千葉マリーンズ・バトルロワイアル第4章

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1代打名無し@実況は実況板で
千葉ロッテマリーンズの小説バトルロワイアルスレです。
荒らし&度が過ぎる職人さん批判は、徹底無視でお願いします。
関連スレ・リンクはは>>2-10あたり

<前スレ>
千葉マリーンズ・バトルロワイアル第3章
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1105003484/
千葉マリーンズ・バトルロワイアル第2章
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1099564992/
千葉マリーンズ・バトルロワイアル
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1097081116/

<注意事項>
職人さんはトリップ推奨
トリップのつけ方:名前欄に #好きな半角英数文字(8文字)
例: #password → ◆ozOtJW9BFA

<保管庫>
http://www.age.cx/~marines/cmbr/
2代打名無し@実況は実況板で:05/01/07 17:05:25 ID:NNKuBTrS
<他球団バトロワ現行スレ>
中日ドラゴンズバトルロワイアル第九章
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1099799271/
ソフトバンクホークスバトルロワイアル
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1101299661/
阪神タイガースバトルロワイアル 第三章
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1102341356/
プロ野球12球団オールスターバトルロワイヤル第2章
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1102371186/
楽天イーグルスバトルロワイヤル
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1102823013/
ヤクルトスワローズ バトルロワイアル
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1100065061/
3代打名無し@実況は実況板で:05/01/07 17:05:35 ID:hPhP4h67
復活オメ
4代打名無し@実況は実況板で:05/01/07 17:05:38 ID:NNKuBTrS
<他球団バトロワ保管庫>
讀賣巨人軍バトルロワイアル
http://www.geocities.co.jp/Athlete-Crete/5499/
横浜ベイスターズバトルロワイアル
http://www003.upp.so-net.ne.jp/takonori/
広島東洋カープバトルロワイアル
ttp://brm64.s12.xrea.com/
中日ドラゴンズバトルロワイアル
http://dra-btr.hoops.jp/ (2001年版保管サイト)
http://dragons-br.hoops.ne.jp/ (2001年版・2002年版保管サイト)
http://mypage.naver.co.jp/drabr2/ (2002年版保管サイト)
http://cdbr2.at.infoseek.co.jp/ (中日ドラゴンズバトルロワイアル2 第三保管庫)
http://cdbr2004.hp.infoseek.co.jp/ (2004年版)
福岡ダイエーホークスバトルロワイアル
http://www3.to/fdh-br/
http://sbh.kill.jp/ VR版
阪神タイガースバトルロワイアル
http://kobe.cool.ne.jp/htbr/
ヤクルトスワローズバトルロワイアル
http://f56.aaa.livedoor.jp/~swbr/
プロ野球12球団オールスターバトルロワイヤル
ttp://www.geocities.jp/allstar12br/
5代打名無し@実況は実況板で:05/01/07 17:07:16 ID:QSp9PSzq
鯖が悪すぎる
6代打名無し@実況は実況板で:05/01/07 17:08:05 ID:NNKuBTrS
初めてスレ立てられたよ・・・w
前スレ即死でしたけど第4章にさして頂きました。それではどうぞ・・。
7代打名無し@実況は実況板で:05/01/07 17:08:41 ID:IW2KgA9x
1日でスレ消えたの?
8代打名無し@実況は実況板で:05/01/07 19:26:13 ID:s8Fyuvnw
>>1さん
乙です。まさか即死するとは・・・
9いらない人間(1/4) ◆vWptZvc5L. :05/01/07 20:23:53 ID:XPHNJQap
青野毅は1枚の紙切れを眺めながらとぼとぼと歩いていた。
その手にあるのは小坂の持つ袋に入っていた生き残り希望者リスト。
どうでもいいとは思ったものの、やはり気になった。
そこには小坂の名前も、自分の名前もない。
それは10人を必要とする反面、残り45人に対する死刑宣告以外の何ものでもなかった。
ただの紙切れのくせに「お前はこの島で死ね」と言っている。
ただの名前の羅列が容赦なく自分を否定する。
この紙だけじゃなく、空、地面、アスファルト、石ころ、目に映るすべての物が、
さっき聞こえたヘリの音、肩に感じる鈍い痛み、体で感じるすべての物が、
「お前なんかいらない、さっさと死ね」と言いかけてようにすら思えた。

「あかん、自分もおかしなってきとるわ」
雑念を振り払うように青野はそのまま歩みを進める。
気にするまいと思っても、リストに対する疑念が襲いかかってくる。

この殺人ゲームの真相はこんな紙切れ一枚だったのか。
こんな紙切れ一枚のために、小坂はあんなに執拗に狙われていたのか。
こんな紙切れ一枚のために、自分は小坂を殺したのか。
このリストが雅英に渡るはずだったということは、
ここに書かれている10人はみんなこのリストの存在を知っているのだろうか。
生き残りが保障されたこの10人は、残りの人間が悩み苦しむのをあざ笑っているのかもしれない。
死んだと伝えられた人も混じっているが、本当かどうか怪しいもんだ。
死んだことにしておいて、どこか安全なところで余興見物でもしているのか。
いや、始めからこんなゲームには参加していないんじゃないか。
殺し合いをさせられているのは、リスト外の人間だけなのかもしれない。
そう、この島で死ぬのはいらない人間だけ。
自分が戸部さんを助けたのも、良平や平下が人を殺してまで生き残ろうとしているのも、
自分が怪我を治療しようとしているのも、すべては無駄な行為だ。
戸部も平下も良平も自分もみんなリストから外れている以上、どうせここで死ぬだけだ。
生き残りの10人はもう決まっているのだから。
10いらない人間(2/4) ◆vWptZvc5L. :05/01/07 20:24:59 ID:XPHNJQap
「これじゃ、いくら小坂さんでもキレるわな。ははは…」
悲しい事実なのに、なぜか笑いが出てくる。
紙切れ一枚に踊らされている自分とこのチーム全体がおかしくてならなかった。



――「どこだよー。絶対にあるはずなんだけどなぁ」
川井貴志は投下地点で探知機を探していた。あれがないと小坂を探せない。
山本エカ児が直接自分に市街地に行けといったのだから、それくらいの配慮はあってもよさそうなものだ。
だが、投下された武器の山をひっかき回しても、探知機は一向に見つからない。
「ったく、気が利かないなぁ…」
ため息をついたとき、何者かが近づいてくる気配を感じて川井は振り返った。
リストに挙がっている人物ならむやみに撃つことはできない
その辺にある武器の山から適当に銃を拾って構える。

「誰!?」
「そんなことしても無駄ですよ。全部無駄。あんたも自分もいらん人間なんやから…」
そう言いながら視界に入ってきたのは青野だった。そのまま撃ってもいいが、まだ距離がある。
そして何より青野の言った意味を量りかねて、引き金に指をかけたまま川井は尋ねた。
「どういう意味?」
「このゲームには裏があるんですよ。生き残る10人は始めから決められとる。
 そういう生き残り希望者リストがあるんや。自分も川井さんもその中に入ってへん。
 その10人以外のいらない人間はこの島で殺されるって、そう決まっとるんですよ」
銃口を向けても青野は構わずに川井の方へと歩み寄ってくる。
「ふーん、君もリストのこと知ってるんだ。じゃあ、話は早いね。
 君は確かにいらない人間さ。だからここで死んでもらう」
青野の歩み寄る足がピタリと止まった。
11いらない人間(3/4) ◆vWptZvc5L. :05/01/07 20:25:54 ID:XPHNJQap
「…川井さん、あんたもですか」
川井が口元に笑みを浮かべる。
「そう。僕はその10人を残すために、君みたいな要らない人間を消して回ってるってわけ。
 僕自身はもう生き残りが決定してるけどね♪ ケケッ」
「あははは…」
青野急に笑い出した。
「何がおかしいんだよ!」
「いらん人間なんはお互い様やないですか。あんたもリストに載ってへんのやから」
その言葉に川井ははっとする。いままで生き残る自身ことを信じて疑わなかった。
そうだ、考えてみればリストに自分の名前はなかった。
「それとは別に生き残れるんだよ!」
川井の声からは焦りが感じ取れる。

「へぇーそうですか。でも雅英さんの名前はちゃんとあるやないですか」
「雅さんとこれがどう関係あるんだよ」
青野が冷ややかな目で川井を見つめる。
「川井さんもそこまでは知らんのですか。裏切り者はあんただけやないってことですよ。
 雅英さんも運営側についとるらしいですわ。あんたみたいなにいらん人間を殺すためにね」
「……」
「雅英さんは必要な人間だからリストに載ってる。あんたはいらない人間だからリストから外されてる。
 だからあんた、雅英さんに会ったら普通に殺されるんですよ。あんたは「いらない人間」なんやから」
「うるさい、黙れ!!」
もうそれ以上聞きたくなくて、川井は引き金を引いた。
12いらない人間(4/4) ◆vWptZvc5L. :05/01/07 20:26:50 ID:XPHNJQap
パンッ。
乾いた銃声が鳴り響く。だが、青野に弾が当たった気配はない。
川井は焦ってもう一度引き金を引いた。
パンッ。
乾いた音と衝撃だけが残る。そこで川井はようやく気づく。
――この銃には弾が入ってない。
川井は弾がこもっていない銃を拾ってしまったのだった。
慌てて別の銃を取ろうとする。だが、どの銃にも弾が入っていない。
投下された銃は全て空で、弾とは別になっていた。
(そんな、正人と同じ失敗をするなんて…)
自分がした仕打ちがそのまま跳ね返ってきた。これは正人の怨念か。
死んでもなお、自分に呪いかけているというのか。
(銃じゃ弾を込める時間がない、刃物だ)
そう思って武器の山からナイフを探そうと手を伸ばそうとしたとき、その手を踏みつける足があった。青野の足だ。
川井は全身から血の気が引いていくのを感じた。

「いらん人間は早よ死ねばええんですよ」
そう言い放つ声が聞こえた。それは自分自身に対する自虐の言葉でもあった。
川井は声のしたほうを見上げる。そこには冷たい表情をした青野がいた。
そしてそのすぐ後ろに、無表情で川井を見下ろす渡辺正人の姿が見えた気がした。
13 ◆vWptZvc5L. :05/01/07 20:27:39 ID:XPHNJQap
>>1
乙です
一体どうなってるんだ、この鯖は…
14代打名無し@実況は実況板で:05/01/07 20:40:56 ID:XnksvQmi
職人さん乙
鯖のせいで最近せわしないですね
15 ◆vWptZvc5L. :05/01/07 22:52:39 ID:/hfx/jCx
すみません、訂正です
>>11の上から9行目
× いままで生き残る自身ことを信じて疑わなかった
               ↓
○ いままで生き残ることを信じて疑わなかった

下から6行目
× あんたみたいなにいらん人間を
            ↓
○ あんたみたいないらん人間を

保管庫さん、よろしくお願いします
16代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 01:17:18 ID:mQWnqXJJ
即死回避!
17代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 01:22:10 ID:HOfdCNkd
即死回避

50レス目安だそうです
18代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 02:09:53 ID:8112o4w6
乙です
スレの最初の頃はこまめに保守した方が良さそうですね
19代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 02:18:48 ID:jZiGuhwo
即死判定はレス50くらいが目安らしいですよ
20代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 02:24:46 ID:ufH8QSBa
7 名前:神頼み(1/4) ◆QkRJTXcpFI メール:sage 投稿日:05/01/06 20:27:57 ID:A6i46hK4
「どうなんだ、俺はどうするべきなんだ…?」
頼りない足取りは泥をズボンの裾に跳ね上げる。
彼は歩き出していた。できれば岩陰にずっと隠れていたかったのだが。
頭上の木の枝から垂れる雨の雫に脅かされる。それに耐えられなかった。
 諸積兼司は人一人通れるほどの狭い野道を、キョロキョロ周りを伺いながら歩いていた。
道の脇は背の高い雑草や、木々がうっそうと茂っている。
雨のせいか少し煙るようで、遠くを見通せない。
それが更に諸積の恐怖を煽った。
「誰かいたら…」
左肩に背負った袋を手元に持ってくる。袋を開く。
彼に支給されたのは百万円の札束だった。
「何の皮肉だよ…そりゃ去年の契約更改では少し揉めたけど」
 手にとってみる。今までも手に持ったことはあるが、あの時より軽いなと思った。
別に嫌いなわけではない。貰えるなら喜んだことだろう。
それが今までの当たり前の世界ならば。

「こっちだって生活があるんだ。高給取りなんて知らない奴らは言いやがる。
 15年も現役やれば長い職業だってのに、俺みたいな…」
一瞬、言葉が詰まる。
「俺みたいな半端なベテランに、この先の人生の保障なんてない。
 どんなにファンサービス頑張っても、実力がついてこなきゃ人気は出ない。
 人気がなきゃ、元プロ野球選手なんて何の役にも立たないんだよ……
 ……自分で言ってて嫌になる」

 雨が少しずつ弱くなってきた。
手に取る札束に雨が落ちていたが、諸積に気にする様子はなかった。
「家に帰れば女房子供が待っている。だから必死で更改だってやってるんだ。
 でも……こんな状況に置かれちゃ、何の役にも立たないもんだな。札束なんて……」
諸積は途方に暮れていた。ふいに顔を上げる。
「ああ!! どうしたらいいんだよ! 誰か助けてくれよ!」
叫んだ。空に向かって。手に持つ紙の束を固く握り締めて。
21神頼み(2/4) ◇QkRJTXcpFI:05/01/08 02:27:05 ID:ufH8QSBa
 一通り叫ぶと今度は下を向き、しゃがみこんでしまう。
「死にたくねぇよ…俺が何したってんだよ…
 球団にたてつかなきゃよかったのかよ。さっさと引退してりゃよかったのかよ…」
涙がこぼれてきた。顔がぐしゃぐしゃになった。
放送のたびに何度も呼ばれた仲間の名前。誰かが誰かを殺している。
自分がどちらに行くか分からないが、殺される側に近いのは確かなようだ。
――同じポジションのやつを殺す
ふと頭に浮かんできた言葉。垣内が言っていたあの言葉。
なんと理に適った、そして冷酷な考えだろうか。
外野手は危ない。だが、他のポジションでも危険なことには変わりない。
「誰を信じたら…、何を頼ったらいいんだ…?」

 しばらくして諸積は立ち上がった。ここに留まることすら怖くてできない。
しかし当てもなくさまようのも怖くて、足を踏み出すのがためらわれた。
逡巡する。何をするのも。
意を決して、諸積は今まで向かっていた方向に歩き出した。
狭い一本道を、とぼとぼ歩く。ちょっとした物音に振り向いては、気のせいかと安堵した。
そうこうするうちに、小道が少し広くなり、砂利が目立つようになる。
曲がると小さな神社が建っていた。小道は神社の境内に続く裏道だったようだ。
瓦のいくつかは落ちているが、手入れはされているようである。
年季の感じさせるたたずまい。周囲に人の気配はないようだった。

 手水を汲んで水筒を満たす。先ほど水が毀れて半分ほどになっていたのだ。
鳥居の方を見ると、その中に舗装された道路が見える。
広くはない道だが、ガードレールの向こうに街が見えた。
「どうするかな…」
行き先を決めるのはためらわれた。少なくとも現時点では安全である。
そこが神社の境内の中だからか、不思議と怖さが少しだけ和らいだ。
お社の造りは簡素なものだったが、古臭さのせいか反ってご利益がありそうな感じがした。
「そうだ」
そう諸積はつぶやいて、賽銭箱の前に立った。
二度礼をしてから袋に手を入れると、何やら取り出した。札束である。
22神頼み(3/4) ◇QkRJTXcpFI:05/01/08 02:27:43 ID:ufH8QSBa
「どうせ役に立たないからな…」
札束をバラして賽銭箱にばらっと投じる。
手を二度叩いて目を閉じ、合掌する。
「どうにか生き残れますように……なんとか!!」
もう一度礼をして目を開ける。
背後に気配を感じる。振り向いたが誰もいない。気配もない。
気のせいかと思い、ため息をつく。
「はぁ…やれやれ、このままじゃ参っちまうよ」
ほんの少しだけ気分が軽くなったような気がする。
心持ち落ち着いたと感じ、諸積は境内を出ることにした。
 鳥居をくぐり道路に出ると、街を見下ろせることに気づく。
道路と街区の間は急な傾斜になっていて、木が植えられている。標高差は20mもない。
街区から見上げれば諸積のいた神社は小さな丘の上にあるように見えるだろう。
ガードレール越しに諸積は街を俯瞰する。
遠くに2つの人影が動くのが見えた。


「……」
銃を右手に構えながら、とても不機嫌そうにその少年は歩いていた。
失せ物が見つからない子供のように、ぶんむくれて。
「誰も会わないもんだな」
その後ろを歩いていた男が声をかける。
少年のせっかちな足取りとは対照的に、のんびりとした足取りで歩く。
「言われなくても分かりますよ! いちいち言わないで結構です!」
内竜也が声を荒げる。
それに悪びれる様子もなく、於保浩巳は辺りの家々をチラチラ見ている。
「ああ、そりゃ悪かった」
その表情はのん気そのものだ。それが少し、内の勘に障った。
「ついてくるだけなんでしょ? 余計なこと言いいますね」
「ま、俺も人間だから喋りたいさ。ていうか、暇だしな。」
23神頼み(4/4) ◇QkRJTXcpFI:05/01/08 02:30:15 ID:ufH8QSBa
 住宅街に入り、いまだ誰とも遭遇しないことに内は苛立っていた。
遠くで爆発音が聞こえたときは、脈拍がにわかに上がったのだが。
同じく離れたところで銃声も聞こえた。誰かはいるはずなのだ。
しかし巡り合わせのあやか、誰にも遭遇しない。
 バババババ。内が路上の空き缶を蹴ろうとしたとき、上空をヘリが通過していった。
再び脈拍が上がる。ニヤリと笑みを作って、その待ち人を見上げた。
気がはやる。内は於保に向き直った。
「あのヘリが武器を投下した地点、そこなら確実です。
 逃げるなら今のうちですよ」
「何度も言わせるなって」
小走りにヘリを追う内を、於保も追いかけ始めた。

 その様子を諸積は見下ろしていた。ヘリが向かったのは先の放送で言っていた件だろう。
それを追う誰か、あの2人は武器を探しているのだろうか。諸積に知ることはできない。
それよりも諸積には気になることがあった。
 二つの人影のうち、片方の頭上に真っ黒なもやが見えるのだ。大きさは人間の上半身ほど。
煙でもないようだし、何より彼らに気にする様子がない。
まばたきを何度もする。目をこする。何度見直しても片方の頭上にその黒いもやが見える。
ひどく異質で、この世のものでないような感覚を覚えた。それがゆらゆら動いている。
 ふと後ろを振り向くと、今出てきた神社がある。同じように奇妙な感じがする。
(ひょっとして、お参りしたおかげで何か見えるようになったのかな…)
そんな考えが浮かんだが、すぐに打ち消す。
精神的に参っているとはいえ、なんとも馬鹿らしく思えたからだ。しかし、
(あの黒いもやはなんだ…? すごい違和感だ)
疑念は解決しない。ひどく気になる。どうしようもなく気になってしまう。

 諸積はガードレールを乗り越えると、斜面を駆け出した。
ヘリを追う彼らを見失わないように、最短距離を行くという判断だった。
この先の街中に行くのは人が集まっていて危険なはずだ。心が警鐘を鳴らす。
しかし足が止まらない。何かに囚われるような感じがしたが、すぐに消えた。
木の間を駆け抜け斜面を降り切ると、彼らの向かった方向へ走る。
俊足はいまだ衰えていない。ほどなく、2人の背中が角を曲がるのが見えた。
24ご利益(1/4) ◇QkRJTXcpFI:05/01/08 02:30:59 ID:ufH8QSBa
「…あれは、内と於保か。 於保っ……!」
外野手だ。そう思った瞬間に背中が寒くなった。
(違う、危ないのは於保に限ったことじゃない。内だって…、ただ…)
黒いもやがさっきより近くで見えた。正体がやはり分からない。
そこだけ平らな紙に鉛筆をこすったように、周りの景色から浮いている。
化け物じみた雰囲気を感じる。異常な何か、ゆらゆら浮かんでいる。
於保の頭上だ。諸積は思考をめぐらせた。
(あれは…なんだ…? ただ、すごく嫌な感じがする…
 近づくと殺されそうな気さえする)
自分の感覚を最大限に引き出そうとする。
それでも正体は分からないが、諸積は一つの結論を出した。
(あれは…たぶんこの世のものじゃない。
 だとしたら、あの神社にお参りしたのと関係が?
 あと、この感じ…於保はだめだ。きっと俺を殺す。そういう殺意に見える。
 ひょっとすると、百万円分のご利益(ごりやく)じゃないか…? それが見えるようになるみたいな)

 たぶん感覚が大事なのだと諸積は思った。
その黒いもやから受ける嫌な感じを、同時に於保からも受けるように感じる。
霊感なんて信じたことはなかったが、諸積は目の前のそれをどうにか解釈するしかない。
信じられるのは、結局頼れるのは己の直感なのだ。そう諸積は思った。
(そうだ、内よりも於保の方が危険だ。
 たぶん今見えているのは、そういうものなんだ!そうに違いない!)

併走する於保に、内が話しかける。
「於保さん」
「ああ」
「誰か追ってきてますね」
「そうだな、どうする? 今のところ攻撃してこないが」
「決まってます」
内は角を曲がったところで急停止し、後ろを振り返った。脇の植え込みに身を隠す。
於保も同様にする。
 しばらくして、角から少し頭が出た後に人影が飛び出してきた。
25ご利益(2/4) ◇QkRJTXcpFI:05/01/08 02:31:31 ID:ufH8QSBa
さっきまで追っていた2人がいないのを見て、キョロキョロしている。
武器を持っていないのを見て内は腰を上げた。
「手を上げてください、諸積さん」
諸積は顔をひきつらせた。目が「しまった」と語っている。
しかしそのあと内を不思議そうに見た。
植え込みから於保も現われた。それを見て諸積の顔が恐怖に変わった。

(しまった…気づかれてた)
諸積は向けられた銃を見つめ、絶望に暮れた。
銃を向けているのは内の方だ。黒いもやは依然として於保の頭上をうごめいている。
(あの黒いもや、殺意みたいなものと違うのかよ…! なんなんだ?
 いや、そんなことよりこの状況…殺される!)
「袋の紐を片手に持って、そこに置いてください。そしたら10歩後退して。
 いいですか? 少しでも怪しい動きをしたら撃ちます」
無表情に内は言い放った。諸積の背筋が凍る。
かつて一軍に来た時の、はにかんだ笑顔とはあまりにかけ離れている。

 言われるままにすると、内は諸積の袋の中身を確認した。
「何も入ってないですね。武器、持ってませんか?」
「持ってない。俺のは、さ、札束で…賽銭箱に入れてきたんだ」
「ふざけないでください」
内は銃口の向きを調整し、諸積に再び向けなおした。
於保はその後ろで、やはり無表情に2人を見つめていた。
「本当だって、武器なんか持ってないんだ。誰かを殺す気もない!
 頼むから、命だけは助けてくれ。お願いだ!」
懇願する諸積を見て内は言った。
「ま、いいですけどね…僕が狙ってるのは投手ですから。
 諸積さんは関係ないし」
(投手! 同じポジションのやつか…。内は俺を殺す気はなかったんだな!)
両手を上げながら諸積は安堵のため息をつく。
(やはり、ポジションが同じやつを殺そうと考えてるやつは多いってことか。
 とにかく助かったぁ…)
26ご利益(3/4) ◇QkRJTXcpFI:05/01/08 02:31:58 ID:ufH8QSBa
「殺さないのか?」
何気なく於保は内に言った。
それを聞いて諸積はヒッと息を吸い込んだ。うまく息が吐き出せない。
「今の時点でやる必要がないですから。於保さん、やりたければどうぞ」
(そうだ…於保がいるんだ! 殺さないのかって…
 外野手を殺したいんだ。俺は殺される!殺される!
 あの黒いもや、やっぱり直感は正しかった。俺を殺そうと思っているのは、於保だ!)

 諸積は怯えて、ひきつけを起こしそうになっている。
於保は内に、さもどうでもいいといった感じで答える。
「言ったろ? 俺は何もしない。
 諸積さん、逃げたければ今のうちですよ」
そう言われても、諸積は動けなかった。
(嘘だ!信用できるか!お前は俺を狙ってる。
 その無感情な目、人間の目じゃない!)
自分に対しても怯えるのかと、於保は半ば呆れ気味だった。
諸積はただ於保を凝視するだけでじっとして動かない。
睨みつけられて、さすがに於保は困った。
「逃げないんですか?
 俺は何もしませんし、もう手を上げてる必要もないんですよ?」
(嘘だ…もし、俺が背中を向けたら撃つつもりだ!
 銃を隠しているはずだ。内だって持ってるんだから。
 見たところ内と対等の立場みたいだし、銃を持ってないのはおかしい!)
恐怖は諸積の体内を循環し膨らみ続けていた。
諸積みは動けない。手を上げたままで、じっとしている。
一歩でも動けば撃たれると思った。それ以外考えることができなかった。
恐怖は限りなく膨らみ、もはや抑えきれなくなってきていた。
「於保、嘘を言うな! お前は外野手じゃないか。し、信用できない」
「そう言われても、俺は何もする気はないんですよ」
於保はため息をつきながら言った。だが諸積は聞き入れない。
「それがおかしい、殺す気がないなら何故、内と一緒にいるんだ。
 内は投手は殺すんだろう。じゃあお前は何故一緒にいるんだ!?」
27ご利益(4/4) ◇QkRJTXcpFI:05/01/08 02:32:28 ID:ufH8QSBa
内もその答えが気になったようで、チラリと於保の方を見た。
於保がため息をつく。
「諸積さん、そんなこと言う暇があるならさっさと逃げたらどうですか」
「はぐらかすな!
 お前は、お、俺を殺すつもりなんだろう!わかってるんだ!
 百万円のご利益だからな…お前のそれはお見通しなんだよ!」
「諸積さん、何を言ってるんですか?
 なんでそんなこと言えるんです? 俺はさっきから…」

 於保の言葉が終わるのを待たず、突然諸積が駆け出した。
「お見通しなんだよおおお!」
叫び声を上げながら於保に向かって真っすぐに突進する。
その距離は約10mほど。その間にいた内が銃口を諸積に向けた。
於保に突進することは、同時に内への突進にも見えるのだ。
だが、諸積に内の姿はもはや見えていなかった。

大きな銃声が、こだました。
28代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 02:33:20 ID:ufH8QSBa
15 :代打名無し@実況は実況板で :05/01/06 20:35:41 ID:pFE+kDey
うわー続きが気になる!
いつもながら職人さん乙です

16 :代打名無し@実況は実況板で :05/01/06 21:55:24 ID:Uj1WFqca
乙ついでにオールスターの保管庫って貼ってないよな?
ttp://www.geocities.jp/allstar12br/

17 :代打名無し@実況は実況板で :05/01/06 22:09:10 ID:55nC3owg
うおぅ!いつの間にか新スレに!?


>>1さん,職人の皆様 乙です。
29代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 02:35:57 ID:ufH8QSBa
>>20-28
一応保守と即死回避を兼ねて、前スレから救出しておきました。

…やってから気付いたけど、もう保管庫に行ってたのねorz
30 ◆CLM31pWOr6 :05/01/08 02:46:34 ID:HOfdCNkd
>>29
スレそのものはまだです。
乙でした

しかしとんでもない鯖だなorz
31代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 03:17:20 ID:LyTgaHgg
>>29
うんにゃ乙

青野(雅がスパイと知っている)と川井(他のスパイの存在を知らない)
が絡むとこういう展開になるとはなー。人選の妙だ。
32代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 07:01:20 ID:ufH8QSBa
おはようございます保守
33代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 07:50:49 ID:zlys5ahc
即死回避ほっしゅ
34代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 08:51:14 ID:yrAqAUIt
即死回避
35代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 09:08:24 ID:RW+GZwWc
即司会費
36代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 09:25:04 ID:YUa7wDgg
即死回避初芝!
37代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 10:09:59 ID:QkS8sBId
sokusi kaihi
38代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 11:13:45 ID:hWBoPRe/
スレがまだ存続しているのは薮田様のおかげ
39代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 12:15:06 ID:8112o4w6
前スレが即死したのは藤田の(ry
40代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 12:51:29 ID:2ZMAfoms
土曜日なのに仕事なのはクベ浩のせい
41代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 13:20:26 ID:YUa7wDgg
土曜に休みをもらえたのはかっきーのおかげ
42代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 16:47:14 ID:64xdp6KJ
於保のモヤ(゚Д゚≡゚Д゚)?
43代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 18:14:08 ID:3cbC8Eef
そくしかいひ
44代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 21:59:02 ID:YILZ5Jws
即死判定って50くらいだったっけ?
スギシュンの今後が気になる…
45 ◆CLM31pWOr6 :05/01/08 22:29:49 ID:J3Er7U2f
即死回避保守
46代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 22:39:08 ID:3cbC8Eef
ほしゅ山保守子
47代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 22:41:28 ID:ufH8QSBa
あと3レス
48代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 22:58:06 ID:awR2u53N
task
49代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 23:46:59 ID:akBzEck8
即死回避保守
50代打名無し@実況は実況板で:05/01/08 23:55:13 ID:mFfRaHTA
ほんじゃ、回避で
51代打名無し@実況は実況板で:05/01/09 01:21:16 ID:F7BFApP7
これでもう大丈夫か?
保守した皆さん、乙です
 「ぐ、具体的には…? どうやったらそんなことできるっていうんですか」
 小宮山の横顔を半ば放心状態になりながらも杉山はそう尋ねた。
 この絶望的な状況から、どうやって…?
 「例えば、だ。スタジアム―本部だな。本部を何かしらの方法で混乱に陥れること。
監督を人質に取るとかってのも考えたが、それはお粗末過ぎる。銃を持った奴らに
狙い撃ちされるのが目に見えているからな。その方法を、今いくつか考えているところだ」
 顎に手をやり、思考しながら小宮山が答える。
 「ひとつ考えたのが火事を起こす方法だ。本部の周りを火で囲んでやつらを炙り出す。
多分、首輪やその他の管理をしているコンピュータなんかの機械だって無事じゃいられないだろう。
勿論リスクはあるが、もしこの首輪だけでも外れたら、勝機は見えてくる。ここからの
脱出も可能かもしれない…ただ、そのためには、いろいろと必要だ」
 それが揃うかどうか…と小宮山は呟いていた。
 「火事で混乱…でも、そんなの無理ですよ」
 自分の身を、いや自分の命を守ることで精一杯なのが現状なのに…。
 「杉山」
 小宮山の視線が、鋭くなった。
 それは彼が今まで見た小宮山のどの表情よりも、杉山を震えさせた。
「何もやらないで無理だとか言うな。せめて、この状況の中で足掻くんだ。俺も
さっきまで絶望していた。でもな。…時間が戻ればいいとか、誰かが何かして
くれるのを待っているとか、他力本願なだけじゃダメなこともあるんだ」
「……」
『それはそうですけど』と言いそうになった自分を、杉山は勇気をもって押さえ込んだ。
 小宮山の鋭い視線を浴びたくなかったというのが大部分であるが、自らの
情けなさへの反省もあったからだ。
 でも、やっぱり、死ぬのは怖い…。
 杉山の頭の中は、混乱していた。
 それを察したのか否か、小宮山は柔らかく笑んだ。
「…まあ、俺だって、さっきまでは何にも考える余裕はなかったから偉そうには
言えないな」
 小宮山が笑顔を見せたことで、杉山は多少ほっとした。
「雨…まだやまないな」
「そうですね…」
「俺、雨男なんだよ。そのせいかな?」
「まさか!」
 軽口をたたく小宮山に、杉山は思わずそう返してしまった。
 一瞬、ここが生死を懸けている場だということを忘れてしまい、杉山は慌てて
意識を「こっち」へ戻す。チラリと小宮山を見ると、彼はまた考え事をしている
みたいであった。
『足掻く』と言っていた小宮山。またきっと、『足掻く』ための方法を考えて
いるのだろうと思った。
 杉山はこの人に会えて良かった、と今更ながら実感していた。

 しかし未だにこの『試合』に対する恐怖と死への恐怖、黒木への恐怖…
そういった負の思考は、杉山から離れてくれそうにはなかった。 
 
 彼はこの生と死のギリギリの場所で、至って正常な葛藤を抱えていた。
54代打名無し@実況は実況板で:05/01/09 02:31:16 ID:XcMtXLxw
50を超えても今度は古いスレから落ちるらしいですよ
55 ◆CLM31pWOr6 :05/01/09 05:28:58 ID:N+Wg25Ia
>>53-54
乙です。
しかし今回首輪じゃなくて胃の中の発信機なんですが
その辺どうしましょう?
56 ◆CLM31pWOr6 :05/01/09 05:29:46 ID:N+Wg25Ia
連投スマソ

>>54
立ってから60日以上経過したスレは
12時間書き込みがないと落ちるらしいです
57幻覚(1/5) ◆vWptZvc5L. :05/01/09 12:43:47 ID:K64Di2Sn
川井の左手は青野の右足の下。これでは身動きできない。
空いている右手で武器を取ろうとすると、青野の左足に蹴り飛ばされた。
蹴られたことと、それで右足に青野の全体重がかかり、地面に手が押し付けられたことで激痛が走った。
「がぁっ…」
川井が悲鳴を上げる。川井が武器を取ろうとしてしゃがみこんで
蹴りやすい高さになっていたのは、肩を怪我した青野にとって好都合だ。
「痛いんですか?もうボール握れませんねぇ」
そういいながら手をぐりぐりと踏みつけてくる。
「くっ…やめて、助けて…」
川井は乞うような視線を向ける。
「先に仕掛けてきたんはそっちやないですか。自分は殺る気なんかなかったんですよ。
 それどころか、リストのこと教えたろ思とったんに。あんたがそんな態度とるからや。
 別に見逃したってもええんですよ…でもね、ここで自分が見逃したところで、あんたどうせ死ぬんですよ。
 自分が殺さなくても違う人に殺される。あんたはリスト外の『いらない人間』やから。
 そんなら、さっさと死んだ方が楽になるんちゃいます?」

――「どうせ死ぬ」「いらない人間」
川井を虐げる言葉は全て自分にも突き刺さる。
あのリストに対する憤りややりきれなさを川井にぶつけてみたところで、どうなるわけもない。
それでもぶちまけずにはいられない。川井は丁度いい怒りの捌け口だった。川井をなじる言葉が止まらない。
「よう考えてみてくださいよ。生き残らせる人間にそんな危険なマネさす訳ないやないですか。
 あんたは死んでもいい人間やからそんな役目押し付けられたんや。あんた、利用されたんですよ。
 いらん人間は利用するだけ利用して、用済みになればポイや。
 あ、でも雅英さんも殺し役に回ってるんでしたっけ。雅英さん、どんな重装備してるんですかねぇ。
 それに比べて、あんたはこんなところで武器あさりですか。待遇の差がはっきり見えますね」
58幻覚(2/5) ◆vWptZvc5L. :05/01/09 12:45:08 ID:K64Di2Sn
川井は絶望に打ちひしがれた。
(この武器投下は自分の救済策だと思った。自分にはまだチャンスがあると思った。
 仲間を陥れてでも叶えたい夢があった。運営側についてでも生き残りたかった。
 それなのに、僕は…見捨てられた?探知機が見つからないのがその答えか。
 違う、向こうには始めから…僕を生き残らせる意思なんかなかったんだ……)
「今頃このリストの10人は何してるんですかねぇ。
 この人たち全員が運営側と組んでて、生き残りが保障されてるんですかね。
 大事な生き残り希望者は傷ついたら困りますもんね。
 最初っからこんな糞ゲームに加わってたのは、自分らいらない人間だけやったんかもしらんですね。
 生き残り希望者は、もうこんな島から出て行ってるのかもしれませんよ」

「でも直行は…」
川井が口答えをする。
「直行さんがどうしたんですか?そういえば、直行さんは名前呼ばれてましたねぇ。
 あんたがやったんですか?」
「…毒盛った」
川井が口ごもる。
「へー、リストに挙がっとったんに殺してもうたんですか。
 アホですねぇ。直行さん、どんな最期でしたん?」
「最期は…見てない……」
「じゃあ、本当に死んだかどうかわからへんやないですか」
「発振器が」
「そんな機械、なんぼでも操作できる!」
「でも、今江の服に…」
言わなくてもいいことなのに、次から次へと口にしてしまう。
言い返そうとすればするほどボロが出てくる。
59幻覚(3/5) ◆vWptZvc5L. :05/01/09 12:46:15 ID:K64Di2Sn
「今江がどうしたんですか?」
「今江の服に…直行の血がついてたから…」
川井は目を伏せた。
「今江もグルだったとしたら?今江もリストに載ってましたもんねぇ。
 それだけで本当に直行さんが死んだって言い切れるんですか?
 直行さんはウチのエースや。絶対に死なせたくない人間やないですか。あんたと違ってね。
 死んだってことにしておいて、どこか安全なところに避難してるのかもしらんですよ。
 今頃どこかであんたの様を見て、笑っとったりしてな」 
青野が嘲り笑う。

川井は混乱した。
(そんなはずはない、直行は僕が殺った。確かに死に際も死体も見てない。
 けど、直行は毒入り卵を食べたんだ。あの毒だって猫には効いた。
 でも青野の言うとおり、あのリスト10人が運営側とグルになっているとしたら?
 途中で解毒剤でも飲んだとしたら?直行は本当に死んだのか…?
 いや、もし生きていたとして…じゃあなんで追加リストなんか出されるんだ?
 そもそも、生かしておきたい直行をこのゲームに参加させた理由って?
 あの10人は始めからこんなゲームには加わってなかった…?
いや違う、だって今江や西岡はリストのことなんか知らなかった。あれが演技のはずない。
 ならどうして、大事な生き残り希望者を殺し合わせる必要がある?わからない…)
このゲームはあのリストが全てのはずだった。他に一体、何があるというのか。

「他には?あんた、何人殺したん?」
川井は黙りこくった。もうボロは出したくない。余計なことを言えば身を滅ぼす。
青野は手を踏む足に力を入れた。
「ぐぁっ、痛い痛いっ!わかった…3人だよ、3人」
青野の目が川井を蔑む。
「嘘や、そんな数違う。あんたはね、この島で死んだ人間全員を殺したんや。
 みんな、あんたのせいで死んだんや。あんたは自分の命と引き換えにチームメイトを売ったんや。
 この裏切り者!……自分にはね、見えるんですよ。
 今まで放送で名前を呼ばれた人たち全員が、あんたの周りを取り囲んでるのが!!」
60幻覚(4/5) ◆vWptZvc5L. :05/01/09 12:48:36 ID:K64Di2Sn
川井はぎょっとして辺りを見回す。
直行が、辻が、自分が殺した人間だけじゃなくここで死んでいった全員が、
川井を取り囲んでいるのが見えた。みんな恨めしそうに川井を見ている。
そして青野の方を見たとき、そこには渡辺正人の姿が重なった。
「あ、あ、あ…」
川井の顔が恐怖にこわばるのを見て、青野はけらけらと笑う。
「川井さん、あんた本気で幽霊とか信じてはるんですか?嘘に決まってるやないですか。
 そんなん気にするようじゃ、お迎えも近いんやないですか?」
青野が放つ言葉の一つ一つにトゲを感じた。もう聞きたくない。
「狂ってる…」
川井はつぶやく。幻覚が見え始めた自分自身に対して言っているのか、
自分を執拗に責め続ける青野に対して言っているのか分らなかった。
「狂っとるんはどっちですか。仲間を平気で裏切るあんたの方やろ」
そう低い声で言いながら、青野はアイスピックを取り出す。
その金属部分は鮮やかな赤に染まっている。まだそんなに時間もたっていないようだ。
そうか。青野がやたら生傷だらけなのは、その言い方に迫り来るような脅威を感じるのは…そういう理由か。
61幻覚(5/5) ◆vWptZvc5L. :05/01/09 12:53:01 ID:K64Di2Sn
「さて、どうします?ここで自分に殺されます?
 他の誰かに殺されたいって希望があるなら、きいてやらんこともないですよ」
「誰にも殺されたくない!」
川井がきっぱりと言い切る。
「そんな選択肢ありません。何度言うたらわかるんですか。
 リスト外のあんたはどのみち死ぬんですって。選べないなら、自分がやっていいですね?」
「お前だって、リスト外だろ!?」
川井が精一杯の強がりを言う。青野が一瞬黙り込む。
「…そうですよ、だから?自分にはここで川井さんに殺されるくらいなら、
 こいつに殺された方がマシって奴がおるんでね。さ、あの世でみんなが待ってますよ」
(僕にだってそういう人はいるんだ…このチームじゃないけど…)
川井の心の声は届かない。

青野がアイスピックを振り上げる。
川井は恐怖のあまり、全身が金縛りにあったように動けない。左手は青野の足に踏まれている。
目線を右手へやると、そこには首筋から血を流した辻がいた。辻が右腕全体にしがみついている
目線を下へやると、胴にも腕が回されてがっちりと組まれている。
自分の顔のすぐ横には口から血を流した直行の顔があった。直行が自分の胴を押さえ込んでいる。
そしてアイスピックを振り下ろすその主は青野ではなく、はっきりと正人の顔に見えた。
62代打名無し@実況は実況板で:05/01/09 19:54:08 ID:bdH32StE
保守
青野はこの先どうなる事やら・・
63 ◆1Y1lUzrjV2 :05/01/09 20:00:16 ID:AFZX+xGj
>>55
すみませんorz別のバトロワとごっちゃになってます自分…。ナニヤッテンダオロカモノメ
修正して再度うpしますので…すみません。
「ぐ、具体的には…? どうやったらそんなことできるっていうんですか」
 小宮山の横顔を半ば放心状態になりながらも杉山はそう尋ねた。
 この絶望的な状況から、どうやって…?
「例えば、だ。スタジアム―本部だな。本部を何かしらの方法で混乱に陥れること。
監督を人質に取るとかってのも考えたが、それはお粗末過ぎる。銃を持った奴らに
狙い撃ちされるのが目に見えているからな。その方法を、今いくつか考えているところだ」
 顎に手をやり、思考しながら小宮山が答える。
「ひとつ考えたのが火事を起こす方法だ。本部の周りを火で囲んでやつらを炙り出す。
多分、発信機や放送とか…ともかくいろいろ管理をしているコンピュータなんかの機械
だって無事じゃいられないだろう。勿論リスクはあるが、もし発信機の管理下から逃れられたら、
勝機は見えてくる。ここからの脱出も可能かもしれない…ただ、そのためには、道具や
人員…いろいろと必要になるだろう」
 それが揃うかどうか…と小宮山は呟いていた。
「火事で混乱…でも、そんなの無理ですよ」
 自分の身を、いや自分の命を守ることで精一杯なのが現状なのに…。
「杉山」
 小宮山の視線が、鋭くなった。
 それは彼が今まで見た小宮山のどの表情よりも、杉山を震えさせた。
65代打名無し@実況は実況板で:05/01/09 20:06:14 ID:DjcWp3pS
首輪⇒発信機
でOKなような。あれ俺どっか見落としてるかな?
66代打名無し@実況は実況板で:05/01/09 20:06:42 ID:DjcWp3pS
あー投下されてたスマソ
「何もやらないで無理だとか言うな。せめて、この状況の中で足掻くんだ。俺もさっきまで
絶望していた。でもな。…時間が戻ればいいとか、誰かが何かしてくれるのを待っているとか、
他力本願なだけじゃダメなこともあるんだ」
「……」
『それはそうですけど』と言いそうになった自分を、杉山は勇気をもって押さえ込んだ。
 小宮山の鋭い視線を浴びたくなかったというのが大部分であるが、自らの情けなさへの反省も
あったからだ。
 でも、やっぱり、死ぬのは怖い…。
 杉山の頭の中は、混乱していた。
 それを察したのか否か、小宮山は柔らかく笑んだ。
「…まあ、俺だって、さっきまでは何にも考える余裕はなかったから偉そうには言えないな」
 小宮山が笑顔を見せたことで、杉山は多少ほっとした。
「雨…まだやまないな」
「そうですね…」
「俺、雨男なんだよ。そのせいかな?」
「まさか!」
 軽口をたたく小宮山に、杉山は思わずそう返してしまった。
 一瞬、ここが生死を懸けている場だということを忘れてしまい、杉山は慌てて意識を「こっち」
へ戻す。チラリと小宮山を見ると、彼はまた考え事をしているみたいであった。
 『足掻く』と言っていた小宮山。またきっと、『足掻く』ための方法を考えているのだろうと
思った。
 杉山はこの人に会えて良かった、と今更ながら実感していた。

 しかし未だにこの『試合』に対する恐怖と死への恐怖、黒木への恐怖…そういった負の思考は、 
杉山から離れてくれそうにはなかった。 
 
 彼はこの生と死のギリギリの場所で、至って正常な葛藤を抱えていた。
68 ◆1Y1lUzrjV2 :05/01/09 20:09:58 ID:AFZX+xGj
修正版うpしました。首輪云々のことは副題『足掻く』だけで
書いたのでどうしようかと思ったのですが一応こちら(『葛藤』)も
うpしておきます。すみません…以後気をつけます
69代打名無し@実況は実況板で:05/01/10 09:04:35 ID:7aPxO2w6
「あがく」ってそんな字書くんですね
思いっきり「あしかく」って読んでしまった orz
「ないなあ…。」
「荘さん、本当にあるんですか?」
「ごめん、僕にもわからないよ。」
「まあ、そりゃそうですよね…。」
吉鶴・福澤・荘の3人は、本来の目的を思い出して、浦和球場の事務所を調べていた。
彼らが探していたのは、荘が昼食時に話していた、秋季キャンプの場所などが書かれた紙である。
しかし、目的の物は容易には見つからなかった。
なにしろ、荘自身が「あるかもしれない」というぐらいの認識なのである。

部屋の中を調べているとき、福澤があることに気づいた。
「ここって…、こんなに物が少なかったか?」
「そういえば…。」
いつもなら物があふれんばかりにあるはずの事務所なのだが、
今日は整理整頓されたというわけでもないのに、やけにさっぱりしているという印象をもった。

「あっ、あった!!」
荘は何かを見つけたらしく、はしゃいでいた。
「えっ、本当ですか?」
荘の大声を聞いて福澤と吉鶴は荘のもとへ駆け寄った。
しかし、荘の手に握られていたのはサインボールだった。
「これはねえ…。」
「さて、この奥も調べてみるか。」
と、荘が遠い目で話し始めるのを無視して、福澤と吉鶴は探し続けた。
「どうやらなさそうですね…。」
吉鶴は事務所の奥へと入っていった。
すると部屋の隅に見慣れたかばんが置いてあるのに気づいた。
(あれ、このかばん…)
吉鶴が何かに気づいた刹那、
「うわああああ!!」
物陰からものすごい大声とともに何かが飛び出し、
吉鶴は何か判別するまもなく、頭部に強い衝撃を受けた。
「お…お…。」
吉鶴の意識は薄れていった。
72代打名無し@実況は実況板で:05/01/10 11:17:09 ID:Qm4ETUWC
園編も動きが!?と思いきや
そういえば当の園川は不在だったり


見守るスレまた落ちたね
73あの背中に(1/4) ◆QkRJTXcpFI :05/01/10 14:18:49 ID:7oadQrhf
 青野毅はアイスピックを振り下ろす。視界が揺れる。
それがどこに刺さったのか、川井貴志には判らなかった。
ふと、世界がきしむように揺れる。ゆらゆらと、万華鏡を動かすように。
(あれ?あれれ?)
クハッ。空気が口ではなく、別のところから噴き出した。地面に赤いしぶきが落ちる。
見とれるほど鮮やかな赤い色。散乱した武器群の鈍い灰色と黒に、それが彩りを添えるのだ。
 首か。気づいたときには、その首が左右に引っ張られる。かき回されて、頭ごと振り回される。
目の前にある影を、川井は震える視界の中で捉えた。
(正人? 苦しい。血がのどに、入った、息が通らない。
 死んじゃう。嫌だ、死にたくない。
 僕は、生き残るんだ…。僕には理由が、ある…)
「はぁっ……っが……ひゅくぉっ…」
声を出そうとしても、青野に届く形には成らなかった。
 青野は川井を一瞥する。虚ろなその眼が川井の瀕死を知らせる。ほくそ笑んでやった。
悲しそうな顔をするから。何人も殺してきた男が、今さらそんな悲しそうな顔をするのかと。
 川井は地面に突っ伏した。体が澱んだ暗い沼に沈んでいく。彼を幾つもの手が引きずり込むのだ。
川井は静かに闇へ沈んでいく……

――あれは確か今年の1月頃のことだった。
「なぁ川井、今年からパはプレーオフだよな? お前んとこも来れるかな」
その声に川井貴志は頭上を見上げた。たった今、ランニングが1セット終わって
芝の上にへたり込んだところである。自主トレのさなか、束の間の休憩。
質問に答えるために息を整える。あごのヒゲをさする。
「どうでしょうね…。ボビーに代わったからってチーム力は大して変わりません。
 そこを行くと、補強バンバンの史上最強打線はいいですね」
「打線だけ良くても勝てるとは限らないよ。
 意外と投手の揃ってる中日なんか手強いんじゃないかな」
「投手陣だけならウチだって悪くはないですよ」
「お、そうか。じゃぁ、行けるな!プレーオフ」
その人は太陽を背にして、子供のように無邪気に笑う。
一年で一番空が青いのは、自主トレをするこの季節だ。
底抜けに青い空と澄んだ太陽、この人にはなんて似合うんだろう。川井は思う。
74あの背中に(2/4) ◆QkRJTXcpFI :05/01/10 14:20:54 ID:7oadQrhf
「そうですね…行きたいんですけどね、それより自分のことでいっぱいで…
 ちょっと去年は成績が…」
「そうだなぁ、辛いところだな。僕も去年は散々だった。
 でも僕は欲張りだから。活躍もしたいし優勝したい、どっちも欲しいのよ。ははっ」
そう言って芝の上にあぐらをかく。横目にも背中が弾んでいるのがわかる。
瞳に青空を映して輝く。浅黒い肌。まるで虫取りに出かける少年のようだ。
 これが不惑を迎え、球界で最年長の男の姿だろうか。
今球界で最も200勝に近い男の姿だろうか。
彼の姿を見るたびに、川井はいつも違和感を覚えたものだ。

「さて、行くか」
スッと立ち上がる。次のメニューもランニングだ。インターバルは短い。
川井ですら辛いと思う練習量を、ずいぶん年上の彼は当たり前のようにこなす。
 汗を流しても、顔が歪んでも、瞳は光を失わない。
必ずその向こう、見えるより遠くにある何かを見据えるようだった。
彼の見ているのが何処なのか、川井には遠すぎて見える気がしない。
 憧れていた。左投手とか投球スタイルが似てるからとか、そんなんじゃなくて。
全てにおいて、自分の目指すプロ野球選手の姿そのものだった。
いや、川井にとっての野球そのものが彼だった。尊敬という言葉すら生ぬるい。
 そこそこには活躍できて、そこそこに駄目な投手の自分、川井貴志。
たぶん、いや全然遠い。追いつけない。
その人は太陽に向かって走る。冬の澄んだ太陽に向かって。
なんとか今だけでもと、川井はその背中を必死で追いかける。

 シーズン終了後、CMBR運営側の内通者になれと言われたとき、嬉しかったわけじゃない。
安全は保証するという。ただ、CMBRへの参加からは逃げられそうもなかった。絶望的なまでに。
彼に与えられた選択肢は、裏切るか、ただ参加するか、その前に死ぬかだった。
絶対に死ねないと川井は思った。仲間を裏切ってでも、果たすべき約束があった。
もっとも、仲間を裏切ること自体は川井自身驚くほど苦にならなかったのだが。
ともかく、ある約束が川井にとっては何よりも大事だった。
「川井、来年こそ日本シリーズで対戦しような!」
あの人はそう言ってよく笑っていた。意識が闇に沈む中で、川井はその笑顔を思い出した。
75あの背中に(3/4) ◆QkRJTXcpFI :05/01/10 14:22:39 ID:7oadQrhf
 今、川井は地面を舐めている。ピクリとも動かない。指先からは力みすら消えた。
抵抗の危険がないことを確認し、青野は川井の左手から足を外した。
血の海に突っ伏すその頭の、片方だけ見える瞳は濁っている。
致命傷を与えたのは間違いない。最後の抵抗を受ける懸念も晴れたようだ。
「簡単に死んでしまうんですね。そんな殺しといて。
 悪い人にはそれがお似合いや。最後ぐらいスッキリ、な。
 いらん人間や、自分ら。ゴミ箱に捨てられたら、ゴミは大人しくしてるもんです」
青野は見下ろして川井の頭を蹴飛ばした。
ゴロンと転がり、反動で元の位置にまた戻った。
「さて、なんか使えそな武器と肩の治療に使えそなもん頂いて、さっさと行くか。
 どこに行くかな……そや、あいつにもう一遍会いたいな」
そう言って川井に背を向け、武器を物色する。
川井の目がぼんやり青野の背中を見つめていた。青野はそれに気づかなかった。
 川井貴志の心臓の鼓動は少しずつ弱くなっていく。意識も徐々に薄れる。
濁った意識の中で、川井の思考が最期を告げて、ぐるんぐるんと回る。

「日本シリーズで対戦しような」
当たり前みたいに言わないでくださいよ。そりゃ、優勝請負人と言われたあなたなら
難しいとは感じないかも知れませんけど。僕にとっては未知の世界です。
でも……そうですね。優勝して、あなたに恩返しがしたいです。
優勝に貢献して、日本シリーズで堂々と投げてる姿を見せて恩返しをしたい。
縁もゆかりもない僕の弟子入り志願を、快く受け入れてくれたあなたに。
その割には、なかなかあなたみたいに出来ませんけど。いつかは…
 え?今年200勝できなかったら引退かな、って……。
そんな弱気なこと言わないでください。ほら、ちゃんと達成したじゃないですか。
でも、あなたの口から引退なんて言葉が出るなんて……
そうですよね、本当ならいつ引退してもおかしくない歳なんですよね。
もしかすると、来年が最後なんですか……嫌です、僕はまだ何も恩返ししてない。
あなたに追いつきたくて、でも大きすぎて。半端な僕だけど。
来年が恩返しをする、最後のチャンスなんですかね…。2005年が、最後のチャンス…。
そんなことあなたに言ったら、「こらこら、まだやるよ!」って怒るんでしょうけど。
76あの背中に(4/4) ◆QkRJTXcpFI :05/01/10 14:24:12 ID:7oadQrhf
 ロッテは無くなるそうです。でも、ダイエーに移るチャンスができました。
ひょっとすると、この方が優勝するチャンスは大きいですよ。今度こそ、恩返しができます。
日本シリーズで投げる立派な姿を見せます。投げ合いたい。
あなたはきっと喜んでくれる。それで言いたい。「あなたのおかげです」って。
今の僕にできる精一杯は、それしか思いつかないんで。
 誰かが死ななくちゃいけないなら、僕は絶対に生き残ります。
僕にはそうするだけの理由がある。僕は死にたくない。
死んだら、せっかくのあなたの好意も、あなたからもらったものも全て無駄になってしまう。
それだけは申し訳ないんです。必ず生き残って、恩返しがしたいんです。
必ず約束を果たしたいんです。あの約束、あなたは冗談で言ったのかも知れないけど。
僕にとっては、結構大事なことなんですよ?
 あ、どちらへ行くんですか? ランニングですか。僕もお供します。
なんだか周りは真っ暗ですね。よく走れますね。
やっぱり速いなぁ。引退なんてとんでもない。
 ん?なんだか体が重い…なんだよ直行、しがみつくな!
あ、辻も! おい、右手を離せよ。あの人が走って行ってしまう。
これじゃ追いつけないよ。
ケーッ!正人まで。前をふさぐなよ。
やめろよ、みんな。
なんで邪魔するんだ。
殺したのは謝るから、離して。
あの人が行っちゃう。僕も急いで走って追いつきたいんだよ。
ほら、もうあんな遠くを走ってる。
暗いんだ。すぐ見えなくなっちゃう。
お願い、放して。
追いつきたいんだ、あの背中に。
なのに、これじゃ追いつけないよ…
追いつけない……
追いつけない………
追いつけない…………。

【34川井貴志× 残り30名】
77代打名無し@実況は実況板で:05/01/10 14:25:30 ID:nwdPhkvq
…・゚・(ノД`)・゚・
78 ◆vWptZvc5L. :05/01/10 14:49:05 ID:XlHdL4QM
川井…
体の底から震えがきました。
リレー小説ってすごい。
79代打名無し@実況は実況板で:05/01/10 15:11:10 ID:YqG3w6y6
本気で泣いてます…
職人さんスゲーーーーー
80代打名無し@実況は実況板で:05/01/10 16:08:17 ID:BIb/rVN6
職人さん乙です。
81代打名無し@実況は実況板で:05/01/10 18:09:07 ID:vtT4Fi0k
(ノ_・。)
82代打名無し@実況は実況板で:05/01/10 23:57:50 ID:YqG3w6y6
続編期待hoshu
83即断即決 ◆vWptZvc5L. :05/01/11 08:24:48 ID:IQDkkDsa
緊迫した場とはいえ生理現象だもんなぁ、仕方ないさ。ちょっとトイレを拝借…
と民家にあがろうとしたそのとき、戸部浩は何かの爆音を聞いた。かなり近い。

(…なんだ今の?もしかして銃声か!?)

戸部は慌てて閉めたばかりの玄関の扉を開ける。見ればユウゴーがうずくまっていた。
曽我部や狙撃者の姿は、この位置からは見えない。

(え、何?もしかして、いきなり銃撃戦?ユウゴーが撃たれた??
 …マジで!?やっべー、逃げなきゃ!)

そう思って再び民家の中に逃げ込もうとする自分を何とか制する。

(おいっ、俺だけ逃げるのかよ!あの二人を放って置いて??
 それは人としてダメだろ、俺。今、こうしていられるのもあの二人のおかげだろ。
 あぁ、どうしよ…とにかくユウゴーを助けなきゃ。ってか曽我部さん、どこだよ!?)

瞬時にそれだけ判断すると、戸部はユウゴーの方へと駆け出した。
84 ◆loyOjt0Af. :05/01/11 19:18:30 ID:fZT3KjV0
ずっと薮田を書いてた者です。
年末から始めた仕事が初めての職種と言うことと、仕事もハンパじゃなく、今後更新出来そうにありません。
プライベートもかなり勉強に割いてる次第で。
中途半端な所でホントすいませんが、どなたかリレーしてくださると有り難いです。

後で保管庫に考えてたネタを書いときます。参考になればと。
85代打名無し@実況は実況板で:05/01/11 19:23:31 ID:/0WRDIwO
Σ(゚Д゚;)ガーン
薮田様の話、面白くて楽しみにしてたのに…
また時間ができたら戻ってきてください。
86代打名無し@実況は実況板で:05/01/11 19:35:18 ID:fH6qi4Ve
ガーン
今まで乙でした。復活できそうなら帰ってきてください。

ていうか最近見かけない職人さんが結構いるような…
同じような事情ですかね。
87代打名無し@実況は実況板で:05/01/12 01:42:55 ID:VwHf6y8d
hosyu
88代打名無し@実況は実況板で:05/01/12 14:03:27 ID:owgqWd8U
そろそろやばそう
89代打名無し@実況は実況板で:05/01/12 21:53:14 ID:6szkNBtr
ほしゅです
90代打名無し@実況は実況板で:05/01/12 23:33:35 ID:VwHf6y8d
おやすみ薮田様
91力の矛先(1/2)  ◆Ph8X9eiRUw :05/01/13 04:01:33 ID:koJv3Hs1
初めて銃を撃った。
そのときの衝撃がまだ手にびりびりと弱い電気のように残っている。
こんなに反動が大きいなんて予想以上だ。
でも、それ以外は自分のほぼ思っていたとおりにことは流れた。
弾が目の前の標的に飛んでいく。相手の胸に命中する。ドラマなんかでよくある光景。
それから相手が倒れこむ。がくりと膝から地面に倒れこむ。胸を苦しそうに押さえる。
そしてその指のあいだから、真っ赤な血がぽたぽたぽたぽた。
そういう展開になるだろうと撃った本人、良平は予想していた。
それなのに標的であるユウゴーは苦しそうに胸を押さえているものの
ユニフォームはいつまでたっても白いままでどこも赤く染まる気配すら見せない。
自分の予想のどこに不手際があったのか、必死で考えてみるものの
その何故に回答を出してくれるものはなにひとつ無かった。
鳴り響いた破裂音、この手の振動、火薬のような漂う匂い。
それが銃がおもちゃでないことを物語っているのに。
どうなってるんだ、どうしたらいいんだ、どうしたら、どうすれば。
問いかけばかりが頭に浮かび、良平は次の行動に移れない。
ああ、そうだ、とにかくもう一発撃ってみたらいい、そうしたらちゃんと、こんどこそ。
ようやく自分がなにをしたらいいのか気がつき、あわてて右手に力を入れる。
もう一度狙って、こんどこそ、この引き金を引くだけで。

まだ苦しそうなユウゴーに銃口を向けたそのときだった。
横から強い衝撃をまともに喰らい、良平はそのままはじきとばされた。
背中には土の感触、目の前には青空を隠している灰色の雲。
一瞬頭がぐらりと揺れたが、あわてて起き上がろうと上体に力を入れるが
なにかに覆いかぶさられてまったく自分の思ったとおりに動けない。
とにかく身体を起こそうと何度も手足をばたつかせるが
向こうはがんとして力を緩めようとはしなかった。
92力の矛先(2/2)  ◆Ph8X9eiRUw :05/01/13 04:03:04 ID:koJv3Hs1
「殺・・・させない」
自分の自由を奪っている相手、曽我部の声が良平の耳に届いた。
小さく、囁きのようでもあるが、強い意志を持ち、少し狂気じみたようにも聞こえた。
ただそれだけの呟きなのに、良平の心をじくりとかき乱す。
殺させない?それだったら、殺させないために、どうするんだ。殺すのか?
それなら、僕は殺されない。殺されない。絶対に殺されない。そのために、
あんたを、殺す。

狙いを定めることもせず、とにかく右手を動かし
相手にそれを押し付けるように無理矢理に腕を上にあげる。
急所とかそんなものは狙わなくていい。とにかくどこかにあたったら
自分の身体の自由くらいは取り戻せるはずだ。
あとはただこの人差し指に力を入れたらいいだけなのに
そんな簡単な動きだけなのに、曽我部は全神経をその銃の握られた腕にかけ
良平の押し込む力を逆の方向に押しやろうとする。
相手に向ける、そして撃つ。それだけの単純な行動がうまくつながらない。
さらに悪いことに相手の力はしだいに自分のそれより強くなる。
ぎりりと腕を妙な方向に押し付け、ねじられそうになり良平は苦痛で顔をゆがめた。
肘が悲鳴を上げる。手にもその悲鳴が伝わり、握る力が徐々に弱くなるのがわかった。
これを奪い取ろうとしている。これを、銃を自分の手から離そうとしている。
これがなかったら、自分の負けを意味する。
この腕に、この手に、この指先に、ただもうそこだけに力をこめたら
それだけで、それですべてが終わるのに。負けることなどないのに。
「う、うあああああああっ!」
喉から搾り出すような咆哮。
ただ相手の力を押しやるべく、すべての最後の力を右腕に。
そして、きっちりと照準を合わせる暇もなく、良平は腕に、右手に、指に力を入れた。

ぱぁん、とさほど大きくはない、それでも頭の芯に響く音がこだました。
93その手を。(1/4)  ◆Ph8X9eiRUw :05/01/13 04:06:01 ID:koJv3Hs1
耳の奥がきぃんと鳴く。
良平と曽我部、二人とも何が起きたのかわからず、お互いの動きがとまる。
いっぺんに互いの力が抜け、良平にかぶさる圧迫感がすっと無くなった。
曽我部は驚いた表情でその場に座り込み、恐怖からか少し唇を震わせ
その座り込んだままずずっと後ずさりをして良平から離れた。
良平も上体を起こし、しばしのあいだ、ただぽかんと互いにみつめあっていた。
耳鳴りが引いていくと頭の中もはっきりとしてくる。
今がチャンスだ、と良平は思った。
どこに弾があたったのかは知らないけれど、相手はとにかくまだ放心している。
これを逃したらまたどんな抵抗をされるかわからない。今決めてしまわないと。
はやく、もう終わらせよう。
良平は立ち上がろうとしたが、なぜか上手く足に力が入らず
彼もまたその場にへたりこんでしまった。
なんだろう、今の取っ組み合いで体力でも消耗したんだろうか。
もう一度、もう一度、と何度も足に力をこめてしっかりと立とうとするのに
足、右足が自分の言うことを聞いてくれない。
そんな姿を曽我部がまだ驚いたように見つめていた。
ユウゴーと同じようにユニフォームは白いまま、汚れは格闘のときに
土で茶色くなっただけで赤くはない、そんな姿で良平の右足を見つめていた。

なんだろう、おかしい、さっきからずっとおかしい。
喉の奥から急激に水分が失われていき、良平はつばを飲み込み渇きをごまかそうとするが
その程度では追いつかないほどに喉がいっぺんに干からびていく。
そして、おそるおそる曽我部が見つめる先、自分の足に視線を合わせた。
94その手を。(2/4)  ◆Ph8X9eiRUw :05/01/13 04:07:58 ID:koJv3Hs1
自分の見たものが一体なんなのか、良平にはすぐに理解できなかった。
自分はユニフォームを着ていたはず。白い、ホームユニフォーム。
それなのに、どうして赤なんて色が眼に飛び込んでくるんだろう。
その赤い色は右足の膝あたりからじわじわと足首や足の付け根のほうにまで
徐々に大きく、広く、ユニフォームを染めていっていた。
その赤が自分から流れる血だと悟った瞬間、
その膝から全身に一気に痛みと恐怖とが良平の中を駆け巡った。
「あ・・・」
悲鳴を上げたいくらいの痛み、それでも喉は小さな呟きしか搾り出そうとしない。
気を失いたいくらいの恐怖、それでも頭は覚醒したまま痛みから逃れさせてくれない。
良平の頭の中には「どうして」という疑問だけが次々と浮かんで
それが思考をいっぱいにしていった。
どうして、自分がこんな目にあっているんだろう。
どうして、自分がこうやって敗者に回ろうとしているんだろう。
どうして、こんなことに、どうして、どうして。

『それはお前、こんなゲームに乗ったからやろ』

自分の声ではない声が頭の中で答えを出した。
ああ、そうか、そんな簡単なこと、か。
これが、このゲームに参加するということ。
これが、このゲームに伴う当たり前のことだということ。
殺し合いっていうはこうやって血が流れることなのに
そんなリスクが自分に降りかかるわけがないと今まで思い込んでいた。
そういうリスクを背負うのは敗者だけで、自分は勝者だと思いきっていた。
どうして、事がすべて自分の思い通りに運んでしまうなんて考えてしまったんだろう。
そんな確証なんてどこにも無いのに、自分が敗者にまわるわけが無いなんて
そんなこと、どうして考えてしまったんだろう。
この武器さえあれば大丈夫だと思って、そう思って、自分は勝てると思って
絶対生き残って、それから、当たり前のように野球続けて、それで、それで。
それなのに、それなのに、ああなんでだろう。
95代打名無し@実況は実況板で:05/01/13 04:09:09 ID:56H0+hq3
(・∀・)シエン?
96その手を。(3/4)  ◆Ph8X9eiRUw :05/01/13 04:09:43 ID:koJv3Hs1
右足は全く言うことを聞いてくれなかった。
少しでも動かそうとすれば激痛が傷口から足の付け根あたりまで電気のように走る。
この足じゃ、もうマウンドになんて立てないかもしれない。
自分には、運なんて無かった。なんにもついてはいなかった。
こんなゲームに参加させられていること自体、それこそが不運だったのに。

横に人の気配を感じ、はっきりと解るほどびくっと良平の身体が震えた。
傷口から眼を離し顔を上げると、曽我部が自分を見下ろしている。
その手には、自分が取り落とした銃。
動けない自分に抵抗するすべはなにひとつ残されていないのに
それでも良平はこれから待ち受ける出来事を悟り、受け入れることなど出来なかった。
良平の脳裏に、さきほどの答えを出してくれた友の顔が浮かぶ。
戸部さんを殺そうといったときの、驚いた、そして少し悲しそうな顔。
こんなゲームに乗ってしまった自分のことをあきれているかのような顔。
それでも、青野、自分はやめるわけはいかない。
なぜなら自分は生きたい。生き残りたい。まだ死ねない。死にたくない。

自分は、誰にも殺されたくない。

それなのに、これから、その銃口が自分のほうを向く。
それから、指に力がかかる。
それから、はじける音。それから、それから、それからは、もうない。すべて終わる。
銃は光を反射し少し輝いて見えるのに、自分を狙い定めている銃口は
一切なんの光を宿すことなくぽっかりと口を開けていた。
眼を閉じること逸らすことも出来ない。
そこから自分を終わらせる鉛の玉が飛び出してくるのを良平は瞬きもせず
吸い寄せられるように見つめることしか出来なかった。
97その手を。(4/4)  ◆Ph8X9eiRUw :05/01/13 04:13:59 ID:koJv3Hs1
先に、視線をそらしたのは銃口だった。
銃は火を噴くことなく、ゴミのように投げ捨てられて宙を舞い、
地面にたたきつけられ、そのまま遠くに滑っていった。
「俺は、殺さない」
曽我部がはっきりした口調で良平に言った。
「俺は殺さない。そんなことをして止めたくはない」
真っ直ぐに良平を見つめて曽我部は言う。
「それ以外の方法でやめさせたいんだ」
瞳は良平を見据えてはいるが、まるで自分に言い聞かせているかのように言葉を続けた。
「怪我、大丈夫か」
曽我部は座り込む良平に優しく、当たり前のように手を差し出した。
まだ少し震える自分の手、先ほどまで銃を握っていたこの手はどこにもっていけばいいのだろう。
腕ではなく、指先を伸ばし、そちらに近づけようとし、また躊躇う。
そんな良平の手を曽我部は自ら手を伸ばして受け止めようとする。
二人の手が近づいたそのときに、良平と曽我部はなにか動くものを
自分たちの視界にはっきりと確認した。
良平は曽我部の背中ごしに、なにか光るものを持つ影を見た。
ただ真っ直ぐ、自分の横に立つ曽我部だけを睨みつけて立つ人影を。
曽我部は良平の向こう、ちょうどユウゴーがうずくまっているそのあたりに
ばたばたとあわてて走りよる影を見た。ああ、すっかり忘れてた、あの人のこと。
その戸部の姿をはっきりと認識したとき、頭よりも先に自分の喉が
もうひとつ今まで忘れていたなにかを思い出し、呼吸のリズムを狂わせた。
曽我部のまだ痣の残る首筋が警鐘を鳴らすようにじくんと疼いた。
そして脳裏にもう一人、いやというほど鮮やかに、忘れていた人物が浮かび上がった。

先ほどとはまた違う破裂音があたりに響きわたった。
音と同時に、曽我部の顔が少し歪み、ぐらりと揺れる。
小さな花火のように赤いしずく飛び散り、曽我部の左肩も同じ色に急速に染まっていった。

「曽我部さん、あんた、バカじゃないですか」
いつものように厳しい表情をした平下が
銃の照準を曽我部にきっちりと合わせてそこに立っていた。
98代打名無し@実況は実況板で:05/01/13 09:05:27 ID:0KpgrH1k
新作たくさんキタ━━━(・ヘ・)━(ヘ・ )━(・  )━(   )━(  ・)━ ( ・ヘ)━(・ヘ・)━━━!!!!
職人さん、乙です。どうなるんだ、曽我部!
99 ◆Ph8X9eiRUw :05/01/13 19:15:38 ID:wTnoKq9q
すんません、日本語おかしいところハケーン。

力の矛先(1/2) 下から4行目

× 一瞬頭がぐらりと揺れたが、

○ 一瞬頭がぐらりと揺れる。 

保管庫さん、よろしくお願いします。
100雨の止むまで(1/3) ◆QkRJTXcpFI :05/01/13 20:32:58 ID:XRJ/3XBy
 銃口を向けても、諸積兼司はチラリともこちらを見ていないのに気づいた。
しかし足は高速に回転して、数mの間合いは1秒も経たず詰められる。
その進むベクトルが真っすぐ自分の体だった。考える余地などなかった。
ほぼ反射的に、その先にある結果など考えずに右手の指を手前に引いた。
 射撃と同時に諸積をかわそうとしていた内竜也の体はその反動を食った。
見えない衝撃を受けて、右腕ごと体は後ろ向きに舞う。
乾いた音は右耳から左耳に抜けた。

 諸積に当たったのか、命中したのか斜め向きの視界では確認できない。
両脇にそびえる民家に挟まれて灰色の空。空だけは斜めも逆さまもない。
見開かれた右の瞳に小さく刺激があり、内はまばたきをした。
当たったのはおそらく雨粒だ。釣られて左の瞳も閉じ、一瞬視界が暗くなった。
同時に後頭部に割れるような衝撃と、目の前に白い火花が散る。
開こうとした両目が再び閉じられ、電気が消える。
仰向けに倒れた。すぐにそれは判った。起き上がろうと思う。
ズキンと後頭部が痛んだ。目の前の闇がうねる。内はほんの少しまどろんだ。
(……。
 は!放心してる場合じゃない。早く目を開けろ、早く)

「うおおおおお!」
叫び声を聞きながら、内は目を開けた。だがその先に諸積がいない。
骸骨がいる。彫りの深い顔をひきつらせ、目を見開く。
口は何か巨大なものを吐き出さんばかりに開く。唇の両端がぶちぶちと切れる。
浅黒い肌からは血の気が引き、白みがかった皮が出っ張った骨に張っていた。
目の周りや彫りの深い部分が、対照的にどす黒く変色している。
 そいつは自分と同じユニフォームを着て、内の上に覆いかぶさるように倒れている。
ただ断末魔の叫びを上げて。
「誰だ!お前は」
内は叫んだ。途端にそいつは骸骨でなくなった。そう見えただけだ。間違いなく諸積。
頭を打ったせいか、一瞬見間違えたのか。
しかし間近に見れば、諸積の顔相が恐ろしく変化していることがハッキリわかる。
諸積に何があったのか、内には推し量りかねた。
101雨の止むまで(2/3) ◆QkRJTXcpFI :05/01/13 20:33:44 ID:XRJ/3XBy
内に呼ばれて諸積は叫ぶのを止め、見開いた目をギョロリと内に向けた。
「止めるなぁ…内。
 俺は、あいつに……殺らなければ、殺られるんだ」
そう言った諸積の視線の先には於保浩巳がいる。
内と諸積を見ても、ひょうひょうとした様子は全く変わっていない。
腕組みをしたまま、離れたところで黙って二人を見下ろしている。
「ほらぁ……於保の頭の上を見てみろ、真っ黒だぜ。真っ黒な、もやだ。
 あいつは殺る気なんだよ。俺にはわかるんだ。
 あの黒いもやで、お見通しなんだよ」
諸積に覆いかぶされながら内は困惑の表情を浮かべる。
やれやれと言った様子の於保を何度も見ては、諸積を見返す。
「もや? そんなもの、ないですけど。
 何を見てるんですか? もしかして、逝っちゃってますか?」
内は左手の人差し指で自分の頭を指し、くるくると回す。眉をひそめる。
諸積は飛び出さんばかりの目を、更に見開いた。ゆっくりと内に視線が移動する。

 ふいに、内の首が圧迫された。
「ぐぉっ」
内の口から息が出る。諸積の手が伸びて、内の首根っこをつかんだのだ。
「見えないのかぁぁっ!? お前には、あの黒いもやが!
 ふざけるな、あれは、あれは間違いないんだ。於保の頭上にあるものはぁあァっ!!」
締め上げられる。尋常で無い力で。
そうして締め上げることで内を問い詰めるつもりなのだろうが、もはや殺しかねない力だ。
「…ぅっ…ぶぅっ……!」
息が吸い込めない。のど仏を直に圧迫されている。やばい。
もう、諸積を殺すしかない。すぐに右手を上げた。ない。
(銃は? いつ取りこぼした? さっき倒れたときか。しまった…!)
締め付けられながら必死で首を振り抵抗する。少しだけ圧迫は弱まり、首を右にひねる。
視線で必死に銃を探す。2mほど離れた道路の上、それはあった。
手は届かない。銃の先に足がある。むしろ於保の方が、その銃に近いようだ。
内は視線を於保に向け、そして銃へ戻した。
それを繰り返す。
102雨の止むまで(3/3) ◆QkRJTXcpFI :05/01/13 20:37:05 ID:XRJ/3XBy
(その銃を……!)
充血させた目から視線を送る。その反復動作で内は於保に訴える。
「内ぃ!! お前には見えないのかよぉぉ!!」
諸積が何か叫んでいる。意識が少しゆるくなった。
これはたぶん黄信号、このままじゃ危ない。
両手で諸積の手を押さえ込んでいるが、諸積の両手は一つの石のように固く絞られている。
於保はしばらくして、内のアイコンタクトに気づいた。

「銃か?」
コクコクコク。小さくうなずくのと一緒にまぶたも閉じて、必死で肯定する。
於保はそれを見て、腕組みを解いた。
(よし…於保さん、早く!)
於保は解いた腕の右腕をアゴに当てた。
歩き出さない。
ほんの2・3歩前にある銃に向かって、歩き出さない。
(何してるんだ?早く!早く!)
内が再び視線の合図を送る。
於保と確かに目が合う。
しかし、於保は手をゆっくり動かしアゴをなでるだけだった。
「なっ…はやっ…くっ…」
内の声から必死の叫びが漏れた。喘ぎ声といって差し支えない、小さな叫び。

 於保はアゴから手を離した。肘を脇に当てたまま、手の平だけ天に向ける。
外国のドラマでよく見た、分からないという意味のポーズだ。
その周りの視界が少しずつ暗くなっていた。もう少しで意識を失う。
それが内の頭に浮かんだとき、於保の声が耳に入った。
「そういえば、雨、止んだのな」
於保は空を見上げていた。
「…っ!?」
もはや内の口から声は出ない。
ゆっくりと、於保は顔を内の方に向けた。
「言ったろ? 俺は、お前のこと、見てるだけだって」
103代打名無し@実況は実況板で:05/01/13 22:30:07 ID:rK1CXWrQ
 これはこれで酷ですぜ、職人さん・・・。
104代打名無し@実況は実況板で:05/01/13 22:58:22 ID:Fobxgrlq
…(( ゚Д゚))








また成瀬が泣くな…
105web of night(1/1) ◆h9KcvsENgk :05/01/14 01:48:58 ID:MaaUweYU
雑居ビルの入り口付近には焦げたにおい。跡。痕。
小林雅英は何をするわけでなく、ただそこで佇んでいた。
原井の亡骸を一瞥する。
彼の言った尊い意志とは、誰にとってのものだったのだろう。
彼にとって、俺の決意は尊く見えるとでも言うのだろうか。
(ここにはもう居れないかな)
暫くしてようやく、そう思った。

レーダーを見る。彼の周辺には全く反応が映らない。
辻は東の方面に向かっていったはずだ。
今から追いかけたところで追いつくのは難しいか。
画面の範囲を拡大して、やや大回りに歩いていく。
しばらく歩くと遠くの地点で複数の光点を確認することが出来た。
方角と距離からして、その周辺がG-5なのだろう。
辻の背番号は見当たらないが、人数は多く居るようだ。
「・・・・どうするかな」
少し考える。乱戦になるのは出来れば避けたい。
「あわてて首を突っ込む必要もないか」
別にせかされている訳でもない、さっきみたいに安全な方法でやれば良い。
網を張って待っていれば向こうからは見えないのだ。
街の出口付近でじっくり待つのがベストだろうか。
そう考え、探知機のスイッチを切ろうとして、
と、その時レーダーの北側に反応が二つ映った。
慌ててもう一度見直す。その番号は

「9と・・・23」
大塚のヘラヘラした笑顔と、福浦の輝く笑顔が脳裏をかすめた。
どちらも井上の挙げた“生き残らせる名前”からは漏れていたはずだ。
「・・・・・」
光点は少しづつこちらに向かってきているようにも見える。
餌の投下が二人の目的だとすれば、この辺りを通る可能性が高い・・・
小林雅英の唇が少し歪んだ。
106代打名無し@実況は実況板で:05/01/14 02:10:36 ID:3rlStdap
楽バトスレが過疎・沈没寸前なので
落ちたままの見守るスレの続きとして再利用を提唱。

楽天イーグルスバトルロワイヤル
ttp://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1102823013/
107代打名無し@実況は実況板で:05/01/14 16:21:50 ID:Q7+ANrTq
保守
108代打名無し@実況は実況板で:05/01/14 21:17:49 ID:uqYk3Dcc
見守るスレ立ちました

各球団のバトルロワイアルスレを見守るスレ3
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1105704084/l50
109代打名無し@実況は実況板で:05/01/14 21:17:50 ID:dfhZBf4m
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1105704084/
見守るスレたててもらいました
110代打名無し@実況は実況板で:05/01/14 22:03:53 ID:bqIeep3g
1秒違い!
秒表示される前ならケーコンだったなw
「そういうことなら…」
リーンちゃんの迫力に押されたのか、警備員はすんなり本社の受付まで案内してくれた。
この3羽で一番たくましいのは意外とリーンちゃんかもしれない、とマー君は思った。
受付でもリーンちゃんのたくましさは変わらなかった。

「そんな事よりロッテさんよ、ちょいと聞いてくれよ。お菓子とあんま関係ないけどさ。
さっき、近所のマリーンズ球団事務所行ったんです。球団事務所。
そしたらなんか鍵がかかってて入れないんです。
で、よく見たらなんか表札下がってて、CMBR管理本部、とか書いてあるんです。もうね、アホかと(ry」
受付嬢も、やはりリーンちゃんの勢いに押されてあ然としている。
「はぁ…球団のことなら広報ですね。ただいま問い合わせてみますので」
そう言って広報に電話をかけると、簡単な受け答えをした後、すぐに電話を切ってしまった。
受付嬢は戸惑いながら、3羽にむかって説明する。
「えーっとですね、問い合わせましたところ、球団関係のことは今、別の部署が仕切っているそうなので、
もう一度そちらにかけ直してみますね」
受付嬢はそう言うと、再び電話をかけた。


――「代表、本社にマーさんという方が来ていて、球団のことについて尋ねたいそうなんですが。
 CMBRのことも口にしているようです。どうしますか?」
「…マーさん?知らんなぁ。中国人か?さっさと追い返せ」
瀬戸山は湯のみを持ちながら、めんどくさそうに手を払う。
「あと、リーンさんとズーさんという方も一緒にいるそうです」
瀬戸山は飲んでいたお茶を吹き出した。
「げほっ、げほっ…ちょっと待て!もしかして球団マスコットのあのマー君か!?」
「そのようです」
「とにかくさっさと追い返せ!!…まったく、中に入ってる人間は何を考えとるんだ。
 あ、あとこれ以上余計な詮索しないように痛い目に遭わせとけよ」
「わかりました」
電話を受けた部下は適当なでまかせを伝える。
受話器を置くとその部下は言った。
「あの、お言葉ですが…」
「何だ?」
「マー君の中に人なんか入ってませんよ」
部下は真顔だった。


――「……はい、分りました。失礼いたします」
受付嬢が受話器を置く。
「申し訳ありません。ただいま担当者が席を外しておりまして…どうしましょうか?」
「じゃあ、いいです。ありがとうございました…」
お礼だけ言うと、3羽はしょんぼりと本社を後にした。
「結局意味なかったね。苦労して来たのに」
「仕方ないよ。ダメもとだったんだし」
そう言いながら車に乗り込む。

このとき3羽は、自分達を付け狙う黒い影があることに全く気づいていなかった。
113代打名無し@実況は実況板で:05/01/14 23:04:24 ID:8XdXgyDx
瀬戸山キタ━━━(´エカ`)━(エカ` )━(`  )━(   )━(  ´)━ ( ´エカ)━(´エカ`)━━━!!!!

割と普通だな。
114代打名無し@実況は実況板で:05/01/15 07:04:51 ID:2//qJ0MO
おはよう薮田様
115代打名無し@実況は実況板で:05/01/15 18:07:50 ID:VlIRwNpa
保守
116代打名無し@実況は実況板で:05/01/15 18:09:56 ID:ZGGzqy+K
ウチ
117代打名無し@実況は実況板で:05/01/15 22:52:47 ID:yNs6VfPt
一応保守
118代打名無し@実況は実況板で:05/01/16 02:41:25 ID:WUbpGP9l
おやすみ薮田様
(何だろう、この気分は・・・。)
吉鶴は非常によい心地だった。
(とても暖かくて、柔らかくて・・・。)
「・・・大丈夫?」
誰かが呼んでいる。
(やさしい声だ。母さん、いや美砂子か・・・?)
「吉鶴くん、大丈夫?」
吉鶴は目を開いた。
「よかった、気がついたよ〜。」 
目の前には荘がいた。
吉鶴は荘に抱えられていたのだ。

「そ、荘さんか・・・。」
「どうしたの?」
吉鶴がどんな夢を見ていたのか当然分からない荘には、
なぜ吉鶴ががっかりした表情なのかは分からなかった。
「いや、なんでもないです。」
吉鶴は気を取り直して立ち上がろうとしたが、
「あ、あれ?」
頭に鈍い痛みが走り、さらにきちんと立ち上がることができなかった。
それに、荘のことは判別できたものの、視界がはっきりせず、
ぐるぐる回っているような感覚さえした。
「脳震盪起こしているかもしれないから、しばらく安静にしていたほうが良いよ。」
「はあ、すみません・・・。」
吉鶴は荘の言葉に甘えて、しばらく横になった。
「だからどうしてこんなところに・・・?」
「ごめん、僕にはもう耐えられなくて・・・。」
「いや、あの・・・。」

吉鶴の頭の上で二人の男が言い合っていた。
(誰だろう・・・?)
吉鶴はぼんやりする頭で考えた。
(多分一人は福澤さんだと思うけど・・・。荘さんはここにいるし、当然僕でもないし・・・。)

「でも・・・でも、あそこでは仕方なかったんだ。そうするしかなかったんだ!!」
「とにかく落ち着いてください!話がまったく見えないんですよ。」

(そういえば、気を失う前に何かを見つけたんだよなあ・・・。)
吉鶴はあまり働かない頭で必死に思い出そうとした。
(そう・・・こう・・・。)
形状はなんとなく出てくるのだが、名前が思い出せなかった。

「僕だってこんなことしたくなかったんだ。でも・・・でも・・・。」
「・・・。」

(そういえば・・・。)
吉鶴は何かを見つけた後に見たものを思い出した。
(誰かが飛び出してきて、ええと・・・。)

「あんなの見せられたら、やらざるを得なかったんだよ!!」
「はあ・・・。」
二人の男のうち一人はすでになだめるのを諦め、相手の言わせるだけ言わせていた。

「大・・・谷・・・さん」
「え?」
吉鶴の発した言葉に、室内の人すべてが吉鶴のほうを向いた。
その中には、福澤と、吉鶴に呼ばれた大谷幸弘トレーニングコーチ(95)の姿もあった。
121 ◆GDAA.BMJxc :05/01/16 10:18:02 ID:xIu4HsSc
1/3、2/3と書きましたが、二つで収まりました。
122代打名無し@実況は実況板で:05/01/16 16:47:19 ID:MMezWIKQ
即死判定時間が6時間になったとかならないとか
123代打名無し@実況は実況板で:05/01/16 17:21:06 ID:+nbpfa5f
>>122
n日ルールが6時間では?
124伝染(1/4) ◆QkRJTXcpFI :05/01/16 18:46:36 ID:qBtyB7D1
「……っ!…ぃっ!」
顔を歪ませながら、内竜也の唇が何かの形を作る。
しかしそこから声は発されなかった。
於保浩巳は眉一つ動かさず、そして内から目を離すことなく立ち続けるのみである。
 諸積兼司の両手の戒めを弱めるべく、内は手を振り上げようとした。
しかし指先に力が入らない。腕は上がらない。足も動かない。酸素が足りない。
昼なのに目の前が薄暗くなる。その中心で骸骨のような形相を浮かべた諸積が叫んでいる。
「内ぃぃいいィッ! 聞いてるのかアアァ!」
諸積が内の首根っこを引き寄せ、顔を近づける。
(は、聞こえない…ですよ…。意味わかんないし。
 だいたい真っ黒なもやって……何言ってる……ですか?)

 内は消えそうな意識の中、それでも死ぬまいと抗っていた。心だけ。
それでも力を失った両腕両足が、彼に絶望を運ぶ。
夜中のように真っ暗な世界が見える。赤信号が頭をよぎった。
(嫌だ、嫌だ……死にたくない……ぁぅぅ……)
 目の前に、諸積がいる。真っ赤に充血させた瞳。それが飛び出さんばかりにまぶたは開いている。
内はぼんやりと、その目を見た。
視界が端から黒くなり狭くなっていく。中心にあったのは諸積の目だ。
その奥、広がっているのは瞳に反射した世界。自分の顔が浮かぶ。
意思を失くしかけた顔、内は自分がもうすぐ死ぬのだと思った。
ふと、瞳に映った自分の後ろに誰かがいるのに気づく。
それは於保のはずだったが、内には最初それが何か分からなかった。
(もや……!?)
諸積の瞳に映っていた於保の頭上に、真っ黒なもやが浮かんでいる。
それが何か分からず、内は於保の認識に時間を食った。
(これは……言ってたやつ?え?)
内の意識がにわかに取り戻された。瞬間、足に感覚があった。
最後のチャンスだ。内はもがいた。
体のどこを動かそうという命令ではない。とにかく全てを開放するように。
上も下もない。水に溺れたように、ただもがくしかできなかった。
ップシャァッ! 何か水音がはっきりと聞こえたとき、内の視界は真っ暗になった。
125伝染(2/4) ◆QkRJTXcpFI :05/01/16 18:47:27 ID:qBtyB7D1
(死んだのか…?僕)
瞬間、内は息苦しさを感じた。
「っぐぇェほぉ!! ぅげぇッ…がぶほォっ!」
肺が一気に膨らんで、すぐさま反動で激しく息を吐き出す。
空気に混じってわずかな水気。鼻を通った息からは生臭さと錆のニオイを感じる。
「げほぉっ……げほっ……なに…?」
どうやら生きている。この苦しさが逆にその証拠だと内は思った。
目を開いた。濃くてどす黒い赤。液体の感触。
内の両手は赤黒く染まっていた。ぽたぽたと指の間から滴り落ちる。
目の前に、口からそれと同じ色の液体を垂らす諸積の姿があった。

 諸積自身、状況が分からないといった表情で内を見つめている。
慌てて内の体から離れていく。
「なんだ、こればァァアッ!?」
血をぬぐった己の手を見つめ、ひどく混乱しているようだった。
その全身を内は見ていた。
「これは…」
諸積の腹が、赤く染まっている。口から吐き出された赤黒い色ではなく、鮮やかな紅。
吐血のそれではないことがわかる。
諸積の腹の赤く染まった部分の中央に、小さく黒い穴が見えた。
(最初の一発……当たってたのか!)
 諸積に放った最初の一撃。弾丸の当たった先を内はやっと知った。
同時に、それが諸積の吐血の原因であることも推測できた。
困惑する諸積を尻目に、内は黙って座り込んでいた。
もっとも、嗚咽でのどから唾が逆流するので、容易には喋れないのだが。

 放心気味の諸積。しばらく経って、目が焦点を結ぶ。
「くそぉお……於保、てめぇかァァ!」
於保に顔を向け立ち上がろうとする。
その様子を見て、於保は両腕を腰の辺りに下げた。諸積と目を合わせたが、言葉はない。
「於保ぉ!」
諸積が叫んで立ち上がった。というより、跳び上がった。
126伝染(3/4) ◆QkRJTXcpFI :05/01/16 18:48:18 ID:qBtyB7D1
中腰の状態から、地面を思い切り蹴飛ばす諸積。
於保との差は3mもない。あっという間に距離が詰まる。
片や於保も腰を落とす。迎え撃つ構えだ。
袋を気にする様子はない。
そういえば、於保の支給品はなんなのだろうか?と内が思った瞬間だった。
諸積が獲物に襲い掛かる獣のように、両手をかざす。
於保をそのまま押さえ込もうというのか。逆に於保は更に腰を落とす。
と、於保が諸積に背中を向けた。
「なっ…」
諸積は一瞬迷った。背中を向ける於保のどこを手で掴むべきか。
(…違う!)
内は見ていた。於保は背中を向けたのではない。体を回転させたのだ。
その回転のスピードを腰にため、諸積には一瞬止まったように見えただけだった。
そして於保の左足が消える。1コマだけ、諸積の体と於保の間に何かが映った。
次の瞬間、諸積の腹に於保の左足がめりこんでいた。果物を潰したような鈍い音が響いた。

 諸積の体は於保の肩あたりの高さまで飛ぶ。着地し、勢いよく転がり続ける。
サンドバッグを殴るような鈍い音が連続して響いた後、うつ伏せで諸積が横たわっていた。
そして倒れた諸積のすぐ前に、事の推移を眺めていたのみだった内がいた。座ったまま。
「……ぇぅ……」
僅かなうめきが諸積の口から聞こえた。於保が内と諸積のいる方へゆっくりと歩き出した。
内は諸積を見る。口から泡立った血を垂れ流している。目は地面を見つめるだけだった。
金魚のように口をパクパクさせ、わずかに声をつむいだ。
「ほら…於保だぁ……やっぱり於保は俺を殺すつもりだったんだよぉ……
 あの、黒いもやはそれさ……げぼッ…
 …だけど、今さら……くそっ……」
諸積の目から涙がこぼれていた。死にそうなほど悔しい、そんな表情だった。
「黒いもやはそれ…?殺すつもり…?」
内は諸積の瞳の奥に見たものを思い出しながらその疑問をつぶやいた。
と、カチャリと何かがはまる音。すぐそこに、於保が立っている。
手に、内が落としたままだったあの銃を携えて。
逃げることすらできそうもない。しまった。内は己の油断を嘆いた。
127伝染(4/4) ◆QkRJTXcpFI :05/01/16 18:49:19 ID:qBtyB7D1
 目の前では、横たわる諸積の体を挟んで於保が立っている。
ゆっくりと銃を上げる。一言も話さず、顔色一つ変えずに。
(何もしないって言ったのは…!)
「な…な…」
言葉にならない。諸積の次は於保に殺されるのか。内は涙目で於保を見上げていた。
(これは…!)
於保の頭上で真っ黒なもやが、うごめいては膨らんでいる。
さっき諸積の瞳越しにだけ見たものが、今目の前にハッキリと現われている。
(なんだよ、見えるよ……。じゃぁ。僕も殺されるってこと?
 嫌だ、やめてくれよ、於保さん!)
「おぉ、おお…ふぉっ…!!」
内はついさっきのできごとを反芻する。諸積の形相、死の間際の世界、感覚。
どれもが恐怖でしかない。そして再びそれが肩をたたいた気がした。背が震えた。
於保が銃を構える。内は怖さで泣きそうになりながら、目を閉じてしまった。
 
 乾いた音が2発ほど響いた。内は体を硬くしたが、痛みは襲ってこなかった。
内が目を開けると、諸積の背中に風穴が開いて血が噴き出していた。
目の前で諸積は一瞬だけ硬直し、痙攣し始めた。そして、すぐに止まった。
ただそれを見るだけの内がいて、於保は別段変わった様子もなく彼を向いた。
次は僕なんだろう。内はそう思って再び体を硬くする。
「ほら、銃返すよ。
 内よ。お前、モロさんの吐いた血、頭からかぶって真っ赤だぞ」
そう言って於保は銃を内に投げる。内は目を丸くしてその銃を見るだけだった。
投げられた銃をキャッチできず取りこぼす。地面に落ちたのを拾い上げる。
於保はすでに内を眼中に捕らえておらず、周囲を見回していた。
「洗えよ、その血。その辺の家あんだろ」
内竜也はしばらくそれに答えられなかった。
「あ、は、はい」
なんとも間抜けな調子で答える。
言われるまま近くの民家に入り、洗面所を探す。入ってすぐ、玄関脇に見つかった。

【0諸積兼司× 残り29名】
128靄(もや) ◆QkRJTXcpFI :05/01/16 18:54:15 ID:qBtyB7D1
 洗面所の鏡をのぞくと、赤黒い液体で頭から顔一面を濡らす内竜也自身の姿があった。
まるで己の死体を見ているようだった。すぐに頭から水をかぶる。
(いや…確かに僕は死んだ。少なくとも死ぬ寸前だった……二度も)
一度目の死の間際。真っ暗な何かに染められるようなあの感覚。
諸積を見ていた視界が、徐々に端から黒く染まっていく光景。
ただ怖かった。目の前の諸積も、死ぬことも。無我夢中でもがいた。
視界を埋め尽くす黒いもやを思い出し、内はまた背筋を震わせた。
「あ、黒いもや……!」
そういえば、於保の頭上に見たものと似ていると内は思った。

 急いで駆け出し、家を出る。於保浩巳がまだ、諸積の体の横に立っていた。
「なんだ、内。 髪、拭いてないのか?」
拭き忘れた髪が、わずかに光っていた。だが、気にはならない。
「於保さん、聞きたいことがあります。さっき、俺は見てるだけって言いましたよね?」
「そうだよ?ひょっとして、助けなかったから怒ってるのか?」
「いえ、そうじゃなくて」
それは嘘だ。問い詰めたい。お前は何のつもりなのか。
確かにもともとそういう話だった。約束すらしていない。同行していただけなのだ。
 だが、それより聞くべきことがあった。
「何もしないのに、諸積さんは殺すんですか?」
「しつこかったからな。何もしないとは言ったけど、そんなのただの気まぐれだし」
「本当に、それだけですか?」
「なんだよ、お前だって気まぐれで俺を生かしてるくせに」
はぐらかされる。これ以上聞いても無駄だろうと思った。イライラは募る。
於保をずっと睨みつけていると、やれやれといった風情で彼はため息をついた。
「いつまでそうしてるんだ? 一番になりたいんだろ。早く移動しなくていいのか?」
「ふん……。勝手にしてくださいよ」
突き放すように内は言ったつもりだったが、於保は平然として表情を崩さない。余裕を感じさせる。
 内の顔は険しいまま、和らぐことはなかった。彼は於保をちらりちらりと見ては凝視する。
見ている先は於保だったが、同時に彼の頭上でもあった。
内の目には黒いもやがハッキリと、於保の頭上に見えているのだ。
空を覆う雲は薄暗いまま、まだ晴れていない。
129代打名無し@実況は実況板で:05/01/17 03:40:01 ID:fv3xIqMV
保守
130代打名無し@実況は実況板で:05/01/17 03:50:41 ID:IkqjYvQL
於保こえぇ
131代打名無し@実況は実況板で:05/01/17 09:42:44 ID:T+cLuYfI
保守
132代打名無し@実況は実況板で:05/01/17 16:30:47 ID:PRMsLL2L
ほしゅ
133代打名無し@実況は実況板で:05/01/17 23:28:59 ID:I1F6tR5oO
保守
「どうだ、まだ昼の放送から2時間も経たないのにこのペース。俺の作戦もたいしたもんだろ」
満足げな山本エカ児とはうらはらに、隣の筒井は冷静にモニタ画面をみつめていた。

昼の放送でボーナスの存在を告げてから、画面上では光点が街区に向けて集まり始めていた。
そしてところどころで光点どうしが出会った後、一つ、また一つと消える。
一つが消えると連鎖反応を起こすように、ぽつりぽつりと次々命が消えてゆく。
ゲーム開始直後にも勝るかという勢いだ。

「邪魔な小坂も消えたし、あとはどんどん死ぬのを見てればいいってわけだ」

山本のニヤついた顔に嫌悪感を覚え、視線をモニタへとそらすと筒井は何かに気づいた。
「あ」
「どうした?」
「川井が」
モニタを見ると死亡者リストのところに、新たに34が連ねられていた。

「死んだか…役立たずめ。誰がやった?」
筒井はさっきまで地図上で34が光っていた場所に目を移す。
「57…青野です」
「青野!?青野はさっきまで小坂といたよな?」
「…リストのこと知ったのかもしれませんね」
「マズイな。まさか川井が余計なことをベラベラしゃべったんじゃないだろうな。
 おい、盗聴器の記録はどうなってる!」
「は?」
筒井がいぶかしげな顔をしている。
「川井のリュックに仕掛けてあっただろ!?」
「川井は武器をとられた時に、リュックごと奪われたんじゃありませんでしたっけ?
 ご自分で直接見て確かめられたんでしょう?」
「……」
山本は手を額に当てて、天を仰いだ。
筒井はその様子を横目で見ながら付け加える。
「しかもこれ、物資の投下地点ですね。青野はたぶんここから武器を持っていくでしょう。
 それで雅を襲ったりしなきゃいいですけど」
山本の表情が青ざめて凍りつく。
「雅だけじゃありませんね。街区周辺は他の生き残り希望選手もぽつぽついます。
 この調子で戦闘が続くと、こいつらが巻き込まれて死ぬ可能性も高いですよ。
 あ、福浦もさっきから動いてますけど、これ街区に向かってるんじゃないですか?」
筒井が再び横目をやると、山本は虚空をみつめたままガタガタと小刻みに震えていた。
殺し合いを促すとどういうしわ寄せがくるか、全く考えていなかったのだろうか。

(ったく、この人は。目先の利益ばっか気にして後先考えないんだから。
 監督やってたときも、いつもベテラン頼みで若手を育てようとしなかったよなぁ)

重苦しい沈黙の後、山本はデスクを叩いて勢いよく立ち上がった。
「とにかく青野は要注意だ。注意して見とけ!妙な動きがあればこちらも動く!」
そう言い残すとバタンと手荒くドアを閉め、監督室から出て行った。

「あの人にとっちゃ、チームの将来より目先の一勝なんだよな…」
山本の足音が遠ざかるのを確認すると、筒井は深いため息をついた。
136代打名無し@実況は実況板で:05/01/18 02:50:27 ID:c0tm7gwL0
寝る前に保守
137代打名無し@実況は実況板で:05/01/18 07:00:39 ID:raNSYzJMO
朝から保守
138代打名無し@実況は実況板で:05/01/18 17:31:56 ID:J2GM/DwC0
ほしゅ
139周防:05/01/18 19:53:44 ID:j8ifplIr0
あんじゃ
140代打名無し@実況は実況板で:05/01/19 00:12:49 ID:8G972A710
ホッシー
141代打名無し@実況は実況板で:05/01/19 03:24:45 ID:NreSE0SI0
ほしゅしば
142代打名無し@実況は実況板で:05/01/19 11:17:20 ID:I5HrzKL10
ほす
143代打名無し@実況は実況板で:05/01/19 17:52:41 ID:jhG3EVSF0
ほっしゅーーっ・・
144代打名無し@実況は実況板で:05/01/19 20:10:00 ID:o3UiUbKVO
おほ
145代打名無し@実況は実況板で:05/01/20 00:20:13 ID:BAMORhbL0
現在、オールスターBRスレで獅子、鷹、鴎、青波、竜、燕、巨人、鯉の話を
書いてくれる職人さんを募集しています。
書いてみたい、書いてもいいという方々の御協力をお願いします。

プロ野球12球団オールスターバトルロワイアル第2章
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1102371186/l50
146水平線の彼方に(1/1) ◆vWptZvc5L. :05/01/20 00:42:46 ID:ARZic6Au0
曇り空を映し出して、鉛色の海が広がっている。
浜風に打ち砕かれた波頭が白い飛沫を上げて崩れてゆく。
この風はマリンスタジアムと似てる、と山下徳人は思った。
明け方に薮田が消息を絶ってから探し続けてきたが、薮田の姿はおろか遺体も荷物も見つからない。
手元の探知機を見ても、やはり20の文字はない。
山下は浜辺に座り込んで、途方に暮れているところだった。

「どこ行っちまったんだ」
探し回ってみて気づいた点とといえば、防風林の中にごく最近切り倒されたような切り株を
多く見かけたことくらいだが、薮田の行方不明と関連があるとは思えない。
「海に身投げでもして、そのまま流されかなぁ…」
ため息をつきながら、何となしにもう一度探知機を見てみる。
表示範囲を最大限に拡大すると、山下はその隅にありえないものを見た。
「あぁっ!!」
陸ではない部分で赤く光る数字がある。思いも寄らない出来事に思わず叫んでしまった。
ここに薮田の遺体が流されているというのか。いや、まだ光っているということは…

――薮田は生きている!?

泳いで脱出を図ろうとしたのか…?いや、心なしか光点は陸のほうへ近づいているような気がする。
なぜこんな所に薮田がいるのだろうか。ただでさえ、雨上がりで海は荒れがちなのに。
雨具を浜風にはためかせながら立ち上がると、山下は光点が示す方向へと目を凝らした。
147代打名無し@実況は実況板で:05/01/20 16:51:25 ID:SFVddiijO
とりあえず保守
148代打名無し@実況は実況板で:05/01/21 07:03:12 ID:aZtSX0qUO
薮田様のために保守
149代打名無し@実況は実況板で:05/01/21 12:46:55 ID:NuWy1gjA0
フランク・保守リック
150代打名無し@実況は実況板で:05/01/21 17:59:36 ID:h8offp5X0
ほしゅ
151代打名無し@実況は実況板で:05/01/21 23:47:22 ID:xqY9vavT0
デリック・保守
152代打名無し@実況は実況板で:05/01/22 00:10:53 ID:BAMeu5QZ0
保守・フェルナンデス
153代打名無し@実況は実況板で:05/01/22 09:49:57 ID:Eqvhw1T40
ベニー・保守バヤニ
154 ◆vWptZvc5L. :05/01/22 11:38:46 ID:236VZ86a0
ttp://up.isp.2ch.net/up/bd69103ebce0.GIF
保守がてらにこんなものを投下
ドラバトのパクリですが…
155代打名無し@実況は実況板で:05/01/22 13:02:08 ID:6HKGpK6D0
乙、芸が細かい。
ふと目にとびこんできた愛甲スレがツボった。
しかも1000行ってるのに次スレないし。
156代打名無し@実況は実況板で:05/01/22 22:27:05 ID:e8DZkyX10
ほす。
>>154重くて繋がらないorz
157 ◆vWptZvc5L. :05/01/22 23:00:12 ID:FFHsdJFd0
158代打名無し@実況は実況板で:05/01/22 23:11:22 ID:e8DZkyX10
>>157
お手数おかけしました。いただきました。
リアルで見てみたいAACMBR
159代打名無し@実況は実況板で:05/01/22 23:18:01 ID:+isV1tC40
>157 なるほどこれか。ドラバト版でも思ったけど芸が細かい。
160代打名無し@実況は実況板で:05/01/23 00:14:05 ID:Th//WdRP0
>157
乙です。
一番上いいなあw
各球団でみてみたい。
161知らずに(1/2) ◆QkRJTXcpFI :05/01/23 00:50:51 ID:zVt6AamC0
 西岡剛と早坂圭介の目に誓った。
「きっとまた一緒に生きて帰ろう」

 金澤岳は祈ってくれた。
「敬太の無事を祈ってるよ」

 清水将海は怯えていた。
そして堀幸一をかばって死んだ。
彼を殺したのは小林雅英だ。ただしその背中しか見ていない。
堀は将海の罪を告げた。やり場のない怒りと悲しみをその背中に見た。

 成瀬善久は、銃を構えた。自分に対して。

 成瀬に一撃を食らわせて小屋を出た後、浅間敬太は周辺の森の中を歩いていた。
ぼんやりと、行く当てもなく。
12時の放送があった。武器の投下と言っていたが、ずいぶん遠い。
行く気もなかった。
 辺りには名も知らぬ木が見渡す限り伸びている。
その根元からはまた名も知らぬ草が生えていて、木々の合間を埋めるように茂っている。
たくさんの草木。名前どころか、どんな花が咲いて、どんな実をつけるかも浅間は知らない。
どんな形に伸びていくのかも、浅間は知らない。
何も知らない。どれも知らない。
「外からだけじゃ、分かることなんて幾らもないや……」
浅間はつぶやいた。
うつむき加減になると、また思い出してしまう。
今まで彼の前を通り過ぎた人たちのこと。
「何も…僕は、何も知らなかった」
雨は、いつの間にか止んでいた。

 足取りは確かだったが、肝心の行き先を知らなかった。
何十歩か歩いてから立ち止まっては、道の険しくない方へ歩を進める。
自分がそれをずっと繰り返していることに、浅間はようやく気づいた。
162知らずに(2/2) ◆QkRJTXcpFI :05/01/23 00:51:18 ID:zVt6AamC0
「これじゃ、どこにも行けないじゃん。
 いや、どこにも行きたくないみたいな…」
どこかに行けば、また誰かに会ってしまう。その言葉が一瞬浮かんで、すぐ消えた。
 ため息をつく。
――みんなでこのゲームの主催者を倒そう、と言う気はないのか…?――
成瀬に対して自分が言ったことを思い出した。
「どうやってやれってのさ、俺。
 『みんな』って誰のことだよ……西岡?金澤?
 誰に会えばそんなことできるんだろ。分かんない。
 だいたい、どこに行けば会えるってのさ?」
浅間は地面に落ちていた枝きれを蹴る。
他の枝きれとこすれて、軽い音がした。
返事はそれだけで、また静かになった。
163 ◆vWptZvc5L. :05/01/23 13:32:18 ID:e/1f8Im50
不謹慎だし、もうやめようと思いながらまた作ってしまった。
あくまでネタなので許してください。コノトオリデス orz
ttp://data.uploda.net/anonymous/etc1/dat2/upload115008.png
164代打名無し@実況は実況板で:05/01/23 13:52:51 ID:WKvzJ3eO0
不謹慎と思いつつもガチョピンワロタ
165代打名無し@実況は実況板で:05/01/23 13:56:25 ID:Th//WdRP0
右上の広告クリックしちゃったじゃないか。
細けーなオイ
166代打名無し@実況は実況板で:05/01/23 19:51:03 ID:qtGBsVlC0
ハート保守レイブス
167 ◆CLM31pWOr6 :05/01/24 00:48:42 ID:TUeT53gK0
>>163
再うpキボン
168 ◆vWptZvc5L. :05/01/24 01:25:33 ID:aaSGVvSb0
169 ◆CLM31pWOr6 :05/01/24 02:01:07 ID:TUeT53gK0
>>168
どもです。保管庫にageときます
170代打名無し@実況は実況板で:05/01/24 05:16:24 ID:bnvo/m9aO
了解しますた
171代打名無し@実況は実況板で:05/01/24 16:04:07 ID:CqhDyhb00
保守幸一
172 ◆vWptZvc5L. :05/01/24 17:25:00 ID:8XC5/gEj0
>>169
スレタイにちゃんとリンク貼ってありますねw スゲー
173代打名無し@実況は実況板で:05/01/24 22:18:33 ID:CX1mfhMv0
ほっしゅ
174代打名無し@実況は実況板で:05/01/25 00:44:47 ID:1yPuzKKC0
ほしゆ
175代打名無し@実況は実況板で:05/01/25 09:00:50 ID:uhPWC6Pg0
ちょと久しぶりにネットしにきた。
川井、逝っちゃっていたのね、しかもきちんとしたエピローグ付きで。
ちょっと安心した。死んだら肉塊のように扱われるだけかも、なんて思っていた。
愛情感じる職人さん達、応援します。
176代打名無し@実況は実況板で:05/01/25 17:53:42 ID:QAf01koq0
保守しておきますね。
177代打名無し@実況は実況板で:05/01/25 21:43:09 ID:KK2k8GJa0
ほしゅ
178代打名無し@実況は実況板で:05/01/26 00:11:41 ID:q2ksHs+D0
 
179病(1/2) ◆vWptZvc5L. :05/01/26 00:22:08 ID:LilfTkoS0
濡れたユニフォームがひんやりと肌に冷たい。背中がぞくぞくする。
両腕をさすって摩擦を起こしても一向に寒気は収まらない。
雨もあがったというのに、さっきからなんでこんなに寒いんだろう。
そういえば頭も締め付けられるようにじんじんと痛む。
あぁ、これは周りの気温が下がってるんじゃなくて、自分の体温が上がっているのだと橋本将は確信した。
木陰に身を寄せて雨を凌いでいたものの、吹き込んでくる風や雨粒までよけきれるものではない。        
きっと風邪でもひいたのだろう。額に手をあてると、やはり熱っぽい。

(そういえばG-5エリアに薬が投下されるって言ってたっけ)
ふと昼の放送を思い出して立ち上がった。
地面が回っているような感覚を受けて、後ろに倒れそうになる。とっさにすぐそばの幹に手をついた。
立っているのもやっとだ。この足取りではとてもG-5までたどり着ける自信がない。
橋本は再びその場にぺたんと座り込んだ。
180病(2/2) ◆vWptZvc5L. :05/01/26 00:23:19 ID:LilfTkoS0
「みんな争いに巻き込まれてる中、俺だけ風邪で死ぬのか」
熱にうかされた脳が戯言を吐く。
まさかこの現代社会で成人男性が風ごときで死ぬわけないと思いながらも、
極限状態に追い込まれたストレス、偏った食事、不衛生な衣服…
この島内ではそれすら保障されないような気さえしてくる。
「こんなところを、また金澤にでも会ったら終わりかもな」
弱音が口をつく。

「くそっ、誰かいないのかよ。晋吾さん…。晋吾さんじゃなくても誰か、
 こんなゲームやめようって奴は。みんな金澤みたいな奴ばっかりなのかよ!」
昨日から誰にも会わない。唯一会ったのは金澤。その金澤は得意げにもう人を殺したと言った。
まだ自分に同意してくれる人に会えない孤独と、一人で病と闘わなければならない孤独が手を組んで
橋本の自信と信念を少しずつ崩してゆく。ぼーっとする頭の中で思考が捻じ曲げられてゆく。
さっき遠くで聞こえた何かの爆音がそれをさらに加速させた。
こんなゲームを望まないのは自分だけで他のみんなは殺し合いに興じているんじゃないか
という思いに飲み込まれそうになる。

「違う…絶対に俺と同じ考えの奴もいるよな。こんなこと思うのは全部熱のせいなんだよな」
そう呟いてみても、彼のそばに頷いてくれる人はない。
181代打名無し@実況は実況板で:05/01/26 05:21:29 ID:khIZ3l6sO
於保守
182代打名無し@実況は実況板で:05/01/26 12:00:57 ID:zhVFq26W0
将がんがれ 超がんがれ!
183代打名無し@実況は実況板で:05/01/26 19:57:42 ID:Sam6coDh0
保守
184代打名無し@実況は実況板で:05/01/27 00:31:02 ID:IY//mWJm0
捕手
185代打名無し@実況は実況板で:05/01/27 01:12:55 ID:WNEW1+4B0
保守だけもなんだから
好きな話もそれとなく付け加えていこうぜ

奪われた唇
186代打名無し@実況は実況板で:05/01/27 01:34:43 ID:NbQYT98x0
ぼくは、はつしばになりたい
187代打名無し@実況は実況板で:05/01/27 01:36:14 ID:ef+T6EAW0
>185
マジレスすると、55章キャッチボール
エース様が今江に後を託すとこ。
188代打名無し@実況は実況板で:05/01/27 01:56:20 ID:DyBfWo1v0
ぼくは、はつしばになりたい
の流れは素で感動させられました。
あと川井の最期のくだり。泣くかと思った。
189代打名無し@実況は実況板で:05/01/27 04:19:13 ID:RDDOmj6z0
114章 不思議な奴  
が好きだな。
覚悟決めてる大塚の飄々とした台詞群に正直言葉が出なかった
まぁPCに向かって本当に言葉発してたらアレだがw
190代打名無し@実況は実況板で:05/01/27 07:23:01 ID:BCwkn4VBO
60章 破滅…或いは解放
|
78章 目撃

までの堀と将海の二人にちょっときた。
ってことで出勤前に保守。
191代打名無し@実況は実況板で:05/01/27 15:31:40 ID:bWI5yqFD0
ぼくわ、はつしばになりたい
192代打名無し@実況は実況板で:05/01/27 22:53:54 ID:nmtaYl+3O
保守
193二人の捕手2(1/2) ◆vWptZvc5L. :05/01/27 22:59:35 ID:vsz+QO4Q0
「雨、あがったな」
堀幸一は空を見ながら里崎智也に話しかけた。雨上がりの澄んだ空気が心地よい。
「俺、雨止んだらら動こうと思ってたんだけど」
里崎はうつむいたまま、黙り込んでいる。
「このままここにいたって、何の解決にもならないし」
堀は里崎の様子を伺う。相変わらず黙ったまま、何かを考え込んでいる。
「サトがこのままここにいるって言うなら、それでも…」
「俺も行きます」
里崎がようやく口を開く。

「一人も死なせない、誰も殺させない、って四郎に誓いました。
 だから俺は…そのために今できることをしたいんです!」
じっと堀の目を見つめ返して、今まで考えていたことを話す。
「うん…俺もそう思う。でも、こんな島一つを空っぽにできるような奴らが相手だ。力じゃ勝てない。
 気持ちで勝つしかないんだ。みんな腹割って話し合って、迷いとか疑いとか捨てないと。
 …寺本はそれでわかってくれたんだろ?」
里崎が頷く。
「なら、他の奴らもわかってくれるって。な?」
里崎がもう一度頷く。
194二人の捕手2(2/2) ◆vWptZvc5L. :05/01/27 23:00:52 ID:vsz+QO4Q0
「行くか」
堀は荷物を引っつかんで立ち上がると、里崎を促した。
里崎は立ち上がると、歩き出す堀を尻目に背後を振り返る。
その視線の先にはあるのは清水将海の亡骸。
その光景にただならぬものを感じて、堀は歩みだす足を止める。
キャッチャーは守備の要となる過酷なポジションだ。
そのつらさを分かち合ってきた同志なら、きっと思うところも多いのだろう。
今、二人は心の内で最後の言葉を交わしている。それがどんなものか堀の知るところではないが、
その二人の邪魔をしてはいけない気がして、再び動き出すタイミングを失ってしまった。
ほんの数秒に過ぎない静寂が、堀に重くのしかかる。

しばらくすると堀から働きかけるまでもなく、里崎の方がくるっと振り向いた。
「行きましょう」
決意を秘めた声でそう告げる。
もう後ろは振り返らない。
「大・・・谷・・・さん。」
「・・・。」
吉鶴の声に振り返った大谷は、ありえないくらい青ざめていた。
そして、大谷は先ほどまで福澤を黙らせるほどまくし立てていたが、
吉鶴を見たとたんに黙りこくってしまい、
部屋の中が沈黙に包まれてしまった。

「吉鶴くん、大変、大変、大変だよ。」
沈黙の中、突然荘が叫びだした。
「ど・・・どうしたんですか?」
「ほら、血だよ、口から血が出てるよ!!」
吉鶴は、荘の言葉に口を手でぬぐった。
どうやら殴られたときに口を切ったらしく、わずかながら手に血が付着した。
「・・・大丈夫ですよ、これくらい。」
吉鶴は軽く手を振って荘に答えた。

「あ・・・あ・・・」
大谷はそれを見た途端に、すでに蒼白だった表情をさらに変え、
「うわあああっ!!袴田さん、袴田さんが〜!!」
と叫んで部屋を飛び出してしまった。
「あっ、ちょっと!!」
福澤もその後を追い、部屋を飛び出していった。
そして、部屋の中には吉鶴と荘だけが残された。

ついさっきまでは、決して広いとはいえない所に4人もいたため、狭苦しさを感じた部屋も、
急に二人いなくなってしまうとなぜか物寂しさを感じてしまう。
部屋の中は再び沈黙に包まれた。
「あ、そうだ。」
頭の痛みからなんとか解放され、ようやく吉鶴は思い出せなかったことを思い出した。
「・・・どうしたの?」
「かばんがあったんですよ。部屋の奥に。」
吉鶴は荘の手を借りて立ち上がった。
「大丈夫?」
「ええ、何とか。」
そして吉鶴は部屋の奥へと向かい、程無くして大きなかばんを提げながら戻ってきた。
「ほら、これですよ。」
「ふうん・・・、どこかで見たようなかばんだね。」
「そうでしょう。見覚えはあるんですけどね。」

吉鶴がかばんの中身を確かめようとチャックに手をかけたとき、
二人は、ふと大谷が最後に言った言葉を思い出した。
「・・・袴田さん?」
思わず二人は顔を見合わせた。
197 ◆vWptZvc5L. :05/01/27 23:09:15 ID:vsz+QO4Q0
>>185
マジ話なら 第217章 あの背中に
この話の直前まで自分が書いて、最後だけ◆QkRJTXcpFI氏に託したんですが、
その見事なリレーぶりに感激しました。

ネタ話なら 第72章 ターゲット  戸田最高w
198代打名無し@実況は実況板で:05/01/28 01:10:10 ID:d/Q4F/3X0
トーク炸裂リーンちゃんに萌え萌え

おやすみほっしゅ
199代打名無し@実況は実況板で:05/01/28 11:41:08 ID:kDVe5WOt0
ほす
200周防:05/01/28 17:39:20 ID:jI0c02Fu0
>>職人様 ((((;゚Д゚)ガクガクブルブル って感じに(・∀・)イイ!!  
201代打名無し@実況は実況板で:05/01/28 19:49:59 ID:HC71cgY+0
マリバトは他スレのネタをうまく使っているなあと感心するよ。
ヤバイスレとか、初期のぬるぽもワロタ。
「ぼくわ」なんかスゲー泣けるネタに昇華してたし。
202代打名無し@実況は実況板で:05/01/29 01:52:17 ID:sB73IRZP0
保守
203代打名無し@実況は実況板で:05/01/29 04:06:29 ID:hAIhO0v20
下がりまくりなので念のためあげとくよ。
マリバトは各サイドストーリーがそれぞれ面白くてスキ。
泣き所と笑い所の起伏激しいジェットコースターて感じ。
204代打名無し@実況は実況板で:05/01/29 10:16:42 ID:vMiFdW8c0
保守
205代打名無し@実況は実況板で:05/01/29 16:58:54 ID:WyVgYyIE0
ほしゅ
206代打名無し@実況は実況板で:05/01/29 17:20:35 ID:uBhzoFR/0
初代スレから引っ張ってきた現在の生き残り

【1軍外野手 3名】
 3サブロー 24平下晃司  38垣内哲也
【1軍内野手 5名】
 5堀幸一  6初芝清   7西岡剛  9福浦和也  25今江敏晃 
【1軍先発投手 3名】
 14小宮山悟  29小野晋吾  41小林宏之 
【1軍リリーフ投手 3名】
 20藪田安彦  30小林雅英  46山崎健
【破壊組合 1名】
 67戸部浩
【捕手 4名】
 22里崎智也 33橋本将 62金澤岳 93杉山俊介
【浦和組・若手 5名】
 13浅間敬太 19田中良平  21内竜也  58青野毅  60成瀬善久
【浦和組・中堅 3名】
 23大塚明 51於保浩巳 66ユウゴー
【浦和組・崖っぷち 2名】
 54黒木知宏  65曽我部直樹 

破壊組合が全滅の危機。戸塚も今、ピンチだし。
207代打名無し@実況は実況板で:05/01/29 22:28:49 ID:fAOJOm540
ほしゅ
208代打名無し@実況は実況板で:05/01/29 23:38:56 ID:PkLBDKfo0
>206
むう、こうやってみるとたくさん逝っちゃったんだな、と
浦和組・若手がなかなか頑張っていますな。
成瀬の今後に注目したい。
209代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 10:24:57 ID:B1snr/+b0
ho
210代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 21:54:05 ID:+IkjNrxw0
 
211代打名無し@実況は実況板で:05/01/31 02:21:11 ID:wM25rLma0
たすくおうえんほしゅ
212代打名無し@実況は実況板で:05/01/31 11:45:36 ID:uJrQFKX30
ほしゅ
213代打名無し@実況は実況板で:05/01/31 16:10:10 ID:D8QZYcvB0
ぼくわ
214代打名無し@実況は実況板で:05/01/31 19:14:05 ID:WFOLAO5g0
はつしば
215代打名無し@実況は実況板で:05/01/31 19:24:46 ID:jD5f3v1P0
にな
216代打名無し@実況は実況板で:05/01/31 20:55:53 ID:glRt0W0E0
ぱーぷるとん
217ネコジャラシ(1/2) ◆QkRJTXcpFI :05/01/31 21:48:48 ID:8u8pbqdl0
「港に、船が一隻も無かったろう?」
「はい」
成瀬善久は初芝清の話を真剣なまなざしで聞いていた。
注意深く、初芝の一挙手一投足も見逃すまいという様子で。

 二人は道路脇にある東屋で、向かい合うように座っていた。
漁港から道伝いにしばらく歩いたところにあるその東屋は、ベンチとその上に屋根をつけただけの簡素な造り。
おそらく遊歩道になっているのだろう。若干幅の狭い道沿いには、大小の草木が茂る。
降り続いていた雨に心なしか活力を得たように、背の高いネコジャラシの群生は一様に茎をピンと張らせている。
穂の先は水滴を細かく集め、ゆっくりと大きな水滴を作っては垂らす。
その水滴の落ちるのに一瞬視線をやって、成瀬は再び初芝に視線を戻す。
成瀬は背中を丸め膝に肘を乗せて、前に傾き気味の姿勢でいる。
一方の初芝は、背中をいくぶん反り返らせながら腕を組んでゆったりと座っていた。
 初芝は頭の中の考えをまとめるように、空中で手を動かしている。
成瀬は初芝の言葉を待っている。初芝は右手でめがねを直すと、再び話し出した。
「地図の外が全て禁止エリアだとしたら、船を使って逃げることはできないよね。
 外に出た途端にドカンだからね。だが、船は全て撤収されていたんだ」
「わざわざ、かたづけるひつよう、ないのに?」
成瀬がたどたどしい言葉遣いで、初芝の語りに呼応しようとする。
初芝が頷く。
「その通り。ということは、船を使われると困るのではないかな。
 もしかすると…」
「ふねがあると、にげられる?」
「そうだ。地図の外が禁止エリアでない可能性は、あるよ」
「すごい!さすが、はつしばさん!」
成瀬がはしゃいで手を叩く。
しかし、初芝はまだ何か考えるような表情のままでいた。
「いや、この手は使えないんだよね」
「え?」
「確証がないんだ。もし違えば、地図の外が禁止エリアだったら、そこで終わりなんだ」
「そうですね…」
驚いて動きの止まっていた成瀬が、今度はがっくりと肩を落とした。
218ネコジャラシ(2/2) ◆QkRJTXcpFI :05/01/31 21:49:26 ID:8u8pbqdl0
「情報がいる。手っ取り早いのは、誰か沖へ行けた人間に会えればいいんだけど」
「じゃあ、さがしましょう!」
「そんな人がせっかく逃げおおせたのに、わざわざ戻ってくるとは思えないよ」
「あ、そうです…」
成瀬が更に肩を落とす。頭をがくっと垂れる。

 その様子を見て、初芝は口の端を上げた。
「ま、そう気を落とすな。可能性が消えたわけじゃないんだ」
「では、どうしますか?」
「そうだな、知ってるとしたら、運営側の人間しかないかな」
と、初芝は視線を成瀬から逸らし、外の茂みに向ける。
成瀬が眉をしかめる。ちらりと視線の先をうかがう。
遊歩道の向こうには背の高い草の茂みと、さらに向こうは林がそびえている。
密生したところは陰になっていてよく見えなかったけれど、人の気配はしないようだった。
「その辺を歩いてるわけないし、スタジアムに行くしかないのかな」
「でも…」
「危険だな。最初こそスタジアム内にいられたんだがなぁ。
 重要な情報を聞き出すためには、手荒な真似をしなければならないかなぁ」
初芝は依然として林の方を見ている。成瀬はその言葉をただ聞くことに集中していた。
「スタジアムにいて分かったことがあるんだ。
 これは確信だけど、今の運営側の人間を後ろで操っている黒幕がいるようなんだ。
 そして禁止エリアを決めてるのも、その黒幕かな。彼らで決めてる様子もなかったし。
 だから、スタジアム内にいる連中をふんじばっても、禁止エリアの解除は難しいと思うんだ」
「それで、はつしばさんは、にげようって?」
「そうだ。スタジアム周辺にいれば、運営側の人間が出てくるかもしれないからさ。
 そこを捕まえて話を聞きだすことができれば…」
「わかりました」
それを聞いて初芝が成瀬のほうを見た瞬間、かすかに風が吹いた。
ネコジャラシの群生がしゃらりと揺れて、またすぐに元のように立つ。
「来るのかい? 紙一重、間違えれば途端に命はないよ?」
「いきます。ぼくわ、ついてきます」
真っすぐに。成瀬の目はさっきからずっと、真っすぐに初芝を見ていた。
219代打名無し@実況は実況板で:05/01/31 23:20:20 ID:glRt0W0E0
おお! ついに初様にも同行者が!
しかし、成瀬のせりふがぜんぶ・・・w
純粋な成瀬、かわいいですな。
220代打名無し@実況は実況板で:05/01/31 23:20:21 ID:LpuGapHpO
初芝+成瀬コンビキター━━(゚∀゚)━━!!!!!!!
221代打名無し@実況は実況板で:05/01/31 23:27:03 ID:7roeeKR00
>>219-220
1秒差でケコーンですかw
これだと、薮田様の動きもカギになってくるな
 薮田安彦と愛甲猛の乗るボートが波を割く。
しぶきを上げる。エンジンはうなりを上げて。と、愛甲が薮田に言う。
「見ろ薮田、岸までもうすぐだ」
「そうですね。ん?」
「どうした?」
「見て、愛甲さん。誰か、います」

 水平線の向こうにあった小さな白い物。
最初は見間違いかと思ったが、今ではそれが少しずつ大きく見えてきた。
「船…?」
山下徳人は元々大きくない目を更に細めて、眉を寄せていた。
それが船だと完全に分かったとき、同時に1人の乗員を確認できた。
手持ちの探知機を見ると紛れもない背番号20の点滅。
「薮田…あいつ船に…?
 あれ?島内の船は全部撤去させたと聞いているぞ?
 だいたい船があると、逃げられちまうって……」

 船は岸まで100mほどの距離に近づいていた。
薮田らしき人影がパドルを一生懸命こいでいる。
山下の心に一つの疑問が浮かんだ。
「なんで手こぎなのに、あんな早く近づいてきたんだ?」
しかし現実に目の前にはボートをこぐ薮田の姿がある。
山下は疑問を抱えながらも、近づく船を見守った。
 ほどなく、ボートが岸に接した。
「山下さんでしたか」
薮田が岸に降り立った。
「よう、薮田。船に乗ってどうしたんだい?
 これ、どこで見つけたんだい?」
「丁度よかったわ。殺る気のやつには会いたくなかったんで」
「おい、薮田。
 質問に答えないか!」
山下は少し、威勢を張って薮田を咎めた。
 そんな山下に対して、薮田は悪びれる様子もない。
山下の姿を一瞥すると、押し黙ったままで山下を睨みつけた。
「…!」
見えない圧力に押されて、山下は一歩後ろに下がった。
(なんだ、これは…威圧される…! あの薮田に…?)
2004年の、そしてフィルダーの死を越えた薮田を山下は知らない。戸惑っている。
「道案内をお願いしますわ。これからちょい、スタジアムに行かんならんので」
ゆっくりと一つ一つ語る言葉が山下を圧迫する。
負けじと山下は声を張る。
「馬鹿言ってんじゃねぇ! 俺は運営側の人間だぞ!
 てめェの言うことなんかっ…」
そう言って薮田に殴りかかる山下だったが、あっさりとかわされる。
バランスを崩したがなんとか立て直し、海を背にして薮田に向き直る。

 薮田は相変らず涼しげな顔をしていた。
「一刻も早く、すべき事があるんで。あんたと、遊んどる暇はないんや」
「何ぃ!?」
再び虚勢を張って叫ぼうとする山下の耳に、背後からと思われる水音が入った。
同時に首筋に冷たいものが当てられて、山下の背中が震えた。
「銃だ。動くな、ズドンといくぞ」
その感触が銃だと分かり、山下の背中が一層震えた。
「だ、誰だ…?」(探知機には薮田しか…)
「久しぶりだな山下、お前もよく知ってるミスターロッテこと…」
「あ、まさか、あ、ありt」
「そう、愛甲だ。お前とは一時期ファースト争いもしたっけな」
「あ、愛甲さん! こんなところに居た!」(あぶねぇ、有tさんと間違えるところだった)
「ちょっと縁があってな、沖合いの漁船で薮田と会ったんだ。んで、協力してる」
前を見る。薮田仁王立ち!これは(略) 後ろでは、愛甲が銃口の先を背中へと移す感覚がした。
「わかりました……」
(まずい。と言うことは、沖に出ても発信機が爆発しないことがバレた…
 しかもご丁寧に船まで付いて。これを放ったまま、みすみすスタジアムに連れて行ったら…
 どんな目に合わされるか……!)
224 ◆QkRJTXcpFI :05/01/31 23:45:58 ID:78PTvgyM0
えーと、見抜かれてた通りですが
ついでなので薮田編の続きを書かせていただきました。

どう絡むんですかねぇ(考えなし)
225代打名無し@実況は実況板で:05/01/31 23:47:29 ID:+5gg955LO
キタキタキター(゚∀゚)ー!!!!!


成瀬が、かわいいです
226代打名無し@実況は実況板で:05/01/31 23:48:00 ID:glRt0W0E0
ワクワクドキドキ・・・
227代打名無し@実況は実況板で:05/02/01 11:44:43 ID:4kB+UCVQO
保守
228逆襲の薮田-Postscript ◆vWptZvc5L. :05/02/01 13:03:46 ID:XV3kGcqI0
筒井良紀はモニタ上の58の動きを追っていた。特に変わった動きもなく、退屈な作業だ。
この画面の向こうで殺し合いが起きているなど、とても実感できない。
「だいたいそんなにリストが大事なら、雅だけじゃなくてリスト上の人間全員を
 こちら側に引き込むとか、有利な武器を与えるとか、いろいろ手段はあったんじゃないんですか?」
「さあな。あまり余計なことは口出しせんほうがいいぞ。このゲームは奥が深いからな」
愚痴る筒井を隣の佐々木信行がなだめる。
筒井はため息をついて目を伏せると、モニタの隅にあるものを発見した。
「おわっ!?」
「…どうした?」
筒井は震える手で、モニタ上のその部分を指した。
「うわぁぁああ!?」
佐々木も思わず声を上げる。

その騒ぎが聞こえたのか、ドタドタと足音が近づいてくる。
バタンとドアが開くと、山本エカ児が青い顔で監督室に入ってきた。
「どうした、今度は何だ!?」
「や、薮田が…薮田がっ…」
筒井が指差すモニタには20の赤い文字が光っていた。
「生きてたのか。なんだ、めでたいことじゃねえか。驚かせやがって。
 またリスト内の人間が死んだかと思ったぞ。で、薮田は結局どこにいたんだ?」
「さぁ?私は青野に集中してたので…」
「フン、まあいい。どうせ機械の故障か何かだったんだろ。
 それにしても山下はまだ戻ってこねぇのか。あいつ、サボってんじゃないか?
 …じゃ、俺は一服してるから。何かあったらまた呼んでくれ」
そう言い残すと、山本は今度は軽い足取りで部屋を出ていった。
229代打名無し@実況は実況板で:05/02/01 19:37:40 ID:1IqPDcUN0
ほしゅ
230代打名無し@実況は実況板で:05/02/01 22:46:09 ID:HWKzHyUc0
ほっしゅ
231代打名無し@実況は実況板で:05/02/02 00:29:23 ID:ezAFAMr50
捕手
232代打名無し@実況は実況板で:05/02/02 10:50:59 ID:ppbq7EKEO
保守保守
233周防:05/02/02 17:30:40 ID:cRS5sv7o0
薮様キタ━━( ´∀`)・ω・)゚∀゚)・∀・) ̄ー ̄)´_ゝ`)-_)゚∋゚)´Д`)゚ー゚)゚д゚)━━━ン!!!!
「おい、大丈夫か!?」
戸部浩は慌ててユウゴーの元に走り寄る。
「あ…あ……」
ユウゴーは青ざめた顔で戸部に何かを伝えようとするが、言葉にならない。
そこへ再び銃声が聞こえて、戸部はユウゴーが見ている方へ振りむいた。
そこにいたのは肩を撃ち抜かれてくずおれる曽我部直樹、そして深夜に自分を襲った二人。
(ゲッ、またあいつらか!なんて懲りない連中なんだ)
「逃げるぞ」
迷う暇はない。戸部はユウゴーの腕を強引に引っ張って走り出した。
ユウゴーは曽我部が気にかかるようで、戸部に何かを訴えかけている。
だが、それに構う余裕はない。ろくな武器も持たない者にできるのは、ただ逃げるのみ。
ここで曽我部を見殺す形になっても、逃げるしかない。そうでなければ全員共倒れだ。
一心不乱に逃げる戸部の耳に、また銃声が2発、3発と聞こえた。
振り返らずとも、その銃声が何を意味するのか、曽我部がどうなったのか嫌というほどわかる。
それでもひたすら前だけを見て、一番近くの角を曲がって狭い裏路地へと入る。
とにかく、この場を切り抜けることだけを考えて。
――田中良平が手をのばしかけたすぐ目の前で、曽我部がひざをつく。
曽我部の体がバランスを崩しても、煙立つ銃口はその背中を正確に追う。
平下晃司はその背中、心臓の辺りを狙ってさらに銃弾を撃ち込む。
良平には一切目を向けず、獲物にしか興味を示さない。
曽我部がうめきながら地面に突っ伏す。良平は硬直してしまって動くこともできない。
「今度は生き返らないでくださいよ、曽我部さん」
平下は最後の一発をその後頭部に放つ。吹き出した血しぶきは良平のもとにまで飛ぶ。
昨日の因縁にけりをつけ、新たな標的へと向くと遠ざかる2つの背中が見えた。
「クソッ、逃がすか!」
平下は遠ざかる二人を追いかけて、裏路地へと消えた。

良平は独りその場に取り残される。
今、目の前で見た光景がはっきりと頭に残っている。
目の前の曽我部はもうピクリとも動かない。
血だまりだけが、まるで生きているかのように広がってゆく。
伸ばしかけた手がまだ行く手に迷っている。
体の隅々まで震えが伝わって、全身が恐怖に支配される。
叫びたいのに喉がカラカラに渇いて声がでない。


そうだ、今目の前で見たもの。これが「殺す」っていうことなんだ。
「死ぬ」とか「殺す」とか言うだけならたやすい。
でも、自分はその言葉の重さまで理解していただろうか。
人から無理やり命を奪うそのむごさを、自分はわかっていただろうか。
さっきまで自分を救い上げようとしてくれた腕が、力なくねじれて地面に伸びている。
今はそれが自分を地獄に引きずり込もうとしているように見えて、良平は後ずさった。
いやだ、死にたくない。こんな風になりたくない。こんなところにいたくない。逃げたい。
道の反対端のの電柱の下に、曽我部が投げた銃が落ちている。
両手と左足を使い、這いつくばってその銃を拾いにいく。
今度は電柱につかまりながらゆっくりと立ち上がる。
右足を地面に降ろしたでけで激痛が走った。
できるだけ曽我部のほうを見ないようにしながら、そのまま塀に頼りにけんけんをしながら進む。

どうしよう。どこへ逃げればいい?
ここは殺戮と狂気にあふれる孤島。
あの時、青野と共に行く選択肢もあったはずなのに、自分は他人を陥れる道を選んだ。
一度殺し合いの世界へ足を踏み入れてしまった自分には、引き返す道がない。それが自分の選んだ道。
曽我部は死の直前、自分に手を差し伸べてくれた。あの手にすがっていれば、
こんな世界から抜け出せたかもしれない。でも自分はそれすら失った。
この右足はゲームに乗った代償。人を殺そうとした自分への当然の報い。

行くあてもない良平の耳にヘリコプターの轟音が聞こえてくる。
そうだ、まずこのケガをどうにかしなきゃ。
自分の右足を見てそう考えると、友の肩が同じ色に染まっていたのを思い出す。
そういえば青野も怪我してた。あのヘリについていけば、青野に会えるかもしれない。
青野に会えれば、自分を止めてくれた青野にさえ会えれば、自分は立ち直れるかもしれない。
あのヘリの行く先にわずかな望みがある気がして、良平は少しずつその方向へと進んでいった。

【65曽我部直樹× 残り28名】
237代打名無し@実況は実況板で:05/02/02 20:18:42 ID:MatRuzQu0
乙です。

中島みゆきの2ndアルバムのタイトルですな >みんな去ってしまった
今後もこのシリーズで続いてくれると個人的には嬉しかったり。
238 ◆vWptZvc5L. :05/02/02 20:49:31 ID:gC3aGYcn0
>>237
うわっ、見破られたΣ(゚д゚ )
副題に困ったのでちょいと拝借しました。
自分、中島みゆき好きです。今後も使わせていただくかも。
239代打名無し@実況は実況板で:05/02/02 21:59:25 ID:TKilJxoyO
職人さんの世界観はすごいですな!!
どの話もドキドキしてしまう。
240代打名無し@実況は実況板で:05/02/03 12:14:48 ID:6B2jYwJM0
ほしゅ
241代打名無し@実況は実況板で:05/02/03 17:14:08 ID:fQIGUOha0
一応保守
242周防:05/02/03 17:46:34 ID:YKm2Ihns0
曽我部(つ´∀`)つ< 逝ったか・・・
243 ◆QkRJTXcpFI :05/02/03 23:14:05 ID:b1F0KpCw0
ちょっとすいません。大変個人的な意見なのですが。

現在の全体の投下ペースですと完結は今年の夏ともその先とも予想されております。
長期化するほど各職人さんが継続がしにくい事態も発生しますし、新たな職人さんを改めて募りたいと思います。
別に今までも参加は自由でしたが、改めてアナウンスをば。
というわけで書いてみませんか?

今のペースでも良いならばぼちぼち皆さんと頑張りますが、私もまたこの先どうなるか分かりませんし。
244 ◆vWptZvc5L. :05/02/03 23:35:28 ID:5E94Byt50
>>243
禿げ上がるほど同意。自分も新しく職人さんを募りたいと思ってました。
最近本編を書いてたのは、ほとんど◆QkRJTXcpFI氏と自分の二人だけだったので。
やはり職人さんが多いと視点も増えるし、話も広がると思います。

というわけで、新規職人さん大歓迎!
今まで書いてくださった職人さんの復帰もお持ちしております。
245代打名無し@実況は実況板で :05/02/03 23:41:02 ID:RTzDXvS10
>243
>244
こちらでも宣伝してみてはいかかでしょう? ちと過疎化気味ですし。


各球団のバトルロワイアルスレを見守るスレ3
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1105704084/
246 ◆QkRJTXcpFI :05/02/04 00:23:22 ID:4q/BCL5M0
とりあえず投下だけしておきます。

>>245
見てみたら、見守るスレもなんだか過疎化してますね…
247裁かれぬ男(1/2) ◆QkRJTXcpFI :05/02/04 00:26:38 ID:4q/BCL5M0
 なぜ自分は、できなかった。
俺はただ奪うことしかできなかったんだ。
喜多は悪い人間だった。しかし彼から身を守る術すら奪ったのは自分だった。
きっと彼が改心でもしてくれないかと、たったそれだけで甘い期待を抱けていた。
自分のそんな考えのなさを悔やむ、その思いがじわじわと体に沁み込んでいく。
雨は止んで、ユニフォームからは水が少しずつ乾き始めているのにだ。

「それは『悪』じゃないのか…」
垣内哲也がつぶやいた。ふらふらと頭を振ってへたりこんでいる。
踏みしだかれた雑草が泥にまみれ、ひどく雑然としている様子が見える。
その泥の中でゆっくりと、横になった状態から自然に立ち上がろうとする一本の短い草があった。
ゆっくりと、成長の過程を撮ったスローモーションのように立ち上がる様子をただ眺めることで時間を埋める。
しかし、茎が途中から鋭角に折れ曲がっているために、元の姿に戻りきらないまま静止してしまった。
時間が再び正常に回転しだして、その中に垣内はまた放り込まれた。

「福浦、大塚、黒木、お前らは俺をいいと言った。
 俺を肯定してしまった。
 そんなに、いとも簡単に」
何度も浮かぶ『悪』という言葉が彼らの映像の前をちらつく。
「本当にそうなのか…
 お前らは、俺の何を見てそういったんだ…?
 俺は、俺は…今、喜多を目の前にしたら堂々と胸を張れるってのか……?」
それも違う、と思った。喜多は自分をきっと恨んで死んだのだろうから。
少なくとも分かれたときのあの目は、殺意を溢れさせていたのだから。
何よりも、
「違う。俺が、俺がそれを誇ることはできない…
 だから、違う……」
喜多から武器を取り上げたときの、己の意志に満ちた姿はなんだったのか。
ぐるんぐるんと、そこから今までの記憶を壊れたビデオのように繰り返す。

「俺は、『悪』、なのか…?
 喜多を殺したやつ、そいつも喜多と同じ。人殺しは喜多だけじゃない」
248裁かれぬ男(2/2) ◆QkRJTXcpFI :05/02/04 00:31:02 ID:4q/BCL5M0
 ふらりと立ち上がる。じっとするのに耐えられなかった。
立ち上がると同時に前に体が傾く。だが前を見ない。
運良くというか、彼の胴ほどの太目の幹によりかかる。
「喜多は殺されて当然だったのか?
 だからといって喜多を殺したやつは許されるのか?
 誰が、それを裁く資格があるんだ?
 そうだ。俺のしたことが罪なのか、それも誰も裁いちゃくれない……」

 目の前の幹に当てられていた手の平に力が込められ、木の皮をぼろぼろに引き剥がす。
湿気を含んで表面はいくらか柔らかく、しかし中は乾いて締まっていた。
それを力任せに掻きむしる。爪の先が茶と赤のグラデーションを作る。
「裁く資格なんて、誰にあるんだ?
 福浦、お前は優しすぎる。お前のその無条件の寛容は、俺の罪を正面から捉えちゃくれない。
 黒木、お前は俺の話を聞いても、何も結論を言わず終い。きっとお前自身、決められないんだろう?
 大塚、お前は……お前はおそらく、誰か殺した……!」
力任せに木の幹を右拳の横で叩く。
地響きのあと、止んだはずの雨粒が大量に降り落とされる。
雨が止んでからの時間を越え、無数の木の葉から。それが自分のを責める気がして垣内は下を向いた。

「誰か、俺を裁いてくれよ!
 俺が欲しいのは簡単に手に入る肯定じゃない!
 ちゃんと聞いて欲しいんだ!俺のやったことを全て聞いて、俺の罪を裁くことのできるやつに」
人のせいにしていると分かっていた。彼らに会ったときに、喜多の名前すら言えなかった。
ちゃんと言わなかったのは自分だった。自分が何をしたか包み隠さず話すことをしなかった。
「でも、……『悪』にはなりたくない……怖いんだ。
 ほんとうに、その資格があるやつにそれを話したら、俺は……」
臆病さと怯えを自分の心にハッキリと見つけて、そのワガママさに嫌気が差した。
血のにじむほど、助けを求めている。そのくせにこれだ。
 許して欲しいのだろうか。許さないで欲しいのだろうか。
答えの出ないまま。ただ、会ってそれを聞きたい人間の顔は浮かんだ。
常に真摯に人の気持ちに向かい合い、なお己の心に問うて後、やさしく答えを出してくれる友を。
原井が既に死んでいることを思い出して、垣内は叫んだ。そこにある全ての木の葉をびしびしと揺らして。
249代打名無し@実況は実況板で:05/02/04 21:03:38 ID:QaQAVUcGO
保守。
250 ◆1Y1lUzrjV2 :05/02/04 22:28:09 ID:hK7v34Xe0
>>243
福…いや、禿しく同意。長期化すると同じ書き手さん達が継続
しづらいというのも納得です。自分は小宮山杉山を書ききりたい
のですが…あまり長期化してしまうと、◆QkRJTXcpFI氏と同じく
どうなるか解りませんので…。ここだけでなく打ち合わせ板でも
呼びかけた方がいいんでしょうかね?
走る、どこまでも走る。
そして、考える。
置き去りにしてしまった人の事ではなく、今の自分たちのことを。
あそこでの戦闘があっさり終結していることはあの銃声が教えてくれた。
だから今は、次のあいつの行動、それをとにかく考える
逃げた姿は見られている。だとすると、きっと平下は自分たちを追ってくるだろう。
そうだ、見かけによらず平下って足速いんだったよな。
それなら、どこかに身を隠してあいつをやり過ごすほうがいいのかもしれない。
幸いこの辺は路地も多く、隠れやすそうな民家がたくさん建ちならんでいる区画、
家の中に隠れてしまったら、さすがのあいつでも一軒一軒調べて回ったりしないだろう。
そう考えた瞬間、戸部はとにかく目についた民家に転がるように飛び込んだ。

なんで、自分はこんなにも冷静な判断をしているんだろうなぁ。
適当な部屋に座り込んで息を整えながら戸部は思った。
こんな狂ったゲームを生き抜くためにはそれが一番大切で一番必要なもの。
生きるためにはやむをえない、それは仕方が無いこと。
でも、今の自分はすごくいやな考えをしてる。
でもあそこに残ったからといってなにか出来たわけでもない。
どの考えが正しくて、どの考えが間違っているとか
そういったものは、きっとここには存在しない。
ただ、もう今はそうやって割り切るしかないんだ。
そのとき考えた行動をするしかないんだ。
自分に言い聞かせるように戸部はしっかりそう思いなおした。

でも、自分はそう割り切って考えているけれど、あいつはどうだろう。
なすすべもなく自分に引きずられるように一緒に逃げ出し、
今も同じ部屋の隅でへたりこんでいるユウゴーに戸部は視線を移した。
ユウゴーはずっとうつむいたままで、表情からなにかをうかがうことが出来ない。
二人のあいだにはずっとずっと重苦しい空気が蔓延している。
なにか言葉を発してそれをやわらげることも出来るかもしれないが
今は、そんなことをしたくはなかった。
戸部はぼんやりと窓の外を眺める。
雨は止み、青空ものぞいてきてはいるが、少し残された空気を湿らせる暗い雲が
世界を、自分たちをじいっと見下ろしていた。
「あの、」
うつむいたままだったが、ユウゴーが言葉を発した。
なんで見捨てたんだと責められる、罵られる。
そういう言葉が浴びせられるだろうと戸部は一瞬身を硬くする。
反論はしない。気が済むまで自分でよかったらいくらでも責めたらいい。
戸部は、ユウゴーの次の言葉を待った。
「俺、結構長い間、曽我部さんと一緒にいたんですよね」
ゆっくりと、低く、必死で絞り出しているような声だった。
「いや、べつにいままで仲が良かったわけとかじゃないんですよ。
ただ、ゲーム開始直後にたまたま、そう、たまたま倒れてる曽我部さん見つけて」
ユウゴーの口は休まらない。
「そしたら、まだ息があって。俺、人工呼吸なんかやったこと無かったけど
とにかく見よう見まねでやってみたら、そしたら、曽我部さん生き返って。
人工呼吸ですよ?ほんとによくやったなって思いますよ。
それからいままで、ずっと一緒に行動して、それで」
戸部はただ、うん、とかへぇ、とか小さな相槌を打つことしかできない。
「曽我部さん、なんだろ、なんでか俺に平下の話してくれましたよ。
阪神時代のときの話とか、それとか、ええと、殺されかけたのに
良いヤツだから、とか、こんな状況で混乱してるだけだ、とか
真面目だから考えすぎてるだけだろう、とか、えっと、他なんていってたんだろう。
だめだなぁ、覚えてないや。あんなにいろいろ話したのに」
ははっ、とユウゴーの口から乾いた笑いがもれた。
まだユウゴーは話し続けた。溢れ出しそうなものを言葉で押さえつけるかのように。
「曽我部さん、必ず帰って野球するんだって。絶対野球するんだって。
こんどこそちゃんと一軍にあがって、それで、それで、
バッティングをなんとかして、打点つけるんだって。
やっぱり一打点くらいつけないと格好つかないよなぁって笑って、
それで、それから・・・」
最後のほうの声は、かすれがちになって戸部の耳には届かなかった。
それでも、喉の奥でじわじわ広がるユウゴーの悲しみの嗚咽が
いまにも耳に飛び込んできそうで、戸部は思わずユウゴーから目をそらした。
自分を責めたほうがすこしでも楽になれるだろうに、
それなのにユウゴーはそんな言葉を浴びせたりはしなかった。
握り締められた二つの拳に、ぽたんとしずくが落ちる。
また訪れる暗くて深い沈黙。なすすべもなく、ただ戸部は窓の外を眺める。
自分たちの心とは裏腹に、空はぐんぐん晴れわたり、嫌味なほどの青さをそこに晒していた。


「戸部さん」
急に名を呼ばれ、窓から眼を離す。顔を上げたユウゴーが自分を見つめていた。
すこし赤くはれてはいたが、少し強さを取り戻した視線で戸部を見据えた。
「申し訳ないんですけど、ここで別れてもらえませんか」
思いもよらなかった急な提案に戸部の口はおもわずぽかんと開く。
「俺は、止めたいんです。止めようって約束したんです、曽我部さんと」
「平下を、か」
ユウゴーが大きく頷く。
「まだ、外野手はたくさん生き残っているんです。だから、なおさら止めなきゃいけない」
「でもお前、簡単に言うけどな、あんなの、止められると思うのかよ。
それに、お前一応内野手登録なんだから上手くいけばあいつに狙われないんだぞ。
だからそんな危ないことしなくても・・・」
それでもいいんです、とユウゴーはいう。
「あいつ、ああ見えて足速いんだぞ。逃げられないかもだぞ。危ないぞ。それでもいくのか?」
「はい」
「あいつ、ああ見えておまえと同い年だぞ。危ないぞ。それでもいくのか?」
それ、全く関係ないですよ、と言いながらユウゴーは少し頬をゆるめる。
それからまた、はい、それでも行きますと返事をかえす。
なにを言ってもこいつの考えは変わらない。なんとなく戸部はそう悟った。
「でも、別に俺と別れなくてもいいんじゃないのか?一人より二人だろ?」
ユウゴーは首を振る。
「俺は曽我部さんが取らなかった方法で平下を止めるかもしれません。
だから、戸部さんとここで別れたいんです」
「それは・・・殺すかもしれないってことか」
質問に対しての明確な返事はせずに、ユウゴーは話を続ける。
「とにかく、武器は絶対に必要だって思ってます。状況によっては使うでしょう。
だから、俺は武器の投下場所に向かいます。今一番危険な場所に」
戸部にはまだ理由がわからない。それならなおさら自分も一緒に行かなければ行けない。
おそらく平下なみにやる気を出してるやつがもうすでに集まっているかもしれない
そんな場所に一人で行かせることなんか出来るわけがない。
「曽我部さん、あんまり笑わなかったんです。ずっとずっとつらそうな顔してて」
でも、と、戸部の目をしっかりと見つめてユウゴーは話し続ける。
先程みたいにうつむき加減ではなく、押さえつけるためでもなく話を続ける。
「でも、戸部さんと会って、戸部さんが俺たちの周りの空気をやわらげてくれて、
曽我部さん、初めて笑ったんですよ。すごく楽しそうでした。
戸部さんをからかってすごく楽しそうにしてたんですよ」
「ってことはあれか、やっぱりからかってたのかお前らは」
「いや、そういう話をしてるんじゃないですってば。
戸部さんはこんな狂った状況にいるのに俺たちを和ませてくれたんですよ。だから、」
ふっとユウゴーの表情が真剣なものになる。
「他のやつらも和ませてやってほしいんです。戦いの場所になんか行かないでほしいんです。
狂いそうな状況から、みんなを救ってやって欲しいんです。
・・・俺が取ろうとしているのと違う方法で。お願いします」
ユウゴーは真っ直ぐに立ち上がり、そして、頭を下げた。
いきなりのユウゴーの行動に戸部の開いた口はますますふさがらなくなってしまった。
とりあえずあわてて頭を上げさせる。
「そんなこといって足手まといだからついてくんなとか言いたいんだろ?本当は」
「ちがいますよ」
「それにそんなこといわれても、俺なんにも出来ないぞ。それなのにいいのか」
「はい」
「いままでだってなんにもしてないぞ」
「はい、十分ですよそのままで」
「そのままっていわれても・・・ほんとうにそのまんまだぞ」
「はい」
「考え、変えないのか」
「はい」
「どうしても、一人で行きたいのか」
「はい」
「危なすぎる考えだって思わないのか」
「はい」
「絶対に一人がいいのか」
「はい」
「本っ当に変える気ないんだな、考え」
「はい」
「とかいってやっぱり邪魔なんだろ、俺が」
「はい」
「ってちょっとまてユウゴー」
「うわっ!違います違いますっ!」
つられただけですよ!と必死で反論するユウゴー。
おもわず二人とも顔を見合わせて少しだけ、笑う。
どれが正しいのかとか、どんな考えが間違ってるのかなんて
正直、もう今ではさっぱり解らない。
ただ解るのは、自分で考えて、自分の思ったことを行動すること。
それが、今出来うる最良の方法。
戸部は、もうユウゴーを止めようとは思わなかった。
「かたきをとろうとかあんまり危ないこと、考えなんよ。
やばくなったらとにかく逃げろ!
俺は、そうやってここまで生き延びたんだからな」
「はい。ありがとうございます」
どちらともなく手を伸ばし、かたく握手をする。
「また、会おうな」
返事のかわりのように、ユウゴーの手にさらに力が加わった。
「戸田さんもあぶないところにふらふら行かないでくださいよ。
放送とかもちゃんと聴いて禁止場所とかきっちり確認してくださいよ、戸塚さん」
「・・・いやだからさ、俺は・・・」
また、二人で顔を見合わせて笑った。
今度は少し声を立てて、長い間二人は笑った。

こんなに悲しいのに笑いがこみ上げてくる。
悲しみを覆い隠すために、ただどうしようもなく笑うしかない。
そんな切ない笑いがあることを、二人は今日初めて知った。

257 ◆Ph8X9eiRUw :05/02/05 03:02:59 ID:qv+Z87Eh0
>>243
自分も新規職人様に賛成です。
職人が少ないとどうしても動きが鈍る選手もいるわけだから
それを解消するためにも是非に。
そういう自分がいつも同じところばっか書いてて申し訳ないです orz
258代打名無し@実況は実況板で:05/02/05 03:05:08 ID:7u8BomyC0
>「とかいってやっぱり邪魔なんだろ、俺が」
>「はい」


ワラかされた、絶妙の間ですな。
堪能。
259代打名無し@実況は実況板で:05/02/05 10:07:39 ID:i4rqKxFR0
 
260代打名無し@実況は実況板で:05/02/05 15:25:29 ID:NIyXpMt00
保守
261代打名無し@実況は実況板で:05/02/05 20:40:39 ID:SQwMngVm0
ホッシャ
262代打名無し@実況は実況板で:05/02/05 23:44:01 ID:NIyXpMt00
ほしゅ。
263代打名無し@実況は実況板で:05/02/06 01:06:28 ID:NouazZS20
ほっちゃんアゲ
264戦場か惨状か 1 ◆prGJdss8WM :05/02/06 01:47:34 ID:NVNsj7+50
放送を聴いてから、今江の様子がおかしい。西岡はあえてそれを見ないふりをしていたけれど。
圧倒的に無言になっているのは隠しようがない。地図と、戦利品といっていいのかあのモニターを睨みながら、今江は固まっている。
嫌味なあの放送を聴いてからどれくらいになるだろうか。髪がすこし乾いてそれだけ、西岡はほっとしていた。
ぎゅうぎゅう絞ったけれどやっぱりユニフォームはまだまだ、じかに着れたものではない。
「ゴリさん」
呼んでみても聞いていない。この状況で、よくもそれだけ呆けられるものだと西岡は少し呆れている。
一つ間違えば命が無いのに、だ。俺が殺そうと思ったらあっさりこめかみぶち抜けるな、とまた思う。
「ゴリさんて。どないしたん」
もはや手に馴染んだポケットピストルをゆっくりズボンのベルトに挟んで、西岡は声を殺した。背は一応扉に預けてある。
「…考えてても始まらんよ。…多分戦場になる」
ここは市街地ど真ん中。

雨戸の立て付けの悪いこの家は、ど真ん中というには少し北東といったほうがいい。
入ったとたんかび臭い空気が鼻を突いて、ちょっと外したかと西岡は内心舌打ちした。
がたご、ごと、締め切った雨戸の隙間からすり抜けて、土足のまま畳を踏みつけた。平屋のその部屋の奥は山に面した裏手で、台所のようだ。
小さな窓からかろうじて自然光が入り込む。そのテーブルの上に地図と、あのモニターを並べて、今は彼が固まっている。
薄暗い中、改めて西岡はそのモニターの意味をかみ締める。百人力だ。
こっそりため息に似た安堵の吐息を漏らす。
相手の居場所がわかるだけで、こちらはほぼ無敵に近くなれる。卑怯な便利な黒い塊だ。
西岡が悪態をつきながらそのへんのタンスから代わりのシャツ(なるべく彩度のひくいやつ)を物色しているときに、あの放送が聞こえた。
それから今江は固まっている。たまに確認していないと、呼吸すら止まっているかもしれない。
265戦場か惨状か 2 ◆prGJdss8WM :05/02/06 01:49:03 ID:NVNsj7+50
西岡は立ち上がった。しゃがみこんでいた板張りの床がきゅっと言う。
必要ないとわかっていてももう無意識に足は摺り、気配を殺そうとしてしまう。
ここに来てまだ3日も経っていないのに、自分の順応度に少し嫌気がさした。俺はちょっと現実を、受け止めすぎるきらいがあるかもしれん。
締め切っていたせいか雨のせいか、触れる木材全てが黒く冷たい。
そのテーブルに手を着いて、背後から今江の視線を探る。

「西岡」
ぼそりごそり、重い声で今江はもぐもぐ、口を動かした。
モニターを見れば、半径数百メートルの範囲内に、赤い点が明らかに増えている。移動している。
ヤバイなと反射的に思う。それは直感だが、その直感にも西岡はやれやれと思う。
面倒なことになった、と思ったからだ。
あの放送は思ったよりも強烈に、生き残った人間に影響を与え始めたらしい。ざっと見ただけでも、この近辺の人口密度はどうだ。
その赤い点を全て、まずは敵だと認識してしまう自分がいる。それを倒すまでの過程を考えて、面倒だと直感で思う。
「ヤバイね」
しかしその西岡の呟きを、今江は別の意味で取ったようだ。
ぐっといかつい肩に力がこもって、むくむくと甦った。
「思ったより展開が早い」
「……。」
「みんな、ココ目指してるンやろな」
言って今江が広げたままの、地図の一点に指を滑らせる。薄ぼんやり見えるアルファベットと数字を確認しながら。

「Gの5か。近いな」
「西岡」
「なに」
「…俺、行く」
言うなりがたっと、今まで岩のように座り込んでいたその椅子から、今江は立ち上がる。
勢いとそれより感じる気配のようなものに圧され、西岡は思わずあとずさった。
「…え、行く?」
「止めに行く」
「何を!」
「みんなを」
「あほかッ」
266戦場か惨状か 3 ◆prGJdss8WM :05/02/06 01:50:22 ID:NVNsj7+50
「あんたが行ってどうなる?みんなこんなん止めよ、仲良く帰ろとか、言うつもりですか!?」
「…」
「見ぃや!そこの!みんな、殺したろ思て、助かろ思て、来てるンやで!?」
モニターを指差す。上ずりかけた声とその指が微かに震えているのが、自分でもわかった。
珍しいな、俺が取り乱してるなんて、そう意識の端っこで冷静に思う自分も感じた。
薄暗がりの中、まだ帽子も取らないままだった今江の表情はよくわからない。
「あんたが行っても何も変わらん!」
「変わらんでも、行かへんわけにはいかんねや!」
「死ぬっちゅーねん!!無駄死にやぞ」
「…無駄か」
「無駄や」
噛み付くようないくつかの応酬の中に、自分の苛立ちも感じる。アホかこの人。何がしたいねん。

止めたいという気持ちはわかる。止めに行かねばという焦りもわかる。
だがそれでどうなる。死んで終わりだ。
手段を講じる前にどうして動きたがる。どうして前を向きたがる。

「西岡…」
今江はちょっとうつむいたようだった。ふと振り向いて、ゆっくり傍らの荷物と、地図を拾う。
それから至近距離から手が伸びて、意外と優しい力で肩を押した。どけと言われている。
「俺、それでもいいと思てるんよ」
「…何が」
「無駄死にするやつが、ひとりくらい居てもええって」
「はッ?」
「無駄に、ボロボロに、めちゃくちゃに死んだら、誰か眼え覚ますかもしれんやろ」
「…その誰かって、誰や。誰や?おるって保証は!?」
「無い」
でも、言いながら今江は笑っているように見えた。歪んだ口元が落とす影を少しだけ、その顔に見た。
殺し合いだという現実をどこまでわかっているのかと、かっと頭に血が昇る。アホやこの人。
じくじく、もう乾いたのに耳の後ろからこめかみ辺りの皮膚と髪が疼く気がする。合わない視線で睨みつける。
267戦場か惨状か 4 ◆prGJdss8WM :05/02/06 01:51:55 ID:NVNsj7+50
「あんたの、その意味は…俺には、矛盾に聞こえますけどね」
「矛盾、か」
「あんたの目標は、みんなで帰ることやったんとちゃうんですか?投げ出すの?」
「…そうか、そうなるか。でもな」
「でも?」
「ひとりでも取りこぼすのは、俺には出来ひん。目の前で」
「…」
「消えたり、消えたり…見てられへん。それ我慢して、最後ハッピーエンドなんて、俺はゴメンや」

ぐいっと、おしのけられる肩が震えていたのを、今江は気付いただろうか。
一歩踏み出して背中合わせになったのに、そこで今江は止まった。一息吸い込む気配がした。

「西岡、死ぬなよ」
「…死ぬか」
「色々、頼む」
「何を」
「…色々な」
「一緒に来いってのは、言わへんのや」
「それは無理やな。先輩命令やとしても、言いたくないな」

みし、みしと一歩ずつ板の間を遠ざかる音がして、ご、ごっと重い何かを押しやる音。そしてやがて気配も余韻も完全に消えた。
しん、とした見捨てられた家の中は、思ったよりずっと失われたものに満ちていた。満ち満ちていた。
薄暗がりの天井を睨む。どろんと闇に溶けた四隅に不吉なものがへばりついているような気がしている。
ちかちか光るモニターの点だけが、視界で生きていた。かすかだが確かに生きていた。
畜生、と言った。呟いた。

俺は、それを我慢できるんや、と知っていた。

戦場でも惨状でも、その時一番必要なことと、必要なものが即座にわかる。
逆に言えば不要なものと不要なことを、あっさり捨てられる。見捨てられる。
生き残ろうとしたら、誰かを殺せる。どんな未来にだって突き進める。痛い。
268戦場か惨状か 5 ◆prGJdss8WM :05/02/06 01:53:14 ID:NVNsj7+50
「…くそったれ!!」
激情のまま拳でテーブルを突いても、その音の消し方と声の殺し方ももう無意識になっている。
俺は、俺は、呟きながら目を見開いてモニターを見た。中心の青い点からゆっくり一つ、今赤い点が外れた。
周囲のいくつかはまたもっと、近づいたようだ。そのときどこかで何か、弾けるようなそれでいて鈍いような音がした。
くぐもって板の間に吸収されたような音だった。銃声か。
惨状が始まっているのか。戦場まで転がり落ちるのか。くそったれ。
目はまだモニターにしがみついている。そして見つけた。

動いていない点がある。

こんなときに、こんなときなのに。

見捨てられたと思えば、哀しいことだ。道を分かつのは仕方なくても、羨ましいのにそちらへ行けないのはつらいことだ。
一緒に来いと言われたら、もしかしたら行ったかもしれない。俺はきっかけを、待ってたのかもしれん。
でも見捨てられた。そんなこんなときに。こんなときでさえわかる。生き残るのに異常な事態が。

右手の指で冷えた指で、そのモニタの表面を撫でた。中心の青い点と重なるような赤い一つは自分だ。
そこから今、数秒ごとに少しずつ移動しているのはきっと今江だろう。北から二つの塊が揺れ、西南に三つ、いや四つか、また動く点。
指先まで裂けるような気持ちで、モニタの横の、小さな出っ張りボタンを何度か押した。試せば背番号表示に切り替わるのを先ほど知った。
生き残った選手が集まろうとしているのはGの5だろう。物質投下があるというその場所だろう。
だから皆動いているのに、動かないこの人はなんだ。
エリアG-5のわずかに外側で、ずっと留まっているこの、小林雅英はなんだ。

どうして動かないかと考える前に、本能的にぞわぞわとその悪寒が身を駆け抜けた。
269戦場か惨状か 6 ◆prGJdss8WM :05/02/06 01:53:46 ID:NVNsj7+50
生き残るのに異常な事態を嗅ぎ分けたら、そしたらそのまま最悪の事態まで直結するこの脳が悔しい。
俺はとことんひねくれてるらしい。とことん誰も、チームメイトも疑ってかかる。もう。
川井のことなど何故今思い出す。どうしてそれが雅英の顔と結びつく。なんてひねくれた脳みそだ。
どうしてそこに、「もしかしたら」や「まさか」のためらいが一瞬でも含まれないのか。
「ええぃ、くそ、アホ、アホや俺もーッ!!」
こけつまろびつする勢いで、床にくしゃっとひねくれていた自分のユニフォームをリュックに突っ込んだ。
ばん!開き戸をあけてそこにある鞘ごとの果物ナイフも、未開封の油びんも、フォークでさえも、また突っ込む。

行くしかないやないか、俺が!
俺しか、その可能性を知らん!
270 ◆prGJdss8WM :05/02/06 01:55:40 ID:NVNsj7+50
久しぶりに投下させていただきました
ちょっと私事でどうにもならなくなっていまして、間が空きまくりですみませんorz
本当に色々と投げ出したままですみませんでした・・・
271アクシデント 1/3 ◆UpgPqRu.6s :05/02/06 03:27:06 ID:kxIZ6Tt60
来た時より幾分重くなったリュックとマシンガンを背負って、小林宏之は立ち上がり、壁のスイッチを反対側に倒した。
山崎健は先に小屋を出て、あ、と声を上げた。
「雨上がってるな」
宏之は小屋のドアを閉め、山崎の隣に立って空を見上げる。
「…これで少しは楽に動けそうですね」
それでも落ち葉は滑るだろうし、何しろ下り坂だ。
宏之はすっかり乾いたユニフォームの上に、濃い紺色のウィンドブレーカーを着ている。
山崎が見つけてきた物で、小屋を出る時は着るように彼は言った。
「ぱっと見、お前だって分からないからな」
この部屋の元の持ち主は身長183cmの宏之より体格がよかったらしく、
宏之にはかなり大きかったが、言われるままにそれを着た。
身体を動かす度にシャリシャリと音がする。
「行くか」
暗くなる前に辿り着きたいしな、山崎はそう続けて、出発する前に見当をつけておいた、細い道に分け入った。
宏之は帽子の上からフードを深く被って、山崎の後に続いた。

恐らくあの小屋の住人が使っていたであろう、その細い道はかなり歩きやすかった。
急な勾配には土を掘って横木を添えただけだが階段があり、ロープを張っただけの手すりも備えられている。
木立ちの間を縫うように、伸び放題になった雑草を踏み締めながらゆっくりと坂を降りていく。
気は焦る一方だが、ここで怪我をする訳にはいかなかった。
沈黙したまま、山崎の背中を追う。前を行く46がヘアピンのように細い角を曲がる度にどことなく不安な気分になる。
遠くから聞こえてきた爆発音。何度か聞こえたヘリのプロペラの音。
武器や物資を投下する、と山本エカ児が言っていたあの辺りからのものだろうか。
武器を、食料を、水を求めて、そして生き残る為に、誰かが殺しあっているのか。
自分達は幸いにも薬にも食料にも水にもありつけた。
──もう二度と使いたくはなかったが、武器は二人とも殺傷能力の高い銃を持っている。
鉄パイプを振りかぶり、襲い掛かってきたサブローの姿が脳裏を掠め、火照った背筋が一瞬で冷たくなった。
肩からかけたサブマシンガンのストラップを思わず握り締める。
272アクシデント 2/3 ◆UpgPqRu.6s :05/02/06 03:27:46 ID:kxIZ6Tt60

それでも、と宏之は思う。
山崎の言う通り、スタジアムに侵入する時には、これを使わざるを得ないだろう…

はっ、と気付くと、数歩前にあった筈の46が見えなくなっていた。
色々考えている内に、歩みが遅くなっていたらしい。
慌てて、細い道を下ろうとした時、10メートル程前方の木立の向こうで何かが滑り落ちる音と、
同時に山崎のうろたえたような高い声が聞こえた。
滑りやすい粘土質な土を、出来る限り急いで下る。
「…気を付けろ!」
足の下の方から山崎の声がした。
そばにあった木の幹に手をかけて、前進しようとする足を止め、声のした方を見た。
「大丈夫ですか!」
膝程まである雑草に隠れて見えなかったが、そこは3メートル程斜面が削り取られ、
その下に山崎が足首を抱えて自分の方を見上げていた。
「多分」
山崎が肩をそびやかすようにして答える。
宏之はその小さな崖を迂回できる斜面を探し出し、山崎の前に座り込んだ。
落ちた拍子に眼鏡が外れ、その上に落ちたらしく、すぐ近くにレンズが割れてしまったそれが落ちている。
「…腫れてきてますよ」
リュックから湿布を取り出しながら宏之は言った。
「…まずいな」
宏之の言う通り、腫れてきた足首を眺めながら山崎が呟いた。
その言葉の意味を、宏之は噛み締めた。
──この斜面で、この状況で、足が自由に動かない、という、この状態。
出来る限り迅速に、丁寧に、足首が動かないように包帯を巻きつけ、宏之は辺りを見回して、
杖になりそうな枝を見つけ出して山崎に渡した。
「立てますか?」
手を山崎の方に差し伸べて、杖を地面に突き立てて立ち上がろうとする山崎の手首を掴む。
どこか、身を隠せる所に。
とにかく、この山を下りなければならない。
273アクシデント 3/3 ◆UpgPqRu.6s :05/02/06 03:28:09 ID:kxIZ6Tt60
山崎に肩を貸し、宏之は幾分緩やかな斜面を探しながらゆっくりと歩いた。
「…すまん」
歩きながら、山崎が呟くように言った。
「昨日、助けてもらったんだからおあいこですよ」
宏之は歩みを止めないまま、視線を前方全面に巡らし、進むべき方向を決めた。
「ちょっとキツいかもしれませんよ」
言いながら、山崎の体を抱えるようにして斜面を下りる。


──そうだ。彼女の為にも必ず、こんな馬鹿げた事は止めなければならない。
宏之は知らず知らず、唇を噛み締めていた。

ふと気が付くと、木々は疎らになり、前方に子供の背丈ほどもある玉蜀黍の林が見えた。
あの丘を下りきったのに気付き、宏之は山崎をゆっくりと地面に座らせた。
「どこか屋根と壁がある所、探してきます」
山崎は頷いたが、よほど痛いのか、その顔は血の気が引き、酷く汗を掻いていた。
宏之はリュックから鎮痛剤を取り出して山崎に手渡す。
「すぐ戻ってきますから」
「…気を付けろよ」
「それは山崎さんも」
山崎が頷くのを見て、宏之は枯れかけた玉蜀黍の林の中に分け入った。
何度か振り返り、大きな木の幹に背中を預け、足を投げ出して座り込んでいる山崎の姿を確認したが、
5度目に振り返った時には玉蜀黍が視界を遮って見えなくなった。
274代打名無し@実況は実況板で:05/02/06 10:35:09 ID:NY8TygStO
ダブルでキターVv━(゚∀゚)━vV
職人さん乙です!!

275代打名無し@実況は実況板で:05/02/06 19:43:16 ID:dGTlQ4lh0
保守
276 ◆QkRJTXcpFI :05/02/06 20:07:39 ID:NvRTmkp40
>◆prGJdss8WMさん
お久しぶりです。乙です。
何やら大変だったようでそちらも乙です。

ちょっとお聞きしたいのですが今後は定期的に投下は可能でしょうか?
やむをえない事情はありますし、難しそうならもちろんそれで構いませんが。
(個人的には楽しみにしているので続けて欲しいですけど)
進行のバランス上お聞きしておきたく思いまして、打ち合わせ板でもよいので返信お願いします。
277周防:05/02/06 21:39:10 ID:lZm/7HXo0
>>職人さn 最高です!頑張って(0゚・∀・)
278代打名無し@実況は実況板で:05/02/07 15:42:00 ID:3d3xpMXI0
hoshu
「はい、CMBRの進行は滞りなく。山本の代わりはやはり彼で。では急いで向かわせます」
同じ内容を言いつけるために30分置きには鳴る電話。忙しそうに応対する瀬戸山がいた。
「余興の件はただ今準備をしておりまして、もうしばしお待ちを」
ガチャン。
「余興か……何にしようか。最も有能な管理職の名にかけて、上司の気に入るものを……」
「あの、代表。本社に呼んだ球団関係者ですが」
「あ?そんなのあったな。マー君なんか来るから忘れてたな。
 もっとも相手は手ごわそうだ。こんな見え見えの計略にかかるような奴でもあるまい。
 これは伏線でしかない。既に第二・第三までの計略を用意していてだな…」
「捕まえました」「は?」
「一人だけ説明会に来た上に、勝手に本社内部をあれこれかぎ回りだした奴がいましたので」
「…そうか」

〔丶`J´〕ノ◆<オッス、ブルコギ!李承■デス
 公式タンから連絡がありまセン。ベニーが落ち着かない様子で筋力の鍛錬をしていマス。
フランコはじっと腕を組んで、人差し指だけをパタパタ動かしていマス。
「オー、ヤリチン…」(訳:遅い…公式タンは何をやってるんだ)
そのときでしタ。公式タンから通信が入ったのデス!
[どうも。ロッテ本社の内偵に成功しました。現在は本社内部のある場所にいます]
フランコが即座に返信します。
「オー、ヤリチン?」(訳:首尾はどうなんだ?)
[どうやらロッテ本社の地下に秘密の運営管理室があるようです。
 私一人では突入できません。応援に来てくれませんか?
 受付係は買収しました。合言葉を言えば私のいる所まで案内してくれるでしょう]
「よし!さぁ、仲間、救う!行くぞ」
ベニーが大声をあげ手を叩きましタ。しかし私はなにか違和感を感じて、喜ぶことが困難でシタ。
何でしょウ?この違和感ハ? フランコがそんな私を見て発言しましタ。
「オー、ヤリチン!」(訳:お前も感じているか?話が上手すぎる。何か違和感もある。
 しかし、どのみちロッテ本社に入る足ががりにはなるし、選択の余地はないんだよ!)
「そうだね、行こう。でも、その受付係は信用できるのか?」
フランコがそれを聞いて返信しまス。
[はい、大丈夫です。信頼関係で行きましょう!]
「侵入者の自宅のパソコンからその仲間たちへの通信を行い、偽の情報を流しました」
「ふふふ、これで奴らの仲間も揃って本社行きだ。
 表向きは普通の会社だが、裏は要塞だからな。おい、本社への連絡は済んだか?」
「はい、既に本社にいるあの人には伝えておきました。
 しかし、せっかく捕まえた選手達が無駄になると文句を言っておりますが」
「姿を見ないと思ってたらそんなことしてたのか……待てよ……
 捕まえた選手……これは、余興になるかも知れん。くくく、さすが私はアイデアマンだ」
そう言って、瀬戸山はメガネの奥の瞳を細めた。
「私もロッテ本社に向かう。やることができた!」「は、はい!」
ネクタイを締めなおし、瀬戸山はさっそうと球団事務所を後にした。


 ドアが開く。廊下の向こうには彼らのよく知る男が立っている。
ダン・セラフィニはそいつに向かって激しく罵倒の言葉を浴びせた。
しかし手足を出しての攻撃は檻に阻まれ、届くことがない。
「ちょっと用事ができたのでね。君たちとはお別れだ。
 だが、その前に試しておきたいことがある。ヘイ!」
そう男が呼びかけると、入り口から黒服の男が数人入ってきた。
セラフィニの檻の前まで来ると、一斉に銃を構える。
「なんだこらぁっ!撃ってみろよ、この@щ×どもが!」
パァンという音とともに、針がセラフィニの体に数本刺さる。
「く…あ?なんだこりゃ?」
そう不思議がってから間をおかず、セラフィニはその場に崩れ落ちた。
「麻酔が効いているうちに運び出しなさい」
指示に従い運び出されるセラフィニ。
その光景を、両隣の外国人たちは無言で見つめることしかできなかった。

セラフィニが目を開けると、体が椅子にきつく縛り付けられている。
すぐにもがいて外そうとしたが、体は全く動かない。何故か頭が重たくクラクラしている。
湿気の溜まった西武ドームをセラフィニは思い出した。ふと、目の前がチカチカと光る。
不思議に思い、ぼんやりとそちらに目を向けた。黒い影がその手前にある。
「さぁ、はじめようかサーフ。これから君を洗脳する」
281 ◆CpgsCDAZJ6 :05/02/07 19:00:13 ID:TG9/JQXn0
【同士3名  ※■は火へんに華】


すいません↑忘れてました。
282代打名無し@実況は実況板で:05/02/07 20:30:20 ID:CdgSREs30
新作乙です!!
サーフ・・・・((゚д゚))
283代打名無し@実況は実況板で:05/02/07 21:48:11 ID:Jd0dA2Dw0
信頼関係で行きましょう ワロタ
284代打名無し@実況は実況板で:05/02/08 07:07:20 ID:lZD7eymO0
薮田様おはよう保守
285代打名無し@実況は実況板で:05/02/08 12:01:36 ID:fx1N4ROz0
ほっしゅほっしゅ
286疑えばきりがない(1/2) ◆vWptZvc5L. :05/02/08 16:34:19 ID:RU+KljR00
小野晋吾は川沿いで遅めの昼食をとり終え、今後の展望を考えていた。
地図を広げてじっと見つめる。気になるのはこの地図の中央にあるスタジアム。
何でここを禁止エリアにしないんだろう。
こんなゲームやってられないと思って、反乱を起こす奴もいるだろう。
自分だってまともな武器を持ってたら、それに加わったかもしれない。
向こうだってそれくらい予想しているはずだ。なのに何だ、この禁止エリアの配置は。
さっさとそこを禁止エリアにしてしまえば、中にいる山本達の安全は保障されるのに。
まるで誰かが来るのを待ち構えるように、丸1日たっても禁止エリアにならない。
おいでおいで、と誘いかけているようでどこか不気味だ。
誰かが侵入してきても構わないと思っているのか。
むしろ反乱が起きることさえ「ゲーム」の一環として楽しんでいるのかもしれない。

これは挑発か。来れるもんなら来て見ろと俺たちを馬鹿にしているのか。
それとも自信か。誰かが攻撃してきても、軽くかわせる自信があるのか。
それとも罠か。ここには実は何もなくて、何処か別の場所に拠点があるのか。
発信機を持った人間が出入りできるように、わざとそうしてあるのか。
監督やコーチ陣も発信機を持っているのか。いや、争う必要のない人間が持つなんておかしい。
やっぱり誰か選手が出入りできるように…?

「うーん、考えすぎか」
でも、一番最後の禁止エリアはこのスタジアムのある所かもしれない、となんとなく思った。
もっとも、そんな先まで自分が生きているかどうかもわからないのだが。
「案外、俺が深読みしすぎなだけで、くじで適当に決めてたりして…」
自嘲気味にそうつぶやきながら、水を飲もうとしてはっとその手が止まる。
287疑えばきりがない(2/2) ◆vWptZvc5L. :05/02/08 16:35:07 ID:RU+KljR00
そうだ、今まで思わなかったけど、この水や食料は安心して口にしていいものなのか?
怪しいのは何も投下される物資だけじゃない。
自分が持っているものは、言わば敵から与えられたもの。
何かが混じっていても不思議じゃない。
今のところは何ともないが、もし遅効性の毒や重金属でも入っていれば終わりだ。
「えぇい、今さら遅いっ!」
半ばヤケクソでそのまま水を飲んだ。
もう何を信じていいのか、どこまで信じていいのかわからない。
具体的な行動が思いつかないから、疑うことしかできない。
疑いが無数の虫となって、自分の体を這いのぼってくる。

「やっぱ、じっとしてると変なこと考えてダメだな。少し歩くか」
ペットボトルをリュックにしまい、立ち上がる。
雨で水かさの増した川は泥水となってよどんでいるが、
それでも渡れない深さではないので、流れに足をとられないように慎重に渡る。

遠目に、力なく木にもたれかかった白い影が見える。
(また死体か?)
とっさにそう思っって身を固くしたが、少し様子が違う。
深めにかぶったキャップのせいで顔はわからないが、わずかに見える頬が赤いような気がする。
(寝てる?こんな昼間に外で?起こしてみてやる気の人間だったらマズイな。
 とりあえず誰なのか確認だけして、それからどうするか考えよう)

晋吾はその人影に向かって、そっと近づいていった。
288代打名無し@実況は実況板で:05/02/08 21:37:04 ID:34KFxT+l0
289奪取 1/4 ◆UpgPqRu.6s :05/02/08 21:57:12 ID:YdvBoCWw0
不機嫌に足元の雑草を蹴散らしながら、金澤岳は行くあてもなく歩いていた。
とにかく武器だ。できれば銃がいい。ダメならナイフでも。
視界の左端を木々ではないものが遮って、金澤は足を止めた。
地図を引っ張り出して、場所を確認する。
登るには苦労しそうな小山が左手にあり、もう少し進めば、右側は広大な畑になるらしい。
畑になら、農作業用の鍬なり釜なり、何かあるかもしれない。
そのまま少し歩くと、細い獣道を誰かが下りてくるのが見えた。二人組だ。
遠すぎて誰だかはわからない。一人は足を明らかに引きずっていて、もう一人がそれに肩を貸している。
肩を貸している方は、白いユニフォーム姿ではなく、黒に近い紺色の何かを着ている。
誰だ。選手か。それとも運営陣の誰かか?
ゆっくりと近付きながら、様子を窺う。
山を下り切った所で、足を引きずっていた方を置いて、紺色の方が畑の中に飛び出していった。
その頃になって、ようやく金澤は足を引きずっていた方が誰なのか認識した。
46、山崎健だ。こんな時に、怪我をするなんてバカだ、と思いながら、
物音を立てないようにそっと近付いていく。
連れは誰だったのだろう。ひょろりとした手足の長い、あのシルエットは見覚えがないわけでもなかったが、
その男は今朝、死亡したと放送があったはずだ。
じゃあ誰だ。フードのついた服を着て、そのフードを目深に被っていた(ように見えた)あの男は。

もう、顔が識別できるくらいの距離まで近付いていた。
ことさら気配を消す事に集中し、沿道の木々に紛れ込むようにして近付く。
連れはまだ帰って来ていない、急ぐんだ。帰って来ないかも知れないが、とにかく急がないと。

山崎は最初に見かけた直後に何か飲んだ後は、背後の木に背中を預けてじっと動かない。
あと10メートル、9メートル、…
目を閉じて何かに耐えるようにしていた山崎が不意に目を開けてこちらの方を見た。
大丈夫、姿は見られていない筈だ。
ポケットの中からスタンロッドを取り出して握り締める。
暫く山崎はこちらの方を凝視していたが、やがて顔を戻し、それから思い出したように腰に手をやった。

290奪取 2/4 ◆UpgPqRu.6s :05/02/08 21:57:36 ID:YdvBoCWw0
「……!」

ベルトに挟んであったそれは、金澤が今一番欲しい物だった。
黒光りする、そんなには大きくない、それでもそれは銃だった。
思わず唾を飲み込んだのが山崎に聞こえたかもしれなかった。
山崎はその小型の銃の安全装置を外し、座り込んだままそれを両手で構えた。

一気に飛びつける距離はどれくらいだ。
3メートルか、2メートルか。
金澤は慎重にも慎重を重ね、ジリジリと更に山崎に近付く。
横から行った方がいいのか、後ろに回った方がいいのか。

──その時、強い風が吹いて、畑の玉蜀黍がザァッと音を立てた。
その音に紛れて、金澤は走り、スタンロッドを振り上げた。
風に煽られて飛ばされそうになった帽子を押さえようとして、山崎の片手が一瞬、拳銃から離れる。


盗塁を刺す時のように正確に。
銃を構えた山崎の手首を狙う。


「な…ん…っ…!」

意図した通りの場所にスタンロッドが打ち込まれ、山崎は銃を取り溢しそうになった、が、何とか持ち堪え、反動で指がトリガーを引いた。

────パァンッ!

乾いた銃声が耳を劈く。鼓膜が破れたかと思うほどの大音量で。
放たれた銃弾は金澤の足元を掠め、そのまま地面を数十センチ抉り取っていく。

291奪取 3/4 ◆UpgPqRu.6s :05/02/08 21:57:57 ID:YdvBoCWw0
発砲の反動で山崎の体が跳ね、同時に、金澤の腕が再び振り下ろされる。
今度こそ、山崎の手からその小さな拳銃が離れる。
立ち上がろうとしたところを片手で往なすだけで、相手は押した方向に倒れ込む。

急げ。
さっきの銃声を聞きつけて連れが帰ってくるかもしれない。
さっき別れたあの二人がやってくるかもしれない。
地面に転がった拳銃を拾い上げる、無事な方の足を蹴り上げてくるのを難なくかかわす。
金澤の手に、それはまるで体の一部のようにすぐに馴染んだ。

息がかかるほど近付いて、心臓の上に銃口を押し当てる。
山崎は諦めたように、体の力を抜いて両手を軽く上げた。

「山崎さん、」
頬が紅潮してくるのが自分でわかるほど、金澤は興奮していた。
「もう、誰か殺しました?」
山崎は黙ったまま首を横に振る。
「…じゃあ、さっき一緒にいたのは誰ですか?」
その質問を聞いて、山崎は口許に薄い笑みを浮かべた。
「何が可笑しい!」
一回り歳の違う、その若い捕手の顔をまじまじと見つめながら、山崎は呟くように言った。
「…大成功だったな」
───それに、近付いてくれたおかげで、お前の顔もよく見えるよ。
「何が!」
金澤は苛立ち、銃口を更に押し付ける。
「俺は、一緒にいた奴を信じている。きっとこんなバカな事を止めてくれるってな。
 だから、こんなバカな事をやってるお前には教えられんな」

傍目から見ても分かるほど、金澤の眉と目が釣りあがる。
───またか。どうしてこいつらはまだこんな事をほざけるんだ。

292奪取 4/4 ◆UpgPqRu.6s :05/02/08 21:58:21 ID:YdvBoCWw0
「さっさと殺せよ」
山崎はそれを見て、そう呟いて、目を閉じた。
───宏之、お前は生き残れよ。あの可愛い嫁さんの為にも。


左胸の、『M』のワッペンの辺り。
力の限り、銃口を押し付けて、金澤はトリガーを引いた。

───銃声と、衝撃と、少しの血飛沫。

山崎は金澤とは反対の方向に飛ばされ、太い幹の広葉樹に背中をぶつけ、そのまま地面にくずおれた。
動かなくなったその体にそのまま何発か銃弾を撃ち込み、金澤はようやく銃を下ろした。
木の根元に無造作に置かれたリュックを引っつかみ、紺色が消えたのとは別の方向に駆け出した。

畜生、畜生、畜生、畜生、畜生、

口の中で何度も呟きながら、金澤はただひたすら走った。
───あの紺色が誰でも、次に見つけた時には必ず殺してやる。

【46山崎健× 残り27名】
293代打名無し@実況は実況板で:05/02/08 22:01:52 ID:wGVHnPRCO
うわ、ヤマケン…・゚・(ノД`)・゚・
294代打名無し@実況は実況板で:05/02/08 22:02:20 ID:wGVHnPRCO
しかもageてしまった_| ̄|◯
295代打名無し@実況は実況板で:05/02/09 02:20:30 ID:1dtKFNha0
保守
296代打名無し@実況は実況板で:05/02/09 02:32:17 ID:nYPHPfOK0
宏之は大丈夫なのか保守
297代打名無し@実況は実況板で:05/02/09 15:23:58 ID:ZKa6rWxpO
保守
298代打名無し@実況は実況板で:05/02/09 18:16:42 ID:IckRHEK1O
青松
299代打名無し@実況は実況板で:05/02/10 02:50:02 ID:F4sM64kBO
保守保守
300代打名無し@実況は実況板で:05/02/10 11:35:26 ID:eND1luUq0
保守
301代打名無し@実況は実況板で:05/02/10 15:24:15 ID:ulsdBHPhO
保守山捕手
302周防:05/02/10 17:24:52 ID:cLwoQ7uu0
ヤマケン。゜゜(´□`。)°゜。
303代打名無し@実況は実況板で:05/02/10 23:54:18 ID:B7yhxYe60
捕手
304代打名無し@実況は実況板で:05/02/11 01:32:05 ID:BxW/1oir0
一応書いておくけど、即死判定(50レス)を越えたらn日(60日)を
過ぎるまでは保守しなくてもDAT落ちはないですよ。
つまりこのスレなら、三月初旬までは落ちませんよ。
スレ数上限に引っかかることは現状まずありえないし。

川井の話から久しぶりに来たら、ええ?
モロ、曽我部、そしてヤマケン・・・
将や浅間や垣内の孤独組もいっぱいいっぱいになってるし・・・
埋葬してあげたい。頑張ってきた人たち、みんなを。
305代打名無し@実況は実況板で:05/02/11 03:14:44 ID:Goz3S6YT0
でも保守
306 ◆CpgsCDAZJ6 :05/02/11 19:56:12 ID:f52eRLDm0
えーと、垣内の話234章「裁かれぬ男」で
原井が死んだのは放送後だから垣内が知ってるわけないというご指摘をいただきました。
やっちまいました。お詫びいたします。以下途中から修正版です。


---
「誰か、俺を裁いてくれよ!
 俺が欲しいのは簡単に手に入る肯定じゃない!
 ちゃんと聞いて欲しいんだ!俺のやったことを全て聞いて、俺の罪を裁くことのできるやつに」
人のせいにしていると分かっていた。彼らに会ったときに、喜多の名前すら言えなかった。
ちゃんと言わなかったのは自分だった。自分が何をしたか包み隠さず話すことをしなかった。
「でも、……『悪』にはなりたくない……怖いんだ。
 ほんとうに、その資格があるやつにそれを話したら、俺は……」
臆病さと怯えを自分の心にハッキリと見つけて、そのワガママさに嫌気が差した。
血のにじむほど、助けを求めている。そのくせにこれだ。
 許して欲しいのだろうか。許さないで欲しいのだろうか。
答えの出ないまま。ただ、会ってそれを聞きたい人間の顔は浮かんだ。
常に真摯に人の気持ちに向かい合い、なお己の心に問うて後、やさしく答えを出してくれる友を。

「原井……お前なら答えてくれるか?」
誰かの手で死ぬくらいなら、垣内に殺して欲しいと言っていた彼だ。
人を殺めることもしていまい。そして何かの答えを見つめているはずだ。
資格があるとしたら彼ではないか。会いたくなった。そして同時に会いたくなくなった。
 誰よりも原井のことは信頼しているのだ。
だからこそ、もし彼が自分に背を向けてしまったら…誰も許してはくれなくなるのだ。
会いたい、けれど会いたくない。心配する気持ちはこんなにも強いのに。
こんなにも、こんなにも自分の中に、自分を守りたい気持ちが沸き上がるのかと恐怖を覚える。
 垣内の心の中、ゆらゆらと飛び交う帯は絡まって解けない。
力任せに解こうと、垣内は声を張り上げて叫んだ。
そこにある全ての木の葉をびしびしと揺らして、声はこだまし続けた。
307 ◆QkRJTXcpFI :05/02/11 19:57:41 ID:f52eRLDm0
おーっと、トリップ微妙に間違えてました。失礼。
308代打名無し@実況は実況板で:05/02/12 00:35:29 ID:eTazcH+CO
乙です保守
309代打名無し@実況は実況板で:05/02/12 01:59:15 ID:cMGyeb1M0
もっぺん保守
310Childhood's End 1/4 ◆UpgPqRu.6s :05/02/12 02:18:14 ID:18twHyK90
あの、山の頂上にあった小屋よりも粗末なその小屋は、山を下りてきた所から、真っ直ぐ南に200メートルほど先にあった。
この小屋を境にして、玉蜀黍の畑は途切れ、その向こうは刈り取りもされていない、元は水田のようだった。
広さは二坪もあればいい方だろう。駐車場のように、半分はこちら側の壁はなく、そこにトラクターが置いてある。
穴の空きかけたドアを引いてみると、錆びついた蝶番がギギッと鳴った。
薄明るい中は、様々な道具が整然と並べられていて、小林宏之はこの小屋が、先程まで自分達がいた小屋と同じ持ち主である事を確信する。
少し片付ければ、人が一人くらいは横になれそうだった。
南側の壁の、天井に近い所にある小さな窓から、やっと顔をのぞかせた秋の太陽の光が差し込んでくる。
片隅に、青いビニールシートが積み上げてある。あれを下に何枚か敷けば、布団の代わりになるかもしれない。

そこまで考えた時、強い風が吹いて、ウィンドブレイカーのフードが外れかけた。
玉蜀黍の葉が触れ合って、ザァッと音を立てる。
慌てて手で押さえつけたのと同時に、聞こえてはいけない音が聞こえた。

────パァンッ!

血の気が引く音が聞こえるような気がした。
振り返っても、玉蜀黍の林が見えるだけ。
後ろ手にドアを閉め、走りながらリュックを肩にかけ直し、マシンガンのストラップは肩から外す。
マシンガンを両手で抱え、安全装置を外す。
その長い銃身で背の高い茎と葉を掻き分けながら全力で走る。

酸素を求めて、肺が悲鳴を上げ、喉がひゅう、と鳴った。
それでも宏之は走り続ける。
──もう少し行けば、視界が広がる筈だ。

そして。

何度か続けて、銃声が聞こえた。


311Childhood's End 2/4 ◆UpgPqRu.6s :05/02/12 02:19:12 ID:18twHyK90
膝がわなわなと震え、走り続ける事を拒否する。
感情は走り続ける事を要求し、宏之は翻筋斗打って地面に倒れ込んだ。
周りの玉蜀黍が巻き添えになって、自分と同じように地面に座り込む。

「…ってぇ…」
体を起こし、荒い息を吐きながら前方を見据えると、白いユニフォームが二つ見えた。
一つはこちらを向いて、あちこち血に塗れている。
もう一つは────誰だ。…誰だ?

もう一人の手の中にある黒いものから、煙が立ち昇っているのが見える。
宏之の目はそれに釘付けになった。
あれは山崎が持っていた銃じゃないのか?
一瞬遅れて、そのユニフォームの背番号が見えた。

62。

立ち上がろうとした足を、玉蜀黍の茎が引き止める。
振り解いている間に、62は山崎が持っていたリュックを掴んで東の方に走っていった。

──62という数字だけが脳裏に強く焼き付く。真っ暗な部屋に差し込む稲妻のように。
それが誰なのか、それは宏之の思考から完全に零れ落ち、ただ、憎むべきものとして記憶の一番手前の引き出しにしまい込まれた。

「…ち…くしょ…」
やっとの思いで、玉蜀黍の引き止めを振り払い、立ち上がる。
リュックとマシンガンを引き摺るようにして、赤く染まったユニフォームの方へ、一歩ずつ足を進める。
近付けば近付くほど、受け止めたくない事実を突きつけられる。
左胸の、“M”の字の辺りが一番酷く、赤い。

あの時、考え事などせずに彼の後を歩いておけば。
あのまま、一緒にあの小屋まで行っておけば。

312Childhood's End 3/4 ◆UpgPqRu.6s :05/02/12 02:20:02 ID:18twHyK90
徐々に涙で視界がぼやけてくる。

最後に見た時と同じ場所で、山崎健はもう動かなくなっていた。
闇雲に撃たれたように、体中に銃創があった。
目を見開いて、有り得ない方向に傾けた首だけを木の幹に預けて、まるでその目は、もうそこにはいない敵を見据えるように。
その亡骸のすぐそばに力なく座り込んで、宏之は何度も目元を拭った。

「……っう…くっ……」

拭っても拭っても、涙は止まらなかった。
焼け付くように熱い喉から、抑え切れずに嗚咽が漏れた。


どれ位の時間、そうしていたのだろう。鉄錆の匂いに鼻が馴れた頃、ようやく宏之は身動ぎした。
ずっしりと重みを感じる冷たい体を抱き起こし、地面に横たえる。
乾きかけた、“M”の字の上の血が、自分の涙でまた少し広がった。

見開いたままの瞼をそっと閉じ、胸の上で手を組み合わせる。
木の向こう側に落ちていた帽子を拾い、その手の上に乗せる。
地面の上に正座し、フードを外し、帽子を脱いで手を合わせた。

他に。
他に出来る事はないのか。

周囲を見渡して、宏之は半分地中に隠れている銃弾を見つけた。
爆発するかも、とか、そんな事は考えなかった。
それを拾い上げ、ポケットの携帯電話の隣に滑り込ませる。
あの小屋にあったビニールシートを持って来よう、そう思って踏み出した足元に、
赤褐色の潰れた小さい箱が落ちているのに気付いた。
拾い上げて、それが、最後に別れた時に彼に渡した鎮痛剤の箱だと気付いた。
元は紺と白のコントラストだったその箱は、彼の血でくすんだ赤茶色に変わっていた。
313Childhood's End 4/4 ◆UpgPqRu.6s :05/02/12 02:20:27 ID:18twHyK90
思わずそれを握り締め、震える拳を額に当て、叫び出したくなる程の激情を押し流す。

───行こう。彼が行こうとしていた所へ。

宏之はもう一度、山崎の傍らに座り込み、静かに合掌した。
「こんな事しか出来なくてすみません」
でも、きっと。山崎さんがしたかった事はやり遂げます。
───たとえそれで、死んでしまっても。誰かを殺める事になったとしても。

立ち上がり、リュックとマシンガンを拾い上げる。
更に潰れてしまった鎮痛剤の箱はそのままリュックに入れた。
帽子を被り、ウィンドブレーカーのフードをその上から目深に被る。

歩き出そうとした時、背後から誰かが呼んでいるような錯覚を覚え、宏之は一度、振り返った。
山崎の亡骸だけがそこにあった───宏之は再び、黄色い林の中に分け入った。

『生きろ』

山崎の声が聞こえたような気がした。
小さく頷いて、宏之は歩き続けた。

この静かに湧き上がってくる怒りは───62に対するものか、それとも別のものかは、まだ宏之には分からなかった。
314代打名無し@実況は実況板で:05/02/12 02:50:16 ID:suoBodjk0
ひろゆきー(つД`)

毎回職人さんの考えるタイトルが楽しみです。
315代打名無し@実況は実況板で:05/02/12 07:37:48 ID:WCFP8cn9O
ひろガンガレ〜。゚゚(´д`)゚゚。
316代打名無し@実況は実況板で:05/02/12 11:03:08 ID:NMbbd1qsO
宏之がんがれ〜
317代打名無し@実況は実況板で:05/02/12 17:17:59 ID:eTazcH+CO
宏之頑張れ保守
318代打名無し@実況は実況板で :05/02/12 23:28:29 ID:dsc1c4TB0
ひろゆき書いてる職人さん、乙です。
申し訳ないんだけど、玉蜀黍とか翻筋斗打ってとか、ぱっと見で読めない漢字には
ふりがなつけるか平仮名で書いてほしいかも…。
とうもろこしは字面上仕方ないにしても、「もんどり打って」は平仮名でもいいような気がするので。
注文つけてスマソ。これからも期待してます。
319 ◆1Y1lUzrjV2 :05/02/13 01:32:54 ID:BZi17jpF0
雨がやんでから数分、小宮山は黙っていた。
 杉山は雨がやみ次第行動すると考えていたので、この行動を
謎に感じていた。
 考えがまとまらないのであろうか?
 それとも?
 「行くか」
 急に発せられた声に、ビックリする。小宮山が立ち上がり、荷物を
手に取る。杉山も慌てて立ち上がった。
 「行くんですね」
 「ああ。…とりあえず、仲間を探すしかない。ところで杉山」
 「はい?」
 「本当に、行くか?」
 「え?」
 小宮山の言葉が意外なものであったため、杉山はろくな反応が
できなかった。ポカンと口を開けたまま、小宮山を見る。
 「さっき俺が言ったようなことをするとなると、道具もそうだが
人も必要になる。…正直、勝算があるわけじゃない。でも、やる。
勝算があるとは言い切れないってことは、死ぬかもしれない」
 『死』という直接的な言葉は杉山をどきりとさせた。
 
320 ◆1Y1lUzrjV2 :05/02/13 01:43:08 ID:BZi17jpF0
 「で、でも」
 「一緒に行動しているとはいえ、俺の考えでお前を危険なことに
巻き込みたくない。だからここでお前の意志を問いたい。俺は今
言った。道具と仲間が必要だと。道具は手持ちのものと―…まあ、
民家で探すことにする。仲間を今から探す」
 小宮山の言いたいことが、何となくだが杉山には理解できた。
 一個人を尊重するとでも言いたいのだろう。マウンドに野手が
集まるのを好まなかった小宮山らしい考えではあった。
 「そうですか…」
 杉山はうなだれた。自分は必要とされていないのか、と思った。
 ここで行くか否か聞かれるということを「俺はどっちでもいい」と
杉山は受け止めた。小宮山は自分が一緒でなくても、一緒でも、結局
どちらでもいいのだと。いや、こういうことを改めて聞かれるってことは
足手まといになってるからだろう、とどこまでも後ろ向きな考えに
陥ってしまった。
 「…ぎやま?」
 「え、あ、ハイ!」
 慌てて返事をする。きっと何回も呼ばれていたのだろう。
 「仲間を今から探すんだが―…まずは身近なお前からだ。もし
良ければ、俺と一緒に来てくれ」
 「え…?」
321 ◆1Y1lUzrjV2 :05/02/13 01:52:05 ID:BZi17jpF0
 「さっき言っただろ。聞いてなかったのか? 仲間を探すって。
お前の意志を問いたいとも言っただろう…長いこと考え事してたのって、
そのことじゃなかったのか?」
 小宮山はやれやれといった感じで言った。
 「小宮山さん…」
 瞬間、視界がぼやけてきた。
 「お前は信頼できるチームメイトだ。巻き込んでしまうかも
しれないが、こんな馬鹿げたことをやめさせるために、協力して
欲しい」
 小宮山の言葉も、今の杉山にはぼやけてしか聞こえていなかった。
 
 ああ、俺は必要とされているんだ。
 この殺人ゲームの中で、残った良心に。
 俺は、俺は、いらない人間じゃない。
 俺は、今、生きている。
 泣いてる? 嬉しいから? 信頼できるって、小宮山さんに
言われたから?
 泣いている…なんで?
 
 生きているから! 生きているから!

 歓喜のあまり、杉山の思考はいろんな方向へ飛んでいた。

 しかしその思考を、銃声が遮断した。
 「ここから近いぞ?!」
 小宮山の緊張した声が、今度はやけにはっきりと聞こえた。
322 ◆1Y1lUzrjV2 :05/02/13 02:05:32 ID:BZi17jpF0
 タイトル忘れてました。久々の投下でボケまくったな自分…orz
 「自由意志」でお願いします。
 
323代打名無し@実況は実況板で:05/02/13 05:14:16 ID:nEGIwhiFO
>>319
改行が変なのが気になります・・・
324代打名無し@実況は実況板で:05/02/13 19:30:11 ID:5Mut4X3l0
職人さんいつも乙&GJですホシュ
325代打名無し@実況は実況板で:05/02/13 19:47:12 ID:ZNwKagcL0
捕手、がんばれ!
326 ◆1Y1lUzrjV2 :05/02/13 21:22:03 ID:LaK16nk80
>>323
変な改行ですねホントに
どこまでボケてんだ自分…orz
次から気を付けます
327代打名無し@実況は実況板で:05/02/14 13:00:58 ID:eAAfJcRAO
保守はげ
328代打名無し@実況は実況板で:05/02/14 21:58:34 ID:HNW7q/ojO
もういったょ保守
329代打名無し@実況は実況板で:05/02/14 22:00:59 ID:hTJT5Ckm0
>>318
玉蜀黍が漢字なら翻筋斗打つも漢字じゃないと字面的に変
このままで全然おkだと思う
読めない漢字は辞書引くし
職人さんは気にせずこのまま続けちゃってください
330代打名無し@実況は実況板で:05/02/15 00:20:14 ID:Xf8jjY7oO
ほしゅほしゅ
331周防:05/02/15 00:27:06 ID:FvzLDNlQ0
なんかPCの前で一人宏之コールをしてる俺・・・( ´,_ゝ`)プッ
でも宏之頑張れ!
332代打名無し@実況は実況板で:05/02/15 12:00:10 ID:i+GBVV7f0
>>329
> 玉蜀黍が漢字なら翻筋斗打つも漢字じゃないと字面的に変

そんなことないと思うけどな。
せっかく書いてもらってるのに注文付けて申し訳ないけど、状況が分か
らないと楽しめない場合もあるし、あまりに一般的じゃないのは読み書
くなりしていただけると有り難い。
333代打名無し@実況は実況板で:05/02/15 19:19:16 ID:ifrVcJglO
新作期待age
334代打名無し@実況は実況板で:05/02/15 23:32:08 ID:zM1AXeYo0
読み方書くんなら平仮名で書いても一緒だろ。
楽しめないんなら読まなくてもいいんでない?

しかし『翻筋斗打つ』くらい読めるだろ、普通に考えて。
『玉蜀黍』は最初読めなかったけど。
335代打名無し@実況は実況板で:05/02/16 01:47:39 ID:f55jevVQ0
せっかくだから意見があったらこちらで

各球団のバトルロワイアルスレを見守るスレ3
ttp://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1105704084/
336代打名無し@実況は実況板で:05/02/16 01:51:53 ID:PoBZi5HlO

>楽しめないなら読まなくていいんでない??

同感。

てか、書いてもらって楽しませてもらってんだから、書き手にいちいち(しかも漢字の一つや二つで)文句言うなよ。
書き手側だってんなこと言われたら嫌な思いするし、下手したら書きたくなくなるだろー(`ε´)
337代打名無し@実況は実況板で:05/02/16 18:35:36 ID:JXQcJL1O0
保守
338代打名無し@実況は実況板で:05/02/17 02:37:33 ID:HBTDY23k0
保守
339代打名無し@実況は実況板で:05/02/17 10:26:17 ID:xW5CxAcI0
ほしゅ(*・w・)ナカムラサーン
340代打名無し@実況は実況板で:05/02/17 23:06:46 ID:IQ4YIz/M0
保守
341代打名無し@実況は実況板で:05/02/18 11:40:48 ID:BC7Aeic70
保守ランボー
342信じ難いもの(1/2) ◆vWptZvc5L. :05/02/18 16:19:31 ID:P15EkKPA0
足がじんじんと痛む。
布地に吸い取り切れなくなった赤いしずくが
ぽたりぽたりと滴り落ちて道に赤い斑点を連ねる。
さっきヘリコプターが折り返してた地点はすぐ近くに見えたのに、
片足だけの歩行は時間ばかりがかかって、ほとんど進まない。

曽我部さんはどれほど痛い思いをしたんだろう。
きっと、こんなのとは比べ物にならなかったんじゃないか。
痛いと感じる時間すら与えられなかったかも知れない。
あの時自分を撃ってしまえば、今頃あそこで倒れていたのは自分だったかもしれないのに。
それどころか曽我部を殺そうとした自分に手を差し伸べてくれた。
そしてその優しさが命取りになった。

曽我部の最期が脳裏に焼き付いて離れない。あの光景はこの先きっと、
一生付きまとって自分を咎め続けるだろうと田中良平は思った。
それに痛いのは足だけじゃない。胸の奥がたまらなく痛い。
曽我部が味わった痛みが良平にも圧し掛かってくるようだった。
その痛みがこみ上げてきて、目からあふれ出る。
戸部を殺そう、と言ったときの友の顔が頭をよぎった。
「自業自得だよな…お前はこうなることをわかってたのか…?」
己の情けなさになおさら泣けてくる。青野に愛想を尽かされたのも当然だと思う。
でもとにかく今は、もう一度青野に会いたい。
青野に会えたらちゃんと謝ろう。僕が間違ってたって。
青野のおかげで、僕は道を踏み外さずにすんだって。
青野がもつれた糸をすべて解きほぐしてくれるような気がした。
343信じ難いもの(2/2) ◆vWptZvc5L. :05/02/18 16:20:20 ID:P15EkKPA0
そろそろ物資の投下地点も近づいてきただろうか。
ブロック塀の角に差し掛かったとき、良平はそこにたたずむ人を見た。
誰なのかすぐに分かる。あぁ青野だ。やっぱりここにいた。
青野、と呼びかけようとした次の瞬間、良平は信じ難い光景に襲われた。
青野が何かを蹴ったのだ。その足元に誰かが倒れている。
青野が蹴ったのはその誰かの頭部だった。良平の中に衝撃が走る。
思わずそのまま塀の陰に隠れてしまった。

今のは何?どういうこと?あれは誰?
何であんなところに倒れてるんだ?青野はあの人に何をした?

解けるはずだった糸はなおさら絡まっていく。
呼びかけようとした声はそのまま奥に引っ込んだ。
ずっと探していた人がすぐ近くにいるのに。
青野に会ったら言いたいことがたくさんあったはずなのに、結局何も言えない。
自分が今、何を見たのか、怖くて聞けない。

そっと身を乗り出して、塀の陰から様子を伺う。
青野は良平に気づかない。しゃがみこんで散乱した武器や薬を物色している。
良平は青野に話しかけられない。まだ状況が飲み込めなくて頭が混乱している。
必要なものも手に入ったのか、青野はそのまま立ち去ろうとしている。
ダメだ。このまま青野を行かせたら、僕は絶対に後悔する。
今ここで呼び止めないと、もう一生会えないかもしれない。もう間違った道は選びたくない。
「青野…」
振り絞って出てきた声は、自分でも聞いたことのないような声だった。
ようやくその存在に気づいて、青野が良平のほうを振り向いた。
344代打名無し@実況は実況板で:05/02/19 02:03:48 ID:GhZr2CyR0
新作来てたー保守
345周防:05/02/19 12:33:06 ID:KwT6LArS0
捕手?
346代打名無し@実況は実況板で:05/02/19 23:33:56 ID:fDocgVSJO
一応保守。
347代打名無し@実況は実況板で:05/02/20 12:17:51 ID:w/g9uNRh0
りょーへー、しんじろー!
348友情(1/6) ◆vWptZvc5L. :05/02/20 21:37:43 ID:OYSGRtrn0
青野毅が田中良平のもとへ駆け寄ってくる。
その姿は昨日会ったときの肩のケガに加えて、明らかに生傷が増えている。
「良平…どうしたん、その足!?」
「間違えて自分で撃った」
「アホやなぁ。ほら肩貸すから」
差し出された右肩につかまる。青野の表情はいつもと変わらない。
すぐ傍に人が倒れていたのに、なんでこんなに平然としてるんだろう。
さっき自分が見たのは何だったんだろう。それが良平の心に引っかかった。
「この辺じゃ危ないし、どっか隠れるとこ探そう」
青野は良平の中に湧き上がる疑念には気づかずに話しかける。
良平も一言聞けばそれで解決するのに、口にすることができなかった。
あの行動の意味を薄々感づいていたからこそ、聞きたくなかったのだ。
「どうしよ、あの家がええかな」
とりあえず一番近くの家屋に向って歩いた。
玄関の戸を開けようとしたが、鍵がかかっていて入れない。
仕方なく、家を囲っている植え込みの陰に座り込んだ。

「見てほしいもんがあるんや」
そう言って青野は一枚の紙を差し出す。
その紙を読むと良平の目に予想もしない文面が飛び込んできた。
ただでさえ混乱している頭をその文面が余計にかき乱す。
「何、これ…?」
「これがこのゲームの真相や。生き残る10人はもう決められとる。
 自分も良平もその中に入ってへん。自分ら、いらん人間なんやって。
 わかるか、良平。自分ら、どうあがいても生き残れへんようになっとる。
 結局最後は死ぬしかないって…そういうことや」
青野から突きつけられた現実に良平は言葉を失う。
青野に会えれば自分はここから逃げ出せる、青野が自分を救い上げてくれる、
そんな幻想が音を立てて崩れ落ちていくような気がした。
唯一の望みを失って、良平は放心した。
349友情(2/6) ◆vWptZvc5L. :05/02/20 21:38:25 ID:OYSGRtrn0
「なぁ、良平」
「え…?」
良平が紙切れから青野の方へと目を移す。
「自分と一緒に死なへんか?」
青野が背中に隠し持っていたナイフを取り出した。
「二人やったら怖ないかなと思ってな。
 無理強いはせんよ。嫌やったら、自分ひとりで死ぬ」
「おまえ…それでいいのか?」
「良平にもう一回会うまでは死ねへん思たけど、それももう叶ったしな。
 どうせ死ぬんならその方が潔いやろ。必要とされん世界から消えるだけや」
すっかり諦めの境地に達したような青野の様子に、
抑えきれない口惜しさと憤りがこみ上げてくる。                          

   
「青野…それは違う。いらない人間なんていない。
 人は誰でも生まれたときには祝ってくれる人がいて、
 死んだときには悲しんでくれる人がいて、その人がいるだけで喜んでくれる人がいるんだ。
 僕は青野が死んだら悲しい。青野がいなくなったら困る。僕には青野が必要だから。
 こんな紙、関係ない!」
手に持っていた紙を丸めて投げ捨てた。
「おまえ、それでも死ぬのか?それでも自分はいらない人間だから死ぬなんて言うのか!?
 しっかりしろよ、あんな紙一枚に惑わされんなよ!
 昨日僕を止めてくれた青野はどこいったんだよ!!」
良平が青野の体を揺さぶって、激しい口調でまくし立てる。
その鬼気迫る表情に青野はあっけにとられた。
350友情(3/6) ◆vWptZvc5L. :05/02/20 21:39:29 ID:OYSGRtrn0
「…ありがと。誰かにそう言ってもらいたかった。
 川井さんにそれを求めたのが間違いやったよなぁ」
青野が寂しげにふっと笑う。
「川井さん?」
「見とったんやろ?」
そう言われてさっき見た光景が蘇った。
「じゃあ、あの倒れていた人は…」
「そうや、川井さんや。自分が殺した。あの人も雅英さんと同じ裏切り者やったしな」
やっぱり、という確信に飲み込まれた。
聞く前から青野のしたことは予想がついていたけど、認めたくなかった。
あのとき戸部を殺そうとした自分がまだ踏みとどまっていて、
それを止めようとした青野が一線を越えてしまった。なんて皮肉だろう。

「川井さんだけやない。なんで自分があんな紙持っとったと思う?
 あれな、本当は小坂さんが持っとたんや。自分は、小坂さんも殺した。
 最初誰も殺したくないと思とったのは嘘じゃないんやけどな。
 今の自分は良平に必要としてもらえるほど、きれいな人間じゃないから…」
青野がひざを抱えてうつむく。その肩が震えている。
うつむいた顔は見えないが、きっと泣いてるんだろうと良平は思った。
「ごめん、自分もう無理や。耐えられん。
 ここにおったらみんなおかしくなっていく。川井さんも、小坂さんも、自分も…
 もうみんなの変わっていく姿は見たくない。
 こんなこと言うたらまた良平怒るかもしらんけど、やっぱ自分は死ぬよ。
 あんなリストがあって、こんなケガ抱えて、雅英さんや川井さんみたいな
 裏切り者もどんだけおるかわからん。そんな中で生き残れると思うか?
 もう疲れたよ。いいかげん楽になってもええやろ…?」
351友情(4/6) ◆vWptZvc5L. :05/02/20 21:40:05 ID:OYSGRtrn0
良平には返す言葉がなかった。
ここで青野に「生きろ」と言うのはあまりにも酷なような気がして。
あてもなくただ「生きろ」と言っても、そんな虚ろな言葉では
きっと青野の気持ちは変えられない。
それに青野を見ているうちに、良平自身も生きることに疑問を持ってしまった。
青野みたいに悟りきれる訳じゃない。死にたくない、死ぬのは怖いとも思う。
でもそれ以上に生きるのが厳しい現実を見てきた。
自分だってこんな足では歩くことさえおぼつかない。
たやすく「生きろ」なんて言えるほど、自分達の抱えるものは軽くない。

青野の握ったナイフの刃が空を映し出して白く輝いている。
その輝きが自分達を死に誘い込んでいるようだった。
絶望に立たされた人間にとって、死はなんて魅力的なんだろう。
「青野…その気持ち、変わらないんだな?」
青野がうつむき加減で頷く。それを見て良平も決意を固める。
「死ぬんなら、ナイフよりこっちの方が早い」
ベレッタを持ち上げる。青野が驚きの表情で良平を見る。
「僕がこれでお前を送り届ける。それで僕も手を汚す。お前を送ったら、後を追う」
「…無理せんでええよ?」
「追うから!」
すべてを振り払うように叫んだ。
352友情(5/6) ◆vWptZvc5L. :05/02/20 21:40:49 ID:OYSGRtrn0
ベレッタを青野のこめかみにゆっくりと突きつける。
そう、これが一番いい方法なんだ。死にゆく青野をただ見てるくらいなら、
誰かに殺されて野垂れ死にするくらいなら、ここで青野と死んだ方がマシだ。
「言い残すことは?」
「…ない」
「僕もすぐ行くから」
青野が小さく頷く。
撃鉄を起こす音が聞こえて、青野が静かに目を閉じる。
良平は唾を飲み込んだ。そして、そのまま引き金を引く。
銃声が鳴り響いて、右腕に反動が伝わってくる。
撃った後はすぐに目をそむけた。変わり果てた青野は見たくない。
ドサッと倒れた肉体が地面につく音が聞こえる。

後は自分にも同じことをすればいい。それですべてが終わる。
そのまま自分のこめかみにベレッタを当てると、目をつぶった。
そこから銃口の金属の感触が伝わってくる。手が震えて、全身から冷や汗が吹き出す。
この引き金を引けばすべて終わるのに、指が固まって動いてくれない。
曽我部の最期が自分の行く末と重なった。怖い。死ぬのが怖い。
こんな極限状態に追い込まれても、まだ生きたいと思う自分がいる。
この足じゃ、どうせ逃げ切れないのに。
ここで死に損ねたところで、誰かに殺されるだけなのに。
なんで自分はまだ生に執着してるんだろう。
戸部さんを殺そうとしたくせに、青野を殺したくせに、なんで自分を殺せないんだろう。
この指を動かすだけでいい。早くしないと。青野が待ってるのに。
もうすべて終わらせたいのに、最後の未練が邪魔をする。
353友情(6/6) ◆vWptZvc5L. :05/02/20 21:42:06 ID:OYSGRtrn0
「良平」
ふと自分の名を呼ばれたような気がして、振り返る。
そこにいるのは1塁ベースを守る青野。微笑んでいる。
そして、いつの間にか自分もたたずんでいるマリンスタジアムのマウンド。
あぁそうだ、これが僕の夢だったんだ。
ライトスタンドからの声援を背に投げる。そしてその後ろを青野が守る。
いつかこんな光景が当たり前になる日が来るって信じてたのに…
なぁ青野、生まれ変わりって信じるか?
僕は一度も考えたことなかったけど、今は信じたい。
生まれ変わっても、また青野と同じユニフォーム着たい。
そしたら、今度こそこんな光景を現実にしたい。
できればプロで、できればマリーンズで。

良平は再びこめかみにベレッタを当てて、構えなおす。
青野の所に行くだけのこと。怖くない。

――この次に生まれて来るときはきっと…

良平が引き金を引く。
銃声が辺りにこだました。

【58青野毅× 19田中良平× 残り25名】
354代打名無し@実況は実況板で:05/02/20 21:54:56 ID:Cf8ZfJO90
あぜん・・・
355代打名無し@実況は実況板で:05/02/20 22:07:20 ID:dbvKI/At0
せつねーー
356代打名無し@実況は実況板で:05/02/21 00:26:22 ID:ST/J+xLJ0
切なすぎだー!!
(ノд`)。・゚。・、。゚。・
357代打名無し@実況は実況板で:05/02/21 01:47:30 ID:Tgxef3mJ0
自由に歩いていくのなら一人がいい
そのくせ今夜も人の戸口で眠る
頼れる物はどこにある
頼られるのが嫌いなけものたち
背中に隠したナイフの意味を
問わないことが友情だろうか

青野と良平の二人に合掌。
358full of Gratitude(1/5) ◆Ph8X9eiRUw :05/02/21 05:58:27 ID:x0RO3BRd0
町並みには、誰の声も響いていない。
人のにおいのしなくなった道に広がる空気は重く
自分の歩みを進めるのを阻もうとしているかのようだ。
なんの音もしないのもいやだけど、かといって誰かの声がするのも怖いのも事実。
そんな矛盾した思いを抱えながらユウゴーはひとり路地を駆けていた。
孤独ははじくりと自分の胸を恐怖で埋め尽くそうとするけれど
今の自分に出会った人をどちらかなんて見分けられる自信は無い。
それならもういっそ誰にも出会わずにすむことを願いたい。
たった今まで、自分の横には常に声があった。誰かがいた。
それらがなくなってしまっただけで、先程まで感じることのなかった恐怖が
少しずつ増殖していくのがわかる。

細い路地で地図を開き、目的地を再確認する。
武器の投下場所へ行くためには先程の場所、平下と遭遇した場所のそばを再び通ることになる。
当然違う道を使って避けていくことも可能だ。
ユウゴーは地図を凝視し自分の行く道を模索していた。
戸部と別れた理由、うまく逃げてきた相手の懐にまた飛び込もうとしている自分、
そんな危ないことに巻き込みたくないというのも事実だが、もうひとつ。
やはりあの後どうなったのか、自分の目ではっきりと確認をしておきたかったのだ。
曽我部がどうなったのか、見なくても結果はほとんどわかりきっているのに
それでも放送まで待つのも耐えられそうもない。
そんなことに戸部を付き合わせることは、まるで曽我部を置いて逃げることを選んだ戸部を
無言で責めているような気がして、どうしても一緒に行くことは出来なかった。
「さきに武器を手に入れるか、それとも・・・」
どちらが最適な方法か、考えあぐねては見るものの、どこに誰がいるのか
全くわからないこの状況で、どちらがいいかなんてことはさっぱりわからないだろう。
ただ、自分の探すべき相手、平下はきっと人がたくさん集まりそうな場所に行くはずだ。
だとしたら、いまはまず投下場所に向かう確率が高い。
それなら、やるべきことを終わらせてからのほうがいい。
逃げてきた道とは微妙に違うルートを使い、先程までいた場所に向けて走り出した。
359full of Gratitude(2/5) ◆Ph8X9eiRUw :05/02/21 05:59:16 ID:x0RO3BRd0
その場所に近づくにつれて、逃げ出すときに背中で聞いた銃声が頭によみがえった。
その音は頭痛のようにぎりぎりと頭を締め付ける。
平下を止める、なんてかっこいいこといったけれど、どうやって止めるのか
とりあえず武器は必要だとは思うがそれを使って止めるのか、明確な答えは見出せない。
おそらく、曽我部さんもおんなじような状況に陥っていたんだろうな、と
ユウゴーは少し考える。結局ちゃんとした答えは出せなくて
でも相手を殺す道はとりたくなくて、そして、あんな結末を迎えてしまった。
「あいつは、悪くないんだ」
曽我部の言葉がよみがえる。
「こんなとこにほおりこまれて、ちょっと気が動転してしまっているだけだと思うんだ」
ああ確かにそうだと思います、曽我部さん。
憎むべき相手は、確かに平下じゃない。
本当に憎むべき相手は、こうやっておろおろする俺たちをどこかで笑いながら眺めている
こんなばかげたことを思いついたやつだってことくらい自分にも解りきっている。
それでも、あいつは必ず止めなければいけないんです。
根本の悪をつぶしてくれる人は、必ずどこかにいる。
ユウゴーの頭に、まるで何ヶ月も前に交わしたような遠い記憶になっていた
川辺での会話がよみがえった。たとえば、あの人たちとか。
だから自分は今できることをやる。
このゲームに乗ってしまったやつがあの人たちの邪魔をしないように。
なにもかも、かっこいい言葉だけを並べているかのように聞こえるけれど
そう思うことでしか今の自分は足を前に踏み出せない。

もうすぐ、あの場所に着く。あと数回角を曲がればあの場所に。
近づくにつれて次第に足が自分の意思に反抗し、歩みが遅くなっていく。
そして、最後のひとつの曲がり角に来たときにユウゴーの足は完全に止まってしまった。
ここを曲がれば、きっとすべてが見渡せる。
そこになにもなければ良いのにと、途方も無いことを願ってしまう。
でもわざわざ戻ってくることを選んでしまったのだからその先は必ず見なければいけない。
たとえどんな結末だろうとも。
ひとつ小さく深呼吸をし、ユウゴーは角を曲がった。
360full of Gratitude(3/5) ◆Ph8X9eiRUw :05/02/21 11:18:43 ID:XKo9rG0K0
予想通りの光景がそこには広がっていた。
うつぶせに倒れている白いユニフォーム。その周りの地面は赤い水溜りのようになっていた。
背番号は、65。
こういうことはちゃんとわかっていたはずなのに、足元から一気に力が抜け落ちていく。
あふれ出しそうになる悲しみが喉の奥をしめつけようとするが
ユウゴーは飲み込んだ空気と共にそれを押さえ込んだ。
踏み出そうとしない足に必死で命令を送り、ゆっくりと曽我部に近づく。
肩、背中、左胸あたり、そしてさらには頭も赤黒く染まっていた。
がくん、とへたりこむようにユウゴーはそばにかがみこむ。
「曽我部、さん」
帰ってくるはずも無い返事を待った。
ぼんやりと、泣くわけでもなく、叫ぶわけでもなく、ユウゴーは
曽我部の横で彼の背中、背番号が赤の所為で読みづらくなった背中を見つめ続けた。

どのくらいそうしていただろう。
なにかを決意したようにうん、と首を縦に振り
ユウゴーは倒れる曽我部の腕を取り、そのまま自分の肩にまわした。
バランスの取れない重みに何度か倒れそうになりながら
足を踏ん張り、曽我部の身体と共に立ち上がった。
上手く曽我部の身体を自分に寄りかからせ、腰あたりに手を回し
ゆっくりと多少引きずるようにだが進んでいく。
あのまま、道の真ん中に倒れさせておくのは耐えられなかった。
どこか人の目に触れないようなところ、ゆったりと、少し日陰になっていて
落ち着けるようなところ、そんなところで休ませてあげたかった。
自分のユニフォームにも血液がじくじくとにじんでいくのが解るがそんなことは気にかけない。
それにしてもなんて重いんだろう。ユウゴーは思う。
こんなにも重たいのに、この人はもうここにはいないなんて。
361full of Gratitude(4/5) ◆Ph8X9eiRUw :05/02/21 11:19:37 ID:XKo9rG0K0
一番近かった家の庭に曽我部の身体をゆっくりと下ろす。
もっときれいな場所を探したかったけれど、正直ここまで運ぶのがやっとだった。
多少伸び放題で手入れが行き届いているとはいいがたい芝生にそっと曽我部の身体を横たえる。
青白い顔、少し開いた、なにか言いかけたような血の気のない唇。
すべてを目に焼き付けようとユウゴーは真っ直ぐ曽我部の顔を見た。
この光景を忘れるわけにはいかない。
自分たちがいかに狂った状況にほおりこまれたのか
どんなにばかげたことがここでくりひろげられたのか
その怒りと悲しみを忘れないために、自分はすべてをきっちり見つめないといけない。
「曽我部さん」
返事をしない身体に呼びかけ、そして彼に向かって頭を下げた。
「曽我部さん、ありがとうございました。
あなたがあのとき良平にとびかかってくれなかったら、次の弾で死んでいたかもしれません。
助けてくれてありがとうございました。
ただ、それだけが言いたかったんです。それでここまで戻ってきました。
ありがとうございました。ありがとうございました。本当にありがとうございました。
でも、でも・・・」

ちゃんとあなたに返事してもらえるうちに言いたかったです。

それ以上の言葉は喉から出てこなかった。


いつまでもここにいるわけにはいかない。
ユウゴーは立ち上がり、最後にもう一度だけ曽我部を見る。
なにか掴もうとしていたかのような右手にふと目をやる。
良平は、曽我部を見て改心してくれただろうか。そうだとしたらあいつも助けてやりたい。
曽我部さんが最期に助けようとしたあいつをなんとかして助けてやりたい。
あの怪我だし、さほど遠くに入っていないはず。
とりあえず、どこまでできるかわからないけれどやれるだけのことはしてみるしかない。
「それじゃ、行きますね」
眠るように横たわる曽我部に声をかけ、ユウゴーは背中を向けた。
362full of Gratitude(5/5) ◆Ph8X9eiRUw :05/02/21 11:20:29 ID:XKo9rG0K0
民家の門を抜け、先程の路地に出ようとしたそのとき、
道の真ん中に白いユニフォームの背中が目に飛び込んできて
ユウゴーはとっさに身を隠した。
それはじっと道の真ん中に立ち尽くし、赤く染まった地面を見つめている。
曽我部がつくった血だまりただその1点だけに視線を落とし微動だにしなかった。
ちょっとまってくれ。
どうして、なんであいつまでここに戻ってきてるんだよ。
背番号24はそこから1歩も動こうとはしなかった。
たしかにいま探していた人物だが、まだこんななんの準備もしていない状況では
絶対に会ってはいけない相手がそこにいる。
どうする?逃げるか?体勢を整えてから挑むか?
二の舞になってはいけない。そんなことは戸部さんにも、曽我部さんにも申し訳ない。
だったら、いまは逃げるしか、ない。
もっと身体を隠そうと後ずさりをしたその拍子に
足元においてあった植木鉢にガツンとぶつかる。
あわてて倒れないようにしようとするが、無情にも鉢は音を立ててそこにごろりと横たわった。
まるで漫画のようなお約束の失敗をしてしまう自分をぶんなぐってやりたくなる。
やっぱり、気づかれただろうか。
そっと門のかげから向こうをうかがう。
相手はまだ背中をこちらに向けたまま、先程と変わらず地面を見つめていた。
気づかれなかったのか?
心臓からの血流が急激に早くなり、そのどくどく言う音が耳を支配する。
その音が無駄に身体を硬直させ、落ち着かせたい頭をかきまわす。
そっと、今度は用心深く足元を確認し門から離れ、裏口あたりに進もうとしたそのときに
早まり続ける心拍音を打ち消すように、ずしりと響く声が耳に飛び込んだ。

「だれか、いるんですか」
こちらを振り向きもせず、平下がいった。
363 ◆Ph8X9eiRUw :05/02/21 11:22:58 ID:XKo9rG0K0
朝投下途中に鯖が落ちてたみたいで
2と3のあいだにものずごいタイムラグが出来て
非常に申し訳ない orzorz
364 ◆vWptZvc5L. :05/02/21 12:23:45 ID:3a1q9/t00
◆Ph8X9eiRUwさん、乙です。ユウゴーがんばれ。
鯖落ちは仕方ないことなので気になさらずに。

>>357
うっ、その詞を出してくる方がいらっしゃるとは…
>>237氏=>>357氏なんでしょうか。

この世見据えて笑うほど 冷たい悟りもまだ持てず
この世望んで走るほど 心の荷物は軽くない
365代打名無し@実況は実況板で:05/02/21 12:31:26 ID:CJPiZ6DPO
職人さん乙です!!
青野と良平でも泣きそうになってユウゴーと曽我部でも泣きそうだった…。
ユウゴーガンガレ〜
366代打名無し@実況は実況板で:05/02/22 02:47:46 ID:2/nHH7qn0
保守
367代打名無し@実況は実況板で:05/02/22 16:03:34 ID:Evd1e5YKO
保守
368一般people:05/02/22 23:38:45 ID:yF+AOH3p0
職人乙です 良平&青野最高でした。゜゜(´□`。)°゜。
369代打名無し@実況は実況板で:05/02/23 14:57:20 ID:AQrC0ugD0
保守
370代打名無し@実況は実況板で:05/02/24 20:43:35 ID:1dksgr/bO
保守
371夢も現も(1/3) ◆vWptZvc5L. :05/02/25 16:37:27 ID:QiQ6OOyR0
橋本将はその夢から覚めようとしてもがいていた。
何も見えない暗闇で何かを探している。
何を探しているのか、なぜ探しているのかわからない。
なのに絶対に探し出さなければならないという焦りと不安とでぐちゃぐちゃになる。
何を探しているかわからないのに、そんな何かは見つかるはずもなく、
それでもどうしても探さなければならなくて、泣きながら探している。
そんな、よくわからない場面を何度も繰り返して見ていた。

――「…将!将!!」
誰かに呼ばれて、ようやく目を覚ます。
その誰かが自分を心配そうに覗き込んでいる。
熱を帯びてぼんやりとうまく働かない脳でその主を認識した。
それが今まで探していた相手、小野晋吾だとわかって気持ちが和らいだ。
「大丈夫か?すげぇうなされてたぞ?」
あれは熱が見せた夢か…、そう安堵したのも束の間、自分の置かれた境遇を思い起こす。
目が覚めてみたところで、悪夢が続いていることに変わりない。
いっそのこと、あの夢が現実でこの世界が夢だった方がまだ幸せだったかもしれない。
「顔赤いな。熱あるのか?」
「何か体調崩したみたいで…」
もう体温も上がりきってしまったのだろう。寒気は収まったが全身が熱い。
体じゅうにびっしりと汗をかき、焦点の定まらない視線が宙を泳ぐ。
「さっきまで雨降ってたもんな。薬とか飲んだか?」
橋本が頭を振る。額に手をあててみると、思ったとおり熱い。
見ているだけでも辛そうだ。このまま放って置いても回復は望めない。
372夢も現も(2/3) ◆vWptZvc5L. :05/02/25 16:38:31 ID:QiQ6OOyR0
「うーん、どっかで解熱剤でも手に入ればいいんだけど…」
薬が手に入りそうなところと言えば、昼の放送で言っていたG-5か。
あの辺りはさっきから銃声や爆音が聞こえてくる。できれば近寄りたくない。
それに13時なんか当の昔に過ぎている。危険を冒して向かった所で薬が手に入る保証もない。
どこかに病院や薬局が見つかればいいが、最悪の場合はやはりG-5に行くしかない。
それに、こんな状態の橋本を連れていくべきかどうか。
薬を捜しに行くだけなら自分ひとりの方が身軽だし、連れ回せばかえって悪化するかもしれない。
休ませてやりたいのが本音だが、かといってここに橋本ひとり残していくのは危険すぎる。
このゲームに乗った誰かに見つかれば、きっとろくな抵抗もできないうちにやられてしまう。
自分だってたいした武器を持っているわけじゃないが、それでも二人でいた方がまだなんとかなる。

「将、ちょっと辛いかもしれないけど、ここから移動しよう。
 これから日が沈むと冷えてくるし、休むなら屋内の方がいいだろ。
 薬も探そう。薬飲めばちょっとは良くなるって。な?」
晋吾に促されて橋本がゆっくりと立ち上がった。
その足取りはふらふらと危なっかしく、とても見ていられない。
踏み出そうとすると、身体が方向を失ってよろめく。
そのまま倒れそうになるのを慌てて晋吾が抱きとめた。
373夢も現も(3/3) ◆vWptZvc5L. :05/02/25 16:39:19 ID:QiQ6OOyR0
「おまえ、ダメだ。全然歩けてねーよ。俺が背負ってやろうか?」
「そんなことして腰、大丈夫っすか?」
「…大丈夫じゃない、かも」
弱みをつかれて、晋吾が苦笑いを浮かべる。
「いいっすよ。晋吾さんは帰ったときに、ちゃんと投げてもらわないと困るんですから。
 そのときはまた俺が球受けるんですから。今は肩だけ貸してください」
そっか、と晋吾の顔が少し緩む。
その一方でそのふわふわとした頼りない喋り方に不安を覚える。
熱で相当やられているらしい。早く薬を見つけなければ。

「ああ、そんな重いもん持つな。俺が持つから」
橋本を制して、晋吾は傍らの小型のチェーンソーを拾い上げた。
こんなものまで支給されているのか。これを人に向けるかと思うとぞっとする。
「これ、お前の武器なのか?すげーな…」
「…預かりものなんです」
橋本は小さく呟く。
(金澤、お前にもきっといるよな、こういう信頼できる人がさ。
 そいつのためにも早く自分の過ちに気づけよ。そんときは、きっとこれ返すからさ。なぁ金澤…)
晋吾の肩に身をもたせ掛けながら、橋本はぼんやりと金澤のことを思っていた。
「はあ…はあ…。」
大谷は浦和球場を飛び出し、闇雲に走っていた。
さいたま市内とはいえ、浦和球場は駅から少し離れていることもあり、行き交う人はまばらだった。
「もう…嫌だ!」
大谷は走りながら叫んだ。
どこへともあてはないが、とにかくここから逃げ出したい。
そんな思いがはっきりと表情に出ていた。

どれぐらい経っただろうか、浦和球場が視界から消えたころ、
大谷は足をとめ、壁に手をついて大きく深呼吸をした。
「ふう…。変なこと思い出しちゃったよ。」
思い出したくないことを思い出してしまったかのように、顔に苦悩を浮かべていた。
しかし、それを振り払うように首を振り、
「だめだ、こんなことじゃ。しっかりしないと!」
大谷は息を落ち着かせ、意を決したかのように声をあげた。

「…あ、カバン置いてきた。」
大谷は忘れ物をしたことに気づいた。
「いまさら戻るのもなんだけど、一応大切なものだし…。」
そして、一旦浦和球場に戻ろうと振り返った。
ところが、その目の前に、見覚えのある人物が立ちふさがっていた。
「…やっと見つけた。」
「…!!」
大谷は声にならない悲鳴をあげた。
そのころ、浦和球場では、
「あはははは。吉鶴くん、大谷さんに間違えられたからって落ち込まないでよ。」
「…違いますよ、きっと。」
吉鶴は、荘の話を必死に否定していた。
(2年間一緒にやってきて、まだ名前を覚えられていないわけないはずだよなあ。)
しかし、大谷が吉鶴の顔を見て「袴田さん」といったのは事実だった。
(やっぱり、大谷さんに名前間違えられたのかな…。)
吉鶴は大きくため息をついた。

落ち込んでいる吉鶴を尻目に、荘はカバンの中を漁り続けた。
「あっ、あったあった。」
そういいながら、荘はカバンの中から『秋季キャンプのしおり』を取り出した。
「ほら、多分この中に書いてあると思うよ。」
そして『秋季キャンプのしおり』をぱらぱらとめくり出した。
「ええと…。」
吉鶴はしおりを覗き込んで、あることに気づいた。
「ちょっとこの部屋暗くないですか?」
「う〜ん、そうかもね。」
秋もだいぶ深まっているということもあり、外はもう日が沈み始めていた。
そのせいか、薄暗い部屋の中では、どうも字が見にくくなってしまっていた。
「明かりつけようか?」
「そうですね…。」
吉鶴は荘の提案に同意しかけたものの、あることを思いついた。
「どうせなら、寮に移動しませんか?ここだと何かと不便ですし。」
「あ、そうだね。」
マリーンズ寮は浦和球場から歩いてすぐの場所にある。
日没が近いことを考えて、球場より寮にいたほうが何かと便利かもしれない。
「それなら、福澤さんに電話しないと…って、そういえば。」
吉鶴はあることを思い出した。
「そういえば、荘さん電話…。」
「あ、ごめん。電池切r」
「いいです、僕が電話します。」
荘の言葉をさえぎり、吉鶴は携帯電話を取り出し、福澤に電話をかけた。
しかし、
「あれ、通話中だ。」
吉鶴の携帯からは、ツーツーと通話中であることを知らせる音が繰り返されるだけだった。
「どうしようか。」
「とりあえずメールでも送っておきます。」
吉鶴は手早く携帯メールを打ち込み、送信した。
『暗くなってきたので、寮で待っています。 吉鶴』

「それじゃあ、行きましょうか。」
吉鶴と荘は、浦和球場を後にした。

福澤は一体誰と電話しているのだろうか。
そんな疑問が二人に浮かぶことは無かった。
377代打名無し@実況は実況板で:05/02/27 14:38:23 ID:gn992xwB0
ほす
378一般people:05/02/27 22:34:55 ID:RSyFdhHx0
保守っぺ
379代打名無し@実況は実況板で:05/02/28 12:19:07 ID:r1K2qyqU0
コリアン星
380代打名無し@実況は実況板で:05/02/28 18:18:22 ID:OxhrGjXT0
>>379
保守はしなくても良くなったんじゃないか?
381代打名無し@実況は実況板で:05/03/01 18:12:26 ID:Y3lLlHub0
保守
382代打名無し@実況は実況板で:05/03/01 22:50:19 ID:V5vJ+krE0
 
383代打名無し@実況は実況板で:05/03/01 23:24:05 ID:ZYpER1Zt0
ちょうど1週間後がn日ルール適用かな。
384代打名無し@実況は実況板で:05/03/02 00:36:07 ID:XuZ2L/xI0
適用されたら、また立てればいいだけ。
3羽は新宿から千葉マリンスタジアムへの帰り道を走っていた。
ただし、通っているのは来たときとは違う人気のない裏通りだった。
「ねぇ兄ちゃん。何でこんな裏道走ってるの?」
「だって、また検問に引っかかったら困るだろ」
「そしたら、また中の人の免許使えば…」
「ズー、おまえそれ以上言ったらどうなるかわかってんだろうな!?」
急にマー君がドスの効いた声をだしたので、ズーちゃんはビビった。
(どうなるんだろ。試しに言ってみようかな…)
そんな好奇心をくすぐられたが、自分も同じような追及をされるとヤバイので黙る。
「もうあんなことしたくないんだよ…あんなの、マスコット最大の屈辱だ」
どうやら、検問の時によほど嫌なことをさせられたらしい。
「それにしても、マー君も本社であのまま引き下がらずに粘ればよかったのに」
「うん、でも受付の人は何も知らないみたいだったし、警備員さんも多かったからね。
 ちゃんと別の作戦も考えてあるから大丈夫、大丈夫」
話し相手がリーンちゃんになると、マー君の口調はコロッと変わる。

(兄ちゃん、ヒドイよ。もうちょっと弟に対する思いやりってものを持とうよ。
 そりゃあ、しつこく「中の人が…」とか言い続けてる僕も悪いけどさ)
ズーちゃんはため息混じりに窓の外をみる。そこでサイドミラーに映るものに気づいてはっと振り返った。
頑丈そうな黒い車がずっとあとをつけている。人通りの少ない道なので、他には車は見当たらない。
(あの車、本社から出て来た時もいたような気がする。行き先が同じ方向なのかなぁ?
 でも、変じゃないか?なんでわざわざこんな裏道を…)
そのとき、助手席の窓から何か光るものがのぞいているのが見えた。拳銃だ。
「うわぁぁあ、逃げて逃げてー!兄ちゃん、逃げてー!!」
「何だよ?また検問――」
そこまで言う暇もなく、爆音が響いた。
バックガラスの隅に穴が開いて、そこから亀裂が走る。
「ひょえぇぇーーっ」
そこでマー君もようやくズーちゃんが騒いでいた理由がわかった。
どうも検問どころの騒ぎでないピンチに立たされているようだ。
「何だ、この安い刑事ドラマみたいな展開は!?」
「知らないって。とにかく逃げて!!」
「マー君、ここで事故ったら東スポどころか一般紙にも載っちゃうわ!」
逃げろと言われても、こんな狭い一本道では満足なスピードも出せない。
蛇行を繰り返して銃弾をよけるのが関の山だ。
それも長くは通用するはずがなく、やがて出たT字路で角を曲がりきれずに
ガードレールに激突した。その様子を見届けると、黒い車はUターンして去っていった。

ぶつかった衝撃からズーちゃんが起き上がる。
(イタタタ、頭ぶつけちゃったよ。うわ、左頬もケガしてる。
 あぁ、これは仕様か。でもたいしたケガもしてないっぽいし、よかった)
あまりスピードが出ていなかったのが幸いしたらしい。
(兄ちゃんとリーンちゃんは無事かな…?)
そう思ったとき、
「キャアアァァーーー」
高い悲鳴が聞こえて、ズーちゃんが前へ身を乗り出した。
「何?どうしたの、リーンちゃん!?」
「マー君がっ…マー君がっ…」
そう言われて、運転席を見る。

そこには額が真っ二つに割れたマー君がハンドルに突っ伏していた。
387代打名無し@実況は実況板で:05/03/03 04:16:02 ID:Xg8KJi9pO
>あぁ、これは仕様か。
ワロタw
388代打名無し@実況は実況板で:05/03/04 04:46:26 ID:3Gl+RDqn0
保守
389予感(1/1) ◆vWptZvc5L. :05/03/04 22:49:58 ID:8FEeu12Q0
スタジアムの入り口付近では多勢の兵が警備に当たっている。
佐々木信行はその中で兵を統率している男、井上祐二に近寄って話しかけた。
「ご苦労さん。そろそろ交代しよう」
「もうそんな時間ですか」
「何か変わったことは?」
「特にありません。強いて言えば、この周辺に人が集まってることぐらいですかね」
井上が手中の探知機に映る一角、赤い光点が集まっている箇所を示す。

「やっぱりG-5に物資を投下するっていう、あの影響か?」
「そうみたいです。皆そっちに気が向いてるようで…
 この分だと此処を狙われるかもしれない、っていう山本さんの心配も杞憂ですみそうです。
 仮に狙われたとしても、そう簡単には侵入できませんよ。
 指示どおりに兵の数も増やしましたし、誰かが接近してきてもコレで把握できますからね」
「…だといいけどな」
「何か不安な点でも?」
佐々木の深刻ぶった表情に井上は思わず聞き返す。
「いいや、なんとなくそう思っただけだ」
「じゃ、あとはよろしくお願いします」
井上はそう言って、持っていたサブマシンガンを佐々木に託した。
390代打名無し@実況は実況板で:05/03/05 02:05:46 ID:x6in+ahvO
チョン球団いらねー
391僕らはみんな生きている  ◆1Y1lUzrjV2 :05/03/06 00:44:21 ID:yrv1H9jo0
 杉山の思考を中断させた銃声は、彼らの居場所と近いところから聞こえてきた。
 小宮山が「ここから近いぞ!?」と叫び、鋭くその音の方へ振り向く。
 そして間髪入れずに、「行くぞ!」とその方向へ走り出そうとする。
「こ、小宮山さん!!」
 あまりにも突然の事態に、杉山はどうしたら良いのか解らず小宮山の名前を呼ぶ。
「何してんだ、近くで誰か狙われているかもしれないんだぞ? …方向としては、
金澤がいるかもしれない位置だ」
 自分を落ち着かせるためか、小宮山は冷静な口調で杉山に言う。
「でも…」
「さっきみたいにはいかないかもしれない。でも、まだ狂ってないやつだっている。
言っただろう、足掻くんだ。誰にも会わないでいられることなんて、ないんだからな。
誰かがいるってことは、仲間になる可能性のあるやつに会えるかもしれないってことだろ」
「……」
 杉山は黙ってしまった。
「もしお前がこのままがいいんだったら、俺だけでも行くことにするよ。さっきの答えも
まだ聞いてないけど…。これが答えだと受け取ることにする」
 『さっきの答え』――。
 仲間にならないか、と言われて杉山は嬉しかった。それは、泣いてしまうほどに。
 銃声によって中断された思考が、また、すうっと心の中に甦ってきた。
 今、走り出さなければ、いつ走り出すのか。
 ここでずっとひとりで怯えたままで、何ができるというのか?
 チームを愛する人―小宮山とならば。
 杉山はふとスタート時のことを思い出した。小宮山と黒木。このふたりを探そうとしていた自分を。
 チームを愛しているふたりならば、きっと、こんな『試合』に勝ってくれると――。
 彼がこうしている間に、小宮山は短く「じゃあ、俺行くな…。死ぬなよ」と言って立ち去るべく
背中を向けていた。杉山はその足音に気付き、慌てて「俺も行きます」と言って後に続いて走り出した。
 それからどのくらいの時間が過ぎたかは解らない。もう感覚が麻痺していたのだ。
 はあはあと息があがってしまい、ふたりはしばらく歩くことにした。
 「確かこの辺りだと思ったんだが…」
 小宮山がきょろきょろと辺りを見回す。杉山も、それを真似るように辺りを見回していた。
 先程の銃声の『狙撃者』がいたら、ひとたまりもない。慎重に様子を窺っていると、遠くに人影を
見つけた。相手から見えぬように身を隠し、近くにいた小宮山にそっと合図を送る。
 そっと杉山の隣にしゃがんだ小宮山は、杉山がじっと見つめる方を慎重に窺った。
 そこにはマシンガンを手にしたひとりの男がいた。
 ウィンドブレーカーを着ていて、見た目だけでは解らない。
 (本部のやつらか…?)
 小宮山は息を呑む。なぜこんなところに…? 自分達の知らない間に何か非常事態が発生しているのか?
 さまざまな思いが頭をよぎる。
 こちらはマシンガンに比べれば丸腰も同然だ(一応)。
 本部のやつら…せめて誰なのかだけでも解れば…、と小宮山はその男をじっと見つめる。
 フードを目深に被っているため、顔全体を見ることはできなかったが、整った唇と顎鬚が良く知った
人物の特徴と一致していた。
「宏之…?」
 小宮山は思わずそう呟いてしまった。
 違う、そんなことあるわけない。彼は放送で死亡したと言われたじゃないか。
 そう言い聞かせようと思った小宮山だが、唯一見える口元が彼以外の何者にも見えなかった。
 だから、彼の名を呟いてしまった。
 それが過ちだった。
 「う、うわああああああああ!!!!」
 小宮山が「宏之」と呟いてから十秒ほど経ったとき、突然杉山が叫んだ。
 あまりの大声に小宮山は驚き、すぐに口を塞ごうとして振りほどかれた。
 「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!」
 杉山はすくっと立ち上がり、叫んでいる。
 「嘘だ、殺し合いなんて嘘なんだ! 俺は帰りますよ!」
 矢継ぎ早にそう言うと杉山は走り出した。驚くほど早いスタートダッシュに、小宮山は虚を突かれた形になった。
 (しまった!)
 今の状態は危険過ぎる。彼の精神状態はまったく安定していないというのに、刺激するようなことを
言ってしまった、と小宮山は悔いた。ウィンドブレーカーの男(宏之)のことが頭から離れないが、杉山を
そのままにしておくわけにはいかないと思い、小宮山は後を追って走り始めた。
 一瞬、ウィンドブレーカーの男の方を振り返った。
 杉山の大声に反応して、こちらを見てフードを取ろうとする男の姿をみとめた。
 しかし杉山の奇声が聞こえ、早く追いつくことが先決と考え、その顔を見ることなくまた走り始めた。
 
 杉山は奇声を上げながら走っていた。
 『宏之』。
 宏之と、小宮山は言った。
 その言葉で、杉山の頭は一瞬でゴチャゴチャになった。
 
 え、宏之さん?
 さっき、放送で、呼ばれてなかったっけ?
 あの放送って、確か死んだ人の名前を呼ぶんだよな?
 てことは、宏之さんは死んだってことじゃなかったっけ?
 あれ? 俺の思い違いかな?
 宏之さんが死んでないなら皆ももしかして死んでないんじゃないか?
 もしかしたら、この『試合』自体が嘘なんじゃないのか?
 澤井さん以外、誰も死んでないんじゃないのか?
 黒木さんだって、空砲を撃っただけだ。誰も殺してない。
 金澤だって、その気になってるとかなんとかって感じだったけど、あれももしかしたら演技じゃないのか?
 もしかしたら俺だけにそれが聞かされてなかったとか? 何か性質の悪いドッキリなんじゃ?
 出発前もそんなこと初芝さんが言ってて監督(なのか? あいつは)に撃たれてたけど…、もしかしたら
あれもドッキリのための『二重の仕掛け』なんじゃないのか?
 そもそも、最初の澤井さんの死だって、もしかしたら何かトリックがあって、後で「俺面倒臭がり屋だから
あの役で最初に降りて楽しようと思ったんだよ」とか、笑顔で言われるんじゃないのか?
 そうだ、きっと、全部、嘘だったんだ。
 試合も嘘。
 銃声も嘘。
 殺し合いも嘘。
 死も嘘。
 こんなミリタリーチックなことに、俺は付き合っていられないぞ!
 俺は、俺は、野球をやるんだ!!
 
 ―そして彼は叫び、走り始めたのである。

 杉山の思考は殆ど壊れかけていた。この異常な状況においては仕方の無いことである。
 今までの杉山の恐怖や葛藤が、宏之の生存という事態によりグチャグチャになってしまったのである。
 それまで自分の心の中にしまっていた思いが、総て自分の都合の良いように解釈されて吐き出されてしまったのである。
 
 俺は野球をやる! こんな馬鹿げたことには付き合っていられない!
 何が死だ! 何が殺し合いだ!
 俺は生きているぞ、生きているぞ!
 だからさっきだって泣いたんだ!
 生きているから泣けるんだ! 生きているから笑うんだ!
 生きているから怒るんだ! 生きているから楽しいんだ!
 だから今だって、こうしていろんなことを考えられるんだ!
 こうして拳を握っていられるんだぞ! 
 こうして走っていられるんだぞ!
 それよりなんだ、死ぬってなんだ?
 そんなもの、俺には訪れないぞ!
 現に宏之さんにだって訪れないんだからな。放送で呼ばれたのに、あの人は生きていた。
 だから皆生きている!
 僕らは皆生きている!
 アハハハハ、生きているっていいことだよなあ。
 こんなに身体が軽いのなんて久しぶりだなあ。
 ああ、何でもできそうな気がしてきたよ。
 俺もしかして一生死なないのかなあ? なんて! ああ、でももしかしたらそうかもしれない。
 皆生きているから、こうして走っていても大丈夫! 死にっこない!
 死ぬわけがないよ!
 だって、殺し合いなんて、嘘なんだから―――。
 
 奇声を上げながら走る杉山は、何故か幸せそうな表情をしていた。
 混乱から派生したやさしい狂気を、止める術を今は誰も持っていなかった。 
396代打名無し@実況は実況板で:05/03/06 02:32:45 ID:gF3aZ9StO
新作乙です!

( ゚Д゚)杉山…


あと一点。宏之は杉山より年下です
397代打名無し@実況は実況板で:05/03/06 03:31:38 ID:eHbdrhEI0
まぁ杉山は生真面目な性格そうだからみんなさん付けってことで

いい狂い方してるなぁ
398代打名無し@実況は実況板で:05/03/06 06:54:27 ID:FwM5lJdc0
スギシュン壊れちゃった。゚(゚´Д`゚)゚。ワォーーン
399一般people:05/03/06 12:36:39 ID:uzw9VZ5h0
スギさん・・・((((;゚Д゚)ガクガクブルブル
400代打名無し@実況は実況板で:05/03/07 12:26:04 ID:y6U7h811O
だれか携帯用保管庫のURL貼ってくれ・・・
401代打名無し@実況は実況板で:05/03/07 13:05:34 ID:gB8VnL5TO
>>400
>>1のとこから行けるよ。
402代打名無し@実況は実況板で:05/03/07 22:14:40 ID:y6U7h811O
(;´Д`)うわぁ・・・マジスマソ
403TURN ON (1/3) ◆UpgPqRu.6s :05/03/07 22:22:30 ID:W4mMw3Tw0
背後から何か叫び声のようなものが聞こえてきて、小林宏之は一瞬足を止めた。
振り返ると、白いユニフォームが二人。
目深に被ったウィンドブレイカーのフードが視界を所々遮って、それが誰と誰なのかは判別できない。
フードを外そうとした時、一人が奇声を上げながら走り出した。
93、杉山さんだ。もう一人は───
声をかければ、きっと協力してくれるであろう人だった。
14番、小宮山悟。
喉までその名前が出かかったが、小宮山は杉山を追って程なく視界から消えた。

暫くその場所に立ち尽くし、二人が消えた方向を息を殺して見つめていたが、
一つ小さい息を吐くと、宏之はフードを被り直し、再び歩き出した。

さっき見つけた小屋に差し掛かった時、もう一度宏之はドアを開け、壁に丁寧にかけてあった鎌を手に取った。
ウィンドブレイカーの裾をたくし上げ、ケースに収められたままのそれをベルトに挟む。
他は大き過ぎて持って歩くには苦労しそうなので、そのままにしておいた。

小屋を出て、水田の脇の軽トラックがやっと通れる位の細い道の端を、足早に進む。
暫く歩いた後、ふと思いついて、その道を逸れ、もっと東側に移動した。
地図の上から言えば、ここは既に禁止エリアになっている筈だ。
そのまま木立の中をゆっくりと探るように歩く。
農作業に使う為の小屋が所々にあり、その内の一つの中に宏之は身を置いた。
鎌を腰から外し、地面に置く。
マシンガンを抱えたまま、無造作に積み上げられた木箱に腰掛けてリュックの中から地図を取り出した。
禁止エリアの中をこのまま歩いていけば、誰かに会う事もないだろう。
Dの6の南西の端から出れば、スタジアムはもうすぐそこだ。

404TURN ON (2/3) ◆UpgPqRu.6s :05/03/07 22:22:56 ID:W4mMw3Tw0
コンパスと地図を見比べて、進むべき方向を決め、地図とコンパスをリュックに入れた直後、不意にそれは宏之の目に止まった。
自分が座っている物と同じように、積み上げられた木箱の一つ。
次の瞬間、宏之は立ち上がり、即座にマシンガンの安全装置を解除していた。

───全ての感覚が遠のき、銃声も、自らが上げている悲鳴のような声すら宏之には聞こえなかった。

62、と掠れかけたインクで書かれたその木箱は、間髪を置かず、木っ端微塵に砕け散った。
その向こうの湿気た板の壁にも無数の穴が開く。

衝撃に痺れた指が引き金から外れて、ようやく宏之は我に返った。
冷たい汗が全身を流れ落ちる。
マシンガンを傍らに置き、肩で大きく息をしながら、宏之は薄暗い小屋の中を見回した。
目の前に砕けた木片が飛び散っているのを見て、思わず後退る。
自分がさっきまで座っていた木箱に躓き、そのまま後ろ向きに倒れ込む。

「はッ…あ……くッ!」

腰の辺りに転がった木箱にも、同じ数字が印刷してあった。
その箱を掴んで体を起こし、力任せにそれをへし折る。
茶色く変色したそれは、6と2の間で真っ二つに割れた。
壊れたそれを投げ出してから、掌にちくちくとする痛みを感じた。

405TURN ON (3/3) ◆UpgPqRu.6s :05/03/07 22:25:22 ID:W4mMw3Tw0
構わずに立ち上がり、荷物を持って小屋を出た。意志と反して、足元はふらついた。
一瞬、目眩を感じて宏之は眉間を押さえて立ち竦んだ。

目を開けたその視線の先にも同じ数字が見えた。
何もかもを取り落とし、足元に転がっていたバールのような物を拾い上げ、宏之はそれに飛びかかっていた。
「うあああぁっ!」

それは多分、小屋の中にあったのと同じ木箱だった。
何度も鉄の棒をそれに打ち付け、ただの木片になっても宏之はその行動を続けていた。

目眩に似た、意識の離脱から我に返り、バールのような物をその木片の上に投げ捨てる。

───なんなんだ。なんでこんなに62ばかり。

荒い息を吐きながら、宏之はリュックを拾い上げた。
───行かなければ。

フルイニングを投げて、負けた時のような虚脱感を感じながら宏之は重い足を進めた。
406代打名無し@実況は実況板で:05/03/08 02:44:49 ID:knxWogBV0
あ・・・宏之も壊れちゃっ・・た・
407代打名無し@実況は実況板で
保守