オリックスバファローズバトルロワイアル第3章

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オリックスバファローズバトルロワイアル第2章
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オリックスバファローズバトルロワイアル
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2代打名無し@実況は実況板で:2007/04/12(木) 21:54:19 ID:SSBz4Onw0
保管庫 
ttp://sbh.kill.jp/bs/
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広島東洋カープバトルロワイアル第三章
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千葉マリーンズバトルロワイアル第17章
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阪神タイガースバトルロワイアル第八章
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一億円プレーヤーバトルロワイアル第六章
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2323バトルロワイヤル
http://ex20.2ch.net/test/read.cgi/base/1172941102/l50

各球団のバトルロワイアルスレを見守るスレ10
http://ex20.2ch.net/test/read.cgi/base/1169219164/l50
野球バトルロワイアル総合雑談所3
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1172928243/l50
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【まとめサイト】 
讀賣巨人軍バトルロワイアル 
ttp://www.geocities.co.jp/Athlete-Crete/5499/ 
横浜ベイスターズバトルロワイアル 
ttp://www003.upp.so-net.ne.jp/takonori/ 
ttp://doubleplay.hp.infoseek.co.jp/ybbr05/ (2005年版保管庫) 
広島東洋カープバトルロワイアル 
ttp://brm64.s12.xrea.com/ 
ttp://www6.atwiki.jp/moriizou/ (2005年版保管庫) 
中日ドラゴンズバトルロワイアル 
ttp://dra-btr.hoops.jp/ (2001年版保管サイト) 
ttp://dragons-br.hoops.ne.jp/ (2001年版・2002年版保管サイト) 
ttp://mypage.naver.co.jp/drabr2/ (2002年版保管サイト) 
ttp://cdbr2.at.infoseek.co.jp/ (中日ドラゴンズバトルロワイアル2 第三保管庫) 
ttp://cdbr2004.hp.infoseek.co.jp/(中日ドラゴンズバトルロワイアル2004保管庫) 
福岡ダイエーホークスバトルロワイアル 
ttp://www3.to/fdh-br/
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阪神タイガースバトルロワイアル 
ttp://kobe.cool.ne.jp/htbr/ 
ttp://homepage2.nifty.com/sorasouyo/(旧虎バト保管庫・若虎BR紅白戦進行中 
千葉マリーンズ・バトルロワイアル 
ttp://www.age.cx/~marines/cmbr/ 
ソフトバンクホークスバトルロワイアル 
ttp://sbh.kill.jp/ 
ヤクルトスワローズバトルロワイアル 
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プロ野球12球団オールスターバトルロワイヤル 
ttp://www.geocities.jp/allstar12br/ 
アテネ五輪日本代表バトルロワイアル 
ttp://athensbr.fc2web.com/ 
鷲バト 
ttp://www.geocities.jp/trgebr/ 
ビリオネア・バトルロワイヤル 
ttp://tokyo.cool.ne.jp/birioneabr/index.html 
公バト 
ttp://fsbr.no.land.to/
6「126・My Sweet Ripsea 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/12(木) 21:57:52 ID:SSBz4Onw0
『…………せんかー………』
どこかでそんな声が聞こえた。ような気がする。
気のせいだ。きっと気のせい。こんな場所で女の子の、しかも彼女の声がするはずなんて
ないのだ。何かを迷っている自分の心のせいだ。
もうすでに決断を下したはずだ。なのにまだ微かな迷いを抱いている自分がいる。
自分には出来るのだ。普通の人以上のことが出来るのだ。出来るはずだ。
この島に来てから、彼はずっと自分に自己暗示をかけ続けていた。それは普段野球をする
上でも同じことだった。自分の出番直前になるといつも、そっと目を閉じて考えた。
(出来る。俺なら出来る。必ず成し遂げる。そして勝つんだ)
もう何度その言葉を繰り返しただろう。自分に言い聞かせただろう。
一緒に歩く仲間は無言だった。時折思い出したように声を出す。
「誰かいないかー!」
彼もつられて、負けずに声を出す。
「誰かー!」
心なしか自分の持っている懐中電灯の灯りが鈍いような気がする。仲間の持っている物の
方が明るく感じる。自分の電池は残り少ないのだろうか。これからの夜を持ちこたえてく
れるだろうか。いや、昼間だって暗い場所に入れば懐中電灯は必要だ。大丈夫だろうか。
これも運だとオーナーは笑うのだろうか。
『………………かー!』
また声が聞こえた。高い声。鳥の鳴き声か何かを聞き間違えているのだろうか。それとも
誰か、悲鳴でも上げているのだろうか。
彼女の声のはずがない。
そう、彼女はいつもグラウンド上で微笑んでいるのだ。
音楽に合わせて踊り、元気に飛び跳ね、時折悪戯な子供にスカートめくりをされて、ちょ
っと照れながらも走り回る。短いスカートがまた翻って、紺色のパンツが見える。勝気で
おてんばなお嬢さん。
ただのマスコット。球団のイメージを上げる為に生まれたマスコット。子供の遊び相手。
作られたイメージの上の生き物。ずっとそう思っていた。
7「126・My Sweet Ripsea 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/12(木) 21:58:38 ID:SSBz4Onw0
偶然見た光景があった。
その日、試合に出ることが出来ず、私服を着て一般客と同様のフリをして、けれど出来る
だけファンから離れた場所で観戦していた。完全に隔離されたVIP席に行かなかったのは、
自分のチームに対するファンの反応、思い入れなどを肌で感じてみたかったからだ。
試合が進むにつれて飲み物が欲しくなり、売店へと向かった。帽子を目深にかぶり、サン
グラスをして、うつむきがちの姿勢で歩いた。やや混雑している通路の中、まだ小学校前
と思われる1人の子供が泣いていた。どうやら迷子になったらしい。どこにでもこういうハ
タ迷惑な子供がいるものだ。どうせ親に「ここから動くな」と言われながらも勝手に動い
てしまったか、はしゃぎすぎてしまい自分の居場所がわからなくなってしまったかのどち
らかなのだろう。
厄介事に関わったら選手であることがバレてしまう。そうなったらサインやら何やらで余
計に面倒なことになる。早く立ち去ろうと思った。
そこに彼女が現れた。
泣いている子供に早歩きで歩み寄り、目の前にしゃがみ、その小さな頬を両手で優しく包
み込んだ。子供はキョトンとした顔で彼女を見上げた。すぐに係員が来て、子供の親を探
す声を上げた。その間、彼女は子供を抱き上げ、ずっと一緒にいた。抱き上げることをや
めてもしっかりと手を繋ぎ、その手を揺らしたり、頭を撫でたり、両手を繋いで一緒にク
ルクル回ったり、子供の寂しさや不安を紛らわそうと常に動いていた。
もうすぐ7回。彼女はグラウンド上で踊らなければならない。けれど、時間ギリギリまで一
緒にいるつもりなようだった。
やがてタイムリミットが来る。担当の係員が彼女に移動するように告げた時、ようやく子
供の親が現れた。子供は彼女から手を離して一目散に親に飛びついた。そして振り返り、
彼女に向かって満面の笑顔で手を振った。
「リプシー!大好き!」
たどたどしい言葉でそう言って。
彼女は何度もうなずき、手を振って、スタッフ通用口へと消えて行った。
直後、子供は親にせがんでリプシーのぬいぐるみを買ってもらっていた。きっとあのぬい
ぐるみを握って、7回に流れる『SKY』を踊るのだろう。リプシーお姉さんを真似て。ひょ
っとしたら赤い水玉のスカーフまで首に巻くようになるかもしれない。
8「126・My Sweet Ripsea 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/12(木) 21:59:22 ID:SSBz4Onw0
なんとなく、見ていて心が温かくなった。野球という環境にはこんな出来事、コミュニケ
ーションもあるのだと知った。
それ以来、彼女の存在がとても目につくようになった。
『……………かー!』
また声が聞こえた。あれは本当に彼女の声だろうか。幻聴なのだろうか。幻聴だとしたら、
彼はかなり危険な所まで来ているようだ。
(………リプシー)
心の中で呟いた。あの笑顔を見れば、彼の危険な思考も正常な方へと向かうだろうか。
「誰かー!」
また一緒にいる奴が怒鳴った。うるさい。静かにしてくれ。今は彼女の声を探したいんだ。
彼女ならきっとわかってくれるんだ。俺がずっと感じていたつらさ、苦労、愚痴、いろい
ろなものを黙って受け止めてくれるんだ。あの笑顔なら……
「20分たちましたね」
同行者の冷静な言葉が彼を現実へと引き戻す。
実は買ってあるのだ。たまたま見つけて、彼女に似合うだろうと思って、なんとなく買っ
てしまった小さなブローチ。金色に輝く錨の形。いつか渡そうと思いながらずっとその機
会を逃してしまっていた。いつでも渡せるように自分の鞄の中に今も入っている。
誰の目にもつかないように。
自分の心を隠すように。
(………キミの笑顔で俺を導いてくれ)

【残り・28人】
9「127・甲子園 1/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/12(木) 22:00:29 ID:SSBz4Onw0
時計を見た。バックライト機能付き。浮かび上がる文字盤を見る。トラップタイム終了ま
であと約35分といったところか。少し前、どこかで火薬が破裂したような音が聞こえた。
それが暗闇の中の2人を余計に不安にさせていた。
「おーい!北川はここやぞー!」
元気に北川が叫ぶ。
「誰かいませんかー!」
負けずに阿部健太も大声を出した。もう泣いている状況ではなかった。
自分で進まなければいけないのだ。逃げている場合ではないのだ。今回のトラップは誰か
と手を組まなければ生き延びることが出来ないのだ。
(生きるんだ!絶対生きるんだ!泣いてばっかりの情けない俺をペーさんは拾ってくれた。
手を差し伸べて助けてくれた。だから俺は、ペーさんの為にも生きるんだ!)
健太の足取りはしっかりしていた。もう泣きながら逃げ惑っている時の足運びではない。
(もしペーさんに何かあったら……)
唇を噛み締める。
(俺がペーさんを守るくらいの気持ちで行くんだ!)
本当にそういった行動が取れるかどうかは自信がない。けれど、それくらいの気持ちで健
太は歩いていた。
(絶対に)
その後に続く言葉は沢山ある。それら全てを健太は可能にしようとしていた。信じていた。
「誰かおるかー!」
北川の言葉の語尾が少し掠れた。自分の鞄からペットボトルを取り出し、水を飲む。そし
て健太の顔を見ると、いつもの笑顔を浮かべた。
「ええ顔つきになったな」
「はい?」
「さっきまでの泣き虫坊主とは違う、ええ顔つきになった」
「そりゃあ……ペーさんに会ったからですよ」
照れながら切り返す。北川も笑ってくれた。
「その調子や」
ペットボトルが健太に差し出される。健太は手を軽く振って遠慮すると、自分のペットボ
トルを取り出した。北川の気遣いに感謝しながら。
10「127・甲子園 2/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/12(木) 22:01:11 ID:SSBz4Onw0
「このトラップタイムが終わったら、落ち着くトコ探して軽くメシにしような」
「はい」
生き抜くことを信じている。
「あと1人でええんやけどな…【K】は2つあるんやから」
世の中うまくはいかないものだ。そんなことは身をもって知っている。
「なあ健太」
「はい」
「お前、高校ん時に甲子園行ったよな?」
「はい」
突然何の話だろう。健太は北川の顔をじっと見た。
「俺もな、3年の時に初めて甲子園行ったんや。キャプテンでキャッチャーで3番」
「すごい期待されてる感じですね」
「ああ、学校自体も初出場でな、えらいこと盛り上がってなあ」
「そりゃそうでしょうねえ」
「でもな、俺の打席、4打数1安打、フォアボール1つ」
北川は苦笑いを浮かべた。
「とても3番の仕事やないわな。当然試合も初戦負け。落ち込んだー。あん時はほんまに落
ち込んだ。申し訳なくてなー。自分はこんなに頑張ってんのに、何で上手くいかへんのや
って、自分を責めてな」
「………俺もそうですよ」
今度は健太が話し始める。
「俺の場合は、けっこう勝ち進んだんです。準決勝まで行って」
「すごいやん」
「2年生で背番号10なのに5試合全部先発して。俺が調子崩すと3年生の背番号1のエースが
出てくる感じで。俺、かなり点取られましたよ。自分でもヒット打ったけど、ラッキーが
重なったんです。トリプルプレイまでやったんですよ」
「そりゃまたすごいやん。運も実力の内。お前、実質上エースやったんとちゃうか?」
健太はその問いかけには答えなかった。ただ意味ありげな笑顔を浮かべた。
「最後の試合は俺、すっごくいい感じだったんです。好投してたんです。無失点で5回投げ
切って。でも、6回からエースに交代させられたんです」
11「127・甲子園 3/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/12(木) 22:01:51 ID:SSBz4Onw0
「………まあ、監督次第やしな」
「多分、俺が疲れてるって思ったのか、この次の試合のことを考えたのか……。でも結局、
そのエースが打たれちゃって、負けました」
「あー……高校野球にはよくあることやな。一度も負けへんチームはひとつだけやから」
「俺、すっごく思いましたよ。俺が投げ続けてたらどうなってただろうって。どうして思
い通りにいかないんだろうって。自分が打たれて負けたならまだ自分を責められるのに」
健太の声が少しだけ弱まった。
「………俺たち、すっごく頑張ってるのに、どうしてつらいことが次から次へと来るんだ
ろうって。試合の中のことならまだ無理矢理納得させられるのに、それ以外の部分で、俺
らの力が及ばない部分でどうして……いろんなことが………」
北川は何も言わないまま、健太の肩に手を置いた。
「………俺ら………頑張ってるのに………ただ…野球が好きで……野球を仕事にしたいだ
けなのに………どうして………上の人は……どうして………」
ポンポン、と北川が肩を叩いた。少しだけ泣き声になっていた健太は鼻をすすり上げると、
小さく「すみません」と呟いて顔を上げた。
「誰かいませんかー!」
気持ちを切り替えるように声を張り上げた。
ガサリ。
遠くでそんな音が聞こえた。思わず北川と健太は顔を見合わせた。
「……誰か……いる……?」
健太の表情がまた不安げなものに変わってゆく。
「……健太、何があっても大丈夫なように、逃げられる準備せえ」
やはり敵の可能性を考えてしまう。仲間を必要とする特殊なトラップの下にあっても、最
悪の事態に備えて気持ちだけはどちらにでも動けるように準備しておかなければならない。
(ずいぶんと理不尽なトラップやな)
またどこかで小さく音がした。2人の体に緊張感が走る。
ふいに、木々の間に何か白いものが見えたような気がした。健太は思わず立ち止まり、そ
の方向へとじっと目を凝らした。
「どうした?」
「あ、あの……木の向こうに何か見えたような……」
12「127・甲子園 4/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/12(木) 22:02:39 ID:SSBz4Onw0
「人か?」
「わ、わかりません、白っぽい感じの……」
「ユニフォームやったら白やぞ」
健太の顔を覗き込むようにして北川が尋ねる。
「ええ……でも自信無い……」
弱々しい声になる。北川は大きく一回深呼吸をすると、懐中電灯を右手で握り直した。
「ええか、灯りでそっちの方照らすぞ」
「は、はい」
「もし向こうが敵やったら俺らはヤバイことになる。そしたらええか、お前はとにかく逃
げろ。俺のことは気にせんでええ。俺は足は遅いけど、それなりに逃げられるからな。お
前はとにかく走れ」
「で、でも……」
「大丈夫や。向こうが敵やった場合や。でも今のトラップを考えたら、そんなことまずな
いやろ。念の為や」
笑って見せる。健太も少しだけ笑った。引き攣ってはいたが。
「あっちか?」
北川が指差す。
「はい、あっちです。あの木の向こうの方にチラッと……」
「きっと仲間や。俺ら、日頃の行いええからな」
自分を励ますように呟いて北川は、健太が指差した方へと懐中電灯を向けた。いつの間に
か健太は北川の鞄の紐をしっかりと握り、身を寄せていた。
(………嶋村)
北川は心の中で呟いていた。地面の上に倒れていた嶋村の姿がハッキリの浮かぶ。そして、
彼の笑顔も。
(嶋村、俺らを守ってくれ。都合のいい頼みやってことはわかっとる。でもな、俺、約束
したな。絶対戦わん。誰とも戦わん。仲間を信じる。俺がお前に言うたように、俺は仲間
を信じる。せやからもしもの時は健太だけでも助けたってくれ。導いたってくれ。もしお
前が俺のこと恨んでるんやったら、俺だけ連れていけ。健太は助けたってくれな。頼む)
暗い木々の間へと灯りが差し込む。所詮懐中電灯だ。遠くまでは届かない。北川はその灯
りを左右に揺らした。誰か仲間がいたら気づいてくれるように。
13「127・甲子園 5/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/12(木) 22:03:34 ID:SSBz4Onw0
しかし風景は変わらなかった。ただ鬱蒼と茂る緑と、それを押し潰そうとする闇。そこに
弱々しい灯りがぼんやりと点っているだけだった。
「………すみません、俺の気のせいみたいです……」
元気のない声で健太が謝る。
「期待させて、すみません」
「いや、気にすんな。きっとお前は見たんや。何か白いものを見たんやけど、間に合わへ
んかっただけや。俺らの判断がちょっと遅かったんや。残念賞や」
北川は懐中電灯の灯りと元通り自分達の足元へと戻した。
「また歩いたらええ。きっと仲間がみつかる。な?」
「……ええ、俺ら、日頃の行いがいいですから」
「そうや」
満面の笑顔になる。冗談を言える心の余裕がある。痩せ我慢かもしれないが、それでもい
い。今は気力が必要なのだ。気力を失ってしまったら、ここを生き抜くことは出来ない。
少しでも諦めた者が脱落するのだ。ほんの少しの勇気と、精一杯の気力。それが今の彼ら
を支えていた。
「ほな、行くか」
健太の肩をポンと叩いたその時、彼らがつい今しがたまで見ていた方向から微かな灯りを
感じた。慌てて二人は顔を上げた。灯りの方を見た。
「……そこにいるの……誰ですか?」
おずおずとした声が聞こえた。わざと声色を変えたような、誰かは判別出来ない声だった。
小さく健太は息を飲んだ。北川は即座に懐中電灯の灯りを向けた。
双方から照らしている灯りの中で、白いものが揺れていた。
何か布のようなものが、緩やかに左右に揺れていた。
「北川や!阿部健太もおる!」
「ペーさん!」
途端に大きな明るい声が聞こえた。
「その声はシモか!」
「はい!下山です!」
「シモさん!」
「健太―!俺もいるぞ!高木高木!」
14「127・甲子園 6/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/12(木) 22:04:16 ID:SSBz4Onw0
「高木さん!」
「光原もいますー!」
「うおー!ミツー!」
北川は健太の腕を掴むと走り出した。健太も安堵と喜びの混じった笑顔だった。
少しずつ灯りが大きくなる。ハッキリしてくる。
向こうからも人が草を踏んで駆けて来る音が聞こえた。
やがて、その人影が見えた。
懐中電灯を持っているらしき下山。続いて走ってくる高木。白い布をつけた旗を持った光
原。3人が3人とも喜びに満ちた表情で駆けて来た。
「ペーさん!!」
「みんなー!無事かー!」
「よかったー!!」
5人は飛びつくように抱き合い、スクラムを組むようにして互いの体を抱きしめた。光原の
持っている旗がガツガツと健太の頭に当たったが、そんなことはどうでもいい。
「おい、【K】はいくつや?俺と健太は1個ずつで合わせて2個や」
「ビンゴ!俺ら、3人で1個なんです!」
「合計3個!」
「よっしゃあ!」
「揃ったぞこの野郎!!」
すでに健太と光原は抱き合って泣いていた。嬉しくて。ホッとして。また光原の持つ旗の
棒が健太の頭を何度も打っていたが、それすら気にしなかった。気づいた高木がそっと片
手で旗を支えた。
「無事やったか!みんな無事やったか!頑張ったか!」
北川は1人1人の頭をクシャクシャ撫でながら声をかけた。今はただ喜びたかった。
再会出来た仲間。少なくとも、このトラップを生き抜ける仲間。
そして、これから一緒に生き抜く為に行動を共に出来るはずの仲間。
信じるべき仲間。
仲間。

【残り・28人】
15 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/12(木) 22:05:52 ID:SSBz4Onw0
ようやくスレ立て出来ました…
今回は以上です。
16代打名無し@実況は実況板で:2007/04/12(木) 22:55:34 ID:kXwRpbPYO
乙です。
光原好きだwwww
17代打名無し@実況は実況板で:2007/04/12(木) 23:07:12 ID:XLshfjTG0
乙です。
光原wwwww感動的なシーンなのに
お前のせいでぶち壊しだよwwwww
でも、健太よかったなぁー(泣)
18代打名無し@実況は実況板で:2007/04/13(金) 00:32:23 ID:D9MICLnMO
泣ける…!
素直に北川と下山が会って嬉しいと思いました
光原可愛すぎwwwww
19代打名無し@実況は実況板で:2007/04/13(金) 02:19:41 ID:gb+YmgDGO
前スレ落としてしまい申し訳です。スレ立て&投稿乙です!

リプシーに想いを寄せる人が気になる!
20代打名無し@実況は実況板で:2007/04/13(金) 06:44:47 ID:4WIV2sRAO
スレ立て&投下乙です!
下山たちが出会ったのが北川たちでほんと良かった〜!
21代打名無し@実況は実況板で:2007/04/13(金) 20:44:22 ID:5+tOXp2U0
うお、もうスレ立ってたのか…
新作乙です!
檻で甲子園といえば何といってもキヨだけど
生き残っている中では最多安打記録を持つエイエイも印象深いな〜
そういえばエイエイと健太は出身校が同じだよな……
22代打名無し@実況は実況板で:2007/04/14(土) 18:40:58 ID:viIuH37B0
白旗組応援保守
23代打名無し@実況は実況板で:2007/04/16(月) 01:14:15 ID:q+D+N5t1O
保守
24代打名無し@実況は実況板で:2007/04/16(月) 15:12:59 ID:e2qQ3y6wO
保守
25代打名無し@実況は実況板で:2007/04/17(火) 14:44:07 ID:ReaOKB4dO
☆ゅ
26代打名無し@実況は実況板で:2007/04/18(水) 09:38:21 ID:71JKqtVEO
保守
27代打名無し@実況は実況板で:2007/04/19(木) 00:24:24 ID:cfx2Baut0
28代打名無し@実況は実況板で:2007/04/19(木) 21:53:13 ID:OiWXQyW8O
ひょ
29代打名無し@実況は実況板で:2007/04/20(金) 15:45:20 ID:UWQTc8zNO
☆ゅ
30「128・危険な合流 1/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/20(金) 21:01:13 ID:EQLQ5ftG0
「水さん、肩貸します」
塩崎の申し出を水口は笑いながら断わった。
「俺が怪我してるのは肩だぞ。両足はピンピンしてる。なんで肩借りる必要があるんだ?」
「いえ、荷物、俺が持ちますって意味で」
「……なるほど」
傷ついたのは右肩。左肩に鞄をかけている。これでは何かあった時、動く左手も上手く使
えない。けれどまた水口は手を振った。
「大丈夫。お前こそ、そんな重そうな物持ってるんだから大変だろ?」
「この程度なら楽勝ですよ」
小型チェーンソーの使い方はもう何度も読んだ。けれど、どうしても現実に繋げることが
出来ない。自分が操作するということを、まだ受け入れられないでいる。もう迷う時間な
ど無いのだ。躊躇う必要など無いのだ。何かが起こったら戦う。そう決意して閉じこもっ
ていた小屋を飛び出したはずなのに。
仲間が出来たから弱気になってしまったのだろうか。しかも出会ったのはベテラン水口。
一応ベテランと呼ばれる塩崎も年上の水口には全幅の信頼を置き、心が頼ってしまう。
(いかん、水さんは怪我してるんだぞ。何かあったら俺が戦わなきゃいけないんだ。その
為の武器だろ?)
そう言えば。
(水さんの支給品て何なんだろう?)
水口は片手で器用に地図を広げた。塩崎が懐中電灯を照らす。
「ここ。印のつけてあるとこ」
「はい」
「ここが『Cafe Bs』。中立地帯だ」
「中立地帯?」
「そうだ。相川と外人勢がいる。ブランボーにデイビーにガルシア、グラボースキー」
一瞬塩崎はキョトンとした顔をした。
「あいつらはオーナーの手伝いをしてるらしい。相川はサーパスのメンバーを助ける為だ
って言ってたけどな。……まあ、それも本当のことなんだろうな。みんな何かの為に必死
なんだ。外人勢だって何かを引き換えに強要されてるのかもしれないし……にしては楽し
そうだったが」
31「128・危険な合流 2/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/20(金) 21:01:56 ID:EQLQ5ftG0
小さくため息をつく。
「ここで落ち合うって阿部と約束したんだ」
ふいに、どこか遠くの方で叫び声が聞こえた。それは確かに言葉だった。悲鳴ではなく、
喜びを表すような音だった。声は複数聞こえた。水口は静かに微笑んだ。
「どうやら誰かがグループ成立みたいだな」
「行ってみましょうか?」
「どこだかもわからないんだぞ、無理だよ。それよりこっちだ」
トントンと地図を指で弾いた。
「俺は【K】がゼロ。阿部もゼロ。お前は2個。なんとかあと1個見つけなきゃいけない
んだ。そうしたら俺も阿部もお前に貼りついて助かるんだ。……塩崎」
地図から顔を上げ、塩崎を見た。
「俺はメチャクチャに走り回ったんで、現在位置がよくわからないんだ。教えてくれ」
「はあ……俺もちょっと自信ないんですけどね」
「コンパス見ながら歩いたんだろ?」
「ええ、でもやっぱり暗いと自信ないですよ。多分、この辺にいると思うんですけど」
塩崎の指さす場所は、少々『Cafe Bs』からは離れていた。
「水さん、阿部を探すことも大事ですけど、先に【K】を探すべきです。あと1つなんで
す。で、水さんの手当てもしなきゃ」
「手当てなんて後でいい」
「ダメです。傷の手当てが遅くなって、肩が動かなくなったりしたら大変でしょう。まず
水で洗うとか、添え木をするとか、何か手当てをしなきゃ」
塩崎が言っているそばから水口はさっさと歩き出した。それが答えだった。あまり動かせ
ない右手で地図を持ち、左手で懐中電灯を持って。仕方なく塩崎も後から続いた。水口の
赤く染まった肩が痛々しかった。そして鮮明な血の赤が、塩崎に現実を突きつけた。
(本当に怪我をした人がいる……襲われた人がいる……襲った相手もチームメイト……ど
うしてそんなことが出来る?)
まだ現実を受け入れられないでいる。自分の足で歩き出したはずなのに。
肩に感じるチェーンソーの重みは、野球道具を入れた時の重さに少しだけ似ていた。
(なんで俺、こんな夜に、暗い森の中を歩いてるんだろう……)
そっと首元に手をやった。硬く冷たい感触がある。
32「128・危険な合流 3/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/20(金) 21:02:39 ID:EQLQ5ftG0
(本当にこの首輪、爆発するんだろうか)
(脅す為のオモチャなんじゃあ……)
(じゃあ、引っ張ってみるか?)
(………そんな勇気もないくせに)
自嘲気味に笑った。仲間を呼ぶ為に大声を上げることも出来なかった。水口が襲われた敵
を呼び寄せてしまうかもしれないからだ。2人は慎重に歩いていた。
ふと、どこかでキーキー何かが鳴く声が聞こえた。と同時に「わっ!」という人間のよう
な叫び声。動物の声を聞き間違えた可能性もあるが、片方はどこか人間っぽい声だった。
「動物、ですかね?」
「だな」
「凶暴なのだったら困りますよね」
「行ってみようか」
「は?」
「なんか起こってるのかもしれないぞ。人間対動物。誰かいるのかもしれない」
水口の表情はどこかワクワクしたものになっていた。仲間がそこにいるかもしれないとい
う希望を持ったからだ。しかし塩崎の場合は心配の方が先行した。
「だから、凶暴な動物だったらどうするんですか?こんなに緑がある場所なんですよ?も
し虎とか豹とか、人間を襲う生き物だったらどうするんですか」
「じゃあ今襲われてる奴を見捨てるのか?」
当たり前な問いかけだった。襲われている人間はチームメイトの可能性が高い。それを見
捨てるのかという質問。塩崎は自分のことで精一杯な自分が恥ずかしくなった。水口はこ
んな状況ですら、仲間のことを気にかけている。ここにはいない、けれどこの島のどこか
で困っている仲間を思っている。
うなだれる。顔を上げることが出来ない。そんな塩崎の肩を水口は軽く叩いた。
「誰だってそう考えるさ。俺はお前よりちょっと経験が多いだけだ。だから俺は、調べに
行きたい。誰かいるかもしれないんだ。でもお前がイヤだって言うなら行かないよ」
再びキーという鳴き声が聞こえた。続いて明らかに人の声。2人は揃って音の方を見た。
「……水さん」
「おう」
「行きましょう」
33「128・危険な合流 4/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/20(金) 21:03:38 ID:EQLQ5ftG0
塩崎の表情は自分の意思を持っていた。水口はまた嬉しそうに笑った。
「そうこなくっちゃな。これが男ってもんよ」
傷を考えて走ることは出来ない。出来るだけ早歩きで音の方へと急いだ。
「俺、先に行って様子見ましょうか?」
塩崎が振り返る。
「いや、この暗さだからな、すぐにはぐれるぞ。俺と阿部だって声は近かったのに会えな
かったんだ。スピードを上げよう」
水口が小走りになる。塩崎は止めようとしたが、また水口は笑った。
「この程度の小走りなら大丈夫だ。もう血だって止まったようなもんだしな」
キーキー鳴く音がまた聞こえた。ずいぶん近くまで来たようだった。枝が頬を打つような
深い茂みを抜けると、急に視界が開けた。途端に鳴き声が大きく聞こえた。
「近くか?」
「どっちに……?」
その時、聞き覚えのある声が聞こえた。
『川越さん!来ちゃダメです!猿です!』
また水口と塩崎は顔を見合わせた。
『やべえ、囲まれた!』
思わず2人はうなずいた。
『マイムマイムじゃねーんだから!来るなっ!』
また聞こえた声に弾かれて2人は走り出した。同時に声を上げた。
「本柳っ!」
「ガブっ!」
『は?』
目の前に現れたログハウスの向こうから惚けた声が聞こえた。急いで声の方へと回ると、
そこには奇妙な光景があった。
ログハウスのドアが開いていて、そこに手作り風の丸椅子を持った川越がいた。
外には本柳が、両手で何かの袋を抱えて立っている。
その周りを囲むように、4〜5匹の猿がいた。猿はジリジリと本柳に歩み寄り、飛びかかる
タイミングを伺っているらしい。
「水さん!塩崎!」
34「128・危険な合流 5/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/20(金) 21:04:29 ID:EQLQ5ftG0
川越が気づき、声を上げた。途端に猿の意識が2人の方へと向けられる。本柳はダッシュで
ログハウスの中に駆け込んだ。
「水さん!早くこっち!」
川越が慌てて手招きをする。2人も急いで入り口へと飛び込んだ。猿も本柳の動きに気づい
てログハウスへと突進してきたが、間一髪でドアを閉めることが出来た。しばらくはドン
ドンと体当たりをしていたが、やがて音は消えた。ドアを開けられないよう体ごと抑えて
いた川越と本柳も、ようやくテーブルと椅子だけを重しにして、部屋の中へと入った。
「……何だったんだ、今の?」
水口が尋ねると、本柳はペットボトルの水をグイグイ飲みながら答えた。
「この袋っす。ちょっと離れた家にパンを沢山見つけたんで、食料として持ってこようと
したらあの猿に見つかりまして」
袋の中からいくつものパンを取り出す。自分達が支給されたパンと同じもののようだった。
本柳はそれらを手に取って調べた。
「………15・カロトって書いてある。カロトって何だ?」
「………15・加トって書いてあるんじゃないのか?加藤大輔のか、それ」
水口も言いながらパンを覗き込む。
「……そのパン、ひょっとしてあの猿たちが蓄えた物だったんじゃないかな?何かがあっ
て、大輔がパンを落として、それを猿が拾ったと」
川越が穏やかに出来事を整理する。水口がわざと大袈裟な口調で続けた。
「ガブ、お前、猿の餌を盗んできたのか?」
「いや、だから、最初は猿のものだって気づかなかったから………と、とりあえず、水さ
んも塩崎さんもご無事で!」
話題を誤魔化すように本柳が元気に言う。水口も塩崎も、暗い野外から灯りのある室内へ
と移動出来てようやく気持ちが落ち着いたようだった。
「水さん、怪我」
いつの間にか川越が水口の背後に来ていた。カタン、と何かの箱を置く。赤い十字マーク
のついた救急箱だった。
「これ、俺の支給品なんです」
「へえ、川越らしいアイテムだな。博愛主義っちゅーか、相手を傷つける武器じゃないも
んな。ホント、お前よくここまで生き残ってたな。ガブに守られてきたか?」
35「128・危険な合流 6/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/20(金) 21:05:19 ID:EQLQ5ftG0
川越はいつもの困ったような笑みを見せた。本柳もつられて苦笑いをしている。特に詳し
い返事はなかった。これまでの行程をあまり語りたくないのかもしれない。水口もそれ以
上深いことは聞かなかった。ひょっとしたら、かなりつらい思いをしたのかもしれない。
仲間を助けられなかったとか、見捨てざるを得ない状況だったとか。水口も塩崎も、自分
なりの解釈をした。
川越は取り出した小さなタオルをペットボトルの水で濡らした。
「まず血を拭きますね。傷口も……どうしたんですか、これ」
水口はかいつまんで話をした。阿部とすれ違ったこと。敵に襲われたこと。大きめな刃物
の武器だったこと。本柳はあからさまに眉をしかめ、腕を組んだ。
「ヤバそうな奴っすね」
「いきなりだったからな……いてっ!」
「あ、すみません、マキロン吹きつけました。消毒しておかないと」
「なら先に言ってくれよ、しみるからよぉ」
文句を言っているはずの水口の口調は、どこか嬉しそうだ。
「すみません」
謝りながらも川越は甲斐甲斐しく処置をしてゆく。消毒液を染み込ませたあて布をし、包
帯を巻く。この処置方法が医学的に正しいのかは全くわからない。けれどこれが今出来る
精一杯だった。
「水さん、骨とかは大丈夫ですか?木とかで腕を固定した方がいいですか?」
「固定したら今後の対応がちょっと不安になるからなあ……このままでいいよ。サンキュ」
「ひょっとしたら中立地帯にちゃんとした手当ての道具があるかもしれないですね」
「中立地帯?」
本柳が塩崎の言葉に首を突っ込む。塩崎は自分が水口から聞いたことをそのまま本柳たち
に伝えた。本柳も川越も、揃って悲しそうな顔をした。
「良太が……」
「オーナー側に……ガルシアたちも……」
「あとで行くつもりなんだ。上手くいけば阿部と合流出来る。少なくとも60分は休めるん
だ。有効に使おう」
水口の言葉に3人がうなずく。
そして、塩崎が呟いた。
36「128・危険な合流 7/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/20(金) 21:06:08 ID:EQLQ5ftG0
「で、今、5個なんだけど……」
ようやく大事なことを思い出す。
「水さんゼロ、俺2個、ガブ1個、川越2個。合計5個」
「………あと1個、どっかから見つけてこなきゃいけないのかな……」
「3個以上でオッケーならそれでいいんだけど……」
4人が顔を見合わせる。
「残り20分になったらまた放送があるはずだ。そこで何かその辺の説明が無かったら、あ
と1個を探しに行くってのはどうだ?」
水口の提案にそれぞれがうなずく。
「ひょっとしたら、3個以上で大丈夫かもしれないですしね。少しこのまま待機してみまし
ょう。もしダメだったら、その時はその時です。水さんの怪我もありますしね」
川越が同意する。水口の肩に巻かれた白い包帯にはすでに、小さな赤い点が浮き上がっ
ていた。
表情の曇った者がいた。
(折角無事だったのに……)
心の中で、本柳が呟いた。
(無事に1時間を切り抜けられるはずだったのに……)
(もしもの時は、どうすれば……)
息苦しい時間だった。
その一方で、救急箱をしまおうとした川越は奇妙なことに気づいた。
中に入っていた1本のメス。
最初に入っていたのとは違う方向を向いている。
そして、刃の部分に曇ったような濁りがついている。一度汚れたものを洗って拭き取った
ような印象を受けた。
(………俺は触ってないのに………)
川越はただ首を捻るしかなかった。
頭の隅で白い靄が小さく蠢いていた。

【残り・28人】
37「129・愉快犯VS透明人間 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/20(金) 21:07:24 ID:EQLQ5ftG0
リプシーに教えられた櫓を目指し、吉井は闇の中を早足で歩いていた。
地図とコンパスを見比べ、時折遠くの空を見上げる。木々の間から櫓が見えることを期待
したが、鬱蒼と茂る緑はなかなか目的物への視界を広げてはくれなかった。
(まだか……)
トラップタイムが始まって、もう30分が経過しようとしている。思った以上に時間がかか
る道のりにいらついた。木々が邪魔をして真っ直ぐ歩けない。時折姿を現す小屋ですら迂
回するのも鬱陶しい。歩く方向を変えるそのたびに、コンパスを見なければならない。ひ
とつひとつの細かい作業が面倒だと思うのは悪い傾向だろうか。
リプシーの話では、菊地原と日高がそれぞれ【K】を2個ずつ持って待機しているという。
菊地原が動けない状況ならしい。日高はその付き添いというわけか。
(なんとも美しいバッテリー愛だねえ)
吉井が今まで相手をしたキャッチャーはどれくらいいるだろう。海外にも渡ったせいで、
すでに記憶から抜け落ちている選手もいるに違いない。その中で、コイツこそ恋女房と呼
べるキャッチャーはいただろうか。
(………候補はいるな、うん。いるよ、確かに)
シーズンを重ねるごとに、自分がキャッチャーを導き、育てるようになった。あえて若手
のリードにうなずき続けて打たれたりもした。そうしなければ若いキャッチャーは育たな
い。打たれて初めて自分のミスに気づくのがキャッチャーという仕事だ。
いつの間にか、自分の息子でもおかしくないような年齢のキャッチャーも現れた。当然、
ピッチャーも。その中で自分の存在をどこに置くか、吉井は常に計算しながら生きてきた。
若手を育てる為に。
自分を更に育てる為に。
実際、自分を慕ってついてくるピッチャーもいる。このチームではユウキや光原だ。特に
ユウキとはキャンプ地で一緒に自転車を転がして散歩に行ったりした。
(……人間の絶頂期なんてのはな、あっけないんだよ、本当にあっけない)
それは全てにおいて言えることだ。栄華を極めても、その時間は短い。天国と地獄を味わ
った吉井の言葉だからこそ、多くの経験話を若手達は真剣に聞いた。
(なんだか皮肉だな……若い奴が先に消えて、俺が残ってる)
38「129・愉快犯VS透明人間 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/20(金) 21:08:04 ID:EQLQ5ftG0
また地図を見た。どれくらい歩いたのだろう。まだ距離はあるのだろうか。
(やれやれ、【K】を集めるのにこんなに苦労するとはな。オーナーも考える)
「吉井さん」
突然の声に驚いて吉井は振り返った。姿は見えない。木の影に隠れているのだろうか。
「どこ行くんです?」
「……人にものを尋ねる時は、ちゃんと姿を見せろ。それがお前の礼儀か」
あまり聞き覚えのない声。常時1軍にいる選手ではなさそうだ。
「ええ、これが俺の礼儀です」
相手の声には妙な自信があった。しかし、どこか揺らいでいた。麻薬中毒者が薬でトリッ
プしている時のような、どこかフラついた声。
「……俺はね、いつでも吉井さんを狙えるんですよ。だから素直に答えて下さいね」
まだどこにいるのかわからない。方向はなんとなくわかるのだが、そちらを見ても闇しか
見えなかった。懐中電灯を向けても無駄だった。
「吉井さん………そうか、【K】を1個も持ってないんだ。使えないなあ」
「うるせえ」
「で、どこに行こうとしてたんです?」
「別に、フラフラとお前以外の仲間を探してんだよ」
「嘘だ」
声の主はキッパリと言い放った。
「さっきから地図見ながら歩いてる。目的地はあるんでしょう?」
吉井は心の中で舌打ちをした。ここはおとなしく言いなりになった方が得策だ。もし相手
が銃を持っていたら、この状況ではひとたまりもない。吉井からは相手の姿が見えない。
自分が腰に差した消音銃に手をやったら、すぐに撃ってくるだろう。圧倒的に不利だった。
「……日高と菊地原に会いに行く」
「へえ…………そうか、4個か」
声の主は何かを考えたようだった。
「………ラッキー」
39「129・愉快犯VS透明人間 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/20(金) 21:09:38 ID:EQLQ5ftG0
突然ガサッという音がしたかと思うと、吉井の首に何かが巻きついた。
「ぐぇっ!」
思わず呻いたが、一瞬にして息が出来なくなった。必死になってもがいた。だが敵は完全
に背後に回っており、足を後ろに蹴り上げようとしても上手くいかなかった。息が苦しい
と言うよりも、首を締め付けられて痛かった。だがこの体勢ではどんなにもがいても敵わ
ないことはすぐにわかった。敵は何かで繋がった2本の棒を器用に使ってギリギリと吉井の
首を締め上げている。
しばらくして、やけにあっさりと吉井の体から力が抜けた。首に巻きついていたものの力
も抜け、吉井の大きな体がドサリと地面に落ちた。そのままうつ伏せに倒れた。
「………あっけないの」
声の主は小さく笑うと、吉井の手から地図を奪い取ろうとした。まだ吉井の指先に力が残
っているらしく簡単には取れず、無理に引っ張ったらその部分だけ千切れてしまった。
「………なるほど、このマークか。ここに日高さんと菊地原さんがいるわけだ。合計6個。
バッチリだ」
田中彰はまた小さく笑った。
「………の野郎っ!!」
いきなり吉井の体が起き上がった。そのまま田中に飛び掛ろうとする。まるでそれを読ん
でいたかのように田中は吉井の腕を避け、一気に暗闇の森の中へと駆けて行ってしまった。
「この野郎!!待ちやがれっ!!」
勝ち目の無い追いかけっこだとはわかっていたが、吉井は後を追わざるを得なかった。
木々の暗闇の中へと消えてゆく田中の背中。地図を失った吉井は必死に追い縋った。

【残り・28人】
40 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/20(金) 21:10:52 ID:EQLQ5ftG0
いつも保守ありがとうございます。
今回は以上です。
41代打名無し@実況は実況板で:2007/04/20(金) 21:27:45 ID:xFQAiyA50
sage
42代打名無し@実況は実況板で:2007/04/21(土) 00:10:44 ID:Aa+uNGKq0
投下乙です

川越が心配だー
43代打名無し@実況は実況板で:2007/04/21(土) 00:25:57 ID:SYDqo3bXO
乙です!
こちらこそありがとうございます。
田中&吉井面白いですね。
水口&塩崎どうなるんだろ…。本柳…。
44代打名無し@実況は実況板で:2007/04/21(土) 01:06:57 ID:GlRceSS50
新作乙です!
塩崎優しいな
23バトでのMARUHAGE Destroyerっぷりとは大違いだw

真実に気づきかけてる川越が不安だ…
地図を奪われちゃった吉井も心配
45代打名無し@実況は実況板で:2007/04/21(土) 07:58:51 ID:sx3bKc4ZO
乙です
田中が恐いよ〜!!

あと川越もどうなるのか…
46代打名無し@実況は実況板で:2007/04/22(日) 01:01:27 ID:kEj6xtu40
乙です。
>「………あっけないの」
葉鍵ロワ(野球板以外にあるロワの一つ)見てきたばかりの身としては
この口調を見ると一ノ瀬ことみを思い出すww
47代打名無し@実況は実況板で:2007/04/22(日) 12:43:38 ID:kr24hEVwO

48代打名無し@実況は実況板で:2007/04/23(月) 01:12:15 ID:Z5pxhp3JO
加藤大輔応援保守
49代打名無し@実況は実況板で:2007/04/23(月) 16:02:28 ID:Lt0jQO7mO
トリオザカトウ応援保守
50代打名無し@実況は実況板で:2007/04/24(火) 16:11:34 ID:wEaVsGbj0
白旗5人組ほしゅ
51代打名無し@実況は実況板で:2007/04/25(水) 03:58:52 ID:cY9euTjBO
阿部ちゃん頑張れ保守
52代打名無し@実況は実況板で:2007/04/25(水) 19:29:41 ID:GVNy0B230
53代打名無し@実況は実況板で:2007/04/26(木) 10:02:44 ID:yhGci9qPO
☆☆
54代打名無し@実況は実況板で:2007/04/26(木) 21:49:51 ID:lhXhB7y3O
☆☆☆
55「130・いつか、吉野の里に 1/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/27(金) 19:28:07 ID:dP916YMR0
今、加藤の目の前に見えるものは、鈍く光る銃だった。
その銃の向こう側には、マシンガンを抱いて床に横たわっている歌藤がいる。目を閉じ、
微動だにせず眠っている。余程疲れているのだろう。夜、加藤が寝ている間も歌藤は出来
るだけ寝ずの番をしていたようだ。5分だけ寝かせてくれと言って横たわったまま、もう30
分が経過した。神経質な性格が疲労を蓄積させてしまっていたらしい。
引き金に指をかけたまま、加藤は動けずにいた。
風が吹く。窓ガラスが鳴る。隙間風がカーテンを揺らす。自分の息遣い。天井から吊るさ
れた小さな照明も揺れる。影も揺れる。別な生き物のように揺らめく。加藤の心まで揺れ
る。自分の影が笑う。何かを囁く。不安。戸惑い。未知な物事への畏怖。また風が吹く。
カーテンの衣擦れの音。普段は優しい物音すら加藤を追いつめる。
この引き金を引いて良いものだろうか。
ここまで一緒に行動してきた仲間を狙ってもいいのだろうか。
扉のそばにいる猿はもう踊ってはいない。じっとこちらを見ている。すっかり歌藤になつ
いている猿。猿は加藤が今、歌藤に対して何をしようとしているのかわかっているのだろ
うか。わからずじっとしているのだろうか。
トラップタイムが終わるまでは一緒にいなければならない。2人でちょうど【K】が3つ。
トラップタイムが終わったら、引き金を引けばいい。そうすれば生き残る為のライバルは1
人減る。あのマシンガンを貰って走り出せばいい。簡単なことだ。
自分に危害を加える敵が現れたら撃つかもしれないと歌藤は言った。その敵が自分を指す
かもしれない可能性に、加藤は気づいてしまった。もし最後に生き残ったのが自分達2人だ
ったら。
猿はじっとこちらを見ている。
56「130・いつか、吉野の里に 2/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/27(金) 19:28:55 ID:dP916YMR0
もしここで歌藤を消したとして、それからどうやって自分は残り時間を生き抜くのだろう。
これまでの道のりも、2人だから歩いてこれたのではないだろうか。1人だったら不安で、
寂しくて、どこかで挫けていたかもしれない。そう、出発地点の近くで清原に出会ってし
まった時のように、頭の中が真っ白になって何も出来なくなってしまうかもしれない。
以前、雑誌でこんな言葉を読んだ。
『オリックスの中継ぎ。剛の加藤、柔の歌藤』
剛速球で威圧的に押しまくる加藤と、変化球で巧みにかわす歌藤。性格も一直線な加藤と
どこか飄々とした歌藤。正反対でちょうどいい組み合わせなのだ。
(………どうする?)
額に汗が滲んだ。指先にも微かなぬめりを感じる。
猿はまだこちらを見つめている。
『大輔、このトマトやるよ』
ある日の夕食、プチトマトが加藤の皿に放り込まれた。
『俺だってトマト苦手っすよ』
『好き嫌いしてたら大きくならねえぞ、って、お前はこれ以上太らない方がいいか』
『歌さんの方が細いんだから、トマトちゃんと食って下さい』
散々トマトを押しつけあった結果、2人分のプチトマトは本柳の皿に放り込まれた。
そんな些細な出来事でじゃれ合う仲だった。
(歌さんを……俺が……殺す?)
言葉にすると、やけにリアルな気がした。自分がこれからしようとしていることが、ある
程度の重さを持って感じられた。
『生きて帰って、一緒に吉野餅食べよう。俺が吉野の里案内してもいいぞ』
奈良出身の歌藤がそう言って、約束したのは何時間前のことだったろう。吉野の里の桜を
観に行く約束もした。その為には2人で生き残らなければ。満開の桜の下、吉野餅を2人で
頬張る約束。
57「130・いつか、吉野の里に 3/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/27(金) 19:29:38 ID:dP916YMR0
『………お兄ちゃん』
声が聞こえる。
『お兄ちゃん、お友達を殺すの?』
可愛い妹たちの声。
『チームメイトを傷つけるの?』
『お兄ちゃんが?』
『優しいお兄ちゃんが?』
『私たちの自慢のお兄ちゃんが?』
『嘘でしょう?お兄ちゃん』
繰り返し、その声は心の奥底から聞こえてくる。
『お兄ちゃん』
ゆっくりと、加藤は銃を下げた。少しだけ震える手で、元々しまっていた場所である右腰
のベルトに挟んだ。
大きくひとつ、息を吐いた。
自分は何をしていたのだろう。
何を考えていたのだろう。
もう少しで取り返しのつかないことをしてしまうところだった。
トテトテトテ。
音が聞こえた。猿が歌藤の方へと歩いてくる音だった。そしてペタリと歌藤の肩のそばに
座った。じっとその顔を見つめている。そして再び加藤を見上げた。真っ直ぐに。まるで
何かを訴えるように。
「………すまなかったよ」
責められているような気がして、小声で謝った。
「もうしないよ。大丈夫だよ。お前の歌さんを傷つけたりしないよ」
猿は小さな手で歌藤の頬を撫でた。ピクリと歌藤の瞼が揺れる。
「おいエテ公、歌さん起こすな、休ませてあげろよ」
慌てて歩み寄って猿を引き離そうとした。途端に歌藤の目が開いた。
58「130・いつか、吉野の里に 4/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/27(金) 19:30:29 ID:dP916YMR0
「あ……」
数回瞬きをして、加藤を見上げた。そして弾かれたように起き上がった。
「やべえ、俺、どれくらい寝てた?」
「大丈夫ですよ、まだトラップタイム始まって35分経過ってところ」
「……5分で起こせって言ったろ」
歌藤が目を擦りながら腕時計を見た。
「でも歌さん、よく寝てたから。起こすの悪いと思って」
加藤は苦笑いをしながら答えた。そして何気なく猿の方を見た。猿はじっと加藤の顔を見
つめていた。今だに加藤の行為を責めているように。
『お兄ちゃん』
『悪いことをしたら謝らなきゃね』
また声が聞こえる。加藤は少し躊躇ったが、小さく拳を握り、勢いよく頭を下げた。
「すみません!」
突然の加藤の行為に、歌藤は「は?」と答えるしかなかった。
「俺、今、歌さんが寝てる時……」
言葉が続かない。
「なに?俺が寝てる時何かイタズラでもした?顔に落書き?俺のパン盗んで食った?さっ
き分けてやっただろー、意地汚ねえなあ」
とぼけたことを尋ねながら、歌藤が自分の鞄を開けようとする。
「俺、歌さんに銃を向けました!」
歌藤の動きが止まる。
「俺、なんかよくわからなくなって、恐くなって、歌さんまでが恐くなって、銃、向けま
した!」
加藤はまだ頭を下げている。歌藤はじっと加藤の姿を見た。
「すみません!本当にすみません!でも俺、やっぱり1人じゃ生きて行けないし、歌さんい
ないとダメだし、吉野餅食いたいし……!」
頭に浮かんだ言葉をそのまま口から喋り続けた。
「すみません!でも、でも俺……!」
59「130・いつか、吉野の里に 5/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/27(金) 19:31:27 ID:dP916YMR0
「お前、撃ってないじゃん」
相変わらずの歌藤の口調に、加藤は恐る恐る顔を上げた。
「俺、生きてるし。お前、撃ってないし。ならいいんじゃないか?」
「……でも……」
「普通そういうこと言わないで隠しとくもんだぞ?それを素直に白状して謝っちゃうのが
大輔だよなー」
歌藤が笑う。
「しかも撃てないあたりが大輔だよなー。情けないのー。だから俺がついてないとダメな
んだよ」
「あ……そうっすか……」
加藤も拍子抜けした表情になる。
「吉野餅のお陰で命拾い?俺」
「い、いや、そういう訳じゃ」
「………でもまあ、素直に白状してくれて嬉しいよ。性格わかるし。俺は大輔を信じるよ」
歌藤は床に座り直すと胡坐をかき、加藤を見上げた。表情は穏やかだった。
「一緒に生き残るんだもんな。なんとかここから抜け出すんだもんな。そんで一緒に吉野
の桜を見るんだ。なんだったら俺の地元の奈良公園も案内するぞ」
「そ、そうですよ!絶対一緒に生き残りましょう!桜見ながら吉野餅食いましょう!」
「結局そこかよ」
2人して笑った。張りつめた空気が穏やかになる。加藤の足に何かが当たる感触があった。
気づくと猿が加藤の足を繰り返し蹴飛ばしていた。
その時、ふいに野外に流れていた音楽が大きくなった。
『みなさんお疲れ様です。残り20分になりました』
放送が流れ始めた。
「大輔、お前の時計遅れてっぞ。もう40分たってるじゃねーかよ」
「やべ、直しとこ」
2人はそれぞれの行動を取りながら、放送へと耳を澄ませた。

【残り・28人】
60「131・別離 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/27(金) 19:33:00 ID:dP916YMR0
『残り20分になりました』
その放送に、水口、塩崎、川越、本柳の4人は口をつぐんだまま耳を傾けた。本柳はじっと
地図を見つめている。水口は腕時計を。塩崎は水口の肩の傷を。川越は鞄の中の救急箱を。
『もう一度、ルールを確認します。各自の名前の中にある【K】を3つ集めてグループを作
ります。ひとつも持たない人は、3人集まってグループ成立です。20分後にグループを作る
ことが出来なかった人の首輪が爆発します』
4人が考えていることはただ1つ。3つ以上では駄目なのか。それとも3つ以上でもグループ
成立なのか。
『みなさんいろいろと走り回っているようで、こちらとしても心強い限りです』
「何言ってやがんだ、畜生!」
本柳が呟く。
『生き残りをかけて、皆さん頑張って下さい』
もう茶々を入れる気力も失せたのか、本柳は床の上に寝っ転がった。
『それから、隠しルールの発表です』
全員の顔が上がる。本柳も慌てて身を起こした。
『【K】は各グループ、ぴったり3個とします。ジャスト3個。それ以上では全員の首輪が爆
発します』
室内に言いようの無い緊張感が走った。
『【K】をひとつも持たない人たちが3人ジャストでグループ成立ですから、こちらもジャ
ストでなければ不公平ですね。それくらい、考えればわかることだと思いますが、念の為
ご連絡しておきます。親切心だと思って下さい』
塩崎は軽い眩暈がした。やっと仲間に出会えたのに、ここにある【K】は5個。2つ多すぎ
るのだ。2つ持っているのは塩崎と川越。この場合、どちらかが……
塩崎は川越を見た。川越も塩崎を見つめていた。同級生、同い年。投手と野手。それなり
の親しさと信頼を持って一緒にやってきた仲間だった。
元々は川越と本柳でグループが成立だった。そこへ塩崎と水口が迷い込んだ。
優先順位から考えれば邪魔者は塩崎だ。
(俺は………)
61「131・別離 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/27(金) 19:35:22 ID:dP916YMR0
ふいに、川越が小さく笑った。
そのままカタンと音を立てて立ち上がる。肩から鞄を提げ、右手に鞭を持って。
「行きます。あと1個、探してきます」
「川越?!」
「川越さん!」
本柳が立ち上がる。川越はいつもの笑顔で本柳を見た。
「大丈夫だよ、すぐ見つけて帰ってくるから。水さんの面倒を頼む」
「でも川越さんは……!」
言いかけて口をつぐむ。ここで言ってはいけない言葉だ。それは本柳だけの秘密なのだ。
誰にもバレてはいけない、自分を守る為、本柳と川越が生き抜く為の秘密。
「おい川越!」
塩崎も水口も慌てて立ち上がった。
「大丈夫、選手会長、頑張って来ます!またあとで!」
そう言って、川越は勢いよく小屋から飛び出して行った。
「駄目です!川越さん!川越さんは……っ!!」
慌てて本柳も扉へと駆け出す。だがそれ以上追うことは出来なかった。今ここで本柳が川
越の後を追えば、水口と塩崎を見捨てることになる。ただでさえ水口は怪我をしていて不
利な状態だ。だが川越を見送ることも本柳にはこの上ない苦痛だった。尊敬する先輩ピッ
チャー。そして、川越の中には本柳のかけた危険な催眠術が眠っている。
本柳の手を離れてしまっては、いつ発動するかわからない危険な罠。
MCM 〜 mind control murderer。
「川越さん!!!」
闇の中に小さくなってゆく11番に向けて、どうしようもない思いを込めて本柳は叫んだ。

【残り・28人】
62 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/04/27(金) 19:39:31 ID:dP916YMR0
今回は以上です。

で、1個ミスに気づきました。
今回のトラップタイムの間、島には静かな音楽が流れているはずなのですが、
今までの文中で約2箇所ほどハッキリと「無音」を意味するような表現がありました。
保管庫さんに後ほど御連絡を取って修正したいと思います。
……保管庫さん、お手数をおかけしますが、よろしくお願いしますorz
63代打名無し@実況は実況板で:2007/04/27(金) 20:42:46 ID:Dq99NMUV0
投下乙です。
ついに残り20分か…
64代打名無し@実況は実況板で:2007/04/27(金) 21:34:20 ID:42XYSNih0
乙です。
加藤じゃ無ければあの銃声は一体…
65代打名無し@実況は実況板で:2007/04/28(土) 01:43:17 ID:FlXVcC0sO
乙です。
か、川越ぇぇぇぇぇ!!
66代打名無し@実況は実況板で:2007/04/28(土) 17:43:37 ID:6hEoh8GL0
   ∧_∧
  (・−・´ )
 G(  G_j)
   /  / ⌒) 
  (__ノ` ̄ =3 =3 =3

67代打名無し@実況は実況板で:2007/04/28(土) 21:03:55 ID:f3RfiOdT0
これは菊様と昆布やばいな・・・
川越も心配だしハラハラするなあ
68代打名無し@実況は実況板で:2007/04/28(土) 23:59:44 ID:2nughdUi0
乙です!
ああやっぱり字余りは禁止ですか…

川越がすっかり元の性格に戻ってるのが、いたたまれない気持ちにさせられるなあ。
そんな張り切って飛び出して行くなよ…(ノД`)゜. 
69代打名無し@実況は実況板で:2007/04/30(月) 00:19:27 ID:9z0oepUl0
ほしゅです
70代打名無し@実況は実況板で:2007/04/30(月) 07:44:09 ID:m56zVCRNO
71代打名無し@実況は実況板で:2007/04/30(月) 19:56:40 ID:jjc+OlakO
ほしゅっとな
72代打名無し@実況は実況板で:2007/05/01(火) 19:10:26 ID:P3PLPd/7O
|´△`|人<〇ー〇>
73代打名無し@実況は実況板で:2007/05/02(水) 11:40:03 ID:sS8vaCuXO
ほしゅ
74代打名無し@実況は実況板で:2007/05/02(水) 21:55:47 ID:qxdDOF/V0
ほしゅ
75代打名無し@実況は実況板で:2007/05/03(木) 00:44:38 ID:Jq7V7vs4O
なんか今日ミッチー先発らしいので保守
76代打名無し@実況は実況板で:2007/05/03(木) 06:57:35 ID:+jqSdOyFO
ほしゅ!
77代打名無し@実況は実況板で:2007/05/03(木) 16:23:53 ID:IKUzrpC1O
ほしゅ
78代打名無し@実況は実況板で:2007/05/04(金) 05:57:48 ID:F1s//RZcO

79「132・メンバー交代 1/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/05(土) 00:06:51 ID:fREFyVI/0
「ピッタリ3個じゃないと…」
ルックスからは似合わないような不安げな声を出し、大西は大久保の顔を見た。大久保も
困ったような表情で大西を見た。そして2人同時に萩原を見た。
2人から少し離れた場所に立っている萩原の左腕の中には、小さな1匹の子猫が丸まって
いた。すっかりその居場所が気に入ったらしく、時折眠そうに目を細める。
右手には、一丁の銀色に光る銃が握られていた。
数十分前、何の前触れもなくその銃から1発の銃弾が発射された。
そばにあった高い木、そのちょうど天辺付近を狙って。
ご丁寧に萩原は子猫を地面に下ろしてから、両手で銃を持って発砲した。突然の破裂音に
大西も大久保も驚いて萩原を見た。萩原は表情ひとつ変えず、相変わらず何を考えている
のかわからないボンヤリさで狙った先を見つめていた。
「……オ、オギさん?どうしたんですか?」
大久保が恐る恐る声をかけると、銃を握ったまま、萩原が振り返った。そして改めて子猫
を抱き上げた。
「いや、この銃もらってからさ、一度も撃ってないから、本物かどうか知りたくて……」
「だ、だから木を狙ったわけですか?」
「そう、本当にすごい音したな。木も揺れたし、本物なんだな」
「そ、そうですか……」
何を考えているかわからない。ルックスからは想像もつかないようなナイーブな人だとは
知っている。特に大久保は一緒にブルペンで過ごした時間が長い。けれどこの訳のわから
ない行動が余計に萩原の存在を不可思議なものにしている。右手に銃。左手に子猫。
(本当にオギさん、試し撃ちしただけだったのかな……)
そう思ったのは大西だった。逆に大西はあまり萩原とは接点が無い。故にもっと多くの可
能性を考える余裕があった。
(ひょっとしたら、あの木の上に敵がいて、それを狙ったのかも……)
80「132・メンバー交代 2/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/05(土) 00:07:24 ID:fREFyVI/0
都合のいい解釈ではある。萩原を好意的に捉える解釈。
(だとしたらオギさんすげえ!こりゃしばらくオギさんと一緒にいた方がいいぞ!武器も
持ってるし)
大西は自分の握っている武器を見た。頼りないことこの上ないスコップ。大久保は火炎放
射器を肩から提げている。一番不利なのは自分だ。
ジジ…という音がした。大西は改めて大久保の手元を見た。鞄に手を突っ込み、何かを探
している。
「どうしました?」
声をかけた。ひょっとしたらとんでもない武器を持っていて、萩原の行動に影響されてそ
れを取り出すのでは……そんなことを思ったのだ。
「い、いや、別に」
大久保は鞄の中からサッと右手を引き出し、素早く何かをズボンのポケットに突っ込んだ。
キラリと光る何かだった。
(小銭かな?ジュースの販売機でもあったのか?)
ナイフの可能性も考えた。しかしズボンに入れたら突き破ってしまって危険だろう。折り
たたみ式かもしれない。それだったら納得出来る。またはもっと小型な銃。スパイ映画に
出てくるような、掌サイズの銃かもしれない。ポケットをよく観察した。膨らみはほとん
ど無い。平面型の銃なんてあるのだろうか。やはりナイフと考えた方が正しいのだろうか。
そこまで考えて、大西は自分が萩原よりも大久保を警戒していることに気づいた。
萩原を大久保より信頼しているのではない。
大久保を萩原より警戒しているのだ。
何故だろう。
(多分……)
大西は萩原を見た。正確にはその左腕を。
81「132・メンバー交代 3/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/05(土) 00:08:01 ID:fREFyVI/0
(オギさんがあの子猫を抱き続けてる限り、俺はオギさんを信じられる)
静かに歩み寄った。
「オギさん、行きましょう。【K】をあと1個探さないと」
「……ああ」
そうして歩き続けて数十分。時折大声で呼びかけても仲間に出会えることなく、3人は歩い
ていた。残り20分を切り、歩調は早歩きに変わった。
大久保はずっと黙ったままだ。一番重そうな荷物を持っているのだから仕方のないことか。
萩原の銃はもうズボンのベルトに納まっていた。時々辺りをキョロキョロしながら歩いて
いる。仲間を探すこの状況下でも敵を警戒しているような仕草に、大西はまた小さな安堵
感を覚えた。
(オギさんと一緒なら大丈夫だ!)
過剰な信頼感かもしれなかったが、今はそんなものででも自分を支えていなければ弱音を
吐きそうだった。あとひとつ【K】が見つからなければ自分たちは死ぬのだ。あまり現実
感は無いが、殺されるのだ。
(ふざけんなよ、俺はまだこれからなんだぞ)
ふいに萩原が立ち止まった。少し横を向き、「ちょっと」と言って木々の茂るそちらへと歩
き出した。
「どうしたんですか?」
誰かを見つけたのだろうか。慌てて大西は駆け寄った。
「ションベン」
拍子抜けする返事に、大西は答えた。
「お、俺も!」
「連れションかよ」
「お、俺も我慢してたんで!」
大久保と2人きりにはなりたくなかった。出来れば萩原と一緒にいた方が安全な気がした。
82「132・メンバー交代 4/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/05(土) 00:08:54 ID:fREFyVI/0
「こっち見んなよ」
「……男同士で何言ってんですか」
「シャイなんだよ、俺は」
「自信ないんですか」
「ふざけんなよ」
軽い冗談をかわして萩原はより木々の深い方へと歩いた。大西もそれに続く。
「ついて来んなって」
「いや、別に……」
元いた場所から20メートルほど離れた辺りで萩原は足を止め、大西に背を向けた。


1人残された大久保は、ズボンのポケットに右手を突っ込んだ。さっきそこにしまった物に
触れる。それに触れていれば、少しでも勇気がわくような気がした。
大久保は金子を襲った。襲ったが、何も出来なかった。逃げられた。そして数時間後、放
送で金子の名前が呼ばれた。誰に殺されたのだろう。
(俺よりももっと確実な方法で手を下した奴がいる)
ポケットの中の物を握る。
(わかってるんだ。こんなことしちゃいけないって。誰かを殺すなんて……)
けれど、こうしなければ自分の命の保障が無い。生き残れるのはたった1人なのだ。
「大久保さん」
背後からの声に振り返った。
「香月!」
最後に会った時よりも髭の伸びた香月が立っていた。右手に携えているのは矛。先が三叉
に分かれた矛。球団イラストのネッピーが持っているような道具だ。
「香月お前、1人か?」
「はい、こっちの方で声が聞こえたから来てみたんですけど……大久保さんも1人です
か?」
「いや、オギさんとジミーがいる。【K】があと1個足りないんだ」
「じゃあ……」
83代打名無し@実況は実況板で:2007/05/05(土) 00:09:38 ID:fREFyVI/0
香月は思案げな表情をして、両手で矛を抱きしめるようにして抱え込んだ。
「今は2つ?」
「ああ、オギさんがゼロ、ジミーが1個、俺も1個。今トイレ行ってる」
「ふうん……」
ゆっくりと、香月の表情が変わった。それはどこか余裕ありげな笑みだった。
「俺、2個持ってるんですよ」
逆に大久保の表情が険しくなった。ずっと【K】を探していた。しかし、数をオーバーし
てしまっては意味がない。大久保にとって、香月は余分な存在と確認された。
けれど、今ここで大久保と香月が組めば【K】は3つ。グループが成立する。
大久保の心の中に焦りが生まれた。残り時間は20分を切っている。その瞬間の決断が生
死を分ける。あの時、金子への攻撃を失敗したように。
(どうする……)
萩原たちはすぐに戻ってくるだろう。大久保は迷っていた。
「かつ……」
その名前を呼びかけた瞬間、香月の矛が大久保めがけて勢いよく突き出された。
「っ!!」
思わず言葉を飲み込み、横へ飛び避けようとしたが、遅かった。ドッという鈍い音がして、
大久保の左脇腹に激痛が走った。
「ぐぅっ!!」
間髪置かずに香月は矛を突き出した。大久保は地面に転がりながら、かろうじてそれを避
けた。今度は矛が振り上げられた。ガツッという音と共に、大久保の右肩が打ち込まれた。
「っあ!!」
短い叫びを上げ、大久保は這い蹲るようにしてその場から逃げようとした。背中にまた激
痛が走る。何かが刺さった感触。
「……うぅ……っ!」
それでも大久保は立ち上がった。鞄をしっかりと持ち、必死の足取りで木々の間へと逃げ
込んだ。残念ながら、萩原たちの歩いて行った方向とは逆に。
香月はそれ以上は追わなかった。残り時間は20分弱。その間に大久保は仲間を見つけら
れるだろうか。あの怪我を負って。おぼつかない足取りで。
84「132・メンバー交代 6/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/05(土) 00:10:41 ID:fREFyVI/0
(タイムリミットでアウトか、体が持たずにアウトか)
香月は大久保が去った方向を見つめていた。大久保が元近鉄の選手なら、一時的にでも手
を組む気にもなれたのだ。だが違った。だから傷を負わせた。とどめを刺す為の深追いを
しなかったのは、自分が【K】のグループから離れてしまっては意味がないから。もうす
ぐ萩原と大西が戻って来る。20分後に萩原を消せばいい。萩原は【K】がゼロなのだから
すぐに消してもいいが、それだと大西からの信頼を失う。ひとまずは手を組んで安心させ
た方が得策だ。
(ジミーさんは……どうしようかな)
上手いこと口車に乗せて、共同戦線を張ろうか。そして、その時が来たら……
今だけは仲良しこよし。手を繋ごう。だがその時間が終わったら全てはまた元に戻るのだ。
香月は矛先を地面へと擦りつけた。ついてしまった血やその他の生々しいものを拭う為。
手にはまだ感触が残っている。人間の肉の弾力。拭いながら改めて矛先を見た。肉片のよ
うな塊が土にまみれてついていた。今度は岩にこすりつけるようにしてそれを落とした。
肉をえぐった時にちぎりとってしまったのだろう。
考えてみれば、本気で誰かを攻撃したのはこれが初めてではないだろうか。
香月の手は震えてすらいなかった。
(……案外いけるもんだな。一撃必殺とまではいかないけど……)
それなりの怪我を負わせているはずだ。精神的ダメージも強いだろう。痛みだってそう簡
単には消えないものだ。
「あ、あれ?香月?」
草を揺らす音がして、木々の暗闇の中から大西が顔を出した。
「香月?」
続いて萩原も現れる。2人は揃ってキョロキョロと辺りを見回した。
「あれ?大久保さんは?」
「え?大久保さんも一緒なんですか?」
とぼけた声を出して香月も一緒に辺りを見回す。
「大久保さーん」
それほど大きくない声で、香月が呼んだ。何も返事は無い。もう一度呼んだ。それでも物
音ひとつ返ってはこなかった。
「探しましょうか」
85「132・メンバー交代 7/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/05(土) 00:11:22 ID:fREFyVI/0
「あれ、待てよ?」
大西が香月に歩み寄る。香月はギクリと体を硬くした。
「香月、お前【K】何個?」
「2個です」
「じゃあ、これでちょうど3個だ!」
大西が喜びの笑顔を隠さずに、萩原を振り返る。萩原は黙っていた。
「こ、これでグループ成立ですよ!」
大西が続ける。萩原は猫の頭を撫でながら呟いた。
「……大久保はどこに行ったんだろうな」
静かにその目が香月を見た。
「お前がここ来た時、大久保はもういなかったか?」
「はい、いませんでした。ちょっとこの辺をウロウロしてたらジミーが出て来て」
「………そうか」
萩原が小さく息を吐いた。
「………大久保、どこ行ったんだろうな」
罪悪感など香月は感じなかった。とにかくこの1時間を乗り越えなければならないのだ。そ
う簡単にグループを作れるはずなどない。このトラップでそれなりの人数が脱落するはず
だ。自分は決してそこには入らない。そう固く誓い、信じていた。その為には何だってす
る。生き残る為には。元ブルーウェーブの連中を消す為には。
「と、とりあえず、これでグループ成立ですよ!」
場の空気を取り繕うように大西が言う。大西自身も後ろめたいものを感じていた。自分は
大久保を信じなかった。萩原を選んだ。その結果、大久保が消えた。どこへ消えたのかは
わからない。そして突然現れた香月。何かがあったのかもしれない。けれどそれは憶測で
しかない。今はそれを追及する時ではない。少なくとも、あと20分は。
大西と香月は萩原を見ていた。
萩原は何をするでもなく、ただ地面を見つめていた。

【残り・28人】
86「133・ふらり 1/1」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/05(土) 00:12:49 ID:fREFyVI/0
よろめきながら大久保は走っていた。いや、走るという速度ではなかった。けれど気持ち
は間違いなく走っていた。ただ、体がその速度についてこないだけだった。
(畜生……畜生………畜生!!)
心の中で叫び続ける。香月の狡猾さにやられた。自分の体が悲鳴を上げているのがわか
る。あと20分弱で仲間を見つけることが出来るだろうか。【K】をあと2つ。
香月は仮面をつけている。無難な人間のように見せかけて、相手の隙をついて攻撃してく
る。萩原と大西は大丈夫だろうか。けれどもうそんなことは大久保の知ったことではない。
今は自分が生き残ることが最優先だ。声を上げることも憚られた。もし香月に追って来ら
れたら……。萩原と大西を口車に乗せて、大久保を敵に思わせて、追って来ていたら……
(いや、向こうにそんな余裕は無いはずだ)
誰かに助けを求めなければ。グループを組める仲間を求めなければ。
「誰か……っ!」
叫びかけてむせこんだ。口元に手をやった。その手を灯りに照らして見る。赤い。
(血だ……)
さっき脇腹の傷口を押さえた時についたのだろう。鮮明な赤が大久保の目に焼きついた。
(こんなこと……こんなことって……)
微かな眩暈を感じた。脇腹から伝い落ちる血の流れが広がり、ユニフォームに染み込んで
いる。ズボンの方にまでペタペタした感触があった。
(やべえ)
病院があればそこに飛び込みたいが、飛び込んで何が出来るのだろう。止血か。だがその
技術が自分にはあるのか。脇腹と肩はなんとかなるかもしれない。だが背中の手当ては誰
かの手を借りたい。どちらにしろ、仲間が必要なのだ。
「誰……か……っ!」
必死になって声を絞り出した。
右手をズボンのポケットに入れた。指先に触れた冷たいもの。それを握って取り出した。
自分を励ますようにギュッと握り、ふらつく足を前へと押し出した。
「……誰かっ!!」
視界が揺れている。それでも大久保は歩き続けた。

【残り・28人】
87「134・登録名か、本名か 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/05(土) 00:13:55 ID:fREFyVI/0
「だから!俺はどっちなんだよー!!」
「ユウキ、落ち着け」
出発地点への道の途中、とうとうユウキが怒鳴った。登録名換算なら【K】は1つ、本名換
算なら2つ、それによってユウキと平野恵一の運命は大きく変わる。ユウキがキレるのも無
理はなかった。
「あと20分も無いんだぞ?どっちなんだよ俺は!」
文句を言いながらも小走りの状態は緩まない。出発地点に戻ればきっとオーナーか誰かが
いる。そこでユウキはどちらで考えられているのか聞こうという計画。しかし残り時間も
少なくなり、焦りは隠せなかった。そもそも出発地点にオーナーがいるとは限らない。な
のにそこに行こうとしている。それしか思い浮かぶ方法がないのだ。せめてもの可能性を
信じて2人は進んでいた。
少しずつ、平野恵一の足取りが遅くなっていた。言葉数も少なくなっている。ユウキは横
目で平野の顔を見た。まだ怪我の治りきっていない体。苦痛に耐えているのだろう。
けれど、速度を緩めるわけにはいかなかった。彼らにはクリアしなければならない問題が
多すぎた。新たに仲間を探すとしても、残り時間はあとわずか。どうしようもない状況だ。
(俺が本名でカウントされてるなら、それが一番なんだ)
ユウキは平野へと手を差し伸べた。
「鞄、貸せ」
「え?いいよ」
「大丈夫だよ、持ってやる」
「いいって」
「俺に食料とラッキーカード預けるのはイヤか」
冗談めかした口調で言った。
「ち、違うって。ちゃんと自分で持てる!」
平野は本気で受け取ったようで、真顔で反論した。けれどそれはある意味正解だった。ユ
ウキの心の奥底を読めるなら。
ふいに、流れている音楽が大きくなった。
『残り15分になりました』
放送が流れた。2人は足を止めずに放送を聞いた。
『先ほど大事な連絡を忘れておりましたので………ユウキくん』
88「134・登録名か、本名か 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/05(土) 00:14:29 ID:fREFyVI/0
名前を呼ばれ、ビクリと体を震わせた。2人の足が止まった。
『君はユウキで登録されていますね。この場合【K】が1つ。フルネームだと2つです』
ユウキは無言のままうなずいた。
『どちらがいいですか?』
笑いを含んだような声が尋ねてきた。
「フルネーム!絶対フルネーム!!」
ユウキが叫ぶ。どこにいるかもわからないオーナーに向かって。
『その設定は初めから決まっています。ただ、発表しておくのを忘れてしまいまして……
ですから、賭けてみませんか?』
「………は?」
『自分がどちらでカウントされているのか、賭けてみませんか?こちらからは教えません。
自分で判断して行動して下さい。君の【K】は1個なのか、2個なのか』
ユウキはあからさまに不機嫌な顔をした。
「なんで俺だけ!不公平だ!」
まるでその声が聞こえたかのように、オーナーが続けた。
『とにかくこちらではもう最初から決まっています。ではこうしましょう。今知りたけれ
ば、今教えて差し上げます。けれど賭けに乗るなら、勝った場合はこのトラップタイム終
了後に……』
ゴクリとユウキは唾を飲み込んだ。
『ラッキーカードの意味を教えましょう』
思わず顔を見合わせた。平野の持っている支給品、ラッキーカードには謎のメッセージが
書かれている。意味はわからない。ただその言葉に導かれて島の端、橋を渡った小島にあ
る研究所へ行こうとしていたのだ。それをこのトラップタイムで妨げられた。
ラッキーカードの意味。それは喉から手が出るほど知りたいものだった。ラッキーという
くらいなのだから、この島で生き残る為の方法を少しでも教えてくれるのだろう。そして
マーマレードが何の役に立つのかも。
けれど、それらは2人の生死を賭けた勝負と引き換えだった。
平野はユウキを見つめていた。
「俺は………」
ユウキは言葉を詰まらせた。命を賭けた大勝負に出るか、否か。
89代打名無し@実況は実況板で:2007/05/05(土) 00:17:48 ID:ca3mn0elO
90:「134・登録名か、本名か 3/4」 ◇UKNMK1fJ2Y :2007/05/05(土) 01:10:03 ID:DyFJM2QF0
(ここで俺の【K】の数を聞いたとする。もしそれが1個だったら、俺らはまた誰かを探し
て走り続けなきゃいけない。15分以内に見つからなきゃ死ぬ……あれ?)
ひとつのことに気づいた。
「あの、質問です」
『はい』
「もし俺が【K】は1個だって方に賭けたとします。それが当たってたとします。で、その
後、俺が【K】を3個集められなかったらやっぱり死ぬわけですか?当たってたのに?それ
じゃあラッキーカードの意味も聞けないし、賭けとしてはこっちが圧倒的に不利じゃない
ですか?メリット少ないですよね?」
『……まあ……そういう考えもありますね』
(ユウキの声が、オーナーに聞こえてる?)
平野は気づいた。ユウキはもう大声で怒鳴ってはいない。その場で喋っている。けれどそ
の言葉にオーナーは反応している。
(どっかに集音マイクがあるのか、それとも盗聴するような装置があるのか)
辺りを見回した。懐中電灯を片手に木々の高い場所を照らしたり、地面をよく見つめたり
した。しかしそれらしい物は見当たらなかった。夜の闇の中では難しかった。
「結局、何を選んでも俺らには不利ってことですね」
ユウキは小さくため息をつくと、小さく拳を握った。
「とにかくこの状態であやふやじゃあ、恵一にも迷惑かけるもんな」
自分に言い聞かせるように呟いた。
「今、俺の【K】の数を教えて下さい」
『……ほう、賭けはしませんか』
「賭けをしたら、恵一まで中途半端な立場にするじゃないですか。だったら今知りたいで
す。それで【K】が足りなければすぐ走り出しますから」
平野はユウキを見ていた。今回の問題は一蓮托生だ。ユウキが賭けをしようがしまいが平
野には関係ない。しかしグループ成立か否かの問題は平野の命まで左右してしまう。ラッ
キーカードの意味を知りたいのは山々だが、自分たちの立ち位置をしっかり見極めること
が先決だとユウキは判断したのだ。
『ならば、お教えしましょう。ユウキ君の持つ【K】の数は……』
91「134・登録名か、本名か 4/4」 ◇UKNMK1fJ2Y :2007/05/05(土) 01:10:55 ID:DyFJM2QF0
平野は目をつぶった。片手で鞄の肩紐を握り締め、すぐにでも誰かを探す為にスタート出
来る準備をした。
『2個です。では放送を終わります』
再び音楽が流れ出した。ユウキと平野は顔を見合わせた。
「………3個?」
「………合計3個!」
「オッケー!」
思わず抱き合ってその場で飛び跳ねた。
「いてッ」
「あっ、ごめん!大丈夫か?」
平野が鎖骨の辺りを手で押さえて動きを止めた。ユウキは平野の背中を支えるようにして
様子を見た。
「とりあえず、俺らの勝ちだ。グループ成立したんだ。少し休もう。恵一、ずっと無理し
て走ってたろ」
「……少し休んだら、また研究所の方に戻ろうな」
相変わらず気の強いことを言う。ひとまず2人は木々の影に隠れるようにしてその場にしゃ
がみこみ、短い休息を取ることにした。


放送が終わったその時、阿部真宏は唇を噛み締めて走り出し、川越は少しだけ泣きそうな
顔になりながら走り出し、鈴木は腹を抑えたまま前屈みに歩き出し、的山は肩で息をしな
がら走り出し、大久保は右手の拳を握ったままよろめき、日高はネッピーと共に菊地原を
背中におぶったまま彷徨い歩き、吉井は地図を持たないまま木々の間を迷い、田中は地図
を握り締めたまま一直線に走り、山口は清原の体の横で眠っていた。

そして、萩原が心の中で呟いた。
(ユウキが持ってるラッキーカードって何だ?生き残るのに有利な物なんだろうか……)

【残り・28人】
92代打名無し@実況は実況板で:2007/05/05(土) 01:11:56 ID:DyFJM2QF0
保管庫の避難スレにあったので代理投下しておきます
93 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/05(土) 01:41:05 ID:SlCEjr6h0
代理投下ありがとうございます。助かりました。
規制がかかってしまって、中途半端なところで…orz
94代打名無し@実況は実況板で:2007/05/05(土) 02:31:08 ID:Sn42rJjmO
乙でございます

そうか…2個だったのか…

てか大久保…大丈夫か…
95代打名無し@実況は実況板で:2007/05/05(土) 06:04:05 ID:Y4lKJWDp0
投下乙です!
良かったな田中祐貴(あえてこう呼ぶ)……
ってかオクボーン大ピンチだし!!!
96代打名無し@実況は実況板で:2007/05/05(土) 17:47:36 ID:vxNAm/WLO
乙です!

残りたったの15分な人達が…
みんながんばって走るんだ…
97代打名無し@実況は実況板で:2007/05/06(日) 00:18:38 ID:fhH0u3uB0
投下乙です。
ああ、もうみんな心配だよ頑張って・・・
98代打名無し@実況は実況板で:2007/05/06(日) 19:57:42 ID:TMEHcqx40
オリオタの特徴。
楽天にだけは負けたくないとやたらと敵対心を持っている。
関西での阪神の圧倒的人気に露骨に嫉妬して反発し続ける屈折した感性の人達。
清原が本気で戦力だと信じている。
今年はシーズン1位が優勝なのに「3位にさえなればいい」という卑屈な発想の持ち主。
全国の清原ファンより全国のオリックスファンの方が数が少ない。
タダ券バラ撒き・社員大量動員・悪質水増しのトリプルコンボで過去二年無理やりパリーグ3位の観客動員を「捏造」し続けた事を必死に否定する。
他球団で活躍するノリ・谷・早川を「どうせ残ってたら活躍しなかった」と必死に現実逃避。
毎年シーズンオフと四月前半までは戦力分析スレでやたらと強気発言を繰り返す。
2球団のいいとこ取りの悪質極まりない合併をしたくせに糞弱い現状を「1+1は必ずしも2」ではないという苦しい言い訳を繰り返し、
残りカスを押し付けた楽天についに順位で抜かれて最下位に落ちる事となる。

オレがオリオタで一番嫌いな所は上を見ないで、すぐに下を見ること。
チームが弱いと「楽天よりマシ」
客が入らないと「楽天(西武)よりは入ってる」
GW全敗すると「阪神だって全敗」
いかにオリオタが屈折した思考の持ち主だということがわかる。
12球団1不人気で12球団1弱い。
ノリキヨ・ラロッカ・デイビー・菊地原・ローズ・村松・セラフィニと他球団のお下がりばかりアテにしたハイエナ球団。
負ければ全て「暗黒」・「負広」・「ノリ」の一言で片付け、ハイエナ選手頼みで若手が全く育ってないことは完全スルー。
ハイエナ球団オリックスはこのオフには誰を狙うの?
福留?カブレラ?和田?よしのぶ?
もういいかげんにしてください。
99代打名無し@実況は実況板で:2007/05/06(日) 19:58:58 ID:TMEHcqx40
ちょっと苦手なあの目線〜♪
こっち観てぇ〜♪
100代打名無し@実況は実況板で:2007/05/06(日) 20:02:37 ID:TMEHcqx40
オリオタの特徴。
楽天にだけは負けたくないとやたらと敵対心を持っている。
関西での阪神の圧倒的人気に露骨に嫉妬して反発し続ける屈折した感性の人達。
清原が本気で戦力だと信じている。
今年はシーズン1位が優勝なのに「3位にさえなればいい」という卑屈な発想の持ち主。
全国の清原ファンより全国のオリックスファンの方が数が少ない。
タダ券バラ撒き・社員大量動員・悪質水増しのトリプルコンボで過去二年無理やりパリーグ3位の観客動員を「捏造」し続けた事を必死に否定する。
他球団で活躍するノリ・谷・早川を「どうせ残ってたら活躍しなかった」と必死に現実逃避。
毎年シーズンオフと四月前半までは戦力分析スレでやたらと強気発言を繰り返す。
2球団のいいとこ取りの悪質極まりない合併をしたくせに糞弱い現状を「1+1は必ずしも2ではない」という苦しい言い訳を繰り返しておきながら、
残りカスを押し付けた楽天についに順位で抜かれて最下位に落ちる事となる。

オレがオリオタで一番嫌いな所は上を見ないで、すぐに下を見ること。
チームが弱いと「楽天よりマシ」
客が入らないと「楽天(西武)よりは入ってる」
GW全敗すると「阪神だって全敗」
いかにオリオタが屈折した思考の持ち主だということがわかる。
12球団1不人気で12球団1弱い。
ノリキヨ・ラロッカ・デイビー・菊地原・ローズ・村松・セラフィニと他球団のお下がりばかりアテにしたハイエナ球団。
負ければ全て「暗黒」・「負広」・「ノリ」の一言で片付け、ハイエナ選手頼みで若手が全く育ってないことは完全スルー。
ハイエナ球団オリックスはこのオフには誰を狙うの?
福留?カブレラ?和田?よしのぶ?
もういいかげんにしてください。
101代打名無し@実況は実況板で:2007/05/06(日) 20:03:46 ID:TMEHcqx40
オリオタの特徴。
楽天にだけは負けたくないとやたらと敵対心を持っている。
関西での阪神の圧倒的人気に露骨に嫉妬して反発し続ける屈折した感性の人達。
清原が本気で戦力だと信じている。
今年はシーズン1位が優勝なのに「3位にさえなればいい」という卑屈な発想の持ち主。
全国の清原ファンより全国のオリックスファンの方が数が少ない。
タダ券バラ撒き・社員大量動員・悪質水増しのトリプルコンボで過去二年無理やりパリーグ3位の観客動員を「捏造」し続けた事を必死に否定する。
他球団で活躍するノリ・谷・早川を「どうせ残ってたら活躍しなかった」と必死に現実逃避。
毎年シーズンオフと四月前半までは戦力分析スレでやたらと強気発言を繰り返す。
2球団のいいとこ取りの悪質極まりない合併をしたくせに糞弱い現状を「1+1は必ずしも2ではない」という苦しい言い訳を繰り返しておきながら、
残りカスを押し付けた楽天についに順位で抜かれて最下位に落ちる事となる。

オレがオリオタで一番嫌いな所は上を見ないで、すぐに下を見ること。
チームが弱いと「楽天よりマシ」
客が入らないと「楽天(西武)よりは入ってる」
GW全敗すると「阪神だって全敗」
いかにオリオタが屈折した思考の持ち主だということがわかる。
12球団1不人気で12球団1弱い。
ノリキヨ・ラロッカ・デイビー・菊地原・ローズ・村松・セラフィニと他球団のお下がりばかりアテにしたハイエナ球団。
負ければ全て「暗黒」・「負広」・「ノリ」の一言で片付け、ハイエナ選手頼みで若手が全く育ってないことは完全スルー。
ハイエナ球団オリックスはこのオフには誰を狙うの?
福留?カブレラ?和田?よしのぶ?
もういいかげんにしてください。
102代打名無し@実況は実況板で:2007/05/07(月) 08:01:20 ID:YztuQu7tO
↑保守どうも
103代打名無し@実況は実況板で:2007/05/08(火) 01:21:01 ID:B+4q1djt0
104代打名無し@実況は実況板で:2007/05/08(火) 23:15:18 ID:oy59fpTu0
ほしゅ
105代打名無し@実況は実況板で:2007/05/09(水) 21:42:55 ID:CgE41fxpO
連敗止まったよ、今日はしあわせだ保守!
106代打名無し@実況は実況板で:2007/05/09(水) 21:48:12 ID:OUOfCKVeO

∩(´∀`゚)゚・゚.。・。゚.


こっちの選手もガンバレ! 保守
107代打名無し@実況は実況板で:2007/05/10(木) 15:28:57 ID:m3JWflog0
あげ
108代打名無し@実況は実況板で:2007/05/11(金) 03:02:48 ID:Yo3UdhDWO
捕手
109「135・求めていたもの 1/8」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/12(土) 01:08:53 ID:nCkj/W1d0
「畜生!あのクソガキ!」
追い続けていた白い背中は、とうに見えなくなってしまった。
それでも吉井は走らなければならなかった。グループを成立させた選手を見つける為に。
時間は残り15分を切った。【K】をひとつも持たない吉井は、他の誰かにすがるしかなかっ
た。元々向かおうとしていた日高と菊地原のグループは【K】が4個でオーバーしている。
しかしそこに田中彰が加われば【K】は6個。グループ成立だ。今の状況から考えてそこに
合流することが一番の近道に思われた。
しかし地図を失った今、日高たちの位置もうろ覚えだった。
(この俺が、あんなガキに!)
時間との勝負の他に、もうひとつ。禁止エリアとの勝負がある。禁止エリアの位置もあや
ふやだ。なんとなくこの辺り、という感覚でしかない。
(行ってやるぞ畜生!合流してやるからな!)
憤怒に押されるようにして、吉井は走り続けていた。
(生き抜くんだ!)
そう、あの時のように。パーティで聞いた仰木監督の一言。
「吉井を取って下さい」
吉井の目の前で球団幹部に上訴したあの一言。チームを解雇となり行き先を失った自分と
再度契約するよう、仰木監督自ら球団へと進言してくれた。
ずっと嫌われていると思っていた。仰木監督と自分の考え方は合わないのだ、そう思って
いた。なのにその人が自分を必要だと言ってくれた。この信頼に答えなければ男ではない。
『個人のわがままを聞いていると、チームが成り立たない』
そう窘められたのは若い日のこと。吉井はもう過去の自分を見つめ直し、糧とすることが
出来る大人になっていた。
感謝。
その一言を胸に、このチームを育てる為に、吉井はマウンドに立ったのではなかったか。
仰木監督への感謝、チームメイトへの感謝、野球への感謝、家族への感謝、支えてくれる
人たちへの感謝。
けれど、今の吉井にはそれらの言葉は動きを阻む枷でしかなかった。
生き残る為に、人の心を消した。
残り13分。
110「135・求めていたもの 2/8」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/12(土) 01:09:38 ID:nCkj/W1d0
(やべえよ!マジやべえよ!)
阿部真宏は辺りを見回しながら走っていた。
「誰かー!誰かいないかー!」
懐中電灯を振り回す。
「俺1個も持ってねえんだよー!誰かー!」
なりふり構わず叫び続ける。
さっき見かけた踊る猿。あの猿の向こう側に見えた、灯りのついた家。そこに行けばよか
ったのだろうか。勇気を出して不気味な猿を突っ切って行けば、仲間に出会えたのだろう
か。こんな状況で「もしも」の可能性を考えても仕方が無いとはわかっているのだが。
「だーれーかー!!」
叫びながら、はぐれてしまった水口のことを考えた。
(水さん大丈夫かな……怪我したっぽいし………まさか早川に襲われてたりはしないよな
……水さんを襲ったのも早川だったのかな………)
自分を襲ってきた早川のことを思い出す。早川自身はグループに入ることが出来たのだろ
うか。あの尋常ではない目つきを考えると、仲間を得ることは難しそうだ。彼はどうする
のだろう。何かに憑かれた不思議な目をしたまま、仲間を探しているのだろうか。それと
もそんなことを考える余裕もなく、狂気に流されてタイムアウトを迎えるのだろうか。は
たまたラッキーな偶然が重なって、見事にグループを成立させているのだろうか。
(こんなに清く正しく頑張ってる俺が放浪中で、おっかない早川がグループ成立なんて不
公平じゃないか?神様なんとかしてくれよ!)
心の中で愚痴を吐きながら、阿部は暗闇を駆け抜けた。
(放送じゃあ、ユウキのラッキーカードがなんとかって言ってたけど……)
今は自分に関係ないことを考えるのはよそう。とにかく仲間を探そう。その為に叫び続け
よう。時間は残酷なまでに限られているのだ。
「誰か仲間に入れてくれーっ!!」
残り12分。
111「135・求めていたもの 3/8」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/12(土) 01:10:16 ID:nCkj/W1d0
(かっこつけすぎたかな……)
自分の選択は間違っていたのだろうか。川越は考えながら走っていた。
仲間を助けたかった。自分がいなくなれば本柳、塩崎、水口はグループ成立で助かるのだ。
だから走り出した。選手会長という責任感を背負って。
(俺だって……俺だって生きたいよ!)
半泣きになりそうな自分を抑え込んで、川越は耳をすませた。さっきどこかで誰かの叫び
声のようなものを聞いたからだ。
「おーい!」
自分からも呼びかける。
「誰か【K】1個持ってないかー!」
もしここで死んだとしたら、自分は誇りを持って死ねるだろうか。自分で納得出来るだろ
うか。自分の行動に後悔はしないだろうか。
(納得出来ないから走ってんだよ!生きたいんだよ!)
約束したのだ。グループを成立させて、生き延びて、本柳たちの所へと帰るのだ。
時折脳裏を掠める白い靄のようなものが気になるが、今はどうでもいいことだ。不確かな
記憶についてはまた後でゆっくり考えればいい。
残り11分。
112「135・求めていたもの 4/8」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/12(土) 01:11:08 ID:nCkj/W1d0
自分では必死に走っているつもりだった。けれど的山の足がついてこなかった。年齢的な
もの、体力的なものと言い訳をすることは簡単だ。けれどスポーツ選手としてのプライド
がそれを認めたくはなかった。
ベテラン。
そんな言葉で全てを誤魔化せる年齢になった。けれど密かに的山はこの言葉を嫌っていた。
逃げの言葉と解釈した。
(俺だって……まだまだ出来るんだよ……)
息切れの中、自分を励ます。
(こんな所で死んでたまるかよ)
声を出そうとした。誰かに呼びかけたかった。けれどその為には呼吸を整えなければなら
ない。荒い息はなかなかおさまりそうにもなかった。
「誰……かっ!!」
途切れ途切れの声は、暗闇に響かない断片的なものだった。これが野次将軍の早川や下
山なら遠くにもよく響く声を出したのだろう。
こんな所で年齢を感じるとは思わなかった。また少し時間を作り、呼吸を整えた。
「誰かーっ!」
返事はない。だからまた走り始める。不毛な行動の繰り返しに思えてしまうが、それでも
止めることは出来なかった。これだけが、唯一生き残りへの方法なのだ。
(ジミーは……大丈夫か……?)
つい他人のことを考えてしまう優しさ。それが本来の的山であるはずなのに。
残り10分。
113「135・求めていたもの 5/8」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/12(土) 01:11:49 ID:nCkj/W1d0
『残り10分になりました』
また音楽が大きくなり、放送が流れ始めた。
『そろそろ音楽が徐々に早くなっていきますので、それを目安にして下さい。では』
「もうイヤだもうイヤだもうイヤだっ!!」
「日高さん!落ち着いて!」
菊地原を背負ったまま、日高が絶叫する。前屈みになって声を振り絞るようにして叫んだ
為、菊地原の体が背中からずり落ちそうになった。
「危ない!」
ネッピーが慌ててそれを支えた。
「日高さん、落ち着きましょう、ね?」
同時に日高の肩に手を置き、必死に気持ちをなだめようとする。だが日高の表情は、見て
いる方がつらくなるくらい絶望的だった。
「なんで俺たちがこんな所で死ななきゃいけないんだよ!」
「死ぬと決まったわけじゃないです!頑張りましょう!」
さっきから何度もネッピーは通信機でリプシーに呼びかけていた。しかしリプシーからの
応答は無かった。気づいていないのか、それとも通信事態が何かの障害を受けているのか。
「日高さん、頑張りましょう!誰かを探しましょう!」
「誰を?!」
オウム返しに怒鳴る。冷静さを欠いていることは明らかだった。普段の日高らしからぬ様
子に、ネッピーも返事に詰まってしまった。
「畜生!もうイヤだ!」
「何がイヤなんです?」
ふいにのんびりとした声がした。日高とネッピーは驚いて声の方を見た。
「田中です。田中彰。【K】は2つ」
声はとても穏やかだった。
「日高さんが2個、菊地原さんが2個、合計6個、グループ成立じゃないですか?」
シン…、とその場が静まり返った。ただ聴きたくもない音楽だけが流れていた。
114「135・求めていたもの 5/8」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/12(土) 01:13:10 ID:nCkj/W1d0
『残り10分になりました』
また音楽が大きくなり、放送が流れ始めた。
『そろそろ音楽が徐々に早くなっていきますので、それを目安にして下さい。では』
「もうイヤだもうイヤだもうイヤだっ!!」
「日高さん!落ち着いて!」
菊地原を背負ったまま、日高が絶叫する。前屈みになって声を振り絞るようにして叫んだ
為、菊地原の体が背中からずり落ちそうになった。
「危ない!」
ネッピーが慌ててそれを支えた。
「日高さん、落ち着きましょう、ね?」
同時に日高の肩に手を置き、必死に気持ちをなだめようとする。だが日高の表情は、見て
いる方がつらくなるくらい絶望的だった。
「なんで俺たちがこんな所で死ななきゃいけないんだよ!」
「死ぬと決まったわけじゃないです!頑張りましょう!」
さっきから何度もネッピーは通信機でリプシーに呼びかけていた。しかしリプシーからの
応答は無かった。気づいていないのか、それとも通信事態が何かの障害を受けているのか。
「日高さん、頑張りましょう!誰かを探しましょう!」
「誰を?!」
オウム返しに怒鳴る。冷静さを欠いていることは明らかだった。普段の日高らしからぬ様
子に、ネッピーも返事に詰まってしまった。
「畜生!もうイヤだ!」
「何がイヤなんです?」
ふいにのんびりとした声がした。日高とネッピーは驚いて声の方を見た。
「田中です。田中彰。【K】は2つ」
声はとても穏やかだった。
「日高さんが2個、菊地原さんが2個、合計6個、グループ成立じゃないですか?」
シン…、とその場が静まり返った。ただ聴きたくもない音楽だけが流れていた。
115「135・求めていたもの 6/8」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/12(土) 01:15:18 ID:nCkj/W1d0
田中のその異様なまでの落ち着きっぷりに、日高は違和感を感じた。グループ成立という
ことは、自分はこのトラップから生き残ったことを意味する。それは無条件で喜ばしいこ
とだ。今さっきまで狂ったように叫んでいた状況が一気に好転した。両手離しで喜びたか
った。けれど、それら全てを引き潮のように鎮めてしまう何かが、田中の口調には籠もっ
ていた。日高は動けなかった。
「……どうしたんです?グループ成立ですよ?半径1メートル以内に集まらないといけな
いんでしたっけ?」
田中の呼びかけにも、日高は動けなかった。菊地原を背負ったまま、足を動かすことが出
来なかった。
すると田中の方から歩み寄ってきた。ゆっくりした足取りで、無邪気とも言える笑みを浮
かべて。
「よかったですね、これで成立」
田中は日高の顔を見、目を閉じたままの菊地原を見、ネッピーを見た。
「………田中」
「はい」
日高の呼びかけに、素直に田中は答えた。
「吉井さん、見なかったか?」
「吉井さん?どうしてですか?」
不思議そうな表情で尋ね返す。
「さっきネッピーがリプシーと連絡取って、吉井さんがこっちに向かってるはずなんだ。
吉井さんは【K】を1個も持ってないから、上手くこっちに向かってくれてればって思って」
「へえ……そうなんですか……俺は全然知らないですね」
「………ふうん………」
日高はそれっきり黙ってしまった。どうしても田中から感じる違和感を消せなかった。
菊地原はまだ目を覚まさない。
残り8分。
116「135・求めていたもの 7/8」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/12(土) 01:16:45 ID:nCkj/W1d0
すでに大久保は歩いてもいなかった。
ふらつき、よろめく足で、少しずつ、ほんの少しずつ、立ち位置を変えていた。
顔色は蒼褪めている。意識もぼんやりしてきた。ただその場で右へ左へ揺れているだけの
状態だった。
放送を聞いた。けれど聞き流していた。残り10分という言葉は聞こえた。けれどもはや大
久保にはたいした意味を持たなかった。
大久保は、自分の残り時間を感じ取っていた。
ジェノサイダー。
それが大久保の役割のはずだった。この島に運ばれて、ルールを教えられて、そう決意し
たはずだった。けれどそう簡単にことは運ばなかったようだ。何かが足りなかったのだろ
うか。覚悟。殺意。憎しみ。開き直り。
信用してしまったのだ。ほんの少しだけ、チームメイトを。それはジェノサイダーには相
応しくない感情だった。
下半身、左側は脇腹から流れ出た血で真っ赤に染まっている。おそらく背中もそうなのだ
ろう。激しい肉体の損傷を伴うこれほどの出血量、圧倒的な赤に染まっても人は動けるも
のかと大久保は妙に感心していた。
それは執念。
ひとつのことへの執着。
けれど、それも限界が近づいていた。
ザッ。
音を立てて、膝から崩れ落ちた。
ドッ。
前のめりに倒れこむ。重い音と共に鞄が左肩から落ち、体の横に転がった。
大久保は右手を伸ばした。何かをずっと握ったままの震える手で人差し指を立てた。地面
にゆっくりと、その文字を書いた。
117「135・求めていたもの 8/8」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/12(土) 01:17:32 ID:nCkj/W1d0
『リプシーへ』
彼女はいつも笑顔だった。楽しそうに踊っていた。どんなにつらくても、彼女は周りを元
気づけるべく立ち振る舞っていた。子供たちのアイドル。そして大久保の。
掌を返す。文字の横で、指を広げた。
金色の、錨の形のブローチ。
(……君に………渡したかったんだ………)
いつか、この小さなプレゼントは届くだろうか。
自分の秘めたこの気持ちも届くだろうか。
(………もう一度………ハイタッチ………したかった………)
少しずつ、全ての記憶が遠くなる。
『………誰かー………』
どこかで彼女の声が聞こえたような気がした。
大久保はそっと微笑み、目を閉じた。

【×大久保勝信 残り27人】
118「136・カウントダウン 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/12(土) 01:19:00 ID:nCkj/W1d0
『残り5分です』
音楽のテンポが早くなる。川越は無我夢中になって走っていた。
「誰かいるかー!2個持ってるぞー!」
可能性は限りなく低い。【K】をひとつだけ持っている人物ただ1人と出会わなければいけ
ないのだ。
「誰かー!!」
懐中電灯を振りながら、川越は走っていた。気づくとやや急な坂道を登っていることに気
づいた。いちいち地図を出すのももどかしく、頭の中で地図を描く。これは中央辺りにあ
った丘だろうか。こんな所に仲間がいるのだろうか。
誰でもいい、返事をして欲しかった。1人でいることが嫌だった。もうすぐ自分は死ぬかも
しれない。その瞬間を1人で迎えることにも何故か恐怖を感じていた。誰かに出会ったとし
ても、それがすでに成立しているグループだったら自分の居場所は無い。それでも誰かと
対面して死ぬ方がマシな気がした。この暗闇の中、何の希望を得ることもなく独りぼっち
で死ぬのは嫌だった。
どちらにしても、死ぬことには変わりないのに。
「誰かーっ!!」
半狂乱に近い形相で叫んだ。
『残り4分です』
刻一刻と、執行猶予時間が減ってゆく。
「誰かーっ!!返事してくれーっ!!」
絶叫した瞬間、遠くでガサガサという音がした。弱々しかったが、木の枝を故意に揺すっ
たような音だった。
「誰だ?!」
思わず叫んだ。足はその方向へと勝手に向かっていた。夜の闇を生きる獣かもしれない。
だがそんな考えは微塵も浮かばなかった。残り4分。一抹の望みに縋ろうとしていた。
「川越だ!【K】は2個!そっちは!」
ガサガサとまた音がした。今度はさっきよりもやや激しく。それが返事のように思えた。
「音をくれ!そっちに行く!」
道しるべとなる音を求めた。またそれに答えるように、葉の擦れる音が聞こえる。間違い
ない。そこに誰かがいるのだ。そして川越に返事をしているのだ。音は続いた。
119「136・カウントダウン 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/12(土) 02:21:38 ID:E730ijbH0
最後の賭けだった。川越は音だけを頼りに走り続けた。音が徐々に大きくなってくる。
『か……えさん!』
誰かが呼んだ。そして咳き込む音。草の音。間違いない。そこに誰かがいる。
川越を待っている。
『残り3分です』
音楽のテンポが川越を焦らせるように急激に早くなる。
だが木々の間から微かな灯りが見えた。音もその場所から聞こえてくる。
「そこか!」
走った。生い茂る木々を駆け抜け、頬を打つ葉も気にすることなく真っ直ぐに。
そして、その小さな場所に出た。
地面に転がった、灯りのついた懐中電灯。座った体勢のまま一本の長い枝を掴み、その周
囲に茂る木々を必死に揺らしている背中。
44番。
「鈴木!」
その背中に飛びついた。
「ぐっ!」
鈴木がうめく。川越は慌てて鈴木の顔を覗き込んだ。そして思わず目を背けた。
顔中が血で汚れていた。腹部も、両手も、ユニフォームも。顔は鼻の辺りを中心に無残に
傷つき、腫れていた。チーム内では端正なマスクを誇る鈴木とは思えない有様だった。
「す、鈴木!【K】は?!」
川越は慌てて尋ねた。鈴木が震える手で血だらけの指を1本立てた。
「1個か?1個だな?!俺は2個!これでグループ成立だぞ!成立なんだぞ!あと3分頑張
れ!助かるんだぞ!」
川越は鞄を降ろすと急いで救急箱を取り出した。
『残り2分です』
音楽がまた早くなる。早回しにした音が高くなり、妙に耳に障った。
「鈴木!怪我、大丈夫か?!」
『……―い!』
どこかから、誰かの声がした。慌てて川越は息を潜めた。
120「136・カウントダウン 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/12(土) 02:22:27 ID:E730ijbH0
やっとグループが成立したのだ。【K】はジャスト3個でなければならない。それ以上でも
以下でもいけないのだ。またさっきのような事態だけは御免だ。残酷だとは思いながらも、
川越は今を生き残ることに必死だった。もしもの時は鈴木まで死ぬことになる。
『誰かーっ!!』
声が近くなる。川越は鈴木の肩を抱きこむようにして地面に体を近づけ、木々の影と一体
になるようにした。時折鈴木が痛みに呻いたり咳き込みそうになったが、必死にそれを堪
えた。
『俺1個も持ってねーんだよー!!』
その絶叫に川越は身を起こした。
「誰だ!」
思わず尋ねていた。
『阿部!阿部真宏!どこにいるんですか!』
「こっちだ!声の方に来い!!」
川越は片手で懐中電灯を掴むと360度グルグルと振り回した。
「急げ!!」
『残り1分です』
音楽のボリュームが一段と上がった。そしてテンポも。狂った音楽が島の中に流れ始める。
「阿部!!急げ!!」
土を蹴る音。草を打つ音。何かが必死になって近づいてくる。川越はその方向へと灯りを
振った。
「頑張れ!!こっちだ!!」
『残り30秒』
何も出来ない。灯りを振り、声を出すこと以外、何も。それでも川越は必死だった。阿部
がここに辿り着くことだけを祈っていた。頭の中がいっぱいになり、呼吸もままならない
状況で、ただ自分の心臓の音だけがやけにハッキリと聞こえていた。
「阿部―っ!!」
阿部は何も答えない。声を出す余裕も無く、ただひたすら走っているのだろう。
『残り20秒』
音楽はただ川越の精神を圧迫する。そして阿部の焦りをけしかける。
121「136・カウントダウン 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/12(土) 02:23:28 ID:E730ijbH0
カタン、と小さな音がしたことに川越は気づかなかった。
鈴木の手が川越の救急箱に伸びていた。蓋を開けようとしているのだが、腕に力が入らず
上手く出来ないようだった。
『残り10秒』
「阿部―っ!!」
『9』
木々の間から零れる灯りは確実に大きくなってきていた。
『8』
救急箱の蓋が開いた。
『7』
土を蹴る音が近くまで来ている。
『6』
微かな灯りの中、鈴木は横目で救急箱の中身を確かめた。
『5』
震える指先が箱の中を探る。銀色に光るそれに触れた。
『4』
一際大きく、枝を弾く音がした。
『3』
「急げーっ!!」
川越は叫びながら、鈴木の体を抱えるようにして立ち上がった。無駄だとわかっていても、
少しでも阿部との距離を近づけようとしていた。
『2』
ガサリ、という音と共に大きな光が川越の目を射た。
『1』
「うわあああああああああーっ!!」
絶叫と同時に、阿部はヘッドスライディングをするように頭から2人の方へと飛び込んだ。

【残り・27人】
122 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/12(土) 02:24:19 ID:E730ijbH0
今回は以上です。
次回はちゃんと連投規制かからないように計算して投下します…orz
123代打名無し@実況は実況板で:2007/05/12(土) 08:10:56 ID:EFg0ZYVA0
乙であります!
あ、阿部ちゃんは間に合ったの…!?
そして川越さんピーンチ?!
124代打名無し@実況は実況板で:2007/05/12(土) 09:39:54 ID:/zHKe/fpO
乙でございます!


うわぁーん…大久保がぁ、大久保がぁ…
そして阿部ちゃんは大丈夫かあ!!
125代打名無し@実況は実況板で:2007/05/12(土) 18:07:21 ID:OyS49ibb0
新作乙です!
ついに大詰めか……
オクボーン……。・゚・(ノД`)・゚・。
やっぱりリプシーの想い人はこの人だったか……
そして鈴木が一体何をするつもりなのか気になる。
126代打名無し@実況は実況板で:2007/05/12(土) 19:57:16 ID:Tn4iFDxJO
投下乙です!!


あべちゃん誕生日おめでとう、そしてどーなった?!

127代打名無し@実況は実況板で:2007/05/12(土) 21:45:41 ID:P3Yystbz0
すげー、読んでるだけでドキドキするわ。
オクボーンさよなら・・・。プチエースたちはどうなるんだろう。
128代打名無し@実況は実況板で:2007/05/13(日) 21:45:22 ID:fwrpYL2G0
乙です!
チーム状態に反してこちらはクオリティ高いなぁ(ノД`)
129代打名無し@実況は実況板で:2007/05/14(月) 16:49:51 ID:hFOPv4WS0
130代打名無し@実況は実況板で:2007/05/14(月) 18:23:54 ID:fLfaek2WO
>>129
こっちにしてくれw
つ☆
131代打名無し@実況は実況板で:2007/05/15(火) 23:43:09 ID:mQBxXEzFO
132代打名無し@実況は実況板で:2007/05/16(水) 21:31:11 ID:MXwheq1iO
133代打名無し@実況は実況板で:2007/05/17(木) 05:57:14 ID:C5RV2ixw0
134代打名無し@実況は実況板で:2007/05/17(木) 22:14:42 ID:nsIpdNkeO
135代打名無し@実況は実況板で:2007/05/18(金) 19:12:05 ID:KktNLPKFO

136「137・神の判断 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/19(土) 00:36:04 ID:GC6hjBs30
『0』
ゼロ、という言葉がとても穏やかに響いた。
島内に流れている音楽が突然ピタリと止んだ。
それでも立ち止まることなく吉井は走っていた。もう少し、もう少しでその場所に着くは
ずだ。そう信じて走り続けていた。立ち止まることは諦めを意味する。自分から敗北を認
めることだけはしたくなかった。先に諦めた者に敗北は約束されるのだ。
『トラップタイム、終了です』
喜怒哀楽すら見せず、業務的な放送が続く。
『グループを成立させた皆さん、おめでとう』
吉井は走り続けた。微か遠くに見える灯りがあった。それを目指して走っていた。
『では、グループを作ることが出来なかった皆さん』 
ドクン、と心臓が一際大きく跳ねた。
『残念ですが、ここまでです』
(嘘だ!)
心の中で叫んだ。こんな馬鹿な話があるはずがない。そう簡単に人の命を扱えるはずがな
い。オモチャのように弄び、いらなくなったら捨てる。そんなことが。
スポーツ選手になった以上、監督やオーナーの意志で簡単に売買されることは諦めにも近
い気持ちで悟っている。すでに吉井は何度もその落胆と屈辱を味わった。
けれど、命までそんな風に扱える人間がこの世にいるものか。
もしいるのなら、神様はどこにいる?
吉井は生き残りたかった。家族の為に。野球の為に。
その為にチームメイトの命を奪った。オーナーに脅されたからだと自分に言い訳をした。
けれどそれは都合のいいように御託を並べただけだ。この島で簡単に人の命を扱い、オモ
チャのように弄び、いらなくなったら捨てた人間がここにいる。
故に、神様はいない。
137「137・神の判断 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/19(土) 00:37:19 ID:GC6hjBs30
仲違いをし、気まずい関係になった吉井と仰木監督ですら、数年後に握手が出来たのに。
仰木監督、その人間性に触れ、その人の為に全力を尽くそうという気持ちになれたのに。
人間はどこかでわかり合えるはずなのに。吉井は常に『感謝』の二文字を胸にここまで生
きてきたのに。
なのに。
その人間的な感情すら持たない人間が、今、彼らの上に君臨している。
その人間的な感情すら捨てた自分がここにいる。
そして、そんな吉井の命を彼らは奪おうとしている。
(俺が……人を殺した罰か………)
因果応報。
全ては巡ってくるのだ。
(そういう道を選んだのは自分、か)
吉井は走ることを止めた。
手に持っていた消音銃を、鳩に餌でもあげるような動作で軽く投げ捨てた。
ダラリと両手を下げ、空を見上げた。
真っ黒な空に、月が煌々と照り輝いていた。
(山本と吉川の命を奪った俺は、あいつらにとって運命を握る神……悪魔か)
では、吉井の場合は。
『さようなら』
その瞬間、首に嵌められた吉井にとっての運命の神が爆発した。

【×吉井理人 残り26人】
138「138・帰着点 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/19(土) 00:39:18 ID:GC6hjBs30
『残り2分です』
その言葉を的山も走りながら聞いていた。
気づいたら市街地の方まで来ていた。地図を片手に握ってはいるが、もう何の意味もなし
ていない。ただ禁止エリアを避ける為の道具。音か光を探してただ走り続けていた。
諦めたくはなかった。例え可能性は低いにしても、諦めることは自分のプライドが許さな
かった。2分後に殺される運命だとわかっていても、的山は走った。
すでに息が上がっている。これ以上走り続けるのはつらい、もうダメだ、もう諦めてしま
おうか、そう思いながらも1秒1秒を前に進んでいた。
一件の建物を曲がった所で、灯りの点いている建物を見つけた。公共施設のような大きさ
だ。暗闇の中に窓から漏れる灯りが見えた。
(誰かいるのか!!)
微かな希望ではあったが期待に胸をドキドキさせてその建物に駆け寄り、壁沿いに走り、
ドアを見つけた。ガチャガチャと力任せにドアノブを捻る。開かない。
(ダメか!)
諦めかけたその時、数メートル向こうに違うドアが見えた。少し開いているようで、その
ドアからも確かにぼんやりとした灯りが漏れていた。
(そこか!)
誰かいるのだ。ここに誰かが。的山は急いでその入り口へと駆けつけ、中へと飛び込んだ。
そして足を止めた。
多目的ホール。
見覚えがあった。
明るさが足りないと感じるくらいの中途半端な照明。
その理由はすぐわかった。
舞台の上に大きな照明器具が落ちているからだ。
飛び散っているガラスの破片、黒い塊。
そして。
139「138・帰着点 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/19(土) 00:40:45 ID:GC6hjBs30
「…………ハハ」
気づいたら、小さな笑い声が漏れていた。
「………ハハハハハハハ」
笑い声は続いた。乾いたその声は、ひんやりとした室内に響いた。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
大声で笑った。
戻ってきた。
戻ってきてしまったのだ。
舞台へと歩いた。壊れている照明の下に、うつ伏せに倒れている彼がいた。
「………牧田」
手を下したのは、的山。その場所へ巡り巡って戻って来てしまったのだ。
「お前か!お前が俺を呼んだのか!」
楽しげに的山は話しかけた。
「そうか!これがお前の精一杯の復讐か!こいつはやられたぞ!」
的山は舞台に上がると、両手両足を広げて牧田の横に大の字に転がった。
「そうかそうか!そういうことか!」
不思議と的山は晴れやかな表情だった。笑顔のまま天上を見つめた。
(自分の起こした行動は、いつか自分に返ってくる。ジミー、お前は方法を間違えるなよ)
可愛がっていた後輩の姿が浮かぶ。
(お前、もう少し髭の手入れしろよ。今のままだと山賊みたいだぞ)
小さく笑った。
(似合うけどな)
いつの間にか音楽は止んでいた。そして抑揚の無い放送が室内に降った。
『さようなら』
的山の意識はそこで終わった。

【×的山哲也 残り25人】
140「139・一難去って、また一難 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/19(土) 00:42:16 ID:GC6hjBs30
『0』
その声と共に、まるで空を飛ぶような体勢で阿部の頭が鈴木の傷ついた腹を直撃した。
「ぐわあっ!!」
鈴木があまりの激痛に叫び血を吐く。そのまま2人の体が重なったまま後ろへと倒れた。
「危ない!」
2人から離れじと川越もそこに飛びつき、3人揃って草の上へと倒れこんだ。
そのまま3人は動かなかった。動けなかったと言った方が正しい。動くことが恐かった。
阿部は間に合ったのか、否か。自分達は無事なのか。
『トラップタイム、終了です』
とても大きな意味を持つ言葉が、やけにアッサリと告げられた。
『グループを成立させた皆さん、おめでとう』
阿部と川越は顔を見合わせた。鈴木はまた咳き込んでいる。
「助かっ……た?」
恐る恐る、阿部が尋ねた。
「……多分、大丈夫っぽい?」
川越も自信なさげに答える。
『では、グループを作ることが出来なかった皆さん』 
続けられた言葉に思わず阿部は顔を上げた。
『残念ですが、ここまでです』
ゴクンと阿部の喉が鳴った。
『さようなら』
阿部はギュッと目をつぶり、思わず鈴木と川越のユニフォームを握り締めた。
何も起こらない。
ただ、どこか遠くの方で何かが弾けたような音がした。
『トラップタイムは以上です』
141「139・一難去って、また一難 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/19(土) 00:43:18 ID:GC6hjBs30
いきなり阿部の肩がバンバンバンバンと連続で叩かれた。思わず顔を上げると、そこには
満面の笑顔の川越がいた。阿部も思わず笑顔になり、無言のまま川越の左肩をバンバン
叩き続けた。極限状態から解放されたせいか2人とも感情が飽和してしまい、言葉にするこ
とが出来なかった。
「ゲホッ!」
一際苦しそうな音で鈴木が咳き込んだ。慌てて2人は体を起こし、鈴木を見た。
「大丈夫か?スマン、俺思いっきり激突したよな?」
鈴木は阿部の問いかけに答えることも出来ず、嫌な印象を受ける咳を続けていた。両手で
口を抑えてはいるが、その指の間から赤いものが飛び散っていた。呼吸をしても、ヒュー
ヒューと喉が鳴った。川越は急いで救急箱を探した。蓋が中途半端に開いた箱が少し離れ
た場所に転がっている。こぼれた道具を急いで箱に戻し、再び鈴木のそばにしゃがんだ。
「止血しよう。怪我は腹だけか?」
鈴木がかろうじてうなずいて見せた。川越は腹を見て、一瞬小さく呻いた。そこに筒状の
ガラスが埋まっていたからだ。ポタリ、ポタリと赤い血が滴り落ちている。
止血しようにもどうすればいいのか。川越は呆然とした。
「ど、どうすれば……」
困った目で阿部に意見を求める。阿部はひとつの言葉を思い出した。
「そうだ!『Cafe Bs』だ!」
「え?」
「さっき水さんに聞いたんです。『Cafe Bs』って場所があって、そこになら何かあるかも
って。えっと、市街地の端っこだったかな、丘の麓だって。そこで待ち合わせてるんです」
「ちょっと待て、水さんなら塩崎と本柳と一緒にいるぞ」
「え?」
今度は阿部が問いかける番だった。
「俺とガブのいた小屋に、水さんと塩崎が来たんだ。水さんは肩を怪我してた。一応止血
みたいなことはしたけど……【K】がオーバーしたから、俺が飛び出してきたんだ」
「飛び出したって……川越さん、残り時間少なかったのに?死ぬかもしれなかったのに?」
「なんか……気づいたら必死になって飛び出してた」
142「139・一難去って、また一難 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/19(土) 00:44:12 ID:GC6hjBs30
川越が苦笑いをする。これが川越なのだと阿部は思った。無意識のうちに自分よりも他人
を優先してしまう、そんなお人よし。だからこの混合チームの初代選手会長に選ばれ、誰
も異議を唱えなかったのだろう。
以前誰かが言った。
『川越さんは無難って言うか……川越さんを嫌いになる人なんていないでしょ』
確かにそうだ。無難な存在なのだ。だから今こうやって、阿部自身も川越をいつの間にか
信じている。この人は決して自分からその手を血に染めたりしない。そう思った。
「じゃあ、その小屋に行けば合流出来るんですね」
「ああ、合流してからそのカフェとやらに行くのもいいと思うけど、鈴木の手当てを優先
させた方がいいのかな。水さんはカフェに来るのか?」
「多分。水さんの怪我の具合はどうだったんです?俺、会ってないんです」
「え?会ってない?」
「ええ、声だけのやりとりでした」
「そうか………動けない怪我じゃないと思うけど………血が止まってるかだな」
川越が腕を組む。阿部もそれに倣うように腕を組んだ。
「でも水さんに言われたんです。そのカフェで会おうって。水さんの性格だから、きっと
来ると思いますよ」
「でも………」
川越の表情がまた困ったものになる。
「カフェへの道もわからないまま3人揃ってウロウロするのは、鈴木にとってはつらいかな
……体がきついかもしれない」
「そう言われるとそうですよねえ………やっぱり先に小屋に戻って、水さんに案内しても
らった方がいいのかな」
阿部の言葉に、ずっと迷っていた川越も決意を固めたようだった。
143「139・一難去って、また一難 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/19(土) 00:45:40 ID:GC6hjBs30
「カフェと小屋の距離が近ければいいんだけどな。それにメチャクチャに走って来たから
小屋までの道がちょっと曖昧なんだよなあ……」
「その為の地図っしょ!」
阿部がバサバサと地図を開いた。
「小屋はどの辺ですか?」
「えっと、この辺の小屋だから、方向から行くとあっちだな」
暗闇の中の1本の道を指し示したその時。
ガシャンと音がして、鈴木が川越にタックルをするような態勢で救急箱に飛びついた。
「鈴木?!」
鈴木はガシャガシャと箱を漁ると、1本のメスを両手で握り締めた。
「………お前………らぁ………」
掠れる声で喋った。また喉からヒューヒューと空気が漏れた。
「す、鈴木?!」
思わず川越と阿部は寄り添うようにして後ずさる。
「…………道連れだあっ!!!」
ナイフを腹の位置で握り締めたまま鈴木が突っ込んできた。とても怪我人とは思えないよ
うな勢いで。
「うわああっ!!」
その体を間一髪でかわした。攻撃対象を失い、重心を崩した鈴木の体が地面へと倒れる。
狂人となった鈴木から逃れるべく、ようやく休息を得たはずの2人はまた必死になって走り
出す運命となった。
一瞬だけ川越の脳裏に白い靄のようなものが膨らみかけた。自分の思考を支配するような
その感覚に、思わず立ち止まった。
「川越さん!」
阿部に呼ばれ、我に返る。腕を引っ張られるようにして、川越は阿部の後ろを走り出した。

【残り・25人】
144 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/19(土) 00:47:00 ID:GC6hjBs30
今回は以上です。
145代打名無し@実況は実況板で:2007/05/19(土) 00:51:46 ID:cGfzQEpx0
うあぁ・・・
初めてリアルタイム投下に遭遇した・・・
鳥肌モンでドキドキしちまったよ
146代打名無し@実況は実況板で:2007/05/19(土) 01:29:01 ID:2T2EaTOHO
乙どす。

吉井も的山も……
特に的やんの話はゾクっとしました…
147代打名無し@実況は実況板で:2007/05/19(土) 01:38:31 ID:d7jBXKCVO
乙です。
的やんの結末が恐い…

職人さん、IDがラッカルw
148代打名無し@実況は実況板で:2007/05/19(土) 01:41:47 ID:BEFEYU4R0
乙。
ベテランが一気に消えて寂しいな……
あとベテランと言えるので残ってるのは水口くらいか?
149代打名無し@実況は実況板で:2007/05/19(土) 13:08:00 ID:2Ta7g7L+0
乙です。
二人とも今までの業が廻り廻ってという感じの最期だ・・・ゾワッとくるわ。
頑張れ川越&阿部ちゃん
150代打名無し@実況は実況板で:2007/05/19(土) 18:05:26 ID:4r8Hd95a0
乙です。
川越が心配だ...
これからどうなるか。
頑張れ二人とも。
151代打名無し@実況は実況板で:2007/05/19(土) 22:26:11 ID:iPiN+pIFO
乙です!
まーとーやーまぁぁぁぁぁ…゚・(つД`)゚・゚。

さて、トラップタイムが終わった瞬間からあの人やあの人やらがどう動くのかドキドキ
152代打名無し@実況は実況板で:2007/05/20(日) 01:16:22 ID:6gDpWt8r0
あげ
153代打名無し@実況は実況板で:2007/05/20(日) 19:32:40 ID:j+T2yFSOO
☆☆☆
154代打名無し@実況は実況板で:2007/05/21(月) 03:01:13 ID:J6N2NIIrO
一つ質問
Kはジャスト三つじゃないといけないってことだが
菊地原・日高・田中彰のグループの二個×3はOKなの?
3の倍数ならいいの?
155 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/21(月) 19:47:57 ID:mb8bsj3w0
>>154
菊地原・日高・田中組の【K】6個の展開は、今週末か来週末の投下分でわかるようになっています。
伏線などの都合上、投下順序が他のグループよりも後にしてあります。
すみませんが、もう少々お待ちください。
それから、出来ればsage進行でお願い致します。次のスレではテンプレにも入れるようにしますね。
156代打名無し@実況は実況板で:2007/05/21(月) 22:45:26 ID:BNd4Avs4O
wktkにしてます
157代打名無し@実況は実況板で:2007/05/22(火) 21:08:42 ID:UBJhCR9QO
☆☆☆☆
158代打名無し@実況は実況板で:2007/05/23(水) 03:37:43 ID:qc+e9EyW0
159代打名無し@実況は実況板で:2007/05/24(木) 00:10:04 ID:XNOh/yYnO
保守
160代打名無し@実況は実況板で:2007/05/24(木) 19:24:01 ID:oYXS9LpaO
161代打名無し@実況は実況板で:2007/05/25(金) 15:44:45 ID:akH6mFNj0
ほしゅ
162代打名無し@実況は実況板で:2007/05/25(金) 22:37:43 ID:sAOt0E5vO
保管庫さん…

138.帰着点の話が変な事になってます…

163代打名無し@実況は実況板で:2007/05/25(金) 23:31:46 ID:y6dAuosL0
>>162
すいません直しておきました。
また何かあれば教えてもらえると助かります
よろしくおねがいします
164「140・本当のこと  1/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/26(土) 01:11:30 ID:zNm4C0780
『トラップタイムは以上です』
その言葉の流れた5秒ほど後、早川が小さな息を吐いた。
グループが出来上がった後もしばらく歩き回っていたのだが、歩きつかれた早川、後藤、
平野佳寿の3人は、見つけた丸太の上に並んで同じ方向を向いて座っていた。近くからサ
ーッ、サーッという不思議な音が聞こえた。多分、波が打ち寄せている音だと後藤は思っ
た。かなり沿岸部まで来ているようだ。
「今、グループを作れなかった皆さんって言ったよな?」
早川が呟く。
「言ってましたね」
後藤が静かに答える。
「じゃあ、このトラップで生き残れなかった奴がいるってことだよな?」
「そうですね」
早川はまた息を吐いた。今度はため息だった。
「……下山とか、大丈夫かなあ……」
「元気印の野次将軍ですもんね」
「ベンチでよく俺とシモで並んでさあ、いろいろ大声出してたんだよなあ……あいつにだ
けは負けられんって感じで」
「そんなところで勝負しないで下さいよ」
後藤が小さく笑う。早川も笑った。その両手はしっかりと刀を握り締めてはいたが。
「あいつなら、なんやかんやで生き残ってると思うけどな………こういう状況だと、なん
だかわかんないけど些細なこととか思い出すんだよな……ホント、あいつの大声は耳に響
くんだよ。一度隣で聞いてみ?」
「遠慮しときます」
「でもさあ……」
早川はとても穏やかな目で遠くを見つめた。
165「140・本当のこと  2/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/26(土) 01:13:08 ID:zNm4C0780
「こういう風に追いつめられた時にフッと肩の力が抜ける時ってあるじゃん、緊張感が切
れる時って言うかさ。そういう時に思い出すこと程、本当のことなのかもしれないよな」
早川の言葉の意味が平野にはよく理解出来なかった。何故なら平野の緊張感はまだ続い
ていたから。そして、そういう時に思い出すことなど何もなかったから。あったとしても、
印象にも記憶にも残らないような、取るに足らないことだろう。
「シモの馬鹿デカイ声思い出すんだよ。懐かしいんだよ。ついこの間までよく聞いてたこ
となのに。デカイ声、ベンチの声、見てる試合、野球をしている自分……全部大切って言
うか、俺にとっては本当のことなんだよ」
「シモさんの野次からそこまで繋げる早川さんがすごいです」
後藤が茶化したように言う。
「じゃあゴッツ、お前が思い出したこと、何?」
後藤の頭には、この島に放たれてからずっと考えていたことが当然のように浮かんだ。阿
部真宏を見つけなければならない。大切な一言を告げなければならない。そのまま言うの
はあまりに恥ずかしかったので、オブラートに包んだ。
「阿部ちゃんかなあ。同級生だし、大学時代からのチームメイトだし」
「そっか、阿部探してるって言ってたもんな。平野は?」
話題を振られて平野は軽く小首を傾げて見せた。
「特になにも」
サラリと告げる。早川が大袈裟に残念そうな顔をした。
「あー、まだ若いからかなあ」
「俺だってまだ若手ですよ」
後藤が負けずに自分を指差す。
「ゴッツが若手ならこの早川大輔は永遠の若手だぞ」
風が吹いた。周囲の草木がさわさわと揺れた。
166「140・本当のこと  3/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/26(土) 01:14:11 ID:zNm4C0780
「あれ?」
何かに気づいたのか、平野が立ち上がった。木々の向こう、じっと一点を見つめている。
その方向へと数歩歩いた。
「どうした?」
後藤も立ち上がる。平野の隣に並ぶようにして、同じ一点を見つめた。
「……ゴッツさん」
「ん?」
相変わらずのとぼけた返事が返ってくる。
「どうしてゴッツさんはそう簡単に人を信じるんです?」
「さっきも言っただろ、俺はいつでも友達募集中だよ」
「……お人よしなんですね」
「違うよ………お前はまだ子供だな」
また自尊心を傷つけられて、平野は憎々しげに後藤を見た。後藤はニヤニヤ笑いながら、
平野が見つめていた方へと少しだけ足を進めた。
「警戒心が強いから、逆に誰とでも友達になりたいのかなあ……」
暗闇の方へと顔を突っ込む。両手で小銃を大事そうに抱きかかえたまま。
(これじゃあ……無理だ)
平野は心の中で小さく舌打ちをした。
「おい平野、こっちに何が見えたんだ?」
後藤の問いかけを無視して、平野は早川へと歩み寄った。
「早川さん、ちょっとこっちに」
「ん?どうした?」
出会った時よりも冷静さを取り戻している声で、早川は答えた。そして地面に突き立てた
刀に重心を預けるようにして立ち上がる。静かに刀を土から抜いた。
「あの、こっちに……」
言いかけたその直後、平野が思い切り早川の体にタックルをした。
驚きの声を上げることも出来ず、そのまま早川の体が地面に倒れる。平野は全身で刀に
飛びつくと、早川の手から闇にきらめく長刀をもぎ取るようにして奪った。
167「140・本当のこと  4/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/26(土) 01:14:58 ID:zNm4C0780
「平野!」
早川が叫ぶ。と同時に平野の刀がその体へと情け容赦無く振り下ろされた。
「うあっ!!」
「は、早川さん!!」
後藤が早川の元へと駆け寄ろうとする。しかし平野はすぐに立ち上がり、後藤へと突進し
てきた。
「うわっ!や、やめろ平野!」
叫びながら後藤は平野に背を向けると走り出した。銃を構える暇など無かった。刀の長さ
を考えたら、とにかく平野から間合いを取らねばならない。しかし物凄い勢いで駆けて来
る平野から逃れるには、今はただ走るしかなかった。
その瞬間、後藤の左の足場がズッと崩れた。
「え?!」
重心が崩れる。左足の下の地面が勢いよく崩れてゆく。それは一気に右足にも伝わった。
「う、うわっ!」
崖だった。暗闇の中、高さはわからない。
「うわあああああっ!!」
絶叫しながら後藤の体は崖の方へと倒れ、平野の視界から消えた。ザザッと砂が滑る音。
ドサッと何かが当たる音。平野は地面にしゃがみ自分の足場の安全を確認すると、早川を
見習って首から下げていた懐中電灯を崖下へと向けた。かろうじて後藤の体がゴロゴロ転
がっている様子がチラリと見えた。
「あああああああ!!」
後藤の叫び声は遠くなっていった。そして、ドサン、と何かが落ち着いた音と共に消えた。
崖自体はそれほど高くはないようだった。平野は懐中電灯で下を照らした。8の字を描くよ
うにして辺りを調べる。打ち寄せる波が見えた。倒れている後藤がいた。動く気配は無い。
気を失っているのか、それとも頭の打ち所でも悪くて死んだのか。
(どっちにしろ、とどめを刺しには行けないな)
苦笑いをする。本当は自分の手で後藤を殺したかったのだが。
168「140・本当のこと  5/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/26(土) 01:15:45 ID:zNm4C0780
(今って、引き潮の時間かな?)
よく目をこらすと後藤の倒れている近くの枝に、海草のようなゴミにも見えるものが引っ
かかっている。
(じゃあ、時間がきたら満ち潮になるわけだ)
不敵な笑みが浮かんだ。出発地点でオーナーが行っていたこと。海に入って脱出しようと
すると、首輪が爆発する。体温を検知するとか言っていた。全身が海に浸からなくても爆
発するのだろうか。
(とりあえず……ゴッツさんにはそのまま寝てて欲しいな)
楽しげに笑いながら、平野は後ろを振り返った。まだ早川にとどめを刺してはいない。あ
れだけこの刀に固執していた早川だ。きっと追ってくるに違いない。ならばこちらから迎
え撃ってやろう。向こうは他に武器など持っていないようだ。平野は元いた場所へと歩き
出した。
丸太が横たわっているその場所には、もう誰もいなかった。早川の姿もない。ただ血痕ら
しきものだけが地面に残っていた。
(逃がしたか……またゴッツさんのせいだ)
舌打ちをする。
(まあ……いいや)
なんだか楽しい気分になってきていた。高揚しているのがわかる。刀を月灯りにかざした。
美しく、力強くきらめく光に平野はうっとりと見惚れた。
(この刀があれば……勝てる)
確信した。
(さて………川越さんを探さなきゃ)
刀を一振りして血を払うと、平野は闇の中を独り歩き出した。

【残り・25人】
169「141・号外  1/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/26(土) 01:17:09 ID:zNm4C0780
トラップタイムが終わっても、日高と田中彰はぼんやりしていた。
菊地原の体は地面に横たえられている。横にネッピーが座り、水を濡らしたタオルをその
うなじに当て、繰り返し名前を呼んでいた。
「………行くか?」
日高が尋ねる。
「ま、行かなきゃダメでしょうね」
どこか楽しそうに田中が答える。
「オーナー直々の命令ですからね。そのお陰で俺らは助かったんだし」

トラップタイム残り5分の時、突然日高の首輪の一部が黄色に点滅し始めた。
そして聞こえた声。
『日高君、聞こえますか?』
突然の出来事に日高、田中、ネッピーの3人は息を飲んだ。
『宮内です。聞こえているなら返事をして下さい』
声は日高の首輪から聞こえていた。
「は、はい」
『よろしい。……さて、君たちはさっきから全然動きませんね、残り5分なのに』
「え、ええ、一応【K】が6個揃いましたから……」
奇妙な問いかけに戸惑いながら、日高は言葉を選びつつ話した。
『6個?』
宮内が問いかける。
「はい、俺が2個、菊地原さんが2個、田中が2個。合計6個です。【K】3個のグループが2つ
出来てます」
すると、会話に微妙な間が空いた。思わず日高は田中を見た。田中も曖昧な表情を返した。
『おや、君たちはさっきの私の説明を聞いていなかったんですか?』
「え?」
『【K】はジャスト3個でひとつのグループとして成立します。君たちの場合はどうですか?
数えてみて下さい』
途端に田中の表情が凍った。
『2が3個で合計6個。3のグループが作れないんですよ』
170「141・号外  2/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/26(土) 01:17:58 ID:zNm4C0780
「で、でも、6は3の倍数じゃないですか!」
『グループを作るのは数字じゃありません。人間です。3個ピッタリで1グループと私も宣
言してしまいましたからね、そのルールに従って頂かないと』
日高は言葉に詰まった。確かにその通りだった。思わず3の倍数が集まったという時点でグ
ループは完成したものだと浮かれてしまった。それは田中も同じことだった。
(菊地原さんを真っ二つにして3個のグループ2つ………タチの悪いジョークだね)
田中は心の中で苦笑いをした。そんな場合ではないのに。
残り5分。短い時間で仲間を見つけられるだろうか。日高は唇を噛み締めた。
『…………特例として、助けてあげてもいいですよ』
「えっ……」
『ただし、こちらの命令を聞いてくれるならですが』
宮内の声は絶対的な響きを持っていた。
『ちょっと私の指示する場所へ行ってくれればいいんです。簡単です。今から出発すれば、
明日の朝くらいには楽に到着します。そこで私の言ったことを調べて欲しいのです』
日高は時計を見た。残り時間は5分を切っている。このままでは間違いなく自分は死ぬ。自
分だけではなく、田中も菊地原も。その無残な姿をネッピーに見せることになる。
ネッピーは悲痛な表情を浮かべていた。どうすればいいのかわからず、じっと日高を見つ
めている。
『さあ、どうしますか?』
答えはひとつしかなかった。
「………行けば、このトラップタイムを無事に生き延びられるんですね?」
『そうです。日高君も、田中君も、菊地原君も』
「………なら、行きます。指示に従います」
『契約成立です。行くのは日高君と田中君の2人だけ』
「えっ?」
『ネッピー、君は菊地原君と一緒にいなさい。どうやら意識のない菊地原君は行動するに
はお荷物になりそうですから』
宮内はネッピーがここにいることに気づいている。ならばリプシーの存在もわかっている
のだろう。場所も確実に把握しているのだろうか。
171「141・号外  3/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/26(土) 01:18:50 ID:zNm4C0780
「あ、あの」
日高が思わず問いかける。
「全員一緒じゃダメなんですか?背負って行動出来ますから」
『2人です』
冷たい声だった。
『1人では、私の命令に背いて約束を果たさない可能性もあります。誰かに殺される場合も
あります。2人なら互いに牽制し合うでしょうし、どちらかがハプニングで倒れても、残り
の1人がいますから。3人では菊地原君がお荷物。ネッピーは論外』
「じゃあやっぱり全員で行った方が確率は高いじゃないですか!」
「僕が!僕が行きます!」
ネッピーが思わず声を上げた。宮内の小さな笑い声が聞こえた。
『こちらにも時間というものがありましてね。回答を急いでいるんですよ。菊地原君はお
荷物です。ネッピーの存在は反則です。だから、明日の朝8時までにその場所に着いて、調
べて結果を報告して下さい。………契約は成立したはずですよ?』
最後の一言の裏側に、言い知れない凄みを感じた。日高は目を閉じ、拳を握り締めた。
「……どうして俺たちなんですか。俺たちが一番近くなんですか?」
『いいえ』
「じゃあどうして。オーナーの命令を聞く人ぐらいいるでしょう?そっち側のスタッフと
かそこにいるんじゃないですか?」
『このゲームに関係ない人を島の中に放り込むのは危険だと思いましてね』
(だろうな。俺がスーツの男を見つけたら即座に捕まえて脅すもんな)
田中が心の中で呟く。
『一応ブランボ……いえ、緊急事態用のメンバーがいるんですがね……少々今は使えない
ので。最も適した取引条件を兼ね備えていて、動かしやすい人数なのが君たちです。さあ、
もういいですね?』
有無を言わせない言葉だった。日高は諦めたように肩の力を抜いた。
「途中で約束を破るような素振りを見せたら……」
『首輪が爆発します。当然ですね。だからネッピーには頼めないんですよ。こちらのコン
トロール下にいないのでね』
172「141・号外  4/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/26(土) 01:19:32 ID:zNm4C0780
「…………行きます」
その後、宮内は日高に目的地を教えた。地図を開かせ、詳しい場所を。
『ここにいる清原君に会って下さい』

死んだはずの清原に会いに行けという指令。
日高と田中は納得出来ないものを感じつつも、鞄を肩にかけ直し、それぞれの持ち物チェ
ックをした。
「ネッピー、菊さんを頼むよ」
「はい。菊さんのことは任せて下さい」
「時間的な問題もあるから、ひょっとしたら、俺たちはもうここに戻って来られないかも
しれない」
「……歩いてる途中で、新しい誰かに会うかもしれませんよ。そうしたら、その人たちと
上手い脱出方法が見つかるかもしれないし。希望を捨てちゃダメですよ!」
ネッピーが無理矢理明るい声を出して励ました。日高も笑顔でうなずいた。
「ネッピー」
日高が手招きをした。そして地図を裏返し、ペンで殴り書きをした。
『多分、俺たちの会話は盗聴されてる。だから』
ネッピーがうなずく。日高はまた地図の面を表にすると。自分達のいる島から少し離れた
場所にある小島をペンで指した。何度も。そしてまた地図を裏返すとペンを走らせた。
『夜になるとこの島から光が見える。誰かいる。SOSを送れば助けが来るかも』
ネッピーは思わず日高の顔を見た。
『このことをみんなに知らせたい』
ネッピーが力強くうなずいた。日高のメッセージを背後から覗き込んでいた田中の顔に、
怪しい笑みが浮かんだ。
(これは……なかなかいい情報だ)
日高の地図がしまわれる。そしてネッピーを見つめた。
「戻って来れるように頑張るから」
「はい……僕も頑張ります!」
「じゃあ……」
日高が背中を向ける。田中も続くようにしてネッピーに背中を向けて歩き出した。
173「141・号外  5/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/26(土) 01:20:16 ID:zNm4C0780
日高の心は重かった。菊地原とネッピーから離れなければならないこと、オーナーからの
極秘指令を受けて危険な島の中へと歩き出さねばならないこと、そして。
(………田中の奴、なんか変だ)
まだ違和感が拭えない田中の存在。
全てに納得が出来ないまま、日高は前へと歩かなければならなかった。
(どうしてオーナーはこのトラップで俺たちにわざわざグループを作らせたんだろう)
よく考えたらおかしなことなのだ。殺し合いをさせるなら1人1人を孤立させたほうが不安
も積もる。疑心暗鬼にもなる。なのに選手同士の組み合わせをわざわざ作らせた。これに
は一体どんな理由があるのか。それとも深い意味など無い、ただオーナーが楽しむ為だけ
の娯楽なのか。生き残る為に右往左往する選手を見て笑う暇つぶしゲーム。
(選手を強制的に出会わせて、トラップ終了直後にやる気のある奴は殺し合う……)
考えただけで鳥肌が立った。そしてそんなことを考えた自分が恐ろしくなった。
(でも、やる気な奴はいるんだ)
実際、日高は香月によって高い櫓に閉じ込められた。パンをあげたお陰で命拾いをしたら
しいが。
(それか、わざと選手を出会わせて、余計に疑心暗鬼にさせて、正常な思考の人間すら狂
わせる……)
そう、今の日高のように。
こんな考え方をしている自分が心底嫌だった。
(………もう…………助けてくれ…………頼むから…………誰か………)
心の中で必死に救いを求めた。
少しずつ、着実に、限界が近づいていた。

【残り・25人】
174代打名無し@実況は実況板で:2007/05/26(土) 01:59:05 ID:JReIcxi70
今回は以上ですかぁ?

ゴッツ…無事なのーー
175代打名無し@実況は実況板で:2007/05/26(土) 02:06:04 ID:G4fZeE/sO
乙です。

平野おまえはそっちか!やっぱそっち系か!

早川……
176 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/05/26(土) 02:33:57 ID:A4VDbKBT0
すみません、また規制くらってました。
今回は以上です。
177代打名無し@実況は実況板で:2007/05/26(土) 03:04:11 ID:Kj6B1y6o0
投下乙でしたー

あああゴッツが心配だよゴッツ・・・
178代打名無し@実況は実況板で:2007/05/26(土) 03:26:53 ID:cO0MrJzW0
投下乙です。
平野……結局そうなるのかよ……
清原が何気に死してなおキーマンとなってるな……
179代打名無し@実況は実況板で:2007/05/26(土) 11:26:29 ID:xxnyOS+uO
乙です!
ゴッツに感化されてくのかと思ってたけど、平野さすがだな…
180代打名無し@実況は実況板で:2007/05/26(土) 15:19:45 ID:A7+LUSNy0
早川の言葉、泣ける
移籍したから余計に…

山口が心配です…
181代打名無し@実況は実況板で:2007/05/27(日) 14:54:56 ID:+teFuPJzO
182代打名無し@実況は実況板で:2007/05/28(月) 12:19:25 ID:WFqwzHARO
☆☆☆☆☆☆☆
183代打名無し@実況は実況板で:2007/05/28(月) 15:24:27 ID:PB2A7aGY0
184代打名無し@実況は実況板で:2007/05/29(火) 10:15:12 ID:8IgCVsFXO
185代打名無し@実況は実況板で:2007/05/30(水) 09:50:30 ID:hPn2w9nLO
毎週楽しみで仕方ない
186代打名無し@実況は実況板で:2007/05/31(木) 14:09:10 ID:n0TurUfzO
187代打名無し@実況は実況板で:2007/06/01(金) 15:29:19 ID:OxzhK58hO
☆キボン
188代打名無し@実況は実況板で:2007/06/01(金) 16:04:30 ID:VIdifUUq0
189「142・前を向く者へ 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/01(金) 22:08:16 ID:Lq2yOEV+0
一気に5人に増殖した白旗組のメンバーは、暗闇の中に小屋を見つけて小休止をすること
にした。すっかり暗くなった状況でこれ以上歩き続けるのは危険だと判断したからだった。
その上、たった1時間の出来事が予想以上に彼らを疲労させていた。次の午前0時の放送
が入るまで休息が欲しかった。これだけの人数がいれば交代で眠ることも可能だ。先に高
木、光原、阿部健太が床に転がった。
北川と下山は並ぶようにして、壁に寄りかかって座った。
「なあシモ」
「はい」
「お互い、よくここまで無事やったな」
「そうですね」
顔は見ず、下山が小さく笑う。
「自分でもラッキーだったと思います。ひとつ間違えたら俺が死んでたんです。あのコー
ヒーのトラップは……ロシアンルーレットみたいなもんで……」
それ以上言うことが出来ず、口ごもる。
「3人やったか、その……死んだ、の」
「ええ………村松さん、迎、筧。目の前で……」
「そうか……」
「俺が村松さんを落ち着かせれば、助けられたかもしれないんです。あの時、俺もビック
リしちゃってどうにも出来なくて……」
「俺もそうや」
下山の言葉尻に続けるように、北川が呟いた。
「俺もキヨさんをちゃんと引き留められてたら……健太と一緒にキヨさんのこともひっ掴
まえてたら………嶋村の奴も、1人で外に行かせへんかったら………」
そっと目を閉じた。
「みんな、紙一重や」
コトン、と音がした。光原が寝返りを打った音だった。拳が床に当たったらしい。
北川は腕時計を見た。次の放送まではまだ時間がある。
190「142・前を向く者へ 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/01(金) 22:08:59 ID:Lq2yOEV+0
「シモ」
「はい」
「ひとつ頼みがある」
「はい?」
「ちょっと言うときたいことがあんのや」
下山はようやく北川の方を見た。北川は真っ直ぐ前の壁を見つめ、下山を見なかった。
「今のこのグループやと、俺がリーダーみたいなもんやんか」
「はい」
「もしな、もし俺に何かあったら、お前があの3人引っ張って逃げろ」
「……どういうことですか?」
ゆっくりと、北川の顔が下山の方を見た。ようやく目が合った。北川の表情は穏やかだっ
た。下山はじっと北川の言葉を待った。
「俺な、嶋村と約束したんや。絶対戦わん。誰と会っても、チームメイトを信じて絶対戦
わん。それで殺されるんやったら仕方ない。そう決めたんや」
表情は変わらない。いつもの北川らしいおおらかさだった。
「せやからな、もしヤバイ奴に会ったとする。俺はそいつを説得するから、もしもの時は
シモがこの3人引っ張って逃げるんやぞ」
「……それって、ペーさん1人を残して逃げろってことですか?」
「あー、まあ、そうかな」
「イヤですよそんなの!ペーさん犠牲にしてまで逃げたいとは思いませんよ!そういう時
は一緒に逃げるんです!」
下山は身を乗り出して意見した。
「でもな、もし俺の説得が成功したら、仲間がまた1人増える。そうやって仲間を増やして
いきたいんや。ちゃんと話せばわかるはずや」
北川の言いたいことは理解出来た。だが下山には「北川が敵の犠牲になっている間に逃げ
のびろ」という意味の方が強く受け取れた。恐らく北川自身も、そういう場合を踏まえて
話しているのだ。
191「142・前を向く者へ 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/01(金) 22:09:56 ID:Lq2yOEV+0
「な?シモ。お前が約束してくれんと、俺、安心してお前をサブリーダーに任命出来へん。
俺にもしものことがあったら、お前がリーダーや」
下山は返事が出来なかった。返事をするということは、北川を見捨てることを了承するの
だ。小さく首を横に振った。
「なあシモ、頼む。うなずいてくれ。この3人、守ったってくれ」
いつの前にか、高木、健太、光原の3人は身を寄せるようにして眠っていた。ハムスターの
子供が丸まって寄り添いあって眠っている光景を下山は想像した。
「もしものことが起こらないように、俺の首輪探知機をフル活用しればいいんです」
下山は鞄を叩いてみせる。北川は困ったように笑った。
「それは大前提や。でもな、これだけは約束してくれ。俺よりもこの3人を優先してくれ。
頼む。頼むわ。この通りや」
両手を合わせて北川が必死に下山を見つめた。北川の意志が固いことを知り、下山は唇
を噛み締めた。ただでは受け入れることが出来なかった。
「じゃあ、俺とも約束して下さい」
「何を?」
「もし俺に何かあったら、ペーさんもこの3人を優先して下さい」
「……お前を捨てて逃げろってことか」
「ペーさんと同じことを言ってるんです」
北川は少し困ったように考える仕草を見せた。改めて下山の顔を見た。下山の表情から、
これ以上は譲れないという境界線を読み取った。
「………わかった。じゃあ俺の頼むも、頼む」
「………はい」
安心したかのように、北川は大きく息を吐いた。
「………大丈夫や………話せばわかってくれるはずや………チームメイトやぞ」
再び正面の壁を見つめた。
192「142・前を向く者へ 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/01(金) 22:10:38 ID:Lq2yOEV+0
「俺な、いつも球場の外野に掲げられてる『青波魂』と『いてまえ魂』の横断幕見ると、
感謝の気持ちで泣きそうになるんや」
その目は遠くを見つめていた。
「俺ら、出来るはずなんや。あんな風に仲良く並んで、手を取り合って、頑張れるはずな
んや。こういう状況だって、きっと信じ合えるはずなんや。みんな野球が好きで集まった
奴らやぞ。苦しい状況を乗り越えてきた奴らやぞ。きっとここを乗り越える方法も見つか
るはずや。諦めたら負けなんや。絶対みんなでここから抜け出すんや!」
最後の言葉は力強く言い放たれた。
「はい!」
下山もつられて力強く返事をした。
ドン、という鈍い音がした。続いて「ぐぇ」と小さく呻く音。
見ると、寝返りを打った光原の腕と足が高木の腹を直撃していた。しかしよほど疲れてい
るのか、2人は目を覚ますことなく眠り続けている。
北川と下山は顔を見合わせて笑った。

【残り・25人】
193《OUTSIDE・5》 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/01(金) 22:11:53 ID:Lq2yOEV+0
「日高たち、ちゃんと動いてくれますかね……」
中村のいぶかしげな問いかけに、宮内は苛立ちを隠さず答えた。
「動いてくれなきゃ困る。全く、どうして大事な首輪にバグが起こるんだ!」
「えーっと……さっきから生死判定が出来ずに点滅を繰り返しているのが清原の首輪です。
今回のトラップタイムが終わって判定を出した瞬間は……」
「生存ランプが点いていたわけだな?」
「はい。清原和博、【K】は2つ。そのすぐ隣に山口がいました。山口は【K】が1つ。グル
ープ成立とみなされています」
宮内は組んでいた腕を解くと、両手で顔を覆った。
「で、オーナー、清原は本当に生きているんでしょうか?」
「それがわからないから日高たちを行かせたんだろう!」
「相川と連絡を取ってみましょうか?」
「酔っ払ったブランボーたちに何が出来る?大体助っ人外人ってのは日本に来てビール腹
になって帰って行くんだ。畜生、あいつらこの島にまで酒を持ち込みやがって」
数時間前、『Cafe Bs』と連絡を取った。外人たちに、清原の生死を調べさせに行こうと考
えたのだ。しかし困りきった相川の返事は情けないものだった。外人たちは島での暇を見
越して勝手にアルコール類を持ち込んでいたというのだ。そして相川が止めるのも聞かず
酒盛りを始め、今では上機嫌で歌を歌う者、暴れる者、眠る者と様々だという。
「相川じゃあ外人をコントロール出来なかったか」
ため息まじりに呟く。頭の中ではデイビーに軽々と持ち上げられている相川の姿が浮かん
でいた。デイビーとブランボーに抑え込まれたら、相川では太刀打ち出来ないに決まって
いる。大人と子供のような光景だ。
「肝心の"犬"が全然動かないからな……」
「あの、オーナーに忠実な犬、ですか?」
「そう。連絡を取って清原の所へ行かせようとしても、こっちからの通信に出ないんだか
ら話にならん。まあ、一緒に誰かがいたら通信にも出られんだろうが。そろそろ連絡を取
って、殺し合いをけしかけるべきかな」
宮内は数字の散らばったパソコン画面を見つめた。
194 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/01(金) 22:12:42 ID:Lq2yOEV+0
連投規制がかかるので、残り半分は約一時間後に投下します。
195「143・取捨選択 1/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/01(金) 23:27:03 ID:9c5NPd9W0
特別な会話もなく、ただ黙々と歩いていた。
1時間前に歩いてきた道のりを戻るだけ。けれど同じ道かどうかは極めて怪しい。
暗闇の中、2個の懐中電灯で道を進む。ユウキは苛ついていた。
(1人だったらもっと素早い行動が取れたかもしれない)
けれど、平野恵一の持つラッキーカードがなければ研究所に行っても意味がない。何が起
こるのかもわからないまま、ただラッキーカードに導かれるまま島の端へと急ぐ。
「大丈夫か?」
無言の時間に気まずさを感じて尋ねた。
「おー、ユウキこそへばってんじゃねえの?」
相変わらず強気な切り返しが来る。ユウキは少しだけ歩調を遅らせた。平野も無言のまま
それに合わせた。さり気ない心遣いに気づいているだろうか。
まだ平野の怪我は完治していない。これだけ歩き続けているのだ、全身が悲鳴を上げてい
てもおかしくはない。それでも文句ひとつこぼさないのがこの男なのだろう。
誰よりも負けず嫌い。誰よりも真っ直ぐ。
スポーツマンとしては背が低い。体格的に恵まれてはいない。だからこそそれをカバーす
る何かを得ようとして日々努力している。ユウキと同い年の彼には、どこかで負けている
ような気がした。
「あー、なんか甘いもん食いてえなー」
平野が場の空気を変えるような能天気な声を上げた。
「甘いもん?俺のアーモンドバターならあるけど。恵一は違うんだっけ」
「俺のはバター。なんかこう、甘いもん食いてえなあ。パンは飽きたよ」
「贅沢言うな」
「口当たりが柔らかくてさー、砂糖がまぶしてあって……そう、ミスドとかワッフルみた
いな感じの。ワッフルワッフル」
「連呼すんな」
聞いているだけでユウキの口の中にも唾が出てくる。唾のお陰で喉の渇きを潤した旅人の
話は誰だったろう。確かあれは梅の木を想像してその酸っぱさに唾を出したのだ。
「わっふるわっふる」
「わっふるわっふる」
何故か2人で呟き始めた。
196「143・取捨選択 2/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/01(金) 23:28:33 ID:9c5NPd9W0
沈黙が嫌だった。静かになることが妙に恐ろしかった。残り時間を考え、自分達が生き残
るにはどうすればいいのかを考える。答えは出ない。今はラッキーカードの謎にすがるし
かない。何かに集中していれば他のことを考えずにすむ。ラッキーカードのことを考え、
ワッフルのことを考えよう。平野はそう思った。
少しでも気を抜くと、谷のことを思い出すから。
平野をかばって香月に殺された、谷のことを思い出すから。
(谷さん……俺……頑張りますから!絶対負けませんから!)
何に勝ち、何に負けるというのか。
その答えもまだ曖昧なまま、平野は足元を見つめながら歩いていた。
『誰かーいませんかー』
ふいに声が聞こえた。女性の声だ。平野とユウキは顔を見合わせた。
「誰だ?」
声を潜める。
「さあ……この島の人かな」
「だとしたら、助けてもらえるかな」
「……会った方がいいと思うか?」
返事は聞かなくてもわかっていた。2人は同時に声の聞こえた方へと歩き出した。
「聞こえますかー」
それほど大きくはない声で呼びかけた。余計な敵を呼び寄せてしまわないように。そもそ
も声の主の女性が敵だったら意味は無いのだが、そんな考えは後回しだ。もしその女性が
島の地理に詳しいなら、研究所まで案内してもらうのもいい。敵だったらなんとか脅すな
りして情報が欲しい。とにかく現状を打破したかった。
「ここにいますよー」
また声を上げた。途端にガサリと木が揺れる音がした。
『誰?!誰ですか?!』
声はさっきよりも近づいていた。
197「143・取捨選択 3/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/01(金) 23:29:22 ID:9c5NPd9W0
『私、リプシーです!』
「リプシー!」
「おいマジかよ!ユウキだよ!」
「平野恵一もいるよー!」
『ユウキさん!恵一さん!そっち行きます!声をお願いします!』
途端に木々が激しく揺れる音がした。かなり深い繁みにリプシーは入り込んでいるようだ
った。さすがお転婆娘だ。
『きゃっ』
「どうした?!」
『いえ、スカートが枝に……取れた!』
再びガサガサと音がする。平野は懐中電灯を揺らした。
「リプシー、光がわかるか?」
『はい!そっちに向かいます』
サクサクと草を踏む音が近くなる。本当にリプシーだろうか。どうしてリプシーがここに?
そんな疑問を抱きながらも平野は灯りを照らした。ユウキも一緒に自分の懐中電灯を揺ら
していた。
バシャッという音と共に、暗闇の中の緑が割れた。そこから勢いよくミニスカートの女の
子が飛び出してきた。
「リプシー!」
「ホントにリプシーだ!」
「ユウキさん!恵一さん!ご無事でよかった!」
リプシーはすぐさまどうして自分がここに来たのかを話した。大島コーチたちが何かを気
づいて探り始めたこと。自分とネッピーが今この島にいること。ネッピーとの通信機が上
手く作動しないこと。
「多分、妨害電波だと思います。場所によっては声が聞こえるんです。でもすぐ雑音でか
き消されちゃう」
「じゃあオーナーたちはリプシーたちがこの島にいることを知ってるんだ?」
「ええ。乗って来た船の舵に仕掛けがされてたみたいですから」
198「143・取捨選択 4/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/01(金) 23:30:27 ID:9c5NPd9W0
リプシーは悔しそうに唇を噛んだ。
「……私たちはオーナーの掌の上で踊らされているのかもしれません。でも、絶対に諦め
ないつもりです。私達は私達に出来ることをします。精一杯」
「うん、そう言って貰えると心強いよ」
平野が笑顔でうなずいた。ユウキはさりげなくリプシーの装備を見た。
(特別な武器は無いみたいだな……戦えそうなものは無し、と)
「なんとかして選手の皆さんをネッピーのいる場所に集めたいんです。お2人もそこに向か
ってもらえますか?」
ユウキと平野は顔を見合わせた。平野が鞄からラッキーカードを取り出す。
「これ、俺がオーナーから渡された支給品なんだ」
リプシーが顔を近づけて文面を読む。口元に手を当てた。
「……これは脱出方法ですか?」
「わからない。でも何かラッキーなヒントには違いないと思う」
地図を出し、研究所の場所を指差す。続いてリプシーが島の反対側の櫓の位置を指した。
「さっきかろうじてネッピーと話した時、ネッピーのいる方にも脱出の可能性があるんだ
って言ってました。だから私は選手の皆さんをここへ集めようとしてるんですけど……」
真剣な表情で腕を組む。
「こちらのラッキーカードの意味も知りたいですね……」
「リプシー、一緒に行かないか?」
平野が尋ねる。ユウキも力強い目でリプシーを見ていた。
うなずきたかった。本当はリプシーもうなずきたかった。
けれど、心に留めたひとつのことがリプシーの首を横に振らせた。
「……いえ、私は選手の皆さんを集める役割が……。私は首輪が無いから自由に走り回れ
ます。ネッピーのいる櫓の辺りか、恵一さんたちの行く研究所か、とにかくそのどちらか
に選手の皆さんを集められるのは私しかいないんです」
そして、【K】をひとつしか持っていないあの人が無事かどうか、この目で確かめる為にも。
愛しいあの人を救い出す為にも。
199「143・取捨選択 5/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/01(金) 23:31:36 ID:9c5NPd9W0
「そうか……まあ、その方が建設的だよな」
平野が笑って見せる。リプシーも笑い返した。
「ところでお2人はずっと2人だけだったんですか?誰かに会ったりは?」
途端に平野の表情が暗くなる。思い出したくない現実を突きつけられる。けれど事実を伝
えておいた方がいい。特に危険な存在をリプシーに教えておかなければ。
「………俺は、谷さんと、香月」
「……お2人は?」
平野の口調に何かを予感してはいたが、リプシーがそっと尋ねた。
「谷さんは、俺をかばって殺された。香月に」
声に出すと、その重さが余計に平野の心を締めつけた。
「香月……さんが……?」
リプシーが信じられなそうに尋ね返す。平野は唇を噛み締めたまま下を向いた。
「ユウキさんは?」
尋ねられ、ユウキはとぼけた表情をした。自分が殺した相手のことは隠しておくのが常套
手段。顎に手を当て、少し考える仕草をした。
「えーっと………そうだ、恵一と一緒に夕方に会ったんだ。ゴッツに」
「ゴッツ様に?!」
急にリプシーが身を乗り出す。その勢いに思わず2人は仰け反った。
「あ、い、いえ、その、後藤さんに?」
何かを取り繕うようにリプシーが続ける。
「ああ、1人で細長い銃抱えて歩いて行ったよ。阿部さん探すんだって」
「夕方くらい?」
「ああ」
「じゃあ、このトラップタイムの前?」
「ああ」
リプシーが目を閉じる。両手を胸元で祈るように組む。唇が小さく動いた。
200「143・取捨選択 6/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/01(金) 23:32:49 ID:9c5NPd9W0
「……リプシー、どうする?」
ユウキが尋ねると、リプシーは静かに目を開き、微笑んだ。
「やっぱり選手の皆さんを探しに行きます。皆さんを集めるのがネッピーと約束した仕事
だから」
「そうか………じゃあ、ここでお別れだな」
ユウキが先を即すように告げた。
「俺らは研究所に向かってますってネッピーに伝えておいてくれ。他の選手をこっちに案
内してくれてもいい」
(順番に俺が消すかもしれないけどね)
ユウキの心の中の声は聞こえない。表情にすら表れない。
「わかりました。ネッピーや他の選手にも伝えておきます。もし研究所で何かわかったら
ネッピーの場所に合流するなりして伝えられますか?」
「ああ、走ればそんなに時間はかからない距離だろ?島の南端の右端と左端ってとこだも
んな。禁止エリアさえちゃんと避ければ」
「わかりました」
リプシーがどこか急いているように荷物を持ち直した。ふいにその手が止まる。
「あ、あの……」
「ん?」
「あの……手始めにですね、手始めに、お2人がお会いしたゴッツ様……いえ、後藤さん辺
りを探そうと思うんですが、どの方向に行かれました?」
不安そうに尋ねてくる。ユウキはまた地図を出した。
「どの方向っていうか、島の中の方へ歩いて行ったよ。丘の方。よくわかんないけど」
「そ、そうですか、ありがとうございます!それじゃあ!」
スカートを翻し、リプシーが駆けて行く。
その健気の後姿を幻でも見送るように、2人は無言で見つめていた。
また静かな行程が続く。研究所まで。何が待っているのかわからない、研究所まで。

【残り・25人】
201 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/01(金) 23:33:32 ID:9c5NPd9W0
今回は以上です。
202代打名無し@実況は実況板で:2007/06/01(金) 23:38:04 ID:WS6NVEA0O
乙です!
>わっふるわっふる
>ゴッツ様
に吹いたwwwwww
203代打名無し@実況は実況板で:2007/06/01(金) 23:50:10 ID:lRRj7cQTO
乙です。

ゴッツってそんなに神なのか?ゴッツ様ってwww
204代打名無し@実況は実況板で:2007/06/02(土) 00:08:08 ID:h2JCo1RfO
乙です。
またいい場面で光原wwww

…ゴッツ様って確かKが1個だよな…まさかリプシー…
205代打名無し@実況は実況板で:2007/06/02(土) 00:20:01 ID:CuR/0jf+0
>わっふるわっふる

そ う き た か !
いつも乙であります。
206代打名無し@実況は実況板で:2007/06/02(土) 00:22:12 ID:dp/5zMHr0
ゴッツ様ワロタwwwwwwww
ネタスレのゴッツが浮かんでしまうwwww
207代打名無し@実況は実況板で:2007/06/02(土) 14:09:50 ID:lLr29y1L0
>ワッフルワッフル
ちょwwwww
てか、リプシーの想い人ってオクボーンじゃなかったのか……?
208代打名無し@実況は実況板で:2007/06/02(土) 17:37:57 ID:T+xpdRw1O
オクボーンは片思いだったわけか…
209代打名無し@実況は実況板で:2007/06/02(土) 18:47:26 ID:IViLJpqXO
そうだったら切な過ぎる………
210代打名無し@実況は実況板で:2007/06/02(土) 18:52:54 ID:QVU8zKU2O
電車の中で見るんじゃなかった

ニヤニヤが止まらねぇwwwwwwwwwww
211代打名無し@実況は実況板で:2007/06/03(日) 00:39:28 ID:BbS0rjOV0
投下きてたーw職人さん乙です

ニコと下山でほろっときたあとにわっふるとゴッツ様wwwww
212代打名無し@実況は実況板で:2007/06/03(日) 20:11:37 ID:4PoDqP//0
保守
213代打名無し@実況は実況板で:2007/06/04(月) 17:56:43 ID:i4pZ3NFRO
( ゚∀゚)<捕手
214代打名無し@実況は実況板で:2007/06/05(火) 21:52:36 ID:wl8IxP1S0
ほしゅ
215代打名無し@実況は実況板で:2007/06/06(水) 21:38:37 ID:b6z8H4Ai0
216代打名無し@実況は実況板で:2007/06/07(木) 00:50:18 ID:CaKZXApq0
保管庫さん、いつも乙です。
あの…《OUTSIDE・5》と143章が一緒になっちゃってるみたいです…
わっふるわっふる。
217代打名無し@実況は実況板で:2007/06/07(木) 01:35:00 ID:zMWX3o1H0
>>216
すいません直しました。
水曜日に連れに京セラ誘われたのに行かなかった報いですかね
すいません
わっふるわっふる
218代打名無し@実況は実況板で:2007/06/07(木) 01:42:48 ID:pOUdNzGS0
まさか三角関係とは…大久保カワイソス

>>217
いつも乙です。
わっふるわっふる
219代打名無し@実況は実況板で:2007/06/07(木) 13:46:13 ID:YD5hanLM0
ごっつどうなるんだろう

わっふるわっふる
220野球板の仕事@SarashiagE ◆6R509kwPwM :2007/06/07(木) 22:11:08 ID:kTyl+SSPO
一番下にありますた

オリックスバファローズバトルロワイアル
評価:低★★★★★★★★☆☆高
221代打名無し@実況は実況板で:2007/06/07(木) 22:53:05 ID:XYogDwEuO
きょうわっふるたべたぞ

わっふるわっふる
222代打名無し@実況は実況板で:2007/06/08(金) 13:36:17 ID:aUde3DsCO
捕手するぜ
わっふるわっふる
223代打名無し@実況は実況板で:2007/06/08(金) 14:36:36 ID:FLke0Ec60
今日の先発平野だろ?
日本刀背負って出てきそうで怖いんだが

わっふるわっふる
224代打名無し@実況は実況板で:2007/06/08(金) 22:25:53 ID:2jZppk4M0
保守です
わっふるわっふる
 
225代打名無し@実況は実況板で:2007/06/08(金) 22:41:27 ID:FtbGi5hE0
ちょwwwみんなわっふるわっふる言いたいだけwwwwwww


わっふるわっふる
226代打名無し@実況は実況板で:2007/06/08(金) 22:55:12 ID:EebN1d9zO
檻実況住民乙




わっふるわっふる
227「144・彷徨える4番打者  1/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/08(金) 23:26:45 ID:e8nsXv660
「ジミー」
ふいに名前を呼ばれて大西は体を小さく震わせた。
悪夢のようなトラップタイムが終わり、また通常の悪夢の時間に戻った。夜もふけ、そろ
そろ落ち着いて眠れる場所を探し始め、ようやく屋根のあるオンボロ小屋を見つけて中に
入った所だった。
そこはバスの停留所のようだった。けれどかなり前に廃れてしまったようだ。それらしき
パネルも錆ついて、もう文字すら読めなくなっている。簡易ログハウスのような小屋には
キチンと四辺に壁があり、そのひとつに窓があった。窓から往来のバスを見ていたのだろ
う。今はもうその窓にガラスは無い。大西はちょうど窓の辺を調べていたところだった。
窓の縁に落ちていたガラス片をさり気なく自分の鞄にしまい、萩原の方を向いた。
萩原は片手に小さなボトルを持っていた。
「顔の怪我、大丈夫か」
尋ねられて痛みが戻ってきた。顔面の負傷。出血。それらはトラップタイムのせいである
程度忘れることが出来ていた。ジンジンとした鈍い痛みはあったが、気にするほどではな
かった。
「一応消毒液持ってるから、つけておいた方がいいだろ」
たいした抑揚もなく、萩原が告げる。
「あるんなら是非」
大西は萩原に歩み寄った。
「支給品ですか?」
香月が尋ねる。
「いや、自分で持ってたんだ。最近妙にいろいろ擦り傷作るんでな。いちいち手当てを頼
むのも面倒だから絆創膏と一緒に持ち歩いてた」
準備のいいことだ。大西は萩原の前に胡坐をかいて座った。萩原は大西の顔を覗き込んだ。
「そんなに深い傷じゃないんだな」
「最初はすごい出血だったんですよ。痛いし痒いし」
「ジェイソンだっけ、お前が会ったの」
「ええ」
「誰かはわかんないのか」
「はい。ユニフォーム着てたんですけどね……番号見る余裕なくて」
228「144・彷徨える4番打者 2/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/08(金) 23:28:06 ID:e8nsXv660
ここまで来る道すがら、香月は大西から『ジェイソン』の存在を聞かされていた。白いア
イスホッケーのマスクをつけた、映画ソックリの凶暴極まりない人物がこの島にいるのだ
という。しかもユニフォームを着ている。チームメイトの誰かならしい。
(イッちゃってる奴がいるってことか?)
香月が心の中で小さく笑う。
(俺は冷静にイッちゃってるけどさ)
プシュッという音と共に、大西が「いてっ!」と声を上げた。
「オギさん、しみる!」
「我慢しろ、手当てしてやってんだぞ。ばい菌入ったら大変だぞ」
「もっと山賊みたいな顔になりますよ」
「香月に言われたくねーよ」
話している間も萩原は容赦なくスプレーを大西の顔に吹きつける。
「オ、オギさん、口に入った!」
「死にゃあしねえよ」
「……苦い」
「うがいしとけ」
萩原の膝の上では子猫が丸まっている。すっかり萩原になついているらしく、逆に香月と
大西には近寄ろうともしない。
「……よし。こんなもんだろ。あとは適当にタオルで拭いとけ」
萩原は消毒スプレーを鞄にしまうと、子猫を抱いて立ち上がった。
「トイレ」
「またですか?」
「行ってくる」
ご丁寧に自分の荷物を全部持って小屋を出て行った。まだ完全に大西と香月を信用しては
いないのだろう。それも当然な気がした。大西だって同じようにしたと思う。
「………どうなっちゃうのかなあ………」
素直な言葉が口をついて出た。
229「144・彷徨える4番打者 3/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/08(金) 23:29:03 ID:e8nsXv660

萩原は小屋を出ると、深い繁みの方へと歩いた。真っ暗な中、懐中電灯で足元を照らす。
20メートルほど歩いて、灯りを消した。
いつもの癖なのか、窮屈なのか、首輪の前面に手をやって手前に隙間を作った。
首輪前面の裏側に指を入れた。小さな突起がある。そこを力強く爪で押した。
カシャンと音がして、表側に小さなツマミが飛び出す。右に3回回した。
カチリ、カチリ、カチリ。
小さく黄色のランプが点滅し、消えた。
『宮内だ』
「萩原です。何度か呼ばれていたようなので……」
『呼んだぞ。5回以上呼んだ』
「すみません、大西と香月が一緒にいまして」
『そんなことだろうと思ったがな。全く……さっきはどうして監視カメラを壊した?』
「銃の試し撃ちをしたら、偶然当たったみたいです」
『ふざけるのもいい加減にしろ。………まあいい。地図を出せ。清原の所へ行け』
「…………は?」
『聞こえなかったか?清原の所に行くんだ』
「キヨさんは死んだはずじゃあ……」
『それを確認しに行くんだ。いいか、地図は出したか?』
無言のまま、その場にしゃがむ。懐中電灯を点け、地図を照らした。
首輪から宮内の指示が聞こえる。萩原はそれをボンヤリと聞いていた。聞き流しているわ
けではない。ただそれらに現実感が持てなかった。今の自分自身にも。
『おい、聞いているのか。返事は?』
「はい」 
『入団して9年、バッターとして全く役に立たないお前を食わせてやったチームはどこだ?』
「………オリックスです」
『バッターとして箸にも棒にもかからないお前を、異例の投手転向で生き残らせてやった
チームはどこだ?』
「………オリックスです」
『投手経験の無いお前をここまで育ててやったチームはどこだ?』
230「144・彷徨える4番打者 4/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/08(金) 23:30:03 ID:e8nsXv660
「…………オリックスです。感謝しています」
『なら言うことを素直に聞くべきだな。お前は俺の犬なんだからな』
冷たく言い放たれる。どうやら自分は人間ではないらしい。
『とにかく清原の生死を調べろ。これが最優先だ。日高と田中彰もそこに向かっている。
あいつらだけじゃ不安だからな。お前も行け。後は作戦を続行しろ』
「………はあ」
宮内の声は苛立っていた。
『お前はここまで何ひとつ命令を実行していないじゃないか!ゲームをかき回せと言った
はずだ。誰かに出会ったら殺すなり脅すなりしろと言ったはずだ。それを何をぼんやりし
ているんだ!』
「………お言葉ですが、最初のトラップにかかって、休んでいた家を爆破されたものです
から………」
一瞬、宮内の返事が詰まる。
『……まさかお前のいる家がトラップを仕掛けた家だとは思わなかったんだ。仕掛けた相
川からの連絡の家と、1件ずれてたんだ。文句なら相川に言え!』
「少々怪我をしまして……」
『大怪我か?足か?腕か?』
途端に宮内の声が曇る。
「足と腕を少々……」
傷ひとつない、ピンピンした腕を見つめながら答えた。
『手当て用の道具は持たせてあるだろう!それでなんとかしろ!いいな!すぐに清原の所
に行け!今すぐ行け!以上だ!』
怒鳴り散らすようにして通信が切れた。萩原はため息をつくと、ツマミを左に3回回し、再
び首輪の中に押し込んだ。
(飼い馴らされた忠実な犬、か……)
やる気は無い。生きる意味すらおぼろげな自分に、どんな脅し文句が効くというのか。
今はただ、自分を慕ってきた胸の子猫を生かして神戸に連れて行ってやる為だけに歩いて
いるようなものだ。
自分に支給された鞄は重かった。しっかりした銃と、補充用の弾丸は必要以上に多く見え
る。怪我をした時の為の救急セット。食料も多めに入っていた。
231「144・彷徨える4番打者 5/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/08(金) 23:31:21 ID:e8nsXv660
それもこれも、ゲームを面白くする為。
誰かを殺す為。
(俺を選ぶこと自体、間違ってると思うんだよな……)
それなりに仕事をやり遂げれば、ゲームの途中でも救済処置をしてくれるという。安全地
帯へと運んでくれるらしい。
(何人殺せばいいんだ?)
既に最初の地点で菊地原とはぐれている。まだ菊地原の名前は呼ばれてはいない。あの
爆発はそれほどのものではなかったようだ。脅し程度だったのだろうか。
菊地原の鞄から飛び出したらしい手榴弾も持っている。なかなかの武装状態だと思う。
(キヨさん……まだ生きてるんだろうか)
清原は学生時代から萩原の憧れの存在だった。
ホームランバッター。萩原もそうだった。大型野手、チームの大砲として活躍し、プロに
入ったのだ。最初に与えられた背番号は55。それだけでも期待の大きさが伺われた。今で
も「憧れの選手は?」という問いかけに清原の名前を挙げる。
(キヨさん………教えてもらえませんか?どうやったら打てるんですか?)
プロの投手の球を、どうやったらホームランに出来るのか。
(キヨさん、教えて欲しいんです。俺はもう打者じゃないけれど、知りたいんです)
プロ野球選手、強打者になることが夢だった。幼い頃からの憧れだった。
萩原の夢は一度潰えた。
しかし、新しい道が出来た。
それでも昔から抱いている思いだけは捨てたくはない。
(キヨさんに会って、聞きたいんだ)
ただそれだけの為に、萩原は歩き出すことにした。
宮内に命令されたからではない。それはキッカケにすぎない。
ホームランを打つ方法。それを知りたい。
背後に残した大西と香月の存在は、既に萩原の頭からは消えていた。
『4番、サード、萩原君』
遠い昔、甲子園で聞いたアナウンスが心のどこかで響いた。

【残り・25人】
232「145・最後の願い 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/08(金) 23:32:36 ID:e8nsXv660
自分の荒い息遣いが聞こえる。
茂みの中に身を潜め、早川は平野佳寿の動向を伺っていた。
平野が後藤を追って走り出した後、早川は咄嗟に木々の間へと逃げた。もし後藤を殺した
ら、または後藤を逃がしてしまったら、平野はまたここに戻って来るだろう。
早川にとどめを刺しに。
だから早川はその場に留まっていた。
体の前面が痛い。刀で切られたのだから当然だ。湧き出てくる血が熱い。ドクドクという
流れを全身で感じた。
(………もう………ダメだな)
自分のことは自分が一番わかる。病院に担ぎ込まれれば一命も取り留められるだろうが、
孤独な島の中ではとうてい無理な話だった。しかも夜。仲間を見つけることすら難しい。
(これは、賭けか)
後藤が戻ってきたら、可能性を信じる。明日の朝日を見、生きることへの希望を持とう。
平野が戻ってきたら、自分の最後の命を賭けて、勝負を挑もう。
平野がこれ以上凶行を繰り返さないように。もう自分のような存在を作らない為に。
もし2人共戻ってこなかったら………今を耐えよう。誰かの負担にならないように、何かを
しよう。何かが何を意味しているのかは、自分でもわからないが。
今落ち着いて考えると、あの妖刀・村正を手にしてから早川の心はおかしくなった気がす
る。無意識のうちに何かを切りたくなり、木々を切り、今夜誰かを切りつけた。その刀が
平野の手に渡った。あの刀が平野までもおかしくしてしまったのだろうか。
元凶はあの刀なのだろうか。
『オラオラ!ビビッてるよ!』
ふいに下山の野次を思い出した。
『押してけ押してけ!』
耳元でいつもうるさかった声。
『チャンスだぞ!勝負勝負!』
常に前向きな野次を飛ばしていた。そしてつられるように自分も。
(諦めんな!まだ行ける行ける!)
自分自身へ野次を飛ばした。
233「145・最後の願い 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/08(金) 23:33:39 ID:e8nsXv660
シャク……
土を踏む音が聞こえた。咄嗟に顔を上げた。枝葉の間から向こうを見た。
長い刀を持った青年が、周囲を見回していた。
(………平野………)
早川の行く道が定まった。
(お前だけは………許せねえ………)
武器らしい武器は何ひとつない。結果は目に見えている。けれど、せめて一矢。
(………シモ、俺に力をくれ)
平野が早川に背を向ける。ゆっくりとした足取りで歩き出す。
ある程度の距離を見送ってから、早川は出来るだけ静かに繁みの中を移動した。どうして
も葉の擦れる音がしてしまう。それ故の距離だった。
額に脂汗が滲む。一歩一歩が激痛となる。両手の拳を握り、自分に気合を入れた。
恐らく自分の歩いてきたここまでの短い距離には、血の滴の道が出来ているだろう。いつ
か、これを見つける人はいるのだろうか。ここでこうして早川が決死の覚悟で行動を起こ
したことに、思いを馳せてくれる人はいるのだろうか。
この追いつめられた、最後の決意に、最後の願いに気づいてくれる人は。
(………誰に気づかれなくても)
唇を噛み締める。早川はじっと背番号16を見つめた。
(俺は……ここで倒れるけど………誰か………生きて帰れよ!)
心の中で叫んだ。
(絶対に!絶対に正義は勝つんだ!勝たなきゃいけないんだ!)
心の中で泣き叫んだ。
(その為に俺は……俺は捨石に……いや、踏み台になるから!正しい心を持った誰か!
誰かを励ます気持ちのある奴!絶対に生きろよ!)
勢いよく、繁みを飛び出した。
その音に平野が振り返る。咄嗟に刀を構えた様子がわかった。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
叫びながら鞄を振り上げた。肩紐を掴み、遠心力で平野に叩きつける。鞄が平野の刀にぶ
つかった。そのままクルクルと刀に絡みつく。
234「145・最後の願い 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/08(金) 23:35:34 ID:e8nsXv660
「くそっ!」
平野が叫ぶ。そのまま重心を失いかけた刀を闇雲に振り回そうとする。手元へと早川は飛
びついた。力をこめればこめる程、早川の体に激痛が走った。それでも早川の全身の力は
漲っていた。早川の中の全てが炎のように燃え上がっていた。
「ぅおらあっ!!」
掛け声と共に平野の体を地面へとなぎ倒した。そのまま馬乗りになる。力一杯拳で顔面を
殴りつけた。1発、2発。
「ぎゃああああっ!!」
大声を上げたのは早川の方だった。平野の手が早川の傷ついた腹部に突っ込まれていた
のだ。内臓を引きずり出されるような感覚と痛みに早川は短い叫び声を上げ、そのまま言
葉を失い、地面に転がった。
頭をフラフラさせながらも平野が起き上がる。早川は腹部をかばうようにして背中を丸め、
激痛を抑え込もうとしていた。
「おらあっ!!」
掛け声と共に早川の肩を蹴り倒した。痛みに無抵抗な体がゴロンと地面に仰向けになる。
平野の手が妖刀・村正を握り直した。憤怒に燃えた目が、ギッと早川を睨みすえていた。
「死ねえっ!!」
両手で握った刀が垂直に振り下ろされる。ドシュッ!という鈍い音と共に、その刀は早川
の体に突き立った。早川の表情が一瞬凍りつき、そしてゆっくりと力が抜けていった。
(………あとは……頼む………誰か…………正義を…………)
視界が霞んでゆく。
(……………正義……を…………)
何故か、穏やかな笑みが漏れた。
(…………俺のこと………野次れ…………シモ……………)
ゆっくりと、瞳を閉じた。最後の、最期の願いと共に。
235「145・最後の願い 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/08(金) 23:37:03 ID:e8nsXv660

「………くそっ!」
自分を罵ったのか、早川を罵ったのか、平野は勢いよく早川の体から刀を抜いた。
顔面が痛い。特に左目の下。あのパンチがもう少しズレていたら失明したかもしれない。
(冷やした方がいいな……)
冷静な目で早川を見下ろす。微動だにしない、真っ赤に染まったその体を見つめた。
何の感情も起きなかった。恐いとも、気持ち悪いとも。何も。
(………早く川越さんを探さなきゃ………今なら多分……)
口元の右側だけで小さな笑みが漏れた。
(出来る)
実績、人格、仲間の信頼、エースの条件、そんなものは関係ない。
欲しいなら、もぎとるまでだ。
(………川越さんを殺すんだ)
自分の意に反する者は全て敵。迷うことなど何ひとつない。
早川の血で真っ赤に染まった右手もそのままに、若者は野望を見据えた。

【×早川大輔 残り・24人】
236 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/08(金) 23:38:41 ID:e8nsXv660
今回は以上です。
次回のわっふるにご期待下さいw
237代打名無し@実況は実況板で:2007/06/08(金) 23:47:18 ID:RFqTsR3nO
乙わっふる!

うわぁぁぁぁぁハギーだったのかぁぁぁぁぁぁ
もうそれだけでいいのに早川ぁぁぁぁぁぁ!!!
238代打名無し@実況は実況板で:2007/06/08(金) 23:50:41 ID:FtbGi5hE0
ぎゃーーーーーーーーーーーー早川ーーーーーーーーーー……

と、投下乙であります。
239代打名無し@実況は実況板で:2007/06/09(土) 00:48:38 ID:hdDcKI/WO
早川男前だよ早川
240代打名無し@実況は実況板で:2007/06/09(土) 00:51:40 ID:5kj6KRu70
新作乙わっふる

"犬"は萩原だったのか……それにしてもやる気ねえな……ww
そして男前過ぎる最後だったな、早川ぁぁぁぁ!!
ついに人殺しになった平野のこれからが恐ろしい……
241代打名無し@実況は実況板で:2007/06/09(土) 01:21:55 ID:Cql/L7nw0
投下乙わっふる

ハギーもハヤカーもせつねえええ
平野の行く先が色々と心配だよ!
242代打名無し@実況は実況板で:2007/06/09(土) 10:06:53 ID:h4F4GXxvO
乙ですわっふる

早川あああああ
243代打名無し@実況は実況板で:2007/06/09(土) 13:37:08 ID:ccA60JZ30
新作乙ですわっふる
泣きそうわっふる

誰か早川を見つけてあげて……
244代打名無し@実況は実況板で:2007/06/09(土) 23:52:28 ID:nPimQNoU0
乙でしたわっふる。なんでこんなに実況民がw

いろいろとショッキングな展開に・・・・・・
そして、平野がついにやっちゃったか・・・・・
245代打名無し@実況は実況板で:2007/06/10(日) 10:36:30 ID:wddiZC2k0
              ∧Bs∧
   わっふるキタ━━(  ゚∀゚ )つ━━━━━ !!!!!
             (つ   /
             |  (⌒)
              し⌒
              | | |
        __________
       / \    旦 ___\
      .<\※ \____|\____ヽ
         ヽ\ ※ ※ ※| |====B=|
         \`ー──-.|\|___l__◎..|ヽ
246代打名無し@実況は実況板で:2007/06/11(月) 04:23:01 ID:7Rd0jCO7O
なんか平野が日本刀持って夢に出てきそう…
わっふるわっふる
247代打名無し@実況は実況板で:2007/06/11(月) 22:52:40 ID:mIA71PyG0
乙わっふる。早川が・・・
最後は男前だったよ。
248代打名無し@実況は実況板で:2007/06/12(火) 10:39:03 ID:si1Gj7qCO
保守
249代打名無し@実況は実況板で:2007/06/13(水) 02:13:24 ID:RtX1u4AtO
ほしゅだよわっふる
250代打名無し@実況は実況板で:2007/06/13(水) 23:44:14 ID:nRap9ZAn0
わっふるでほしゅいらずだなあ
251代打名無し@実況は実況板で:2007/06/14(木) 18:11:55 ID:BGRZjkA3O
わっほーわっほー
252代打名無し@実況は実況板で:2007/06/15(金) 03:26:17 ID:p2NGi3lnO
今日の試合の平野を見て日本刀を思い出し、
なんか恐かったよわっふる。
253代打名無し@実況は実況板で:2007/06/15(金) 07:53:46 ID:WgSsotxz0
q
254代打名無し@実況は実況板で:2007/06/15(金) 14:45:51 ID:QjYvUXC6O
わっっっっっふる!
255代打名無し@実況は実況板で:2007/06/16(土) 00:28:03 ID:MuzTDVwiO
わっふる保守
256 ◆zo26sgEX5. :2007/06/16(土) 08:10:48 ID:4lG5ubU50
t
257「146・マーマレードの秘密 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/16(土) 17:55:03 ID:RRxMvJTp0
歌藤と加藤は部屋の隅にいた。しゃがんで背中を丸め、床に置かれたものを見つめていた。
2人とも片手にパンを持ち、食事の最中だった。室内をウロウロした加藤が最初にそれを見
つけたのだ。
1冊のノートだった。部屋の片隅にそっと置かれていた。少しだけ埃をかぶったそれを加藤
は何気なくペラペラとめくった。ページを繰りながらも片手でパンを食べる。つまらない
真っ白なページが続き、手の動きも早くなった。
そのページに来た時、ピタリと動きが止まった。
「………ウタさん」
いつもと違う加藤のトーンに、歌藤も歩み寄る。そしてノートを覗き込んだ。
2人の目はそのページに釘付けになっていた。
『助けて もうマーマレードはイヤ あのこにも食べさせないで 助けて』
そして、最後の文。
『研究所に行くのはイヤ 殺される』
加藤も歌藤も、自分の口からゆっくりとパンを離した。そこには支給品のマーマレードジ
ャムが塗られていた。
殺される。
その文字が2人の目を引きつけていた。
「………ウタさん」
まるで誰かに聞かれるのを気にしているような、弱々しい声で尋ねる。
「これって……この家に住んでた人のですかね?」
「多分、な」
特に申し合わせるでもなく、2人はゴソゴソとパンを鞄の中にしまった。
「キーワードで推理出来ないかな」
歌藤がノートを指さす。
「マーマレード、あのこ、研究所、殺される。多分、この4つが鍵だよな」
「えーっと、あのこがマーマレードを食べると研究所で殺されるわけですか?」
「これを書いた子もヤバそうだよな。地図見せて」
言われて加藤が地図を開く。2人は頭を付き合わせるようにして覗き込んだ。
「研究所、研究所………ここだ!……一番南かよ」
島の南端、少し離れた小島に研究所のマークがあった。
258「146・マーマレードの秘密 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/16(土) 17:56:20 ID:RRxMvJTp0
「ここで何かあったってことですか?」
「この文を信じるなら、そうだろうな」
しばらく地図を見つめた。加藤は何も言うことが出来なかった。何も思い浮かばないのだ。
生き残る為には何かをしなければいけない。けれど何をすればいいのか皆目見当がつか
ない。走り出す方向さえ見つけることが出来ず、加藤はただ歌藤の言葉を待つしかなかった。
いつの間にか猿が歌藤の横に並んで、歌藤の背中を右手で撫でていた。
「………図書館、戻ってみないか?」
告げられた言葉は予想外のものだった。
「あの図書館に戻ればさ、もっと詳しいこの島の地図とか、資料があるかもしれないだろ?
少し調べたいんだ。この島にいた人たちはどうしていなくなったのか。本当に殺されたの
か。どうしてこの島がこのゲームの舞台に選ばれたのか」
ひとつひとつの言葉を選ぶようにして、歌藤が続けた。
「生き残るには、この島のバックグラウンドを知った方がいいと思うんだ」
返事を伺うように、歌藤が加藤の顔を下から覗き込みながら言った。
「今からですか?」
「いや、0時の放送を聞いてからにしよう」
「夜に移動は危険じゃ……」
「そんな遠い距離じゃないだろ。むしろ皆が動き出す朝よりも、静かな夜のうちに移動し
た方がいいと思う。出来る距離だよ」
歌藤の意見は一理あった。加藤も素直に納得することが出来た。こういう時、やはり歌藤
は年上なのだと思う。ここまでの行動もほとんど歌藤が舵取りをしてきた。そのお陰で加
藤はここまで生きてこられた。やはり信用出来る相方だ。
「このノート、どうします?」
「そうだな……一応、持って行くか」
「はい。じゃあ俺、鞄に入れておきますね。あとは放送を待つだけってことで」
「………今回のトラップで、何人いなくなったんだろうな」
歌藤の呟きに、加藤は小さく身震いをした。
そんな加藤の背中を、歌藤だけに馴れているはずの猿がそっと撫でた。

【残り・24人】
259「147・荒れた途(みち)こそ 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/16(土) 17:58:07 ID:RRxMvJTp0
膝を抱えたまま、大西と香月は向かい合って座っていた。それほど広くはない室内の両端。
小屋の壁、左右に分かれて寄りかかって座っている。互いに正面向き合ってではない。や
や位置をずらしている。顔を上げても視線が合わないように。
萩原が帰ってこない。トイレに行っただけなのに。
(オギさん……何かあったのかな……)
不安を隠せない大西はソワソワしている。窓の方を見たり、ドアに目をやったり、腕時計
を見たり落ち着きが無い。
(ひょっとして、俺らを置いてどっかに………)
逆に香月に動きは無かった。胡坐をかいたまま、じっと微動だにしない。視線は足元に落
ちている。その静けさが大西を余計に不安にさせていた。
香月に話しかけようか。何度も思った。けれど出来なかった。この揺らぎのない空間に声
を発してしまったら、ここまで保たれていた何かの均衡が崩れてしまうような気がした。
均衡が崩れたら何が起こるのか。
ここまで続いていた静かな時間を壊す何か。
言い争いか。協定を結ぶ約束か。互いの腹を探り合うイヤな会話か。慰め合いか。
………殺し合いか。
(もう……ダメなのかな………生き残れるのは1人なんて………俺には………)
大久保がいなくなった時点で奇妙な感覚はあった。香月の存在自体に、言葉では言い表せ
ない何かを感じた。あまり表情の変わらない香月の顔。それが大西の心を波立たせていた。
大久保はどこへ行ったのだろう。見捨てて歩き出した自分たちに非があるのだろうか。
(的さん、会えないかな……)
大西の心に浮かぶのは、近鉄時代からの先輩。ポジションも年齢も違うが、何故か話しや
すく、楽しい人だった。よく食事を奢ってもらいながら、プロとしての考え方を聞かせて
もらった。親父くさい冗談を交えながら、真面目な話をした。的山は大西にとって心を割
って話せる先輩だった。その先輩に出会えたなら何の迷いもなく信じることが出来るだろ
う。一緒にここから生き延びる方法を考えることだって出来よう。
260「147・荒れた途(みち)こそ 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/16(土) 18:01:45 ID:RRxMvJTp0
そしてもう1人、大西の心を支える人物。
(………鈴木さん………)
バットを振っている自分を、いつもどこかから見守ってくれていたコーチ。
打撃を全く期待されていなかった自分に、マンツーマンで指導してくれたコーチ。
一緒にパチンコにも連れて行かれた。その後は食事。そして野球談義。真剣な時間と息抜
きの時間を上手く使う人だった。
以前、礒部から聞いた話があった。
『昔、鈴木コーチにな、二軍でいい選手いますか?って聞いたら、大西っていうのを見て
いこうと思ってるって言ってたんだ』
その話を聞いたのは、鈴木貴久が他界した直後だった。大西は泣き続けた。自分の祖
父母が死んだ時よりもショックだった。信じられず、しばらくの間は線香すら上げることが
出来なかった。存在の大きさに、失ってから改めて気づかされた。
自分は今も、鈴木貴久に恥ずかしくない生き方をしているだろうか。
(俺、なにやってんだ?)
猿の持っている水を奪おうとして、萩原に怒られた。柱になる萩原を失い、どうすればい
いかわからずチームメイトの香月にすら怯えている現状。
(今の俺、絶対鈴木さんに怒られる)
その表情すら鮮明に浮かぶ。
『自分のイメージしていることよりも、常に上のイメージを持て』
それが鈴木の指導だった。
(今の俺、ずっと下で這いつくばってる)
気持ちが負けている。何に?自分自身に。
(俺には、鈴木さんがついてる)
見守ってくれている。正しい道を歩いている限り。人として、胸を張って生きている限り。
険しい道は長いものだ。その道を選び、進んでこそ広い世界へと進めるのだ。
261「147・荒れた途(みち)こそ 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/16(土) 18:03:51 ID:RRxMvJTp0
最近、バッティングフォームや面構えまで鈴木に似てきたと言われる。それが嬉しい。
(鈴木さん………俺………)
大西がバッターボックスに立つと時折、自分の応援歌の前に鈴木の応援歌の後半部分が
演奏される。そのたびに体中に何かが満ちる気がする。
(俺………)
あの年の5月、ファームに落ちた。そして再び一軍に戻った。
『もう二度と顔を見せるなよ』
それが40歳の若さで急逝した鈴木の最後の言葉だった。
(そうだ……俺はまだ鈴木さんに顔を見せちゃいけない……)
まだ死ぬには早すぎる。きっと鈴木だって怒るに違いない。
(俺は生きなきゃいけない。ちゃんと自分で考えて、自分の足で歩くんだ)
勇気を持って生きよう。ここから生き延びられる方法を探そう。そして仲間を見つけよう。
もう殺し合いなんて沢山だ。人として許されない行為に流されるなんて御免だ。
だから、仲間と共に生き延びる方法を探そう。可能性を信じよう。
大西の心に今、強い決意と共に鈴木と自分の応援歌が流れ始めていた。
誇り高き師を胸に。

【残り・24人】
262 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/16(土) 18:05:45 ID:RRxMvJTp0
今回は以上です。
ちょっと忙しい時期なので推敲が間に合わなくて、いつもに比べて少量ですが…
263代打名無し@実況は実況板で:2007/06/16(土) 18:49:47 ID:Cbt4uUhrO
乙です

あぁ鈴木コーチ……
大西がんばれ……
264代打名無し@実況は実況板で:2007/06/16(土) 19:07:15 ID:ShiTKYFp0
新作乙です!

今回も切ないデス
265代打名無し@実況は実況板で:2007/06/16(土) 23:58:04 ID:/QaMeU6f0
乙です。
図書館で何が待ち受けてるのかが気になる……
大西がまともになってくれて良かった…
266代打名無し@実況は実況板で:2007/06/17(日) 19:48:53 ID:SvOAJ0OYO
泣きそうになりましたわっふる
267代打名無し@実況は実況板で:2007/06/18(月) 19:30:40 ID:l8sgipbo0
最下層ほす
268代打名無し@実況は実況板で:2007/06/19(火) 15:36:43 ID:nlEF/r4W0
わっふる食べながらほしゅ
269代打名無し@実況は実況板で:2007/06/20(水) 00:06:01 ID:p87hq5Sy0
 
270代打名無し@実況は実況板で:2007/06/20(水) 22:03:58 ID:KWAnoRLJO
271代打名無し@実況は実況板で:2007/06/21(木) 10:12:20 ID:z7fiA4TrO
星野伸之

あのスローカーブをもう一度
272代打名無し@実況は実況板で:2007/06/21(木) 20:32:47 ID:X7ZAsv3dO
アレンはまだあかんかなぁ…
273代打名無し@実況は実況板で:2007/06/21(木) 22:32:03 ID:uNXnuwVZ0
2006年の設定だからアレンはまだ日本にいないぞw
274代打名無し@実況は実況板で:2007/06/22(金) 07:17:32 ID:hhnsIofk0
ほしゅー
275代打名無し@実況は実況板で:2007/06/22(金) 17:19:56 ID:zK2ww7SN0
そういえばブランボーら酔いつぶれた外人勢も気になるぜ
276「148・自己の傍観者 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/22(金) 23:32:54 ID:ZMoo4PWN0
暗闇の中を必死で逃げ続けながら、阿部はチラリと川越を見た。川越も阿部を見た。
どちらが何を言うでもなく、徐々に走る速度が落ちた。そしてとうとう早歩き程度に変わ
った。川越がポケットから地図を取り出す。阿部は懐中電灯でその手元を照らした。
「……そろそろ、歩いても平気ですよね?」
「あれだけ怪我してたからな……マラソンだって厳しい感じだったから……もうこれくら
い逃げれば大丈夫だと思う。今この辺かな?」
方位磁石を取り出し、方向を確認する。
「『Cafe Bs』は丘の麓だって水さんが言ってました。市街地の隅」
「まだ結構距離があるな」
「行けるトコまで歩きます?」
「その方がいいかな。鈴木から逃げる意味もあるし」
立ち止まることなく歩き続ける。時折聞こえる虫の音が綺麗だった。夜空を見上げれば静
かに美しい月がある。阿部はそのまま歩を進め、小石につまづいた。
「いて」
「おい、前見て歩け」
川越が笑いながら注意する。阿部も照れ笑いをしながら頭を掻いた。
「………なあ阿部」
川越の表情が急に真顔に変わったので、阿部は少しだけ気持ちが引き締めた。
「はい」
「先に言っておいた方がいいと思うから言うんだけどさ」
「はい、なんでしょう」
阿部から目を逸らし、川越は再び前を見た。2人は歩き続けている。
「俺さ、この島に来てから何度か記憶が消えてるんだ」
「は?」
「自分でもよくわからないんだけど、何度か記憶が飛んでるんだ。気づいたら違う場所に
いたり、鞭を持ってたり………本柳に何か聞いても別に何も無いって言われるだけで」
「前からそういうことは?」
「全然無い。この島に来て初めて。1日のことを思い出そうとすると、部分的に白い靄がか
かってるっていうか……頭が痛くなるんだ」
277「148・自己の傍観者 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/22(金) 23:34:02 ID:ZMoo4PWN0
覗き込むようにして川越の表情を見た。暗くてよくわからないが、登板日にベンチで時折
見せる眉をしかめた顔をしていた。かなり深刻なようだ。それに合わせて阿部も冗談は言
わないことにした。ジョークを言って場の空気を和ませるのが阿部の得意技だが、ここで
は必要ないようだ。
「それで俺、思ったんだ。本柳が何か隠してるんじゃないかって」
「どんなことを?」
「俺を………かばってるのかなって」
「かばう?」
少しだけ、川越の歩調が落ちた。阿部もその速度に合わせた。
ふいに川越が、甲を上向きにして右手を阿部に差し出した。阿部は、貴族が姫君の手を取
るか、フォークダンスの女の子の手を取るようにその手を握った。
「違う」
川越がまた笑う。阿部も笑った。冗談は言わなくても、そのテの行動が自然と出てしまう
ようだ。根っからの芸人らしい。
「人差し指の爪の奥に、赤黒いものがついてるだろ?」
言われて指先に顔を近づける。確かに爪の裏側、奥に赤に近い黒い汚れがある。
「一応ピッチャーだからさ、爪には気を遣うんだ。爪に何かついてたりしたら、それだけ
でもコントロールに関わりそうな気がして、いつでも短くして綺麗にしておくんだ。しょ
っちゅう指先見る癖もついてるし。なのに、気づいたら汚れがついてた」
続いて自分のユニフォームの腹部を指差した。小さいが、やはり赤黒い汚れが付着してい
る。阿部はその汚れに触れてみた。もう乾いていた。
「これも、気づいたらついてた」
川越の声は暗い。
「両方とも………血みたいだろ」
深呼吸をひとつ。
「記憶の無い間に何か起こったんですかね?」
阿部が容赦なく言う。恐らく川越の口からは言いづらいだろうから、先に言った。
278「148・自己の傍観者 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/22(金) 23:35:02 ID:ZMoo4PWN0
「川越さんの記憶の無い間に何かあった。ガブさんはそれを隠してる。どうして隠してる
のか。ガブさんが何か隠したいようなことをしたか、それとも川越さんが、自分がおぼえ
てちゃいけないようなことをしたか。それとももっと別の何かショッキングなシーンを見
てしまって、そのショックで川越さんは記憶が無くて、ガブさんは川越さんを気遣ってそ
れを隠してる。思いつくのはこんな感じ?」
一気に喋りきった。川越は自分では言いづらいことを阿部が言ってくれたことで少し気楽
になったようだった。けれど表情が暗いことに変わりは無かった。
「ひょっとしたら俺……血がつくような何かを………」
「そんなことないですよ」
即座に否定した。川越を励ますように。
「川越さんがそんなことするような人じゃないって、みんなわかってますよ。だから俺は、
何かを見てショックで記憶を失って、それをガブさんが隠してることに1票」
「まだあるんだ」
川越の言葉に、阿部はおとなしく続きを待った。
「さっき、鈴木が俺の救急箱を取っただろ」
「ええ」
「あの救急箱、ずっと俺の鞄の中に入ってたんだ。誰にも触らせてない」
「はい」
「誰にも触らせてないのに、メスのしまってある方向が逆だったんだ」
んー、と唸りながら、阿部は腕を組んだ。
「最初は刃の部分が左向きにしまってあった。なのにさっき開いたら、右向きになってた」
川越は右手で自分の顎を撫でた。それは何かを考えている時の癖だった。
「俺しか触ってないんだ。だから、それをしたのも俺なんだ。きっと」
「記憶の無い時に誰かが触ったって可能性もあるじゃないですか」
その言葉を川越は右手を上げて制した。阿部も口を閉ざした。
「だから、一番言いたいことは……」
少しだけ、間を空けた。
「俺を監視して欲しいんだ」
つらそうな表情をしていた。
「それでもし、俺が何かヤバイ感じだったら、俺を置いて逃げてくれ」
279「148・自己の傍観者 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/22(金) 23:36:23 ID:ZMoo4PWN0
決意の程が阿部にもヒシヒシと伝わった。
「何があるかわからないから、先に言っておきたくて……」
「そうならないように、俺が見張ってればいいんですよね?」
出来るだけ明るい口調で答えた。
「大丈夫ですよ、俺がちゃんと見てますから。そんな変なことはないと思うけど、念の為
約束しておきます。俺に任せておけばオッケーっすよ!」
元気よく胸を叩いて見せた。川越が小さく遠慮がちに笑った。
「川越さんが記憶を失わないように、俺がちょくちょく声かけますから、鬱陶しいって言
わないで下さいね」
「大丈夫だよ」
「もし敵に遭ったとしてもですね……」
その瞬間、フッと何かが変わったことに阿部は気づいた。川越の表情、雰囲気がどことな
く、つい今さっきまでのものと違うような気がした。
ゆっくりと、川越の手がベルトに差してある鞭へと動く。
「川越さん?!」
思わず大きな声になった。
「川越さん!」
また声を出して、両手で川越の両肩をバンと掴み、軽く揺すった。
「え?」
キョトンとした顔が、阿部を見上げていた。その表情はいつもと変わらない川越のものだ。
「川越さん、どうしました?」
「え?何が?」
(……このことか?)
阿部は心の中で呟いた。
(これは……ガブさんに会う必要がある)
その為には『Cafe Bs』へなんとしても辿り着かなければ。
本柳が隠しているであろう秘密を聞き出さなければ。
何かが起こる前に。

【残り・24人】
280「149・友の傍観者 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/22(金) 23:37:47 ID:ZMoo4PWN0
「とりあえず、歩きましょう」
阿部と川越は再び道を歩き始めた。横に並んで歩くくらいの幅はあった。阿部は横目で川
越を観察しながら歩いた。
(今は全然なんともないな……)
ではさっきの雰囲気は何だったのだろう。
(何かキッカケがあって、ああなったのか?)
そのキッカケは何なのか。阿部の言葉か、行動か、それとも全く別の何かか。
多分、川越は今の一瞬のことすら覚えていないのだろう。覚えているもなにも、たいした
ことは起こっていない一瞬の出来事ではあったが。
(川越さんは、俺に不安を話してくれた)
じゃあ、自分も。そんな気分になった。沈黙のまま歩き続けるのも気まずい気がした。な
らば自分も川越に話しておいた方がいいことだろう。
その瞬間の判断を鈍らせない為にも。
「俺も、ちょっと話しておきます」
「何?」
「えっと……ゴッさんのことなんですけどね」
「ゴッツがどうした?」
阿部は出来るだけ明るい声で話そうとした。
「俺とゴッさんが大学の同級生ってのは知ってます?」
「ああ。法政だっけ」
「ええ。んで、ゴッさんは野球部入りたての1年坊主のくせにエースピッチャーからホーム
ラン打っちゃったんですよ」
「……相変わらず空気読まないなー、あいつは」
川越が苦笑いをする。これがチーム内での後藤の愛され方らしい。
「そのせいでゴッさん、上級生からイジメられたんですよ。かなり陰湿な」
「……全然そうは見えないけど」
「だからゴッさん、野球部辞めて、大学も辞めたんです」
少しだけ、阿部の声に元気が無くなった。
「1年生で集まって話しましたよ。俺ら、何も出来ずにゴッさんを見捨てたんだって。ゴッ
さんを助けられなかったんだって。ものすごく後味悪かった」
281「149・友の傍観者 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/22(金) 23:38:55 ID:ZMoo4PWN0
小さく何かが鳴いた。低い声、ふくろうだろうか。
「大学辞めたゴッさんが社会人で野球続けてるって聞いて、ちょっとホッとしたりして」
阿部の声が少しまた明るくなる。
「そしたらゴッさん、ドラフト10位だけどプロ入りでしょ?もう笑うというか、ヨッシャ
ーッ!て言うか、嬉しかったですよ」
ガッツポーズまでしてみせる阿部に、川越もつられて笑った。
「ゴッさんを苛めた先輩のほとんどはプロになれなかった。ゴッさんがホームランを打っ
た先輩は、プロでそれなりに活躍したけど、もう何年も前に日本の野球を諦めて遠くへ行
って……今はもう野球の世界から離れたのかな。なのにゴッさんは今もプロ野球選手で、
しかも背番号1を持ってる。これってすごいじゃないですか」
ウンウン、と川越がうなずく。阿部も嬉しそうに一緒にうなずいた。
「でしょ?だから俺……」
阿部はまた空を仰いだ。静謐な月。けれど力強い光を放つ月。
「今度こそ、ゴッさんを助けたいんです」
月が少しだけ滲んで見えた。
「あの時の俺は、ゴッさんのこと助けられなかった。だから今度こそ、ゴッさんを助けた
いんです。もしゴッさんと会って、ゴッさんに何かあったとしたら、俺、躊躇なく助けに
行きます。それだけ言っておこうと思って」
真面目な口調に、川越もまたうなずいた。
「でもゴッツはあんまりそういうこと気にしてないんじゃないの?」
「……みたいですね。プロになってから俺がそのことずっと気にしてたんだって話したら、
自分はちゃんとプロになれたし別に気にしてないって、あの調子で言うんですよ。ずっと
気にしてた俺のこの真面目な気持ちは何だったのかと」
「あはははは」
川越が声に出して笑う。阿部も「笑いごとじゃない」と言いたげに苦笑いをしながら、照
れ隠しのように頭を掻いた。
「ま、それがいろいろあってまた同じチームですからね。運ですかねえ」
「運だよ。俺だって社会人の都市対抗で優勝して、MVPみたいな賞獲ったからプロになれた
んだし。大学時代はそれほど注目されてなかったから。高校の時も、マイナーだけど頑張
ったピッチャーって扱いかな。甲子園も2回戦で負けたし」
282「149・友の傍観者 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/22(金) 23:40:33 ID:ZMoo4PWN0
「へー。俺は3回戦まで行きましたね。一応4番打ってたんですよ。幕田が5番だったなー」
「俺も4番だよ」
「嘘!4番でエース!カッコよすぎる!同じ神奈川県民なのに!ちっちゃいのに!」
「ちっちゃいは余計だよ。確かゴッツもエースで4番だろ?」
「………ゴッさんのピッチャー………想像出来ねえ。今頃クシャミしてるな」
和んだ空気の中、2人は歩き続けた。お互いの決意を話し、歩き続けた。
川越が抱えている自分自身への不安。阿部が抱えている後藤への不安。
川越は自己を傍観するように、少しずつ自分の謎を解こうとしている。
阿部はかつて後藤の傍観者であったことを悔やみ、それを償おうとしている。
傍観者だからこそ、見えることがある。
傍観者だからこそ、わからないことがある。
「まだ遠いな……」
地図を見ながら川越が呟く。
場所も、そこに何があるのかもよくわからないまま、2人は『Cafe Bs』を目指していた。
そこに行けばきっと水口たちがいる。仲間に会える。そう信じて。
頬に感じる程度の風が吹いた。むず痒さを感じて、阿部は人差し指で頬を掻いた。
『…………ぁあ……あー…………』
どこかで誰かの、いや、何かの叫び声のようなものが聞こえた。2人は同時に足を止めた。
キョロキョロと川越が辺りを見回す。阿部は空の月を見た。
(ゴッさん………じゃないよな?)
音はかなり遠くからのように感じた。何かが下へと落ちて行くような声だった。
再び2人は歩き始めた。

【残り・24人】
283 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/22(金) 23:41:16 ID:ZMoo4PWN0
今回は以上です。
284代打名無し@実況は実況板で:2007/06/23(土) 00:04:35 ID:NJA35t2S0
投下乙でした

川越・・・阿部ちゃん・・・
もとやんにもう一度会ったときが不安だよ
そしてゴッツと阿部ちゃんが会えるのかどうかほんとに気になる
285代打名無し@実況は実況板で:2007/06/23(土) 01:14:14 ID:yg1qCbmx0
新作乙です。
川越が不穏な感じで心配
そういえば阿部が甲子園出たときのエースは川越とはプチ選手会仲間の松井光介なんだよな……
一年生で松坂もいたし、この頃の横浜高校はなかなかタレント豊富だな
286代打名無し@実況は実況板で:2007/06/23(土) 09:04:25 ID:9PxbT63V0
新作投下乙です!!

川越さんが気づき始めてる……
阿部ちゃん、見ていてあげてね……
287代打名無し@実況は実況板で:2007/06/23(土) 09:24:52 ID:UQEtWBn/O
投下乙です。

>ちっちゃいのに!
これは酷いwwwwwwww
288代打名無し@実況は実況板で:2007/06/23(土) 13:24:12 ID:xxPRd6SCO
乙です

個人的にはまっくんがツボですwww
川越さん……どうなるのか………
289代打名無し@実況は実況板で:2007/06/23(土) 14:10:26 ID:2MjgcTPU0
新作乙です。
プチエースと阿部ちゃん二人とも頑張れ。
阿部ちゃんとゴッツが無事会えればいいな...
290代打名無し@実況は実況板で:2007/06/24(日) 22:41:27 ID:QsIuMJ9s0
川越の手を取る阿部真w
291代打名無し@実況は実況板で:2007/06/25(月) 09:12:53 ID:u1MIOX7WO
292代打名無し@実況は実況板で:2007/06/26(火) 00:13:22 ID:Ccvpvll10
 
293代打名無し@実況は実況板で:2007/06/26(火) 15:19:09 ID:uj+/Joha0
歌さんと萩原が…
294代打名無し@実況は実況板で:2007/06/26(火) 17:56:40 ID:h5eNi56hO
うわーーん(泣)

ハギー、うたさん………
大好きだぜ……
この話でも本人達も………
295代打名無し@実況は実況板で:2007/06/27(水) 00:08:44 ID:9HK3HCgd0
296代打名無し@実況は実況板で:2007/06/28(木) 00:34:31 ID:hvsB+YUm0
ハギーと歌さんの前途に幸多かれほしゅ
297代打名無し@実況は実況板で:2007/06/28(木) 17:14:36 ID:5vl2WeGNO
これからの二人の活躍を祈って、保守
298代打名無し@実況は実況板で:2007/06/28(木) 20:17:30 ID:5vl2WeGNO
吉井さん何考えてんすかw
299代打名無し@実況は実況板で:2007/06/29(金) 13:31:10 ID:us8WDskoO
300代打名無し@実況は実況板で:2007/06/29(金) 22:04:44 ID:LVrR39OM0
ほしゅ〜
301「150・colorful careful 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/30(土) 03:07:55 ID:HPd3bXxT0
部屋の真ん中で、阿部健太、光原、高木は向かい合うようにして座っていた。
その横では下山と北川が眠っている。0時の放送まで順番に仮眠を取る約束だ。
北川が大きい体を丸めるようにして眠っている姿を見て、なんだか動物園の熊みたいだと
健太は思った。
座っている3人の真ん中には、下山から預けられた首輪探知機が置かれている。周囲に気
を配る為に10分おきに電源を入れて確認を取るように決められていた。10分と設定したの
は、電源が切れるかもしれないというもしもの時のことを考えたからだった。
下山がこれを3人に託した時点で彼らは信頼された。その事実が単純に健太は嬉しかった。
光原はさっきから白旗をいじっている。どうやら棒から白いタオルが外れそうになってい
たらしい。丁寧に巻きつけ、テーピング用の道具やら何やらを取り出して1人で工作をして
いる。棒の先がガツガツと高木の腹を突いているのだが、それに気づかないらしい。
高木がそっと棒の位置をずらしても、また元の場所に戻ってきてしまう。仕方なく高木は
自分の座る位置をずらした。健太と顔を見合わせて苦笑いをした。
「あれ?」
健太が妙な声を出した。
「高木さん、赤だ」
「へ?」
健太はじっと高木の顔、そのやや下の部分を見つめていた。
「何が?」
「高木さんの首輪、赤」
「へ?」
「ミツさんは?」
今度は光原の顔を覗き込んだ。つられて高木も同じ場所を見た。
光原の首輪の中央には、長方形の形をした赤いランプのようなものがある。ランプはずっ
と消えている。灯りが点いたらここが赤く光るのだろう。いつ光るのかはわからないが。
そのランプのすぐ横に、よく見なければわからないように水色の小さな何かがついていた。
赤ランプが立体的なので、その影になっている。意識しなければ見えない、というよりも
意識して隠されているようだった。よく見るとカプセルのようだ。健太はもう一度高木の
首を見た。形は同じ。色が違うだけ。
302「150・colorful careful 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/30(土) 03:08:44 ID:HPd3bXxT0
「ミツさんは水色」
「え?」
今度は高木と光原の2人が健太の首を覗き込む。
「健太は黄色だ」
自分の首は自分では見ることが出来ない。互いに見て確認を取るしかない。
「3人とも違う色なんだ」
「シモさんとペーさんは?」
3人は横たわっている2人の元へバタバタと近づいた。そして首元を覗き込む。
「ペーさん赤」
「シモさんは黄色」
「えー、俺だけ仲間外れー?」
光原が不安そうな声を出す。そして3人で顔を見合わせた。
「このカプセル、何なんだろ……」
高木が健太の黄色いカプセルに手を伸ばした。人差し指でグッと押してみる。指はカプセ
ルと共に首輪の中へとめり込んだ。
「あれ?入った」
驚いて指を離す。すると首輪からポロリと黄色いカプセルが落ちた。慌てて高木は手を広
げてそれを受け止めた。
バンッ!
大きな破裂音と共に、目の前にある健太の体が大きく弾かれたように揺れた。そして赤、
ピンク、そんな色の混じった何かが高木の方へと飛び出してきた。
「うわっ!!」
思わず顔を背けたが、ベチャリとそれらが顔や手に貼りついた。
そして、目を見開いたままの健太の体がグラリと揺れ、ゆっくりと後ろに倒れていった。
「け、健太?!」
高木と光原が健太へと擦り寄った。そして息を飲んだ。
健太の首は真っ赤に染まっていた。
首だけではなく、ユニフォームの襟元も。
目を見開いたまま奇妙な体勢で床に横たわり、健太はピクリとも動かなかった。
303「150・colorful careful 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/30(土) 03:09:48 ID:HPd3bXxT0
「………健……太?」
恐る恐る光原が声を出す。
「健太ああああああっ!!」
高木が絶叫する。そのまま健太の体に手を添え、ガクガクと揺さぶった。
「健太!健太っ!!どうしたんだよ!!健太!!健太ああっ!!」
いつの間にか涙が流れていた。
「健太!起きろよ!起きろってば!!健太!!」
それでも体を揺さぶった。今何が起こったのか、高木には理解出来なかった。
何もしていないはずだ。健太の身の上に何かが起こってしまうようなことなど、何ひとつ。
「……どうした?!」
爆発音と高木の大声に目を覚ました北川と下山が歩み寄る。そして健太を見下ろし、呆然
とした。
「お、おいっ!」
北川が駆け寄り、高木の腕を抑えた。それでも高木は狂ったように健太の体を揺さぶり続
けようとした。健太の体を離そうとしなかった。
「健太!嘘だろ健太!なあ健太!返事してくれよ健太!俺何したんだよ!!俺、何しちま
ったんだよぉぉ!!」
「落ち着け!」
下山も慌てて高木の体を抑えつける。ようやく我に返った光原も高木の体を抑えた。
北川がゆっくりと健太の体を見た。
首輪が爆発したことは明らかだった。
「………健太ぁ…………健太ぁぁ…………」
高木の声は鳴き声になっていた。血を浴びた顔、血と肉を浴びたユニフォームのまま、し
ゃくりあげながら、すがるように、ただ健太の名前を呼んでいた。
「………ひょっとして………」
静かに目を閉じ、光原が呟いた。
「………これが……まだ隠されてるトラップ………」
握り締めた高木の手の中には、健太の黄色いカプセルが謎の存在感を放っていた。

【×阿部健太 残り・23人】
304「151・おひさま 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/30(土) 03:10:57 ID:HPd3bXxT0
加藤は腕時計を見た。11時50分近く。あと少しで0時の放送がある。
歌藤は相変わらず猿と遊んでいる。歌藤が放り投げた鉛筆を猿が嬉々として拾って戻って
くる。よくもまあここまで手懐けたものだ。猿が異様なくらい人なつこいという理由もあ
ったが、それにしても妙な奴だ。
ググゥ。
加藤の腹が鳴った。自分のパンは数時間前に猿に襲われてほとんど奪われてしまった。夕
飯として歌藤がパンを分けてくれたが足りなかったらしい。
「聞こえたぞ」
笑いながら歌藤が言う。
「俺の鞄からパン、1個だけ食っていいぞ、1個だけな」
「歌さんは食わないんですか?」
「そんなに腹減ってないんだ。っちゅーか、こういう状況でお前よく食欲出るな」
「歌さんはそんなだから細いんですよ」
「面倒だから、いっそ半分コしとけ。半分お前の鞄に入れていいぞ」
「いや、さすがにそれは気が引けます……」
そう言いながらも加藤は床に置かれている歌藤の鞄に手を伸ばした。残りのパンの数を数
える。思っていた以上に残っていた。
「じゃあパンにしるし書いておきますね、2人で分けたってことで」
自分の鞄からサインペンを取り出し、パンの袋に数字を書き始める。『15加ト』と『12歌』。
「お前、字、汚ねえなあ。これじゃ『15カロト』だぞ。『かろと』って何だよ」
「いいじゃないっすか」
それでも歌藤は文句を言い続けた。
「それになんだよ、この12は。2の字が四角ばってる」
歌藤はパンを1個手に取った。数字の書かれた面を裏返しにして透明なパンの袋を見た。
「おい、『12』を裏返して透かして見ると『51』に読めるぞ」
「そんな細かいところ突っ込まないで下さい」
こんな時にでもいろいろと冗談を言ってくる歌藤が、加藤には不思議で仕方なかった。ど
うしてこんなに落ち着いていられるのだろう。余裕すら感じられるのだろう。
305「151・おひさま 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/30(土) 03:11:57 ID:HPd3bXxT0
もし今後、何かが起こって歌藤がいなくなったら自分はどうするだろう。自分で考え、自
分の意思で行動出来るだろうか。自分が生き抜く為の手段を自分で選べるだろうか。例え
最悪の状況に陥ってもそれを受け入れ、そこで戦い、新たな意志を持てるだろうか。
(ウタさんが違う道を選んだら……)
(もし突然ウタさんがいなくなったら……)
きっとそんなことを考えているのは自分だけだろう。
歌藤は自分で自分の道を歩くだろう。加藤がいても、いなくても。
歌藤は歌藤だけに与えられた道を歩いている。今はたまたまそこに加藤の道も寄り添って
いるだけだ。
いつかこの道が離れていく時が来るだろう。その時、加藤はどんな表情が出来るだろうか。
「じゃ、この51のパンでも食うかな」
パンの袋を破り、中身を取り出す。自分で一口齧り、今度は手で小さくちぎって猿に与え
た。猿は嬉しそうに両手で受け取ってそれを食べた。
ガタン。
ふいに小屋の外で何かがぶつかるような音がした。途端に加藤も歌藤も身を凍らせた。
「……風、ですか?」
「どうだろう……外で何か落ちたかな?」
「ここの灯りがカーテンの隙間から漏れてて、誰かが……」
「………可能性はある」
歌藤が立ち上がった。
「ちょっと外見てくる」
「危ないっすよ」
「危ないかもしれない事態を放置しておく方がもっと危ない」
さっさと鞄を肩に掛け、マシンガンを抱えてドアへと歩き出す。
「お、俺も行きます!」
慌てて加藤も鞄を持って立ち上がった。右手で腰のベルトに触れる。銃は変わらずそこに
挟まっている。猿も加藤と並ぶようにしてトテトテと走った。
すでに歌藤はドアを開けていた。視界の先に暗闇が現れる。そして歩き出す。
その光景に加藤は、背番号12が消えてゆくような錯覚を覚えた。
「ウタさん!」
306「151・おひさま 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/30(土) 03:13:18 ID:HPd3bXxT0
慌てて飛びついて、背中の12の部分を鷲掴みにした。驚いて歌藤が振り返る。
「ど、どうした?」
不思議そうな顔で加藤を見ている。
「い、いえ……ちょっと」
「お前さー、恐いなら残っててもいいんだぞ?」
相変わらずの笑顔で歌藤は加藤の胸を叩いた。見慣れた子供っぽい笑顔が加藤を見ている。
「いえ、その、別にそういうわけじゃなくて……」
加藤は頭を掻いた。そしてまだ笑っている歌藤を見た。
きっとこの人は、どんな状況になっても怯えないのだろう。どんな状況でも前向きに受け
入れ、そこへと歩いて行くのだろう。そして戦うのだろう。心の闇を隠して。
「あの、ほら、もうすぐ12時だから、放送あるかも」
言われて歌藤も腕時計を見た。時計の長針はもう12の片隅に触れていた。
長針が12を真っ直ぐ貫いた時、また新しい運命が訪れる。
「放送の間なら、敵さんも誰も動かないでしょ。中に戻りましょう」
加藤に言われ、歌藤も再び小屋の中へと戻った。
「………大輔」
「はい」
「俺はお前が思ってるほど強くないよ」
「………そうですか?」
「強くないよ。でも、そう思われたくない。俺もそう思いたくない。だからやる。精一杯、
与えられた環境で、自分の出来る以上のことをする。それぐらいの気持ちでいる。負けた
くない。ほんの少しでも希望があるなら最大限の努力をしたい。ずっとそうやってきた。
大学時代だって、公式戦じゃ1試合しか投げられなかったんだ。俺の為のマウンドなんて無
かった。でも社会人行って、頑張ってプロになった。だから、俺は何があっても諦めない。
それがどこでも。目の前にマウンドがあるなら、喜んでそこに行く。だから」
少しだけ、間が空いた。
「だから、俺は前に進む」
いつもと同じ、決して希望と可能性を捨てない、おひさまのような歌藤の笑顔があった。

【残り・23人】
307「152・青い記憶 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/30(土) 03:14:47 ID:HPd3bXxT0
暗い森の中を、とても静かな足取りで萩原は歩いていた。
荷物の沢山入った鞄を肩にかけ、左手で子猫を抱いて、ゆっくりと歩いていた。
右手の懐中電灯は、道の少し先しか照らさない。時折、これから進む正面へと向けても、
その灯りは深い木々によって簡単に遮られてしまう。
人生もきっとこんなものなのだ。
足元は見える。
けれどその数歩先は全く見えない。
何が起こるかわからない、ほんの数歩先の未来。
1分後には、何が自分の運命を変えるかもわからないのだ。
それはテレビから聞こえてくる言葉かもしれないし、1冊の本から得た言葉かもしれないし、
道ですれ違った人の何気ない一言かもしれないし、
たった1本の電話かもしれない。
(俺はオーナーの"犬"だからな)
オーナーの命令により、特殊な任務を与えられた。それゆえに、ほんの少しだけ有利な立
場にいる。けれど他の選手たちと同じように危険な首輪に操られている。
いや、首輪が無くたって、自分はオーナーの手のひらの上で踊らされているのだろう。
それは普段から言えることだ。
プロの野球選手である以上、自分自身が商品だ。自分の技術が売り物であり、生活を左右
する。オーナー、監督、コーチの些細な一言で全てが決まってしまう。
ならば。
(俺に出来る方法であがき続けるだけだ)
それが他の人から見たらみっともなくてもかまわない。
自分にその方法しか残されていないのなら、不器用な自分にはそれしか出来ないのなら、
それを全力でやり遂げよう。全力で自分の目の前にある道に尽くそう。
(俺は、生きるんだ)
胸に抱いた子猫を神戸に連れて帰るのだ。
腹を空かせて萩原に擦り寄ってきたこの子猫に、美味しいものを食べさせてやりたい。
こんな孤独な島から救い出してやりたい。
それが自分なりの生きる理由だ。
308「152・青い記憶 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/30(土) 03:15:59 ID:HPd3bXxT0
オーナーの為に動いているのではない。
自分の意思で、自分で選んだ生きる道の為に、歩くのだ。
他の選手たちは、あと何人くらい生きているのだろう。そしてこの島に来ていない選手た
ちは今どうしているのだろう。自分たちがここにいることを知っているのだろうか。
(俺は、自分なりの道を歩く)
例え最悪の状態に追い込まれても、最後の選択は自分でする。その選択には責任を持つ。
(俺は生きる。どんな状況でも)
少しずつ、闇が萩原の意思を明確に、強くしていた。
ふいに足元の灯りの中に、小さな青い色の花が現れた。それはまるで萩原の歩く道に沿う
ようにして1本ずつ咲いていた。花のことはよくわからない。チューリップと向日葵がわか
る程度だ。けれどこの鮮やかな青い色は、不思議と心に染み込んだ。
(いち、にぃ、さん、しぃ……)
花の数を数えながら歩く。
(じゅういち、じゅうに、じゅうさん、じゅうし……)
さっきまでよりもさらに遅い足取り。
(じゅうしち、じゅうはち、じゅうく)
そこで花は終わった。
19本の青い花が萩原の道を彩っていた。
(お迎え、ありがとうよ)
小さく笑みを浮かべる。
(俺の行く場所すべてが、俺の戦うマウンドだ)
歩調が再び元に戻る。
少し肌寒ささえ感じる木々の暗闇の中に、ゆっったりと、42が遠ざかって行った。

【残り・23人】
309 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/06/30(土) 03:18:48 ID:HPd3bXxT0
今回は以上です。
新しい環境での2人の活躍を祈って。
310代打名無し@実況は実況板で:2007/06/30(土) 07:29:18 ID:QgcYvncAO
投下乙です!
け、けけけ健太…
311代打名無し@実況は実況板で:2007/06/30(土) 08:18:30 ID:TAY5WRXQ0
ちょ、健太!?(愕)
い、いきなりすぎる!!


投下乙でした☆
312代打名無し@実況は実況板で:2007/06/30(土) 09:11:58 ID:ceVCyypCO
歌さん…ハギー…。・゚・(ノД`)・゚・。
朝から泣きました…投下乙です!
313代打名無し@実況は実況板で:2007/06/30(土) 10:19:53 ID:bK4c0Hxl0
康成にかける言葉が見つからねええ!!!(泣)

ハギー歌さん、がんばれ。どこいったって応援する。
314代打名無し@実況は実況板で:2007/06/30(土) 20:21:01 ID:h1gzhwsw0
新作乙!
健太……これほどあっさり逝った死者は久しぶりだな……
裏返しの51も19本の青い花も新背番号つながりか……
二人とも新天地でガンバレ
315代打名無し@実況は実況板で:2007/07/01(日) 01:14:06 ID:DvIjpMYMO
乙です。
これは高木がつらい展開だ…
ハギー、歌さん、これからも応援してるよ!
久しぶりにエグエグ泣いた…。・゚・(ノд`)・゚・。
316代打名無し@実況は実況板で:2007/07/02(月) 01:29:12 ID:DOJ72IF60
乙です
歌さんとハギーのトレードはorzでしたが、読んでてぐっと来ました
51と19が上手く繋がってって、おお!
歌さんセリフに(。´Д⊂)
高木のこれからが心配だ
317代打名無し@実況は実況板で:2007/07/03(火) 01:00:09 ID:BcpapUNdO
猿と一緒に保守
318代打名無し@実況は実況板で:2007/07/04(水) 00:28:27 ID:AFshmVkLO
319代打名無し@実況は実況板で:2007/07/04(水) 11:40:28 ID:jatVk15VO
保守
320代打名無し@実況は実況板で:2007/07/04(水) 16:23:26 ID:2DztJvl80

 


     オ  リ  ッ  ク  ス  荒  ら  し  の  正  体  は 

     組  織  票  軍  団  の  楽  天  ヲ  タ     
   
 
 
 
 
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707 名前:代打名無し@実況は実況板で[sage] 投稿日:2007/07/04(水) 16:16:28 ID:rjQxZb2+0




俺も昔、オリックス荒らしてたが馬鹿らしくなった
ちなみに俺は当時17だ。これより年齢高い香具師は死んだ方がいい
321代打名無し@実況は実況板で:2007/07/04(水) 16:47:01 ID:2DztJvl80

   楽  天  ヲ  タ  は  ム  カ  つ  く  こ  と  が  あ  る  と

          他  球  団  ス  レ  を  荒  ら  す

492 名前:代打名無し@実況は実況板で[sage] 投稿日:2007/07/04(水) 02:36:48 ID:MZDP+e5c0
sage・・・・田中、永井、朝井、アニメ、渡邉、小倉


age・・・・一場、小山、谷中、松崎、愛嬌、戸部


後半戦には役者が全て揃う。

彼ら一人ひとりにも熱い想いを胸に秘めている 
観客を沸かせたいというスター精神
楽天投手陣の全試合完封リレーを見届けることになろうとは
この時フルスタの観客は知る由もなかった もちろん我々も

     
     リ  ベ  ン  ジ  開  始

498 名前:代打名無し@実況は実況板で[sage] 投稿日:2007/07/04(水) 03:11:44 ID:MZDP+e5c0
関さん・・・

マジでがんばってほしいわ。山崎に負けるな;
明日からまた楽天に見応えが出てくるぜ。
9番辺りスタメンで出て欲しい。礒部に休息を与えると同時に。


732 名前:代打名無し@実況は実況板で[sage] 投稿日:2007/07/04(水) 16:42:54 ID:MZDP+e5c0
リアルでムカつく事あったから他スレ荒らしてくるわ
322代打名無し@実況は実況板で:2007/07/05(木) 16:21:06 ID:16qEmwk0O
保守
323代打名無し@実況は実況板で:2007/07/06(金) 22:34:12 ID:AEeU44fG0
hosyu
324代打名無し@実況は実況板で:2007/07/07(土) 15:07:03 ID:e/wotgFp0
保守
325代打名無し@実況は実況板で:2007/07/08(日) 18:15:03 ID:6SFXLUWPO
☆☆☆
326代打名無し@実況は実況板で:2007/07/09(月) 07:16:02 ID:Zs0okddI0
捕手
327代打名無し@実況は実況板で:2007/07/09(月) 22:26:04 ID:6FWLEfxd0
hosyu
328代打名無し@実況は実況板で:2007/07/10(火) 05:40:20 ID:3YWLn4as0
ほす
329代打名無し@実況は実況板で:2007/07/10(火) 18:08:39 ID:PAhDXaAeO
330代打名無し@実況は実況板で:2007/07/10(火) 23:03:33 ID:gY8JYzhgO
331代打名無し@実況は実況板で:2007/07/11(水) 07:32:35 ID:ELOW/wpm0
更新楽しみホス
332代打名無し@実況は実況板で:2007/07/12(木) 00:37:41 ID:THiZcnORO
川越さん応援保守っス!
333代打名無し@実況は実況板で:2007/07/12(木) 21:07:25 ID:A1QWzpcp0
保守
334 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/12(木) 22:17:41 ID:GhFZbep00
保守ありがとうございます。
ちょっと風邪をひいてダウンしています。もう少々お待ちください……orz
週末か週明けには投下するつもりです……(遠い目)
335代打名無し@実況は実況板で:2007/07/12(木) 23:52:37 ID:OTex+XB50
風邪ですか。それは無理せずお大事に。
気長に待ってますんで(`・ω・´)ゞ
336代打名無し@実況は実況板で:2007/07/13(金) 01:02:23 ID:+NVO+dwC0
>>334
ゆっくり休んでください
ご無理されないでくださいね
337代打名無し@実況は実況板で:2007/07/13(金) 23:10:55 ID:cBckrFudO
お大事に〜
お待ちしてますよ!
338代打名無し@実況は実況板で:2007/07/14(土) 16:19:28 ID:1UB+2zSD0
保守
339代打名無し@実況は実況板で:2007/07/15(日) 17:29:09 ID:yds84yLO0
340代打名無し@実況は実況板で:2007/07/16(月) 14:22:32 ID:WjQD2glW0
保守
341「153・追えない背中 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/16(月) 17:10:58 ID:vsP5jpwM0
無言のまま、ユウキは少しだけ歩くペースを遅くした。
一緒に歩いている平野恵一の体力が、そろそろ言い訳のきかない状態になってきたように
感じたからだった。ついさっきまでの平野なら、自分を気遣うユウキに対して、逆に歩く
速度を上げて見返すような態度をとっていたのだが、今はもう強がる余裕すらないようだ
った。5月の千葉マリンスタジアム、打球を追って全身で壁に激突し、大ピンチを防いだ代
償。また傷の癒えていない体。ここまで気力で騙し騙し歩いてきた平野にもそろそろ限界
が近づいていた。
無理もない。夕方頃からずっと歩き通しなのだ。時折の休憩もほんの気休め程度。ラッキ
ーカードの謎に急かされ、トラップタイムの悪戯に脅され、ここまで歩き続けている。
目指すは島の端、小島に存在する研究所。
(今夜はもう諦めて、どっかで休むか?)
ユウキは辺りを見回すようにして歩いた。暗闇の中で懐中電灯を左右に振る。
自分を見限った近鉄のメンバーを優先的に消してゆくつもりだった。
なかなか目的の選手たちに出会えず、仕方なく今後のことを考えて有利になりそうな平野
と一緒に行動することにした。途中で出会って消そうとした後藤にも、何も出来なかった。
まあ後藤だから仕方ないという気もするが。そして今も状況は好転しない。むしろオーナ
ーに踊らされ続けている感がある。
(何かキッカケが必要なんだ。それが恵一の持ってるラッキーカードだと思ったのに)
ラッキーカードの意味を教えてくれるはずの研究所。そこまでの道のりがあまりに遠い。
トラップタイムさえ無ければ、もう着いていてもいい時間だ。
(揺さぶられてる)
変化球で右へ。左へ。
(畜生、絶対オーナーを殺してやる)
拳を握りしめたその時、暗く静かな空間にまた音楽の鳴り響く時間がやってきた。急いで
腕時計を見る。午前0時。2人の足は自然に止まった。
「これ、誰の曲だっけ」
地面にしゃがみながら、どこかホッとしたような口調で平野が呟いた。少しの間、無条件
で座れることに安堵したのだろう。聞き覚えのある曲。誰かがバッターボックスに入る時
のテーマソングだ。
342「153・追えない背中 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/16(月) 17:11:57 ID:vsP5jpwM0
「阿部さんだよ」
「あ、そうか。美白の阿部さんの曲だ」
どこかセクシーな女性ボーカルが、バッターボックスへと向かう阿部の背中を思い出させ
てくれた。Shania Twainの「I'm gonna getcha good」。
『みなさんこんばんは、午前0時になりました』
途端に不快な気分にさせる声が聞こえた。
『まずは亡くなられた方の発表です』
地面に置いた地図を裏返し、選手名一覧を懐中電灯で照らす。ペンを持ち、書き留める準
備をする。
『背番号35・大久保勝信君、背番号21・吉井理人君』
バシャン、と紙を打つ音がした。驚いて平野はユウキの方を見た。
その手がブルブルと震えていた。
「………ユウキ」
恐る恐る声をかける。平野もユウキがどれだけ吉井を慕っていたかを知っていた。
『背番号2・的山哲也君、背番号37・早川大輔君』
「嘘だあっ!!」
途端にユウキは立ち上がり、元来た方向へと走り出した。
「おい待てユウキ!!」
慌てて平野も後を追おうとする。途端に脇腹に痛みが走った。
「ぐっ……!」
その場に崩れ落ちるようにしてしゃがみこむ。脂汗が額に滲む。顔を上げた。背番号22が
夜の闇の中へと消えていこうとしていた。
「ユウキ!!待てっ!!落ち着け!!」
『背番号48・阿部健太君。以上5人が減って、残り24人になりました。まだ人数としては多
いですね。残り時間も減って来ています。みなさん頑張って下さい』
「ユウキーっ!!」
平野の声は虚しく放送にかき消された。
343「153・追えない背中 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/16(月) 17:12:53 ID:vsP5jpwM0

何かに追い立てられるようにして、ユウキは走っていた。
今、放送で吉井の名前が挙げられた。
オーナーは亡くなられた方の発表と言った。
ならば吉井が死んだのか?
尊敬する吉井が?
投手として敬愛してやまない吉井が?
ユウキはいつも吉井と一緒にいた。一緒というよりも、吉井の一歩後ろを歩いていた。
キャンプの時も出来るだけ一緒に行動させてもらった。自転車での移動の時も、食事の時
も。吉井の語る経験の全てが興味深かった。移籍に関しての心構え、自己判断の仕方も、
同じくトレードを経験したユウキには頼もしく聞こえた。海外での生活、全く違う環境を
経て、最盛期からは想像もつかないような低い金額で契約し、再び自分の場所を作り出し
た右腕。
『チャレンジしなけりゃ本物の経験は生まれないぞ』
印象的な言葉だった。
『結果は後からどうにでも判断出来る。まずは踏み出すことだ』
そう言ってユウキを励ましてくれた。若い選手が質問や疑問、悩み事を打ち明けると、親
身になって考えてくれた。みんなのいいオッサンだったのだ。
『いいかユウキ、お前はいいものを持ってるんだ。それを活かすには冒険だって必要なん
だぞ。今は準備段階だと思え。もっと上を狙え。ここよりもっと上だ。いい環境は自分で
探して自分で掴み取れ。お前なら出来る。この俺が保障する』
いつだったか聞いた言葉が今でもユウキを支えている。
『おいユウキ、ビール買って来い。お釣りはお駄賃だ』
あの福々しい笑顔がもう見られない。
吉井は、もういない。
(嘘だ!)
何度も心の中で繰り返した。
(そんなことあるはずない!老獪な吉井さんが!殺しても死なないような吉井さんが!吉
井さんが俺の前から消えるなんて!)
ひたすら走り続けた。前後の見境なく走り続けた。
344「153・追えない背中 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/16(月) 17:13:50 ID:vsP5jpwM0
放送が流れている。けれどそんなことはユウキには何の意味も持たなかった。
「吉井さん!」
走りながら大声で叫んだ。
「吉井さん!どこですか!」
灯りはどこにも見えない。
「吉井さん!返事して下さい!!」
もう何も聞こえない。
「吉井さん!!あなただけは殺しませんから!!」
闇にすがりつくように叫ぶ。
「吉井さん!!」
『以上です。では明日の午前6時にまた』
緩やかに音楽が消えてゆく。再び静寂が戻る。
ユウキの走る速度も少しづつ落ちていった。荒い呼吸を繰り返しながらジョギング程度の
速度になり、早歩きになり、普通の歩く速度になり、そして、立ち止まった。
「………吉井さん………」
目の前にある闇を見つめた。認めたくない事実。けれどそれを受け入れなければ先には進
めない。拳を握る。唇が震えた。風景が白くぼやけ始めた。
自分の肩に圧し掛かった運命。いや、使命。吉井の分も戦うこと。
いつの間にか闇すら歪み、滲んで見えた。
ガクリと膝から崩れ落ちる。土下座をするように両手を土について、深々と頭を下げた。
「…………ありがとう………ございました………っ!!」
いつまでもいつまでも、ユウキは頭を下げ続けた。

【残り・23人】
345「154・悔恨と狂気 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/16(月) 17:15:18 ID:vsP5jpwM0
『続いて禁止エリアの発表です』
ペンを持つ北川の右手に力が入る。
『午前2時にC-5、午前4時にD-2、午前6時にH-7、以上です。では明日の午前6時にまた』
地図の表と裏に必要な情報を書き込み終えると、北川は自分の鞄から大きめのタオルを
取り出し、静かに横たわっている阿部健太の体にかけた。血だらけになった部分を隠すよ
うに。下山もそれに倣い、自分のタオルをかけた。
静かな部屋だった。
ただ、小さなすすり泣きと詫びの言葉が聞こえ続けた。
「…………健太ぁ………俺……俺………どうすればいいんだよぉ………健太ぁ………どう
してだよ………どうして………俺が………お前に………」
光原がまるで我が子を守る母親のように高木を抱きかかえていた。取り乱し、今にも健太
の体に飛びつきそうな高木を抑えると同時に、崩れ落ちそうなその体を支えていた。
「健太ぁ……なあ健太ぁ………俺が………俺……何して……何が………健太ぁ………っ」
高木が何かを呟くたびに、光原の腕の力が増した。高木が自分を責めるたび、抱き締める
力を強めた。それは自分が幼い頃、母にしてもらった記憶だった。母子家庭で育った光原
は、愛情の伝え方を母から教わった。泣きじゃくる自分を母が何も言わず抱き締めてくれ
たように、高木を支えていた。
「………健太もずっと泣いとった」
健太の遺体のそばに座り、北川が呟いた。
「ついさっきまで、泣いとった。独りぼっちで、この島でいろんな目に遭って、恐くてパ
ニックになって、泣いとった」
つい数時間前のことなのだ。北川と健太が出会ったのは。
「……やっと笑ったんや。落ち着いて、やっと仲間が出来て笑ったんや………」
優しい声だった。
「一瞬のことやったから、きっと苦しまんといけたやろ………もう恐い思いもせんでええ
……ジェイソンに追われることもない………」
光原にしがみつく高木の手に力がこもる。
山口と一緒に見ていたテレビが爆発した。エレベーターの中で金子の死体を見た。ジェイ
ソンに追われた。高木自身もいくつかの恐怖を味わった。
346「154・悔恨と狂気 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/16(月) 17:16:12 ID:vsP5jpwM0
けれどとうとう人を殺してしまった。そんな気は毛頭無かったとはいえ、指先ひとつで健
太を死に至らしめたのだ。罪を背負ってしまったことに変わりはない。ここでは言い訳な
ど無意味なのだ。
この島は、咎を背負った者こそが生き延びられるように出来ている。
清く正しい者は消えゆくのみ。だからこそ健太は脱落したのか。
高木は自問自答し続けた。そうでもしなければ金子と健太の存在に自分が圧し潰されそう
だった。全てを投げ出してしまいたかった。今すぐこの島から逃げ出したかった。
狂ってしまいたかった。
「………健太ぁ………」
届かない懺悔をただただ繰り返し呟く。
「…………俺…………」
答えてくれ。
答えてくれ。
答えてくれ。
握り締めた小さな黄色いカプセルの存在すら忘れていた。
ふいに、光原が鞄の中から何かを取り出した。アヒルの浮輪を膨らまし始める。そしてそ
れを高木の腕に無造作に通した。
「枕とかクッションとか、弾力のあるものを抱き締めるのって、落ち着くから」
そして再び母親のようなイメージで高木を抱き支えた。
高木はアヒルの浮輪を自分の胸に抱きこむようにして、再び光原にしがみついた。今はと
にかく泣きたかった。泣けば許されるという問題ではないが、とにかくそうするより方法
がなかった。それ以外のことが出来なかった。
そして誰もそれを止めなかった。そうしなければならないことを理解していた。
思い出したように下山が首輪探知機をチェックする。4つの赤いランプの周囲には何もな
い。静かな夜を迎えられるはずだった。
その物音に気づくまでは。

【残り・23人】
347「155・死の島 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/16(月) 17:17:23 ID:vsP5jpwM0
「禁止エリアだ!」
ネッピーは日高から託された地図を見て思わず呟いていた。
自分と菊地原は海辺の櫓のそばにいる。その櫓のあるエリアが午前6時に禁止エリアに入る。
自分はいい。首輪などないのだから。だが菊地原がいる。
「移動しなきゃ」
けれど日高と田中、リプシーには櫓のそばにいると言い渡してある。
(少しだけ、移動。それで大丈夫だろうか)
さっきからリプシーとの通信機の調子が悪い。海水に浸かったせいだろうか。大島コーチ
は防水機能もあると言ってはいたが、それは水をかぶる程度のもので、しっかり浸かって
しまったら意味のないものだったのだろうか。
(明日になってから太陽に照らして干そう)
それで精密機器が元通りになってくれるとは思わないが、何もしないよりはマシだ。
実際時折リプシーとの通信を試すと、雑音の向こうから返事が聞こえることもあるのだ。
時と場合によりけりなのだろう。妨害電波が出ているのかもしれない。
改めて通信機に手をかける。リプシーへのスイッチを入れる。
「リプシー、聞こえるかい?リプシー?」
聞こえるのは雑音のみ。今はハズレのタイミングらしい。
(もう少しここで頑張って、残り2時間を切ったら近場に移動してみるか)
通信機から手を離す。そして地面に横たわっている菊地原を見た。
熱中症の症状が消えない。何度も何度も水に浸したタオルを変えている。あとはどこかで
塩分を補給したいのだが。
菊地原の命を締めつける首輪が、妙に生々しく光って見えた。
(僕に何が出来るんだろう……)
悔しさに唇を噛み締める。
(リプシーは選手たちを助ける為に走り回ってるってのに)
ネッピーは最早意識の無い菊地原を抱えて、日高たちの帰りを待っている。そしてリプシ
ーに誘導された選手を待っている。
(他に何か、今の僕に出来ることは……?)
何ひとつない。
348「155・死の島 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/16(月) 17:18:21 ID:vsP5jpwM0
(菊地原さんの命を救い上げることすら出来ない!)
絶望的な感情がネッピーを追いつめようとする。
(オーナーは……オーナーは何を考えてるんだ!!)
怒りのあまり、地面に拳を叩きつけた。
まだここに辿り着く選手はひとりもいない。リプシーは選手の誰かに会ったのだろうか。
少なくとも誰かに道を教えているのだろうか。
(死の島……細菌に蝕まれた島……)
そんな島に選手たちが放り込まれている。大丈夫なのだろうか。体に変調をきたしたりし
てはいないだろうか。気象現象、海流、気まぐれな自然の風が普段と違う方角から吹いた
時、この島は死に覆われた。
もしまたその風が吹いたとしたら。
(まだ細菌は残っているんだろうか)
選手たちの命は。
(オーナーはそのことを知っているんだろうか)
恐らく知っている。だからこそ、この島を舞台に選んだのだ。オリックスグループの息の
かかったこの島を。
(リプシー、急いでくれ。頑張ってくれ!)
祈るようにネッピーは瞳を閉じた。
(僕、知ってるんだ)
小さな呟き。
(リプシー、キミの大好きなゴッツ様を一刻も早く助けてあげるんだよ)
静寂の島に、静かな風が吹いた。

【残り・23人】
349 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/16(月) 17:26:38 ID:vsP5jpwM0
今回は以上です。

1点、時系列でのミスを見つけました。申し訳ありません。
オーナー側が清原の生死未確認であるにも関わらず、
日高が清原の死を自覚している描写が過去にありました。
保管庫さんにはたびたびお手数をおかけして申し訳ありませんが、
訂正を後日お送りしますのでよろしくお願い致します。
(上記の理由から、153章での放送生存人数と、実際の生存人数の食い違いがあります)
350代打名無し@実況は実況板で:2007/07/16(月) 18:10:51 ID:ij2ZsNfWO
>>349
乙です!
変更点了解です。
変更分届き次第訂正しますね
351代打名無し@実況は実況板で:2007/07/16(月) 20:19:56 ID:vqWtyHcQO
>>349
乙です!いつもありがとうございます
352代打名無し@実況は実況板で:2007/07/16(月) 23:03:49 ID:cqYyixlS0
新作乙です!風邪は完治されましたか?


「後藤だから仕方ない」には笑ったけど
やっぱり高木が辛いな……
353代打名無し@実況は実況板で:2007/07/17(火) 01:36:43 ID:/fbjs/ti0
職人様、保管庫様ともに乙です

ユウキと高木に泣いた・・・
みんながんがれ(つД`)
354代打名無し@実況は実況板で:2007/07/17(火) 21:54:10 ID:IBANI8aM0
新作乙です。
何気に白旗組に怪しい影が迫ってるな・・・
355代打名無し@実況は実況板で:2007/07/18(水) 00:42:39 ID:tiVLHDQsO
乙です。
菊地原が心配だ…
356代打名無し@実況は実況板で:2007/07/18(水) 23:21:40 ID:8LnYbaJU0
つ☆
357代打名無し@実況は実況板で:2007/07/19(木) 17:48:35 ID:QsKKvadV0
保守
358代打名無し@実況は実況板で:2007/07/20(金) 09:14:11 ID:KWUnyL8AO
ネプリプゴッツの三角関係!?wktk
359代打名無し@実況は実況板で:2007/07/20(金) 16:13:29 ID:GRG+fcOE0
ほっ
360代打名無し@実況は実況板で:2007/07/20(金) 17:50:09 ID:0y0jfWXf0
あるかも流血球宴!?オリックス・ローズ、まだ怒ってます!
ttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070720-00000023-sanspo-spo

ローズよ、さっさとママのところに帰れよ。
動画を見る限りは、里崎が言ったことが100%正しい。
あんな球でビクビクしているんだったら、
野球をやる資格は無い。
361代打名無し@実況は実況板で:2007/07/20(金) 18:08:54 ID:s2EcmCQCO
黒豚ファックユー
362代打名無し@実況は実況板で:2007/07/20(金) 18:55:28 ID:mhbpfmfqO
http://c-au4.2ch.net/test/-/kyozin/1165979961/i
オリックスバファローズ私設応援団

皆さんたにぐちくん、たろうくん、天体観察の金髪の子の詳細教えてください(^O^)/
363代打名無し@実況は実況板で:2007/07/20(金) 19:04:50 ID:wHQt6MNPO
ローズが知的生命体かすら怪しい
364ハーバー紳助くん:2007/07/20(金) 19:42:14 ID:ApofbJdH0
昨日(きのう)のフレッシュオールスターにオープン戦でゴンザレスから本塁打を打った。
背番号52番の坂口智隆選手が出ていた。来期、来シーズンには1軍で仕事してみたい。
坂口智隆選手は推理作家の横溝正史(よこみぞせいし)の生誕100年、誕生100年
の年の2002年近鉄バファローズに入団している。
365ハーバー紳助くん:2007/07/20(金) 19:47:55 ID:ApofbJdH0
来週、1週間後、オリックスバファローズは横溝正史が誕生した。神戸市中央区川崎町より西にある。
神戸市須磨区のスカイマークスタジアムで東北楽天ゴールデンイーグルスと7月27日〜29日に天下分け目の神戸市須磨区での決戦がある。
366代打名無し@実況は実況板で:2007/07/20(金) 20:08:40 ID:wHQt6MNPO
熱中症かw 妄想癖か病院いけ
367代打名無し@実況は実況板で:2007/07/20(金) 22:34:24 ID:lufhsEk80
なんで横溝正史なのかそっちのほうが気になってしょうがない。
まあ普通に保守。
368代打名無し@実況は実況板で:2007/07/21(土) 02:12:58 ID:vFXaa5EpO
>>367さん
>>364 >>365 を見て思い出しました。
あの頃どこかに貼られていた記事です。

http://bwwest.s26.xrea.com/pickup/camp.html

神戸のお生れだったとは。
369代打名無し@実況は実況板で:2007/07/21(土) 10:25:11 ID:7Q+2GErrO
基地害の妄想ブログか?
370代打名無し@実況は実況板で:2007/07/22(日) 12:53:24 ID:DNQg9DGh0
保守
371代打名無し@実況は実況板で:2007/07/22(日) 21:33:18 ID:Gvy/y/2i0
後藤がどうなってるか心配な俺が

保守!
372代打名無し@実況は実況板で:2007/07/23(月) 18:21:25 ID:dxjktB2FO
373代打名無し@実況は実況板で:2007/07/24(火) 16:03:58 ID:A5m3G8x60
ほっしゅ
374代打名無し@実況は実況板で:2007/07/25(水) 22:09:48 ID:VMhgZEVF0
阿部ちゃん&川越さん応援保守ッス!
375代打名無し@実況は実況板で:2007/07/26(木) 19:40:10 ID:56qqgPe9O
376代打名無し@実況は実況板で:2007/07/28(土) 01:31:15 ID:Pfi4aUk1O
☆☆
377名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:29:31 ID:jUGbFKAEO
保守っス!
378代打名無し@実況は実況板で:2007/07/29(日) 21:43:24 ID:LBWBsZEw0
ほしゆ
379「156・聞こえる音 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/30(月) 00:10:27 ID:cNgw9b6e0
「ねえ、日高さん」
さっきからずっと田中が話しかけてくる。
「日高さんもそう思いませんか?」
穏やかな表情の中にも不気味な何かをたたえて、どこか楽しげな口調で田中は話し続ける。
日高はそんな田中を不気味に思いつつ、適当な返事をしていた。足取りが自然と早くなる。
田中もそれについてくる。田中に背中を向けること自体に不安を感じもしたが、今は一刻
も早くオーナーの指令をクリアして、元いた場所に戻りたかった。
ここに2つの問題があった。
ひとつはオーナーからの指令の意味。清原に会えという指示。この殺し合いに参加する意
志を明らかに示した選手に会えという。もし出会えたとしても、自分がどんな目に遭うの
かという不安がある。会った後に何をすればいいのかもわからないままなのだ。
もうひとつは、待ってくれている人々への不安。この指令をクリアして元いた場所に戻れ
ば、ネッピーと、意識を失った菊地原が待っているはずだ。だが先ほどの放送で、彼らの
いる場所が禁止エリアに指定された。菊地原は首輪をつけている。当然移動するだろう。
何処に?
海辺の櫓の近く。そこが彼らの待ち合わせ場所だった。だが待機している2人が移動してし
まっては、落ち会うにも不安がある。会えるかどうかわからない。
(オーナーはそれも考えた上で、次の禁止エリアを指定したんだろうか)
日高の悩みは尽きない。
(ネッピー、頼む。菊さんを無事な場所に運んでくれ。近場だったらなんとかなる。絶対
戻ってくる。必ず戻るから、それまで菊さんを頼む)
心の中で自分を励ますように、自分に信じ込ませるように何度も繰り返した。
「日高さんだったらそんな時どうします?」
田中の一方的な会話が続いていたらしい。
「ねえ、どうします?参考の為に教えて下さい」
「すまん、聞いてなかった」
「やっぱりなー」
笑いを含んだ口調で田中が答えた。また少し日高の歩幅が広くなる。
380「156・聞こえる音 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/30(月) 00:11:19 ID:cNgw9b6e0
「だからね、もし誰かから決闘を申し込まれたとします」
「ああ」
投げやりな返事。清々しい質問ではないようだ。
「しかも自分は武器を何ひとつ持っていないとします」
「ああ」
随分不利な設定だ。
「プロレスのリングよりも少し広いくらいの部屋に閉じ込められて決闘。日高さん、勝つ
自信あります?」
妙に具体的な提案だ。
「……相手にもよるだろ」
「相手はですねえ、ガタイのいい力自慢。ホームランをバンバン飛ばしちゃうようなパワ
ーヒッターです」
日高の背筋に寒気が走る。具体的な質問が、ひとりの人物を導き出した。
清原。
ブルリとまた背中が震えた。
「そんな相手と閉じ込められた空間で決闘。どうですか?」
閉じ込められた空間とは、この島のことか?
それとも、田中自身がそんな経験をしたのだろうか。閉鎖空間で誰かと決闘を?
「………そういう状況になってみないとわかんねえな」
「備えあれば憂いなしって言うじゃないですか」
「想像つかないよ」
「それじゃヤバイですよ。咄嗟にでも戦える準備をしておかないと」
「………清原さんに会うからか?」
カマをかけてみた。
「………さあ。でも念の為、心の準備をしておくに越したことはないでしょう?」
「お前は出来てるのか?」
田中は日高に追いついて横に並ぶと、わざと下から顔を覗き込むような仕草をした。
「………さあ?」
とぼけたような笑いが日高の癇に障った。日高はまた歩く速度を上げた。
381「156・聞こえる音 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/30(月) 00:12:10 ID:cNgw9b6e0
「あ、待って下さいよ」
「誰が待つか。急ぐんだ」
「これじゃ軽く走った方がマシですよ。日高さん、競歩得意なんですか?こんな暗い道な
のになんでそんなにサクサク歩けるんですか」
恐らくオーナーが想定していた以上のスピードで2人は移動していた。2人は精神的な追い
かけっこをしているようなものだった。田中が追い、日高がそれから逃げた。
(不気味な田中と一緒にいる方がマシか、キヨさんと合流した方がマシか)
また少しスピードアップする。
「日高さん、もうランニングにしません?」
田中が小走りになる。つられて日高も小走りになった。
地図を片手に、懐中電灯を片手に、闇夜のランニング。
(畜生、やっぱ田中の奴、変だ。俺のこういう勘は当たるんだ。なんか変だ)
多分。
(田中は、この殺し合いに乗るつもりでいるんだ)
それか、もうすでに乗っているか。
何かしらの極限状況を経験した人間は、性格や人相、雰囲気がガラッと変わるという。普
段サーパスにいることの方が多い田中とはあまり接点がない。雰囲気を把握出来るほど長
い時間を一緒に過ごしたこともない。
だが、今の田中の醸しだす雰囲気は明らかに普通ではなかった。
(注意しろ)
日高の勘がそう告げていた。
「あれ?」
ふいに田中が妙な声を上げた。
「日高さん、音聞こえません?」
「音?」
「ええ」
言われて耳をすました。サクサクと自分達が地面を踏み蹴る音しか聞こえない。
「音、聞こえるんです。排気音みたいな」
382「156・聞こえる音 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/30(月) 00:13:24 ID:cNgw9b6e0
「排気音?」
「何だろう……車とかバイクの……改造マフラーが立てるような音です」
少しだけスピードを落す。足音を立てないようにした。ようやく日高の耳にも何かの音が
聞こえてきた。今の時点では、日高よりも田中の方が耳は利くようだ。
「誰かが見つけてふかしてんのか?」
「行ってみます?」
日高は地図を広げた。オーナーの指示する方向をチェックする。目的地点と現在いるであ
ろう場所。その線上に音はあった。まだまだ遠くの小さい音ではあったが。
「車だったら、手に入ったらラッキーですよね。動きやすくなるし」
「……だな。移動も楽になるし」
ただ、その車の持ち主が誰なのかが問題だ。
日高は鞄をかけ直した。ペットボトルを取り出し、口を湿らせる程度に飲んだ。深呼吸を2
回。そろそろ本当に肝を据えなければいけないようだ。
このまま目的地に向かって歩くということは、車に近づくということだ。そして、誰かに
会うということだ。
まずは、歩かなければ。
地図を見て、何故かふとさっきの会話を思い出した。
田中の話に出た、ガタイのいいパワーヒッター。閉鎖された空間での話。
地図の裏側にある選手一覧を見る。自分が線で消した選手の名を見た。
中村紀洋。
ガタイがよく、ホームランをバンバン飛ばすパワーヒッター。条件に合う。
(まさか………ノリさんと戦って………田中が勝った?そんなバカな)
信じられないようなドンデン返しが起こる場所。それがここだ。
(……………やっぱり田中には要注意だ)
目的地へ向けて、2人は歩き出した。

【残り・23人】
383「157・友の屍を越えてゆけ 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/30(月) 00:15:25 ID:cNgw9b6e0
1人、また1人と選手たちが消えてゆく。
最初はオーナーの手違いで小屋が爆発し、一緒にいた菊地原が消えた。
まだ名前は呼ばれていないから、命の火は残っているのだろう。
一緒に行動していたはずの大久保が消えた。少しして放送で大久保の名前が呼ばれた。
萩原と大西が所用を足している間に何かがあったのだろう。
入れ替わりに現れた香月がやはり何かを知っていたのかもしれない。追求することも出来
たが、それは萩原の役割ではない。香月のことは残してきた大西に任せておけばいい。
萩原の役割はこのゲームを波立たせること。これに関しては全く役に立っていない。そも
そもやる気が無いのだから仕方が無い。
現在、最優先の使命は清原に会うこと。これに関してはなんとか出来るかもしれない。他
のやる気の選手にさえ出会わなければ。
(ダーツなら得意なんだけどな)
あとはゲームセンターの射撃ゲームくらいだ。とても実戦に使えるとは思わない。
『お前はルックスはワイルドなくせに、性格はナイーブだからな』
優しすぎる性格を考え、勧められるまま強面に見えるように髭を生やした。けれど外見を
変えただけでは性格までは変わらなかったようだ。
だが、今この場所で行き抜くには鬼になるしかない。
(…………無理だろ、俺1人じゃ)
早い諦め。地図を広げ、赤いマジックで記されたポイントを見る。そしてすぐそばに生え
ている繁みの枝を確認した。懐中電灯の灯りに照らされた繁みの奥に隠れるようにして赤
いハンカチが結ばれていた。突き刺さるような細い枝と棘に耐えながら、奥に手を突っ込
む。手ごたえを感じ、それを一気に引き出した。迷彩色でやや小型のバックだった。
(痛え……隠すにしたってもう少しこっちの身にもなって欲しいな)
鞄を開く。水、パン、小刀。ピアノ線。ロープ。そして、次の武器補給場所を示す地図。
(オリエンテーリングかよ。この鞄はハズレか?)
一応ここに来る前に、日本刀の使い方は教わった。鞄の中には組み立てればやや長めに
なる小刀が納められている。腰には銃が差してある。装備としては他の選手たちに比べた
らまだ有利なはずだ。
384「157・友の屍を越えてゆけ 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/30(月) 00:16:53 ID:cNgw9b6e0
(…………そう簡単にオーナーの犬にはならない)
新たな武器を得て、心の奥底に隠れていた反骨精神が頭をもたげる。
(俺にだって、プライドはあるんだ)
自分が生き残りたいのは当然だ。偶然の連れとなった子猫を神戸に連れて行ってやりたい。
けれど、何かしらオーナーに一泡吹かせたいのも事実。それには何が出来るだろうか。
犬になりきれない犬。
(それでもいいさ)
出来ることは限られている。その中で出来ることを考える。
(俺の持っているアイテムを、信じられる奴らに託す。そいつらと一緒にうまくやれれば)
腕の中で眠っている子猫を見る。すっかり萩原を信じきって、その小さな体の重みを託し
てくれている。今はどんな人間よりも、この子猫一匹の未来の方が大切に思える。
(………一泡吹かせる為に)
小さな企みを持って、萩原は歩いている。
(俺は裏切り者なんかじゃない)
自分に嘘をつくことは出来ない。
(戦って生き残れるような強い意志を持った奴に会えたら………信頼出来る………)
それには負けず嫌いで、物事を割り切ることが出来て、それなりの体力と意志を持った者
が必要だ。
体力は誰でもある。スポーツマンなのだから当然だ。瞬発力。筋肉。少々線の細い者には
厳しいかもしれない。
負けず嫌い。これも勝負事の世界に生きるのだから心配はない。その中でも屈指の負け
ず嫌いを強いてあげるならピッチャーだろう。
そして、萩原が信頼出来る者。
脳裏に浮かんだ大先輩の吉井はもういない。精神的な強さを誇る菊地原もどういう状態な
のかわからない。
何よりも必要なのは、自分の為に犠牲になり倒れていく仲間を振り捨てる勇気だ。
涙を飲んで、仲間の屍を越えて走り続ける強い意志だ。
友を悼んで泣きながら地面に倒れ臥すのではなく、悲しみを怒りに変えて、憤りを持って
敵に向かって突き進む力だ。
385「157・友の屍を越えてゆけ 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/30(月) 00:21:54 ID:cNgw9b6e0
それに相応しいのは誰か。
試合を支えるエース。
(…………川越)
いつもにこやかなお人よしだが、勝負事になると表情も一変し目の色が変わる。エースと
しての闘争心を兼ね備えた人物。同級生ゆえに萩原ともいろいろな会話を交わし、深い部
分も知っている。
(あいつになら……託せるか?)
川越が仲間の死体を踏み台にして駆け上がる意志を持てるなら。
いくつかの条件を兼ね備えている平野佳寿も思い浮かんだが、まだ若すぎる。彼に託すの
は様々な意味で危険を孕むだろうと萩原は判断した。
友を思いつつ、踏み越えること。それが若い平野には出来ないだろう。踏み越えることは
出来ても、その託された思いをその身に抱えることは。川越ならきっとそれが出来る。
(俺の話を受け入れてくれるだろうか)
自分がオーナーの犬としてここにいることも。それらと戦いながら、子猫を神戸に連れて
行きたいことも。
さっきからどこかで車のマフラー音のようなものが聞こえていた。
(車……『Cafe Bs』か?)
相川と外人勢が中立地点に待機し、車を持っていることは知っている。どうやらその辺か
ら音は聞こえてきているらしい。それとも他の選手が民家で車を見つけたのだろうか。
(車……あったら便利だけど、俺、しばらく運転してねえからな)
萩原は球場に行く時は、いつも誰かの助手席に乗せてもらっていた。一応免許は持ってい
る。けれど何故か自分では運転しなかった。
(それに、車よりもバイクの方が小回りは利くだろうしな。山道はともかく、森の中は車
じゃ恐いぞ)
思考することを拒否していた脳が、少しずつだが様々な方法を考え始める。
オーナーの放ったカードが、本当の意味でようやくジョーカーになりつつあった。
(なあ、お前なら、そんな意味で俺が野たれ死んだって、ちゃんと認めてくれるよな?)
優しく頭を撫でてやった子猫は、今も穏やかに眠っている。

【残り・23人】
386 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/07/30(月) 00:22:50 ID:cNgw9b6e0
今回は以上です。
風邪ひいたり、規制かかったりで遅くなってすみません。
387代打名無し@実況は実況板で:2007/07/30(月) 00:51:48 ID:pnMRAFeEO
待ってましたぁ!乙です!

田中こぇぇ…
388代打名無し@実況は実況板で:2007/07/30(月) 00:55:17 ID:y8WP7+k+0
いえいえ、毎度投下乙ですよ。
不穏な空気だなあ・・・みんなガン( ゚д゚)ガレ
389代打名無し@実況は実況板で:2007/07/30(月) 01:25:16 ID:4scmUOMe0
投稿乙です。
毎回わくわくしながら読んでます。
今回も一波乱ありそうな予感・・・
390代打名無し@実況は実況板で:2007/07/30(月) 01:38:48 ID:O1AaGkH00
乙です
あーなんかわくわくしてきた
391代打名無し@実況は実況板で:2007/07/30(月) 21:09:49 ID:55XF3kzu0
乙です〜☆

今の川越はおまえの知ってる川越じゃないよハギー……(汗)
392代打名無し@実況は実況板で:2007/07/31(火) 07:44:16 ID:5gRjwvoLO
ほしゅ

田中こわいよ田中
393代打名無し@実況は実況板で:2007/08/01(水) 07:09:23 ID:9mdkZ6Xm0
乙ホシュ
394代打名無し@実況は実況板で:2007/08/01(水) 13:29:54 ID:uK3df7V60
投下キテター!!おつです!

>けれど何故か自分では運転しなかった。
ハギーのこういう話読んでるとハギーのいた頃を思い出して
余計悲しくなるよorz
免停になってて前田とかを足にしてたよなあ…
395代打名無し@実況は実況板で:2007/08/02(木) 23:56:20 ID:1ppSb5ZXO
ハギー免停だったのか。
俺が見に行くと、だいたい歌藤の車乗ってたなあ…
歌藤と大加藤と猿応援保守。
396代打名無し@実況は実況板で:2007/08/03(金) 00:39:53 ID:KXrOa/vL0
がんばれ、川越保守
397代打名無し@実況は実況板で:2007/08/03(金) 21:14:41 ID:oz0t6ml+0
hosyu
398代打名無し@実況は実況板で:2007/08/04(土) 03:19:23 ID:qF4rLPgn0
 
399代打名無し@実況は実況板で:2007/08/04(土) 13:16:39 ID:uIEoaHA60
個人的には大引が見たかったなあ。
‘06年設定だけど。
400代打名無し@実況は実況板で:2007/08/04(土) 14:52:19 ID:cGQjI3MfO
萩原頑張れ!保守。
401代打名無し@実況は実況板で:2007/08/04(土) 17:21:20 ID:FxUtxEUj0
>>399
ビッキーか……
ネタスレ的なイメージでは腹黒ステルスといった感じだな
ここで言えば田中辺りの
402代打名無し@実況は実況板で:2007/08/05(日) 21:43:47 ID:T1zMaQq50
ほしゅ
403代打名無し@実況は実況板で:2007/08/05(日) 22:33:32 ID:1IqcrdXA0
明日は☆保守
404代打名無し@自治スレにて板分割動議中:2007/08/06(月) 09:17:14 ID:lnDtkRYCO
405代打名無し@自治スレにて板分割動議中:2007/08/07(火) 09:17:47 ID:ADttWf1I0
保守
406代打名無し@自治スレにて板分割動議中:2007/08/07(火) 23:38:23 ID:Xcn9evY80
補習
407代打名無し@自治スレにて板分割動議中:2007/08/08(水) 13:41:05 ID:VSp+K/1IO
ほす
408代打名無し@自治スレにて板分割動議中:2007/08/09(木) 02:39:24 ID:osc+cVgR0
409代打名無し@自治スレにて板分割動議中:2007/08/10(金) 00:42:39 ID:jPl1RXrq0
補習
410代打名無し@自治スレにて板分割動議中:2007/08/11(土) 01:20:01 ID:suWO5cjJ0
川越ガンガレほしゅ☆
411代打名無し@自治スレにて板分割動議中:2007/08/12(日) 00:10:56 ID:T7rCgQdN0
鷹のを泣きながら読んだけどオリもあったのか!
◆UKNMK1fJ2Y氏乙です。
はじめから一気読みしました。俺だけの岸田/(^o^)\
ドキドキしながら続き待ちます。
412代打名無し@自治スレにて板分割動議中:2007/08/12(日) 13:05:44 ID:2W1swJWW0
今日も☆保守
413代打名無し@自治スレにて板分割動議中:2007/08/13(月) 13:47:48 ID:2+y/Ap3IO
暑い・・・
414代打名無し@実況は実況板で:2007/08/13(月) 23:49:33 ID:ZC5hJMot0
お盆休みなので保守!
415代打名無し@実況は実況板で:2007/08/14(火) 12:04:32 ID:LtEPcnmqO
今日も暑いな保守
416代打名無し@実況は実況板で:2007/08/14(火) 20:35:36 ID:skg6vEOI0
ほす
417代打名無し@実況は実況板で:2007/08/14(火) 22:13:53 ID:EJWqckDV0
明日は☆保守
418無駄に声デカ高坂( ゚∀゚):2007/08/15(水) 00:25:39 ID:ct6Qumr/0
マジカイ!!! 豪快やんけ! ( ゚∀゚) アハハハハノヽノヽノ \ / \ / \  

メスゴリラ末松! 氏ね!  
419代打名無し@実況は実況板で:2007/08/15(水) 23:36:25 ID:Ph1W/+l60
420代打名無し@実況は実況板で:2007/08/16(木) 08:27:13 ID:qQytimt7O
421代打名無し@実況は実況板で:2007/08/16(木) 22:55:25 ID:jlb/wZRw0
hosyu
422代打名無し@実況は実況板で:2007/08/17(金) 08:24:02 ID:1gBSqRh30
本スレじゃないんだね(・∀・)ノ
423代打名無し@実況は実況板で:2007/08/17(金) 10:54:02 ID:D7JwNcTd0
川越今日は☆保守
424代打名無し@実況は実況板で:2007/08/17(金) 21:59:52 ID:RWINpRwR0
連敗した 捕手
425代打名無し@実況は実況板で:2007/08/19(日) 02:26:05 ID:QbR1TXoHO
連敗止めたね!
☆オメ! 3ラン捕手
426代打名無し@実況は実況板で:2007/08/19(日) 22:02:49 ID:wMl33hh80
明日は☆保守
427代打名無し@実況は実況板で:2007/08/19(日) 23:06:33 ID:LiPWgKgIO
明日は月曜日だよ〜
428代打名無し@実況は実況板で:2007/08/21(火) 00:19:12 ID:hxSkqndL0
保守!
429代打名無し@実況は実況板で:2007/08/21(火) 22:04:36 ID:RcCQo9BK0
明日こそ☆保守
430「158・闇の重さ 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/08/21(火) 23:55:47 ID:OBNVjMaz0
ユウキがその場を走り去ってから、平野恵一はずっとその場所に留まっていた。
もう戻ってくる、もうすぐ戻ってくるはずだ、そう信じて自分に言い聞かせ続けた。
しかし、あれから10分たった今もユウキは戻って来ない。
探しに行こうか。
だがこの闇の中、探しに歩いた方が出会える確率は低くなるに違いない。
ならばここで待っていた方が得策だ。平野はそう考えた。
その場を動かない理由はもうひとつあった。
体が悲鳴を上げていた。
まだ大怪我から癒えていない体。そんな体で歩き続けたことが、余計な負担となって平野
を苛んでいた。
(だるい……疲れとは違う……なんだ?このだるさ……)
試合後のような疲労感とは違う。また、怪我の負担による疲弊感とも違う。
例えるなら、風邪をひいた時のようなだるさ。
何かのウィルスに蝕まれた時のような倦怠感。
(ユウキ……戻って来いよ……一緒に研究所に行くんだろ?)
自分を包み込もうとする闇の重さに耐えながら、平野は自分の体を支えていた。
時間はもう深夜。少なくとも眠る時間が欲しい。それには野外ではなく、屋根と壁のある
場所を探したい。どちらにしてもまた歩かなければならない。それには1人より2人がいい
に決まっている。
自分をかばってくれた先輩、谷を失った。助けられなかった。
その罪悪感が、走り去ったユウキの背中と重なる。
431「158・闇の重さ 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/08/21(火) 23:56:22 ID:OBNVjMaz0
(ユウキ、これでお前に何かあったら、俺はまた人殺しだ!また仲間を見殺しにしたこと
になる!頼むから戻ってきてくれ!)
平野の持つラッキーカード、その意味もわからないまま研究所へ行かなければならない。
リプシーとも約束したのだ。
(あと10分、あと10分だけ待つからな!)
平野は木に寄りかかるようにして、その場にしゃがみこんだ。全身を覆う気だるさが耐え
難かった。
(やっぱり風邪ひいたかな)
額に手を当てる。特に熱はないようだ。
ただ、謎のだるさが精神的にも肉体的にも平野を戸惑わせていた。

【残り・23人】
432「159・いのり 〜 敬愛の罪 1/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/08/21(火) 23:58:32 ID:OBNVjMaz0
「お前は残るか?一緒に行くか?」
水口が尋ねると、塩崎は逆に不思議そうな表情を浮かべて問い返した。
「水さんはどうして行くんですか。こんな夜中に外に出る方が危ないです。正直、右も左
もわからないじゃないですか。なのに『Cafe Bs』なんて場所もハッキリわからないような
場所に行くなんて危険すぎます」
「俺は、阿部と約束したんだ」
引き留めようとする塩崎に、水口はあくまで優しい口調で続けた。
「阿部と約束したんだよ。そこで落ち合うって。俺がそこへ行けって指示を出したんだ。
だから、俺が行かないと約束を破ることになる。あそこは特殊なルールがある場所だから
……まさかとは思うけど、俺も行って説明した方がいいかもしれないし」
「じゃあ陽が昇ってから行けばいいです。とにかく真っ暗な中行くのは危険です!」
「時間がないんだ」
どこか焦っているような塩崎の口調とは釣りあわない穏やかさで、水口は鞄の中を片手で
整理し始める。傷ついているほうの腕は出来るだけ休ませたかった。
「あの店には1日1時間しかいられない。だから阿部が追い出される前に会わなきゃいけな
いんだ。阿部と合流したらすぐここに戻ってくる。それまで待っててくれ」
「そんな……だから危険すぎるって言ってるでしょう!」
聞き分けのない子供を諭すように塩崎が食い下がる。
「水さん、考え直して下さい。朝になって明るくなったらみんなで阿部を迎えに行きまし
ょう。そうすれば」
「それまで阿部が安全かどうかはわからないだろ?」
「だからって、俺らもみすみす水さんをこんな夜に外に出すことなんて出来ませんよ!」
言い終わった後、少しの間塩崎は水口から視線を逸らして口を閉ざした。けれど再び水口
を見ると、さっきまでとは違った、自信の無さげな口調で続けた。
433「159・いのり 〜 敬愛の罪 2/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/08/21(火) 23:59:29 ID:OBNVjMaz0
「………わかってます。俺、恐いんですよ。折角会った仲間と離れることが恐いし、自分
と一緒にいてくれる人が減るのも恐い。敵に遭うことも恐い。トラップも恐い。全部恐い
んですよ。俺、臆病なんですよ。全部わかってます。だから、俺は水さんに行って欲しく
ないんです。阿部のことを考える以前に…………俺、卑怯なんです。わかってます。こん
なご大層な武器持ってて、それを持つことすら恐いんです。自分でもどうすればいいかわ
からないんです。だから厄介なんです。俺自身、自分で自分を持て余してる」
言いながら鞄の中に入ったチェーンソーを見せる。それは塩崎の迷いを表すように、薄暗
い室内で鈍く光った。
「それは、お前に理由が無いからだよ」
水口は鞄からパンを取り出すと、ムシャムシャと食べ始めた。少し喉に詰まったのか、急
いでペットボトルの水を飲む。何回か深呼吸をし、再び塩崎を見た。
「俺は阿部と会わなきゃいけない理由がある。でもお前にはこの真夜中に危険な外に出る
理由が無い。俺は約束をした。お前はしていない。ただそれだけの違いさ」
水口はパンを半分に割ると、片方を鞄にしまい、もう片方を口に放り込んだ。
「だから塩崎、お前が気にすることないんだ。なあガブ、お前だってここに残るだろ?」
その時改めて、塩崎はそこに本柳がいたことを思い出した。それくらい、本柳は自分の存
在を消していた。ただ黙ってじっとしていただけなのに、心ここにあらずの状態で何かを
考え続けていたようだった。
ずっと伏せていた顔を上げ、真っ直ぐな目で本柳は水口を見た。
「俺は残ります。1人になっても」
その口調は予想外にしっかりしていた。
「ここに必ず戻って来るって、川越さん、約束しました」
たった1人で暗闇の中、そのトラップの渦中へと飛び出して行った川越。そして先程の放送
で川越の名前は呼ばれなかった。つまり、川越は生き残った。無事グループを成立させ、
この島のどこか遠くはない場所で他の仲間と共にいるはずなのだ。
434「159・いのり 〜 敬愛の罪 3/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/08/22(水) 00:00:37 ID:Fi0kv4W00
『大丈夫、選手会長、頑張って来ます!またあとで!』
笑顔でそう言ったのだ。「またあとで!」と再会を約束して。
だから本柳は待つ。それが川越の言葉だから。本柳にとって、川越は尊敬する先輩であ
り、憧れの投手だから。
だが。
(俺は………川越さんに何をした………)
川越を1人にしてはならない。その理由は本柳が一番よく知っている。何が起こるかわから
ない恐怖。たったひとつのキーワード。本柳が与えたキーワードがどこかで暴走してしま
ったら………
MCM。
mind control murdererが不用意に目覚めてしまったら。
「…………っ!!」
突然本柳は小さく呻いて床に顔を伏した。それは誰かに向かって土下座をするような光景
だった。
「どうした?!どこか具合でも……」
驚いて水口が歩み寄る。本柳は自分の額を床に擦り付つけた。
「すみません!すみません!」
泣き声に近い声で本柳が叫ぶ。その肩は震えていた。
「ガブ、どうした?!」
突然の異様な光景に水口が肩に手を置こうとする。しかし本柳はその手から逃げた。
「俺、川越さんに酷いことをしました!」
叫びながらの告白だった。
「川越さんに人として………人として酷いことを………まるで川越さんを物か人形みたい
に扱って………自分のいいなりに……自分の思いのままに……!」
その言葉に、水口も塩崎も黙り込んだ。聞かなければいけない懺悔だと思ったからだった。
435「159・いのり 〜 敬愛の罪 4/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/08/22(水) 00:01:45 ID:OBNVjMaz0
「でも、そうしなきゃ川越さんが死ぬかもしれないから……川越さんが死ぬなんて絶対許
せない!川越さんは生きなきゃいけない!だから!だから俺は………!」
本柳の両手が自分の頭を抱え込む。必死に自分を守るように。いや、その手は今ここにい
ない川越を守ろうとしているのだろう。
「あんないい人が生き残らなきゃ嘘だ。世界が間違ってる証拠だ。だから俺は川越さんを
生き残らせたかった。俺も生き残りたかった。だから俺は………」
少しだけ、顔を上げる。
「………川越さんはいい人だから………仲間と戦うなんて出来ない人だから………優しい
から………だから………誰かが何かをして、川越さんを守らなきゃいけないから………手
を汚すのは………俺が………」
いつの間にか、その頬には涙が流れていた。
「絶対川越さんに気づかせちゃいけない。秘密を守って、川越さんを守って………でもそ
の逆で、俺が川越さんに守られてて、俺は生き残れたことを喜んで見てるだけで………罪
深い部分は川越さんに任せて………」
そして、キッと水口の顔を見た。涙に潤んだ目で。
「川越さんには何も言わないで下さい!自分で気づかなきゃ、罪は罪にならない!罪は全
部俺が背負います!だから、川越さんには何も言わないで下さい!!」
泣き叫びながら懇願した。
「気づかなければ……!気づかなければ……!川越さんは何も気づいちゃいけない!あ
のまんまで神戸に戻るんだ!俺も戻るんだ!でももし、川越さんが生き残る為に俺が死な
なきゃいけないなら………」
一瞬、本柳の目に力がこもる。
「俺は、喜んで死にます」
その眼力の鋭さに、思わず塩崎は身を引いていた。動物的な、野生を思わせる目だった。
その瞬間の本柳は、本能を全面に出して生きる動物のようだった。
436「159・いのり 〜 敬愛の罪 5/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/08/22(水) 00:02:55 ID:OBNVjMaz0
「矛盾してることは十分わかってます………でも、川越さんと一緒に生き残りたい。これ
が一番正直な気持ちです。だからもし、水さんや塩崎さんが川越さんの敵になるようなこ
とがあったら俺は………」
唇を噛み締める。
「俺は川越さんの味方です。例えそれが世間では間違ったことであったとしても」
小さく首を振った。
「この島にいる時点で、もう常識なんて通用しない。そう思ったから俺は………」
再び本柳の目から、涙が溢れ出した。純粋すぎて、真っ直ぐすぎる男なのだ。
「川越さん、こんなトラップの中でも生き残ってる。川越さん、かっこいいっス!」
ボロボロと涙をこぼし続ける。水口はようやくその肩に手を置くことが出来た。そして優
しく子供に話しかけるような口調で問いかけた。
「………ガブ、お前は川越に何をしたんだ?」
目を伏せ、本柳は唇を噛み締める。
「話してくれ。怒らないから」
本柳は首を小さく横に振った。
「ガブ、教えてくれ」
また首を横に振る。
「何があったって………俺は川越さんの味方です。川越さんが絶対思い出さないように、
俺が川越さんを守ります。思い出しちゃいけない………思い出せないくらいに………」
握った拳も、肩も、唇も、声も、本柳の全てが震えていた。
水口は外へ出て行くタイミングを失い、塩崎と顔を見合わせた。
仕方ない。今の本柳には何を言っても通じないのかもしれない。
けれど、少しでも心を落ち着かせることは出来るだろう。
打ちひしがれている者に、優しい言葉を。それは水口の優しさの表れだった。
川越と本柳の間に何があったのかはわからない。
けれど、無難な言葉で本柳を慰めることは出来よう。
437「159・いのり 〜 敬愛の罪 6/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/08/22(水) 00:03:55 ID:Fi0kv4W00
「……なあガブ」
本柳は何も答えない。
「こう考えてみないか?」
思いつくままの言葉を繋げる。
「川越は、ひょっとしたらお前の考えていることを全てわかっていて、お前のするがまま
になってたって」
弾かれたように本柳が視線を上げた。
その表情は驚愕に目を見開いていた。
本柳のあからさまな反応に動揺しつつも、水口は続けた。
「単なる想像だけど、川越は、全部わかってて、受け入れたってことはないか?」
本柳の表情が引き攣る。
「そう考えた方がお前には楽か?それとも苦しいか?それともお前だけが苦しくて、川越
が楽か?お前はどの道を進みたい?」
水口の言葉に、本柳は小さく微笑んだ。それは予想外の、弱々しい笑みだった。
「………どの道を選んでも………」
また涙が流れた。
「…………川越さんが思い出さなければ…………いいです…………」
また本柳が笑う。その笑みはどこか狂気を秘めていた。
「だから………俺が川越さんについていなきゃいけないんです。思い出さないように。絶
対思い出さないように。俺たちが生き残るように」
まるで全てをわかっていて自分から針を飲んだ魚のようだ。
水口はそう思った。

【残り・23人】
438 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/08/22(水) 00:04:46 ID:Fi0kv4W00
かなり間隔が開いてしまってすみません。
今回は以上です。
439代打名無し@実況は実況板で:2007/08/22(水) 00:08:03 ID:wxVBD3v50
投下ありがとうございます!
体調壊したんじゃないかと心配してました

本ヤン何かを決意したんだな
440代打名無し@実況は実況板で:2007/08/22(水) 01:48:20 ID:Tm2xSnr60
投下乙です。
気長に待ってますんで、無理なくどうぞー

平野もユウキも川越さんももとやんも阿部ちゃんも皆心配だ・・・
無事でいてくれえ
441代打名無し@実況は実況板で:2007/08/22(水) 01:49:49 ID:HKHHwasq0
投下乙です

ゴッツは無事なんだろうか
442代打名無し@実況は実況板で:2007/08/22(水) 10:08:23 ID:mEGA6PkD0
投下乙です。
職人さんスゴイっス!切ないっス!

本やん無茶すんな…
俺だって本やんと川越に生き残ってほしいよ…がんばれ
443代打名無し@実況は実況板で:2007/08/22(水) 11:23:53 ID:3UOjM/Y90
投下乙です。
本やん頑張れって素直に言えない・・・。
間違った方向には進まないでくれ。
444代打名無し@実況は実況板で:2007/08/22(水) 17:11:18 ID:iFJyIrLWO
すごくシリアスな場面なのに「カッコいいッス」でやっぱりワロタw
職人さん乙です!
445代打名無し@実況は実況板で:2007/08/23(木) 19:13:22 ID:Igdb58TB0
新作キテター
塩崎、てめえ23ロワ住民をあれだけ恐怖のどん底に陥れといてよく言うぜwww
平野も本やんもなんかヤバ気な雰囲気だな・・・
446代打名無し@実況は実況板で:2007/08/24(金) 22:58:46 ID:aowEXpyY0
逆転☆だよ保守
447代打名無し@実況は実況板で:2007/08/25(土) 01:22:41 ID:P1FA7uND0
しゅしゅ
448代打名無し@実況は実況板で:2007/08/25(土) 11:18:24 ID:ZBSj7wP30
川越今日こそ☆保守
449代打名無し@実況は実況板で:2007/08/26(日) 12:56:42 ID:AUq+++Hz0
450代打名無し@実況は実況板で:2007/08/27(月) 13:31:02 ID:iMdVxTXH0
続き楽しみ 保守!
451代打名無し@実況は実況板で:2007/08/27(月) 23:04:52 ID:Vj+maKIv0
関係ないけど明日
大沼でるよ☆保守
452代打名無し@実況は実況板で:2007/08/29(水) 00:43:13 ID:dh6fvGKQO
カトウズ応援保守
453代打名無し@実況は実況板で:2007/08/29(水) 20:27:42 ID:WRDCkk9Z0
平野……各所で不穏な展開になってきてるなあ……
454代打名無し@実況は実況板で:2007/08/29(水) 22:21:05 ID:YjvRBRku0
明日は☆保守
455代打名無し@実況は実況板で:2007/08/31(金) 00:45:49 ID:o4eL7N3BO
ほしゅっとな
456代打名無し@実況は実況板で:2007/08/31(金) 17:18:39 ID:eEQO2/uT0
捕手!
457代打名無し@実況は実況板で:2007/09/01(土) 01:01:55 ID:gkKlggJz0
勝ったよ☆
458代打名無し@実況は実況板で:2007/09/01(土) 18:01:00 ID:LIVws23B0
ほしゅ
459代打名無し@実況は実況板で:2007/09/02(日) 13:27:02 ID:/te/WV0AO
最下位脱出祈願!保守
460代打名無し@実況は実況板で:2007/09/02(日) 16:22:46 ID:2s9wN7nl0
川越頑張れ!保守
461代打名無し@実況は実況板で:2007/09/03(月) 09:56:17 ID:oXDLi3Mv0
川越残念保守…

せめてこのバトではいいことありますように
462代打名無し@実況は実況板で:2007/09/03(月) 16:00:44 ID:ycdiKwre0
hoshu
463代打名無し@実況は実況板で:2007/09/03(月) 21:20:43 ID:DWtXxmrw0
☆彡
464代打名無し@実況は実況板で:2007/09/03(月) 23:27:06 ID:pLN7K7yh0
めざせ5位!保守
465代打名無し@実況は実況板で:2007/09/04(火) 22:42:26 ID:iTxdOeEF0
最近調子いいよ☆保守
466代打名無し@実況は実況板で:2007/09/05(水) 00:25:42 ID:TtYzy2yC0
平野完封祈願ほしゅ
467代打名無し@実況は実況板で:2007/09/05(水) 10:36:51 ID:7h4Ujrzf0
            ___
           |_Bs_|_
           ( ̄θ ̄)
           (    )
            し─J
468代打名無し@実況は実況板で:2007/09/06(木) 02:16:04 ID:FQLYF2ZE0
保守
469代打名無し@実況は実況板で:2007/09/07(金) 00:26:17 ID:eyQV1lccO
wktkしながらほしゅ
470代打名無し@実況は実況板で:2007/09/07(金) 22:24:43 ID:HM3tXFta0
明日は勝つ!保守
471代打名無し@実況は実況板で:2007/09/08(土) 11:12:12 ID:U3NSZ1cn0
hosyu
472代打名無し@実況は実況板で:2007/09/08(土) 16:44:17 ID:3Y1Tu1WB0
明日こそ・・保守
473代打名無し@実況は実況板で:2007/09/09(日) 11:07:25 ID:n7nPwVUV0
川越頑張れ!保守
474「160・迷探偵・光原 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/09/09(日) 21:48:03 ID:dCCYsBMY0
冷静さを欠き、今はただ泣くことしか出来ない高木をなんとか床に横たわらせた。
最初、北川が部屋の隅へ導こうとすると、高木は微かに抵抗して今はもう微動だにしない
阿部健太の方へ近寄ろうとした。まだ現状を信じたくないらしい。信じられないのも当然
だろう。ひょっとしたら、もしかしたら……そんな思いで確認をしようとするかのように
健太へと手を伸ばす。けれどその行為は高木の受けた傷を余計に大きく、確実にするだけ
だった。だからそうならないように、下山、光原も手伝って高木の視界に健太が入らない
ようにした。
こんな精神状態では起きていても体力を消耗するだけだ。ならば出来るだけ体を休ませた
方がいい。穏やかな眠りは得られないかもしれないが、少なくとも何かを忘れたひととき
を得る可能性はある。疲れているならグッスリ眠った方がいい。今の高木にはそんな時間
が必要だ。光原が白旗組の象徴である旗を竿から外し、ただのタオルとなったその布を高
木にかけてやった。
グスグスと鼻を鳴らし、しゃくりあげていた肩が少しずつ穏やかになる。やがて静かな寝
息が聞こえ始めた。
「……やっぱり、疲れてたんだな。ペーさんも」
下山が呟く。高木と一緒に北川も横になって休息を取っている。今起きているのは下山と
光原だ。また順番に休息を取ろうということになった。
「疲れてるのと、現実を見たくないの。その両方なんだろうな」
独り言のように呟くと、光原が指先に出来たささくれをいじりながら小さくうなずいた。
「突然でしたからね………まさか、あんなことになるとは………」
「新しいトラップなのかな」
「どうでしょうね」
阿部健太の首輪から外れた黄色いカプセルは、今も高木が握ったままだ。それを受け取っ
て調べることも出来たが、今それを高木から奪ってはいけないような気がした。それは北
川も光原も同じ気持ちだったようだ。誰もカプセルのことを口にはしなかった。
「少しまとめよう」
先輩として、不安そうな後輩を支えなければいけない。下山は落ち着いた口調で続けた。
「見たところ、あのカプセルは全員の首輪についていると考えていいだろうな」
真剣な顔で光原がうなずく。
475「160・迷探偵・光原 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/09/09(日) 21:48:51 ID:dCCYsBMY0
「このカプセルが外れると、首輪が爆発する。健太の場合はそうだった。全員のカプセル
が外れるかどうかはわからない。試す勇気もないしな」
少し間を置いてから、二人して苦笑いをする。光原が続けた。
「このカプセルは選手によって色違いですよね。もしこれがオーナー側の仕掛けたトラッ
プなら、色に意味があってもおかしくないと思います。どうでしょう?」
「そう……だな。色によっては爆発しないとか、そういう単純なものかもしれないな」
「出発地点でもらった鞄で支給品が決まったみたいに、カプセルもランダムなのかもしれ
ませんね。何色あるのかな?」
今ここにいる5人の持つ色は3種類。赤、青、黄。基本的な3色だ。
「黒とか金とかあったりして」
「金だったら当たりとかな」
「金なら1枚、銀なら5枚」
「バカ」
下山が笑いながら光原を殴るフリをした。光原も大袈裟に頭を抱えて逃げる真似をした。
少しでもこの場の空気を軽くしたかった。日常と変わらない調子の会話をして、気分を紛
らわせたかった。だから二人とも、出来るだけ笑顔を作った。
だが、話題が浮かばない。
浮かぶ話題はこの島に関する数日間のことばかり。逃げようがなかった。
心までこの島に支配されている。オーナーに操られている。そんな気さえした。
「………ミツ」
「はい」
「俺さ、このゲームが始まってから、仲間の死体、いくつも見たよ」
「……はい」
「相川のいるカフェで、村松さんと、筧と、迎。それからここで、今。合計4人か。かなり
すごいよな。一気に4人もの人間の死ぬ姿を見たんだ。しかもチームメイトだぞ。吐いたよ。
俺。筧が死んで、迎が死んで、最後に村松さんの死体を見た瞬間。ムッとしたあの独特の
匂いっていうか、血の、生きてる血の、生温かい感じの、鉄みたいな、あの匂い。充満し
たんだ。小さなカフェの中。もうたまんなくなって……」
思い出したのか、小さくシャックリをするように肩を震わせる。
476「160・迷探偵・光原 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/09/09(日) 21:49:34 ID:dCCYsBMY0
「自分でも、よく今正気でいられるなって思うよ」
光原を見て笑った。
「俺、人としての感情が無くなりかけてるのかな」
「違いますよ!」
慌てて光原が否定する。下山は続けた。
「人としての感情が無くなったら俺、平気で誰かと戦って殺せるかな」
「シモさん!違います!」
必死になって光原が言い返す。
「シモさんは強いんです!きっと理性が強いんです!自分をしっかり持ってるんです!だ
から、どんな状況でも自分をしっかり持つことが出来るんです!そう考えましょう!俺な
んて、金子になにも出来なかった。見失って、ただ泣くことしか出来なかった。今だって
………ただ、途方に暮れてます。シモさんたちと会わなかったら、俺どうなってたか……」
ゴトン、とどこかで小さな音がした。音の方を見ると、北川がさっきまでとは違った体勢
で寝ていた。外から聞こえた音のような気もしたが、どうやら北川が寝返りを打った音だ
と判断した。2人が目を覚ます様子は無い。下山と光原は再び顔を見合わせた。
「俺たち、支え合ってるんだよな」
「はい」
「支え合える人間が、きっと人間らしい理性を持って生き残れるんだと思う」
「……そう信じたいです」
「こっちには首輪探知機があるんだ。きっとなんとかなる」
「はい!」
明るくなった下山の口調に釣られて、光原も元気に返事をした。
「あとの問題はこの物騒なカプセルのトラップを早く知りたいのと、首輪をどうにかした
い点だな」
「ですねえ……なんとかオーナー見つけて首輪外させないと」
「オーナーの居場所だよなあ……これまた問題。みんなで知恵を出し合わないと。一刻も
早くこの緑とお花と海に包まれた島を脱出しないとなあ」
「問題は花ですよね……」
「へ?」
光原の妙な呟きに下山がとぼけた表情をする。光原は真面目そうな表情で下山を見た。
477「160・迷探偵・光原 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/09/09(日) 21:50:53 ID:dCCYsBMY0
「だってそうですよね?この島の花、変ですよね?」
「変?」
下山の問いかけが予想外だったらしい。光原は床に座ったままにじり寄るようにして下山
に近づいた。下山も自分から光原に近寄った。
「この島の花、季節が変ですよ」
「季節と言うと?」
「気づかなかったんですか?えっとですね」
言いかけて光原は鞄からペットボトルを取り出すと、水を飲もうとした。残りが少なかっ
たらしく、飲み干したその1本を脇に置くと新たな1本を取り出した。「ラスト」と呟いてキ
ャップを開ける。最後の1本のようだった。少しだけ飲んで、すぐ蓋を閉めて鞄にしまう。
最後の1本は大事に飲むらしい。
「この島、かなり南にあるみたいです」
「どうして?」
「この時期の日本ではあまり見ないような南の花がかなり咲いてたんです」
「……お前、花詳しいの?」
「お袋が好きだったから、よく植物園とか一緒に行ったんです。図鑑見たり。それでかな。
ちょっと花に敏感な人だったらすぐ気づくと思いますよ。他にも誰か気づいたんじゃない
ですかねえ。今の時期に咲くはずじゃない花が咲いてたり。……だから南って判断するの
も危ないとは思いますけど。ちょっと生態系が狂った島だなーとは思います」
「生態系、ねえ……難しい話だな」
腕を組み、下山は眉をしかめた。
2人は気づいていない。
光原の疑問と同じことを、今は亡き中村紀洋が気にかけていたことに。
そしてこの短い会話の中で光原が2つの事象について、当たらずとも遠からずな見解を示し
ていたことに。

【残り・23人】
478「161・彼〜再生 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/09/09(日) 21:52:17 ID:dCCYsBMY0
「HAHAHAHAHA!」
アルコールで顔を真っ赤にした外人が高笑いをしながら、そのジープのエンジンを吹かし
ている。
「HAHAHAHA!Brumbaugh!Brumbaugh!」
「やめろよブランボー!ああもう!音で気づかれちゃうだろ!えーっと、ストップ!スト
ップ!ノイズ!うるせーっ!」
相川が必死にブランボーの腕にしがみついて車から降ろそうとするが、体つきの違いで全
く歯が立たない。室内で酒に酔っているのはまだ許せるが、カフェの横、小さな小屋の中
に隠してあるジープに乗り込んで派手にエンジン音を立てられたら、気づいた選手の誰か
がここに来るとも限らない。ただ来るのなら問題は無いが、車があるという事実に気づか
れたら。もしこの車を奪われたら相川たちは孤立してしまう。この殺し合いの島で。
それは相川たちの死も意味する。
「ブランボー!ブランボー!畜生!肉ばっか食ってるからこんなアホみたいな筋肉つくん
だよ!俺なんか嫁さんと可愛い娘の為に頑張りながら倹約を……!」
どんなに力を込めても酒の勢いには勝てないようだ。相川は泣きそうな顔で、何も考えず
に大笑いをしている外国人を見た。
「……何やってんですか」
鼻で笑うような声が聞こえた。相川の背後。クールに響きながらも、どこか嘲笑を含んだ
口調。小さく肩を震わせて相川は後ろを振り返った。
彼は両手をダラリと下に下げたまま、興味深げにブランボーを見ていた。
「こんな外人1人も扱えずに、よくこの店やってましたね」
蔑むような口調で相川に話しかける。相川は怯えを隠そうとしながら唇を噛み締めた。
彼はそのままブランボーへと歩み寄る。そして、その上機嫌な男の腕を掴んだ。
「おい、筋肉バカ、いい加減にしろよ」
ブランボーが彼を見下ろす。笑っていたその表情がスッと凍る。
「降りろよ。店に戻れ」
言葉が通じているのかはわからない。顎で店の方を指す。するとブランボーはその巨体か
らは想像もつかないような機敏さでジープから飛び降り、店の方へと駆け出して行った。
きっと全速力なのだろう。あの巨体では頑張っている方だった。
479「161・彼〜再生 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/09/09(日) 21:53:50 ID:dCCYsBMY0
「だらしねーの………あんたですよ、相川さん」
ふいに話を向けられて相川がまたビクンと緊張する。
「あんな外人の1人や2人、ちゃんとコントロールして下さいよね。………ああ、だから俺
がここに送り込まれたのか」
彼は小さく伸びをした。そして大きくあくびをした。どうやらエンジン音で目が覚めてし
まったらしい。
「相川さん、また割り切れてないでしょ」
自分よりも年下の人間に痛い所を突かれた場合、どういう表情をすればいいのだろう。
「ま、俺は一度死んだ人間ですからね。もう恐いもんなんて無いというか、さっぱりしち
ゃったというか、自分が生きる為なら何でも出来る人間に生まれ変わりましたよ。相川さ
んも一度、自分を殺しちゃえばいいのに。楽ですよ。生きることがこんなに楽になるとは
思わなかった」
楽しげに彼は笑う。相川にはその笑いを理解することが出来なかった。
「今のバカデカいエンジン音に釣られて何人ここに来るでしょうね?」
我に返る。誰かが来た時の準備をしなければ。珈琲の準備も勿論だが、あの外人勢を大人
しくさせなければいけないし、自分自身の心の準備も大切だ。多分、これが一番難しい。
「面白くなりますよ」
忙しくではないのか。彼にとっては。
「次にここに来るのは誰ですかねえ。決闘だって1回しかしてないし。誰かチャレンジャー
いないのかなあ。邪魔な誰かを消したいって思わないのかなあ。まあ正面きって勝負する
よりは、不意打ちの方が楽ですけどね」
彼は相川に背を向け、小さなカフェの玄関へと歩き出した。
「俺だったらまずあの生意気なアゴを消して、次に邪魔なチビエースを消して……」
相川も引っ張られるようにして、店へと歩き始めた。
目の前にある、左腕に包帯を巻いた、血に汚れた背番号14がやけにハッキリと闇に浮き上
がっていた。

【残り・23人】
480 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/09/09(日) 21:56:37 ID:dCCYsBMY0
今回は以上です。
ここのところ仕事が忙しいのと、今後の展開を少々変えたので
その修正をしていて投下間隔が開いてしまっています。
申し訳ありませんが、気長にお待ち頂けると助かります。
481代打名無し@実況は実況板で:2007/09/09(日) 22:06:02 ID:I7ITKGW1O
職人さんGJです!ありがとうございます
482代打名無し@実況は実況板で:2007/09/09(日) 23:43:06 ID:2WR4Gxa90
乙乙。
なんだかwktkな展開キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!
483代打名無し@実況は実況板で:2007/09/10(月) 00:18:34 ID:eIvoXRWS0
岸田キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!

作者さん乙です 気長に待ってます

484代打名無し@実況は実況板で:2007/09/10(月) 00:22:13 ID:15qhiDDi0
投下乙です。
すごく楽しみな展開になってきた。
シリアスな展開なのに
最後のチビエースに笑ってしまった・・・。
485代打名無し@実況は実況板で:2007/09/10(月) 01:37:05 ID:y7+jBmd+O
急展開キタ━━━(゚∀゚)━━━!!
職人さん乙です!!
お忙しいようですが、無理はなさらないでくださいね…
486代打名無し@実況は実況板で:2007/09/10(月) 11:09:21 ID:FaRnuxfI0
投下乙っす!
ちょ、背番号14て・・・岸田ぁ!?
普通にブランボーで和んだと思ったのに、これには流石に度肝を抜かれたぜ・・・
487代打名無し@実況は実況板で:2007/09/10(月) 21:24:35 ID:L4XD0LkT0
投下乙です☆
待ちますよ〜。

このナマイキな若手はどいつかと思いきや岸田!!
488代打名無し@実況は実況板で:2007/09/10(月) 21:46:24 ID:29U055/30
ブランボーブランボーワロスwww

職人さん乙です!
489代打名無し@実況は実況板で:2007/09/11(火) 07:24:00 ID:YNQU6rzO0
投下乙です。
誰だこいつと思ったら岸田だった。
何があったんだお前に・・・
職人さんも無理なさなずに
じっくり書いて下さい。
490代打名無し@実況は実況板で:2007/09/12(水) 21:39:52 ID:ByaB7joV0
光原に期待しつつほしゅ
491代打名無し@実況は実況板で:2007/09/13(木) 22:00:04 ID:qxS1fSTd0
五位をめざして保守
492代打名無し@実況は実況板で:2007/09/14(金) 23:00:44 ID:SH9TVCGL0
光原いいキャラですねw
493代打名無し@実況は実況板で:2007/09/14(金) 23:34:29 ID:WtJD04Nm0
えっ 岸田って始まる前に見せしめで殺されたのでは。。。。

保守
494代打名無し@実況は実況板で:2007/09/15(土) 02:32:10 ID:zy3DL4bE0
しゅ
495代打名無し@実況は実況板で:2007/09/15(土) 12:14:46 ID:6khgG2uvO
始めに死んだ、と思わせて後でBRに復活させるって今までのBRには ないパターンがキタ━(゚∀゚)━!!!
496代打名無し@実況は実況板で:2007/09/16(日) 01:54:15 ID:FY8ZCu0GO
川越さん勝利祈願保守っス!
497代打名無し@実況は実況板で:2007/09/17(月) 01:20:35 ID:qy3VxpmfO
ほしゅ
498代打名無し@実況は実況板で:2007/09/17(月) 21:30:15 ID:WVfWdKRw0
hosyu
499代打名無し@実況は実況板で:2007/09/18(火) 21:39:24 ID:WjaM7De20
………☆………
500代打名無し@実況は実況板で:2007/09/18(火) 23:07:17 ID:NFxtbUSS0
500ゲットしつつ保守
501代打名無し@実況は実況板で:2007/09/19(水) 23:07:41 ID:C6m9Pt150
502代打名無し@実況は実況板で:2007/09/21(金) 00:46:45 ID:PfauLiB/O
猿の手を引きつつ保守
503代打名無し@実況は実況板で:2007/09/21(金) 16:06:09 ID:mSWU54mA0
捕手る
504代打名無し@実況は実況板で:2007/09/21(金) 23:36:20 ID:ClctWTdt0
                         ___
                           |_Bs|_.
    _____ すとっぷ!!のいず!! (【 ゚∀゚)ブランボー!ブランボー!
   /        // ||  ̄ ̄ ̄∨_, ,_ (    ).
   |______ //_.|||     (#‘相‘).| 彡つ
  /_    __ |    |ヽ⊂⌒~⊃__つし∪J
  ◎====◎   |    |.|| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|
  |_檻_     |    |.|.   かふぇびーえす |   |
  ヽ -―ヽ\    |    |.||__|__|__|__|__|
  / / // ヽ_\__|__/―――| |/ /   ヽ
 || し |         |w|│(_|w| | O |
  ヽヽ___ノ          ヽヽ___ノ ヽヽ___ノ



>>478を見て作ってしまった。
技量は無いことは分かっている。

でも

   ___
  |_Bs_|_
  (【 ゚∀゚)    ブランボー! ブランボー!
  (    )
   | 彡つ
   し∪J
505代打名無し@実況は実況板で:2007/09/22(土) 01:09:40 ID:+i7MGQq50
>>504
ちょwww
名場面AAktkrwww
506代打名無し@実況は実況板で:2007/09/22(土) 01:41:41 ID:IBIZ8Vkd0
>>504
相川の困り顔がなんかイイwwwwww
507代打名無し@実況は実況板で:2007/09/23(日) 02:19:39 ID:psrBTvbjO
保守っとな
508代打名無し@実況は実況板で:2007/09/23(日) 17:02:06 ID:rseUEQ1NO
あ〜あ また負けちゃったよ〜
509代打名無し@実況は実況板で:2007/09/24(月) 22:34:32 ID:tmXtdABc0
ほしゅ
510代打名無し@実況は実況板で:2007/09/26(水) 00:34:31 ID:pqrfeUpnO
わっふる食べながら保守
511代打名無し@実況は実況板で:2007/09/27(木) 07:46:59 ID:B5Y+lifC0
康介頑張った保守
512代打名無し@実況は実況板で:2007/09/28(金) 07:06:38 ID:2KDdQ0RD0
ゴッツが気になるいつ発見されるのだろう捕手
513代打名無し@実況は実況板で:2007/09/29(土) 11:55:09 ID:412ApTfv0
今日岸田だよ保守
514代打名無し@実況は実況板で:2007/09/29(土) 17:07:03 ID:6CuobNtRO
わっふる わっふる
515代打名無し@実況は実況板で:2007/09/29(土) 19:35:09 ID:SHssMpuYO
うわぁ楽天がついに

頭、狂った模様
516代打名無し@実況は実況板で:2007/09/29(土) 21:07:56 ID:fkk7fQvi0
緊急保守わっふる!
517代打名無し@実況は実況板で:2007/09/29(土) 21:28:06 ID:dDxieXEN0
保守
518代打名無し@実況は実況板で:2007/09/29(土) 21:28:52 ID:oTdkZHI40
保守
で、最下位ほぼ確定?
519代打名無し@実況は実況板で:2007/09/29(土) 21:31:46 ID:A564sgXgO
最下位くやしいのうwwwくやしいのうwww
520代打名無し@実況は実況板で:2007/09/29(土) 21:33:21 ID:VtWiZRB80
また合併して補強するしかないな
521代打名無し@実況は実況板で:2007/09/30(日) 23:23:56 ID:J3qFz6KsO
保守
522代打名無し@実況は実況板で:2007/10/01(月) 23:54:59 ID:0FKaAGgR0
ほしゅ
523代打名無し@実況は実況板で:2007/10/02(火) 21:30:57 ID:+43EuR+50
緊急保守

エイエイお疲れ様!
524代打名無し@実況は実況板で:2007/10/02(火) 23:26:11 ID:lZ5Xj3V40
ゅしほ←
525代打名無し@実況は実況板で:2007/10/02(火) 23:48:08 ID:bdCB8WvE0
ありがとう。エイエイ保守
526「162・背番号14の物語 1/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/10/03(水) 00:52:28 ID:h4MZ/S790
あの時、急に怒ったような中村監督に急かされてバスに乗った。
席は後方からほとんど埋まっており、入り口側、前から二列目に座っていた平野佳寿が自
分の隣を指差して彼に合図を送ってきた。同期入団、気心の知れた奴だ。岸田は呼ばれる
ままその席に腰を下ろした。母からもらった白いタオルを取り出し、汗を拭き、首に巻く。
日頃の癖だった。
続いて中村監督が運転手側の最前列に腰を下ろした。
バスの中は賑やかだった。隣の平野も自分のことを喋り続けている。岸田はさっきの監督
の焦ったような姿が気になって仕方がなかった。適当にうなずきつつ平野の話を聞きてい
るふりをしながら、全く違うことを考えていた。
(あのマスク……結局何なんだろう……マスクの話をしたら監督、急に怒って……)
平野はまだ勝手に喋っている。岸田は親から贈られた白いタオルを、いつもの癖で口元ま
で引き上げるようにして首に巻き、運転席と中村監督を横目で見つめていた。
(………………)
しばらくして、ふと我に返った。どうやら居眠りをしていたらしい。
いつの間にかタオルを口で咥えるようにして眠っていた。少々よだれがついてしまったか。
車内は静かだった。さっきまでずっと喋っていた平野も今は大人しくしている。隣を見る
と、窓にもたれてグッスリ眠っていた。中途半端に空いている口がイケていないと思った。
さっきまで賑やかだった阿部真宏を中心とした後部座席も、不気味なくらい静かだ。そっ
と体を捻って後ろを見た。
その光景にギクリとした。
座席から通路に崩れ落ちるようにして倒れているのは背番号34。まるで胸を撃ち抜かれて
倒れた死体のような風体だ。
(なんだ、よく目ぇ覚まさないな)
辺りを見回した。ようやく不気味な静けさの意味がわかった。みんな眠っているのだ。体
が疲れそうなとんでもない体勢になっていても、それを苦にすることなく眠り続けている。
(な、なんでだ?)
起きているのは岸田ひとり。
ただひとり。
いや。
527「162・背番号14の物語 2/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/10/03(水) 00:53:54 ID:h4MZ/S790
自分の座席よりも前を見た。運転席の後ろに座っている中村監督は、顔にあのガスマスク
を装着していた。そして運転手も。紺色の、子供たちの憧れの視線を受ける紺色の帽子の
下に、不気味な形態をしたモスグリーンのマスク。あまりにも不自然なその光景に、岸田
は一瞬バケモノでも見たかのように息を飲んだ。
ガスマスクをつけた2人は起きているらしい。選手たちはぐっすり眠っている。岸田は起
きている。口元を覆っていた白いタオルが何かを防いでくれたのか。何を?ガスを。
睡眠ガスを。
何の為に?
選手を眠らせる為に。
何の為に眠らせたのか?
次の瞬間、岸田の体は勝手に動いていた。中村監督の頭部に掴みかかる。揺さ振るように
してそのガスマスクを剥がそうとした。マスクの奥からくぐもった呻き声が聞こえた。
さらに勢いをつけて監督の頭を振る。とうとう監督の体は床に転がり落ち、岸田の手にマ
スクが残った。
「何のつもりですか!」
思わず怒鳴っていた。
「こんなことして……何の真似ですか!」
運転手はチラチラ後ろを振り返りながらもバスを走らせ続けている。岸田は外を見た。海
沿いの二車線道路。今ここでバスが止まったら通行の邪魔になる。だがそんなことに構っ
てはいられなかった。
「止めろ!バスを止めろ!」
叫んだ。運転手は戸惑いながらも運転を続けている。
「止めろ!いいから止めろ!聞こえないのか!」
トン。
岸田の背中に何かが当たった。続いて首に腕が巻きつく。そのまま黒い何かが岸田の目の
前に突きつけられた。
(…………銃………?)
それはいわゆるモデルガンよりも明らかに重厚さが違って見えた。
(まさか………)
エアガンだって至近距離なら殺傷能力がある。岸田の動きが止まった。
528「162・背番号14の物語 3/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/10/03(水) 00:55:05 ID:h4MZ/S790
「岸田、死にたくなければおとなしくしろ」
まだ息も荒い監督が岸田の頬にグイと銃口をめり込ませる。
「とんだことになったな……お前だけ眠らなかったのか」
バスが緩やかなカーブを曲がる。そこは小さな港のようだった。待ち構えているやや錆つ
いた大きな船に、そのままバスは乗り込んで行く。すれ違いに数台の自転車が船を下りて
いった。周辺の小島に住む人たちの連絡船なのかもしれない。
ではこのバスはどこかの島へ運ばれるのだ。
何故?
同じ言葉を心の中で繰り返す。
「まったく……どうしたもんかな」
呆れたような声で監督が呟いた。
バスは暗い船内で止まった。外で低く何かが響いた。振動で窓ガラスがビリビリと鳴った。
船の汽笛だろうか。続いて、ゆっくりと船が揺れ出した。
(出発……したのか……)
額に脂汗を滲ませながら、岸田は思った。考えたのではなく、単に思っただけだった。考
える余裕など無かった。
コンコン、ふいにバスのドアをノックする音がした。監督の意識がそちらへと一瞬動いた。
その瞬間の腕の緩みを岸田は見逃さなかった。
「でやあっ!!」
まるで一本背負いを決めるように、勢い良く前屈みになって背中に背負った監督を前へと
飛ばした。前といってもそれほどのスペースはない。バスの狭い通路と、補助椅子の出っ
張りに監督の体はしたたか叩き付けられた。
「ぐぅっ!!」
咄嗟に岸田は監督の手から銃を奪った。予想通り、いや、それ以上の重さのある銃だった。
そしてそのままそれを監督の頭に突きつけた。と同時にバスの扉が開いた。
真っ先に岸田の目を引いたのは、岸田の持っている銃よりも破壊力がありそうな大きくて
長い銃だった。それを抱えた迷彩服の男、しかもガスマスク装備の男が4人バスに乗り込
んできた。その銃口は間違いなく岸田を狙っていた。
「な………なんだよこれ………」
戸惑いながらも慌てて監督の体を引き寄せる。盾、あるいは人質だ。
529「162・背番号14の物語 4/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/10/03(水) 00:56:02 ID:h4MZ/S790
ジリリ。1人の迷彩服の男が一歩歩み寄る。
「来るな!」
岸田は叫んだ。
ジリ……。迷彩服の柄が更に大きく見える。
「来るな!撃つぞ!本当に撃つぞ!」
半ば自棄になって叫んだ。
タン!迷彩服の男があからさまに靴を馴らしてバスのタラップを上がりきった。
「うわああああっ!!」
岸田は銃口を迷彩服の男へと向けると、そのまま引き金を引いた。ガンッ!という音と共
に迷彩服の体が揺れる。しかし防弾チョッキに守られた男はそのまま岸田へと突進し、頬
を拳で殴りつけた。
「ぐふっ!!」
続いてパンチが腹に。狭い空間での乱闘には監督の体が邪魔だった。岸田は半狂乱になっ
て自分を守ろうと暴れたが、決して銃は離さなかった。
迷彩服の男は邪魔になった長い銃を捨てると、腰からナイフをひらめかせた。シュッと風
を切る音。岸田の腕に走る痛み。真っ直ぐに引かれる赤いライン。飛び散る赤。
「うあああああっ!」
痛みに叫びながら顔を上げた。ガスマスクの醜い顔が目の前にあった。
そして、無防備に晒された喉が。
無意識のうちに岸田の右手が動いていた。一瞬の動作で銃口を肌色の部分に突きつける。
迷彩服の男の動きがギクリとしたように揺れた。火薬の破裂する音が再び岸田の手元から
放たれた。その反動でガスマスクの頭部が大きく揺れる。そして、岸田の体の上へとその
巨体が赤い迸りを浴びせながら倒れこんできた。
「うわっ!うわっ!」
四つん這いになりながら慌ててその体の下から逃げ出す。左手がペタペタする感触の何か
を踏んだ。少し離れた場所から倒れている男の姿を見つめた。手足がピクピクと動いてい
る。手が何かを掴もうとしている。まだ生きている。今ならまだ助かるのかもしれない。
医学的な詳しいことはわからないが、迷彩服の男が救いを求めていることは確かだった。
「………岸田」
530「162・背番号14の物語 5/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/10/03(水) 00:57:29 ID:h4MZ/S790
その声に顔を上げる。いつの間にか乱闘から逃れていた中村監督が、入り口のそばに立っ
ていた。その両脇には新たな迷彩服の男たちが護衛のようにつき従っている。条件反射の
ように岸田の銃は監督の方を向いた。
監督が2人の迷彩服の男に合図をした。まず黒い袋を持った1人が前へと歩き出す。一番
前に座っている平野佳寿に歩み寄る。袋から取り出したのは銀色の輪。その輪の一箇所を
開くと、平野の首に巻きつけた。パチン、と硬質な音がする。
もうひとりの迷彩服の男が右手に黒いトランシーバーのような四角い形をした何かを持っ
ていた。黒い物体から飛び出している銀色のアンテナを、平野の首に嵌められた首輪の前
面、赤いパネル部分に近づける。ピピッという音がして、赤く2回点滅した。男が物体の
表面についている、数字の書かれた突起を押した。「16」。再び赤く2回点滅し、男は平野
から離れた。
「な……何やってんだよ!」
男が袋から銀の首輪を取り出す。そして岸田に歩み寄ろうとした。
「来るな!俺に何かしてみろ!ぶっ殺すぞ!」
銃口を男へと向ける。
「面白い」
監督を呟いた。
「殺してみせろ」
護衛を得て心強くなったのか、試すような口調で告げる。
「出来もしないくせに」
その一言が岸田のプライドを傷つけた。極限状態に置かれた精神は、ほんの些細なキッカ
ケで導火線に火を灯すことが出来る。岸田は目の前に立っている黒い袋を持った男の頭部
へといきなり手を伸ばした。男が避けようとするよりも早く、そのガスマスクを毟り取る。
顔を確認し、岸田はニヤリと笑った。
その笑いは、今まで彼らが見たことのないタイプの笑いだった。常軌を逸した、狂気と混
沌にとり憑かれた笑いだった。
そして、至近距離から男の顔面へと弾丸を一発撃ち放った。
「オバミュラー!!」
誰かが叫んだ。顔面を真っ赤に染めたオバミュラーの体が力を失って床へと崩れ落ちる。
岸田は銃を三度監督へと向けた。
531「162・背番号14の物語 6/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/10/03(水) 00:58:56 ID:h4MZ/S790
「………できますよ」
岸田が呟く。
「………俺、自分を守る為なら殺せますよ」
「………と、取引だ」
諦めたように、そしてなだめるように監督が呟いた。
「お前の力はわかった。ならば取引だ。オーナーもそうおっしゃっている」
「オーナー?」
「オーナーは、今飼っている"犬"だけでは不安だとおっしゃっている。だからお前に一役買
ってもらいたいとのことだ」
監督のそばに立っている男が携帯電話を持っていた。そこから伸びたコードが監督の耳に
届いている。
「お前みたいに、恐れを知らずに戦える犬が欲しいとのことだ。お前にはとある場所を監
視、管理して欲しい」
奇妙な話を聞きながら、銃を構えたまま、岸田は楽しそうに笑った。
生まれ変わった気分だった。何かが解放されたような気持ちだった。
(俺、やればけっこう出来るじゃん)
何のしがらみも感じない、そんな気分だった。両肩には何の重さもない。先輩も後輩も、
今までの実績も何も意味をなさない。今持つ力こそが全てなのだ。その力を発揮できるか
どうかなのだ。力を持っていても今使えなければ意味がない。
意味があるのは、ただこれからの生き方のみ。
これから何が起こるのかはわからない。
それでも、考える前に跳べ。
少なくともあの窮屈そうな銀色の首輪はつけずに済みそうだ。
銃を撃ち放った時に受けた体の衝撃。音と風。それがなんと爽快だったことか。
岸田は少し顎を上げて見下すような表情を作ると、楽しげに告げた。
「なんとなく体型でわかってるけど、迷彩服の皆さんにガスマスクを取って欲しいですね。
新しい仲間には顔を見せてくれないのかなあ」
岸田の身振り手振りと監督からの言葉で意味を理解したらしい。残りの迷彩服の男たちが
ガスマスクを外した。
目の前でオバミュラーを楽しげに殺されて蒼褪めているブランボーとガルシアがいた。
532「162・背番号14の物語 7/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/10/03(水) 01:00:08 ID:h4MZ/S790

バスを降り、船室に入り、中村から説明を受けた。
理不尽なゲームだったが、自分が生き残るには乗らなければならない。
岸田は『Cafe Bs』なる場所に待機して、流れるままにしていればいい。外人勢と頼りない
相川を監視する。裏切り者は容赦なく始末する。首輪をつけた選手に対しては、自分の身
に危険が降りかかった場合のみ攻撃可。もしゲームに参戦したいなら、岸田もいつでも首
輪を装着することが出来る。
今ここにいないデイビーとグラボースキーと相川の3人は先に島に乗り込んで準備をして
いるらしい。
岸田は全ての条件を飲んだ。条件を拒んだらここで殺されることもわかっていたし、それ
以上にこのスリリングなゲームに魅力を感じている自分がいた。

あとは選手たちを脅かせばいいだけだった。
最初に殺された選手を装った。すでにユニフォームは血だらけだ。バスの中での乱闘のせ
いで、左腕も痛めていた。
一瞬だけ死体のフリをすればよかった。
お人よしの川越が駆け寄ろうとした時はギクリとしたが、すぐに萩原が川越を抑え込んで
くれた。

そして今、岸田は『Cafe Bs』にいる。
岸田が店内に入ると、ボソボソと喋っていたブランボーとガルシア、グラボースキーが途
端に話すのを止めた。デイビーは部屋の隅のソファーで、2メートルある長身を窮屈そうに
縮めて眠っている。
(みんな、俺を怖がってるんだ)
いとも簡単にオバミュラーを殺した自分を。
そのピリピリした空気がとても心地よかった。
(さて、さっきのエンジン音でここに辿り着くラッキーマンは誰かな?)

【残り・23人】
533「163・もうひとりの男の物語 1/1」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/10/03(水) 01:02:04 ID:h4MZ/S790
彼はゆっくりと目を覚ました。
頭の側面と、喉の痛みに小さく呻いた。
呻いたつもりだったが、声が出なかった。
頭部がズキズキする。頭痛とは違う。頭の中ではなく、外側が痛い。外皮が傷ついている
のだろうか。そして同じように喉の皮膚と、その周辺が痛い。
(……なんだ?俺………どうした?)
喉元に手をやる。何か硬いものに触れた。その部分がパキ、と小さな音を立てる、そして
そこからパラパラと何か小さな欠片が落ちた。
(なんだ?)
真っ暗で何も見えない黒い闇の中に彼はいた。おそらく室内だということは感じ取れた。
試しに2歩だけ歩いてみると、木の床のきしむ音がした。
(暗い……夜……?)
自分はどうしたのだろう。何故こんな所にいるのだろう。
何があった?
(………そうだ………何が………?)
ふと気づく。何があったのか、さっぱりわからない。
(俺は………)
ふと気づく。俺は、誰だ?
(どうして………)
ふと気づく。何かを思い出そうとしても、何も思い出せない。
脳裏にぼんやりと浮かぶのは、誰かの笑みと、無表情な瞳。
『大丈夫だ、何もしない』
誰かの声が聞こえる。
『………!無理はするな!諦めるな!頑張れ!』
あの声は誰のものだろう。
そして自分は一体。
(俺は…………誰だ?)

【残り・23人?】
534 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/10/03(水) 01:03:29 ID:h4MZ/S790
今回は以上です。

エイエイ、お疲れ様でした…
535代打名無し@実況は実況板で:2007/10/03(水) 07:54:45 ID:U3K3fzoG0
職人さん乙です。
てっきり岸田は操られているものだと
思っていたのに予想外でした。
これからどうなるかすごく楽しみです。
536代打名無し@実況は実況板で:2007/10/03(水) 10:16:49 ID:TgAXCHpe0
待ってました!職人さん乙です!
投下されるのが週の楽しみです

>中途半端に空いている口がイケていない
wwwwwwwwwwwwwwwwwww
537代打名無し@実況は実況板で:2007/10/03(水) 10:25:40 ID:krlc0FyXO
職人さん乙です!
ここでオバ様とは。それも超チョイ役!!

岸田に続いて復活?したのは終盤戦でついに覚醒しはじめたあの男ですね!
楽しみ〜
538代打名無し@実況は実況板で:2007/10/03(水) 20:52:53 ID:GIEhqGeU0
投下乙です!!

諦めるな!頑張れ!って誰のせりふだったっけか……
ダッシュで保管庫行ってきます。
539代打名無し@実況は実況板で:2007/10/03(水) 22:30:15 ID:CowPxRwi0
乙です
540代打名無し@実況は実況板で:2007/10/04(木) 07:31:57 ID:TMr1jdyV0
791 名前: 代打名無し@実況は実況板で [sage] 投稿日: 2007/02/10(土) 15:37:28 ID:hhY17qup0
俺もそう思う。
楽天は去年は出来すぎ。オリックスは最悪な結果。
戦力は比べ物にならないぐらい違うよ。
もし、今年楽天に抜かれるようなことがあれば、切腹してもいい。それぐらい自信ある。
541代打名無し@実況は実況板で:2007/10/04(木) 09:47:31 ID:ewT0Se2eO
乙です。
展開すげー。
542代打名無し@実況は実況板で:2007/10/04(木) 19:26:59 ID:HWNMADGjO
543代打名無し@実況は実況板で:2007/10/05(金) 00:21:51 ID:b71/Wwa7O
職人さん乙です!
自分も保管庫駆け込んだ…
保管庫さんもいつも乙です。
あのセリフってことは、あいつか…!
544代打名無し@実況は実況板で:2007/10/06(土) 00:53:41 ID:/4F44AvHO
展開にwktk捕手
545代打名無し@実況は実況板で:2007/10/07(日) 10:17:35 ID:x5NdfWOf0
続き楽しみです保守
546代打名無し@実況は実況板で:2007/10/08(月) 11:00:10 ID:B3rmfVA90
叔母様ちょい役にもほどがあるです保守

別に存在を忘れてなんかいなかったよ!>叔母様
547代打名無し@実況は実況板で:2007/10/09(火) 05:15:03 ID:AWwBpVMuO
548代打名無し@実況は実況板で:2007/10/09(火) 17:17:59 ID:NqibJi4r0
549代打名無し@実況は実況板で:2007/10/09(火) 22:12:43 ID:/Rp7hB740
550代打名無し@実況は実況板で:2007/10/10(水) 00:53:37 ID:ggSJTbDaO
オリックスオリエントリース
551代打名無し@実況は実況板で:2007/10/10(水) 01:18:16 ID:UKsUlacb0
ミントGM代行と共に苦難をのりこえますわ95
http://ex20.2ch.net/test/read.cgi/kyozin/1191653991/l50
552代打名無し@実況は実況板で:2007/10/10(水) 22:00:04 ID:7aCcml660
保守
553代打名無し@実況は実況板で:2007/10/11(木) 23:51:07 ID:Tcx38oqY0
岸田ツヨスwww
554代打名無し@実況は実況板で:2007/10/13(土) 00:13:41 ID:Dx/tJnuE0
エイエイガンガレ保守
555代打名無し@実況は実況板で:2007/10/13(土) 23:11:16 ID:17XRMXID0
 
556「164・誘蛾灯 1/1」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/10/13(土) 23:14:12 ID:17XRMXID0
気づいたら丘を下っていた。
吉井の死を知らされ、そのことが信じられず、聞いたこと全てを振り切るようにして走り
出していた。きっとどこかに吉井はいる。オーナーすらも騙して、どこかでバカにしたよ
うに舌を出して生きているに違いない。そういう人だ。だから死を信じたくなかった。
走り疲れ、地面にしゃがみこみ、止まらない涙をこぼした後、ユウキは暗闇の中にいた。
懐中電灯の灯りが小さいこともあるが、心の中が真っ暗になっていた。
(吉井さん……吉井さん……俺……どうすれば………)
衝動的にひとり置いてきてしまった平野恵一のことも気になる。平野の元へと戻ろうと
思ったが、ひとつの音がユウキの気を引いた。バイクの排気音のような音。
(誰かいるんだ)
それは敵だろうか、味方だろうか。
フッとユウキの胸に、しばらくの間姿を隠していた野心が浮かぶ。
(………殺すんだ)
生き残る為に。自分はそう誓ったはずではなかったか。
平野恵一と合流してから、平野の考え方に流されて自分の闘志が消えてかけていたことも
事実だ。途中で起こったトラップタイムがそれに輪をかけた。そして、完治していない怪
我を引き摺りながら歩く平野を気遣っていたせいもある。
(あの音のところに……誰かいる)
行ってみようか。何かが起こるはずだ。そして運よくバイクを手に入れられたなら自分の
行動範囲を広げることが出来る。朝になったら急いで平野を探し出そう。歩き回って疲れ
る負担も減る。平野も少しは楽になるはずだ。そして研究所へ向かうのだ。平野の持つラ
ッキーカードの意味を知る為に。
導かれるように、音のする方向へと歩いた。音はすぐに消えてしまったが感覚に頼って歩
き続けた。他にもこうやって音に釣られて歩いている奴もいるだろう。そこで誰かに会う
可能性もある。
ユウキは小高い丘の上からそれを見た。
小さな灯り。人がいる印。丘の麓に見えるそれはまるでユウキを誘い、導き呼びかける灯
りだった。

【残り・23人?】
相川はカウンターの下に隠して置かれているPDAの画面を見た。キーボード付きでご丁寧
にネットにも繋がっている。これを通じてオーナーとも連絡が取れるようになっている。
通常は決まった画面が映っている。この島の地形の中に、ポツポツと浮かぶ赤い数字。
首輪探知機と同じ機能を持っているこの画面が、相川の安堵と不安の元だった。
ある時、2つ並んでいる数字を見ていた。ふいに、その片方の数字が消えた。それが意味す
るところを理解し、相川は唇を噛み締めた。涙を流さぬように。
「近づいてきてますね」
相川の背後から岸田が画面を覗き込む。
「27と64……日高さんと田中彰か。別の方向から22ってことは、ユウキさん。かなりそ
ばまで来てますね。その次に近いのは……16、平野佳寿か。こりゃ面白いや。さっきのブ
ランボーの騒音のお陰ですね」
楽しげに呟く。そんな岸田を振り返って相川は苦言を呈した。
「だからカーテンを閉めろって言ってるんだ。誰か来るから」
「だからカーテンを開けようって言ってるんです。誰か来るから」
そうだ。岸田にはもう普通の思考は通用しない。岸田はこのゲームを楽しんでいる。
「相川さん、アイスコーヒー下さい。濃いめに作って下さいね」
後輩であるはずの岸田はそう言うと、カウンターから出て店内の壁沿いにある小さなソフ
ァーに座った。あからさまにブランボーたちが身を震わせる。
相川はため息をつきながら、細長いグラスに手を伸ばそうとした。ふいにその手が遮られ
る。大きな手があった。
「デイビーさん」
「作ル。相川、少シ、休ンデ」
日本での野球歴が長いデイビーは、自分から日本の環境に親しもうとするタイプだった。
率先して寿司や天麩羅を食べに出かけたり、牛丼屋に入ったり。自分から辞書を片手に選
手やチームスタッフに話しかけ、コミュニケーションを図る好人物だ。だから他の選手た
ちもすんなりデイビーとは打ち解けられた。お蔭で日本語を覚えるスピードも早かった。
インタビューでも、ゆっくり話してくれるなら簡単な聞き取りは大丈夫だと言っていた。
そして今もデイビーは、相川を気遣ってくれている。
そして、とても悲しんでいた。
「デイビーさん」
「ン?」
「……悲しいですよね」
「………ソウ、トテモ悲シイ」
「このゲームが終われば、デイビーさんたちも自由になれる?」
「………ソウ言ワレタ。デモ、ワカラナイ」
デイビーも不穏な空気を感じ取っているようだ。本当に自分たちは解放されるのか。この
島で見た、出会った出来事はどうやって世間に知られないように揉み消されてゆくのか。
この店に来てから時折、デイビーがこのPDAの首輪マップを見つめていた。どうやら11を
気にしているようだった。入団した時、チーム事情をいろいろ教えてくれたのが川越だと
デイビーは言った。選手会長、同じ先発陣という部分もあったのだろう。川越は自分より
も身長が30センチ近く高いデイビーを見上げながら、いろいろと話したらしい。当時デイ
ビーは自分の子供のように背の低い川越を、まだまだ若手だと思っていたらしい。それが
同い年だと知ってとても驚いたと言っていた。今でもよく試合前の練習時に笑顔で話して
いる光景を見かける。2人でストレッチをすると身長が全くつりあわず、コントを見ている
ようなのだが。
「川越、阿部ト一緒」
「阿部さんと一緒だったら、安心ですよね」
何を基準にそう言うのかはわからないが、この2人なら間違ったことはしないだろうと確
信していた。なにしろチームの良心と言ってもいい2人なのだ。
「大輔ト、ウタ……塩崎、ガブ、水サン一緒………ゴッツ、1人……」
指さしながら、グループを確認してゆく。
「キク、1人、ズット動カナイ、心配」
言われて相川は思い出した。菊地原とデイビーは広島時代から一緒だ。この2人にも独特
の通じ合うものがあるのだろう。日本での古くからの友人が、この地図の上では大きな動
きを表さない。怪我で動けないのか、それとも。
「悔シイ………何モ出来ナイ………」
「……俺もです……何も出来ない………でも、何かしたい」
相川はデイビーを見上げた。デイビーも相川の顔を見てうなずく。
「もしもの時……えーっと、わかるかな、万が一、んー、なんて言えばいいんだろ」
PDAをいじり、通訳ソフトの画面を開く。
『もしもの時は、俺はやります。選手を助けたい。』
そう打ち込み、変換した画面をデイビーに見せた。
『I do at the one. I want to help the player.』
デイビーはその画面を見ると、しっかりとうなずいた。
「I do.」
覚悟は出来ている、そんな口調だった。相川は自分よりも揺らぎない状態にいるデイビー
を羨ましく思った。相川自身、選手たちを助けたい気持ちは山々だが、いざそういう状況
になったら行動に起こせるかが心配だった。自分は逃げ出してしまわないだろうか。他の
選手たちを置いて、自分の生存を最優先に行動しないだろうか。
とても人間的な感情に相川は揺れていた。
「相川さーん」
岸田の呼びかけに驚いて顔を上げる。
「誰かがホントに近づいてきたら教えて下さいね。俺、隠れますから。だから」
「……だから?」
「アイスコーヒー早くー」
暢気とも言える岸田の言葉が、相川には非人間的なものに感じ取れた。
だが、こんな状況に最も適した生き方をしているのが岸田なのだろうとも思った。
羨ましいとは思わない。けれど、ほんの少しだけ、羨ましいと思いかけている自分に気づ
いた。そんな自分を否定する為にも、相川は羨ましいとは思わなかった。

【残り・23人?】
560「166・運命の長針 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/10/13(土) 23:19:50 ID:17XRMXID0
灯りが近づくにつれ、それが小さな家だということがわかった。
確実に誰かがいる。ユウキの足取りは早くなった。
灯りが漏れているのは窓からだとわかった。普通ならカーテンを閉めて灯りが漏れないよ
うに気遣い、ここに人がいることがバレないようにして穏やかな睡眠時間を守るものだ。
だがここに居座っている人間は逆のことを考えているらしい。
(仲間を増やしたいのか?)
(それとも、罠か?)
(何か仕掛けが?)
一端足を止める。そしてゆっくりと、慎重に歩を進めた。
かなり近づいてから、ドアの前にかけられた看板に気づいた。
『Cafe Bs』
カフェ。喫茶店?
恐る恐る近づいた。入り口にかけられた説明書きを読む。
(……なるほど、ここもゲームの一環って訳か)
少なくとも1時間は何も心配せずに休めるのだ。そしてここには人がいる。さっきのバイ
クの音についても何か知っているかもしれない。
(素通りするのも勿体無いよな)
静かに扉を開けた。
「い、いらっしゃいませー!」
少し緊張したような声が迎えた。カウンターに立っている相川を見て、ユウキは一瞬言葉
を失った。そして、反対側の客席にいる外人選手たち。
「座れよ。入り口の文章は読んだんだろ?」
「え、ええ……」
予想外の人物たちの登場に、さすがのユウキも戸惑いを隠せなかった。
「ほら、ドア閉めろよ」
「あ、す、すみません」
後ろ手に閉めようとして、失敗した。ドアは予想以上に重かった。ガン、と左手首に勢い
よくドアの縁が当たる。続いてガシャンという小さな何かが割れたような音。
「あっ」
561「166・運命の長針 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/10/13(土) 23:21:03 ID:17XRMXID0
左手首にはめた腕時計。その文字盤の上のカバーが割れ、秒針と長針が床に落ちた。
「うわー……やべえ………」
時間の感覚を失ってしまうのは、禁止エリアの位置がわからないのと同じことだった。も
しまた時間制限のあるトラップタイムが始まったらそれこそ困ったことになる。
「動くかな……」
試しに落ちた針を拾い、再び文字盤の上に乗せてみた。中心の軸に嵌め、ギュッと押し込
む。すると再び秒針が動き出した。
「あ、いけるかも」
続いてユウキは相川の方を向いた。
「サランラップとかあります?」
「これ?」
相川が細長い箱を取り出す。
「それはアルミホイル。……透明なヤツです」
少し呆れながらユウキが続ける。今度こそ相川はサランラップを取り出し、ユウキに歩み
寄った。
「あ、これをカバー代わりにするんだ?」
「ええ、これぐらいが精一杯でしょう……ん?」
気づくとブランボーが1個の砂時計を差し出していた。表示には60分と書かれている。こ
れで時間を計るらしい。
「なるほど、少なくともこれで1時間はわかるんだ」
少しだけ安心して、ユウキは壁際の席に座った。受け取った砂時計を机の端に置く。細か
い砂がサラサラと淀みなく流れ落ちている。心なしか椅子が温かい気がした。さっきまで
ここに誰かが座っていたのだろうか。
「コーヒーはタダですか?」
「ああ。何がいい?」
「ホット。甘―いの。疲れが取れるような」
「了解。砂糖たっぷりな」
少しだけ肩の力を抜いて、店内を見回した。『1対1、男の勝負、承ります』という決闘へ
の誘いの文字が妙に違和感を持って、しかし妙に魅力的にユウキの目に映った。
562「166・運命の長針 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/10/13(土) 23:23:16 ID:17XRMXID0
手書きの黒板に書かれた文字。
(………かき回してやるか)
ユウキが立ち上がる。相川や外人勢は不思議そうな顔でユウキを見た。真っ直ぐ黒板の元
へと歩み寄る。そしてチョークを手に取り、黒板にいくつかの言葉を書きつけた。何を書
いたかは遠くて相川の場所からは読み取れなかった。何か決闘のルールに変更などを書き
加えたなら、後で修正しようと考えただけで今は動かなかった。
再びユウキは席に戻ると腕を組んで考え始めた。
(……正面からぶつかって勝てる相手を考えても……)
不安要素ばかりが浮かぶ。誰かにナイフを振り上げることに関して最早躊躇いは無いが、
正面きっての勝負となるとリスクが大きい。
(これは上手く使うべきだよな。弱った相手を呼び寄せるとかじゃないと……)
カチャリという音がした。目の前にコーヒーが差し出されていた。温かな湯気と共に、心
地よい香りがユウキの鼻に届く。
「うわー、癒されるー」
それが正直な言葉だった。この島にきてからというもの、水とパンとアーモンドバターし
か口に入れていない。身を乗り出すようにしてコーヒーの香りを楽しみ、砂糖を入れ、ミ
ルクも入れた。コーヒーは調度いい温さになり、ユウキはすするようにしてそれを飲んだ。
喉を通って体の中を流れ落ちてゆくのがわかる。染み込むような温かさ。それほど自分の
体は渇いていたのかもしれない。
安堵感を覚え、ユウキは目を閉じた。
体は予想以上に疲労していた。少しだけ、少しだけと言い聞かせながら、目を閉じた。
しばらくして、組んでいた腕が外れ、左腕がダランと垂れ下がった。勢いで腕時計の秒針
と長針が文字盤から外れたが、サランラップの内側に留まった。
蓄積された疲労ゆえの穏やかな寝息が聞こえていた。
相川はユウキが黒板に書いた文字を見つめていた。

【残り・23人?】
563 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/10/13(土) 23:24:11 ID:17XRMXID0
今回は以上です。
564代打名無し@実況は実況板で:2007/10/13(土) 23:49:13 ID:xs3i+VvC0
乙です
565代打名無し@実況は実況板で:2007/10/14(日) 01:36:10 ID:dx/zmxbA0
乙でございます!
デイビーがいい者っぽくて嬉しい
566代打名無し@実況は実況板で:2007/10/14(日) 07:04:44 ID:i4l2fJty0
投下乙です★
デイビーがいいひと過ぎて泣けてくる……
567代打名無し@実況は実況板で:2007/10/14(日) 10:39:33 ID:RODyjVAv0
乙です。
デイビーいつも援護なくてごめん。
いい人すぎる。
身長30p差の2人の無事を
祈ってます。
568代打名無し@実況は実況板で:2007/10/15(月) 21:24:46 ID:t6P7ca5S0
乙です
展開wktk
569代打名無し@実況は実況板で:2007/10/16(火) 19:00:45 ID:v35znNpu0
女児
570代打名無し@実況は実況板で:2007/10/17(水) 20:58:15 ID:KRImqjwnO
保守
571代打名無し@実況は実況板で:2007/10/18(木) 17:28:56 ID:4W7LYE8+0
572代打名無し@実況は実況板で:2007/10/19(金) 22:37:01 ID:DUqdSZ0A0
☆(゚∀゚)☆
573代打名無し@実況は実況板で:2007/10/20(土) 19:36:03 ID:6DgIIENrO
ほしゅ ヽ(‘相‘)人(dДb)ノ ホシュデース
574代打名無し@実況は実況板で:2007/10/20(土) 21:27:07 ID:C4YuWFPp0
保守。
575代打名無し@実況は実況板で:2007/10/21(日) 22:18:45 ID:y2gdmbUW0
ユウキガンガレほしゅ
576代打名無し@実況は実況板で:2007/10/23(火) 02:31:52 ID:gGb+Y02cO
ほしゅ
577代打名無し@実況は実況板で:2007/10/25(木) 00:57:37 ID:mMqMyWJuO
あいかわがんばれほしゅ
578代打名無し@実況は実況板で:2007/10/25(木) 02:11:17 ID:98eTdvjg0
保守
579代打名無し@実況は実況板で:2007/10/26(金) 03:32:09 ID:0JhPS2LZ0
(# =_)=)
580代打名無し@実況は実況板で:2007/10/27(土) 03:22:44 ID:TtVx2fz+0
岸田恐いよ岸田
581代打名無し@実況は実況板で:2007/10/27(土) 07:46:35 ID:REZvKnbXO
ピンバッチダブリ杉だ
582代打名無し@実況は実況板で:2007/10/27(土) 22:20:28 ID:tO59oZKz0
デイビーと川越さんが隣同士で写ってる写真がみたいwww捕手
583代打名無し@実況は実況板で:2007/10/28(日) 12:35:28 ID:YR8p9gxX0
保守
584代打名無し@実況は実況板で:2007/10/28(日) 23:44:15 ID:aITWVZAR0
>>582
ttp://up.mugitya.com/img/Lv.1_up37890.jpg

隣じゃないけど……保守。
585代打名無し@実況は実況板で:2007/10/29(月) 00:46:42 ID:IDN1/4FNO
>>584
そんなのうpしたら川越に消されるぞwww
586代打名無し@実況は実況板で:2007/10/29(月) 18:44:09 ID:U74RBqZP0
ほっしう
587代打名無し@実況は実況板で:2007/10/30(火) 09:48:17 ID:j0yx/IikO
本やんケコーンおめでとう保守
588代打名無し@実況は実況板で:2007/10/30(火) 21:59:46 ID:6x3UN+gC0
保守シマース
589代打名無し@実況は実況板で:2007/10/30(火) 22:58:37 ID:lxJgiZkC0
保守
590代打名無し@実況は実況板で:2007/10/31(水) 12:02:51 ID:joY9Ma3xO
ほしゅ
591代打名無し@実況は実況板で:2007/10/31(水) 18:36:42 ID:A3dvMhuM0
ほしゅ
592代打名無し@実況は実況板で:2007/10/31(水) 19:43:29 ID:j19WEjQdO
来年の開幕投手はだれ?
593代打名無し@実況は実況板で:2007/10/31(水) 21:01:02 ID:v8guiHHP0
川越
594 【吉】 :2007/11/01(木) 18:23:26 ID:5f/kK3hKO
595代打名無し@実況は実況板で:2007/11/01(木) 20:43:25 ID:HSjY+JuN0
荒れそうなので保守
596代打名無し@実況は実況板で:2007/11/01(木) 21:05:12 ID:K/BZaUSw0
ぶらんぼー!ほしゅだよほしゅ!すとっぷ!のいず!
597代打名無し@実況は実況板で:2007/11/01(木) 21:24:03 ID:YrjFPwne0
保守
598 【末吉】 :2007/11/01(木) 22:34:24 ID:X3W06Iua0
サーパスと応援スレ落ちた
保守
599代打名無し@実況は実況板で:2007/11/01(木) 22:40:33 ID:3FIp4DOB0
巛彡彡ミミミミミ彡彡
  巛巛巛巛巛巛巛彡彡
  |:::::::          i  ホジホジ
  |::::::::     /' '\ |
  |:::::    -・=- , (-・=-        
  | (6    ⌒ ) ・ と'⌒^^ヽ、   
  | |    ┃ _ノョヨコョヽ   ヽ    
  ∧ |     ┃ ヽニニソ ト、   \ 
/\\ヽ   ┗━━┛ ノ`、/ ̄\ \___
/  \ \ヽ.   __ / \ |    ヽ
.    r‐-‐-‐/⌒ヽ-ーイ   `、     i
ヽ、  |_,|_,|_,h( ̄.ノヽ  ビシッ  ヽ    |
ー-ヽノ| `~`".`´ ´"⌒⌒)     ヽ  / 
ノ^ //人  入_ノ´~ ̄       )-'
600代打名無し@実況は実況板で:2007/11/02(金) 10:19:55 ID:b/voa6iY0
保守
601代打名無し@実況は実況板で:2007/11/02(金) 17:47:34 ID:xmpToV9o0
ハギーが解雇・・・
602代打名無し@実況は実況板で:2007/11/03(土) 23:36:43 ID:D7QPFpB80
ハギーガンガレ保守!
603代打名無し@実況は実況板で:2007/11/04(日) 01:56:39 ID:ww8QCjWB0
hosyu
604代打名無し@実況は実況板で:2007/11/04(日) 18:58:37 ID:JDbKwg+dO
保守
605代打名無し@実況は実況板で:2007/11/05(月) 23:21:17 ID:Ytv2+dDbO
ホシュシマース
606代打名無し@実況は実況板で:2007/11/06(火) 01:46:19 ID:iG4YC3d6O
>>605
デイビーさん乙です
607代打名無し@実況は実況板で:2007/11/06(火) 20:39:31 ID:5VdOxBGu0
いつも楽しみにしております。保守。
608代打名無し@実況は実況板で:2007/11/07(水) 18:16:19 ID:8hXR/hRj0
hosyu
609代打名無し@実況は実況板で:2007/11/07(水) 20:58:46 ID:ju0I7O270
ハギー、ヤクルトおめ☆
610代打名無し@実況は実況板で:2007/11/08(木) 16:40:34 ID:o1i0dQXm0
ほす
611代打名無し@実況は実況板で:2007/11/09(金) 01:24:10 ID:gf5eOH3eO
612代打名無し@実況は実況板で:2007/11/09(金) 01:48:23 ID:fBfKOcpv0
各球団のバトルロワイアルスレを見守るスレ11
http://ex20.2ch.net/test/read.cgi/base/1194538810/l50
613代打名無し@実況は実況板で:2007/11/09(金) 22:11:48 ID:FLul17SI0
ほし
614代打名無し@実況は実況板で:2007/11/10(土) 20:51:16 ID:PKszr6Jc0
615代打名無し@実況は実況板で:2007/11/11(日) 01:44:39 ID:zXJ6IbpP0
下から三番目なのでage
616代打名無し@実況は実況板で:2007/11/12(月) 01:03:08 ID:+ezXfY790
続きが読みたい保守
617代打名無し@実況は実況板で:2007/11/12(月) 04:05:42 ID:o3V83HpJO
続きがよみたいら〜
618代打名無し@実況は実況板で:2007/11/13(火) 03:34:42 ID:4xxgurwz0
【コナミカップ】キム監督「実力で負けたわけじゃない」、イ外野手「中日の先発程度は韓国に沢山いる」
http://news23.2ch.net/test/read.cgi/news/1194829083/
619代打名無し@実況は実況板で:2007/11/13(火) 23:29:24 ID:PzGpiCk+0
ほしゅ
620「167・惑う者 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/15(木) 00:14:40 ID:/bJgIUmE0
まるで追いかけっこのような2人組だった。
日高は田中から少しでも離れたくて道を急いだ。田中は日高にピタリとつき従う。日高の
知らない田中がそこにいて、不気味な余裕を見せながら追いかけてくるような感覚だった。
灯りもない夜道だったが、市街地に近づくにつれ、ご親切にポツリポツリと街灯が点って
いた。廃墟の街。捨てられた街。捨てられた理由を考える暇は無い。日高は競歩のような
速度で前へと急ぎ続けた。
「日高さん、何そんなに急いでるんですか?オーナーは追ってきたりしませんから」
笑いを含んだような口調がまた日高の焦りを募らせる。
(何かやったんだ。こいつはこの島に来て、何かをやったんだ。何かを知っているんだ。
だからオーナーもこいつを選んだんだ。俺はその道連れにされてるんだ)
市街地を通り抜け、そのまま小高い丘の麓へと向かう。その丘を少し登ったあたりに清原
がいるらしい。地図を見ながら手探りの状況だが文句は言えない。前へ進むのみ。立ち止
まったら得体の知れない田中が喰らいついてくる。
「日高さん、あの灯り、わかります?」
ふいに田中が日高の前へ駆け出し、一方を指差した。森というには木が少ないが、平地と
いうには木が多い。そんな微妙な場所にひと際大きな灯りが見えた。
「行ってみましょうよ」
楽しげに誘う。そして何を考えているのか田中が駆け出した。
「お、おい!誰かいるかも……」
「いたらいたでいいでしょう?少し休ませてもらいましょうよ。日高さんがずっとスゴイ
勢いで歩いてるから疲れちゃいましたよ」
まるでそこに行けば何があるのか知っているかのように、田中が率先して前へと進み続け
る。仕方なく日高も後に続いた。
「到着―」
珈琲のいい匂いのする建物だった。『Cafe Bs』と書かれた看板。そして細かい注意書き。
中立地帯。その言葉は日高にはとても魅力的なものだった。しかしこんなゲームを仕掛け
たオーナーのこと、ここにも何か罠があるのでは。そう考えても仕方がなかった。ニコニ
コしている田中とは正反対の表情をした日高は眉に皺を寄せ、注意書きの一文字一文字の
裏の意味を読むようにしてじっくりと見つめていた。
621「167・惑う者 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/15(木) 00:15:42 ID:/bJgIUmE0
「日高さん」
「待てよ」
「入りましょうよ」
「待てって。用心するに越したことはないだろ」
「清原さんの詳しい居場所、誰か知ってるかもしれない」
確かに田中の言うことは一理あった。自分達には漠然とした地図しか与えられていない。
清原はこの付近にいる。もっと詳しい情報が手に入れば移動も楽になる。
「……聞くだけだぞ。俺は長居はしたくない」
「俺もですよ。限られた滞在時間は有効に使わなきゃ」
カラン、と音を立てて田中がドアを開ける。明るい光と珈琲のさらなる香りが日高を迎え
た。そして予想外の声。
「いらっしゃーい」
いわゆる喫茶店。そのカウンターの向こうに相川がいた。反対側の席には見慣れた外人勢
が笑顔で手を振ったり、椅子に転がって眠っていたり。そして、ひとつの席でグッスリと
眠り込んでいるユウキの姿があった。
「ど、どういうことだ?」
うろたえる日高を尻目に、田中は何の躊躇いもなくカウンター席に座った。
「あ、相川、これはどういうことなんだ?」
日高の問いかけに相川はもう何度目になるかわからない説明を始めた。田中はカウンター
の上にあるグラニュー糖を勝手に掌の上に乗せて、ペロペロと舐めている。
少なくともここでは60分の間、身の危険を意識しないですむらしい。けれど日高はのんび
りする気など無かった。一刻も早くこの使命を終わらせて田中から離れたかった。そして
オーナーと話をして自分をここから助け出して欲しかった。
カウンター席に腰かける気持ちにもなれず、そこに立ち尽くしたまま扉付近に書かれてい
る注意書きに改めて目を通した。
「俺、大丈夫ですよね?」
笑顔を崩さず田中が相川に尋ねる。相川は田中の前に氷の入った水を置いた。
「ああ。日付が変わったから。………お前も変わったな」
「そうですかね。誰も気づかなかっただけじゃないのかな。俺自身も含めて」
「………かもな」
622「167・惑う者 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/15(木) 00:16:36 ID:/bJgIUmE0
相川が田中の為の新しい砂時計を置いた。
日高は何気なく店の隅にいる外人勢の方へと目をやった。
1人、巨体が立ち上がる。そのまま日高の元へと歩み寄る。そして、小さな60分砂時計を
見せると、近くの机の上に置いた。
「これで時間を計るのか」
「ソウ」
デイビーが呟く。そしてカウンターの相川たちに背を向けるようにして日高と並んだ。
ポケットから1枚の紙を取り出す。掌よりも小さな紙。それを日高に見せた。そこには決
して上手ではない平仮名で、こう書かれていた。
『 が ん ば れ 』
日高はうなずいた。デイビーの目を見て必死に何度もうなずいた。デイビーも日高を見下
ろして何度もうなずいた。そして、小さなボールペンを取り出し、そこに新たな文字を書
き加えた。
『 たなか こわい 』
小さく背後を指差す。間違いなく、カウンターに座っている田中を指し示しているのだ。
一瞬、日高の頭がジン、となった。やはり自分が感じていた不気味なものは本物だったの
だ。間違ってはいなかったのだ。田中は何かを起こしたのだ。それをデイビーは知ってい
るのだ。そして日高に逃げろと忠告しているのだ。
(逃げなきゃ!)
日高は強く思った。1人だけでいい。早く清原の元へと移動し、オーナーとの約束を守り、
命の保障をしてもらうのだ。今の自分たちは文字通り、首の皮一枚で繋がっているのだか
ら。1人でいる不安より、田中と一緒の不安の方が大きい。その感覚は間違ってはいなかっ
た。デイビーも励ましてくれている。さあ、もう一刻も早く逃げなければ!
カララン。ドアの開く音がした。新しい誰かが現れたのだ。
「いらっしゃーい」
慌てて相川が声で迎える。入ってきた人物の右手に、全員の目が集中した。
右手を真っ赤に染め、そのユニフォームも赤い何かで汚した平野佳寿がそこにいた。
鈍く光る日本刀を握り締めて。

【残り・23人?】
623「168・中と外 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/15(木) 00:17:48 ID:/bJgIUmE0
「こ、ここは中立地帯だぞ!」
慌てて相川が叫ぶ。店の奥でもガタンと何かが動く音がした。恐らく隠しカメラでここを
見つめている岸田が万が一に備えて戦闘の準備を始めたのだろう。
だが平野は小さく笑うと、軽く左手を上げた。
「わかってますよ、説明書き読みましたから」
数歩店内に歩き出す。ドアが自然の重さで閉まった。田中はカウンター席からじっと平野
を観察している。日高は自分のすぐそばにやってきた平野を驚きの表情で見つめた。
右手を染めているその赤は、一体何を意味しているのだろう。刀の鈍い光り方も、どこと
なく汚れているように思える。何故汚れたのか。何で汚れたのか。そして平野のユニフォ
ームにも、大小の赤い斑点が飛び散っている。良く見れば、顔も汚れているように思える。
顎がちょっと赤くなって腫れているようだ。鞄も妙に膨れている。
「あれ?日高さん」
平野が日高の顔を見て、少し驚いたような顔をした。
「日高さんならわかるかな……」
小首を傾げる。その様子は日高の知っている平野佳寿だ。手が血に染まっていようが、普
段の平野と変わらない素振りだった。
(佳寿の奴、ひょっとして誰かに勝負をかけられて仕方なく……正当防衛だったのか?)
日高が平野の顔を見る。
「日高さん、ちょっと見てもらえませんか?すぐそこなんです」
言いながら再びドアを開け、店の外へ出る。奇妙に思いながらも日高はその後に続いた。
「どうした?何かあったのか?」
瞬間、店から漏れる灯りに何かが反射した。そして日高の脇腹に激痛が走った。
「ぐっ!」
「やべ、逆袈裟懸け失敗。やっぱ難しいな」
日高は慌てて自分の脇腹を抑えた。痛い。鋭い痛みだ。目をこらすと、ユニフォームが切
れているのがわかった。そこがジンジンと痛む。
(斬られた!)
咄嗟に平野を見た。
「中立地帯だぞ!」
「店の中だけでしょう?ここは外」
624「168・中と外 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/15(木) 00:18:48 ID:/bJgIUmE0
釣られた。ようやく現状を把握した。平野に誘き出されたのだ。
(逃げなきゃ!)
そう思っても、平野は日高をじっと見据えている。少しでも動こうものなら、その方向へ
と刀が振り下ろされるのだろう。
(どうする?!)
考えている間も脇腹の痛みは増している。押さえている手にヌルリとした感触も、少しだ
けだが訪れ始めた。逃げればよかったのだ。デイビーに言われた時にすぐに。
(なんで俺はこうもトロいんだ)
ヘビとマングースのような睨み合いが続く。額に脂汗が滲んだ。
だがそれを破ったのは平野の無様な声だった。
ガンッという鈍い音がし、平野の体勢が前のめりに崩れた。「グエっ!」と呻きながら平野
が顔を伏せ、頭を両手で抱えた。
(今だ!)
日高は平野に背を向けると、一目散に闇の中へと走り出した。方向は決まっている。清原
がいると教えられたその場所だ。漠然とした場所でしかないが、今はこの危険から逃れる
のが先決だ。とにかくその方向へと走り出した。
「畜生!!」
一方の平野はもう殺し損ねた日高のことなど考えてはいなかった。勢いよく背後を振り向
く。そして両手で握り締めた刀を振り上げた。
ヌンチャクを手にした田中が笑っていた。
「ここ、中立地帯だから」
ハッとする。田中はドアの向こう、店の中にいる。平野だけが外にいる。
「俺に手を出したらヤバイんじゃないかな」
追い討ちをかけるように、田中がとぼけた声で喋る。平野は唇を噛み締めた。こちらから
手を出すことは出来ない。田中が両手に持っているものはヌンチャク。あまり便利ではな
さそうだ。今だって、それで平野の頭を殴る程度のことしか出来なかったのだ。長さもそ
れほどではない。ならば、この日本刀でも立ち合えるはずだ。恐れることなどない。
(現状を大きく変化させるようなことはない)
平野はそう判断した。もし銃などを持っているのなら、ついさっき平野を背中から撃てば
よかったのだ。だがそれをしなかった。つまり、飛び道具は持っていないのだ。
625「168・中と外 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/15(木) 00:19:57 ID:/bJgIUmE0
「………そうですね。でも、俺にも珈琲ぐらい飲ませて下さいよ。折角の中立地帯でしょ
う?60分だけ休みにきたんですから。怪我の手当てもしたいし」
平野が余裕ありげに答えると、田中も余裕を見せた。
「そうだな。それにお前、右手洗った方がいいぞ」
「ええ、ベタベタを通り越して、粉がパラパラし始めてるんですよ。肝心な時に刀を握り
損ねたら大変だ」
「だから日高さんをミスったってわけか?」
「ミスじゃないですよ。とにかく中に入りますから」
少し、イラついた。予想外に田中は言われるままにドアから数歩離れた。
「どうぞ。俺ももう次の仕事に移らないと。日高さん先に行っちゃうし」
ゆっくりと慎重に、けれどそんな様子を微塵も感じさせずに平野はドアへと歩き出した。
その間も決して田中からは目を逸らさなかった。一歩ずつ普通に歩くようなフリをして、
足場だけはしっかり確かめた。何があっても足を滑らせることなく移動出来るように。
だが、やけにあっけなく平野はドアに辿り着いた。中に入る。明るい光と珈琲の香りに再
び迎えられる。平野はすぐ近くにある席に腰を下ろした。途端に田中がドアに飛びついた。
「じゃ!俺行くから!決闘で俺を呼ぼうとしても無駄だぜ!」
捨てゼリフを残して外へと飛び出してゆく。平野が声をかける間も無く田中の姿は暗がり
に溶けていった。
(………田中さんなりの計算か?)
元気な平野と勝負するより、手負いの日高を負った方が、勝負は楽。
(油断出来ない相手ってことか)
平野の机に、静かに60分砂時計が置かれた。同時に冷たいタオル。差し出してくれたブラ
ンボーに軽く会釈をすると、平野は右手の汚れを拭き始めた。白いタオルが赤黒く汚れて
ゆく。闇の中ではこれほどはっきりと赤い色を確認出来なかった。今改めて見て、平野は
自分が人を殺したことを再確認した。
(これは、早川さんの血)
内臓に右手を突っ込んだ時の感触。グニャリとした弾力。生温かさ。断末魔の絶叫。
不思議なことに、平野はもう何の感傷も抱かなかった。
(そう、これでいい)
626「168・中と外 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/15(木) 00:21:23 ID:/bJgIUmE0

相川に注文を尋ねられ、エスプレッソを頼んだ。出てきた量が少ないのがやや不満だった
が、無料なのだから仕方ないと諦めた。そもそもエスプレッソがどういう種類なのかもわ
からない。とりあえず、今は温かい何かを腹の中に入れたかった。予想以上に苦かったの
で、砂糖とミルクをもらった。
エスプレッソを飲み、大きく息をひとつ吐いて、ようやく落ち着いた。
そして、初めてその人物が目に入った。
壁際。左手をダランと落として眠っている。微かに鼾が聞こえる。熟睡しているようだ。
(ユウキさん……全然気づかなかった)
周りを見る余裕もなかったのだろう。平常心にはまだまだ近づけないようだ。
声をかけてみようかと思った。けれど、ひとつのことに気づいた。
ユウキの砂時計はかなりの量の砂を積もらせていた。もう残りは3分の1を切っているか
もしれない。
(…………)
心の中で小さくほくそ笑んだ。荷物を持ち、立ち上がる。
「もう行くのか?」
相川の問いかけに、平野は素直にうなずいた。
「狩りは夜が向いてるもんでしょ?」
そしてユウキのテーブルに歩み寄る。
ユウキ専用の60分砂時計を摘み上げ、ヒョイとひっくり返すと再び机の上に戻した。
ここは中立地帯。直接的な攻撃をしてはいけない。
平野はただ、砂時計を逆さまにしただけだ。
ただそれだけのことだ。
ほんの些細なことだ。
だから、誰も何も言わなかった。
言いたくても言えなかった。
「じゃ、ご馳走様でした」
平野がゆっくりと店を出てゆく。
シンと静まり返った店の中、相川には砂時計の砂の落ちる音すら聞こえるような気がした。

【残り・23人?】
627 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/15(木) 00:22:39 ID:/bJgIUmE0
今回は以上です。
もうそろそろ仕事が落ち着きそうなので、
以前の投下速度に戻せるように頑張ります…
628代打名無し@実況は実況板で:2007/11/15(木) 01:18:39 ID:dJED0E3X0
お仕事乙です!待ってましたw

昆布逃げて逃げてー平野でかいのこええええええええええ!
629代打名無し@実況は実況板で:2007/11/15(木) 08:03:27 ID:MDp4XZmx0
投下乙です。
デイビーかわいいよデイビー。
ユウキ早く起きろ大変な事になるぞ。
630代打名無し@実況は実況板で:2007/11/15(木) 08:49:10 ID:yvRfwnXt0
続きキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
投下乙です!!待ってました!!
平野ぉおお(((( ゜Д゜))) 昆布頑張れ昆布
相川も大変だ・・・・
631代打名無し@実況は実況板で:2007/11/16(金) 00:15:28 ID:L9ohpARc0
投下乙です!待ってました!
佳寿も田中も怖すぎる…ユウキはどうなるのーーー
続きもかなり楽しみです!
お仕事頑張ってください。
632代打名無し@実況は実況板で:2007/11/16(金) 00:16:13 ID:L9ohpARc0
>>630さんとかぶってたw
633代打名無し@実況は実況板で:2007/11/16(金) 22:36:00 ID:k21hl9t70
おつかれさまですっ!!

平野L怖えぜ。
634代打名無し@実況は実況板で:2007/11/17(土) 04:05:05 ID:dSjCeTqtO
ほし
635代打名無し@実況は実況板で:2007/11/18(日) 01:22:18 ID:0pe3tFl8O
しゅ
636代打名無し@実況は実況板で:2007/11/18(日) 16:37:53 ID:oM8g4gZR0
続きwktk
637代打名無し@実況は実況板で:2007/11/19(月) 09:23:29 ID:Wi2NcQkG0
若手はやるきいっぱいだな捕手
638代打名無し@実況は実況板で:2007/11/19(月) 15:33:31 ID:DQGiTghSO
ほす
639代打名無し@実況は実況板で:2007/11/20(火) 19:14:24 ID:eNmegZd/0

うたふじ がんばれ ほしゅ
640代打名無し@実況は実況板で:2007/11/21(水) 18:03:40 ID:66xOdRR6O
641代打名無し@実況は実況板で:2007/11/22(木) 21:04:35 ID:ujDETl//0
hosyu
642「169・肉片と涙 1/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/22(木) 22:31:17 ID:zgoxuu8b0
無言のまま、川越と阿部の2人は暗い丘の下り坂を歩いていた。阿部は自分の体に奇妙な
ダルさを感じていた。きっと今回のトラップで闇雲に走り回ったせいなのだろう。この島
に来てからもう随分な時間がたっている。睡眠時間もあまり落ち着いて取れてはいない。
眠ったとしてもウトウトするだけで、途中で何度も目を覚ましている状態。体が限界を訴
えているのかもしれない。
一方川越は表情も変えずに黙々と夜道を歩いている。
(俺も川越さんみたいにプロテイン沢山取った方がいいのかな)
そんなことを考えつつ、事務的に両足を動かした。
目指すは『Cafe Bs』。水口と約束した場所だ。漠然とした方向しかわからない。市街地の
端、丘の麓にあると聞かされた。手掛かりはそれだけだが、合流出来る可能性があって一
番近いと思われるのはそこだ。途中でバイクの排気音のようなものも聞こえた。その方向
には間違いなく誰かがいるのだ。
敵ではない誰かと合流したい。そして作戦を練るのだ。
隣を歩く川越を見た。川越が言っていた不安。時折記憶が消えるという現象。それについ
ても考える時間が欲しい。さっき、一瞬だけ川越の変化の片鱗を見た気がした。あれは何
が起きたのか。何を起こそうというのか。それらを知りたかった。
もう道が下り坂になって随分たつ。木々の茂る遊歩道を黙々と歩いた。やがて、背の高い
木がまばらになり始める。視界の中に、微かな灯りがポツポツと見え始めた。
「………町の街灯が、点いてる?」
「これもオーナーのご配慮ですかね?」
「町の灯り点けるなら、山道にもつけて欲しいよな」
「まあそうですけど………なんかいい匂いしません?」
阿部が鼻をスンスン鳴らしながら匂いを嗅ぐ。川越もそれに倣うようにして匂いを調べた。
「ホントだ。なんかいい匂い」
「珈琲っぽいですよね、なんとなく」
「………カフェ?」
思わず2人は顔を見合わせた。ゴクリと阿部が唾を飲み込む。
「近いかも!」
643「169・肉片と涙 2/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/22(木) 22:32:04 ID:zgoxuu8b0
どちらともなく声が揃った。自然と足取りが軽くなった。疲れているはずなのに、目的地
が近いとわかると体が元気を取り戻す。きっとそこに水口がいるはずだ。軽やかになった
足取りは、やがて駆け足へと変わる。町の方へ。灯りの方へ。見える灯りを辿って走る。
そして風に乗って香る微かな珈琲の匂いが2人を導いた。
見えてきたのは灯りの漏れる窓。急いで作ったような手作り看板。
『Cafe Bs』
「あったああああああ!」
思わず阿部が飛び上がって叫んだ。
「水さああああああん!!」
「バカ!大声出すな!」
「す、すみません」
そんな会話も走りながら続く。真っ先にドアに飛びついたのも阿部だった。
「水さん!!」
喜びに満ちた声でドアを開けた。
阿部の視界に飛び込んできたのは驚いて大きく目を見開いた相川だった。
「あ、相川?!」
「あ、阿部さん?!………いらっしゃいませ」
「なんでお前がこんなトコに……って、ブランボー?!おいおい、外人組までなんでここ
にいるんだよ?!水さん来てるか?水さん!」
「水さんが来たのは随分前ですよ。今はいません」
「え…………じゃあ、まだ来てないのか………」
急に不安が押し寄せる。あの時、水口は悲鳴を上げた。そして阿部に逃げろと言った。こ
こで落ち合おうと声だけで約束して別れた。まだキチンと顔を合わせてはいないのだ。川
越は水口に会っている。肩を怪我していると言った。では、怪我を考えた上で動いていな
いのだろうか。それほど重症なのだろうか。それともただ単に、夜の行動を控えているだ
けだろうか。
(急いで損した、かな)
「阿部さん、1人ですか?」
相川が冷えた水の入ったコップを差し出す。阿部はそれを受け取りながらキョロキョロを
首を振った。
644「169・肉片と涙 3/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/22(木) 22:32:47 ID:zgoxuu8b0
「川越さん!何してんですか」
「いや、説明書きを……」
川越はまだドアの向こうで何かを読んでいるようだった。そういえば、ドアのすぐそばに
何かが細かく書かれていたような気がする。ようやく川越が中に入ってきた。
「カワゴエ!」
デイビーが川越に駆け寄る。そのまま正面から抱きしめると軽々と持ち上げた。
「デイビー?!どうして?」
「ヨカッタ、ゲンキ、ヨカッタ」
その脇でブランボーが2個の砂時計をすぐそばのテーブルに置いた。
「阿部さん、入り口の説明書き読まなかったんですか?」
腰に手をあてて呆れ顔な相川が尋ねる。阿部は力強くうなずいた。
「ここに水さんがいると思って必死だったから」
「ちゃんと読んで下さいよ。ここのルール、いろいろあるんですから」
改めて相川は中立地帯のルールを話し始めた。もう何度も繰り返し話した内容は、すっか
り暗記出来ている。話を聞きながらようやく事態を飲み込めた阿部の顔が真剣なものに変
わっていった。
「ユウキ」
川越の声に振り返る。店内の壁際でぐっすり眠っている人物がいた。ユウキだ。川越がユ
ウキを起こそうとしていた。
「川越さん、起こしたら可哀相じゃあ……」
「でも寝過ごしたらヤバイだろ?60分ルールじゃ」
「残り時間は………なんだ、結構あるか」
阿部も歩み寄り、ユウキの砂時計を覗き込んだ。
「30分以上残ってるみたいですね」
「出来るだけ情報交換しておきたいんだ。この後一緒に行動してもいいわけだし」
「こんなにのんびり寝てるようじゃ、敵って感じはしないですよねえ。ユーウーキー」
言いながら阿部が、息が出来ないくらいしっかりとユウキの鼻をつまむ。それでもユウキ
は目を覚まさない。
「このやろ、根性あるな。ユウキー、起きろー、田中―」
続いて片方の耳たぶを摘んで引っ張る。ようやくユウキの瞼がピクリと動いた。
645「169・肉片と涙 4/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/22(木) 22:33:41 ID:zgoxuu8b0
「おい、起きろユウキ」
阿部が容赦無く揺する。ユウキは小さく口の中で何事かを呟くと、うっすらと目を開けた。
ぼんやりと阿部の顔を見、数回瞬きをして、バチッと目を覚ました。
「阿部さん?!」
「おう!川越さんもいるぞ!無事だったか!」
阿部が満面の笑みを浮かべてユウキの頭を撫でる。ユウキは少しだけ口元をピクリと引き
攣らせたが、すぐに笑みを返した。
「阿部さんも、川越さんも無事だったんですね」
言いながら自分の砂時計を見る。まだ半分以上残っている。続いて左手首の腕時計を見た。
「あちゃ!やっぱり壊れてたか」
「どうした?」
「いえ、ここに入った時に時計の針が外れちゃったんですよ。応急処置したつもりだった
んですけど、やっぱり付け焼刃は無理だったみたいで。砂時計あって良かったー」
「その上俺たちにも会えたんだぞ、この幸せ者が」
阿部が大袈裟に胸を張ってみせる。隣で川越が笑った。そして力づけるように言った。
「ユウキ、一緒にこの島から逃げ出すんだ」
途端にユウキの表情が真剣そのものに変わる。
「方法があるんですか?!」
身を乗り出さんばかりの迫力に、思わず川越は体を仰け反らせた。
「い、いや、まだわからないけど、何人かで集まればきっと方法は見つかると思うんだ」
あからさまにガッカリした表情で、ユウキは再び椅子に身を落ち着けた。
ぬるい。ぬる過ぎる。考えていることが適当すぎる。確かに自分を励ます為に適当なこと
を考えるのもいいだろう。だがもうそんな時間はとっくに過ぎ去っている。残り時間は少
ない。だからこそユウキは早々に覚悟を決めて、出発直後に手を血に染めたのだ。
そして、吉井がいなくなった今、ユウキは完全に楽観的な考え方を失った。
あの吉井が倒れたのだ。もうユウキにすがれる者はいないのだ。
だから、己の生存は己の力で確保しなければならない。
とうの昔に戦うことを決めた自分だ。何の迷いもない。
後藤を仕留め損ねたのは残念だった。そう言えば平野恵一は大丈夫だろうか。
(………恵一のラッキーカードで釣ってみるか)
646「169・肉片と涙 5/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/22(木) 22:34:32 ID:zgoxuu8b0
もし運良く研究所に辿り着き、ラッキーカードを使ったとする。けれど何が起こるのかは
全くわからない。その為には阿部と川越を一緒に連れて行き、石橋を叩く役目をさせるの
もいいだろう。渡るべき橋が安全だとわかった時点でユウキが全てを掠め取ればいいのだ。
静かに視線を上げ、やや不安そうな表情を作って、ユウキは阿部を見上げた。川越を見る
とどうも調子が狂いそうなので、あまり目を合わせないようにした。
「恵一……平野恵一、会ってませんか?」
「恵一がどうかしたのか?」
阿部がすぐに食いつく。
「恵一、ラッキーカードを持ってるんです」
「ラッキーカード?」
阿部と川越が声を揃えて尋ねた。マヌケで仲良しな2人だ。マヌケな2人はそれぞれ椅子
を用意し、ユウキの正面に座った。
「恵一の支給されたものがラッキーカードなんです。でも内容は何も書いてなくて、ただ
この島の南にある研究所へ行けってしか書いてないんです。だから2人で行こうとしたん
ですけど、ちょっとはぐれちゃって……あいつ、怪我もまだ完全じゃないし」
ゆっくりと阿部が顎に手を当てて考える仕草をする。
「ラッキーカードって何だろ」
「それがわかれば苦労はしません」
「とりあえず、恵一を保護するのが先決みたいだな」
川越が呟くと、それに対抗するように阿部が続けた。
「その前に水さんと合流しないと」
「そうだ、水さんだ。やっぱりあの家にまだいるんだと思うよ」
「ですよね……ここにいないとなると、やっぱり夜道とか、怪我の状態を気にして動けな
いのかもしれない……川越さん、案内して下さい」
「ああ。そうしたらガブも塩崎もいる。人数増えて頼もしくなるぞ」
そうか、ユウキは理解した。川越が楽観的に見えるのは、仲間の頭数を計算出来ているか
らだ。すでに戦わない約束をした仲間なのだろう。
(……やっぱ甘いよ、川越さん。俺が引き剥がしてやってもいいんだぜ?)
すんなり水口たちと合流して一網打尽に消してしまうか。それともこのまま阿部と川越を
研究所の方へと理由をつけて無理矢理引っ張って、水口たちと離れさせるか。
647「169・肉片と涙 6/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/22(木) 22:35:49 ID:zgoxuu8b0
(どっちの方が面白いかな)
心の中でニヤリと笑ったその刹那、バンッ!という爆発音と共に、ユウキは瞬間の激痛を
喉元に感じた。だがすぐに意識が消えた為、苦しみと驚きが一瞬で終わったのはユウキに
とって不幸中の、最後の幸いだった。
突然のことに大きく目を見開いたまま、ユウキの喉から飛び出した赤、ピンク色の液体や
柔らかい何かが容赦なく阿部と川越に叩きつけられた。
「うわああああああああああああっ!!」
絶叫した阿部が椅子からもんどりうって落ちる。川越は驚きのあまり体が動かないようで、
椅子に座った視線のまま少し身を引いただけで凍りついていた。
最初にデイビーがものすごい形相で駆け寄った。目を閉じることが出来ない川越の頭を抱
え、その視界を塞いだ。続いてガルシアが駆けつけ、阿部のすぐ横にしゃがみこむ。
「ダイジョブ、カワゴエ、ダイジョブ……don't worry……OK……」
デイビーが何度も呟く。そしてガルシアに手で合図をした。椅子から崩れ落ちかけている
ユウキの体を隠せと訴えていた。
「あ、阿部さん」
相川が水の入ったコップを持って歩み寄る。当然、ユウキから目を逸らしながら。
差し出されたコップを、阿部は力の限りで振り払った。グラスは床に叩きつけられ、派手
な音を立てて光の粒を撒き散らしながら割れた。
「もういやだあっ!!」
阿部が怒鳴った。
「もういやだこんなのはいやだやってられるか!俺たちは人間だぞ物じゃないんだぞ!な
のになんでこんな簡単に死ぬんだよ傷つけられるんだよ!俺たちが何したってんだよ!た
だの野球選手だよ!そりゃあ多少は世間一般の人とは違うよ給料も高いよ!でも将来の保
証だって無いんだぞ!だから頑張って練習して野球やってんだぞ!なのにどうしてこんな
島に閉じ込められて殺し合いさせられてんだよ!俺は誰も殺してないぞ!殺そうとも思っ
てないぞ!なのにどうして死んでくんだよ!もういやだ絶対嫌だ俺はいやだ!!ふざけん
な畜生!!誰か助けてくれよ!!」
喉元から振り絞るような叫び。これまでずっと冷静な判断を守ってきた阿部が、とうとう
壊れたように弱音を吐き出した。叫び終わっても、肩で荒々しい呼吸を続けた。
648「169・肉片と涙 7/7」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/22(木) 22:36:50 ID:zgoxuu8b0
「…………どうしてだよ…………」
力無く、阿部が呟く。
「………中立地帯なのに………なんでユウキが………」
「砂時計です」
新しいコップを持った相川が、静かに再び阿部に水を差し出す。今度こそ阿部はコップを
受け取った。そして一気にその水を飲み干した。
「ユウキさんの砂時計、本当はもう残り3分の1を切ってました。でも、ユウキさんが寝
てる間に誰かが砂時計をひっくり返して置いたんです。だからまだ時間があるように思え
てしまった」
「………誰がやったんだ?」
阿部が横目で睨みつけるようにして相川を見据える。
「それは………言えません」
「中立地帯だからか」
「…………すみません」
「…………仕方ねえか。お前だってルール違反をしたら、ユウキみたいな運命か」
相川が俯く。阿部もガックリと肩の力を落とした。
「…………水さんと合流して、恵一見つけて研究所。これが俺らのルートか」
阿部はただ、ぼんやりと床を見つめていた。
「…………少しだけ、泣かせてくれな」
誰に告げるともなく呟いた。
「…………ユウキだってよ、同じ近鉄のユニフォーム着て頑張った仲間なんだよ」
途端に阿部がボロボロと涙を零し始めた。
「…………どこで…………誰が…………何を…………間違ったんだろうな…………」
両腕で頭を抱き、床に突っ伏す。泣き崩れた阿部の頬には、まだピンク色の肉片がくっつ
いていた。
「……………畜生!…………死にたくねぇよ………!!」

【×ユウキ 残り22人?】
649 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/22(木) 22:37:25 ID:zgoxuu8b0
今回は以上です。
650代打名無し@実況は実況板で:2007/11/22(木) 23:08:53 ID:v/nDgzjx0
投下乙!
久々に死者が……ユウキいいいいいいい!!
前の話でのあれが案の定死に直結したか…
阿部ちゃんの長台詞が切ない……
651代打名無し@実況は実況板で:2007/11/23(金) 02:47:18 ID:c4ZP6VdlO
投下乙です!
ユウキの思惑も知らぬ、阿部真のいい奴っぷりに泣けました。
続きwktk
相川もガンガレー!
652代打名無し@実況は実況板で:2007/11/23(金) 05:45:25 ID:1iao097AO
職人さん本当に乙です
デイビー優しいよデイビー
653代打名無し@実況は実況板で:2007/11/23(金) 10:00:36 ID:MNrcVjky0
投下乙です。
ユウキ悲しいよユウキ。
阿部ちゃんの叫びが切ない。

654代打名無し@実況は実況板で:2007/11/24(土) 00:39:24 ID:9voY8Dj6O
乙です。
阿部ちゃんガンガレ!諦めるなよー!
655代打名無し@実況は実況板で:2007/11/24(土) 00:41:07 ID:BaFqZBizO
あべちゃんがエイエイとゴッツに会えますよーに
656代打名無し@実況は実況板で:2007/11/24(土) 00:59:02 ID:M0l4xhe+0
砂時計ひっくり返したら時間普通に伸びると思って
平野やさしいな(*´∀`*)とか思った自分甘すぎwwwworz
657代打名無し@実況は実況板で:2007/11/24(土) 01:08:53 ID:BaFqZBizO
>>656
文章から平野の冷酷さと周りの相川たちの
雰囲気が分からなかったのか?
おまいさんのほほんとしすぎw
658代打名無し@実況は実況板で:2007/11/25(日) 00:15:37 ID:iIovXQJxO
保守
659代打名無し@実況は実況板で:2007/11/25(日) 00:31:29 ID:5tu7rMBO0
タイトルからいやな予感はしてたけど
ユウキ・・・


660代打名無し@実況は実況板で:2007/11/25(日) 10:35:23 ID:x0+t5c8g0
保守
661代打名無し@実況は実況板で:2007/11/26(月) 01:35:35 ID:V7JlCQy/O
川越さん応援保守
662代打名無し@実況は実況板で:2007/11/26(月) 15:46:55 ID:A3BruJEGO
保守
663代打名無し@実況は実況板で:2007/11/27(火) 08:12:56 ID:KGJ7i/S90
平野(小)がトレード・・・
664代打名無し@実況は実況板で:2007/11/27(火) 21:12:40 ID:1neNIVmV0

                                                                      、._.,
665代打名無し@実況は実況板で:2007/11/28(水) 00:10:00 ID:C3lA+x8yO
浜中
666代打名無し@実況は実況板で:2007/11/29(木) 01:10:09 ID:pcyivLLIO
667「170・生きるための役割 1/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/29(木) 23:03:30 ID:PdkMsZfQ0
ガタン。
壁に何かがぶつかったような音を聞き、北川の上半身に力が入った。
順番に眠り、今は北川が朝の6時まで起きている番だった。光原と下山は北川と交代で眠
りについた。高木を起こすのは可哀相だと意見が一致し、北川1人での見張り番だった。
カタタン。
また何かがぶつかった。北川はそっと立ち上がると、まずは下山に歩み寄った。軽く肩を
叩く。ビクンと体を震わせて、普段は寝起きの悪い下山がすぐに目を覚ました。
「な、何かあったんですか?」
小声で尋ねてくる。北川は小さくうなずいた。
「何かが壁にぶつかってるんや。さっきから2回。俺、ちょっと外に出て調べるから、念
の為起きとってもらえるか」
「俺も行きますよ」
「いや、お前はミツと高木の面倒を頼む。もしもの時は2人を起こしたってくれ」
ガタン。
また音がした。明らかにそれなりの重さのあるものがぶつかっている。しかもさっきとは
音の場所が微妙にズレている。音は動いているのだ。着実にドアのある方へと。
「頼む」
呟くと北川は出口の方へと歩を進めた。懐中電灯の灯りを点け、タオルで光源を包み込む。
弱くなった灯りを背中に隠し持ち、薄くドアを開けた。目の前には夜の闇。しばらくその
闇を見つめて目を馴らした。
ドン。
近くでまた音がする。北川が唾を飲む。静かにドアを押す。体スレスレまでの幅にして、
そっと顔を出し左右を見渡した。
数メートル先、何かが壁の下にうずくまっていた。うずくまる、というよりももたれかか
るようにして崩れ落ちていた。物ではない。何か生き物の大きさだ。人か、獣か。
「………う………」
小さく呻く声がした。人だ。
「…………ぐ…………うぅ……っ…………」
苦しんでいる声だとわかった。体を縮めて、苦しんでいる。
668「170・生きるための役割 2/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/29(木) 23:04:46 ID:PdkMsZfQ0
北川はそっとドアの外に出た。静かに扉を閉める。中に残した3人に出来るだけ影響が出
ないようにドアから少しだけ離れた。4人で武器を分けた時に選んで手にした殺虫剤を握り、
そっと声をかけた。
「………誰や?」
ガツン、と音がしてまた呻き声が聞こえた。どうやら驚いて頭を壁に打ちつけたらしい。
「大丈夫か?俺や、北川や。誰や?」
「…………ペーさ…………」
「そうや!誰や!」
思わず歩み寄った。そして懐中電灯で相手を照らした。小さく丸めた背番号44が見えた。
「鈴木!」
そのユニフォームは血だらけだった。北川はすぐそばにしゃがみこむと顔を覗き込んだ。
「うわっ」
思わず声が出てしまうほど、鈴木の端正な顔は傷ついていた。ろくな治療も出来なかった
のだろう。血はこびりつき、赤く腫れている部分もあった。しかし何よりも目を引いたの
は腹部の異様なほどの出血だった。何かがそこから生えている。赤く染まった何かがあっ
た。北川は出来るだけ見ないようにして、鈴木の肩を支えた。
「こっち来い!中入れ!治療する道具は無いけど、水で顔洗うくらいは出来る!」
傷ついたその体を引き上げると、また鈴木が小さく呻いた。かなり傷ついている。もう1
人で立つ力すら無いのかもしれない。北川の耳元で鈴木の荒い息遣いが聞こえた。ぜーぜ
ーと喉が鳴っている。不規則なそのリズムが明らかな心身の異常を伝えていた。
(瀕死の重傷か?間に合わんか?誰にやられた?!)
鈴木を引き摺るようにして壁沿いに歩き、ドアを開けた。
「シモ!鈴木や!大怪我しとる!手当ての準備や!水とタオル!」
「は、はい!」
下山がバタバタと音を立てて鞄を引っ掴む。白旗組の旗から1枚のタオルを外し、自分の
鞄から水を取り出した。北川も殺虫剤を床に置いた。
「鈴木、ここ、座れ」
北川が鈴木の体を床に下ろそうとしたその時、視界にキラリと光るものが見えた。
(えっ?)
そう思った瞬間、左足に鋭い痛みが走った。
669「170・生きるための役割 3/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/29(木) 23:05:35 ID:PdkMsZfQ0
「ぐっ!」
慌てて北川が鈴木を突き放すようにして離れて、床にしゃがみ込む。鈴木は上半身を屈め
たまま、腹部の辺りに置いた両手で何かを握っていた。下山が咄嗟に鈴木に懐中電灯を向
けた。その眩しさに鈴木の体が横を向く。キラリと光る短い物。ナイフのような物が見て
取れた。
「てめえっ!!」
下山が鈴木に飛びかかる。途端に反撃をするように、鈴木が尋常ではない暴れ方でナイフ
を振り回し始めた。下山も咄嗟に白旗の棒を手にしようと動いた。すると恐ろしい形相で
鈴木が突っ込んでくる。慌てて置かれている机の向こう側へと身を逃がした。懐中電灯と
いうスポットライトの中、白と赤、紺のまだら模様が踊るように暴れ狂うその光景は異常
すぎてどこか滑稽だった。しかし鬼気迫るその表情は正面に立つ下山の体を凍りつかせり
には充分だった。狂った人間は全てが滑稽で、全てが真剣で、自分の世界で他人の世界を
侵食しようとする。その迫力に下山は明らかに飲み込まれていた。
「ミツ!高木!起きろ!」
北川は痛む左の太ももを押さえながら必死で叫んだ。あれだけ傷ついた鈴木のどこからこ
んなに動く力が出るのか。鈴木には出会った選手全てが敵に見えるのか。精神を狂わせる
ほどの恐怖を体験したのだろうか。だとしたらそれは一体どのような体験だったのだろう。
そんなことを考えながら北川は、今自分が精神を狂わせるほどの恐怖と向かい合わせだと
いうことに気づいた。
(………嶋村)
祈りの言葉を呟く。彼は祈りの象徴だ。北川の心の中の、決してブレない軸だった。
背後から鈴木の足を抑え込もうとタイミングを計るが、まるで千鳥足のように鈴木の立ち
位置が落ち着かない。北川も怪我のせいで思ったように動けない。額に脂汗が滲んだ。
起き上がった光原が異様な状況に驚いて、高木を叩き起こしている。今は高木のことは光
原に任せるしかないだろう。北川と下山の2人で鈴木をどうにかしなければならない。
(嶋村。3人を守ったってくれ。俺はどうなってもかまわん。もう何度も言ってるな?)
心の中で呟く。
(嶋村、すまん。俺、3人を助ける為に戦う。戦わないって約束したったけど、他の奴ら助
ける為なら、お前も許してくれるか?)
670「170・生きるための役割 4/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/29(木) 23:06:37 ID:PdkMsZfQ0
「道連れだぁぁぁぁぁぁっ!!!」
喉の奥から搾り出したような鈴木の絶叫が室内に響いた。ナイフを振り上げて下山へと突
進する。これだけの大怪我を負いながら、まだそんな力があること自体が不思議なくらい
の迫力だった。最早鈴木は手負いの獣だった。
「シモさん!!」
光原が絶叫する。高木が泣きはらした目を擦りながら、ようやく身を起こした。
「シモぉっ!!」
叫びと同時に北川が前方へとヘッドスライディングする。そのまま鈴木の両足に喰らいつ
いた。
「うあっ!」
足を抑え込まれ、鈴木が重心を崩して前のめりに倒れる。そこへ下山が飛びついた。
「離せぇっ!!」
また鈴木が暴れる。滅茶苦茶に振り回されるナイフの動きが読めず、下山は必死にそれを
避けながら、なんとか右腕に抱きつくようにして抑え込んだ。
「離せっ!!畜生!お前らも道連れだ!みんな死ぬんだ!!」
声を掠らせながら鈴木が叫び続ける。
「落ち着け鈴木!」
「手当てしたら大丈夫や!みんなで助かる方法探すんや!」
「うるせえっ!」
鈴木が必死に上半身を起こす。右手にぶらさがっている下山を剥がそうともがくがままな
らない。口から泡を吹きながら鈴木が暴れ続ける。白い唾と赤い雫が一緒に散った。
「ペ、ペーさん!」
光原は白旗の竿を握り、頭の中が真っ白になっていた。
ふと、光原の横をゆっくりした動きで動くものがあった。
「高木?!」
高木はゆっくりと鈴木に近づいてゆく。足にしがみついた北川は床に伏した状態。下山は
右腕にしがみついた状態。共に高木の行動を気にする余裕は無かった。
瞬間、鈴木がナイフを持っている手の手首を返した。そこには下山の左肩があった。グッ
という感触、同時に下山の悲鳴が上がった。
671「170・生きるための役割 5/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/29(木) 23:07:33 ID:PdkMsZfQ0
「シモ?!」
「畜生っ!……っ痛……負けねえぞこの野郎!!生きたいのはみんな一緒だ!!」
よりしっかりと鈴木の右腕を拘束する。
「邪魔だぁっ!!死ねえぇぇぇぇぇっ!!」
絶叫と同時に鈴木が顔を上げた。
そこに、高木がいた。
コツン、と鈴木の額に何かが当たった。
バン!という破裂音。反動で鈴木の頭部が後ろへと弾かれる。ガクリと鈴木の首の力が抜
け、続いて全身から力が抜けた。硝煙の匂い。耳に鳴り続ける残響。ゆっくりと下山が体
の力を抜く。ズルリと鈴木の体が崩れ、うつ伏せに倒れた。ゴツンと鈴木の腹部辺りで何
か硬いものが床に当たる音がした。
北川は起き上がり、その光景を見た。
高木が左手に銃を握ったまま、立ち尽くしていた。
銃口からは白い煙が微かに上がっている。
全員、何も言えなかった。
「…………はは…………」
小さな音が、高木の口から漏れた。
「………あはは………」
続いて言葉のようになった。
「あはははははははは!はははははは!あはははははははははは!」
狂ったような笑い声になった。ただ、その音は狂気を含んでいた。決していつもの高木の
笑い声ではなかった。
「1人殺してるんだから、2人殺しても同じじゃないですか!誰かがやらなきゃいけないじ
ゃないですか!じゃなきゃみんな死んじゃうじゃないですか!だったら俺が最適じゃない
ですか!あははははははははははははは!!」
笑い声は続いた。
「あはははははははは!はははははははははははは!」
やがて、高木の表情が歪んだ。唇が震え始めた。
「あははははは!ははは!………はは!……は……ははははは…………」
その目元から、大粒の涙が零れた。
672「170・生きるための役割 6/6」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/29(木) 23:08:44 ID:PdkMsZfQ0
「高木っ!!」
光原が高木にしがみつく。まるで母親が泣いている子供を抱きしめるように、光原は高木
を抱きしめた。光原自身も泣いていた。ゴトン、と高木の左手から銃が落ちる。
「…………っ!!」
高木のくぐもった声が聞こえた。そして肩を震わせ、しゃくりあげる音が。
「高木っ!」
続いて北川も下山も高木を抱きしめた。4人はスクラムを組むような状態でしがみつきあっ
た。互いの無事を確認し、傷ついた者を悲しみ、高木の選んだ道を少しでも慰める為に。

鈴木は頭部と腹部から流れ出す血の海に浸かっていた。
あの時、ジェイソンを威嚇する為に使った銃が今夜、ジェイソンの命を奪った。

【×鈴木郁洋 残り・21人?】
673 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/11/29(木) 23:09:42 ID:PdkMsZfQ0
今回は以上です。
674代打名無し@実況は実況板で:2007/11/30(金) 00:02:40 ID:uKa3VEq7O
職人さん乙です!
みんなの悲しみ、やり切れなさが伝わってくる…
675代打名無し@実況は実況板で:2007/11/30(金) 01:13:28 ID:5C2mR9zP0
投下乙です!
そうか、高木前に一度ジェイソンに襲われたことあったんだよな…
これからどう展開していくのか気になる…
676代打名無し@実況は実況板で:2007/11/30(金) 05:05:42 ID:f8fx21QN0
職人様の作品キター!!!!
研究所のことなど気になることが多いだけに
順調に話しが進んでいるのはとても嬉しい!!
それにしても高木カワイソース・・・・皆で精一杯慰めてあげてくれよ・・・・
677代打名無し@実況は実況板で:2007/11/30(金) 09:57:14 ID:wfGVf3Wz0
投下乙です!!
って、高木ぃぃいい!!
みんな怪我したり心に傷負ったり・・・一応まだ無傷なWカトウ組は大丈夫かな?
678代打名無し@実況は実況板で:2007/11/30(金) 21:34:39 ID:9rz4oIc+0
投下乙です。
高木そんなに自暴自棄になるなよ。
とにかく頑張れ!!
それしか言えない・・・
679代打名無し@実況は実況板で:2007/12/01(土) 22:22:01 ID:20aztniO0

うわ 今日 高木のトークショー見てきたから生々しいわ
680代打名無し@実況は実況板で:2007/12/03(月) 00:31:02 ID:SpqEaAwy0
ほしゅ
681代打名無し@実況は実況板で:2007/12/03(月) 19:10:50 ID:rtv55AMQ0
投下ペースが早くなって嬉しいです。
今後の展開も楽しみ過ぎる!
682代打名無し@実況は実況板で:2007/12/03(月) 22:42:52 ID:o0LIKa7a0
移転捕手
683代打名無し@実況は実況板で:2007/12/04(火) 00:18:06 ID:MivGJjVI0
ホシュシマース
684代打名無し@実況は実況板で:2007/12/04(火) 22:39:33 ID:YEerS7jL0
保守
685代打名無し@実況は実況板で:2007/12/06(木) 01:08:27 ID:PEB1nOe9O
wktk保守
686代打名無し@実況は実況板で:2007/12/06(木) 20:41:40 ID:0jt38shB0
捕手でもするかの
687《OUTSIDE・6》 1/2:2007/12/07(金) 00:17:30 ID:Acmd+ICk0
中村監督はじっとパソコン画面を見つめていた。
生死の判定をつけかねている清原の数字「5」の周りを、フラフラと「27」が動き回ってい
る。闇の中ではどうやらうまく清原を見つけることが出来ないでいるらしい。それとも気
が動転してまともに動けないのだろうか。ついさっき盗聴していた会話から、日高の身に
何かが起こったことはわかる。それが何なのかはハッキリしない。
それでも清原のそばまで来たのは大したものだ。片手に地図と方位磁針、もう片方の手に
懐中電灯を持って走り続けたのだろう。
宮内オーナーは仮眠を取っている。この簡易司令室では今、中村が1人でいくつものパソ
コン画面を見渡している。
(オーナーはどこまで本気なんだ?)
今さらの自問自答。ここまで何人の選手が死んだのか。チームを生まれ変わらせる為。オ
ーナー自身の娯楽の為。いくつもの理由が重なって、この狂ったゲームが始まった。
窓の外を見た。徐々に辺りが明るくなり始めている。
まだ夜の闇が続くようなら日高を清原の元へと誘導しようかと思っていた。だが少しずつ
明るくなってきているなら、その必要もないだろうとも思っていた。しかし日高の行動を
見ると、あまりに不安定だ。田中ともはぐれている。やはり誘導した方が無難だろう。オ
ーナーも一刻も早く清原の生死を知りたがっている。
688《OUTSIDE・6》 2/2:2007/12/07(金) 00:18:32 ID:Acmd+ICk0
次の放送、午前6時の放送で、このゲームはまた違う姿を現す。
(多分、これが最後のトラップになるだろう)
この時期に、この島を舞台に選んだのは、このトラップの為。
(下手をしたら、全滅だ)
選手が誰1人として生き残らない結果も覚悟している。
全てはオリックスグループが残した罪の為。
その罪をこのゲームは消し去ってくれるだろうか。
オリックスグループ上部はコネクションを使って政治家を取り込み、過去の罪を闇に葬ろ
うとしている。だがそれだけでは不十分だ。
もっと確実な理由が必要なのだ。
世間に知られてはいけないような、もっと大きな理由が。
オリックス・バファローズの選手が殺し合い、全滅。
これこそ闇に葬るには充分過ぎる理由。
野球界にも関わる理由があるからこそ、あのプロ野球界のドンも手伝ってくれるだろう。
年老いてヨボヨボになったくせに、一線を退いたと言いながらもいまだに闇で野球界を操
っている老人。政治にまで影響を及ぼしている老害。
(………言いすぎ、か)
心の中で自分を諌める。
自分もあの老人の恩恵をどこかで受けて、ここまで来ているのだ。
窓の外を見た。静かな海の彼方、水平線に眩しい光が昇り始めている。
真っ黒だった世界が、赤、オレンジ、濃紺、青、紫、黄色、不思議な色に満ち始める。
その神秘的な光景があまりに圧倒的で、中村は目を逸らした。近くのパソコン画面に集中
する。少しずつだが、日高が清原に近づきつつある。そろそろ連絡を取ってみる頃か。
緩めてあるネクタイを外し、机の上に置いた。
1台のパソコン。そこにはとある場所に建っている風車がゲームの開始時点からずっと映し
出されている。
(………風車が回り始めたら)
それが、新しいゲームの合図。
689「171・迸るもの 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/07(金) 00:19:28 ID:Acmd+ICk0
思っていたより、傷は深くはないらしい。
日高は必死に木々の間を彷徨っていた。
平野佳寿に斬りつけられた時はその驚きと鋭い痛みに気が動転したが、しばらくすると痛
みもある程度のものだとわかった。痛いことには変わりはないが、激痛というほどでもな
い。走ると響くが、歩き続けることは出来る。
後ろから平野が追ってくるかもしれない。そんな恐怖と戦いながら、日高は清原を探して
歩いていた。オーナーとの約束を破ったらどんな目に遭うのかわからない。この首輪があ
る限り、オーナーに逆らうことは出来ない。ある種の諦めが日高を動かしていた。
少しずつ、木々の間から白い光が差し込み始める。初夏の太陽は鮮やかな色彩を連れて、
この島を覆い始めていた。
目的地には清原。
背後には平野。そして田中。
どちらに向かうのも勇気がいる。今の日高に関わっている人物全てが戦う意志を表明して
いる。最悪の状況だ。
(今はとにかく清原さんを確認して、オーナーに報告するんだ。清原さんに会わなくたっ
ていいんだ。何かの影から隠れて見ればいい。会わない方法もあるんだ)
何度も自分に言い聞かせる。もう懐中電灯は鞄の中にしまった。
(どっちだ?どっちの方向だ?)
さっきからずっと同じような風景の中を歩き続けている。確かに地図で確認しているはず
なのに、人影はどこにも見えない。それとも清原はどこか建物の中にいるのだろうか。そ
んな建物すらも見当たらないのだが。
ふと立ち止まり、自分の足元を見た。腹部が目に入る。脇腹の一部分が赤く染まっている。
その生々しい色に慌てて日高は顔を上げた。
(見るな!見ちゃ駄目だ!また痛くなる!)
前だけを見て、日高は再び歩きだした。
『日高くん』
突然首輪から声がした。オーナーではない。中村監督の声だ。
「は、はい」
不審そうに返事をする。
690「171・迸るもの 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/07(金) 00:20:17 ID:Acmd+ICk0
『清原は見つからないか?』
「は、はい、まだ……」
『誘導する。言う通りに歩け』
「は、はい」
誘導されるということは、清原と正面衝突、という可能性もあるのだろうか。
『そこから斜め左前に進め』
言われた通りの方向を向き、歩き出す。
「こ、こんな感じですか?」
『……そうだな、まあその方向だ。そのまま進め。ずれてきたら指示する』
慎重に、日高は歩く。武器などは持っていない。元々支給品は双眼鏡だ。今ここで双眼鏡
を構えて清原を見つけたとしても、大した役には立ちそうも無い。むしろ周囲が明るくな
ってきたこの状況で、誰かに見つかってしまうかもしれない。その危険の方が気になり始
めていた。平野と田中、この2人にだけは会いたくなかった。
『少し右に向かえ』
まるでラジコンのように操作されている。両手に汗が滲む。日高は手にしていた地図とコ
ンパスを鞄の中にしまった。
『もう少しだ。そろそろ見えてくるはずだ。しっかり探せ』
緊張感に神経が張りつめる。喉が渇いても唾がうまく出ない。かと言って水を飲む気にも
ならず、歩き続けるしかなかった。今の日高を動かしているのは、強迫観念に他ならない。
どこかで鳥が美しく鳴いても、夜の名残の虫が微かに音色を聴かせても、日高の耳には届
かない。日高は全神経を目に集中し、土と芝と木と緑の葉に囲まれた視界の中に現れた異
物をひとつ残らず睨みつけた。緊張に頬がピクリと引き攣る。
(どこだ………どこだ………)
『まだか』
首輪から聞こえる声がやけに大きく響く。中村もヤキモキしているのだろう。
そして、とうとうそれが見えた。
背の高い叢があった。恐らく日高の腰ぐらいの高さの低木が茂っている。
その上に、と表現すればいいのか、その中に、と表現すればいいのか、大きな白いものが
引っかかるようにして埋まっていた。
691「171・迸るもの 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/07(金) 00:21:10 ID:Acmd+ICk0
(…………あ…………)
一瞬日高は足を止めた。そして急いで鞄から双眼鏡を取り出し、目元に当てた。前後を逆
様に持っていたことに気づき、慌てて持ち帰る。そしてその物体を見た。
最初に見えたのは手のようなものだった。赤い筋がいくつも伝っている。ドクン、と一際
大きく鼓動が鳴った。何かを予感しながらも、見たくはないと強く思いながらも、双眼鏡
の位置を動かした。
白い服だとわかった。だが赤い斑模様に染まっている。部分的には真っ赤に。
唾を飲んだ。喉が鳴る。その音が自分の耳の中でやけに大きく響いた。
また双眼鏡を動かす。体らしき部分だとわかった。そこには数本の枝が刺さっていた。そ
の枝たちはみな赤く染まっている。
全身に冷たいものが走った。両腕に鳥肌が立つ。
『どうした?』
中村の声に少し驚いたせいで、双眼鏡がまた移動した。
人の顔が見えた。
恐怖、驚きに目を見開いたまま、口も大きく開けて地面を見つめている。その口からは、
ポタリ、ポタリと赤い雫が今も落ちていた。頭部にも数本の枝が。
「う………」
思わず呻いていた。そしてたいして空気を吸い込んでもいない肺から、予想以上の絶叫が
迸った。
「うわあああああああああああっ!!!」
『ど、どうした?!』
中村が尋ねる。日高はそのまま地面にしゃがみこんだ。腰を抜かし、犬のように荒い呼吸
を繰り返す。
『どうした?!日高!何があった!』
「………キ、キヨさん……!!」
『清原がどうした?!いたのか?!』
日高は小さく首を振りながら、座ったまま後ろへ下がろうとした。だが力が抜けてしまっ
た体は言うことを聞いてくれない。腕にも力が入らず、ただその場で小さくもがくだけだ
った。喘ぐようにして息を吸いながら、自分でもわからないまま叫んだ。
692「171・迸るもの 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/07(金) 00:21:52 ID:Acmd+ICk0
「キ、キヨさん!キヨさん!」
『だから清原がどうしたんだ!いたのか?!生きてるのか?!死んでるのか?!』
「し、死んでる!死んでる!串刺し!血が……!血が……!」
『わかった、死んでるんだな?落ち着け。わかったから』
「う………あああああっ!!ああああああっ!!」
涙が零れ始めた。恐怖で決壊してしまった感情はもうどうにもならなかった。
「し……死んで……!死んで……!」
双眼鏡を放り出し、日高はただその場で叫ぶことしか出来なかった。
静かに自分を見つめている視線にも気づかないまま。

【残り・21人?】
693「172・それぞれの朝 1 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/07(金) 00:23:38 ID:Acmd+ICk0
「じゃあ、行くか」
歌藤が鞄を肩にかけて立ち上がる。
「はい」
加藤も立ち上がり、先にドアの方へと歩いた。
これから図書館へと戻る2人だ。夜のうちに移動したかったが、やはり暗闇の移動に不安
を感じ、小屋に留まって休息を取ることにした。その代わり早朝に起きて移動を開始する。
もし次の禁止エリアに図書館が入ってしまったら、もうこの島に関する情報を得られなく
なってしまう。闇が薄れてきた頃、2人は移動の準備を始めた。
「大輔、携帯電話の電池残ってる?」
「ええ、電源切ってましたから」
「もし図書館で地図とか資料あったら、携帯カメラで写しまくるぞ」
「了解です。おいエテ公、行くぞ」
その言葉を理解しているのかどうなのか、猿は相変わらず歌藤に寄り添うように歩み寄る。
「やっぱり俺は無視かよ」
2人と1匹が、用心深く周囲を見回しながら小屋を出る。

「じゃあ、行こう」
静かに川越が阿部の肩に手を置く。
阿部はまだうなだれたまま、両手を自分の膝の上で震わせていた。
相川もデイビーもブランボーも、その場にいる全員が心配そうに阿部を見つめていた。
「阿部、行こう。もう砂時計が危ない。充分休んだだろう?」
阿部はまだ動かない。動けないようだった。
「………阿部」
川越が続ける。
「ゴッツに笑われたいか?」
ピクリ、と阿部の肩が揺れる。
「ゴッツは諦めなかっただろう?大学野球は諦めたけど、野球は諦めなかっただろう?そ
の結果の背番号1だろう?阿部、お前はどうする?」
ゆっくりと阿部が顔を上げた。
「ゴッツに会わなきゃ死ねないんだろう?それに、水さんとの約束も破るのか?」
694「172・それぞれの朝 1 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/07(金) 00:25:20 ID:Acmd+ICk0
ダン!
大きな音を立てて阿部が立ち上がる。
「…………諦めるのは、性格的に無理、かな………」
まだ声に力はなかったが、いつもの阿部らしい言葉が呟かれた。
「水さんとゴッさん、会わないと」
少しだけ疲れた笑みを浮かべて川越を見る。
「……バットを振ったらね、ボールは飛ぶんですよ。動いたら、なるようになるって」
ニヤリと笑った。
「♪勢いだつなげ続け」
阿部が小声で歌いだす。
「♪ヤマを張り一か八か」
鞄を肩にかける。
「♪そこだ打て手を出せ」
最後のフレーズは、川越も一緒に歌った。
「♪バット振ったらボールは飛ぶ」
「川越さんの場合は飛んだら駄目でしょ」
阿部らしい一言に、出発準備の完了を知った。

眩しい朝日を全身に浴びて、その男はうつ伏せに横たわってた。
足元には打ち寄せる白い波。すでに彼のスパイクの爪先を濡らしている。
やがて、潮が満ちる時間が来る。
その時、彼の全身は水に包まれる。
何にも気づくことがないまま、彼は倒れていた。
自然に包まれた美しい島の中で、あまりにも異様な光景。
頬に砂を貼り付けたまま、背番号1は微動だにしない。

【残り・21人?】
695 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/07(金) 00:26:24 ID:Acmd+ICk0
今回は以上です。
最初の2レス分、コテつけ忘れてしまってすみません。
696代打名無し@実況は実況板で:2007/12/07(金) 00:43:18 ID:av5Stm/C0
うわぁあゴッツ起きて起きて!><

職人さん乙です!
697代打名無し@実況は実況板で:2007/12/07(金) 01:41:19 ID:dswKAqmP0
乙です!!
嵐の前の静けさが漂ってる早朝ですね。これから起こることへの緊張感も漂ってる
阿部ちゃんも立ち上がったし、さり気に柵越におわしつつ、ゴッツ起きてぇえ!!!
最後のトラップ怖すぎる!でも負広AAで想像しちゃってちょと緊張感うすれたぜorz
698代打名無し@実況は実況板で:2007/12/07(金) 05:24:28 ID:xXsNEWFG0
職人さんいつもながら乙です。
次に何が起こるか・・・・wktkしながら待ってます。
>>697
俺なんて中村を負広AAで想像してたのにカッコいいなんて思ってしまった・・・。

それにしても政界にまで首突っ込んでる老害ってアレだよな、完全に。
699代打名無し@実況は実況板で:2007/12/07(金) 07:24:21 ID:bbLlzGsmO
職人さん、乙です!
Wカトウが動き出し、川越&阿部ちゃんが
再出発か……この後の展開が楽しみだ
700代打名無し@実況は実況板で:2007/12/07(金) 08:10:04 ID:ENTgeyim0
投下乙です。
昆布は大丈夫なのだろうか
これからの展開が楽しみ。
701代打名無し@実況は実況板で:2007/12/07(金) 23:32:08 ID:nfjeeVx50
乙です
毎回毎回すげえ楽しみ
702代打名無し@実況は実況板で:2007/12/08(土) 10:23:04 ID:Ysof5bjA0
乙です。
ゴッツ起きるんだ。
なんか大変な事になるぞ。
703代打名無し@実況は実況板で:2007/12/09(日) 03:02:26 ID:weQxSAG2O
乙です!
歌さんと猿可愛いッスw
704代打名無し@実況は実況板で:2007/12/09(日) 14:59:09 ID:Jd/phGPsO
歌麿
705強力打線や:2007/12/10(月) 00:05:49 ID:jxjs66990
8村松
4阿部
7ローズ
Dカブレラ
5ラロッカ
9濱中
3北川
6大引
2日高
706代打名無し@実況は実況板で:2007/12/10(月) 13:22:27 ID:gv3hNnefO
乙です。
ゴッツ早く起きて…
707代打名無し@実況は実況板で:2007/12/12(水) 01:26:57 ID:XCXtuo+MO
ひだかほしゅ
708代打名無し@実況は実況板で:2007/12/13(木) 00:57:18 ID:eBMZHtWdO
昆布
709「173・それぞれの朝 2  1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/14(金) 01:05:55 ID:ilB4QXTb0
暗闇の中を歩いていた。
香月の耳には、何一つ音も聞こえない。虫の音も、風に木々が揺れる音も。
暗い夜の森の中。香月はただ自分のスパイクが土を蹴る音だけを耳にしながら歩いていた。
武器は三叉の矛。それを両手でしっかり握り、周囲に全神経を張り巡らせていた。どこか
らやってくるかわからない敵。どんな姿か、何人なのか。複数人数で囲まれたらお終いだ。
その時はどうやって戦うべきか。覚悟は出来ている。もうすでに2人殺したはずだ。
(そう、俺は殺したんだ)
(誰を殺したんだっけ?)
(どうやって殺したんだっけ?)
(あれ?死んだんだっけ?)
記憶が曖昧だ。そもそも誰を殺そうとしたのだったか。
妙に足が重い。まるでゴムでもくくりつけられて、体ごと引っ張られているようだ。
前に進めない。この奇妙な重さは何だ。
(………そうか、これは夢か)
ならば納得出来る。はっきりしない記憶も、あまりにも静かすぎる無音の状態も、足の重
さも。自分は今夢を見ているのだ。眠りに落ちた時の体勢が悪かったりすると、こんなこ
とがよく起こる。金縛りの一因もこういうものだと聞いたことがある。
ならば焦る必要はない。この心地のあまりよくない眠りから早く覚めたいものだ。
ザッ。
無音の世界に突然風を切る音がした。そして頬に空気が当たる。
(誰だ?!)
音の方へと体を向けながら、身を隠す場所を探す。見つかるはずなどない。ここは暗闇な
のだから。
ザザッ。
今度は背後から音がする。そして背中に気配を感じた。慌てて振り向く。何も見えない。
ここは悪夢の中なのだから。
寝ていても悪夢。目が覚めても悪夢。逃げられる場所などどこにもない。
(ちっ!)
見えない敵を威嚇するように大きく矛を振り回し、構えた。頼もしい重みを両手に感じつ
つ、香月は闇を睨み据えた。
710「173・それぞれの朝 2  2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/14(金) 01:07:03 ID:ilB4QXTb0
ふいに、足首を生温かい感触が襲った。
(ひっ!)
何かが自分の足を掴んでいるのだ。反射的に両足をバタつかせながら、慌てて足元を見た。
何も見えるはずの無い暗闇の中、土の中から白い2本の腕が生えていた。その手がしっか
りと香月の左足首を握っている。
(うわあっ!)
心の中で叫び、再び足踏みをするようにして腕を払おうとする。だがその腕はしっかりと
香月の足を掴んで離さない。香月はその腕を踏みつけるようにして暴れた。足を前に蹴り
上げるようにして、力任せになんとか振り払う。もう両足に重みはない。駆け出した。だ
がすぐに香月の目の前の土からガッと新たな2本の腕が飛び出してくる。
(うわあっ!!)
そして、腕と同時に現れたのは、顔。
口を大きく開け、目を見開き。苦悶の表情を浮かべた、谷。
香月が殺した谷。
谷が両手を香月の方へと伸ばしながら、まるで地面の上を滑るようにして顔から迫って来
る。真っ赤な口の中まで見えるほどに。
(うわああああああああっ!!)

その瞬間、目が覚めた。
弾かれるようにして飛び起きる。窓もカーテンも閉め切った薄暗い小屋。
ふと視界に入る自分の爪先。そこに誰かが立っている足元が見えた。今一緒に行動してい
るのは大西だ。萩原は途中でフラリと消えてしまった。ならばこの足は大西か。
瞬きをした。次の瞬間、見えていたはずの誰かの足が無くなっていた。
「え?」
思わず声が出る。
今、足があったのだ。誰かが自分の足元に立っていたのだ。多分大西だ。
………ひょっとしたら、大西が自分を殺そうとしていたのだろうか。なのに自分が突然飛
び起きたので、慌ててどこかに姿を隠したのだろうか。香月は左右に首を振るようにして
室内を見渡した。誰もいない。いるはずの大西もいない。荷物もどこにも見えない。
711「173・それぞれの朝 2  3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/14(金) 01:07:50 ID:ilB4QXTb0
「………ジミーさん?」
小声で呼んでみたが、返事は無い。
予感だったのだろうか。今見ていた悪夢は、自分を誰かが襲おうとしていることへの忠告
だったのだろうか。
(……にしても、趣味が悪すぎる)
谷の夢を見るなど。それとも、意識していないフリをしながら、自分の心にしっかりと谷
を殺したことが刻み込まれているのだろうか。罪悪感や、あの歪んだ表情が。
(……俺はそんなに弱くない。別に誰を殺したって、罪の意識なんて感じない。生き残れ
るのは1人なんだ。だから俺は生きたいんだ。勝つんだ。オリックスの奴らを殺して)
額に滲んだ脂汗を手の甲で拭う。そして何気なく振り返った。
そこには、ユニフォームを着た男が立っていた。
左肩と脇腹を血で真っ赤に染めた男。
憤り、絶望、悲しみ、憎しみ、全てがない混ぜになった表情で香月を見下ろしている。
大久保。
「う………あああああああああああああっ!!」
大声で叫び、転がるようにして慌てて横に置いてある矛にしがみつく。低い体勢のままそ
れを構えて顔を上げる。
そこは静かな部屋だった。
大久保の姿など、どこにもない。
カーテンの隙間から、ようやく朝の陽射しの一片が差し込み始めている。
肩で荒い呼吸をしながら、香月は動けなかった。
幻だ。幻を見たのだ。あの悪夢のせいだ。神経が昂ぶっているのだ。だから幻を見たのだ。
自分が攻撃した2人の幻を。
憤怒の表情をした、あの2人の幻を。
(疲れてる……そうだ……そうなんだ……)
鞄を開き、水を飲んだ。小さなペットボトル1本を一気に飲み干してしまった。だが今は
それでも足りなかった。口の中が粘ついている。舌が口内で貼りつく。ガムを噛み過ぎた
後以上の気持ち悪さだった。
712「173・それぞれの朝 2  4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/14(金) 01:08:47 ID:ilB4QXTb0
キイ……
小さな音がして、小屋の入り口がゆっくりと開いた。香月の心臓がギクンと飛び跳ねる。
と同時に矛をしっかりと構えた。
「あれ?起きてたのか」
すっきりした表情の大西が、重そうな鞄を肩から提げて入ってきた。途端に香月の肩の力
が抜けた。
「すぐ裏に川を見つけたんだ。飲めたから、空いてるペットボトルに水汲んできた。お前
の分もあるぞ……って、また1本空けたのかよ」
大西は床にドッカリと座ると、数本のペットボトルを取り出した。澄んだ水が入ったボト
ルの2本を香月へと差し出す。
「これ、お前の分な」
香月は心の中で答えた。
(毒が入ってるかもしれない。受け取れない)
なんだか自分の足元が気になった。
今にも2本、いや、4本の腕が床を突き破って生えてきそうな気がして。

【残り・21人?】
713「174・それぞれの朝 3 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/14(金) 01:10:01 ID:ilB4QXTb0
どこかから小鳥の鳴き声がする。朝の予感を受け、水口はうっすらと目を開いた。
肩と背中が痛い。肩の理由はわかる。怪我をしているからだ。背中は単に床が痛いだけ。
かろうじて見つけた毛布を敷いたが、それでも普段柔らかなベッドに慣れている体にはつ
らいようだった。
だが他の2人、塩崎と本柳はその敷物すらない状態で寝ているのだ。1枚だけ見つけた毛布
は、年長、そして怪我人という理由で強制的に水口に与えられた。
水口は目だけで部屋を見渡した。
背中を見つけた。
「34」が貼られた背中が、じっとこの家の入り口を見つめている。
体育座りをし、じっとドアが開くのを待っている。
「……寝てないのか?」
声をかけると、「34」が大袈裟にビクンと跳ねた。
「水さん、起きたんですか」
本柳が振り返る。
「お前、寝てないのか?」
「大丈夫ですよ」
笑って見せるその表情は明らかに疲れていた。
「川越を待ってたのか」
今度は笑顔も消えた。
「……だって、川越さんが戻ってきた時、誰かが待ってなきゃ寂しいじゃないですか。そ
れにドアにも外から簡単に開けられないように押さえがしてあるから、誰かがどかさなき
ゃ川越さんが困っちゃいますから」
そして本柳は何かを思い出したように、ポケットから1枚の紙を取り出した。
714「174・それぞれの朝 3 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/14(金) 01:10:54 ID:ilB4QXTb0
「水さん、これ、もし俺が死んだら、読んで下さい」
「おいおい、めったなこと言うもんじゃないぞ」
「だから、万が一です」
「万が一でもだ。日本には『言霊』って考え方があるんだ。言葉にしたらその言葉自体が
魂を持って、それが現実になっちまう。迷信だって言うけど、俺は気にする」
「でも、お願いします!」
本柳が正座をして水口の方を向き、頭を下げた。真っ直ぐで、純粋な本柳の性格を水口も
知っている。今の本柳にこれ以上本気なことは無いのだろう。水口は歩み寄ると、その手
から手紙を受け取った。
「……約束するよ。手紙はまだ読まない」
「お願いします。俺にもしものことがあったら読んで下さい。または、川越さんに何かあ
ったら……」
唇を噛み締める。それ以上は適切な言葉が出てこないようだった。
川越はまだ帰ってきていない。放送では名前は呼ばれなかった。だから昨夜午前0時の時
点では無事だったのだ。それからもうすぐ6時間がたとうとしている。
夜の暗闇の中、川越は無事生き延びてくれているだろうか。どうやって過ごしているだろ
うか。そして、ドアを見つめ続けた本柳はどんな思いだったのだろうか。
(ガブは、川越に関する何かを知っている)
水口も気づいている。だがそれをどんなに問いただしても無駄なことだとわかっている。
本柳には、まだ暗い闇が続いているのだ。
川越が無事に戻ってくるまでは。

【残り・21人?】
715「175・火に行く彼女 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/14(金) 01:12:04 ID:ilB4QXTb0
来客の多い夜を過ごし、短めの仮眠を取った後、綺麗な空気を吸いたくて岸田は外に出た。
朝日を浴びた美しい自然。その中で白いユニフォームは目立ってしまうと考え、紺色のジ
ャンバーを羽織った。この島にいる選手たちにとって、岸田は死んだ人間なのだ。見つか
ってはいけない。その点は十分注意しなければいけない。
昨夜ブランボーが酔っていじったジープは無事だろうか。少し見ておいた方がいいかもし
れない。被せてあったはずの布は大丈夫だろうか。
(何の本だったっけ……)
何故か昨夜、思い出した話があった。高校時代、確か国語の授業の宿題で読んだのだ。有
名な作家の短編だとは覚えているのだが、誰の話だか忘れてしまった。
ストーリーは簡単だ。
主人公は夢を見ている。夢の中で町に大火事が起こっている。人々は炎から逃げるように
して走ってゆく。なのに何故か主人公が好意を抱いている女性だけが、ただひとり、炎へ
と向かって歩いてゆく。主人公は尋ねる。何故火の方へと向かうのか。女性は答える。死
にたくはない。けれど、逃げる方にはあなたの家がある。だから私は火の方へ行く。
主人公は女性の背中を見送る。そして涙を流したのだったか。そんなセンチなシーンはな
かったか。
純文学というものはどうもよくわからない。けれどこの短編の単純な意味は岸田にでもわ
かる。女性は主人公の家がある方へ歩きたくないくらい、主人公を嫌っているのか。
(その程度の理由で命と引き換えなんて馬鹿げてる)
そこで10代の岸田は考えた。
きっと炎の方向には、何か彼女にとって大切なものがあるのだ。だからそっちへと向かう
のだ。ひょっとしたら、火の方向に家族が取り残されているのかもしれない。
今考えるとそんな解釈は純文学の深さをあっさり否定してしまいそうだが、それが一番自
分を納得させられる理由だった。
(誰だったっけな……有名な作家なんだ。同じ短編集でもう1つ、気に入った話があった
んだけど……何てタイトルだったかな……)
両手を高く伸ばし、伸びをする。ズキン、と傷ついた腕が痛んだ。包帯も血に染まってい
る。もう渇いてはいるが、無理は出来ない。大きくあくびをひとつ。
「きゃっ!」
木々の奥から聞こえる声に、岸田は驚いて顔を向けた。女性の声。しかも聞き覚えのある。
716「175・火に行く彼女 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/14(金) 01:13:20 ID:ilB4QXTb0
(………まさか!)
木の間に身を隠すようにして、声の方へと歩いた。その姿は簡単に見つかった。低い木の
枝に引っかかったミニスカートを外そうとしている。紺色のパンツが見えていた。
「リプシ……」
気づいた時にはもう遅かった。リプシーがハッとした表情で、岸田の姿を捕らえていた。
「岸田さん!」
岸田の方へと走って来ようとする。けれどスカートの裾が外れない。思わず岸田はリプシ
ーに駆け寄っていた。
「大丈夫、外すから動かないで」
「は、はい。岸田さん、ご無事だったんですね!」
「う、うん……」
リプシーはどこからどこまで知っているのだろうか。リプシーがこの島に来ているなんて
オーナーは一言も教えてはくれなかった。これはどういうことなのだろう。
「はい。外れたよ」
スカートを整えてやると、リプシーはペコリと頭を下げた。
「ありがとうございます。それから、本当にご無事でよかった」
心底嬉しそうな表情をする。岸田もつられて表情が緩んだ。
「リプシー、どうしてここに?」
「選手の皆さんが行方不明になったって聞いて、ネッピーと一緒に乗り込んできたんです。
地図、お持ちですか?」
「い、いや。鞄と一緒に向こうに置いてある……」
「そうですか。南です。ずっと南の小島に研究所があるんです。そこに行くと、平野恵一
さんのラッキーカードを使って何かが出来るらしいんです。だから、ひとまず選手の皆さ
んにそこに集まってもらおうと思って、ずっと走っているんです。研究所に何もなくても、
島の端に行けば大島コーチの船を呼べるかもしれないし。とにかく今はみんなで合流して、
団結することが必要だと思うんです。だから、岸田さんも!」
やや興奮気味のリプシーが一気に喋る。岸田は奇妙な焦りを感じていた。いや、焦りでは
ない。何か胸が苦しいのだ。
「リプシー、ひょっとして、一晩中走り続けてたのか?」
「ええ!選手の皆さんを助ける為ですから!私は首輪は無いので大丈夫!」
717「175・火に行く彼女 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/14(金) 01:15:44 ID:ilB4QXTb0
岸田は小さく顎を引いた。自分の首には首輪は無い。ハイネックのシャツとジャンバーを
着ていて正解だった。
「とにかく岸田さん、南の研究所に向かって下さい。そこでネッピーたちと合流です。私
はゴッツさ……いえ、他の選手を見つけて皆さんを誘導しますから」
「ま、待てよリプシー」
今にも走り出しそうな彼女の腕を掴んだ。水玉模様の赤いスカーフが揺れた。
「一睡もしてないんじゃ体が疲れてるよ。こっちに喫茶店があるんだ。美味しい珈琲があ
る。一休みできるから、こっちにおいでよ」
オーナーに真っ向から立ち向かおうとしている彼女を危険な場所へ向かわせたくなかった。
それ以上に何故か、彼女と離れたくなかった。
リプシーは少しの間、じっと岸田の目を見つめた後、ぺこりと小さくお辞儀をした。
「ありがとう、岸田さん。優しいんですね」
穏やかな笑顔。岸田も笑顔になった。ホッとした気持ちでリプシーの腕を引こうとする。
「でも、行かなきゃいけないんです。私はオリックス・バファローズのマスコットですか
ら」
ジン、と岸田の頭の中がしびれた。
「チームの選手がいなきゃ、私たちは存在しない。だから、皆さんを助けることが、私た
ちの存在にも繋がるんです。残り時間が少ないなら、私はもっと走り続けなきゃ」
ふわり、と大きな金のイヤリングが揺れ、キラリと光った。
「岸田さん!南ですよ!研究所に急いで下さいね!他の選手にもそう伝えて下さい!」
スカートを翻して、彼女が背を向ける。そこには背番号「222」がある。一緒に戦う仲間の
しるし。
「岸田さん!頑張って!」
明るい口調でそう叫ぶと、彼女は走って行った。目には見えない火に向かって。
振り解かれた自分の腕を持て余しながら、岸田は生まれて初めて感じるような息苦しさを
覚えた。胸を締めつけられるような切なさ。不安。戸惑い。
自分の名を呼ぶ彼女の声が、いつまでも岸田の耳の奥に響いていた。
手に残るぬくもり。この感情は一体……

【残り・21人?】
718 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/14(金) 01:16:25 ID:ilB4QXTb0
今回は以上です。
719代打名無し@実況は実況板で:2007/12/14(金) 02:36:37 ID:dRrOcVLx0
乙です
リプシーもてすぎでワロタ

そんなリプシーの愛を一身に受けているゴッツおいしすぎる
720代打名無し@実況は実況板で:2007/12/14(金) 07:44:10 ID:4jJ+07eaO
乙です!香月やばいのか?!

そういや岸田はトークショーの時に特大ネッピー人形を見て
リブシー版はないのか尋ねたり、横に立つリブシーにちょっかい出したり
してたもんなあ…そうだったのか…
721代打名無し@実況は実況板で:2007/12/14(金) 13:09:23 ID:hSvnkA2f0
乙です。
リプシー かわいいよリプシー。
リプシーの魅力で
みんなが目をさませばいいのに・・・

722代打名無し@実況は実況板で:2007/12/14(金) 21:26:59 ID:Eq1A1DbUO
投下乙です。
やっぱり香月も本柳も岸田もワルにはなれないんだよね。
しかし岸田といい、大久保といい、リブシーかなりやるなぁw
そういえば、大久保のブローチ…うーん泣けてきた。リプシー気付いてやってくれ!
723代打名無し@実況は実況板で:2007/12/16(日) 10:53:52 ID:aRgwRr4l0
俺の本やんヤバスorz
724代打名無し@実況は実況板で:2007/12/17(月) 17:53:01 ID:0/U3nX4k0
ホッシャ
725代打名無し@実況は実況板で:2007/12/17(月) 23:37:08 ID:iBNTVa570
新作来てたのに気付かなかったorz
岸田目を覚ますんだ。
リプシーに嫌われるぞ。
726代打名無し@実況は実況板で:2007/12/19(水) 00:26:21 ID:NN2EeG7A0
大西応援保守
727代打名無し@実況は実況板で:2007/12/20(木) 19:31:44 ID:t2Fnsl2HO
728 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/21(金) 00:14:59 ID:n+fxAwcW0
すみません、現在風邪にやられております。
今週末には投下しますので、少々お待ちください。みなさんもお大事に。
せっかく週1回ペースに戻せたのに……orz
729代打名無し@実況は実況板で:2007/12/21(金) 01:08:50 ID:pUFUV2Qf0
風邪ならしかたないですよ>職人さん
無理せずお大事にノシ
730代打名無し@実況は実況板で:2007/12/21(金) 07:25:10 ID:WCdPcYJ6O
>>728
同じく風邪にやられてるノシ
無理しないで下さいよ

気長に待ってますから
731代打名無し@実況は実況板で:2007/12/21(金) 08:03:38 ID:kUJmZDcI0
風邪ならしかたないですよ。
無理だけはしないで下さい。
直るまで待ちますよ。
732代打名無し@実況は実況板で:2007/12/21(金) 11:09:57 ID:8CsnSQFf0
職人さんが無理してまで読みたいなんて思ってるヤシは一人も居ないから
気長に風邪を治してください。
こういう時は卵料理食べて、ポカリのんで、布団でぬくぬくするのが一番です。
733代打名無し@実況は実況板で:2007/12/21(金) 13:25:31 ID:VXo5bn4x0
どうぞ つ玉子酒・すりりんご
あとはポカリ飲んでとにかくお布団と仲良くぽかぽかしてください
続きはめちゃめちゃ気になるけど、職人さんの健康あってこその檻バトですから!


734代打名無し@実況は実況板で:2007/12/22(土) 18:34:31 ID:R37tD8ye0

                             
              ____              人_ト、__ノ、_,ヘノ\_ノヽノ、
            /⌒三 ⌒\           人/                \__
          /( ○)三(○)\       _ノ  
     __ /::::::⌒(__人__)⌒:::::\ __ _ノ             
  / ̄| | . |     |r┬-|     |   |__ノ 絶対に許さないお!!!!満喫にペアシートで入る
/     | | |l      イ !_|_!`      |  | ノ
\\   | |. |\     `ー'´    / < カップルども!!!じわじわとなぶり殺しにしてくれるお!!!
  \\.| |   ヾ\         /〃 |  )
、   \ノ^,ニ‐-ァ  ̄`ー-----一´ ̄/  | ^ヽ 巨乳なムスメと早くペアシート入りたいお!!!!!!
\  // ,/⌒i、_\\_____//  .|  |  ⌒)
   {   i   |  iヽ`ー-----― '    |  |    ̄ヽヘ/⌒ヽ/\i'\へ/⌒Yヽ'^
    i          }         _|  |
735代打名無し@実況は実況板で:2007/12/22(土) 18:36:39 ID:uLRPxfU00
職人さんお大事にage
736代打名無し@実況は実況板で:2007/12/24(月) 02:41:39 ID:xaAOaXQhO
徐々に視界が明るくなってゆく。
それは日高にとって、地獄絵図を見せるのと同じことだった。
地面に落とした懐中電灯はまだ点きっぱなしだ。もはやその明るさは何の意味も持たない。
普段の日高なら電池の無駄遣いを嫌ってすぐにスイッチを切るところだ。だが今の彼に冷
静な判断力を求める方が無理な話だった。
少しずつ朝日が昇り始める。世界が色鮮やかになり、目に見えるもの全てが日高の前に姿
を現す。見たくなかったものまでもが。
木々が突き立っている。低木群。鋭くしっかりした枝が槍のように何本、何十本も。
そこにうつ伏せに横たわっている男の体。いや、横たわっているのではない。串刺しにな
っている。ぽたり、ぽたりと赤い血が木々を伝い落ちている。その男の体の下にある木や
草は、ほとんどが気味の悪い斑模様に染まっていた。
血は、赤ではないのだ。日高は思った。確かに清原のユニフォームは赤く染まっている。
けれど木々を伝う血は黒い。茶色と言ってもいい。血は鉄の味がする。茶色はそのせいだ
ろうか。最早そんなことを考えるほど、日高の思考は冷静さを失っていた。
一刻も早くそこから逃げ出したかった。こんな光景を見たがる人間などいないはずだ。け
れど日高の体は動かなかった。ショックのあまり力が抜け、腰を抜かしたようにその場に
しゃがみこんで以来、体が言うことをきいてくれなかった。もうあれからどれくらいの時
間がたったのだろう。中村監督には連絡をした。泣き叫んだだけだったが、キチンと伝
わっているだろうか。自分はオーナーとの約束を果たしたはずだ。もう向こうからの連絡
は無いのだろうか。この場から助けてはくれないのだろうか。この島からは。
(あ…………ああ…………)
声を出そうにも喉がカラカラだ。叫びすぎたのか、それとも口を開けて喘いだせいか。喉
が乾燥してしまっている。水を飲もうにも、体が動かない。
ガリッ。ようやく指が動いた。地面の土を引っ掻く。
(も、もう少し……もう少しで動く……)
必死で体を動かそうとする。金縛りにあった時と同じような感覚だ。
(落ち着け………お、落ち着いて………深呼吸、するんだ………ノーアウト満塁………ピ
ッチャー大久保………バッターズレータ………)
いくつものピンチを迎えた時、どうやって自分を落ち着けたかを思い出す。暗闇に包まれ
ていた時よりもむしろ、明るさを得た今の方が少しずつ落ち着いてきているのがわかった。
(動ける……もうすぐ動ける………)
「いつまで座ってんですか、日高さん」
背後からの声にギクンと上半身が跳ねた。振り向きたいが、振り向けなかった。
「さっきからずーっと。何してんですか。俺もう見てるの飽きちゃいましたよ」
「………た………田中………」
ようやく声が出た。掠れてはいたが。
「無防備に背中見せちゃって。それだけ俺のこと信じてくれてたんですね、嬉しいなあ」
その声は無邪気な中にも不気味なものを含んでいた。わざと台詞を読むように告げられる
言葉。日高は自分に危険が迫っていることを直感的に感じ取っていた。
「ねえ、日高さん」
田中の声は楽しそうだ。ジャリ、と土を踏む音がする。
「残り、あと1日と少しですね」
ジャリ、とまた歩み寄る音。
「まだ20人以上残ってるんですよね?」
ジャリ。日高は自分の頭部に影を感じた。
「そろそろラストスパートかけないと、みんな死んじゃいますよね?」
ジャリ。日高の体全体が影に包まれる。地面を見た。自分の体を覆う、人の形をした背後
からの影。それは間違いなく死神の影。
「ねえ………そろそろ本気出さないとヤバイっしょ」
チャリ。鎖のような物が当たる音がした。日高の口元が震える。
「怪我、大丈夫ですか?」
ようやく日高は思い出す。自分の脇腹の怪我。平野佳寿に切られた怪我。その痛みを忘れ
るほどに、自分は冷静さを失っていたのか。そして間の悪いことに、思い出してしまった
が為に痛みがぶり返してくる。まさに背後の田中は悪魔だった。
「無理しない方がいいと思うんですよね………じゃ」
再び土を踏む音がした。
(逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろっ!!)
心の中で叫ぶ。しかし体は動かない。
(誰か誰か誰か誰か誰かっ!!)
再び叫んだその時、どこからかとんでもないクシャミの音がした。
「ぶえーっくしゅい!!」
「え?」
田中が思わず素に戻った声を出す。キョロキョロ辺りを見回しながら声の出所を探す。
「………うー…………なんだよ……もぅねえのかよ……次の1本持って来いよ……」
呂律の回らない声がする。酔っ払い独特の口調だ。
ガサガサと音がする。田中は小さく舌打ちをした。日高はまだ動けそうにない。動いたと
しても怪我を負っている。そう簡単に遠くまでは行けないだろう。ならばこのままにして
おいて、今は先に声の主を調べるべきだと考えた。
日高の横を通り抜け、声の方へと歩き出す。今の田中は繁みに刺さった清原の姿にすら興
味が無いようだった。チラリと一瞥したが「大きな串焼きですね」の一言で終わった。
(逃げろ!逃げろ!今だ!逃げろ!)
必死に体を動かそうと、同じ言葉を呪文のように唱え続けた。

田中は清原のいる繁みの裏へと回った。そこに、木に寄りかかって大あくびをし、眠そう
な目を擦っている山口を見つけた。
(これは………獲物、かな?)
心の中でほくそ笑む。ゆっくりと両手でヌンチャクを構えた。効率良く、確実に、敵を減
らすこと。残り時間は少ない。田中にはもうとっくに迷いなどない。本当の死と直面した
者だけが、本当の生への執着を知る。田中は静かに計算を始めた。
(どう殺すのが一番手っ取り早いかな……ヌンチャクで首を絞めるのは吉井さんの時にち
ょっと無理があったし……)
ふと横にある枝に目がいく。
(枝で目を潰してから喉を突き刺す……いや、相手は酔っ払いだ。直接喉を攻撃。これで十分)
低木に手を伸ばす。片手で折ろうとして、案外頑丈なことに気づいた。だからこそ清原の
体を支えられるのだろう。見かけ以上に頼もしい枝だ。今度はキチンと両手を使って、体
重をかけて先の鋭い1本を折った。バキンという予想以上に大きな乾いた音が響く。予備
も必要だと考え、あと2本手折った。最初の1本を両手でしっかりと握り、山口を見下ろ
した。大口を開け、まるで刺してくれと言わんばかりの無防備さで喉元を晒している。
(………寝てる間に死ねること、感謝して下さいね)
足場を固め、じっと喉元を見据え、息を詰める。
(死ねっ!)
心の中の掛け声と共に小さな槍を突き出した。
だが枝は的を外した。山口が寝返りを打ち、寄りかかっていた木からずり落ちたのだ。
「………ってえ………なんだおい………」
田中は小さく舌打ちをした。このタイミングを逃してはいけない。即死させることは出来
なくても、喉に突き刺せば致命傷にはなるだろう。諦めることなく再び喉に狙いを定める
と、勢いよく枝を振り下ろした。
「………ごらあっ!」
予想外の掛け声と共に、山口の鋭い蹴りが田中の腕を打った。その勢いに弾かれて枝は遠
くへと飛び、田中の体もよろめいて地面に転んだ。慌てて体勢を立て直す。山口はまだ地
面に起き上がり、座った状態だった。
「ぁにしてんだクソガキっ!!……って、なんだ、横綱のあきらちゃんじゃねーかよ」
よろめきながら立ち上がる。フラリと左に2、3歩揺れ、両足を肩幅程度に広げることでよ
うやく安定した。
「……どーしたぁ……暇なら酒持ってきてくんねーか………向こうのホテルに山ほどあっ
からよ……お前も好きなの持って来いや」
緊張感の無い言葉が続く。田中は改めて鋭い枝を握り締めた。
また目を閉じようとしていた山口がチラリと田中を見る。そしてゆっくりと、その目の色
が揺らぎの無いしっかりとしたものに変わっていった。
「……何してんだ、ああ?」
田中も相手を酔っ払いだと考えるのはやめにした。
「………俺と喧嘩しようってのか?………上等だな、おい!」
口調が激しいものに変わってゆく。
「舐められたもんだなあ俺も!こんな小僧に喧嘩ふっかけられるたぁなあ!この俺がだ
ぞ!ファンがビビッて近づいて来ようともしない俺にだぞ!」
ゆっくりと、山口の姿勢が低くなる。重心を下に下ろし、明らかな戦闘態勢に入る。
「………思い知らせてやるぜ、小僧!」
掛け声と同時に山口が田中の方へと突っ込んできた。田中は山口のパンチを避けるべく、
体を引いた。しかし次の瞬間、酒臭い息と共に田中の太ももに激痛が走った。
「ぐあっ!」
山口の回し蹴りが入ったのだ。田中がよろめく。山口は間髪入れずにキックを繰り返した。
予想外の攻撃に田中は距離を取ろうと後ろへ慌てて退いた。酒が体に残っているせいで、
山口は瞬時の動きにはついて来られないようだ。
(畜生!足かよ!)
再び山口が突っ込んでくる。今度こそパンチだ。そう思って枝を捨て、上半身をヌンチャ
クでガードしようとした。しかしまた山口は腰を捻るようにしてローキックを入れてくる。
執拗なまでに山口は蹴りにこだわっていた。キックボクシングでもやっていたのなら自信
はあるだろう。けれどそんな話は聞いたことがない。考えている間も山口は的確に蹴りを
入れてくる。予想外の展開に田中はただ飛びまわって逃げることしか出来なかった。
「おらおらおら!喧嘩になんねーぞ小僧!」
山口が挑発する。
(………ああ、そうか)
田中はようやくひとつのことに気づいた。山口が蹴りに執着する理由。
(………この人は、生まれながらのピッチャーなんだ)
決して腕を使わない。決して右手を使わない。
そのことに一瞬田中は感動した。けれどすぐにそんな思いは消えた。
(でもね、山口さん)
再び突っ込んでくる山口と間合いを取りながら、田中は呟いた。
(これは喧嘩じゃない)
スッと身構える。
(これは、殺し合いなんですよ)
ベルトに挿しておいた予備の枝を手にする。
(相手を痛めつけることが目的じゃない。相手を殺すことこそが!)
昔テレビで見た映像を思い出す。時代劇特集の一場面。2人の身長は同じくらい。突っ込ん
でくる山口を見る。足の動きを瞬時に判断する。今度はローキックだ。咄嗟にジャンプし
てそれを避け、山口の背後に回りこんだ。そのまま締め上げるようにして左腕を山口の首
に回す。ピッタリとその背中を取った。
「てめえっ!!」
田中に躊躇いは無かった。そのまま右手に持った鋭い枝を首輪に当たらないように、力の
限り山口の首筋へと突き刺した。
「うあああああああっ!!」
山口が絶叫する。そのまま暴れまわる。ふりほどかれそうになった田中がしがみついたせ
いで、首に突き立った枝も揺れた。その動きで傷口から空気が入る。途端に鮮血が迸った。
「うああああああああああああ!あああああ!ああああ!ああ!ああああああああ!」
山口の絶叫も断片的なものになった。両手で喉元を抑えてふらつく。ようやく田中は山口
から離れた。山口はよろめき、地面に崩れ落ちた。背中を丸めるようにして、ゼイゼイと
喉を鳴らしている。まだ意識はあるようだ。
「……………死ねよ」
田中は懇親の力を込めて、山口の顎を蹴り上げた。反動で山口の体が後ろに倒れる。そこ
に、あの低木群があった。山口のポケットから何かが数個飛び出す。ザシュッという嫌な
音がして、また赤が散った。
(…………あーあ)
田中は自分のユニフォームにまで赤い血がかかっていることに気づいた。これでは善良で
弱気な人物を装うことに無理が生じるかもしれない。
歩み寄り、山口の体の下に落ちた物を覗き込んだ。数本の葉巻。田中は面白半分にそれら
を拾ってポケットに入れた。
(一応戦利品ってね。………さて、と)
何事もなかったかのように振り返る。そこにいるはずの日高の姿がなかった。
(逃げた、かな?)
日高のいた場所には血の跡があった。脇腹から滴ったのだろう。そして体を引き摺って退
いた跡もある。勢いよく地面を蹴った靴跡も。そしてそこから続く細い道。
(こっちの方向か。それほど遠くには行けないよな)
楽しげにその方向へと歩き出した。もうすでに山口のことなど忘れているかのように。

【×山口和男 残り・20人?】
743「177・恋女房 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/25(火) 00:20:00 ID:eFFNXPzT0
ようやく動いてくれた体で、日高は走っていた。全速力というには遅い。けれど必死にな
って走っていた。さっきから時折近くで葉を揺するような音がする。誰かがいるのだろう
か。しかもその音は常に日高のそばにあった。遠くに行くでもなく、近寄るでもなく、一
定の距離を保って日高と同じ方向へと移動しているように感じられた。
(誰か……いるのか?)
真っ先に思い浮かぶのは田中だ。やはり追って来たのだろうか。ということは、山口との
決着はつけたのだろうか。さっき聞こえた絶叫は山口のものだったのか。
走り続けた。音の主に怯えながら走り続けた。音はやはり近づいては来なかった。
(とにかく……逃げろ!振り切れ!)
朝日に美しくきらめく露に濡れた葉にすら気づくことなく、日高は前だけを見つめて走っ
ていた。
「あっ!」
木々の間を抜けたところで、足が止まった。
目の前に広がるのは、一面の青い海。優しい潮風が汗に濡れた日高の頬を撫でる。
海を見下ろす崖の上に、日高は立っていた。
一度落ち着くと、荒い呼吸が止まらなくなる。肩を上下させて、何度も深呼吸を繰り返し
た。脇腹の痛みも鋭くなっている。血の滲みが広がっていた。肩から提げている鞄が傷口
に当たっていたのかもしれない。
(やっぱりこんなに走ったのは無茶だったか)
闇雲に走った。今考えると禁止エリアに入らなかっただけ奇跡だ。
鞄からペットボトルを取り出し、水を飲む。
「あーあ、飲んじゃった」
その声に驚き、思わずボトルを落とした。まだ水が沢山入っていたボトルは地面の上で重
そうにバウンドし、水滴を撒き散らして崖の下へと消えていった。
「怪我して出血が酷い時は、水を飲んじゃいけないって話、知りません?」
「………平野」
日高は振り返らなかった。もう走れない。疲労で足が震えている。まださっきのショック
も治まってはいない。怪我もある。思い通りに体を動かすことは難しいだろう。ましてや
命を賭けて戦うのは。相手は戦闘意欲満々の若者だ。しかも圧倒的な武器を持っている。
744「177・恋女房 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/25(火) 00:20:57 ID:eFFNXPzT0
ついさっきもこんな状況だった。田中が背後に現れ、日高は振り向けなかった。
だが今は違う。あえて自分の意思で、振り向かないのだ。
「日高さん、田中さんはどうしました?」
「……さあな」
「会いました?」
「会ったよ。山口さんと勝負したみたいだな」
「結果は?」
「さあ」
「決着がつく前に逃げたんですか?」
「普通はそうだろ。尋常じゃない2人を前にしたら、誰でもそうするさ」
「俺はそうしないかも」
「じゃあお前も尋常じゃないんだな」
「………多分」
最後の一言は、どこか楽しそうな笑いを含んでいた。
「お前の目的は?」
「生き残ること」
「それ以外に、あるんだろ?」
「…………」
「川越さんか?」
「…………一応、エースの称号は欲しいんで」
「…………」
「川越さんって、日高さんとバッテリー組むこと多いですよね」
「まあな」
「相性いいんだ?」
「どうなんだろうな」
背後で土を踏む音がした。日高はその時を悟っていた。
「川越さんの球も、お前の球も受けたことがある俺が言うぞ。エースは川越さんだ。お前
のピッチングはまだエースとは言えない」
平野は何も答えなかった。
745「177・恋女房 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/25(火) 00:22:56 ID:eFFNXPzT0
「マウンド上での立ち振る舞い、配球、キャッチャーや野手への配慮、勝っても負けても
次へと向かう気持ち。平野、お前はまだ若い。川越さんから学ぶんだ」
答えの代わりに、また1歩近づく音がした。
「平野、俺は自分に誇りを持ってるぞ」
また1歩。
「俺は誰も殺さない。誰にも殺されない。そして」
背後に気配を感じた。平野の息遣い。張りつめた空間。これもまた、さっきと同じ状況。
ただひとつ違うのは、日高の揺ぎ無い強い意思。
そして、最後の決心。
最期の選択。
「誰も俺のせいで人殺しにはしない!」
日高は力強く地面を蹴った。青き大空に繋がる虚空が日高の全身を抱く。潮風が日高の鼻
腔をくすぐり、どこか懐かしいその香りが頬を微かに微笑ませた。
急降下。
一瞬の眩暈。
全身で風を切る。
もうその時にはすでに日高は意識を失っていただろうか。
真っ白な水飛沫が上がった。
平野は崖下を見なかった。
ぼんやりと、最後の言葉を心の中で繰り返していた。
「………日高さん」
ほんの少しだけ、表情が揺れる。
「………俺、あなたのリード、投げやすかったです」
静かな波の音だけが、平野佳寿の耳に届いていた。

【×日高剛 残り・19人?】
746 ◆UKNMK1fJ2Y :2007/12/25(火) 00:25:50 ID:eFFNXPzT0
今回は以上です。

つ【卵料理、ポカリ、ぬくぬく布団、玉子酒、すりりんご】と

がっつり頂きました。
風邪もよくなりました。お気遣いありがとうございました。
皆さんも風邪にはお気をつけて。
747代打名無し@実況は実況板で:2007/12/25(火) 02:28:00 ID:9NiOn23D0
クリスマスプレゼント乙です。どうぞお大事に
山口も昆布も逝ってしまったか…。・゚・(ノД`)・゚・。
748代打名無し@実況は実況板で:2007/12/25(火) 02:53:17 ID:/pXO4t0kO
乙です。
昆布はかっこよく海に帰っていったんだね…
平野の罪を増やさせない思いやりに泣けるよ昆布…
749代打名無し@実況は実況板で:2007/12/25(火) 09:31:06 ID:Pfmrhj1r0
クリスマスにサンタさんならぬ職人さんの贈り物が!
後一日しかない分、オーナーか負広あたりが何か仕掛けてきそうで怖い・・・。
でも、職人さんが治ったみたいで良かったです。
750代打名無し@実況は実況板で:2007/12/25(火) 10:56:47 ID:yDgRepIEO
ちょっと…日高に感動してたのに>>748の海に還ったでフイタわw
751代打名無し@実況は実況板で:2007/12/25(火) 11:34:18 ID:Q9COiQEp0
投下乙です。
せっかくの感動が海に還ったで吹いた。
昆布いい奴だよ昆布。
752代打名無し@実況は実況板で:2007/12/25(火) 13:02:05 ID:o9vJ1wOpO
職人さん禿乙です

昆布カッコヨス
753代打名無し@実況は実況板で:2007/12/26(水) 19:12:42 ID:OHYx5rVmO
754代打名無し@実況は実況板で:2007/12/27(木) 00:11:40 ID:iv17+G0Q0
投下乙ですー

あの岸田も平野も揺らぎを見せたというのに、
何のためらいも戸惑いも表さないアキラ怖……!!
755代打名無し@実況は実況板で:2007/12/27(木) 17:05:07 ID:bfCswCup0
乙です。
山口の投手魂に泣いた。
なんだかんだ言ってピッチャーなんだ。
756代打名無し@実況は実況板で:2007/12/28(金) 15:20:02 ID:LtEYQp2qO
|´△`|ノシ 捕手しますよ
757代打名無し@実況は実況板で:2007/12/29(土) 00:12:50 ID:ol9qkOUH0
保守
758代打名無し@実況は実況板で:2007/12/30(日) 19:02:04 ID:ff0FwZgi0
759代打名無し@実況は実況板で:2007/12/31(月) 17:54:43 ID:V+rV2/if0
年末保守
760 【大凶】 :2008/01/01(火) 00:29:37 ID:CKHJ1Zr90
あけおめ保守
761代打名無し@実況は実況板で:2008/01/02(水) 11:47:52 ID:8nWTXWKkO
ちょ…大凶w
762代打名無し@実況は実況板で:2008/01/02(水) 17:29:17 ID:aPaBo9KwO
年末から規制にかかっている◆UKNMK1fJ2Yです。
今、保管庫の方に続きを投下しました。

投下スピードアップ出来るよう頑張りますので、今年もよろしくお願いいたします。
763代打名無し@実況は実況板で:2008/01/02(水) 17:44:10 ID:5/xzvdttO
職人さん乙…って、
保管庫ってオリバトのですかね?
オリバトのBBSとか見てもないんですが…
764代打名無し@実況は実況板で:2008/01/02(水) 18:02:29 ID:aPaBo9KwO
>>763
オリバトBBS→避難スレ→16 からです。
ネタバレにならないようsageていたので、わかりづらくてすみません。
765代打名無し@実況は実況板で:2008/01/02(水) 18:08:01 ID:5/xzvdttO
>>764
ご丁寧にありがとうございます
今年もオリバトをよろしくお願いします
766代打名無し@実況は実況板で:2008/01/02(水) 18:44:02 ID:AeBO8Y/E0
>>762
投下乙です。今年も宜しくお願いいたします
あの人達一番好きなんで辛いです…。・゚・(ノД`)・゚・。

一日も早く規制が解けますように
767代打名無し@実況は実況板で:2008/01/02(水) 20:23:59 ID:rfjjl8cy0

768代打名無し@実況は実況板で:2008/01/02(水) 22:24:17 ID:guBBEKZ/0
すいません 通常の保管庫じゃないところに続き上がってるのでしょうか?
URL無理ならヒント教えてください 何処を探せばいいのか分からないのですいません
769◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/02(水) 22:28:09 ID:UkZh3y6J0
16 名前:《部外者・1》 ◆UKNMK1fJ2Y [2008/01/02(水) 17:17 ID:8M7LNzZ2]
件名:お久し振りです

本文:

お久し振りです。
君のことだからきっと体調管理に気をつけながら、元気に過ごしていることと思います。
どうやって君に連絡を取ればいいのかわからなかったので、
知人のパソコンを借りてこのメールを書いています。
書いたらすぐに削除するつもりです。誰にも知られてはいけない内容だからです。

今回こんな改まった文章を書くのは他でもありません。
君に伝えておきたいとても重大な話があります。
このメールを読んだ後、君はきっと俺のことを気が狂ったのだと思うでしょう。
でもこうやって君のことを「君」と書き、自分なりに真剣な文体を書いていることで、
今の自分がどれだけ本気なのかを少しでもわかってもらえたらと思います。

とても信じられない話です。自分も最初にこの話を聞いた時は冗談だと思いました。
けれどその準備が着々と進んでいて、自分もその中に組み込まれていることを
今日初めて自覚しました。だからこうやって危険を顧みずメールを書いています。

ひょっとしたらこのメールは君には届かないかもしれない。
もう奴らの検閲に引っかかって削除されているかもしれない。
それでも君に届くことを信じて書きます。

数日後から、オリックス・バファローズの選手たちがとある島に集められ、
殺し合いをさせられます。
誰か1人が生き残るまでの殺し合い、バトルロワイアルです。
自分もそこに何らかの形で参加させられます。
770◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/02(水) 22:28:42 ID:UkZh3y6J0
17 名前:《部外者・2/3》 ◆UKNMK1fJ2Y [2008/01/02(水) 17:18 ID:8M7LNzZ2]

そんなことをしたら警察をどうするのか。聡明な君ならそう思うでしょう。
思い出して下さい。オリックスのオーナーはかなり多くの政治家と繋がっており、
その弱みも握っているとの噂です。その運命は一蓮托生だとも聞きます。
以前政治汚職の問題が発覚した時、何度もオリックスグループの名前が挙がっていながら、
お咎めはありませんでした。ライブドアの時もそうです。
それは、政治家が自己保身の為にオリックスグループを、オーナーを庇ったとの噂です。
あくまで噂です。真相は所詮一般市民の自分なんかにはわかりません。
それにプロ野球界には究極のドンがいます。あの人物の力もあるのでしょう。

だから何をしても大丈夫な状況と理由を作った上で、殺し合いが始まります。
そんなことを許せるはずがありません。
自分だって死ぬかもしれません。死にたくありません。
仲間を殺したくないし、仲間が殺されるのを見るのも嫌です。

だから、君にメールをしました。
ある意味、君はオリックスとは関係ない自由な立場です。
助けてくれとは言いません。君まで巻き込まれてしまうかもしれないからです。
だから、もし自分俺たちに何かが起こって、全てが悪い形で終わったら、
こういう事実があったのだという証人になって下さい。
いえ、証人になるのも危険でしょう。君が世間から笑われるだけです。
もしくは何か圧力を受けるかもしれません。

だから、真実を知っていて下さい。
みんなきっと殺し合いなんてしたくありません。
けれどこういう状況に追い込まれて、有無を言わせず、どうしようもなくて、
何かが起こってしまったのだとわかって下さい。
世間に流される嘘偽りの理由ではなく、
本当はこういう残虐非道な策略が張り巡らされ、
選手たちは否応なしに追いつめられていったのだと、どうか覚えていて下さい。
771◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/02(水) 22:29:15 ID:UkZh3y6J0
18 名前:《部外者・3/3》 ◆UKNMK1fJ2Y [2008/01/02(水) 17:18 ID:8M7LNzZ2]

また生きて君に会えることを祈っています。
元気で。




そのメールを読んだ時、彼は最初にあった文の通り、送り主の精神状態を心配した。
心を病んでしまったのだろうかと考えた。
だがそれにしては丁寧な文章を書いている。脈絡は無いが、わかりやすいメールだ。
殺し合い。
選手同士の殺し合い。
しかもオーナーが関わっている。
そんな馬鹿げた話があるだろうか。
だから一切気にしないことにした。
忙しい日々を過ごしている彼は、そのメールを簡単に忘れることが出来た。
けれど、どこか気になるものもあった。
もし、実際にその殺し合いが行われたとしたら。
それらが起こることを知っていて、何もせずに知人の妄言だと思い込んで何もしなかった
としたら、それが原因で選手たちが死んでしまったら、彼自身も一生後悔することになる。
(………そんなこと、起こるはずないけどな)
何もしないでいることに少しだけ不安を覚えた。
ほんの少しだけ、探りを入れてみることにした。
それが数日前のこと。
772◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/02(水) 22:29:42 ID:UkZh3y6J0
19 名前:「178・赤い痣〜ラストトラップ 1/5」 ◆UKNMK1fJ2Y [2008/01/02(水) 17:20 ID:8M7LNzZ2]
午前6時の放送前に、加藤と歌藤は図書館へと戻ることが出来た。
まずはこの島の地図が載っている本を探し出し、そのページを引き千切って鞄に詰め込ん
だ。続いてこの島の近況報告が載っている本。地元の情報コーナーを探す。このくらいの
狭い島なら情報コーナーにイベント告知や地元密着と称した資料が置いてあるものだ。こ
こ数ヶ月の新聞だって置いてあるに違いない。
いくつかの新聞記事の切り抜きが回覧用スクラップブックに貼られていた。
『オリックスグループ研究所、南の小島に建設!』
それがほんの数年前の記事。
『研究所完成!正式名称は未定』
それが一年後の記事。あまりに早すぎる完成だ。
それ以降、どんなにページをめくっても研究に関する記事は出て来なかった。むしろ、そ
れ以前の研究所に関する記事のいくつかの部分に黒い線が引かれていた。
「触れられたくなかったんでしょうかね」
「多分な。でもスクラップブックで公表しちゃった以上、全部は消せなかったんじゃない
かな」
研究所の話に変わって頻繁に出てくるようになったのは、医学分野の記事だった。
『赤い痣、発生』
虫刺されのような赤い痣が肌に浮かぶ者が多くなった。この痣は始めは小さいが、徐々に
範囲を広げてゆくというもの。それを分析出来る皮膚科の病院はこの島にはないので、連
絡船で本州へ行かなければならない。その特別輸送、治療及び検査をオリックス研究所が
ほぼ無償で引き受けてくれるとのことだった。研究所はどうやらスポーツ選手の健康管理
をメインに、免疫や筋肉の発達形態などについて調べているらしく、島民にとっても嬉し
い援助だと書かれていた。また、研究所の中で何故かマーマレードを生産しており、島民
に配ってくれているという。島とオリックス研究所は持ちつ持たれつのいい関係を続けて
いるようだった。
「マーマレード……」
思わず加藤は呟いた。あの小屋で読んだノートの言葉を思い出し、慌てて自分の鞄からそ
れを取り出した。
『助けて もうマーマレードはイヤ あのこにも食べさせないで 助けて』
『研究所に行くのはイヤ 殺される』
773◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/02(水) 22:30:23 ID:UkZh3y6J0
20 名前:「178・赤い痣〜ラストトラップ 2/5」 ◆UKNMK1fJ2Y [2008/01/02(水) 17:21 ID:8M7LNzZ2]
ゾクリと背中に冷たいものが走る。
歌藤がスクラップブックをめくった。
『野犬にご注意!』
最近、島内で野犬が増え、人間やペットが咬まれる被害が増えているという。また、野生
の猿なども若干凶暴化の兆しが見えているらしい。夜道を歩く時は十分注意するように、
昼間でも独り歩きの時は音を出しながら歩くなどの具体例が書かれていた。
スクラップはそこで終わっていた。
「なんか、きな臭いよな」
歌藤が呟く。
「この猿はこんなにいい子なのにな」
そう言って自分に連れ添っている猿の頭を撫でる。
「俺には凶暴ですよ」
加藤が文句を言うと、猿はキッと加藤を見据えて威嚇的に歯を剥き出して見せた。
「この記事とノートを照らし合わせると、明らかにオリックスの研究所が怪しいんだ」
「ですね。南端の小島でしたっけ」
改めて地図を取り出す。今日一日あれば行けない距離ではない。禁止エリアを回避する為
に少々遠回りをするが仕方ないだろう。
「研究所に行くんだ。そうしなきゃちゃんとした意味がわからない。そこにオリックス関
連の何かがあるなら、オーナーたちに繋がるものだってあるはずだ」
ゆっくりと歌藤は加藤を見た。加藤の表情も真剣だった。
ここには誰かの命を、ひょっとしたらこの島の人々の命を左右した出来事が書かれている
のだ。その重さを感じて歌藤の拳が少しだけ震えた。
「命がかかってるんだ。俺たちだけじゃない。もっと多くの人の命が関わってるんだ」
「はい」
「もう時間も無い。何があっても俺たちは生き残るんだ。この事実を世間に伝えるんだ」
「はい」
未だ一度も使われていないマシンガンとコルト。運命の時が近づいているのかもしれない。
774◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/02(水) 22:31:00 ID:UkZh3y6J0
21 名前:「178・赤い痣〜ラストトラップ 3/5」 ◆UKNMK1fJ2Y [2008/01/02(水) 17:21 ID:8M7LNzZ2]

その時、爽やかな朝の陽射しに包まれた島に、賑やかな音楽が流れ始めた。
午前6時。放送の時間だ。
この曲は誰の登場曲だったか、バッターの打席用だったか、投手のマウンドに上がる時の
音楽だったか。歌藤は妙に気になったがなかなか思い出すことが出来なかった。そんなこ
とよりも、早くメモの準備をしなければ。
『皆さん、おはようございます。朝6時になりました。まずは亡くなられた方の発表です』
朝の挨拶から滑らかに死者の発表へと流れる。2人の表情が曇り、共に唇を噛み締める。ペ
ンを握る。強く握りすぎて、加藤の指先が揺れた。
『背番号22・ユウキ君。背番号44・鈴木郁洋君。背番号18・山口和男君。背番号27・日
高剛君。以上4人です。残りは19人。まだ多いですね』
何を基準に多いと判断しているのだろう。加藤は小さく首を捻った。ムギュッと首の肉が
首輪に当たり、その存在を改めて実感した。そのまま呼ばれた選手の名に黒い線を引く。
今は感傷に浸っている場合ではない。放送の内容を聞き逃してはいけない。それが命取り
になることもある。泣くのは後からでいい。後から許される限り、枯れるまで涙を流せば
いいのだ。
『続いて禁止エリアの発表です。午前8時にE-5、10時にF-6、12時にH-2。かなり行動範
囲が限られてきましたので、移動の際には十分気をつけて下さい。……さて』
いつもならここで放送が終わる。けれどオーナーの声は続いた。微かに嫌な予感が頭を掠
める。そんなはずはない。加藤は小さく頭を振った。また首輪が当たる。
『皆さんお待ちかね』
歌藤がゆっくりと目を閉じる。
『最後のトラップタイムです』
来るべきものがきた。そんな感覚だった。昨夜、多くの選手たちが振り回されたであろう
死のトラップ。それがまたやってこようとしている。今回は全員参加なのか、それとも一
部の不幸な者たちだけのトラップなのか。
『今回のトラップは全員参加です』
ゴクリ。加藤の喉が鳴った。
『ですが、トラップが起こらない可能性もあります』
「へ?」
775◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/02(水) 22:31:27 ID:UkZh3y6J0
22 名前:「178・赤い痣〜ラストトラップ 4/5」 ◆UKNMK1fJ2Y [2008/01/02(水) 17:22 ID:8M7LNzZ2]
今度は声に出して加藤が首を傾げた。
『全ては風次第です』
「風?」
『現在、北から南への風が吹いていますが、この風が南から北に変わった時、事態はスタ
ートします。いえ、もう少しずつ進行中なのですが大事には至っていない状態です。微か
に体に疲労感を感じている人、ダルさを感じている人は、既に進行しているのかもしれま
せん。南からの風が吹いた時、それが全てが大きくなる瞬間です。それまでにこのトラッ
プを抜け出す為の準備を皆さんにして頂きます。いわば、自然の起こすトラップなのです』
「わけわからん」
思わず歌藤が呟く。
『この島には、とある細菌、ウィルスが広がっています。ですが、それは比較的島の南の
ある地域に滞っています。もし、そこに南からの風が吹いたら……』
ゆっくりと、加藤と歌藤は顔を見合わせた。
『当然ウィルスは島に広がり、充満します』
ピクリと加藤の頬が引き攣る。
『ウィルスの感染を塞ぐ方法が、今回のトラップです』
突然加藤は両手を上げると、ピシャピシャと自分の頬を叩いた。緊張しきった自分をリラ
ックスさせようとしているのだろう。何度も瞬きをし、深呼吸を繰り返した。
『今回のトラップの道具は、皆さんの首輪です』
加藤は自分の首輪を見ようとしたが、顎が邪魔で見ることが出来なかった。歌藤も同じで、
仕方なく2人は互いの首輪を覗き込むことになった。
『首輪の中央、赤いランプの横に、小さな丸いカプセルのようなものが嵌っています。わ
かりますか?これは赤、青、黄色の3種類あります。この中にウィルスの抗体液といいま
すか、解毒剤といいますか、命を守ってくれるものが入っています。ただし、色によって
量が違います。青はそれ1個で十分。それだけを飲めば大丈夫です。黄色は同じものを2
個必要とします。赤なら3個。昨晩アルファベットのKを集めたように、今回はカプセル
を集めて下さい』
また奇妙な仕掛けが張り巡らされている。全てはオーナーの娯楽の為。ただ選手たちを殺
すのではなく、ジワジワと追いつめて、楽しんで消す。
加藤がそっと歌藤の首輪に手を伸ばそうとした。
776◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/02(水) 22:32:01 ID:UkZh3y6J0
23 名前:「178・赤い痣〜ラストトラップ 5/5」 ◆UKNMK1fJ2Y [2008/01/02(水) 17:22 ID:8M7LNzZ2]
『おっと待って下さい。そう簡単にカプセルは取り出せません。早まらないように。一定
の時間が来る前にカプセルを取ると、首輪が爆発します』
慌てて加藤が手を引っ込める。歌藤も反射的に身を引いた。
『カプセルを取り出す方法は簡単です。一端グッと中に押し込んでから、力を抜く。そう
するとロックが外れてカプセルがポロリと落ちます。そして………爆発』
ダン!突然歌藤が机を叩いた。当然右手でだった。
『カプセルの爆発連動装置が解除されるのは、南からの風が吹いてからです。ちょうど島
の東南辺りに風車小屋があるのですが、その風車が回ったらとでもしましょうか。その時
には私からも放送を入れます。放送が入ったら、カプセルを自分で外しても大丈夫です。
放送以前に外されたカプセルは、首輪を爆発させます。それだけではつまらないので、放
送後でも、他人によって外された場合も爆発します。首輪からカプセルに触れている指へ
と波動が送られ、それがキチンと首輪所有者の体を巡ったかどうか感知出来るようになっ
ています。同時に体温確認もします。下手な小細工はききません』
ややこしいルールが2人の頭を混乱させる。つまり、カプセルを外していいのは放送後に
自分の指で。それ以外は爆発だ。放送前、イコール爆発。放送後、他人の指イコール爆発。
『それから、すでに死んでいる人の首輪からカプセルを取るのは大丈夫です。首輪は爆発
しません。もし自分の安全を確保したいなら、自分に必要な分のカプセルを事前に集めて
おくことです。特に、赤と黄色のカプセルの人は』
嫌な汗が歌藤の額に滲んだ。噛み締めた唇がまた震えている。
『それでは最後のトラップ、健闘を祈ります』
それきりオーナーの声は聞こえなくなり、音楽も小さくなっていった。
再び両手で自分の頬をペシペシと叩くと、加藤は静かに歌藤の首を見た。
「歌さん…………青」
加藤が呟く。
歌藤は眉を歪ませ、泣きそうな表情をしていた。なかなか口を開かなかった。
歌藤の目に映っていた色は、赤。

【残り・19人?】
777代打名無し@実況は実況板で:2008/01/02(水) 22:34:40 ID:UkZh3y6J0
>>768
http://sbh.kill.jp/bs/ (オリバト保管庫トップページ)の「BBS」→スレッド一覧の「3: 避難スレ」に投下されてる。
778代打名無し@実況は実況板で:2008/01/02(水) 22:48:45 ID:guBBEKZ/0
>>777
代理投下と置き場所教えていただきありがとうございます
779代打名無し@実況は実況板で:2008/01/03(木) 17:30:58 ID:qNRuyTq/O
ほっしゆ
780代打名無し@実況は実況板で:2008/01/04(金) 00:19:39 ID:joCVtLCg0
職人さん&代理投下乙です。
最後のトラップ厳しい・・・。
これからどうなるんだろう。
781代打名無し@実況は実況板で:2008/01/04(金) 17:13:41 ID:JGkFlDVZO
投下乙。
さすがラストだけあって厄介なトラップだな…
部外者が誰なのかも気になる
782代打名無し@実況は実況板で:2008/01/04(金) 22:35:17 ID:AAiTZju0O
投下乙です。
二人はどうするのだろうか…
783代打名無し@実況は実況板で:2008/01/05(土) 19:30:27 ID:rFQfFEZdO
◆UKNMK1fJ2Yです。まだ規制が解けないので
オリバト保管庫→BBS→3:避難スレ の26から投下してあります。
いろいろとお手数をおかけして申し訳ありません。
前回代理投下して下さった方、ありがとうございました。
784代打名無し@実況は実況板で:2008/01/05(土) 20:31:56 ID:kxWLFxBlO
職人さん乙です

ついに目を覚ましたか!
あべまに会えるといいな…
本やんも早く救われて欲しい
785◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/05(土) 20:42:09 ID:UDqDKKau0
26 名前:「179・己の色を確認せよ 1/8」 ◆UKNMK1fJ2Y [2008/01/05(土) 19:16 ID:WFapmIvI]
突然の賑やかな音楽が、浜辺に倒れていたその男の意識を蘇らせた。
最初は何が起こっているのかわからなかったが、放送の声を聞いているうちに事態を思い
出し、慌てて起き上がった。打ち寄せる波はすでに彼の膝までを濡らしていた。体温の低
下、ある程度まで海水に浸かったら首輪が爆発する。出発地点で聞いた言葉を思い出し、
慌てて崖寄りの位置まで移動した。と同時に自分の身の回りを見た。幸い鞄はすぐそばに
転がっており、地図とペンを取り出すことが出来た。その他の中身も無事。放送を聞きな
がら言われたことを書き取り、そして新たなトラップの開始を知った。
「かプセルの色………」
後藤は再び海辺へと歩み寄った。海水に写して見ることは出来ないだろうか。
打ち寄せる波は常に水面を揺らし、白い波を立てていた。そこに映った自分の顔もぼやけ
たものになっている。とても色まで判別をつけることは出来なかった。
(あーあ、ハンサム顔が確認出来ないよ。早川さんと競っているイケメンが台無しだ)
わざと緊張感を崩すようなことを考えた。
(じゃあ崖の上に戻って鏡を見つけるか、誰かに会うかして……)
歩き出そうとして、右足首に痛みを覚えた。崖から転がり落ちた時に捻ったのだろうか。
それほど大きな痛みではないが、キチンと手当てをした方がいいだろう。捻挫を甘くみて
いると後でもっと痛い目に遭う。スポーツ選手ならよくわかっていることだ。
鞄からハンドタオルを取り出し、海水に浸した。タオルの中に少し砂が入ってしまったが
気にすることはない。タオルを絞り、痛む箇所に当てる。その上から自分の右手にはめて
いるリストバンドを巻いた。ちょっときついが、包帯代わりになってくれるだろう。
(………あれ?こういう時って冷やした方がいいんだっけ?温めた方がいい時もあったよ
な……どっちだっけな………)
しばしの間、小首をひねる。
(………まあいいや)
鞄を肩にかけなおし、崖の上を見た。それほど高くはないが、駆け上がるには傾斜があり
すぎる。今の自分の足を考えてみると少々厳しいだろう。無理はしたくない。
786◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/05(土) 20:42:41 ID:UDqDKKau0
試しに右手で崖を叩いてみた。サラサラと簡単に砂が崩れ落ちる。これでは駆け上がろう
としても足が取られるか、滑り落ちるかに決まっている。
崖の左右を見た。浜辺と言うには狭いが、遊歩道と言えなくもない浜が続いている。
(ここを歩けば途中で上に上がる道とかあるかもな)
港に着くかもしれない。この島の住人の過ごし方を考えても、その可能性はある。波打ち
際にはいくつかのゴミが絡まるようにして落ちていた。居住区から流されてきたに違いな
い。だからきっと、歩けばその場所に辿り着くはずだ。後藤はそう考えた。
(…………平野…………)
容赦ない殺戮者になろうとしている後輩が脳裏に浮かぶ。
(それに早川さん、大丈夫かな…………まだ俺とイケメン勝負の決着ついてないッスよ)
今の放送は午前6時の放送だ。腕時計を見て確認する。ならば自分は夜通しここで気を失
っていたことになる。熟睡出来たことにより、体の疲労が少し取れたような気もする。気
のせいかもしれないが、こういう時はいい意味に解釈するべきだ。うつ伏せで寝ていた体
は少し強張っているが、どこかスッキリした感もある。試しに伸びをして、大きく深呼吸
を3回繰り返した。そしてようやく頬に貼りついている砂を払った。
(………大丈夫、俺は生きてる)
まずは崖の上へと続く道を見つけなければ。誰かと合流しなければ。
(………阿部ちゃん、会えるといいんだけどな)
しっかりとした足取りで、後藤は前を見据えて歩き出した。


その小さな黄色いカプセルを右手に握ったまま、高木は震えていた。
北川も下山も光原も、静かに高木を見つめていた。
黄色いカプセルが首輪から外れた途端、阿部健太は死んだ。カプセルに力を加えたのは高
木。何も知らないまま、新しいトラップのスイッチを押してしまった幕開け。
「………高木」
北川が優しく語りかける。
「そのカプセルは、健太からお前への贈りモンや。この意味はわかるな?」
俯いたまま、高木は何も答えなかった。
「健太の分も生きるんやぞ。お前にはその責任がある。健太の分も、お前は投げるんや」
787◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/05(土) 20:43:19 ID:UDqDKKau0
28 名前:「179・己の色を確認せよ 3/8」 ◆UKNMK1fJ2Y [2008/01/05(土) 19:17 ID:WFapmIvI]
少しだけ間を置いて、北川は続けた。
「確認しとく。高木、お前の首輪のカプセルは、赤」
高木は微動だにしない。そのまま北川は下山を見た。
「シモは……黄色。ミツは青や。俺は?」
「ペーさんは………赤です」
下山が小声で答える。
「そうか、とりあえずミツの安全は確保出来たな」
否定するように光原が首を横に振る。下山が続けた。
「ペーさん、逆にミツが危ないってことも考えられます。カプセルが必要な人間は、一発
でウィルスに勝てる青いカプセルを欲しがるはずですから」
「………ミツ、ハイネックのアンダー着てて良かったな」
言われて光原は慌てて首輪を隠すようにハイネックシャツを引っ張り上げた。
「………シモさん」
高木がゆっくりと右手を差し出す。その掌には阿部健太の黄色いカプセルが乗っていた。
「………これ、シモさんのです。シモさん、これで黄色が2つだから安全です」
言われるままに下山が両手を伸ばす。そのまま両手で高木の手を包み、再びその手の中に
黄色いカプセルを閉じ込めさせた。
「このカプセルはお前のものだ」
「違います」
「いや、これはお前のカプセルだ。お前が健太から預かったんだ。だから、お前のカプセ
ルだ。それが嫌だって言うなら、正式にトラップが始まる時までお前が持っててくれ。健
太はお前に生きろって言ってるんだ。いいな」
限りない優しさに包まれて、高木はまた涙を流した。
そして、心の中でそっと誓った。
(………カプセルを集めよう………シモさんとペーさんの分のカプセル………俺はいらな
い………ここにいる3人が無事に生き抜けるように、俺がカプセルを集めよう………だっ
てそれが………俺の役割だから………人を2人も殺した俺にふさわしい……役割………)
788◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/05(土) 20:44:49 ID:UDqDKKau0
29 名前:「179・己の色を確認せよ 4/8」 ◆UKNMK1fJ2Y [2008/01/05(土) 19:17 ID:WFapmIvI]


彼は自分のカプセルの色を見なくてもわかっていた。
トラップの内容までは聞かされていなかったが、最善の保護をしてくれるとオーナーが言
っていたからだ。もしこれで色が黄色か赤なら詐欺だ。
かと言って、完全にオーナーを信じることも出来なかった。
萩原は鞄の中から小さな鏡を取り出した。コンタクトレンズ用の小さな小さな鏡だったが、
それを使ってなんとか自分の色を確認することが出来た。
小さく息を吐く。
澄み渡った空の色をしたカプセルがそこには映っていた。


「バ、バカなことはやめろ!ガブ!」
突然壁に自分の頭を叩きつけようとした本柳の体を、しがみつくようにして塩崎が引き留
めた。
「離して下さい!俺はもうどうなってもいいッス!俺のカプセルを川越さんに……!」
「馬鹿野郎!川越が帰ってきてお前がくたばってたらあいつだってショックだぞ!」
「仕方ないんです!俺、川越さんのカプセルの色、覚えてるんです!」
一緒に行動していた時、ふと気になったのだ。首輪になぜこんな色のついた球が埋め込ま
れているのだろう。飾りだろうか。何かの模様だろうか。だとしても妙だ。何か意味がる
のだろうか。そんな印象が本柳の頭に引っかかっていた。それにこんな意味があったとは。
だからこそ、本柳は行動を起こさなければいけなかった。川越を生かす為に。
「ガブ!いい加減にしろ!」
水口も乗り出し、痛む肩を庇いながら本柳を落ち着かせようとする。
「お願いします!俺はどうなってもいいから!川越さんを!」
「落ち着け!もうすぐ川越が戻って来るはずだ!それまで待て!」
「そうだ!川越が戻ってきたら、改めて相談すればいい!ガブ!落ち着くんだ!」
スッと、本柳の体から力が抜けた。そのまま崩れるようにして床にしゃがみこむ。慌てて
その体を水口と塩崎が支えた。
本柳の目は遠くを見ていた。
789◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/05(土) 20:45:20 ID:UDqDKKau0
30 名前:「179・己の色を確認せよ 5/8」 ◆UKNMK1fJ2Y [2008/01/05(土) 19:18 ID:WFapmIvI]
「………俺……どうすればいいんだろ…………」
「川越が戻ってきたら、またキチンと始めから考えられるさ」
塩崎が語りかける。2人の間に何が起こっていたのかはわからない。けれど、本柳が川越を
尊敬していて、川越を生かす為に苦悩していることは十分わかっていた。川越がこの小屋
を飛び出して行ったのは、【K】を余分に持っていた自分のせいでもあるのだ。
塩崎自身も罪悪感を抱えながら、苦悩していた。
「あと1時間して川越が戻ってこなかったら、俺は『Cafe Bs』に行く」
静かに水口が告げた。
「阿部と約束してるんだ。あそこで阿部と会う約束をしてる。だから、行かせてくれ。お
前たちはここに残ってもかまわない。阿部と合流したら、こっちに連れてくる」
新たの選択が3人の前にあった。


川越と阿部は、互いの首を見つめていた。
互いの表情を見て、なんとなく、いい色ではないとわかっていた。
「………赤ッスか?」
「………俺も、赤か」
「お互い運が無いですねえ。日頃の行いかな」
「それは違うんじゃないか?俺は日頃の行いに自信あるぞ」
川越の一言に、小さく笑う。
「とりあえず、赤は3個必要なんですよね」
「って言ってたな」
「でももし、青を1個見つけたら、それを飲んでウィルス対策はOKですよね?」
「一応、普通に考えたらそうだろうな」
「黄色2個飲んでもOKなんですよね?」
「計算上はな。オーナーが何考えてるかはわからないけど」
「結局、死体漁りのハイエナか、誰かを死に追いやるかしか、俺らが無事に生き残る方法
はないんですよね?」
答えを口に出したくなくて、2人は歩き続けた
790◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/05(土) 20:45:51 ID:UDqDKKau0
31 名前:「179・己の色を確認せよ 6/8」 ◆UKNMK1fJ2Y [2008/01/05(土) 19:19 ID:WFapmIvI]


「そうだったのか……」
菊地原の体を見下ろしながら、ネッピーは呟いた。
「熱射病にしては、どうも容態がおかしいと思ったんだ」
最初は確かに熱射病だったのだろう。だが、その弱った体にこの島のウィルスが侵入した
としたら。抵抗力を失った体は簡単に蝕まれてしまうだろう。
今目の前にいる菊地原のように。
菊地原のカプセルは黄色。同じ色をもうひとつ揃えなければ役に立たない。
「リプシー、早く通信が復活するといいけど……田中さんも……」
たった今の放送で、日高の名前が呼ばれた。数時間前に、田中と共にオーナーに指示され
てここから旅立って行った。その日高が死んだ。
「………日高さん………」
自分がもっとオーナーに楯突けば、こんなことにはならなかっただろうか。
日高を死に追いやることもなかっただろうか。
日高は苦しんだのだろうか。
誰に殺されたのだろう。
「…………もう………こんなのはイヤだ…………」
ネッピーは帽子を取り、静かに黙祷した。
この島に来てから、もう何度この行為を繰り返しただろう。
愛する選手たちの為に。


誰かに呼ばれたような気がしたのだ。
リプシーは道無き道を進んでいた。
『リプシー』
誰かに呼ばれたような気がするのだ。
791◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/05(土) 20:46:23 ID:UDqDKKau0
32 名前:「179・己の色を確認せよ 7/8」 ◆UKNMK1fJ2Y [2008/01/05(土) 19:19 ID:WFapmIvI]
低木の繁みの間をザクザクと進む。普通の女の子なら嫌がるような道を、リプシーは構わ
ず進んでいた。時折スカートが枝に引っかかるので、裾をたくし上げて歩いた。もしこん
な光景をあの方に見られたら恥ずかしさで死にそうだが、今はそんなことを気にしている
場合ではなかった。一刻も早く、1人でも多くの選手に出会い、南の研究所へと導くこと。
それがリプシーの役割だ。
そして新たに聞かされたトラップが、余計にリプシーを焦らせていた。
「誰かいませんかー!」
大声で木々の間へと叫ぶ。
「誰かー!」
誰かー。誰かー。自分の声が虚しくこだまする錯覚。
「誰かいたら返事して下さーい!」
そして再び走り出す。彼女は諦めることを知らない。諦めた瞬間に勝敗は決まる。それを
海賊の娘は本能で知っている。
『リプシー』
また誰かに呼ばれたような気がした。ひたすら走り続けた。
ようやく低木群が終わり、少し開けた広場のような場所に出た。
周囲を囲む木々、その緑の葉に乗った朝露がキラキラと輝き、反射し、その広場を優しく
照らしていた。どこか神聖な雰囲気すら感じられる光のプリズム。
その中に、彼はいた。
うつ伏せに倒れ伏し、赤に染まった背中を無防備に晒していた。
赤の中にかろうじて読める数字。
35。
「大久保さん!!」
叫ぶと同時に駆け出した。そのそばに膝をつき、両手で大久保の体を抱き起こそうとした。
そしてふと、大久保の右手に目が入った。
朝日にキラキラと輝く、金色の錨のブローチ。
そしてその手の横、土の上に書かれた文字。
『リプシーへ』
途端に涙が溢れた。声も立てられないまま、ただただ大粒の涙が溢れ続けた。
792◇UKNMK1fJ2Y氏代理投下:2008/01/05(土) 20:47:17 ID:UDqDKKau0
33 名前:「179・己の色を確認せよ 8/8」 ◆UKNMK1fJ2Y [2008/01/05(土) 19:20 ID:WFapmIvI]
大久保はいつも穏やかだった。
試合終了後、勝ち試合の時は笑顔でハイタッチ。大久保は満面の笑顔でルプシーに微笑み
かけた。そして優しかった。マスコット撮影の時も、中継ぎ陣総出でカメラの後ろに立っ
て笑わせてくれたものだ。
大久保は紳士だった。何かリプシーが困っていると、さりげなく手を貸してくれた。
試合後や試合前、ファンサービスをしている時、次の場所に行かなければならないのに子
供たちの列が途切れなくて困っていた時、ユニフォームを着た大久保がそこに現れた。子
供たちは憧れの選手の登場に大喜びし、大久保も笑顔でリプシーを次の場所へと送り出し
た。あの優しさは、こんなにも深い意味を持っていたのか。
「…………大久保さん…………」
ブローチを手にした右手を、リプシーは自分の両手で包み込んだ。大久保の手を、自分の
頬に当てる。すでに温もりなどなく、冷たくなった指先。つい数日前まではこの手でボー
ルを握り、多くのバッターを打ちとっていたのに。
「………大久保……さん………」
静かに大久保の体を抱き起こす。そのまま自分の膝の上に横たえ、抱きしめた。
首筋には、鈍く光る首輪。そして、赤いカプセルが見えた。
「………大久保さん……あなたのカプセルを……どうか他の選手の力にして下さい……」
震える指先で、そのカプセルを押した。カプセルは一度中に引っ込み、リプシーが力を抜
くのと一緒に浮き上がってきた。落さないようにして、リプシーはそれを自分のポケット
にしまった。そして、大久保の手の中にあった錨のブローチを自分の手に握った。
(………大久保さん………あなたの体は負けてしまった………けれど、心は負けなかった
………きっとそうですよね……?)
自分のユニフォームが汚れるのも構わず、リプシーは大久保の体を優しく抱きしめ、泣い
た。

【残り・19人?】
793代打名無し@実況は実況板で:2008/01/05(土) 22:55:26 ID:T8+eXM360
投下&代理投下乙

率直に感想を言う  「泣いた」
794代打名無し@実況は実況板で:2008/01/05(土) 23:20:54 ID:3Thbrt710
職人さん&代理投下乙です。
このトラップはやばい・・・。
そして大久保に泣いた。
795代打名無し@実況は実況板で:2008/01/06(日) 00:17:50 ID:27uaCkqW0
作者氏&代理投下氏乙
全俺が泣いた
大久保よかったな大久保。・゚・(ノД`)・゚・。
796代打名無し@実況は実況板で:2008/01/06(日) 09:59:04 ID:/Uh89mClO
作者さんと代理投下乙です。
泣いた…
これしか言えない
797代打名無し@実況は実況板で:2008/01/06(日) 12:19:13 ID:EJuIl1Dj0
乙です!!
想いだけでも報われて良かったよ大久保…
798代打名無し@実況は実況板で:2008/01/07(月) 08:07:35 ID:WjH+FKjg0
乙です。
大久保泣いたよ大久保。
ちょっと報われてよかったな。
799代打名無し@実況は実況板で:2008/01/08(火) 07:16:45 ID:PNZhuJogO
ほしゅ
800代打名無し@実況は実況板で:2008/01/08(火) 10:11:59 ID:kVWiZXqB0
test
801代打名無し@実況は実況板で:2008/01/08(火) 21:29:04 ID:qJUvT28SO
バトルロイヤル
802代打名無し@実況は実況板で:2008/01/09(水) 22:10:11 ID:xNTzFGtT0
保守
803代打名無し@実況は実況板で:2008/01/10(木) 22:54:13 ID:3hP2Gk240
804代打名無し@実況は実況板で:2008/01/11(金) 07:49:10 ID:PG4R6ZoO0
カブレラ来たよ保守
805代打名無し@実況は実況板で:2008/01/12(土) 10:20:54 ID:4b+r8M0LO
捕手
806代打名無し@実況は実況板で:2008/01/13(日) 14:38:30 ID:FrUUSnHu0
ほしゅ☆
807代打名無し@実況は実況板で:2008/01/14(月) 10:07:53 ID:k6Q5VpiHO
808代打名無し@実況は実況板で:2008/01/14(月) 18:19:57 ID:BcDWG3qSO
濱ちゃんの背番号は何番だっけ?
809「180・蝕まれても、なお 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/15(火) 00:09:44 ID:EitwM1PQ0
(そういうことだったのか……)
昨日あたりから自分の体に奇妙なだるさを感じていた。きっと治りきっていない怪我のせい、
怪我が治っていないのにこんな状況で無理を続けたせい、緊張が続いているせい、睡眠不足の
せい、いくつも思いつける理由に1人で納得していた。
この島には、ウィルスが振りまかれている。先ほどの放送でオーナーが言った。ならば、怪我
人である自分はそのウィルスの格好の的ではないか。負傷して弱っている体。抵抗力の無い体。
しかも平野恵一は、この島に着いてからずっと南方面を歩き回っている。放送ではウィルスは
風が吹くまで南に留まっていると言っていた。
(だから……俺の体はこんなにだるいのか)
けれどこんな所で挫けてなどいられない。精神論を説くつもりはないが、ある程度の精神力で
緊急事態を越えられるはずだ。気持ちさえ途切れなければ、きっとこの体は動いてくれる。
(これは俺の体だ。俺の言うことをきくはずだ)
コンタクトレンズケースに添えられていた小さな鏡で、自分のカプセルを確認することは出来
た。色は黄色。この場合、もう1つカプセルが必要になる。
平野は歩き続けていた。南の小島にある研究所。そこに平野の支給品であるラッキーカードを
持っていけば、何かが起こるのだ。
何が起こるのかはわからない。ラッキーという一言ですら、オーナーなりの皮肉なのかもしれ
ない。逆に命を失うようなアンラッキーなことが起こってもオーナーが「こんな苦しい状況か
ら抜け出せてラッキーだったでしょう?」と笑えばそれで終わりなのだ。オーナーの考え、オ
ーナーの言葉が絶対的ルール。平野たちはそれに従うしかない。
(いや、俺は抗ってみせる)
出来れば誰かと一緒に研究所に辿り着きたい。けれどその希望は次々に潰えた。
最初に一緒だった谷は平野恵一を逃がし、自分が犠牲になって死んだ。
次に一緒だったユウキとは途中ではぐれ、さっきの放送で名前が呼ばれた。
一瞬すれ違った後藤はどうしただろう。まだ名前は呼ばれていない。ちゃんと阿部真宏に出会
えただろうか。あの時無理を言ってでも一緒に行動するべきだったか。
810「180・蝕まれても、なお 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/15(火) 00:11:26 ID:EitwM1PQ0
1歩歩くたびに、体の内部が微かに痛む。けれど、平野はその怪我を誇りに思う。
(確かに無茶なプレーだったかもしれない。ひとつ間違ったらもう二度と野球の出来ない体に
なっていたかもしれない。最悪、命を落としていたかもしれない)
でも。
(それくらい、俺はあのボールを真剣に追いかけていたんだ)
命あることも勿論だが、打撲や出血、損傷、捻挫、その程度で済んだことに医師も驚いていた。
骨折すらなく手術の必要もなかったのは、よほど体が強いのだろうと。
そして入院を余儀なくされた後、ファンから届いた沢山のメールや手紙。
無茶なプレーを叱咤する言葉もあったけれど、ほとんどが平野を励ます言葉だった。平野の体
を気遣い、平野の勇気あるプレーを称え、完治と復帰を祈ってくれた。あの多くの言葉を読み
ながら何度涙を流しただろう。自分を支えてくれる人がこんなにも沢山いる。目には見えない
けれど、会ったこともないけれど、喋ったこともないけれど、こんなにも沢山の人々が。
車椅子から見た風景はとても新鮮だった。低い視線から見た球場。それが子供たちの視線。憧
れの選手たちを見上げる、夢に満ちた眼差し。
そして痛切に感じる、生きていることへの感謝。些細な出来事への感謝。美しい花が一輪咲い
ているだけで、心が温かくなることを知った。
あの日から、平野の心持ちは大きく変わった。
そして、まだ不完全な体の平野を支え、励まし、迎えてくれたスタッフたち。
(だから、俺は頑張れるんだ。あの場所に戻るためにも絶対生き抜くんだ)
そして、誰かの為に。誰かを救う為に。
敵はただ1人。監督を合わせれば2人。いや、もっと多くの協力者がいるだろう。その共通意識
さえ持てれば、選手たちが協力して脱出を模索することが出来る。今いろいろな地域に散らば
っている選手たちが集合出来れば、きっといくつもの情報を得られるに違いない。そして、平
野の持つラッキーカードが何の意味を持っているかがわかれば。
(きっとリプシーがみんなに声をかけてくれてるはずだ。研究所に集まれって)
自分の体がもつ限り、前を向いて歩き続けよう。
811「180・蝕まれても、なお 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/15(火) 00:13:36 ID:EitwM1PQ0
(……村松さん。俺、頑張りますから)
すでに名前が呼ばれている村松は、平野にとっての良き先輩であり、良き師でもあった。
安定した守備、かつての盗塁王にベストナイン。平野は率先して村松から多くのことを学び取
ろうとした。オフの日には一緒に買い物に出かけたり、公私共に指導をしてくれる人物だった。
(村松さんから教わったこと、俺がみんなに伝えます!)
もう泣き尽くしたはずだ。もう涙は流さない。平野の望みはただひとつ。きっとそれも村松の
望みに違いない。
(またみんなで野球がしたいんだ)
ぎゅっと拳を握る。
(さあリプシー。俺は先に行くよ。他の選手たちを頼むよ!)

【残り・19人?】
812「181・34か52か 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/15(火) 00:14:46 ID:EitwM1PQ0
その奇妙な放送を聞いても、彼は戸惑うしかなかった。
音楽が流れ、男が喋り出した。最初にいくつもの名前を呼んだ。そして次は地域らしき場所を
言った。そして最後に、首輪だのカプセルだのウィルスだの。
彼にはよくわからなかった。
そもそも自分の名前すら思い出せないのに、何をどうしろというのか。
陽が昇り、室内が明るくなる。小さなその部屋には鳥籠があり、中に鳥が一羽。そして床には
口を開けた鞄が転がっていた。歩み寄って鞄の中を見る。紙とペン、そしていくつかのスポー
ツに使うような小物が入っている。紙は地図だった。四角に区切ったエリアのいくつかに×印
がつけられていた。裏には人の名前がズラリ。そのいくつかにも打ち消し線が引かれている。
(ここの土地の地図なのかな。島?)
スポーツ用品を見た。リストバンドに52という数字が刺繍されている。地図の裏側の人名には
それぞれランダムな数字が書かれていた。そこに52もあった。
坂口智隆。
それがこの鞄の持ち主の名前らしい。
(この鞄、俺のなのかな……?)
もうひとつ、気になるものがあった。
鳥籠の中、あまり一般家庭では見ないような色鮮やかな鳥の横に、やや大きめのパンが置かれ
ていた。テーブルの上にはそのパンが入っていたであろうビニール袋が置かれている。
そこにマジックで書かれている殴り書きの文字。
『34・本柳』
この名前も地図の裏側にあった。彼は頭を捻った。
(こっちが俺の名前なのかな?)
それとも、この2人が一緒にこの家にいて、自分に対して気を失わせるようななにかをして出て
行ったのか。つまり、自分は坂口でも本柳でもない、第三者なのだろうか。
「……なあ、俺、誰なんだかお前知らないか?」
ぼんやりと鳥に話しかける。鳥は眠っているのか、動く気配は無い。彼は何気なく鳥籠の出口
を指で小さく開けた。途端に鳥がグッと顔を突き出した。驚いて彼は手を引っ込める。鳥は嘴
で起用に出口の柵を上へと持ち上げ、体を捻じ込むようにして外へと飛び出した。
「あっ!」
鳥は迷うことなく窓の外へと飛び出し、高く高く空へと昇っていった。一声甲高い声で鳴いて。
813「181・34か52か 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/15(火) 00:15:46 ID:EitwM1PQ0
鳥のシルエットが太陽と重なり、眩しさで後を追うことが出来ずに彼は手で目を覆った。
嫌な予感がした。
(太陽に向かって飛ぶ鳥……その影と太陽が重なったら悪いことが起こるって……昔お袋に聞
いたことがある……)
それが彼の微かな記憶。
だが、今以上に悪いことなど起こるだろうか。自分が誰かもわからず、ここがどこかもわから
ず、ただ1人で途方に暮れている。
(俺は坂口なのか、本柳なのか、それ以外なのか)
誰かに会えるだろうか。会えば何かわかるだろうか。
ドアのすぐ横に鏡があった。そこに映った自分の顔を見る。髪の毛の一部分が、何かで固まっ
たようになっていた。考えてみると、ちょうどその部分がズキズキと痛む。怪我をしているの
だ。手をやると、赤黒い粉がついた。
(血?)
ぶつけたのだろうか。それとも誰かに殴られたかして、こんな怪我をしたのだろうか。
(……頭をぶつけて記憶喪失って話、よく聞くよな)
少しだけキッカケが出来る。
(自分でぶつけて記憶喪失だったらあまりにもマヌケだぞ?)
首元に目がいった。奇妙な首輪をしている。SF映画に出てきそうな冷たそうな首輪。中央にあ
る赤いパネルの真中にヒビが入って割れており、奥の機械が見えていた。見ると中に入ってい
る細かい装置も壊れているようだった。軽く指先でいじるとパラパラと粉が落ちた。最後まで
貼りついていた赤いパネルもパキンと小さな音を立てて剥がれ落ちた。そのパネルの横には水
色に近い青のカプセルが埋め込まれている。これがさっき放送で言われていたものだろうか。
そして、ようやく気づいた。自分の首に残る、何かで絞められたような痕。
(何が起こったんだ?)
自分は誰かに殺されかけたのだろうか。
答えを知るには、外に出なければ。自分を知る誰かと出会わなければ。
地図とペンをポケットに入れ、彼は小屋の外へと出ることにした。
どちらへ行こうかと少しだけ考え、鳥が飛び去った方向へと歩き出した。

【残り・19人?】
814「182・約束 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/15(火) 00:18:12 ID:EitwM1PQ0
「すまん。俺、やっぱり行くよ」
スッと水口が立ち上がる。驚いて塩崎と本柳が顔を上げた。
「阿部と約束してるんだ。『Cafe Bs』で会うって。約束の場所を決めたのは俺だ。行かなきゃ
いけない」
「で、でも」
慌てて塩崎が口を挟む。それを水口は笑顔のままで制した。
「わかってる。阿部がそこにいるかはわからない。でも、ひょっとしたら俺との約束を律儀に
守ってその周辺をウロウロしているかもしれない。だから約束を破るわけにはいかないんだ。
あいつを保護してこないと」
「じゃあ阿部が見つかったら」
「一緒にこっちに連れてくる。仲間が増える。これからの作戦もいろいろ思いつくだろ」
「………見つからなかったら?」
不安そうな表情で塩崎が尋ねる。そういったマイナスの感情は隠すようにしているらしいが、
どうしても言葉の隅から本当の気持ちが零れ落ちていた。こんな状況では誰だって不安だろう。
しかもようやく出会えた信頼出来る年長者と離れなければならないなら尚更に。
「ある程度近場を探して見つからなかったら……諦めてここ戻ってくるさ。あいつのことだ。
きっとしぶとくどっかを動き回ってるよ」
水口は傷ついた肩を庇いながら、鞄を肩に提げようとした。
「水さん、これ持っていって下さい!」
塩崎が自分の鞄から小型のチェーンソーを差し出す。小型とはいえ、肩から提げるタイプだ。
それなりの重さもある。けれどその威力と重要性を感覚的に理解していた。
「水さん、とりあえずこの武器があれば、もしものことがあっても威嚇は出来るでしょう?持
って行って下さい。俺には………使う勇気、ないから………持ってても、意味、ないです」
塩崎も本柳も、まだ水口の支給品を知らない。自分から聞こうともしなかった。水口も自分か
ら言おうとはしなかった。だから、あまり戦いに向かないものを渡されているのだろうと塩崎
は解釈していた。
水口はまた満面の笑みを浮かべると、小さく首を横に振った。
「いや、これはお前の支給品だ。お前が持ってろ」
「水さんは?支給品、大丈夫なんですか?」
815「182・約束 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/15(火) 00:19:35 ID:EitwM1PQ0
「なるようになるさ。必ず戻ってくる。もしここに危険が迫ったら、お前たちも逃げるんだぞ。
もしもの時は『Cafe Bs』。これが合言葉かな」
「は、はい」
緊張した面持ちで塩崎が答える。
「カプセルのこともある。誰かに会わないと話にならないだろ。塩崎とガブが黄色、俺が赤。
どっちにしろまだ足りない。………なあガブ」
水口の呼びかけに、本柳が瞬きをする。
「川越は必ず帰ってくる。だからお前がしっかりしてなきゃいけないんだぞ。もし川越が戻っ
て来て今のお前を見たらどう思う?心配するに決まってんだろ。明らかに平常心を失ってるん
だから。いいか、冷静になれ。落ち着いて考えろ。川越は必ず戻って来る」
「………はい」
後輩2人に言い聞かせ、水口はまた小さく笑った。
そしてゆっくりと出口へ歩く。出口の前にバリケードとして置かれていた机をどかそうとする。
塩崎が駆け寄ってそれを手伝った。
「後は頼んだぞ。必ず阿部を連れて戻って来る」
軽く右手を上げ、いつもと何ひとつ変わらぬ表情で外へと出て行った。
ゆっくりと塩崎が机を元の位置に戻した。ゴトン、と重々しい音がした。


そんな出来事があった小屋を、木々の間から見つめている影があった。
出口から歩いて行く水口をじっと見つめた後、その小屋に向かって歩いて行った。

【残り・19人?】
816 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/15(火) 00:20:15 ID:EitwM1PQ0
今回は以上です。
817代打名無し@実況は実況板で:2008/01/15(火) 07:08:25 ID:fzVwj/Q8O
乙です!
ますます展開が気になる…!
818代打名無し@実況は実況板で:2008/01/15(火) 21:11:24 ID:2MAsM9QZ0
職人さん乙です。
フラグが立ちまくりでこれからの展開が
気になるっす。
819代打名無し@実況は実況板で:2008/01/15(火) 21:31:47 ID:RCL15/0z0
乙です!!

恵一の健気さに泣ける。
阪神行ってもがんばれ……
820代打名無し@実況は実況板で:2008/01/17(木) 01:13:49 ID:q5Rer1GdO
エイエイがんばれほしゅ
821代打名無し@実況は実況板で:2008/01/17(木) 23:18:33 ID:Yq99wFzX0
ようやく規制解除で捕手できる。職人さん乙です。
822代打名無し@実況は実況板で:2008/01/18(金) 20:47:46 ID:xmGX+Whm0
川越さんが心配保守
823代打名無し@実況は実況板で:2008/01/20(日) 01:39:55 ID:NcBXLkeaO
Wカトウ応援保守
824代打名無し@実況は実況板で:2008/01/21(月) 01:26:16 ID:8hftywuaO
825代打名無し@実況は実況板で:2008/01/22(火) 07:54:52 ID:aj20AZPN0
保守
826代打名無し@実況は実況板で:2008/01/23(水) 01:12:49 ID:v0BVYvC1O
ほしゅ
827代打名無し@実況は実況板で:2008/01/24(木) 19:43:40 ID:+LM1tGs50
坂口気になる
828代打名無し@実況は実況板で:2008/01/25(金) 23:31:45 ID:3F/BErr40
1日1保守
829代打名無し@実況は実況板で:2008/01/26(土) 16:46:25 ID:i9tUiozr0
保守
830「183・後ろ向きの渇望 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/27(日) 00:37:32 ID:egDZ+0Ok0
水口を送り出した後、本柳は自分の鞄の中を見た。パンと水。地図とペン。食料はかなり減っ
ている。自分なりに節制して少しずつ大事にしてきたつもりだったが、食べなければ体力が持
たなかった。水は時折補充できたが、不足しがちなのは否めない。そして自分に最初に与えら
れた武器、初心者用催眠術キット。鞄の横には途中で手に入れたライフルが置かれている。
(俺、ここまで何をしてきたんだろう……)
生き残りたくて。尊敬する川越と共に生き残りたくて。川越の性格を考えて、その生き残れる
可能性の低さに心を痛めて。
川越の手を血に染めさせた。
(俺、川越さんに何をしたんだろう……)
自分の行動を冷静になって振り返る。敵と遭遇した時に川越が戦えるように催眠術を施した。
初心者用キットだから、効き目はどの程度なのかはわからない。けれど、ある一定の成果を出
している。川越はひとつのキーワードをキッカケに行動を起こすこともわかった。
(俺………俺は………)
キットを取り出して、改めて説明書を見る。読みながら道具を手にする。紐に下がった球が揺
れる。それを視界から外すようにして説明書をもう1回読み始める。
(催眠状態を解くキッカケは……)
説明書には何か大きな音を鳴らすなどしてキッカケを作ればいいと書かれていた。具体例とし
て、手を叩くこと。本柳がそれをしようとした時、何か甲高い音がして川越は意識を取り戻し
た。あれは何の音だったろう。
(鳥が鳴いたんだったっけ……?)
どちらにしろ、初心者が適当な方法でかけた催眠術だ。いつ解けても不思議ではない。また悪
い考え方をすれば、何らかの方向に暴走してしまっても不思議ではない。
(だから俺がついていなきゃいけなかったんだ!)
どうしてあの時、川越1人を夜の闇の中へと走らせてしまったのだろう。何故見送ってしまった
のだろう。何故後を追わなかったのだろう。
(………後を追ったら、水さんと塩崎さんが死んでた。そして……俺も)
保身の為。2人を救う為。どちらの理由も当てはまる。そしてどちらの理由も正当だ。あの時、
邪魔なのは【K】を2つ持つ存在だった。だから、川越か塩崎のどちらかが消えなければいけな
かったのだ。
831「183・後ろ向きの渇望 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/27(日) 00:38:26 ID:egDZ+0Ok0
(………どうしようもなかったんだ)
本柳はドアを見つめた。今にもそのドアがノックされて「ただいま」と川越が戻って来そうな
気がして。

部屋の角の近くに「○○ジャガイモ」と書かれたダンボール箱があり、そのすぐ横に塩崎は腰
を下ろした。鞄からチェーンソーを取り出し、自分とダンボールの間に挟むようにして置く。
チャリ、と音がした。ネックレスが首輪に当たった音。そっと手を伸ばして優しくペンダント
ヘッドを握った。ロケットペンダント。数年前に撮影した大切な人の、はにかんだような笑顔
が入っている。普段からファッションやアクセサリーにこだわりを持つ塩崎だ。やや年季の入
った色をした、銀のペンダントヘッドを親指で撫でた。
(死にたくない)
何度も呟いた言葉。
(生きたい)
けれど、ふと気づく。「生きたい」という感情と「死にたくない」という感情が同じ意味ではな
いことに。
(俺は……多分、死にたくないんだ)
強烈な生への執着心ではない。これを持つ者こそが、最強のマーダーとなれるのだろう。人を
蹴落として生き残ることに何の躊躇いも抱かないくらい。それが生きることへの渇望だ。
死にたくない。そう考える人間はどこか後ろ向きだ。それは自分自身を考えればわかる。生き
残る為の良い方法など何ひとつ思い浮かばず、ただ怯えて隠れていた。
(水さんはきっと生きたいんだ。ガブだってきっと。なのに俺は……)
死にたくないから、嫌々ながら前へと走る。走らざるをえない。
けれど前を見てはいない。前を見ることが恐くて。
(俺、一番中途半端だな)
こういうタイプがこういう状況ではアッサリ死ぬのだ。映画だったらそうだ。よくここまで生
き延びたものだ。
(だって、本当にどうすればいいのかわからないんだ)
何故自分達のチームでこんな殺し合いが行われているのだろう。まさか他のチームでも行われ
ているのだろうか。ひょっとしたらこれはオリックスだけの問題ではなく、12球団すべてにや
がて起こることなのでは?他のチームの友人たちは大丈夫だろうか。
832「183・後ろ向きの渇望 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/27(日) 00:39:29 ID:egDZ+0Ok0
(誰かが生き残って、真実を伝えなきゃいけない)
その誰かが自分ではないかもしれない。
(………もう、何も考えたくない………)
少しずつ、塩崎の瞼が重くなる。ここまで緊張の連続で浅い睡眠ばかりだったせいだ。水口と
本柳という仲間が出来、少なくとも今は水口を待っているだけでいい状況が塩崎を微かに安心
させていた。独りではないという感覚が嬉しかった。
(やべ……寝ちゃダメだ………)
塩崎の意思とは裏腹に、瞼はどんどん重くなる。
(………ガブがいるから………平気……かな………)
両手でチェーンソーを抱え込むようにして、そこに体重をかけて目を閉じた。

突然、ガシャーン!という音がした。驚いて塩崎は顔を上げた。続いて何度もガラスを割る音
がし、同時に顔に風を感じた。
視界は真っ白。目の前はまるで霧に包まれたような、いや、それ以上、まるで小麦粉を部屋一
面に撒き散らしたような白さだった。
(敵?!)
咄嗟に立ち上がろうとした。途端にガツン!と何かが塩崎の脳天を直撃した。
「ぐっ!!」
激痛、眩暈、重心を崩して立ち上がることに失敗し、再びその場にしゃがみこんだ。ふたたび
激痛。今度は肩。片手で頭を抱えた。ぬるりとした手触りがした。世界が大きく揺れている。
(血………か?)
敵には自分が見えているのだろうか。塩崎の視界は全くきかないというのに。
上半身がふらつく。床に手をつこうとして、何かに当たった。
(チェーンソー……)
実に武器らしい武器。だが今の塩崎に使えるだろうか。頭から血を流し、肩を痛め、重心すら
とれないでいる自分に。頭がグラグラ揺れている。頭のてっぺん辺りから何かがテロテロと流
れ出していることがわかる。右目に液体が入った。視界に少し赤が混じる。すぐに痛くて目を
開けていられなくなった。
(駄目……なのか……?)
833「183・後ろ向きの渇望 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/27(日) 00:40:17 ID:egDZ+0Ok0
俺はここで死ぬのか?左目だけの世界は白。だが右目は白から赤に変わった世界。狂った色彩
に包まれて、心の中で何度も同じ言葉を繰り返す。
(もう……駄目なのか………?!)
泣き叫びたくなるような絶望。その瞬間が近づいてきていることがハッキリと感じ取れる。
(敵は……誰だ?!)
まさか本柳では。そんな恐怖に全身が冷たくなる。本柳はこの瞬間を待っていたのだろうか。
(………水さん!!)
塩崎は自分の体の横に置いてあるチェーンソーを掴むと、自分の体ごと倒れこむようにしてジ
ャガイモの入ったダンボール箱の中にそれを落とした。そしてその上に本当に倒れこんだ。も
う体を起こしている力すらなかった。
(水さん………チェーンソー………使って………)
自分が愚かだったのだ。戦う意志を持てなかった。逃げることばかり考えていた。敵が向かっ
てきたらどう対処すべきか、そのシュミレーションすら恐くて出来なかったのだ。
チャリ……
ロケットペンダントを握る。
(……………)
最愛の人の名前をそっと呟く。
その時、頭部に最後の一撃が走った。

【×塩崎真 残り・18人?】
834「184・天網恢恢 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/27(日) 00:41:24 ID:egDZ+0Ok0
その小屋を見つけたのは、ほんの10分ほど前のことだった。
閉まっている窓の向こう側、カーテンが少し揺れていたので誰かがいると思った。カーテンの
隙間を見つけ、彼は室内を覗き込んだ。
そこには本柳と塩崎がいた。塩崎は部屋の隅に縮こまって、船を漕いでいる。眠気に負けそう
なのがすぐにわかった。本柳は壁によりかかって何か手元にある紙を読んでいる。もう片方の
手に持っているのは何だろうか。
小屋の周りを歩くと消火器を見つけた。『消火器』と書かれた木の箱に入っている。試しに箱か
ら取り出し、栓を抜き、グリップを握ってみた。一瞬だが勢いよく白い煙が噴き出した。
(使える)
一端消火器を地面に置くと、まずは木の箱を窓の下へと移動させた。これで足場は完成だ。再
び戻って消火器を手にし、木の台の上へと上がる。鞄に差した武器が少々邪魔だったが仕方が
ない。消火器が切れたらこちらの本来の武器が必要だ。
小さく深呼吸をする。ここでしくじったら自分の死を意味する。そんなことは御免だ。
室内をしっかりと把握する。本柳までの道筋は途中に椅子があって邪魔だ。塩崎までの道筋に
は邪魔は物は何もない。では先に塩崎を片付けよう。
(………じゃあ、行こう)
消火器を持ち上げ、下の部分で勢いよく窓ガラスを叩き割った。甲高い音が響き渡る。途端に
塩崎と本柳の顔が上がった。すかさず彼は消火器を噴射させた。ノズルを室内に向け、目一杯
噴射させた。と同時に足で残ったガラスを蹴り割る。中でガタンと音がした。2人がうろたえて
いるのだろう。
室内に飛び込み、目測で覚えておいた塩崎に向かって歩いた。壁の近くまで行くと、揺れる白
い世界の中で黒い影が見えた。彼は両手で消火器を抱え上げると、その重さを利用して何の躊
躇いもなく塩崎の頭部に叩きつけた。ガツッという嫌な音がした。と同時に苦痛の呻き声が。
(よし)
再び消火器を振り下ろす。今度は鈍い手ごたえ。位置がずれたようだ。
(駄目だ。ちゃんと狙え。目をこらせ)
目の前の黒い影がよろめきながら蠢いている。立ち上がる力を無くして倒れこんだようだ。
(今度こそ!)
渾身の一撃。手応えは十分だった。塩崎らしきその影はもうピクリとも動かなくなった。
835「184・天網恢恢 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/27(日) 00:42:17 ID:egDZ+0Ok0
(次)
今度は本柳の方へと歩き出した。そろそろ白い靄も薄れ始めている。ノズルを伸ばし、本柳の
いる方へと再び噴射を繰り返した。
「………ゲホッ………ゴホ……ッ………」
むせた咳をしながら、白い塊となった本柳が姿を現す。片手で煙を払いつつ、もう片方の手で
目元を擦っている。彼は再び消火器を振り上げ、本柳の頭部へと一撃した。本柳の体が床に倒
れる。勢いがありすぎたせいで、軽く体がバウンドした。
ゆっくりと本柳が顔を上げる。上手く目を守りきったのか、しっかりと彼の顔を捉えた。
「…………平……野………っ!」
その言葉を受け、ニヤリと平野佳寿は笑った。
「ボンヤリしてる方が悪いんですよ」
「………テメエ………っ……」
本柳の額から血が流れる。唇が怒りに震えていた。
ゆっくりと右手を平野の方に差し出す。その指先には、紐にぶら下がった球があった。
震える手のせいか、その球が静かに揺れる。
「………テメエと……俺は………ロクな死に方しねえぞ………」
「俺まで負け犬と一緒にしないで下さいよ。あんたみたいな先発から中継ぎにされたような人
とは違うんですから」
「テメエ………絶対………許さねえ………」
「はいはい、何とでも言って下さい。川越さんの金魚のフンみたいでしたよ、本柳さん。川越
さんが投げてる時、ブルペンで投球練習もせずにジーッとマウンド見ちゃって。みっともない
ったらありゃしない」
ギシッと床がきしむ。平野は本柳の左手が抱え込もうとしたライフルを蹴り飛ばした。
「うっ!」
そのまま左手の甲をスパイクで踏み潰す。痛みに本柳の表情が歪んだ。
「安心して下さい。すぐに川越さんもそっちに行かせてあげますから」
「ふざけんな……っ!」
本柳が右手を突き出す。また球が平野の目の前で揺れる。
「お前なんかに……川越さんは……殺せねえっ!絶対に……お前は川越さんには勝てねえっ!
絶対だっ!!」
836「184・天網恢恢 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/27(日) 00:43:07 ID:egDZ+0Ok0
瞬間、平野は微かな眩暈を感じた。グランと視界が揺れる。それを振り払うように叫んだ。
「黙れっ!!」
怒鳴ると同時に今度は右手を蹴り上げる。球が飛ばされた。そして体重のかかった本柳の左手
から血が滲み出す。
「いい加減……自分の立場を思い知らせてあげますよ!」
消火器を両手で高く持ち上げる。その目はじっと本柳の顔を見据えている。本柳もギッと平野
を睨みつけたまま、視線を逸らさなかった。
「お前は………川越さんに……勝てねえ………」
「黙れえっ!!」
叩きつけるようにして、消火器を振り下ろした。重い物が落ちる音。グシャッという鈍い音。2
つの音が同時に聞こえた。
平野は肩で息をしていた。血に染まった本柳の左手がまだピクピクと動いている。
(………なんだ……?急に妙な焦りを感じて………感情的になるなんて………)
こんなことではいけない。常に冷静でいなければ。まだ戦いは続くのだ。
既に室内の白い霧は治まっていた。倒れている塩崎の姿を確認し、その鞄からパンと水を奪っ
た。そして首輪から黄色いカプセルを取り外す。本柳の鞄からもパンと水を取り、ライフルを
抱え上げ、同じく黄色いカプセルを手にした。壁にかかった鏡を見る。平野の首輪に見えるの
は青いカプセル。
(念の為、予備は補充しておかないとね)
口元を歪めて笑う。
(日本刀よりもライフルの方が重宝するかな。弾切れが心配だけど)
再び辺りを見回す。
(塩崎さんの武器って……無いのか。それともたいしたものじゃなかったかだな)
入り口のドアの前にある机をどかし、平野は高揚感に酔いながらその小屋を後にした。

【×本柳和也 残り・17人】
837「185・絶望の淵に 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/27(日) 00:44:12 ID:egDZ+0Ok0
「確か、こっちの方だ」
地図を手にしながら、川越と阿部真宏は歩いていた。川越はご丁寧なことに自分が留まった休
息所の場所をキチンと地図にメモしていた。今は一刻も早く水口たちと別れた小屋に戻ろうと
急いでいた。朝日が昇ったことで視界も明るくなる。敵に遭う確立も高くなるが、自分達の移
動速度も上がる。2人は希望を抱いて道を急いでいた。
小屋に行けば、水口、本柳、塩崎がいる。仲間が増えるのは心強い。そうやって仲間を増やし
ていって、作戦を立てよう。みんなで一緒に移動して、励まし合えればいい。
「この木だ。見覚えある。赤い実」
心なしか口調も明るい。記憶を頼りに歩き続け、とうとうその小屋が視界に入った。
「あそこだ!」
川越が指を差す。
「マジっすか!水さーん!」
先に阿部が駆け出した。だが川越の足はピタリと止まっていた。割れている窓ガラス。風に揺
れているカーテン。静かな佇まいの中、そこだけ不穏な空気が流れていた。
(まさか………)
何も気づかぬ阿部が入り口のドアの方へと駆けて行く。そしてドアをノックした。
「水さん!阿部です!阿部真と川越さんです!敵じゃないですから攻撃しないで下さいね!」
阿部はドアが開けられるのを待っていた。しかし一向にドアは開かない。
「水さん?開けますよ?いいですか?マジで攻撃しないで下さいよ?」
言いながら阿部はそばに川越がいないことに気づいた。辺りを見回すと、川越は窓辺に立ち尽
くしていた。
「川越さん?」
呼びかけると、ゆっくりと川越は首を横に振った。
「どうしました?」
声をかけて歩み寄る。川越は俯いたまま、小さく呟いた。
「…………遅かった…………」
その拳は震えていた。
「まさか……!」
阿部は再び入り口へと戻り、飛びつくようにしてドアを開いた。
ムッとする臭いと、薬のような臭い。入り混じったものが一斉に阿部の鼻をついた。
838「185・絶望の淵に 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/27(日) 00:45:58 ID:egDZ+0Ok0
床は一面白に染まり、誰かが歩き回ったらしい靴の跡が残っている。そして小さな赤い水たま
りの中に、2つの体が倒れていた。
「水さん?!」
慌ててそばの体に駆け寄る。その背番号は34.
「ガブさん!」
続いてもうひとつの体に駆け寄った。そちらは31.
「塩崎さん……」
室内を見回した。隈なく探した。だが水口の姿はない。
「水さん?!水さん!!」
叫びながらあらゆる場所を探した。机の影、死体の影。塩崎の体の下敷きになっていたジャガ
イモのダンボール箱まで確かめた。水口の姿は無かったが、そこに塩崎の武器だったチェーン
ソーを見つけた。
「水さん………どこに………」
緊張の糸が切れてしまったように、阿部はその場にしゃがみこんだ。
「ガブのライフルが無い………誰かが持って行ったんだ………」
川越が呟く。そして、本柳の血に染まった左手を見た。そこには崩れた文字があった。
本柳の最後のメッセージ。遠ざかる意識の中で、その人物に伝えたかった言葉。
『11 ごめ ん な さ』
最後の方の文字は既に文字としての形を成していなかった。恐らくその後に続くであろう『い』
の文字はない。力尽きたのだろう。
「ガブ………」
川越はその場にしゃがみこむと、本柳の手を取った。
「どうして………どうしてお前が……俺に謝るんだ………」
涙が溢れ出す。いつも犬のように元気に川越の元に駆け寄って来た本柳が、頭部を血に染めて
倒れている。そばに転がっている消火器を叩きつけられたのか、頭部は一部が崩れていた。脳
漿らしきものまで見え、川越は吐き気を覚えながらも目を閉じ、本柳の手を強く握った。
遣る瀬無い気持ちに包まれ何も出来ないまま、希望から絶望の底に叩き落された2人はただただ
その場に座り込むことしか出来なかった。

【残り・17人】
839 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/01/27(日) 00:46:40 ID:egDZ+0Ok0
今回は以上です。
840代打名無し@実況は実況板で:2008/01/27(日) 01:34:52 ID:UGyK1x6D0
職人さん乙です…ただ泣いたぜ…orz
川越さんにがんばってもらわにゃな…
841代打名無し@実況は実況板で:2008/01/27(日) 08:03:40 ID:dzfSR9SuO
職人さん乙です
うわあぁあん本やんがあぁああ
本やんの手紙、ちゃんと川越さんに
渡りますように…
842代打名無し@実況は実況板で:2008/01/27(日) 09:43:50 ID:Pt3O24cS0
うわああああ
本やん。。。

最後に死をかけて平野に催眠術かけちゃったか どうなんのこの先
843代打名無し@実況は実況板で:2008/01/27(日) 09:45:44 ID:5oMTap2u0
乙です!

ま、またオマエか平野おおお
844代打名無し@実況は実況板で:2008/01/27(日) 11:11:37 ID:uNaae9ld0
乙です!!!
均衡が崩れたのか一気に死人が増えていくな
平野にかけた催眠がどう響くのか気になる
本やんはまだ大丈夫だと思ってたからこの展開は心にきた・・・
845代打名無し@実況は実況板で:2008/01/27(日) 11:43:59 ID:H/scwKHc0
ちょw殺された上に総スルーの塩崎涙目w
塩崎も乙!次回から爆走チェーンソー野郎水口がはじまりません

しかし職人さんは鬼引きだな…催眠術がここでまた出てくるとは脱帽です…
846代打名無し@実況は実況板で:2008/01/27(日) 14:17:02 ID:w0Ce+FMv0
 ま た 平 野 か
だがそれがいいw
職人さん乙です!!
847代打名無し@実況は実況板で:2008/01/27(日) 14:57:29 ID:pzlYnr230
作者氏乙
本やんはどこまでも本やんだったw
塩崎の遺したものは生かされるんだろうか
848代打名無し@実況は実況板で:2008/01/27(日) 17:11:41 ID:kKGcz3px0
職人さん乙です。
びっくりした。
塩崎と本やんはまだ大丈夫だと勝手に思ってたのに
849代打名無し@実況は実況板で:2008/01/27(日) 23:07:43 ID:JLfF+RPpO
乙です。
佳寿おまえはどこまで行ってしまうのか…
850代打名無し@実況は実況板で:2008/01/28(月) 19:45:01 ID:j7RiH67E0
毎日1保守

続きが気になりすぎる…。
本やんさすがにインパクトのある散り様乙…塩崎もちぇーんそー乙
851代打名無し@実況は実況板で:2008/01/30(水) 00:55:23 ID:3C374IxZO
保守。
塩崎のロケットペンダントの中が妙に気になった俺ガイル。
852代打名無し@実況は実況板で:2008/01/31(木) 09:33:27 ID:xaV5B5bgO
ホシュ

>>851
奥さんの写真かな>ロケット
853代打名無し@実況は実況板で:2008/02/01(金) 15:18:31 ID:omNWXqGHO
つ☆
854代打名無し@実況は実況板で:2008/02/02(土) 17:15:09 ID:7L3o0fnBO
保守
855代打名無し@実況は実況板で:2008/02/03(日) 17:35:07 ID:U7wYbyDc0
捕手
856代打名無し@実況は実況板で:2008/02/03(日) 22:10:27 ID:Ad/VP7+i0
ほしゅ
857sage:2008/02/04(月) 19:13:29 ID:Wxl4Qu3AO
858代打名無し@実況は実況板で:2008/02/04(月) 20:51:24 ID:8nzcUWP20
   ./;:::::::::::::::::::::::::::::ヽ、    ./  //// l ヽヽ\ 、   .',
   /:::::::::: ' ' ' ' ' ' ' ' ' ' i    ,' ∠,,_''-,,_   _,,,-'''二\    .|
  |::::::::::         !    |./  _"''┘  └'''"__  ヽ、 .|
  |::::::::   .::.、  ,.::   i    |.l -=・=- 〉    -=・=-   | |^i
  i 、':::   ⌒   ⌒   |    .||  ` ´ /     `   ´   |ノ /
  '; ' ::       ' i,.   .i     ',    ((    `)      し'|
  ノ☆::::::   ._`ー'゙   ..     '、    ´`T:⌒´ 、     ノv/
イ i  ゙t:::::::、'、v三ツ::::::;'      ヽ  `.ニニニ´    /.|
   !.  ヽ,.:::::゙::::::::::::::::/ヽ、     .\         /  .|
   ヽ、  ':.、:::;;;;;;::/ |  ゙ヽ、     .|ヽ____/   
                              ___  |
         |           |       /_Bsヽ.☆
      .__☆     ___  |       [ ;`↓´] ∩\
    _l_Bs_l \   |_Bs_|_ ☆      ( つ   丿   ○
   /⌒(゚∀゚ )  ○ (キ゚∀゚モ)ノ \     (   ノ
 ⊂´__________∩     ノ( ヘ )へ   ○  し ' し'
  !:::::::::::::::::::::::||_))S:::::::i.  びっくりするほど
  !::::::::::::::::::_,,、-'''''' ̄ ̄`'ヽ.┌┐‐┴‐ ┌┬┐   /   ──  ┌─┼┘
  |ミシ ̄ ̄__,,,〜,__!'''"  ││┴┴ ├┼┤   ソ ┌─┐ │  |
  (6ミシ  ,,(/・)、 /(・ゝ|    ├┤┌┐ └┼┘   /__、 ├─┘ ├┐ ヽ/
   し     " ´i |`   i  ....││├┤. .二|二     |  ├┬┐ ││ ./ 、
   :::| ヽ  f ・ ・)、 ,i   .└┘└┘ / \\\. / .|.ヽノ| ┼┤ ノ .┘/.  ヽ
   ,,_ノヽ | -=三=- /   (⌒)  ビシッ 
― ''"l::\ ヽ___゛_ノ    ノ ~.レ-r┐   デブだろうが俺達だろうが受けて立とう
::::::::|_:::;、>、_     ヽ-、、ノ__ .| | ト、   楽天から奪取した定位置そう簡単には渡さん

859 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/05(火) 00:43:58 ID:uQNIMiET0
最初に訂正です。
これまでの文章で、相川と阿部真の年齢を逆に考えてしまっていました。
正しくは、相川が年上、阿部真が年下です。(相川の童顔に騙されていました…)
これまでの文章は後日訂正文を保管庫さんにお送りしますので、
お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

では、今回の続きです。
860「186・異国の絆 1/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/05(火) 00:45:27 ID:uQNIMiET0
自分の記憶力もなかなかのものだと水口は思った。
おぼろげな記憶の中、地図に残しておいたマークと自分の感覚を手掛かりに歩き続け、見事に
『Cafe Bs』へと舞い戻ることが出来たのだ。敵に会うこともなく、予想していたよりも短時間
での到着にホッと胸を撫で下ろした。
だが到着が目的ではない。問題はここに阿部真宏がいるかどうかだ。暗闇の中、互いの姿も確
認出来ぬままに声だけで交わした約束。敵に襲われた緊急事態の中で、この『Cafe Bs』で落ち
会おうという約束。水口が以前ここを出発してから既に日付変更線は越えている。ならばまた1
時間の滞在が許されるはずだ。
(阿部は……もう1時間を過ぎてこの周辺をうろついているかもしれないな。そうしたらまた探
し歩くのか………あいつが無事だといいが)
微かな不安を胸に抱きながら、水口は『Cafe Bs』のドアを押した。
カラカランというベルの音。店内全員の視線が水口に集まる。誰かが慌てて店の奥にあるドア
の向こうへと消えて行った。
「水さん!」
相川がどこかホッとしたような表情で水口を見る。水口は店内を見回した。相川、見慣れた外
人勢。だが阿部の姿は無い。
デイビーが立ち上がる。阿部に一瞥をくれると、今さっき誰かが姿を消したドアの向こうへと
姿を消した。
「阿部真はいないか?」
水口が尋ねる。
「阿部ですか?昨日の夜に川越さんと一緒に来ましたよ」
「川越と一緒か!」
阿部は1人ではない。そこのことに少しだけ安心した。しかも水口たちの元から飛び出して行っ
た川越と一緒だという。運命とはわからないものだ。これならきっと川越が自分たちの状況を
阿部に伝えてくれているだろう。
「阿部と川越が来たのは、トラップタイムの後だな?あの【K】を集めるってやつの」
「はい。阿部は水さんを探してここに来たって言ってました。それから……」
相川は何かを言おうとしてやめた。表情が少し暗くなる。それが気になった。
「おい、それからどうした」
「あ、いえ、阿部とは……それほど関係ない話で」
861「186・異国の絆 2/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/05(火) 00:46:17 ID:uQNIMiET0
「関係なくても何があった?阿部が怪我でもしたのか」
「怪我はしていません。阿部さんと川越さんは無事でした………他の人がちょっと……」
口篭る相川を見て、水口はカウンター越しに更に詰め寄った。カウンターの上には誰かが飲ん
でいたのか、まだ湯気の立っているホットコーヒーが置かれていた。
「何があったんだ?まさか阿部と川越が誰かに何かしたのか?!」
「いえ、2人は何もしていません!本当です!2人は偶然見ただけです!ユウキが……!」
そこでまた相川が言葉に詰まる。ユウキの名前を聞き、水口はさっきの放送に彼の名前があっ
たことを思い出した。
(ユウキは多分……ここで………そうか………)
静かに目を閉じる。そして再び相川を見た。
「もう一度聞く。阿部と川越の2人は、ユウキには何もしなかったんだな?」
「はい。2人はユウキに仲間になろうって誘っていたみたいでした。危害は加えていません。ユ
ウキは………違う人間の罠にかかったんです………」
「それを、2人は見た?」
「…………はい…………死ぬ瞬間を」
「………そうか……ありがとう」
水口は相川に労いの言葉をかけた。これらの言葉を告げる相川だってつらいに違いない。こん
な状況まで来ていながらまだ気持ちが定まっていないのであろう相川を思うと、自分まで苦し
くなった。悪いのは相川ではないのだ。もっと憎むべき相手がいる。
「阿部たちは何処へ行ったかわかるか?」
わざと明るい口調に変えて尋ねた。相川も少しだけ表情に笑みを浮かべた。
「水さんたちに会いに行くって言ってました。川越さんが、水さんたちのいる場所を知ってる
からそっちへ行くって」
「そうか……すれ違いになったのか。まあ時間がありすぎたからな。仕方ない」
相川がそっと水口にアイスコーヒーを差し出した。水口はニッコリ笑ってそれを受け取ると、
ストレートのまま半分だけ飲んだ。
「水の方がよかったですか?」
「いや、水ばっかり飲んでたから嬉しいよ。じゃあ」
「え?もう行かれるんですか?」
「ああ、阿部たちが待ってるってわかったしな」
862「186・異国の絆 3/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/05(火) 00:47:20 ID:uQNIMiET0
「でも、せめて肩の怪我の手当てを……どうしてそんな怪我を?誰に?」
「大丈夫。川越の救急箱で応急処置はしたから。急がないとあいつらが痺れ切らすしな」
軽く手を挙げ、笑顔のまま店を出た。
その後姿を引き留めることも出来ず、相川も引き攣った笑顔で見送った。
「………ふう、危なかった」
呟きながら、奥のドアから岸田が顔を出した。
「間一髪だったなー。バレたかと思った。うかうかしてらんないな。のんびりコーヒーなんて
飲んでる場合じゃないか」
言葉とは裏腹に再びカウンター席に腰を下ろすと、ホットコーヒーを両手で包むようにして口
につけた。
「相川さん、コーヒーいれるの上手くなりましたね」
「お褒めに預かり、恐縮」
「全然感情こもってないじゃないですかー」
楽しそうに笑っている岸田とは正反対に、相川の表情はまた曇ってしまった。
入れ替わるように、ブランボーが店の奥の扉へと消えて行った。

『Cafe Bs』を出て2〜3メートル歩いた所で、「水口」という呼びかけが聞こえた。驚いてキョ
ロキョロ辺りを見回すと、木の影からはみ出している巨体が見える。柔らかな金髪。デイビー
が手招きをしている。
「デイビー?どうした」
思わず歩み寄る。警戒心を持たない自分もどうかしていると思ったが、やはりチームメイトは
信じたかった。そして今自分の前にいるデイビーの目は真っ直ぐで、何かを信じている目だと
思った。強い決意、意思が顕れていた。
水口が歩み寄ってくることを確認すると、デイビーは歩き出した。店の裏側、離れにある小屋
へと向かって歩いた。静かにデイビーが扉を開く。音を立てないように気を遣っているのがわ
かった。音を立てたら『Cafe Bs』のメンバーに気づかれてしまう。それを望んでいないのだろ
う。これはデイビーと水口だけの秘密。そう理解して水口も口をつぐんだ。
デイビーが小屋の中を指差す。導かれるまま中を覗きこんだ。
そこには大きな物体があった。カーキ色の布がかけられている。だがそれが何かわかった。車
だ。しかも太いタイヤ。布の膨らみもジープのような雰囲気を感じさせた。
863「186・異国の絆 4/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/05(火) 00:48:13 ID:uQNIMiET0
「こ、これって……」
するとデイビーは自分のポケットから1個の小さな鍵を取り出した。思わず水口が手を伸ばす。
しかしデイビーは申し訳なさそうな表情を浮かべ、それを再び自分のポケットにしまった。
「ドウシテモ、必要ナ時、アゲマス」
そして水口も理解する。本当はデイビーも選手たちを助けたいのだ。だがここで車の鍵を渡し、
いざ自分たちがそれを必要とした時に鍵が無くてデイビーの裏切りがバレたら大変なことにな
る。だからデイビーは「ドウシテモ、必要ナ時」と表現したのだ。つまり最後の手段としてこ
れを取っておくと言ってくれているのだ。どうしても車での移動が必要になるその瞬間の為に。
その時にこそ、この鍵を渡す、と。
「わかった。ありがとう。その時になったらまた来るよ」
水口の言葉にデイビーがしっかりとうなずく。そしてまたポケットから紙の切れ端を渡した。
殴り書きの文字だったが、それがデイビーの精一杯だった。
『Go to the south. Perhaps, it seem to happen when going to the laboratory with 9
Keiichi's lucky card …something…   Danger→16Hirano 64Tanaka』
「ワカル?水口、ワカル?」
不安そうにデイビーが尋ねる。
「えっと……南に行くんだな。そうすると、多分、ラボ……ラボトリー……って研究所だっけ?
それがあって、9番の平野恵一のラッキーカードと一緒に……何か……何か起こるってこと
か?それから、危険なのが16の平野と田中か。よし、大丈夫。アンダースタンド」
デイビーを見上げて笑いかける。デイビーも安心したように笑った。けれどすぐに悲しそうな
表情を浮かべた。
「Sorry……ゴメンナサイ……デキルコト、コレダケ……」
「大丈夫だよ、これで十分だよ。俺たちが頑張るから!」
「川越ゲンキ、阿部ゲンキ」
「うん、わかった。ありがとう。じゃ、今度こそ阿部たちとグループになるよ」
「ガンバッテ」
「ああ!」
デイビーの自分の危険をも顧みない勇気に励まされ、水口はもと来た道を急いで戻り出した。
864「186・異国の絆 5/5」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/05(火) 00:50:49 ID:uQNIMiET0
水口を見送ると、デイビーは裏口から店の中に戻った。いつも岸田が隠れて休んでいる場所に
は、ただ鞄だけが残されている。もう店の方へ出て暢気にコーヒーを飲んでいるのだろう。
デイビーはその鞄の蓋を開けた。銃が2丁。手榴弾が4個。その他ナイフも入っている。そっ
と手を伸ばし、手榴弾を1個掴んだ。2丁ある銃が1つ無くなったら岸田もすぐに気づくだろ
う。だが4個のものが3個に減っても多分簡単には気づかない。気づきそうになったら自分が
誤魔化せばいい。
手榴弾をタオルで包み込み、また裏口から外に出た。再びジープの小屋へと戻る。ジープを覆
っている布を潜り、後部座席の下に振動で間違いが起きないように手榴弾をタオルごと隠した。
覆っている布を直し、小屋を出る。デイビーの足が止まった。
「……ブランボー」
腕組をしたブランボーが、じっとデイビーを見つめていた。その手には銃が握られている。デ
イビーの背中に冷たい汗が流れた。
「……イツカラ見テイタ?」
動揺を隠した口調で尋ねた。
「水口トココニ来タ時カラ」
あっさりとした返事がくる。デイビーは唇を噛み締めた。ここでバレたら全てが水の泡になっ
てしまう。それだけは避けたかった。自分の為にも、みんなの為にも。
「俺ハ、自分ニ正直ニ生キタイ。後悔ダケハ、シタクナイ。卑怯者ニハ、ナリタクナイ」
訴えかけるように告げた。ブランボーの目をしっかりと見つめて話した。
ブランボーは小さくニヤリと笑った。
「奇遇ダナ………俺モダ」
銃をベルトに挟み、デイビーに背を向ける。そして店の方へと歩き出した。2、3歩歩き、再び
振り返る。またデイビーの胸がギクンと弾む。
ブランボーはデイビーに向けて茶目っ気たっぷりにウインクをすると、右手でサムアップをし
た。デイビーも笑顔になり、サムアップを返した。再びブランボーが歩き出す。デイビーもそ
の後に続いて店へと歩いて行った。
1人ぼっちではない。孤独な戦いではない。自分にも仲間がいる。
その事実がデイビーの胸を熱くした。

【残り・17人?】
865「187・しがみつく者 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/05(火) 00:53:07 ID:uQNIMiET0
「聞いてるか?香月」
「あ、ええ、聞いてますよ」
朝から香月の様子がおかしい。大西が何か話しかけても上の空だ。朝起きた時から急に様子が
おかしくなっていた。最初は悪い夢でも見たのかと思ったのだが、どうもオドオドしている気
がする。今朝、一瞬だけ大西がそばを離れた間に何かあったのだろうか。
合流した時から様子がおかしいとは思っていた。だがそれは何を考えているかわからないとい
う不気味さだった。けれど今は何かに怯えているようなのだ。その証拠に、右手に自分の武器
である三叉の矛をしっかり握り、半ば構えたような状態で歩いている。
「香月、何かあったのか?」
「いえ、別に……」
「こんな状況だからさ、いろいろ心配なのはわかるけど、先に気持ちで負けたら駄目なんだぞ。
いいか、気持ちをしっかり持てよ」
「大丈夫ですよ」
言葉とは裏腹に、その表情は暗い。前を見ず、ほとんど足元を見つめながら歩いている。時折
立ち止まり、爪先で地面をトントンと叩く。何かを振り払おうとするかのように、大袈裟に肩
を揺する。挙動不審な点が多かった。
「なあ香月、頑張ろうな。きっと誰かに会えるから。カプセルのこともあるからさ、俺らは誰
かに会わなきゃいけないんだよ」
赤いカプセルの大西と、黄色いカプセルの香月が歩く。
香月は寡黙になってしまった。この島に来る前はこんなではなかったのに。
異常な状況が人の精神を狂わせる。それをこんなに実感したことはなかった。大西自身ですら
危険な考えに陥りそうになった。だが彼はそこを抜け出した。そちら側には向かわず、光へと
向かった。敬愛する師匠、空の上から自分を見守ってくれているであろうコーチの言葉を胸に。
香月にはそんな存在がいるのだろうか。心が揺らいだ時の芯になってくれるような存在は。
「なあ香月。この島を出て向こうに戻ったら、お前は何がしたい?」
わざと明るい口調で尋ねる。香月はまた片足を上げてブンブンと2回振り、再び歩き出した。
「そうですね…………元ブルーウェーブの選手を殺そうかなーって」
一瞬、大西はその言葉の意味を理解出来ず、返答に詰まった。何か聴き違いをしたのかもしれ
ない。そう思い直し、香月を見た。
「何だって?」
866「187・しがみつく者 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/05(火) 00:54:30 ID:uQNIMiET0
「もうね、鬱陶しいんですよ」
訥々と喋る口調は変わらない。けれど、その声色がおかしかった。
「さっきから俺の足とか肩に絡み付いてきてるんですよね。足には谷さんがしがみついてるし、
肩には大久保さんがかぶさってるし、ホント鬱陶しいんですよ」
「香月?」
思わず大西が立ち止まる。香月も足を止めた。
「谷さん、可笑しいですよ。首に帯巻きつけたままで。息出来ないくせによくしがみついてま
すよね。大久保さんだってそんな血だらけでおぶさってきたら、俺のユニまで汚れちゃうじゃ
ないですか」
「香月?!」
「ホントに……これだからブルーウェーブの奴らは……」
「香月!しっかりしろ!」
思わず怒鳴った。それ以上の言葉は聞きたくなかった。香月は足元から視線をゆっくりと動か
し、大西を見据えた。
「俺はいつも中途半端だった。入団一年目のルーキーで、入団したその年に突然あんなことが
あって、落ち着いて投げられるかもわからなくて。新しいチームになりました。はいそうです
か。昨日の敵は今日の友。はいそうですか。新しいメンバーが集まって新たに一軍争いです。
はいそうですか。負け犬は追い出しました。はいそうですか。次はあなたかもしれません。は
いそうですか。殺し合いをしなさい。はいそうですかそうですかそうですか!!」
今までの鬱憤を全て叫び吐き出すような声に、大西が思わず後ずさる。
「敵を殺しなさい!はいそうですか!生き残れるのは1人です!はいそうですか!殺さなけれ
ば殺されます!はいそうですか!だから殺したんですよ!谷さんと大久保さんを!」
沈黙。
大西はただ呆然と香月を見つめることしか出来なかった。今、香月は重大な告白をした。けれ
ど大西にはどうしても信じることが出来なかった。どこか狂気じみた叫びが、逆に現実感を失
わせていたのかもしれない。
ゆっくりと、香月は矛を構えた。その切っ先は真っ直ぐに大西を狙っていた。
そこだけ、時が止まっていた。

【残り・17人?】
867 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/05(火) 00:55:06 ID:uQNIMiET0
今回は以上です。
868代打名無し@実況は実況板で:2008/02/05(火) 01:13:04 ID:4DkOsFvW0
乙です
もう展開の速さにびっくりです
869代打名無し@実況は実況板で:2008/02/05(火) 08:06:26 ID:IE1WjhpP0
乙です!!

デイビーまで消されてしまうかとハラハラした……
870代打名無し@実況は実況板で:2008/02/05(火) 09:36:39 ID:D6GP6fUoO
>>869
ナカーマ
スクロールするのが怖かったぜwww

香月…(つД`)
871代打名無し@実況は実況板で:2008/02/05(火) 13:01:58 ID:aUlTgUx90
乙です!!!
デイビーに脂肪フラグくさいのが・・・デイビーいい人だよデイビー
岸田は楽しそうだ
香月はヤバイ・・・でも幻影も見えない人たちよりは救いがありそうな
872代打名無し@実況は実況板で:2008/02/05(火) 15:57:07 ID:5yZsW5yfO
>>859
了解です
阿部真落ち着いて見えますよね
相川…(ノ∀`)
873代打名無し@実況は実況板で:2008/02/06(水) 13:25:46 ID:dKgu2Uf80
職人さん乙です。
デイビーよかったよデイビー。
死ぬかと思った。
874代打名無し@実況は実況板で:2008/02/07(木) 15:57:55 ID:sdRhnQYp0
保守
875代打名無し@実況は実況板で:2008/02/08(金) 16:11:44 ID:TQl4JGVW0

876代打名無し@実況は実況板で:2008/02/09(土) 21:57:19 ID:3257JdH/0
デイビーしゃがみ写真ワロスw保守
877代打名無し@実況は実況板で:2008/02/10(日) 18:43:08 ID:tlQGm+gSO
保守
878代打名無し@実況は実況板で:2008/02/11(月) 04:50:30 ID:CI86tCPV0
879代打名無し@実況は実況板で:2008/02/11(月) 15:10:27 ID:EoM9GlrbO
880代打名無し@実況は実況板で:2008/02/11(月) 19:10:54 ID:uv842TuHO
881「188・振り払う者 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/12(火) 00:13:09 ID:eE3Hgj4D0
「………香月、落ち着け」
静かに、子供を諭すような口調で大西は囁いた。
「なあ、まだ大丈夫だ、お前がそんなに考え込むほどの状態じゃない。まだ挽回できる」
自分に向かっている矛先を変えること。これが先決だ。
だが香月は何も言わない。重心を低くし、両手で矛を構え、じっと大西を睨み据えている。
「落ち着け、な?とにかく歩こう。まずはカプセルを探さないと……」
「ジミーさんが俺にカプセルくれればいいんですよ」
「お、俺は赤だぞ?香月は黄色だろ?割りに合わない」
「予備が必要です………生き残れるのは1人ですから」
ジリ……
香月の靴が地面を小さく鳴らした。大西も咄嗟に逃げられる体勢を取る為に重心を低くした。
大西の武器はスコップしかない。しかも鞄に差したままだ。今更これを鞄から出して構える時
間など無い。大西には逃げるしか道はないのだ。
説得。
それは最早虚しい言葉に思えた。尋常ではない光をその目に宿らせてしまった香月の前には、
もうどんな言葉も通用しないだろう。
「俺たちは、風に追いかけられてるんですよ」
香月が呟く。
「風が追いつく前に……逃げきらなきゃ」
その目は大西を見据えたまま、揺らぐことはない。
「風に追いつかれたら………一巻の終わり」
風がウィルスを運んでくる。そのウィルスに蝕まれたら命を失う。そこから逃げ切るにはカプ
セルが必要。その風はいつ吹くのかもわからない。
全ては自然のみが知ること。
「そんな面倒な状況なのに………鬱陶しいんですよ!谷さんも大久保さんも!」
突然香月が暴れ始めた。矛を両手で持ち、自分の周囲、自分の体スレスレの場所でその切っ先
を振り回し始めたのだ。
「邪魔だ!どけっ!離れろよ!!」
「か、香月?!」
882「188・振り払う者 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/12(火) 00:13:58 ID:eE3Hgj4D0
振り払おうとしているのだ。谷と大久保の幻を。自分が殺したというその2人の姿を。
「香月!誰もいない!」
「離れろぉっ!!」
香月は暴れ続けている。法則性もなく、ただ滅茶苦茶に喚き、暴れている。その光景は、不器
用な孫悟空が長すぎる如意棒を扱いきれない滑稽な演技にすら見えた。しかしそこから発され
る狂気が、大西の背筋に寒気を走らせた。もう香月は一線を越えてしまったのだ。その暴れ狂
う様子がさらに大西を怯えさせた。
「痛てっ!!」
香月が叫ぶ。矛が自分の足に刺さってしまったらしい。
「畜生っ!」
「香月!」
思わず大西が駆け寄ろうとする。しかし長い矛がそれを遮った。
「来るなっ!俺に近寄るなあっ!!畜生!!」
香月は1人で戦っていた。幻と戦っていた。そして、自分自身の罪悪感と戦っていた。
「邪魔だ!みんな邪魔だ!!みんなして俺を邪魔にしやがって!!」
矛を振り回し、香月はひとり踊り続ける。
「邪魔ならそう言えよ!チームにいらないならそう言えよ!サーパスにもいらないならそう言
えよ!さっさと追い出せよ!俺を自由にしろよ!新しい場所で新しいチャンスをくれよ!」
泣き叫ぶように香月が続ける。
「畜生!一軍の奴ら……みっともない成績ばっかり残しやがって……見てろよ!今に見てろ
よ!俺を一軍に上げろよ!投げきってやるよ!ぶっとばしてやるよ!生き残ってやるよ!!」
矛が一際大きく振り回され、風を起こした。慌てて大西は身を引き、これをチャンスと木陰に
隠れた。すでに両足が恐怖で震えていた。
「畜生!離れろって言ってんだよ!!」
矛先が再び香月自身の足を打つ。
「肩が重いんだよ!!ピッチャーの肩に乗るなよ!!」
両肩を必死に振り回す。矛で打ち払おうとして、自らの顔を傷つけた。
883「188・振り払う者 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/12(火) 00:14:55 ID:eE3Hgj4D0
「………か………香月…………」
大西はもう前に進み出ることが出来なかった。自分で自分を傷つけてゆく香月をただ見つめる
ことしか出来なかった。
チームメイトを殺してしまった罪悪感、不甲斐ない自分への叱責、追ってくる死への恐怖、そ
れらが一斉に押し寄せ、香月を喰らいつくしてしまったのだ。
(………神様………)
もし神様がいるのなら、今香月が全身に受けている苦しみを取り除いて欲しい。大西は思った。
思わず目を閉じてしまったほどの鬼気迫る狂気と、尋常ならざる悲壮感が空間を圧倒していた。
「うわああああああああああああああっ!!」
一際大きな絶叫が響き渡り、大西は目を開いた。
矛を振り回しながら、香月がものすごい勢いで駆け出していた。大西に背を向け、木々の間を
荒々しく掻き分けながら消えてゆく。追いすがろうとする谷と大久保の幻を振り払うべく逃げ
出したのだろう。
「か、香月……」
大西は迷っていた。追うべきか。違う道を進むべきか。
答えはすぐに出た。
(俺は、師匠にだけは恥ずかしい生き方をしたくない)
大きく1回深呼吸をする。
(常に自分の目標より上を目指す。そうでしたよね、鈴木コーチ)
念の為鞄からスコップを取り出し右手で握る。そして香月の後を追って走り出した。

【残り・17人?】
884「歩け!白旗組 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/12(火) 00:16:08 ID:eE3Hgj4D0
ウィルスを運ぶ風はいつ吹くかわからない。
ここでじっとしていても、カプセルを入手しなければ安全は確保されない。
ましてや殺し合いのタイムリミットまであと1日と少し。
彼らは動くしかなかった。
一夜を越した小屋を出て、北川、下山、光原、高木の4人は外へと歩き出した。
小屋にただ1人残した阿部健太の体の上には、丁寧にタオルをかけた。最後に4人で手を合わ
せ、別れの言葉を告げた。「仇は必ずとる」そう誓った者。「みんなを助ける為に全力を尽くし
て、後から行くから」そう告げた者。「俺たちを守ってくれ」そう願った者。「いつか、みんな
が笑顔になれますように」そう祈った者。
それぞれの思いを胸に、小屋を後にした。
北川が左の太ももを負傷している為、のんびりとした歩みになった。特に行く宛てもない彷徨
だ。急ぐ必要もない。下山は左肩を負傷しいる。2人とも適当に布を巻いただけの処置。光原
が以前見つけた薬局から持ち出していた痛み止めが使われたが、やはり治療薬が欲しかった。
「せめて地図に病院とか載せてくれればいいのに」
光原がぼやく。
「病院があったって、薬が使って大丈夫かもわかんないだろ。誰もいない島なんだから」
下山が答える。
「でもですね、誰かが住んでた形跡が残ってるくらいだから、薬もまだ使えると思うんですよ。
使用期限とか書いてありますよね、薬って。俺が前に見つけた街の薬局に行くのも手かな」
「マキロンでいいよマキロンで」
先頭を歩くのは高木。肩に白旗を担いでいる。戦意のない印。仲間を求める友好の旗。
(標的は俺でいい)
もし遠方から銃を持った敵に見つかったなら、狙いはこの白旗になるだろう。狙われるのは自
分1人で十分だ。だから高木は率先して旗を持ち、先頭を歩いた。右手には銃を握っている。
気を抜いてはいけない。仲間を守るのは自分の役割。敵を倒すのが自分の仕事。
(健太が待ってる)
生き残ってはいけないのが自分。
そんな高木の後ろを光原と、光原の肩を借りた北川が歩く。北川は自分1人で歩けると言い張
ったが、もしもの時の為に今のうちに楽をしておくべきだと光原に強引に説得され、その肩を
借りることとなった。
885「歩け!白旗組 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/12(火) 00:17:15 ID:eE3Hgj4D0
一番後ろを下山が歩く。左肩の傷は時折ズキズキと痛むが、大した支障はないと言っていた。
まずは島の中央へと向かうことにした。もし風が吹いても、風通しのいい海岸付近よりは、木々
が鬱蒼と茂った地域なら、少しでもウィルスの到達が遅れるのではと考えたからだ。素人考え
だということはわかっているが、気持ちの支えになって、自分たちの進む方向を支持してくれ
るなら何でも良かった。
徐々に4人の会話が無くなる。特に話すこともない。朝の優しい陽射しを受け、温かな空気に
包まれながら、4人は歩いていた。やはり自然に包まれた空気は美味しい。下山は何度も深呼
吸を繰り返した。
気になっていることがあった。こうして4人が黙り込む前、まだ会話があった頃。
北川だけが会話に入って来なかった。お喋り好きの北川が黙り込んでいた。
(傷、つらいんだろうか)
光原に支えられて歩くその背中を見た。心なしか足取りがさっきまでより力無いものに見える。
(やっぱりどっかで手当てする道具とか、松葉杖とか見つけた方がいいのかもしれない)
まだ冷静に物事を考えられる自分にホッとする。
(ペーさん、頑張れ!)
祈るように、その背中を見つめた。
その下山自身も左肩の傷が開いていた。怪我をした後も鈴木と争い続け、無茶をしたせいかも
しれない。バイ菌が入った可能性もある。歩いているうちに左肩から血が滲み出し、今や肩の
辺り一体を赤く染め上げていた。上からタオルを巻いてみんなからは見えないようにしている
が、いつかこのタオルにも染み出してしまうだろう。微かに血が腕を伝い落ちている感触もあ
る。そして、時折頭がボーっとしてしまう。不意に足から力が抜けて、足元がよろめいたりす
る。そのたびに前を歩く仲間に気づかれたのではないかと慌てた。
(貧血?そんなことで倒れる俺じゃねえって!)
心の中で自分を励ます。
(ペーさんが大変なんだ。俺がみんなを引っ張るんだ!高木だってあんなに心が傷ついても必
死で頑張ってるんだぞ!しんがりを務める俺がしっかりしないと!)
自分を叱咤した。
886「歩け!白旗組 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/12(火) 00:18:01 ID:eE3Hgj4D0
そして先頭を歩いている高木は、自分のいる風景に違和感を感じていた。
カサリ。
時折木の葉の揺れる音がする。
ガサ、ガサリ。
それは風とは関係ないリズムで聞こえた。
(誰か……いる?)
高木は全身の神経を目と耳に集中させた。
(誰かが……俺たちと一緒に歩いてる?)
視線を感じるのだ。誰かが見ているような。こんな状況に置かれているのだから、些細なこと
が気になってしまうのは仕方がない。単なる被害妄想かもしれない。けれど、葉の音はどうし
ても高木の神経を尖らせた。
(絶対………誰かいるんだ)
銃を握る右手に力がこもった。
だがしばらくすると、その葉の揺れの音も消えていった。やはり気のせいだったのだろうか。
(………いいんだ。注意するに越したことはない)

【残り・17人?】
887「190・愉快犯の策 1/1」 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/12(火) 00:20:06 ID:eE3Hgj4D0
カラカラン、とベルが鳴り『Cafe Bs』のドアが開いた。いつも通り少しだけビクビクしながら
相川が「いらっしゃいませ」の声を出す。幸い岸田は裏の部屋に戻っていた。また隠しカメラ
で店の様子を見ているのだろう。
「ただいまー」
明るい口調で入ってきたのは田中彰だった。相川の表情がまた少し曇る。彼がこの店にやって
くると、ろくなことがない。穏やかだった時間が必ず波立つ。
「俺、まだ時間に余裕ありますよね?」
尋ねながら悪びれることもなく店内に入り、カウンター席に腰を下ろした。
「ああ。注文は?」
水を差し出しながら相川が尋ねる。田中はニコニコしながら答えた。
「決闘、ひとつ」
相川の手が揺れ、カランとグラスの中の氷が鳴った。
ガルシアとグラボースキーが立ち上がる。
「………誰を?」
震えそうになる声を隠しながら、相川が尋ねた。
田中は楽しそうだった。
「北川さんか下山さん、そのどっちかって表現は駄目?」
「どっちか?」
「そう、北川さんと下山さん、一緒に行動してるんですよ。だからそのどっちか。捕まえやす
い方でお願いします。2人とも怪我してるみたいだから。まだそんな遠くには行ってないから」
「………怪我をしてるから、決闘か」
「そう。元気でピンピンしてる人呼んだって、自分が不利なだけでしょ。決闘するなら自分が
優位じゃなきゃ意味ないし」
ガルシア、グラボースキーが店を出て行く。そしてデイビーとブランボーも、ゆっくりとした
足取りでそれに続いた。
「残り1日、残り17人、いつウィルスの風が吹くかわからない。生き残れるのはただ1人。
だったら出来ることをやりきって生き残らなきゃ。俺、間違ったこと言ってますか?」
あまりに真っ直ぐな田中の問いかけに、相川は言葉を返すことが出来なかった。

【残り・17人?】
888 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/02/12(火) 00:20:54 ID:eE3Hgj4D0
今回は以上です。
889代打名無し@実況は実況板で:2008/02/12(火) 16:27:58 ID:ie3u6BodO
職人さん乙です!
白旗組ピンチ………!
890代打名無し@実況は実況板で:2008/02/13(水) 12:07:32 ID:hN6fVVJj0
乙です!
下山の気合に泣けた…
白旗組頑張れええ
891代打名無し@実況は実況板で:2008/02/13(水) 20:52:54 ID:od1qVxlIO
乙です!
北川&下山逃げて逃げてー!
大西も無理するなー!

ところでスレの容量が490近くですが、限度っていくつだっけ?
場合によっては次の投下から新スレ立てた方が良いのでは?>職人さん
892代打名無し@実況は実況板で:2008/02/13(水) 20:57:02 ID:F6+ElfnK0
乙です〜

彰やめてえええ(泣)
893代打名無し@実況は実況板で:2008/02/13(水) 22:37:03 ID:kBOCYD750
>>891
500KBすよ
894代打名無し@実況は実況板で:2008/02/15(金) 00:23:35 ID:xXRhVIrg0
ほしゅします
895代打名無し@実況は実況板で:2008/02/16(土) 22:03:32 ID:4rpvqP/N0
現在489KB、もってあと一回分?ですね
896代打名無し@実況は実況板で:2008/02/18(月) 16:48:35 ID:vzkdgxCIO
897代打名無し@実況は実況板で:2008/02/19(火) 21:31:31 ID:EqjiIHqp0
898代打名無し@実況は実況板で:2008/02/19(火) 23:35:06 ID:4aZCz0/b0
899代打名無し@実況は実況板で:2008/02/19(火) 23:58:31 ID:TqfbjWzPO
新スレ立てたいけれど規制が…
誰かお願いします。
900代打名無し@実況は実況板で:2008/02/21(木) 01:36:07 ID:QA6tdSu0O
俺も規制でダメだった…
容量があるうちに新スレ立てて、ここで移行のお知らせ出来るといいんだが…

下村頑張れ保守
901代打名無し@実況は実況板で:2008/02/21(木) 16:31:50 ID:i3tiV+9O0
つ オリックスバファローズバトルロワイアル第4章
http://sports11.2ch.net/test/read.cgi/base/1203579045/

最初は少し保守お願いします 

          /〜〜〜
    ∧Bs∧  /  Bs /
   (・∀・ ) /〜〜〜
   (    つ  がんばれがんばれオリックスバファローズ
     Y  ノ、
    (_).J
902代打名無し@実況は実況板で:2008/02/22(金) 12:30:04 ID:g0bWIvi40
>>901乙です
903代打名無し@実況は実況板で:2008/02/24(日) 22:23:06 ID:HUMh3E67O
みんなガンガレ保守
904代打名無し@実況は実況板で:2008/02/26(火) 01:10:01 ID:diL5AXBPO
しゅ
905代打名無し@実況は実況板で:2008/02/26(火) 12:40:58 ID:NkN4RuL90
hosyu
906代打名無し@実況は実況板で:2008/02/28(木) 03:58:29 ID:dQ7qDxDPO
907代打名無し@実況は実況板で:2008/03/01(土) 09:33:15 ID:ojlWkMt8O
保守
908代打名無し@実況は実況板で:2008/03/02(日) 16:11:48 ID:q+C29zoU0
909代打名無し@実況は実況板で:2008/03/04(火) 08:57:01 ID:Bnqz8WJcO
910代打名無し@実況は実況板で:2008/03/06(木) 01:01:34 ID:gvn+kR5VO
911 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/03/06(木) 21:22:23 ID:klbkd6dH0
阪神タイガースバトルロワイアル
ttp://kobe.cool.ne.jp/htbr/
ttp://homepage2.nifty.com/sorasouyo/(旧虎バト保管庫・若虎BR紅白戦進行中

千葉マリーンズ・バトルロワイアル
ttp://www.age.cx/~marines/cmbr/

ソフトバンクホークスバトルロワイアル
ttp://sbh.kill.jp/

ヤクルトスワローズバトルロワイアル
ttp://f56.aaa.livedoor.jp/~swbr/

プロ野球12球団オールスターバトルロワイヤル
ttp://www.geocities.jp/allstar12br/

アテネ五輪日本代表バトルロワイアル
ttp://athensbr.fc2web.com/

鷲バト
ttp://www.geocities.jp/trgebr/

ビリオネア・バトルロワイヤル
ttp://tokyo.cool.ne.jp/birioneabr/index.html

公バト
ttp://fsbr.no.land.to/
912 ◆UKNMK1fJ2Y :2008/03/06(木) 21:24:55 ID:klbkd6dH0
新スレに投下しようとしたら…………誤爆…………orz

保守ありがとうございます。
こちらのスレの容量が491KBを越えているので、新スレに移行しようと思います。
立てて下さった方、ありがとうございました。
913代打名無し@実況は実況板で:2008/03/07(金) 00:20:58 ID:J/xu9gU4O
職人さん乙です。
よし、じゃあここは埋めよう。
914代打名無し@実況は実況板で:2008/03/07(金) 23:35:18 ID:ZQ6b0v5tO
うめ
915代打名無し@実況は実況板で:2008/03/12(水) 23:15:24 ID:arW5KlOfO
916代打名無し@実況は実況板で:2008/03/14(金) 04:39:45 ID:+O1L58FDO
うめ
917代打名無し@実況は実況板で:2008/03/15(土) 22:07:25 ID:eUvoij2OO
もちもちしたパンうめえwwwwww
918代打名無し@実況は実況板で:2008/03/17(月) 21:49:31 ID:2B6xMZq8O
919代打名無し@実況は実況板で:2008/03/19(水) 23:40:44 ID:ZPjdmifp0
920代打名無し@実況は実況板で:2008/03/22(土) 09:25:17 ID:SCoenw8Y0
バトルロイヤル
921代打名無し@実況は実況板で:2008/03/23(日) 14:46:48 ID:bJSZxzAaO
生め
922代打名無し@実況は実況板で:2008/03/28(金) 07:13:45 ID:3QSdtWyFO
宇目
923代打名無し@実況は実況板で:2008/03/29(土) 00:32:11 ID:lTJiCgw/0
コンドームつけたい
924代打名無し@実況は実況板で
hrds