【邪気眼】二つ名を持つ異能者達【其ノ肆】

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1テンプレ1/2
ここは【二つ名】を持つ異能者達が通常の人間にはない特殊な【オーラ】を駆使して
架空の現代日本っぽい世界を舞台に能力バトルを展開する邪気眼系TRPスレッドです。
ルール、テンプレ、まとめサイト、避難所、過去スレは>>1-2に。

*基本ルール
・参加者には【sage】進行、【トリップ】を推奨しております。
・版権キャラは受け付けておりません。オリジナルでお願いします。
・参加される方は【テンプレ】を記入し【避難所】に投下して下さい。
・参加者は絡んでる相手の書き込みから【三日以内】に書き込むのが原則となっております。
 不足な事態が発生しそれが不可能である場合はまずその旨を【避難所】に報告されるようお願いします。
 報告もなく【四日以上書き込みが無い場合】は居なくなったと見なされますのでご注意下さい。

*参加者用テンプレ
・能力は【万能になり過ぎない】よう気をつけましょう。
・パラメータの基本ランクは【S→別格 A→人外 B→逸脱 C→得意 D→普通 N→機能無し】になります。
 最低ランクが普通(常人並)であるのは異能者はオーラによって自然と肉体が強化されている為です。

【プロフィール】
名前:
性別:
年齢:
身長:
体重:
職業:
容姿:
能力:
キャラ説明:

【パラメータ】
(本体)
筋  力:
敏捷性:
耐久力:
成長性:
(能力)
射  程:(S→50m以上 A→20数m B→10数m C→数m D→2m以下)
破壊力:(能力の対人殺傷性)
持続性:
成長性:
2テンプレ2/2:2011/01/11(火) 22:13:48 0
*まとめサイト
・用語、登場キャラクター等の詳細はこちらで確認できます。
 参加を考えている方はまず【FAQ】に目を通しておきましょう。
http://www35.atwiki.jp/futatsuna/pages/1.html

*避難所
P C:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1254052414/
携帯:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/computer/20066/1254052414/

*過去スレ
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1274429668/
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達【其ノ弐】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1286457000/
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達【其ノ参】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1292605028/
3赤染 壮士@代理:2011/01/11(火) 22:20:35 0
前スレ
>>50-51
「え? あぁ……あはは、確かに。でも、実は僕、正体を……」
王将の返事はそこで途切れることとなる。

「オーッホッホッホ!」

突如、甲高い笑い声がこの場に響き渡ったからだ。
背後から聞こえたその声に反応し、赤染は振り返った。
そこにはなにも無い。       ニジ
いや、“その人物”はまるでペンキが滲みでるようにその姿を現した。

「またお会いしましたねぇ。えーと、確かお名前は……赤染サン、でしたか?
 ホホホ、“お迎えに上がりました”よ」
登場したのは不気味な仮面を被った、死神のようなピエロ――ジョーカーだった。
突然の事だったが、既に朝に同じ経験をした赤染は心に余裕を持っていた。
(名乗った覚えはねぇんだがな……いや、それよりもだ)

「さ、参りましょう。嫌と言っても無駄ですよ。もう“時間切れ”です」

(“お迎えに上がりました”? “時間切れ”? ピエロ野郎は何を言ってやがる?
 自分と狂戦士との間には何も因縁関係はねぇはずだ…いや、そうじゃねえ…………!!)
早くも、真実にたどり着いた赤染だが、結果的にはそれは遅すぎた。

ズンッ!!

背中から胸にかけ、衝撃が走る。
肉を裂く音を追うように、赤染の苦悶の声と血液が地面に滴り落る音が発せられたのはほぼ同時だった。
視線を下げると、自分の胸が内側から突き破られていた……銀色のサーベルによって。

「……助けを求められたら手を差し伸べる、って言ってたね。やっぱり僕には理解できないよ。
 異能者を見たらまず敵と思って警戒しないと。でないと、こうなるんだから」

赤染はこの状況を理解し、そして王将の言葉に確信を得た。
自分は王将みちるにサーベルで、背後から刺されたのだ。

「けど、それでもボクはキミが凄いと思う。さっきも僕の言葉に微妙な違和感を感じ取ってたでしょう?
 答えには気付かなかったみたいだけど、説明のつかない違和感が気になっただけでも大したものだよ。
 でもね、“闘いたくない”というのも“闘えない”っていうのも、実はどっちも間違いじゃないんだ」

サーベルが勢いよく赤染から引き抜かれる。
恐らく動脈を何本か傷つけられたのだろう、血が飛沫となって体外に散った。
膝を着きこそはしなかったものの、赤染は立っているだけで精一杯だった。
だから、王将の言葉をただ聞くことしか出来ない。

「だって、自分の“仲間”と闘えるわけないでしょ? もっとも向こうは敵に見えただろうけどね。
 下位の狂戦士にも知性があることにはあるけど、それは主人と認めた人に従える程度のもの。
 敵を殺せと命令されたら、主人以外の人間に対し見境なく凶拳を向ける、その程度なんだ。
 彼は僕が仲間でしかも格上の存在であることを理解できなかった。だから僕も狙われたの。
 まぁ、今から思えばいいスリルを味わえたかなーなんて思ったりするんだけど。あはははは♪」
「そろそろ参りましょう……宜しいですね? 『キング』」
「あっ、うん? もうそんな時間? 早いなー、たまの自由時間なのにさー」
王将みちる――キングは笑うのをやめ、前屈みに胸を手で押さえていた赤染の横を通り過ぎていった。
4赤染 壮士@代理:2011/01/11(火) 22:21:34 0
「ハハハハ……」
顔をダランと下に向けたまま、赤染の口から小さな笑みがこぼれた。
その笑いは王将のそれと比べると普通の、ただ小さい『喜び』を表すものだった。

「……お前がキングか…ハハハ、なんか『拍子抜け』だなぁ、おい。なんだ、普通の会話も出来るし、
 笑うことも出来るじゃねぇか。おまけに『自分の仲間と闘えるわけない』? 狂戦士が聞いて呆れるぜ…」

突然、赤染の体が吹き飛ぶ。
そのまま数メートル先の街路樹にぶつかり、糸の切れた人形のようにドサッと街路樹を背に座り込む体勢になった。
恐らくジョーカーか王将の気に触れて、なにかしらの攻撃を受けたのだろう。
この攻撃で赤染の意識は限界寸前に達した。
もう、話を聞く事もままならない。ぼんやりと二人を見つめることしかできない。
その後、何かを言ったのかどうかも分からないが、二人は立ち去っていった。
二人が立ち去った後には小さな血だまりに囲まれた赤染一人だけだった。

(くそ……心臓付近の動脈をやられたんなら……いくら異能者の回復力でも自然治癒で治るかどうか微妙だな……)
それでも赤染は諦めない。
「グッ……」
拳を振り上げ、最後の力で“胸の傷口”を“殴りつけた”。
その衝撃は全て炎熱に変換され、胸と背中を焼いた。
「ガァア!!……く、くそが……ここで意識が飛んだら……流石に死ぬよなぁ、おい…」
それはとんでもない荒治療だった。
直径数センチの傷とはいえ、それを火傷で上塗りして止血したのだ。
(あとは動脈が治るかどうかは運次第……か…それまで意識が保てるかどうかだな…)
それは分の悪い賭けだったが、これ以外の方法は今の赤染には思いつかなかった。

【赤染 壮士:駅の街路樹の下で死にかける】
5氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/01/11(火) 22:23:00 0
前スレ>>53>>56
廃工場の中はひっそりと静まり返り、そしてひんやりと冷え込んでいた。
歩けばそれだけ冷えた空気が肌を撫で、体温をゆっくりと下げていく。
若干の黴臭さがあるものの、真夏の蒸し暑さでほてった体には心地が良い場所だった。

氷室は、おぶった海部ヶ崎を適当な床に降ろすと、周囲を見回した。
間取りは広い正方形。それぞれの方角にガラスの割れたはめ殺しの窓。
部屋の中央には錆び付いた大きな機械が何台か置いてあり、
階段の隅に塗装の禿げた三本のドラム缶が横一列に並んでいる。

「入り口周りの地面の下にワイヤーを忍ばせておく。上から圧力がかかる・・・つまり踏まれた場合、直ぐに解る。」
後ろでは早速、海部ヶ崎の治療に乗り出した天木が何やかんやと言い出していたが、
そんなことにいちいち耳を傾けていない氷室は、一人でさっさとドラム缶に近寄っていくと、
やがて何を思ったかそれらを順に蹴飛ばしていった。

倒れたドラム缶から乾いた音が連続して起こり、床に何かが散らばる。
それは乾パンやら缶詰やらの、この島に来てから見慣れた保存食であった。
「余計なことに気を回すな。お前は治療に専念してればいい。
 治療を引き受けた以上、失敗は許されない立場なんだからな」

天木を冷たい瞳で一睨みして、氷室はその場に腰を降ろした。
決して豪華なメニューとはいえないが、本能的にほっと一息つける瞬間……。
いつもより一時間も二時間も遅れているものの、
この日も無事に昼食という一時の休息の時間が訪れたのだ。

「……」
しかし、食料を口に運んでいく氷室には、笑顔もなければ会話もない。
元々、感情をあまり表に出さず、性格もフレンドリーとは程遠いものだから当然ではあるのだが、
それを抜きにしても、やはり現状を省みれば、
ほっとできるのは文字通りのほんの一瞬でしかないということであろう。

(……それにしても……)
先程から、氷室の脳裏には繰り返し同じ疑問が渦巻いていた。
それはワイズマンについてなのだが、果たして彼がこの島にいるのかどうか──
そこに疑問を感じるようになっていたのだ。
(よくよく考えてみれば、奴自身がこの島全体をバトルのフィールドとしたんだ。
 この島に潜んでいる……? 何らかの拍子に参加者と対面するリスクがありながら?
 正体を探るなと念を押すような奴が、果たしてそんな迂闊な真似をするだろうか?
 逆にいえば、だからこそ念を押したとも考えられるが……)

氷室は自分の足で確かめた地理情報と、海部ヶ崎から聞いた地理情報とを合わせてみた。
要するにこの島の簡単な地図を浮かべてみたのだ。

(いずれにしても、確かにこの島にはいないという可能性はある。
 だが、仮にこの島にいて、我々が調査した地域にはいないと仮定した場合は?
 ……やはり可能性があるのは未調査の北東だけ、か……
 ……いや、何か引っかかる。そもそも……そうだ、そもそも目に映る場所にいるとは限らない。
 カノッサのアジトがそうだったように、中枢はあるいは地下に…………?)

自問する。しかし、出てきた答えは、どれも結局憶測の域を出ない。
氷室は考えても無駄だというように一つの大きな溜息をつくと、
じきに頭の中を真っ白にしてひたすら若い食欲だけを満たし始めた。

【氷室 霞美:工場内で昼食を摂る。現時刻:PM2:00過ぎ】
6キング ◆ICEMANvW8c :2011/01/11(火) 22:24:28 0
>>3>>4
「……お前がキングか…ハハハ、なんか『拍子抜け』だなぁ、おい。なんだ、普通の会話も出来るし、
 笑うことも出来るじゃねぇか。おまけに『自分の仲間と闘えるわけない』? 狂戦士が聞いて呆れるぜ…」

ジョーカーのもとへと歩み寄る王将の──いや、キングの足がふと止まる。
「ん? 何か言った?」
振り返ったその顔は、微塵の殺気も悪意も感じられない、屈託のない笑顔であった。
そう──キングがしたことといえば、ただ笑顔を見せただけ。威圧したわけではない。
しかし、赤染の体は、それだけで大きく後方に吹き飛ばされていた。

「あまり喋らない方がいいよ? 心臓が動いているとはいえ、重傷には違いないんだから。
 しばらく安静にしてな。簡単に死んでもらっちゃ“わざわざ心臓を外した”意味がないからね」
キングの口元に描かれた弧が、これまで以上に深く頬に刻まれる。
そしてその瞬間、時間にしてほんの刹那であったが、キングの瞳孔が開いた。
──近くの木々の葉が音も無く一斉に散り落ちていく。
まるでキングの瞳に怯え、恐怖し、絶望して自ら死を選んでいるかのように。

赤染自身、恐らく気がついていないだろう。彼は吹き飛ばされたのではない。
彼の本能が、天使の仮面に隠されたキングの底知れぬ邪悪なパワーを感じ取り、
思わず自ら後方に飛び退いてしまったに過ぎないということを。

「このまま息絶えるか、あるいは生き残るか……それはキミ次第。
 ま、精々痛みに苦しみぬいて頑張るんだね。うふふ、あはははは」

再び笑い出すキングの横で、ジョーカーはポツリと言った。
「ホホホ。敢えて苦しませるとは、さしもの私も残酷さでは貴方には及びませんです、はい」

「良く言うよ。僕にとってはキミがここに来たということが残酷な現実なんだけどねぇ」
「私はご主人様の仰せに従っているだけでございます。でないと、私が叱られますので、はい。
 それに、この僅か二時間の間で『73人』もの参加者を殺められた貴方を
 これ以上野放しにしていたら、ゲームそのものに支障が出ますので、はい」
「……ちぇ。支障も何もどっち道強くないとワイズマン様のお眼鏡に適わないんだからいいじゃん」

子供のように口を尖らせ、若干の抵抗を試みるキング。
しかし、ワイズマン直々に指令を受けているジョーカーが同調するわけもない。
「では、参りましょう」
軽く受け流してさっと手を広げるジョーカーに、ついにキングも白旗をあげた。
「わかったわかった。そう急かさないでよねー」

こうしてキングとジョーカーの二人はその場を後にした。
文字通りの血の海に沈む、赤染 壮士一人を残して……。

【キング:ジョーカーと共にこの場を去る】
7鎌瀬 犬斗@代理:2011/01/11(火) 22:25:52 0
>>55くらい?
「ありがとうございます。すごいですね……。では『挿入』!」
車が大きいため、乗り込んでからオーラに残りの意識を全てとけ込ませ、侵入する斎葉
『侵入成功デス。乗ッテ下サイ』
カーナビから声を出し、二人に伝える斎葉。本体は気を失っている
「うん…それじゃあ…」
斎葉の言葉で、鎌瀬と夜深内も車に乗り、間もなく出発した

(…それにしても。僕に話しかけてきたあの女性、どちら様なんでしょう? 徒者ではなさそうでしたね、雰囲気もオーラも…)
車を操りながら、ラジコンに話しかけてきたクイーンを何者か考えていた…
【斎葉たち:車に乗り、神宮達を追いかけようとする】
8神宮 菊乃@代理:2011/01/11(火) 22:27:37 0
前スレ>>56 現スレ>>5
「氷室……私はジャックという奴に遭った」

四人とも無言で歩を進める中、不意に氷室の背にいる海部ヶ崎が口を開いた。
(ジャック?…アタシが戦ったクイーンの仲間、ってところか。
 となるとそいつもワイズマンの手下ってわけか)
ジャックについて考えを巡らしていると、今度は横にいた天木が口を開いた。
「・・・すまねェ、ジャックッてなァ誰だ?恐らくこのゲームの黒幕だとは思うが、俺はお前等が何を目指して動いているのかは知らねェ。
アンタらの計画に関わる奴の名前なンだろ?良ければ計画と、その人名の持つ意味を教えてくれ」
菊乃は一つ嘆息して天木の質問に答える。
「ハァ……。アンタ何も知らないで今まで戦ってたのか?
 …まぁいい、この際だからちゃんと覚えておきな。
 いいかい?現在この島にはアタシ達異能者の他に、狂戦士と呼ばれる異能者がいる。
 こいつらは知能や能力を持たない代わりに、身体能力がかなり高い。
 そしてその狂戦士の中でも特に厄介なのが『狂戦士四傑』と呼ばれる連中だ。
 こいつらは他の戦士にはない知能を持っている。しかも普通の人間となんら変わらない程の。
 四傑の連中のことはまだあまり分かっていない。
 そしてそれを裏で操ってるのが『ワイズマン』──この島の主とかぬかしてるヤローだ」

話を終えた頃に、目的地であった廃工場に到着した。
そこは昼間だというのに薄暗く、ひんやりとしていた。
氷室は背負っていた海部ヶ崎を床に横たえ、周囲を見回している。
「入り口周りの地面の下にワイヤーを忍ばせておく。上から圧力がかかる・・・つまり踏まれた場合、直ぐに解る。」
天木がなにやら言っていっていたが、菊乃は然して気に留めなかった。
(そんな事しなくても気配探知ができれば必要ない──あー、アイツはできないのか)
自分(恐らく氷室も)はオーラを探知する術を持っているため必要なかったが、その術を持たない彼には必要なことなのだろう。
天木がそんな事をしている間に、氷室は隅にあったドラム缶から食料を見つけ出していた。
「余計なことに気を回すな。お前は治療に専念してればいい。
 治療を引き受けた以上、失敗は許されない立場なんだからな」
菊乃の心中を代弁するように、氷室が天木を睨みながら言った。
そしてその場に腰を降ろし、一人で食事を始めた。
菊乃も落ちていた食料を手に取り、氷室から少し離れた場所に腰を降ろして食事を始めた。
以前コンビニで食べたお握りに比べると味気ないものだったが、文句は言っていられない。
本来ならば食事時というのは一息つける時間である。
しかし瀕死の体で治療を受けている海部ヶ崎を横目に見ながら、という状況ではそんな事は言っていられない。
更に狂戦士四傑が動き出した今、敵は参加者だけではないのだ。

(しかし……奴ら、特にワイズマンの狙いは何だ?
 元々アタシら参加者を殺し合わせることが目的だったはず。
 確かにアタシも──海部ヶ崎達も反逆、ワイズマン打倒を考えている。
 しかしそれを表立って公言した覚えはないはず。
 にも拘らずアタシのところにはクイーンが、海部ヶ崎のところにはジャックが現れた。
 まるでこっちの考えが分かっていたかのように…。
 それに、これだけ歩き回ってもワイズマンの影も形も見えやしねえ。
 アタシはともかく、氷室と海部ヶ崎は仲間でありながら離れて行動していた。
 と言うことは別々に島を探索していたはずだ。
 それでも見つからないって事は……この島にはいない?
 それともアタシ達の目に届かない場所にいる?例えば……地下、とか?)

色々と考えたが、どれも推測に過ぎず、確証は何一つない。
考えることを放棄した菊乃は、目の前の食事に専念し始めた。

【神宮 菊乃:廃工場に到着。天木に治療を任せ昼食中】
9クイーン@代理:2011/01/11(火) 22:29:00 0
>>3>>4
「あら?」

線路を歩いていたクイーンは駅に辿り着いていた。
そこで近くの街路樹の根元に寄りかかっている人間を発見したのだ。

「死んで……はいないようね。死に掛けって所かしら?」
彼女はここに来るまでに十人程の参加者を殺していた。
しかしそのどれもが彼女から仕掛けたものではない。
彼女を参加者と思い攻撃を仕掛けてきた者がいたから、彼女は反撃したに過ぎない。
しかしこの男は、彼女がこの場に着いた時点で既にこの状態だった。
ということは、他の誰かにやられたということだ。

「可哀想に……生きるか死ぬか、五分ってところね。
 見たところ結構な使い手みたいだけど……油断でもしたのかしらね?」
倒れている男の傍らに跪き、男の容態を見る。
「火傷が酷いわね……あら?火傷の他に刺し傷がある。
 しかもこれは…心臓を外している、いえ"外されている"。
 こんな芸当が出来る人間は──あなた、誰にやられたの?」
男に話しかける。
男は僅かに口を動かしたが、その声は擦れていてよく聞き取れなかった。
しかし口の動きでわかった。この男はこう言ったのだ。──キング、と。

クイーンはそう、と一言呟き、『神楽耶』を具現化させた。
そしてそれを男の胸に突き立てるように触れさせる。
男が呻くが、それを無視して作業を始めた。
自分のオーラを男の体内に流し込む。それで体内の治療をしようというのだ。
「っ……。元々他者の治療は専門外なのよね……」
それでも何とか患部の応急手当を終え、『神楽耶』を消した。
「ふぅ…これでいいでしょ。死ぬ確率は大分下がったはずよ。
 どちらに転ぶかはあなた次第……暇だしここで見ててあげるわ」
そう言うと、近くにあったベンチに腰を降ろし、どこからか取り出した本を読み始めた。

【クイーン:赤染 壮士を発見。治療に手を貸し、その場に留まる】
10キング ◆ICEMANvW8c :2011/01/11(火) 22:29:59 0
幻影島メインエリア──
暗闇のみが支配するこの場所で、一つだけ灯りを放つ場所があった。
それは青白く、人魂のような光にも見えた。
その光を放っていたのは、人ひとりがすっぽりと入れるくらいの巨大な試験管。
中は青色の溶液に満たされている。光の色はどうやら溶液の色だったらしい。

「どうだ? 気分の方は」
しわがれた野太い、あのワイズマンの声がその試験管に向けて放たれる。
いや、正しくはその溶液に全裸で漬かっている、キングに向けて放たれたのだ。
「はい、悪くありません」
キングが目を開け、答える。酸素マスクを着けているから声も届くのだ。

「そうか……それはなにより。しかしキングよ、わかっておろう?
 一度失ったものはあらゆる科学や医術を持ってしても取り戻すことはできぬ。
 その特殊溶液に代表されるように、人間の叡智には限界があるのだ」
「はい。だけど、ワイズマン様は……」

ワイズマンは、キングが言い掛けた言葉の続きを代弁した。
「そう、わしには叡智を超えた力がある。それを使えば、失ったものでも取り戻すことができるのだ。
 例えどんなものであろうとな。しかし……」
今度はキングがワイズマンの言葉の続きを言った。
「僕が……いや、僕らが取り戻すには、ワイズマン様の目的が成就されてから、でしょ?」
「そういうことだ。わしの目的成就はあらゆるものに優先される。
 キングよ、わしの手足となれ。主がわしの為に尽くせば、それだけ主の念願にも近付く。
 それを忘れるな……」
「わかってます。我が心と体は全て、ワイズマン様の為に」

溶液の中でかしこまるキングの姿を見て、ワイズマンは満足そうに笑みを漏らした。

「フフフフフ……フッフッフッフッフッフ……」

──その笑い声は、いつまでも暗闇の中に響いていた──。

【キング:幻影島のメインエリアのどこかで溶液に漬かっている。】
11氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/01/16(日) 16:03:12 0
「どうだ? 気分の方は?」
氷室は、体中に包帯を巻きながらも、元気に屈伸運動している海部ヶ崎にそう訊ねた。
「あぁ、特に悪くない。動きに関しては大分マシになった」
先程までの苦痛の表情はどこへやら、海部ヶ崎はケロりとした顔で答えた。
やれやれ……と、氷室が呟きながら頭を掻く。
時刻は現在午後四時。氷室らが昼食を終えてからおよそ二時間が経過していた。

治療を受けたとはいえ、僅か二時間。
その短い間に今にも死にそうだった人間が、体を自力で難なく動かせるまでに回復した事実は、
氷室にすら驚きを通り越して呆れさせてしまうほどであった。
「タフな奴だ」
「お前に褒めてもらえるとは光栄だな」
ニヤリと海部ヶ崎の口元が緩む。
「フン……」
その得意気な視線をかわすように鼻で一瞥した氷室は、続いてその視線を天木へと移した。
治療を終えて多少疲れているのか、天木はボーっと視線を宙にさ迷わせている。
(……)
氷室はそんな彼を見て思う。確かに、海部ヶ崎の生命力の強さには驚かされる。
しかし、彼女が僅か二時間の間にこうまで回復したのは、彼の医術があってからこそだ。
それがなければ今も海部ヶ崎は寝たきりを余儀なくされていたはずである。
一見すると知的とは無縁な容姿をしているが、人とは見かけで判断できぬいい例ということだろう。

「で? これからどうするんだ?」
海部ヶ崎の声に、氷室の視線が再び彼女へ戻る。
「どうするも何も、お前はまだ戦闘に耐えうる体ではないだろう。しばらくはここで様子をみるさ。
 ……それに、その格好で闘えるのか、お前は?」
その言葉で海部ヶ崎は初めて自分の身なりがどんなものかに気がついたようだった。
肌を覆う服はボロボロ。動く度に下着や胸が露出し、恥も外聞もあったものではない。
「ああ、どうりで動きやすいと思った。……で、これの何がマズイのだ?」
だが、海部ヶ崎はまたもケロっとした顔で言い返す。
氷室も普段から人の目を気にするタチではないが、海部ヶ崎のそれはどうやら次元が違うようだ。
恐らく、これまで生きてきた環境があまりにも特殊であったせいなのだろうが、
本人は気にしなくてもこれでは周りの方が気にしてしまうというものだ。

  バーサーカー
「……敵が色仕掛けに弱い連中ならそれもいいだろうけどな。
 いいか、私はお前の為に言ってやってるんだ。一先ずお前は服を手に入れることを考えな」
「そこまで言うならそうするが……服なんてこの島にあるのか?」
「私が見つけた服屋が街にある。折を見てそこへ案内してやるさ」

それだけ言って、その場にゴロンと横になる氷室。
移動を開始するその時まで少しでも体力を養っておこうという気なのだが、
それがほんの束の間で終わることなど、この時誰が予想したであろうか。

「──」
横になって直ぐ、ガバッと飛び起きた氷室が、その視線を入口の方へと向ける。
いや、彼女だけではない。この場にいる誰もが視線を同じ方向へと向けている。
恐らく、天木は仕掛けたワイヤーの震動を感じて。
他の二人は氷室同様に、ここに接近してくる何者かの気配を感じてだろう。

「何だ……この感覚……! 氷室、こいつは“普通”じゃないぞ!」
“普通ではない”……。恐らく、海部ヶ崎もそれ以外にどう形容していいか分からなかったのだろう。
それだけ感じ取った気配は、陰と陽が入り混じったような複雑怪奇な感覚を齎したのだ。
(殺気を放ってるようでそうではない。闘気があるようで酷く怯えてるような感じもある。
 ……何なんだ、この感覚は)

【氷室 霞美:現時刻・PM4:00。『エース』が廃工場に接近する】
12神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/01/16(日) 18:40:09 0
昼食を終えて凡そ二時間程──。
その間に海部ヶ崎は、天木の治療の甲斐あって一命を取り留めた。
──どころではなく、驚異的な回復力を見せ、軽い運動までできるようになった。
今も一人屈伸運動をしている。二時間前まで瀕死だった、等と言っても誰も信じないだろう。
(しかしタフだねぇ。あれ程の傷を負って二時間程度で動けるとは)
氷室と話している海部ヶ崎から視線をずらし、現状の立役者である天木を見る。
やはりあれだけの怪我を治すにはかなりの精神力が必要だったようだ。
脱力したように虚空を見つめ、ボーっとしている。今は休ませておいた方がいいだろう。

「で? これからどうするんだ?」
海部ヶ崎の声が聞こえる。
そう広い敷地ではないので、自分に向けられたものでなくとも会話は聞こえてしまう。
聞いていてまずそうな会話ではなさそうなので、傷の手当をしながら耳を傾けておく。
数時間前にやられた傷は、まだ回復しきってはいなかった。
正直言って体がくっついているだけでも奇跡に等しい──それ程の攻撃を受けたのだ。
(ま、後三十分もあれば治りそうだな……)
「どうするも何も、お前はまだ戦闘に耐えうる体ではないだろう。しばらくはここで様子をみるさ。
 ……それに、その格好で闘えるのか、お前は?」
菊乃にとってそれはありがたかった。
仮にこのまま戦闘に移行しても問題はないのだが、万が一と言うこともある。完治させておくに越したことはない。
それに後半の部分──つまり海部ヶ崎の服装も問題である。
今現在、この場に男は天木一人。その天木も心ここにあらずといった感じだ。
よって海部ヶ崎を見ているのは菊乃と氷室の二人──どちらも女性だ。
もしここにもう一人でも男がいたならば、目のやり場に困っていただろう(例外もいるだろうが)。
いや、同性ですら気になる程酷い格好だ。それなのに海部ヶ崎はなんでもないような顔をして氷室と話している。
(一体どんな環境で育ったのやら……。普通に育ってりゃ少しぐらい恥らうはずなんだが……。
 案外山育ちの野生児とか?……んなわけないか)
この考え、実は正解なのだが、今の菊乃にそれを知る術はなかった。

  バーサーカー
「……敵が色仕掛けに弱い連中ならそれもいいだろうけどな。
 いいか、私はお前の為に言ってやってるんだ。一先ずお前は服を手に入れることを考えな」
「そこまで言うならそうするが……服なんてこの島にあるのか?」
「私が見つけた服屋が街にある。折を見てそこへ案内してやるさ」
言い終わると、氷室は体を横たえた。先程の言葉通り、暫くここに留まるのだろう。
菊乃も氷室に倣って、体力と傷の回復を促す為横に──
「……!」
──なろうとして、しかしそれは叶わなかった。飛び起きて自分達が入ってきた入り口を見つめる。
ちらりと周囲を見ると、氷室と海部ヶ崎は勿論のこと、先程まで気の抜けていた天木も緊張した面持ちで入り口を見つめている。
と言うことは即ち、何者かが天木の仕掛けたトラップを通過してここに向かっているのだ。
「何だ……この感覚……! 氷室、こいつは“普通”じゃないぞ!」
海部ヶ崎が叫ぶ。まるでそれ以外に適当な言葉がないかのように。
(普通じゃない……確かにそうだな。
 しかしこの気配……アイツ──クイーンに似てる部分もある。
 ──ってことは、これからここに来るヤツは狂戦士ってこと……だよな」
先程の闘いで感じたクイーンの気配。それに近いものを侵入者(?)から感じる。
 (でもそれだけじゃねえ。何つったらいいのかな…。
 殺気は確かに感じるんだが、それだけじゃねえっつーかなんつーか……)
菊乃も上手く言葉では言い表せない。それだけ気配は酷く歪んでいたのだ。
(ま、何にせよ相手の顔見りゃわかるだろ。──あんま闘いたくねーけど)

【神宮 菊乃:『エース』の接近に気付き、様子を見る】
13クイーン:2011/01/16(日) 20:32:40 0
読んでいた本も終盤に差し掛かった時──不意に目の前で動きがあった。
「あら、お目覚めかしら?」
治療を終えてから先程まで意識を失っていた男が目を覚ましたようだ。
ゆっくりと上半身を起こし、こちらに顔を向けた。

「……あんたが助けてくれたのか?」
「そういうことになるわね。それともあのまま放っておけばよかった?」
「いや、そんなことはない。助かった。
 俺は赤染 壮士。あんたは?」
「私?私は──」
クイーン、と言いかけて言葉を止める。
「……私の事なんてどうでもいいじゃない。それよりあなた、傷は大丈夫なの?」
「お陰さまでな。歩き回る分には問題ねぇ。
 しかし助けてもらって名前も聞かないってのはさすがに失礼──」
「そんなこと気にしなくて良いのよ──と言いたいところだけど。
 このままだとあなたいつまでもそれを理由についてきそうだから教えてあげる。
 私は麻梨亜──紅羽 麻梨亜(あかばね まりあ)よ」
「そうか。じゃあ改めて……紅羽、助けてくれてありがとう」
「別に、ほんの気紛れよ」
赤染の礼に言葉を返しながらクイーンは考えていた。
何故クイーンと名乗らなかったのだろう──と。

「さて、と。あなたの具合もよくなったことだし私はもう行くわ」
んー、と一つ伸びをしてからクイーンは赤染に対しそう告げた。
「そうか…。またどこかで会えるといいな。治療の礼もしたい」
「お礼ならさっき言ってもらったじゃない。
 それに、あなたがこの島にいる限りは嫌でもまた会うことになるでしょうね。
 それまでにあなたが死ななければ、だけど」
「確かにそうだが……。それはお互い様──」
「とにかく!あなたはまだ病み上がりなんだからどこかで体を休めなさい。
 あなたに傷を負わせた人物が戻ってきたらどうするの?今度こそ死ぬわよ?」
赤染の言葉を遮り、強い口調で返す。
だが赤染に傷を負わせた人物──キングがここに戻ってこないことは分かっていた。何故なら──
(さっきこの場にジョーカーも一緒にいたわ。と言うことはキングは今頃──。
 私も一度戻った方がいいかしら……)
「じゃ、精々養生しなさいよ。次に会うときは……戦場──かしら」
まだ何か言いたそうな赤染に背を向けて歩き出す。
「戦場……?おい、それはどういう──」
赤染の言葉を最後まで聞かず、ひらひらと手を振ってクイーンは歩き去った。
残された赤染は納得がいかないような顔でその場を離れ、前方に見える大きな建物に向かって歩き出した。

赤染と分かれた後、クイーンは先程の疑問について考えていた。
何故あの時名乗らなかったのだろうか?
傷の手当をしたことにより情が移った?
(──いいえ、違うわね)
もし仮にあの場で赤染を殺せと言われたら、自分は躊躇いなく殺していただろう。
では一体何故──?
いくら考えても疑問の答えには辿り着かなかった。


数刻後、幻影島メインエリア──
どこまでも続く暗闇の中をクイーンは歩いていた。
前後左右すら認識できない闇の中、不意に歩みを止め、その場に跪き口を開いた。
「ただいま戻りました、ワイズマン様──」

【クイーン:赤染と別れ幻影島メインエリアに帰還
 赤染 壮士:クイーンと別れ、街北部のスーパーにて療養中】
14天木 諫早 ◆0i7FhSLl8w :2011/01/16(日) 20:59:47 0
>>11 >>12
疲れた。体がだるい。
天木の治療法は独特だった。通常通りの傷への処置は勿論、傷口へオーラを注入し、『操作』によって治癒力を向上させる。
能力による負傷によって現れる独特の能力創は、本人のオーラによる治癒が一番効率が良い。それを天木が手助けした形だ。
しかし、研究所で自身を治療した時よりも、明らかに傷の治りが早い。
それは海部ヶ崎の本来のオーラ総量と、自身の能力の向上にも関係しているのだろう。
お陰で加減が解らず、必要以上のオーラを注入してしまい、結果的に自身の疲労を大きくしてしまった。

「・・・これほど俺の能力と治癒が馴染むたァねェ・・・いっそ大人しく治癒専門に能力を成長させるかィ」

半ば冗談だったが、彼の『狂想操作』は確実に成長している、という自信の表れでもある。

「で? これからどうするんだ?」
「どうするも何も、お前はまだ戦闘に耐えうる体ではないだろう。しばらくはここで様子をみるさ。
 ……それに、その格好で闘えるのか、お前は?」

何の気無しにその言葉に振り返り、慌てて元の方向に首を戻す。
治療していた時には気にならなかったが、改めて見ると酷い格好だった。
それにこれ以上見ていると変な誤解もされそうだ。
早急に服を探すべき、との氷室の言葉に全面的に同意しながら、何も見ていないフリをする。

だが、直ぐに異変は起きた。
手首に巻き付けていたワイヤーに、不審な振動が伝わる。
ビリビリと、一定時間毎に震えるような。つまり、一歩一歩近付いてくる振動が、ワイヤーを通して彼の手に伝えられた。

「3番のワイヤー、ッて事ァ、・・・参ったなァ、正面から堂々かィ」
「何だ……この感覚……! 氷室、こいつは“普通”じゃないぞ!」

全員の視線が工場の入り口に集まる。オーラを感じ取れない天木も、歪な圧迫感と鼓動の高鳴りを感じた。
この、感覚は。

「これ、これだッ、俺が出会った奴ァ・・・おい、皆逃げろ、コイツァ文字通り、話にならねェッ!」

天木は立ち上がり、異常な程に距離を取る。その言葉に誰も逃げ出さないのを見て、唇を歪め、スーツケースから武器を取り出す。
遠隔攻撃が操作の基本とはいえ、明らかに離れすぎな程、工場の入り口に来た人物は天木に深い恐怖を植え付けていた。

【天木 諫早、『エース』の接近に気付き、戦闘態勢へ】
15エース ◆0i7FhSLl8w :2011/01/17(月) 03:31:16 0
>>11 >>12

工場に入ってきたのは、黒のレザージャケットを着た、ごく普通の人間に見えた。
外見でおかしな部分は、オレンジに発光する、その眼とCOの文字の上にAと彫られた腕のタトゥー。
横腹からは塞がりかけだが血も流れている。
そして解るものにだけ解る、強烈なオーラ。一見総量は少なく見えるが、その密度が桁違いなのだ。
もはや物質に直接影響を及ぼす程の圧縮率を持ったオーラを纏い、空気全体が振動するかのような錯覚を覚える。

「敵目標4名確認、タダチニ標的ヲ破・・・破壊・・・スル」
「オマエトハ、サッキ会ッタナ・・・」

破壊、と言う前に少しの間を置いて、そしてエースは最も遠い天木の方を向き、壊れた笑みを浮かべた。
腕が、脚が、エースの体全体が『ブレ』た。
そして何かを砕くようなギャリ、という音と共に、その体が砲弾のように突進する。
今最も弱っているであろう海部ヶ崎のもとへ。

「マズハオマエカラ」

高速振動するオーラを手の先から数十cm伸ばしたその腕はさながらチェーンソーだ。いや、切れ味と長さを考えるともっと性質が悪い。
彼女を切り裂こうとして、エースの動きは止まった。

ディメンションクロー
「『裂爪』ッ、さっきみてェにはいかねェンだよッ!」

天木の動きを模して、鋭いナイフが4本、エースの上から襲い掛かる。
だが、そのナイフも、エースのオーラを纏った腕に触れただけで粉々に砕け散った。
その隙に海部ヶ崎はエースの間合いを逃れる。

「面倒ダ、近イモノカラ、シ、始末スルベキカ」

神宮の方を見て、オレンジに光る目が歪む。

「イヤ、全員マトメテ殺・・・殺ス・・カ。『振峰衝馳』」

次に取った行動は、そのオーラを纏った右手を工場の地面に叩きつける事だった。地が割け、工場全体が大きく揺れた。
地面がクレーターのようにえぐれ、通常では考えられないほどの瓦礫が、神宮の方へ指向性を持って飛んでいく。
それだけでは終わらなかった。ニ撃目、三撃目が地面に叩き込まれ、立っていることすらままならない揺れと飛来する瓦礫の散弾が全員を襲った。

【エース、全員へ振動+瓦礫による攻撃。本来の人格は封じ込められている。】


16鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/01/18(火) 23:05:22 0
>>11>>12>>14>>15
『モウスグ追イ付ケソウデス!…ガ、何ヤラ見慣レナイ人ガ…
ドウヤラ神宮サン達ノ敵ノヨウデスガ…』
「えぇ? ど、どうしよう…」
『見タトコロ、アノ人ノ能力ハ振動二関係シテイル可能性ガ高イト思ワレマス。デスカラ…
鎌瀬君ハ隠レナガラ“劣化空間”デアノ人を包ンデクダサイ。私ト夜深内サンハ向コウデ時間稼ギヲシテキマス』
「う、うん…わかった」
『了解です。斎葉さんの本体も置いておいた方がいいでしょう』
「そ、そうだね…」
『デハ、マズ私ガ突ッ込ンデ一瞬足止メシマスノデ、ソノ隙二オ願イシマス』
「おっけー」
『了解しました』
こうして車から鎌瀬、夜深内、斎葉の本体が下り…
『イキマス!』
全速力で能力使用中のエースに向かって走っていった。もちろん、大破するのは承知の上で、だ
「この辺りなら見つからないよね…“劣化空間”…」
オーラを広げ、陰からこっそりエースを捕らえる鎌瀬。鎌瀬は気配すらも劣化しているので、よほど集中しない限り見つからないだろう
【鎌瀬、斎葉、夜深内:エースを発見。特攻する】
17氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/01/19(水) 02:24:53 0
>>14>>15>>16
「これ、これだッ、俺が出会った奴ァ・・・おい、皆逃げろ、コイツァ文字通り、話にならねェッ!」
天木が叫び、大きく後退する。
しかし、結局のところ距離を取ったのは彼一人であった。
それもそのはず、全員を見渡せばこちらは半数が満足に動けない怪我人である。
逃げようにも逃げられないし、逃げたところで直ぐに追いつかれるのは目に見えている。
氷室にしても唯一万全の状態である自分自身が仲間を餌に
一人とんずらこく小物でもなければ初めから闘う以外の選択肢などないというわけだ。

(奴が出会ったならこの気配の持ち主は狂戦士。それも残る最後の一人キングということになる。
 だが……本当にこれがキングなのか……? それにしては……)
思っている内に工場の扉が轟音を発して砕け散る。
大穴の開いたそこから悠々と入ってきたのは、全身黒尽くめの男であった。
いや、黒以外に目に付く色もある。それは男が全身に纏うオレンジ色のオーラ。
氷室は男の風貌よりもまずは真っ先にそれを凝視した。

別に色が気になったわけではない。オーラの色は千差万別だからだ。
氷室が視ているのはオーラの色などではなく、その“質”である。
一見すると男は薄紙のような微弱なオーラを纏っているように見えるがそうではない。
凄まじい量のオーラを薄紙に見えるほど圧縮して纏っているのだ。
ピリピリと、肌に電流が走るような張り詰めた空気が、それを証明している。

「敵目標4名確認、タダチニ標的ヲ破・・・破壊・・・スル」

氷室の眉が一瞬、ピクリと動いた。
その瞬間、まるで男の体全体に蜃気楼がかかったように輪郭がボヤけた。
氷室はすぐさま目だけを横の海部ヶ崎の方向にスライドさせる。
その時氷室の目は、腕のオーラを伸ばして海部ヶ崎に切り込む男の姿を捉えた。
(速い。『瞬脚』か、それともあるいは気纏時のスピードなのか)

「マズハオマエカラ」
「……ッ!!」
だが、海部ヶ崎の反応も流石に速い。
オーラが届くよりも早く上半身を柔軟に反らせた海部ヶ崎は、
そのまま地に掌を乗せバク転をし、再び間合いを取った。
「……クッ」
それでも海部ヶ崎は顔を顰める。
完全にはかわし切れなかったのだろう、顎の下に小さな切り傷がついていた。
もっとも、顰めたのにはそれだけが理由ではないだろうことは、氷室も解っていた。
ディメンションクロー
「『裂爪』ッ、さっきみてェにはいかねェンだよッ!」
離れた後方から天木が声を張り上げる。
かわす瞬間、彼が攻撃していなければ、恐らく小さな切り傷程度では済まなかったはずだ。
闘いに耐えうる体ではない──
先程の氷室の指摘通り、まだ彼女は痛みで満足に体が動かせないに違いない。

「面倒ダ、近イモノカラ、シ、始末スルベキカ」
自問するように男が呟き、目を文字通り光らせる。
(やはりこいつ……)
その視界に入ながらも、全く微動だにしない氷室は、男から感じる違和感に首を捻らせていた。
違和感──それは四傑の一人にしてはどこか精神が不安定のように感じられたことである。
四傑とは強い闘争本能を持ちながらも、常に高い知恵と安定した精神を発揮できる存在。
だが男の言動や雰囲気は、まるでその精神に欠陥があるとでも言っているかのようなものなのだ。

「イヤ、全員マトメテ殺・・・殺ス・・カ。『振峰衝馳』」
男が言うと同時に、氷室の意識がふと男の腕に向けられる。
(──!)
瞬間、男が右手を地面に叩きつけ、工場全体を大きく揺らした。
その衝撃に崩壊した天井が巨大な瓦礫と化して頭上に容赦なく降り注ぐ。
それは氷室が男の正体がキングではないと気が付いたのと同時であった。
18氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/01/19(水) 02:43:33 0
(こいつ……やはりキングではない……。しかし、COに『A』……だと?
 バカな、狂戦士はNo.1〜14までの『14人』のはず! 一体、こいつは……)
意識を謎の狂戦士に取られながらも、氷室は最小限の動きで降り注ぐ瓦礫をかわしていく。
といってもその動きを完全に目で捉えられない者は、あたかも瞬間移動でもしているか、
あるいは将棋盤の飛車のように、脚を動かさずに地を滑っているかのように見えるだろう。
これぞ氷室が最も得意とする高速移動術『瞬脚(しゅんきゃく)』である。

『瞬脚』──『気操』をそのまま歩法に転用した技。
そう言うと気操を体得した者ならば誰でもできる基礎の歩法と思われがちだ。
確かに、通常の移動に使用するものと限定すれば、あくまで基礎である。
ところが、そこに戦闘中の使用という条件を含めると、一転して高等技術となるのだ。

オーラは高密度のものほど高い効果を発揮するのが常識である。
故に瞬脚も、脚に集めたオーラ量が多ければ多いほど爆発的移動スピードが得られる。
が、戦闘に不慣れな者はそこに落とし穴があることに気がつかない。
オーラを集めるのにかかる時間はその量と、操作力の精度に比例するのだ。

異能者はオーラを視認することができる。
つまり、集中に時間をかければそれだけ事前に発動を察知される危険性があり、
そうなれば逆に自らが窮地に陥らないとも限らないというわけだ。
従って戦闘で瞬脚を使用するには、最低でも以下の条件をクリアしていなければならない。
それは、敵に気付かれぬ程素早く、それでいて高速移動に十分なオーラ移動を行える技術の持ち主。

この場にいる顔触れの中では、正に氷室がそれに当て嵌まる第一の異能者といえるだろう。
しかし、敵が瞬脚を似たような力量で使いこなせるのであれば、そこに優位性はない。
「……」
大地の震動が収まると同時に氷室の動きが止まる。
男に意識を取られている間に、いつの間にか見知ら顔が増えていたが、
氷室はそれを気にする風もなくただ男だけをじっと見据える。
「動きと能力から見て、どうやら下級の狂戦士ではなさそうだな。そしてお前は四傑でもない。
 一体、何者なのか、私には見当もつかない。
 ……だが、あくまで私の障害となるつもりならば、敵として処理するまで」
足を一歩、前にすり出しながら、氷室は全員に視線を送り、言った。

「お前らは遠くで見物してな。今のお前らがここに居ても、足手纏いになるだけだ」

ストレートにバッサリと切り捨てる一言。
高いレベルにいる異能者ならば、それだけに憤慨を禁じえないところだろう。
それでも、この中で真っ先に反論しそうな海部ヶ崎でさえ、
今にも喉元を飛び出そうな声を必死に押し殺すに留まった。
海部ヶ崎も解っていたのだ。今の満足に闘えない自分では、それを認めるしかないと。

「私は敵には容赦しないよ。死にたくなければ、初めから全力でかかってきな」
目つきをナイフのような鋭いものへと変えた氷室が言い放つ。
そして同時に、氷室は地を滑るように、だが今度はゆっくりと移動を始めた。
いや──素早くだろうか? 判らない。ゆっくりのようにも高速のようにも見える。

「……!」
海部ヶ崎が思わず唸る。彼女の目には、氷室の無数の残像群が映っていた。
本物を探そうと気配を探っても、まるで位置が掴めない。
全てが残像のようであり、全てが本物のように感じられるのだ。
この謎の技を前に誰もが呆気に取られる中──
海部ヶ崎だけは、過去の記憶からいち早く技の正体に気がつくことができていた。

「あれは緩急自在の高等歩法……私の父が得意としていた『惑脚(まどうきゃく)』だ!」

氷室の残像群が、一斉にその手に冷気の爪を形成した。

【氷室 霞美:戦闘中】
19神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/01/19(水) 20:40:01 0
>>14>>15>>16
「これ、これだッ、俺が出会った奴ァ・・・おい、皆逃げろ、コイツァ文字通り、話にならねェッ!」
天木がそう叫び、逸早く入り口から遠ざかる。
だが天木以外の三人はその場を動こうとせず、じっと入り口を見つめていた。

侵入者が姿を現した。
黒いレザージャケットに身を包んだ男が入り口に佇んでいる。
双眸はオレンジ色に発光し、鋭い光を放ってこちらを射抜いている。
腕輪は着けておらず、COの文字の上にAが重なった刺青がある。
(腕輪がねえってことはコイツも狂戦士なんだろうが…。
 この不安定さは何だ?それに番号じゃなくAの文字ってのも気になる)

「敵目標4名確認、タダチニ標的ヲ破・・・破壊・・・スル」
機械的な呟きと共に男が疾駆する。その速度は視認出来るギリギリのものだった。
体は霞がかったように揺らいで見える。
(何だありゃ。速いことは速いが…それだけじゃなさそうだな)
菊乃は知らない。これが『瞬脚』と呼ばれている技術かも知れないということを。
研究所で育ったに等しい彼女は、基礎的な技術こそ知識はあるが、高等技術となるとあまり知らない。
男はその歩法で瞬く間に海部ヶ崎に迫り、その腕を振り上げた。
腕の先にはオーラの刃が見え、それは小刻みに震動していた。

「マズハオマエカラ」
しかし海部ヶ崎も怪我をしているとは言え、並の異能者ではない。
超人的な反射で上体を反らすと、そのままバク転の要領で距離をとった。
しかしつい数時間前まで動くことの出来ない程の怪我を負っていたのだ。
完全に回避することは出来ず、顎に小さな傷を負っていた。それでもそれだけで済んだのは──
ディメンションクロー
「『裂爪』ッ、さっきみてェにはいかねェンだよッ!」
この天木の攻撃があってこそだろう。
逸早く男から距離をとった彼は、海部ヶ崎が攻撃される瞬間に、それを妨害するように攻撃を仕掛けたのだ。
とは言え、全快であればかわせたはずの攻撃。それが出来なかった理由は誰の目にも明らかだった。
(やっぱり動けるようになったとは言え、まだ闘えるような体じゃないはずだ。
 ……もっとも、それはアタシにも言えることだけどな)
自身も海部ヶ崎程ではないにしろ怪我を負っている。
ほぼ完治しているとは言え、万全の氷室ほど闘えはしない。

「面倒ダ、近イモノカラ、シ、始末スルベキカ」
男が呟く。しかしそれは自分に向けられた言葉のようでもあった。
(コイツ、何かおかしい。精神が……揺らいでいる?)
菊乃は男を過去の出来事に重ねて見ていた。
自分が以前、研究所で暴走した時とよく似ていたのだ。
(と言うことは、あれはアイツの本当の人格じゃない……可能性がある。
 狂戦士に当てはまるかどうか分からんけどな)

「イヤ、全員マトメテ殺・・・殺ス・・カ。『振峰衝馳』」
言葉と共に男が腕を振って地面に叩き付けた。
直後、凄まじい震動と共に工場全体が揺れ、天井が崩落して瓦礫が降り注いできた。
20神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/01/19(水) 20:40:45 0
頭上から降り注いでくる大量の瓦礫と、男が放った前方から来る瓦礫。
それらを滑らかな動きでかわしていく菊乃。
それはどこか氷室の動き──『瞬脚』に似ていた。
しかし菊乃は戦闘中に『瞬脚』を使える技術はまだ持っていない。
では何故そのような動きが出来るのか──?

移動中であれば『瞬脚』を使うことが出来る。しかし戦闘中では難しい。
ならばどうすればいいのか?
──菊乃は自らの能力と併用していたのだ。
ある程度のオーラを脚に充実させ、第一段階を作る。
そして自らの能力──『重力減少』を使って体を軽くし、不足分のスピードを補っているのだ。
その為、戦闘中でも『瞬脚』に近い行動が行えるのである。

震動と瓦礫が止み、辺りが再び静寂に包まれる。
一連の攻防の間に新たな気配が出現していた。──鎌瀬達である。
気配は三つ。即ち鎌瀬、斎葉、夜深内の三名は一緒に行動していたのだろう。
しかし今は構っていられない。そんな事をしていれば自分の命すら危ういのだ。
「動きと能力から見て、どうやら下級の狂戦士ではなさそうだな。そしてお前は四傑でもない。
 一体、何者なのか、私には見当もつかない。
 ……だが、あくまで私の障害となるつもりならば、敵として処理するまで」
氷室が相手を見据えながら言葉を発する。
そして一歩進むと、徐に周囲にいる菊乃達に視線を送った。

「お前らは遠くで見物してな。今のお前らがここに居ても、足手纏いになるだけだ」
膠もない言葉。しかし的を射ている。
菊乃と海部ヶ崎は怪我が完全に回復していない。
天木に至っては、気の毒だがあまり戦力としてみていないのだろう。
海部ヶ崎の方を見ると、屈辱に耐えるように唇を噛み締めている。
闘えないのは悔しいが自分の状態は把握している、と言ったところだろう。言葉に出すことはなかった。

「私は敵には容赦しないよ。死にたくなければ、初めから全力でかかってきな」
氷室が冷たく言い放つ。
同時にゆっくりと移動を開始したのだが──
(ん……?何だあれ?遅い──いや、速い?
 いや待て、氷室が──何人もいる……!?)
菊乃は今まで見たことのない歩行術に驚嘆していた。
(凄ぇな……。オーラってやつは極めればここまでになるものなのか……おっと)
氷室の『惑脚』にしばし見惚れていた菊乃であったが、先程の氷室の言葉を思い出して我に返る。
そして素早く跳躍すると、海部ヶ崎の隣に着地する。
こちらを見る海部ヶ崎に視線は合わせず、氷室の戦いを見ながら口を開く。
「なに、言われた通りにしただけさ。
 悔しいが今のアタシ達じゃアイツの闘いの邪魔以外の何者でもない」
(今回は譲るが……次はアタシにもやらせろよな)
言葉には出さず、視線だけで氷室の背中に呼びかける。
「ところで……氷室のあの動きは何だい?氷室が何人もいるように見えるんだが……。
 海部ヶ崎、アンタ何か知ってるか?」
氷室の謎の歩行術について見当もつかない菊乃は、隣にいる海部ヶ崎に尋ねた。

【神宮 菊乃:氷室の戦闘領域から離れ、海部ヶ崎と合流する】
21鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/01/23(日) 10:55:54 0
>>17->>20
「お前らは遠くで見物してな。今のお前らがここに居ても、足手纏いになるだけだ」
氷室が海部ヶ崎達に向かって言い放つ。お前らと言ったが…
(私達も入っているのでしょうか…?
いや、入っていないわけないですね。神宮さんですら足手纏い扱いなんですから…)
『夜深内サン。私ノ本体ヲ宜シクオ願イシマス』
なるべく小さな音声で、夜深内に伝える斎葉。夜深内は表情こそ変わってないが、少し驚いたようだった
『私ハ機械二入ッテイル状態デハ死ニマセン。デスガ、ソノ間二無防備ナ本体ヲ攻撃サレタトナルト…
ナノデオ願イシマス。私ハ隙ヲ見テ戦線カラ離脱シマスノデ…。何分コンナ大キイ図体デハ逃ゲルノニ非常二不便デシテ…』
因みに斎葉が乗り移っている車は、運良くまだ壊れていなかった
『了解しました。気をつけてください』
『アリガトウゴザイマス』
こうして、夜深内はこっそり斎葉の本体がいる方に戻っていった
「私は敵には容赦しないよ。死にたくなければ、初めから全力でかかってきな」
(!? 謎の女性が分身した!?)
斎葉は氷室を見て驚いた。何しろ彼女が何人も居るように見えるのだから。
ラジコンのスキャナー機能で調べてみる。
22鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/01/23(日) 12:14:18 0
(足にオーラが集中してる…なるほど、オーラを使った歩行技術ですか…。ですが、それだけでは…)
次にハイスピードカメラ機能で調べてみる。すると…
(移動スピードに緩急がついている…。成程、そういうことですか…。道理で…)
『サテ、私ハ後ロノ方カラ援護射撃シマショウ
照準…せっと。目標、捕捉。発射シマス』
エースに向かってラジコンのレーザーと車の砲撃を放つ斎葉。隙あらば戦線から離脱するつもりだ

その頃鎌瀬
(え…ぶ、分身してる…? 忍者なのかな、あの人…)
「…僕は自分の仕事に集中しないと」
劣化空間でエースを劣化させ続ける鎌瀬
「…もう少し劣化スピード上げた方が良いかな…劣化した個室(ネガティブワンルーム)…」
劣化空間のオーラを圧縮して範囲を狭くし、劣化した個室に変え、劣化スピードを上げる鎌瀬
【夜深内漂歌:戦線離脱 斎葉巧:援護射撃。戦線離脱予定 鎌瀬犬斗:劣化空間を劣化した個室に変え、エースの劣化を続行】
23氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/01/24(月) 00:18:40 0
男が氷室に突進し、オーラを込めた拳撃を繰り出す。
しかし、その拳に手応えは無い。殴りつけたのは残像だったのだ。
続いて男は素早く背後に見えた氷室に回し蹴りを放つ。
しかし、またも手応えは無し。氷室の惑脚は完全に男を翻弄していた。

「無駄だよ。闇雲に攻撃して当たるほど、私の惑脚は甘いものじゃない」
氷室の声が工場内に響く。
当然、声を発しているのは残像ではないたった一つの氷室本体だが、
果たしてどの固体が言っているのか、もはや耳をすましてみても、
数十にまで膨れ上がった残像の前では判別もつかないことだろう。

そこでふと、これまで激しく動き回っていた男の動きが止まる。
集中して気配を探ることで、本体の居場所を突き止めて見せようという気なのだろうか?
だとすればそれこそ氷室の思う壺である。
気配を探ったくらいで本体を見つけられるなら、惑脚とは呼ばれない。
気配すら全ての残像にあるように感じるからこその歩法なのだ。
(悪いが、これで終わりだ)
男を囲む無数の残像の一つが、まるで幽霊のように男の頭上をふわりと舞う。
そしてそれは、そのゆらりとした動きとは裏腹に、
目の覚めるような素早い手刀をそのまま男の脳天に突き出した。

「──!?」
死角からの手刀。しかも『アークティッククロー』で強化された一撃だ。
普通であればこれで勝負を決まっていた。そう、決まっていたはずなのだ。
しかし──目の前の光景は、氷室にとっては予想だにしないものであった。
「なん……だと……?」
氷室の一撃は、男の右腕によってガードされていたのだ。
完璧なタイミングにも拘わらず、まるで読まれていたかのように。

惑脚は一見すると捉えることなどできない無敵の歩法のようにも見える。
だが、たった一つだけ、捉えることのできる瞬間があるのだ。
それは敵を翻弄する『静』から、敵を仕留める『動』へ転じる刹那の瞬間である。
その時だけが、残像と本体とを区別できる唯一の機会なのだが、
当然、それを知っているからといって誰にでもできるというわけではない。
『動』へ転じる些細な動きを見極められるだけの力があって初めて可能な芸当なのだ。

(こいつが動きを止めたのは『動』に転じる動きを精神集中して見極める為か!
 しかし、さも当然のようにやってのけるとは、やはりこいつは普通じゃない!)

男はガードした腕を力強く振り上げ、接した氷室の指を弾くと、くるんと左に半回転。
そのまま手刀に変えた左腕をお返しといわんばかりに氷室に繰り出した。
氷室もすぐさま左腕にオーラを込めて防御する。しかし──。
「!」
男の手刀と接した瞬間、氷室の左腕はブシュウと血を噴き出した。
男が繰り出したのはただの手刀ではない。
先程、海部ヶ崎の顎の下を傷付けた、チェーンソーのようなオーラを纏っていたのだ。
「チッ!」
傷が骨に達するより先に、今度は氷室の蹴りが男の頬に炸裂する。
男がよろめく間、反動で空中に向かって加速した氷室は、
やがて数メートルほど離れた場所に静かに降り立った。
24氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/01/24(月) 00:23:02 0
氷室の左腕からはドクドクと血が流れ、男の口元からはツゥーっと血の滴が流れ落ちている。
それは、互いの力量が相手の展開したオーラを突き破り、
肉体に大きなダメージを与えることができるという証明であった。
「少し……お前を見くびっていた。どうやら私も“本気”にならなければならないようだ」
そう言うと、氷室は再びその姿を無数に分身させた。一方の男は微動だにしない。
一度、攻撃の瞬間を見極めた以上、同じ手で見極められない道理はない、ということだろう。

そして、無数の分身の内の一つが、男の背後より飛び出た瞬間──
懸念通りに、あるいは予想通りに、男の首が背後へと回った。
今度はより早く、より正確に氷室の本体を見つけ出してみせたのだ。
しかし、結果が予想だにしないものとなったのは、今度は男の方であった。

ドオォンッ!
突然、男の体にレーザーのような光弾が着弾し、爆発を起こしたのだ。
氷室の『動』の瞬間を正確に看破し、そこへ首を向けてしまったことが、
皮肉にも別の方向から放たれていた攻撃に気がつけなかったのだ。
氷室は一度、光弾が飛来した方向に視線を移す。
そこには、先程突然と現れた、あの見慣れぬ顔があった。
「余計なことを。だが、これで一層回避は不可能となった。そうだろ?」

言い放つ氷室の掌は、まるで放射能のような青白い光が凝縮している。
それは体中のオーラを変換し、集中させた冷気の塊──。
「バイバイ」
全てを凍て付かせる光の波動が今、解き放たれた。

【氷室 霞美:エースに『ノーザンミーティアー』を放つ】
25エース ◆0i7FhSLl8w :2011/01/24(月) 03:28:09 0
その驚異的な移動スピードは彼の能力の特性によるものだった。惑脚のように細かい調整は効かない、猪突猛進と呼べる移動法。
地面に触れる部分で、指向性のある『振動』を起こす事により、踏み出すと同時に地面を「弾き飛ばして」移動しているのだ。
オーラを視認出来る者なら、この超速移動も察知出来るだろうが、問題なのはその驚異的な直進スピードの前に果たして回避が間に合うか、である。

「動きと能力から見て、どうやら下級の狂戦士ではなさそうだな。そしてお前は四傑でもない。
 一体、何者なのか、私には見当もつかない。
 ……だが、あくまで私の障害となるつもりならば、敵として処理するまで」
「お前らは遠くで見物してな。今のお前らがここに居ても、足手纏いになるだけだ」
「私は敵には容赦しないよ。死にたくなければ、初めから全力でかかってきな」

氷室のその一連の言葉に、エースが人工的な笑みを見せた。

「今ノ俺ニ限界(リミッター)ハ無イ。言ワレズトモソノツモリダ」

超圧縮されたオーラが更に密度を増す。
揺らぐ数多の氷室の姿にも、焦る様子は無い。だが。

「・・・オーラノ出力ガ足リナイ・・・マダドコカニ潜ンデイルノカ」

エースは異変に気付く。自分のオーラが『劣化』している事に。『劣化した個室』にハマっていることに彼は気付けなかったのだ。
タトゥーの発光が弱まる。目の光が薄くなり、そして、エースの口から皆が予想だにしない言葉が漏れる。その一瞬、戦闘の中で不思議な静寂があった。

「次、攻撃、5秒後、衝撃波、ふ せ ろ」

そしてその言葉をかき消すように、もう一度タトゥーと目にオレンジの光が戻った。

「――モットモ、オ前ダケヲ相手ニスルツモリモ無イッ!!!」

タトゥーの輝きは以前に増して大きくなり、エースの右手にオーラが集中する。そして――
彼の右手が消えたように見えた。高速振動によるその動きのブレは、空を切る拳の残像すら拒否した。
動きがショートカットされたかのような現実味の無いモーション。

違うのは、氷室の残像群に、そしてその後ろの斎葉の操る物体に向かって衝撃波が進んでいる事だ。
ただのストレートパンチに超速振動が加わり、多段的に空間を叩き弾く事で空間のたわみを重ね、擬似的に発生させた衝撃波は、恐るべき射程で斎葉の援護射撃の砲弾を爆破させながら突き進む。
最も近い位置にいる氷室の本体などは、瞬間的にある程度の防御をしなければ、圧壊し吹き飛ばされるだろう。そうでなくても、衝撃波の到着までコンマ数秒しか無いのだ。

衝撃波を通り抜けたレーザーも、エースのオーラに触れたとたんに霧散する。
光の振動を収束させたレーザーは、エースの振動するオーラの前にその形を保てない。

そして、エースはそれだけでは終わらなかった。
衝撃波に続くように脚を踏み込み、氷室の居た位置へと向かう。
ブレード状に変形させた振動オーラを右手に纏い、立ち込める煙の中にいるはずの本体を直接殺すために。

「徹底的ニッ!徹底的ニ殺――殺、スッ!」
26エース ◆0i7FhSLl8w :2011/01/24(月) 03:58:37 0
の驚異的な移動スピードは彼の能力の特性によるものだった。惑脚のように細かい調整は効かない、猪突猛進と呼べる移動法。
地面に触れる部分で、指向性のある『振動』を起こす事により、踏み出すと同時に地面を「弾き飛ばして」移動しているのだ。
オーラを視認出来る者なら、この超速移動も察知出来るだろうが、問題なのはその驚異的な直進スピードの前に果たして回避が間に合うか、である。

数十に膨れ上がった氷室の残像を前に、男は動きが固まった。
いや、驚異的な集中をした、といった方が正しかった。
それはエースという人間が持つ一つの特性であり、超圧縮した時間の中で彼は氷室の攻撃を読み切った。

「なん……だと……?」

エースの壊れた笑みと共に、手刀が繰り出される。・・・ブレード状のオーラによる、振動切断。
腕を落とすつもりだったが、蹴りに阻まれた。
超圧縮されたオーラ防御も突き破るその攻撃力に、彼のものではない人格がデータを上書きした。

「少し……お前を見くびっていた。どうやら私も“本気”にならなければならないようだ」

その言葉にも、男は動かない。
己の中の時間を濃くし、相手の攻撃間際に集中して捕らえる体制だ。
だが、その集中が仇となった。
攻撃を捉え後ろに向いた時に、背後から来る援護射撃に気付いていなかったのだ。

「余計なことを。だが、これで一層回避は不可能となった。そうだろ?」
「バイバイ」
「・・・バイバイ?」

視界が真っ白に、溢れる光量に脳が焼ききれるような感覚。
しかし。その笑みは消えない。エースの笑みは消えない。まだ終わらない、そう言うかのように。

レーザー砲は、エースに直撃していない。
光の振動を収束させたレーザー砲は、振動するエースのオーラにかき乱されてその威力を大幅に弱めていた。
だが、回避する時間は無い。いや、回避する時間は要らないと考えたのだろう。
対する男の構えは、ただの拳撃のモーションに見えた。そう、実際にそれは『ただの拳撃』だった。
――彼の右手が消えたように見えた。高速振動によるその動きのブレは、空を切る拳の残像すら拒否する。
動きがショートカットされたかのような現実味の無いモーション。
迫りくる圧倒的な冷気の塊にぶつけるのは、拳撃に超速振動が加わり、多段的に空間を叩き弾く事で空間のたわみを重ね、擬似的に発生させた衝撃波である。

冷気を防げはしない。エースの体は右手から凍結し始めていく。
が、冷気では防げない。暴力的な速度と共に、全てを圧壊する空間の波が氷室を襲った。

「ク、冷気、カ・・・振動ノ摩擦ヲ、使・・ッ」

タトゥーの発光が弱まる。それは、『劣化した個室』の効果がようやく出始めたことに起因した。
総量と密度の濃いオーラを劣化させるのには相応の時間がかかったのだろう。鎌瀬の力が目に見える形で現れ始める。

「ガ、馬鹿、ナ・・・」

タトゥーの部分が凍り、どんどん光を弱める。彼の体のブレの幅が狭まる。まるで出力が落ちていくように。
冷気による異常な威力の凍結と、それを何とか相殺しようとしたオーラの劣化。それは戦闘人格の予想をはるかに超えていた。
エースは工場の床に張り付くように、動かなくなった。だが、狂戦士の体はまだ生きている。
僅かなオーラによる微速度の融解が始まろうとしていた。

【エース、戦闘不能。体を凍結されるものの、未だ生存。自動的に、僅かなオーラで体の回復を試みている】
27氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/01/25(火) 02:32:40 0
>>26
網膜に焼きつくような強烈な光はやがて収まり、視界から完全に消える。
「……」
直後に空中に跳んでいた氷室がふわっと降り立ち、
まるで遠くの景色を眺めるように光を放った方向を見渡した。
当事者の氷室だからこそ表情はまるで変わらないが、
彼女以外の人間にとって、その視界に映る光景は正に想像を絶するものだったろう。

視界に広がるは何と一面の銀世界。
大気中の水分が季節外れの氷の結晶となって辺りをヒラヒラと舞い、
光の軌道上に在った物体が全て真っ白に凍りついている。
それは、光の中心にその身を曝した男も、当然、例外ではなかった。
「……意外にも紙一重、だったな」
物言わぬ氷像と化した男に氷室はポツリと呟いた。
途端に、ボタボタと音を立てて氷室の全身からかつてない量の血が溢れ出る。
彼女の全身はまるで無数のカマイタチでも受けたかのように傷だらけであった。

「あの刹那に攻撃と防御を同時にこなすとはな。
 ノーザンミーティアーでなければ私だけがダメージを負っていたところだった。
 恐ろしい奴だ……。四傑でないのが不思議なくらいだよ」
言いながら、痛みなど気にする風もなく、乱れた髪に手櫛を掛ける氷室。
その仕草に不自然さはないものの、どこか少々疲労しているようにも感じられた。
だが、それでも氷室は、その集中力を途切らせてはいなかった。

「私は殺すつもりで放ったんだがな。全く……大した生命力だと感心する。
 けど、やめときな。いくら強いとはいえ、今のお前じゃ勝ち目はない」
手櫛の指の隙間から、鋭い視線を男へとぶつける。
彼女は気が付いていたのだ。男が、ゆっくりとだが確実に体を解凍させていることに。
「今のお前よりあいつらの方が体は良く動くだろうよ。
 精神に若干の不安定さがあっても、それが解らないほどバカじゃないだろ?」
左右に交互、視線を移したその先には、神宮、天木、海部ヶ崎、そしてあの見慣れぬ少年の姿。
戦闘前までの実質一対一から、今では五対一にまで形勢は氷室らに有利に傾いている。
闘ったところでもはや結果は火を見るより明らかである。

氷室は顔の血を拭うと、指を三本立て、再度男に向かって言った。
「ここで止めを刺すのは簡単だ。だが、私の標的はあくまで四傑とワイズマン。
 お前は見逃してやってもいい。ただし……それには条件がある。
 一つ、お前は何者か? 一つ、ワイズマンはどこにいるか? 一つ、ワイズマンの目的は何か?
 ……答えてもらうぞ」

【氷室 霞美:裂傷多数ながらも戦闘は可能状態。エースに三つ質問する】
28エース ◆0i7FhSLl8w :2011/01/29(土) 00:07:49 0
「あの刹那に攻撃と防御を同時にこなすとはな。
 ノーザンミーティアーでなければ私だけがダメージを負っていたところだった。
 恐ろしい奴だ……。四傑でないのが不思議なくらいだよ」

おぼろげな意識の中で、遠くから声が聞こえる。女性のものだ。
浮上する感覚。光の方へ、気だるい沼の底から空気を吸いにあがるように。

「ここで止めを刺すのは簡単だ。だが、私の標的はあくまで四傑とワイズマン。
 お前は見逃してやってもいい。ただし……それには条件がある。
 一つ、お前は何者か? 一つ、ワイズマンはどこにいるか? 一つ、ワイズマンの目的は何か?
 ……答えてもらうぞ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

自分のオーラが自分の管理外で使われている事に気付く。
微振動による摩擦熱により、体内から融解し、勝手に蘇生を行う体が其処にあった。
閉じた瞼の裏で、何が起こったのかを認識する。体は動かない。感覚が無い。だが、こうして外に出てこられるのも一瞬かもしれない。

――ならば、伝えなければ。

「オ、俺ハ、―――俺の名はエース。15番目にして例外の、狂戦士・・・強化、では無く、0から作成、されたモノ」

口が動く。皮膚感覚が激痛をやっと訴え始めるが、ただ言葉を紡ぐ。
肉体の振動は幅を増し、融解速度が加速する。

「人格統制に――問題があり、教育を施される・・・前に実験は終わった為、―同胞達に――別の人格を埋め込まれている」

脳に何かが競りあがる。絶対零度の平坦な感情と、自動化された戦闘への欲求。

「もうすぐ、『A』が・・・やってくる。く、わ、ワイズマンの居場所は、島の地下に・・・洞窟から通じる道が、ある・・・」

体の解答がほぼ終わりかけている。大量の蒸気が体から吹き上がる。
その熱は、常人なら血が茹で上がる程だろう。遺伝子操作され作り上げられた体には、負担が全く無い。
だが、脳には激しい負荷がかかる。引きずり込まれる。また、奴に取って代わられるのだ。

「ワイズマンの目的は、――――――」

時が止まったように感じた。一瞬が永遠のように長い時間に成り代わり、そしてその眼に凶暴な光が灯る。

「――――スキカッテニヤッテクレタミタイダナ」

引き裂いたような笑みと共に、エースは解凍された右腕の手を握り、感触を確かめた。

「流石ニ全身凍結ハ初メテノ経験ダッタガ、・・・記憶シタ。常人デコノレベルノ異能ヲ使ウ可能性モアルノダナ」
「馴染ムノニ時間ガカカッタガ、モハヤ『私』ハ完全ニ起動シタ。最後ノチャンスヲ逃シタノダ」

両足へオーラが高まる。尋常では無いオーラの量と、圧倒的な精密さで完璧にそれを制御しきっていた。

「万全ノ準備ヲシヨウ、反逆者達(オマエタチ)ノ為ニ」

地面が爆発したかと思うと、その姿は消えていた。
仮死から復活したという人間の動きでは無い。『作成』された肉体の強さなのだろう。
後に残されたのは、足形の破壊跡と土煙のみだった。

【エース、質問に一部答えた後、戦闘人格を完全に起動し、去る。】
29神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/01/29(土) 16:16:55 0
氷室とエースの戦闘は、長かったようで短かった。
互いに一歩も譲らない中、勝敗は一瞬にして決まった。
当初は氷室の『惑脚』にエースが翻弄される形であった。
しかし氷室の『惑脚』による攻撃の隙を捉え、エースが反撃するかと思われたが、
斎葉達による砲撃で一瞬の隙を疲れ、氷室の『ノーザンミーティアー』を食らう形で終結した。
30神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/01/29(土) 16:58:48 0
氷室とエースの戦闘は、長かったようで短かった。
互いに一歩も譲らない中、勝敗は一瞬にして決まった。
当初は氷室の『惑脚』にエースが翻弄される形であった。
しかし氷室の『惑脚』による攻撃の隙を捉え、エースが反撃するかと思われたが、
斎葉達による砲撃で一瞬の隙を疲れ、氷室の『ノーザンミーティアー』を食らう形で終結した。


「……」
菊乃は目の前の光景に目を奪われていた。
工場内は悉く凍りつき、氷の結晶すら舞っている。
今は冬ではない。いや、冬であったとしてもこの状況はおかしい。
では眼前のこの光景は一体何なのか?
──恐らくはこれが氷室の放った技の威力なのだろう。
「……意外にも紙一重、だったな」
一面の銀世界の中、中心部に建つ男の氷像を前に氷室は呟いた。
その氷室の体は、全身に無数の切り傷があり、そこから血が滴り落ちていた。
「あの刹那に攻撃と防御を同時にこなすとはな。
 ノーザンミーティアーでなければ私だけがダメージを負っていたところだった。
 恐ろしい奴だ……。四傑でないのが不思議なくらいだよ」
言いながら戦闘で乱れた髪を整える氷室。
平静のように見えるが、どこか疲労しているようにも見えた。
(四傑じゃない?じゃあアイツは一体何なんだ?
 ただの狂戦士にしちゃあ強すぎるし、何より言葉を喋っていた)
氷室の言葉に疑問を感じたが、今は黙って見ていることにした。

「ここで止めを刺すのは簡単だ。だが、私の標的はあくまで四傑とワイズマン。
 お前は見逃してやってもいい。ただし……それには条件がある。
 一つ、お前は何者か? 一つ、ワイズマンはどこにいるか? 一つ、ワイズマンの目的は何か?
 ……答えてもらうぞ」
氷室が男に質問する。それはこの場にいる人間の代弁でもあった。
「オ、俺ハ、―――俺の名はエース。15番目にして例外の、狂戦士・・・強化、では無く、0から作成、されたモノ」
最初は無言だった男──エースが喋り始める。
しかしその口調はどこかおかしかった。
「人格統制に――問題があり、教育を施される・・・前に実験は終わった為、―同胞達に――別の人格を埋め込まれている」
(人格統制、か……。やっぱり二重人格だったか。アタシとは似ているようで少し違うな)
「もうすぐ、『A』が・・・やってくる。く、わ、ワイズマンの居場所は、島の地下に・・・洞窟から通じる道が、ある・・・」
「ワイズマンの目的は、――――――」

「――――スキカッテニヤッテクレタミタイダナ」
突如、エースの口調が一変した。
それまでの途切れ途切れの喋り方ではなく、どこか機械的な喋り方になった。
「流石ニ全身凍結ハ初メテノ経験ダッタガ、・・・記憶シタ。常人デコノレベルノ異能ヲ使ウ可能性モアルノダナ」
「馴染ムノニ時間ガカカッタガ、モハヤ『私』ハ完全ニ起動シタ。最後ノチャンスヲ逃シタノダ」
エースの両足に凄まじいオーラが集中する。
「万全ノ準備ヲシヨウ、反逆者達(オマエタチ)ノ為ニ」
ドンッ、という爆発のような衝撃の後、エースの姿はその場から消えていた。

エースが去った後、未だにその場に立ち尽くす氷室の元へ歩いていく。
治療に集中していた為、戦闘の間に傷は完治していた。
(エース……氷室も知らない狂戦士、か。
 それに0から作られたって?ようは人造人間ってところか)
「お疲れさん。とりあえず怪我の治療、したらどうだ?…ま、無理にとは言わねーけど。
 あー、後どっかにシャワーかなんか使える場所ねーかな。流石に少し気持ち悪くなってきた」
あくまでエースの事には触れずに氷室に話しかける。恐らく氷室は今、エースについて考えているのだろう。
ならば、自分よりも知識がある氷室が出す答えを待つのが一番早い。
(ま、焦る必要はねーだろ。とりあえずワイズマンの居場所は分かったも同然だしな)

【神宮 菊乃:戦闘の終了を確認し、氷室に話しかける】
31鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/01/29(土) 23:45:28 0
>>28>>30
勝負が着いたのを確認し、自分の体に戻る斎葉
「…ふぅ、やっと戻れました…それにしても…何から何まで凍ってますね…」
「す、すごいなぁ…
やっぱり僕たちなんかとは格が違うんだね…」
『そうですね』
氷室たちのいる方に出ながら、斎葉、鎌瀬、夜深内が言う
「…そうでした。貴方達には自己紹介がまだでしたね。
私は斎葉巧と申します」
「ぼ…僕は鎌瀬犬斗です…」
『夜深内漂歌です』
氷室、天木、海部ヶ崎に自己紹介をする三人
「あの…ところで…さっき貴方…急に速くなったり分身してたりしてましたけど…あ、あれってどうやってたんですか?」
氷室に恐縮しながら聞く鎌瀬
「ああ…そういえば。あの、『エース』と言う方の腕のタトゥー。あの下に、何か機械が埋め込まれていました。
時間がなかったので、何の機械かまでは分かりませんでしたが、恐らく何か重要な手がかりになると思われます」
斎葉が言った
【鎌瀬達:自己紹介+α】
32氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/02/01(火) 02:05:02 0
>>28>>30>>31
暫しの間の後、男は凍りついた体をブルブルと震動させながら、
先程までの感情のない機械的なものとは違う声で、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「オ、俺ハ、―――俺の名はエース。15番目にして例外の、狂戦士・・・強化、では無く、0から作成、されたモノ。
 人格統制に――問題があり、教育を施される・・・前に実験は終わった為、―同胞達に――別の人格を埋め込まれている」
ビデオの早回しのようなスピードで、男にまとわり付いた氷が溶けていく。
足に広がった水溜りに、ボタボタと、水滴が激しく落ちる。
しかし、その光景もその音にも、今の氷室が意識を向けることはない。
氷室の意識は、ただ男の顔と、男が紡ぐ一言一句にのみ傾けられていた。
(エース……15番目の例外の狂戦士……。私すら知らない存在をカノッサは秘密裏に創っていたのか。
 それともあるいは、創ったのは奴の同胞(四傑)か、ワイズマンか……。
 いずれにしても、嘘は言っていないようだ。人格に問題があるなら、私が感じた違和感も得心がいく)

「もうすぐ、『A』が・・・やってくる。く、わ、ワイズマンの居場所は、島の地下に・・・洞窟から通じる道が、ある・・・」
そんな氷室の意識が、ふとエースの顔から離れたのは、この言葉の直後だった。
見れば彼の体全体から蒸気が吹き上がっている。
通常の人間には決して作ることのできない凄まじい熱が、氷を液化させ更に気化させているのだ。
だが、思わず氷室が意識を逸らしたのは、それが理由ではない。
気のせいか彼の声が二重に聞こえたのだ。まるで二人の人間が同時に喋ったように。

(……時間がない、そういうことか……!)
氷室はキッと鋭い目で男を捉えると、一歩、強く地を踏みしめて、これまでにない強い口調をぶつけた。
「言え! ワイズマンの目的は何だ!」
「ワイズマンの目的は、――――――」
「言え!」
「――――スキカッテニヤッテクレタミタイダナ」

エースの口がニヤリと半月状に歪み、あの機械的な声を絞り出した。
戦闘本能にのみ支配された、先程までのあの男の声を。
「チッ」
氷室の舌打ちと同時に男が体を動かす。
もはや凍りついていた体は完全に回復している様子であった。

「流石ニ全身凍結ハ初メテノ経験ダッタガ、・・・記憶シタ。常人デコノレベルノ異能ヲ使ウ可能性モアルノダナ」
「馴染ムノニ時間ガカカッタガ、モハヤ『私』ハ完全ニ起動シタ。最後ノチャンスヲ逃シタノダ」
「万全ノ準備ヲシヨウ、反逆者達(オマエタチ)ノ為ニ」
エースが言い終えると共に爆発が起き、舞い上がった粉塵がエースを覆い隠す。
粉塵がおさまった頃には、既に視界からエースの姿は消えていた。

「肝心な情報は隠したまま、まんまと逃げおおせるとは……やってくれる」
思わずギリッと歯軋りする氷室。
「お疲れさん。とりあえず怪我の治療、したらどうだ?…ま、無理にとは言わねーけど。
 あー、後どっかにシャワーかなんか使える場所ねーかな。流石に少し気持ち悪くなってきた」
そんな彼女をまるで宥めるかのように、神宮は横から労をねぎらいつつ、別の話題を振る。
その一声で沸騰しかけた心が水を差されたようにスーッと冷めていく。
「……その前に」
氷室はその一言だけ神宮に返すと、視線をさっさと別の方向へ向けた。
その方向は、先程の見知らぬ少年たちが立っていた場所である。
無言だが視線だけで氷室が何を言わんとしているのか察した少年達は、
押されるようにズイっと前に出て、それぞれ順々に口を開いた。

「…そうでした。貴方達には自己紹介がまだでしたね。 私は斎葉巧と申します」
「ぼ…僕は鎌瀬犬斗です…」
「夜深内漂歌です」
「あの…ところで…さっき貴方…急に速くなったり分身してたりしてましたけど…あ、あれってどうやってたんですか?」
33氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/02/01(火) 02:22:28 0
「……」
氷室は何も答えぬまま三人からも視線を外し、また別のあらぬ方向に顔を向ける。
そこで斎葉と名乗った痩せ型の少年が誰に言うとはなく呟いた。
「ああ…そういえば。あの、『エース』と言う方の腕のタトゥー。あの下に、何か機械が埋め込まれていました。
時間がなかったので、何の機械かまでは分かりませんでしたが、恐らく何か重要な手がかりになると思われます」

「そうか」
その言葉に、初めて氷室が応えた。
だが、顔は相変わらず彼らの方向に向けておらず、ただ窓から見える傾いた太陽を見つめている。
何をしているのか──あるいは何を考えているのか──
誰もがそう思い始めた時、氷室の目が突然と全員の姿を捉えた。
「ここでの闘いは既に他の連中にも知られるところとなっているだろう。
 ここに長居するとまた厄介なことにもなりかねない。日が沈む前に服屋へ向かう」

くるりと翻り、全員に背を見せてスタスタと大穴の開いた出入り口に向かう。
そして外へと出る際に、氷室は一瞬だが鎌瀬ら三人に視線を放ち、言った。
「……私の名は氷室。お前らにはほんの少しだが借りができた。よければついてこい」

────。
そうして全員が工場を出てから数十分──氷室らは無事に、服屋前に辿り着いていた。
数時間ぶりに戸を開け、中を見る氷室。
中は早朝の時と同じようにしーんと静まり返り、誰かが潜んでいるような様子はなかった。
「私も負傷している。とりあえず今日はここで待機とし、明日に備えることとしよう。
 なに、ここには水があり食料があり、他の建物にはない電気がある。
 これだけの人数でも不便はしないだろう」

氷室の言葉に頷きながら海部ヶ崎が、続いて神宮が入口を跨いで建物に入っていく。
だが、氷室は天木が入っていこうとするところで、
突然と彼の目の前に傷付いた左腕をにゅっと差し出し、行く手を遮った。
「お前には明日までに傷を治してもらう。だがその前に、やってもらうことがある」

なに? とでも言いたげな顔を氷室に向ける天木。
しかし──彼が顔を向けたそこには、氷室の姿はなかった。
「ここだ」
直後に聞こえた氷室の声は、天木から直線状におよそ十メートル離れた位置から放たれていた。
声を頼りに咄嗟に天木は視線を向ける。しかし、既にそこにも氷室の姿はない。
「これが高速移動術『瞬脚』だ。脚部にオーラを集中させて移動しているだけだが、
 お前にはあたかも瞬間移動を繰り返しているようにしか見えないだろう。
 だが、四傑にとってはそうではない。何故なら、連中も似たような力量だからだ」
今度は天木の背後から声が。
あまりの驚きからかもはや振り向くこともしない天木だが、
今度の氷室は再び移動するようなことはせず、そのまま天木の背中に語りかけた。

「そればかりか、四傑でもないエースという男ですら、私に近い実力を持っている。
 解るか? お前は私らに持てる力を全て貸すといったが、もはやそれは何の足しにもならない。
 回復能力以上に、今の私達が必要としているのは、奴らに真っ向から対抗できる戦闘力を持つ戦士だ。
 
 ……お前には、明日の朝までに、この『瞬脚』を修得してもらう。
 できなければもうお前に用はない。私の傷を治した後、どこかで怯え、縮こまっていろ。
 連れていったところで、いずれ私達の足手纏いになるのが目に見えているからな」

氷室は視線をそのまま鎌瀬らにずらして、続けて言った。

「お前らも半端な覚悟しかないなら、明日には私達の下から離れ、どこかに身を潜めていることだ。
 だがそうなる前に、一応訊いておくことがある。どこかで『洞窟』を見かけなかったか?」

【氷室 霞美:現在地→服屋。 天木に瞬脚修得の試練を課し、鎌瀬らに洞窟について訊ねる】
34鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/02/02(水) 18:38:51 0
>>32>>33
「……私の名は氷室。お前らにはほんの少しだが借りができた。よければついてこい」
一瞬だけこちらを向いて、氷室がそう言ってきた
「あっ…はい、よ、よろしくお願いします氷室さん…」
「氷室さんですね。よろしくお願いいたします」
『よろしくおねがいします。氷室さん』
なので挨拶をして、鎌瀬たちも氷室についていった
「私も負傷している。とりあえず今日はここで待機とし、明日に備えることとしよう。
 なに、ここには水があり食料があり、他の建物にはない電気がある。
 これだけの人数でも不便はしないだろう」
その言葉に、みな少し安心したようになる。顔に出ていない者も居るが、安心しているはずだ
「お前らも半端な覚悟しかないなら、明日には私達の下から離れ、どこかに身を潜めていることだ。
 だがそうなる前に、一応訊いておくことがある。どこかで『洞窟』を見かけなかったか?」
「う…どうしよう…僕なんかが言っても足手まといにしか…」
「…分かりました。行きましょう」
「ええっ!?」
「何をいっているんです? 貴方の能力、『あらゆるものを劣化させる』は戦況を有利に働かせる武器になるんですよ?」
「で、でも上手く使いこなせないし、何より僕自体が弱すぎるし…」
「それについてはご安心を。私がトレーニング機器を作りますから。それに有名な小説家もおっしゃってたでしょう?
『強さとは突き詰めると警戒されやすく、また油断しやすい』
『弱さとは敵に警戒されない、観察できる、後ろから刺せる』
『よって、強さと弱さは表裏一体である』って」
「うん…分かったよ…」
「…そういえば。斎葉君から借りたんですけど…」
そういってGPSを取り出す
「確か北西に…あった! 洞窟は北西にあります。たぶん…」
「私の機械にそんなミスはありません」
「あ、あります。絶対」
【鎌瀬一行:ついていくことを決心。洞窟は北西にあると伝える】
35天木 諫早 ◆0i7FhSLl8w :2011/02/02(水) 21:16:32 0
ほんの短い間の戦いが、永遠のようにも感じられた。
自分は無力だという事を刷り込まれる時間。
あのスピード、レベル、どれを取っても自分の力をさしはさむ余地の無い戦いだった。

新しい顔が増え、生き残る確率は益々高まったと言うのに、気持ちは曇るばかりだった。
そう、これではまるで押し流されるばかりではないか。
状況に流されての勝利など、要らない。
自分から掴み取れるようなもので無ければ、自分は生を感じられない人間なのだ。

「私も負傷している。とりあえず今日はここで待機とし、明日に備えることとしよう。
 なに、ここには水があり食料があり、他の建物にはない電気がある。
 これだけの人数でも不便はしないだろう」

そんな事を考えている間に、一時の休息の場に到着した。
ふら、っとその中に入ろうとして、氷室に行く手を遮られる。

「お前には明日までに傷を治してもらう。だがその前に、やってもらうことがある」

「・・・何だィ?」

「ここだ」

声は予想外の場所から放たれた。驚いて振り向くが、そこに氷室の姿は無い。

「これが高速移動術『瞬脚』だ。脚部にオーラを集中させて移動しているだけだが、
 お前にはあたかも瞬間移動を繰り返しているようにしか見えないだろう。
 だが、四傑にとってはそうではない。何故なら、連中も似たような力量だからだ」

次々と声が別の場所から放たれる。おそらく彼女が戦闘で使用した歩法の基礎となるものだろう。

「そればかりか、四傑でもないエースという男ですら、私に近い実力を持っている。
 解るか? お前は私らに持てる力を全て貸すといったが、もはやそれは何の足しにもならない。
 回復能力以上に、今の私達が必要としているのは、奴らに真っ向から対抗できる戦闘力を持つ戦士だ。
 
 ……お前には、明日の朝までに、この『瞬脚』を修得してもらう。
 できなければもうお前に用はない。私の傷を治した後、どこかで怯え、縮こまっていろ。
 連れていったところで、いずれ私達の足手纏いになるのが目に見えているからな」

言われた事の意味を咀嚼して、天木は力なく笑った。アシタマデニ、コノワザヲ?

「なるほど、体の良い厄介払いか。明日までに?出来る訳が無ェ。大体、俺は元は非戦闘員だぜ。
あンな化け物との戦いなンざ、俺がどうこう出来ねェだろッ!
あァそうだ、足手まといだろうさ。言われるまでもねェ、傷を治してさっさとオサラバしてやらァッ!」

疲弊した感情に任せて言葉を吐く。理性が感情の暴走に気付いたのは、決定的な一言を吐いた後だった。
体の熱が一気に冷めて、膝がかくん、と力を無くした。

氷室の眼を見れない。そうじゃ無い、違うんだ、否定の言葉はたくさん出てきたが、どれも喉の奥で勢いを失って。
天木は首をうなだれた。


【天木、氷室達や敵との実力差と自分の無力さを知り、心を折られる。】
36神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/02/03(木) 04:33:59 0
>>32>>33>>35
「ここでの闘いは既に他の連中にも知られるところとなっているだろう。
 ここに長居するとまた厄介なことにもなりかねない。日が沈む前に服屋へ向かう」
氷室はそう口にすると、背を向けて大きく開いた穴から出て行こうとした。
「……私の名は氷室。お前らにはほんの少しだが借りができた。よければついてこい」
そして外に出る直前、鎌瀬達の方を向いてそう告げると、再び歩いて出て行った。

工場を出て歩くこと数十分。氷室の言っていた服屋は市街地の南に位置していた。
氷室が扉を開けて中を確認する。
「私も負傷している。とりあえず今日はここで待機とし、明日に備えることとしよう。
 なに、ここには水があり食料があり、他の建物にはない電気がある。
 これだけの人数でも不便はしないだろう」
「そいつはありがたいね。最悪シャワーだけでも、と思ったがこいつは予想を遥かに超えてるよ」
先に入っていった海部ヶ崎に続き、心なしか嬉しそうな表情の菊乃も後に続く。
壁に電灯のスイッチを見つけ、押してみる。
すると氷室の言う通り、店内がにわかに明るくなった。
「おー、結構服も揃ってるじゃん。
 ま、アタシは後でいいとして……まずは海部ヶ崎の服だな。どうする?」
そう言って海部ヶ崎の方を見ると、既に真剣な顔をして服を物色していた。
(何だ、興味なさそうな感じだったけど意外とそうでもないのか
 ……それとも、本当に山育ちの野生児で服屋なんか入ったことないから珍しいとか?)
若干失礼なことを考えつつ眺めているが、当人はそれどころではないようだ。
あちこちハンガーを手にとっては戻してを繰り返している。……少し楽しそうにも見える。
「ま、あっちは楽しんでるみたいだし、あたしは先にシャワーを借りるとしますかね。
 おーい氷室、シャワー室はどこ──」
「そればかりか、四傑でもないエースという男ですら、私に近い実力を持っている。
 解るか? お前は私らに持てる力を全て貸すといったが、もはやそれは何の足しにもならない。
 回復能力以上に、今の私達が必要としているのは、奴らに真っ向から対抗できる戦闘力を持つ戦士だ。
 
 ……お前には、明日の朝までに、この『瞬脚』を修得してもらう。
 できなければもうお前に用はない。私の傷を治した後、どこかで怯え、縮こまっていろ。
 連れていったところで、いずれ私達の足手纏いになるのが目に見えているからな」
シャワー室の場所を氷室に尋ねようと入り口の方を振り返った時、そんな言葉が飛び込んできた。
氷室は天木と話をしている。どうやら天木に修行をさせようという魂胆らしい。
「なるほど、体の良い厄介払いか。明日までに?出来る訳が無ェ。大体、俺は元は非戦闘員だぜ。
あンな化け物との戦いなンざ、俺がどうこう出来ねェだろッ!
あァそうだ、足手まといだろうさ。言われるまでもねェ、傷を治してさっさとオサラバしてやらァッ!」
天木が半ばヤケクソ気味に叫ぶ。その直後に膝から崩れ落ちた。
その光景を見ていた菊乃は、溜息を一つ吐くと、二人の元へ歩いていった。

「おいおい、やりもしないで諦めんのかい?情けないねぇ。
 アタシと闘った時のあの闘志はどこいった?あん時のアンタは中々よかったぜ?
 なんつーかこう、アタシの一挙一動見逃さない、盗める技術(こと)は全部盗んでやる──みたいな感じだったな」
天木がゆるゆると顔をあげてこちらを見る。その瞳は力なく揺れていた。
「確かにアンタ一人でやったんじゃ習得は難しいかも知れない。
 ──そこで、だ。アタシも一緒に修行する。
 実のところ、アタシも『瞬脚』が完全に出来るわけじゃないんだ。
 似たようなことは出来るんだが、能力との併用で誤魔化してるに過ぎない。
 出来るなら今の内に身に付けておきたい。いざという時に能力(ちから)が使えないと困るからな。
 ……それに、一人より二人の方が効率がいいと思わないかい?」
天木は驚いた表情をしている。菊乃の申し出が余程意外だったのだろう。
「別に構わねえよな?出来るヤツは多い方がいいはずだ」
氷室の方を向き、悪戯が成功したようにニヤリと笑った。

【神宮 菊乃:服屋に到着。天木に自分も共に修行することを申し出る】
37氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/02/05(土) 03:32:31 0
>>34>>35>>36
「確か北東に…あった! 洞窟は北東にあります。たぶん…」
そういって鎌瀬が取り出した機械は、見た感じGPSのようだが、
それには島の北東を記す詳細な地図が描かれていた。
ワイズマンの特殊防壁に囲まれているこの島のことだ。
多分、ただのGPSでは電波を妨害され、詳細な地図を写し出すことなど不可能に違いない。
ということはつまるところ、彼が持つ機械は通常のものとは違う特殊なものであり、
却ってデータは信用に値する確かなものであるということなのだろう。
「なるほど、北東か」
礼を言う──続けてそう言おうとして、氷室は喉元まででかかった言葉を飲み込んだ。
一瞬早く、横からの天木の声に遮られたのだ。

「なるほど、体の良い厄介払いか。明日までに?出来る訳が無ェ。大体、俺は元は非戦闘員だぜ。
あンな化け物との戦いなンざ、俺がどうこう出来ねェだろッ!
あァそうだ、足手まといだろうさ。言われるまでもねェ、傷を治してさっさとオサラバしてやらァッ!」
「……」

氷室は、敢えて何も言わずに、じっと天木の目を見つめていた。
その視線に押されるように、やがて天木は目を逸らすと、
ガクッと膝を折ってその場にへたり込んだ。
明らかにこれまでの戦闘は次元の違う、正に異能の闘いというのを目の当たりにしたのだ。
どうしていいのかわからなくなったのだとしても、それは無理もないことである。だが──。

「おいおい、やりもしないで諦めんのかい?情けないねぇ。
 アタシと闘った時のあの闘志はどこいった?あん時のアンタは中々よかったぜ?
 なんつーかこう、アタシの一挙一動見逃さない、盗める技術(こと)は全部盗んでやる──みたいな感じだったな」

と、無言が漂う二人の間に割って入ってきたのは、神宮であった。

「確かにアンタ一人でやったんじゃ習得は難しいかも知れない。
 ──そこで、だ。アタシも一緒に修行する。
 実のところ、アタシも『瞬脚』が完全に出来るわけじゃないんだ。
 似たようなことは出来るんだが、能力との併用で誤魔化してるに過ぎない。
 出来るなら今の内に身に付けておきたい。いざという時に能力(ちから)が使えないと困るからな。
 ……それに、一人より二人の方が効率がいいと思わないかい?
 別に構わねえよな?出来るヤツは多い方がいいはずだ」

向き直ってニヤリと笑う神宮に、氷室は「好きにしろ」と返すも、こう付け加えた。
「けど、この様子じゃ関わるだけ時間の無駄だろうな」
吐き捨てるような冷たい一言。
うなだれる天木に背を向けて、平然と建物に入っていく氷室の姿は、
文字通り彼を突き放し、見放したことを周囲に知らしめるかのようであった。
だが──だがしかし、氷室の本心は決してそうではない。
彼女は、最後の最後で、その本心を覗かせようにこうも付け加えた。

「人は誰しも、初めは赤子だ。……天木、お前は私が初めからこの力を持っていたと思うのか?
 女にできる体術を、何故、男のお前ができないと思いこむ?
 お前は、戦士として最も恵まれた性に生まれついている。
 どんな無理難題であろうと、為せば成る……そのことを忘れるな」
38氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/02/05(土) 03:42:25 0
建物の中では、既に海部ヶ崎が着替えを始めていた。
「話は終わったようだな」
「ああ」
男であったら思わず目を奪われ、直ぐに伏せそうなその光景を横目に、
氷室は平然と無関心に通り過ぎながら、食料箱の上にどかりと座りこむ。
「フフ」
その様子を見て、海部ヶ崎は小さく笑った。
「あのまま冷たく突き放すだけかと思ったら、意外と暖かいところがあるようだな」
意地の悪いものとは違う、非常に心地のよい微笑み。

「……『瞬脚』は確かに一朝一夕で身につくようなものじゃない。
 だが、奴の能力は操作。オーラの体内移動を覚えるには相性がいい。
 それになにより……奴には才能がある。
 私よりも、お前よりも、誰よりも……ひょっとするとひょっとするかもしれない。
 そうなれば私達の負担も減る。そう思ってけしかけてやっただけさ」
「それだけじゃないだろう?」

ボロボロの短パンを下ろし、新しい同色の短パンを穿きながら、海部ヶ崎は続ける。

「このような状況下とはいえ、縁あって知り合った仲だ。
 死なせたくはない……そう思ってるんじゃないのか?」
「……」
「氷室、私はキミのことを、これまであくまで共闘のパートナーとしか見ていなかった。
 だが、今はキミを仲間だと思っているし、彼のことも仲間だと思っている。
 勿論、私を介抱し、怪我を治してくれた恩義からだろうと言われればそれまでだが、
 私がそういった理屈でないものから仲間だと感じているのは事実だ。
 キミの彼に対する感情も、それと同じだ。違うか?」
「……だとしたら、何だ?」

相変わらず顔色に変化はないものの、まるで睨みつけるかのような氷室に、
海部ヶ崎は少しの間も置かずに、先程と同じ微笑を持って返した。

「かつてキミはこう言った。『誰が死のうが、そんなことはどうだっていい』と。
 そんなキミに仲間という意識が芽生え始めている。それが嬉しいんだ。
 人は、やりなおせるものなのだな……霊仙さんの死は、無駄ではなかった」
「一人で何を浸ってるんだ。……下らない」

口ではそう言うものの、氷室は頬をほのかに赤らめながら、プイっと顔を背けた。
それは彼女が人前で初めて気恥ずかしいという感情を見せた時であったかもしれない。

「フフ。さて……私も二人の修業につきあってくるとしよう。
 『瞬脚』なら私も修得している。彼らにとって邪魔にはならないはずだ」
「まだ怪我が完治していないんじゃなかったのか?」
「案ずるな『霞美』。無茶はしない。キミこそ、今の内に傷の回復に努めておくがいい」

いつの間にか上下共に真新しい服に身を包んでいた海部ヶ崎は、
刀を腰のベルトに差しながら、さっと踵を返して出入り口へ向かっていく。
その後姿を見つめながら、しばしの間を置いて、氷室は目を丸くしながら思わず立ち上がった。

「……霞美? 待て、誰が名前で──」
だが、呼びかけた時には、既に視界に海部ヶ崎の姿はなかった。
やれやれと、溜息をつきながら、再び箱に腰を掛ける氷室。
「馴れ馴れしい奴だ」
悪態をつきながらも、心の中に染み渡るような暖かさが、氷室の口元をほんのりと緩ませた。

【氷室 霞美:建物の中で小休止。修業には参加しない模様】
【海部ヶ崎 綺咲:全く同じ服に着替え、建物の外へ出る。修業につきあうつもり】
39天野晴季 ◆TpIugDHRLQ :2011/02/05(土) 13:08:55 0
>>35>>36>>37>>38
「なるほど、体の良い厄介払いか。明日までに?出来る訳が無ェ。大体、俺は元は非戦闘員だぜ。
あンな化け物との戦いなンざ、俺がどうこう出来ねェだろッ!
あァそうだ、足手まといだろうさ。言われるまでもねェ、傷を治してさっさとオサラバしてやらァッ!」
周囲との力の差を痛感し、項垂れる天木
「ええと…天木さん、で良いんですよね?」
鎌瀬が言う
「僕が言うのもおかしい気がしますけど…天木さん。貴方は、努力すれば報われるでしょう? 頑張れば結果が出るでしょう? 走りこめばしっかり足は速くなり、
筋トレすればもちろん筋力は付きますよね…? あ、違ってたらすみません。この話は忘れてください…。
でも僕は…頑張れば頑張るほど、努力すればするほど、駄目になっていくんです…。マイナス方向に成長するんです。努力が決して報われず、
成長するほど劣化する…。僕のオーラの性質ですね。でも貴方は僕と同じじゃない…はずです。僕が言うのも変ですが…努力せずに諦める人は…負け組(こちらがわ)の人間ですよ?
…もっとも、無駄な努力というのも少なからず存在しますが…」
鎌瀬が力なく言う。自分にこんなことを言う権利はない、と思いながらも天木に対して言う。負け組なりの、負け犬なりの、敗北者なりの激励の言葉だ

「確かにアンタ一人でやったんじゃ習得は難しいかも知れない。
 ──そこで、だ。アタシも一緒に修行する。
 実のところ、アタシも『瞬脚』が完全に出来るわけじゃないんだ。
 似たようなことは出来るんだが、能力との併用で誤魔化してるに過ぎない。
 出来るなら今の内に身に付けておきたい。いざという時に能力(ちから)が使えないと困るからな。
 ……それに、一人より二人の方が効率がいいと思わないかい?」
神宮も天木を激励する。一緒に修行をすると言って。
「あ、あの…」
鎌瀬が再び口を開く
「無駄だとは思いますし…寧ろ皆さんに迷惑をかけるかもしれませんけど…
ぼ、僕も一緒に…修行に付き合っても良いでしょうか? 負け犬なりに、負け組なりに、頑張ってみたいんです。…でも、 嫌ならいいんです。すみません…」
「修行ですか。私も付き合いたいですね。私は戦隊物で言えば基地でメカを造る役ですが…
それでも足手まといにはなりたくありませんし…。操る機械のバリエーションも増えるかもしれませんしね」
『私も、良いでしょうか?』
鎌瀬に続き、斎葉、夜深内も修行に付き合いたいと言い出す
「ああ尤も、私は開発中のメカを完成させるのもありますので、あまり長い時間は付き合えませんが…
そうだ。少し修行補助の機械を造って参ります。何も見えないより、数値とかで結が見えた方が、モチベーションも上がるでしょう?」
そういって先程の車に乗り込み、操って何処かへ向かう斎葉。行き先は電気屋だ。
そして…しばらくすると、電気屋ごと戻ってきた。鎌瀬が電気屋を改造して造ったラボである
「お待たせしました。では私は機械の製作に取り掛かります。効率良く、段取り良く、修行できるようにしますから!」
そう言い、修行用のメカを作る作業に取り掛かった斎葉。斎葉の技術力であれば、すぐに完成するだろう
【鎌瀬一行:修行に付き合いたい、と伝える。斎葉巧:修行用の機械と、開発中のメカの製作に取り掛かる】
40鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/02/05(土) 19:43:41 0
>>39
//名前欄ミス
41天木 諫早 ◆0i7FhSLl8w :2011/02/07(月) 23:20:11 0
>>36 >>37 >>39
氷室からは罵声の一つも飛んでこない。元々そういう人間ではないのだろうが、その沈黙には耐えがたいものがあった。

「おいおい、やりもしないで諦めんのかい?情けないねぇ。
 アタシと闘った時のあの闘志はどこいった?あん時のアンタは中々よかったぜ?
 なんつーかこう、アタシの一挙一動見逃さない、盗める技術(こと)は全部盗んでやる──みたいな感じだったな」

突如、別の方向から声がした。振り向くと、神宮がこちらにやってくるところだった。

「確かにアンタ一人でやったんじゃ習得は難しいかも知れない。
 ──そこで、だ。アタシも一緒に修行する。
 実のところ、アタシも『瞬脚』が完全に出来るわけじゃないんだ。
 似たようなことは出来るんだが、能力との併用で誤魔化してるに過ぎない。
 出来るなら今の内に身に付けておきたい。いざという時に能力(ちから)が使えないと困るからな。
 ……それに、一人より二人の方が効率がいいと思わないかい?」

信じられなかった。神宮の言葉が、では無い。これほど心に沁みいる言葉があるなんて、知らなかったのだ。
壊れかけた意思を、心を、掬って繋ぐように。だから、天木はその場から逃げ出さずに居れた。

「あ、あの…無駄だとは思いますし…寧ろ皆さんに迷惑をかけるかもしれませんけど…
ぼ、僕も一緒に…修行に付き合っても良いでしょうか? 負け犬なりに、負け組なりに、頑張ってみたいんです。…でも、 嫌ならいいんです。すみません…」
「修行ですか。私も付き合いたいですね。私は戦隊物で言えば基地でメカを造る役ですが…
それでも足手まといにはなりたくありませんし…。操る機械のバリエーションも増えるかもしれませんしね」
『私も、良いでしょうか?』

それに続いて鎌瀬や斎葉、夜深内まで一緒にやる、と言い出す。
穿った見方をしてるのは自分の方だ。それは、解っている。だが、本当に、出来るのか?自分は、あの化け物と、もう一度対峙出来るのか?

――解らない。

「別に構わねえよな?出来るヤツは多い方がいいはずだ」
「好きにしろ。――けど、この様子じゃ関わるだけ時間の無駄だろうな」

突き放すような氷室の言葉。予想していた一言だ。おそらく、無駄に終わる。だけど、――思考の途中で、氷室が去り際に呟いた言葉が脳を貫いた。

「人は誰しも、初めは赤子だ。……天木、お前は私が初めからこの力を持っていたと思うのか?
 女にできる体術を、何故、男のお前ができないと思いこむ?
 お前は、戦士として最も恵まれた性に生まれついている。
 どんな無理難題であろうと、為せば成る……そのことを忘れるな」

氷室は建物の中に姿を消し、しばしの静寂。そして天木はおもむろに立ち上がる。
突っかかるように歩き出し、そのまま建物の壁に向かって。

――ガンッ!!!

硬い壁に、渾身の頭突きを放った。

「――――ッてェェェェェッ!!!!!!!」

神宮が見ている。馬鹿な事をしている、と思われているかも知れないが、これでいい。今はこれでいい。
信じてやってやる。もう一度、奴等と対峙する力をつける為に。

「痛たたた、…悪ィ、神宮、世話かけちまッた。すまねェ、ありがとう」

痛みに顔をしかめながら、天木はばつが悪そうに笑う。

「もう、大丈夫だ。ンじゃァ、一丁やッてみるかィッ!」
42天木 諫早 ◆0i7FhSLl8w :2011/02/07(月) 23:22:07 0
>>41 (続き)

その後、修行に付き合う人数はまた増えた。
氷室と入れ替わりに海部ヶ崎がやってきて、修行に付き合おうと言ってくれた。



「あァくそ、オーラの移動までは上手く行くンだがなァ…」

当然だが、瞬脚の修得はそんなに上手くは行かなかった。
まず気操で足にオーラを集中し、増幅された脚力で一気に移動する。
『気操』は出来る。むしろ、かなり得意な方だろう。
能力の性質上、どの物体をどれほどのオーラで動かせるか、天木は感覚で掴んでいた。それの応用で、必要量のオーラの配分はとても高い精度を持つことが出来る。
だが、問題は別の場所にあった。オーラ移動の精度ではなく、速度。そして、何より高スピード時の動きと体の制御である。

オーラを足へ必要量、高速で移動。そのまま増幅された脚力、感覚で移動する。
何度も地面に突っ込んだり神宮にぶつかったり、移動速度に気を取られすぎて必要量以上のオーラを注ぎ込んで、速度の調節が効かなかったり。
生傷を増やしながら、それでも氷室の言ったように、確かな手ごたえを掴んでいけた。
形が出来かけている、そう海部ヶ崎が褒めてくれた。だが、天木のオーラ量にそろそろ限界が来ていたのだ。

「傷の回復にオーラのブースト、戦闘に訓練・・・流石に俺のオーラがもたねェや、オーラの量には自信があッたンだけどなァ」

道路に大の字になって、参った、と天木は呟く。よろよろと立ち上がり、近くにおいてあったスーツケースを開けて、何かのカプセルを取り出した。

「もしもオーラが尽きた時の為に作った薬だが、使うたァ思わなかッたぜ。飲めばちょいと寿命を削って、オーラを回復出来る筈なンだ。
…筈、ってェのは、俺専用に調整した薬で、まだ俺も試したことがねェからなンだが」

とヘラヘラ笑いながら、躊躇無くその薬を口に放り込む。

「…俺がこンな風に動けるなンて、思わなかッた。海部ヶ崎も、付き合ってくれてありがとなァ。回復すりゃァ、また直ぐにやる。感覚は掴みかけてンだ…」

しばしの休憩、そんな雰囲気になった。皆思い思いに寛ぐ中、天木が口を開く。

「そういやァ、海部ヶ崎も、神宮も…なンで最初から戦えたンだ?瞬脚だって…氷室は氷室で無茶苦茶強ェし、鎌瀬だってその歳で能力を使いこなせてる訳だろ、
考えてみりゃァ全然知らねェからさ」

【天木 諫早:吹っ切れて修行中。オーラの回復をしながら、修行中のメンバーへ質問する。】
43神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/02/10(木) 04:31:42 0
>>37>>39>>41>>42
「好きにしろ。けど、この様子じゃ関わるだけ時間の無駄だろうな」
未だ立ち上がらない天木に向かって冷たい言葉を浴びせると、氷室はその場を立ち去ろうとする。
だが建物に入る直前、ポツリと独り言のように呟いた。
「人は誰しも、初めは赤子だ。……天木、お前は私が初めからこの力を持っていたと思うのか?
 女にできる体術を、何故、男のお前ができないと思いこむ?
 お前は、戦士として最も恵まれた性に生まれついている。
 どんな無理難題であろうと、為せば成る……そのことを忘れるな」
それだけ言うと、今度こそ建物の中に入っていった。
(はっ、素直じゃねえな)
>>37>>39>>41>>42
「好きにしろ。けど、この様子じゃ関わるだけ時間の無駄だろうな」
未だ立ち上がらない天木に向かって冷たい言葉を浴びせると、氷室はその場を立ち去ろうとする。
だが建物に入る直前、ポツリと独り言のように呟いた。
「人は誰しも、初めは赤子だ。……天木、お前は私が初めからこの力を持っていたと思うのか?
 女にできる体術を、何故、男のお前ができないと思いこむ?
 お前は、戦士として最も恵まれた性に生まれついている。
 どんな無理難題であろうと、為せば成る……そのことを忘れるな」
それだけ言うと、今度こそ建物の中に入っていった。
(はっ、素直じゃねえな)
氷室の心の内を知っていたわけではない。
が、天木をここまで連れてきた時点でこうなるであろう事はある程度予想がついていた。

「あ、あの…無駄だとは思いますし…寧ろ皆さんに迷惑をかけるかもしれませんけど…
ぼ、僕も一緒に…修行に付き合っても良いでしょうか? 負け犬なりに、負け組なりに、頑張ってみたいんです。…でも、 嫌ならいいんです。すみません…」
「修行ですか。私も付き合いたいですね。私は戦隊物で言えば基地でメカを造る役ですが…
それでも足手まといにはなりたくありませんし…。操る機械のバリエーションも増えるかもしれませんしね」
『私も、良いでしょうか?』
続いて鎌瀬、斎葉、夜深内が声をかけてくる。自分達も手伝う、と。
(何だ、いいヤツばっかりじゃねえか)
小さく笑いながら皆の行動に感心していると、ようやく天木が立ち上がった。
そしてフラフラと建物に──正確には建物の壁に向かって歩き出した。
何をするのかと思った次の瞬間──天木は壁に向かって思い切り頭突きをしたのだ。

「――――ッてェェェェェッ!!!!!!!」

天木の絶叫が響き渡る。
(何してんだコイツ──ああ)
最初は何をしているかと思ったが、少ししてその行動の意味を悟った。
(あれは天木なりの気持ちの切り替えってわけか。なるほどな)
そしてそれも終わり、天木がこちらを向く。

「痛たたた、…悪ィ、神宮、世話かけちまッた。すまねェ、ありがとう」
「気にすんな。困った時はお互い様、だろ?」
天木の言葉に対し、軽くウィンクしてそう答えた。
「もう、大丈夫だ。ンじゃァ、一丁やッてみるかィッ!」
(吹っ切れたようだね。これならもう心配ないか)
天木の言葉と共に、『瞬脚』の修行が開始されたのだった──


修行開始の直前、着替えを終えた海部ヶ崎も合流して、更に人数は増えた。
聞けば海部ヶ崎は既に瞬脚を修得しているらしい。この上ない助っ人だった。
その海部ヶ崎は今、天木に付っきりで指導している。
菊乃も最初は少し教わっていた。しかし基本を教わった後は、天木について欲しいと言って向こうに行って貰ったのだ。
その天木は、やはりと言うか大分苦戦しているようだった。
無理もないだろう。つい最近まで、戦闘に関しては全くの素人だったのだ。
いきなり戦闘技術を覚えろと言われても、容易に修得できるはずはない。
しかしそれでも確実に進歩している。それもかなりの速度で。
44神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/02/10(木) 04:35:34 0
(やっぱ思った通り筋は悪くなかったみたいだな)
菊乃はそんな事を考えつつも、既に修得しつつある瞬脚の練習を繰り返していた。
元々独力で瞬脚に近いことは出来ていた。そこに基本を教えて貰ったのだから、修得は早い。
更に言うなら、菊乃も気操はそこそこ得意としていた。
能力の性質上直接攻撃には向かないので、攻撃は己の肉体で行うしかないのだ。
とは言ったものの、それにも限界はある。そこで編み出したのが『重力の戦槌』なのだが──今はどうでもいい。

その後も暫く修行は続けられた。
そして天木がオーラの限界に達した時には、菊乃は瞬脚をマスターしていた。
天木が回復するまで、暫しの休憩となる。
「…俺がこンな風に動けるなンて、思わなかッた。海部ヶ崎も、付き合ってくれてありがとなァ。回復すりゃァ、また直ぐにやる。感覚は掴みかけてンだ…」
天木が海部ヶ崎に対し、礼を述べる。海部ヶ崎は微笑みながら返した。
「そういやァ、海部ヶ崎も、神宮も…なンで最初から戦えたンだ?瞬脚だって…氷室は氷室で無茶苦茶強ェし、鎌瀬だってその歳で能力を使いこなせてる訳だろ、
考えてみりゃァ全然知らねェからさ」
皆が休んでいる中、不意に天木が質問してくる。それに対し真っ先に返答したのは菊乃であった。

「最初から?……ああ、この島に来てすぐって事か?
 それなら話は簡単さ。アンタとは歩いてきた道が違うからだよ。アタシも海部ヶ崎も、そして氷室も、な。
 丁度いいから少しアタシの事、話しておくか。アンタも不思議に思ってただろ?アタシの体」
天木に目を向けると、軽く頷いて返してきた。
彼も、以前闘った時に感じた菊乃の──主に体の──異常性がずっと気になっていたのだろう。

「では改めて。アタシは神宮 菊乃、歳は16だ。ぶっちゃけて言うと100%人間じゃねえ」
その言葉に、皆驚きを示している。
ただ、海部ヶ崎だけは他の人間ほど驚いてはいなかった。
「そういや海部ヶ崎には少し話したんだったな……。
 繰り返し言うが、アタシは純粋な人間じゃない。──いや、なくなったと言うべきかな。
 アタシはガキの頃からカノッサの研究機関にいてね。まぁ早い話、人体実験の被験体だったんだよ。
 実験の内容については割愛させてもらう。聞いても仕方ねえだろうし話すつもりもねえ。
 …っと、話が逸れたな。アタシはその研究所で実験を受けた結果──痛覚を抜き取られた挙句、サイボーグになっちまったってわけだ。
 つっても、まだ半分以上は人間だ。人間として見てくれると嬉しい。
 戦闘技術に関してはそこで叩き込まれた。──まぁ初めて使ったのがその研究所の研究員を殺すためだったっつーのは皮肉な話だがな」

そこで一旦言葉を切る。
周囲の反応は驚き7割、その他3割といったところだった。

「ま、何が言いたいかっつーと結局さっきの氷室の言葉の繰り返しだ。
 最初から闘える人間なんかいない。
 海部ヶ崎も氷室も、アタシと道は違えどおよそ普通の人間とはかけ離れた道を歩いてきたんだろうよ。
 別に自慢するわけじゃないが、そこにアンタが追いつこうとしても簡単にはいかねえ。
 だから今修行してるんだろ?……少しでも追いつこうとするために」
菊乃はそこで話をやめて立ち上がると、徐に天木に近づき、バンッとその背中を強く叩いた。
天木が抗議の声を上げるが、それを無視して再び口を開いた。
「もし追いつく気があるなら、下らねえ事考えてないで少しでも努力しな。
 男は無謀で我武者羅なくらいが丁度いいんだよ。
 ……大分話が長くなっちまったな。ま、アンタも謎が解けてよかっただろ?
 んじゃ、アタシは今度こそシャワーでも浴びてくるわ」
そう言い残し、菊乃は建物の中へと入っていった。

屋内に入ると、奥にある食料と思われる箱に座っていた氷室と目が合った。
無言で数秒間視線を交わした後、菊乃はニッと笑って氷室に話しかけた。
「シャワーのある場所、教えてくんねえか?」

【神宮 菊乃:天木を激励。建物内に入り、氷室にシャワー室の場所を尋ねる】
45鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/02/10(木) 20:13:08 0
>>41>>42
そんなこんなで、鎌瀬達は修行を開始した
「ええっと…まずオーラを足に…こうかな?」
オーラ移動は順調にできている鎌瀬。しかし…
「ってうわあああああっ…!」
生まれたての子鹿のように、突然立てなくなった。
「…やっぱり。僕じゃオーラの性質上無理なんだ…僕が頑張ったって無意味なんだよ…」
早速弱音を吐く鎌瀬。幾ら何でも早すぎる。
『うーん、こうですかね。なかなか難しいです』
そう言いながらも、そこそこ上達していく夜深内。
その後もどんどん修行を続ける5人。ほぼ瞬脚をマスターしつつある神宮、すでに修得している海部ヶ崎、まだ不完全であるものの、順調にいっている天木、そこそこうまく出来ている夜深内。
その4人からどんどん離されるように、鎌瀬だけは全く上達しなかった…
オーラの移動こそ上手くいっているものの、それが足を強化するどころか寧ろ劣化させている。
そんなこんなで鎌瀬だけは全く上達しないまま、休憩時間となった
そこで天木が皆に、
「そういやァ、海部ヶ崎も、神宮も…なンで最初から戦えたンだ?瞬脚だって
…氷室は氷室で無茶苦茶強ェし、鎌瀬だってその歳で能力を使いこなせてる訳だろ、
考えて見りゃァ
46鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/02/10(木) 22:04:39 0
全然知らねェからさ」
と聞いてきた。始めに答えたのは神宮。そして、神宮が答えた後、鎌瀬も口を開いた
「えっと…離せば長くなるんですけど、…僕は生まれた時からこの欠点(のうりょく)を抱えているんですよ。
生まれた時から他の子供より力が弱くて。ハイハイ出来るようになったのも、立てるようになったのも、歩けるようになったのも…他の子供より半年程遅かったんですよ
もちろん親に心配されましたし、僕も僅かながらの劣等感を抱いてました…
で、幼稚園に入ったのですが…そこでは運動も、勉強も、工作も…何もかも他の子より劣ってたんです。
で、馬鹿にされるのが悔しくて…たくさん努力したんですけど…
それでも追いつけず、劣等感が強くなり、そして僕の能力はどんどん悪化(きょうか)していき…
そこからはもう悪循環(トントンびょうし)ですよ。僕は益々弱くなる一方でした…
そんな僕に転機が訪れたのが10歳の時。その時に本屋で偶然見かけた本…“オーラ”と言う本でした。
僕は引き寄せられるようにその本を手に取りました…。その本を読んで気づいたんです。僕の弱さは能力のせいなんだって。
さらに僕は閃きました。どんなに頑張っても、努力しても高みに追い
47鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/02/10(木) 22:50:12 0
つけないなら…周りを引きずり堕ろせば良いんだ…って
それから僕は自分の能力を使いこなす訓練に明け暮れました。来る日も来る日も…
そして何年も積み重ねて、ついにここまで使いこなせるようになったんです。
…いやぁ、僕の能力で他の人がどんどん蝕まれるのは。他の人の努力がじわじわ崩れていくのは。本当に傑作でしたよ…!
…って思ったより長くなってしまいました。すみません…」
長く話した後、謝る鎌瀬。するとそこへ…
「皆さん、誠にお待たせいたしました。訓練用のメカが完成しましたよ!」
斎葉が人数分の機械…ゴーグルのような物とブレスレットの様なもの、を持ってきた
「さぁ、休憩が終わりましたら其れをお付けになって下さい。あなた方の訓練に必ず役立ててみせますよ!
それが有ればオーラの移動、その度合い、スピード…あらゆる物を一度に知ることが出来ますから!」
と、機械の説明をする斎葉。そこそこの自信だ
【鎌瀬犬斗:天木に自分のことを伝える 斎葉巧:完成させた訓練用の機械を持ってくる】
48海部ヶ崎 綺咲:2011/02/11(金) 15:14:09 0
>>42>>43>>44
(氷室の見立て通りだな)
修業が開始されてからおよそ数時間──
オーラの体内移動を繰り返す天木の姿を見て、海部ヶ崎はそんなことを思っていた。
未だ彼の『瞬脚』は完成されていないとはいえ、時間が経つたびに着実に、
それも常識では考えられない程の驚くべきスピードで成長しているのだ。

(僅かに数時間前まで何も知らず、何もできなかった奴の動きとは思えない。
 この男は磨けば直ぐに輝きを発する原石……天才というやつかもしれない。
 フッ……うかうかしていると直ぐに抜かれてしまうな)

グッと、愛刀が納められた鞘を握り締める海部ヶ崎。
それは、天木が疲労によって道路に倒れこみ、よろよろと立ち上がったのと同時であった。
「傷の回復にオーラのブースト、戦闘に訓練・・・流石に俺のオーラがもたねェや、オーラの量には自信があッたンだけどなァ」
「なに、これまで一度も休み無しで修業に励めば疲れもする。大したものだ」
言いながら、海部ヶ崎は自分の腕時計を見せ付ける。
そこに記された時間は、既に午前0時を過ぎていた。
修業を始めてから七時間は経過しているという計算になるだろうか。
意外にも海部ヶ崎の言葉に驚く者はいなかったが、
それでもやはり疲労は誤魔化せないのだろう、自然と休憩に入る雰囲気となった。

「そういやァ、海部ヶ崎も、神宮も…なンで最初から戦えたンだ?瞬脚だって…氷室は氷室で無茶苦茶強ェし、鎌瀬だってその歳で能力を使いこなせてる訳だろ、
考えてみりゃァ全然知らねェからさ」
休憩中、ふと天木が言った言葉に、神宮や鎌瀬は詳しく答えて見せたが、海部ヶ崎は答えようとはしなかった。
神宮の「およそ普通の人間とはかけ離れた道を歩いてきた」という台詞が全てを的確に表していたし、
父親を氷室らに殺され、それが切欠で戦闘訓練を積んだなどと、言ったところでどうしようもないと思ったのだ。
ましてや狂戦士を生み出したカノッサ、そこの四天王に氷室がいたなどと言えば、
予め事情を知る神宮はともかくとしても、他の者達が果たしてどう思うか……。

世の中、知らないこともあった方がいい……過去を蒸し返さない方がいい場合もある……
つまり、そういうわけなのだろう。

「んじゃ、アタシは今度こそシャワーでも浴びてくるわ」
話に一段落ついたところで、修業を終えたのであろう神宮が建物へと去っていく。
残された面々も、それを合図に休憩を終了し、各々の修業へと移っていった。
「夜明けまで残りはおよそ六時間。氷室は厳しいから一分足りともオーバーしたら見限られるぞ。
 さぁ、気合入れなおせよ、天木──」

一方、建物の中では、神宮が氷室にシャワールームの場所を訊いていた。
「……」
既にシャワーと食事、着替えを済ませていた氷室は、
ほのかに石鹸の匂いのする親指を立てて、二階へと通じる階段を指した。

【海部ヶ崎 綺咲:小休止の後、修業再開】
49ユーキ・クリスティ ◆IlJSvlNw7Q :2011/02/12(土) 20:25:45 0
日も暮れた廃港の倉庫から、一人が出る。
黒い布を頭からすっぽり被った姿は、背格好で見れば少年だ。
名を、ユーキ・クリスティと言う。
その"少年"は足早に、かつ足音を決して立てぬように廃港を出る。

(ここは主戦場にならなかったみたいだけど、安心はできないね……。
 とにかく、補給源を探さなきゃ。大丈夫。目視されなきゃ、気付かれはしない……)

体内のオーラの流れに集中し、それを体内に遮断する。
これで、オーラで感知されることはない。
他の能力者が放出する微弱なオーラを、全神経で集中し感じ取りながら身を隠しつつ進む。
進みながら、適当な家屋を探す。食料だけならば、そこで確保できる筈だから。

(やっぱり、この時間なら……戦闘は少ないね……)

感じるオーラの量・質が、違う。
昼間に廃港付近で戦闘があったらしい時に感じたオーラは、それこそ嫌でも感じられるものであった。

(あった)

線路沿い、森林側に建てられた平屋が目に付く。
見る限り明かりも付いていない。オーラも感じられない。
扉を開け、そのまま土足でキッチンへ向かう。
棚、冷蔵庫。あらゆる場所に、食材は備蓄されているようだ。
ご丁寧に、調理環境まである。ただし、火は自分で起こさなければいけないようではあるが。

(流石に、そこまでするわけには行かないかな)

料理もしたかった所だが、そこは隠密性を取る。
干肉や乾パン、ドライフルーツと言った加工せずに食せる物や水を、その辺りに転がっていた袋に詰める。
その袋を担ぎ、キッチンを出ようとした瞬間、背筋に嫌な感覚を覚えた。

(オーラ……!?どうして……)
50ユーキ・クリスティ ◆IlJSvlNw7Q :2011/02/12(土) 20:27:15 0
「同じことを考える奴が居るとは、思わなかったのかい?」

気づいた時には遅かった。いきなり扉が開き、ぐるんと体が回されて後ろから抱きしめられる形になる。
自分の口をふさぐその手の大きさから、相手は成人男性と判断する。

「残念だったねお坊ちゃ……ん?んんんん????」

胴を締め付けていた腕が胸部まで上がると、男は面白がるような声を上げた。
その隙を見逃す手はなかった。右太腿のホルスターからそっと拳銃を引きぬき、そのまま手首だけで銃口を男の太腿に押し当て、射撃。
銃声と共に拘束が緩む。すっと抜け出し、適当に腹の辺りに三発。

(全く、私は本当に、運が無い)

「テメェ!!よくも……よく――」

「やっぱり、オーラを纏っていれば、高々銃弾の二、三発じゃ死なないか……」

呟き、四発。頭を狙う隙はないのでまた腹に撃ち込む。
三発目で男はぐ、と呻き、傷口に手を当てる。その手も四発目に貫かれ、男は苦悶の表情を浮かべる。

(相手がどの程度か判らないけど、私と同じ事を決め込む奴だ。小物には違いない)

銃口を、腹を抱えたことで下がってきた男の頭に向ける。

「ひ……!やめて……許して……!」

「……」

銃口を下げ、両膝を撃ち抜く。
銃弾をリロードしながら、立ち上がれずに震える男に吐き捨てるように、呟く。

「不意打ちをしておきながら、命乞いか……見苦しい」

屈み込み、銃口を眉間に押し当てた。

「じゃあな」

発砲。立ち上がり、念押しとしてその背中に四発撃ち込んでから、落とした袋を背負って家を出ようとする。

(……成程。私は本当に、運が悪いな……)
51ユーキ・クリスティ ◆IlJSvlNw7Q :2011/02/12(土) 20:31:54 0
外から、微かに足音と声が聞こえたのだ。

「この家から銃声がしたぞ」

「成程。殺し合いの最中か。喧嘩両成敗しちまおうぜ」

(……男ふたり……か。流石に逃げ切れる訳、無いよね)

「……仕方ないか」

纏っていた布を外し、押さえ込んでいたオーラを体に行き渡らせる。
温かい液体が血液と共に流れていく感覚と共に、体に力が漲る。

(ここまでやっても、その辺の運動が得意な少年程度なんだけどね……)

自分に身体能力があったなら、オーラを纏うだけでどれだけ違うのだろうか、などと考えつつ、カウントダウン。
三。足音が止まる。
ニ。ドアノブが捻られる。
一。扉が向こうから開き……

「零!」

右手に持っていた布を投げつけ、視界を奪われた男達の横を抜ける。
適当な距離を置いた所で振り向き、地面に手を付く。

「悪いが……生かして返すわけには行かないよ」

その手に溜めたオーラを、地面に走らせる。
五指から伸びたそれらは魔方陣を描くと、一瞬の発光の後消え、そこから影が伸びる。
身長180cm程の泥の人形。

「マテリアル・アニメイティング……クレイゴーレム!僕の敵を穿て!」

クレイゴーレムが走る。その速度は、先程ユーキが走ったものとは比べものにならない。
その速度を以ての、拳の一撃。完全に不意を打たれた一人はそれを頭に食らって伸びるが、気づいていたらしいもう一人は身を屈めて躱す。

「ンのォ……野郎ッ!」

男は、屈めた身を伸ばしてのアッパーを放つ。
軽くよろめいたクレイゴーレムの上半身が爆発し、吹き飛んだ。
しかし砕け散った上半身は、ユーキの操作術により粉塵と化し、男の視界を奪う。

「爆発のオーラ……変化術の一種かな?やるもんだね。ところで……」

カシャ、と。ホルスターから拳銃が引き抜かれる音を、粉塵の中で男は聞いた。

「頭はそこかい?」

五連発。頭、頭、胸、肩、肩と穿たれる。
ユーキは粉塵をクレイゴーレムに再構築すると、頭を抱えた男の姿を視界に収めることができた。

「あらら、当たり所が悪いね……」

その言葉と同時、クレイゴーレムの拳が男の頭を上からかち割った。
その勢いでひざまづく体制となったクレイゴーレムは、そのまま土へと還る。
埃まみれとなった黒布をつまみ上げ、それを払って羽織りながら、ユーキは呟く。

「さて、新しい隠れ場所、探さなきゃね……」
52ユーキ・クリスティ ◆IlJSvlNw7Q :2011/02/12(土) 20:32:35 0
出来れば、同じ場所を二日続けては使いたくない。
そうなれば、他に隠れ場所となる建物が多いところといったら。

「市街地、か。銃弾も探さなきゃいけないしね」


市街地に着いたユーキが一番最初に目にしたのは、ひとつだけ明かりのついた建物。
内装を見る限りは、服飾店だろう。が、

(あれじゃあ、敵に"ここに自分たちが居ます"って言っているようなものじゃないか……。
 よほど自分達に自信があるのか、或いは只の平和ボケか……)

それと、その付近に居る数名の能力者。
見た感じ、戦闘をしているようには見えないが、使っている歩法には覚えがある。

(瞬脚か……。仲間意識を持って行動しているように見える所から、訓練か何かかな。
 今の所特に他のオーラや気配も感じないし、少しだけ興味がある。拝見させて貰いましょう)

【ユーキ・クリスティ:修行を物陰から覗く】
53天木 諫早@代理:2011/02/15(火) 21:58:51 0
「最初から?……ああ、この島に来てすぐって事か?
 それなら話は簡単さ。アンタとは歩いてきた道が違うからだよ。アタシも海部ヶ崎も、そして氷室も、な。
 丁度いいから少しアタシの事、話しておくか。アンタも不思議に思ってただろ?アタシの体」

そういう神宮に、天木は神妙に頷く。そう、異常なタフさと耐性の高さ。

「では改めて。アタシは神宮 菊乃、歳は16だ。ぶっちゃけて言うと100%人間じゃねえ」
「そういや海部ヶ崎には少し話したんだったな……。
 繰り返し言うが、アタシは純粋な人間じゃない。──いや、なくなったと言うべきかな。
 アタシはガキの頃からカノッサの研究機関にいてね。まぁ早い話、人体実験の被験体だったんだよ。
 実験の内容については割愛させてもらう。聞いても仕方ねえだろうし話すつもりもねえ。
 …っと、話が逸れたな。アタシはその研究所で実験を受けた結果──痛覚を抜き取られた挙句、サイボーグになっちまったってわけだ。
 つっても、まだ半分以上は人間だ。人間として見てくれると嬉しい。
 戦闘技術に関してはそこで叩き込まれた。──まぁ初めて使ったのがその研究所の研究員を殺すためだったっつーのは皮肉な話だがな」

驚いた。そう、立場は違えど、まかり間違えば神宮が狂戦士になっていてもおかしくなかったという事実に。
そして目の前の、どうみても人間の少女が既にサイボーグ化していることに。
その後の激励も、納得が行った。なるほど、確かに全く彼女は違う道を歩いてきたのだ。
去り行く背中に、天木が声をかける。

「悪かったなァ、変な事聞いて。…いや、知れてよかった。ありがとう、なァ」

次に鎌瀬が口を開く。

「えっと…離せば長くなるんですけど、…僕は生まれた時からこの欠点(のうりょく)を抱えているんですよ。
生まれた時から他の子供より力が弱くて。ハイハイ出来るようになったのも、立てるようになったのも、歩けるようになったのも…他の子供より半年程遅かったんですよ
もちろん親に心配されましたし、僕も僅かながらの劣等感を抱いてました…
で、幼稚園に入ったのですが…そこでは運動も、勉強も、工作も…何もかも他の子より劣ってたんです。
で、馬鹿にされるのが悔しくて…たくさん努力したんですけど…
それでも追いつけず、劣等感が強くなり、そして僕の能力はどんどん悪化(きょうか)していき…
そこからはもう悪循環(トントンびょうし)ですよ。僕は益々弱くなる一方でした…
そんな僕に転機が訪れたのが10歳の時。その時に本屋で偶然見かけた本…“オーラ”と言う本でした。
僕は引き寄せられるようにその本を手に取りました…。その本を読んで気づいたんです。僕の弱さは能力のせいなんだって。
さらに僕は閃きました。どんなに頑張っても、努力しても高みに追いつけないなら…周りを引きずり堕ろせば良いんだ…って
それから僕は自分の能力を使いこなす訓練に明け暮れました。来る日も来る日も…
そして何年も積み重ねて、ついにここまで使いこなせるようになったんです。
…いやぁ、僕の能力で他の人がどんどん蝕まれるのは。他の人の努力がじわじわ崩れていくのは。本当に傑作でしたよ…!」

「お前、そンなダークな奴だッたンだなァ…くく」

初めて知る以外な一面に、思わず笑ってしまう。理由はどうあれ、彼はコンプレックスを武器に成長を遂げていたのだ。その劣等感(ちから)は確実に彼のエネルギーなのだ。

「皆さん、誠にお待たせいたしました。訓練用のメカが完成しましたよ!」
「さぁ、休憩が終わりましたら其れをお付けになって下さい。あなた方の訓練に必ず役立ててみせますよ!
それが有ればオーラの移動、その度合い、スピード…あらゆる物を一度に知ることが出来ますから!」

「いやァ、こっちも丁度話が終わったとこだ、それぞれのルーツは面白ェもンだな」

にひひ、と笑って。

「ンじゃァ、そのすげェメカを使わせて貰おうかねェ。数値化すりゃァ、何が課題でどうすりゃ良いか、解ンだろッ!」

オーラを開放する。回復したオーラ量は、先ほどよりも多いぐらいだ。

「練習後半戦、行ってみるかッ!……!」
54天木 諫早@代理:2011/02/15(火) 22:03:49 0
そこで天木は気付いた。
巻きつけたワイヤーが、異常を示している。
誰かが、天木のトラップの上に、『乗った』。

慎重に周囲を見渡す。異常を示したワイヤーの位置から、隠れている大体の場所が解るが、…本当にそこに居るのか?自信がもてない。
何しろ、全く気配が無いのだ。異常は確かにその上に誰かがいる事を示している。重さの度合いから体格もわかるが…それでも信じられないほどの、存在の希薄さ。
恐らく周りも気付かないのは、オーラによる感知が出来ていないからだろう。つまり、敵はオーラを一切放っていない。
それはつまり、奇襲の可能性もあるということだ。
流石にこの人数に攻撃してこないと思うが、四天王、エースレベルの能力者なら、瞬脚を修得すらしていない者が束になって勝てるのか、

――解らない。解らないから、彼は海辺ヶ崎に、ひっそりとメッセージを伝える。小石を動かして、地面に地図と文字を書くことで。

『この場所に誰かが潜んでいる。先手を、俺が取る。』

真剣な眼差しを海辺ヶ崎に向けて、天木は何事も無かったかのように修行を再開した…ように見えた。
地面が爆発するかのように割れて、ワイヤーがのたうち、その物陰にいるはずの人物を絡め取ろうと襲い掛かる。

「そこにいる奴!何が目的だィ!?」

天木が正体不明の人物に向かって、呼びかけた。

【天木、潜んでいた人物を捕獲しようとする。】
55ユーキ・クリスティ ◆IlJSvlNw7Q :2011/02/15(火) 23:42:24 0
ふと、靴の裏で何かが擦れるのを感じた。

(あぁ、そう言うのもアリか……)

恐らくは、トラップの類であろう。
つくづく、自分が今まで逃げ果せてきたのは、単にオーラからだけだということを認識させられる。
自分の身体能力では、この罠からは逃げられないだろうけど。

(それでも、体の自由くらいは欲しいね……)

オーラを脚に集中させ、纏っていた布を置き去りに、その場から離れるように跳んだ。
その蹴り音を皮切りに、ワイヤーの奔流がユーキを絡め取ろうと襲い掛かる。
その一つが、右の足首に引っかかり、ユーキを宙に吊り上げる。

(まあ、私程度の瞬脚じゃこの程度だよね……)

「そこにいる奴!何が目的だィ!?」

逆さになった視界に、声の持ち主を認識する。

(物陰から見てても思ったけど、随分と怖い人だね……)

ただ、彼は最初にこちらの目的を問うた。
もし本気で殺す心算だったら、罠にかかったと前提して攻撃を放ってきただろう。
つまり、こちらに対して明確な敵意はない可能性のほうが大きい。
それに、これだけの人数。普通に正面突破ならば、やれたとして一人、良くて二人が限界だ。
能力を完全に解放したとして全滅は……本当に頑張れば、くらいか。
それに、完全開放に伴う急激な消耗と、他にも仲間がいる可能性を考えれば、交戦を仕掛けるのはリスクが大きすぎる。

(元々、私の力は正面突破には不向きだしね……)

そう結論づけて、まだ無理をするときではないな、と判断する。

「悪いね。覗いていただけだよ。ちょっと気になったものでね」

言い、ホルスターから拳銃を取り外し、そのままワイヤーを撃ち千切る。

(これくらいは、保険として許される……よね?格好いいし)

彼女が、自分の身体能力はオーラを纏っていなきゃ皆無であることに気づくのは、背中から地面に激突してからであった。
56海部ヶ崎 綺咲:2011/02/17(木) 22:20:07 0
>>54>>55
『この場所に誰かが潜んでいる。先手を、俺が取る。』

天木が地面にそう綴ったのは、修業を再会しようとした直後のことであった。
初め、海部ヶ崎は彼が何を言っているのか理解できなかった。
修行中とはいえ、これまで周囲の警戒を怠ったつもりはない。
接近する第三者の気配があれば、当然、気付けたはずなのだ。

では、天木の勘違いか? ──海辺ヶ崎はそう思ったが、直ぐにそれを打ち消した。
工場での彼の台詞を思い出したのだ。
『入り口周りの地面の下にワイヤーを忍ばせておく。上から圧力がかかる・・・つまり踏まれた場合、直ぐに解る。」

(抜け目のない奴だ。いつの間にかワイヤー張り巡らせていたとは)
まるで俺に合わせてくれといわんばかりの真剣な眼差しをする天木に、
海部ヶ崎は視線を建物の方へと向けながら小さく頷いた。
(しかし──この様子では中の霞美や神宮も気がついている様子はない。
 敵は超一流の『気殺』の使い手というわけか。一体、何者──)

「そこにいる奴!何が目的だィ!?」

正体不明の人物に対し色々と思考を巡らせる中──天木が叫んだ。
それと共にワイヤーが地面を割ってのたうち、暗闇の先に向かっていく。
恐らく、暗闇に潜むそいつを絡めとろうというのだろう。
しかし、気配をゼロにまでコントロールすることのできる使い手だ。
そう簡単に姿を現すはずがない。これは長丁場になりそうだ。

咄嗟にそう思った海部ヶ崎だったが、意外にも正体不明の人物は、
そんな海部ヶ崎の予想に反して、直ぐにその正体を曝け出した。
(──なに)
ドサッと、何かが音を立てて地面に落下する。
それは、綺麗な金髪が印象的な、一人の小柄な少女であった。
(……)
海部ヶ崎はじっと彼女の目を見つめる。
目からは殺気や怒気といったものを感じない。
それは少なくとも、今は交戦の意思がないことを示している。

「キミもこのゲームに参加させられた人間のようだが、交戦を望んでいるわけではなさそうだな。
 なら話は早い。我々は理由あってこのゲームを仕組んだ連中に積極的に命を狙われている身。
 ただ、興味本位で我々に近付いただけなら、今すぐ立ち去った方がいい。それがキミの為だ」

少女にそう言った海部ヶ崎は、天木に向き直って顎をしゃくった。
それは修業の再開を促すものであった。

【海部ヶ崎 綺咲:ユーキと接触】
57ユーキ・クリスティ ◆IlJSvlNw7Q :2011/02/18(金) 07:51:34 0
>>56

(……なるほどね)

背の高い女性の言った"ゲームを仕組んでいる連中に命を狙われている"理由。
その検討をつけるのは容易い。
彼女らは、ゲームに参加する(=最後の一人となる)気がない。
それだけでなく、このゲームを仕組んだ人物たちに反旗を翻そうとしている訳だ。

思えば。思えば、だ。
最後の独りとなったとして生きてこの島から戻されるのか否か?
ユーキの結論は否だ。
異能者同士に殺し合いをさせる理由は、強力な異能者を選別する為であるとユーキは踏んでいる。
その強力な異能者を得て、果たして何をするつもりか。

(どうせ、碌でも無い事だろうね。私の運の悪さから言って……)

強制参加を告げられた時も、「ここが私の死に場所になるだろうが、やれるだけやってやる」と意気込んだ。
相手が少なければ、不意を打って超巨大なゴーレムを"生成"して叩き潰せばそれだけで済むのだ。
それを実行し、最後の独りになれる自信はあった。結果はこれまでのとおりであったが。
だが、最後の独りになったとして、生きて帰れないのは決定事項だ。ユーキの中では。

ならば、答えは簡単じゃないか。

「成程。大体理解したよ。今君達に近づいた"目的"が出来た。
 ……ちょっと実演してみようか。僕の力を」
58ユーキ・クリスティ ◆IlJSvlNw7Q :2011/02/18(金) 07:53:02 0
今からやろうとしていることに関して、自分でも馬鹿らしいと思う。
こんな示威行為でオーラを消耗させるなんて。

(それ以上に、新たな可能性を見いだせたことが、嬉しいんだろうね……)

倒れたまま、うつ伏せに転がり、手を地面に当てる。

「行くよ……マテリアル・アニメイティング!」

その手のひらから、オーラが網目のように地面に伝播する。
その半径は10mを超え、20mを超え、50mを超え、100mを超え……

(砂利じゃ足りない……土までは遠い……これだ!!)

遠方にあったクレーター。その一つに、広がったオーラを凝縮し流し込む。
額を汗が伝う。息が荒くなる。

「来い……デブリス・ゴーレム!!」

瓦礫が凝縮され、人の形を取る。
距離からして見えはしないのだけれども、オーラの感覚でわかる。失敗はしていない。
まわりはきょとんとした表情で見ている。当たり前だ。今の所、オーラを超広域に拡散したくらいしかやっていないように見えるから。
そこから三秒ほどの空白が流れ、ユーキの視界のはるか先……修行をしていた彼らの後方に、デブリス・ゴーレムが着地する。
そのゴーレムの脚部にオーラを集中させる。光のヴィジュアルを伴わせるのが、個人的には好きだ。

「我が元へ」

その光が一気に爆ぜると同時。
ゴーレムは一直線に――否、その間に居る人をすべて避けて――ユーキの所まで疾走し、ぴたりと止まる。
気操、ひいては瞬脚の応用だ。素材のサーチで余裕がなかったから、強化術までは使っていないし、あまり長くは人の形を保たせられないけれど。
伸ばされてきたゴーレムの手を掴み、立ち上がる。同時にそれは崩れ落ち、もとの瓦礫へと還った。
しかし、ユーキ本人の息は上がり切り、立つのもやっとな程である。
膝に着いた両手で上半身を支えながら、言う。

「ちょっとしたもの以上ではあると……自負しているよ。問題は……僕の身体の方でね……。
 いくら……能力自体が強くて……応用の効くものであろうと……本体がこれじゃあ……僕は……『生き残れない』。
 ……このゲームの主催者に反旗を……翻すつもりなら……僕も、連れて行ってはくれないか……?
 僕の目的は……景品じゃない……ただ、生き残りたい……だけなんでね……。
 君達に着いていった方が……可能性は、高そうだ……」

【ユーキ・クリスティ:自分の同行を一行に提案】
59神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/02/18(金) 12:30:31 0
氷室に場所を聞いた後、菊乃は二階にあるシャワー室に向かった。
「お、意外とまともそうじゃん。こりゃ助かるわ」
来る前に下で調達してきた新品の服と下着をそばに置き、衣服を脱ぐ。
コックを捻り、噴き出すシャワーに身を委ねる。
(あーこりゃ生き返るわ)
頭と体を丁寧に洗い、疲れと共に汚れを落としていく。
シャワーを終え、一緒に持ってきたタオルで体を拭いてから着替える。
一階に下りると、先程と変わらぬ場所に氷室が座っていた。
氷室に一言かけて食料と水を貰うと、カウンターに腰掛けて食事を始めた。

(さーて、外の連中はどうなってるかね)
食事の最中なので──実際は面倒臭いだけ──外に出ることはせず、左目のサーモセンサーを起動して外の様子を見る。
(お、やってるやって──ん?)
一通り確認したところで首を捻る。おかしい──数が合わないのだ。
今現在、外にいるのは海部ヶ崎、天木、鎌瀬、斎葉、夜深内の五人のはず。
しかし、この五人とは少し離れた位置にもう一つ反応がある。しかも五人の様子を窺っているようだ。
(招かれざる客、ってやつか?ま、海部ヶ崎もいるし大丈夫だろ)
万が一の際の対応を海部ヶ崎に任せ、菊乃は観察を続けた。

その直後、外から何か聞こえてきた。
「……!……!?」
扉を閉めている為微かにしか聞こえないが、天木が何か叫んでいる。
どうやら先の人物に対して動きがあったようだ。
闖入者──先に仕掛けたのはこちらだが──が一瞬宙に浮き、地面に落下する。そこに海部ヶ崎が近付いた。
何かを喋っているようだが、先程の天木のように叫んでいるわけではないので聞こえない。

そしてその直後、またしても状況が動いた。
先程まで全くオーラを感じなかった闖入者から、突如としてオーラが発せられたのだ。
何かが起きている──その考えに至るのは難しいことではなかった。
横にいる氷室に目を向ける。恐らく氷室も外で何かが起きていることに気付いているだろう。
しかし自分同様動く気がないのか、これまた自分同様海部ヶ崎に判断を任せているのか、どちらにせよ動くことはなかった。
一瞬だけ視線を交わし、どちらが言うでもなく再び前を見る。

その間に状況は更に変わっていた。
新しく大型の熱源反応が増えているのだ。数秒前にはいなかったはず。
(また新手、か。千客万来だな。しかし……変だな。
 体温が低すぎる。──人間じゃない?)
などと考えていると、大型の反応は一瞬にして消えた──否、崩れ去った。
(崩れたってことは人間じゃないのは明らかだな。相手の能力って所か?……ま、いいや)
センサーを切って立ち上がり、二回へ上がる為に階段に向かう。
濡れた髪を乾かす為、ドライヤーを探しにいく。シャワーがあるのだからあっても不思議ではない。
その途中で足を止め、氷室に場所を聞こうとしてやめた。
シャワーとは違い、別になくて困るものでもない。ならば態々氷室に尋ねる事もない。自分で探せばいい。
二回に上がり、シャワー室の周辺を探していると、目的の物はすぐに見つかった。
ドライヤーをかけながら、そばにあったブラシで髪を乾かしていく。
完全に乾いたのを見計らってスイッチを切り、再び下に戻った。
先程座っていたカウンターの上に横になり、天井を見上げる。
(さて、これからどうなることやら……)

【神宮 菊乃:外での出来事に気付いてはいるが、氷室と共に建物内に待機】
60鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/02/20(日) 18:32:17.46 0
>>53>>54>>55‐59
「練習後半戦、行ってみるかッ!……!」
「そ…そうですね。でも、僕は…その、オーラの性質的に『瞬脚』は出来ないと思うので…
オーラ移動を重点的に練習しようかと思ってます…」
「私はしばらく『瞬脚』を試してみようかと思います」
『私も引き続き頑張ります』
と、練習を再開する三人だったが…
(おや、何処へ行くのでしょう、天木さん)
(…? 天木さん、何をしているのでしょう)
気になった斎葉と夜深内は様子を見に行ってみた
「えっと…まずは手に移動してみようかな…」
鎌瀬は全く気づいてなかった

「そこにいる奴!何が目的だィ!?」
(え…誰か居るんでしょうか)
(気づきませんでした、不覚です)
61鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/02/21(月) 18:28:55.63 0
「悪いね。覗いていただけだよ。ちょっと気になったものでね」
(…敵意は無さそうですね)
(拳銃ですか…あ、落ちましたね)
さっきから何故斎葉は喋らないのだろう?

>「成程。大体理解したよ。今君達に近づいた"目的"が出来た。
 ……ちょっと実演してみようか。僕の力を」以下略
「……………………い」
『? どうしたんです 斎葉さん?』
「すごいですよ! ゴーレム! ゴーレムですよゴーレム! 機械好きなら誰でも憧れますよっ!?
あの人となら仲良くなれそうな気がしますよ! ああ、勿論鎌瀬君も友達ですけど。
合体ロボ、巨大ゴーレム、自律移動型高性能ロボ! 僕の大好物ですよ!!!!」
『は、はぁ』
人が変わったように興奮する斎場。これには流石の夜深内も呆れるしかなかった

その頃
「一応オーラ移動は上手く出来るようになったけど…。移動させた部分の力が弱まるだけだし…やっぱ駄目なんだな、僕…」
弱音を吐き、手にオーラを移動させた状態で、何の気なしに近くにあった木に手を置いた鎌瀬
「………え?」
おかしい。手触りが柔らかい。サクッというか、グチャッというか、グジュグジュというか…
「何が起きて…!!」
気になって、手を置いてる木を見てみると…腐っていた。ボロボロに、グチャグチャに、グジュグジュに。
「…どういうこと? 僕は別にどこぞの荒廃した腐花(ラフラフレシア)って訳でもないのに…。
僕の能力は“劣化”…。人だろうと獣だろうと生物だろうと無生物だろうと重力だろうと慣性だろうと劣化させ…あ。
        . . . . . . . .
もしかして木の鮮度を劣化させた…? …そうだ。どうして今まで気づかなかったんだろう!?
攻撃力も防御力もスピードも劣化させられるなら…鮮度を劣化させるくらい朝飯前だったはずなのに…
…これで僕は、もっと駄目(マイナス)になれた…。修行の成果あり、かな…? でもまだ修行は終わってないよね。
もっと無駄に頑張って頑張って頑張って頑張って…どんどん劣化して劣化して劣化して劣化して…劣敗者に、底辺なるんだ…。そして全員どん底に引き摺り堕ろしてやるんだ…」
一人、侵入者の存在に気づかず、修行に精進する鎌瀬だった…
【斎場巧:ゴーレムを見てテンション最高潮 鎌瀬犬斗:能力の応用の幅が広がる】
62天木 諫早@代理:2011/02/23(水) 03:41:15.27 0
何か計算するようにこちらを眺めた後、その侵入者は何か諦めたように言葉を紡ぐ。

「悪いね。覗いていただけだよ。ちょっと気になったものでね」

無論その言葉をその通りに受け取れるわけでは無いが、少女は自分でワイヤーを切断してしまった。
その後も、特に攻撃してこないところを見て、天木は一先ずワイヤーを戻す。

「キミもこのゲームに参加させられた人間のようだが、交戦を望んでいるわけではなさそうだな。
 なら話は早い。我々は理由あってこのゲームを仕組んだ連中に積極的に命を狙われている身。
 ただ、興味本位で我々に近付いただけなら、今すぐ立ち去った方がいい。それがキミの為だ」

海部ヶ崎がそういい、修行を再開するように、と無言で合図したが、天木も少女に興味があった。
これだけの人数から察知されない程の気殺能力。自分のワイヤーが無ければ、かなりの接近を許したであろう。
つまり、彼女もまた、達人レベルの能力者かもしれないのだ。

「成程。大体理解したよ。今君達に近づいた"目的"が出来た。
 ……ちょっと実演してみようか。僕の力を」

そういって、彼女がやって見せたのは、驚くほどに精細なゴーレムの操作。
オーラの拡散範囲と精度、どれをとっても天木の上を行く。

(すげェな、氷室や海部ヶ崎みてェなのだけかと思ってたが、…こンなタイプも居るンだな、可能性って奴ァ不思議だ)

恐らく、先ほどまでの天木なら、その事実に打ちのめされていたかもしれないが。
貪欲な向上の姿勢をとった天木が感じたのは、素直な賞賛であった。

「ちょっとしたもの以上ではあると……自負しているよ。問題は……僕の身体の方でね……。
 いくら……能力自体が強くて……応用の効くものであろうと……本体がこれじゃあ……僕は……『生き残れない』。
 ……このゲームの主催者に反旗を……翻すつもりなら……僕も、連れて行ってはくれないか……?
 僕の目的は……景品じゃない……ただ、生き残りたい……だけなんでね……。
 君達に着いていった方が……可能性は、高そうだ……」

斎葉はその能力に共通する何かを覚えたのか、とても興奮していたが、
天木もまた、その力に刺激を受けていた。


「…海部ヶ崎、彼女をどうするンだィ?見たとこ、俺よりも有能だぜ。
それに、言ってる事も良く解る…この島のルールは、俺達みてェな絡め手使いに厳しいンだ。
俺も彼女も、恐らく固体の戦闘能力では無く、サポートや自分以外の誰かが戦闘の中心になることで活躍出来るタイプだ。
…信用に足ると感じたら、連れてッても良いンじゃねェか?」

そして、その返事を待たずに一方的に天木は彼女に告げる。

「ッてェ訳で、俺はあンたが一緒に来る事に賛成だ。俺も似たような理由でくっついてるからなァ。
さっきは手荒く扱ッて悪かッた」

そして、後は任せた、と言わんばかりに修行へ戻った。
大分上達はしたものの、やはり転んだり、危なっかしい挙動が目に付くが、
新たな目標が出来た事で、その目は更に鋭く光っていた。

【天木:ユーキの同行に賛同する】
63海部ヶ崎 綺咲:2011/02/24(木) 20:17:54.43 0
>>57>>58>>62
「ちょっとしたもの以上ではあると……自負しているよ。問題は……僕の身体の方でね……。
 いくら……能力自体が強くて……応用の効くものであろうと……本体がこれじゃあ……僕は……『生き残れない』。
 ……このゲームの主催者に反旗を……翻すつもりなら……僕も、連れて行ってはくれないか……?
 僕の目的は……景品じゃない……ただ、生き残りたい……だけなんでね……。
 君達に着いていった方が……可能性は、高そうだ……」

少女が実演して見せたのは、巨大ゴーレムの精製とその操作。
時間にしてたかだか数秒ではあったが、
その操作性は確かに「ちょっとしたもの以上」であると解るものであった。
海部ヶ崎は静かに少女に首を向け、目を合わせた。
(自分の能力とその欠点を明かしてでも……というわけか。
 なるほど、単なる興味本位だけでできることじゃない。『覚悟』はあるようだ)

「…海部ヶ崎、彼女をどうするンだィ?見たとこ、俺よりも有能だぜ。
それに、言ってる事も良く解る…この島のルールは、俺達みてェな絡め手使いに厳しいンだ。
俺も彼女も、恐らく固体の戦闘能力では無く、サポートや自分以外の誰かが戦闘の中心になることで活躍出来るタイプだ。
…信用に足ると感じたら、連れてッても良いンじゃねェか?」

天木の声に、海部ヶ崎はその目を建物の方へと向ける。
(霞美……既に彼女の存在はキミも気付いているはず。キミならどうする?
 ……いや、未だ静観を決め込んでいるということは……それこそが正に答え。
 勝手にしろ……ということか)

「ッてェ訳で、俺はあンたが一緒に来る事に賛成だ。俺も似たような理由でくっついてるからなァ。
さっきは手荒く扱ッて悪かッた」
再び目を戻した時、既に天木はこちらに背を向けて、修業を再開していた。
「やれやれ、私に振って置きながら返事は待たずか。……ま、それもいいだろう。
 私は海部ヶ崎 綺咲。さっきの男が天木 諫早。キミの名前は?」

少女に向き直って、海部ヶ崎は訪ねた。


──そして時は過ぎ──とうとう時刻は、運命の夜明けを迎えようとしていた。
(夜明けまで残りおよそ五分少々。結局、朝まで付き合ってしまったな。だが──)

ガチャ、と建物の戸が開く。出てきたのは氷室、そして続いて神宮。
「時間だ。昨晩、私が言ったことを覚えているな?」
その氷室の言葉に、海部ヶ崎の口元がうっすらと弧を描いた。
「勿論。なぁ、天木?」

「なら、早速見せてもらおうか。修業の成果とやらを、ね」
氷室は、海部ヶ崎の表情とは対照的な、
まるで敵と相対したかのような真剣な表情で、天木を見据えた。

【海部ヶ崎 綺咲:ユーキの同行に賛同。二日目の朝に突入。】
64名無しになりきれ:2011/02/25(金) 18:36:26.71 0
邪気眼を知らぬものとは………………………
65鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/02/27(日) 18:01:23.17 0
>>62 >>63
「ッてェ訳で、俺はあンたが一緒に来る事に賛成だ。俺も似たような理由でくっついてるからなァ。
さっきは手荒く扱ッて悪かッた」

「天木さんは修行に戻るみたいですね…私達も戻りましょうか」
『そうですね。特に斎葉さんは遅れてきたのですから』
「あはは…」
もう話がついた、と見た斎葉と夜深内は修行に戻ることにした。
「さて…装着…と。異常なし。えー…足にオーラを移動させるんでしたね…」
こうして、斎場、夜深内、鎌瀬は修行に明け暮れた
皆、斎場が作った機械のお陰で修行がスムーズに進んだ(鎌瀬含む)
遅れてきた斎場自身も皆に追いつこうと一生懸命だった
そして…とうとう太陽が顔を出そうとする頃になる…
『機械を操作する』という精密さと正確さが問われる能力を持つ斎場は、オーラ移動に全く無駄な動きがなく、
まるで精密機械のように精密精巧で正確な『瞬脚』が出来るようになった
『イメージしたものを出力する』能力を持つ夜深内は、頭で『瞬脚』の仕方、『瞬脚』をしているときのスピード、
そのときのオーラの動き、『瞬脚』を成功させた自分、などをイメージしながら修行した。案の定、夜深内はイメージ通りに、『瞬脚』が出来るようになった。
イメージトレーニングの究極系である
『あらゆるものを劣化させる』能力を持つ鎌瀬は、『瞬脚』こそ出来なかったものの、オーラ移動が非常にスムーズになり、
自身の能力の新たな使い方を見出すことが出来た。今や彼の技は劣化空間(ネガティブルーム)と劣化した個室(ネガティブワンルーム)だけではない
【鎌瀬一行:修行終了。2日目突入】
66ユーキ・クリスティ@代理:2011/02/27(日) 20:14:56.90 0
>>63

「ありがとう。改めて宜しくお願いするよ。僕の名前は来栖・・・」

否。そこで偽名を使うべきか。
初めて出来た「仲間」に対し、それで良いのだろうか。

「・・・違うね。私の名前は、ユーキ・クリスティ。『いのちを与えるもの(the Animator)』のユーキ・クリスティ」

手櫛で髪を梳き、軽くお辞儀をする。

「・・・早速で悪いけど、ぼ・・・私は少し休みたいかな・・・。どこか、適当な場所は無いかな?」
67神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/02/28(月) 01:58:21.74 0
多少の疲れもあり、菊乃は仮眠を取っていた。
浅い眠りの中、外から射す陽の光に気づき、目を開ける。

「ん……もう朝か」
時計で時間を確認すると六時五分ほど前。
頭を振って意識を覚醒させていると、隣から物音が聞こえた。
横を見ると、氷室が立ち上がって外へ出ようとしている。
(時間、か。アタシも行くとするかね。昨日の闖入者のことも気になるし)
氷室に続いて建物の扉をくぐる。外にはこの時間まで修行を続けていただろう皆がこちらを待っているように立っていた。

「時間だ。昨晩、私が言ったことを覚えているな?」
氷室が天木を見て尋ねる。その言葉に答えたのは天木ではなく海部ヶ崎だった。
「勿論。なぁ、天木?」
「なら、早速見せてもらおうか。修業の成果とやらを、ね」
その言葉と同時に、氷室の顔つきが真剣なものへ変わる。
恐らくこれから天木を連れて行く価値があるかのテストを行うのだろう。
(いい表情(つら)になったじゃねえか。これなら心配はなさそうだな)
そちらは氷室の仕事なので、関係ない自分がいては邪魔になる。
そう思った菊乃は天木から視線を外し、鎌瀬達の方に歩いて行った。

「よう。どうだい、修行の成果は」
その言葉に鎌瀬、斎葉、夜深内の三名は揃って力強い笑みを浮かべた。
(三人ともうまくいったみたいだな。鎌瀬だけ微妙に雰囲気が違うけど……ま、いいか)
三人を見た後に視線を横にずらし、昨晩自分がいなくなるまではいなかった人物に目を向ける。

「アンタが"闖入者"かい?……おっと、いきなりこの聞き方は失礼か。
 すまんね、こういう性格なもんで。アタシは──」
そこまで言いかけたところで、ふと言葉を止める。
(コイツ、昔どっかで見かけたことあるような気が……)
目を閉じて頭の中で目の前の人物に対して検索をかけていく。
しかし憶えていないのか、はたまた勘違いなのか、記憶の中に該当する人物は思い浮かばなかった。
(ま、もし知ってるなら向こうから言ってくれるだろ)
知己の可能性を相手に委ね、止めていた言葉を再開する。

「──アタシは神宮。よかったら名前を教えてくれねえか?」

【神宮 菊乃:二日目突入。ユーキに自己紹介をする】
68鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/03/04(金) 22:04:17.24 0
>>66>>67
「よう。どうだい、修行の成果は」
神宮の問いかけに、斎葉と夜深内は自信に満ちた笑顔で答え、鎌瀬は劣等感(じしん)に満ちた笑顔で答えた
「…そういえば。仲間が一人増えたようです。挨拶に行きましょう」
「えっ!? 何時の間に…?」
『さっきからずっと居ましたけど』
「気づかなかった…」
鎌瀬たちもユーキに挨拶しに行くことにした
「初めまして。私、斎葉巧と申します。よろしくお願いします」
「僕は…鎌瀬犬斗です。よろしく、お願いします…」
『夜深内漂歌です』
ユーキに自己紹介する三人
【鎌瀬一行:ユーキに自己紹介】
69海部ヶ崎 綺咲:2011/03/04(金) 22:20:03.10 0
修業の成果を、まず天木が見せ、続いて鎌瀬らが見せる。
海部ヶ崎は、腕を組んだまま無言を貫く氷室を見た。
「まだ納得行かないか?」
天木らの瞬脚は、確かに少々危なかっしい面はある。
しかし、その危うさは、もはや経験が解決してくれる程度のもの。
いくら才能があろうと、これ以上を望むのは流石に酷というものだろう。

「……」
それでも氷室は口を真一文字に結んだまま顔色を変えない。
やれやれ、と、海部ヶ崎は痺れを切らしたように溜息をついて、
今度は金髪の新顔、『ユーキ・クリスティ』と名乗る少女に顔を向けた。
「ユーキ……だったか? 何ならキミの力も見せてみるか?」

だが、これまで閉ざされていた氷室の口が開かれたのは、
ユーキが反応を示そうとしたその矢先のことであった。
「それには及ばない。そいつの力は既に昨晩確認済みだ」
くるりと背を向け、まだ薄暗さが残る北東の空を見て、氷室は続けた。
「……勘違いするな。瞬脚は奴らと闘う為に“最低限”必要な技術に過ぎない。
 お前らは奴らと闘う資格を得ただけだ。調子に乗ってると即、あの世行きだよ。
 そのことを肝に銘じておくんだね」

氷室が一人、北東に向かって歩いていく。
「よくやった」とか「ついてこい」とか、ストレートな表現は用いなかったが、
彼女の台詞は彼らに「合格点」を与えたものに違いなかった。
(やれやれ……合格ならそう言えばいいものを)
人間味のある態度を頑として見せない氷室の姿は、
海部ヶ崎の目にはまるで子分には弱いところを意地として見せない
ガキ大将のように移り、可笑しく感じられた。

(しかし、闘う資格を得ただけか……)
クスッとした笑いで歪む口元を引き締め、海部ヶ崎は昨日のジャックことを思い出す。
不意とはいえ、いつ繰り出したかも判らない素早い攻撃。
斬撃を相殺してしまうだけのオーラ量。
そして、半径数十メートル以上に渡って破壊し尽くす、必殺の閃光。

(……確かに、その通りだな。同じ土俵に立っただけではまだ勝てない。だが)
氷室の後を追いながら、海部ヶ崎は日本刀を持つ手にグッと力を込めた。
(次は勝ってみせる。見せてやるぞ、私の力をな……!)

朝日が昇り、光が大地に立ち込めた闇を消し去っていく。
果たして彼らは、この島に立ち込める邪悪な暗雲を切り裂く一条の光となりえるのか。
その答えを知る者は、まだ誰もいない──。

【海部ヶ崎 綺咲:北東の洞窟へ向かう】
70天木 諫早@代理:2011/03/05(土) 07:32:07.48 0
斎葉の装置により、天木は自身の能力に何が足りないのかを客観的に知る術を得た。
極端な瞬脚もどきを何度も行い、どのような動作がどのような結果に繋がるのかを調べていく。
足りないのは経験と、誤差修正の方法だけだった。
しかしそれも、数値化され必要な力が晒されてしまえば、努力の『方向』が解るのだ。
結果として、飛躍的に彼の修行の速度を上げる事となった。

そして、氷室がタイムアップを告げる僅か三十分前に。
天木はようやく、その感覚を自分の物として扱うことに成功する。
なめらかな、とは行かないまでも、敵の動きにある程度ついていけるであろうレベルの瞬脚。
バランスを崩す問題や、移動中の知覚の問題も、反復練習により感覚を掴み、解決する。


彼の顔にあったのは、疲労よりも大きな達成感であった。

「ここまでしてもまだスタートラインにたったばかりッてェのはいささか困ッたもンだが、
それでもまァ…戦えるだけ、マシってとこだなァ。可能性が0じゃァ無くなったンだ、嬉しいこッたぜ」

そしてその目は神宮や海部ヶ崎、斎葉達に向いた。

「ありがとうなァ。……いや、やっぱり良いか。」

素直な感謝と、何かを言おうとして止めた事。
どちらも偽らざる本心であり、それを全て言葉にすると重すぎる、と彼が判断した為に言いよどむ事になった。

そして、氷室に。

「最初は投げ出してすまなかッた、だが…チャンスと機会を。与えてくれた事に感謝する。ありがとう」

目を合わせずにそう告げて。彼は海部ヶ崎の後ろに続き、洞窟へ向かう。


【天木 諫早:各人に礼を言い、洞窟へ向かう。】
71ユーキ・クリスティ ◆IlJSvlNw7Q :2011/03/06(日) 21:27:22.85 0
>>67 >>68
街路樹にもたれて休んでいると、三人が自己紹介をしに来た。

「初めまして。私、斎葉巧と申します。よろしくお願いします」
「僕は…鎌瀬犬斗です。よろしく、お願いします…」
『夜深内漂歌です』

一番最初に声をかけてきた少年がこちらを見る目は何だかギラギラしていた気がする。
マシンリムの左腕を装備していた事や、一行が訓練で使っている機械はどうやら彼が作ったらしい事から、大体理由は想像出来た。
そして、次に自己紹介をした少年。言葉にはし難いが、『危うさ』が色濃く出ている。そんな印象があった。
最後の少女は、機械化の影響か何かで言語機能を失っているのだろうか。
それにしても、機械に絡んだ能力者の多いパーティーだな、と思う。

(確かに、私の能力と相性は悪くないけど……)

強化の能力のみを使用するのであれば、私の能力は肉体より物質を強化する方――正確には、速度増加や強度増幅――に長けている。
私が後衛となるのであれば、マシンリムはより強力な前衛となり得る。
しかし、出力を全開にし、かつゴーレムのコンストラクトを維持しながらだと、持って数分であろう。
ゴーレムで強襲や奇襲をかける私の基本戦法とどちらが良いかは……ケース・バイ・ケースだろう。
何せ、仲間なんて居た事が無いから、それはこれから学ばなければいけない。

「うん……僕 あ、いや、私の名前はユーキ・クリスティ。
 『いのちを与えるもの』をやっているよ……よろしく」

思考に鈍りを感じる。あれだけ体力を使ったのだから当然であろう。
ぼやける意識の中で挨拶だけを搾り出して、

「ねむ……悪いけど、ちょっと眠らせてね……」

意識は霞と消えたのであった。


「アンタが"闖入者"かい?……おっと、いきなりこの聞き方は失礼か。
 すまんね、こういう性格なもんで。アタシは──」
「──アタシは神宮。よかったら名前を教えてくれねえか?」

翌朝。この集団の一員は、服飾店の中にもう二人いたようだ。
そのうちの一人が、この神宮と名乗る女性であった。

(……うん。よくできた、マシンリムだね……)

潜伏行動をしないのであれば気殺は必要ない。
よって、最小限の気を、"自身"の唯一の長所である鋭敏な五感を増幅する為に纏っているのだが、

(随分、派手に駆動音がするね……ほぼ全身、機械?)

勿論、普通の聴覚では捉える事の出来ない域の音量ではあるが。
この機械を作った研究者は、相当な手練であると認識した。勿論、それを使いこなしているであろうこの女性も。

「……あ、ああ。ごめんなさい。ちょっと、呆然としちゃってて……。私……は、ユーキ・クリスティ。『いのちを与えるもの』をやっている」

そしてもう一人。名を氷室と言うらしい女性。

(氷室……と言うと、カノッサの四天王?生きてたのか……)

研究所時代には、それこそ四天王の名は飽きるほど聞いたものだ。
まさか、カノッサに縁のあるもの、それも中枢に近い人物がまだ生きているとは思っても見なかった。
それだけ、能力が高いのだろう。見たところ、一行を率いているのは彼女であるようだし。
そうこう、思考を重ねているうちに、一向は洞窟へと向かう事になったのだった。
【ユーキ・クリスティ 一行と共に洞窟へ向かう】
72鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/03/07(月) 11:55:11.37 0
>>70>>71
「ありがとうなァ。……いや、やっぱり良いか。」
「いえ、私も…。貴方達のお陰で自分のことを再確認できましたから」
「僕も…天木さんに昔のことを話したら吹っ切れましたよ…」
『私も、ありがとうございます』
斎葉、鎌瀬、夜深内もお礼を返す

「うん……僕 あ、いや、私の名前はユーキ・クリスティ。
『いのちを与えるもの』をやっているよ……よろしく」
「ユーキさん、ですね。覚えておきます」
斎葉が代表して言う

「ねむ……悪いけど、ちょっと眠らせてね……」
「はい、お休みなさい…」

そして…

「さて…時間ギリギリでしたが、開発中のメカが完成しました。これで準備万端…さて、私たちも行きますか…!」
「そうだね…僕の、一世一代の負け戦に!」
『行きましょう』
斎葉達はもはや原型をとどめていない電気屋型機動要塞に乗り、洞窟へと向かうのであった…
【鎌瀬一行:機動要塞に乗り込み、洞窟へ】
73神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/03/07(月) 12:32:14.44 0
>>71
少女──見た目は少年だが、昨晩の一件で体のラインは見ていた──はこちらの問いかけにすぐには答えなかった。
こちらの体を見て動きを止めている。
(アタシの体を見てる……。コイツ、見ただけで、いや"聞いただけ"で分かるのか?
 確かにアタシの体は普通の人間には聞こえない周波数の駆動音が出てるが……。
 それを初見で見抜いたってのか?だとしたら大したヤツだな)
少女の行動を推測しながら、口を開くのを待った。

「……あ、ああ。ごめんなさい。ちょっと、呆然としちゃってて……。私……は、ユーキ・クリスティ。『いのちを与えるもの』をやっている」
ようやく少女──ユーキがこちらに返答してくる。
(『いのちを与えるもの』、ねぇ……。やっぱり昨日の反応と関係してるんだろうな。
 名前からして……何かを創造する能力ってところか)
ユーキが口にした二つ名と昨日の出来事を重ね合わせて、ユーキの能力の大まかな見当をつける。

「ユーキ、か。これからよろしくな。
 ……つっても、よろしくする前に死ぬかも知れねえけどな」
冗談交じりに軽く笑いながら挨拶を済ませると、再び氷室達の方に目を向けた。
どうやら向こうも終わったようだ。皆既に歩き出していた。
(いよいよ最終決戦ってやつか。
 海部ヶ崎が戦ったジャック、アタシが戦ったクイーン、正体不明のキング、あのふざけたピエロ……。
 更にエース、ワイズマン……。
 敵は少数だが、油断してるとあっという間にあの世行きだな。
 死んだら死んだで別に構わねえが……できればまだ死にたくはねえな)
これから先のことを考えながら、菊乃も皆に続いて洞窟へと歩き出した。

【神宮 菊乃:ユーキに挨拶を済ませ、洞窟へ向かう】
74ワイズマン:2011/03/09(水) 02:17:21.86 0
幻影島の地下に広がる大空洞。通称、幻影島メインエリア。
ここは、主に二つの区域に分けられている。
一つは、北から東の地下に掛けていびつな形で広がった巨大研究フロア。
そしてもう一つは、島の中央に位置する巨大なドーム状のフロア、別名『聖域』である。

聖域は、狂戦士の四傑ですらおいそれと立ち入ることのできない区域となっている。
何故なら、聖域とはすなわち、ワイズマン専用のフロアに他ならないからである。
しかし──午前六時を回ったその聖域に、ワイズマンの許可なく足を踏み入れる者がいた。
その大胆不敵な者の名はジョーカー。

「……何用だ、ジョーカー」

すかさず暗闇の中から、ワイズマンの低い声が響き渡る。
許可なく立ち入るということは、それだけでもワイズマンへの反逆と捉えられかねない、
非常に危険な行為である。しかし、それでもジョーカーには臆するところがない。
何故なら、敢えて禁を犯すだけの理由が、彼には在ったからである。

「ご報告に参りました。先程、レーダーが北東へ向けて移動する数名の影を捉えました」
「……それが許可なく立ち入った理由か?」
「数名の内の一人は、氷室 霞美であると既に調べが付いております」

氷室 霞美が北東に向かっている。
それが何を意味するか、ジョーカーの言いたい事を、ワイズマンは直ぐに理解した。

「地上の出入り口に気が付いたか。ということは、その他数名は小娘の仲間。
 フフフフ……私に挑戦しようとは、面白い。
 ならば私は奴らの愚かさを身を持って思い知らせるまで。ジョーカーよ──」
「──既に、ジャックとクイーンは地上に、キングは研究区域に。配置は完了しております」
「ではジョーカーよ、そなたも向かえ。奴らを一人残らず生かして帰すでないぞ、よいな」
「仰せのままに。ホーッホッホッホ」

笑い声を残して、その場からジョーカーの姿が気配と共に消える。

「……期待するぞ。私が究極の力を得る日が近いことを……フフフフフフフ」
残されたワイズマンは、一人暗闇の中、その低い声を轟かせていた。

【狂戦士が配置につく】
75海部ヶ崎 綺咲:2011/03/14(月) 02:46:39.74 0
幻影島北東に広がる広大な原生林──。
そこに、氷室達一向は足を踏み入れていた。
心なしか面々の顔は強張り、緊張しているように見える。

無理もない──。
何故なら、この原生林にはあらゆる小動物の気配がない、そして音がないのだ。
あるのは陰鬱な雰囲気と、うそ寒い空気だけ。
その不気味な静寂が却って自然と緊張感を高めてしまうのだ。

「……」
しかし、そんな面々の中で唯一一人だけ、
この雰囲気に惑わされずにマイペースな精神状態を保っている者がいた。
その者の名は海部ヶ崎 綺咲。
氷室達の知るところではないが、彼女はつい昨日、ここに足を踏み入れたばかりなのである。
その経験が、若干の精神的余裕を生む要因となっていたのだ。

(────)
そんな海部ヶ崎が、ふと足を止めて一行から大きく遅れたのは、
原生林に踏み入れてから十分ほどが経過した頃だろうか。
「どうした?」
それに先頭を行く氷室が気付き、続いて全員が海部ヶ崎を振り返った。

「いや、その……すまないが先に行ってくれ。直ぐに後を追う」
海部ヶ崎は照れ笑いを浮かべて内股をモジモジさせている。
それはあるいは男性には意味が伝わり難いリアクションかもしれないが、
海部ヶ崎としては精一杯のアピールをしているつもりなのだ。
つまり──どこか適当な木の陰で、用を足したいのだ、と。

「……行くよ」
察したように氷室が前進を再会し、神宮やユーキもそれに呼応する。
異性である天木や鎌瀬らが意味を察したか定かではないが、
さっさと先へ進んでいく氷室達に遅れを取りたくはないとでも思ったか、
何の疑問も呈すことなく後に続いていった。

……こうして残ったのは海部ヶ崎一人。
いや、そうではない。残ったのは一人でないことを、海部ヶ崎は感じていた。
そしてそれこそが正に彼女の望んでいた展開であった。
あるいは氷室らも、それを察して敢えて先へ進んだのかもしれない。

「……完璧な気殺だ。だから私も昨日は気がつけなかった。
 だが、同じ手は二度も通用しない。お前は、必ずこの森に潜んでいると思っていた。
 ──出て来い! かくれんぼはもう終わりだ!」

言葉と共に放れた鋭い視線が、数メートル背後の木々の陰を射抜いた。

「クククク」
そこから、ダークブルーの装束に身を包んだ、一人の大柄の男がのそっと現れる。
その顔は海部ヶ崎には忘れようもない顔──ジャックであった。
76海部ヶ崎 綺咲:2011/03/14(月) 02:49:59.66 0
「随分と鼻が効くじゃねぇか、お嬢ちゃんよォ」
「言ったはずだ。私はお前がこの森に潜んでいると思っていたと。
 だから気がつけたし、だから私だけが敢えてこの場に残った」
「フッ、仲間を先に行かせる為の時間稼ぎか。健気なこった」
「違うな」
「……何ィ?」
「私ひとりの手で、貴様を倒す為に残ったのだ」

一瞬の沈黙──それを破ったのは、ジャックの高笑いであった。

「ククク、ハーッハッハッハ! こいつぁ傑作だぜ! テメェが俺を倒すぅ?
 ハッ! 何も知らねぇってのはいいもんだな! 寝言は寝て言いな、お嬢ちゃんよォ!」
「何も知らないとは心外だな。昨日、貴様は私に名乗ったばかりだろう、狂戦士四傑の一人だと。
 まさかもう私の顔を忘れたわけではあるまい?」
「──知らねぇな」
「……何ィ!」
「俺が覚えてんのは強ェ奴だけだ。弱ェ奴のことなんざ覚えてねぇ。
 いちいち覚えておく価値も無ェからだ。それが普通じゃねぇか?
 それともお前は、踏み殺した蟻をいちいち覚えてるってのか?」

海部ヶ崎は刀を抜き、その鋭い切っ先をジャックの顔面に向けた。

「ならば二度と忘れぬよう、その身体に私の強さを刻み付けてやろう。嫌というほどな……!」

まるで海部ヶ崎が放つ鋭い眼光を反射するかのように、切っ先が鈍く光る。
しかし、ジャックはそれに動じるどころか、まるで悦ぶかのような表情に染めて、
体中から殺気を爆発させた。

「言っておくが俺は女だろうと子供だろうと逆らう奴には容赦しねぇ。
 身体中を刻まれるのはテメェだ! それを今から教えてやるぜ!」
「戦闘狂が……貴様には修羅界こそが相応しい。私の剣で、送り届けてやる」
「面白ェ……ッ!! なら、やってみせろォォォォオオオオッ!!」

【海部ヶ崎 綺咲:北東の森にてジャックと戦闘開始】
77クイーン:2011/03/17(木) 19:02:14.59 0
幻影島の北東の先端に位置する巨大な洞窟──。
その入り口の傍に、一人の女性が腰掛けていた。

「まったく、ジョーカーも人使いが荒いわね。何で私が地上配置なのかしら。
 埃だらけになっちゃうじゃない」
少し苛立たしげに足を揺する。周囲に生えていたと思われる木々は、地上数十cmを残してなくなっていた。
何を隠そうこの女性──クイーンがやったものだ。
「…とは言え、これもワイズマン様の命令だから背くわけもないんだけど」
軽く溜息を吐き、視線を上げる。
すると、少し先にある森の方から仲間のものである気配が急激に膨れ上がるのを感じた。
「ジャック、ね。どうやら戦闘が始まったようね。何人相手にしてるのかしら」
相手の気配を探ろうとして、やめた。
「……どうでもいいわ。別に何人来ようと私は私の仕事をするだけ。
 そろそろ準備しておいた方がよさそうね。
 まさか、いくらなんでも全員同時相手してるってことはないでしょうし」
呟きを止め、腰を上げる。
と、そこに森の中から複数の足音が聞こえてきた。
「あら、お早いお着きね。──まぁいいわ」
足音の方に体を向けると、複数の男女が集団でやってきた。
その中には見知った顔もいれば、知らない顔もいる。

「初めまして──じゃない人もいるわね。……ま、いいでしょう。
 ようこそ。我らが主、ワイズマン様の居城へ──」
優雅に一礼し、再び顔を上げる。
「さて、わかっているとは思うけれど……。この中に入りたいのなら私を倒さなければならなくてよ?
 ──どなたがお相手してくれるのかしら?」

【クイーン:洞窟の入り口で氷室一行と接触】
78海部ヶ崎 綺咲:2011/03/20(日) 10:30:50.68 0
「はぁぁぁっ!」
海部ヶ崎のうなり声と共に、一筋の光がジャックの首筋に放たれた。
その正体は常人にはとても見切ることなどできない剣閃。
強靭な筋力と、柔軟で力強い全身のバネがあって初めて可能な芸当、
あらゆるものを切り裂く超高速の抜刀術。しかし──

「蚊が止まるより遅ェ」
ジャックはそれを、余裕の笑みでかわす。
それによって海部ヶ崎の体は右に流れ、大きく懐の開いた全身をジャックの前に晒した。
致命的な隙──。ジャックほどの実力者がそれを見逃すはずはない。
「教えてやるぜ? 肉体を刻むってのはなァ、こうやってやんだよォッ!!」
膨張した筋肉が生み出す圧倒的パワーを乗せた右拳が、
海部ヶ崎のか細いウエストを捉えた。

「──!!」
鮮血が飛び散る。
しかし、苦痛に一瞬表情を歪めたのは、海部ヶ崎ではなくジャックの方であった。
「なるほど、敵を傷付けるにはこうやればいいのか。自ら実践してくれるとは勉強になる」
皮肉めいた笑みを浮かべる海部ヶ崎に、ジャックは驚愕の色を隠さなかった。
「なっ──にィ──!!」
飛び散った鮮血がジャックの右腕を赤く染めていく。
何と彼の右拳は、海部ヶ崎を負傷させるどころか、逆に切り裂かれているではないか。
そう、海部ヶ崎は、あの一瞬の内にもう一つの刀を左手に作り出してガードし、
更にカウンターを同時にこなしていたのだ。

「二刀流──! いつの間に──!」
「はっ!」
「──!!」

ヒュン! と風切り音を発して、再び光の筋が横切る。
ジャックは瞬時に地を蹴り後退することでそれをかわすが、
今度は無傷というわけにはいかなかった。
浅手だが、腹部を真一文字に斬られていた。

「貴様のオーラの総量は私の遥か上を言っている。
 仮に貴様の気昇が10とするなら、私のは精々、5か6の間くらいだろう。
 これでは私の斬撃ではダメージを与えることは不可能に近い。
 だが、気操による一点集中によって10のオーラを刀に込めれば話は別だ。
 一部分でもオーラを相殺できれば、後は互いの攻撃力と防御力の勝負。
 ただの刀とただの人間の肉体……そうなれば結果は明白であろう」

ギンっとした、鋭い刃のような視線がジャックを射抜く。
その瞬間──ジャックは更に顔色を変えた。
いつの間にか自身を囲むように、四方八方に無数の刃が浮遊していたのだ。

「そして、私を二刀流などと思うのは間違いだと言っておこう。
 私の意志一つで得物などいくらでも作り出すことができる」
「……フッ、なるほど。どうやら少しはできるようだな」

(──)
海部ヶ崎は思わず警戒するように体を屈めた。
ジャックの声色が、これまでとは違う。
更に戦闘を愉しむかのような表情は消え失せ、
その眼は深い海の底のように不気味に暗く染まっている。
(雰囲気が一変した。あの眼はこれまでの狩人のものじゃない、戦士のものだ。
 次は、本気でくるか……!)
    マジ
「俺を本気にさせる奴が、まさかこの島にいたとはな。一つ、俺に殺される前に名乗っておきな」
「海部ヶ崎 綺咲だ。……狂戦士四傑の一人ジャック、いざ尋常に勝負!」
「海部ヶ崎 綺咲──覚えておいてやるぜ! さぁ、第二ラウンド開始だ!」
79海部ヶ崎 綺咲:2011/03/20(日) 10:44:40.48 0
「行くぞ!」
海部ヶ崎が二刀の刀を×字に交差させる。
すると、それが合図であったかのように、浮遊していた刃の群れが一斉に襲い掛かった。
四方八方から迫り来るその空間に人間の逃げ道はない。しかし!
「フン」
顔色を少しも変えずにジャックが鼻息を漏らす。
するとどうだ。ジャックの体から円形状のオーラの膜が広がったと思えば、
それがまるで爆発したかのように瞬く間に膨張。
それがとてつもないエネルギーの防壁となって迫り来る刃の群れを一瞬にして蹴散らしたではないか。

「お前は武器にオーラを込めて遠隔操作できるタイプの異能者じゃねぇな。
 オーラが込められていない武器など、俺にとっちゃ破壊するのは容易い。
 だが、お前はそれを知っているはずだ。つまり──」

ギロリと、ジャックの瞳が真横にスライドする。
だが意識は真横にはない。彼が意識を向けたのは、自身の死角である背後。

「武器の群れは布石。気付かねぇとでも思っていたか?」
不敵に白い歯を見せた彼は、いつの間にか小銃が握られていた右手を、
左脇からぬっと覗かせた。
銃口の狙いは他の誰でもない、背後に回った海部ヶ崎その人である。

「じゃあな」
言うが早いか、銃口がオーラの輝きに包まれ、圧倒的な閃光を撃ち放った。
それは容易く海部ヶ崎を飲み込みながら、尚、威力を失わなずに森を蹂躙、
僅か数秒も経たぬ内に遥か彼方の山に着弾した。

ズゴゴゴゴゴ……!!

一瞬の閃光と爆発──それによって山の一部分が吹っ飛び、大気が震える。
ジャックの必殺技『リッター・シュラーク』──
まともに当たれば良くて瀕死といったところだろう。
それこそ、かつての海部ヶ崎のように……。

だが、今の海部ヶ崎 綺咲は、かつての彼女ではないのだ。
一度見た技を、計算に入れていないはずがない。
「──いいのか? 私に背を向けたままで」
「──!!」
不意の声に、ジャックは驚き、即座に振り返った。
しかし、背後に広がる光景は閃光によって蹂躙された爪跡が深々と残っているだけ。
そこには誰もいない。では、今の声は幻聴か? ──否、見えないだけなのだ。

「そう、布石さ。だが、私の『惑脚』までは気付けなかったようだな!」
「──俺が捉えたのは残像!? 下か!!」
視線を落としながら、銃口をもその位置に落とすジャック。
それでも、間に合わないのは明らかであった。
既に海部ヶ崎は、体を精一杯屈め、死角からの反撃体制を完了していたのだ。

「受けろ──我が父必殺の二刀剣術──!! 『百花繚乱』──!!」

紅に染まった無数の剣閃が、ジャックに襲い掛かった。

【海部ヶ崎 綺咲:戦闘中】
80海部ヶ崎 綺咲:2011/03/25(金) 21:50:34.93 0
──不意に、眩いばかりの光がその場を支配した。
そしてその瞬間、コンマ1秒もかからずに訪れたのは、熱を持った物理的な衝撃波。
(──!?)
一体、何が起きたのか?
海部ヶ崎は圧倒的な熱爆風をその身に受けながらも、全てを理解していた。
だからこそ、驚きを隠せなかった。

──耳を劈くような爆発音を最後に、猛威を振るっていた熱爆風が止む。
それと共に土煙も収まり、やがて周囲の空間は元の静けさを取り戻していった。
しかし、そこにあった光景は、先程までとは似ても似つかない、正に別世界のそれであった。
先程まで海部ヶ崎がいた位置には、直径二十メートルはあろうかという巨大なクレーターができていたのだ。

「クッ……」
そのクレーターの外で、海部ヶ崎は片膝をつきながら、気張るような吐息を漏らした。
彼女の両太股が赤くにじんでいる。
それは致命的なものでこそなかったが、皮膚がズタズタに裂ける程の裂傷であった。
更に、上半身の至るところには、楔形に割れた木の破片や石が深々と突き刺さっており、
それが激しい激痛と容赦ない流血を齎していた。
「致命傷、じゃあないとはいえ、ククク……効いたようだな」
一方、クレーターを挟んだ対象の位置に立っていたジャックは、海部ヶ崎とは対照的に微笑していた。
それでも、その姿は全身ボロボロで、ダメージそのものは海部ヶ崎と大差はない。
ただ、その表情が正反対なのは、痛みを感じているかいないかの差なのだろう。

いや──それだけではない。
ジャックの得意な表情を目の当たりにした海部ヶ崎は、心の中で苦虫を噛み潰したような気分であった。
(『百花繚乱』は奴を完全に捉えた。……だが、奴はあの瞬間、私に直撃しないのを承知で撃った!
 地面を爆破する衝撃で私を吹き飛ばし、しかも自分をもそれの巻き添えに……!
 『百花繚乱』をくらうよりは、爆破に巻き込まれた方がダメージが少なく、加えて私への攻撃にもなると判断したんだ。
 ……しかし、あの一瞬で何の躊躇もなくやってのけるとは、この男は……!)

「ったく、大した奴だよ、テメェは。俺に自ら傷を負わせる真似をさせるたぁな。
 これだけの腕を持つ奴と闘うのは本当に久しぶりだぜ。面白くて仕方がねぇ。
 だがな、こちとらあまりテメェとばかり闘り合ってもいられねぇのさ。
 まさか後の連中がやられちまうとは思えねぇが、万が一ってこともあるからな。
 ワイズマン様の下に一人でも辿り着かせたら大目玉をくらっちまう、ククク。
 ……ま、そういうわけだから、そろそろ死んでみるか?」

ジャックの体からこれまで以上のオーラが生み出され、小銃が向けられる。
現在の海部ヶ崎の位置からジャックまでの距離はおよそ20メートル前後。
これまでの戦闘から推察するに、ジャックの能力射程は数百メートルから数キロといったところだろう。
彼にしてみれば十分仕留められる距離。だが海部ヶ崎の得物の射程はおよそ2メートル、
能力射程にしても精々十数メートルがいいとこだ。これでは勝負にならない。
(何としても間を詰めなければ。せめて能力が行き届く範囲まで……しかし!)

脚に力を入れる。戦闘時と比べれば比較にならない程のほんの微量の力。
それだけでも、ズキッとした鋭い痛みが太股に走り、背筋から脂汗が噴き出す。
「果たして今のお前に、俺の光弾を避け続けながら、間を詰めるだけの力があるかな?」
懸念を代弁したジャックが嘲笑う。
海部ヶ崎は、まともに「ああ」と言い返せない自分が何とも歯痒かった。
実のところ、かわす手がなかったわけじゃない。けど、自信がなかったのだ。


すっと立ち上がり、全身の力を抜いた自然体の格好で、海部ヶ崎は思い出した。
昨晩のトレーニングを──。

昨晩、天木らの修行に付き添っていた彼女だが、それ以外は特に何もしていなかったわけではない。
彼女も合間を見て、ちゃんと二つの修業を自らに課し、密かに腕を磨いていたのだ。
とはいっても、昨日の今日の話である。問題がないわけではない。
81海部ヶ崎 綺咲:2011/03/25(金) 21:57:14.88 0
(『百花繚乱』……あれは問題ない。問題なのは……『惑脚』だ。
 あれはまだ本来、実戦で使えるレベルにはない。先程は奴が油断していたからこそ通用した。
 先程よりも完成された惑脚でないと、次は恐らく通用しない……。
 ……できるのか、私に? 霞美のように多重残像を見せつける惑脚が、この脚で……。

 いや、やってみせる。父上もできたのだ。その血を引く私が、できないはずがない!)

海部ヶ崎は刀を構えた。その凛とした顔つきに、先程までの迷いはない。
彼女は、血統という最も単純で陳腐なものに自信の根拠を見出すことで、
見事、際限なく湧き出る懸念を、体の傷みごと吹っ切ってみせたのだ。
「……今こそ決着をつけよう! 行くぞ、ジャック!!」
「フッ──その自信、テメェの肉体ごと木っ端微塵に打ち砕いてやろう!
 死ね! 海部ヶ──────なにぃ!?」

銃口を輝せたその瞬間、ジャックは驚愕の声をあげた。
海部ヶ崎が十人に分かれたのだ。しかも、その全ての像に“気配”を感じるではないか。
それは惑脚を目の当たりにしたならではの感覚に相違なかった。
「──ここまでより完璧に惑脚を使いこなせるたぁ、流石に驚いたぜ。──だが」

十の残像郡は視界から消えたり、現れたりを繰り返しながら徐々に接近する。
本体はひとつ。しかし、そのひとつが判らない。
それでも、ジャックの上から見下ろすような視線は変わらなかった。
何故なら、彼にも奥の手があったからだ──。
「“たったそれだけ”の残像じゃあ、俺の銃から逃れることはできねェ──。
 くらっとけ! この俺最大の技──『エルフ・ブリッツェン』──!!」

ジャックが呻る。それと共に小銃──『リッター・ゲヴェール』も呻りをあげて、
十を数える巨大な光弾を一気に吐き出した。
一つ、二つ──次々と残像が飲み込まれ、大地の爆発と共にその姿を消していく。
発射されてから僅か一秒──その瞬き程の間に、10もの残像は全て消されていた。
(────なんて奴だ!)

「ククク、残念だったな。そう簡単に近づかせはしねェよ」
ジャックがギロリと上空を見上げる。そこでは、唖然とした表情の海部ヶ崎が地上を見下ろしていた。
「地上の残像はいわば目くらまし。
 死角の空中に移動し、隙をついて仕留める気だった……などと思ったら大間違いだ!」
空に向きかけていた銃口が、突然彼の背後へと向けられる。
そして、直後に体ごと振り返ったジャックは、
自らの目が収めた光景に、思わず勝利を確信した笑みを見せた。

「残像は十一! 本体は俺の背後! 裏を欠くとは、流石にキレるじゃねェか!
 だが、甘かったな! そう何度も後ろを取らせると思ったかァアッ!?」
「──!」
銃口に輝きが凝縮していく。具現化された銃とはいえ、弾数にも限りがある。
そして当然、弾が尽きればリロードしなくてはならない。
だが、彼の銃は装填数が11。後一発、余裕があったのだ。
「ククク! さぁ、吹っ飛べェェェエエ!!」

凝縮された凶悪な輝きが今、解き放たれた──。
「なっ!?」
しかしその時、突如として起きた異変に、ジャックは目を血走らせた。
引き金を引こうとした瞬間、何と銃口を自らの頭上に向け、
そのまま空に向かって最後の光弾を放ってしまったのだ。
しかもそれは自分の意識した行動ではない。だからこそ彼にとっては異変であった。

「甘いのは、貴様だったな」
海部ヶ崎がニィと笑う。全く予想だにしない好運を喜んでいるのだろうか。
否、そうではない。何故なら、彼女はほくそ笑んでいたからだ。
82海部ヶ崎 綺咲:2011/03/25(金) 22:00:21.61 0
「貴様との距離はおよそ四メートルといったところか。既に! 私の射程に入っている!」
「──まさか、テメェが──うっ!?」
言葉の全てを吐き出す前に、ジャックは新たな異変を感じて声を失った。
体が動いている。まるで海部ヶ崎に吸い寄せられるかのように、地面をズっている。

「最後に教えてやろう。私の能力は、強力な磁力を操るというもの。
 磁力を使うことで金属を操り、また砂鉄から武器を精製することができる。
 そしてこの力は、ある条件を満たすことで、もう一つの特殊な効果を発揮する。
 もう気がついたか? 私は触れたものを、磁石にすることができる」
「な、なんだと──!!」
「初めてお前に会った時、お前は私に攻撃したな。実はあの時、私もお前に触れていた。
 先程はお前の“腕”だけを磁石化し、操ることで空に向かって撃たせたが……
 今は体全体を磁石化させた。私の体から発する磁力に引き寄せられるようにな!」
「クッ!!」

ジャックは銃口を海部ヶ崎に向けようとして、更に体勢を崩した。
磁力によって既に体の自由が効かなくっているのだ。
もっとも、動かせたところで、11発の弾を撃ちつくした小銃はリロードが完了するまで使えない。
もはや彼は、蟻地獄に引きよせられる蟻のように、抗う術を失っているのだ。
許された行動はただ一つ、絶命の時をただ待つということのみ──。

「バカな……!! このッ、この俺がァァァァァアアアアッ!!!!」
「おおおおおおおおおおおおおお────ッ!!」

肺に溜まった空気を一気に吐き出して、
海部ヶ崎は手にした双剣を、かつてないスピードで振り抜いた。

「百花ッ!! 繚乱ァァァァアアアン──!!」

紅色の剣閃の渦が、ジャックの肉体に容赦なく炸裂した──。

【海部ヶ崎 綺咲:渾身の力を込めた百花繚乱を炸裂ぶつける】
83ユーキ・クリスティ ◆IlJSvlNw7Q :2011/03/27(日) 02:58:55.83 0
>>77

森を歩いていた一行であったが、暫くすると突然その森がひらけた。
否、そこは森だったのであろう。
無数の切り株が整然と並び、切り落とされた木々が乱雑に転がっている。
見晴らしの良くなったその先には目的地と見られる洞窟と、その入口に立つ女性の姿。

「初めまして──じゃない人もいるわね。……ま、いいでしょう。
 ようこそ。我らが主、ワイズマン様の居城へ──」
「さて、わかっているとは思うけれど……。この中に入りたいのなら私を倒さなければならなくてよ?
 ──どなたがお相手してくれるのかしら?」

成程、これが我ら一行の倒すべき敵の一人、か。
木々をやったのも、恐らくはあれだろう。

「……面白い」

自分の創れるゴーレムの大きさは無限大だ。
そしてそのゴーレムを使役して戦うというスタイル上、場所が広いのは都合がいい。
洞窟の中だと、かえって力が100%振るえない可能性もある。
仲間たちの中から、自分が前に進み出る。

「戦場の整備、ご苦労様。私の名前はユーキ・クリスティ。『いのちを与えるもの(the Animator)』。
 嬉しいよ、僕の為にこんなに広いステージを用意してくれて、ね」

わざとらしさの滲み出る一礼をする。
頭を上げると同時に両手に拳銃を引き抜き、同時に目の前に人間サイズのクレイゴーレムを構成する。

「ところでそこ、邪魔なんだ。退くか死ぬか、どっちかしてくれないかな?」

その女性に向けた銃弾の発砲音が、クレイゴーレムの活動開始の合図となった。

「――殴り潰せ」

【ユーキ・クリスティ:洞窟入口にてクイーンと戦闘開始】
84クイーン:2011/03/28(月) 14:17:45.05 0
>>83
「……面白い」

一行の中から一人が進み出てきた。
黒いマントのようなものを羽織っているその人物は、少年にも少女にも見える。

「一人で大丈夫かしら?あっさり死んでも文句は聞けないわよ?」
「戦場の整備、ご苦労様。私の名前はユーキ・クリスティ。『いのちを与えるもの(the Animator)』。
 嬉しいよ、僕の為にこんなに広いステージを用意してくれて、ね」
ユーキ──私と言ったところから、どうやら少女のようだ──はこちらの皮肉を意にも介さず一礼してきた。
そして拳銃を両手に持ち、同時に少女の前に何かが出現した。
「ところでそこ、邪魔なんだ。退くか死ぬか、どっちかしてくれないかな?」
「私にしてみればあなた達の方が邪魔なんだけれど・・・。
 そちらこそ死ぬか退くか……いえ、進み出てきた以上逃げることは許さないわ。死になさい」

こちらが喋り終わると同時に、ユーキは拳銃をこちらに向かって発砲した。
その音と銃弾と共に、先程出現した何か──人型ではあるが人間ではない──も同時に突っ込んできた。
「――殴り潰せ」
そんなユーキの言葉が聞こえたかと思うと、突っ込んでくるそれは勢いよく腕を振り上げた。

「侮られたものね……たかが拳銃と泥人形程度でどうにかなると思って?」
迫り来る銃弾とゴーレムに少しも動揺することなく余裕の表情を見せる。
そして銃弾を避け、続いてくるゴーレムが腕を振り下ろした直後、それもかわしてその腕を取り、反対側に投げ飛ばした。
「あれはあなたが作ったのかしら?よく出来ているけど、所詮は人形ね。動きが単調すぎるわ」
ゆっくりと振り返り、その手に神楽耶を出現させる。

「さ、今度はこちらの番かしら?ダンスを始めましょう?
 がんばって踊りなさいな」
クイーンの体から強烈なオーラが発せられる。
「いくわよ。これぐらいうまく避けて見せなさい」
そしてクルリと体を回転させ、オーラを吸収し金色になった神楽耶から凶悪な一撃が放たれる。
「──鶴翼閃──」

【クイーン:ユーキと戦闘開始】
85ユーキ・クリスティ ◆IlJSvlNw7Q :2011/03/29(火) 04:03:56.52 0
>>84

「あれはあなたが作ったのかしら?よく出来ているけど、所詮は人形ね。動きが単調すぎるわ」

「……ハッ」

舐められたものだ。あんなものは只の布石に過ぎない。
投げられたクレイゴーレムは特に何もせずに泥に返しておく。
傍目には、衝撃を受けたクレイゴーレムが為す術も無くその形態を崩したように見えるだろう。

「さ、今度はこちらの番かしら?ダンスを始めましょう?
 がんばって踊りなさいな」

「いくわよ。これぐらいうまく避けて見せなさい」

「──鶴翼閃──」

そうして放たれたオーラによる斬撃の具現。
五感を強化している自分にとっては見切るに容易い。
回避を成す身体能力そのものはないが、そこは能力の使い所。

(まあ、大切なのはこの攻撃の回避そのものじゃないさ……)

適当に調子に乗らせて、隙を突く。
全力でのぶつかり合いは、消耗を最大の天敵とするこちらにとっては避けたい所。

「っ!?防いで、クレイ!」

本当に防げるとは思っていないし、目的も別にある。
視界を遮らせるためにやや大きめのクレイゴーレムを目の前に生成し、防御姿勢を取らせる。
十中八九、それを二つに分断した斬撃の具現はそのまま直進してくるだろうが。

(ま、こういう使い方もあるってわけ)

自分の立っている地面。それをせり上がらせる。土の柱の上に立っている形だ。
生成したクレイゴーレムの背丈もあり、向こうからでは何も解らない、だろう。
こちらの能力を、単なる目の前に自律駆動する泥の人形を生成するだけのものと誤解させておくのは重要だ。
能力の柔軟性が高いぶん、それを単純なものと誤解させればさせるほど殺し方に幅が出る。
どう誤解させどう殺そうかと考えているうちに、クレイゴーレムは胴から二分されそのまま溶解、斬撃はその勢いを保ち、土の柱を切り裂いた。
その土の柱を軽く爆発させ、その衝撃で後ろに吹き飛ぶ。これくらいの"演出"は、やっておいて損はしないだろう。
爆発して粉塵となった土の柱の一部を再凝縮させ、人の腕の形を取らせる。
適当な時間、敵がそれを視認したくらいには溶けて元の泥に戻る程度にオーラを残留させておく。

(ここまで徹底したのは、久しぶりだな……)

背中から着地すると、その勢いで転がりそのまま立ち上がる。
その過程で、ふと転がっている、丸太となった木々にざっと目をくれてやる。

(……いい事を思いついた。これだけあれば、まず逃げられないよね)

「……今のは、ちょっと怖かったね……」

三たび、目の前にクレイゴーレムを生成。今度は人間サイズだ。

「行け!」

今はまだ、相手がこちらの能力を誤解し、油断しきっているとの確証が欲しい所だ。
今いるクレイゴーレムを突撃させつつ、次のクレイゴーレムはすぐに生成できるようにしておき、相手の様子を伺うことにした。
86海部ヶ崎 綺咲:2011/04/01(金) 02:26:27.53 0
何度──耳元で何度、肉の斬れる音がしたか知れない。
その度に視界が赤く染まり、強烈な血の臭いが鼻を突いた。

「グッ……ハァァアッ……!!」

断末魔を轟かせて、ジャックは大の字に倒れ伏した。
体中から流れ出る血が、地面を真っ赤に染めていくその様は、
まるで体を内側から食い破って成長した植物が、花を咲かせているかのようであった。

それを見届けることもせずに、海部ヶ崎はゆっくりと腰の鞘に刀を納めた。
勝負はついた──。それは手応えから早々に確信できたことだった。
「全身の腱と神経を切り裂いた。如何に痛みを感じない狂戦士といえど、これでは二度と立ち上がれまい」

海部ヶ崎の言葉の通り、ジャックは立てなかった。
ただ、空ろとなった目で、じっと海部ヶ崎を見ていた。

「……さらばだ狂戦士。これまで貴様が殺した人間に地獄で詫びてくるがよい」
「……殺せ」
背を向けて、去りかけたその足が、ジャックの一声で止まる。
「……殺せ、まだ俺の意識がある内に」
「貴様は既に死人だ。止めを刺すには及ばない」
「そうか……なら……」
「──!」

背後からの異様な殺気に、海部ヶ崎は振り返り、そして思わず身構えた。
千切れかけた血まみれのジャックの右手に小銃が握られている。
しかも輝かせた銃口を、こちらへ向けているのだ。

「止めを刺さねぇってなら、そうさせてやるまでだ」
神妙な顔付きでジャックが言い放つ。
とはいっても、全身の神経を切り裂いたのだ。引き金を引けるはずがない。
(……何故だ……)
海部ヶ崎は理解できない彼の行動を前に、率直な言葉を投げかけた。

「何故だ、何故そこまでして止めを望む」
「……痛みを感じねぇからだ」
ジャックの声には、どこか重い響が込められていた。

「体は切り裂かれ、もう動かねぇ。だが、それが俺には苦しくねぇ。
 だからどこまで死が迫っているのか、俺にはわからねぇ。
 いつ、電池の切れた人形のように事切れるか……俺にはそれがわからねぇ」
「……」
「俺は、それが怖ェ……。痛みもなく突然に訪れる死が堪らなく怖ぇ。
 だから、俺の意識がある内に、俺を殺して欲しいんだよ。お前の手でな……」
恐れを知らぬ筈の狂戦士が初めて言った、怖いという言葉。
それだけに、彼の訴えは心の底からの真実のものであるように聞こえた。
87海部ヶ崎 綺咲:2011/04/01(金) 02:33:22.80 0
「……突然の死が怖いだと……? 何を今更、勝手なことを……!
 貴様はそう言いながら、これまで何人の人間に死を押し付けてきたんだ!」

海部ヶ崎は怒鳴った。だが、口ではそう言いながらも、心の中は揺れていた。
ジャックに対する哀れみの感情が、自身に芽生え始めていたからだ。
それはかつて、狂戦士のNo.6と対峙した時に芽生えたものと同じものであった。
(いつ訪れるとも知れない死を恐れるあまり、自ら死を望む……
 こいつは、自らの肉体を呪い、憎んでいた……それがわかる。
 ……結局……こいつも結局、カノッサの狂気に翻弄された一人かもしれない……)


そう思うと、何ともやるせなかった。
「クッ……!!」
鞘に納まっていない左手の刀の柄を、海部ヶ崎はグッと握り締めた。
まるでやるせなさ全てをそこに込めるかのように。

「……せめてもの情けだ。この海部ヶ崎 綺咲、介錯引き受けた!」
高々と刀が掲げられる。
「さらばだ、海部ヶ崎 綺咲……。この世で唯一、俺を倒した女よ……。
 地獄で、特等席を空けて待ってるぜ……」
「──!!」
そして海部ヶ崎は、渾身の力を込めて刀を振り下ろした。
その瞬間、心なしか、ジャックの顔が穏やかになったように見えた──。

──。
────。
磁力の発動を止めた途端、左手に収められた刀が、風化していくようにボロボロと崩れ落ちていく。
その刃から滴る血の雫と共に……。

「……向こうでも始まったようだな」
海部ヶ崎は延々と続く森の奥を見据えながら独りごちた。
その方向から、強烈な闘いの気を感じるのだ。
今、彼女がすべきことは、一分一秒でも早く先に行った氷室達と合流し、闘いに加わること。
掌の上に残った鉄の砂を払いながら、最後に足元で横たわる物言わなくなった
ジャックを一瞥して、彼女は走り出した。

「ワイズマン……! 必ず、貴様の下に辿り着いてみせる!」

【海部ヶ崎 綺咲:戦闘終了。ユーキ達のもとへ向かう】
【ジャック:死亡】
88クイーン:2011/04/01(金) 20:11:57.64 0
>>85
「っ!?防いで、クレイ!」

こちらの攻撃を見て、慌てて防ぎにかかるユーキ。
自身の目の前に先程より少し大きめのゴーレムを生成し、防御にあたらせた。
(一人で出てくるから何か策があるのかと思いきや……。さっきから人形遊びばっかり)
ユーキの前に出現したゴーレムは鶴翼閃で真っ二つにされ、そのまま崩れた。
その直後、ユーキのいたところで爆発が起きる。

「爆発……?」
その爆発を見て、クイーンは首を傾げていた。
「たかが泥人形を斬ったくらいで爆発?私の技にそんな効果はない。
 だとすると──向こうの仕業ってわけね」
斬られると分かっていてわざわざ爆発物を仕込んだりはしない。
故にこの爆発は、向こうが"意図的に起こした"ものなのだ。
(何か狙いがあってのこと……よね、当然)
爆発の際に生じた粉塵が晴れ、そこには先程のゴーレムの腕らしき一部が残っており、その更に後ろにいたユーキに傷らしい傷はなかった。
(どうやってかわしたかは分からないけど、器用な真似をするのね)
などと感心していると、またゴーレムが生成されていた。最初の物と同じく人間サイズだ。

「行け!」
ユーキの叫びと共に、再びゴーレムが突撃してくる。
(あれだけのことをやってのけたのだから、何か策があるはずと考えていいわね。
 この突撃は──いえ、一連の攻防は布石。まだ何かやってくる。ならば──)
神楽耶を構えて、突撃してくるゴーレムに鶴翼閃を放つ。
「乗ってあげる……あなたの力、見せてもらうわ!」
勢いよく飛び上がり、空中で激しく体を回転させる。
「様子見は終わり……。ここからは手加減しないわよ!食らいなさい──烈鷲斬(れっしゅうざん)!!」
周囲に10ほどの斬撃が無造作にばら撒かれる。そのほとんどはあらぬ方向へ向かい、ユーキの元へ飛んでいったのはごく僅かだ。
「この技の真髄はここからよ。周りに注意なさいな」
その言葉と同時に、先程あらぬ方向へ飛んで行った筈の斬撃が、向きを変えてユーキの元へと殺到する。
突撃させたゴーレムは鶴翼閃で斬られ、ユーキの周囲に身を守る兵士はいない。
(さぁ、この窮地をどう切り抜けるのかしら?)

【クイーン:ユーキのゴーレムを退け、烈鷲斬を放つ】
89ユーキ・クリスティ ◆IlJSvlNw7Q :2011/04/02(土) 01:11:42.51 0
>>88

(流石に、こっからじゃあ『本気』でやらざるを得ないかな……)

ばらまかれ、軌道を変えた後こちらに向かう斬撃を見、思う。
そうなれば、この攻撃を防いだ後すぐに攻勢に転じ、勝ちに向かわなければいけないが、上手く行く保証はない。

(それでも、やらなきゃ駄目か。こんなところで死ぬよりはマシな筈……)

短時間での連続した大規模なオーラの行使は疲労よりも肉体的なダメージとなって現れるが、目の前の驚異を殲滅する為なら安い出費だ。
そう判断したユーキは、五感の強化に留め、抑えつけていたオーラを解き放つ。
伴い、五感の強化も増幅される。全ての感覚はより研ぎ澄まされ、思考はより冴え渡る。
最早隠れることを辞めたオーラの量は、それだけで敵を警戒させる。
やるならば、手早く。
まずは銃を収める。フリーハンドのほうが集中できる。

(物質錬成[マテリアル・コンストラクト]……鉄板!
 物質強化[マテリアル・エンハンスメント]……強度と、後反響音!)

自分の前後左右、四方の地面から鉄の壁がせり上がる。
それらは斬撃と衝突し、非常識なまでに拡大された反響音の連鎖を生む。
その瞬間だけ聴覚をオーラでふさいで、脳を揺らすほどの音の波をやり過ごす。
訓練を積んでいない限りは、注意を逸らす程度の効果は望めるだろう。
即座に鉄壁を消し去り、敵の姿――否、敵のいるエリアを視覚に捉える。

(続けて物質操作[マテリアル・アニメイティング]……クレイゴーレム!)

まず三体をクイーンの後左右に生成。彼らには取り押さえる仕事をさせる。
仮に反撃を食らった場合は即座に爆発し、煙幕とさせる。
素材として泥を選んでいるのは、そういう柔軟性が高いからだ。
そして残り、およそ四十体。
転がっている丸太それぞれの下に上半身だけ一体ずつ生成し、丸太を担がせる。
さらにその丸太の先端に鉄のコーンを生成すれば、破城槌が完成する。
これだけの数のゴーレムをマニュアル操作するには、さらなる思考力の強化が必要だ。
"嗅覚"に回っていたオーラを思考に回す。その感覚は、戦闘に不要。

「私の本業は、泥遊びじゃない……!」

右手を握る。ぬるりとした感触だけが伝わってくる。"触覚"は既に不要。
握ったまま、胸の前まで運ぶ。

「物質錬成・物質強化・物質操作……行け、スティール・チャージャー!」

叫ぶと共に、赤いものが口から散ったのが見えた。"味覚"は無い方が良い。
そして現れたのは、鋼鉄の軍馬に跨り突撃槍を携えた鋼鉄の騎士。
合図と共に、騎士は駆ける。その槍が、クイーンを穿たんとする。

「続けてクレイゴーレム!放――……」

言葉の途中で"聴覚"を落とす。
右腕を払うと、爪の先から鮮血の雫が舞う。
その動作と同時、破城槌を担いだクレイゴーレム達は一斉にそれを放った。
半数は直線軌道、もう半数は曲線軌道でクイーンの居るエリアごと抑える。

(まだだ……まだ"視覚"は落とすな……!相手が死ぬまでは、死んだのを見届けるまでは、まだ……!)

ピンポイントに能力を行使するために必要な視覚は、ユーキにとっては最大の武器である。
食らって、無事に立っていたら物言う隙も与えず即座に撃ちぬいてやると言わんばかりの目で敵を見つめながら、ユーキは再び銃を構えた。
90氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/04/03(日) 17:46:17.38 0
ユーキとクイーンの死闘が続く。
氷室はその横で、鎌瀬や神宮らと同じようにただ立ち尽くしていた。

戦闘が始まる直前、クイーンは言った。「一人で大丈夫かしら?」と。
確かに、氷室らからしてみれば、わざわざ一人ずつ闘う理由はない。
一度に全員で闘った方が有利に決まっているのだ。
だが、全員で闘おうと提案する者は不思議なことに誰もいなかった。

それは、ユーキに対する信頼の表れであったというよりは、
彼女らがユーキ一人に闘わせざるを得ない状況下にあることを
気付いていたからであろう。少なくとも、氷室はそうであった。

(やはり、見られているな……)
ユーキとクイーンの激しい戦闘の気配に紛れて、
まるで睨みを利かすように射抜くような視線を放っている者がいる。
位置は特定できないが、確かに氷室は第三者の存在を感じていた。

(初めから敵はクイーン一人じゃなかった。我々全員がクイーンに気を取られれば、
 その隙を見て殺りにかかる……恐らくそういう腹積もりだったのだろう、が……
 どうやらこいつは、我々に存在を気取られることも計算の内だったようだな。
 クイーンに一対一の場を用意させ、あわよくば奴に各個撃破させようというつもりか)

二人の攻防を目で追いながら、氷室は「フッ」と小さく笑った。

(極力、自分の手を汚さずに我々を倒す……中々狡猾だな。
 だが、クイーンが一人も倒せずに倒れれば、目論見は外れる。
 “お前”も直ぐに思い知るだろうさ。
 闘いに手出しができないよう睨みを利かせているのは私達だということを……)

【氷室 霞美:ユーキとクイーンの戦闘を見物中。近くに潜む第三者の存在に気が付く】
91クイーン:2011/04/04(月) 08:27:18.69 0
>>89
烈鷲斬が放たれ、ユーキに迫る。その様子をクイーンは落下しながら眺めていた。

(私の斬撃に人形が盾にならないのは向こうも分かっているはず。
 ……それなのに動こうとしない。諦めたのかしら?それとも──)
ユーキの様子を伺っていたが、着地した時点でその表情は驚きに彩られていた。
ユーキのオーラが今までにないほど高まっていたのだ。
(まだあんな力が──いえ、様子が少しおかしい。まさか……命を削っている?)
そう、この急激なオーラの上昇は少しおかしい。力を隠していたのならば、あのような表情にはならないはずだ。
ユーキの表情はとても辛そうに見える。まるで体から何かを搾り出しているような……。
そう考えていた直後、ユーキの反撃が始まった。

自身の四方に分厚い鉄板を作り出し、それらで迫りくる斬撃を防いだのだ。
こちらの斬撃を上回る強度を作り出したのにも驚いたが、さらに驚いたのはその後だ。
斬撃が鉄板にぶつかった瞬間に、通常では有り得ないほどの反響音が響く。
予期せぬ音波の攻撃に、咄嗟に耳を塞いでやり過ごす。
だがそれでもすべてが防ぎきれたわけではなく、頭が少しふらつく。
(やってくれるじゃない……!)
ユーキの方を睨みつけると、先程まであった鉄板は消失していた。
その代わりとでも言うように、自分の左右と背後にいつの間にかゴーレムが出現していた。
いきなりの出現に対処が間に合わず、体を取り押さえられる。

「なめるんじゃ──ないわよ!」
オーラを込めた蹴りで横の二対を粉砕する。次いで背後の一体にも回し蹴りを食らわせた。
「──ッ」
直後、蹴り飛ばしたゴーレムが爆発、周囲は粉塵に覆われた。
(まさか──これが狙い!?私が反撃するのを予想して……!?)

「物質錬成・物質強化・物質操作……行け、スティール・チャージャー!」
粉塵の外からユーキの叫び声が聞こえてくる。どうやら考えている暇はないらしい。
馬の走る音が大量に聞こえてくる。
この場に馬はいない。とすれば、あれもユーキの作り出したものだろう。
「続けてクレイゴーレム!放て!」
さらにユーキの怒号が聞こえてきた。続けて何かが飛来する音が多数。

(二段構えってわけね……。随分と周到じゃない。だけど──)
「私だって、簡単に負けるわけにはいかない……。ましてここで死ぬわけにはいかないのよ!!」
オーラを極限まで開放する。体が発光するほどに。
「今更回避にまわったところでどの道間に合わない。防御なんてやるだけ無駄。
 なら──攻撃に転じるしかないじゃない!
 これが最後の攻撃よ……私の全力、その身に刻み付けなさい!──『鳳凰閃』(ほうおうせん)!!」
鋼鉄の槍と槌が視界に迫り、その身に受ける直前、クイーンは渾身の一撃を放った。
『鳳凰閃』──その名の通り、鳳凰が翼を広げて飛んで行く。
鶴翼閃のように翼を広げた"ように"という比喩ではなく、それは空想上の鳥──鳳凰の形をして飛んで行く。
迫りくる槍や槌をなぎ払い、ユーキがいるであろう方向へ真っ直ぐに。しかし──

「グ……ハッ……」
眼前の波城槌は排除できたが、迂回してきた槍の方は全てを排除できたわけではなく、何本かの槍をその身に受ける。
直前に体を捻って急所は避けたものの、もはや戦える体ではなくなっていた。
「どうやら……ゴホッ…ここまでのようね……。相手も道ずれに出来てるといいんだけど……」
立っていることすら適わなくなり、地面にへたり込む。
「ジョーカー……見てるんでしょ?私にこんな役目を押し付けたんだから、後はあなた達で何とかしなさいよね……」
未だ晴れぬ粉塵の中、姿が見えない同胞に向かって不機嫌そうに言い放った。

【クイーン:戦闘継続不能】
92ユーキ・クリスティ ◆IlJSvlNw7Q :2011/04/08(金) 23:06:04.93 0
>>91

(成程、……"見届けた"よ……)

槌や騎士を両断し、こちらに迫る鳳凰。
しかし、敵がその両膝を地に付けるのは捉えた。

(なら、もう私も、ゴールかな)

トレンチ。口がそう動いたのは感じられる。
眼前にせり上がる土の壁が視界を覆い尽くす。
それで防ぐ訳ではない。
その壁を作るために使った土は、自分の足元周辺のものだ。
その鳳凰を凌ぐために用いるのは、壁ではなく陥没した地面、いわば塹壕。
頭が隠れてもなお下がり続ける地面。それが降下を停止すると同時、頭上を轟音が通り過ぎる。

(これだけやれば、十分だよね……)

塹壕の中で、倒れこむ。
纏っていた全てのオーラを殺す。手早く仕留めたゆえ全体量としてはあまり減ってはいないが、媒体たる本体の消耗が並ではない。
まだ、これが最後というわけではないだろう。治癒能力を向上させるだけさせておく。

(ま、"アレ"に関しては、残りに任せるとするよ……)

戦闘中に感じた、第三者の気配。
構っていられる戦闘ではなかった故放置したが、"上"にはまだ戦えるものは居る。
正直な所、破城槌の絨毯爆撃で炙り出し、あわよくば潰れてくれれば良かったのだが、そううまくは行かなかったようだ。
そんな事を考えながら、ユーキはオーラに癒されていた。

【ユーキ・クリスティ:対クイーン戦終了 治療中】
93氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/04/09(土) 02:11:17.15 0
>>91
視界にもうもうと立ち込めた粉塵が治まる。
勝負の結果は、その時、明らかとなった。
全身を真っ赤に染めて、地面に膝を落としているクイーン。
一方、傷を負って倒れながらも、その生気は聊かも衰えていないユーキ。
(……勝ったか。だが……)

「やれやれ、これで少しだけだが、生存の確率が上がったってわけだなァ」
ほっと安堵の溜息をまじえて、天木が笑う。
「──って、おいおい! 勝負はついたろうが!」
その矢先、天木は声を張り上げた。
自身の目の前で、氷室がクイーンに向かって冷気の集まった掌をかざしているのだ。
「確かに勝負はついた。だが、奴はまだ生きている。奴は狂戦士だ。
 いつまた敵となって立ちはだかるかわからない。だから今の内に止めを刺す」
サラリという氷室。だが、天木も堂々と言い返す。
「待て待て! 確かにその通りかもしれねェが、どっちにしろしばらくは闘えねェさ。
 だろう? 放っておいた方が余計な体力も使わずに済むって思わねェかァ?
 それに、いくら敵たァ言え、動けない女に止め刺すっつーのは、俺にゃ後味が悪いぜ」

「……しかし」
氷室の声は、そこで途切れた。
いや、そうではない。別の声に遮られたのだ。
「ホッホッホッホッホ」
「──!」
突如聞こえた機械のような声に、全員の目が変わった。
「ッ!! この声は……!!」
声の方向を天木が睨みつける。そこには、膝をついたクイーン。
いや、正確にはそのクイーンの背後──赤と黒が混じったピエロが佇む位置である。
(やはり、こいつだったか──ジョーカー)

「確かにそこの貴方の言うとおり、止めを刺すには及びません。
 クイーンも貴方がた如きの手にかかるのは望んではおりますまい。
 そうでしょう? クイーン」
ジョーカーの肩に乗せられた大鎌が、ゆらりとクイーンの首元に突きつけられた。
「──何を!」
天木が目を丸くして問い放つ。
いや、その天木も、既にジョーカーが何をする気なのか、想像がついていた。

「ホホホ、決まってるじゃございませんか。私の手で刎ねて差し上げるのです。
 狂戦士の四傑に数えられながら、無様に敗北した負け犬の首をね」
「……テメェ、そいつは仲間じゃねェのかィ?」
「そうです、仲間だからこそなのですよ。
 敵の手にかかって無様に死ぬのは私達狂戦士にとって最大級の屈辱。
 故に私の手で止めを刺して差し上げるのがせめてもの情けなのです、はい」
「……そうかィ、よォーく解ったぜ。テメェらの……いや、テメェのゲスッぷりがなァッ!!」

熱り立ち、今にも飛び掛らんとする勢いの天木を、氷室は横に広げた手で制止した。
「興奮すると隙ができる。奴は一人だ。そう熱り立たなくとも、直ぐに勝負はつくさ」
「ホホホ、それではお訊ねしましょう。いつ、私が一人で来たなどと申しました?」

(──────)
突然、視界が歪む。そして感じる、側面から突如現れた巨大な殺気。
氷室は無意識の内に逆側面の方向にジャンプしていた。
94氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/04/09(土) 02:20:53.97 0
刹那、爆発音と共に、氷室の立っていた位置から土煙が盛大に巻き上がった。
(衝撃波──! ──!?)
空中から地面を見下ろす氷室の目は、膨れ上がった土煙を突き抜けて、何かが──
そう、一人の人間が急速に接近してくる様子を捉えた。
「お前は……!」
「約束通リ、万全ノ準備ヲシテ来タゾ、反逆者ヨ……!!」
この声、そして近付いて来るにつれて、明らかになる表情──
それは引き裂いたような笑みであった。
何かの正体は、廃工場で死闘を演じた、あのエースに間違いなかった。

「マズハ、オ前カラ血祭リニアゲテヤル!」
機械的だが、それでいて明瞭な声を吐き出して、エースがオーラを纏った拳を突き出した。
空中で体の自由が効かず、回避する選択肢のない氷室は、
瞬時に全身からオーラを発して、拳を受け止めんと掌を差し向けた。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!」
唸りをあげるエースの拳が、掌と接触する。
(──何!?)
その瞬間、エースは尋常ではない力を持って、受け止めた掌ごと氷室の体を殴り飛ばした。
「グッ!」
「俺ノ拳ヲ受ケ止メル事ハ出来ナイ!!」


「チィッ! 気付かなかったぜ! まさかもう一人いたとはよォ!」
百数十メートル先の森に消えていく氷室とエースの姿を見ながら、
天木はスーツケースからワイヤーを取り出した。
「ホホホ、エースは我が手先。必ずや彼女を仕留めてくれるでしょう。さて……」
クイーンの首筋に狙いを定めた大鎌の刃が、太陽に照らされて黒く光る。

「その大鎌を離しやがれッ! テメェの相手は俺がしてやるッ!」
「ほう? 貴方が、この私の? ホホホホホホ……まぁいいでしょう」

ジョーカーは不気味に笑いながら、首筋に向けた鎌を離し、再び肩に乗せた。
そして体を素早くクイーンの前へ移動させると、再度、刃を光らせた。
「ですが、貴方一人とはいわず、遠慮せずに貴方がた全員でかかってくると良いでしょう。
 その方が私としても、始末する手間が省けるというものです、ホホホホホ」

天木は隣の神宮と鎌瀬に一瞬目を向けて、意思の確認を取った。
言葉をかわしたわけではない。だが、目を見れば何となく解る。
彼女らの目は、天木には「望むところ」と言っているように見えた。

「……へっ、サービスがいいじゃねェか。じゃァ! 遠慮なくお言葉に甘えさせて貰うとするかィ!」

【氷室vsエース戦開始。ジョーカー戦も開始】
95神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/09(土) 04:58:10.05 0
>>93>>94
クイーンとユーキが戦いを始めてからは、菊乃は一言も発さず静かに両者の闘いを見つめていた。
当初は自分が闘いに名乗り出るつもりでいた。以前受けた屈辱もある。
しかしユーキに譲った。──否、譲らざるを得なかった。あの目を見てしまっては。
ユーキはどうやらこちらの体の事情──怪我だけではなく、もっと内面的なところまで──を察しているらしかった。
そしてクイーンが現れ、名乗り出る直前にユーキが見せたあの目。
──牽制されている?
それが足手纏いから来る嫌悪なのか、仲間を心配してのものなのかは判断するに至らなかった。どちらでもよかったのだ。
結果的にクイーンと闘うのはユーキになり、自分はそれを眺める側になった。

そして現在、立ち込める粉塵で二人の姿は見えないが、恐らくは今の攻防が最後となっただろう。
徐々に粉塵が晴れ、二人の姿が見えてくる──はずだった。
見えてきたのは、全身を血で染め上げ地面に膝をつクイーンの姿のみ。
ユーキは、と辺りを見回すと、クイーンの直線状に穴が開いているのが見えた。そこからユーキのオーラも感じ取れる。
(ユーキの勝ち、だな)
激しく消耗しているようだが、命に別状はなさそうだ。ホッと息を吐く。
「やれやれ、これで少しだけだが、生存の確率が上がったってわけだなァ」
隣で天木が喋り出す。彼も安堵しているようだった。しかし──残る二人の内氷室はそうではなかったらしい。
「──って、おいおい! 勝負はついたろうが!」
氷室がクイーンに向けて冷気を放とうとしているのを見、慌てて天木が制止する。
「確かに勝負はついた。だが、奴はまだ生きている。奴は狂戦士だ。
 いつまた敵となって立ちはだかるかわからない。だから今の内に止めを刺す」
氷室が静かに言葉を紡ぐ。
確かに、殺るか殺られるかの世界ではその判断が正しい。しかし天木も引き下がらなかった。
「待て待て! 確かにその通りかもしれねェが、どっちにしろしばらくは闘えねェさ。
 だろう? 放っておいた方が余計な体力も使わずに済むって思わねェかァ?
 それに、いくら敵たァ言え、動けない女に止め刺すっつーのは、俺にゃ後味が悪いぜ」
「……しかし」

「ホッホッホッホッホ」
氷室が言い返そうとした矢先、聞き覚えのある──二度と聞きたくはなかった──笑い声がその場に響いた。
「……来やがったか」
視線をクイーン──正確にはその背後の空間──に向ける。
そこには、自分をこの島に連れてきた張本人──ジョーカーという名のピエロが佇んでいた。
菊乃はユーキとクイーンの戦いの最中、第三者の視線を感じ取っていた。
だがその視線の主は、決して戦闘中に姿を見せることはなく、こうして戦いが終わった後に姿を見せた。その行動の意味は──
「確かにそこの貴方の言うとおり、止めを刺すには及びません。
 クイーンも貴方がた如きの手にかかるのは望んではおりますまい。
 そうでしょう? クイーン」
ジョーカーは、手に持つ鎌をクイーンの喉元に突きつけた。
その後の行動は容易に想像できる。
「──何を!」
天木が叫ぶ。しかし天木もジョーカーの行動の意味は理解しているだろう。
「ホホホ、決まってるじゃございませんか。私の手で刎ねて差し上げるのです。
 狂戦士の四傑に数えられながら、無様に敗北した負け犬の首をね」
「……テメェ、そいつは仲間じゃねェのかィ?」
「そうです、仲間だからこそなのですよ。
 敵の手にかかって無様に死ぬのは私達狂戦士にとって最大級の屈辱。
 故に私の手で止めを刺して差し上げるのがせめてもの情けなのです、はい」
「……そうかィ、よォーく解ったぜ。テメェらの……いや、テメェのゲスッぷりがなァッ!!」
激昂し、ジョーカーに突進せんばかりの天木を、氷室が止める。
「興奮すると隙ができる。奴は一人だ。そう熱り立たなくとも、直ぐに勝負はつくさ」
「ホホホ、それではお訊ねしましょう。いつ、私が一人で来たなどと申しました?」
ジョーカーがそう言った瞬間、菊乃は凄まじい殺気を感じ取り、反射的にその方向へ首を向けた。
氷室の側面からやって来るそれは、氷室が反対に跳んだ直後、轟音と共に激しい土煙を巻き上げた。
視線を土煙から逃れた氷室へと向けると、そこにはもう一人の人物が迫っていた。
96神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/09(土) 05:00:40.87 0
「お前は……!」
「約束通リ、万全ノ準備ヲシテ来タゾ、反逆者ヨ……!!」
氷室の声と共に聞こえる、近い過去に聞いた機械的な音声。
忘れるほどに時は経っておらず、故にその声の主には容易に思い当たった。
「まさか……エースか!」
突然の闖入者は、空中の氷室を殴り飛ばすと、それを追って自身も森へと入っていった。

「チィッ! 気付かなかったぜ! まさかもう一人いたとはよォ!」
ぼやきながら天木がスーツケースからワイヤーを取り出している。
「ホホホ、エースは我が手先。必ずや彼女を仕留めてくれるでしょう。さて……」
エースの登場からの一連の流れを黙ってみていたジョーカーが、その鎌を再び鈍く光らせる。

「その大鎌を離しやがれッ! テメェの相手は俺がしてやるッ!」
「ほう? 貴方が、この私の? ホホホホホホ……まぁいいでしょう」
ジョーカーは笑いながらクイーンに突きつけていた鎌をその喉元から外し、肩に担いだ。
「ですが、貴方一人とはいわず、遠慮せずに貴方がた全員でかかってくると良いでしょう。
 その方が私としても、始末する手間が省けるというものです、ホホホホホ」
天木がこちらを見てくる。菊乃はその視線を真っ直ぐ見返すと、ゆっくりとジョーカーを見据えた。
「……へっ、サービスがいいじゃねェか。じゃァ! 遠慮なくお言葉に甘えさせて貰うとするかィ!」

「さて、敵の能力が分からない限り迂闊に突っ込むのはバカ──と言いたいところだが、こりゃあくまで一対一での話だ。
 一部例外もあるが、基本的に敵一人に対しこっちが多数となると闘い方の幅が広がってくる」
視線はジョーカーから外さず、横にいる二人に話しかける。
「しかしまぁ、まずは敵の能力──異能力だけじゃなく身体能力、武器の特性なんかもある程度把握しておく必要がある。
 その為には、誰かが"受け身役"にならなくちゃならねぇ」

そこまで話して、一旦止める。横で二人が頷いたのを確認してから、再び口を開く。
「そこで、だ。その"受け身役"、アタシに任せてくれねえか?」
「──な!ば、馬鹿言うんじゃねェ!そんなこと一人に任せられるかよ!全員でやれば──」
天木が叫ぶ。その横で鎌瀬も息を飲んでいた。
「あのなぁ、さっきから言ってるだろ?"受け身役"だって。みんなで食らっちまったら意味ねえだろうが。
 "分析役"がいてこそ初めて"受け身役"が生きるんだよ。
 そしてこの中で一番頑丈なのはアタシだと思ってる。何しろ"奴らと同じで"痛みを感じないからな」

今まで考えないようにしていたが、菊乃は薄々気付いていた。一歩間違えれば自分はあちら側に立っていたのかもしれない──と。
実験のことは考えたくもなかったが、見れば見るほど自分の体は狂戦士と似通っている。
故に自分が受けたあの実験は、恐らく狂戦士を作り出す実験──『不死の実験』に近いものではなかったのか。
人間と変わらぬ知性を持ちながら、死をも恐れず戦う戦死。
その戦士がもし反逆でも企てたら──その考えから、彼らは処分されたと聞いていた。
しかし、もし人間をベースに改造し、幼少の頃より教育して機関に忠実な狂戦士を作り出せたら──?
機関にしてみれば、願ってもない"最強の捨て駒"の誕生だ。
実際はそうなる前に機関が崩壊し、実験は無期凍結になったのだが……。
もし機関が存続していて、実験が継続していたとしたら?
──何のことはない。自分も先程のクイーンのように何の躊躇もなく切り捨てられていただろう。
そう思うと、あれだけの傷を負わされた相手にもかかわらず、不思議とクイーンに親しみを感じた。
故に殺させない。一度お互い敵同士ではない状況で話がしてみたい。その為には──

「いいかい?さっきも言ったがこの中で一番頑丈なのはアタシだ。そして一番頭の回転が速いのは『研究者』であるアンタだ、天木。
 だからアンタに"分析役"を頼む。アタシが何とかしてアイツの能力を引っ張り出すから、それをしっかり見てくれ。
 んで鎌瀬。アンタにはユーキの回収を頼みたい。さっきの闘いで力を使い果たしてるから、満足に動けないはずだ」
ユーキのいる塹壕を指差し、鎌瀬に示す。
「あの中で倒れてるはずだ。あのピエロはアタシと天木ががどうにかするから、その間に回収してくれ」
鎌瀬と天木の返事は待たず、ジョーカーを睨み付ける。
二人とも何も言わなかったが、これが最善だと分かってはいるのだろう。
「んじゃ、行くぜ!しっかり頼むぜお二人さん!」

【神宮 菊乃:ジョーカー戦開始】
97氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/04/11(月) 18:56:47.17 0
>>94
氷室の手が、心臓を貫かんとする勢いで放たれたエースの拳を受け止めた。
パン! という、綺麗な弾ける音が響き渡る。
しかし──直後、ブシュウという音と共に、鮮血が空中を舞った。
「チッ!」
受け止めた氷室の手は、ブレード状のオーラによって真っ二つに裂けていた。
それでも氷室は手を離すどころか、逆に思い切り敵の拳を握り締めた。
これからの攻撃を避けさせない為にだ。

上半身を左に傾かせ、振り上げた右脚をエースの首に叩き付ける。
もし常人がくらっていれば、首ごと吹っ飛んでいるであろう威力の回し蹴り。
「──なにっ!」
だが、エースは少しも表情を変えない。ダメージがほとんどなかったのだ。
そればかりか、傷付いていたのはむしろ氷室の足首の方であった。
皮膚が切れ、流れ出た血がエースの頬を汚していく。
「ソレダケカ?」
感情のない声が氷室の全身の毛を逆立たせた。
その刹那、空気を切り裂く、エースの手刀が氷室の下顎目掛けて放たれた。

(──速い!!)
氷室は反射的に上半身を仰け反らせ、手刀の軌道上から肉体を移動させた。
それでも、手刀のあまりのスピードが生み出す空圧が、容赦なくその牙を突きたてた。
胸部分を覆うジャージの生地を、その下の胸当てのホックごと縦一文字に引き裂き、
更にその下の皮膚をも痛めつけていく。
「避ケタト思ウノハマダ早イゾ!!」
「ッ!!」
氷室は目を丸くした。自分の真上を通過する手刀が、突如としてその軌道を変え、
両断せんと一直線に顔面に向かって振り下ろされてきたのだ。
上半身を反らせた体勢では、体勢を変えてかわすことも、受け止めることももはやできない。
氷室の判断は早かった。あるいそれは、無数の闘いをこなしてきた者だけが使える、
無意識の行動だったのかもしれない。

「ヌッ!!」
エースの上半身が光に包まれ、勢いよく弾け飛んだ。
彼を弾き飛ばしたのはオーラの光弾。それも冷気のだ。
そう、それは手刀が命中するより先に、氷室の手から放たれたものであった。
光弾の反動を利用して後方に加速した氷室は、
空中で一回転した後、地面を数メートル滑ってやがて止まった。

「はぁ、はぁ……」
汗の玉が浮かぶ頬を拭いながら、氷室は牽制するように前方を強く睨みつける。
(──)
瞬間、息を呑む。吹っ飛んだはずの方向に、エースの姿がない。
「ドコヲ見テイル!」
不意の、背後からの声。そして直後に訪れた、背中に走る激痛。
そんなことには構わず、氷室は手だけを背後に向けて再び冷気弾を放った。

「イイ反応ダ。ソウコナクテハナ」
氷の結晶が舞い散る靄の中で、直撃を受けたはずのエースは笑っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ジャンプし、およそ数メートルの距離を取った氷室は、再び汗を拭った。
心の中で何度も同じ言葉を繰り返しながら。

(こいつ……強い……!)


こうして氷室が苦戦している頃、洞窟の前では、もう一つの闘いが始まっていた──。
98天木 諫早:2011/04/11(月) 19:05:11.14 0
「んじゃ、行くぜ!しっかり頼むぜお二人さん!」
その言葉を残して、神宮は勢いよく飛び掛った。
そのスピードは、天木が瞬きする間もないほど速く、ぐんぐんと敵との距離を縮める。
しかし、対するその敵は、狂戦士の四傑の一人であるジョーカー。

「ホホホ、元気のよろしいことで」
余裕綽々と言ったジョーカーが、ブン! と神宮目掛けて鎌を薙ぎ払った。
それは天木の目ではやっと軌道を捉えられる程の速さ。
だが、それは逆を言えば、天木でも何とか捉えられる程度の速さということだ。
恐らく神宮にとっては、動じる程のこともない速さであるに違いない。
事実、直後に神宮はそれをかわして、ジョーカーの懐に入り込んでいた。
(デケェ武器は破壊力もデケェが、その分、かわされた時に生まれる隙もまたデケェ!
 こいつは捉え──────)

「んだとォッ!?」
思わず天木は声をあげた。タイミングは完璧だった。
にも拘らず、神宮の攻撃が空振りに終わったのだ。
見れば、ジョーカーがまるで地を滑るように右に半円を描いて移動している。
しかもこちらに接近してくるではないか。

「へっ! 今度は俺の番ってかァッ!?」
だが、次の瞬間には、天木の顔はいつものすまし顔に戻っていた。
(滑らかで速ェ! あれも恐らく『瞬脚』か! だが──見える!)
神宮の瞬客、海部ヶ崎の瞬脚と、昨晩、瞬脚を修得する過程で何度も目の当たりにした光景。
そのお陰で目が慣れているとでも言おうか、天木の目は、ジョーカーの姿をハッキリと映したのだ。

「上等じゃねェかッ!!」
天木の手からオーラの篭ったワイヤーが放たれる。
(さぁ! 見せてもらうぜ、テメェの能力をなァ!!)
蛇がのたうつような変幻自在の軌道で視界を翻弄しながら、
ついにワイヤーはジョーカーを絡め取った。
だが──その瞬間に、ワイヤーを伝って手にもたらされたのは異様な感覚。
(──!? これは……違ェッ!!)

天木は我が目を疑った。ワイヤーが絡め取ったのは、巨大な大木の幹だったのだ。
「ホホホ、残念でした」
直後に、左側背からの嘲笑うかのような声。そして突き刺すような殺気。
天木はそこを視認しようとは思わず、咄嗟に右にステップした。
しかしそれは、脇腹に痛みが走るよりも、遅い反応であった。

「ガハァッ!!」
ステップした勢いのまま天木が倒れ、地面を転がる。
左の脇腹から多量の出血をしながら。
「ホホホホホ」
笑うジョーカー。その手に持つ鎌の刃からは、血が滴っていた。
「ば、バカな……!! あのタイミングで、どうやって俺の逆側に……!!」
斬撃は内臓に達するほどのものではなかったが、浅くもなかった。
天木は傷口を押さえながら、全身を震わせて立ち上がり、半ば愕然としながら問い放った。

一連の光景を目にしていた神宮も、同様に驚いている。
しかし彼女のその驚きは、天木とは根本の異なるものであったろう。
何故なら、先ほど彼女が目にしたのは、移動するジョーカーとは“全く逆の方向”に
ワイヤーを投げ放っている、天木の姿だったからだ。

「まだ理解できませんか? 私は既に、能力を見せているのですよ。ホホホホホホ」

【氷室 霞美:全身に裂傷多数。戦闘中】
【天木 諫早:左脇腹を切り裂かれる。戦闘中】
99鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/04/12(火) 18:45:57.44 0
>>93-96
>「ホホホ、決まってるじゃございませんか。私の手で刎ねて差し上げるのです。
 狂戦士の四傑に数えられながら、無様に敗北した負け犬の首をね」
「…負け犬、ねぇ…。負け犬の何がいけないんですか? 勝ち組がいれば負け組もいる。それが世の常でしょ?」

>「そうです、仲間だからこそなのですよ。
 敵の手にかかって無様に死ぬのは私達狂戦士にとって最大級の屈辱。
 故に私の手で止めを刺して差し上げるのがせめてもの情けなのです、はい」
「屈辱、侮辱、雪辱…。ふふ、馬鹿馬鹿しい。無様な姿を晒せないで、こんな屈辱ごとき耐えられないで…
何が最強、何が狂戦士ですか…。あんたら…いや、あんたには分からないんだろうなぁ…負け組(ぼくたち)の、底辺(ぼくたち)の気持ちなんて、さ」
ジョーカーの言葉を聞き、呟く負け犬、鎌瀬犬斗。

>「ですが、貴方一人とはいわず、遠慮せずに貴方がた全員でかかってくると良いでしょう。
 その方が私としても、始末する手間が省けるというものです、ホホホホホ」
>「……へっ、サービスがいいじゃねェか。じゃァ! 遠慮なくお言葉に甘えさせて貰うとするかィ!」
「ふふふ…。強者の余裕、って奴ですか…。気に入らない。どん底まで引きずり堕ろしてやりますよ…」
珍しくやるきを出したようだった鎌瀬。だが、


>「さて、敵の能力が分からない限り迂闊に突っ込むのはバカ──と言いたいところだが、こりゃあくまで一対一での話だ。
 一部例外もあるが、基本的に敵一人に対しこっちが多数となると闘い方の幅が広がってくる」
視線はジョーカーから外さず、横にいる二人に話しかける。
「しかしまぁ、まずは敵の能力──異能力だけじゃなく身体能力、武器の特性なんかもある程度把握しておく必要がある。
 その為には、誰かが"受け身役"にならなくちゃならねぇ」

>そこまで話して、一旦止める。横で二人が頷いたのを確認してから、再び口を開く。
>「そこで、だ。その"受け身役"、アタシに任せてくれねえか?」
>「──な!ば、馬鹿言うんじゃねェ!そんなこと一人に任せられるかよ!全員でやれば──」
天木が叫ぶ。その横で鎌瀬も息を飲んでいた。
>「あのなぁ、さっきから言ってるだろ?"受け身役"だって。みんなで食らっちまったら意味ねえだろうが。
 "分析役"がいてこそ初めて"受け身役"が生きるんだよ。
 そしてこの中で一番頑丈なのはアタシだと思ってる。何しろ"奴らと同じで"痛みを感じないからな」
「…分かりました。でも痛みを感じないといっても不死身なわけじゃないんですよね? …劣化させますか?」
神宮にそう尋ねる鎌瀬
>「いいかい?さっきも言ったがこの中で一番頑丈なのはアタシだ。そして一番頭の回転が速いのは『研究者』であるアンタだ、天木。
 だからアンタに"分析役"を頼む。アタシが何とかしてアイツの能力を引っ張り出すから、それをしっかり見てくれ。
 んで鎌瀬。アンタにはユーキの回収を頼みたい。さっきの闘いで力を使い果たしてるから、満足に動けないはずだ」
ユーキのいる塹壕を指差し、鎌瀬に示す。
>「あの中で倒れてるはずだ。あのピエロはアタシと天木ががどうにかするから、その間に回収してくれ」
鎌瀬と天木の返事は待たず、ジョーカーを睨み付ける。
二人とも何も言わなかったが、これが最善だと分かってはいるのだろう。
>「んじゃ、行くぜ!しっかり頼むぜお二人さん!」
「…了解です」
そう一言だけ返事をして、ユーキの居る塹壕に向かう鎌瀬。相変わらず足が遅い。
「っとここかな?」
足を止め、見てみるとそこにはオーラで治療中のユーキの姿が。
「見つけた。…のは良いけど、どうやって運ぼう?」
悩んでいると、突然、鎌瀬の携帯に通信が入った
「…斎葉君? 何だろ? …もしもし」
『こちら斎場。鎌瀬君、話は聞きました。今からそちらに運搬ロボを向かわせます。
基地の医務室で療養させます』
「おっけー。ありがとう」

100鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/04/12(火) 21:59:26.94 0
お礼を言い、携帯を仕舞う鎌瀬。しばらくすると、ロボットが複数やってきて、タンカーのようなものにユーキを積んだ
「相変わらず仕事が早いなぁ…」
そしてロボットたちは斎葉と夜深内の居る移動基地にユーキを運んだ
「…よし、任務完了。…やったのは斎葉君だけど…
さて、じゃあ僕もみんなのところに向かおうか」
そう言って、神宮や天木の所に向かう鎌瀬だった

その頃…
「何なんでしょう、あの人の能力…? 常に天木さんが攻撃する方向とは逆の方向に移動して…いや、逆ですね。
天木さんがジョーカーの移動する方向と逆の方向に攻撃させられてる…
と、なると…ベクトル操作? いや、幻覚系か? それともあらゆるものを反転させる能力…?
…やはりここは検証が必要ですね…。出撃!」
コクピットの出撃スイッチを押すと、基地の格納庫の扉が開く
「挿入(プラグイン)! 取り込み(インストール)! 準備(スタンバイ)…起動(スイッチ・オン)!」
能力で四つの機械に入り込む斎葉。色は四つとも異なる
「「「「さて、試しましょう。ロボなら幻覚は使えないでしょうし、そうでなくとも何の能力か位は分かるはず…
受け役は神宮さんですけど、サンプルは多いほど
101鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/04/12(火) 22:15:38.22 0
分析もしやすくなれるはずです」」」」
そう呟き、斎葉はロボットでジョーカーの居る方に飛んでいく。
ジョーカーを取り囲み、レーザーで攻撃する事で能力を調べるつもりだ
【鎌瀬一行:ジョーカー戦場へ】
102神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/13(水) 13:01:59.89 0
>>98
「ホホホ、元気のよろしいことで」
瞬脚を用いての超高速の接近にも動じず、ジョーカーは笑みを崩さずに鎌を振るった。
(……?)
菊乃はそれを不思議に思いながら回避動作に移る。
(遅え……。四傑の一人ならこんなもんじゃないはずだ)
その疑問の通り、ジョーカーの放った攻撃は然したる速度ではなかった。
それでも下位の狂戦士の攻撃──菊乃は闘ったことがないので本人は知らない──よりは遥かに速い。
しかし菊乃にとってその速度は余裕を持って避けられる一振りだった。
(まだまだ隠しダネがあるってか……?ならそいつを少しでも早く引っ張り出してやるか)
紙一重とは程遠いタイミングでジョーカーの攻撃をかわし、懐に飛び込む。
「フッ──」
攻撃の際に生じた死角から拳を繰り出す。
威力的には6割程といったところだが、速度は申し分ない。隙を考えると、回避は不可能──のはずだった。しかし──
「んだとォッ!?」
回避不可能と思われたその攻撃を、ジョーカーはいとも簡単に避けて見せたのだ。
ジョーカーはこちらの攻撃を滑らかな動きでかわし、そのままの勢いで天木の方に向かっていったのだ。
(今のは……瞬脚、か。やっぱただじゃ食らってくれねえか)
避けられたことには驚いたが、すぐに思考を切り替えてジョーカーを追う。
しかしジョーカーは既に天木に接近しつつある。今からでは接触を止める事は出来ない。
(天木……すまねえが少しだけ頑張ってくれ!)
心の中で天木に語りかけ、ジョーカーの後を追った。

そこから先の展開は、菊乃の予想を上回るものだった。思わず立ち止まって見てしまう程に。
接近してくるジョーカーに対し、天木は全く見当違いの方向に攻撃を仕掛けていたのだ。
(どういうことだ……?天木の様子から見てジョーカーの姿が見えていない、ってことはねえはずだ。
 なのに攻撃を外している──というより当てようともしていない。天木にはジョーカーがどう見えてるんだ?
 アタシには普通に見えてるんだが……。幻覚?分身?それとも鏡のような反転能力?
 いや、どれも推測の域を出ねえな。……ん?待てよ?)
そこで菊乃はふとあることに気がつく。
(天木が攻撃を外したのは十中八九ジョーカーの能力の仕業。
 だとしたら……何で"アタシにはそれが分かる"んだ?ヤツが能力を使ったんならアタシにも天木と同じ見え方になっているはずだ。
 ヤツの能力には何かしらの欠点がある?範囲が限られているか、視界に捉えた者のみに発動するか、それとも別の何か──)

そこまで考えていると、ふと視界の隅に鎌瀬達が映る。どうやら斎葉の手も借りて無事にユーキを救出できたようだ。
(これであっちは問題なくなったな。あとはアイツの能力を暴くだけだ)
再び走り出し、ジョーカーに攻撃を仕掛ける準備をする。
と、そこに何か別の物体が違う方向からジョーカーに向かっていく。その数は四つ。
(何だありゃ?ロボット?……てことは斎葉か。アイツも手伝ってくれるってか)
ジョーカーは笑みを浮かべて佇んでいる。このままでは天木が危ないかもしれない。
そう思った菊乃は、瞬脚を使い一瞬の内に天木に接近する。
「ちっと手荒になるが許してくれよな。『重力減少』」
天木の体に『重力減少』をかけ、極限まで軽くする。そしてトンッ、と天木の腹を軽く押した。
すると、重力による負荷が極限まで軽くなった天木の体は地を滑るようにして離れていき、やがて木にぶつかって止まった。
僅かな衝撃が怪我に少し響いたかもしれないが、我慢してもらうしかないだろう。

「さて、今度はこっちがお前に傷を負わせる番だ。いくぜ──『重力増加』!」
言葉と共に周囲の重力が重くなる。その数値は通常の十倍。いかに四傑とは言え、さすがに無視できない値だ。
「天木に見せた能力、今度はアタシにも見せてもらおうか。天木が受けた痛み──倍にして返してやらぁ!」
ジョーカーに向かって走り出す。今回は瞬脚を用いているため、先程よりも更に速く、文字通り一瞬で接近できるだろう。
更に自身の考えを検証するため、サーモセンサーも起動しておく。
(さぁ、来るなら来やがれ。その化けの皮、剥がしてやるぜ)

【神宮 菊乃:天木をジョーカーから離す。戦闘中】
103氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/04/14(木) 01:39:35.68 0
>>97
「モウ息ガ上ガッテイルノカ。ソノ様デハ、俺ヲ倒ス事ハデキナイ!」
何もない空間に向かって、エースが拳を素早く突き出す。
しかし、それは単なる素振りを意味するものではなかった。
腕周りのブレード状のオーラを、まるで伸縮自在のゴムのように伸ばし、飛ばしてきたのだ。
それは、かつて廃工場で見たものよりも、はるかに長い。

氷室は横にステップし、余裕を持ってそれをかわす。
普段のように敢えて紙一重でかわさなかったのは、二撃目を予想していたからだ。
紙一重で避ければ、恐らく避けた方向に軌道を変え、対処してくるであろうと。
「無駄ダ!」
予想通りに、エースはオーラの突きを、すぐさま横薙ぎに変換してきた。
氷室はそれを、今度は紙一重でジャンプしてかわす。
一撃目がかわされた時に生じる隙を殺すための二段攻撃。
ならば、その二撃目さえもかわせば、敵に自ずと隙が生じるのは道理。

が、その隙も敵が実力者である程、虫の命ほどの短さで消えてしまうもの。
規格外の身体能力を誇るエースが相手となれば、少しのリアクションも無駄にはできない。
氷室は空中で体勢を変えると、すぐ背後に聳えていた木の幹に足をつけ、
そのまま押し倒さんとする力強さを持って、幹を蹴った。

時速何百kmという爆発的な推進力が生まれ、一気にエースとの距離が縮まっていく。
例え高速戦闘に慣れた瞬脚の使い手でも、容易に反応できるスピードではない。
「無駄ダト言ッタハズダ!」
それでも、エースは反応した。そればかりか、もう片方の腕を突き出して、
新たなブレード状のオーラを氷室目がけて放ったではないか。
──恐るべき反射神経、そして防衛能力。
しかし、氷室にとっては、それも予想の範囲内であった。

「無駄なのは、お前の攻撃の方だ」
ブレードの先端が目と鼻の先まで迫ったその時──
氷室は右の掌を、地面に向けて差し出し、そして叩き付けた。掌から放った冷気を。
「ッ!!」
冷気の威力によって土煙が舞い上がり、エースの視界を封じていく。
同時に冷気の反動を受けた氷室の体は、重力に逆らって斜め上に浮かび、更に加速。
オーラブレードの軌道上から反れ、エースの後方に聳える大木に着地した。
勿論、それだけで終わるわけがない。視界を封じ、背後まで取ったのだから。
(奴のオーラは、私の拳撃どころか冷気さえも弾く。生半可な攻撃ではダメージを与えられない。
 だとするなら、手は一つ──!)

氷室は再び強く幹を蹴り、エースに向けて加速した。右手に強い冷気を集中させながら。
そう、狙いはゼロ距離からの『ノーザン・ミーティアー』。
コンマ一秒という正に刹那の間に無防備な背中を射程におさめた氷室は、
かつてない力をその手に乗せて、腕を突き出した。
(────!?)

その瞬間、氷室の思考は止まった。……理解できなかったのだ。
エースにダメージを与えるどころか、逆に自分自身がダメージを受けている現実が。
「グハッ……!!」
口から、いや、全身から溢れ出た血が、空間を赤く染めていく。
全身の鋭い痛みを再認識したところで、氷室はやっと自分の身に何が起こったかを理解した。
(こいつ──オーラを無数の針のようにして──!)

エースの背中が──いや、全身が纏うオーラは、無数の長い針が突き出たものに変形していた。
それが氷室の全身を貫いたのだ。しかも微小な振動によって徐々に傷口は拡大しつつあった。
「例エ如何ナル状況下ニアロウトモ、接近戦デハ俺ニ隙ハ無イ──ヌッ!?」
途中で、エースは音の外れた声を出した。
氷室の右手が強く輝いている。そう、凝縮した冷気はまだ活きていたのだ。
「そう……かい──!」
至近距離から解き放たれた冷気が、エースの全身を包み込んだ──。
104天木 諫早:2011/04/14(木) 01:47:04.71 0
>>99>>100>>101>>102
(あれは……)
天木は上空を見上げた。いつの間にか、視界に四台のロボットがいる。
新手の狂戦士か? いや、そうではない。
己の肉体を武器にする狂戦士が、メカに頼るはずがない。
(そうか、斎葉って奴か……)

「ん?」
一歩送れて、ジョーカーも接近しつつある奇妙な集団に気がついた。
「新手ですか。いいでしょう、まとめてお相手して差し上げましょう」
一瞬、ジョーカーの意識が天木から斎葉のメカに向けられる。
天木はその隙を突いて瞬脚を使った──ただし、攻撃するためではなく、一旦間合いを取るためにだ。
瞬時に10mほど距離を取った天木は、ジョーカーを鋭く睨み付けた。
だが──既にそこには、ジョーカーの姿はなかった。

「ホホホ、何処へ行くのですか?」
(──っ!?)
体が凍りつく。ジョーカーの声が、自身のすぐ背後からしたからだ。
「中々見事な瞬脚でしたよ。ですが、私が敵であったのが運の尽き」
大鎌が高々と掲げられる。
(クソ! 距離を取ることもできねェのか!)
険しい表情で悔しさを滲ませる天木の脳天に、容赦なく鎌が振り下ろされた──。
しかし──次の瞬間には、鎌は空を切った。その場から天木が消えているのだ。
「ほう」
ジョーカーがあらぬ方向に視線を移す。その先には、大木の側で蹲る天木の姿があった

「ガハッ……! 助かった、が……一瞬天国が見えたぜ……へへへ」
苦笑する天木の視線の先にいるのは、ジョーカーの側で体を構える神宮 菊乃。
あの瞬間、彼は神宮によって体を吹っ飛ばされた陰で、直撃を免れていたのだ。
「さて、今度はこっちがお前に傷を負わせる番だ。いくぜ──『重力増加』!」
神宮の言葉に呼応して、周囲の空気がまるで鉛と化したかのように、ズシリと重くなる。
「おや、体が重い。ホホホ、いい特技をお持ちのようで。これでは満足に動けません」
とは言っているものの、その声や仕草からは焦りや苦悶を窺い知ることはできない。
要するに、10倍重力下というのは、ジョーカーにとっては致命的なものではないのだろう。
(だが……いくら四傑ったって、効果がねェはずがねェ。
 踏ん張ってくれよ神宮。何とかして、奴の能力の謎を解き明かしてみせる)

「天木に見せた能力、今度はアタシにも見せてもらおうか。天木が受けた痛み──倍にして返してやらぁ!」
神宮がこれまで以上の超高速でジョーカーに接近する。
恐らく瞬脚だけではなく、重力操作も発動させているのだろう。
「ホホホ」
だが、神宮が達するよりも先に、ジョーカーは動き出した。
10倍重力下でありながら、軽々と10mほどもジャンプしたのだ。
それを見て、神宮も逃すまいと直ちに空中に飛び上がる。
そして、重そうな拳撃を、目にも止まらぬ速さで繰り出した。
(──!?)

この時、恐らく目を疑ったのは天木だけではなかっただろう。
空中に飛び上がり、拳の射程にジョーカーを捉えながらも、
神宮が攻撃したのは斎葉が操るロボットの方だったのだ。
ロボットが一台、木端微塵になって四散していく。
「なっ──どうしたってんだ神みy──! ──危ねェ!! 後ろだ神宮ァアッ!!」

気付けば、あらぬ方向に拳をぶつける神宮の後ろに易々と回り込んだジョーカーが、
鎌を持った手を大きく振りかぶっている。
その一声で我に返ったか、あるいは先程の天木のように自ら異変に感づいたのか、
神宮は首を後ろへ向けた。しかし、時既に遅し──。
振り下ろされた刃は、神宮の胸に突き刺さった。
105天木 諫早:2011/04/14(木) 01:51:44.05 0
「バカな……一体、何が……」
血を流して無残に落下していく神宮を、半ば唖然と見つめながら、天木は声を絞り出した。
(……待てよ)
そしてその時、ふと気が付いた。
今の神宮は、丸っきり先程の自分ではないのか? ……と。
つまり、神宮にはジョーカーが“見えていなかった”のではないか?
見えていたのは──ひょっとすると、実体のない幻影?
(……いや、だとしても、合点がいかねェ。何故、俺には本体のジョーカーが見えていたんだ?
 それに幻影だとしても、こうも上手く錯覚させられるものなのか?
 何か変だ……何かが……。少なくとも、ただの幻影じゃねェことは確かだ)

「ホホホ、他愛のない。もうお終いですか?」
着地したジョーカーが、倒れる神宮に向けて鎌を光らせた。
「──ッ! 止めってか! そうはさせねェエッ!!」
咄嗟に天木はワイヤーを投げ放つ。
手応えは無し。ワイヤーと接触する瞬間、ジョーカーは再度高く飛び上がったのだ。
(なに!?)
しかも、驚くことに、ジョーカーは斎葉が操るメカの、三台の内の一つの上に乗っている。

「斎葉ァッ!! 何やってんだィ!! 攻撃しろォッ!!」
直後、天木の呼びかけに応えるように、それぞれのメカがレーザー光線を発射。
「──なっ!?」
しかし、何とそのレーザーが、天木に向かってくるではないか。
天木は瞬脚でそれらの大多数をかわすことに成功するが、
かわしそこねた一つが、肩に着弾。爆発と共に肩は容赦なく抉れた。
「グハァァァアッ!!」

体ごと吹っ飛び、地を転がる天木。
ジョーカーは乗っていたメカから飛び降りると、倒れる二人を嘲るように笑った。

──ジョーカーの前に、このまま為す術なくやられてしまうのか?
かもしれない。……が、そうはならないかもしれない。
何故なら、天木には解り掛けていたからだ。ジョーカーの能力が。
(やはり……斎葉も……恐らく本物のジョーカーが見えていなかったに違いねェ。
 そればかりか、奴は俺をジョーカーだと『誤認』させられていた……!
 俺が真逆の方向にワイヤーを投げちまったように、神宮が斎葉のメカを破壊しちまったように……。
 なるほど……解り掛けてきたぜ……! 奴の能力が……!)

天木は立ち上がると、神宮に向けて言い放った。
「聞こえるか神宮ァ!? やっと、やっと解ってきたぜェ! 奴の能力がなァ!」

【氷室 霞美:更に深い傷を負う。戦闘中】
【天木 諫早:肩を抉られるも、ジョーカーの能力に気付く。戦闘中】
106神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/15(金) 11:32:32.16 0
>>104>>105
「ホホホ」
驚くべきことに、ジョーカーは十倍の重力を物ともせず高々と跳び上がった。
「逃がすかよ!お前の能力、意地でも見せてもらうぜ!」
自身も逃げたジョーカーを追って空中へ。
いかな四傑とは言え、こちらは重力操作まで使っている。追い付くのは容易だった。
「今度は逃がさねえ。食らってもらうぜ!」
先程よりも更に鋭いパンチを繰り出す。空中ということもあって避けられないはずだ。
(さぁ能力を見せてもらおうか。アタシの予想が正しければここで──)
ジョーかに拳が直撃する。まだ見えているのはジョーカーの姿だ。変化はない。
(もう能力は発動してるのか?クソッ、発動のタイミングがわからねえ……)

「なっ──どうしたってんだ神みy──! ──危ねェ!! 後ろだ神宮ァアッ!!」
突如天木が叫ぶ。その声でジョーカーの能力が既に発動していることを悟った。
「チッ、まんまと騙されたか!」
天木の言葉に従い後ろを振り向く。しかしその時には既にジョーカーの振るった鎌が眼前に迫っていた。
「ガハッ……!」
鎌が深々と胸に刺さる。体の中から血液が逆流し、大量の血を吐く。
鎌が抜かれ、自由の利かない体が地面に向かって落下を始める。
幸か不幸か痛みは感じないため、体だけが動かないという違和感──既に慣れたものではあるが──を感じながら落下していく。
(やられちまった、か。傷は──致命傷一歩手前、ってところか。
 だがアタシがやられたのも無駄じゃないはず。きっと天木がヤツの能力を解明してくれてるはずだ)
地面はもうすぐそこまで迫っている。このまま叩き付けられれば、いくら異能者でもただでは済まないだろう。
(スプラッタはゴメンだね……。まだ死ぬわけにはいかないんだよ!『重力減少』!)
激突する寸前に能力を発動、最悪の事態は免れた。

「ホホホ、他愛のない。もうお終いですか?」
ジョーカーも追って着地し、止めと言わんばかりに鎌を振り上げている。
「──ッ! 止めってか! そうはさせねェエッ!!」
しかし天木が割って入ったお陰で、鎌が振り下ろされることはなかった。

その後の攻防は、地に伏していた自分には見ることが出来なかった。
それでも、聞こえてくる声や音によって状況はある程度把握できていた。
天木と斎葉が同時に仕掛けるも、またしてもジョーカーの能力によって失敗し、天木が更に傷を負った。
しかし悪いことばかりではなかったらしい。というのも──
「聞こえるか神宮ァ!? やっと、やっと解ってきたぜェ! 奴の能力がなァ!」
天木の声が聞こえる。その声は若干の歓喜に彩られていた。
(ようやく、かい……。そうとなりゃ、アタシもこんなところで寝てるわけにはいかないねぇ……!)
ユラリと体を起き上がらせる。短時間だが治療にオーラをまわしていたため、出血は止まっていた。
「さすが『研究者』だぜ。さて、能力の解明ができた以上、後はアイツをぶっ殺すだけだな。
 いくぜ……ハアアアアアァァァァァ!」
『気昇』によってオーラを高めていく。菊乃の体を今までにない密度のオーラが覆っていた。
(クッ、予想以上にキツい……!やっぱ無理があったか……)
無傷であれば問題なかったが、今の菊乃は致命傷に近い傷を負っている。
そんな体で『気昇』を使用すれば、体にかかる負担は生半可なものではない。
(けど──そんなことは言ってられねえ。ここがチャンスなんだ、無駄にするわけにはいかねえ!)
地面を強く蹴る。踏みつけられた地面は砕け、凄まじい風圧と共に爆発的な加速で走る──否、跳ぶ。
一瞬でジョーカーの横をすり抜け、天木の元に到着する。急に止まったこともあり、後から凄まじい風が吹き抜けて行った。
「アイツの能力が分かったって?ならアンタはアタシに指示を出してくれ。アタシはアンタの指示通りに動いてみせる」
力強い眼差しで天木を見る。それは、今まで他人に身を委ねる事を避けて生きてきた菊乃が見せた初めての『信頼』の証だった。
 「なに、アンタのことはアタシが守ってやるよ。アイツの能力が分かってるのはアンタだけだ。絶対に指一本触れさせねえ」
強く拳を握り、胸の前に掲げる。しかし『気昇』を使ったことにより、閉じていた傷が再び開き、そこから血が溢れてくる。
「おい、大丈夫なのk──」
「へーきだって!このくらいなんともねえよ。余計な心配しないでアンタはこれからの闘い方を考えてくれ。
 そろそろアイツの面も笑い声も飽きてきたところだ」
ニヤリと笑い、振り返ってジョーカーを睨みつけた。

【神宮 菊乃:深手を負うが戦闘を継続】
107氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/04/17(日) 22:30:22.80 0
>>103
「……!」
立ち込める靄を見据える氷室は、やがて膝を落し、そして唇を噛んだ。
(なんて奴だ……)

至近距離からの必殺『ノーザン・ミーティアー』。決まったと思っていた。
ところがどうだ。靄の中から感じるのは、微塵も衰えぬ闘気と凶悪な殺気──。
「ソノ技ハ一度見セテ貰ッタ。同ジ技ハ、二度モ通用シナイ」
声がすると共に、靄が内部からの突然の突風によって吹き飛ぶ。
そうして視界に現れたのは、仁王立ちするエースの姿──。
体中の至るところに凍傷が見受けられるものの、それらは明らかに致命傷ではなかった。
(真正面から、至近距離からくらいながらも、こいつは……耐え切った! ……化け物め)

「サテ、次ハ俺ノ番カ」
エースの腕が一瞬、消える。
いや、そうではない。消えたようにみえる特性を持った拳撃を繰り出したのだ。
そしてその技の正体を、氷室は知っていた。
脳裏に蘇るのは廃工場でのワンシーン、空間を歪めるほどの衝撃波をくらったあの瞬間。

(────)
しかし、今回のそれは、明らかに記憶のそれは一致しない威力を誇っていた。
全身に切り傷が走り、同時に皮膚が千切れ飛んでいく。
更に、空間のたわみが生み出す暴力的な物理的圧力が、
鍛えられた氷室の肉体を容易く弄んでは、容赦なく骨を粉砕した。
「ゴボォオッ!!」
ダメージに逆らえず、大量の吐血をして吹っ飛んだ氷室は、
背後に聳える数本の大木をぶち抜いて、やがて地面に倒れ伏した。

「流石ニ頑丈ダナ。マダ息ガアルノカ。ダガ──」
エースが再び右手を構える。
まだ息はあり、かろうじて意識もあるとはいえ、
今の衝撃波をもう一度くらえば、次は完全にアウトであろう。
(……死ぬよりは……マシか……)
立ち上がった氷室は、傷口を押さえていた手を離すと、今度は両手首を合わせた。
エースにとっては見たことも無い構え。かといって今更怖気づくはずもない。
それだけの絶対的な自信と威力が、エースの必殺拳にはあるのだから。

「コレデ終ワリダ!!」
繰り出された拳撃から、圧倒的な衝撃波が放たれる。
しかし、氷室は動じない。何故なら彼女にも、これから放とうとする技に、
絶対の自信を持っていたからだ。
「終わりなのはお前だよ──」

氷室の手がこれまでにない輝きに包まれる。
いや──彼女の手だけではない。地面も、空気も、放たれた衝撃波も──
エースとの軌道上にある全ての物が光に包まれた。
そして、最後にはエース自身さえも──。

「──『アブソリュート・ゼロ』──」
合わせていた手首を離して、氷室は静かに呟いた。

『アブソリュート・ゼロ』──。冷気を極限まで低温化させることで、
『ノーザンミーィテーアー』を『絶対零度』の凍結波動に昇華した必殺技。
オーラの消費量は他の技とは比較にならないが、その分、威力は絶大だ。
この技の前では、あらゆるものが機能を停止し、凍りつく。
それは、激しく振動するエースのオーラでもあっても、例外ではありえない。
108氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/04/17(日) 22:34:55.12 0
「ガッ……!」
オーラごと右半身が凍りついたエースには、もはや戦闘継続の余地はなかった。
それでも、本来なら全身凍結で即死確実のところを、
半身凍結で済んでいるのは、エースの能力の高さ故であろうか。

「何故、ダ……何故、ハズシ……タ」
違う、そうではない。やろうと思えば氷室には全身を凍結させることができた。
にも拘らず、彼女は敢えてそれをしなかった。エースにはそれが解っていた。
「……何故かって?」
パチンと、氷室が指を鳴らす。
すると、エースの凍りついた右腕が、音を立てて砕け散った。
腕の中に埋め込まれた小型の機械ごと──。それが氷室の答えであった。

「私達との闘いがお前の本意ではないのなら、なるべく生かしたいと思った。それだけさ」
「……」
バタリ。エースは仰向けになって倒れた。
その顔は笑っている。だが、それは先程までの、狂気に歪んだ笑みではなかった。

「ありがとよ……これで俺は、解放された……」
温かな、人間の感情が篭った一筋の涙が、エースの頬を伝った。

【氷室 霞美:戦闘には勝ったが、全身に裂傷多数、肋骨五本骨折。更にオーラ量半減】
【エース:戦闘に敗北。右腕を失うが、人間としての心を取り戻す】
109天木 諫早:2011/04/18(月) 19:58:58.38 0
>>106
「へーきだって!このくらいなんともねえよ。余計な心配しないでアンタはこれからの闘い方を考えてくれ。
 そろそろアイツの面も笑い声も飽きてきたところだ」
(闘い方、か……)
神宮に続いて、天木もジョーカーを見据えた。

ジョーカーの能力──それは対象を『誤認』させる能力であると、天木は推測していた。
幻影を見せる能力との違いはおよそ二つ。
一つは、不特定多数の人間に同時に発動するのではなく、発動対象は恐らく一人に限られるということ。
二つ目は、対象となった人間は、能力の発動中、本体のジョーカーが一切見えなくなるということ。
(……こいつァ幻影なんかよりよっぽどタチの悪ィ能力なんじゃねェのか。
 何せ発動中は、視覚では本体の位置を決して見抜くことができねェんだからな。
 メカに乗った斎葉すら騙されたってこたァ、恐らくメカも簡単に欺くことができンだろう。
 だが……発動の対象が一人ってのがミソだ。それをこちらが上手く利用できれば……)

天木は視線をそのままに、小さな声で神宮に言った。
「いいか、とりあえず奴の能力を簡単に説明するぜ。奴の能力は……対象を『誤認』させる能力だ。
 恐らく、主に対象者の視覚情報を操作することができるんだろうぜ。
 俺やお前や斎葉が、奴自身ではないものに、思わず攻撃しちまったようにな」

かつてジョーカーは、度々赤染や氷室の前に、突然何もない空間から現れた。
そのことを天木は知る由もないが、仮に知っていれば、「恐らく」などという曖昧な表現はしなかったであろう。

「果たして操作できるのが視覚だけなのか、それは正直言ってまだ判らねェ。
 だから現時点では、狙い目は一つに絞られる。
 つまり……一度の能力発動で、誤認させることのできる対象は“一人”だってことだ。
 いいか神宮、二人同時だ。二人同時で奴に攻撃を仕掛ける。
 仮にどちらかがジョーカーの存在を誤認させられても、最低一人は奴の本体が見えているはず。
 俺の言いたいことはもう解ってンな? 二人同時に自分の見えるジョーカーをぶっ叩くンだ!
 何がなんでもなァ! そうすりゃ、俺かお前のどちらかは、必ず奴に当るはず! そうだろ!?」

合理的ではないかもしれない。もしかしたら味方が味方を攻撃し、傷つけることになるかもしれない。
だが、他に有効な手段がない以上、これが最も得策であると、天木は思った。

「──嫌と言ってもこれは強制だぜェ? さぁ! 行くぜ神宮ァッ!!」

天木と神宮は、二人同時にジョーカーへと突進した。
それを見たジョーカーはまたも上空へとジャンプして二人を見下ろす格好を取った。
彼の背後には滞空する斎葉のメカ三台。二人は、迷わずジャンプした。

「ホホホ」
ジョーカーが鎌を振りかざす。と同時に、斎葉のメカがレーザーを発射した。
ただし、レーザーの向かう先はジョーカーではなく、天木ら二人。
(やっぱりな!)
しかし、天木はそれを予想済みであった。
それも当然である。そもそも斎葉に能力をかけていなければ、
わざわざ自ら挟み撃ちの格好を誘う理由がないのだから。
(うおおおおおおおおおおおおっ!!!!)
体に次々とレーザーが着弾し、肉を抉り飛ばしていく。
でも、事前に予想できていたらこそ、覚悟もできていた。だから耐えることもできた。

「くらいやがれェェエエッ!!」
天木は勢いよくワイヤーを投げ放った。
それをジョーカーは鎌で弾き飛ばす。しかし、そんなことは当然、想定内だ。
「ウッ!」
思わずジョーカーが呻る。
弾き飛ばしたはずのワイヤーの先端が方向を変え、足首に巻きついたのだ。
「このくれェ朝飯前よ! さぁ、これで逃げ場は無ェ! 神宮──やっちまェェェエエ!!」
110天木 諫早:2011/04/18(月) 20:05:17.62 0
重い衝撃音が響くと共に、ジョーカーの衣装が破れ、千切れていく。
「ガッ!」
機械で低く加工したような鈍い声があがる。
それは紛れも無く、ジョーカーの体内にダメージが駆け巡った証であった。
(まだだぜ!!)
天木はワイヤーを強く握り締ると、地上へ向けて、ありったけの力を込めてジョーカーを振り投げた。

強烈な音を立ててジョーカーが地上に落下する。
神宮のかけた重力のせいか、まるで隕石でも落ちたかのような巨大なクレーターを穿って。
地上に降り立った天木は、クレーターの真ん中で沈んだジョーカーを睨み付けた。
(ダメージはあったはずだ。だが、これくらいでくたばるような奴じゃねェはずだぜ)

その懸念は、あるいは予想は、すぐに的中した。
ボロボロの衣装とは裏腹に、まるで何事もなかったかのようにムクリと起き上がったのだ。
「素晴らしい。私の能力に気がついてからの連携は、正に見事という他はありません。
 流石の私も少々効きましたよ、フフフ……」

天木は訝しげに眉を動かした。
ダメージは確かに致命的なものではなかったかもしれない。
しかし、次もその程度で済むかは疑問だろう。何故なら既に能力は見抜かれているからだ。
ジョーカー自身、それを認めている。にも拘らず、この余裕は何なのだろうか?

「──この鎌、これは私にとってただの武器だと思いますか?」
突然の質問。予想だにしない展開に、天木はきょとんとした顔を隠さなかった。
「この鎌は『夢見の鎌』と言いましてね、実は私が発するあるモノを増幅し発信する機能があるのです。
 それは何か? ──よぉーく思い出してみて下さい。
 私が貴方がた異能者の前に初めて姿を現したのは、一体いつどこでだったでしょうか?」

(……こいつ、さっきから一体何を……?)
質問の意図するところが掴めない天木は、ただ訝るばかりで何も口にしない。
一方の神宮も、答えようとはしなかった。
しばらくの間をおいて、ジョーカーはその答えを明かしてみせた。

「そう、貴方がたは自身の“夢の中”で初めて私と会ったはずです。
 タネを明かしましょう。この鎌は、私の“精神波”を増幅して発信するのです。
 この力を使えば、私の脳内映像を送ることも、また他人の精神に干渉して、
 一部の五感機能を操作することも可能──貴方がたの視覚を操作したようにね。
 ただ、貴方がたもご存知のように、精神干渉は一度の発動につき一人が限度……
 ですが──ある条件を満たすことで、私はこの力をもう一つ上の段階まで使役することができるのです」

(もう一つ上の段階……だと?)

「すなわち、対象者の五感に干渉でき、更に“破壊”することができる──!
 そしてこの能力の発動条件は、『私自らが明かす前に、対象者が私の能力に気づく』こと──!
 ホホホ、お解かりですか? 貴方がたお二人は、自ら私の術中に嵌ってしまったのですよ!」
「──!!」

ジョーカーから明かされた衝撃の真実。
近くにいるのはヤバイ。射程がどこまでかは判らないが、とにかく一旦、距離をとらなければ。
天木はそう判断した。しかし、それは既に、間に合うはずのないものだった。
                             ナイトメア
「さぁ、招待して差し上げましょう。私の作り出す『悪夢』の世界に──!」

天木、そして神宮の視界が、突如として漆黒の闇に包まれた──。

【天木 諫早:戦闘中】
【ジョーカー:能力『悪夢』が発動。対象者は天木と神宮の二人】
111神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/20(水) 18:51:15.13 0
>>109>>110
「いいか、とりあえず奴の能力を簡単に説明するぜ。奴の能力は……対象を『誤認』させる能力だ。
 恐らく、主に対象者の視覚情報を操作することができるんだろうぜ。
 俺やお前や斎葉が、奴自身ではないものに、思わず攻撃しちまったようにな」

菊乃は天木の言葉を黙って聞くと同時に感心していた。
まさかあれだけの攻防でここまで看破するとは、と。
しかし同時に納得もしていた。『研究者』の面目躍如といったところだ。
「果たして操作できるのが視覚だけなのか、それは正直言ってまだ判らねェ。
 だから現時点では、狙い目は一つに絞られる。
 つまり……一度の能力発動で、誤認させることのできる対象は“一人”だってことだ。
 いいか神宮、二人同時だ。二人同時で奴に攻撃を仕掛ける。
 仮にどちらかがジョーカーの存在を誤認させられても、最低一人は奴の本体が見えているはず。
 俺の言いたいことはもう解ってンな? 二人同時に自分の見えるジョーカーをぶっ叩くンだ!
 何がなんでもなァ! そうすりゃ、俺かお前のどちらかは、必ず奴に当るはず! そうだろ!?」
奇策でも何でもなく、ただ突撃するだけの何の捻りもない愚策。しかしそれ故の──得策。
至極単純ではあるが、今現在取り得る唯一にして最上の策。これを逃せば次はないかもしれない。

「──嫌と言ってもこれは強制だぜェ? さぁ! 行くぜ神宮ァッ!!」
「言われなくても分かってらぁ!アンタこそしくじるなよ!天木!」
天木と二人、ジョーカーへ向けて突撃する。
それを先程と同様、ジャンプしてかわしたジョーカーをこちらもジャンプして追い縋る。
「ホホホ」
追いついたこちらに向けてジョーカーが鎌を振るう。同時にジョーカーの背後に位置していた斎葉の機械がレーザーを放つ。
レーザーの向かう先はジョーカー──ではなく、こちら。菊乃と天木に向かってくる。
天木はそれを予測していたのか、驚いた様子もなく、躊躇せずにレーザーに向かっていく。
菊乃は一瞬驚いたが、先程と状況が似ていたのですぐに対応できた。身を捻ってレーザーの雨をかわしていく。
その行動に一番驚いていたのは菊乃自身であった。
先程ジョーカーから受けた傷は、気昇の使用により再び開いている。
それに、いくら気昇を使用しているからといって、空中でこれだけの動きが出来るわけがないと思っていたからだ。
しかし実際には迫り来るレーザーを軽々とかわしている。不思議に思ったが、今はその理由を考えている暇はなかった。

「くらいやがれェェエエッ!!」
レーザーを気合で突破した天木がジョーカーにワイヤーを放つ。
ジョーカーはそれを課まで弾き飛ばしたが──
「ウッ!」
そのワイヤーが突然方向を変え、ジョーカーの足首に巻きついたのだ。
「このくれェ朝飯前よ! さぁ、これで逃げ場は無ェ! 神宮──やっちまェェェエエ!!」
「いくぜ……歯ぁ食いしばりな!『重力の戦槌』!!」
ジョーカーの腹部に強烈なパンチを振り下ろす。
「ガッ!」
鈍い叫びと共に、ジョーカーの衣服が破れていく。菊乃も確かな手応えを感じていた。
(よし!今度は間違いなく入ったぜ!)
更に天木が足首に巻きついたワイヤーを利用して、ジョーカーを地面へと叩きつけた。
『重力増加』の影響もあって、通常よりも遥かに速い速度で地面に激突したジョーカー。
そのダメージの大きさは、あたかも隕石が落下したような巨大なクレーターが物語っていた。
112神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/20(水) 18:51:59.15 0
(まともに入った。それなりのダメージはあるはずだ)
舞い上がっていた粉塵が晴れ、ジョーカーがクレーターの中心で体を起こした。
「素晴らしい。私の能力に気がついてからの連携は、正に見事という他はありません。
 流石の私も少々効きましたよ、フフフ……」
(あの程度じゃ大したダメージにはならないってこと、か。だが痛みを感じないってだけで意外と効いてるかもな。
 けど……今まで隠してきた能力が見抜かれたってのに、あの余裕は何だ?まだ何かありそうだな……)

「──この鎌、これは私にとってただの武器だと思いますか?」
突如、ジョーカーがこちらに質問を投げかけてきた。あまりに突然だったので虚を突かれた形となり、答えることは出来なかった。
「この鎌は『夢見の鎌』と言いましてね、実は私が発するあるモノを増幅し発信する機能があるのです。
 それは何か? ──よぉーく思い出してみて下さい。
 私が貴方がた異能者の前に初めて姿を現したのは、一体いつどこでだったでしょうか?」
(さっきから何言ってんだコイツ……?今更武器の説明なんて──まさか!)

「そう、貴方がたは自身の“夢の中”で初めて私と会ったはずです。
 タネを明かしましょう。この鎌は、私の“精神波”を増幅して発信するのです。
 この力を使えば、私の脳内映像を送ることも、また他人の精神に干渉して、
 一部の五感機能を操作することも可能──貴方がたの視覚を操作したようにね。
 ただ、貴方がたもご存知のように、精神干渉は一度の発動につき一人が限度……
 ですが──ある条件を満たすことで、私はこの力をもう一つ上の段階まで使役することができるのです」

(上の段階……!そうだ、何で気が付かなかった!──コイツは"夢に出てきた時も鎌を持っていた"!
 普通に使える能力なら、招待が目的だったあの時点で態々鎌を持って来る必要はなかったはず。
 てことはあの鎌は──!)
「すなわち、対象者の五感に干渉でき、更に“破壊”することができる──!
 そしてこの能力の発動条件は、『私自らが明かす前に、対象者が私の能力に気づく』こと──!
 ホホホ、お解かりですか? 貴方がたお二人は、自ら私の術中に嵌ってしまったのですよ!」
(クソッ、やっぱりか!先のアイツの武器を破壊しておくべきだったか……!)
気づいた時には既に遅かった。
ジョーカーが言うように、『もう一つ上の段階』は既に発動しているのだから。

                             ナイトメア
「さぁ、招待して差し上げましょう。私の作り出す『悪夢』の世界に──!」

──視界が突如として闇に包まれる。
(やられたぜ……。これがコイツの真の能力ってわけか)
何も見えない闇の中で一人考える。そこで、ふと気が付く。
(考える……?そうか、アイツが操作できるのはあくまで『五感』であって、思考までは操作できないってことか)
こうしている間にも、ジョーカーがすぐそこで鎌を振り上げているかもしれない。残された時間は少ない。
(五感ってことはあくまで『人としての身体機能』ってことだよな。なら──!)
一か八か、左目の神経接続をカットする。そして、改めて内蔵された機械を起動する。
これは動作を完全に機械に頼っているので、体の機能とは別に動かせるのだが──
(まさか……成功するとは思わなかったぜ)
何と、左目だけではあるが視力が回復したのだ。
(だがまだだ。これをヤツに悟られたらマズい。一発逆転のチャンスは、今じゃねえ)
目の前では、鎌を肩に担いだジョーカーが不気味に笑っていた。どうやらこちらの変化には気づいたいないようだ。
(問題はここからどうするかだな……。ん?そういや鎌瀬達はどこ行った?)
ユーキを助けた後、斎葉の機械は目にしていたが、鎌瀬と夜深内の姿は見ていない。どこかに隠れているのだろうか?
(アイツらも能力にかかっちまったのか?だがもしかかってなかったら──)
逆転の鍵は鎌瀬達──ということになる。
(頼むぜ……。うまいこと逃げ果せててくれよ!)

【神宮 菊乃:ジョーカーの『悪夢』にかかるが、左目の視力だけは回復】
113天木 諫早:2011/04/21(木) 17:04:25.99 0
>>111>>112
(クソッ! 何も見えねェ! いや……!)
暗闇の中で、天木はふとある一点に目を止めた。そこだけが何故か赤いのだ。
よく見れば、それは赤い装束に包まれた、ジョーカーの左半身であった。
(こうなったらこの暗闇を逆に利用して攻撃するしかねェ……!
 何とか奴に気づかれないよう、闇に紛れる……! もうそれしかねェ……!)
ススッ……。天木の足が音を殺して横にスライドする。
しかし──ジョーカーはそれを見逃さなかった。

「ホホホ、今更何をしたところで無駄ですよ。何故ならここは私の作り出した世界。
 貴方がたに許された行動はただ一つ、『悪夢』に絶望することだけなのですから──」

そして突然、耳に鳴り響いた、パァーンという破裂音。
いや、耳ではなく、厳密には体内だったかもしれない。
いずれにせよ、何かが破裂したような音を、天木は聞いたのだ。
(──!?)
痛みはない。慌てて全身をさすってみるが、出血しているところもない。
暗闇のため目視することはできないが、隣の神宮から聞こえる息遣いは至って平常で、
どうやら彼女もダメージを受けているような様子はなかった。
(何だ……俺の幻聴か? それとも、斎葉が何かやったのか?)
否──。それは大いなる思い違いであったことを、天木はすぐに思い知ることとなる。
既にジョーカーの攻撃は、目に見えぬ形で始まっていたのだ。

「第一感『嗅覚』──破壊」
無機質なジョーカーの声。それと共に、天木は異変に気がついた。
変に息苦しい──そればかりか、臭いを感じないのだ。
土の臭いも、太陽光を吸収した空気の臭いも、自分自身の体臭も、何もかも──。
「これは……ッ!?」     ナイトメア
「言ったでしょう? 私の能力『悪夢』は、発動対象者の五感を破壊すると。
 貴方がたお二人は今、『嗅覚』を失ったのですよ」

(まさか──まさかこいつ──!!)
ここに来て、やっと天木は悟った。ジョーカーの狙いを。
「これから一つずつ、貴方がたの五感を破壊させてもらいます。
 そして、完全なる“無”の世界が貴方がたを支配した時、止めを刺しましょう」

パァーン──!
再び体内を駆け巡る破裂音。今度も痛みは無い。
だが──新たなる異変は、既に二人の体に起こっていた。
「ガッ──! 今度は……し、舌が……!」
「嗅覚に続き『味覚』を破壊しました。
 次第に舌も痺れ、やがて息をしているという感覚すら無くなりますよ、ホホホ。
 さぁ、残るは三感──どれを破壊して欲しいのでしょうか?」

(ヤベェ……! このままだと、マジで嬲り殺しだ……! けど……!)
ジョーカーが支配する世界の中で、一体何ができるだろうか?
有効な策はあるのか? ──ない。少なくとも、天木には思いつかなかった。
故に、天木は一つの賭けに、もはやすがるしかなかった。
「神宮ァッ! こうなったら……ダメ元で奴に突っ込むしかねェ!!」

「──なるほど、ここに来てもまだ足掻こうと言うのですか。
 やはり仲間という存在は貴方がたにとって大きなもののようですね。
 いいでしょう、ならばその仲間の声を消してあげましょう」
「──ッ! させるk──ぐあっ!?」
投げ放とうとしたワイヤーがポトリと地に落ちる。
これまで経験したこともない世界に、天木は落ちたのだ。
それはすなわち──無音の世界。
ジョーカーの声も、神宮の声も、自らの鼓動音さえも聞こえない世界──。
114天木 諫早:2011/04/21(木) 17:08:18.81 0
「無の世界の一歩手前といったところでしょうか?
 これで私の声も、移動する音も聞こえなくなった。そして──」
スッと、ジョーカーの姿が、闇に溶け込むようにして消えた。
(──野郎ォ!)

「まだ『視覚』は破壊しておりませんが、こうしてしまえば私の姿は見えますまい。
 ホホホホ、伝わってきますよ、貴方がたの恐怖が!
 そして私には良く解りますよ、暗闇でネズミを狩る梟の気持ちがね!」

(ちくしょう……これじゃどこから来るんだかまるっきりわかりゃしねェ……!
 ……でも、どうやら一つだけ解ったぜ! 奴は、俺達の視覚と触覚を残したまま、殺るつもりだ!)

姿が見えず、声も聞こえない天木には、これからジョーカーが何をしようとしているのか、
本来であれば察しようが無い。しかし、これまでの戦闘で、
ジョーカーの人となりを正確に把握していた天木は、行動を読んでいた。
そしてそれは、紛れも無い現実となって的中した。

「気が変わりましたよ。全ての感覚を破壊し、貴方がたを生きる屍にしてしまったら、
 貴方がたは“死を覚悟”してしまう。そうなると、この恐怖も消えてしまうでしょう。
 貴方がたには是非、恐怖を存分に味わい、絶望しながら死んでいただきたい。
 それが私にとっては何とも心地よいのですから──オホホホホホホホ!」

(……こりゃあチャンスかもしれねェ。何せ、わざわざ向こうから来てくれるってンだ。
 いいだろう、受けてたつぜ。その残虐な性格が命取りになるってことを、思い知らせてやる!)
天木は残った感覚をフルに研ぎ澄ませて、その場に仁王立ちした。
自分が助かり、かつ相手を倒す──そんな奇跡のような起死回生の秘策があったわけではない。
彼にあったのはたった一つ、「一泡吹かせる前に死んでたまるか」という、強い気持ちであった。
(さぁ、きやがれジョーカー!)

心で強く念じたその瞬間──胸に強く鋭い痛みが走った。
ジョーカーの鎌が天木の胸の中心を貫いたのだ。
「まずは貴方から。さぁ、恐怖と絶望の断末魔を、存分にあげて下さい! ホホホホホ!」
「グッ──おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」
しかし天木があげたのは、痛みに、ジョーカーに負けんとする、力強い雄叫びであった。
そしてそれが生み出す爆発的な気力が、天木に血塗られた鎌を掴ませた。

「──フッ、悪あがきはおよしなさい。鎌を掴んだところで所詮貴方の力では──」
「まだだアッ!!!!」
「なに!?」
ジョーカーは驚いた。何と、ワイヤーが天木ごと、自分の体に巻きついたのだ。
「グッ、この男、まだワイヤーを操る力が!」
「ゴボッ! い、今だ神宮ァッ!! 俺ごとこいつをぶちのめせェ!!」

神宮も聴覚を失っている。いくら叫んだところで聞こえないだろう。
しかもこの暗闇の中だ。下手をすれば、天木が自分の体ごと、
ジョーカーを締め上げていることにすら気づいていないかもしれない。
それでも、天木は血を吐きながら叫び続けた。悔いは残したくない、そう思ったから。
「頼む、早く……!! 俺のことなんざ構うな!! 神宮ァァァァアアアアッ!!」

【天木 諫早:嗅覚、味覚、聴覚を破壊され、更に重傷を負うも、自分ごとジョーカーの動きを封じる】
115鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/04/22(金) 18:32:40.08 0
「やっとつい…!?」
神宮達が戦っている現場に到着した鎌瀬であったが、彼は驚いた様子で立ち止まった
(早速ピンチって訳ね…)
ジョーカーに見つかる前に、気配を劣化させ始める鎌瀬
(ジョーカーは感覚を破壊とか言ってたな…。つまりそれがジョーカーの能力? でも僕は平気だし…
斎葉君も問題なく運転(うごい)てるみたいだ。神宮さんと天木さんには効いてるみたいだな…
…で、その天木さんは捨て身でジョーカーを押さえつけてる…。天木さんは自分を犠牲にジョーカーを倒すつもりなのか…)
色々考えをめぐらせる鎌瀬。状況を整理する。神宮さんと天木さんはジョーカーの能力にかかっていて、斎葉君は無事。
そして僕はまだ気づかれて無いだろう、恐らく。そして夜深内さんが要塞内で待機。そう思考しながら、鎌瀬は頭部につけた機械のスイッチを押す。
その機械は小型脳波送受信機。スイッチを入れれば頭で考えたことをそのまま別の同じ機械に送信できる。斎葉の発明品である。
今のところそれを持っているのは斎葉と鎌瀬と夜深内のみだ
(こちら鎌瀬。夜深内さん、斎葉君。神宮さんと天木さん…特に天木さんがピンチです。力を貸してくれますか?)
((了解しました))
すぐに返信が来た。次に鎌瀬は自分の足音の大きさを劣化させ、忍び足でジョーカーの背後に移動する。もしかしたら気づかれたかも知れないが、今は気にしている場合ではない
(こうなったら奇襲するしかない…。幾ら僕が敗北者(ぼく)でも、やることはしっかりやらないと…。ま、どうせ失敗するんだろうけど。――劣化した槍(ネガティブランス)!!)
修行で身に付けた新技、劣化した槍(ネガティブランス)をジョーカー骨盤と背骨の付け根の辺りに放つ鎌瀬
116鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/04/22(金) 19:19:07.30 0
劣化した槍(ネガティブランス)とは、鎌瀬の劣化オーラを槍型にして対象に打ち込むことで、オーラにふれた部分を急激に急速に劣化させる技である。
建物の支柱の強度を劣化させ、壊すこともできてしまう。これでジョーカーの骨盤と背骨の境目辺りの強度を劣化させ、立てなくするのが狙いだ
(私も行きましょう)
夜深内もまた、戦場へと向かうのであった
【鎌瀬犬斗:劣化した槍発動 夜深内漂歌:戦場へ向かい始める】
117神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/26(火) 17:17:31.53 0
>>113>>114>>115>>116
菊乃は視覚を失ったふりを続けていた。
隣で天木が動いたようだが、視線はそちらに向けられない。視線の動きでばれてしまうからだ。
「ホホホ、今更何をしたところで無駄ですよ。何故ならここは私の作り出した世界。
 貴方がたに許された行動はただ一つ、『悪夢』に絶望することだけなのですから──」
ジョーカーの言葉と共に耳元で破裂音がした。が、刺された胸部以外に外傷は見当たらず、菊乃は首を捻った。
(またヤツの能力が発動したのか?五感を破壊する、とか言ってたか……?)
そう考えて、ふと違和感を感じた。何かが──そう『何か』が足りないのだ。

「第一感『嗅覚』──破壊」
はからずもジョーカーの言葉によってそれは解明された。
確かに、言われてみれば匂いを感じない。そればかりか少し息苦しい。
「なるほど、そういうことかい」
                  ナイトメア
「言ったでしょう? 私の能力『悪夢』は、発動対象者の五感を破壊すると。
 貴方がたお二人は今、『嗅覚』を失ったのですよ」
(今壊されたのが一つ、ってことは──)
「これから一つずつ、貴方がたの五感を破壊させてもらいます。
 そして、完全なる“無”の世界が貴方がたを支配した時、止めを刺しましょう」
(──やっぱりな。見た目からしていい性格だぜホント)
そして再び破裂音。今度はすぐに分かった。
「舌──ってことは」
「嗅覚に続き『味覚』を破壊しました。
 次第に舌も痺れ、やがて息をしているという感覚すら無くなりますよ、ホホホ。
 さぁ、残るは三感──どれを破壊して欲しいのでしょうか?」

(さて、ここからどうする?このままじゃいずれ何も感じない人形にされちまう)
事ここに至っても菊乃は驚くほど冷静であった。それもそのはず。何故なら──
(感覚がない、なんて『実験』で腐るほどやってきたからな。さすがに全部、ってのはなかったが……。
 一つ二つ程度ならなんてことはないぜ)
──そう、菊乃は過去に受けた人体実験の折に似たようなことをされた経験があるのだ。
その為、経験がない──普通の人間ならなくて当然──天木とは違い、未だ冷静でいられるのだ。
「神宮ァッ! こうなったら……ダメ元で奴に突っ込むしかねェ!!」
とそこに天木の叫び声が聞こえた。どうやら破れかぶれで特攻しようというらしいが──
(ダメだ!そんなことしたら犬死するだけだ。機会が来るまで我慢させねえと……!)
そう思い、天木に声をかけようと口を開く。そこにジョーカーの言葉が割り込んできた。

「──なるほど、ここに来てもまだ足掻こうと言うのですか。
 やはり仲間という存在は貴方がたにとって大きなもののようですね。
 いいでしょう、ならばその仲間の声を消してあげましょう」
「──チッ。天木!まだ早まるんじゃn──」
その言葉は最後まで聞こえなかった。ちゃんと言えたかどうかも怪しい。そう──ついに聴覚が破壊されたのだ。
何も聞こえない無音の世界。天木の無事を確認したいが視線はまだ動かせないためそれも出来ない。
「無の世界の一歩手前といったところでしょうか?
 これで私の声も、移動する音も聞こえなくなった。そして──」
「まだ『視覚』は破壊しておりませんが、こうしてしまえば私の姿は見えますまい。
 ホホホホ、伝わってきますよ、貴方がたの恐怖が!
 そして私には良く解りますよ、暗闇でネズミを狩る梟の気持ちがね!」
どうやら天木の視界からはジョーカーが消えたようだ。しかし菊乃には左目だけではあるが見えている。

「気が変わりましたよ。全ての感覚を破壊し、貴方がたを生きる屍にしてしまったら、
 貴方がたは“死を覚悟”してしまう。そうなると、この恐怖も消えてしまうでしょう。
 貴方がたには是非、恐怖を存分に味わい、絶望しながら死んでいただきたい。
 それが私にとっては何とも心地よいのですから──オホホホホホホホ!」
118神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/26(火) 17:18:18.36 0
(さて、ここからが正念場だぜ……)
恐らくジョーカーの矛先は天木に向いている。
先程から菊乃はジョーカーと会話をしていない。話しているのは天木のみだ。
(天木を殺させるわけにはいかねえ。しかしここまで来ると残された起死回生のチャンスは接触の瞬間しかねえのも事実……)
出来れば自分が代わりに受けたかったが、それではダメだ。二人まとめてやられてしまう可能性がある。
ゆっくりとジョーカーが天木に近づいていく。その視線は天木のみを捉えているようだった。
気づかれないように細心の注意を払って僅かに視線を横にずらして隣を見る。
そこには覚悟を決めたかのような表情で立っている天木がいた。
(諦めた、って顔じゃねえなありゃ。何か考えあってのことか?)
考えている間にもジョーカーは天木に近づき、そしてその鎌を天木の胸へと突き刺した。

「まずは貴方から。さぁ、恐怖と絶望の断末魔を、存分にあげて下さい! ホホホホホ!」
「グッ──おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」
しかし次の瞬間、驚くことに天木は自分の胸に刺さった鎌を掴んだのだ。
「──フッ、悪あがきはおよしなさい。鎌を掴んだところで所詮貴方の力では──」
「まだだアッ!!!!」
「なに!?」
更にそこからワイヤーを操作し、自身の体ごとジョーカーに巻きついた。
「グッ、この男、まだワイヤーを操る力が!」
「ゴボッ! い、今だ神宮ァッ!! 俺ごとこいつをぶちのめせェ!!」

天木が何か叫んでいる。声は聞こえないが言わんとしていることは手に取るように分かった。
(全く無茶しやがって……。でも、その無茶のお陰でチャンスが生まれたんだ。無駄にはしねえ。一撃で仕留める!)
「頼む、早く……!! 俺のことなんざ構うな!! 神宮ァァァァアアアアッ!!」

尚も天木が叫ぶ。しかし菊乃は考えていた。
(どうする……?このまま攻撃してもいいがそれだと天木も巻き込んじまう。
 どうにかしてアイツだけを攻撃するにはどうしたらいい?吹っ飛ばすのは論外、か。クソッ、どうすれば──)
その時、菊乃の頭に天啓がひらめいた。飛ばすのがダメなら──落とすのはどうだ?
より正確に言えば側面からの攻撃ではなく、上からの攻撃。要するに"埋めて"しまえばいいのだ。
(何か違う気もするが……今は四の五の言ってる場合じゃねえ。やってみるだけだ!)

そして初めて視線をジョーカーに向け、三メートルほど跳び上がった。
一瞬でジョーカーの真上に到達し、『重力増加』を使って落下の際の勢いを増加させる。
(マジの全力だ。これでダメなら……)
一瞬最悪の状況が頭をよぎったが、すぐに頭を振って打ち消した。
「これで終わりだ、腐れピエロ!」
そこでジョーカーはようやくこちらを視認した。やはり片目だけとは言えこちらの視力が生きていることには気づいていなかったようだ。
慌てて動こうとするが、天木に絡め取られているため満足に動けない。
更に菊乃は、前転の要領で体を回転させながら勢いをつける。そして片足を前に突き出した。
そう──踵落としの要領である。そして突き出した足に更に『重力増加』をかける。
「いくぜ──『重力の戦槌』!!潰れやがれぇぇぇぇえええええええっ!!」
そして最後にもう一回転し、鞭のように撓らせた足をジョーカーめがけて振り下ろした──

【神宮 菊乃:拘束状態のジョーカーに『重力の戦槌』を繰り出す】
119天木 諫早:2011/04/27(水) 19:19:21.24 0
>>115>>116>>117>>118
「なるほど……。私を倒すために、自ら捨て駒になったというわけですか……!
 流石にこれまで勝ち残ってきた異能者だけのことはあるようで。
 ですが、一つ大事な事をお忘れではないのですか? 私は狂戦士なのですよ?」

天木の胸の中心に突き刺さった鎌が、不意に持ち上がった。
ということはつまり、今度は天木の喉元へその刃が向かうということである。
(──まさか!)
天木は、鎌を掴む手に一層の力を込めて、せり上がってくる鎌を下へ押し戻そうと抵抗した。
しかし──

「ガハァアッ!!」
込み上げてくるような強烈な痛みが、天木に更なる吐血を齎した。
抵抗空しく、鎌は徐々に持ち上がり、その刃が胸上部の骨や筋肉まで切断し始めたのだ。
(こ、コイツ……なんて馬鹿力だ……!!)

「私の肉体は『不死の実験』により強化され、その力は常人のそれを遥かに凌駕しているのですよ。
 貴方如きに力比べで負けるほど、私は甘い相手ではございません。
 ホホホ、このまま胸を通過し、咽を切り裂き、最後には頭も真っ二つにしてあげましょう」
ジョーカーの手に更なる力が込められ、鎌が一層加速する。
「ガッ……ァアアッ……!!」
尚も抵抗を諦めない天木であったが、多量の出血で天木の目はかすみ始めており、
もはや自力ではどうすることもできないのは決定的であった。
(ち……くしょう……! ここまで、か……!)
しかし、勝利の女神は、まだ天木を見捨ててはいなかった。

「──ヌッ?」
ふと、ジョーカーの手が緩む。
聴覚を封じられた今の天木には何が起きたのか知る由もないことだが、
ジョーカーの腰には鎌瀬が放った二本の槍が突き刺さっていた。不意打ちである。
それでも、ジョーカーは動じることなく言い放った。
「フン、見かねて加勢ですか。ですがそう慌てなくとも、すぐに相手をして──」
ところがその言葉は、不自然にも途中で切られることとなる。
否──正確には、別の声に遮られたというべきだろう。

「これで終わりだ、腐れピエロ!」

その声の持ち主は、天木、鎌瀬とは別の、もう一人のジョーカーの敵──他でもない神宮 菊乃であった。
いつの間にか彼女は、ジョーカーの真上に跳び、隕石さながらの勢いで落下してきていたのだ。
もし直撃を受ければ、如何なジョーカーといえど無事では済まないだろう。
「フン──」
ジョーカーの決断は早かった。
巻きついたワイヤーを全力で引き千切り、直撃の前に瞬脚でかわそうというのだ。
確かに、狂戦士としての力を全て発揮すれば、それも可能であるかもしれない。

「なっ……!? あ、ガァッ!!」
しかし、直後にジョーカーが発した声は、悲鳴にも似た声であった。
それもそのはず、何と上半身が腰から『捻じ切れて』いる。
原因は鎌瀬が突き刺した二本の槍。
槍が持つ劣化効果によって、ジョーカーは自分でも気付かぬ内に腰が弱っていたのだ。
そこへ体の負担を無視した動きをしようとした為に、ついにバランスが崩壊。
結果、上半身と下半身のつなぎ目が切り離されるという事態に陥ったというわけだ。

(何だ……!? こいつ、カラダが……崩れて……!!)
目の前の信じ難い光景は、天木に一瞬痛みを忘れさせるほどの衝撃を齎すと同時に、
自然と安堵の表情を齎すものでもあった。
勝利の女神は天木らに微笑んだと、もはや誰が見ても明白であったからだ。
120天木 諫早:2011/04/27(水) 19:25:41.06 0
「バカ……なっ! この私が……!!」
「いくぜ──『重力の戦槌』!!潰れやがれぇぇぇぇえええええええっ!!」
叫びながら、鞭のようにしならせた脚を、神宮はジョーカーの脳天に叩きつけた──。

ガシャァァアアン──!!

瞬間、天木の視界を覆っていた暗闇が、ガラスが粉砕されたかのように弾け跳んだ。
「ゴッ──ボハァァアアアッ!!」
同時に断末魔をあげたジョーカーも、その体をバラバラに四散させて、大地に沈んだ。

──。
────。

「ガハッ……! ざ、ざまぁ見やがれってんだィ……」
出血する胸を押さえながら、天木はその場に膝を落とし、首だけとなったジョーカーを一瞥した。
味覚も嗅覚も、そして聴覚も、闇が晴れてから自然と元に戻っていたが、
物理的な外傷が自然と治るなど、そうそう都合のよい話があるはずもない。
散々痛めつけられた天木の肉体は、正に超重傷者のそれであった。

「神宮ァ……お前の怪我も酷ェが、治療はもう少し我慢してくれ。
 悪いが俺は自分の体を優先して治療させてもらうぜ……グッ」
神宮もうなずく。仲間の中で天木が最も深い傷なのだ、それも当然だと思うのは自然である。

「だけど、治療は歩きながらだってできる……さぁ、先へ進もうぜ」
天木は落とした膝をあげ、ふらふらとした足取りで目前に迫った洞窟へ進み始めた。
ワイズマン一派との闘いには、特に制限時間というものは存在しない。
ならば怪我を完治させてからでも行動は遅くはない、そう思われるかもしれないが、
治療に専念したところで、いずれにしろ怪我が完治するのは数時間先の話なのである。
それまで待っては、敵に時間を与え、結果として敵を利することになるかもしれない。
となれば、まず一分一秒でも早くワイズマンの元にたどり着く、結局それが最も肝要なのだ。

(一秒でも無駄にはできねェ……早ェとこ奴らを片付けねェと、それこそ参っちまうぜ)

「天木! 神宮! 鎌瀬!」

遠く背後からの声に、天木は一度足を止め、そして振り返った。
見れば、海部ヶ崎が走って追いかけてくる。
「やっぱ……あいつも無事だったか。ってことは、残る狂戦士は一人──キングだけか」

天木は再度洞窟を睨むと、全員に言った。

「ジャック、クイーン、ジョーカー、そしてエース……恐らくキングはこいつらを束ねるリーダーだ。
 どんな野郎なのか、どんな能力を持っているのか想像もつかねェが、俺達はやるっきゃねぇ。
 気合を入れなおしていこうぜ!」
天木の呼びかけに全員がそれぞれ呼応する。
心強い気迫を背に受けて、天木は堂々と洞窟へと入っていった。

【天木 諫早:ジョーカー戦に勝利。治療しながら洞窟へ入っていく】
【海部ヶ崎 綺咲:天木らと合流】
【ジョーカー:『悪夢』を粉砕され、死亡】
121神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/30(土) 03:37:22.06 0
>>120
「ゴッ──ボハァァアアアッ!!」
菊乃の放った渾身の一撃は、ジョーカーの頭に直撃し、更にその衝撃でその四肢をも破壊した。
同時にガラスの砕けるような音がして、今まで左目だけだった視界、そして聴覚と嗅覚が戻るのを感じた。

「ガハッ……! ざ、ざまぁ見やがれってんだィ……」
天木が胸を押さえて蹲る。
本来ならば立っていられない程の──否、意識を失っていても不思議ではない重傷なので無理もないだろう。
「神宮ァ……お前の怪我も酷ェが、治療はもう少し我慢してくれ。
 悪いが俺は自分の体を優先して治療させてもらうぜ……グッ」
「アンタが死んじまったら治療もクソもない。自分を優先しな。
 アタシのことは気にすんな。どうせすぐにくたばるような体じゃねえしな」
笑いながら頷く。だが実際の所、菊乃も胸に深手を受けている。
天木の前では笑って見せていたが、体が自由に動かないことは菊乃自身分かっていた。
如何に痛みを感じないとは言え、ダメージによる身体機能の低下は他人と同様に発生する。
「だけど、治療は歩きながらだってできる……さぁ、先へ進もうぜ」
大した治療も出来てない内に、天木が覚束ない足取りで洞窟へと向かい始める。
「あー、アタシは──」
「天木! 神宮! 鎌瀬!」
菊乃が何かを言おうとした矢先、背後に位置する森からこちらを呼ぶ声がした。
その声に顔を向けると、海部ヶ崎がこちらに走ってくるのが見えた。
「やっぱ……あいつも無事だったか。ってことは、残る狂戦士は一人──キングだけか」
天木は再度洞窟を見てから、その場にいる全員の顔を見て言った。
「ジャック、クイーン、ジョーカー、そしてエース……恐らくキングはこいつらを束ねるリーダーだ。
 どんな野郎なのか、どんな能力を持っているのか想像もつかねェが、俺達はやるっきゃねぇ。
 気合を入れなおしていこうぜ!」
その言葉に皆が応じる。
「おうよ!……と言いたい所だが、アタシは悪いけど少し休ませてもらうよ。
 さっき受けた傷、思った以上に深かったみたいだ」
そういって自分の胸を指差す。そこからは真新しい血が次々と溢れ出していた。
「この傷じゃあ無理に闘っても死ぬ確率が上がるだけだ。傷が塞がり次第追いかけることにするよ。
 なに、海部ヶ崎が来たんだ。アタシくらいいなくても平気だろ?」
天木、海部ヶ崎と順番に見て、肩を竦める。
海部ヶ崎は心配そうな顔をしていたが、やがて頷いて天木に先へ行くよう促し、洞窟に入っていった。

「──さて、いるんだろ?出て来いよ」
天木たちを見送った後、振り向かずに背後に呼びかける。
「よくわかったわね。私がここにいること。気配は消していたのだけど」
岩の陰から金髪の女性──クイーンが現れる。
「何となく…な。助けられて礼も言わないようなヤツじゃないとは思ってたからな」
「あら、敵なのに随分評価してくれるのね」
「"元"敵、だろ?今は違う」
「……どうしてそう思うの?」
「もしアンタがまだ敵なら、あのピエロに加勢したはずだ。だがアンタはそれをしなかった。だからもう敵じゃねえ」
「買い被りよ──といいたいところだけど、実際どうなのかしらね?私にも分からないわ」
「そう…かい。だがアタシ……は……」
そこまで言って、菊乃は地面に倒れた。
「ちょ、ちょっと。どうしたのよ」
「……見てたんなら分かるだろ?胸刺されてんだぜ?アタシは……」
「そこまで深刻な傷なら早く言いなさいよ。さっきまで普通にしてたから大したことないのかと──」
「仲間にこれ以上心配はかけられねえ。それだけだよ。……ん?早く言え?」
「助けてもらったお礼よ。治してあげるわ」
「そいつは有難いね。出来るんなら早速頼む」
菊乃に駆け寄り治癒を始めるクイーン。
「……そういやアンタ、名前はあるのか?まさかクイーンが本名じゃないだろ?」
「……そうね。想像の通りクイーンはコードネームよ。
 折角だから憶えておきなさい。私の名前は麻梨亜──紅羽 麻梨亜よ」

【神宮 菊乃:ジョーカーに勝利。クイーンから治療を受ける】
122天木 諫早:2011/05/02(月) 22:08:35.83 0
>>121
「なるほど、やはりそんなことが。どおりでボロボロなわけだ」
天木から事の一部始終を聞かされた海部ヶ崎は、
傷だらけの天木をジロジロとねめまわして、呆れたような溜息を吐いた。
「ンだよ? まさか無傷で倒せなかったのかとか言うんじゃねェだろうなァ?」
言葉の意味をそう解釈した天木は、不快感を露にした表情で問うたが、
海部ヶ崎は真っ先に首を横に振ってそれを否定すると、改めて溜息をついて答えた。

「いや……無茶をすると思ってな。神宮のように少しくらいは休んでもよかったろうに」
「冗談じゃねェや。敵はワイズマン含めて後二人ってとこまできたんだ、休んでられっかよ。
 つーか大体、お前だってボロボロじゃ……」
言いかけて、ふと天木の表情が強張る。
「どうした?」
「い、いや……」
怪訝そうな顔をして覗き込んでくる海部ヶ崎に、
天木は思わず顔を赤らめると、やがて言いにくそうにポツリと零した。

「なんつーか……また派手な格好になってると思ってよ。まぁ、昨日よりはマシだが」
「そうか? 随分と下らないことを気にするんだな」
しれっという海部ヶ崎。
確かに身につけたシャツや短パンはボロボロになってはいるものの、
昨日ほど際どい格好ではない。男であっても人によってはまず気にもしない程度だ。
にも拘らず、天木がいちいち中学生のように顔を赤らめてしまうのは、
彼にまだ幼さがあるせいなのか、あるいは意外にも女に免疫がないからなのか。
もっとも、服装は無しにしても、そこらの下手なアイドルよりも優れた美貌を持つ海部ヶ崎に
顔を近づけられたら、本能的にそうなっても致し方ないことかもしれないが……。

「ところで……エースの方は、霞美の方はどうなったと思う?」
ふと話題がエースの件に向けられて、天木の顔もすっと真顔へと戻った。
「……負けやしねェさ。エースは確かに化物だが、あいつの実力も似たようなもんだろ?
 俺はあいつの全てを知ってるわけじゃねェが、それくらいのことは見てりゃ解らァ」
「そうだな。いずれ私達とも合流するだろう。私達はそれまでに、せめてキングを倒しておきたいものだ」
「ああ、けど……」

天木は言葉を切って、上を見上げた。
暗闇の中とはいえ、見えるはずの洞窟の天井は、もはや見えなくなっていた。

「一体、どこまで続くんだろうなァ……」
天木が不安そうに漏らすのも無理はない。
天木達が入った洞窟の中は、地下へ続く螺旋階段になっていたのだが、
下りていくこと数十段──未だ階段の終わりは見えていなかったのだ。
「弱気になったわけじゃねェんだけどよ、なんつーか……ひょっとして地獄まで続いてるんじゃねェかって、な」
「例えそうだとしても必ず終わりはある。……見てみろ、あれを」
遥か下を見据えて、海部ヶ崎が顎をしゃくる。
指し示したその先から見えるのは、一筋の光であった──。

「地獄に到着、ってか」
「私達にとっての地獄なのか、それとも奴らにとっての地獄なのかは、闘いの結果次第さ」
そういうと、海部ヶ崎は光に向かって一目散に階段を駆け下りていった。
天木は一度大きく深呼吸した後、回復させていた手を止めて、その後に続いた。

(さぁ……キングってのは鬼か蛇か、一体どっちだ?)
123天木 諫早:2011/05/02(月) 22:11:50.84 0
薄暗い階段が終わり、光の中に飛びこんだ天木達が見たのは、広いドーム状の空間であった。
ドームの内壁にはゴツゴツした岩肌が見られないことから、完全な人工物であることがわかる。

「広いな。東京のドーム球場くらいはある感じか? よくまぁこんなもんをつくったもんだぜ。
 いや、ンなことより、ワイズマンってのはどこに……」
「──ワイズマン様にはまだ会えないよ。ボクの後ろにある扉から、もう一つのエリアに行かないとね」

ふと、空間正面の彼方から聞こえてきた声。
見れば、コツ、コツと、足音を鳴らして近づいてくる小柄な人間が一人。
白い学生服のようなものを着、腰に刀剣を差している。
柄の形や全体のデザインから察するに、それは西洋のサーベルだろうか。
そして性別は……そう、女だ。ボクとは言っているが、その声といい女だろう。
いや、そもそもその顔を見れば一目瞭然。
見る人によっては海部ヶ崎よりも美人だと思うかもしれない、それだけの面をしている。

「キミたちがここに来たということは、ジャックもクイーンもジョーカーもやられたってことだよね?
 やれやれ、ボクの出番が来るなんて思ってもみなかったよ」

「お前がキング……? 男だと思ってたが……まさかクイーン同様の女だったとはな」
「綺麗な花には棘があるというだろう。女だろうと油断するな」

二人の会話にまずきょとんとしたのはキングであった。
「女? 誰が?」
「あん? まさか俺が女に見えンのか? お前以外に誰がいるんだよ、え?」
一度、目をパチクリさせたキングは、やがて「クスクス」と笑い出した。
「嫌だなぁ。ボク、男だよ?」

何を言っているのか理解できないのだろう、思わず一斉に顔を見合わせる一同。
「信じられないって顔だね? 何なら証拠見せようか?」
証拠と聞いて、思わず顔を引きつらせた天木は、全員を代表するように首をブンブンと横に振った。
(なんか見てみたい気もするが……いやいやいや! ンなことねェ! ったく、調子が狂うぜ!)

「花は花でも、さしずめ毒の花といったところか」
と、一歩前に出たのは海部ヶ崎。腰に携えた刀を、ゆっくりと抜きながら。
「君達は戦闘を終えたばかりで疲労している。ここはまず私に任せてもらおう。それに」
キングの腰に目をやって、続けた。
「どうやら奴も剣の使い手のようだからな。私が最も適任だ」

「ふーん、君も剣を使うの。面白そうだね、ボクもちょっとだけ剣には自信があるんだ」
キングも腰の鞘から剣を抜く。
日本刀よりも若干刀身が反ったその形は、正に西洋のサーベルであった。

「ならば互いに手加減は無用。行くぞ、キング──!」

刀を構えて、海部ヶ崎は猛烈なスピードで斬りかかった。

【天木 諫早:キングと対峙。現在、戦闘は静観中】
【海部ヶ崎 綺咲:キングと1対1の戦闘中】
124天木 諫早:2011/05/05(木) 22:33:05.46 0
刀と剣が交錯し、激しい金属音が鳴り響く。
戦闘開始から二分、まだ互いに一撃を入れていない点から見て、実力は伯仲──
いや、互いにダメージを与えていないから、単にそう見えるだけであろう。
時間が経つにつれ徐々に、そして明らかに、海部ヶ崎の方が押してきている。

(海部ヶ崎の動きは目で追うのがやっとだ。一方のキングは動きはしなやかだが、スピードが無ェ。
 俺でも完璧に目で捉えることができる。しかも……)

ザシュッ!

キングの右腕周りの服が裂け、鮮血が飛び散った。
それを確認した海部ヶ崎は、軽くジャンプして、キングから三メートル程の距離を置いた。
「……フッ」

短時間とはいえ、あれだけ高速で動き回りながらも、海部ヶ崎の息は少しも乱れていない。
一方のキングは、既に肩で息をし始めている。
(海部ヶ崎が本気を出し、一方のキングが様子見、という感じじゃねェな。
 むしろその逆で、キングの方が本気を出してるって感じだ。こりゃ海部ヶ崎が有利……)

そう思いかけて、天木は留まった。
(……いや、変だぜ。四傑最後の一人ってのは、“この程度”なのか?
 確かに世の中、名ばかりって奴は多い。けど、こいつに限ってそンなことが……)

その疑念は、実際に剣を交えている海部ヶ崎も同じであるのだろう。
彼女は見事先制を決めたにも関わらず、浮かない顔を一向に崩さなかった。

「おかしい、キングとはこの程度なのか? そう言いたそうな顔だね」
「……」
「安心していいよ、それは正常な感覚だ。事実、今のキミはボクの力を遥かに上回っている。
 今のボクじゃどう逆立ちしたってキミには勝てないだろう。そう、“今のボク”では、ね……。」
剣先を海部ヶ崎に向けて、キングは続けた。
「できれば“このままの姿”で事を済ませたかったけど、そうもいかないとあれば仕方ない。
 悪いけど、そろそろボクも真の力を発揮させてもらうよ」

(真の──力──? ──まさか!)
キングの言葉に、真っ先にピンときたのは天木であった。
「海部ヶ崎、気をつけろ! こいつら狂戦士が持つ武器はただの武器じゃねェんだ!
 ジョーカーやクイーンがそうだった! 油断するなよ、予想もできねェ攻撃がくるぞ!」

それに対し、「クス」ッと笑ったのはキング。
「確かにボク達四傑は、それぞれ愛用の武器を具現化する異能者さ。
 だけどキミ、一つ勘違いしているよ。それは、ボクの武器はこの剣──『王剣』じゃないってことさ」
(──なに)
「王剣は『手にした者の力を封じる』特性があってね、いわば拘束具のようなものなんだよ。
 ボクの力は体にかかる負担があまりにも大きいからね。
 普段はこの王剣を手元に置いておくことによって、抑えているんだ。
 つまり、王剣を手放した時、ボクは真の力を発揮することができる……」

キングの手から剣が離れ、床に落ちる。
途端に、キングの全身が眩しく発光し始めた。それは紛れもないオーラの輝き。

(こ、このオーラは……!!)
「さぁ、見せてあげるよ。ボクの能力、そしてボクの真の力をね……!」
125天木 諫早:2011/05/05(木) 22:37:09.87 0
見る見るうちにその強さを増した輝きは、
ドーム全体に行き渡るほどの一瞬の爆発的発光を最後に、視界から消えた。

「「っ──!?」」
しかし、それに代わって視界に現れたものを目にした海部ヶ崎、
そして天木は、思わず息を呑んだ。
何と、キングが全身、黄金の鎧に身を包んでいるではないか。
しかも気のせいか、いや……気のせいではあるまい。
キングの肉体が一回りも、二回りも大きくなっているのだ。

「驚いてくれたようだね? これこそボクがつくりだした究極の鎧──『王纏甲冑』──。
 そして今のボクこそ、狂戦士四傑の一人であるキングなのさ」

低い、まるで地の底から響いてくるような声。
その姿といい、声といい、先程までのキングとは正に別人であった。

「ヤベェぞこの雰囲気……。海部ヶ崎、ここは全員で戦った方がいい。
 お前一人じゃ、多分勝ち目は無ェ……!」
「……くっ」
二人のやり取りを見ていたキングは、やがて「ニヤ」っと笑った。

「全員で戦う、か。懸命な判断だね。だけど、結局は同じことさ。
 一人だろうが全員だろうが、キミたちではボクには勝てない。
 ボクがこの鎧を纏っている限りは、ね」

「……そんな台詞は実際に闘ってみてから吐くもんだぜ」

「フッ、ならばかかってきなよ。現実の厳しさを、嫌というほど教えてあげるよ」

天木は一度全員に目をやると、再びキングに向き直り、叫んだ。
「言われなくても行ってやらァッ!!」

【天木 諫早:キング戦突入】
【キング:『王纏甲冑』発動。正体を現す】
126神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/05/06(金) 00:57:34.79 0
クイーンはそう名乗り、治癒を続けている。
「麻梨亜──いい名前じゃねえか。ところで……」
「何かしら?」
「アンタ、狂戦士になる前の記憶とかって残ってるのか?」
「……いいえ。残念ながら憶えているのは名前だけよ」
「そっか。ま、名前だけでも憶えてるならいいじゃねえか」
「どうかしらね……。──あら?」
クイーンが顔を上げ、洞窟の方を見た。
「どうした?」
「あなたの仲間達とキングが戦闘を始めたようね」
「本当か?ならこうしちゃいられねえ。アタシは行くぜ」
そういって立ち上がろうとした矢先、足元がふらつき倒れそうになる。
慌ててクイーンが支え、転倒は免れた。

「ちょっと、まだ動いちゃだめよ。全然治ってないんだから」
「そんな悠長な事言ってられるかよ。仲間が闘ってんだぜ?助けに行くのが普通だろ」
「今のあなたじゃ行っても盾にすらなれないわ。寧ろ足を引っ張るだけよ」
「アタシ的にはもう治ってるつもりなんだけどなぁ……。そんなに酷いのか?」
「参考までに言っておくけど、普通の人間だったらとっくに死んでてもおかしくない傷よ。
 治るまでじっとしてなさい」
「チッ、しょうがねえな……。皆、生きててくれよ……」

「──!!」
更に少し時間が過ぎ、治癒も終盤に差し掛かった頃、クイーンの表情に変化が現れた。
険しい表情で洞窟を見ている。
「また何かあったのか?」
「ええ。キングが本気を出したわ」
「本気……そんなにやばいのか?」
「少なくとも私、ジャック、ジョーカーの三人でやったとしても勝てる見込みは少ないわ。
 『王纏甲冑』──そう呼ばれるあの能力には、ね」
「『王纏甲冑』……。名前だけ聞くと防御に優れてるだけみたいな感じがするな」
「"だけ"?それで充分じゃない。
 いい?防御に特化しているということはこちらの攻撃はほぼ通用しないということ。
 それが何を意味するか……分からないほど馬鹿じゃないわよね?」
「当たり前だ。しかし……そうなると勝ち目なんてねえじゃねえか。こっちの攻撃は通用しないんだろ?」
「全く通用しないとは言ってないわよ。ただ、かなり厳しい闘いになるのは事実ね。……はい、終わったわよ」
「助かったぜ。アタシは洞窟に行くが、アンタはどうする?」
「私はここにいるわ。流石にあなた達に加勢するわけにもいかないしね。
 ……ま、精々頑張りなさいな。死なない事を祈っててあげるわ」
「そりゃどーも。嬉しくて涙が出るぜ。……んじゃ、アタシは行くぜ。じゃあな」
別れの言葉を告げ、菊乃は洞窟に入っていった。

「は〜、こりゃまた随分深いな……。アイツらはこれを降りていったのか」
目の前に広がる底の見えない螺旋階段を見て、菊乃は溜息を漏らした。
「チンタラ降りてたんじゃ時間がかかるな。ここは一つ、裏技を使うか」
そう言うと、何と階段を無視して中心に飛び込んだのだ。
菊乃は暗闇の中、遥か下方に向かって凄まじい速度で落下していった──。

【神宮 菊乃:クイーンと別れ洞窟に入る。螺旋階段を落下中】
127鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/05/07(土) 16:30:58.92 0
>>121
>「……そうね。想像の通りクイーンはコードネームよ。
 折角だから憶えておきなさい。私の名前は麻梨亜──紅羽 麻梨亜よ」
「…よ、よろしくお願いします紅羽さん。僕は鎌瀬犬斗です」
何気にまだ居た鎌瀬。取り合えず自己紹介をする
『私ハ斎葉巧ト申シマス』
操っているロボから音声を出す斎葉
『…サテ、ソレデハ…。終了(シャットダウン)、退出(ログオフ)!』
操っていたロボットが動きを止める。斎葉が能力を解除して自分の身体に戻ったのだ

「…さて、では私(本体)も行くとしましょう。電気屋型機動要塞、戦闘専用形態(バトルモード)」
電気屋型要塞の戦闘で使われる部分だけを切り離し、其処に搭乗。洞窟に走らせる斎場
「まぁ、すぐに着くでしょう。…ユーキさんには治療室で休んでいてもらいましょう」

『皆さん、お待たせいたしました。夜深内…』
『…もう終わっているみたいですね』
遅れて夜深内がやってきた。正直動かしきれていない気がする
「あ、夜深内さん! もう皆洞窟に入っていったみたいですよ。この後斎場君も来ると思います…」
『了解です。私達はどうします? 先に行っていましょうか?』
「うーん…そうだねぇ。僕はとっても弱いから、細心の注意を払わないと。…こっそり階段を下りましょう」
『そうですね、了解です。では、行きましょうか』
こうして鎌瀬と夜深内も階段を下りていった
【鎌瀬犬斗&夜深内漂歌:洞窟に入り、螺旋階段を静かに下りる
斎葉巧:本体に戻り要塞の戦闘用部分と共に洞窟に向かう】

128天木 諫早:2011/05/10(火) 02:04:36.04 0
「くらえキング! 『飛花落葉』!!」
海部ヶ崎が切っ先をキングへと向ける。
と同時に、彼女の背後から現れたのは──否、飛び出たのは無数の黒き物体。
それらの正体は全て鋭利な刃物。
周囲の土から鉄分のみを取り出し、瞬時に武器化したものだった。

「へぇ? 一瞬の内にこれだけの武器を精製(つくり)出すことができるのかい。
 大した能力だね。だけど……」
「──!」
武器が次々とキングに命中していく。
しかし、キングは文字通り、微塵も揺るぐことはなかった。
命中した武器は全て、キングの鎧に触れた途端、木端微塵となったからだ。
鎧に覆われたキング自身は蚊に刺された程も感じていないだろう。

(あれだけの武器を……! けどな! ンなこたァ計算の内なんだよォッ!!)

バラバラになった武器の破片を掻い潜りながら、天木は宙に舞った。
そして、オーラを込めたワイヤーを、力いっぱい投げ放った。
「うっらァっ!!」
くねくねと、それでいて素早く死角に回り込んだワイヤーは、
それこそ蛇が獲物に巻きつくように、目にも止まらぬ速さでキングを縛り上げた。
「まだだぜェッ!!」
続いて間髪入れず、天木はポケットに忍ばせておいた鉄球を取り出すと、
素早くオーラを込めて勢いよく射出した。
「『凶弾(キラーショット)』!! ジョーカーの時はやられてばっかだったがよォ、今度はそういかねェ!!」

「──違うね。“今度も”そうはいかないの間違いだよ」
「──!?」
瞬間、天木は目を大きく見開いた。
何と、いつの間にかワイヤーが千切れて吹っ飛んでいる。
しかも、自身の持ち技の中で、最も貫通力が高いはずの『凶弾』が、
鎧に触れた途端に砕け散ったではないか。
(オーラで強化している俺の武器までが……! 何て、何て硬ェ鎧なンだ!)

「さて、抵抗はもう終わりかな? なら、そろそろ──」
ふっと、天木は不敵に笑らった。
「──そろそろ、なンだって? 策は二重に三重に──そして四重にだ。
 言ったろ、今度はそうはいかねェってよォ!!」
「──!」

今度は、天木の背後から何かが飛び出た。
──それは双刀を手にした海部ヶ崎であった。

「頼むぜェ! 海部ヶ崎ィッ!!」
「受けろキング!! 我が必殺の──『百花繚乱』ッ!!」

無数の光の軌跡を描いた紅の剣閃が、キングに容赦なく炸裂した。
129天木 諫早:2011/05/10(火) 02:09:05.59 0
キィィィイイイイインン……!!

金属音がドーム全体に響き渡ると共に、細かな金属の破片が飛び散った。
「なっ……にっ……!?」
その時、愕然としたのはキングではなく、海部ヶ崎であり天木であった。
これまで傷一つ付かなかった海部ヶ崎の刀が、ボロボロに欠けてしまったのだ。
「一度じゃ理解できなったかい? ボクの鎧の防御力が」
対するキングの鎧には、またしても傷一つついていない。
不敵に笑うのは今度はキングの番であった。

(目にも止まらぬ高速の乱撃術! それを受けたにも関わらず、無傷だってのか……!?)

「策は四重に、とか言ってたね? ならば今ので打ち止めかな?」
「……くっ!」

キングの眼前に着地した海部ヶ崎は、即座に自らの後方に向かって跳んだ。
刀が傷付けられるほどの防御力の前では、迂闊に接近戦はできないと判断したのだろう。
しかし──。

「「──!?」」
その時、一瞬、呼吸を忘れるほどの衝撃が二人を襲った。
キングから離れたはずの海部ヶ崎の直ぐ目の前に、キングがいる──。
「じゃあ、今度こそボクの番だね? 少し強くいくよ──」

ドンッ!!
まるで壁を破壊したかのような重低音が響き渡る。
次の瞬間には、海部ヶ崎は頬を思い切りへこませて、弾丸のように吹っ飛んでいた。
「海部ヶ──」
「他人の心配をしている余裕なんてキミにはないはずだよ」
「!?」

直ぐ目の前からの声。天木は咄嗟に身構えたが、時既に遅し。
肉体を粉々にされたかと錯覚するほどのとてつもない衝撃が、全身を駆け巡ったのだ。

「ガハァァァアッ!!!!」

ドォオンッ!!
天木は、後方の壁に勢いよくぶち当たり、更に壁の中深くに沈み込んだ。
その衝撃でジョーカー戦の傷口が再び開いたか、全身から容赦なく血が溢れ出た。
(は、速ェ……! し、しかもこのパワー……!)

「グッ……ガハァツ!!」
視界の端では、海部ヶ崎が立ち上がろうとしながらも、膝を震わせて吐血していた。
天木の数倍は頑丈な肉体を持っていそうな海部ヶ崎ですら、既に満身創痍に近い……。
天木は、ギリリと歯軋りした。
(ヤベェ……! 俺達が疲労していることなんざ関係なしに、こいつはヤベェ……!
 もしかしたらコイツ……氷室やエースよりも……!!)

「おやおや、もうダウンかい? じゃあ、次の攻撃で、キミたち二人は終わりかな?
 もう少し楽しませてくれると思ったんだけど、残念だよ、フフフフフ」

キングの残酷な笑みの前に、天木はただ、打ちひしがれるしかなかった。
(クソ、が……!!)

【天木 諫早&海部ヶ崎 綺咲:ダメージ大。戦闘中。】
130神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/05/13(金) 17:50:36.56 0
>>129
菊乃はどこまでも続く闇の中を落下していた。未だに底には辿り着かない。
(アイツら無事か……?いや、ひどい様だが無事じゃねえだろうな。
 相手は他の三人を束ねてたヤツだ。いくらあの二人でも劣勢は必至だろう。
 だから……だからこそ早く行かないと!クソッ、どこまで続いてんだ!)
焦る気持ちを抑えて気を鎮める。
(そういや氷室はどうなったんだ?アイツのことだから死ぬ事はないと思うが……。
 さっきは姿を見せなかったな。どっかで療養でもしてんのかね)
氷室が負けているかもしれない、という考えは不思議と出てこなかった。
確かにエースは氷室にも匹敵しかねない強力な異能者だ。しかしそれでも氷室が負ける姿が想像できないのだ。
それは無意識の内に氷室を信頼している証拠であった。

そうして落下している内に、最下層と思しき場所が見えてきた。
(光……?あれが一番下か。よし、一気に行くぜ!『重力増加』!)
体にかかる重力が増す。それと共に落下の速度も上がり、まるで隕石のように落下していった。

「おやおや、もうダウンかい? じゃあ、次の攻撃で、キミたち二人は終わりかな?
 もう少し楽しませてくれると思ったんだけど、残念だよ、フフフフフ」
光に近付くと共にキングのものと思しき低い声が聞こえてきた。
やはり──と言うと彼らに失礼だが──劣勢だったようだ。

──ドンッ!!
その直後に最下層に着地する。その衝撃で床にはピキピキという音共に皹が入り、フロア全体が揺れた。
俯けていた顔を上げ、前を見る。そこには黄金の鎧を身に纏った筋骨隆々の男が立っていた。
視界を巡らせると、海部ヶ崎と天木が映る。しかしその体は既に満身創痍といっても過言ではないほど傷付いていた。
だが最悪の事態──既に殺されている、という事態にはなっていなかった。二人とも生きている。

「どうやら間に合ったようだね……。着いたら死んでましたじゃ笑い話にもなりゃしねえ」
鎧の男──キングがゆっくりとこちらを振り向く。その顔は醜く歪んでいた。
「アンタがキングかい?ある意味予想通りっつーかなんつーか……」
キングは動かない。菊乃はふと、クイーンから聞いた話を思い出していた。
(あれが『王纏甲冑』とやらか。こっちの攻撃はほぼ通用しない……だったか?
 ただ単に防御が高いのを嵩にかけて攻めてくるなら単純なんだが……そううまくはいかねえよな。
 最後に出てくるようなヤツだ、そう馬鹿じゃないだろ)
攻め方を考える。が、いい案は浮かばない。
(チッ、どうするかな……。いや、まずは──)
キングの相手をする前にやるべき事があった。まずは二人を助けることが先決だ。

「イチかバチか……行くか」
小声で呟くと、瞬脚で移動し海部ヶ崎の元に辿り着く。海部ヶ崎は服を己の血で濡らし、床に膝を突いていた。
「大丈夫か?まぁ死んでないだけマシだな。『重力減少』」
海部ヶ崎の返答を待たずに海部ヶ崎に能力をかけて肩に担ぐ。そして再び瞬脚を使い、今度は天木の所へ行く。

「随分手酷くやられたな。ま、海部ヶ崎にも言ったが生きてて何よりだ」
海部ヶ崎を静かに壁に寄りかからせ、天木を壁から救出する。
一連の流れの間、キングはこちらを見ているだけで動かなかった。

「余裕かましやがって……腹立つぜ」
キングを睨み付けながら二人に話しかける。
「さてお二人さん。アイツをどうにかする何かいい策はないかい?……当然アンタらだってまだ諦めたわけじゃないんだろ?」
ニヤリと笑って二人の顔を見る。その顔は満身創痍ながらも闘志に満ちていた。

【神宮 菊乃:最下層に到着。海部ヶ崎、天木の両名を救出】
131鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/05/16(月) 18:04:16.53 0
>>129>>130
(拙いよ夜深内さん。あのキングとか言う人の鎧。防御力が半端ない…。
…僕の劣化した槍でも貫通できるかどうか…)
(『ですね。流石王者(キング)と言ったところでしょうか』)
階段の陰から様子を見る鎌瀬と夜深内。鎌瀬の能力で気配を劣化させている
(さて問題はここからだね…。ジョーカー戦のときみたく不意打ちで奇襲するか
それとも神宮さんたちと合流して策を練るか…)
(『そういえば鎌瀬さんのオーラって自分の身体から離せないんでしたっけ』)
(ん? そうだよ。だから必然的に技は全部近接になるわけだけど…まぁ、オーラを伸ばせば遠距離もいけるんだけどさ)
極力小さな声で会話する二人
(『ではこうしましょう。私は神宮さんたちと合流します。ですから鎌瀬さんはキングの鎧をどうにかしてください』)
(そうだねぇ…。うん、分かったよ。じゃ、頑張ってね)
(『貴方も頑張ってくださいね』)
『すみません。遅れてしまいました。私にも協力できることがあるのなら。』
モニターに文字を映し出す夜深内
『いえ。私にも協力させてください』
文字を映し出しながら、神宮たちに近づいていった
(やれやれ、またこういう役か…ま、僕らしいよね
さて、劣化した槍は一点を集中して劣化させるタイプの技だ。全体を硬い装甲で覆っている相手には分が悪い)
思考する鎌瀬
(だったらこれで行くか…。ま、どうせうまくいくわけ無いんだけどさ。劣化憑き(ネガティブスピリット)!)
手から幽霊のような形をしたオーラを出し、飛ばす鎌瀬。狙いはキングの鎧。
劣化憑きはその名の通りオーラを幽霊のように取り憑かせて、その個体を確実に劣化させていく技である。この技を身体に直接受ければ次第に身体は重くなり、
さらに力も弱っていき、まるで悪霊に呪われたかのようになる。故に“劣化憑き”。

その頃…
「さて。洞窟に着きましたね。では、参りましょう!」
起動要塞に乗りながら、階段を駆け下りる斎葉。恐らくもうすぐ合流することだろう
【夜深内漂歌:神宮たちと合流 鎌瀬犬斗:劣化憑き発動 斎葉巧:洞窟到着】


132天木 諫早:2011/05/19(木) 02:48:13.83 0
>>130
突然、フロア全体が揺れる。
「どうやら間に合ったようだね……。着いたら死んでましたじゃ笑い話にもなりゃしねえ」
と同時にフロア出入り口から現れたのは、神宮 菊乃であった。

「へへ、調度いいところに来てくれたぜ……。俺ら二人だけじゃ、持て余してたもんでな……」
これまで苦悶の色だけが浮かんでいた天木の顔に、ほっとした笑みが戻る。
しかし、それも一瞬。体内でくすぶる激痛は、直ぐに顔を引きつらせた。
(──チィ、体が思ったように動かねェ! まだ、闘わなきゃならねェってのに……!)

「随分手酷くやられたな。ま、海部ヶ崎にも言ったが生きてて何よりだ」
と、不意に神宮の声。
ダメージで思考が鈍り、集中力が散漫になっていたせいで気付けなかったのだろうか。
いつも間にか天木は、神宮の肩に担がれて、壁の中から救出されていた。
(へっ、頼りになるぜ……)

張り詰めた緊張感が解け、思わず安堵したせいだろう。
天木の瞼は自然と重くなり、ゆっくりと閉じられていった──。
(──とっ!)
だが、閉じきってしまうその瞬間に、天木は心に渇を入れてカッと目を見開いた。
(俺は馬鹿か! 神宮だけに任せるわけにはいかねぇだろうが!)
そして、ぱっくりと開いた傷口目掛けて、思い切り手刀を差し込んだ。

「──ぐっ!!」
電撃を受けたような鋭い痛みが全身を駆け巡る。
気でも触れたのかと、周囲にはそう思われるかもしれない。
だが、当の天木は至って冷静であった。
「〜〜〜痛ってェェェ! ……けどよ、お陰で目はバッチリと冴えたぜ……!」
今の行為で更に溢れ出した血を、ボタボタとまるで雨のように地面に滴らせながら、天木はしたり顔で笑った。

「自らを傷付けることで気を失うのは避けた……なるほど、まだ諦めてはいないというわけだね」
腕を組んでやれやれとでも言いたげなキング。
例え天木が戦闘を続行しようとも、結局は同じことだと言い切れる自信があるのだろう。
(……確かに、奴にはその自信を裏付けする確かな実力があるみてェだ。……だが)
天木は神宮に向き直って言った。
「奴を倒すには、まずはあのヨロイを何とかしなきゃならねぇ。
 だが、奴のヨロイは……所詮小手先の技じゃ傷一つつけられねェシロモノだ。
 だから……そう、だからこそ、俺達が取るべき道はたった一つに絞られる。
 ──それは、奴のヨロイをぶっ壊すまでひたすら全力で攻撃する──!」

ひたすら全力で攻撃する──そのような単純な提案すら策と呼ばれるのなら、
今頃策士と呼ばれる存在はこの世に溢れ返っていることだろう。
「やれやれ、やはりそれしかないか」
だが、海部ヶ崎はそれを馬鹿げたものと一蹴することはなく、真っ先に賛同して見せた。
キングを倒すにはまずヨロイを──というのは、彼女も同様の見解であったからだ。

「……悪ィな。実力が不足してる分、頭でカバーしなきゃならねぇポジションなのによ……
 毎度毎度、策っつー策を出せねーで、そんで無茶させて……ホントすまねぇと思ってる……。
 神宮、こんな役立たずな俺の提案でも、ジョーカーの時みてェに乗ってくれる気があンならよ、
 次の俺の合図で一緒に攻撃を仕掛けてくれ……! 強烈なヤツをな……!」

ワイヤーをこれまでにないほど強く握り締めて、天木はキングを睨んだ。そして──

「──さぁ、行くぜ!!」
キング目掛けて猛烈なダッシュをかけた──。

【天木 諫早:戦闘中。】
133神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/05/19(木) 21:38:55.36 0
>>131>>132
『すみません。遅れてしまいました。私にも協力できることがあるのなら。』
『いえ。私にも協力させてください』

天木らを助けた後、夜深内がこちらへ来た。どうやら自分のすぐ後から追いかけてきたようだ。
(ってことは鎌瀬や斎葉なんかもいるのか……)
そう思い辺りを見回すと、少し離れた場所に鎌瀬がいた。斎葉の姿は見当たらない。

「ありがたいねぇ。けど、正直に言わせてもらうとアンタに出来ることはあんまねえな。
 恐らくキングに小手先の攻撃は通用しねえ。となれば方法は一つ。──肉弾戦しかねえ。
 アンタは見た感じそっち向きじゃなさそうだから、出来るとしたらサポートだな。
 それでもよきゃあ手伝ってくれるかい?無理なようなら離れてな」
そう言って夜深内を見ると、考えるような仕草をしていた。
今言われた事を考えているのか、既にサポートの内容を考えているのかは分からない。
あまり時間もないので天木達の方に向き直る。

「奴を倒すには、まずはあのヨロイを何とかしなきゃならねぇ。
 だが、奴のヨロイは……所詮小手先の技じゃ傷一つつけられねェシロモノだ。
 だから……そう、だからこそ、俺達が取るべき道はたった一つに絞られる。
 ──それは、奴のヨロイをぶっ壊すまでひたすら全力で攻撃する──!」

天木の言ったそれはもはや策とは呼べない代物だった。
しかし実際に今の所それしか方法がないのも事実であった。
「やれやれ、やはりそれしかないか」
しかし海部ヶ崎はこの馬鹿げた策に笑うことなく賛同した。
やはり海部ヶ崎もあの鎧をどうにかしなければ、と言うことは既に分かっていたのだろう。
「馬鹿げてるねえ──けど、アタシは好きだよ。結局単純なのが一番分かりやすくていい」
菊乃も頷いて同意する。
彼女は『王纏甲冑』の強さの程を直接見ていないので分からないが、二人のやられ方を見ればその強さは推測できる。

「……悪ィな。実力が不足してる分、頭でカバーしなきゃならねぇポジションなのによ……
 毎度毎度、策っつー策を出せねーで、そんで無茶させて……ホントすまねぇと思ってる……。
 神宮、こんな役立たずな俺の提案でも、ジョーカーの時みてェに乗ってくれる気があンならよ、
 次の俺の合図で一緒に攻撃を仕掛けてくれ……! 強烈なヤツをな……!」
「ジョーカーの時も言ったろ?アタシはアンタを信じてる。
 アンタが指示を出してくれればアタシはその通りに動く、ってな」
天木に視線を向けずキングを見据えて答える。

「──さぁ、行くぜ!!」
「さって、先頭はアタシに任せてもらおうか。怪我人を最前線に出すほど薄情じゃないからね」
言い終わると同時に気昇によりオーラを体に漲らせる。
「その鎧と余裕の表情──絶対にぶっ壊してやる。どんな手を使ってでもな」
爆発的な加速でキングに向けて一直線に飛び出した──。

【神宮 菊乃:戦闘中】
134天木 諫早:2011/05/22(日) 23:41:21.88 0
>>133
「ボクの鎧を破壊するまで攻撃を続ける、か。フフ……それまでに君達の肉体が持てばいいけどね」
接近してくる三人に向けて、キングは素早く拳を突き出した。
キングと三人までの距離はまだ五メートルはある。本来であれば空振りで終わる正拳突きだ。
ところが──

(──!?)
突如、鳴り響いた無数の打撃音──。天木は思わず足を止めた。
何と、先頭を切って走っていた神宮が空中を舞っている。
しかもその全身に、まるで殴られたような無数の拳の跡を刻みつけてだ。

「神──」
「止まるな天木! 狙い撃ちにされるぞ!」
と、うろたえる天木の横を颯爽と駆け抜けたのは海部ヶ崎。
あの一瞬に何があったのか、それを彼女は解っていた。
だからこそ、動揺することもなく、足を止めることもなかったのだ。
(狙い撃ち──だと? 一体、神宮は何をされたんだ──!?)

天木から、まるで疑問を投げかけるような視線をぶつけられたキングは、
「これが答えだ」とでも言うように再び拳を突き出した。

「くっ!」
その動きに合わせて、海部ヶ崎が突然横にステップする。
するとその瞬間──海部ヶ崎の足元の床が、紙一重のタイミングで砕け散ったではないか。
(──これは!)

「気がついたかい? これはボクの圧倒的な速さで繰り指された拳が生み出す強力な空気圧──
 ボクは『王拳』と呼んでいるけどね。これを使えば、そこそこの遠隔攻撃も可能というわけさ」
またもキングが拳を突き出す──。それを見て、天木は咄嗟に高くジャンプした。
ドン! という破壊音と共に、天木の真下にある床が大きく抉れる。
(そこそこの攻撃、だと──? 冗談じゃねェ、並の人間なら一発でお陀仏になる威力じゃねェか!)

「さぁ、どこまでかわせるのかな?」
今度は両手で、しかも連続して拳を突き出すキング。
ドン! ドン! ドン! ドン!
海部ヶ崎の周りの床や壁に、次々とクレーターができていく。
「くっ! 避けることで精一杯か! これでは近付くことすら──」
「──!! やべェ! 後ろだ海部ヶ崎ィ!!」
天木の声。それで海部ヶ崎は気が付いた。後ろにキングがいる──と。
135天木 諫早:2011/05/22(日) 23:46:27.46 0
「油断したね? ボクが『王拳』でじわじわ甚振るだけだと思ったかい?」
「!? しまっ──」

またしてもドン! という打撃音。
だが、今度のそれは床ではなく、海部ヶ崎の肉体から発されたものだった。
空中から勢いよく落下して、地面に叩きつけられる海部ヶ崎。
その直ぐ傍に着地したキングは、冷酷な目つきを持って彼女を見下ろした。

「所詮、キミもこの程度か。悪いけど、ここで終わりにしてあげるよ──」
ゆっくりとキングの腕が振り上げられる。
「ぐっ……く、くそ……」
それを見ながらも、動かない海部ヶ崎。いや、ダメージが大きく、動けないのだろう。
彼女ができることといえば、もはや苦しそうに、悔しそうに呻くだけであった。

(──!?)
しかし、キングの腕が振り下ろされようとしたその瞬間、天木は思わず唖然とした。
「うっ……ゴホッ! ゴホッゴホッ!」
キングがその場に蹲って、なにやら苦しそうに咳き込み始めたのだ。
しかもそれだけではない。気のせいか、鎧が透明になっているように見える。
それはつまり──『具現化された鎧が消えかかっている』という証──!?

「くっ……ゴホッ! も、もう“発作”が……!」
キングの口元が赤く滲んでいる。どうやら吐血しているらしい。
ダメージを受けていないはずの彼がどうして苦しんでいるのか、それは定かではない。
(──いや、何だっていい! 今がチャンスだ!)
しかし、いずれにしても、これは天木らにとって絶好のチャンスなのだ。

「おおおおおおおおお!!」
天木は服に仕込んだ数本のナイフを、手首が半円を描く動きに合わせて、まるで手裏剣のように投げ放った。
「くらっとけェ!! 『飛爪(ディメンションクロー)』をなァ!!」

【天木 諫早:ナイフを放つ。】
【キング:突然吐血し、苦しみ出す】
136鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/05/24(火) 18:43:28.66 0
>>133>>134>>135
>「ありがたいねぇ。けど、正直に言わせてもらうとアンタに出来ることはあんまねえな。
 恐らくキングに小手先の攻撃は通用しねえ。となれば方法は一つ。──肉弾戦しかねえ。
 アンタは見た感じそっち向きじゃなさそうだから、出来るとしたらサポートだな。
 それでもよきゃあ手伝ってくれるかい?無理なようなら離れてな」
(サポートですか…。さて、どんなサポートをしましょうか…)
どんなサポートをするか、何時サポートするか考えている夜深内
(…先ずは様子を見ましょう)

>「うっ……ゴホッ! ゴホッゴホッ!」
>「くっ……ゴホッ! も、もう“発作”が……!」
突然キングが咳き込み始め、しかも吐血したように見える
(どういうことだ…? 僕の能力は鎧にしか影響していないはず… 発作…?)
その様子を不思議そうに見つめる鎌瀬。鎌瀬の劣化能力は、肺や気管支を劣化させれば咳を出させることもできるし、
血管の強度や弾力を劣化させれば、自らの血圧で出血させることもできる。尤も、それにはかなりの集中力と根気が必要なわけだが。
しかし鎌瀬は、どちらもやっていない。ゆえにこれは、キング自身に原因があるといえる
(しかも鎧が消えかかってる…。でもまだ念のため憑いておこう)

そして
「おまたせしました、皆さん」
斎葉が戦闘用起動要塞(元電気屋)に乗ってやってきた
【夜深内漂歌:サポートについて思考
 鎌瀬犬斗:引き続き劣化憑きでキングの鎧を劣化
 斎葉巧:到着】
137鬼々壊戒:2011/05/24(火) 22:30:58.96 0
名前:鬼々壊戒(きき かいかい)
性別:男
年齢:16
身長:178Cm
体重:65kg
職業:フリーター
容姿:短く黒い髪にジャンパー、ジーンズ
能力:破壊ノ記憶
キャラ説明:
ごく普通のフリーターだったがある日、能力が目覚めた
彼の能力は破壊ノ記憶と呼ばれる、その由来は自分の認識できる、
範囲のものを破壊する事からそう呼ばれる
ただし同時に破壊できるのは今現在3つまで
能力の覚醒と同時に人格の分裂、多重人格となった


【パラメーター】
筋力:B
俊敏性:B
耐久力:S
成長性:C

射程:A
破壊力:S
持続性:C
成長性:C
138神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/05/25(水) 02:29:44.76 0
>>134>>135
「ボクの鎧を破壊するまで攻撃を続ける、か。フフ……それまでに君達の肉体が持てばいいけどね」
キングが構えを取り、パンチを繰り出す。
(何を──グッ!)
キングの行動を不思議に思い、様子を見ようとした次の瞬間、菊乃の体は浮き上がっていた。
前方からの無数の衝撃。見えない何かによって進攻は止められたのだ。

「ガハッ……。これは……拳?まさか、拳圧を飛ばしたってのかい……?」
吹き飛ばされた体を空中で無理矢理立て直し、床を数メートル滑り何とか止まる。
そして自分の体を見ると、無数の殴られた跡がある。
(やっぱりこれは──)
「気がついたかい? これはボクの圧倒的な速さで繰り指された拳が生み出す強力な空気圧──
 ボクは『王拳』と呼んでいるけどね。これを使えば、そこそこの遠隔攻撃も可能というわけさ」
キングが海部ヶ崎達に向けてこの攻撃の正体を明かしている。
(思ったとおり、か。しかし何つー重さだよ。
 アタシならまだしも、怪我してる天木や海部ヶ崎が食らったら致命傷になりかねないな)
そう──全快で、更に気昇まで使っていた菊乃ですらそれなりのダメージである。
これがもし怪我人である二人に当たりでもしたら、恐らく一撃で動けなくなるだろう。
(さて、どうするかな……)

「──!! やべェ! 後ろだ海部ヶ崎ィ!!」
「油断したね? ボクが『王拳』でじわじわ甚振るだけだと思ったかい?」
「!? しまっ──」
考えるのを止め、再度走り出そうとした瞬間、恐れていたことが起きた。
ドン! という音に続き、海部ヶ崎が空中から勢いよく落下してくる。
恐らくは先程の攻撃を直接食らったのだろう。飛ばした拳圧より直接の打撃の方がダメージが大きいのは明らかだ。

「所詮、キミもこの程度か。悪いけど、ここで終わりにしてあげるよ──」
倒れ伏す海部ヶ崎の横に着地したキングが、止めと言わんばかりにゆっくりと腕を振り上げる。
(──マズい!アレを食らったらお終いだ!)
そう思った瞬間、体は動き出していた。
先程より速度は劣るものの、それでもかなりのスピードで二人に接近していく。だが──
(クソッ、間に合わねえか……!)
あと一歩、というところでキングの腕が今まさに振り下ろされようとしている。しかしそこで戦況に変化が生じた。
「うっ……ゴホッ! ゴホッゴホッ!」
突然キングが咳き込み出し、膝を突いて蹲ったのだ。更に無敵を誇っていた『王纏甲冑』も半透明になっているではないか。
「くっ……ゴホッ! も、もう“発作”が……!」
(発作……?まぁ何にせよ、折角出来たチャンスだ、生かさない手はねえ!)
二人の下に辿り着いた菊乃は、まず海部ヶ崎を抱き上げてその場を通過する。
「ちょっとヤバいな……。少し我慢してくれよ、『重力減少』」
海部ヶ崎に『重力減少』を極限までかけ、辺りを見回す。そして──
「──いた!出番だぜ、夜深内!絶対に落とすなよ!」
壁際にいた夜深内に向かって海部ヶ崎を勢いよく放り投げる。
重力が極限まで軽くなっているので、まるで宙に浮かんでいるように夜深内へ向かっている。あれなら体への負担もかなり軽減できているはずだ。
(さて、次は──)

「くらっとけェ!! 『飛爪(ディメンションクロー)』をなァ!!」
再びキングの方に向かうと、天木が既に攻撃を開始していた。
「やるじゃねえか天木!そうこなくっちゃなぁ!」
自身も床を蹴って跳び上がる。更に天井も蹴って真上からキングに接近する。
「『重力増加』──喰らいな、『重力の戦槌』!」
途中で体勢を入れ替え、飛び蹴りの要領で突進する。
更に天井を蹴って加速した事により、通常よりも遥かに威力の増した状態でキングに向かって流星の如く向かって行った。

【神宮 菊乃:海部ヶ崎を夜深内に任せ、キングに『重力の戦槌』をしかける】
139天木 諫早:2011/05/28(土) 11:38:22.78 0
>>136>>138
キングの四方八方から『飛爪』が、そして真上から神宮が迫る。
「やれやれ……油断も隙もあったもんじゃないね……」
それを見たキングは、口元の血を拭いながら立ち上がった。
しかも、消えかかった鎧を再びハッキリと具現化させて。

(──また鎧を! けど、やるっきゃねェンだ!)
天木は無我夢中で拳を繰り出した。
その動きに合わせて、かつてないスピードでキングの間合いに飛び込んだ『飛爪』は、
次々とその刃をキングに突き立てた。しかし──

「甘いよ、キミ」
キングは動じない。ナイフは鎧には突き刺さっても、
中の肉体にまでその刃が達することはなかったのだ。
(チィイ! あれだけ加速をつけても突き刺すのが精一杯かッ!)
絶好のチャンスだった。それでも、それをモノにするには、自分では力不足だったのか?
そう思った天木は、自分の無力さにギリリと唇を噛んだ。

「──!!」
しかし、そんな天木を救ったのは──神宮 菊乃であった。
彼女は何と、首に突き刺さったナイフに拳を──『重力の戦槌』を叩き込んだのだ。
まるで釘にハンマーを打ち付けるように。
「ガッ!?」
キングの首から口から、血が溢れ出す。
それは鎧を突破したナイフが、キングの首に突き刺さった証明であった。
                                          ハンマー
(俺のナイフを“楔代わり”にして──! ミョルニュル──それは正に『鎚』ってわけか!)

「まだ……まだだよ。たかがナイフ一本で、このボクが……うっ! ゴホゴホッ!」
吐血しながら咳き込むキングは、ガクリとその場に膝をついた。
「如何に狂戦士といえど、流石に首へのダメージは効いた……」
言いかけて、天木は直ぐに口をつぐんだ。
キングを覆っていた鎧がどんどん透明になっていく──
しかもそれと共に、キングの体もどんどん縮んでいくではないか──。

(……効いたどころじゃねェ。勝負あり、だったか……。それにしても……)
心の中で勝利を確信した頃には、既にキングはあの美少年の姿に戻っていた。

「ゴホッ……! ここまで……まさかここまでボクの体が衰えていたなんてね……。
 もう少し早くキミたちと闘えていれば、キミたちを木端微塵にできたものを……」

ダラダラと血を流す首を抑えながら、キングは土気色の顔で天木たちを見上げた。
「天木、神宮……とどめだ」
そう言ったのは、夜深内に支えられながら、二人に歩み寄ってくる海部ヶ崎。
どうする? とでも訊きたげな神宮の視線に、天木は小さく首を振って答えた。
「……いや、その必要は無ェかもしれねェ。
 さっきから気にはなってたんだが……こいつもしかしたら体を……」

「ククク──お察しの通りじゃよ」
天木の声を遮る別の男の声。一同の視線は、咄嗟にその声の方向に──
あのワイズマンのいるエリアに通じると言われた扉に集中した。
そこで一同が見た者は、白装束に身を包んだ小さな老人であった。

「彼ら狂戦士は、放っておけばいずれ死にゆく運命。だからこそ彼らは“わし”に組したのじゃ」

【キング:戦闘不能】
【天木らの前に謎の老人が現れる】
140鬼々壊戒:2011/05/28(土) 21:34:42.42 0
>>138-139
「ここは・・・・・」
いつも通りあても無くフラフラしてたはず・・・・
此処は何処だ・・・・?どうしても思い出せない・・・・
『どうした・・・・?』
そんな事を考えているともう一人の俺が話しかけてきた
「・・・・いや・・・なんでも・・・・」
厄介だ・・・・こいつはトラブルが大好きだ適当にあしらって・・・・
『どうでもいいがぁ・・・・あれ・・・・』
「ん?」
遠くの方で誰かが戦っている
『どうする・・・・出るか?』
また面倒事か・・・・
「いや・・・その必要は無さそうだ」
戦闘は終わり誰かがでてくる
「人・・・・老人か?」
『で?・・・どうするんだ?』
「このまま様子を見よう」
物陰に隠れる
141神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/05/31(火) 15:57:46.36 0
>>139
「やれやれ……油断も隙もあったもんじゃないね……」
キングがゆっくりと立ち上がる。
それに呼応するかのように半透明になっていた鎧も再びハッキリと見える。
しかしそれでも天木は怯まず『飛爪』を繰り出し、キングの鎧にナイフが刺さるが──

「甘いよ、キミ」
キングは全くダメージを受けた様子もなく平然としていた。
そう、確かに天木の『飛爪』はキングの鎧に突き刺さった──が、それだけである。
鎧に刺さりはしたものの、キングの体には届かなかったのだ。

(今のは『飛爪』とかいうやつか?アタシと闘った時にもやってたっけ……。
 しかしあの時より遥かに強力になってるはずなのにダメージ無しとは、恐れ入るね)
菊乃は突撃しながら考えていた。
このまま自分が拳を叩き込んでも同じような結果になるのではないか──?
(なら、どうする──?)
そこで菊乃の視界にあるものが飛び込んできた。──そう、キングの首の部分に刺さった天木のナイフである。
それを見て閃いた。『あれ』に打ち込んだらどうなるか──?
(今のアタシは『槌』。そしてあれはナイフ──いや、『楔』。
 『楔』を『槌』で打ったらどうなるか──?そんなの聞くまでもねえ!)

「そこだぁぁぁぁぁああああああ!!」
キングの頭につけていた狙いを変え、首に刺さったナイフに拳を振り下ろす。
普通のナイフだったら拳が当たった時点で砕けてしまいそうだが、生憎と"普通の"ナイフではない。
天木のオーラが詰まったそれは、菊乃の拳を受け、鎧を貫通しキングの体に突き刺さった。

「ガッ!?」
呻きと共に刺さった箇所から血が吹き出る。今度こそダメージが通ったようだ。
「まだ……まだだよ。たかがナイフ一本で、このボクが……うっ! ゴホゴホッ!」
それでも尚戦う意思を見せたキングであったが、吐血と共に床に跪く。
(血の出方から見て、頚動脈がいったな。さすがにあれじゃ闘えないだろ)
その考えを肯定するかのように、キングの鎧が急速に消え始め、体も縮んでいく。
(意外とあっけなかったな。しかしさっきも気になったが、アイツ体が──?)

「ゴホッ……! ここまで……まさかここまでボクの体が衰えていたなんてね……。
 もう少し早くキミたちと闘えていれば、キミたちを木端微塵にできたものを……」
もはや生気のなくなった顔でこちらを見上げるキング。その顔につい先刻まで圧倒的な力を誇っていた姿は見る影もなかった。
「天木、神宮……とどめだ」
不意に後ろから声をかけられる。振り返ると、夜深内に方を支えられた海部ヶ崎がこちらに歩いてきていた。
「……」
無言で天木の方を振り返る。その瞳には採決を委ねる意思が込められていた。
「……いや、その必要は無ェかもしれねェ。
 さっきから気にはなってたんだが……こいつもしかしたら体を……」

「ククク──お察しの通りじゃよ」
天木が首を振って答えた直後、その言葉を遮るようにフロアに別の声が響いた。
皆の視線がフロアの先にある扉に集中する。
その扉は開け放たれ、そこから一人の人間──白装束の小柄な老人が現れた。

「彼ら狂戦士は、放っておけばいずれ死にゆく運命。だからこそ彼らは“わし”に組したのじゃ」
(放っておけばいずれは死にゆく、か。一つ道がずれてればアタシもそうなってたのかねぇ……。っと、それより──)

(アイツがワイズマン、か。まさかこの期に及んでまだ敵がいるとは思えねえ。
 ま、何にせよ漸くツラが拝めたぜ)
一つ間違っていたら自分の主になっていたかもしれない男を、菊乃は複雑な感情で見つめていた。

【神宮 菊乃:戦闘終了】
142天木 諫早:2011/06/06(月) 03:42:57.15 0
>>141
「……どういうことだ? いや、それよりお前は一体……?」
訊ねる天木に、老人はまず人差し指を一本、突き立てた。
「質問は一つずつにしてもらえんかのう、お若いの?
 せっかちは損をするということを知っておいた方がええぞ? フォッフォッフォ」

(このジジイ……)
その“如何にも”というような老人の物腰に、天木は不快感を隠さなかった。
一方の老人は、そんな天木を見て更に肩を揺らして笑った。

「フォッフォッフォ、感情の出やすい奴じゃな。
 まぁ……折角じゃ。お主の質問には一つずつ答えてやることにしよう。
 まず一つ。何故、狂戦士がいずれ死にゆく運命なのか……。
 
 ──狂戦士には痛覚がないことは既に知っておろう。
 痛覚がないということは、肉体のダメージや負担の一切を無視できるということ。
 それは狂戦士にとって最大の武器になる──と同時に最大の欠点にもなるのじゃ。
 何故だか解るかの?」
「……」
「ダメージや負担は無視できる……そう、あくまで“知らぬ振り”ができるだけなのじゃ。
 “ないがごとく”を決め込んでも、その肉体にはダメージが刻まれ、負担が蓄積されている。
 そして極限まで蓄積されたそれらが、肉体を最終的にどこへ導くか。
 ──そう、肉体の“崩壊”──つまり“死”じゃよ」

「ゴホッゴホッゴホッ!」
咳き込むキングをジロッと見ながら、老人は二本の指を立てた。
「崩壊の前兆にはおよそ二段階がある。第一段階は、肉体に訪れる激痛。
 そして第二段階は、痛みとは違う体に起こる変調。
 通常の人間であれば第一段階で自らの体に起こった危機に気がつく。
 じゃが、痛みを感じない狂戦士は、例外なく第二段階で気がつくのじゃ。
 今の医術ではどうすることもできない状態になって初めてな。

 ──キングの場合、これまでの闘いによって全身に蓄積されたダメージや負担が、
 胸に溜まった“淀み”のようなものになって、それが苦しさとなって表れている。
 わしが開発した生命維持の特殊カプセルをもってしても、余命は残り一ヶ月といったところじゃろう。
 もっとも、寿命が近いのはキングだけではない。他の四傑も似たようなものじゃがな」

四傑が近い内に死ぬ運命にある──その事実を知った時、
天木にはなぜ狂戦士がワイズマン側についたのか、その理由が解った気がした。

(こちらにつけば、その身体を治すとでも言われたのか……)

土気色の顔をして咳き込むキングを、天木は複雑な表情で見据えた。
若干、その表情には哀れみも含まれていたかもしれない。

「しかし、誤算も誤算であったわい。自らの生命(いのち)に関わること、
 もう少し必死になってくれるかと思ったのじゃが……まさかここまで役立たずだったとはな。
 所詮はカノッサが生み出した『失敗作(クズ)』、命令一つまともにこなせぬという訳か」

(──!!)
だが、その老人の言葉を聞いた瞬間、天木の表情は激情のそれ一色に染まった。
143天木 諫早:2011/06/06(月) 03:46:07.75 0
「てっ……めぇえ……!!」
ドスの効いた声を発しながら、地面を砕かんとする力強さで、一歩踏み出す天木。
「フォッフォッフォ、もう闘いたいというのかな?
 好戦的でせっかちじゃのう。まだわしは名乗ってすらおらんというのに」
それとは対照的に、老人は肩を揺らして笑った。

「うるせぇ……! だったらさっさと名乗りやがれ! その瞬間、テメェをぶっ飛ばしてやらぁ!!」
「いいじゃろう。わしの名は──」
「──白済。『白済 閣両』だ」
だが、答えたのはその老人ではなく、天木らの背後から現れた氷室 霞美であった。

(氷室──!!)
瞬間、その場にいる全員の顔色が変わる。それは老人さえも例外ではなかった。
即座に海部ヶ崎は、全員を代表したかのような疑問を投げかけた。
「……君はあの老人を何者か知っているのか?」
氷室は小さく頷いた。

「白済 閣両……カノッサ機関の参謀だった男だ。
 三ヶ月前の本拠地崩壊に巻き込まれて死んだかと思っていたが……
 なるほど、魔水晶と共に脱出し、こんなところに行き着いていたとは。
 狂戦士が処分されずに生き残っていたのも、お前の手引きがあったからだな?」

続けて投げられた質問に、白済はその顔をニィと歪め、初めて氷室に対し口を開いたが──
──言葉が吐かれることはなかった。

(なっ!?)
天木が唖然としたのも無理はない。
いつの間にか白済に接近した海部ヶ崎が、刀で彼の首を切り落としていたのだ。

「カノッサの亡霊が──!」
はき捨てる海部ヶ崎の目には、かつてないほどに怒りが満ちていた。
思わず、背筋にゾッとしたものを感じるほどに。
そんな海部ヶ崎の早業と迫力に、誰もが唖然とし驚愕している。

「──!?」
だが──全員が真に驚愕したのは、次の瞬間であった。
──切り離された胴体と首の切断面から機械が見え、それがバチバチと火花を飛ばしている。
それはつまり──白済という老人の正体が、人間ではなくメカであったという事実を示していた。

「どういうことだ……? ワイズマンが……機械……?」
天木は全員に視線を送ったが、答えられる者は誰もいなかった。
「……この先に行ってみれば解るさ」
いや、たった一人だけ、その答えのヒントとなるものを示した者がいた。
それは──キング。
「白済 閣両という老人は、ワイズマン様が遠隔操作している機械人形。
 ワイズマン様自身じゃないんだ。ワイズマン様は理由(わけ)あって動けないお体だから……
 普段は白済を使って、この世で暗躍しているんだよ」
「……ワイズマンってのは、一体……?」
訊ねる天木に、キングは
「ボクには何もいう権利がない。全ては、その目で確かめてみるといい。
 ボクを倒したキミ達には、ワイズマン様のフロアへ行く資格がある……」
と言うと、それ以上は何も言おうとはしなかった。

天木は再び全員を見ると、小さくゆっくりと頷いて、無言のまま走り出した。
(いいだろう、この目で直に確かめてやるぜ! ワイズマンの正体をな!)

【天木 諫早:ワイズマンのフロアへ向かう】
【キングら狂戦士の命が長くないこと、白済 閣両の正体がワイズマンの機械人形であることが判明】
144鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/06/12(日) 17:20:46.79 0
>「ゴホッ……! ここまで……まさかここまでボクの体が衰えていたなんてね……。
 もう少し早くキミたちと闘えていれば、キミたちを木端微塵にできたものを……」
(いったいどういうことなんだ!? 僕が劣化させるまでもなく、彼の身体は劣化してたってことなのか?)
驚いている鎌瀬。未だに隠れているが。

>「ククク──お察しの通りじゃよ」
>「彼ら狂戦士は、放っておけばいずれ死にゆく運命。だからこそ彼らは“わし”に組したのじゃ」
突然姿を現した謎の老人。
(な…あのおじいさんはいったい…!? 敵? 味方? いや、どう考えても敵だよな…)
(只者ではない気配を感じるような気がします)
突然の老人の出現に、身構える鎌瀬と夜深内
(…? あのおじいさん、何か違和感が…。まるで、人間じゃない、みたいな。そんな感じがしますね…。これはいったい?)
その中で、何とも言えない違和感を感じている斎葉。この違和感の正体は何なのだろうか?
145鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/06/12(日) 17:23:06.20 0
>>139-143
>「フォッフォッフォ、感情の出やすい奴じゃな。
 まぁ……折角じゃ。お主の質問には一つずつ答えてやることにしよう。
 まず一つ。何故、狂戦士がいずれ死にゆく運命なのか……。
 
 ──狂戦士には痛覚がないことは既に知っておろう。
 痛覚がないということは、肉体のダメージや負担の一切を無視できるということ。
 それは狂戦士にとって最大の武器になる──と同時に最大の欠点にもなるのじゃ。
 何故だか解るかの?」
鎌瀬(え…痛覚がないって寧ろ不便なんじゃ? 自分のダメージも分からないんだし。痛みを『なかったこと』にできるなら話は別だけどさ…)

>「しかし、誤算も誤算であったわい。自らの生命(いのち)に関わること、
 もう少し必死になってくれるかと思ったのじゃが……まさかここまで役立たずだったとはな。
 所詮はカノッサが生み出した『失敗作(クズ)』、命令一つまともにこなせぬという訳か」
(失敗作…クズ…欠陥品…ゴミ…カス…劣等者…ふふふ)
老人の『失敗作(クズ)』と言う言葉を聞き、様子が変になる鎌瀬。鎌瀬の他人とは比べ物にもならないほどの劣等感に響いたのだろう
146鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/06/12(日) 17:55:58.83 0
>「カノッサの亡霊が──!」
>「──!?」
>「どういうことだ……? ワイズマンが……機械……?」
海士ヶ崎が切り落とした百済の身体から火花が飛んでいる。どうやら機械だったようだ
(ああ…成程…さっきの違和感はこれですか…)
百済が機械だと分かると、斎葉は要塞から降りて、百済を担いで回収した
「機械が相手なら僕の見せ場です。たっぷり改造して改変して改良して…ワイズマンに太刀打ちできる兵器(メカ)にして差し上げましょう…」
【鎌瀬犬斗:特に何もできないまま戦闘終了 斎葉巧:百済閣両を回収し改造開始】
147神宮 菊乃@代理:2011/06/12(日) 18:00:52.73 0
>>142>>143
「……どういうことだ? いや、それよりお前は一体……?」
「質問は一つずつにしてもらえんかのう、お若いの?
 せっかちは損をするということを知っておいた方がええぞ? フォッフォッフォ」
いきなり現れた老人に対し、天木が不快感を露にして質問を投げかける。

「フォッフォッフォ、感情の出やすい奴じゃな。
 まぁ……折角じゃ。お主の質問には一つずつ答えてやることにしよう。
 まず一つ。何故、狂戦士がいずれ死にゆく運命なのか……。
 
 ──狂戦士には痛覚がないことは既に知っておろう。
 痛覚がないということは、肉体のダメージや負担の一切を無視できるということ。
 それは狂戦士にとって最大の武器になる──と同時に最大の欠点にもなるのじゃ。
 何故だか解るかの?」
「……」
「ダメージや負担は無視できる……そう、あくまで“知らぬ振り”ができるだけなのじゃ。
 “ないがごとく”を決め込んでも、その肉体にはダメージが刻まれ、負担が蓄積されている。
 そして極限まで蓄積されたそれらが、肉体を最終的にどこへ導くか。
 ──そう、肉体の“崩壊”──つまり“死”じゃよ」
老人は懇切丁寧に説明した。狂戦士の肉体の秘密を。

「ゴホッゴホッゴホッ!」
話が途切れたところでキングが咳き込む。それを一瞥しながら老人は話を続けた。
「崩壊の前兆にはおよそ二段階がある。第一段階は、肉体に訪れる激痛。
 そして第二段階は、痛みとは違う体に起こる変調。
 通常の人間であれば第一段階で自らの体に起こった危機に気がつく。
 じゃが、痛みを感じない狂戦士は、例外なく第二段階で気がつくのじゃ。
 今の医術ではどうすることもできない状態になって初めてな。

 ──キングの場合、これまでの闘いによって全身に蓄積されたダメージや負担が、
 胸に溜まった“淀み”のようなものになって、それが苦しさとなって表れている。
 わしが開発した生命維持の特殊カプセルをもってしても、余命は残り一ヶ月といったところじゃろう。
 もっとも、寿命が近いのはキングだけではない。他の四傑も似たようなものじゃがな」
他の四傑も似たようなもの──その言葉を聴いて菊乃はクイーンと別れるときの事を思い出していた。
あの時彼女は軽口を叩いてはいたが、その表情はどこか哀しげだった。
もしかしたら──いや、十中八九彼女は自分の運命を理解していたのだろう。自分の命はこの先長くない、と。
(それなのに、アイツは最後までそんなそぶりを見せずにアタシを治療してくれた。
 そんなことをしたら自分の寿命を縮めるだけなのは分かっていたはずなのに……)
菊乃はクイーンの境遇を不憫に思った。それ故に、老人から放たれた次の言葉は彼女を黙って聞く事は出来なかった。

「しかし、誤算も誤算であったわい。自らの生命(いのち)に関わること、
 もう少し必死になってくれるかと思ったのじゃが……まさかここまで役立たずだったとはな。
 所詮はカノッサが生み出した『失敗作(クズ)』、命令一つまともにこなせぬという訳か」

「……!ふざk──」
「てっ……めぇえ……!!」
ふざけるな、と叫ぼうとした菊乃の言葉は遮られ、隣にいた天木から今までに聞いた事のないほど低い声が上がった。
「フォッフォッフォ、もう闘いたいというのかな?
 好戦的でせっかちじゃのう。まだわしは名乗ってすらおらんというのに」
対して老人は、今までと変わらず飄々とした態度で笑っていた。

「うるせぇ……! だったらさっさと名乗りやがれ! その瞬間、テメェをぶっ飛ばしてやらぁ!!」
「いいじゃろう。わしの名は──」
「──白済。『白済 閣両』だ」
その声はこの場にいた誰のものでもなく、背後から聞こえてきた。
148神宮 菊乃@代理:2011/06/12(日) 18:01:47.54 0
その声はこの場にいた誰のものでもなく、背後から聞こえてきた。
(……やっと来やがったか)
天木ら一同が声の方へ振り向く。菊乃も倣って振り向くと、そこには予想通り氷室 霞美の姿があった。

(白済……?どっかで聞いた事あるな……)
「……君はあの老人を何者か知っているのか?」
誰も言葉を発さない一同を代表して、海部ヶ崎が氷室に質問する。
氷室はそれに答えるように僅かに頷いた。
「白済 閣両……カノッサ機関の参謀だった男だ。
 三ヶ月前の本拠地崩壊に巻き込まれて死んだかと思っていたが……
 なるほど、魔水晶と共に脱出し、こんなところに行き着いていたとは。
 狂戦士が処分されずに生き残っていたのも、お前の手引きがあったからだな?」
(ああ、それでか。道理で聞いた事あると思ってたぜ)
菊乃は思い出していた。
かつて研究所にいた頃、こんな噂を聞いたことがあったのだ。
本部には桁外れの知識を有した参謀がいる。その男の名前は──
(確か白済、だったな)
菊乃が過去を思い出し、目の前の男について分析していると、老人──白済は氷室の質問に答えるべく口を開いた。
(おっ……)
しかし、その口から言葉が発せられる事はなかった。その前に海部ヶ崎が白済に接近し、その首を切り落としていたからだ。
「カノッサの亡霊が──!」
憤怒の形相で吐き捨てる海部ヶ崎。菊乃も、まさかいきなり殺すとは思っておらず、しばし固まっていた。

「──!?」
しかしその次の瞬間には、今度は海部ヶ崎も含めた全員が驚愕する事態を目の当たりにした。
首を切られ、盛大に血を噴き出して死ぬかと思われていた白済だが、切断面からは一滴の血も流れず、代わりに火花が散っていた。
──そう、目の前にいた老人は人間ではなく機械だったのだ。
「どういうことだ……? ワイズマンが……機械……?」
思わず天木が呟くが、その呟きに答えられるものはいなかった。
「……この先に行ってみれば解るさ」
否、一人だけいた。蹲っているキングである。
「白済 閣両という老人は、ワイズマン様が遠隔操作している機械人形。
 ワイズマン様自身じゃないんだ。ワイズマン様は理由(わけ)あって動けないお体だから……
 普段は白済を使って、この世で暗躍しているんだよ」
「……ワイズマンってのは、一体……?」
「ボクには何もいう権利がない。全ては、その目で確かめてみるといい。
 ボクを倒したキミ達には、ワイズマン様のフロアへ行く資格がある……」
キングは天木の質問には答えず、それだけ言うと口を閉ざした。
天木が全員を見回して皆が頷いたのを確認すると、何も言わずに走り出した。他の面々もそれに続く。ただ一人を除いて──。

菊乃も皆についていくために走り出そうとした。しかし次の瞬間──
「グッ、ゴホッ……!」
突然その場に蹲って咳き込み始めた。
しばらく咳き込んだあと、口元を手で拭うと、そこには真新しい血液が付着していた。
「キミも……ボク達と同じなのかい?」
すぐ近くにいたキングが話しかけてくる。
「冗談じゃない。アンタらみたいな人形と一緒にするな。
 アタシは今まで独りで生きてきた。アンタらみたいな誰かの手を借りなきゃ生きられない人形とは違うんだよ」
それだけ言うと、立ち上がって走り出した。フロアを出るまでキングの視線を感じながら──。

走って行くうちに皆の背中が見えてきた。もうすぐ追いつくだろう。
(さっきはキングにああ言ったけど、アタシももう長くはない、ってことかねぇ……。
 結局はアタシも人形だった、ってことか。泣けてくるじゃないか)
皆の背中を追いながら、己の死期が近いかも知れない事を菊乃は考えていた。

【神宮 菊乃:皆より少し送れてワイズマンのいるフロアへ向かう】
149天木 諫早:2011/06/13(月) 20:58:03.19 0
──扉を抜けた天木は、そこで思わず立ち止まった。
視界に広がるは一直線に伸びる薄暗い通路。
そして、距離にして二百メートルはあるだろう彼方の通路の先にぼんやりと見えるのは、
通路よりも遥かに漆黒に染まった暗闇。
(あの暗闇……あれがワイズマンのフロアの出入り口か)

「泣いても笑ってもこれが最後の闘いだ。
 ……正直言うと、ここまで誰一人欠けずにこれるとは、私も予想していなかった。
 誰もが満身創痍とはいえ、ここに戦力として未だ存在していること……これは大きい。
 私と海部ヶ崎の二人だけでは、ここに辿り着くまでに殺られていたはずだ。
 よしんば辿り着けていたとしても、恐らくワイズマンと闘えるだけの体力は無かっただろう。
 だから今、改めて思う。お前達と会えて良かったとな」

いつもの無表情ながら、温かみのある眼差しで全員を一瞥する氷室。
ある者はそれを微笑で受け止め、ある者は照れくさそうに鼻を掻いた。

「へっ、一人も欠けてねェってのは、何も“ここまで”の話じゃねェだろう?
 ワイズマンを倒したその時も、俺達は全員生き残ってる! そうだろ!?」

今度は天木が全員を一瞥した。
その眼には些かの不安も恐怖もない。あるのは、敢然たる勇気と希望の二つ。

「さぁ──目指そうぜ! 全員が無事に生き残る、完全なハッピーエンドをな!」

天木に呼応して、その場の全員は一斉に歩き出した。
幻影島で最後となる戦場に、そしてその先にある輝かしい未来に向けて──。



ワイズマンのフロア──そこは先程までのキングのフロアとは別世界そのものであった。
空間の広さや構造こそほとんど同じだが、壁と言う壁にメカがあしらわれ、
床と言う床に得体の知れない液体が入った巨大な試験管が置かれている。
そう、これはフロアというより研究室と言った方がいいだろう。

「──反逆者一行のお出ましだぜ! さぁ、とっとと出て来たらどうだ、ワイズマン!」

不気味なほど静まり返ったフロアに、天木の尖り声が反響する。

「ククク……」

それに呼応するように、どこからともなく聞こえてきたのは野太い声。
それはこの島に招待された異能者ならば忘れようもない──間違いなくワイズマンの声であった。

「哀れな異能者諸君、我が『聖域』にようこそ」

ゴゴゴゴゴゴゴ……。
直後にフロア全体を包んだ重々しい音と振動。
(──!?)
果たして、何が始まろうとしているのか──天木は咄嗟に辺りを見回した。
いや、実際は見回そうとして、止めていた。
天井や壁の破片がパラパラと落下してくる中、彼は直ぐにその答えを“目撃”したからだ。

視線の前方──出入り口付近に位置する天木らとは対象位置のフロア奥。
そこの何トンもありそうな壁がゆっくりとせり上がり、巨大な何かを眼前に晒していくではないか。
(なっ……! こ、これは……!?)
天木が仰天したのも無理からぬことであった。
何故なら彼が見たのは、周りにある試験管などとは比べ物にならない、
まるでビルのような巨大さを誇る紫色の液体に満たされた試験管──
そして、その液体に漬かる、巨大な“脳みそ”であったのだ。
150天木 諫早:2011/06/13(月) 21:08:10.44 0
「我こそがワイズマン──悠久の時を生きる、不滅の存在──この世で最も神に近い存在──」

(こいつが、こいつがワイズマン、だと……? まるっきりの化物じゃねェか……!!)

唖然とする一同。そんな中、直ぐに冷静さを取り戻し、身を一歩乗り出したのは海部ヶ崎であった。
「不滅の存在、だと? ワイズマン、貴様は一体……」

一呼吸を置いて、ワイズマンは言った。
「遥か昔──高度な科学力を持つ文明が、この地球上に栄えていた。
 科学によって支えられ、科学によってあらゆるものが解明される、現代文明の究極形ともいえる世界。
 そんな世界に──ある時、その科学力を持ってしても到底太刀打ちできない、
 圧倒的な超パワーを秘めた存在が現れた。それが諸君ら異能者が『始祖』と呼ぶ存在であった。
 突如として現れた自らの理解を超える謎の存在に、古代人は恐れ戦き、恐怖を増幅させていった。
 そして増幅された恐怖は、やがて始祖に対抗する秘密兵器、“人造生命体”となって具現化された。
 古代人が数千年かけて蓄えた膨大な知識を持つ、正に科学の粋を結集した存在──それが私だ」
                           ワイズマン
(……そうか……だからか。なるほど、だから『賢者』という大層な名前を自称していやがったのか)

それぞれが何かを思うのをよそに、ワイズマンは続ける。
                               コア
「しかし、始祖と戦った私は無残に敗れ、私自身の“核”となる脳を残して、この世から消えた。
 私は再起を期して地下に潜伏し、肉体の再生を待ったが──
 それより先に私の創造主である古代人は滅び、いつしか始祖もこの世から消えていた。
 本来であればこの時、私は生来の目的を失い、ただ自然と滅び去るはずだった。
 しかし──私は生き延びた。始祖の抹殺ではない、別の目的を自ら見出していたからだ。
 すなわち、始祖のような強く美しい肉体を手に入れ、
 唯一絶対の“支配者”として永遠にこの世に君臨すること──!」

この時、何か得心がいったように「ハッ」とした顔をしたのは天木だけではなかった。
そう、誰もが気がついたのだ。この幻影島の闘いそのものが、
ワイズマンの肉体となりえる人物を見つけるための選定試験であったことを。

「──始祖は幾度となく輪廻転生を繰り返し、『化身』としてこの地球上に度々現れた。
 化身は私の野望の最大の障害となりうる存在……決して無視できるものではない。
 そこで私は、その化身の体を乗っ取ることを考えた。
 肉体を手に入れると同時に天敵を排除する最良の方法だと思ったからだ。
 そして500年前、私は自らの手足となる白済を作り上げて、化身のもとに向かわせた。
 しかし、所詮は異能も持たぬたかだが機械人形。化身の前ではどうすることもできなかった。

 そんな時だった……『降魔の剣』というものがこの世にあることを知ったのは。
 そこで私は発想を変えた。化身からは肉体ではなく、“異能”をもらおうとな。
 カノッサの雲水 凶介を扇動したのも、全ては始祖のエネルギーの結晶体『魔水晶』を手に入れる為。
 この幻影島では手足となる屈強な肉体を手に入れ、私の野望はとうとう完成を見るはずだった……」

「まさか、か? 肉体となる候補者に追い詰められたのは誤算だったな」
と、皮肉めいた口調で言ったのは氷室。
しかし──ワイズマンは直ぐに「ククク」と笑い始めた。

「誤算? 確かにそうだ。しかし、ククク……私を追い詰めてしまったことが、逆に諸君らの誤算なのだ。
 何故なら、肉体がない今の私でも、諸君らをこの世から消し去ることは十分に可能だからだ──」

ふと、脳の一部がかすかに金色に輝き始める。
何かと一瞬眼を凝らした天木は、直後に大きく眼を見開いた。

ワイズマンの脳の一部に小さな金色の球体が埋め込まれている──。
天木自身ははじめて見るものだったが、それは正に魔水晶に違いなかった。
(まさか……まさかあれが!)
ワイズマンは驚く面々をせせら笑うように言った。
151天木 諫早:2011/06/13(月) 21:12:23.57 0
「──私の人造生命体としての能力は“オーラをバリアーと化す”こと。
 この島を覆うバリアーは私が持つオーラの大部分を割いて展開したものだ。
 故に本来であれば今の私は丸腰同然、戦闘能力は皆無。
 しかし、私はその戦闘能力を、この魔水晶によって補うことができる──!」

──魔水晶が激しくスパークし、溶液をゴボゴボと泡立てる。

「ククク、さぁ、今こそ見せてやろう! 魔水晶の力を──!!」

そして、巨大な試験管がパァーンっと音を立てて砕け散ったのは、ワイズマンが叫んだその時であった。
分厚いガラスが破片になって飛び散り、それと共に中の溶液が勢いよく噴き出す。
──いや、出てきたのはそれだけではない。無数の光の軌跡が天木らに向かって飛び出してきたのだ。

「!?」
瞬間、表情を一層激しく変化させたのは、氷室であった。
(速ェ──!! 一体なんだ!? いや、考えてる暇はねェ! ここは避けるのが最優先だ!)
その変化が何を意味するのか知らずに、あるいはその変化に気付くこともなく、
天木らはそれぞれ紙一重ながらも向かってくる光を上手くかわしていく。
しかし──それを見た氷室は声を張り上げた。

「それを紙一重で避けるな!!」
それが一体何を意味するのか、天木は咄嗟に理解ができなかった。
が、直ぐに理解した。というよりは、身をもって思い知ったというべきだろう──。

「ガハァァァアッ!!」
天木の胸が爆煙に包まれ、血肉が千切れ飛んでいく。
かわした筈の光が、突然軌道を変えて襲い掛かってきたのだ。

思いもよらぬ攻撃に誰もが負傷している中、たった一人氷室だけは、
空中に浮いているワイズマンを無傷で見据えていた。

「今のは……カノッサ四天王『切谷』の技・『百雷槍』だな? なぜお前が──」
「まだわからぬのか? これが魔水晶の力なのだということを。
 私はこれまで見た異能者の技を、この魔水晶を通して完全に“再現”できるのだ」

魔水晶が再び激しくスパークする。しかも今度は金色と白の光が交互に入り混じって。

「そう、このようにな! 『雷光乱咲槍』──!!」

凶悪な輝きを放つ二つの光が、圧倒的な数をもって放たれた──。

【天木 諫早:ワイズマン戦突入。ダメージ中。更に満身創痍に】
【ワイズマンの正体が明らかに。魔水晶を使って攻撃を開始する
152神宮 菊乃@代理:2011/06/16(木) 21:47:42.79 0
>149>150>151
皆から少しだけ遅れた菊乃であったが、扉を抜けたところで立ち止まっていたので追いつくことが出来た。
どうやら遅れてきたことには誰も気がついていないらしい。少しホッとした。

「泣いても笑ってもこれが最後の闘いだ。
 ……正直言うと、ここまで誰一人欠けずにこれるとは、私も予想していなかった。
 誰もが満身創痍とはいえ、ここに戦力として未だ存在していること……これは大きい。
 私と海部ヶ崎の二人だけでは、ここに辿り着くまでに殺られていたはずだ。
 よしんば辿り着けていたとしても、恐らくワイズマンと闘えるだけの体力は無かっただろう。
 だから今、改めて思う。お前達と会えて良かったとな」
表情はいつも通りだったが、その言葉にはいつもなら存在しない暖かみが込められていた。
皆が好意的な表情でそれを受け止める中、菊乃は少しだけ違う感情でそれを見ていた。

「へっ、一人も欠けてねェってのは、何も“ここまで”の話じゃねェだろう?
 ワイズマンを倒したその時も、俺達は全員生き残ってる! そうだろ!?」
氷室の言葉に感化されたように天木が全員を見回して言う。
それに合わせて全員が最後の敵に向かって一斉に足を踏み出した──。
153神宮 菊乃@代理:2011/06/16(木) 21:50:59.64 0
──薄暗い回廊を抜け、辿り着いた先は、一言で表すなら研究所だった。
キングと闘ったフロアやこれまで通ってきた道とは一線を画した──まさに別世界だった。
四方を見渡しても、見えるのは壁に埋まった機械や試験管の数々。
「──反逆者一行のお出ましだぜ! さぁ、とっとと出て来たらどうだ、ワイズマン!」
人影どころか生き物の気配すらしないフロアに天木の声が響き渡る。
「ククク……」
だが、誰もいないはずのフロアから声が返ってきた。
その声はこの島に来て一番最初に聞いた、それでいて忘れようのない声──ワイズマンの声であった。
「哀れな異能者諸君、我が『聖域』にようこそ」
次の言葉と共に、フロア全体が振動する。
咄嗟に周囲を警戒して素早く見回す。そして菊乃の視線はある一点で止まった。
それは前方──自分達の逆位置に相当するフロアの端。その部分の壁がせり上がっているではないか。

(今度こそワイズマンのお出ましってわけか。どんなツラか拝んでや──)
そう思って見えてきたものに視線を向け、そこで数秒間思考が停止した。
見えてきたもの──それは、もはや試験管とすら呼べないような代物に満たされている不気味な液体、そしてそこに浮かんでいる脳みそだった。

(おいおい……拝むツラすらないとは。こりゃあ予想の斜め上だね。キングが言ってたのはこの事だったのか)
しばし唖然としていると、海部ヶ崎がワイズマンに語りかけていた。ワイズマンも言葉を返している。
(脳みそと喋るなんて中々──いや、この先死ぬまで体験できない貴重な経験だね)
などと場違いな事を考えていたが、会話の内容はしっかりと聞いていた。
154神宮 菊乃@代理:2011/06/16(木) 21:52:45.89 0
会話の内容を要約するとこうだ。
まずワイズマンは人間ではなく(脳みそだけで生きている時点で当たり前だが)人造生命体であるということ。
遥か昔に栄えた古代文明の技術によって造られたらしい。
そしてその時代に現れた『始祖』という存在に敗れ、その肉体を失った。
しかし核となるあの脳みそだけは残り、消えてしまった始祖の代わりに新たな目的を見出し、活動を開始した。
その目的とは始祖に成り代わること──即ち、最強の存在としてこの世に君臨し続けることだった。
(成る程な。この島で起こした下らねえバカ騒ぎは自分の体を手に入れるためのもんだったって事か)

話はまだ続く。
始祖は『化身』と呼ばれる存在になって転生を繰り返し、度々地上に現れていた。
ワイズマンは当初、その肉体を手に入れようと白済を作り上げ、化身とぶつけた。
しかし結果は惨敗。
そんな折、『降魔の剣』なるものの情報を手に入れ、化身の肉体ではなく異能(ちから)を手に入れようと考えた。
その為に雲水らを扇動してカノッサの乱を引き起こし、『魔水晶』なるものを入手した。
そしてここ、幻影島でベースとなる肉体を手に入れ、ワイズマンの計画は完遂するはずだった。

(その『魔水晶』ってやつが化身とやらの力の塊って事か?しっかし──)
「まさか、か? 肉体となる候補者に追い詰められたのは誤算だったな」
菊乃の心中を代弁するように氷室が皮肉を言う。しかしワイズマンは意にも介さず、静かに笑い始めた。
「誤算? 確かにそうだ。しかし、ククク……私を追い詰めてしまったことが、逆に諸君らの誤算なのだ。
 何故なら、肉体がない今の私でも、諸君らをこの世から消し去ることは十分に可能だからだ──」
155神宮 菊乃@代理:2011/06/16(木) 21:55:16.58 0
ワイズマンがそう言うと、脳みその一部が発光し出した。
よく見ると、ワイズマン自体が発光しているのではなく、そこに埋め込まれた"あるモノ"が発光しているのに気がついた。
今までの話を統合すると、恐らくはあれが魔水晶と呼ばれるものなのだろう。
その力の程は知れないが、先程の話を聞くにあれは異能者の祖たる存在の力の結晶。
実際に目の当たりにしなくともその効果は推して知れるだろう。

「──私の人造生命体としての能力は“オーラをバリアーと化す”こと。
 この島を覆うバリアーは私が持つオーラの大部分を割いて展開したものだ。
 故に本来であれば今の私は丸腰同然、戦闘能力は皆無。
 しかし、私はその戦闘能力を、この魔水晶によって補うことができる──!」
魔水晶が一層強く輝き、試験管の中の液体が沸騰したように泡立つ。
「ククク、さぁ、今こそ見せてやろう! 魔水晶の力を──!!」
その叫びと共に、巨大な試験管が砕け散り、中の液体と共に破片が周囲に飛び散る。
──と同時に視界を埋め尽くすほどの光の鞭が、菊乃達に襲い掛かってきた。

「!?」
それを見た瞬間、氷室の表情が劇的に変化したのを菊乃は見ていた。
(何だ?あれを見た途端氷室の表情が──っと、今はそんなこと考えてる場合じゃねえ!……ん?)
目の前の光の奔流を見た瞬間、菊乃の頭に一つの情報が流れて込んできた。
(何だこりゃ……?百…雷…槍…?あの光の事か?と言うより、何でアタシはそんな事を知ってるんだ?)
156神宮 菊乃@代理:2011/06/16(木) 21:56:17.48 0
考えている間に光は眼前に迫っており、慌てて回避する。しかし──
「それを紙一重で避けるな!!」
氷室の怒号が響き渡る。しかしその時には既に遅かった。紙一重でかわしていた菊乃に、軌道を変えた光が襲い掛かる。

「──チッ!そう言うことかい……!」
地面スレスレを跳んで回避していた菊乃は、無理矢理体勢を変え、地を蹴って跳び上がる。
しかし無理な体勢で跳び上がったため、かわし切れずに足に光が掠る。
「……ッ!」
激痛に顔を顰めながらも、空中で体勢を整えて離れた場所に着地する。

「今のは……カノッサ四天王『切谷』の技・『百雷槍』だな? なぜお前が──」
「まだわからぬのか? これが魔水晶の力なのだということを。
 私はこれまで見た異能者の技を、この魔水晶を通して完全に“再現”できるのだ」

(カノッサ四天王の技だって……?何でアタシがそんなもん知ってたんだ!?)
先程頭の中に入ってきた情報、その正体を知って混乱する菊乃。しかし相手にそんな事は関係ない。
「そう、このようにな! 『雷光乱咲槍』──!!」
ワイズマンが再び叫ぶと、金と白、二色の光が混ざり合い、激しくスパークしながらこちらに向かってくるのが見えた──。

【神宮 菊乃:ワイズマン戦開始。足に軽傷を負う】
157氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/06/20(月) 03:57:27.41 0
視界全てを多い尽くすような凄まじい数の光の軌跡に──氷室は思わず唇を噛んだ。
なまじ技の正体を知っている分、自らに迫った危機的状況がありありと分かるからだ。

(迂闊だった──奴が切谷の技を使えると知った時、既に行動しておくべきだった!)

カノッサ四天王『切谷 沙鈴』最大の必殺技──『雷光乱咲槍』。
圧倒的スピードと攻撃力で敵を瞬時に死に至らしめるこの技は、
例え体力が万全の状態の氷室であっても、とても無傷でかわせるようなものではない。
もっとも、万全であれば、オーラの大半を防御に回すことで最小限のダメージで切り抜けることはできるだろう。
しかし今の氷室では、とてもそれだけのオーラを展開することはできない。
正に『雷光乱咲槍』のたった一撃が致命傷になりかねない状態なのだ。

(──これをやるのは気が進まないが、やるしかない!)
それ故に、というべきだろうか。
氷室は全身に纏っていたオーラを、素早く急所のみに集中させた。
この危機的状況をまず生きて切り抜ける為に、急所以外の肉体を捨てる判断をしたのだ。

客観的に見て、それが真に最善の策であったかどうかは判断しかねるところである。
だが、仮に最善でなかったとしても、既に光の刃が放たれていることに変わりは無い。
後は、もはや運命の神に、最善の結果が出るよう祈るしかないのだ。
158氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/06/20(月) 03:59:48.85 0
ズギャアァァァッ!!

「!?」
──土壇場での祈りというのは、通じるものか。結果は何と吉と出た。
とはいえ、果たしてこのような結果を、一体誰が予想しえただろうか?

光の刃は確かに轟音を発するほどに激しく炸裂した。
しかし、天木や神宮、ましてや氷室に対してではない。
直撃を受けたのは、氷室らの前に突如として現れた、巨大な鉄の壁であったのだ。

「物質錬成『マテリアル・コンストラクト』──」
後ろから聞こえる静かなる声──その主は、ユーキ・クリスティ。
「なっ!?」
驚いたのはワイズマン。それも無理はない。
完全にダメージを受けるはずの技が、誰も傷付けることなく遮られてしまったのだから。
「物質強化『マテリアル・エンハンスメント』──」
続くユーキの声は、これまた静かなるもの。
しかし、その後に発せられた音は、それとは対照的な非常識で規格外のものであった。

ドンッ!!

物理的な突風を生み出す程のそれは、瞬く間に周囲の機械や試験管を木端微塵に砕き、ワイズマンに達した。
「──ォォォオオオオオオオオオッ!!」
呻き声とも、絶叫ともつかぬ声を、ワイズマンがあげる。
その光景は“爆音に脳を揺らす”という言葉が正にピッタリであった。

「衝突のエネルギーを音に換えて跳ね返す──これはさしもの『賢者』も予想できなかったようだね」
してやったり、とでも言うような、それでいてそれを必要以上に誇示することのない、
クスリとした微笑をユーキは零した。
159氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/06/20(月) 04:01:56.59 0
(──無知とは恐ろしいものだな。知らなかった、こいつが──
 いや、“こいつらが”ここまでの使い手だったとは──)
今度は氷室がクスッと笑った。ただ、それはユーキとは性質が全く異なる。
強いて言うなら自嘲に近いものだったろう。

氷室の両目の端には、三つの人影が映っていた。
それは今正に壁を飛び越えて、ワイズマンに攻撃を仕掛けんとする天木、神宮、海部ヶ崎。

「この隙はぜっっっったいに逃さねェッ!!!! 『ブラッディィイイイイジェイルッ』!!!!」
天木の掛け声と共に無数の武器がワイズマンに向かう。
しかもその武器は、海部ヶ崎が自分の体から取り出し、事前に空中に放り投げていたものだった。
「くらえワイズマン!! 『飛花落葉』ォオオオオッ!!」
今度は海部ヶ崎が声をあげる。
そして彼女が放ったものは、何とユーキが作り出した巨大な鉄の壁そのもの。

(私よりも先に攻撃を仕掛けたばかりか──互いに互いの武器を利用し合って──。
 まるで何十年も共にしているようなコンビネーション──。
 ──これまで生き残ってきたわけだ。こいつらを甘く見てたのは私と、そして──)

三人よりも一歩送れて、氷室も飛び上がった。

「──お前だけだったようだな、ワイズマン──」
そして続けた。右手に、冷気を集約させて。

「──『ノーザンミーティアー』──」

【氷室 霞美:ノーザン・ミーティアーを放つ】
160名無しになりきれ:2011/06/21(火) 01:59:33.19 0
その目気色悪すぎこっち見んなど田舎富山男死ね。その目気色悪すぎこっち見んなど田舎富山男死ね。その目気色悪すぎこっち見んなど田舎富山男死ね。その目気色悪すぎこっち見んなど田舎富山男死ね。
161鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/06/21(火) 18:46:59.07 0
>>149-159
「あれ、もう皆行ってしまった様ですね…追いかけましょう!」
閣両の改造を終わらせ、全速力でロボを走らせる斎場
「ちょ、遅いよ斎場君!何してたの…!」
斎葉より先について待っていた鎌瀬が言う
「少し改造をしておりました」
「なるほど…」

「泣いても笑ってもこれが最後の闘いだ。
 ……正直言うと、ここまで誰一人欠けずにこれるとは、私も予想していなかった。
 誰もが満身創痍とはいえ、ここに戦力として未だ存在していること……これは大きい。
 私と海部ヶ崎の二人だけでは、ここに辿り着くまでに殺られていたはずだ。
 よしんば辿り着けていたとしても、恐らくワイズマンと闘えるだけの体力は無かっただろう。
 だから今、改めて思う。お前達と会えて良かったとな」
「…僕が死んでないのって、良く考えたら奇跡だよな…」
その後、斎葉が辺りの機械に目を輝かせたり、鎌瀬が自分の生をかみ締めたりした
「哀れな異能者諸君、我が『聖域』にようこそ」
遂にラスボス・ワイズマンが姿を現す。そしてワイズマンがラスボス特有の長い台詞で語り、

「ククク、さぁ、今こそ見せてやろう! 魔水晶の力を──!!」
無数の光が此方に襲い掛かる
「ちょ、無理無理無理無理!!! こんなん避けらんないって!!! うわああ『劣化した盾(ネガティブシールド)』!!」
劣化した盾により攻撃の威力を弱めた鎌瀬だったが、それでも光は鎌瀬に少なからずダメージを与えた
「く…これは拙いですね…避雷針!!」
要塞の上方に避雷針を出現させ、攻撃を誘導しようとする斎場。しかし…
「!!?」
光はそれをものともしないように軌道を変えて要塞の真ん中に襲い掛かった
「くッ…何とかメインコンピュータの損傷は防げましたが…かなり被害が…!」
(む、これは当たったら只では済みませんね…! 吸電体(エレキボール))
イメージした物を出力する能力で、電気を吸収するボールを創り出す夜深内。しかし、それでも吸収仕切れなかった電撃が夜深内を襲う
(!!!!!!)
声にならない悲鳴を上げる夜深内(喋れないけど)




162神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/06/22(水) 02:39:52.59 0
>>157-159
目の前に煌く無数の雷光。それはもはや回避がどうの、というレベルではなかった。
どこへ逃げようとも避けることは適わない。そんな状態だった。

(クソッ、こんなん避けるに避けられねえ!
 ……こりゃ下手にジタバタするよりは動かねえ方がいいかも知れねえな)
着地した地点からワイズマンに向かって飛び出そうとした菊乃であったが、『雷光乱咲槍』を前にそれを諦めた。
目の前には回避不可能の雷撃。しかも一撃一撃が必殺レベル。そんなものに飛び込むのは自殺行為以外の何物でもなかった。
(どの道避けられねえんだ。この際全力で防御してダメージを出来るだけ抑えるしかないな)

キングとの戦いで負ったダメージがまだ回復しきっていないが、それでも七割程度の力は出せる。
無理をすれば全力も出せない事はないが、その場合体の無事は保障しかねる。
(さて、今の状態でアレを食らって立ってられるかね……。カミサマにでも祈るしかないか)
オーラを漲らせ、両腕を体の前面でクロスさせ、防御の体勢をとる。目を瞑り、来るべき衝撃に備えた。

ズギャアァァァッ!!

しかし、その行動は結果的に言うと無意味だった。
予想していた衝撃はなく、代わりに凄まじい轟音が前方で鳴り響いたのみだった。
163神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/06/22(水) 02:41:54.46 0
その事実に驚いて目を開けると、そこには自分たちを守るように巨大な壁──鉄板が聳え立っていた。
「物質錬成『マテリアル・コンストラクト』──」
最後尾にいたと思っていた自分の更に後ろから静かな、しかしハッキリと聞こえる凛とした声が聞こえた。
驚いて後ろを振り返ると、そこには先程までいなかった人物──ユーキ・クリスティが立っていた。
「なっ!?」
ワイズマンが驚く。
しかし、完全に決まったと思っていた攻撃が、それも予想外の方法で防がれたのだから、驚かない方がおかしいだろう。
「物質強化『マテリアル・エンハンスメント』──」
ユーキが静かに言葉を紡ぐ。直後──脳を揺さぶられるような轟音が轟いた。
その轟音は、周囲の壁や天井を、速度と言う圧倒的な力で蹂躙して進んでいく──ワイズマンに向かって。

「──ォォォオオオオオオオオオッ!!」
ワイズマンが絶叫する。
「衝突のエネルギーを音に換えて跳ね返す──これはさしもの『賢者』も予想できなかったようだね」
ユーキが不敵な笑みを浮かべ、ワイズマンに言い放った。

(ハッ、凄いなアイツ。こんな事まで出来るとはね。
 ──っと、感心してる場合じゃない。これは"チャンス"ってやつだね)
そう思い前方に目を向ける。そこには既に飛び出している二つの影があった。
ユーキの造り出した壁に向かって突進している二つの影──天木と海部ヶ崎だった。
自分も遅れまいと駆け出す。
164神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/06/22(水) 02:44:00.28 0
「この隙はぜっっっったいに逃さねェッ!!!! 『ブラッディィイイイイジェイルッ』!!!!」
天木が叫び声と共に技を仕掛ける。しかし打ち出したのは天木自身の武器ではない。
海部ヶ崎が予め空中にばら撒いていた無数の武器を利用したのだ。
「くらえワイズマン!! 『飛花落葉』ォオオオオッ!!」
続いて海部ヶ崎も叫ぶ。
しかも打ち出したそれは、先程ユーキが造り出した巨大な壁そのものだった。
後方では氷室のオーラが急速に上がっていくのを感じる。
(皆遠距離攻撃か。アタシも何か考えとけばよかったかなぁ……。ま、今更言っても仕方ねえか)
皆の攻撃方法を少し羨ましく思い、しかしすぐに振り払った。
(今のアタシはこれしか出来ねえ。なら出来る事を全力でやるだけだ!)

「ちょっと借りるぜ、海部ヶ崎!」
そう叫ぶと、高速で飛行している鉄板に瞬脚で追いつき、何とその上に飛び乗った。
鉄板がワイズマンに到達するまでまであと少し、と言うところで、背後から声が聞こえてきた。
「──『ノーザンミーティアー』──」
「今だ!!」
その瞬間、鉄板から勢いよく跳び上がる。天井に到達し、慣性の力で一瞬静止する。
そして足にオーラを込めて天井を蹴り、弾丸のように飛び出す。
「──『重力増加』──」
そして能力を使って更に落下速度を速め、三人の攻撃を追いかけるようにワイズマンに向かう。
全身にオーラを漲らせ、隕石のように突撃していく。
「ゴホッ……!チッ、そろそろアタシもヤバイか……?だけど、この一撃だけは当てる!
 いくぜ脳みそ野郎!『重力の戦槌』!!」

【神宮 菊乃:『重力の戦槌』でワイズマンに突撃する】
165鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/06/22(水) 07:32:50.31 0
「そう、このようにな!『雷光乱咲槍』ーー!!」
ワイズマンが無数の雷光を飛ばす
「これは…防ぎきれない…!」
「物質錬成『マテリアル・コントラクト』ーー」
「なっ!?」
「物質強化『マテリアル・エンハンスメント』ーー」
ワイズマンが放った無数の雷光を、鉄の壁を精製し跳ね返すユーキ
「ユーキさん!? 助かりました、ありがとうございます。…傷はもう大丈夫なのですか?」
ユーキにお礼を言い、尋ねる斎葉

「この隙はぜっっっったいに逃さねェッ!!!!『ブラッディィイイイイジェイルッ』!!!!」
「くらえワイズマン!!『飛花落葉』ォオオオオッ!!」
「ーー『ノーザンミーティア』ーー」
天木、海部ヶ崎、氷室がワイズマンに技を放つ
「うう、皆強いなぁ…僕なんか足元に及ぼうとすら出来ないよ…
やっぱり僕、来なかった方がよかったのかな…あはは、でも…来ちゃったんだし、駄目もとで頑張るかぁ」
ぶつぶつと、弱音を吐く鎌瀬。さて、少年漫画では精神が力に影響する、なんてことがよくある。
例えば、絆の力で新しい能力に目覚めるとか。友を亡くした怒りでパワーアップとか。
そんな風に、普通は『諦めない心』こそが力になるのだがーー鎌瀬の場合は違う。何より、『諦める心』こそが力となるーー
「劣化した剣(ネガティブレイド)…!」
オーラを剣の形に変え、ワイズマンにぶつける鎌瀬
「やりますか…。『サイバーネットワーク』構築!」
電気屋型要塞と閣両、そして自分の左腕を無線でリンクさせる斎葉
「プラグイン、インストール!自動修復プログラム、発動!
それに並行し、誘導ミサイル発射!!!」
(私も…! 空想爆弾(イマジネーション・ボム)!!)
続いて斎葉と夜深内も技を出す
【鎌瀬一行:負傷、ワイズマンに攻撃】
166天木 諫早:2011/06/25(土) 01:33:44.91 0
ワイズマンに向かっていくそれぞれの必殺技。
しかし、魔水晶が黒き輝きに包まれたのは、それらが炸裂するよりも早かった。
「調子に──調子にのるな──。さぁ、開け! 亜空間の入口──『カオスゲート』よ!」

──瞬間、ワイズマンの前方に、黒い円形状の空間が出現。
天木には知る由もないことであったが、それはかつてのカノッサ四天王筆頭、
あの『雲水 凶介』が使った能力に違いなかった。

(!!)
ブラックホールのような穴の中に次々と飲まれていく必殺技。
「フハハハハハハハ! 私に触れることなど何人にもできぬのだ!」
ワイズマンは嘲笑った。
しかし、予想だにしない展開を前にしても、天木は表情を崩すことはなかった。

「──ワイズマン、あんたには目ン玉が見あたらねェが、一体何で視覚を補ってンだ?
 何かのセンサーか? それとも心眼ってヤツで物を見てンのかい?
 何にしてもよ──高速で移動するモンを捉えるのは限界があるみてェだな」

ふと、天木の視線が天井へと移る。
そこには──天上を蹴って隕石さながらに落下する神宮の姿──。

「亜空間とやらの入口を開くんなら、自分の頭上にも開いておくんだったなァ!」
「!!」

そこでワイズマンは初めて自らに迫った危機に気が付いた。
そして、それが精一杯であった。
落下のエネルギー全てを込めた神宮の鉄拳が、その時炸裂したからだ。


「ゴォォオアアアアアアアアアアアアアアア──ッ!!」

肉片が飛び散り、ワイズマンが絶叫する。
神宮が叩き込んだ『重力の戦槌』は、ワイズマンの右脳部分を文字通り破壊したのだ。

(……!!)
それでも天木はまだ表情を緩めない。
これで終わるような生易しい相手ではないことを知っていたからである。
167天木 諫早:2011/06/25(土) 01:38:01.02 0
「オのレェ……マサか、まさカこコまデ私ヲ追い詰メルとは……」

ところどころで音調のズレた言葉を吐きながら、地に沈みかけたワイズマンが再び体制を立て直す。
(今のでくたばるわきゃねェとは思ってたが、確実に効いている……! 恐らく後一押しだ!)

天木は再びワイズマンに接近せんと、一旦はつま先に体重を乗せて前屈みとなった。
が、すぐに重心をかかとへ戻した。
魔水晶が再び妖しげな光を放ち始めたからである。

「だガ、これ以上ハやらセン……! 近ヅケるもノならバ近づイテみるガ良イ!」
ワイズマンが叫ぶ。と同時に、魔水晶から10を数える巨大な光弾が発射された。
その正体は『エルフ・ブリッツェン』。
狂戦士四傑の一人ジャックが持つ、最大の必殺技であった。

「チィっ! ──ぐうぅっ!!」
紙一重で着弾を免れた天木だったが、直後の爆発の余波まではかわせなかった。
巨大な爆発は彼の体をいとも容易く吹き飛ばし、容赦なく壁に叩きつけた。
背骨がきしみ、内臓が今にも破けそうな痛烈なダメージが天木に駆け巡る。

──直後、天木は力なくその場に倒れ付した。
筋肉が痙攣を起こして上手く動かない──。
それは天木の肉体が、ついに限界を迎えてしまったことを意味していた。
(クソッ! こ、ここまできて……! か、体が言うことをきかねぇ!)
そこに駆け寄ろうとする者は誰もいなかった。
仲間達は天木のように限界に達することはなかったものの、
もはや戦闘以外で使う体力を残してはいなかったのだ。

「ククク……一人脱落シタようだガ、他の者達モ限界が近イヨウだな。
 それとモ、ソの“振り”をシテ攻撃の隙ヲ窺ッテいルのか?
 イズれにシてモ、次で勝負ガ決マル──何故なラ」
またしても魔水晶が妖しげに光る。
それは止めのエルフ・ブリッツェンの輝きに違いなかった。

(後一撃……後一撃だってのに……! くそっ……たれがァ!!)

「コレカら、今ヨリも強力デ巨大なエルフ・ブリッツェンを放つカラだ。
 今ノ諸君ら二、そレヲ避けきル体力は残ッテいまイ。フフフ……悔いルがイイ。
 私ニ逆らッタことヲ、あノ世でタッぷりとナ……。
 ククククク──サラバダ、愚かナ虫けラ共ヨ──!!」

全てを飲み込むような巨大な閃光が、今放たれた──。

【天木 諫早:体力が尽きる】
【ワイズマンが特大のエルフ・ブリッツェンを放つ】
168鬼々壊戒:2011/06/25(土) 18:50:23.22 0
>>155-167

「やばいな・・・・」
一気に劣勢になっていく
『助けた方がいいんじゃねぇか?』
「だが・・・」
今出ていけばこちらも無事ではすまない・・・・どうしたら
『うじうじすんな!!!』
「うっ・・・・さぁてと・・・行くぜぇ!!」
物陰から飛び出し能力を使う
「消し飛べ!!!破壊の記憶【護破】」
(巨大な光が消える)
「だいじょぶかい?」
光が消えそのあとにたつ

【戦闘に介入】
169名無しになりきれ:2011/06/27(月) 17:51:57.84 0
>>168
今更だけど参加希望者はまずプロフを避難所に投下。
それとトリップもつけるのがルールだよ。
170神宮 菊乃@代理:2011/07/02(土) 21:48:29.68 0
>>166>>167
「調子に──調子にのるな──。さぁ、開け! 亜空間の入口──『カオスゲート』よ!」

その叫びと共に、ワイズマンの前方に黒い空間が出現した。
味方の技は次々とその中に吸い込まれていく。
(ありゃやべえな──って、アタシも吸い込まれるんじゃ!?)
空中からワイズマンに向かっていた菊乃は、前方に展開されている"アレ"が上にも来たら──と焦った。
他の皆のように飛び道具ではない自分は、体ごと吸い込まれる事になる。
そうなったらどうなるか──想像はできなかった。
無理もない。今までに見た事のない技だったのだから。

(けど、もう技は止められねえ。それにアタシの体ももう……。このまま行くしかない!)
覚悟を決めてワイズマンに突撃していく。

しかし──予想に反して黒い空間は上方には展開されなかった。
「亜空間とやらの入口を開くんなら、自分の頭上にも開いておくんだったなァ!」
天木の声が聞こえ、そこでようやくワイズマンがこちらに気付いたようだった。
しかし時既に遅く、菊乃はワイズマンの直上に迫っていた。

「いっけぇぇぇぇえええええええええええ!!」
『重力の戦槌』がワイズマンに直撃し、その本体の右側の部分を爆散させた。

(いったか……!?)
着地し、態勢を立て直しつつワイズマンのほうに向き直る。
「オのレェ……マサか、まさカこコまデ私ヲ追い詰メルとは……」
「おいおい、体?半分吹き飛ばされてまだあんな元気なのかよ……」
ダメージは負っているものの、未だにワイズマンは健在であった。
「だガ、これ以上ハやらセン……! 近ヅケるもノならバ近づイテみるガ良イ!」
再び魔水晶が妖しく輝き、そこから10個の巨大な光球が発射された。

「さすがにアレ食らったらただじゃすまねえな」
大きく後ろに跳び退り、光球を回避する。
その光球は、着弾と同時に周囲に凄まじい爆発を引き起こした。
狭くないとは言え、室内での連続した巨大な爆発。その衝撃は凄まじいものだった。

爆発の余波もおさまり、周囲の仲間の姿を確認する。その中で一つ、目に留まったものがあった。
壁際に倒れている天木だった。しかし天木は起き上がるそぶりを見せない。
(まさか……今のでやられちまったのか!?)
よく目を凝らしてみると、微かに動いている。どうやら死んではいないようだ。

「よかった……グ、ゴホッ!」
安堵した直後、菊乃は咳き込む。
しばらくしておさまり、口元に当てていた手を離す。そこには血液が付着していた。
幸い菊乃はワイズマンをは挟んで皆とは反対の位置にいるため、それに気付いた者はいないようだった。
(アタシの体もそろそろ限界か……。もってあと一、二撃ってところか)
「ククク……一人脱落シタようだガ、他の者達モ限界が近イヨウだな。
 それとモ、ソの“振り”をシテ攻撃の隙ヲ窺ッテいルのか?
 イズれにシてモ、次で勝負ガ決マル──何故なラ」

そうこうしている間に、魔水晶が三度輝き出した。
「コレカら、今ヨリも強力デ巨大なエルフ・ブリッツェンを放つカラだ。
 今ノ諸君ら二、そレヲ避けきル体力は残ッテいまイ。フフフ……悔いルがイイ。
 私ニ逆らッタことヲ、あノ世でタッぷりとナ……。
 ククククク──サラバダ、愚かナ虫けラ共ヨ──!!」
先程よりも更に巨大な光球──もはや閃光と呼ぶにふさわしいそれが放たれた。

(迷ってる暇はねえ。どうせアタシは長くはないんだ。最後に一花咲かせてやろうじゃねえか!)
菊乃は迫り来る閃光に向かって走り出した。

【神宮 菊乃:最後の一撃を仕掛けるため、ワイズマンに向かう】
171氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/02(土) 22:02:38.56 0
>>170
ドォォォオオオオン──!!

ドーム全体を激しく揺るがす巨大な爆発──。
もうもうと粉塵が立ち込め、亀裂の入った天上や壁から、大小様々な破片がパラパラと落下する。
「馬鹿メ……そンナか細イ肉体デ全テの威力を受け切レルとでも思ッテいたノカ?
 私のエルフ・ブリッツェンは、あらゆるモノヲ飲み込ミ消し去る威力ガあるのだ。ハハハハハ!」
その中で、ワイズマンは一人高笑いをあげた。
爆発の中心にいた神宮は勿論、その後ろの氷室達も木端微塵に消し飛んだに違いない──
事実、そう確信するに十分すぎるほどの凄まじさが爆発にはあったのだ。

「ハハハハハ──ハッ!?」
しかし──その高笑いは突然止まった。
粉塵がおさまるにつれて、あるはずのない黒い人影が現れたからだ。

「……ま、間に合った……ようだ、な……」
苦しそうな男の声と共に、明らかとなる人影の正体。
それは何と──あの『エース』であった──。
「なンだト──!?」
エースの登場にワイズマンは驚いた。
そして、エース一人が全ての光球をその身に受けていた事実に気付き、更に驚いた。
そう、彼は神宮よりも先に光球の前に踊り出て、氷室らを身を訂して庇っていたのだ。

「エース──!? 何故私達を庇った!?」
との氷室の問いに、エースは儚げな笑みをもって返した。
「あ……あんたには、正気に戻してもらった恩がある……からな……。
 あんたに死なれちゃ……その恩も二度と返せなくなる……
 だから……だから、これしか方法がなかったの……さ……」

バタリ。それだけ言って、エースは仰向けに倒れた。
それが全ての力を使い果たしたことを意味しているということは、誰の目にも明らかであった。

「おノレ……! 出来損ナいの分際デ私の邪魔ヲしおッテ……!!
 ……ダが、結局ハ同じこト。コレデ邪魔者は消エタ。次こソお終ワリにしてヤロウ!」

殺気を強め、再び攻撃態勢をとるワイズマン。
だが、その一瞬を、海部ヶ崎だけは決して見逃さなかった。

「──おおおおおおおおおおおおおおお!!」
全ての力を脚力に換えて、海部ヶ崎が突進する。
彼女とて体力は限界に近い。本来であればこのような素早い反応はできなかっただろう。
だが、それを可能にしたのは、目の前で自らを庇って死んでいったかつての敵の姿。
メンバーの中で最も義理堅く、情にもろい彼女が奮い立たないはずがないのだ。
172氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/02(土) 22:07:30.26 0
「──マダそのよウナ力があったトハ褒メテやろう。しカシ、無謀だっタナぁ!!」

しかしその時──一瞬の内に極限まで肥大化した光が、突進する海部ヶ崎目掛けて放たれた。
(!!)
氷室達の目の前で光に飲み込まれ、巨大な爆発に包まれる海部ヶ崎。
「クククク! 確かニ私の隙ヲ突イタのは見事ダッた!
 シカシ! ソノ程度のスピードに私ガ瞬時に反応できなイとでモ思っテいたノカ!」
氷室は目を見開いて唖然とした。いや、彼女だけではない、その場にいる全員も同様だ。
だが──彼らはワイズマンの反応速度などに驚いたわけではなかった。
あの一瞬に、海部ヶ崎の身に纏われた“モノ”に、驚きの眼差しを送ったのである──。

(あれは──)
爆発の煙から海部ヶ崎が飛び出る。その身に、金色の“鎧”を纏って。
「……まさか!! あれは『王纏甲冑』……!!」
と天木。そう、色や形といい、爆発に耐え切るほどの無敵の防御力といい、
海部ヶ崎が纏う鎧は、あのキングの『王纏甲冑』に違いなかったのだ。

(──)
その時、ふと背後の気配に気付いた氷室は、咄嗟に振り返った。
「ボク……は……人形じゃない……。ボクだって……自分の意思で動いている……。
 元の体に戻りたいと……ワイズマン様にすがったのも……
 君らにこうして味方したのも……全部ボクの意思だ……。
 ボクは、人形じゃ……ない…………ゴホッ! ゴホッゴホッ……!」

そこにいたのは、土気色でげっそりとやつれた顔の少年──キングであった。
キングは神宮に弱々しい目を向けると、苦しそうに咳き込んで、やがてその場に崩れ落ちた。

「キング……! 貴様ッ……貴様マデ!! おォオオのぉオオオれェェエエエッ!!」
更なる裏切りを目の当たりにしたワイズマンが怒りを撒き散らす。
そしてそれは、ワイズマンが見せた致命的にして最後の隙であった。

──これまでにないスピードを持って海部ヶ崎が突進していく。
いや、突進というよりは、宙を弾丸のように飛翔しているといった方がいい。
彼女は、氷室が全ての力を振り絞って放った冷気砲をその背に受けて、
一瞬の内に爆発的に加速したのだ。

「なニィ!!!!」
その速さはワイズマンが反応できるスピードを遥かに超えていた。
「──終わりだ、ワイズマン──」
173氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/02(土) 22:13:41.22 0
──走る無数の光の軌跡。着地し、ゆっくりと納刀する海部ヶ崎。
氷室が見たのはそれだけだった。
そう、彼女には見えなかったのだ。海部ヶ崎の剣の動きが、まるで光が走ったようにしか。

「バ……バカ、な……! 悠久ノ時ヲ生キル……コノ、コノ私ガ……!
 崩レ……ル! コノ私ガ……! 魔水晶ヲ得タ、無敵ノコノ私ガァ゛ァ゛……!!」
呻き、徐々に肉片と血を撒き散らし始めたワイズマンを、
振り向き様に一睨みした海部ヶ崎は、最後に痛烈に吐き捨てた。

「あの世で悔いるのは、貴様の方だったな。今度は地獄で悠久の時を生きるがいい」

「バガナ゛……!! バァァァァァカアアアァァァァナァァァァアアア゛ア゛ア゛アア゛ア゛──!!!!」

瞬間、ワイズマンは断末魔の叫びをあげて、木端微塵に崩れ落ちた。
ボトボトと落ちる肉塊、ビチャビチャと床に降り注ぐ赤黒い液体。
そして──硬そうな金属音を発して、床を転がる金色の球──。

それを静かに拾い上げた海部ヶ崎は、仲間達を一瞥して、誇らしげに高く掲げた。
それこそが、まるで勝鬨の代わりであると言うかのように──。

【氷室 霞美:ワイズマン戦に勝利。戦闘力皆無】
【天木 諫早:ワイズマン戦に勝利。戦闘力皆無】
【海部ヶ崎 綺咲:ワイズマン戦に勝利。戦闘力皆無。魔水晶奪還】
【エース:力尽きて死亡】
【ワイズマン:バラバラに切り裂かれて死亡】
【キング:瀕死】
174神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/04(月) 12:43:50.91 0
>>171->>173
閃光は段々と迫っている。
しかし菊乃は臆するどころか、速度を落とすことなく走り続けている。
(カッコよく止めの一撃、といきたかったけど、どうもアタシのガラじゃない。
 ──ならせめて皆の盾になるくらいは!)

そう──菊乃はこの最大の攻撃に対して、迎撃ではなく防御を選んだ。
エルフ・ブリッツェンをその身に受け、仲間が反撃できるチャンスを生み出そうとしたのだ。
(今のアタシに出来るのは精々これくらい……。後は頼んだぜ。
 ……もう話すこともないだろうけどな)
菊乃とてこの攻撃を受けて生きていられる自信はなかった。
万全の状態ならまだ分らなかったかも知れないが、満身創痍のこの状態では確実に死ぬだろう。
しかし、それでも限界を超えてオーラを搾り出せば、かなり威力を相殺できる。
完全に止められないのが悔しかったが、今の状態を考えればそれでも上等だろう。

「さぁて──最期の死に花、徒花にならないようにするか!」
気合を入れてオーラを充実させる。
命を削り、肉体の限界を超えて放出されるオーラに体が悲鳴を上げる。
腕や足、様々なところから血管が切れ、血が噴出する。
しかし菊乃は気にも留めず、オーラの密度を更に上げていく。
(カラダが壊れ始めたか……。でもそんなこと気にしてる場合じゃない!)

閃光は眼前に迫り、視界を覆い尽くすほどになっていた。
死を覚悟し、しかし更に速度を上げて閃光に突っ込む。
(さぁ──来やがれ!)
そして閃光をその身に受けようとした瞬間──横から一つの影が躍り出てきた。

(な──こ、こいつは──!?)
予想だにしていなかった第三者の出現に混乱する菊乃。
そしてその顔を見て混乱は更に大きくなった。
175神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/04(月) 12:46:25.85 0
「お前は──エース!?」
そう──その人物は洞窟に入る前、氷室と死闘を繰り広げたであろうエースだった。
──何故ここに?どうして自分たちを助けようとする?──
疑問は尽きなかったが、問答をしている時間はなかった。
菊乃と閃光の間に割って入るエース。
「お前、どうして──!?」
とっさに口から出たその言葉に、エースは肩越しに振り向き微かに笑って答え、閃光の中に消えていった──。

直後、凄まじい爆音と共にフロア全体が激しく揺れた。
「馬鹿メ……そンナか細イ肉体デ全テの威力を受け切レルとでも思ッテいたノカ?
 私のエルフ・ブリッツェンは、あらゆるモノヲ飲み込ミ消し去る威力ガあるのだ。ハハハハハ!」
粉塵が舞い、天井やら壁やらの破片が落下する中、ワイズマンの高笑いが響いた。

「ハハハハハ──ハッ!?」
しかし粉塵がおさまった時、そこ声は驚愕に変わった。
爆心地にいるエースを見たためだろう。その顔には信じられない、と言う感情がはっきりと見て取れた。

「エース──!? 何故私達を庇った!?」
氷室がエースに問う。今度は体ごと振り返り、再び笑って答えた。
「あ……あんたには、正気に戻してもらった恩がある……からな……。
 あんたに死なれちゃ……その恩も二度と返せなくなる……
 だから……だから、これしか方法がなかったの……さ……」
それだけ言うと、エースは力尽き倒れた。もう起き上がる事はないだろう。

(あーあ……。おいしいとこ全部持っていかれちまったよ。
 ははっ、アタシにまだ生きろってか?でも──ありがとよ)
エースが自分の体について知っていたか定かではない。
しかしあの振り向きざまの笑み、あれはこう言っているようにも思えた。
──お前はまだ死ぬべきじゃない。生き延びろ──
176神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/04(月) 12:48:28.99 0
「おノレ……! 出来損ナいの分際デ私の邪魔ヲしおッテ……!!
 ……ダが、結局ハ同じこト。コレデ邪魔者は消エタ。次こソお終ワリにしてヤロウ!」
菊乃がエースとの最期のやり取りを思っていると、ワイズマンが再び攻撃態勢に入っていた。
(感傷に浸るのは後でいい……。今はあの野郎をぶっ殺すだけだ)
ドス黒い感情が湧き上がってくる。それがエースの死によるものなのかはわからない。
殺意すら超越したそれは、もはや言葉では言い表せないものだった。
──ピピッ カチリ
頭の中で何かが外れる音が聞こえた気がする。しかし今の菊乃にはそんなことは関係なかった。
瞳が光を失い、表情もなくなる。それは宛ら本当のロボットのようだった。

「コロス……」
凄まじい殺気を放出しながら感情のない声でそう呟き、ワイズマンに向かおうとした矢先、またしても自分を通り越す影があった。
海部ヶ崎である。彼女は菊乃が動くより早く、ワイズマンに向かって突進して行った。

「──マダそのよウナ力があったトハ褒メテやろう。しカシ、無謀だっタナぁ!!」
しかし海部ヶ崎がワイズマンに到達するより一歩早く、極大の閃光が放たれた。
先程の自身と同じように爆炎に包まれる海部ヶ崎。
しかし次の瞬間、その場にいるワイズマンを除く人間が驚愕した。
爆炎の中から無傷で海部ヶ崎が飛び出してくる。その身には黄金の輝きが纏われていた。
そしてその場にいる誰もがその輝きに見覚えがあった。

「……」
菊乃も無言でその光景を見ていた。と──
「ボク……は……人形じゃない……。ボクだって……自分の意思で動いている……。
 元の体に戻りたいと……ワイズマン様にすがったのも……
 君らにこうして味方したのも……全部ボクの意思だ……。
 ボクは、人形じゃ……ない…………ゴホッ! ゴホッゴホッ……!」
声の主に振り返ると、そこには弱々しい姿の少年──キングがいた。
キングはこちらに視線を向けていた。菊乃は無機質な瞳で視線を返す。
しばし視線を交わした後、キングは崩れるようにその場に倒れ込んだ。
177神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/04(月) 12:50:32.78 0
同時に菊乃の瞳に光が戻り、表情も元に戻る。
「キング……さっきは悪かったな、人形なんて言っちまって。
 アンタは"人形"なんかじゃない。一人の"人間"だったよ。
 感情なんかに乗っ取られてるアタシの方がよっぽど"人形"だったな……」
自嘲気味に笑い、戦いの行く末を見届けるため、再び前を向いた。

「──終わりだ、ワイズマン──」
菊乃が視線を戻した時には、既に決着がつこうとしていた。
ワイズマンの体に走る無数の軌跡。
菊乃にはワイズマンの体に一瞬にして閃光が走ったようにしか見えなかった。

「バ……バカ、な……! 悠久ノ時ヲ生キル……コノ、コノ私ガ……!
 崩レ……ル! コノ私ガ……! 魔水晶ヲ得タ、無敵ノコノ私ガァ゛ァ゛……!!」
ワイズマンの体が軌跡に沿って徐々に崩れ始める。完全に崩壊するのも時間の問題だった。
「あの世で悔いるのは、貴様の方だったな。今度は地獄で悠久の時を生きるがいい」
「バガナ゛……!! バァァァァァカアアアァァァァナァァァァアアア゛ア゛ア゛アア゛ア゛──!!!!」
断末魔の叫びと共に、ワイズマンはこの世から消え去った。
後に残るのはバラバラの肉片と赤黒い液体、そして魔水晶だけであった。

海部ヶ崎が魔水晶を拾い、こちらに向かって頭上に掲げた。
勝ち鬨──なのだろう。海部ヶ崎は喋らなかったが、そんな気がした。

「終わった、か……ゴホッゴホッ!アタシの体も終わったってか?
 ハハッ、笑えねえ冗談だぜ……ガハッ!」
その様子を見ていた菊乃だが、大きく咳き込んだあと大量の血を吐き、その場に蹲った。
(この調子じゃ、あと数時間ってとこだな。あんだけ力使ってよく保ったってとこだな……。
 ま、このまま死んだとしても悪くはねぇな……)
肉体から崩壊の足音が聞こえる中、菊乃は穏やかに笑っていた。

【神宮 菊乃:戦闘終了。肉体の崩壊が始まる】
178氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/04(月) 22:39:34.27 0
>>174>>175>>176>>177
「勝った……んだな? ハハハハ……ハハハハハハ」
天木は笑った。心の底から込み上げてくる喜びを抑えきれないというように。

「……私でさえも剣閃を追うことができなかった。……たいした奴だ、お前は……」
続く氷室は、天木のように笑いはしなかったものの、その言葉は感嘆と安堵に包まれていた。

「いや……安心するのはまだ早いようだ」
しかし、対する海部ヶ崎は、険しい顔を崩さぬまま、視線を氷室らを通り越してその先の出入り口へと向けた。
それによって初めて氷室も気がついた。いつの間にか集まっていた、複数の敵意に。

「ゲッ、ゲゲゲ」
「ギヒヒヒ、ヒヒヒヒ」

耳障りな気色の悪い声に、思わずチッと舌打ちする氷室。
氷室はズキズキと傷む体を奮い起こして、キッと気配の方向を凝視した。
そこで見たものは、首筋にCOの文字と一桁の数字を刻み込んだ四、五人ほどの男達。
(やはりか。雑魚がまだ生き残っていたとは……)

「テメェらのボスは死ンじまったってのによォ、それでもまだやる気があるみてェだな……。
 折角、終わったと思ったのに……ぬか喜びさせンなよなァ、くそったれがァ!」

天木も何とか立ち上がろうとするが、脚に力が入らないのか、直ぐに崩れ落ちる。
氷室はツゥーっと大きな汗を鼻筋に走らせた。
普段であれば、雑魚の狂戦士の四人や五人くらい、軽く倒せる力があったろう。
だが、この場にいるのは、自分を含めてもはや闘う力を残していない者ばかり。
(最後の最後で……やってくれる……)
「誤算」の二文字が、氷室の頭にチラつく。

「ギギギギ……ヒィヤアアアアアアア!!」

その時、狂戦士の内の一人が、奇声をあげて氷室に飛び掛った。
「!!」
本来であれば氷室にとっては何のことはないスピードだが、
体が言うことを聞かないでは反撃は勿論、よけることもできない。
(──クッ! こんな雑魚に──!)

氷室は自らの命運を呪うように、ギリッと歯軋りした。
しかし──氷室も、そして狂戦士達も気付いてはいなかった。
彼ら狂戦士達にも誤算があったことを……。

「ヒッ!? ギィイイヤァアアアアアアアア!!」

飛び掛った狂戦士が、突如として炎に包まれる。

「ギヒィイイイ!?」
「アギャアアアアアアア!?」
「ゲヒヤアァァアアアアア!?」

しかも、突然発火したのはそいつだけでなかった。
気がつけば、現れた狂戦士全てが火達磨となっているではないか。
179氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/04(月) 22:44:11.09 0
(!?)
床をゴロゴロと転げ回り、苦しそうにもがく狂戦士。
氷室も、天木も、海部ヶ崎も、誰一人としてこの光景の原因を説明できる者はいなかった。
ただ、狂戦士が苦しみ悶え、やがて動かなくなる様を、唖然として見つめるだけであった。

「──ゾンビ野郎共がまとめて移動しているから、気になって後をつけてみたら……
 なるほど、ここがワイズマンのアジトだったってわけかい。
 そんでお前達があのクソッたれ野郎を倒した勇者たちってわけだな」

そんな時、倒れた狂戦士達の更に背後から、ふと現れた男がいた。
中肉中背、ワインレッド色の髪の毛が特徴的なその男は、
じろっと辺りを見渡すと、足元で横たわる物言えぬ狂戦士の亡骸を蹴飛ばした。

「どうやら想像以上の死闘だったようだ。タイミングがよかったぜ。
 ワイズマンの墓前にあんたらの死体を花として添えさせるわけにゃいかねぇからな。
 ……あぁ、紹介が遅れたな。俺は『赤染 壮士』。
 あんたらと同じく、この島に招待されたついてない人間の一人さ」

それだけ言うと、赤染はくるっと踵を返して、背中越しに続けた。

「このアジトは崩れ始めている。瓦礫の下敷きになりたくなきゃ早く脱出した方がいいぜ」

肩に乗った岩の破片をパッパと手で振り落としながら、赤染は通路へと走り去っていった。
確かに先程からパラパラと瓦礫が落ちてきている。
一刻も早く脱出しなければならないのは事実であろう。
だが、氷室は敢えて、判断を委ねるように海部ヶ崎に目を向けた。

「彼とはこの島で会ったことがある。危険ではなく、信頼できる男だ。
 私は天木を担いでいく。霞美、キミは神宮を頼む。
 そして鎌瀬……キミはキングを頼む。私は彼に命を助けられた……放っておくことはできない」
氷室は「了解」と一言発し、蹲る神宮の腕を自分の肩に回して、走る海部ヶ崎の後に続いた。
             あの頃
(海部ヶ崎 綺咲……三ヶ月前とは比較しようもないほど成長したようだ)
氷室の脳裏に、かつて海部ヶ崎に言った台詞が蘇った。

『だったら覚えときな。“力無き正義”は無意味であるばかりか、偽善でしかないってことを』

(……今のお前なら、胸を張って言い返せるだろう。力が無いとは言わせない、と……)

海部ヶ崎はまだ気がついていなかった。
かつて氷室に追いつけ追い越せと、夢に描き望んだ力が、既に自分にあったことを。
そしてその力は既に、氷室の先を進むという形で具象化されていたことを。

【氷室 霞美:神宮を連れてアジトを脱出】
【海部ヶ崎 綺咲:天木を連れてアジトを脱出。本体・能力のパラメータ急上昇。完成を見る】
【赤染 壮士:一桁台の狂戦士を殺害後、アジトを脱出】
180神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/06(水) 02:18:08.52 0
>>178>>179
ワイズマンとの戦闘は終わった。皆が喜びや安堵に浸る中、菊乃は静かに微笑んでいた。
肉体の崩壊は既に始まっている。徐々にだが体の内側から壊れていく感覚がある。
もし天木が万全の状態だったなら、治せる、とまではいかなくてもかなり進行を遅らせることが出来たかもしれない。
が、天木は既に満身創痍。自力で起き上がる事すら出来ない。

「いや……安心するのはまだ早いようだ」
ふと、海部ヶ崎の声が聞こえた。その声は入り口に向けられている。
(……?)
僅かに顔を上げ、海部ヶ崎の視線の先を追いかける。
するとそこには──

「ゲッ、ゲゲゲ」
「ギヒヒヒ、ヒヒヒヒ」

菊乃がその声を聞くのは初めての事であった。しかしその顔つきには見覚えがある。
以前市街地で参加者の男と闘っていた人物の顔つきによく似ていたのだ。
そして人語を喋らず、奇声を上げている事からも推測できる。

「狂戦士、か……。このタイミングで来るとはねぇ」
このタイミング──そう、ワイズマンとの戦闘が終わった直後。
即ち、全員がまともに動けない状況での襲撃。
皆が万全の状態ならば、例え一人でもあの程度人数なら問題なく葬れただろう。
しかし現状は闘う力が残っていない者ばかり。天木に至っては満足に動くことすら出来ない。

(こりゃあ、ヤバイね……。死ぬならもう少し綺麗な所で死にたかったけど……。
 ──冗談言ってる場合じゃないね。切り抜けられる要素がない)
181神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/06(水) 02:20:08.81 0
「ギギギギ……ヒィヤアアアアアアア!!」
狂戦士の一人が氷室に襲い掛かる。しかし氷室は苦しそうに顔を歪めるだけで動こうとしない。
──否、動けないのだ。
如何に氷室と言えども、先の戦闘で力をほぼ使い果たした今、狂戦士を相手に出来る力は残っていないのだ。
狂戦士が氷室に迫る。そしてその太い腕で殴りかかろうとしたその時──

「ヒッ!? ギィイイヤァアアアアアアアア!!」
突然絶叫を上げて炎に包まれる。
「ギヒィイイイ!?」
「アギャアアアアアアア!?」
「ゲヒヤアァァアアアアア!?」
それと同時に後ろにいた狂戦士達も次々に炎に包まれていく。

誰もが唖然としてその光景を見つめる中、菊乃は一人記憶を辿っていた。
そう──菊乃は目の前に広がる炎には見覚えがあったのだ。
先程話した市街地での戦闘。その折に見た炎に似ていたのだ。

「──ゾンビ野郎共がまとめて移動しているから、気になって後をつけてみたら……
 なるほど、ここがワイズマンのアジトだったってわけかい。
 そんでお前達があのクソッたれ野郎を倒した勇者たちってわけだな」
そんな声と同時に、狂戦士達がいた入り口から新たに一人の男が現れた。
(まさか……)
菊乃はその男に見覚えがあった。市街地での戦闘で狂戦士と戦っていた炎を操る男。
(あれから姿が見えなかったけど……生きていたとはね)
男は足元に転がっていた狂戦士の死体を蹴飛ばすと辺りを見回してから口を開いた。

「どうやら想像以上の死闘だったようだ。タイミングがよかったぜ。
 ワイズマンの墓前にあんたらの死体を花として添えさせるわけにゃいかねぇからな。
 ……あぁ、紹介が遅れたな。俺は『赤染 壮士』。
 あんたらと同じく、この島に招待されたついてない人間の一人さ」
182神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/06(水) 02:22:17.35 0
男──赤染はそう名乗ると踵を返し、更に続けた。
「このアジトは崩れ始めている。瓦礫の下敷きになりたくなきゃ早く脱出した方がいいぜ」

赤染はそれだけ言うと、そのまま回廊を走り去っていった。
赤染の言う通り、先程から断続的な震動と共に小さな瓦礫が降り始めている。このアジトも長くはないだろう。
一刻も早く脱出、と行きたいところだ。菊乃も天木よりは幾分マシだが何とか歩ける、と言う程度でしかない。
急がなければ崩壊に巻き込まれ、アジトと運命を共にする事になるだろう。

そんな中、氷室は動こうとはせず、海部ヶ崎に視線を送っていた。その視線に海部ヶ崎は言葉で答える。
「彼とはこの島で会ったことがある。危険ではなく、信頼できる男だ。
 私は天木を担いでいく。霞美、キミは神宮を頼む。
 そして鎌瀬……キミはキングを頼む。私は彼に命を助けられた……放っておくことはできない」

「了解」
氷室は海部ヶ崎に返答し、こちらに向かって小走りに近づいてくる。
そして菊乃の腕を自身の肩に担ぎ、海部ヶ崎の後を追い始めた。

「……まさか、アンタに肩を貸してもらう日が来るとはね。
 人生、どこで何が起こるかわかったもんじゃないね……ゴホッゴホッ……!」
咳き込み、血を吐きながらも小さく笑い、氷室に語りかける。当の氷室は聞いているのかいないのか分からなかった。
顔を上げるのも億劫なので、表情を見る事も出来ない。担がれている腕の感覚も疾うになくなっていた。

「折角色々と認識を改めたってのに、これから先……が…見られそう…に…ない…のが…残念…だ…ね……」
(チッ……予想より大分早いね……。この分じゃ、いつまで保つか……)
先程と比べて、意識が大分薄くなっている。近いうちに意識をなくすかもしれない。
そうなってしまえば、後は肉体の崩壊と共に訪れる死を待つばかり。
菊乃に残された時間は、刻一刻と消費されていった。
183神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/06(水) 02:24:46.40 0
その頃、アジトの地上入り口付近──

「この震動……そう、ワイズマン様は負けたのね。アジトも崩壊寸前……彼らは大丈夫かしら?」
クイーンは腰掛けていた岩から立ち上がり、アジトの入り口を見つめ佇んでいた。

「キングは生きているみたいね。──とは言っても瀕死、ってところかしら?」
そう呟く彼女の周囲にも、真新しい血痕がいくつも飛び散っていた。

「もうすぐ来るみたいね。今後どうするかは一応キングに聞いてみましょうか」
岩に座りなおし、直に来るであろう勝利者達を待つことにした。

【神宮 菊乃:氷室と共にアジトを脱出】
【クイーン:洞窟入り口にて一行を待つ】
184氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/07(木) 03:23:34.95 0
>>180>>181>>182>>183
ズズズズン……。

地下アジトへ通じる出入り口、北東の洞窟が音を立てて崩れ落ちる。
「ハァ、ハァ……」
氷室は息を切らしながら、巨大な岩石に埋もれたそこを振り返った。
──間一髪のタイミングだった。
後一分──いや、後三十秒も遅れていたら今頃はあの中に埋まっていたに違いない。

『タイミングがよかったぜ』という先程の赤染の言葉を思い出す。
確かに、結果的にはあらゆる意味でそうだった。
赤染が来なければ狂戦士を倒すことはできなかっただろうし、
仮に自力で狂戦士を退けていたとしても、脱出する時間はなかったはずだからだ。

「運悪くこんな島に連れてこられたと思っていたけどよ……
 最後の最後で運が味方してくれたってのは、考えてみりゃ不思議なもン……
 ……っ!?」
しみじみと言いかけた天木が、突然その声を詰まらせる。
彼の視線の先にあったのは、無言で佇む赤染……
そして、岩に腰を下ろす一人の金髪の女性の姿であった。

「──クイーン!」
直後に飛び出た天木の言葉に、その場にいる全員の体が硬直した。
まさか、一難去ってまた一難なのか? 誰もがこう思ったのは自然な流れである。
しかし、クイーンに最も近い位置で対する赤染だけは、落ち着いていた。

「心配すんな、この女からは敵意や害意は感じられねぇ。
 恐らくあんたが待っていたのは俺達じゃなく、あんたら狂戦士のリーダーだろ?」
そう赤染が訊ねた瞬間、ふとクイーンの表情が緩んだ。
それは肯定を意味するものだと、少なくとも氷室はそう解釈した。

「もはや敵ではない……ってなるとだ、俺達の当面の問題はたった一つ。
 この島からどうやって脱出するか、だな?」

腕を組み、遥か遠くの海を見やる赤染。
確かに、島の周りは360度海に囲まれている上、島には飛行機は勿論、
クルーザーやボートなど海を渡る手段が何もないと来ている。
これでは如何な異能者といえども脱出は困難である。
しかし、そう思うのはあくまで赤染個人であって、海部ヶ崎はそうではない。

「いや、その心配はない。ワイズマンが死んだということは、この島覆うバリアーも解かれたということ。
 つまり外部との通信も可能になったということだ。既に角鵜野市の仲間(アリシア)に念話を送っておいた。
 いずれこの島に来てくれるだろう」

海部ヶ崎の胸元には、紐で括りつけられた光る玉がぶら下がっていた。
そう、いつぞやアリシアから渡された、念話通信用の宝玉である。
「それよりも問題は……」
海部ヶ崎の視線が、赤染から氷室へとスライドする。
いや、正確には、氷室の肩を借りたまま、苦しそうにうつむいている神宮にであろう。
「……隠してもわかる。神宮、キミもキングと同様の病を発症していたようだな。
 それも病状が急速に悪化している。放っておけば、恐らく数時間ともつまい。……違うか?」
185氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/07(木) 03:27:33.28 0
それはこれまで肩を貸し続けていた氷室も薄々感づいていたことであった。
                               コイツ
「天木、医術に心得のあるお前から見て、キングや神宮の病気は何だと思う?」

と、氷室に問われた天木は、静かに海部ヶ崎の背から下りると、その場から動かずにじっと二人を凝視した。

「……詳しく診てみなきゃわかンねェが……息切れに吐血、断続的な激しい咳き込みから見ると、
 肺組織が破壊されかけているのかもしれねェ……。
 しかも、何らかの合併症も引き起こしていると厄介だぜ……。ここにゃ何の設備もねェからな。
 海部ヶ崎の言う仲間が一分一秒でも早く来てくれることを祈るしか……」

ふと氷室の脳裏に、キングのフロアにて、白済の言っていた台詞が蘇る。

『じゃが、痛みを感じない狂戦士は、例外なく第二段階で気がつくのじゃ。
 今の医術ではどうすることもできない状態になって初めてな』
『わしが開発した生命維持の特殊カプセルをもってしても、余命は残り一ヶ月といったところじゃろう』

そして湧き上がった一つの疑問。
白済の口振りからして、ワイズマンは病を治すという条件の下に狂戦士を従えていた。
しかし、医学やワイズマンが作り上げた設備で治すことができないのであれば、
彼ら狂戦士は一体ワイズマンの言葉のどこに自分の体を治してもらえるという根拠を見出したのか。
(……まさか……)
氷室には解った気がした。その言葉の根拠が。

「海部ヶ崎、お前の持っている“それ”を使え。恐らくそれが彼らを治す唯一の手段だ」
氷室の人差し指が海部ヶ崎の──彼女が手にする金色の水晶を指した。
そう、持ち主の意思と力次第で、あらゆることを可能にする魔水晶である。

「恐らく、その魔水晶の力を制御する資格と実力があるのは、
 ワイズマンに止めを刺し、魔水晶をその手にしたお前だけだ。
 お前を助けたキングや共に死闘を潜り抜けた神宮を救いたいと願うならば……やってみろ」

……暫しの間を置いた海部ヶ崎は、やがてコクリと頷き、ぐっと魔水晶を握り締めた。

「私はかつて、目の前で不知哉川さんを失い、黒部さんを失った。
 もうこれ以上、目の前で仲間を……人を死なせてなるものか……!
 頼む魔水晶……! その力で、仲間の命を助けてやってくれ……!」

救いたいと、助けたいと願う念。そして仲間を想う強い気持ち。
それは魔水晶を強く発光させた。
ワイズマンの時のような、邪悪などす黒い輝きではない。
まるで見る者全てを癒すような、何ともいえない優しい輝き。

そしてその輝きは、一瞬、その場に大きく弾け広がったと思うと、
神宮、キング、クイーンの三名にまるで粉雪のように降り注ぎ、
やがてそれぞれの体全体を癒しの輝きで包み込んだ。

(これが……魔水晶の本当の力か……。なんという慈愛に溢れた光……)
徐々に三名の体から輝きが消えていく。
その頃には、海部ヶ崎の手にあった魔水晶は、まるで煙と化したように消えていた。

【氷室 霞美:現在地・北東の洞窟前】
【海部ヶ崎 綺咲:アリシアに連絡後、魔水晶を使って三名の体を癒す。魔水晶は消滅】
186アリシア:2011/07/07(木) 19:11:27.93 0
>>184>>185
氷室に支えられた菊乃は、仲間達と共に洞穴の入り口に辿り着いた。
皆ボロボロの体──赤染以外──を引きずりながら入り口を通過する。
直後、轟音を立てて入り口が崩れ落ちた。
赤染の救援がなかったら、今頃はあの瓦礫の下にいただろう。それ程にギリギリのタイミングだった。

「運悪くこんな島に連れてこられたと思っていたけどよ……
 最後の最後で運が味方してくれたってのは、考えてみりゃ不思議なもン……
 ……っ!?」
安堵と共に口を開いた天木だったが、突然その言葉は途切れる。
顔を上げることが出来ない菊乃は、不思議に思いながらもそれの意味するところは確認できない。

「──クイーン!」
しかし、次に飛び出た天木の声で、その原因が分かった。
動かない体に鞭打って僅かに顔を上げると、そこには四傑のもう一人の生き残り──クイーンがいた。
その場にいる全員が硬直する。
無理もないだろう。ワイズマンとの戦いで仲間は皆ボロボロ。
直後の狂戦士達の襲撃も、赤染がいたからこそ凌げた。それも相手が普通の狂戦士だったからだ。
しかし今目の前にいるのは、狂戦士の中でも頂点に位置する四傑の一人、クイーンである。
赤染一人では勝てるかどうか分からないし、万が一赤染がやられた場合、こちらは全滅必至である。

しかし菊乃はそのことを全く危惧していなかった。
何故なら、既に知っていたからだ。──彼女に敵意がない事を。
菊乃は洞窟に入る前、彼女から治療を受けている。その際に言葉も交わした。
その中で、彼女はもう狂戦士として行動する事はないだろう、と感じていたのだ。

「心配すんな、この女からは敵意や害意は感じられねぇ。
 恐らくあんたが待っていたのは俺達じゃなく、あんたら狂戦士のリーダーだろ?」
赤染がクイーンに問いかける。その問いかけにクイーンは微笑むことで答えた。

「もはや敵ではない……ってなるとだ、俺達の当面の問題はたった一つ。
 この島からどうやって脱出するか、だな?」

赤染が腕組みをして視線を海へと移す。それは菊乃も考えていたところだった。
島にはテレポートのようなもので連れて来られたが、肝心の帰り方については何も知らなかった。
それもそのはず。ワイズマンの目的は強い異能者の肉体を得ることであった。
もしそれが叶えば、参加者の生き残りはいなくなるのだ。帰り方など伝える必要はないし用意する必要もない。
187神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/07(木) 19:13:32.45 0
>>186
名前ミス
188神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/07(木) 19:59:17.77 0
「いや、その心配はない。ワイズマンが死んだということは、この島覆うバリアーも解かれたということ。
 つまり外部との通信も可能になったということだ。既に角鵜野市の仲間に念話を送っておいた。
 いずれこの島に来てくれるだろう」
そんな心配をよそに、海部ヶ崎はさらりと言い放った。
(迎えが……来る……?)
海部ヶ崎の言葉は百パーセント信用できるものではなかったが、確認する術がない以上、無駄な詮索はやめた。

「それよりも問題は……」
海部ヶ崎が続けて言葉を紡ぐ。
「……隠してもわかる。神宮、キミもキングと同様の病を発症していたようだな。
 それも病状が急速に悪化している。放っておけば、恐らく数時間ともつまい。……違うか?」
その言葉を聞き、菊乃は海部ヶ崎に顔を向ける。
「流石に……ここまでヤバくなりゃ隠せねえか…も、ゴホッ……!
 尤も……もう隠す必要もねえか。お察しの通り、アタシは狂戦士の連中と同じ状態だよ。
 今なら分かるだろ……?この島じゃ……ゴホッゴホッ!」

咳によって中断されたが、海部ヶ崎にも言わんとしていることは伝わっただろう。
『現状この島では治療どころか延命すらも出来ない』
海部ヶ崎もそれが分かったようで、苦い表情をしている。






「海部ヶ崎、お前の持っている“それ”を使え。恐らくそれが彼らを治す唯一の手段だ」

と、そこで氷室が会話に入ってきた。
彼女の指差す先には、海部ヶ崎が持っている黄金に光るもの──魔水晶があった。
「恐らく、その魔水晶の力を制御する資格と実力があるのは、
 ワイズマンに止めを刺し、魔水晶をその手にしたお前だけだ。
 お前を助けたキングや共に死闘を潜り抜けた神宮を救いたいと願うならば……やってみろ」

少し時間を置いてゆっくりと頷いた海部ヶ崎は、魔水晶を握り締めてその願いを口にした。
「私はかつて、目の前で不知哉川さんを失い、黒部さんを失った。
 もうこれ以上、目の前で仲間を……人を死なせてなるものか……!
 頼む魔水晶……! その力で、仲間の命を助けてやってくれ……!」

海部ヶ崎の言葉と共に魔水晶が煌き、暖かな輝きが菊乃、キング、クイーンの三人に降り注いだ。
柔らかな光に包まれた瞬間、体の内部から聞こえていた崩壊の足音は途絶え、体が癒されていくのが分かった。
(暖かい……。これもあの魔水晶の力なのか。使い手しだいでこうも変わるもんなんだな……)
やがて光が収まり、海部ヶ崎の手にあった魔水晶はいつの間にかなくなっていた。
189神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/07(木) 20:01:18.42 0
「信じられないわ……体が治ってる」
同じく光を浴びたクイーンも、言葉の通り信じられないと言った表情をしている。
「もう死ぬ覚悟も決めてたと言うのに……どうしてくれるのかしら」
口調とは裏腹に、その顔は穏やかな微笑を浮かべていた。

海部ヶ崎達が喜びを分かち合う中、クイーンはキングの元へ向かった。
「さて、生き延びてしまったわけだけれど……あなたはこれからどうするのかしら?
 ──何て言ってみたけど、実は私も何も考えてないのよね。──折角だし、二人で旅でもしてみる?」



所変わって角鵜野市──

アリシアは自宅のある咸簑山にいた。
海部ヶ崎達が旅立ってから幾日かが過ぎた。あれから一度も連絡はなかった。

「海部ヶ崎さんは大丈夫でしょうか……。
 連絡が来ないところを見ると、何らかの妨害を受けているか、したくても出来ない状況にあるのか……。
 前者ならまだしも、後者の場合最悪の事態も──」
脳裏にふと嫌な予感が過ったが、頭を振って掻き消す。
「彼女なら大丈夫。きっと素晴らしい仲間を集めて邪悪な存在を打ち倒してくれることでしょう。
 何より彼女自身、素晴らしい資質を持っているのですから──」

──とその時、いつでも出られるようにと常に手元に置いておいた宝玉が輝き出す。
それは待ち望んでいた海部ヶ崎からの連絡であった。

──今回の事件の首謀者を倒し、魔水晶を奪還した。帰還の手段がないので手を貸して欲しい──
それが海部ヶ崎からの通信の内容だった。
それを聞いたアリシアは、顔を綻ばせて喜びを顕にした。

「やはり海部ヶ崎さんに頼んで正解でしたね。
 あの子は確かに強い。しかしそれは肉体や能力の強さだけではない。
 直向に仲間を信じる心、どんな事があっても仲間を助けようとする行動力──。
 それこそが彼女の真の強さ、なのでしょうね」
誰に言うでもなく独り言を呟くと、座っていた椅子から立ち上がり、パタパタと部屋から出て行った。

(──さて、支度も済みましたし、そろそろ行きましょうか)
支度といっても服を着替えたくらいなので大した時間はかかっていない。
「海部ヶ崎さんに渡した宝玉の気配は……あった」
呟くように言うと、音もなくその場から姿を消した──。
190神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/07(木) 20:04:04.74 0
幻影島に到着したアリシアの前には、十人ほどの男女がいた。
見知った顔もいるが、知らない人間の方が圧倒的に多い。
アリシアは天木たちの方に向かって優雅に一礼し、口を開いた。

「初めまして、の方が殆どですね。
 私はの名前はアリシア。そこにいらっしゃる海部ヶ崎さんの友人──と思って下さい」
自分の素性は敢えて語らない。語る必要はない。
自分が始祖(化身)の関係者だと分かってしまったら、要らぬ誤解を生むかもしれないからだ。

挨拶が終わったところで海部ヶ崎の元へ歩いていく。
「この度は本当に有難うございました。それで、魔水晶は──そうですか。
 いえ、それでよかったのかもしれません。
 貴方が持っていれば安心でしたが、この先万が一悪人の手に渡るとも限りません。
 あのカノッサの事件、そして今回のようなことを二度と起こさない為にも、消えてしまったほうがいいでしょう
 持て余すようなら私が──と思っていましたが、最後にいい使い方をして下さったようですね」

海部ヶ崎から事の顛末を聞き、自らの考えを述べる。
そしてパンッと胸の前で手を合わせると、皆を見回し、笑顔でこう言った。

「さて、皆さんのお疲れのようですね。僭越ながら私が治療させて頂きます」

その場にいた全員が唖然とし、何を言ってるんだこいつは、と言う表情でアリシアを見ていた。
いや、厳密には二人──氷室と海部ヶ崎は表情を変えなかった。
この二人はアリシアの存在を知っている。海部ヶ崎に至っては過去に治療を受けたこともある。

普通の人間なら、これだけの負傷者を一人で治療するのは到底不可能である。
以前海部ヶ崎を治療した天木を思い出して欲しい。一人分の怪我を治しただけで彼は相当に疲れていた。
如何に医術に秀でているとは言え、限界と言うものがある。
それを目の前の女は一人で全員の治療をすると言っているのだ。正気の沙汰ではない。
191神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/07(木) 20:06:11.88 0
不審に思った人間は多数いるだろう。もしかしたら感づかれるかもしれない。
しかしアリシアは気にせず治療に移っていった。

以前海部ヶ崎に施したように、一人ずつ手を握り、治療していく。
その際に名前を聞いて、顔と共に記憶していく。

海部ヶ崎以外の全員の治療を終え、最後に海部ヶ崎の元へやってきた。
そして同様に手を握り、オーラで治療していく。
「元はと言えば私の不始末から始まった一連の事件……。私の手で決着をつけるべきでした。
 しかし魔水晶は悪しき者の手に渡り、ついには私の力をも撥ね退けるほどになってしまった。
 そこでこの島に招待された貴方に頼むしかなかったのですが……。
 やはり私の目に狂いはなかった。貴方は本当に素晴らしい人でした。
 最後にもう一度お礼を言わせて下さい。本当に有難う」

海部ヶ崎はちょっと照れ臭そうな、しかし凛とした表情で頷いた。
海部ヶ崎の治療も終え、皆の方に向き直る。

「治療も終わりましたし、そろそろ帰りましょう」
そう言うと虚空に手を翳し、何かを呟いた。すると目の前に現れたのは不気味に口を開く漆黒の空間。
何とそれはカノッサ四天王の雲水が使い、先程の戦いでワイズマンも使用した『カオスゲート』であった。
皆が一様に驚く中──直接見ていない赤染はあまり驚かなかった──アリシアは笑顔で告げた。

「前に雲水さんがこれを使っていたのを思い出しまして。便利かな?と思って借りちゃいました」
こんな事をしたら余計に怪しまれるのだが──本人は相変わらずニコニコしていた。

「さぁ、どうぞ。これの性質上角鵜野市にしか行けませんが、そこはご了承下さいね?」

【神宮 菊乃:洞窟を脱出。魔水晶の力により完全に治癒】
【クイーン:魔水晶の力により完全に治癒。キングに今後の事を相談する】
【アリシア:カオスゲートを展開。行き先は角鵜野市】
192鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/07/09(土) 19:11:05.79 0
>>173-191
>「バ……バカ、な……! 悠久ノ時ヲ生キル……コノ、コノ私ガ……!
 崩レ……ル! コノ私ガ……! 魔水晶ヲ得タ、無敵ノコノ私ガァ゛ァ゛……!!」
呻き、徐々に肉片と血を撒き散らし始めたワイズマンを、
振り向き様に一睨みした海部ヶ崎は、最後に痛烈に吐き捨てた。

>「あの世で悔いるのは、貴様の方だったな。今度は地獄で悠久の時を生きるがいい」

>「バガナ゛……!! バァァァァァカアアアァァァァナァァァァアアア゛ア゛ア゛アア゛ア゛──!!!!」
「勝った…んだよね…。僕、殆ど何もしてないけど…でも勝ったんだよね…。
あぁ、『勝った』…か。この言葉、使ったの何年ぶりだったかなぁ…」
「やりました…よね? 第二形態とか出ませんよね?」
『大丈夫でしょう…。血肉を撒き散らしてましたし。…でも、勝てて、よかった…』

「終わった、か……ゴホッゴホッ!アタシの体も終わったってか?
 ハハッ、笑えねえ冗談だぜ……ガハッ!」
「か…神宮さん!? どうしたのですか…!? ああ、どこかにその症状を和らげる機械は…!」
神宮が突然吐血し、苦しんでいるのを見て驚く斎葉

>「彼とはこの島で会ったことがある。危険ではなく、信頼できる男だ。
 私は天木を担いでいく。霞美、キミは神宮を頼む。
 そして鎌瀬……キミはキングを頼む。私は彼に命を助けられた……放っておくことはできない」
「分かりました…。僕の能力(ちから)では病状を劣化させてその場を凌ぐ位しかできませんが…」
劣化のオーラでキングの病気の症状を劣化させることで、一時的にマシな状態にしようとする鎌瀬

>「どうやら想像以上の死闘だったようだ。タイミングがよかったぜ。
 ワイズマンの墓前にあんたらの死体を花として添えさせるわけにゃいかねぇからな。
 ……あぁ、紹介が遅れたな。俺は『赤染 壮士』。
 あんたらと同じく、この島に招待されたついてない人間の一人さ」
「あ…あの…よろしくお願いします…赤染壮士さん…。僕は…鎌瀬犬斗です」
「よろしくお願い申し上げます、赤染さん。僕は斎葉巧です。機械を弄っている最中に飛ばされてきた機械工です」
『夜深内漂歌です。よろしくお願いします、赤染さん』
赤染に自己紹介をする三人




193海部ヶ崎 綺咲:2011/07/09(土) 22:23:49.63 0
>>189>>190>>191
体を包み込む光が消えていくと同時に、
地面に横たわっていたキングがパチリと目を開け、ガバッと上半身を起こした。
「これは……」
怪訝な顔で自分の体を隅々まで見渡すキングに、クイーンは言った。
「さて、生き延びてしまったわけだけれど……あなたはこれからどうするのかしら?
 ──何て言ってみたけど、実は私も何も考えてないのよね。──折角だし、二人で旅でもしてみる?」

「生き延び……た?」
ふと視線をクイーンから外せば、そこには天木、海部ヶ崎、氷室の姿。
「これが魔水晶の力か。今にも死にそうだった奴が当然のように蘇ったぜ」
言う天木に、キングは初め驚いたように目を丸くしたが、
やがて事の経緯全てを理解したのか、複雑そうに呟いた。
「……そうか、キミ達はワイズマン様を倒したのか……。それで手に入れた魔水晶で、ボクを……」

「折角助かった命だ。生まれ変わったと思って、精々、懸命に生きるんだな」
と氷室。ぶっきらぼうだが、これが彼女なりの励ましの言葉なのだろう。
「生まれ変わった……か。……フフフ、そうだね。
 これからは、これまでできなかったことをしてみるのもいいかもしれない。
 クイーン、ボクは南の方に行ってみたいな。
 きっと向こうの海は、ここよりも……穏やかで綺麗なんだろうね……」

遥か彼方から聞こえてくる波の音。
それに引き寄せられるかのように、遠い目をするキング。
その時の彼の頬には、一滴の涙が伝っていた──。


アリシアが現れたのは、それからしばらく経ってからのことであった。
この島に来てから僅か二日だというのに、海部ヶ崎はアリシアの顔が妙に懐かしい感じがした。
恐らく、それだけこの二日という時間があまりにも濃いものだったからだろう。

「元はと言えば私の不始末から始まった一連の事件……。私の手で決着をつけるべきでした。
 しかし魔水晶は悪しき者の手に渡り、ついには私の力をも撥ね退けるほどになってしまった。
 そこでこの島に招待された貴方に頼むしかなかったのですが……。
 やはり私の目に狂いはなかった。貴方は本当に素晴らしい人でした。
 最後にもう一度お礼を言わせて下さい。本当に有難う」

手を握り、深々とお礼を言うアリシアに、海部ヶ崎は戸惑いを隠せなかった。
照れ臭かったというのもあるが、どこか自分ひとりの手柄にされてしまっているのが、
何とも後ろめたくもどかしかったのだ。
「い、いや……私などより、他の皆の方が……」
たまらずそう言いかける海部ヶ崎の肩に、ポンと手が置かれた。
「褒められたら素直に喜ぶべきさ。今回の闘いの主役は、間違いなくお前だったんだからな」
氷室の言葉に、海部ヶ崎は一瞬沈黙したが、
やがてフッと微笑を零すと、アリシアに向き直って彼女の手を改めて握りなおした。
そこには戸惑ってばかりの先程までの海部ヶ崎の姿はもうなかった。
あったのは、幾多の死闘を潜り抜け、成長を遂げた一人の戦士の姿であった。
194海部ヶ崎 綺咲:2011/07/09(土) 22:26:20.30 0
「治療も終わりましたし、そろそろ帰りましょう」
言うアリシアに、異論を唱える者は一人もいなかった。
誰もが一刻も早くこの血生臭い島から出たいと思っていたからであろう。

「さぁ、どうぞ。これの性質上角鵜野市にしか行けませんが、そこはご了承下さいね?」
笑顔で言うアリシアの横に、漆黒の空間が出現する。
それは海部ヶ崎にとっては忘れようもないもの──
そう、かつて雲水が使い、ワイズマンも使った『カオスゲート』であった。

魔水晶なしで雲水の能力を再現してみせる彼女に、誰もが驚いた。
だが、それでも心の底から仰天した感じではない。
それはカオスゲートを展開する前から、彼女を良く知らない者であっても、
彼女がこれまでの異能者とは一線を画する、
規格外の存在であるという認識を持っていたからではないだろうか。

「回復能力者でもなさそうなのに俺達全員を軽く回復させちまう力といい……
 やっぱり、何かもう何でもアリって感じだな。……一体、何者だってんだ?」
訊ねる天木に、海部ヶ崎は誇らしげな顔付きをもって返した。
「仲間さ。私の大切な」
「……ん〜、そう言う意味で訊いたんじゃねェんだけどよォ……ま、いいか」

苦笑しながら、天木は一番乗りでカオスゲートに入っていった。
続いて赤染、氷室が躊躇なく入っていく。
海部ヶ崎もそれに続こうとするが、寸前でピタリとその足を止めた。
「……」
振り返れば、そこには埋もれた洞窟。
耳を澄ませば聞こえてくる海岸の音。
それらが、この二日間の出来事を走馬灯のように蘇らせる。

(素晴らしい仲間に会わせてくれたこと……ワイズマン、それだけはお前に感謝しよう。
 さらばだ、散っていった者達よ。さらばだ、幻影島──)

様々な思いを残し、こうして海部ヶ崎はカオスゲートに消えていった──。

【海部ヶ崎 綺咲:カオスゲートを潜る。→角鵜野市へ】
【キング:完全に治癒。南を旅したいとクイーンに言う】
195鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/07/09(土) 22:39:34.03 0
「初めまして、の方が殆どですね。
私の名前はアリシア。そこにいらっしゃる海部ヶ崎さんの友人ーーと思って下さい」
「さて、皆さんお疲れのようですね。僣越ながら私が治療させて頂きます」
「あ…はい…。鎌瀬犬斗です、よろしくお願いします…。あ…あの、ありがとうございます」
「ありがとうございます。斎葉巧と申します。どうぞよろしくお願い致します」
『ありがとうございます。夜深内漂歌です。よろしくお願いします』
治療を受けながら自己紹介する三人

「治療も終わりましたし、そろそろ帰りましょう」
そう言い、手をかざして何かを呟くアリシア。すると目の前に黒い空間、『カオスゲート』が現れる
「すごい…」
アリシアのそれを見て、感嘆の声を漏らす鎌瀬。そして、戸惑いつつもゲートに入っていく三人
【鎌瀬一行:カオスゲートに入る】
196神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/10(日) 02:10:41.44 0
>>193>>194>>195
魔水晶により体が治ってから少し時間が経ち、ようやく終わったという実感が沸いてきた。
するとどこからともなく、そして音もなく一人の女性が現れた。

「初めまして、の方が殆どですね。
 私はの名前はアリシア。そこにいらっしゃる海部ヶ崎さんの友人──と思って下さい」
アリシアと名乗るその女性は、海部ヶ崎の友人だと言った。見た目こそ普通の女性だが、何かが違う。
(何だコイツ……?何かわかんねえけど普通じゃない)
それが菊乃の抱いた感想であった。違和感を感じたが、その中身まではわからない。
しかし海部ヶ崎の友人と言っているし、現に海部ヶ崎とも親しそうに話している。
(余計な詮索はしない方が吉、か)
そう思い、アリシアの正体については考えないようにした。

「治療も終わりましたし、そろそろ帰りましょう」
皆を治療して回っていたアリシアがそれを終えると、唐突にそう言った。
確かに唐突ではあったが、皆は一刻も早くここから出たかったはず。寧ろ待ち望んでいただろう。

「さぁ、どうぞ。これの性質上角鵜野市にしか行けませんが、そこはご了承下さいね?」
アリシアがそう言った直後に彼女の横に出現したものを見て、菊乃は驚いた。
なんとそれは、先程の戦いでワイズマンが使用していた『カオスゲート』だったのだ。
ワイズマンですら魔水晶の力を使っていた。それを目の前のこの女性は何事もなく使用した。
先程の治療といい、普通ならアリシアを知る海部ヶ崎以外──厳密には氷室もだが、菊乃は知らない──の誰もが訝しむはず。
しかし誰しも驚いてはいたが、どこか納得したような表情もしていた。
それはこの女性が現れた時から感じていた違和感を皆も感じていたためだろう。

カオスゲートに天木、氷室、鎌瀬達、そして海部ヶ崎が消える。
海部ヶ崎は入る直前に複雑な表情をしていたが、最後は晴れやかな顔で消えていった。
(これを潜ればまーた逃亡生活の始まりか……。いい加減諦めてくれないかねぇ。
 ま、この島にいる間だけはそれも忘れられたけどな。それ『だけ』は感謝するぜ、ワイズマン。あばよ──)

再び流浪の生活に戻ることに若干の嫌気を感じ、しかし清々しい表情で菊乃はカオスゲートへと入っていった──。

【神宮 菊乃:カオスゲートを通り、角鵜野市へ】
197クイーン:2011/07/10(日) 02:37:45.65 0
>>193>>194
「生き延び……た?」
声をかけたキングはどこか呆然としながら周囲を見回していた。

「これが魔水晶の力か。今にも死にそうだった奴が当然のように蘇ったぜ」
キングの視線の先にいた男が呟く。
その言葉にキングは驚いたが、すぐにその言葉の真意に気がついた。
「……そうか、キミ達はワイズマン様を倒したのか……。それで手に入れた魔水晶で、ボクを……」
クイーンは先程の会話で自らそれを口にはしなかった。
憚られた訳ではないのだが、聡明なキングならすぐに気がつくだろうと思ったのい敢えて言わなかったのだ。

「折角助かった命だ。生まれ変わったと思って、精々、懸命に生きるんだな」
男の横から氷室 霞美がややぶっきらぼうに口を挟む。
「生まれ変わった……か。……フフフ、そうだね。
 これからは、これまでできなかったことをしてみるのもいいかもしれない。
 クイーン、ボクは南の方に行ってみたいな。
 きっと向こうの海は、ここよりも……穏やかで綺麗なんだろうね……」
波の音に吸い寄せられるように彼方を見るキング。その頬には一筋の涙が伝っていた。

「南──暖かそうでいいわね。きっと海も穏やかで綺麗だわ。
 ──いえ、きっとどこへ行こうとも『ここ』よりは穏やかだわ……」

クイーンの言う『ここ』には二つの意味が込められていた。
一つはこの幻影島。
数多の異能者達が殺し合い、その命を散らせて言った悪夢の島。中には自分が手をかけた者もいる。

もう一つは『ワイズマンの下』。
ワイズマンの配下についてから、一度でも『穏やかだ』と思った日々はなかった。
毎日のように暗い洞穴の底での潜伏の日々。いつ来るかもわからない開放の日。
決してワイズマンを憎んでいるわけではなかった。寧ろ忠誠を誓っていた。
しかしながら、一度でいいからのんびりと一日を過ごしてみたい、という願望は少なからずあった。
それが叶う事はないと知りながらも、思いを馳せていた。

「ワイズマン様、どうか安らかにお眠り下さい。いつの日か地獄でまたお会いしましょう──。
 さぁ、私たちを縛る鎖は既に断ち切られた。まずはこの島から外の世界へ行きましょう、キング──いえ、『みちる』」
柔らかに微笑みながら、クイーンはキングに手を差し伸べた。

【クイーン:キングの要望を受け入れ、承諾する】
198氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/12(火) 01:35:14.41 0
ゲートを潜って僅か一秒、海部ヶ崎は漆黒から再び太陽を視界におさめていた。

──肌を優しくなでるそよ風。木々や葉が擦れあう音に混じって、
どこからともなく聞こえてくる車や電車の音。鼻をつく緑の香り。
そして視線を落とせば、眼下に広がるは西日を受けて朱色に染まりかけた巨大な湖──。

忘れようもない、ここは角鵜野市の南の高台。確かに……そう確かに帰ってきたのである。
「ん〜〜〜」
空気を胸一杯に吸い込み、子供のような無邪気な顔で気持ちよさそうに伸びをする。
それは安堵と喜びの二つを、海部ヶ崎が体全体を使って表現したものであった。

「へェ、ここが角鵜野市か。都会と自然が上手く調和してるって感じだなァ」
感心したように街を見渡しながらも、無事に帰って来れて緊張の糸が緩んだせいだろうか、
天木は最後にだらしなく大あくびかいた。
「あんたはここの人間じゃねぇみてぇだが、これからどうするんだ?」
その横でそう言ったのは赤染。
天木は顎に手をやり、少し考える素振りを見せると、やがて頭を欠いて答えた。
「そうだなァ……これから職場に戻るっつっても、無断欠勤を続けちまってっからなァ……。
 もうあの場所に俺の席は無くなってるかもしれねェ……。
 まぁ、今日は疲れちまってるし、とりあえず今夜一晩はここに止まって、後のことはゆっくり考えらァ」

「よければ私の家にこい。少し手狭だが、一晩宿を貸すくらいの広さはある」
海部ヶ崎の提案に、天木は一瞬ドキリとしたように顔を紅潮させた。
氷室は女であるが、男である彼の脳裏を過ぎったことくらいは想像がつく。
つまり……海部ヶ崎はどう見ても独り者。
一人暮らしの女性の部屋に、男が泊まるということは……思わずドキリとしても無理はない。
「あ、あぁ〜〜……なんつーか、俺一人で泊まるってのも何だか……」
「嫌か? それなら神宮、どうせならキミも来たらいい。
 確か研究所の追っ手に追われていて、特に行くあてはないんだろう?
 ……まさか厄介ごとに巻き込むことになると私に遠慮するような事は言わないだろうな?
 一度、共に命をかけて闘った仲なんだ。今更水臭い台詞は許さないぞ」

と、海部ヶ崎が神宮に訪ねるその横で、今度は赤染が鎌瀬らに口を開いた。
「ところで……お前達は? 見たところ学生のようだが、まさかお前らもこの街の人間か?」

神宮が、鎌瀬らが返答する。
その様子を傍から静観していた氷室は、彼らの会話に一区切りがついたところで、
一人くるりと踵を返して歩を進めていった。
「あ、おい! あんたは?」
それに気付いた赤染が呼び止める。
氷室は首だけを彼に向けると、いつものような調子で言った。
「本業に戻るだけさ。これでも明日を生きる生活費を稼がなきゃならない身分なんでね」
そして首を戻して、再び歩を進めかけた彼女を、今度は海部ヶ崎が呼び止めた。

「霞美!」
「……」
「また会おう。今度は戦士としてではなく、一人の友人として。
 それまで……元気で」
氷室の首が海部ヶ崎に向けられる。その時、彼女の表情はフッと微笑を浮かべていた。

「フッ、お前達も、な。──それじゃ、バイバイ」
手をヒラヒラと振って去っていく後姿を、海部ヶ崎はいつまでも誇らしげな顔で見つめていた──。
199海部ヶ崎 綺咲:2011/07/12(火) 01:44:35.35 0
「それじゃあ、そろそろボクたちも」
その声に、一同の視線が一斉にキングへと注がれる。
「キミ達ももう行くのか。どうやら遠いところへ行くようだが、元気でな」

海部ヶ崎の言葉に、キングは溢れんばかりの笑顔を持って返した。
「ボクは大丈夫、体の方はすっかり良くなった。心配しなくても元気でやれるよ。
 キミたちの方こそ元気でね。──それじゃ、行こうか? クイーン」
氷室とはまた別の方向に去っていくキング、そしてクイーン。
その足取りに、もはや死を待つばかりの人間の弱々しさはなかった。
あったのは、新たなる人生を切り開かんとする、確かな力強さであった。

「……行っちまったな。なんつーか、敵として対峙してた時間の方が長いってのによ、
 こうして去っていくのを見ると……不思議に寂しい気がするのは何でなんだろうな。
 あ、そうだそうだ。ところで赤染だっけか? お前はこれからどうすンだ?」
天木に今後の事を訊かれ、赤染は溜息をついた。
「あぁ……あんなボロ道場でも、放っておくわけにゃいかねぇからな。
 いずれ故郷へ戻ることにするぜ。──んでも、とりあえず今日一日だけは──」
不意に赤染がニカッと笑う。
「俺もあんたと一緒に海部ヶ崎の家に泊めてもらう事とするぜ。
 何せホテルで一泊するにしても金がねぇし、それに……
 女の家に男を一人だけ泊めさせるってのも何となく癪なんでな。
 精々、お邪魔虫になってやるさ」

「おいおい、俺が何かするとでも思ってンのかァ?
 コイツに手なんか出してみろって。一瞬であの世に行っちまうっての。
 折角助かった命、精々大事にしねェとなァ?」

冗談交じりに……といっても半分は真面目に言っているのだろうが、
おちゃらけた口調で大げさに両手を広げて困った顔をしてみせる天木。

「ハッ……ハハハハ! そりゃ違ぇねぇや!」
笑う赤染。
「? 何だかよくわからないが、来るなら歓迎するぞ。一人でも多い方が賑やかだ」
二人の会話をよく理解できぬまま、ただ笑顔を浮かべ続ける海部ヶ崎。
気がつけば、その場にいる全員が、三人につられて笑っていた。

「ハハハ、何だか盛り上がってきたなァ! ……よォーし!
 鎌瀬、斎葉、夜深内、ユーキ、そしてアリシア! こうなりゃお前ェらも全員ついて来い!
 今夜は今日の勝利と帰還を祝って、朝までドンチャン騒ぎだァァアア!!」

──朱色に染まりかけた夕空に、楽しげな笑い声が響き渡る──。
それはいつまでもおさまることはなかった。いつまでも、いつまでも──。

【二つ名を持つ異能者達Part2 氷室 霞美編:完】
【二つ名を持つ異能者達Part2 海部ヶ崎 綺咲編:完】
【二つ名を持つ異能者達Part2 天木 諫早編:完】
200神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/12(火) 15:25:36.11 0
アリシアのカオスゲートに入って一瞬視界が暗くなる。
しかし次の瞬間には景色は一変し、崩れた洞窟は消え去り、代わりに豊かな自然と美しい湖が飛び込んできた。
菊乃は角鵜野市に着いてから市街地しか歩き回らなかった為、一瞬ここがどこなのか判断できなかった。
しかしすぐにアリシアの言葉を思い出し、ここが角鵜野市だということに気付く。

「やっと戻ってこられたな。しかしこんないい場所があったのか。もっと散策しておけばよかったかな」
周りでは天木や赤染達が今後のことについて話している。

「あんたはここの人間じゃねぇみてぇだが、これからどうするんだ?」
「そうだなァ……これから職場に戻るっつっても、無断欠勤を続けちまってっからなァ……。
 もうあの場所に俺の席は無くなってるかもしれねェ……。
 まぁ、今日は疲れちまってるし、とりあえず今夜一晩はここに止まって、後のことはゆっくり考えらァ」

赤染の『ここの人間じゃない』という言葉を聞いて、菊乃も自分の今後について考える。
菊乃は角鵜野市在住の人間ではない。追っ手から逃れている内に偶然辿り着いただけだ。
故に住む場所はない。当然あてにできる人物もいない。

(これからどうすっかな……。母さん達に会いに行きたいけど、そしたら家族まで巻き込んじまう。
 ……会いに行くのは全部片付いた後だな)
遠くの地にいる家族のことを思い出し、会いに行けないことに歯噛みする。

「よければ私の家にこい。少し手狭だが、一晩宿を貸すくらいの広さはある」
そんな中、海部ヶ崎が天木にそう提案した。天木は驚いている。顔が赤い理由は想像に難くない。
「あ、あぁ〜〜……なんつーか、俺一人で泊まるってのも何だか……」
天木がしどろもどろになりながら返答に窮している。
宿を提供してもらえることは嬉しいが、状況が状況なだけに素直に頷けないのだろう。

その様子を見て、菊乃は微笑ましく思った。
つい数時間前まで死闘を繰り広げていたのが嘘のようで、実はあれは夢だったんじゃないか、と思えるほどに。

(いいねぇ、ああいうの。だけどアタシはアソコニ混ざるわけにはいかない。──いや、混ざれない。
 アタシなんかが一緒にいたら皆に迷惑かけちまう。 結局のところ、アタシは一人でいるのが一番いいんだ)
輪の中に加わりたい、という衝動を己の状況を省みて押さえ込む。
今の菊乃にできることは、幸せそうな仲間達の顔を、一歩引いたところから眺めることだけだった。
201神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/12(火) 15:27:37.71 0
「嫌か? それなら神宮、どうせならキミも来たらいい。
 確か研究所の追っ手に追われていて、特に行くあてはないんだろう?
 ……まさか厄介ごとに巻き込むことになると私に遠慮するような事は言わないだろうな?
 一度、共に命をかけて闘った仲なんだ。今更水臭い台詞は許さないぞ」

とその時、未だに返答しない天木に対して海部ヶ崎がそんなことを言った。
「はぁ……。折角いい感じの別れ方を考えてたのに……。
 お人好しもここまで来るとウザイのを通り越していっそ清々しいね」
やれやれ、と呆れたように首を振って答える菊乃。しかしその顔には笑顔が浮かんでいた。
「しかしまぁ、ここまで言われちゃ断る方が失礼ってもんか。お言葉に甘えることにするよ」
海部ヶ崎の提案を承諾し、とりあえずの寝床は確保した菊乃であった。

各々の会話も一区切りつき、雑談に変わっていた時、それまで無言だった氷室が不意に背中を向けて歩き出した。
「あ、おい! あんたは?」
赤染が気が付き、氷室に声をかける。すると氷室は一旦止まり、首だけ振り向いて答えた。
「本業に戻るだけさ。これでも明日を生きる生活費を稼がなきゃならない身分なんでね」
そう言って再び歩き出そうとする。しかし今度は別の人物から声がかけられた。海部ヶ崎である。
「霞美!」
「……」
「また会おう。今度は戦士としてではなく、一人の友人として。
 それまで……元気で」
氷室は先程と同じように首だけ彼女の方に向け、小さく微笑んだ。
「フッ、お前達も、な。──それじゃ、バイバイ」

去っていく氷室の背中を眺めながら、菊乃は様々な思いを抱いていた。
(氷室──島ではああ言ったが、カノッサの生き残りであるアンタは今でもアタシの憎しみの対象だ。
 こんなこと下らないのはわかってる。でもアタシの気持ちの問題でもあるんだ。
 いつの日か、全部片付いたら、その時は──)
最後まで氷室に言えなかった言葉。その言葉は、再開の時まで胸に仕舞っておこうと誓った。


「それじゃあ、そろそろボクたちも」
隣にいたキングがそう言うと、皆の視線が一斉にこちらを向いた。
「キミ達ももう行くのか。どうやら遠いところへ行くようだが、元気でな」

皆を代表する形で海部ヶ崎が言う。キングはそれに対し笑顔でこう答えた。
「ボクは大丈夫、体の方はすっかり良くなった。心配しなくても元気でやれるよ。
 キミたちの方こそ元気でね。──それじゃ、行こうか? クイーン」
「ええ、行きましょう。あなた達にも世話になったわ。
 いつの日か、また会うこともあるかも知れないわね。その時まで元気でね」
202神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/12(火) 15:29:43.72 0
そう言って皆に見送られ立ち去る二人。その足取りは軽やかだった。
「そうそう、もう狂戦士でもないんだからいい加減クイーンはやめて頂戴。
 私には『紅羽 麻梨亜』という名前があるのよ。今度からは──」
そんなことを言いながら去っていく二人も、やがてその姿は見えなくなった。

「……行っちまったな。なんつーか、敵として対峙してた時間の方が長いってのによ、
 こうして去っていくのを見ると……不思議に寂しい気がするのは何でなんだろうな。
 あ、そうだそうだ。ところで赤染だっけか? お前はこれからどうすンだ?」
天木の質問に対し、赤染は溜息混じりに返答する。
「あぁ……あんなボロ道場でも、放っておくわけにゃいかねぇからな。
 いずれ故郷へ戻ることにするぜ。──んでも、とりあえず今日一日だけは──」
しかし不意に笑顔を見せ、こう言った。
「俺もあんたと一緒に海部ヶ崎の家に泊めてもらう事とするぜ。
 何せホテルで一泊するにしても金がねぇし、それに……
 女の家に男を一人だけ泊めさせるってのも何となく癪なんでな。
 精々、お邪魔虫になってやるさ」
「おいおい、俺が何かするとでも思ってンのかァ?
 コイツに手なんか出してみろって。一瞬であの世に行っちまうっての。
 折角助かった命、精々大事にしねェとなァ?」

冗談とも本気とも取れない態度で天木が困り顔になる。
「ハッ……ハハハハ! そりゃ違ぇねぇや!」
隣では赤染が爆笑している。
「? 何だかよくわからないが、来るなら歓迎するぞ。一人でも多い方が賑やかだ」
海部ヶ崎は言葉の通り、何を言っているのかわからない、という表情をしている。
「やれやれ、ここまで何も知らないとは……。本当に山育ちだったみたいだな。
 アンタもちったぁ世間の常識を身につけた方がいいぜ。
 いつか結婚でもした時にそれじゃあ、旦那の苦労が目に浮かぶぜ」
ポン、と海部ヶ崎の肩を叩きながら菊乃は彼女にそう告げた。

「ハハハ、何だか盛り上がってきたなァ! ……よォーし!
 鎌瀬、斎葉、夜深内、ユーキ、そしてアリシア! こうなりゃお前ェらも全員ついて来い!
 今夜は今日の勝利と帰還を祝って、朝までドンチャン騒ぎだァァアア!!」
「あらあら、私も誘って頂けるんですか?今から帰って一人寂しく夕食を、と思っていたのですごく嬉しいですわ。
 でもそうすると食材の方が絶対的に足りませんね。海部ヶ崎さん、皆で一緒に買い物に──」

美しい茜色に染まる空の下、それに負けないくらい明るく楽しげな声がいつまでも響き渡っていた──。

【二つ名を持つ異能者達Part2 神宮 菊乃編:完】
【二つ名を持つ異能者達Part2 アリシア編:完】
203鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/07/15(金) 19:43:33.16 0
>>198>>199
「ん…この懐かしい感じの空気…。帰ってきたんだね、僕達…」
大きく息を吸い、鎌瀬が言う
「そうですね。あまり長い時間居たわけでもないのに、何年も帰ってこなかったような気分です」
安心したように、斎葉が言う。心なしか、夜深内の表情も穏やかに見える

「ところで……お前達は? 見たところ学生のようだが、まさかお前らもこの街の人間か?」
「はい。双綱高校に通っています…」
「僕も同じです」
鎌瀬、斎葉が答える
204鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/07/16(土) 08:21:00.70 0
「おいおい、俺が何かするとでも思ってンのかァ?
コイツに手なんか出してみろって。一瞬であの世に行っちまうっての。
折角助かった命、精々大事にしねェとなァ?」
「ハッ……ハハハハ! そりゃ違ぇねぇや!」
「? 何だかよくわからないが、来るなら歓迎するぞ。一人でも多い方が賑やかだ」
「クスクス…あれ、僕の笑い方ってこんなんだっけ…? …まぁいいか。あれですよ、海部ヶ崎さん。天木さんなりのジョークですよ。…半分は本気なんでしょうけど」
「あはは、長らく世間から離れて暮らしてるとそうなりますよね。かくいう僕もメカの製作で一週間程籠った時は普通のドアを自動ドアと勘違いしたものです」
鎌瀬、斎葉と、そこにいる全員が笑った。そう、全員が。気を付けないと分からないだろうが、注意しないと気づけないだろうが、
自分のことを機械だと思っていた夜深内が、気のせいでもなんでもなく、確かに笑顔になっていた。それは少しぎこちなくはあるものの、確かに笑顔だった
「ハハハ、何だか盛り上がってきたなァ! ……よォーし!
鎌瀬、斎葉、夜深内、ユーキ、そしてアリシア! こうなりゃお前ェらも全員ついて来い!
今夜は今日の勝利と帰還を祝って、朝までドンチャン騒ぎだァァアア!!」
「いいですね、食べ物はどうしましょう? 大人数なんでやっぱり鍋ですかね?
闇鍋なんてどうでしょう…?」
少し危険な提案をする鎌瀬
『あの。闇鍋とは何ですか?』
「各々好きな具材を持ち寄って、それを使う鍋パーティです。
電気を消して行いますので、何をつかむのか分からないのです。ちなみに一度つかんだ物は決して戻してはならないのですよ」
モニター越しに質問する夜深内に、斎葉が答える
「僕としては手作りピザとかいいと思いますね。…あれ、手作りと普通に買うのどっちが安いのでしょう?
大人数なんですしコストパフォーマンスは大事ですよね」
お金を気にする斎葉。そんなこんなで、鎌瀬、斎葉、夜深内も、天木について行くのであった…
【二つ名を持つ異能者達Part2 鎌瀬 犬斗編:完】
【二つ名を持つ異能者達Part2 斎葉 巧編:完】
【二つ名を持つ異能者達Part2 夜深内 漂歌編:完】
205第二部用テンプレ1/2:2011/07/16(土) 19:21:53.81 0
ここは【二つ名】を持つ異能者達が普通の人間にはない【第三の眼】を使って
架空の現代日本を舞台に異能力バトルを展開する邪気眼系TRPスレッドです。
登場キャラクターの詳細、各用語、過去ログのミラーは【まとめwiki】に載っております。

*基本ルール
[壱]参加者には【sage】進行、【トリップ】を推奨しております。
[弐]版権キャラは受け付けておりません。オリジナルでお願いします。
[参]参加される方は【テンプレ】を記入し【避難所】に投下して下さい。
[肆]参加者は絡んでる相手の書き込みから【三日以内】に書き込むのが原則となっております。
   不足な事態が発生しそれが不可能である場合はまずその旨を【避難所】に報告されるようお願いします。
   報告もなく【四日以上書き込みが無い場合】は居なくなったと見なされますのでご注意下さい。

*参加者用テンプレ
名前:
性別:
年齢:
身長:
体重:
職業:
容姿:
眼名:○○眼
能力:
人物紹介:
206第二部用テンプレ2/2:2011/07/16(土) 19:23:58.58 0
*まとめwiki
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達@wiki
http://www35.atwiki.jp/futatsuna/pages/1.html

*避難所
P C:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1254052414/
携帯:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/computer/20066/1254052414/

*過去スレ
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1274429668/
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達【其ノ弐】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1286457000/
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達【其ノ参】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1292605028/
207天木 諫早:2011/07/18(月) 18:10:38.12 0
角鵜野市中心街の一角に佇む古い雑居ビル。
そこの二階に、こじんまりとした小さな精神科の診療所があった。
名は『天木精神科クリニック』。
院長はかつてカノッサ機関研究員であったあの『天木 諫早』である。

その天木は今、診療所内の診察室の椅子に、どかりと腰を下ろしていた。
患者用の椅子に座る少女に、先程から興味深げな視線を送りながら。
「ん〜〜……するってェと、だ……。キミは本当に“別の世界が見える”ってンだね?」
訊ねる天木に、あどけない声が返ってくる。
「はい。夢に出てきたり、起きていても時々脳裏にその世界の光景が浮かんだりするんです。
 ママやパパ、他のお医者さんはストレスが原因だって言うんですけど、
 本当に私には見えるんです。この世界とは良く似てるけど、ちょっと違う世界が」

天木はボールペンを手に取り、それをクルクルと回しながら考えた。
少女は中学生と多感な時期。精神的な不安定さが生み出す幻覚か、
あるいは妄想に取り付かれてしまっているのだろうか?
事実、他の精神科医はそう判断している。
しかし、それを前提とした治療を受けても、彼女には効果がなかった。
それはつまるところ、単にそれだけ精神面に深刻な異常があるからなのか?
(いや……あるいは)
天木は思う。もしかしたら、もう一つの可能性に当て嵌まるのではないか──
つまり、彼女は無意識の内に異能に目覚め、無自覚のまま異能を行使しており、
それが周囲の人間に幻覚や妄想を見ていると思われる原因になっているのではないかと。

「よければ先生に話してくれないかな? キミの見える“世界”というのをさ」
「うん、いいよ」

少女はニコリと笑うと、思い出すかのように目を閉じた。
天木は思う。彼女の能力──それはもしかしたら、『並行世界(パラレルワールド)』の一つを、
覗くことができる能力なのではないかと。
そして結論から言えば、そんな天木の推測は、決して間違ってはいなかった。

「あのね先生、私が見たのはこういう不思議な世界なの……」

やがて目を開けた少女は、ゆっくりと語り出した。
彼女が見たという世界──“この世界”のパラレルワールドのことを──。
208名無しになりきれ:2011/07/18(月) 18:36:16.69 0
数百、数千、あるいは数万か──現代世界の、数ある並行世界の内の一つ。
そこは現代と同じく21世紀を迎え、そしてその世界の日本も現代と同じく繁栄を続けていた。

都会(まち)には物が溢れ、多くの人々が行き交う。現代世界と全く変わらない光景だ。
しかし、たった一つだけ、現代とは異なる面があった。
それは『異能犯罪』──。『邪気眼』という『第三の眼』を持つ人間、通称『異能者』が起こす、
従来の行政機関では解決できない特殊な凶悪犯罪が増加傾向にあることであった。

この事態を憂慮した政府は、激しい議論を重ねた末、ある時こう決断した。
目には目を、歯には歯を──そして異能者には異能者を──。
異能犯罪者を取締る国家資格、『スイーパー』の新設を決定したのである。

そしてその決定から15年。
日本の首都・東京にある小規模な都市から、ある物語は始まろうとしていた……。


────【邪気眼】二つ名を持つ異能者達 第二部────
209獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/07/18(月) 19:25:05.91 0
「なあ、弥陸兄ちゃんよぉ。お前さんの稼ぎ、どれくれぇだい?」
「…月に5か60ってトコかな」
「ハハッ! 稼ぐねえ! 俺なんて働いても働いても貧乏神が抜けねえってのによ!」
「稼いだ分だけ飲んじまうからだろ? 寝言は寝て言えよ」
厨弐市の繁華街の片隅にあるパブ―――その名を『オールドキング』という―――のカウンターで軽口交じえて客と談笑するバーテンダー。
彼の名は獅子堂 弥陸(ししどう みろく)。カクテル作りにおいて厨弐市で右に出る者は無し、とまで言われる凄腕である。
3年前にふらりと現れ、破竹の勢いでパブのオーナーに次ぐ地位を得た男。同業者の間でもその名を知らぬ者はいない。
「…そういや、アンタの息子さん…明日が誕生日だったよな」
「おお、そうそう! しっかし何をプレゼントしたもんか分からねえんだよなぁ。最近は海の男になる、とか言って話を聞かねえ」
「…ちょっと待っててくれ」
カウンターに身を潜めゴソゴソと何かを漁り始めた獅子堂。数秒後に姿を現した時、両腕にはボトルシップが抱えられていた。
「おお! こいつぁすげえ!」
「これでも渡せば満足するだろうよ。俺の奢りだ。とっとき―――」
「―――獅子堂。あんたに電話よ」
会話を遮り店の奥から現れたのは1人の女性。獅子堂は静かに目礼した。
「オーナー、いらしていたのですね」
「たまには私もお客に顔見せなきゃね。業務視察も兼ねてだけど…例のアレよ。急いで出なよ」
足早に店の奥へと姿を消す獅子堂。そしてボトルシップを前にして会話の相手が居なくなった事に困惑気味の中年男。
「あの子がいいって言うんだから持っていきなよ。お代はあの子の帳簿から引いとくからさ」

受話器はだらしなくテーブルの端から落ちて床に転がっていた。獅子堂は無造作にそれを拾い上げる。
「…獅子堂だ。状況は?」
「警官2名が死亡しているのは知っているな? 重傷者が3名追加だ…だが足取りは既に掴んだ。郊外の廃ビル、通称X24」
「首尾の良い事だな。それで―――」
深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。漆黒の瞳が月明かりを受けて青白く輝く。
「―――殺していいのか」
「…お前に任せる。だが共同者が現れたら独断は極力避けろ、以上だ」
「了解した。切るぞ」
電話を切るや否や獅子堂の表情は一変した。その目に宿るのは憎悪、怒り、そして殺気。
視線を合わせるだけで心臓を握り潰されると錯覚しそうなほどの、純然たる殺意が全身から噴き出していた。
パブの制服を脱ぎ捨て漆黒のライダージャケットを着込む。腰にベルトを通し、青黒いコートを身に纏う。
そして指ぬきグローブを外す―――その両の手の甲にはサファイアのように暗く輝く“眼”があった。
「行くんだね、獅子堂」
振り向けばそこにはオーナーの姿があった。
「…いつも思いますよ。貴女に拾われてよかったと。そうでなきゃ俺も、こうは成れなかった」
肘まで届くライダーグローブを身に着け、両手の“眼”を隠すと獅子堂は裏口のドアを開いた。
「お待ち。老婆心から言わせてもらうよ」
「?」
「あんたは強い。でもその力は憎しみ、怒り、そして恐れが源だと、私は思う」
「…何が言いたいんですか」
「どう言えばいいものか分からないけど…そう、絶対に暗黒面に心を委ねてはいけない。そうなったら二度と戻れなくなるよ」
「…重々承知しています」
獅子堂の姿は夜の闇の中に消えていった。

【獅子堂、依頼を受け郊外の廃ビルへ移動開始】
210御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/07/18(月) 21:48:20.51 0
「──はい、では今日の授業はここまでとします。続けてホームルームをやるのでまだ帰らないで下さいね」

ここは厨弐市東部に位置する厨弐学園。その高等部のとある教室。
一人の女性教師が教壇に立ち、生徒達に話をしている、というありふれた光景が見られる。

「以上です。何か質問はありますか?なければこれで──」
生徒達に語りかける教師。しかし教師が言い終わる前に数人の生徒達が鞄を持って駆け出していく。
「あ──もう、仕方のない子達ね」
一瞬怒ったような顔を見せたが、すぐに苦笑に変わる。その顔は優しげだ。
「では、今日はこれでお終いです。部活や委員会のない生徒は速やかに帰宅して下さいね」
そう告げると、自身も教室から退室した。

「ふぅ……。今日も無事一日終わりましたね」
職員室に戻り、一息つく女性教師。その顔には若干の疲労が見える。
彼女の名は御影 篠(みかげ しの)。二年前からこの学園で教師をしている。
実家は厨弐市一の大富豪である御影家。その一人娘である。
しかし金持ち特有の傲慢さや、それを鼻にかけるようなことは一切せず、あくまでも一般人と同じ立場で仕事をしている。
──そう、彼女は富豪であるにも拘らず働いているのである。それは彼女の性格によるところが大きいだろう。

「では、お先に失礼します」
「お疲れ様ー」
まとめた書類を鞄の中に入れて立ち上がると、周りの教師達に声をかけ、職員室を後にする。
駐車場に向かい、車に乗り込んだところで携帯が鳴った。

「もしもし──どうしたの?何か問題でもあった?」
『ええ、少々厄介な問題が。先日雇った犯罪者ですが──』
「ああ、あの男ね。何か失敗でもした?」
『いえ、任務自体は遂行したのですが、その後が問題で。──警官に死傷者を出したようです』
「そう。『協会』はもうこのことを知ってるのかしら?」
『既に通報がいっているようで。『蒼魔の銃王』が動くようです』
「あの武装バーテンダーね。ま、いいでしょう」
『奴らの方はどうしますか?』
「私から直接連絡するわ。貴女はいつも通りお願い」
『畏まりました。では後程』

電話を切り、考えを巡らせる。
(あの男はもう駄目ね。近いうちに捕まるでしょう。せめて最後まで足掻きなさい)
再び携帯を操作し、電話をかけた。

「私よ。首尾はどうかしら?」
『ヘッ、チョロいもんだぜ!』
「そう、うまくいったみたいね。何か問題はなかった?」
『何もねェよ。サツがいたからブッ殺してやったけどなァ!』
「あまり目立つ行動は控えろと言ったはずだけど……。まぁいいわ。
 後は手筈通り郊外の廃ビルへ向かいなさい。くれぐれも『スイーパー』には注意して、ね」
『ハッ、スイーパーなんざ返り討ちにしてやる!マリーの姐御は心配しすぎだぜ!』
「──生きて帰れたらまた会いましょう」

通話を終了し、携帯を閉じる。
「さて、これから面白くなりそうね。もっと骨のある犯罪者を探さないと──」

エンジンをかけ、自宅のある厨弐市北部へと車を発進させた。

【御影 篠:犯罪者と連絡を取った後、自宅へ向かう】
211黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/07/18(月) 22:54:03.57 0
東京のどこかにある円形状の都市・『厨弐市』。
人口は10万人ほどで、これといった特産品があるわけではない、ごく平凡な小都市である。
とはいっても、『現実世界』のそれとは、ちょっと意味合いが異なる。
あくまで“この世界”に置いて、比較的平凡というだけであり、
現実世界以上に平凡ならざることはこの街でも確実に起こっているのだ。

それは、月が六月の調度最後となる日に、厨弐市内で発生した『警官殺傷事件』こそ、
顕著な例であったかもしれない──。

六月三十日午後七時。事件発生現場には、複数のパトカーと救急車が停まり、
それを囲むように張り巡らされた黄色い立ち入り禁止テープの周りを、
大勢の野次馬達が「なんだ? なんだ?」と口々に言いながら集まってきていた。

その中の一人に、市内の私立高校が採用している黒い学生服に身を包んだ、長髪の男がいた。
名前は『黒羽 影葉(くろばね かげは)』。
その響きや、中世的な顔、そして女を思わせるような長髪という容姿から、
人によっては女と思う者も少なくはないが、間違いなく歴とした男である。

「警官が重傷だってよォー。世も末だなおい」
「もしかして、『異能犯罪者』の仕業なんじゃないの? 最近ここでも増えてるっていうし」
「向こうでも警官の死体があったんだってな。ったく、物騒な世の中になったぜ」
「恐ろしいのう……くわばらくわばら」

集まった老若男女の声が、次々に耳に飛び込んでくる。
黒羽は担架で運ばれていく警官を視界におさめると、すっと髪をかき上げた。
(向こうで二人、こっちで三人。やったのは同じ犯人か。それも、異能犯罪者……)

「やれやれ……」
何とはなく小さく呟いたつもりだったが、調度目の前のテープの内側にいた
警官には聞こえていたのか、少し訝しげな表情をした。

警官殺傷は別に黒羽の仕業ではなかったが、あらぬ疑いをかけられても面倒だと思った彼は、
素早く身を翻すと、野次馬の列を抜けて街中へと去っていった。
(今日の夜に決行かと思ったが、まさか先客がいたとはな。
 どこのどいつかは知らんが……派手なことをする。もっとも、俺も人のことは言えないか)

フッと不敵な笑みを零した黒羽は、不意に立ち止まり、夜空を見上げた。
少し欠けた月に、どんよりとした黒い雲が迫っているのが見える。

「今夜は、荒れるな」

それは天気のことを言ったのだろうか? それとも……。
彼の真意を知る者は、この時、まだ誰もいなかった。

【黒羽 影葉:警官殺傷現場から街中へ移動。目的地は不明】
212名無しになりきれ:2011/07/19(火) 02:26:57.05 0
213獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/07/19(火) 22:47:29.54 0
半刻後―――獅子堂の姿は郊外の廃墟群の只中にあった。
つい数分前から急激に天候が崩れ始め、淡く光る月は既に黒雲に飲み込まれている。
(この臭い…すぐだ、すぐに降り始める。3、2、1…)
「0」
思わず口にした数字。その声が発せられたのと同時に雨が降り始めた。
都会特有のスモッグが溶けた泥臭い水滴。瞬く間に勢いを増して滝の様な豪雨が始まった。
フッ、と獅子堂が笑う。彼は雨を待っていたのだ。
(これだけの豪雨…少なくとも足音で気付かれる事はない。見張りが居ようとも視界も遮られる…一気に突入する!)
微塵の迷いも無く疾走を始めた獅子堂。目的の廃ビルまで一直線に駆ける。
風任せにコートを大きく翻らせると、腰に巻きつけたベルトの右側から得物である拳銃を引き抜いた。
ただの銃ではない。その銃口は2つ、トリガーも2つ、7連発のリボルバーも2つ搭載―――世界に唯一無二の異形の銃。
亡き父の遺品―――『魔銃=パーフェクト・ジェミニ』―――の片割れである。
直後、豪雨に誘われた雷光が白銀の銃身を紫色に輝かせた。
(4…3…2…1…)
「魔弾『惑星』」
遅れてやってきた雷鳴で掻き消されるように、完璧なタイミングでトリガーを9回引く。
放たれた9発の弾丸は青白く輝きながら、獅子堂の周囲を高速で旋回し始めた。
弾丸による攻防一体の自律防衛機構―――『惑星』―――獅子堂の異能力の片鱗である。
再び空に雷光が走る。その行先が目的の廃ビルの避雷針であることを彼は見逃さなかった。
「魔弾『テンペスト』!」
廃ビルの扉に銃口を向けてトリガーを引くのと雷鳴は同時。
錆びついたドアは発破をかけられた様に派手に吹き飛び、そこに走り込む。
油断なく入口付近を見渡したが人影はなかった。
(俺の全ての音は掻き消されていたはずだ。さっきの衝撃も落雷の直撃に合わせて完璧にカモフラージュした…潜入成功、か)

【獅子堂 弥陸:『惑星』を纏いながら廃ビルに潜入。標的を探し始める】
214紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/07/20(水) 00:48:17.78 0

人々の喧騒が静まる事のない夜の街。その街を形成する一つである高層ビルの上に隻眼の女性が立っていた。
100m程のビルの上でも何一つ問題ないといった表情の彼女は風に靡く若干の金色が混じった黒い長髪を押さえ、地上で騒ぎ立てる人々を静かに見下ろしていた。

「警官への攻撃、殺傷。異能者による犯罪とみて間違いなさそうか……」

皮肉めいた溜め息をつくと、彼女は身を翻し街の中央に位置する巨大なビルを見据えた。
ISS本部ビル。彼女が生きる為に殺し、逃げた敵の本拠がそこにあった。

「ま、すぐに彼らが動き出すか。意味の無い"殺し"は悲劇の連鎖を産み出すというのに……バカな奴」

まだ少女らしい面影を残すこの女性の名は紅峰 閃莉(あかみね せんり)。
数年前までは優しい心を持った普通の女子高生であった閃莉だが、ある事件により彼女の人生は大きく捻じ曲げられ
現在ではISS――スイーパーに狙われる人間……所謂、異能犯罪者の一人である。

閃莉はジーンズから携帯を取り出すと、ある男に電話をかけた。
215紅峰 閃莉@代理:2011/07/20(水) 01:24:03.20 0
「もしもし、――――かしら?」
「……久しぶりだな『閃光の霊鬼(ファントム・エクレール)』。こうして連絡を取ってきたという事は街に着いたようだな」
「もう、その二つ名はやめてっていつも言ってるじゃない……じゃなくて、えぇ。道中、奴らに見付かることもなく入る事が出来たわ」
「そうか、あとは『スパイダー』が言っていた通り君の目的が居ればいいのだが……」
「彼の情報が誤りだったとしても今はそれを信じるしかないかな。ところであなたの計画はどうなっているの?」
「あぁ。順調に同志は集まりつつある……もしかすると予定より早く動く事になるかもしれん」
「……りょーかい。次会う時はお互い生きているといいね」
「なに、俺もお前もこんなところで死ぬ様な奴じゃないだろう?君の悲願成就を願っているよ」
「うん……!ありがとう……。それじゃあね」

閃莉は電源を切り携帯をポケットにしまい込むと、左手を空に輝く月に向けてかざした。

「私は、ここで頑張るんだ……父上を殺し私の人生を狂わせた奴を殺す為に……ッ!」

その掌には金色の虹彩をした妖艶な瞳が鈍く輝いていた。

「我が眼よ……この身に雷神の力を宿し給え――装雷」

瞬間、閃莉の体の周りを青白い電流が走り、漆黒の髪と隻眼は一瞬で掌の瞳と同じ、眩き金色へと色を変えた。
電振眼――閃莉の身に宿るは雷の力。装雷は自身の体内に電流を流し、身体能力を活性化させる技である。

(父上の仇を討つ事が出来るのならば、何も迷いはしない。たとえそれが――人の道を踏み誤るような事であっても)

閃莉は強化された脚力で大きく跳躍し、活気が衰える事の無い夜の街へと飛び込んでいった――

【紅峰 閃莉:能力を発動し、街へ移動する。】
216御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/07/20(水) 03:38:25.88 0
「ただいま、メイ。あとお嬢様はやめてって言ってるでしょ?」
苦笑しながらメイと呼ばれた少女に挨拶を返す。
「お言葉ですが、私にとってお嬢様はお嬢様です。何か問題でも?」
「相変わらず固いのね」
笑いながら篠は自室へと向かった。

このメイと呼ばれる少女は、御影家で働くメイドの一人である。
一見無表情に見えるが感情がないわけではなく、意外と感性豊かだ。
そして彼女──に限った話ではないが──は、この屋敷において重要な役割を持つ。それは追々明らかになるだろう。

「それで、状況はどうなっているのかしら?」
着替えを終え、夕食を食べながらメイに尋ねる。
「現在エリが監視を行っています。直に報告が来るかと」
「そう」
短いやり取りを終え、夕食に専念しようとする篠。そこへ第三者が割り込んできた。

「お嬢様お嬢様〜!」
バタンッ、と荒々しく食堂の扉を開けて一人の少女が入ってきた。メイとは対照的に賑やかな少女だ。
「噂をすれば、ね。少し落ち着きなさい、エリ」

第三者──エリと呼ばれた少女は数回深呼吸すると、改めて口を開いた。
「すみません。少し急いでいたものですから……。っと、それより報告です!向こうに動きがあったようです」
「聞かせてくれるかしら?」
「はい。例の男は予定通り廃ビルに到着。こちらからの連絡を待っています。
 それと、男を追って一人のスイーパーが廃ビルに向かったようです」
「『蒼魔の銃王』ね?さっきメイに電話で聞いたわ。増援は?」
「そちらも予定通り廃ビルに向かっています。数刻で着くかと」
「そう、ならあの男にはこう言っておきなさい。『増援は送った。後は自分で何とかしろ』」
「了解です。あ、それともう一つ報告が」
夕食はすっかり冷めてしまっていた。

「もう一つ?何かしら」
「はい。例の男がビルに到着したのと同時刻、繁華街にて能力の発動を確認しました」
「能力……?『蒼魔の銃王』じゃないの?」
「いえ、確かに彼も能力を発動しましたが、それとは別です」
「ふむ……。映像はある?」
「はい。と言っても時間と天候もあって鮮明ではありませんが……」
「見せて」

篠が言うと、目の前に大型のスクリーンが降りてくる。そこには高層ビルに佇む一人の少女が映し出されていた。

「これが能力の持ち主ね。……?この子、どこかで……?」
暫し考え込む篠。やがて頭を上げ、こう呟いた。

「──思い出した。この子、"紅峰"の一人娘ね」
「「紅峰?」」
「ええ、裏の世界では名の通った商人の一族よ。うちも何度も取引をしたと聞いているわね。
 私自身、何度か当主に会ったことがあるわ。もちろんあの娘(こ)にも、ね。向こうが憶えているかは分からないけど」
遠い目をする篠。昔を思い出しているのだろうか?
「"親殺し"の汚名を着せられて逃げたと聞いていたけど……。そう、戻ってきたのね」
懐かしむような笑みを浮かべ、真っ暗になった画面を見つめる。
「彼女はうちの事も場所も知っているはず。……憶えていればね。
 ISSに追われているのなら表では生きていけないわ。となれば必然的に裏でしか生きられない。
 裏社会に出入りしていれば、いずれ『ブラッディ・マリー』の名前を耳にする筈。
 ──フフッ、会うのが楽しみね」
先程とは一転、篠は冥い笑みを浮かべていた。
217御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/07/20(水) 03:41:09.16 0
「エリ、いつまで立っているのかしら?早くあの男に連絡しに行きなさい。殺されてからでは遅いわ。
 それとメイ、夕食を作り直してくれるかしら。エリの話が長いせいですっかり冷めてしまったわ」
「はい。ただいまお持ち致します」
「えー、私のせいですかぁ……?」
「御託はいいから早く行きなさい。本当に手遅れになるわ」
「はぁーい……」
夕食を下げて出て行くメイと、肩を落として出て行くエリ。
二人を見送りながら、篠は溜息を吐いた。

夕食を終え、自室に戻った篠は書類を整理していた。
「ふぅ……。もうすぐ期末試験、その後は成績評価ね。やることが多いわ……」
首を鳴らし、椅子から立ち上がる。窓の外に映る空には分厚い雲がかかっていた。
「さて、エリも連絡を終えたでしょうし、事の顛末くらいは自分の目で確かめに行きましょうか」
クローゼットから紅いロングコートを取り出して羽織り、部屋から出て行った。

「メイ、ちょっと出かけてくるわ」
玄関付近で戸締りのチェックをしていたメイに声をかける。
「こんな時間にですか?──ああ、いつものですね?」
「ええ。行ってくるわ」
「お気をつけて。玄関は開けておきます」
「無用心ね。キチンと閉めておきなさい」
「──窓ガラスの修理代も馬鹿にならないのですよ?」
「わ、わかったわ。わかったからそんな怖い顔をしないで頂戴」
「そうさせているのはお嬢様です」
「と、とにかく行ってくるわ」
逃げるように玄関を開け、外へと出た篠。その手にはコートと同じく紅いグローブがはめられていた。

数刻後、篠はとあるビルの前にいた。──そう、あの廃ビルである。
乗ってきたバイクを近くに停め、廃ビルを見上げる。
「さて、あの男は──あら、降ってきたわね」
両腕を広げ空を仰ぐ。一面雲に覆われた空からは、冷たい雨が降っていた。
「この雨、彼にとって吉と出るか、凶と出るか──。神のみぞ知るところね」
呟いて、廃ビルへと足を向けた。

裏口に当たる部分から中へ入り、一階部分を歩き回る。
(人の気配がない──ということは、上かしら)
上に上がろうと階段に足をかけようとした瞬間、轟音と共に扉が吹き飛んだ。
(──!?)
素早く階段を上りきり、物陰に隠れて二階から入り口付近を見下ろす。そこには青白い光を周囲に纏った男が立っていた。
(あれは……『蒼魔の銃王』ね。彼も私の顔ぐらいは知っていると思うけど……。
 見つからないに越したことはないわね)
篠は身を翻し、上の階へと上っていった。

ビルの最上階に辿り着いた篠は、一つの部屋の前にいた。
明かりはないが中から話し声がするので、件の男が中にいるのは外からでも確認できた。

「ヘヘッ、これだけありゃ暫くは遊んで暮らせるぜ。マリーの姐御には感謝しないとなァ!」
「そりゃいいかもしれないが……。お前、来る途中に警官を殺してきたんだろ?」
「ヘッ、サツが怖くて犯罪がやってられっかよ!」
「そうじゃない。問題なのはその通報を受けた『協会』の方だ」
「協会だろうがスイーパーだろうが何でも来いってんだ!返り討ちにしてやるぜ!」
「頼もしいことで……。ま、その為に俺達が来たんだけどな」

「頭が悪そうだとは思ってたけど……ここまで馬鹿だったとはね。
 ま、せめて最期まで足掻きなさい。それがあなたに出来る私への感謝の印よ」
暗闇の中、篠は一人静かに嗤って闇へと身を潜めた。

【御影 篠:犯罪者達と獅子堂がいる廃ビルに侵入。最上階付近に潜伏】
218獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/07/20(水) 20:15:44.02 0
獅子堂は鋭い眼光で周囲を見渡しながら、油断なく上階へと歩を進める。
トラップは無い。各所に見張りが居るかもしれないと警戒していたが、今のところ人影もない。
だがその顔から訝しげな表情は消えない。その原因は先程から目に付く足跡だった。
ただ埃を蹴っただけの足跡ではない―――濡れた足跡。
(俺が突入する直前に何者かが侵入している、ということか)
思い返してみれば…1階と2階をつなぐ階段の踊り場は特に足跡が乱れ、無数の水滴が振り撒かれていた。
つまり直前の侵入者は獅子堂の存在に気付いて身を隠したことになる。
(しかし標的の一味であるならばとうに仲間に知らせて、待ち伏せするか、逃げるか、奇襲を掛けてくるはず…)
ふと連絡員からの電話の内容が頭をよぎる―――「共同者がいた場合は独断を避けろ」
そもそも治安維持に携わる公人に対する殺傷事件。
ダブルブッキングどころか三重、四重の依頼が複数のスイーパーに入っていても不思議ではない。
だがそれも腑に落ちない。濡れた足跡は最上階に向かうにつれて激減している。
相手は獅子堂の追跡を巧みに避けるようにルートを選択しているということだ。スイーパーならあっさり協力を持ちかけてくるはず。
そこが謎。敵でもない、味方でもない第三の存在がこの廃ビルに潜んでいることになる。
(まあいい。任務達成の障害になるなら排除するまで。何事もなければ状況分析など後回しだ)

身に纏う『惑星』の様な思考の堂々巡りをやめると同時に獅子堂は足を止めた。
その目の前には最上階の一室。光はないが下卑た笑い声が聞こえてくる。
「ヘヘッ、これだけありゃ暫くは遊んで暮らせるぜ。マリーの姐御には感謝しないとなァ!」
「そりゃいいかもしれないが……。お前、来る途中に警官を殺してきたんだろ?」
「ヘッ、サツが怖くて犯罪がやってられっかよ!」
「そうじゃない。問題なのはその通報を受けた『協会』の方だ」
「協会だろうがスイーパーだろうが何でも来いってんだ!返り討ちにしてやるぜ!」
「頼もしいことで……。ま、その為に俺達が来たんだけどな」
くくっ、と獅子堂の口から思わず笑い声が漏れる―――ゴミが、スイーパーを返り討ちにするだと?
「なあ、なんか聞こえなかったか?」
「あ? 気のせいだろ? なんなら手前が見てこいよ」
「ああ、そうす―――」
1人の男がドアノブに手を掛けるのと、そのドアが轟音と共に吹き飛ぶのは同時だった。
「―――る!?」
男は驚愕の表情を浮かべたまま扉もろとも壁に激突し、そこから血溜まりが出来始めた。
折れた肋骨が胸を突き破り、首はあらぬ方向を向き―――見紛うとこなき、即死。
「す、スイーパー!?」
「な!?」
「ご名答。俺は―――」
獅子堂の言葉とともに4発の『惑星』が軌道を変え、驚愕の声を発した2人の男の側頭部と首の中心に着弾する。
脳、大動脈、気管、脊髄を一瞬で破壊された男達も即死だった。
「―――この世のゴミを始末する綺麗好きだ」
「…へっ! 来やがったなァ!」
2人の仲間の死を前にしてもせせら笑う男。獅子堂は直感した。こいつが依頼の標的だと。
「…払っても払っても降り積もる埃…攫っても攫っても溢れる汚泥…さあ、掃除の時間だ」

【獅子堂 弥陸:犯罪者3名を殺害。残る異能犯罪者達と戦闘開始】
219黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/07/21(木) 03:07:10.86 0
市内全体に轟く雷鳴。地を叩く激しい雨音。

──ジリリリリリリリリ!!

そしてどこからか、それらの音に混じって聞こえてくる、非常用のベル音。
その音が聞こえるのは、市内中央から北寄りに位置するとある豪邸からであった。

「金庫を破られた! 何てことだ、『落葉(らくよう)』が無い!」
「賊だ! 賊が侵入したぞー!」
「まだ遠くには行っていないはずだ! 探せェーー!!」

邸内には赤い非常灯がつき、数千坪はありそうな庭園を無数の黒服が忙しくうろついている。
彼らは探しているのだ。『落葉』という、時価数億は下らない緋色のダイヤモンドと、それを盗んだ賊を。

「おのれ、ただじゃ済まさんぞ! どこに行きやがった!」
「いた! いたぞ! 正門前だ!」

発見の報せに引き寄せられるかのように、わらわらと庭園の正門前に集まる黒服。
そこには、巨大なサーチライトに映し出された、全身黒尽くめの人物が仁王立ちしていた。

「女!?」
一人が叫ぶ。スラリとした体、顔から下半分をマスクで覆っているものの、
全体的に整っているように見える顔立ち、そして長い髪を後頭部で纏めた髪型。
女に見えても無理はない。
「フッ……」
しかし、犯人がマスク越しに漏らした小さな声こそ、あの黒羽 影葉のものに間違いなかった。

「へっ、大胆なことをするアマだが、ちっとばかし火遊びの度が過ぎたようだな。
 二度と悪さができねェよう、ここで死んでもらうぜ!! 撃ちまくれェェェーーーー!!」

容赦なく鳴り響く銃音。しかし、男は動じなかった。
むしろ動揺していたのは、黒服達の方であった。
「なっ……!?」
驚愕する黒服。何と、犯人を蜂の巣にせんと撃ち放った銃弾の悉くが、外れたのである。
犯人は先程から一歩も動いてはいない。にも拘らず、一発も命中しなかったのだ。
黒服達の腕前が悪かった──それだけでは納得できようはずもない異常な光景。
「ど、どういう、……!?」
それを何とか理解しようと懸命に考える彼らだったが、その直後に全員が息を止めた。

「……」
黒羽が右手をゆっくりと前方にかざし、掌を開いていく。
意図不明の行動だが、彼らが思わず息を止めたのはそれ故ではない。
開かれた掌に“あるモノ”を、見てしまったからである。
「!? ま、まさか、あれは『邪気眼』……!?」

特殊な人間にしか発現しない『第三の眼』の存在を視認して、男達はたじろいだ。
そして、彼らに凶悪な衝撃波が襲い掛かったのは、その時であった。

「ぎゃぁぁぁあああああああ!!」
「がぁぁぁぁぁあああああああ!!」

いや、それは衝撃波というよりも、まるで“爆発”。
突然の爆発に曝された黒服たちが、一瞬の内に重傷を負って倒れ伏していく。
ある者は腕が千切れ飛び、ある者は足の肉片を飛ばし、またある者は腹部をズタズタにされて……。
220黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/07/21(木) 03:09:57.78 0
「いぃぃいいい痛ぇぇぇええええ!!」
「ひぎぃいいい!」
「た、助けてくれぇぇえええ!!」
「大丈夫か! しっかりしろ!」
「な、なんだ!? 一体、何があったんだ!?」

「チィ! やはりあのアマ……!」
一人が黒羽に向き直ると、そこには既に彼の姿はなかった。
慌てて周囲を確認しても姿はない。
あったのは、外敵の侵入を防ぐ為に築かれた、分厚く高大な壁だけ。
「壁を越えて逃げたんだ! 急いで後を追うぞ!」
誰かが叫んだ。しかし男は、それを広げた手で制止させた。

「待て! あいつは道具を持っている様子はなかった。つまり、自力であの壁を越えたんだ。あの一瞬で!
 それにあいつの掌に在ったあの眼ン玉! ありゃあ、邪気眼に違いねェ!
 俺達が追ったところで返り討ちに遇うのが関の山だ! ここは一先ず、邸内の警護を固めるんだ!」
「しかしアニキ、このままおめおめと逃がしたら、ボスに合わせる顔が……」
「今度ばかしは俺達でも相手が悪ィ。餅は餅屋だ……急いでスイーパーに依頼しろ!」
「スイーパーに!?」
「他に手がねぇ! 金はいくらでも出すと街中のスイーパーに伝えろ!
 ……何してやがンだ急げェ! ボスが帰ってくる前に片ァつけるんだ!」


──その様子を近くの森の木々の上から窺っていた黒羽は、マスク越しにほくそ笑んでいた。
(流石に裏の世界を良く知る極道。俺が異能者だと直ぐに気がついたか。
 まぁ、わざと見つかってやったり、敢えて異能を使ってやったんだ。
 気がついてもらわなくてはな。後は──)

枝を蹴り、数メートル先の枝に着地、そしてまた跳ぶ。
それを繰り返し異常なほどのスピードで森を抜けた黒羽は、
近くの民家の屋根に飛び移り、そこから近くの道路へと降り立った。
(後は──スイーパーが来るのを待つだけだ。精々、俺は賊らしいところに──)

今後の手筈を整理する──その途中で思考が止まる──。
ふと気がついた気配、そして視線。
それは猫や犬などの動物のもの、ではない。それよりも大きい、明らかに人間のもの。

「……」
ギンと、鋭い視線をそこへ向ける黒羽。
──そこで見たものは、黒い髪の毛に混じった金髪と、眼帯が特徴的な女の子。
見た目からして年齢は高校生か、女子大生といったところだろう。
(通りすがりの一般人……? それとも……)

【黒羽 影葉:市内北にあるヤクザの豪邸から宝石を盗み出し、街中のスイーパーに依頼が伝わる。
        紅峰 閃莉と遭遇。現時刻PM8時ごろ】
221御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/07/21(木) 04:22:08.10 0
>>218
(来たわね。紙面上でのデータは知っているけどこうして実際に見るのは初めて。
 お手並み拝見といきましょうか)

獅子堂の笑い声で彼が最上階に上がって来たのを確認し、先程の扉に視線を移す。
中には数人の異能犯罪者達がいる筈だ。
篠は気配を完全に殺しており、周囲も暗闇であるため、余程の手練でも気づくかどうかと言うところだろう。

「なあ、なんか聞こえなかったか?」
「あ? 気のせいだろ? なんなら手前が見てこいよ」
「ああ、そうす―――る!?」
轟音と共に扉が吹き飛び、一人の異能者が息絶える。
「す、スイーパー!?」
「な!?」
「ご名答。俺は―――」
動揺している犯罪者達に言葉を返した獅子堂の周囲から、四つの青白い光が放たれる。
その光は動揺していた二人の男の首から上──人体では最も危険な場所に的確にヒットする。
生命活動に不可欠な部分を一瞬で貫かれた二人は、断末魔を上げることなく事切れた。

「―――この世のゴミを始末する綺麗好きだ」
その光景に、篠は額に手を当てて天井を仰いだ。
(ふぅ……。流石に雑魚の寄せ集めじゃ無理だったか。
 一分くらいはもってくれると思ってたけど、十秒ももたなかったわ)
残る犯罪者は一人。篠──正確にはエリ──が先程連絡した人物のみである。

「…へっ! 来やがったなァ!」
「…払っても払っても降り積もる埃…攫っても攫っても溢れる汚泥…さあ、掃除の時間だ」

この最後に残った男、先程やられた三人とは少し違っていた。
仲間の死を見ても動揺するどころか気にも留めないところから分かるように、性格は残虐非道。
しかしこれで中々に頭は切れるのだ。伊達に一人でも犯罪を遂行していない。

(コイツ……そんじょそこらのスイーパーとは格が違うみてェだな。
 姐御に救援を求めてる時間はない。なら俺一人で切り抜けるしかねェな)
頭の中でこれからの行動を組み立てていく。
(まず俺の攻撃はほとんど通じねェと考えた方がいいだろう。
 この高さから飛び降りれば流石に無事じゃすまねえ)
チラリと背後の窓から下を見る。五階に位置するこの部屋から、地面は遠い。
(怪我覚悟で飛び降りるか……いや、そんなことしたら追いかけてきたアイツに確実に捕まるだろう。
 なら正面突破しかねえか……)

「いくぜェ……」
男が掌から小さな炎の塊を三つ出す。どうやらこの男は炎を扱う能力者のようだ。
「そら、よ!」
その塊を獅子堂の正面と左右に投げる。丁度彼を三角で囲むような感じに配置された。
次に男は獅子堂に向かって掌を翳した。そこには生み出された炎と同じ、赤い瞳があった。
「食らいな!『華焔』(かえん)!」
男が叫ぶと同時に掌の瞳が輝き、獅子堂の周囲にあった炎の塊が爆発的に大きくなる。
それは宛ら、蕾から花が咲いたようだった。
(これで視界は封じた。今の内にずらかるぜ!)
男は技を発動させると共に、獅子堂の脇を通り抜けようと走り出した。

破壊された扉の外では、篠が暗闇の中、壁に背を預けて明るくなった室内を見ていた。
(さて、どうなるかしら?もしこのまま逃げられたら大したものだわ。
 でも……彼は逃がさないでしょうね。……ん?)
ふと通信機が振動しているのに気が付く。取り出してみると、そこには緊急の文字。
(依頼?──宝石泥棒、か。……こっちが片付いたら見に行ってみるのいいかもしれないわね)

【御影 篠:獅子堂達がいる部屋の外で闘いを観戦。黒羽の起こした事件を知る】
222獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/07/21(木) 22:21:24.76 0
>>221
「いくぜェ……」
男の掌から線香花火の火の玉の様な赤い光が放たれるのを、獅子堂は見た。
「そら、よ!」
一瞬で、そして確実に自分を中心に包囲するように、三角形の頂点の位置に光が灯る。
(!)
目の前の男を完全に補足すべく右腕を素早く突き出し、相手の額に銃口を向ける獅子堂。
だが遅かった。男が掌を翳し、そこに開いた赤い瞳に僅かに気を取られた瞬間に、男の叫び声が部屋に響く。
「食らいな!『華焔』!」
(な!?)
赤い光は巨大な火球と化して獅子堂の姿を飲み込んだ。
「うぐっ!」
右腕を突き出していたのが仇となった。前方の火球から噴き出る灼熱がライダーグローブを包み込む。
それでも得物を手放さないのは流石といったところか。しかし、先程まで身に纏っていた5発の『惑星』は焼失していた。
(予想以上に強力な能力…まさか残りの『惑星』を一瞬で蒸発させるとは…!)
そして脇から聞こえてくる素早い足音―――男が逃走を図っている。
「だが甘い!!」
瞬時に左手をベルトの左側へとやり、引き抜く。そこには右手に握る拳銃と完全同型の銃が握られていた。
「ぎゃああああァァァ!!!」

獅子堂が振り返ることもなく2発の銃声が響かせるのと、男が悲鳴を上げて倒れたのは同時だった。
―――魔弾『バックドラフト』―――銃口からではなくリボルバーの弾倉から弾丸を発射する魔技。
『魔銃』から放たれた2発の弾丸は、男の足首を完全に砕いていた。
「…本来、背後からの不意打ちに対抗すべく編み出した技だが…こういう使い方も可能か」
獅子堂は呟きながら跳躍し、這いずり逃げる男の前方へと着地。両手に握った拳銃を振り抜いた。
「ひぐぁあああぁぁ!!!」
一瞬で男の両手首が切断される。切り落とされた掌はビクビクと痙攣し、赤い瞳に宿る光は消えていく。
パーフェクト・ジェミニの銃口からは刃渡り30センチ程の鋭い刃が生えていた。
「…魔弾『銃剣』…尋問する予定だったが、貴様がお喋りなおかげで手間が省けた。
“マリーの姐御”とは…『ブラッディ・マリー』のことだな?」
「ああ! そうだ! 頼む…殺さないで!!」
一切の抵抗手段を失った男はガクガクと首を縦に振りながら命乞いを始めた。
「死にたくない! 死ぬのが怖い! 怖いんだ! 助けて…下さい! お願いです!!」
それを聞く獅子堂は、ふっ…と優しく微笑んだ。そして男の元を去るべく踵を返す。
「あ…ありがとう! 本当にありがと―――」
ガフォン! と銃声が響くと男の両目から光が消えた。その後頭部が爆ぜ、血と脳漿が噴き出す。
「ギルティだ…貴様は死なねばならん。そして地獄すら生温い」
足元に目をやると先程切断した掌が2つ転がっていた。
(任務達成の証拠はコレでいいな…協会へ報告に行くか)

【獅子堂 弥陸:異能犯罪者を殺害。協会本部へ向かう】
223御影 篠 ◆21WYn6V/bk :2011/07/23(土) 04:18:56.36 0
>>222
(勝負あり、か)
男が逃げるか、獅子堂が阻止するか──誰しもここで決着がつくことは予想できるだろう。
そして普通の人間なら、男が逃げ遂せて勝負が終わる、と思うだろう。だが篠は──
(彼──獅子堂君の勝ちね)
獅子堂の勝利を予見した。
獅子堂は炎で周囲を塞がれており、男は既に獅子堂の横を通り抜けようとしているのに?
──答えは次の瞬間に明らかになった。

「ぎゃああああァァァ!!!」
フロアに一つの悲鳴が響き渡る。炎がおさまり、周囲に暗闇が戻り始める。
その最中に見たものは──両の手首から先を切り落とされてのたうち回る男と、それを見下ろす獅子堂だった。

「…魔弾『銃剣』…尋問する予定だったが、貴様がお喋りなおかげで手間が省けた。
“マリーの姐御”とは…『ブラッディ・マリー』のことだな?」
獅子堂が男に質問する。男は震えながら必死に頷き、答えた。
「ああ! そうだ!頼む…殺さないで!!」
「死にたくない!死ぬのが怖い!怖いんだ!助けて…下さい!お願いです!!」
男が命乞いをした直後、獅子堂は男の頭を吹き飛ばした。初めから生かすつもりはなかったのだろう。

(やっぱりそこら辺にいるような犯罪者じゃ、ちょっと頭がよくてもこの程度、ね)
その問答を聞いて、篠は小さく嘆息する。
尋問されても答えないで、その場で舌をかんで自害する──そんなところまでは求めていた訳ではない。
(ま、所詮は雑兵ね。でも、彼に技を出させたのは評価に値するわ)

先程の攻防──獅子堂の後方にいた篠からは丸見えだったのだ。
男が横を通り抜ける瞬間、獅子堂の持つ銃から二発の弾丸が放たれた。
しかしそれは本来放たれるはずの銃口からではなかった。
その弾丸は、なんと銃身の後方──回転弾倉の部分から発射されたのだ。

(あれが彼の能力……。そしてあの銃……あれが『パーフェク・トジェミニ』ね。
 それにしてもあの銃、どこかで──)
記憶を辿る。しかし獅子堂が持つ銃と同じものは出てこなかった。
(気のせいなのか、忘れているだけなのか──ま、どっちでもいいわ。今は泥棒さんの方が優先ね)
懐から紙とペンを取り出す。何故持っているのかは謎である。

『裏口にあるバイクは自由に使っていいわ。面白いものを見せてくれたお礼よ』

そう書いて階段の手すりに貼り付ける。窓から飛び降りない限り目に留まるだろう。
(ま、仮に使わなかったとしても後で取りに来ればいいわね。──面倒だけど)
心の中でぼやきながら、付近の窓から音もなく飛び立った。


「エリ?私よ。さっきの泥棒さん、今どこにいるかわかる?」
建物から建物へと飛び移りながら、自宅にいるメイドに連絡する。
『いえ……事件のあったヤクザの邸宅付近の森を抜けた辺りでロストしています』
「そう。泥棒さんの特徴はわかる?」
『全身黒ずくめで長髪、顔の半分をマスクで覆っていたそうです』
「それだけわかれば十分だわ、ありがとう。とりあえずそこへ行ってみて、いないようならそのまま現場に向かうから」
『了解です!今場所のデータを転送します。お気をつけて、お嬢様』
通信を切り、送られてきた目的地に向かって更に加速した。

(この辺りね……。さて、目当ての人物はいるかしら?)
民家が立ち並ぶ景色の中、一際高い──と言っても五階建てだが──マンションの屋上に篠はいた。
(流石にもう逃げたか……あら?)
気配を消して屋上の淵に立ち、眼下を見下ろす篠。そこでふと二人の人物を発見する。
(あらあら、泥棒さんを追ってきたつもりだったけど……フフ♪)
それは、片や顔の半分以上をマスクで覆い、片や金髪交じりの黒髪、そして眼帯が特徴的な二人の少女だった──。

【御影 篠:廃ビルを離れ移動。現在地:黒羽と紅峰の遭遇現場付近にあるマンションの屋上】
224紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/07/23(土) 15:48:31.51 0
>>220

「雨が強くなってきたか……」

街に着いて数刻。雨が降り出して静かになった夜のビル街の上を駆けていた。
屋上に着地したら再び別のビルへと跳躍。"装雷"によって肉体を強化している閃莉にとっては容易な事だった。
閃莉がまず手に入れていたいものは情報だった。二年前までこの街に暮らしてたとはいえ、
状況も立場も変わってしまった彼女にとってこの厨弐市はいつ何が起こるか分からない魔窟となっていた。

こうして飛び回っていれば何らかの事件に遭遇する事だろう――と閃莉は考えていた。尤も彼女自身そんな事はありえないと思っていたが。
そう思っていた矢先、閃莉の強化された聴覚が凄まじい轟音を捉えた。

(爆発音……! あの位置は……まさか)

閃莉は小高い民家の上に着地し、その爆音のした方角を凝視する。
そこには閃莉の父――紅峰財閥が度々取引を行っていた応龍会というグループの邸宅があった。
応龍会は公私共に紅峰と友好関係にあり彼女自身も何度かグループの総締めと会った事があった。

「概ね、襲撃にでも遭ったのだろうな。……しかしあの人に会えば色々と聞き出せるかも知れん……行く価値はあるか」

閃莉はフッ、とほくそ笑み応龍会の邸宅へと駆け出した――
225紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/07/23(土) 15:50:53.55 0
――――

「ん……そろそろ終わりか」

中央区を抜け邸宅も大分近くに見えた頃、突如として小さな路地裏に忍び込み、閃莉は"装雷"を解除した。
同時に全身を走っていた電流は収まり、鮮やかな金色も漆黒へと染まっていった。

「制限時間があるというのも不便なものだ……」

"装雷"は全身に電気を巡らせ五感及び肉体を強化する技。だがその使用には30分という制限もあった。
強すぎる電気を全身に行き渡らせる為、長時間発動していると閃莉自身が電気を制御できずに死ぬ危険性があるからである。
故にその制限時間は30分。再度の使用には一時間のラグが必要であった――。

(チッ、スイーパーとの戦闘は出来るだけ回避しなければ――)

やむをえず閃莉は、市街に出て地上から応龍会を目指して歩きだす。
その間、彼女は考えに耽っていた。今後の事態、スイーパー、父の仇――――

「とりあえず今の状況では不利すぎる……この街に居るからには戦闘は必須、仲間が必要になって―――……」

閃莉は歩みを止め、暗闇の向こうに居る何かをジッと睨み付けた。
只ならぬ異能力の気配――閃莉はそれを感じ取ったのだ。
226紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/07/23(土) 15:53:06.78 0
(マズイ……この方角だと応龍会を襲った人間か……さて、吉と出るか凶と出るか――)

暗闇の向こうから人影が少しずつ閃莉の方へと歩んでくる。
豪雨の中、視界が悪くはっきりと見えないが彼女の目の前に現れたのは――覆面をした女だった。
長身のおかげで若干大人びて見えるが、年齢は閃莉と同等と言ったところだろうか。彼女もこちらに気付きジッと閃莉を見つめている。

(どちらにせよ接触しない事には始まらないか――)
閃莉は素性も分からない彼女に近づき、左手を向けて話を始めた。

「始めまして、その包み隠さない気配……君も異能力者だな?私の名は紅峰 閃莉」

閃莉は自らの名を名乗り、言葉を続ける。

「突然の事で申し訳ない、私はこの街に来たばかりで何も分からないんだ。そこでいくつかの質問に答えて欲しいのだがその前に……」

さらに近づき、閃莉は彼女を見上げる様な形で静かに告げた。

「君は組織の人間か?」

【紅峰 閃莉:街北部にて黒羽 影葉と接触、質問をする】
227秘社境介 ◆K3JAnH1PQg :2011/07/24(日) 18:47:18.54 0
>>210
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン…
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く
「──はい、では今日の授業はここまでとします。続けてホームルームをやるのでまだ帰らないで下さいね」
(ん…もうすぐ下校時間か)
心の中でそう呟く男、秘社境介
「以上です。何か質問はありますか?なければこれで──」
秘社の担任教師、御影篠が生徒達に言うが、生徒達は殆ど鞄を持って勝手に出て行ってしまう
(皆気が早いよなぁ…)
やれやれ、とため息を吐く秘社。それはとても小さなものなのだが
「あ──もう、仕方のない子達ね」
一瞬怒ったような顔を見せたが、すぐに苦笑に変わる。その顔は優しげだ。
「では、今日はこれでお終いです。部活や委員会のない生徒は速やかに帰宅して下さいね」
(よし、じゃあ、帰るか)
御影の言葉を聞いて秘社も鞄を持って立ち上がる
「…ここなら見つからないな。社長権眼(しゃちょうけんげん)…」
周りを確認し、手袋を外して能力を使う秘社。するとすぐに、大きめの車と私服の男が現れる
「お乗り下さい、社長」
「ん。ご苦労さん。何か変わったことは有った?」
車に乗りながら言う秘社
「いえ、特には。ですが異能犯罪者による犯行が増加しているようです。気をつけたほうがいいかと」
「そう。うちの会社が狙われなきゃ良いけど。ま、どんな人間が相手だろうと、数と卑怯で押し切るだけさ」
「…社長らしいですね」
そんな会話をしながら、車が一つのビルに向かう。巨大企業、誇束株式会社(こそくかぶしきがいしゃ)――というのは表の姿であり、その実は秘密結社「秘境」の本社ビルである
「「「「お帰りなさい、社長」」」」
社員達が挨拶をする
「ただいまー」
それに応える秘社



228獅子堂 弥陸 ◆VENubAAGGE :2011/07/24(日) 21:41:40.23 0
殺した標的の両手首をポケットから取り出したジップロックに詰める獅子堂。
(傍から見たら俺は猟奇殺人者だな、それにしても…)
冷めた目で自身の格好を改めて見直す。コートは右袖が完全に焼失し、ライダーグローブも真っ黒に焦げている。
「…一張羅が台無しだな。新しくオーダーしなければ…今回は収支ゼロになりかねんな…」
ぼやきながら階段に目を向けると、そこにはいつの間にか張り紙があった。
『裏口にあるバイクは自由に使っていいわ。面白いものを見せてくれたお礼よ』
(やはり…俺に対する害意はなかったが、何者かが潜んでいたのは九分九厘間違いない。
 そして先程の戦闘を見ていた…文体から察するにもう此処には居ない様だな)
窓から裏口を見下ろすと、確かにそこにはバイクが乗り捨ててあった。
この郊外から協会本部へは少々遠い。普通なら渡りに船とばかりに拝借したくなるところだが―――
(まさかトラップ―――エンジンを点けた途端に爆発なんてことは…有り得なくもない)
スイーパーに成ってからというもの、獅子堂は何事にも疑いと警戒の目を向けるようになっていた。
まあ、だからこそ生き延びてきたのだが。1分ほど左手で顎を撫でながら出した結論は―――
「………徒歩で行こう」
その言葉とともにトリガーを引く獅子堂。螺旋を描いて発射された弾丸はバイクの給油口に突き刺さった。
直後、爆炎が吹き上がる。
(何者かは知らんが…見物料ってことで)

そして2時間後、獅子堂の姿は協会本部の受付口にあった。
「任務完了か」
「ああ、コレと警官殺傷事件の現場の遺留品とでDNA鑑定でもしてくれればいい」
「ご苦労だった。報酬は例の口座に振り込んでおく」
「…あと調べたいことがある」
「なんだ?」
「『ブラッディ・マリー』」
「少し待て…」
連絡員兼事務処理係の男がデータバンクを漁り始めるのと同時に、獅子堂はベンチに腰かけて溜息をついた。
その顔には先程と同じ―――廃ビルを探索していた時と同じ訝しげな表情が浮かんでいた。
何かが引っ掛かる。具体的には表現できないが、何とも言えない違和感。
「待たせた」
答えの出ない思案から獅子堂を現実に引き戻したのはその一言。連絡員の男がパソコンのディスプレイを覗き込んでいる。
「白紙に等しいぞ、これは」
「…」

―――『ブラッディ・マリー』
数人の異能犯罪者の証言に出たことがある人名。犯罪の指導を行ったものと推測される。詳細不明―――

「さっき始末した男もこの名を口にした」
「データベースに追加だな。そうそう、応龍会から不特定多数のスイーパーに依頼がある」
「…ゴミ屋敷にゴキブリが出ようが興味がない」
吐き捨てる様に一言で依頼を蹴ると獅子堂はベンチに横になった。その口から寝息が聞こえだすのには1分とかからなかった。

【獅子堂 弥陸:任務完了を本部に告げ仮眠をとる】
229黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c :2011/07/24(日) 22:46:34.25 0
>>224>>225>>226
紅峰 閃莉──自らをそう称した少女は、続けてこう言った。
「君は組織の人間か?」──と。

組織──その二文字は、彼女にとって一体何を指すものなのか?
暴力団だろうか、それとも何かの公的機関か、あるいは協会のことか。
いずれにしても、組織というものに属したことのない一匹狼の黒羽にとっては、
YESと答えられるような質問ではなさそうである。

「……組織? 何のことを言っているのかサッパリだな」
小さく、マスク越しに放たれた声。一瞬、少女の目つきが変わった。
恐らく気がついたのだろう。向かい合う黒尽くめの女が、実は男であることに。
「それより……『君も異能力者だな?』と訊くところを見ると、やはりあんたも異能者のようだな。
 俺を追ってきたスイーパーではなさそうだが……迂闊に俺に近付いたのは間違いだったな」

言いながら、黒羽は開いた掌を、ゆっくりと紅峰に向けてかざした。
周囲の暗闇と相反する、紅い色をした瞳がギロリと彼女を睨みつける。
──ボン! っという爆発音と共に、根元ごと折れた近くの外灯柱が、
彼女を押しつぶさんと倒れ掛かってきたのはその時のことであった。

「あんたに恨みは無ぇし、本来ならあんたに用もない。
 が、わざわざ応龍会で大きな騒ぎを起こしたついでだ。
 あんたには精々、強力なスイーパーを誘き寄せる為の生贄になってもらおうか」

黒羽は倒れた柱をかわしていた紅峰を、その鋭い視線で射抜いた。
そしてそれは、彼女に向けて再び手をかざしたのと同時であった。

「さぁ、異能者なら何か“能力(チカラ)”を見せてみろ。でないと、死ぬぜ?」

【黒羽 影葉:紅峰 閃莉と戦闘に突入。目に見えない攻撃を仕掛ける】
230紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/07/25(月) 12:09:42.16 0
>>229

「……組織? 何のことを言っているのかサッパリだな」

女からの答えは協会の存在を知らない――つまりNOだった。
何らかの組織の人間ではない……という事は閃莉と同じ存在であるということ。
だが、閃莉は警戒を解く事はせず、殺意を込めた眼で彼女を睨んだ。相手の眼もまた、底知れぬ殺気を放っていたからだ。
(単独で行動し、性別までも偽装する……隠密を主とした人間か)

そして彼女――覆面の男は右手を閃莉へとかざし、静かに言葉を続けた。
その手には紅く輝く魔眼――

「それより……『君も異能力者だな?』と訊くところを見ると、やはりあんたも異能者のようだな。
 俺を追ってきたスイーパーではなさそうだが……迂闊に俺に近付いたのは間違いだったな」

それと同時――周囲に破裂音が鳴り響き、そびえ立っていた外灯が閃莉へと倒れ掛かってきた。
その気配を感じ取った彼女は咄嗟に後方へと間合いを取りつつ、それをかわす。
爆発系の能力なのだろうか?鉄製の外灯はまるで木の枝のように容易く折れ、行き場の無くなった電気がバチバチと光っていた。

(見えない爆弾……と言ったところか―― チッ……全部が全部最悪の結果じゃないか――)
「あんたに恨みは無ぇし、本来ならあんたに用もない。
 が、わざわざ応龍会で大きな騒ぎを起こしたついでだ。
 あんたには精々、強力なスイーパーを誘き寄せる為の生贄になってもらおうか」

男は閃莉を睨みつけ、再び彼女に向けて手をかざした。

「さぁ、異能者なら何か“能力(チカラ)”を見せてみろ。でないと、死ぬぜ?」

だが閃莉は男の挑発に怯む事なく、むしろ嬉々として小さな笑みを浮かべながら男に近づき、
向き合うように立つと静かに左手をかざした。
231紅峰 閃莉 ◆AMK25iRlV4rC :2011/07/25(月) 12:11:28.73 0
「フッ……生憎だが私にも目的というものがあるのでね。それを果たすまで死ぬ気は……ない」

そして閃莉の眼が金色の輝きを放ち、漆黒の長髪は一瞬にして鮮やかな金色へと色を変えた。
それと同時、彼女はまるで戦いが始まるのを楽しむように高らかに叫んだ。

「さぁ、この街の異能者の力を見せてもらおうか……! 我が能力、その"眼"に刻み付けるといい――!!」

閃莉が左手で水平に空を切ると、バチバチとうねる電流が目の前に現れる。
激しい電気の奔流は三つに分裂し、細長い棒状へと姿を変えた。

「我が電振眼は雷を司る力。その迅さは天雷に匹敵する――行け、雷(いかづち)の矢よ!」

瞬間、閃莉の言葉に応えたかのように三本の矢が男目掛けて一斉に放たれた。

【紅峰 閃莉:黒羽 影葉と交戦。攻撃を仕掛ける】
232黒羽 影葉 ◆ICEMANvW8c
>>230>>231
「フッ……生憎だが私にも目的というものがあるのでね。それを果たすまで死ぬ気は……ない」
左手をかざし、そう言った少女の、紅峰の顔は笑っていた。
怖気付くという文字など自分の辞書にはないというように、
闘いこそ望むところであるとハッキリ示すかのように。
(笑ってやがる。なるほど、闘いは慣れているというわけか)

“眼”が金色に輝くと共に、黒光りさえしていた美しい紅峰の黒髪が、瞬時に金髪へと変貌していく。
「さぁ、この街の異能者の力を見せてもらおうか……! 我が能力、その"眼"に刻み付けるといい――!!」
そこには既に先程までの物静かな彼女の姿はなかった。
あったのは、向けられた敵意を真っ向から粉砕せんと、力強く吠える一人の異能者の姿であった。
(中々心地よい殺気──こんな感覚は久しぶりだ。どうやら……価値のある闘いになりそうだな)

フッと小さく笑みを零した黒羽は、かざした指の関節を、パキパキと鳴らした。
次はお前の番だ、早く何かしてみろ──と、挑発するかのように。
「!」
そんな黒羽の目つきが変わったのは、その次の瞬間のことであった。
タイミング的にもわざわざ挑発に応えたわけではないのだろうが、
紅峰は空間に激しくうねる三つの電流を出現させると、それを瞬く間に細長い棒状に変形させたのだ。
(電気で構成された武器──奴は電気を操る異能者か──)

「我が電振眼は雷を司る力。その迅さは天雷に匹敵する――行け、雷(いかづち)の矢よ!」
黒羽が紅峰の異能の正体を知ると同時──
彼女は、高らかに叫んで、三つの雷を空間に走らせた。

──「その迅さは天雷に匹敵する」──という言葉が事実ならば、
彼女から精々三、四メートルの地点にいた黒羽には、かわすことは不可能に近いだろう。
しかし──そういった“本来”の予測は、異能者の闘いでは無意味に他ならない。

ボボボンッ!!

矢が放たれた直後──二人の間の空間を、突然の爆音が渦巻いた。
その爆音の中心にあったのは、紛れもない雷の矢──。
思いもよらぬ障害に曝され、その軌道に微妙な変化が生じた三つの矢は、
黒羽の体をわずかにかすめて彼の背後の闇へと消え去っていった。
直撃間違いなしと予想される攻撃が思わぬ形で外れる──それが異能者の闘いなのだ。

「──運がよかったのは、果たしてどっちだろうな?
 予め繰り出していた俺の攻撃に、あんたの矢がぶつかって結果として俺が防いだ形になったのか。
 それとも、俺の攻撃を、結果としてあんたが矢で防いだ形になったのか……」

ズイっと一歩前に出た黒羽は、静かに佇む紅峰に意味深な視線を送りながら、やがて続けた。
「あんたは俺の力を見せてみろと言ったが、そのあんたには俺の攻撃が見えていない。
 わからないか? あんたは初めから、俺の『空操眼』によって作られた“こいつ”に囲まれている──」
右手人差し指の関節が、パキッと鳴る。
瞬間──紅峰の右腕が爆音を轟かせ、血肉を爆ぜ飛ばした。

「──『エアプレッシャーノヴァ』──。周囲の空気を圧縮し、対象にぶつけて炸裂させる爆弾だ。
 こいつは後二発、あんたの周囲に漂っている。そして俺の意思一つでいつでもあんたに向かう。
 さぁ、どこから来るかな? 右か、左か、それとも──」

マスクに覆われた黒羽の口元が、若干釣りあがる。
それは彼の作った空気爆弾が始動する合図であった。
それら二つは、決して視認されることなく、音で気取られることもなく──
確実に紅峰の“前後”から迫りつつあった──。

【黒羽 影葉:紅峰の右腕を負傷させ、更に彼女の前後からエアプレッシャーノヴァを向かわせる。
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