不知哉川が吠える。その一方で、海部ヶ崎はその表情を一層険しくさせていた。
確かにオーラをプラスする量に上限はないのだろう。
だが、プラスすればするほど肉体に掛かる負担が増大していくのは明白である。

「霊仙さん……あなたはまさか!」
海部ヶ崎は不知哉川の真意を察した気がして、思わず叫んでいた。
彼が言った「無理にでも決着を着けさせてもらうで!」という言葉。
無理にでも──それは、自分の身を省みない、捨て身の戦法を決意したものではないのか。
そしてそれが意味するところは……すなわち、死なばもろともの相討ち狙い。
「死ぬ気ですか……!!」
ふと不知哉川が彼女に視線を向ける。その目は、どこか笑っているようであった──。

【不知哉川 霊仙:戦闘中。氷室の動きを固める】
53不知哉川&海部ヶ崎:2010/10/21(木) 18:39:46 0
「スキャナーすら一瞬見失うほどのスピード! お前、一体何を──!」
言いかけて、氷室は自らがはめたスキャナーの様子がおかしいことに気がついた。
……ピピピピピピピピ!
悲鳴とも思えるような電子音を連続して発しているのだ。
見れば、レンズに表示された異能の数値が急激に上昇しているではないか。
それも見たこともないスピードで。

「これは……まさかお前が!」
問い詰めるように背後の不知哉川に首を向ける氷室。
不知哉川はニヤリとした表情のまま答えない。
いや、むしろその顔こそが無言の答えになっているのかもしれない。
つまり、その通りであると。

「くっ!」
氷室が全身に力を込めて、自分の体をロックしている不知哉川の腕を解き放とうともがく。
だが、カノッサの中で屈指の武闘派としてならす彼女の力をもってしても、
今の不知哉川の怪力から逃れることはできない。
「無駄や……! 今の俺のパワーは通常よりもツーランクもスリーランランクも上がってるんやで!
 いくらあんたでも逃れることはできひん!」
「馬鹿な! そんなことをすれば、お前の体は……!」
「それでええんや! 何故なら、俺の目的はあんたを地獄への道連れにするすることやからなぁ!」
「なに……ッ!?」

不知哉川の体を取り巻くオーラがまるで炎のようになって沸き立つ。
もはや氷室のオーラまでをも完全に覆いつくした彼の圧倒的オーラは、
ついにスキャナーを計測不能に追い込み、物理的ショートを起こさせ木っ端微塵に破壊した。

「わ、私の異能値を超えた……!?」
「へへへ……覚悟せぇや」

不敵に笑いながら、不知哉川はフロアの端で愕然とその様を見守る海部ヶ崎に、ふと視線を送った。

「キサちゃん、いつまでも蹲っとる時間はないで! さっさとこのフロアから離れるんや!」
「離れるって……霊仙さん、一体何が起きるって言うんですか──」
「今の俺は、膨らみ続ける風船を抱えてるようなもんや……解るやろ?
 膨らみ続けた風船はいずれ──破裂する!
 高まり続けるオーラに、俺の“器”が耐え切れん時がくるんや!
 その時の衝撃はこのフロア全域に及ぶはずや! それに巻き込まれたくないやろ!」
「霊仙さん……」
「ええから、はよ行け! 俺の命と引き換えにこの女が倒せるなら安いもんや!
 なんせ、この女さえ倒せば、残るは雲水一人だけやからなぁ!」
「し、しかし……」

それでも、彼だけを犠牲にできないという思いからか、海部ヶ崎はその場を離れようとしない。
そんな彼女を見て、彼は今度は一転して、静かでどこか寂しげな口調で訴えかけた。

「……これ以上、俺を困らせんといてぇな。
 キサちゃんまで巻き添えにしてもうたら、あの世で“お父上”に合わせる顔があらへん……」
「──!!」
「はよ、行きや」
「霊仙……さん! ──!」

今度こそ、海部ヶ崎は彼の言葉に従うしかなかった。
彼女は思い出したのだ。
彼が、生前の彼女の父親から「娘を頼む」と、遺言を受け取っていたことを。
54不知哉川&海部ヶ崎:2010/10/21(木) 18:48:52 0
海部ヶ崎がフロアから出て行くのを見届けて、不知哉川は一瞬、優しく微笑んだ。
そして直ぐにその顔を引き締め、腕にこれまで以上の力を込めた。

「クッ……! 雲水のもとに辿り着けたところで、あの娘が倒せるはずがないぞ……」
「こっちには黒部もアリスも残っとるんや! やってみなけりゃまだわからへん!
 あんたらだって、不可能と言われた『幾億の白刃』殺しをやってのけたやろ!」
「お前、何故それを……!」
「最後やから教えたるわ。『幾億の白刃』はなぁ、俺の友人だった男や!
 彼は、俺とまだ幼かったキサちゃんを巻き添えにせん為に、敢えて一人で闘って死んだんや!」
「なんだと! ……はっ!」

ここにきて、氷室は思い出した。
海部ヶ崎──それは、『幾億の白刃』の名字であったことを。

「やっと気付いたか。そうや、彼女は『幾億の白刃』の一人娘や!」
「そうか……どうりで無間刀の存在を知っているわけだ……うっ!」

燃え盛るオーラが激しさを増し、更に不知哉川の体全体の細胞一つ一つが発光し始める。
高まったオーラの爆発的エネルギーを体内に押し留めておくことができなくなった証拠である。

「ば、バカな……!
 他人を生かす為に自分を犠牲にし相手を倒す……そんな勝利に何の価値がある!?」
「人は、誰かの為なら平気で自分の命を投げ出せるもんなんや!
 友情や愛情を理解できず、共通の憎悪だけで結びついていたお前らには一生解らんやろうな!」
「クッ! こんなところで私が……!」
「往生せぇや……あの世で、続きの講習会を開いたるから、な?」

不知哉川がニィと笑う。瞬間、彼の体全体が眩しく発光した。

(──バイバイ、キサちゃん──。──虹色、黒部、そしてアリス。後を頼むで──)

「うおおおおおぉぉぉォォォオオオオオオオ────ッ!!!!」

不知哉川の咆哮の直後、地下22階『冷獄の間』は、眩いばかりの光と凄まじい轟音に包まれた──。

階段を駆け下りる海部ヶ崎は、背中からの衝撃に一瞬、その足を止めながらも、
一度も振り返ることなく直ぐに行動を再開した。
だが、その頬からは、一滴の涙が確かに毀れていた──。

【不知哉川 霊仙:フロアの壁や天井に大きく穴を開けるほどの大爆発を起こし、死亡】
【海部ヶ崎 綺咲 :雲水のもとへ向かう】
55アリス・フェルナンテ@代理:2010/10/21(木) 21:42:25 0
地下17階で黒部と共に休んでいたアリスは、下の階から急激なオーラの高まりを感じた。

(これは――何だ?四天王のものではない…では一体――まさか)

一つの答えに至った。
先程から四天王のオーラは感じている。かなり大きいものだ。
それとは少し離れて、四天王のものより小さなオーラがある。
そして四天王と密着しているもう一つのオーラが爆発的に高まっていく。
それは即ち、不知哉川か海部ヶ崎のどちらかが急激にオーラを高めているのだ。
それは既に四天王のものを超えつつある。

(この力――まずいぞ。あの二人のどちらが出したとしても耐え切れるものではない!
 上昇が止まる気配がない。このまま行けばオーラの許容量が限界を超え、
 空気を入れすぎた風船の如く破裂する。
 しかしこれほどの力を持っていたとは――)

僅かな時間でそこまで考え、黒部に呼びかける。

「緊急事態だ。急いで下に向かうぞ」
「何があったのだ?まさか二人が…!」
「半分正解、と言ったところだ。詳しい話は移動しながらだ。行くぞ!」

黒部を伴って下へ向かう。
そして地下20階まで下りてきたところでアリスが足を止めた。

「どうした?四天王の部屋はまだ先だと思うが」
「…時間切れだ。衝撃に備えろ」
「何?それはどういう――」

意味だ、と問いかけようとした黒部だが、それは叶うことはなかった。
何故なら次の瞬間、轟音と共に凄まじい衝撃が階下より伝わってきたからだ。

「…!こ、これは…!」
「だから言ったであろう。衝撃に備えろ、とな」

アリスは予め予期していたので平然と立っていた。
しかし黒部はそうも行かず、転倒しそうになり、壁に手をつく。
暫くして衝撃がおさまると、黒部が問いかけてきた。

「今のは一体何だったんだ…?何か知っているのか?」
「ああ。今のは純粋なオーラによる爆発だ。能力ではなく、な」
「オーラの爆発…?」

要領を得ないような顔をしている。
一つ嘆息すると、話を続ける。

「いいか?異能者にはそれぞれオーラの許容量があるのは分かるな?
 それ以上のオーラは使用できない、という臨界点だ。
 通常ならば、それ以上出せないように無意識の内に体がリミッターをかけている。
 しかし、もし意図的にそれをはずす、若しくは無効化できる能力があるとしたら?
 …その異能者は際限なく自身の体を強化できる。
 しかしそれは諸刃の剣だ。空気を入れすぎた風船は破裂する。
 最初は徐々に、しかし最後は一気に。これが先程の爆発の真相だ」
56アリス・フェルナンテ@代理:2010/10/21(木) 21:43:38 0
話を終え、黒部を見やる。
黒部は下を向いて何か考えていたようだが、やがて顔を上げこちらを見る。

「爆発の原因は分かった。しかし一体どちらが…」
「先程の問い、半分正解だ、といったのは憶えているな?
 …戦っていた四天王は死んだ。オーラを感じん。
 と同時にこちら側も一人死んだ。不知哉川か海部ヶ崎のどちらかが、な」
「なっ…で、では先程の爆発はあの二人のどちらかが引き起こしたというのか!?」
「そういうことだ。もう片方は更に先へ進んだようだな」

口ではそう言っていたが、アリスには爆発を引き起こした張本人が分かっていた。

(状況から考えて、十中八九不知哉川だろうな…。
 大方、あの娘を守るためなどと言う下らない理由だろうがな。
 フン、愚か者が…と言いたいところだが、よくやったな)

一瞬、母が子に見せるような柔らかい笑みを浮かべ、すぐに表情を戻す。

「さて、一先ず下に下りるぞ。状況を確かめねばなるまい。
 先に行った馬鹿者にも追い付かんといかんからな」

再び黒部と共に階段を下りる。そして地下22階に辿り着き、部屋の前に立つ。
扉の上部にはボロボロになったプレートがかかっており、『冷獄の間』と書かれていた。
ここが四天王の部屋なのだろう。しかし扉を開けるまでもなく、中の惨状は見て取れた。
何故なら扉は壊れており、そこから壁や天井にも大きな穴がいくつも開いているのが見えるからだ。
室内に入る。周囲は無残に破壊されており、もはや廃墟と言っても過言ではなかった。
黒部は部屋の中を見回している。驚きのあまり声も出ない様だ。
アリスは部屋の中心に立ち、静かに目を閉じる。

(不知哉川…お前の死、無駄にはせんぞ。あの娘は我が守る。だから安心して逝くがいい)

静かに黙祷をささげると、振り返って黒部を見る。

「行くぞ。この戦いも終わりが近付いてきた」

黒部が頷くのを確認し、二人は『冷獄の間』を後にした。
部屋を出る前に、海部ヶ崎に念話を飛ばす。

――聞こえるか、海部ヶ崎。不知哉川のことは残念だった。だが一度こちらに合流しろ。
   一人でどうにかなる相手ではないことぐらいお前も分かるだろう。
   不知哉川のためにも、お前一人行かせる訳にはいかん――

【アリス・フェルナンテ:『冷獄の間』に到着。先行する海部ヶ崎を呼び戻す】
57虹色兄弟 ◆K3JAnH1PQg :2010/10/21(木) 22:49:43 0
>>43
「へぇ…なかなかやるじゃん。じゃ、次は…“鶴の一声”!」
鶴を一羽だけ描き、羽ばたかせる
「どういうつもりだ…?」
詞音の歌によってできた海水が巻き上げられる
「うわっっ!!」
「目が、目がぁ!」
「前が見えない!」
鶴が上げた飛沫で目を眩ませている隙に、筆を走らす
58海部ヶ崎 綺咲:2010/10/22(金) 07:32:54 0
海部ヶ崎が走る。まるで悲しみを振り切るかのように、一度も振り返らず。
現在地は地下24階のフロア。雲水のフロアまで残り一階にまで迫っていた。
そんな彼女のもとにアリスからの念話が届いたのは、調度フロアの中央部まで差し掛かった時だった。

『聞こえるか、海部ヶ崎。不知哉川のことは残念だった。だが一度こちらに合流しろ。
 一人でどうにかなる相手ではないことぐらいお前も分かるだろう。
 不知哉川のためにも、お前一人行かせる訳にはいかん』

「残念だっただと……? 分かった風な口を聞かないでもらいたい。もはや私に後戻りはできないのだ」
いささか感情的な声で、彼女の命令を真っ向から切り捨てる海部ヶ崎。
その原因に不知哉川の死の一件が絡んでいることは疑いようがない。
いくら常人より鍛えられているとはいえ、彼女はたかだか19歳の少女なのだ。無理からぬことである。
だが、それでも彼女の中に残っていた異能者としての冷静な理性が、言葉を続けさせた。
「……だが、それでも立ち止まることはできる。……地下24階で待っている」

念話を切り、人気のないフロアの中央に立ち尽くす海部ヶ崎。
彼女は、完全に取り乱すことができない自分が、どこか無性に腹正しかった。
ある意味、父親よりも親しく接してきた存在を目の前で失いながら、
何故か他人事のように客観的に状況判断できてしまう自分が……。
それは、何も海部ヶ崎だけに限ったことではない、戦いに慣れた異能者の悲しい一面といえるものだった。


──しばらく待っていると、アリスと黒部の二人がフロアに現れた。
二人も相当な死闘を演じてきたのだろう、体中に傷を負っている。
だが、自分自身も含めて、もはやそれを気にかけることはできない。
何故なら、回復能力を持った不知哉川は、もういないのだから……。
「……最後の敵はこの真下にいる」
海部ヶ崎はそれだけ言うと、二人を背後に引き連れて、フロアを駆け抜けていった。


──地下25階。そこのフロアへの入口は、大きな黒い扉で閉ざされていた。
扉の真上に張られたプレートには『虚空の間』と記されている。
「ここが雲水のフロアか……中ではボスが待ちくたびれているだろう。行こう」
と、真っ先に黒部が扉に手をかける。
が、これまでの扉と違い、今度は文字通り固く閉ざされていた。
押しても引いても開かないのだ。
「チッ、二人とも離れてろ」
黒部は、アリスと海部ヶ崎を手で後退させながら、
もう一方の手を強く握り締め、オーラを纏った拳を勢い良く扉に叩きつけた。
「──ッ!? なにっ!?」
だが、それによって音を立てて吹っ飛んだのは、扉ではなく黒部の方であった。
背後の壁に強く叩きつけられ口から胃液を逆流させる黒部。
「ぐはっ! ……な、なんだと……?」
「黒部さん! くそ、次は私が……」
海部ヶ崎が扉に向かって抜刀の構えをとる。切り裂こうというのだ。
しかし、彼女が刀を抜くその瞬間、突然、背後から響いた声が、それを寸前で止めさせた。
その声は黒部でもアリスでもない、全く別の第三者の声だった

「──止めときな。その扉の前では、独り相撲に終わるだけさ──」
59海部ヶ崎 綺咲:2010/10/22(金) 07:37:43 0
アリス、黒部が一斉にその方向を振り向く。
その中で、海部ヶ崎だけは一つの間を置いて、ゆっくりと振り向いた。
その顔はどこか険しい。それもそのはず、彼女にとっては聞くことはありえないはずの声だったからだ。
(そんな、この声は……!)

振り向いた三人の視線の先に立っていたのは、青い髪とジャージが特徴の、あの氷室 霞美であった。
ただ、先程までと違うのは、全身の服がボロボロで、顔には焦げ跡が見受けられるところだろうか。
ついでに言えば、彼女が纏うオーラがほとんど見られないのも違う点だろう。

「貴様! 生きていたのか……!」
海部ヶ崎が抜刀の構えを今度は扉ではなく氷室に対して見せる。
いや、彼女だけではない。身構えたのは黒部もアリスもそうであった。
それでも、氷室はそれをまるで一笑に付すかのように鼻で笑って見せ、
続いて爆発直後の一部始終を明かし始めた。
「フッ、流石の私も死ぬかと思ったさ。
 ただ、あれが純粋なオーラによる爆発だったのが幸いした。
 あの男が自爆するその瞬間──
 私は体内に圧縮されていたオーラを解放し、纏うオーラを爆発的に膨張させたんだ。
 要はもう一つの爆発を起こして、その中心点にいる私へのダメージを相殺したわけだ。
 もっとも、私のほぼ全てのオーラを持ってしても、完全に相殺するには至らなかったけど」
といって、氷室がボロボロになった腕の裾をまるで見せびらかすようにヒラヒラとさせる。
そこで海部ヶ崎は気がついた。彼女のオーラがほとんど見られないのも、それが理由かと。

「なるほど……要は爆死を免れるのが精一杯で、今の貴様にはほとんど力が残っていないということか」
海部ヶ崎は刀の柄に手をかけ、更にぐっと低く身構えた。
「その通りさ。今のお前達なら簡単に私を殺せるだろう。だが──お前達にそれはできない」
平然と言い放つ氷室に、海部ヶ崎の殺気が高まる。
「貴様は霊仙さんの仇だ。何故、そう言い切れる」
「私を殺したらこの扉を突破するのは困難だからさ」
遥か天井まで続く壁のような黒色の扉を仰ぎ見て、氷室は続ける。
「この扉は特殊な素材で造られたいわばシールドのようなものだ。
 物理的な攻撃は全てスポンジのように吸収し、しかも数倍のリアクションで跳ね返す。
 そこの“黒頭”……黒部だっけ? あんたは自分の拳の威力によって跳ね飛ばされたのさ。
 この扉はカノッサ以外の者は決して受け付けないんだよ」

「……だからといって……」
刀を抜こうとする海部ヶ崎を、起き上がった黒部が手で静止して言う。
「つまり、この扉はあんたが開けると? しかし、何故だ?
 あんたが扉を開けた瞬間、我々が用済みのあんたを殺さないとも限らないが」
氷室はその疑問に、一つの間を置いて答えた。
「……自爆したあの不知哉川という男は、『幾億の白刃』を友と呼んでいた。
 その友を殺したのは紛れもない私達だ。
 だが、あいつはそれを知りながらも、復讐や憎悪といった感情は少しも持ちえていなかったのさ。
 自爆した直後も、あいつにあったのはお前らへの“想い”──それだけだった。
 復讐の二文字を抱えて生きてきた私にとっては正に理解を絶する感覚だが……
 あいつの仲間だったお前らには、少なくとも理解できるんだろう?
 だから、お前達が憎悪にかられて私を殺すことはない──そんな気がしてならないんだよ」
別に氷室は説き伏せたつもりはない。
ただ、不知哉川という男から感じたものを、正直に話したに過ぎない。
だが、彼女が話し終えた時、海部ヶ崎が放っていた殺気はもう消えていた。

「もう一つを答えてもらってない。何故、俺達を助けるような真似を」
「……さぁね、何でかな。強いて言うなら、お前らがどこまで雲水を追い詰められるか、
 この闘いの行方を見たくなったから……そんなところかな」
氷室が扉に掌を合わせる。
その手には、僅かながらオーラが纏われていた。
60海部ヶ崎 綺咲:2010/10/22(金) 07:43:21 0
すると、不意に扉が音を立てて左右に開いていく。
「この扉はカノッサ構成員のオーラに反応して開く仕掛けになっているのさ。
 さ……早く行きな」
海部ヶ崎、アリス、黒部の三人が互いに顔を見合わせて小さく頷く。
そして、海部ヶ崎とアリスの二人が、まず扉の中へと足を踏み入れていった。
黒部は何か思うところがあるのか、氷室の顔をじっと窺っていた。

「俺達に手を貸したということは、お前もいずれは……」
「お前達が負ければ雲水は私を始末しようとするだろう。だが、そんなことは承知の上さ」
「……」
「かといって、直接お前達の闘いに手を貸すつもりはない。
 どのみち、私はしばらく戦闘不能だ。
 これから先できることは、闘いの行方を見守ることくらいだ。どちらが勝とうと、ね」
「……感謝する」
「フッ……」

氷室が顎で扉の中をしゃくる。
それと共に、黒部も無言で二人の後を追う。
扉の外に一人残された氷室は、再び天井を仰ぎ見ていた……。


扉の中は細長い一本の通路が広がっていた。
周りは薄暗い。だが、彼方に見える通路の先からは、確かに光が漏れている。
あの先こそが雲水のフロアなのだろう。
そう思った三人は、通路を一気に駆け抜け、そして光の中へと飛び込んでいった。

「ここは……!」
海部ヶ崎が辺りを見回し思わず呟く。
中は壁も床も天井も、何もかもが白い何もない空間が広がるのみだった。
いや、その中で、一つだけ物が置かれている場所がある。
そこは通路の真正面に位置する空間の奥。
そこには白いソファーがあり、周囲の色とはまるで対照的な真っ黒い服を着こなした一人の男が、
足を組みながらじっと三人を窺っていた。

「ようこそ、『虚空の間』へ……」
男の低い声が空間に響き渡る。
改めて訊ねる必要もなく、三人は確信していた。彼の正体を。

「貴様がカノッサ四天王の筆頭……そして一連の事件の首謀者、雲水 凶介か!」
海部ヶ崎の言葉に、男はニィと笑ってソファーから立ち上がる。
彼こそが全てを仕組んだ元凶、雲水 凶介その人であった。

【海部ヶ崎 綺咲:雲水のもとへと辿り着く】
【氷室 霞美:生存。ただし、全てのオーラを使い果たし戦闘不能】
61アリス・フェルナンテ@代理:2010/10/22(金) 22:26:01 0
「残念だっただと……? 分かった風な口を聞かないでもらいたい。もはや私に後戻りはできないのだ」

海部ヶ崎から返ってきた返事は予想していた通りのものだった。
父にも等しい人物が目の前で死んだのだ。感情的になるのも無理はない。

「……だが、それでも立ち止まることはできる。……地下24階で待っている」

そう思ったからこそ、次に続けられた言葉を耳にした時は感心した。

(ほう…ただの小娘ではないようだな。感情に任せて突っ走るだけかと思っていたが)

「行くぞ。海部ヶ崎は24階で止まっている」
「うむ」

黒部と共に下へ向かう。
24階に辿り着いたとき、海部ヶ崎はフロアの中央に立っていた。
その横顔は涙こそ見えないが、泣いている様に見えた。

「……最後の敵はこの真下にいる」

海部ヶ崎はそう言うと、先頭に立ってフロアを抜けていった。


海部ヶ崎と合流してから更に一つ階層を下りる。
そして最下層――地下25階に到着した。
そこには入り口と思われる場所に、巨大な漆黒の扉が聳え立っていた。
上部のプレートには『虚空の間』と書かれている。

「ここが雲水のフロアか……中ではボスが待ちくたびれているだろう。行こう」

黒部が扉を開けようとする。しかし扉はびくともしなかった。

「チッ、二人とも離れてろ」

黒部がオーラを纏った拳を構え、思い切り扉に叩き付けた。

「──ッ!? なにっ!?」

その声と共に、黒部がこちらの横を通過して背後の壁に激突する。
原因は不明だが扉に弾き返されたのだ。

「ぐはっ! ……な、なんだと……?」
「黒部さん! くそ、次は私が……」

(無理だな。黒部の様な力で押すタイプの能力者ですら破壊どころか傷一つつかなかった。
 あの小娘に破壊できるはずがない。結界か、材質か、センサーか――
 何らかの仕掛けがあると見て間違いないだろうな)

今まさに海部ヶ崎が抜刀しようとし、それを止めようと声をかけようとした瞬間――

「──止めときな。その扉の前では、独り相撲に終わるだけさ──」

自分達ではない、4人目の声が聞こえた。
声のする方を向く。そこには青髪でボロボロのジャージを着た女が立っていた。
良く見るとジャージだけではなく、全身もボロボロであった。

「貴様! 生きていたのか……!」
62アリス・フェルナンテ@代理:2010/10/22(金) 22:27:20 0
海部ヶ崎が殺気を漲らせ、女に対して抜刀の構えを見せる。

(顔は…記憶にないな。恐らく初めて見るだろう。
 この場にいるということは、四天王の生き残りと見て間違いはない。
 沙鈴ではない、一人は死体を見た、筆頭はこの奥にいるはず。
 となると…不知哉川と海部ヶ崎が戦っていた人物か。
 死体が見当たらないのでおかしいとは思っていたが…よもや生きていたとはな。
 流石は四天王といったところか)

「フッ、流石の私も死ぬかと思ったさ。
 ただ、あれが純粋なオーラによる爆発だったのが幸いした。
 あの男が自爆するその瞬間──
 私は体内に圧縮されていたオーラを解放し、纏うオーラを爆発的に膨張させたんだ。
 要はもう一つの爆発を起こして、その中心点にいる私へのダメージを相殺したわけだ。
 もっとも、私のほぼ全てのオーラを持ってしても、完全に相殺するには至らなかったけど」

こちらの考えに答えるかのように、女が言葉を口にした。

「なるほど……要は爆死を免れるのが精一杯で、今の貴様にはほとんど力が残っていないということか」

海部ヶ崎が刀に手をかける。
しかし女は大して気にした様子もなく、平然と言葉を続けた。

「その通りさ。今のお前達なら簡単に私を殺せるだろう。だが──お前達にそれはできない」

その一言に海部ヶ崎の殺気が膨れ上がる。今にも斬りかかりそうな勢いだ。

「貴様は霊仙さんの仇だ。何故、そう言い切れる」
「私を殺したらこの扉を突破するのは困難だからさ」

こちらの背後にある扉を仰ぎ見て、更に言葉を紡いだ。

「この扉は特殊な素材で造られたいわばシールドのようなものだ。
 物理的な攻撃は全てスポンジのように吸収し、しかも数倍のリアクションで跳ね返す。
 そこの“黒頭”……黒部だっけ? あんたは自分の拳の威力によって跳ね飛ばされたのさ。
 この扉はカノッサ以外の者は決して受け付けないんだよ」
「……だからといって……」

斬りかかろうとする海部ヶ崎を、いつの間に起き上がったのか、横にいた黒部が制する。

「つまり、この扉はあんたが開けると? しかし、何故だ?
 あんたが扉を開けた瞬間、我々が用済みのあんたを殺さないとも限らないが」

「……自爆したあの不知哉川という男は、『幾億の白刃』を友と呼んでいた。
 その友を殺したのは紛れもない私達だ。
 だが、あいつはそれを知りながらも、復讐や憎悪といった感情は少しも持ちえていなかったのさ。
 自爆した直後も、あいつにあったのはお前らへの“想い”──それだけだった。
 復讐の二文字を抱えて生きてきた私にとっては正に理解を絶する感覚だが……
 あいつの仲間だったお前らには、少なくとも理解できるんだろう?
 だから、お前達が憎悪にかられて私を殺すことはない──そんな気がしてならないんだよ」
63アリス・フェルナンテ@代理:2010/10/22(金) 22:28:26 0
まるでこちらに言い聞かせるように、ぽつぽつと呟いた。
その呟きを聞き終えた頃、海部ヶ崎は刀から手を離していた。

「もう一つを答えてもらってない。何故、俺達を助けるような真似を」
「……さぁね、何でかな。強いて言うなら、お前らがどこまで雲水を追い詰められるか、
 この闘いの行方を見たくなったから……そんなところかな」

最後にそう呟き、残り少ないであろう僅かなオーラを手に纏い、その手を合わせる。
すると、今までびくともしなかった扉が少しずつ開いていく。

「この扉はカノッサ構成員のオーラに反応して開く仕掛けになっているのさ。
 さ……早く行きな」

海部ヶ崎、黒部と頷きあい、海部ヶ崎と共に扉の中へ入る。少し遅れて黒部もやってきた。
扉の奥は薄暗い一本道だった。奥からは小さな光が漏れている。
筆頭の部屋はこの先にある。そう確信し、通路を駆け抜けて光へ飛び込んだ。

「ここは……!」
海部ヶ崎が周囲を見て声を上げる。
光の中にあったその部屋は、ただただ白いだけの何もない空間だった。
否、奥には周囲と同じく白いソファーがあり、そこには周囲とは正反対の色をした男が座っていた。

「ようこそ、『虚空の間』へ……」

良く通る、低い声があたりに響く。
目の前にいる人物については、改めて確認するまでもない。

「貴様がカノッサ四天王の筆頭……そして一連の事件の首謀者、雲水 凶介か!」

その言葉に、男――雲水 凶介は邪悪な笑みを浮かべソファーから立ち上がる。

「貴様が筆頭とやらか。初めまして、と言ってもこちらの情報は取得済みだったな。
 改めて挨拶するまでもないか。
 さて、早速で悪いが返してもらおうか。我が剣、無限刀――いや、降魔の剣をな」

【アリス・フェルナンテ:『虚空の間』に到着。雲水と対峙する】
64海部ヶ崎 綺咲:2010/10/24(日) 05:07:26 0
>>62>>63
「貴様が筆頭とやらか。初めまして、と言ってもこちらの情報は取得済みだったな。
 改めて挨拶するまでもないか。
 さて、早速で悪いが返してもらおうか。我が剣、無限刀――いや、降魔の剣をな」
アリスの言葉に、顔色を変えたのは雲水──そして、海部ヶ崎の二人であった。

(無間刀がアリスの……? そうか、奴が創ったものだったのか。
 父上が使っていた刀、ただの刀ではないと思っていたが、やはりか)

「ククククク」
雲水の口元が不気味に弧を描く。
「そうか、あれはお前のものだったか。見掛けによらず良い刀だったよ。
 あれのお陰で俺の野望も成就間近だ。いや、もはや成就したと言っても良いかな?
 いずれにしてもあれはもう用済みだが……」
突然、雲水の傍の空間が黒くくすんでいく。
雲水はそこに手を突っ込むと、ゆっくりと何かを取り出した。
「……“これ”が欲しいか? 原初の存在よ」
それは、空間同様に漆黒に染まった刀──
それこそ海部ヶ崎が長らく捜し求めていたもの──無限刀であった。
「まぁ、そう慌てんでもその内くれてやるさ。お前の墓標としてな、ククク」
雲水の手が再び黒い空間に無限刀を沈めていく。
それと同時に、空間の入口も消えていく。

(要は力尽くで取り戻して見せろ、ということか。まぁ、当然だな。
 いずれにしても、奴を倒さない限り平和も無間刀も手に入らないわけだ)

海部ヶ崎の腰に差された刀がスーッと抜かれる。
彼女は、周囲の空間に負けず劣らずの白き光を放つ刃を、
その殺伐とした視線と共に雲水に向けた。

「フン、どんな雑魚でも、勇ましくはなれるということか。
 ……そこのお前とお前、名を聞いておこうか」
雲水が視線で指したのは海部ヶ崎と黒部であった。
「私は海部ヶ崎 綺咲」
「黒部 夕護だ……」

「海部ヶ崎に黒部……か。お前らの墓標も立てておいてやる。だから、安心して死ぬがいい」
──不意に、雲水の体を漆黒のオーラが取り巻く。
それは、正に最終決戦の火蓋が切って落とされたことを意味していた。

「私達を──」
「舐めるな──!」
海部ヶ崎と黒部の、これまで幾多の戦場を駆け抜けてきた強靭な脚が、地を蹴った。

「ほう……中々の素早さだ。だが」
1コンマごとにぐんぐんと迫ってくる二人を見ながらも、雲水は余裕綽々と言った態度を崩さない。
そんな彼に、まず先手を叩き込んだのは黒部であった。
65海部ヶ崎 綺咲:2010/10/24(日) 05:12:09 0
「おおおおおおーー!! くらえ!! 『衝圧拳』ッ!!」
差し出した拳から青みがかったオーラが無数に放たれる。
(真正面からの連撃──ならば私は──!)
それを見た海部ヶ崎は高くジャンプし、刃を一斉に投げ放った。
これは公園での氷室戦で破壊された刃の破片を拾い集めたもの。
刀や槍としての使用は不可能だが、拾い集めた切っ先にはこういう使い方もあると見て、
密かに体中に忍ばせて置いたのだ。
(頭上からの攻撃! しかも『飛花落葉』を付加してあるからその動きは極めて不規則!
 『衝圧拳』と併せての同時多角攻撃をかわすのは困難!)

彼女の思惑通り、雲水は左右上下からの攻撃に逃げ道を失った。
とはいっても、勿論、二人ともこれで勝負がつくわけないとも思っていた。
故に、初めから二人の狙いは彼がどうかわすか、それによって能力を明らかにさせることにあった。

「これで囲んだつもりか? ──笑わせるな」
雲水の両手がゆっくりと横に広げられる。
(──来る!)
海部ヶ崎の目が彼の一挙一動に集中される。
だが、次に二人が見たものは、全く予想だにしない光景であった。

「「なにっ!?」」
二人は思わずそう叫んでいた。
何と二人が放った技の悉くが、雲水に命中するより先に突如として消失してしまったのだ。
だが、真に驚くべきはその後にあった。
雲水がふと目を細めると同時に、その消失した攻撃の群れが、またしても突然に空間に現れたのである。
しかも、今度は攻撃の方向を雲水ではなく二人に向けてだ。

「「うわあああああああああっ!!」」
自らの拳撃をその身に叩き込まれ吹っ飛ぶ黒部。
自らが放った刃を浴び、傷付き地に堕ちる海部ヶ崎。
「フッ、自分の技を受けた気分はどうかな?」

海部ヶ崎は傷付いた体を抑えながらようやっとその身を起こした。
(は……跳ね返した……? しかも一歩も動かず少しも触れずに……! これは何かの能力……)
ある意味では期待通りである、が……。

「一体……何をしたんだ……? まるで見えなかったぞ……!」
続いて黒部が方膝を突いて立ち上がる。
そう、彼の言うとおり、一体何をしたのか解らなかった。
つまり能力そのものが明らかになったわけではない。
そういう意味では半分は期待外れと言っても良かった。

「さて……お次はお前の番かな?」
雲水が目を向けたのは、未だ立ち尽くすアリスであった。

【海部ヶ崎&黒部:自分の技でダメージをくらう】 
66アリス・フェルナンテ@代理:2010/10/24(日) 23:33:28 0
「さて……お次はお前の番かな?」

アリスは見ていた。
黒部と海部ヶ崎、二人の攻撃が跳ね返される瞬間に雲水のとった行動を。

(跳ね返した…訳ではなさそうだな。
 接触の衝撃がなかった。つまりは"直接的には触れていない"と言うこと。
 それに先程の行動を思い返してみれば自ずと答えが出る)

「成程、面白い使い方だな。そういう風にも使えるものか。
 "跳ね返したように見せる"とは大した芸当だ。余程能力を使いこなしていると見える」

直後、3人の顔色が変わった。
海部ヶ崎と黒部は驚きと疑問の色に、雲水は僅かな感嘆の色に。

「ど、どう言うことだ…?」

二人を代表して、黒部が問いかけてくる。
アリスは雲水から目を離すことなく答える。

「先程の攻撃、何も跳ね返されたわけではない。強いて言えば――受け流されたのだ。
 跳ね返したなら接触の瞬間に何らかのリアクションがあるはず。しかしなかった。
 そこで最初にこの男が見せた行動を思い出してみろ。この男はお前達が攻撃する前に何をした?
 ――そう、"何もない空間から"降魔の剣を取り出し、更にしまって見せた。
 そこで先程の攻撃の瞬間に戻る。もし先程見せた力が防御に使えるとしたら?
 答えはシンプルだ。お前達の放った攻撃を先程の空間に入れ、お前達に向かって吐き出すだけでいい。
 これほど簡単にして強力な防御術はない」

そこまで一気に喋り、海部ヶ崎たちの顔を見る。
その顔からは疑問の色が消え、代わりに驚きの色が濃くなっていた。

「とは言ったものの、お前達の攻撃がなければ見極められなかった。
 捨て駒のような扱いをして済まんな。
 だがこれで相手の防御面に関しては見ることが出来た。
 これで対処もきくだろう。お前達の自爆も無駄ではなかった、と言うことだな」

再び雲水に顔を向ける。

「さて、ここで貴様の能力を明かしておくとしよう。
 貴様の能力は、"異空間を作り出し、そこを通じて様々なものを転送することが出来る"。そんなところか?」

雲水は"だからどうした"とでも言いたげに余裕の笑みを崩さなかった。

(当たらずとも遠からず、と言ったところか。かくなる上は、この目で確かめるのみ)

気合を入れ、オーラを充実させる。周囲の空気が小刻みに振動している。
"守護者"や"狩人"に変身しなくとも、並みの異能者よりは強い。
と言うよりも、この姿の方が総合的なバランスは取れている。

「いくぞ――」

呟くような声と共にオーラの塊を前方に打ち出し、更に自身は地を滑る様に高速で移動して雲水に接近し、
最初に放ったものが着弾するよりも早く雲水の背後に回り、強烈な回し蹴りを放った。

【アリス・フェルナンテ:雲水の能力を解明(推察)。それを踏まえた上で攻撃を仕掛ける】
67海部ヶ崎 綺咲:2010/10/25(月) 08:29:25 0
>>66
「成程、面白い使い方だな。そういう風にも使えるものか。
 "跳ね返したように見せる"とは大した芸当だ。余程能力を使いこなしていると見える」
雲水の不敵な顔を前に、それでもアリスは動じることなく言い放った。
それは彼女の洞察力が如何に優れたものか、改めて知らしめるに十分すぎるものだった。

(跳ね返したように見せる……だと……?)

そんな海部ヶ崎の疑問を代弁するかのように黒部が訊ねる。
「ど、どう言うことだ…?」
アリスはその視線を雲水に集中させたまま滑らかな口調で答えてみせた。
「先程の攻撃、何も跳ね返されたわけではない。強いて言えば――受け流されたのだ。
 跳ね返したなら接触の瞬間に何らかのリアクションがあるはず。しかしなかった。
 そこで最初にこの男が見せた行動を思い出してみろ。この男はお前達が攻撃する前に何をした?
 ――そう、"何もない空間から"降魔の剣を取り出し、更にしまって見せた。
 そこで先程の攻撃の瞬間に戻る。もし先程見せた力が防御に使えるとしたら?
 答えはシンプルだ。お前達の放った攻撃を先程の空間に入れ、お前達に向かって吐き出すだけでいい。
 これほど簡単にして強力な防御術はない」

横で小さく頷く黒部同様に、海部ヶ崎は確かな得心を得ていた。
(……その通りなら、確かに一瞬、技が消失したのも頷ける。
 跳ね返すと表現するならば消えることなくそのまま返される瞬間が見えたはずだ)

「さて、ここで貴様の能力を明かしておくとしよう。
 貴様の能力は、"異空間を作り出し、そこを通じて様々なものを転送することが出来る"。そんなところか?」
続くアリスのこの言葉に対し、最初、雲水は神妙な顔付きで返すに留まったが、
やがて直ぐに「フフフ」と鼻で笑みを漏らしてみせた。
「大した洞察力じゃないか、フフフ……」
その笑いからは到底真意は察し得ない。

「要は自分で確かめてみろ、ということか……ならば」
刀を杖代わりに立ち上がる海部ヶ崎。
だが、それよりも先に雲水の前に立ちはだかった者がいた。それはアリス。
彼女から湧き上がるオーラはまるで「ここは私に任せろ」と言っているかのようであった。

そこで海部ヶ崎は、ふと黒部の視線に気がついた。
目を合わせると彼はこくりと頷くだけだったが、
それだけでも、彼女は彼が何を言わんとしたのか察した気がした。
(……そうか、今の内に少しでも体力を回復させておくと共に、奴をよく観察しておけということか。
 次の闘いの為にも……)

「いくぞ――」
アリスがオーラの塊を勢い良く撃ち放つ。
その大きさは瞬時に雲水の視覚全体に広がるほどの物だ。
(だが、また受け流されてしまうのでは──)
海部ヶ崎はそう思った。しかし、アリスの狙いが他にあったことを知るのに、そう時間はかからなかった。
気付けば、アリスの姿は既に、オーラを放ったその場所には無かったのだから。
(なに、後ろ!?)
アリスはいつの間にか雲水の背後へと周り、回し蹴りを繰り出していた。
(──オーラ弾は目くらまし! 雲水が前面の攻撃を受け流す隙に背後より攻撃する気か!)
海部ヶ崎の目が自然と雲水の目に、いや、スキャナーに向けられる。
雲水のスキャナーはアリスの位置を報せてはいなかった。
氷室の時と同様、彼女のあまりのスピードについていけないでいるのだ。
68海部ヶ崎 綺咲:2010/10/25(月) 08:38:07 0
雲水は未だ視線を前から押し寄せるオーラ弾に向けたまま動かさない。
(奴は気付いていない! 完璧なタイミングだ! これは入──)
命中した、そう思い掛けた次の瞬間、海部ヶ崎は思わず息を呑んでいた。
突如、アリスの側背から現れた脚が、アリスの首筋を蹴り飛ばしていたのだ。

不自然な方向からのカウンター。そのカラクリを、海部ヶ崎は直ぐに理解した。
何故なら、アリスが繰り出した脚の膝から下は、
雲水の黒いオーラに飲み込まれたように消えており、
側背に現れたその脚が見事に消えた膝下の部分と一致していたからだ。
つまり、アリスは膝下だけを瞬間移動させられ、自分の蹴りを自分に叩き込んでいたのだ。

「フッ、瞬時に俺の背後に回るスピードは褒めてやる。だが」
ニヤリと笑う雲水。それと同時に、彼の眼前にまで迫っていたオーラの光弾がふっと消える。
いや、海部ヶ崎は見ていた。
雲水に命中するその瞬間、まるで口のように広がった黒い空間が瞬時に光弾を飲み込み、
直ぐにその口を閉じて視界から消えたことを。
「まさか!」
頭を過ぎった光景に思わず叫んだ海部ヶ崎は、次の瞬間それが的中したことを知った。
雲水の背面にあの黒い空間が突如として広がり、飲み込んだ光弾を吐き出したのだ。
「次は“お前の番”と言ったのを忘れたか?」
──雲水の顔が逆光に黒く染まる。
それは、彼の背後にいたアリスに光弾が命中し、大爆発を起こした瞬間であった。

「他の四天王ならいざ知らず、俺の前ではどんな超スピードも通用しない。
 俺がスキャナーなんぞに頼り切っているとでも思ったのか? ククククク」
雲水がスキャナーを外し、それをグシャリと握りつぶす。
彼にとって、スキャナーとは自分の実力を隠すカムフラージュの道具でしかなかったのだ。
(奴は自ら作り出した異空間の『入口』とその『出口』を交互に出現させるだけで我々を圧倒している。
 攻撃すればする程自らを傷付ける結果になるとは……なんて能力だ……!
 “防御”に特化した能力がここまでとは──)

「防御に特化した能力を利用し、常に“後の先”を行く……まさかそう思っているのか?」
雲水の視線は爆煙を愕然と見届ける黒部と海部ヶ崎に向けられていた。
「教えてやる。俺の攻撃法は何も一つだけではないことをな」

雲水が何も無い空間にアッパーを繰り出す。
その瞬間、拳の炸裂音と共に、黒部の体が舞い上がった。
「ぐはぁっ!!」
彼の下顎には、手首だけを瞬間移動させた雲水の拳が命中していた。
「黒──!」
「おっと、次はお前だ」
海部ヶ崎が目を黒部から雲水に戻したその時、彼女は見た。
雲水が背後に繰り出した肘打ちのその肘先が、黒い空間に消えるところを。
「ぐふっ!?」
消えた肘先が彼女の腹部に現れ容赦なく鳩尾に沈む。
衝撃に耐え切れず胃液を吐き出し、ガクリとその場に両膝をつく海部ヶ崎。
そして仰向けに倒れる黒部。

「所詮、お前らの実力など、俺をこの場から一歩も動かすことができん程度だ。
 ……それにしても」
雲水が背後を振り向く。
「俺の予想よりも大分動きが鈍いようだが、切谷との闘いで相当体力を消耗しているせいか?
 それとも、それがザ・ファーストの実力なのか?
 俺が『カオスゲート』を展開するよりも早く懐に飛び込むスピードをもってしなければ、
 俺には一生ダメージを与えることはできんぞ……ククククク」
雲水は煙の中で彼を見据えるアリスに言った。
それは、どんなスピードであろうと懐に飛び込むことはできないという、
その自信の裏返しを意味したものであったろう。

【海部ヶ崎&黒部:雲水の能力のメカニズムを知るも更なるダメージを受ける】
69アリス・フェルナンテ:2010/10/25(月) 13:53:54 0
蹴りが入る瞬間、再びあの異空間が展開された。
放った蹴りは膝から先が飲み込まれ、次いで首筋に衝撃を感じた。
更に雲水の眼前に迫っていたオーラの塊も消失し、またしても自分の眼前に移動した。
避けるまもなく直撃する。
爆発が起こり、爆煙が視界を閉ざす。
その外から、海部ヶ崎や黒部のうめき声が聞こえてくる。
雲水は移動した形跡がない。やはりあの空間を利用して攻撃したようだ。

「俺の予想よりも大分動きが鈍いようだが、切谷との闘いで相当体力を消耗しているせいか?
 それとも、それがザ・ファーストの実力なのか?
 俺が『カオスゲート』を展開するよりも早く懐に飛び込むスピードをもってしなければ、
 俺には一生ダメージを与えることはできんぞ……ククククク」

爆煙の中、雲水を見やる。
余裕の笑みを崩さずにこちらを見据えている。攻撃した海部ヶ崎達など眼中にないかの様に。

(あの攻撃は目くらまし的な要素が強かったため、威力自体は大した事はない。
 直撃したところで防御すれば耐えられる。しかしあの能力…どうしたものか)

爆煙の中で身を屈めながら考える。しかし攻略のための手口が見つからない。
アリスの戦闘経験をもってしても突破できる術が見当たらない。
それもそのはず、アリスにとって雲水のような能力者は初めて出会うタイプなのだ。

(今まで様々な"子供たち"と戦ってきたが、あの手の能力は初めてだ。
 先程の推察は間違ってはいないだろうが、解決策にはならない。
 まさか現代の能力がここまで多様性に富んでいるとはな…)

それでも何とか突破口を見出そうとしていた時、頭の中に声が響いた。

――アリス、代わって欲しい…――

それはアジトに入ってから沈黙を守っていた御月のものだった。

――何故だ?お前が出ても戦況は変わらないと思うが?――
――やってみないとわからない…。試してみたいことがある…――
――『アレ』か?…まぁ試してみる価値はあるか。いいだろう――

目を閉じて体の内と外で意識をシンクロさせる。
次に目を開けたとき、瞳の色は片方が茶色に、髪の色は銀になっていた。
煙が晴れ、雲水と対峙する。
雲水の顔は、最初は驚きに、しかしすぐに落胆の色に変わった。
前者は容姿、雰囲気が変わったことに、後者はアリスではなくなったことに対するものだろう。
驚いていたのは海部ヶ崎も同じだった。彼女は御月の姿を見たことがなかったので無理もないかもしれない。
70鳴神 御月:2010/10/25(月) 13:54:48 0
「勘違いしないで欲しい…。諦めたわけじゃないから。それに『原初の異能者』は、アリス一人じゃない…」

前半は海部ヶ崎達に、後半は雲水に対して言葉を紡ぐ。

「もう一つの原初の力、見せてあげる…」

アリスの時は激しく猛っていたオーラが、瞬く間に凪いで行く。
まるで無風の湖面のように静かで、しかし小さいわけではない。
言うなれば、嵐の前の静けさ、と言った感じだ。

「いくよ――『剣の舞』(ダンシング・ブレイド)――」

呟いた瞬間御月の周囲に無数のナイフと10本ほどの剣が現れる。

「――『輪舞曲』(ロンド)――」

言葉と共に踊るように艶やかに体を一回転させると、ナイフが一斉に動き出した。
雲水の周囲を緩やか、かつ不規則に回転しながら時折、これまた不規則に雲水に向かって飛んで行く。
それは宛らロンド形式の楽曲のようである。
海部ヶ崎の飛花落葉と同じような技だが、特筆すべきはその操作性である。
海部ヶ崎は磁力を付加させて行っているのに対し、御月は全て自分の意思で行っている。
アリスを剛の能力者とするなら御月は柔の能力者である。
アリスは威力と範囲に、御月は物質創作と精密操作にそれぞれ突出しているのだ。
しかし雲水は慌てる素振りも見せず、的確に受け流していく。
飲み込まれたナイフは全て御月に向かって飛んでくる。
しかし御月はそれを予期していた。

「――『舞曲』(ダンス)――」

そういって指を鳴らすと、先程は動かなかった10本の剣が御月の周囲で回転を始める。
超高速で回転するそれは、円形の盾の様にも見えた。
剣にナイフが当たり、弾き飛ばされていく。
弾き飛ばされたナイフは、そのまま地面に落ちると思いきや、再び輪の中に戻っていく。

(でも、これじゃ同じことの繰り返し…埒が明かない…)

そう考えた御月は、次なる手を打つ。

「――『円舞曲』(ワルツ)――」

一度回転して、タンッ、と軽くステップを踏む。
すると今までの緩やかな回転運動とは一変して、活発的な動きになる。
それまで雲水の周囲を回転していたものが一度御月の下に集まる。
そして今度はまるで一本の川の様になり、一直線に雲水へ向かう。
雲水は受け止めるように両手を広げた。また異空間に飲み込むつもりだろう。

(そうは、いかない…)

スッと手を上げる。
すると、雲水に直撃する寸前だったナイフの川が、まるで雲水を避けるように左右と上方の3方向に分かれる。
そして雲水の左右と背後からナイフの奔流が近付く。
雲水は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに対応した。先程と同じ結果になる。

(効きそうで効かない…。あと一歩、なんだけどな…)

【アリスフェルナンテ:鳴神御月と交代。雲水に攻撃を仕掛けるも捌かれる】
71虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/10/25(月) 18:38:40 0
優が筆を走らせ、描き上げた物…それは、小型爆弾。が、その爆弾は威力は低く
出る炎も赤、緑、黄と非常にカラフルで、威力や戦闘力、実用性よりも…“美しさ”を優先したようなものだった
「食らえ! あ、そうそう。それ、爆弾だからね?」
「爆…弾?」
「それってまずくない…?」
「うろたえるな! こんな所で威力のある爆弾を炸裂させたらあいつの仲間もお陀仏だ!
威力は高が知れてる! 落ち着いて対処しろ!」
「へぇ、よく分かったじゃん。そ、数こそあるけど、威力は大した事無いよ。威力は、ね」
語り続ける優
「ところで…有名な芸術家、岡田太郎が残した名言を知っているかい?」
「あ?」
「とりあえず水を蹴り上げろ。爆弾は水に濡れればお終いだ」
水しぶきを上げ、爆弾を無効化しようとする戦闘員達
「あれ? 知らないの? 意外だなー。じゃ、教えてあげるからしっかり覚えてね。
“芸術は…爆発だ!!!”」
この瞬間、爆弾の火薬に引火し爆発する。赤、黄、青、緑、白、橙。美しい、カラフルな炎が出る
「どう? きれいでしょ? まあ、これだけじゃ貴方達は倒せないだろうし…。止めを刺させてもらうよ」
優は止めを刺そうと筆を執ろうとするが…
「甘い!」
「え…!?」
後ろから戦闘員の一人が筆と画用紙を叩き落した
「お前は技を使う前必ず絵を描いていた。そこに気づかないほど俺達が馬鹿だと思っていたのかい?」
「う…(まずい…。僕の能力は基本えを描くことで発動する…これを封じられたら…)」
【虹色優:戦闘員に能力を看破される】
72清浦藍 ◆xnSJXfYAaI :2010/10/25(月) 19:55:29 0
>>71
角鵜野市の西の湖奥深く。
そこには地下組織が存在する。
この街で最も無駄なお金の使われ方をしたところがそこにはある。
まず目にするのは近未来的な内装が施された広い空間。
そして特殊な戦闘服に身を包んだ男達がライフルを手に待ち構えていた。
建築費、人件費、装備、あらゆる点において無駄な事にお金が使われている。
まともな心を持った異能者さえも殺戮に駆り立てようとする、見えざる手によって仕組まれたゲーム。
『過剰装甲』の二つ名を持つ黒部夕護…彼には間に合わなかった。
人殺しの経験の一切なかった彼が一人の人間を殺し、そこに何の罪の意識も感じなかった。
彼は変わってしまったのだ…見えざる手によって。

「どう? きれいでしょ? まあ、これだけじゃ貴方達は倒せないだろうし…。止めを刺させてもらうよ」

そしてここにも、人殺しに罪を感じないような汚れた心に染まろうとする者がいた。
私と同じ高校に通う同級生、虹色優。
この子まで染まってしまえば、この黒歴史はまた繰り返す。
始祖によって異能者がこの世界に生み出されてから続く殺戮の連鎖は止まらない。

「甘い!」
「え…!?」
「お前は技を使う前必ず絵を描いていた。そこに気づかないほど俺達が馬鹿だと思っていたのかい?」
「う…」

――どうやら私の不安はとりあえず阻止されたようだ。
異能者と言っても虹色君達の能力は戦闘においては後方支援系。
はっきり言ってこの場にこの子達だけ残して行った仲間達は、この子達を見殺しにしていったとしか思えない。
私は自分にかけていた『光学迷彩』を解いていき、虹色優の背後に姿を現す。

「助けてほしい?虹色君」

ざわっ…
突如姿を現した私に対して戦闘員達はざわついた。
今まで現れたものと違い、この時虹色優は絵を描いてない。
それは戦闘員の言った推察に再び疑念を与える事になるのだ。

【清浦藍:虹色優達のいるカノッサアジト1Fに出現】
73海部ヶ崎 綺咲:2010/10/26(火) 06:53:10 0
>>69>>70
煙が晴れた時、頭に疑問符を浮かべたのは雲水だけではなかった。
(な、なんだあれは……?)
海部ヶ崎、そして黒部も、その目を大きく見開いた。
アリスの風貌、雰囲気、それらが一変してしまっているのだ。
(あれはアリス……? しかし……どういう……)

そんな彼女らの疑問を晴らすかのようにアリスが言う。
「勘違いしないで欲しい…。諦めたわけじゃないから。それに『原初の異能者』は、アリス一人じゃない…」
もっとも、その言葉だけで全てが納得に至ったわけではない。
しかし、「『原初の異能者』はアリス一人ではない」という言葉は、
アリスとは恐らく別の人格が現れたのだと、海部ヶ崎にそう解釈させた。

「やれやれ、何をするかと思ったら」
雲水が溜息混じりに呟く。
どう変身しようと、いささかも自信が揺らぐ要素にはなりえんといわんばかりに。

アリスの周りに無数のナイフと10を数える剣が空中に現出する。
そしてそれは、『輪舞曲』の掛け声と共に雲水に向かって放たれた。
一つ一つの刃が不規則な動きで雲水を囲む。
まるでアリス版の『飛花落葉』である。
(だが、あれでは──)
海部ヶ崎の懸念通り、あるいは予想通り、それらの刃はまたしても黒空間の前に遮られていた。

アリスも負けじと跳ね返された刃を弾き飛ばし、間髪入れずに次の手に移る。
攻撃の軌道を途中で変えるなど、フェイントを交えて雲水の死角に刃をなだれ込ませるが、
雲水の鉄壁を誇る防御の前には悉く不発に終わる。
その攻防を傍で見ていた海部ヶ崎は舌打ちした。雲水の防御はいずれも紙一重である。
しかし、その紙一重が、彼女にはまるで分厚い壁のようにすら感じられたのだ。
(一撃が、たった一撃がこれ程までに遠いとは……何か打つ手はないのか……!)

「──どうやらお前もここまでが限界らしいな。他の二人と同様、そろそろ地に沈むか?」
ふとアリスに向けられる雲水の目つきが変わる。
そしてその瞬間、海部ヶ崎は見た。
彼が無数の拳打を繰り出し、その悉くが黒い空間に吸い込まれていくのを。
肉体を打ち砕くような連続した打撃音がフロアに響いたのは、その直後であった。

血を吐きながら空中に舞うアリス。
雲水が繰り出した100発とも200発ともいえる速く重い拳打が、悉く彼女の全身にヒットしていたのだ。
通常の拳打であればアリスもかわせていたに違いない。
しかし、雲水の拳は異空間を経由することによって、
その軌道を目で捉えられることなく、“直接”相手の肉体に命中させることができる。
これでは如何なるスピードを誇ろうともかわすことはできない。

「沈め」
止めとばかりに雲水が手刀を振り下ろす。
その手首が黒い空間に消えた時、アリスは首筋に衝撃を受けてついに地に伏せた。
「切谷や氷室ほどではないが、俺も体術には多少の自信があってな。
 ま、拳を使わせたらこんなものだ」
四天王を倒してきた彼らにすら、平然と見下ろすように言い放つ雲水に、海部ヶ崎は唇を噛んだ。
74海部ヶ崎 綺咲:2010/10/26(火) 06:58:38 0
「だが、拳で痛めつけるというのは俺の性に合わん。
 じわじわと嬲り殺しにするくらいなら、いっそのこと一瞬の内にこの世から消してやることにしよう」
雲水の体から立ち昇るオーラが、徐々に空間天井部まで広がる巨大な『円』を形成していく。
色といい形といい、それはまるで小規模なブラックホールのようであった。

「クククク……さらばだ、支配者に逆らった愚かな虫けらどもよ。──『リリース』──!」
掛け声と共に、黒円から巨大な『隕石』が吐き出された。
それも一つだけではない。次々と、無数にである。

「くらえ──『メテオレイン』──!!」

吐き出された隕石群は、大砲で発射されたかのような凄まじい勢いをもって三人の視界を埋め尽くす。
負傷し、体力を消耗している彼らでは、避けることはもはや不可能であった。
(──クッ! ここまでか──!)
死を覚悟した海部ヶ崎は、咄嗟に目を瞑った。

耳に、隕石が衝突で砕け散っていく凄まじい爆裂音が轟き、肌を爆風が叩きつける。
(……?)
海部ヶ崎は一瞬、疑問符を浮かべた。
とっくに死んでいてもおかしくはない状況だというのに、一向に痛みも無く意識を保ったままなのだ。
(まだ、生きて……いる? 何故……?)
恐る恐るを瞼を開けた海部ヶ崎は、真っ先に飛び込んできた光景に驚愕した。

「うっ──うおおおおおおおっ!!」
悲鳴とも絶叫ともつかぬ声をあげながら、
黒部がたった一人で向かってくる隕石群をその身に受けているのだ。
いや、その身に受けるだけであったらとっくに消し飛んでいただろう。
彼は、残った力の限りを尽くして『障壁』を展開し自身を防御すると共に、
背後で倒れ伏すアリスと蹲る海部ヶ崎をも爆発から護っていたのだ。

「黒部……さん!」
立ち上がり、思わず近付こうとする海部ヶ崎に、黒部は叫んだ。
「来るな!」
「──!」
「下がっていろ……これ以上近付いたら、あんたも巻き添えをくうぞ!」
そういわれて海部ヶ崎は「はっ」となった。
周囲に展開された青みがかった壁に、亀裂が入り始めているのだ。
「やがて壁は破壊され、私は攻撃の爆発をもろに受けることになる。
 あんたらがそれに巻き込まれることはない!」
「──ッ!」
彼の言葉は、自分自身の行動が命を賭したものと告白したことに等しかった。
そう、彼は死ぬ気なのだ──。
隕石が壁に衝突し、四散していく。それに伴って壁の亀裂も一層全体に広がっていく。
「早く下がれ! 後一回直撃したら、もう壁はもたん!」
「黒部、さん……!」
「あんたらだけは私が護って見せる!
 だから早く下がれ!! このまま三人纏めて死んだら、誰が奴を倒すんだ!!」
「──!!」

海部ヶ崎は込み上げてくる感情を押さえて、後方に勢い良くステップを踏んだ。
そして体を屈め、爆発の衝撃に備えた。

「──うおおおおおおおおおぉぉオオオオォォォォォ──ッ!!!!」
ガラスが砕け散るかのような音を発してオーラの壁が崩壊する。
黒部の咆哮が巨大な爆発に飲み込まれたのは、その瞬間のことであった。
75海部ヶ崎 綺咲:2010/10/26(火) 07:05:50 0
これまでにない振動と共に、フロア全域に渡って爆煙が舞い上がる。
それを起こした張本人である雲水は、満足げな面持ちで見つめていた。
「『メテオレイン』──。その一撃一撃に『スーパーノヴァ』ほどの威力は無いが、
 不可避の隕石群の前では何人足りとも生き延びることはできん。
 ククク、これで愚かな侵入者どもは大半が片付いた。後は──」
言い掛けて、雲水は顔色を変えた。
煙が晴れ見通しがよくなった視界の先には、未だ生存しているアリスと海部ヶ崎の姿があったのだ。
「……チッ、そうか、あの男か」
雲水は彼女らが助かった理由に気がついた。
まるで彼女らを護るようにして両手を広げ、
全身ボロボロになりながらも仁王立ちしている黒部の姿があったからである。


「フッ……フフフッ……何とか、役目は果たせたよう……だな」
小さく笑いながら、力尽きたように大の字になって仰向けに倒れ込む黒部。
海部ヶ崎とアリスはそこに駆け寄った。
「黒部さん……何故、こうまでして私達を……」
震える声で訊ねる海部ヶ崎に、黒部は二人に目だけを向けて答えた。
「い、今の私では、これくらいのことしかあんたらの役には立てなそうだったからな……
 残念ながら雲水と私では、次元が違いすぎる……」
「そんな……」
「私の能力は……“護る”能力だ……最後の最後で、それを活かすことができてよかった……。
 亡き妹との約束も、これで……」
「妹……?」
海部ヶ崎とアリスは互いに顔を見合わせた。
亡き妹、それが一体何を意味するのか、二人はまだ知らなかったのだ。
「数年前、私の妹は、私と敵との闘いに巻き込まれて死んだ……。
 それから私は、常に自分の命を賭けて他人を護ることを、亡き妹に誓って生きてきた……
 護れなかった者も多かったが……ここにきて、やっと誓いを守ることができた。
 ……フフ、不思議だな……これから死んでいくというのに、私は満足している……」
「黒部さん……」
「海部ヶ崎にアリス……妹が生きていれば、調度、お前達と同じ年頃だ……。
 せめて……俺の、妹の……分……まで……生き…………て…………」

黒部の瞼がゆっくりと閉じられる。
そしてその目が開かれることは、もう二度となかった……。
誓いとはいえ、他人の守護に自分の命を賭けることはそう容易にできることではない。
彼は、もしかしたら失った妹の影を、海部ヶ崎らに見ていたのではないだろうか?
とするならば、目の前で二度も失うことは、彼にとって耐え難い苦痛であったに違いない。
……海部ヶ崎は、黒部の気持ちを理解した気がして打ち震えた。

「悲しむことはない。お前らも、直ぐに後を追うのだからな」
雲水の冷徹な声が響き渡る。
海部ヶ崎は心の奥底から何かが沸き立つのを感じていた。
「雲水 凶介……貴様は、貴様だけは……!」
それは憤怒──。異能者としての冷静な理性をも食い尽くすほどの憤怒が、彼女を覆い尽くそうとしていた。
「フッ、良い目だ。そうだ、俺を憎んでみろ。俺がこの世界を憎んだようにな!」
しかし、それこそ雲水の思う壺というものであったかもしれない。
怒気というのは自分の限界以上の力を引き出すが、
一方で冷静とは真逆のその感情は、敵にとっては御しやすいものでもあるのだ。

だが、彼女が怒りの炎にその身を焦がしかけた時──
突然、フロアの通路に鳴り響いた靴音が、彼女の沸騰した体に水を差した。
恐らく、唯一アリスだけは気付いていただろう。靴音の主に。
「なにっ!? お前は!」
珍しく驚愕した声を雲水が発する。
暗闇の通路から現れたのは、あの阿合 哀であったのだ。

【海部ヶ崎 綺咲:戦闘中。阿合 哀の登場で我に返る。】
【黒部 夕護:二人を護って死亡】
76鳴神 御月:2010/10/26(火) 11:29:37 0
『輪舞曲』も『円舞曲』もいなされ、攻撃をやめる。

――アリス、ごめん…。ちょっと厳しいかも…――
――気にするな。我とて奴に当てることは叶わなかった。
   それにしても、御月の精密操作をもってしても当てられないとは…。
   いよいよ進退窮まったか――

脳内でアリスと会話する。
しかしアリスも未だに打開策は見つけられないでいた。

「──どうやらお前もここまでが限界らしいな。他の二人と同様、そろそろ地に沈むか?」

雲水の目つきが変わる。

――いかん、来るぞ!――

アリスの言葉が終わらない内に、無数の拳が体に打ち込まれる。
その衝撃に、思わず血を吐きながら吹っ飛ばされる。

「うっ…ゴホッ…!」

宙を舞い、無数の拳をその身に受けながらも、態勢を立て直し着地を試みる。しかし――

「沈め」

次の瞬間、首筋に手刀が叩き込まれ、地面に落ちる。

「切谷や氷室ほどではないが、俺も体術には多少の自信があってな。
 ま、拳を使わせたらこんなものだ」

――大丈夫か?内臓の方は無事だ。咄嗟に腹に力を込めて部御したのはいい判断だった――
――それでも、かなりきついけど…――

体の無事を確認する。
外傷はひどかったが、内部はダメージを抑えられたようで、身体機能に問題はなかった。

「だが、拳で痛めつけるというのは俺の性に合わん。
 じわじわと嬲り殺しにするくらいなら、いっそのこと一瞬の内にこの世から消してやることにしよう」

だがその安堵も束の間、雲水の体からオーラが噴き出し、天井付近に小型のブラックホールのようなものを作り出した。

――まずいな…。今の状態では防ぎきれんぞ。チッ、どうするか…――

アリスの言葉は、雲水の攻撃が来ることを示していた。

「クククク……さらばだ、支配者に逆らった愚かな虫けらどもよ。──『リリース』──!」

そしてその言葉の通り、雲水の声と共に異空間から無数の巨大な隕石が3人に降り注いだ。
77鳴神 御月:2010/10/26(火) 11:30:32 0
「くらえ──『メテオレイン』──!!」

隕石が凄まじい速度でこちらに向かってくる。
どの道この体では避けることは不可能――そう思った御月は、オーラを放出し防御の体制をとる。
御月とて『原初の異能者』、全力で防御すればかなりのダメージは食うが、死にはしないだろう。
しかし海部ヶ崎や黒部はどうか?――残念ながら耐えられないだろう。
御月ですら耐え切れるかどうか分からないのに、普通の人間である彼らが耐え切れるはずはない。

(詰み、かな…)

この流星群が過ぎ去った後、どのような状況になるかは容易に想像できた。
二人は死に、残った自分も満身創痍。アリスに代わったところで攻撃が当たらなければ意味がない。
――敗北は火を見るより明らかだった。
海部ヶ崎の方を見ると、きつく目を閉じている。死を覚悟したのだろう。
せめて仲間の最期は見届けようと、御月は瞳を閉じることなく迫り来る隕石を睨みつけていた。

しかし次の瞬間、御月は信じられない光景を目にした。
何と黒部が自分達の前に躍り出て、隕石に向かって青い壁を展開していたのだ。

「うっ──うおおおおおおおっ!!」

雄叫びと共に隕石をその身に受ける黒部。

(無茶だ…!耐え切れるはずがない…!クッ、せめて体が動けば…!)

動かない体に憤りを覚える。
海部ヶ崎が立ち上がり、黒部の元へ行こうとするも、黒部自身に止められる。
見れば、壁には幾筋もの亀裂が走り、限界が近いことを知らせていた。
このままでは後何発も保たないだろう。
海部ヶ崎と黒部が何か話しているが、隕石の衝突音で聞こえない。
やがて会話は終わったようで、海部ヶ崎がバックステップし、身を屈める。爆発の衝撃に備えるためだろう。
と言うことは即ち、壁の限界が来たことを意味する。
御月もそれを見て、何とか身を起こし、両手を体の前でクロスさせる。次の瞬間――

「──うおおおおおおおおおぉぉオオオオォォォォォ──ッ!!!!」

壁が崩壊し、黒部の体は隕石と爆発に飲み込まれていった。


――煙が晴れ、そこで二人が目にしたものは、自分達を守るかのように両手を広げ、その場に仁王立ちする黒部の姿だった。

「フッ……フフフッ……何とか、役目は果たせたよう……だな」

どこか晴れやかな笑みを浮かべ、仰向けに倒れる黒部。
海部ヶ崎と二人、黒部に駆け寄る。

「黒部さん……何故、こうまでして私達を……」
「い、今の私では、これくらいのことしかあんたらの役には立てなそうだったからな……
 残念ながら雲水と私では、次元が違いすぎる……」
「そんな……」
「私の能力は……“護る”能力だ……最後の最後で、それを活かすことができてよかった……。
 亡き妹との約束も、これで……」
「妹……?」
78鳴神 御月:2010/10/26(火) 11:31:22 0
海部ヶ崎と二人、顔を見合わせる。
妹の話を聞くのは初めてだったからだ。

「数年前、私の妹は、私と敵との闘いに巻き込まれて死んだ……。
 それから私は、常に自分の命を賭けて他人を護ることを、亡き妹に誓って生きてきた……
 護れなかった者も多かったが……ここにきて、やっと誓いを守ることができた。
 ……フフ、不思議だな……これから死んでいくというのに、私は満足している……」
「黒部さん……」
「海部ヶ崎にアリス……妹が生きていれば、調度、お前達と同じ年頃だ……。
 せめて……俺の、妹の……分……まで……生き…………て…………」

黒部の言葉はそこで途切れた。
黒部の口から言葉が紡がれる事は永久にないだろう。
他者のために命を懸ける――口で言うのは簡単だが、実行することは容易ではない。
今際の際の言葉から察するに、黒部は自分達に亡き妹を重ねて見ていたのかもしれない。

――黒部 夕護…悲しくも厳しい男だった。これ程の人間に出会うことはそうはないだろうな――
――そう、だね…。もっと話がしたかった…。やっとまともに話せたのに…――

黒部の死をアリスと二人で悼む。

「悲しむことはない。お前らも、直ぐに後を追うのだからな」

しかし雲水の声は追悼の気持ちにすら浸らせてくれなかった。

「雲水 凶介……貴様は、貴様だけは……!」

海部ヶ崎が殺気を漲らせている。
雲水の悪魔のような所業に、ついに精神が限界を迎えたのだろう。
怒りは己の潜在能力を引き出すが、同時に冷静な判断力を失わせる。

(駄目だ…これじゃ相手の思う壺…。止めないと……?)

憤怒を漲らせる海部ヶ崎を止めようとした瞬間、一つの気配を感じた。
それはこの部屋に向かっている。しかし決してこの場に現れるはずのない人物のものだった。

――アリス、誰か来る…。この気配は…――
――ああ。正しく闖入者、いや珍入者か?――

アリスにもその人物がここに現れる理由が分からない。

――…理由はどうあれ、直にこの部屋に到着する。状況によっては敵対する事も視野に入れたほうがいいな――

「フッ、良い目だ。そうだ、俺を憎んでみろ。俺がこの世界を憎んだようにな!」

海部ヶ崎が怒りに任せて雲水に仕掛けようとしたその時、件の人物が部屋に到着する。

「なにっ!? お前は!」

この戦闘が始まって以来、初めて雲水が驚きの声を上げる。
通路から部屋に入ってきたのは、二度と顔を見ることはないと思っていた阿合 哀であった。

【鳴神御月:ダメージを食らうも、黒部に護られ生存。
        阿合 哀の到来を察知し、状況を判断する準備を整える】
79海部ヶ崎 綺咲:2010/10/26(火) 20:02:55 0
「あ、阿合……さん? ど、どうしてここへ」

海部ヶ崎の問いに、阿合は鋭く冷たい視線をもって返した。
思わず背筋にゾクッとするような悪寒が走る。
(そ、そうだった……)
彼女の反応を見て、海部ヶ崎は思い出した。
今の彼女を阿合 哀と表現するよりは、人工化身と表現した方が適当であることを。

「……あの時の女か。……なに、当初は我もこのような場所に足を運ぶつもりなど無かったが、
 やたら強いオーラを感じたのでな。多少の興味が湧いたというわけだ」
事の一部始終を知っている海部ヶ崎はそれで納得したが、
阿合復活の経緯すら事前に把握していなかった雲水の顔は釈然としないものを隠さなかった。

「雲水……そう、雲水とか言ったな? ……不思議か?」

雲水は答えない。それでも、彼女が生存しているということと、
加えて化身としての力を得ていることに疑問を感じていることは確かであろう。
そんな雲水の心理を見透かしたように阿合は言葉を続けた。

「だろうな、無理もない。
 “あの男”が我に化身の血を入れなければ、我はとっくにあの世をさ迷っていたはずだからな」
あの男──それが誰を示すのか、
それを把握していたのは今度は海部ヶ崎ではなく、雲水の方であった。
「ダークフェニックスか……」
「そう、お前が殺したあの男だ。要は我はあの男の置き土産と言ったところだな」

(ダークフェニックス……あの男が阿合さんを……? しかし、何故あの男が……?)
その事実に疑問を感じたところで、ふと、海部ヶ崎の脳裏に、
昨晩の不知哉川と黒部の会話が蘇った。

『そのダークフェニックスという男とやらがどんな経緯でカノッサに入ったのか知らんが、
 初めからスパイ、あるいは寝首を掻く目的で入っていたとしても不思議はないだろう』
『……裏切りか……。せやな、確かに──』

(そうか……そういうことだったのか……やはり裏切りは事実だったんだ)
パズルの全てのピースが合わさったような、
そんな感覚を覚えた海部ヶ崎は、一人心の中で「ポン」と手を合わせていた。

「……で、その置き土産が何しに来た? 興味があったから、それだけの理由ではあるまい。
 大方、狙いは俺の命だろう? フッ……自分の娘が心配にでもなったか?」
雲水の言葉に、一瞬、阿合はアリスに視線を投げるが、
何を言うこともなく直ぐに視線を雲水に戻す。
「彼奴(きゃつ)は関係ない。ここに来たのは、我の個人的な理由からだ。
 お前に世話になった礼をせねばと思うてな」
礼──それが戦闘を意味するものであることは明白であった。
しかし、雲水はそれを嘲笑した。
「ククク……化身というのはパワーだけで能がない愚劣な生物のことを言うのか?
 それほど闘いが望みならば叶えてやろう。そして今度こそくれてやる。
 決定的な死をな──」

雲水の右手が突如として彼の横に出現した小さな黒い空間に突っ込まれる。
そして彼がその手を引き抜いた時、その手には無間刀が握られていた。

「またそれを使うか。よかろう、それがまた我に通じるかどうか、試してみるがよい」
「……何か策があるのか……などと、凡人なら考えるところだろうが……
 残念だったな、こちとら初歩的なブラフにかかるほど未熟じゃないんでな──」
雲水はまるで動じることなく、無間刀を握り締めた腕を、真正面の空間に突き出した。
80海部ヶ崎 綺咲:2010/10/26(火) 20:09:00 0
突き出した腕先が黒い空間の入口に飲み込まれる。
そして、その出口と共に腕先が出現したのは、阿合の左胸前の空間であった。
突如として至近距離に出現した無間刀をかわせるはずもなく、
阿合はなす術なく、その胸に無間刀の突入を許していた。
「ドズ」──という容赦なく肉を貫通する音が響き、阿合の口からダラりと血が溢れる。

「今度は心臓だ。そして、もう化身の血を入れる奴はいない。これで終いだ。
 魔水晶を二つも作る予定はなかったんだが……フッ、まぁいいさ。何かと今後の役に立つだろう」
言いながら、歪んだ雲水の口元が徐々に、真一文字のそれへと変わっていく。
「……なに? 抜けない! 貴様、筋肉で刀の動きを止めてどうする気だ!」
「これでいい。私は、初めからあなたの刀を奪うのが目的なのだから」
「なにっ!?」

ふと、海部ヶ崎は阿合の変化に気がついた。
口調が変わっている。いや、それだけではない。
見れば、その顔も、雰囲気も全てが一変しているのだ。
否、変わったというよりは、元に戻ったというべきだろうか。
彼女の口調、風貌は、正に阿合 哀そのものであったのだ。

「化身のフリをしていれば必ずその刀を使うと思っていた。そう、降魔の剣を……!」
「なっ!? 貴様、人格が……」
「化身の力に人格までをも支配されないよう意思を強く持つ……
 それができるようになったのはついさっき……」
「おのれ、こしゃくな! ……ぐう! こいつ、何て力だ……!」
「私の力は化身。いくら貴方でも無理」
「……だが、貴様は心臓を貫かれている。貴様が力尽きてから引き抜けば──」
「それも無理。何故なら──」

阿合の体が黄金色に輝いていく。
それは体を覆うオーラのものではない。体の細胞そのものが光を放っているのだ。
(──あれは)
それが一体何の前兆であるのか、海部ヶ崎だけは直ぐに理解していた。
そう、その光景は、不知哉川の時と全く同じだったのだから。

「私は今、降魔の剣によって体外に排出される筈のオーラを、強引に体内に押し留めている。
 けど、それが限界に達した時、オーラは一気に体外に放たれる……。
 ……その腕を失いたくなければ素直に離した方がいい」
「き、貴様……!」

阿合の体が放つ輝きが更に激しさを増していく。
その時、彼女から届けられた念話を、海部ヶ崎は聞いた。

『海部ヶ崎さん、そしてアリスさん……降魔の剣を取り返すのは一瞬の勝負です。
 爆発から目を背けないで、目を凝らしていて下さい。……後はお願いします』

(──阿合さん!!)
心の中で彼女の名を叫んだ瞬間、再びフロアに閃光と爆音が広がった。

「チィッ!」
雲水は咄嗟に無間刀から手を離したことで腕を失うことだけは避けていた。
しかし、その動作による一瞬のタイムラグが、海部ヶ崎らとの明暗を分けるのだった。
彼が無間刀の行方を捜し始めた頃、既に海部ヶ崎はその視界に、
爆発の衝撃によって空間高く舞い上がる無間刀の姿を捉えていたのだ。
「アリス! 行け!」
海部ヶ崎が名を叫ぶと同時に、アリスが跳ぶ。
いや、アリスが跳んだのは、あるいは彼女が叫ぶよりも早かったかもしれない。
いずれにしても、無間刀をその手に取り戻すのは、文字通り目前であった。

【海部ヶ崎 綺咲:戦闘中】
【阿合 哀:爆死】
81鳴神 御月:2010/10/27(水) 04:09:01 0
阿合 哀の登場により、戦闘は一時中断していた。
御月は海部ヶ崎に冷たい視線を送る阿合を見ていた。

――…あの娘、最後に会った時とは人格が違うようだな――
――どういうこと…?――
――どういうわけか知らないが、今は人工化身の"振り"をしているだけだ。
   隠したところで我には分かる。海部ヶ崎は気付いていないようだがな――

雲水は釈然としない顔をしている。
自分が殺したはずの阿合が何故ここにいるのか、加えて奪ったはずの化身の力を身につけていることを疑問に感じているようである。

「雲水……そう、雲水とか言ったな? ……不思議か?」

そんな雲水の胸中を見透かしたように阿合が問いかける。

「だろうな、無理もない。
 “あの男”が我に化身の血を入れなければ、我はとっくにあの世をさ迷っていたはずだからな」
「ダークフェニックスか……」
「そう、お前が殺したあの男だ。要は我はあの男の置き土産と言ったところだな」

――ダークフェニックス、か。何処で何をしているかと思えば、既に死んでいたとはな。
   確かに置き土産という表現は正しいな――

「……で、その置き土産が何しに来た? 興味があったから、それだけの理由ではあるまい。
 大方、狙いは俺の命だろう? フッ……自分の娘が心配にでもなったか?」

阿合が一度こちらに視線を向け、すぐに雲水に戻す。

「彼奴(きゃつ)は関係ない。ここに来たのは、我の個人的な理由からだ。
 お前に世話になった礼をせねばと思うてな」
「ククク……化身というのはパワーだけで能がない愚劣な生物のことを言うのか?
 それほど闘いが望みならば叶えてやろう。そして今度こそくれてやる。
 決定的な死をな──」

雲水が異空間を作り出し、そこに手を入れる。
以前に見た光景――そう、降魔の剣を取り出したのである。

「またそれを使うか。よかろう、それがまた我に通じるかどうか、試してみるがよい」
「……何か策があるのか……などと、凡人なら考えるところだろうが……
 残念だったな、こちとら初歩的なブラフにかかるほど未熟じゃないんでな──」

雲水は阿合の言葉など気にも留めず、剣を正面に突き出した。
剣は腕ごと異空間に飲み込まれ、阿合の体の前に開いた空間より出現した。
人工化身の体といえどその攻撃がかわせるはずもなく、無常にも剣は阿合の胸を貫通する。

「今度は心臓だ。そして、もう化身の血を入れる奴はいない。これで終いだ。
 魔水晶を二つも作る予定はなかったんだが……フッ、まぁいいさ。何かと今後の役に立つだろう」

勝ち誇った雲水だったが、その顔が険しいものへと変わって行く。

「……なに? 抜けない! 貴様、筋肉で刀の動きを止めてどうする気だ!」
「これでいい。私は、初めからあなたの刀を奪うのが目的なのだから」
「なにっ!?」
82鳴神 御月:2010/10/27(水) 04:09:42 0
先程とは口調が変わる。
口調だけではない、見た目や雰囲気など全てが一瞬前とは違う。

――恐らく、あれがあの娘の本当の人格か――
――うん。多分そうだと思う…――

阿合が最初から人工化身の人格ではないことは分かっていたが、
阿合本来の人格を知らない二人は確信とまでは行かないも、そうであると信じていた。

「化身のフリをしていれば必ずその刀を使うと思っていた。そう、降魔の剣を……!」
「なっ!? 貴様、人格が……」
「化身の力に人格までをも支配されないよう意思を強く持つ……
 それができるようになったのはついさっき……」
「おのれ、こしゃくな! ……ぐう! こいつ、何て力だ……!」
「私の力は化身。いくら貴方でも無理」
「……だが、貴様は心臓を貫かれている。貴様が力尽きてから引き抜けば──」
「それも無理。何故なら──」

阿合の体が光り輝いていく。しかし通常のオーラの放出とはどこか違う。
以前感じた事のある感じ、あれはオーラというよりもまるで――

――あれは…――
――どうしたの…?――
――あの娘、自爆する気だ――
――え…!?――
――先程の不知哉川の時と同じ感覚がする。あの命を燃やすような光…――

「私は今、降魔の剣によって体外に排出される筈のオーラを、強引に体内に押し留めている。
 けど、それが限界に達した時、オーラは一気に体外に放たれる……。
 ……その腕を失いたくなければ素直に離した方がいい」
「き、貴様……!」

輝きはより一層強くなる。最早爆発寸前だろう。
その時、頭の中に声が届いた。自分たち以外の第三者――阿合のものだった。

『海部ヶ崎さん、そしてアリスさん……降魔の剣を取り返すのは一瞬の勝負です。
 爆発から目を背けないで、目を凝らしていて下さい。……後はお願いします』

――……了解した――

再び御月からアリスに代わり、阿合の念話に答える。
次の瞬間、阿合を中心にフロアで爆発が起こった。

「チィッ!」

雲水は爆発を避けるため、剣から手を離した。チャンスはここしかない。
爆発の衝撃で剣は高く舞い上がっている。

「アリス!行け!」

海部ヶ崎がそれを視界に納め、叫ぶより早く跳躍していた。
そして空中で剣を手にし、着地する。
その直後、アリスは海部ヶ崎の方見て、どういうわけか剣を投げ渡した。
困惑する海部ヶ崎。その海部ヶ崎に向かってアリスはこう言い放った。

「海部ヶ崎、その剣で我の胸の中心を貫け――」

【鳴神御月:アリスと交代。降魔の剣を手にし、海部ヶ崎に自分を刺すよう指示する】
83海部ヶ崎 綺咲:2010/10/27(水) 22:07:59 0
>>81>>82
(よし!)
海部ヶ崎は心の中でそう叫んだ。
アリスが期待通りに無間刀を手にしたからだ。
しかし、その喜びに浸るのも、束の間であった。

「──なっ」
海部ヶ崎は戸惑いを隠せなかった。
アリスが手にしたはずの無間刀が何故か自分の手の中にある。
アリスは無間刀をしっかりと握り締めるわけでもなく、
そのまま雲水に斬りかかるわけでもなく、どういうわけか直ぐに海部ヶ崎に投げ渡したのだ。

一体、何を考えているのか。
その真意を確かめる為に、すぐさまアリスに視線を送る海部ヶ崎。
それに彼女はこう答えてみせた。

「海部ヶ崎、その剣で我の胸の中心を貫け――」

これまた予想外の展開にまたも海部ヶ崎が戸惑ったのは言うまでもない。
だが、今度の彼女は敢えて真意を質すことなく、直ぐに戸惑いを振り払っていた。
迷いが生じては、それこそ雲水に付け入る隙を与えてしまうからだ。
「えぇい、ままよ!」
故に、海部ヶ崎が行き着いた思考は至ってシンプルなものとなった。
すなわち、ただ言われたことに従う──。
強く地を蹴り、空中に漂うアリス目掛けて、彼女は無間刀を突き出した。

──何とも言い難い感触が刀を伝って海部ヶ崎の体を駆け巡る。
彼女はその不快感さに思わず顔を顰めるが、
一方の雲水も、味方が味方を突き刺すという異様な光景を前にその顔色を変えていた。

「バカな、自ら刃をその身に受けるとは……。何を考えて……うっ」

一瞬、雲水の目が大きく開かれる。
彼はアリスに起こった微妙な変化に気がついたようだった。
それが何であるか具体的に解っていたわけではないだろう。
だが、『何かまずい』とでも直感したか、彼はその手に自らのオーラを集約させ始めた。

「もはや何も言うまい。さぁ、止めだ!」
掌に集まったオーラが円を形作り、それが彼の一声によって一気に巨大化する。
「くらえ! 『デッドホール』!!」
その掛け声と共に腕が振り抜かれ、小型のブラックホールのような漆黒の球体が撃ち放たれる。
破壊を目的としたオーラ弾のような荒々しい迫力はないが、
軌道上の物体の何もかもをも飲み込んで突き進むそれは、
見る者に異様さと禍々しさを十分に感じさせるものであった。

(何かまずい! 避けなくては──)
海部ヶ崎は即座にそう直感し、刀を引き抜いてアリスを蹴った。
アリスが吹っ飛び、その反動で彼女自身も逆方向に吹っ飛ぶ。
謎の黒球の軌道上から自分自身とアリスを外させるためだ。

(私は大丈夫そうだが──アリスは?)
海部ヶ崎の目が胸から血を流しながら飛んでいくアリスを捉えた。

【海部ヶ崎 綺咲:アリスを蹴って『デッドホール』の軌道から外れる】
84アリス・フェルナンテ:2010/10/28(木) 06:22:24 0
>>83
困惑していた海部ヶ崎であったが、やがて迷いを振り切るかのようにこちらに向かって突っ込んできた。
指示した通り胸に降魔の剣が深々と刺さる。
次の瞬間、体の中で鎖が断ち切られる音がして、体が軽くなる。

「バカな、自ら刃をその身に受けるとは……。何を考えて……うっ」

雲水はこちらの僅かな変化に気がついたようだ。さすが、と言うべきだろう。
まだ"本格的な"変化は起こっていないと言うのに。

「もはや何も言うまい。さぁ、止めだ!」

そして掌にオーラを集め、そのオーラが巨大化する。まるでブラックホールだ。

「くらえ! 『デッドホール』!!」

掛け声と共に、ブラックホールの様な球体が放たれた。
進路上のものを飲み込みながらやってくるそれは、食らえば間違いなく助からない。
そう直感した海部ヶ崎が、刀を引き抜いてアリスを蹴った。
海部ヶ崎は蹴った反動で、アリスは蹴られた衝撃で互いに反対方向に吹っ飛び、球体の進路から逸れた。

「フフッ…これでいい…。やっと、やっとこの時が来た…」

体を刺し貫かれたと言うのに不適に笑うアリス。そして静かに目を閉じた。
その笑いの真意を知るのに、さしたる時間はかからなかった。
アリスの体が発光する。フロアを覆い尽くすほど強い光だ。
海部ヶ崎も雲水も、その光に耐え切れずに目を閉じる。

――御月。さぁ、今こそ一つになる時が来た――
――うん…。長かった…――

光がおさまり、海部ヶ崎たちが目を開けると、そこには一人の人物が立っていた。
美しい銀髪は艶やかな黒に変わり、先程胸を刺された傷は、もうその跡を見受けることは出来ない。
やがてその人物は、ゆっくりと目を開けた。瞳の色は深い海のような青色をしている。
そしてその人物が口を開いた。

「初めてお会いする方ばかりですね。私(わたくし)の名前はアリシア。
 皆様、宜しくお願い致しますね?」

柔らかく微笑んで挨拶をするアリシア。
そのあまりに場違いな行動に、海部ヶ崎だけでなく雲水までもが呆気に取られていた。
アリシアはちらりと雲水の方に目を向けると、すぐに海部ヶ崎に移す。
そしてゆっくりと海部ヶ崎に向かって歩き出した。

海部ヶ崎のそばまで来ると、海部ヶ崎の手をぎゅっと手を握り、小声で語りかけた。

「貴女が海部ヶ崎さんね?私を解放して下さってありがとう。
 これはそのお礼だから、気になさらないで下さいね?」

握った手からオーラが伝わる。
とても暖かなそれは、海部ヶ崎の体の疲れや傷を見る見るうちに治していく。
驚く海部ヶ崎。そんな彼女ににこやかに微笑むと、治療を終えて雲水に向き直る。

「貴方が雲水さん、ね?悪いことをしてはいけませんよ?そんな子にはお仕置きです」

少し怒った様な顔をして、またしても場違いな雰囲気で雲水にそう告げた。

【アリス・フェルナンテ:鳴神御月と人格融合。本来の人格であるアリシアに戻る】
85虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/10/28(木) 19:24:51 0
>>72
「助けてほしい?虹色君」
どこからともなく現れたその人物をみて、
「あ…貴方は同じクラスの…清浦藍さん…? どうして…?」
当然、疑問に思う優
「まあ、助けてはほしいけど…」
案外素直に答える

一方その頃… 
「それじゃあ…二曲目いきます! この木何の木!
このー木何の木気になる木ー♪」
その歌で、周りに木が生える。詞音も順調に戦っていた
【虹色優:藍の質問に答える】 
86清浦藍 ◆xnSJXfYAaI :2010/10/28(木) 20:16:37 0
>>85
「あ…貴方は同じクラスの…清浦藍さん…? どうして…?
 まあ、助けてはほしいけど…」

ふふっ♪…虹色君は私の質問をどう受け取ったのかな?

「ちゃんと主語を言ってくれないとわからないなー。
 虹色君は"誰を"助けてほしいの?」

この空間には虹色優、虹色詞音、虹色御伽、名無しの戦闘員30人、そして私の計34人の人間が存在する。
異能者である事を隠し、平和な日常生活を送っている学校じゃわからない、この子の人間性を知る為の駆け引き。
多人数との戦闘中に能力を封じられた危機の中、さらに全くの予想外の私の存在に対して混乱した状況下、
外聞や世間体を気にしていられないこの子は本当の自分を曝け出す。

ドン!!

その頃、虹色詞音に対して戦闘員からライフルによる攻撃が撃ち込まれていた。
他の兄弟と違って彼は速く技を使えるわけではない。
他の兄弟達がそれぞれ担当する敵を分けて互いに干渉しない状況下で、彼が歌を歌い終えるのまで護る者はおらず、
敵も待ってくれるはずもなく、三兄弟の中では格好の標的と化していた。

【清浦藍:虹色優に誰を助けてほしいのか確認】
【虹色詞音に対して戦闘員達からライフルによる攻撃が撃ち込まれる】
87海部ヶ崎 綺咲:2010/10/29(金) 05:39:24 0
>>84
アリスは確かに笑っていた。
(……何か考えがあってのことだろうとはいえ、胸を貫かれたのだ。
 まさか、かわしきれないのでは思っていたが……フッ、杞憂だったようだな)
思いながら、空中で一回転し地面に着地する海部ヶ崎。
そして再び彼女に目を向けた時、突如飛び込んできた眩いばかりの光に、思わず目を瞑った。

──目を開けた時、海部ヶ崎は驚きを隠さなかった。
視線の先に佇むアリスがまるで別人と取り変わったかのように姿を変えていたのだ。
髪は銀から黒に、目の色も青へ変化している。
そればかりか胸の傷すら完全に塞がっているではないか。

「初めてお会いする方ばかりですね。私(わたくし)の名前はアリシア。
 皆様、宜しくお願い致しますね?」

丁寧な物腰でニコリと会釈するアリス……いや、アリシア。
アリスの面影が欠片も感じられないほどの彼女の変わりように、
海部ヶ崎は返す言葉を見つけられなかった。
(変身……したのだとは思うが、この変わりようは何だ……?)
そんな彼女にゆっくりと歩み寄ったアリスは、手を握り締めて小声で語りかけた。

「貴女が海部ヶ崎さんね?私を解放して下さってありがとう。
 これはそのお礼だから、気になさらないで下さいね?」
「解……放? ──うっ」
不意に海部ヶ崎の体を熱が駆け巡る。
それと同時に、彼女は蓄積された疲労とダメージが和らいでいくのを感じていた。
(回復──? しかも、一瞬で──? このオーラは……アリスとは違う。
 まさか、無間刀をその身に受けたことで、これまで発揮することができなかった力を……
 いや、“人格”を呼び覚ましたというのか……?
 ……ということは、これが真の『ザ・ファースト』……?)

「貴方が雲水さん、ね?悪いことをしてはいけませんよ?そんな子にはお仕置きです」

アリシアは敵である雲水に対しても柔らかな物腰を崩さない。
それは敵に対し却って神経を逆撫でするようなものだ。
だが、恐らく雲水も、それを挑発とは受け取らなかったであろう。
それだけアリシアの存在は異様であり不気味であったのだ。

顔を無感情な真顔に戻した雲水がしばしの間を置いて口を開く。
「それが真の人格ということか、ザ・ファースト。……つまり、これからが本気、か。
 フフフフ……全く、貴様らは悉く俺の予想の斜め上を行ってくれる。だが──」
ゆらりと、雲水の掌が二人に向けられる。
「死ぬのはやはり貴様らだ──『デッドホール』はまだ生きている!」
開かれた掌が黒き輝きを放つ。
瞬間、かわされた黒球が、突如として爆発的に膨張──
かわした二人を背後から軽く覆いつくし、飲み込んだ。
(──っ!?)

「例えこの俺を超える力を持とうとも『デッドホール』に飲み込まれたが最後、
 俺の作り出した一条の光も差さない闇の異空間に閉じ込められるのだ。
 そう、この先永久に、未来永劫永遠になァ……! クククク、ハーハハハハハッ!!」

二人を飲み込んだ黒球が徐々に透明になり、やがて完全に消える。
そう、この世から、この次元から完全に消えたのだ……。
フロアに残ったのは、一人高笑いする雲水ただ一人だけであった。
88海部ヶ崎 綺咲:2010/10/29(金) 05:43:45 0
──暗闇。
海部ヶ崎の視界に広がるのは、あたかもブラックホールの内部にあるかのような闇の空間であった。
重力という概念すらない世界なのか、それとも全く視界が利かないせいなのか、
ここでは自分が立っているのかも浮かんでいるのかも解らない……。
 デッドホール
(『死の穴』──なるほど、落ちた者が行き着くのは確かに死の世界だな。
 クソ……何とかここから脱出することはできないのか……)

考え始めて、ふと、海部ヶ崎の耳が何かの音を拾う。
それは自分とは違う息遣い──。
(……アリシア! そうだ、私と一緒にここに送り込まれていたんだ。
 彼女なら何か脱出法を見つけられ──)
彼女にそれを訊ねようとして、海部ヶ崎は寸前で声を止めていた。
自分が今、何を握り締めているのか……
それに気付いた時、ふと遠い記憶にある父の言葉を思い出したのだ。

『コラ、あまり無闇に触るな。こいつはお前には危険だ』
『どうしてー?』
『こいつはな、切れ味が良すぎるんだ。あまりにもな』
『ふーん、どのくらい良いの?』
『この世にあるモノなら何でも切っちまう、それくらいだ』
『何でも? あの家やあのビルでも?』
『ああ、どんなものでも……な。こいつはそれほどヤバイもんなんだ。
 本来ならこんなもの、この世に無い方がいいんだが……』
『?』
『いや、何でもない。とにかく、お前は関わるなってこった。わかったな?』

「何でも……どんなものでも……」
独りごちる海部ヶ崎の手は、無意識の内に強く剣を握り締めていた。
この刀なら──この無間刀なら──
空間そのものを切り裂き、現実空間への道を開くことができるのではないだろうか?
そんな思いが自然と彼女の頭にかすめたのだ。そして、やがて彼女は決断した。
(……やってみて損はないはず。この一振りに、賭けてみよう)

刀を両手に持ち替え、スッと自らの頭上に高々と掲げる。
その際に、体中のオーラを全快にし、刀が持つ力を最大限に引き出すよう努めることも忘れない。
(私が全力をもって振り下ろせば必ずやこの空間に一撃を与えることができるはず!
 頼むぞ無間刀よ! 起死回生の一撃を、私に見せてくれ!)

「おおおおおおお!!」
刀に伝うオーラが最大限に高まった、その瞬間──
彼女は、無限に続く闇に向かって力強く一閃した。


「さて、残りのゴミを片付けに行くか。まだ何匹が残っていたはずだからな」
黒い長コートをバサリと翻して雲水が通路に向かう。
だが、彼は突然と背後で轟いた、謎の奇怪な音にその脚を止めた。
そして振り返った時、彼は目を大きく見開いた。
「なっ──!?」
フロアの空間が縦一文字に大きく切り裂かれている──。
しかもその裂け目から、海部ヶ崎とアリシアの二人が飛び出してきたのだ。

【海部ヶ崎 綺咲:異空間から脱出】
89アリシア:2010/10/29(金) 07:55:33 0
>>87>>88
「それが真の人格ということか、ザ・ファースト。……つまり、これからが本気、か。
 フフフフ……全く、貴様らは悉く俺の予想の斜め上を行ってくれる。だが──」

アリシアの出現に一瞬硬直していた雲水だが、素早く立ち直り掌をこちらに向ける。

「死ぬのはやはり貴様らだ──『デッドホール』はまだ生きている!」

その言葉と共に雲水の掌が黒く光る。
次の瞬間、先程かわした異空間が凄まじい速度で膨張、背後より二人を飲み込んだ。

「例えこの俺を超える力を持とうとも『デッドホール』に飲み込まれたが最後、
 俺の作り出した一条の光も差さない闇の異空間に閉じ込められるのだ。
 そう、この先永久に、未来永劫永遠になァ……! クククク、ハーハハハハハッ!!」

雲水の高笑いと共に異空間は徐々に透明化し、やがて見えなくなった。
それはこの世界から消えたことを意味する。
二人は一切の痕跡を残すことなく、この世から存在を消された。


――何も見えない暗黒の世界。
上下左右の感覚もなく、地に足がついているのかさえ分からない。
そんな空間の中、アリシアは尚も微笑んでいた。

(あらあら、本当に悪い子ですね。こんなところに閉じ込めて。
 まだ皆さんの顔もじっくり拝見していないのに…)

全く関係ないことを考えるアリシア。
まるでこんな空間に閉じ込められたことなど意にも介さない、といった感じである。

(早くここから出てあの子の顔も見ておかなくてはいけませんね)

異空間から脱出しようと考え、それを実行しようとした時、隣に誰かがいるのを感じた。
この場にいるのは自分を除けば一人しかいないはず。
その人物――海部ヶ崎は無間刀を握り締めていた。

(私に助けを求めず、まずは自分の力でやってみる、ということかしら?
 …ふふっ、強い子ですね)

アリシアは自ら手を出すのを止め、海部ヶ崎に任せることにした。
万が一失敗しても、この空間から出られないわけではない。
その時は自分がやればいいだけの話なのだから。

「おおおおおおお!!」

海部ヶ崎のオーラが極限まで高まり、無間刀に伝わる。
そして気合一閃、闇に向かって刀を振り下ろした――
90アリシア:2010/10/29(金) 07:56:19 0
「なっ──!?」

元の世界に戻ってきて聞いた第一声は、雲水の驚きの声だった。
雲水はこちら振り返った状態で固まっている。
それは勝利を確信したが故に生まれた初めての"隙"と呼べるものだった。

「あらあら、驚きで声もでないようですね。
 すこしこの娘(こ)を甘く見すぎていたのではないかしら?」

着地する海部ヶ崎に対し、"空中で静止したまま"雲水に語りかけるアリシア。
その事実は驚愕に値するものであった。
現代の異能者は、翼などで空を飛ぶことは出来ても、空中で静止することはほぼ不可能に近い。
ましてや、アリシアは翼すら持っていない。
それがどれ程の事なのかは、改めて確認するまでもない。

「さて、私の方としてはそろそろお仕置きを実行したいと思うのですけど…。よろしいかしら?」

わざわざ確認を取るアリシア。その言葉に雲水はこちらに向き直り、戦闘態勢をとる。
しかしその顔には若干だが動揺の色が見て取れた。

「準備は万端ね?では始めますよ」

ニッコリと笑い、一歩踏み出す。しかし次の瞬間、雲水はアリシアの姿を見失った。

「なにっ――!?」

雲水はこの戦いで3度目となる驚きの声を上げる。
アリシアは一瞬前まで確かに雲水の正面にいた。それが一歩踏み出した瞬間に文字通り"消えた"のだ。
今度ははっきりと見て分かるほど動揺する雲水。それは海部ヶ崎も同じであった。
この場にいる人間にはアリシアの姿、いや、オーラすら捉えることは出来なかった。

「そんなに早く動いたつもりはないのだけれど…見えなかったかしら?」

突如、雲水の背後より声がする。雲水は反射的に背後に異空間を出現させ、攻撃に備えようとした。
タイミング的には間に合っている――しかし攻撃は予想外のところからきた。
雲水は"腹に"衝撃を受けて吹っ飛んだのだ。
なす術もなく激しく壁に激突する雲水。背中に意識を集中していたため、ダメージは思いのほか大きい。

「あらあら、こんな簡単な手に引っかかるなんて…。勉強が足りませんね」

アリシアはそこにいた。消える前と寸分違わず、雲水の正面にいたのだ。
海部ヶ崎程の異能者でも、幻でも見ているかのような錯覚に陥る。
それ程までにアリシアの力は常軌を逸していた。

「もう少しお仕置きをしたいのですけど…。私にもやることがあるのです。
 なので、残念ながらそろそろ終わりに致しましょう」

アリシアはそう言うとオーラを高め始めた。だがその大きさはアリスの時の比ではない。
海部ヶ崎にもはっきりと見て取れるほど、アリシアのオーラは黄金に輝いていた。
あまりの大きさに建物自体が耐え切れず、地震の様な震動と共に周囲の壁や床、天井に至るまで亀裂が生じ始める。
これが真の始祖の力――もはや海部ヶ崎たち一般の異能者には理解不能の領域である。

「建物がもたないようですね…。せっかく建てたのにごめんなさいね?
 因果応報、ということで我慢してくださるかしら?」

相変わらずの場違いな雰囲気と圧倒的な存在感と共に、アリシアは雲水に向かって歩き出した。

【アリシア:雲水を圧倒し、最後の攻撃に移る】
91虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/10/29(金) 17:45:33 0
>>86
「ちゃんと主語を言ってくれないとわからないなー。
 虹色君は"誰を"助けてほしいの?」
その言葉を聞き、
「え…?」
不思議に思い、横目で左を見る優。彼は一番右側で戦っていたのだ
「…!」
そこでは詞音―優の双子の弟がライフルで狙われていた
「…音を…詞音を助けて。僕は自分の弟に、僕と同じくらい芸術を愛する弟に
…こんな芸術的じゃない死に方…させたくない…!」
迷わず、詞音を助けることを選ぶ優

その頃…
御伽「錘にかかっている魔法を、刺さると死ぬから刺さっても100年間眠るだけに変えたのでした」
御伽が本の中から刺さると百年間眠る錘を召喚し、戦闘員達に突き立てる
御伽「百年間眠ると言っても…その間は歳を取らないんですけどね…」
御伽が右を横目で見る。御伽は一番左で戦っていた
「兄さん…!」
御伽は自分のもう一つの能力、『指定した相手を二次元世界に連れて行く』を使い
詞音を「らき☆すた」の世界に連れて行き、助けようとする。おそらくかなり安全な逃げ場だろう、と感じた結果である
果たして間に合うだろうか
【虹色優:藍に詞音を助けてほしいと頼む。虹色御伽:詞音を助けようとする】
92清浦藍 ◆xnSJXfYAaI :2010/10/29(金) 20:17:39 0
>>91
「…音を…詞音を助けて。僕は自分の弟に、僕と同じくらい芸術を愛する弟に
 …こんな芸術的じゃない死に方…させたくない…!」
「ふーん…それが君の選択ねー。
 それはもちろん、君も大ピンチなのがわかってて言ってるんだよね?」

私の前にいる戦闘員達は虹色優(その後ろにいる私も含まれてる)にライフルを向けている。
私が現れた事で虹色優が相手にしている戦闘員達に疑念は与えたが、
今までのやり取りから、私が虹色優の能力で生み出された存在でないと感づいたようだ。
そうなると戦闘員達は、能力の使えない虹色優に対しても攻撃を止める理由がない。

「わかったよ虹色優君。君の遺志は私が確かに受け取った」

言い終えると同時に、虹色優と私に向けて戦闘員達から何発ものライフルが撃ち込まれた。
その瞬間、私はその場から消える。
数瞬の後に、隣で別の戦闘員達からライフルを撃ち込まれていた虹色詞音が消える。
私はまず自分に『光学迷彩』をかけてからその場から離れ、虹色詞音のもとに逸脱した敏捷性を持って移動し、
彼に触れて『光学迷彩』をかけた…と思うのだけど…
彼に触れる瞬間、そこに別のオーラの干渉を感じた気がする。
虹色優は能力を封じられ、虹色詞音も歌わせる隙を与えられず、戦闘員は異能者ではない。
私じゃないならそのオーラは虹色御伽のもの…





気づいたら私は、もってかれそうなセーラー服を着た女子高生のいる学校にいた。

【清浦藍:虹色優は見捨て、虹色詞音の姿を『光学迷彩』で見えなくし、虹色御伽の能力で二次元世界に連れてかれる】
93海部ヶ崎 綺咲:2010/10/30(土) 03:52:30 0
>>89>>90
「バカな! 次元を切り裂いて現実世界に舞い戻ってくるとは!」
愕然とする雲水の前に着地し、海部ヶ崎が剣先を向ける。
「無間刀の力を甘く見たようだな、雲水 凶介……。
 真の力を知らなかった貴様に、初めからこの刀を扱う資格はなかったのだ」
「チィッ……!」

一歩、雲水は後ずさりする。
それは彼がこの戦闘で初めて見せた動揺と言ってもよかった。
彼の能力は異空間を操るというものである。
その異空間を眼前で無力化されては、無理からぬリアクションであろう。

「さて、私の方としてはそろそろお仕置きを実行したいと思うのですけど…。よろしいかしら?」
アリシアの声に雲水が反応し、体を構える。
彼女は空中に浮遊するという人外的パワーを見せ付けていたが、
もはやそんなことは雲水にとって驚きに値しないものであったかもしれない。
それだけ、海部ヶ崎の一閃が、正に起死回生となって彼に痛恨のダメージを与えていたのだ。

「準備は万端ね?では始めますよ」
アリシアが一歩踏み出す。
「なにっ――!?」
瞬間、彼女の姿を見失い、またも愕然とする雲水。
彼女が再び彼の視界に姿を現した時、既に彼は遥か後方にその体を飛ばされていた。
「ごほっ!!」
壁に叩きつけられ、大量の血が口から飛び散る。
「ば、バカな……『カオスゲート』を展開するよりも速く拳撃を叩き込むとは……!
 ……むっ!」
雲水は我が目を疑っただろう。
顔を上げた時、既にアリシアが彼の正面に佇んでいたのだから。
(異空間の入口が展開するより早く懐に飛び込まない限りダメージは与えられない。
 その奴の言葉を、アリシアは実践してみせている。……もはや異能とは呼べないスピードで)

「あらあら、こんな簡単な手に引っかかるなんて…。勉強が足りませんね」
汗を流し肩で息をする雲水とは対照的に、アリシアは柔らかな物腰を崩していない。
それを見て、海部ヶ崎はこの勝負の行方を静かに確信した。
(解る、もはや雲水に勝ち目は無いと)

──アリシアがかつてない強大なオーラを纏って雲水に歩み寄る。
それだけで、建物が鳴動し、フロアに亀裂が生じる。
あまりにも圧倒的なオーラの物理的存在感に、強固な建物ですら耐え切れないのだ。

「ハァ、ハァ、ハァ……ハァ……」
これまで息を切らし膝を屈していた雲水が不意に腰を上げる。
その顔にはもう驚愕の色は無い。それどころか、不気味に笑い出していた。

「フッ、フフフ……全く、見事な力だ。俺をここまで追い詰めるとはな。
 正に予想の斜め上の展開だ……しかし、ククククク……俺は嬉しいぞ、ザ・ファーストよ。
 貴様ほどの異能者と闘え、そして──倒すことができてなァッ!!」
雲水の体からオーラが沸き立ち、その全てが合わせた両の掌に集約されていく。
高密度のオーラは周囲の大気にも物理的に作用するのか、
密閉空間にも拘らず雲水の両手を中心に風が起きる。

(これは奴の正真正銘の全力の一撃に違いない。それに全てを賭けたか!)
94海部ヶ崎 綺咲:2010/10/30(土) 03:56:38 0
「できれば使いたくはなかった。ただ、破壊の限りを尽くすだけの芸の無い技だからな。
 だが、俺はそれを敢えて使おう。
 最強の異能者である貴様を倒し、真の支配者となるために……ッ!」

風が更に強さを増し、フロア全体が軋む。
バランスを崩しそうな強風に、海部ヶ崎は無間刀を床に突き刺し、身を屈めた。
立っていられないほどの強風というのもあったが、
屈めることで攻撃の余波によるダメージを最小限に抑える為というのも理由であった。
(これで決着がつく。この、カノッサとの闘い全ての決着が……!)

──不意に荒れ狂っていた風が止む。
だが、それは嵐の前の一瞬の静けさであろうということを理解していた海部ヶ崎は、
緊張を解くよりはむしろ屈めた体に一層の力を込め、ありったけのオーラを体表に展開した。
雲水の両手から眩いばかりの光が溢れたのは、調度その時であった。

「見よ、宇宙創造の輝きを──そして死ね──ザ・ファースト──!!
 ──────『ビッグバンレイ』──────!!!!」

音も無く、風も起こさず、白き閃光がフロアに広がる──。
そう、この世の全てを消滅させるだけの破壊力を秘めた、恐るべき魔光が──。

【海部ヶ崎 綺咲:光に包まれる】
95虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/10/30(土) 18:09:52 0
>>92
「ふーん…それが君の選択ねー。
 それはもちろん、君も大ピンチなのがわかってて言ってるんだよね?」
「もちろん。だってこの大ピンチだ。これを僕だけの力で逆転させる…。こんなに芸術的なこと、そうそう無いだろう?」
口ではそんなことを言いながらも、内心まずいと思っている優。たくさんの戦闘員がライフルを向けていて、しかも能力を使うための道具が無い
こうなったらもう針で血を出すしか…。そう思ってポケットの中を探る。何かある…。絵の具だ! 見つからないようこっそり見ると、それは黒、白、青だった
(…絵の具!? しめた、これを使って銃弾を防げば…)


「わかったよ虹色優君。君の遺志は私が確かに受け取った」

その言葉を言っている間に、優は指に絵の具を付け、自分の服にこっそり盾の絵を描いていた。
恐らく戦闘員達はすぐにでもライフルを撃つだろう。普通なら時間が無い。だが彼にはある特技が有った
足もそんなに速く無く、ロリコンで、力も弱い。でも、彼は誰よりも…絵を描く速度が速かったのだ!

藍が台詞を言い終わると同時に、戦闘員達がライフルを放つ。が、その瞬間、優も盾の絵を描き終わっていた
藍が高速移動をするとき、盾が実体化し、優のみを身を守る。全ての銃弾を防いだ盾はボロボロになり、使い物にならなくなる
「ちっ…仕留め損ねたか…!」
「今、あいつ能力使ってなかったか?」
敵が少しうろたえた。この隙に筆と画用紙を回収できないだろうか

その頃…
「とりあえず間に合ってよかった…。誰かを巻き込んだ気もしますが…今はそれどころではありませんね…」
とりあえず5人眠らせたが、自分の担当はまだ後5人残っている。隙を見せたら撃たれかねない
恐らく今のように易々とさされてもくれないだろう。そこで…
「ねむり姫」の茨を召喚し、戦闘員達を捕らえようと試みる
【虹色優:一命を取り留める 御伽:戦闘員を捕らえようとする】
96アリシア:2010/10/31(日) 21:43:52 0
>>93>>94
「ハァ、ハァ、ハァ……ハァ……」

アリシアに圧倒され、汗を流し肩で息をしていた雲水が息を整えた。
蹲る体制から立ち上がり、顔には不気味な笑みを張り付かせている。

「フッ、フフフ……全く、見事な力だ。俺をここまで追い詰めるとはな。
 正に予想の斜め上の展開だ……しかし、ククククク……俺は嬉しいぞ、ザ・ファーストよ。
 貴様ほどの異能者と闘え、そして──倒すことができてなァッ!!」

雲水の体より放出された膨大なオーラが、掌に集束していく。
その掌を中心に強い風が巻き起こる。

「できれば使いたくはなかった。ただ、破壊の限りを尽くすだけの芸の無い技だからな。
 だが、俺はそれを敢えて使おう。
 最強の異能者である貴様を倒し、真の支配者となるために……ッ!」

「あらあら…。使いたくなければ使わなければよろしいのに…。
 そうまでして私に勝ちたいのですね?反抗期かしら…?」

風は最早突風と呼べるものになっていた。
後ろにいる海部ヶ崎は風の強さに耐え切れず、刀を杖代わりにして身を屈めていた。
そんな中、アリシアの表情に焦りや動揺の色は見られない。
吹き荒れる突風も、まるでそよ風と言わんばかりに平然と立っている。

(自身の全てのオーラを使う最期の技。放てば自分も無事では済まない事も分かっているでしょうに…。
 それでも尚、技を行使すると言うのなら、敢えて受けましょう。貴方の覚悟、見せて頂きます)

――突風が止んだ。
それは雲水が攻撃の準備を整え、技を放つ寸前だからに他ならない。
言わば嵐の前の静けさ、と言うやつだ。
海部ヶ崎もそれが分かった様で、ありったけのオーラで防御している。
次の瞬間、雲水の手より最後の攻撃が放たれた。

「見よ、宇宙創造の輝きを──そして死ね──ザ・ファースト──!!
 ──────『ビッグバンレイ』──────!!!!」

一切の現象はなく、ただ白い光だけがフロアを覆っていく。
創世の輝きは、全てを無に帰す破壊の光となって視界を覆い尽くそうとしていた。

「あらあら…今の子はこんなことまで出来るんですね…。
 "じぇねれーしょんぎゃっぷ"を感じます」

迫り来る死の光に対しても、アリシアは態度を崩さなかった。
しかし、次の瞬間にそれは覆される。

「では、こちらも相応の技でお迎えさせて頂きます」

アリシアはここに来て初めて表情を変えた。その表情は引き締まっている。
同時に、アリシアを包むオーラが今まで以上に濃密になる。
そしてそれは広げられた両の掌に包み込まれるように集束していった。

「死の輝きと共に生まれし光すらも逃さない黒き闇よ。
 今こそ全てを食らい尽くせ――『無限の闇穴』(ブラックホール)――」
97アリシア:2010/10/31(日) 21:44:52 0
集束したオーラがアリシアの手より放たれ、黒い球体から黒い円になり、凄まじい速度で膨張していく。
その様子は正しく現在も拡大を続けるブラックホールそのものだ。
そして黒円は周囲のものを吸い込み始めた。
壁や天井、床はもちろん、その場にいる人間さえも吸い込もうとしている。
刀で自身を支えていた海部ヶ崎も、その引力に耐え切れずに砕けた地面ごと吸い寄せられる。
黒円に向かって一直線に飛んでいく海部ヶ崎。飲み込まれるのも時間の問題かと思われた。
しかしその軌道上で待ち構えていたアリシアが海部ヶ崎の体を抱き止める。

「ごめんなさいね?この技は一旦発動すると術者である私以外のものは全て吸い込んでしまうの。
 貴女一人では吸い込まれてしまうだろうから、もう少し我慢して下さいね。
 そうそう、それとあなたが今防御に使っているオーラ、しまった方がいいですよ?」

胸に抱いた海部ヶ崎にそう説明するアリシア。
その言葉通り、黒円は周囲のものを凄まじい勢いで吸い込み続けている。
そして徐々にではあるが、先程雲水が放った『ビッグバンレイ』の光も薄れ始めている。
全てを飲み込む黒円――それはオーラと言えど例外ではなかった。

「やはり全てのオーラを使っているだけあって吸収が追いついていませんね…。
 本来であれば光すらも吸収し尽すのですが…流石としか言い様がありませんね。
 もう少ししたら、『無限の闇穴』を超えてあの光がこちらにきます。私から離れないで下さいね?」

この状況で海部ヶ崎が自分から離れるとは考えにくいが、一応釘を刺しておく。
海部ヶ崎は一瞬間をおいて小さく首を縦に振った。
黒円に視線を戻す。光と闇が鬩ぎ合い、この世のものとは思えない映像が視界に入ってくる。
やがて光の一部が黒円を抜け、拡大を続け始めた。

「来ましたね…。先程も言いましたが、離れないで下さいね?
 ここから出たら命の保証はありませんから」

海部ヶ崎に警告するアリシア。
海部ヶ崎もそれは分かりきっていたので、即座に頷く。

「いいお返事です。では始めましょう。
 全てを防ぐ守護の盾よ。今こそその名に於いて我を守れ。
 ――『絶対守護の聖域』(イージス・サンクチュアリ)――」

二人の周囲を囲むように、半径2m程の黄金の半円が出現する。
光がその半円にぶつかると、バチバチと音がした。
あまりの高熱で燃える前に弾けているのだ。触れれば跡形もなく蒸発するだろう。
しかし光が中に侵入する事はなかった。全て盾に弾かれている。

――やがて残った光が全て吸い込まれ、アリシアが『無限の闇穴』を消すと、そこには何もなかった。
否、人間が一人立っているだけだった。――雲水である。
フロアの周囲は跡形もなくなり、何もない天井からは遥か上のフロアの天井が見える。
その様子から、『無限の闇穴』の恐ろしさが窺える。

「出力をこの場に限定しておいて正解でしたね。
 そうしておかないと、この建物は愚か周囲の湖や森まで吸い込んでしまっていたところです。
 …それでもこの有様ですが。まぁ全壊していないだけ良しとしましょう。
 ――さて、貴方の技は破られました。まだ、やりますか?」

(とは言ったものの、もう戦闘の継続は無理でしょうね。意識があるのかどうかも分かりません)

アリシアは海部ヶ崎を離し、下を向いていて顔が見えない為意識があるのかも分からない雲水に向かってそう告げた。

【アリシア:『ビッグバンレイ』を攻略。雲水に戦闘継続の可否を問いかける】
98海部ヶ崎 綺咲:2010/10/31(日) 23:23:30 0
>>96>>97
光が瞬き、それが黒き闇に吸い込まれ、消えていく……それで勝負は決していた。
一文にすると極めて短い単純な攻防だが、実際の攻防は単純とは程遠いものであるということを、
海部ヶ崎はその目でしっかり見届けていた。
(『ビッグバンレイ』の光を『ブラックホール』を持って無力化するとは……
 さしもの雲水も予想していなかったに違いない。
 ……やはり、雲水は既に負けていたんだ)

顔を上げた海部ヶ崎は、視線を立ち尽くしたまま顔をうつむける雲水に向けた。

「――さて、貴方の技は破られました。まだ、やりますか?」
「……」
アリシアの声に、雲水がゆっくりと顔を上げる。
平然とした表情だが、妙だったのは肌の色が白くくすんでいたところだった。
いや、肌だけではない。真っ黒とした髪の毛も、瞳も、白く変わっていくではないか。
「待て、様子が変だ」
咄嗟にそう口を差し挟む海部ヶ崎に、雲水はニィと口を歪めた。

「死力を尽くした我が技を前にしても微動だにせんとは……ククク、見事……だ」
雲水の脚や腕や胴体が、なんとボロボロと崩れていく。
まるで水で固めたドロ人形が時間と共に乾燥して崩壊していくかのように。
「俺の野望も──ここで終わる──。まさか──このようなところ──で──……」
顔までもが砂のようにもろくも崩れ去り、虚しい乾いた音を立てて地面に砂山を形成する。
その様を唖然と見届けていた海部ヶ崎は、やがて雲水の身に何が起きたかを解った気がした。
(全てのオーラを使い切るのと同じくして、自らの命さえも使い切った……恐らく、そういうことだろう……)

かつて雲水だった細かな塵の山が、
天井の空いたフロアに流れ込む上階からの風に乗っていずこかへ消えていく。
雲水が消滅した一方で、海部ヶ崎らは地に足をつけて生きている。
それは、紛れも無く勝利の女神が海部ヶ崎らに微笑んだことを意味していた。
「終わった……勝ったんだ……」
勝利の味を噛み締め、喜びを爆発させるというよりは、
ほっと安堵の息をつくように小さく漏らす海部ヶ崎。
失ったものを考えれば、素直に喜ぶことは彼女にはできなかったのだ。

脳裏に浮かぶのは不知哉川の顔、黒部の顔……そして阿合の顔……。
(霊仙さん、黒部さん、阿合さん……勝って、勝って終わらせました。
 この結果を、せめてもの供養と致します。
 どうか……どうか、安らかにお眠り下さい……)

徐々に込み上げてくる感情が、海部ヶ崎の瞳に溢れ出す。
だが、彼女にはその思いに浸る時間は、まだ与えられていなかった。

ゴゴゴゴゴ……。

地鳴りのような音と共にフロア全体が──いや、建物全体が揺れる。
これまでの激しい闘いの余波によって傷付いた支柱がついに崩壊したのだ。
傷付いた壁が連鎖的に崩れ、そこから数百億トンはあろうかという湖水が凄まじい水圧を伴って雪崩れ込む。
こうなると、もはや最下層である雲水のフロアが建物ごと崩壊し、湖の底に埋没するのも時間の問題であった。

「まずい、早く脱出しないと」

そう言いながらも、海部ヶ崎は直ぐに顔を険しいものへと変えた。
既に崩壊が始まり、あらゆる場所から大量の湖水の侵入を許してしまっている以上、
元来た道を戻るということはもはやできるはずもないのだ。

「クッ! 勝利しても、結局死ぬということか……!」
無念さを表すように強く手を握り締める海部ヶ崎。
もはや大人しく死を待つしかないのか──彼女がそう思いかけた時、
思いもよらぬ声が一条の光を照らした。
99海部ヶ崎 綺咲:2010/10/31(日) 23:41:23 0
「ついてきな」
その声に振り向くと、フロアの通路で、あの氷室 霞美が二人を見据えていた。
一瞬、言葉の意味を理解できず、海部ヶ崎は呆気に取られる。
それを見て、氷室は強い口調で言い放った。
「早くしろ! 死にたいのか!」
海部ヶ崎はアリスに目を向け、やがて互いにこくりと頷きあった。
このまま手を拱いて死を待つばかりなら、いっそ彼女に命運を託してみようと。
二人は、背を向けて通路を駆けていく氷室の後を追って、
崩壊の始まった雲水のフロアを後にした……。


氷室の足が止まるのを見て海部ヶ崎も足を止める。
止まったところは地下25階の通路の行き止まりであった。
「ここは……行き止まりじゃないのか?」
海部ヶ崎は怪訝な顔で訊ねるが、
氷室はそれを意に介そうともせず、ただ黙って行き止まりの壁に手を合わせた。
すると、やがて壁は天井に収納され、なんと遥か上に続く隠し階段の存在を露にしたではないか。

「非常用の隠し通路さ。初めお前らが入ってきた通路を除けば、外に通じる通路はこれだけだ。
 人工化身の娘もここを通ってきた。その時も、開けてやったのは私だが」
二人の疑問を見透かしたように言った氷室は、
つかつかと階段前に足を進め、振り返り様に続けて二人に言った。
「ここを通るなら早くした方がいい。いずれ、ここも崩れる」
彼女の背後に続く階段の壁にも、確かに小さな亀裂が入り始めていた。
海部ヶ崎が階段に駆け寄って足をかける。
そして階段を五段ほど昇ったところで、ふと彼女は氷室を振り返った。
「……お前は?」
「……」
氷室は背を向けたまま答えない。
いや、二人には聞こえなかっただけである。
彼女はボソッとした小さな声で、確かにこう呟いていた。

「ディー、キャス。地獄で私の席を用意してな。どの道、いつか私も逝くことになるはずだから」

「まさか、死ぬ気か……?」
思わずそう口にした海部ヶ崎に、氷室はくるりと振り返って階段に足を進め、
悲観的なものを全く匂わせずケロリと言い放った。
「バカ言うな。折角助かった命だ。精々、大事に使わせてもらうさ」

「……」
「どうした?」
「いや……感心するほどドライで図太いと思ってな」
「言ったろ? こちとらヤワな人生送ってないんだよ」
と、顎で延々と続く階段の先をしゃくる氷室。
それを合図に、まずアリスが先頭を切って走り出し、それに海部ヶ崎と氷室が続いた。

バタバタと足音を立てて忙しく階段を駆け上がっていく三人。
海部ヶ崎やアリシアもこのような状況下で無ければあるいは気がつけたかもしれない。
氷室の口から、小さく、少し寂しげな声が漏れたことを……。

「バイバイ──。あんたのことは好きじゃなかったけど、嫌いでもなかったよ──筆頭」

【氷室 霞美・海部ヶ崎 綺咲:アリスを伴い、常用脱出口から外へ向かう】
【雲水 凶介:消滅(死亡)】
100清浦藍 ◆xnSJXfYAaI :2010/10/31(日) 23:52:17 0
私にかかってた『光学迷彩』は解けてる…という事は、虹色詞音に『光学迷彩』をかけるのは間に合ったんだ。
そして虹色御伽の能力に巻き込まれたのは私だけで彼はあの場に残っている…って事ね。
虹色詞音は自分の姿が視えなくなった事に気づいて逃げてるかな?
自分に攻撃が来ないと思って、また歌い出すような事があれば、姿が視えなくても声で位置を特定される。
いや…それ以前に彼が能力技を使用する時点で、彼にかけてる『光学迷彩』は解けてしまう。
彼が賢い人間なら、その場から逃げる以外の選択肢はないのだけど…

「まあ…此処で考えても仕方ないよね」

私は今彼等とは次元を越えた世界にいる。
近いようで遠いそんな世界。此処から私が彼等に対してできる事なんて何もない。

「――だってみんなと同じ組になりたくて文系選んだくらいだもんね?」
「!!!? つかさーっ しゃべったな〜〜!?」

教室から他愛無い話し声が聞こえる。
私は今校内の廊下を歩いている。
誰にも見つかりたくはなかったが、虹色詞音に『光学迷彩』をかけている以上、私がそれを使う事はできない。
使えば彼にかけている『光学迷彩』は消えて彼は助からない。
自分の命よりも優先して助けたいという、虹色優の遺志はできるだけ大切にしたいと思う。

「…とにかくこの世界から出ないとどうしようもないよね」

一人廊下でつぶやきながら、私は校外に向かって歩を進めた。
不安だった。とにかく誰にも見つかりたくはなかった。
私という存在が関わる事で平和な世界を壊してしまうのではないかと思った。
現実世界も、始祖が異能者などという存在を世界に生み出さなければ…この二次元世界のような平和な歴史を築いていた。
でも過ぎ去った歴史を変える事は私にはできない。だからあんな黒歴史が繰り返さないように私は戦う。
この黒歴史の元凶であり、数世紀の時を経て復活し、異能者による殺戮の黒歴史を繰り返させる化身アリシア…
彼女を滅ぼしこの黒歴史に終止符を打つ為に、私はカノッサアジトに来たのだから。

「異能者なんてものは…本来世界の歴史に関わるべきじゃないのよ」

誰にも見つかる事はなく私は校外に出ると、地下に存在するカノッサアジト内では見られない日の光がそこにはあった。

【清浦藍:現在地二次元世界。現実世界の虹色詞音にかかってる『光学迷彩』は能力を使うと解けてしまう】
101アリシア:2010/11/01(月) 07:45:34 0
>>98>>99
微動だにしなかった雲水が顔を上げる。
表情は変わらなかったが、その体には変化が起こり始めていた。
髪や肌が白く変色していくのだ。

(やはりこうなりましたか。
 先程の技、オーラだけでなく命をも燃やさなければあの威力は出せなかったでしょうからね…
 もう生きていることも不可能…体を維持するオーラも使い果たしてしまったので、消滅してしまうでしょう…)

「死力を尽くした我が技を前にしても微動だにせんとは……ククク、見事……だ」

口元を歪めた雲水の四肢や胴体が、砂のように崩れていく。

「俺の野望も──ここで終わる──。まさか──このようなところ──で──……」

その言葉を最期に、雲水 凶介はこの世から完全に消滅した。
後に残ったのは、火葬を終えた後の遺骨のような白い砂の山だった。
その砂も、フロアの各所に開いた穴から流れてくる風に流され、虚空に散っていった。

「終わった……勝ったんだ……」

海部ヶ崎が小さく呟く。
勝利に喜ぶというよりは、勝利して安堵しているようだった。

(雲水さん。今度生まれてくる時はいい子に生まれてきてくださいね?
 でないとまたお仕置きしちゃいますよ?)

届くはずのない言葉を胸中で雲水に語りかけるアリシア。
そのときの顔は、紛れもなく母親のそれであった。
しかしそんな時間はすぐに終わりを告げる。

ゴゴゴゴゴ……。

地震のような、火山が噴火する直前のような音と共に、建物が揺らぎ始める。
戦いの余波と共に、『無間の闇穴』によって極限まで削られていた柱がついに崩壊したのだ。
周囲の壁も崩れ始め、そこから湖の水が、まるで水力発電のような勢いで流れ込んできた。
最下層のこのフロアでは、万に一つも生き残れる可能性はないだろう。

「あらあら…私だけならどうにでもなるのですけど…。
 彼女を連れて行くとなると、崩壊するまでに外に出られるかどうか…」

そう、アリシア一人であれば脱出することも可能だった。
しかし海部ヶ崎はあくまでも一般人。体の造りなども、自分とは全てが違う。
自分と同じように考えていては、脱出する頃には海部ヶ崎も物言わぬ体になっているだろう。

(どうしましょうか…。とりあえずこの場からは移動しないと)

海部ヶ崎に声をかけようとしたその時、第三者の声がフロアに響いた。

「ついてきな」

第三者は意外な人物だった。
それはこのフロアに入る前に別れたはずの氷室 霞美であった。
海部ヶ崎はぽかんと口を開けている。

「早くしろ! 死にたいのか!」

氷室が強い口調で言い放った。
海部ヶ崎と頷きあい、走り出した氷室を追って『虚空の間』を後にした――
102アリシア:2010/11/01(月) 07:46:30 0
氷室に続いて足を止めた場所は、目の前に壁がある行き止まりだった。
海部ヶ崎が氷室にその旨を聞いていたが、やがて氷室は壁に向かって手を合わせた。
すると、壁が上がり、目の前に長く続く階段が出現した。隠し階段、と言うところだろう。

「非常用の隠し通路さ。初めお前らが入ってきた通路を除けば、外に通じる通路はこれだけだ。
 人工化身の娘もここを通ってきた。その時も、開けてやったのは私だが」

こちらは質問していないのに、氷室はまるで答えるように言った。
その後、海部ヶ崎と氷室は何か会話していたようだが、アリシアは別のことを考えていた。

(まだ上のフロアに虹色さん達が残っているのでのんびりしているわけにはいきませんね。
 それに…先程虹色さん達のところに現れてすぐに消えたもう一つの新たな気配…気になりますね)

意識をこちらに戻したとき、丁度海部ヶ崎たちの会話も終わったようで、氷室の合図で走り出す。
背後から何か聞こえた気がしたが、アリシアは敢えて気に留めなかった。

階段を駆け上がる。その間にも壁には次々と新しい亀裂が生じ始めていた。
アリシアはそれを見て更にスピードを上げる。
後ろの二人と距離が離れていくが、あのスピードで走っていれば問題はないだろう。
そして光と共に、アリシアは先頭で外に出た。少し遅れて海部ヶ崎と氷室も脱出する。
アリシアは先程の懸念要素を取り除くために、二人に声をかけた。

「貴女達は急いでここから離れて下さい。出来るだけ遠くに。
 私は残っている虹色さん達を助けに行きます。以前アリスが渡した玉はお持ちですね?
 それで連絡を取り合いましょう」

海部ヶ崎は何か言いたそうだったが、やがて無言で頷く。
恐らくは自分も行きたかったのだろうが、こちらの速度を考えるとついて行けないことを悟ったのだろう。

「では行って参ります。貴女も一緒にいて下さいね?後でお話したいですから」

氷室にも笑顔でそう告げると、アリシアは背を向けて走り出した。


アジトの入り口を抜けて1Fフロアに到着すると、そこは未だに戦場だった。
戦闘員に囲まれ、虹色兄弟が戦っている。だがおかしい。数が合わないのだ。
しかしそんな事よりも、まず優先するべきことをアリシアは実行した。

「皆さん!直ちに戦闘を停止してここから脱出して下さい!
 この建物はもうじき崩壊します!死にたくないのであれば急いでください!」

その言葉に、戦闘をしていた者たちが一斉にこちらを見た。
最初は皆一様に怪訝な顔をしていたが、やがて表情が変わった。
下の階から震動が伝わってきているのだ。フロアにも亀裂が入り始めている。
そして戦闘員達は我先にと入り口に向かって殺到した。
その波に逆らって、未だに立ち尽くしている虹色兄弟の元へ向かった。

「貴方達も早く脱出して下さい。細かい話は後です、と言いたいところですが、一人足りませんね…。
 もう一人の方はどうされたのでしょうか?」

【アリシア:海部ヶ崎らと共に脱出。虹色兄弟を救出するために1Fフロアに到着】
103海部ヶ崎 綺咲:2010/11/01(月) 23:48:18 0
>>101>>102
震動が起きるたびに通路の壁に亀裂が入り、そこから水が噴き出す。
もたもたしていてはいずれ通路の崩落に巻き込まれることになるだろう。
とはいっても、戦闘によって消耗した彼女らに、素早い移動など望めるはずもない。
それを実践してみせたのはアリシアくらいのものである。
既に彼女は海部ヶ崎ら二人を置いて先に進み、彼女らの視界からとうに消えていた。

「流石に速いな」
息切れしながらアリシアのスピードに目を細めたのは海部ヶ崎。
「直ぐに追いつく。出口は直ぐそこだ」
顎で遥か先をしゃくる氷室の目には、半円状に形作られた光が飛び込んでいた。
前進するたびに徐々に大きさを増していくそれは、間違いなく通路の終わりを意味するものであった。

自然、二人の足取りがスパートをかけるように速まる。
光までの距離がぐんぐんと縮まり、ついに残り数メートルまでの距離に差し掛かった時、
二人は力強く階段を蹴って一気に光の門を潜り抜けた。

──光が二人を包む。
それは人工的なものとは違う、見紛うことのない太陽の光であった。
間違いなく、地上に戻ってきたのだ──。
海部ヶ崎がそれを実感したのは不思議にも太陽を見たその瞬間ではなく、
髪の毛をそよがせる風の存在を感じた時であった。

「心地よい……」
気抜けしたようにうっとりと風を肌で感じ始める海部ヶ崎を、
「ガラガラ」と音を立てて崩落していく出口が、直ぐに現実に引き戻す。
「もう、ここを通り抜けることはできない。正に紙一重だったな」
氷室の言葉に、海部ヶ崎はゾッとしたとも安堵したともつかないような、小さな溜息をついた。

「貴女達は急いでここから離れて下さい。出来るだけ遠くに。
 私は残っている虹色さん達を助けに行きます。以前アリスが渡した玉はお持ちですね?
 それで連絡を取り合いましょう」
不意に横から声がかけられる。声の主はアリシア。
彼女はそれだけ二人に告げると、ニコリと笑って早々とその場を後にした。

「脱出早々、また湖の底に潜りに行くとはな。物好きなことだ」
腕を組んで近くの大木に背を預ける氷室。
そこでふと、海部ヶ崎は辺りを見回して、彼女に訊ねた。
「ところで、ここは……?」
「湖の南に位置する高台の上さ。お前らが入ってきた洞窟の通路とは調度反対方向だ。見な」
と、氷室が顎をしゃくった先に、海部ヶ崎は視線を送る。そして目を見張った。
そこには確かに広大な湖が南から見下ろせる形で広がっていたが、
普段は静かな湖が、荒波を立てながら中心に向かって巨大な渦をかいているのだ。

「これは……」
「湖の底の底にあった基地が崩壊した証拠だ。
 そのせいで湖の地盤が沈下して、水位が一気に下がっているんだ。
 あの様子じゃ北側のルートも崩壊間近だろう。あるいは既に水に満たされ潰れているかもな。
 いずれにせよ、今からでは多くは生きて戻れまい」
「……」
「これでカノッサも終わりだ。名実ともに藻屑となって消える。この世から、完全に……」

落ちかけた日に照らされた氷室は、その目に朧げな光を泳がせていた。

【海部ヶ崎 綺咲:基地から脱出。現在地:湖の南に位置する高台。現時刻:PM5:00】
104虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/02(火) 00:48:36 0
>>100>>102
茨で戦闘員を捕らえようとする御伽であったが…
「皆さん!直ちに戦闘を停止してここから脱出して下さい!
この建物はもうじき崩壊します!死にたくないのであれば急いでください!」
というアリシアの言葉を聞き、茨を戻す。
今まで優、詞音、御伽が戦っていた戦闘員達は次々に入り口へ向かう。
「貴方達も早く脱出して下さい。細かい話は後です、と言いたいところですが、一人足りませんね…。
もう一人の方はどうされたのでしょうか?」
「あ、ありがとうございます…。詞音なら…」
「ここにいますよ」
優がお礼を言い、藍の光学迷彩で姿を消している詞音が答える
「とりあえず…脱出します」
御伽が本を鞄にしまいながら言う
【虹色兄弟:戦闘を中断し脱出に向かう。らき☆すた世界に入れている藍もいっしょ】
105アリシア:2010/11/02(火) 07:41:28 0
>>104
「あ、ありがとうございます…。詞音なら…」
「ここにいますよ」

お礼を言う優の横の何もない空間から声がする。

「そこにいらしたのですね?…では参りましょう。
 1Fとは言え、ここももう保ちません。急ぎ脱出を」

優達を先に行かせ、アリシアは最後尾で走り出す。
その間にも崩落は留まることを知らず、次々と壁や天井が崩れていく。
最後にフロアを振り返るアリシア。そして数秒ほど黙祷を捧げると、その場を後にした。


虹色兄弟と共にアジトを脱出したアリシア。
背後では悲鳴を上げてアジトが崩れ去っていく。

「これで全て終わったのですね。多くの"子供達"を犠牲にしたこの"戦争"が…」

小さな声で一人呟く。その呟きは風に乗って何処かへ消えた。

――海部ヶ崎さん。アリシアです。今はどちらに?――
――先程別れた所から動いていない。湖の南にある高台だ――
――そうですか。こちらは虹色さん達を無事に救出致しましたので、すぐにそちらに向かいます――

念話を切り、座り込んでいる優達に話しかける。

「そう言えば貴方方とも初めてお会いしますね。
 私の名前はアリシア。御月とアリスが一つになった人格、と認識して下さって結構です。
 では、早速ですが海部ヶ崎さん達と合流しなくてはなりません。皆さん、手を出して下さるかしら?」

言われるままに手を出す兄弟。しかし見えるのは2本だけだ。

「ええと、貴方は少しお待ちになって頂けるかしら?」

見えない詞音に向かって告げた後、先に他の二人の手を握る。
そして海部ヶ崎の時と同様に、治療を施す。
二人の治療が終わり、詞音に向かって語りかける。

「貴方は姿が見えないため、こちらから触れることは出来ません。
 ですので、私の手に重ねるようにして手を置いて下さい」

そう言って手を出すと、見えないが確かに手に何かが触れた。詞音の手だろう。
それを握ると、先程同様治療を施した。

「さて、皆さん元気になったことですし、早速参りましょうか」

ニッコリと微笑むと、今度は戦闘で走り出した――


程なくして海部ヶ崎たちの下に辿り着く。
氷室は木に寄りかかり、海部ヶ崎は立ち尽くして湖を眺めていた。

「お待たせ致しました。
 さて、皆さんお集まりになったのでお聞きしますが、皆さんはこの後どうされるのでしょうか?」

【アリシア:虹色兄弟を救出し、海部ヶ崎たちと合流。今後の動向を尋ねる】
106海部ヶ崎 綺咲:2010/11/02(火) 17:58:44 0
>>105
湖の異常に気がついた付近の人々が恐らく呼んだのだろう、
サイレン音を鳴り響かせて数台のパトカーが湖の入り江に姿を見せる。
その頃には湖も以前の静けさを取り戻していたが、
多くの目撃者の証言からいずれは湖に起きた異常事態の事実は知られるだろう。
もっとも、それが何の原因で起こったかは、恐らく永遠の謎とされるであろうが。

「湖底の調査をしても、カノッサの“カ”の字も見つけることはできないだろう。
 何せ底の底に沈んでいるんだからな」
誰に言うでもなく、氷室は独りごちにそう結論付けた。
(……あ、そういえば)
彼女の横に居た海部ヶ崎は、そこでふとアリシアの言葉を思い出し、彼女に告げた。
「アリシアがここを離れろと言っていた。何かあるのかもしれない。早く離れよう」
「その必要はないよ」
「え?」
訝る海部ヶ崎に、氷室は目をあらぬ方向に向けて答える。
「もう戻って来た」
海部ヶ崎がその視線の方向を見ると、
そこにはアリシアが虹色らを引き連れてこちらに走り迫る姿があった。
「皆! よかった、無事に脱出できたんだな。おーい!」
手を振る海部ヶ崎に、虹色らも「おーい」と手を振って答える。
「……フン、大げさな」
およそ半日ぶりの再開を喜ぶ彼女の横で、氷室は一人冷めたことを呟きながらも、
その瞳はどこか眩しいものを見るかのように揺らいでいた。

──合流後、真っ先に口を開いたのはアリシアだった。
「お待たせ致しました。
 さて、皆さんお集まりになったのでお聞きしますが、皆さんはこの後どうされるのでしょうか?」
内容は文字通り今後の動向についてである。
それに、まず誰よりも早く即答して見せたのは海部ヶ崎。
「私は霊仙さんの仕事を引き継ぐつもりだ。
 あの人は情報屋の仕事をする一方で、弱き力なき人々を無償で助ける仕事もしていた。
 父上も霊仙さんも恐らく普通の少女として暮らすことを望んではいるだろうが……
 どうせ異能者として生まれたついたなら、この力を正しきことに使って生きていきたい。
 そう、霊仙さんのように……」
そう言うと、海部ヶ崎は手にしていた無間刀を、そっとアリシアに手渡した。
「この刀は返す。そしてできることならこの世から消して欲しい。
 私の目的は父上の愛刀だった無間刀を取り返すことだったが、実際に使ってみて解った。
 何故、父上が自分の愛刀をどこか嫌悪していたきらいがあったのか。
 ……この刀があまりにも強力すぎるからだ。
 使い方によっては、世を善にも悪にも染めることができる。
 極端な力は極端な危険性をも秘めている。父上はそれを解っていた。
 父上は、この刀を愛刀にしていたわけじゃなかった。
 自分を刀の番人として、常に手元において封印し続けていたに過ぎなかったんだ。
 ……封印するくらいのものであれば、初めから無い方がいいんだ」

海部ヶ崎の脳裏に父親の声が蘇る。
『本来ならこんなもの、この世に無い方がいいんだが……』

(父上、これでいいんですよね……?)
心の中で問うた時、脳裏に浮かんだ父親の像が、ニコリと笑った気がした。

「極端な力、か……フッ」
静まり返る一同に、氷室の乾いた声が響く。
氷室は一気に視線を向ける一同を一瞥しながら、ゆっくりと短い言葉を紡いだ。
「復讐などもうどうでもよくなった今、私は自由気ままに暮らすよ。
 占いで生計を立てるのもいいかもな」

【海部ヶ崎 綺咲:無間刀をアリシアに渡す。今後は何でも屋(情報屋・ボディガードなど)として生きる予定】
【氷室 霞美:自由気ままに生きると明かす】
107虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/02(火) 19:41:15 0
>>105
「この後どうするか、ですか…」
優が少し考える
「あ、そうだ…。ちょっと待ってて下さい…」
御伽が鞄かららき☆すたの本を取り出し、ページを開く。二次元世界に行っていた清浦藍が出てきた
「兄さんを助けるために使ったのですが…対象がずれてしまったみたいです」
御伽が頭を掻く
「まあ僕たちは今まで通り、普通の平和な学校生活を送るだけですよ」
「もしかしたらもう会えないかも知れませんね。まあ、でももし僕たちの助けが必要になったら言って下さい」
「僕たちの能力、戦闘にはあまり向きませんが…」
「「「生活には凄く便利なので」」」
詞音、優、御伽が言う
【虹色兄弟:普通の学校生活を送ると答える】
108アリシア:2010/11/02(火) 20:27:53 0
>>106>>107
「私は霊仙さんの仕事を引き継ぐつもりだ。
 あの人は情報屋の仕事をする一方で、弱き力なき人々を無償で助ける仕事もしていた。
 父上も霊仙さんも恐らく普通の少女として暮らすことを望んではいるだろうが……
 どうせ異能者として生まれたついたなら、この力を正しきことに使って生きていきたい。
 そう、霊仙さんのように……」

アリシアの質問に対し最初に答えたのは海部ヶ崎だった。
そして手に持っていた無間刀――降魔の剣を手渡してきた。

「この刀は返す。そしてできることならこの世から消して欲しい。
 私の目的は父上の愛刀だった無間刀を取り返すことだったが、実際に使ってみて解った。
 何故、父上が自分の愛刀をどこか嫌悪していたきらいがあったのか。
 ……この刀があまりにも強力すぎるからだ。
 使い方によっては、世を善にも悪にも染めることができる。
 極端な力は極端な危険性をも秘めている。父上はそれを解っていた。
 父上は、この刀を愛刀にしていたわけじゃなかった。
 自分を刀の番人として、常に手元において封印し続けていたに過ぎなかったんだ。
 ……封印するくらいのものであれば、初めから無い方がいいんだ」
「…分かりました。お父上の形見、ということでしたから差し上げても良かったのですが…。
 元々この剣は私の人格を取り戻すために御月とアリスが創り上げたもの。
 その目的が果たされた以上、この剣も役目を終えました。眠らせてあげましょう」

そう言うとアリシアは剣を空高く投げた。

「さようなら、降魔の剣。安らかにお眠りなさい」

そして掌を空に向け、強烈なオーラを放った。
そのオーラが降魔の剣に衝突し、剣は文字通り粉々に砕け散った――

「復讐などもうどうでもよくなった今、私は自由気ままに暮らすよ。
 占いで生計を立てるのもいいかもな」

氷室が呟く。その言葉に嘘偽りはないようだ。どこか晴れやかな顔をしているようにも見える。

「まあ僕たちは今まで通り、普通の平和な学校生活を送るだけですよ」
「もしかしたらもう会えないかも知れませんね。まあ、でももし僕たちの助けが必要になったら言って下さい」
「僕たちの能力、戦闘にはあまり向きませんが…」
「「「生活には凄く便利なので」」」

虹色兄弟達も質問に答える。
それぞれの顔を見て、それぞれの答えを聞き、一度ゆっくりと瞬きをしてからアリシアは口を開いた。

「私は今日この日を最後に俗世から姿を隠そうと思います。
 私と言う存在はこの世界にとって危険すぎますから…。
 始祖や化身という存在がいるだけで、それを巡って様々な争いが起きます。
 今回のような事件が再び起きないとも限りません。
 降魔の剣がなくなった以上、後は私が消えればそれで暫くは安泰になるはずです。
 しかし時が経てばやがて化身という存在は再びこの世に現れる。
 その時は、私が必ず見つけ出してその子を保護します。約束しましょう。
 しかし私一人の力では無理な場合もあるかも知れません。
 その時は貴方方のお力を借りることになるでしょう。その時の連絡は以前お渡しした玉でお願いしますね。
 貴女とは…またどこかでお会い出来そうな気が致します。…ふふっ、その時はお話しましょうね?」

皆の顔を見てそう告げた後、最後に氷室の方を見て、柔らかな笑顔でそう告げた。

【アリシア:暫くは世間から姿を消すが、必要な時は現れる旨を伝える】
109清浦藍 ◆xnSJXfYAaI :2010/11/03(水) 00:19:13 0
>>106-108
二次元世界から現実世界に戻った私は、自分に似た姿をした化身アイリスの存在に諦めを感じた。

「…ハッピーエンドで終わらせようとしてるところに水を差すようで悪いけど、もうこの世界にも未来はないよ」

それまでの大団円な雰囲気を打ち壊す一言は、その場にいる皆の視線を向けるには充分だった。

「化身アイリス…昔と違って、今の世界は一瞬でもあなたが存在する事を許しはしないの。
 今この街には殺された異能者達の怨念のオーラで溢れている。
 そんな中で化身であるあなたの無限のオーラは、存在するだけで彼等の怨念のオーラを誘爆していき…」

角鵜野市を中心に世界中が地響きに見舞われる。

「世界を崩壊させるエネルギーを生み出します」
「…っ!いきなり出てきて何言ってるんですか?
 どうしてこの流れで世界崩壊になるんですか!?」

その場にいた海部ヶ崎綺咲の突っ込みが入った。その言葉遣いに違和感を感じる。
…ああ、この世界で面識があったのは虹色君だけだったね。

「言ったじゃないですか。この街で殺された異能者の怨念が、化身の力を使って引き起こしてるんです。
 あなた達はこの戦いで生き残りました。でも彼等も生き残りたかったんですよ。
 彼等は歴史をやり直して貰いたがってるんです」

私の視線の先には異空間…もとい時空間が開いていた。
この街で最後に死んだ雲水凶介の怨念が作り出した、過去に繋がる時空間。

「みんなの奇跡で世界の崩壊を食い止める…なんて事もできるのかもしれない。
 でもそれは彼等の気持ちを踏みにじる事に他ならない。
 そんな世界が一時的に助かってもいい未来なんてやってこないと思うの。
 歴史を変えようとすれば今度死ぬのは自分かもしれない。
 でも私は、誰もが納得できる幸せな歴史がある事にこの命を賭けてるの。
 幸せな歴史になるか、私が死ぬまでこれからも何度でもやり直すよ」

私は渦巻く時空間に向けて歩を進めていった。

【世界崩壊の兆し、時空間の出現】
【清浦藍:過去に繋がる時空間に向かう】
110海部ヶ崎 綺咲:2010/11/03(水) 16:23:41 0
>>107>>108
海部ヶ崎、氷室に続き、虹色らが今後の動向を明らかにする。
彼ら三人は普通の高校生として生活を送るつもりらしい。
自分と違い、学業に身を置く者ならそれは無難な選択であろう──
海部ヶ崎そう思い、うっすらと微笑した。

そんな中、最後に残ったアリシアが口を開く。

「私は今日この日を最後に俗世から姿を隠そうと思います。
 私と言う存在はこの世界にとって危険すぎますから…。
 始祖や化身という存在がいるだけで、それを巡って様々な争いが起きます。
 今回のような事件が再び起きないとも限りません。
 降魔の剣がなくなった以上、後は私が消えればそれで暫くは安泰になるはずです。
 しかし時が経てばやがて化身という存在は再びこの世に現れる。
 その時は、私が必ず見つけ出してその子を保護します。約束しましょう。
 しかし私一人の力では無理な場合もあるかも知れません。
 その時は貴方方のお力を借りることになるでしょう。その時の連絡は以前お渡しした玉でお願いしますね」

……不思議と一同に驚きはなかった。
特に海部ヶ崎は、心の底で薄々と感じ取っていたものがあり、
内心で「あぁ、やはりな」と思ったのが正直な心情であった。
「極端な力は極端な危険性をも秘めている……そういうことだな」
先程の海部ヶ崎の言葉を、今度は氷室が呟く。
海部ヶ崎は敢えて何も言わなかったが、
正にそれこそが肯定を意味したものであったかもしれない。
(父上が無間刀を封じたように、彼女もまた自分自身を封じる……。
 最強……それ故の悲しい宿命とでも言うべきなのかもしれない……)

「貴女とは…またどこかでお会い出来そうな気が致します。…ふふっ、その時はお話しましょうね?」
最後に、氷室にニッコリとした笑顔を向けて告げるアリシア。
そんな彼女に、氷室は「フッ」と鼻を鳴らす。
「化身は数百年に一度現れる。次にお前がこの世に現れる時、私はとっくに墓の下さ」

そう言い、氷室は大木から背を離して海部ヶ崎らに背を向ける。
そして立ち去ろうとし掛けたその時、
これまでこの場になかった全く別の第三者の声が彼女の脚を止めた。

「…ハッピーエンドで終わらせようとしてるところに水を差すようで悪いけど、もうこの世界にも未来はないよ」

氷室のみならず全員が一斉にその声の方向を向く。
そこには、全く見慣れぬ少女が一人、氷室ら全員を見据えて立っていた。
「世界を崩壊させるエネルギーを生み出します」
少女が言った途端、大地が揺れる。
「…っ!いきなり出てきて何言ってるんですか?
 どうしてこの流れで世界崩壊になるんですか!?」
狼狽する海部ヶ崎。
「言ったじゃないですか。この街で殺された異能者の怨念が、化身の力を使って引き起こしてるんです。
 あなた達はこの戦いで生き残りました。でも彼等も生き残りたかったんですよ。
 彼等は歴史をやり直して貰いたがってるんです」
そう言う少女の横には現実空間とは別の異なる空間の入口と思えるものが大きく口を開けていた。
少女は全員を一睨みすると静かに空間の中へ足を踏み入れていった。

「な、なんなんだ……」
突然の思いもよらぬ展開に海部ヶ崎は戸惑いを隠せない。
そんな海部ヶ崎に、今まで押し黙って事の成り行きを見守っていた氷室が、
「やれやれ」と呆れるように言い放った。
「お前、まだ解らないのか? それでよく雲水が倒せたな」
「……どういうことだ?」
「あの女の言ったことは事実じゃないということさ」
111海部ヶ崎 綺咲:2010/11/03(水) 16:30:32 0
今度は海部ヶ崎が押し黙る。氷室は一つの溜息の後に、言葉を続ける。
「ただの地震だよ、今のは。
 あの女が起こしたものでも、ましてや世界を崩壊させるエネルギーが起こしたものでもない」
「……あ」
その言葉で海部ヶ崎は気がついた。……もう地面が揺れていないことに。
「歴史がどうたらとか怨念がどうたらとか、そんなのはこじつけに過ぎない」
「しかし、それではあの空間は?」
「雲水同様、空間を操る異能者なんだろ。別に似たような能力を持つ奴がいても何ら不思議はない」
「……」
「私にはあいつを意に介す理由があるとは思えないね。
 気になるならついて行ったらどうだ? どうせ碌なことになりゃしないだろうけど」
一瞬、チラっと口を開ける空間を見て、氷室はまた海部ヶ崎に目を戻す。
「お前、力なき弱き人々を救ける、そんな仕事がしたいんだろ?
 だったら覚えときな。“力無き正義”は無意味であるばかりか、偽善でしかないってことを」
「──!」
氷室の言葉が剣となってグサリと胸に突き刺さったのを、海部ヶ崎は感じていた。

「じゃあね」
氷室が視線を前に戻して、この場を立ち去っていく。
海部ヶ崎は立ち尽くしたまま何も言い返せなかった。
できたことと言えば、ただ目を見開いたまま、己の未熟さを痛感するだけ……。
(目に見えることだけに惑わされること無く、ただ本質だけを冷静に見透かす……
 これがカノッサ四天王……いや、一流の異能者なのか……。
 ……力だけじゃない、まだまだ多くの点で私は氷室に劣っている……。
 けど……だけど……!)
それでもやがて、海部ヶ崎は拳をぐっと握り締めて、力強く前を向いた。
そして、既に米粒くらいまで小さくなっていた氷室の背中を、
まるで突き刺すようにジッと見据えた彼女は、心の中で高らかに吠えるのだった。
(いつか必ず、人々を護れるくらいの力を得てみせる! そして必ず、超えてみせる!
 霊仙さんを! 父上を! そして──氷室 霞美を!!)

「私も、もう行くよ。アリシア、虹色兄弟──これまで世話になった。礼を言う。
 近い将来もし会うことがあれば、その時は改めて礼をさせてもらう」
アリシア、虹色兄弟を一瞥して、最後に彼女はニコッと微笑んだ。
「それまで、どうか元気で──!」
別れの挨拶なのにそこに哀しみはない。
あったのは、どこか爽快ささえ感じられる、晴れ晴れとした空気であった。
それを残して海部ヶ崎は一人走り去って行った。
遥か遠くまで進んでいた氷室に、追いつけ追い越せというように──。

だがこの時、海部ヶ崎もそして氷室も、まだ知る由はなかった。
先程の大地を揺るがした地震──それが自然に偶発的に起こったものではないということを。
──湖を北へ進むことおよそ1km。
そこに位置する市内のとある薄暗い山岳地帯の一角に、長い白ひげを蓄えた老人はいた。

「雲水の奴め、失敗しおったか。わしの助力があってもこの様とは噂ほどの男ではなかったわ。
 しかし……ふぉっふぉっふぉ、わしもちぃーとばかし甘くてみていたかのう。
 カノッサを壊滅させるだけの力を持つ者がこのような地方都市におったとは、よもや思わなんだ。
 名も知れぬ異能者というのもやるものよのぉ……ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ」
しわがれた声を絞り出すその老人が、不意に手を前方の空間に差し出す。
その手は、どういうわけか黄金色に輝いている。
いや、そうではない。輝いているのは、その手におさめられた“モノ”であった。
「まぁ……別によいわ。わしが長年求め続けていた“これ”が手に入ったのじゃからなぁ。
 わしが少し念じただけであれだけの地震を起こせるとは、古文書に記された通りの力よ。
 これさえあればわしの宿願ももうじき果たされる……。そう、500年の夢がのぅ……
 フッフフフフフ……ふぁっふぁっふぁっふぁっふぁっふぁ!!」
老人の高笑いに呼応するように黄金色の輝きが増して一角を昼間のように照らす。
その輝きに照らし出された老人の顔は、この世のものとは思えないほど不気味に歪んでいた。

【二つ名を持つ異能者達Part1 海部ヶ崎&氷室編:完】
112アリシア:2010/11/03(水) 18:03:29 0
>>109->>111
「化身は数百年に一度現れる。次にお前がこの世に現れる時、私はとっくに墓の下さ」

氷室が皮肉を込めて返事してくる。
そしてこちらに背を向けて立ち去ろうとした時、今まで聞こえなかった声が聞こえてきた。

「…ハッピーエンドで終わらせようとしてるところに水を差すようで悪いけど、もうこの世界にも未来はないよ」

皆一斉に声のした方向を向く。
そこにはこれまで一度も見たことがない少女が立っていた。

「世界を崩壊させるエネルギーを生み出します」

少女がそう口にした瞬間、地面が揺れる。

「…っ!いきなり出てきて何言ってるんですか?
 どうしてこの流れで世界崩壊になるんですか!?」

海部ヶ崎が狼狽している。
無理もないだろう。いきなり現れた見ず知らずの少女に世界が崩壊するなどと言われたのだから。

「言ったじゃないですか。この街で殺された異能者の怨念が、化身の力を使って引き起こしてるんです。
 あなた達はこの戦いで生き残りました。でも彼等も生き残りたかったんですよ。
 彼等は歴史をやり直して貰いたがってるんです」

少女の言葉と共に、少女の横に空間の歪の様な穴が出現する。
少女は全員を一瞥すると、何も言わずにその空間へ入っていった。

「な、なんなんだ……」

未だ狼狽している海部ヶ崎。
その海部ヶ崎に声をかけたのは、事の成り行きを静観していた氷室だった。

「お前、まだ解らないのか? それでよく雲水が倒せたな」
「……どういうことだ?」
「あの女の言ったことは事実じゃないということさ」

その言葉に、海部ヶ崎は口を噤んだ。

「ただの地震だよ、今のは。
 あの女が起こしたものでも、ましてや世界を崩壊させるエネルギーが起こしたものでもない」
「……あ」

海部ヶ崎は、もう地面が揺れていないことに気付いたようだった。
しかしアリシアはその言葉を素直に受け入れられなかった。

(今の地震、本当に自然現象だったのでしょうか?地震発生の直前に微かに力を感じたのですが…
 …そう、ここから北の方角、正確な距離までは分かりませんでしたが、凡そ1km程)

「じゃあね」

アリシアが考え事をしている内に、氷室と海部ヶ崎の会話は終わっていた。
氷室が立ち去り、後に残ったのは立ち尽くす海部ヶ崎だった。
その横顔は何か思い詰めている様にも見えた。
113アリシア:2010/11/03(水) 18:05:35 0
「私も、もう行くよ。アリシア、虹色兄弟──これまで世話になった。礼を言う。
 近い将来もし会うことがあれば、その時は改めて礼をさせてもらう」

やがて晴れやかな顔でこちらを見て、海部ヶ崎はそう言った。
先程までの思い詰めていた顔はもうない。

「それまで、どうか元気で──!」

そして元気良く走り去って行った。
その方角は先程去った氷室と同じ方角だった。
まるで氷室を新たな目標とし、それに追いつき追い越す、といった感じにも見えた。
それを見送ってアリシアは再び考え出す。

(やはり先程の地震、ただの地震ではありませんね。
 それに気になるのは魔水晶の行方…。
 雲水さんは持っていなかったようですし、あれは物理的な力で破壊することも出来ません。
 と言うことは誰かが持ち去ったのでしょうか…?一体誰が…?
 そう言えば、あのカノッサという方達はやけに私や化身の事に詳しかった…。
 化身の方はともかく、私やアリス達に関して残っている文献などほとんどないはず…。
 仮にあったとしても、現代人では解読など到底不可能…。
 誰か解読できる人間がいた?それならばその人物は何処へ行ったのでしょう?
 私達は四天王と呼ばれていた4人の方しか見ていません。
 あの時、建物の中に5人目がいた…?それとも四天王の誰かが解読できた…?
 …考えるだけならいくらでも出来ます。今は情報が少なすぎますね)

思考を停止して頭を振る。今は考えても仕方のないことだ。
件の人物の気配はもう感じ取れないのだから。
頭の中を切り替えると、残っていた虹色兄弟に目を向ける。

「貴方達には二つほど謝っておかなければなりません。
 一つは御月が貴方達の護衛役を仰せつかっていたのに、貴方達に戦闘を任せてしまったこと。
 これでは護衛の意味がありません。万が一貴方達に何かあってからでは遅いですからね。
 …結果的に無事に生きて帰ってこられましたが、護衛の任を放棄したことに変わりはありません。
 御月に代わって謝罪を申し上げます。本当にすみませんでした」

深々と頭を下げるアリシア。虹色兄弟も呆気にとられている。

「もう一つは、誠に勝手ながら一時的に護衛の任を解かせて頂くこと。
 先程も申し上げましたが、この世界にとって私と言う存在は危険すぎます。
 いつ争いの火種になるか分かりません。
 そうなったら護衛どころではなく、寧ろ危険を呼び込んでしまいます。
 護衛役が主に危険を呼び込むなど本末転倒もいいところ。
 ですので護衛の任はここで凍結致します。
 私がいない方が安全に暮らせると思いますしね…。
 ですが、火急の際にはお持ちの玉で連絡して下さればすぐにでも参ります」

そこまで言って、アリシアは言葉を切った。

「まだお話したいことは沢山ありますが、全て話すには時間がかかりすぎてしまいます。
 ですので、ここで一つの区切りと致しましょう。
 いずれまたお会い出来れば、その時はお茶でも飲みながらゆっくりとお話しましょうね?
 では私も参ります。お元気で」

最後まで笑顔を絶やさずに話を終えると、アリシアはゆっくりと歩き出した。
彼女の行く先は誰も知らない――

【二つ名を持つ異能者達Part1 始祖(御月、アリス、アリシア)編:完】
114虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/06(土) 16:50:23 0
「私も、もう行くよ。アリシア、虹色兄弟──これまで世話になった。礼を言う。
 近い将来もし会うことがあれば、その時は改めて礼をさせてもらう」
「いえいえ。僕達は特に何もしていませんよ」
「双綱高校の文化祭に来れば、僕達軽音部がライブを開いてますよ!」
「我がアニメ研究会の作品放送もよろしくお願いします」
「美術部の作品展示もなかなかのものですよ」
ちゃっかり宣伝する虹色兄弟
「それまで、どうか元気で──!」
「「「さようならー」」」
別れの挨拶をする

「貴方達には二つほど謝っておかなければなりません。
 一つは御月が貴方達の護衛役を仰せつかっていたのに、貴方達に戦闘を任せてしまったこと。
 これでは護衛の意味がありません。万が一貴方達に何かあってからでは遅いですからね。
 …結果的に無事に生きて帰ってこられましたが、護衛の任を放棄したことに変わりはありません。
 御月に代わって謝罪を申し上げます。本当にすみませんでした」
「いえ、良いんですよ。貴方がいなければ、その…雲水っていう人は倒せなかったのでしょう?」
「やっぱりラスボスには強力な人が立ち向かわないとですからね!」
「それに正直、あの時は護衛とかそういうの忘れていましたし…」
呆気に取られた兄弟だったが、すぐに気を取り直し、言う
「もう一つは、誠に勝手ながら一時的に護衛の任を解かせて頂くこと。
 先程も申し上げましたが、この世界にとって私と言う存在は危険すぎます。
 いつ争いの火種になるか分かりません。
 そうなったら護衛どころではなく、寧ろ危険を呼び込んでしまいます。
 護衛役が主に危険を呼び込むなど本末転倒もいいところ。
 ですので護衛の任はここで凍結致します。
 私がいない方が安全に暮らせると思いますしね…。
 ですが、火急の際にはお持ちの玉で連絡して下さればすぐにでも参ります」
「分かりました。…では、僕達は平和な高校生活をすごそうと思います。事件とかは若い者に任せて…」
「そんな老人みたいなこと言わないでよ兄さん。まあ、平和が一番なんだけどね…」
アリシアの言葉に優が答え、それに相槌を打つ詞音
「まだお話したいことは沢山ありますが、全て話すには時間がかかりすぎてしまいます。
 ですので、ここで一つの区切りと致しましょう。
 いずれまたお会い出来れば、その時はお茶でも飲みながらゆっくりとお話しましょうね?
 では私も参ります。お元気で」
「そうですね! ちなみに僕はほっとレモンティー派です」
「僕はジャスミン茶派ですかね」
「兄さん達、何言ってるの…。日本人なら緑茶でしょ…?」
「「「まあ、とにかく…」」」
「「「さようなら。また会えると良いですね」」」
そういって優たちも歩き出す

「それにしてもあの地震はなんだったんだろ…。清浦さんは光を操る能力のはずなのに…」
「ただの地震…て感じじゃなかったね」
「僕たちが考えても仕方ない。何かできるわけでもないし…」
「そうだね」
「まあ、とにかく僕達の物語はここで一旦終わりだね」
「「「めでたしめでたし」」」
【二つ名を持つ異能者達Part1 虹色兄弟編:完】



115 ◆vmVAU8BU2zJP :2010/11/06(土) 17:01:04 0
>>111
――いい邪念だ『カノッサの知恵袋』

洞窟内にどこからともなく響く声に、独り高笑いを決め込んでいた老人は絶句する。

「な…バカな!?いったいどこから…それにその声…まさか貴様!!」

なに…残り少ない老後の楽しみを邪魔しようと言うわけじゃない。
ただ僕の目論見が外れて復活を果たし損ねたから"それ"の力を少し貰いに来たんだ。

「まさか…わしの身体を乗っ取る気か?」

はははっ!そんな老いぼれた身体、頼まれてもゴメンだよ。
僕が欲しいのは復活に必要な力だけ。新しい身体ならもう見つけてあるんだ。

「フン…まあ邪魔をしないと言うなら少しくらい力を分けてやるのも良かろう。
 "これ"を手にする為に、貴様にも秘密裏に役立ってもらったからな」

正確には"僕"じゃなくて"父様"だけどね。
ただ僕が邪魔をする気はなくても、新しい"彼"もそうとは限らないから計画は慎重に進めた方がいい。
僕の見込んだところ、彼には父様以上の素質を感じたからね。僕の完全復活にも時間がかかりそうだ。

「…復活させる代わりに邪魔をしないという約束、忘れるなよ」

老人が手におさめた黄金の輝きを掲げると、そこに一筋の影が射し、それが洞窟内に黒い鳥の影ができていく。
そして黄金に照らされた洞窟の中から、一羽の黒鳥が角鵜野市内に飛び立っていった…
116氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/07(日) 03:03:20 0
角鵜野市の中心街から北に外れること1kmの市街地。
調度、昼時のこの辺りは、昼休みに入ったサラリーマンや夏休みを満喫する学生らでごった返している。
そんな喧騒の中、まるで怪しげな密談をするかのように、大通りの端で静まり返る二人の女性の姿があった。

一人は「占い・一回千円」の看板を傍に立て、椅子にふんぞり返る青い髪が特徴の20代の女性。
彼女の名は氷室 霞美。本業を占い師へと変えたかつてのカノッサ四天王の一人である。
一方で、こじんまりとした客用の小椅子に生真面目にも背筋を伸ばしてキチンと座るのは、
氷室とはかつて敵対関係にあった10代の同じく若き女性、海部ヶ崎 綺咲。

二人が顔を合わせるのは、いわゆる世間で「大災害の日」と呼ぶ日から数えて、およそ三ヶ月ぶりのことだ。
すなわち、雲水 凶介率いるカノッサ機関が引き起こした「カノッサの乱」以来ということである。
突然の珍客に氷室は驚き訝ったが、その珍客の第一声を聞いて、その顔を更に怪訝なものへと変えた。

「夢?」

氷室の声に海部ヶ崎は小さくコクリと頷いた。
彼女の無地の白いタンクトップから露出した透き通るなような肌が微かだが汗ばんでいる。
真夏なのだから汗をかくのは当然であるが、それだけが理由でかいた汗ではないということを、
氷室は心なしか感じ取っていた。いや……それもあるいは予想していたからかもしれない。

「全く……何しに来たかと思ったら。
 ここは精神科じゃなければ、人生相談をする場所でもない。ただの占い屋なんだ。
 私の生活を思うなら占いをして金を落としていって欲しいね」
「金はやる。だから、話だけでも聞いてくれ! お前しか話せる奴はいないんだ……」

強い口調で詰め寄る海部ヶ崎に、周囲を歩く人々の視線が突き刺さる。
氷室は目で椅子に座り直せと彼女に合図し、
続いて「千円」の文字がでかでかと書かれた木箱を顎でしゃくった。

「聞いてやるよ」

海部ヶ崎は一枚の札を木箱に入れると、落ち着いた様子で椅子に座り直した。
そして、氷室を神妙な顔付きで見据えると、やがて小さな声で語り出した。
彼女が見たという“夢”の話を──。

「あれは昨夜のことだ。奇妙……そう、奇妙な夢だった。
 夢の中で、得体の知れない不気味な“ピエロ”が現れたんだ……」

ピエロ──その言葉に氷室の眉が微かに動いたのを、海部ヶ崎は気付かなかった。
もっとも、気付いたところで話を止めることはなかっただろう。
彼女は淡々と話を続ける……。
117氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/07(日) 03:09:14 0
「周りは真っ暗な空間だった。自分以外、誰もいない。そんな闇の向こうから、やがて何かが近付いてきたんだ。
 大きな鎌を肩に乗せて、飄々とした足取りでな。それがあの妙な仮面を着けた“ピエロ”だった──。
 私が呆気にとられていると、ピエロは私の前まで寄ってきてこう言った。
 『ホーッホッホッホ、あなたはとても運がおよろしい。
 “私の夢”を見たということは、私が発信する夢電波を受信した、つまり私と波長が合ったということ。
 それが何を意味するかこれからお教えしましょう』と。
 まるで変声期を通したような気味の悪い声だった。
 身動き一つ、声一つ出せずに唖然とする私を横目に、ピエロは一方的に続けた。

 『あなたをこれから“幻影島”にご招待させていただきます。
 幻影島とは何か? んー、良いご質問ですねぇ。幻影島とは太平洋上にポツンと浮かぶ孤島のこと。
 地図には載っておりませんし、普通の一般客が辿り着けるような場所でもありません。
 何故なら、私がご招待した“異能者”でなければ入島することができない特殊な島だからです、はい。
 では、何故異能者を招待するのか? そうお思いでしょう? 答えは簡単です。
 私は“ご主人様”の命に従ってこうして招待状をばら撒いているわけですが、
 そのご主人様がこう仰せなのです。「異能者を闘わせ、勝ち残った者に最大の栄誉と幸福を与えよう」と。
 おわかりですか? あなたはその挑戦権を得られたのです。ホーッホッホ、羨ましいじゃありませんか。
 ですが、言葉だけではご納得していただけないと思いますので、
 特別サービスで最大の栄誉と幸福を具現化したものをお見せしましょう』

 そう言って奴は取り出したんだ。黄金色に輝く水晶をな……。
 純金でできているとかそういうものではない。何か、悪魔的な輝きをそれは放っていた。
 それについては奴はこう言った。

 『これはこの世の全てを統べる力を秘めた水晶。
 手にした者の願い一つで世界をどのような形にも変えることができる正に異能の結晶。
 ご主人様は、闘いに勝ち残った強者(つわもの)にこれを差し上げると仰せなのです、はい。
 如何です? 少しは招待されてみる気になられたでしょうか?
 もっとも、あなたの意に関わらず、招待は決定されたこと。
 時が来れば自然に強制的にあなたの体は幻影島にテレポート致します。
 ほら、手首を御覧なさい。それが招待状です』

 手首にはいつの間にか黒い腕輪が巻かれていた。外そうとしても外せない。

 『その腕輪は私のご主人様が直々にお作りになられたもの。
 装着されてから24時間後、自動的に幻影島に瞬間移動するようプログラムされております。
 24時間も待てないというせっかちさんは腕輪の真ん中についている赤いボタンを押しなさい。
 直ぐに島に飛ぶことができます。
 ただし、バトルの開始は時間が決まっておりますので、向こうでも待つようですがね。
 おっと、外そうとしても外せませんよ? それには参加者の認識番号も記されておりますので、
 少なくとも闘いが終わるまでは、あなたの体の一部になっているのですからねぇ……ホッホッホ。
 さて、お解かりいただいたところで、調度私の説明も終わりです。
 後は島に着いてから詳しいルールの説明があるでしょう。
 ルールを良く聞き、守って、自分の命を賭けた闘いを存分に楽しんで下さい。
 それでは良い夢を。ホーッホッホッホ』

 ……それだけ言うとピエロは消えた。そこで私の目も覚めたんだ。
 夢……そう、薄気味悪い夢、現実ではない。そう思った。
 だが、あれはただの夢じゃなかったんだ……見てくれ」
118氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/07(日) 03:16:06 0
すっと右腕を上げる海部ヶ崎。
その手首には、黒い腕輪が太陽の光に反射して光っていた。
「夢で見た通りのものだ。あれは現実だったんだ。間違いなく、あのピエロは異能者だ」
ふと氷室が目を細める。
「……394。それがお前の認識番号か」
その言葉に、海部ヶ崎が手首を返して気付く。
手首の裏側の腕輪に394の文字が記されていることに。
「394番……少なくとも、私を含めて394人の異能者が招待されているということか」
「もっと多い」
氷室が右腕のジャージの袖をまくり、海部ヶ崎に見せ付ける。
海部ヶ崎は思わず目を見開いた。氷室の腕にも、黒い腕輪がはめられていたのだ。

「お……お前も!?」
「お前のいうピエロが私のところにきたのは昨晩の11時過ぎ。
 私の番号は466……招待されたのは最低でも500人前後だ」
「しかし、そんな数の異能者を集めて、本当に闘いをさせるのが目的なんだろうか?」
「闘いをさせるのは目的の一つだろうが、真の狙いは別にあるはずだ。
 何故ならあの黄金色の水晶……あれは魔水晶だ」
「魔水晶!? あれが!?」
氷室は小さく頷き、言葉を続けた。
「魔水晶は長い年月をかけて封印された魔力が浄化される。
 それと共に輝きは失せ、最後にはただの石と化すが……
 あのピエロが持っていた魔水晶は紛れもなく完成したばかりのものだ。
 恐らくあれこそが雲水が作った魔水晶なのだろう。
 ……あの闘いの後、私は気になっていたんだ。魔水晶の行方がな。
 最初は雲水と共に消滅したとも考えていたが……
 雲水死亡後に、どういうわけかあのピエロの手に渡ったと考えるのが今や自然だ」
「あのピエロ……まさかカノッサの生き残り?」
「さぁな……。いずれにしろ、奴の主人とやらに答えが隠されていそうだ」

すっと席から立ち上がり、店のものを手早く片付け始める氷室。
それにつられるように海部ヶ崎も立ち上がる。

「今のこの街に500人も異能者がいるはずがない。
 ということはかなりの広範囲に渡って招待状を乗せた電波をばら撒いているはずだ。
 この国全体か、あるいは世界中か……何にせよ、相当手強い奴に違いはない。
 ……お前、大丈夫か?」
氷室は訝しげな視線を海部ヶ崎に送りつける。
三ヶ月前の記憶が残る彼女にしてみれば実力を疑問視するのも当然であるが、
海部ヶ崎はそれを「フッ」という似つかわしくない笑みでかわしてみせた。
「まだお前には及ばないかもしれないが、この三ヶ月、私は鍛錬を怠ったことはない。
 少なくとも三ヶ月前よりはあらゆる面でレベルアップしているつもりだ」
「ふん、それはそれは」
特に感心した様子もなく言い返し手際よく荷物を纏めていく氷室。
そして荷物を入れたバッグを肩に回すと、最後にこう言った。

「何もこの街で時間が過ぎるのを待つことはないんだ。
 バトルが始まるより先に島の地形を把握しておくのも時間の有効な使い方だろう。
 六時に湖の南の高台でもう一度会おう。それまでに準備は整えておきな」
二人は互いに小さく頷くと、くるりと翻って別々の方向に歩みを進めていった。
時間は午後0時30分──
氷室が腕輪をはめられてから13時間後。
海部ヶ崎が腕輪をはめられてから14時間後のことであった。

【氷室&海部ヶ崎:午後六時に落ち合う約束をして市街地を離れる。現時刻:PM12:30】
【ピエロ(仮称):世界各地の異能者に招待状をばら撒く。
          ただし、波長が合った者の夢にしか登場できないため、全ての異能者とまでには至っていない。
          それでもその数500〜それ以上とも思われる】
【二つ名を持つ異能者達 Part2開始! 新規さん募集中です】
119アリシア ◆21WYn6V/bk :2010/11/07(日) 09:32:44 0
角鵜野市の南に位置する咸簑山、その山頂に程近い鬱蒼と茂る森の中。
滅多に人が立ち入る事のないその森の奥深くに、一軒の家が建っていた。
家と言っても簡易的なもので、ログハウスのように丸太を組んだだけのものである。
アリシアはそんな場所で生活していた。
食料に関しては山や川で採れるため問題ない。
しかし調味料や日用雑貨はそうはいかなかった。
こればっかりは山で採れるわけではないので、街に買いに行くしかない。
夕飯で油と塩を使い切ってしまい、調味料が足りなくなってしまった。
本来ならアリシアに食事は必要ないのだが、万が一人間に見つかった時のカモフラージュにと始めたのだ。
しかしそれにハマってしまい、いつしか料理が日課になっていた。

(これでは料理が出来ませんね…。明日にでも街に降りて買って来なくては)

そう思い、眠りにつく。
眠りの淵で見た夢の中に、巨大な鎌を携えたピエロが現れ、海部ヶ崎の時と同じ台詞を言い放った。
アリシアはその言葉は聞き流していたが、話の途中でピエロが見せたものを見て顔色を変えた。
――そう、魔水晶である。
カノッサ崩壊と共に所在不明となっていた魔水晶。
それが目の前にいる道化の手の中から現れたのだ。
手を伸ばし、掴もうとするもすり抜けた。ピエロは相変わらず喋り続けている。
やがて夢は終わった。起きてみると、そこはいつもの天井だった。

(あれは魔水晶…あの道化は一体…?
 それに今の夢、こちらの行動に対しても反応がありませんでした。
 広域に発信された録画映像のようなもの、と言う事でしょうか?それも異能者限定で…。
 こうしてはいられませんね。情報を集めませんと)

支度をして家を出る。
山を降りるまではオーラを使用し、普通の人間では1時間かかるところを僅か2分程で下る。
街に到着して、ある反応を探す。
以前の戦いの折に海部ヶ崎達に渡した玉の反応である。
あれは微弱なオーラを発しているため、発信機のような役割も果たすのだ。
反応はすぐに見つかった。北の方角に一つと、別の場所に一つ。
アリシアはまず北の方角にあるものに向かった。
人の目のないところを高速で移動していたので、大した時間はかからなかった。
そして発信源――海部ヶ崎を見つけた。
駆け寄って声をかける。
海部ヶ崎は最初驚いていたが、すぐに応じてきた。
街に降りてきた訳を話し、先程自分が見た夢について尋ねる。
すると海部ヶ崎も同じ夢を見たといい、更に夢の中で腕輪まで付けられたという。
腕をまくり、腕輪を見せる海部ヶ崎。しかし自分にその腕輪はない。

「非常に残念ですが、今回はご一緒することが出来ないようですね…。
 こちらの正体を知っていたのでしょうか…?
 勝手で申し訳ないのですが、貴女にお任せするしかないようですね。
 何としても魔水晶を取り返して下さい。あれは人の手に余るものです。
 私はそばで見ていることすら叶いませんが、魔水晶に関して分からないことがあればいつでも連絡して下さい。
 もし貴女達が向かう場所の正確な位置が分かれば、後から応援に行くことも出来るかも知れません。
 その玉は肌身離さず持っていて下さいね」

アリシアは話を終えると海部ヶ崎に別れを告げ、当初の目的だったスーパーへ向かって歩いていった。

【アリシア:海部ヶ崎と同じ夢を見るも、参加資格は得られず。
      海部ヶ崎に接触し、魔水晶を取り返すよう頼む】
120神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/11/07(日) 09:41:10 0
角鵜野市の中心部にあるオフィス街を、一人の少女が歩いていた。
サラリーマンやOLに混ざって歩くその姿は、この場には不釣合いな格好だった。
夕方の帰宅ラッシュ、そのスーツの群れの中で、少女は一際異彩を放っている。
真白い髪に黒いYシャツ、女性の平均を遥かに上回る身長、更には煙草まで吸っている。
明らかに会社員には見えないその少女――神宮 菊乃は人を探していた。
この街で、よく当たると言われている占い師を探す為だ。
しかし早朝から探しているにも拘らず、未だに探し人は見つからない。
その間に消費した煙草は優に二箱を超えていた。
そしてまた一本の煙草を吸い終える。
フィルターギリギリまで吸った煙草を地面に落とし、足で踏み消す。

「占い師とやらは一体何処にいるのかねー…?」

普段であれば菊乃にとって全く縁のない占い師を探しているのには理由があった。
昨晩、奇妙な夢を見た。
いきなりピエロが現れ、"幻影島"なるところで戦わせる為に自分を招待する、と言ってきたのだ。
当然菊乃には何がなんだかさっぱりで、黙ってピエロの話を聞く外なかった。
そしてこれまたいきなり招待状と銘打って強制的に取り付けられた黒い腕輪。
夢の中でつけられたはずなのに、起きてみると現実でも腕輪は自分の腕についていた。
そしてピエロはこうも言っていた。
腕輪を装着してから24時間で幻影島に飛ばされる、と。
その24時間まで残り数時間。
早朝から探しても見つからないので、菊乃は既に諦めかけていた。
今は何となく歩いているついでに占い師を探している、といった感じだった。
そしれ二箱目最後の煙草を取り出し、火をつけて紫煙を吐き出した。


煙草が切れたのでコンビニに寄る。
買い物のついでに件の占い師について店員に聞いてみたところ、ここから程近い場所にいつもいるという。
詳しい場所を聞いて、その場所を目指して歩き出す。
煙草のついでに買ったペットボトル飲料で、歩きながら渇いた喉を潤す。
やがて店員に聞いた場所に着いたが、辺りにそれらしき人影は見当たらない。
それもそのはず、現在の時刻は午後4時30分。
占い師――氷室 霞美――は4時間も前にこの場を去っている。

「ったく、散々探し回った挙句、聞いた場所にはいないときたもんだ。
 一体神様って奴は何してんだろうね。
 幼気(いたいけ)な少女が足を棒にして歩き回ってんだから、ちょっと位おまけしてくれてもいいってもんだろうに」

この場にいない神――いるかどうかも分からないが――に向かって悪態を吐く。
そして暫くその場に立ち尽くし、やがて頭を掻き毟る。

「あーもうどうすりゃいいんだよ全く!
 変な夢見てただでさえ気分悪いのに強制的に腕輪まで付けられて!
 戦って勝ち残れば栄誉と幸福を与えるだぁ?
 ふざけんな!そんなもんで幸せになれるならアタシはとっくに幸せだっつーの!」

回りを気にせず叫んだので、周囲の人間が何事かと振り返る。
しかし菊乃はそんな視線も気にせず、更に喋り続けた。

「ったく、どうしろっつーんだよ…。
 昨日は確か7時頃に寝たから…後2時間半しかねーじゃねーか。
 こりゃお手上げだね…。
 そもそも占い師にどうするか視て貰おうとしたのが間違いだったかねぇ…」

腕輪を空に翳し、虚空を見つめて溜息を吐いた。

【神宮 菊乃:氷室に占ってもらう為、その場所を訪れるも入れ違いに。現在時刻PM4:30】
121名無しになりきれ:2010/11/07(日) 14:48:29 0
募集age
122名無しになりきれ:2010/11/07(日) 21:35:53 0
期待
123鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/08(月) 19:28:59 0
「はぁ…。何なんだろ幻影島って…」
ボサボサの髪に虚ろな瞳、青白い顔といかにも不健康で陰気な感じのする青年、鎌瀬犬斗もまた、ピエロに会っていた
それは昨日の夜のことだった…。寝ている彼の夢の中にピエロが現れ、戦わせる為に幻影島に招待するなどと一方的に説明し、
招待状と称して黒い腕輪を巻き付けたのだ。そして、夢の中で付けられたはずのそれは、何故か現実でも腕にしっかり付いていた
「はぁ…。本当何が目的なんだ…。どうせ僕なんかが戦っても勝てるわけないってのに…」
他人よりも遅い足を、一層重く引きずりながらため息を吐く
「棄権しようかとも思ったけどやり方が分からないし…。腕輪は外れないし…」
なんだかんだであともう数時間しかない。腹を決めるべきなのだろうか
「というか飛ばされてる間学校はどうするんだ…? 僕は健全な生徒だから留年したくないってのに…」
一応学生である犬斗はそれを心配する。何やら背の高い、煙草を吸っている女性が見えるが、まあ僕には関係ないだろう
ぶつぶつとネガティブで暗いオーラを醸し出しながら彼は歩いていた…
【鎌瀬犬斗:神宮菊乃を視界に入れる。現在時刻4:45】
124氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/08(月) 22:54:54 0
午後六時を迎えた角鵜野市──
氷室と海部ヶ崎の二人は、約束通り夕闇迫る湖南の高台にて落ち合っていた。

「準備は整えてきたか?」

訪ねる氷室に海部ヶ崎は小さく頷く。
といっても、海部ヶ崎の格好は黒いタンクトップに同じく黒のショートパンツ、
少々カジュアルなベルトを腰に斜めに巻きつけ、
そこに一本の日本刀を差しているだけの軽装で、他に荷物は見受けられない。
準備を命じた当の氷室に至っては、普段のジャージ姿のままで変わった点は何一つない。
両者ともまるで近くの道場やスポーツジムにでも行くかのような出で立ちだが、
そもそも彼女らにとって準備とは仰々しい荷物を用意することではなく、
精々、愛刀を一本取りに戻るか、自宅でゴロリと横になり仮眠を取る程度のことでしかないのだ。

何故なら、二人は己の体そのものを武器とする異能者だからである。
登山者が背負うような、立ちはだかる困難を乗り切る為の大げさな荷物は、
元より必要はないというわけだ。

「出発前にこれだけは渡しておく」

それでも、氷室にも一つくらいは事前に用意してきた物があったようで、
彼女はゴソっとポケットの中を弄ると、やがて小型の黒いチップのようなものを海部ヶ崎に投げ渡した。

「これは?」
「それを襟元にでも胸にでもつけときな。単純な無線になる。
 向こうへ着いたら恐らく互いに単独行動をとることになるだろうが、
 そうなると、いずれ連絡の手段に苦慮することになる。
 まさか地図にも載ってないような島で携帯電話が使えるとも思えないしな」
「そうか……私達に念話が使えるわけではないからな。
 互いにオーラを探り合って定期的に落ち合うにしても、それでは効率が悪いし……」
「それも感知したオーラを識別できるだけの技量があっての話だ。
 500人の中から特定人物を探し出せる程の卓越した感知能力はまだないだろ? 互いにな。
 だからわざわざ作ってきてやったんだよ。
 もっとも、幻影島とやらが、電波や通信の一切を遮断するようなところだったら無意味だけどな。
 まぁ……それでも何の手も講じないでおくよりはマシだろう」

納得するように小さく何度も頷きながら海部ヶ崎が胸にチップをつける。
それを見届けて、氷室がジャージの襟を広げる。そこには既に同じチップがつけられていた。

「何か手掛かりが……そう、ピエロや事を仕組んだ黒幕について何か判ったことがあったら、
 チップについてる電源ボタンを押して話しかけな。声が私に繋がる」
「会話する時は押せばいいんだな。わかった。
 ……そうだ、最後に一ついいか? 黒幕を引きずり出して倒した後……魔水晶はどうするんだ?」

その問いに、氷室は広げていた襟を戻し、今度は右腕の裾を捲くり腕輪を出しながら答えた。

「圧倒的なパワーを秘めているとはいえあくまで封印されている状態だ。
 常人が手にしたところで何を起こすこともできないだろうが、
 かといってどこかに野ざらしにするわけにもいかないからな。
 破壊するか、それができなければ、人の手の及ばない海の底深くに沈めるか……。
 いずれにせよ、当面は魔水晶をどうするかより、黒幕をどう引きずり出すかを考えるのが先決だ」
「わかっている。言われるまでもない」
「ならいい。……さて、お喋りもここまでにしておこうか」

腕輪中央の赤いボタンに指をかける氷室に応えるように、
海部ヶ崎もまた自らの腕輪のボタンに指をかける。
二人がボタンを押し、その姿を角鵜野市から消したのは、午後六時十分丁度のことであった。
125氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/08(月) 22:57:40 0
「……ここが幻影島か……」
氷室は辺りを見回して、思わず「ふぅ」と溜息をついていた。
海部ヶ崎とは別々の場所に瞬間移動したのか近くに彼女の姿はない。
代わりに目に付くのは鬱蒼とした木々と草ばかり、鼻を突くのは湿気が混じった木々と草のニオイだけ。
野鳥や虫がうるさいほどに鳴いているが、人の声や気配は一切しない。
紛れも無く、ここは島のどこかにあるであろう森林地帯のど真ん中であった。

「あいつと別々の場所に飛ばされることは予想していたことだったが……
 それにしても、やれやれ……もうちょっと洒落た場所に出たかったね」
肩をすくめて思わず笑止顔の氷室。
そこに、突如として野鳥や虫とは違う機械的な音が「ピーピー」と鳴り響く。
氷室は音の出所には直ぐに気がついた。腕輪が鳴っていたのだ。
「……?」
何かと腕輪に視線を向けた時、これまでの機械音とは違う明らかな人の声がその腕輪から発せられた。

「異能者466番──ようこそ幻影島へ。私の名は『ワイズマン』。この島の主である──」
その声はピエロのように性別すら定かではない変声機を使ったようなものではなく、
生々しいほどに低く野太い、直ぐに男のものであるとわかる声であった。
(『ワイズマン』……? こいつがピエロの言っていた主人か?)

恐らく、島に飛ぶと腕輪に録音されていた声が自動で再生されるようになっているのだろう、
こちらの反応にかかわりなく、ワイズマンと名乗る男の声はただ一方的に要件だけを告げる。

「君たちをここに呼んだ理由は既に承知していることと思う。
 故に、早速だが闘いのルールを説明しよう。

 一つ目、バトルは今夜の午前0時をもって開始とし、それまでは一切の戦闘を禁ずるものとする。
 二つ目、闘いの方式は“バトルロイヤル”。バトルは、君たち異能者が最後の一人になるまで続けられる。
 
 以上の二つがルールである。
 二つ目のルールにあるように、バトルは君たちの中から勝ち残った一人が決まるまで続く。
 従って何日か、あるいは何週間かの長期戦を覚悟してもらうことになる……が、案ずることはない。
 この島には1万人が1ヶ月暮らしていけるだけの新鮮な食料が蓄えられている。
 島のあちこちに放棄された家屋を調べてみるといい。君たちが飢えないほどの食料が見つかるはずだ。
 
 次に、注意点を二つ。
 賢明な君たちなら既に察している事と思うが、一応、説明しておこう。

 一つは闘いが終わるまでは誰一人としてこの島を抜け出すことはできないということ。
 この島は私のオーラが作り出した、円形の防御膜(バリアー)に包まれている。
 私の許可なしには誰もこの島に立ち入ることはできない。
 それと同じく、私の許可なしにこの島から抜け出すこともまたできないのだ。
 
 そしてもう一つは、私の正体を探ろうとしたり、逆らおうなどと妙な気を起こさないこと……。
 ルールに反したり私への反逆を露にした者には容赦なく“死”を与えるであろう。
 決して逃れることなどできない、完全なる死を……。

 さて、理解していただけたかな?
 それでは、君たちの健闘を祈る……。ククククク……存分に殺し合ってくれたまえ」

「ブツ」──という音と共に、腕輪からの声が切れる。
(フッ、逆らった死か。ま……そんなこったろうとは思ったけど)
思う氷室の周囲に、また声が響いたのはその直後だった。
だが、今度のそれはワイズマンのものとは違う、女性のもの。

「私だ。氷室、今どこにいるんだ?」
声の主は海部ヶ崎であった。
126氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/08(月) 23:05:10 0
襟元につけられたチップに向かって氷室は口を開く。
「森の中だ。島のどこに位置するかはわからない」

「私はどうやら山の頂上にいるらしい。太陽の方角から見て、恐らく島の北だと思う。
 今夜0時にバトルロイヤルを開始すると言っていたから、島を探索するのも今の内だな」
「……あまり活発に動き回らない方がいいかもな。
 感じるだろ? 私らの他に、でかいオーラを持つ奴が既に何人かいる。
 中にはやたら攻撃的なのもいる。もし目をつけられたら厄介だ」
「……そういえば大きなオーラが多いな。彼らも巻き込まれた側だ。戦闘は極力避けたい」

その点には氷室も同感であった。
彼らを倒す自信がないわけではない。むしろ誰でも倒せるという自信すらあったろう。
だが、倒すべきは彼らではなくワイズマンなのである。
故に無意味な戦闘は避けておくことに越したことはないのだ。

「まぁ、必要以上に消極的になる必要もまた無い。自由にすればいい。
 私は開始までオーラを抑えてこの場に留まる。体力をあまり消費したくないからな」
「わかった。では、私はしばらく注意して探索をしてみよう。
 何かわかったことがあったらまた連絡する」

そう言って、海部ヶ崎は通信を切った。
再び氷室の周りが小動物の鳴き声に包まれる。

氷室は上を見上げると、強く地を蹴った。
たった一蹴りで十メートルほどの高さまで氷室の体が舞い上がる。
そして滑らかな動きで大木の太い枝に足を降ろした彼女は、
そのまま腰を下ろし、枝の上に足を伸ばして幹に寄りかかる格好で腕を組んだ。

「探索はお前に任せる。私は休める時に休んでおくさ」

ぽつりと独りごちながら氷室は目を閉じ、やがて意識をも閉じていった……。

【氷室 霞美:島の南東の森林地帯で仮眠を取る。現時刻PM6:30】
【海部ヶ崎 綺咲:同時刻、島の北の山で探索を開始する】
【敵のボスの名は『ワイズマン』と判明。】
【幻影島:島の大きさは角鵜野市のおよそ1.5倍ほど。
      中央に市街地、南東に森林地帯、中央から北にかけてに田園地帯、北東と南西に山林地帯がある。
      島には多くの建物や施設があるが、その悉くは放棄されてからかなりの年月が経ったような廃墟。
      ただし、建物では水も使え、大量の食料が備蓄されていたりするので食事には不自由しない。
      ※まとめサイトに島の地図をアップしておきました。参考までにどうぞ。】
127神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/11/09(火) 00:14:48 0
「チッ、もう余り時間がないな…。
 いっその事、少しでも早めに行って島の様子でも確認しておくか…?」

菊乃は占い師のことは諦め、市街地の外れにある廃ビルの屋上にいた。
現在の時刻は午後6時30分。島に転移するまで残り30分程だった。
先程のコンビニに再度立ち寄り、おにぎりとお茶を購入、早めの夕食を摂っていた。

「このまま待ってもどのみち島に飛ばされるだけ…。
 どうせ行くならこっちから乗り込んでやるくらいの気概は見せてやるか」

再度腕輪を見て、中央の赤いボタンを確認する。

「確かこいつを押せばいいんだよな。
 しかし島か…。人が住んでる…訳はないよなぁ。
 食料とかはどうすんのかね…?自分で取れってか?」

島に着いてからの事を軽く考える菊乃。
もとより放浪者である彼女は、野宿なども慣れていたためそれでも良かった。

「…あれこれ考えても仕方ないか。うーん、っと。さって、行きますか!」

一つ大きく伸びをして、目を閉じて腕輪のボタンを押す。
そして神宮 菊乃は角鵜野市から姿を消した。

「ここは…?もう幻影島とやらに着いたのか?」

目を閉じていた一瞬の間に周囲の景色は一変していた。
そこは今までいたビルの屋上ではなく、朽ち果てた建物の中だった。
正面には沢山の壊れかけた長椅子が規則正しく並んでいる。
背後には腰から下がなくなったマリア像と、割れたステンドグラスが見える。

「どうやらここは教会のようだね…。人は…いないみたいだな。
 しかしどんだけ放置されてたのかね?ひどい荒れようだ。
 ま、建物としてはまだ使えそうだし、暫く拠点にさせてもらおうかね」

そう言うと、手近な長椅子にゴロリと横になり、天井を仰ぎ見た。
この角度ならば、背もたれのお陰で入り口から菊乃の姿は見えない。

「これからどうなんのかね。島に何人いるのかも分かんねーし…。
 とりあえず今の内に休んでおくかね…」

目を閉じて眠ろうとした瞬間、腕輪から機械音が鳴った。

「あん?アラームか何かか?」

訝しげに腕輪を見た瞬間、その腕輪から声がした。

「異能者97番──ようこそ幻影島へ。私の名は『ワイズマン』。この島の主である──」
128神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/11/09(火) 00:15:40 0
(『ワイズマン』…こいつがピエロの言ってたご主人様とやらか?)

明らかにピエロの機械音声とは違うれっきとした人間の声に、ピエロの言葉を思い出す。

「おい、お前は何モンだ。何でこんなことをさせる?」

呼びかけてみたが、返ってきたのはこちらの質問の答えではなかった。

「君たちをここに呼んだ理由は既に承知していることと思う。
 故に、早速だが闘いのルールを説明しよう。

 一つ目、バトルは今夜の午前0時をもって開始とし、それまでは一切の戦闘を禁ずるものとする。
 二つ目、闘いの方式は“バトルロイヤル”。バトルは、君たち異能者が最後の一人になるまで続けられる。
 
 以上の二つがルールである。
 二つ目のルールにあるように、バトルは君たちの中から勝ち残った一人が決まるまで続く。
 従って何日か、あるいは何週間かの長期戦を覚悟してもらうことになる……が、案ずることはない。
 この島には1万人が1ヶ月暮らしていけるだけの新鮮な食料が蓄えられている。
 島のあちこちに放棄された家屋を調べてみるといい。君たちが飢えないほどの食料が見つかるはずだ。
 
 次に、注意点を二つ。
 賢明な君たちなら既に察している事と思うが、一応、説明しておこう。

 一つは闘いが終わるまでは誰一人としてこの島を抜け出すことはできないということ。
 この島は私のオーラが作り出した、円形の防御膜(バリアー)に包まれている。
 私の許可なしには誰もこの島に立ち入ることはできない。
 それと同じく、私の許可なしにこの島から抜け出すこともまたできないのだ。
 
 そしてもう一つは、私の正体を探ろうとしたり、逆らおうなどと妙な気を起こさないこと……。
 ルールに反したり私への反逆を露にした者には容赦なく“死”を与えるであろう。
 決して逃れることなどできない、完全なる死を……。

 さて、理解していただけたかな?
 それでは、君たちの健闘を祈る……。ククククク……存分に殺し合ってくれたまえ」

一方的にそれだけ告げると、通信は切れた。
どうやら島に着いた瞬間に自動再生されるだけの音声のようだ。

(映像じゃないから姿は見えなかった。
 と言うことはピエロ=ワイズマンと言う線はまだ捨てきれないか。
 …とりあえず食料と水を探すか)

教会の中を探索する。
すると、奥の小部屋の中にペットボトルの水と袋につめられた食料があった。

「これだけありゃ当面飢え死にすることはないな。それにしても気前がいいねえ、ワイズマンとやらは。
 そんなにアタシらに殺し合いをさせたいのかねえ…?そんなことしてあいつは何か得があるのか?
 目的がはっきりしねえな。…ま、そのうち分かるか」

先程の長椅子に横になり、今度こそ眠る為に目を閉じる。
開始時刻までまだ少し余裕がある。今の内に体力は蓄えておくに越した事はない。

「そういや結構でかい反応がいくつかあったけど、そいつらで潰し合ってくれねえかな…?
 自分でやるのは目立つし面倒くさいから出来れば避けたいな…」

目を閉じて呟く菊乃。その呟きはやがて静かな寝息に変わった――。

【神宮 菊乃:島の西にある教会にて仮眠中。現在時刻PM7:00】
129氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/11(木) 01:36:53 0
ゴロゴロゴロ……。
突然、空があげた低い呻り声に、氷室は起こされた。
目を開ければそこは既に太陽の光などない漆黒の闇夜。
月すらも闇に等しい暗さを持った黒雲に覆われ、その輝きを視認することはできない。

ふと腕時計に目をやる。時間は午後11時58分。
バトルロイヤルの開始まで残り2分にまで迫っていた。
「いい目覚ましだ。どんな寝ぼすけでも時間内に起こせる。ワイズマンが気を利かせたのかな」
氷室が軽くあくびをしながら体を起こしかけると、
そこに、まるでタイミングを計ったように海部ヶ崎の声が届く。

「聞こえるか氷室? お前の方で何かわかったことはあるか?」
「いや、何もない。そっちこそ何か手掛かりのようなものはあったのか?」
「いや……。だが、島を少し歩いてみて、湖とどうやら街があることがわかった。
 湖は西に、街は島の中心から南にかけて広がっている。
 私は今、湖近くの廃校にいるが、ここから見た限りではやはり街も無人のようだ。
 一体いつから放置されているのかどの建物もボロボロだ」
「西に湖、中央から南にかけてゴーストタウンか……そうか、わかった」
「っと……そろそろバトルの開始時刻だ。お前も何かわかったら連絡してくれ。それでは」

会話が切れると同時に、氷室は広げた襟を戻し、立ち上がって枝の上に直立する。
何とはなしに天を見上げると、その鼻筋にポツリと一滴の雫が落ちた。
ポツン、ポツン。落ちてくる雫は次第に数を増やし、瞬く間に本格的な雨となって全身を叩いた。

「異能者諸君、いよいよ待ちに待ったバトルの開始だ」

腕輪からワイズマンの声が再生される。
まるで、雨が闘いの狼煙代わりとでも言うかのように。
「目覚めにはシャワーってことかい。とことん気が利くじゃないか」
氷室は、雨で乱れた髪をかきあげながら恨めしそうにはき捨てると、
やがて果てしなく続く森林の先を見据え、枝を蹴った。

遥か先の木の枝に飛び移り、また間髪入れずに別の木へと飛び移っていく。
あたかも空を翔るようなその様は、闇夜を飛翔する梟のようにも見えた。

「何を探るにしてもとにかくここを抜けなければ話にならないからな。
 しかし、自分が島のどの方角にいるかもわからないとは……
 せめてコンパスでも用意しておくんだったよ」
舌打ち代わりというように指をパチンと鳴らして、氷室は森林の奥深くへと突き進んでいった。


……しばらく森を行くと、ふと何かが視界を横切った気がした。
飛び移った枝の上で一旦足を止め、その方向を見る。
周りは暗闇、しかも雨のせいもあって初めは黒い何かにしか見えなかったが、
そのうち、雷鳴と共に空に瞬いた稲光がその正体をはっきりと映し出した。

「鳥居か……?」
氷室の目に映ったのは黒い鳥居であった。
果てしなく木々の絨毯が続く中で、その一角だけぽつんと鳥居が佇んでいるのだ。
無視してもよかった。しかし、何か手掛かりがあるかもしれないという思いにとらわれた氷室は、
結局、一旦進路を変更してそこに向かうことにするのだった。
130氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/11(木) 01:50:37 0
間近で見た鳥居はかなり苔むしていた。
手入れがされなくなってかなりの年月が経っているようだが、
どうやら、それは何も鳥居だけに言えることではないようである。

苔むした鳥居を抜けると、同じく苔むした石畳が一直線に続き、その先に建物があった。
それはどうやら神社であるらしいのだが、鳥居と同じように長年放置されたものであるようで、
苔むすどころかボロボロに朽ちているのだ。
「……南之西神社……?」
神社の境内とおぼしきところに掲げられた看板には、薄れかかった字でそう書いてあった。
南之西……それはつまり、南西に建てられた神社ということなのだろうか。
そう単純に解釈しながら、氷室はずかずかと境内に上がり込み、戸を引っぺがして中を見る。

……中はゴミやら土やらが散乱しているだけで、手掛かりのようなものは何もなかった。
それどころか建物にはあるはずの食料すら見あたらないではないか。
「チッ、骨折り損じゃないか」
今度こそ舌打ちし、もうここには用はないというようにくるりと踵を返す。
だがその時……
氷室は「ベチャベチャ」という何かを嘗め回すような耳障りな音に気付き、進めかけた足を止めた。

視線をその方向に移すと、暗闇の中で黒い物体が蠢いている……。狸か何かだろうか?
いや、じっと目をこらすと、どうやらそれよりも大きい何かが、何かを貪っているようである。
「……」
「ドン!」と氷室が床を踏み叩く。
すると、その黒い何かはピタリと動きを止め、やがてゆっくりと腰を上げた。
その大きさは高さにして1m90cmはあるだろうか。
直立できる点から見て少なくとも熊のような哺乳動物には違いない。
だが、直後に瞬いた稲光が、それが熊ではないことを氷室に知らしめた。

ガラガラガラ……ドーン!
雷鳴が轟き、稲光が建物の中に差し込む。
「────」
その瞬間、氷室は見た。光に照らされた黒い動物の正体を。
それは“人間”──。口の周りに食料のカスと涎をくっつけ、
瞳孔が開いたような不気味な眼差しをした長身のスキンヘッドの男だったのだ。
この島にいるということは異能者に違いない。
しかし、男の死んだような目つきと、知性の欠片すら感じさせない動物のような気配は何だ。
見れば、男の周りには食料が細切れになって散乱している。
恐らく、この建物に用意されていた食料を無造作に食い漁ったのだろう……
それこそ熊や狸のような野生の動物の如く。

「……」
異常な光景に流石の氷室も咄嗟に言葉を失う。
「ぐじゅるるるる」
そんな氷室に、男は不気味に咽を鳴らしながら……突然、飛び掛った。
「──!」
氷室は思わず我が目を疑った。
いつの間にか男が至近距離にまで到達し拳を振り下ろしていたのだ。
咄嗟に腕で拳をガードする氷室。
しかし、男の拳撃はそのガードごと彼女の体を吹き飛ばし、背後の壁を貫いて外に放り出した。

「チッ!」
空中で体勢を変えて石畳に着地し、背後を数メートル滑って鳥居の前で何とか止まる。
「ぐげ、げげげ」
男は蛙のような声を発しながら笑っていた。

「なんだ……こいつは」
氷室はビリビリとしびれる腕を抑えて、
視線の先で佇む得体の知れない“生物”を見据えた。

【氷室 霞美:南西の神社にて謎の男と戦闘に。現時刻AM12:05分。『一日目』開始】
131神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/11/11(木) 19:23:20 0
近くで見ると、意外と小さいことが分かる。
どうやらここもあの教会と同じく、長いこと放置されていたようだ。
いたる所が壊れている。

「さって、まずは軽く挨拶かな?『重力増加(グラビテーション・プラス)』」

廃校の外壁に触れて呟く。
すると廃校の中から何かが落ちるような音が連続して聞こえる。
重力を操作し、廃校の中の重力を5倍にしたのだ。
そのため、水銀灯などの重いものは耐え切れずに落下しているのだろう。

「さ、とりあえず行きますか。人間だといいけどなぁ…」

一人ごちて、廃校に足を踏み入れる。
外観同様、中もひどい荒れようだった。
窓ガラスは割れ、壊れた椅子や机などが散乱している。
132 ◆21WYn6V/bk :2010/11/11(木) 19:24:39 0
書きかけで投下してしまいました。無視してください
133神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/11/11(木) 19:49:02 0
暗い教会の中で菊乃は目を覚ました。外からは雨音が聞こえてくる。

「雨、か。これも演出なのかね…。おっと、今何時だ?」

右腕に内蔵されている時計を確認する。

「ありゃ、寝過ごした。0時過ぎてんじゃん…。
 てことはもう始まってんのか?」

一先ず腹ごしらえを優先する。
流石に教会だけあって、食糧の備蓄はかなり多い。
――とは言っても他の建物を見たわけではないので比較のしようがないが。
火を熾して暖を取る。そのついでに干し肉を軽く炙る。

「ん…まぁ味はそこそこ、だな。保存食みたいなもんだから期待するのもどうかと思うし…。
 及第点ってやつだな。とりあえず量はあるんだ。誰か来ない限りは大丈夫だろ。
 万が一来ても移動すりゃいいだけの話だしな」

食事を終え、教会の外に出る。
中で聞いた音の通り激しい雨が降っていた。

「おー降ってるなぁ。ま、移動にはもってこいだな。
 こんだけ降ってりゃ雨音が足音を消してくれる。
 んじゃあ行きますか…よっこらせっ、と」

垂直跳びの要領で跳躍する。その高さは凡そ20m程。
常人ではありえない数値だが、重力を操る菊乃にとっては造作もなかった。
一瞬の内に一通り見回して着地する。

「んー、結構やってるやつが多いなぁ。迂闊に動かない方がいいか?
 …いや、一先ずまともな人間を探すか。
 アタシが97って事は少なくとも100人以上はいる筈だよな。下手したらもっとか…?」

呟きながら北西に向けて走り出す。
やはりその速度は一般の域を遥かに超えている。
しかも重力操作で自身を軽くしている為、殆ど無音に近い状態で走っている。
走りながら左目に内蔵されたサーモセンサーで周囲を探る。

「異常なし、と。意外と会わないもんだなぁ。もう少し移動してみるか」

やがて湖に差し掛かり、それを横目に見ながら湖畔を走る。

「しかし本当に100人もいるのかね…?ちょっと怪しくなってきたな。
 もしくはこの島が異常に広いとか――」

言葉を途中で切って立ち止まる。サーモセンサーに反応があったのだ。
どうやら反応の主は正面に見える建物――学校に見える――にいるようだ。

「ようやくお出ましかい。まともな奴だといいんだけどねえ。
 いきなり襲い掛かってきたら…とりあえず殴るか」

小さく呟いて、建物に向かって歩き出した――
134神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/11/11(木) 19:55:22 0
近くで見ると意外と小さいことが分かる。
どうやらここもあの教会と同じく、長いこと放置されていたようだ。
いたる所が壊れている。

「さって、まずは軽く挨拶かな?『重力増加(グラビテーション・プラス)』」

廃校の外壁に触れて呟く。
すると廃校の中から何かが落ちるような音が連続して聞こえる。
重力を操作し、廃校の中の重力を5倍にしたのだ。
そのため、水銀灯などの重いものは耐え切れずに落下しているのだろう。

「さ、とりあえず行きますか。人間だといいけどなぁ…」

一人ごちて、廃校に足を踏み入れる。
外観同様、中もひどい荒れようだった。
窓ガラスは割れ、壊れた椅子や机などが散乱している。
もっとも、散乱しているものの半分は今の技のせいでもあるのだが。

「さて、どこにいるのかねえ…」

暫く歩き回ったが、それらしい影は見えない。
それどころか、人の気配すら感じない。

「あ、さっきので動けなくなってるのかも。もっかい見てみるかな」

再びサーモセンサーを起動する。すると、僅かだが反応があった。

「お、みっけ。やっぱり動いてないところを見ると動けないか、待ち伏せか…。
 取り敢えず行ってみっか」

反応に向かって歩き出す。そして一つの教室の前にやってきた。

「ここか。んじゃ――」

壊れかけのドアに手をかけ、一気にスライドさせる。
するとガタンッ、という音と共にドアは外れ、次いでバターンという音を立てて勢い良く倒れた。

「ありゃ、壊しちゃったよ。ま、いっか。どうせ使ってないんだし」

壊れたドアの事は気にせず、教室内へ足を踏み入れる。

「頼もー!」

勢い良く一歩を踏み出した瞬間、左から何かが迫ってきた。
それが何かを確認する前に、菊乃は体を前に投げ出した。
その際、背中を斬られていたが、痛覚のない菊乃が気がつくことはなかった。
前転し、体の向きを変えて入り口の方を見る。
そこには刀を構えた人間が立っていた。暗いので顔が見えず、性別までは分からない。

「誰だ」

目の前の人物が問うてきた。声色から察するにどうやら女のようだ。
刀をこちらに向け、戦闘の意思を見せている。
煙草を取り出し、火をつけてからその人物に向かって声をかけた。

「あー取り敢えず待ってくれねえか?話し合いの余地があるならそうしたいんだが…。
 アタシは神宮 菊乃。こっちに戦闘の意思はねえよ。
 あー、さっきのはすまんかった。誰だかわかんねえから取り敢えず能力使っただけだ」

【神宮 菊乃:北西の廃校にて海部ヶ崎と接触。現在時刻AM12:30】
135氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/13(土) 01:08:55 0
「げげ、げへぇぇえええええっ!!」
不気味に呻り声をあげて男は滑空するように石畳を滑る。
速い──しかし、一度そのスピード見た氷室には、今度はしっかりと動きが見えていた。

「フン……」
向かってくる男に怯むことなく堂々と仁王立ちし、体中にオーラを展開する。
そして、眼前にまで迫った男が繰り出しだ拳を、
足首一つ捻るだけの最小限の流れるような動作で綺麗にかわし、
その際にカウンターの膝蹴りを隙だらけの男の腹目掛けて放った。

「げっげげげ」
しかし、男はそれをまるで読んでいたかのようにくるりと宙に舞ってかわすと、
着地した位置からすかさず再度加速をかけて氷室の側背に突っ込んだ。
氷室も瞬時に向き直り、男の猛烈な攻勢に対処する。
(柔らかい動きだ。戦闘慣れしているな。だが──)
力任せの、それでいて速く正確な拳撃の嵐を柳のような柔軟な手首で流しつつ、
刹那に生まれる隙を見逃さず今度は正確に体に叩き込んでいく。

ドンッ! ドンッ! ドンッ!
素早く重いボディブローが音を立ててヒットする。
並の異能者であれば間違いなくノックアウトされるだけの威力があるだろう。
しかし、男はまるで蚊が止まっているとでもいうかのように、表情一つ変えない。
そればかりか胸元に飛び込んでいた氷室に逆にカウンターを放っていた。

氷室の首筋に向けて手刀が迫る。
死角である背後からの反撃──氷室は一瞬の気配から背後の手刀に気付き、
瞬時に横にステップしたが、反応の僅かな遅れから完全な回避には至らなかった。
右の頬が裂かれ細かな血の飛沫があがる。
「──!」
頬から出る血に一瞬視線を向けて、氷室は直ぐにその逆方向に写った残像に目を向けなおした。
ステップした方向から手刀が近付いてきている。
男は氷室がかわしたとみるや、すぐさま再度の追撃の一手を打っていたのだ。
「チッ!」
もはやかわせるタイミングにはない。
そう判断した氷室は、フリーの足を振り上げて力強く男の胸を蹴り、
その反動で自身を後方に突き放して手刀の軌道から何とか離れた。

空中でくるんと一回転して着地し、キッと男を見る。
「げっげっげ」
涎を垂らしながら不気味に愉悦する男。
本来なら肋骨が砕けていても不思議はないほどの蹴りなのだが、
表情からはまるでダメージを感じさせない。

(まるで分厚いゴムを殴ったような感触だった……体が相当に鍛えられていることは間違いない)
手足の感触からそう分析しながらも、氷室は異常とも思えるタフさを妙に感じていた。
(しかし、それだけではあれだけの衝撃は完全に防げないはずだ。
 にも拘らず、奴は平然としている……。まさか……痛みを感じていないのか……?)

「……お前、何者だ?」
すっくと立ち上がり脅すような声色で訊ねる。
「げげ、げっげ」
だが、男は笑うばかりで答えようとしない。
あるいは、答えられないのかもしれない……。
言葉を理解していないのか、先程から男の言動は何かに憑り依かれたようなそれであるのだ。

「聞く耳もたず……あるいは、理解できる脳もないということか……。
 話し合いで済むならと思ったが、それもできないとあらば仕方ないな」
溜息まじりに呟き、ふっと目を瞑る。
そして、彼女が再び目を開いた時、まるで物理的なプレッシャーが生じたように周囲の木々が慄いた。
136氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/13(土) 01:20:11 0
「死んでもらうよ」
冷たささえ感じられる声で言い放つ氷室の目は、
これまで若干の丸みを帯びていたものから、鋭く尖った冷血なものへと変わっていた。
何人もの異能者を平然と屠ってきた、カノッサ時代のそれへと……。

「ぎっ、ぎぎぎ……ぎぃぃぃいいいイイイイイっ!!」
それに触発されたように寄声を発して男が飛び掛る。
だが、今度の氷室は“受け”に回ることはなかった。
自分も地を蹴り、自ら男の間合いへと飛び込んだのだ。
「ぎぃぃいいいっ!!」
男が向かってくる氷室目掛けて両拳を力任せに振り下ろす。
それを、一瞬男が硬直したかのように見えるほどの素早い動作でかわして、懐に潜り込む。
次の瞬間──振り続ける雨が一瞬大きく弾けるほどの衝撃が周囲に走った。

突っ込んだ勢いのままに放たれた氷室の肘鉄が、
それも今度は正真正銘の本気の一撃が、男の胸の中心部に炸裂したのだ。
その衝撃は男を背後に吹っ飛ばして鳥居に叩きつけ、
尚且つ、石でできた頑丈なその柱を「ガラガラ」と崩壊させるほどだ。
それでも、男は破片の山の中から、やがてむくりと体を起こした。

(今度こそ肋骨を砕いたはずなのにまだ立ち上がれるのか……やはり痛みを感じていない。
 ……けど、ダメージはどうかな?)
「フン」と鼻を鳴らすと、やがて予想通りに、男は大量の血反吐を吐き出してみせた。
「げへっ……ええぇぇっ!!?」

「痛みを感じていなくても体の方は正直ということさ。
 肋骨を砕き、内臓にまでダメージを与えたんだ。悲鳴をあげて当然だ」
言いながら、氷室は呆れたように息を吐いた。
……笑っている。血を吐きながらも彼は愉悦の表情を保っているのだ。
「げっ、げへへへへ」
「お前は、そのことには死ぬまで気付きそうにないな。いや……死さえも気付かないかもな」
「げひゃぁぁぁあああああっ!!」
またも寄生を発して飛び掛ってくる男を、氷室は再度仁王立ちして迎えると、
直線上の攻撃を軽くかわしながら踏み込んできた右足を踏み付け動きを固定し、
ボディーにまたも鋭い肘鉄を一撃──かつ、鋭く振り下ろした拳をもって右膝を粉砕した。

「鍛え上げられた肉体、柔軟な動き、並の異能者以上のスピードとタフさ、それと根性。
 それは褒めてやるよ。けど、少しばかり頭の回転が足らなかったな。
 ──そう何度もワンパターンが通用するか。お前如き、能力を使うまでもない」
そう言い放ちながら、ヒュッとジャンプし数メートルの間合いを取る。
男は氷室の移動位置を視認すると、相も変わらずの不気味な笑みを続けて歩み出した。
膝を砕かれているにもかかわらず、足を引きずる動作もなく、自然な歩調で。

「やれやれ……これだけ狂(イカレ)ている奴も初めてだ。
 お前を殺すには、首を折るか飛ばすしかなさそうだな。……次で終わらせるよ」
氷室を取り巻くオーラが一層充実する。
「ぎ、ぎぎぎぎ、ぎひひへへへへへ」
それを見て、男は血で真っ赤に染まった口をガバッと開けて、不気味な声を漏らした

【氷室 霞美:右の頬に切り傷を負うが、戦闘は優勢。】
137鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/13(土) 14:55:38 0
「はぁ…どうしてこんなことに…。どうせ僕なんて一回戦敗退だってのに」
鎌瀬犬斗は島をとぼとぼ歩いていた
「もうバトルの始まる0時を過ぎてるし…。まぁ、まだ誰とも会ってないだけ幸せか…」
ため息を吐きながらネガティブなことを呟く犬斗
「とりあえず島の探索しよう…。コンパスと携帯GPSはっと…あった」
食事を済ませて病院から出て、コンパスとGPSで島の探索をする
「結構建物多いな…。北東に洞窟か…。どうせ僕が行っても即死だろうけど…」
【鎌瀬犬斗:病院の周りを探索中】
138海部ヶ崎 綺咲:2010/11/13(土) 23:46:05 0
>>134
「誰だ」

開かれたドアから現れる何者かを背後から斬りつけた後、
すかさず朱に染まった切っ先を向けて殺気の篭った声を放つ海部ヶ崎。

「あー取り敢えず待ってくれねえか?話し合いの余地があるならそうしたいんだが…。
 アタシは神宮 菊乃。こっちに戦闘の意思はねえよ。
 あー、さっきのはすまんかった。誰だかわかんねえから取り敢えず能力使っただけだ」

その何者かはくるりと振り返って答えた。
老婆のような白髪をしているが、その顔つきや体つきはまだ若い女のそれである。
確かにギャップを感じる風貌ではある。
しかし、海部ヶ崎にはそのこと以上に、怪訝に思うことがあった。

それは背中を斬りつけられたにも拘わらず、まるで意に介す様子がないということである。
痛みに耐えて平然とできる者なら何人といよう。
しかし、痛みに耐えるその“気”すら感じさせないのは、どう考えても妙なのだ。
(……いや、今はそれはいい。問題はこの者の言が真か否かだ)
刀をヒュッと横に振って刃に滴る血を振り払い、海部ヶ崎は口を開く。

「フッ、順序が逆だな。仕掛けてきたのはお前の方だ。
 対話を求めるのであれば、まずは私に仕掛けた“術”を解いてからだろう」

顔にこそ出していないが、海部ヶ崎は先程から体にズシリと圧し掛かるように重みを感じていた。
動けないほどのものではないが、それでも一挙一動における疲労は普段とは比べ物にならない。
彼女が異能者でなければ、とっくに体にまとわりつく重みに耐え切れず、潰れていることだろう。

「私が刀を納めるのはその後だ。さぁ、返答は如何に?」

外で瞬く稲光を映して、銀色の切っ先が妖しく光った……。

【海部ヶ崎 綺咲:術を解けと要求】
139神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/11/14(日) 12:33:09 0
>>138
「フッ、順序が逆だな。仕掛けてきたのはお前の方だ。
 対話を求めるのであれば、まずは私に仕掛けた“術”を解いてからだろう」

「私が刀を納めるのはその後だ。さぁ、返答は如何に?」

こちらの自己紹介に対し、斬りかかってきた人物はそう答えた。
外で光った雷光に反射して、相手の得物が露になる。

(成程、刀、か。右からくれば防げたんだけどな。
 しっかしまぁ5倍の重力であれだけの斬撃を繰り出すとは…。
 並の異能者なら歩くのがやっとのはずなんだけどねぇ。
 こいつも結構な使い手ってことか)

そんな事を考えていた時、相手の刀から血が飛んだことに気がついた。
飛んだ、と言うことはまだ真新しい証拠だ。

(あ、もしかしてアタシ斬られた?)

自分の体を確認する。

(見えるところにないって事は背中か…。また包帯巻くのかよ…めんどくせぇな…。
 しかし、今は取り敢えず相手を納得させるのが先か)

「そうだな。口だけで信じてもらおうとは思っちゃいないよ」

そう言うと、指をパチンッ、と鳴らした。
すると廃校全体にかかっていた重力が元に戻った。

「これでいいだろ?それにあんたを殺るつもりならもっと重力を上げてるよ」

そう説明し、煙草を足で踏み消す。

「んじゃ、改めて自己紹介。
 アタシは神宮 菊乃。こう見えても16だ。学校は行ってねえけどな。
 仲間はいない、って言うか島に来て最初に会った人間があんただ。あんたは?」

海部ヶ崎に自己紹介を促し、それを聞く。
名前、歳、職業、仲間の有無…。しかしその中である単語を聞いた時、菊乃の表情が変わった。

「ひむ…ろ…?まさかあんた氷室 霞美の仲間だって言うのかい?
 はっ、こんなところで"あの"カノッサの人間に出会うとはね…。
 神様って奴は本当に粋な計らいをしてくれるもんだね」

口調とは裏腹に全くの無表情で話す菊乃。そしてオーラを充実させていく。

「どうやらあんたとは相容れないようだ。悪いがここで潰させてもら――」

そう言いかけた時、再び雷光が煌いた。
そして同時に海部ヶ崎の背後で腕を振り上げている人物も見えた。

「――ッ!横に跳べ!」

菊乃の叫びに遅れること刹那、海部ヶ崎が横に跳ぶ。そして襲撃者の手刀は空を切った。
不意に聞いた事のない声が聞こえてきた。

「おや、見つかってしまいましたか。雷光に救われましたね」
140神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/11/14(日) 12:33:58 0
どうやら襲撃者は男のようだった。低く通る声で語りかけてくる。
菊乃はそれを無視し、海部ヶ崎の方へ目をやる。

「勘違いすんなよ?アタシはカノッサの人間はこの手で殺してやりたいだけだ。
 別にあんたを助けたわけじゃない。獲物を横取りされたくなかっただけさ」

冷たい口調でそう言い放ち、男の方へ向き直る。

「さて、いきなり襲ってきて挨拶もなしかい?あんた何処の誰だい?」

男に向かって問い質す。しかし男は悠然とした笑みを浮かべて言葉を返してきた。

「私が何者か――あなたがそれを知ってどうするのです?
 これから死に行くあなたがそんな事を知っても冥土の土産話にもなりませんよ?」

「あ?何言ってんだ?冥土に土産話を持ってくのはお前の方だろ?
 …尤も、くれてやる話なんてないけどな」

菊乃も同じような態度で言葉を返す。

「やれやれ…あなたの様に綺麗な女性からそんな事を言われるとは…。
 悲しいですねえ。では仕方ありません。死んでいただきましょう」

そう言った次の瞬間、菊乃は自分の感覚を疑った。
男が眼前にいたのだ。動いた気配すら感じなかった。
男の手刀が頭上に振り下ろされる。

「チッ!」

菊乃は咄嗟に右腕でガードした。
キィンッ、と言う甲高い金属音を残して菊乃は後方へ跳び退った。

「面白いものをお持ちですね。さしずめ――む」

今度は男が黙る番だった。男の視界から菊乃が消えたのだ。
否、実際には消えたわけではなく、高速で動いたに過ぎない。

「『重力減少』(グラビテーション・マイナス)」

囁くように呟くと、一瞬で男の背後に回り、脇腹に強烈な蹴りを放った。
男は避けきれずに吹き飛んで教室の壁に激突し、隣の教室を転がっていた。

「人体急所に打ち込んだ。普通の人間ならまともに歩けないはず――」

男が飛んで行った方向を見る。
するとそこには、起き上がるどころか既にこちらに向かって歩き始めている姿が確認できた。
その足取りにふらつきなどは一切ない。しっかりとした歩調だ。

「あれが効かないとなるとただの人間じゃねえな…。
 仕方ねえ、敵の敵は見方ってやつか…。おいあんた、ちょっとばかし手伝ってくれよ。
 どうやらあいつを片付けるのが先のようだ。あんたとやるのはその後だな」

海部ヶ崎に向かって少し不機嫌そうに告げた。

【神宮 菊乃:廃校にて謎の男と戦闘に。
        氷室の名前を出したことにより海部ヶ崎を元カノッサの一員と思い込むが、一時的に共闘を申し出る】
141氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/14(日) 18:02:23 0
「笑ってないで早くきたらどうだ。それとも、こっちから行って欲しいか?」
水溜りにバシャンと足を踏み入れる。
足首の辺りで余るジャージの裾がそれで濡れたようだったが、
もはや全身を雨でぐっしょりと濡らしている氷室が気にすることはない。
ただ、全身から針のような鋭い殺気を放ち、間を詰めていく。

「ぎっ、ぎぎぎぎっ……」
その圧倒的な迫力に、初めは心なしか男も動揺しているようであったが、
尻に火がついたことを認識したことで開き直ったか、
やがて全身から消えかかっていたオーラを再発現させて雄叫びをあけた。
「ぎひひひヒヒヒヒヒヒヒィィいいやぁぁぁぁぁぁアアアアアアアッ!!!!」
同時に、水飛沫をあげて飛び掛る。
──これまでにないスピードで瞬く間に氷室との間を詰めた男は、
いつの間にか倍以上にまで膨れ上がった腕を上げて、一気に振り下ろした。

ドンッ!!
強い衝撃音が響くと共に、拳の打ちつけられた石畳が大きく弾け、
一瞬の内に直系五、六メートル程の小型のクレーターを穿つ。
直撃を食らえば如何な氷室といえど即死は免れないところであろう。
……そう、あくまで直撃すれば、だ。

「──言ったろ? ワンパターンだってな」
氷室は男の頭上の空間を逆立ちの体勢で舞っていた。
振り下ろされた瞬間、小さくジャンプしてかわしていたのだ。
嘲笑するかのような頭上からの声に男は思わず顔をあげる。
しかし、それこそが氷室の狙いであった。
敢えて空中高くジャンプしなかったのは宣言通り「次で終わらせる」為なのだ。

空中で、男の額と顎をガシッと掴む氷室。
掴んだ手にグッと力を込めた彼女は、冷たい声で吐き捨てた。
「お前のような単細胞は扱いやすくて助かる。バイバイ」
両手がそれぞれ反時計回りに回転する──。
瞬間、骨が砕ける鈍い音を発して、男の顔は上下180度さかさまに回った。

首の肉が裂けて真っ赤な血が天に向かって噴き上がる。
氷室が降り立ち、それと同時に男の体がバタリと地に倒れる。
それは言うまでもなく勝者と敗者が決した瞬間であった。

「さて──」
くるりと背後を振り返り、首をかつてない方向に曲げてうつぶせに伏す男を見る。
普段の氷室であれば敵の死を改めて確認することなどないのだが、
今回ばかりはそうもいかないのだろう。何故なら、それだけ敵が異様だったのだから。
「まさかゾンビのように復活することもないと思うが……」
一抹の不安を払拭するように呟きながら男に近寄り、足元で止まって男をじっと見下ろす。

ピクリともしない男の体からは、既にオーラは視認できない。感知もできない。
気を失っているだけであればありえないことである。
つまり、男は完全に死んでいるのだ。
「……やれやれ、私も存外心配性だな……ん」
氷室は、思わず安堵するように吐きかけて、直後にふと目に付いた“もの”に息を止めた。

「これは……」
それは捻じ曲がった首筋に刻まれた『CO』の文字に『3』の数字重なったタトゥー……。
変わってはいるが、誰もが特に気にかけるようなものではない。
しかし、彼女だけはそのタトゥーの意味を良く知っていた。
何故なら、『CO』とは今は無き“カノッサ機関”を意味するものだからである。
142氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/14(日) 18:14:27 0
それはこの男がカノッサの生き残りであるとの証明ではあったが、
注意しなくてはらないのはカノッサ機関は構成員にナンバーを与える習慣はなく、
しかもタトゥーは下級の構成員のみに刻まれるという点である。

「まさか……だが、しかし……」
タトゥーを持ち、番号を与えられた構成員……それが意味するところを氷室は知っていた。
だからこそ、解せなかった。
何故なら、とっくの昔に“処分”されているはずの存在なのだから──。

「──『狂戦士(バーサーカー)』──……。
 『不死の実験』の過程で生み出され、処分されたはずの奴が何故……?」

ザァァァァァァァァ……。
まるで誰かに訊ねるように呟いても、当然ながら返ってくるのは無機質な雨音だけ。
そもそも、カノッサが崩壊した今、氷室の及び知らぬことを他人が知っているわけもないのだ。
氷室は、一度雨で乱れた髪の毛をかきあげると、改めて男を見据えた。

「たまたま生き残っていた奴が偶然ここに飛ばされてきたのか……? いや……」
男の腕には招待状である黒い腕輪がない。
それが意味することは、ピエロによって招待された客ではないということ。
つまり、初めからこの島にいた、ワイズマン側の異能者ということではないだろうか──。

「ワイズマン、そして狂戦士……。これは、思った以上に事が厄介かもしれないな……」
襟を広げて無線を開く。
しかし、「ザー」とテレビの砂嵐のような音が鳴るばかりで、海部ヶ崎とは一向に通じない。
樹海のど真ん中にいるせいで高い木々に電波を遮断されているのか、
それとも、雨のせいで電波が乱れているのか……
いずれにしても、電波が通じるところまで移動しなくてはならない。

「ここは南東だったな。ということは、北西に進めば街には出るか」
言いながら、氷室は倒れた鳥居に駆け寄ると、苔むしている柱に視線を落とした。
見れば、柱は一面ある方角にだけ生えている。
苔は日に当たるところには生えないもの。つまり、北側に向けて生えるのだ。

「こっちが南であっちが北……すると、北西は向こうだな」
氷室は北西と思われる方角に視線を送ると、やがて朽ちた神社を背にして進み始めた。
様々な疑問を胸に抱きながら……。


一方、同じ頃──
幻影島の地下深くにある大空洞の暗闇の中では、あのワイズマンの声が響いていた──。

「“庭”に放っていたNo.3の生命反応が消えた。どうやら少しはできる奴がいるらしい」
その声に応えるように、続いて変声機を通したような声が響く。
「オッホッホ……お言葉ですが、No.3は所詮カノッサの失敗作ではございませんか。
 “我ら”と違って知恵を失い、ただ己が力をぶつけるだけの芸の無い闘い方しかできぬ男……
 そんな男を倒したところで、“高い実力”であるとは言い切れますまい……ホーッホッホ」
「確かにな。だが、No.3をわずか数分の攻防で倒した異能者……
 466番はワシが求める異能者かもしれん。一体何者か、調査を進めておけ」
「仰せのままに、我がご主人様」
「頼りにしておるぞ『ジョーカー』よ。そして『ジャック』、『クイーン』、『キング』……そなたらもな……」

この時、僅かな光さえない文字通りの漆黒の中で、ワイズマンの声にかしこまる気配が四つ、確かに存った……。

【氷室 霞美:殺害した敵の男がかつてカノッサがつくった『狂戦士』と判明】
【ワイズマンを主人と崇める敵幹部の名前(?)が明らかに】
143氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/14(日) 18:16:33 0
>>130
今更ながらですがこちらでも訂正しておきます。
×南西の神社
○南東の神社
144氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/14(日) 18:34:29 0
>>142
またミス…orz
×柱は一面ある方角にだけ生えている。
○苔は一面ある方角にだけ生えている。
145鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/14(日) 21:16:28 0
「とりあえずどこに行こう」
鎌瀬は悩んでいた
「とりあえずまだ誰にも見つかってない…。なるべく他人に会わないようにしないと…」
鎌瀬は今中学校の辺りまで歩いてきていた
「それにしても暗くて見づらいな…。一応懐中電灯は持ってきたけど…僕の能力で明るさが劣化してるし…」
自信の能力で劣化した懐中電灯の明かりとコンパス、そして携帯GPSを頼りに進んでいた
「…電気屋に行こうかな。そんなに遠くないみたいだし…。明かりが見つかる可能性も高いしね」
鎌瀬は電気屋に向かうことにした
「それにしても本当に誰も居ないな…僕としては嬉しいんだけど。
僕の腕輪のNo.は302で、ワイズマンって人も一万人が一ヶ月間暮らしていける食料が有るって言ってたから、
相当な人数が飛ばされてきてると思うんだけど…」
鎌瀬は不思議に思っていた。かなりの人数が飛ばされてきているはずの幻影島を、そこそこ歩いているのに、誰とも会っていない
これには鎌瀬自信の能力で、彼の感知力が低下していることも関係しているのだが…
未だに鎌瀬が傷を負っていないのをみると、本当に誰にも会ってないと言える
146鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/14(日) 23:34:36 0
「僕が勝ち残る方法と言ったら、誰にも見つからないように行動して、他の人たちが倒し合うを待つことくらいだよね…」
随分消極的な方法で勝ち残りを狙う鎌瀬
「お、電気屋が見えてきた」
電気屋を見つけ、見つからないように祈りながらそこに向かう
(誰にも会いませんように、誰にも会いませんように…)
祈りながら進んで、電気屋の前まで来た。幸い、誰にも会わなかった
「良かった…誰にも見つからなかった」
胸をなで下ろし、電気屋に入る鎌瀬。中は薄暗かった。廃墟なのだろうか
「とりあえず何を持ってい…!?」
油断していた鎌瀬の元に、ロボット…それも攻撃能力の有る物が向かってくる
「やば…!“劣化空間(ネガティブルーム)”…!」
オーラを広げて空間を作り、射程範囲内にロボットを入れ、劣化させる
「うわぁあ…ついに誰かと会っちゃったよ…。どうせ僕なんかが勝てるわけない!」
ロボットの性能を劣化させながらも、敗北を確信する鎌瀬
「攻撃やめ」
ロボットの後ろの方から声が聞こえたかと思うと、ロボットが攻撃をやめて止まっていた
「いやいや、すみません。敵だと思ったもので…。今の能力と口癖…貴方、鎌瀬犬斗君ですね?」
147鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/15(月) 00:00:43 0
「!?」
自分の名前を言い当てられ、狼狽える鎌瀬。だが、次の瞬間轟いた稲光がその人間の姿を露わにする
機械的な眼鏡(ゴーグル)に、技術者が着る服装、そして機械でできた左腕…。鎌瀬はその人間を知っていた
「君は…斎葉巧君…? どうしてここに…?」
「おいおい、そんなに驚くことないでしょう? おそらく貴方と同じ理由、これを見れば分かるんじゃないですか?」
斎葉が袖をまくり、腕輪を見せる。そこには、318と記されていた
「その腕輪…もしかして君もピエロの夢を…? ということは君も異能者だったの…?」
「はい。あれ?言ってませんでした? オーラに意識をとけ込ませて機械に入り込み、自在に操る…。それが私の能力です」
斎葉の説明を聞き、彼の能力を理解する鎌瀬
「なるほど、君らしい能力だね…。じゃ、友達ってことで今回は見逃してよ…?」
いずれ戦わなければいけないかもしれないので、見逃してもらおうとする鎌瀬
「待ちなさい」
が、斎葉は鎌瀬を止める
「鎌瀬君。私と協力しませんか?」
「え…?」
「倒し合うと言っても、それは別に今すぐでなくても良い…。仲間は多い方が有利だと思いますよ? 何か異論はありますか?」
148鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/15(月) 00:30:02 0
斎葉が鎌瀬に協力を持ちかけてきた
「無い、無いよ…! 寧ろ嬉しいよ…!」
「では、決まりですね」
こうして、鎌瀬は斎葉と行動を共にする事にした
「では、貴方にこれを渡しておきます」
斎葉が鎌瀬に小さな機械を渡してきた
「これは?」
「無線機…つまりトランシーバーです。バッチ型にしておいたので、持ち運びには困りませんよ。
話すときはボタンを押して下さい。もしはぐれた時のために…」
「ありがとう…」
「ああ、それと…貴方のGPSを貸して下さい」
「ん、これ?」
「はい。少し待って下さいね…」
斎葉がGPSを改造する
「できました。これで貴方のGPSに、私の位置が映ります。そしてこれ…」
斎葉が更に小さな機械を渡す
「この発信機をつけたものの位置も、GPSに映ります。役立てて下さい」
「あはは、相変わらず器用だね…」
【鎌瀬犬斗:斎葉巧と協力】
149海部ヶ崎 綺咲:2010/11/15(月) 03:55:44 0
>>139>>140
「そうだな。口だけで信じてもらおうとは思っちゃいないよ」
少女がパチンと指を鳴らす。
途端に、これまで体に圧し掛かっていた重みがすっと嘘のように消える。

「これでいいだろ?それにあんたを殺るつもりならもっと重力を上げてるよ」

(重力か……なるほど。恐らく、重力波に変えたオーラを展開することで、
 自身の範囲内の重力に干渉でき、一時的に重力を操作できる能力……)
などと推測しながら、重さによって少し凝った首をコキコキと鳴らしていると、続けて少女の口が開いた。

「んじゃ、改めて自己紹介。
 アタシは神宮 菊乃。こう見えても16だ。学校は行ってねえけどな。
 仲間はいない、って言うか島に来て最初に会った人間があんただ。あんたは?」

くるんと刀を逆手に持ち替え、ゆっくりと腰の鞘に納めていきながら、海部ヶ崎は答えた。

「私は海部ヶ崎 綺咲。歳は19。角鵜野市という街で“何でも屋”をして暮らしている。
 ここに来た理由は恐らくキミと同じだ。私もあのピエロに無理矢理招待された。
 もっとも、単身のキミとは違って、私の場合は氷室 霞美という女と共にだがな」

自分の目的──それ以外のことは包み隠さず話した。
何も隠す必要はないし、互いに正直に話すことこそが対話であると思ったからである。
しかし、結果論ではあるが、それは却って余計な火種を生むものであった。

「キミ同様、私もできれば無用な戦闘は避けたい口だ。
 だからここをすんなりと通してもらえるとありがた──」
ふっと彼女に……神宮と名乗った少女に目を向けて、思わず言葉を切る海部ヶ崎。
彼女の様子が変なのだ。まるで敵意を露にするようにオーラを充実させているではないか。

「ひむ…ろ…?まさかあんた氷室 霞美の仲間だって言うのかい?
 はっ、こんなところで"あの"カノッサの人間に出会うとはね…。
 神様って奴は本当に粋な計らいをしてくれるもんだね」
「カノッサ──? まさか、過去に氷室と──」
そんな海部ヶ崎の声には聞く耳もたず、
完全な臨戦態勢に入った神宮は、突き刺すような視線で彼女を捉えた。

(よく考えてみれば氷室はカノッサの大幹部の一人だった人間だ。
 あらゆるところにその悪名が轟いていても不思議ではない。失言だったな)

「どうやらあんたとは相容れないようだ。悪いがここで潰させてもら――」
「待て、私の話を聞け。キミの言うカノッサはもうこの世に──」
言いかけたところで、突然、海部ヶ崎は戦慄いた。
神宮の発するものとは違う、“背後”からの別の殺気を感じたのである。

「――ッ!横に跳べ!」
神宮の声に、海部ヶ崎が咄嗟に横にステップしたのはその直後であった。
そしてその瞬間、何かが空を切る音が発せられる。
空を切ったのは手刀──背後からの何者かが繰り出したものだった。

「……何奴!」
神宮に対するものとは違って、どこかドスの効いたアルトヴォイスを叩きつける。
襲撃者は丁寧な、それでいて非情さを感じさせる低い声で言った。

「おや、見つかってしまいましたか。雷光に救われましたね」
150海部ヶ崎 綺咲:2010/11/15(月) 04:03:07 0
襲撃者は紳士風な風貌をした男であったが、それは見た目だけだ。
いや、その目から滾る殺気を隠そうともしないのだから、見た目も既にエセ紳士である。

「勘違いすんなよ?アタシはカノッサの人間はこの手で殺してやりたいだけだ。
 別にあんたを助けたわけじゃない。獲物を横取りされたくなかっただけさ」

言い放つ彼女に、海部ヶ崎は溜息を一つ零した。
(やれやれ……勘違いされてしまったな。まぁ、誤解は後で解けばいい。
 それより問題はこの男が、話し合いの余地がある人間かどうかだ)
分析するようにじっと男を見つめて、二人のやり取りに耳を済ませる。

「さて、いきなり襲ってきて挨拶もなしかい?あんた何処の誰だい?」
「私が何者か――あなたがそれを知ってどうするのです?
 これから死に行くあなたがそんな事を知っても冥土の土産話にもなりませんよ?」
「あ?何言ってんだ?冥土に土産話を持ってくのはお前の方だろ?
 …尤も、くれてやる話なんてないけどな」
「やれやれ…あなたの様に綺麗な女性からそんな事を言われるとは…。
 悲しいですねえ。では仕方ありません。死んでいただきましょう」

問答を止めて戦闘を開始する二人。
以前までの海部ヶ崎であったら目で追うのもやっとであったかもしれないが、
カノッサとの死闘を経て腕を磨き続けてきた彼女には、余裕を持って見えていた。

振り下ろされた手刀を神宮がガードし、
今度は素早く男の後方に回りこんでお返しとばかりに蹴りをくれる。
男は勢い良く吹っ飛んで隣の教室に転がり込むが、
それでもダメージは小さいようで、直ぐにむくりと立ち上がる。
短かくも、それでいて激しい攻防──。

傍でそれを静観していた海部ヶ崎は一つのことを確信していた。
男は話し合いが通じるような人間ではないと──。

バトルロイヤル──それは相手を殺さなければ自分の命が危ういゲームだ。
よって闘いが生じるのは仕方のないことである。
だが、恐らく多くは戸惑いの中で無我夢中に闘うだけか、
必死にこの状況下を割り切って闘おうとする者ばかりであろう。
ところが、どうだ。男の顔からはそんな様子は微塵も感じられない。
彼は殺し合いなど何とも思っていないのだ。あるいは、楽しんでさえいるのかもしれない。
(危険な奴が何人かはいると思っていたが、まさかそんな奴と真っ先に当たるとはな。
 もはや闘いは避けられない、か……)

刀に手をかけた調度その時、神宮のどこか不機嫌そうな声が届く。

「あれが効かないとなるとただの人間じゃねえな…。
 仕方ねえ、敵の敵は見方ってやつか…。おいあんた、ちょっとばかし手伝ってくれよ。
 どうやらあいつを片付けるのが先のようだ。あんたとやるのはその後だな」

すーっと鞘から銀色の刀身を抜いて、海部ヶ崎は答えた。

「私はキミと闘るつもりはないが、この男とは闘わなくてはならないようだ。
 こちらの意思に拘わりなく……な」

【海部ヶ崎 綺咲:戦闘体勢に入る】
151神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/11/16(火) 02:10:08 0
>>149>>150
「私はキミと闘るつもりはないが、この男とは闘わなくてはならないようだ。
 こちらの意思に拘わりなく……な」

海部ヶ崎は刀を抜いてそう答えた。
その言葉に、菊乃は表情を少しだけ、本人にしか分からない程度に和らげた。

「ふぅん、残虐で有名なカノッサの人間にしては殊勝な言葉だねぇ。
 けどアンタが何と言おうとそれを証明出来るもんがなきゃ信じられねえ。
 …しかし今はあいつを殺る事が先決だな。そこだけは譲歩してやる」

海部ヶ崎にそう返し、隣の教室から歩いてくる男に目を向ける。
そこで菊乃はおかしな光景を目にした。
男は隣室からこちらに向かって歩いてくる。
しかし、その右脇腹が不自然なまでに窪んでいるのだ。
恐らくは先程の蹴りのダメージなのだろうが、あの様子だと内臓にまでダメージがいっているはずだ。
普通の人間ならば歩くどころか立ち上がることすら難しいはず。
いくら異能者とは言え、無視できるレベルではない。

「頭逝ってんのか…?あれだけのダメージで平然としてやがる。
 チッ、アタシと同じタイプか…?だとしたら厄介だな」

疑問は尽きない。
しかし目の前のこの男を倒さねば、解決どころかこちらがやられる。

「おいアンタ、手に持ってるそれは飾りじゃないよな?
 今からあいつに止めを刺す。
 アタシが動きを止めるから、アンタはそいつでサクッとやっちまいな」

海部ヶ崎の刀を見て、自分はこの場では止め役に適していないと判断。
得物を持つ海部ヶ崎に任せる。海部ヶ崎は小さく頷いた。

「よし、んじゃあ始めるぜ。ちょっとこっちに来てくれ」

海部ヶ崎を近くに呼んだ後、菊乃は跪き左腕を地面に、右腕で海部ヶ崎を掴んだ。

「『重力増加』」

菊乃が呟くと、右腕からオーラが地面に伝わり、先程同様周囲の重力が増す。
しかしその重さは先程の比ではない。流石の海部ヶ崎も少し顔を顰めた。

「今回は8倍だ。重いだろうが少し我慢してくれよ。すぐに軽くなる。『重力減少』」

今度は左腕を通して海部ヶ崎にオーラが送られる。
すると、海部ヶ崎の体は羽の様に軽くなった。

「これでアンタの体にかかる重力は通常の四分の一だ。
 慣れない内はコケたりするから気をつけろよ」

海部ヶ崎はその場でジャンプし、感触を確かめている。
やがてジャンプをやめた。どうやら少しは慣れたようだ。
そうしている間にゆっくりと歩いてきた男がこちらに到着した。

「重力操作とは…本当に面白い能力をお持ちですね。
 是非ともあなたの体を研究してみたい」

先程までの紳士の仮面を捨て、男は残虐な笑みを浮かべた。
152神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/11/16(火) 02:11:47 0
「研究?自分の頭でも解剖してろ。
 こちとら人体実験はもうウンザリでね。あんな場所に戻るつもりはねぇよ」

菊乃は吐き捨てるように言った。その顔には若干の自嘲が混ざっていた。

「さて、おしゃべりはここまでだ。そろそろケリをつけようぜ。
 何か知らんがテメェの顔見てると吐き気がするんだ」

言い終わると同時に菊乃が動く。
自身も身を軽くしていた為、先程と同じかそれに勝るスピードで男に近付く。
迎え撃つ男はここで初めて手刀以外の構えを見せた。
オーラを充実させて両腕を広げ、一気に体の目でクロスさせる。
するとヒュウッ、と言う音と共に男の両手から見えない何かが繰り出された。

(鎌鼬…いや、風の能力か。おかしいとは思ってたんだ。
 さっきあいつの手刀を右腕で防いだ時、金属音がしやがった。
 ただの手刀にも拘らず、だ。正体はこれって訳か)

相手の能力を分析し、解明する。
しかし菊乃は避けるどころか鎌鼬に向かって突っ込んで行った。

「正面から向かってくるとは…。いいでしょう。
 本当はあなたの体を傷つけずに研究したかったのですが…。
 綺麗な体が紅く染まり、地に伏せるのを見るのもまた素敵なものだ」

「ケッ、いよいよ本性現しやがったな。
 大方さっきのも薬(ヤク)か何かやってるから耐えられたんだろ。
 …だが残念だったな。痛みを感じないのは何もお前だけじゃない」

鎌鼬が菊乃の体を切り裂く。右腕にも当たり、外装の皮膚が裂けて機械の部分が剥き出しになる。
しかし菊乃は気にすることなく男に接近していく。

「馬鹿な!?あれだけの斬撃を無視するなんて――!」

動揺する男の腕を掴み、ニヤリと笑う。

「テメェの専売特許だとでも思ったか?ま、こっちは薬なんかには頼ってねぇけどな。
 ――『重力増加』」

菊乃が呟いた瞬間、男の体がまるで吸い寄せられるように地面に張り付く。

「どうだい?8倍の2倍、16倍の重力は。
 テメェの体重が70kgだとしたら…ざっと1120kgか。1t越えだな。
 さ、ここでアンタの出番だ。
 コイツは半端なダメージじゃきかねえ。そいつはさっき証明済みだ。
 アタシが潰してやってもいいんだけど、こんな奴のスプラッタは見たくねぇ。
 さっき"無用な"戦闘は避けたいとか言ってたが、こいつは"必要な"戦闘だ。キッチリやってもらうぜ」

倒れ伏す男から目を離し、海部ヶ崎の方を見て菊乃は言った。

【神宮 菊乃:戦闘中。海部ヶ崎に止めを刺すよう促す】
153神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/11/16(火) 02:35:17 0
>>151
訂正
×右腕からオーラが地面に
○左腕からオーラが地面に

×左腕を通して
○右腕を通して
154海部ヶ崎 綺咲:2010/11/16(火) 19:11:12 0
>>151>>152
勝負は海部ヶ崎が思っていた以上に早く、呆気なく決していた。
先程、彼女に掛けられた三倍以上の重力をその身に受けて、なすすべなく地に沈むエセ紳士……。
「ふぅ……」
それを見下ろして、安堵とも驚愕ともつかない息を吐く海部ヶ崎。
あるいは若干後者の色が強かったかもしれない。
重力を操作する能力──その威力が、想像以上のものであったことは確かなのだから。

「さ、ここでアンタの出番だ。
 コイツは半端なダメージじゃきかねえ。そいつはさっき証明済みだ。
 アタシが潰してやってもいいんだけど、こんな奴のスプラッタは見たくねぇ。
 さっき"無用な"戦闘は避けたいとか言ってたが、こいつは"必要な"戦闘だ。キッチリやってもらうぜ」

神宮の視線が声と共に向けられる。
(やれやれ、私の出番がなかったな。少しばかり彼女の力を見誤っていたか)
海部ヶ崎は神宮を一瞥すると、やがて静かに刀を納め、男に再度視線を落として言った。

「……無用だ」
その言葉に、神宮は何かを言おうと声を出しかけるが、続けて吐かれた言葉がそれを遮る。

「もう勝負はついている。この男、既に全身の筋繊維と毛細血管の悉くが破壊されている。
 元々、薬物投与によって体が弱っていたせいもあるのだろう。
 高重力下での活動に肉体が耐え切れなかったんだ。もはや二度と立ち上がれまい……。
 ……本来なら情けをかけるところだが、痛みを感じないから、眠るように息を引き取れるはずだ。
 故に、止めも介錯にも及ばない。そういうことだ」

……ピクピクと細かに痙攣する男から視線を外し、代わって神宮に合わせる。
誤解を解く、それを実行する時がきたというわけだ。

「キミの言うカノッサは三ヶ月前に消滅したよ。多くの命と共に、アジトもろともな。
 私が知る限りで生き残っている元構成員は氷室一人。
 私の立場はキミが思っていたものとはむしろ逆を行くものさ。
 三ヶ月前……カノッサを滅ぼしたのは私と、私の仲間なんだよ」

呟くように吐かれた言葉を彼女はどう受け止めるだろうか。
信じるか信じないか……場合によっては彼女と闘わなくてはならないだろう。
だが、負けてやる理由は無い。ワイズマンを倒さなくてはならないのだから。

【海部ヶ崎 綺咲:誤解をしていると説明する】
155神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/11/16(火) 20:31:25 0
「……無用だ」

海部ヶ崎は止めを刺すどころか刀を納めた。
その真意を問い質そうと口を開きかけるが、続く言葉によってそれは遮られた。

「もう勝負はついている。この男、既に全身の筋繊維と毛細血管の悉くが破壊されている。
 元々、薬物投与によって体が弱っていたせいもあるのだろう。
 高重力下での活動に肉体が耐え切れなかったんだ。もはや二度と立ち上がれまい……。
 ……本来なら情けをかけるところだが、痛みを感じないから、眠るように息を引き取れるはずだ。
 故に、止めも介錯にも及ばない。そういうことだ」

その言葉を聞いて男を見る。
確かにもはや喋ることすらできないようだ。その口は僅かに呼吸を繰り返すのみである。
男から目を離し、再び海部ヶ崎と視線を合わせる。

「キミの言うカノッサは三ヶ月前に消滅したよ。多くの命と共に、アジトもろともな。
 私が知る限りで生き残っている元構成員は氷室一人。
 私の立場はキミが思っていたものとはむしろ逆を行くものさ。
 三ヶ月前……カノッサを滅ぼしたのは私と、私の仲間なんだよ」

その言葉に菊乃は僅かに表情を変えた。
しかしまた元の無表情に戻して言葉を返す。

「へぇ、アンタがアジトを滅ぼしたって?
 でもそれが地方にある研究機関に伝わるまでどのくらいかかると思う?
 ――2ヶ月だよ。
 アタシはつい1ヶ月前までカノッサの研究機関で人体実験のモルモットだったんだ。
 そりゃあもうヒドイもんでね。…何とか逃げ出したけど。
 お陰で右腕と左目は壊れるわ痛覚まで抜き取られるわ…。
 そう言う訳で、たとえアンタがアジトを潰そうとアタシには関係なかったのさ。
 それに、カノッサを潰したアンタが何故カノッサの人間と行動を共にしている?
 さっきも言ったが口で言うだけなら何とでも言える。
 …が、アンタがアタシを連れ戻しに来た研究所の奴じゃないことは分かった。
 でも、まだ完全に信用したわけじゃない。取り敢えず氷室に会わせて貰おうか。
 …心配しなくてもいきなり襲ったりはしねぇよ。
 アイツとは面識があるんだ。もっとも、向こうが憶えてるとは限らないけどな」

言い終えて、海部ヶ崎に背を向けて入り口に向かう。
そこで一度振り返り、難しい表情で立ち尽くしている海部ヶ崎に声をかけた。

「ほら、ボーっとしてねぇで氷室のところまで案内してくれよ。
 一緒に来たって事は連絡手段くらい用意してるんだろ?」






――菊乃達がいる廃校から少し離れた場所にある大木の枝に、人影があった。

「ふぅ…やはり薬でドーピングしたものは使い物になりませんね。
 また新しいものを考えませんと…。"ジャック"に相談してみようかしら」

その人物は物憂げに呟くと、音も無く姿を消した――

【神宮 菊乃:戦闘終了。海部ヶ崎とは一時的に停戦、氷室に会わせる様に言う】
156海部ヶ崎 綺咲:2010/11/17(水) 18:01:32 0
>>155
(やはり、カノッサに強い恨みを持つ者、か……。口ではああは言ってるが……)

「ほら、ボーっとしてねぇで氷室のところまで案内してくれよ。
 一緒に来たって事は連絡手段くらい用意してるんだろ?」

そう訊く神宮に、海部ヶ崎はまず一言──
「悪いが、案内する気はない」
と返し、くるりと背を向け、そして続けた。

「キミも言ったように口なら何とでも言える。
 結果としてでも戦闘になる危険性がある内は、キミを氷室のもとに連れて行くことはできない。
 それが仲間としての最低限の務めだ。……それに」

何かを言いかけて、彼女は直ぐに止めた。

「……いや、何でもない。
 とにかく、私がキミに対しての敵対心を持っていないことを解ってくれたなら、一先ずはそれでいい。
 今後、どこかで遭遇しても互いに手出しはしない……この場はそれで手を打ち、終わりにしよう」

言いながら、部屋の隅にあるはめ殺しの窓の前まで進み、それを足で蹴飛ばす。
ガシャーンとガラスが割れて、綺麗ぽっかりと外に通じる穴ができあがる。
途端に、そこから横殴りになった雨が吹き込む。外はいつの間にか風が出ていたらしい。

「だが、もし私の邪魔をするというのなら、その時は敵とみなすことになるだろう。
 さっきも言ったが、私は避けられる戦闘なら避けておきたい。
 この刀をキミに向ける日が二度と来ないことを祈っているよ──」

そう言い残して、海部ヶ崎は穴を潜って行った。
部屋は三階。本来なら自殺行為だが、異能者の彼女にとっては特に意に介す高さではないのだ。
強風の中、音も立てず木の葉のように静かに降り立つと、
そのまま何事もなかったように次の探索先を見定めた。

「さて……現在地は北西。ひとまず、このまま南西に向かうか」

足を進めた先は南西方向に架けられた橋。
とりあえずそこを通って街の南西部に向かうことにしたのだ。


その途中、海部ヶ崎は大粒の雨が降りしきる空を恨めしそうに見上げて、
先程言い掛けた言葉の続きを独りごちた。

「無線が通じない。電波の状態が悪いのか、それとも故障でもしたか……」

チップは戦闘での激しい動きと衝撃に耐えられるよう作られている。
だから実際は前者であったろう。
だが、メカの知識など「水に弱い」程度の知識しか持ち合わせていない彼女は、
大きく膨れた胸に剥き出しの状態で取り付けられた水浸しのチップを見つめて、
まるで自らを恥じるように頭をかくのだった。

【海部ヶ崎 綺咲:北西の廃校から街の南西部へ】
157氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/19(金) 04:08:54 0
樹海を北西方向に進むことおよそ2km──。
やっとのことで緑の絨毯を抜けた氷室がそこで真っ先に感じたのは、
四方八方で弾けては消える大きな闘いの気であった。
それは、いよいよバトルロイヤルが本格的に始まったことを意味していた。

「あっちこっちで始まったようだな。そして……どうやらあれが街か」
氷室は、視線の真っ直ぐ先に在る建物群をじっと見据えた。
どれにも灯りはついていないし、遠目からでもボロボロであることがわかる。
あれが海部ヶ崎の言っていたゴーストタウンに間違いはないだろう。

無線の電源を入れるが、相変わらず砂嵐の音しか発さない。
(やはり強い雨で乱れているせいか。まぁいい、あいつとの連絡は後回しだ。
 今はワイズマンに関しての手掛かりを探すことに専念しよう)
氷室は心で方針を固めると、やがて向かい風に逆らって街へと近づいていった。

────廃線となってかなりの年月が経っているのだろう、
南から東の方向にかけて一直線に続く錆び付いた線路を越える……。
するとそこはもう街の中であった。
ビルからスーパー、その先には病院らしき建物すら見える。
(……)
ふと、建物に食料があることを思い出した氷室は、途端に空腹感に襲われた。
考えてもみればもう六時間以上も何も口にしていないのだ。
それに加えて広大な樹海を走りぬけ、戦闘もこなしたのだから、空腹になるのは当然であった。

たまたま目に付いた一軒の廃屋に向かい、ドアを開く。
部屋の中は、長年人が使用していないせいか土やホコリやらが体積していたが、
奥に置かれた大きなダンボールだけはまだ真新しかった。
恐らく、あれに食料が入っているのだろう……

そう疑いもせずに中を開けた、その時──氷室は思わず鼻を覆った。
ダンボールが解き放たれると共に異臭が鼻を突いたのだ。
その異臭のもとは、ダンボールの中に目いっぱいと敷き詰められた人間の生首。
あるものは狂気の表情で、あるものは恐怖の表情で、あるものは嘆きの表情で彼女を見据えていた。

異様なものを目の当たりにして、流石の氷室も一瞬、言葉を失う。
「ククク、それはこの建物に足を踏み入れた者達の首であり、私のコレクションとなるものだ」
背後からの声に咄嗟に振り向く氷室。
そこにはいつの間にいたのか、血に染まった白衣を着て、眼鏡をかけた痩せ型の男が立っていた。
体中に陰気ともいえる殺気を漂わせて……。

「お前、このゲームの参加者か?」
「222の番号を持つ者さ。いやぁ、このような楽園に招待してもらえるとは、私は恵まれている」
「お前の悪趣味な話を聞くつもりはない。用がないならそこを通してもらおうか」

と、出口に足を進めかけた時、男は通さんとばかりにすっと横に手を広げた。
「おっと、通さないよ。お嬢さんには私のコレクションとなってもらわなければならないからな。
 さぁて……どんな表情をしてもらうか」
「殺しが趣味かい? あんまりいい趣味とはいえないね」
「違う、私は芸術品を鑑賞するのが趣味なんだ。
 ……人の顔は芸術だよ。感情の移り変わりで、その表情は様々に変化する。私はそれをコレクションしているんだ。
 特に異能者のような並外れた力を持つ存在が恐怖すると、凡人には無いいい色が出るんだ。それを見るのは最高さ。
 ここは美と芸術の宝庫だよ、私にとっては正に天国だ……ククク」

気色悪く愉悦する男に、氷室は「ふぅ」と一つ溜息をついてオーラを展開する。

「とことん救い難いね。通せばよし、通さないなら力尽くで通るまでだ」
「おや、顔に似合わず好戦的だね。ククク、結構結構。腕に自信がある者ほど恐怖するといい色が出る。
 決めた……お嬢さんは両手両足を一本ずつ切り取って、苦悶の末に殺すことにしよう」

男がバサッと広げた白衣の中には、無数のメスが仕込まれていた。
158氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/19(金) 04:15:48 0
「さぁ、いい声で鳴いておくれ!」
男はメスを指の間に挟み、一度に五、六本のメスを投げ放つ。
それは常人には避けられない速さだが、氷室にとってはスローモーションのように見える速さでしかない。
氷室はゆっくりとした歩調で男に向かいながら、それを時折軽く左右にステップするだけでかわしていく。

「ほう? ──おごっ!?」
突然腹部に走った衝撃に、男は反吐を吐いて後ずさりした。
ゆっくりと歩み寄っていた氷室がいつの間にか彼の眼前にまで接近し、拳撃を叩きつけていたのだ。

「なっ、なっ……」
「今のが見えないんじゃ底が知れるというものさ。さっさと通した方がいいんじゃないか?」
「……ヒッ、ヒヒヒッ、良いぞ……良いぞこの力! 久しぶりだこの手応え!」

男がまたもメスを投げ放つが、一度見切られたものである──当たるわけがない。
再び目の前に接近した氷室が今度は二撃、顔面と胸にブローを見舞う。

「げべぇえぁっ!!」
今度は後ずさりだけでは済まなかった。
勢い良く後方に吹っ飛び、ドアを破壊して外の地面に転がる。
「チャンスは二度までだ。次は通さないと……解るだろ?」
「ヒッヒッヒッ……」
地に手をつき、起き上がった男は、気でも違ったように笑っていた。

「思い出すよ、あの少女のことを。あの娘もキミのように気が強く、じゃじゃ馬だった」
「……?」
「私はねぇ、つい一ヶ月前までとある研究機関で働いていたんだよ。仕事は人体実験。
 あれも中々の面白い仕事だった。一人の人間を自分の思うがままに創り直すんだからねぇ。
 大元の組織が潰れたことでその機関も潰れてしまったが……あの娘はどうしているかな。
 ククク……生きる芸術とも言える私の傑作は……。キミを見ているとそれを思い出すんだ」

「二度も言わすな。お前の悪趣味な話を聞くつもりはない。
 私が聞きたいのは通すのか通さないのかだ」
「ヒヒ、当然……通さないだよ!」

男の右の掌がグッと強く握られる。
瞬間、氷室は背中に走った鋭い痛みに背後を振り返った。

「ヒーッヒッヒッヒ! メスは私の体の一部も同様! 操作することくらい造作もない!」
痛みは一本のメスが背中に突き刺さったことによるものだった。
しかも、背後からは更なる無数のメスが飛んできているではないか。
氷室はそれをジャンプしてかわすと、突き刺さったメスを引き抜いて男に投げ放った。
だが、メスは男の眼前でピタリと止まる。まるで見えない手が受け止めたように。

「言ったじゃないか、メスを操作することくらい造作もないと。自分の得物を食らうほど間抜けじゃない。
 ……それよりもキミ、私のメスを食らったからには、もう満足に動けないよ?」
「なに?」
降り立ち、自分の周りにメスを浮遊させる男と目を合わせる。
男はズレた眼鏡を中指でクイッと上げて言った。

「私のメスにはねぇ、それぞれ薬が塗りこんであるんだよ。
 中には皮膚にかすっただけで即、死に至る劇薬を塗ったメスもある。
 キミが受けたのは幸いそういうものではないが、ある意味一番残酷かもしれない。
 何故なら、塗ってあったのは即効性のある痺れ薬だからだよ」
「……」
「キミはもう動けない。後は時間をかけて料理されるだけさ。
 意識を保ったままねぇ……。ヒッヒッヒッ、楽しみだよ、キミがどんな表情に歪むかが!」

肩を大きく揺らして再び笑い出す男。
勝利を確信し、異常な欲望を掻き立てたられたような、そんな高笑いだ。
だが、次の瞬間──男は青白い光に包まれ、悦に入った表情のまま言葉を失った──。
159氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/19(金) 04:23:26 0
「三度目は無いって、知ってたろ?」
掌を向けて、吐き捨てるように言葉を紡いだ氷室の視線の先には、
無残にも首から下を氷漬けにされた男の姿があった──。
いや、氷漬けになっているのは彼だけではない。
氷室の直線上、十数メートル先まで大地に氷が張られ、建物が凍り付いている。
青白い光の正体──それは氷室の圧倒的な冷気、『ノーザンミーティアー』だったのだ。

「なっ、ななっ……何故だ……!? 何故っ、動けるっ……!?」

口をガタガタと震わせて男が単純な疑問を搾り出す。
氷室は、最初は無言を返しながらも、やがてタネを明かした。

「患部を血管ごと瞬時に凍らせれば毒薬は体に回らないだろ?
 こんなこったろーとは思ってたんだよ。
 お前のように肉体能力が低く能力も至って平凡なタイプなら当然考え付く戦法だからな」

「ヒッ──ヒヒヒヒッ──」
「?」
「キミのような異能者が居たとは……ヒヒヒ、是非、この手で研究してみたかったよ。
 そして、あの娘のように私の最高傑作に仕立てあげてみたかっ……た……」

目を見開いたまま、男は口を動かすのを止めた。
氷室は、狂気に満ちた笑みの表情のまま固まる男をじっと見ると、
やがて小さくも、はっきりとした口調で男の言葉をバッサリと切り捨てた。

「バカは死ななきゃ直らない……か。
 死に顔を芸術と呼んだら、芸術という言葉が汚れるよ」

くるりと踵を返してその場を後にする氷室の目は、
既に次なる目的地である『服屋』の看板が掲げられた廃屋に焦点が合わさっていた。
空腹を満たすだけであればそこよりも近くにある建物でも良いわけだが、
服屋を見つけたことでビショビショの服を替えたいという別の欲求も生まれていたのだ。

「できればシャワーもあればいいんだけど。それとリンスにトリートメントも」

膨らむ期待に、微かだが、珍しく顔を綻ばせる氷室であった。

【氷室 霞美:街の中心部(正しくは若干南部より)にある服屋に向かう。
        殺人鬼(元・どこかの研究員)を殺害】
160神宮 菊乃@代理:2010/11/19(金) 20:16:30 0
>>156
「悪いが、案内する気はない」

海部ヶ崎はこちらの提案を蹴って、くるりと背を向けた。

「キミも言ったように口なら何とでも言える。
 結果としてでも戦闘になる危険性がある内は、キミを氷室のもとに連れて行くことはできない。
 それが仲間としての最低限の務めだ。……それに」

「……いや、何でもない。
 とにかく、私がキミに対しての敵対心を持っていないことを解ってくれたなら、一先ずはそれでいい。
 今後、どこかで遭遇しても互いに手出しはしない……この場はそれで手を打ち、終わりにしよう」

そう言うと、教室の隅にある窓を足で蹴飛ばし、穴を作った。
そこから激しい雨が教室に吹き込んできた。外は嵐のようだ。

「だが、もし私の邪魔をするというのなら、その時は敵とみなすことになるだろう。
 さっきも言ったが、私は避けられる戦闘なら避けておきたい。
 この刀をキミに向ける日が二度と来ないことを祈っているよ──」

そう言い残し、海部ヶ崎は穴から出て行った。
ここは3階だが、能力者であるなら問題はないだろう。
菊乃が考えていたのはそんな事ではなかった。

「はっ、やっぱりカノッサの仲間だったんじゃねえか。所詮カノッサの連中なんてこんなもんか。
 海部ヶ崎 綺咲…次に会った時は――容赦しねえ。氷室共々潰す」

海部ヶ崎が出て行った穴を見つめ、聞いた者が震え上がるようなドスの効いた声で呟いた。

「チッ、やっぱりカノッサの連中は少しも信用できねぇな。
 平気で嘘をつきやがる。何がカノッサを潰した、だ。
 どいつもこいつも信用できねぇな…。あの頃に戻った気分だ」

一人ごちて再び身を返し、廊下に面した窓から飛び降りる。
着地して自分のやって来た方角を見つめる。教会のあった方角だ。

「さ、収穫もなかったことだし、帰って寝直すとしますかね」

来た時とは違い、今度はゆっくりと歩き出す。
嵐の如き風雨だったが、菊乃は気にすることなく歩いていった。



廃教会に到着し、壊れかけの扉を開けて中に入る。
祭壇の手前にある長椅子に腰を落とし、深い溜息をつく。

「はぁー……。これからどうすっかな…。
 移するのも面倒だし、ここにいるか。その内誰か来たら適当に追っ払えばいいしな。
 いずれ氷室とあの女、海部ヶ崎とも戦うことになる。
 …その前に"アレ"が来なきゃいいけどな」

菊乃の呟きは、激しく屋根を叩く雨音に掻き消された。
161神宮 菊乃@代理:2010/11/19(金) 20:17:24 0
暫しの間虚空を見つめてボーっとしていたが、不意に強烈な頭痛に襲われた。

「クッ、来やがったか…!」

頭を抱えて蹲る。その間にも頭痛は酷くなる一方だった。
即座に右腕の上腕部にある小さい蓋を開け、中から薬を取り出して一気に飲み込む。

「クソッ、冗談じゃねえぞ。今までの比じゃねえ…。
 一体何があった…?」

そこで菊乃は、研究所にいた頃、実験の担当者から聞かされた言葉を思い出した。


――さぁ、これで終わりです。起き上がってもいいですよ――
――ふざけんな。元に戻しやがれ――
――それは無理な相談ですねぇ。何しろ私は"改造"が専門。"復元"は専門外なんですよ――
――ならそれが出来る奴を連れて来い。何ならテメェを殺してでも――
――いいですけど、連れてきたところでもう遅いですよ――
――あん?どういう意味だそりゃ――
――最早私とキミは一蓮托生、切り離すことが出来ないのですよ――
――だからどういう意味――
――端的に言うと、私の生命に何らかの異常があった場合、君にかかっているリミッターが外れて、
   制御が利かなくなると言う事ですよ。そうなった場合、私自身、キミがどうなるか想像がつきません――
――…おい、ふざけるのも大概にしろよ。何でそんなモンつけた?――
――それは勿論、私の"最高傑作"を誰にも触らせない為、ですよ――


「ふざけんな…!何が"最高傑作"だ…。アタシはモノじゃねー、っつーの…」

次第に意識が薄れて行く。
菊乃が最後に見たものは、高笑いをしながら去って行く研究者の姿だった――。

「うあああぁぁぁぁぁああああ!!!」

制御が利かなくなったオーラが解放され、教会内を覆っていく。
次の瞬間、教会は一瞬にして崩れ去った。――否、潰れた。
菊乃の放つ高重力に建物自体が耐え切れなくなったのだ。
その推定重力は――最早測定不能。
ふらふらとした足取りで何かをボソボソと呟きながら、菊乃は街の方角へ歩いて行った。

菊乃が通った跡は壮絶だった。
木々は薙ぎ倒され、歩いてきた道はクレーターだらけだった。
一歩踏み出すごとに新たなクレーターが生まれる。それに付随して、地響きのような震動も起こっている。
それはまるで恐竜が闊歩しているかの様な光景だった。

「ごめんなさい…ごめんなさい…ゴメンナサイ…」

菊乃は先程からこの言葉を繰り返し呟き、ここまで歩いてきた。
その虚ろな瞳に、行く手に現れた建物の群れが映し出された――

【神宮 菊乃:研究員が死んだ事により能力が暴走。暴走状態のまま街に到着】
162鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/20(土) 10:05:07 0
>>161
「…!? 地震!?」
「ええ、私も感じました…。一体どうなっているのでしょう?」
電気屋にいた鎌瀬と斎葉は、神宮が歩くときに発生する地響きを感じていた
「ちょっと見てくるよ…」
「私は開発中のメカがあるのでここに残ります…。もし何かあったら呼んで下さい」
「わかったよ…」
こうして鎌瀬は外の様子を見に行くことになった
「どうなってるんだ…。地震が何回も連続で…」
鎌瀬は外を歩いて原因を探り始めた。暴風雨は彼のオーラによって彼の周りで弱まっている
「っ…!?」
見ると一人の女性が歩いてきている。彼女が歩く度にクレーターが出来、地震が起こっている
「もしかして…あの人が原因…? と、いうことはあの人を止めれば…
いや、無理無理無理! できる分けないよ! だってあのひと見るからに強そうだし…」
ネガティブな鎌瀬は神宮の姿を見るや否や、弱気になった
一方彼女の方は、ごめんなさいと呟きながら、歩いてくる
「ど、どうしよう…。そ…そうだ! 説得すれば…!」
何時までも地震が続くので、覚悟を決めた鎌瀬
「あ、あの!すみません…!」
【鎌瀬犬斗:神宮菊乃と接触
斎葉巧:電気屋にてメカを作成中】
163氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/20(土) 16:44:43 0
服屋──そこは他の建物と同じく見かけはボロボロでありがらも、
中は意外にも定期的に手入れがされているように綺麗であった。
ハンガーにかけられたままの、まだ真新しさを感じる服がずらりと並び、
奥には手付かずのまま置かれたダンボールが積まれている。

ダンボールを開けると、中は今度こそ缶詰などの非常食が敷き詰められていた。
食料を確保し、ホッと安堵したところで、ふと視界に入った階段を昇ってみる。
二階にはキッチンがありトイレがあり居間があり、そしてシャワールームまであった。
恐らく、店を経営していた人間が普段、居住していた階なのだろう。

「……むろ……氷室……聞こえ……か」

店の構造を把握したところで、まるでタイミングを計ったように無線が開く。
「聞こえる。何だ?」
「よかっ……やっと繋がった。一つ、お前に聞きたいことが……ってな。
 その前に、何かわかっ……ことはあったか?」

まだ電波が完全に回復していないのだろう。
無線越しに聞こえてくる海部ヶ崎の声は所々でかすれている。
それでも、聞き取れないほどではない。
氷室は、南東の神社で遭遇した出来事のあらましを、ゆっくりと口にした──。

…………

「──その狂戦士とやらが、今回のことに一枚噛んでいるというのか?」
「可能性はある。そして仮にそうだとすると、予想以上に厄介なことになるのは間違いない」
「狂戦士というのは一体どういう過程で生み出された生命体なんだ?」

その疑問に、氷室は目を瞑り、深い泉の底に沈んだ記憶を探るようにして答えた。

「あれはそう……五年前だ。当時、カノッサはまだ、中級以上の構成員の数が絶対的に不足していた。
 そこで我々は、戦力の充実を図るために、下級兵士を対象にしたある計画を実行に移すことにした。
 それが後に通称『不死の実験』と呼ばれるものだ」
「不死の……実験……?」

「非異能者を薬物投与と手術によって異能者並の肉体に強化する……
 いわば“人工異能者”を増産する計画だ──。

 計画通りに進めば被験者は前線の特攻部隊、もしくは雲水直属の親衛隊に配属される予定だった。
 しかし……薬物投与と手術による人為的な肉体強化は、思わぬ副作用をもたらした。
 彼らは、驚異的な肉体能力と引き換えに“知性”を失ったのさ。
 敵、味方問わず、ただ己の凶拳を振るうだけ……忠実さを要求される戦闘員としては使い物にならなかった。
 その為、実験は直ぐに中止されたが……その際に、我々はあることに気がついた。
 何十、何百という被験者の中のごく一部に、命令を忠実に聞き入れる存在がいることにな……。

 それが、後に我々が狂戦士と呼んだ存在だった。数は全部で14人。
 彼らにはそれぞれトランプになぞらえたコードネームが与えられ、肉体に番号が刻まれた。
 カノッサの文字と共にな……」

衝撃の告白に、海部ヶ崎は言葉を失った。
それを他所に氷室は尚も告白を続ける。

「私が倒したのは『No.3』だった。No.1〜10まではいわゆる下級の狂戦士。
 主人と崇める存在の命令に従えるだけの知性はあるが、逆を言えばあるのはそれだけだ。
 ただ肉体が強化されているというだけで、能力もない。精々、強化された中級レベルに過ぎない。
 だが……No.11〜14までの上位の狂戦士は違う。彼らは常人と変わらぬ知性を持ち、能力がある。
 雲水が、怪我の功名で生まれた彼らの存在を、わざわざ処分したのもそこに理由がある」
「……それは?」

氷室は、閉じていた目を見開いて答えた。
164氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/20(土) 16:50:56 0
「雲水にとって、強力な力があるだけでなく、そこに知性がある輩というのは厄介だ。
 何らかの拍子に不満や反発心を抱かれ反乱を起こされないとも限らない……。
 だから先手を打っておく必要があったのさ」
「だったら何故だ? 何故、処分したはずの奴らが今更……」
「さぁ。処分される寸前に逃亡したか、または初めから処分しなかったか……。
 ……あるいは、何らかのワイズマン干渉があって一部だけ生き延びたか……。
 いずれにしても……ワイズマンのもとにはまだ生き残りの狂戦士がいる可能性がある。
 知性を持った奴らがな。厄介なことになると言ったのはそういうことだ」

そこまで言ったところで氷室は言葉を切り、今度は逆に訪ねて見せた。

「ところで……私に聞きたいこととは何だ?」
「あ、あぁ……実は先程、ある少女に……」

ガラガラガラ……ドーン!
夜空に雷鳴が轟くと共にまたしても無線が途切れる。
外を見ると、窓を叩く雨と風の勢いが、一層激しさを増していた。
どうやら島を覆う暗雲はにわか雨を呼ぶものではなく嵐を呼ぶものであったらしい……。

「……」
氷室は溜息一つ吐くと、無線を切って一階の服売場に下りていった。
初めは海部ヶ崎の言葉の続きが気にはなっていたものの、
多くの服と下着を物色していく内にそんなことは徐々に頭から離れていき、
似たような紫のジャージと適当な下着を掴んで再び二階に上がった頃には、
もうとっくに忘れ去っていた。

早速、ぐしょ濡れのジャージを脱ぎ、下着を外してバスルームに飛び込む。
シャワーからは汚れていない水が流れ、電気が通じているのかお湯も出たのは幸運だった。
髪を洗うシャンプーや、毛質を保護するトリートメントがないのは不満ではあったが、
この際、冷えた体を温めてくれるシャワーを愉しめるだけでも幸いと思わねばなるまい。

それから二十分後──
やっとバスルームから出てきた氷室は、珍しくも鼻歌を口ずさむほどの機嫌に変わっていた。
占いを除けばこれが唯一の趣味なのだから、当然の精神状態であろう。

氷室は体を拭き、まだ使っていない無地の下着とジャージを着ると、
さっさと次なる欲求である空腹を満たすために一階に下り、適当な缶詰を広げていった。
「……」
そして、それらを無言で口に入れていく。
その表情は美味いのか不味いのかが判断しかねるものだが、恐らく、若干後者寄りであったろう。
嵐が吹き荒れる音を聞きながら、暗闇の中たった一人で単調な味付けのされた缶詰をつまむのだ。
美味いと感じられる人間はまずいないだろう。

それでも、食べなければ生き死にに関わる以上、文句を言うことはできない。
できることは、ただ食欲の許す限り胃袋を満たすだけである。

そうして食べ続けること更に二十分──
氷室は缶詰三つと乾パンの入った袋を一つ、
更に水の入ったペットボトル二本を空けて、床に寝っ転がった。

食欲を満たしたことで急速な眠気が襲ってきたのもあったが、
一先ずは他にやることが無くなったというのもその理由であった。
(またビショ濡れになることはない。とりあえず嵐が治まるのを待つか……)

ボーっと薄暗い天井を見つめながら、やがて氷室はその瞼を閉じていった……。
「────ッ!」
だが、その直後──氷室は閉じたばかりの瞼を開けて、ガバッと体を起こした。
遠くの西の方角から迫ってくる強烈なプレッシャー……それをはっきりと感じたのだ──。

【氷室 霞美:神宮の接近に気がつく】
165神宮 菊乃@代理:2010/11/20(土) 19:27:15 O
>>162
「あ、あの!すみません…!」

突然かけられた声に首を傾け、虚ろな瞳を向ける。

「……」

菊乃は言葉を発しなかったが、その存在に疑問を感じていた。
自身の能力の影響で、今現在自分の周囲に"立って"いられる人間など存在しないはず――。
それがどうだ、目の前の人間は顔を歪めながらも"立って"いるではないか。
――何故?
今の菊乃にとって、その疑問に対する答えは一つしかなかった。
――この男は研究所の人間で、こちらの能力を知り尽くしているから対処法も分かっているんだ!
――と言うことは、この男は自分を連れ戻しに来た?

「あそこに帰るのはもうイヤだ…。家族に会いたい…」

鎌瀬は尚も話しかけてくる。しかし菊乃は既にその言葉を聞いてはいなかった。

「邪魔をするなら…潰す…」

相手が研究所の関係者である以上、その話を聞く必要はない。
そう判断した菊乃は、言葉を続ける鎌瀬を無視して一言忠告すると、再び歩を進めた。
街中に入ったことで、今度は菊乃が移動する度に一つ、また一つと建物が潰れていく。
"徐々に"ではなく、文字通り"一瞬で"潰れていく建物を見て、鎌瀬は暫し言葉を失っていた。
しかし再び菊乃の前に立ち、何かを喋りかけてくる。

「邪魔をするなら潰すと言った…」

それを見て、菊乃は足を止めて鎌瀬を正面から見据える。
そして徐に腰を落とし、鎌瀬に向かって突進する勢いで接近し、右腕を振り下ろした。
鎌瀬は咄嗟に転がるように――否、実際に転がってそれをかわす。
標的をなくした拳が地面に激突し、小規模の地割れが起こる。
菊乃は転がった鎌瀬の方を見て僅かに首を傾げた。

「……?」

攻撃が当たらなかったことが不思議なようだ。
あの避け方を見るに、向こうは大した能力者じゃない。
身体能力などを考えても、こちらの攻撃が避けられることはなかったはずだ。
――しかし実際は当たらなかった。
本来の菊乃であれば確実に当てていた。
いつもであれば、周囲を高重力にした場合、自身にかかる重力は緩和しているはずなのだ。
しかし半錯乱状態の今は、その緩和が上手くできていない。
そのため、菊乃自身も少なからず重力の影響を受けてしまっているのだ。
故に思い通りに体が動かず、結果的にかわされてしまったのだ。
当然菊乃にそれが分かっているはずもなく、ただ首を傾げるのみであった。
しかしかわされたことは認識している。そこで次の手を考えた。
――なら、かわせない様にすればいいじゃないか。
ここに来て、菊乃は初めて意識的にオーラを操作する。
今までは無意識状態でオーラが漏れているだけの状態だったが、今度は違う。
急速に有効範囲を広めていく。それに伴い、地響きと共に周囲の建物も潰れていく。
まるで街中に巨大な鉄球が落ちたかのように、菊乃を中心に半径凡そ30m程の、巨大なクレーターが出来た。

「……」

菊乃は中心部に立ち尽くし、虚ろな瞳を鎌瀬の方に向けた。
しかしその瞳からは、一筋の涙が流れていた――。

【神宮 菊乃:市街地の西で鎌瀬 犬斗と戦闘に。暴走状態は継続中。】
166鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/21(日) 04:05:03 0
>>165
神宮は疑問に思っていた。何しろ自分の能力の影響下で鎌瀬が立っていたのだから。
タネを明かしてしまうと鎌瀬のオーラで彼の周りだけ神宮の能力で増えた重力を劣化させているだけなのだが…
今の神宮に気づけるはずもない。此により少なからず疑念を抱いた神宮を説得しようとするが…
「邪魔をするなら…潰す…」
無視された。さらに神宮は街の方に歩く。その度に建物が潰れる。その様子に暫し呆気にとられていた鎌瀬だが、
このままでは街が壊れかねない。なので鎌瀬は神宮を追いかけ、
「待って下さい! 僕の話を聞いて下さい!」
と説得を試みたものの…
「邪魔をするなら潰すと言った…」
もはやその言葉は神宮の耳に届いていないようだった。
しかも今度は正面から鎌瀬を見て、右腕を振り下ろした
「うわっ!?」
とっさに転がって避けた鎌瀬。だが避けた後違和感に気づく。何故自分に今の攻撃が避けられた?
相手が弱かったから? いや、これはまずないだろう。 手加減してたら? いや、だとしたらこの地割れはおかしい。
さらに別のことにも気づく。この人、よく見たら角鵜野市で見かけた煙草を吸ってた女の人じゃないか!
と、あれこれ考えているうちに、
167鎌瀬 犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/21(日) 04:31:19 0
神宮が本気を出したのか、クレーターがどんどん広がり建物が崩れていく。ここで鎌瀬はこう思った。
このままじゃ斎葉君が危ない!
なのでとっさに無線機で通信する

「ふー。やっと完成です。これで開発が多少楽に…」
ピピピ…
「む、無線機が鳴ってますね…。こちら斎葉巧 どうぞ?」
「こちら鎌瀬犬斗! 斎葉君危険だから今すぐ避難して! このままじゃ電気屋ごと潰されちゃう!」
「了解しました。では…!」
ピッ
「さて…今こそ研究の成果を見せるとき…。エネルギー充填OK、システム異常無し! …起動!」
斎葉がラボのスイッチを押すと、電気屋が変形し…宙に浮いた。
そのまま幻影島の空をそれなりの速度で進んでいく。神宮のオーラの範囲内に入らずに避難できたようだ。

「う…体が…重い」
さっきからそうだったがどうも体が重い。何故だろう? おそらくは相手の能力。重力操作か? それとも重さそのものを操っている?
ってそんなこと気にしてる場合じゃないか…!
街には巨大クレーター。大きさは実に半径約30メートル
「まずい! 何故か怒らせちゃったみたいだ! しかもめちゃくちゃ強そうだし…無理だ! どうせ僕は勝てない!」
168鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/21(日) 04:46:09 0
「……」
中心部からこちらに向けた神宮の目には一筋の涙が。だが弱気になっていた鎌瀬にそれに気づく余裕はなかった。
もしかしたら何かのヒントになったかもしれないというのに…
「やるしかないのか!? しかたない…勝てる訳ないけど…“劣化空間(ネガティブルーム)”!」
腹を決めたのか、オーラを広げて劣化空間を作り、神宮を中に入れた。
【鎌瀬 犬斗:劣化空間を展開】
【斎葉 巧:幻影島上空を飛行中】 
169神宮 菊乃@代理:2010/11/22(月) 15:36:17 0
>>166>>167>>168
「やるしかないのか!? しかたない…勝てる訳ないけど…“劣化空間(ネガティブルーム)”!」

鎌瀬からオーラによる空間が広がっていく。その空間が菊乃を捕らえるのにさしたる時間はかからなかった。
そして菊乃はまたしても疑問を感じていた。
――先程とは違って、ちゃんと重力を操作しているのに何故立っていられる?
――それにこの空間、何か嫌な感じがする。
鎌瀬の『劣化空間』の中に入った瞬間、菊乃は言いようのない感覚を覚えていた。
軽く脱力感を覚える。まるで体が少しずつ腐食していくような感覚。
――…対象を弱体化させる類の能力と推定。長時間の戦闘は不利になる。
そう考えた菊乃は、少しずつ重くなっていく体に鞭を入れるためにオーラを充実させる。

「『重力減少』…」

呟くと同時に体が軽くなる。
そして足に力を入れ、強く地面を蹴って跳躍する。
その速度についていけなかった鎌瀬は、遅れて上空を見上げる。
鎌瀬上空の菊乃を視界に捕らえた時、菊乃は次なる一手を繰り出していた。
鎌瀬がこちらを見つけた時、菊乃は既に鎌瀬に向かって落下を始めていた。落下しながら呟く。

――『重力の戦槌』(ミョルニル)――

次の瞬間、菊乃の落下速度が劇的に変化した。
初めは自由落下だったので、大した速度ではなかった。
しかし今は凄まじい速度で落下している。

『重力の戦槌』――自身にかかる重力を瞬間的に最大にし、あらゆる攻撃に利用する技である。
今回の場合は、落下速度をプラスして自身を砲弾のように突撃させる方法をとっている。

菊乃が地面に激突する。
およそ人が落下したとは思えない音を発し、地面に巨大なクレーターを作る。
その大きさは、先程無意識の内に使っていた『重力増加』の比ではない。
まるで隕石が落下したような巨大なクレーターを作り出していた。
そのクレーターが『重力の戦槌』の威力を物語っている。
中心で膝をついていた菊乃は、立ち上がって辺りを見回す。
すると、クレーターの外にある建物のそばに鎌瀬の姿を発見した。
倒れているが死んではいないようだ。僅かに身じろぎしている。
どうやら直撃は避けたようだ。――もっとも、直撃していれば跡形もなくなっていたので、姿が確認できる時点で直撃はしていないのだが。
止めを刺そうと鎌瀬に向かって歩き始める。
しかしその直後、菊乃は何かに躓いたように転倒しそうになった。
足元には何もない。首を傾げる菊乃。
――そう、彼女は気付いていなかったが、『重力の戦槌』は諸刃の剣なのである。
着地時の衝撃で三半規管をやられていた為、平衡感覚が一時的に麻痺しているのだ。
しかし今の菊乃には当然それすらも分かるはずがなく、首を捻りながらも一歩ずつゆっくりと歩いていく。
そして今までの一連の動作の間に菊乃の瞳から流れ出る涙はその量を増していたが、菊乃がそれに気付くことはなかった――。

【神宮 菊乃:鎌瀬 犬斗に止めを刺すべく歩いて接近中】
170氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/22(月) 23:01:09 0
「何だ? この強い気は……」

氷室は感覚を研ぎ澄ませて更にその“気”を探っていく。
隠そうとするどころか、まるで発見して下さいといわんばかりのド派手なオーラの持ち主が、
一体、何の目的でこの街に近付いてきているのか……
目的は自分だろうか? それとも単なる戦闘狂が無差別に闘いを求めてきているだけだろうか?
感じられる気の性質を判別することで、それを明らかにしてみせようというわけだ。

勿論、これは並大抵の感知能力では叶わぬ所業である。
つい三ヶ月前までスキャナーに頼り切っていた人間では、経験不足という点から困難だろう。
しかし、精神面では元々非凡なポテンシャルがある氷室である。
研ぎ澄まされた彼女の感覚は、ゆっくりと徐々に、だが着実に深層を暴いていった。

「誰か特定の人物を狙っている……というわけではなさそうだ。
 殺気の放ち方がえらく散漫な上、何より気全体に混濁したような大きな“乱れ”がある。
 ……幻覚でも視せられているのか?」

淡々と分析する氷室が、そこでふともう一つの気を感じる。
然程大きくはないが、分析対象の気に近付いていく一つの気を。

「……早速、敵か……。しかし、今のところそいつに敵意のようなものはない。
 むしろ偶然出会って戸惑っているような“揺らぎ”さえ感じられる。
 恐らく、積極的に手を出さなければ無害な存在……
 だが……相手はそうは思わなかったようだな」

氷室は起こした体を、再びその場にゴロンと倒し、静かに瞼を閉じた。
先程まで散漫であった殺気が、一気に新たに現れた気に向けられたのを感じたのだ。
それはつまり、これから街の西で戦闘が始まることを意味し、
同時に派手なオーラの持ち主が、しばらくは氷室の敵になりえないということである。

「私が首を突っ込む必要はないな。……今のところは、だが」

若干、頭の先を緊張させて、やがて氷室は静かな寝息を立てていった……。

【氷室 霞美:神宮と鎌瀬の戦闘の気を感じつつ、眠りにつく】
171鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/23(火) 10:05:19 0
>>169
ゆっくりと神宮が近づいてきてる間、鎌瀬はこんなことを考える
(別にこの戦いに負けたっていい。僕はいつだって負け組だ)
(それにここで頑張って頑張って精一杯足掻いて、それが無駄に終わったってどうでもいい。
努力は報われないものなんだから)
(でも…。死ぬのだけは嫌だ。死ぬのだけは…)
(だったらこうすればいい…。世の中…負けるが勝ちだ)
そこで鎌瀬は突然涙を流し、ひざまずき、地面に両手をつき、額を地面にすり付け
…いわゆる土下座のポーズをとり、すすり泣き声を出しながらこう叫ぶ
「すみません、ごめんなさい。僕の負けです許して下さい」
それは十人が十人こいつにはプライドが無いのだろうか、と思うような惨めな行動。異能者らしからぬ言動。
この行動は一瞬、一瞬だけ神宮を怯ませるが…
「……」
自分をこんなにして家族と離ればなれにした奴の仲間…だと思いこんでいる人物の言葉を素直に信用できる筈もない
だがその一瞬は着実に神宮の身体能力を少し劣化させた。そして、鎌瀬にある一つの手を見いださせる。
(今…一瞬だけど止まった。つまり…僕の話を聞いてくれる可能性は0じゃない…)
172鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/23(火) 10:28:11 0
さらに鎌瀬は、ようやくあることに気づく。
(あれ…。この人、泣いてる…? どうして…?)
「ところで貴方は僕をどうすることもできます。僕はもうまともに動けない。あまりの恐怖で腰を抜かしましたからね…。
貴方は僕を殺すも生かすも痛めつけるも自由だ…。でも…。本当にそれで満足なんですか…?
 満足だとしたら…どうして貴方は“泣いてる”んですか…?」 
鎌瀬は当初の目的、“説得”を実行すべく、神宮に尋ねる
【鎌瀬犬斗:神宮の涙を指摘
斎葉:相変わらず飛行中。丁度いい着地場所を探している】
173海部ヶ崎 綺咲:2010/11/23(火) 20:00:39 0
>>171>>172
「すみません、ごめんなさい。僕の負けです許して下さい」

止めを刺すべく鎌瀬に近付き、その顔がはっきりと見える位置まで近付いた時、鎌瀬はいきなり土下座をした。
頭を下げた為顔は見えなくなったが、どうやら泣いているようだ。

「……」

その奇妙な行動に一瞬足を止める。
――何故目の前の人物は土下座などして負けを認める発言をするのだろうか?
――こいつは研究所の人間で、自分を連れ戻しに来た人間のはず。
――油断させて隙を狙っている?…そうに違いない。
現に今の一瞬でも相手の能力によって確実に弱体化している。
この土下座はこちらを弱体化させるための時間稼ぎと見ていいだろう。
…だがそんな事に付き合ってやる道理はない。
再びゆっくりと歩き出す。すると鎌瀬が不意に顔を上げて話しかけてきた。

「ところで貴方は僕をどうすることもできます。僕はもうまともに動けない。あまりの恐怖で腰を抜かしましたからね…。
貴方は僕を殺すも生かすも痛めつけるも自由だ…。でも…。本当にそれで満足なんですか…?
 満足だとしたら…どうして貴方は“泣いてる”んですか…?」 

また下らない説得か何かだと思ったが、鎌瀬は予想外の事を言った。
――自分が泣いている?泣いているのは相手の方…。
そう思いつつも自分の顔に手をやる。そこで菊乃は初めて自分の頬を伝う涙に気がついた。
涙は次々と目から溢れ、自分の服や地面を濡らしている。
今までは雨のせいだと思っていたが、どうやら違ったらしい。
――何故泣いている?これから憎い相手を殺すのに。
頭の中に突如他人の声が響いてきたが、すぐに自分と同じ声だと分かった。
――『本当は分かってるんじゃねぇのか?…目の前のコイツは違う、と』
――では何故この人物にはこちらの能力が効き難い?
――『そりゃあコイツの能力だろうよ。弱体化させるのは何も人だけとは限らないぜ』
――では何故…!
――『もういいって。いい加減認めろよ。本当は殺したくないから泣いてるんだろ?』
――『それにコイツを殺ったって家族の所へは行けない。ワイズマンを殺らなきゃな』
――ワイズ、マン…?
――『そうだ、そのフザけた野郎がアタシをここへ連れてきた張本人だ。そいつを殺らなきゃこの島からは出られねえ。
    …そして氷室達だ。こいつらも殺らなきゃなんねえ。カノッサは生かしておけねえからな』

「ワイズ、マン…。ぐうううぅぅぅうううう…!」

頭を抱えて蹲る。同時に再び能力が暴走し始めた。
先程とは違い、今度は『重力増加』だけではなく『重力減少』まで発動している。
そのため、周囲はブラックホールの内部のようだった。
あらゆるものが飛び交い、または潰れていく。

「ウウウウゥゥゥ…コロス…カノッサ…ワイズマン…ヒムロ…ケンキュウジョ…アマガサキ…」

憎悪を目に滾らせ最後にその言葉を呟くと、菊乃は糸の切れた人形のようにその場に倒れこんだ。
同時に暴走していた能力もピタリと止む。
いつの間にか雨は小降りになり、東の空は僅かに白み始めていた――。

【神宮 菊乃:戦闘終了。意識を失う】
174神宮 菊乃@代理:2010/11/23(火) 20:02:15 0
>>173
名前欄訂正
正しくは神宮です。
175鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/24(水) 20:05:37 0
>>173
「ウウウウゥゥゥ…コロス…カノッサ…ワイズマン…ヒムロ…ケンキュウジョ…アマガサキ…」
その言葉とともに神宮はパタリと倒れ、能力で狂っていた重力も元に戻った
「え…ちょ…大丈夫ですか…!?」
声をかけてみる。しかし、返事がない
「気を失ってる…。そうだ…僕もオーラを引っ込めないと」
そう言い、鎌瀬は劣化空間を解除する
「痛たた…。結構ダメージあるな…。まあ、とりあえず斎葉君に連絡しよう…」
ピピピ
「こちら斎葉巧。どうぞ」
「こちら鎌瀬犬斗…。重力が元に戻ったよ…。でも沢山クレーターがあってとても着地できる状態じゃないよ…どうぞ」
「こちら斎葉。了解です。セブンイレブン付近に無事な土地を発見。着地に移ります」ガチャ
「さて…とりあえずは斎葉君と合流しよう」
【鎌瀬犬斗:戦闘終了。斎葉と合流するためセブンの辺りに向かう
斎葉巧:セブンイレブンの後ろに着地】 
176氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/25(木) 19:11:56 0
氷室はふと瞼に照りつける光を感じて目を覚ました。
時計を見ると午前八時。何だかんだで数時間も眠りこけていたわけだ。
体を起こし、背をグッと伸ばしながら、朝日が差し込む窓を開け放つ。

昨晩の湿った冷たい雨風とは違う、暖かい朝の心地よい風が流れてくる。
目を閉じれば、聞こえるのはのどかな子鳥のさえずりと、蝉の鳴き声だけ。
昨晩、外が荒れた分、小動物にとっては喜びも一押しの朝といったところなのだろう。
だが、無邪気に喜べるのはあくまでもそれら小動物だけである。
氷室ら“招待客”にとっては、雨が降ろうが快晴になろうが、地獄であることに変わりはないのだから。

「……」

窓から離れ、食料にかじりつく氷室の脳裏には、あのワイズマンの声が響いていた。
……『ルールに反したり私への反逆を露にした者には容赦なく“死”を与えるであろう』……。

(言い切るからには、例え招待客の全員が歯向かったとしても、何とかするだけの力があるのだろう。
 だが、全てを魔水晶で解決しようと考えているとは思えない。
 恐らく……いや間違いなく、自らの手足としたピエロのような強力な異能者を幾人か抱えている。
 ……そいつらが私達を監視しているとしたら、そろそろキナ臭さを持った奴に気付く頃かもしれないな)

乾パン、缶詰……味気のない朝食を簡単に済ませた氷室は、
最後にペットボトルの水を豪快に飲み干して、建物の外へと出た。

               ワイズマン
「さて……今日はどれだけ奴に近づけるか……」

【氷室 霞美:街の北へと向かっていく。現時刻AM8:00】
177神宮 菊乃@代理:2010/11/25(木) 20:48:30 0
「ん……」

意識を失ってから数時間後、菊乃は目を覚ました。

「ここは…街?アタシは確か教会で寝てて…そうか。"アレ"が来たのか。
 まったく…厄介なもん付けてくれたぜ、あのマッドサイエンティスト」

立ち上がり、体を解しながら愚痴る。すると腹が豪快に鳴った。

「腹減ったな…って考えてみたら島に来てから何も食ってねえや。そりゃ腹も減るわな。
 うーん、教会に帰るまで保ちそうにないしそこらへんで適当に…」

そう言ってぐるりと辺りを見回す菊乃。
周囲は菊乃を中心に大小様々なクレーターだらけだった。
おまけに目に見える建物はすべて倒壊している。

「これ、アタシがやった…んだよなぁ。ハァ…。
 これじゃ食料もクソもないか…。自分でやったとは言え馬鹿だなぁ…。
 ま、それでも前の時よりはマシか。あん時ゃ酷かったからなぁ。
 …っと、そんなことより今はメシだメシ。お、あっちにコンビニらしき看板が」

菊乃の見つめた先には「7」の文字が入った看板が。
風化してはいるが菊乃自身以前に何度も見たことのある看板だった。

「しかしコンビニか…。この島電気は通ってなさそうだな。
 となると、期待できるのは乾物あたりだな。カップラーメンでもありゃいいが」

呟きながらコンビニに向かって歩き始める。
腹は減っているが行動に支障はない。…戦闘は出来そうにないが。
歩き始めてすぐに、菊乃は立ち止まった。

「そういや誰かと戦ってた気がするな…。
 さっき起きた時はいなかったけど、死んでるのか生きてるのか…」

おぼろげな記憶を手繰り寄せるが、肝心なところが思い出せない。
ただ漠然と"誰かと戦っていた"という記憶しかないのだ。
戦っていた相手の姿は勿論、性別や能力なども全く思い出せない。

「ま、いっか。向こうが生きてりゃアタシの顔見て思い出すだろ」

自分の記憶の捜索を他人に押し付け、再びコンビニに向かって歩き出した。

【神宮 菊乃:意識回復。街の北にあるコンビニに向かう。現在時刻AM8:10】
178赤染 壮士 ◆1Z3GbxW3cfuo :2010/11/25(木) 22:20:23 0
「寝起きの野郎を闇討ちするってのは思い付きだったが、まさかこうも簡単に獲物が見つかるとはなぁ…」

朝日が店内を照らす喫茶店に人影が二つ。
裏口から侵入した斧を片手の男。
その視線のさきに捉えるはもう一つの人影、赤髪の男。
真っ黒の皮製ジャケット、同様のパンツ。首元の銀の毛皮が朝日に輝いている。
さらに皮のグローブに、安全靴。並みの服装ではなく、戦闘用であることが見て取れた。
「ま、こんな格好しててもカウンターに突っ伏して無防備に寝てりゃ、意味ねーよな」
斧の男は差し足忍び足で背後に回ると、その右腕を振り上げ。

「死ねや」
振り下ろした。

――しかし、その動作は中断を余儀なくされた。
「さっきからゴチャゴチャうっせーんだよ。寝てるのが見て分かんねぇのか」
右手が。
赤髪の男の右手が一切無駄の無い動きで、斧の刃を受け止めた。
さながら、フリスビーでも受け取るような手軽さで。

「まぁ、寝起きを襲うのは悪かねぇよ。でも、もうちょい早めに来るべきだろうが。
 もう朝日昇っちまってるじゃねぇか」
赤髪の男――赤染 壮士はそのままカウンターの席を降り、軽く欠伸を漏らした。
その間も右手は斧を握り続け、襲撃者が引こうにもビクともしない。
「く、クソがぁ!!」
右手の斧を諦め、左手から生み出した斧を同じく振り上げた、が。
「だから、おせぇんだよ」
襲撃者が腕を掲げた頃には、とっくに赤染の靴先が相手の鳩尾(みぞおち)に打ち込まれた後だった。
一秒、二秒と痙攣を起こした後に、男は倒れる。

「再起不能(リタイア)……ってまでにはいかねぇだろ。また挑戦しに来な」
斧男を裏口から放り出すと、そのまま何事も無かったように朝食へとありついた。

【赤染 壮士:島西部の喫茶店にて起床】
179 ◆1Z3GbxW3cfuo :2010/11/26(金) 00:39:57 0
酉ミス
180鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/11/26(金) 21:44:29 0
「ええと…アレかな?」
セブンの後ろに電気屋を見つけ、入る鎌瀬
「む、来ましたか。貴方が頑張って戦ってる間、私は色々なメカを作ってました。
これで私も多少戦えるでしょう」
「良かった…。僕だけじゃ不安でしかたなかったよ…
ところで…。お腹空かない?」
斎葉の言葉に安心した後、言う
「そう言えばそろそろ朝食の時間ですね…。せっかくですから、そこのコンビニで何か買いましょうか」
「そうだね…」
こうして、鎌瀬と斎葉は食料を手に入れる為にセブンイレブンに向かう
「ん…?あの人ってもしかして…? いや、もしかしなくてもそうだよね…」
同じくコンビニに向かって来る神宮を見つけた鎌瀬。すこしビクビクしている
【鎌瀬犬斗&斎葉巧:コンビニに向かって少し歩いたところで、神宮菊乃を見つける】
181氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/27(土) 23:19:33 0
北に進むこと数百メートルの地点に佇む五階建ての廃校。
古臭いボロボロの木造校舎だが、この周辺では最も高層の建物である。
氷室は身軽な身のこなしで屋上に昇ると、すぐさま進路方向の遥か先に目を凝らした。

「……」

見えるのは、廃校から大分近い場所にあるコンビニの看板、
いくつかの朽ちた無人の家屋、島を東西に両断するように一直線に伸びた線路、
そして、その先で広がる荒れ果てた広大な耕地……。

「田んぼかそれとも畑か……いずれにしても、やはり放置されてから長い年月が経っているようだ。
 街よりも人気はなさそうだが……いや、だからこそ危険か。
 身を隠す場所がない平野で動き回るのは却って人目につく……とはいえ」

ふっと屋上から飛び降りて廃校の裏門前に着地する氷室。
そしてその際、切った言葉の続きを溜息混じりの口調で呟いた。

「どこに手掛かりがあるか判らない以上、そんなことは言ってられない……か」


──再び北に向けて足を進めていく。
だが、それから数分と経たない内に、氷室は目の前の光景に思わず前進を止めた。
屋上からでは気付かなかったが地面に大小無数のクレーターが広がっている……。
いや、それだけではない。見れば周囲の建物がどれも綺麗に全壊しているのだ。
まるで見えない何かの力が建物を上から押し潰したように。

(そういえば屋上から見えた家屋の数が妙に少なかった……その理由がこれか)

誰がやったのかそれは定かではない。
ただ、これが激しい戦闘の跡であろうことは明白であった。
(まぁ、誰がやったにせよ──)

>>177
ふと、氷室が思考を止める。……横から視線を感じたのだ。
目だけをその方向に向けると、そこには黒いシャツを着た白髪の少女が佇んでいた。

「……何だお前?」

【氷室 霞美:神宮 菊乃と接触】
182ジョーカー ◆ICEMANvW8c :2010/11/28(日) 02:03:57 0
>>178
「ホーッホッホッホッホ」

突如とした甲高い笑い声いと共に、喫茶店の曇りガラスに黒いシルエットがにゅっと浮かび出す。
その形は道化のようであったし、どこか死神のようでもあった。
しかし、この島に居る者であるなら、シルエットの正体を知っているはずなのだ。
仮に記憶から消えていたとしても、直ぐにその独特な口調と声で思い出すことだろう……。

「甘い──まるで蜂蜜のように甘〜いお方ですねぇ。
 貴方は『宋襄の仁(そうじょうのじん)』という言葉をご存知ですか?」

シルエットはガラス越しにそう問いかけながらも、返事は待たなかった。

「これは、敵につまらぬ情けをかけると後に自分の首を絞めてしまう……の意です。
 お節介かもしれませんが一言、貴方にご忠告申し上げておきましょう。
 殺し合いに情けは無用。無様な敗者にはきちんと止めを刺しておくことです。
 生かしておくと、その首……いずれ掻かれるかもしれませんよ?」

右手で首を切るような動作をしながら、「クスクス」と肩を小刻みに揺らす。
耳障りな声に目障りなリアクション……
シルエットの主は一体何しに来たのだろうか? ただ気まぐれに挑発に来ただけだろうか?
店内の男に渦巻き始めたそのような疑問を見透かしたように、続けてシルエットが声を放つ。

「おや、ご気分を害されたでしょうか? ホホホ、でしたら申し訳ありません。
 私は単に“用足し”の途中でこの店の殺気に気付き、立ち寄ってみたまでのこと。
 長居するつもりはございません。どうぞ、爽やかな朝食をお楽しみ下さいませ」

そこまで言ったところで、突然、黒いシルエットがまるで煙のようにひしゃげる。
そして、それは風に吹かれたように四散すると、やがて視認できなくなった。
煙……その文字通り、完全に消えてしまったのだ。

「オーッホッホッホ……」

その場に木霊する、甲高い笑い声だけを残して……。

【ジョーカー:喫茶店から立ち去る。向かう場所は街の北……?】
183神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/11/28(日) 07:36:03 0
>>180>>181
コンビニに向かって歩いていた菊乃。
看板の風化具合が視認出来る位置まで来た時、コンビニの裏から二人の人物が出てきた。
二人とも背丈は同じほど、片方はボサボサの髪で、もう片方は技術者の様な格好をしている。
その内一人がこちらに気付いたようで、視線が合った。…少し怯えているようにも見えるが。

「お、あいつらもアタシと同じ目的の奴か…?それにしても何だかおかしな二人組だな。
 特にあの不景気な顔してる奴…ビビってる、のか?別にアタシゃ何もしてねえんだけどな。
 ま、取り敢えず声でもかけてみるか。おー…」

声をかけようとした瞬間、自分から少し離れた位置に人が立っている気配がした。
前方にいる二人よりは近い距離だ。

(もう一人いたのか。もしかしてあいつらの仲――)

横を向き、その人物の顔を見た瞬間、菊乃の思考は停止した。
特徴的な青い髪にジャージ姿――自分の記憶の中でそれに該当する人物は一人しかいなかった。

「……何だお前?」

その人物――氷室 霞美が声をかけてくる。どうやら凝視していたと思われたらしい。

「何だお前、か。随分な言い草じゃねえか。
 アタシの事を忘れたとは言わせねえ――と言いたいところだが、アタシも馬鹿じゃねえ。
 お前がアタシの事なんか眼中になかったことぐらい承知してるさ」

氷室は訝しげな顔でこちらの話を聞いている。
もしかしたら記憶の中を探しているのかも知れない。

「ま、名前を言ったところで思い出すとは思えねえが…。一応名乗っておく。
 アタシは神宮 菊乃。カノッサの第5研究所で無理矢理人体実験を受けてさせられていた人間さ。
 アンタも何度か足を運んだことがあるはずだ。…ディーハルトとか言う奴は頻繁に来てたがな」

自分の事を簡潔に話す。
すると氷室の表情が僅かに変わった。ディーハルトの名前を出したことで何か思い出したのかも知れない。

「そう言えば、どっかの誰かに組織をアジトもろとも潰されたらしいな。
 その誰かには感謝したいくらいだな。お陰でアタシはこうして自由になれたんだから。
 …もっとも、今は完全に自由って訳じゃないけどな」

氷室はこちらの話を聞きながら、顎に手を当てて何かを考えている。

「おっとそうだ。さっきアンタの仲間に会ったぜ。確か海部ヶ崎とか言ってたな。
 カノッサの奴にしてはちょっと真面目な奴だったが…。
 ま、どちらにせよアタシはアンタらカノッサを許すつもりはない。
 今すぐ潰してやりたいところだが…今は飯が優先だ。
 それにアンタと海部ヶ崎の関係にも少し興味がある。アイツは自分はカノッサの人間じゃないって言ってたが…。
 その真偽も含めて少し話がしたい。嫌ならそれも構わない。アタシは飯を食いに行くだけだ」

そこまで話して喋ることをやめ、氷室の反応が見る。
以前の菊乃であれば、氷室の姿を見た瞬間に問答無用で勝負を仕掛けていただろう。
しかし今の菊乃は考え方が少し変わった。
元々菊乃はいくら憎い相手とは言え、いきなり襲い掛かったりはしない。
相手の話を聞くだけの精神的余裕は持っているのだ。
それがどう言う訳かこの島に来てからなくなっていたのだが…。

「さ、どうする?」

【神宮 菊乃:鎌瀬達を発見。同時に氷室とも接触し、対話を持ちかける。今のところ戦闘意思はなし】
184氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/11/29(月) 21:26:51 0
>>183
「何だお前、か。随分な言い草じゃねえか。
 アタシの事を忘れたとは言わせねえ――と言いたいところだが、アタシも馬鹿じゃねえ。
 お前がアタシの事なんか眼中になかったことぐらい承知してるさ」

──偶然出会った見知らぬ少女が自分のことを知っている──?
カノッサ幹部の名は裏社会ではかなり有名である。
従って少しでも裏社会に通じた存在なら、名を聞いたことがあるというのは何ら珍しいことではない。
しかし、顔と名前を一致させて記憶しているという存在は、そう多くは無いはずなのだ。
──この女、一体どこで──……氷室がそう思いかけた時、少女の口が続けて開かれた。

「ま、名前を言ったところで思い出すとは思えねえが…。一応名乗っておく。
 アタシは神宮 菊乃。カノッサの第5研究所で無理矢理人体実験を受けてさせられていた人間さ。
 アンタも何度か足を運んだことがあるはずだ。…ディーハルトとか言う奴は頻繁に来てたがな」

氷室はすかさず泉の底に沈殿した記憶を浚っていく。
いや、実際は浚おうとして、直ぐに止めていた。
思い出そうとしても思い出せないのが解りきっていたからである。

第五研究所──それは確かに実在したカノッサの地方研究所であり、
少女が言うように、氷室自身も足を運んだ事が何度かある場所だ。
しかし、大企業の社長が全ての部下を記憶していないのと同じで、
氷室が神宮と名乗る少女の存在などいちいち覚えているはずがない。
しかも、彼女の場合は正規の構成員(部下)ではなく、
地方研究所で行われた実験の被験者の一人に過ぎないのだから尚のことである。
それを解っていたからこそ、神宮自身も「思い出すとは思えない」と言ったのだろう……。

(あの研究所で会ったことがあるのか。
 ……ま、実際はガラス越しに一瞬目が合ったとか、その程度だろうがな)
一人、勝手にそう結論付けたところで、バチッと神宮と視線が合わさる。
気付けば、神宮の話は終末に差し掛かっていた。

「おっとそうだ。さっきアンタの仲間に会ったぜ。確か海部ヶ崎とか言ってたな。
 カノッサの奴にしてはちょっと真面目な奴だったが…。
 ま、どちらにせよアタシはアンタらカノッサを許すつもりはない。
 今すぐ潰してやりたいところだが…今は飯が優先だ。
 それにアンタと海部ヶ崎の関係にも少し興味がある。アイツは自分はカノッサの人間じゃないって言ってたが…。
 その真偽も含めて少し話がしたい。嫌ならそれも構わない。アタシは飯を食いに行くだけだ。
 さ、どうする?」

ぶっきらぼうな問い掛けに、氷室もお得意の仏頂面を持って返す。

「お前、海部ヶ崎と会って話をしていたのか。
 だったらどうするも何も、今更私から話すことは何もないさ。
 あいつの言った事は“事実”だと──そう言い切れるからな。
 ……ところで、私の方こそ一つ訊いておきたいことがある」

「何?」と言いたげに一瞬眉を顰める神宮。今度は氷室が問う番であった。

「お前に、本気で復讐する気があるかどうかだ。
 その気があるなら今、この場で掛かってきな。相手をしてやるよ。
 ないなら食事でも何でもしに行くがいい。
 だがその場合、今後復讐は諦めてもらう。この先、延々と付まとわれるのは御免だ。
 ……私は、厄介事を先送りにするのが嫌いでね。ここでハッキリさせてもらうよ」

氷室は、神宮の返事を待った。

【氷室 霞美:闘うか、復讐を諦めるかを問う。】
185神宮 菊乃@代理:2010/11/30(火) 01:19:54 0
>>184
「お前に、本気で復讐する気があるかどうかだ。
 その気があるなら今、この場で掛かってきな。相手をしてやるよ。
 ないなら食事でも何でもしに行くがいい。
 だがその場合、今後復讐は諦めてもらう。この先、延々と付まとわれるのは御免だ。
 ……私は、厄介事を先送りにするのが嫌いでね。ここでハッキリさせてもらうよ」

氷室はこちらの問いに答えた上で、そう切り返してきた。
菊乃は目を閉じて暫し考える。
そして待つ事数分――菊乃は目を開けてこう答えた。

「――確かに今でもカノッサは憎い。それは変わらねえよ。
 けど、ちょっと考えてみたら復讐なんて馬鹿らしいわな。
 よく考えると、"アタシの憎んでた"カノッサはもう存在しないわけだしな。
 今のアンタも「元」ってだけで別に自分からカノッサを名乗ってるわけじゃねえ。
 そんな奴を熨したところで、それじゃただの喧嘩だ。それに――」

一旦言葉を切って氷室をジッと見据える。
その瞳には憎しみではない、別の感情が宿っていた。

「――これもアンタは覚えてねえだろうが、アンタとは一度だけ話をしてるんだよ。ほんの少しだがな」

そう言うと、菊乃は昔の出来事を思い出した。
あれは菊乃がまだ研究所で人体実験を受けていた頃――



――まったく、何で私が視察なんか…ん、何だお前?
――…?
――酷い目をしているな。一体何をされたのやら…ま、私には関係ないがな
――…すけて
――ん?何か言ったか?
――…たすけて
――助けて、か。そんなに助かりたかったら自分で何とかしてみな
――…じぶんで?
――そうだ。逃げるなり殺すなりすればいいだろ。それができなきゃ一生この箱の中だな
――じぶんで…にげる…ころす…


「よく考えたら、アタシが今ここにいるのもあの時のアンタの言葉があってこそ、だな。
 カノッサの中でもアンタにだけは感謝こそすれ恨む道理はない。
 ってわけでアタシは飯を食いに行くよ。じゃあな。
 けどこの島にいりゃ海部ヶ崎共々いずれまた会うことになるだろーよ。
 そん時ゃ…ま、仲良くするかはそん時の気分次第だな。ハッハッハ……」

菊乃は笑いながらコンビニに向かって歩き出す。と、一陣の風が吹き、菊乃の後ろ髪を靡かせた。
その首筋には、剥き出しのまま点滅を繰り返す機械が埋め込まれていた――


暫くしてコンビニに辿り着いた菊乃。
しかしそこには先程の二人の姿はなく、代わりに店内から物音が聞こえてきた。
その音を聞いて店内に二つの人影を確認し、店に入る菊乃。
自動ドアではなかったので、ドアの開閉音で二人がこちらを振り向く。
それは思った通り先程こちらを見ていた二人だった。そんな二人に菊乃は声をかける。

「よかったらアタシにも少し食いもん分けてくれねえかな?腹へって死にそうなんだわ」

【神宮 菊乃:復讐しない旨を氷室に告げて別れ、街北部のコンビニにて鎌瀬達と接触】
186赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/11/30(火) 23:40:36 0
>>182
赤染が朝食に乾燥パンをかじりながら、ミネラルウォーター片手でカウンターに出てきた時、
黒い影が喫茶店のスモークガラスに浮かび上がる。

「ホーッホッホッホッホ」

節々に特徴的なシルエットが窺え、それは死神のようでピエロのようでもあたった。
加えて、この甲高い笑い声。
(夢に出てきた、あのピエロ野郎か――)

「甘い──まるで蜂蜜のように甘〜いお方ですねぇ。
 貴方は『宋襄の仁(そうじょうのじん)』という言葉をご存知ですか?」

さっきの攻防を見ての感想なのだろう。ピエロは返事を待たず、言葉を続ける。

「これは、敵につまらぬ情けをかけると後に自分の首を絞めてしまう……の意です。
 お節介かもしれませんが一言、貴方にご忠告申し上げておきましょう。
 殺し合いに情けは無用。無様な敗者にはきちんと止めを刺しておくことです。
 生かしておくと、その首……いずれ掻かれるかもしれませんよ?」
黒いシルエットは分かりやすく指で首を掻っ切るジェスチャーを示す。

「……」
「おや、ご気分を害されたでしょうか? ホホホ、でしたら申し訳ありません。
 私は単に“用足し”の途中でこの店の殺気に気付き、立ち寄ってみたまでのこと。
 長居するつもりはございません。どうぞ、爽やかな朝食をお楽しみ下さいませ」
 オーッホッホッホ……」

ピエロは言いたいだけ、言い切ると、現れた時と同じように甲高い笑い声を置き土産に、
その場から姿を消した。
187赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/11/30(火) 23:44:37 0
赤染は数秒間、ピエロいた場所を見据えた後、カウンター席に座り、朝食を再開する。

「……俺が甘い? 敵に情けをかける? くだらねぇなぁ、おい」
あのピエロ。あいつは間違いなくこの狂ったイベントの狂った主催者側だ。
ガラス越しとはいえ、対面してその狂気はよぉく感じた。
そして、主催者側の人間がこの島に居るってぇことはだ。

「ちったぁやる気出てきたってぇとこか? なぁ、おい」

赤染は空になったペットボトルを投げ捨てると、喫茶店の戸を開ける。
赤染は夢、瞬間移動、録音音声と他の参加者と同様の過程を経て、この島に閉じ込められた。
そして、昨夜の深夜零時から赤染はその場から行動を起こしていない。
(当たりめぇだ。こっちは巻き込まれた側なんだ。誰があんな野郎共の思惑通りに動くかってぇんだ)
だが、このイベントの主催者の関係者がこの島に居るというのなら、脱出の手掛かりがあるというのなら。

「さっさと、この狂ったパーティーの幕を下ろしてやんねぇとな……だから、ちゃっちゃとそこ、どいてもらうぜ」
目線の先にはオーバーオールの男。
瞳孔の開いた瞳に、涎がこぼれ落ちている口元。
そして肩には、『CO』に『9』を重ねたタトゥー。
赤染壮士と狂戦士。
赤染はまだ知らない、これが血塗れの戦いの、その開幕戦になることを。

【赤染 壮士:狂戦士9と対峙】
188氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/12/01(水) 01:43:42 0
>>185
数分をかけて神宮が出した回答は──「復讐はしない」──であった。
それに対し、氷室は特に喜ぶことも安堵することなく、小さく一言──
「そうか」
と、いつものような無感情な声を返すに留まった。
それには彼女自身に、あるいは複雑なものがあったからかもしれない。
闘わずに済ませるに越したことはないが、
その一方で、復讐に生きるという人生は、理解できないものではなかったからだ。
何故ならつい三ヶ月前まで、自分自身が復讐の炎を燃やして生きていたのだから……。

「よく考えたら、アタシが今ここにいるのもあの時のアンタの言葉があってこそ、だな。
 カノッサの中でもアンタにだけは感謝こそすれ恨む道理はない。
 ってわけでアタシは飯を食いに行くよ。じゃあな。
 けどこの島にいりゃ海部ヶ崎共々いずれまた会うことになるだろーよ。
 そん時ゃ…ま、仲良くするかはそん時の気分次第だな。ハッハッハ……」
「?」

言葉の意味を理解できず頭に疑問符を浮かべる氷室を尻目に、
神宮は踵を返してさっさと立ち去って行く。
その後姿を見ながら、氷室は何とも言えぬ溜息をついた。
「……ん?」
これまで鳴りを潜めていた無線が鳴ったのは、調度その時であった。

「なんだ?」
「氷室! 良かった、昨晩途中で通信が途絶えたから、故障したかと思った。今どこだ?」
「街の北だ」
「街? そうか、森は抜けたのか。私も街にいるが南西部だ。どうやらお前とは反対方向だな」
「北の山から反時計回りに歩いて今は街の南西か。私は北部の田園地帯と思わしき場所に行く。
 私が最初に居た樹海は恐らく島の南東にあるはずだから、
 お前はそのまま東に進み、街を出たら島の北東に向かえ。そこはまだ未調査だ」
「あぁ、それはいいが……ところで……」
「神宮という女のことか?」
「──! お前……何故それを……?」
「調度今しがた会ったばかりだ」
「……まさか、お前彼女を……!」
「殺してもいなければ闘ってもいないさ。……復讐はしないと、そう言って去って行ったよ」
「なにっ? それは一体……?」
「さぁね。お前と会ってから私と会うまでに、何か心の変化があったんだろ」
「…………」

「それはそうと、お前、誰かに尾行(つけ)られ──」
「──待て、氷室! ……この声は……」
「どうした?」
「すまない、一旦通信を切るぞ。島の北東に辿り着いたらまた連絡する」

その言葉を最後に無線の通信は切られた。
氷室は海部ヶ崎の通信の切り方が気にはなったものの、
やがてその思いを頭を振り払い、北へ向けて歩行を再開した。

(復讐……か……。私は、その思いを払うに十年要したが……
 世の中、たった一時の間に払える人間がいるものなんだな。
 あの女(コ)が特殊なのか、それとも私が子供だったからなのか……)

氷室は「フッ」と自嘲気味に笑みを零しながらも、
朝日に照らされたその顔は、どこかこれまでにないほど穏やかなものであった。

【氷室 霞美:街を抜け田園地帯に】
189鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/12/01(水) 17:59:08 0
>>185
「よかったらアタシにも少し食いもん分けてくれねえかな?腹へって死にそうなんだわ」
神宮が話しかけてきた。先程と違って気さくな感じがする
「あ…はい。い良いいですよ…。あ、あの…オニギリが有るんですけど、梅、鮭、鱈子、ツナマヨ
オカカ、昆布、チャーハン、焼肉…どれが良いですか…?」
まだ少し怯えてるものの、神宮にオニギリを選ばせる鎌瀬
「ああ、もし良ければ温めますけど、どうします?」
斎葉が聞く
「申し遅れました。私、斎葉巧と申します。お見知りおきを」
「かっ…鎌瀬犬斗です」
ついでに自己紹介もした二人
【鎌瀬犬斗&斎葉巧:オニギリを選ばせ、自己紹介をする】
190神宮 菊乃@代理:2010/12/02(木) 23:55:30 0
>>189
「あ…はい。い良いいですよ…。あ、あの…オニギリが有るんですけど、梅、鮭、鱈子、ツナマヨ
オカカ、昆布、チャーハン、焼肉…どれが良いですか…?」

未だにビクビクしながら先程の少年がお握りを勧めてくる。

「お、お握りなんかあるのか。てっきりこの手のモンは駄目だと思ってたけどな。
 やっぱ米食わなきゃ力出ないよなー」

そう言って煙草を取り出し、火をつけながらお握りを物色する。
その間にも、少年はチラチラとこちらを見ては視線を逸らしている。
(まだ怯えてるのよ…。うーん、アタシ何かしたかなぁ。
 この島に来てからコイツと会った記憶はねーんだけどな…。
 …もしかしてここに来る前に何かした、とか?)

「そんな怖がんなって。別に取って食いやしないからさ。
 …とりあえず、そのお握り全部くれる?」

努めて優しい声を出してそう聞くと、少年は驚いた表情を浮かべる。
確かに菊乃の身長は高い。目の前の少年が少し見上げる程だ。
しかし別段太っているわけではない。寧ろ身長からすれば痩せている方だ。お世辞にも大食漢には見えない。
そんな菊乃に勧めたお握り(8個)を全部くれと言われれば驚きもするだろう。
驚いている鎌瀬を横目に、菊乃はお握りを手にとっていく。

「そんな驚くことかね…。さっきも言ったがアタシは腹減って死にそうなんだよ。
 正直これでも足りないくらいだ。他になんかねえかなっと」
「ああ、もし良ければ温めますけど、どうします?」

更に店内を物色しようとしたところで、少年の後ろからもう一人の人物が現れた。
機械工のような格好をした、少年と同じくらいの歳の男子だ。

「申し遅れました。私、斎葉巧と申します。お見知りおきを」
「かっ…鎌瀬犬斗です」

こちらが返答する前に二人は名乗ってきた。

「斎葉に鎌瀬ね。こりゃ丁寧にどーも。
 アタシは神宮 菊乃。歳は16。色々あって現在無職。…こんなところか?
 あ、ついでにお握り温めてくれると助かる」

自身も軽く自己紹介を済ませ、二人目の少年――斎葉にお握りを渡す。
鎌瀬共々驚いた顔をしていたが、我に帰ると斎葉はお握りを受け取った。
(驚いてる、か…。ま、無理もねえか。この形(なり)と口調で16なんて詐欺みたいなもんだからなぁ。
 おまけに煙草まで吸ってるし。しかし半分諦めてるとは言え、やっぱりちょっとショックだな…)
自嘲気味に笑い、気付かれない程度に少し肩を落とす。
菊乃は密かに自分の容姿を気にしていた。
今まで生きてきた中で歳相応に見られたのは、家族を除けば数えるほどだ。
(ま、今更気にしても仕方ねえか。…うん?)
今まで同様気にしないことにした菊乃だが、ふと斎葉の左腕に視線が止まる。

「アンタ、その腕…機械か?」


――アタシと同じ境遇の人間か?――
ふとした疑問から、斎葉にそう尋ねた。

【神宮 菊乃:自己紹介を返し、お握りを貰う。その際、斎葉の左腕について尋ねる】
191赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/12/03(金) 00:56:28 0
赤染の目前に現れたオーバーオールの男。
その男は喫茶店から出てきた赤染を正面に見据え、車も無い静かな道路の真ん中に佇んでいた。
その佇まいは実にだらしなく、全身という全身から脱力しているようだ。

「見た感じはゾンビかグールみてぇだな。まぁ、お前どうせあれだろ?
 あのピエロ野郎の連中にでも改造されて、知性削って身体能力上げた改造人間って感じだろ?
      、、、、、、、、、、、、
 じゃあ、死んでもかまわねぇよなぁ? 望んでそうなったんなら、文句は言えねぇし、
 そうじゃねぇなら――――いま楽にしてやるよ」

赤染は構えを取る。足を前後に配置し、腰を落としたそれは中国拳法を連想させる。
手は熊手のように開き、足と左右逆の前後で構えて攻撃を受け流すことを重視する。
これが纏火大道流の基本構え、『熾火』。
さきの襲撃者との攻防では、構えすら出なかった纏火大道流がいま振るわれる。
それは確実に相手を仕留めるという、意思表示でもある。

「あのピエロ野郎は勘違いしてるようだがなぁ、俺は別に不殺主義者でも、人も殺せない腑抜けでもねぇんだ。ただ」

「ウェエエエエエえええええええイヤアアアアアアあああああああ」

その瞬間。待ちきれなかったのかオーバーオールの男がこちら目掛けて猛然と走りだす。
姿勢は前のめりに、そして聞いたことも無いような奇声を上げてこちらに迫ってくる。
そこから繰り出されるのは右手からのやや外角からのアッパー。
しかし、赤染はそれを上半身を僅かに引くことでかわす。
同時に赤染は左手で相手の袖口を掴み、足を払う。こちらから見て反時計周りに男が傾いた。

「ただ、殺す対象と殺さねぇ対象がくっきり分かれてるだけなんだよ」

ドッ!!と。轟音と共に赤染の右腕より繰り出される、打ち下ろす形での掌底。
                            、、、、
それは綺麗に男の脇腹に突き刺さり、そして炎上した。
その火炎は男の皮膚を焼き、その熱は男の臓腑を焼いた。
男が地面に叩き付けられると、炎は最後に一層大きな炎を上げた後、消えた。
残ったのは全身を黒く焦がされた男の体のみだ。

「纏火流――『篝火』。まぁ、炎が出んのは俺の能力だけどな。
 さて、こいつも片付いたんだ。とっとと、あのピエロ野郎とワイズマンとやらを……」
構えを完全に解き、頭を少し掻く。
そしてさっさと、この場を去ろうとしたその時だった。
192赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/12/03(金) 00:57:15 0
――――ガシ。
赤染の足が、なにかに掴まれた。
いや、考えるまでも、見るまでもない。その手は今、焼死したはずの男の手だった。

「マジかよ――――うおぉ!!」
オーバーオールの男はなんと、そのまま足を掴んだまま勢いよく立ち上がり、その勢いを殺さずに赤染を投げ飛ばした。
常識も定石もない冗談のような力技。
成人男性の平均ぐらいの赤染の体をゆうに十メートルは投擲した。
赤染は空中でなんとか、体勢を立て直すも、そのまま民家の一階へと突っ込む。
ガシャン!!と、勢いよく窓ガラスを突き破り、屋内へと叩き込まれた。

「……くそ、あのゾンビ野郎マジでゾンビ並みの生命力かよ。おまけにこの怪力、なかなか厄介じゃねぇか、おい」
どうやらそこは九畳ぐらいのリビングのようで、広いカーペットの上で無事着地を成功させた。
ついでに、腕でガードするだけの余裕はあったため怪我はない。

「しゃあねぇなぁ。今度は『鬼火』か『気焔』でも叩き込んでやるか……あぁ?」

突然、気配は真後ろから現れた。
振り向けば、そこに居たのは灰色の作業着を来た熟年の男性。
眼は瞳孔が開き、口元には食べカスと涎に彩られていて、その姿にはよく見覚えがある。

「まさか――」
「ギイイいいイイいいイイなぁああアアアアあああああ!!」

作業着の男が腕を振るう。
それを赤染は勢いづけるように叩いて、受け流す。
その際に見えたのは、作業着の男のこめかみに刻まれた『CO』に『7』を重ねたタトゥー。

「俺はちゃっちゃと、どいてもらうって言ったのになぁんで増えるんだよ、おい……」

次から次へとくる衝撃に、若干立ち尽くす赤染。
その間に真っ黒になった9のタトゥーを持つ男が垣根を踏み越え、民家の敷地内に進入する。
背後に9番、目前に7番。つまり今の状況は…………

「挟まれたなぁ、おい」

【赤染 壮士:狂戦士7追加】
193夜深内 漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/03(金) 01:18:01 0
目が覚めると目の前にはステンドグラスがあった
…そういえば昨日こっちに来たっけ
所々ステンドグラスに開いた穴からの日光が私を照らしていた
身支度を終えたら今日は取り合えず
街の方に行ってみよう、誰かいるかも…
そう考えながら私は教会の隣の池を眺めていた

【夜深内 漂歌 : 教会にて身支度中】
194海部ヶ崎 綺咲:2010/12/03(金) 20:59:44 0
氷室との通信を終えた海部ヶ崎は走っていた。
向かうは東。とはいっても、街を抜けようと急いでいるわけではない。
無線で会話中、東の空から聞こえてきた甲高い笑い声のもとに急行しているのだ。
(あの声は……恐らく間違いない……!)

実際に目で確かめたわけではない。
それでも、海部ヶ崎には声の主の正体をはっきりと確信できた。
そうとも、脳裏にこびり付いたあの声だけは、間違えようもないものだから。
(ピエロだ! こんなところに居るとは、いい機会だ!
 ワイズマンの正体を、目的を、洗い浚い喋ってもらう!)

ピエロが近くに居る。
その思いが海部ヶ崎をかつてないスピードで突き動かしていた。
線路を越え、ボロボロの家屋街に入り、昨晩の嵐でぬかるんだ地面を駆け抜ける。

バシャバシャバシャ……
泥水が盛大に跳ね、ショートパンツに覆われていない足首を汚していくが、そんなことはお構い無しだ。
……しかし、そうやって進んで行く内に、やがてある異変に気がついた海部ヶ崎は、立ち止まった。
「……!」
クンクンと鼻を効かせば、なにやら生臭い。
雨上がりに漂う、カビのような臭いとはまた違う、ムワッとした刺激臭。
現在は無風。風に乗っていずこかから流れてきたものではない。
(この臭い……下から……?)

ゆっくりと視線を下に落とした海部ヶ崎は、直後に息を呑んだ。
脚にまとわりついた泥水が“赤い”のだ。
いや、赤いのは跳ねてついたそれだけではない。
地面を見渡せば、どこもかしこもが赤く染まっているではないか。

「まさか──これは“血”──!? 血で染まっているのか!?」

さらに良く見れば、そこら中に人間のモノと思われる肉片が散乱し、山となっている。
その地獄絵図は一人や二人を細切れにしたくらいでは到底作れぬものであろう。
ここで戦闘が──いや、誰かの手による一方的な虐殺があったことは明白だ。

「酷い……相手を殺すのがルールとはいえ、誰がこんな……」
「ゲッ、ゲゲゲゲッ」
「──っ!?」

突然の背後からの呻き声。海部ヶ崎は咄嗟に振り返り、刀を抜いた。
だがその瞬間、利き手の甲に走った衝撃が、刀をあらぬ方向へとぶっ飛ばした。
「しまっ! ──ぐぅ!?」
続いて脇腹に鉄の杭を打ちつけたような痛みが襲う。
体勢を崩し、背後数メートルまで地を滑りながらも、
やがて体勢を立て直した海部ヶ崎はキッと元いた地点を睨みつけた。

「グェッグェッグェッ」
そこに居たのは、カエルような奇妙な呻き声を発し、
腰の辺りまで伸びたざんばらの髪の毛を振り乱した半裸の男であった。
返り血を浴びているのだろうか。全身が真っ赤に染まっている。

「貴様か、人をこのように切り刻んだのは。一体何者だ!」
「ゲゲ、ゲ」
「答えろ!!」
「ギヒ……ヒヒヒヒ」
「貴様、私を舐め──」

激昂しかけて、ふと男の腕に視線を止めた海部ヶ崎は、思わず口を噤んだ。
男の腕にあるはずの腕輪がないのだ。
(バカな! この男、参加者ではないというのか? ……待てよ!)
195海部ヶ崎 綺咲:2010/12/03(金) 21:09:54 0
海部ヶ崎の脳裏に昨晩の氷室の声が蘇る。
そして、彼女は理解した。男の正体を……。
(そうか、こいつがワイズマンが率いているという『狂戦士』……!)

「ヒヒヒヒヒ」
不気味に笑う男の全身が鈍く輝き出す。
それは異能者特有のオーラの輝き。

「目に入った者は見境なく攻撃する、というわけか。哀れな」
カノッサの狂気が生み出した狂人──
命令によって否応なく戦闘マシーンと化したこの男を見ると、海部ヶ崎は哀れでたまらなかった。
仮に元々悪人であったとしても、獣のように作り変えられても良い理由などないのだ。
「……人間でさえあれば、いつの日かまともな人生を送ることもできたろうに……」

「ギヒヒヒヒヒィィィイイイッ!!」
奇声を発し、鬼のような形相となった男が飛び掛り、掌打を繰り出す。
──ドウン! という衝撃音と共に、海部ヶ崎の背後にあった家屋が木っ端微塵になる。

直撃の瞬間、海部ヶ崎はひらりとかわし、男の背後数メートルの距離に移動していたが、
オーラを纏った掌圧はその周囲の空気に断層のようなものを生じさせたのだろう、
上半身を覆っていたタンクトップの生地に、無数の小さな裂け目ができていた。

「ヒ、ヒヒヒ」
粉塵漂うその中心で、男がくるりと振り返る。
顔は相変わらず不気味な笑みに歪んでいながらも、
その口や鼻からは赤黒い血がボタボタと滴っていた。
掌打をかわした瞬間、海部ヶ崎は無数の拳撃を男の全身にヒットさせていたのだ。

「痛みを感じないというのは本当だったようだな。
 ……本来なら今ので、勝負はついているはずなのだが……」
「ギヒッヒヒヒヒ」
「これ以上の闘いは無益だと理解する知能も失っているのか……。
 闘争本能のみで生きる存在……私には貴様が血の涙を流しているようにすら見える。
 できれば人を殺めることはしたくなかったが……
 貴様の場合は、亡き者にすることこそが、せめてもの情けとなるだろう。……来い」

海部ヶ崎の全身が発光する。これまで抑えていたオーラを初めて展開したのだ。
「ヒィィイヤアアアアアア──!!」
それを見た男が絶叫とも雄叫びともつかぬ声をあげる。
まるで、海部ヶ崎が臨戦態勢に入ったことを喜ぶかのように。
「アアァァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!」
やがて、男は叫び声を腹の底まで響き渡るような唸り声へと変え、突進を開始した。
地を抉って迫り来るその姿はさながら重機のようである。
対する海部ヶ崎も、男に向かって地を蹴る。
刀こそないものの腰を屈めた居合いの構えで。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」

男が手刀を振り下ろし、海部ヶ崎がまるで抜刀するように右腕を振りぬく──。
──カッ!──
瞬間、衝突音と共に発生した閃光──
その中で二人は交差し、互いの左横を抜けて行った。

ズシャァァッ! ……と、ぬかるんだ泥を巻き上げて二人が止まる。
「……」
海部ヶ崎の顔が一瞬、険しく歪む。
彼女の左肩は肉を抉られ、腕に生暖かい真っ赤な血を滴らせていた。
「ギヒ……ヒ」
対する男は無傷のまま悠然とした表情で仁王立ちしている。
196海部ヶ崎 綺咲:2010/12/03(金) 21:14:30 0
「さらばだ──。次に生まれ変わる時は、人間として生き抜くがいい」
だが、屈んだ体勢から上半身を起こした海部ヶ崎は、静かに勝利を宣言した。
その手に、血を滴らせた“あるはずのない刀”を握り締めて──。

「ギヒ──ヒッ────げひゃあっ!?」

男が盛大に血を噴き出す。
男の肉体は、右脇腹から左の肩にかけて、斜め一文字に切り裂かれていた……。


いくら痛みを感じない狂戦士とはいえ、胴体を切り離されては即死確実である。
海部ヶ崎は文字通りの血の海に沈んだ男を一瞥して、
数メートル先の家屋の壁に突き刺さった愛刀を回収しに向かった。

現在、手にしている刀は、海部ヶ崎が普段愛用している刀ではない。
かといってたまたま戦闘中に見つけた拾い物というわけでもない。
この刀は、彼女自身の異能(ちから)で“つくり出した”ものなのだ。

ただし、それはオーラを具現化したことを意味するものではない。
海部ヶ崎の能力は展開したオーラを磁力場に換え、範囲内の金属を操作するというもの。
オーラの具現化は元より彼女にはできないのだ。
三ヶ月前まで、わざわざ武器を納めたギターケースを持ち歩いていたのもそれが理由である。
では、一体どうやって刀をつくり出したのか──?

かつて、氷室に全ての武器を破壊され敗北してから、海部ヶ崎は考え抜いた。
そして一つの発想に行き着いたのである。
能力である磁力場を利用して、武器を生成できないか──
磁力を使うことで地面の『砂鉄』を操り、鉄の武器をつくり出せないか──と。
それから今日までの三ヶ月間に、彼女はその応用術を完成させていたのだ。
大地から集めた砂鉄を、瞬時に実際の名刀と何ら変わらぬ鋭利な得物とする程までに──。

「戦闘でもある程度は使えそうだ。
 しかし、無から武器を生み出すというのは、やはり中々の精神力を必要とするな。
 ……まだまだ、精進あるのみ、だな」

手にした刀がボロッと崩れ、砂塵と化していく。
海部ヶ崎はそれを手から払うと、代わって愛刀を手にし、鞘へと納めた。

「……余計な時間を食ってしまった。……だが、あの場所からはまだ気配を感じる。急がねば」

そして東の方向を見据え、再び海部ヶ崎は地を駆けて行った。

【海部ヶ崎 綺咲:狂戦士No.6を倒し、東(地図でいう街の南西部)に向かう。
           現在のところ赤染の気配をピエロと勘違いしている。】
197夜深内 漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/04(土) 01:29:11 0
(教会を後にして街へ向かったけど…)
歩き始めて現在に至るまで至るところが
何か大きな力がかかったかのように陥没していて
街まで一直線の道が出来ていた
(さっきの教会にしてもそうだ)
はじめは教会だけ老朽化していてステンドグラスの辺りが残ったのだと
考えていたが今ではあれもこれと同じ力で潰されたというのなら納得がいく
潰されて凹んだ地面を歩きながら私は街の方を見た
(こんなことのできる能力者もいるのか…生き残れるだろうか…)

【夜深内 漂歌:陥没した地面を道しるべに街へ向かう】
198鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/12/04(土) 22:11:45 0
「斎葉に鎌瀬ね。こりゃ丁寧にどーも。
アタシは神宮 菊乃。歳は16。色々あって現在無職。…こんなところか?
あ、ついでにお握り暖めてくれると助かる」
「神宮菊乃さんですね。よろしくお願いします。…ん? 16?」
「よ…よろしくお願いします…。え…16って僕達の一個下…?
でも背…それに煙草…」
「背はともかく、未成年者の喫煙は法律で禁じられていたはずですが…本当に…
…え、あぁ、温めますか。少々お待ち下さい」
神宮の自己紹介を受け、少なからず驚いていた二人だったが、その後落ち着きを取り戻す
そして、斎葉がおにぎりを受け取り、温めるためにコンビニの電子レンジに向かおうとする。が、ここで、
「アンタ、その腕…機会か?」
と、神宮が斎葉を止める
「はい。よくお気づきになりましたね。お察しの通り機械…つまりサイボーグってやつです。
別にそう呼ばなくてもいいですが。…それがどうかしたのです?」
何故聞かれたのか気になり、聞き返してみる斎葉
199鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/12/05(日) 14:32:37 0
>>198
ミス×機会→○機械
200氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/12/05(日) 15:42:04 0
雑草と水を含んだ泥が、真夏の太陽に熱せられて何ともいえない悪臭を放つ。
ここは人影一つ、廃屋一つない、見渡す限りの荒れ果てた耕地のど真ん中。
そこに、氷室は立っていた。

「この荒野だけで角鵜野市の三分の一くらいはありそうだな」

呟き、周囲を見渡す氷室。その目はどこか光らせているようにさえ感じられる。
いや、事実──そうなのだ。ここに来るまでの間に、氷室の目的は二つになっていたのだから。
一つは当初の予定通り手掛かりを見つけに。
そしてもう一つは、“姿なき監視者”を炙り出す為である。

「姿は見えないけど、いるんだろ? 気配でバレバレさ。そろそろ出てきな。
 どうせ身を隠す所がないここでは、もう居場所を誤魔化せやしないんだ」
氷室はゆっくりと背後を振り返りながら、何もない空間に向けて言い放った。
「ホーッホッホッホッホ……」
途端に、その空間にだけ黒い蜃気楼のようなものが立ち込め、黒く染まっていく。
聞き覚えのある声が響くと共に……。

「バレてしまいましたか。流石はNo.3を倒しただけのことはあるようで」
「お前か……ピエロ」
黒い空間が人の形となり、やがて正体を露にしたそれは、正しく夢に出てきたピエロであった。
「ホーッホホ、私のことを覚えていらっしゃいましたか。誠に光栄でございます。
 ですが、私は『ピエロ』という名ではございません。以降、『ジョーカー』とお呼び下さいませ」

氷室の眉がピクッと反応する。
ジョーカー……その名を、耳にしたことだけはあるのだ。
「──『狂戦士四傑(バーサーカーよんけつ)』──……やはりその一人か」

今度はピエロが、いや、ジョーカーが表情(かお)に反応を表す番であった。
もっとも、素顔を覆い隠す仮面の前では、その変化を確かめることはできない。
しかし、氷室に対する暫しの無言こそが、正にその心中を表したものであるだろう。

「ほう……どういうわけか私の素性をご存知のようで。貴女は一体……?」
「かつて『氷の魔術師(クリスタルメイジ)』と呼ばれた者さ」

氷室は敢えて本名ではなく自身の二つ名を持って正体を明かした。
元カノッサの人間に対しては、むしろその方がより直接的に聞こえることを知っているからだ。

「フッ、フフフフフ……そうか、そうでしたか。貴女が四天王の一人……。
 不思議なものですねぇ。かつては同じ旗を仰ぎながらも、こうしてお目にかかるのが初めてとは」
「私にしてみれば、不思議なのはお前が生きていることだ。
 ……いや、お前達と言った方が正しいか。雲水に処分されたはずじゃなかったのか?」
「そう、そのはずでした。しかし、私はあるお方の手によって、寸前で救い出されたのです。
 今や私達(バーサーカー)はそのお方の忠実な臣下なのです、はい」
「そのお方とやらがワイズマンか。……奴の目的は何だ?」
「ホーッホッホ、それについては──」

ジョーカーの姿が視界から霞んでいく。まるで空気に溶け込んでいくように。

「ご本人の口から直接お確かめになるのが宜しいでしょう。
 ですが、ご主人様とお会いするには、二つの方法しかございません。
 この闘い(バトルロイヤル)に勝ち残り、正攻法でお目通りの機会を与えていただくか……
 それとも自力で居場所を見つけ、更に臣下である私達を倒し、力尽くでお会いになるか……。
 まぁ、後者は例え転地が引っくり返ったとしても不可能でしょうがねぇ、ホホホホ」
201氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/12/05(日) 15:49:37 0
「大した自信だな。何ならここで試してみたらどうだ?」
「私の任務は貴女の素性を調査すること。戦闘の許可はいただいておりません。
 貴女の正体が明らかになった以上、私は速やかに帰還するだけです、はい。
 それではまたお会いしましょう。それまでどうか、ご壮健で──ホーッホッホッホ!」

ジョーカーの姿が気配ごと消えていく。
完全に姿が見えなくなった時、既にこの場にある気配は氷室のもの一つだけとなっていた。
一人残された氷室は、一度太陽を仰ぎ見ると、やがて小さく呟いた。

「狂戦士四傑……やはり危惧した通り、生き残っていたか」

視線の先にぼんやりと残像のように浮かぶのは、高笑いするジョーカー。
そして脳裏を過ぎるのは、かつて雲水が言った言葉であった。

『どうやら奴らには、繋いだ首輪を引きちぎり、真正面から牙を剥くだけの力があるようだ。
 我がカノッサに必要なのは使い勝手の良い駒であって、危険な猛獣ではない。
 ……奴ら狂戦士は処分することにした。四傑と位置づけた連中もろともな……』

太陽から視線を外して、氷室は自問する。
(……果たして、私と海部ヶ崎だけで倒せるのか……)
答えは……わからない。
解るのは、自分自身に一抹の不安が芽生え始めてきたということだった。

「フッ……」
そんな自分を笑うかのように溜息を漏らした氷室は、
東の大地に広がる耕地の先を見据えて、最後にぽつりと独りごちた。
「やれやれ、柄にもないね」


──ところ変わって幻影島地下深くの大空洞──通称、メインエリア。
一条の光も差さないこの暗闇の中、ジョーカーの報告を受けたワイズマンは、
これまでよりも一段と低い重低音を響かせていた。

「そうか、466番はあの小娘だったか。よもや生きていたとはな。
 しかし面白いのは、あの小娘以外にも高い異能を持つ者がいるとの報告も入っていることだ。
 これは想像以上だ。そなたら四傑にも、そろそろ本格的に動いてもらわねばなるまい。
 わしの復活もいよいよ間近に迫っているのかもしれんな……フフフフフフフ……!」

【氷室 霞美:田園地帯に到着。狂戦士四傑の一人、ジョーカーと接触した】
202神宮 菊乃@代理:2010/12/05(日) 15:51:15 0
>>198
「はい。よくお気づきになりましたね。お察しの通り機械…つまりサイボーグってやつです。
別にそう呼ばなくてもいいですが。…それがどうかしたのです?」

斎葉は極普通に答える。特に感情に変化は見られない。
(アタシの思い過ごし、か?それならいいんだが…)
ある一つの可能性を考えていた菊乃にとって、その可能性が潰れることは喜ばしいことだった。

「いんや別に。ただ、機械人間(サイボーグ)なんて普段あまり見かける機会ないだろ?
 だから珍しいなぁ、と思ってさ。悪気はなかったんだけど…気を悪くしたなら謝るよ」

それらしい理由をすらすらと述べる菊乃。しかし本当の理由は別にあった。
(もしかしたらコイツもアタシの同類かと思ったが…。どうやら違うみたいだな。
 …そうゴロゴロいられても困るけどな)
そう、菊乃は斎葉が自分と同じ人体実験の被害者ではないかと危惧していた。
しかし答えた斎葉の口調に悲愴感などは見られない。
と言うことは"表"で改造を施されたのだろう。"裏"で施された自分とは違う。

斎葉から温めて貰ったお握りを受け取り、水を飲みながら食べる。
ものの5分たらずで、8個あったお握りは全て菊乃の胃袋に収まった。

「さて、腹も膨れたことだしそろそろ行くとする――」

食事を終え、立ち上がって入り口へ向かって歩き出そうとした瞬間、轟音が聞こえてきた。

「何だ?どっかの誰かがやりあってんのか?…ちょっくら覗いてみるか」

そう呟くと入り口から外に出て、音のした方角を見る。
すると、通りの突き当たりにある喫茶店らしき建物から炎が上がっていた。
一瞬の後、炎は消えて辺りに静寂が戻った。
(決着がついた、って所か?…確かめてみた方が早いか)
左目に内蔵されているズーム機能を起動し、喫茶店の方角を見る。
そこには二人の男がいた。一人は地に倒れ伏せ、もう一人は傍らに立っている。
言うまでもなく、立っている男が勝利したのだろう。
そう確信した菊乃が見るのをやめようとした瞬間、事態は急変した。
何と、倒れて動かなかった男が起き上がり様にもう一人の足を掴んで投げ飛ばしたのだ。
(おいおい、どうなってやがる?さっきの轟音と炎、恐らく立っていた方の男が出したもんだ。
 倒れてた方は黒焦げに見えたが…タフな奴だな。…ん?)
二人の戦いを見ていた菊乃だが、あることに気がつく。
先程倒れていた男――腕輪をしていないのだ。
(どういうことだ?参加者は全員腕輪をつけているはず――そうか。
 腕輪をつけてない=参加者ではない。即ち主催者側の人間。つまりは――)

「ワイズマンの手下ってところか。何かヤバそうだし助けにでも行――」

そう言って走り出そうとした矢先、菊乃の足が止まる。
首に埋め込まれた機械が激しく点滅している。

「この感じ…まさか…"同類"がこの島にいるのか?しかもこの方角…アタシがいた教会の方角からだ
 …行ってみるか。おーい、お握りありがとなー!」

鎌瀬達に礼を言い、気配を頼りに走り出した。

【神宮 菊乃:赤染の戦闘を観戦中に夜深内の接近を感知
        鎌瀬達と別れ、街の南西へ向かう】
203夜深内漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/07(火) 02:27:03 0
(結構、町の中心に行けたかな…)
歩き続けた結果、元魚屋であろう残骸がある所
までたどり着くことは出来た

(ここまでの距離を歩くのにこれだけかかるとは
私の基礎体力は完全に死滅的状態だな…)
ふと、そんな事実に少し絶望しながら

(んっ?…違和感?というより何だろう変に引っ張られるような…?
しょうがない、取り合えず…)

オーラを一時的に解放してすぐに小さなレーダーとカメラのついた
ラジコン飛行機を作りこちらのシステムと
リンクさせて操作、情報収集を出来るようにした後、飛ばした

(これでこの周辺の人と建物がすべて把握できるはず)

しかし飛行機が中学校に近づいた頃
後ろから人が近づいているようだったので振り向くと
若い痩せこけた男が刃渡り15cmくらいの包丁をもって…
(っ!!)

緊急事態に気が付いた私は即座にオーラを解放しようとするが
相手はそれより速くに私に近づき私の首を腕で押さえつけ包丁を
突きつけた

「xxxxxxxxxxxxxxxx」
(何言ってんだコイツ?
あっ…これってヤバいかも
まぁ、手がないわけではないが…
正直あまり使いたくないな)
しばらく考えたあと
(はぁ…しょうがない) 
204夜深内漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/07(火) 02:43:46 0
【続けて】
……………
…………
………
数分後決着は着いて無事、私が勝った
後ろで何故か手足を手錠と鎖で固定された男は
グテッとしているが死んではいない
男を観察すると腕輪があることからして参加者の一人と見受けた
ポケットを探って何か使える物が無いかと探したがなかった

(…あっ忘れてた飛行機…)

(戦闘中、まったく制御してなかったから絶対落ちてる…)

かるくorzな気持ちになった私であった
                 
205名無しになりきれ:2010/12/07(火) 20:17:05 0
新規参入可能ですか?
もう始まってしまっているようなのですが…
206神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/12/07(火) 20:32:07 0
>>205
問題ありません。
あと、書き込みは避難所の方にお願いします。
207天木 諫早 ◆0i7FhSLl8w :2010/12/07(火) 23:34:50 0
天木は悩んでいた。
島の南西の廃港で、スーツケースを片手に立ち尽くす。
舟が並んでおり、波の音が聞こえる。
目の前には男が立っていた。殺気の篭もった目で睨んでくる。

「悪いが、お前を殺す。俺は此処で生き延びる気だからな」
「悪いと思ってンなら最初から狙うなよ…」

髪を掻き揚げ、どうしたもんか、と呟いた。
別に戦闘に自信があるわけでは無い。むしろ、全然無い。
此処でこの戦闘に身を投じるかどうか、それを悩んでいた。が。

「まァ良いや。此処で死んだらそれまでの男だったんだろォ、俺ァ」

一歩踏み出す。その余りの軽さに、男が一瞬息を呑むが。
気を取り直して対峙する。男は距離を取り、左手を海へと向けた。
波が隆起し、針のように尖って渦巻きながら、天木の方へと向かってくる。

(水使い…それでこの場所を選んだのか…)

男は此処を張っているらしく、自分は偶然この男の罠にかかったのだ。

(完全に場所が悪ィな、まァ隙を突いて…)

天木はスーツケースを「操作」して高速で動かし、それに掴まる形で波の攻撃を避ける。
地を抉るほどの威力の水流は、そのまま天木を追尾する。

「残念だが、お前の攻撃は俺にァ当たらねェぜ。動かすモンが軽い分、こっちの方が早ェンだ」

スーツケースに掴まりながら、天木は水の攻撃を縦横無尽に避けて見せた。だが、

「はッ、この無尽蔵の水ならな、こういう事も出来るんだよ」

追尾する水流が4手に別れ、別方向から天木を抉ろうと接近してきた。

取った。確かにそう思っただろう。だが、次の瞬間苦痛に歪んだのは、男の顔だった。
腹に、小刀、ナイフ、包丁その他諸々の刃物が10を超えて刺さっている。
中には体を貫いたものもある。

水流は天木に到達することなく、地面に落ちて激しい水音を立てた。

「スーツケースを通して内部の刃物にオーラを充填、操作して刃物を水流の中を逆流させてお前に接近させ、
後は一気に腹に撃ちこんだまでだぜ。メジャーな能力だが、これ程応用出来るもンも中々ねェ、だろッ?!」

その声を聞きながら、男は力尽きたのだろう。呼吸が無いことを確認し、天木は内陸の方を向く。

「人生初の殺しだなァ…うえ、気持ち悪ィ」

おえええ、と一頻り海に向かって吐いてから、男の腹の刃物を回収し、天木は歩き出す。ゆっくりと、島の南西へ向かって。

【天木 諫早、赤染達のいる方角へ向かって移動する。】
208夜深内漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/08(水) 04:16:28 0
[入れ忘れてたので]
【夜深内 漂歌:神宮の接近に僅かに気づき調査するも
       敵の出現により失敗。敵は鎮圧した。】
209神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/12/08(水) 09:51:10 0
>>203>>208
気配を頼りに移動を続け、学校らしき建造物の近くまで来た時、菊乃は足を止めた。
視界の隅を何かが通り過ぎたのだ。それは地面ではなく空中を移動している。
耳を澄ませると微かに駆動音も聞こえる。どうやら機械、ラジコンの類のようだ。

「何だありゃ?ラジコン?何でまたこんなところに…。
 ワイズマンの仕業…じゃねえよなぁ。こんなやり方はしないはずだ。
 それこそあの道化があのラジコン代わりだろうよ。性能は比べるまでもないけどな」

ワイズマン一派の仕業かと思ったが、すぐにその考えを打ち消す。
今までのやり方から、こんな子供騙しのようなことはしないと判断したからだ。

「とするとどっかの誰かが飛ばしてるってことになるのか。
 …あんま事を荒立てたくないんだけど、仕方ないか。ここで打ち落と――ん?」

ラジコンを打ち落とそうと跳躍しかけた時、ラジコンの動きに変化が起こった。
それまでは操作されていたらしくまともな動きをしていたのだが、突然その動きが変わった。
今までとは違い、不規則な動きになったのだ。フラフラと飛び回っている。
恐らくラジコンが捜査範囲を超えたのだろう。その為に電波が届かなくなってあのようになっているのだ。

「ホントに何なんだありゃ…あ」

呟きながら上空のラジコンを目で追っていると、校舎と思しき建物の壁に激突して墜落した。
落下時の高さ、地面に激突した時の音から考えて、まず間違いなくスクラップだろう。
菊乃は壊れたラジコンには目もくれず、ラジコンが飛んできた方角を見ている。

「あっちから飛んできてここで操作できなくなったとなれば、その道を辿れば操作してた奴がいるってことだ。
 …ま、もういねえかもしんねえけどな」

再び走り出す。今度は気配だけではなくラジコンの軌道も辿って。
菊乃には確信があった。先程のラジコン、恐らくは能力で作り出されたものだと。
この島に態々ラジコンを持ち込む人間はそうはいないだろう。もともと殺し合いが目的で島に連れて来られているのだ。
仮に情報収集が目的だとしても、自分の足ならともかくラジコンでは危険が伴う。
操作している間は不用意に動くことが出来ない。よって戦闘も不可能。
かと言って長時間操作しているわけにもいかない。
何処に誰がいるのかも分からない状況で長時間同じ場所に留まるのは自ら死ぬ確率を高めるだけだ。

「もしかしたら態とかもしんねえけど…。ま、行ってみりゃ分かるか」

更に走り続けること十数分。
昨夜自分が破壊したと思われるエリアにさしかかった。
そのまま走り抜けようとしたが、視界に人影を捉えたので停止する。
その人物は学生服の上に白衣を着た格好でその場に佇んでいた。
正面から歩いて近付いていく。オーラを抑えて戦闘の意思をなくすことも忘れずに。
やがてその人物の姿がはっきりと見えてきた。
歳は自分と同じか少し上くらい。制服を着ているところを見ると学生といったところか。

「…よう。ラジコン遊びをしてたのはアンタか?」

出来るだけ相手を刺激しないように話しかける。しかし相手は何も喋らず、ただこちらを見ているばかりである。
(喋りたくないのか、それとも喋れないのか…。どっちかなんだけどなぁ)
表情から察するに敵対の意思はなさそうだが、如何せん話が聞けないことには確信が持てない。

「んー、話を変えようか。アンタ、アタシの"同類"か?」

一般人が聞けば意味の分からない話だろうが、自分達に限って言えばその限りではない。
もしそうなら何らかのリアクションがあるはずなのだが――

【神宮 菊乃:夜深内 漂歌と接触。ファーストコンタクトは失敗】
210神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/12/08(水) 10:36:25 0
>>209
安価ミス
× >>203>>208
○ >>209>>204>>208
211神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/12/08(水) 10:37:27 0
うあーまたミスったorz
>>203>>204>>208
212赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/12/08(水) 20:39:58 0
>>191-192
目前の熟年の男に、背後のオーバーオールの男。
彼らの共通点は多い。
知性がなかったり、人語を話せないことや、いきなり襲い掛かる等。
その中で一番重要なのは腕輪がないことと、同様のタトゥーがあることだった。

「そっから考えると、こいつらはワイズマンサイドの人間だってのはほぼ確定なんだが……」

「ウェエイアア」
「ギぐぎゃギャ」

「……この様子じゃ、情報を聞き出すっつうのは無理だな、こりゃ」

しかし、それでも赤染のやることは変わらない。
初志貫徹。
この男たちが幻影島に理不尽に閉じ込められた者達に害を為すというのなら。

「こっちは義を為すだけだ……」

赤染が構えを取る。
それは先ほどと変わらない『熾火』の構え。
この構えは基本的に待ちの構えなので、赤染は双方の出方を窺う。
瞳孔の開き切った四つの目が赤染に集中する。
そして不意に男たちは動いた。
まず、前方の7のタトゥーをもつ男が抱き締めるように、両手の手刀を左右から仕掛ける。
そして、それに合わせるように後方の9のタトゥーの男が
払うどころか砕く勢いの足払いを仕掛けてきた。

「ハッ、いっちょまえに連携攻撃かぁ?」

これに対し、赤染は前方の男の攻撃を片足を下げ、体全体を下ろすことで回避。
その後に待ち受けるのは、この家の壁や柱なら簡単に破ることが出来るだろう足払い。
しかし、それを赤染は――

「オラァ!!」

なんと、真っ向から肘打ちで迎撃した。
それは腰を落した片足立ちの体勢での、あまり勢い付いていない肘打ちだった。
グシャ、と。骨と筋肉の繊維が断ち切れる、歯切れの悪い音が赤染と
オーバーオールの男の体内に響き渡る。
そして、倒れたのはオーバーオールの男の方だった。
手刀を空ぶった男が追撃の蹴りを放つが、それを無傷の赤染は身を左方に一回転させることで難なくかわす。
213赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/12/08(水) 20:42:09 0
「やっぱりな。いまの足払いで違和感があったから、もしやと思ったんだが。
 お前らはダメージを瞬時に回復出来るのではなく、痛覚がねぇだけなんだな? ゾンビ野郎共。
 ってことはだ。受けたダメージは消えたのではなく、実在してるんならよ。
 七番、お前はいま立ってることも不思議なくらいの重傷者なんだよ、おい」

赤染が立ち上がりきった時と同じくして、オーバーオールの男が嘔吐する。
全身を焼かれた事による脱水症状が今頃になって表れたのだろう。
しかし、九番……熟年の男はそれを顧みることなく赤染へと突進する。

「仲間意識すらねぇか……いいぜ、ここらで終わりにしようじゃねぇか」

赤染は構えを取る。
それは両手の手刀を、一つは胸の前に、一つは切っ先は相手に向けられている。
足は熾火と同じく肩幅で前後に配置。

「纏火流――『鬼火』」

突進をかわしたのちに、赤染は男の胸に手刀を突き刺す。
途端に男はビク、と痙攣する。
そのまま、手刀を鳩尾(みぞおち)、脇、肩、首筋へと高速で叩き込む。
ビクビクビクビク、と男は痙攣を起こし、もはや立っているのがやっとのようだった。
そして、赤染はトドメとばかりに拳を構える。

「纏火流――『気焔』」

拳を、肩を、腰を力を溜めるように、限界まで捻る。
そして、十分に溜めを行った後、逆回転を掛けて力を解放した。
スクリューのかかった拳が男の胸に突き刺さる。
ゴウッ!!、と。
男の胸は一瞬の炎上とともに爆ぜた。
胸に黒く、大きな穴を開けられた狂戦士9。
痛覚は無くとも、これ以上活動するのは見るからに不可能な傷だった。
            、、、、、、
「じゃ、お前も……今度はこういうことに縁がない人生を歩めよ」

突っ伏したオーバーオールの男に『篝火』を放ち、同じく心臓を消し飛ばした。
後に残ったのは赤染と、肉の焦げた嫌な臭いと血の赤色のみだった。

【赤染 壮士:戦闘終了】
214夜深内漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/08(水) 21:16:06 0
>>209
しばらく立ったまま落ち込んでいると

「…よう。ラジコン遊びをしていたのはアンタか?」

(うわっビックリした…といっても内心のみですけど)
(えっ、えっとこんなときは…)
あれこれ考えている内に相手はまた別の話題を振っていた

「んー、話を変えようか。アンタ、アタシの“同類”か?」

(えっ、それって…いや推測にしかすぎないし
取り合えず今はモニターを…)
私は能力で作り出したモニターを取り出すとすぐに起動させ
そして

『この場合の“同類”ということの分類の方法が
明確に分かりませんが…もしかしてですが
あなたは“カノッサ”、“機械”、“実験”の単語
に関係した分類のことを言っているのでしょうか?
そうであるなら自分はそれです。』

出来れば私としてはこのことをあまり知らない人には
察されたくないため最低限そのことに関連した人なら
分かる単語を言うことにした

【夜深内 漂歌:神宮 菊乃様と接触、意志疎通をする】
215天木 諫早 ◆0i7FhSLl8w :2010/12/08(水) 23:12:36 0
>>213
その光景を影から見ている男が居た。
天木 諫早(いさはや)は、赤染が挟まれた状態から男二体を屠るまでを別の民家の2階から見届けていた。

港での戦闘の後、進んでいる内に物音が聞こえ、戦闘と直感して近付いたが、生憎垣根の中で詳細が解らず、やむなく2階に上ったのだ。

(…マジかよ、やべェな。2対1で、しかもあの怪力野郎を同時に相手して殺しやがった…。
相手の方から戦いを仕掛けたとはいえ、参加者を躊躇なく殺してやがる。
見つかったらまずい。あのレベルが何人島にいるのか、考えただけで吐き気がするぜ)

天木の視力では、男に腕輪が無い事に気付けなかった。
                         、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
それゆえ、参加者を殺している、つまり『ゲームにちゃんと参加している』人間だと判断したのだ。

スーツケースにもたれて、赤染からは見えないように絶妙な位置から覗き込む。
肉の焼ける匂いとわずかな煙が、その威力の高さを物語っている。
恐らく、天木の比較的貧弱な体であの攻撃を受ければ、一撃で魂ごと焼かれてしまうだろう。

(奴の攻撃は直接攻撃が基本…構えを見るに相当な修練を積んでやがる。
戦い慣れてるンだな、つまり。能力は、攻撃を与えた時の傷の炎上、ってとこか?)

ならば、当てられる前にけりをつけてしまえば良い。
天木の能力の射程なら、恐らくそれが可能になるだろう。

(奴がゲームに参加している以上、いつかはあいつと、またはあいつを倒した奴と戦わなきゃいけねェンだ、
今は僅かでも自分の勝率が高い時に戦いてェ…ッ!
こっちは敵の能力を知っているンだ、おまけに奴は俺に気付いてねェ。環境は完璧だ。
鍛えてねェし、戦闘経験も無い俺は、この島じゃ恐らく少数派だろう。兎にも角にも『敵と戦う』経験が必要なンだ…ッ!)

少し考えて、彼は赤染への奇襲を決意する。
見つかれば殺される、そんな状況だが、失敗したら死ぬ覚悟はできた。
逆に言えば、これを乗り越えれば自分が飛躍的に成長出来る事も。

赤染から隠れながら、オーラを武器に充填していく。操作可能となった刃物群を、様々な死角へと慎重に動かしていく。

そして―――


(今だ)

赤染の背後から刃物が迫った。バタフライナイフが連続して3本、正確に赤染の心臓を狙って飛ぶ。

「――ッ!?」

超反応。先ほどの戦闘により研ぎ澄まされた赤染の感覚は、背後に迫る危機を捉え、即座にかわす。

「――新手か…ッ!?」

その声も最後まで待つ事無く、全く別の方向から今度は包丁が飛んできた。
いや、包丁だけでは無い。瓦礫、鏡の破片、釘、あらゆる『武器として使える何か』が、十数個、四方八方から赤染一点を狙って飛んでくる。
しかもタイミングがばらばらで、対応する順番を間違えれば攻撃が当たるだろう。

天木本体は、赤染の近くにある民家に潜んでいた。赤染を目視出来る位置で、無数の武器を操っていた。

(さて、これまで捌かれたらやべェな、生き残れる事を切に願うぜッ!!!くたばりやがれェェェェッ!)

【天木 諫早、赤染を好戦者と勘違いし戦闘開始。】
216海部ヶ崎 綺咲@代理:2010/12/10(金) 00:14:44 0
>>212>>213>>215
(気配が近い。恐らくあの建物の辺り──)
気配を感じる場所を視線の先に捉えた海部ヶ崎は、
瞬間、急ブレーキをかけて立ち止まり、反射的に近くの木にその身を隠した。
ここに来て気配が一つではなく、最低でも二つあることに気がついたのだ。
しかも、その二つともやたらと攻撃的な気なのである。

(これは闘いの気……。まさか私の接近に気がついて警戒しているのか?
 いや、そもそも気配が二つもあるということは……)
海部ヶ崎は即座に想定される状況パターンを二つ導き出した。
一つは、ピエロと他の参加者が対峙しており、戦闘となっているか。
もう一つは、既にこの場にピエロはおらず、参加者同士の戦闘が始まっているか。

いずれにしても、今の海部ヶ崎の技量では、
自らの視覚で確かめない限りは状況を完全に把握することはできない。
……気配を殺しながら、そっと目だけを覗かせて、建物の方角を窺う。

建物は喫茶店か何かだろうか、店頭に何やらと書かれた小さな古びた看板が置かれている。
そしてその店前には、宙に浮いたいくつもの武器と格闘している一人の男がいた。
他に人間らしい姿や人影は視認できないが、それでも、確かに気配は二つある。
(無数の武器が空間を飛び交う……恐らく相手は操作能力を持つ異能者。
 姿が見えないのは遠隔操作だからなのか、それとも別の能力で姿を消しているのか……)

「チッ」
海部ヶ崎は虫の羽音ほどの乾いた舌打ちをした。
目に映る光景が戦闘を意味しているものであることは恐らく間違いないが、
これでは男がピエロと闘っているのか、そうでないのかがハッキリしないのである。
判ることといえば状況からある程度推測できる能力ぐらいなものだ。

「仕方ないな……」
続いて呟いた海部ヶ崎は、直後に木から身を離して一人格闘する男に向けて歩き出した。
戦闘に乱入し、傍観者から当事者となることで、積極的に“見えざる敵”を炙り出そうというのだ。
勿論、敵がピエロであればその行為は無駄ではないが、
そうでない場合はいたずらに余計なリスクを増やした愚行になるだけである。
参加者との戦闘のリスクを極力減らしたいと思うのならば、
“見えざる敵”の正体が分かるまではこのまま粘り強く傍観者たるに徹すべきであったろう。
しかし、海部ヶ崎はそこまで辛抱強くはないし、合理的な思考に富んだ人間でもない。
格段、気が短いわけではないが、思いついたことは割かと直ぐに行動に移すタイプなのだ。

「取り込み中のところ失礼する。おっと、この攻撃は私がしているものではない」
飛んできた包丁の柄を掴み、背後から赤紫色をした髪の毛を持つ若者に話しかける海部ヶ崎。

「少し話を聞きたいだけだ。といっても、まずはこの状況を何とかしてからだが」
そして、自分が突然現れたことで何か変わった反応はないかと、
素早く、それでいて注意深い視線を周囲に投げた。

【海部ヶ崎 綺咲:赤染・天木の闘いに乱入】
217神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/12/10(金) 03:04:03 0
>>214
相手は暫く無言だったが、やがて何もなかったはずの空間にモニターらしきものが出現した。
そのモニターに次々と文字が現れていく。

『この場合の“同類”ということの分類の方法が
明確に分かりませんが…もしかしてですが
あなたは“カノッサ”、“機械”、“実験”の単語
に関係した分類のことを言っているのでしょうか?
そうであるなら自分はそれです。』

(モニター、か。やっぱさっきのラジコンもコイツだな。しかし――)

「“カノッサ”、“機械”、“実験”……それだけ聞けりゃ充分だ。
 ――アンタもアタシと同じ、若しくは同じような環境で生きてきたって事か」

いつの間にか、首の機械の点滅は治まっていた。
(しかし態々モニターなんか使うって事は、後者だったって事だな。
 実験の後遺症で喋れなくなった、ってところか)

「それにしても驚きだよ。まさかこんな場所で同類に会うとはね。
 あそこから出た後はそれらしい奴を見かけたことはなかったからなぁ」

少し昔を思い出して呟いた菊乃。
彼女が研究所から脱出した後、自分と共に連れてこられた人間がどうなったのかは知らない。
――実際にはカノッサ崩壊の報せと共に実験も凍結、第5研究所の被験者は全員処分されていたのだが。
菊乃がそんな事を知るはずもない。

「ま、折角会えたわけだし仲良く――」

夜深内に対し潜在的な感情で友好的に接しようとした時、戦闘の気配を感じた。
場所はここに来る前に見ていた喫茶店の付近。
(さっきの男、まだ戦ってるのか?…いや、気配が増えてる。この気配は――)
菊乃はそこで覚えのある気配を感じた。
(この気配は…海部ヶ崎か。昨日の事もあるし、経緯を話しておいた方がいいか)

「悪いな。もうちょっと話したかったんだが、ちょっと用事が出来た。
 また会えたらそん時はゆっくり話そうぜ」

夜深内にそう告げると、北に向かって走り出した。


暫く走り続けて、喫茶店が見えてきたところで速度を落とす。
左目のサーモセンサーを起動して周囲を窺う。
正面の民家に反応が二つ集まっている場所がある。恐らく先程の男と海部ヶ崎だろう。
しかしそれとは別に、少し離れた民家の2階にも反応が。どうやら男達の様子を探っているようだが…。
それにオーラの出力を感じる。ということは――
(死角から攻撃している?それとも別の干渉を?…自分の目で見た方が早いか)
自己完結すると、海部ヶ崎達ではなく離れている方の気配に向かって移動を開始した。
向こうはこちらの接近には気付いていないようで、相変わらず海部ヶ崎達の方を向いている。
反応がある部屋の窓の真下まで移動し、そこから一気に跳躍して窓ガラスを割って屋内に侵入する。

「よう。男なら正々堂々戦ったらどうだ?」

ガラスの破砕音と突然の闖入者に驚き狼狽している人物――男のようだ――に向かって語りかける。
実際には戦っているかどうかは分からなかったので、カマをかけてみる事にして相手の反応を待つ。

【神宮 菊乃:夜深内 漂歌と別れ、赤染vs天木の闘いに乱入。天木に接触する】
218鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/12/11(土) 11:35:00 0
「む…? ラジコン、でしょうか?」
神宮と分かれた鎌瀬たちは、墜落した夜深内のラジコンを発見した
「壊れてるね…それ」
「ええ。ですが木っ端微塵と言うわけでもありませんし、直せるでしょう。
何よりこのラジコン…カメラが付いているんです。誰の物かは分かりませんが、ありがたく戴いていきましょう」
「まぁ…良いんじゃない?」
と、言うわけで鎌瀬たちはラジコン飛行機を拾ったのであった
「さて…と。では」
斎葉は工具入れから色々な工具を取り出し、ラジコンの修理を始めた
「…ここの回路が切れてますね…。羽のバランスが狂ってます。…そしてここ、このあたりと…」
てきぱきと修理していく斎葉
「そして最後に…よし、完成です!」
ついにラジコンの修理を終えた
「え…もう直ったの?」
「これくらい朝飯前ですよ。…さて。飛行機が有ってもコントローラーが無いんじゃ動かせませんね…
ここは…“挿入(プラグイン)”!」
斎葉の体からオーラと意識の一部が飛び出し、ラジコン飛行機に入っていく
『侵入成功です。“起動(ブート)”!』
さらに能力でラジコンの電源を入れる斎葉
『よし。回路は大丈夫ですね。風力、風向ともに良好。離陸します』
219夜深内 漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/11(土) 13:22:29 0
>>217
書き込んだ後私はしばらく返答が来るのを待っていた
すると、

「“カノッサ”、“機械”、“実験”……それだけ聞けりゃ充分だ。
 ーーアンタもアタシと同じ、若しくは同じような環境で生きたって事か」

(同じような境遇の方ですか…なんか友達になれそうな気がするな…)
そう考えていると続けて相手は

「ま、折角会えたわけだし仲良くーー」

相手のかたは言い切る前に急に元いた方向をみた
(いったいなんでしょうか?
自分はサーチ系のセンサーはほとんど別につける
必要があるので分からないのですが…)
そう考えていると

「悪いな。もうちょっと話したかったんだが、ちょっと用事が出来た。
 また会えたらそん時はゆっくり話そうぜ」

『はい喜んで』
相手は言い終えるとすぐに来た道を戻ったので
見たかどうか分からないがそう書いた
私はモニターを消しながら
(行っちゃった…せっかく話せる人がいると思ったのに…)

突然、先ほど墜落したはずのラジコンの方の
無線接続が回復した
(えっ、さっき墜落したはずじゃ
というかコントロールがこちらから出来ない?)
とりあえず私はラジコンの無線機能が回復した辺りの地点へ向かった
220夜深内 漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/11(土) 13:29:30 0
[書ききれなかったので]
【夜深内 漂歌:神宮 菊乃と接触、別れ
その後斎葉の修復したラジコンに気づきそちらへ向かう】
221鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/12/11(土) 20:52:18 0
>>218続き
飛行機を操り、周囲の探索を始める斎葉
【斎葉巧:夜深内のラジコンを修理し、能力で操って島の探索を始める】
>>219>>220
(…ふむ。敵の姿は確認でき…ん?)
ラジコンを操って島を探索している途中、誰かの姿を発見した
(誰か居るみたいですね…ズーム)
修理の時付け足したズーム機能でその人の姿を確認する。それの正体は夜深内だった
(誰でしょう、あの方…こっちに向かってくる?)
夜深内がこちらに近づいてくるので、不思議に思う斎葉
(話しかけてみましょう…)
こちらから飛行機で近づき、追加しておいた音声機能で
『スミマセン…ドチラサマデショウカ』
と話しかける。かなり機械的な音声である
【斎葉巧(飛行機):操っている飛行機で夜深内を発見。音声機能で話しかける】
222夜深内 漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/11(土) 23:48:41 0
>>221
ラジコンの機能が回復した場所へ向かっていると
上の辺りから物音がするので見ると自分の作ったラジコンだった
(あれっ、飛んでる?…というか改造されてる…?)
不思議に思い見ているとラジコンの方から音が聞こえた

『スミマセン…ドチラサマデショウカ』

(しゃべった!?スピーカーまで付け足したのか…
 というか、どうしよう…こっちはしゃべれないんですが…
 えっと、多分あれは自分みたいな無線じゃなくて
 オーラとかを注入して動かしているから
 こちらから無線で文字とか音声のデータを送れば分かるはず)

『えーっと、私はこのラジコンの製作者です…というかあなたは誰ですか?
 まぁ、大方拾った方だとは思いますが…』
取り合えず文字データで送信した

【夜深内 漂歌:斎葉巧(飛行機)に文字データ送信】
223天木 諫早@代理:2010/12/12(日) 06:27:26 0
>>213>>215 >>216
天木の能力の特徴は、その効果範囲でも破壊力でも無い。
『狂想操作』…想う事によって操作する、つまりオーラを充填した物体の動くイメージを現実世界に投影出来る事が特徴だと天木は考えていた。
動きを考えてから操作するのと、イメージを投影するのとでは天と地程の差がある。
例えば達人の剣捌きは、凡人が頭で考えても再現不能だろう。
しかし、彼の能力ではどれだけ素人でも、達人の剣捌きを『イメージ』すれば、簡単に操作している刀がその動きを再現してくれる。
たとえどう動いているのか解らずとも。

言い換えれば、彼の能力は自動操作が出来ないという事でもある。
常に動きをイメージしておかなければならず、動かしている物体が意識の外に出てしまえばそこで効力を失ってしまう。
操作の洗練性の代わりに、非常に不器用な能力なのだ。

「くそッ、二人に増えやがった、あいつは何だ?仲間、なのか…?!」

いとも容易く自分の刃を受け止めた人物に対して、焦りが深まる。
長く攻撃しては居られない。自分の居場所を知られれば、恐らく挟み撃ちにされるだろう。
容易した刃物も残り少ない。此処で使い切ってしまっては後が持たないのだ。

「潮時か…だが、ただじゃァ終わらねェぜ…」

紅の瞳が邪悪に歪む。

(刃物が、全て浮き上がり、四方八方を取り囲むイメージ…)
                    、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
「其処の、落ちている刃物には、まだ充填されたオーラが残ってるンだ」

気を感じる者なら、その異常性に気付くだろう。
いつの間にか、誰かの気がその空間中に満ちている。
攻撃を失敗したかに見えた、飛んできた刃物群から、漏れる僅かな気。

「ブラッディ―――」

充填された残りのオーラを駆使して、壁に刺さった、地に落ちた刃物がもう一度浮き上がり男と女を球状に取り囲む。

「―――ジェイルッ!!!」

今度は同時に、刃がその球を閉じた。
勢いは先程の飛来攻撃に遥かに劣るが、圧倒的なその量を誇る攻撃。彼が思いついた最初の技。

顛末は見届けない。今すぐ、此処から脱出しなければ――
224天木 諫早@代理:2010/12/12(日) 06:28:06 0
>>217
その時、劈くような音と共に窓ガラスが割られた。
飛び込んできたのは、白髪に赤い瞳…黒と赤を基調とした服装。自分の逆位相から現れたような格好をした少女だった。

「よう。男なら正々堂々戦ったらどうだ?」

(…ッ!接近に、気付けなかった…ッ!奴等の仲間か、だとしたらまずいッ!)

それがカマをかけられている事には気付けない。操作に集中している隙を完全に突かれた形になり、彼の脳は一瞬思考能力を失った。
ガシャガシャと、攻撃に使った刃物が落ちていく気配がする。充填されたオーラはまだ残っていたが、それを動かす『イメージ』が強制切断されたのだ。

「くそッ、どうやって俺の居場所が解ったッ!?」

そこら中に自分のオーラを充填させた物体がある。気の位置だけで知るには、限界があったはずなのだ。しかし、その言葉は完全なミスだと気付くのに、時間はかからなかった。

(コイツ、仲間じゃ…無いッ!)

仲間なら、まず仲間を助けるだろう。というより、完全にそちらを無視して悠長に質問するなど、有り得ない。
そう、目の前のこの少女は、全くの偶然でこちらの位置を嗅ぎつけた。
どうして接触してくるのか?
漁夫の利を狙っている事をまず考え付く。2階の窓ガラスを破って入ってこれる身体能力。この状況で戦闘に持ち込まれたら勝ち目は無い。

「…あいにく、俺の能力は正々堂々と戦えないような代物なんでねェ。この体を見ても解るだろォ、とてもまともに戦って生き残れる人間じゃァねェのさ。」

へらへらと笑いながら、大げさな身振り手振りで突然の侵入者に話しかける。

「その点じゃ、アンタは生き残れる可能性が高そうだなァ。どうやって2階の窓から飛び込んで来たんだィ?
ッたく、騒々しいったらありゃァしねェ。アンタのお陰でこっちの位置が気付かれたじゃァねェか…」

全く、べらべらと良く回る口だ、と自分でも思う。余裕のあるフリをして、時間を稼ぎ、彼は必死で状況を打開しようとしていた。

気付かれないように、地面についた足元から、オーラを床、調度品、壁伝いに這わせていく。
大小様々な部屋の小物類に極小のオーラを充填し、一瞬でも操れる状態にしていく。

(早く、早く充填を終わらせなければ…ッ!逃走しなければ、勝ち目は無いッ!)

【天木 諫早、赤染と海部ヶ崎に追撃。逃走の為、神宮へ攻撃を準備する。】
225赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/12/12(日) 16:21:18 0
>>216>>224
眼にはいるのは、男達の死体。
鼻を刺すのは、死体から上がる死臭。

(……人殺しをすんのは、半年ぶりぐれぇか)
実のところ、赤染はただのボロ道場の師範代ではない。
彼の現在の師にあたる人物がこの手のヤバい世界に精通しており、時折『仕事』を手伝わされているのだ。
(正しく、アイツが言ってた通りだな。何考えてるか分からない奴ほど、殺り難い相手は居ないってのは。
 ……まぁ今は、んな事考えてる場合じゃねぇな)

赤染はそんな感傷に浸る時間を無駄と判断し、さっさとこの家から去ろうとする。
だが、その時だった。

―――――背後からの風切り音ッ!!

「――ッ!?」
すぐに左へとステップを踏み、謎の飛来物を躱す。
その物体の正体は切っ先を真っ直ぐにこちらに向けた包丁であった。
「――新手か…ッ!?」
その言葉を言い終える間もなく、次は全く別の方向から包丁が飛来する。
(こいつは、異能力で操ってんのか? となるとさっきのゾンビ野郎とは別種のワイズマンの手駒か?
 ……いや、このイベントの参加者が機会を窺ってたってのが妥当なとこか)

二撃目も躱すも、まだまだ飛び道具による攻撃は終わらない。
包丁以外にも瓦礫や釘などが、次々と部屋の外から室内へと進入し、赤染を狙ってくる。

「次から次へと。こんなんじゃ、致命傷は与えられねぇぞ、おい」
赤染は飛来物の一つである、瓦礫を掴むとそれを振り回し、釘やガラスの破片などの小さいものを叩き落とす。
それでも凶器の嵐は止まらない。一度躱したはずの包丁が再度、赤染の背後から迫る。

「チッ……」
「取り込み中のところ失礼する。おっと、この攻撃は私がしているものではない」

突如、現れた謎の人物は包丁の柄を掴んだ。
その人物は赤染より若干背の高い黒髪の女性だった。
「少し話を聞きたいだけだ。といっても、まずはこの状況を何とかしてからだが」
「……お前が誰で何者かは知らねぇが、言われなくても何とかするつもりだ」
持っていた瓦礫をその辺に投げ捨て、次の攻撃を警戒する。

そしてようやく、気付く。
オーラに関しての技能は不得手とする赤染でも感じるほどの、オーラの増大を。
(これは、デケェのが来る予兆か?)

壁に床に突き刺さった凶器らが、先程の包丁のように再び宙を舞った。
凶器は赤染とその背後に突如現れた女性を球状に取り囲み、そして――――その刃で二人を圧し潰しにかかった。
226赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/12/12(日) 16:22:47 0
「……悪いがちょっと我慢してろ」
背後の女性にそれだけ告げると彼女の頭を掴み、抱きかかえるように自分の方に引き寄せる。
それから息を吸い、そして吐くと同時に右足を地面に叩き付けた。

『   覇阿ァッッ!!!!!!!   』

大気を揺らす咆哮と部屋全体を揺らす震脚。
その振動に赤染の異能力が加わり、一瞬、小さな爆発にも似た炎が巻き起こった。
火炎と爆音が室内を駆け巡った後には、中心の赤染の周辺以外は黒い異物に姿を変えていた。

「多少は抑えたがやっぱこの短時間でオーラを使いすぎたなぁ、おい。 ったくよぉ、さっさとワイズマン達を探さねぇと……あぁ?」
そこまで言って赤染は、自分の腕の中でもがいてる女性の存在を思い出した。
おっと、すまんな、と軽い謝罪の言葉と共に女性を解放した。
どうやらレザー材質のこの服では完全に息はできなかったらしく、多少息が上がっていた。

「お前、確か俺に聞きたいことがあるとか言ってたな? 丁度いい、俺もだ。
 どうやら、攻撃の第二波はすぐには来ねぇみたいだし、とっととここから離れるぞ」

言うが早いか、赤染は既にこの家の裏口から外へ出ようとしていた。
女性は少し思慮する表情をするが、どうやら付いて来るようだ。
二人はその家から遠ざかり、しばらくの間住宅街を疾走した。

それから、二分ほどで別の民家の庭へと到着した。
「ここまで来れば大丈夫か。さて、ようやく話ができる状況になったな。
 俺の名前は赤染壮士って言う。腕輪の番号は462だ。さっきの戦闘で借りがあるし、お前の質問答えてやるぜ」
民家の縁側に座り、そう女性に告げた。
顔にはようやく気が休まるためか、若干安堵の色が覗かれた。

【赤染 壮士:先程まで戦闘していた家とは離れた民家にまで退却。海部ヶ崎と話合おうとする】
227神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/12/13(月) 02:14:34 0
>>224
「くそッ、どうやって俺の居場所が解ったッ!?」

男から返ってきた第一声はその言葉だった。
かなり動揺しているようだ。見るからにうろたえている。
菊乃はフッと笑い言葉を返した。

「アンタにそれを教える理由があるのかい?アタシには分からないんだが」

男は暫く黙っていたが、やがて口を開いた。

「…あいにく、俺の能力は正々堂々と戦えないような代物なんでねェ。この体を見ても解るだろォ、とてもまともに戦って生き残れる人間じゃァねェのさ。」

先程までとは打って変わり、大仰なしぐさで会話を再会する男。

「その点じゃ、アンタは生き残れる可能性が高そうだなァ。どうやって2階の窓から飛び込んで来たんだィ?
ッたく、騒々しいったらありゃァしねェ。アンタのお陰でこっちの位置が気付かれたじゃァねェか…」

男の顔に動揺の色は見られない。しかし――
(よく喋る男だねぇ。でも、逆にその所為で心の中が丸見えだよ。
 余裕のフリをしてるんだろうが…完全に逆効果だな。
 最初にアタシが現れた時に動揺したのが失敗の原因だ。
 動揺した後にペラペラ喋る奴は、大概動揺を隠しながら次の手を、打開策を考えている)
菊乃は男の心中を見抜いていた。
研究所から出た後各地を放浪していた菊乃は、様々な人間と出会い、会話し、戦ってきた。
中にはこの手の人間も少なからずいた。
(さて、別に逃げられてもいいんだけど、折角だしやってやるか。
 見たところ武器は持ってない。何か体も弱そうだな…。
 さっきのコイツの言葉を信じるなら、何かを創り出すか操る能力ってところか)

相手の能力を仮定した菊乃だが、構える様子はない。

「アタシはペラペラ喋る奴は嫌いでねぇ。少し黙ってもらおうか」

そう言うと跪き、床に左手を当て、更に右腕を振り上げて静止する。

「ま、この程度で死ぬなよ?――『重力の戦槌』――」

振り上げた右腕を床に叩きつける。
重力の込められたその一撃は床を容易く打ち抜き、更には家屋全体に衝撃を伝える。
元々ボロかったその建物がその一撃に耐え切れるはずもなく、あっけなく崩れ落ちた。
菊乃は崩れ落ちる寸前に入ってきた窓から外に飛び出していた為、崩落に巻き込まれることはなかった。

「さて、向こうはどうなったかねぇ。死んでなきゃいいんだけど」

瓦礫の山を見つめて、一息つく為に煙草を取り出して火をつける。
(流石にこう瓦礫が多いと退かす気にもならねえ。出てくるのを待つか。…生きてたら、の話だがな。
 そういや海部ヶ崎達の気配が遠くなってるな。一緒にいた奴と逃げたのか?
 ま、後で追いかければいいか。そこまで遠くには行ってないみたいだからな)
紫煙を吐き出しながらあれこれ考える菊乃であった。

【神宮 菊乃:天木と自分のいた民家を破壊。天木の動向を探る】
228海部ヶ崎 綺咲@代理:2010/12/13(月) 02:52:14 0
>>223>>224>>225>>226
変化は目に見えて現れた。
壁に刺さり、地に落ちていた刃物たちが、再び浮き上がって周りを囲んだのだ。
肌で感じられるほどの大きな気を持って。
(やはり私を敵と見なしたか。予想通りのリアクション。後は──)

後は、何とかして本体をこの場に引きずり出す。
そう続けようとして、頭を掴まれる突然の感触に、海部ヶ崎は思考を止めた。

「……悪いがちょっと我慢してろ」
耳元で男が囁く。男は海部ヶ崎の頭を掴んで、体ごと傍に引き寄せていた。
「なっ──」
「覇阿ァッッ!!!!!!!」
何かと問うより早く、男から耳を劈くような声が発せられ、
それと共に生じた震動と炎が、室内を駆け巡って刃物を焼失させていく。
部屋の床や壁ごと……。それは正に一瞬の出来事であった。
(炎の使い手……。しかも、中々の腕だ。……いや、それはそうと)

「とっとと放せ。私は人形ではないぞ」
その声を聞き、男が「おっと、すまん」の言葉と共に海部ヶ崎の身を解き放つ。
海部ヶ崎は改めて男と対峙し、その風貌を確かめた。
ワインレッド色の髪の毛、黒いジャケットに同色のパンツ。
顔から見て歳はまだ若い。20代の前半……といったところだろう。

「お前、確か俺に聞きたいことがあるとか言ってたな? 丁度いい、俺もだ。
 どうやら、攻撃の第二波はすぐには来ねぇみたいだし、とっととここから離れるぞ」
言うより早く、男が建物の裏口を潜っていく。
(まぁいい。第二派が来る気配がないということは、恐らく敵も離れたと見える。
 今から正体を暴こうとしても無駄だろう。どうやらピエロでもなさそうだしな)
これ以上、ここに留まることは無意味との結論を出した海部ヶ崎は、
素直に男の言葉を聞きいれ、同じように裏口を潜って男の後をつけていった。

そして、男の後をつけることおよそ二分。
ふと男が立ち止まるを見て、海部ヶ崎も立ち止まった。
そこは先程の場所から少し離れた民家の庭の中であった。

「ここまで来れば大丈夫か。さて、ようやく話ができる状況になったな。
 俺の名前は赤染壮士って言う。腕輪の番号は462だ。さっきの戦闘で借りがあるし、お前の質問答えてやるぜ」

男──赤染と名乗った彼が、縁側に座りながら告げる。
それに対し、海部ヶ崎は軽く一礼しながら言った。

「いや、最終的にあの攻撃を無力化したのはキミだ。私は礼を言われるほどのことをしたつもりはない。
 私の名は海部ヶ崎 綺咲。角鵜野市という場所から来た。
 私がキミに訊きたいのは二つ。一つはあの場所──恐らく喫茶店と思うが、
 あの近くにピエロがいたはずだが、奴はどこに消えたのか……勿論、知らないなら知らないでもいい。
 ただ、どんな些細なことでもいいから、奴の向かう先に関して気が付いたことがあったら聞かせて欲しい。
 そして二つ目──」

顔を上げて、海部ヶ崎は続けた。

「先程、私に聞きたいことがあると言っていたな。それはなんだ?」

【海部ヶ崎 綺咲:赤染に質問を投げる】
229鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/12/13(月) 23:26:55 0
>>222
『えーっと、私はこのラジコンの製作者です…というかあなたは誰ですか?
まぁ、大方拾った方だとは思いますが…』
という文字データがラジコンに送られてきた。当然、意識の一部をとけ込ませてる斎葉もそれを感じ取っている
(文字データ…? 音声ではなく…? もしかしてこの方、喋ることができないのでしょうか…?)
『エエ、オ察シノ通リ、コノらじこんヲ拾イ修理と改造ヲ施サセテイタダキマシタ。斎葉巧ト申シマス
マァ、私ノ本体ハ別ノ所二居マスガ…』
ラジコンの音声機能で夜深内の質問に答える斎葉
『所デ先程ノ文字でーた…モシカシテ貴方、話セナカッタリ機械ダッタリシマス…?』
率直な疑問を述べてみる
【斎葉巧:夜深内からの文字データに答えた後、質問する】
230夜深内 漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/13(月) 23:47:43 0
しばらく待つとラジコンの方からまた音声がしたので見た

『お察しの通』
231夜深内 漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/13(月) 23:51:39 0
>>230
[ミスったーーーーーーーー!!!!!orz
 すみません、明日にレスします、立ち直れません…ハズカシイ]
232天木 諫早@代理:2010/12/14(火) 04:32:37 0
>>227
「アタシはペラペラ喋る奴は嫌いでねぇ。少し黙ってもらおうか」

その一声に、こちらの考えなどとっくに見透かされていた事を感じた。
(まずい、まだオーラの充填が終わって無い…ッ!)
見たことの無い、不思議な構え。地に跪くその動作から、彼女が自分を直接攻撃はしない事を知る。攻撃の対象は、その床。つまり、これは―――

「ま、この程度で死ぬなよ?――『重力の戦槌』――」

振り返り、2階から別ルートで家を脱出しようとしたが、到底間に合わない。破砕音と共に、上から死が迫る。
今、彼の能力が操ることが出来るのは、オーラを不十分だが充填した小物類のみ。これらで何とかして圧死を防がなければならない。
崩れてくる家屋を下から押し上げるようにあらん限りのイメージで小物類を操作する。
(崩壊を止めるのは今のオーラ充填量じゃ無理だ、つまり落ちるのに従いながら出来るだけ崩落の加速度を軽減する…ッ!)
(そして自分が死なないだけのスペースを確保!落ちてくるのは大きな塊だ、小物類を上手く使えばそのスペースを作れるはずだ!)

「畜生、ちゃんと生き残ったら数倍にして返してやる…ッ!」

――――幾らの時がたったか、捻じ曲がった時間感覚の中で崩落の終わりを知る。
彼の体はスーツケースと共に、その体が残るだけのギリギリのスペースに押し込まれていた。砕けた皿の破片が体に刺さり、数箇所から出血している。
(何とか生き残ったか…十分な時間さえあれば、脱出は可能だな。とりあえず、ダメ押しが来る前に外の状況を確認してェ)
スーツケースの中から、ずっしりとした小包を取り出す。それは、研究所で考案し作成した、特殊合金の球。直径2〜5cm程の黒紫の球が、いくらか入っている。
彼がこの島に来る前に準備した、専用の武器。オーラとの親和性が高く、硬度と適度な重量を兼ね備え、熱に耐性があるこの球は、操作という能力を持つ彼にとって、武器として扱いやすい。
自身のオーラをその球に、濃密に充填していく。恐らく、気を感じる事の出来る者ならば、その崩壊した家屋の中に、二人の異能者が居ると錯覚してしまうだろう。
充填に10秒。そのサイズの物体にしては過度に時間をかけて、その凶器が完成する。

「さて、そろそろ息苦しいからな。外の世界を拝むとするかィ。――『凶弾』(キラーショット)――ッ!」
                                  、 、 、 、 、 、
破壊音。何かを強引にへし折るような音と共に、それは撃ち出された。
それは射出とも言うべき凄まじいスピード。操作時間を犠牲に速度に特化したその『操作』は、もはやその概念を超えた、一種の砲撃とも言える。
凄まじいスピードで瓦礫を打ち抜いた球は、そのまま隣の家屋に突っ込み、数枚の壁を貫き、新たな出入り口を作った。
打ち抜いた穴から、天木がスーツケースに引っぱられるように出てくる。オーラによってスーツケースを操作し、掴まったのだ。
それまで赤染達が居た場所には、爆発の後があった。恐らく赤染の能力で天木のブラッディジェイルを吹き飛ばしたのだろう。
あの二人の姿が見えない事を確認して、逃走したと判断する。途中で合流した女の事も気になったが。

「よう、久しぶりに会えたなァ。出会い頭に無茶苦茶やってくれンじゃねェか。
…お前も『ゲームに参加』してる奴か。俺も自分は生き残りたいと思っている。他人に命をどうこうされンのは真っ平ごめんだからな。」

煙の向こうの少女を睨んで、スーツケースによりかかり、黒い髪をかきあげて、赤い瞳を覗かせる。右手で鋼球を数個投げ上げて、キャッチして。

「そっちがその気なら、俺は相手になるぜ。」

その言葉の真意は、経験。彼は、本気でどちらかが倒れるまで戦う気は毛頭無い。ただ、この少女の能力の特定と、経験が欲しいだけだ。
不利な状況にも対応出切るよう、脱出までの時間に幾つかのものにオーラの充填を終わらせていた。

「二度目だ。『反凶弾』(キラーショット・リターン)ッ!」

大きく左腕を振るう動作。そのイメージに連動して、破壊音と共に隣の家屋の中から先程撃ち出された鋼球が少女の斜め後ろから接近した。
先程までの威力は無いものの、その速度は打撃に十分であろう。

【天木 諫早:破壊された家から脱出し、相手の意思を確認。能力による攻撃を開始する。】
233神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/12/15(水) 08:45:09 0
>>232
待つこと数分、2本目の煙草を吸っていた時、瓦礫の中からオーラの高まりを感じた。
それはこの場にいない人間でオーラを感知できる者なら、二人分だと勘違いしてしまう程濃密なものだった。
しかし先程まで瓦礫の下にいる人物と対峙していた菊乃は相手が一人であることは分かっている。
(何か来るな…。しっかしあの瓦礫でよく生き残れたなぁ。……ま、能力者なら当たり前か)
 などと思っていると、瓦礫の山から凄まじい速度で何かが飛び出してきた。

「やっと出てき――ん?」

しかしその物体は菊乃のいる場所を外れて明後日の方向に飛んでいった挙句、隣家の壁をも打ち抜いていった。

「一体何だ…?」

訝しげにその方向を見ていると、先程開いた瓦礫の穴から今度はスーツケースが飛び出してきた。
よく見るとそれには先程の男が掴まっている。

「成程ね、睨んだ通り何かを操る能力だったか。…それにしても器用な奴だねえ」

男の方を振り向くと、丁度男の方もこちらを向いて口を開いた。

「よう、久しぶりに会えたなァ。出会い頭に無茶苦茶やってくれンじゃねェか。
…お前も『ゲームに参加』してる奴か。俺も自分は生き残りたいと思っている。他人に命をどうこうされンのは真っ平ごめんだからな。」

久し振りって程でもないだろうに、というツッコミは口には出さず、黙って男の方に歩み寄る。

「そっちがその気なら、俺は相手になるぜ。」
「別にゲームに参加しているわけじゃないさ。ただ単に知り合いが攻撃されてたから助けに入ったまで。
 至って普通のことだろ?…少なくともアタシにとっては普通のことだよ」
「二度目だ。『反凶弾』(キラーショット・リターン)ッ!」

男がこちらが言い終わると同時に叫ぶと、背後から風切り音と共に何かが飛来してきた。
死角からの飛来であったのと不意を突かれた事が重なり、回避が間に合わない。
背中と脇腹の中間辺りに激突し、衝撃で弾き飛ばされる。
勢いで数m吹っ飛び、激しく地面を転がる。しかしその直後、何事もなかったかのように起き上がる。
――そう、痛みを感じない菊乃にとって、"体が動かせる"のであれば大した問題ではないのだ。
立ち上がり、男の方を見ながら首をコキコキと鳴らす。男は驚きの表情を浮かべていた。

「軽いねぇ。そんなもんかい?この程度じゃアタシは"倒れない"ぜ?
 …さて、今度はこっちの番だな」

跪き、地面に手を当てる菊乃。
男は先程と同じ攻撃が来ると思ったのだろう、飛び退って距離をとった。
しかし菊乃はニヤリと笑い、オーラを解放し始めた。

「いい判断、と言いたいところだけど甘かったね。
 見かけだけで同じ攻撃を予想するとは……アンタ、戦いなれてないな?」

こちらが"腕を振り上げてから"距離をとったのならそれは正解だろう。
しかし"地面に手を当てただけ"で距離をとるのなら少し意味が変わってくる。
"別の攻撃が来るかも"という予測が立てられていないのだ。
多くの戦闘を経験してきたものなら容易に出来るであろうその予測が、目の前の男にはできていなかったのだ。

「んじゃ、ここで少し経験を養っておくといいさ。この先生き残れるように、な
 ――『重力増加』――」

言葉と共に周囲の重力が高まる。数値にして3倍。
別に菊乃はこの男を倒したいわけではなかった。寧ろ生き残ってもらわないと困る。
一人でも多くの人間に手伝って欲しいのだ。――ワイズマン打倒を。

【神宮 菊乃:攻撃を食らうも致命傷にはならず。戦闘を続行】
234夜深内 漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/15(水) 20:25:10 0
しばらくするとラジコンの方からまた
声がした今度は

「エエ、オ察シノ通リ、コノらじこんヲ拾イ修理と改造ヲ施サセテイタダキマシタ。斎葉巧ト申シマス
マァ、私ノ本体ハ別ノ場所ニ居マスガ…」

(おぉ!、またしゃべった)
続けてさらに

「所デ先ホドノ文字でーた…モシカシテ貴方、話セナカッタリ機械ダッタリシマス…?」

(えっ、あっ…しまった…どうしよう…
 取りあえず…)
『はい、諸事情によりくわしく話すことはできないですけど
 音声による会話はできないです』
と返信した

【夜深内 漂歌:斎葉 巧の質問に応答】

[遅れてすみません]
235赤染 壮士 ◆aaFVqjpXic :2010/12/15(水) 22:41:02 0
>>228
改めて、赤染は女性の風貌を観察した。
自分より二、三歳は若い。おそらく二十歳前後だろう。
刀を携え、服装は自分とは対照的な軽装だ。
一見してみれば、そこに居るのは街中に普通に居そうな女の子。
だが、鋭い眼光や全身から出る気配が彼女を只者ではない事を物語っている。
彼女は礼儀正しく、軽く一礼しつつ質問する。

「いや、最終的にあの攻撃を無力化したのはキミだ。私は礼を言われるほどのことをしたつもりはない。
 私の名は海部ヶ崎 綺咲。角鵜野市という場所から来た。
 私がキミに訊きたいのは二つ。一つはあの場所──恐らく喫茶店と思うが、
 あの近くにピエロがいたはずだが、奴はどこに消えたのか……勿論、知らないなら知らないでもいい。
 ただ、どんな些細なことでもいいから、奴の向かう先に関して気が付いたことがあったら聞かせて欲しい。
 そして二つ目──」

そこまでの言葉の中で、一つの単語が赤染の脳内で引っ掛かった。
(アマガサキ?……もしや、この女…)

「先程、私に聞きたいことがあると言っていたな。それはなんだ?」
「――じゃあまず一つ目の質問からだ。」
赤染は思い出すかのように、頭を少し掻いてから語り始めた。

「『ピエロ』ってのはやっぱあの夢に出てきた野郎の事だよなぁ、おい?
 スモークガラス越しで見ただけだが、確かにあの場に居たぜ。特に益体もねぇ話をした後、
 気味悪い笑い声を残して、消えちまいやがったよ。あそこに居たのは“用足し”の途中だとかぬかしてたな。
 まぁ、たったこれだけだ。煙みてぇに消えちまったから、どこへ行ったかは見当もつかねぇよ。」

ここで一旦、言葉を区切る。
それから、少し言葉を選び、考えてから言葉を続ける。

「二つ目の質問だが。なに、別段変わった質問じゃねぇ。お前と似たようなもんだよ。
 さっきまで居たあの場に死体として倒れてた二人の男達についてだ。まぁ、お前は気付いて無いかもしれねぇが。
 奇妙な連中で特徴は二人とも腕輪が無い、知性が無い、異能力が無い。あるのは『CO』と数字のタトゥー。
 そういう特徴の奴らに見覚えがあったら教えてくれ。
 ――――で、これは今さっき出てきた疑問なんだが……海部ヶ崎。
 お前もしかしてあの『大災害の日』の……『カノッサの乱』の渦中に居た、あの海部ヶ崎か?」

相手の反応を見るに、どうやら赤染の推測は正しかったらしい。
だが、驚いているのは赤染も同じだった。

「ほぉ、驚いたな。まさか、カノッサを潰した異能者の内の一人が俺より年下の女性だとはな。
 で、三つ目の質問になるが。お前の父が『幾億の白刃』……あの最凶の殺し屋って噂は確か?」

【赤染 壮士:海部ヶ崎と質疑応答中】
236天木 諫早 ◆0i7FhSLl8w :2010/12/16(木) 01:22:30 0


「別にゲームに参加しているわけじゃないさ。ただ単に知り合いが攻撃されてたから助けに入ったまで。
 至って普通のことだろ?…少なくともアタシにとっては普通のことだよ」

その言葉を聞いたのは、彼が『反凶弾』を発動してしまった後だった。
ゲームに参加していない、というその言葉。ならば、彼女の目的は何だ?ただ、知り合いが攻撃されているだけで、命の取り合いに踏み込んでこれるのか?

――いや、彼女にはそれがまるで呼吸するかのように出来るのだろう。戦闘能力への高い自信の表れでもある。
そう、天木が初めて出会った、あの能力者のように、自分の思うがまま力を振るうことが出来るのだろう。

戦闘への注意力とは裏腹に彼の思考の底は、そんな事を考えていた。死角から迫った鋼球は彼女に正確に激突するが、天木の表情は依然として険しかった。

「軽いねぇ。そんなもんかい?この程度じゃアタシは"倒れない"ぜ? …さて、今度はこっちの番だな」
「…この重量と速度なら普通の人間じゃ昏倒するんだがねェ。オーラによる能力補正にしても、ちょいと効き過ぎじゃァねェか…ッ!?」
                                       、 、 、 、 、 、 、 、
冷や汗をかきながらも、口元には笑みがある。目の前の少女はこの程度では無い。
そしてそこから紡ぎだされた彼女の先程と同じモーションに、天木は危険を感じて飛び退いた。

(さっきの攻撃か、だとしたらマズい、アレは見掛けよりも遥かに威力が――)

「いい判断、と言いたいところだけど甘かったね。見かけだけで同じ攻撃を予想するとは……アンタ、戦いなれてないな?」
「何を、…ッ!!!」
「んじゃ、ここで少し経験を養っておくといいさ。この先生き残れるように、な ――『重力増加』――」

ズン、と重みが圧し掛かる。オーラによる強化の乏しい体には、負荷が大きすぎる。
内臓が鉛のようだ。腕が鋼のようだ。その状態に居るだけで、恐らく彼は消耗しきってしまう。

「なるほど、な、『重力』…ッ!それでさっきの攻撃が馬鹿みてェな威力を出すわけだ…」

ゆっくりと、重い重い右手をあげる。それは降伏の意思では無く、新たなる攻撃への予備動作。

「確かに俺ァ戦闘経験がねェ。この能力を実際戦闘に使うなンざ、まだ考えて無かったからなァ。それに俺ァ『研究者』だ。どちらかというと思考が好きでねェ。
あンたの能力について、幾つか仮説を立てたンだ…地面に手をつくという本来不要な予備動作。そしてあの理不尽な破壊力と崩壊速度…
最初は『エネルギーの下方変換』とか考えてたが…まァ、何れにせよ」
       、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
「やっぱり、こっちを用意しておいて正解、だったなァ…ッ!―――『飛爪』(ディメンション・クロー)――ッ!」

その手を空を裂くように振り下ろした。
既に。神宮の頭上にその攻撃は在った。4本の小型のナイフが、振り下ろされる爪を模して、彼の右手に連動し彼女の肩口に抉りこむように迫る。
自分の体の動きに連動するイメージ。右手とナイフが距離を越えて、操作能力によってリンクされる。
彼は例え砂粒であってもオーラを注入出来る。離れた場所のナイフに、砂粒を介してオーラを輸送し、充填を完了させ、結果、この条件での不意打ちの攻撃準備が整っていた。

「そう、『上から下』への攻撃を、あンたは能力じゃァ防げねェ。違うかィ?」

だが、彼はリミットが近付いていた。逃走、休息、オーラの回復。急がなければ、この重力下では余りにも体力を削られすぎる。

【天木 諫早:重力増加の影響を受けながら戦闘続行。】
237鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2010/12/16(木) 18:00:39 0
>>234
『はい、諸事情によりくわしく話すことはできないですけど
 音声による会話はできないです』
『ソウデスカ…。マア、言エナイノナラカマイマセンヨ。
 トコロデアナタガ作ッタコノらじこん…勝手ニ改造シテシマイマシタガヨロシカッタノデショウカ…』
ラジコンから音声で返事をする。その後…
「もしかしてとても大切な物だったとか…ありませんよね?」
「壊れてたけど…」
ラジコンのカメラ映像を頼りに鎌瀬と斎葉が歩いてきた
【鎌瀬犬斗&斎葉巧:ラジコンで返答をした後、カメラを頼りに夜深内のところへ行く】
238海部ヶ崎 綺咲:2010/12/16(木) 22:53:27 0
>>235
「『ピエロ』ってのはやっぱあの夢に出てきた野郎の事だよなぁ、おい?
 スモークガラス越しで見ただけだが、確かにあの場に居たぜ。特に益体もねぇ話をした後、
 気味悪い笑い声を残して、消えちまいやがったよ。あそこに居たのは“用足し”の途中だとかぬかしてたな。
 まぁ、たったこれだけだ。煙みてぇに消えちまったから、どこへ行ったかは見当もつかねぇよ。」

赤染は一つ目の質問にそう答えると、やがて言葉を切って黙りこくった。
「そうか……」
海部ヶ崎はぽつりと漏らした後、小さく唇を噛んだ。
期待していたわけではなかったから、落胆の気持ちがあったわけではない。
これは、もしも時間をロスしていなければ……
という、途中で狂戦士の邪魔が入ったことに対する悔しさの表れであった。

「二つ目の質問だが。なに、別段変わった質問じゃねぇ。お前と似たようなもんだよ。
 さっきまで居たあの場に死体として倒れてた二人の男達についてだ。まぁ、お前は気付いて無いかもしれねぇが。
 奇妙な連中で特徴は二人とも腕輪が無い、知性が無い、異能力が無い。あるのは『CO』と数字のタトゥー。
 そういう特徴の奴らに見覚えがあったら教えてくれ。
 ――――で、これは今さっき出てきた疑問なんだが……海部ヶ崎。
 お前もしかしてあの『大災害の日』の……『カノッサの乱』の渦中に居た、あの海部ヶ崎か?」

しばしの沈黙を経て、二つ目の質問の答えを明かした赤染の目は、じっと海部ヶ崎を捉えていた。
物理的な刺激を受けたように、海部ヶ崎の心臓は一瞬、ドクンと高鳴った。
(この男、どこで……)
海部ヶ崎は驚いた。三ヶ月前の惨劇──その事実を知っている者の存在に。

「ほぉ、驚いたな。まさか、カノッサを潰した異能者の内の一人が俺より年下の女性だとはな。
 で、三つ目の質問になるが。お前の父が『幾億の白刃』……あの最凶の殺し屋って噂は確か?」

思いもよらず、父の名を出されたことで、またも心臓が大きく鼓動する。
しかし、直ぐにそれを鎮めた海部ヶ崎は、やがて落ち着いた口調で言った。

「……私に対して、キミが嘘を言っていたとは思わない。だから、私も全て事実で答えよう」

赤染の意図するところは判らない。かといってお茶を濁すことはしたくない。
それが正直に話した者に対する礼儀だからである。

「キミが闘ったという腕輪のない連中は、恐らく私がつい先程闘った奴の仲間だ。
 そいつも腕輪がなく知性がなかった。私の仲間はそいつを『狂戦士』……と呼んでいた。
 何でもかつてカノッサによって作り出され、処分されたはずの異形とのことだが、
 どういうわけかそいつらが今も生き残り、この島をうろついているらしい……。

 ……そしてキミのいう噂についてだが、それは確かだ。
 三ヶ月前の出来事といい、その噂といい、キミがどこで聞いたかは敢えて聞かないがな」

【海部ヶ崎 綺咲:質問に答える】
239神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2010/12/17(金) 09:01:03 0
>>236
「なるほど、な、『重力』…ッ!それでさっきの攻撃が馬鹿みてェな威力を出すわけだ…」

こちらが視覚的に能力を行使したことで、向こうもこちらの能力が分かったようだ。
しかし分かっただけで解決策にはならない。男は既に能力の範囲内に入っている。
男はゆるゆると右手を上げた。恐らく重力の影響で上手く体が動かせないのだろう。

「確かに俺ァ戦闘経験がねェ。この能力を実際戦闘に使うなンざ、まだ考えて無かったからなァ。それに俺ァ『研究者』だ。どちらかというと思考が好きでねェ。
あンたの能力について、幾つか仮説を立てたンだ…地面に手をつくという本来不要な予備動作。そしてあの理不尽な破壊力と崩壊速度…
最初は『エネルギーの下方変換』とか考えてたが…まァ、何れにせよ」

「やっぱり、こっちを用意しておいて正解、だったなァ…ッ!―――『飛爪』(ディメンション・クロー)――ッ!」

叫びと共に頭上から飛来する何か。

「そう、『上から下』への攻撃を、あンたは能力じゃァ防げねェ。違うかィ?」

それは4本のナイフであったのだが、動きがおかしい。
まるで猛獣が爪を振り下ろすが如く迫ってくるのだ。
しかも完全に虚を突かれたタイミング。かわしようがない。

「チッ、厄介だね、操作系の能力は。そら…よっと!」

勢いよく左腕を振り上げる。
肩口を狙ってきたその攻撃は寸前で出現した左腕に命中する。
深々と刺さり――否、既に貫通していたそれを一瞥すると男に向き直る。

「流石は自称『研究者』だねぇ。お見事だよ。
 確かにアタシの"能力じゃ"上から下への攻撃は防ぎようがない。何せ重力だからな。
 だが"能力じゃなければ"話は別だ。いくらでも防ぎようがある」

(ま、痛覚云々は言わなくてもいいだろ。変な目で見られても困るし)
ナイフの刺さった左腕をダラリと下げているが、菊乃に苦痛の表情はない。
それどころかナイフの存在自体眼中にないかの如く会話する。――実際にないのだが。

「さて、そろそろ終わりにするとしようか。アタシも暇じゃないんでね」

言い終わると同時に菊乃の姿が消える。『重力減少』を利用した高速移動だ。
男の顔は驚きと焦りの表情に満ちていた。
今まで目の前にいた相手がいきなり消えたのだから、戦闘経験の少ない者からすれば脅威に他ならないだろう。

「驚くことはないだろ?アンタ自身が言ってたじゃないか。
 『地面に手をつくという本来不要な予備動作』。
 その仮説は大当たりだよ。アタシは能力を行使するのに一々手を当てる必要なんてないのさ」

動きながらも会話を続ける菊乃。
その間、男は焦った表情で忙しなく首を動かして周囲を見ていた。
恐らく菊乃の位置が掴めていないのだろう。見当違いの方向を見ている時もある。

「アンタも筋は悪くないよ。ちゃんと実戦を経験すれば強くなるだろうね。
 …ま、今回は相手が悪かったって事で諦めな」

男の死角から強烈なボディーブローを放った。

【神宮 菊乃:天木の攻撃を受けるが反撃】
240天木 諫早 ◆0i7FhSLl8w :2010/12/17(金) 17:16:51 0
>>239
「チッ、厄介だね、操作系の能力は。そら…よっと!」

少女が振り上げた左手を、彼はただ呆然と見るしか無かった。手から力が抜け、傾いていたスーツケースが倒れる
その防御法、いくらなんでも異常に過ぎる。能力は一人一つ、この原則が正しいのならば、彼女の恐るべき耐性はどこから来るのか。

「流石は自称『研究者』だねぇ。お見事だよ。確かにアタシの"能力じゃ"上から下への攻撃は防ぎようがない。何せ重力だからな。
 だが"能力じゃなければ"話は別だ。いくらでも防ぎようがある」
「…能力以外の秘密があるらしィなァ、あンたの体には。それは、いくらなんでも”ありえねェ”。」

天木の頬を汗が伝った。目の前の人物の異常性と自分の今の戦闘能力。
完璧な不意打ちだった筈だ。手持ちの駒は、『凶弾』ぐらいしか無く、ロードの長いこの技は、こんな高重力下ではさらに充填が遅くなるだろう。
ぎし、と足が軋んだ。この重力に、自分のやわな体は適応出来ていない。――このままだと、死ぬ。

彼女の真意が『1枠の生き残り』で無く『ワイズマン打倒』であることに、天木はまだ気付けなかった。
彼女の肉体の異常性が相まって彼女の真意を見えにくくし、即座に殺しに来ないのもその性癖の為であろうとうっすら考えていた。

「さて、そろそろ終わりにするとしようか。アタシも暇じゃないんでね」

言葉と同時に、砂埃を残して神宮が消える。天木の動体視力ではとても追いつけない距離、そしてこの重さの中では何が起きても反応が出来ない。

「そんなことも…出来る、のかッ…!」
「驚くことはないだろ?アンタ自身が言ってたじゃないか。『地面に手をつくという本来不要な予備動作』。
 その仮説は大当たりだよ。アタシは能力を行使するのに一々手を当てる必要なんてないのさ」

(どこから来る…!!…タイミングだ。タイミングを考えろ、隙を突いて逃げなきゃ、ここで終わりだ…ッ!)

「アンタも筋は悪くないよ。ちゃんと実戦を経験すれば強くなるだろうね。
 …ま、今回は相手が悪かったって事で諦めな」

色々な方向から彼女の声が聞こえてくる。その言葉が、彼の思考を一転させた。赤の瞳がどこに居るかも解らない虚空を睨みつけて。
                     、 、 、 、 、
「舐めやがって、諦めるかどうかは俺が決める。てめェなンかに決められてたまるかァァァッ!!!」

衝撃が走った。時間の速度が急に落ちたような、重く、深い、衝撃が、彼の体内に深い深いダメージを与えた。
呼吸が。血管が。詰まってしまったかのような体の内圧。思考と意識が飛びかけるが、すんでのところで捕まえる。

「か、は…ッ!」

だが、その眼はてんで諦めてなど居なかった。ピアスをつけた口が捻じ曲がる。攻撃を受けてから、0コンマ1、2秒で、それは、神宮の背後からやってきた。
彼のスーツケースが、神宮の後頭部を目掛けて飛んできた。
本来は、戦闘脱出用にオーラを注入したのだが、此処に来て脱出への欲より、彼の意地が勝った。
威力こそ無いものの、当たれば脳を揺さぶる打撃になるだろう。
どれだけ相手が早かろうと、攻撃の際、その体は天木の周囲にあるだろう。そしてインパクトの瞬間、確かにその体は止まるはずだ。
                     、 、 、 、 、 、 、 、 、
その衝撃を体が認識した瞬間に、その方向へ飛ばせば。確かにその体は其処にあるのだ。

(反撃、完了、か…ッ)

軽く数メートル程吹き飛んで、天木の体が地に落ちた。最早自力で立つことも出来ない。攻撃を終えたスーツケースも同じ場所に落ちてきた。
高重力下と呼吸器への攻撃で、彼の手足は震えてまともに機能せず、それでも逃走の為、スーツケースに触れた場所から必死にオーラを流し込む。
残存オーラも少なく、このコンディションでは更に笑えるほど注入が遅い。

【天木 諫早:攻撃をまともにくらいながら、反撃を放つ。戦闘継続は不能、脱出を試みる】
241夜深内 漂歌 ◆h5kXMXaZSA :2010/12/18(土) 21:50:47 0
「ソウデスカ…。マア、言エナイノナラカマイマセンヨ。
 アナタガ作ッタコノらじこん…勝手ニ改造シテシマッタガヨロシカッタノデショウカ…」

答えようと思い、またデータを作っていると
別の場所からさっきとは別の二人の声が聞こえた

「もしかしてとても大切な物だったとか…ありませんよね?」
「壊れてたけど…。」

(ラジコンの中にいた方でしょうか?
 …その可能性が一番高そうですね)
私は再びモニターを創り出し
そこに
『いえ、特別大切なものだという訳ではありません
 このモニターと同じように‘創った’物です
 ところであなたはこのラジコンの中にいた人の本体でしょうか?』
と出力した

【夜深内 漂歌:斎葉と鎌瀬の本体が近づいてきたのでそちらに応答】
242名無しになりきれ:2010/12/19(日) 03:05:39 0
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243名無しになりきれ:2010/12/19(日) 03:06:43 0
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244名無しになりきれ:2010/12/19(日) 03:08:13 0
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245名無しになりきれ
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.             ./(^(^ .//||...||   |口| |c  )   http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1292605028/
.....            ∧_∧ / //  ||...||   |口| ||し      新スレです
.......        (・ω・`) //....  ||...||   |口| ||        楽しく使ってね
         /(^(^ //  ....  .||...||   |口| ||        仲良く使ってね
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