コテハン至上主義!タケルたちの愉快な雑談スレ♪

このエントリーをはてなブックマークに追加
226伊織
今日短めです。やはり、長ったらしいのは良くありませんね。
「伊織のハメハメアドベンチャー」
過去ログ>>35 EVO.7>>36 EVO.8>>157-158 EVO.9>>167-168 EVO.10>>173-174 EVO.11>>194 EVO.12>>204 EVO.13>>211-213
原案:八神ヒカり  作:火田伊織
EVOLUTION.14 さらば一乗寺賢

ざあ・・・
雨の降る音にかき消されることも無く、悲しい、悲しい声がする。
「うっ、うっ、賢ちゃん・・・」
「一乗寺君・・・」
「賢君・・・」
「賢・・・」
一乗寺さんのお母さんやクラスメイト、京さんのすすり泣く声。お父さんや大輔さんは、気丈にも涙をぐっとこらえていた。
今日は都内でもかなり田舎の方にある、とあるお寺で、お葬式が行われていた。この間、原因不明の氏に方をした、一乗寺賢さんの。
祭壇にはたくさんの花が飾られ、その中心に、とびっきりの笑顔で写っている一乗寺さんの、遺影がある。
僕は、数ヶ月前のことを思い出していた。あの遺影は、去年のクリスマスパーティーの時、みんなで撮った写真だ。その中の一乗寺さんの部分だけをくり抜いてある。
一乗寺さんが亡くなったその夜、彼の家に事件の可能性もあるとして、警察の人達が来ていた。しかし。
『外傷も無いし、毒物も検出されんことから、急性心不全かなんかやと思います。多分、事件やおまへんでっしゃろなあ。気の毒ですが・・・』
『ああっ・・・賢ちゃん・・・っ!』
一乗寺さんのお母さんは、その場で泣き崩れた。お父さんは、上を向いて歯を食いしばり、目を閉じて、涙を流していた。
だけど僕は、何故か確信に近い疑問を抱いていた。
心不全?そんなわけないじゃないか、アレは・・・。
頭の中で色んな考えが巡る。事件の謎を解き明かしている探偵のような気分だった。不謹慎だとは思うが、それが僕のデジメンタル、知りたがる心、つまり知識欲なのだ。
しかし、この時はまだ気付いていなかった。
邪悪な、闇の力が、そう、丁度このお寺を取り囲むようにして渦巻いていることに。
『クックックッ、もうすぐだ。もう少しでオレは、この世界を、そしてデジタルワールドをこの手中に収める事が出来る!』
「えっ?」
そう、聞こえたような気がした。
「空耳、かな・・・・」
一瞬、他の人たちとは違う、斜め上の方を見た僕は、もう一度住職さんの背中に視線を戻す。
しばらくすると読経も終わり、一旦食事の準備に入る。
参列者の方々はトイレに行ったりちょっと外の空気を吸いに行ったりして、段々人がまばらになって来た。
僕も、外に出てみる。と言っても、外は雨が降っているので、屋根がある場所までしか、行けない。
渡り廊下の手すりに腰をおろした。足が少し宙ぶらりんになる。
手を前に伸ばすと、手の平に冷たい雨がぽつぽつと当たる。
(一乗寺さんの体も、今はこんな感じなんだろうか・・・)
雨から一乗寺さんの体温を想像していると、何かがキラリと光る。ゴーグルだ。
向こうに見慣れた人影を発見した。
あ、大輔さんと京さんだ。何してるんだ、こんな雨の中。
二人は雨に濡れながら、何か話をしている。
そうか、一乗寺さんが氏んで僕たちの中で一番悲しいのは、あの二人だもんね。
少々趣味が悪いかな、とは思いつつも、二人の様子をしばし覗き見る。
京さんは目を閉じて涙を流し、肩を上下に小さく揺らしながら、大輔さんに話をしている。
大輔さんはただ悲しく、切ない表情で京さんの話を聞く。大輔さんの方からはほとんど口を開かないようだ。
すると突然、京さんが大輔さんの胸に飛び込み、顔をうずめる。
その後の言葉は、なぜか僕にもはっきりと聞こえた。
「お願い、大輔、抱いて・・・」
「えっ!?」
きっと大輔さんは、僕以上に驚いたのだろう。

つづく