オリックスバファローズバトルロワイアル

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24代打名無し@実況は実況板で:2006/10/10(火) 17:38:52 ID:5Tf6XZOdO
保守
25代打名無し@実況は実況板で:2006/10/10(火) 22:32:06 ID:6UFvhBd90
ホシュ
26代打名無し@実況は実況板で:2006/10/11(水) 01:53:37 ID:5h8FcfsKO
保守
27代打名無し@実況は実況板で:2006/10/12(木) 13:08:59 ID:7taAIooFO
エイエイまだかなー
28代打名無し@実況は実況板で:2006/10/12(木) 21:06:42 ID:FRU3ap5J0
緊急保守
29代打名無し@実況は実況板で:2006/10/14(土) 00:10:49 ID:3Z9cZYyZO
30代打名無し@実況は実況板で:2006/10/14(土) 14:49:41 ID:kcl0WwcgO
捕手
31「61・偽善・キレイゴト 2 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/14(土) 22:34:24 ID:VlIqC2Pc0
「香月!」
諭すように谷がその名を呼んだ。思っていたよりも大きな自分の声に少し驚いた。
じっと正面に立つ青年を見つめる。ゆっくりと、香月は矛を両手で持った。
矛先が谷の方を向く。顔だけが、平野を捕らえた。
「恵一さん、まだよく動けないんですよね……」
勝ち誇った笑み。見慣れているはずの顔が、全くの別人になる。
谷は後ろのポケットに右手を入れた。自分の支給品。ワイヤー入りの帯。
出来るだろうか?
迷う暇など無い。瞬間の決断を下し、左肘で軽く平野の脇腹を押した。
途端に香月の腕に力が入る。
谷は鞄を投げ捨てると、逃げることなく逆に勢いよく香月に体当たりをした。
重心を低くし、ラグビーのように肩から香月の腹めがけて突っ込む。
香月は勢いに負けてもんどり打って倒れた。咄嗟にその体を抑え込む。
「ぐ……っ!」
「逃げろ!」
声の限り叫んだ。
「恵一!逃げろっ!」
「た、谷さん……!」
「逃げろ!俺もすぐ行く!」
谷は香月の矛にしがみつき、必死にその動きを抑え込んでいた。
「離せっ!邪魔だっ!」
香月が暴れる。それでも谷は全身を使って香月を捕らえていた。
「逃げろおっ!!」
「で、でも……!」
平野は迷っている。仲間を見捨てて自分だけ逃げることは出来ない。
谷を助けたい。
だが、まだ体が完全に治っていない自分では、この状況でも足手まといになることはすぐ
にわかった。
「俺の……さっき言ったこと……忘れたか!!」
32「61・偽善・キレイゴト 2 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/14(土) 22:35:18 ID:VlIqC2Pc0
偽善でも。
キレイゴトでも。
後悔はしたくない。
それは2人の共通の思いではなかったか。
平野は谷を救おうと前に飛び出そうとした。
「馬鹿野郎っ!!俺を無駄にすんなっ!!!」
絶叫にも近い叫び。
谷のキレイゴト。
平野のキレイゴト。
相反する2つの狭間。どちらが正しいのかを決めるのは香月ではない。
平野の取る今後の行動が決めるのだ。
(………谷さん!!)
平野は唇を噛み締めて自分の鞄を拾うと、谷に背を向けた。走るとは言えないスピードで、
よろよろとした動きで、それでも必死に走りだした。
横目でそれを見届けると、谷は全身により力を込めた。
それを体で感じ、香月は抵抗しようと腕を振り回した。谷はガッチリと香月の矛にしがみつ
いている。時間を稼げればよかった。平野が一歩でも遠くへ逃げる為に。
「離せ!この野郎!!」
「………!」
谷は声も出せないほどの力で歯を食いしばり、香月の腕を抑えていた。
「畜……生……っ!!」
香月の怒りは頂点に達していた。オリックスへの怒り、オーナーへの怒り、この状況に対す
る怒り、全てが谷に対する怒りになった。
「うおおおおおおっ!!」
叫びとともに、思い切り腕を振った。それでも谷は離れない。
けれど汗をかいていた香月の手から、矛が滑り飛んだ。矛にしがみついていた谷もバランス
を崩して、矛と一緒に転がった。同時に重心を崩した香月は、それでも地面を這うようにし
て再び谷に向かった。
33「61・偽善・キレイゴト 2 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/14(土) 22:36:07 ID:VlIqC2Pc0
目に入ったのは、谷のポケットからはみ出している黒い帯。手を伸ばし、その先を掴んで
一気に引き出した。起き上がろうとしている谷の首にその帯をかけ、クロスさせて絞め上げた。
「ぐ……うっ……!」
谷の両手が喉元を掻き毟る。帯を解こうとするのだが、首にしっかり食い込んでしまって指の
引っ掛かる透き間もない。
「………う……ぐ……あ……っ!」
帯を外そうと必死にもがく。けれどその動きも息苦しさに邪魔をされる。
ワイヤーの入った帯は、着実に谷の首を絞め上げていた。
香月は無言のまま、ただ必死に帯を引っ張っていた。
両腕の力を緩めてはならない。少しでも気を抜けば、形勢は逆転する。自分が殺されてしまう
のだ。二の腕がブルブル震えている。それでも絞め上げていた。

(………子………)
最後の救いの言葉。頭の中に白い靄がかかる。
(………きみは……勝てるね……)
どんな状況でも。
どんなに不利な状況でも。
(……俺がいなくなっても………きみは………)
充実した彼女の笑顔が、谷の力。
(………いつも………応援してるよ………)
(………離れていても………)
(………いつも………)
少しずつ、あの笑顔が遠くなる。黒い帯が、谷の命を絞め上げる。
(………俺は………キレイゴト……でも………)
真っ赤になった顔が膨れる。
大きく開かれた口の中、その赤さが妙に鮮やかに香月の目に映った。
だらり、と谷の腕が落ちる。そして、力を失ったその体も。
香月は肩で荒い呼吸をしながら、もう動くことのない体を見下ろしていた。

【×谷佳知 残り・36人】
34「62・愛しの中継ぎ労務課1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/14(土) 22:37:46 ID:VlIqC2Pc0
目を覚ました後、菊地原はひとりで海岸線沿いの崖の上を歩いていた。
萩原の姿を探したが、家の周囲には見当たらなかった。
崖の下も見たが、いくつかの流れ着いたゴミが見えるだけで、人影は見当たらない。
(………崩れた家の下敷きになったのか……?)
信じたくなかったが、そう思うしかなかった。萩原の姿は無いのだ。何度も名前を呼び、
動かせる瓦礫をどかしてはみたが、無駄だった。
瓦礫の山と化した家に向かって両手を合わせ、目を閉じる。
(オギさん………成仏して下さい。それから、俺らを守って下さい。みんなが無事に脱出
出来るように……中継ぎ陣、みんな頑張りますから)
菊地原は手ぶらだった。持っていた鞄は爆発のせいで行方不明になった。支給された手榴
弾が2個だけ転がっていたのが見つかった。不安ながらもポケットにしまった。それらが
爆発しなかっただけでも感謝しなければ。もし連鎖爆発を起こしていたら、今こうして生
きていることはなかっただろう。
(こんな物騒なもの、無くした方がよかったんだけどな)
それでも持ち歩く自分。何かあった時の為に。そんな自分が恨めしくもある。
眩しい陽射し。打ち寄せる波の音。静かな島。遠くに背の高い櫓が見えた。
この島に人が住んでいた頃、海を見張る大事な場所だったのだろうか。
(あそこに上れば、何か見えるかもしれない)
(あそこから大声で呼びかけるって手もあるよな)
(行ってみようか)
目的の場所へと向かって歩き続ける。迷っている時間は無い。
(オギさん、仇は絶対に取ります)
萩原を殺したのはオーナーだ。オーナーの始めたゲーム。
そのトラップタイムが萩原の命を奪った。
(敵は選手同士じゃない。オーナーだ)
35「62・愛しの中継ぎ労務課2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/14(土) 22:38:54 ID:VlIqC2Pc0
菊地原は2005年に広島から、新生オリックス・バファローズに移籍してきた。
そして、ここで中継ぎとして活躍の場を得た。パリーグ初代・最優秀中継ぎ賞にも選ばれた。
賞を取れたのも、先発、中継ぎ仲間、抑えが役目を果たしてくれたからこそだ。
特に中継ぎ仲間には心から感謝している。ひたすら投げ続けた仲間達。
広島から移籍した当初、キャンプ地のホテルでも仲間を作ることが出来ず、困っていた。
広島時代の友人、黒田に「なかなか友達が出来ません。ホテルの食事も1人でしました」
と寂しいメールを送り、心配されもした。
最初に「一緒に食事に行こう」と声をかけてくれたのが、選手会長の川越と、中継ぎメン
バー最年長の萩原だった。みんな菊地原のルックスを見て、それなりの年長者だと思って遠
慮していたようだ。実際は萩原たちの方が年上だった。そして投手陣の輪に入り、いつの間
にか中継ぎ陣の中心核となった。若いメンバーには、松屋で牛丼をおごってあげたりもした。
その結果の賞だった。
空を見上げた。
自分の背中を押してくれたのは、間違いなく仰木監督だった。
(どれだけ感謝しても、し足りない)
『ピッチャー、菊地原』
そのコールをどれほど待っていたか。
信じていた。その存在を。ただ真っ直ぐに。
(仰木監督の為にも、負けられない)
(オーナーを止めるんだ)
(このチームを守るんだ)
(またピッチャー陣で松屋の牛丼を食べるんだ。卵でもなんでも奢ってやるから!)
誰を信じられるかと問われたら、菊地原は迷うことなく中継ぎ投手陣と答える。それくらい、
結束力が強いのだ。出来れば、彼らの中の誰かに会いたい。
いつも周りを気遣ってくれた萩原は、もういない。
ならば、自分が若い中継ぎ投手陣をまとめなければ。守らなければ。
地図も無いまま、記憶だけを頼りに菊地原は歩き続ける。

【残り・36人】
36「63・楽観〜変化中1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/14(土) 22:40:10 ID:VlIqC2Pc0
少し休もうと木陰に腰掛けて水を飲んでいたら、泣きながら走ってきた阿部健太が田中彰
の足に躓いて転んだ。声をかけたが、もの凄い形相で一目散に逃げていってしまった。
(なんかあったのかな……)
あの慌て方はただ事ではない。ひょっとして、誰かに追われていたのだろうか。
(なんか、とんでもない人に追われたとか……)
とんでもない人、それは誰か。真っ先に思い浮かぶのはあの人。
(……清原さんとか……)
唯一、出発地点でそれなりのやる気を証明した人物だ。
田中彰は右手に包丁を握ったまま、慌てて立ち上がった。
(やばいって!絶対やばいって!)
健太が走ってきた方向を見る。そっちから誰かが走ってくるかもしれない。その影が見え
る前に、ここの場所から逃げなければ。
だがもうひとつ、別の感情も湧き上がっていた。
慌てふためいて逃げる健太の姿。その姿があまりにもみっともなく感じたのだ。
(俺もずっとあんな感じだったのかな……)
他人からみっともないと思われることが嫌だった。笑われることが嫌だった。冗談めかし
て笑われる対象。それが田中だった。
親しみの表現だとわかっている。可愛がられているのだとわかっている。
けれど小さなプライドが、それらを少しだけ嫌がっていた。
37「63・楽観〜変化中2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/14(土) 22:41:01 ID:VlIqC2Pc0
初めての1軍。初ヒットを打ったあの日。
記念のボールを田中は大事に自分のヘルメットの中に入れ、守備についた。
守備が終わり、ベンチに戻る。田中の帽子の中には、5個のボールが入っていた。
汚れ具合も、どれも同じようなもの。どれが田中のヒットボールか、全くわからなかった。
顔を上げると、数人のコーチや選手がニヤニヤ笑っていた。
仕方ない。
(………全部持って帰ろう)
5個のボールの入ったヘルメットを大事そうに膝の上に抱えた。周囲の選手たちはその姿を
ニヤニヤしながら見つめていた。
やがて試合が終わり、全部のボールを抱えてベンチ裏に帰ろうとした。するとコーチが慌て
て1個の白球を持ってきてくれた。
「まさか全部持って行くとは思わなかったよ」
そう言って、隠されていた本当の初ヒットのボールを。
あの時は笑って済んだのだが、今考えると微妙に腹立たしい。最後に手渡されたボールが本
当に田中のボールかどうかも定かではない。貴重なボールなのに。
憧れのプロ選手。夢の1軍。そこでの初ヒット。実家の両親に送ったあのボール。
力士の血を継いで欲しかった祖父は、あまり喜んでくれなかったかもしれないが。
(今でも俺、騙されてるのかもしれないな……)
呑気な田中を笑う為。そんな人がいるかもしれない。
(………ひょっとして、俺………)
みんな、騙そうとしているのかもしれない。
(こんな状況だって、おかしいよ絶対)
疑問が浮かぶ。非現実的な状況に、不可思議なことばかり思いつく。
(こんな島にどうやって俺たちを連れてきた?)
(こんな島、どうやって貸しきった?)
(練習からいなくなった俺たちを、どうやって世間に誤魔化してる?)
(簡単に言ったら誘拐だ。それをどうやって誤魔化してる?)
(死んだって聞かされた選手もいる。どうやって世間に誤魔化すんだ?)
(生き残れるのはただ1人。他のいなくなった選手をどうやって?)
導かれる答えは、ただひとつ。
38「63・楽観〜変化中3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/14(土) 22:41:53 ID:VlIqC2Pc0
(………全部、冗談だ。俺を騙す為の。俺を笑う為の)
壮大な、いたずら。
何かのテレビ番組なのかもしれない。出発地点の岸田だって、死んだ振りをしていたのかも。
食い下がる川越も演技。清原のやる気も演技。田中を怯えさせる為。笑う為。
(な、なんだ、そういうことか)
ではどうして健太はあんなに必死に逃げていた?
(お、俺と同じで騙されてるんだよ)
そうだ、きっとそうだ。
(なら、もう大丈夫じゃないか!)
騙されなければいいのだ。自分に強く言い聞かせる。自信を持って、誰にも騙されず、何
を言われても立ち向かっていけばいいのだ。
まず、何をしよう?
(……島から逃げ出すことだよな)
ふと気づく。首輪。
(取れないのかな?)
手をかける。外そうと引っ張ってみた。よほど頑丈に作られているらしく、それが外れる
気配はない。
(チェーンソーとか使ったら………俺の可愛い顔まで切れちゃうよ)
冗談を言う余裕も出てきた。落ち着いて両腕を組み、少しだけ考える。
(じゃあやっぱり、島を脱出することが先決だよな)
歩こう。島の外周を歩いてみよう。海岸には船があるかもしれない。沖を船が通り過ぎる
かもしれない。狼煙を上げて救いを求めるのもいい。
(よし!行こう!)
右手にしっかりと包丁を握る。子供騙しのゲームから抜け出すのだ。
きっと今頃、みんなは田中や健太のうろたえ振りを想像して笑っているに違いない。
(そう簡単にいかせないぞ。もうオチの役は卒業するからな!)
地図を広げる。比較的近い場所に海岸がある。そこなら何か出来そうだ。
気合を入れて顔を上げる。1人の人物が田中を見下ろしていた。

【残り・36人】
39「64・過失傷害1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/14(土) 22:42:58 ID:VlIqC2Pc0
「中村……さん」
まだ馴染みの薄い田中彰にとって、中村紀洋は「ノリさん」ではなく「中村さん」だった。
中村は用心深そうな表情で田中を見つめていた。
けれど田中は満面の笑みで中村を迎えた。
「中村さん!よかった!早くここから出ましょう!」
「……出る?」
中村の眉間に皺が寄る。そんなことは一切気にせず田中は続けた。
「ええ、こんな趣味の悪いゲームから出るんですよ。みんな子供騙しでしょ?俺を騙して
笑おうとしてたんでしょ?」
「………どういうことや?」
いぶかしげな表情で田中を見つめる。より眼光が鋭くなっていた。
「……お前、何か知っとんのか?」
「知ってるも何も、全部俺とか健太を騙す為の企画でしょ?多分テレビか何かの」
ご都合主義的な田中の答えに、中村も首を傾げる。
しかし余程の確信があるのか、田中の表情は自信満々だった。
(……こいつ、ひょっとして何か掴んだか……)
さすがの中村もそう考えるくらいの笑みだった。
(こいつについて行くのもひとつのテやな)
冷静に考える。
(とりあえず、盾ぐらいにはなるやろ)
中村も笑顔を作った。田中を怯えさせないように。
「よし、じゃあ一緒に行くか、種明かしに」
「行きましょう!俺らを笑って楽しんでんですよ」
「どうしようもねえなあ、オーナーは」
「そうですよねえ、こんな包丁渡されたって」
「お前、武器が包丁かー、生々しいなあ」
田中の明るすぎるくらい明るい口調に中村も調子を合わせた。
40「64・過失傷害2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/14(土) 22:44:09 ID:VlIqC2Pc0
「中村さんの武器って何ですか?」
「俺、これ」
見せたのはヌンチャク。黒光りのする2つの棒が、鎖で繋がれている。
「うひゃー、これまた不思議な武器を」
「せやろ?子供のチャンバラやないっちゅうねん」
「俺なんて包丁ですからねえ、うりゃ!」
冗談めかして包丁を中村に向かって勢いよく突き出した。
中村も笑いながら両手を上げて驚くフリをした。
一歩後ろに下がって避けようとしたのだ。けれど踵が石に引っかかり、逆に腹を田中の方へ
突き出す形になった。
「あ」
田中は、中村が逃げると思っていた。
中村は、田中の動きがもっと小さいと思っていた。
包丁は小さく中村の腹にめりこんだ。
「あ……」
田中の手に、微妙な手ごたえがあった。慌てて手を離す。ポトリと包丁が地面に落ちた。
中村は唖然として自分の腹を見つめていた。白いユニフォームに小さな赤い染みが浮かぶ。
じわじわと、ほんの少しだけ赤が動く。傷は浅い。冗談半分に突き出しだだけなのだから、
命に関わるほどではない。けれどその小さな赤は、場の空気をぶち壊すには十分だった。
「てめ……え………」
「ち、違います!違うんです!」
「……そういう作戦か」
「違うんです!違います!」
「ざけんなぁっ!!」
叫んで田中に飛びかかる。けれどその瞬間、田中は中村に背中を向けて逃げ出していた。

【残り・36人】
41「65・ ……お前も、独りか 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/14(土) 22:47:17 ID:VlIqC2Pc0
何かが頬をくすぐっている。
小さな息遣いが耳元で聞こえる。
ペチャペチャと、何かが自分の頬を舐めているのだ。
萩原はゆっくりと目を覚ました。真横に毛の塊があった。
子猫が萩原の頬を舐めている。
(あ……れ……?)
ゆっくりと体を起こす。頭部を覆っていたダンボールがバサリと落ちた。
子猫は一瞬体を離したが、すぐまた萩原の膝の上に乗ってきた。
(確か……菊と一緒にいて………そうだ…放送があって……爆発………)
周囲を見る。右側には岩の壁。それは低い崖だった。左側には海。ここは砂浜。
(……飛ばされた?)
現状をよく把握出来ないままぼんやりする。
少し離れた所に鞄が落ちていることに気づいた。
ぼんやりとしたまま立ち上がる。子猫が慌てて萩原から飛び降りた。
腰に手をやった。ベルトに挟んでおいた銃は健在だ。
のんびりとした歩調。鞄を拾い、中身を見た。潰れかけたパンが2個。ペットボトル。手
榴弾数個はタオルに厳重に包まれていた。
(菊の鞄か……)
そういえば菊地原はどうしただろう。あの爆発でどこかに飛ばされてしまったのだろうか。
崖の上にあるはずの、爆発した家は見えない。
(………きっと生きてるさ。あれだけ連投させられてピンピンしてる奴だ。そう簡単にゃ
死なねえよ)
そう、中途半端な存在である自分が生きているように。
42「65・ ……お前も、独りか 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/14(土) 22:48:07 ID:VlIqC2Pc0
足元に何かがまとわりつく。子猫が顔を萩原の足首に擦り寄せている。
「………痒いのか?」
じっと見下ろす。
萩原は鞄からパンを取り出すと、小さくちぎった。そのまましゃがみ、子猫の顔の前に突
き出す。子猫は短い2本の前足をフラフラさせながら差し出し、それを取った。
小さく音を立てながら食べ始める。
「……そうか、腹減ってたのか」
優しい目で見つめた。
「………お前も、独りか」
そっと頭を撫でる。子猫は顔を上げ、小さくミィと鳴いた。
「………一緒に行くか?」
食事を終えた猫は、差し出された萩原の腕をよじ登る。
「………行くか」
子猫を抱いて立ち上がる。
どこかで人の怒鳴り声のようなものが聞こえたが、萩原には関係の無いことだ。
辺りはすぐに静かになった。波の音。時折小鳥が囀る。
(俺は………何処へ行くんだ?)
首を締め付けている首輪の位置を直した。萩原には少しキツイようだ。無造作にいじる。
爆発物をいじるような慎重さは微塵も無く、ただいつも提げているネックレスの位置を整
えるような仕草。首輪と首の間に隙間が出来たことを確認すると、萩原は猫の頭を撫でた。
崖沿いの砂浜を、不安定な1人と1匹が歩いて行く。

【残り・36人】
43「66・決闘1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/14(土) 22:49:01 ID:VlIqC2Pc0
タオルを腹に当て、怒りに満ちた目をした中村が辿り着いたのは市街地だった。
ここなら薬局ぐらいありそうだと彷徨っていた所、その店を見つけた。
『Cafe Bs』
中に入り、予想外の外人勢に歓迎され、相川から説明を受けた。しばらくは妙に長閑な
その状況を理解出来なかったが、相川から何度も説明され、ようやく席に腰を下ろした。
彼らがこのゲームに参加していないことは許せなかったが。
(………お前ら、脅かしたろか?)
ここで何が出来るか考えていると、大きな1個の砂時計を目の前に置かれた。60分時計。
のんびりと考えられる時間は60分だけ。
親切なブランボーが真っ白な大きいタオルを持ってきてくれた。傷口を指さしている。包
帯代わりに巻けということなのだろう。小さく礼を言い、受け取った。
傷口は浅く、命の危険は無いようだった。動くと微かに痛みが走る程度。だが痛みを感じ
るそのたびに、田中への憎しみが積み重ねられる。
ガルシアにメニューを渡されたので、投げやりにコーヒーを注文した。だがガルシアはメ
ニューの一覧を指さしている。細かい種類があるらしい。一番旨いもの、と頼んだら相川
基準で選ばれたものが出て来た。相川スペシャルブレンドだという。口はつけずにおいた。
ここに辿り着くまで、妙に気になることがあった。
花に満ちた島。パステルカラーに包まれた島だと思う。けれどその花が気になる。
何故かはわからないが、何か引っかかる。道端に咲いていた花。テレビや花屋でよく見か
ける種類だ。だが名前が思い出せない。
(何やったかな……)
気になる。その花が最も気になるのだ。色とりどりの花畑の中、そこだけが切り取られた
ように中村の脳裏に焼きついている。
(あの花の名前……)
目を閉じる。あまり馴染みの無い植物図鑑。必ず載っている有名な花だ。
(畜生、こういう時に限って……)
もどかしい。すぐそこまで思い浮かんでいるのだが。
ゆっくりと目を開ける。この室内にキッカケになるものは無いだろうか。
44「66・決闘2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/14(土) 22:50:11 ID:VlIqC2Pc0
周囲を見回した。ふと入り口のドアが目に入った。黒板に書かれた文字。
1対1の勝負。
中村の中で、奇妙な闘争心が浮かんだ。それはどこか歪んだものではあったが、中村にとっ
ては最も自分を燃え上がらせ、勢いづかせるものだった。
「おい」
相川を呼ぶ。相川はカウンターの中から楽しげな笑顔で振り返った。
「はい、なんでしょう」
「そこに書いてあること……」
親指で指さす。ドアのそばにある黒板。相川の目が輝く。
「ええ、1対1の勝負が出来ますよ。ご希望の選手を連れて来ます。ただし、勝負は60分
以内につけて頂かないと、両者とも首輪が爆発しますけど」
「上等や」
自信ありげな表情でニヤリと笑う。
「どなたかご希望ですか?」
「…………だから聞いとる」
少し凄みをきかせた。
「で、では、どなたをお望みで?」
問われ、中村は地図を広げて裏返した。選手名一覧からその名を指差す。
「田中彰」
ブランボー、ガルシア、グラボースキーが立ち上がり、一斉に店を飛び出した。
1分もたたないうちに、車のエンジン音が聞こえた。明らかに改造されたマフラー音。
「すぐ狩ってきますよ、あの3人が」
ようやく楽しいイベントを得た相川が笑った。

【残り・36人】
45代打名無し@実況は実況板で:2006/10/15(日) 05:26:44 ID:sn+73iT1O
田中オワタ\(^о^)/
46代打名無し@実況は実況板で:2006/10/15(日) 09:03:01 ID:IKafCnZr0
>「…………だから聞いとる」
カープの前田が喋ってんのかと思った
47代打名無し@実況は実況板で:2006/10/15(日) 10:39:04 ID:4iK/Vtgh0
職人さん乙です!
とうとうCafe Bsが始動したので、今後の展開が楽しみです。
うちの外国人は本当に良外国人ですね(ノ∀`)

田中((((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
48代打名無し@実況は実況板で:2006/10/15(日) 22:40:44 ID:Z36kzKll0
hoshu
49代打名無し@実況は実況板で:2006/10/16(月) 00:07:30 ID:YuErWx+IO
保守
50代打名無し@実況は実況板で:2006/10/17(火) 00:03:46 ID:bml7RdC50
ほす
51代打名無し@実況は実況板で:2006/10/18(水) 20:19:35 ID:jr4bpqoAO
52代打名無し@実況は実況板で:2006/10/19(木) 23:32:14 ID:R4m3DnJFO
53代打名無し@実況は実況板で:2006/10/21(土) 11:11:28 ID:A32Ti1vaO
保守
54代打名無し@実況は実況板で:2006/10/21(土) 17:34:01 ID:sCBDC3HW0
ほっしゅほっしゅ
55代打名無し@実況は実況板で:2006/10/22(日) 08:29:35 ID:b1Q4duA2O
おはよう保守
56代打名無し@実況は実況板で:2006/10/22(日) 22:56:41 ID:C/DsOo1u0
猫と荻原まじ癒されたw
谷さんカッコユスw
57代打名無し@実況は実況板で:2006/10/23(月) 18:11:11 ID:oqWybG350
hage
58《OTHER SIDE・2 1/4》 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/23(月) 22:18:17 ID:u9lEi53z0
「おそらく、この双子島が怪しい」
地図を開き、新井が指さす。
最初にこの問題を話し始めた時からずっと、リプシーは大島について歩いていた。どこへ
行くにも後ろにくっついていた。三輪たちからの情報が入ったら、すぐに対策を練る為だ。
最初は新井にくっついて歩いていた。
「リプシー、暑いから」
新井が言うので、今度は大島に貼り付いた。
「リプシーが横に立ってくれると、日陰が出来て嬉しいなあ」
ニコヤカに笑う。故にリプシーは大島から離れなかった。
そしてようやく三輪から連絡が入った。再び4人は小さな部屋に篭り、今こうして地図を
広げている。
「バスごと船に乗ったらしい。大型船だな」
「……大型船を動かせるってことは、誘拐犯はそれなりのお金があるってことですよね」
「じゃあオーナーか監督だわ!神部コーチの様子も怪しいなら、宮内オーナーよ!それだ
けのお金がある人だもの!社長にも連絡して早く掴まえて…!」
「まあまあリプシー、麦茶でも飲んで」
大島が冷えた麦茶を差し出す。リプシーはペコリとお辞儀をして麦茶を少しだけ飲んだ。
新井が続けた。
「三輪の話だと、バスごと大型船に乗り込んで双子島に運んだらしい。船はそのまま戻っ
てきたのでその後のことは知らないと。ただ観光バスを運んだだけだと言っていたそうだ」
「じゃあ船を動かした人は関係ないですか」
「多分な」
ネッピーが赤い丸印がつけられているその島を指さした。
「どうして双子島っていうんですか?」
素朴な質問に、大島が身を乗り出すようにして答える。
「ほら、この島の下に小さな島があるだろう?なんでも元は繋がったひとつの島だったん
だけど、海の水が増えたんだか、地盤沈下かなんかで陸地が途切れちゃったんだって。だ
から双子島ってネットには書いてあったな」
59《OTHER SIDE・2 2/4》 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/23(月) 22:19:02 ID:u9lEi53z0
「へえー。今は橋で繋がってるんですね」
「そうだね、人が住んでいた頃には行き来があったらしいから。まあ離れ小島の方には神
社と研究所しか無いみたいだけど」
「島に人は住んでいないらしい。数ヶ月前に退去したそうだ」
「退去?」
ネッピーとリプシーが同時に尋ねる。
「数年前までは観光で賑わっていたらしいんだけどね、例の市町村大合併の影響を受けて
定期船が廃止されたそうだ」
手にした資料を見ながら新井が答える。
「観光の採算が合わなかったんですか」
「そう。もうこんな島に魅力を感じる観光客はいないと市は判断した」
「………上からの力で、生活形態を変えられたんですね……」
何か含みを持たせて、リプシーが呟く。
「定期便が無くなったら、自主的に船を動かさなきゃいけない。それにもお金がかかる。
新しい市が彼らに市営住宅を提供したそうだ。本州に引っ越して来い、と」
「だからこの島は捨てられた?」
「そう。でも完全に機能が停止するのは来月らしい。何かしらの理由があって、まだ水道
や電気は機能しているらしい。ガスはどうだろうな……」
ネッピーが静かに右手を上げた。
「じゃあ、誘拐犯はここに選手たちを監禁したとしましょう。でも理由は?身代金の要求
とかもまだ無いんでしょう?ましてやオーナーが関わってるとしたら、理由は?」
全員が黙り込む。
なんとなく、ひとつの理由を思い浮かべるが、誰もそれを口にはしない。
もう2004年のような悲劇があってはならないのだ。
60《OTHER SIDE・2 3/4》 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/23(月) 22:19:59 ID:u9lEi53z0
リプシーが立ち上がった。
「私、行くわ」
「い、行くって?」
ネッピーもつられて立ち上がる。
「双子島。お父さんの海賊船を呼べば…」
「ちょ、ちょっと、そんなことしたら海上保安庁が来るよ!」
慌てて止める。
「じゃあネッピー、あなた海神ポセイドンの息子でしょう?お父さんに頼んで島に……」
「父さんだって忙しいよ。それに異常気象まで引き起こしそうだから……」
「リプシー」
大島コーチの穏やかな声に、リプシーがそちらを向く。
「海賊の娘さんなら、船の操縦は出来るかなあ?」
「ええ、一通りは。最近の海賊船もハイテクですから。クルーザー級ぐらいなら楽に操縦
できます。免許は無いですけど」
「じゃあ決まりだ。リプシーが操縦して島に行けばいい」
「おい、大島!」
新井が慌てる。大島はニコニコしていた。
「大丈夫ですよ、小型の釣り船を借りて行けばいい」
「じゃあ大島コーチ、船の手配をお願い出来ますか?」
「ああ、行こう」
「ちょっと待て大島」
一方的に話を進める大島とリプシーを、慌てて新井が止める。
「俺たちまでいなくなったらマズイぞ。神部さんも怪しむだろうし、練習もある」
「あー……」
「だから、警察に連絡して……」
「待ってられません!」
リプシーが一喝する。
61《OTHER SIDE・2 4/4》 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/23(月) 22:20:47 ID:u9lEi53z0
「私が行きます。でも私じゃ船を借りられないから、大島コーチ、手配をお願いします。
多分免許を提示しなきゃいけないんじゃないかと…」
「その辺は平気。釣り仲間に頼むから。じゃあ船を借りる場所まで一緒に行って、後の行
動はリプシーに頼んでいいかな、ネッピー?」
わざと尋ねた。ネッピーも渋々立ち上がる。
「このおてんばを見張る役でしょう?行きますよ。もう少しじっくり考えて行動してくれ
ないかなあ…」
「考えてる間にも犯人は行動してるのよ。瞬間の判断力が大切って、お父さんがいつも言
ってたわ。海賊はいつも死と隣り合わせなのよ。あなたはのんびり平和に暮らしてきたか
もしれないけど、私は海の上で何度も武器を持ったのよ。いざとなったら………本気よ」
いつもよりトーンの下がったリプシーの声に、ネッピーも黙ってしまう。
新井を置いて、会議の方向は決まってしまった。
「さあ、行きましょう」
「い、今から?!」
ネッピーが大袈裟に驚く。
「当然でしょう。大島コーチ、お友達に連絡してもらえますか?」
「了解」
大島が携帯を取り出す。
リプシーはそっと目を閉じた。

(もうすぐです……すぐ助けに行きます……それまでどうかご無事でいて下さい……大切
な……私の大切な……あの方………)
62「67・捕獲 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/23(月) 22:22:04 ID:u9lEi53z0
田中は走り疲れ、迷い込んだ寂れた街、その車道の隅を走っていた。
(やばいよ、やばいことしちゃったよ)
敵に回してはいけない人物、その3本指に入るであろう存在。
(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!)
同じ言葉が頭の中をグルグル回っている。
(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!)
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる……
静かな街に自分の足音と息遣いだけが聞こえる。耳元でドクドクと音がする。
全ての音が死んだ街。こんなに寂れる前はもっと賑やかだったのだろう。道路の太さ、
道に沿って立ち並ぶビルの高さ、それらがかつての日々を思わせてくれる。
(この街……何があったんだろう)
街を、島ごと崩壊させてしまう何か。突然人々がいなくなってしまう何か。崩れかけた
鉄筋コンクリート。剥き出しのパイプと、侵食する錆。そこに迷い込んだちっぽけな自
分。無我夢中で走り回り、もう持っている地図も意味をなさない。
狂いかけた街。狂っている島。狂ってゆく自分。
(助けてくれ!!)
63「67・捕獲 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/23(月) 22:23:29 ID:u9lEi53z0
心の中で叫んだその時、突然激しい車のクラクション音がした。
(車?!)
驚いて目をこらす。正面から埃を上げて、もの凄い勢いでこちらへ向かってくるジープが
1台。
(だ、誰だ?!)
車から叫び声が聞こえた。
「イィヤッホゥゥゥゥゥゥ!」
(え?)
ジープにハコ乗りしている外人。
(え?)
見る見るうちに近づいて来る。遠くから見ているだけでももの凄いスピードだとわかる。。
(轢かれる?!)
「ハケーン!!」
ハコ乗りしていたブランボーが片言の日本語で叫んだ。
「え?!」
呆然と立ち尽くしていた田中のすぐ横を駆け抜けるかと思いきや、ブランボーとガルシア
の太い腕が田中の腕を掴んだ。
「え?!」
体が宙に浮く。そのまま車の中に引き込まれた。シートに背中を叩きつけられる。痛みに
顔を歪めた。
「な、何だ何だ?!」
そのまま車は鋭角なターンをし、来た道を戻って行った。
無傷のまま無事捕獲した田中を乗せて。

【残り・36人】
6468・目撃者:2006/10/23(月) 22:24:49 ID:u9lEi53z0
走り来る車の爆音を、水口は瓦礫の山の上で聞いた。
街の道路に沿って真っ直ぐ歩いたら、突き当たりにぶち当たった。それがこの瓦礫だった。
まるで外界への道を閉ざしているような、未来への可能性を閉ざすような瓦礫の山。水口に
とっては「山」というより「壁」という感覚に近かった。
そんな場所で身を隠すようにしていろいろ考えていたら、あの爆音。
無人島ではなかったのか、ヤンキーがいたのか。考えていたら、10メートルほど先にある
十字路を1台のジープが横切って行った。陽気にハコ乗りをしている外人がいた。
(ブランボー?)
咄嗟に目をこらしたが、すぐに見えなくなった。
(……見間違いか)
そう思ったが、しばらくしてまた爆音が近づいて来た。咄嗟に瓦礫から飛び降り、十字路
へと走る。ジープは水口を無視して一気に前を走り去って行った。
ブランボーとガルシアが見えた。
(なんであいつらがいるんだ?)
思わず駆け出した。ジープの後を追って。追いつけるとは思えない。
だが、アスファルトの道路の上に、途切れ途切れにタイヤの泥の跡が残っていた。
(行ける所まで、追ってみるか)
選手一覧に乗っていない外人選手。彼らがこの島にいて、車に乗っている。
その辿り着く先には何かがあるはずだ。
(何かキッカケがあるはずだ!)
鞄を肩にかけ直し、走り出した。

【残り・36人】
65「69・決闘開始 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/23(月) 22:26:35 ID:u9lEi53z0
市街地を一気に抜けるかと思いきや、ジープは街の外れ、小高い丘の麓にある小さな家の
前で止まった。明るいランプの点いた家。洒落たドア。
ブランボーとガルシアに高く抱え上げられたまま、田中は家の中に連れ込まれた。
明るい照明とコーヒーのいい香りがした。
「いらっしゃいませー!」
これまた明るい声がして、相川が顔を出す。
「あ、相川さん?」
「ようこそ、ノリさんがお待ちかねだよー」
「えっ?」
高い位置から辺りを見回す。奥に見えるドアのそばの席。中村がいた。
「ひっ……!」
「じゃあ、心置きなく男の戦いをどうぞ」
相川がドアを開ける。田中の体が中に放り込まれた。続いてヌンチャクを持った中村が中
に入る。ドアが閉められ、外から鍵がかけられた。
「さて、と」
相川はカウンターの中に戻るとリモコンを取り出し、テレビに向けてボタンを押した。
隣室にいる中村と田中の様子が映っていた。
「記念すべき第1戦は、予想外の組み合わせだなあ」
ひとりで呟く。
ブランボーたちも適当な席に座り、テレビを見つめている。
画面の中の田中は、明らかに震えていた。
66「69・決闘開始 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/23(月) 22:27:33 ID:u9lEi53z0
「さっきのお礼をせなあかんな」
田中を睨みつけながら、中村が呟く。
何も無い部屋だった。
家具など何ひとつない、正方形の部屋。プロレスのマットよりは広い。しかし、逃げる為
に走り回れる程の広さは無かった。走る必要はない。長期戦に適した空間。
「武器はこれしかあらへんけど、出来るやろ」
ヌンチャクを見ながら、小さく笑う。
「ま、ちゃんとした使い方はわからへんが。お前さんの包丁、拾ってくりゃあよかったな」
「さ、さっきのことは謝ります!手違いなんです!中村さん、避けると思って……!」
「もうお前の口車には乗らへんよ」
1歩踏み出す。
「ま、待って下さい!」
「黙れや」
「ホントに違うんです!」
「……それもお前の作戦か?」
「違う!!」
泣きそうな思いで叫んだその時、中村の大きな体が飛びかかって来た。
「うわあっ!」
必死でそれを避ける。だが中村の右手が、逃げようとする田中の右肩を掴んだ。
「逃がすかっ!」
そのまま強引にシャツを引っ張る。バランスを崩した田中の体が床に転がった。
「うらあっ!」
中村は馬乗りになり、ヌンチャクを振り上げた。力一杯、田中の頭目がけて振り下ろす。
そこにはもう、理性は無かった。ただ憎しみと衝動によって、目の前の相手を傷つけよう
としていた。正確には傷つける、という意識も無い。相手が無抵抗になるまで戦う。
相手が動かなくなるまで。
ただそれだけだった。
殺すという意識は薄かった。
敵がいる。自分に対して抵抗するから戦う。それだけだった。
67「69・決闘開始 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/23(月) 22:28:49 ID:u9lEi53z0
中村のヌンチャクは床を殴りつけた。間一髪で田中の頭が避けきったのだ。
「野郎!」
中村の太い左腕が、田中の頭を抑えつける。田中の目が恐怖に見開く。
「死ねえっ!」
今度こそ、狙いを定めてヌンチャクを振り上げる。ガツッという鈍い音がした。田中の表
情が苦痛に歪む。なんとか頭を振って避けきったが、肩を打たれた。
「うあああっ!」
痛みに声を上げた。それは今まで経験したことのない激痛だった。
そして、これまで感じたことのない恐怖。
今、自分の上にいる男は人間ではなかった。
鬼でもない。
化け物でもない。
殺人鬼という言葉でも表現しきれない何かだった。
(殺される!)
心の中で叫ぶ。けれど、心の中でそれ以上に大きな声で叫ぶ言葉があった。
(死にたくない!!)
三度中村がヌンチャクを振り上げる。今度こそ、狙いを定めて振り下ろされるに違いない。
(うわああああああああっ!!!)
心の中の絶叫と共に、腕を突き出した。手で受け止める自信はなかった。両腕を中村の右
腕にクロスさせる形でそれを受け止めた。
「くそぉっ!」
中村が罵る。田中は激痛に傷む右腕に左手を添え、渾身の力を込めて中村の腕を押し返
そうとした。拮抗する力。しかし上からの力の方が明らかに優位だ。
「ぐ……っ……!」
歯を食いしばり、顔を真っ赤にして腕に力を込める。じわじわと、中村の腕が迫って来る。
少しでも声を出そうものならその瞬間に力が抜けそうで、田中はもう呻くことすら出来な
かった。
(……いや……だ………死にたく……ない……!!)
68「69・決闘開始 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/23(月) 22:30:12 ID:u9lEi53z0
最後の判断だった。捨て身の攻撃。勢いよく右膝を突き上げる。
同時に腕の力が緩み、中村の腕が顔面上に降って来る。
だがそれよりも先に、田中の膝が中村の股間を直撃した。
「ぐあっ!」
予想外の反撃に、中村の体が重心を崩して床に落ちる。ガランと音を立てて、ヌンチャク
が床に転がった。田中は腕の痛みも忘れて起き上がり、中村の襟元に飛びついた。そして
両手でその太い襟元を持ち、全身の力でそれを前後に揺さぶった。
ガツッと鈍い音がし、中村が小さく呻いた気がした。
田中はその行動を繰り返した。ガツッ、ガツッと鈍い音も繰り返される。
中村の後頭部が激しく床に叩きつけられる。
何度も、何度も。まるでその機能しかプロフラムされていないロボットのように。
「うああああああああああ!!!」
叫びながら、何度も。
徐々に中村の体から力が抜けてゆく。それでも田中は止めなかった。
襟元を掴んだまま、激しく振り続ける。
後頭部から流れ出した血が静かに床に広がりだしても、狂ったように振り続けた。
飛び込んで来たブランボーとガルシアにその体を抑え込まれるまで。

【×中村紀洋 残り・35人】
69「70・変化後〜完成」:2006/10/23(月) 22:31:50 ID:u9lEi53z0
戦いの部屋を出ると、再びコーヒーの香りが田中を迎えた。
相川が小さなカップを差し出す。
「勇敢な勝者に、労いのエスプレッソをどうぞ」
相川の顔を見ることも無く、差し出されたカップを無表情に受け取り、田中は一気に飲み
干した。熱すぎず、ぬるすぎない。計算された温度。味など感じなかった。ただ、街中の
シアトル系カフェで飲むような即席コーヒーより好みだと思った。
グラボースキーが鞄を渡す。何も答えず、それを受け取る。誰の目も見ないまま。
「少し休んでいくか?1日1時間までならここにいられる」
相川の言葉に、田中は無表情なまま答えた。
「………行きます」
そして上目遣いで口元を歪め、ニヤリと笑った。
「………俺、勝てるってわかったから」
そのまま店を出た。
部屋の隅で、テレビ画面を通してその結果を見ていた水口にすら気づかず。

【残り・35人】
70 ◆UKNMK1fJ2Y :2006/10/23(月) 22:34:03 ID:u9lEi53z0
68章と70章にトリップをつけ忘れました。すみません。
今回は以上です。
71代打名無し@実況は実況板で:2006/10/23(月) 23:08:27 ID:3Abfqcls0
職人さんお疲れ様です
田中・・・(´・ω・`)
72代打名無し@実況は実況板で:2006/10/23(月) 23:10:02 ID:JekwdctI0
オリジナルデザインユニフォームの募集要項
http://www.rakuteneagles.jp/news/eagles/061022oubo.php
73代打名無し@実況は実況板で
た、田中…(゚Д゚;)…