阪神タイガースバトルロワイアル 第三章

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1代打名無し@実況は実況板で
前スレがdat落ちしたので新しく立てました


2代打名無し@実況は実況板で:04/12/06 22:59:27 ID:cRVK+gab
保管庫
http://kobe.cool.ne.jp/htbr/

元保管庫(若虎BR紅白戦が進行中)
http://homepage2.nifty.com/sorasouyo/

前スレ939氏による選手一覧・時間表
http://www.geocities.jp/htbr_2004/list.html
http://www.geocities.jp/htbr_2004/time.html
3代打名無し@実況は実況板で:04/12/06 23:00:59 ID:LX3wa6zQ
関連スレ

阪神タイガースバトルロワイアル 第二章(dat落ち)
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1099708704/l50


各球団の「バトルロワイアル」スレを見守るスレ
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1099509309/
4代打名無し@実況は実況板で:04/12/06 23:03:48 ID:cRVK+gab
・現行スレ

中日ドラゴンズバトルロワイアル第九章
ttp://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1099799271/
横浜ベイスターズ バトルロワイアル6
ttp://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1094388390/
ヤクルトスワローズ バトルロワイアル
ttp://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1100065061/
プロ野球12球団オールスター・バトルロワイアル(dat落ち)
ttp://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1097998843/
近鉄バファローズ・バトルロワイヤル
ttp://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1097395419/
千葉マリーンズ・バトルロワイアル第2章
ttp://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1099564992/
ソフトバンクホークスバトルロワイアル
ttp://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1101299661/
プロ野球バトルロワイアル
ttp://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1098685280/


・関連スレ

各球団の「バトルロワイアル」スレを見守るスレ
ttp://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1099509309/l
5代打名無し@実況は実況板で:04/12/07 02:00:38 ID:lSvKU1PU
>>1乙。ほしゅっとく。
6代打名無し@実況は実況板で:04/12/07 08:59:52 ID:xg2s8Z79
age
7代打名無し@実況は実況板で:04/12/07 11:52:02 ID:HP1V22Qa
乙です、早速保守
8代打名無し@実況は実況板で:04/12/07 19:16:41 ID:AZT/x7zX
あげとくね
9代打名無し@実況は実況板で:04/12/07 22:37:49 ID:iiIPDkc+
( ' ь` )オデノ…デバンハ…マダカ…グヘ
10代打名無し@実況は実況板で:04/12/08 17:11:26 ID:DhEOERe8
残れば残るほどオイシイぞ
11代打名無し@実況は実況板で:04/12/08 21:04:04 ID:GinMP5gv
 
12514(1/3):04/12/09 12:21:46 ID:F+V63t7H
33.不可抗力

どれくらいの時間が経っただろうか。
葛城はごくり、と唾を飲み込みショットガンの方へ足を進めた。
濱中は動く気配はなく、葛城を気にも止めぬ様子でまた佐久本
−−佐久本だったものを見遣った。
「佐久本さんやる気だったのかな。」
さあ、と掠れた声で葛城は曖昧に濁した。
(それは、お前にだって言えることじゃないんか。)
濱中はしゃがみ込んで転がる佐久本の荷物を物色していた。
葛城はゆっくりと歩き、自身の支給武器のショットガンを
また手に持った。
「カラシニコフ。」
「は、」
何だかよく分からない単語を発した濱中に、葛城は間抜け
な返事を返す。でもそれは−どこかで聞いたことがあるよう
な単語な気がした。
「佐久本さんの武器はアタリだったんですね。」
ほら、と濱中が見せてよこしたそれは、ニュースとかでよく
流れる映像によく映る銃に酷似していた。ただ少し違うのは
汚い字でカラシニコフと書いたメモ用紙が張り付けてあった。
「当たりとか、」
(お前さっき長靴を当たりと言っていなかったか?あれは何
だったんだ。演技だとでもいうのか?)
言いたいことは出かかって、また奥に戻った。今迂闊に口に
したらいけないと、本能が訴えている気がしたからだ。
13514(2/3):04/12/09 12:24:23 ID:F+V63t7H
「俺、貰っちゃいますね、コレ。いいです?」
「おう。」
内心、しまったと思ったが勿論口には出さない。そして何故、
と問いたかったが濱中はカラシニコフを手に入れてなにをする
気なのか、聞くのはあまりに恐ろしく、タブーな気がしてなら
なかった。それに濱中がただ殺戮をするとは思えなかった。
濱中は立ち上がりさっさと先程まで横になっていた場所に戻ると、
自分の荷物と佐久本の荷物を並べ、カラシニコフをぞんざいに
自分の鞄に突っ込み荷物整理を始めたようだ。葛城はただ何もせず
その所作を黙って見ていたが、背中を向けたままの濱中が喋り出す。
「俺が葛城さんを殺すと思ってるんですか?」
葛城はぴくり、と反応した。殺す、という単語は本来はこんな風に
日常的に使われる言葉ではない筈だ。
「殺しませんよ、俺にコレ、譲ってくれたし。俺の代わりに撃って
くれたし。まさか佐久本さんとは思わなかったんですけど、やる気
満々の人だったら困るんで。」
(コイツは危険だ。)
葛城は一瞬、銃に力を込めたが、何故か構えることは出来なかった。
濱中は立ち上がりこちらを見据えてる。その目から感情は窺えない。
14514(3/3):04/12/09 12:28:29 ID:F+V63t7H
「何が、何を考えてるん?」
濱中は首を傾げ不思議そうに葛城を見ている。先ほどの目とはまた
違う。
「さぁ。強いて言うならしたい事が。」
「何をする気なん。」
「会わなきゃいけない人がいるんです。」
「それは、」
「それは言えない。でも俺はその人に会うためなら何でもする。」
今度の濱中の顔は悲壮で、鬼気迫る覚悟の顔に見えた。葛城には
他人を唆して(?)人を殺してまで、何が彼をそこまで追い立てるか
分からない。演技かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
だが葛城は『会わなきゃいけない人がいる』という言葉を信じよう
と思った。信じることで、まだ自分が狂ってはいないと思いたかった。
踏み止まっていたかった。
「わかった。行けや。」
濱中はふ、と笑うと一歩後ずさった。
「葛城さん甘い人ですね、足元掬われますよ。普通殺しますよ?
それに次会ったとき俺は葛城さん殺すかもしれない。」
「それでも誰かを殺すよりはいい。」
葛城は静かに答えた。濱中は目を細めて葛城を見たあと、少し頭を
下げて一気に走り去る。葛城はただ黙ってその後ろ姿を見つめ脱力した。
腕時計に視線を落とすと、もうあと5分で昼の放送の時間になっていた。
ただ、名前を呼ばれるのがどうか佐久本一人だけであればいいと葛城は
願った。

【残り39人】
15514:04/12/09 12:32:34 ID:F+V63t7H
体調を崩していてパソコンに触れず、久々に来たら…落ちていたんですね。
これからはまめに保守します…投下ペースも他の職人さん方の
様子を見つつ上げていきたいと思います。
16代打名無し@実況は実況板で:04/12/09 14:43:06 ID:8K/xDMpS
>>15
乙です
健康の方大丈夫ですか?
ヒデノリスレのせいで落ちちゃって・・・
17代打名無し@実況は実況板で:04/12/09 19:17:24 ID:bFmNtspc
514氏乙です。
濱ちゃんも深みがでてきましたな。
13氏といい、体調を崩している職人さんが多いような。ご自愛ください。
18代打名無し@実況は実況板で:04/12/09 19:33:29 ID:l/c8B7md
514氏乙
濱中にも「目的」があるようですな
果たして誰に会おうとしているのか、会えるのか、気になってきました
19代打名無し@実況は実況板で:04/12/09 21:52:13 ID:p4y7NcyP
514氏、乙です。体調を崩されていたんですね
しかし、よくなられたなら何よりです

そういえば、最初に葛城と濱中の話を書かれた615氏も
しばらくお見えになっていませんね。どうなさっているのかな・・・
20328 ◆U/eDuwct8o :04/12/09 21:55:01 ID:+eelQ72f
第八章・もともと強いからよ

「――クッ!」
大会運営委員の高山ジョニーは、地に膝をつき思わず舌打ちをする。
「岡田様、なにゆえこの高山と戦いますか」
「オレは感じたんよ」
岡田の言葉に目的語はない。
“なに”を感じたのか、ジョニーには推し量れまいが、それを追求することはなかった。
岡田の眼を見たからだ。
彼のまなざしは、普段とは比べ物にならないほどの光を放ち、ジョニーを捕らえて離さない。
明らかに異常者のそれだった。
「ウチの藤川が、あのタヌキ親父を殺ったハズやろ」
「!? 藤川殿が…?」
「なんや、知らんかったんか。まぁ後手後手になるのはわかりきったことやったな」
「岡田様、それはどういうことですか!?」
「そんなん、ホンマのこと言うわけないやん」
苦笑混じりに岡田は言った。
「とにかくや。タヌキ親父が死んだのに、お前らがちょろちょろするのはあかんのとちゃうかなって、そう思ったんよ」
「話し合いは期待できそうにないですね」
高山ジョニーは、スーツの内ポケットに手を入れた。
「何か(考えが)浅いな。話し合いとか、そう言う問題じゃないのは誰が見てもわかるやろ」
「まぁ、そう言うことですね」
不意に後方から投げかけられた声に、高山ジョニーは思わず振り返ろうとした。
だがその瞬間、頭部に鈍い痛みが走った。

――藤川だ。
21328 ◆U/eDuwct8o :04/12/09 21:55:33 ID:+eelQ72f
先日、ウィリアムスにボールをぶつけられた場所と寸分違わぬ箇所に柄を打ち付けられた。
ジョニーの意識は寸断された。
「監督、どうしますか?」
「間抜けな畜生でも何か情報持っとるかも知れへん。適当に縛りつけたろ。意識が戻ったら始めよか」
「期待できますかね」
「ちょっと、わからん…。そやけど、ええ身体しとるな」
そう言って、意識のないジョニーの身体をぽんぽんと叩く岡田に、藤川は思わず苦笑した。
「監督…」

「グフフフ…強い。オレは強いな、藤川よ…」
一段落すると、思い出したように笑い始めた。
「え、ええ。そうですね」
異様な雰囲気に藤川は僅かに言い淀んだが、それでも無難な発言を繰り返した。
22328 ◆U/eDuwct8o :04/12/09 21:56:36 ID:+eelQ72f
《繰り返します。台風19号が徐々に勢力を拡大しながら、日本列島に近づいて――》

――ピッ
ラジオのスイッチを一旦切って、片岡は深いため息をついた。
「やれやれ。この天気は台風が原因やったんか」
とはいえ、今自分たちが立っているこの場所が、日本列島のどの部分であったかは皆目見当がつかないことを今更ながらに気づいた。
片岡は、もう一度ため息をついた。
天気の悪さが原因ではない。
どうやら久慈は死んだらしい。
あの状況から助かる術など恐らく無かっただろうが、それでも片岡は言葉では言えない罪悪感や自負の念により息苦しさを感じずにはいられなかった。
久慈との永訣からは、単独で行動していた。
たった一人減るだけで、途端に心細くなるものだ。
片岡は挙動不審に周りを警戒しながら、当てのない歩を進めていた。
そんな中、片岡は一人の男を発見した。
背番号は1。鳥谷だ。

「鳥谷!」
大きな声で呼びかけるが、鳥谷は気づいた様子もなく、心なしかいつもより大股で道の真ん中を闊歩していた。
(聞こえへんかったんか…?)
片岡は、鳥谷との距離を縮めてもう一度呼ぶ。
だが、やはり鳥谷はこちらを振り返ることはなかった。
「……?」
片岡は思わず足をとめた。
訝る顔でもう一度呼ぶと、やっと鳥谷も足を止めた。
「何ですか、先ほどからうるさいですね」
23328 ◆U/eDuwct8o :04/12/09 21:57:37 ID:+eelQ72f
「ああなんや、聞こえてへんのかと思ったわ」
「僕に何か用でも?」
片岡の脳裏に、僅かな違和感がよぎった。
鳥谷の様子がちょっとおかしい。
明らかに偉そうだ。
だが、それを咎めることもなく片岡は言った。
「よかった。お前も生きてたんやな」
「生きていた…? ふふふ、低俗な言い回しは控えていただきたい、人間ふぜいが」
「は?」
今の発言こそは、明らかにおかしい。
この地に来てからこっち、様々な“おかしい人”に遭遇してきたとは思うが、今の発言は爆発的におかしい。
「ああ、それ以上近寄らなくてよろしい。空気が汚れるので」
「なんやお前。沸いとるんか?」
複雑な笑いを浮かべながら一歩踏み出すと、鳥谷のヒステリーな声が響き渡った。
「近寄るなと言っただろう!!」
「…?」
「あと…言葉遣いも気をつけるように。目の前におわすは、神にも等しき存在であることをお忘れなく」
「はは、なんやお前。頭ユル過ぎるんとちゃう?」
「神の警告すらも聞き入れませんか。救いようのない程に頭の弱い方だ」
鳥谷は無造作に右手を挙げた。
すると、まるでかまいたちでも起こったかのように片岡のユニフォームがぼろぼろに引き裂かれた。
24328 ◆U/eDuwct8o :04/12/09 21:58:22 ID:+eelQ72f
「な――っ!?」
片岡は絶句する。
なにせ、鳥谷と片岡の間には3メートル程離れているのだ。
それに特に変わったことをした様子はない。
「もはや、救いの門は堅く閉ざされました。抗うのはおよしなさい」
鳥谷がそう言うと、片岡の身体はまるで棒のように動かなくなった。
「ど、どうなってるんだ……!?」
「死んでしまいなさい、愚かなる子羊よ!」
その瞬間、片岡の身体中が甚だしく裂けた。
「ぐぁぁぁ!!!」
片岡はその場で悶絶し、叫び苦しんだ。
「まだ息がありますか。それも良いですね」
鳥谷は薄笑いを浮かべながら踵を返した。
「その苦しみは愚行に対する審判だと思いなさい。貴方は直に天へ召されることになるでしょう」
静かにそう言うと、鳥谷はいずこかへと歩き去っていった。

「ぐ、ぐぅおう…」
四つんばいになり、なけなしの力で地の土を握り締める。
「久慈……慈…」
そして先に逝った友の名を呼ぶ。
瞬間、糸の切れたかいらいのように倒れ伏した。
(羨ましいぜ…久慈よ…)
(俺はお前のように…名殉できなんだ)

――生きろよ、片岡……――

頭の中で、友の声が響く。
(最期の約束、破っちまった。本当に、格好悪ィなあ……俺という奴は…)


“片岡篤史・死亡 開始から27時間02分”
25328 ◆U/eDuwct8o :04/12/09 22:02:22 ID:+eelQ72f
ども。


スレ立て乙です
年の瀬は何かと忙しいですが、時間見つけてやっていきます。

それではまた
26924(1/4):04/12/09 23:20:29 ID:p4y7NcyP
>>14より
34.勘違い

中谷仁(背番号66)はとある民家の居間で昼食をしたためていた。
こたつ机の上には台所のダンボールに残されていたツナとミカンの
缶詰が並んでいる。賞味期限はとうに過ぎていたが、なんとか食べられる
のはありがたかった。ふと時計を見ると、13時半を過ぎたところだった。
その仕草を見た向かいの男が、空になった缶の中を割り箸で
つつきながら呟くように言った。

「これ、いつ終わるんかな。はよ帰りたいなあ」
考えることは彼も同じらしい。彼、庄田隆弘(背番号64)と中谷は普段
特に親しいわけではないが、体育館からの出発が前後しており、
同い年ということもあって何となく一緒に行動するようになった。

中谷は平らげた缶を机の端に置き、手の甲で軽く口をぬぐった。
「さあな。けど、少なくともお前と俺が残ってるんやから、まだやろ」
「じゃあ、後で外に出てみるか? 誰かに会えるかもしれんし」
庄田は手を止め、中谷に顔を向けて言った。
「けど、こっちからノコノコ行くのも癪やしなあ。そのうち向こうから
来るやろ。たぶん、こいつで俺らの居場所はお見通しなんやろ」
うんざりした表情で自分の首輪を指さすと、中谷は立ち上がった。

「動いても腹減るだけやし、また2階で横になってくるわ」
中谷は居間を出ると、階段を上がってすぐの和室に入った。昨夜から
敷きっぱなしの布団が2組並んでいる。ほこりが舞わないようゆっくり
手前の布団に仰向けに転がったが、板張りの薄汚れた天井の染みが
目に入り、すぐ向きを横に変えた。今度は布団のかびくさい臭いが鼻を
つく。まったく、いつまでこの島に居なければならないのか。
また、いら立ちがつのり始めた。
27924(2/4):04/12/09 23:23:12 ID:p4y7NcyP
中谷はこのゲームに心底腹を立てていたが、他の選手が感じている
憤りとは種類が異なっていた。秋季キャンプも間近い大事な時期に、
なぜ選手全員をくだらない企画に巻き込むのか。彼の怒りはそこに
あった。つまり、この殺し合いが本当のこととは夢にも思わず、いわゆる
ドッキリのたぐいと考えていたのだ。

本物と見まがう佐藤の死体の出来には感心させられたが、それ以外の
全てが嘘くさかった。殺し合いという現実味のないテーマもテーマなら、
重大事を告げるにはあまりに緊張感の欠落した岡田と平田の態度も、
まるで筋の通らない理由も、信じろという方が無理だった。逆にいえば
大がかりで手が込んでいるわりには破綻が多くお粗末にすぎるのだ。
その点も気に食わなかった。

にもかかわらず、誰もが信じていたように見えたのは、選手の中にも
仕掛け人が大勢いると考えれば合点がいく。あの雰囲気では中谷自身も
物申しづらかった。いずれは彼らが自分たちを襲いにやって来るシナリオ
なのだろう。だまされる側に入れられたことも面白くない。
(来るなら来い。俺は絶対引っ掛からへんぞ)
中谷は決意しつつ、目を閉じた。

まどろみかけた頃、不意に乾いた破裂音が眠気を吹き飛ばした。
黙っていると、間隔をおきながらさらに3発同じ音が聞こえてきた。
中谷は上体を起こし、床に向かって怒鳴った。
「おい、静かにしてくれ! この家、ボロいから筒抜けなんや」
「あー、ごめん。あんまり退屈やから」
階下から庄田の声が届いた。
「遊びたかったら外でやるか、俺のにしといてくれ」
中谷は彼に釘を刺すと、また横になった。
28924(3/4):04/12/09 23:27:45 ID:p4y7NcyP
音は庄田の武器から発せられたものだった。とはいえ、その正体は
三角に折りたたまれた新聞紙――誰もが子どものころ一度は
遊んだであろう紙鉄砲だ。ちなみに5枚分用意されていた。一方、
中谷の支給品は空気鉄砲。小さな筒にスポンジをこめて空気圧で飛ばす、
これまた懐かしい理科の教材だ。当たった武器がおもちゃであったことも、
二人が殺人ゲームを信じられない理由の一つだった。

それから15分くらい経っただろうか。中谷は再び眠りを妨げられた。
夢の中で何か大きな音が2、3発鳴った気がする。またか、と小さく
舌打ちすると、思いがけない庄田の声が耳に飛び込んできた。
「中谷! 逃げろ!」
(は?)
いったい、何が起こったというのか。中谷は目をこすりながら
身体を起こした。

部屋を出て階段の降り口まで来た中谷は異様な光景に思わず
立ち止まった。1階の廊下に這いつくばった庄田の姿が視界に
入ったのだ。しかも彼は必死の形相で誰かの足にしがみついていた。
中谷の位置から相手の身体はタテジマの足以外ほとんどが階段脇の
壁に隠れており、誰なのか分からない。

「中谷、聞こえるか!? 早く逃げろ!」
庄田は階段ではなく1階奥に顔を向けて叫んでいた。その絞り出すような
声と重なり、彼を振りほどこうとする相手のわめき声が聞こえる。声の主を
思い出そうとしたが、それよりも庄田の白いユニフォームに所々できた
赤いまだらが中谷の目を射た。
(あれは――血か?)
「これはドッキリなんかやない! ……お前もやられる!」
庄田は苦しそうな顔で声を張り上げ続けた。
29924(4/4):04/12/09 23:31:32 ID:p4y7NcyP
もしかして、庄田も一緒になって自分をだまそうとしているのだろうか? 
一瞬そんな考えが中谷の頭をかすめたが、芝居とも思えなかった。
しかし、本当の殺し合いなどあるわけがない。頭が混乱してきた時、
大きな音が鼓膜を突いた。先ほど夢の中で聞いた音だ。明らかに
紙鉄砲とは違う。ほぼ同時に庄田の額から血が噴き出した。
彼は上体をわずかにのけぞらせた後、ゆっくり崩れ落ちた。

侵入者は倒れ伏した庄田の腕を蹴り放すと、居間のある奥へと駆けて
行った。庄田はぴくりとも動かず、額の下にできた血だまりだけが
少しずつ大きくなりつつあった。その間、中谷は声を立てることもできず、
ただぼう然と立ち尽くしていた。
(まさか、そんな――嘘やろ?)

降りて行って確かめたい気持ちにかられたが、本能が危険を察知して
押しとどめた。身体中から血の気が失せ、心臓が早鐘を打つのが
はっきりと感じられた。
(早く逃げろ!)
繰り返し自分に呼びかけていた庄田の声が頭の中にこだました。
中谷は身をひるがえし、廊下を走り出した。

突き当たりの戸を開けると、そこは朽ちかけた物干し台だった。急いで
飛び出すと戸を閉め、周囲を見回した。正面は裏庭で、その向こうには
畑が広がる。右手には軒を連ねる隣家の屋根がすぐそばまで
迫っていた。しばらく迷ったすえ、中谷は赤茶色にさびついてぐらぐら
揺れる金属製の柵に足をかけた。
屋内には靴のまま階段を駆け上がる音が響いていた。

【残り38人】
30代打名無し@実況は実況板で:04/12/10 14:01:09 ID:DJIm6wjg
誰か前スレのログ持ってない?
31代打名無し@実況は実況板で:04/12/11 00:39:06 ID:5qRG/tRf
>>30
前スレ>>225までならあるよ。
32代打名無し@実況は実況板で:04/12/11 12:23:31 ID:XunBsU54
>>924
職人さんいつも乙!!!
…そりゃ実感わかないだろうな
33代打名無し@実況は実況板で:04/12/11 15:11:53 ID:MUBm6zHs
保守
34代打名無し@実況は実況板で:04/12/11 16:32:08 ID:0KtA7Xbr
>>31
うpきぼん
あぷろだはここでどうだろ
http://www.uploda.org/
35代打名無し@実況は実況板で:04/12/11 22:14:23 ID:MUBm6zHs
age
3631:04/12/12 09:10:36 ID:TK4N1CG0
>>34
Janeのログなんだけどどうやってうpればいいか分からん。
とりあえず調べてみる。
37代打名無し@実況は実況板で:04/12/12 10:11:57 ID:ISuFIX4i
HotZonu2からHTML出力したのならあるぞ?
38代打名無し@実況は実況板で:04/12/12 12:00:09 ID:1vE87XjV
>>37
おくれ。
39代打名無し@実況は実況板で:04/12/12 18:14:36 ID:ISuFIX4i
40代打名無し@実況は実況板で:04/12/12 18:43:13 ID:1vE87XjV
>>39
乙。ありがとう。
41代打名無し@実況は実況板で:04/12/13 14:08:51 ID:Z+H9Mn9C
ageときます
42代打名無し@実況は実況板で:04/12/14 22:39:08 ID:D1HF9p2t
(´-ゝ-`)
43保管庫”管理”人:04/12/15 02:50:25 ID:b+9hm38n
とりあえず作者別インデックスと選手別インデックス作ってみました。
ttp://kobe.cool.ne.jp/htbr/relay/index1.html(作者別)
ttp://kobe.cool.ne.jp/htbr/relay/index2.html(選手別)
やっつけで作ったので見にくいかもしれません…。
44代打名無し@実況は実況板で:04/12/15 17:56:00 ID:eAYt2n1G
激しく乙
45代打名無し@実況は実況板で:04/12/15 19:54:12 ID:di0khpse
かなりの勢いでGJ
46代打名無し@実況は実況板で:04/12/15 22:36:46 ID:m7qGyAF7
こいや
47保管庫”管理”人:04/12/16 01:18:14 ID:z3laCLtv
保管庫からインデックスにリンクつなげました。

>>前スレ202氏
一応完成しましたので、リンクはずさせて頂きました。
短い間でしたが、とても助かりました。ありがとうございました(*^ー゚)b
48代打名無し@実況は実況板で:04/12/16 03:48:04 ID:a1KLj0iE
皆さん乙です
49代打名無し@実況は実況板で:04/12/16 22:21:50 ID:EGVAGzW4
>47
保管庫の管理人さん及びスレ住民にお聞きしたい。
ただでも複数作者同時進行でご苦労なさっていると思われますが、
さらに一名、非リレーで参入してしまうとパンクするでしょうか?

各種インデックス類は最小限のタグ込みでこちらで準備も出来ます。
50代打名無し@実況は実況板で:04/12/16 23:09:04 ID:VStAFROJ
最近は職人さんたちもお忙しいのか、なかなか続きが来ませんね
気長に待っておりますので、お暇な時にお願いします

>49
だからというわけではないですが
新しく書いて下さるなら、自分は読んでみたいです
51保管庫”管理”人:04/12/16 23:54:59 ID:z3laCLtv
>>49
自分も大ちゃんしく読んでみたいです。
そんなに気にせず気軽に投下してください。
52代打名無し@実況は実況板で:04/12/17 01:39:48 ID:ZDbIhVKP
読んでみたい事は読んでみたいんだけど、流石にこれだけ本数が多いと
展開がかぶっちゃって困ったりしないのかなとかそういう心配はある。
でも、最終的には職人さんの自由だと思うよ。
53代打名無し@実況は実況板で:04/12/17 14:55:17 ID:GQ8foQoL
読みたいなぁわくわく
54代打名無し@実況は実況板で:04/12/17 16:30:03 ID:PS8Kj2ak
確かに展開やキャラがかぶるかもしれないけれど
全部が全部同じになることはありえないし
その辺は職人さんの腕の見せ所ってことで

自分も読みたいに1票
5549:04/12/17 19:29:49 ID:jb0BWE4A
>50-54
レスありがとうございます。
広告の裏から脱却させてもらおうと思います。
あらかじめ地図つきを考えておりますので、準備ののち、
日曜ぐらいから張ってみます。

>51保管庫管理人さんにはご迷惑お掛けします。
561:04/12/17 20:25:06 ID:XEZ/0BRM
すいません
初代スレ立てたものです
いまさらですが書き逃げみたいな形になってすいません
普通に今まで書き込んでました
職人さんに感謝です
あとageときます
57代打名無し@実況は実況板で:04/12/18 18:00:12 ID:9dM9N+IJ
保守
58代打名無し@実況は実況板で:04/12/18 19:35:29 ID:1LtHFB/A
なぁ、初代スレが立ったあたりみたいに、みんなでちょっとしたネタ出し合ってみないか?

それを使うかどうかは職人さんの自由にして
59代打名無し@実況は実況版で:04/12/19 10:54:51 ID:lwLPmryu
保守
>>58
いいね!俺はパソに詳しい井川あたりにハッキング期待してる
6049 ◆NRuBx8130A :04/12/19 11:47:13 ID:7wyITqXo
そこで空気読まない俺が新規参入ですよ。スマソ

地図は ttp://www.uploda.org/file/uporg23326.png です。
まだ移動してませんが。
61(1/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/19 11:48:49 ID:7wyITqXo
1. 祈りの行方

どうにか納得のゆく予想を立てようとしていたのだが、その人物が遠慮がちにドアを開け、
こちらへ片手を振ってみせたがために、試みはさらに難度を増した。赤星は内ポケットに
手を突っ込んだまま、近づいてくる濱中を愕然とした面持ちで見やった。傍らの藤本もお
おむね似たような反応である。
「もっさん?」
大きな目に問うような色をあらわにし、濱中は動きを止めたままの藤本の前で首を傾げた。
赤星と藤本は顔を見合わせて首を振り、それから再会の挨拶をした。
「何だか久しぶりだな。去年はこの時期まで試合があったけど」
濱中は相槌を打つと、少し寂しそうな顔をする。
「そうですね…やっぱり優勝って特別ですよね」
赤星の脳裏には宙に舞う伊東監督と歓喜の西武ナインの姿がある。日本シリーズは先日終
わったばかりだ。去年の今頃は胸いっぱいの充実感とそれ以上の悔しさを噛み締めていた
のに、今年の寂しさといったらない。まあこれまでのプロ野球人生を省みれば、今年のパ
ターンが普通であったりもするのだが。
62(2/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/19 11:50:41 ID:7wyITqXo
「この時期ってのも、ちょっとおかしいんですよね」
ため息がちに、藤本が言った。赤星は自分宛の封書を取り出しながら濱中に問う。
「なあ濱中、お前は何でここに?」
濱中が即答せず、その左腕がそろそろと右肩に伸びた時点で、赤星にも藤本にも返答が予
想できてしまい、二人は苦い思いで再び顔を見合わせた。
「――ここに、肩の関節の権威が来てるって」
濱中は言葉を切り、あたりを見回す。チームメートの見知った顔ばかりがある。手を挙げ
て応える者、一瞥をくれる者、反応はさまざまだが、表情には一様に不安の色がある。
「でも、おかしいですよね」
「ああ」
赤星は頷いた。取り出した封書を広げる。
「球団からの正式な通達、に見えるだろ、でも」
便箋を覗き込み、藤本が眉を寄せる。
「赤星さんは車椅子の寄付を受けた施設の訪問ですか。僕はミニキャンプの文面でしたよ。
 だからこんなに南の方なんやって納得してましたもん」
63(3/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/19 11:51:26 ID:7wyITqXo
「だけど一番おかしいのは」
几帳面に便箋を折りたたみ、元通りに封筒に収めてから、赤星は濱中を見上げた。
「全然説明がない。みんな訳も分からずここに押し込められてるってことだな」
赤星が重々しく首を振ったのを最後に、三人は言葉を失った。
あちこちから低い囁きが聞こえる。皆同じように悪い予感を感じているのだろうと濱中は
思った。まだ肩を抑えたままの左手に力が籠る。
(悪いことが起きませんように。もう、たくさんだ)
心中で濱中は呟く。想いは祈りに近い。儚い祈りだった。

                                  【残り46人】
64代打名無し@実況は実況版で:04/12/19 14:38:33 ID:lwLPmryu
>>49
乙です
期待してます
65代打名無し@実況は実況板で:04/12/19 18:34:09 ID:e2f0tSbf
新庄「職人さん乙」
66781 ◆2Ud8ySLCX. :04/12/20 11:34:45 ID:HqwPvXQu
第5章前編
西に日が沈み、辺りはもう真っ暗になったころ、
兵庫県西宮市にある阪神球団本社では、
野崎社長の腹心、藪恵壹が社長室の扉の前に立ちドアをノックしていた。

「失礼します。社長、報告することがあるのですが・・・」

ドアを開け、入り口付近に立ち、話し始めた。しかし・・・
そんな藪に背を向け何やら携帯で誰かと会話しているようだ。

「だから〜この前はゴメンっていたやんか〜。みっちゃん機嫌なおしてえなあ〜。」

『何よ!奥さんいないって言ったくせに!ウソつき!
もうノザッキー何て大嫌い!フン!――――ガチャ!ツーツー』

・・・どうやら愛人の達川にフラれたらしい。
野崎はまるで世界が終わったかのように
無気力で糸の切れたタコのようになっていた。
だが、そんなくだらないことで一々気を使ってもいられない。
藪はなんとか、野崎に話を切り出そうとした。

67781 ◆2Ud8ySLCX. :04/12/20 11:35:30 ID:HqwPvXQu

「あの社長・・・」

「みっちゃん・・・」

全く聞いちゃいなかった。完全に上の空だ。
今野崎の頭の中には、
達川との甘美な思い出が走馬灯のように蘇っているのだろう。

「社長!!!」

「!!!何奴!!」

スピーカーでも使ったかのような大声で呼ばれ、ようやく気づいた。

「・・・何奴って藪ですよ。」

「何じゃ・・・藪か。どうかしたか?」

「ええ、ところで社長どうなさったんですか?その怪我?」

野崎は頭部に包帯を巻き、首にはギブスをつけ、右手と左足を骨折したのか
横には松葉杖を置いていた。
何というかお前はミイラ男かと言いたくなるぐらいに全身を包帯で巻いていた。
全ては先日の嫁との壮絶なバトルロワイアルの代償だった。
・・・よく生き延びれたものだ。
68781 ◆2Ud8ySLCX. :04/12/20 11:37:03 ID:HqwPvXQu

「・・・何も聞くな。」

野崎は多くを語らなかったが、小刻みに揺れ、唇が青くなっていた。
・・・よほど、恐ろしい体験だったのだろう。

「早速ですが、社長。大豊が伊良部に殺されました。
そしてその伊良部ですが、どうやら和田コーチに殺された模様です。」

その報告を受け、
右の眉をピクンと吊り上げ、不機嫌そうに話し始める野崎。

「和田やと・・・フン、オマリーと二人で無駄な抵抗をしおって。気に入らん奴じゃ。」

「それだけではありません。
死んだと思われていた岡田彰布が生きていました。」

今度は野崎もさすがに動揺を隠せなかったのか、
目が大きく開き、声を荒げて、藪に問いただした。

「何じゃと!あの男は死んだハズ!どうなっとるんや。」
69781 ◆2Ud8ySLCX. :04/12/20 11:38:50 ID:HqwPvXQu

「どうやら、影武者だったようです。
密かに暗躍し中村豊、藤川、筒井、桟原を殺害し、
金本に接触していたそうです。」

「ちっ,久万の犬が阿呆のクセにこしゃくなことをしおって。
島におくった全ての刺客に伝えろ!
オマリー、和田、岡田を発見しだい直ちに始末しろと!」

「かしこまりました。それと社長、
以前から交渉していたあの暗殺者との
交渉が成立しました。」

「何!」

それを聞くと野崎は一瞬驚いたようだったが、
やがて勝ち誇ったような表情を浮かべる。

「クックック、裏社会最強の殺し屋と呼ばれたあの男だ。
これで岡田たちもひとたまりもあるまいて・・・」

「すでに出発し明日にも上陸するとのことです。
その三名の殺害を依頼したところ、
オマリー1億円、和田コーチ7000万円、岡田彰布タコ焼き一年分で
交渉成立しました。」

「クックック、岡田たちの苦痛の表情がめに浮かぶようじゃわい。ハハハ!!!」

社長室に野崎の勝利宣言とも取れる
高らかな笑い声がしばらく鳴り響いていた。
70781 ◆2Ud8ySLCX. :04/12/20 11:39:24 ID:HqwPvXQu



――――翌日。
和田コーチは密林の中で仮眠をとっていた。
空を覆いつくすような沢山の木の隙間から光が差す。

「朝か・・・」

和田コーチは目を覚ました。既にバトルロワイアルが始まって三日がたったが、
もうかなりの人数が死んでいる。
一刻も早く野崎の野望を阻止し、このばかげた殺し合いをやめさせなければ。
そう決意を新たにしたとき、和田コーチの携帯がなった。
携帯には連絡先はオマリーであると表示されていた。
即座に携帯を手に取り受話ボタンを押した。

「もしもし。」

『和田ハンデッカー?オマリーデス。』

「オマリーさん。どうしたんです。」

『ドウヤラ野崎社長ガ雇ッタ殺シ屋ガ上陸シタヨウデスワ。』

「殺し屋?誰です?」

「ソレハワカリマヘンワ〜。タダ僕等ノ事狙ットルヨウデス。気付ケテクダサイ。」

そういうとオマリーは電話を切った。
71781 ◆2Ud8ySLCX. :04/12/20 11:39:51 ID:HqwPvXQu
電話を切った後、和田コーチはなんとも言えぬ悪寒がした。
過去にきいたことがあるのだ。
阪神と密接な関係がある裏社会最強といわれた殺し屋のことを。
まさかとは思うがあの男が来たのでは無いか、そう思ってしまうのだった。

そんな不安を抱えたまま和田コーチは密林のなかを歩き続けた。
やがて日は沈みかけあたりは薄暗くなってきた。

「この辺りで少し休むか・・・」

そう呟くと和田コーチはそばにあった大木にもたれた。

「ん?・・・」

和田コーチは周囲に何か生臭い匂いがすることに気づいた。

(・・・!この匂い!これは・・血のにおいだ!)
和田コーチは血のにおいがする後ろの草むらの草を掻き分けた。
そこにあったものはまたしても阪神の選手の死体だった。
背中に銃痕がありそこから出血している。
背番号は“00 ”秀太。
72781 ◆2Ud8ySLCX. :04/12/20 11:40:31 ID:HqwPvXQu

「秀太・・・ハッ!」

そのとき和田コーチは背後に人の気配を感じた。
しかし、それは和田コーチが振り向く前に口を開いた。

「たこ焼きみたいやな」

和田コーチが振り返った先にいたものそれは・・・

裏社会最強の暗殺者と呼ばれる、“世界の盗塁王”福本豊 その人である。
73781 ◆2Ud8ySLCX. :04/12/20 11:40:56 ID:HqwPvXQu

「福本さん!?まさかあなたが・・・」

「チンチンな。」

「は?」

「そこを銃でうったるゆうとんのや。」

そういうと福本はゆったりと
愛用のワルサーをスーツの胸からとりだし構えた。

「くっ、秀太もアンタが?・・・」

「あの子は目はエエけど、頭悪いね。」

「確か、お前も野崎社長から暗殺を依頼されてるんや。ぼちぼち死んでもらうで。」

そういうと福本はゆっくりと引き金に手をやった。
その構えに隙は無い。
和田コーチの脳裏をよぎった言葉は

万事休す。だった。
74781 ◆2Ud8ySLCX. :04/12/20 11:41:32 ID:HqwPvXQu



――――ピピピピピ。

阪神球団の本社にある社長室で野崎の携帯がなった。
ディスプレイは福本豊からの着信を示していた。

「もしもし」

『もしもし。ワシです。福本です。』

「おお、福本さん、どうしました?」

『今、和田コーチを始末しましたわ。』

「ホンマですか!?さすがですなあ。」

『いやホンマ、あれでキャーンですからね』

「いやいや、この調子で岡田やオマリーも頼みますわ。
岡田は確か、バナナ一年分でよかったですな?」

『わしは猿か』

「はは、冗談ですがな。まあその調子でがんばってください。」

そういうと野崎は電話を切った。
75781 ◆2Ud8ySLCX. :04/12/20 11:41:55 ID:HqwPvXQu

「ククク、さすが福本豊、この調子で不満分子をけしさってくれるはず。
フハハハハハ!!!!」

またしても高らかな笑い声をあげる野崎。
それは野崎の二度目の勝利宣言だった。


そのころ、福本は草むらに向かって、
・・・立ちションをしていた。
湯気を立てながら、福本は呟いた。

「ションベンの切れが悪いな」

       続く
76代打名無し@実況は実況板で:04/12/20 16:47:57 ID:BKzBZds/
わろた
77代打名無し@実況は実況板で:04/12/20 17:38:47 ID:G7PP9nTF
保守
78代打名無し@実況は実況板で:04/12/20 17:40:42 ID:9kps78XK
福本さんイイ!
和田コーチ死んじゃったのか・・・・・・
79代打名無し@実況は実況板で:04/12/20 18:22:40 ID:G7PP9nTF
ワロタ
80代打名無し@実況は実況板で:04/12/20 19:46:06 ID:DPSGBno7
クソワロタ
81(1/2) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/20 20:28:02 ID:UWe5VIlk
>63より
2.ストにはデモで

瞼が、いや頭が酷く重い。この重みに任せてもう少し眠りの中に沈み込んでいたいのに、
無遠慮な騒音がそれを許さない。苛立ちを孕みつつ、関本は薄く目を開けた。
白っぽい床が目に入る。彼は瞬きをして合わない焦点を定めようとしたが、それより先に
拡声器のハウリングに鼓膜を打たれた。苛立ちを深くしつつ、ぐいと身を起こす。支えに
した手に砂のような感覚がある。数度目を瞬かせてから、関本は愕然とした。
己が横たわっていたのは、年季の入ったコンクリートの上であった。ユニホームを着た背
中がまず目の前にあり、その向こうに軍服の男たちが立ち並ぶ。黄色い拡声器を手にした
岡田の姿がその中に混じっている。岡田の背中側には四角い穴が開いた灰白色の壁があり、
穴の向こうには空と海がそれぞれの青さを示している。脆くなったコンクリートの一室に、
彼らは転がされていた。
軍服?誰?岡田監督?何で?何処だ?ありとあらゆる疑問詞が、関本の頭に浮かんだ。
「時間が惜しいんや、さっさと起きんかい」
キーンという耳障りな音と共に、岡田の声が頭蓋を揺さぶり、関本の思考は一時止まる。
まだ倒れたままの誰かを、岡田が蹴り飛ばしたのがわかった。監督!と誰か声が飛ぶ。声
からして金本だろうか。ざわめきが広がった。
「うるさいわ!もう何度も言ってることよ」
パン、パン、と乾いた音がし、辺りが一斉に静まり返る。パラパラと天井から何かが落ち
てくる。何が起きたのか分からず、関本は目を凝らした。頭上に掲げられた岡田の手の先
に黒いものがあり、そこから微かに煙のようなものが立ち上っている。鼻腔にツンと刺さ
る臭いがする。
それが拳銃であることに気付くのに、たっぷり5秒は費やした。途端、拡声器の騒音に止
められていた疑問が再び関本の脳内を席巻した。

九州の南の端まで来て、秋季練習だと思っていたのだ。あの部屋で皆に会うまでは。
それぞれに尤もらしい文面の書簡を手にしたチームメートは誰も首を傾げるばかりで、平
塚コーチが現れて、ユニホームに着替えて背番号順に隣室へ来い、と言ったときには、疑
問の答えが与えられそうな予感に安堵さえしたのに。
呼び出されて、背後でドアが閉まるなり眠くなって――だからって、この状況は。
82(2/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/20 20:29:05 ID:UWe5VIlk
「ええかー、寝てる奴は起こしたってくれ。これから大事な話しをするんやから」
大事な話が控えている割には、喋る岡田の口調からはどうにも暢気な調子が抜けていない。
今期はそれでさんざん批判を浴びたんじゃなかったか?まあ前任者が前任者だから比較さ
れるほうも辛いと思わないでもない。混乱を抱えたまま、関本はそんなことを考えた。
岡田の脇には平塚だけでなく中西コーチ、平田ヘッドの姿もある。あちこちを指差し、眠
っている選手を起こせと指示を送っているらしい。いつになく連携が取れているなぁとま
た関本は思い――人のことは言えないかもしれないと己に呆れた。

「皆起きたかー?これからお前らにはちょっと殺し合いをしてもらう」
僅かに盛り返してきていたざわめきが、岡田の言葉に再び静まった。岡田はそれに気を良
くした風で、わざとらしい咳払いをしてからひときわ大きな声で続けた。
「武器やなんかはこっちで用意してやったわ。色々あるから楽しみにしときや。
 最後のひとりになるまでやってくれたらええわ。今から…あー、もうすぐ1時やな。
 24時間以内に誰も死なんかったら、全員の首輪が爆発する仕掛けやから、そのように」
岡田の言葉に、初めて首輪の存在に気づいたのは、どうやら関本だけではないようだった。
そろりと手を伸ばすと、丸い断面の冷たい感触がある。自分のものはよく見えないが、ほ
ぼ正面に座っている久保田のそれを見て形状を知った。鉛筆ほどの太さの鈍い銀色がハイ
ネックの上から首を取り巻き、その一部は四角く変化して、LEDが埋め込まれている。誰
の首でも明滅している緑色の小さな光を、関本は呆然と見やった。
83(3/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/20 20:29:20 ID:UWe5VIlk
「ま、待ってください監督!」
関本のいる位置からは距離があったが、最前列に座らされていたその人物が手を挙げなが
ら膝を立てたので、背番号を読み取ることができた。00番。秀太だ。
「ちょ、ちょっと何なんですか?殺し合いって、冗談じゃな――」
岡田が拡声器を下ろし、替わりに拳銃を握る手を上げたので、秀太は途中で言葉を切らざ
るを得なかった。彼は身を硬くして、自分に向けられた銃口を凝視している。
「お前ら、ストしたやろ。ストにはデモや。もう決まったことや」
ぶっきらぼうに、岡田は言った。拡声器は使われなかったが、あたりが静まり返っていた
のでそれは関本の耳にも聞こえた。ただ真意は量りかねた。
岡田は多少逡巡した様子があったが、引き金は引引かず、銃を握る右手を下ろした。途端、
秀太が崩れ落ちるように座り込む。
「ええわ、許したる。そら納得いかんやろうしな」
岡田は拡声器を平田に渡す。空いた手で軍服の男たちに合図を送ると、静かにカーキ色の
人垣が割れた。

[岡田掛布:自動拳銃(COLT Government)]
                                  【残り46人】
8449 ◆NRuBx8130A :04/12/20 20:30:50 ID:UWe5VIlk
すいません>81は(1/3)です。
二分割では張れんかった…orz
85代打名無し@実況は実況板で:04/12/21 09:31:15 ID:yKPk3BA5
リレーなんだが、話を思い付いたら、参加を表明した上で書いて良いのだろうか?
86代打名無し@実況は実況板で:04/12/21 16:50:09 ID:rykD8dIH
いいよ
87代打名無し@実況は実況板で:04/12/21 19:06:12 ID:huAu2h4t
リレーはしばらく止まってるのかな?
矛盾が出なきゃ進めてもいいんじゃないか?
88代打名無し@実況は実況板で:04/12/21 22:09:48 ID:ZEkiY1bh
49tan otsu!
89代打名無し@実況は実況板で:04/12/21 22:55:47 ID:sJAtkIUZ
おお、続きが来てるっ!
皆さん、モツカレーでござる。
90(1/2)49 ◆NRuBx8130A :04/12/21 22:56:04 ID:MMecvS60
>83より
3.そういうことよ

赤星は目を見張った。背中を押されでもしたのか、たたらを踏みながら進み出たのは、
スーツ姿の初老の男性――野崎球団社長だった。眼鏡の奥の疲れ切った目が選手たちを見
渡して瞬く。
「どういうことか、今から分からせたる。おい」
岡田の背後から、機関拳銃を手にした一人が進み出て、皺になったスーツの背中を銃口で
突いて歩くよう促した。野崎は大きく息を吐き出してから、両手を挙げて選手たちの前へ
進む。
「ええか、よう見とけよ」
岡田が言うが早いか、平塚が取り出した携帯端末を操作する。ピッピッピッ…という電子
音が聞こえ始め、選手たちは自分たちと同じ首輪の姿を野崎の首に認めた。LEDは赤色に
変わり、高い音にあわせるように盛んに点滅している。野崎は真一文字に結んでいた口を
開いた。京訛りの言葉は嗄れていたが、それを妨害するのは電子音だけであったので、赤
星にも何とか聞き取れた。
「みなさんにはお詫びのしようもありません。私の力及ばずこのようなことに――」
言葉を切った野崎の行動は、普段の彼の人柄を知る選手たちの予想を軽く飛び越えた。野
崎は突然振り返って軍服の男をかわすと、岡田の元へ駆け出していた。黒い革靴がコンク
リートを蹴り、スーツの裾が翻る。
途端、ぱん、という音がした。先程聞いた音とは違う類のものだった。
首から血飛沫を上げながら、野崎の体がぐらりと傾ぐ。思わず立ち上がったのは赤星だけ
ではない。駆け出していた勢いで、スーツを着た体はコンクリートの上で弾み、少し滑っ
て止まった。みるみるうちに床に血溜りが広がってゆく。右手が僅かに灰白色の床を引っ
かいたが、すぐに力を失う。野崎の反撃と人生はそこで終了した。
91(2/2)49 ◆NRuBx8130A :04/12/21 22:56:42 ID:MMecvS60
「アホか。こんなもん引っ張り出してからに…」
岡田は手にしたガバメントを構えたまま野崎の死体に歩み寄ると、その右手の先に転がっ
ていた品のいい藍色の万年筆を踏みつけた。内ポケットからでも取り出したのか、野崎の
唯一の武器であったそれは、ほっそりとした姿の割に岡田が体重を掛けても折れも砕けも
しなかった。実にいまいましそうに、岡田はそれを蹴り飛ばした。
「分かったやろ?冗談でもなんでもないわ。とにかくお前ら座れ」
野崎の抵抗劇に、選手たちの半分以上が立ち上がってしまっていた。岡田が巡らせる黒々
とした銃口に睨まれ、多くはそろそろと腰を下ろす。
が、それができない者もいた。
「吉野」
岡田は不機嫌そのものの声で、凍り付いている背番号21の名を呼んだ。吉野はびくりと肩
を震わせたが、膝を折ることはできないようだった。座らんかい、と続けて声が飛ぶ。隣
の金澤と桧山が両方からユニホームを引っ張り、少しは離れたところからは安藤が座れ座
れとジェスチャーを送るが、それでも吉野の関節は錆付いたままだった。

「ああ、ほんとアホばっかりや。ここであんまり数減らすわけにはいかんのだけども」
岡田が軍服の男たちを振り返る。それを受けてリーダー格らしきひとりが無言の指示を出
すと、一部の者が整然とした隊列を保ったまま移動した。彼らの背後にあったものが選手
たちの視界に入る。
そこには、パイプ椅子に腰をかけた和田、伊藤両コーチの姿があった。
「野崎さんだけやないで。これはチームの方針や。コーチにも協力してもらう」
言って、岡田は得意げに口角を引き上げた。

【残り46人】
92代打名無し@実況は実況板で:04/12/22 10:59:36 ID:MomX8vDp
>>29より
35.現実

中谷は物干し台の柵から二階の屋根に上がった。やみくもに逃げても新たな
敵に遭遇するかもしれない。第一、靴も荷物も一階にあり、取りに行くのも
危険だ。ここはとにかくやり過ごそうと考えた。この家の屋根は細長い台形
二つと三角形二つを合わせた寄棟造と呼ばれる形をしている。まず三角形の
面に上がった中谷は、物干し台から死角になる台形の面に移り、しゃがんだ。
相手がここに登ってきた時に備え、瓦を一つ武器代わりに外しておく。
柵から屋根に移る時なら、銃を持っていてもとっさには撃てない。

ややあって、物干し台に通じる戸を開ける音がした。全身に緊張が走る。
思ったより遅かったのは、他の部屋を見回っていたからか。中谷は瓦を
両手でしっかりと持ち、今まで以上にじっと息を殺した。ぎし、ぎし、と数回
床板がきしんだ後はぴたりと音がやんだ。辺りをうかがっているようだ。

「逃げたか……」
不意に低いつぶやきが聞こえ、中谷は危うく瓦を取り落としかけた。
まだ見つかったわけではないとわかっていても、手が震えだす。
見つけられた時に取るべき行動は頭から吹っ飛び、ただ早く立ち去って
ほしいとしか考えられなくなった。必死で祈っていると、再び床板を
踏み鳴らす音が響いてきた。どうやら、あきらめて戻って行くらしい。

大きく息を吐きながら中谷は瓦を足元に置いた。全身の力が一気に抜けた
心地がする。身体中が冷たく汗ばんでいるのに口の中は渇ききっており、
心臓だけが普段の倍以上の速さと音量で鳴っている。しばらく座り込んだ
まま動けなかったが、からからと玄関の引き戸を開ける音に耳が反応した。
中谷は四つん這いであたふたと音の方向に移動した。
いよいよ襲撃者の正体が明らかになる。息をつめて目を凝らした。
93924(2/5):04/12/22 11:03:20 ID:MomX8vDp
一階の屋根の陰から去り行く人物の頭、肩、背中が順に姿を現した。
両肩に一つずつカバンがかかり、その間には、ゼロが二つ並んでいる。
田中秀太。いつも明るくチームを盛り上げていた、3年上の先輩。
(秀太さんが? なんで、そんな――)
中谷は魂の抜けたような表情で彼の背中を見送った。

秀太の姿が見えなくなり、中谷は家の中に戻った。まだ信じられない。
しかし、一階に伏せる庄田が現実を知らしめた。中谷は彼のそばに膝を
つくと、身体を返して顔をのぞきこんだ。額から流れ出た血で汚れた凄惨な
顔面の有り様とは対照的に、目を閉じているせいか表情は穏やかだった。
だが、鼻と口に手をかざしても呼吸は感じられず、脈をみても何の反応も
ない。やはり、これはドッキリなどではなかったのだ。

目の前が真っ暗になり、身体が奈落の底に引きずり込まれて行く気がした。
殺し合いという馬鹿げた主旨、間の抜けた説明、理由にならない理由――
ドッキリならもう少しうまく作れよと突っ込んだすべてが正真正銘の現実だった
とは。そして、その中で唯一圧倒的なリアリティを持っていた佐藤の死体が
闇の底から浮かび上がってきた。あれも本当に本物だったというわけだ。
狂っているとしか言いようがない。

追い討ちをかけるように、岡田と平田のおめでたい声が頭の中をうるさく
飛び回り、かき乱した。
――今日はお前らに、ちょっと殺し合いをしてもらう
――ただで消すのもあれやから
――いってらっしゃーい
(あいつら、何考えとるんや? あれでも人間か?)
ただ鬱陶しいだけだった声が、にわかに恐ろしく感じられた。
94924(3/5):04/12/22 11:08:47 ID:MomX8vDp
中谷は、座ったままうつろな表情で天井を見上げた。
(さっさとクビにされた方が百万倍マシやったな……)
ドラフト1位で指名されたのはもう7年も前のこと。甲子園優勝捕手として
大いに将来を嘱望されたが、眼の負傷で歯車が狂った。最近は二軍でも
出番が減りつつある。今年は若手では梶原、新井亮、加藤といった面々が
解雇され、明日は我が身を実感するとともに自分はまだ野球が続けられる
ことに安堵したが、今は彼らがうらやましい。たとえ今後の身の振り方に
悩み苦しむとしても、この理不尽な殺し合いから逃れられたのだ。

今度は庄田に目をやった。昨年、タイガースが社会人野球のシダックスに
いた彼を指名したのは、同チームのエースを今年獲得するための布石と
言われていた。それが本当なら、人質のような形で指名され――しかもかの
エースは他球団への入団を決めたため、功を奏さなかった――、わずか
一年もたたぬうちに常軌を逸したゲームで命を落とさねばならなかった彼の
人生とは、いったい何だったのか。

「なあ……どう思う? お前もプロなんかに入らんかったら……」
尋ねても、もちろん庄田は答えない。だが、不思議と安らかなその顔は、
それでも後悔してはいないと言っているかのようだ。周囲の思惑とは
関係なく、彼はプロ野球選手になれたことを心から喜んでいたはずだ。
死球による故障にもめげず努力していた姿を、中谷も知っている。
「だからって、こんなことって、ないよなあ?」
頬を涙が伝う。同時に、腹の底からむくむくと凄まじい怒りが湧いてきた。

「ちくしょう!!」
中谷は拳骨で思い切り床を叩いた。怒りは恐怖と絶望に打ち勝った。
これがドッキリなら絶対に引っ掛からないつもりだった。本当の殺し合いで
あっても、仕組んだ側の思い通りになりはしない。
95924(4/5):04/12/22 11:12:45 ID:MomX8vDp
固く心に決めたが、ここである切実な問題に気づいた。殺人ゲームが現実なら
死亡者名や禁止エリアも本当ということになる。しかしドッキリだと思い込んで
いたせいで中谷は定時放送を適当に聞き流してしまい、一切メモを取って
いなかった。ここは庄田の名簿と地図に望みをつなぐほかない。

慌てて居間に戻った。机の上に空き缶とペットボトル、畳の上には紙鉄砲が
散らばり、隅に空気鉄砲が転がっている。が、庄田のカバンが見当たらない。
残された自分のカバンも中身はカラで、名簿も地図もコンパスもなかった。
中谷は秀太がカバンを二つかけていたことを思い出した。彼が二人分の
名簿や地図を必要としていたとは思えない。となれば、自分が戻ってくることを
見越して持ち去ったのだろうか。

名簿はまだしも地図とコンパスなしでは禁止エリアが分からないどころか、
状況はさらに深刻だ。なにしろ、自分の現在地がどこかさえもろくに把握
していないのだ。中谷は頭をかかえた。
(弱ったな。ここを動かん方がええかな)

しかし禁止エリアはこの先増えて行くはずだ。地図がなくてはチェックも
ままならない。むしろ数が少ない今のうちに何とかすべきではないか?
一番いいのは行動を共にしてくれる誰かを見つけることだ。さもなくば、
誰かの地図やコンパスを頂くか。無論、他人を傷つけて奪うつもりは
ないので、既に死んだ誰かから、ということになるが。

中谷は立ち上がった。何にせよ、動くなら武器が必要だ。自分たちの支給品は
おもちゃだったが、秀太が銃を持っていたということは、殺傷能力の高い
武器を与えられている者もいるのだ。家中を物色し、使えそうなものを
かき集め、包丁、ロープ、釘抜きなどを選び出した。ついでに小さめだが
リュックも見つけたので、荷物はこれに入れることにした。
96924(5/5):04/12/22 11:16:32 ID:MomX8vDp
最後に台所の缶詰数個を詰め終えると、中谷は廊下に転がったままの庄田を
居間の隣の和室に運び、仰向けに横たえた。洗面所に残されていたタオルで
顔の血をふき取り、二階から毛布を持ってきてかけた。
のんびりした顔は、額の傷さえなければ眠っているように見える。その表情を
見ながら、中谷は彼の最期の姿を思い出した。
「俺のために、ごめんな。ほんま、ありがとう」

秀太の足に取りつき、自分のいる二階ではなく一階の奥に向かって叫んで
いた。今にして思えば、少しでも時間を稼ごうとしてくれたのだろう。中谷は
あらためて彼に感謝した。
「じゃあ、俺は行くから。悪いけど、紙鉄砲だけもらったで。あの音は役に
立つかもしれんし」
中谷は庄田に別れを告げると、部屋を出てふすまを閉めた。

玄関に来た中谷はまたも愕然とした。ない。どこにもない。今度は、シューズが。自分だけではなく庄田のものも消えていた。
(これも秀太さんの仕業か?)
彼がカバンを一つ持って行ったのは、二人分の靴を運ぶためだったのか。
普段のことならいたずらと笑いもできるが、この状況では笑えない。
「くそっ、なんやねん、まったく」
中谷は悪態をつきながら下駄箱を開けた。古びた靴がいくつか並んでいる。
男物の革靴があったので履いてみた。サイズが少々小さいが、仕方ない。

自分はいったいこの先どうなるのか? とりあえずは殺意のある人物に
出会わないこと、信頼できる誰かにめぐり会えること、そして禁止エリアに
引っ掛からないことを願うしかない。右手に釘抜きを握り締め、重苦しい
気持ちで中谷は外に出た。

【残り38人】
97924:04/12/22 11:32:19 ID:MomX8vDp
1/5が名無しだったり、改行がおかしかったり、失礼しました
また、34章が未解決で終わっていたせいで他の方が
リレーの続きを遠慮されていたとしたら、申し訳ありません

>>85
自分も遅れてリレーに参加させて頂きましたので、
良いのではないでしょうか
リレーのラインを作ってくださった515氏も初代スレで
ネタのある人はどんどん話を書いて繋げていって欲しいと
おっしゃっていました
98(1/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/22 19:40:05 ID:E/TYrQbN
>91より
4.ありえない光景

誰もが息を飲まずにいられなかった。半ば脊髄反射的に腰を浮かせた藤本は、隣の片岡が
力ずくで座らせる。チームの功労者であり、投手と野手それぞれから尊敬を受ける二人の
名前が、あちこちで呟かれた。
伊藤はきちんとスーツを着込んで正面を見つめ、和田はユニホームにグラウンドコートと
いう、いますぐにでも練習が始められそうな姿で俯いている。
「おい、和田、仕事や」
呼びかけに、和田は反応しなかった。岡田は舌打ちをし、大またにパイプ椅子に歩み寄る
と、乱暴にその肩を揺する。
すると和田の体はぐらりと傾き、ただ重力にのみ従って床に崩れ落ちた。見慣れた野球帽
が脱げて転がる。あらわになった顔に、抵抗の痕跡を見る。選手たちの多くはいつぞやの
桧山の頭部死球を思い出した。
しもた、やりすぎたわ、と岡田が呟いたのを、最前列に座する者であり、また和田の愛弟
子でもある藤本が聞き逃すはずがあるだろうか。片岡は必死に小柄な体に組み付いて、飛
び掛らんとする藤本を抑えなければならなかった。
岡田はやれやれというように肩を落してみせてから、興味の対象を変える。
99(2/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/22 19:40:27 ID:E/TYrQbN
「伊藤」
岡田が呼びかけると、伊藤はどこか覚束無い動きで腰を上げた。吉野の肩がまた跳ねる。
軍服のひとりが歩み寄って伊藤に拳銃を手渡す。いや、手渡したというよりは、わざわざ
手をとって握らせてやったという方が正しい。真っ直ぐ前に向けられた目は焦点を結んで
いないように見え、普通の状態ではないことは誰の目にも明らかだった。その不気味さに
選手たちはしばし呼吸を忘れた。
「伊藤、お前の後輩が言うことを聞かんのや。思い知らせたれ」
顎をしゃくる岡田に、しかし伊藤もまた反応しなかった。与えられたコルトSAAが重過ぎ
るとでもいうように、右肩をやや下げた不自然な姿勢で突っ立っているだけだった。
「伊藤!」
岡田が叫ぶ。刺々しい声から苛立ちが伝わる。伊藤を睨みつけ、岡田は傍らの平田から拡
声器をひったくると、わざわざ耳元にそれを近づけて喚いた。
「撃てと言ってんのや!撃て!伊藤!撃て!」
大音量の命令が響き渡る。その残響音が完全に消えてしまってから、やっと伊藤に反応が
見られた。ごくゆっくりと右手が上がる。
100(3/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/22 19:40:51 ID:E/TYrQbN
吉野の目は見開かれ、伊藤の一挙手一投足を追っている。起動に手間を要した割に、その
後の伊藤の動きは滑らかだった。銃口が正しく吉野に向けられる。
そのまま何の躊躇いもなく、引き金は引かれた。発砲の火花を、吉野は見た。声になりき
らない悲鳴と共に体が倒れ、周囲から悲痛な声が彼の名を呼んだ。
光景はコマ送りのように見えた。全身を強張らせながらも、赤星はその内容を反芻する。
ひとつの事実に思い当たると、目の前の三東と矢野の背中を押しのけて身を乗り出し、そ
れを確かめようとした。
金澤が目だけを前に向けつつ、倒れた吉野の腕を引っ張っている。反対側で桧山が同じよ
うにしている。大きく揺れてから、吉野の上体は一気に引き起こされた。ぽっかりと開か
れた目の下は真っ赤に染まっているが、他に傷は認められない。生きている。
撃たれる瞬間に隣のどちらかが吉野を引き倒したのだろう。銃弾の掠めた頬は酷い状態に
見えるが、命に関わるものではないはずだ。
安堵のため息が漏れそうになったが、赤星はそれを飲み込んだ。怒声が響く。どさりと音
を立てて伊藤の体が横様に転がり、岡田は顔を真っ赤にしてさらに蹴りを入れる。右手の
ガバメントが伊藤を捉えようとすると、それは流石に中西が止めた。
結局かみ合わないのか、と赤星は妙な感慨をもって岡田を凝視した。

[伊藤敦則:回転式拳銃(COLT SAA. 45)]
                                  【残り46人】
101代打名無し@実況は実況板で:04/12/22 20:07:48 ID:EIpN9K4V
ぞくぞくとうpされてるぅ!
102代打名無し@実況は実況板で:04/12/23 07:08:36 ID:jSR53gTh
秀太に何がおこったのか(((( ;゚Д゚)))
新参入さんもイイ感じですね!
10385:04/12/23 09:39:05 ID:ptgD0ht8
>>97
ありがとうございます。
自分なりに話を考えてみましたので、参加させて頂きます。
10485(1/4):04/12/23 09:40:35 ID:ptgD0ht8
>>96より
36.かけら

時はのろのろ一日、一日、這う様に過ぎて行く。

遠い昔、シェイクスピアはそう語った。歴史の最後の瞬間にいたるまで、と。
それは関本の知るところではなかったが、彼はまさにそれと同じことを肌で感じていた。
一体あれから何時間が過ぎたのだろう? 佐藤コーチの亡骸が当たり前の日を々打ち砕き、
福原が波の狭間に消えてから、果たしてどれほどの時間が流れたのだろう。
木々が作り出す緑と茶色の闇はその空気さえ重く、
ねっとりとまとわり付く湿気を帯びているように思えた。
――俺は今どこにいるのだろう? もしも今、誰かと行き会ってしまったら?
あてどなくさまよい歩きながら、相反する二つの思いが心の中で手を繋いで踊る。
誰かに会いたい、誰にも会いたくない。誰かに会いたい、誰にも会いたくない。
背負った荷物は二人分、それは決して手放すまいと心に決めた切ない遺品。

途中、一軒の民家が視界に現れたものの、暫しの逡巡の後にそこへ近付くことをやめた。
一歩踏み出すたびに福原の顔が脳裏で踊る。どうしてあの顔を忘れられよう。
こめかみに浮かんだ汗が小さな流れとなって頬を伝い降りていく。その時だった。
さくり。歯切れの良い規則正しい足音を耳に拾い、ゆっくりと周囲に視線を転じた。
それが前方から発せられたものであることに気付き、いくばくかの安堵を覚えた。
その人物が誰であれ、自分に気付くことなく行き過ぎてくれれば争う必要もない筈だった。
関本は目を凝らしたが、その背中に思わず呟きを漏らした。
誰が見違えようか、その小さな背を。その小柄な体躯を。
「……赤星さん」
さくり。足音が止まった。
風が強くなったのは気のせいだろうか――赤星が振り返るのを見つめながら関本は思った。
10585(2/4):04/12/23 09:41:26 ID:ptgD0ht8
金本さんらしいな。赤星憲広(背番号53)はそう思いながら歩いていた。
藤本から「赤星さんは赤レンジャーですから――正義の味方。金本さんの伝言です」
と囁かれた刹那、その言葉の意味するところを察することができた。
よくぞ自分も誘ってくれたと嬉しくすら思う。
だが、さすがの金本も落ち合う場所までは指定することができなかったのだろう。
あちらへこちらへと歩き回るうち、時計の針だけが進んでいった。
夜も更け、これ以上動くのは危険だと判断し、一人で朝になるのを待って動き始めた。
恐らく金本は、背番号の近い藤本とは行動を共にすることができているはずだ。
時が過ぎ、死者の列に加わる名が増えるほど、怒りと悲しみが赤星の心を満たす。
あの人はどうしているだろう、あいつはどこにいるだろう。いくつかの顔が浮かんでくる。
「……赤星さん」
震えを帯びた声に脚が止まったのは、そんな時だった。

赤星は、大丈夫だよ、と関本に両手を挙げてみせ、丸腰であると告げている。
他に気配がないのを確かめると、関本は注意深く赤星に近付いた。
大木の根元に並んで座り、そこで関本は空を見上げた。それは甲子園へと続く空だった。
「お前、どうしてたんだ?」
常に強気に聞こえる赤星の声は、今もその力を保っているかに思われた。
「……俺、福原さんが。福原さんと」福原の死を伝える言葉は奇妙にもつれた。
海に抱かれようと体を宙に躍らせた刹那の福原の笑顔が、再び脳裏に瞬いた。
それは何かを受け入れた人のみが持ち得る笑顔。悲しみと諦念があり、同時に感謝があった。
それをどう赤星に伝えればいいだろう。ニ岡に詫びてくれと言い残して逝ったあの顔を。
「そうか……。でも、あいつらしいよな」
ぽつりとこぼされた言葉は、あまりにも短く。
「俺、助けられませんでした。福原さんを引き留められんままで……俺の目の前で」
赤星はそれには答えず、代わりに思わぬ言葉を口にした。
「俺らの阪神タイガースは壊れたと思うか? 俺はそのことを考えたくて暫く一人でいた」
10685(3/4):04/12/23 09:42:18 ID:ptgD0ht8
「だって、こんなことになったやないですか」
「うん。でも、まだ全部なくなってないと、俺は思う」
あのな、と赤星は言葉を続けた。関本は返事も忘れてその痩せた顔に見入っていた。
「確かに叩き壊されたけどな、でも、かけらは残ってる。かけらがある」
「かけら?」
「一人で歩いてきて、色々考えた。色んなことを――考えたかった。
阪神タイガースが壊れて、そのかけらはあるんかって」
もしかしたら、と赤星の声は風ににじんだ。
「俺達がそのかけら。チームは叩き壊されたけど、俺達は残ってる。タイガースのかけらが」
何かクサイよなあ、と赤星は笑んだ。でもな、セキ。
「そのかけらを拾い集めたら、何かができるんと違うか?」
まあこれも、俺が言うと似合わんかな。赤星はまた小さく笑った。

背中を何かが滑り落ちていく、そんな感覚に関本は小さく身を震わせた。
身体の中に詰め込まれていた冷たく鋭いもの、今にも破裂しそうに張り詰めたもの、
それがすっと溶けて消えていくような不思議な感覚だった。
俺は金本さんの所に行く、お前も一緒に来るか?
赤星のそんな言葉に、関本は大きく頷いていた。これだ、と心の中で何かが叫んでいた。
10785(4/4):04/12/23 09:43:01 ID:ptgD0ht8
それから二人は辺りに気を配りながら目指す人々を探して歩いた。

――俺には脚がある。赤星はちらりと視線を落とした。
走りたい時に走ることができ、自分の意思で何かを成すために動く、二本の脚が。
あとどれくらいこの脚を動かせるのか、この相棒と共にあることができるのか。
そう考えそうになって苦笑をこぼす。そんな考えを巡らせるのはやめだ。
俺は生きてここを出る、みんなと一緒に。そのみんなも、もう何人か逝ってしまった。
だからこそ生きて出なくてはならないのだ。こんな馬鹿げた行いは終わらせる。
――福原さん、俺はあなたの言葉を必ず伝えます。関本は口元を引き締めた。
あなたがどんな風に逝ったか、あなたがどんな顔で笑ったか。
それを必ず、ニ岡さんに伝える。それが俺のすべきことなのだ、と関本は頷いた。
そのために俺は生き残る。このゲームだって壊してみせる。その一翼を担うのだ。
俺の、俺達の阪神タイガースのかけら。俺達がそのかけらなのだ。
かけらにも意地ってものがあるのをあの監督に思い知らせてやる。

やがて藤本と金本の顔が見え、吹いていた風は一際大きくそよいだかに思われた。
振り返った藤本の顔が驚きと喜びに彩られた時、関本は我知らず微笑んでいた。
金本の負傷のこと、下柳の壮絶な最期のこと。中林のこと。それらを聞きながら関本は思う。
なぜ俺達が殺し合わねばならないのか、憎しみと疑心をぶつけ合わねばならないのか。
その疑心と恐怖とが、中林を話に聞いたような挙に走らせたのだ。
いいや、中林だけではないだろう。
定時放送ごとに増えていく死者の名がそれを示しているではないか。
それでも、俺にはやるべきことが見えた。今はこの、目の前にいる人達に感謝しよう――

【残り38人】
10885:04/12/23 09:44:16 ID:ptgD0ht8
リレー18話での藤本の台詞「赤星さんとかみんな待ってますよ」
というものがあったのですが、自分なりに
「まだ赤星は合流していない(金本、関本とは背番号が離れている故)。
だが藤本は、そろそろ赤星も自分達に追いついているはずだと考えた」
と解釈しました。

他板のバトロワに参加したことはあったのですが、
そこは板移転などでとうとう完結できずじまいでした。
久々に書いたので何やら色々緊張してしまいました。
109代打名無し@実況は実況板で:04/12/23 10:21:36 ID:tGzvK7No
新人さん乙ー
けどこんな急に進めちゃっていいの・・・?
ちょっと強引のような
いや、ほかの職人さんがいいんならいいんだけど
110代打名無し@実況は実況板で:04/12/23 12:18:34 ID:wmft/WNE
11章より
二人はアジト(この言い回しが金本らしい)にできる場所を探して
いる、ということだった。他にも三人の仲間がいるが、大勢で動き回るのは
危険なため、ひとまずの隠れ場所に残して二人だけで出てきた、と。

18章より
「だから、戻るんでしょ。赤星さんとかみんな待ってますよ」

リレーだとどうしても他の職人さんが動かしてる選手を使う事に遠慮があって
なかなか話が進展しないという側面もあるし、誰かが思いきって動かすのは問題ないと思うんだけど
今回に関しては赤星が合流してないと考えるのは無理があると思う。

・金本、藤本、赤星の三人は確定
・残りの二人は出発後の足取りが判明していない選手(中村豊、久保田、ウィル、立川、的場)
 もしくは二日目朝までに登場しゲームに乗っていない選手(久慈、関本、金澤)
・藤本から矢野までの間に少なくとも一人は金本と藤本に接触した選手がいる。(10章矢野の回想シーンより)
今のところ金本ゴレンジャーに関して分かっているのはこれだけ。
111代打名無し@実況は実況板で:04/12/23 13:01:24 ID:LQFtOxbs
あと浅井も体育館を出てからの動向が不明
ともあれ、自由に動かせる選手も少なくなってきたので
ゴレンジャーの残りが誰かというのは重要ですね
112代打名無し@実況は実況板で:04/12/23 13:48:47 ID:wmft/WNE
・的場はゴレンジャーに勧誘されていたが合流できたかどうかは判明していない
・矢野はゴレンジャーに勧誘されていたが言い争いのようなものを聞いたため合流を回避
これも書いといたほうがよかったかな
113(1/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/23 19:58:06 ID:SQl0BDAJ
>100より

5.ガイダンス

切り札であっただろう二人のコーチが岡田の意図するように動かなかったことは、選手た
ちの心にごく僅かな希望を生みさえした。しかし、憤慨する岡田の背後で平塚が動き、軍
装の男たちが無駄のない動きで一斉に機関拳銃を構えると、やはりあまりにも圧倒的な分
の悪さを認識しないわけにいかない。沖原はじっと前を睨みながら、背中に冷たい汗が流
れるのを感じていた。
隣の金本が気になる。大人しく従うタマじゃないはずだ。沖原は右隣の人物を盗み見た。
どっかりと胡坐を掻いて、金本は岡田らを睥睨していた。膝の上に置かれた手に力が込め
られているのが分かる。左手首のサポーターは痛々しいが。
短気を起こしませんように、と沖原は祈った。自分ではとても止められないだろう。
選手たちのざわめきを尻目に、軍服によって和田と伊藤は退場――運び去られた。入れ替
わりに何かが運ばれてくる。それを目にして、沖原は普段より余計に目をしばたたいた。
抽選器である。無表情な軍服の男たちが、オレンジ色に塗られたそれ――どうしてもスー
パーのくじ引きを連想させる代物――を数人掛かりで運び込む様は滑稽で、沖原は思わず
泣き笑いのような表情を浮かべた。
平静を取り戻した岡田に、中西が拡声器を差し出す。岡田はぶつぶつとしばらく文句を言
っていたが、やっと気を取り直して黄色のそれを受け取った。金本の眼光がますます鋭く
なる。沖原は今や、別の意味で生きた心地がしない。
114(2/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/23 19:58:29 ID:SQl0BDAJ
「ええか、支給される武器はやなぁ!」
半ばヤケクソと言った様子で、岡田が大声でがなった。拡声器の必要など微塵も感じない。
「このガラポン抽選器で引き当て――ぎゃあ!!」
「なにゆーよんなら!!」
沖原がヤバイと感じる暇もなかった。金本のいた場所はもぬけの空で、向こうに座って
『全くついていってません』という顔をした今岡と目が合う。タックルを食らった岡田も
ろとも、抽選器が大きな音を立てて転がる。ジャララとこれまた騒々しく、抽選器の中で
玉が踊った。さらに金本と岡田の怒号が同時に響き、沖原の頭の中は真っ白になる。
岡田はもう何のためらいもなく、金本にガバメントの銃口を向けようとしている。金本は
抽選器の乗っていた机を持ち上げ、投げつける体勢だ。情景は瞬きを忘れた沖原の網膜に
焼きついた。
パン、ともう今日何度目かの銃声を聞く。ほぼ同時にコンクリートの床で銃弾が跳ねる。
沖原は瞬間、反射的に目を閉じた。あの距離から避けきれるわけがない。目を開けるのが
怖ろしい。
115(3/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/23 19:58:52 ID:SQl0BDAJ
だが、状況は沖原の予想と違っていた。奇妙な沈黙が広がる。
そろりそろりと瞼を引き上げると、尻餅をついた形の金本の横顔が目に入った。
「八木さん…」
金本と同じように、沖原はその人を見上げた。ユニホームではなくスーツに身を包んでい
るが、確かに今シーズンを一緒に戦った仲間にして、代打の神と呼ばれる男、八木裕がそ
こにいた。
「落ち着け、金本」
八木は言い、それから表情を歪めた。がっくりと床に膝を着く。スーツの濃い灰色で分か
りにくいが、膝の少し上に嫌な染みが出来ている。それは重力に沿って床に達し、鮮やか
な赤を広げていく。
「みんな、場所に戻ってくれ…今ここで暴れても誰も助からない…」
脂汗を浮かべながら、八木は言った。部屋の中に沈黙が広がる。金本がすっくと立ち上が
る。岡田、そして軍服の男たちが一斉に銃口を向けたが、彼はそのまま無言で自分のいた
場所に戻り、再び胡坐を掻いて座った。
「これから、デモ…この計画のガイダンスを行います。
 最後の一人になるまで殺しあってもらいます」
置き直された机を支えに立ち上がり、八木が静かに言った。死刑宣告だった。

                                  【残り46人】
116328@>>24より ◆U/eDuwct8o :04/12/23 23:01:04 ID:xRnQQrf/
「と に か く」
小さな少年のようにはしゃぐ二人に、諭すように野口は言った。

「このリストバンドをどうにかしない限りは、ここを出て行くのは駄目だ」
「えー、何でやの〜?」
矢野は口の先を尖らせてぶーぶーと文句を言う。
「案外大丈夫かも知れないぞ?」
「もし駄目だったらどうなるんだよ。爆発するんだぞ? それこそ野球どころじゃないはずだ」
「大丈夫だよ、たぶん」
矢野がそう言うと、不意に野口は声を荒げた。
「大丈夫なものかよ!お前らまで狩野みたいに――」
「狩野…?」
野口は、はっとなって口を噤む。
訝る藪らに、ばつの悪そうな表情で語った。
「実は――」

右腕を失った狩野のことを、低く小さな声で野口は話す。

「ふーん、なるほど。そんなことがあったんか」
それまで蝶々と戯れていた金本が不意に口を挟んだ。
「でもまぁ、狩野の腕がなくなったのは斬られたせいや。爆発は関係ないやろ」
「確かに…そうですけど」
「はは、そうやろ? 爆発なんかしたら腕どころかなんもかんもバラバラや」
「それ、シャレにならないですよ、金本さん」
口を大きく開けて笑う金本に、赤星は苦笑しながら言う。
117328 ◆U/eDuwct8o :04/12/23 23:02:11 ID:xRnQQrf/
「それで、狩野はどうなったんだ?」
唐突に藪はそう問う。
「…わからない。三東と一緒に居たはずなんだが…」
「三東ならもう死んだやん」
「ああ…」
野口は俯いて歯噛みした。
「もしかしたら、狩野ももう…」
野口が頭を垂れると、自然とその場に重い空気が流れた。

「気にすんなや、野口!」
「矢野…」
「落ち込むだけなら死んでからも出来る! そやけど楽しめんのは生きてるうちだけや。そうやろ?」
野口の背中をぽんぽんと叩いて、そう元気付ける。
しばらくそんな光景が続くと、僅かながらにも野口の顔に笑顔が戻った。
「とにかく、今はこの状況を何とかせなあかん。はようせんと夜になるで」
「何言ってんだよ、もう夜だよ」
そう言う野口の言葉も、どこか力無く響いた。

壬午園球場に、深夜零時の合図が鳴った。
誰からともなく、休もうという意見が挙がる。
118328 ◆U/eDuwct8o :04/12/23 23:03:00 ID:xRnQQrf/
「こんだけの雨やったら、もう放火されんでも済むんやろうな」
暗闇の中で、誰かがそう言った。
恐らく矢野だ。
「そうですね。もう安藤も死にましたしね」
屈託のない声色で、誰かがそう返事をした。
赤星、藪、矢野、野口、そして金本。
そこにいる全員が思わず首をかしげたことだろう。
「誰だ!?」
その言葉は、雷によって打ち消された。
雷光が、ほんの一瞬だけ部屋の中を照らした。
六人目の人影と、その手に光る刃を。
「誰だお前は! ここに何の用だ!!」
勇気を振り絞って、赤星はそう怒鳴る。
「落ち着いて。貴方がたとやり合うつもりはありません」
「その声は…藤川か!」
「リストバンド爆破の解除法を知りたいんでしょう?」
野口の問いを無視して、藤川は訊く。
「…何か知っているのか?」
矢野が聞き返すと、藤川の身体はすこし揺れた。
おそらく笑ったのだろう。
「いい反応ですね。折角ですから、良いことを教えます」
119328 ◆U/eDuwct8o :04/12/23 23:03:26 ID:xRnQQrf/
「良い事?」
「大会運営委員会なら、きっとそれを知っているんじゃないでしょうか」
「運営委員…?」
「僕に言えるのはここまでです。後は、貴方がた次第ですよ」
そう言って藤川は踵を返した。

「…これは関係無い話ですけど」
不意に立ち止まって、藤川は口を開いた。
「こんな夜は、どんな強い人でも、もしかしたら油断してしまっているかも知れませんね」
「……!」
「それでは、良い夜を」
藤川は雷雨の夜に姿を消した。

「何だったんだ今のは…」
「………」
その場にいた者たちはしばらく呆然としていたが、藪の声にふと我に返った。
「とにかく、もう今日は寝よう。話はそれからだ」
「ああ、そうだな」
そう言うや、話はそこでお開きとなった。
120328 ◆U/eDuwct8o :04/12/23 23:04:46 ID:xRnQQrf/
――数時間後
複数の、静かな寝息がこだまする中、その中のひとりがむくりと起き上がった。
(…よし、みんな寝ているな……)
音をたてないよう、皆を起こしてしまわないように静かに部屋の入り口へと向かう。
規則的な呼吸を続ける赤星と金本の間を通り抜けて、藪は小屋の外へ出た。
「来たか、藪」
藪を見つけると、矢野は駆け足に寄ってきた。
そう、二人は待ち合わせをしていたのだ。
「みんなは?」
「心配ない、良く寝ているよ」
「そうか――よし、行くぞ」
「ああ」

「――何処に行くって?」
不意に、後方から声がかかった。
二人は驚いて振り返る。
そこに居たのは、野口だった。
「抜け駆けってやつか? 随分水くさいな」
「野口…」
「迷惑だと思うが、オレにも手伝わさせてもらうよ」
「オーケイ。それじゃ今度こそ、行くぞ」
「ああ!」


「…行ったか」
部屋の中から、その様子を見届けていた金本がぽつりと呟いた。
「いいんですか、追わなくて」
「いいさ。好きにやらせよう。協力くらいはするけどな」
「そうですね」
「明日も早い。もう寝とうや」

それぞれの思いを胸に、選手たちはやがて新しい朝を迎えるのだろう。
121328 ◆U/eDuwct8o :04/12/23 23:13:14 ID:xRnQQrf/
ども。

久しぶりです。
ちょっと気分転換にこんなもの作ってたりしました。
ttp://monamu.s14.xrea.com/cgi/img-box/img20041223231202.jpg

あとキリ番とか踏んだりw
ttp://monamu.s14.xrea.com/cgi/img-box/img20041223231246.jpg
122328 ◆U/eDuwct8o :04/12/23 23:58:25 ID:mwHzcaUc
最後の金本のセリフで誤字りましたね、スマソ

「寝とうや」→「寝とこうや」
123(1/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/24 21:00:41 ID:sW6k88zf
>113より

6.自由の質量

鳥谷は支給されたバックパックの肩紐をぐいと引き上げた。たぷん、と水の揺れる音がす
る。ペットボトルでも入っているのだろう。荷物自体はそんなに大きなものにも思えなか
ったが、数日を過ごせる装備が入っているだけあって、背負えばぎっしりと詰め込まれた
重みが肩にかかった。
軍服の男が、銃を背中に突きつけたまま後ろをついてくる。この建物自体入り組んだ造り
で、迅速に外に出るには彼の指示に従わなければならない。硬い感触に嫌悪を感じながら
も、鳥谷は頭の中で先程のガイダンスの内容を整理していた。

まず、最も重要なルール。最後の一人になるまで殺しあわなければならないこと。
出発から24時間以内に犠牲者が出なければ全ての首輪が爆発する――つまり、全員が命を
落すこと。首輪は外そうとすれば爆発するようになっていること。
鳥谷は自分の首輪にそっと触れ、すぐに手を離した。

野崎の最後が頭を過ぎる。自分が阪神への入団を決めたとき、あんなに喜んでいた人はも
う死んだのだ。立場が大きく違い、そう会う機会があったわけではないが、お互いに顔を
知った人間が殺されるのを見ることになるとは。しかもそれは序章に過ぎないのだ。
湧き上がる恐怖を、鳥谷は唇を噛んで堪えた。歩調が鈍っていたらしく、背中をせっつく
ものの乱暴さが増している。歩きながら、さらに八木の言葉を反芻する。
124(2/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/24 21:01:38 ID:sW6k88zf
ここは何十年も前に廃坑になった鉱山の島であること。島は30分もあれば一周できるほど
の小さなものであること。出発は背番号順に5分おきであること。進行状況は6時間ごとに
放送で知らされること。本部として使われる建物には近寄ってはならないこと。
そしてこの島には、計画を停止する権限を持った人間はいないこと――。

「行け」
短く、軍服の男が言った。不意を突かれて、鳥谷は反応が遅れた。
四角く切り取られたコンクリートの向こうに、青い空と海が広がっている。
125(3/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/24 21:02:13 ID:sW6k88zf
建物から出ると、そこはこの無人島をぐるりと取り囲む岸壁の上だった。照りつける日光
に背を押されるように数歩歩み、ぎこちなく首を巡らせる。
異様な光景ではあった。巨大な建築物の群れは小さな島に押し込められ、海に溢れ出さん
ばかりである。コンクリートは耐久年数をとうに越えて部分的に崩れ、剥き出しになった
鉄骨は総じて赤茶けた錆色だ。大きさも形状も異なる建物の連なりが硬質な輪郭となって、
海と空を侵食している。島の中央部は高く、その天辺に火の見櫓のようなものが見えた。
さながら灰色の軍艦のようだと、鳥谷はぼんやりと思った。
海鳥の声がする。我に返って辺りを窺うが、誰もいない。自分の前に出て行ったはずの中
村はどこに行ったのか、もう気配もなかった。耳を済ませても聞こえるのは潮騒ばかりだ。
海は青く、白い波頭は控えめにさざめくばかりで、急作りの戦場に放り込まれた青年の危
機感を育てるものではない。
彼は弱い潮風を大きく胸に吸い込み、吐いた。人いきれや押し殺した呼気、そして血と硝
煙の臭いが、彼の肺から押し出されていく。同時に、先ほどまで抱えていた諸々の負の感
情が、新鮮な空気に溶けるように拡散していくのを感じて、彼は慌てた。
(少し単純すぎるんじゃないか?)
状況はますます悪化し、じゃあ殺しあってくださいと武器まで支給されて放り出されたの
だ。目の前から銃口や死体が消えたからといって、こうも簡単に解放感を覚えるのは楽観
的すぎる、と頭では思う。しかし覚えた安堵は否定しようもない。
鳥谷は苦笑しつつ、もういちど右肩に掛けたバックパックをずり上げた。そうだ。この中
には武器だって入っている。舞台の準備は出来ているのだ。そこでどんな役を演じるのか、
自分でもまだ検討がつかない。
自由だ、と唐突に彼は悟った。この状況に前例があるはずもない。あれこれ指示を出して
くれるコーチも、自分がその二世とならねばならない名手も、ここには存在しない。自分
で判断し、その通りに動くしかないのだ。それが生死を分けるのだ。
なんという死の軽さ、なんという自由の重さだろうか。
僅かに、身が震えた。それを誤魔化すように、鳥谷は早足で歩き始めた。

                                  【残り46人】
12649 ◆NRuBx8130A :04/12/24 21:08:03 ID:sW6k88zf
毎度長くてスマン。

やっと外に出ました。
地図の方ももうちっとマシなものに改訂したく思います。
ttp://www.uploda.org/file/uporg24493.png ←画像
ttp://www.uploda.org/file/uporg24492.txt ←説明

『舞台』と言ってしまうと自分の首締めまくりなんで、『モデル』ということで。
長崎県端島、通称『軍艦島』です。

保管庫管理人さんにはご迷惑お掛けします。
127代打名無し@実況は実況板で:04/12/24 23:44:59 ID:KJIP5UGK
次々と進展してる! 皆さん、乙です
地図やリストも分かりやすくていいですね

リレーのゴレンジャーの件はどうなるんでしょう?
128保管庫”管理”人:04/12/25 04:04:19 ID:Vc7quY7A
職人さん乙です。めっちゃ増えてますねー。
で、少し保管作業が遅れております…。ご迷惑おかけしてますが、
明日(今日?)の夜中には多分できるかと思います。
あと、リレーのはもう少し様子を見てから保管しますね。
それではメリークリスマス!!
129代打名無し@実況は実況板で:04/12/25 09:04:11 ID:8+jCkG0j
他の職人さんの反応も見た方がいいね>リレー
しかし虎バトリレーは職人さん同士があまり話し合ったりせずに
ガチンコ進行してるからなぁ・・・マリバトなんかは打ち合せが凄いらしいね。
考えたらトリップ付けてないのも珍しいかも。
130515:04/12/25 10:44:32 ID:1NdKMPM6
反応が遅れてごめん
俺としては、85氏の展開でも全然いいよ
こういうのもリレーの面白さだと思うし
ちょっと仕事が忙しくてなかなか時間を取れんので、できれば
ネタがある人にどんどん進めていってもらいたい
時間できたらそこからでも参加します
131(1/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/25 18:12:23 ID:ZbCfthOl
>125より

7.得手不得手

『俊足』の二文字が自分を表す言葉の頭に付けられている場合、それはほぼ100%、相手
の勘違いである。
残念な自覚のある男、今岡誠は、しかしその接頭語を欲さずにはいられない状況を強いら
れている。外へ出るなり、彼は追われる者となっていた。振り返ると、追いかけてくる片
岡と目が合う。今岡は必死に加速し、目前に横たわる廃材を飛び越える。
「っほ!」
着地点にあった朽ちたベニヤに足が滑る。今岡はよくわからない声を上げ、転倒した。慌
てて精一杯身を捩る。銃声とともに腹のすぐ脇で銃弾が跳ねた。
身を捩る勢いで器用に立ちあがり、そのまま走り出す。追う片岡が何事か叫んだが、何を
言っているのかを聞き届ける余裕はなかった。
随分前に無人化したというこの島だが、道らしい道はすべて舗装されているようだった。
しかし、それはあくまで過去の遺産である。大きくひび割れた路面の上に、住宅から落下
したのであろう、朽ちた木材が散乱していてただでも走り難い。今岡は減速と加速を繰り
返しながら、廃墟を闇雲に駆け抜けていく。


追う側も必死である。
実際にこうして追ってみれば、鈍足といわれる今岡でも、そうそう楽に捉えられるもので
はないらしい。やっかいやな、と片岡は心中で悪態をつく。
いや、だからこそこれがあるのだ。片岡はベレッタの引き金を引いた。
発射された弾は、7の数字の入った背中から軽くバット2本分は離れた場所を通過し、遠
くで跳ねる。コンクリートの破片が飛ぶ。
132(2/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/25 18:12:46 ID:ZbCfthOl
仕損じた。じわりと嫌な汗が噴き出す。
ただ逃げているだけの今岡が、どういう形であれ反撃してくることを、片岡は怖れた。
何のデモだか知らないが、この状況に自分がどう関わるべきなのか、あの灰色の部屋で片
岡は決めることが出来なかった。運試しのつもりで荷物に手を突っ込み、出てきたのは古
いベレッタ。それは片岡の大きな手にはことさら小さく見え、また想像する拳銃のそれよ
りずっと軽かった。確かに、銃ではある。しかしなんとちっぽけなものなんだろうか。
これが俺が引き当てたもの、俺の運命か。
俺より未来がある奴らは、もっと強力な武器を手にしたのだろうか?俺はそいつに殺され
るべきなのだろうか?俺が生き延びたい理由は無視され、最終的に『しょうがない、それ
でよかった』の結論が導かれる手筈になっているのか?

だが、あるべき摂理が通用するようにも思えない。矮小なこの銃で生き延びられるなら生
き、できなければ死ぬだろう。諦めに似た心境で、彼はその物品の行使を決めた。どうに
も考える時間が足りなすぎる。反撃されてそれに応じられるほど、俺の意思は固いのか?
『殺す覚悟』は出来上がっているのか?自信などあるわけもない。
133(3/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/25 18:13:21 ID:ZbCfthOl


揺れる視界に開けた空間が映る。今岡は後ろを振り返った。
瓦礫の障害がなくなり、単純な走力勝負に持っていかれてしまえば、若さでは分があるに
しろ、あまり余裕の持てる話ではない。鋭角に進路を変え、今岡は入り組んだ町並みの中
に駆け込むことにしたのだ。
片岡がベレッタを構えなおすのを視界の端に見ながら、今岡は必死に加速した。続く発砲
音に弾かれるように、建物と建物の狭い隙間に身を滑り込ませる。背後から放たれた銃弾
が年経たコンクリートをわずかに削った。灰色の小片がしたたかに今岡の頬を打つ。
「待てやぁ!イマオカ!」
半ば裏がえった怒声が、あまり遠くないところから聞こえる。さして距離が取れていたわ
けではない。この街の複雑な構造に助けられていただけだ。さあ、走れ。
飛び込んだ路地はその幅を急激に狭め、白っぽく焼けた壁の向こうへと曲がっている。そ
の先にある薄闇の中に、今岡は身を躍らせた。

[片岡篤史:自動拳銃(BRETTA M1919)]
                                  【残り46人】
13449 ◆NRuBx8130A :04/12/25 18:18:16 ID:ZbCfthOl
>128
俺の方こそご迷惑おかけしております。
更新は管理人さんの都合のよい時にお願いします。

地図説明の方はHTMLで用意しましたが、
どのように加工してくださってもOKです。
不都合ありましたらその旨連絡ください。
13549 ◆NRuBx8130A :04/12/25 18:21:01 ID:ZbCfthOl
>128
連投すいません。
地図説明に「※島の北東側は居住区、南西側(淡色)は鉱場区。 」とありますが

  北東→北西
  南西→南東

に修正願います。方向音痴orz
136代打名無し@実況は実況板で:04/12/25 22:25:55 ID:kB3haV6d
ageときますね
137542:04/12/26 00:07:32 ID:Ne4DSI+h
反応遅れてすみません。515さんがいいと仰ってますし、辻褄が合えば
ネタのある職人さんに書いて頂ければいいと思います。
自分は序盤で話を進めようとして色々な選手を小出しに書いてしまったため、
他の職人さんにご迷惑をおかけしている自覚がありましたので
彼らを動かして話をいい方向へ転がして下さる方がいらっしゃると幸いです。
未熟者ですが、これからもどうぞ宜しくお願いします。
138代打名無し@実況は実況板で:04/12/26 18:37:35 ID:2NeX7O0J
リレー大好きです
13949 ◆NRuBx8130A :04/12/26 20:34:31 ID:vpntQk6I
>133より

8.DEMO / SAPPORO

スピーカーからの銃声と同時に、この部屋ではパイプ椅子ががたつく音がする。
瓦礫を上を跳ねるように駆ける二人の男の背中は一旦モニタから消え、2秒ほどの間を置
いて今度はかなりの高さから見下ろすアングルとなった。その手際の良さを誰かが忌まわ
しそうに指摘する。椅子が何列も並べられた部屋に、巨大な液晶モニタばかりが眩しい。
部屋の隅の会議机には飲料と紙コップが整然と並んでいるが、無性に喉が渇くのでその一
角は既に崩されていた。床に捻りつぶされた紙コップがいくつも落ちているのを、ペット
ボトルに手をかけたままの井場が見るともなく見ている。
モニタの中の男が、再び腕を前に突き出す。空気が張り詰める。
「ッ!」
椅子が踊る。発砲音と共に腰を浮かせた新庄の鳩尾に、小笠原の拳がめり込んだ。苦悩の
色濃い髭面を一瞬横目で捉えてから、新庄の体は床の上に崩れ落ちる。
差し出した腕でその衝撃を和らげてやりながら、坪井は立ち尽くす小笠原を見上げた。
「すまない」
小笠原は早口に言うと椅子に座り直し、集まる視線から逃れるように両手で顔を覆う。
「他に方法が思いつかなかった」
「いえ――」
坪井は首を振り、腕の中で目を閉じている男の顔を見た。蒼白である。坪井は自分がルー
キーだった年、オールスター戦で真っ青な顔をして打席に入る新庄の姿を思い出した。状
況の格差はあまりに大きいが。
「寝かせときますね」
小笠原が頷くのを確認して、坪井は脱力した体を担ぎ上げる。列の端に座っていた田中が
手招き、椅子をずらせて移動を助けた。
スピーカーからまた銃声が聞こえてくる。液晶画面の中では、かつてこのチームで主軸を
打っていた男が、怒号をあげながら建物の間に消えていく。

【残り46人】
140(1/3)49 ◆NRuBx8130A :04/12/26 20:35:02 ID:vpntQk6I
9.迷走の始まり

密度高く立ち並ぶ建造物に陽光と潮風を遮られ、彼の蹲る部屋にはじっとりとした闇が沈
殿している。小柄な体を部屋の隅に沈め、藤本敦士は循環する思考の輪に囚われていた。
銃声が聞こえる。聞こえては止み、止んだと思えばまた聞こえてくる。時に怒声が混じる。
ひどく遠くからのような、あるいはごく近くのような。潮風のせいなのか、あるいは彼ら
が走り回っているのか。
彼ら?彼らとは誰と誰のことを指すのか?背番号の若い自分の前には、まだ数人が出て行
っただけのはずじゃないのか?秀太、中村豊、鳥谷…背番号順に可能性を考えかかり、藤
本は大きく首を振ってその思考を止めた。誰が?みんなチームメートじゃないか。そんな
はずない。
ではあれは何なのだ?ほら、また聞こえる。待てと叫んでいる声。銃声。やりあっている
のだ。誰が?
藤本の思考は一回りし、また同じところに帰る。
141(2/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/26 20:35:28 ID:vpntQk6I
誰を、何を信じればいいのだろう?失敗はいつ知らされる?出すべき結果はどういうもの
なのか。シーズン中の悪循環がさらに凶悪化して自分に迫ってきているようだ。怖い。誰
が俺を助ける?
胸に抱えている鉄の塊に、すっかり体温が移ってしまった、バックパックに収まりきらず、
別に渡された大層なシロモノ。怖ろしい物を渡されたと震え上がっただけだ。でもそれを
棄てられずにこうして手にしている。引き金を引けばたぶん弾が出る。それはもしかした
ら誰かを傷つけるだろう。俺は間違っているのか?そうなら教えてくれ。
どこかで撃ち合っている人間は、今はそれが間違いだと直感的には思うけれども、生きて
家族の許に帰るためにそうしているのだと言われたら、俺はそれを間違いだと決め続ける
自信がない。でも、もしそう言っている人間に銃口を向けられたら、俺はどうするのだろ
う?おそらくは結論を出す前に、俺は死ぬか生きるかするだろう。殺して?殺されて?わ
からない。判断の基準はどこ?間違いはいつ分かる?何も知らない。教えてください。
藤本の脳裏に、パイプ椅子の上でぐったりと力を失った和田の姿が浮かんだ。和田さん、
と思わず声に出しそうになって、しかし藤本の体は武器を受け取ったときのように大きく
震えた。フラッシュバックの中に、銃声が聞こえる。吉野に発砲した伊藤の、焦点の合わ
ない目。落ち着け。吉野が掠り傷で済んだのは、伊藤さんが完全な操り人形でない証拠だ。
大丈夫、大丈夫。大丈夫だった。では、次は?
142(3/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/26 20:35:52 ID:vpntQk6I

カツン、とコンクリートを踏む足音を聞きつけて、藤本の思考の糸はぷつりと切れた。発
することの出来ない悲鳴が胸の中で急激に膨れ上がる。息ができない。
苦しい、和田さん!
その主は建物の中を彷徨っているらしく、足音は不規則なリズムを刻み、藤本の正気散々
脅かした。
やっとのことで足音が近づき、錆付いた鉄扉の陰からその主は姿を現す。誰かいますか、
と呼びかけさえして、彼は部屋を覗き込んだのだ。途端、銃声がした。不運な訪問者、浅
井良は、熱の溢れ出す感覚を体の数箇所に覚え、そして仰向けに倒れた。
「うわぁああぁっああぁぁぁガあぁァァあ!!!」
叫びながら、藤本は撃っていた。藤本の目に浅井の姿はない。彼の視界には幻影が――虚
ろな目をしてこちらに銃口を向ける和田の姿が――映っているだけだった。引き金を引い
た指から力を抜く術を忘れ、弾倉尽きるまで銃声は続いた。

[藤本敦士:自動小銃(STURM RUGER mini-30)]

【浅井良(12)×:残り45人】
143代打名無し@実況は実況板で:04/12/27 04:40:59 ID:5/ng+mZS
久々に覗きましたが、あまりにも作品の数が多くて何がなにやらもう…
保管庫さんのところにまとめて読んだ方がいいのかな
それとも単に自分がアホだからか(;´Д`)
一番最初のリレー作品が好きなので、ガチンコでもいいので楽しみです。
ただ、やはり読み込んで、前後の設定の矛盾はないようにして欲しいです
一読者の身勝手すみません
144代打名無し@実況は実況板で:04/12/27 09:51:09 ID:ZSH2KXCh
リレーは最初と違うやん。


…違うよね?
145924:04/12/27 12:35:50 ID:Kr23Aig0
リレーについて、大したものを書いていない自分が
発言するのはおこがましいと思って反応を控えていましたが、
いちおう参加させて頂いている身として書きますと、
ゴレンジャーに限らず今後のどのような展開であれ
他の方が良いとおっしゃるなら、それに従います
146514:04/12/27 15:46:21 ID:ECAJWUXz
反応が遅くなった上に全然投下できなくて申し訳ないです。
自分も他の職人さん方が良いのならば賛成です。
話が矛盾しなければ進められる方に書いて頂けたら嬉しいです。
147615:04/12/27 18:50:04 ID:IwhwEmYG
自分もこのまま進めていいと思う
読んでる人に、それが嫌だと言われたらどうすることもできませんが
85氏の意思はどうなんでしょうか
148(1/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/27 22:29:27 ID:n39lBTXE
>142より

10.元エースと最初の遭遇者

本当に奴らは何をしたいんだ?
渡された支給品を前に、背番号15、藤田太陽は叫び出したい気持ちを必死に堪えていた。
バックパックとは別に手渡されたそれは、ただでさえ追い詰められていた太陽を、小休止
さえ許さず困惑の渦に放り込んだ。
気遣われているような感覚だ。絆創膏やら風邪薬やらを満載した家庭用の救急箱なんぞ渡
されて、これで怪我人の手当てでもしろというのか。それとも手術した肘のケアでもしろ
と?ならばどうして殺し合わせるのか?
緑色の十字が描かれた木箱を片手に下げたまま、太陽は岸壁の上で途方に暮れた。一刻も
早くどこかへ移動すべきなのだと頭では分かっているつもりだったが、いざ動くとなると
判断に困った。一瞬の判断が生死を分けるだろうと、これもまた呼び出されるまでに考え
たのだが――うまく実感を育てられない。家庭によく置かれている柔らかな色合いの白木
の箱が、どうにも優し過ぎるのだ。
もう10月も末とはいえ、晴天に恵まれて陽光は十分な強さを持っている。海面からの照り
返しに太陽は目を細めたが、その狭い視界の中に動く影を認めた。何か長く黒っぽいもの
を持っているのが分かる。彼は瞬時に身を固くし、そのまま目を凝らして動く何者かを見
極めようとした。たちまち掌が汗に濡れ、木箱の取っ手が滑る。
無情にも、視界の影にとっては太陽の緊張などどこ吹く風で、彼はこちらに気付くと久し
ぶり、とでも言わんばかりに軽く手を上げて笑顔を見せた。当然その頃には人物も特定で
きている。
「藪さん…」
意思の外で、呟きが零れた。精悍な相貌に浮かぶ笑顔は本物としか思えず、しかしそう思
えば思うほど、太陽の困惑は深くなる。感心すべきか、呆れるべきか。
149(2/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/27 22:29:47 ID:n39lBTXE
「太陽、大丈夫か?」
足早に歩み寄ってきた藪は、無言の太陽の顔を覗き込み、目の前でひらひらと手を振った。
薬指と中指の間には、今期好調だった彼を戦線離脱させたあの傷が白っぽく名残を留めて
おり、太陽は振れ動くそれを目で追った。
「大丈夫か?誰かヤバい奴にでも会ったのか?」
「いや…人に会うのは藪さんが始めてです」
「そうか。俺はとりあえずこの島を一周してみた。ホントに小さいな、この島」
藪の出発から自分のそれまでは約30分の開きがあったはずだ。とすると、島の外周をぐる
りと回って出発地点に戻ってきた藪に、自分はちょうど出くわしたことになる。こっちは
どう行動しよう、どこに隠れようかと必死になっていたのに、暢気な話だ。
黙り込む太陽に、藪が首を傾げた。
「おい、本当に大丈夫か?太陽?」
どういう状態であればここで大丈夫な人間と言えるのだろう、藪のようなのがそれらしい
と思うが、だとすれば到底まね出来そうにない。まだ何の行動も起こしてはいないが、既
に自分は『大丈夫でない』のかも知れないと、他人事のように太陽は考えた。
150(3/3) 49 ◆NRuBx8130A :04/12/27 22:30:22 ID:n39lBTXE
藪が気遣わしげにこちらを見ている。その片手に握られているものをやっと認識して、半
ば遊離しかけていた太陽の精神は現実へと引き戻された。
「藪さん、それ」
「ああ、どうもこれが俺の武器らしいんだ。古風だろ?割と最近のなんだって」
藪がそれを持つ左手を突き出した。柄頭から鐺までの緩い湾曲。最早実物を見る機会が殆
ど無くなった現在においても、日本人にはあまりにも知られた武器、日本刀である。
まるであることないこと無責任に書き出したスポーツ新聞か何かのように、藪は無造作に
それを太陽に差し出して見せ、苦笑を浮かべている。
太陽の背にどっと冷や汗が流れた。
(何なんだ、これは)
やっとこの計画の怖ろしさを理解したような気がする。出発までの出来事は思い出したい
類のものではないが、殺し合えと言われて誰もが直ぐに従うものではない。自分のように
困惑を抱えている者は多いはずだ。そして藪のようにマイペースなものも。
だが、ここにこうして武器がある。アンバランスに過ぎる。自分に支給されたものは武器
としての効力が薄いが、目の前にある刀のように、武器として真っ当なものを支給された
者もいるだろう。その誰かもチームメートだ。彼はまだ、正気なのだろうか。
そしてこれからも?太陽は自分に置き換えて考えてみた。
――きっとゆっくり、狂ってゆくに違いない。
その予感に太陽は震えた。藪がまた大丈夫か、と声を掛けてくる。
答える余裕は、彼にはなかった。

[藪恵壹:日本刀(海軍刀) / (藤田)太陽:救急箱]

【残り45人】
15149 ◆NRuBx8130A :04/12/27 22:35:01 ID:n39lBTXE
>143 
今日は投下させてもらいましたが、やはり同時に進行しすぎですかね。
俺は新規参入でより混乱を深くした一因ですし、
待つなり、打ち切るなり、保管庫直行(管理人さんの承認が必要ですが)なり、
なんかいい案があれば従います。

どっちにしろ俺は明日の夜からしばらくネット接続環境が無くなりますので、
止まるんですけどね。
152代打名無し@実況は実況板で:04/12/28 19:40:11 ID:Q4ukpcvw
保守
153代打名無し@実況は実況板で:04/12/28 23:25:03 ID:v6djxjSf
職人さんたちがいいと仰っているのに横から言うのも何ですが
リレー36章、的場と矢野は合流場所を教えられたのに赤星は知らなくて
「さすがの金本も落ち合う場所までは指定することができなかったのだろう」
と考えているのが気になりました
藤本がうっかり伝え忘れたってことなんでしょうか
154代打名無し@実況は実況板で:04/12/29 00:25:42 ID:JbAD144V
>>153
確かに最低限の辻褄は合わせて欲しいところだなぁ。
でないと話が綻んでいってしまいそうで、いい話なのに勿体無い。
ROMが偉そうな事言ってごめん。新しい職人さんが来てくれた事自体は
嬉しいんだけど、よりよい作品になって欲しいんだ。
155代打名無し@実況は実況板で:04/12/29 17:37:31 ID:M0/hxD66
職人さん期待保守
156代打名無し@実況は実況板で:04/12/30 03:13:13 ID:GwUgUlRx
>>153
そうなんだよね。
ちょっと辻褄が合わなくて気になってた。
今までいい流れで来てたのでついつい口出ししちゃうのも
申し訳ないと思いつつ…。
157代打名無し@実況は実況板で:04/12/30 09:41:14 ID:ueRpEQ/r
まぁそういう事言っちゃうと書く方もだいぶやりにくくなると思うぞ


空気読むのも大事だと思うがな
158代打名無し@実況は実況板で:04/12/30 14:56:11 ID:OC/CTlc+
とりあえず85さんが出てこないと進まないんじゃ?
例えばだけど、このまま85さんの意見がないようなら36章は
書き逃げって事で削除とか、なんか考えといたほうがいいような
まぁ、この時期で職人さんも忙しいだろし、急ぐ必要はないけど
159代打名無し@実況は実況板で:04/12/30 19:19:57 ID:N/OKdjnT
帰省とかしてるかもね。
ってことで保守。
160代打名無し@実況は実況板で:04/12/31 19:03:26 ID:bPyUqkjq
今年最後の保守
161代打名無し@実況は実況板で:05/01/01 01:39:14 ID:R5kJCAF/
今年最初の保守
162328 ◆U/eDuwct8o :05/01/01 08:00:12 ID:b+tCC1v3
ども。

明けましておめでとうございます
イキナリでしかもリレー不参加の者が言うのは変かも知れないけどちょっと意見を。

リレーは多人数で投下数も多いのでいくらかの矛盾は仕方ないと思いました
163328 ◆U/eDuwct8o :05/01/01 08:07:52 ID:b+tCC1v3
仕方ない、と言ってしまえば簡単ですが、今回は惜しい箇所ですね…
進行上でダメージになるかも分かりません

今回の事は当事者がたに任せることになるでしょうが、何分多人数ですので、この先もこのような事が生じるでしょう

そこでひとつ提案ですが、某地のようにリレーの会議の場を設けてはどうでしょうか?
それだけ、言っておきたかったんで
164代打名無し@実況は実況板で:05/01/01 19:37:52 ID:b1i30wsJ
保守
165代打名無し@実況は実況板で:05/01/02 20:16:04 ID:PaqmKWxw
保守
166514:05/01/03 04:18:11 ID:l6eZiju4
明けましておめでとうございます。
新年早々PCがぶっ壊れたんで携帯から失礼致します。
早速ですが328氏、ご意見ありがとうございます。
リレーに参加している者の一人として打ち合わせ会議の案は賛成です。
328氏のおっしゃる通り、リレーは一人だけで書き上げる作品と違って
矛盾やズレも出てきますしこれから先、話の展開の為やズレた部分や
矛盾等を減らす為にも必要だと思うのです。
85氏含め他の職人さん方はどうでしょうか。
167542:05/01/03 15:11:15 ID:sO5eZcDK
打ち合わせ掲示板ですが、あってもなくてもそれぞれ利点はあると思います。
個人的にはあまり詳細な部分にまで立ち入って打ち合わせするというより、
大筋や位置関係や、「この選手使ってもいい?」と確認したりする程度の
ものの方が緊張感があって面白いかな、と思っている次第です。

職人さんたちにも都合があると思います。打ち合わせをする事が
プレッシャーになってしまうのはまずいと思うのですが、
このまま無為に放置しておくとリレー自体が自然消滅してしまいそうな
気がするので、やっぱり掲示板はあったほうがいいのかなとは思います。
168代打名無し@実況は実況板で:05/01/04 11:17:34 ID:EZ9Q/ygs
保守
169代打名無し@実況は実況板で:05/01/04 13:21:40 ID:mgoeXrbO
どなたかに自治を願いたい
170924:05/01/04 23:38:26 ID:ymTkHwV0
どの程度まで打ち合わせを行うかについては
それぞれのお考えがあると思いますが
会議の場を設けることには自分も賛成です

細かい設定は決めず最低限の確認にとどめる場合でも
掲示板があれば何かと便利ですし
矛盾が生じた時などにも話し合えますので
171代打名無し@実況は実況板で:05/01/05 02:56:01 ID:NrjnysZv
これ以上ここで続けるのも何だし、36章をどうするか、打ち合わせ板を
どうするかをとりあえず話し合う、仮の会議場を設置する?
したらばでいいなら借りてくるけど、どう?
172代打名無し@実況は実況板で:05/01/05 08:32:04 ID:ugMzmz1M
>>171
おながいします
173代打名無し@実況は実況板で:05/01/05 10:30:08 ID:cefZLVdy
>171
いいと思います
特に虎バトは複数作品が同時に進行しているので
この状態ではリレー以外の職人さんも
続きを書きにくいのではないかと
174171:05/01/06 01:55:25 ID:9VhswOhB
http://jbbs.livedoor.jp/sports/20081/
職人も読者も関係なく、皆さんどうぞ
175代打名無し@実況は実況板で:05/01/06 08:19:04 ID:63Phj2Um
>>174
GJ!
176代打名無し@実況は実況板で:05/01/06 15:48:34 ID:rn4u8WSR
>174
乙です
ここでうまく話がまとまるといいですね
17749 ◆NRuBx8130A :05/01/06 19:49:03 ID:4h4roT7s
>174
乙です。
また明日あたりから張らせて貰いたいのですが、
混乱するとの意見が多ければそちらで対応策を練るなど
利用させていただくかもしれません。
178328 ◆U/eDuwct8o :05/01/07 14:23:29 ID:HOIHAIKk
>>120より続き

「いま何時だ!?」
激しい雨足によって、小さな声はかき消される。
必然的に、怒鳴るような声色で藪は聞いた。
「もうすぐ四時だ」
「はやくしねぇと夜が明けるな…」
「どの道この雨や。まだ暫くは大丈夫なハズ――」
「そうか」
話しつつも、走る足を休めはしない。
幾度となくぬかるみに足をとられたが、すぐに起き上がり走り出した。

藤川が方角を示した。
その方角へ向けて、三人が走り始めて暫く過ぎた。
だがそれらしい陰はいっこうに見当たらない。

「あかん、ここらで休もうや!」
雨宿りが出来そうな場所を見つけ、矢野がそう言った。
「…そうするか」
「おい、あんまりゆっくりは出来ないぞ」
「なんや、野口。この天気なんや、ケチくさいコト言うもんやないで」
「いや、ケチとかじゃなくて…」
二人が言い合いをしている余所で、藪は静かに暗闇の向こうを見つめていた。
179328 ◆U/eDuwct8o :05/01/07 14:24:00 ID:HOIHAIKk
「…何かが攻めてくる」
「えっ…?」
「数が多いぞ」
「え、どこどこ? 何処におんの?」

『ヨク キヅイタナ。サスガダナ』
無機質で、機械的な声が響いた。
機械に知り合いはいない。
だが、三人はその声に聞き覚えがあった。

「この声、まさか…」


その時、ひとつの影が三人に向かって突進してきた。
いまの声の主だろう。
「藪!」
「ああ…!」
猛然と突進する男の攻撃を、藪はひらりと身をかわしてよけた。
『――ナニ!?』
「どりゃぁ!」
その隙にすかさず矢野が腕を掴み、そのまま背負い投げが見事に決まった。
「ナメとんやないで、ザコが」
うつぶせに倒れる男の身体を反転させ、その顔を確認する。
180328 ◆U/eDuwct8o :05/01/07 14:24:23 ID:HOIHAIKk
「これは、カツノリ…!?」
「…成る程、コイツやったんか」
「しかし、なぜこんなに不気味な気配を…」
突如襲い掛かってきた男は、元阪神の選手で、野村氏の息子でもある野村カツノリだった。
頭を強打したカツノリは、それ以上襲い掛かってくることはなかった。

「敵はひとりじゃないハズだが…」
藪はぽつりとそう漏らす。
「確かに、面妖な気配はまだするな…」

「ようこそ。歓迎しますよ、お三方」
その時、別の方向から声がした。
「その声は、藤川か!」
「ご名答! まさか本当に来るとは思わなかったですよ。単純ですね、貴方がたは!」
「まさか、このカツノリは、お前が仕向けたのか!?」
「ま、ひらたく言うとそうなるわな」
藤川の後ろから、ゆっくりと岡田が姿を現す。
口の端を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべていた。
「岡田監督…?」
「いまのは、亡き野村氏が築きあげた複製人間プロトタイプ。“量産型カツノリ”! 僕はただそれを解き放っただけですよ」
「りょ、量産型カツノリ…?」
「…アホな。そんなもん作っとったんかい。気でも違っとるんか?」
「野村…目障りな奴やったけど、今となっては労いの言葉を送るわ。お陰様でこの力を独り占め出来るんやからな」
「馬鹿め」
上目遣いに岡田を睨み、嘲りの笑みと共に藪が言った。
181328 ◆U/eDuwct8o :05/01/07 14:24:48 ID:HOIHAIKk
「こんな雑魚を呼んだところで何が出来る。現にいま奴はただ転がってるだけだ」
倒れたまま、ピクリとも動かないカツノリを足げにして、藪は失笑した。
「ふふふ、どうやら馬鹿なのは貴方のほうですね。藪さん」
「なに…?」
「僕は、“量産型”カツノリと言ったんですよ」
「………!」
「さぁ、ご覧あれ」
その瞬間、地面を揺らすほどの地鳴りと共に、数多の人影が押し寄せてきた。
数百、数千。いや、もしかしたら数万も居るかも知れない。
数えるのも億劫なほどだ。
さらに面妖なことには、そのすべての人影は同じ顔立ちをしていた。
なにも顔だけではない。背丈、腕の長さから骨格まで、何もかもが完全に同一だった。

「量産型、カツノリ…」
野口は、不意にその言葉をリフレインした。
手足はわなわなと震えている。
「野口、藪、来るで。どないする…?」
「逃げるか、戦うか…」

『コロス ヤブ、コロス』
『コロス ヤノ、コロス』
『コロス ノグチ、コロス』
全く同じ声が、幾千重にも重なって響く。
不気味なセレナーデが耳に届くころには、その団体が目の前まで迫っていた。
182328 ◆U/eDuwct8o :05/01/07 14:25:31 ID:HOIHAIKk
「さて、どうなりますかね…」
高みからその様子を眺めながら藤川は言った。
「幾ら何でもこの数はまずいんとちゃうかな。死んでもおかしくないやろ」
「それでいいんですか?」
「どっちも同じよ。この島から出ようとしとるんやろ?」
「野口以外の二人はそうみたいですね」
「野口、か…」
その名を呟いてから、岡田はわずかに肩をすくめた。
「別に野口くらいなら、死んでもええんとちゃうかな」
「では、そうしましょうか?」
「どっちでもええよ」
「そうですか」

岡田は眼下を見下ろした。
そこには、カツノリの大群から必死に逃げ回る三人の姿があった。
「グフフフ…」
「…? どうしました?」
「藤川よ」
「はい」
「オレな、どうしてオレがこんなにも強いかわかったんよ」
「お聞きしましょう」
「それはな、オレが阪神の監督をしとるからなんや」
「それはどういう事でしょうか?」
藤川の問いに、岡田はにやりと笑ってからワンテンポ置いた。
183328 ◆U/eDuwct8o :05/01/07 14:26:41 ID:HOIHAIKk
「どうして虎が強いか、わかるか?」
「えっ?」
思わず藤川は聞き返す。
そして、岡田の言う“虎”が、タイガースの事ではなく、動物のことだとわかった。
「虎は強い。百獣の王はライオンやとか抜かすが、実際闘ったら虎が勝つそうや。まさしく猛虎やな」
岡田は、グフフとくぐもった声で笑った。
「虎は何故強いかわかるか?」
もう一度、同じ問いを繰り返した。



 「――もともと強いからよ」



言い終わってから岡田は、闇夜に響く大きな笑いをあげた。


第八章・終劇
184328 ◆U/eDuwct8o :05/01/07 14:31:19 ID:HOIHAIKk
ども。


久しぶりに投下しました。

それはそうと、>>171氏乙です。
これでひと段落しますかね。
オレもたまに覗いてみようかなと思います。

リレーの職人がたも、一読者として楽しみにしておりますので、これからも頑張ってください。
185(1/2) 49 ◆NRuBx8130A :05/01/07 20:23:03 ID:UsEaHJXv
11.落ち着かない標的

柵の落ちたベランダに腹這いになり、片岡は時を待っていた。
視線の先には狭く急な階段がある。錆びて歯抜けになった鉄柵の向こうには石段が見えて
おり、少し下れば建物の陰になっている。
あの陰から姿を現した人間を撃つのだ。
今度こそうまくやらなければならない。ベレッタは狙撃に向くシロモノではない。それ以
上に自分に射撃の技術などあるはずもないのだ。ぎりぎりまで待て。相手が何を持ってい
るか分からない以上、距離が近いのは危険だ。一撃で仕留めろ。躊躇があれば命取りだ。
躊躇なく――出来るか。俺に出来るか?こうして目的のため獲物を待つことさえしている
のに、未だ全ては憶測の域を出ない。
できなければ死ぬだけだ。落ち着け、それ以上に何がある?今に限らず、自分を取り巻く
状況は常にシビアだったじゃないか。
片岡は唾を飲み込んだ。古い高層アパートの一角に長身を伏せ、目はぎらつき気味に輝い
てはいるものの、外見にそぐわぬ繊細さを秘めた心中は大小のうねりを抱える。

随分待ったように思う。ユニホームを通して伝わるコンクリートの冷たさには一向に慣れ
ない。コツコツという足音を聞いたとき、片岡は見つめる目に力を込めるのではなく、額
を床に擦り付けてしばし瞑目した。
居住区には坂と階段が多い島である。身を隠せる建物もたくさんある。あの足跡の主が誰
なのか知らないが、たまたま自分の待ち伏せるこの場所を訪れるとは不運な奴だ。
だが、同情はすまい。お互いに、何もかも賭けなのだ。
片岡は目を見開き、ことさらに頭を低くして獲物の到来を待った。
18649 ◆NRuBx8130A :05/01/07 20:23:59 ID:UsEaHJXv
すいません。 >150の続きです。
187(2/2) 49 ◆NRuBx8130A :05/01/07 20:24:27 ID:UsEaHJXv
足音は一人分だ。それ以上のことは分からない。
緊張状態を保ったまま、片岡は聞こえる音に耳を澄まし、相手の動きを頭に思い浮かべた。
足を止めるのは建物の中を覗き込んでいるのだろう。別にそちらへ行ってくれても構わな
い、次の獲物を待つだけだ。パキ、と踏みつけられた木材が折れる音がしたが、音はそれ
以上続かなかった。廊下は廃材の山だ。足場が悪すぎ、とりあえず自分は進む気にならな
かった。おそらく同じような判断を下したのだろう。
足音が階段のコンクリートを踏むものに戻る。そのまま上がってくる。数段上は踊り場に
なっているはずだ。また足を止めた。踊り場からは密接した他の建物の様子も伺える。奴
もそうしているに違いない。だが目に付くものは何もないぞ。真っ直ぐ上がって来い。
が、片岡の予想に違い、足音は早いリズムで少し遠ざかった。再び木材を踏む音がする。
一歩、二歩――アパートの居室に逃げ込む気か?それも違う。思い直したように、スパイ
クがコンクリートを直に踏む。駆け降りている?いや駆け上がってくる!また止まる。
よく動き回る奴だ。片岡は呆れて顔を伏せ、大きく息を吐いた。顎の下で砂がじゃりりと
鳴る。ほとほと落ち着きのない奴や。ああ、また走っとるわ。
「あ――か、片岡さん?」
声に、片岡は弾かれたように顔を上げた。丸い目をしてこちらを見ているのは背番号20、
金澤だ。失態を嘆くより早く、片岡はベレッタの引き金を引いた。続けて二発。
「うわっ」
金澤が慌ててしゃがみ込む。鉛弾はどちらもコンクリートを弾いただけのようだ。出遅れ
の代償はやはり大きい。片岡は舌打ちをすると、素早く身を起こした。仕損じたら撤退す
るつもりだった。退路も確保してある。
身を翻そうとした片岡の視界に、立ち上がらんとする金沢の姿が映った。顔の高さに構え
ているのはボウガンか?耳の側を、短い矢が怖ろしい唸りを上げて飛び過ぎる。アカン!
片岡は全速力で走り出した。途端、背中に衝撃を感じてつんのめる。全身から脂汗が噴き
出す。片岡は必死に体勢を立て直し、そのまま駆け去った。

[金澤健人:ボウガン]

【残り45人】
188924:05/01/07 20:34:03 ID:vgb1xvRa
171氏、本当にありがとうございました
お世話になります

328氏と49氏も新作乙です。
二つも続きが読めるのは嬉しいです
189(1/3) 49 ◆NRuBx8130A :05/01/08 21:40:53 ID:awR2u53N
>187より

12.海と毒薬

これが酒やったらなぁ、とぼやいて、前川勝彦は手にした『六甲のおいしい水』のペット
ボトルを呷った。真昼の日差しと海面からの反射がボトルの中で揺れ、その眩しさに目を
細める。ぬるいけれども透明な感覚が、さらりと食道を撫でていく。
「前川さーん、そんなに飲んだらすぐ無くなってしまいますよ」
傍らに座る江草が抗議した。二人は岸壁の端に腰を掛けている。夏なら熱くてこうもして
いられないのだろうが、日光に暖められたコンクリートからは程良い温度が伝わってくる。
前川はさらにもう一口を胃に流し込んでから、江草にニッと笑んでみせた。江草は丸い顔
を左右に振って俯く。
「つれないなぁ、江草」
「なんで水なんか飲んでるんですか」
江草はスパイクを履いた足をぶらぶらとさせ、寄せては返す波の動きを目で追っている。
覇気の無いその様子は叱られた子供のようにも見え、前川はひっそり笑った。
「なんで笑ってるんですか」
「いや、まあ…」
前川は誤魔化した。喉が渇くから水を飲み、おかしいから笑っているのだが、それが正常
ともとれない理の下に自分たちはいる。水を飲むのは生きるため。笑うのは――さて、正
気を保って生きるためか、あるいは恐怖せずに死ぬためか。すべてに生死を紐付ける必要
があるとは、なんとも面倒な話だと前川は考える。
190(2/3) 49 ◆NRuBx8130A :05/01/08 21:41:19 ID:awR2u53N

「杉山とか、どこにいるんでしょうね…。こっちにくるかな…」
「お前ら仲ええもんな。合流したらええやん」
前川は言い、ごろりと横になった。背中にコンクリートの熱が染みる。
「合流って――簡単に言わないでくださいよ。さっきも銃声とか、聞こえたじゃないです
か。危ないですよ。し、死ぬかも、しれないんですよ」
息継ぎを多めにしながら、江草は言った。ただ話しをしているだけだというのに、いやに
喉が渇く。そうか、それで前川さんは水を飲んでいたのか。
江草は自分のパターンをそのまま前川に当て嵌め、咎めるようだった先の態度を反省した。
「ほれ」
ずい、とペットボトルを突き出しながら、前川は空を見上げた。いい天気だ。西からゆっ
くりと白い雲が流れてくる。小さく礼を言って、江草は水を一口飲んだ。返されたペット
ボトルを手に、前川はよいしょと体を起こす。
「お前の武器、なんやった?」
江草は一瞬身を堅くし、それからのろのろと荷物を探った。親指と人差し指に挟まれて姿
を現したのは、小さなガラス瓶だった。白い粉末がその半分ほどを満たし、瓶の表面には
内容を示すラベルが貼られている。KCNという化学式の下にはご丁寧にも括弧書きで
Potassium Cyanideとあるが、特に詳しいわけでもない前川には和訳しかねた。
「ぽたっしうむ…しゃ…にで?毒か?」
はい、という肯定の声は小さく、潮騒にかき消されて前川の耳には届かなかった。

191(3/3) 49 ◆NRuBx8130A :05/01/08 21:41:46 ID:awR2u53N

「ふーん。けったいなシロモノやな」
前川は立ち上がり、尻についた砂をパンパンと叩き落とした。江草は急いで(しかし慎重
に)小瓶をバックパックに仕舞い、同じように立ち上がる。
「なんや、ついてきてもアカンで。俺はこれからランニングや」
「ら、ランニング?」
江草は目をむいた。何を言っているんだろうこの人は。状況、把握してますか?
あっけにとられる江草の顔を覗き込んで、前川は面白そうに笑った。
「俺、まだまだ絞らんとならんのや。知っとるやろ」
「だ、だから何で――」
「わかっとるがな。カッコだけよカッコだけ。したいようにするだけや。
 一緒に来てもエエけど、他のヤツらに会うまでやで」
「え、え?」
ついてこれていない江草を物理的にも置き去りにして、前川はさっさと歩き出した。待っ
てくださいよ、と慌てた声が背中を叩く。
(それでもな、これは俺なりの反抗なんや)
前川は歩調を緩め、江草の足音が追いついてくるのを待った。

[江草仁貴:青酸カリウム]

【残り45人】
192代打名無し@実況は実況板で:05/01/09 00:27:02 ID:F+trkJKq
49氏新作乙。


なんか人が少なくて(´・ω・`)ショボーン
たぶんリレーの件が片づいてないからなんだろうけど…

せっかく掲示板借りてきたんだから、こういう時こそ積極的に話し合うべきなのに。
19349 ◆NRuBx8130A :05/01/09 21:19:23 ID:yem8vjPt
まあこういうのは流行があるだろうしな。
俺は貧乏性だから書いた分は投下したいけど。

ってことで貼らせてもらいます。
194(1/2) 49 ◆NRuBx8130A :05/01/09 21:20:12 ID:yem8vjPt
>191より

13.曖昧な殺意

実物を見るのは初めてだ、と好奇心の方が先立って、久保田は手にした苦無をまじまじと
観察していた。付属していた説明書はあまり熱心に読んでいないが、手に持って使うこと
もできれば、投げにも向き、土を掘るような荒っぽい作業もこなせるらしい。流石は有名
な忍者の道具だけあって、合理的に出来ている。久保田は感心してうーんと唸った。上質
な鉄で出来た旧式兵器は、打ち合わせると高く澄んだ音がする。
これが俺の武器なのだ。投手なんだから、やはり投げて使うべきなんだろうか。これで
150km/hは出るのか?バランスはすごくいいが――。
「あれ、久保田?」
突然声を掛けられて、久保田は現実に引き戻された。視線の先では、背番号で自分の直後
となる濱中が、バックパックをきちんと背負ったまま立ち尽くしている。
久保田は隠れていたわけではなかった。あの部屋から開放された後、早めに持ち物を確認
しておいた方がいいような気がして、ちょっと入った建物の影で早速作業を開始したのだ
った。その上自分の世界に入っていたのだから無防備なことだ。

濱中は、何を思って声を掛けてきたのだろう。攻撃したければとっくに実行できていたは
ずである。現に、お互いを認識した今でも、登校途中の小学生よろしくバックパックのベ
ルトに両手を添えて立っているばかりで、何かを取り出すわけでもない。
195(2/2) 49 ◆NRuBx8130A :05/01/09 21:20:37 ID:yem8vjPt

「久保田のそれ、武器なの?」
遠慮がちな濱中の問いに、久保田は手の中のものの存在を思い出した。
「苦無です。投げて使うんです」
そうだ、投げて使うんだ。
久保田は冷たい鉄の重量を確かめながら、彼が投球の時にするように大きく振りかぶった。
ボールとは形状が違いすぎ、どこで手を離していいものやら良く分からなかったので、適
当なところでリリースする。
苦無は怖ろしい加速度を与えられながら、とんでもなく外れたところへ飛んだ。それは濱
中の遥か後方の建物の外壁に当たり、コンクリートの破片と共に地面に落ちた。
「暴投…」
小さく呟いた濱中は、しかし久保田を非難するでも逃げるでもなかった。狙いが彼であっ
たことは、投球(?)動作を見れば一目瞭然であっただろうに、困ったような表情をして、
そこから動かなかった。
「濱中さん、逃げないんですか?」
久保田の胸には自然と疑問が湧いたが、それで動作を止めることはしなかった。モーショ
ンをコンパクトにした久保田の第二球(?)は、外角ギリギリのコースで、佇む男の上腕を
浅く裂いた。
「濱中さん?」
久保田は首を傾げた。濱中も同じように首を傾げ、何も言わなかった。
よくわからないな、と内心ひとりごちながら、久保田は三本目の苦無を手にした。

[久保田智之:苦無]

【残り45人】
196514:05/01/10 03:19:25 ID:kpxMen+C
来るのが遅くなって申し訳ありません。
171氏、乙です。本当にありがとうございます。活用させて頂きます。
197328 ◆U/eDuwct8o :05/01/10 17:28:44 ID:mngySOH5
第九章・我が英雄 レッド☆スター


《超大型で非常に強い台風19号が日本列島に接近し、今日午前に本土へ直撃する模様で、九州一帯で激しい雷雨が予想されます》


「くそっ…くそ……!」
大会運営委員である高山兄弟の兄、高山ジョニーは焦っていた。
自分が留守にしていた間に主である野村を殺され、そして弟までもが無様な姿に変わり果てていた。
横を見れば、左手と右脚を失った弟が、放心状態でぶつぶつと何かを呟いている。
その毛髪は見事なまでに真っ白で、その真っ白な髪さえも次々と抜け落ちていく。

「岡田め…! この愚昧もはや許せん……!!」
先ほど岡田はこの制御室を襲撃し、そして大量のプロトタイプ、量産型カツノリを奪っていった。
おそらく、弟を拷問し、極秘であるはずのこの場所を聞き出したのだろう。

先ほどからの地を揺らすほどの轟音。
おそらくカツノリが暴れまわっているのだろう。
だが所詮は試作品。
ひとつひとつの性能は呆れるほどに弱い。
奴を呼び出せば、カツノリなど一掃できる。

「ふっふっふ…。眼には眼を、岡田には…岡田を…というわけだ」

(ん、これは…?)
通信機を手にとったケニーは、モニターに映る人影をとらえた。
それは、カツノリから必死に逃げ回る野口ら、三人の姿があった。
「なるほど、面白い…。もう少し様子を見るとするか……」
198328 ◆U/eDuwct8o :05/01/10 17:29:10 ID:mngySOH5
「倒しても倒してもキリがないぞ! どうすりゃいいんだ一体…!」
「何とか撒いてみるか?」
「駄目や、もうすぐに追いつかれてまう!」
量産されたカツノリと、野口ら三名の追いかけっこが続いている。
カツノリの脚力自体は大したことはないが、豪雨によるぬかるみで三人の足がとられつつあった。
不気味なことに、カツノリ達は足場の悪さを全く感じていないようについてきている。
双方の差は縮まりつつあった。
「矢野、野口…何か武器はあるか?」
「使えそうなのは何もないぞ!」
「あかん、ミットくらいしか持っとらんわ」
「…駄目か。せめて少数ずつ何とか出来ればな…」

その時だった――

「えっ…?」
ぬかるみに足をとられ、不意に野口の身体が横転した。
その身体が地面に投げ出される。
「――!?」
「野口ッ!!」
思わず二人は足を止め、野口の元へ駆け寄ろうとする。
199328 ◆U/eDuwct8o :05/01/10 17:29:30 ID:mngySOH5
「――来るなッ!!!」
「えっ…?」
「足が釣っただけだ。先に行け」
「釣ったってお前…何言うとんのや。このままやったら…」
「いいから、早く行け! オレもすぐに行く!」
矢野は野口から視線をずらす。
顔を上げれば、もうすぐそこまで迫っているカツノリ達が見える。
「早よぅ立て野口! おい、のぐ――」
「行くぞ」
「藪!?」
今にも野口の元へ駆け出そうとする矢野の腕をつかんで、藪は野口の居ない方向へと走り出した。

「何すんねん藪! 離せや、離さんかい!! おい野口、野口ィ!!」
「………」
(死ぬな、死ぬなよ、野口……)
ただ無心に走る藪の瞼には、きらりとひとしずくの涙に濡れた。
200328 ◆U/eDuwct8o :05/01/10 17:29:49 ID:mngySOH5
「くくっ、ザマぁ無い最期だ…」
己の不運を呪いながらの、仲間の無事を願って顔をあげる。
地をゆらす轟音は、すぐ傍まで響いている。

(矢野を頼むぞ、藪…)

ドドドドド!!
目を閉じて、不安が近づいてくる音を聞いている。

その音は、だんだん大きくなって。

いつか、音で世界が壊れてしまうんじゃないかと思うくらいの加速度で。

音はだんだん、だんだん大きくなって。

耳のすぐそばで聞こえるくらい、大きくなって。


ドドドド――――――ッ!!




――そして、ふいに何も聞こえなくなった。





(矢野――藪―――生きて、必ず……)
それでも、何故だか満たされたように暖かく……
201328 ◆U/eDuwct8o :05/01/10 17:30:10 ID:mngySOH5

「ここまで来れば大丈夫か…?」
「藪! 何で野口を置いて来たんや!!」
腕を掴む藪の手を払いのけ、矢野は詰問する。
「心配するな矢野。きっと野口なら大丈――」

ドォォォォン!!!

言い終わる前に、後方で大爆発が起こる。
「――!!」
慌てて見れば、沢山のカツノリが爆風で飛ばされていた。
「この爆発は、まさか……」
「野口……?」
矢野は、放心状態でふらりと揺れた。
「野口、野口…!」
「……………」


「野口ぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃ!!!!!!!」
202328 ◆U/eDuwct8o :05/01/10 17:41:18 ID:mngySOH5
ども。


今回は>>183からの続きです
ちょいとしたらまた現れます
203虎太郎:05/01/10 17:44:50 ID:ojawsfRJ
ども桧山ファンです
204代打名無し@実況は実況板で:05/01/10 17:48:34 ID:YCTpZeqH
作者さん達
いつも乙!!!!
205代打名無し@実況は実況板で:05/01/11 04:42:55 ID:NDhMU3Nh
206(1/2) 49 ◆NRuBx8130A :05/01/11 19:43:19 ID:aCG6HXEf
>195より

14.展覧会の絵

スタートが早ければいける。軽いステップ数歩を助走とし、久慈は跳んだ。
「うわっ!」
衝撃と共に驚きの声が上がる。もつれて倒れこむ久慈の頭上を、苦無は唸りを上げて通過
した。下敷きにした背番号31がもぞもぞと反転し、大きな瞳が何事かとこちらを見る。
「久慈さん?!」
「久慈さん!?」
下からは濱中が、そして少し先では久保田が、それぞれに目を丸くしてこちらを見ている。
自分が闖入者であることには異存はないが、放っておける状況ではなかったはずだと久慈
は反論したい。己に加えられんとする必殺の一撃をただ眺めているだけの濱中。
「逃げるぞ!」
久慈は素早く身を起こすと、倒れている濱中を引き起こした。よろめきながら立ち上がっ
た濱中は、しかし、きょとんとして久慈を見下ろす。ぱちぱちと音の聞こえそうな瞬きを
交え、久慈の初歩的なエラーか何か、信じられないものでも見ている風だ。
「逃げよう!――逃げるんだったら!」
久慈は焦れて、乱暴に濱中の手を掴んだ。右だった。はっと濱中の表情が凍る。久慈は慌
てて左手を取り、全速力で走り出す。
半ば引きずられ、怪しい足取りで遠ざかっていく濱中の背中を、久保田はただ見送った。
胸中に安堵のようなものを感じ、久保田は再び首を傾げた。
207(2/2) 49 ◆NRuBx8130A :05/01/11 19:43:45 ID:aCG6HXEf

あっという間に息が切れる。久保田が追ってこないのを確認して、久慈は歩調を緩めた。
人を引っ張って移動するというのは難しい。引っ張られる方があまり積極的でなく、体も
大きければ尚更だ。そちらが主因ということにしておきたい。ベテランと呼ばれるが故の
原因も、相当大きなものであると自覚はしているが。
久慈は息を整えつつ、濱中をちらりと顧みた。ユニホームの袖の赤が痛々しい。早く傷の
手当をしてやらなければ。
目の前には空き地が広がっている。よく見ると枯れ草の間に白線の名残があり、もとはテ
ニスコートだったことが伺えた。しかし腰を落ち着けるには見通しが良すぎる。
出発直後に確認しておいた地図を脳裏に描き、久慈は近場で身を隠せる場所を探した。
濱中は導かれるまま大人しく従っているが、手を離せば立ち止まってしまいそうでもあり、
とりあえずは原始的な強行手段に訴えることにする。手を引いたまま、空き地を四周する
背の高い草を掻き分けて進み、久慈は島の中でも特に大きな建物の中へと足を踏み入れた。
70号棟、かつての小中学校だ。
玄関のモザイク壁画が長い年月にも色褪せず、二人を迎えた。
「よくできてますね」
濱中が足を止め、子供のものらしい伸びやかな構図のそれを眺める。濱中の立ち止まった
反動をやり過ごしていた久慈は、少しばかり気抜けしたような声で返した。
「え?ああ」
「卒業制作じゃないですかね、きっと」
「そうだな…」
穏やかな目で壁画を眺める濱中には、何も特別なものは感じられない。朱に染まったユニ
ホームさえ考慮に入れなければ、彼の姿は展覧会で絵を鑑賞する人そのものだ。あるいは、
廃墟と手負いの野球選手まで含めて、この風景を前衛芸術のひとつと考えたほうが自然な
のかもしれない。
久慈は知らず首を振った。どちらにせよ、この状況には異質なもののように思われた。濱
中を支配しているのは『余裕』などではないと久慈の勘が伝えている。では、何か?
結論を導く為の欠片は既に手に入れている。それらを組み合わせ確証を得ることを久慈は
怖れ、ぐいぐいと濱中の手を引いて迅速な移動を促した。

【残り45人】
208代打名無し@実況は実況板で:05/01/12 23:31:33 ID:yZiZ61xu
49氏と328氏が次々と新作を投下されていますね
いつも乙です!
209代打名無し@実況は実況板で:05/01/13 23:36:46 ID:iQRhicZL
(* ・x・)
210代打名無し@実況は実況板で:05/01/13 23:46:08 ID:Jo1Z6BBz
バンビは捕手!
211代打名無し@実況は実況板で:05/01/14 02:11:01 ID:3rlStdap
楽バトスレが過疎・沈没寸前なので
落ちたままの見守るスレの続きとして再利用を提唱。


楽天イーグルスバトルロワイヤル
ttp://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1102823013/
212代打名無し@実況は実況板で:05/01/14 21:18:11 ID:dfhZBf4m
ttp://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1105704084/
見守るスレたててもらいました
213代打名無し@実況は実況板で:05/01/14 22:46:54 ID:4sMHRYb2
リレーの、江草狩野杉山の続きが気になる今日このごろ
214328 ◆U/eDuwct8o :05/01/14 23:20:06 ID:X4iTU00E

「…? カツノリが攻めてこない…。いまの爆発で死んだのか?」
「………」
その問いの答えは戻って来なかった。
隣の矢野は友の死を確信し、がっくりと項垂れている。

「ん…これは……!」
不意に、後方にばかり気をとられていた藪は、目の前を見上げて眼を丸くした。
目の前には、建物がそびえ立っていたのだ。

 “制御棟”

ご丁寧にも、入り口にそう記してあった。
(藤川が言っていたのは、ここの事か…?)

「矢野…おい、矢野…」
「藪……」
「ここに運営委員の高山とかいう奴が居るハズだ。乗り込むぞ」
「………」
「矢野――」
「藪…俺、もうアカンわ」
矢野は、やっとの思いで震える声を絞り出した。

215328 ◆U/eDuwct8o :05/01/14 23:20:36 ID:X4iTU00E

“…それでも、オレはウィリアムスを助けるよ。――チームメイトだからな”

矢野の脳裏に、野口の言葉がよみがえる。

己の命を顧みず、誰かの命を守ろうとした野口。
自分の安全を脅かした相手さえにも慈愛を与える。
情けは人の為ならず、と古くから言うが、結局その情けが返って来ることはなかった。
皮肉な最期だ。

「こんなの…あんまりやないかい!! なんで野口だけ、こないな目に遭わなあかんねん!!!」
「…今更詮無い事だ、矢野。野口の死に報いるためにも、先を急ぐぞ」
差し伸べられた藪の手を矢野ははじき返す。
きっ、と睨みつけて矢野は声を荒げた。
「藪、お前少し冷たいんとちゃうか? なんで野口が死んだのにそんな落ち着いていられんねん!!」
「慌てたからって、何か出来るわけじゃない」
「ふざけんな!」
「矢野……」
「何でや…何で俺は野口を助けてやれんかったんや…!?」
「………」
「こんなんやったら…俺らかて生きてても無駄や…」
「――!!」

パァン!

気づいたら、藪は平手で矢野を殴っていた。
「何すん――」

「良く聞け、矢野」
低く、静かな声で藪は言った。
216328 ◆U/eDuwct8o :05/01/14 23:21:02 ID:X4iTU00E
「いま俺たちがここにいるのは、野口の意志を継いだからだ」
「…意志を? どういうことや」
「あの時、もし一瞬でも判断が遅れていたら、恐らく野口と一緒に俺たちも死んでいただろう。
 先に行けと叫んだ野口の一言によって、俺たちはこうして助かったんだよ」
「…そやけど……」

「矢野、オレたちはな…もうただ生きているだけじゃない。オレたちは野口に生かされているんだ」
「嘆くんじゃない。奴の死を乗り越えていくんだよ。俺たちには、何よりも先にすべきことがあるだろう!?」
「……」
「…………」
「何ボサっとしてんねん、藪。早よ行くで!!」
「矢野、お前…」
「一気に乗り込むでェ!!」
「応!!」

進取果敢の如く、その棟へと入り込む。

建物の中は、異様の一言だった。
「量産型カツノリ…こんなところにも居たのか。だがこれは一体…?」
それは、たくさんのカツノリがやられた痕だった。
「地獄絵図やな…」
思わず矢野はそう漏らした。
「壊滅的な攻撃を受けたようだな。誰がやったかは知らんが、手間が省けたようだ」
二人は先を急ぎ、ふとひとつの部屋で足をとめた。
217328 ◆U/eDuwct8o :05/01/14 23:21:31 ID:X4iTU00E

  “管理室”

「ここだ」
どうする、と藪が矢野に目配せしようとしていた時には、矢野は既にその扉を開いていた。
「うらー、参上!!」
「お、おい…迂闊だぞ矢野」
藪は慌てて、矢野の後を追って部屋の中へ入る。
部屋の中は、コンピュータで溢れ、そして二人の男がいた。
一人は廃人。
そしてもう一人は、亡き野村の側近である高山ケニーだった。

「来ましたね…」
「ああ、来たぜ」
藪は好戦的に笑い、矢野よりも一歩余計に踏み出した。
「…どうやら一人足りないようですが? 野口選手の姿が見えませんね」
「………」
「そんなん、オマエに話す必要はあらへん」
「単刀直入に聞く」
「なんなりと」
「この球場から出て行くつもりだが、なにか問題はあるか?」
ふてぶてしい笑みを浮かべながら問う藪に、高山もまた嘲るように笑った。
「ええ、まず間違いなく死ぬでしょうね」
「それはこのリストバンドが原因か?」
「その通りです」
「爆破するのか」
「無論、その通りです。それをつけたまま、この島の外へ出れば爆破されます。理由は単純です。電波が届かなくなるからです」
「………」
「実は、逃げ出そうとする選手は貴方がただけではありません。
 これまでたくさんの選手がこの島からの脱走を試み、そして爆死しました」
(この島…? なんや、ココはどっかの島やったんか…?)
218328 ◆U/eDuwct8o :05/01/14 23:22:13 ID:X4iTU00E

「ただ、ここまで聞きにやってきたのは貴方たちが初めてですけどね。それに関しては感銘しますね」
「なら一つ願いがある」
「何でしょう?」
「これを外せ」
「それは無理ですね」
「出来んのか?」
「出来ないこともないです。やるやらないは別ですが」
「やれと言っている」
「無理だと言いました」
「………」
「…………」
「まぁまぁ、これ以上続けても水掛け論や。この状況を打開するには、別の方法が必要やと思うわ」
「別の方法、とは?」
「簡単なことや」
矢野はにやりと不敵に笑った。

「――殴ってぶっとばす!!」
言うや否や、矢野は高山との間合いを一気に詰める。


高山との戦いが始まった。
219328 ◆U/eDuwct8o :05/01/14 23:24:13 ID:X4iTU00E
どもー。


今回は>>201からの続きです。
リレ−、そろそろですかね。
楽しみにしとります
220代打名無し@実況は実況板で:05/01/15 23:35:33 ID:eMZURn5D
328氏、乙です
野口は死にましたか・・・
カツノリの大群に爆笑してしまいましたが
よく考えるとこわいですね
221328 ◆U/eDuwct8o :05/01/16 20:03:08 ID:RyVT8GxP
「――殴ってぶっとばす!!」

言うや否や、矢野は高山との間合いを一気に詰める。
「――!?」
「あらよっと!」
顔面に一撃。
さらに、よろける高山の腕を掴み、背負い投げを一閃。
空中で一回転した高山は、咄嗟に右手で受身をとった。
「くっ…!」
「どんなもんやー」
自慢げに腕を鳴らすと、矢野は倒れる高山を三白眼で見下ろした。
「さっさと言うこときかんと、こんなもんでは済まさへんでー」
「フフフ…貴方は馬鹿ですね」
「何やと…?」
「私は貴方たちがここに来ることを知っていました。――当然準備も済んでるんですよ!!」

刹那、矢野の四方を取り囲んだのは、棍棒を持ったカツノリの姿だった。
「なんやなんや! またコイツらかいな」
「甘いですよ、矢野選手。彼らのコードネームは、“戦闘用カツノリ”! ただの量産型とはワケが違います」
「しゃらくさいっちゅうねん。戦闘用やろうと量産型やろうと、所詮はカツノリやろうが!」
「そう言う考えが甘いというんですよ!」
カツノリの一人が、俊敏な動きで矢野の背後に回りこみ、羽交い絞めにする。
「な、なんや!?」
「さあ、カツノリよ。すこし痛めつけてやりなさい」
次なるカツノリは、動けない矢野の腹部にボディブローを喰らわせる。
「ぐァっ……!」
「矢野…!」
「おっと藪選手。貴方のお相手は私がしましょう。それとも私じゃご不満ですか?」
「邪魔だ、どけ…!」
「どくわけには参りません。――では!」
222328 ◆U/eDuwct8o :05/01/16 20:03:29 ID:RyVT8GxP

チャキ…

高山は一丁の拳銃を取り出す。
銃口を藪に向け、引き金に指を当てる。
「ほう、銃を向けられても動じませんか。大層な肝っ玉です」
「……チッ」

一発目の弾丸。
それは藪の僅か右へ逸れた。
藪は退いた。
銃弾の届かない物陰へ隠れ、高山の様子を伺った。
「こんな状況で鬼ゴッコですか? 案外のんき者ですね」
「………」
「心配ならさなくても、ここで乱射は致しません。壊したくない機械がたくさんありますので」
「…それを聞いて安心したぜ」
「出てきますか? だが、その瞬間が貴方の最期ですよ。こう見えて必中には自身があります」
「…………」
緊迫した状態が続く。

その間も、矢野は四人のカツノリ相手に苦戦を強いられていた。
「こなくそ! オマエラ、二軍の分際で生意気やで!!」
そんな皮肉にも、カツノリは眉一つ動かさない。
二人のカツノリで矢野を羽交い絞め。
他の二人は徹底的に殴る。
完全に為すがままだった。
223328 ◆U/eDuwct8o :05/01/16 20:03:57 ID:RyVT8GxP
腹、頬、局部。
立て続けに殴られる。
「どうです、矢野選手。撤退するというのなら開放致しますが?」
高山は藪から矢野に向き直り、そう聞いた。
カツノリによって無理やり立たされた矢野は顔をあげ、上目遣いに高山を睨みつけた。
「けっ、誰が」
ペッ!

「なっ!?」
吐きつけた唾が高山の頬に直撃する。
瞬間、高山の表情が変わった。
「キサマ…!」
「………」
「徹底的に痛みつけてやれ!!」
言うなり、カツノリは我先にと矢野を殴り始めた。
「ぐあッ…!!」
「もはや生かしては返さん! 地獄に堕ちてから後悔しろ!」


(油断……!)
高山の視線が自分から完全に矢野へ映ったことを悟ると、藪はただちに飛び出した。
「くらえッ!!」
「――しまっ…!?」
藪に気付き、慌てて高山は振り返った。
それと同時に藪の体当たりが腹部に直撃する。
「ぐぁっ…」
「矢野、待ってろ。いま…」
「…くそ、どいつもこいつも……」
腹をおさえながら、高山は立ち上がった。
「藪、後ろや!!」
「何っ…?」
「もう許さん、皆殺しだ!!」
224328 ◆U/eDuwct8o :05/01/16 20:04:23 ID:RyVT8GxP

バァーンッ!!

「――!!?」
一発の銃声。
その弾丸は藪のわき腹を掠めた。
「藪!!?」
「うぐゥ…」
小さく呻き声をあげると、藪はその場に蹲ってから倒れた。
「藪、おい藪!!」
矢野がそう叫んでも返事はない。

“まさか、死んだ…? 野口だけでなく、藪までも…?”

そんな考えが脳裏をよぎると、不意に矢野の瞳が瞋恚の炎に燃えた。
「テメェら…どこまで俺を怒らせれば気が済むんだ…」

「まず一匹。次は矢野、キサマだ」
「放せやゴラァ!!!」
矢野が力任せに右腕を振り払うと、そのまま拳をカツノリの人中に叩き込んだ。
壁に叩きつけられたカツノリは後頭部を強打し、そのまま動かなくなった。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
「ぐ、まずい。取り押さえろ!!」
残った三人のカツノリが、馬乗りになって矢野を制する。
225328 ◆U/eDuwct8o :05/01/16 20:05:02 ID:RyVT8GxP

「くそ、放せ! お前ら、放さんかい!!」
「まったく、本当によくやりましたよ。ここまで手こずるとは思いませんでした。どうやらさっさと殺したほうが良さそうですね」
頭と身体を押さえつけられながら、矢野は鋭い眼光で高山を睨みつけた。
三人のカツノリは、矢野の腕や首を力いっぱい握り締める。
「ぐぁぁぁあ……!!」
矢野の身体は否応無しに軋みをあげた。

みし、みしと骨が軋む。
「ぐぅぅぅぁああ!!」
矢野は苦悶の表情で声をあげていた。
「………」
「ぐあああ!」
「…………」
「ううううああああああああああああああ!!!!」
「………」
「ぐぅ、ぬああああ…」

「これまでです」
高山は銃口を矢野へ向ける。

(く、くそが…!! 畜生、畜生!!)

矢野は下唇を噛み締め、涙を流す。こんな場所では朽ちたくないと、涙を流す。

その時だった。
226328 ◆U/eDuwct8o :05/01/16 20:05:39 ID:RyVT8GxP







            「し ぬ が よ い」






227328 ◆U/eDuwct8o :05/01/16 20:06:03 ID:RyVT8GxP
「――何ッ!?」

一枚のコインが飛んできた。
十円玉だ。
その十円玉は見事に高山の右腕に命中し、その手に握られていた拳銃を弾き飛ばした。
さらに立て続けに飛んできた十円玉はカツノリの脳天を直撃し、めり込んだ。

(動ける…! よっしゃ!!)
開放された矢野は、即座に別のカツノリを殴り倒す。
「く、くそ…」
「高山アァァァ!!!」
「――!? しまった!」
「うおおおおおおああああああああああ!!!!」
渾身の掌底が、高山の顎に叩き込まれる。
「ぐあああああああっ!!」
改心の一撃をもろに喰らった高山は、受身をとる間もなく地に叩きつけられ、もんどりうって気絶した。
228328 ◆U/eDuwct8o :05/01/16 20:06:24 ID:RyVT8GxP

「藪…! おい藪、生きてるか…?」
矢野は倒れている藪のもとへ駆けつけ、その頬をいくつか叩く。
「ん、んん……?」
藪が小さく呻きの声をあげると、矢野は思わず安堵した。
「おー、生きとったかぁ。良かったぁ〜」
「矢野…?」
「お前、撃たれたんやで。大丈夫か?」
「…深手はない。掠っただけだ」
「そやったら、早く起き上がらんかい。びびったやないかい」
「迷惑をかけたようだ」
「迷惑…? そや、あれは一体誰が…」
矢野は十円玉が飛んできた方角を慌てて見やる。
「警戒しなくても大丈夫ですよ、矢野さん」
「無事みたいで何よりや。丁度ピンチだったみたいやし、助太刀のし甲斐もあったわなぁ」

「赤星…金本。お前ら…ホンマ、ナイスやで」
矢野は一気に肩の力が抜けたようで、矢野はその場にへたれこんだ。

「かたじけない…」
「いいってことよ。言うたやろ、協力するって」
そう言って、藪と金本は互いの右手を合わせた。
229328 ◆U/eDuwct8o :05/01/16 20:10:05 ID:RyVT8GxP
ども。


もっと短くしようかと思ったんですが、ちょいとばかり長くなってしまいました。
230代打名無し@実況は実況板で:05/01/16 20:31:09 ID:/mjNWElQ
GJ!
「しぬがよい」ハゲワロタ
231代打名無し@実況は実況板で:05/01/16 22:33:25 ID:FhmJnrwP
328さん相変わらずおもろいなー
232代打名無し@実況は実況板で:05/01/17 16:45:47 ID:dWziK/l9†
ほしゅ
233代打名無し@実況は実況板で:05/01/17 19:32:08 ID:Nu7CaoHU
バラエティ豊かだよなぁ…ほんと。
234代打名無し@実況は実況板で:05/01/17 22:31:45 ID:exirqmhe0
元保管庫さんの紅白戦も久々に更新されていたし
リレーはじめ止まっている作品の続きも読みたいな
235(1/2) 49 ◆NRuBx8130A :05/01/18 19:16:33 ID:mbs3lOrS0
>207より

15.規則の遵守

荒い息を吐きながら、上坂は馬乗りになっていた藤原の体から這うようにして降りた。足
に力が入らない。ありったけの力を手に込めていたせいだろうか。

彼は地面にぺたりと尻を着き、呼吸を整えながら仰向けに倒れているチームメイトを見や
った。
半ばまでアンダーシャツに隠れているが、その首にはくっきりと手の跡がついている。腰
の辺りに落ちている握り拳ほどの黒い皮の塊は、ちっとも役に立たなかった支給品だ。
すれ違いざまに後頭部を殴りつけるのが正しいらしいが、鎖の先の錘を操るのは難しく、
会話をするフリからでは初動で簡単にバレた。藤原の顔に浮かんだ驚愕と恐怖の表情は、
当分忘れられそうにない。
上坂は唇を噛んだ。

「藤原」
呼びかけ、顔を覗きこむ。藤原の目は見開かれたまま、晩秋の晴れた空を映している。
はは、と上坂は乾いた笑いを零した。笑いながら、藤原の目を閉じてやる。
死んでいる。俺が殺したのだ、哀れな藤原。そして、殺した俺が生き残る。
(これが規則だ。規則だ。規則だ。規則――)
胸中で繰り返しながら、しかし笑いの発作が止められない。
236(2/2) 49 ◆NRuBx8130A :05/01/18 19:17:00 ID:mbs3lOrS0

この島でのルールに従い、とりあえずの勝者となった自分。最後の一人になって帰れば―
―殺人者だ。こんな狂った計画を打ち立てた奴らの仕事など当てにならないが、大量の死
者とたった一人の殺戮者を一体どうやって社会に説明する気なのだろう。何か用意してあ
ったとて、これほどの規模のものを闇に葬るのは至難の業だ。法というものはいらぬとこ
ろで―いや不謹慎か―必要な厳しさを持っているのだ。少なくとも自分たちのような身分
のものについては。

笑いは既に痙攣に近いものとなっている。上坂は気管を震わせながら、落ちている藤原の
荷物にふらふらと歩み寄み、その中身をあたりへぶち撒けた。
レトルトパックやペットボトルに混じり、土の上に転がり出たアイスピックを一瞥して、
上坂は可笑しくて仕方ないというように腹を抱えて笑った。
これが次の俺の武器なんだと!
膝を着いて四つん這いでそれに近寄り、手に取る。鋭い切先が陽光を集めて輝く。
上坂は別人のように黙り込み、手の中のものを見つめた。

規則破りの俺が、この狂気の規則にとことん従って生き延びたら、人は何と言うだろう。
本部の奴らがそれらしい理由をつけ、事故だのなんだのと説明したところで、人の口が塞
がる筈はない。俺が耳を塞いだところで聞かずに済むことはない。
どうして他の誰でもなく、前科者のお前なのかと、きっと人は言うだろう。
俺はただ誠実な規則の遵守者であるのに!

もう上坂は笑わなかった。仮面のような無表情で、彼は静かに立ち上がった。

[藤原通:アイスピック / 上坂太一郎:ブラックジャック]

【藤原通(2)×:残り44人】
237代打名無し@実況は実況板で:05/01/19 21:23:48 ID:odCasatZ0
ほしゅ
238328 ◆U/eDuwct8o :05/01/19 22:26:27 ID:O7VozgMF0
「く…うぅ……」
冷たい床の感触で、高山ケニーは眼を覚ました。
気絶したフリをしながら辺りを見回せば、藪・矢野・赤星・金本の四人が互いの活躍を労いながら談笑していた。
自分を見ている者は誰もいない。
戦うこともあるまいが、逃げ出すことなら可能かも知れない。

彼らの目的は、爆破装置の解除だ。
だが、もしそんなことをすればきっと自分は殺される。
そんなことは御免だ。
自分はこれまで良くやった。殺される筋合いはない。
野村亡きいま、これ以上この地に執着することもないだろう。
(逃げよう…)
誰にも気付かれぬよう、高山はそっと立ち上がった。


「いやいや、これで一段落やな。せやろ、藪」
「…ああ、そうだな。これで野口にも報いることが出来た」
「そやけど、これで終わりやないで。この程度で満足しとったら、夜叉よりも怖い野口に殺されてまうで」
そう言って、矢野と藪はわずかに笑った。
「ああ、そうだ。野口さんは…」
「…死んだんや、野口は。そやけど良かったわ。これが弔い合戦や」
何か言おうとした赤星をさえぎって、矢野は低く哀しそうな声で言った。
239328 ◆U/eDuwct8o :05/01/19 22:26:58 ID:O7VozgMF0
がんっ!
「ぐあっ!?」

その時、鈍い音とともに誰かの声があがった。
「何や!?」
「…しまった、あの男が居ない」
咄嗟に辺りを見回すと、気絶したままのカツノリはいたが、高山ケニーの姿はどこにもなかった。
「逃げられてしもたんか!? そやけど、今の声は一体…」

「まったく、簡単に逃がすなよ。何のためにここまで来たんだ」
呆れたように言う声が聞こえた。
金本ではない。赤星でもない。藪でも、矢野でもなかった。
「お、お前…」

「それにしても、弔いだって? 誰か死人でも出たのかい?」
そこに居たのは、他でもない野口寿浩だった。
その姿を確認するや、矢野と藪は目を丸くして互いの顔を覗き込んだ。

「野口!? 生きてたのか!」
「ああ、どうにかな…。赤星に助けられたんだ」
咄嗟に野口のもとへ駆け寄り、足の有無を確認した矢野の頭を叩きながら、野口はばつが悪そうな顔で言った。

「赤星に?」
「ああ、あの時――」
240328 ◆U/eDuwct8o :05/01/19 22:29:20 ID:O7VozgMF0
(藪――矢野を頼んだぞ…)

あの時、オレは自分の死を確信し、そして受け入れようとしていた。
だが、脳裏を過ぎったのは走馬灯ではなく、狩野の顔だった。
無邪気に笑う、狩野の姿だった――

「野口さん野口さん、聞いてください!」
「どうした、狩野」
「僕、必ずこのチームの正捕手になって、このチームを日本一に導くのが夢なんです!!」
「えぇ、何だって?」
「でも、そのためにはまず、ファームで日本一ですねっ!」

――野口さん、一緒にがんばりましょうね!!――

決して、ドラフトで一位指名されるような大物ルーキーではなかった。
だがその想いは、純粋な少年のように屈託のない夢だった。


(そうだ!!)
こんなところで、朽ちるわけにはいかない。
オレは狩野を救う。救わなきゃいけないんだ!!
オレはこんな所で――死ぬワケにはいかないんだ!!

「うおおおおおおおお!!!!」
野口は立ち上がり、片足だけで何とか前へ進んだ。

あまりに遅い。
これではすぐに追いつかれるだろう。
だが、その時真っ直ぐ自分の方へ駆けてくる人影があった。

――赤星だ。
241328 ◆U/eDuwct8o :05/01/19 22:30:00 ID:O7VozgMF0
「野口さんっ」
「赤星!? どうしてここに…」
カツノリの合間を縫って現れたのは、赤星だった。
突然の来訪に、野口は目を丸くして驚いた。こんなところで、みすみす死なせるわけにはいかない。
「おい、赤星…」
「話は後です。まず逃げましょう!」
「だがオレは足を…」
「知ってます!!」
赤星はそう叫び、野口をかかえ持ち上げようとした。
「お、おい…。お前でオレを持ち上げるのは…」
そう言う野口に、赤星は顔あげ、凛とした表情で言い放った。
「野口さん、オレも気持ちは同じです。オレだって誰も殺したくない。オレだって、みんなを救いたい!」
「赤星……」

「こんな勝負、勝ちたくない。勝ちたくないけど……―――敗けられないんだっ!!!」
野口は思わず怯んだ。
何処までも澄んでいるその瞳を直視したからだ。
かつて同じ瞳を、狩野の中に見た。
だからこそ野口は息を呑んだ。


「うおおおおおおああああ〜〜!!!!」

(金本さん、お願いします。その豪力、少しだけオレに貸してください!!)
野口をかかえて走りだし、カツノリの隙間を駆け抜けた。

「化け物め、これでもくらえ!!」
置き土産に、金本から貰った炸裂弾を投げつける。
ドォォォォン!!!
大きな爆炎と爆風を背に受け、赤星は大いに加速する。
想像以上の破壊力に、赤星は唖然としつつも休まず走る。
もうその背に追手がかかることはなかった。
242328 ◆U/eDuwct8o :05/01/19 22:34:36 ID:O7VozgMF0
――その武勇伝を聞かされ、皆は思わず感心しながら頷いた。
「赤星には、本当に感謝している…」
「やめてください、照れるじゃないですか」
「そやけど、まさか生きとったとはなぁ…」
「バックスクリーンに死亡報告が表示されなかったのは、そのためだったか」
「なんや藪、まさか気付いとったんか!?」
「いいや、確証はなかった」

「それにしても、金本さんから貰ったあれ、物凄い威力でしたよ。一体どこから持ってきたんですか、あんなの」
「炸裂弾? ああ、あれな。あれは、ヒーに貰ったんや」
「桧山さん?」
「この大会が始まる前に、ちょっとな。もしものときに使えって」
「へぇ。それで、桧山さんはいまどうしてるんですか?」
「そう言や知らんなァ」
「連絡してみたらどうです? 通信機ありますよ」
野口から受け取った通信機を、金本はしばし見つめ思案していた。
243328 ◆U/eDuwct8o :05/01/19 22:36:28 ID:O7VozgMF0
ども。


今回は>>228からの続きです。

いやぁ。生きてましたねぇ、野口は。
やっぱり殺すに殺せなかった、って感じです。
244代打名無し@実況は実況板で:05/01/20 00:10:41 ID:wTAQfFZmO
ひーやんに連絡クル━━(゚∀゚)━━?
245328 ◆U/eDuwct8o :05/01/20 20:05:06 ID:EHzVIVkY0
第十章・兄貴の背中

ライト定位置のあたりのキャンプ場。桧山はそこで生活していた。
他に人の気配はない。
いるのは桧山と、偶然出会った野良猫のカケフだけだ。
桧山とカケフは争いとは殊更に無縁で、これまで一度の戦闘もなかった。
徒然なるままにただ生き、食い、寝、そして器用な手先を生かして便利な道具を生み出したりしながら暮らしていた。

この日まで桧山には他選手からの連絡はなかった。

「おいでカケフ。ご飯にしよう」
飯ごうの中の米は丁度食べごろだ。
「ニャァゴロ」
「よしよし、いい子だ」
その日も、桧山は同じ一日を過ごすハズだった。
だが、そんな桧山のもとに一本の電話が届いた。
プルルル、プルルルル…
「電話? 誰だろう」
「ニャアニャァ」
「ごめんカケフ。ちょっと待ってね」
カケフにそう言ってから、通話のボタンを押す。
「もしもし、ヒーか?」
「ああ、兄貴。何か用かい?」
「おー、よかった。死んどらんかったかー」
「イキナリなご挨拶だね」
「ヒーの作った炸裂弾。役に立ったそうやで。ただイリョク高すぎや。あれは」
「そうか、それは良かった。新しいのは必要かい?」
「いや、別にええやろ。もう何とかなりそうや」
礼をすませ、これまでの経緯と自分の居場所を軽く告げると、金本はさっさと電話を切った。

「ふーむ。どうやら兄貴のほうは、面倒なことになってるらしいな…」
246328 ◆U/eDuwct8o :05/01/20 20:06:24 ID:EHzVIVkY0
「あの、解除するのは…藪選手と矢野選手のお二人だけで?」
遠慮気味に高山が問えば、矢野は拳を振り回して怒鳴った。
「何言うとんねん。他の奴らのも外さんかい」
「そうですか、わかりました…」
渋々といった様子で頷いた高山に、不意に野口は口を開いて言うことには、
「いや、オレはいい」
…と一言。当然のことながら、これに驚いたのは矢野だ。
声を荒げて野口に問いかけた。
「な、何言うとんねん野口! 気でも違ったんか?」
「矢野、オレはいいんだ。オレはここに残って、やらなきゃいけないことがあるから…」
「せやけど、オマエな…そんな律儀な真似せんでも…」
「矢野」
藪は、なおしつこく食い下がる矢野をさとして、野口と向き合った。
「…いいんだな?」
「ああ。お前たちにはお前たちの、そしてオレにはオレのすべきことがある。お互い道は険しいが、な」
「なら何も言うまい」
「金本、お前たちはどうする?」
「アホ。そんなんいちいち聞かんでもええわ。愚問や」
「オレに義理だてする必要はありませんよ。赤星だって…」
「いいんですよ。オレだって志は同じ。一人で逃げ出すなんて真似は出来ません」
「では、お二人だけでよろしいんで?」
「ああ、藪と矢野だけだ」
「かぁ〜、まったくオマエらと来たら…いちいちやることがアツいんやっちゅうねん」
「ははは…」
呆れたように矢野が言うと、野口は思わず苦笑した。
247328 ◆U/eDuwct8o :05/01/20 20:06:49 ID:EHzVIVkY0
ピッ、ピピー!
《ヤブケイイチ カイジョシマシタ カクニンシテクダサイ》


「…これで完了ですよ。もうお二人のリストバンドが爆破することはありません」
ため息をつきながら高山は言った。
「うむ…」
「どないした藪。外さへんのか?」
「ああ、外さない。これは俺がここまで戦い抜いた証だから…」
「何やねん、ソレ。ワケわからんて」
「………」
「…ま、ええわ。そやったら俺もつけたまんまにしとこ」
「そうか」

「あ…?」
「どうした、赤星」
「外のバックスクリーン、見てください」
「ん? あ…!」

“矢野輝弘、藪恵壹・死亡 開始から38時間42分”

バックスクリーンには、そう表示されていた。
死亡…したわけではない。
二人は目の前にいる。
「当然、それは嘘の情報です。ここから去るお二人は亡くなったことにいたします」
「ふーん。ま、どうでもええねんけど…これからどうする、藪」
「無論、出て行く」
「だから、具体的な話や。まだ何も考えてへんやろが」
「…ふむ……」
248328 ◆U/eDuwct8o :05/01/20 20:07:39 ID:EHzVIVkY0
「よければ、私が島の外まで案内致しますが?」
思わぬところで、高山が口を開いた。
「はぁ? 何で敵のオマエがそないな事言うねん。ウラがあるんとちゃうかウラが!」
「いえ、ありませんよ。ただいい機会だから私も夜逃げをしようかと思いまして」
「夜逃げぇ? 何でよ」
「何でじゃありませんよ。貴方たちのせいに決まってるじゃないですか」
拗ねたような口調で言う高山に、思わず矢野はひるんだ。
「な、なんでやねん! 俺らが何したっちゅうねん!」
「公正な立場である私にとって、参加証明でもあるリストバンド爆弾の解除なんて、最高のタブーですよ。それをしてしまった以上、ここに居る理由なんて皆無ですね」
「お前、案外いい加減なやつだな」
「失礼ですね。ボスが死んでからも勇敢に戦った戦士に向かって言う言葉がそれですか?」
「義理堅い奴なのか?」
「ただ惰性で続けていただけです。ま、これもいいキッカケですね」
「何だそりゃぁ…」

「とにかく、私がここに居ても身の危険であることに他なりません。よってこれからの大会運営はカツノリ達に任せます。そして、脱出の際は慎重な行動が重要になります」
「は? 何でよ。爆発でもするんか?」
「いいえ、厄介なのは岡田の存在です」
「監督?」
「奴に嗅ぎ付けられた日には、忌々しい岡田はきっとこの逃亡を阻止し、私たちを殺すでしょう。ゆえに慎重にならざるを得ません」
「…なるほど。あの監督らしいわなァ」
「とは言っても、注意するのは側近の藤川だけで充分でしょう。岡田自ら阻止に来ることはほぼあり得ません。
 そして、藤川にも爆破装置は作動しているので、深い追いは出来ないはず。逃げ切るのは容易です」
「なるほど。それで、具体的にはどうするんだ?」
「はい。今からちょうど一時間後に、南36ゲートを10分間だけ開放します。
 その間に球場の外に出ることによってミッションは完了です」
「オーケー。それじゃあ今から一時間後、現地で落ち合おう」
そこに居た面々は、その言葉を合図に三々五々に散らばった。

残ったのは高山と、藪の姿だけだ。
249328 ◆U/eDuwct8o :05/01/20 20:08:06 ID:EHzVIVkY0
「どうしました、藪選手」
「聞きたいことがある」
「はい、何でしょう」
「お前の一存でこれの解除が出来るのならば、その逆も可能か?」
「逆と申しますと?」
「これを爆破させることだ」
「ええ、当然ながら可能です」
「ならば、何故そうしてしまわない。厄介と申したはずの藤川を」
静かな瞳をたぎらせて、藪は言った。
「…さぁ、何ででしょうか」
「……?」
曖昧な返事で言葉を濁らせた高山に、藪は怪訝な表情を見せる。
「確かにそうすれば楽でしょうが、さすがにそれはつまらないでしょう?」
「…何だと」
「とと、それは冗談ですよ。ですけど藪さん? もしそんなことをして、あの野口選手の耳に知れれば、彼は今度こそ私と、そして貴方を許しませんよ?」
「…確かに、それもそうだ。だが、それは詭弁に過ぎないハズ…」
「そう思うなら、本人にそう言ってさしあげればよろしいでしょうに」
「………」
高山がそう言うと、藪は不意に押し黙った。

「それに、腐っても私は大会運営委員です。そんな姑息な真似は致しませんよ」
「そうか。ならいい」
言うなり、藪もまたその場から姿を消した。

これから一時間、藪と矢野にとって最後の試練となる。
250保管庫”管理”人:05/01/21 02:15:36 ID:0YY6A/rm0
職人さん乙です!
で、5日ほど出かけるので26日ごろまで更新できません。
申し訳ないです(´・ω・`)
251代打名無し@実況は実況板で:05/01/21 16:55:09 ID:QlwORu7s0
読み手にできるのは感想と捕手。
252代打名無し@実況は実況板で:05/01/21 20:18:08 ID:Pn4FYwdd0
保管庫さんいつもありがとう。お気をつけて。
253代打名無し@実況は実況板で:05/01/21 22:46:42 ID:Envi8sSr0
保管庫さん、いつも乙です
戻られたらまたよろしくお願いします
254代打名無し@実況は実況板で:05/01/22 03:06:29 ID:bj7zqvbS0
おお、新作がきてる!
保管庫さん、ここは我らが保守するので元気で行ってらっしゃい!
作者さんも保管庫さんも、みんないつもありがとう!

>245
この日まで桧山には他選手からの連絡はなかった。

ベタなお約束だけどワロタよ。
255代打名無し@実況は実況板で:05/01/22 19:41:19 ID:a8nm0rdM0
ほしゅ
256代打名無し@実況は実況板で:05/01/23 04:42:44 ID:R9c+kzAy0
GJ! > ALL
257代打名無し@実況は実況板で:05/01/23 18:57:54 ID:Wtxj4+bn0
捕手。
258代打名無し@実況は実況板で:05/01/23 19:43:18 ID:xYK6/ol1O
保守&期待あげー
259代打名無し@実況は実況板で:05/01/23 23:29:29 ID:KcOJdUJE0
くだんの23日も直に過ぎようとしていますね。

けれど変わった様子ナシ。
さて明日以降はどうなることやら
260542(1/6):05/01/24 00:32:51 ID:BePJYO4t0
37.応えない、笑えない、わからない

安藤優也(背番号16)は目の前の吉野誠(背番号21)をじっと見ていた。
たった一日で頬のこけた親友の面差し。口元を緩く引き結び、眉間に皺を寄せた
死人のような―――考えるのも腹ただしいが死人のような顔をしている。
さわさわ、さわさわ。
(何で起きないかな)
じっと、じっと彼を見る。眠ったままだ。ともすれば聞き逃してしまいそうなくらい
微かな息の擦れる音だけが、辛うじて安藤に正気を保たせている。
さわさわ、さわさわ。
首元を通り抜けていった緩やかな風が、生い茂った草や木の葉を揺らした。
このままゆっくり目を閉じて、そうして十数えてから目を開けたら、全てが
なかった事になっていた―――そんな都合のいい夢想をしてみても虚しくて、
安藤はため息をつく。翳の落ちた吉野の顔。なだらかな線を描く頬骨の上で
光が踊っていた。辺りはあまりに静かで、ぼんやりと座り込んでいると
耳鳴りにも似たしじまが押し寄せてくる。さわさわと、少し冷たい風と梢とが
慎ましやかにざわめいているのが何とも穏やかであった。
きらきらとこぼれる陽の光に、そっと目を眇める。そのあえかな眩しさに
感謝する。ちょうどいい。これくらいの眩しさなら、目を見開かずにいられる。
真っ直ぐに吉野を見なくて済む―――ぐったりと脚を投げ出し、腹から
金属の矢を生やした親友を真面に見るのはやはり、抵抗があった。
周りを染めていた血は大分固まってきていて、最初は赤かった染みが
濃く暗い色へと変化している。目を覆いたくなるような惨状だったが、
それでも彼を苛む凶器を抜いてやらなかったのは出血を危惧したためだ。
腕はともかくとして、胴体に貫いているものを不用意に動かす勇気はない。
261542(2/6):05/01/24 00:34:01 ID:BePJYO4t0
目を閉じると、まぶたの裏にひとつの光景が映し出される。
唐突に鳴るブルペンの電話の音が、心の中のピンと張った糸を無遠慮に弾く。
リリーフカーに乗っている間の心臓の音もさながら、地面にシューズの先を
触れさせる時の突き抜けるような感覚は先発の比ではない。
ゆっくりとマウンドに歩いていくと、佐藤や矢野と話していた吉野がついと
こちらを振り返る―――彼のその目を真っ直ぐに見られる時はいい投球が
出来るような、そんな予感がしたものだ―――彼からボールを受け取りながら、
『あと、頼んだぞ』『解ってる』と言葉を交わす。その瞬間の酷いプレッシャーと
えもいわれぬ高揚感。アレは麻薬だ。緊張が頂点に達し、恐怖すら感じる
瞬間であるというのに、昂ぶるものをもたらす何かがある。
ボールを自分に託す相手が誰であってもそれは同じだと思っていたけれど、
吉野だけが少し違うような気がしていたのは、周りの仲間達が自分たちを
仲良しだのなんだのとからかってくるせいだ。オフのイベントの時なんて
矢野や藪からここぞとばかりにいじり倒されたし、優勝特番でもいちいち
セットにされて内輪話を暴露された。
『恥ずかしいからやめて下さいよー』
困ったようにそう言った吉野の顔を思い出す。
あの時、自分は何と言ったっけ?
正確には思い出せないが、多分吉野と同じように、もう勘弁して下さい、とか
やめて下さいよ、とかそんな事を言ったように思う。ただ口にした言葉とは
裏腹に、そうやってセット扱いされても嫌な気持ちはしなかったのも確かだ。
262542(3/6):05/01/24 00:35:30 ID:BePJYO4t0
吉野が意識を失ってから都合4時間、頬を叩いても耳元で呼びかけても、
閉じられた目は開く気配を見せなかった。時折睫毛が震え、弱々しいながら
呼吸だってあるのに、意地でも起きるつもりがないらしい。
昼寝にしたって幾らなんでも長すぎやしないか、吉野。
(疲れちゃったか)
反応を返さない彼へのせめてもの意趣返しのように、ぷに、とほっぺたを強く
引っ張ると、目じりの下がった優男顔が横に歪んでおかしな表情になる。
でも笑えない。笑えなかった。普段ならきっと大笑いしているだろうに。
(それともお前、もう戻って来たくないのか?)
ふと過ぎった恐ろしい考えに、どくんと一つ心臓が鳴る。背筋を物凄い勢いで
這い登った悪寒に急かされ、彼の首筋にぐっと指を当てた。さっきから何度
この行為を繰り返したのだろう。そして今回もまた、ゆるゆると脈打つ血流が
ある事に安堵するのだ。ああ、まだ生きてる―――と。
昨夜もこんな風に不安を抱えたまま、海の見える小屋で吉野を待っていた。
ざああ、ざああと、寄せては返す波の音。昏い部屋に沈む重い空気。
待てど暮らせど、彼は来ない。
いつ来るとも知れぬ親友を待っている間に、いつのまにか安藤は眠っていた。
窓越しの波の歌を聞きながら、ひたすら感じる空しさと悔しさを抱えながら、
いつのまにか眠りに落ちていた。それは気を失ったと言った方が正しいような
安らかさからはかけ離れたものだった。
そうして結局、安藤は翌朝になって重大な事に気付く事になる。太陽が昇る
方向とコンパスの示す東が一致しない―――どういうことだ?
(こんなゲームに参加させられた挙句、初っ端からこんなのってあるかよ!)
どうもこうもない、つまりコンパスが壊れていたのだ。事態を理解してすぐに
安藤は太陽を頼りに西へと走った。
吉野。頼むから、俺に会うまで死なないでいてくれ。
俺に会うまでちゃんと生きててくれ。
そう、切実に祈った。
死なないでくれと、馬鹿みたいに繰り返した。
263542(4/6):05/01/24 00:36:55 ID:BePJYO4t0
自分でも馬鹿みたいだと思った。どうして、そこまで彼に拘る必要がある?
走っている間中、考えていたのはそればかりだった。
この殺人バトルの前提は『仲間同士の殺し合い』だ。無二の親友だと思っていた
人間が自分を殺しにやってくるかも知れない。今までに築き上げた信頼関係が
容易く裏切られうる。自分以外は誰であってもみんな敵だ。
そういう世界なのに、どうして自分は『他人』に―――彼に拘る?
彼であって、他の人間でない理由は何だ?
(―――怖かったから、かな)
怖かった。
ただ、ひたすら怖かった。
そうでない人間の方が異常だ。狂ってる。安藤はそう思う。
怖かった。だから無意識の内に、誰か一緒に居てくれる人間を欲していた。
彼じゃなくてはならない理由なんて本当はなかったのかも知れない。けれど、
体育館で微かに震えているように見えた吉野の横顔が、その瞳の色が
―――どうしてだか、動揺していた自分を一瞬だけ冷静にさせたのだ。

『コイツはきっと、このまま放っといたら死ぬんじゃないか?』

リアリティがあるようでいて、実際は現実感の欠落した死という言葉が、
その時初めて心臓が凍りつくという言葉の意味を安藤に思い知らせた。
死ぬ、という事は。
もう生きてはいない、という事だ。
それは最高に無意味な再認識だったのだけれども、最悪なまでに真実味を
帯びていた。視界に入る佐藤コーチの亡骸。無残な姿だ。今、隣で震えている
正直で真面目で、少しばかり気の弱いこの親友が、あんな姿になるって?
(冗談、だろ?)
認識は、肉体を突き動かす。
(死ぬ?)
理由や理屈は後からついてきた。今回に限っては。
(コイツも―――俺、も?)
ぞっとした。
264542(5/6):05/01/24 00:39:32 ID:BePJYO4t0
朱く血に染まる背番号21を見たその後の事は、はっきりとは憶えていない。
倒れ伏した彼を目にして、身体の中で何かが爆発したのを感じると同時に、
普段の自分では考えられないような素早さで石毛の背後を取り、スタンガンを
押し当ててトリガーを引いていた。
その全ての動作に対して、安藤の中には一片の躊躇も生じなかった。
『そうか、これが殺し合いなんだな』
電流が『敵』の身体を襲っている間、妙に醒めた自分の声が響いていた事を
思い出す。冷静で、そして例えようもなく無機質な声。
これが自分の本性?
『そう、これが殺し合いなんだ』
あの後石毛は、死んだ。らしい。
心のどこかがぴりっと痛んだ。仕方ない。これはそういうゲームなんだ。
仕方ないんだ。そう、仕方ないけれど―――。
背中に手を遣るとぱりぱりした感触が掌を掠める。掌を赤茶けた粉となって
汚すのは吉野の血だ。彼を背負って逃げる間中じわじわと染み込んで、
萎えてしまいそうになる気持ちを幾度も奮い立たせてくれた彼の血だ。
あの時は泣きたくなるくらいにその感触は温かかったけれど、今は冷え切って
固まっている。―――不思議なものだ。体内を行き来している間はあんなにも
優しく力強い温もりを与えてくれるのに、流れ出してしまえば単なる刺激物に
変わってしまう。その色も、臭いも、味も、五感を攻撃するものでしかない。
265542(6/6):05/01/24 00:42:37 ID:BePJYO4t0
(ああ)
嘆じて頭上を仰ぐ。この悪夢が始まってから一体何度溜め息をついたのか、
数えるのも馬鹿馬鹿しくなっていた。見上げた先には一杯に広がった枝葉が
幾重にも重なりあい、蔓の絡みついた木々が窮屈そうに立ち並んでいる。
時折、風で揺れたそれが木漏れ日をこぼす以外は、柔らかな静謐さが
その場を満たしていた。
溜め息をつくと幸せが逃げる―――ウィリアムスの言だ。
『悲シイ顔、良クナイ』
春先くらいの事だ。浮かない顔をしている自分を捕まえて、ハンサムな顔に
笑みを乗せながら片言でそう言う彼。安藤が曖昧に笑って肩を竦めると
彼は英語で何かを続けたが、聞き取った中の細かいニュアンスが解らなくて、
通訳に訊ねるとこんな答えが帰ってきた。
『気持ちは解るけど、そんな顔でため息ばっかりついてると、やってくるはずの
 幸せも逃げちゃうよ?ですって』
そうかなあ、と笑うと、そうですよ、と通訳も笑った。それを見て、ウィリアムスも
ソウソウ、笑顔、イチバン!と言って安藤の肩を叩きながら、笑った。
笑うという動作はどのようなものだったのだろう?
笑う事の意味も、その感情も、そのやり方も、酷く遠いものになってしまった。
今、この同じ空の下で笑っている人々が世界中にいるはずなのに、笑い方を
忘れてしまった自分がいる。笑い方を忘れてしまった仲間がいる。
笑みの形に唇を吊り上げようとしても、顔の筋肉は硬直したままだった。

【残り38人】
266代打名無し@実況は実況板で:05/01/24 01:25:22 ID:zpNKRfn30
リレーキタ━━ヽ(゚∀゚)ノ━━!!!
>>260-265GJです。
吉野死ぬなー(TДT)イキロー
267代打名無し@実況は実況板で:05/01/24 01:45:38 ID:iTAtMoY30
おかえり、リレー
268代打名無し@実況は実況板で:05/01/24 12:48:23 ID:Zc8xSpv20
おお、待ちわびたリレーが復活してる!
542さん、乙です!
269代打名無し@実況は実況板で:05/01/24 17:32:43 ID:h/0RcGWI0
542さん,GJです!
そしておかえりなさい!!
270328 ◆U/eDuwct8o :05/01/24 18:34:41 ID:hNyz4GlW0

                      ,、_  __,....,_ _,...、
    ┌┐    ┌──┐       ,} {`i;:r,;'ニ (;;;;、` , r'            . ┌┐┌┐
┌─┘└─┐│┌┐│    .   {i'  i:.'ー<.・)}:ム ヾi,           .. ││││
└─┐┌─┘│└┘│┌──┐ ノ // -r /:::ミ ('ーヽ    ┌───┐││││
┌─┘└─┐│┌┐││    │   i゙ i:/ /二./ /',=、__ノi/   │      │││││
└─┐┌─┘└┘││└──┘  ヽ ヽ! {:::} //::::''´`'7!/     └───┘└┘└┘
    ││        ││          ヽ、__ヽ!l::i:::::ii;;;;;;;|,ノ          ┌┐┌┐
    └┘        └┘           `ヽ、`ー""ヽ           └┘└┘
                            `'ー-'''" 

271328 ◆U/eDuwct8o :05/01/24 18:35:42 ID:hNyz4GlW0
>>542氏GJ!!!
ああ、これからもバリバリお願いします!
272代打名無し@実況は実況板で:05/01/24 19:58:50 ID:Pw1+kMu+0
ジェフの言葉に泣きそうになった
273暫定板”管理”人:05/01/25 02:30:13 ID:vOPQHc1t0
話し合いの結果、投下から1ヵ月無反応であることから
>>104-107の36章は削除になりました
>>260-265を36章と数えて下さい

なお現在、作品ごとにスレを分けるかどうか話し合ってます
幅広く意見を伺いたいのでよろしければご参加を
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/20081/1104943812/
これまでのまとめはコチラ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/20081/1104943812/59
274代打名無し@実況は実況板で:05/01/25 03:29:24 ID:stzy/Mpc0
俺にできるのは落ちないように保守することだけ
275代打名無し@実況は実況板で:05/01/25 20:06:16 ID:jzrPM3t20
捕手します。
276代打名無し@実況は実況板で:05/01/26 00:39:52 ID:yQJKoRAE0
ほしゅ
277代打名無し@実況は実況板で:05/01/26 02:37:28 ID:rhSk4qSq0
270のAAはじめて見た。
278代打名無し@実況は実況板で:05/01/26 20:47:19 ID:7gcMK9SG0
捕手
279代打名無し@実況は実況板で:05/01/27 03:02:52 ID:sWWR6DAF0
保守
280代打名無し@実況は実況板で:05/01/27 17:23:17 ID:VsNboPf70
捕手
281(1/2) 49 ◆NRuBx8130A :05/01/27 20:00:14 ID:yZfF2Slw0
>236より

16.不可抗力小喜劇

秀太は慌ててベランダに飛び出した。何か聞こえたような気がしたのだ。悲鳴でも断末魔
の叫びでもなかったのは幸いなはずだが、笑い声がそれ以上の不気味さを持つ場合もある
と今しがた知った。
手摺りの落ちたベランダから身を乗り出して、彼は耳を澄ます――が、何も聞こえない。
空耳かなぁ?と全く必要性の無い独り言を言いながら、彼は部屋の中に引き返す。

少し傾いたちゃぶ台の上に、地図が広げられてある。真新しい用紙の上には、湾曲した鉛
筆の線が何本も走っていた。とりあえず人が来なそうなところへ、と複雑に絡み合うコン
クリート建造物の中に進んで足を踏み入れた秀太だったが、そこそこ落ち着けそうな一室
を発見したころにはすっかり自分の位置が分からなくなっていた。
現在地を目下算出中なのである。

「あ〜ぁ、何でこうなるかなぁ…」
大げさにため息を付き、秀太は再び鉛筆を手に取った。少し考えてから、『日給社宅』と
書かれたくし型の建物の上に丸をつける。たぶん17号棟にいるのだろう。しかし、似たよ
うな構造の棟がいくつも連結しているので怪しいものだ。上の方の階なら違うのだろうが、
彼がいる2階は日当たりが極端に悪く、太陽の方角さえ分からない。当時ここに住んでい
た人は日照権を主張しなかったものだろうか。洗濯物が乾きそうもないぞ。

いつのまにか要らぬ心配に興味が移ってしまったのに気付かぬまま、秀太はがらんとした
部屋をぐるりと見渡して唸った。何もかも朽ち、または錆びついていたが、台所には茶碗
と湯飲みがあり、玄関先には雪印の牛乳瓶があり、畳の上には扇風機が鎮座していた。生
活感溢れる廃墟というのも奇妙な味わいだ。
282(2/2) 49 ◆NRuBx8130A :05/01/27 20:00:43 ID:yZfF2Slw0
が、彼の奔放な思考は、突然沸き起こった騒音によって遮られた。すぐ近くだ。秀太はそ
れこそ腰を抜かさんばかりに驚いたのだったが、外見上は腰を浮かせてすぐに動き出せる
体勢になっている。このあたり、なかなかに強かな男である。

音は、モーターか何かの機械によるものに思われた。それもあまりエレガントな類のもの
ではない。秀太は廊下に出るかベランダに出るか、それともこのまま動かずに様子を見る
か迷った。迷っているうちに音が止む。
(あ、あれ?)
秀太は息を潜めて聴覚に意識を集中させたが、止んだものは止んだのだ。モーターであれ
ば誰かが支給された何かなのだとは思う。しかし、『誰か』に『何か』では気味が悪すぎ
る。おまけに相手はかなり近くにいそうだ。秀太はとても腰を下ろす気にならず、立ち上
がって一瞬逡巡したのちベランダの方へと足を向けた。

秀太がベランダから身を乗り出した途端、あの騒音が復活した。それも足下からである。
彼は悲鳴とともに飛び上がり、そして不覚にも――足を滑らせてしまった。慌ててコンク
リートの縁に手を掛ける。
「えっ!?」
驚きの声とともに騒音が止む。目の前に見慣れた顔があり、盛んに瞬きを繰り返している。

2階から片手でぶら下がる秀太の斜め下で、背番号5、沖原佳典が、手にしたチェーンソー
の歯を木製の手摺りに食い込ませたまま、頭上からの訪問者に呆然としていた。
「オ、オキさん――は何してるんですか?」
「え?いや、本物かなぁと思って。で、お前は何でいきなり降ってきたん?」
二人はしばし無言で見つめ合った。

[沖原佳典:チェーンソー(マキタ エンジンチェーンソー MDE400)]

【残り44人】
283代打名無し@実況は実況板で:05/01/27 22:31:47 ID:KV2ygR2X0
49氏,GJ!です。
オキさんと秀太てなんかほのぼのするな〜。
284代打名無し@実況は実況板で:05/01/28 17:56:32 ID:PWYEefY60
捕手
285代打名無し@実況は実況板で:05/01/29 11:15:58 ID:5WqMbbjI0
保守
286(1/8) 328 ◆U/eDuwct8o :05/01/29 21:54:02 ID:bQbNJYW40
「藪、矢野の両名が死亡…ですか」
「そうみたいやな」
藤川と岡田監督は、バックスクリーンに大きく記された文字を見て、少々驚いた様子を見せていた。
「意外と言えば意外ですね」
「そうやな。カツノリも案外使い道があったわな」
「意外といえば、野口は生き延びたようですよ。赤星の助けが入るのが見えました」
「ははぁ…藪と矢野が死に、野口が生き延びたワケか」
「ええ。にわかには信じられませんが」
「そういうイレギュラーがあるからええんよ。こういう大会は。数字だけで判断するなら小学生でもできるやろ」
「…それもそうですね」

――岡田と藤川は、完全に二人が死亡したものと思い込んでいた。
  どうやら高山の思い通りに事が進みそうだ――


「…滅したか」
二人の死を知ったウィリアムスは、ぽつりと一言だけ声を発した。
降りしきる雨の中、大きな石に腰掛けたまま動かないウィリアムスは、ふと先日のことを思い出した。

この大会で唯一自分を制した、矢野輝弘という人間のことを。
自分を制してなお、彼は自分を殺そうとはしなかった。
彼は生きてその頭を冷やせと、そう言った。

戦に負けた人間が生き長らえても、恥を晒すだけ。
…それでもオレはまだ生きてここに居る。
(出来れば、この手で殺したかった…)
この劣等感を打ち消すためにも、彼の背中を超えたかった。

「南無…」
――ウィリアムスは、両手を合わせて瞳を閉じ、すこし頭を下げた。
287(2/8)328 ◆U/eDuwct8o :05/01/29 21:55:53 ID:bQbNJYW40
「これはきっと、嘘の情報。ふたりはここを出て行くそうだよ」
「ニャァ〜〜」
桧山とカケフは、金本のもとへ向かって走っていた。その手には、特製の炸裂弾を握っていた。
「藪さん、矢野さん…後の事は僕たちに任せ、存分に頑張ってください。ともに闘うことは出来ませんが、応援してますよ…」
――おそらく別れには間に合わないだろう桧山は、きっと届くだろう別れの言葉を送った。


「フッ…愚かな人間がまた新たに死にましたか。だが、それを誇りに思いなさい。死を体感出来たことを。
 これで、貴方たちは僕と同種の高貴な存在となりました」
――鳥谷は相変わらず哄笑を続けている。笑いすぎたその頬は既に引きつり、痙攣を起こしてもなお笑うことをやめない。
  もう二度と、引きつった頬が元に戻ることはないだろう。


「敵が…敵がどんどん滅んでいくよ」
「嬉しいな。きっと、もうすぐだよ…」
「もうすぐ、僕の右腕が返ってくるはずだよ」
「うん。もっともっと、敵を滅ぼそうね…」
少し痩せ、憂いを帯びた狩野は己の中に居るもう一人の自分に語りかけた。
何度も、何度も…。
自分の生きる目的を見失わぬよう、何度も、何度も。


皆がバックスクリーンを見上げていた。誰もが、二人の死を想っていた。
それでも…それでもなお、戦いは終わらない。

ウィリアムスは少し祈り、再び瞳を開いたときには既にその表情は消えていた。
桧山は、再会のためにただ走り続けていた。
鳥谷は嗤う。
狩野は哭く。
そして今岡は、大きな力へ対抗するべく、ただひっそりとその身を潜めていた。

やがて一時間が過ぎ、南36ゲートに六人の男が集結する。
288(3/8)328 ◆U/eDuwct8o :05/01/29 21:56:38 ID:bQbNJYW40
「揃いましたね」
その場にいる面々を見渡してから、高山は口を開いた。

現在、午前五時五十七分
三分後にこのゲートが開くことになっている。
ただし、わずか十分間だけ。

「結局、行くことにしたんか」
「そりゃあな。俺はプロ野球選手や。野球をせんで他に何すんねん」
「なんだそれ、皮肉か?」
悪戯っぽく笑う野口に、矢野は慌てて否定した。
「ちゃうわ、別に。とにかく自分の人生なんや。自分の好きなようにやったらええ」
「それもそうだな」
その場にいる全員が、静かな笑みを浮かべて微笑んだ。

「そやけど、ほんまにええんか。一緒に行かんで」
「何度も言わせるな。オレはまだやり残していることがあるんだよ」
「そっか…」
残念そうに頭をかき、矢野はそれ以上何も言うことはなかった。


「…時間です」
懐中時計が午前五時の合図を告げる。
無機質な鉄の扉が、ゆっくりと開いていく。
そこにいる皆が、深い感慨をもって開いていく扉を見つめていた。
289(4/8)328 ◆U/eDuwct8o :05/01/29 21:57:02 ID:bQbNJYW40
「野口選手。ここへ残るというのなら…あの二人には気をつけることです」
開ききった扉から視線をずらさないまま、高山は野口に語りかけた。
「あの二人?」
「はい。我がビックボス、野村が創り上げたサイボーグの二人です」
「ランディ・バースのことか…?」
「ええ、一人は言わずと知れたランディ・バース。こう言うと語弊がありそうですが、まさしく彼は“最強”ですね」
「ああ、それは身をもって知った。だが、全く対抗する術がないワケじゃない」
「…そして、もう一人……」
「………」
「彼に関しては、特に言うことはありません。ただ、鉄壁の肉体を持つバースを防御の鉄人とするのならば、最強の暗殺術を持つ彼は、攻撃の鬼と呼ぶに相応しいでしょう」
「名は何と言う?」
「…本人に直接お聞きくださいませ。いずれ会うでしょうから」
「そうか…」

「では、私は外で待っています。別れが済んだら来てください。無論、心変わりしたのならば来る必要はありませんよ」
そう言い残して、高山は通路の向こうへと消えた。

「…心変わり?」
「アホ。するわけないやろ」
「…野口、金本、赤星。…世話になったな」
「ええてええて。気にせんで」
「頑張れよ、矢野・藪。精一杯やってこい!」
「ああ…まかせろ」
「また野球、出来るんやな…楽しみや」
「………」
「……野球、か」
「……………」
感慨の深い別れを目前にし、皆はしばし押し黙った。
290(5/8)328 ◆U/eDuwct8o :05/01/29 21:57:38 ID:bQbNJYW40

――野球はな、無限なんや――

しばらくの沈黙を破って、矢野は口を開いた。
「え?」


「野球の楽しさは、無限に拡がるものなんや。
 そやけど、何も変わらんのやったら、そらただの燃えないゴミやろ?
 少しずつ悪いとこを改善して、改善を繰り返して…そやけど、変わらない面白さっちゅーのはあって…
  ――それが、“野球”や」

「………」

「結局のところ、俺は野球が大好きなんや。…それに尽きるわな」
「そうか」
「ああ。みんなで掴み取れへんかった夢、ちょっと見てくるわ」

「夢…か」
金本はぽつりと呟いた。
「え? 何ですか、金本さん」
「確かに野球はオレの夢であり、人生そのものやったわ」
291(6/8)328 ◆U/eDuwct8o :05/01/29 21:58:03 ID:bQbNJYW40
「野球をはじめたのは小学校の頃だった…」
瞳を閉じ腕を組んで、金本はゆっくりと記憶を辿った。

「いっぱい頑張った…

    試合で一本ヒットを打てた…

 だからまた頑張った…

    気づいたら、プロで野球が出来るようになっていた…

 そしてもっと頑張った…」


「――いい人生だったよ…」
その瞼に、わずかな涙をにじませながら金本は語った。
「金本…」
「金本さん…」
「……………」
「だけど、まだ終わりじゃないですよ」
「わかってる…。藪、矢野。オレたちで掴み取れんかった日本一の夢、オマエらに託すわ!」
「ああ!!」
「ここらで終いや。オレはもう行く。オマエらも早よ行け」
「あ、待ってください。金本さん!」
赤星は二人に別れを告げると、去り行く金本の背中を追った。
292(7/8)328 ◆U/eDuwct8o :05/01/29 21:58:38 ID:bQbNJYW40
その場に残ったのは、藪・矢野と野口だけとなった。
「こうして目の前まで迫ってくると、案外名残惜しいもんだな…」
「ナニ言っとんねん。今生の別れやあるまいし」
「はは、それもそうか」
「野口よ」
「なんだ、藪?」
「お前は、ここに残って何をする?」
「何って…オレは…」
一瞬、野口は言葉を濁した。
すこしの間だけ思案する。
そして、一度頷いてから拳を握って野口は言った。

「オレは狩野を救いたい!」
「そうか。…お前なら、きっと出来るはずだ」
「ありがとう、藪」
「だがひとつだけ、言っておく」
「?」

「お前は無闇に優しい奴だ。だが、他人に優しすぎることに対して、お前は自分自身への配慮が足りなすぎる」
「…どういうことだ?」
「お前はこの大会という、理不尽な死を阻止するといって無鉄砲になっていたかも知れないが、ちゃんと自分の体は守ってやることだ」
野口はあちこちに生傷をこさえた自分の身体を見てから、確かな意志と共に言った。
「だが、何かを成すには犠牲はつき物だ。今回はそれがオレの体だっただけだ」
「…よく聞けよ野口、生きる心なくして生かす心があると思うな。無茶をするなとは言わんが、命だけは大事にしろよ」
「…………」
「………」
「…ああ。わかったよ、藪」
僅かな間の後、野口は一度だけ首を縦に振った。
293(8/8)328 ◆U/eDuwct8o :05/01/29 21:59:08 ID:bQbNJYW40
「だが、もしオレが死んだら…」
「?」
「いずれ冥土での野球談義、楽しみにしているぞ」
「…ふふ、そうか。わかった」

午前五時九分。
もうじき扉が閉まる。
三人は円を描くような位置で互いの顔を見、その拳を前に突き出した。
「矢野輝弘」
「藪恵壹」
「野口寿浩」
「「「いずれまた遇おう」」」
円の中心で、一度だけ三人は拳を交わした。



この拳に、誓って――!


午前五時十分。
藪と矢野は、並んでゲートを通る。
直後、その鉄の扉は音を立てて、ゆっくりと閉じた。

――開始から39時間52分 藪恵壹・矢野輝弘、戦闘を離脱―― 
294328 ◆U/eDuwct8o :05/01/29 22:04:34 ID:bQbNJYW40
どもー。

今回は>>249からの続きです。
また長くなっちゃってすんません。
なんか今回で、大きなヤマを越えた気がします。

ドキドキ
295代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:00 ID:nK2C05290
       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)<  お前ら逝ってよし!!!
 UU ̄ ̄ U U  \_____________

296代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:06 ID:V7nWYzLx0
       以上、ラウンジの馬鹿どもの仕業でした


    m n _∩                   ∩_ n m
  ⊂二⌒ __)    /\___/ヽ       ( _⌒二⊃
     \ \   /''''''   '''''':::::::\     / /
       \ \  |(●),   、(●)、.:|  / /
        \ \|   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|/  /
          \ .|   ´トェェェイ` .:::::::|  /    それが、ラウンジ精神
           \\  |,r-r-| .::::://     http://etc3.2ch.net/entrance/
             \`ー`ニニ´‐―´/
             / ・    ・ /
297代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:08 ID:nVk0oZbU0
       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)<  お前ら逝ってよし!!!
 UU ̄ ̄ U U  \_____________
298代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:09 ID:1aPCnh/f0
       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)<  お前ら逝ってよし!!!
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299代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:10 ID:pS1jopne0
       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)<  お前ら逝ってよし!!!
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300代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:13 ID:3sh67NiE0
       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄ *・ 。.・)<  お前ら逝ってよし!!!
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301代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:15 ID:KLfOowjm0
       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)<  お前ら逝ってよし!!!
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302ラウンジ遊撃隊 ◆LOUNGENuqc :05/01/30 00:18:16 ID:pdbCpA4F0
       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)<  お前ら逝ってよし!!!
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303代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:17 ID:rGWFhQkO0
       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)<  お前ら逝ってよし!!!
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304代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:17 ID:2Ftk2lYp0
       以上、ラウンジの馬鹿どもの仕業でした


    m n _∩                   ∩_ n m
  ⊂二⌒ __)    /\___/ヽ       ( _⌒二⊃
     \ \   /''''''   '''''':::::::\     / /
       \ \  |(●),   、(●)、.:|  / /
        \ \|   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|/  /
          \ .|   ´トェェェイ` .:::::::|  /    それが、ラウンジ精神
           \\  |,r-r-| .::::://     http://etc3.2ch.net/entrance/
             \`ー`ニニ´‐―´/
             / ・    ・ /
305代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:18 ID:vPJK7h6f0
       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)<  お前ら逝ってよし!!!
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306ラウンジ遊撃隊 ◆LOUNGENuqc :05/01/30 00:18:19 ID:qehD2pIM0
       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)<  お前ら逝ってよし!!!
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307代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:16 ID:5z7kEHAf0
       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)<  お前ら逝ってよし!!!
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308代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:23 ID:nKtUrjFC0
名無し募集中。。。
309代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:23 ID:h7u3+jvf0
       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)<  お前ら逝ってよし!!!
 UU ̄ ̄ U U  \_____________
310代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:25 ID:PMtB/sJq0
       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)<  お前ら逝ってよし!!!
 UU ̄ ̄ U U  \_____________
311ラウンジ遊撃隊 ◆LOUNGENuqc :05/01/30 00:18:28 ID:xF/GU0wx0

       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)<  お前ら逝ってよし!!!
 UU ̄ ̄ U U  \_____________
312ラウンジ遊撃隊 ◆LOUNGENuqc :05/01/30 00:18:32 ID:VSi3T6NY0
       以上、ラウンジの馬鹿どもの仕業でした


    m n _∩                   ∩_ n m
  ⊂二⌒ __)    /\___/ヽ       ( _⌒二⊃
     \ \   /''''''   '''''':::::::\     / /
       \ \  |(●),   、(●)、.:|  / /
        \ \|   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|/  /
          \ .|   ´トェェェイ` .:::::::|  /    それが、ラウンジ精神
           \\  |,r-r-| .::::://     http://etc3.2ch.net/entrance/
             \`ー`ニニ´‐―´/
             / ・    ・ /
313代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:35 ID:WmGiz0Um0
ラウンコうぜーよ、帰れ
314ラウンジ遊撃隊 ◆LOUNGENuqc :05/01/30 00:18:39 ID:RppHPEgn0
       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)<  お前ら逝ってよし!!!
 UU ̄ ̄ U U  \_____________



315代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:48 ID:IjOuXx4l0
316代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:57 ID:KLfOowjm0
       ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜′ ̄ ̄( ゚Д゚)<  打ってよし、走ってよし!!!
 UU ̄ ̄ U U  \_____________
317代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 00:18:57 ID:80wVBsPG0
もう一回流行らそうぜ
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1107000554/

VIPからきました
318ラウンジ遊撃隊 ◆LOUNGENuqc :05/01/30 00:19:00 ID:7eXlNe6V0
ラウンコ氏ねよ
319ユダ@ラウンジ ◆IamVIPkUYU :05/01/30 00:19:09 ID:oM2/lqGvO
すみませんラウンジの馬鹿どもを回収に来ました
320代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 01:04:21 ID:/w/NQZ7S0
保守と思えば腹も立たない
321代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 01:06:37 ID:zQ0QzlYY0
あと一週間ほどで60日規定にひっかかるんだっけ。
322代打名無し@実況は実況板で:05/01/30 16:49:49 ID:kQ8NbYdr0
>>◆U/eDuwct8o氏
GJです!

個人的には鳥谷がどうなるか・・・(((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
323代打名無し@実況は実況板で:05/01/31 01:01:39 ID:jGSzfGyA0
一応保守しとくぞゴルァ

職人様、乙でございます。
どのBRも毎度おいしくいただいております。
324代打名無し@実況は実況板で:05/01/31 11:39:05 ID:RYYUk/xrO
保守
325代打名無し@実況は実況板で:05/01/31 23:14:20 ID:0usaTmFP0
ゴレンジャーの一員になってるのかもしれないけど
リレーで出てきていないメンバーが気になるなあ
特に久保田とウィル
326代打名無し@実況は実況板で:05/02/01 05:36:29 ID:TlLSsy8n0
話が進んでる。わくわくっ
327代打名無し@実況は実況板で:05/02/01 14:21:40 ID:EWcvdCG10
ほしゅ
328代打名無し@実況は実況板で:05/02/01 22:44:30 ID:6bHbmN6J0
ほしゅ
329代打名無し@実況は実況板で:05/02/03 01:26:54 ID:TH+TGhbs0
24時間以上書き込みがないと不安保守。

( ‘ 〜‘)人(’ん ’)
330代打名無し@実況は実況板で:05/02/03 08:24:05 ID:oXLpA8Ke0
「タイガースの御大」はこのスレにしかいないんだ・・・
ちょっぴりさみしいな。
331代打名無し@実況は実況板で:05/02/03 18:07:40 ID:kXQ5kkRq0
うおぉ久保田・・・!



保守
332(1/2) 49 ◆NRuBx8130A :05/02/03 19:29:42 ID:WJH6pShG0
>282より

17.ニュース速報

言い争いは次第に声量を高めながら続いていた。
「三東さん、止めてください!ホント、マジでヤバいですって!」
「弾倉は空なんだろう?放っておいたら浅井みたいな犠牲者が増えるんだぞ!」
「それだってちょっと前の情報ですって!危ないですよ!」
杉山は三東の前で止まれのジェスチャーを繰り返した。腰が引けている。
「藤本さん、錯乱してるんですよ!話して分かるかも怪しいですって!」
「話ができなかったら、縛っておけばいいだろ!――藤本さんには悪いけど」
杉山を押しのけて行こうとする三東の腕に、彼は慌ててしがみ付いた。はずみで耳に掛け
ていたイヤホンが落ち、杉山はこれも慌てて掛けなおす。

  <――手は、日給社宅18号棟での合流となりました。
   続いて藤本選手です。現在、25号棟の北側から30号棟へ移動――>

聞こえる放送はラジオのような粗い音質だ。場所によってはザーザーと雑音が混じる中、
若い女性の声が状況を逐次報告している。
内容は杉山に語りかけるものではない。淡々とした状況説明は報道番組を思わせた。
杉山は支給品であったこのラジオから、これまでに起きた全ての事象を把握していると言
っても良かった。誰がどこに移動したという情報ならばよし、しかし早々に犠牲者の発生
が告げられ、できることなら耳を塞ぎたい内容ではある。
だがこれは支給品としてはかなり有用な部類だろう。彼はこの情報をもとに、近くに隠れ
ていた三東と合流することに成功した。同期の入団ながら年上の彼ならば、当面の行動方
針さえ思いつかなかった自分を導いてくれそうな気がしたのである。
333(2/2) 49 ◆NRuBx8130A :05/02/03 19:30:03 ID:WJH6pShG0

三東は確かに頼れた。浅井の死を知って頭が真っ白になった自分を、まだ誰も進入してい
ないこの建物まで連れて来てくれた。こんな狂った試みはきっと失敗するだろうと励まし
てもくれた。だが、少々熱血漢に過ぎた。
「ホントに、やめてくださいよ!」
どうにも泣きそうな声になっているのが情けないが、なりふり構っていられない。杉山は
三東を引き止める腕にさらに力を込め、目でも必死で訴えた。
藤本がこちらへ向かっているのだ。浅井を銃殺した男が。
今期、一軍に帯同するよりも鳴尾浜で自分たちの球を受けていることの方が多かった浅井
の姿を、杉山は思い浮かべた。死んだ、とラジオ放送は告げたが、記憶の中でキャッチャー
マスクを引き上げ、いいストレートが来てるぞ、と声を掛けてくる浅井の姿を、どうやっ
て死人のそれにしたらいいのだろう。
助けてくださいよ、と杉山は記憶の中の浅井に訴えた。

[杉山直久:携帯ラジオ]

【残り44人】
334代打名無し@実況は実況板で:05/02/03 22:20:32 ID:HGXp12k9O
新作投下乙(´д`)ハァハァ
335328 ◆U/eDuwct8o :05/02/03 22:24:56 ID:9MnE2B/B0
わずか10分の間で、南36ゲートは再びその鉄の扉を堅く閉ざした。
藪はたたじっと、その鉄の扉を眺めながら立ち尽くしていた。
「どうしました、藪選手」
「いや…なんでもない」
「感傷に浸ってましたか。仲間が恋しいですか?」
「…さぁ、どうかな」
藪はゆっくりと振り返り、壬午園球場に背を向けて歩き出した。

「雨が強いな。それに風も出てきよったで」
「ええ。台風が来ているそうです」
「ああ、どうりで…」
「さて、風が止む前に行きましょう。通信が絶たれているいまが好機です」
「それにしても…出てくのはええねんけど、どうやって出てくんや? っていうか、ここ何処やねん」
「具体的な場所は言えませんが、とある孤島に私達はいます。空港はありませんので、当然船で甲子園へ向かいます」
「船…て、大丈夫なんかい?」
“台風と船”という露骨に不穏な組み合わせに、矢野は思わず顔をしかめる。
「心配御無用。映画じゃないんですから、そうそう沈没なんて致しませんよ」
「まぁ、ええけどな。それしか方法がないんやったらしゃあないやろ」
「それに矢野…こう考えるといい」
「ん、何や藪。いい案でもあるんか?」
「ああ。…映画じゃなかったら沈没しないなら、逆に沈没したら俺たちは映画に出れるということだ。どうだ?」
真顔の藪は、惜しみもせずにその大発見を矢野に教えた。
「「どうだ」て藪…笑えへんてソレ。洒落んなっとらんがな」
「そうか…?」
イマイチ乗りの悪い矢野に、藪は少々がっかりした様子を見せた。
「はは…とにかく、これから乗るのは豪華客船じゃないんですから、間違っても沈没なんてしませんよ。さぁ、浜で仲間が待っています。先を急ぎましょう」
336328 ◆U/eDuwct8o :05/02/03 22:27:54 ID:9MnE2B/B0
同時刻、南36ゲートの反対側では、野口が一人立ち尽くしていた。
「行ったか…とうとう」
ぽつりと呟いても、誰からも返事は来ない。
そう、藪や矢野はもういないのだ。
とはいえ、独りになったことへの焦燥は微塵もなかった。
むしろ満たされているとさえ言える。
こうして瞳を閉じるまでもなく、藪の声が、矢野の声が頭の中で響き続けている。

そうだ。
まずは狩野を探そう。
死んでしまった三東たちや、どこかで置いてきてしまった鳥谷に代わって、オレが狩野を救おう。
そして、理不尽な死が蔓延するこの大会を叩き潰す。
いつかあの約束を果たすその日まで――

そして、これといった当てもないまま踵を返した野口は…
「――!!?」
…次の瞬間、尻餅をついた。
物凄い殺気を目の当たりにしたからだ。
「な……」
男が立っていた。
野口はこの瞬間に至るまで、こんなすぐ近くに別の人間がいたなどとは、夢にも思わなかった。
それはその男が、人としての気配がまったくなかったからに違いないだろう。
『グフフフフ…』

男は笑った。
思わず身体中に鳥肌が走るほどに、気色の悪い笑みだった。
人間の生み出せる代物ではない。
野口は悟った。
自分が、とんでもない化け物と直面してしまった事実を。


  野口の挫折が、はじまる。
337328 ◆U/eDuwct8o :05/02/03 22:33:44 ID:9MnE2B/B0
ども。

今回は>>286-293からの続きです。


実は進級がぴんちだったりするので学年末は多忙で、たまにしか投下出来ないかもしれないっす。
留年しない程度にギリギリまで頑張ります(w
338代打名無し@実況は実況板で:05/02/03 22:53:07 ID:PaXcrNu40
職人さんたち乙!
328氏、あんまむ無理すんなよー。
339代打名無し@実況は実況板で:05/02/04 02:28:44 ID:Y2Qw2ytP0
いつも職人の方々乙!
>>337
328氏、作品いつも楽しみにしてます
無理しすぎないでがんばってください!
340514(1/3):05/02/04 15:50:56 ID:WPdwJY/I0
>>265より
38.
−−いっそ自分も後を追おうか
海岸を歩きながら揺れる波を見て、ふと考えたが死の直前の福原の笑みと遺言が
、関本をまだこの世界に留まらせていた。福原が崖の向こう側に消えてから太陽
が真上にくるまで―昼の放送があるまで関本はずっと崖に座ったままだった。風
が容赦なく吹き付けるため、関本の体は随分と冷え切っていたが、関本はそこか
ら動こうとはしなかった。否、動けなかった。
福原が飛び降りるのを目の当たりにしても、関本には福原の死を受け入れられな
かった。飛び降りておいて、実はそんな断崖じゃなくて浅い岩場あたりに立って
、迂回して自分の後ろから現れるんじゃないか?『アホ、騙されんなよ』とか言
って、いつも通り笑って−−
そんな訳はない。福原は死んでしまった。そして自分は止められなかった。あの
時銃を突き付けられていても、来るなと言われても、自分は止めるべきではなか
ったのか。だって、福原の銃―グロック17には弾が入っていなかったのだから。
福原が飛び降りた後、関本は泣きながら福原の荷物を集めた。その時に、グロッ
ク17も手元に引き寄せた。そこまではなんでもなかった。だが、カバンを開けた
時、関本は打ちのめされた。慌てて、グロック17を手に取って確認する。そう、
マガジンは全てカバンの中にあったのだ。
福原はどうあっても死ぬ気だった。きっと自分が止めても彼は死を選んだだろう
。それならばあの時自分が福原の最期を見届けた事は、福原にとってある意味幸
せな―少なくとも彼にとっては心残りのない事だったんだろうか。だが、関本が
いくら自問自答しても答えを与えてくれる福原はいない。せめて自
分に出来るのは福原が安らかに逝くように願う事と約束を守る事くらいしかない。
どうしようもない虚しさを引きずりながら。
「福原さん、二岡さんに伝えるから。」
もう何度振り返ったか分からないが、関本はゆっくりと福原が飛び降りた崖を振り
返る。関本は、福原が飛んだ崖の下を見てはいない。見たいとも思わなかった。

341514(2/3):05/02/04 15:54:57 ID:WPdwJY/I0
地図を片手に海岸沿いに、木々や岩に身を隠しながら歩いていく。当面の目標は誰
か人に会うことだ。まともな(このまともな、という言葉が引っ掛かる)人に出会え
れば越した事はない。
周りを見渡せば、穏やかな海が広がっている。きっと夏になれば地元民が泳ぎにく
る憩いの海だろう。だがそんな白い砂浜に、違和感のある影が見えた。
「?」
周りに人の気配がない事を確認して、影に近寄る。だがあと数歩の所で止まった。
砂に液体が広がり奇妙な模様を作っている。それが白と赤だから余計生々しく、
非現実感すらあったが,肺に絡みつくような濃厚な血の匂いがそれを幻だと教えて
くれない。俯せになったその背中から足にかけて無数の穴が開いて、背番号も名前も
判別しづらい。だが、顔で誰なのかはすぐ分かった。
「筒井……。」
血は乾ききっていない。まだ死んでそんなに時間は経ってないのだろう。屈んで
、顔を覗き込んだ。半開きの唇からは血が流れ砂が貼り付き、閉じられた瞼から
は涙の筋が残っていた。無念の涙だろうか。それとも自分を殺した人間への恨み
の涙だろうか。
震える手で筒井に触れる。手のひらやユニフォームが赤く汚れていくが関本は構
わなかった。うつ伏せの身体を持ち上げ抱えると、海の家の残骸のような建物に
運び込んだ。何でもいいから何かしてやりたかったのだ。自己満足だと言われても、
見過ごすことが出来なかった。
筒井の身体を仰向けに寝かせる。胸の前で手を組ませようと思ったが、固く握られ
た拳は死後硬直が始まっているのか開かせる事ができず、諦めた。
342514(3/3):05/02/04 16:07:17 ID:WPdwJY/I0

「ごめんな。」
何に謝ったのか、関本自身にもわからない。それでも口をついて出た言葉は関本の
正直な気持ちだ。
何か言葉を発する度に、心が重くなる。それは自分が背負わなければいけない痛み
であり、使命感のようなものに近かった。涙を流しても減ることはない。決して
降ろすことはできない、重く冷たい虚しさ。
「もう誰かが死んでるのを見るのは嫌や…。」
天を仰ぎ、関本は、無性に誰かに会いたくなった。自分と同じように、消せない
虚しさやどうしようもない悲しみや――怒りを持つ、生きている人に。


ゲーム開始からもうすぐ20時間が経過しようとしている。だが関本は、まだ生きた
仲間に出会えていない。

【残り38人】


343514:05/02/04 16:11:47 ID:WPdwJY/I0
すいません、タイトル抜けてました。正しくは「38.孤独と空虚」です。
久々の投下は緊張しますね…
344代打名無し@実況は実況板で:05/02/04 23:12:47 ID:Iu7TbzD+0
セキ・・・
345代打名無し@実況は実況板で:05/02/05 09:35:52 ID:M7/3mqh3O
久しぶりに来たらリレーが動いてた。
これからも期待。
346代打名無し@実況は実況板で:05/02/05 19:29:56 ID:noeHf6D0O
捕手
347代打名無し@実況は実況板で
保管庫さん、随分長い間更新がないッスね