【とらドラ!】大河×竜児【ハフハフ妄想】Vol16
1 :
名無しさん@お腹いっぱい。:
ここは とらドラ! の主人公、逢坂大河と高須竜児のカップリングについて様々な妄想をするスレです。
どんなネタでも構いません。大河と竜児の二人のラブラブっぷりを勝手に想像して勝手に語って下さい。
自作のオリジナルストーリーを語るもよし、妄想シチュエーションで悶えるもよし、何でもOKです。
次スレは
>>970が立ててください。 もしくは容量が480KBに近づいたら。
/ _ ヽ、
/二 - ニ=- ヽ`
′ 、 ',
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∧ 〈 ∨ ∨ ヽ冫l∨
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/ ==',∧  ̄ ∧ 、\〉∨| /.: : :′. : : : : : : : . 「∨ / / ヘ
',∧ | > /│ /: :∧! : : : :∧ : : : : | ヽ ' ∠
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/ / | └<//////> 、 八!`´、'_,、 `´イ. :|////7: !
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,' | /. : : : :|:///∧ : ∨///: : : : : : : : : . \
まとめサイト
ttp://tigerxdragon.web.fc2.com/ 前スレ
【とらドラ!】大河×竜児【モグモグ妄想】Vol15
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1251296860/
2 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/15(火) 16:59:15 ID:ucBfJR9z
3 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/15(火) 17:05:10 ID:ucBfJR9z
4 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/15(火) 17:06:24 ID:ucBfJR9z
5 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/15(火) 17:07:10 ID:ucBfJR9z
この板の設定
1レスあたり最大4096バイトで改行は60行まで可能
半角で4096文字・全角で2048文字です
Samba24規制は40秒です
一度書き込んだら40秒は書き込めません
バイバイさるさん規制は40秒以上開けて投稿しても
スレッドに同時に書き込む人数が少ないと発動します
ROMってる人は割り込みを遠慮せずむしろ支援する方向で
●を持っていると上記の規制は無効化されます
ただし調子に乗ってSamba24規制無視して連投しているとバーボンハウスに飛ばされます
たっぷり二時間は2ちゃんねる自体にアクセス出来なくなるので注意
(^ω^)乙 これは乙じゃなくてなんたらかんたらお
7 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/16(水) 00:05:14 ID:B5fUXqui
「新スレだね、竜児」
「ああ、新スレだな大河」
「じゃあさっそくいたしましょうか」
「おい、何をだ」
「決まってるじゃない。もちろん…」
ギシギシアンアン
キモ過ぎワロス
竜児「あれ…?」
大河「どうしたのよ、竜児」
竜児「この子、迷子かな?」
大河「あらら、お母さんいないわよね?」
竜児「そうだな……どうする?」
大河「迷子センターなんて無いし、レジのお姉さんにお願いしよっか」
竜児「よーし、お兄ちゃんと一緒に行こうなぁ」
大河「ぷぷ、お兄ちゃんだって」
竜児「いいだろ別に」
〜 〜 〜
大河「はい……はい……それじゃ、後はお願いします」
竜児「もう大丈夫だからな、早いところお母さんと一緒に家に帰れるといいな」
大河「すぐ見付かるから元気出しなさいよね、それじゃね〜」
〜 〜 〜
大河「まったく……こんなところに来るなんて10年早いのよ」
竜児「そう言うなよな、大河。迷い込んで来ちゃったんだからしょうがねえだろ?」
大河「だからってねぇ……マセガキだわね」
竜児「ははは。それはそうかもな。それじゃ、どれにするんだ?」
大河「んーっとねぇ、これかなぁ?」
竜児「原色系か……最近、その、あれだ、大胆じゃねえか?」
大河「あらそう?」
竜児「嫌いじゃないがな」
大河「あんた……こんなところでそんな顔で笑わないでよ」
竜児「おう?やばいか?」
大河「うんうん。もうどこから見ても変質者」
竜児「ひっでえな……」
大河「よし、それじゃ竜児も燃えるって言うし、これにしよーっと!」
竜児「ちょ……そんなでけぇ声で言うなって……恥ずかしいだろ」
大河「いまさらすぎんのよ、あんたは」
竜児「おう、それってカップのサイズ合ってんのか?」
大河「何年このサイズに付き合ってきたか……どうせ竜児には分からないでしょうよ」
竜児「は、ははは……よし、それじゃ行こう、とっとと買ってここから出よう」
〜 〜 〜
レジ「3/4カップブラ、お買い上げありがとうございまーす」
竜児「な、なぁ……大河?」
大河「何よ?」
竜児「3/4カップって……何だ?」
大河「………………AAAカップのことよ」
竜児「おおう!? なんという優しさ表現なんだ、素晴らしいな。俺は感動したぞ!」
大河「あんた……ちょっとは黙りなさいっての!」
竜児「ん、待てよ?AAAってことはAの1/3だから……違うじゃねえか!」
大河「うるさいって言ってんのよおおおぉ!」
竜児「いってえええええぇ!?」
おしまい
――大事にしようインスピレーション
10 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/16(水) 01:35:54 ID:B5fUXqui
思わず涙がホロリとする展開だ
───/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄くヾ
────/ /
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────/ ../
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ミ
,--∧-、 ミ
〔 〔v━ 〕つ
/ つ 丿 涙はこれで拭いとけ!!
/ /) )
(__) (_)
やべえ落ちるかも
大河「ちょっと竜児!最近書き込み少なくてスレ落ちるかもらしいわよ!」
竜児「マジか!?それはなんて言うか…結構一大事じゃないか!」
大河「そうよ!だからね。私考えたの」
竜児「おぉ!なんだ大河?言ってみろ」
大河「うん。あのね。書き手様達が現れるまで今まで読み手だった奴らで頑張って盛り上げてみせるのよ」
竜児「そりゃいいな!ん?でも待てよ。読み手の奴らは自分で書けないから読み手なんじゃないのか?」
大河「そうね。でもそんな奴らでも書ける内容くらいあるでしょ?」
竜児「……それは…まさか」
大河「そのまさか!」
竜児「大河!!ちょっ!待t」
大河「問答無用!!」
竜児「あぁぁ〜…」
ギシギシアンアン
13 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/16(水) 17:52:37 ID:5Z3L/btH
恋人同士のすれ違い防止に────ギシギシアンアン
>>1乙!
頑張ってなんか書こう、うん
「ねぇ。竜児。このスレの私達ちょっと頑張りすぎじゃない?」
「そうだな。なんか毎日やってるし…何というか少し羨ま…(ry」
「(ガシッ)う、う、羨ましいって言うの?呆れたエロ犬だこと!
でもそうよね。実際の私達はこんなにするチャンスないもの。」
「そうだな。泰子が昼に働くようになってから、夜は帰って来るし、
お前だって、弟の面倒とかあるしな。」
「そうそう。原作に準拠するなら、私達が夜会うのって大変なことなのよ。
それを、このスレの作者ときたら毎日毎日やってます風に書いてるんだもの。
そんなにチャンスないのに…。しかも、まるで私が飢えてるみたいじゃない?」
「まあ、そこは当たらずとも遠からず…なんだが。」
「ちょっと、なんか言ったかしら?私は、エロ犬の竜児が、ばかちーとか、エロホクロに
ハァハァしないように、し・か・た・な・く相手してあげてんだから、感謝して欲しいわよね?」
「でも、ホントの大河は、このスレの大河なんかよりもっと可愛いと思うぞ?」
「あ、当たり前じゃない?付き合えるようになったのは嬉しいことだけど、去年みたいに、竜児んちで、
のんびり出来ないのは寂しいなって思うのよ。」
「だから、こうしてたまにお前が家に来た時に飯だって作ってるし、それに沢山話してるんじゃないか。」
「でも、それだけじゃあ足りないのよ。」
「足りないって何をすれば…はっ!まさか!」
「そのまさかよ。せっかく、やっちゃんが飲み会でいないんだから。」
「結局スレの展開と同じじゃないか!」
「したくないっての?今日は逃がさないわよ?」
「待ってくれーー」
ギシギシアンアン
オチはこれしか思いつかなかった。でも反省はしていない。
いやいや、泰子の仕事が変わったと言ってもお好み焼き屋だからな
夜寝て午前中に出勤して日付が変わる前に帰ってこられるようになったってだけで
放課後から大河の門限?まで二人っきりというのは可能だろう
弟の世話だって経験も知識もない大河にいきなり丸投げってことはない
半年くらいは流石に母親が付きっ切りだろ
大河だって学校も受験もあるんだぜ
家族としてのサポートって意味だと思う
成績のいい人って結局は時間の使い方がうまい人だから
二人にとって受験勉強して家事やってイチャイチャしてギシギシアンアンするくらい朝飯前
むしろ赤ちゃんかわいいとかいってだしにしたり
花嫁修業と称して大河が竜児に家事を教わったついでだったり
夢が膨らむ
高校3年の春。竜児と大河はとあるバス停でバスを待っていた。
「う〜!遅い!!何やってんのよバスは!!!」
「落ち着け。まだ5分しか待ってないだろ」
今日は大河の鼻炎の治療のためにバスに乗ってここまでやってきたのだ。
治療が終わって帰ろうとしたのはいいが、帰りのバスがなかなかやって来ない。
この状況は竜児にとって2つの意味で深刻であった。
一つ目、スーパー狩野屋のタイムセールの時間が刻一刻と迫ってきているということ。
二つ目、このままでは隣にいる手乗りタイガーが暴れ出しかねないということ。
「ねえ!もうタクシーでいいじゃん!」
「そんなMOTTAINAIこと出来るわけないだろ」
最初のうちはダダをこねていた大河だったが、次第に静かになっていった。
「…ああ…なんか眠くなってきた…」
「お、お前! もう少しでバス来るから、それまで我慢しろ!」
だが、大河は時折目をつぶりながらフラフラと足元がおぼつかなくなる始末。
竜児いわく「ドジの天才」である大河には、立ったまま寝るなどという器用な真似は出来ないのだ。
「ったく仕方ねえなあ。ほら、俺が背負ってやるから」
竜児が少しかがむと、すぐに大河が飛びついてきた。
こうして、竜児は大河をおんぶしながらバスを待つことになったわけだが…
「って!何だよ!この、某ジブリ映画的シチュエーションは!」
これで雨が降り出して傘を差そうものなら、某巨大生物と猫型のバスがやって来たに違いない。
「…りゅうじ…」
「何だ?…寝言か」
「…駄犬…エロ犬…」
「どういう夢を見てるんだこいつは…」
「…うるさい…このお掃除魔人…」
「いや、お前、絶対起きてるだろ! おい、寝たふりはよせ!」
竜児はそう言ってみたが、大河が起きる気配は無く、寝息だけが聞こえていた。
18 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/16(水) 19:58:33 ID:5Z3L/btH
「竜児」
「おうっ?どうした?」
「なんだか眠れないの…」
「そうか…身体を温めるといいぞ」
「そうなんだ…じゃ温めてくれる?」
「じゃあホットミルクでも」
「そんなもんいらないわよ。温めると言ったらこれでしょ」
「おい待てまさか」
ギシギシアンアン
「…好きだよ…竜児…」
「お、お前、何言ってんだよ」
竜児は思った。ああ、デジャビュだ。前回は真冬のスキー場での事だったが。
「どこにもいかないでね…竜児…」
「ああ、俺はどこにも行かん」
そう言いながら竜児は赤面した。ああ、恥ずかしい。何故バス停でこんな事言わなきゃならんのだ。
「…離れちゃやだよー…竜児ー…」
その途端、大河の手足が体を締め付けてきた。
「ぐああ!く、苦しい!大河!起きろ!」
どうやら大河は、竜児を抱き枕か何かと勘違いしてるようだ。このままだと命にかかわる。
「ゲホッ、ゴホッ、とにかく起きろ!首を締め付けるな!」
そう言うとようやく大河の力が抜け、竜児の命の危機は去った。しかし、
「…竜児…」
「ちょー!背中で動くのはやめろ!くすぐったい!」
大河が背中でもぞもぞと動くもんだから、竜児もどうにも落ち着かない。
「やめろ!動くな!さっきからお前のむ、胸が背中にあ、当…」
そこまで言いかけて、竜児はちょっと考え込んでしまった。
「…いや、別に当たってはないな…」
まあそれは仕方ないことだ。今日は例の竜児特製偽乳パッドなど付けてないのだから。
だが、その瞬間、大河がスルッと竜児の背中から降りてゆき、
「りゅ〜う〜じ〜!!!!!」
「な!?ちょ、ちょっと待て、大河!」
「何ですって!?私の胸が何ですって!?私の胸が竜児の背中に何ですって!?
もう一遍言ってみろ!!!ガァー!!!」
「ぎゃー!落ち着け!落ち着け、大河!」
竜児が逃げ出し、大河が恐ろしい形相でそれを追いかける。
何故俺の声が聞こえた?大河の奴、いつ起きたんだ?もしかして、最初からずっと起きてた?
竜児に頭にそんな疑問が湧いてきたが、今はそんな事どうでもいい。
とにかく竜児はこの虎を静める方法を考えなければならなかった。
(おわり)
前スレ続き
***
(一体どうしたんだろう……)
大河は一歩一歩を踏め締めながら自問する。
手には包装されたクッキー。
隣には高須竜児。
時間は放課後を迎えた所だった。
竜児曰く、『北村はSHRが終わったらすぐ生徒会か部活だ。そうなったら渡す機会が無くなるからSHRが終わってすぐが勝負の分かれ目だぞ』なのだそうだ。
それ故、こうやって二人で彼の人を追いかけている。
だが、軽い筈の大河の足取りは重い。
大河はもう一度その小さな手に包まれたクッキーの袋を見つめる。
と、同時に完成した時のことを思い出す。
『出来た!!言い焼け具合だし、ねぇ竜児食べてみてよ』
『おいおい、そんなわけにはいかないだろ』
『え?何で!?』
『何で?ってお前、それは俺じゃなくて北村の為に作ったんだろ?』
『あ……』
何故忘れてしまっていたのか。
これはそもそも思い人の気を引く為の物で、竜児はその手伝いをしたに過ぎないのだ。
大河はその細い足を走らせながらも悶々とする。
廊下を駆け抜け、人垣を掻き分け、階段を駆け上って追いかける。
けれど、何故か足に力が入らない。
もっと早く動かせる筈の足は、時を増す事に、目標に近づくごとにまるで重りでも付けたかのように重くなっていく。
「おい、あいさ─────か?」
遅くなる大河を不審に思ったのか、竜児は大河に話しかけようとして、大河の姿がグラリと揺らぐ。
大河の足は、階段の最上段を足の指程度しか踏んでいない。
──────────グラリ。
踏み外してしまった足は、体重を支えきれずに物理法則に従い─────下へ。
フワリとした浮遊感。
一瞬、時が止まったような長い時間を経て、大河は階段の踊り場まで体を地球によって引き戻され……「っぁ」─────竜児の声を今までで一番近いところで捉える。
「……え?」
慌てて大河が振り返ると、そこには大河と壁に挟まれるようにして座り込む痛々しい竜児の姿。
今ばかりは自慢……ではないだろうがトレードマークたる三白眼のギラつきも鈍って見えた。
「ちょっと竜児!?だ、大丈夫!?」
「ったぁ……ああ、大丈っつつ!!」
「竜児!?」
立ち上がろうとして、しかし竜児は背中を押さえ、しばし動きが止まる。
「ああ、背中コブ出来てるかもなぁ、おぅ痛ってぇ……ってそんなことよりお前、早く北村追いかけなきゃ今日中に渡せないぞ?」
「あ……」
また忘れていた。
「ほら、行くぞ!!」
「あ、でも……背中……」
「これぐらいちょっと痛いだけで大丈夫だ、ほら」
手を引かれ─────初めて、男子に触れられ─────そのまま二人は生徒会室の前まで走り抜ける。
「ほら、あいさ─────か?」
「どうかした?、りゅ─────あ」
生徒会室に辿り着き、たまたま隙間があった扉から二人が見た物は、目的の北村祐作と生徒会長の狩野すみれだった。
何という運命のイタズラなのか、二人は他人同士とは思えぬほどに密着していた。
何故、このタイミングで……流石の竜児もそう思わないでは無い。
ここには大河がいるのだ。北村に思いを寄せるという逢坂大河が。
これではあんまりではかろうか。
もちろんあの二人に悪気があるわけでは無い。だがしかし、誰も悪い奴がいないというのは、時に残酷となる。
「……竜児、帰ろう」
そっと腕を引く彼女の腕は、不思議なことにしっかりとしていた。
力なくも、しっかりとした手に袖を引かれ、竜児は大河と共に学校を出る。
いつまで経っても大河は袖を離そうとしない。
気になった竜児は控えめに尋ねる。
「お前、大丈夫なのか?」
ピタリと、大河は足を止めた。
そもそも、ここにいる年齢にそぐわない小さな暴君は、見た目の美しさとは裏腹に人に夜襲をかけてくる奴なのだ。
それほど、彼の人を思う気持ちは本物だとそう思わせるだけの強さがあった筈なのだ。
それが、平静を保っていられるのか、と竜児は思う。
「なんとなくね、北村君じゃダメかなって」
それは何に対してか。
ダメという定義が何に対してダメなのか。
自分じゃ振り向いてもらえないという、魅力に対してか。
それとも……。
「それに、私は元々独りだから平気だし」
大河は力なく笑う。
その笑みは今朝見た寝顔のように儚げで、今このときばかりは彼女を手乗りタイガーなどと呼ぶ輩はいないだろう。
あるのは、ただ年相応にして綺麗さと儚さを持つ『女』としての表情のみ。
「……泣くかと思った」
だから竜児は、思ったこと、決めた事をいう事にした。
「な、何よ?泣くわけ無いじゃない!!ただ……」
その続きを、大河は言い淀む。
「さぁて、今日の晩飯、何食いたい?」
「えっ!?だって……」
まるで言い淀んだ内容がわかっていたように、竜児は切り出す。
「だって、私とアンタは……」
「大河」
協力という名目で一緒にいたんだから、そう口を挟もうとした大河を、竜児は一言で止める。
大河にとって最も身近で、当然のようについてまわる言葉でありながら、聞くことは少なかったその言葉で。
「へっ!?今なんて……」
「変な遠慮なんかすんな、俺は竜児、竜だ。お前は大河、虎だ。昔から、虎と並び立つ者は竜と決まってる。だから、お前は独りなんかんじゃない」
いつの間にか、掴んでいた袖は離れていた。
だが、竜児は今までの一歩引いた位置から、初めて大河の隣に立っている。
空には、二本の飛行機雲が並び立つように流れ、真っ直ぐに地平の果てまで伸びていた。
何処まで行っても先が見えないそれは、まるでこれからを暗示するようでもあった。
「な、な、な……」
大河は、その綺麗で小さな口をぱくぱくと開いては閉じ、開いては閉じを繰り返し、思い至ったように竜児を見つめる。
「アンタ、もしかして私の事が好きなわけ!?」
「……はぁ!?」
予想の外。
竜児は内心、自分で良い事を言ったと思っていた節もあって、この切り返され方は予想の右斜め上だった。
しかし、大河にも大河なりの考えがある。
(竜児、私が失恋したばっかりでこのアタック的な発言……もし本当にその気があるならここは照れてそれは違うなどとと言うか言葉を濁すハズ!!)
こうと思い込んだら一直線。
特急列車どころの話ではない。
今まさに大河の思考は新幹線だった。
(本気じゃないなら無視、肯定したらただの遊び、アンタの考えなんてお見通しよ!!さぁアンタの本性を見せてみなさい!!)
ギラリと睨みすえるように大河は竜児を見つめる。
「は、はぁ!?なんでそうなるんだよ!?」
当然、竜児の中での常識的反論が返される。
しかし、この場でのそれはまずかった。
もちろん、彼に大河の思考まで読む力があるわけなど無いが、あったなら、その返し方だけはしなかっただろう。
「な、なんですって……!?」
大河は驚愕に目を見開く。
何せ、言葉を濁し、それは違うと、なんでそうなると言ったのだ。
(りゅ、竜児はまさか……本当に私が好き!?)
大河にとってもまた、予想左斜め下の答えだった。
大河の中で瞬間的に組み立てられる公式。
(ハッ!?美味しいものを食べさせて好感度が上がらない奴はいない……私はまんまと竜児の好感度を上げさせられていたというのね?)
だってそれ以外には考えられない。
「おーい、大河?」
「はうっ!?」
しかも、しかもだ。
先ほどまで名字で呼んでいたのに、今は下の名前で呼んでいる。
これが意識した相手でなくてなんだというのだ。
ブレーキが壊れた、否、元々そんなものの無いダンプカー的な思考で大河は次々と公式を埋めていく。
「聞いてるのか、大河?」
(竜児は私が好き、だって名前を呼び捨て)
「おーい、はやくしないと日が暮れちまう、夕飯遅くなるぞー」
(竜児は私が好き、ご飯作ってくれるし、一緒に食べてる。そういや昼の水筒、あれって間接キスじゃない!?)
「お前の部屋、今朝また少し汚れてたから早く帰って掃除もしたいんだよ、お〜い」
(竜児は私が好き、女の子家に入って、掃除までしてくれるし。き、綺麗な私を見たいってこと!?)
大河はばっと竜児の顔を見つめる。
「おっ!?やっと帰ってきたか?」
(竜児は私が好き竜児は私が好き竜児は私が好き竜児は私が好き竜児は私が好き竜児は私が好き)
もはや止まらない。
「さて、変な話してないでさっさと帰ろうぜ」
(竜児がきっと無償で私をいろいろ助けてくれたのも好意の表れだったんだ)
ある意味で、この考えは正しいのだが、好意の意味が大河の想像とリンクするかは、現状ではわからない。
(……!?なんてこと!?そんな竜児に私は恋の手伝いをさせていたなんて!?なんて残酷なことを……)
止まらないどころか加速していく。
(ああ、可哀想な竜児。でも大丈夫)
「大河?」
不思議そうに竜児は大河の顔を覗く。
(今なら、その三白眼も恐くない。やっちゃんが竜児のお父さんに惚れた時もこうだったのかなぁ)
「またか?帰らないのか?」
ハッと大河は現実に引き戻される。
(いけない、長く妄想に耽りすぎたわ。早く、早く竜児に返事をしなければ!!)
「あ、あんたがそこまで言うなら、や、やぶ、やぶさかではないわ!!」
はん、とその小さい胸を張ってしかし、目は熱く輝かせながら大河は竜児を見つめ、答える。
今の大河の精一杯の返事。
「?よくわかんねぇけど、じゃあ帰るぞ?あ、買い物よって行くからな」
「ええ、問題ないわ。そう、未来は見えているはずなのよ」
大河は、どこまでもよくわからないことを言い、竜児を混乱させる。
終いには、某ガ●ダム●の主人公の台詞まで言う始末だが、しかし既に儚さは無い。
竜児は、とにかく深く考えることを止め、買い物に向かうことにした。
今日は狩野屋の特売日。
ここら一体で最も新鮮な商品を取り扱うこの店のこの日この時を逃すわけにはいかないのだ。
かくして、二人の頭の中には若干の齟齬、いや、考えられない程の齟齬を発生させたまま、これからを過ごしていく事となる。
「大河、今日は何食いたい?」
「えっとね、肉」
「そればっかりじゃねぇか、昨日もそれだったろ」
「え〜ダメ?」
「ダメだ、偏りは禁物だ」
……傍目からは、まだそれはわからない。
しかし、
(竜児、今日帰ったら……)
一方の頭には、何かしらの考えはあるようだった。
***
>>1乙
とりあえずここまでです。
また近いうちにでも更新します。
さて、何人くらいタイトルの意味がわかったかな?
ってタイトル入れ忘れてたー!?
タイトルは【ちがトラ!】です。
今回は初心に帰って手錠の時みたいに語りべを竜児から第三視点にしました。
ギャグのはずがシリアス多めに……ううむ。
25 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/16(水) 23:57:16 ID:iEfk4Vvy
勘違い暴走大河再び
これは2828しゅる!!
>>24 乙です。前スレの埋め立ても有難う!
テンポよく読めましたー 大河の思考が面白い! このズレが楽しい。
次の展開に期待です。
【ちがトラ】 やっぱり勘違いトラ?
乙でした。
今後の展開にwktk
個人的には、タイトル遊びをした場合は言わん方がいいと思いますぜ。
伝えたい気持ちはわからんでもないけど、最後に言うか、いっそ何も言わない方が気づいた時の反応がかなり違うと思います。
>>19 へこんでるんですね、分かりますw
>>24 待ってました!埋めもお疲れ!今日も面白かったよー
ギシアンの皆様もおつ!
お題 「百回」「教科書」「私」
「……ねえ竜児、竜児はどうやってそんなに料理上手くなったの?」
「どうやってと聞かれてもなあ……小学生の頃からやってるから、まあ経験の積み重ねってやつだな」
「でも、最初はなんか教科書みたいなのあったんじゃないの?」
「いや、実は大方のレシピ本ってやつはさ、基本的な知識や感覚は身につけてる前提で書かれてるから、初心者には逆にわかりにくかったりするんだよ」
「ふーん、そうなんだ……」
「まあ目玉焼きからスタートして、始めの頃は塩胡椒で焼くだけとか炒めるだけとか……煮物は泰子の見様見真似だったな。
で、そのうち慣れてくるとなんとなく味付けの感覚とかわかるようになってきてさ」
「……なんとなく、なんだ」
「おう、俺はわりと目分量だぞ。まあ菓子関係と、本のやつとかを初めて作る時はきっちり計るけどな。
だけど大河、急にどうしたんだよ」
「だって私、竜児の、お、お嫁さんになるわけじゃない」
「お、おう」
「それならやっぱり料理も出来るようにならないといけないかなって……竜児が覚えた方法なら、上手くなれるんじゃないかって思ったんだけど」
「だったら、俺が教えてやるよ」
「でも私、目玉焼きもちゃんと作れなかったのよ?」
「あれはほら、北村にいいところ見せようとして無理したからじゃねえか。きちんと手順を確認しながらやれば大丈夫だって」
「でも……」
「あー……俺だって最初から上手く作れたわけじゃねえさ。焦がしたり味が濃かったり薄かったり……」
「そうなの?……なんか想像できないんだけど」
「けっこう悩んだりもしたんだぜ。そんな時になんかの本で、『どんな料理だろうが、百回も作れば上手くなる』ってのを見てさ」
「ひゃ、百回!? それはまた遠大な話ね……」
「そうでもねえぞ、三日に一回でも一年かからねえからな。まあ、要は習うより慣れろって話なんだが」
「私にもできるようになるかな……?」
「おう、なるなる。俺が手取り足取り教えてやるからよ」
「なんかその表現は微妙にエロ犬を感じるわね……」
「エロくねえ。あ……」
「どうしたの?」
「考えたら、大河の初めての手料理は北村に食われちまったんだな……くそ、今更だがなんだか悔しくなってきたぞ」
「……大丈夫よ竜児、その前にクッキー食べてるじゃない……失敗作だったけど」
「おう、そうか、あれが初めてだったか。へへへ、そう考えると嬉しいな」
「あの頃からきちんと勉強してれば、今頃こんなふうに悩まなくてもよかったんだろうけど……竜児のご飯が美味しすぎたから」
「俺のせいかよ!?」
「だって、確実に美味しい物が出てくるんだもの。そりゃ自分で作る気も無くなるわよ」
「おう、そいつはすまなかった。それなら尚更俺が責任を持って大河に料理を仕込まないとな」
「お、お手柔らかにね?」
「まあ、慌てることはねえさ。これから時間はたっぷりあるんだからよ」
「そうね。ところで竜児、さっきから妙にニヤついてるのは何で?」
「いや、ほらよ、料理を教えるってことになれば、大河と一緒に居られる時間が増えるじゃねえか」
「……」
「な、なんだよその目は」
「私もそれは考えないでもなかったけどね、なんかそうやって下心全開で言われるとちょっと引くわー」
「し、下心言うな」
「そのうち料理にかこつけて裸エプロンとか言い出すんじゃないでしょうねこのエロ犬」
「言わねえよ!」
「言うな」
「言うね」
「言い出すのは確定的に明らか」
20の絵師さん久しぶりだなぁ
雰囲気が出てていいよね
ところで大河の(裸)エプロンは白しか
浮かばないんだが、何色が似合うだろうか?
純白もいいがパステルカラーも捨てがたい
ギシアン職人ならびにニヤニヤ職人の皆様GJ!!
いつも俺に笑顔をありがとう!
>>24 新作&前スレ埋め立て乙!
一昨日、手錠読んでた俺にはタイムリーだぜ!
大河の暴走加減がイイネ!
>>29 そのお題からこういう話になるのか〜
やっぱりあなたは凄い!
GJ!
>>31 ヤス大河なら赤系
アニメ大河なら白系
っていうか、裸エプロンの魅力がよくわかんないw
俺がまだまだお子様だからなのかなぁ……
35 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/17(木) 22:13:19 ID:ie8eEJMx
>>34 ぶかぶかのTシャツ→素肌に男物ワイシャツ→裸エプロン
の順番でハマってくと良いと思うよ?
前スレ
>>394です。
感想、リンクなどいろいろありがとうございます。
以下、続きとなっています「真夏のシンデレラ」を投下します。
手足がゆっくり伸ばせる広さのバスタブに身を沈め、竜児は誰はばかることなくため息をつく。
竜児はタオルを頭の上に載せながら、ついさっきまであった大河をめぐる一連のドタバタを振り返った。
その大河は部屋でお風呂上りにおいしく何かを飲んでいるはずである。
「・・・まだ?」
前かがみになった大河に催促されて、ためらっていた竜児は指先をファスナーへ近づける。
小さなフックを上下に動かしてみたものの、確かに大河の言う通りファスナーはビクとも動かない。
「どう?」
「ん・・・なんとかなりそうだ・・・もうちょっと・・・よし、いいか」
布地が食い込んでいるらしいと見た竜児は原因となっている辺りの布地を引っ張るようにしてファスナーを下へ動かした。
『チー』と言う音と共にワンピースのファスナーは本来の働きを取り戻し、大河の背中にV字を生み出す。
「やったぜ。大河」
「本当?」
「ああ、ばっちりだ。ほめて貰いたいくらいだ」
いい仕事をした後の職人さんみたいに竜児は得意げな口調。
背中に手を回し、竜児の言うことが事実だと確かめた大河もやれやれ助かったと竜児をねぎらう。
「竜児・・・ぐっじょぶ!」
竜児へ向き直り、大河は親指を上に突き立てた。
「おう、大河」
竜児も大河のポーズに応えて両手をあげ、ハイタッチの姿勢を取る。
「へい、竜児」
・・・と、ここまでは何の問題も無かった。
悲劇と言うか喜劇は次の瞬間に訪れた。
大河と竜児はお見合いの様に向き合ったまま、固まった。
大河の足元にある折り重なった布の塊り。
それはたった今まで大河が着ていたワンピースの成れの果てであった。
背中のファスナーを全開にしてバンザイの姿勢を取ればどうなるか・・・大河も竜児もまったく気にしていなかったのだ。
「・・・あ」
最初に声をあげたのが果たしてどちらだったのかなんていうことはこの際、瑣末な事柄。
「・・・うぎゃああああ」
断末魔のような大河の悲鳴と。
「うわああああ」
キッチンのシンクに大量のカビを発見した時の様な竜児の叫び声。
アニメの収録現場なら録音スタジオの音響さんがヘッドフォンをかなぐり捨てるのではないかと思わせる音量がバスルームに響き渡る。
そのまま、大河がその場にへたり込むのと、竜児がバスルームを飛び出したのはほぼ同時だった。
その竜児の後頭部を衝撃が襲う。
見事なコントロールで大河が放った脱衣籠が竜児に命中したのだ。
「いてえ」
思わず振り返ろうとした竜児。
「バカ!こっち見んな!!」
大河の指摘に慌てて、ベッドの方へ逃げ帰る竜児。
その竜児の背後ですさまじい音を立ててバスルームのドアが閉まった。
つまらない深夜テレビのチャンネルをあちこち変えながらを見ていた竜児は、バスルームのドアがガチャリと開く音に視線をテレビからドアへ向けた。
「よお、出たのかよ?」
「うん」
さっきと同じように半開きになったドアから顔だけを出し、竜児を見る大河。
「どうした?」
「着替え・・・無い」
1時間ほど前に見せたのと同じような情けなさそうな声で大河は竜児に訴える。
せっかく気持ちよく、お風呂から上がったのに汗まみれの服をもう一度着たいとは誰も思わないよな。
「こんなのしかねえけど・・・いいか?」
竜児はクローゼットで見つけたホテル備え付けの浴衣を広げた。
「それでいい・・・持って来て」
「おう」
そう言われて気軽にバスルームのドアまで出向いた竜児は半開きになったドア越しに立つ大河の姿に慌てて目をそらした。
「どうしたの?竜児」
「・・・ど、どうしたって、おまえ、そのかっこう」
「別に変じゃないでしょ・・・裸じゃないんだし」
平然とする大河にかえって竜児の方が慌てる。
「それは・・・そうだけどよ」
バスタオルを体にまとっただけの姿で大河は竜児の前に立っていた。
いつもはふんわり大河を包み込むように広がる髪は水気を帯びて立体感を無くし、重力に逆らうことなくまっすぐ下を向いて並ぶ。
髪の先端からは雫がしたたり落ちてフローリングの床を濡らしていた。
・・・そう言えば、風呂上りの大河なんて初めて見るよな。
普段と少し違う雰囲気に大河を直視し続けられなくて、竜児の目線は何となく大河の足元へ行く。
小柄すぎる大河に相応しく、華奢な足が全身を支えていた。
その細すぎる足首が竜児の心にさざ波を生む。
「と、とにかく、渡したからな」
動揺を見透かされない内にと、竜児は押し付けるように大河に浴衣を手渡す。
「ちゃんと髪、乾かせよ」
動揺しつつも大河のことを気にかけずにはいられない竜児。
「うん・・・ねえ、竜児」
「な、なんだよ?」
「やって」
「何を?」
「・・・髪」
乾かすのを手伝えと言う大河。
いや、それはとためらう竜児に大河はひと言お見舞いする。
「私はねえ・・・傷心なの・・・どうしてか分かる?」
「分かるような、分からないような」
予習範囲外の問題を教師に指名されて、黒板前に立たされた心境で竜児は答える。
「じゃ、分かるように言ってあげる」
分からないの、駄目な生徒ねと模範解答を示す教師のように大河はおごそかに口を切った。
そしてそのまま大河は竜児に顔を近づけ、身を乗り出すようにする。
竜児は思わず後ずさり。
別段、大河の迫力に押された訳ではない。
いくら哀れとか言われようが、あるべき物はあるのだ。
バスタオルの布地越しにささやかに存在を主張する双子の丘陵地帯が竜児に異常接近。
ニアミスどころではなく、接触事故すら起きそうな状況に竜児は操縦桿を引いたのだ。
「あんたが・・・竜児が初めてなんだからね」
「初めてって・・・何がだよ?」
「とぼけないで・・・見たでしょ・・・さっき・・・私のし・・・した・・・・・・ぎすがた」
大河の入浴後で赤っぽい首筋がますます赤みを増す。
そこまで言われて竜児も気がついた。
あんな恥ずかしい姿、見られたなんて、私の心は割れたガラスのように傷ついてるのと大河は被害者意識全開。
あれは事故だったと言う竜児の弁解は何ひとつ聞き入れられることなく、判決は下される。
「分かった。やってやるよ」
そこへ座れと、鏡の前にある椅子を竜児は指差す。
・・・だいたい、下着姿もバスタオル一枚も同じじゃねえか、どう違うんだよ。
複雑な女心の前にあって竜児のつぶやきも虚しいばかりだった。
「こんなもんか?」
「うん、まあまあね」
髪を乾かすだけにまあまあも無いもんだと竜児は思うが、大河が満足そうなので黙っていることにした。
大河は軽く小首を傾けると、右手で髪を根元から先端へ向かってさっと梳く。
竜児の前で、まるで生きているかのように大河の髪はふわりと空気に浮き上がる。
そのまますっと大河は椅子から立ち上がり、竜児の前を横切りバスルームを出て行く。
「・・・待たせちゃったけど、竜児も入ったら」
ドアのところで竜児を振り返り、大河は言う。
「ああ、そうさせてもらう」
「・・・あのね・・・竜児」
「何だよ?」
「さっきのお礼に背中、流してあげようか?」
「・・・デッキブラシでか?」
「もういい・・・たわしで体、洗ってれば」
ぷいと言う感じで大河はバスルームのドアを外から閉めた。
・・・もしかして、本気で言ったのか? あいつ。
閉じられたドアの向こうを想い、竜児はしばらく動けなかった。
浴室の中はすっかり湯気で満たされていた。
・・・大河、換気扇くらい回せ。
スイッチを入れようとした竜児は湯気と共に閉じ込められた微かな香りに気がついた。
どこか懐かしさを覚える香りはあきらかに大河がいつも身にまとっているフローラルな匂い。
・・・ま、いいか。
竜児はスイッチに掛けた指を離すと湯気と一緒に大河の残り香を鼻腔に収めた。
中は安っぽいユニットバスではなく、なかなか本格的な作りになっていた。
そんなわけで、簡単にシャワーを浴びただけで、出ようとした竜児は広々とした浴槽を見て気が変わる。
浴槽には満々とお湯があふれており、大河が入ったのか長い髪が一本、ゆらゆらと漂っていた。
・・・使った後も流さないで、ホントにあいつは・・・。
そう思いかけて、竜児は考えを変える。
・・・俺が入ることまで考えてたんだよな。
結構広い浴槽は空の状態からお湯がいっぱいになるまでかなりの時間がかかりそうな代物だった。
・・・もったいない。入ってくか。
我知らず、竜児は「ふう」と吐息をつく。
ぱしゃりと顔にお湯を掛けて、ふと竜児は気がついた。
・・・大河が入ってたんだよな、このお湯。
まるで大河がすぐそばに居るような錯覚を感じて、竜児は落ち着かなくなる。
ふいに竜児の脳裏に浮かんだのは、さっきの大河の姿。
ワンピの下に着ていた薄手の中着を通して見てしまった雪のような白・・・。
バスタオル姿で竜児の前を横切る大河・・・。
・・・女の子・・・なんだよな・・・大河も。
当たり前すぎて、意識していなかったことが竜児の前に明瞭に浮かび上がる。
居たたまれない様な気持ちを覚えて、竜児の頭は湯船の中に沈没する船みたいに沈んでいった。
ワクワクヌルヌル
草木も眠る丑三つ時。
深夜も深夜、いい加減、眠気も限界になってきた頃。
バスルームから出た竜児を出迎えたのは心地良さそうな大河の寝息だった。
自分のベッドに潜り込み、あどけなさそうな顔して眠っている。
窓際のテーブルには大河が飲んでいたとおぼしき飲料の残骸・・・。
竜児は半分以上残った飲み掛けを手にすると口に含んだ。
わずかに広がる炭酸・・・ガス入りのミネラルウォーター・・・。
備え付けの冷蔵庫を開けると、いろいろ入っているのが分かるが、大河の好みに合いそうな物は無さそうだった。
・・・仕方無しに水か・・・炭酸入りじゃまずかっただろな。
さっき風呂場で感じた苦味と共に竜児は炭酸を飲み込んだ。
部屋の照明を最低限へ落とし、竜児も就寝準備へ取りかかかる。
眠気を覚えながら、竜児は自分のベッドに腰を下ろし、隣のベッドで眠る大河を眺めた。
その大河は肌掛けを蹴っ飛ばし、足をコロンと出す。
仕方ない奴だなと竜児は掛け直してやる。
寝ている大河を上から見下ろす形になった竜児。
見慣れているはずの大河の寝姿・・・。
見慣れているはずなのに・・・と竜児は思う。
見つめていると鼓動がいつもより早くなるのは・・・なぜだ?
このまま、大河を見ていると・・・何かをしてしまいそうな危うい予感に竜児は、早々にベッドへ潜り込むことにした。
竜児はベッドで横になり、目を閉じた。
眠気はすぐにでも襲ってくるはずだった。
眠りに落ちる直前、竜児の耳は微かな音を捕らえた。
・・・う、ううう、ううう、ああ、ううう・・・
それは断続的に聞こえる苦しげうめき声。
一瞬、オカルト的なことを想像した竜児だったが、その声の発信元がすぐとなりだと気がついた。
「大河!」
竜児はベッドから跳ね起きると、寝ている大河のベッドを覗き込む。
さきほどまでの心地良さそうな寝顔ではなく、苦しそうな表情を浮かべ、大河はうめいていた。
「大河!!」
竜児は反射的に大河の肩を掴むと激しく揺り始める。
大河はすぐに目を開いた。
大河の目は焦点を合わせ、竜児を認識させる。
「・・・あ、・・・りゅ・・・うじ・・・」
「そうだ、俺だよ」
「・・・良かった・・・竜児が居てくれた」
心の底から安堵するように大河はつぶやいた。
「どうしたんだよ?いったい・・・」
大河のベッドサイドに腰を下ろした竜児は真下で横になっている大河に問い掛ける。
「・・・寝ちゃったんだ、私」
「ああ、俺が風呂から出たときは気持ちよく寝てたぞ」
「竜児が出てくるまで起きてようと思ったんだけど・・・いつのまにか寝ちゃった」
私、駄目だね・・・と言わんばかりの口調で大河は竜児を見る。
「なんか大河、うなされてたけど・・・」
「恐い夢・・・見ちゃった・・・久しぶりに」
「恐い夢って・・・お化けでも出たのかよ?」
「・・・違うよ・・・・・・ひとりぼっちになっちゃう夢・・・」
大河の物言いがひどく淋しげだった。
「最近、ずっと見なかったから安心してたのに・・・枕、変わったせいかな」
大河が発した言葉の端はこれが初めてでないことをうかがわせた。
「・・・竜児」
じっと竜児を見つめる大河。
「なんだよ?」
「起してくれて・・・ありがと」
「そ、それくらいなんでもねえぞ」
「うん・・・だけど・・・ありがとう」
そこにいるのはあの倣岸不遜な大河だろうかと、竜児をして思わせるほど積み木細工のように頼りなげだった。
「前は良く見たんだよね・・・この夢・・・あのマンションに来た頃は特にね」
・・・朝起きると誰も居なくて、ひとりぼっち・・・パジャマ姿の私は家の外へ飛び出すんだけど、誰も居なくて。
・・・無我夢中で走ってずっと昔、パパとママと住んでいた家にまで行くんだけど・・・そこにも誰も居なくて。
・・・あちこちドアを開けるけど・・・誰も居ないの・・・それで、最後に残ったドアを前にして、私は足がすくむの。
・・・このドアの向こうに誰も居なかったら・・・そう思うと恐くてドアノブに手を掛けらんないんだ。
・・・でも、おかしいの・・・勝手に手が動いて、ドアノブを掴むのよ。
・・・自分では駄目だって思ってるのに止められなくて・・・。
「夜中に何度かそれで起されちゃったことあるんだ」
竜児は胸をえぐられる様な感触を味わっていた。
大河が受けたであろう心にある傷の深さを思い知らされた気がして、言葉を失う。
竜児があのマンションの部屋に初めて灯った明かりを見たのは中学3年の冬の始まり。
平面直線距離で10メートルに満たない距離でお互いに相手を知らないで寝ていたことになる。
ベランダの向こう・・・厚いコンクリートの壁を挟んで、十四歳の大河が真夜中に悪夢で跳ね起きることを繰り返していたなんて・・・。
・・・・・・むごすぎるだろう、絶対。
「でも、今日はドアの向こうに・・・竜児が居てくれた・・・だから、ありがとうなんだよ」
「・・・夢の中までは、俺も助けに行けない。でも、嫌な夢を見ない手助けくらいは出来ると思う」
「うん、そばに居てくれるだけで・・・十分だよ、私」
「そんなんじゃ足らねえ・・・」
薄手の肌掛け布団からはみ出すように出ている大河の左手。
竜児はその手に自分の手を重ね合わせた。
「大河がまた寝付くまで、ずっとこうしててやる。だから・・・安心しろ・・・お前はひとりなんかじゃない」
「・・・うん、竜児・・・ありがとう」
泣き笑いのような表情を見せた大河は何回目になるか分からない感謝の言葉を竜児に送り出す。
「もう、寝ろ・・・夜、遅いんだから」
「そうだね・・・がんばるよ」
そう言うと大河は瞳を閉じた。
竜児は重ねた手の先から、大河の悪夢を追い出せるように念を込めた。
迷信でも何でもいい・・・大河を悲しませる全ての存在を消し去ってしまいたかった。
「ね、竜児」
しばらくして大河が目を開ける。
「眠れないのか?」
「ううん・・・大丈夫だと思う。それより、こうしてたら竜児が眠れないじゃない」
「俺はいい」
「良くない。あんただけ起きてて、私だけ眠れないよ・・・もう、独りでも平気だから」
「本当に大丈夫か?」
「うん、竜児からパワーをもらったからね」
大河は自分の左手の上に置かれた竜児の手に右手を伸ばし、そっと包むような感じをつくった。
「・・・大河がそう言うなら」
「そうだよ・・・竜児、おやすみ」
竜児は大河に重ねた手を解放すると自分のベッドへ潜り込んだ。
「おやすみ・・・大河」
「おやすみさない・・・竜児」
コーと言う空調の静かな音だけが辺りを支配していた。
竜児はなかなか寝付けず、薄暗闇の中、天井をじっと眺める。
となりの大河も寝付けないのか、時折、寝返りを打つ音だけが聞こえて来る。
竜児は大河に声を掛けた。
「大河・・・眠れないのか?」
「・・・うん・・・・・ねえ、竜児」
「なんだよ」
時計の秒針が半回転するくらいの間を開けて大河は言い出した。
・・・・・・そっちへ行っても・・・いい?
6を通過した秒針が10を通り過ぎた頃、竜児は大河へ返信のサインを送った。
「狭いぞ」
そう言いながら、竜児は体をひねり、ひとり分のスペースを生み出した。
浴衣とシーツがすれる音がして、やがてベッドの左側に重みが掛かった。
竜児の枕の隣に自分の枕を置くと、少し窮屈そうに大河は竜児の隣に身を横たえる。
体の左側が全てセンサーにでもなってしまった様な気分を味わいながら、竜児は大河の体温を感じ始めた。
やや幅広と言っても基本的にはひとり用のベッド。
竜児と大河は身を寄せ合うように仰向けになって一枚の肌掛けを分け合った。
「・・・断わられたら・・・どうしようかと思った」
詰めていた息を吐き出す様な大河の口調。
「断んねえよ」
「どうして?」
「高須大河なんだろ? ・・・今夜は」
「そうだった」
「忘れっぽいな」
「そんなこと無い」
「まあ、いいさ」
「・・・あのね、竜児」
「おう」
「竜児がとなりに住んでてくれて、私、どれだけ安心できたか分からない・・・前にも言ったよね、あんたの家、居心地がいいって」
「そうだな」
「独りになるマンションに帰るのが恐かったんだ。でも、竜児と仲良くなれて・・・それからはだんだん恐くなくなっていった」
「どしてだよ?」
「だって、窓を開けて大声を出せば、アンタが寝てる部屋に声が届くもん・・・すぐそばに居てくれるって分かったら、あの広い家も苦じゃ無くなってきた」
「今だって、こんなに近くに居るだろ。だから安心しろ」
「・・・うん」
そう答えたものの大河の声は不安がにじんでいた。
「竜児・・・ずっと居てくれるよね。私のそば」
「ああ、大丈夫だ」
「本当に?」
どこかすがりつくような大河の声。
「ああ、間違いねえ」
これだけ念を押しても大河は納得しなかった。
「・・・嘘だよ、竜児」
何度か同じ言葉の応酬の後、大河の声に諦めとも言える調子が混じった。
「嘘、じゃねえ」
「・・・やっぱり、嘘」
しつこいくらいに絡む大河。
「何が嘘なんだよ!」
竜児の声が少し強くなる。
大河は黙り込むと顔を竜児の方へ向けた。
・・・だって、竜児は・・・みのりんが・・・・・・。
竜児の耳元でそうつぶやくと大河は竜児と共有している肌掛けの中に体ごと潜り込んだ。
掛け布団の中からくぐもった声で大河は訴える。
・・・いつか、竜児とみのりんは両想いになる。
・・・そうしたら、私の居場所が無くなる。
・・・もう、竜児に頼れない。
・・・ずっとそばに居て欲しいのに・・・。
・・・応援してあげる何て言いながら、本当は恐かった。
・・・今も・・・恐い。
竜児は大河に掛けてやるべき言葉を見つけられないでいた。
何を言っても誤魔化しにしかならないような気がして・・・・・・。
肌掛けを少し跳ね上げ布団の中から、大河は顔だけを見せ、猫のような瞳で竜児を見る。
「ね・・・竜児」
「・・・」
「・・・竜児とだったら・・・私・・・いいよ・・・後悔しない」
「・・・大河」
「誰だっていつかはそうなるんだもん・・・だから、ね・・・竜児」
「・・・無理すんな」
「無理じゃない・・・私・・・大丈夫だから・・・竜児が居てくれるなら・・・」
「・・・・・・大河」
「お願いだから・・・今だけ・・・今だけ・・・忘れて・・・みのりんのこと・・・・・・忘れてよぉ・・・」
大河の気持ちがダイレクトに伝わって来て、竜児の心は大嵐の中を進む小船みたいに揺さぶられた。
情動はこのまま直進することを求め続け、理性はその危険性を訴え続けている。
アクセルとブレーキを同時に踏みながら、危うい均衡の上で竜児は踏み止まっていた。
「・・・そんなに・・・私・・・魅力ない? 竜児が望むなら・・・何だって・・・」
「・・・そんなこたあ・・・ねえぜ。大河は魅力的だ・・・それもとびきりな」
「じゃあ、どうして? ・・・どうして・・・何もしないの・・・・・・」
大河が望むなら・・・このまま・・・・・・。
竜児のブレーキを踏む力がだんだん弱くなる。
そろりと・・・動き始める車の先に見える急な下り坂。
あそこまで行ったらもう戻れない・・・。
・・・竜児は目を閉じた。
竜児の右手が大河の背中にそっと触れる・・・。
ピクリと大河は身を震わせ、体を固く強張らせた。
竜児の手は大河の背中を軽くノックでもするみたいに叩く。
すっと大河の全身の緊張が解け、大河はもぞもぞと動いて顔を竜児の胸にうずめた。
竜児は大河の背中に回した手に力を入れ、大河の体を引き寄せる。
薄い布地を介して大河の温もりが竜児に伝わり、竜児は大河を軽く抱きしめた。
折れてしまいそうなくらい細い大河の体。
「んん・・・ん、ん」
微かに聞こえる大河の吐息のような声。
竜児は少しづつ腕に力を込めて行き、最後に思いっきり強く大河を腕の中に囲い込んだ。
竜児は全身を通して大河を感じていた。
・・・こんなに小さな体で頑張ってきたんだよな、大河は。
・・・大河が俺を必要とするなら俺も大河を必要とする。
・・・だけど、遠い将来まで、今は約束できない。
・・・でも、何があろうと俺は大河のそばを離れない。
・・・約束する。
だから、それだけは分かって欲しい・・・なあ、大河。
大河に掛けてやる上手い言葉が見つけられないまま、ただ、大丈夫だよと竜児は大河に言い続けた。
嗚咽ともとれる声にならない声が竜児の胸の辺りから聞こえて来る。
もしかしたら大河は竜児の胸にぎゅっと顔を押さえつけ、泣くのを我慢しているのかもしれなかった。
そんな大河をどうしてやることも出来ない竜児。
時々、震える大河の肩が竜児には辛かった。
その震えが少しでも小さくなるようにと、大河を胸の中に抱きしめ続ける。
ただ、大河の頭を壊れ物みたいにそっと撫でてやることで慰めてやるしか出来なかった。
ふと思いついて竜児は口ずさむ・・・。
それは竜児が幼かった頃に泰子がたびたび歌ってくれた子守唄だった。
どこの国のメロディーか分からない外国語の響き。
歌詞の意味なんて分からないけど、心にしみるような調べは竜児が歌っても変わらない。
竜児は繰り返し、何度も歌う。
歌うたび・・・大河の震えは小さくなり・・・やがて、止まった。
そっと竜児が肌がけを取ると、大河は体を丸めて眠っていた。
さきほどまでの激情がうその様な穏やかな寝顔。
大河を見下ろしながら竜児は自分の胸の辺りに手を触れる。
指先にわずかに感じる湿り気が、さっきまでの大河を物語っていた。
「頭・・・痛い」
「・・・自業自得だ、ワイン一本あけたんだからな」
「大きな声出さないで・・・響くから・・・まさか、お酒だとは思わなかった」
「どういう味覚してんだよ」
「だって、飲んだこと無いから・・・どんなものか分からなかったんだから仕方ないでしょ」
大河は開き直る。
「高校生で酒飲みなんて・・・とんだ不良娘だな」
「じゃ、そういうアンタは何なのよ?」
「俺は別に疚しいことはしていねえ」
「ふ〜ん・・・寝てた私を同じベッドに連れ込んだくせに・・・目が覚めたら、竜児の顔が目の前・・・心臓止まりかけたじゃない」
「連れ込んだ覚えはねえ」
「じゃあ、この私がふらふらとアンタのベッドに潜り込んだとでも言うの?この私が」
あごをそらし、竜児をにらむ大河。
・・・事実はそうなのだが・・・大河は違うと主張する。
ルームサービスで運ばせた朝食を部屋で食べながら、繰り返される論議。
「・・・なんか、コース料理を食べてる途中から記憶があいまい・・・体がポカポカしてきたのは覚えてるんだけど」
「何も覚えてないと・・・そう言いたいんだな、大河は?」
「・・・そ、そなの・・・覚えてなくて・・・変なこと言わなかったよね」
若干、きょどり気味に言う。
もし言ってたとしたら、それは幻なんだからと大河は念を押す。
・・・こいつ、女優にだけはなれねえな。
・・・下手すぎる。
「・・・何も言ってねえよ、大河は・・・ずっと寝てたからな」
「ほら、みなさい・・・これは罰として没収」
そう言うと大河はさも安心したように竜児のトーストを一枚、分捕るとおいしそうにほおばり始めた。
支援っ!
「あれ、涼しいね」
「本当だ」
空調の効いたホテルから外へ出たふたりを包む、さわやかな空気。
「夏も終わりだな・・・」
「夏休みもね・・・だから、最後の一日、楽しもうよ」
このまま、どこかへ行こうとねだる大河。
「お前・・・大事なこと忘れてるだろう」
「何?」
「とぼけるな!宿題だ」
「ちっ・・・覚えてたか」
作戦失敗と大河は悔しがる。
「それに早く帰らないと・・・泰子が起きる」
「あ・・・やっちゃん」
「そうだ、メシ作ってやんねえと、大騒ぎになるぞ」
「じゃあ、急いで帰らないと・・・」
外泊したくらいで目くじら立てる母親ではないが、その外泊相手が大河だと知れた日には・・・。
竜児は武者震いを感じる。
・・・何を言われるか分かったもんじゃ、ねえな。
「ああ、急ぐぞ」
「それなら・・・駅まで競争」
そう言うや、昨日と同様に大河は走り出した。
「お、おい、大河」
走り去る大河に声を掛ける。
「置いてくよ、竜児」
昨日と違って大河は糸の切れた凧みたいに飛んで行ったりしなかった。
30メートル先で立ち止まり、竜児の方を振り向く。
「早く!・・・グズ犬・・・って言うからね」
笑ってる大河。
その笑顔が誰でもない・・・竜児にだけ向けられたものだと、竜児は感じ取っていた。
竜児の手のひらに載る小さなガラスの靴。
夜更かしなシンデレラが残していった、あの夜の痕跡。
魔法が見せた真夏のシンデレラは秋の訪れを惜しむように竜児の前を駆け抜けて行った。
・・・また、穿かせる時が来るまで、大切に持っているよ。
竜児は大河へ向かって走り始めた。
以上で完結です。
長いことお付き合い下さいましてありがとうございました。
支援、ありがとうございます。
また、最後で連投規制・・・。
いつも大河にしては少し逸脱した感じですけど、アルコールで少し理性が飛んで感情が優先された結果だと思って下さい。
それにしても今回、◆QHsKY7H.TYさんの「リュウジホリック」と部分的にネタが被ってるんですけど、同じようなシュチエーション(同じ部屋にお泊り)で同じようなことしてるのに
あっちの竜虎は楽しそうで、どうしてこっちの竜虎は苦しそうなんだろ(笑)
もう讃美のことばしかないよ!!
竜児が大河を抱かなかったところがよかった。
グッと来た。感動した!
GJ!!
長編完結お疲れっす。
互いを思いやる切なさというか何と言うか、とにかく良かった!
もし余裕があれば、何か新しいのも読みたいなーなんて思いました。
おつです!
55 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/18(金) 09:35:39 ID:AFIhu9Q4
GJ!
いいね
締め方が詩的で素敵
これでまた大作が一つ終わってしまったなぁ。。。
長編お疲れ様でした!
面白かったです。
竜虎ってこういう感じだよなぁ〜
良い。実に良い。
>>36 ワイシャツまで来てるから、目覚める日も遠くないのかも……
「ちょっとちょっと、りゅーじー!!!」
「うわっ!?何だよ大河、家に飛び込んでくるなりでっけぇ声出すなって」
「それどころじゃないの、大変なのよ!」
「まぁ、ちょっと落ち着けって。もうすぐおまえの大好きなチャーハンが出来るから」
「それよ!」
「は?」
「ねぇ、竜児。そのチャーハンって何の油で作ってるの?」
「油?って普通のキャノーラ油だけど……?」
「そう……良かった」
「何なんだ一体?」
「……そうだっ!」
「おうっ!?おい、いきなり冷蔵庫荒らすなよな?しかも人んちの冷蔵庫をよ」
「無い。無い。よし!竜児の家が貧乏で良かったー!」
「おまえ……失礼にも程があるぞ?」
「何よ。あんたの事心配してやってんだから感謝しなさいよね」
「ぜんっぜん意味がわからねえ……」
「これ見なさいって!」
「うぷっ!おい、ノーパソを人の顔に押し付けるな。雑誌じゃねえんだから」
「いいから見てよっ」
「はいはい。どれどれ……」
ttp://sankei.jp.msn.com/economy/business/090916/biz0909161656009-n1.htm 『健康エ○ナに発がん性物質の恐れ、販売自粛へ』
「おおう!?これって結構一大事じゃねえか」
「そうなの。あんたも私もガンになんか嫌だから……その、それで……」
「それで駆け付けたってわけか?」
「……う、うん」
「ったく、おまえは心配性だよな」
「うう、うるさいな……いいから、安全なんだから、早く……そのチャーハン食べようよ」
「おう、待ってろ、もうすぐ完成だ」
「わーい!」
竜児って健康(という触れ込み)=エコナと
おいしさ=料理に応じた油の選択
どちらをとるのだろうか
>>59 薀蓄豊富なので、うわべの触れ込みにだまされない後者 >おいしさ=料理に応じた油の選択
であると信じたいが、特売には釣られそうだ。
しかし
>>58 のようなことがあって、万一子供のご飯に使っていたら、竜虎そろい踏みでメーカー殴りこみ&血の雨が降りそうだ
>>51 GJ! いやよかったっす。
風呂上り後の大河の描写にドキドキしました。
長いお話、本当に乙でした! じゃんけん、お弁当、競争、フルコースの楽しい出来事とちょっとつらいこと、
その都度の2人の心情がじんわり来ました。
> あっちの竜虎は楽しそうで、どうしてこっちの竜虎は苦しそうなんだろ(笑)
いやいや、どちらも竜児の愛と大河の想いに溢れています。何でもいけるのが竜虎だし
そういえば、タイトルはまとめ人の方が付けてくださったんでしたっけ?
これもすごくGJ!だったですね。
>>25 再び!!ありがとう!!
>>26 ありがとう、そのズレがウリです。埋めはこういう作品で埋めていいか迷ったんだよね、批判がなくて良かった。
そう、勘違いタイガーから【ちがトラ!】にしてみた。
>>27 今後の展開に自分でもwktk(ヲイ)
成る程、そういう考えもありますな。メモメモ。
>>28 お待たせしました。ありがとう!!
>>29 流石ですな!!定期的なこれはもう週刊連載と言っても過言で無いかも。
>>34 おお!?手錠をまだ読んでくれる方がいるとは!?ありがとう!!
>>51 長編完結乙です。ネタかぶりなんてとんでもない。こちらのほうがこう竜虎っぽい感じで俺は好きだ。
あれはリュウジチュウドクに繋げるために若干オカシイ所もあったし、ギャグの後に大河の切なさを入れるつもりだったから。
いや、とにかくいい話だった、GJ!!
そしてリュウジホリックとの名前まとめ人さんありがとう。思わず上手い!!と思ってしまった。
さて、スレが少し寂しいんで
>>23の続き投下します。遅筆のため少なくてすみません。
往往にして珍事という物は突然にやってくる。
今日、それは嫌と言うほどに味わった筈の高須竜児の一日は、まだ終わりなど告げてはいなかった。
ここにあるありえざる光景もまたそれを証明する一つであり、認めがたい現実でもある。
なんと、大橋高校の珍獣、手乗りタイガーこと逢坂大河がエプロン(竜児愛用のecoのロゴと葉っぱがチャームポイント)を身につけキッチンに立ったのだ(やや丈は長めか?)
竜児の目から見て、今までおよそ包丁どころかオタマ、引いてはまな板すら触ったことの無いであろう彼女はしかし今、どんな天変地異の前触れかキッチンを貸してと言い出した。
それ自体は構わない。構わない……のだが。
「お前、一体どうしたんだ?」
「何が?」
のらりくらりと先程からの竜児の質問を返しつつ、キッチンでフライパンの上にオリーブオイルを垂らす大河。
すぐ目の前に食用油であるサ●ダ油があるのにだ(エ●ナじゃないよ)
いや、それはまだいい。
しかし、鍋に水とワカメを入れて沸騰させ、その中に桃屋のご●んで●よを入れるのはどういう了見だ?
「お、お前一体何がしたいんだ?」
「何って、料理に決まっているでしょうが。何度も言わせないでよ」
「り、料理……?」
やはり……間違いではなかったらしい。
大河は先程からのらりくらりと質問の答えをかわしていたのではなく、大真面目に『料理』をしているらしい。
しかし、しかしだ!!
「なぁ、キッチン貸してって言うから何事かと思って黙ってたんだが、何で俺に料理を聞かないんだ?」
そう、教えてと言ってもらえれば、否、最初から一人で料理をする気と聞いていればキッチンを逆賊に売り渡すような真似は決してしなかったのに。
竜児のそんな心の葛藤など何処吹く風か、我らが暴君、手乗りタイガー様は仰った。
「私が料理しちゃおかしい?」
おかしい。
もし許されるのなら竜児は即座にこう言っただろう。
無理だ無謀だ止めなさい、と。
しかし、彼女の手には竜児愛用のMY包丁が握られているのだ。
相手は牙を持った虎。
下手な事を言えば何をされるかわかったものではない。
ああ、雨の日も晴れの日も、林間学校にまで持って行き、常に研ぎ澄まして使い続けた竜児MY包丁。
それが、刃こぼれ、切り方、なんて物は一切考慮しない者によって蹂躙されようとしている。
「アンタがさ、やれば出来るって言ってくれたじゃない」
それがよっぽど嬉しかったのか、大河はやる気の塊のようだった。
大河は真剣な顔でまな板の上に乗ったじゃがいもに大上段から思いっきり包丁を振り降ろ「ちょっと待て!!」……させてもらえなかった。
「な、何で止めるのよ!!」
ややご立腹な表情で大河は竜児を睨み付ける。
ここで料理を止められることは、あの時の言葉まで嘘のように思えてしまってならない。
そんな、疑いと憂いの目を、竜児は困ったように三白眼を降り下げ、
「お前、そんなやり方じゃあ手を怪我するぞ」
そっと、優しく大河の手から包丁を奪い去る。
「あ……え……?」
「せっかく白くて綺麗な肌してるのに怪我したら大変だろうが。頼むからそういうことは止めてくれ」
「あ……う……?」
一瞬の怒りの感情は何処へやら。
竜児の行動が自分の身を案じてのことだと知るや否や大河はその場に座り込んでしまう。
「た、大河!?」
慌てて竜児はしゃがんで大河の顔を覗き込むが、大河は顔をしわくちゃにして自分の指を眺めていた。
「き、綺麗……綺麗って言われた……うふふ……」
「おおう……」
竜児は二歩ほどずり下がる。
人の事をとやかく言える目つきではないが、大河のその目は形容しがたい様相を呈していた。
「た、大河、ここは危ないから向こうで待ってろ?な?晩飯は俺が作るから。特別に肉だ、な?」
竜児は大河を両脇から抱えるように「ひゃうっ!?」抱きかかえ、居間にある卓袱台の前に座らせる。
ボロと言われれば肯定しか出来ない木造二階建て戸建の南向き2DK。
決して広くはなく、大河の住むマンションによって日照不足も強いられているここが、高須竜児の家だった。
大河を座らせ、キッチンに舞い戻った竜児は安堵の息を吐いた。
「……助かった」
目の前にはMY包丁。
これがあんな風に振り下ろされたり、誤って振り回されたりされようものなら目も当てられない。
包丁も竜児自身もバラバラになっていた可能性すらある。
「さて……」
幸い、キッチンはまだ汚れてはいない。
竜児は即座にエプロンを着込むとフライパンを見つめ、次いで新たに鍋を取り出した。
その鍋に水を入れてコンロへ。
すでに大河が作っていた謎の鍋はご●んで●よだけを綺麗に掬って山車を入れる。
先ほどの別の鍋が沸騰しだしたところで、竜児はパスタを取り出し湯で始める。
と、同時にひき肉、タマネギをみじん切りにし、ついでにトマトを用意。
山車を入れた鍋には味噌を溶かして少し暖めた後、一旦コンロから退場願い、もう一つのフライパンで先ほど用意した物を炒めだす。
流れるような動きで竜児は料理をする。
そんな竜児を、大河はボーッと見つめ、次いで自分の手を見る。
─────ニヘラァ。
締りの無い口元を隠そうともせずに大河は口元を緩める。
(傷つけたくない、だって)
ぐふふ、と大河は左手の薬指を触る。
先ほど、竜児が特に触ったのが『偶々』ここだったのだ。
(ここ、傷ついて欲しくないんだ……むふふふふ……)
竜児のよく動く背中を見ながら、大河は次いで自分の体を抱きしめる。
(さっきなんて、抱きつかれちゃったし。竜児ったら意外と大胆ねぇ)
……断じて抱きついたわけではないが、それは本人達の預かり知ることではない。
(で、でも、『妻』としてご飯は作りたかったわねぇ、せっかく目玉焼きとお吸い物を作ろうと思ってたのに……)
……じゃがいもは何に使われるハズだったのだろうか。
そんな、話を聞いていれば誰かがツッコミを入れるであろうことも、口には出していないため、誰からもツッコミを入れられる事はない。
と、竜児が振り向き、
「なぁ大河」
「え……何?」
「お前、料理したいならやっぱ俺と一緒にやろうぜ、な?」
いろんな意味で平和を護るためにも、と内心思ったことは言わずに提案する竜児。
「あ……うん」
それに納得し、またも口元を緩める大河。
(一緒にお料理、こ、これが夫婦の営みって奴なのね……?)
ウンウンと大河は一人納得したように頷き、
「わかってくれて何よりだ」
竜児も安心したように料理を続ける。
(夫婦理解キタ─────!!)
大河の脳内麻薬はマキシマムに分泌され、正常な思考回路を麻痺させる。
「竜児!!」
つい、立ち上がって大河は竜児の背後から抱きつく。
「おわぁっ!?急に何だ!?飯か?もうちょっと待て!!今ついでに明日の下ごしらえを……」
焦る竜児。それはそうなのである。何故なら竜児は包丁を持っているのだから。
万が一にも女の子の肌を傷つけるわけにはいかない。
しかし、そんな竜児の驚きすら、
(照れてる照れてる)
独自の解釈で納得する思考回路はショート寸前がここに一人。
流石は脳内麻薬マキシマム。最高にHIGHとなった大河は、竜児に向かって顎を突き出し、目を閉じた。
「竜児、今日のキスは?」
「おう?今日のキスか?何だ楽しみにしてたのか大河?けどキスは明日だぞ」
「えーっ!?」
大河は不服そうに唸りながらも、竜児から離れる。
(まぁ、そうよね。いきなりはないか。でも明日は……キャッ)
むふむふ笑いながら、大河は卓袱台へと戻る。それを見届けながら、
(今日買ったキスが楽しみだったとは、可愛い奴め)
竜児はニヤリと口元をゆがめ、普段からの三白眼をギラリと光らせ、再びまな板に向き直り、キス、つまり鱚の下ごしらえの続きをしだす。
正式名称シロギス、和え物にすると美味しいのだ。
……気付いていない勘違いってのは恐ろしい。脳内麻薬マキシマムの名は伊達じゃない。
***
現在時刻PM11時59分00秒。
あと一分を持って今日は終わる。
「………………」
現在時刻PM11時59分15秒。
あと45秒を持って今日は終わる。
「………………」
現在時刻PM11時59分20秒。
あと40秒を持って今日は終わる。
「………………」
先ほどから眠れず、何度も時計とにらめっこをしているのは、大橋高校の生きる伝説、手乗りタイガーこと逢坂大河。
段々と時計を見る頻度が早くなってくる。
天蓋付きのベッドでごろんと横になり、タオルケットをお腹にあてているが、その目は些かも眠りに誘われてはいない。
ただただ待っているのだ。
日が昇る……いや、今日という日が終わり、『明日』が来るのを。
大河の脳内に、とある台詞がリピートされる。
─────おう?今日のキスか?何だ楽しみにしてたのか大河?けどキスは明日だぞ─────
現在時刻PM11時59分57秒。
あと三秒を持って今日は終わる。
「………………」
現在時刻PM11時59分58秒。
あと二秒を持って今日は終わる。
「………………」
現在時刻PM11時59分59秒。
あと一秒を持って今日は終わる。
僅か数秒がもどかしい。
一日千秋とはよく言ったもので、体感速度は一秒数日程にも感じられる。
しかしそれも……。
現在時刻AM00時00分00秒。
「き、来たわ……来ちゃったわ。とうとうこの日が来てしまったわ!!」
ばっと起きあがる。
今日はすなわち昨日から見て明日。
今の彼女の思考に、時間なんて概念はそこに介入されない。
重要なのは昨日から見ての明日という事実、ただそれのみ。
「行かなきゃ」
大河はばっとワンピースパジャマを脱ぎ捨てる。
クローゼットにある制服を取り出し、袖を通す。
Yシャツを着込み、次いで赤い上着。
可愛い白のショーツを隠すようにしてスカートを装着。
トン、と素足をベッドに乗せ、黒いニーソックスを足の先から履いていき、かかとが入ったと同時に一気に引き上げる。
準備万端。
むっと隣の家、竜児の部屋の方を一睨みしてからドタドタと部屋を後にする。
鞄をひっつかみ、そのまま部屋を出ようとして……しかしピタリとその細い足を止めた。
「………………」
急ぎ足を戻して等身大の姿見の前に立ち、髪の毛をチェック。
慌てて櫛を取り出してサラサラとブラッシングを始める。
……右良し、……左良し、……前髪良し……OK。
ほっと安堵して時計を見、
現在時刻AM00時16分40秒。
「なんてこと!?もう1,000秒も経ってるじゃない!!」
駆け足で家を出ようとノブに手をかけ……やっぱり止まる。
思い出したように洗面所に向かい、
ゴシゴシ……ゴシゴシ。
口の中に無造作にハブラシを突っ込みこれでもかと歯を研磨する。
ゴロゴロ……ペッ。
最後にうがいを終え、今度こそ急ぎ足で部屋を後にした。
足は歩くから早足へ。
早足から駆け足へ。
駆け足から最後には全力疾走になっていた。
あの時、夕方の学校で北村祐作を追いかけるのに出せなかった本気のスピードが今遺憾なく発揮される。
現在時刻AM00時26分40秒……確認。
息を乱すことなく、しかし若干鼻息は荒くなりながら高須家の扉に手をかけ……ガギッ!!……ガギッ!?
「……あれ?」
ガギッガギッ!!
どうやら鍵がかかっている模様。
当然である。気配りの高須たる称号を持つあの竜児が鍵を閉めない道理は無い。
「……そう、そういうこと」
しかし、相手は生きる伝説、手乗りタイガー。
「……ふぅん、面白いじゃない」
その程度の障害、乗り越えられなくて何が伝説か。
「……見える、見えるわ竜児、私にも貴方の考えが見える!!」
今日の……いや昨日からの大河は絶好調だった。
ストッパーの壊れた……否。
そんなものは最初から無いF1カーのごとく大河は走り出す。
自身のマンションのロビー……を突っ切りエレベーター……などは使って等いられない。
階段を一気に駆け上り再び自身の部屋へと舞い戻る。
ガチャンとドアを開け飛び抜けるように部屋を突っ切り寝室へ。
ガラリと窓を開ければほら、そこには。
「そう、これは竜児による恋の試練」
かつて高須家への侵入に使ったベランダ。
竜児の思惑云々はともかく、ここからなら高須家のへの来宅……もとい不法侵入は可能だろう。
現在時刻AM00時28分10秒……確認。
脅威のスピードでここまで彼女は戻ってきた。
運動部がその様を見たならどこも引く手数多だったろうが、幸か不幸か目撃者はいない。
そしてそれは彼女を止める者もまたいないことを示し─────
「とぅ─────」
─────ひらりとスカートが舞い、隠れた三角の秘境がアングルによっては絶妙に見える……までは行かない─────
ドン!!と音を立てて着地した彼女に犯罪まがいの家宅侵入を再びをさせるには十分な結果となる。
そして、先程彼女の見た?通りこのベランダの鍵は……開いていた。
気配りの高須らしくないと思う無かれ。
ここから侵入できる輩など、彼女以外にはいないのだ。
それはつまり、彼にとってここは鍵をかけるに値しなく、またそれだけの信頼も彼女にはあるのだ。
「そう、つまり竜児は私を待っているのよ」
……かどうかは定かではないが。
だが、鍵は開き、逢坂大河の入室を許してしまったのは紛れも無く……変えようの無い事実。
ガララ……と静かにガラス戸が開き、もう彼女を阻む物は何も無い。
「………………」
強いて言うなら、この暗闇とすでに目の前にある薄い戸一枚と言った所か。
大河は、一呼吸置き、ごくりと息を呑んでから戸に手をかけた。
現在時刻AM00時33分20秒……確認。
日付を超えて、既に2,000秒が経過していた。
スラッと静かな音を流して戸を開く。
そこには、もう幾日も顔を会わせていなかったような錯覚すら思わせる彼、高須竜児の寝姿があった。
犯罪者の一歩先を行くような三白眼は閉じられ、規則正しい寝息を立てて、思い人はすやすやと布団で横になる。
恐らく、夕飯のミートソース(一応肉だ)を二人で食べた後、興奮していた大河があっという間に帰ってしまったので竜児も早めに床についたのだろう。
「……寝てる」
呟いて、力が抜ける。
拍子抜け、とでも言うのだろうか。
先程までの燃え、いや萌え滾るような情熱はどこかへと吹き飛んでしまい、あるのは耳に届く竜児の寝息のみ。
冷静になった頭で、竜児の頭の近くに正座して座り、顔を覗き込んでみる。
「……スー……スー……」
何の表情も映さない無垢なる竜児の寝顔は、見ているだけで今までに経験したことが無いほど心静かになれた。
「可愛い……かも」
閉じられた竜児の顔を見て、ついそう声を漏らす。
本人が聞いていれば、顔をウサギの目よりも赤くして驚き照れた事だろう。
今までに恐いと言われた事こそあれ、可愛いなどと言われた事のおよそ無かった竜児。
彼は今、自分の預かり知らぬ所でその顔が恐い以外の評価を受けた事を知らずに眠り続ける。
大河はその竜児の様を眺め続けた。
不思議と退屈はせず、むしろ飽きるなどという兆候すら見られない。
何事も飽きっぽいと自覚する自分がここまで一つのことを行うのは珍しいとも感じる。
現在時刻AM02時30分00秒。
気付けば、竜児の寝顔を見ているだけで二時間もの時間を消費していた。
しかし、飽きることは無い。
胸が膨らんで、萎む。
口が開いて、閉じる。
僅かに身じろぎ、時々寝返りをうつ。
そんな些細な竜児の動作を見続けているのが、胸の中から温かみをもって喜ばしく感じる。
普段なら正座しっぱなしの足がとっくに痺れている頃だろうに、そんな感覚すらも無い。
いや、それは恐らく気付いていないだけだろう。
いつしか、大河は目を擦り、船を漕いでいた。
こっくり……こっくり……と首が上下する。
「……ん、竜児……キス……」
その言葉を最後に、大河はパタンと竜児のお腹の上に頭をのせる。
同時に足を崩し、女の子座りになって、
「……スー……スー……」
静かに眠りにつき始める。
お互いの胸の動きが連動し、まるで合わせるかのように呼吸音が無音の闇に唯一の音となって響く。
日が昇るにはまだ時間があるがしかし、眠っていられる時間はそう長くは無い。
現在時刻、AM02時46分40秒─────
***
犯罪を犯した者は得てして、
「俺に身に覚えは無い」
などと言う。
対して、冤罪をきせられた者は、
「俺はやっていない」
などと言う。
簡単に言って、言葉での区別などつかない。
「でも、それでも、俺は何もやっていないんだ」
区別がつかないから、その言葉は信じてもらえるかは相手次第。
たとえそれがガリレオ・ガリレイのような言い回しをしたとしても、そこにはミジンコ一匹分もの温情措置すら入らない。
だが、だからと言って目が覚めたばかりの高須竜児は収まらない。
何が収まらないって……それはまぁいろいろだ。
彼も男だ。
今は朝だ。
いろいろあるのだ。
うん、そういうことにしておいて欲しい。
ここでは深く、詳細な描写はしないクオリティでお願いしたいというのは些か我が儘な望みだろうか。
目覚めたばかりの頭で高須竜児は考える。
それは決して我が儘な望みでは無いと。
むしろ、そうある方が世の為人の為、そして何より自分の為であると。
閑話休題。
そのような現実逃避にも似た思考のエスケープを果たしてからようやく、今ある現実に再び向き直る。
今居るのは、自分の部屋─────確認。
自分は今目覚めたばかり─────確認。
やましいことは何もない─────確認。
見えるのは茶色の髪の毛─────確認。
自分の上に乗ってる何か─────未確認。
時々動いて声を発してる─────未確認。
それは俺の知ってる奴だ─────未確認。
逢坂大河が俺の上にいる─────未確認。
「俺は何もしていない」
ウン、と一つ頷く。
が、これを誰かが見れば、誰もソレを信じてはくれないだろう。
「いや待て、大河は制服を着ているじゃないか!!」
しかし竜児は無謀にも言い逃れをし、可能性に縋り付く。
その様は滑稽と言うに相応しく、そういった輩には天誅ならぬ人誅がくだるものである。
「……ん」
小さい、本当に小さい声を上げて大河はぱたりと動く。
ファサ……と赤い上着がはだけ、Yシャツのボタンが上から四個程外れている。
(ってそれ、ほとんど半分以上じゃねぇか!?)
今朝からいろいろある竜児は、やっぱりいろいろな理由で、さらにいろいろ重なり合って、詳細にしないクオリティがいろいろなことになる。
「……俺は何もしていない。俺は悪くない、俺は何もしていない、俺は何も悪く無い」
念仏のように唱えるその言葉は、既に有罪判決を受けた容疑者のソレに等しい。
「ふぁ……んっ」
「うがぁっ!?」
しかし、それもここまで。
天誅ならざる人誅がここにくだる。
大河の姿勢が段々とズレ始めていたのは気付いていた。
最初、竜児のお腹にあった頭は段々と足の方へと移動し始め、大河の顔が竜児の顔に近づかないのはこれ不幸中の幸いと踏んでいたのだが。
最後の大河の一声と共に、黒いソックス……もとい足蹴りが跳んで来る。
先程から、無実をブツブツ連呼する竜児も、『何故か一箇所に視線を向けていた』せいもあって、それをよけることは出来なかった。
蹴りを顔面に食らった竜児は、スローモーションに仰け反り、空中での自分の自由意志などは働くはずもなく、ただ一点を見ること強いられる。
揺れるスカート。その秘奥、神秘とも呼ばれる天の園。
真っ白い、男が見るには憚られる……三角のソレを。
無論、相手はこの事を知る由も無ければ意図も無い。無いが、しかし。
「……俺は悪……いことをしてしまった……」
布団に落ちた本人に、罪の意識を与えるには十分だった。
とりあえずここまで。
途中でまたタイトル入れ忘れてる事に気付いて慌てて入れた。
>>69 乙です!
ズレっぷりがどんどんひどくなって、2828です。
今日のキス… シロギス ワロタw うまい!
気づけよ、ってウブな竜児には無理な相談だな・・・
>>69 いやー面白かったですGJ!
大河の暴走っぷりは笑えるし、情感たっぷりというかHIGHな地の文にパワーがあってすごい。
見習いたいものです。
72 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/19(土) 21:34:49 ID:4h49pcBe
>>69 相変わらず大河が暴走しまくりでいいねえ
あと
>>64で出汁が山車になってるな
>>69 GJ!です。
>>71さんがおっしゃってるように、地の文がいいです。
カウントダウンから一気に突っ走る大河の様子が秀逸!
えー、さて とらドラ!, againを書かせて頂いている者です。
キリのいいところ(シリアスっぽくないところ)まで書いて、投下しようと
思っていたら、またずいぶん時間が経ってしまいました。辛いままで放置してすいません。
なんか結構な量になってしまったので、推敲しつつ、1-2日で3回ぐらいに分けて投下したいと思います。
前回の投下時にコメントくださった方々、有難うございました。辛気くさい話にもかかわらず、
レスを下さって感謝です。投稿後、すぐスレを見られなかったので、返答できずすいません。
あとから順を追って読んで、「シリアル」に和んでいたら、そのあと思わぬ展開に吹いてしまいました。
前スレ「Vol.15 モグモグ妄想」の
75 からの続きになります。
あ、ちなみに 前スレ 75は、原作1巻 大河がラブレターの件で竜児に夜襲をかけて、
空腹で倒れた後の回想です。分かりにくかった方、すいません。
では、5レス投下します。
地方で研修を受けていた竜児は、金曜の夜遅くに自宅に帰ってきた。
大河がいる店を訪れた翌日には、元2-Cの仲間達に連絡を取り、明日土曜日の夕方、弁財天国に集まる
ことになっている。奇跡的にもこの忙しい師走の只中に、北村を除く、全員が集合できると言う。
「いや、奇跡じゃねぇな。みんな心配してくれてるんだ。大河のこと…」
古びた階段を昇りながら、竜児はぽつりと呟く。
亜美はその日に海外ロケから帰国して、成田空港から直行すると伝えてきた。
週刊誌の記者である能登には、他の仲間よりも詳しく大河の状況をメールと電話で伝えておいた。
北村は忙しいのか、ケータイも繋がらず、メールにもまだ返事が無い。
竜児には大河を見つけたことを伝えなければならない、大切な人がもう1人いた。
そう、大河がいなくなった後、丸3日間寝込んでしまった竜児の母、泰子だ。
「泰子、帰ったぞー」
竜児が玄関のドアを開けて中に入ると、ちょうど泰子も弁財天国を閉めて帰って来たばかりのようで、
風呂の支度の真っ最中だった。
「竜ちゃん、おかえりー。にゃはー」
この母は24時間以上顔を合わせなかった時には、必ずこうして抱きついてくる。もう少しで四十路に
なるというのに全く変わらない。だが、邪険にできないのは、照れくさいが竜児も嫌ではない証で…
「お仕事お疲れ様! いっぱいお勉強してきた?」
「いや、もう社会人だから勉強って言われても…」
「だめだめ、若いうちはいーっぱい勉強して、どんどん賢くならなきゃね!」
「まぁ、研修中の身だから間違っちゃいないんだけどな。それより泰子、明日よろしく頼むな。
急に大勢で集まって悪いけど」
「ぜーんぜん、大丈夫だよ。みんなに会えるんだよね。久し振りだね。楽しみだね。
大河ちゃんも来れば、いい…のに…ね」
楽しそうに目を輝かせていた泰子は、大河の名前を口にしたとたん、俯いてしまった。
「あ、あのさ泰子、大河のことなんだけど」
「見つけたの? 会ったの?」
ギン!と顔あげて、泰子は竜児に期待に満ちた目を向けてくる。
「え、あ、いや、そ、そうなんだけど…」
なんで大河の名前を口に出しただけで、そこに繋がる? 超能力者なのか?やっぱり。
「やったー! 竜ちゃん、大河ちゃんに会ったんだね。やっぱり大河ちゃんがいなくなるなんて
絶対無いって、やっちゃん、言ってたでしょ! ねぇ、明日も来るんでしょ?」
「いや、あ、明日は無理なんだ…」
「えぇー、ひどーい。大河ちゃんだけ仲間はずれにするなんて、竜ちゃんひどいよ、冷たいよ。
ねぇ、じゃあ、いつ来てくれるの? 来週?再来週? 来てくれるって、お嫁さんにじゃないよ、
やっちゃんそこまで欲張りじゃないからね。お店に来てー、やっちゃんのお料理を食べてもらうの…」
言えねぇ。
大河の名前1つで、ここまで盛り上がる泰子に、今の大河が置かれている境遇はとても言えねぇ…
それこそ「やっちゃんが助ける!」と有無を言わさず乗り込んで行きそうだ。
とりあえず、この場は何とかごまかして、泰子対策はまたゆっくり考えるしかない。
「ぐ、偶然すれ違っただけなんだ。え、駅のホームで。お互いに電車の出発時間だったから、
一言二言しか話せなくて。残念だったけどまた連絡くれる、ってことになってる。大河から」
「えー、そうなのー」
「大河も色々忙しいらしくてさ、こっちに来られるようになったら、必ず教えるって言ってたからさ、
待っててやってくれよな…」
「ふーん… そーなのー? なんかつまんないー やっちゃん、お風呂はいるー」
泰子はブーたれながらも、事情を察したのかそうでないのか、それ以上詳しく聞いてこようとしなかった。
竜児はホッと安心のため息を漏らすと、スーツを脱いでハンガーに掛け、丁寧にブラッシングしてから、
ここ数日間の衣類が溜まった荷物を解きはじめるだった。
翌日、竜児は久し振りに自宅の掃除、洗濯、片付けを心行くまで堪能すると、大勢の仲間を迎える
仕込みを手伝うつもりで。早めに弁財天国に向かうことにした。
泰子は商店街でのクリスマスイベントの会合があるとかで、朝から出掛けていき、そのまま店に
出るようだ。昨日話した大河のことも聞いてこなかった。
研修に行った地方の名産品を片手に、ぶらぶらと商店街に向かって歩いて行く。
これでタイ風エスニック焼うどんでも作って、皆に振る舞ったら、さぞかし好評だろう。
となると、やっぱりナンプラーとパクチーは欠かせないな、じゃあ、あの店で調達するか、と
レシピと手順を考える。それは、竜児にとって心休まるひとときの一つでもある。
大河を救い出すことを忘れて、うつつを抜かしているのではない。あの夜から、何度も何度も考えてきた。
考えは堂々巡りとなり、まだ、これという方法は見つけられていない。行き詰まった時は一度考えるのを
やめた方がいい、もしくは他人に話すか、だ。
今日の集まりはその大事な機会になる。だから一度頭をリセットしておきたい…商店街のはずれにある
アジア系雑貨や食品を扱っている店を目指しながら、竜児はそんなことを考えていた。
その時、通りがかった路地の向こうから奇妙な音が耳に飛び込んできた。
「げぼぉっ!」
何の音だ? 人の声? そう何か吐くような…
ふっと路地を見ると、15m程奥の角で、男が地面に手をついて、苦しそうに呻いている。
辺りに人は少なく、その様子に気付いた人は他にいない。用事のある人は足早に通り過ぎていき、
考え事をしながら、ぷらぷら歩いているのは自分ぐらいなものだ。
男と目が合った。
「た…すけ…て…くれ」
と男の口が動いたように見えた。白いものが混じった髪を短く刈り込んだ、痩せた初老の男。
大河がいる店のマスターを少し思い出す。
目の前で苦しんでいる人を放置できるヤツの中に、高須竜児の名前は含まれていない。
竜児は迷わず、四つん這いになっている男に駆け寄ると声を掛けた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、す、すまんな… も、もう大丈夫…だ。すまんが、ちょっと手を貸してくれないか…」
「あ、はい」
そう言って手を伸ばした瞬間だった。
「え?」
男は竜児の背面に回ると、両脇から手を入れて、竜児の身体をガッチリと掴んだ。
一瞬なにが起こったのか判断がつかない程の早さ、身のこなしだった。
「ちょっ、と、な、なんだよ、何すんだよ!」
抗議の声をあげたが、全くとりあってもらえず、路地の奥へと強い力で引き摺られて行く。
そして、L字型の路地の角を曲がった瞬間、もう1人の男が立っているのが視界に飛び込んできた。
こちらは見た目がとてもわかりやすい。黒のスーツにグレーのシャツ、赤の派手なネクタイに
オールバックの髪。コートの類いは着ていないが、白いマフラーをマフィア風に結ばず掛けている
誰がどう見たって、ヤクザ者と分かる容姿だった。
「ははーん、噂には聞いてたけど、お前、ホンマ目つき悪いなぁ。絶対筋モンやと思てまうわ」
柄の悪い関西弁を話す男は竜児の顔を舐め回すように見ると、これから始まることが楽しみだという風に
にやりと笑った。背後では相変わらず、初老の痩せた男ががっちりと竜児を羽交い締めにしている。
「ところで兄ちゃん、例のちっちゃい姉ちゃんに会うたんやってなぁ。とら? たいが言うんやっけ?」
「な!」
何故、大河のことを知ってる? 竜児の頭の中が激しく混乱する。
「で、どこにおんねん。ちっちゃい姉ちゃんとそのオカンは?」
「し、知らねぇ…」
パンッ
いきなり頬に衝撃が走り、軽い痛みと共にじわりと熱を帯びてきた。
昔に喰らっていた大河の「ビンタ☆」に比べたら、蚊にさされた程だが向こうもまだ手加減しているのだろう。
「お前、ナメた口利いとったら、しばきたおすぞボケ! お前らが会うたんは知っとんのや、
さっさと居場所言えや!」
ヤクザ者は、そう言うと手のひらと甲で竜児の頬を左右交互にピタピタと叩き、最後に顎をぐっと掴んで、
万力のような力で締め上げてくる。
だめだ。どこで知ったかは分からないが、こんなことでペラペラと喋る訳には行かない。
どうする? どう切り抜ければいい……
* * * * *
その頃、すぐ近くの表通りを、大学生のカップルが楽しげに歩いていた。
2人の背丈の差はあまりなく、どちらも優しげ瞳に明るい髪の色、彼女の方はやや赤がかかっている。
彼氏はネイビーのダッフルコートにカーキのチノパン、彼女はオフホワイトのモヘアのセーターの上に
ピンクのコートを羽織り、チェック柄のスカート。コートの間から時折覗くセーターの下の2つの大きな
膨らみは隠しようがなく、彼女はそれを押しつけるかのように彼氏の腕にしがみついて、ぴったりと
寄り添いながら歩いている。
2人は歩きながら、時折見つめ合い、ニッコリと微笑みを交わしては、辺りにピンク色のオーラを
振りまいていた。
その時、ふと彼氏が歩みを止めて、少し険しい顔でポツリと呟いた。
「なんか… 嫌な予感がする…」
「ひっ! 久し振りに来たの? まさか、何か起こるの? 」
彼女は怯えたように、急に辺りを見回し始めた。
「え? あぁ、たぶん僕は大丈夫だよ。でもあの辺になんか嫌な感じがするんだ」
と、先程、竜児が入って行った路地の方を指差した。
「ちょっと気になるから見てくる。ここで待ってて」
「ちょ、ちょっと待ってよ。私も行くー」
そろりそろりと路地に入って行く彼氏の後を、彼女も慌ててついて行った…
「どや? 兄ちゃん、何か思い出したか」
顔の下半分をギリギリと締めつけられながら、竜児は昨日泰子に口から出任せで話したことを
思い出した。
「ふぁうにはふぁった」
「なんや?」
ヤクザ者が竜児のアゴから手を放す。
「はぁはぁ… あ、会うには会った、でも居場所とか聞いてない」
「はぁ?」
「え、駅で偶然すれ違っただけなんだ。一言二言、どうしてる、元気か? なんて話したけど、
それ以上は何も…」
ガッ
ふたたびヤクザ者の手が竜児のアゴをがっちりと掴んだ
「……お前なぁ、そんなしょうもないウソ、通用するとおもってんのか、あぁ? いっぺん痛い目みんと
分からんらしいなぁ。おい、おっさん、代われや」
「はい」
そういうと竜児が逃がれる間もなく、2人は羽交い締めの役を交代し、さっき竜児が助けようとした男が
視界に入ってきた。四つん這いになって吐くフリをしていた時は、しょぼくれた姿に見えたが、今、眼前に
立つ男は、年齢こそ初老の部類だが、引き締まった体躯に、鋭い目つき、先程からの軽やかな身のこなしと、
間違いなくボクサーかなにかのプロの世界にいた人間であることは、格闘技にうとい竜児でも分かる。
「お前、覚悟せえよ。コイツはボクシングの元日本チャンプでなぁ。ちょっと痛いじゃすまへんで。
たぶんあと30秒後には昼に食うたもんとご対面やな… オイ、やったれ!」
「…坊主、悪いな」
竜児に向かってそう囁くと元ボクサーの男は半歩下がった。
マズい、これは本当にマズい。逃げなければ、と身体を揺するが、ヘラヘラしたヤクザ者もやはり
いっぱしの力は持っており、体格では勝っている筈の竜児の身体をビクともしない力で押さえつけている。
「心配するな。内臓には影響の少ないようにする。むしろヘタに避けようとしないことだ。余計に痛むぞ」
元ボクサーがさらっといってのけた。
こ、この冷静さが恐ろしい… 今、“助けて”と大声で叫んでも男の声ではとても表通りまで聞こえない。
周りの建物に住んでいる人も少なそうだし、どうすれば、どうすればいい?
竜児の目を見つめたまま、元ボクサーは拳を軽く捻りながら、ゆっくりと右腕を後ろに引く。
来る!
もう、駄目元でもいい、叫ぶしか無い。
「たす…」「だぁれかぁー! たーすけてぇええーーーー!!!!」
竜児の声をかき消すように、突然、路地裏に黄色い、いやピンク色の若い女の声が響き渡った。
「何?」「何や?」
ヤクザ者と元ボクサーが動きを止め、路地の角の向こうの声の正体を探ろうとした時、今度は反対側から、
若い男の声が響いた。
「おまわりさん、こっちです。来てください!!」
振り返ると、ネイビーのコートをまとった若い男が路地の出口の方へ、チラリとこちらの方を見ながら、
するすると猫のように駈けて行く。いつの間にそんな距離まで近づいていたのか、気配すら感じなかった。
「仲間がおったんか。待てやコラ! 待たんかい! オイ、お前そいつ掴まえとけ。おまわりなんか嘘や、
あいつも捕まえて吐かせたる」
そう言うとヤクザ者は若い男を追って走り出した。
ヤクザ者がいなくなるのと同時に路地の角からピンクのコートを着た若い女が姿を見せた。
その姿を見て、元ボクサーは「命拾いしたな」とだけ竜児の耳元で囁くと、顔を隠すように俯きながら、
ヤクザ者が走っていた方と反対側に去って行った。
現れたのは、狩野姉妹の妹の方、大学生になってもまだあどけなさが残り、冬だというのに春めいた
雰囲気を身にまとっている、狩野さくらだった。
「えっ? か、狩野先輩の妹さん? ってことはじゃあ、あっちは黒猫お…、いや富家君だったのか?」
「さくらでいいですよ。高須先輩、大丈夫ですか?」
「あぁ、危ないところだった… って、それより富家君が」
「幸太君なら多分大丈夫だと思います。ほら」
そういうとさくらは耳に手を当て、遠くの音を聞くような仕草をする。
キキーッ、遠くで車が急ブレーキを踏んだような音が聞こえた。同時に「な、なんで車がぁああああーっ」
という、間違いなくさっきのヤクザ者の絶叫、続けてドサドサっと何か物が落ちてくる音、そして静寂…
「ね、大丈夫でしょ」
さくらは上目遣いでにっこりと竜児に微笑みかける。さっきまでの緊迫してたムードがまるで嘘のようだ。
「幸太君、最近、かなりコントロールできるようになったんですよ」
「コントロールって、ひょっとして、あの…」
竜児は、高校時代、富家幸太によって(主に大河に)もたらされたであろう不幸の数々を思い返していた。
「そ、不幸体質。あれは幸太君が真剣になればなる程、発生しやすくなるんですよ。
そして、“こんなことが起きたらいやだなー”って思ったことが起きるんです。だから今、幸太君は
必死に走って逃げて、角を曲がって車にぶつかったらと嫌だなーって、考えていたんだと思います」
「そ、それは富家君には降り掛からないのか?」
「予め分かっていたら回避できますよ。そして避けられた不幸は、別の誰かに…」
「そ、それは恐ろしいな… だけど、とにかく助かったよ。さくらちゃん、有難う」
「いいえ。あの… 逢坂先輩とまだ離ればなれなんですよね。高須先輩、絶対に逢坂先輩を取り戻して
くださいね」
さくらは竜児の両手を掴み、ギュッと握りしめるとこれまで見たことの無い真剣な目つきで、竜児に
語りかけてきた。
「私も幸太君も逢坂先輩と色々ありましたけど、ぜんっぜん気にしてませんから。高須先輩と
逢坂先輩がまた一緒になれるように応援してますから!!」
「あ、ありがとう。が、頑張るよ」
「じゃあ私、幸太君の様子、見てきますね。多分大丈夫だと思いますけど。あと駅にもいかなきゃ
いけないし」
「分かった。くれぐれも無理するなよ。相手は本物のヤク、あ、まぁいいや、絶対あいつらに
関わらないように」
「はいっ!」
そういうとピンクのコートをひるがえして、あっという間にさくらは駈けて行く。
竜児はあっけにとられたように、その姿を見送った。
一体いま起こったことはなんなんだ…? 本当に現実に起きたことなのか…
そういえば、さくらは大河がいなくなった話を知っていたみたいだが、誰が話したんだ…?
そこで、大河に会ったことをヤクザに知られたことを思い起こし、ゾッと背筋が寒くなる。
「俺、つけられてたんだ… 誰かに話しているのを聞かれた? あいつら、どこまで知ってるんだ…」
竜児は何も分からないまま、路地を離れて表通りに出た。まずこの場を離れよう、元ボクサーも
逃げたままだし、タイ風エスニック焼うどんはあきらめて、まっすぐ弁財天国に向かおう。
状況を整理するんだ、どこで漏れた? どうやって? 冷静になって考えるんだ…
途中で何度も後ろを振り返り、冬だというのに止まらない汗を拭いながら、竜児は足を早めていった。
とりあえず、1回目の投下はここまで。まだ暗くてすいません。
明日早めにもう1つ行きます。
投下の仕方を変えたので、以前まで付けていた小タイトルを無くしてしまいました。
実は単に思いつかなくなっただけ、というのは内緒・・・
これだけ長々と理不尽を描写しておきながら
状況が解決してめでたしめでたし
ではこのスレの主旨に反する
数年音信不通で離れ離れというマイナスをプラスにするくらいの
ラブラブを質・量ともにお願いしたいです
GJ!
アンチの僕としてはこの流れで終わって欲しいです!
言葉が悪かったので訂正
GJ!
最後に竜児と大河がくっつけばどんな内容でも最後はみんなGJとか長編乙と言うさ、がんばれ
>>80-82 レス頂いて有難うございます。 おっしゃって頂いたこと全てごもっともです。
なんでこんなに暗いシーンが長いのか? 本当にすいません。
勿論、このスレに趣旨に反しない方向を目指しています。
まだ眠くないので続き投下します。 接続場所が変わったので、ID変わっていますが、
>>78 の続きです。
7レス行きます。
夕方、久し振りに弁財天国にいつもと変わらぬ元2-Cのメンツが揃った。大河と北村を除いて。
再会を喜ぶ声を掛け合った後、竜児は店の一番奥にある、最近拡張したばかりの和室に皆を案内した。
いまや有名人である亜美が人目に触れにくいように、という泰子の配慮である。同時に、厨房にいる
泰子に話を聞かれないという点でも竜児には好都合だった。
互いの近況を報告し合いながら、腹が減ってはいくさはできぬ、と竜児お手製のお好み焼き&
やきそばを皆に振る舞った後、話題は大河のことになっていく。
竜児は、まだ詳しく話していなかった春田と奈々子に、大河の状況をかいつまんで説明した。
「3億! マジで?」
「ああ。今、大河が背負ってる借金の額は3億円だ」
「なにそれ? ジャンボ宝くじの1等でも当てないとだめじゃない。普通のサラリーマンのお給料じゃ、
一生掛かっても払えないわね」
「それに麻薬の密輸ルートって何? どこの刑事ドラマよ、それ?」
2人が呆然としている中、亜美は能登の隣にやって来ると、耳元に顔を寄せて話し掛けた。
「ねえ、能登君。あんたんとこの週刊誌で、私のヌード撮らない? ギャラは3億円で」
「うひょー、亜美ちゃんのヌードぉ ってえええええ?」
「春田のバカ!」
「亜美ちゃんダメよ」
「川嶋、お前何言ってんだ!」
麻耶、奈々子に続いて、竜児も思わず大きな声をあげていた。
「亜美ちゃんさ、もし俺がそんなのネタ取ってきたら、局長賞ものだけど。違うだろ、それ。
あと、羽振りのよかった昔と違って、今はそんなギャラは出ないしさ」
亜美の本心をすぐさま見抜き、冷静に答えを返す能登は、いっぱしの記者の雰囲気を醸し出していた。
それでも亜美は、最も早い解決方法と信じて引き下がろうとしない。
「バストトップもヘアも見せていい。映像でもいいよ。出してよ3億。大手でしょ、一流出版社でしょ!
ここにいる仲間ですぐ3億を稼げるとしたら、あたし以外にいない。だからあたしがタイガーを助けるの」
その時、隣で黙って聞いていた実乃梨が、亜美の肩を強く掴んだ。
「あーみん、そこまでだ。あーみんの気持ちはみんな良く分かった。でも大河は喜ばない。
むしろ、そんなことしたら、あーみんは一生大河と会えなくなるよ。いいの? それでも?」
「私は別に構わない。あいつが今の暮らしから抜け出せるなら、二度とあいつに会えなくったっていい!」
「落ち着け、川嶋。それじゃ解決にはならないんだ。むしろ余計に大河を追い込む。自分のせい、自分が
いるからって思ったら、お前どうすんだ?」
「だって、たか…す君…」
「川嶋、ありがとな。お前の気持ち、いつか大河に届けるよ。だけどもっと違う方法を考えよう」
亜美の提案が決しておかしなものじゃないというように、能登がさりげなく話を継いだ。
しかし、その口調も苦々しいものだった。
「俺、たかっちゃんから話聞いてさ、すぐにデスクに掛け合ったんだよ。父親とヤクザにこんな酷い目に
あわされてる友人がいる。記事書いて救いたいってさ」
「能登…」
「そしたら、なんて言われたと思う? そんな話、今時ちっとも珍しくない、読者も興味ないってさ。
オマケに自分の友達を記事で救おうなんて、それこそ公器の私物化だろって、怒鳴られた」
「うわぁ、キビしいねぇ…」
「なんなんだろうな、ジャーナリズムって。大切な友人1人救えず、芸能人のくっついたとか、
別れたってのばっか追いかけさせられてさ。亜美ちゃん、芸能界ってホント腐ってるよな?」
能登の投げやりな発言に、立ちどころに元2-C美少女トリオのメンバーから集中砲火が浴びせられる。
「そんな奴らと亜美ちゃんを一緒にしないで」
「久光、亜美ちゃんにグチってもしょーがないでしょ! バカ」
「奈々子、麻耶、ありがと。でも能登君の言う通り、やっぱり芸能界ってさ、色々あるんだ。
私もタイガーを探すの頼んでた興信所を呼びつけて、ヤクザの情報とか、なにか対処する方法を
相談しようとしたら、パパとママに止められた」
「え? やっぱ亜美ちゃんちの親も、そういうのあるんだー?」
「アホ、ウチの親は関係ない。ただ、1つの作品に大勢の人が関わってるんだよね、この世界。
ヤクザとトラブルになってることが、たとえ噂でも表に出たら、作品が公開できなくなるかもしれないの」
「厳しいんだね…」
「実際に裏の世界と繋がっている人達も業界にはいる。色んなリスクを考えてお前は行動しているのか、
万一の時、1人で不利益を背負えるのかって親に言われたら、何も言い返せなくなっちゃった。
だったら、この身一つでやれるのは、ヌードしか無いかなって思ったのよ…」
亜美は、能登を庇いつつ、さっきの話が考えあぐねた末の苦渋の決断だったことを告げた。
「ねぇ、他に何かないの? こう、バーッとタイガーを救い出せるようなの? たかっちゃんは
何か考えてるよね? 櫛枝氏は? バット持って殴り込み? それダメじゃん。俺バカだから
思いつかなくてさ!」
春田が何とか雰囲気を盛り上げようと奮闘するが、誰も言葉を継げるものはいなかった。
「すまん。俺もまだいい考えが浮かばないんだ…」
竜児は正直に言うしかなかった。先頭を切って考えなきゃいけないのに、ヤクザに見つかったという
混乱が尾を引いているのか、あれから何も考えが進まない。
「何? みんなおしまい? じゃ、打つ手無しってこと・・・?」
力なく、春田がつぶやいた…
「なんだお前ら、雁首そろえてしょぼくれて、お通夜でも開いているのか?」
その時、懐かしくも漢らしい声が和室全体に響きわたった。
全員が一斉に振り返ると、元 大橋高校全校生徒の心の兄貴にして、狩野姉妹の兄の方、狩野すみれが
腕を組んで、部屋の入り口にすっくと立っていた。北村祐作を後ろに従えて。
「え、兄貴? なんでここに? アメリカじゃないの? てかなんでまるおと一緒?」
麻耶が素っ頓狂な声をあげて驚く。竜児も他の仲間も頭の中が「?」だらけだ。
「アメリカはもうクリスマス休暇に入ったのでな。やはり正月は日本で迎えるのが一番だろ。
ということで一時帰国だ。なに? こいつのことか? 祐作とは今つきあっている。集まりに
顔を出すというからついてきた。それだけだ」
「それだけって?」「つきあってるって?」「“祐作”って…」
「「「「「「「ええええええーっ!!」」」」」」
後ろから、照れた顔で北村が前に出てきた。
「いやぁ、大学が同じ市内だろ、たまに連絡は取ってたんだけど、ある時、会長が、いや、すみれさんが」
「お前なぁ、何回言ったらわかるんだ、会長はやめろ、すみれって呼び捨てにしろって言ってんだろ!」
「む、無理ですよ、そんなの。で、すみれさんがある時、勉強のし過ぎとストレスで倒れて、その時に
看病してから…なんかそういうことになってしまってな、はっはっは…」
「祐作にはずいぶん世話になった。アメリカに来て、ハーバードを優秀な成績で卒業し、今はロースクールだ。
その実績と心意気に免じて、だな」
「ねぇ奈々子、兄貴、なんか顔赤いよ…」
「う、うるせぇ。私はそもそも別になんとも…」
「あらぁ、そうだっけ? タイガーとの一戦の時、ひっでぇツラで“好きなんて言ったら”とか
言ってなかたっけ? 元生徒会長さん」
亜美の毒牙がギラリと光ったが、その矛先はすぐに祐作へと向かう。
「ゆ・う・さ・くクン、ヨカッタね!」
「はは、亜美。幼馴染みをからかうもんじゃないぞ。それより逢坂は? 逢坂の件はどうなってるんだ。
居場所が分かったって一報は高須からメールをもらったが…」
「あっ…」
「そうだった…」
「「「はぁぁ……」」」
何人か同時にやるせないため息をつく。
「いやぁ、今、話し合ってたんだけどさ、ちょっと行き詰まっちゃって…」
実乃梨がバツが悪そうに頭を掻きながら、皆の気持ちを代弁した。
「高須、帰国の移動中で連絡が取れなくて悪かったが、状況を教えてくれ。会長、いや、すみれさん
にも是非一緒に聞いてもらいたいんだ。しかし、その前に高須が作ったお好み焼きを食するのが
最初の使命だな。いやー、卒業式の打ち上げ以来だ。どーれ、このエビが入った奴から頂くとするか」
北村は鉄板のうえから竜児が焼いたお好み焼きを手づかみで取り、まるでピザでも食べるように、
パクっと一切れを丸ごと口の中に放り込んだ。
「ふん!ふまぁい。実にふまぁいぞ。高須。日本の味だな、これは」
「やだ、まるお君、ソースたれてる」
「ほんっと、祐作は行儀悪いんだから…」
「ああ、好きなだけ食ってくれ、で、食いながら聞いてくれ。大河の陥っている状況は想像以上に
複雑でな…」
落ち込んだ雰囲気を盛り上げようとする北村の振舞いに感謝しつつ、竜児は実乃梨と見聞きした
大河の様子を改めて伝えるのだった。
「…ということで、今は大河は店のマスターに任せて、俺達は救う方法を考えているんだが、
いい案が無くてな、亜美、能登が考えてくれたことは話した通りだ…」
竜児はここまでの顛末を話し終えた。
「…よぅーし、そういうことなら、俺がなんとかしよう!」
拳を握りしめ、もう1人の元生徒会長がすっくと立ち上がって、高らかに宣言した。
「な、何か方法があるのか? 北村!」
竜児は、思わず声がうわずってしまうのを止められない。
さすが北村は頼りになる… 地獄に仏、さもなくば、垂らされた1本の蜘蛛の糸のように、
全員が北村を期待に満ちた目で見つめている。
「こういうのはだな、まず相手と対等に立たなきゃ行けない。それが基本だ。金融屋の場合、
そもそも契約の正当性が怪しいものだから、そこを衝こう。叩けば後ろ暗い所のある奴らだろう?
今まで相手が分からず、手の打ちようがなかったが、今は違う。
よし、俺は正月過ぎまで日本にいるから、契約の無効と今まで払った金の返還を交渉しに行こう!」
「えっ? 北村、おまえが?」
「ああ、任せとけ。ディベートなら大学で散々鍛えている。法律の知識は言うまでもない」
「でもまるお、ヤクザもいるんだよ…」
麻耶が心配げにつぶやいた。
「そっちは高須、まずお前が囮になってくれ。相手と接触して話をするんだ。いいか、こっちの
立場が弱いと思われるからつけ込まれる。そもそも向こうはイリーガルな存在だし、向こうが
欲しがっている情報はこっちが握っているんだ。交渉するフリをして、裏で警察とも連携すれば、
相手をやりこめるチャンスはいくらでも作れるぞ!」
「おぉっ、さすがは北村っちだ、カッチョええ!」
春田が立ち上がって拳を振り上げる、が、すぐに下ろして首をかしげた。
「でも、そのやり方でいいんだっけ…?」
ゴンッ!
鈍い音が部屋の中に響き渡る。
春田から北村に視線を戻すと、すみれが腰を下ろしたばかりの北村の頭を掴んで、顔面を思いっきり
テーブルに叩き付けていた。
「あちゃー、大先生…」
「やだ、まるお痛そう…」
「角だよ、カドにばっちり入ってますよ」
「眼鏡、割れてないかしら?」
「やっぱ祐作、変わってないわ… てか高須君が囮って何?」
「北村、おまえ…」
みんなのつぶやきを書き消すように、すみれの絶叫が響く。
「バカかてめえは。ここはアメリカじゃねぇ、日本だ。何を勉強してんだよっ! いいか、日本は
司法取引も証人保護プログラムも未発達だ。そんでもって、ヤクザも金融屋もそんなに甘くはねぇ。
家族や知人を巻き込んですぐ仕返しにくるぞ。逢坂がそれを最も避けたいと思っているのに
気付かねぇなんて、てめぇはなんて頭してんだ、あーあ、さっきの褒め言葉も取り消しだ」
「か、会長。しかし…」
額にクッキリと赤い筋をつけたまま、北村が顔をあげて、痛みに顔をしかめながら、反論しようとする。
「しかしもへったくれもねぇ。いいか、これはてめぇらごときの頭で、手に負える問題じゃねぇ。
ここは大人しく手を引け。逢坂母娘が自力で解決するか、さもなくば警察に行って、全てを話す準備と
覚悟ができねぇ限り、てめぇらが手を出したってどうにもならねぇ。ただの世間知らずか、頭がおかしい
のか知らねぇが、何とかしようなんて無理だ。あきらめろ」
「えっ…?」
北村とすみれの登場で盛り上がった場が、その倍の速度であっという間に冷えて行く…
起きてて良かった。
つC
「うそ… 兄貴がそんなこと言うなんて、どうして…?」
「やだ、狩野先輩って、そういうキャラ? もっと熱いと思ってたのに…」
「はん、さすがは優等生の鏡。言うことがまともすぎて話になりませーん」
元2-C美少女トリオの泣き落としや嫌みにも一切動じず、すみれは全員を睨みつけている。
しかし、北村だけは怯むことなく、食い下がって行く。
「すみれさん、いや会長。会長の方こそおかしいと言わせてもらいますよ。確かに俺が話したやり方は
マズかったかもしれません。でもあきらめろなんて、会長はそういう人だったんですか?
会長だって、逢坂のことを気骨のあるヤツだって、褒めてたじゃないですか? その友人が窮地に
陥ってるんですよ。救おうとするのがどうしていけないんですか!」
「だからっ!」
「いえ、俺は会長に止められてもやりますよ。逢坂がいなかったら、今、こうして会長と一緒に
いられなかった。だから、やらせてください!」
「だから、人の話を聞けっ!」
「いいえ、聞きません!」
「だから、そんなことをして、もしお前が刺されでもしたら、この子はどうなるんだよっ!!」
ぐいっと傾けられたすみれの右手の親指は、自分の下腹部を真っ直ぐに指していた。
「へっ?」
「この子って?」
「まさか赤ちゃん?」
「「「「「「「うそーっ!」」」」」」」」
今夜2度目のサプライズ
「“付き合ってる”ってさっき聞いたばかりなのに、妊娠? 子供? 飛躍し過ぎだっつーの…」
亜美の言葉がその場にいた仲間全員の気持ちを表していた。
すみれは自分のお腹を優しく撫でながら、やれやれと呟いて話を続けた。
「ったく、ここで喋るつもりはなかったのに、なんてザマだ。そうだよ、私の腹ん中には祐作との
子供がいる。まだ2ヶ月ぐらいだがな。クソ忙しいのにアメリカから帰国したのはそれが理由だ。
ちゃんと日本で籍入れて、両家のご挨拶ってのをやってだな。結婚式はまぁ気が向いたら、だな」
「う、宇宙飛行士の夢はどうするんですか?」
大河の話そっちのけで、思わず竜児はすみれに問い掛けていた。
「何? 予定どおり何も変わらないが? 元々、来年には日本に帰って来るつもりだったんだ。
向こうでの勉強も一区切りついたし、日本人として宇宙飛行士を目指すなら、一度帰ってJAXAに
入るのもいいという教授のアドバイスもあってな。子供も生むなら早い方がいいだろうし、すぐに
復帰して、順調に行けば、いずれNASAに行ける。それにママさん宇宙飛行士なんて、世界にも
日本にもいて、全く珍しくないぞ」
「あ、よ、良かったです…」
竜児はホッとしたように、胸を撫で下ろしている。そして、北村の方を振り返ると、一足飛びに
夢を一つ叶えた親友に軽くパンチをかまし、手荒い祝福を浴びせるのだった。
「やったな、北村!」
「大先生すげー」
「父親だよ、パパだよ、とーちゃんだよ、ひぇーっ!」
大河を助けようと振るった熱弁をすみれに思わぬ形で跳ね返されて、北村しばし呆然としてたが、
悪友3人に冷やかしを受けると、まんざら悪い気はしないというように、額に赤い筋をつけたまま、
照れくさそうに頭を掻いていた。
「いやぁ、俺もすみれさんに合わせて、来年、日本に帰国しようと思っている。ロースクールも
短期コースに変えたし、来年の後半は日本で子育てしながら、こっちの大学院通い、かな?
親には迷惑かけっぱなしになるが…」
「帰って来るのか! 日本に」
竜児はその三白眼をギラリと輝かせた。勿論“こいつ、のしてやろうか”と思っているのではなく、
喜んでいるのだ。いつ終わるか分からない大河の救出に、調子に乗りすぎるきらいはあるとはいえ、
北村が近くにいてくれれば、心強い味方になるに違いない。
「さて、落ち着いたところで、逢坂の件に戻ろうか。おっ、お前らいい所に来たな。頼んでいたものは
買えたか?」
和室の入り口を見ると、富家幸太と狩野さくらのカップルが大きめの紙袋をぶらさげて立っていた。
「買えたけど… お姉ちゃん、これ何に使うの?」
訝しげにさくらは紙袋を持ち上げてみせるが、すみれは答えず
「まぁ後で必要なるはずだからそこに置いとけ」
とさくらに伝えている。
竜児は立ち上がると入り口に立つ2人の側に来て、昼間に助けてもらった礼を言った。
「さっきはありがとう。おかげで助かった。あの後大丈夫だったか?」
幸太は軽く肩をすくめると、事も無げにさっきの顛末を話した。
「大丈夫です。あの男は車を避けた拍子に電柱に頭ぶつけて、さらにふらふらしながら積み上げた
ダンボールの山に突っ込んで、のびてましたから。僕もさっさと逃げてきたので、その後どうなったかは
知りませんが」
「そうか。君達に何も無くて、良かった」
竜児は安心して、ホッと息をついた。
「なーに? 黒猫男がまた何かやらかしたの?」
竜児の肩越しに、亜美がいじわるそうに聞いてくる。
「ちがうもん! 幸太君はもう黒猫男じゃないもん。さっきだって高須先輩をヤクザから助けたんだから!」
さくらが思いっきり、頬を膨らましながら、亜美に向かって抗議の声を上げた。
「ヤクザって、なんのこと?」
「たかっちゃん、襲われたの?」
「なんだ、まだ話していなかったのか? 高須」
「あ…、いや、襲われたって程じゃなくて…」
竜児は慌てて、否定しようとするが、
「でも止めに入らなかったら、殴られてましたよね。あのボクサーみたいな男に」
幸太にさくっと覆された。
ボコッ
「痛っ!」
竜児の頭に、実乃梨と亜美の空手チョップが2発同時に喰らわされた。こっちの方がヤクザ者より痛い。
「高須君、何でそういう大事なことを最初に話さないかなー」
実乃梨はチョップをグーに変えると、竜児の頭にグリグリと擦り付け始めた
「祐作が言ってた“囮”ってそういうこと。ひょっとして、あたしたちがビビるかと思ってたの?
あーあ、見くびられたもんだねぇ…」
亜美は竜児のアゴ先を手で持ち上げて、女王様モード全開で侮蔑のまなざしをくれている。
「いや、そうじゃない。じ、順を追って話して行こうと思っただけで隠すつもりは…」
「「問答無用!」」
「あ、イテテテテ!」
息もぴったりに、実乃梨と亜美は竜児の頬を両側からグニュッとつねりあげると
「「これで許してやるか!」」
とハイタッチを交わす。
「コントの時間は終わったか。さて、ずいぶん寄り道したが、本題に戻ろう。おまえら良く聞け、
私が高校の進学を控えた時、スーパーかのう屋がつぶれそうになったことがある。幸太、お前は
聞いたことあるよな。私が私立の進学校をあきらめ、大橋高校に入学した話を」
「はい。さくらちゃんの追試の前日、徹夜で勉強した時に聞きました」
「あの追試から始まったんだよねぇ、私達…」
「えへっ、そうだよね。さくらちゃん…」
「うふん…」「あはっ…」
2人はうっとりと見つめ合い、ピンク色のオーラを発生しはじめた。
「空気読めっつうの…」
「あんたたち、付き合って何年経つの?」
「あーあ、兄貴と大先生の子供に、いとこができるのも時間の問題だな…」
亜美と麻耶&能登のツッコミもお構いなしに、2人はピンク色の磁場を作り続けている。
「あー、姉としては心苦しいのだが、このアホどもは仕様なので放っておいてやってくれ。
で、かのう屋が傾いたのは、何もウチのオヤジとおふくろが手を抜いていたからじゃない。
昔、商売を始めた時の恩人の連帯保証人になって、その借金を負わされたからだ。
で、ヤクザに散々な目に合わされたんだよ。ウチは」
「連帯保証人… 大河と同じだ」
実乃梨が固い表情で繰り返す。
「え? お姉ちゃん、そんなことあったの? 私、知らないよ?」
異空間から還って来たさくらが、きょとんとした表情ですみれに尋ねている。
「お前はまだ小学生から中1だったからな。巻き込まれないよう、怖がらせないよう、必死に
隠してたんだよ。エグかったぞ、奴らの手口は。脅し、嫌がらせ、腐った食品を売ってるという
デマも流されかけた」
「そんなこと、あったんだ…」
家族の一大事に仲間はずれだったことを知って、淋しげな表情を浮かべるさくらの肩を抱いて、
幸太が(終わったことだよ…)と目で告げている。
すみれはしょげかえる妹の様子も意に介さず、話を続けた。
「今思えば、ウチの土地を手に入れたいがために、最初から仕組まれていたんだろうな。
親がなんとか頑張って借金を返したあとも、今度はメンツをつぶされたとか言って、下っ端が難癖を
つけたり、暴力を振るって来た。奴らは身体に証拠が残らないようなダメージの与え方だって知って
いる。本当に人間のクズだ、ダニどもだ。そんな奴らと交渉? そういうのは飛んで火にいる夏の虫
というんだ…」
竜児はおもわずみぞおちの辺りを抑えていた。
“避けようとすると余計に痛むぞ…” 元ボクサーから言われた言葉が甦る。同じだ。あいつらは
やっぱり本物のヤクザなんだ…
「警察は? 警察には届けなかったんですか?」
興味が湧いたのだろう、能登が記者の顔ですみれに聞いてきた。
「借金があるうちは民事不介入。そのあとの嫌がらせにも大した対応はなかったが、さすがに写真や
テープでいやがらせの証拠を何点か出したら、重い腰をあげてきたな。ケリをつけたのはやはり警察だ。
逢坂の場合も、最後は警察に頼らざるを得ないだろう。組織対組織、上で決着が付かない限り、ここまで
デカい話はキレイには終わらないぞ」
「だったら方針を変えて、今すぐにでも警察に力を借りましょう」
再び北村が主張を始める。
「馬鹿野郎、高須はすでに目をつけられている。身体への危機すらあった。警察に駆け込む気配が
バレたら、奴ら全力で阻止しにくるぞ。まだその時じゃない!」
「じゃあ、いつなんですか? いつまで逢坂を放っておくんですか!」
北村とすみれの言い合いが再びヒートアップしかけたその瞬間、
「あの!」
柔らかいがきっぱりとした声が響いた。
>>88 支援感謝!
一旦、ここでまでです。ベースが暗いので変わらないかもしれませんが、
少し雰囲気が変わってくれれば、と思っています。
もう少しあるのですが、見直してから、また投下します。
乙です。ってここで切るのかいっ!?w
めちゃ続き気になるし。
楽しみに待ってます。
>>92 やっと希望が見え始めた感じでしょうか。
これからの展開に期待。
長編投下直後……途中?ですが、まあインターバルというか箸休めというか、一本行きます。
とらドラ!三題噺「相談」「友情」「プレゼント」
「みのりん、ばかちー、こっちこっちー」
スドバの奥の席で手を振る大河。
「おーう大河、待たせたね」
「ううん、私が急に呼び出したんだもの。ごめんね」
「で?高須君に内緒で相談したいことってのは何なわけ?」
席につく実乃梨と亜美の前で、大河は表情を曇らせる。
「あのね……その、竜児の事なんだけど……」
「ひょっとして浮気してるんじゃないかとか?」
「何言ってるのよアンタ。竜児が浮気なんてするわけないじゃない」
ジト目で亜美を見やる大河。
「……はいはい、そーだろーよ。何たって大橋高校一のバカップルだもんねあんたらは」
「えへへ……」
「そこで照れるんじゃねーよ!」
「いやいやあーみんよ、どっちかというと高須くんに毎日求められて体が持たないーとか、そんな話じゃないのかい?」
「み、みみみのりん!そ、そんなコト、なな、ないから!」
大河はよほど慌てたのか、ばたばたとタコ踊り状態に。
「おおー、見事に真っ赤。やっぱ大河は可愛いねえ」
「……ねえタイガー、ここだけの話、ぶっちゃけあんたと高須君ってどこまでいってるわけ?」
「む、それは確かに気になる所」
ずずいっと大河に顔を寄せる二人。
「……キ、キスは、いっぱい、してる」
大河は頬を赤らめつつやや小さな声で。
「……それだけ?」
「大河ー、今更隠し事はナシだぜー」
「……な、なでなでとか……ぎゅっとしてもらったり……とか……」
「……ホントに?ホントにそれだけなわけ?」
亜美の問いに真っ赤な顔でこくりと頷く大河。
「うわー、高須くんってば紳士だとは思ってたけど……」
「実乃梨ちゃん、そーゆーのはね、紳士じゃなくって草食系っていうのよ」
呆れ顔を見合わせる実乃梨と亜美。
「だ、だって、その……そ、そいういうことは、少なくとも高校卒業してからだって。ケジメだからって」
「だけどスキンシップはしてるのよね……ひょっとして高須君、かなーり我慢してるんじゃない?」
「うーん、それは大変そうだねえ……色々と」
「わ、私、竜児に我慢させてるの?大変な思いさせてるの?」
「あーもう、泣きそうになってるんじゃないわよ。心配するほどじゃないって……きっと」
「そうそう、高須くんが自分で決めたことなんだし、大丈夫だよ……たぶん」
「そ、そうかな……」
「で、結局あんたは何を相談したいわけ?」
亜美の言葉に、大河の表情が真面目な物に戻る。
「あのね、この間までバレンタインの準備で一生懸命だったのよ」
「ああ、そういえばあんた、ずいぶん頑張ってたっけ」
「でもそれなら、このみのりーぬ☆櫛枝の友情パワーと指導でなんとかなったじゃん」
「ううん、バレンタインが問題じゃなくて……それで忘れてたんだけど、もうすぐ竜児の誕生日なのよ」
「あー、そいういえば高須くんうお座とか言ってたっけ」
「それって具体的にいつなわけ?」
「……明後日。なのにプレゼント決まらなくて……」
「なるほど、それで相談したいってわけね」
「……そうなの」
「うーん……意外に難しいもんだねえ」
「普通の男子なら手作りクッキーとか手料理とかにしとけばチョロいんだけどねえ」
「高須くんだもんねえ……」
「というか、今私竜児に料理習ってる最中だから。手料理っていうか味見してもらってるし」
「やっぱり無難にハンカチとかでいいんじゃないの?高須君なら、タイガーからのプレゼントなら何でも喜ぶだろうし」
「そういう適当な感じなのは私が嫌なの……去年の誕生日に傍に居られなかった分もあるから」
「でもさー、高須君の趣味関係……料理とか掃除とかのグッズは持ってるか必要ないかなわけだし」
「今から手作りマフラーとかってのも無理なんでしょ?タイガーの腕じゃ」
「ううう……」
大河はまたもや泣きそうに。
「……もうさ、卒業したも同然ってことでさ、タイガーがリボンつけて『プレゼントはわ・た・し』ってのでよくね?」
「おおあーみん、そいつは面白そうだねえ。高須くんも18才なわけだし、いっそのこと大河の名前書いた婚姻届もセットにしちゃうとか」
「……や、やっぱり、それしかないかしら」
決意の表情で、ぎゅっと拳を握る大河。
「……た、大河!?」
「ちょっとタイガー!今のは冗談だからね!?」
結局大河が小遣いをはたいたブランド物のタオルに、竜児は跳び上がって喜んだそうな。
>>93-94 有難うございます。嬉しいです。
もうちょっと早くにと思いましたが、見直し途中に寝オチしてしまいまいした。
◆Eby4Hm2eroさん、 中途半端にしておいてすいません。
箸休めなんて勿体無い。 いつも楽しませてもらっています。
遠慮のない、3人のガールズトークの雰囲気がいいっすねー。
> 「……キ、キスは、いっぱい、してる」
>「……な、なでなでとか……ぎゅっとしてもらったり……とか……」
もうこれだけで、ご飯1升いけそうです。
リボンは当然、裸に…?
◆Eby4Hm2eroさんのすぐ後で申し訳ありませんが、残りを投下させてもらいます。
4レス使います。
「みんな! 大事なこと、忘れてると思う!」
声の主の方を全員が振り返ると、香椎奈々子が正座したまま、背筋をピンっと伸ばし、今までに
見たことも聞いたことも無い様な迫力を目と声に宿して、全員に語りかける。
「タイガー自身が助けて欲しいって思わないと、何をやったってダメだと思うよ。言うじゃない、
溺れている人に浮き輪を投げても自分から掴まらなきゃ沈んでしまう。崖から落ちそうな人の腕を
掴んでも互いに引き合わなければ、引き上げられない。交渉とか警察とか色々話してるけど、
タイガーが力を貸して欲しいと思わなければ、きっと失敗する。まず、一緒に力を合わせるよう、
タイガーを説得するのが先じゃないのかな?」
「奈々子… すごい…」
今まで見たことのない親友の姿に、麻耶が驚いたように奈々子を見つめている。
「ほう… お前らの中にもまともなことを言う奴がいたんだな。感心感心」
すみれは腕を組んだまま、満足そうに微笑んだ。
…いや、それは難しいんじゃないか… 竜児はそう考えていた。
バーで見た大河の心は頑なで、とても竜児達を頼るようには見えなかった。だから大河を縛るものを
取り除く方法がなければ、大河は振り返ることすらできない… そう発言しようとしたその時…
「私がやるよ!」
という実乃梨の大きな声に阻まれた。
「奈々子ちゃんの言ってること、正しいと思うよ。うん、私もそう思う。だけど大河の決意は
厚くて固い。だから最初に私がぶつかる。破れなくても穴ぐらいはあけられるかもしれない。
その次は高須君、キミの出番だ。大河の心を本当に掴めるのはキミだけだよ」
「くし…えだ…?」
今や全員が竜児を見て、期待に満ちた視線を送っている。ここで実乃梨を否定する様な発言は
もはや絶対にできない。
「分かった… しかし…」
「高須君! また大河に拒絶されるんじゃないかと思ってるんでしょ。だから最初に私が行く。
女子ソフトボール日本代表の1番打者、この櫛枝実乃梨がね。私はきっと塁に出る。三振なんかしない。
でも四番打者はキミだ。必ず大河の心を打ちぬいて。大丈夫、きっとできるよ。私には分かる。
キミの想いのままにぶつかれば、必ず大河を説得できる」
かつての想い人にここまで熱く言われて、否定できる人間などいやしない。実乃梨の熱が伝わってきて、
ようやく竜児の中に力が芽生えてくる。大河を救うのに手順や方法ばかり考えていても仕方がない。
まず、大河と共にあらねば。そうだ、ぶつかるんだ、心のままに。一緒に戦うという信念で掴むんだ、
大河の心を、その全てを…
「高須君、来週はXmasだ。私はイブの前の日に行く。高須君はイブの日だ。大河に最高のクリスマス
プレゼントを用意しようよ。サンタは…キミだぜ!」
実乃梨がウインクしながら、親指を立てて、同意を求めてくる。
「ああ、任せとけ! 俺がやらなきゃ、誰がやるんだ!」
竜児は実乃梨にサムアップを返すと、力強く頷いた。
「じゃ、次の一手はこれで決まりかな? 私もあんた達ならできると思うよ。かつてのパパ役、
ママ役、子供役なんだから、あんた達で破れなきゃ、きっと他の誰にも無理だと思う。私はまた
海外ロケで来週いないけど、何かできることがあったら言って」
自分が加われないことの悔しさを押し隠しながら、亜美も竜児と実乃梨を勇気づける。
「あとみんな、続けて考えようよ。狩野先輩に“てめぇらごとき”なんて言われっぱなしじゃ、
悔しいじゃない。私達だからできることが何かあると思うよ」
そう言って、亜美は挑戦的な視線をすみれに送るのだった。
「ほう、いい目してるじゃねぇか。やれるもんならやってみろ。但し、覚悟と自信がなかったら
決して無理をするんじゃねぇぞ。このヤマは大きく動いたら、二度と引き返せない。いい加減な
やり方なら、私が断固阻止するぞ。だが、やる時は徹底的にやるがいい。私も微力ながら考えよう。
逢坂を救い出す方法を…」
そして、すみれがさっき言った「あきらめろ」は、安易な考えしかできなかった自分達への檄だったことを
その場にいた全員が知るのだった。
* * * * *
「さて、こっちが固まったところで、もう1つ対策が必要だな」
すみれは竜児の方を振り返ると“分かってるんだろうな?”という視線を送って来た。
「え、もう1つ…って?」
「馬鹿野郎、ヤクザだよ。高須、お前はもうマークされてんだろ? 自宅の場所だって連中は
知ってるだろうし、盗聴だってやりかねない。そんなところにのこのこ帰って、また掴まりたいのか?」
「そ、そうだった…」
再び竜児の背中に嫌な汗が流れ出す。そしてあることに気がつき、襲われた時よりも、
ずっと恐ろしい想像を引き起こした。
「泰子…… 俺はまた明日から地方の研修所に戻って、12月一杯はずっとあっちなんだ。
大河を救うのには都合がいいけど、その間、泰子は誰が守るんだ…」
泰子が危険な目にあう恐れがあるのなら、とても1人はしておけない、いっそのこと一度捕まって
泰子は無関係だと話した方がいいのか? すみれが言う、汚いのやり方とはこういうことか。
自分が踏み込んだ領域が引き起こす影響をリアルに感じて、竜児は動悸が激しくなるのを感じた。
「安心しろ、高須。ちゃんと対策は考えてきた。警察に行け」
竜児は小さな目をほんの僅かに丸くして、すみれを見た。
「狩野先輩、さっきは警察はまだ早いって…」
「ばーか。人の話は最後まで聞くもんだよ。何も逢坂のことで警察に行くんじゃない。ストーカーに
狙われているとでっちあげるんだよ。かのう屋が狙われた時に私が使った手だ。
連中はいきがっていても、警察の目に触れるのは苦手だ。警察もか弱い市民が被害を訴えれば、
一応、何かの動きはするだろう」
「ひょえー、さすが兄貴、頭いいー。でもそんなんで警察がボディガードをしてくれるわけ?」
春田が感心しつつも、疑問をつぶやいた。
「なに、たまのパトロールで見回りが来て、警官の姿を見せるだけでも抑止になるんだよ。
といっても高須、てめぇのツラじゃ、ストーカーには狙われねぇよなぁ」
「いや、意外とマニアックな人がいるかもよ。高須君、結構いい身体してるし。勿論、お・と・こで」
「うふ、亜美ちゃんたら… でも慕ってくる後輩とかいるかもー」
かつてストーカーの被害にあったこともすっかり忘れて、亜美が奈々子といたずらっ子のように、
チャチャを入れてくる。
「あー、そこ、外野うるさい。ということはだな、高須のお袋さんに嘘の被害届を出してもらわなきゃ
ならないんだが、どうだ? できそうか」
「いや、それはダメです。泰子に何故嘘の届けをするのか、説明が必要ですよね。それには大河のことを
話さなきゃいけない。まだ泰子には伏せておきたいんです。もし大河の状況が分かったら、泰子はきっと…」
「ということらしいが… 祐作、お前の読み通りだな」
「ま、付き合いの長い友ですから、それぐらいの思考は読めますよ」
「で、これが必要になってくると…」
北村と謎の会話を交わすと、すみれは、さくらが弁財天国に来た時に持っていた紙袋を引き寄せた。
「さくら、ちょーっとこっちに来い。こっち向いて、そこに座れ」
「えっ?」
何か嫌な予感を感じたのだろう、さくらは怯えた様子を見せるが、姉には逆らえず、言う通りに座った。
「ピンクのグロスは幼く見えるから、落としてだな。この赤のルージュで」
「ちょ、ちょ、ちょっとお姉ちゃん、何するの?」
「何って? ただの人助けだ。黙って座ってろ。よし、まぁ、メイクは簡単でいいだろう。そして仕上げは…」
そういうとすみれは紙袋の中から、金髪に近い明るい色の、ふわりとしたロングヘアーのかつらを取り出して、
さくらの頭にポンと載せた。
「さくら、そのままの恰好で、”えぐえぐぽええーん”って言ってみろ。ちょっと、こう、胸を寄せてな…」
「え? 何それ、えぐえぐって一体?」
「つべこべ言わず、やってみろ! ほら、立て」
「え…、えぐえぐぽええーん… ってこう?」
「「「「「おおぉぉぉぉー」」」」」
そこには竜児がまだ小学校に入る前ぐらい、夜遅くまで託児所に預けられ、足音に耳を澄ませていた頃に、
瓜二つの泰子の姿があった。しかし、この姿を泰子が見たら…
「ほぉ、なかなかいい出来映えだ」
「似てるぞ、確かに泰子さんに見える。思っていた以上だ」
すみれと北村は自分達の発案ながら、予想以上の成果にご満悦。
「なんか胸のあたりが、特に似てね?」
春田は臆面もなくエロ発言。
「狩野先輩、もっとメイクも大人っぽいのに凝りましょうよ。あと衣装も替えられるといいのに…」
すみれの意図を理解し、触発された亜美が、メイクキットを漁りだした。
すかさず、奈々子と麻耶が寄って来て、アイラインはどうだの、チークはこうだの、と盛り上がり始めている。
1人冷静な幸太が抗議の声をあげている。
「ちょっと皆さん、何言ってんですか? さくらちゃんはさくらちゃんですよ。誰にも似てません!
春田先輩、いやらしい目でさくらちゃんを見ないでください。高須先輩まで、なに目を潤ませてるんですか!
不幸呼びますよ!」
「え、あ、すまん… いや、俺が子供だった時の泰子をちょっと思い出しちまって… 」
タイミングがいいのか、悪いのか、泰子が食後のデザートを持ってやってきた。
「はぁーい、みなさーん、アイスクリームだよ…… あれー? もう1人やっちゃんがいるー。
私はやっちゃんだよね。あっちも…やっちゃん? やっちゃんが2人? どっちが本物? あっちの方が
ちょっと若い? あ、分かった昔のやっちゃんがタイムスリップしてきたんだー。こんにちわ、昔のやっちゃん。
これからとーってもいいことがたっくさんあるよ!」
「いや、泰子、こ、これはだな…」
「泰子さん、今、物真似大会やってるんです! ところでこの店に泰子さんの服は置いてないですか?」
「あるでガンスよ。たまーに、毘沙門天国にヘルプに行く時のお洋服が厨房の奥のロッカーに…」
「ウソ、やったっ! ちょっとお借りしまーす」
亜美が一般人の目に触れるのも厭わず、泰子の洋服を借りに厨房へ走っていった。
「はーい、これから着替えるから、男子は退出退出ーっ」
麻耶がさっさと男共を追い出しにかかる。
「やれやれ、こうなったら、誰も止められないな」
能登があきらめたように、さっさと外へ飛び出す。
「いやー、お化粧とかは良く分からんぜよ」
と男子と一緒に外へ出てきた実乃梨は、やおら春田を掴まえると、ごにょごにょと何かの相談中。
春田は「オッケー! 櫛枝っち、きっと大丈夫だよ」と能天気な返事をしている。
「いやーん、やめてー、脱ぐから、自分で脱ぐから、いやー」
さくらのひときわ高く刺激的な悲鳴が、閉め切った襖の向こうから聞こえてきた。
「やっぱり不幸になるんだ… このメンツだと」
幸太1人、おもちゃにされる恋人を守れず、がっくりと床に手を付いて、落ち込んでいた…
* * * * *
結果的には、さくらによる泰子替え玉作戦は、思いの他うまく行った。
変装が終わった後、仲間たち全員で警察署に向かい、生活安全課の警察官に事情を説明した。
現役を退いたとはいえ、地域唯一のスナック「毘沙門天国」のかつてのママとして「永遠の23才」の
異名を古参の上司から聞かされていた若い警察官は、ストーカーに狙われているというでっちあげを
容易に受け入れ、地域のパトロールコースに暫くの間、高須家が組み入れられることになった。
後に噂が大きくなり、稲毛酒店の主人をはじめ、毘沙門天国のかつて常連さんが、弁財天国を閉めた後の
泰子を交代で毎日自宅まで送ってくれるという効果もあった。
泰子が「ストーカーさんなんか知らないでガンスよ」と言っても、
「あいかわらず魅羅乃ちゃんは奥ゆかしいねー。いやいや遠慮しないで」
と取り合わってもらえなかったので、疑問に思いながら、
「ま、いいっかー、おしゃべりできて楽しいし、竜ちゃんいなくて淋しいし」と好意に甘えていることになった。
こうして、泰子に大河やヤクザの件の疑いをもたれずに、自宅周辺を警戒することができた。
細かいことにこだわらない、泰子のボケ、いやおおらかな性格に、竜児は改めて感謝するのだった。
さあ、大河を取り戻す準備はできた。あとは未来に向かって、一歩を踏み出すだけだ…
102 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/20(日) 10:20:26 ID:mw/TJjx1
暗い話と作者が自嘲気味に語ってるがちっとも暗さを感じないのはそこに希望が見えているからなんだぜ!
以上です。
一晩の間に大量投下してしまい、大変失礼しました。
最初に続きのアンカを忘れてました。
>>91 の続きです。
最後の方、駆け足になってしまいました…
弁財天国の最後は、登場人物が泰子を入れて12名。カオスです。
でも、少し雰囲気が変えられたでしょうか?
ベースがベースなので、「朗らかにー、健やかにー」とは行きませんが、これからは欝な展開はないかと
考えています。
続きはぼちぼちといきます。
先日気づいたのですが、2回目の投稿で 狩野を加納と書いていたのをまとめ人さんに直して頂いてました。
いつもすいません。本当に有難うございます。
泰子とさくらのネタは、これを見て思いついたのではありませんが、とらPお持ちの方はファンブックのキャラ紹介を
見てみると面白いかも。 そして、不幸のバッドエンド大全 北村&みのりんパートも回避だー
ちなみに、ゲームはまだプレイしていません。
俺、again終わったら、PSP本体買って、プレイするんだ… 竜虎エンド以外も耐えて見せるぜ!
>>102 有難うございます。そう言って頂けると、嬉しい限りです。
まずボリュームがすごい
各キャラの役割とか書き分けも自然で
違和感無かったし続きに期待しちゃいます
恋しくて切なく辛い時の悲しみと他者の介入で引き裂かれる悲しさは全く別物だからな。。。。悲しい話だ
こんな状況にも関わらず、とらドラメンバーなら何とかしてくれると思えるね。
ほぼ総キャラ出演は大変だろうなと思いますが、引き続き頑張ってください。
108 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/20(日) 21:33:40 ID:BCHd5oCA
>>106 だが最後のハッピーエクステンドも期待出来るものなのさあ
ハッピーエクステンドってどんな意味ですか?
バカだから良い意味か悪い意味かも分かりません。
今後のために誰か意味教えて下さい
「ちょ・・・竜児・・・ちょっ!」
「避けろ!逃げろ!」
「うわ!うわわ!あぶっ」
「あとちょっとだ、もう少し稼げ!」
「むりむりむりむり、多すぎよ!避けらんない!」
「頑張れ!がんばるんだ!」
「きゃあっ!?んもっ無理ー!!!」
「大河、BOMだ!!!!!!」
ドドーン
「あ、忘れてた、BOM使えばいいんだね」
「よし、弾は消えたから後はそこの敵を倒せば・・・」
「まーかせておいて!このっ!おりゃっ!」
テレテテッテッテッテー
「よっし、1UPきたー!これで一安心ね」
「10万点でエクステンドだな。これでこの面のボスまでは行けるだろ」
「ふっふーん。任せておいて!」
「それはいいけど、シューティングゲーやってる時に目を瞑んなよな?」
「うっさい、黙れ駄犬」
まぁ普通に考えてハッピーエンドだろねw
ググってみたら「ゲームで一定の得点になったら自機が一機増えること」と出たんだけど。。。
ハッピーエクステンドだからこの話は幸せパートに入ったら大河が1upするで良いですか?
ふざけてゴメン本当に聞いたことないし意味を知りたいです、造語?専門用語?スラング?
誰か教えて下さい!!
1、最終回に同点に追いついたので、延長戦に突入した。
2、大河のはっぴーな何かが1増えた。「コイン1こいれる」「残虐行為手当」並みの訳だが。
ハッピー(幸せ状態) エクステンド(大河の遺伝子を持つ人間が一人増える)
あとはわかるな?
誰もまともに教えてくれないならまたヘンタイss今から書いて貼るぞ!!
教えて下さい
マジレスするとハッピーエクステンドなんて言葉俺も初めて聞いた
extend
延ばす
伸ばす
広げる
拡張する
116 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/21(月) 00:21:56 ID:JAZmAfeX
>>104 大河いつ登場するの?
このままだとこのスレでやる意味なくね
>>116 大河は過去のエピソードで登場してるね。
大河の日だ― は未だに覚えてる。あれは良かったなー
>>115 やっぱり造語か何かですかね?
真剣に答えてくれてありがとうごさいます、スッキリしました。
「ねぇ竜児、ちょっとこれ見てよ」
「どうした?これか」
ttp://gigazine.net/index.php?/news/comments/20090910_man_first_look/ 「えーと、なになに『男性の半数近くは女性と出会ったときに最初に胸を見ている』……だと?」
「ふん!やっぱり男はみんなエロ犬よね」
「ま、まぁ、本能的なものって書いてあるし、そんなに毛嫌いすんなって」
「でも、おかしいのよねぇ……」
「何がだ?」
「私だって女だし、一応そういうエロい視線には敏感なはずなのに……」
「はずなのに?」
「胸元なんか見られた記憶がないわ。あ、偽乳パッド付けてた時くらいかな」
「そうか、よ、よよかったな」
「目が泳いでるわよ、竜児?」
「キノセイダロ」
「……まぁいっか。でも、何ていうの?ちょっとした疎外感を感じるわね」
「よ、良く分からねえな……」
「給食の時に私のやきそばだけ明らかに周りより少なめに盛られた時とか、
駅前で配ってるティッシュを私にだけ渡されなかった時みたいな……感じ?」
「ますます分からねぇ……そ、それよりほら、この菓子食えよ、うまいぞ」
「きっとアレよね、私の周りの男はみんな清く正しかったのよ……きっとそう……そうじゃなきゃ……」
「大河…………」
「あ……あはは……ごめんね竜児、なんか変な事言ってるわ……わたし……」
「………………」
「ちょ、ちょっと何か言ってよ……笑い飛ばしてよ……ねぇ、竜児……」
ガシッ――
「お、俺が…………」
「へっ?」
「俺が……おまえの空白を埋めてやるっ!!!」
「え……っと、竜児?どこ見ながら言ってるわけ?ねぇ、こっち見てよ。私の目を見て?」
「俺が!俺が他の男の分までおまえの胸を見てやるからなああああぁ!!!!」
「りゅ……りゅうじいいいいいいぃ!」
「おおっ、分かってくれたか、大河!!!」
「あんたいつまで胸を凝視してんのよおおおおっ!?こんのエロ犬があああっ!」
ドゴォ!――
「なんでなのーん!?!?」 キラーン☆ミ
120 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/21(月) 01:22:54 ID:6ac+kAhO
ハッピーエンドじゃもったいない
エクステンドぐらいが竜虎には似合う
って意味を込めた造語さ
またお前等変な方向で盛り上がって。これはアレだろう、
「ハッピー・エクステンド」
ってタイトルで誰かSS書けよ。ちなみにあれだ。俺は書かないから。
「オシャレ?」
「そうよ、高須君の気を引きたかったらアンタの違った一面を見せればいいのよ。どうせ高須家に行く時は適当な普段着で行ってるんでしょ?」
「そうか……いつもの私とは違った一面ね」
「アンタの家は金持ちだから無駄に高い服とか一杯あるでしょ?」
「無駄とは何よ!!」
「悪かったわよ、でも私はアンタが相談に乗ってくれって言うから答えてんのよ、自分の立場が分かってんの?」
「……分かった、やってみる」
「ただいま〜」
「オゥ、飯できてるぞって……今からドコか出掛けるのか?」
「えっ?ご飯を食べに来たんだけど」
「そんなピラピラした高そうな服でか?」
「……ヘンかな?」
「ダメだ、ダメだ。オマエはこぼしたりひっくり返したりするんだから駄目だ。着替えて来い」
「でも!」
「ダメと言ったらダメだ、その服じゃ飯は喰わせねぇ」
「…わかった、着替えてくる」
その日、私は乙女心を理解しない竜児へ抗議の為に雨ガッパで夕食の席に着いた
「グヮァァ〜!!!バカチー!」
「……ナニよ朝っぱらから」
「アンタの言った通りにやったけど全然ダメだったわよ!」
「そっか……やっぱり見た目くらいじゃアノ朴念仁には効果ナシか」
「どうしてくれんのよ、バカチー!」
「アンタね、立場が分かってんの?アンタは相談してる側、私はされてる側」
「…スミマセン、川嶋さん」
「分かればいいのよ、まだ次の作戦があるから」
「本当ですか!川嶋さん」
「外見でダメなら次は内面で勝負よ!アンタは日頃高須君にバカだの犬だの悪態を吐いて喰ってばかりだから今回は逆に優しくお手伝いなんかするのよ」
「なるほど……ガンバリます!」
その時、私はこれが成功すれば私の叶うはずのない恋心に諦めらがつくとチビとらの背中を見送った
「ご馳走様でした、さて片づけるか」
「あっ!今日は私が片付けるから竜児はゆっくりと休んでて」
「どうしたんだよ急に」
「だって、いつも竜児は美味しいご飯を作ってくれるから片付けくらいしようかなぁと思って」
「別に気にしなくて良いぞ、好きでやってんだから」
「いいから竜児は休んでて」
「そっか、じゃあ大河に任せるな」
「あと何かすることが有ったら言ってね」
「あぁ、ありがとな」
「お疲れ、お茶入れたぞ」
「ありがとう」
「でも洗濯からアイロン掛けまでしてくれるとはな、おかげでゆっくり出来たよ」
「本当に!良かった〜、やったかいが有ったよ。そうだ!耳掻きしてあげようか?」
「マジでか?!」
「良いよ、ハイ膝に頭を乗せて」
「どう?痛くない?」
「気持ち良いぞ〜」
「ヤッター!じゃあイッパイ取るからね」
「オゥ、頼む。これが終わったらさ」
「終わったら?」
「帰れよ、もう遅いから」
「…えっ?」
「オレ風呂入って早く寝たいからさ、帰れよ」
「……うん」
その夜、私は高須家から持ち帰ったトマトに『タカスリュウジ』と書いて名前の数だけコンパスで突いた
「川嶋さん……」
「どうしたの!そんなに落ち込んで」
「……またダメだった」
「大丈夫!!大丈夫よ、大河……大河はやればできる子なんだから自信を持ちなさい、大丈夫だから」
「亜美……ありがとう」
「次の作戦はズバリ!お色気で直接アタックよ!!」
「ミニとか履いて行けってこと?」
「ミニねぇ……ローライズのデニム持ってる?」
「持ってるけど?」
「だったらそのパンツの裾を股下に沿って切りなさい」
「それを履くの?でも座ったりしたら下着見えちゃうよ」
「それがイィ!何か高須君ってフェチぽいから直接下着が見えるよ隙間から見えるコッチの方が興味を示すはずよ。あと上はノースリーブの胸元緩めのが良いわ」
「……ブラは?」
「それは……大河のガッツ次第ね」
「わかった、やってみる」
その時、私はこんなに一生懸命な大河を可愛く想った。これで2人が恋人と成ったら私は素直に祝福できるだろう、そして私の恋心にもピリオドが打てるはず
「何やってんだ?」
「ストレッチ!最近なんだか体が硬くなった気がするから」
「へぇ〜、頑張れよ」
「うーん!うーん!竜児ちょっと背中を押して」
「アイヨ、これくらいか?」
「……ドコ見てんのよ」
「ハァ?何も見てないぞ」
「ウソだ、私のブラとかパンツ見てたくせに」
「見てねぇよ」
「もう素直じゃないなぁ、恥ずかしいの?竜児にはちょっとこの服は刺激が強すぎたかな〜」
「……あのな、こんだけ一緒に過ごしてるんだ、大河の下着になんて見慣れてんだよ」
「えっ?」
「それにオレは大河のナマ乳揉んだことあるんだぞ、下着くらいじゃチンピクもしねぇよ」
「……そうだったね、あの時プールで冷えて硬くなった私の乳首コリッ!てしたもんね」
「あぁ、確かにあのチクコリはびっくりしたな」
「ハハハ、ワタシカエルネ」
「オォ、気をつけてな」
その帰り道、私は腕に止まって血を吸う蚊に『リュウジ』と名付けて叩き潰した
「わぁぁ〜ん!!!亜美っち〜!」
「どうしたの大河!?」
「竜児がね、私なんかじゃちんちんピクリともしないってぇ〜!!」
「なんですって!!!」
「グスン……やっぱり私って魅力ないのかな?」
「そんなことない!!大河は可愛くて魅力的な女の子よ!……もう忘れなさい男なんて」
「できるかな?忘れること」
「これからは私が一緒に居るから、ねっ?」
「ありがとう……亜美っち」
「今晩1人で大丈夫?何なら私が一晩中一緒に居るけど?」
「……お願いしようかな」
「ウォォッケイ!!!」
その晩、私は愛しの大河をモノにした
「本気で言ってるのか?」
「そうよ、竜児が私にかまってくれなかったり浮気したら今の話みたいになるんだから私のこと大切にしてね」
「…分かった、肝に銘じておく。でも何で相手は男じゃなくて女なんだ?」
「えぇ〜だって竜児以外の男と一緒なんてやだもん」
「…とりあえず今は素直に感謝しとくよ、ありがとう。あと何故に川嶋?」
「何となくばかちぃがイメージし易すかったから、だって男を見下してて尚且つエロいじゃん」
「確かにな、でも俺は香椎なんてイメージにぴったりだと思うけどな」
「そうね言われてみればアノの女のほうが見た目エロいわね」
「だろう!!あのアンニュイな雰囲気に時折見せる悦の入った表情や仕草、禁断の花園的イメージにぴったりだろ!!
それで大河が香椎のこと『お姉様』とか呼んでさ、香椎は『大河ちゃん』って呼ぶんだ。
そして大河は『奈々子姉様と一緒に寝たい』って枕を抱き締めて言うだよ
それで香椎は『あらあら大河ちゃんはいつまで甘えん坊さんね』ってベットの中に大河を招き入れるんだ、スゲー!!!!
なぁ大河〜明日学校で香椎を『お姉様』って呼んでくれよーなあ頼むからさー」
「……妄想垂れ流しね、ウザっ。ハイ、Tシャツ脱いで」
「…オォ」
「次は仰向けに寝転がっる」
「こんな感じか?オゥ!!!イタッ!痛い!!」
その日、私は罰として竜児の黒い乳首が真っ赤になるまで爪楊枝で突っつきました。
竜児は体をクネらせ笑顔で嬉しそうに痛いと言っていました。
乳首って奥深いなーと思いました。
出席番号1番 逢坂大河
「香椎のことお姉様って呼んでくれよー」
「ヤダ、昨日あんなに痛い目に合わせたのにまだ言うか!」
「あれはヨカッタぞ!」
「……バカ照れるじゃない」
「だからさ頼むから」
「イ・ヤ・ダ」
「一回でいいからさ」
「じゃあお手本見せてよ、竜児が誰かに『お兄様』って言われるの見せて」
「う〜ん……誰にしようか?」
「そうね…北村君だとシャレにならないかもしれないし、アホロン毛かバカ眼鏡のどっちかじゃない?」
「春田か能登……ヨシ、春田!キミに決めた!」
「どうしたの?珍しいじゃん高須がタイガーと一緒に弁当喰わないなんて」
「偶には能登や春田と話しながら飯喰おうと思ってな」
「春田オマエ一人っ子だろ、兄貴とか欲しいと思っりしないのか?」
「兄ちゃんか……そだね遊び相手に男の兄弟は欲しかったな〜」
「だよな!俺も一人っ子だから春田みたい弟が欲しかったな〜」
「高っちゃんが兄貴か……それイイんじゃね?高っちゃん色々やってくれそうだし」
「そうだろ!!だからさ……俺のこと『お兄様』と呼んでくれないか?」
「イイよ〜おにい『らめぇーー!!!!』
「竜児のことお兄ちゃまって呼んで良いのはボクだけなんだから!!!」
「………能登っち…ゴメン」
その夜、私は竜児の乳首チュウチュウ吸って「甘〜い」とニヤリ笑い真っ赤になった歯を見せる能登君の夢を見た
「ウォォ!!!!ダメよ竜児!それ以上は…………夢?良かった〜竜児があんな話するから変な夢見ちゃった
もう竜児が馬鹿なこと言わないないようにもっと私の気持ち伝えよ、竜児のこと大好きだよって……乳首大丈夫かな?」
「おはよう」
「大河…昨日は変なこと言って悪かったスマン」
「私の方こそゴメンナサイ怒りに任せてあんなことして……乳首大丈夫?」
「いやアレはアレで良かったから……もう血も止まって絆創膏貼ったし大丈夫だ」
「よかった、コレ昨日のお詫びと竜児に対する私の気持ちだから」
「オマエ……こんな大切な物を貰っていいのか?それも2本も!!!」
「受け取って!これくらい竜児のこと好き!ってことだから」
「ありがとう、そんなに俺のこと想ってくれてたんだな……確かに受け取ったぞキットカット2本分の愛」
それから2週間後、俺はユリちゃん先生に「みんなには内緒よ」と言ってロッテクランキーチョコを丸ごと一枚貰って禁断の愛を妄想したのは内緒の話だ
−バ・カ−
これを最後まで読んだ人には血が出るまで大河に乳首をつつかれる呪いをかけました。
呪いを解きたかったら『GJ 泣ける話だった』と書き込んで下さい
来ても良いと思った人は病気です、今すぐ枕元に爪楊枝を置いて安静にして下さい。
132 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/21(月) 19:58:44 ID:vaCMf6tF
つ【爪楊枝200セット】
134 :
時期はずれ?:2009/09/21(月) 20:08:05 ID:XbVmuOnN
夏のシーズンも終わりかけなのに、間に合わなくてすいません。
まだ出来上がってないですが、投稿していくなかで書き上がりそうです。
ずっと前に投稿した『二人で』の続き…というか、後日談というか…タイトルも決まってないですが、よろしくお願いします。
135 :
時期はずれ?:2009/09/21(月) 20:09:10 ID:XbVmuOnN
***
朝早くから近隣一帯を騒がせていた蝉の一群はここへきてさらに声量を上げ、耳障り指数は針が振り切れんばかりの値を叩き出す。詰まるところ……そう、大変遺憾状況下だ。
目蓋を解放したときには強制的に今日の朝が訪れるわけだが、
「あ、あ……」
先に動いた器官は口。餌をもらう魚のように唇がパクパクと開いてしまう。そしてそれは喉の奥から濁流の如し勢いで押し出され、唇の内側を激しくノックし……
「……あつい……」
飛び出した――
来訪者はたったの三文字なのだが、できることなら開けたくなかった。居留守を決め込もうと思っていたのにもう遅い。
タオルケットを引っ剥がし、Tシャツを脱ぎ散らかし、夏用半ズボンを蹴り飛ばし(現在裏返しで足下)結果――パンツ一丁。夏。
この有り様を見て容易に想像できるのは暑かった……ただそれだけだ。
「おおう……っ!昨日干したばっかだぞ……」
夜中にかいた汗は尋常ではなく、被害は甚大。洗濯仕立ての寝具を無に返した。テンションはさらに急下降。最悪の朝である。
午前六時の朝。暑さでなかなか寝付けない夜を過ごした竜児にとっては、まだ眠りについていたい時刻。
しかし無情にも枕カバーとシーツがこれだ。起きる他ないだろう。
新聞紙の回収を済ませ、天気の覧を早速チェックする。
見慣れてしまった晴れマークが精神的に堪えるようになってきたのは二日くらい前からだったか、考えるのも暑苦しい。
気温もうんざりするほど高く、最高気温は見るに耐えない。今日は一日洗濯日和です――今日もっ!だろう嘘こくな。
「……はぁ〜……」
夏だからなあーと、自分に言い聞かせる一方で、額に張りつく汗はまたじわりと湧き出すものだから自己暗示も虚し過ぎて、
「……あっちぃ……」
136 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/21(月) 20:09:58 ID:XbVmuOnN
本音がうっかりこぼれ落ちる。
竜児は極力『暑い』とは口に出さないタイプだ。小さい頃から欲しがらない精神を貫き通していた竜児は本能的、合理的に導き出した答えがあった。
――『暑い』と言ったところで状況は変わらない、だ。
しかしそんな長年の経験に基づく悟りを打ち砕くほど、今朝は暑い。いやもはや熱い。
気温の上昇で人間はイライラするというのはどうやら嘘ではないらしい。つい無意識にも、手に持っていた新聞紙を雑に放り投げてしまう。
「ん?」
八つ当たりの対象にされた哀れな新聞紙の間からひらひらと何かが飛び出した。
その鮮やかな色彩を放つ何かは紙。『本日オープン!』とゴシック体で配列された文字が目立つように飛び出している単なる広告。一番下には割引券、そして切り取り線。
「駅二つか……」
蝉の鳴き声と熱気で構成された拷問部屋の一角。
現在進行形で汗をだらだらと流しつつも、生まれながらの三白眼の瞳は煌めくマリンブルー一色で彩られる。
まさに、そう。今まさに『これ』だ。
あいつだってきっと同じ想いをしてるはず……あ、エアコン付いてたっけ。くそ、まあいい。
そばにあった携帯を取り出して短縮ダイヤル。コールが五回位鳴って、
『……ぐあぁぁぁ―――うううぅぅ……っ!』
ツーツーツー……。
え〜。
宛名は……いや、合ってる。じゃあ今のは何だ?まずヒトのカテゴリーに属している生物なのだろうか。
様々な思考が錯誤するがワンモアトライ。手早く短縮ダイヤルを再び……
『なな何時だと思ってんのあんたぁ――っ!私っ!昨日っ!寝たのっ!四時っ!おやす……あああぁぁぁ……っ!また……おきちゃったじゃない……』
ツーツーツー。
「……おおう……」
結婚の約束までした愛する彼女は戦場で奮闘中。天下無双の手乗りタイガーと言えども、夜泣きの赤ん坊には白旗らしいが。
自分のせいか?と、微妙な罪悪感を感じながらも、ポチポチッと、とりあえずメールで用件だけ。簡潔かつ簡略化された本文を送信する。もちろん内容は、
『今日プール行かねえか?』
137 :
時期はずれ?:2009/09/21(月) 20:12:59 ID:XbVmuOnN
***
えーなんだよ高須無理なのー?あー……うん、タイガーと、デート……。はっ!はいはいどうせ俺らはむさい男児ぃズですよ!
えっ?どこ行くかって?めちゃくちゃ良い所なんだけど教えないよ〜だ!(かわいくない)
俺だってなぁ、今年こそは……くそぅ!ぶぅぁーか!高須なんて嫌いだああぁぁあぁぁ……っ!
――というやりとりが約二十秒前に繰り広げられていたわけで。
大河と付き合い始めてからというもの、能登はやたらと攻撃的だ。うちわを仰ぎながら竜児は思う。今年も無理じゃないかな……という勝手な予言は隅っこに置いといて。
とりあえず友の武運を祈ってやる。頑張れよ、と。すると想像の中の友は言う。――何を!?竜児は答える。――知らねえ、と。
「あ、終わった?なんて?」
「バーカだって。あと俺のこと嫌いだって」
「へぇ、いたずら電話にしてはなかなかのレベルじゃない」
「ああ。てかお前」
指差した先には少し大きめの可愛らしいピンクのプールバックが一つ。
「そんなに詰める物ってあったっけか?余計な物はできるだけ入れるなよな」
「ふっふーん!この中にはねぇ、浮き輪が入ってるのよ!おっきいの!」
なぜ威張る……?と言いたくなるところで、間髪入れずに大河は言う。
「私、泳げないでしょ」
「おう」
「でも竜児はどぅおしてぇーも私とプール行きたいでしょ」
「……おう」
「私、浮き輪は恥ずかしいって思ってたのよずっと!」
「おう……いや、話が見えんぞ、全く」
浮き出る汗も、その研ぎ澄まされたガラス細工のような肌には何の暑苦しさも感じさせずむしろ潤しい。
色素の薄い大きな瞳の中には煌めく星が瞬き、流れ星が降りそそいでいるよう。
取れてしまいそうなほどか弱い唇は薔薇の一片を思わせる。
暑さで気だるい夏の午後でも、大河は今日も誰もが認める可憐な美少女だ。
138 :
時期はずれ?:2009/09/21(月) 20:13:44 ID:XbVmuOnN
竜児の受験勉強でなかなか予定の取れなかった久しぶりのデート。
いつもよりニコニコと頬を緩ませる愛くるしさも今年の夏のページに飾られる大河の一コマ。
「このおっきい浮き輪に背中を委ねてプカプカ浮いてれば、誰も私が泳げないとは思うまいっ!」
これもまあ、一コマは一コマだ。
「いや、いまいち要点がわからないんだが……」
「あんた、ほんとにっぶいわねー。しょーがない、説明してやろう!」
そう言って大河は二度目のふんぞりをご披露する。どうでもいいが、バランスを崩してこけるのだけは勘弁だ。
「私ね、去年竜児と打倒ばかちー戦でプール行った時思ったのよ、あることを」
「何を」
「泳げる人も浮き輪を使っているのだ!」
「おおう!」
口調の変わったことにはあえてつっこみを入れず、竜児はいかにも恐れ入ったように口をすぼめる。大河はさらに得意げに、
「体にフィットする浮き輪は泳げないから身につけているイメージがあるでしょ」
「まあ、確かに」
「でも大きい浮き輪は違うの。『私、泳げるんだけどあえて泳がないの〜』的な雰囲気が醸し出されるのよ。なんて言うか……そう、余裕あります!って感じ」
「たしかにそんな先入観はあるかもしれない、のか……?」
「絶対そうよ!私の研究の成果では間違いない」
「研究って……見ただけじゃねえか」
「ったく、いちいちうっさいわねえ。ほら、もう行こ!電車来ちゃう」
「はいはい」
大河が良いなら良いのだろう。これ以上の追求も無意味と判断し、玄関を飛び出していった大河を追いかける。
そういえばあのピンクのプールバック……他には一体何が入っているのだろうか。
疑問を残るが、日差し対策のための帽子を被って玄関を出る。今日みたいな日をプール日和と言うのだろうが、やはりこの照りようは勘弁願いたいところだ。
139 :
時期はずれ?:2009/09/21(月) 20:14:41 ID:XbVmuOnN
***
「パパああぁぁああ――――っ!!怖いよおおぉぉおお――――っ!」
「……馬鹿っ!泣くんじゃないっ!ゆうたっ!」
おそらく怪しく青光りした禍々しい両眼が、少年の潜在的防衛装置に反応したのだろう。大泣きしながら父親に引きずられるようにして退場していく様は、言うならば地球最後の日――。
雄の匂いで充満された更衣室。縦に五。横に十五。そこに立ち並ぶは利用者の実用品を安全に管理してくれるロッカー。
その中の一つでも触れようものなら、箱詰めにして東京湾にでも貴様を沈めてやろうか!……などと考えていたわけではなく、ロッカーに焦点を合わせた時点で立方体にプレスして貴様もロッカーにしてやろうか!……でも断じてない。
いち高校生らしく、にやけていただけなのだ。まあ「ふふふ……」口元を緩ませると、今度は向かいに立ち並ぶロッカーから人が消えたことを竜児は知らないが。
――今年の夏は二人でプール行こうね!と、大河が言ったのは夏休み前。断る理由は微塵もなく、竜児はその誘いを承諾した。
さっそくとばかりに次の日、二人で駅のデパートで新しい水着を購入。お互いに似合う水着を選ぼう!と提案した大河は本当に女の子らしかったし、
「竜児はこれが良いよ!」と、目を細くした愛らしい笑顔も本当に天使のように見えたのだ。
「怖いよおおぉぉおお――――っ!!」
だからゆうた君、いくら君が死ぬほど泣き叫ぼうが、俺は頬を緩ませる作業を止める気は毛頭ないのだよ……
と、彼方に消えても鳴り止まない悲鳴に念押しをしてまたニヤリ。もう一つあるのだ、にやけてしまうことが。
ガチャンと百円玉と引き換えにロッカーに鍵をして、腕に鍵を収納するストラップを装着。
大河が選んでくれた赤と黒が入り混じった、本人曰わくイカス!水着をちらっと確認してまた思い出しにやけ。ようやく更衣室を出る。
140 :
時期はずれ?:2009/09/21(月) 20:15:35 ID:XbVmuOnN
お目当てのプールまでの入り口とも言える、ずらりとシャワーが立ち並ぶここが待ち合わせの場所。そこで待つこと五分そこら。やはりというか何というか、大河は全力ダッシュでのご登場だ。
「竜児ーごめーん!髪結んでたら遅くなったー!」
「……おおう……」
「……ふぅ、つかれた」
登場の仕方がどうであれ、目の前で息を切らす大河は素晴らしいものだった。
大河の水着を選ぶとき、竜児は決意したのだ。大河に似合う最高の水着を選んでやる、と。
大河が着れそうなXSサイズとSサイズ(繕えば何とか可)の女性水着コーナーを何度も往復し、一着手にとってみては遠くで竜児の水着を選ぶ大河をちら見して、想像の中で合成。
うーん、これは派手。これは地味か。……これは胸元がセクシー過ぎてかわいそうだ……。
散々悩みに悩み続け、『第一回大河に着せることで大河自身そして水着本来の良さも目一杯輝くことのできる大河の水着選手権!』を勝ち上がった上位の水着を五着ほど選出し、さらに審議。
そうして、買い物にかつてこれ以上ないほどの時間を費やした水着は「恥ずかしいから当日に……」という大河の頼みで今日まで見ていなかった。それもあってか、竜児はもはや感動したのだ。
大河に選んだ水着は白いフリルの付いたピンクのホルタービキニと、取り外し可能のこちらもフリル付きのスカート。
背中は露わになるが、胸元をあまり露出させないタイプのビキニで、もちろん擬乳パット(大河の命令)も装着済み。
上下がある水着は今回が初めて、と言う大河は最初こそ渋ったが、「絶対似合うから!」「この水着はお前を待ってたんだよ!」と熱く怪しい激論の末「竜児がそう言うなら……」見事勝利。
141 :
時期はずれ?:2009/09/21(月) 20:18:05 ID:XbVmuOnN
水すら着地することを許されないような滑らかで限りなく白に近い肌は、本当に!本当に!竜児の選んだ水着との相性は抜群で、選んだ甲斐があったぞ――!全方位一度ずつの方角に叫びたいほどだ。
「大河……めちゃくちゃ可愛いぞ……」
「……うん、ありがと。……でも、恥ずかしいもんなのね……人が選んだのを着るのって……あ、あああんまこっちみるでないぞよ……っ!」
例の馬鹿でかい浮き輪をぶぅんぶぅん!前に振りまくり、大河は羞恥の炎を頬に灯す。
似合っているのになぜ隠す!?もっと見せろ!と、ただの変態と化した竜児は半ば強引に浮き輪を没収してやるが、「なにすんじゃい!?」ブァッチイイィィイン!ちっちゃいヤクザに背中をもみじにされ、
「……お、お前、なんてことを……っ!」
「猛烈に手がすべったのよっ!」
なんてことを言い、
「……つ、次にエロい目で見たらもう一発!……今度は天使にしてやるから」
などと言う。
これが彼女の水着を絶賛した彼氏の待遇であって良いのだろうか神様。
例えば『もっとみてみて!りゅうじぃー!』……はなくともだ!『あんまり見ないでよ〜もうっ!りゅうじったら〜っ!』うん、これくらいのスキンシップがあっても……
「って……大河?」
叶うことのない淡い期待を抱く竜児の傍ら。当の大河といえば「へぶぅっ!」こけていた。それは盛大に。先に走り出してああなったんだろう。
こけたときに受けたダメージは浮き輪がクッションになってくれたようだが。
虚しく浮き輪にへばりついている大河を回収し「前途多難だ……」と、竜児は呟いた。
142 :
時期はずれ?:2009/09/21(月) 20:20:56 ID:XbVmuOnN
とまあこんな感じでいつもの日常的な感じで続きます。
誤字とか見つけてもそっと見逃してください・・・
続きはいつ投稿するかわからないですが、出来るだけ早めに心がけます。
>>133 GJ!!泣ける話だった!!
いや、実際は吹きまくったけどwww
>>142 GJ!
この日常感がたまらない!
竜児じゃなくてもただの変態になりそうです。
うへへ
まとめサイト更新しました。
作者別の作品一覧を作成しました。
基本的にトリップで抽出しております。
あ、この作者のこの作品が抜けているお!
なんと!この作品は自分のじゃないお!このままだと盗作になっちまうお!
実はトリップつけてないけどこの作品は自分だお!
今までトリップつけずに投稿してたけど、これを機会につけるお!過去作品はこれだお!
等、間違いやご意見がありましたら、ご指摘をよろしくお願いいたします。
>>50 真夏のシンデレラ、完結おめでとうございます!
なんというか、自分のつけたタイトルが作品に関わっていて大変恐縮です…
145 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/22(火) 00:05:24 ID:zHANd7wi
>>144 神様仏様まとめ様〜!
毎回ご苦労さまです!
これからもよろしくお願いします!
……俺、いつか作者別インデックスに載るんだ……!
>>131 ヘンタイっぷりがぶっちぎっててワロスwwww
これからもこの調子でよろしく!
>>142 原作の雰囲気が出てていいね、GJ!
続きも期待してます
>>144 いつも乙です!
>>142 原作アフターの夏かな?
普通っぽい感じもいいね、期待してるよ。
>>146 がんばれw俺でも乗れてんだ。道程は軽いさw
>>144 いつもご苦労さまです♪
乗せてほしいのがいくつかありますので、あとでこちらに書いといていいですか?
「すっかり遅くなっちまったな、飯は簡単なもので良いよな?」
「うん、何でも良い」
「すぐに用意するから座ってろ」
「今日は疲れたなぁ……あっ!ソックス破けてる、ゴミ箱に……これ竜児の部屋に置いてったらどうなるだろ?ウププッ!!」
「オゥ!大河おはよう、今日はやけに早いな?」
「ウプププッ!おはよう、今日の竜児は朝からゴキゲンじゃない!」
「そうか?」
「なにか良いことあったんじゃないの?ウプププッ、私は何に使っても怒ったりしないからぁん!」
「???」
「竜児はオ・ト・シ・ゴ・ロなんだし、私って結構理解のある女だから平気よ」
「何のことだ?」
「トボケけちゃってぇ〜 私のニーソを何に使ったのよん!」
「ああ!アレな、ほら」「えっ?」
「タマネギは風通しを良くすると保存が効くんだ」
その時、私は思ったアレで殴っても撲殺って言うのかしら?
「ウヮァ〜!!私とタマネギどっちが大切なのよ!タマネギなんて地球上から消えちゃえばいいのよ!!!!」
「タマネギなくなったら料理できねぇ、それに世界規模で困るだろ!!」
「じゃあ私とタマネギどっちが残ればいいのよ」
「……タマネギ?」
「ノォ〜ン!!!起きて!やっちゃーん!」
「うぅん…どうしたの大河ちゃん?」
「竜児は私よりタマネギが大切だって」
「えぇ〜と…竜ちゃん何のこと?」
「タマネギが無くなったら世界中の人が困るだろ、大河が消えても悲しむのは俺だけだ……大河のパートナーは俺だけだからな」
「……竜児」
「それに大河を失うなんてオレがさせないゼッ!」
『アマァ〜イ!!!』
キャッ!キャッ!キャッ!
「……上の高須さんには出てってもらうか」
「お父さん良いじゃないですか賑やかで」
「でも毎朝ミニコントされてもな……」
「それなら何故お父さんはこの時間になると表に出るんですか?本当は毎朝楽しみにしてるんでしょ?」
「……母さんにはかなわないな、ハッハッハ」
上記の通り今回からほのぼの路線で逝きたいと想います。
151 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/22(火) 23:28:26 ID:w7Z2SG9z
>大河が消えても悲しむのは俺だけだ
サラッとひどいこと言ってるwww
>>150 ほのぼの笑えたw
竜児がさりげなくひでぇww
153 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/22(火) 23:40:57 ID:Y+CxYSAI
>大河が消えても(一番)悲しむのは俺だけだ(から他の人が悲しむ分は全部俺が背負ってやるよ)
って意味に解釈したぜ
「……そんな短いスカートでウロウロされると目のやり場に困るんだが」
「大丈夫よ、ちゃんとスパッツ履いてるから、ホラ」
スカートを両手でピロッとめくりスパッツを見せてくれた。
日常の中に隠れた非日常的風景、それは常識に捕らわれた今の日本人の文化では考えられない光景。女の子がスカートを自らめくり上げるとゆう奇跡の場面。
スカートそれはただ布を腰に撒いただけの衣服、普段は地球の重量を利用して身体のラインに沿って優雅に舞い踊り決してその内なる真実を見せることのない絶対的な存在。
見た目は弱々しく攻略は安易に想われがちだが現実は難攻不落、例えるなら政治家みたいなものだ、彼らを個として見た時は失墜させるのは容易だが群をなした党として見るとそれは困難を極める。
しかし歴史を振り返ると時代を統べた者は必ず落日を迎える、それは時代の風がそれ許さないから。
『風』そう風は偉大だ、昔は風の力を利用して船を動かし大陸を発見し文化を発展させた、現代に於いても生活に欠かせない電気を発電したりと人間は何時の時代も風の恩恵を受け続けている。
そしてこの風こそが難攻不落と言われるスカートを攻略出来る唯一無二の存在なのである。
普段は最小限の動きで絶対領域を死守するコイツも偉大な風の力には逆らえず神秘のベールを捲り神の領域を露わにする。
「ねぇ竜児……ブツブツ言いながらノートに感想をまとめるの止めてくれない?」
「イヤだ!!オレはコノ奇跡の瞬間を記録に留めるんだ」
「もう止めて!スカートくらい好きにめくって良いから……いつもの竜児に戻ってよ」
「……スマン」
「うん」
「じゃあ捲るな」キャッホ〜!!
−ウ・ソ−
ヘンタイはドコまで逝ってもヘンタイさ
おまwww
>>123 >>150 奇才表る!!!長いことここにひっそりいるが、こんなにいろんな意味でグーなのは、久しぶりっす。
…もっと頼む。
「んぅ……」
高須家でいつものように夕食を終え、そのまま横になって牛になるべく眠っていたわけではないが、大河の意識がこちらの世界へと徐々に帰ってきた。
「……何時?」
もそもそと起きあがって、ケータイのフリップを開いて時間を確認。23時16分。ずいぶんぐっすりと眠ってしまっていたようだ。
まだまだ眠たい目を擦り、欠伸を一つ。もういっそこのまま寝てしまおうと思っておもむろに掴んだそのとき、己の身にかけられていたタオルケットの存在に気づく。
いつものことながら、お腹を冷やさないようにと竜児がかけておいたものだ。その気遣いに大河の表情は綻ぶ。
「……ぅふっ……くふっ……」
なにやら変な声がする。辺りを見回してみれば竜児の姿は無い。そして声は竜児の部屋からする。
「あのエロ犬……まままさか、いいいいいたしてるんじゃ……成敗してくれる!」
といいつつ、大河とて年頃の女の子。男が一体どうやって己を慰めるのか、興味が無いわけでもない。
「わわ、私がいるってのに、お、おおおおっぱじめる方が悪いのよ」
そう自分に言い聞かせ、かつて初めて忍び込んだ時のように息を殺し、少しだけ開いてるふすまのすき間へと躙り寄る。
「……ふぅっ……くっ……」
ベッドの軋む音が、竜児の吐息が、熱が、だんだんと近づいてくる。このふすま一枚を隔てたトコロで竜児が何かをいたしてる。
考えるだけで自然と大河の頬も紅く染まり、頭の中が少し白んでくる。
「りゅ、竜児が悪いんだから」
意を決して、すき間から中をのぞき込む。思わず息をのんだ。
そこでは竜児がベッドの上で仰向けになり、上半身裸になって、両手を後頭部に回し、ひたすら上体起こしをしていた。
汗を滴らせながら一心不乱にトレーニングに励むその姿は、竜児の目つきも相まってボクサーのようにも見える。よくよく見ればうっすら腹筋が6つに割れている。
「……あんた、なにしてるの?」
「おう、起きたか。そろそろ起こそうと思ってたんだ」
上半身をあせでテカらせながら竜児は上体起こしをやめ、タオルで体を拭き始める。
「こんな夜にそんな怪しい声だしてたら捕まるわよ」
「なんでだよ。そもそも声なんて出してないだろ」
「声よりも吐息の方が問題よ」
「おう、それは……仕方ねぇよ」
手早くシャツを着て、筋トレ用にベッドに敷いておいたバスタオルを畳んで隅に寄せる竜児。
「そもそも、なんで急に筋トレなんて始めたのよ?もうプールも終わりだっていうのに」
「お、おう。まぁ、俺も男だからな。筋トレしたくなる時期があるんだよ」
「はぁ?何ソレ?そんなの聞いたこと無いわよ」
「いやいや、あるんだ。北村に聞いてみろよ。詳しく説明してくれるハズだ」
もちろんそんなわけ無いのだが、祐作ならそのまま「一緒にやるか逢坂!」とか言って誤魔化してくれそうな気がしたのだ。
「……まぁいいわ。私は帰って寝るから、朝ちゃんと起こしてよね。それじゃ」
一瞬不審そうな目で大河は竜児を見たが、深いことは考えずに帰っていった。この状況に竜児は心底安堵していた。
「まさか”ドジ姫様をサポートする為にやってる”なんて、言えねぇよ」
その背中は何故だか普段より大きく見えた。
ギシアン書いてたのにドコで間違ったんだ……?
「……後ろで何してるの?」
「ニオイ嗅いでる」
「何で?」
「大河の髪はイイニオイがするから」
「あの……普通こんなのは恋人とかにするんじゃない?」
「だってオレ彼女いねぇもん」
「そうだけど、竜児はみのりんが好きなんでしょ?」
「あぁ」
「だったらみのりんにすれば良いじゃない」
「でもココに櫛枝いねぇし」
「だからって私をみのりんの代わりにしないでよ!」
「違う!!それは違うぞ大河!」
「何が違うのよ」
「俺たち思春期の男女が2人きりで毎晩一緒に居るんだぞ、普通だったら間違いが起こって当たり前のシチュエーションだろ?」
「まぁそうだけど……でも今まで竜児は何もしなかったじゃない」
「そう何もしなかった、そしてコレはこれからも大河にイタズラしない為の予防線なんだ」
「予防線?」
「オレの欲望を満たすことで大河に対してこれ以上は手を出さない為にやってる」
「そっか……被害を最小限で食い止めてるんだ」
「その通り、大河は賢いな〜」
「エヘッ、そうかなぁ〜」
「だからニオイ嗅いで良いよな?」
「……手は出さないんじゃなかったの?」
「あぁ、そんな間違いは起こさない」
「じゃあ私はなぜ後ろから抱きしめられてるの?」
「俺の本能がそうしろって言ってるからだ」
「約束が違う!手は出さないって言ったじゃない!」
「オマエな……手を出さないはエッチなことしないって意味で本当に手を使わないって意味じゃないんだぞ」
「なるほど、そうゆう意味か……」
「エッチなのは困るだろ?」
「……困る」
「だったら良いな?」
「分かった、竜児の好きにして」
「すうぅぅ〜ハァ大河はイイニオイだなぁ」
「今日は肩を出した服か、これならイッパイ大河のニオイを嗅げるな」
「……顔、近くない?」「そうか?気のせいじゃないか?」
「いや、あの……今日は何で膝に乗せられてるの私?それになんで横向き?」
「それは大河のニオイをたくさん嗅げるようにだけど?」
「当然のように言われても困るんだけど…」
「困る?……もしかして嫌なのか?」
「……うん」
「なんだ嫌だったのか、早く言ってくれよ」
「だって竜児がどんどん大胆になるから」
「いや〜ニオイを嗅いでたらつい大河に近づきたくなってな、悪かった無理強いしたみたいで」
「……一つだけ確認させて」
「何だ?」
「私とみのりん、どっちが好き?」
「どっちが?……う〜ん」
「じゃあね、どっちのニオイを嗅ぎたい?」
「大河」
「……じゃあどっちが好き?」
「う〜ん…」
「じゃあ一緒に居たいのは!!!!」
「大河」
「……………」
「どうした?」
「……私に好きって言ったら何しても良いよ」
「好き」
「そうじゃなくて!!……ちゃんと言って」
「スゥキ?」
「好きの言い方じゃなくて、もっと言い方があるでしょ!」
「オレタイガスキ?」
「何でさっきから疑問系なのよ!それにちゃんと感情を込めて言いなさい、もう何もさせないわよ!」
「オリャ大河さ好きさぁぁ」
「何でナマってんのよ!やり直し!!」
「へぇ〜逢坂先輩も苦労されたんですね〜」
「まったくよ!あの犬の躾には苦労させらたわ、私のこと彼女って理解させるのに一年もかかったんだから」
「ハハハ……本当に犬の躾ですね」
「まぁ今は私のおかげでだいぶ人間らしくなったんたけどね〜」
「誰が人間らしくなったって?」
「うわぁ!!!高須先輩!」
「大河、お前は後輩集めて何の話をしてるんだ?」
「さぁね、何の話かしら?」
「聞こえてんだよ!あれだけデケェ声で話してたら、ちょっと来い!!」
「ちょっと!そんなに引っ張らないで、謝るから」
「……行っちゃった、なんか嵐のような2人だったね」
「だね……でも私ね本当のこと知ってんだ」
「ナニ!本当ことって何があったのよ?」
「本当はね、先輩たち付き合うの親に反対されて駆け落ちしたんだって」
「ウソー!!本当に?」
「それも授業中に逃げ出したんだぞ」
「スゴッ!!そんなことがあったんだ」
「まだこの話は続きがある」
「ナニ?ナニ?」
「高須先輩は2日で戻って来たけど逢坂先輩は2ヶ月くらい戻って来なかった」
「何で?」
「駆け落ちして年頃の男女がすることっていったら決まってんじゃん」
「もしかして妊娠!」
「らしいよ」
「じゃあ先輩は休んでる間に……中絶したの?」
「違う……」
「じゃあどうしたの?」
「逢坂先輩はたった2ヶ月で産んだらしいよ!!!!」
「ウソー!!」
「それも6匹!!!」
「………匹って何?それに2ヶ月で子供は産めないよ、ねえその話し誰から聞いたの?春田」
「兄ちゃん」
上記の通り設定無視のやりたい放題の方針で決定しました。
>>163 あれ?、春田って兄弟いたっけ?
(ここが「設定無視」?)
本編で語られてないことは自由だしなw
春田の弟ならアホっぽくても違和感がない
>>163 春田弟って斬新だねw
ってか竜児の変態キャラっぷりがww
「竜児、今日は何の日か知ってる?」
「おう、秋分の日だな」
「昼と夜の長さが一緒らしいわよ」
「厳密には違うみたいだけどな」
「え?そうなの?」
「地球は大気が覆ってるから、必然的に大気によって太陽光線は屈折する。これにより実際より太陽が上に見えるから、
この角度の分だけ日の出は早くなるし、日没は遅くなるんだ」
「へー。さすが理系ね」
「おう。あと秋分の日ってのは元々亡くなった人をしのぶって理由で祝日になってるから、お盆と似た様なもんだ」
「お墓参りでもしとけってことね。うちの墓ってどこにあるのかしら?」
「そういえば、うちもどこにあるんだ?」
「……まぁいいわ。ご先祖様ありがとーって言っておけばきっと満足よ、先祖も」
「おう、気持ちが大切だからな」
「神様仏様まとめ様ご先祖様、今日も竜児と私は元気です。ありがとう」
「……なんか違う人混ざってなかったか?」
「気のせいよ」
ギ、ギシアンにならなかった……_| ̄|○
参照:ウィキペディア
168 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/24(木) 00:24:10 ID:myF76j0G
2828
変態は何気に文章つうか流れがうまいなW
あと春田の弟が日下部みさおで再生されたのは俺だけ?
>>51です。
「真夏のシンデレラ」への感想、他、いろいろありがとうございました。
ここまで言ってもらえると、嬉しさいっぱいです。
>>144 いつも乙です。
せっかくいいタイトルを付けて頂きましたので、それに相応しい終わり方をと思いまして・・・。
以下、新作と言うほどじゃありませんが、読んで頂いた方への感謝の意を込めて「真夏のシンデレラ」の番外編もどきですが
シンデレラアフターみたいな物を投下します。
タイトルは例によってお任せで・・・
10レスほど使用します。
その日、泰子はいつもより早く目を覚ました。
昨夜はお店が異様に暇で「みんな夏バテ?」などと他の従業員と話ながら早めに店を閉めたのだ。
そんな訳で泰子は普段と比べて少ない酒量と早寝のおかげもあって2時間近い早起きとなった。
ずるずると這うように洗面所まで行き、顔を洗ったところで泰子は気がつく。
・・・はれ?竜ちゃんは?
いつもなら起き出した母親を見て「よう、起きたのかよ」とか「おはよう」だの声が掛かるのに、今日に限って静か。
・・・竜ちゃあん。
と、トイレのドアを開け、風呂場をのぞき、竜児の部屋を見る。
さして広くない高須家の間取り、見るべきところを見てしまえば、もう探す場所は無かった。
・・・もしかしてかくれんぼ?
いい歳した息子がやるはずも無い遊びを思い浮かべ、それでも念のためと竜児の部屋にある押入れを開けて見る。
見つかっちまったかと、竜児が出て来るはずもなく、きとんと畳まれた布団がお出迎え。
・・・いない・・・竜ちゃんどこ?
何気なく泰子は竜児の布団に触り、それがひんやりしていることに気が付いた。
・・・あれ?
小首を傾げる泰子。
おぼろげながら・・・早朝、帰宅した時の様子が思い出される。
・・・そう言えば、竜ちゃんの部屋・・・ふすまが開いていたような・・・。
あごに手を当てて、思案顔で考え込んでいた泰子の頭上に豆電球が点く。
・・・もしかして、竜ちゃん帰って来てないの?
泰子は慌てて昨日からの竜児の行動を思い返した。
・・・確か・・・朝早く、大河ちゃんが来たのよ・・・それで、竜ちゃんが鈍いから大河ちゃん、すねて帰っちゃったのよね。
・・・仕方ないから助け舟を出して上げたんだけど。
・・・その後で一生懸命、お弁当作って「じゃ、行って来る」って何となあく、嬉しそうに出て行ったのよね・・・竜ちゃん。
・・・と言うことは・・・・・・。
泰子の頭にご〜んと鳴り響く、お寺の鐘の音。
・・・竜ちゃん、大河ちゃんとお泊り!
はにゃ〜と泰子はその場に座り込む。
と言ってもショックを受けたわけではなく、意外な成り行きに驚いたのだ。
その辺りに疎そうな竜ちゃんが・・・と言うわけで。
あの竜ちゃんが・・・と泰子は軟体動物にでもなったみたいに畳の上に突っ伏した。
母親として嬉しくもあり、また複雑な気分でもあった。
でも、竜児の相手があの大河であるならば泰子としては願ったり叶ったり。
竜児にはもったいないくらいだとさえ思ってしまう。
掘り出し物と言ったら大河に失礼かもしれないが、泰子としてはまさにそんな気分。
畳の上に寝転んだまま、泰子はそんな大河に初めて会った頃のことを思い出していた。
竜ちゃんが高校2年に間もない頃・・・4月の終わり頃だったかなあ・・・。
夕食の席で急に言い出したんだっけ。
「あ、泰子・・・」
「なあに、竜ちゃん?」
「明日の晩飯なんだけど・・・ひとり・・・呼んでもいいか?」
「お友達?」
「まあ・・・そんなとこだ」
「・・・構わないけど」
「わりい・・・ちょっとにぎやかな奴が来るけど・・・気にしないでくれ」
「ふ〜ん」
その時、てっきり泰子は新学期になって出来た新しいクラスの男友達だとばかり思っていた。
だから、次の日、玄関先で竜児の大きな体から隠れるように出て来た小柄な少女を見て、一瞬、ぽかんとしてしまった。
え、小学生?と大河が聞いたら怒り出しそうなことを思い、まばたきをする。
それでもよく見れば、ちゃんと年相応の女の子らしさを見せていて、泰子は納得する。
緊張しているのか、ややぎこちない挨拶をする少女はまるで絵本の中で見るようなお姫様みたく泰子には見えた。
後になってドレスを着ていた訳でもないのにねと、泰子はおかしくなったのだが、とにかく泰子の大河に対する第一印象は好ましいものだった。
長年、お客様相手の仕事をしていれば短時間で相手の人柄などを見抜いてしまわなければならない。
人を見る目にかけて泰子はそれなりに自負を持っていた。
その泰子をして大河は十二分に合格点を与えられるものだったのだ。
こんな娘、捕まえて・・・竜ちゃんやるじゃないと嬉しくなった泰子は「にぱあ」と顔が緩むのを抑えられない。
「竜ちゃんの・・・ガールフレンドだあ」
思わず、そう言っていた。
それに対して異様にうろたえる竜児。
・・・違うの?こんなにかわいい子、夕食に招いておいて、違うとか言っても説得力ないよ、竜ちゃん。
_____________
泰子の回想は話し声に破られた。
その聞き覚えのある声はまさしく竜児と大河のもの。
泰子は自室の窓辺からそっと外を見る。
アパートの階段に立つふたつの人影は間違いなく竜児と大河で、昨日、家を出て行った時とまったく同じ服装。
それがふたりの外泊を証明していた。
階段を昇る足音の甲高い音が聞こえて来て、泰子は慌てて、自室のふすまを閉め、息を殺す。
「お帰り〜」と出迎えても良いのだけれど、照れくさがるだろうなと言う親心が泰子をそんな行動に走らせた。
ガチャリと玄関が開き、竜児と大河が息せき切って家の中に飛び込んで来る。
「ま、間に合った」
「良かったね竜児。やっちゃんまだ起きてないよ」
「ああ、ギリギリセーフだ」
「駅から走って来た甲斐があったね」
・・・ふたりの息が乱れているのはそのせいですか。
・・・何も走ってくる事ないのに。
と、泰子は思う。
「どうやら・・・ばれずに済んだな・・・ふう」
大仕事をした後みたい玄関の上がりかまちに座り込む竜児。
「この後は・・・予定通りな」
「うん、わかった竜児」
竜児と大河が何やら打ち合わせをしている小声が泰子に届く。
竜児と大河はどうも何もなかったかのように振舞うつもりみたいだと泰子は理解。
とっくにばれてるのにと・・・ふすまの裏側で泰子はおかしさが込み上げて来てたまらない。
「じゃあ、お昼ごろ出直して来る。またね、竜児」
バタンと閉まる玄関ドアの音に続いて、「よし」とか言う竜児の独り言が部屋の方から漏れて来る。
・・・しばらく、出られないね。
泰子は「はあ」と息を吐いた。
朝食兼昼食の用意を始めた竜児の様子に頃合を見て、泰子はふすまを開けた。
「おお、起きたか」
台所で包丁を使いながら後ろを振り向き、さも昨日の夜から居ましたと言う風を装う竜児。
「・・・ぷっ」
その様子がなんだかおかしくて泰子はたまらず吹き出す。
「な、なんだよ?」
「にゃはあ・・・にゃんでもないよん・・・ちょびっと嬉しいからかな」
「変な泰子だな。ああ、朝飯、もうすぐだから、待ってろ」
今日二度目になる洗面を済ませ、居間のちゃぶ台前に座り、台所仕事をする竜児の後姿を眺める泰子。
・・・竜ちゃんも大人になったんだねえ。
感慨深げに背の高くなった息子を見上げる。
すっかり、泰子の頭の中では既成事実が出来上がっており、竜児が聞いたら卒倒しそうなことを考えていた。
「やっちゃん、おはよう」
いつもより玄関ドアを丁寧に開ける大河。
少しぎくしゃくと食卓に付き、いかにも今日、初めて会いましたと言う顔で「あ、竜児・・・おはよう」などと言っている。
三人で食卓を囲み定番スタイルの食事が始まった頃、泰子はさりげなくジャブを繰り出した。
「昨日は楽しかった?大河ちゃん」
「え・・・あ、ううん・・・うん・・・楽しかった」
しどろもどろな答えになる大河。
「あれ?おいしかったじゃなくて?」
「え!・・・あ、そ、おおいしかった・・・とおっても、おいしかった」
そう答えた大河は、これ以上質問されては適わないと言う様にごはんを茶碗からかき込む姿勢。
大河に逃げられた泰子は矛先を竜児へ向ける。
「竜ちゃん」
「・・・何だよ?」
「昨日、何時頃帰って来たの?」
「き・・・昨日か・・・そ、そうだな。11時頃には帰って来てたぞ」
視線を泰子から逸らし気味にして食卓のおかずに目を走らせ、動揺の余り、大河のお皿から卵焼きをつまむ竜児。
「・・・それ、私の」
いつもだったら大騒ぎする大河が呆然とされるがまま。
ついに泰子は止めの右ストレートを放った。
「ふうん・・・そんなに遅くなるんだったら・・・泊まってくれば良かったのに」
その瞬間、高須家の居間が凍りついた。
竜児は口に含みかけていた卵焼きを取り落とし、大河はタイミング悪く飲み込み掛けていた魚をのどに詰まらせる。
「ううう〜ううぐ」
「た、大河」
のどを掴んで苦しがる大河に竜児は慌ててコップの水を差し出す。
竜児からひったくる様にして大河は水を流し込み、人心地を取り戻す。
「どうしたの?ふたりとも・・・今日は変よ」
そう言って笑う泰子の後ろをこの時、竜児が見たならばきっと先の尖った黒いしっぽを見つけたことであろう。
支援っ
「そうじゃねえだろ」
「これでいいの・・・答えがあってれば問題ないじゃない」
「違う。解法がエレガントじゃねえ」
基礎解析と記された教科書を開きながら、大河がノートに書いていった式を点検する竜児。
居間のちゃぶ台を使って宿題を広げる竜児と大河の姿がある。
「竜児はいちいち細かい。それじゃ、嫁いびりの小姑とおんなじ」
「どこが小姑なんだよ」
「絶対、あんた、障子の桟を指先でふうとかやるタイプ」
実際に指先を動かすモーションを交え、ああ、嫌という顔をして大河は言う。
「汚れてたら当然だろ」
「やっぱり、小姑じゃない」
「だいたいな、どこからそんな知識仕入れるんだ」
「テレビドラマ・・・2時くらいにやってるじゃない・・・あ、そうだ、続き見なくちゃ」
テレビのリモコンに手を伸ばす大河。
「おま、そんなものばかり夏休み中に見てたんだろ」
「私だけじゃないよ、やっちゃんも一緒に見てた」
「俺の家でか!」
「そう、アンタの家のそのテレビ」
大河が指差す液晶テレビはお昼の番組を映し出し始めた。
「・・・教育上、相応しくない番組は見れないように出来ねえのか・・・この技術革新の世にあって」
「なにPTAみたいなこと言ってんの」
「まったく、泰子も泰子だ。見せる番組くらい考えろ」
「やっちゃんが見せてくれたんじゃないもん。私が面白がって見てたら、一緒に見るようになっただけ」
「主犯は大河か!」
「いけない?」
「・・・こんなことだから宿題が進まないんだろ」
「ちょっと!静かにしてよ!聞こえない」
「はあ、まあいい、休憩だ・・・なあ、大河。聞くけどさあ・・・大河がこの番組見てた時、俺は何してた?」
「竜児?寝てたじゃない・・・昼寝」
ぐーたらしてたのは私だけじゃないと指摘され、竜児は反論を封じられた。
自室で寝転がって雑誌を読んでいた泰子は隣の居間で繰り広げられる竜児と大河の様子に聞き耳を立てていた。
こんな風に竜児と大河が仲良く?しているのを感じながら、ごろごろするのは泰子にとって至福のひと時。
でも・・・と、泰子は思う。
・・・大河ちゃんと竜ちゃん・・・全然、昨日から様子が変わらない。
泰子の経験から言えば、男女の仲が進展した場合、それとなく現れるもの。
変ねえ・・・と泰子は首をひねった。
そのままうとうと眠り込んでしまった泰子が目を覚ますと、隣は静かだった。
起き上がった泰子が覗き込むと大河ひとりが熱心にシャープペンシルを走らせている。
「あれ、大河ちゃんひとり?」
「うん。そう」
大河は手の動きを止めて泰子を見る。
「竜ちゃんは?」
「夕飯のお買い物」
「一緒に行かなかったの?」
「大河は宿題、片付けてろって。連れてってもらえなかった」
「ひどい竜ちゃんね。後で言っておくから」
「・・・ううん、いいの、やっちゃん・・・これは私が悪いんだから・・・ちゃんと宿題してなかったんだもん。竜児に言われなきゃ、そのままだった」
「大河ちゃん・・・お利口さんなんだあ・・・やっちゃん、素直な子は大好き」
そう言うなり、大河のそばに来てくりくりと頭をナデナデする泰子。
「・・・くすぐったいよ。やっちゃん」
「あ、ごめんね・・・そうだ。お勉強頑張ってるご褒美にいいもの見せてあげる」
「いいもの?」
「そう。ちょっと待っててね」
自室に引き返した泰子が再び居間に戻って来た時、その手には大きな本の様な物があった。
「なあに、それ?」
「これ・・・うふふ。アルバム・・・竜ちゃんの小さい頃とか写ってるわよ」
「え?見せて見せて」
散歩に連れてってやるといわれた犬みたいに大河は大はしゃぎ。
「じゃあ〜ん」
ちゃぶ台の上に展開される竜児の半生記・・・。
大河は食い入るように一枚一枚を見る。
「1歳のお誕生日かな、これ」
「・・・かわいい・・・赤ちゃんってかわいいね・・・とても、あの竜児には見えない・・・ってごめんなさい」
失言と大河は口を押さえる。
「いいのよん・・・で、これが保育園の頃」
「うわ・・・この頃から目つきが・・・」
「そうなの・・・保育園の女の子、たあくさん泣かせたんだから」
「もてたの?竜児」
「違う違う・・・色恋沙汰なら良かったんだけどね・・・竜ちゃん恐いって、みんな泣いちゃうの・・・竜ちゃんのいいこと、分かってもらえなくてねえ」
泰子はおかしそうに笑う。
釣られて大河も笑った。
「今も・・・あんまり変わらないかもね」
「え〜、大河ちゃん、竜ちゃんって恐い?」
「全然、でも、竜児は不本意だろけど・・・そう見ちゃう人も居るみたい」
「外見だけなんだけどねえ」
なんで竜児のかっこ良さが理解出来ないのかと泰子は不思議がる。
「竜児は・・・お父さん似なんだね」
「あらあ・・・大河ちゃん知ってるの?竜ちゃんのパパのこと」
「うん。一度写真を見せてもらった」
「へえ・・・竜ちゃんが・・・」
この大河の台詞に泰子は少し驚いた。
なぜなら、竜児が父親の写真を人に見せるなんて、今まで無かったことだから。
・・・竜ちゃん。よっぽど大河ちゃんを気に入ってるのね。
「これが小学校・・・運動会かな・・・それでこれは中学校の卒業式ね」
今の竜児とほとんど変わらない、いつも竜児が写真にいた。
まだ、大河に出会う前の竜児。
大河はちゃぶ台にあごを載せ、写真の中で微笑む竜児にそっと指先を這わせた。
アルバムを片付けて戻って来た泰子は少し慌てた。
座布団の上で涙ぐんでる大河を見つけたからだ。
「大河ちゃん!どうしたの?どこか痛いの?」
大河は首を振る。
「どこも痛くない・・・ごめんね・・・すぐ治まるから」
そう言えばと泰子は思う。
最初のうちはきゃあきゃあ言う感じアルバを見ていた大河が、後ろの方になると無口になっていたのを思い出す。
・・・食い入るような感じで竜ちゃんの写真、見てたのよねえ。
目じりに溜まった涙を指で拭く大河。
「変なとこ・・・見せてごめんね、やっちゃん・・・なんかアルバム見てたら、急に泣きたくなって・・・違うの・・・悲しいとか嬉しいとか・・・そんな感じじゃなくて・・・なんか、もう・・・ああ、上手く言えない」
「・・・大河ちゃん」
「・・・やっちゃん」
「なあに、大河ちゃん・・・そんなにかしこまって」
崩してた足を正座に組み替えて大河は泰子に正対した。
「あのね・・・うまく・・・言えないんだけど・・・その・・・・・・そう、竜児のこと・・・竜児を産んでくれて、ありがとう」
言葉を探して、探して・・・伝えられない気持ちを伝えようとする大河。
その大河は思い余ったかのように泰子へ深々と頭を下げる。
「ど、どうしたの?大河ちゃん」
「今・・・竜児が居てくれることが・・・私、ものすごく嬉しいんだよ・・・きっと・・・・・・だから」
不器用だけど、なんて素敵な女の子なんだろうと泰子は大河を見ていた。
見ているだけで泰子も大河がとても他人とは思えなくなってしまう。
思わず、抱き寄せてしまい、大河を慌てさせる。
「・・・やっちゃん・・・ふわふわ」
泰子の大きな胸の辺りに抱かれた大河の感想だった。
「ただいま・・・って、なにやってんだ?おまえら」
ちょうどその時、戻って来た竜児は大河と泰子の振る舞いを見て奇異の視線を向ける。
「竜ちゃん。お帰り〜・・・竜ちゃんもする?」
「するって?何をだよ?」
「こっちの胸、空いてるよん」
ふたつのうち片方は大河が占拠しており、もうひとつの方にどう?と誘う泰子。
「遠慮しとく」
「え〜。竜ちゃん、つれなあ〜い。前はあんなにうまうましてくれたのに」
「誤解を招くようなこと言うな・・・それは子供の頃だろ・・・第一、俺は覚えちゃいねえ」
「ふんだ。もう竜ちゃんはやっちゃんのなんかより、大河ちゃんのが気になるんだ」
その声に大河が反応する。
「わ・・・私のって、私の?・・・ダメダメ、全然無いのに〜」
贈答用りんごみたいにきれいな赤ら顔でとんでもないことを口走る大河。
一方で竜児も顔を少し赤らめて母親に抗議する。
「バ、バカなこと言うなよ。大河が困ってるだろ」
・・・あ〜あと泰子は内心で思う。
この反応に、とても何かあったふたりには見えない。
・・・結局、何も無かったんだ。
・・・でも、ま、いいか。
・・・これからだもんね、大河ちゃんと竜ちゃん。
先が楽しみと泰子は笑う。
1枚千五百円と言う黒ブタとんかつが今夜の献立。
「あ、これが大河のな」
お皿を指定する竜児。
「いちばん、脂身が少ないからな」
「いいよ、竜児。脂身、食べる」
「苦手なんだろ?」
「大丈夫」
「無理すんな」
「いい、食べる」
つまらないことで言い合う竜児と大河に泰子は割って入る。
・・・ふたりとも意地っ張りなんだから。
「はい、シャッフル〜」
泰子は自分のお皿を混ぜて3枚のお皿の位置をランダムにいじった。
「あ〜あ、もうどれがどれだかわかんねえ・・・泰子〜」
「これで、恨みっこなし。これならいいでしょ、大河ちゃん」
「うん」
破顔一笑と言う感じの大河。
「ちゃんと食えよ。1枚千五百円なんだからな」
「食べるもん・・・大丈夫」
そう言いながら大河はサクサクしてそうな衣に噛り付く。
「・・・んぐ・・・あ・・・これ脂身・・・竜児、好きでしょ・・・あげる」
そのまま竜児のお皿へ置く大河。
「言ってるそばから・・・おまえと言うやつは」
竜児は大河の歯型が残ったかじり掛けを躊躇なく口にすると、自分のお皿のひとかけらを大河の皿に移す。
「ほらよ・・・赤身だから食えるだろ」
「うん」
泰子は微笑みを抑えられない。
・・・小さな幸せだけど・・・続いて欲しいな。
・・・ね、竜ちゃん、大河ちゃん・・・。
夕食を済ませてまもなく大河が立ち上がる。
「もう、帰るね」
「早すぎるだろ、まだ・・・」
引き止める竜児に大河は言う。
「いつもお邪魔ばっかりしてるから・・・今日は早く帰るの」
「邪魔じゃねえよ」
「そうじゃない・・・たまには短い時間だけど竜児とやっちゃん、ふたりだけにしてあげたいの・・・いつもは私がいるから・・・竜児、やっちゃんに甘えられないでしょ」
「大河!」
「あはは、怒んない、怒んない」
「泰子も何か言ってくれよ」
「大河ちゃん、変に気をつかわなくていいんだからね・・・居たいだけ居てくれていんだから」
「ん・・・竜児も、やっちゃんもありがと・・・嬉しいよ、私・・・でも、今日は帰るね」
明日から新学期だし、またここにいたら夜更かしして寝坊しそうだしと大河に言われて、竜児も引き止めるのをあきらめる。
「送るよ」
玄関に向かった大河を追いかけて竜児は靴を履く。
「すぐそこなのに?」
「いいんだ」
「・・・ん、じゃあそこまで」
「竜ちゃん・・・送り狼」
泰子の声援?を背に竜児は外へ出る。
漆黒の空に淡い月が掛かっている。
竜児と大河は並んで空を見上げた。
「夏、終わったな」
「ん、そだね」
カンカンと外階段の鉄板を鳴らしながらゆっくりと降りるふたり。
「・・・宿題、手伝ってくれてありがとう」
「今度だけだぞ。次からはもう手伝ってやんねえ・・・」
「いいよ〜だ。竜児になんか頼まないから」
「大河!」
「ねえ、竜児」
「あ?」
「さっき、やっちゃんが言ってた送り狼って、何?」
「いい意味と悪い意味があるな」
「竜児は・・・どっち?」
「そうだなあ・・・ガオってか」
両手を頭にぴったり付けて竜児は襲い掛かる真似をする。
「きゃあ、狼が・・・って、アンタ、犬でしょ」
棒読みの悲鳴を上げ、そのままてこてこと駆け出す大河。
もうすぐそこはマンションへの階段。
「もう、着いちゃったね」
「・・・だな」
「ねえ、竜児」
手を後ろで組んで上目遣いに竜児を見る大河。
「なんだ?」
「約束、忘れないでね」
「・・・約束・・・ああ、忘れないぞ」
「嘘ついたら、針千本・・・それも特大の畳針だから覚悟して」
「ああ、分かってる」
・・・側に居てやる。
確かに竜児は大河にそう約束を交わした。
エレベーター前で大河は立ち止まった。
「そうだ・・・ねえ、竜児」
大河は急に思いついたように竜児に呼びかける。
「忘れ物でもしたのか?・・・取って来てやるぞ」
「違う・・・あ、でもそんなような物」
「なんだそりゃ?」
「ん・・・ちょっと言いづらいかな・・・あのね、竜児、耳貸して」
「おう」
竜児は大河が内緒話をしやすいように、ひざを折り曲げて頭の位置を大河の目線まで下げた。
竜児の耳に大河は両手を当てて、内緒話の姿勢。
・・・あのね・・・こういうことなの・・・。
大河は竜児の耳から両手を離すと、竜児の頬にそっと自分の口を押し当てた。
時間にしてほんの数秒間・・・。
大河は竜児から離れるとやって来たエレベーターへ飛び乗った。
「いい方の送り狼・・・送り犬ね、アンタの場合・・・」
・・・また、明日と閉まるドアの隙間から大河は手を振った。
竜児は熱を持ったみたいな頬を手で押さえ、大河を見送った。
本来の送り狼は相手を無事に送り届けるって言う意味らしい・・・
さっきのは・・・大河なりの・・・それに対する気持ちかな?
・・・今夜はいい夢・・・見てくれよ。
・・・なあ、大河。
竜児は大河の部屋に明かりが灯るのを見ながら、アパートの階段へ向かった。
以上です。
3レスくらいの軽い物を書くはずが・・・長くなった。
また、連投規制発動。
ID変わってます。
この先は少しづつでも書けたら書いていきます。
大河と竜児が好きなので・・・。
ただ、量産出来る方じゃないので・・・。
しかし、デレ続けてる大河ばっかり(笑)
お題 「目」「俺」「過剰」
「ねえ竜児、私の欠点って何だと思う?」
「なんだよ突然……」
「敵を知り己を知れば百発百中って言うでしょ」
「うーん、微妙に違うが意味的にはそれほど違わない気も……」
「やっぱり北村君に好きになってもらうには、自分の欠点を把握した上でそれを直さないといけないと思うのよね。
だけど自分で自分の欠点ってなかなか気づかないものでしょ?」
「それで俺に聞くわけか。言ってもいいけどよ……それで怒ったり殴ったりってのは無しだぞ」
「……わかったわ」
「まず、大河はドジだよな」
「ぐ……」
「それから口が悪い。俺の事だってすぐに駄犬だのグズ犬だの言うし、普通だったらドン引きしてるぞ」
「……あんたは引かないわけ?」
「まあ、慣れちまったからな。あと、すぐに手が出るだろ。いきなり木刀持って夜襲とか、普通しねえぞ」
「そ、それだけ?」
「まだまだあるぞ。生活態度がだらしない、面倒くさがり、ねぼすけ、意地っ張り、思い込みが激しい、わがまま、人の話を聞かない」
「わ、私ってひょっとして駄目人間……?」
「いやまあ、そこまで悲観する事もねえんじゃねえか?」
「……え?」
「誰だって多かれ少なかれ欠点はあるもんだろ。それだけを列挙すればそりゃひどい人間にも見えるけどよ、実際にはそんな単純なもんじゃねえだろ」
「そ、そうなのかな……」
「大体、北村がちょっとやそっとの欠点で人を嫌いになるような奴かよ。川嶋のことだって、人当たりの良い外面より腹黒な本性でも嘘じゃないほうがマシだって言ったんだぞ」
「それじゃ、私……今のままで、いいのかな……?」
「ずっとそのままでいいとか、長所があれば短所を直す必要ないとまでは言わねえけどよ。
無理することはねえんじゃねえか? 性格なんてそう簡単に変えられるもんでもねえし」
「……そうよね。うん、なんか元気出て来た!」
「たださ、一つ気になることがあるんだけどよ」
「……何?」
「お前、北村が絡むと途端に自意識過剰っていうか、情緒不安定になるじゃねえか。それも、悪いほうに振れることがけっこう多いだろ?
俺の勝手な思い込みかもしれねえけどよ、なんかさ……大河は幸せな未来ってのが信じられないというか、妙に臆病になってるように見えるんだよ」
「……」
「だからさ、その……大河は、もっと自分が幸せになれるって信じたほうがいいんじゃないかって、思うんだよな」
「……黙って聞いてれば、好き勝手な事を言ってくれるじゃないの」
「た、大河?」
「誰が幸せになることに臆病ですって?冗談じゃないわ、私はいつだって北村君との幸せな未来を夢見てるわよ」
「お、おう、それならいいんだ」
「大体ね、よくもまあ人の欠点をあげつらってくれるじゃないの」
「大河が言えって言ったんじゃねえか」
「ああ、そうだったわね。それじゃお返しに竜児の欠点も教えてあげるわ。まずは目付きが悪いでしょ、それから黒乳首、あと基本的にヘタレで優柔不断」
「ぐぅ……いきなり気にしてる所を……」
「デリカシーは無いし男のくせにいちいち細かいし、グズ犬でエロ犬でキモ犬、ああ、犬の分をわきまえずにご主人様に文句つけるってのもあるわね。
……あら竜児、机に突っ伏したりしてどうしたの?」
「う、うるせえ……どうせ俺は……」
「これぐらいで落ち込んでるんじゃないわよ。
ねえ、中華まん食べたくなっちゃったから買ってきて」
「おい、さっき飯食べたばっかじゃねえか」
「いいでしょ、食べたいんだから。ほら早く」
「……ったく、しょうがねえな。なんかリクエストはあるか?」
「新作あったらそれで。無かったら肉まんでいいわ」
「おう、それじゃちょっと行ってくる」
立ち上がり、財布を手にして外に出る竜児。
ドアが閉まる瞬間、その背に向かって大河は小さく呟く。
「ああ、もう一つあったわ。竜児、あんたは優しさ過剰よ」
竜児の半分はバファリンでできています
ニヤニヤが収まらないw
お二方共ぐっじょぶ!
187 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/24(木) 14:34:47 ID:hUm5LkP7
「新米だぞ大河」
「いただきます」
モグモグ
「ん…まーい!シュウマーイ!サトダマーイ!」
「そんなにうまいのか」
「うん」
「喜んでもらえて嬉しいぜ」
「美味しいからご飯だけでもたくさん食べられちゃう」
「おいおいあんまり食べ過ぎるなよ」
「だいじょーぶい。ちゃんと夜の運動するから」
「おい、まさか」
「もちろんその通りよ!」
「ありがたくいただきます」
ギシギシアンアン
>>182 これは良いアフター
ある意味本編よりニヤついちまったぜ!
>>182 これは良いやっちゃんw
のんびり書いてって下さいな
今更ですが「真夏のシンデレラ」読みました
すごかったです
まるでスピンオフを読んだかの印象
初めて高須家で公にご飯を食べることになったエピや大河の過去話
本当に公式みたくしっかりした話でした
それにクライマックスから〆
切ないですね
お互い「なかったこと(?!)」にしてしまうのが
朝がきたら「高須大河」の魔法が解けてしまったってのがね
いつもの大河と竜児に戻るしか選択がない当時のふたりの距離感
本編でも気持ちはお互い早い段階から固まってそうなんですが
自覚がねぇ。。。お互いwww
まとめサイトの人ほんといつも乙です
オレってやっぱり単行本買っちゃう性質ですねw
お陰様で昼休憩と退社前に一気読みできました
それにサイト内もドンドン進化してますね
テラ使い易いデス!
我が家の隣にはボロいアパートが建っている。見るからに古臭いデザインの木造二階建て。二階の玄関へと続く階段だけが鉄製で、しかも錆だらけ。
一生登ることなんてないと思っていたその階段を、気付けば毎日登っている。
あるときは眠たい目を擦りながら、またあるときは笑顔で。もしかしたら泣きそうな顔で登ったこともあるのかもしれない。
そして、ここを登りきれば安っぽくて薄っぺらいドアがある。
開ける度に希望や光を与えてくれるステキなドア。だけど、閉める度に淋しさや深い闇を寄越して来る意地悪なドア。
だけど、私は今日も勢いよくこのドアを開く。
きっと帰るころにはドアを閉める淋しさよりも強い光を与えてくれると思うから。
いい部屋ネット 大東建託♪
>>182 GJ!
やっちゃんは、やっぱりいいおかあさんだよね。
真夏のシンデレラのあとにこれをもってくるとは
さすがとしかいいようがない。
>>184 いつもいつもたのしみにしておりまする。
しかし、ハイペースですねぇ。
うちもがんばらなきゃ!!
>>187 ひさしぶりにノーマルギシアンを見てほっとした。
大河「りゅーじぃぃぃ。」
竜児「おぅ。なんだ?」
大河「まだ、書けてないの?」
竜児「おぅ。面目ねぇ。
仕事が忙しくて、お礼すら言えてねぇ状況だ。」
大河「うそ。
だってあんた、さっきまでこのスレ確認してたじゃない。」
竜児「ぐ、ば、ばれてたのか!?」
大河「あたりまえよ。
あんた、嘘下手すぎ。」
大河「まぁ、いいわ。
いまかけてる分だけでも投稿しなさいよね!」
竜児「だけどよぉ」
大河「だけどもへったくれもない。
ほら、『その六』が不完全燃焼だったでしょ?
ちゃんと、肉食竜発動させておきなさいよ!」
竜児「う、まぁ、たしかにそうだな。
とりあえず、前回の続きをスピンオフという形で
だしておくか?」
大河「と・り・あ・え・ず?
だからダメなのよこの駄犬!
とりあえずなんてだめ!
ちゃんと出しなさい。ちゃんと!」
竜児「そ、そうだな。
そのまえに、ちょっとまってくれよ。」
大河「な、なによ?」
竜児「レスくれたかたありがとうございます。
NO といってくれたかたもありがとうございます。
(このレスでちょっとは甘くしてみます)
まとめ人様、ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございます。
あと、作者の皆さんGJ。」
大河「それだけ?」
竜児「あぁ、それだけだ。
じゃ、前回のつづきからかくぞ。
以下の、部分のつづき。」
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
北村とすみれが両思いであることを、大河もわかっていたのだろう。
わかって、この場にいあわせたのだろう。
もう少し、大河のことを考えてやればよかっただろうか?
そのまま、大河に殴り込みをさせた方がよかったのだろうか?
竜児と大河は、その場を立ち去り、帰路についた。
<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<
-------------------------------------------------
肉食系竜児 スピンオフ (その六つづき)
家への帰り道、大河をみると、やはり泣いていたのだ。
声には出さず、ただしずかに泣いていた。
竜児『ちょっと、やすむか?』
竜児はそういうと、公園のベンチに大河を座らせた。
北村のためとはいえ、大河に気を配らなかったのは、失敗だった。
大河は、北村が好きなのだ。
それなのに、北村の告白を二度も目の前できかせてしまった。
北村と狩野先輩の抱擁をみせてしまった。
竜児『なぁ、大河?!』
大河『・・・』
竜児『その、すまなかった。』
大河『・・・』
竜児『北村がもう一度告白することはわかっていた。
あいつはそうするだろうとわかっていた。
それなのに、お前を一緒につれてっちまった。
おまえが、北村のことを好きなのをしってるのによ。』
大河『・・・』
大河は黙ったまま、やはり泣いていた。
当然だろうと思う。
大河『・・・りゅ、りゅうじぃ・・・』
竜児『ん?』
大河『やっぱり悲しいよ。
分かってはいたけど、あいつと北村くんが、そうだってこと。
それでも、・・・(ぐす)』
鼻をすすりながら、大河は泣いていた。
竜児は、そっと、大河を包み込む。
大河『ひゃ。・・・・なに?』
竜児『泣くんだったら、思う存分泣けよ。
そんなに大きな胸じゃねぇが、俺のでよかったら
いくらでも貸してやる。』
大河『・・・』
竜児『・・・』
大河『・・・
や、やめてよ。』
竜児『ん?・・・』
大河『そ、そんなことしたら、
す、、、、、』
竜児『ん?なんだ?』
大河『す、好きになっちゃうじゃない。』
想像もしていなかった言葉が大河から飛び出し、
思わずのけぞりそうになる。
どうすべきか?何を言うべきか?
竜児は・・・・・より強く、大河を抱きしめる。
竜児『じゃぁ、好きになれよ。』
大河『・・・
な、なれるわけないじゃん。
あんたと、わたし、なれるわけ・・・』
竜児はそれ以上、大河に喋らせないよう、
勢いよく、自分の唇を、大河の唇に・・・・・
ガッチーン☆
大河の歯と竜児の歯があたり、唇に痛みが走る。
大河『い、いったぁ、んぐ、んぐ』
竜児『・・・』
大河『・・・』
公園には人影はなく、二人はしばらく抱き合っていた。
-------------------------------------------------
大河「やっぱり、キ、キスなのね。」
竜児「まぁ、そうだな。
キスは基本だからな。
ギシアンよりましだろ?」
大河「う、ま、まぁそうね。
でも、『ガッチーン』ってなんなのよ。
だめだめじゃない。」
竜児「しょうがないだろ?
そろそろネタがきれてきたんだよ。」
大河「うーーーん。
しょうがないわね。
まぁ、次回はちゃんととキスしなさいよね!?」
To be continue ?
I am sorry, I do not hope for continuation.
あるあるだけど吹いたわw
200 :
時期はずれ?:2009/09/25(金) 18:52:44 ID:++JwGxYx
遅くなってすいません。
プールのやつの続きです。
201 :
時期はずれ?:2009/09/25(金) 18:53:52 ID:++JwGxYx
141続き
***
先刻の教訓とも言えるだろうか。小さな張り手(圧力は強し)によって生じた焼けるような背中の痛みはこの瞬間、一気に彼方へ吹き飛んだ。
「予想通りね……」
「いや、もう予想以上だぞこれは……」
入り口付近で呆然と立ち尽くす。
まあようするにだ。
これだけ暑いのだ。それは皆同じこと。
夏休みなのだ。それも皆同じこと。
オープンしたばかりのプール施設だ。皆もそんなことは知っている。
期待を募らせた電車内で薄々感づいていたのだ。
涼しげな服装をしてキャッキャッとはしゃぐ中学生くらいの女の子達とか、すでに浮き輪を腰に装着済みの子供連れの家族とか。
人!人!人!
竜児達は流れるプールのある一階の屋外施設にやってきたわけだが、感想はまさにその一言に尽きるのだった。
「電車の中にいた人……向かう先は同じだったわけね結局……」
「みたいだな。なんか悪い……」
「なんであんたが謝るのよ」
「いや……なんか、久しぶりのデートなのに、こんなごみごみしてて悪いっていうか」
「ったく、変な気使わないでよ。私は今日という日を全力で楽しむって決めてるんだから」
「……大河」
「連れてきてくれてありがとね」
「おう」
「それじゃあね」
そうして大河は優しく微笑んで手を上げた。行ってくるわ、と。
「おう。それじゃあ……はっ、え」
「とりゃあぁ―――っ!」
頭に疑問符を浮かべながらも、賢い竜児は瞬時に大河の行動の意図を把握する。
各場所に設置されている看板には『プールサイドは走らないで!』『飛び込み禁止!』そう、こいつは今まさに二つの禁忌を犯そうとしている!
「させるかあぁ―――っ!」
「うっぷ……っ!」
202 :
時期はずれ?:2009/09/25(金) 18:54:40 ID:++JwGxYx
とっさに止めにかかった腕がちょうど走り出した手乗りタイガーの腹を捉えてしまったのは奇跡と言って良いだろう。「……無念……」ガクッ……。人はこの技の名をラリアットと云うらしい。
「……すまん」
「……竜児は私のこと、愛してなかったのね……」
その場でへなへなと跪かれ、かなり申し訳ないのだが言い分はある。
「いや、お前……プールサイドは走ろうとするしだな、飛び込もうとするし。あと準備体操、日焼け止め……」
「へぇ〜、だからラリアットってわけ。ふぅ〜ん、あんた将来自分の子供にもこんなことして黙らせるんだ?おーこわいこわい。人を見た目で判断するなっていうのはまさにあんたのためにあるような口実だわ!」
とっくに立ち上がり、顎を逸らして罵る大河はやはり手乗りタイガー。
こちらが悪いのだから張り合うにも材料がない。これじゃあ大河の独壇場、なぶり殺しもいいところだ。竜児はとにかく話を逸らすため、いでよ!とばかりにあるものを取り出す。
203 :
時期はずれ?:2009/09/25(金) 18:56:46 ID:++JwGxYx
「日焼け止めだ」
「見たらわかるんだけど」
「ちゃんとぬったのか」
「まだ」
竜児はやれやれと、容器から出したクリームを手のひらに乗せ、その場に大河を座らせる。
「セクハラよー」と身をよじる大河の叫び声、それに反応した一般人が異色の目で様子を伺ってくるが知ったことではない。
きめが細かく張りのあるシルクのような肌。触れた先から溶け込み、一つの物質に同化してしまいそうな肌に今更ながら唾を飲む。
邪な気持ちは皆無!……と、仏教じみたことを言えば嘘になるが、純粋にこの肌を守りたい。そんな気持ちで入念に背中、腕、足、腹を塗りたくる。懸念を許さない竜児の手のひらが肌から肌へ、まるで大河という海で泳いでいるかのように。
「はい、終わったぞっと」
パンッと軽く背中を叩いて終わりを告げるが、
「……」
三角座りは動かない。両腕をクロスさせて自分の腕をさすり続けている。
「ちゃんと腕も塗ったぞ大――」
「う、うへへへ……」
前に回り込んで様子を確認する……なんだこれ。
「……大河ー戻ってきてくれー」
だらしなく口元を緩ませ、よく見るとよだれらしき液体が照りつける太陽に反射して光っているのがよくわかる。
「……うっふぅー」
小学校のビデオ学習で見たようなジレンマ。たしか保健の授業。タイトルは「麻薬はぜったいにだめ!」とかだっけ。
恋人の……なんて言うか……ラリっぷり?を目の辺りにして竜児はひきまくる。「天に昇るみたい……これはやばい」いや、お前の方がよっぽどやばい。
「竜児の手のひらから、なんか……魔力的なものを感じたわ……ねえ。もっかい、して……」
「……却下だ。クリームがMOTTAINAI」
「え〜。じゃ、じゃあクリームいらないから!て、手だけで……お願い!」
竜児は黙って再び作業に取り掛かるが、「あ〜、そこっ!き、きもひぃ〜」白い肩からそっと両手を放す。
「なんでぇやめんのぉ?」
明らかに呂律の回っていない大河はどこか卑猥で、とっさにその横顔から目を逸らす。もちろんそんなことは言えるはずもないので、
「……また今度してやるから、な……。とりあえずプール行こうぜ。今日の目的はそっちだろ」
流れるプールを指差して、力ずくで大河を起こしてやる。ふらりふらりと、空気の抜けた風船のような大河にしっかりと準備体操をさせ、いざプールへ。
204 :
時期はずれ?:2009/09/25(金) 18:58:10 ID:++JwGxYx
***
「それぇ――い!」
「……うぷっ、この……っ!負けるかぁ――っ!」
「それそれぇ――い!」
「……くっ、この……っ!痛っ、鼻ん中入っ……くぅふっ、けほ……!」
「ほれほれぇ――い!も―う一丁っ!」
「……ごぉふっ、げっほぅ……っ!おえ゛え゛……っ!ちょっ……たい……っ!ストッ……」
鼻やら口やら、侵入してくる水量は冗談のレベルを越えていた。大河ズ水鉄砲は針に糸を通すかの如し、竜児の顔面の至る所を狙い撃つ。他の人に迷惑だろ!と、注意を促すこともできないほどに的確だ。
対するこっちは高須式水鉄砲。ようするにただ手の平を合わせて水圧を発生させるだけの原始的水鉄砲。当然大河が隠し持ってきた、両手で発射するようなごつい水鉄砲には適うはずもなく、現場はこのありさまだ。
「ふははは――!どうしたの竜児――!降参するなら今のうちよ――!」
「……げぼっ!ごぶっ!お゛、お゛え゛えっ……!だ、だからっ!こっ、こうさ……お゛え゛っ!」
これが俗に云ういじめだろう、と竜児は思う。当の本人は「うわっはっはっ――っ!そんなもんか――っ!」この圧倒的戦力の差に随分ご満悦だ。
意識が朦朧と薄らいでいき、走馬灯が巡る。ここまでか……いや、
スポッスポッ……
「あらやだ、水が」
竜はここで覚醒するのだ。
大河の浮き輪を両手で鷲掴み、力のベクトルは円を描かせる。
「……えっ、ちょっ……竜児ぃ――っ!」
「とおぉりゃああぁぁ―――っ!」
飛沫が辺りにまき散らされる。それこそ周りの一般人を巻き込む大飛沫。
「どぅっ……!どぅでぃぃぃっ……っ!ご、ごごぼれ゛……っ!」
「おおう!?大河―――っ!」
足がつかない&泳げない者から浮き輪を取り上げるとはこうも酷なものなのか……バチャバチャと水を掴むように腕を動かせまくる大河に浮き輪を返してやるが、「死ぬわあぁぁ―――っ!」吠えた。わかっていたけど。届く範囲は半径五十メートル強。
「……いや、な……お前があまりにも一方的に戦闘を繰り広げるから……なんか、爆発した……」
「あ、あんたねぇ……こここ、こっちは死ぬところよっ!」
「お、俺だってなあっ!顔面のあらゆる穴にっ!水という水がっ!……まじで死ぬかと思ったぞ……」
「降参って言ってくれたらやめてたわよ」
「言ったよっ!ていうか叫んでたよっ!なのにお前は、『わっはっはっ―――っ!』だ。耳を疑ったぞっ!」
わーわーぎゃーぎゃー。罪の擦り付けあいはひたすらに続く。一体自分達は何をしに来たのだろうか。当たり前だが、そんなの、誰も答えちゃくれない。
205 :
時期はずれ?:2009/09/25(金) 18:59:27 ID:++JwGxYx
***
「……ウォータースライダー。……やだ、怖いもん……」
広告の中に記載されていたいくつかのアトラクションを思い出し、それとなく提案してみたのだが、大河の返答は却下。理由は単純明確、怖いから。
「なんで」
理由がわかっている以上、重ねて理由を追求することは全くもって無意味なやり取りだ。だからこの『なんで』は、なぜ怖いのか?である。
竜児は大河のいろいろな『苦手』を傍らで見てきた。それこそ、一年を通り越して四カ月、春夏秋冬。大河のことなら何でも知っている!とプライバシーを叩き潰すような自信は毛頭ないが、本当にいろいろだ。
そんな大河とのエピソードの中で根強く、竜児の脳裏に印象付いている大河の『苦手』の一つが、泳ぐことである。
泳げない上、地まで届かない足先。想像するまでもなくそれは恐い。手乗りタイガーと恐れられた(あえて過去形)大河だって例外ではないはすだ。
そんな中、さっきのあの元気一杯、殺意少々(未遂)の開放的な大河のはしゃぎようを垣間見て、
浮き輪という便利なアイテムを装備していることを差し引いても、あれ?こいつ、いつも通りじゃねえか――と、竜児は呆けたのだ。
水に対する心理的な抵抗はもうなくなったんだな大河は。よかったよかった……ちゃんちゃん。
そんな竜児の勝手な想像はピリオドを打って勝手に解決。感慨ふけっていたところで大河の『やだ』だ。腑に落ちない。まあ、これも勝手な憶測だったのだけれど。
「途中……ボートから落っこちて……そんであの滑り台から私はコースアウトして……転落死……」
「……」
……重い。ネガティブ度数が……。大河の今までの性格上、もはや演技に見えてしまう自分の思考力はどうしたものか。
「……ボートにはちゃんと掴む手すりみたいなもんがあるから落ちることはねえだろ。保証はできないけど」
「ほらぁー!保証出来ないんじゃない!竜児はいいの?『あの時俺が止めてたら大河は……』って毎年私の墓に懺悔することになっても!?」
手のひらを合わせ、遠い彼方の空を見上げる大河。ちなみに雲一つない青空には星なんて見えちゃいないのだが。
「大袈裟な……それにボートは八の字になってるから俺が後ろから支えといてやるし。おう、ほら、ちょうど出てきたぞ」
ここに訪れてから、圧倒的な存在感を放っていたうねりにうねった滑り台を指差してみる。
上から下、そして言葉通り右往左往と無の空中に張り巡らさせたそのウォータースライダーは圧巻である。まあ、
……あれこそ崩れたりしないだろうか……ばきばきっ、と……いやいや、ないない。自分もネガティブになってどうする……。
あれだけの器物がよく空中で静止できるものだな。そんな餓鬼じみた脳ではそれ位のことしか思い浮かばないが、いやはや本当に良く出来ているな……と感じていることにしておこう、とりあえずは。
206 :
時期はずれ?:2009/09/25(金) 19:00:18 ID:++JwGxYx
スタートは階段を昇っての最上階。監視員が一組ずつ八の字ボートをセットし、少しの間隔を開けてからボートを押し出し、発進するという手順らしい。
そうして今まさに一組のカップルが滑り台の最終地点から勢いよく飛び出してきて「うっわ!やっばー!超楽しい〜!」「なあ、もっかい行かね?」「行く〜!」と、まるで竜児達を誘い込むかように談笑するのだから、ますます期待が深まるばかりだ。
「なっ!楽しそうだろ!行こうぜ大河!」
と、自分のことは棚上げにして、ネガティブ大河に対抗するためポジティブ竜児で切り出してみたのだが、「でも……私……」大河は何かぶつぶつと独り言。歯切れが悪い。
「わかった。まあ一回行ってみよ」
「おう、行こう」
まあ一回、というのが少し気になるが良しとするか。
この辺りからウォータースライダーの階段までさほど時間はかからない。さっきのカップルに付いて行けばすぐだろう。
「……なっ!?」
行列!とかいうべたなオチではないもののの、目を疑うような光景が竜児を待っていた。
大河はまだ気づいていない。黙っている。とりあえず竜児は一旦そこでステイ。なぜなら大河に一つ、聞かなくてはならないことがあるから。というより発生した……この刹那に。
隣にちょこんと並び立つ大河に慎重に言葉を選ぼうと試みるが、それをオブラートに包んで提供することはどうも難しい。仕方ない、ここはあえてのストレート。
「お前……今、身長、何センチだ」
「ひぃっ……!」
あえて……など小賢しいにも程があった。反応から見て、それはまあ軽々と場外ホームランを浴びせられた気分。やるせない。
竜児は黙って顎をしゃくってみせ、向かうその先を促してやる。
『身長145センチ以下の子供は滑れません』
ご丁寧にも、海パンを着た男の子の絵が描かれている板がそこにはあった。
ちなみに横には監視員が入り口を通せんぼ。『怪しい奴には厳しい身長チェックが待ってるぜ!』心なしか、監視員のお兄さんがそう言っているように見えた。
「い、いやああぁぁぁああ……っ!」
その場で頭を抱え大河は絶叫する。さながら、死んだあいつがなぜここに!ドラマの佳境を見ているかのようだった。
「お、落ち着け大河!今、身長何センチだ?」
「公称145センチ……」
「おおうっ!?ぎりぎりセ――」
「実測……ひゃ、ひゃくよんじゅう……さん……てんろくです……はい……」
「……」
大河の敬語はなかなかの希少価値もの。普段聞けばそこそこの感嘆もあったかもしれないが状況が状況、どうでもいい。
「やっぱり……どうしよ竜児……」
そんなことを言われても俺だって同じ心境だよ大河……フィアンセと意志が通じ合ったよヤッター!もない。ああ、本当にどうしよう。……んっ?それより、やっぱりって、ああ……。
「なんとなく、わかってたわよ……こういうアトラクションは、みんなに平等じゃないって……」
大河が濁して言っていたさっきの言葉『私、乗れないかも……』なるほど、乗れないとは規制の問題で、か。
207 :
時期はずれ?:2009/09/25(金) 19:03:59 ID:++JwGxYx
「あくまで推測だが、身長はともかくとして、大河が高校生だってわかれば通してくれるんじゃねえかな」
「どうやって証明すんのよ……」
生徒手帳なんて持ってきてないわよ……と、大河。
「これもあくまで推測だが、大河だってそれなりに身長が伸びてるかもしれないぞ。もしかしたらすでに145センチに到達してるかも」
「……前測ったの、5月、末くらい……」
もうずっと伸びてない……と、大河。
「「……」」
絶望的だった。限りなく。大河も大河で高校生で身長制限をされてしまうとは思ってもいなかったのだろう。「な……情けなすぎる……」こっちは見ていて悲惨すぎる。
「背伸びしろ……」
「ええっ!」
「ちょっとぐらいならばれやしねえよ……」
「あんた……いつものあの糞真面目はどこに!?黒竜児光臨!?」
なりふり構っていられない。
だってすごく乗りたいし。
208 :
時期はずれ?:2009/09/25(金) 19:05:21 ID:++JwGxYx
「……わかった。やってやろうじゃない……」
「え……本当にやるのか」
「ていうかあんたが言ったんじゃない。男は一度言ったことに責任持ちな!」
「お、おう」
「でもまあ、安心して。学校の身長測定の日とかよくやんの。私にかかったら140ミリの壁くらいお手のもんよ!」
「……えっと、大河。いつもやってるってことは……実測143・6センチの記録自体……すでに偽造じゃ」
「しゃぁーりゃっぷっ!」
おそらくはシャラップ。黙ってはやるけれど、大河……図星を付かれたような表情は真剣にやめてくれないか……泣きそうになるっ!
「とにかく最初は何食わぬ顔で通ってみようぜ。案外あっさり通れるかもしれねえ」
「そ、そうよねっ!あくまで偽造工作は最終手段!秘密兵器!」
いや、もう偽造云々はもう作戦としては破綻しているだろう……と、これ以上大河を追い詰めても何も出ないので口は閉じることにする。
「そんじゃ、行くわよ」
「おう」
あからさまに口笛を吹いたりはしないもの、実に緩やかに、速やかに。且つ、目立たぬように(前屈みだ)監視員の横をすり抜けていく。
一歩、二歩、三歩と。当然と言えば当然だが、歩くたびに監視員から自分達の姿が遠退いていくのを感じながら。
「あとちょっと……」
最初の方こそ何ともいえない気まずさがあったが、どうやら自分達はその恐怖の関門をスルーできたようだ。
竜児は右を向いて、ニヤリ。大河は左を向いて、ニヤリ。犯罪に手を染めたわけではないのだが、どちらも少し何かを意識してのしたり顔、もとい悪人顔。大河だからこそ予想の範疇の可愛らしいものだが、果たして今の自分のツラは……。
うわぁ……。目を逸らす大河。撃沈の竜児。そんな寸劇も束の間、八の字ボートを目前に控えたその時だった。
「あー、ちょっとお嬢ちゃん。きみきみー。ちょっと、せえー測ろっか」
振り返る。竜児は右回り。大河は左回り。ほぼ同じタイミングで、それこそ共鳴か、はたまた同調と書いてシンクロか。
そもそも馬鹿正直に振り返る自体が言葉通り、本当に馬鹿で阿呆で間抜けだったのだ。後は八の字ボートに手をかけて階段を昇るだけの作業だったというのに。
「……わ、わわ私でっすかー!?」
噛むわ、裏返るわ、震えるわ。そんなてんやわんやで大河は返事してみせた。ちなみに返事は「うん、そうそう」だ。あまりにそっけない。
「大河、頑張って……」
打つ手無し!半分は諦めて、悟っての一言だったかもしれない。頑張ってって……何をだよ?知らねえよ、と。自問自答。今日の能登との会話ではないけれど、大河にとっても迷惑極まりない一言だったと後になって思う。
罰の悪そうな表情だったが健気に何も言わず、大河は145センチの男の子(板)に近付き、背中をそっと預けた。
そうして淡々と、監視員は作業を開始する。どちらが高いか低いかをジャッジメント。
近くで見守る竜児も一目瞭然……というわけでもなく、微妙に、本当に微妙だった。大河が例の偽造を公使しているか否かは定かではないが、本当に後1センチ弱の差で大河は男の子(板)に敗北。
間の長さから、負けたんだ私は……とでも思ったのだろう、多分。大河は静かに目を伏せた。
そうして監視員は言うだろう。『う〜ん……惜しいけど、ここは通せないなー』といった、もっともなセリフを。給料を貰っている身、それも義務なのだから仕方ない……と、世の中の理を知らしめられる竜児であったが、
「うーん……後1センチ欲しいところだけど、サービスね。行っていいよ」
案外、そんなものらしい。
209 :
時期はずれ?:2009/09/25(金) 19:10:46 ID:++JwGxYx
とりあえずここまでです。
続きの目処はまだですが出来るだけ早くに・・・
>>70 ありがとう!シロギスでキス……安直かなと思ったけどウケて良かった。
>>71 ありがとう!あまりの暴走っぷりに俺が書いてるのか、書かされてるのかわからなくなる始末(笑)
地の文は最近誰かの視点での書き方ばっかだから注意して書いてたんだが、褒められて良かった。さらにありがとう!
>>72 ありがとう!暴走しまくり……いやほんと暴走しすぎっすね。しかしそれがいい!!
ん?出汁?俺なんか間違った?
>>73 ありがとう!俺もカウントダウンは気に入ってる。
地の文もありがとう!
そちらも長編がんばってください!!
>>96 ただ面白いのを書ける奴が凄いんじゃない。続けられる奴が凄いんだ!!
>>144 まとめ人様、流石ですお疲れ様です神様です。
実は結構トリップ無しで書いた奴があるんですが(オチはギシアンだっシリーズとか)それは……止めておきます。
>>181 乙ぅぅぅぅぅぅぅ!!
>>209 超良かった!続きが気になって自分の作品書けなくなりそうw
さて、忘れる前に念の為一つ解説を。
>>67のラストで
現在時刻、AM02時46分40秒─────
と書きました。
これは先程から何時何分何秒が日が変わってから何秒経ったかと書いたのに関わっています。
以前に俺が書いたのを読んだ事がある人や、原作(プール偽乳パッド辺り)を見たことある人はこれの意味がわかるかと思う。
AM02時46分40秒とは日が変わってから何秒後なのか。
ちょっとした遊び企画なのでしたw
わかった人はいたかな?
ほいじゃ
>>69続き行きマス。
また少なくて、しかも遅くてスマソ。
***
「♪」
逢坂大河は今朝からご機嫌だった。
お腹をさすり、そこにある膨らみを感じては幸福が蘇るようだ。
ちらり、と大河は隣を歩く高須竜児を見てみる。
「っ!?」
竜児は慌ててあさっての方向を向いた。
「♪」
さらに大河の機嫌は上方へと向かう。
(竜児がまた私を見ていた)
それだけで、嬉しくなる。
しかも、今朝からの竜児は『何故か』優しかった。
大河が言い出す前にご飯のおかわりを盛り、卵焼きも竜児の分を一切れ大河に与え、なんとデザートまで今朝はあったのだ。
いつも優しいといえば優しいが、今日のは度を越えた特別な、何か意図のあるような優しささえ感じられる。
(ああ、愛を感じるわ)
大河は再びお腹をさすって、その膨らみと満腹の分だけ幸せを噛み締める。
今の彼女は、手乗りタイガーなどでは決してない。
牙を抜かれ、飼いならされた餌付けタイガーのそれであった。
しかし、そんな大河に、竜児は甲斐甲斐しく世話を焼く。
「大河、ほら、あんま車道に寄るなよ」
と言っては安全な道を譲り、
「大河、服に汚れがついてるぞ」
と言っては汚れを払い、
「大河、ほら」
と言っては、ティッシュを鼻にあててやり鼻をかませる。
………………何だ、どこも変わっていないではないか。
竜児は変わらずに大河の世話を焼いているだけではないか。
強いて言うなら食べ物だけではないか。
しかし、両者の認識は決していつも通りではなかった。
(竜児が私を気にかけてる。さっきの鼻チーンなんてもう以心伝心ものよね)
一方は、妄想の行き着くところまで行き、とっくに常識、限界という名の壁やら崖やら宇宙すらも越えている。
(……せめて今日一日は大河の言う事を聞こう……)
そしてもう一方は、罪の意識からか、何処までも相手を尊重する構えだ。
全く噛みあっていない思考はしかし、
「竜児、あのね、私今日帰りに買い物行こうと思うんだけど……付き合ってくれない?」
「おぅ?大河が言うなら……」
(大河言うなら……だって。ああ、これぞ愛!!)
(今日はトコトン大河に付き合う……!!それで帳消しだ!!)
何故か表面上ではピッタリ噛みあっていたりするのだった。
別に愛が無くとも買い物に付き合ったりするし、それで帳消しになるのか、などとお互いに言ってくれる人間はもちろんいない。
二人とも、思ったことを口には出していないのが幸いし、災いしていた。
『キーンコーンカーンコーン』
さぁ、今日も一日が始まる。
***
「でねでね大河、やっぱり酢なのだよ!!」
大河は、同じクラスの櫛枝実乃梨と話をしていた。
「酢?」
時間は昼休み突入直後。
「そう!!ダイエット戦士としては酢を飲んで動くのが一番良いらしいんだ!!」
「へぇ、酢ねぇ」
「うん、身体に良いし、隠し味的な調味料だし。酢があれば何でも出来そうな気がするよ!!これであの大河とお揃い白パンツを履くのだ!!」
「ちち、ちょっとみのりん!?」
相も変わらず実乃梨はおかしな事を言い出す。
彼女は大河の一番の親友にして女子ソフトボール部期待のエースだ。
しかし、そんな彼女の言葉を聞いてビクつく者が一人。
竜児は、若干の入りにくい女の園に巾着袋を持って突入するか悩んでいる。
今の言葉で今朝見た三角のソレ、男の夢を思い出したのか、尻込みしていたのだ。
だがこのままではいつまで経っても竜児は大河に弁当を届けられない。
竜児は覚悟を決め、
(バレてるはずは無いんだ)
訂正、竜児は自分を信じ、女の園へと突入した。
即座にトン、と机に静かに弁当を置き、簡単に声をかけて竜児はそそくさとその場を去る。
流石に女子同士で話している中に堂々と居られるほど、彼は漢が出来てはいない。
ましてや、今の話題が話題だ。
大河はやや口元を歪めながらも、竜児を見やり、満足そうに巾着に手を伸ばした。
「大河、最近高須君と仲が良いね?」
「そう?まぁ部屋が隣なのがわかったからかな」
大河はそんな世間話をしながら実乃梨と昼休みを過ごす。
もちろん、片手間に竜児謹製の弁当を食べる事は忘れない。
今日の弁当は何か豪華だ。
今朝もさることながら、弁当でもこれ。
普段ならここまでは絶対やらないという肉祭り。
唐揚げ、ベーコン、ハンバーグ、豚肉の生姜焼き、ミートボールというおかず郡。
ご飯の上にはそぼろが乗っており贅沢すぎる中身。
(私の好きな肉ばっかり)
一口食べる度に大河は喜び、愛を感じる。
だがしかし、肉ばかりのメニューと思う無かれ。
そこには大河の気付かぬ巧妙な罠、気配りの高須の気遣いがもちろん入ってた。
唐揚げの下にはレタスが敷き詰められ、ベーコンはアスパラとの塩胡椒炒め、ハンバーグは実は豆腐で、豚肉の生姜焼きの比率は、肉2:もやし8。
ミートボールはよく見るとミニトマトが混ざっており、ご飯はそぼろと同じだけほうれん草がのっかている。
大河にとっては大好きな肉しか目に入らない作りになっているが、全て食べればあら不思議、肉より別な物の方が多いというマジック。
しかし、気配りの家事魔神高須のMAXはさらにその上を行く!!
大河は満足に弁当を食べ終え、巾着に空箱を戻そうとして気付いた。
巾着にはまだ小さいタッパが入っている。
「何これ……?」
不思議に思い、それを取り出し見るとそれはリンゴの入ったタッパだった。
早速開けて一口食べる。
「甘い……」
口の中がとろけるように甘くなる。
まさに今の気持ちそのものだった。
***
放課後、大河は今朝の約束通り買い物に向かった。
隣にはもちろん竜児。
大河の頭にはすでに昨日の言葉が数限りなくリフレインしていた。
まだ今日という日は終わりまで結構あるが、いつその時がくるかはわからないのだ。
(お、落ち着くのよ逢坂大河。まさか竜児も白昼堂々こんな所ではやらないはず……別に嫌じゃないけど)
大河はチラチラと竜児を盗み見ては妄想を爆発させる。
(そう、例えばこの辺で大河って言いながら私の手を掴んで……)
「大河」
竜児は突然大河の腕を掴んだ。
「そうそうそれで……へっ?ひゃあ!?」
急に腕を掴まれた大河は、あまりに想像通りだったのか驚きふためく。
(だ、だだだだめよ竜児、こんな時間、こんな人通りの多いところで、キ、キキ、キスススだなんて……)
そんな重いとは裏腹に、大河の意識は竜児の唇へと向いていく。
自分と違って、少し荒れてそうで、でも確かに竜児の一部。
段々とそれが近づいて来る。
あと50cm。
(だ、だめよ竜児)
あと40cm。
(こ、こんな時間に)
あと30cm。
(こんな人通りの多い所で)
あと20cm。
(あ、あ、あ……)
あと10cm。
(竜児っ……!!)
ぎゅっと目を瞑り、来るであろう感触に全ての神経を集中し……。
あと20cm。
(あ、れ……?)
あと30cm。
「あーあ、大河、お前制服汚したな?帰ったらちゃんと洗ってやるよ」
掴まれた腕には、少々のシミ。
竜児は汚れに気付き、大河の腕に近づき、それを眺めた。
「へ……?汚れ……?あれ……?」
大河はポカンと鳩が豆鉄砲でも喰らったような表情をして、
「ま、ま、まぎらわしいのよ、このバカ犬ぅ!!」
鉄拳制裁を下した。
***
「やってしまった……」
大河は卓袱台に付いてしょげかえる。
料理する竜児の背を眺めながら、先程の失敗を振り返る。
勘違いとはいえ、恥ずかしさのあまりに鉄拳を喰らわせてしまった。
それも気持ち良いぐらいのクリーンヒット。
つい、
『あら、良い音』
と言ってしまうほど。
「はぁ……」
大河は深い深い溜息を吐いた。
これでは今日中には無理かもしれない。
竜児を殴ってしまったのだから。
「今日のキスがぁ……」
つい、大河はぼやいた。
「キス?キスがどうかしたか?」
そんな大河の小さな呟きに、竜児は反応した。
大河はビクゥと怯える。
「き、昨日言ってた奴……」
不安に駆られながらも、しかしはっきりと大河は告げた。
だって、しょうがないではないか。
それだけ、今日になったその瞬間から楽しみだったのだ。
「何だ?昨日からそんなに楽しみだったのか?安心しろ、今日はキスだ」
その瞬間、大河は重荷が取れたようにぱぁっと明るくなる。
例えるなら、さっきまで重力が普段の10倍だったのが、普段の10分の1になったような錯覚さえ覚える。
今なら、あまりの軽さに大気圏まで行けそうだった。
と、唐突に天啓が閃いた。
今すぐ竜児の料理の手伝いをすれば竜児の好感度アップ。
料理時間短縮の為キス時間確率アップ。
大河の料理スキルもアップ。
牙を抜かれた伝説は、思いこみスキルそのままに行動を開始する。
大河は即座に立ち上がり、気配を殺してキッチンへ。
「大河ー?風呂上がりどうする?ジュースとアイス。俺はアイスが良いから買ってこようかと思ってるんだけど」
竜児は気付かずに大河に話しかけていた。
大河の脳裏には昼休みの実乃梨の言葉が思い出される。
『やっぱり酢なのだよ!!』
(隠し味……)
大河は目をギョロリと動かし、すぐにターゲットをロックオン。
狙い撃つかのように素早くソレ、酢をわしづかむ。
「大河、で、アイス系……?」
竜児が振り返ると、大河は鍋に今にも酢を『ビンの中身全部』ぶち込もうとしているところだった。
「おわぁ!?お前なにやってんだ!?いい!!無くていい!!入れなくていいから!!」
竜児は慌てて大河から酢を取り上げる。
「あ……」
思いの外竜児は必死だった。
大河はまた失敗した、というように顔をふせる。
グツグツ。
鍋の煮える音だけが場を支配する。
大河の心がどんどんと深く沈み込むその刹那、
さわさわ。
頭を撫でるやや固い掌。
「……え?」
大河は驚いたように顔を上げる。
「お前はどっちだ?」
「え?」
大河は不思議に思う。
怒っていないのだろうか。
竜児は買い物に行こうとしてるようだ。
恐らくさっきの質問だろう。
「あ……」
***
大河は一人、ぽつんと卓袱台に座っていた。
竜児は先程家を出た。
多分アイスを買いに行ったのだ。
一人になって、頭が冷静になってくる。
火も止めて静寂が支配する2DKで、しかし大河は物思いにふける。
結局、大河は竜児に答えられず頷くだけしか出来なかった。
それを竜児は肯定ととったのか、買い物に行ってしまい、すでに数分。
「なんで私ってこうなんだろう」
昨日から思い続けていたことを、改めて感じる。
告白しようと思えば、その人は他の女の人といるし。
新たに上手くいくかと思えば空回りばかり。
さっきの竜児の声だって。
『大河、で、アイス系……?』
話している途中で、竜児はもの凄い顔をしていた。
え?お前なにやってんの?みたいな。
「はぁ……」
大河は溜息を吐いて寝っ転がる、と、足下にリモコンがあったのか、テレビが点いた。
『いやぁ、バカと天才って紙一重ですよねぇ。頭の良い人ほど考えすぎるっていうかバカな勘違いするっていうか……』
どうでも良いことが耳に入っては流れていく。
思い出されるのは竜児の必死な顔と声。
『いい!!無くていい!!入れなくていいから!!』
「はぁ……」
再び溜息を吐いて目を閉じる。
こんなんで、今日のキス、出来るだろうか。
出来たとしてもこんな気持ちじゃ……。
何度もリフレインされる竜児の叫び声。
『いい!!無くていい!!入れなくていいから!!』
『e!!無くていい!!入れなくていいから!!』
「……あれ?」
何かおかしい。
「e、入れなくていい?」
その瞬間、はっとする。
『大河、で、アイス系……』
『taiga,de,aisukei……』
e!!無くていい!!入れなくていいから!!……eを抜く。
『taiga,daisuki……』
『大河、大好き……』
「へ……?」
がばちょ、と大河は勢い良く起きあがる。
「ま、まさか……なんてこと……!!」
今、大河は全ての謎を解いたとばかりに目を輝かせる。
「私、またやらかしていたのね……?」
今まさに自分がやらかしているとは恐らく夢にも思わない。
大河は、優しく撫でられた髪の感触を思い出す。
「そう、あれはそういうことだったんだ。竜児、貴方って人は……!!」
感動が奇跡を呼び、奇跡がさらなる混沌を呼び起こす。
どんどん気持ちが、身体が軽くなっていき、今なら大気圏どころか宇宙にだって飛び出せそうだ。
伝説の虎には再び牙が生え、活力が戻っている、否、増している。
竜児という哀れな獲物の帰宅まで、あと10分……。
とりあえずここまで。
遅筆ですみませぬ。
肉食系も乙!
言葉のトリックすごいな・・・
おもしろかった。
>>208 乙!
あぁ、やっぱり夏は良い……
身長制限なんて最近気にしたこともなかったけど、大河にとっては重要だよね。
そこに気付くのが素晴らしい
>>216 乙!
大河のキレっぷりがすげぇw
吹いたww
>>208 身長制限にはワロタw
今日も面白かったよ
>>216 その発想はどこから出てくるんだと小一時間w
>>208 夏はいいねぇ。
身長制限だけど、ディズニーランドは多分大丈夫だよ!!
GJ!
>>216 いやぁ、竜児のお弁当がおいしそう!!
GJ!
>>209 ずっと2828しっぱなしでした。
ホント楽しそうな2人がいいなー
日焼け止め塗りでラリってる大河やべぇ。
>>216 相変わらず見事なズレっぷり、今度は距離のカウントダウンにドキドキ? してたのは大河だけか。
> 2時46分40秒
1万… なるほど。思わず、作者別一覧から、昔の作品を読み返したくなりました。
リュウジチュウドクの時も電卓叩いたっけ(暗算は苦手だ)
あ、
>>144 まとめ人様、本当に乙です。つい、色々読み返して、時間があっという間に
過ぎてしまいます。
222 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/26(土) 16:42:48 ID:lnYFrXup
最萌って相手にしてなかったんだが大河の日と聞いてチラ見したんだ
そしたら支援まとめの中に見たことない画像もあって楽しめた
なーんていうチラ裏失礼
でも幸福屋の転載は頂けないな
お題 「明日」「瞳」「平等」
「はい、高須君」
そう言って亜美が竜児に手渡したのは小さな包み。
「おう……って、これ何だ?」
「亜美ちゃん特製の、愛情た〜っぷり込めた手作りクッキー」
亜美のセリフに、教室中(特に男子)がざわつきだす。
『また高須か……!』『なんであいつばっかり……』
「な〜んちゃって。本当はね、雑誌の企画で作ったクッキーのおすそわけ。この間プールのお詫びも兼ねてね。
あ、でも、亜美ちゃんの手作りなのは本当だよ?」
チワワの瞳に悪戯っぽい光を宿らせてにっこり微笑む亜美。本性を知っている竜児でさえ思わず見蕩れそうになる。
「お、おう、ありがとな。ありがたく食べさせてもらうよ」
「後で感想とかもらえるとうれしいな」
と、竜児に忍び寄る二つの影。
「なあ高須、俺達は親友だよな?だから、ここはひとつ平等に……」
「高っちゃん、俺、そのクッキーがあれば明日からの期末試験なんとかなりそうな気がするんだけど」
「能登、春田……」
うんざりした表情の竜児の目前で、瞬間、手にしていた包みが消え失せる。
「え?」
見やれば包みは大河の手に。
「ふん」
大河はつまらなそうに鼻を鳴らすと、包みの中身をざらざらと口の中に流し込む。
「「あーっ!!」」
悲鳴のような能登と春田の絶叫。
「大河、お前なあ……」
呆れ顔の竜児の前で、大河はもぐもぐ、ごっくんと。
「竜児の物ほ私の物」
「ちょっとちびとら、何してんのよ!」
柳眉を逆立てる亜美に向かって、大河は一言。
「まあ悪くはないけど、まだまだね」
「何よ、あんたならもっと上手く作れるっていうの?」
「私じゃないわ……竜児よ」
「はあ?亜美ちゃん意味わかんないんですけど」
「バカチワワは知らなかったかしらね。竜児はお菓子作り上手いの。
クッキーなんかそこらへんのお店で売ってるのより美味しいんだから」
「だから、それがどうしたってのよ」
「わからない?あんたがショボいクッキーで恥をかく前に優しい私が処分してあげたのよ。感謝することね」
「何が感謝よ。あんたはただ人のクッキーを横取りしただけじゃない」
「人の? あれは竜児にあげたんでしょ。その時点で私の物も同然なんだから、それで文句を言われる筋合いは無いわねえ」
「ああ!」
亜美が腹黒さを滲ませてニヤリと笑う。
「それもそうよね〜。なんたって『竜児は私のだー!』だもんね〜。
だから高須君にあげたクッキーも逢坂さんのものだって、そういうことになるわよね〜」
「んぐっ!」
絶句する大河。うんうんと頷くクラスメイト。
「そ、そんなんじゃないって、言ってるでしょうがーっ!」
「やだもう、 逢坂さんったら照れちゃって。可愛いんだから〜」
「こ、こんのバカチワワ……!」
「おはよう高須」
「おう、おはよう北村」
「いやあ、亜美と逢坂はすっかり仲良くなったな」
「お前、アレを見てどうやったらそんな感想を持てるんだよ……」
>>208 > 「でもまあ、安心して。学校の身長測定の日とかよくやんの。私にかかったら140ミリの壁くらいお手のもんよ!」
大河、お前145センチに何ミリ足りないんだよ…(w
226 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/27(日) 09:12:36 ID:bNGLe4XP
今日はAT-Xでのとらドラ再放送の初回最終回なんだが毎週見てたのに稲刈りが終わらなくて見れないから困る
あのキスシーンもラストの頭突きも茶の間の液晶で正座して見たかったぜ
228 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/27(日) 17:47:45 ID:ehIEk2fe
「すっかり秋よ」
「秋だな」
「食欲の秋!あれもこれもどれもそれも美味しくてたまらないわ!」
「おう、腕のふるい甲斐があるってもんだ!」
「……けど、太っちゃうのよね」
「食う量減らせばいいんじゃねぇか?」
「だめ。やだ。無理」
「おぉう……完全拒否かよ」
「この季節に食べなくて、一体いつ思いっ切り食べれば良いっていうのよ!?」
「お前毎日ガッツリ食ってるだろうが!」
「ふふん、竜児は知らないのね。普段の私は、腹八分目よ!」
「な、何ぃ!?」
「本気を出せば、そうね……5合は余裕」
「んなバカな……」
「ってわけで、カロリーを消費するわよ竜児!」
「まぁ、毎年のコトだからなぁ」
「うるさい。つべこべ言わずに始めるわよ!」
ギシギシアンアン
「りゅうじぃー、お腹空いたー」
「夜食摂ったら意味ねぇだろ!」
こんばんは。久々に新作を投下させて頂きます。
【たいが】を未読の方には分かりづらい部分もあると思いますがご了承を。
では、次レスより投下します。
コツコツとヒールを鳴らしながら階段を上がる。
今日は久しぶりのオフだっていうのにショッピングに行くでもなく、エステに行くでもなく、
旧友……いや親友と呼べる奴に会いに来た。ま、本人には言わねーけど。
「ここかぁ……何だかんだ言って結構いいところじゃない」
まだ寒さの残る三月。今日は天気もいいし、大橋の駅は懐かしかった。
平日の午前中は人通りも少ないし、たまにはこんな散歩も悪くない。
「高須……竜児
大河…………ねぇ……可愛い表札付けちゃってまぁ……」
手提げバックからハンドミラーを取り出してメイクと髪型をチェック。
相手は友達とはいえ、芸能人たるもの隙を見せてはいけない。
「うん。亜美ちゃん、今日も可愛い〜♪」
小さな声でそう呟いてチャイムを鳴らす。
ピンポーン―― と、ありきたりな音がドアの向こうで響いた。
「あ! ばかちー来たみたい」
「あっ、大河、そしたら私が出迎えるよ、大河は座ってな」
「うん、お願いね、みのりん」
「……壁うすっ!」
ま、あいつらなら地声もでかいし……って言っても丸聞こえってどうなの?と自問自答してる間にドアが開く。
「おうおう、あーみん。元気だったかね?」
「実乃梨ちゃんこそ元気?なんか久しぶりだね」
と、もう一人の親友と再会を喜び合う。こっちもまぁ、本人には言わねーけど。
「上がんなさいよ、ばかちー」
顔も見せずにタイガーが声を張り上げる。
普通は出迎えるもんじゃねーの?とか頭の片隅で思いながら靴を揃える。
実乃梨ちゃんに促されるようにリビングに足を踏み入れて……
「うわっ! 何だそりゃ!?」
分かっていたのに……想像以上のそれを見て驚きの声を上げてしまう。
「何よあんた、久しぶりだってのに一言目がそれ? 相変わらずしっつれいな女ねぇ……」
「あはは そりゃ驚くって大河。私だって同じくらい驚いたじゃん?」
「…………ま、まぁ、全体の縮尺は変わらないけど……お腹の大きさだけは人並みで良かったんじゃね?」
「まぁまぁ、あーみん。取りあえず座りなってホラホラ」
バスケットボールでも入ってるようにしか思えないお腹から目を離さずに座ると、
「そう? これでも平均より小さめらしいの。ま、私にとっちゃ十分大きいんだけどね」
「あんたが言ってた『見せたいもの』って……それ?」
「そうよ、ばかちー忙しいのは知ってるけど、一回くらい見せておきたいじゃない?」
女優業は順調でそろそろ一年になる。地味な下積み仕事が多いけど、メディアの露出も増えている。
だけど、そうなると当然モデルだけやってた頃とは比べ物にならないくらい忙しくなった。
このチビ虎に子供が出来たのも、そろそろ出産が迫ってるのも知ってたけど、なかなかスケジュールが合わなかった。
「そーだね。確かにこりゃ一見の価値があるわ」
「……とか何とか言って、実は私に会いたかったんでしょ? いいのよ、素直になりなさい」
「ばっ、ばっかじゃねーの? あんたがどうしてもって言うから来てやったんだっつーの」
「そういう事にしといてやるから……ホレ、ホレ」
と言いつつ手を伸ばすタイガー。
「……なによその手は?」
「あらやだ、人様の家にお邪魔するのに手土産の一つも無いわけ?」
「うっ……」
「芸能界でうまく立ち回ってたとしたって、こんな基本が出来てないんじゃ先が思いやられるわねぇ」
そう言って意地悪そうにこちらを見る。母親になったからと言って小憎らしさは変わらないらしい。
「んもーう、大河ってば急に誘ったんだもん、いくらあーみんだって無理だって」
「そうね……まぁ無理言っちゃったからしょうが……」
「あるよ! あるある! 亜美ちゃん昨日、仕事の合間に買ってきたもんね!」
言われっぱなしも限界だっつーの。だいたいこういうものは催促するもんじゃねーだろ?
と、ぶつぶつ言いながらモスグリーンの包装紙に包まれたものをタイガーに放る。
「おおう、やるなぁあーみん」
「……何これ? 貴金属かしら?」
「んなわけねーだろ……紅茶よ、紅茶! ファーストフラッシュもので美味しいって有名なんだから」
へぇ。みたいな顔をして箱を眺め回してるけど、おそらく意味は分かってないだろう。
そもそも高須家に持ってくるなら紅茶より緑茶だったかも……なんて思ってると、
「ちょうど良かった。それじゃこれでお茶にしよっか」
「そいつぁイイね、ちょうど焼ける頃じゃない、大河?」
「……焼ける?」
「そそ。私ね、みのりんとばかちーのためにお菓子作って待ってたんだ」
「あ、あんたがぁ!?」
思わず大きな声が出た。むしろお腹の大きさよりも驚いた。
「そうよ。ま、今日は簡単なマドレーヌだけどね」
「えぇ……っと。あんたって……そういうキャラだっけ?」
「あーら川嶋さん……私が何年主婦やってると思ってるのかしら?」
「いやいや、それは分かるんだけど……似合わねーっつーか……ねぇ、実乃梨ちゃん?」
「そんなことないよ? あーみんもすぐに分かるって。人は変わっていくものなのだよ!」
えっへんと胸を逸らすが、それが本当だとしても偉いのは実乃梨ちゃんじゃないような……
「まぁ、あんたの言い分も分かるわ。だからそこで大人しく待ってなさいよ?」
そう言ってテーブルに手を付いて立ち上がろうとするタイガー。
「よっ! こらっ! しょおおおおっと!」
ひどく身体が重そうだ。そして……ひどくババくさい。
「あ……あんた、大丈夫?」
「しゃらあっ! こんくらい問題ない。心配しないで……って、うわっとぉ!?」
「大河ぁ!?」
よろめいたところを素早く実乃梨ちゃんがフォロー。
「……っとっと。ありがと、みのりん」
「いやいやーどういたしましてだよ」
「……あんた毎回そんな危なっかしいわけ?」
「ううん。一人で立つ時は木刀に掴まりながら立つから全然危なくないの」
「木刀って……」
あたしが唖然としているのを気にも留めずにひょこひょことキッチンへ歩いていく。
いつの間にか実乃梨ちゃんも側に付いているから安心だろう。
そんな二人を見送って、部屋の中がやけにカラフルだと気付いた。
パステルカラーのおもちゃだったり洋服だったりが置かれている。
隣の部屋のあれはおそらくベビーベッドで、リビングボードの中には出産関連の本が並ぶ。
「へぇ…………」
それら一つ一つは逢坂大河だった頃のあの子のイメージとは程遠いけれど、
あのお腹とか、この部屋とか、漂ってくるバターのいい匂いとかが全部混ざって不思議な気持ち。
「おおおー! 焼き加減ばっちりじゃーん!」
「でしょでしょ? あ、みのりんは紅茶のカップとか持ってって」
「ガッテン承知っ!」
キッチンの声を聞き流しながら飾ってある写真を目で追う。
そこに……高須君がいた。
どのくらい会ってないだろう?最近まともに話したことあったっけ?
女優になる前はタイガーと外食した事もあったけど、その旦那様となると話は別だ。
二人の結婚式の記憶はしっかり残ってても、その後の数年間はあたしにとって嵐のような毎日だった。
これは……日本の海じゃなさそうだし、旅行かな……?
その隣ではシンデレラ城をバックに寄り添って手を繋いでる。指と指を絡めるいわゆる『恋人つなぎ』ってやつ。
こっちの写真にはレジャーシートに置かれた美味しそうなお弁当なんかも写ってる。
あ、これはお腹がちょっと大きくなってる。誰の家だろう、庭があるからどっちかの実家かな?
――どの写真も楽しそうで、どの写真でも二人は笑っていて。
タイガーと高須君が築いてきた確かな日常ってやつがそこにあった。
あたしの知らない二人の姿は新鮮で、だけどそれを知らない自分が少し寂しかったりもする。
高校を卒業してから、この二人とは違う道に進んだんだから、当然と言えば当然……か。
「ばかちー、何ボーっとしてんのよ?」
「えっ!? あ、あぁ……ごめんごめん」
振り返るとタイガーがお盆を持って立っていた。
そこにすかさずキッチンから実乃梨ちゃんの声が掛かる。
「あーみん受け取ってあげて。腰曲げるの大変そうだからさー」
「はいよー」
お盆を受け取り、キツネ色のマドレーヌが乗ったお皿を並べていると、テーブルの反対側にゆっくりとタイガーが座る。
「あ……悪かったね、気が利かなくって」
「ううん。たまには自分で動かないとなまっちゃう」
「紅茶セットお待ちぃ〜」
「あっ、ありがと、みのりん。そこに置いてね」
たまには、の部分に疑問を抱きつつ、取りあえず用意が終わったみたいなので腰を落ち着ける。
「どう?おいしそうでしょ?」
それ以外の感想があるわけないと言わんばかりに自信満々なのが気に食わないが、
「確かに……美味しそう……ちっ」
「ちっ、って何よ?」
「どうせ高須君が作ったんでしょ?」
「それが違うのだよ、あーみん」
「私が1から10まで作りましたー!」
「マジで……?」
にわかには信じ難い、けれど得意気にニコニコ笑ってるのを見るとどうやら本当か。
「……ちょっと見直した……そ、それじゃ今から食べるんだよね?」
「あ、食い意地はった川嶋さん?もうちょっと食べるの待ってね」
「はぁ?亜美ちゃん全然そんなことねーんだけど?」
「いま、紅茶入れてあげるから……それまでお預けよ、バカチワワ」
「あっはは! 久々に聞いたねぇ、その名前」
「……ふん。だいたい何がマドレーヌよ、フランス気取りかぁ?」
「ふっふーん。やってみると簡単なのよ?お店の物より美味しいし」
そう言いながら、透明なティーサーバーに手馴れた感じでお茶の葉とお湯を入れる。
蓋を閉めて茶葉が開くのを楽しそうに眺めているのを見て……これが今のタイガーなんだ、なんて事を思った。
「き〜ら〜き〜ら〜ひ〜か〜る〜♪」
しかも、お腹を撫でながら小さな声で歌まで歌いだす始末。
それはどこにでもいる妊婦さんの絵面そのまんまで、ゆらゆらと揺れる姿につい見とれてしまう。
よりによって、かの暴君タイガーがこんなに穏やかな時間を過ごすようになるなんて想像も付かなかった。
「……って、それって『きらきら星』?口ずさむならもうちょっと他に何かないの?」
「ら〜ら〜ら〜ら〜 ……ん?いいじゃない、私これが好きなんだもん」
「ふーん」
「良いではないか、あーみん。それより、これもお皿に盛ろうぜぇ〜」
そう言って透明な容器に入ったホイップのようなものを手渡してくる。
「これは?」
「それはね、竜児特製のサワークリームよ。どんな焼き菓子でも魔法のようにおいしくなるんだからっ!」
「あーそれは楽しみかも」
現金なやつ、とか何とか言いながら紅茶を注いで準備完了らしい。
「それじゃ、いっただっきまーす!」
と、真っ先に食べ始めるタイガーにちょっとだけ安心する。食い意地は健在……と。
時間は10時ちょっと前。
部屋の中まで届く日差しは、春を感じさせる程に暖かい。
紅茶の香りもいいし、チビ虎が作ってくれた二回目のお菓子はとても美味しかった。
◇ ◇ ◇
「ふぃ〜食った食ったぁ〜」
「ごちそうさま、大河。今日もうんまかったぜぇ〜」
「…………あんたら……」
いや、確かに美味しかった。
特にサワークリームが適度な酸味でいくらでも食べられそうだったのだけど……
「二人とも食いすぎじゃね? 何個食べたの……?」
「いいのいいの、私はたっぷり栄養付けないといけないんだから」
「そうそう。私は今日のために昨日の夜から断食してたからいいんだぜー?」
「あぁ……そうかよ……」
いまだ十代の胃袋を持ってる二人を羨むべきか、スイーツをいくらでも食える立場を羨むべきか、それが問題だ。
「あーみんはもう食べないの?」
「これ以上食ったら、デニムのボタンが苦しくなっちゃうもん」
「あーそうだ。お昼になったら、美味しいご飯も食べさせてやるからね」
「げぇ……まだ食う気かよ、あんたら……」
「おっと、それなら私も作るの手伝うぜよ?」
「ううん。ほとんど下ごしらえも済んでるから大丈夫だよ?」
その言葉を聞いて思わず、ドン―― とテーブルを叩いてしまう。
「やっべーじゃん! 何それ?何なのあんた?何があったって言うの?完璧主婦?高須流家事術の免許皆伝?」
「い、いきなりどうしたわけ?」
「さっきから違和感ありまくりだっつーの! 部屋はちょっとだけ散らかってるけど、お菓子も作って、
ご飯も作って、お客さんが来る前に下ごしらえまで済んじゃってて?
人が変わったみたいっつったら失礼だけどさ、なんつーか、ほら……」
一気にまくし立ててしまってから冷静になってくる。
再会を喜んで美味しいもの食べて何も問題ないって言うのに、あたしは急にどうしたっていうんだろう?
「まぁまぁ、あーみんってば……」
「なるほどね。ふふん……私には分かる。分かるわー」
「何がよ?」
「私がすっかり家庭的で素敵なレディになっちゃったもんだから、焦ってるんでしょ?」
「ち、違うって」
「それともあれかしら?『あーこいつ幸せそうだなーちくしょー!
あたしなんかディレクターのハゲオヤジに毎日囲まれてるのに……チッ!』とか?」
「……ちげーって」
「うんうん、しょうがないのよね。この部屋に来たらね、私と竜児の幸せオーラでみんなやられちゃうんだからっ!」
「あははは、私もいっつも当てられちゃうんだよ。あーみんも気にしちゃダメだよ?」
確かにやられちゃったのかもねーと、実乃梨ちゃんに冷めた視線を送りつつ、にやにや顔のタイガーに顔を向ける。
「予想外の展開に亜美ちゃんビックリしちゃっただけ。それだけだよ……」
「ふーん?」
「ま、あたしはてっきりぃ?ノロケを聞かされるために呼ばれたんだと思ったんだけど……」
「それもあるね」
「あるんかいっ!?」
思わず突っ込んでしまったけど、それに対して、
「あるけど……そんなんじゃなくって、ばかちーにも……ちゃんとお祝いしてもらいたかったんだもん」
と、少し拗ねるように言うのだからずるい。
「……っ、……べ、別に生まれてからでも、ちゃんとお祝いに来るつもりだったよ、あたしは」
「だってあんた忙しいじゃん。今日を逃したらいつになるか……」
「それは……確かにそうだけどさ……」
「でしょ?それにまだ、このお腹の感想を聞いてないわよ?」
「えぇ!? それって言わなきゃならないの?」
「うん、そう」
「………………」
「ホレ、何か言いなさいよ」
「で ・ け ・ え」
挑発するようなあたしの物言いに、隣で実乃梨ちゃんが苦笑いしてるけどスルー。
「それだけ?他に何かないわけ?」
けれど、タイガーは前みたく怒るわけでもなく、無邪気にあたしの答えを楽しみに待ってる風にも見えて、
「ま、まぁ……その……すごい、ね……」
「そうなの! すごいでしょ……へへへへへ」
そう言って嬉しそうに、どこか誇らしげに笑うもんだから、つられてあたしも微笑んでしまう。
「予定日っていつ頃なの?」
「ちょうど一週間後。だから本当にあとちょっとなの。あとちょっとすれば……」
「すれば?」
「……この子に会えるんだ」
愛おしそうにお腹を撫でながら、照れたように頬を染めるタイガーはとても綺麗で、
「……良かったじゃん」
「うんっ!」
昔っから変わらない元気いっぱいの返事も、とても幸せそうで。
あーあ、やっぱり亜美ちゃんやってらんねーと心の中で毒づいた。
◇ ◇ ◇
以上です、ありがとうございました。
例によってプロットと草稿レベルまでは終わってますが、
そこから先の加筆修正に時間が掛かるタイプなので、
不定期かつ前回より大分のんびりとした投下になりそうです。
それでは。
>>238 お疲れ様。相変わらずうまい。
亜美ちゃんのしゃべり口、よく掴んでるね。竜児の事を少し引きずってるみたいだけど、
この後が楽しみ。
240 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/28(月) 00:12:11 ID:i8Nv6blJ
AT-Xでのとらドラ最終回の日に名作来るのはありがたや
しかし頭突きエンドは何度見ても…続きやって欲しいね
まあ完結してるからこそこちらのスレのありがたみが増すわけだが
241 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/28(月) 00:13:20 ID:qbCz3776
こんな妄想垂れ流しをおまえらどんな時書いてんの?
やっぱり彼氏や彼女に隠れて書いてんの?
まさか嫁がいるオッサンとかいないよな?
まさか恋人もいないのに恋愛について書いてるやつはいないよな?
大河「…魚より肉がいい。」
大河「肉より竜児がいい」
ギシギシアn(ry
>>238 GJ!
大河の幸せを中心とした、3人のトーク最高!
相も変わらず文章が優しくて、素敵です
のんびり続きを楽しみにしています!
>>238 乙!
ほんわかした雰囲気に癒されました。
続きが楽しみw
>>243-245 おまえらwww
なんか、こういうコンボも久々だなぁ……
口内炎が痛いorz
奇遇だな俺も
250 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/29(火) 00:18:41 ID:lpQ0+j55
まさかおまえらが口内炎になるとはなあ
肉ばっか食ってるからだぞ
>>239 ありがとうございます。
微妙なチワワゴコロも楽しんでもらえればと思います。
>>240 頭突きエンドは至宝ですね。
あれがあるからこそ、その後もワイワイ楽しくやっていくんだろうなと想像できるので。
>>246 ありがとう!引き続き、エンドレスガールズトークをお楽しみ下さいw
>>247 ありがとうです。続きも鋭意執筆中ということで暫くお待ちを。
あと、書くの忘れてましたが、まとめ人様、作者別ページお疲れ様でした。
本当に頭が上がりません。これからも頑張って下さい。
255 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/29(火) 17:26:21 ID:6D3ZSPNL
>>252 でも頭突きの後の展開も見たかったんだよねえ
OVA出して欲しいくらいだけど結局DVD8のジャケくらいだし
まあだからこそこのスレは重宝してるわけだが
257 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/29(火) 20:25:14 ID:w8DMEJeH
ボーっとしたまま書いてみた…
竜児「大河、ちょっとそのまま立ってろよ…」
大河「何よ。駄犬の分際で私に命令するとはいい度胸じゃないのよ。
なに?もしかして、またあんた……んっ!?」
―――。
大河「ぷはっ…。はぁ、ん…」ビクンッ
竜児「よしっ…」
大河「な、なにが『よし』なの、よ……。い、いいきなり、そ、そういうのって……」ポー
竜児「いや、いつもキスする度に、その、大河が辛いんじゃねえかって思って…」
大河「……どういう意味よ」
竜児「その、ほら、俺とおまえって、体格差があるじゃねえか。睨むなよ……」
大河「で?結局何が言いたいわけ?」ジトー
竜児「だから、その、どれぐらいの角度がいいか、とか……どれぐらい屈めば、大河が無理しないで済むか、とか……」
大河「バカ…」
竜児「バカ言うなよ。俺は大真面目なんだぞ?俺は俺なりに大河のことが……って、どした?」
大河「……変なとこで真面目にならなくていいから、その……」
竜児「お、おぅ…」
大河「責任……とってね…」
ギシギシアンアン
なんか、これだけで逃げのびられる気がする(笑)
258 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/29(火) 21:43:58 ID:6D3ZSPNL
ギシアンで不覚にも萌えた
現実みろやお前ら
>>255 頭突き後では、
「とらドラ!ノ全て」に、電撃MAGAZINEのイラストが載ってた。
セーラー大河見た瞬間、ドキッ、ゾクッとした。
見開きでおへそチラ見え大河&竜児と、亜美、実乃梨、北村。
大河の表情が好き!
お題 「耳元」「自転車」「レシート」
「もうすっかり秋だよなー」
レシートと釣り銭を財布にしまいながら竜児が呟く。
「秋よねー」
籠の荷物をエコバッグに移しながら大河が応える。
並んでスーパーを出れば、すっかり涼しくなった風が頬を撫でる。
「ねえ竜児、色々買ってたけど今日の晩御飯は何?」
「おう、今日は秋刀魚だ」
「お肉もいいけど、秋はやっぱり秋刀魚よねー」
「鮭は明日の弁当な」
「やった!明日が竜児のお弁当の日でよかったー」
「キノコ類はまあ、色々と使い様はあるしいざとなれば冷凍保存も出来るし」
「おイモは?」
「そうだな、安かったんでつい買っちまったが……天ぷらにするかサツマイモご飯にするか……」
大河は思案を始めた竜児の袖にぶら下がるように掴まって、
「おやつ!おやつ作って!蒸しパンとかスイートポテトとか!」
「それもいいな。そういや、大河の弟はもう離乳食食べられるんだっけ?茹でて裏漉しして……大河っ!」
竜児が咄嗟に大河を引き寄せたすぐ脇を、猛スピードの自転車が通り過ぎる。
「まったく、危ねえなあ……」
振り返りもせず走り去る自転車を凶眼で睨み付ける竜児。
その腕の中、計らずも抱きしめられる形になった大河は頬を赤らめてドキドキと。
「なあ、大河……」
耳元で竜児に囁かれ、大河の体がぎゅっと硬直する。
「……少し、太ったんじゃねえか?」
ピキッと、別の意味で固まる大河。
「う、うそ、やだ、私、そんなに……?」
「落ち着け大河、去年みたいに酷い状態じゃねえから。ただ、さっき手首掴んだ時に、前よりちょっと、さ……」
「そ、そういえば、最近はコンビニの新作スイーツとか、色々と……」
うろたえまくる大河を前にして竜児は考える。
去年のようなわけにはいかない。
竜児にしろ大河にしろ今のクラスメイトは元2−Cのようにノリのいい連中ばかりではないし、なにより受験生であるからしてそうそう協力してもらうわけにはいかない。
食事も、去年と違って竜児が管理できるのは全体の半分以下だ。
「……運動しか、ねえか」
「え?」
「太ったっていってもまだ大したことねえし、俺も大河と一緒にやるからさ」
「運動……竜児と……二人で……一緒に」
大河の頬がだんだんと赤くなっていく。
「や、やだもうそんな、私達にはまだ早いっていうか、高校卒業してからって話だったじゃないの。
で、でもでも、竜児がどうしてもっていうなら、私としては、や、やぶさかではないわ」
もじもじくねくねとする大河に竜児は呆れ顔で。
「……大河……お前はどんだけエロ虎だよ……」
「……違うの?」
「そこで残念そうな顔をするな。櫛枝式みたいな無茶じゃなくてよ、早朝と夕方にジョギングしようぜ」
「朝……起きられるかな……」
「俺が迎えに行ってやるから。そういや朝公園で太極拳やってる人達が居たから、混ぜてもらってもいいな」
「じゃあその後、竜児の家で朝御飯食べてもいい?」
「おう、そいつは大歓迎だ。カロリーコントロールもし易くなるしな」
「おっはよう大河、高須くん」
「みのりんおはよう!」
「おう、おはよう櫛枝」
「大河、なんだか最近元気だねえ」
「私はいつだって元気だけど?」
「そうじゃなくてさ、なんかこう、キラキラしてるというかつやつやしてるというか……」
「うーん……ここんとこ朝晩と運動してるからかも。始めてからなんか調子いいのよねー」
「おう、そういえば確かに。多少疲れはするけど、それ以上に気持ちいいよな」
「……え?大河と……高須くんも?」
「そうなのみのりん、竜児ったら遅くて……」
「大河が先に行きすぎなんだって」
「二人で一緒に……気持ちいい……運動……朝も夜も……」
よろりら、と。
実乃梨は数歩たたらを踏み、顔を隠すように掌を竜児と大河に向ける。
「ふへへ……大人の階段を昇っちまったあんた達は、あっしにはちいっと眩しすぎるぜ……」
「み、みのりん?」
「おい櫛枝……多分それ勘違いだからな」
>>255 レールガンの放映途中にとらドラのOVA告知があると信じて俺は見るぜ!
もしくは電撃ONLINEのメルマガ内でとらドラの文字があったら
スターが付くように設定してあるGmailの受信トレイに全てを託す!
↑病気
>>263 今日も乙!
高校三年のダイエットはそれしかねえなw
>>263 GJ!!
いつも乙!!
運動はいいよねぇ。
>>263 誤解といえどもそんな話を聞かされたら、みのりんだって凶悪な高須棒を想って夜(ry
アン・アン・アンとっても大好き、高須棒♪
「いつも駄犬だイヌだのバカにしやがってフザケんな!」
「アンタは私の犬でしょうが!いつも私に恥じばっかりかかせからご主人様が躾てあげてんのよ!!」
「じゃあオレはお前の犬、ペットなんだな?」
「そうよ!」
「だったら躾だけじゃなくてちゃんと面倒もみろよ」
「…へっ?」
「オレは犬でオマエは主人なんだろ?だからオマエはオレの面倒を見ろオレはもう何もしない、以上だ」
「イヤよ!!何で私がアンタの面倒見ないといけないのよ」
「そっか……大河、ソコのダンボールとマジック取ってくれ」
「なに作っての?」
「最初で最後の頼みだコレを持ってついて来てくれ」
「『優しい子です拾って下さい。17才名前は竜…』ちょっとアンタ何コレ!」
「拾って貰うんだ、さぁ行くぞ」
「拾って貰うって…ドコに行くのよ」
「櫛枝の家だ」
「ヌァッ!!!!」
「櫛枝は優しいから絶対拾ってくれると思うんだぁ、そしてスッゴいカワイがって面倒見てくれるだろうなぁ。ホラ早く行くぞ!」
「……分かったわよ…ヤッテやる…ヤッテてやるわよ!!アンタの面倒!」
「アリガトー大河!」
「ちょ、ちょっと!あんまり舐めないでよ」
「だってよ〜嬉しくてさ」
「まっ、まぁ仕方ないわね、ご主人様は寛大な心の持ち主だから許してあげる。バカ犬!散歩に行くぞ!!」
「オゥ!」
ご主人様の躾は厳しい、でも偶に優しくしてくれる、オレはそんなご主人様が大好きだ。
捨てられなくて良かった
「何だよそのバック?」
「竜児が散歩の途中で粗相をしたら困るでしょ?」
「へぇ〜立派な心がけだな」
「飼い主として当然のマナーよ。あっ!そこのコンビニで水買ってくるからアンタは入口でステイしてなさい」
「オゥ!」
「水だけじゃ寂しいかな?しょうがないビックカツも買ったげるか、私って優しいな〜」
「おいしい?高須君」
「オゥ!」
「ちょっとバカチー!!勝手にエサあげないでよ!」
「だって1人で寂しそうだったし撫でたら凄いスリスリするからお腹すいてると思って…」
「……気持ちは嬉しいけど竜児は躾の最中なの、知らない人に食べ物貰ったり拾い喰いしてお腹壊したら大変だから…」
「ゴメン、余計なことしちゃったな」
「そっ、そんなつもりで言ったんじゃないの!」
「フフッ、がんばってね!犬のために」
「ありがとう」
「じゃあ車に気をつけてね」
「うん、バイバイ……さぁ竜児!河原まで走るわよ!!」
「オゥ!」
河原に着いてしばらく2人で揺れる水面を眺めた、夕陽に照らされキラキラと輝く景色と音は時の流れを忘れさせる。
隣に立つご主人様を見上げると風に揺れる髪がとても綺麗だ、手に持つ棒もご主人様の威厳を漂わせて素敵。
「ウォリャー!!取ってこい竜児!」
「オォゥ!」
「ワァ〜シャシャシャッ、エライネ〜竜児は」
「もっと投げてくれよ!」
「もう暗くなるからお終い」
「エェ〜」
「今度フリスビーとボール買ってあげるからね、だから今日は帰ろ」
「オゥ!」
「飯まだか〜?」
「いま作ってんだから黙って待ってなさい!」
「大河ぁ〜」
「ナニ!!いま大変なのよ!」
「オシッコ」
「……さすがにそれは自分でしてよ」
「スマン」
「すっきりした、飯できたか?」
「…………」
「オイ!どこ行くんだよ」「竜児!ちょっと来なさい」
「なんだよ〜」
「アンタ何で流してないのよ!!」
「オレ犬、まだ習ってない」
「……竜児、トイレを使ったら流すの、ココを捻ったら水がジャーって流れるから、分かった?」
「オォ!飯は?」
「一応できた……焦げてるけど…食べる?」
「オォ!」
「無理しなくていいよ……マズいでしょ?」
「大河、今日はありがとな嬉しかったよオレの面倒みてくれて」
「味は?」
「やっぱりオレは大河と一緒の時が一番幸せだな……大河の手料理食べれるなんてオレだからな、いろんな意味で」
「ありがとう……あの料理の」
「大河!!!」
「ハイ!」
「ずっとオレの主人として、いつまでも隣に居てくれるよな?飯はオレが作るから」
「それって……」
「この先の人生をオレと共にしてくれ!炊事は任せろ」
「ハイ…逢坂大河は高須竜児と生涯を共にします、これからも宜しくね」
「こちらこそ宜しくな……このみそ汁うまそうだな」
「うん、自信作!」
これでずっとご主人様と一緒だ。
毎日一緒に散歩に行って食事して、2人で風呂に入って夜は同じふとんで寝るのか……夢見ていたことが現実になった。
幸せを噛みしめながらおいしそうなみそ汁に口を付ける、正面に座るご主人様もニッコリ笑い2人でみそ汁をズズッとすすった。
『ショッペー!!!!』
キャッ!キャッ!ウヒョヒョヒョ…
「………やっぱり上の高須さんに出てってもらうか」
「賑やかで良いじゃないですか、お父さんは素直じゃないですね」
「なっ、何を言ってるんだ母さん!」
「じゃあ何で屋根裏部屋なんて作ったんですか?」
「ハッハッハ、母さんは何でもお見通しだな」
今回のハートウォーミングな話はいかがでしたか?
変な話はもう飽きた
次からはみんなに感動したって言われる話を書きたいなと思いました。
次回『祐作、高須君の抱き心地はドゥ?』をお楽しみに!
272 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/30(水) 18:06:58 ID:rUU5w5QP
変な話で感動した!
タイトルが既に・・・w
いつもの変な人キターw
次回のタイトルがwww
276 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/01(木) 15:22:22 ID:z2rwX5kg
「りゅーじー」
「どうした大河?眠れないのか?」
「寒いからそっち行ってもいい?」
「おう」
「ふぁ〜…竜児あったかい」
「もう10月だからな。冷え込んでくるんだよな」
「ねえ竜児、もっとあったかくなること…しよ?」
「な、なにをだ?」
「…えっち」
「…おう」
ギシギシアンアン
モデルかぁ……チヤホヤされても周りの男達は私の体が欲しいだけなのよね、虚し……
夢を売る商売とはよく言ったものだわ、虚像に群がって私の本質を見極めようなんてヤツは一人も居ない
このまま稼げるだけ稼いで要らなくなったらポイって捨てられるんだろうな。
「……なに1人で語ってんのよ?」
人が気持ちよく自虐世界に陶酔してたのに……
一番厄介なのが現れたわね、鬱になるまで毎日上履きと机の中に生魚でも入れてやろうかしら?
「疲れてんのよ、1人にして貰えるかしら逢坂さん」
「悪かったわね、この妄想狂が!」
「ハイハイ、妄想ばっかりですいませんね。私は読書の途中だから……消えろや!チビ助!!」
「フン!何が読書よカバーなんてしてさ、どうせ人に見せられないエロイのでも読んでるでしょうが」
アラ!ちびトラのクセに鋭いわね。
人間不信の私は創作の世界でしか喜びを味わえないの、それもアブノーマルなやつじゃないとね。
男女の恋愛話しなんて虫唾が走るわ!なんでリアルで失望してるのに二次元までそんなもの見なきゃいけないのよ!
「なに読んでんの!貸しなさいよ!」
「離せ!!アンタが読んでも理解できないしトラウマが一つ増えるだけよ!」
別にコレを見られて困るわけでもない、ましてや恥ずかしくも思わない。
「アンタの為に言ってんのよ!!離しなさい!」
私はモデル川嶋亜美。
周りに保護されぬるま湯の中で学生生活をしてるオマエらとは違う
私は激流の中に身を置いてライバル達を蹴落とし今の地位に君臨したんだから。
たかが自分の性癖を知られたくらいでオマエらボンクラどもに卑屈な態度なんて絶対にとらない。
「見〜せっ……ロッ!!!」
掛け声と共に本は宙を舞い、だらしなくページを開いて逢坂大河の足下で牙を向いた………やっぱ安物の同人は紙ペラペラだなぁ
「……………ごめんなさい」
東郷十三とウラジーミル・プーチンが絡むページを見据えたまま精一杯の謝罪。当然よね、初見にはちょっとハードかな…
「だから言ったでしょ、アンタの為だって」
「…ごめんなさい」
あ〜ぁ、このチビとも少しは仲良くやれると思ったんだけどね、これでまた中途編入のお客さんに逆戻りか…
「別に気にしなくていいわよ、これが私の本質だから」
「待って川嶋さん!」
「なに?」
「今日……帰りに私の家に来ませんか?」
「でも意外だったな、亜美がBL読んでたなんて」
「私の方がビックリよ、大河がこんな大量にBL本持ってるなんて」
魂の契りを結び腐女姉妹になった亜美にさっそく私のコレクションを披露
亜美は劇画タッチな作品が好きみたいだけど私の趣向を理解してくれるかな?
「柔らかい線や淡いカラーページも悪くないわね…」
釣れた!!!食らいつくように細部まで角度を変えて眺めてる!ヤター!!これで私は1人じゃない!
「ねっ!イイでしょ?」
「アリね……新境地だわ」
「本当!!!じゃあね私の宝物見せてあげる!」
「宝物?悪いけど私ショタ系とパソコンで3次をトレースしたエセリアルはダメよ」
「違う!違う!」
ビニールから取り出すと期待通りに驚愕の表情で作品を迎えてくれた。
「これって!大人気サークルみの瓜の処女作『会長は弐度竜を殺ス』じゃない!!!!!」
やっぱり宝物を誉められると快感〜!
「凄いでしょー!」
「凄い!凄い!凄いよ!でもよくこんなプレミア本持ってたわね?」
「徹夜で並んだもん!」
「ヘェ〜大したもんだ……これ何?まだ製本してないみたいだけど」
「そっ!それはダメェ〜!!!!!」
「…………へぇ〜」
見られた!……私の妄想…私の裏日記……ワタシノクロレキシー!!!!!
「上手いじゃない!」
「……そうかなぁ〜」
「これ祐作と高須君でしょ?」
「うん、あの2人の絡みを見てたらゾクゾクするの」
「あぁ〜何となく分かる、高須君はアノ顔で繊細なところがギャップ萌えだし、祐作は無駄に脱ぎたがる露出狂だしねぇ」
「そうなの!本来なら強面の竜児が優等生を攻めるのがデフォなのにあの2人は逆でしょ?それがたまんないの!!!」
あぁ〜思うままに話せる仲間っていいなぁ〜
部屋で1人妄想に明け暮れる日々よサヨナラ〜
「これ完成させようよ!このまま眠らせるには勿体ない作品だわ」
「亜美がそう言ってくれるのは嬉しいけど無理なの、私の妄想力じゃいま書いてるトコで精一杯なんだ」
「私も協力するからさ、がんばろ!」
こうして私達の同人サークル『川坂』は戦国乱世の同人界に歴史的一歩を踏み出した。
「大河、また筆が止まってるわよ」
期待に応えたい!でも私の知識ではもう限界、デジカメを使って2人で絡みのイメージを掴もうとしたけどダメ。
しょせん私達は腐女姉妹……男性の体が分からない!服の脱がし方、筋肉の張り具合、そして男性同士の萌えポイントが!
何に萌え、何にグッとし、何に興奮し、いつ勃起するのか!!!
……何の経験もない私には荷が重い
「少し休憩しよっか、焦っても良作は書けないし」
手際良く準備を整え入れてくれたお茶は湯気と共にリンゴの香りが漂いリラックスできる。
学校では高飛車な態度ばかりが目立つ亜美だけど素顔は気配りもできる家庭的な子だ。
「亜美は何でもできて凄いな、やっぱり仕事場でもモテモテなんでしょ?」
「まぁ言い寄っては来るけどみんな私の体だけが目当てだからね、ウザイだけよ」
「でも仕事の関係で断れなかったりするんでしょ?」
「偶にね、食事くらいは付き合うけど食べ終わったら適当な理由をつけてハイサヨナラって感じよ」
「なんか川嶋亜美って感じだね、男を手玉に取るとゆうか弄んでる?」
やっぱり世間の目は私をそう見てるのか…派手に遊んで男を誘惑してるとか思われてるんだろうな……
恋なんて一生に一度で良いのに……私を見て、私の趣味を理解して、私だけを愛してくれる男。
そんな私だけの一人に出逢って、残りの人生を2人で笑って過ごしたい。
「でも実際は亜美ってガード固いよね、もしかして純愛派?ロマンチスト?好きになったら全て捧げるタイプ?」
「なっ!ナニ言ってのよ!!」
「じゃあ遊びでつき合ったりするの?」
「しないわよ!今まで男に指一本たりとも触れさせたことないし、バリバリの処女よ!」
「やっぱりだ、焦って訳わかんないこと言って亜美はカワイイねぇ〜」
「からかうな!」
「でもね、そこが私たちの弱点だと思うの。何の経験もない2人がアァー!な描写やアニキを想う気持ちを表現するのは無理があるんじゃない?」
「確かにねぇ……只でさえ私たちには難しいのに書いてるのBLだしね」
結局その日の成果はコーナーを攻めるモナリザをもっとリアルに表現するにはスピード感よりコーナリングでうねる感じを全面に押し出した方が良いで合意した。
ダメだ……全く話の展開が思いつかない、やっぱり私には無理なのかな……
「……ごちそうさま」
「どうした、元気ないな?料理が舌に合わなかったか?」
「そっ!そんなことないよ!おいしかった!!」
「……そうか、なら良い」
失敗したな……食事の時くらいは2次元のこと忘れて竜児と会話するべきだった。
日頃はバカにしてるけどお世話になってるわけだし、料理に自信を持ってる竜児の前で黙々と作業みたいな食べ方して悪いことしたな。
なんだか洗い物をする背中も寂しげ。
「今日のご飯もスゴくおいしかったよ、また腕を上げたんじゃない?」
「ありがとな、大河がそう言うなら上がってんのかもな」
「そうだよ!明日も楽しみにしてるから、じゃあね」
「…もう帰るのか?」
「えっ?あぁ…うん。帰ってすることあるから」
「そっか……気をつけてな」
ゆっくりと階段のステップをトン!トン!響かせる度に何故か申し訳ない気分になる……何か元気なかったな
「竜児!久しぶりにゲームしょっか!」
「……ちょっと待っててくれ、風呂入るから」
勢いよく開いた扉の向こうにはパンイチで前屈みに股間を押さえる竜児が居た。
「何で急に戻ってくんだよ、それにノックもしないで」
「だって!竜児が元気なかったから……」
「気持ちは嬉しいけど次からドアをいきなり開けるのは止めてくれ」
「…ハイ」
最近は食事が済むと早々に帰るようになった大河、前はダラダラと何をするわけでも無く部屋に寝転んでいた姿が懐かしい。
この数日で大河が居ない時間がこんなに退屈なんだと思ったのが俺の素直な感想だ。
「最近オマエ何やってんだ?飯食ったらすぐ帰るし」
「秘密、竜児は知らなくていい女の子だけの秘密よ」
「女の子の秘密って……また変な本でも読んでんじゃないだろな?」
「えっ?…ナンノコト?」
「知らないとでも思たのか?誰がオマエの家を掃除してる思ってんだ、クローゼットの中に適当に放り込んでたろうが」
「あっ!アレね、アレかぁ〜!恥ずかしいなー見られちゃったなー」
良かったぁ〜!!!市販のヌルイやつかガチなのはチェストの中に下着と一緒に隠しといて良かった!フゥ〜焦った。
「人の趣味をとやかく言うつもりはないが、もうちょっと普通の恋愛本とかの方が良いと思うぞ」
「アレはアレで面白いのよ!竜児も読んでみる?」
「いや遠慮しとく」
「……やっぱりあんな本を読んでるって知ったらドン引きする?」
「う〜ん… 人それぞれ好みがあるからな俺は気にしない。ホラ、細めを好きな人も居るし
ポッチャリが好きな人も居るだろ?アレと同じじゃないか?」
意外と竜児は可能性があるかもな……読ませてみたら化けるかも…
「流行ってるんだろ?確かボーイズラブとか言う気持ち悪い本が」
ダメか…一瞬で夢をぶっ壊されたわ。
「でも久しぶりだな、こんな風に大河と過ごすのは」
「何?もしかして寂しかった?」
「そんな訳ねぇだろ!!」
「ウリィ!ウリィ!本当のこと言いなさいよ、ご主人様が居なくて寂しかったって」
「チョッ大河!脇腹ハッ!脇腹は止めてくれ!」
空間と呼ぶに等しかった部屋が今日はオレンジ色の暖かい空間に見える、久しぶりに今日は良い夢が見れそうだ。
次回予告
2人の恋が加速する!離れていた時間が2人の距離を縮め始めた。
亜美が願うたった一人の存在、普通はそんな素振りを見せない亜美に変化が……
そして遂にヤツが動き出す!!!
次回『やったね春田!夢の簿記一級合格?!』と『届かない手紙−瀬名へ紡ぐ一枚のLAVE SONG−』をお楽しみに!
ちょっとそこに座りなさいw
訳が分からない話なのにスゲー面白いWWW GJ!
笑うわこれ、なんかいい具合に脱力する。GJ
続くのかよwww
wktkして待ってるw
黙れ、そして腐れ(褒め言葉
・・・てゆうか大河も亜美ももう十分腐ってるか。
288 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/01(木) 22:19:43 ID:y+KxSoid
変な話なのにちゃんと大河×竜児になっとる
なwんwだwこwれww
春田、LOVEのつづり間違えてるぞ
291 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/02(金) 00:54:35 ID:i/qW/Xlc
大河と亜美意気投合しすぎ
次回予告吹いたWWW
ギシアンテロ参ります
〜in高須家〜
竜児「大河のやつ、今頃何してっかなぁ」
竜児「…よし。たまには俺から電話でもしてやるか」
コール中…
竜児「っかしーな。いつもなら2回目のコール鳴り終える前には飛びついてくんのに」
30秒経過
竜児「…寝てんのか?」
竜児「仕方ねえ、またかけ直しt」
ブッ
竜児「お…」
大河「い、いいきなり何よっ!び、びっくりすんじゃない!!」
竜児「お、おぅ。どうしたんだ?なんか息が荒いぞ?少しは落ち着けよ」
大河「あんたこそ少しはタイミングってもんを考えなさいよっ!この愚図犬っ!!」
竜児「んなもん知るかよっ!俺はなにをしていようとお前からいつ電話がかかってきても出られるように
肌身離さず携帯を傍に置いてるほどだぞ?お前だって、しつこい時にはあれを言い忘れてたこれを言い忘れてたって、
ひどい時には話し終わってから30秒もしないうちにかけ直してくるじゃねえか。それも一度や二度じゃねえ」
大河「あぅ…」
竜児「ん…?なあ大河、ところでお前、“ひとり”でなにしてたんだ?」
大河「ひ…」
竜児「確か今日はお前のおふくろさんも弟君も留守……なんだよな」
大河「そ、そうよ……。で、でもだからって、なな、なにもやらしいことなんてひとつも…」
竜児「……」
大河「あれ?ど、どうか……した?私、変なこと言って……ないよね?」
竜児「大河。ちょっとそこでステイな…」
〜in大河の部屋〜
大河「えと……」
竜児「……」
大河「怒ってる…?」
竜児「まあな」
大河「じ、じゃあ、どうしたら許してくれる?」
竜児「…大河は俺にどうしてほしい?それを教えろ。そしたら許してやる」
大河「そ、そんなことでいいんだ///。じゃあ、近くに来て…?」
竜児「おぅ…」
ギシギシアンアン
大河が“誰もいない家でひとり”
何をしていたかは皆さんの偉大な妄想力にお任せいたします。
では(逃)
そういうふうに、できている。
「・・・・・それ・・・いいクマだね」
「・・・!・・ぉお」
本当に・・・来た。
「やぁ」
「・・・あっ、お、、おぅ」
「・・・ぁ、・・・く、くしえd」
「高須君! ごめん、ちょっと先に言わせて」
「ぇっ」
「あのさ・・・覚えてる?」
櫛枝は、俺から視線をはずすと、空を見上げながら喋りはじめた。
「夏休みに、アーミンの別荘でさ、、夜・・2人で話したよね・・・変なこと」
「UFOが・・どうとか、幽霊がどうとか」
「あ、、あぁ」
俺は、何とも曖昧な相槌を打った。
こんな展開は予想してなかったからだ。
「あのね、高須君」
櫛枝は、帽子を深くかぶり直し───
「UFOも幽霊も、、、、やっぱり私には、見えなくていいと思うんだ」
「・・・見えない方がぁ、いいみたい」
「最近色々考えてね、そう思うようになったんだ」
「わたしは、、、それを高須君に言いたかった」
「だから来たんだ」
帽子と・・それを抑える左腕が邪魔して、櫛枝の表情がわからない。
でも、頬を伝う光が、俺には見えた気がする。
「櫛枝・・」
「言いたいことばっかり言ってごめん」
抑えてた左手を敬礼の形にし───
「櫛枝は、これで帰ります」
言うが否や、櫛枝は踵を返して走り出そうとする。
俺は思わずその右腕を掴んだ、捕まえた。
「!・・・は、はなして、高須君」
後ろ向きなまま、櫛枝が抵抗する。
「ま、待てよ、わけが・・わからねぇよ」
無理やりほどこうと抵抗する櫛枝に俺は―――
「なぁ、どうしたんだよ、俺、、おまえn」
「やめて!」
櫛枝は一際大きな声を出し、強引に半身をひねり、右腕を回す。
!・・・泣い、、てる?
「おねがい、だめなの! 私はここにいちゃいけないの」
なおも暴れる櫛枝に、俺は、力任せに右腕を引っ張った。
「わかんねーよそれじゃあ!それに、何で泣いてるんだよ!」
櫛枝の右手の甲が俺の顔に当たる。
「・・・い、いたい」
「あっ・・」
俺は咄嗟に手を離した、女の子に対して、本気で手首を握り締めてしまった。
「す、、すまん、櫛枝・・・でも、、」
櫛枝は、俺が握り締めていた手首を自分の左手で握りながら、、、俯いている。
俺も、思わずうつむいてしまい、しばしの静寂が訪れた。
不意に、櫛枝が真上を見上げながら声を出した。
「・・・ねぇ、、高須君・・・」
夜空を見上げたまま、静かだけど力強く、櫛枝は喋り続ける。
「高須君のゆうれいは、どこなのかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
質問の意図がつかめず、俺は前を見れなかった。
搾り出すような声で、櫛枝は歯を食いしばりながら―――
「・・・あの子、泣いてた」
♪さぁ、クリスマス!いっぱいの笑顔♪
思わず顔をあげて櫛枝が視界に入る―――
―――と同時に、俺は駆け出していた。
♪君に届けんだ party night♪
♪さぁ、クリスマス!いっぱいの願い♪
♪君に誓うんだ♪
通り抜けざまに、後から声が聞こえる。
「いけぇーーーーい!たかすぅーーー! Hey!高須!Hi!高須!」
♪Holy Holy Night...♪
いつもの櫛枝の声だった、俺は思わず首をうしろへと―――
「振り返るんじゃねぇぇ高須竜児ぃぃ!・・・それが若さってやつだ・・」
「おぅ!」
俺は顔を正面に向き直し、走り出す、一直線に。
♪今年のクリスマス ちょっと特別さ♪
♪ホワイトクリスマスじゃなくたって♪
坂を転がるように走っていく。
竜児の背が見えなくなって、みのりは、突き出した右手を・・・
下ろさずに、自分の唇にそっと重ねた。
♪星屑のイルミネーション ほら降り積もるよ♪
聖夜に竜が街を翔ける。
ぬいぐるみのせいで走り辛いのは確かだった。
でも、そんなことはもう関係なかった。
♪キラキラ輝いて みんなが幸せで♪
♪チカチカ瞬いて みんなが夢を見て♪
(「・・・あの子、泣いてた」)
頭の中はもぅ、あいつの泣き顔で一杯だった。
♪さぁ、クリスマス!いっぱいの笑顔♪
♪君に届けんだ party night♪
傾いた電柱を左に曲がる。
俺は馬鹿だ、、あいつはいつだってそうだったじゃないか。
いつも一人で、小さくなって、我慢して、、、、
♪さぁ、クリスマス!いっぱいの願い♪
見慣れたアパートが近づいてくる。
明かりの灯されていない、冷たい建物も見えてくる。
♪君に誓うんだ Holy Holy Night...♪
マンションの自動ドアを開け、階段を駆け上った。
見えてくる見慣れた立派なドア。
♪今年のクリスマス きっと特別さ♪
ドアに駆け寄り、ドアノブをまわすと・・・開いてる。
♪Lonely Christmas じゃつまらない♪
「タイガー!」
玄関ドアを開け放ち、俺は叫んだ。
♪笑顔はイルミネーション ほら飾ってあげる♪
反応が無い、が、ロビーに微かな明りが見える。
靴を脱ぎ捨て、ロビーのドアを―――
♪ゆらゆら揺らめいて みんなで手をつなぎ♪
「たいがぁ!」
―――開け放った。
♪ピカピカ煌いて みんなで星見上げ♪
大きな殺風景の部屋の、窓の近くで、月明かりに照らされながら・・・
その大きな目は、腫れぼったくれて、でも、すぐに自分の名を呼ぶものを確認し、
「・・・りゅ・・・ぅ・・・・じ?・・・・・」
信じられないという目から、
「大河!」
膝が笑いよろけながらも、俺は一歩づつ、一歩づつ、
「りゅう・・・じ・・・ぅぞ、だって・・・」
もぅ枯れ果てたと思えたその瞳から、
「たいが!」
大きく手を広げ、俺は幾度目かの名前を、
叫ぶと同時に、あいつは弾けるように、
「りゅうじいいいぃぃぃぃぃぃぁぁぁあ!」
♪さぁ、クリスマス!いっぱいの笑顔♪
大河が、胸に飛び込んできた。
♪君に届けんだ party night♪
「りゅぅじ、りゅうじ・・・・・りゅうじぃーーー」
胸に顔を埋めながら、泣きじゃくる大河。
「りゅじ、ぅうあああぁぁぁぁ」
その小さな身体で、一生懸命に包み込もうと、両手を目一杯伸ばし、
俺は、抱かかえる様に強く、強く抱きしめ、
♪さぁ、クリスマス!いっぱいの願い♪
「たいが! いる、俺はここにいるぞ」
止まらない鳴声、その小さな背中が何度も何度もしゃくりあがる。
「りゅうじぃぃ・・・ぃぃあぁぁぁああああぁ」
「悪かった! もう、、ずっと、、、ずっと傍にいる! いつだって!」
「・・・りゅうじぃ・・・」
声かすれた泣声、不意に顔を上げ、
「たいが・・・」
そのまなこはもう、紅いとしか表現できず、
♪君に誓うんだ♪
その鮮やかな紅をまぶたが隠し、
かかとが地上を嫌ったとき、
月明かりの中、、、二つの影が重なった。
♪Holy Holy Night...♪
>>293〜297
泣いてんじゃないぞ!
涙は心の鼻血だっての!
延長15分と言わず、あと2,30分つづけ!w
>297
いいですねえ、こういう感じの雰囲気。GJでした。
でも、確実に竜児のインフルエンザ、大河に感染したなあw
発症前でもうつるんだよね。>濃厚接触w
竜児が治った頃に大河発症。
お正月は高熱の下、大河は過ごす羽目に。
「馬鹿犬、アンタがあんなことするから」
「大河だって拒まなかっただろ」
「それは、そうだけど。ああ遺憾だわ。せっかくのおせちが、伊勢えびが」
「消化の悪いものは駄目だ」
「わーてるわよ、それくらい」
「うらめしそうに、俺をを見るな」
「ね、ちょっとだけ」
「はあ、仕方ない。少しだけだぞ」
・・・・・・・・
「ほら、特別にやわらかく煮て来た。ゆっくり食えよ。ほい、スプーン」
「うん。竜児」
「っと、やっぱ、スプーン貸せ」
「え〜おあずけ!犬の分際で」
「怒るな、違う」
「じゃあ、なんなの」
「俺が食べさせてやる。お前が食うとがつがつしそうだ」
「え!」
「ほら、あ〜ん」
「え、え!」
「ほら、大河。口を開けろ。あ〜ん」
「わ、分かったわよ。あ〜ん」
「どうだ?」
「うん、おいしい」
「もうひと口、行くか?」
「うん」
かくしてふたりだけの夜は更けて行く。
お粗末でしたw
本当は口移しで食べさせようかと思いましたが、汚いので止めました。
せっかく前の人がきれいに書いているのでこの程度にしておきます。
>>297 この回はまじきついよな
何度も見直してるが、何度でも泣いちまう
しかし、続きを書いて貰って嬉しいが、
余計続きがきになるのは気のせいだよな
>>300 だから続きがw
お題 「悲惨」「飾りつけ」「弱気」
「竜児ー、飾りつけ終わったわよー」
「おう、こっちはもう少しだ」
「それじゃ、盛りつけとか手伝うわね」
竜児と大河、高校三年生のクリスマスは高須家にてささやかなパーティを。
「ねえ竜児、やっちゃんは?」
「客商売にクリスマスとかは掻き入れ時だからなあ……少し遅くなるかもしれねえって。
大河は今日はどうなんだ?」
「ママが言うには、朝帰りでも構わないって」
「お、おい……」
「まあそれは冗談だけど、多少遅くなっても大丈夫。でも、帰りはちゃんと送ってね?」
「おう、それはまかせとけ」
「ところで大河、本当に学校のパーティには行かなくていいのか?お前、去年はさっさと帰っちまったじゃねえか」
「そりゃ、みんなで賑やかにってのも嫌いじゃないけど……」
大河は一旦立ちあがって、竜児の隣に座りなおす。
「こうやって恋人と二人きりのクリスマスの方がずっといいに決まってるじゃない」
「お、おう」
「大体、去年っていえば竜児だって早々にパーティ抜け出したんじゃないのよ」
「そりゃ、誰かさんが盛り上げるだけ盛り上げたくせに自分では全然楽しまないうちに居なくなっちまったからな」
「そうやっておせっかいなことして、失恋して、あげくにインフルエンザで倒れて……あらやだ、よく考えるととっても悲惨」
「俺はおせっかいだったとは思ってねえぞ。それに櫛枝の事は、今となっては良い……とは流石に言えねえけど、まあ思い出だ」
「思い出、か……今考えると色々あったわよねえ……」
「ああ、あの頃は特に……つらい事や苦しい事や……多かったよな」
「でもまあ、終わり良ければ全て良し、よね」
「終わりじゃねえだろ」
「え?」
「俺達は、まだまだ始まったばっかりで……これから先、弱気になったり負けそうになったりする事も沢山あって……
それを乗り越えて、嬉しい事や楽しい事を積み重ねて、幸せになっていくんじゃねえかな」
「……なによ、今はまだ幸せじゃないっていうの?」
「そうじゃねえ」
竜児は苦笑しながら大河の肩を抱く。
「もちろん今だって幸せだけどよ。俺達はもっともっと幸せになっていくんだ。一生かけて」
「……一生?」
大河は竜児の胸板に体重を預けながら、竜児の顔を見上げる。
「ああ、一生だ」
言って竜児は大河に軽い口づけを。
「大河と一緒ならそれが出来るって、俺は思ってるぜ」
「ん……私も、信じてる……」
304 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/03(土) 10:18:24 ID:eF6x8bdU
306 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/03(土) 19:35:49 ID:E3x7YR8K
ついにAT-Xでのリピート放送も終了
テレ東での本放送からも1年経ったし寂しいのう
そんなになるか
寂しくはないさ。
現に『とらドラ!』はこのスレで愛され続けている。
↑誰がまともなこと言えとwww
↑確かにその通りw
そして長井監督にも愛されてるんだ、きっとあれはそうに違いない!と、
一人で勝手に考えてテンションだだ上がりです。
そんな勢いのまま
>>237の続きを投下します。
「……そうだ、ねぇタイガー? そのお腹、触ってもいい?」
「……ん?」
「あっ、あーみん、それはね……」
隣でタイガーを見つめていた実乃梨ちゃんが声を出す。何だろう?と思っていると、
「だーめ! ばかちー残念でした。ここは竜児しか触らせないの!」
「……ってことなんだよ」
「はぁ?別に減るもんじゃないし、いいじゃん」
「ダメなの、私か竜児以外の人に懐いちゃったら困るでしょ?だからダメ」
「私もさ、何回かお願いしたけどダメって言われちゃったのだよ」
「……つーか、そんなことあるわけ?」
初耳だった。無理に触りたいほどでもないけど、何か感じるものがあるのかもと思っただけなのに。
「あるある。だからごめんね、別にあ……あっ、動いた!」
「……えっ?」
「おおっ!」
そう聞くと余計に触りたくなるって言うのに。
でもこいつ頑固だし諦めるかなーと眺めていると、
「こんな怖いおばさんなんかに触られるのイヤだよねー?ごめんね、起きちゃったかなー?」
なんて語りかけている。
聞いた事がある、胎内にいても寝てたり起きてたり……いやその前に……
「っつーか、怖いおばさんってあたし!?」
「そうよ。年増チワワ改めババチワワ……つまりあんた」
「バ、ババァ呼ばわりすんじゃねーよ!? てか、あんただって同じだけ年食ってるし!」
「あ、今からばばちーって呼ぶね」
「人の話聞けよ!?」
「大河、それは……言いすぎなんじゃ……」
毒針のような急所攻撃を食らってキレそうになるが、タイガーはどこ吹く風でお腹に語りかける。
「ね、大きな声出して怖いねー?こんなヒステリー持ちになっちゃだめだよー?」
「く……くううっ!」
そこに語りかけられると正直突っ込みにくい。それがまた悔しくって歯軋りするが、
「まままっ、まぁまぁ……あーみん落ち着いてって」
「……う、うん」
「ぷっ……くっくっく……」
当の本人は楽しそうにコロコロ笑ってるんだから堪らない。
「あっはははは! ばかちーいじりはやっぱ楽しいわ」
「……ったく、やっぱりあんたって変わってねー」
さっきの考えは撤回しよう。
お腹が大きくて動けなくても、家事がそれなりに出来るようになっていたとしても、
やはり中身は傲慢不遜の手乗りタイガー、か。
「ごめんごめん。ちょっとからかって見たくなっただけよ」
「べっつにぃ?あたしは別にどうしても触りたいわけじゃねーし、どーでもいーんだけどぉ?」
「……んとね、いつもと違う人が触ると、ビックリしちゃうんだって、そうするとストレスになっちゃうらしくってさ。
だからなるべく、って、竜児が……」
「なるへそー私はそんなの知らなかったなぁ」
「竜児が……ねぇ。それじゃ高須君は毎日触ってるんだぁ?」
それじゃ、そろそろこっちの番だよね、と愛しの旦那様の話を振ってみる。
――ふん。いつまでもやられっぱなしじゃないっつーの!
「うん、もちろん」
「ベタだけど……やっぱり高須君も話しかけたりするのかなぁ?」
「うん」
「あたしが言うのも何だけど、高須君ってさ、すっげぇ親バカになりそうじゃない?」
「うん。っていうか、もうかなり重症よ、あれは……」
「あはっ、やっぱりぃ? ふぅーん、そうなんだぁ……ねね、どんな感じなの?」
「あーみん……」
実乃梨ちゃんが何やら神妙な顔でこっちを見ている。なに?なんかマズった?
「そこまで言うなら教えてあげるわ、ばかちー!」
「あっ……う、うん……」
「まず朝出かける時はね、玄関でしゃがんで『それじゃ行ってくるな、いい子にしてるんだぞ〜』って言って……」
「ふんふん」
「そんで、立ち上がって『行ってくるぞ、大河。転ばないようにな』って言ってキスしてくれるの」
「……へ、へぇ…」
少しだけ紅茶を口にするタイガー。
「次にね、お昼休みになったら電話してきてくれるんだけど、
『おう、大河メシ食ったか?旨かったか?そうだろうそうだろう』って言った後に、
『それじゃ変わってくれ』って言うから携帯をお腹にあてるわけよ」
「……ふーん」
「何を話してるのか聞こえないんだけど、
『竜河も旨かったってさ、それじゃまたな、愛してるぜ、大河』って必ず言ってくれるの」
「……いや……しゃべれねーから」
「あんたも夢が無い女ねぇ……心で通じ合ってるからいいのよ」
「あっそ」
恥ずかしい事を言ってる自覚があるのか無いのか……これっぽっちも恥らう事なく話は続いていく。
「そんでね、帰ってきた時はちょっと長いの。きっと竜児も寂しいんだね。
『ただいまー竜河、今日はコレを買ってきたからなー』とか、『コレ旨いから楽しみにしておけよなー』とか、
そうそう、最近寄り道して何かしら買ってくるのよね、竜児ってば」
「へーへーそりゃーようござんしたね」
「もうお洋服もおもちゃもいっぱいになっちゃって困ってるってのにね……まぁその話はいっか。
それで、一通り話し終わったらね『ただいま、大河。寂しかったか?』って言っておかえりのキスしてくれるんだよ?
ふふっ、寂しいのは竜児の方なのにね! だからね、朝よりずっとキスが長いんだ!」
「知らねーっての!」
段々と気持ちがやさぐれてきた。
きっと今ならいい演技が出来るに違いない。タイトルは『やさぐれ亜美の一生』……イヤ過ぎる。
つーか、明らかに『親バカな高須君』と関係ない事までペラペラしゃべくってるのはどうなの?
チラと実乃梨ちゃんの方を見ると……生暖かい諦めの視線を送り返された。
ん?声を出さないように口元が動いてる……なになに?……ジ…コ…セ…キ…ニ…ン……
うっぜー
「そんなに声を荒げないでよ、ばかちー。まだ続きがあるんだから」
「……いや、もう十分……だって」
「まぁまぁ、後ちょっとよ。そんで、晩御飯食べた後は、お昼と大体一緒かな。
で、次の日のお弁当とかご飯の下ごしらえとかした後に、私にマッサージまでしてくれるんだ」
「……ふぅん。相変わらず優しいんだぁ、高須君。よかったよかったねーはいはい」
「家事してるちょっとした合間にね、竜河に話しかけに来たり、キスしに来たりするから困っちゃうわよねー」
「だーからっ! そこまで聞いてねーんだっつってんの!」
「……あらやだ。愛がないと人の心ってこんなに荒むのねぇ……遺憾だわ」
そう言い放ち、やれやれといった感じのポーズ。
その隣では実乃梨ちゃんも同じようにやれやれといった感じで首を振っている。
「あ、みのりんにも分かる?ねぇ、ばかちーって可哀想だと思うでしょ?」
「あー……はは……ははは……」
きっとあれはタイガーに対する降参のポーズなんだろう。
でも二人で耐えればなんとかなるよっ! なるよね、実乃梨ちゃ……
「およよ、二人とも紅茶が無いではないか、私がお湯を沸かしてきてしんぜよう!」
「……裏切り者」
そそくさと逃げる背中に思わずボソリとつぶやいた。
「あっ、お願いね、みのりん。それでね……ってちょっと、こっち向きなさいよ」
「もういいっつーの」
「そんでー、その後はお風呂でしょ。やっぱりこんな身体じゃない?そんでもって私ってドジじゃない?
危なっかしいって言うんで一緒にお風呂に入るんだけど……」
……ぜんっぜん人の話聞いてねーし
さっきまでは……高須君の名前を出すまでは普通だったのに……出した途端にこれか。
もう話したくて話したくて我慢出来ないらしい。やっぱりこういう運命だったのか、今日という日は。
「ま、お風呂はずっと前から一緒に入ってるんだけどね。
それでなんと! お風呂の時はね、私はおしゃべりしてるだけでいいの!」
「はっ?」
「ぜーんぶ竜児が洗ってくれるんだ!」
「………………」
「身体もぜーんぶ拭いてくれるの!」
「…………………………」
「そんで、パジャマ着せてもらって、お姫様だっこでベッドまで直行!
あ……って言っても寝るためだからね?」
「………………だ……だからよぉ……」
「私もね、こっぱずかしいんだけど、竜児がどうしてもって聞かないの。
あ、あれってどう考えてもキスするためのだっこだよね?
だって逃げられないんだもん。
ずるいんだもん。
降ろしてって言っても聞いてくんないんだもん。
まぁ、竜児っていつもとびきり優しいし、別に逃げるつもりなんて無いんだけど。
ね、ばかちーもそう思うでしょ?」
聞いてる内にぷるぷると震えてくる。
え、どこが?どこもかしこもだよ、こんちくしょー!
顔全部を引きつらせて心底うんざりした顔でタイガーを見てると、
「やだ……なにその顔怖い……死んだ魚のような目をしてるわよ、あんた?」
「だーからっ、あたしは高須君の親バカっぷりを聞いてんのよ! 分かる!?
あんたら二人のラブラブっぷりは聞いてねーっつってんだよ―――っ!!!」
……ちょっとキレた。ちょっどだけね、キレちゃったよ、亜美ちゃん。えへっ☆
しばらくパチクリとあたしを眺めていたけど、ゆっくり俯いて、自分のお腹に手を当てて、
「……ね、怖いね、竜河……こんなヒスオババじゃなくって、私のように素直にすくすく育ってねー?」
「それも反則だろがあっ!!!」
「うわっぷ! ツバ飛んだし……もう、ばかちーったら、雑菌は天敵なんだからね?」
「何だよ、ヒスオババって!? チワワはどこいったよ!? あれか?もう5文字なら何でもありかよ!?」
「まままっ、まぁまぁ……あーみん落ち着くんだぁ、どうどう……はい深呼吸して、はい、いちにー、さんしー」
……ハッ……いま亜美ちゃん何を……なんか大声出したらものすごく気持ちよかった。
でも、大声は良くない。ツバ飛ばしちゃうのも雑菌うんぬんはともかく女優として失格だ。
「ふぅー…………ふぅー…………」
と、深く息を吸って落ち着かせる。
芸能界で揉まれてるはずなのに、こいつの前だと感情の針が簡単に振り切れちゃうのは何故だろう。
きっとタイガーに悪気は無いんだ、無いと信じたい……ない……よね?
「……大河はさ、あーみんに聞いてもらいたいんだよ」
「み、みのりんってば」
「……何だそれ?」
お湯を沸かし終えた実乃梨ちゃんが新しく紅茶を作り始めながら言った。
「子供が出来たって分かってからさ、大河は何度かあーみんと会おうとしたけど忙しくて無理だったでしょ?
今日まで会えなかったから寂しかったんだよ」
「そ、そんなこと……」
「だから、いっぱい話したくってしょうがないのさぁ! 分かってやってくれよ、あーみん!」
「それはまぁ、このチビ虎にも可愛げがあったってことで別にいいんだけど……」
「……けど、何よ?」
「ノロケすぎ」
「そう?」
「……って、あんた自覚ないわけ?ちょっと実乃梨ちゃんからも言ってやってよ」
と、この気持ちを誰よりも分かってくれるであろう友人に助け舟を求めるが、
「何を言ってるんだい、あーみん!」
「えっ?」
「わたしゃ大河の家から帰る度に輸血してもらいたいって思うくらい、
いつもいつもいつもいつも、うわああああああああああああああぁ!」
「実乃梨ちゃん!?」
「みのりん!?」
突然のシャウトにあたしもタイガーも驚く。
「あーみん分かるかい!? もう大丈夫。今度は大丈夫。私はきっと大丈夫って思っててもさ、
予想を遥かに超えるビッゲストなオノロケ爆弾がポンポン飛び出してくるんだよ!?」
「あぁ……ね。実乃梨ちゃんも……毎回こうなんだ?」
「……わ、私、そんなに言ってないよね、みの……ひむっ!?」
ガバっとタイガーに抱き付いて、顎の下からほっぺたを鷲づかみにする実乃梨ちゃん。
「この! この可愛らしいおちょぼ口から飛び出してくるんだ!
甘いのとかエロイのとかエグイのとかいっぱい出てくるんだよ! もう勘弁ならねぇなぁ!
おいらの命が七つあったって全然まったくこれっぽっちも足りゃーしない!」
「ひはいひはい! みほひんひゃめれぇー! ひゃああぁぁあばばばばばば!」
「ちょ……ちょっと実乃梨ちゃん……」
ものすごいスピードでむにむにむにむにとタイガーの頬を震わせながら更に叫ぶ。
「命がけなんだよ、あぁ命がけだともさ! 大河の家に遊びに来る度さ、
敵の絨毯爆撃を必死でかいくぐって生還しなきゃいけない兵士みたいな気分になるんだ!
ちなみに敵とは大河、貴様のことだぁ〜!」
「ご、ご愁傷様……は、はは……」
「衛生兵! 衛生兵はどこだ!? おぉあーみん! そなたが戦場を駆ける女神に見えるぞー!」
斜め下からえぐり込むように振り返ってあたしを見る眼差しがギラギラしててかなり怖い。
だけど、被害者同士の連帯感というやつだろうか、やけに共感出来てしまうのが謎だ。
分かる、分かるよ! おぉ同志よ! とばかりにその肩を抱こうと腕を伸ばしたが、
「みのりん、でもさ、今日は全然そんなことないじゃない?」
「うん。今日の話はもう全部聞いてるからね、無問題だよー」
なんて言いながらタイガーの方に振り返り、ケロっと平静を取り戻す実乃梨ちゃん。
この切り替えの早さも相変わらずか。
ごめんね大河あんまりにもぷにぷにだったからさーううんいいのみのりんになら何でもされちゃうもん
私をぷにぷに出来るのは竜児とみのりんだけだぁーおぉ大河ーあぁみのりんっもっときつく抱いてっ
おうおう愛い奴めがふっくらしやがってこんにゃろめーあぁんみのりーぬっ――――
「………………」
もはや百合直前の寸劇を見ながら、あたしが伸ばした両腕はまるで『前ならえ』……
『直れ』も出来ずに取り残された空しさのあまり、思わず自分で自分の身体を抱きしめちゃおうかな?なんて。
結局あれか……あたしだけやられちゃってるわけ?……ふっ、亜美ちゃん不幸。
◇ ◇ ◇
本日は以上です。それではまた〜
317 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/03(土) 23:53:21 ID:rxdP7nvt
>>316 良作乙!
毎回楽しませてもらっております。
あーみんと大河のやり取りがイカス
>>316 三人ともいいなぁ。
竜児のぶっとんでる感じもなかなかw
GJです!
※元はグリム童話「ラプンツェル」です。
※が、殆ど原型を留めていません。
昔々ある所に、目付きは悪いが心優しい王子がおりました。
王子が見聞を広める旅の途中、森の中で高い塔の傍を通りかかった時の事です。
「あーっ!」
頭上から聞こえた微かな声に足を止めると、その目の前に一本の木刀が落ちてきて突き刺さりました。
もしもそのまま歩いていたら……
ぞっとした王子の頭上から再び声がかかります。
「ちょっと!そこのあんた!」
見上げると、高い塔の天辺近くの窓から女の子が顔をのぞかせていました。
「俺のことか!?」
「他に誰がいるってのよ!」
確かに辺りを見まわしても人の気配はありません。
「おう、何か用か!?」
「今そこに木刀が落ちたでしょ!取ってくれない!?」
「おう!」
王子は木刀を手に取り、そこではたと気付きました。
その塔には入り口も階段も無く、窓も女の子が顔を出している一つしかありません。
「……おい!この塔にはどうやって入るんだ!?」
「ちょっと待って!今髪を下ろすから!」
そう言って女の子は顔を引っ込めます。
「……髪?」
不思議に思う王子の前にするすると下りてきたのは、淡くグレーにけぶる栗色の、それは確かに編み込まれた長い長い髪の毛でした。
「それを昇って来て!」
「だけどよ、そんなことしたら痛くねえか!?」
「一旦金具に引っ掛けてあるから大丈夫!」
それならば、と王子は木刀を背負い、髪の毛をよじ登って窓から塔に入り……絶句しました。
まず、近くで見た女の子がとても美しかったこと。
ミルク色の頬に輝く瞳、小さな薔薇の花びらのような唇、華奢な手足に細い肩、
絹のドレスに包まれた小柄な姿態はまさに名工の手になる人形かはたまた花の蕾の妖精か。
もう一つは――
「あー、ええと……」
途惑いながら王子は女の子に声をかけました。
「ラプンツェルよ」
そう言いながら女の子――ラプンツェルが小さな指輪を嵌めると、髪の毛はするすると縮んで腰の辺りまでの長さになります。
ラプンツェルに木刀を渡しながら、王子は言いました。
「ラプンツェル……俺にこの部屋を掃除させてくれねえか?」
そう、王子が絶句したもう一つの事は、散らかり放題の部屋の汚さ。
そして王子は無類のきれい好きだったのです。
「はー……見事なもんね」
見違えるようにきれいになった部屋を見て、ラプンツェルは呟きました。
「いや、まだまだだ。とりあえずざっと片付けただけだからな」
だけども王子は満足していないようです。
「なあラプンツェル、明日も掃除しに来ていいか?」
「はあ?何で?」
「いや、まだまだ埃や汚れが残ってるのが気になっててさ。それに他の部屋も片付いてねえんだろ?」
「んー……えっと……」
「おう、そういや自己紹介もしてなかったか。俺は高須竜児だ」
「竜児……あんたがそんなに掃除がしたいっていうなら、まあ、構わないわよ」
「おう、よかった」
翌日、宣言通りに掃除に来た竜児はもう一つの衝撃を受けました。
なんと、ラプンツェルは全く料理ができなかったのです。
食事はといえば貯蔵庫にあるパンやハムを切り分けただけ、後は魔法の鍋にいつも一杯の簡素なスープ、それからミルクぐらいでした。
その翌日から竜児は塔にあれやこれやの食材を持ち込み、もう一つの趣味である料理の腕をラプンツェルのために振るうのでした。
「ところでラプンツェル、最初の時に木刀が落ちて来たのは何でだ?」
「ああ、剣術の練習をしてたらすっぽ抜けちゃったのよ」
「剣術なんてやってるのか?」
「だって普段は暇なんだもの。あれが最後の一本だったから、丁度竜児が居てくれて助かったわ」
「最後って……」
「他のは全部折れたり飛んでっちゃったりしたから」
「……ラプンツェル、お前実はけっこうなドジだろ」
竜児は毎日のように塔を訪れ、ラプンツェルに聞かれるままに旅の話をしたり、剣術の稽古につきあったり……
そして、一月程の時が経ちました。
「ねえ竜児、あんた色々とうちに持って来たけど、お金とか大丈夫なの?」
「おう、これでも王子だからな。人一人養うぐらいはなんとかなるさ」
「何よ、あんた王子様だったわけ?」
「言ってなかったっけか。まあ王子って言っても妾腹だから育ったのは下町でさ、
ほんの一年前までは自分が王子ってことも知らずにむしろ貧乏暮らしだったんだけどな」
「でも一応は王族なんでしょ?一人旅とかしてていいの?」
「俺はこの目付きだろ、色々と邪推する奴等が多くてさ。
俺と泰子……母親を王宮に迎えてくれた兄貴の迷惑にはなりたくねえから、見聞を広めるって名目で城を出て来たんだ」
「ふーん……あんたも色々と大変なのね」
「まあな」
「……ねえ、竜児は私がなんでこんな所に住んでるかとか聞かないの?」
「それはまあ、気にはなるけど……人それぞれ事情はあるだろ。
ラプンツェルが話したくないなら無理に聞くつもりはねえよ」
「……『ラプンツェル』の意味、知ってる?」
「確かサラダ菜の一種だよな。でも植物の名前つけるってのは無い話じゃねえだろ」
「違うの。『ラプンツェル』は魔女がつけた名前で、私の本名は逢坂大河っていうのよ」
「……魔女?」
「この塔に魔法の道具がいくつもあるのは竜児も知ってるでしょ。
親の因果が子に報いってやつでね。私の家……実家の裏には魔女の館があって、その庭にはありとあらゆる草花があったのよ。
で、私の母親はそこに植えてある見事なラプンツェルを食べたくてしかたなくて、ある時とうとう父親と一緒に盗んで食べちゃったの。
一度食べたらあとはもう病み付きでね。何度も盗んでるうちに当然魔女にバレちゃって、私は一生分のラプンツェルの対価として魔女に引き渡されちゃったってわけ」
「それで、ラプンツェル……?」
「そう」
「……何だよそれは。ラプン……大河には何の責任もねえじゃねえか」
「別にいいのよ、正直碌な親でもなかったしね。ここで一人暮らしのほうがむしろせいせいするぐらい。
それにこの塔に居れば、ただ暮らす分にはなんの不自由も無いし」
「閉じ込められてて不自由じゃないわけねえだろ。なあ大河……こんな塔は出て、俺と一緒に来ねえか?」
「駄目よ、魔女との約束は絶対なの。仮に逃げ出したとしても、魔法ですぐに見つかって連れ戻されるわ。魔女が自分から私を追い出さない限りね」
「その、魔女ってのは……」
「月に一度、様子を見に来るわ。その時は竜児が来た時みたいに髪を下ろして昇って来てもらうってわけ。
丁度明日がその日でね……だから竜児、もうここには来ないで」
「っ!何でだよ!」
「本当はね、この塔に他の人を入れちゃいけなかったの」
「そんなもん、黙っていれば……」
「気づかれないと思う?こんなに部屋がきれいになっちゃったのに」
「それは……」
「私なら大丈夫。十年以上かけて育てた人間をそう簡単にどうこうしたりはしないわよ。
だけど竜児は魔女に何をされるかわからないから」
「だけどよ……」
なおも言い募ろうとする竜児の唇を、大河は人差し指をあてて塞ぎます。
「そもそも、あんたはいつかは旅なりお城なりに戻らなきゃいけないんだから、これがちょうどいい機会なのよ。
この一月楽しかったわ、ありがとう。だけど、それも今日でおしまい……ばいばい、竜児」
静かに微笑む大河を前に、竜児はもう何も言えませんでした。
その夜、塔の窓の下には、月明かりにキラキラと輝く雫が降り注ぎました。
次の次の日の朝、竜児は気がつくと塔の前に来ていました。
「大河!」
返事はありません。
「大河!俺だ!竜児だ!居るなら顔を見せてくれ!」
やはり応えはありません。が、竜児の前にするすると髪の毛が下りてきました。
大河は無事だったのだと、竜児はほっと胸を撫で下ろしていつものように髪の毛を昇りました。
しかしそこで目にしたのは、切り取られ金具に結びつけられた髪の毛と、真っ黒な服を着た一人の老婆でした。
「おやおや、あんたがラプンツェルのイイ人かい」
「……あんたは?」
「ラプンツェルに聞いただろう?この塔の主の魔女だよ」
「大河はどうした?」
「大河!ラプンツェルじゃなくて大河ときたかい!
まあどっちでもいいさね。天に溶けたか地に潜ったか、あんなあばずれ娘がどこに行こうともう知ったこっちゃないよ」
「……あんたは今まで大河を育ててきたんだろう?」
「ああそうだよ。その十年以上の苦労を水の泡にしてくれちまって、どうしてくれるんだい。
すっかり外界に穢されちまって、もう使い物になりゃしない。だからこの塔から放り出してやったのさ」
「わかった、もういい」
竜児はギリギリと拳を握り締めたまま、魔女に背を向けます。
「おやまあ、お優しい王子様はさっさと諦めて帰っちまうのかい」
魔女の言葉に竜児は振り返りました。
「……大河に聞いたのか?」
「あたしゃ魔女だよ、そのぐらいお見通しさ。
……あの子は何も話さなかったよ。全部言えば許してやるって言ったのにね。まったく、どうしてあんなに強情に育っちまったんだか。
そのお相手がこんなに薄情だったとはねえ。まったく馬鹿な娘だったってことかね」
「大河は馬鹿じゃねえ」
「どうだかね。現にあんたはあの子が居ないと知ったらさっさと帰ろうとしてるじゃないか」
「ああ、大河が居ないならこんな場所に用はねえからな。それより一刻でも早く探しに行くほうが大事だ」
「……探す?この世界のどこに居るとも知れない、たった一人の娘を探すってのかい!?」
「ああ、絶対に探し出す。そのためなら世界の果てまでだって行ってやる」
「……一つ聞くけどね、その愛しい娘をどこかにやっちまったこの婆をどうにかしようとは思わないのかね?」
「……あんたを斬っても大河が戻ってくるわけじゃねえ。それに、目的は知らねえけど、今まで大河を育ててくれたのは確かだろ」
「憎くはないのかね?」
「腹は立ててるさ。だけど、今はそれ以上に自分に腹を立ててるからな。
昨日ここにこなかったのは、大河を守れなかったのは、俺自身だ」
その答えに魔女は深々と溜息をついて、竜児に小さな何かを投げて寄越しました。
「そいつを持って行きな」
受け取った竜児が手を開くと、それは大河が髪の毛を短くする時に嵌めていた指輪でした。
「今どこに居るのかはアタシにもわからないよ。そういう魔法を使ったからね。
だけど、暇にあかせて剣術や魔術をかじった娘だ、死んじゃいないだろうさ」
荒野の外れの小さな街の酒場に、一人のウェイトレスがおりました。
ある時ふらりと流れついた彼女は、その美しさに加えて荒くれ者をものともしない腕っぷしでたちまち看板娘になりました。
そんな彼女の、短かった髪が腰のあたりまで伸びた頃……
がらんがらんと、床に落ちたお盆が大きな音をたてました。
「嘘……どうして……」
「こいつが夢でヒントをくれたからな」
開かれた青年の掌には、見覚えのある指輪が光っていました。
それを見た彼女の頬に、つうと一筋の涙が流れます。
「おう、泣かせちまったか……遅くなってすまねえ」
青年は彼女に歩み寄り、そっと抱き締めました。
「そうじゃないわよ……馬鹿」
彼女もまた、青年をぎゅっと抱き締め返します。
胸元を濡らす涙が止まるのを待って、青年は彼女の目を見つめ、口を開きました。
「言ってなかったよな……好きだ、大河」
「竜児……私も……好き」
昔々ある国に、目付きは悪いが優しい王子がおりました。
彼は生涯旅を続けたとも、長じて辺境の領主になったとも伝えられ、その真実は定かではありません。
ただある時から、その傍らには常に小柄な美しい女性の姿が在ったそうです。
>>316 GJ! 2828しっぱなしでした。
あーみんのやられっぷりがいい感じ!
しかし大河の爆撃っぷり、パネぇなw
>>325 えと、これ童話だよな、おとぎ話だよな?
でもなんで、目頭が熱くなってるんだ?
とらドラ!が凝縮されている。
> ……あの子は何も話さなかったよ。全部言えば許してやるって言ったのにね
や
> 「おう、泣かせちまったか……遅くなってすまねえ」
にぐっときた。
いつも素晴らしい! GJ!
>>315 みのりん……戦場を駆ける女神って……たぶん死者の世界に誘われてるぞ(w
「たらいま〜」
「お帰りりゅうじぃー!」
「おう!やっぱ大河が一番可愛いな!」
「な、何よ急に……。竜児ったらまた先輩に飲まされちゃったの?」
「おう、まぁ、付き合いだからな。でもそれとは関係なく大河が一番だ!オンリーワンだ!」
「にへへ……ありがと竜児。とりあえず着替えたら?」
「そうだな。そうしよう」
「着替えたらお風呂入る?それともお茶漬け?」
「そうだなぁ……風呂入ってから、大河を頂こうかな?」
「もう、バカ」
ギシギシアンアン
酔っ払いな俺が一番馬鹿です
>>325 とらドラ成分が盛りだくさんでGJ!
童話風のしっとりハッピーエンドが好きだなー
>>329 そんなあなたにGJ
そしてバカップル投下
↓
大河「ちょっと竜児っ!」ガシッ!
竜児「うおっ!?なんだよ、いきなり掴みかかっ……!?」
大河「さっき……バカチーと、何してたの……?」
竜児「お、おぅ…」
大河「……見てたんだから。竜児と…バカチーが、その……キ…キス……うぅ」
竜児「ち、違うんだ大河、あれには理由があってだな…」
大河「男は皆そう言ってごまかすのよ……見損なったわ。竜児だけはそんなことしないって、し、信じて……たの、に」
竜児「だから、その……」(あ〜、なんて言やあいいんだよ)
大河「うわき…もの……」
竜児「はぁ?」
大河「竜児なんか大嫌いッ!この……う、うわ、浮気者ぉっ……ぐすん」
竜児「!?だーーーっ!!わかった。わかったから泣くなぁぁああっ!!」
大河「えぐ……泣いてなんか、ないもん…。この浮気犬め」
竜児「浮気犬て…。と、とにかくだな大河」
大河「さわるなッ!浮気菌がうつる!」
竜児「いや、だからなんだよ浮気菌って。いや、違うんだよ大河、聞けよ!」
亜美「あれあれ〜?こんなところで夫婦喧嘩ぁ?真っ昼間からお熱いこと」
大河「ッ!な、何よバカチー、りゅ、竜児を奪おうったってそうはいかないんだからッ!!
竜児は誰にも、ずぅえっっったいに、誰にも渡さないんだからねッ!」ギュッ
亜美「はぁ?」
竜児「なあ、川嶋。お前からも説明してやってくれよ」
大河「……」ギュゥゥ
―――数分後―――
大河「――――――」
竜児「大河〜。だめだ…屍だ」
亜美「そりゃそうなるだろうよ。よりにもよってこの亜美ちゃんに、
『タイガーが喜ぶキスのしかた』を相談してたー、だなんて。
ホンット、高須君ってデリカシーなさすぎね?」
竜児「その話を持ちかけた直後に、『なんなら、手取り足取り教えてあげましょうか?』
とかなんとか言ってにじり寄ってきたのはどこのどいつだ!?」
亜美「え〜?亜美ちゃんそんなに魅惑的だったぁ?相変わらず罪作りなオ・ン・ナ」
竜児「いや、言ってねえし……。ていうか大河!しっかりしろぉ!今日は特売の日なんだぞ!?」
亜美「そこ重要!?」
大河「――――――ニク」
亜美「ッ!?」
自分で書いててアレだが
亜美の扱いがwww
>>331 緊迫した雰囲気なはずなのにほころんでしまいますね、GJ!
そして駄文投下
↓
「泣くかと思った」
「!、、、、ぁ」
階段から降りてくる俺を発見した大河は、目を大きくさせ、
「ぁぁあんたっ!」
「ななん、なんで、、みみみ・みてたのっ!」
「わざとじゃない」
「わざとじゃってあんたっ」「それより・・どうする?」
大河の抗議を聞き流すように、俺は口を挟んだ。
小さい体を小刻みに震わせ、
「ぅ・・・・・n・・」
大河は振り返りながら言った。
「かえるっ」
そういって歩き出す大河の背に、俺も歩き出しながら、
「・・・そっか・・・」
「じゃ、飯つくってやるよ・・・どうせ朝飯まだだろう」
「つーか・・夕べはちゃんと喰ったのか?」
「またどうせコンビニとか」「やめてよっ」
大河はこぶしを握り震わせながら、うつむいたまま・・・
「なんで、、そんなことしたらまた誤解される」
「もぅいいんだってばそーゆーのはもう!」
「・・・ぁ・・・」
思わず視線を落とす。
「・・・俺だってわかんねぇよ」
吐き捨てるように、
「けど! ほっとけねーんだよ!」
大河は俺のほうを向き直り、
「! だからもういいってえ!」
言い切って、視線をはずしながら、
「あんたはもぅ、あたしの犬じゃないんだから!」
「・・・・・そうか、、、そぅ、俺は犬じゃない、竜だ」
歩き出しながら、大河の横に並び、俺は続けた。
「だから・・・お前の傍に居られるんだ、あい・・・n・・・」
「たいがっ!」
思わず大河が顔を上げ、横に立つものを見上げる。
「たっ・・・たいがってあんた・・・」
「虎と並び立つものは、昔から竜と決まってる」
見上げれば、空には飛行機雲が二本、平行線に空を裂いていた。
「俺は竜になる、、そんでもって リュウとして タイガのかたわらに居続ける」
「ぁ―――」
大河の込み上げる感情が、瞳から溢れ出ようとする。
「ん・・・」
黙ったままの大河のほうを向こうとした刹那―――
ドゲシッ!!!
俺の尻に蹴りが飛んで来た。
「ずぅずぅしいにも程があるわっ! 立場をわきまえろっての!」
「おまえなぁ、って、・・ん?、ぁ、おぉい!」
文句を言おうとした矢先、既に歩き出している大河は、
「はやくぅ! お腹空いてんだからっ」
歩みを止めず振り返ろうともせず、俺に言い放った。
「・・・えっ」
「それと、次の作戦立てるわよ まだあれくらいじゃ北村君のこと諦めたりしないからっ」
「あ、、それって・・・」
「竜でも犬でもどっちでもいいわ」
大河は俺のほうを向き直り、
「傍にいるっていったんだから」
そしてまた振り返って歩き出し、
「あたしのためにキリキリ働きないよね! 竜児 」
♪―――――
空元気なのか地なのか、そんなことはもぅどうでもよく、俺は、
「・・・・はやまったか・・・」
苦笑しながら呟いた。
「ほらはやく!」
先を歩く大河から早くもお叱りがとぶ。
「はぃはい!」
歩き出す竜児、先を歩く大河―――
「・・・・ふふっ・・・・」
桜が舞い散る昇降口のはじで――――
「・・・たいが、、だって・・・・」
―――――2枚の花びらが、仲良く宙を舞っていた。
♪バニラソルトで Burning Love♪
♪アマいだけなら♪
♪ソルトかけましょう♪
先行く大河に駆け足で俺は追いついた。
「おい、これからサボるっていうのに、正面口から出る気か?」
何故か顔をこちらに向けようともせず、大河は、
「べつに、、あたしはいつもこうして出てってたわよ」
「お、、おまえなぁ・・・」
言葉通り、そのまま歩む速度を変えず、大河はズンズン校門を出て行く。
(こいつ・・・サボり慣れてやがる・・・)
俺は、挙動不審のようにキョロキョロしながら、大河の後ろを着いていくのに必死だ。
「ぉおい、ちょっと待ってくれよ 大河」
「・・っ・・・竜児! その呼び方っ」
目をカッと見開きながら、追いついた俺に顔を向ける。
「なな、なんだよ・・おまえだって俺のことあの夜いきなり呼び捨てしただろ」
「あたしはいいのよ、ご主人様なんだからっ」
「ちょ、だから俺は並び立つm」
ドゲシッ!!!
再び、俺の尻に同じ痛みが走った。
文句を言おうと口をあけた俺を気にすることもなく、大河は、
「あー、なんか凄く疲れた・・・帰って寝よ、、やっちゃんと」
「おぉい、人の親をさらっとちゃん付けすんな」
「なによ、あたしの勝手でしょ」
ツンとばかりに鼻を前に向かせる。
俺は尻をさすりながら、
「・・まぁいいけどよ、泰子のやつ、朝は機嫌悪ぃぞ」
「・・・・・そういえばさ、、竜児は、何でやっちゃんのこと呼び捨てで呼んでるの?」
「んぁ?」
「だってさ、母親でしょ」
俺は前髪をいじりながら、
「べつに、深い意味なんてない、、、」
「あいつ、『母さん』とかって呼ぶと怒るんだよ」
キョトンとした顔をこちらに向けて、大河が振り向く。
「なにそれ?」
俺も横を向いて喋り続ける。
「いや、なんかお互いせっかく親から貰った大事な名前なんだから」
「名前で呼び合いましょって、言ってたけど・・・」
「ふ〜ん・・・」
大河は不思議そうな顔をするでもなく、顔を前に向き直す。
「まぁ、あいつのことだからあんま深く考えても」
俺も前に向き直る。
「・・・でも、ちょっとわかるかも」
大河はそう言うと、照れくさそうに顔を下に向けながら続けた。
「あたしさ、、こんなだからさ、、今まで家族以外に名前で呼んで貰ったことなんてなかったんだ」
「・・・まぁ、家族っていっても・・・」
声のトーンが下がるとともに、深く下げた顔も見えなくなった。
「でもさっ」
「この学校でみのりんに出会って、友達になって、親友になって・・・」
また顔をあげながら、元気良く、
「大河って呼んでもらって、嬉しかったもんっ」
俺にとびっきりの笑顔を見せた。
(あぁ・・・そうか・・・)
「今は、、あだ名だけど、手乗りタイガーなんてみんなに呼ばれてるけど」
(なんか、、わかった気がする・・・)
「それは、自分のことを呼ばれたって気がしない」
(なんで気になるんだろうって思ったけど・・・)
「苗字で呼ばれるあたしだってあたしだけど」
(・・・似てるんだ、俺たちは・・・)
「なんか違うの だから、ちゃんと名前で呼ばれるってのは」
(・・・うん)
「本当の自分を、呼ばれた気がするんだよな」
俺は思わず口を挟んだ。
小さい身体をビクンっとして、驚いた顔で、
「な・・・なんでわかっ・・・」
ハッとして口を紡ぎ、またそっぽを向く。
そんな大河をみて、俺も前を向きなおす。
「俺も・・・泰子以外じゃ、おまえが初めてだったからな」
空を見上げながら、俺は言った。
♪―――――
大河はクスっと微笑むと、すぐさま顔を元に戻し、
「あーもぅ! 喋ったらお腹が余計に空いたじゃない!」
そうぶっきらぼうに言い放ち、
「ねぇ、朝ごはんなに?」
こちらに無邪気な顔を向ける。
「そうだなぁ・・・今朝誰かさんが来ないおかげで、ご飯が残ってんだよな」
「なっ!」
ちょっとムッとした顔をして、
「・・・いらないって、、言ってあったでしょ・・・」
下を向きながら・・・・・大河の口元が緩んだ。
♪スキと言われたら♪
「あーそうだ リクエスト通り、チャーハン作ってやるよ」
「えっ」
「ほら、美味しいって言ってくれたじゃん、俺のチャーハン」
♪ダイキライだって♪
料理を誉められたことを思い出して、俺は、
「あぁあ、あんた・・・」
大河が小刻みに震えているのを見過ごした。
♪嬉しいのにナニ言ってんだろう?♪
「また勇気が出るようにって・・・はっ!」
ブゥウン!
咄嗟にしゃがんだ俺の頭上を茶色い何かが横切る!
「ちょちょ、待て!たいが!」
ブゥウン!
制止する俺の気持ちごと薙ぎ払うかのような一閃が縦に走る!
「だ、ちょ、落ち着け、違う、そーゆー意味じゃ」
目標を補足し直す目がピクリと動き、
「あんた、わざとじゃないって・・・一体いつからあそこに」
凍るような口調とは裏腹に、木刀の切っ先は熱く・・・
「違う、だから、その、ってうひゃあ!」
俺の弁解など聞く耳もなく振り下ろされる!
♪アマ〜いバニラ〜に〜♪
「りゅうぅううじぃいいいいい!」
思わず走り出し逃げる駄犬の背中に、右手に凶器を携えた手乗りタイガーの怒声が、
♪ソルト〜〜〜かけるよに…♪
「むぁあああああてぇええええええいぃ!」
空を裂く雲の谷間にこだました。
>>331 いや、亜美ちゃんはだいたいそんな感じであってる。
>>337 延長ktkr!そしてGJ!
こうして読むと歌詞が染みるやねぇ〜
お題 「膝」「予定」「笑顔」
コン、コン。
「大河ー」
ノックをしても声をかけても反応が無い。
「まだ寝てやがるな……まったく、夏休みだからってだらけやがって」
ドアを開ければ案の定、大きなベッドの真ん中で丸くなっている大河の姿が。
「おい、大……」
近づいて声をかけようとした竜児の動きが止まる。
大河が、膝を抱えるようにぎゅっと、体を小さく丸めていたから。
眉根に深く皺を寄せ、目尻にうっすら涙を浮かべていたから。
寝息に混じって、時折苦しげなうめきを漏らしていたから。
竜児は一つ溜息をつくと大河の傍に腰掛け、栗色の髪に包まれた頭から背中にそっと掌を滑らせる。
小学生の時、酷く熱を出してうなされたことがある。
訳も無く周りの全てがとてつもなく怖く感じて、布団の中で泣きながらひたすらに小さくなっていた。 ……ちょうど、今の大河のように。
そんな時、泰子が優しく背中を撫でてくれたのだ。
「大丈夫だよ、竜ちゃん。やっちゃんがついてるから、もうな〜んにも怖くないよ」
そう囁きながら、何度も何度も。
不思議と、それだけで随分と楽になったのを憶えている。
だから、竜児も大河の背を撫でる。
「大丈夫だ、大河。怖くなんかねえぞ。俺が傍に居るからよ。
虎の傍にはいつだって竜が居るんだ。だから、安心していいんだ……」
無論竜児とて、未来永劫大河の横に居るつもりは無い。
竜児の人生設計では、いずれ櫛枝実乃梨に告白して、恋人になって、出来れば結婚して添い遂げたいと思っている。
まあ、あくまで予定は未定であって決定ではないのだけれど。
それは大河も同じことで、北村と恋人になれるようにと日々努力している。
だけど、それはあるかもしれない未来の姿であって。
今現在大河の傍に居られるのは竜児だけだから。
竜児は、繰り返し、繰り返し、大河の背を撫でる。
大河に泣いていて欲しくはないから。笑顔でいて欲しいから。
だから、大河の背を撫で続ける。ゆっくりと、優しく。
その寝顔が緩むまで。苦しそうな声が聞こえなくなるまで。何度も、何度でも。
うむ、良い!
しかし、シルバーウィーク効果もなくなったか最近寂しいのぅ。
竜児「俺達が」
大河「いるじゃない!」
竜児「大河!」
大河「竜児!」
ギシギシアンアン
寂しいと
思うなら書き
貼りゃいいじゃん(字余り)
ヘンタイ
座右の銘は『妄想垂れ流し』と『そんな太いの無理だよ!竜児』です
「オレ文才ないから」とか言う他力本願は嫌いです。
オレってカッコよくね?
竜児イケメンすぎだろw
確かに絶叫サンの竜児はイケメンだもんなw
漫画見てていつも思うw
>>217 ありがとう。いやぁ悩んだ悩んだw
>>218 ホント違う方にキレ過ぎw
>>219 竜虎から出てくるんだと一万秒w
>>220 ホント、自分が食べたいくらいw
>>221 ありがとう。大河はいつでもクライマックスだぜ!!
そう!!一万秒なのだよ。おお!?読み返したいと?ありがとうございますぅ。それもこれもまとめ人様のおかげですね。
>>222 ソーナンス!!
>>238、
>>315 相変わらず良い仕事してくれるぜ!!
>>325 これもう童話として本当に出版していいんじゃね?
>>337 ここに本当のとらドラが……。
この前の一万秒をわかってくれた人がいて嬉しいなぁ。
さてかなり遅くなりましたが
>>215続きいきます。
***
物事には順序というものがある。
何事も唐突には起こらず、それらをふまえての今、結果があるのだ。
無論例外はある、いや、あると思いたい………………思ったっていいじゃないか。
竜児は帰宅するなり異次元に飛び込んだのかと本気で疑った。
なにせ、家に入るなり
「おかえりなさい」
と大河がピンクのエプロン姿で出迎えたのだ。
ここは異次元がはたまた世界の果てか。
いやいやこの世の終わりかもしれない、などと少々失礼な事を思いながらも、懸念事項を尋ねる。
「お前、また料理してたのか?」
「ううん」
「じゃあなんでそんな格好してんだ?」
「だって、出迎えの時はこういうものかなって」
ポワポワと頬を赤くしながら大河は俯く。
何がこういうものなのか、皆目見当もつかないが、今日の大河は何処かおかしいし、深くは突っ込まないことにした。
この時、竜児は根掘り葉掘り尋ねて誤解を解いておくべきだったのかもしれない。
帰ってきた竜児は早々に夕飯の支度を再開する。
と言っても、やるべきことは終わっており、あとは食べるだけのようなものだ。
「大河ー、ご飯盛るから持ってってくれー」
「は、はひ」
やや裏返ったような声でピンクエプロン大河は茶碗を受け取る。
ややぎくしゃくしながら茶碗を卓袱台へ。
「なんだ?どうかしたのか?」
「にゃ、にゃんでもにゃい……」
何でもない、というには些か以上の変化だが、まぁとりあえずは空腹を満たそう。
「そうか?じゃあいただきます」
「い、いただきます」
茶碗を手に取りご飯をぱくぱく。
キスの和え物もぱくぱく。
鍋の中身はグツグツ。
「………………」
しかしいつもならどんどん食べていく大河は全く箸を進めない。
(まだ、さっきの事を気にしてるのか?)
「大河、楽しみにしてたんだろ?ほら」
キスの和え物を竜児は大河に近づけてやる。
「あ、うん……」
大河は一口食べてまた箸を休め、チラチラと竜児を上目遣いに見つめている。
鍋の湯気のせいか、その頬はやや上気し、赤らんでいるかのような錯覚を竜児に思わせる。
しかし段々イライラしてきたように、大河の眼光が鋭くなっていく。
何もやっていない(と思っている)竜児は何だかバツが悪くなってくるが、大河が唐突に何か思いついたように目を見開き笑顔に戻ってからは特段気にしなかった。
が、それも数瞬。
もしも、その時の大河の深慮思慕をくみ取れたならそんなことはしなかったに違いない。
大河は食事中の竜児を見つめ、待っていたのだ。
とある瞬間を。
しかし、いくら待てどそのタイミングはやってこない。
イライラし始めた大河は、最早待つのではなく、自分から作り出すことにしたのだ。
大河は狙いを定める為に集中する。
食事中の竜児、ロックオン。
いや、もっと微細にしなくてはならない。
大河は狙うポイントを睨み据える。
狙うは一点。
竜児のその頬。
舌が震え、胸が爆発し、唇が渇く。
よぉくタイミングを掴み、
(今だ!!)
大河は動き出す。
「んっ?おわぁっ!?」
大河は唐突に竜児の頬に、それはそれは柔らかく、艶やかで、それでいてぷりっとしたそれをお見舞いしようとして……失敗する。
『ぷちゅっ』
情けない音を立てて竜児の『鼻』に命中したそれは、やや情けない姿になる。
「な、何すんだよ大河!?」
驚き焦る竜児。
若干頬が紅潮する。
それはそうだろう。
誰だって、『米』を鼻っ柱になすりつけられれば顔を赤くして怒るってもんだ。
しかし、今だ全開大河はそんな声など聞こえない、聞く気もあんまりない。
「ああ、なんてこと!?竜児の頬……じゃなくて鼻にご飯粒がついてるわ、動かないで竜児。わ、わた、私が取ってあげるから!!」
若干のミステイクだが、大河の中では許容範囲内だったらしい。
「は?何言ってんだ?お前が付けたんだろうが!!だいたいこんなの自分で……」
どんっ!!
今だご飯のある卓袱台にソックスを履いたままの大河の細い足が乗る。
大変行儀は良くない(良い子のみんなは真似しないでね♪)
もちろん、竜児も大河に怒るべくその顔を睨み付けようとして、固まった。
……例えるなら、タコ。
何処かのパッケージで見たような、口を突き出し、頬を赤らめた……そんな顔。
「おまっ!?一体何を……?」
嘘偽り無く言えば、この時竜児には既にこれから起こることの予想はついていただろう。
しかし、大河と「それ」がどうしても結びつかなくて、無理矢理に考えないようにしていた。
大河は、今度こそ狙いは外すまいと、竜児の頬を両手で挟み込むように押さえ、再び狙いをロックオン。
鼻に大河スコープで的をしぼり、いや、正確には潰れた米粒に的が絞られ、
「お、お、おんどりゃぁーーっ!!」
意味不明なかけ声とともに、ありすぎる勢いで竜児の顔に飛びかかり、瞬間的に羞恥から目を瞑る。
しかし彼女は伝説の手乗りタイガー。
同時にドジの極みタイガーでもある。
何も起こらす上手くいくと思う無かれ。
当然、彼女に目を閉じたままの命中を成功させるなどというスキルなどなく、
『ズリッ!!』
それに加え不安定な立ち位置から、卓袱台にかけた足は滑り、予定より落下位置が若干下になり、
──────────チュゥ──────────
大河の、人が物を食べる場所飲む場所噛む場所歌を歌う場所声を発する場所そうつまり口が、
竜児の、息を吸い吐き出し開き閉じ生きていく上での必須要項栄養確保の入り口つまり口へと交わり、
──────────チュゥ──────────
件の音を立てた。
***
「………………」
もう一体何時間こうしているだろうか。
さきほどのハプニングから、竜児は微動だにせず正座したままだった。
大河は、予定外の事象と、予定内の事象での羞恥からか、高須家をあっという間に駆けだした。
それがまた、竜児をこの状態へとさせた要因の一躍を担う。
(俺、大河と、キス……しちゃった)
幾度と無く繰り返される思考。
ノイズは無い。
思考、思考、思考。
キス、キス、キス。
大河、大河、大河。
帰宅、帰宅、帰宅。
悪い、悪い、悪い。
柔い、柔い、柔い。
巡っては消えを繰り返し、思考の渦、迷宮から逃げ出せない。
と、ぽろっと鼻から落ちる物があった。
それは米粒。
「あ……」
実に数時間ぶりに発した言葉。
数時間ぶりに自我を再構築した竜児は、慌てて卓袱台の上を片づけ、洗面台で顔を洗う。
気付けば時刻はすでに12時。
ゆうに5時間は意識がぶっ飛んでいたらしい。
しかし、だからといってその時間だけで今日を纏められるほど竜児は大人では無い。
「お、俺……」
指で唇をなぞる。
そこには、もう無い筈の感触があった。
「………………」
何気なくカーテンをかけたベランダを見やる。
どうしようか迷いながら、竜児はカーテンを開け、ガララ、とベランダに出て、
「「あ」」
同時に目の前の窓が開いた事に驚く。
竜児はその驚きが強すぎて、言葉が出ない。
唇が……熱い。
だから、次に口を開いたのは大河だった。
「な……た、ただいま」
が、何処か変な言葉。
「お、おぅ」
それに突っ込めない竜児も、やはり今だ正常には戻れない。
「え、えと……竜児」
「お、おぅ」
さっきと同じ台詞とイントネーション。
言ってしまえば、何を話して、どんな顔をすればいいのかわからないのだ。
今朝……いやもう昨日か。
その件での大河に負い目があってさらに今回の件。
嫌われ、避けられても仕方のない事だと、何処か自虐的な考えも巡っていたのかもしれない。
だから、
「おやすみなさい♪」
頬を赤らめた、はにかんだような笑顔で『投げキッス』などされた竜児は、もはや心の防壁の『ぼ』の字すら残っちゃいなかった。
ガララ……シャッ。
大河の姿が窓によって遮られ、カーテンによって見えなくなる。
しかし竜児はその場に留まったまま、ぼーっとカーテンのかかった窓を見やっていた。
が、おもむろに屋内に戻ると、急にふきん片手に狂ったようにあちこちを拭き始めた。
テレビの上をフキフキ。
タンスの表面をフキフキ。
茶箪笥のガラスもフキフキ。
キッチンを隅々までフキフキ。
部屋の壁から天井までフキフキ。
二日に一度のポイントもフキフキ。
床という床、物という物をフキフキ。
家中綺麗に磨き上げた竜児はしかし、満足することなく夢遊病患者のごとく箒を片手に家を飛び出した。
家の、大家さんの家の前も含めてレレレのおじさんよろしくハキハキ。
お隣のマンションの前もついでにハキハキ。
空が白ずんできていても気にせずハキハキ。
そのまま河川敷に向かいながらもハキハキ。
途中でゴミを拾ってはハキハキ。
むしろゴミに近寄ってハキハキ。
取り憑かれたみたいにハキハキ。
目は死んだ魚のように白く細く、自慢の三白眼がギラつきを増している。
訂正。
断じて自慢でもなければ、誇れる場所でもない。
そのまま竜児は日が昇っているのにも気にせず箒で地面を掃いていく。
***
時間は少し遡る。
大河は羞恥のあまりに窓を早々に閉め、竜児との間を遮断する。
その窓も、竜児が気になって開いたものだというのに。
しかし、ベッドに潜っても目が冴えて眠れない。
人生初めてのキスをしてしまったのだ。
昔、生まれたての時に両親にされているかもしれないが、そんな覚えていないものなどノーカウント。
いやカウント云々以前にあんな奴にキスされてたことがあるかと思うと鳥肌が立って死にそうだ。
ところがどうだ?
相手があの、絶望的に目つきが悪い成績優秀家事万能掃除魔神こと高須竜児となるとまるで話は違ってくる。
それはもう地獄の業火のごとく熱き炎で身を焦がすほどの熱を感じながら、この世の何を食べても得られぬほどの甘美な味を体感する。
ベッドの上で何度と無く転がり、ニヤけ、また転がる。
とても他人様には聞かせられぬような奇声も時々上げながら、全く見ていられない動きをし続ける。
そうして彼女もまた、日が昇るまで眠ることは出来なかった。
***
日が昇る。
人はそれを朝が来ると呼ぶ。
しかし彼女はそれを朝と認めない。
夜に眠って目が覚める、人はそれを朝が来たという。
しかし彼女はそれを朝と認めない。
彼女にとって朝とは、隣の家の少年に挨拶をされる事から始まるのだ。
だから、例え外が明るくなってきていても彼女はいまだ朝だと認識していない。
明けない朝は無くとも、彼女の朝はまだ明けない。
「……遅い」
しかし、いつ明けるかわからない朝を待てるほど、彼女は我慢強くも無い。
彼女は手乗りタイガー。
大橋高校の生きる伝説なのだ。
誰にでも噛みつき、気にくわないものはぶっとばし、縦横無尽に駆け抜け、我田引水を貫こうとする本当は誰よりも寂しがりやな女の子なのだ。
だが幸か不幸か彼女は気が強い。
だから、
「どっせーい!!」
布団を蹴飛ばし、着替えもせずに窓を開けてジャンプ。
玄関?ナニソレ?食べ物デスカ?
同じ失敗は二度繰り返さない。
コレ大事、重要、テストに出る。
先日とは違い力一杯ベランダを開き、ドタドタの隣人の家を徘徊する。
それはもう我が物顔で、ここはもう、自分の家も同じだとばかりに。
しかし、彼女のその威勢は時間を増す事にその勢いを減衰させ、高須家侵入から3分が経つ頃には意気消沈していた。
何処にも、彼の人がいないのだ。
これでは朝が来ないではないか。
のそのそと帰ろうとして、はたと気付く。
「竜児の靴が、無い……」
瞬間的に大河は飛び出していた。
家の中にいないなら外にいるのは必至。
消沈のあまりそんなことさえ意識の外だった。
しかし、外にいるとわかれば外を探せば良いだけのこと。
空は既に日が差しているが、彼女はまだ朝を迎えない。
駆け出し、見回し、また駆ける。
気付けばそこは河川敷。
息を切らせて来てみれば、そこに見知った背中があるではないか。
「見つけた……」
箒を片手にずっと土手を掃き続けている。
「竜児!!」
再び大河は走り出した。
***
「竜児!!」
ビクゥ!!
ただ箒を動かすだけの単調な作業から、初めて変わった動きを竜児は見せた。
「ど・こ・行・っ・て・た・ん・だぁーーーっ!!」
大河は地を蹴り竜児の元へとダイブ。
華麗なる足腰のバネを最大限に生かし、跳んだ、いや飛んだのだ。
「のわぁっ!?」
竜児の元へと見事に着地、もとい激突した大河は、そのまま勢いを殺せず竜児を巻き込み地面をゴロゴロと転がる。
「いったぁい」
ようやく止まった大河は頭を抱えて立ち上がった。
「いてて……何考えてんだ!!たい、が……?」
怒りから、先程の謎のモチベーションを吹き飛ばし怒鳴りつけてやろうとした竜児は、すぐにその気勢を奪われる。
大河は、寝間着だった。
いつものフリフリブラウスだった。
腕は傷つき、足はなんと裸足だった。
体中が汚れ、所々切り傷が出来ている。
「お、お前、なんて格好してんだよ!?」
「うるさい、先に言うことがあるでしょう!?」
竜児はあんまりな大河の姿に問い詰めるが、大河は取り合わずに竜児を睨み据える。
「言うこと……?」
「今何時っ!?」
「お、おぅ?」
竜児は慌てて時間を調べようと腕を見る。
別に腕時計はしていないので今度はポケット。
しかしどうやら携帯は持ってきていないらしい。
「すまん大河、今、何時だ……?」
そもそも、自分は何故ここにいるのかわからないと言ったように竜児は大河に尋ねる。
「七時三十分よ!!」
携帯を押しつけながら大河は吼える。
「お、おぅすまねぇ、もう朝だな」
「まだ朝じゃない!!」
「いや、もうおはようの時間だろ」
「……もう一回」
「は?おはようの時間だって……」
「よし、やっと朝が来たわ」
そこで竜児はようやく理解する。
「ああ、朝の挨拶か、おはよう大河」
「全く、挨拶を忘れるなんてなっちゃいなわよ竜児、私が言った意味、わかってる!?」
「あ、ああわかった」
竜児は思い出す。
そう言えば、コイツとは
─────何でもね?犬のようにしてくれる?私の為に何でも従順に?─────
から始まった。
(主人に挨拶も出来ないのか、と怒りたいのか……)
犬になった覚えは無いが、挨拶が出来なかったのは確かに悪い。
「私の言ったことはもう二度と一字一句聞き逃さないでよね!!」
大河はぷんすかと怒りながら近くの石段に座る。
「ああ、悪かった」
竜児も、大河に謝りながら隣に座った。
途端、大河が何かに気付いたように背筋をゾクゾクさせたかと思うと、急に背筋をピーンと張り、次いでふにゃふにゃになった。
「お、おい大河?」
大河の頭に一体どんあ不思議絵図が広がったのかは定かではない。
しかし、大河は竜児に振り向こうとして……倒れた。
「たっ、大河!?」
驚き焦り、すぐに大河の顔を竜児は覗き込み「スーッスーッ」……安心する。
「なんだよ、急に寝るなよ」
竜児の膝を枕にするような形で大河は寝入る。
竜児の与り知らぬことではあるが、大河とて一睡もせず、ここに着の身着のまま、裸足で駆け抜けて来たのだ。
その思いの強さたるや、いかんともしがたいものだったことだろう。
そしてそれは、一睡もしないで掃除を続けた竜児にも同じ事が言える事で……。
「やべ……俺も眠くなってきた……」
大河の安らかな寝顔を見ると、その思いが強くなってくる。
「言ったことはもう二度と一字一句聞き逃すな、って言ってたくせに、おやすみは言わなかったなコイツ」
そんなことを呟きながら、はたと昨日の事を思い出す。
そう、あれは事故だったんだとそう言い聞かせようとして、一語一句違わずに全ての台詞を思い出そうとして、思い出しすぎてしまう。
「……あれ?」
それは、事が終わった後の、窓とベランダでの邂逅。
『な……た、ただいま』
一見、意味のわからない大河の言葉。
いや、自分の部屋に帰ったと言う意味と無理矢理解釈出来なくも無いが、問題はそんなことより。
正確に思い出すなら、二人は目が合った瞬間に
『『あ』』
と言っている。
大河の言う一字一句聞き逃すなというのであれば、これすらも聞き逃してはいけない。
『あ』『な……た、ただいま』
『あ、な……た、ただいま』
あなた、ただいま。
あなた!?
混乱混乱混乱。
思いだされる昨晩の出来事。
容赦無く襲いかかってくる睡魔と戦いながらも必死に竜児はそのことを考える。
(俺は、大河にあなたって言われたのか?だからキスされたのか?つまり大河は……?)
間違わずに、しかし正解とも言い難いルートでの思考は睡眠欲のせいだけではないかもしれない。
しかし、それはとりあえず置いておこうではないか。
今ここに、最後の思考力を手放し、横に並ぶようにして眠ってしまった凶眼の持ち主がいるのだから。
一見風変わりなその様は、一方は箒を片手に寝っ転がり、もう一方はフリフリ寝間着で裸足でありながらも特に衆目を集めるでも無く、眠り続ける。
何が始まりで、何が違い何が正しいのかなど、わからない。
ただ、そこにはしずしずと眠りに耽る一組の男女がいるだけだ。
それは勘違いから始まったのかもしれない。
でも、勘違いから、勘違いじゃなくなることだってきっとある。
お互いが勘違いであることに気付かず、しかし噛み合ったままの二人なら、その程度の障害、なんなくぶち壊すだろう。
飛び越えるのではなくぶち壊す。
何故なら二人は語り継ぐもののいない伝説なのだから。
その程度の障害、ぶち壊せなくて何が伝説か。
そうして、新たな恋が幕を開いて行くのだ。
***
少し、高須家に戻ろう。
「あれぇ?大河ちゃんや竜ちゃんがいないよぉ」
金髪フワフワのロングヘアーの見た目若い女性が、肌を露出しながら家を徘徊する。
新たな伝説への幕開けは、いきなりの難関から始まりそうだ。
これで終わりです。
間が空きすぎてすいませんでした。
>>357 そうくるか!w
竜児もキレてやがるw
ぶっ飛びながらもキレイな締めに感動した!
乙!
全盛期の竜児or大河伝説でも欲しいですなぁ…
>>357 大河に萌え死にそうになったぞwww
締めも上手いね、匠の技って感じでGJでした!
余談だけど、最後のナレーションが「説明しよう!」のあの人に勝手に変換された。
>>345 ヘンタイさん続編plz!
>>357 いや待て、竜児のキョドりっぷりっつーか掃除っぷりワロスw
>>357 乙でした!
目覚めた後を見てみたい気もするけど、余韻の残る締めで、GJ!
いきなりほっぺにキスするのではなく、米粒くっつけてからの大河萌え
竜児壊れすぎw
363 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/07(水) 14:49:53 ID:OCCngoxb
ビュオォーゴゴー!! ガタガタガタ ガタガタガタガタ!!
大家「ひいぃ!?いよいよ近づいて来たねぇ、怖いねぇ、今夜が山かねぇ?」
バタンバタンバタン!! ゴゴゴゴゴゴー!!
大家「しまったよ!雨戸閉めてなかったよ、こんなボロアパートなんかイチコロだからねぇ」
ガタガタガタ!! ビューォォオオオォーー!! ガタガタガタガタ!!
大家「いけないいけない、これ以上酷くなる前に閉めておかないとね」
ガラッ
大河「りゅーーーーーじぃーーーーーーっ!」
竜児「たぁーーーいがぁーーーーーーっ!」
大家「!?!?」
ビュオォー!! バタバタバタバタバタ!! ヒュゴゴゴゴー!!
大河「どうよーっ!?嵐の中って最高でっしょーーーーっ!」
竜児「たまにはーーーーっ!いいもんだなーーーーっ!」
大河「こんだけうるさくってーーー!風が強けりゃ、だーれにーも聞こえなーーーーーーーいよーーーっ!」
竜児「おーーーーうっ!そーーうだなぁーーーっ!」
大家「丸聞こえだよ、あんたら・・・」
グゴゴゴ゙ゴー!! ヒョオオオォー!! バタバタバタ!!
大河「ねぇーーーっ!そろそろーーーっ!動いてーーーーっ!」
竜児「おーーーーうっ!?」
大河「んもえてきたあーーーーーっ!」
竜児「ぅ俺もだあーーーーーっ!」
大家「・・・・・・ま、まさか」
ビュゴゴゴゴー!! ガタガタガタガタ!! ガタガタガタガタ!!
大河「もっともっとーーーーーーっ!きーーーてーーーっ!」
竜児「うおおーーーっりゃああああーーーっ!」
大家「ベランダ・・・・・・・・壊さないでおくれよーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
ガタガタアンアンビュービュー!! ガタガタアンアンビュービュー!!!!
あ、タイトルは「嵐の中で輝いて」でお願いします
366 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/08(木) 01:03:59 ID:+ZvNuvOz
どこの米倉千尋だ
こらっ!
名作08小隊の主題歌になんてことをw
なにはともあれGJ!
前作「真夏の・・・」へ感想他、いろいろありがとうございます。
アフターまで書いてしまい、長々とやったもんだと自分で呆れてますが。
>>357 乙です。
いろいろな点から楽しく読めました。
策をろうしたあげくに失敗がとんでもない方向へ成功してしまう大河に笑うやら
萌えるやらでした。
>>365 >丸聞こえだよ、あんたら・・・
大家の突っ込みに噴きました。
さて、以下に新作を投下します。
タイトルはまとめ人様にお任せします。
どうも題名を考えるのが苦手。
「ねえ、竜児。あれ、何?」
そろそろ夏服にもお別れかという秋らしさが増して来た2学期のある日のこと。
学校帰りに寄ったスーパーの店内で、大河が指差す先にある山積みの和菓子。
レジまであと少しという所で大河は足を止める。
「ああ、そういえば今夜は月見か」
竜児は大河が興味を示した物を見てそう答えた。
「だから、それと私の疑問と何の関係があるの?」
「見りゃ、分かるだろ」
「分かんないから聞いてるんでしょ」
やや口を尖らせて大河はご不興の様子。
それと言うのも今夜の献立を巡って、さっき竜児とやり合って負けているのだ。
鮮魚コーナーにうやうやしく鎮座していたのは秋の味覚を代表するさんまだった。
目ざとく見つけた大河は夕食をこれにしようと竜児に迫ったのだったが、見事に返り討ちにあう。
竜児とて「おう、さんまか」と一瞬、乗り気を見せたものの、値札を見て即座に却下した。
「高けえ」
値札には一尾五百円とある。
「え〜、いいじゃないそれくらい」
「駄目だ。すぐに安くなる・・・まだ早い」
家庭の主婦を自認する竜児の経済感覚はするどい。
「食べたいなあ・・・さんま・・・おいしいだろうな・・・きっと・・・脂が乗ってて」
指をくわえるようにトレーにパックされたさんまをじっと見つめる大河。
心底、食べたそうにする大河の様子に竜児もぐらりと心が揺れる。
・・・たまには贅沢しても。
そう思いかけて竜児は頭を振る。
・・・贅沢なんてとんでもない。
「大河、ほら行くぞ」
「・・・さんま」
保冷ケースの前で未練がましくさんまを手に取る大河。
「あきらめろ、来週あたり買ってやるから」
「ケチ・・・さんまさんごめんね。竜児がケチだから食べてあげられない」
当て付ける様に言う大河に竜児も言い返す。
「聞き分けのない子はよその家の子になりなさい」
それはまるでお菓子が欲しくて駄々をこねる幼児に対する母親の様な口調。
「やだやだ、さんまが欲しい。買ってくれなきゃ・・・泣くから」
したばたと手を動かし、大河はさんまに執着する。
まるで子供のような大河の動き、本当にさんまを買わないと泣くぞと言わんばかり。
もちろん、本気で大河がそう言っている訳ではない。
その証拠に大河の瞳は「ふふん」と言わんばかりに竜児を挑発していた。
「ぐっ」
竜児は詰まった。
ここで大河に嘘泣きでも始められた日にはいたいけな少女をいじめる悪漢にしか見てもらえないだろう。
悪名を被ってでも己の信念を貫き通すか、ここは一時引くべきか、竜児は迷った。
見れば大河は両手を目の辺りに持って行き、嘘泣きの体勢に移りつつある。
既に勝利を確信したのか大河の口元に浮かぶ笑み。
・・・知能犯め。
大河の術中にはまり、絶対絶命に追い込まれた竜児にその時、思いがけない援軍が現れた。
「あのお姉ちゃん、駄々こねてる・・・ボクはお菓子欲しがらないから、いい子でしょ、ママ」
見れば幼稚園くらいの男の子が竜児たちの隣から大河を見て母親に話し掛けていた。
傍から見ても分かるくらい、大河の頭に上って来る血の気。
泣きまね用に目の辺りへ持って来ていた両手で顔を覆い隠すと大河は逃げるようにその場から足早に立ち去る。
慌てて竜児も大河を追い駆けたのだが、内心で大笑いしていた。
「まったく、さっきは大恥かいたじゃない」
「大河が悪乗りするからだろ」
「ちっ・・・もう少しだったのに」
さんまが遠のいたと大河は悔しがる。
「わかったよ、さんまは無しだけど、団子買って帰ろうぜ」
「団子?」
「ああ、だから月見だよ。月見団子」
竜児は大河が指差した和菓子の山から一パック、手に取ると大河に見せた。
秋の名月には月に団子を備えてお月見をする風習があると竜児に説明されて、大河はへえと興味を覚えたようだった。
「ねえ、竜児。今夜、お月見しよ」
さっそく、そう提案してきた。
「月見か・・・出来ねえ」
残念そうに竜児が言う。
「え〜!なんで!!」
「見えねえんだよ、月が。俺の家からは」
「何で?」
理解できないと言う大河の表情に竜児は動かしがたい事実を突きつける。
「あのなあ・・・俺ん家の南側にあるのは何だ?」
「へ?・・・あ、そっか、私のマンション」
「だろ、月見をしたくても無理なんだよ」
あきらめろと言わんばかりの竜児に大河は解決策を提示する。
「私の家ですれば・・・お月見」
「大河の家で?」
「そう」
コペルニクス的発想と言えば大げさだが、食事は高須家でするものという固定観念が竜児の中で出来上がってしまっていた。
ポンと右手で左手の手のひらを叩く竜児。
「そうだよな、大河の家からなら見えるし・・・ついでだから今日は大河の家で晩飯、作るか」
「うん、いいよ」
そうと決まればと大河は竜児が持つ買い物かごの中へ月見団子を何パックも放り入れた。
「今夜はふたりだな」
夕食材料以下が詰まったエコバッグをぶらぶらさせながら竜児が言う。
「え?やっちゃんも来てくれるんでしょ?」
「泰子か・・・さっきの月見で思い出したんだが、なんでもお月見フェアとかを店でやるみたいなんだ。その準備で飯を食わないで出勤すんだとよ」
「お月見フェア?・・・なにすんの、やっちゃん?」
「さあ・・・何でも昔、流行ったアニメのヒロインの扮装をするとかしないとか・・・月に代わってとか・・・お仕置きとか、何かセリフみたいなことをぶつぶつ言っていた気がするが」
「何、それ?」
「さあな・・・俺にもわからん」
竜児も大河も疑問符をたくさん散りばめながら、それぞれ頭の中で泰子の扮装を思い描いてみた。
「・・・見てみたいような」
と大河。
「・・・見てみたくないような」
と竜児。
思い浮かべた内容をお互い、胸に仕舞ったまま歩みを進める大河と竜児だった。
並んで歩く竜児と大河。
しかし、その足の向きは家の方向とは違っていた。
本格的な月見をするならすすきがいると言う竜児の言葉に、じゃあ取りに行こうと大河が賛成し、ふたりは買い物帰りに寄り道をして河川敷に向かっているところなのだ。
堤防道路へ入り、大河の足取りは軽そうだった。
「お、つきみ。お、つきみ。ふん、ふん」
と、妙な節回しで口ずさみ、軽くスキップしながら竜児の先を進む。
大河の調子外れな鼻歌。
それを聞きながら竜児は突っ込みたいのを我慢する。
せっかく大河がご機嫌なんだから、そのままで居てくれた方が平和でいい。
竜児とて荒ぶる手乗りタイガーと化した大河が好きだと言うような倒錯した趣味を持っている訳ではないのだから。
その一方で竜児は不安を覚える。
妙に調子のいい時の大河は何かをしでかすことが多いからだ。
竜児の少し前にある大河の後姿はそんな竜児の不安も知る由も無く、軽快に進んで行く。
「ねえ、竜児・・・きゃん」
案の定、大河は後ろを振り向いた途端、見事にしりもちを付きながら後ろ向きに転んだ。
「ったあ〜」
くてっと言う感じでアスファルトに背中を付け、寝転んだ姿勢のまま大河は頭を起こしながら顔をしかめた。
「ったく、大丈夫かよ?」
慌てて大河に駆け寄る竜児・・・だったが、大河の直前で急停止する。
「何してんの?早く、助け起しなさいよ」
大河は手を竜児の方へ伸ばし、引き起こすことを要求した。
「ああ・・・でもなあ」
歯切れ悪く、竜児は大河から視線を逸らし、横を向く。
「役に立たない犬ねえ、もう」
大河がいつもの調子で竜児を罵倒するも、その竜児は無言で大河の足元の方を指差した。
「・・・? 何よ?何かあるの?」
よいしょと大河は上半身を起こし、自分の下半身へ目を向け、その目を大きく見開く。
「げっ!!」
慌てて手を伸ばし体裁を整える。
しかし、取り繕ったところで手遅れ・・・たった今あったことはもう取り消せない。
転んだ拍子に大河が着ている制服のスカートはいい具合にめくれていたのだ。
跳ね起きた大河は竜児を指差し、弾劾する。
「この、エロ犬!超ドエロ犬!!なんてことするのよ!!!」
しかしこれはひどい濡れ衣だった。
「俺は何もしてねえだろう。大河が勝手に転んだんだし」
「ええ、そうよ、転んだのは私よ。でも見たでしょ!」
「何をだ?」
「しらばっくれないで・・・だから、私の・・・その、なによ」
顔を熟したトマトみたいにして大河は主張する。
「安心しろ・・・見えちゃいねえ」
そう答えた竜児だが、実際のところはチラリと見てしまっていたのだ。
竜児とて顔を赤らめたくなる様な場面ではあるのだが、大河の手前、あくまでも平静を装っていた。
「ホント?」
「ああ、本当だ」
竜児にそこまで言われてしぶしぶという感じで大河は納得する。
「ああ、もう不愉快」
それでも面白くないのかぶつぶつ言う大河。
「そんなに気になるなら、もう少しスカートの丈を長くしろよ・・・短いんじゃないか?」
「・・・そんなとこ見てたんだ、竜児。・・・スケベ」
軽蔑のオーラを出しながら竜児を見る大河。
「何だと。俺はあくまで一般的なことを言ったまでで、大河のがどうとか言うんじゃない」
「・・・どうだか」
はん・・・と言う感じで大河の竜児を見る視線は冷たい。
「・・・だいたい、この石がいけないのよ」
大河を転ばせた路面の石の塊り。
大河はつま先を使って器用に石を河川敷の草むらへ向かって蹴り飛ばした。
きれいな放物線を描いて落下する石。
落下地点で草を押し退けるガサという音と一緒に聞こえた音に竜児と大河は顔を見合わせる。
「今、キャンとか聞こえなかったか?」
「キャウじゃない?」
そう話し合うふたりの真下の草むらがザワザワと動き出す。
「竜児・・・あれ、何?」
「あんまり、想像したくねえな」
・・・ウ、ウ、ウ、ウ。
嫌な予感は当たるもの。
竜児は観念した。
堤防の真下の草むらから這い出してきたのは大きな犬だった。
真下から堤防上の竜児と大河を見上げて威嚇のうなり声を出す。
・・・今、石をぶつけたのはお前さん方かい?
あきらかにそう言っていた。
見れば野良歴八年、数々の修羅場を潜って来ましたと言う来歴がピッタリなお犬様。
時代劇で言うなら凄腕の浪人と言ったところで、決して正義の主人公に一撃で倒される雑魚には見えなかった。
「怒ってるね・・・あれ」
石をぶつけた張本人がノンキそうに言う。
「どうすんだよ。話して分かる相手じゃねえぞ」
「アンタ、犬でしょ。犬は犬同士、けりを付けて」
「無茶を言うな」
大河と竜児が責任のなすり合いをしている間に野良犬は堤防を上がり、竜児達との間合いを詰め切っていた。
もう走って逃げるには遅すぎる。
くそ・・・と竜児は思う。
どうやってこの場を切り抜けようかと考えながら、自然と体は動いて大河をかばう姿勢。
「ふん、アンタ、やる気?」
そんな竜児の気遣いも無用だとばかり、大河は前に出て犬をにらみ付ける。
「バカ、大河、下がってろ」
「平気よ、こんな犬っころ」
「ラケットぶつけた犬とは違うぞ」
そう、あれは飼い犬・・・いつぞや大河がやりあったシベリアンハスキー犬。
飼い犬は人を噛んだりしない・・・だけど、野良犬は・・・・・・。
大河は飛び掛かって来る犬に反応が遅れた。
棒立ちに見える大河の様子に竜児はためらわなかった。
「大河!!」
大河を横へ突き飛ばし、犬と大河の間に割って入る。
牙をむき出しにした野良犬の口が竜児に襲い掛かる。
とっさに竜児は持っていたエコバッグを盾に犬を防ぐも、勢いのついた犬の力に路面へ押し倒される格好に追い込まれた。
噛み付こうとする犬にエコバッグを振り回し、防戦する竜児。
「逃げろ、大河。早く!!」
目の前の光景が信じられないと言った表情で大河は竜児を見る。
「うそ・・・やだ・・・りゅうじ・・・りゅいじぃ〜!!!」
大河はそう叫ぶと、草むらに転がっていた錆びた長い金属棒を掴んで、犬に殴りかかった。
「私の・・・私の・・・竜児に・・・私の竜児に何するんじゃあ〜!!」
大河が放った一撃は痛烈なダメージを犬に与えたらしく、野良犬は一声鳴くと戦意喪失の態で堤防下へ駆け戻って行った。
その後に残ったのは地面に横たわったままの竜児の姿。
はあはあと荒い息を吐き出しながら、大河は握っていた金属棒をコロンと地面へ落とす。
「・・・竜児・・・死んじゃいやあ!」
駆け寄る大河の前に、竜児はむくりと体を起す。
「・・・殺すなよ」
「生きてる!竜児」
「当たり前だ・・・はあ、でも、やばかったぜ」
助かったと安堵感を込めて竜児は息を吐き出す。
「良かった・・・っう」
地面に座る竜児の前で大河はひざをつき、半べそ状態。
くしゃくしゃになった顔を竜児に向け、言葉が続かない大河。
「ひでえ顔だな」
竜児はそっと大河の頬へ手を添える。
「ごめんね・・・竜児」
竜児の手から伝わる温もりが、凍った大河の言語中枢を溶かす。
「何で大河が謝るんだよ?」
「私が・・・私がつまんない事で怒らなきゃ・・・こんなことにならなかった」
「蹴っ飛ばした石のことか?」
うん・・・と大河はうなずく。
「過ぎたことさ。それより大河が無事で何よりだ・・・怪我しなかったか?」
「私?私は大丈夫・・・って竜児、怪我してる」
「ああ、これか、これは防げなかったな」
竜児のワイシャツの胸に残る切り裂き。
犬の前足の爪が残した傷跡・・・うっすらとシャツに血がにじみ、犬の与えた傷跡の深さを物語っていた。
傷跡を見ているうちに大河は更に込み上げてきたのか、本格的な泣き顔になる。
「・・・りゅ・・・じ・・・りゅ・・・じ」
何度も何度も竜児の名前を呼び、こぼれた涙が竜児のシャツに染みをこしらえた。
竜児はそんな大河の頭に手を添えて、大河が泣き止むのを待った。
不思議そうにこちらを見る自転車が通り過ぎたのを潮に竜児は大河を促がした。
「そろそろ、落ち着いたか?」
「・・・うん」
大河の目尻に残る涙を竜児はポケットから取り出したハンカチで拭いてやった。
「・・・ありがと、竜児。・・・でも、次はもっときれいなハンカチで拭いて」
泣き顔で目茶苦茶になった表情で大河は竜児のされるがままになっていたが、ひと言、デリカシーを求めた。
「あのな・・・」
竜児は苦笑いするしかなかった。
エコバッグから散らばった夕食材料を竜児はついたほこりを払いながら拾い集め、「帰るか」と大河を見る。
「・・・うん」
しょんぼりと言う感じで大河は情けなさそうな顔を竜児に見せる。
「落ち込むことねえだろ。大河のおかげで助かったんだし、もっと威張っていいんだぞ」
「後先、考えないで動いちゃうって・・・悪い癖だと思ってるんだけど・・・これからはもう少しよく考えて動くわ」
「そんなの大河らしくないだろ・・・突っ走りたい時はそうしていいんだぞ。大抵のことはフォローしてやるから」
「・・・いつまでも竜児に甘えてられない・・・少しは私も成長しないと」
「ま、できる範囲で頑張ってくれよ」
「うん、がんばる・・・で、がんばり始めに・・・はい」
大河はしゃがむと竜児に背中を見せた。
「何の真似だ?」
「背負ってってあげる・・・竜児怪我してるし・・・遠慮しないでいいよ」
「あのな・・・気持ちだけで十分だ」
「え〜、どうして?」
「無理だろ」
「やってみないとわかんない」
さあ、乗れと大河は譲らない。
竜児は頭を指先でかきながら、大河の背中に乗った自分を想像した。
・・・大河がつぶれるか、バランスを失って後ろへひっくり返るか・・・どっちかな?
竜児の心配を余所に、あくまでも実施を主張する大河。
しかたなく竜児は別の提案をする。
「じゃあ、肩を貸せ」
「え、それでいいの?」
「ああ、それで十分だ」
「ん、じゃあ、掴まって」
・・・ま、大河がそれで気に済むならいいか。
竜児は大河の首筋から手を回し右肩をそっと掴んだ。
その直後、大河の長い髪から立ち上る柔らかな香りが竜児を包む。
ドキっとした竜児は思わず、大河から手を放す。
そんな竜児の気持ちに気づくこともなく、大河は意図も無造作に竜児の手を掴み直すと、再び肩へ持っていった。
「ほら、ちゃんと掴まって」
「お、おう」
・・・大河にしてみれば肩を貸してるつもりなんだろうけど・・・。
竜児は思う。
・・・ほとんど支えになっていない・・・この身長差じゃ・・・な。
「大丈夫?竜児」
「ああ、大丈夫だ」
そのまま歩き始めたふたり。
でも、その姿は男女が仲良く肩を組んでいるようにしか見えないと、大河も竜児もまったく気がついていなかった。
今回は以上です。
続きは近日中に出来たらアップします。
しかし、書いててふと思ったこと。
竜児は大河のパンツ、何回見てるんだろう?
自分が書くとつい、こんなシーンばかり・・・。
書き始めて最初の頃に投下したのからしてパンツネタだったし。
まあ、多分、今後も直らないと思いますから(笑)
377 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/08(木) 02:01:07 ID:+ZvNuvOz
パンツじゃない
あれはズボンだ
つまりパンツじゃないから恥ずかしくないもん!
「大河ちゃ〜ん、い〜いものあ・げ・る」
出勤直前の泰子から手渡されたそれは、どう見てもティッシュの空き箱。
あえて違う点を述べるならば側面に曲がるストローが貼り付けられていることと、底面(ストローの向きからするとこちらが上なのかもしれない)に『さ』『し』『す』『せ』『そ』とそれぞれ書かれた小さな紙が五枚貼ってあること。
「……やっちゃん、これ何?」
「んふふ〜、これはね〜、竜ちゃんスイッチなので〜す」
「竜児スイッチ?」
「そう!竜ちゃんスイッチなんとか〜って言いながらこのボタンを押すとね〜、竜ちゃんが色々なことをしてくれるんだよ〜」
……やっぱりよくわからない。どうやら文字の書かれた紙が『ボタン』ということらしいのだけど。
「おう大河、どうし……た……」
洗い物を終えて居間に戻って来た竜児が、怪訝そうな表情の大河の手元を見て硬直する。
「大河……そ、それ……」
「ん〜?やっちゃんに貰ったんだけど……あんたに色々させられるんだって?」
「……う……」
答えながら大河の顔ににんまりと笑みが浮かぶ。
よくわからないが、竜児の態度からしてどうやら『ホンモノ』ではあるらしい。
「ちょっと試してみようかしらねえ……竜児スイッチ『さ』!」
「ぐ……」
竜児は苦い顔をしながらも壁際に手をつき、畳みを蹴って、
「さ……『さかだちをする』……」
なるほど、どうやら『さ』『し』『す』『せ』『そ』のそれぞれを頭文字とした『何か』をするということか。
これはちょっと楽しいかもしれない。
「それじゃあねえ……竜児スイッチ『し』!」
竜児は逆立ちを止めて、自分の口元を手で抑える。
「……何してんのよ?」
「……『しずかにする』」
大河の問いに小声で答える竜児。
「あんまり面白くないわね……竜児スイッチ『す』!」
竜児はギラリと目を光らせて高須棒を取り出し、ニヤリと笑みを浮かべながらテレビ台の裏に突っ込んで、
「す……『すきまをそうじする』」
「……はいはい、竜児スイッチ『せ』!」
名残惜しそうに掃除を中断した竜児は、今度はその場で両手をぐいっと上に伸ばす。
「せ……『せのびをする』」
「うーん、あんたはどうも捻りが足りないわね……竜児スイッチ『そ』!」
大河の言葉に竜児は大河に近づき、その横に立つ。
「あら、『そうじする』じゃないんだ……何?」
「そ……『そばにいる』」
「……」「……」
大河はしばし無言で。竜児も同じく無言でその傍らに。
「……竜児スイッチ『そ』」
「『そばにいる』」
「……竜児スイッチ『そ』」
「『そばにいる』」
379 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/08(木) 09:15:24 ID:esrLnl+Q
2828
セーラーやっちゃん似合い過ぎだろw
竜児スイッチもイイハナシだなー
お二人ともGJ!
ニヤニヤが止まらないw
お二方共にGJです!
>>376 新作待ってました!
鉄のスカートが無けりゃパンツかなり見えそうだよね・・・w
>>378 最後の5行で持ってかれた。今日も良かった!
ヘイタイだけどさ
何か閃くままに書いたら20レス超えちゃっていらんとこ削ってるんだけどさ
ここはどんくらい連投できんの?教えてプリ〜ヅ!
384 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/08(木) 21:55:31 ID:UUnK7rCl
●無しなら10レス前後でバイバイさるさんに引っかかるし
そのときは誰かが支援カキコすればなんとかなるかもしれん
0時前後に半分ずつ投下すれば計20レスでもいける
>>383 何時辺りに投下するか前もって書いてくれれば支援カキコするよ〜。
ありがと、まだ途中だから方法は貼るに考える
こんな変なヤツの為にわざわざスマンね
キミたちはイイヤツだな
鉄のスカートといえば亜美だろ
あー自分も質問で申し訳ないのですが
長すぎるのって迷惑?
現状、書き終わった所までで、2万文字で千行
最終的にはその倍〜3倍位になりそうで投下するの躊躇してる所です
勿論、小分けに投下する形になりますが。
内容や出来による
あとは投稿の仕方とかペースとかタイミングとか
でも最近ちょっとさみしいからいいんじゃね
スレの空気に合ってれば大丈夫だよ。
投稿少ないし歓迎されると思うけどな。
ヘンタイさん(なんちゅうー言い方)、投下されるかな?
まだ掛かりそうであれば、先に行かせてもらって良いでしょうか?
5分ほど、様子みます・・・・
とらドラ!, againを書かせて頂いている、VW.RtTKf1Eです。
なんか投稿ラッシュの前っぽいのですが、明日から週末まで投下するのが難しそうなので
先に入れさせて頂きます。スタンバイされていた方、すいません。
前の投下の時、コメントくださった皆様、本当に有難うございます。
抽象的な言い方しかできませんが1つ1つがとても嬉しく、有難いです。
自分の頭の中だけでは気付かないことが見えたり、やっぱり投下するのは大事です。
>>116 大河成分少なくてすいません。そうですね。私も大河が早く書きたくて、うずうずしてしまいます。
まだ少なめですが、そのうち、必ずいっぱい出てきます。
>>117 “大河の日”覚えててくださって、有難うございます! あまり気の利いた言い回しとかできないので、
凄く嬉しいです。自分の中では、Xmas関連全てが大河に結びついちゃいます。
さて、
>>101の続きです。
また長くなってしまいました。もっとコンパクトにして、話を早く進めたいのですが、
何故こうなる?
11レス使います(なげー)
「はぁ…」
バンコクの中心部を流れるチャオプラヤー川の水面を眺めながら、川嶋亜美は朝、目が覚めてから
18回目のため息をついた。
弁財天国での集まりから4日後。亜美は主演映画のロケでタイにいた。
バンコク市内の高級ホテルで2回目の朝を迎えた亜美は、時差による早い目覚めで持て余した時間を
つぶそうと、ホテルの周りをぶらついていた。
初日は日本からの移動だけ、昨日は丸一日キャメラテスト、そして今日からいよいよ撮影が始まる。
ロケ地の都合で珍しくストーリー順に撮影が進んでいる今回の映画では、このバンコクの地が物語の
クライマックスとなる。
しかし、主演女優である亜美は、全くのれていなかった。
原因は痛い程分かっている。大河を救い出す方法が思いつかないのだ。
みんなの前で“できることがあるはず”と大見得を切った手前、自分にプレッシャーを掛けて考え続けて
いるが未だに糸口すら見えない。お金を出すのはダメ。人脈を使って、裏社会を探るのもダメ。
いっそのこと、大河をタレントにして、大金稼げるように仕立ててみようか? あいつならテレビなんか
怖がらないだろうし、自分とお笑いコンビを組んだら、意外と受けるかも…?
「無理、よねぇ… はぁ…」
今、世間に顔をさらすわけにはいかない。今回の思考も19回目のため息を生んだだけだった。
子供達の嬌声に釣られて、ホテルの横、水路の入り口に設けられた観光用の船着き場に足を向けると、
10才前後の5-6人の男の子が、桟橋から川に飛び込んでいる様子が目に入ってきた。
器用に前転や後ろ宙返りをしながら、何度も何度も繰り返し、誰かが飛び込むと残った子供達が
手を叩いて歓声をあげている。
「こんなに濁った水に頭から飛び込むなんて、よくまぁ、やるもんだよね。でも楽しそうだからいいか。
生まれ育った水、なんだろうし…」
子供達の楽しげな遊び、そう思っていた亜美の考えは、水上マーケットのツアーに行く団体がどやどやと
やって来た時、無惨に打ち砕かれることとになった。
観光客の男達の一部が川に飛び込んでいる子供達に向かって、金を投げ始めたのだ。
「最っ低…」
動物の芸でも見るように、次々と川の中に金を投げ込む男達を見て、亜美の気分はさらにブルーになった。
しかし、本当に止めを刺されたのはその後だった。川に飛び込んだ子供達は「オサツ」「Bill」と叫んで、
もっと高額なお金を要求し始め、紙幣が川に放り込まれると我れ先にと金に群がっていった。
「最初っからお金目当てで… 遊びなんかじゃなかったのね……」
心を踏みにじられたような気持ちと、甘ちゃんな自分への嫌悪感が同時に湧き起こり、亜美は苦渋に
満ちた表情でその場を立ち去ろうと振り返った。
「よぉ! 姫。朝から絶好調だなー」
その瞬間、最悪のタイミングで声を掛けてきた男がいた。よりによって、作品の絶対権力者にして、
映画界随一の皮肉屋と言われる監督に今の顔を見られていたのだ。
バツの悪さを隠すように、亜美はにくまれ口を叩くしかなかった。
「その“姫”っていうの、いい加減やめてもらえます?」
「じゃ、世間で言われている“涙の女王”の方がいいのかな?」
「…それもお断りします」
今さら、取り繕ったところでどうしようもない。しかめっ面のまま、監督の横を通り過ぎ、ホテルに
戻ろうとした亜美は、監督から思わぬ詫びと礼の言葉を掛けられて、足を止めた。
「すまん。ちゃかして悪かった。昨日は主演女優自らテストに付き合ってもらって有難う。
ただ、こっちに来てからずっと冴えない顔してるんで、ちょっと気になって声を掛けたのさ」
心理状態をすっかり見透かされいて、亜美はますますバツが悪くなった。が、ここで拗ねたり、
怒ったりするのは自分がガキだと証明する様なものだと思い、素直に頭を下げた。
「すいません。大事な撮影の前に」
「いや、カメラの前でしっかり役に入ってくれりゃ、全く文句はございやせん」
嘘ばっかり。このままじゃ、まともな演技はできないだろってことでしょ?
そう言い返そうと思った亜美の頭の中である考えが浮かんだ。
皮肉屋と言われつつも、人の感情を掘り下げた描写や、社会派といわれる作品で評価を得ている監督に
疑問をぶつけてみるのはどうだろう? 皮肉を言われ続けてきた、ささやかな意趣返しも兼ねて…
「監督、1つ聞いてもいいですか?」
「なんだい、お姫様?」
「監督は映画で世の中が変えられると思いますか?」
「へぇー、またいきなり大きくでたな…」
「今回の映画は捨てられたと憎んでいた母の足跡をたどりながら、娘が真実を知っていく話ですけど、
背景に世の中の理不尽とか抗えない力に翻弄されるヒトの姿が描かれてますよね」
「解説ありがとう。でも貧困、暴力、差別、無関心って言った方がもっと分かりやすいよ」
「……………。 じゃあ、この映画を通して、そういう世の中が変わるんでしょうか? いや映画を
見た人が現実を変えようと思ったり、実際に現実が変わったりするんでしょうか…?」
「……芸歴10年になろうかというベテランの発言とは思えんな… ふむ… お前、何か変えたい現実が
あって、それができなくて落ち込んでいるのか? お前の性格からして自分や家族、恋人のことなら、
落ち込む前に動いてるだろうから、手の届かない、少し離れた人のことだな。友達とか」
「……」
「しかも昨日今日のことじゃない。お前がそこまで自分を役に追いつめることができるのは、そのせいか?」
「……」
沈黙がYesと同じであることは明白だった。そして話す相手を間違えたと思った。この人に1つ話せば、
5つ読まれ、3つ話せばその人間の心を把握される。監督を信じていない訳ではないが、この業界、
噂だけでもどうなるか分からない。亜美は、話してしまったことに不安と後悔を感じ始めていた。
「ふっ… そか」
監督が小さく息を吐いた。
「川嶋、”世の中を変える” そんな大それたことのために映画を撮ってるわけじゃない。
俺はただ面白い話を形にしたいだけだ。ただ、ある映画評論家が書いてたな、
”映画や芸術は、政治や経済や軍事と違って世の中そのものを直接変えることはできない。
でも、個人個人の考え方は変えることができる” とな。
人間が一生のうちに経験できることなんてたかが知れている。だが、映像を通してなら、物語に入り込む
ことができる。端からみたらドタバタのコメディでも、受け取る人間によっては、人生を変えるぐらいに
大事なことを気付かせてくれたり、何かを生み出したいという力を呼び覚ます場合もある。映像の力、
物語の力はあなどるもんじゃないぞ…」
「じゃ、監督はああいうのはどう思いますか? 何かできるんですか?」
亜美は少し意地悪く、川に飛び込む少年達と、金を投げる観光客を指差した。
「ふーん、なるほどね… 今の日本人は物乞いに慣れてないからな。
いつもライブではやらないんだが、こういう方法もある。距離が離れてるから、顔の処理はいらんだろう」
そう言うと監督は胸のポケットに入れたスマートフォンで観光客と少年の様子を撮影し始めた。
「監督、何を?」
「世界中の日常をムービーで撮って匿名で動画投稿サイトにアップするのが、ささやかな趣味でね。
結構人気あるんだぜ、俺のアカウントは。ホテルのネットは届いているな…… タイトル入れて…
ちょっと待てよ……ほらアップ完了だ。少ししたら面白い現象が見られるかもしれんぞ」
亜美が画面を覗き込む。更新を繰り返しながら、暫く見ているとムービーの再生回数が増えていき、
色々な言語でコメントが書き込まれて行く。非難だけでなく、多様な意見、見方が書き込まれていく。
「ま、映像1つでこんな刺激を生むことができたりするわけだ… 映像を世に出す。何かの反応が起こる。
見る人によっては深く刺さって、何かの行動に結びつくかもしれない。それが作り手の醍醐味なのかもな」
亜美は右手の親指の爪を噛みながら、画面をじっと見続け、何かを考えていた。
やがて意を決して顔を上げると、監督に向かって力強く言った
「監督、クランクアップして、納得するいい作品が撮れたら、是非お願いしたいことがあります。
話を聞いてもらえますか?」
「櫛枝、今日は車で行くのか?」
「うん、大河の仕事が何時に終わるか分かんないし、部長にお願いして、貸してもらった。
こう見えても運転は結構うまいんだぜ!」
チームの道具を運ぶ白いライトバンの車体をポンッと叩きながら、実乃梨はにっこりと微笑んだ。
亜美の決意の2日後、クリスマスイブを明日に控えた金曜日、実乃梨は仕事が終わったばかりの竜児を
訪ねていた。大河をどう説得するかもう一度話がしたいと、最初は竜児が実乃梨の合宿所を訪ねようと
したのだが「高須君の身の安全が第一だから、私が行くよ」と自ら車を駆って、竜児の会社の施設まで
やって来たのだ。
「グラウンドコートも着てるし、ホッカイロも持ったし、スキーキャップをかぶれば、張り込みアーンド
尾行もばっちりだぜ!」
「おう。じゃあ、今夜はさっき話した通り、“明日、俺と会って話をする”という約束を大河とするんだな?」
「細かいところは出たとこ勝負だけど、必ず大河の心を掴まえてみせるよ。高須君と会う約束をすれば、
大河も一晩どうしたいのか考える時間もできるしね。一気に押すよりその方が効くと思う。その次は高須君、
君の出番だよ!」
「ああ、分かっている。ところでマスターには話すのか?」
「ううん。マスターを信用していないわけじゃないけど、いずれ私達は大河をあそこから連れ出す。
できるだけ悟られないようにしないとね」
「だな…」
「大河と話したらすぐ連絡する。大丈夫、きっと明日も高須君を迎えに来ることになるよ。
高須君、前に会った時、大河の右手に気付いてた?」
「ああ… 櫛枝も見てたか」
「当然だよ。勝機は我らにあり。じゃあ高須君、行ってくる」
「あ、く、櫛枝、待ってくれ!」
車に乗り込もうとする実乃梨に、竜児は慌てたように声を掛け、あるものを差し出した。
「これ、持って行ってくれないか。あいつ、こないだ持ってなかったろ」
「…ふっ、高須君。君も相当な策士よのぅ、本当の用件はこれだったんだね…」
「そ、そんなんじゃねぇよ。あのさ、こうやって…」
「知ってるよ。うん、これはきっと使えるね」
そういって実乃梨は竜児から預かったものをグラウンドコートのポケットにしまい、運転席に座った。
「頼んだぞ、櫛枝」
「吉報を待っててくれたまえ。では櫛枝実乃梨、行って参ります!」
おどけたように敬礼のポーズを取ると、実乃梨は滑らかにライトバンを発進させ、赤く光るテールライトの
流れの中に消えていった。
* * * * *
それから数時間後…
エンジンを切った車の中、ハンドルにもたれ掛かりながら、櫛枝実乃梨はじっと1点を見据えていた。
バーの裏口がこのコインパーキングに止めた車の中からちょうど正面に見える。
距離は離れているが、チームでも1、2を争う視力と選球眼を誇る実乃梨なら全く問題ない。
ここに車を止めてすぐ、店の裏口まで行き、こっそり中の様子を伺ってみた。
「とらちゃーん、お水出して」というマスターの声が微かに聞こえたから、きっと大河はまだ働いている。
あとは出てくるのを待つだけだ。
「やっぱ暖房ないとさみぃわ…、じっと待ってるのも得意じゃないしね… 何か考えごとでもするか…」
ポケットに入れたカイロを握りしめながら、実乃梨は大河と初めて出会った日のことを思い出し始めた。
大橋高校入学式の日、新たな学校生活が始まるというのに、実乃梨ははっきりいって腐っていた。
理由は簡単。好きな野球は女子というだけでリトルリーグまで。ならばソフトボールをやろうと、
自宅から通えて、女子ソフト部がある大橋高校に必死に勉強して入学したものの、県大会でせいぜい
1-2回戦レベルの部では、今一つ気持ちも盛り上がらない、というもの。
加えて1才年下の弟には、中3になったばかりだというのに連日甲子園の常連校から特待生の誘いがあり、
両親が無邪気に「今日は○○○高校から、明日は△△学院が挨拶に来たいって…」などと話すものだから、
実乃梨が意気消沈するのも無理はなかった。
「この高校で部活しながらバイトでお金貯めて、体育大からソフトの全日本を目指すなんて、とんでもない
道程だなぁ…」
入学式が終わって戻ってきた教室の中を見回しながら、受験のさなかに描いていた夢の現実感の無さに、
我ながらあきれたように、実乃梨はつぶやく。
地元の高校だけに、見知った顔は何人かいるが、中学3年間をひたすら野球に打ち込んでいて、同級生と
親密な交流がなかった実乃梨は「キャー、高校でも一緒のクラス!」とはしゃぐ女子達の輪には加われない。
ふと気が付くと隣の席が空いていた。最も廊下寄りの最前列。
「初日だから席は五十音順だよね。あ…さんかな? い…さんかな? 入学初日にお休みなんて風邪かな?
車にはねられたなんて不幸なことは無いよね…」
と独りごちていた時「ガラッ」と教室の前後の扉が同時にけたたましく開かれた。
前の入り口から1年間担任となる教師が、後ろからは誰か生徒が入ってきたようだ。
目の前を通る教師の姿を追っていると「入学式に遅刻するなんて…」とぶつぶつ呟いている。
後ろの方からは「チッ」という乱暴な舌打ちと共に乱暴な足音が近づいてきた。
同時に男子から「おぉぉぉぉー」という地鳴りのような声があがっている。
なんだろう?
振り返った瞬間の衝撃を、実乃梨は今でもはっきり覚えている。
とんでもない美少女が目の前にいた。
「びっ、びしょうじょぉぉぉ…」
実乃梨の口から思わずそのまんまの言葉が漏れていた。
中学ではミスターレディでマルガリータだった実乃梨にとって、その少女はまさに異星人だった。
栗色から薄灰色に煙るような髪は腰のあたりまでふうわりと伸び、すらりと優雅に伸びた四肢は人間離れ。
小さな顔は良くできたガラス細工の様な美しいラインを描き、顔の真ん中に位置するような色素の薄い
大きな瞳はコンマ1秒見つめただけで、吸い込まれそうな気がした。
そして何よりも身体全体が自分と同じ高校生とは思えない程「ちっちゃい」
自分は一体今、何という生き物と接近遭遇しているのか? それまでの落ち込みを忘れる程、実乃梨は
混乱していた。
「フンッ!」
恐らくとてつもないアホづらをしていたのだろう。美少女は実乃梨を見てあざ嗤うように鼻を鳴らすと、
不機嫌を全身で表わしながら、どっかりと椅子に腰を下ろした。
その様子、実乃梨には「ちょこん」という擬音しか聞こえなかったが。
櫛枝実乃梨と逢坂大河。最初の出会いであった。
ヘンタイだけど支援するよ
悪いね気使わせて
『貼る時に考えるよ』って書こうとして間違っちゃった!テヘェ
地味な高校に似つかわしくない美少女の存在が、学校中で噂になるのにさほどの時間は掛からなかった。
休み時間、廊下越しに教室を覗き込む男子の数が増え、やがて、自信がある男子や高校デビューを
目論む男子(おかっぱ頭のメガネ男を含む)等々による告白ラッシュが始まった。自分の目付きの悪さを
気にして、人との接触を避けていた男子約1名はその存在を1年後まで知らなかったようだが…
最初、実乃梨はこの美少女を正直疎ましく思った。
見た目が可愛いというだけでチヤホヤされてるのに、愛想もへったくれもなく、話し掛けてもろくな返事を
しない。財布や筆記用具などの持ち物はやたらブランド品で固められているし、きっと本物のお嬢様が
何かの間違いで、こんなパッとしない高校に入ってしまったのだろう。同じ年齢、性別なのにこうも境遇が
違うものか、この子なら苦労しなくても望むような人生を送れるのでないかと感じていた。
だが、その美少女−逢坂大河の評判が少しずつ変わっていくに連れて、実乃梨の見方も少しずつ変わって
いった。皆が考えているのと全く逆の方向に。
美少女は、告白してきた相手に罵声を浴びせるだけでなく、ひどい時は暴行する、教師も生徒も関係無く、
気に入らないもの全てに噛み付くという話が広まって行った。
やがて誰がつけたか、美少女は「手乗りタイガー」という二つ名で呼ばれるようになっていた。
しかし、実乃梨にはどうしても解せない点があった。告白されても全く受ける気を感じないのに、
何故無視しないで律儀にのこのこと出て行くのか? 恵まれた者の気まぐれかお遊びと思っていたが、
ある日、昼休みに呼び出された後、教室に戻ってきた美少女の目を見て、実乃梨はハッとした。
瞳に光が宿っていない。
それは世の中への期待というものを一切放棄した者の目だと感じた。
野球を続けたいという一生の夢を笑われ、後回しにされ、絶たれてしまった実乃梨だからこそ、
それに気付けたのかもしれない。
わざわざ告白を受けにいくのも、拒絶を繰り返すことで噂が広まり、やがて誰も自分を構わなくなる。
そういう立場を自ら望んでいるのではないか… 一方で他人に同調したり、おもねることは決してせず、
気に入らないことは気に入らないとはっきり言う。端から見ていると確かに無茶苦茶だが、彼女なりの
ルールというかポリシーのようなものを感じる。決して恵まれてなんかいない、むしろ孤独…
そう感じた時、美少女の姿が孤高と呼ぶにふさわしい「傷だらけの虎」に見えたのだった。
* * * * *
櫛枝実乃梨と逢坂大河の人生が交わるきっかけとなったのは、入学して1ヶ月程たったある朝の出来事だった。
その日は急に雨が振り出して、朝練が早く終わった。実乃梨はいつもより早い時間に教室に戻ってきて、
HRまで珍しく予習でもするかと教科書を取り出した時、教室の窓際から、男子達の声が聞こえてきた。
この進学校にもちょっとヤンキーっぽいグループがいる。その数人だった。
「ほんと、あの女ひでーよな」
「逢坂のことだろ?」
「一体どんな育て方されたら、あんな凶暴で口悪くなれるんだ?」
「告った男子、全員のされてるらしいじゃん」
「親がヤクザか、空手家の噂って本当なのかよ?」
「いずれにしろ、親も子も真っ当な人間ではないのは確かだよな。名前もヘンだし」
「しかし、誰が付けたんだ“手乗りタイガー”って、笑えるー」
「ぴったりじゃねぇか、チビの癖に偉そうで、らんぼ… お、おい、何だよ、櫛枝」
“真っ当な人間ではない”あたりで勝手に身体が動き、実乃梨はあっという間に男子達の輪の中に
飛び込んでいた。
「おめぇらなぁ、男の癖に陰でコソコソ、人の悪口言ってんじゃねーよ。言いたいことがあるなら、
本人に面と向かって言ってみろよ。できないクセに。恥ずかしくないのかぁ?」
「なんだよ、お前。あんな奴の肩持つのかよ」
「ああそうだよ。おめぇらみたいな性根の腐った奴より、逢坂さんの方がよっぽど真っ直ぐだよ」
「てめぇ、このヤロー」
一番腕っぷしの強そうな奴が実乃梨の肩を掴もうと前に出てきた。実乃梨はその腕を素早く取って、
容易く背中にねじ曲げる。
「イ、イテテテ…」
「毎日弟と取っ組み合いしてたんだ。あんたらみたいな口先だけの軟弱者にケンカで負ける気はしないね」
「なんだと!」
「おいっ! 女子だと思っていい気になりやがって!」
まさに一触即発。どちらかが次の手を出せば、たちまち殴り合いか取っ組み合いになる寸前、たまたま
通りがかった別のクラスの教師が仲裁に飛び込んできた。
「お前ら、なにやってんだ。もうじきHRだ。早く席につけ!」
いつもどおり遅刻寸前に教室にやってきた美少女も、教室の異様な雰囲気に気がつき、
戸口のあたりから、訝しげに周りの女子の会話に耳をそばだてている。
「…なになに? どうしたの?」
「…櫛枝さんが逢坂さんを庇って、男子とケンカだって」
「あいつら、逢坂さんの悪口言ってたんでしょ? いつも偉そうにしてるから、ちょっといい気味」
「でも、なんであの子が怒るわけ? なんて言ったの?」
「“お前らみたいな腐った奴より、逢坂さんの方が真っ直ぐ”だってさ…」
「へー、よくやるよね。ま、櫛枝さんもなんか変わってるっぽいし…」
「ふんっ!」
実乃梨は男子生徒の腕を外すと、何も言わず自分の席に戻ってきた。
席の横には美少女が目を丸くして立っている。実乃梨はその顔をチラッと見たが、やはり何も言わずに
どっかと椅子に腰を下ろす。
美少女が実乃梨に向かって、初めて自分から声を掛けた。
「…よ、余計なこと… しないでよね…」
実乃梨は言葉の代わりに無言で見つめ返す。逢坂大河はバツが悪そうに視線を外すと、逃れるように
席につき、何も語らなくなった。
* * * * *
「あ、あの、くし…えだ、さん…」
暗さを増してきた夕暮れの空の下、練習の後のグラウンド整備と道具の片付けがようやく終わり、
実乃梨はバイト先に急いで向かおうとした時、校門でいきなり誰かに声を掛けられた
クラスの隣人、逢坂大河が校門の影にひっそりと立っていた。
「え、えっと…」
「逢坂さん、どうかしたの? 私に何か用?」
いつから待ってたんだろう? まさか練習の間ずっと? そんな疑問が浮かびながら、
実乃梨は言いにくそうな彼女の言葉を促すため、あえて意地悪く聞いてみた。
「あ、あの、今朝は、ど、どうも、あ、有難う」
そういうと逢坂大河はペコリと頭を下げた。
やっぱ思っていたとおりだ。見た目の凶暴さだけが本当じゃない。ちょっとひねくれてるけど、
律儀で温かい、普通にイイ奴じゃん… 実乃梨は自分の目に狂いが無いことを実感していた。
「そ、それを言いたかっただけだから、じ、じゃ…」
そういって、立ち去ろうとする逢坂大河に向かって、実乃梨は叫んでいた。
「ねぇ、逢坂さん! 一緒に帰ろうよ! 私、これからバイトなんだ。途中まででいいからさ」
驚いて振り返った逢坂大河は、意外感と警戒感が混ざりあった表情のまま、おずおずと答える。
「で、でも私といると、変な風に言われるよ」
「手乗りタイガーかい? 知ってるよ、その呼び名」
逢坂大河の顔がほんの少し、苦々しく歪んだ。
「ひどいよね。こんなに可愛い女の子掴まえて、虎呼ばわりだなんて」
「えっ?」
「私は全然気にしないよ。いこっ、逢坂さん」
実乃梨は逢坂大河の手を取って、駆け出そうとした。その時、
グ、グーッ、キュッ、キュゥゥゥゥ……
その容姿に似つかわしくない、生存本能むき出しの音が腹から響いた。逢坂大河の顔がみるみるうちに
真っ赤になっていく…
「ほ、放課後からずっと待ってて、な、何も食べてなかったから…」
俯いて、言い訳にならない言い訳を消え入りそうな声で呟く。
実乃梨は年頃の女の子らしい姿が見られて、何か無性に嬉しい気分になっていた。
「逢坂さん、私のバイト先のファミレスで何か食べてく? おごれないけれど、パフェやポテトなら
こっそり大盛りにできるぜ?」
「!」
顔をあげた瞬間に逢坂大河が見せた、パァと光輝く笑顔をこれまた実乃梨は生涯忘れることができない。
一言でいうと「心を丸ごと持って行かれた」
可愛い子捕捉用レーダー、後に“みのりんレーダー”と呼ばれるそれは、恐らく計測不能値を示し、
ぷすぷすと煙をあげていただろう。
なんて愛くるしい顔をするんだ。こんな表情のできる子が光を持たない目をするなんて、
絶対何か間違っている。実乃梨はその時、あることを心に感じ、そして決めた。
「よぅし、じゃ来なよ」
「うん! …っていいの?」
「おうさ! 大丈夫だよ。泥舟に乗ったつもりでついて来なさい」
「いや、泥舟は沈むし…」
「ありゃー 大舟の間違いだったわ!」
2人は学校前の坂道を下りながら、改めて自己紹介をしあった。
「入学してからもう1ヶ月も隣同士だったのに、なんだかおかしいね…」
実乃梨は嬉しそうに大河に微笑みを向けた。
自分が原因だという自覚があるのだろう、大河は照れ隠しで話題を反らそうとする。
「く、櫛枝さんはまだ高校始まったばかりなのに、もうバイトしてるんだ。え、えらいね」
「はは、ちょっとやりたいことがあってさ…」
「やりたいこと、あるんだ。いいな、うらやましい… ね、どんなこと? 教えて!」
「あ… あぁいや… そ、そう“勤労”っていうのをやってみたかったのだよ!」
「何それ? 働くことがやりたいこと? なんかヘン。普通はその先に何かあるわよね」
「いやぁ、勤労は大事ですよ。額に汗してお金を稼ぐ、千里の道も一歩から、百聞は一見にしかずってね」
「なんか変な櫛枝さん… まぁいいか、人それぞれだもんね…」
言えない。
とても今の自分の夢を話すことなんてできない。
笑われるからとかそんなんじゃない。自分がきちんと向き合えていないからだ。
部活はやってるけど、ただ普通に参加してるだけ。バイトも1つ始めてみたけど、やることをこなして、
漫然と時間が過ぎるのを待ってるだけ。そんな人間は夢なんて語っちゃいけないんだ。
そう思った実乃梨は、今度は自分が話題を変えようとした。
「あ、逢坂さん、大盛りはいいけど、大丈夫? 夕ご飯もうすぐでしょ…」
「いいの。どうせ1人だし」
「お母さんとお父さん、今日はお出掛け?」
「ううん、ずっと1人。私は1人で住んでるの」
そう言うと表情を見られないようにするためか、大河は少し早足になって先を歩いていく。
嫌な予感がした。他人の家の事情なんてそれぞれだから、土足であがり込むような真似は慎むべき。
頭の中ではそんな言葉が響いていたが、実乃梨の口はもう先に動いていた。
「1人暮らしって、あ、お母さんは高名な舞台演出家で、お父さんは外国行きの船の船長さん、とか…?」
「…ううん、そんなんじゃない…」
大河は振り返って、その吸い込まれる様な瞳で実乃梨をじっと見つめた。
どうせ引かれるなら、さっさと言ってしまった方が傷は浅くて済む… 後に、その時の心境を大河から
聞く機会があったのだが、大河の口から出た言葉は実乃梨にメガトン級の衝撃を与えた。
「親と折り合いが悪くてね。こんな家、出てってやるっていったら、本当に追い出されたの。
マンションの1室をあてがわれて、今、そこに1人で住んでるの」
「えっ…?」
その瞬間、この1人の少女の行動、言葉、表情、瞳の光、この学校にいる理由が分かった気がした。
高校1年の女の子を家から放り出す? お金はありそうなのに、心はこれっぽっちもないってこと?
見知らぬ大河の親への怒りが湧くのと同時に、実乃梨は自分のこの1ヶ月あまりの行動を恥じていた。
大河は過酷な運命にさらされながら、なおも孤高であり続けようとしている。なのに自分は何だ?
人に笑われたって、親が気に掛けてくれなくったって、チームが弱くたって、そんなの全然関係ない。
自分はまだ何も始めていない、なのに、ただ勝手に腐っているだけじゃないか!
それは大河に同情したり、見下したものではない。初めて自分を客観視して気付いた、自分自身への
怒りだった。そうだよ、なにやってんだよ、意地を張るって決めたんだろ? だったらとことんやれよ!
やってみせろよ、櫛枝実乃梨!
暫く返事がないので、大河はやはりドン引きされたのだと思っていたという。
だからその後に実乃梨の言葉は、大河に驚きと、この人は違うという印象を与えることになった。
「ほほう… だったら、心置きなく食べられるね。よぅし、ポテトもパフェも盛るぜぇ、超盛るぜぇ〜!
2−3日分、まとめて食っていきな! あ、野菜も食べなきゃだめだぞ! 寝る前はきちんと歯磨けよ」
「え?、あ、あ、う、うん……」
まさかそんな方向から答えが返ってくるとは思っていなかったのだろう、動揺し、俯きながらも、
大河の頬には心無しか笑みの形が浮かんでいた。
「ねぇ、逢坂さん、これから”大河”って呼んでいい?」
「へ? た、たいがって?」
驚いて顔をあげた大河の白い肌が、頬から耳朶へとみるみるうちに真っ赤に染まっていくのが見える。
親しげに呼ばれることに慣れていないのだろうか? その様子が可愛すぎて、実乃梨は頭からガシガシ
かじりつきたくなる衝動を抑えるのが精一杯だった。
「い、いいけど… でも…」
「私のことも“実乃梨”って呼び捨てでいいからさ」
「実乃梨、みのり、みのり…ん。呼び捨ては悪いから、“みのりん”でいい? その方がなんか可愛い」
「おぉ、女の子らしくていいね。いいよいいよー。私からは大河のままでいいかな? この響きが好きでさ」
「好き…? い、いいよ。み、みのりん」
「大河。私達は今日から友達、いや親友だ!」
「し、親友って… みのりん…」
「そうだよ大河…」
「みのりん…」
「大河!」
「みのりん!」
そうして、私達はお互いにかけがえの無い存在になっていったんだ…
そういえば、高須君とも何かの機会にチャーハンをご馳走になって、それから距離が近づいたと
言ってたっけ。結局、私も高須君も大河を「餌付け」したわけだ。
そんないきさつがあったから、私は誰よりも大河の気持ちが分かると思っていた。だから、高須君の
登場とその後の展開は色んな意味で衝撃で、天変地異で、ノストラダムスの大予言で、そりゃもう
大騒ぎになってしまったけれど…
でも、修学旅行のスキーの時、遭難した大河をもう一度探しに行くと言い出したのは私だ。
あのバレンタインの日、高須君、あーみん、北村君の前で、大河の心の叫びを引きずり出したのも私だ。
この間、路地で大河を追いかけて捕まえた時も、高須君が来るまで、私の前で大河は取り乱していた。
あの時「竜児を幸せにして」なんて言った大河の言葉は、これっぽっちも本心だと思っていない。
その場を取り繕って、逃れようとして、口からでまかせを言ったのがすぐ分かった。だから殴った。
大河の壁を払う。それは私の役目。
そして今、再び大河と対峙しようとしている。
「来た!」
バーの裏口が開き、店の中からこの前と同じ若いバーテンと大河が出てきた。服装も前と同じ恰好。
マスターも後ろから出て来た。
「じゃ、とらちゃん、明日はお休みか… クリスマスイブだからな…」
「すいません、マスター。週末の忙しい時に」
「いや、いいんだよ。たまには1人でゆっくりするといい」
「はい… 有難うございます」
「じゃ、お疲れさん。また月曜日な」
「失礼します」
前の時と同じ方向へ歩いていくのを確認して、実乃梨は音を立てないよう車から降りた。
あの路地の先に暫く曲がり角がないのは、大河の様子をうかがった時に確認済みだ。
マスターが店の中に戻ったのを見て、実乃梨は軽く駈けながら、大河の後を追った。
付き添いのバーテンが帰った後も、大河は自宅と思われるアパートの前でたたずみ、
キャップをとって、その豪奢な髪を夜風に少しなびかせながら、ぼーっと夜空を見上げていた。
電柱の影に隠れていた実乃梨は、バーテンの耳に声が届かないタイミングを見計らった後、
音も無く近寄ると、大河の前にその姿を見せた。
さぁ、私と大河の真剣勝負、久しぶりにピッチャーとして、遠慮無しにやらせてもらうよ
「大河!」
「み、みのりん!! どうして、ここに? お、お店からつけてきたの?」
「おうよ。女子ソフトボール日本代表の切り込み隊長といえば、このみのりん様のことだ!
尾行なんか楽勝だぜ!」
まずは一球、外角低めで様子を見るか
「大河、こんなところに住んでいたんだ。いいところじゃん。なんか高須君ちに似てるね」
「…帰って。前にも言ったでしょ。みのりんにも竜児にも話すことなんか無い。2人には関係ないの。
だから帰って」
ぴくりとも反応しない。ま、予想通りだ
「じゃあ大河、その右手の指輪は何? それ高須君に貰った指輪でしょ。あーみんから聞いたことあるよ。
関係ないなら、どうしてそれをつけてるの?」
「こ、これはただのオヤジ避けよ。酔っぱらって声掛けてくるオヤジを追っ払うためよ」
「じゃあ、別に高須君に貰ったのじゃなくていいじゃん」
「今はこれしか持ってないの!」
そう言うと、大河は、実乃梨のまっすぐな目を避けるように背中を向け、絞り出すように言った。
「お願いだから… 帰って… みのりん」
真ん中高めの釣り球、もう少しで振りそうになった。いける。大河の心はこっちにある
「おやぁ、冷たいねぇ。じゃあ、大河。1つゲームしていい? 大河が勝ったら言う通りに帰るよ」
「ゲームなんて知らないっ!」
そう言い残して、外階段を上がりかけた大河の首に、実乃梨はポケットからすばやく取り出した竜児の
マフラーをふわりと掛けた。髪の上から一周、そして二周と巻きつけると、首の後ろでキュッと結んだ。
「り、りゅ…う…じ…」
鼻先から口元まで覆われたカシミアのマフラーから、懐かしい匂いが一杯に広がって、
大河の脳裏に竜児との数々の記憶が鮮やかに甦ってくる。
大河は階段の手すりをつかんだまま、ゆっくりとその場にしゃがみ込んでしまった。
大きく見開かれた目から、みるみるうちに涙が溢れてくる。
「みのりん… ずるいよ。反則だよ…」
ごめんね大河。私は得意球を真っ先に使うタイプなんだよ。内角一杯、ワンストライク。
続けていかせてもらうよ。
「はい、大河の負けだね。泣いたら負けがルール。負けた人は罰ゲームがあるんだよ。
明日、高須君をここに連れてくる。だから2人で1度ちゃんと話をして欲しい」
「イヤ!」
「駄目だよ大河、負けた人に選択の余地はないんだよ。あと、聞いて大河。高須君がヤクザに襲われた」
「えっ!」
大河は振り返り、実乃梨を見た。その瞳には驚愕と恐怖の色が浮かんでいた。
寝る前に支援
「あ、心配しなくていいよ。ケガとかはたいしたこと無いし、その後うまく逃げられた。
でも、手慣れてるみたいだね、ヤツラは。だから大河、もう私達は関係無くないんだよ。
このまま放っておくと高須君はヤクザの事務所に乗り込むって言ってた。そうなってもいいの? 大河」
「そんなの、そんなの、ひどいよ、みのりん」
乗り込むって言ったのはホントは北村君。
意地悪な落ちる球で悪いけど、空振りだね。これでツーストライク
「いいかい大河。私はここで説得なんかしない。ただ、高須君ときちんと話して欲しいんだ。
2人で話して、どうするのがいいか考えて欲しい。それが私のたった一つの願い。親友の願い、
聞いてくれるよね」
「みのりん…」
「大河が頑張ってること、みんな知ってるよ。決して逃げてなんか無い。でもやり方は大河が
選んだ1つだけなのかな? それを話して欲しい、高須君と」
「みんなって?」
「あーみんに北村君、能登君も春田君も麻耶ちゃんに奈々子ちゃんも、それに狩野先輩。妹のさくら
ちゃんと富家君もいるよ。大河がどうすれば帰ってこられるか、みんなで集まって話し合ってるんだよ」
「みんなが? どうして?」
「大河、気づいてないんだね。みんなにとって、どれだけ大河がおっきいか。大河と会わなかったら、
今の自分は無い。みんなどこかでそう思っている。だから真剣に考えてる、悩んでる。そして待っている。
大河は1人じゃない。みんながついてる。だから大河も一度でいいから一緒に考えて欲しい…
会って話してくれるね。高須君と」
仕上げはストレートど真ん中。もはや手は出ない。ストライクスリー、勝負あった。
大河は実乃梨の目をまっすぐ見つめたまま、小さく「コクン」と頷いた。
「ようし! 大河はやっぱりイイ子だ」
実乃梨は大河の上半身を抱きかかえると、かつて毎朝そうしていたように、わしわしと髪を撫でまわす。
「みのりん…」
「じゃあ、明日夜、遅くならない時間に来るよ。大丈夫、ヤクザに見つからない方法も考えてる。
明日はお店休むんでしょ。身体を休めて、ゆっくり待っててよ! じゃ、私はこれで帰るから。
大河・・・ 信じてる」
そういうと実乃梨は身を翻し、手を振りながら、大河のもとから走って去っていった。
大河は暫く呆然とたちつくしていたが、やがてゆっくりと階段を上がり、2階の自分の部屋に入っていった。
角を曲がったところで、こっそり大河の部屋を確認したあと、実乃梨はケータイを取り出し、1つ、2つと
ボタンを押す。
「高須君? 大河を打ち取った、いや、会うことを承知したよ。うん、私の目を見て頷いたから大丈夫。
…うん、そう、絶対逃げたりしない。私は大河を信じてる。あとは高須君にかかってるよ。
じゃ、明日迎えにいくから」
ピッ
ケータイを切ると、続けてボタンを押した。
「春田君? こっちは大丈夫。例のもの予定通り頼むよ。うん、じゃあ明日」
今日はここまでです。
えー、視点が三人称と一人称でコロコロ変わっているのは仕様です。
不器用な下手くそですいません…
みのりんが、前の投下では「1番打者」とか「塁に出る」とか打者サイドで例えていたのに、
今回は何故かピッチャーになってしまいましたが、これも仕様です。
さて、次は竜児の番です。
ぼちぼち進めて行きます。
>>398 >>405 支援有難う!
ヘンタイさん、いけるなら、次どんどんどぞ! いつも亜空間に連れて行ってもらって、
楽しんでます!
408 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/09(金) 00:47:16 ID:zKi7FMYp
次スレタイトルは
【とらドラ!】大河×竜児【アマアマ妄想】Vol17
でお願いします
スマンかったね、君みたいに立派文を書く人待たせちゃってゴメン
GJ!
みのりんと大河の出会いの件なんか泣きそうになった
>>407 いいねいいねーおつでした!
この調子でどんどん大河の心を溶かしてってくれ
>>388 俺もそう思ってたよ。塩素カルキックをスローで見るまでは
>>389 個人的には大歓迎
長さ以外の事もここで聞けば大体教えてくれると思う
>>407 againの人乙っす!
出会いのシーンのみのりんが男前過ぎて泣けてきたわ。
お題 「苛立ち」「席」「クリスマス」
「高須、ちょっといいか?」
「あぁ?」
「あ、いや、やっぱいいや、邪魔して悪かった」
明らかに怯えた顔で去っていくクラスメイトを見て、竜児は溜息をつく。
「またやっちまったか……」
この一週間というもの、どうにも調子が悪いというか不安定というか。
特に体調が悪いわけではないのだ。むしろ料理も掃除も絶好調。
ただ、学校にいる時だけが何かおかしい。
訳の無い苛立ちを抑えられずに周りの人間をビビらせたり、逆にぼーっとして呼ばれたことに気づかなかったり。
授業中の余所見も増えた。気がつくと、何故だか主の居ない席を見ているのだ。
「はあ……」
もう一度深く溜息をつくと、竜児は鞄を手に席を立つ。
今日は野菜の特売日だから、早く帰らねば。
「おう、こいつはいい白菜だ。あとは春雨と……」
今日の夕食は白菜鍋のピェンロー。そのために干し椎茸は朝から冷蔵庫の中で戻してある。
後は肉。高須家の家計的には鳥肉のほうがいいのだが、
「そうだな、今日は豚にするか」
頭の中に浮かんだ顔と声に、竜児は苦笑しながら豚バラ肉を少々多目に籠に入れる。
スーパーを出て商店街を歩けば、気の早い店ではもうクリスマスのディスプレイを始めていて。
近づく年末に活気づき始めた街、その雰囲気につられたように竜児の歩調は少し速くなる。
コンビニの前で、竜児は早足を一旦止める。
夕食後にプリンだヨーグルトだ肉まんだと要求される可能性は高い。あらかじめ買っておくべきだろうか?
「いいか、その時に一緒に買いに来ればいいんだし」
呟いて、竜児は小走りで家へと向かう。
「ただいま」
「竜ちゃんおかえり〜」
泰子の声を聞きながら、生鮮食品は手早く冷蔵庫へ。
自分の部屋に入って鞄を机の横に置き、教科書とノートを取り出す。
「泰子、大河は?」
「ん〜とね〜、じぶんのおうち〜」
「おう、わかった」
どうせまた寝ているのだろう。さっさと起こして今日の授業のノートを見せてやらないと。
いやいや、それより先に掃除だろうか。いつものように散らかしてるだろうし。
「ちょっと大河の部屋に行ってくる」
「は〜い、いってらっしゃ〜い……あれ〜?竜ちゃんなんか楽しそう?」
「おう、そうか?」
特にそんなつもりはないのだけれど。学校での憂鬱感が消えているのは確かだが。
まあそんなことはどうでもいい。今はとにかく大河だ。
そんなことを考えながら、竜児は階段を軽快に駆け降りた。
大河が停学中の時の竜児の心境すね。
大河が心配過ぎて実乃梨に目もくれなかったと…分かります。
>>409 却ってお気遣頂いてしまい、すいません。
たまたまだったのでホントお気になさらずに・・・
立派だなんてとんでもない。堅いだけです。 ヘンタイさんの楽しい話に憧れるっす!
>410-413
有難うございます!
大河との深い絆の始まりを、みのりんらしく書いてみたいと思いました。
みのりんは最初分かりにくかったけど、心境が分かってきた時、その痛みに泣けました。
>>414 いつも乙です! 竜児、思考の全てが大河につながってるw
>>415 そっかぁ、竜児がハチ公気取りだったわけではなく、みのりんが入り込む余地がなかったんですね。
やっぱり大河と竜児ほど安心してみていられるアベックはいないな
418 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/09(金) 23:23:53 ID:mph4ooL3
みのりん、今どきアベックは古いよ
419 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/10(土) 10:51:32 ID:Z64f7nXh
大河「ハァ〜…」
実乃梨「どうした大河ーため息なんかついちゃって」
大「あっみのりん。あのね、竜児にお弁当作ってあげることになったの」
実「ほほぅ。それでそれで?」
大「それでね、竜児の大好物を入れたいんだけど何を入れたらいいのかわからないの」
亜美「ばっかじゃないのアンタ」
実「ぅおっ、あーみんびっくりしたぁ」
大「なによばかちー」
亜「アンタあたしより頭いいのにこんな簡単なこともわからないなんて」
実「ほほぅ聞かせてもらおうじゃないか」
亜「アンタが作ったものならなんでも大好物に決まってるじゃない」
大「えっ…////でっ…でも」
亜「アンタらしくないわよ。『私の作ったものならなんでも美味しいんだからありがたくいただくのが犬の務め!』ぐらい言わなきゃ」
大「え〜…でも〜…」
実「あーみんの言う通りだぜぃ。そうだ!大河の好きなもの作れば一緒に食べられるから一石二鳥!」
亜「さっすが実乃梨ちゃん♪ということでタイガー、がんばんなさいよ」
大「ん、わかった。ありがとみのりん、ばかちー」
トテテテテテ
亜「やれやれ、あいつすっかり乙女モードになっちゃって」
実「そういうもんだよあーみん。本気で好きになると臆病になっちゃうもんなのさぁ」
亜「経験者は語る、ってとこ?」
実「それはお互いさまでしょ」
亜「さ〜あどうでしょう?」
420 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/10(土) 10:52:32 ID:Z64f7nXh
ソレカラドシタ
大「竜〜児ぃ〜、お昼一緒に食べよっ♥」
竜児「おぅ大河。お前の作った弁当楽しみだぜ…ってなんだこりゃ」
大「ふっふっふっー、見よ!海賊弁当!」
竜「って見事に肉ばっかりだな。申し訳程度にニラやらピーマンあるのが成長の証と見るべきか…」
大「ふ、ふんっ!わ私の作ったもんなんだからありがたくいただきな…」
竜「おいおいどうした大河」
大「…やっぱり、だめ?」(上目遣いで竜児を見る)
竜「んなこたーないんなこたーないぞ。野菜なら俺のおかずにあるしな一緒に食べようぜ」
大「本当!良かった!」
竜「さっそくいただくか。モグモグモグ…」
大「ど、どう?」(ドキドキ)
竜「ああ、うまいぞ。味付けもバッチリだ」
大「本当!?良かった!竜児大好き!」
竜「おう!//////」
亜「やれやれ。本当、無駄な心配だったわ」
実「ちなみに海賊弁当とはルフィが好きな栄養補給を目的とした肉類のみの弁当だぜぃ」
亜「説明乙。さてあたしらもお昼にしますか」
実「おー!」
終わる。
422 :
389:2009/10/10(土) 11:32:52 ID:znr191LH
「大河の好きなタイプは?」
「竜児」
「……即答だねぇ。何赤くなってんだい今さら。じゃあ、大河の宝物は?」
「竜児……のマフラー」
「おおー、なんか妙な間があったね。それって大河へのプレゼントかい?」
「ううん。私が奪ってそのままなんだ」
「なんか深〜〜〜いワケがありそうな気配がビンビンだぜ!」
「そ、そんなんじゃないよみのりん!」
「へへへ、お嬢さんの顔にハッキリ出てますぜ。そんな乙女な顔しやがって!けど長くなりそうだから、それはまた今度ね」
「……またやるの?」
「そりゃ、モチのロンさ!じゃ、今日最後の質問。好きな食べ物は?」
「竜児!」
「え?」
「へ……あ、いや、りりりり竜児の作ったチャーハン!」
「……ということみたいですが、どうなんでしょう高須君?」
「りゅ、竜児!?」
「おう。大河、ちょっと来い」
「えぇ?なんかあんた、目つき危ないよ?」
「いいからちょっと来い!」
「ちょ、ちょっと!?助けてみのりーん!」
「こうして高須君は大河を連れて校舎の人気のない方へ消えていった。その翌日まで、彼らを目撃したものはいない」
ギシギシアンアン
【出会って間もないころ】
「ねえ、大河。一つ質問していい?」
「なに、みのりん?」
「ええと…あのね…大河と高須君はどうやって知り合ったのかな〜って思って」
「だ、だから、それは家が近くだから…」
「いや、そうじゃなくて、もっと具体的に」
「いや…あの…その…、りゅ、竜児がね、わ、私の大事な物を間違えて持って帰っちゃったの。
だから私がその夜に竜児の家に行ってね、そこで木刀で暴れてお腹すいたからチャーハンを食べさせてもらったの」
「…いや、全然分からないんだけど…」
「と、とにかく!あんまり大したことじゃないの!」
「要するに、チャーハン食べさせてもらったと?」
「そ、そう! あいつね、チャーハンとか味噌汁とか、ホント料理がうまいんだよ!」
「へえ、意外だな…」
「そうでしょ!プククッ、あの顔で料理うまいなんてオカシイよね」
「別に顔は関係ないと思うけど…」
「しかもね、あいつ、掃除洗濯おまけに裁縫まで完ぺきにこなすの!ホント、犬のくせに生意気よね!
この前私の服が破けちゃってね、そしたら、あいつ、自分専用の裁縫道具取り出してきて、
それで縫い直してくれたんだよ! ホント、あいつ、女に生まれればよかったのにねえ」
「…」
「しかもね、あいつと一緒にいると『野菜もちゃんと食べろ』とか『服はちゃんとたため』とか
ホンットにうるさいの!まるで母親みたいなの!あいつのお母さん、やっちゃんって名前なんだけど
もうどっちが子供か分かんないくらいなんだよ。それからね…」
「ねえ、大河…」
「ん?何?」
「いや…何でそんなに嬉しそうなのかなあ、って思って…」
「へ?」
>.>424
ははは、言ってそうだ。まさに、こういう事を竜児が居ないときに実乃梨にうれしそうに話してたんだよな。
いい加減気持ち悪くなってきた…
>>426 竜児「おう、胃痛か?消化不良なら漢方だ。太田○散がおすすめだな。
胃酸の出すぎならガ○ターもあるぞ。現代人はストレス多いからな。
ただし用法用量を守って正しく飲まないとダメだ。H2ブロッカーは即効性があるからな。
それともまさか飲みすぎか?キャ○゙ジンコーワにするか?」
>>427 「竜児、あんたの顔が一番気持ち悪いわよ」
一話が放送されてから一年経ったんだな
久々に見返してみたら竜児の逢坂呼びがなんかムズムズする
この……抱き合ってる二人を高須君が見たら何て言うんだろう?
『櫛枝よ、大河は俺のもんだ、おまえには悪いが渡さねえぜ』
『高須君、大河と私は愛し合ってるんだ、高須君こそ身を引いた方がいいよ』
『やめて二人とも! いくら私がきゅーとでぷりちーだからって、二人が喧嘩するのなんて耐えられないっ!』
…………とか?ハッ……アホらし。
仲良しなのはいい事だけど、ベッタリ過ぎるのも相変わらずか。
こいつらいい加減大人になれよ、と頬杖を付きながら眺めていると、ようやく百合成分が満たされたらしい。
「あ、ごめんよ、あーみん。大河を独り占めしちゃった」
「いいよいいよ。亜美ちゃん別にいらねーし」
「ばかちー寂しかったのね。いいのよ……私のおおらかな愛であなたを包んであげるわ」
さぁおいで、と言わんばかりに両手を左右に広げてマリア様のようなポーズを取るが、
実乃梨ちゃんにもみくちゃにされた頭が爆発してて慈愛のかけらも感じられない。
「だーから、いらねーっての。それより……」
と、気になったことを聞いてみる。
「ルカちゃんって言うんだ、その子……?」
「あ、分かっちゃった?」
「自分でさんざ言ってたんだって……」
「ベタだけどね、竜児と私の字を一つずつ取って竜河、ってしたの」
「ふーん、ま、可愛いじゃん?」
「当たり前よ……でもまぁ、ありがと。
私は生まれるまで知らなくてもいいって思ってたんだけど、エコー検査するとすぐに分かっちゃうらしくって」
「……高須君が我慢しきれずに先生に聞いちゃったんだよね」
「そうそう。だって、どっちか分からないと洋服も買えねえとか何とか言っちゃってさ」
なるほど、だからこの部屋にはピンク色のものが多いわけか。
「で、その竜河ちゃん用のおもちゃとかがたくさんあるんだ?」
「そうそう」
「このアヒルかっわいいよねー! ちょーかわえー! お持ち帰りぃ〜☆」
「あっ、ダメだよみのりん!」
「それにしちゃ……散らかってない?巣作りタイガーは目覚めなかったわけ?」
「何よそれ?」
ようやく気付いたのか手櫛で髪を整えながら???って顔をしてるので少しだけ説明してやる。
「みんなで暮らす部屋を綺麗にしておこうっていう本能は、
あんたには宿らなかったみたいだねーって言ってんのよ」
「あぁ、そういうことね」
「前に来た時はもっと綺麗だったよね?私も気になってたんだ」
「うーん……さすがの竜児でも、ちょっと手に余るみたいなのよねぇ……」
と難しげな顔をして腕を組む。
えっ?と驚いたのは一瞬、二人してタイガーに詰め寄る。
「……って高須君が掃除してるわけ?」
「大河がやってるんじゃないの?」
「そう。ううん。……あれ?…………まぁそういうことよ」
「意味わかんねーって!」
「……つまり竜児が掃除するんだけど、何かと忙しくって出来ないのよ、分かる?」
思わず実乃梨ちゃんと顔を見合わせてしまう。
何でそうなるの?この子やっぱりダメな子?なんて事を考えてるわけではない。いや実は近いかも。
「待って。なんか亜美ちゃん、いやぁ〜な予感がしてきたんですけどぉ?」
「何よ?」
「なになに?」
「さっきから違和感感じてたのよねぇ……あんたまさか……」
目を細めてタイガーの瞳を覗き込むと、さりげなく目を逸らされた。
……うん、全然反対。万引きした小学生なみの怪しさで目を逸らされた。
「な、なななにかしら?そ、そんな疑いの目で人を見るんじゃないよ!」
「ふぅ〜ん。そういう風に感じるってことは……ねね、聞いていい?」
「いやだね」
「拒否んなよ!」
「あーみん何を気にしてるの?」
じぃーーーっと見つめていると、どんどん落ち着きを無くしていくタイガーに確信する。
「あのさぁ?あんたさっき言ったよね?お風呂で高須君が全部洗ってくれるって」
「う、うん。言ったわよ、それが何?羨ましいわけ?ふん! だったらあんたもとっとと……」
「その前に! 高須君ってマッサージまでしてくれるんだねぇ?」
「そ、そうよ! どどどどうよ、この愛されっぷり!」
見たか、と言わんばかりに胸を張ろうとするけど、張れていない。どこか勢いも足らない。
「でさぁ?その前に、お弁当とかご飯の下ごしらえもしてくれるって……言ってたよねぇ?」
「あぁ、言ってたねー大河」
「あ……あららあああぁ?わ、わわ、私そんな事言ったかしら?」
「言った言った。亜美ちゃん、ちゃーんと覚えてるもん」
「うぅっ…………」
そう言ったきり黙りこんでしまうタイガーに優しく問いかける。
「なんでお昼に高須君が電話掛けてきて、『旨かったか?』って聞くわけ?なんで?ねぇ何でかなぁ?」
「おおう……あーみんの顔が輝いてる」
「そ、それ…………は……」
と、声を詰まらせたタイガーに更なる追い打ちを掛ける。
追い打ちっていいよねぇ、言葉の響きからしてもう最高。だって追いかけて打ちのめすんだよ?
弱った虎を追い込んで容赦なく、徹底的に、完膚無きまでに叩きのめして あ げ る ♪
「ねーぇ、家庭的で素敵なレディの高須大河さぁん?」
「ぐっ…………むむ…………」
「高須君がお昼ご飯にって、あんたのお弁当とか作ってくれてるんだよねぇ?」
「……う…………うん……ででで、でもっ、ちが、違うの! それにはあの、そ……の……」
落ちたと思ったら意外に粘りやがる。
でもそれもまた良し。簡単に降参されちゃったら面白くないじゃんね?
「今日のお昼ごはん……下ごしらえが済んでるって聞いてぇ、
亜美ちゃん、ちょー取り乱しちゃって恥ずかしかったなぁ。テーブル叩いたりしてホントごめんねぇ?
だってさぁ、ものすごくビックリしちゃったんだもん。でもさ、それってぇ……本当は誰がしてくれたんかなぁ?」
「そ……それは………」
「それはぁ?」
と言いながらニッコリンと笑う。カメラにも向けないようなとびきりの笑顔をプレゼント。
――さぁ、ひれ伏せチビ虎! 今度こそあたしの勝利よ! オーッホホホホホ!
「大河よぉ、ほら、おっかさんも泣いてるぜ?ゲロして楽になっちまっても、いいんじゃぁ、ねぇのかい?」
隣で実乃梨ちゃんが渋いオッサンの真似をしながらタイガーの肩を叩く。
あたし達二人の視線にとうとう耐え切れなくなったのか、
「りゅ…………りゅう……じ……」
と白状した。
だけど、ここで止める亜美ちゃんは亜美ちゃんじゃない。
「ふぅ〜ん。じゃあさぁ、昨日のお昼ごはんは?」
「りゅ……竜児」
「えっと……大河?そしたらさ、昨日の晩ごはんは?」
「……竜児」
「まさかあんた、朝ごはんまで……?」
「竜児……が…………だって……」
すっかり勢いを失ってボソボソと呟くようにしてる。
「だってじゃないっ! 部屋の掃除は誰がやってるんだっけ?」
「竜児」
「洗濯は?」
「竜児っ!」
「じゃあ、仕事してるのはっ!?」
「ぜ、全部竜児でふっ! ぎっ! あいたぁ!?」
あ、噛んだ…………
「…………」
「………………」
ちょっと可哀想だなと思いつつ、呆れ顔の実乃梨ちゃんと顔を見合わせる。
ここまでだとは思わなかった。暴いてはいけないところまでいっちゃった感がして少し後ろめたくもある。
「あんた…………」
「大河…………」
「いや……いやぁ!……そんな目で私を見ないで……見ないでぇぇぇ!」
これじゃ苛めてるみたいだ。誰も苛めたいわけじゃない、けど、それってあんまりじゃね?
「大河、私が言うのもなんだけどさ、それじゃ高須君が大変だよ」
「そうだよ、あんたそれじゃ高校の時と一緒じゃん、なんもして無いじゃん」
「…………」
「道理で……高須君がこの散らかった部屋で我慢してるわけだ……」
「ったく……どんだけ甘えさせてんのよ……あのバカは……」
そりゃ、そこまでやってもらってたら身体だってなまっちゃうわけだ。
たまには自分で動かないと……か。まだ若いのに、そんなんで足腰は大丈夫なんだろうか?
きっと高須君がいる時はでーんと座り込んで甘えっぱなしの食いっぱなしなんだろうな、こいつ。
「だって……だってね……だから違うんだって! 聞いてってば……」
と、割と必死になってタイガーが訴えてくるので耳を傾ける。
「何よ?」
「竜児が、ね……竜児が、家事、させてくんないんだもん……」
「ほう?高須君が?」
「そりゃあんたが大変そうなのは見てれば分かるけどさ、それじゃあんたの為にならないっての」
あたしがそう言うと、タイガーは「ふぅ」とため息を一つ。
やれやれ、しょうがないわねぇ、と冷静さを取り戻した顔で話し始めた。
「別に私だって隠しておくつもりは無かったんだけどね。
あんまりワケを話しちゃうとさ、まーたあんたが嫉妬に狂っちゃうと思って言わなかったのよ」
「く、狂わねーよ!」
「そうかしら?愛が足りない川嶋亜美さんのお耳に入れるのは、私としても気が引けちゃうのよ?」
「…………」
さっきまでのオドオドした感じもきれいさっぱり無くなり、どこか吹っ切れた感じで顎をツンと逸らす。
そもそも愛情って言うのはね……と、聞いてもいない恋愛観を人差し指を立てながら熱弁するタイガー。
この済ました顔を張り倒してやれたら幸せになれるかもしれない。
「……だからそんなに気にしないで。この数日っていうか、生まれるまで限定だから」
「へぇー、てっきり何にもやらないで自称主婦って言ってるだけかと思ったのに」
「そんなわけ無いじゃん。ちゃんと家事してたもん。ただ、ちょっと前から……ね」
「えー? それでも結構さ、高須君としちゃ辛いんじゃない?」
「私もそう言ったんだけどね、竜児が聞かないの。絶対ダメって言われちゃった! へへっ」
……ったく、そんなに嬉しそうに笑うなっての。これじゃ叱ろうと思ってたあたしが馬鹿みたいじゃん。
「んーまぁ?しょうがないから竜児にやってもらうがままなんだけどね、でもね、聞いて?」
「……何よ?」
「竜児ったらすっごく楽しそうにご飯作るんだもん。昔に戻ったみたいで懐かしいなーとか言っちゃってさ」
「大河が何もしない、昔って……こと……かな?」
「だろ?」
そんな嫌味もウキウキタイガーには聞こえないらしい。
「おとといね、ちょっとだけ部屋を片付けたの。そしたら、帰って来た竜児にものすごく怒られちゃった。
何ていうの?罪な女よね、私って……ぐふ……ふふふ……」
「…………」
「………………」
叱られて嬉しいなんていうマゾヒスティックなカミングアウトに目眩がする。
あ、ただし竜児に限るってやつか?
だらしなく口元を歪めてニヤニヤ笑うタイガーに付ける薬はどこにも無い。いや、あっても治らない……か。
本日は以上です。次回はなるべく早く…出せたらいいなと思います。
とらドラ!、BDにならないのかな
うお、すれ違いで投稿されていたのか。
>>437 乙。
大河デレデレしまくってるね。まさか新婚当時から竜児が全部家事やってたのかとヒヤヒヤしながら
読んだよ。普段は大河がやってるとのことでなにより。
確かに臨月あたり、竜児は何もさせてくれそうにないな。
>>424 初々しい雰囲気が良いですね。
大河かわええ〜
>>436 アマアマで鼻血がでそうだぜ…
GJです!続き楽しみにしてます!
>>424 GJ!
そして、ジャンピング土下座に繋がる訳ですね。分かります。
なんかこういう大河をもっと見たい気が・・・
>>436 乙です。 2828しました。
動揺&逆襲の大河萌え
おふたりさん、見事に返り討ちですなw
大河の家事は、確か「た い が」の時、すき焼き作ってた記憶が・・・
あと、みのりんのレ○化吹いたw
霞がかる意識の中に柔らかに響く足音、命を刻みし鼓動とシンクロさせる音色は私をリアルの世界に連れ戻すにはまだ至らない。
ガチャリと現実を感じさせる無機質な音と共に新鮮な空気と美味しそうな匂いが少し意識を覚醒させる。
まだ私は夢の中、だから何を想っても罪にはならない、近づく気配に少しの期待を胸に秘めて今日も待ち続ける。
『大河、朝だぞ』
私は朝がキライじゃない。
「おはよう…竜児………アレ??」
寝ぼけ眼でベットの脇にピントを合わせようとしても望んだ姿は見つからない……何かコッ恥ずかしい夢を観てた気がするけどアレは夢、所詮は夢の中なんだからノーカウント。
もう記憶からDelしようかと思ったけど、いつか本のネタに使えるかもと理由を付けて私のDドライブの奥に閉まっておくことにした。
「まだ6時か……」
昨日は竜児と遅くまで一緒だったから変な夢を見ちゃったんだろうな……久しぶりのワキワキカーニバルで楽しかった。
「ウォシャッ!今日はやる気満々マンだからもう起きちゃお!」
素早く身支度を整え、朝の澄んだ空気を胸一杯に吸い込んで学校へと駆け出した。
ウハハハハハハ!!私は掴んだ!男の萌えポイントを!それも興奮間違いナシの極上セクシーライン!!
昨晩おやつの準備に台所に立つ竜児をボ〜っと眺めいたソノ時!私の腐女魂がボッ!!っと萌え上がった!
時代に逆行した竜児のピチったショートパンツ!それ胡座だったら片玉出ちゃうんじゃない?って所がタマンナイ!!!
でも真の魅力を発揮するのはバック!ショット!!
ピチったショーパンが臀部のラインを強調させ、そこから伸びた太もも膝裏がエロティクだったわ……
アレを見たらアッー!したくなる気持ちも理解できる、この感動が薄れる前に早く亜美に伝えなくちゃ!!
息を切らせて学校へ続く坂を駆け上がると校舎の鍵はまだ開いてなかった。
時刻は6時30分、私は朝食代わりにツツジの蜜を吸いながら亜美が来るのを待つことにした。
我が家の眠り姫はパジャマも片付けないまま今朝はもう登校したらしい。
ベットの中に姿は無く、声を掛けて廻るが返事もない。
少しの不安が過ぎったがテーブルの上には先に登校する旨の書き置きが一枚、ホッとしながら少しの洗い物を済ませ寝室へと向かう。
今朝は天気が良い、換気の為に窓を開いたままでも大丈夫だろう。
クシャクシャになったベットを整えながら丸く縮こまる大河の寝姿が脳裏に浮かぶ、同時に一度だけ
すやすや眠る大河の背中をゆっくりとベットの脇に座り撫でたことを思い出した。
何故あの時、眠る大河に触れたのだろう……今でも不思議に思う、考えても纏まらない。
でも一つだけ分かったことがある……大河は寝る時ブラをしない…大収穫だった。
何故か最近ギョニクソーセージを見ると興奮を覚えるようになったヘンタイだけどさ
今回貼るのはオマエらの好きな竜児×大河は少なめなんだよゴメンな、悪気はないけどマゾっ気はあるんだ
明日貼る分は竜児と大河の話だから勘弁な、じゃあ今日の分あと9レス貼るから
ヘンタイさんキタw 期待してるぞ。
貼ろうと思ったけど500kb越えたらオマエたちに悪いから次スレが立った時に埋めネタとして貼るから
ヘンタイにもヘンタイなりの流儀があるんだゼェ
こうし〜ん!(グワシャーッ)
ヽ、 ヽ ヽ 、 ヽ
)ヽ、_,,,..._ ヽ、_, げえッ───────!!!
iー-、::_: `、ゝ_,,- ノ ( ) 、 )
ノ::`ー_-_ノ ノ ノ_,-"イ / ` 、ノ `i ( l
,-、 |::::.ヽ _。ヽ:: /_。フ' |ノ ヽ、 i、 ノ
|6`i/:::. ,,-.―'' /i|.ー-、. |
ヽ ::: i :: ⌒ : | <・・まとめサイトが更新されているッ!?
ヽ`l | :: /ニ`i /
`|:. ヽ、 i_,,,、/ / ,へ___
,|:::._ヽ___/ _//`ー--、ニ=--―,
| ̄ ̄ ̄ ̄||| ̄| / / / __  ̄ ̄`¬
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄○ ̄ ̄ヽ | // / / 三三三 /
あ、タイトルを変えたいのでしたらご連絡ください。
さて、人類最後の旅(ジャーニー)を始めようか…
>>442 >朝食代わりにツツジの蜜
ここは突っ込んだほうがいいのかな?
いや、俺も子供の頃はいろんな花の蜜を吸ったけどさw
とにもかくにもGJ!
447 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/12(月) 15:26:47 ID:jlP/YBOX
>>441 ヘンタイさんGJ!突っ走ってんなぁw
>>445 まとめ人さん、毎度乙です。タイトル楽しみだ
お題 「泊まる」「話」「宅配便」
TRRRRRRR……
「はい、高須……
あ、お母さん?どうかしたの?……
ええー!?どうするの?……
あー、うん、わかった……
大丈夫大丈夫。ハンコはいつもの所にしまってあるよね?……
うん、お母さん達も気をつけてね」
「竜河、母さん何だって?」
「んーとね、飛行機が欠航になったんで、今日は向こうに泊まるって」
「欠航?そんなニュースやってたかな?」
「機体のトラブルとかいう話だったけど」
「しかし、そうすると帰ってくるのは早くて明日の昼過ぎか……
ちぇ、久しぶりに美味い朝飯が食えると思ってたのに」
「……お兄ちゃん……そんなこと言うなら明日の朝ご飯は抜きね。あとお弁当も無し」
「いやいや、竜河のももちろん美味いって!ただほら、父さんのは別格だから!」
「どーせ私はお父さんほど料理上手くないですよーだ」
「頼むよー、朝も昼も抜きじゃ練習の途中でぶっ倒れちまうよー」
「んー……ま、許してあげる」
「ほっ……助かった……」
「あ、そうそう、それでね、お土産にナマモノがあるから先にクールの宅配便で送ったって。明日の午前中に届くから」
「……ん?……なあ竜河、ちょっと妙じゃないか?」
「何が?」
「だって、もう8時過ぎだぜ。母さん達が乗る飛行機って、たしか7時頃の予定だっただろ」
「手続きとかなんとかでちょっと時間かかったんじゃないの?」
「そうじゃなくて、宅配便の方。こんな時間に受付ってやってるもんなのか?」
「……よく知らないけど、空港ならそういう所もあるんじゃないの?」
「それにしたって明日の午前中に届くってのは早過ぎじゃねえか?」
「えーと……どういうこと?」
「だからさ、本当はもっと早くに向こうにもう一泊する事決めて、土産送ったんじゃねえかな」
「……なんでそんな事するの?」
「想像だけどさ……母さんが『ねえ竜児、せっかくだからもう一日ぐらい夫婦水入らずで過ごさない?』とか……」
「……そんなことない……とは言えないわね……」
「あの二人、いまだにラブラブだもんなあ……いい加減思春期の子供の目の前でキスするのは勘弁してほしい……」
「お父さんもなんだかんだいってお母さんには甘いし……なんてゆーか、ほとんどバカップル?」
「……なあ竜河、来年あたり弟か妹ができたらどうする?」
「……わ、わぁーい……」
>>445 乙です。本当に乙です。ていうか、もう、なんとお礼を申して良いのやら考えも及びません。
「ねぇ竜児」
「おう」
「私って弟が居るじゃない」
「なんだよいきなり、話が変わるのかよ」
「いいのよそんなこと。弟が居るじゃない?」
「おう」
「あんたの弟になるって気づいてた?」
「…………#$&!¥」
「ぷくくくく。その顔じゃ気づいてなかったみたいね。いいわ。これからはうちに遊びに来る度に『おにいちゃん』って呼ぶように躾とくから」
「まだ乳児だろう!」
「竜児おにいちゃん!」
「やめろやめろやめろ、片目眇めてそんな声出したって怖ぇんだよ」
待望のヘンタイさんがきなすった!!!楽しみにしてます!
まとめの人さん、それらしいタイトルどうもありがとうございます。
だいぶ間が空いてすいません・・・
続きです
208続き
***
カンカンカン、と錆びた鉄の階段の音が響きわたる。二人で八の字ボートを協力して担ぎ、昇り始めて半分の地点を通過したところで、
「気分悪いわ」
と、大河は言い捨てた。
これに対して竜児が返すのは『大丈夫か』が妥当だろう。だが、今の大河は別にそんな優しい気遣いは求めちゃいない。
今のこいつは喜怒哀楽の哀じゃない。言うならば、哀を小さじ二杯ほど加えた限りなく怒に近い怒だ。
「そう怒るなって」
「もう、ほんっと屈辱……っ!」
結局のところ、どうにか監視員の適当な判断でウォータースライダーの利用許可を得たわけで万々歳、大円満のはずだったのだが、
『お兄ちゃんがついてるみたいだし大丈夫でしょ。ちゃんと言うこと聞くんだよ、お嬢ちゃん』
と、余計な一言。これにプチっと、こめかみを鳴らした大河は最後までそれを否定することはなかった。まあ無言でぷるぷると震えてはいたが。
見かねた竜児は『……彼女です』と大河の面子を守るためにも一応誤解を解き、監視員も深く謝罪したのだが、「誰が妹よ……顔とか、ぜん……っ!ぜんっ!ぜん……っ!ぜんっ!似てないしっ!」遺憾は継続中らしい。
果たしてこの後、どのようにして大河の怒りを鎮めよう、と早くも意気消沈の竜児であったが、最上階に到達した頃には大河の怒りは鎮静化された。
「たっかー……」
「結構昇ったからなあ」
下からはその存在感に圧倒されたが、上からだとまた違う壮大さがある。人がごみのようだ!とまでは言わないけれど、この高さからだと本当に人が一円玉ぐらいの大きさに見えるのだ。大河もその景色に口をポカンと開けながら、
「人がゴミのようね」
と。まあここはあえて触れないでおこうと思う。無視しよう。
ともあれ、前に並んでいた利用者達は時間と伴って順調に減っていき、ようやく竜児達の番。監視員は持ってきた八の字ボートを素早くセットし、前に大河、後ろに竜児。それぞれ前と後ろの座り方を指南し、利用にあたっての注意を簡単に説明する。
「いよいよね……竜児、大丈夫?怖くなったら言いなさい、守ってあげる」
「あー、そりゃありがてえけど大丈夫……ていうか大丈夫かはお前だろ?さっきも落ちるとかコースアウトとか、ろくでもねえこと言ってたしよ」
「……いや、あれは身長測られるのが、嫌だっただけ。こういうアトラクションはいつでもウェルカムよ!」
後ろを向くのが難しいため顔を見せないが、大河は後ろに向けて親指を立ててみせる。自分の耳に腕がくるようにして曲げているので、親指は逆さま。いわゆる、地獄に落ちろ!会話と行動がめちゃくちゃであるのはご愛嬌だ。
「いきますよー」
監視員が声をあげる。それと同時にボートが押し出され、流れる水に着水。みるみるうちにスピードを上げていく。
「きゃ――――っ!はや――――いっ!」
「結構スピードでるんだな!」
テンションもアゲアゲ。上下に波打つような地点では、ボートが上がったり下がったりの度に、「「おうっ!おうっ!おうっ!」」と、二人で声を上げ、急なカーブの時には、「落ちる〜」と、大河はふざけてみせる。
大河の体重を考えると、あまり速度は上がらないだろうと踏んでいた竜児も、「いやっほ――――う!」らしくない声を上げる。今日の最悪の目覚めが嘘のように爽快、楽しすぎるのだ。
「あー、もうあと三分の一くらいみたいね」
「もう終わりか」
「そろそろ下見えてきたしね。でもこれはなかなかのアトラクションよね。設計者に感服するわ」
「だな。じゃあこれ終わったらもう一回行くか」
「うん、いこ!」
ダンッと、その瞬間にボートは空を飛ぶ。そうは言っても一秒くらい。まさかこんな形で大河のドジ神が光臨なさられるなんて、誰が思う。
「え……」
ようするに、浮いたのはボートだけではなかったのだ。竜児と会話をしていたため、手すりを持つ手を少しだけ緩めてしまっていた大河がやってくれたのだ。いつものように、脈絡もなく。
波打つ地点で軽く浮いたボート。それが一種の小粋なアクションなのかどうかはさておいて、その反動でふわりと浮いた大河。
慣性の法則だったか……大河が迫り来る。もはや進行形ではない、瞬間の出来事。反応も出来るはずがない。もう竜児の視界には、
「ぶ……っ!」
日焼けの少ない大河の白い背中で埋め尽くされているのだ。
勢いよく、大河の背中が竜児の顔面をヒットする。口内からは鉄の味。鼻に手を当てると、げっ、赤い……。
「えっ……?ちょ、やだ……っ!竜児、鼻血!」
「……うおっ!」
それになかなかの量だ。鼻血にあまり経験があるわけではないのだが、口内に広がる濃厚な血の味がそれを物語っている。
「うわぁ……ど、どうしよ……どうしよ竜児……きゃー!すんごい垂れてる、垂れてる!」
「いや、どうしようもねえよ……」
とりあえず鼻をつまんでみる。なんら変わりないが、それより今は「出血死しちゃう―――!」自分の膝の上で慌てふためく大河をどうにかしたい。多分本人は自覚ないだろうが全体重をガンガンぶつけてくるのだ、もう痛い痛い……。
「……とりあえず下まで行ったら一回ロッカーに戻るよ。ティッシュがあったはずだ」
「ティッシュで足りるかな……それよりそんな格好で行ったらめちゃくちゃ怖いってあんたっ!」
「……」
不審者よっ!、と付け足した。この野郎……と素直に思った。そもそもお前の背中タックルが物語の序章だろう。もうさっきのも無しだ。慌てふためく素振りを再開してほしい。責任を取れとまでは言わないが、もっと、こう心配とか……。
少し黙って大河の出方を伺ってみる。大河もそれに気付いたのか、目をきょろきょろさせる。どうやら言葉を慎重に選んでいるように見えるが。そして思いついたフォローは、
「遺憾よね〜」
「いーかーんー!?」
棒線つきでそのままそっくり返してやる。今のが遺憾で済まされる所業ならとんでもない。そこら中で犯罪犯し放題だ。世界をひっくり返す気かこいつは。
ここまで反省の色が見えないのは考え物だ。だから今から大河にすることは仕方がない。悪いことをしたら叱るのも愛なのだ。決して、決して!仕返しとか、復讐とかではない。自分はこいつより遥かに大人。ティーピーオーだってわきまえている。
そんな感じで前振りも済ませたところで、さてと――と。
そうして竜児は透き通った白い肌に、魔手を忍ばせる。悪意?あるに決まってるだろうがっ!天罰だ、思い知るがいい……!
「は……っ!?あふっ、ひひっ、ひひひひ……っっ!ちょ、あんた……っ!?な、何……ふひい……っっ!あひゃひゃひゃ、ひぃ―――っ!」
うっとりするくらい艶めく肌に……露骨に言えば、むき出しの無防備な横腹に向けて、手を、指を、無造作に動かしまくる。鼻血?止まらないがそれがどうした!
「おらおらおら――――っ!」
情け無しの水鉄砲戦争の怒りも(まあ浮き輪ひっくり返したが……)加算されるのだ、このゴットハンドには。
大河に一死報いてやらなければ死にきれない!というのはオーバーとして……今日は眠れない!くらいの覚悟で、攻めて、責めて、迫り狂う。
「ちょっ!も、ギブ!ギ、ぶひひひ―――っ!」
豚になった手乗りタイガーも悪くはないっ!と、竜児がサディスティックの境地に足を踏み入れ始めようとした頃、ボートは勢い良く最終地点を突破し、無事に下に到着する。
顔面血だらけの男。その男の膝の上で悶える少女。絵的にはもう、理解できない……したくない光景だったのだろう。
たっぷり5秒間。沈黙、沈黙、沈黙。そして見ず知らずの一人の女性が顔面蒼白で力一杯叫ぶのだ。
「……ふ、不審者よ―――――――っ!」
その声を聞いて、各場所で見張りをしていた三人の監視員達が迅速に竜児一行のもとへ駆けつける。
笑いすぎて少し痙攣気味の大河から離した両手をそのまま頭の横に挙げる。無条件降伏。
ゆったりと浮かぶボートの上、竜児の三白眼にかすかに涙が浮かんだ。まさかこの年で泣くなんて、たまたまやって来たプール施設の監視員に押さえ込まれるぐらい、思いもしなかったのだ。
***
「……悪かったよ」
「いや、こっちも、……ね。竜児を、ふ、不審者……よ、呼ばわりして……ぷ、ぷふっ、くくくく……」
そうして大河は、きゃーきゃっきゃっ!……と、今度は猿だ。……もういい、好きにしてくれて構わない。
「はぁー、ほんと笑える!『一体何したんだぁー!?』って、ぷっ、くく……で、もう鼻血はどうなのよ」
「精神的ショックで止まったよ、とっくにもう」
「あらそう……くふふっ」
幼気な少女を襲う血だらけの男。そんな危険人物に監視員達は然るべき対処、つまりは事情聴取を行った。しかし被害者と思われる少女によって現場は一変。なんと二人は恋人同士だったのだ。まったくお騒がせな話である。
と、言った感じで新聞の隅の方に掲載されそうな不祥事はまたもや監視員達の謝罪で無事に解決に終わり、現在は日陰がある場所にシートを敷いて休憩中。小休止である。
「この話は終わりだ」
ぱんっ、と手のひらを叩く。魔法のように、今ので大河の記憶を消せるのならどんなに良いことか。
「で、それは何だよ」
「見てわかんない?」
家を出たのが昼前。互いに昼食を済ませていたので、竜児は小腹が空いたとき用に簡易弁当を持参していた。おにぎり、唐揚げ、ウィンナー、玉子焼き、りんご(ウサギだ)の入った、爪楊枝で手軽に食べられる弁当だ。
もう少し腕を振るいたかったのだが、夕食に差し支えたら大河のお母さん……いや、時期お義母さんに申し訳ないのでそこは自重したのだが。
「聞いてねえぞ」
「言ってないもん」
目の前に差し出された包みを早速ほどいて、大河は自信ありげに、
「じゃーん!私、サンドウィッチ作ったのっ!」
容器をパカッと開けて、竜児の顔面間近に見せつける。
「おっ、見栄えはいいな」
もはや鼻にサンドウィッチが少し触れているのだが、大河は気にしない。ぎゅうぎゅう押し付ける。
一月に大河が料理を始めると宣言し、はや半年ちょっと。
最初こそどんな天変地異が降りかかるのかとハラハラしたものだが、竜児の指導もあってか徐々にミス(包丁で指を切るとかいうレベルにあらず)もなくなり、ようやく様になってきたのだ。
最近は受験勉強もあってか、あまり料理の分野では構ってやれなかったがこれは驚いた。
「具の量が的確じゃねえか!」
「ええっ、そこなの!?」
以前は欲張って、サンドウィッチを始め、餃子、手巻き、おはぎ、といった品々には中身ギッシリのお客様大サービスを信念の下、結果見るも無惨な作品達を召還していたあの大河が、…… 感無量だ。卵マヨにツナマヨ、ハムチーズ。そして何より、
「カツがサイドのパンよりでかくないだと……!?すげえよ、大河、よく我慢した!」
「……千切るわよ……」
「冗談だよ……」
素直にひれ伏して褒め称えろ、とのことで大河はご立腹。さすがに千切られるのは御免被るので竜児も低姿勢で身構える。
「ま、見た目はどうでもいいのよ。本題は味よ、味。食べてみて」
「おう。じゃあ、いただきます」
早速カツサンドに手を伸ばす。言い方は悪いが、他のサンドウィッチは実質混ぜたり挟んだりの簡単な工程。大河は塩と砂糖を間違えるようなイージーミスはもうしないので不味いわけがない。
問題はカツだ。正直なところ、大河の油を使う姿を想像すると胃がきりきり痛くなるのだが……大丈夫、大河はちゃんと生きている。期待と不安が混ざり合う五分五分の心境で手に持ったカツサンド。果たして――
「……」
「ど、どう……?」
「……おおう、普通に、うまい……」
「えっ、ほんと?普通においしい?」
「ああ、うまい、うまいぞ!カツ、ちゃんと揚がっててサクサクだ」
「ほんと、ほんとに?……はあぁ〜良かったぁ〜」
体中に刺さっていた針が全部抜けたかのように大河は低く唸った。本題は味だと言っておきながら、自信があったわけでもなかったらしい。当たりかはずれか、ギャンブル感覚で作ったわけではないだろうに。
「俺はお前の力量を図り損ねていたよ。まさか一発でここまで黄金色に揚げるとはな」
「あ、うん。それ、五枚目なのよね。奇跡的にラストで成功して」
「は?……え、じゃあ残りの四枚は……」
「そこは安心して。ちゃんと食べたわよ。MOTTAINAIじゃない」
料理を始めてやっと自分の気持ちをわかってくれたのか……まさか大河がMOTTAINAI発言する日が来るとは思いもしなかった。日々、人は成長するものなのだと竜児は知る。
「ちょっとね……うん、まあまあかな?……いや、なかなか黒くなっちゃってたけど、ちゃんと家族で……私が二枚、ママが一枚、昼ご飯に。……今夜のパパのおかずは残りの一枚よ」
「……」
犠牲はやむなし、と大河は目を閉じて言う。こんなうまいカツが、そんな犠牲者が居てこそ成り立っていると思うと本当に心許ない。ていうか御義父さん、本当にすいません。
「ああ、そういえばこれ。俺が持ってきたのはお前が食えな。交換しようぜ」
「やったっ!」
ぱあっ!と、花が咲いたような笑顔に竜児は差し出した弁当を落としそうになるほどに面食らう。
「いや、悪い。そんな手の込んだなもんは今日は作ってないんだ。唐揚げとか、玉子焼きとか、」
「そんなのいいの。私、純粋に竜児の手料理が食べたかっただけだし」
ちゃんと手を合わせてから、爪楊枝で玉子焼きを取って口に放り込み、大河は、「やっぱおいしい、竜児の料理」と。
「ほら、うちって私に弟の世話を任せるくらい両親が忙しいじゃない」
「ああ」
「だからしょうがないことなんだけど外食が多くて、家庭の味ってあんまりないのよね。
まあそれに文句はないし、私も料理始めたから別に良いんだけど、やっぱね……竜児の手料理を食べるとなんか、ふる里を思い出すって言うか何というか……あー、何言ってんだろ、わかんない」
次に口に運んだ唐揚げを竜児と同じようにゆっくりと噛み締めるようにしながら、大河は「おいしい」と、一言。
何度言われても嬉しい言葉。大河の『好き』には劣るが、この言葉も上位ランクだ。
半同棲生活と言っても大袈裟ではないあの頃に比べて、大河が高須家で食事をすることはめっきりな少なくなった。理由は大河と大河の家族との和解。当然、竜児が大河の学校への弁当を作ることもなくなったし、朝食、夕食も別々だ。
三年に進級し、竜児は受験、大河は弟の世話。やるべきことはたくさんある。前のようにだらだらと一日中二人で過ごすことも今ではない。今日のデートも三週間ぶり。大河が竜児の料理を食べるのは一ヶ月ぶり。いや、それ以上かもしれない。
時間の経過によって、自分の料理を大河が格別においしいと言ってくれるように竜児も嬉しいのだ。大河の『おいしい』という言葉が嬉しい。大河がにこにこしながら、口にほおばる顔も本当に新鮮な光景なのだ。
「ずっと、当たり前のように何気なく食べてたんだね、私。竜児の料理」
「そこまで大袈裟なことじゃねえだろ」
「ほんとに、もっと……味わっとくべきだった」
「いや、そんな、いつでも食わしてやるって」
「タッパーにでも入れとくんだった」
「なんか急にせこい話になったな……」
見れば竜児の持ってきた弁当箱は空になっており、竜児は首を傾げる。だって、あれだけ噛み締めるように大河は……。
「なーに、しんみりしてるのよ。シリアスパートはもう終わりだっての。まだ時間あるんだから張り切って行くわよ!ほら、さっさと食べちゃいなって」
サンドウィッチを乱雑につかみ取り、竜児の口に強引に押し込める。むせる竜児をよそに、ここで大河は、
「ここからはギャグパートよ!」
とんでもないことを言い、……走っていった。
売れねえよ!こんな二秒で百八十度展開が替わる構成じゃ!と、ぐぉっほぉっ!ぐぉっほぉっ!しながら竜児はアニメ化を視野に入れた弁舌を心の中で行った。
ちなみに竜児の思い描くメインヒロインは、少なくとも食事直後プールにダイビングを決め込み、その衝動で生じた水しぶきで近くにいたか弱い少女を泣かせてしまうようなことはしない。
とりあえずここまでです・・・
464 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/13(火) 21:00:45 ID:Q4piT/w4
次スレ立ててきてみるぁ
465 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/13(火) 21:04:02 ID:Q4piT/w4
466 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/13(火) 22:14:34 ID:tJPsJ5OP
乙
「おっはよ−!高須君」
大河はなぜ先に登校したのか?それとテーブルに有った手紙の文面に違和感を覚えつつ歩いていると櫛枝が手を振りながらいつもの場所で迎えてくれた。
「高須君一人?大河は?」
「スマン、何かアイツ今日は先に行ってるらしいんだ」
「へぇ〜珍しいこともあるもんだ?じゃあ今日は2人で!!!いざ行かん!我が覇道を!!」
拳を突き挙げた櫛枝と肩を並べて歩く、普段なら喜ばしく思えることだがどうも手紙の文面が引っ掛かる。
『竜児へ 今日は先に学校に行きます。それと昨日はワッキ!ワキ!で楽しかったよ!多謝』
多謝ってなんだよ!中国語か?何かこんな言葉を使うのはオタクっぽいて感じるのはオレの偏見か?
何故か俺の知らない所で大河が毒されてるような気がする。
「グウゥモ〜ニン!高っちゃん。ホラ見て!!オレ受かっちゃったよ!」
「良かったな、オメデト」
『やったぜ春田!夢の簿記一級合格?!』
−完−
「どうしたの高須君?何か悩み事?私で良かったら学校に着くまで何でもお悩み相談受けちゃうよ!」
「そうか?じゃあ、あのな……」
私的な問題だから少し迷ったが、何故か取り返しがつかない事になるような気がしてならない。
櫛枝なら他言の心配も無いし大丈夫だろうと俺の不安に思うことを伝えた。
「なるほどねぇ〜高須君は大河が腐女子になるんじゃないか?って心配なんだ」
「腐女子?」
「そう腐女子、BLとか百合が好きな女の子のこと腐女子って言うんだよ」
「へぇ……」
……オレ相談相手を間違えたか?何か病気の人に病気を治して下さいって言ってる気がする。
「でも参ったな、大河がそんなにハマっちゃうなんて」
「えっ?」
「大河がいっぱい本持ってるの見たんでしょ高須君?私があげたのは一冊だけなんだけどなぁ〜こりゃ困ったね」
「……もしかして?」
「そうだよ!私が大河にBL薦めたの!」
「オマエガ元凶カァァァ〜!!!!!!」
そういえば大河の書いてたワッキワキって何だろな?気が付けばオレは櫛枝の両脇をツネっていた。
「イィぃイィー!!ゴメンナサイ!痛タタタタカスクン!!!!」
オレはしばらく両脇をツネリながら手首を偶に誘惑するタワワに実ったみのりんをムニポョ〜ンと楽しんだ
……そういえば大河が言ってたなぁ…イタッ!…櫛枝は着痩せするタイプだって…ャ…メテ…アイツ今朝はタ…スケ・テちゃんと朝飯喰ったのかな……フヒィ!
ボ〜っと眺めていた晴天の空に昇る朝日の眩しさに俺は正気を取り戻した
「オッ!!スゲ〜な櫛枝!その劇画チックな顔はゴルゴを意識してんのか?」
櫛枝を見ると顔を引きつらせ両脇を押さえながらイヤァ〜ン!なポーズで固まって居る……冗談は止めてくれよ櫛枝、朝から刺激が強過ぎるぞ。
「お巡りさん!その男が女の子を無理やり連れ去ろうとしたんです!」
ちょっと待て!!!オレは少し怒鳴ったけど話してただけだろ!
「キミ、今の話は本当か?」
「違います!誤解です!!この子とは友達で、ちょっとフザケてただけです!なっ!櫛枝?」
「ヒイィぃぃぃィ!!!!!!ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!ツネラナイデ!ゴメンナサイ!…」
「怯えてるじゃないか!嘘つくとキミの為にならないよ?制服着てるけど……ソレ本物?」
「本物です!!俺は学生です!」
「あっそうなんだ。じゃあ行こうか、交番すぐソコだからね」
「ちょっと!!!オレの話も聞いて下さい!!」
「うん、ちゃんと聞くから交番で」
俺の話なんて聞いてくれない……もうダメだ……しかし!!!諦めかけてたその時!
「ちょっと待って下さい!!!!」
「……黒間…先生」
気は優しくて力持ち!大橋高校のBlack金太こと体育教師THE黒間先生だ!!!
「高須は見た目はこんなヤツですけど良い子なんです!かわいいヤツなんです!!」
「えぇっと……キミも仲間かな?」
「違います!自分はコイツの通う高校の教師で…」
「ハイハイ、話は交番で聞くから」
「イヤッ?!自分教師…」
「ドコの世界にタンクトップにそんな卑猥な短パンで出勤する社会人が居るんですか?話は交番で聞くから、ネッ?ほらキミも来なさい」
結局交番に連行された俺たちは免許証やら学生証を見せ学校に確認の電話をされて解放された。
「スマンかったな高須、先生まったく役に立てなくて」
「いいえ、先生が来てくれたから助かりました、ありがとうございます。先生はやっぱりプロテインとかの良質タンパク系が好きなんですか?」
「ハッハッハッ、確かに先生はタンパク質が大好きだ!だけどな高須、本物の筋肉を手に入れるには…」
熱血バカが熱く根性論を語っている間オレは櫛枝のことを考えていた、やっぱり俺の恋はここで終わりなんだろうな。
「…そう思うだろ?高須」
「ハイ、大豆は畑のお肉ですから」
「そうだ!イソフラボンは大事だな!」
何の騒ぎだろアレ?
朝っぱらから叫び声や悲鳴なんて聞きたくねぇつうの、ウザッ。
疲れが残る体を引きずり朝の気怠い空気の中を歩くと歩道の上には人だかりが出来ている。
面倒だけど10歩戻って反対側の歩道につながる横断歩道をスキップする。
以前ならこんな朝は仕事とか適当な言い訳を使いサボってだろうな……早く学校に行こ。
「ちょっと大河!!!アンタ何くわえてんのよ!」
「遅いよ亜美!ずっと待ってたんだから……コレ、甘いよ?」
花?何それ食べるの?私も食べるの?
差し出された花を見て一瞬不安が頭の中を支配したが大河の足下にはゆうに百はツツジの花が落ちていた……良かった、食べてたんじゃないのね。
「って!!ペッしなさい!ペッ!そんな物を口につけちゃダメ!」
「だって……甘いよ?」
渋る大河を無理やり植え込みから引きずり出しながら高須君の偉大さを痛感した。
この子は高須君が面倒見なかったら、さぞかしイタイ子になってたんじゃないかしら?
「ダメよ、何でも食べちゃ!大河は女の子なんだから、それにあんなトコで花の蜜なんて吸ってたら学園の七不思議にされるわよ、分かった?」
「分かった、それより私ね!スッゴイ発見をしたの!!!」
到着を待ちわびた魂sister亜美に弾ける思いで私が大発見した極上!萌エロガンダムを説明した。
「クゥッ!ハァ−!!!そんなに破壊力バツグンなの?」
「そりゃもう!私でもウッホでヤラナイカ?ってなるんだから!」
「へぇ〜見てみたいわね、高須君のピチパン。それにニーソとか履かせたら……ヒヒヒ」
「スゴイ!流石は亜美だ……その発想はなかった」
2人で魂の高須談義を撃ち合っていると徐々に大河の反応が鈍くなりだした。
「どうした大河!私の腐女心はまだビン!ビン!よ」
「わっ!私だってまだ負けい!」
「ハァァ〜…ウソ仰いアンタの攻撃には迷いが見えるわ……話しなさいよ、私たちは2人で1人の腐女姉妹『川坂』でしょ?」
やっぱり亜美に隠し事は無理か……魂の契りは伊達じゃないわね、亜美の前じゃ私の心はノーガード。
「あのね、最近は執筆活動に専念してて忙しかったじゃない?それであんまり竜児と話しとか出来なくて……ちょっと寂しそうって言うか……その…」
「…大河の言いたいことは分かったわ、それで昨日は高須君と久しぶりに話してどうだった?」
「ヒィ−!ヒィ−!言ってスッゴイ喜んでた!」
「そう……良いんじゃない?高須君との時間を増やすのは。大河は高須君にご飯作って貰ったりして義理もあるでしょうしね」
「そうなんだよね、竜児には身の回りの世話とかして貰ってるからほっとけないし」
「良いじゃない、どうせ書く方も煮詰まってるし少し休憩すると思えば。それにその間は高須君を観察すれば良いのよ
作品の為にいろんな仕草や動きを見て聞いて触って……そして」
「ゴックン!……そして?」
「……まぁコレは高須君が暴走して大河の身に危険が迫ったら困るから止めときましょ」
「ハァ〜緊張した、また隊長にハードなミッションを与えられると思ってビビったよ」
「人聞き悪いわね、私が大河にそんなことさせるわけないじゃない、ハハハハ」
アンタ1人を幸せになんかしないわヨ……私たち2人で1人なんだかラ大河がダケがシアワセアリエナイ……
フタリズット・イッシヨ…アナタアミワタシワタイが……
ふぅ〜ヤンデレごっこ楽しかった、大河には頑張って貰うか。
私たちの不文律、ガキ大将理論で言えば大河のモノは私のモノだから私も一緒に楽しませて貰うわ。
精々デレなさい!高須君を相手にツンデレを披露して心を掻き乱してやりなさい!
私は影で勉強させて貰うから、ツンデレの極意を……だからね、大河
「YOU!!デレっちゃいなヨォゥ!」
「ハアァ?」
私はうっかり大河が蜜を吸った花を片付ける用務員のオッサンを力強く華麗に突き刺した……アレ?大河は?大河はドコ?。
「アンタね?今どき花の蜜なんか吸っとたとは?」
「……違います」
「隠さんでよか、困っとるちゃろ?腹すいとるちゃろ?」
そう言ってオジサンがくれた鈴カステラをつまみながら教室へ向かった。
「コレって牛乳に合いそうね?」
お腹すいた…やっぱりアレだけじゃ足りないなぁ、普段通りなら今日の朝ご飯は何を作ってくれたんだろ?
……もしかしたら私のこと心配してオニギリくらい持って来てくれてるかも!
期待を食欲に変換して通常学校では私のパンドラハートに眠らせてる欲求の塊、灼熱のリビドーを全解放!獲物へと足を早めた……でも扉の向こうにはオニギリの姿はなかった。
「タイガー『あいたい』ってどんな漢字?」
「ハァ?アンタ何書いてのよ?」
「ラァ〜ヴ・レイター!!」
「だったら私の逢坂の逢で良いじゃない?」
「サンキュー!」
教室を見渡すとみのりんも居ない、それに北村君も居ない、亜美はまた1人異世界に舞い込んでたから置いて来たし……何故か胸騒ぎがする。
「ムシャムシャ…どうしたのよ ズゴ゙ォォォォ大河?」
「うわっ牛乳臭っ!」
「何で突っ立ってんのよ?」
「ムシャムシャ…ふぁのねゴックン!竜児もみのりんも北村君も居ないの」
「変ね?もう直ぐホームルーム始まるのに、休みかな?でも祐作が病気で休むなんて有りえないしなぁ」
だよね、みのりんも竜児も昨日は元気だったし、やっぱり登校中に何か遭ったのかな?
「祐作に電話で聞いてみるから……祐作?アンタ今ドコに居んのよ?……えっ廊下?」
「おはよう逢坂」
「北村君!ねぇ竜児とみのりんが来てないだけど何か知ってる?」
「櫛枝は保健室で休んでる、通学路で過呼吸を起こして運ばれた。高須も一緒だったみたいだが何かトラブルあって警察に行ったらしいんだ」
「警察!?」
警察ってアンタ何したのよ、オニギリ……
それにあの健康見本みたいなみのりんが過呼吸ってドンダケ心的外傷を受けたのよ……2人にいったい何があったの?
「席に着いて下さいホームルームを始めます、委員長」
「起立」
簡単に出席確認のために先生はぐるりと教室を見渡し何の違和感もなく名簿を閉じた。
先生は2人のこと知ってる、確信をもって話しを聞いたけど行事連絡だけでHRは終了した。
先生は何で話さないの?大したことじゃないから?それともみんなの前では話せないことなの?
廊下に飛び出し矢継ぎ早に質問を浴びせた。
「すっ!少し落ち着きましょうね逢坂さん、2人は心配ありませんから」
「でもみのりんは保健室で竜児は警察って」
「大丈夫です、櫛枝さんは少し休んだら授業に出ると言ってましたし、高須君はいま学校に向かってますから」
困り顔の先生を見てると可哀想になってきたのでこれ以上の追求は止めにした。
疾うの昔に婚期を逃した独身は流行りの婚活に忙しいだろうから、でもそんな流行りに乗せられる内はコイツ結婚なんて出来ないだろうな。
そのうち『独りで生きる』とか言い出して残りの人生設計とか始めそう。
女としての余命も僅かだろうし、このへんでお終いにしてあげるか。
「とにかく心配ありませんから、逢坂さんはちゃんと授業に出て下さいね」
「ハイ…分かりました、先生の貴重な時間を使わせてスミマセンでした」
「へっ?…アァ!良いんですよ、逢坂さんは大切なお友達が心配だったんでしょうから、それじゃ先生行きますね」
逢坂さんも最近は粗暴な態度も見せないし、私の指導の賜物だわ!
さっきもキチンとお礼を言ってくれたし、教師として尊敬されてる?
……もしかして女性として憧れの対象にされてるのかしら?大人の女性的な?寧ろ憧れのお姉さん!キャ〜!!!
……そういえば前に川嶋さんも私のファッションに興味を示してたし……参ったなぁ〜キヒヒヒヒ!
このままいけば指導力を認められ評価が上がる、評価が上がれば給料が上がる!給料が上がれば女を磨ける?!
女を磨けば……結…婚?
「どうだった?大河」
「分かったのは北村君に聞いたことだけだった…アレ、ダメだわ!!全く使えん!」
今年のクラスはみんな良い子ね〜♪
「恋ヶ窪先生」
「ハ〜イ何ですかキョ〜トゥ〜」
「今朝の件で恋ヶ窪先生の指導力が問われいます」
「……エッ?」
「とりあえず放課後にでも面談しましょう、査定の関係もありますので」
「エェェ〜ぇぇぇ〜!!!困りますぅ〜!ワタシ結婚したいです!!!」
「したいならして下さい、学校はプライベートまで拘束はしませんから。では放課後お待ちしてますので」
アあァァぁぁ…ヤッテランネ、1時間目は授業なくて良かった〜
資料作成もやる気シネェェェ、何か飲み物でも買って気分転換に外の空気でも吸おっと。
いくら勤労意欲が0でも流石に人目に付く場所をウロウロするのはマズいわね……人気の無い校舎の外れにでも行くか。
「知らなかった、こんな校舎裏にも花壇があったのね」
今は花壇に綺麗に咲いてる花たちも枯れてしまえば用済み、関心持ったり見て貰えるのは女も花も限られた時間しかないのね。
でも咲いてても気づいて貰えないのも居るけどね、私やアンタたちみたいに。
「アンタたちも枯れたら次の若い花に植え替えられるのよ、沢山の人に見られるまで頑張りなさい!」
「そげんことはなかですよ!」
「用務員さん?!」
「私の田舎には毎年同じ場所に彼岸花が咲いてました。彼岸花は多年草ですから球根さえ残れば何度でも毎年綺麗な花を見せてくれるんです」
「…ハァ」
「女性も一緒だと思いますよ。恋に破れ、枯れてしまっても幾つかの季節が過ぎればまた綺麗な花を咲かすことができます」
「……それは何度でも…ですか?」
「何度でも出来ます。それにその花壇の花も私が種を取って来年また花を咲かせます、だから先生もこれからです」
「ハイ、私も諦めず頑張ってみます」
「先生!……コレは自分の気持ちです、受け取って貰えますか?」
「コレって!本気ですか?……こんな高価な物を私なんかが貰って良いですか?」
「ハイ、先生に受け取って貰いたいんです」
「用務員さん……」
差し出されたヨグールビッグサイズを木ベラですくって口へ運ぶと甘酸っぱい味が広がる、懐かしいなぁ……
もう思い出すことも出来ないけど、初恋の味もこんなだったのかな……
「そっ、そんな!!ゆり先生がオレ以外の男と仲良くするなんて……それにアレは恋する少女微笑み!!!」
「黒間先生お世話になりました、オレは保健室に寄って櫛枝の様子見てから授業に出ますから」
今日は休もうかと思ったが熱血役立たずが一緒に居るのでそうもいかない、それに家に帰っても櫛枝のことばかり考えて落ち着かないだろうしな。
櫛枝に謝って確かめよう、まだ俺の恋に可能性が残っているのか……まあ無理だろな、せめて友達で居られれば御の字だ。
「どげんね?うまかでしょ?」
「ハイ!ヨグールうまかです!!」
翌朝ドレッサーに座り鏡を覗くとほっぺに赤い湿疹が……違う!これは湿疹じゃない!!!ニキビよ!ニキビ!!
お菓子を食べてニキビを作るなんて!ゆりちゃんもまだまだお子・ちゃ…ま・ね……
朝から自身の言葉にダメージを喰らう私はまだまだピチピチ20代!いつかまだ見ぬ運命の人が迎えに来る……筈よね?
「本当にもう大丈夫だから、気にしてないから!高須君はもう教室に行って……」
「本当に済まなかった」
体はオレの謝罪を聞いこうと向き合ってくれたが櫛枝の目は全く俺の姿を見ようとはしなかった。
だるい、全てがだるい、廊下を歩くのも、こうやって考えているのも面倒に感じる、終わっちまったんだな……
「すみません、遅れました」
「あぁ高須君、話は聞いてるから席に着きなさい」
今日初めて見た竜児は酷く弱っていた。
席について背中を丸め動物みたいに他者との干渉を遮って傷を癒やすように体を固く閉ざしている。
休み時間になっても全く動こうとしない背中を背後からじっと見詰め私は躊躇っていた。
もし本物の野生動物みたいに全て拒んで傷を癒やしてるのなら私も拒絶されるんだろうな。
でも気になる、ちょっと心配、放っておけない。
「……竜児」
「何だ、大河」
とりあえずといった感じで振り向いた目に野生動物みたいな鋭さは無い、単に疲れてるオッサンもしくは世捨て人みたいな目。
「もう!アンタとみのりんに何があったのよ」
「……ちょっとな」
「ちょっとって何よ!説明しなさい!」
「今は勘弁してくれ」
その一言を最後にまた殻に閉じこもってしまった。
遅れて来たみのりんに聞いても的を得ない話で煙に巻かれ、竜児は誰に話し掛けられても終日『あぁ』と『おぉ』しか言わないまま学校を後にした。
「今日の晩御飯は久しぶりにお弁当にしようか?ホラ、やっちゃん好きなやつ」
「泰子は晩御飯いらないそうだ、それに今日の分は買ってあるから却下だ」
私なりの気遣いは弱っても主夫に一蹴された。
それにしても空気が重い、耐え難い空間が竜児を中心に発生している。どうにかしてコノ雰囲気を変えたい!
「それなら私が作ってあげようか?」
「もう下拵えは済んでる、だからイイ」
ダメか、振り向きもしないで断りやがって…泣くぞコンチキショ!……だんだん腹立ってきたわね。
コッチは気遣ってんだからアンタも負のオーラばっかり出してんじゃないわよ、まったく。
でも今日は落ち込んだ竜児を元気にするってエンジェルモード中に決めたんだった、もうちょっと頑張ってみるか。
帰宅後の決戦に備えて英気を養おうと、残りの帰り道はこれから初めてホテルに向かう2人とゆう設定で竜児の半歩後ろで頬を染めたり
モジモジしながら足はチョイ内股気味に歩いて家路についた。
「あぁ〜ん歩くの早〜い!も〜ぅ竜児はセッカチさんなんだからん!大河は逃・げ・た・りしないゾッ!」
また大河がおかしなことを始めた……俺の不安は募るばかりだ。
俺は春田浩次、恋をしている。
相手はオレより年上のお姉さんだけど遠慮なく話せるから好きだ。
彼女は俺を頼りない男だと思ってる、でも好きになったから彼女にしたい、恋人になりたい。
だから俺は頼れる男になる為に試験を受けた、合格できたらもう一度逢って下さいと伝えて……
その時は手紙を書きます、瀬名さん宛てに。
「何やってんだ兄貴?ポストの前で」
「手紙出そうと思ったんだけど……住所分かんね」
「メアド書いたら着くんじゃね?」
「オマエ!天才じゃね!!!」
「んなことないってヴぁ!」
あと少しだ、この手紙が届いたらもう一度瀬名さんに逢える。
そしたらバカな俺なりに気持ちを伝えよう。
期待と決意を沈む夕日に込めてガリガリ君を食べながら俺は妹の手を引いて家路についた。
「早く瀬名さんから返事来ないかな〜」
『届かない手紙−瀬名に紡ぐ1ページのLAVE SONG−』
−未発送−
次回予告
大河の献身的な励ましに竜児の心は雪解けの時を迎えた、そして月明かりの夜に照らされた二つの影は一つになる……
次回のお話しは『ネロとパトラッシュ』と『ベネト…ン?』の2本だよ!
お楽しみに!!
>>463 凄い、凄いですよ。これは本当にスピンオフだ! 最高!
どこをどう切っても原作読んでいる気がしました。
ひょっとしてゆゆぽですか? 先生なにやってんですか?
続き、楽しみにしています。
>>476 ヘンタイの人キター ワロター
相変わらず見事なキャラ総壊れっぷり
黒間に吹いた。てか、みのりんが一番まともってどゆこと?
竜児、こええよ 竜児。
478 :
名無しさん@お腹いっぱい。:
大河「竜児、アンタって顔の割りにクセが無いわね。頑固で鈍感だけど」
竜児「二、三言余計だがクセが無いって言われるのはありがたいな」
大河「あら、どうして?」
竜児「クセがあるってことは変わり者ってことだ。常識の無い人間と見なされることもある」
大河「そうかしらね」
竜児「周囲がクセだらけの人間ならそれが当たり前だから目立つことは無い。
だが世の中大半がクセのあるものを拒む人たちなんだよ。
俺の場合、目つきがこんなんだから出来るだけ目をつけられないように
常識の範囲無いで行動するように生きてきたんだよ」
大河「ふーん。なんか草食動物そのものの生き方ね」
竜児「何とでも言え。俺をここまで育ててくれた泰子や友達には迷惑かけたくないんだよ」
大河「あんたも苦労してきたのね」
竜児「お前ほどじゃないさ。それに苦労してきたとはそんなに感じてねえんだ」
大河「あんたって強いわねぇ」
竜児「お前だって強いだろ」
大河「何を言うか。私はか弱い乙女よ!」
竜児「どこの世界に真夜中に木刀持って殴りこみに来るか弱い乙女がいるか」
大河「ここにいるけど?」
竜児「お前以外にだ」
大河「まだ根に持ってんのアンタ」
竜児「根に持ってる、というのとは少し違うな」
大河「どういうこと?」
竜児「俺たちの関係が始まった記念すべき出来事、とでも言うのかな」
大河「何よそれ。だいたい初めての出会いは二年の始業式の廊下じゃない」
竜児「あれも痛かったなー。でも夜襲ほどじゃない。それに、ほとんど会話も無かったし」
大河「う、ごめんね」
竜児「もう許してるよ」
大河「ありがと」
竜児「ま、とにかく出来るだけ平和に生きようと、そのためには冒険しない人生を選んでいたわけだ」
大河「アンタの場合、自分じゃどうしようも無い環境的要因で波乱万丈な人生にならざるを得なかったしね」
竜児「そういうことだ。だから自分でコントロール出来る範囲は出来るだけ自重してたんだが…
そこに現れたのがお前だったわけだよ大河」
大河「ぅ」
竜児「お前のおかげでドラマチックな生活に一変しちまった。
二年の頃のことまとめて小説にしたら10冊は書けるんじゃないかってぐらいにな」
大河「迷惑…だった?」
竜児「正直最初はな。でも…お前と過ごしたあの日々は本当に楽しかった」
大河「本当?」
竜児「辛いこともそりゃあったさ。でもお前だってそんな思いしたし、それに対して何も出来なかった俺がいる」
大河「いいのよ、今さら気にしなくたって」
竜児「そう言ってもらえると正直心が軽くなる。けど…」
大河「けど…何?」
竜児「今、俺は大河を幸せに出来てるか、ってことなんだ」
大河「ふふっ、バカね竜児」
竜児「おう」
大河「アンタが一緒にいてくれるだけで幸せだし」
竜児「そ、そうか。嬉しいな」
大河「それにアンタ私と一緒にいて幸せじゃないの?」
竜児「いや、幸せだ」
大河「でしょ。それでいいじゃない。大好き、竜児」
竜児「おう////」
大河「そういうことだから私をベットにまで連れてって」
竜児「ベッドだろ。どうしてお前は『ッド』の発音を『ット』ってするんだ?」
大河「気にしない気にしない。クセだからしょうがないでしょ」
竜児「気になるよ。正直矯正したい」
大河「じゃあこれからすることで私をもっと幸せにしてくれたら考えて・あ・げ・る♥」
竜児「結局こうなるわけか…/////」
ギシギシアンアン