ゼルダの伝説でエロパロ 【4】

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1名無しさん@ピンキー
このスレはゼルダの伝説について語ったり、SSを書き込むスレです。マターリして下さい。
荒らしはスルーでお願いします。

<前スレ>
ゼルダの伝説でエロパロ 【3】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1169875819/

<保管庫>
http://red.ribbon.to/~eroparo/
ゲームの部屋その15になります


2名無しさん@ピンキー:2007/04/23(月) 01:39:30 ID:5r++LlGB
>>1
スレ立て乙
過去スレなど↓

ゼルダの伝説のエロパロを書くスレ
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1082282005/
ゼルダの伝説
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1096633379/
ゼルダの伝説でエロパロ 【2】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1147879180/
3名無しさん@ピンキー:2007/04/23(月) 04:00:43 ID:W41TEGe2
乙。
前スレ、書き手不足で◆JmQ19ALdig氏がいなかったら過疎りまくってたところだな。
4名無しさん@ピンキー:2007/04/23(月) 08:30:54 ID:iiE/VYm4
>>1乙elda
5名無しさん@ピンキー:2007/04/24(火) 00:05:00 ID:3j7anIOY
トワプリネタかも〜ん
6名無しさん@ピンキー:2007/04/25(水) 01:51:40 ID:DIM6f6Hw
書き手不足もそうだが、読み手だってどれだけいるんだ?
スレが立って2日なのにまだ5レスとは。

まあ大河ドラマもよし。他に種々のお話も期待したいところ。
前スレでミドナやイリアやマロンのSS書いた職人さんたちはどうしてるのかな。
7名無しさん@ピンキー:2007/04/25(水) 02:15:52 ID:uGrk2IeZ
いや、前スレ埋めてからこっち使うべきだから、こっちに書き込まないのは当然じゃないのか?
8名無しさん@ピンキー:2007/04/26(木) 07:23:42 ID:mY7agfQn
保守age
マロンカモーンщ(゚Д゚щ)
9名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 09:58:53 ID:ZPb/d+Oz
人がいないな…

6月にDSゼルダが出るが、出たら活性化しないかな・・・と、タクトスキーの俺が言ってみる
そういえばこのスレはタクトの供給が少ないんだな
10名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 10:51:31 ID:yxb+/zXV
いないってかどっちで雑談すべきか迷ってたり
でも書き手はいないなぁ

タクトは絵柄適にエロ妄想しにくいから…
メドリとコモリの初めてとか見てみたい
11名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 21:44:14 ID:v54fTqcB
即死条件はどうだったっけ?
クリアできるなら雑談は前スレでよろしいかと。
12名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 13:45:32 ID:JHYrFrfp
立てるの早すぎだろ・・・常識的に考えて
13名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 12:07:38 ID:cWZngfGW
保守
14 ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:02:07 ID:fIg+2JPz
亀ながら>>1乙です。

私本・時のオカリナ/第二部/第九章/アンジュ編その3、投下します。
シーク×アンジュ。微妙な和姦。ちょっと鬱入ってます
註:アンジュ(仮名)=コッコ姉さん
152-9 Ange III (1/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:04:17 ID:fIg+2JPz
 丘の上に野兎が見えた。
 地面に伏せ、生い茂る草の間から、じっと対象を観察する。
 曇天の夕暮れ時。視界はよくない。かなり離れてもいる。それでもいまの自分なら、短刀を
投げて仕留めるのは容易。
 しかし、試したいのは別のことだ。
 音をたてないよう細心の注意を払い、じりじりと丘の上へ這ってゆく。
 野兎は草を食べている。無警戒に見えるが、こちらがちょっとでも不用意な行動をとれば、
たちまち逃げてしまうだろう。
 速すぎれば察知される。遅すぎてもそのうち去ってしまう。どちらの場合も失格だ。
 あと少しというところで、野兎がぴんと耳を立て、後ろをふり返った。瞬時に身体の動きを止め、
同時に呼吸をも止めて、全身を地面に貼りつける。
 こっちは草に隠れている。直接は見えないはずだ。だが、ここで少しでも動いたら終わりだ。
野生動物の知覚はきわめて鋭敏なのだ。
 十秒……二十秒……
 背後の一点を見据えていた野兎が、くるりと向きを戻し、食事を再開した。
 よし。
 これまで以上に神経を張りつめさせ、じわじわと獲物に近づく。もう手が届くという至近
距離まで達し、そっと身を起こす。野兎は草を食べ続けている。背後に迫ったこちらへは、全く
注意を払っていない。
 詰めだ。
 飛びかかり、頭部を押さえつけ、即座に頸椎を脱臼させる。野兎は手の中でびくびくと痙攣し、
やがて動かなくなった。
 最後まで気づかれず、素手で動物を捕らえられた。ここまで気配を絶つことができれば、自分に
合格点をやってもいい。
 行動すべき時がきたのだ。
 シークは立ち上がった。
 カカリコ村を出てから、三年の月日が流れていた。

 三年の間、シークは南の荒野に潜伏していた。
 初めてインパに出会ったこの地は、シークにとって、辺境の中では唯一、土地勘のある場所
だった。人が全く住んでおらず、自由な行動が可能であるのも利点だった。二、三度、ゲルド族の
小部隊を遠くから見たことがあったが、発見されるような危うい状況にはならなかった。
 獣を狩る訓練は受けていたので、質素ではあったが、食に窮することはなかった。栄養が
偏らないよう、時には遠くの森や草原に赴き、植物性の食材を入手した。水も確保できていた。
荒涼とした土地ではあっても、丹念に探せば、飲むのに適した水を得られる小川や泉は見つけ
られた。住居としては洞窟を使用した。住み心地がよいとはいえなかったが、雨露をしのぐだけ
なら問題はなかった。別れの時にインパから貰った服は素材が丈夫で、将来の成長を見越した
仕立てにもなっており、着るものには困らなかった。
 健康にも大きな障害はなかった。原因不明の腹痛で寝こんだことが数回あったが、一眠りすると
回復していた。あとは打撲や捻挫くらいのものだった。
 かつてインパは言った。「幼いお前には、酷な生活になるだろう」と。
 たった一人の荒野での生活。客観的に見れば、確かに酷であったといえるかもしれない。しかし
シークには、その自覚はなかった。いかに酷であるかを意識する暇もなかった、といえば正確
だろうか。
 一人で戦えるようになるために、シークはひたすらおのれを追いこみ、おのれをいじめ、
おのれを鍛え抜いてきた。カカリコ村での戦闘訓練で、得手不得手はわかっていた。体格と体力が
劣っていては、剣技を誇ることはできない。代わりに、気配を消し、飛び道具を駆使して、影の
ように戦うことを第一義とした。
 実戦でも充分やっていけるだろう、というくらいの自信はついていた。野兎狩りの成果は、その
自信を裏づけてくれるものだった。
162-9 Ange III (2/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:05:04 ID:fIg+2JPz
 日が落ち、おこした焚き火のそばで、捕らえた野兎を夕食としながら、シークは思いに浸っていた。
 生活の厳しさを意識しないでこられたのも、それ以上に厳しいと思われる、これからの自分の
使命、自分の戦いのことを、常に考え続けてきたからだろう。
 ガノンドロフを倒すためには、ハイラルに眠る六人の賢者を覚醒させ、彼らの力を得なければ
ならない。その使命を負うのは、時の勇者、リンク。自分の使命は、リンクを助け、ともに戦う
こと。だが、リンクは七年間の封印下にある。封印が解けるのは、まだ先だ。いまの自分の課題は、
リンクの帰還までに、賢者を見つけだしておくことだ。
 手がかりは、インパが教えてくれた。賢者の重要性を示したゼルダ姫の予知。それは、インパが
知るシーカー族の伝説に合致するものだった。
 ハイラルのどこかにあるという、五つの神殿。そこに五人の賢者が関わっている。
 深き森、高き山、広き湖、屍の館、そして砂の女神。
 その場所がどこか、という点は、インパとも議論したことだったが、ある程度の推測がつく
ものもあり、皆目わからないものもある、という状態だった。
 深き森──ハイラルに森はいくらでもある。そのうちのどこなのかは、全く不明。
 高き山──山もまた、ハイラルには数多い。最高峰ならばデスマウンテンだが。
 広き湖──これはわかる。ハイラルの広い湖といえば、ハイリア湖しかない。
 屍の館──見当もつかない。そんな怪談めいた家のことなど、聞いたことがない。
 砂の女神──砂は砂漠を連想させる。西にある『幻影の砂漠』か? では女神とは?
 六人目の賢者である『光の賢者』、ラウルについては、敵であるツインローバの話を漏れ聞いた
インパが、ある程度の情報を持っていた。神殿の場所もわかっている。しかし……
 ラウルは精神だけの存在だという。そして光の神殿は地下にあり、生身の人間には到達できない
場所なのだ。そんな相手に、どうやって接触すればいいのか。
『何とかなる』
 そう自分に言い聞かせる。
 ラウルは賢者の長。リンクの封印もラウルの思慮によるものだ。ラウルの覚醒に関しても、必ず
ラウル自身の方から、何らかの働きかけがあるはずだ。
 楽観的に過ぎるだろうか──との危惧も浮かぶが、いや、決して楽観ではない、という確信にも
近い思いを、シークは信じることにした。
 頭を切り換える。
『ともかく、まずは……』
 神殿の場所が最も明確だと思われる、ハイリア湖を訪れることにしよう。幸い、この南の荒野から、
大して遠くは離れていない。
 方針が決まって、シークの心は安らいだ。その安らぎに、さらなる思いが重なった。
『リンク……』
 人となりは、インパから断片的に聞いている。誠実で、直情で、勇気があって、笑顔が印象的な、
僕と同い年の少年。
 会ったこともない、顔も知らないその人物が、いつも支えになっていた。ふと心が弱くなった
時など、リンクのことを思うと、再び身体に力が満ちるような気がするのだ。助けるべき相手で
ありながら、こちらこそが助けられている、と感じられ、なおさら、自分が強くあらねば、と
奮起させられる。
『君に会えるまで、あと四年か……』
 先はまだ長い。が……言葉では表現できない、僕たちの間でしか成り立たない、この関係、この
つながりは、これからも、絶えることなく……いや、いっそう強く、僕を励ましてくれるだろう。
 静かに思いを馳せつつ、シークは修業時代の最後の眠りについた。
 心温まる眠りだった。
 
172-9 Ange III (3/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:06:11 ID:fIg+2JPz
 ハイラル平原へと足を踏み出したシークは、そのあまりの変貌ぶりに驚いた。
 荒野では目にしなかった奇怪な魔物が、平原には昼夜うろついており、シークの行く手を
しばしば妨げた。最初はシークも大いに緊張したが、それほど強力な敵はおらず、戦闘の実技
訓練にはちょうどよいともいえた。しかしその数はあまりにも多く、いちいち相手をしていると
きりがなかった。敵の知能は低く、一定の距離をとっておれば襲われないことがわかったので、
無駄な戦闘は避け、迂回して進むことにした。ただそのせいで、ハイリア湖までの行程には、
当初の予想以上の日数を要した。
 ハイリア湖は異常な状態にあった。シークがハイリア湖を見るのは、その時が初めてだったが、
いかに異常であるかは容易にわかった。地形から見て本来の岸辺と想定される所から、実際の
水際まで、かなりの距離があった。水量が減じているのだ。元の半分ほどの水位しかないように
思われた。
 シークは風景を見渡した。いくつかの小さな島。それらを結ぶ橋。橋のたもとに建つ廃屋。
そして……
 本来の岸辺とおぼしき場所に立つ、数本の石柱。それらは何かの遺跡のようであり、遺跡という
言葉は、すぐに神殿を連想させた。
『ここに神殿が?』
 石柱の並ぶ方向へ目をやる。湖岸の傾斜が水にもぐってゆく、その先には……

 背後に気配を感じた。シークは湖から注意を引き戻し、その気配に神経を集中させた。が、
危険な兆候は感じ取れなかった。
 ふり返ると、一人の老人がゆっくりと歩み寄ってくるところだった。老人はシークのそばまで
来て立ち止まり、穏やかな声で言った。
「ここに人が来るのは、ずいぶんと久しぶりじゃの」
 こちらも人に会うのは三年ぶりだ。けれども懐かしさより警戒心が先に立つ。
 シークは目の前の老人をすばやく観察した。驚くほど醜い顔だが、表情には落ち着きがあり、
軽い笑いが愛嬌さえ感じさせる。敵意はないようだ、と判断して、シークは初めて身体の力を抜いた。
 逆にこの老人は、僕を警戒しないのだろうか──と、シークは不思議に思った。
 ハイラルの南西の端にあたる、このような僻地へ、まだ子供の域を脱していない人間が、一人で
やって来ているのだ。格好も異様に見えるだろう。白い布を頭に巻いて帽子代わりにし、同じく
白い布で口元を覆い、のぞいているのは前髪と目だけという状態だ。おまけに服には奇妙な模様が……
「お前さん、シーカー族かな」
 シークは驚いた。服に描かれたシーカー族の紋章。この老人はそれを知っている。インパの
話では、その紋章の意味を知る者はほとんどいないということだったが……
 笑みを崩さず、老人は言葉を続けた。
「面白い話ができそうじゃ。来なされ。大したもてなしもできんがの」
 シークの答えも待たず、老人はくるりと背を向け、廃屋と見えた建物の方へと歩き出した。
 信用できそうな人物だし、知識も深そうだ。神殿や賢者のことで、何か聞き出せるかもしれない。
三年の間に世間の情勢がどうなったのかも確かめておきたい。
 腹を決め、シークは老人のあとについていった。
182-9 Ange III (4/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:07:12 ID:fIg+2JPz
 老人はみずうみ博士と名乗り、世を捨てて博物学の研究に携わっている変わり者だと、自嘲を
まじえた自己紹介をした。博士がシークを警戒しなかったのは、その後の博士の話から、存在すら
稀となったシーカー族の出現が、学者としての興味をそそったからだとわかった。もっとも博士は
気さくな人物で、ゲルド族のような乱暴者でなければ、訪れた人が誰であっても、客として歓迎
しただろうと思われた。博士のそのような態度は、シークを安心させた。
 シークは自分の名前を告げ、まずはシーカー族についての博士の質問に対して、インパから
得ていた知識をもとに、差し支えない範囲で答えてやった。それが一段落すると、博士はシークに
異なった質問をした。
「時に……お前さんはここへ、何の用があって来たのかな」
 シークは自分にとっての本題を切り出した。
「神殿を探しています」
 博士の目が丸くなった。
「神殿とは……このご時世に、のんきなことじゃの。まあ、わしの生き方も、人のことは言えぬ
ほど、のんきなものじゃが……」
 またも自嘲めいた笑いを漏らしたあと、博士は真顔になった。
「神殿なら、ハイリア湖の湖底にあるぞ」
 シークは緊張した。
「お前さん、湖畔の石柱を見ておったな。あれが並ぶ先にある小島の奥底に、水の神殿がある、と
言われておる。水の底だけに、わしも確かめたわけではないがの」
 予想は的中していた。ここに神殿があるのだ。ならば、賢者は……
 賢者は神殿と密接な関わりがある。水の神殿に関わる人物が、この地に住む者の中にいると
すれば……みずうみ博士が賢者──『水の賢者』なのだろうか。知識の深い老人。確かに賢者
らしくもある。けれども博士は、神殿があることを知ってはいるが、存在を確認してはいないという。
関わりとしては弱いように思われる。
「ここには、博士の他に住んでいる人はいないのですか?」
 飛躍した問いを、博士は奇異に思ったようだが、それでも答は返ってきた。
「いまは、わし一人じゃ。以前には、釣り堀を営む親父がおったがの」
 シークはさらに考えを進め、別の方向から訊いてみた。
「その神殿は、誰が、何の目的で建てたものなのでしょう」
「ゾーラ族が水の恵みに感謝するため、と言い伝えられておるな」
 博士は即座に答えた。
 ゾーラ族? 彼らが住むゾーラの里は、ここから遠く離れているが……
 シークの疑問を見抜いたかのように、博士は説明を続けた。
「このハイリア湖の水は、東のかた、遠くゾーラの泉に発する、ゾーラ川に依存しておる。
ハイラルの水を司るのがゾーラ族なのじゃ。こことゾーラの里の間には、秘密の地下水路もあると
いうし、ハイリア湖とゾーラ族の関わりは、昔から密なものがあったといえるじゃろうな」
 関わり。偶然にも、自分の思いと博士の言葉が合致した。
 ハイリア湖とゾーラ族の関わり。水の神殿を建てたのはゾーラ族。では『水の賢者』は、
ゾーラ族の中に?
 シークの胸は高鳴った。が、その高鳴りは、続く博士の話によって水を差された。
「いまでは湖の水も、ずいぶん減った。ゾーラの里が凍りついてしまったせいでな」
「凍りついた?」
 思わずシークは博士の言葉を繰り返した。
「知らなんだか? もう三年近く前になるかの。ゲルド族との戦いの最中に、どういう経緯か
わからんが、ゾーラの里は全域が厚い氷に閉ざされてしもうた、ということじゃ」
「ゾーラ族は……彼らはどうなったのです?」
 声が上ずっているのが自分でもわかった。博士は沈鬱な声で言った。
「全滅した──と聞いておる」
 シークは茫然となった。
 かつてカカリコ村の王党軍は、対ゲルド族戦を控え、ゴロン族、そしてゾーラ族と共闘した。
僕もゾーラの里へ使いに行ったことがある。あのゾーラの里が……ゾーラ族が……全滅しただって?
では『水の賢者』がゾーラ族であったとしても……それはすでに……
192-9 Ange III (5/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:07:57 ID:fIg+2JPz
 惑乱する心を必死で抑え、シークは博士に、この三年間の世情の変化を教えてくれと迫った。
自分も直接見聞したわけではないが、と断った上で、博士は知る限りのことを語ってくれた。
その内容はシークを打ちのめした。
 ゾーラの里の悲劇に先立つ、デスマウンテン大噴火とゴロン族の滅亡。カカリコ村の陥落。
ゲルド族のハイラル平原移住。そしてガノンドロフによるハイラル支配体制の確立。
 シークは言葉もなかった。やっとのことで、カカリコ村の王党軍の指導者はどうなったのか、と
訊ねたが、博士はそれを知らなかった。
 動揺が博士に伝わっていることは明らかだった。しかし語り終わった博士は、しばらく沈黙を
保っていた。時間が経つうちに、それが博士の思いやりだとわかり、シークは徐々に落ち着きを
取り戻した。その様子を察してか、博士は改めてゾーラ族のことを話題にした。
「ハイリア湖とゾーラ族の関わりが密じゃと、さっきは言うたが、それも近年は薄れておった
ようでな。ゾーラ族が水の神殿を訪れることもなくなっておった。わしがここで会ったゾーラ族も、
ただ一人だけじゃったよ」
「誰です?」
 シークは機械的に訊ねた。
 こちらがゾーラ族に興味がありそうな態度を示したので、そういう話をしてくれるのだろう。
だが、ゾーラ族が滅んでしまったのなら、そんな話はもう……
「ルト姫じゃ。ゾーラ族の王女じゃよ。地下水路を通って、時々ここへ来ておった。わしが神殿の
ことを聞いたのもルト姫からじゃが、ルト姫自身は神殿には全く興味がないようじゃったな。
王女というても、とにかくおてんばな女の子で……」
 懐かしみの色が博士の顔に浮かんでいた。
 ああ、あの──とシークは思い出した。会ったことはないが、カカリコ村にいた時に、その
名前は聞いたことがあった。
「そうそう、ルト姫が最後にここへ来た時には、どこかの少年と一緒での。この二人がまあ、
まことに面白い組み合わせじゃったわい」
 いかにもおかしそうに、くつくつと笑う。と、表情に深い翳りが差す。
「あれ以来、ルト姫の消息は聞かぬ。あの少年も、いまはどこでどうしておることやら……確か、
名前は……リンクというたかな」
 どきっとした。ここでその名前を聞くとは思ってもみなかった。が、インパから聞いていた話を
思い出して、シークは納得した。
 リンクは『水の精霊石』を求めて、ゾーラ族に接触したはず。その時のことなのだろう。
「面白い組み合わせ、というのは?」
 妙に気になって、シークは問いを重ねた。博士の顔に笑いが戻った。
「リンクはキングゾーラ──ルト姫の父親に頼まれて、ここへルト姫を迎えに来たんじゃが、
ルト姫はお姫様だけあって、ずいぶんと態度が大きゅうての。リンクはかなり頭にきておったよ。
ところが反面──ゾーラ族は常に裸で暮らしておって、それはルト姫も同じなわけじゃが……」
 そこで博士の笑みがいっそう大きくなった。
「年頃の娘の裸を見て、リンクはたいそう動揺しておったわい。そのウブなあたりが微笑ましゅうてな」
 なぜか、胸がちくりと痛んだ。シークはそれを意識しないよう心を抑制し、リンクの名前だけに
思いを集中させた。
 勇気。
 その言葉が、頭の中を駆けめぐる。
 そうだ。失望するのはまだ早い。『水の賢者』が死んだと決まったわけではない。それに神殿は、
まだ他にも……
「シーク」
 博士が呼びかけてきた。顔から笑いが消え、真剣な表情になっていた。
「それで、お前さんの目的は、いったい何なんじゃ? なぜ神殿に興味を持つ? ここ数年の
世界の変化を知らんとは、なんとも浮世離れした生活を送ってきたようじゃが、どこで何をして
おったんじゃ?」
 シークは黙っていた。博士はシークをじっと見つめていたが、やがて目をそらし、肩をすくめた。
「言いたくないなら、言わんでもいい」
「すみません」
 それだけ答えた。博士は再びシークに視線を戻し、微笑んだ。
「気にしなさんな。簡単に口にはできんような事情があるんじゃろ。お前さんの様子を見ておれば、
何となく察しはつく。じゃが、わしにできることなら、力になるぞい」
 シークは心の中で博士に感謝し、そして詫びた。
 親切な人だ。だが僕の使命は、あまりにも重い。博士の洞察のとおり、軽々しく話せることでは
ないのだ。
202-9 Ange III (6/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:08:53 ID:fIg+2JPz
 その使命を果たすために、これからどうしたらいいだろうか──と、シークは思考をめぐらせた。
 残る四つの神殿のうち、多少なりともあてがあるのは、二つだ。
 高き山は、デスマウンテン。砂の女神は、『幻影の砂漠』。
「お言葉に甘えることになりますが、教えてください」
 と前置きし、シークは博士に質問した。
「あなたは世を捨てたと言われましたが、世間のことをいろいろとご存じです。よそへ出かけて
ゆくことがあるのですか?」
「以前はしょっちゅう旅に出ておったよ。さすがに最近はそうもいかんが、それでもちょくちょくは
出かけておる。さっきお前さんに話したことも、出かけた先で聞きかじったことの寄せ集めじゃ」
「旅をする上で、気をつけておくべきことがありますか?」
「お前さん、旅をするのか?」
 博士は興味深そうな視線を送ってきたが、シークの返答を待つことなく、話を続けた。
「ハイラル平原の西の方へは、足を踏み入れぬがよい。ゲルド族の支配領域じゃからの。住民は
奴隷にされて、ずいぶん悲惨な目に遭わされておるらしい。下手をうてば、お前さんも同じ運命じゃぞ」
「ゲルド族はこのあたりへも?」
「いや、ここへはめったに姿を現さんな。以前、奴らが来て、この家をめちゃめちゃに荒らして
いったことがあったが、幸い、わしは留守にしておった。釣り堀の親父は、その時に殺されたんじゃ」
「東の方は、どういう状態でしょうか」
「魔界じゃよ」
 博士はぽつりと言った。
「このへんもそうじゃが、空が常に暗雲に覆われておるせいか、生物の分布が狂ってしもうてな。
ゲルド族の支配が厳しくない代わりに、昼も夜も魔物がうようよしておる。お前さんも、ここへ
来る途中で見たじゃろう」
 シークは黙って頷いた。
「慣れぬ人間にとっては、危険きわまりない相手じゃが、奴らの習性を知っておれば、大して
怖れる必要もない。わしが外へ出かけていけるのも、それを知っておるからじゃよ」
 ここまでの旅で自分がとった行動を思い出し、シークは博士の言葉に心で同意した。
 曇天が続く件は、荒野にいる頃から疑問だったが、博士は、科学的には説明できない、と言った
だけだった。
「で、どこへ行く? 別に答えんでもよいがの」
 飄々とした声で博士が訊いた。シークは率直に答えた。
「カカリコ村へ」
 西へ向かえないのなら、デスマウンテンを調べてみよう。噴火したとのことだが、手がかりは
あるかもしれない。
 インパのこともある。
 別れの前にインパはこう言った。「私は、この戦いで、命を全うできないだろう」と。
 カカリコ村が敗北した以上、インパが生きている可能性は限りなくゼロに近い。が、それでも……
かりそめにも「母」であった人の運命を、確かめないわけにはいかない。
「カカリコ村か……」
 博士が目を細め、またも懐かしみの色を顔に浮かべた。
「あそこの薬屋の婆さんとは昔なじみでの。わしもだいぶ前に訪ねたことがあるが……平和で、
住み心地のよさそうな村じゃったな……」
 自分の知らない頃の話だ、とシークは思った。
 僕がカカリコ村にいた頃は、すでに戦乱が目前に迫り、平和な雰囲気は失われていた。
「いまはどうなっているか、ご存じですか?」
「これも聞いた話でしかないが……」
 博士の顔が曇った。
「通商の中継地点となっておるため、ゲルド族に降伏したあとも、破壊されることはなかったと
いうことじゃ。じゃがそのせいで、密貿易に携わるうさんくさい連中が、我が物顔で村に出入りし、
風紀は悪くなっておるらしい」
 カカリコ村もまた、暗黒に染まってゆく、この世界の流れの外にはいられないのか。
 シークの心は重く沈んだ。
212-9 Ange III (7/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:09:52 ID:fIg+2JPz
 気が向けばまたいつでも来い、という博士の厚意を謝し、シークは旅を再開した。
 ハイリア湖からカカリコ村まで、ハイラル平原を横切ってゆく旅は、荒野で暮らしてきた
シークにとって、肉体的にはそれほどの苦労ではなかった。食料は自力で確保できたし、以前に
インパから貰ったルピーもとってあった。魔物の跳梁はあったが、多くの場合、回避は可能で、
戦闘は最小限にとどめることができた。
 しかし精神的には苦しかった。村々は荒廃し、人々は疲弊していた。シークは心を痛めながらも、
おのれの使命のことを思い、ひたすら先へと足を進めた。
 もう少しでカカリコ村、というあたりで、雲が一段と厚くなり、やがて空から雨粒が落ち始めた。
村に着いた時には土砂降りになっていた。
 真夜中に近い時刻で、家々のほとんどは寝静まっていた。戸外に人の気配はなかった。村の
現況について詳細を知ることは難しかった。
 シークはまず、以前、自分が暮らしていた、インパの家へ行ってみた。窓から灯りが漏れていた。
中をうかがうと、色黒の女が数人、退屈そうにたむろしていた。見たのは初めてだったが、
かつて聞いた話の記憶と合わせると、彼女らがゲルド族であることは明らかだった。シークは
そっとその場を離れた。
 激しい雨の中、周囲に注意を払って村の奥へと向かいながら、シークは考えた。
 ゲルド族は村に常駐しているようだが、人数は多くはない。緊迫感はなく、だらけているように
見えた。外にいても発見される危険性は低いだろう。が、これからどうするか。
 右手に空き地が見えた。その隅に板葺きの薪置き場があった。とりあえずそこで雨宿りしようと、
シークは空き地に入った。
 薪置き場の屋根の下にもぐりこもうとした時、すぐ近くにある、空き地に面した家の戸が、
いきなり開いた。シークはどきりとしてそちらを見た。戸口に人が立っていた。薪を取りに出て
きたところなのか。こちらの気配は絶っていたが、偶然のことで避けようがない遭遇だった。
「誰?」
 戸口の人物が鋭い声を発した。家の中からの光を背にしており、顔はよく見えない。だがその
声とシルエットから、女だとわかった。
 どうやってこの場を切り抜けよう──と緊張した瞬間。
 思い出した。
 そうだ。この空き地……いや、この庭……そしてこの家は……
 シークは緊張を解いた。数歩、戸口へと歩み寄った。顔が見えた。
 アンジュだ。間違いない。
 口元を覆った布を引き下げ、顔をあらわにする。警戒心に満ちたアンジュの表情が、はっと動いた。
「……ひょっとして……シーク?」
 二人はしばし無言で向かい合っていた。と、またアンジュの表情が動き、
「入りなさい。ずぶ濡れだわ」
 身体が戸口の片側に寄せられた。シークは黙ってその招きに応じた。
222-9 Ange III (8/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:10:40 ID:fIg+2JPz
 戸をくぐると、そこは台所と食堂を兼用する部屋だった。シークが中へ入ったところで、
アンジュは勝手口である戸を閉め、
「久しぶりね」
 と小さな声で言った。シークは改めてアンジュの顔を見た。
 三年ぶりの再会だった。が、その顔は、アンジュがそれ以上の時の流れを経ているかのような
印象を、シークに与えた。前のような生彩ある若々しさが薄れていた。かつてはほとんどして
いなかった化粧を、いまは濃いともいえるくらいにしているが、それは素顔を無理に隠そうとする
感じだった。実際の顔色はもっと悪いに違いない、とシークは思った。
 室内を見回す。貧しげで、古びた様子だった。夕食が終わってそのままなのだろう、一人分の
食器がテーブルの上に放置されていた。台所の流しに洗い物が溜まっていた。流しの下の床には
酒瓶が数本並んでいた。
 アンジュは一人で暮らしているらしい。三年前は家族と一緒だった。あの婚約者と結婚したの
でもないようだ。彼らはどうなったのか。
 シークはそれを推測できた。
「とにかく身体を拭きなさい」
 アンジュは隣にある別の部屋へとシークを案内した。
「服を脱いで。とりあえずこれで暖まるのよ」
 シークは軽く頭を下げ、手渡された毛布を受け取った。
「晩ご飯は?」
「すませた」
 アンジュの問いに、シークは短く答えた。それが初めて発した言葉だった。素っ気ない返事
だったが、アンジュは微笑むと、
「じゃあ、お茶を入れてくるわね」
 と言い、部屋を出ていった。
 シークは部屋の中を観察した。そこは寝室で、全体に華やいだ雰囲気が感じられた。ベッドは
清潔で、壁紙やカーテンの色調は明るかった。箪笥や棚の上には、ちょっとした装飾品が並べ
られていた。女性の寝室とはこういうものか、と、シークは胸の中で独り言ちたが、先ほどの
古びた部屋と釣り合わないのが不自然にも思われた。
 棚の上に奇妙な品があった。
 竪琴。
 本物の竪琴だ。他の装飾品と一緒に並んでいるのが奇異に思えるほど、それは不思議な存在感を
放っていた。
 アンジュが戻ってきた。手にした盆には、ポットと二人分のティーカップが載っていた。濡れた
格好のままでいるシークを見て、アンジュはあきれたような表情になり、やや強い調子で言った。
「どうしたの。風邪をひくわよ。さあ、早く服を脱いで」
 少しためらいがあったが、シークはその言葉に従った。
232-9 Ange III (9/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:11:46 ID:fIg+2JPz
 シークが頭に巻いた白い布を解き始めるのを見てから、アンジュは暖炉に歩み寄った。火を
おこしながら、記憶にある過去のシークと、いまここにいる現在のシークとを、感慨深く比較する。
 三年の間に大きくなった。だんまりなのは一向に変わっていないけど。
 薪に火がついたのを確かめて、アンジュはシークに視線を戻した。
 衝撃を受けた。
 三年という時間は、予想以上の成長をシークにもたらしていた。
 金髪が垂れかかる顔。鋭い目に象徴される、端正な面立ちは変わらない。が、いまは表情の
そこここに、かつてはなかった強さと厳しさが染みついていた。ぴったりと身についた服を着、
露光部を白い布で覆っているためか──そして曇り続きの天候のせいもあってか──ほとんど
日焼けはしておらず、限りなく白に近いその肌は、眩しささえ感じられるほどだった。体型は細く
しなやかであり、ただし適度に筋肉もつき、均整がとれていた。
 これまで多くの男の裸を見てきたアンジュだったが、これほど美しい裸体を見るのは初めてだった。
 子供という意識で気にもかけず、服を脱げと言った自分のうかつさ。しかしその結果は
アンジュを魅了した。
 もう子供ではない。さりとてまだ大人でもない。子供と大人の中間。思春期の少年。男を
ほころばせつつも、いまだ中性的な純粋さを──特にシークにはその色合いが濃いと感じられたが
──全身に残している。
『わたしったら、何を考えているの』
 大きく歳の離れた少年に対して──と、自らを戒める。
 が、印象はあまりにも強烈だった。大人の男からは決して得られない印象だった。これまで
自分が知らなかった、独特の魅力。
 いや……
 初めてではない。似たような感覚を、どこかで経験したことがある。
 何だったかしら……あれは……確か……
「ありがとう」
 アンジュは我に返った。シークが毛布を身にまとって立っていた。
 その言葉で追憶は心の隅に押しやられ、再びシークに注意がいった。アンジュは暖炉の近くの
椅子を勧め、シークはそれに腰を下ろした。
 濡れたシークの服を暖炉のそばに干しながら、アンジュの胸は、まだ波立っていた。シークに
どう話しかけたらいいかと、頭が乱れた。
 横目で見る。シークの視線は他へ向いていた。視線を追うと、棚の竪琴がシークの関心を惹いて
いるのだと知れた。
「ああ、それ……」
 話をするきっかけに飛びついてしまった。
「変わったものがあるでしょう。一晩の払いもできない客が、その代わりにって──」
 アンジュはあわてて言葉を切った。

 シークは気づかないふりをした。
 うすうす察していたことだった。
 アンジュの父親は大工、母親は薬屋だった。しかしアンジュ本人は、特に職業を持っては
いなかった。いまもこの家で、商売の対象になるような何らかの物品を、アンジュが扱っている
様子はない。
 手に職もない若い女が、たった一人で生きていくために、何をしなければならなかったか。
 アンジュの何に対して、客は金を払っているのか。
 シークにはそれがわかった。
 アンジュがやつれて見える理由、暮らしがすさんでいる理由、寝室だけが妙に華やいでいる
理由が、それだった。
242-9 Ange III (10/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:12:34 ID:fIg+2JPz
 アンジュは自分の失言を後悔した。
 知られてしまっただろうか。何も気づいていないような素振りだが、賢い子だから、悟られた
かもしれない。
 思い出す。
 カカリコ村がゲルド族との戦争に破れた時、アンジュは家族すべてと婚約者を殺され、ガノンドロフの
慰み者となった。いっさいの望みを絶たれ、ただ犯されるだけの日々だった。ガノンドロフが村を
去る時、アンジュは放っておかれた。命が助かっただけよかった、ともいえよう。だがその後の
生活が、それよりましだったといえるかどうか。
 村人たちの目に、アンジュはどう映ったか。
 密告で村の指導者を売った裏切り者の妹。
 敵の首領に身を任せた女。
 それらは決してアンジュの罪悪ではなかったし、むしろ同情されてしかるべきことであったのだが、
村人たちにとっては触れたくない、アンジュにとっては触れられたくない、しかし両者ともに
忘れることのできない、負の記憶でもあった。
 アンジュは孤立した。
 過去のしがらみを捨て、どこか他の土地で新たな生活ができるものなら、アンジュはそうして
いただろう。が、生まれてからずっとカカリコ村で暮らしてきたアンジュは、ここ以外の土地で
生きてゆくすべを持たなかった。簡単に旅ができる状況でもなかった。何よりも、アンジュに
そのような気力がなかった。
 その頃、村には、ゲルド族との通商を生業とする怪しげな商人たちが出入りし始めていた。
自分が儲けられるなら誰がハイラルの支配者であろうと問題ないと考える、禿鷹のような連中
だった。それに伴って、たちのよくない人間が増えてゆき、以前にはなかった酒場や賭博場が村に
できた。
 女は少なく、だが需要はあった。生きる目的もなく、しかし命を絶つほどの意志もなかった
アンジュは、生活の困窮に耐えられず、捨て鉢な気持ちで、その需要に応じたのだった。
 初めて客を取った時の屈辱と悲哀は、いまも忘れていない。結婚の約束をしていた、けれども
死んでしまった彼との、ほんとうの別れを感じたのも、その時だ。
 長い間、苦しみは続いた。
 でも、もう慣れた。心の通じ合わない相手に抱かれることが、それほど苦にはならなくなった。
所詮、他人の心などわからないのだ。他人に自分の心をわかってもらおうとも思わない。そう
割り切らなければ生きていけなかった。
 戦争で生き残った古くからの住人も、多くは村を去り、アンジュの過去を知らない人間が増えた。
そのこともアンジュを気楽にした。
 いまではこうして、つらい過去を振り返ることもできる。
 だが……
 シークに会ったことで、アンジュの心は動いた。
 自分の境遇を知られても別にかまわない、と開き直る一方で、シークには知られたくない、
という思いが湧くのを禁じ得ない。
 シークは稀有な存在だ。堕ちる前のわたしだけを知っている。以前のわたしを思い出させて
くれる。お茶を入れたのも、かつて村での戦闘訓練後に二人がもった、ティータイムの再現の
つもりだった。そうすることで、あの頃のわたしに戻れるような気がして……
 今晩、客は来ていない。その偶然を、アンジュはありがたいと思った。
252-9 Ange III (11/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:13:21 ID:fIg+2JPz
 アンジュの「商売」がわかっても、シークに格別の感慨はなかった。そうでもしなければ
生きられなかったのだろう、と、冷静に思うだけだった。
 言葉を切ったあと、アンジュは気まずそうに黙っていたが、やがて、何ごともなかったかの
ように笑顔を作り、別の椅子に腰かけてシークと向かい合った。
 二人は静かにお茶を味わった。
「前にもこうしてお茶を飲んだわね」
 アンジュが懐かしそうに言う。
「そうだね」
 ぽつりと答える。
 沈黙がわだかまる。
 シークはアンジュの顔を見た。
 何か言いたげだ。目が何かを訴えている。しかし……
 アンジュがどう思っているか知らないが、僕はアンジュに会いにきたわけじゃない。偶然の
出会いだ。会うまでアンジュのことは忘れていた。
 みずうみ博士は薬屋の婆さんを話題にしていた。アンジュの母親だ。それを聞いていながら、
僕はアンジュのことを思い浮かべもしなかった。カカリコ村に着いて、アンジュの家の前まで
来ても、そこがアンジュの家だと思い出せなかったくらいなのだ。
 なぜ僕はアンジュを、ここまで徹底的に意識から追い出していたのか。
 かつてのカカリコ村で、アンジュは僕に好意を示してくれる、数少ない人のうちの一人だった。
アンジュとのティータイムは、僕にとって日々の安らぎだった。
 そのティータイムの再現ともいえるひとときなのに、いまの僕の、この冷静さは、いったい
どうしたことだろう。
 冷静?
 むしろ冷淡なのだろうか、僕は。アンジュに対して。
262-9 Ange III (12/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:14:31 ID:fIg+2JPz
 シークが寡黙であること自体を、アンジュは不思議とは思わなかった。前からそうだった。だが、
いまのシークからは、それにとどまらないシークの感情が──いや、感情のなさが、というべきか
──うかがわれるように思われた。
「いままで、どうしていたの?」
 会話を欲して、アンジュは問いかけた。問いかけてから、簡単に答えられるような問いでは
なかった、と思いついた。
 開戦前にカカリコ村を去ったシーク。理由は知らない。インパは何も説明しなかった。よほどの
事情があったのだろうと推測するだけだ。そのよほどの事情を、シークが語ろうとするだろうか。
 案の定、シークは黙ったままだった。
 いたたまれない気持ちになった時、シークが口を開いた。
「インパの……母さんのことを、アンジュは何か知っている?」
 こちらの問いへの答ではなかった。それでも初めてシークから会話を求めてきたのだ。ほっとした。
が、今度はこちらの方が、簡単には答えられない問いを受けてしまった。
「……戦争で亡くなったわ」
 それだけ答えた。
 インパが、ガノンドロフにどんな陵辱を受けたか。どんな最期を迎えたか。その場にいたわたしは
知っている。でも、そこまでシークに話すことは、到底できない。自分自身、思い出したくもない
ことなのだ。夢に見て飛び起きた経験も、一度や二度ではない。
 シークがため息をつく。けれども驚いてはいない。インパの死を予想していたのだろうか。
だとしても、どうしてここまで落ち着いていられるのだろう。
 ややあって、シークは別のことを訊いてきた。
「デスマウンテンに、神殿があるかな」
 話題の転換にとまどったが、アンジュは素直に返事をした。
「さあ……知らないわ。ゴロン族なら知っていたでしょうけど、噴火で滅びてしまったし……」
「デスマウンテンに登れるだろうか」
「とても無理よ。噴火が続いていて、近づけないわ」
 シークは沈黙に戻った。
 会話の途切れが残念だった。が……
「……神殿……」
 以前にその言葉を聞いたような気がする。いつ? どこで?
「何か?」
 シークがいぶかしげに眉を寄せる。答えたい。答えてあげたい。なのに……なのに……思い
出せない……
「いいえ……別に……」
 そう言うしかない。だけど、もっと会話を続けたい。
「シークはどうして神殿のことを?」
 間を置いて、シークは答える。
「事情があって、各地の神殿を訪ねているんだ」
 続きを待つ。待つ。
 続かない。その事情を、シークは語ろうとはしない。
「そう……」
 再び会話が途切れる。
 やっぱりだんまりなのね。
 シークは礼儀正しかった。でも、心は開かない。それはいまも同じ。何を考えているのか
わからない。シークの心がわからない。神殿に関心はあっても、わたしのことには何の関心も
ないかのように。それが哀しい。わたしが触れ合いを求めているのに。
 アンジュは自分自身に驚いた。
 他人の心などわからない。他人に自分の心をわかってもらおうとも思わない。
 そのはずではなかったか。
272-9 Ange III (13/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:21:18 ID:fIg+2JPz
 アンジュの問いには答えられない。アンジュの思いには応えられない。
 僕は自分を表に出さない性格だ。特にいまは、使命のことを思うと、なおさら自分を抑えなければ、
と思う。
 しかしそれだけでは説明できない。僕のアンジュへの、この抑制されすぎた感情。
 理由は?
 胸をちくりと刺す痛み。みずうみ博士からルト姫のことを聞いた時と同じ痛みを、いま僕は
感じている。
 その時、記憶が立ちのぼった。
 リンクとアンジュの間に何があったのか。
 それだ。
 以前、村にいた時、アンジュが僕にリンクの話をしていて、追憶にふけりながら、自分の胸を
触ったこと。それだけのことが、あの時の僕には大きな問題だった。
『リンクはアンジュに何をした? リンクはアンジュのことをどう思っていた?』
 いまは、かつてのように混乱することはない。自分を抑えることができる。が、その……
心配……疑惑……そこに火種が残っていることを否定できない。
 僕は男なのだから、アンジュを妬んでいるわけではない。ないはずなのに……

 自嘲をこめて省みる。
 わたしはシークに何を期待しているのだろう。
 わからなくてもいい。わかってもらえなくてもいい。ただわたしが、シークを通じて、あの頃の
わたしを取り戻せるのなら。たとえそれが一時のことに過ぎないとしても。
 さっき目にした、シークの裸身。
 身体の奥に、妖しい衝動が湧き起こる。
 触れ合おう。触れ合おう。この美しい少年と。あの美しかった日々を思って。いまのわたしを
忘れて。汚れた経験ばかりを重ねてきたわたしを忘れて。

 いや、やはりないはずだ。あってはならないことなのだ。
 僕は男なのだ。アンジュへのこだわりを乗り越えるためには、インパと交わった時のように、
アンジュに対して男になって……

「もう遅いわ」
 アンジュは言い、立ち上がる。
 ベッドの枕元にある小さなテーブル。そこに置かれた蝋燭に、アンジュは火を灯す。
「泊まっていくでしょ?」
 部屋の灯りを、アンジュは消す。暖炉と蝋燭の光だけが、二人をほのかに照らし出す。
 雨の音が強くなる。
28名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 23:21:20 ID:baMurjTo
さる規制?
292-9 Ange III (14/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:23:28 ID:fIg+2JPz
 アンジュはベッドの脇に立ち、暖炉に背を向ける。唾をごくりと呑みこんで、服の前ボタンを
はずしていく。はずし終わって、袖から腕を抜き、脱いだ服をベッドの端にかける。
 スカートに手をつけようとして、気が変わり、先に肩から下着の紐を落とす。上半身が裸になる。
 両手で胸を覆い、首を後ろに向ける。暖炉の横で、椅子にすわったシークが、こちらを見つめて
いる。ふり返り、身体の正面をシークに向ける。
 ゆっくりと、両手を下ろす。
 この感じ。胸だけをあらわにして、男に見せる、この感じ。
 これまでも、時にはしてきたこと。でも、いまの感じは、ちょっと違う。
 シークには……男の子には……こうする方が、いいような気がして。
 なぜ?
 初めてではない。再びその思いが……心の底に沈んでいた、その記憶が……
 シークが立ち上がる。その行動で、アンジュの意識はシークに向く。続けてシークが、身体に
巻いていた毛布を床に落とす。
 全裸のシークがそこにあった。
 暖炉の炎を受け、白い肌の上に影が揺らめく。たとえようもなく清らかで、そして、艶やかで。
中性的な全身の中で、ただ股間の屹立が、はっきりと男を主張している。
 ──なんて……きれいなの……
 アンジュの身体はぞくりと震える。心の底の記憶のことは、もうどうでもいい。
 スカートに手をかける。床へと落とす。下着を脱ぐ。一連の動作が性急になっている。
 少しの距離を隔てて、全裸の二人が向かい合う。
 アンジュはシークのすべてを見る。シークはアンジュのすべてを見る。
 シークが歩み寄る。目の前に立つ。頭の先が、こちらの鼻の位置くらい。まだ低い。まだ小さい。
 両手をシークの肩に置く。なめらかな肌触り。大人の男にはあり得ない、その感触を深く味わう
前に、シークの両手が脇に触れる。ぴくっと身体が揺れてしまう。ちょっと冷たくて。だけど
それが快くて。
 シークが顔を寄せてくる。アンジュは顔を横に向ける。不自然にならないよう、そのまま身体を
離し、ベッドに向かう。
 ──キスは、だめ。
 生きるために抱かれた男たちにも、キスだけはさせなかった。あれを口に含んでも、唇と唇を
合わせることだけはしなかった。わたしの唇を知っている唇は、かつての彼の唇だけ。操を立てる
というほど大げさなものじゃない。けれどそれが、あの日々への、わたしの思いの象徴なの。
 ──その代わり、他のことを教えてあげる。
 アンジュはベッドに入る。布団を持ち上げ、シークを誘う。シークがそこにすべりこむやいなや、
その身体をすっぽりと腕で包む。
 撫でる。撫でまわす。背を。腰を。尻を。
 すべすべとした、柔らかい、その肌。ほんとうに、ほんとうに、心地よい。
 シークがまた、顔を寄せてくる。
 ──だめよ。
 頭を押さえて、胸に埋める。と……
 シークの唇が乳房に触れる。それが生き物のように蠢いて、徐々に先端へと移動してゆく。
「あ……」
 吸われる。乳首を。唇だけではなく、舌と、歯をも駆使して。
 ──どうして……
 反対の胸に手がかかる。手のひらが、指が、乳房の上を泳ぐ。
「……は……あ……」
 口と手が交代する。両の乳房をなぶられる。なぶられる。静かに。しなやかに。巧みに。そう、
巧みに!
 ──この子……まさか……
 乳房に口と片手を残したまま、残った手が下へと降りてゆく。胸骨の上。鳩尾。臍。
 手が恥丘にかかる。指が恥毛を梳る。さらに手は少しずつ……下へと……下へと……
302-9 Ange III (15/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:24:29 ID:fIg+2JPz
「あッ!」
 ──来た!
 服を脱ぐ時には、もう濡れていた。いまはもう、あふれかえっている。自分でもわかる。そこを、
その場所を、シークの指がさまよう。いいえ、そうじゃない。目的を持って動いている。的確に。
確実に。シークは知っている。どこがどうなっているのか、どこをどうすればいいのか、シークは
知っている!
「……あ!……う!……あぁ!……」
 ──教えるつもりでいたのに。
 日常の男たちは、こんな悠長なことはしない。あわただしく自分の欲求を満たすだけ。こんなに
優しく触れられるのは、彼との営み以来、なかったこと。いま、シークは、彼のように……いいえ、
彼よりも、もっと、上手かも……
 ──このままだと……このままだと……
 身を離す。乱暴ともいえる動きで、シークを仰向けにする。身体を下にずらし、シークの
下半身に顔を近づける。
 ぴんと立ち上がったシークの分身。握ると、手に隠れてしまいそうになる。まだ小さい。まだ
熟さない。でも、それは、硬く、硬く、男を言い立てている。根元には、わずかな短い毛の群生。
 握った手を上下させる。優しく。ゆっくりと。先端が見える。濡れている。小さな口から、
透明な粘液が、こんこんと湧き出している。
 それをそっと舌で掬うと、
「うッ……」
 シークが呻く。さらに唇をつけると、
「あ……あ……」
 シークが喘ぐ。すっぽりと口に含むと、
「お! ああッ!」
 シークが叫ぶ。
 ──まだこれは知らなかったのね。
 アンジュは技巧を尽くしてシークを攻めた。一気に達しないよう加減しながら、シークを弄んだ。
シークは身体を硬くして、アンジュの攻めに耐えていた。もう少しというところで、アンジュは
口を離し、顔を上げた。
 ──もう、いいわ。
 身体を上へとずらし、シークと向き合う──つもりだった。ところが今度はシークの方が下へと
移動し、アンジュを仰向けにすると、いきなり股間に顔を押しつけてきた。
「きゃあッ!!」
 ほとばしる叫び。
 シークの唇が、舌が、鼻が、顎が、動く。動く。動く。荒々しく。と思うと、忍びやかに。
 ──すごい! すごい! どうして、こんなに……
 そうだ。いまさっき、わたしがシークにやったこと。それをシークは覚えて、理解して、私に
返してくれている!
 これは、彼にされてから、一度もされていない。拒んだわけじゃない。汚れた女の汚れた場所に
口づけようとする、物好きな男がいなかっただけ。
 この姿。女の部分に男の口を迎えるこの姿。これこそが、これこそが、あの頃のわたしの姿なの!
「ああぁぁん!……そうよ!……わたし……」
 腰が揺れ、震え、ざわめき、踊り、
「はぁッ!……そうなのぉぉ……あぁあ……もっと……」
 シーツの上で、のたうちまわる。
「もっとぉ……あぁん!……わたしを……はああぁぁぁッ!」
 両脚を頭に巻きつけ、
「わたしに……うあぁッ!……して……して!……してぇッ!!」
 ぐいぐいと顔に押しつける。
 ──いく! もうだめ! いきそう! いくわ!
312-9 Ange III (16/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:25:50 ID:fIg+2JPz
 シークの顔が離れた。
 ──続けて!
 と思う間もなく、シークがのしかかってきた。違うものがそこに触れた。押しつけられた。
割りこんだ。入ってきた。
「あッあッあああぁぁーーーぁぁッッ!!!」
 ──いった! いったわ!
 ──わたしに戻ったわたしがいったんだわ!
 余韻は続かなかった。さらなる絶頂が、次から次へとアンジュを襲った。中に収まるものは
さすがに小さめだったが、何の差し支えもなかった。
 初めのうち、シークの動きは穏やかだった。それでもアンジュは叫びをあげて随喜した。動きが
早くなるにつれて喜悦はますます高まり、アンジュは我を忘れて悶え狂った。
 中心を絶え間なく突かれながら、両胸がまた、手と舌の愛撫を受けている。
 のけぞり、頭を揺らし、なすすべもなく、アンジュは乱れる。
 何度いったかわからない。
 ぎゅっと閉じていた目を、かすかに開く。
 わたしの上で、躍動する人影。
 両腕でぐっと引き寄せる。
 わたしの顔より下にある顔。きれいなシーク。美しいシーク。まだ小さいシーク。まだ大人に
なっていないシーク。でも……でも……わたしを見る、その目は……
 男の目。女を知っている男の目。
「来てッ!」
 腰を動かす。シークの攻めに合わせて。
「あうぅッ!……突いてッ!……あぁんッ!……もっとッ!……」
 ──何も気にせず、何も考えず、男に抱かれる幸せ。
「はぁんッ!……いいッ!……とてもッ!……いいッ!……」
 ──あの頃のように。彼に抱かれた、あの頃のように。
「そうッ!……そうよッ!……ああッ!……すごいッ!……」
 ──彼はいない。もういない。でも、いま、わたしの、わたしの上には……
「シークッ!……来てぇッ!……もっとぉッ!……してぇッ!……」
 ──そう、シーク! わたしを知っているシーク!
「あぁんッ!……いいわッ!……シークッ!……シークぅッ!」
 ──シークとなら! シークとなら! あの頃のわたしを知っているシークとなら!
「キスしてッ!……シークぅッ!……キスしてえぇッッ!!」

 シークの顔が迫る。待ちきれずアンジュは顔を上げる。ぶつかる唇と唇。歯と歯。舌と舌。
 その瞬間。
 至福の時が訪れた。アンジュに。
 同時に。
 男の部分が痙攣した。シークの。
 強く、強く、抱き合う二人。
 そこに、やがて、静謐の幕が下りた。
 
322-9 Ange III (17/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:26:47 ID:fIg+2JPz
 時が過ぎた。
 二人はベッドに横たわっていた。
 アンジュはシークの肩に腕を回し、シークの顔はアンジュの胸に触れていた。体毛の薄い、
どこまでもなめらかな肌を味わいながら、アンジュはその肌の主のことを考えていた。
 達しはしたが、射精はなかった。
 やっぱりまだ子供なのか。恥毛が生えてくる歳なら、あってもおかしくはないのに。
 でも、そんな子供に、わたしは熱狂してしまったのだ。シークに経験があるのは間違いないと
しても、それよりずっと経験豊富なはずのわたしが。彼しか触れていなかった唇までも許して。
 全身が火照った。しかしそれはなぜか、この上もなく快い火照りだった。
 シークはどこで知ったのだろう。
 記憶に残っていた。
 兄が暴露した、インパとシークとの関係。あれが真実なのかどうか、わたしは疑っていたの
だけど……
「シーク……」
 腕の中の少年に、そっと呼びかける。端正な顔が、こちらを向く。中が見えない、冷静な表情。
 こんなことを訊いてはいけないとわかってはいたが、その冷静さを崩してやりたいという誘惑を、
アンジュは抑えられなかった。自分を激しく乱れさせた年若い男への仕返しでもあった。
「シークは、お母さんと寝たの?」
 シークの目が見開かれた。
 そこにあるのは……驚き? 動揺? それとも……
 しばし無言を保ったあと、シークはアンジュに目を向けたまま、静かな声で言った。
「僕は、やましいことは、何もしていないよ」
 どういう意味だろう。
 関係などなかったということか。それとも、ほんとうに母親と関係していて、開き直って
いるのか。あるいは──さっきシークは母親のことを「インパ」と言いかけた──インパは実は、
シークの母親ではなく……
『どうだっていいわ』
 暖かいものが胸を満たした。悪趣味な質問をしたことを悔いた。
 シークはおのれを恥じてはいない。
 見開かれたシークの目。そこに秘められた真摯な感情。それはあの頃と変わっていない。そう、
シークは変わってはいない。
 そんなシークを抱き、そんなシークに抱かれ、わたしは素直に自分をさらけ出すことができたのだ。
 嬉しかった。
332-9 Ange III (18/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:27:52 ID:fIg+2JPz
 目的は果たした。
 インパ以来の、まだ二度目の体験だったが、アンジュに対してしっかりと男になれた。そして、
アンジュへのこだわりを乗り越えたと自覚できる。
 だが……
 乗り越えてみて、初めて見えてくるものがある。
 アンジュはなぜ僕を求めてきたのか。何かを訴えていたアンジュの目。何を訴えていたのか。
 いまはそれがわかるような気がする。
 そんなアンジュに、僕はなんと独善的な行動を取ってしまったことか。
 その時、
「シーク……」
 アンジュに呼びかけられ、インパとのことを訊かれた。
「シークは、お母さんと寝たの?」
 どうしてそのことを知っているのだろう、と、疑問に思ったが……
 偽りのない返事をした。すべてを語るわけにはいかなかったが、アンジュは納得したようだった。
 しばらくして、シークはアンジュに問いかけた。
「母さんの墓はあるだろうか」
「ええ」
 夢見るような声で、アンジュは答えた。
「村の墓地にあるわ」
 ゲルド族はインパの遺体を放擲したが、ゲルド族の主力が去ったあと、残った駐留部隊の目を
盗んで、心ある村人たちが、ひそかに遺体を墓地に埋葬したのだ、とアンジュは語った。
「埋葬する作業がたいへんだったわ。ゲルド族に見つからないようにしなければならなかったし、
ダンペイさんも戦争で死んでいたから」
 シークはダンペイという墓守のことを覚えていた。村の墓地で戦闘訓練を受けていた時に、その
姿を見たことがあった。
「あの人とは、あまり話もしなかったけど、いつか……あ……」
 アンジュの言葉が途切れた。目が空中に止まり、口が半開きになっていた。シークはいぶかしく
思いながらも、言葉の続きを待った。
「思い出したわ。神殿のこと」
「神殿?」
 驚いて問い返す。
「ダンペイさんが言ってたのよ。カカリコ村に神殿があるって」
「どこに?」
「わからないわ。自分しか知らない所だって言ってた」
 どこだろう。ダンペイしか知らない場所。墓地? 墓地なのか?
 屍の館!
「では、賢者は……」
 思わず声に出してしまう。
「賢者?」
 アンジュの声。奇妙な響き。
「そう、神殿には賢者が関わっていて……アンジュ?」
 様子がおかしい。
「賢者……賢者……『闇の賢者』?」
「何だって? 賢者のことを知っているの?」
「ええ……覚えがあるわ……確か……そう、ゲルド族の誰かが……インパ様のことを『闇の賢者』
だって」
342-9 Ange III (19/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:28:47 ID:fIg+2JPz
 ばっと身を起こした。興奮のために、そうせずにはいられなかった。それだけでは足らず、
シークはベッドを出て、寝室の中をせかせかと歩き回った。
 何という皮肉。賢者を捜せと言った、そのインパ本人が賢者だったと?
「どうしたの?」
 はっとして立ち止まる。アンジュが上半身を起こし、唖然とした顔をしている。
「いや……」
 場所の見当が全くつかなかった神殿──賢者の名からすると、闇の神殿というべきか──その
場所がおおよそわかった。それはいい。しかし……
 頭から血が引いてゆく。
『水の賢者』については、まだかすかに望みがあった。ところが『闇の賢者』──インパの場合は
……もう全く望みはない。
 膝が崩れ落ちそうになり、シークはやっと踏みとどまった。
 すべてが終わったわけではない。僕の使命がなくなってしまったわけではない。
 シークは耐えた。目を閉じ、長い時間をかけて、激動する思いを抑えていった。
 やがて心は静まった。が、それは果てしなく重い状態での静止だった。
「大丈夫?」
 またアンジュが言った。気遣わしげな声だった。
「気にしないでくれ」
 言った直後に、しまったと思った。いかにも邪険な台詞に聞こえただろう。
 アンジュは僕を心配してくれている。それに、いかに悪い知らせとはいえ、アンジュのおかげで
新しい情報が得られたのだ。
 アンジュに感謝しなければ。
 ふと、棚の上の竪琴が目に入った。それが気になった。自分にとって重要なものだという、
不思議な感覚。
 棚に歩み寄り、竪琴を手に取る。
「弾けるの?」
 アンジュが問う。
 弾けるはずもない。だが……弾けないはずの僕の手が、竪琴を自然に構えている。僕の身体に
しっくりと馴染んで。
 しばらくシークは、そのままの体勢でいた。
 そのうち、ひとりでに指が動き、あるメロディを奏で始める。
 この曲は? 知らない。知らないはずなのに、なぜか懐かしいような……
「きれいな曲ね」
 アンジュが呟く。
「何ていう曲?」
 知らない、と、答えようとした口が、勝手な言葉を紡ぎ出す。
「子守歌」
 それだけじゃない。『誰か』の子守歌。
 けれども、それ以上は、思い出せない……
「そう……」
 アンジュがまた、横になる。
「……聴いていると……心が……安らぐわ……」
 声が、小さくなる。
 やがてアンジュが寝息をたて始めるのが聞こえ、シークは竪琴の弦を弾く指の動きを止めた。
おのれの口元が緩み、自然に微笑みがこぼれるのを、シークは自覚した。
 ほんとうに子守歌だ。
 シークもまた、その曲に癒されていた。自分でも忘れていた自分自身を、思い出させてくれる
ような気がした。すべてがあるべき所に収まっているという感覚は、しっかりと保たれたまま。
 くじけまい。
 リンク、君の勇気を僕に……
 そしてアンジュ。
 リンクとの関係を抜きにして、いまはアンジュをアンジュとして見ることができる。
 竪琴を棚に戻し、シークはベッドに入った。眠るアンジュの傍らに身を横たえ、頬に接吻した。
そして自分も眠りについた。
352-9 Ange III (20/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:29:46 ID:fIg+2JPz
 翌日には現実が待っていた。
 シークはデスマウンテンへ向かうことにした。アンジュは危険だとは言ったものの、シークの
意志が固いのを察してか、それ以上、強く引き止めようとはしなかった。村にいるゲルド族の
動向が気になったが、日中でも戸外に彼女らの姿は見えなかった。最近は平穏で見回りもろくに
していない、とアンジュは教えてくれた。シークは容易に登山道へ出ることができた。
 雨は上がっていたが、そこからの行程は困難を極めた。道はないに等しく、たちこめる火山灰で
視界はきかなかった。進むにつれ、不気味な炎の帯に取り巻かれた山頂から、次々に火山弾が
飛来した。ついには熔岩の海に行く手を阻まれ、どうにもならなくなった。神殿など影も形も
なかった。やむなくシークは山を下った。
 カカリコ村へ戻ったのは、日が暮れる頃だった。勝手口からアンジュの家に入ると、台所にいた
アンジュは、寝室の方をちらりと見ながら、言いにくそうに、二、三時間、はずしてくれないか、
と頼んできた。シークは黙って頷き、再び外に出た。
 曇った空はすでに暗く、あたりを舞う火山灰が、暗さをいっそう際だたせていた。生ぬるい風が、
人影もない村の中を吹き過ぎていた。酒場とおぼしき一軒の家から、享楽的な馬鹿騒ぎの声が
聞こえてきたが、それがかえって村の荒れた雰囲気を強調しているように思われた。
 シークは墓地を訪れた。アンジュから聞いていた場所に足を向け、それほどの困難もなく、
インパの墓を見つけた。墓標は小さく質素で、村を率いて戦った指導者の墓にしては、何とも
寂しいものに感じられた。が、ゲルド族の目を避けるため、意識的にそう作られたのかもしれない、
と思い直した。
 シークはそこに立ちつくし、かつてのインパの姿を脳裏に浮かべていた。
 南の荒野で僕を救ってくれたインパ。僕に使命を教えてくれたインパ。僕の前で女になり、僕を
男として旅立たせてくれたインパ。
『あなたが賢者だったとは……』
 それがわかっていたら、どれほど使命の遂行は容易になっただろう。
 だが、これも運命なのだ。
『そういえば……』
 墓地にあると思われる、闇の神殿。それはいったいどこに……
 周囲を見回しかけたが、すぐに心は沈んだ。
 もう遅い。『闇の賢者』は死んでしまったのだ。神殿を見つけられたとしても、もはや意味はない。
 いや、それでも──と、シークは思う。
 気がついていたことが一つある。
『闇の賢者』はシーカー族のインパ。そして『水の賢者』はゾーラ族ではないかと思われる。
その他は……
 高き山。それがデスマウンテンなら、関係するのはゴロン族。
 砂の女神。『幻影の砂漠』に関わるのは──敵ではあるが──ゲルド族。
 ハイラルの外郭に住む各部族の中に、一人ずつ賢者がいる。
 ということは、残る一つの神殿、深き森とは……
 コキリの森。賢者はコキリ族。
 インパはすでに亡い。ゾーラ族とゴロン族は滅びてしまった。ゲルド族との接触は困難だろう。
 望みは乏しい。しかし、かすかにでも望みが残っているのなら、それに賭けるしかない。
『コキリの森を訪ねてみよう』
 シークは重い心を励ました。
362-9 Ange III (21/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:30:31 ID:fIg+2JPz
 三時間待ち、さらに一時間ほど待って、シークはアンジュの家に戻った。寝室の窓に寄り、
人の気配がないのを確かめてから、庭にまわって勝手口をあけた。
 椅子にすわり、テーブルに突っ伏していたアンジュが、顔を上げた。
「……ごめんなさいね」
 疲れた声だった。
「晩ご飯は?」
「すませた」
 昨晩と同じ会話だな、とシークは思った。が、そこから先は同じではなかった。
 アンジュが言った。
「今夜も泊まる?」
 控えめな言い方だった。昨晩に比べて、熱意が低いように思われた。
 僕がここにいると、アンジュの「商売」の邪魔になる。いかに卑しい「商売」であっても、
アンジュはそれで食べていかなければならないのだ。それをやめろ、とは、僕には言えない。
言う資格がない。いまの僕では、アンジュを救うことはできない。
 それに、僕には……使命がある……
「いや……」
 シークは言う。
「もう行くよ」
 アンジュは目を伏せる。間を置いて、ぽつりと言う。
「そう……」
372-9 Ange III (22/22) ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:31:37 ID:fIg+2JPz
 夕方、わたしが、はずしてくれ、と言った時、シークの顔に疑問の色はなかった。シークは
悟っていたのだ。わたしがどうやって生計を立てているのかを。
 不潔な女だと思われているだろう。
 だから、いまも強くは誘えなかった。ましてや客に抱かれたすぐあとでは、断られてもしかたがない。
 やっぱり、あの幸せは、一夜限りの夢だったんだわ……
 いや、それでも──と、アンジュは思う。
 シークは何も語らない。けれども、神殿をめぐる話から、察せられる。
 シークには何かの使命がある。まるで大きな重荷を背負っているかのように、しかし目には
未来を見つめる確かな意志をみなぎらせて。そう、それは三年前となんら変わることのない、
シークの進むべき道なのだ。
 何かできないだろうか、シークのために。
「要るものはある? お金は? 食べ物は?」
 急きこんで訊く。
 シークは首を横に振る。
 何もできないの?
「よかったら……」
 シークが言い出す。
「あの竪琴を貰えるだろうか」
 不思議に思ったが、
「ええ、いいわ。わたしが持っていても、役には立たないから」
 アンジュは寝室から竪琴を持ち出した。シークはそれを受け取り、簡潔に礼を言った。
 沈黙が落ちる。
 シークが何ごとか言いたそうに表情を動かした。が、その表情はすぐに元へと戻り、少しの間を
はさんで、短い言葉が口から出た。
「さようなら」
 アンジュもまた、短く応じた。
「さようなら」
 シークは、なおもアンジュに目を向けていた。鋭いはずのその目に、優しく哀しい色がひそんで
いるように思えた。だがそれは束の間のことで、シークはついと背を向けると、勝手口から外へ
出ていった。
 アンジュはひとり残された。
 ゆっくりと椅子に身を沈め、この一日のことを考える。
 わたしはシークを求めた。けれどシークを求めながら、わたしは実は、シークに投影された、
過去の自分を求めていた。シークのために何かできないか、という願いも、変わらないシークを
支えることで、昨夜に続いてもう一度、あの頃のわたしに戻れるのではないかと思ったから……
 では、シークはわたしに何を求めていたのだろう。そもそも、何かを求めていたのだろうか。
 アンジュは首を振る。
 二人の思いは、ずっとすれ違っていたような気がする。
 それもしかたがないだろう。あまりにも生きる道が異なっている二人だから。
 でも……
 竪琴。
 あれがシークの役に立つのなら……あれが二人の絆といえるのなら……
『また会うことも……あるかもしれない……』
 涙がひと筋、アンジュの頬を伝って落ちた。
 悲しいせいなのか、嬉しいせいなのか、それはアンジュ自身にもわからなかった。


To be continued.
38 ◆JmQ19ALdig :2007/04/30(月) 23:32:12 ID:fIg+2JPz
以上です。一人で二人分(とも言い難いが)なので、シークの描写はたいへんだ。
次回、シークの遍歴が続きます。
39名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 23:42:27 ID:WHuTqJeq
>>38
GJ!
途中からリアタイで読ませてもらいました,
あいかわらずクオリティ高いですな
40名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 01:23:33 ID:sD4RD1Dg
>>38GJ
さて、シークの旅はどうなるのだろうか?

ガノンに見つかって掘られたりしないといいなぁ。
41名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 19:10:09 ID:lU6WOmUG
>>38
GJ!
シークの中に垣間見せるゼルダの感情、よく伝わってきたよ
賢者について分かるシーンは、内容知ってる筈なのに一緒に興奮してしまったw
次も楽しみにしてます
42名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 19:27:39 ID:DUuzFBdw
うp乙
長いからこっちにうpしたのか
43名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 21:00:41 ID:E6k3kAY/
アンジュさんの名前見て
ムジュラのカーフェイ&アンジュを読みたくなった……
44名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 01:26:47 ID:wXWHRKZg
GJJ 心が痛まなくていいなwオレはこういう展開の方が好きだ
45名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 10:37:51 ID:zlSyAAPX
GJ!
こっちのスレに投下されてたのか
46名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 12:57:42 ID:ltK+Uef+
もう前スレは5kbしか書き込めないからな
47名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 17:26:51 ID:l4MeLBo8
GJ!いつもクオリティ高くて脱帽です
48名無しさん@ピンキー:2007/05/03(木) 22:33:34 ID:uLjYDsee
遅ればせながらいつもいつもレベル高い作品で尊敬です
本当に続きが気になる展開です
49名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 15:34:40 ID:RHwamaSF
今でちょうど半分くらい?
とすれば、今年いっぱいくらいはかるのか…
すごいな、正に大河
50名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 16:51:34 ID:Rqrqm0Lc
なんかここまで状況が絶望的だとリンクが世紀末救世主の如くマッチョな体型で復活しそうだなw
51名無しさん@ピンキー :2007/05/05(土) 01:25:20 ID:jVE5qT36
胸に北斗のキズを刻んだリンクか
52名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 15:42:32 ID:xzftSgxo
GJ!釣り堀のおっちゃんww
53名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 10:49:36 ID:KU8YCvse
あれは敵わんな、しかし
54名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 16:58:28 ID:P6SsM1k2
>>50-51
マスターソード無しで素手でガノンと殴り合っていそうだw
55名無しさん@ピンキー:2007/05/08(火) 09:23:04 ID:OYGyZTlx
>>54
ガノン「ひでぶっ!」
56名無しさん@ピンキー:2007/05/11(金) 11:52:06 ID:XlCamWML
保守ついでに絵でも投下しようと思ったけどスレ違いだよね
57名無しさん@ピンキー:2007/05/11(金) 12:41:48 ID:Phn6APPG
>>56
少なくとも俺は見たい
58名無しさん@ピンキー:2007/05/11(金) 12:49:21 ID:Phn6APPG
まとめ完了したっぽい
59名無しさん@ピンキー:2007/05/11(金) 14:52:54 ID:NL+eZxk8
>>56
うちも見たい!
だから…是非お願いします!
60 ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:30:08 ID:0WpeZidY
私本・時のオカリナ/第二部/第十章/ゲルドの『副官』編、投下します。
シーク×『副官』。基本的に和姦。
『副官』は前々回に出したナボールの妹分。名無しのゲルド女の代表ということで。
大人時代のゲルドの砦にいる親分格のゲルド女、という設定ですが、実質オリキャラです。
612-10 Gerudo Woman (1/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:30:58 ID:0WpeZidY
 カカリコ村を発ったシークは、ハイラル平原の東端をたどり、南へと向かった。
 空は相変わらず暗雲に埋めつくされ、地には枯れた草木が目についた。魔物もひっきりなしに
出現した。もう慣れていたので、倒すのも避けるのも容易だったが、気が滅入る旅ではあった。
みずうみ博士は天候の件を科学的に説明できないと言ったが、魔物の跳梁とも併せ、それらが
ガノンドロフの魔力の影響であることは確かだと思われた。
 途中で道を変え、ゾーラ川を遡ってみた。行程は険しかったが、川の水量は乏しく、進むのは
特に困難ではなかった。だが最上流にある滝は凍りつき、ゾーラの里に入ることは不可能だった。
ゾーラ族は滅びたという、みずうみ博士の言葉が、深く実感された。
 平原へ戻り、シークはさらに南へと歩みを進めた。
 数日後、異様なものがシークの目に入ってきた。
 広大な焼け跡だった。黒く焼け焦げた無数の木々が、倒れ、傾ぎ、あるいはわずかに立ち残る、
壊滅的な風景が、無限とも思われる範囲で広がっていた。生命の兆候は全くなく、雑草すら生えて
いなかった。
 かつて森であった絶望の地へと足を踏み入れ、数日の探索ののち、シークは人が住んでいた
形跡のある場所を発見した。火はそこをも焼きつくしていたが、自然の樹木とは異なる人工の
建築物の残骸らしきものが、かすかに残っていたのだ。とはいえ、人が生き残っている可能性は
皆無だった。
 さほど離れていない場所で、神殿が見つかった。神殿そのものを目にするのは、賢者を捜す旅に
出て以来、初めてのことだった。が、荒廃しきった土地の中で、石造りのため焼け落ちることも
なく、ぽつんと孤独な姿をさらすその建物は、いまはただの廃墟としか見えなかった。

 神殿の前を離れ、しばらく行ったところで、激しい疲労を覚えたシークは、地面に腰を下ろした。
 リンクがコキリの森に住んでいたことは、インパから聞いていた。賢者の捜索という本来の
目的に加えて、コキリの森を訪れることに、シークはある感慨を持っていた。まだ見ぬリンクの
過去に触れることができる、というその感慨は、しかし、森の悲惨な実情をみることで、賢者への
期待とともに、すでに霧散してしまっていた。
 どういうことだろう──とシークは思った。
 コキリ族の滅亡を疑う余地は、もはやない。これで、六人の賢者のうち四人までが、死んで
しまったか、あるいはその可能性がきわめて高いと見なさざるを得なくなった。なぜこうも次々に、
障害ばかりが降りかかるのだろう。まるで僕の使命を妨害しているかのように……
 ──妨害?
 シークは考えを進めた。疑惑が生じ、それは確信に変わっていった。
 インパの死は、ゲルド族との戦争の結果として理解できる。
 ゴロン族を滅ぼしたデスマウンテンの大噴火と、ゾーラ族を全滅させたゾーラの里の氷結。
これらはガノンドロフの魔力のせいに違いないが、やはり戦争の一環と言うことはできる。
 だがコキリ族の場合はどうだろう。その滅亡の原因と思われる火災は、偶然の災害なのだろうか。
とても偶然とは思えない。ではゲルド族が関係していることなのか。としても戦争との関連ではない。
コキリ族はゲルド族と敵対していたわけではない。一般には存在すらほとんど知られていない部族
なのだ。
 アンジュの言葉を思い出す。ゲルド族は、インパを──単に王党軍の指導者としてではなく──
『闇の賢者』として認識していたという。ならば……
 ゲルド族が──いや、ガノンドロフ本人が、と言うべきだろう──意図的に賢者を抹殺しようと
しているのだ。自らを倒そうとする意志と、そこに必要となる賢者の重要性を察知し、先回りをして。
 その企みは──こちらにとってはまことに遺憾なことに──成功しつつあるように思われる。
あるいは、実はもうすでに……
 遅すぎたのだろうか。
 シークは激しく首を振った。
 諦めるな。まだ望みは残っている。砂の女神に関わる賢者と、もう一人……
622-10 Gerudo Woman (2/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:32:03 ID:0WpeZidY
 シークは、はっと視線を上げた。
 目の前の、焼け残った一本の木の上に、巨大な梟がとまっていた。
『気配に気づかなかった……』
 まるまると見開かれた、大きな目。なにがしかの気味悪さと、そして奇妙な安心感を覚えさせる。
何ものをも見とおす洞察力を秘めているような。
 怪しむシークに向けて、しわがれた、しかし深みのある声が発せられた。
「久しぶりじゃな」
 驚いた。梟が人間の言葉を話したことに対してもだが、「久しぶり」という、その言葉自体が、
意外の極みだった。
「あなたは……誰です?」
 威厳を感じ、敬称で問いかける。梟が答える。
「ケポラ・ゲボラ。わしは──」
 いったん言葉を切り、梟は続けた。
「──待っておる。世界を救う使命を負った、時の勇者を導く者として」
「何ですって!?」
 時の勇者? では、この梟は……
「リンクを知っているのですか!?」
「知っておる」
 平静な声だった。興奮したシークをなだめるような調子だった。
「リンクの使命を、わしは知っておる。リンクの帰還を、わしは待っておる。リンクを導く者として。
そして、シーク、おぬしをもまた、わしは導かねばならぬ」
 僕の名前を知っている? それに導くとは? どういうことだろう。よく理解できないが、
言葉には不思議な説得力がある。リンクを導く者であるというのなら……
「おぬしの使命は?」
 ケポラ・ゲボラが問う。この梟は信頼できる──と確信したシークは、自分の使命を語ることにした。
 リンクを助け、ともに戦うこと。いまは賢者を捜し出すこと。
「賢者か……」
 ケポラ・ゲボラの声の調子が変化した。深い声に剽軽な色が混ざったような気がした。
「わしのことを、大昔の賢者の生まれ変わりという者もおるが……」
 シークの胸を落雷のような衝撃が襲った。
 もう一人の賢者!
「まさか……まさか、あなたは──」
「わしが──」
 ケポラ・ゲボラがさえぎった。
「──言うのではないぞ。ほれ、見てみよ」
 片側の翼が開かれた。その先を見るシークの目が、あるものを捉えた。焼けた木々が折り重なる中、
ぽっかりと空いた地面に立つ、一つの石像。
 ゴシップストーン。
 ハイラルの各所に点在する、その謎めいた石像のことは、シークも知っていた。名のように、
人の知らぬいろいろな噂を語ってくれるという伝説がある。しかし実際には何も語らない。ただの
石像だ。
「噂を聞くには──」
 シークの心を読み取ったかのように、ケポラ・ゲボラが言葉を続けた。
「──資格が要る。おぬしには、その資格がある。シーカー族の紋章を持つおぬしには」
632-10 Gerudo Woman (3/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:32:56 ID:0WpeZidY
 自分が着ている服を見る。シーカー族の紋章が描かれている。
 関連はシークにも理解できた。ゴシップストーンの表面には、シーカー族の紋章と同じ模様が
刻まれている。ゴシップストーンはシーカー族が作ったものだという言い伝えがあると、インパから
聞いたことがあった。
「石像の前に立ってみよ」
 ケポラ・ゲボラが言い、シークは従った。
 膝ほどの高さの小さな石像。その模様に目を据える。シーカー族の紋章が向かい合う。何が
起こるのかと固唾を呑んで待つ耳に、どこからともなく、かすかな声が聞こえてくる。
『……こっそり聞いた話だが……ケポラ・ゲボラという怪鳥は、大昔の賢者の生まれ変わりらしい』
 シーカー族の紋章に、こんな効果があったとは──と、シークは驚くばかりだった。
 この服を着るようになって、ゴシップストーンと対峙したことはない。南の荒野にゴシップ
ストーンはなかった。旅の途中では、見かけることはあっても、改めてその前に立とうとなどとは
思わなかった。だからこれまで知らなかった。
 そして、いまの噂の内容は……
 勢いこんでふり返る。ケポラ・ゲボラは反対側の翼を開いている。見るとその先に、もう一つ、
ゴシップストーンが立っていた。シークはそれに歩み寄り、再び待った。
『……こっそり聞いた話だが……ケポラ・ゲボラという怪鳥は、すごく大きくて重そうだが、
性格はけっこう軽いらしい』
 今度は拍子抜けするような内容だった。怪訝な気持ちでケポラ・ゲボラを見る。
「噂じゃ」
 あっさりと言う。にやりと笑ったようにも見えた。
「何が弾ける?」
 ケポラ・ゲボラがいきなり話題を変えた。一瞬、何のことかわからなかったが、すぐに竪琴の
ことだと気がついた。
「……子守歌」
「弾いてみよ」
 意図が理解できないまま、シークは曲を奏でた。ケポラ・ゲボラは黙って聴いていたが、やがて
静かな声で呟いた。
「古代よりハイラル王家に伝わる歌じゃな」
 びっくりして指が止まった。
「王家に関わる者の身の証ともなる」
「いったいあなたは──」
「その歌もまた──」
 耐えきれず迫ろうとしたシークの言葉を、ケポラ・ゲボラはまたもさえぎった。
「──おぬしの資格」
 この仄めかしの連続は何なのだろう──と、シークは混乱に陥った。
「もう一つ、忠告じゃ」
 シークの惑いを無視するかのように、ケポラ・ゲボラが言い出した。
「おぬし、リンクとともに戦う──と言うたな」
 頷く。
「常にはともにおらぬ方がよいぞ」
 どういう意味だ?
「リンクは陽。おぬしは陰。おぬしは、動くのじゃ……影のように」
 影! そうだ。僕は考えていた。影のように戦うと。
「必要ない時は、離れておれ。さすれば、危険も分散できよう」
 言い終わると、ケポラ・ゲボラは大きく翼を羽ばたかせ、一直線で空へと舞い上がり、西へ
向かって消えていった。
642-10 Gerudo Woman (4/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:33:47 ID:0WpeZidY
 シークは茫然と立ちつくしていた。数々の疑問が脳の中で渦を巻き、いてもたってもいられない
ような気分だった。
『落ち着け』
 考えてみよう。
 最後の忠告は具体的だった。僕がリンクと並び称されるほどの重要人物かどうかはともかくと
して、危険分散という趣旨は理解できる。これは心に留めておこう。
 最大の疑問は、ケポラ・ゲボラの正体。
 ケポラ・ゲボラこそが、『光の賢者』、ラウルなのか。そうとしか思えない。だが、なぜそうだと
明言しないのか。僕はラウルを捜していたのに。ラウルに会うことを切望していたのに。ラウルの
覚醒に関して、ラウルの方から働きかけがあると予想していたのに。それとも……いまは明言
できない、何らかの理由があるのだろうか。
 この点はとりあえず、疑問のまま置いておくしかあるまい。
 次の疑問。最初の「久しぶり」という言葉の意味。
 僕はケポラ・ゲボラに会ったことはない。が、向こうが僕の名前を知っている以上──その
理由も不明だが──人違いということはあり得ない。僕が忘れているだけなのか。忘れている? 
それは僕の記憶の欠落に、何か関係が?
 記憶といえば……
 あの子守歌を僕はどうやって知ったのか。アンジュの家で思い出した時から疑問ではあった。
ケポラ・ゲボラによれば、古代よりハイラル王家に伝わる歌だという。王家? 僕に王家との
関わりが? 前にインパから教えてもらっていたのか。そんな覚えは全くないのだが、これもまた……
 待て──と、シークは心を抑制する。
 記憶の問題については、深く考えない方がいい。僕が使命を果たせば記憶は戻る、とインパは
言った。根拠はわからないが、僕はインパを信じている。
 それよりも、別の疑問だ。ゴシップストーン。
 シーカー族の紋章という資格で、僕はゴシップストーンの噂を聞くことができる。でもそれだけ
ではない。子守歌。ケポラ・ゲボラが言うには、それも僕の資格だと。
 考えた末、シークはゴシップストーンの前で、子守歌を演奏してみた。
 何も起こらない。
 もう一方のゴシップストーンも同じく、曲に反応はしなかった。
 肩を落としかけるが、
『待てよ』
 神殿の前に、さらに一つ、ゴシップストーンがあったのを思い出し、シークはそこへ駆け戻った。
前に立っただけでは、黄金のスタルチュラがどうのこうのと、意味不明な噂しか語ってくれない。
ところが、子守歌を奏でると……
 聞こえてくる! 子守歌とは異なるメロディが!
 ゆったりとした三拍子。舞曲調の旋律。
『メヌエット……か……』
 なぜこのゴシップストーンだけが? このゴシップストーンの特性は? 神殿の前という位置? 
このメロディは神殿と関係がある?
 新たに覚えたメロディを、神殿の前で奏してみる。が……効果はなかった。
『うまいことばかりは続かないな』
 シークは苦笑する。しかし……
 このメロディと神殿との間には、必ず何らかの関係がある。それが何なのか、いまはわからないが……
 深き森。神殿の名は森の神殿、関わる賢者は『森の賢者』……とするべきか。ならばこのメロディは、
『森のメヌエット』とでも呼んでおこう。
652-10 Gerudo Woman (5/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:34:52 ID:0WpeZidY
『これからどうする?』
 頭を整理し終えて、シークは冷静に考えた。
 一つは、砂の女神──最後に残った神殿の探索だ。導く者であるケポラ・ゲボラは、西の方へと
去っていった。あれは僕の進むべき方向を示しているのだろう。
 もう一つは、ゴシップストーン──世界に散らばる不思議な石像。その噂を確かめてみよう。
何かの役に立つかも知れない。メロディについてもだ。他の神殿の近くにも、メロディを返す
ゴシップストーンがあるのでは? もう一度、各神殿を訪ねてみなければ。
 賢者の生存が望めなくても?
 いや、ケポラ・ゲボラが、僕にゴシップストーンの意味を示唆してくれたのだ。それもまた、
彼の導き。
 ゴシップストーンからメロディを得ることができるのは、僕だけだ。シーカー族の紋章を持ち、
かつ子守歌を知る、僕だけだ。
 ハイラル王家を守護するシーカー族の紋章を持った僕が、同じくその紋章を象るゴシップ
ストーンから、ハイラル王家に関わる者の証である子守歌によって、ハイラルを守る賢者に関わる
神殿に関係したメロディを得る。
 そのメロディが、僕の、そしてリンクの使命──ハイラルを救うという僕らの使命に、繋がって
いないはずはない!
 ふと、シークは思う。
 インパは、ゴシップストーンの意義を知った上で、僕にシーカー族の紋章のついた服をくれたの
だろうか。そうではあるまい。知っていれば、教えてくれただろう。
 運命的な偶然。いや、それも僕の使命にとっては、必然であったということか。
 シークは歩き始めた。
 心に湧く高揚感が、いつの間にか、肉体に鬱屈していた疲労を溶かし去っていた。

 ハイラル全土をも望めるかと思われるほどの高みを飛びながら、ケポラ・ゲボラは、いまの
出会いを反芻していた。
「久しぶりじゃな」という呼びかけを、あの少年は理解できていなかった。
 自分では気づいていないのだ。
『面白い』
 面白いが、それだけではすまない。理由があるはず。なぜなのか。
 じっくりと見とおしてみて、わかった。実に深遠な意図が隠されていた。
 彼の使命を考えると、
『皮肉なことじゃて』
 思わず笑いが漏れそうになる。
『いや、笑いごとではないな』
 最後まで秘匿しなければならない、その意図。だが、この先で彼を待つ運命は……
『わしが一肌脱がねばならぬか』
 実際には、一肌脱ぐといった程度のことではすまないだろう。
『それもまたよし。もうわしも、長すぎるくらい長く生きたことでもある』
 自分の平静な諦観が、自分でもおかしくなる。
『しかたあるまいて。わしの性格は、けっこう軽いらしいからな』
 くく……と、今度はほんとうに、口から笑いが漏れ出てしまう。
 必要な知識は与えておいた。
『シークよ。そして、まだ目覚めぬリンクよ……あとは、おぬしら次第。おぬしら自身で、道を
切り開け』
 鋭敏な鳥類の目をもってしても、もはや届かぬ場所にある二人を──世界を救う使命を負った
二人を思いつつ、さらなる高みの気流に身を任せ、ケポラ・ゲボラは飛翔し去っていった。
662-10 Gerudo Woman (6/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:35:44 ID:0WpeZidY
 シークは周到に準備をした。
 ハイラル平原の西方へは足を踏み入れるな、という、みずうみ博士の忠告に反してまで、その
地へ赴こうというのだ。いくら注意してもしすぎるということはなかった。
 まずは、ゲルド族の支配領域の外縁に沿う、各地の情勢を把握した。そこで、自らの目で見、
必要とあらば信用できそうな住人に会って、領域内のゲルド族の情報──居住地の場所、人口、
戦力、移動の範囲と経路、日常業務など──を得た。これだけで三ヶ月を要した。
 次いで、危険が少ないと思われる地点から、試行的に領域内へと侵入し、情報の精度を高くした。
ただし一気に先へ進むことはせず、そのつど外の安全地帯に戻った。これには二ヶ月かかった。
 さらに一ヶ月、情勢に大きな変化が生じないことを確認してから、シークは本格的な侵入を
開始した。
 ゲルド族に支配された地域とはいえ、平原は広く、人口密度は低めで、居住地の間の無人地帯を
縫って進むのは、それほどの難事ではなかった。ガノンドロフの魔力によって制御されているの
だろう、天候は温和で晴れの日が多く、魔物の出現もなく、平原の他の地域を旅するよりも快適と
言えるくらいだった。
 しかし平原の西端に近づくにつれ、状況は徐々に厳しくなった。
 ゲルドの谷からの道がハイラル平原に到達する地点は、ゲルド族とハイラル王国との確執が
生じる以前には、ゲルド族が襲撃に出てゆくための基地が設けられていた場所であった。その後の
ハイラル王国の攻勢で、一時はゲルド族の手から離れたものの、ハイラル平原の決戦後には再び
ゲルド族の支配下となり、彼らの平原移住の際には中継地点として大いに栄えた。いまでもそこは、
広大な牧場や、乳製品や皮革製品を産する施設を抱えた、規模の大きな町であり、それらで
働かされる奴隷を含めると、人口はかなりの数に達していた。
 その町の近くともなると、周囲の居住地の密度も増し、進むには相当の慎重さを必要とした。
シークは行動を夜間のみに限定し、動く際にも細心の注意を払った。
 甲斐あって、シークは無事に町まで到達した。けれども最大の難関はそこからだった。『幻影の
砂漠』に至る、ゲルドの谷への道をたどるには、どうしても町の中を通過しなければならなかった。
多数いる奴隷の逃亡を防ぐためか、警戒は厳重であり、町を通り抜けるのは容易なことではないと
思われた。
 数日間、シークは町の外から様子をうかがい、人の動きや分布を確かめた。平原の側の町の
入口には門があり、常に見張りが立っていた。が、門以外の部分では、常時の警戒はされていない
ようだった。
 行けると踏んだシークは、月のない深夜に行動を起こした。町の周囲にめぐらされた柵を乗り越え、
家々のすき間を抜け、ところどころに立つ見張りの目をかいくぐって、シークは進んだ。気配を
完全に絶ち、物音をたてないよう気を配った。
 町の正確な規模が把握できていなかったので、どれくらいの間、神経を張りつめさせていなければ
ならないかがわからず、それが大きなストレスとなってシークにのしかかった。それでも、やがて
建物が少なくなり、町はずれに近づいたことが知れた。西への道につながる町の通りに出て、
シークは、ほっと気を緩めた。
672-10 Gerudo Woman (7/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:36:35 ID:0WpeZidY
 その気の緩みがまずかった。
「誰だ!」
 突然、後ろから声が響いた。
 ふり向く。武装したゲルド女が四人、こちらへ走ってくる。
 応戦するか、と思ったが、相手は複数、このまま逃げ切る方がよい、と考え直し、シークは
先へと駆けだした。
 ところが、いまの誰何の声に呼ばれたものか、敵は前方にも出現した。やはり武装した数人の
ゲルド女。
 シークは細い横道に飛びこんだ。敵は追ってくるだろうが、次々に方向を変えて逃げれば、
撒くことはできるはず。
 やはり追ってきた。だが距離は稼いだ。
 いける!
 と思った瞬間、予想外の方向に気配を感じた。
 上!
 気づいた時には遅く、矢が空を切る音が聞こえ、同時に鋭い痛みが肩を走った。かすっただけの
軽傷だったが、体勢が崩れた。転倒した拍子に頭を打ち、一瞬、意識が遠のいた。
 その間に、後ろの敵勢に追いつかれた。シークは捕まり、縛り上げられてしまった。
「誰だい、こいつは?」
「まだガキじゃないの」
「奴隷じゃないみたいだね」
「これ何さ? 竪琴?」
「ほら、あれじゃない? ギンニュウシジンとかいう奴」
「吟遊詩人だろ、それを言うなら」
「平原の方から迷いこんできたのかねえ」
「親と、はぐれちまったのかな」
 ゲルド女たちは、意外にのんきな会話を交わしている。こちらが年少であることが幸いしたか。
 意識は戻っていたが、すぐに殺されそうな様子でもないので、シークは目を閉じ、気を失った
ふりをしていた。敵の油断を誘い、あわよくば逃げ出すつもりだった。そこまで簡単にはいかない
だろうとは思ったが。
「どうしたんだい?」
 離れた所から別の声がした。近づいてくる足音。
「あ、矢を射たのはあんたかい?」
「ああ……二階にいたら騒ぎが聞こえて、誰か逃げてたみたいだったから。そいつ、何者なんだい?」
「それがよくわからないのさ。この町の奴隷じゃあないようだけど……」
 矢を射たという女は、それきり話をやめ、あとは追ってきた女たちの間で会話が続いた。
「変な服を着てるねえ」
「大して害にはなりそうにないが……」
「でも、ほら、短刀なんか持ってるよ」
「護身用だろ。珍しいことじゃない」
682-10 Gerudo Woman (8/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:37:19 ID:0WpeZidY
 見逃してくれるだろうか、と期待を抱いたが、それほど甘くはなかった。
「さて、こいつ、どうしてやろうか」
「ガキだし、身体つきが華奢だから、肉体労働には向かないねえ」
「せいぜい家庭内労働くらい?」
「いいツラしてるじゃないか。夜のお相手にどう?」
「ケッ! あたしゃガキには興味ないよ」
「こんなになよなよしてちゃ、そっちの方は期待できないね」
「あ、そうだ。あんた」
「え?」
 矢を射た女に向けて、次々に声がかかる。
「あんたの所には奴隷がいなかったね。こいつを引き取る気はない?」
「あたしが?」
「そうそう、あんたが射た矢で捕まえられたんだから、こいつはあんたの獲物だよ」
「ちょ、ちょっと……」
「家の中が片づかなくて困るって言ってたね。ちょうどいいじゃないか」
「そりゃそうだけど……」
「何ならセックスを教えてやったら? 案外、役に立つかもよぉ」
 どっと下品な笑い声があがった。
「前から言ってるだろ。あたしは奴隷なんて──」
「あんた」
 矢を射た女が声を強くして言いかけるのを、他の女がさえぎった。
「そろそろ、ここの流儀に倣った方がいいよ。ここじゃ、奴隷を飼うのは当たり前のことなんだ。
あんたは長いこと砦にいて、ただでさえ変な目で見られがちなんだからさ。な、『副官』さん」
 それまでとは違った、冷ややかな声だった。矢を射た女も、他の者も黙ってしまい、気まずげな
空気が漂った。
「……わかったよ」
 しばらくして、『副官』と呼ばれた、矢を射た女が、ぼそっと答えた。空気は和らぎ、他の
女たちも口々にしゃべり始めた。
「気にすんなって。しばらく飼ってりゃ平気になるから」
「奴隷がいたら、ずいぶん楽になるよ」
「ガキのことだし、扱う手間もかからないさ」
「じゃ、こいつは置いていくからね」
「おっと、その前に……」
 ぴしゃりと頬を張られた。シークはそこで目覚めたふりをした。ゲルド女が一人、しゃがみ
こんで目の前に顔を寄せていた。
「どこの誰かは知らないが、お前は──」
 女は、隣に立つ別の女に向けて顎をしゃくった。
「こちらのお方の奴隷になったんだ。せいぜい勤めに励むこったな」
 そう言うと、女は立ち上がり、
「あとは任せたよ」
 と、隣の女──奴隷の主人となった『副官』に声をかけてから、他の女たちとともに、その場を
去っていった。
 シークは、縛られた格好のまま、地面の上で上半身を起こし、『副官』を見上げた。『副官』は
困惑したような目でシークを見下ろしていたが、やがて、短く言った。
「来い」
692-10 Gerudo Woman (9/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:38:11 ID:0WpeZidY
 シークと『副官』の奇妙な同居生活が始まった。
 シークが命じられた仕事は、炊事、洗濯、掃除といった「主夫業」で、厳しい生活経験がある
シークにとっては、さほど苦痛なものではなかった。買い物などで町へ出た折りに、鞭打たれ
酷使される奴隷たちの哀れな姿を、シークはいやというほど見せつけられたが、それと比較して、
同じ奴隷の自分がこんなに楽をしていいのだろうか、と、負い目を感じるくらいだった。
 奴隷であるシークを、『副官』は虐待もせず、むしろ持てあましているようだった。捕まった
時の会話からうかがわれたように、ほんとうは奴隷など使いたくはないのだが、周囲への体面の
ためにしかたなく使っているのだ、という感情が見て取れた。
『副官』は二十歳そこそこの若い女で──シークには由来がわからず疑問だった、その渾名が
示唆するような軍隊ではなく──牧場での仕事に従事しており、毎朝馬で出かけ、夕方になると
帰宅するという、規則正しい生活を送っていた。シークの行動を制限するつもりはないらしく、
昼間はシークを家に放置し、夜も身体を拘束しなかった。まるで逃げろと言わんばかりの態度で
あり、実際、シークが逃げてくれればありがたい、と『副官』は思っていたのかもしれない。
 シーク自身も、逃げようと思えばいつでも逃げられる、と楽観していた。町の中や出口には
多くの見張りがおり、大手を振って町を出て行ける状態ではなかったが、捕まった時のような
油断さえしなければ、逃亡は充分に可能だと確信できた。
 虐待されるようなら、すぐにでも逃げ出すつもりだったシークだが、そのような状況を鑑みて──
『副官』の意には反することと思われたが──奴隷生活をしばらく続けることにした。ゲルド族の
情勢を観察するには好都合だったし、『幻影の砂漠』や、そこにあるはずの神殿についての情報を
得る、よい機会でもあったからだ。
 シークに対する『副官』の態度は淡泊だった。必要以上の会話は生じなかった。『副官』が
シークに訊いたのは名前や年齢くらいで、なぜシークがこの町に来たのか、という点も、深くは
詮索しなかった。威張り散らすこともなかった。初めシークは『副官』に敬語で話しかけたのだが、
『副官』は、気持ちが悪いからタメ口でいい、とさえ言った。
 時が経つうちに、『副官』が町の連中にあまりよい感情を抱いていないことがわかってきた。
たまに家を訪ねてくる仲間たちが、享楽的な遊興や奴隷への虐待について、面白おかしく語るのに
対し、『副官』はお義理のような反応しかせず、彼女らが帰っていったあと、苦々しげな表情で
舌打ちなどするのだった。用事のため『副官』のあとについて町を歩いていた時、あるゲルド女が
路上で奴隷を殴打する場に行き当たって、『副官』が深いため息をつくのを見たこともあった。
それは、奴隷がかわいそう、といった甘っちょろい感情からではなく、奴隷を侍らせて堕落した
生活を送る仲間たちへの憤懣からではないか、とシークには思えた。『副官』が奴隷を使いたがら
ないのも、その憤懣が理由と考えられた。

 ゲルド族の性習慣について聞き知っていたシークは、セックスを要求されることを予想していた。
肛門を狙われたり、過度の暴力を伴ったりした場合には、実力を行使してでも拒否する気だったが、
それら以外は甘受する覚悟ができていた。しかし『副官』は、シークに何も求めなかった。単に
「ガキ」を嗜好する趣味がないだけとは思えなかった。日頃の態度や室内の様子、洗濯物──特に
下着──を観察する限り、他に相手がいるふうでもなく、自慰すら行っていないようだったからだ。
ゲルド族にしては珍しくセックス自体に興味がないのか、あるいは我慢しているのか、どちらかの
要素があるのだろう、とシークは推測した。
 どちらであるかは、やがて明らかとなった。
702-10 Gerudo Woman (10/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:39:07 ID:0WpeZidY
 シークが奴隷の身となって一ヶ月が過ぎた。
 その頃になると、おおむね町の様子はわかり、ゲルド族の日常生活や社会の実態、政治的な
動きなどについても、知識が蓄積されていた。そろそろ神殿の探索に向けて動かねば、とシークは
考えていた。『副官』の持つ仲間たちへの反感が、何かの糸口になるのではないか、とも。
 そんなある日の夕方、馬小屋の掃除を終えたシークは、その汚れを落とそうと、台所の隅で
脱衣し、身体を拭いていた。そこへちょうど帰宅した『副官』が入ってきた。しばらくの間、
『副官』は妙な目でシークの裸体を眺めていたが、ぷいと視線をはずし、何も言わずに台所を出て
いった。
 夕食の間、『副官』は常にも増して無口だった。ただシークの顔をちらちら見るさまが、いつも
とは異なる感情を表出しているように思えた。
 夜が更け、仕事を片づけたあと、シークは台所へ引き下がろうとした。奴隷用のベッドなど
なかったので、シークは毎晩、毛布を一枚かぶって台所の床に寝ることにしていたのだ。
 ところが、台所への扉に手をかけた時、後ろから、
「こっちへ来い」
 と声をかけられた。ふり返ると、『副官』が寝室の入口に立っていた。夜、寝室に呼ばれるのは、
初めてのことだった。
 寝室に入ると、『副官』はシークの顔に目を据え、
「相手しろ。いいね」
 と高圧的に言った。予期していたことだったが、シークは何も知らないふりをして、黙って
立っていた。
「裸になって、ベッドに寝るんだ。仰向けにね」
 いらいらしたような声が続いた。シークは言われたとおりにした。
『副官』は下半身のみ衣服を脱いだ。とはいえ、上半身は──ゲルド女の通常のスタイルに従い──
乳房が細い布で隠されているだけだったので、全裸に近い状態と言えた。若々しく張りのある
褐色の肌が全身を覆い、恥丘には髪と同じく赤みがかった恥毛が密生していた。シークは自然に
勃起した。
 直立するシークの陰茎を見て、『副官』は馬鹿にしたように鼻を鳴らし、
「まだこんなもんか……ま、いいだろ」
 と呟くと、シークの腰の上に跨ってきた。
「お前は何もしなくていい。そのまま寝てろ」
 命令の直後、熱い粘膜がシークの屹立を押し包んだ。そこはすでに大量の粘液であふれていた。
 激しい上下動の末、『副官』は五分と経たないうちに達してしまった。荒々しくはあったものの
単調な動きで、シークにとっては初めての体位だったが、耐えるのは容易だった。
 弾んだ息が治まると、『副官』はシークから離れ、投げやりな調子で言った。
「もういい。行け」
 シークは床に落としていた服を拾い上げ、無言で寝室を出た。
 我慢の方だったな、とシークは思った。
712-10 Gerudo Woman (11/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:39:59 ID:0WpeZidY
 その後、シークは、週に二、三回の頻度で、夜の寝室に呼ばれるようになった。パターンは判を
押したように同じだった。『副官』は一方的にシークに騎乗し、一方的に腰を動かし、一方的に
絶頂した。持続時間は多少長くなったが、それでも十分を超えることはなかった。シークは一度も
達することがなかった。快感はあったが、限界に至るまでに、あっさりと『副官』の方が先着して
しまうのだ。
 自分さえ満足できればいいのだ、ゲルド族が男を犯す際にはそれが普通なのだろう、とシークは
認識した。

 だが、何度も続けるうちに慣れてきたのか、ある夜、いつものように独善的な絶頂を迎えたのち、
『副官』は、ふと気になった様子で、
「お前は……いかないんだね」
 と言った。
 それからは、『副官』の行動パターンが変わった。シークを膣に収めたあと、一気にスパート
することなく、緩急をつけたり、内壁を収縮させたりと、動きにバリエーションが加わった。
シークをいかせようと目論んでいることは明らかだった。初めは溜まった欲求不満を解消すること
だけが目的だったのに、それが満たされるようになって、今度は男を性器で屈服させることに
目的が変化したのだ。
 が、その程度ではシークは屈しなかった。動くのを禁じられているせいもあったが、『副官』が
男を攻める技は意外に単純で、ややもすると自分の欲望を満たす方へ意識が流れてしまうよう
だった。持続時間はやや延びたものの、『副官』が先に行き着く事態には変わりがなかった。

 そんな交合が何回か続いたあと、シークは行動に出た。騎乗した『副官』が上下させる腰に
合わせ、シークも下から腰を突き上げてみた。何もしなくていい、という命令に逆らったわけだが、
『副官』はそれを咎めなかった。気づかなかったわけではない。というのは、それまでは、息を
荒げ、せいぜいかすかな呻きを漏らすだけだったのが、シークが動いたとたん、「あッ!」と
明瞭な声を出したからだ。
『副官』はいつもより早く絶頂した。

 次の折り、シークはもっと大胆になった。跨る『副官』を下から突くとともに、両手を太股に
触れさせた。『副官』は大きく呼吸を乱したが、やはり何も言わなかった。それをいいことに、
シークの両手は、太股から腰、脇腹へと移動し、ついには胸にまで到達した。布越しに両の乳房を
揉み、硬くなった乳頭を刺激してやると、『副官』は短い、しかし大きな叫びをあげて、一気に
登りつめた。
 事後、『副官』は肩で息をしながら、長いことシークの上から動かなかった。もういいか、と
声をかけると、初めて我に返り、シークを解放したが、シークが寝室を出てゆく時になっても、
『副官』の息は静まっていなかった。
 
722-10 Gerudo Woman (12/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:41:04 ID:0WpeZidY
 次の夜にもお呼びがかかった。日を続けて呼ばれるのは初めてだった。それまでは必ず、
二、三日の間隔をおいていたのだが。
 制限を超えた自分の行為が、咎められるどころか、むしろ求められていることがわかったので、
シークはもう遠慮しなかった。『副官』が騎乗するやいなや、下からの突き上げを開始し、胸も
含めて、届く範囲のすべてを両手で愛撫した。『副官』はあからさまに喘ぎ、激しく腰を上下させ、
あっという間に絶頂した。
『副官』が落ち着くのを待たず、挿入した状態のまま、シークは上半身を起こした。背に腕を回し、
胸を覆っていた布を解いた。乳房があらわとなった。成熟はしていたが、シークの手でも充分に
包みこめるほど、それは控えめな大きさだった。シークは、小ぶりながらも弾力のあるその膨らみを
存分にまさぐり、指と手のひらで勃起した乳首を弄んだ。
 真に全裸となった『副官』は、両手を脇に下ろし、シークに触れようともせず、なすがままに
なっていたが、シークが胴を抱いて乳房に唇を這わせると、わずかに開いた口から、再び喘ぎが
漏れ始めた。舌と歯をも使った口技が速度を増すにつれ、『副官』の喘ぎは徐々に大きくなり、
上半身は妖しく揺れ動いた。
 相手が再上昇のうねりに乗ったことを確かめたシークは、いきなり前に重心を移し、『副官』を
ベッドに押し倒した。『副官』は「あッ」と小さな声をあげ、逃れようとする動きを示した。だが、
シークが『副官』の膝の後ろに腕をやって両脚を抱えこみ、自らのペースで陰茎を出し入れさせ
始めると、それ以上は抵抗しなかった。
 初めて『副官』の上になったシークは、貯まった借りをすべて返そうとするかのごとく、可能な
限りの力で『副官』を攻めた。『副官』は両腕をベッドの上に投げ出し、首をのけぞらせ、ともすれば
叫びが口から飛び出しそうになるのを必死に抑えようとする様子で、ひたすらシークの攻めを
受け入れていた。
 もう『副官』の限界が目前という時になって、シークは脚から腕を離し、ぐいと身を寄せた。
その動きで『副官』は、ずっと閉じていた目をあけたが、眼前にシークの顔を見て、顔を背けた。
シークは許さず、両手で『副官』の顔をはさんで向き直らせ、荒々しく唇を奪った。くぐもった
呻きが『副官』の喉から湧き起こったが、いったん接触した唇を、『副官』はもはや避けようとは
しなかった。
 やがて『副官』の全身が固まり、膣がシークを強力に締め上げた。
 シークは動きを止め、それに耐えた。
 時が過ぎ、恍惚の波が『副官』から引いてゆくのを感じて、シークは唇を離した。『副官』は、
少しの間、シークを見上げていたが、再び顔を背けた。無表情だった。何も言わなかった。
 シークは自らも無言のまま、『副官』から離れ、ベッドを降りた。これも初めてのことだったが、
『副官』の指示を待たず、勝手に寝室を出た。
 まだ心を完全に開く気にはなっていない、と思われた。

 以後、『副官』はシークを求めなくなった。のみならず、可能な限りシークとの接触を
避けようとする感じだった。
 それまでは、夜、寝室でどんなことがあろうとも、朝になると、主人と奴隷という関係を
再開するのが、二人の暗黙の了解だった。しかし、それ以後の『副官』は、主人としての会話すら、
ろくに行わないようになった。一日中、会話をしないでいることさえあった。
 シークは危ぶまなかった。それほど接するのがいやなら、さっさとシークを追い出せば
よさそうなものだが、そうしようとはしない。機会さえあれば、事態を進展させることは可能だと
思われた。
 シークは観察を続けた。深夜、寝室の外から、ひそかに扉の奥の様子をうかがっていると、
抑えた呻き声が聞こえてくることがあった。明らかに自慰を行っているのだ。シークは安心し、
時を待った。
732-10 Gerudo Woman (13/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:42:52 ID:0WpeZidY
 自慰の頻度は徐々に増え、ついには毎夜、淫らな声が寝室から漏れ聞こえてくるようになった。
 もういいだろう、と判断したシークは、最後の性交から一ヶ月ほど経った、ある日の夜、新たな
行動に移った。
 服をすべて脱いで、寝室の前に立った。いつもの呻きが聞こえるのを確かめ、扉をノックした。
夜、シークの方から寝室を訪なうのは、それが初めてだった。
 呻きが途絶え、あとは沈黙が続いた。
 シークは待った。
 かなりの間をおいて、寝室の扉が開かれた。ガウンを身にまとった『副官』が立っていた。
 全裸のシークを見、『副官』は、はっと息を呑んだ。が、何も言わなかった。扉を閉めようとも
しなかった。
 シークは『副官』に歩み寄った。ゲルド族の中では小柄な『副官』だったが、それでもまだ
シークよりは背が高く、シークは『副官』の顔を見上げる形になった。
 視線が絡み合った。『副官』の目に動揺の色が見えた。
 シークは両腕で『副官』を抱き、そっと顔を寄せ、唇を合わせた。『副官』は身動きもせず、
シークの唇を受けとめていた。
 次いでシークの手が、ガウンの前を開いた。その下は裸で、二つの乳房と恥毛がさらされた。
ガウンが床に落ち、『副官』は生まれたままの姿になった。
 シークは『副官』の手を取り、黙ってベッドへと導いた。『副官』もまた、無言でそれに従った。
 二人はベッドに倒れこんだ。いつもの騎乗スタイルではなく、ともに横臥した状態でのスタート
だった。
 ゆったりとしたペースで、シークは『副官』の全身に指と舌を這わせた。『副官』は自ら
動こうとはせず、大きく胸を波打たせながら、その穏やかな刺激を受け入れていた。しかし、
張りつめた乳房と硬く尖った乳頭、そして、とめどなく濡れる恥部をまさぐられ、吸われ、
味わわれるうちに、『副官』の身体はくねり踊り初め、口からは本能的な声が続けざまに絞り
出された。
 シークの歯が、欲望の源である、股間の小さな粒を捉えた瞬間、『副官』は獣のように吼え、
果てた。
 四肢を投げ出して横たわる『副官』を、シークは身の下に敷き、じわりと自らを挿入させた。
その後も焦らず、落ち着いて、ゆっくり、ゆっくり、内部を摩擦した。『副官』はそれを硬直した
身体で迎え入れていた。歯はぎりりと噛み合わされ、膣は痙攣じみた収縮を繰り返した。静かな
攻めであるにもかかわらず、『副官』が続けざまに達しているのは明らかだった。
 何度目かの絶頂を経させたのち、シークは『副官』に顔を近づけた。目を開いた『副官』は、
一瞬、顔を背けかけたが、思い直したように、真正面からシークを睨み据えた。
 憎々しげな声が吐き出された。
「あんたみたいな……毛も生えそろってないようなガキに……いいようにされて……上に乗られて
……いきまくっちまうなんて……」
 初めてシークに向けて放たれた、『副官』の生の声だった。シークは、そこにひそむ真意を、
正確に感じ取った。
 いつも以上に冷静な声で、シークは言った。
「じゃあ……もうやめようか」
『副官』は、なおもシークを睨み続けていた。が、突然、その目に涙が滲み、こめられた力が
消え飛ぶと、
「やって!」
 絶叫とともに、両腕がシークの首に回された。激しい勢いで唇と唇が一つになった。
 二人の身体は狂ったように躍動し始めた。
 すべての抑制をかなぐり捨てて、二人は互いを求め合った。
『副官』はシークの名を叫び、女の声で次から次へと法悦の言葉を投げ放った。
 シークもまた、溜まりに溜まった欲望を、『副官』の肉体にぶつけまくった。
 全身で相手を貪りながら、二人はベッドの上を転げまわった。
 やがて訪れた爆発的な歓喜の発作の中、『副官』はすすり泣きながら力の限り身を引き絞り、
シークもついに最後の時を迎えた。『副官』で得る初めての絶頂だった。
 果てきったのち、二人は朝まで抱き合って眠った。
742-10 Gerudo Woman (14/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:44:02 ID:0WpeZidY
「主人と奴隷」という二人の関係は、その後も一見、変化はないかのようだった。『副官』は馬で
牧場へ出かけ、シークは家に残って働く、という、いつもの日々が続いた。しかしそれは、二人が
起きている間のみのことだった。他人の目を憚っているだけだった。
 夜の二人の関係は、がらりと変化した。
 シークの寝床は、台所の床から『副官』のベッドへと移った。シークが勝手に寝室へ入ろうと
しても、『副官』は何も言わない。それどころか、いそいそとシークの手を握り、身をすり寄せ、
並んでベッドに向かうのが、『副官』のいつもの行動となった。就寝時刻も早くなった。
 二人は常に寄り添って眠り、毎夜のように肉交した。
 ベッドの上では、「主人と奴隷」の地位は完全に逆転していた。
 ほとんどの場合、『副官』はシークの下になり、身を開いて攻めを受け入れた。『副官』本人が、
何のためらいもなく、その状況を歓迎していた。
『副官』がシークの上になることもあったが、初めの頃のような粗雑な動きではなかった。
シークを深く感じようとする優しい情熱が、『副官』を満たしているようだった。主導権は下に
いるシークが握っていた。
『副官』はシークが年下であることを大いに意識しているようで、「あんたみたいなガキに……」
という台詞をしょっちゅう口にした。が、それは呪詛でも罵倒でもなく、「ガキ」に支配される
倒錯した悦びの発露と言えた。シークが絶頂しても射精しないのが、『副官』には意外なようだったが、
その未熟さがなお、ガキ相手に、という倒錯意識を高めていると思われた。
 そういう意識の表れか、『副官』はしばしば、恥ずかしい体位での性交をせがんだ。四つんばいに
なって高々と尻を上げる『副官』を後ろから攻めるのは、体格が劣り、しかもその体位に慣れて
いなかったシークにとって、多少の困難を伴う仕事であったが、それでも『副官』は毎回、激した
悲鳴をあげて達しまくった。
 シークはそれまで、必要な情報を得るために『副官』を落とす、という冷徹な計算のもとに、
男としての能力をフルに使って行動してきたのだが、ここに至って、思いがけなくもかわいく
淫らな『副官』の姿に、微笑ましくなるような感動を覚えていた。
『副官』は、攻める時よりも攻められる時の方が、表情がより多彩で魅力的だ、とシークは思った。
『副官』自身、寝物語の中で、自分の嗜好を、こう述べた。
「あたしは……ほんとうは、男よりも女が好きで……恋人がいたけど、それも女で……そのひとと
交わる時は、いつもあたしが受けだったよ。でも、男相手で受けになったのは、あんたが初めてさ」
『副官』の「初めて」は、それだけではなかった。
 シークとの関係が「同棲」に変化してからすぐ、『副官』はシークに──恥ずかしい性交の
一環としてか──肛交をねだってきた。膣とは違った未知の味を、シークは心ゆくまで堪能したが、
その時も『副官』は、肛門に男を迎えるのは初めて、と、顔を赤らめて告白した。
 やはり「同棲」が始まって間もない頃、口を使おうとしない『副官』の目の前に、シークが
勃起を突きつけたことがあった。ためらう様子を見せながらも、『副官』はそれを口にし、
稚拙ではあるが真心のこもった舌使いを披露してくれたが、事後、それも初めての経験であった
ことを、シークに告げた。そして、
「ゲルドの女の中で、ガノンドロフ以外の男の持ち物を口にくわえたのは、あたしくらいのもんだろう」
 と、自嘲めいた声でつけ加えた。
752-10 Gerudo Woman (15/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:44:59 ID:0WpeZidY
 シークは疑問を持った。
 ゲルド族がセックスの面でガノンドロフに支配されていることは、すでに知っていた。だが、
『副官』にこれほど多くの「初めて」があるのはなぜだろう。ガノンドロフの相手になったことが
ないのだろうか。
『副官』がガノンドロフを呼び捨てにした点も、シークの注意を惹いた。
 シークはそれとなく、話をその方向へ持っていった。
『副官』は率直に経歴を語った。
 自分はゲルド族としては例外的に、ガノンドロフと性的関係がないこと。女が好きというせいも
あるが、ガノンドロフが基本的に嫌いであること。同じような仲間とともにゲルドの砦に住んで
いたが、ナボールというリーダーがいなくなり、動揺のため団結を保てなくなってしまったこと。
あとを任された副官の──それが渾名の由来だとシークは知った──自分としては遺憾だったが、
生活のためにしかたなくこの町に出てきたこと。しかし町の仲間たちの退廃ぶりには、常に
やりきれない気持ちを抱いていること。また魔力によるガノンドロフのハイラル支配にも、大きな
疑問を感じていること……等々。
 町の連中に対する『副官』の気持ちは、もう察していたシークだが、ゲルド族の中にも反体制派が
いることには驚かされた。
 ゲルド族といえども一枚岩ではない。むしろ反体制派である『副官』らの方が、より健全な
考えを持っている。彼女らこそが本来のゲルド族の誇りを体現している、とも言えるだろう。
ならば、敵なのに、と疑問だった、砂の女神に関わるゲルド族の賢者も、そうした者の中に
いるのではないだろうか。
 砦の反体制派のリーダーだったというナボールに、シークは注目し、『副官』に話を促してみた。
『副官』は、さらに語った。
 ナボールこそが自分の恋人であり、処女を捧げた相手であること。自分以上に反ガノンドロフで、
やはりガノンドロフに身を任せなかったこと。頼れる姉貴分であったが、巨大邪神像へ向かって
以来、二年以上経っても帰らないこと。
 巨大邪神像という名が、シークの胸を震わせた。
 それが砂の女神なのでは?
 巨大邪神像とは神殿なのか、とシークは『副官』に訊ねた。
「神殿?……そういえば、ガノンドロフとツインローバが、巨大邪神像のことを、魂の神殿と
呼んでたっけ」
 魂の神殿!
「ナボールの姐さんが戻ってこないのは、巨大邪神像で秘密の任務があるからだって、ツインローバは
言ったけど……あたしは怪しいと思ってる。何かよくないことがあったんだ。あたしもそこへ行って、
姐さんのことを確かめたいとは思ったんだけど……砂漠を越えていくには準備が要るし、なにやかやで、
これまで機会がなかったんだよ……」
 ナボールという人物は、魂の神殿に関わりがあるらしい。ナボールこそが『魂の賢者』に違いない!
 シークは腹を決め、『副官』に最小限度の告白をした。自分もまた、反ガノンドロフの立場の
人間であり、巨大邪神像に赴いて、ナボールに会ってみたい、と。
 思わぬ味方の出現に、『副官』は驚喜した。そして、自分もぜひ同行する、と言って聞かなかった。
味方の存在がありがたいのは同様だったので、シークも素直に『副官』の希望を受け入れた。
762-10 Gerudo Woman (16/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:45:54 ID:0WpeZidY
 二人はひそかに準備を始めた。
 味方としての結びつきが、夜の結びつきをも深め、シークと『副官』は、緊迫しつつも楽しく
張りのある日々を過ごした。
 シークは楽観してはいなかった。
『副官』の話によれば、ガノンドロフとツインローバは、ナボールが魂の神殿へ行ったことを
把握している。ナボールが『魂の賢者』なら、すでに抹殺されている可能性もある。いや、その
可能性の方が高い。だが……
 やるだけの価値はある。確かめておかねばならない──と、シークは固く決意していたのだった。

 夕方、牧場から帰ってきた『副官』に買い物を頼まれたので、シークは町の市場へ出かけた。
雑踏の中で顔見知りの奴隷に名前を呼ばれ、二言三言、言葉を交わして、別れた直後、シークは
自分に向けられる視線を感じた。
 三十代後半くらいの、背の高い女が、驚いたような表情で、シークを見つめていた。
 誰だ?
 と思った時、女の後方から声がした。
「ツインローバ様!」
 女が声の方をふり向いた。
 一瞬で脳をフル稼働させたシークは、その機を逃さず、身を雑踏の陰へ飛びこませ、あとをも
見ずに走り出した。
 気配に神経を集中させる。追ってくる様子はない。
 念のため、複雑な裏道をあちこち曲がって、足跡をくらます。
 ツインローバ! ここで会ってしまうとは!
 胸は騒いだが、シークは冷静に事態を分析していた。
 さっき知り合いの奴隷が僕の名を呼んだのを、ツインローバは耳にしたのだ。これまで会った
ことはないが、奴は「インパの息子」である僕の名を知っていたのだろう。だから僕に注目した。
 自分が追われる身であり得ることは承知していた。けれどもこの町では、誰も僕を怪しまなかった。
それで安心していたのだが……
 奴は僕を追ってこの町に来たのだろうか。いや、違う。奴の驚きの表情は、いまの出会いが
偶然のものであったことを示している。それでも……
 ツインローバが人の心を読む能力を持っていることは、『副官』から聞いていた。自分の心が
読まれる危険性についても、よくわかっている。賢者を捜すという使命。特にいまは、『魂の賢者』を
求めて巨大邪神像へ赴こうとしているところなのだ。それを悟られてはならない。
 それとも、もう悟られてしまっただろうか。あの短い出会いの間に。
 わからない。
 いずれにせよ、存在を知られてしまったからには、もうこの町にはいられない。
 大回りの経路で『副官』の家へと走りながら、これから自分がとるべき行動を、シークは心の
中で詳細に検討していた。
772-10 Gerudo Woman (17/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:47:11 ID:0WpeZidY
 ツインローバが来た、という知らせは、『副官』を驚愕させた。が、『副官』も呑みこみは早かった。
「逃げな」
 即座に返ってきた言葉が、それだった。「逃げよう」ではないことが、シークにはいささか
意外だった。
「君は?」
 問いかけるシークに、『副官』は、
「あたしはここに残る」
 と、硬い表情で言った。二人ともが旅立てるだけの準備がまだ調っていないこと、二人で一緒に
いると発見される危険が倍増することを、『副官』は理由として指摘した。
 頷かざるを得ない理由だったが、残った『副官』に累が及ぶのでは、とシークは危惧した。
『副官』は笑って答えた。
「あたしだって一人前の女さ。身の振り方くらい、自分でなんとかできるよ。前に砦で一緒だった
仲間を頼ることもできるし、いざとなりゃ、また砦に戻ったっていいんだ」
 ベッドで見せるかわいい女の側面は微塵もなく、それは勇ましいゲルドの戦士としての顔だった。
シークは了承した。
 二人はあわただしく方策を協議した。
 ハイラル平原に出るべきだ、と『副官』は強く主張した。『幻影の砂漠』までは一本道で、
追いつめられたら逃げようがない。だが平原に出れば、進む方向の選択肢が広がり、逃亡が容易に
なる──というのが理由だった。
 シークは同意しなかった。この町に来るのに相当の苦労をした。この先、再び機会が訪れるか
どうかわからない。たとえ危険であっても、いまの機会を最大限に利用して、巨大邪神像へ
向かいたい──との意見を変えなかった。
 この点は『副官』が一歩を譲った。
『副官』はシークに、こまごまとした、しかし重要な情報を与えた。夜間の町の見張りの場所、
時刻、人数。見張りに見つからずに進める経路。町を脱出するのに適当な地点。町からゲルドの谷、
そして砦を経て『幻影の砂漠』へ向かう道についての──距離、高低差、周囲の地形、隠れ場所
などの──詳細な説明。
 時間は飛ぶように過ぎた。『副官』の説明が終わり、シークが出発の準備を調えた時には、もう
夜は更けていた。
 熱した会話が途切れ、テーブルを前に向かい合ってすわる二人の間に、沈黙が落ちた。
 その沈黙に、ぽつんと穴をあけるように、『副官』が言った。
「行きな」
 シークは椅子から身を起こし、
「じゃあ……」
 と短く答えて、『副官』に背を向け、玄関の戸へと、二、三歩、近寄った。
「シーク!」
 後ろで『副官』が鋭い声をあげた。
 ふり返ると、『副官』が立ち上がっていた。歩み寄ってきた。
 肩に両手が置かれる。
「あたしもあとから行くから……安全だとわかったら、砦で待っててくれ。待ってもあたしが
来なかったら、一人で砂漠へ行ってくれ。だとしても、必ず……」
 シークに向けられる『副官』の目。それがみるみるうちに女になる。
 二人は抱き合い、唇を重ねた。
 言葉のない交わりが続き、やがて、二人の顔が離れた時、
「……また会おう」
 その目はすでに、戦士のものへと戻っていた。
782-10 Gerudo Woman (18/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:48:19 ID:0WpeZidY
『副官』の情報は正確だった。
 月の明るい夜で、シークは警戒の上にも警戒を重ねたが、誰にも見とがめられることなく、
無事に町を脱出できた。
 その後は一気に駆けた。無人地帯である西への道をたどる者はいないはずであり、シークは
警戒を二の次にして、体力の限り走り続けた。
 思ったとおり、邪魔は入らなかった。
 夜明けまでにまだ数時間を残す頃、シークはゲルドの谷に到着した。
 道は吊り橋に通じていた。橋の下は、地獄にまでも続いているのではないかと思われるほどの
深い峡谷で、昼でも目が届かないであろう、その底からは、水量を減じているはずのゾーラ川が
つくる滝の音が、それでも明瞭に聞こえていた。
 このまま行けば、無事に砦に着けるだろう。
 シークは安堵し、吊り橋に向かって足を踏み出した。
 その時。
「「お待ち!」」
 耳をひっかくような聞き苦しい叫びが、二重となって前方の空から飛んできた。
 シークは瞬時に後ろへと跳び、体勢を低くして前方をうかがった。
 月明かりに浮かぶ二つの影。箒に乗った二人の老婆。
『副官』から聞いていたので、それがツインローバの分裂した状態であることは、すぐにわかった。
「お前の心に『賢者』という言葉が見えたんでね」
「ここへ来ると思っていたよ」
「でも、いまはここから先へ」
「行かれちゃ都合が悪いんだ」
 耳障りなキイキイ声を交互にあげながら、二人の老婆は空中を移動し、すいとシークの頭上に
近づいた。
 やはり読まれていた。どの程度? もっと深い内容を知られてしまったか?
「さて、それじゃお前のことを」
「もっと詳しく教えてもらおうかね」
 全部ではなかったようだ。
 シークは心を抑制した。
 老婆の四つの目が、シークにぴたりと据えられる。その目がいぶかしそうに細められる。
「これは……」
「お前……」
 四つの目がぎらりと光る。きりきりとした圧力を、シークは頭に感じた。
 ──このままでは読まれる!
 シークは横へ飛びすさった。次いで後ろへ。また横へ。
 無心で身体を躍動させる。吊り橋を突破しようと、前に飛び出す。
「させるか!」
「行かせるか!」
 叫声とともに、箒の上から炎の帯が、氷の棘が、シークに向かって次々に放たれる。
 行く手を阻まれ、さらに身の置き所も失って、シークは谷の崖っぷちへと追いつめられた。
「もう逃げ場はないよ」
「さあ、観念おし」
 二人の老婆がじわりと頭上に迫る。
 シークはちらりと崖下に目をやる。
 落ちたら命はない。だが……
「見せろ!」
「教えろ!」
 強烈な圧力が脳を襲った。
 ──ここまでか……!
 心の抑制が破られた瞬間、シークの足は崖際からはずれ、その身は下へと落ちていった。
792-10 Gerudo Woman (19/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:49:03 ID:0WpeZidY
 シークという、インパの息子のことは、カカリコ村を陥とした時から、ガノンドロフも気には
していた。インパはゼルダの居所を、シークには伝えていたのではないか。インパから得られ
なかった情報を、シークは持っているのではないか──という疑念があった。
 手下に命じて、村人たちからシークのことを聞き出させたが、シークが村を去ったのが半年も前、
ということもあり、行方を知ることはできなかった。
 その後、ゼルダの件と併せて、シークの探索をも続けてはいたが、有力な情報は得られなかった。
 カカリコ村陥落から三年以上も経ったその頃には、もうガノンドロフも、自力でゼルダを
発見することを諦めかかっており、必然的にシークへの関心も低くなっていた。
 そんな時、ツインローバが、旅先で偶然シークに遭遇した、という驚くべき知らせを、
ハイラル城にもたらしたのだった。
「──という具合でね」
 熟女の姿で、ツインローバは顛末を語った。
「シークの名前を聞いた時には、あたしもびっくりしたわ。すぐ逃げちまったが、何とか心の
端っこは覗けた。それで、ゲルドの谷で待ち伏せてたんだけど……」
 ツインローバの眉根が寄せられる。
「あいつ……妙に心が読みにくい奴でね……そういう訓練を受けているのか、それとも、もともと
そういう特性があるのか……」
 そこまで言うと、一転してツインローバの顔に明るさが戻った。
「でも、必要な情報は手に入れたわ。他のことはおいといて、あたしたちが最も知りたいこと
だけに注意を集中させたからね」
「言え」
 感情をまじえずに、ガノンドロフは短く言った。
「まずは残念な情報だけど……シークはゼルダの居所を知らない。どこか安全な所にいるっていう、
カカリコ村の連中が聞かされてた以上のことは、シークの心にはなかったよ」
 残念ではあるが、想定はしていた。インパは慎重だったのだ。乏しい可能性が改めて否定された
だけのこと。あとは……待つだけだ。
「で?」
 ツインローバは「まずは」と言った。他に情報があるということだ。この顔の明るさ。ゼルダを
追う道が絶たれたことを補って余りある何かを、こいつはつかんだのだ。
802-10 Gerudo Woman (20/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:49:58 ID:0WpeZidY
「で、もう一つの情報だけどね……」
 笑いを浮かべて、ツインローバが言葉を継ぐ。
「シークはインパの指示を受けて、賢者を捜して回ってたらしいわ。リンクが戻ってきた時に
助けになるようにってね。ご苦労さんなことだけど……」
 笑いが凄みを帯びる。
「あいつはラウルに会ってたよ」
「何だと?」
『光の賢者』、ラウル。精神だけの存在。ラウルの精神は現実の世界の何者かに宿り、実体と
なってリンクの接触を待っている、と、かつてツインローバは言った。その実体に、シークは
会ったと?
「誰だ」
 思わず声に力が入る。抹殺は困難と思われていたラウルの実体とは?
「ケポラ・ゲボラさ。そう信じてたよ、シークは」
 低い声で、ツインローバは言った。
 ケポラ・ゲボラ。その名はガノンドロフも知っていた。大昔からハイラルに住むという、巨大な梟。
「ハイラルの主と呼ばれている梟。ハイラルを守護する賢者の長。絶妙の暗合じゃない? ね、
ガノン」
 確かに、偶然の一致とは思えない。
 ラウルの実体は人間ではなかった。思ってもみなかったことだが、それもラウルの用心深い
韜晦だったということか……
「シークはどうなった?」
 話題を飛ばす。ツインローバは虚を突かれたようだったが、それでも真面目な表情に戻って
話し始めた。
「谷底へ落っこっちまったよ。夜だったんで、最後まで見定めることはできなかったけど、必要な
情報はいただいたから、あいつがどうなろうと、もう知ったこっちゃない。あそこから落ちたら、
まず助からないだろうがね。仮に助かったとしても……」
 再びツインローバの顔に笑みが現れる。残酷な笑みが。
「生きてもいない賢者を捜して、広いハイラルをさまよい歩くことになるんだ。そのざまを
想像しただけでも、震えがくるほど楽しくなるわ。ほんと、ご苦労さんだよ」
 口からほとばしる、嘲りの笑い。
 それが不意に途絶える。
「そのためにも、ガノン、ケポラ・ゲボラを早く……」
「狩り出せ」
 みなまで言わせず、ガノンドロフは応じた。
「了解! やってやるわ!」
 ツインローバが叫びをあげる。待ち望んだ復讐の機会の到来によって、その目は業火のように
爛々と燃え盛っていた。


To be continued.
81 ◆JmQ19ALdig :2007/05/12(土) 22:51:01 ID:0WpeZidY
以上です。シーク視点なので、描写がやけに冷静になってしまった。

>>49
40%くらい。正直自分でも、大変なことを始めてしまったと思っています。
でもここまで風呂敷を広げてしまった以上、畳みきる覚悟でいます。
82名無しさん@ピンキー:2007/05/12(土) 22:53:27 ID:5pQh6NMj
>>81
リアルタイムで乙!
これからじっくり読ませてもらうよ
83名無しさん@ピンキー:2007/05/12(土) 22:56:02 ID:5McbG/2D
GJ!がんばれ〜
最後まで見届けるゾラ〜
84名無しさん@ピンキー:2007/05/12(土) 23:08:01 ID:3/rN2x2C
副官カワユス(*´∀`)
いつもいつもGJ!
85名無しさん@ピンキー:2007/05/13(日) 00:13:22 ID:iSaYYUJB
初のアナル和姦が数行で終わってしまって悲すい
86名無しさん@ピンキー:2007/05/13(日) 11:38:49 ID:n7ym5CX+
乙そして超GJ
俺は絶対最後まで読みきるから、頑張ってくれ
87名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 00:00:07 ID:GtUknIhD
GJ!頑張って下さい
ケポラ?ゲボラ軽いなw
88名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 00:07:00 ID:vABxNbo4
GJ!
JmQ19ALdigさんは時オカを本当に隅々まで知り尽くしていると感じた
じゃなきゃこんな奥深いストーリーは書けないよ
ゴシップストーンがそんな噂までしていたとは知らず、久々に時オカやりたくなってきたw
89名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 23:40:43 ID:ykqqiTDs
前スレ埋まりました
90名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 23:39:38 ID:II8FKbcI
乙であります。
しかし最後のあれ見て....ふと

リンク「その口やめろ!!」
メドリ「はう!生まれつきですう〜!!」
91名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 15:32:36 ID:vat2yLMm
メドリ「ふぇらちおしてあげますぅ〜」
リンク「痛いバカやめろ!」
92名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 15:41:06 ID:QzNpxprP
とか言いつつも体は正直だよなー、という展開で
93名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 20:57:53 ID:3mCapWWN
ルト姫と少年リンクの回を読みかえして、
奔放な全裸ルト姫と、自慰も知らぬまま性欲を持て余すリンクの
ほのぼのっぷりにあてられた。

勢いあまって、

ガノンがいない世界で2人が出会い、
やっぱりケンカしつつも仲良くなって、幼い本能の命ずるまま体を重ねる。
知識が足らず穴を間違えてアナルセクロスしてしまうが2人とも気づかない。

「早くそなたの子を授かりたくて、毎日ヒマさえあればまぐわい続けもう一年じゃが
一向に月のものが止まらぬのう」
「もっといっぱいしなきゃだめかな」
「まぐわう姿勢ももっといろいろ試すべきかのう」

結局、さらに2年後、まんぐり返しで抜かずに何発アナルセクロスできるか
挑戦中、尻穴からかき出された大量の子種汁が膣に流れ込んで妊娠。
そのため、とうとう子供ができてからも「セクロスはアナルでするもの」と
信じ込んでいる2人だった。

…と妄想してしまい'`ァ'`ァ(*´Д`)=3 '`ァ'`ァ
94名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 23:34:59 ID:pawNXfOm
>>91
そりゃクチバシじゃ痛いわ
95名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 00:02:45 ID:Z5AlLFKi
ええと、トワプリ、アッシュで後日譚です。
「×」の使い方がいまいちわかりません。
地形・方角はGC版準拠。
96アッシュ 後日譚 1/8:2007/05/18(金) 00:04:34 ID:Z5AlLFKi
腕に抱いていた暖かいものが動く気配で目が覚めた。
窓の外はまだ薄暗い。夜が明けきるまでには時間がありそうだ。
視線を上げると、半身を起こし困惑した表情のリンクと目が合った。
「ア、アッシュ……」
彼女もまたベッドに身を起こし、乏しい光の中で彼の表情を捉えるべく目を凝らした。
「覚えていない、という顔だな」
解けた黒髪を掻き揚げる――二人とも全裸である。
夜明け前の薄明かりに目が慣れ、次第にアッシュの裸身がはっきりと映る――
細身に鍛え上げられた体だが胸や腰はしっかりと女性らしく膨らみ、腹部には絶妙な滑らかさを伴う縦線が美しく刻まれている。
白い肌に頭髪と同様漆黒の陰毛が扇情的なコントラストを示している。
リンクは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
この見事な体を前にしてなにもしていない――などと言い切れる自信は正直、ない。
それにもう長い間そういったことから遠ざかっていて、飢え気味だったのは自覚している。

記憶が飛んでいる原因は推測がつく。卓の上の酒瓶、転がった杯。
酒を飲んだのか?でもいつ?超下戸の自分が飲んでしまった後にどうこうできるとは思えない。
…でももし…それが事の後だとしたら?
アッシュはいつもの無表情のままじっとリンクを見据えている。
その貌からはこの状況を説明するものは何も得られそうになかった。
「安心しろ、少なくとも『お前は』何もしちゃいないさ」
アッシュは小さくため息をついてリンク背を向け、ベッドの下に散乱した二人分の衣服の中から
自分のものを選び出しては身に着けてゆく。
「ああ…」
背後にリンクの安堵の吐息を聞きながら付け加える。
「本人の意思と下半身は別物だろうしな。よくあることだ」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

既に日が落ちて数刻、灯りが点された街路には人影がまばらになっていた。
若い剣士が一人、家路を急いでいる。
二階に下宿している果物屋の前に着いたとき、物陰から声をかける者があった。
「なんだ、思ったより早かったな」
若者は聞き覚えのある声のほうへ向き直る。
「…差し入れだ」
アッシュは手に持った包みを掲げて見せた。
97アッシュ 後日譚 2/8:2007/05/18(金) 00:06:42 ID:Z5AlLFKi
故郷を出て数ヶ月、リンクはテルマの紹介でこの仮住まいに落ち着いている。
城に巣食い国を傾けかけていた魔王を斃した英雄は、最功労者への論功行賞として提示された所領を固辞し、
ただ名誉職としての騎士の称号だけを受け取った。
それとてラフレル達の強い説得があってこそのことで、本人はやはり辞退する気でいたらしい。
ともあれ今では有名人になってしまったにもかかわらず、こうして市井で質素に暮らしているのだ。

「工事が休みと聞いて昼間に一度訪ねたんだが」
リンクの後に続いて階段を上りながらアッシュが話す。
「朝から剣を持って出かけたと…」
「うん、腕が鈍ると困るから…たまには」
室内灯を点し、アッシュに椅子を勧めておいて、装備を降ろす。
窓辺の棚に紫色の液体が入った瓶をことりと置く――既にそこにあったものと合わせて同じ中身の瓶が三つ並んだ。
「剣の相手が必要なら、私に言ってくれればいいじゃないか」
女剣士は少し不満げに言ってどさりと腰掛ける。
灯りの元で見ると、おそらく一日中剣を振っていたのだろう、リンクの貌にはありありと疲労が浮かんでいる。
少しどきりとして目を反らせた。
「不足か?…私では?」
そっぽを向いたまま、さげ髪をぱさりと払う。
「いやそんな、ぜひまたそのうちお願いするよ」
アッシュの技巧的で軽快な太刀筋は独特のものがあり、どちらかというと力任せなリンクの剣技とは一線を画している。
実際立ち会えば参考になることも多い。
「ふん」
リンクの言葉に社交辞令ではない響きを感じて少し機嫌を直し、
向かいに腰を下ろした彼の前に包みの中身を取り出した。
詰め物をして焼いた野鳥に、豆と野菜の煮物――テルマの店のメニューにしては…
「これ……もしかしてアッシュが?」
「そうだが?」
「…有難く頂くよ」
「ふん」
疲れて竈に火を入れる気になれなかった。チーズとリンゴでも齧って適当に済ます気でいた。
攻撃力に劣る自前の武器を手に、試練の洞窟を最下層まで潜ってきたのだから――
「うわ」
「…なんだ?」
「…うまい…すごく」
手料理にも驚いたが、正直味に期待はしていなかった。
なにしろアッシュである、台所に立つ姿が想像できない…などという己の偏見を恥じ入った。
「羽もすごく丁寧にむしってあるし」
手際のよさと繊細さが想像できる。
「料理得意だったんだ…うん、ほんとにうまい、こんなにうまいもの久しぶりだよ」
手放しで褒められてアッシュは上機嫌だった。
ただそれを表情に出せず、やぶにらみ気味のままなのはないのはどうしようもない性格なのだった。
98アッシュ 後日譚 3/8:2007/05/18(金) 00:07:50 ID:Z5AlLFKi
さて本題である。
しばらく無心に食事を口に運ぶリンクを頬杖をついて眺めていたアッシュが口を開いた。
「ラフレルに作法とか習ってるんだって?騎士としての」
リンクの手が止まり、一気に耳まで赤くなった。
「シャッドに古文書の解読を教えてくれって頼んだらしいな?」
「あ…うん。俺、ほら…学がないから…」
ぎくしゃくと頭に手をやり、意味もなく辺りを見回している。
別にそんなに動揺するようなことじゃないと思うが――彼なりのコンプレックスなんだろうか。
「王立図書館にも通ってるって…」
「何でも知ってるんだな」
言われて今度はアッシュが動揺した、が表情は変わらない。
「いつ訪ねても留守なものでな」
腕を組みぶっきらぼうに応じる。
「晴れてれば、昼間は大抵現場に居るよ」
「精霊の泉の参道だったか?今は」
「そう」
殊勲の騎士殿は復興工事に従事しているのである。
瓦解したハイラル城の残骸撤去、城下町東の橋やオルディン大橋の修復――
きっかけは王家…というかゼルダ姫の依頼で工事を請け負っていた貴族出身の監督者と
手伝いに来ていたゴロン族との諍いをたまたま通り掛りに仲裁したことだった。
土木工事を迅速に進めるためには怪力ぞろいで石や鉱物の扱いに長けたゴロン族の助っ人は不可欠なのだが、
誇り高く、独自の価値観を持つ彼らはしばしば現場の責任者であるハイリア人と対立してしまいがちだった。
そんなゴロン達から一目置かれていて、なおかつハイリア人にも名の知れたリンクは調整役として適任と看做され、
それ以来請われて現場を飛び回っている。
さらに建材等の水運で力を発揮し、意匠設計にも定評のあるゾーラ族にも顔が利くとあって
現在の現場でもやはり重宝されているらしい。
「工事は楽しいのか?」
「そうだな、建造物が日に日に形になっていくのはいいもんだよ。今じゃ図面も読めるようになったし…」
そして日没で工事が終了すると大抵テルマの店で食事を取ってから何処かで勉強しているらしく、部屋には寝に戻るのみである。
天候が悪かったり、作業者達の疲労が溜まると今日のように工事が休みになることもあったが、
そんな日もリンクはやはりどこぞへ出かけて部屋にいないのだった。
「そんなんじゃ彼女もできないだろう」
持参した酒瓶を手酌で傾けながらアッシュが言う。
「はは、そうだな」
「私で妥協しておけ」
「……アッシュ」
リンクは困ったように眉をよせ、ゆっくりと首を横に振る。
「冗談だ」
杯を傾ける。
「お前には一度振られているしな」
「………」
99アッシュ 後日譚 4/8:2007/05/18(金) 00:08:58 ID:Z5AlLFKi
あれはいつだったか、まだハイラル城が妙な結界に覆われていた頃、なにか情報がないかと
テルマの店を訪ねたリンクと二人きりになる機会があった。

最初は鼻持ちならない奴だと想っていた。
思い上がった田舎者、世の中がおかしくなってゆくこのご時勢にお気楽な扮装で何を考えているのかと…
テルマやモイから彼の孤軍奮闘を聞くまでは。
思い上がりは私のほうだったんだ…
自分の人を見る目を恥じ、会う度ごとに殊更にリンクを観察するようになっていた。
そして
「以前店に居た娘…記憶が戻ったんだって?」
「うん」
「よかったな」
「うん…ありがとう」
「……………恋人なのか?」
少し逡巡してから切り出した。
リンクが己の影に視線を落とす。
「いや…幼馴染なんだ、…大切な」
「それを聞いて安心した」
「え?」
姿勢を正し、緑衣の剣士を正面から見据える。
右手を己の胸に当て、
「リンク、私と付合ってくれないか?」
「…ええ?」
面食らっている。この台詞を聞いた男の反応はどうしていつもこうなのだろう。
「お前が気に入った。…年上は嫌か?」
「い、いや」
「まあ、私は物言いもこんなだし…」
「それは、別に、というか」
「気にならないなら」
ずいとにじり寄る。
「いやあの、ごめん、今は」
「勿論今すぐとは言わない」
でも返事は聞いておきたい。
「事が成ったら…」
自分なりにせいいっぱいやさしい表情をしたつもりだが、
「…ごめん」
また下を向かせてしまった。
「アッシュはとても魅力的な女性だと思うよ、でも」
「……他に好きな奴が?」
「……うん…」
ふう、とため息が出てしまう。
「またか…しかたがないな」
私は男運が無い。好きになる奴にはいつだって他に本命が居て…
100アッシュ 後日譚 5/8:2007/05/18(金) 00:09:39 ID:Z5AlLFKi
アッシュは意識を現在目の前に居る男に戻した。
今はどうなんだ?想い人とはどうなった?
一番聞いてみたい質問を退け、先刻彼が置いた装備品に目をやる。
実用的で質素な剣、使い込まれた盾、頑丈そうだがやはり質素な弓…
「前に持ってた剣はどうした?やけに立派な拵えの」
「あれは…借り物だったから」
「ゼルダ様からの?」
「え、う、うん」
正確には少し違うのだがそうとも言える。
アッシュは目を閉じゆっくり息を吐いてから、リンクの方へと向き直った。
「まったくお前は不思議な男だな…リンク」
「モイの話じゃフィローネから北には行ったこともなかったんだって?」
アッシュは首を傾げ、
「そんな奴がどうやって姫様と知り合った?」
さらに畳み掛ける。
「しかも伝説の――マスターソードを託されるほどの――」
リンクの目が見開いた。なぜそれを知ってる、と顔に書いてある。
「やはりラフレルの言った通りか…」
彼が背にしていた剣のはばきに施された王家の紋章に老友は気づいていた。
もしやあれはマスターソードではなかったのかと。

「お前、いったい何者なんだ?」
「がむしゃらに勉強するのは本当は何の為なんだ?」
部屋の隅には借り物らしき本が積まれている。
「忙しくしていないと困る訳でもあるのか?」
「たまにはわた…いや友人と遊びに行くことくらいあっていいんじゃないか?」
「私は――――」
言葉を切る。どう言えばいい?
「ただ――お前のことを、もっと、知りたいんだ――」
リンクは答えず、視線を空に漂わせたまま、卓の上の杯を口に運び――
次の瞬間、口に含んだものを派手に吹き出した。
苦しげにむせ返るリンクに驚き、そして思い出した。
「ああ、お前飲めないんだったな…」

悪気はなかった。手に入ったちょっといい酒を彼の杯にも注いでおいたのは純粋に好意からである。
「おい、大丈夫か?」
聞こえているのかいないのか、リンクはぜいぜいいいながら椅子から立ち上がろうとして派手によろめいている。
見ていられない。とにかく彼に手を貸し、部屋の奥のベッドへと誘導する。
嚥下してしまった酒は強いとはいえごく少量のはずだが、まさかここまで弱いとは…
肩を貸し、密着すると一日走り回っていた男の体臭が鼻腔をくすぐる。
ベッドに横にならせてブーツを引っこ抜き、ベルトに手をかける。
「いい、大丈夫だから」
真っ赤な顔でぼそぼそ言っているが、無視して体を締め付けているものはとにかく外す。
チュニックを脱がせ、少々てこずりながら鎖帷子を外す。これでちょっとは楽になるだろう。
「待ってろ」
アッシュは一旦その場を離れ別の杯を手にして戻ってきた。
「ほら、水」
目を閉じ、ぐったりと伸びていたリンクはその声に反応して起き上がろうとし――肩を抑えられベッドへ戻された。
そして開いたままの唇へ、口移しに水が注ぎ込まれる。
リンクの喉がごくりと鳴るのを確かめて、アッシュは顔を少し離した。
ごく至近距離で青い瞳が潤んでいる。
「…ありがとう、でももう」
なにか言おうとする唇をもう一度塞ぐ。口腔内に差し込まれたのは水ではなく柔らかな舌。
深く、長い口付けにしかしリンクは応えようとはしなかった。
101アッシュ 後日譚 6/8:2007/05/18(金) 00:10:54 ID:Z5AlLFKi
無抵抗なリンクの頭を撫でながら、
「…リンク、この世の半分は男のはずなのに」
改めてゆっくりと話しかける。
「私の目に『漢』として映る奴は本当に少なくて…」
「……」
「たまに居たと思っても既に他の誰かのものだったり、年寄りだったり」
「……」
「リンク…、どうやら私は自分で考えていた以上に諦めが悪いらしい」
リンクは動けなかった。
アッシュの声がわんわんという耳鳴りに邪魔されてよく聞こえない。
天井が回っている…
「お前はそのままでいい、……私が、してやる」
何をされているのか気が付くのに時間がかかった。
疲れきっていた体にアルコールはあまりに強烈すぎた――

アッシュは身に着けていた防具を外し、肌着一枚でリンクに寄り添った。
襟元を寛がせしょっぱい肌に舌を這わせると、思いのほか厚みのある胸が大きく上下し、
上気した全身から若い体臭が立ち上る。
シャツの下から真新しい挫傷が覗いている、彼の修行相手は容赦のない性格らしい――
ズボンの腰紐を緩め前ボタンを外して手を進入させ、更に下着の奥へと進む。
探り当てた柔らかいそれを愛しげに掌に包み、擦る。
強く、弱く。

「…よせ、アッシュ」
そんなつもりはなくとも、触られればやはり気持ちいい。
しかも(…上手い)
こんな特技まで持っていたとは。
「アッシュ」
一言しゃべっただけで、少し頭を振っただけでぐわんと頭痛がする。思考が続かない。
ただおとなしく、じっとして与えられる快感を享受しているべきなのか。
(…いいじゃないか、彼女がそうしたいというのなら)
村に居た頃はそうだったろう?
訳知り顔の年上の女達、隣村の若後家…愛だの恋だのじゃなくただ肉の快楽としてのセックス。
したいから、そうする。翌日には持ち越さない、その夜毎の関係。
今はもう遠い昔に思えるあの頃…
まだ知らなかった、本当に愛した相手との心で結びついた上での体の交わりは、全くの別物であるということを。
(いけない)
少なくともアッシュが自分に向ける気持ちに応えることができない以上、安易に関係を結ぶべきじゃない。
102アッシュ 後日譚 7/8:2007/05/18(金) 00:12:57 ID:Z5AlLFKi
芯を持ちかけていたと思った一物が手の中で再び萎えるのを感じ、アッシュは気を落とした。
「…やはり、私じゃだめか?」
「だめなのは、俺だよ」
そんな返事をどう受け取ったのか、アッシュは体をずらしリンクの着衣の中から取り出した竿の先端に口付けた。
「ええっ?!――痛ッ」
慌ててアッシュを引き離そうと起き上がりかけたリンクを激しい頭痛と悪寒が襲った。
眉間に皺を寄せて仰向けに戻る。どうにもならない。
少し痛みの引くのを待ってリンクが自分の下腹部を見下ろすと、熱心で丁寧な口技を続けるアッシュの流し目と鉢合わせた。
やめてくれそうにない…そして、やはりこれも上手い。
先端を舌で叩くように刺激し、鈴口を吸われる。亀頭全体を含み、裏筋に軽く歯を当てたままもぐもぐと弄られる。
かと思うと深く飲み込んで口腔の奥のざらつきに亀頭を当て、竿を舐め回す。
まずい、気持ち良すぎる…
「アッシュ、お願いだから」
情けなくも弱々しく哀願する。
「ああ、ちゃんとイかせてやるから」
「…違う」
理性を裏切る下半身の快感とは裏腹に頭痛と胸の悪寒は治まらない、ベッドごとぐるぐると回っているようだ。

アッシュは諦めなかった。なかなか十分な硬さを示してくれないそれを根気強く愛し続けていた。
まだ少女だった自分に男を教え込んだ奴を思い出す。
「お前のフェラは極上だ。どんな男だって勃たせることができるさ、まあ俺に感謝するんだな」
家庭がありながらそれを隠して近づき、私を弄んだ男、……畜生やはりあんな奴の言うことはあてにならない。
(だけどリンク、お前には気持ち良くなってほしい…どうしても)
静まり返った部屋に時折漏らすリンクの呻きと、その体の中心でアッシュの奏でる淫音のみが響いている。
一旦口から竿を離し、足の付け根に、陰嚢に、さらにその裏側へと舌を這わせてゆく――

リンクを勃たせるべく愛撫を口淫を施しながらアッシュの脳裏には浮かんでいたのは数ヶ月前のことだった。
――あの時、やっと進入したハイラル城は魔力によるものか奇妙に構造が歪められていて先へ進むことができず、
仲間達と前庭で対策を練っていた正にその目の前で城の天守が吹き飛んだのを、見た時
――正直こいつが生きているとは思えなかった。
色を失ってゼルダ姫の名を叫ぶラフレル、リンクの名を呼び取り乱すモイ、放心状態のシャッド。
私は何を想っていた?驚きと、怒りと、悲しみと…
『ワタシヲフッタオトコガシンダ。ワタシイガイノモノニナラズニシンダ』
心のどこかで残酷にも――――安堵しては――――いなかったか。
しかし神々と精霊の加護の元、ハイラルの至宝は滅んではいなかった。
後に無事な姿を現した姫君の御言葉に勇者として語られた名こそ、この朴訥漢なのである。
だが――私達の前に戻ったきた時、この救国の英雄はなぜかひどく顔色が悪かったのを覚えている。
誰もが城で起こったことを聞きたくて、口々に質問するのだが曖昧にしか答えない。
どうやってあの結界を破った?あの不自然に空間が歪んだような城内をどうやって進んだ?
あの爆発に遭いながら何故無事でいられた?無事でいたならばなぜすぐに姿を現さなかった?
リンクの口からはただ、そのうち姫様から説明があるはずだ、今は一人にしてくれと繰り返されるのみだった――
結局今に至るまで、彼自身の口から事の顛末が語られることはないままだ。
103アッシュ 後日譚 8/8:2007/05/18(金) 00:14:41 ID:Z5AlLFKi
「う、ああ…」
耐え切れない快感にリンクが喘ぐ。
(リンク…お前の心に住んでるのは誰なんだ?)
これだけは、誰に尋ねてもわからなかった。彼が誰か女性と一緒に居たところを見た者さえ彼女の知る限りいないのだ。
姿のないライバルにどう対抗すればいいのだろう?
解るのは、その相手が今彼の傍にはいないということだけ……
ならば私はここにこうして居られることを利用するしかない。
(いいさ、心を得られないというのならせめて…)
身に着けていた肌着を脱ぎ捨て、忘我のリンクに跨っていった――

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「ご、ごめん俺、ホントに何も思い出せなくて」
何に対しての『ごめん』なんだか
「なあ、アッシュ…」
困ってるな――困らせておこう。
寝言で女の名の一つも聞けるかとも思ったけれど…
「べつに、謝ることはない」
衣服を身につけ終わり、解けてしまった頭髪を手櫛で撫でつける。
ふと、あることを思いついた。
「…お前が以前言ってた好きな奴って…」
頭だけ、リンクの方を振り返る。
「やめておけ、身分違いは不幸の元だぞ」
「!!」
カマをかけたつもりが、リンクはぎくりとした表情で固まってしまった。
「おい…、まさか、図星か?」
それなら確かに該当者がいる。彼の周辺に、一人だけ。
学の無さを気にするのも納得がいく――
「え、や、ち、ちが、え」
狼狽のあまり言葉になっていない…解りやすすぎる。
思えばこんな風に自分とは正反対な表情豊かなところにも惹かれたのかもしれない。
立ち上がり、もう一度ため息をつくと共に頭を振る――
「じゃあな、このインポ野郎」
後ろ向きのまま軽く片手を挙げ、部屋を出て行った。



パニックから立ち直ったリンクが新たな誤解の種を蒔いてしまったことに気づいたのは、少し後のことである。
104名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 00:15:51 ID:Z5AlLFKi
続いたりして。

Samba24って何…
105名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 00:58:41 ID:EayNS0YG
アッシュキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!
設定、心理描写、文体いずれも巧妙。
視点の移動がわかりにくい所もありますが
話にカタルシスの爆発のない点、アッシュのキャラにも合致していて
余韻の残る話でした。
GJ!!!
106名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 10:20:51 ID:2QmlnNSk
すげえ、GJ!
アッシュらしさがすごいでてて良いね
ぜひ続いて欲しいです
107名無しさん@ピンキー:2007/05/19(土) 13:42:10 ID:7A7IRHAs
アッシュ×リンクの人超GJです!
アッシュが魅力的に描かれていて凄くイイ

リンクの本命はやっぱりミドナ…ですよね。
続き楽しみに待ってます。
108名無しさん@ピンキー:2007/05/19(土) 21:06:39 ID:24qeIcGY
ちょ〜GJ!!
お料理スキル(攻撃力に+10)持ちかアッシュさん!!
続きまってるよぉ〜
109名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 12:46:30 ID:ggzoIC7Z
保管庫見てきたけどメドリネタなさそうだね
別に自分で書いてもいいんだが最終的に面倒くさがって書くのをやめるからなぁ
やめる可能性が高くてもいいなら書くがさてどうするか
110名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 14:30:32 ID:TkQc5qcM
>>109
そういう事を言うって事は、誰かに後押ししてほしいという事…と捉えていいんだよな?

じゃあ書いてくれないか
111名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 22:01:18 ID:wMmar4Vw
>>109
僕は、君を待ってるから…
112名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 23:27:31 ID:kJJDAICY
書けばいいと思うよ
113名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 14:15:28 ID:Yfz70eUO
かいちゃってくらは〜い
114名無しさん@ピンキー:2007/05/22(火) 07:59:12 ID:3sLzWCHV
書くな、なんて誰が言うものか!
書いてくれ
115名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 15:17:34 ID:8aYAju4L
徐にage
116名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 15:25:05 ID:8aYAju4L
…………。
117名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 15:38:02 ID:6pQiXdsW
そして誰もいなくなった
118名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 18:44:48 ID:1NKf9+Zl
しかし人が来た
119名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 19:25:29 ID:8X98ssoi
なぜageる…
120名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 22:46:23 ID:juNuPJq0
しかし、ドミナにしろアッシュにしろ、一回こっきりのキャラにするのは
もったいない・・・・・・・・。
121名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 00:28:48 ID:Dvw8jFMc
ドミナじゃなくてドミノだったらピザ運んでくれるよ
122 ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:29:56 ID:SKJE+xQV
私本・時のオカリナ/第二部/第十一章/アンジュ編その4+ケポラ・ゲボラ編、投下します。
シーク×アンジュ。アンジュは頻出につきあっさりと。
ツインローバ×ケポラ・ゲボラ。獣姦。陵辱→死亡(一過性)。最終2レスはグロ。
結果、今回はエロ薄目です。
註:アンジュ(仮名)=コッコ姉さん
1232-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (1/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:31:31 ID:SKJE+xQV
 水の神殿に向かう石柱。その脇に位置をとる。
 東隣には、ハイリア湖のかつての岸辺に沿って、みずうみ博士が耕作する畑がある。そこに、
人間もどきの物体が二つ立っている。ユーモアのある博士が、ボヌールとピエールという名前で
呼んでいる、二体の案山子だ。
 その二体を狙う。かなり離れてはいるが……
 居合いのごとく右腕を一閃、さらに一閃。
 直後、ボヌールとピエールの胴には、短刀が一本ずつ、みごとに突き刺さっていた。
 右前腕の感覚を確かめる。左手で触れてみる。ぎゅっと力を入れて握ってみる。
 痛みはない。投擲の勘も保たれている。
 ほうっ、とシークは息をついた。
 後ろに気配を感じ、ふり返ると、のんびりとした様子で足を運んでくる、みずうみ博士の姿が
あった。
「どうかな?」
「問題ありません」
 微笑みながら問う博士に、シークは一礼した。
「博士のおかげです。ほんとうに……感謝しています」
 あえて表情を動かさないシークに対し、博士は、さらに大きな笑いを顔に浮かべて言った。
「わしゃ大したことはしとらんよ。医者ではないからの。骨にひびが入った程度だったんじゃろ。
なんにせよ、大事に至らんでよかったわい」
 謙遜だ。博士は僕の腕の状態をみると、直ちに水で冷やし、副木で固定して、安静を命じた。
副木が取れるまでに二週間かかったものの、後遺症はない。運動能力の減退が心配だったが、
いまの感じでは大丈夫だ。
 博士の判断は的確だったのだ。
 もう一度、心の中で、シークは博士に向け、深い礼を捧げた。

 幸運だった──と、シークは思い返す。
 ゲルドの谷で、ツインローバの攻撃により、崖っぷちへと追いつめられた時のこと。
 あのまま谷底へ落ちていたら……川の水量が豊富であればまだしも、ゾーラの里の氷結によって
貧弱な流れしか残っていない状態では、身体は河床に激突し、確実に死んでいただろう。だが……
 崖の上から、ちらりと下に目をやった時、切り立った岩壁の途中に、狭く棚のように張り出す
平面が見えたのだ。
 即座に決断し、その岩棚に向かって飛んだ。
 目測は外れず、身体は岩棚に落ちた。激しい衝撃で右腕を骨折してしまったが……とっさに
受け身を取ったせいもあるだろう、他の傷は数カ所の打撲程度で、命までは失わずにすんだ。
 意識も保たれていたので、岩棚にのっていた大きな岩の陰に隠れ、気配を絶った。ツインローバは
箒で飛びながら、しばらく様子をうかがっていたが、こちらに気づかないまま、そのうち姿を
消してしまった。警戒はゆるめず、朝まで同じ体勢を続けた。空が明るくなり、安全だという
ことがわかって、初めて緊張を解いた。
 しかし、ほんとうの危険は、そのあとにあった。
 崖はほとんど垂直で、登ることはかなわない。ましてや腕を骨折した状態では。
 とはいえ、待っていても、助けは望めない。『副官』が来てくれる可能性を考えはしたが、
誰かが来るとすれば、敵である可能性の方がはるかに高い。敵に見つからなかったとしても、
その場合は、飢えと乾きで死ぬのを待つだけだ。
 行くべき道は下方のみ。綱でもあれば安全に下りられたかもしれないが、それもない以上、
飛び降りるしか方法はない。だが谷の途中からではあっても、そこから河床に落ちれば、やはり
死は免れない。
 目標は一点。滝壺だった。川の流量は減っていても、長い年月、はるかな高みから落ちかかる
水が、川底を穿ってできた滝壺は、落下する肉体を無事に受け止めるだけの深さと水量を有して
いるだろう。
 賭だった。そして、賭の結果は……勝ちだった。
 その後は歩いてゾーラ川を下った。そして、やっとのことでハイリア湖に到達し、湖研究所──
みずうみ博士の家の戸を叩いたのだった。
1242-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (2/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:32:39 ID:SKJE+xQV
 ゲルド族の奴隷になっていた──と語ると、博士は、初めは唖然とし、次に爆笑しながら、
シークの肩を叩いた。
「そりゃめったにできんことじゃの。お前さんには、いい経験になったかもしれん。わしは金輪際、
経験したいなどとは思わんが」
 博士の世話になり、骨折の治癒を待つ間、シークはできるだけのことをした。
 かつてリンクも読んだという、博士が書いたハイラルの生物図鑑を熟読し、特に魔物に関する
知識を貯めこんだ。
 以前に訪れた時と比べ、ハイリア湖の水はさらに減少していた。
「いまは、まだ水の底じゃが、いずれ水が涸れてしもうたら……水の神殿に入ることができる
ようになるかもの」
 と博士は言った。破壊されてゆく自然の姿に胸を痛めながらも、シークは期待を抱いた。
 その時のために──と、シークは湖の近辺を探索した。
 三体のゴシップストーンが見つかり、うち一つがメロディを返してきた。いかにも水の美しい
したたりを想起させる、その流麗なメロディを、シークは『水のセレナーデ』と名づけ、
『やはり、神殿に近い場所にあるゴシップストーンが、メロディを教えてくれる』
 と確信したのだった。
『ゴシップストーンといえば──』
 シークの心を動かしたことがあった。
 ゴシップストーンの前に立ち、聞こえてきた噂。
 その一つ。
『……こっそり聞いた話だが……かなりわがままで有名な、ゾーラの姫、ルトは、スキな男の子が
いるらしい』
 リンクのことだろうか──と思った。
 以前、博士から、リンクとルト姫が一緒にハイリア湖へ来たことがある、と聞いた。ルト姫は
リンクに傲慢な態度をとるばかりだったというが……あるいは……
 男の経験を積んだ、いまとなっては、かつてのような胸の痛みを感じたりはしないが……
それでも……
 いずれにせよ──と、シークは思いを心の隅に押しやった。
 ルト姫の消息は絶えて久しい。無意味な噂だ。ゴシップストーンも、ずいぶん時代に遅れている。
 もう一つ。
『……こっそり聞いた話だが……カカリコ村のアンジュは、コッコをコンパクト化する研究の
ために、湖研究所へ通っているらしい』
 でたらめだ。アンジュが以前、コッコの世話をしていたのは事実ではあるが、博士の話では、
湖研究所を訪れていたのは、薬屋であるアンジュの母親であって、アンジュ本人ではない。その
あたりがごっちゃになっているのだろう。コッコのコンパクト化というのも理解不能だ。
 時代遅れであるばかりではなく、信憑性にも問題がある──とシークは苦笑いしたが……
予期せずアンジュの名を聞いて、胸が騒いだのは確かだ。
 ルト姫の噂を聞いた時とは、また違った心の場所が、ざわりと。
『いや、いまは……』
 シークは首を振る。
 なすべきことは多かった。
1252-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (3/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:33:45 ID:SKJE+xQV
 傷が癒えたあと、シークがまず取りかかったのは、魂の神殿を目指して、再びゲルド族の支配
領域への侵入を試みることだった。
 ゲルドの谷で会った時、ツインローバは、いまはここから先へ行かれては都合が悪い、と言った。
他の神殿は放置しているのに、なぜ魂の神殿に関しては警戒するのか。理由はわからないが、
行かれて困ることがあるのなら、ぜひ行ってみなければならない。それに『副官』のことも気になる。
 しかし、侵入は容易ではなかった。シークは前と同じく、ゲルド族の支配領域の外縁から、
領域内の様子を注意深く観察したのだが、情勢は変わってしまっていた。ゲルド族の動きがやけに
あわただしく、頻繁に各地を移動している様子なのだ。自分の以前の侵入が原因かと思ったが、
そればかりではなさそうだった。自分以外の誰かを探している雰囲気が感じられた。いまさら
ゼルダ姫の捜索を強化したわけでもあるまいに……とシークは思ったが、変化の原因を突き止める
ことはできず、またそのような緊迫した情勢では、当面、侵入は諦めざるを得なかった。

 魂の神殿は、いずれ別の機会に──とシークは考えを変え、別の活動を始めることにした。
 ハイラルの各地を、虱潰しのごとく経めぐってみるのだ。ゴシップストーンの噂を確かめる
ためでもあったが、それ以上に、ハイラル世界のありとあらゆる情報を、可能な限り収集しておく
ことが目的だった。賢者の捜索を放棄したわけではなかったが、出会いが困難──あるいは不可能
──な現状であるだけに、他に自分ができることは何でもしておくつもりだった。
 リンクが帰ってきた時のために。
 たとえば魔物について。それまでの経験から、シークは、ハイラル平原にいる魔物の種類には
限りがあり、各々が出現する場所や時間帯に、一定の傾向があることを感じ取っていた。それらを
詳細に記憶し、さらなる特徴──相手の攻撃方法、弱点、対処法など──も把握しておく。
これには、みずうみ博士の図鑑から得た知識が役に立つだろう。
 あるいは地理について。ゲルド族の支配領域内へ侵入する際に行ったような調査を、今度は
ハイラル中に拡大して行うのだ。ハイラルのどこに、どのようなものがあるのか。どこでどの
ようなものを手に入れられるか。町や村の位置、規模、人口、産業などに関して。それらを結ぶ
道に関して。一時的な調査ではなく、その後の状況の変化についても押さえておかねばならない。

 ハイリア湖を出発し、反時計回りの方向で、じっくりと、シークは調査を続けていった。
まず東へ向かい、自分のそもそもの出発点である、南の荒野へと至った。
 ゴシップストーンについては、当てはずれと言わざるを得なかった。石像が語る噂は、
ガノンドロフが黒いゲルド馬に乗っている、などという、愚にもつかないものがほとんどで、
使命の遂行には役立ちそうになかった。メロディに関しても、神殿とは無関係な場所にある
ゴシップストーンが寄与するところはなかった。
 情報の収集は、実に単調な作業だった。が、費やした労力に対する見返りはあり、有用な情報が
着々と蓄積されていった。シークは黙々と、その仕事に集中した。
 長い旅になった。
 途中で何度か、ゲルド族の支配領域内への再侵入を試みたが、情勢は流動的で、やはり実行する
には至らなかった。しかたなく、シークはそのつど、情報収集の旅へと戻った。
 南の荒野から、もう一度コキリの森の焼け跡へ。次いで北上し、ゾーラ川へ。
 そしてシークは、カカリコ村に着いた。
 ハイリア湖を発ってからほぼ一年、前にカカリコ村を出た時から数えると、二年あまりが
過ぎていた。
1262-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (4/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:34:37 ID:SKJE+xQV
 シークは村の外で夜を待った。村に常駐しているはずのゲルド族を警戒してのことだった。
 待ちながら、自分がなすべきことを確認する。
 闇の神殿。その場所を解明する。そして、メロディ。他の神殿と同じく、闇の神殿にも、
そこに関連するメロディがあり、それを教えてくれるゴシップストーンがあるはずだ。
『闇の賢者』であるインパは死んでしまったが、この先、そのメロディが何かの役に立つに
違いないのだ。
 神殿の場所は? ダンペイの言葉によれば、墓地らしい。だが……
 記憶をまさぐってみても、あの墓地に神殿などあるとは思えない。ただ墓標が立ち並んでいる
だけの所だ。
 けれども、ダンペイは知っていたのだ。どこかに手がかりがあるはずだ。墓地を詳しく調べて
みなければ。
 そのダンペイの言葉を僕が知ったのは──と、シークの思いは旋回する。
 アンジュ。
 以前は、存在すら無意識に忘れようとしていた。でも……
 僕は、いつの間にか、カカリコ村を、「アンジュのいる所」と認識するようになっては
いなかったか。
 思い出す。
 アンジュをアンジュとして見られるようになった、あの一夜の体験。
 あれから、もう二年。アンジュはどうしているだろう。あの哀しい「商売」を、まだ続けて
いるのだろうか。
 待て。それを思ってどうなる。僕がアンジュのためにしてやれることは、何もないのだ。
 ……ほんとうに?
 あの夜、アンジュはなぜ僕を求めてきたのか。僕に何を訴えていたのか。僕はわかったような
気がした。ならば……
 しかし、それは、感情の刹那的な逸走に過ぎないとも言えるのであって……
 いや、それでも……
『やめよう』
 心の堂々めぐりを、無理やり打ち切る。
 他に考えるべきことは、いくらでもあるのだ。
 風景が闇に染まり、一面を雲に埋めつくされた空が、さらに濃い暗みを湛える中、かぼそい光を
漏れ落とす月の影が、天頂を目指し、少しずつ、少しずつ、這い昇りつつあった。
 シークは立ち上がり、村に続く石段へと向かった。
1272-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (5/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:35:37 ID:SKJE+xQV
 まず、元のインパの家に近づいた。窓に灯りは映っていなかった。しばらく中の様子を
うかがったが、何の気配もない。思い切って戸の前に立ち、ノブを握る。戸は抵抗もなく開いた。
 かつて暮らしていた家の中へと、シークは足を踏み入れた。
 暗い部屋を回ってみる。インパの寝室だった部屋。隅に置かれたベッドは、自分がインパと
初めての体験を結んだ場所だ。そのように、記憶にはっきりと残っているもあれば──あとから
ゲルド族の連中が持ちこんだのだろう──全く覚えのないものもある。
 そのゲルド族だが……
 二年前、この家はゲルド族に占拠されていた。ところが、いまは無人だ。一時的に不在なのでは
ない。もう何ヶ月も、ここに住んでいる者はいないような雰囲気だ。
 場所を移ったのだろうか。
 確かめておかねばならない。自分がこの村で探索を行うためには。
 シークは家を出た。まだ深夜といえる時刻ではなかったが、戸外に人の姿は見えなかった。
アンジュの家の方へ動きかける足を、思い直して別方向に変え、シークは村の広場へと歩んでいった。
 広場に面した一軒の家から、酔いに任せた賑やかな声が聞こえてくる。ここは以前、村に一軒
のみの宿屋だった。いまも人を泊めてはいるようだが、一階は酒場になってしまっていた。
 自分の姿を他人の目にさらすことにはなるものの、情報を得るにはよい場所かもしれない。
 女の声は聞こえない。ゲルド族は中にはいない。
 それを確かめた上で、シークは酒場の扉を開いた。
 中にいた人々が、示し合わせたように話や笑いを止め、場に静寂がみなぎった。一様に鋭い
視線を投げてくる人々を、シークはすばやく観察した。
 テーブルとカウンターに、合わせて十四人。みな男だ。若者から中年までの、さまざまな年齢層。
見知った者はいない。どれも一癖ありそうな、油断ならない顔つきをしている。村に出入りする
密輸入業者たちか。こちらを警戒しているが、危害を加えてくる気はなさそうだ。
 向けられる視線など気にならない、といった余裕の色を表に出し、シークは無言で、店の中へと
歩を進めた。
「よう、色男のご入来だぜ」
 一人が嘲るように声をあげ、それに数人が下卑た笑いで応じると、店の中には再び喧噪が満ちた。
シークへの興味は薄れたようだった。
 シークは店の最も奥まった場所へ移動し、カウンターに身をもたせかけた。隣に、扉をあけた
時には気づかなかった客が、一人いた。手前の人物の陰に隠れて見えなかったのだ。三十歳
くらいの男で、顔が無精髭にまみれていた。その顔に見覚えがあるような気がした。
「注文は?」
 カウンターの中から、太った中年女が声をかけてきた。この店のあるじなのだろう。以前、
宿屋を営んでいたのも、年配の女だったが、それとは別人だ。記憶にはない。やはり戦争のあと、
村に入りこんできた連中の一人でもあろうか。
「酒」
 最小限の返事をした。飲酒の習慣はないが、『副官』と一緒にいた頃などに、酒を口にした
ことはある。自分が簡単には酔わない体質であることは、充分に把握していた。
「あんた、持つものは持ってんだろうね。ずいぶんとお若いようだけど」
 女がうさんくさそうに訊いてくる。シークはカウンターの上に、予想の額よりも少し多めの
ルピーを投げ出した。女は少し驚いたようだったが、それ以上は何も言わず、シークの前に
グラスを置き、琥珀色の液体を注いだ。
 シークはグラスに口をつけた。いきなり自分から質問する愚は犯さず、まずは周囲の会話に
耳を傾けた。
 男たちの会話は、もっぱら商売に関することだった。やはりカカリコ村は、ゲルド族相手の
怪しげな商人たちが跋扈する場所になってしまっているのだ。シークはやりきれない気持ちに
なったが、心を抑えて話の流れを追った。
1282-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (6/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:36:19 ID:SKJE+xQV
 やがて、シークの期待する話題が出た。
「ところで、俺は久しぶりにこの村へ来たんだが、ゲルド族の姉ちゃんたちは、どこへ行っち
まったんだ? 前はずっとここにいて、商売のことに、あれやこれやと口をはさんできたもん
だったが……」
 一人が能天気な声で問い、周囲からは口々に答が返った。
「ああ、ゲルド族ね。出て行ったよ」
「もう半年くらいになるかな」
「いまでも月に何度かは回ってくるが、村に居続けるのはやめたようだ」
「どうして?」
「さあね。ここも長らく平穏無事なんで、飽きちまったんじゃねえの?」
「こんな火山灰だらけの村にいたって、気が滅入るばかりだしなあ」
「悪かったね」
 カウンターの女が口をはさんだ。あわてて取り繕うような声が続く。
「おっと、気を悪くしねえでくれよ。俺がそう思ってるんじゃなくて、あいつらがそうなんじゃ
ねえか、ってことさ」
「どうだか」
 女の声に責める調子はなく、笑い混じりで、あくまで冗談の範囲にとどめておこうとする意図が
感じられた。だが、それを契機に、店の中の空気が変わった。
「気が滅入るといやあよ……」
 別の男が言い始めた。
「この村だけじゃねえ。世の中全体が、どうにも鬱陶しい限りじゃねえか」
 同調する声があがる。
「まあな……儲かりゃそれでいいとは思っていても、こう毎日、曇ってばっかりだとなあ……」
「そういや、俺はもう何ヶ月もお天道様を見てねえ気がするな」
「何ヶ月? 何年も、だろ」
「どうなっちまうんだろうねえ、この世界は……」
「これも、あの魔王の──」
 誰が言いかけた言葉なのか、シークにはわからなかったが、それを最後に、会話は途切れて
しまった。
 その魔王のおかげで食っている連中だというのに──とシークは思った。
 彼らまでもが、世界の行く末に、漠然とした、しかし確実な不安を抱いているのだ。
 そこに僕の使命が──と、重い心を動かしかけた時、隣にいた男が、不意に口を開いた。
「ゼルダ様が……」
 何だって?
「ゼルダ様がおられるうちは、ハイラルは、まだ……」
 シークは男の顔を凝視した。突然、記憶がよみがえった。
 この男は……あの兵士だ。僕がインパに連れられて、初めてカカリコ村を訪れた時、村の石段の
下で見張りをしていた、あの兵士だ。インパにゼルダ姫の消息を確かめ、無事だと聞いて満面に
喜色を浮かべていた、あの兵士だ。
 ゲルド族との戦争で生き残って、それからずっと、この村にいたのだろうか。どのような運命の
変転を、この男は経験してきたのだろう。
 男の言葉は、シークにだけではなく、場の全員に、なにがしかの感慨を与えたようだった。店の
中は静まりかえり、それまでの不安とは違った、別種の感情が漂い始めたように思われた。
 が……
1292-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (7/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:37:37 ID:SKJE+xQV
「ゼルダ様だと? くだらねえ!」
 その感情を破って、一人が乱暴な声を出した。
「ゼルダ様とやらに何ができるっていうんだ? もう五年以上も音沙汰なしなんだぞ!」
「そうそう」
 茶化すような諦観の言葉が続く。
「ハイラル王国は滅びちまったんだ。それは認めねえとなあ」
「お姫様なんかに期待できるかよ」
「とっくに死んじまってるさ」
「無事なら、どっかで話を聞きそうなもんだからな」
「いまどき王女様のご帰還を信じてるなんて、愚の骨頂だぜ」
 シークは現実に直面せざるを得なかった。
 かつてカカリコ村の人々は、「ゼルダ姫健在」というインパの知らせを信じ、一丸となって
ゲルド族に対抗した。それがいまでは……ゼルダ姫の名は、もはや一顧だにされない。
 人の心は、ここまで変わってしまったのか。希望を持てないまま、世界が闇に沈んでゆくのを、
なすすべもなく、ただ見送るしかないと。
 まるで自分が責められているような気がする。
 実際、ゼルダ姫の復活に必要な、賢者捜索という使命は、一向に捗っていない。
 それに、彼らの言うことも、もっともだ。ゼルダ姫はどこにいるのか。安全な所に隠れている、
使命を果たせば姿を現す、というインパの言葉を、僕は信じてきた。けれども、ゼルダ姫が生きて
いるという客観的な証拠は、何一つないのが実情なのだ。
「生きておられる」
 うつむいていたシークは、はっとして目を上げた。元兵士の、隣の男が、シークに視線を向けて
いた。
「ゼルダ様は、生きておられる」
 どうして……どうしてこの男は?
「確かにゼルダ様の話は聞かない。だが、亡くなったという話もない。ゲルド族の手にかかって、
お命を落とされたのなら、奴らは大々的にそう喧伝するはずだ。それがないということは、
ゼルダ様は、ご無事だということだ。私は……そう信じている……」
 男の声は、徐々に小さくなった。
「君がどういう人なのか、私は知らないが……君は……まだ若い……どうか……希望を捨てないで
くれ……」
 男はカウンターに突っ伏した。肩が小刻みに震えていた。
 この男は、僕が誰だかわかっていない。僕が「インパの息子」であることに気づいていない。
 しかし、シークはそれを男に伝えようという気にはならなかった。それどころではない、大きな
感情が、シークの胸を満たしていた。
 男の言う根拠は、絶対的なものではないかもしれない。それでも……
 信じている人が、ここにいる。
 そのことが、いまの僕にとって、どれだけ大きな救いになるか。
 信じることに、僕自身が疑いを持ってしまって、どうするのだ。希望を捨てるな、という男の
言葉。それは、僕こそが、世界の人々に伝えなければならない言葉ではないか。
 そうだ。ゼルダ姫は生きている。絶対の確信がある。
 だから、いくら苦しくとも、くじけてはならない。リンクが帰ってくる、その日まで。そして、
リンクとともに、ガノンドロフを倒す、その日まで。
1302-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (8/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:38:46 ID:SKJE+xQV
「ゼルダ姫はよお──」
 誰かが呂律の回らない声で言い出した。シークは自らの思いをとどめ、声に注意を集中させた。
「案外、生きてるかもしれねえなあ」
 信じる人が他にも……と、シークは期待を持った。が、その後の会話は、期待を大きく裏切る
ものだった。
「はあ? なに言ってんだ、お前」
「生きてるはずねえだろ、馬鹿が」
「だってよお、お姫様ともあろうお方なら、けっこういい女なんだろう?」
「ああ……美人だという評判だったな。俺は見たこたあねえが」
「ならよ、ゲルドの魔王様がゼルダ姫をとっつかまえたとして、あっさり殺したりするもんかねえ」
「……なるほどな。ずっと魔王に飼われてるのかもな」
「いつも女をいっぱい引き連れてる、あの魔王のことだ。ハクいお姫様が手に入ったら、ただで
すむはずはねえよなあ」
「やれやれ、あの王女様が、いまじゃ魔王の女だってか?」
「哀れだねえ。けど、そんな場面を想像すると、それはそれで……」
「やめて、許して、とか言いながら、毎晩、犯られてたりして」
「いやいや、高貴な方々の中には、好き者が多いらしいぜ。意外に自分の方から腰振ってんじゃ
ねえの? もっとやってぇ、お願いぃ、なんてよお」
 女の声色を真似た下品な台詞に、周囲からどっと、輪をかけて下品な笑いがあがった。
 シークは両手を握りしめた。
 他愛もない酔っぱらいの猥談だ。ありがちなこと。気にするまでもない。
 と、頭ではわかっているのに、なぜか、むらむらと湧き上がる怒りを抑えきれない。まるで
自分が侮辱されているような気がして。
 耐えきれず場を去ろうとした時、店の扉が乱暴に開かれた。酔いに目をどろんとさせた中年の
男が、ふらつきながら立っていた。男に手を引っぱられて、女が一緒に中へ入ってきた。
 アンジュだった。
1312-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (9/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:39:44 ID:SKJE+xQV
 男はカウンターの客の間に割りこみ、周囲を憚らぬ大声を出した。
「そら、酒をよこしな。こいつに酌させるからよ」
 手首をつかまれたアンジュは、迷惑そうな顔だ。ちらりと左右を見たが、シークがいることには
気づいていない。
「あんた、もう飲んでるじゃないか。いい加減にしときな」
 カウンターの女が諭すように言っても、
「うるせえ! 俺に意見すんな!」
 まるで話が通じない。カウンターの女は、
「しようがないねえ、酒さえ飲まなきゃおとなしい親父なのに……」
 と、小声でぶつくさ漏らしながら、それでも酒瓶とグラスを男の前に置いた。
「やかましい野郎だな」
「いつものことだが」
「空気読めねえ奴だぜ、ほんとに」
 まわりの客がひそひそと話している。鼻つまみ者なのだろう。
「さあ、注げよ」
 男はグラスを持ち、酒瓶をアンジュに押しつけた。アンジュはそれを手にしたが、酒を注ごう
とはせず、うんざりした調子で口を開いた。
「もう三時間も相手してあげたじゃないの。そのうえ酌をしろなんて……これ以上は勘弁して」
「何だと! このアマ!」
 男はいきなりグラスをアンジュに投げつけた。
「きゃッ!」
 鈍い音がした。アンジュのこめかみに当たったグラスは、床に落ちて砕け散った。
「金さえ払や誰とでも寝る淫売風情が、でかい口叩くんじゃねえ!」
 しゃがみこんだアンジュに、男の蹴りが入る。
「ちょっと!」
 カウンターの女が、さすがに憤慨した声を出し、他の客もざわめき始めた。
 シークはつかつかと男の前へ歩み寄った。
「やめろ」
 冷静であるつもりだったが、声がいつもより高ぶっているのが自分でもわかった。
「なんだあ、このガキは」
 男が濁った目を向けてきた。床に転んだアンジュが、はっと息を呑む音が聞こえた。
「てめえのようなガキが出る幕じゃねえ! とっとと失せやがれ!」
 胸ぐらをつかもうとする男の機先を制し、シークは抜く手も見せず、短刀を男の喉元に突きつけた。
「なめるな」
 男の顔が蒼白になった。首から上が震えている。
 後先を考えない行動であることは、よくわかっていた。だが、女性を侮辱する言動に我慢が
ならなかった。それまでの怒りがあったせいかもしれない。
「失せるのはお前の方だ」
 シークは刃先を皮膚に近づけた。男はびくっとして身を引き、蛙がつぶれたような音を喉から
漏らした。一歩、近寄る。男は少しずつ後ずさりし、最後には、店に入ってきた時と同じように
扉を乱暴に開くと、外へ走り出ていった。
1322-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (10/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:40:54 ID:SKJE+xQV
 店内の空気が和らいだ。
 シークは床のアンジュを見下ろした。アンジュの口が動いた。声は聞こえなかったが、シークの
名を呼んだような口の形だった。シークは手を差し伸べた。アンジュは手を取り、ゆっくりと
立ち上がった。
「迷惑をかけた」
 酒代とは別のルピーをカウンターに放り出し、アンジュには何も言わないまま、その手を引いて、
シークは店を出た。
 男の姿がないことを確かめ、シークは足早に広場を横切っていった。どこへ行こうという
つもりもなかった。すべてが衝動によるふるまいだった。
 広場から風車へ向かう道に入った所で、半ば駆け足で引っぱられていたアンジュが、初めて声を
出した。
「シーク!」
 立ち止まる。ふり返る。
 夜の闇の中、道には灯りもなく、アンジュの顔は見えない。
 アンジュが近づく。それでやっと、表情が見えてくる。
「ここへは……何をしに……?」
 どうする? 沈黙を貫くか? いつものように?
 いや……
 何か言わなければ。アンジュに何か言ってやらなければ。
「……石像に……」
 首を後ろに向け、背負った竪琴を示す。
「歌を……聞かせてやろうと思って……」
 何を言っているんだ、僕は。
 詳しいことは話せないが、嘘は言いたくない。でも、これではまるで意味不明だ。
 意味不明……のはず……なのに……
 シークを見つめるアンジュの目。にわかに涙が湧き出す。ぎゅっと目が閉じられる。あふれる
涙が頬を流れる。
「やっぱり……それが……」
 かすれた声とともに、身体がぶつかってくる。強く、固く、腕が巻きつく。
 何がこうまでアンジュを動かしたのか。何が「やっぱり」なのか。「それ」とは何なのか。
 わからない。わからないが……この出会いを、アンジュは喜んでいる。確かに。
 僕がアンジュにできること。
 肩に密着するアンジュの頭を、両手で軽く離す。手を口元の布にかけ、自分の顔をあらわにする。
 シークはアンジュに口づけした。アンジュの情熱的な唇の動きが、それに応じた。

 おぼろげな互いの想いを、なおも深く確かめようとするかのごとく、二人の唇は離合を繰り返した。
 近づきながらも、届かない。
 もどかしい交歓の一幕が過ぎ、それを知った二人の足は、自然とアンジュの家へ向かった。
勝手口から中へ。まっすぐに寝室へ。一言の会話すらないまま、二人はベッドに倒れこんだ。
 全身がせわしなく互いを求める。引き裂くがごとく互いの衣服を剥ぎ取る。
 手が触れる。唇が触れる。素肌が触れる。局部が触れる。
 狂奔する嵐のように、二人の肢体が絡み合い、躍動する。
 それぞれが知る限りの、あらゆる形の交わりが、絶頂に次ぐ絶頂を迎えても、なお果てしなく
続いてゆく。
 互いを貪りつくす、二体の獣。
 ようやくその飢えが満たされ、体力の最後の一滴までをも使いきった二人がベッドに倒れ伏した時、
窓には薄い黎明の光が白々と映っていた。
1332-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (11/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:42:01 ID:SKJE+xQV
 淡い眠りから覚めたアンジュは、自分がシークの胸に頭をもたせかけているのに気がついた。
それをどうとも思わないまま、けだるい感覚に身を任せているうちに、肩を抱くシークの腕を
自覚した。
 少しずつ、思考が動き始める。
 二年前、シークと初めて身体を重ねたあとのこと。わたしはシークの肩を抱き、シークの頭は
わたしの胸に押しつけられていた。なのに、いまの二人の体勢は、それとはまるで反対だ。
 別におかしなことではない。この二年で、シークの背丈は、かなり伸びた。まだわたしの方が
少しだけ高い。でも、身長の差は、もうほとんどなくなった。
 思春期の少年の成長が、いかに早いことか。
 そう、シークは確実に成長しているのだ。
 まだ眠りから覚めない、シークの顔。こうして見ると、まだまだ子供のようなのに……
 アンジュの手が、そっとシークの股間に伸びる。
 ここは、もう、男としてのたくましさを充分に持っている。周囲を彩る縮れた毛も、二年前より、
ずっと濃く……
 そのシークの男に──と、アンジュは夜の記憶を想起する。
 わたしは圧倒された。シークは圧倒的に男で、圧倒的に巧みだった。十歳以上も年下の、前より
成長したとはいえ、まだ思春期の域内にある少年に、わたしは狂い、悶え、屈服したのだ。
 二年前よりも、さらに徹底して。
 あの夜には、まだ、わたしが優位だった時があった。シークが自分を口に含まれるのは、あの時が
初めてだった。でも、昨夜は……快感に表情をゆがませながらも、シークはわたしの顔を持ち、
喉までそれを突き入れてきた。わたしは息を詰まらせて、ひたすらそれを受け入れるだけだった。
 シークの裸の全身に目をやる。
 それほど男でありながら、中性的な美しさはそのままだ。不思議なことに、シークはまだ
射精しない。それも、この中性的な妖しい魅力を際立たせている要因なのだろうか。
 アンジュは目を閉じ、再びシークに寄りかかった。
 わたしは心ゆくまで、そんなシークに抱かれた。いまこうして、シークの胸に頭を寄せて
いるのも、それが自然な姿だからだ。シークが年下であることなど、全然、気にならない。
1342-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (12/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:43:04 ID:SKJE+xQV
 しばし恍惚の波に思いを漂わせたのち、アンジュの目は、枕元のテーブルへと向いた。
 そこに置かれた竪琴。
『石像に歌を聞かせてやろうと思って』
 シークの言葉の意味は、理解できなかった。でも、二人の再度の出会いが、何によって導かれた
のかは、その時、はっきりとわかったのだ。
 二年前、別れのあと、儚い願いをこめて思ったように。
『やっぱり……それが……その竪琴が……二人の絆だったんだわ……』
 あの時はすれ違っていた二人の思いが、いまはしっかりと交わっているのを感じる。
 昨夜、シークはわたしにキスをし、わたしの全身に触れ、わたしを抱いた。わたしが娼婦と
知った上で、わたしが別の男に抱かれた直後であると知った上で、いまの、ありのままのわたしを、
シークは求めたのだ。
 だからわたしも、いまのわたしとして、いまのシークを求めた。二年前のように、過去の幸せな
頃のわたしを求めてではなく。
 シークに後ろを許したのも、そのためだ。ガノンドロフに初めて破られ、その後も娼婦として
開かざるを得なかった場所。みじめな思い出しかない肛門でのセックス。それもまた、いまの
わたしの一部であることに変わりはないのだから。
 許してよかった──とアンジュは思う。
 そこに男を迎えるのが、あれほど快かったことはない。何のこだわりもなく没入できるセックスが、
いかに大きな悦びをもたらしてくれることか。それすらも経験していたのだろうシークの、
優しくも激しい動きが、その悦びをいっそう強めてくれたのだが……
 アンジュは、ふと、意識した。
 これから二人の関係は、どうなるのだろう。
 考えをめぐらす。
 シークに対するわたしの感情は、「愛」ではない。婚約者であった彼への想いは、いまでも
ためらいなく「愛」だったと言い切れるが、シークの場合は、明らかに違う。
 たとえば……シークと一緒に暮らして、喜びも悲しみも分かち合って、死ぬまで手と手を携えて
ゆく──といった自分を、わたしは想像することすらできない。それは、歳の差などとは無関係で、
ただ単に、わたしにとっては、あり得ない情景としか言えない。
 シークとの関係は、「情事」の域を超えるものではないのだ。
 自分が自分でも意外なほど冷静であることを知り、アンジュは驚くとともに、奇妙な満足感を
覚えた。
 二人の思いが交わっても、なお、シークの心はわからない。わかるはずがない。
 シークは自分を語らない。それはシークが背負う、あの重荷のような使命のせいだと想像は
できるのだが……シークが使命の内容をわたしに明かすことは、この先、決してないだろう。
 二人の生きる道は、重ならない。絶対に。
 けれど……
 完全に平行であるわけでもない。時に──そう、ちょうどいまのように──二人の道が交わる
ことが、幾度かはわからぬにせよ、あるのなら……
『それでいいんだわ……』
 アンジュは微笑んだ。
 胸をひたす満足感。だがそれは、どうしても満たされないものがあるという寂寥感をも、深い
所に内包していた。
1352-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (13/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:44:02 ID:SKJE+xQV
 シークが目を覚ました時、ベッドにアンジュの姿はなかった。
 寝室の中を見回す。窓の外は、すっかり明るくなっている。もう昼が近いようだった。
 上半身を起こし、ぼんやりとした頭が少しずつ現実に戻ってゆくのを待っているところへ、
アンジュが扉をあけて入ってきた。
「お茶を入れたわ」
 ポットと二人分のティーカップを載せた盆を運ぶアンジュは、全裸のままだった。が、
その身のこなしは実に自然で、自分が裸であることを、全く意識していないかのようだった。
仕事柄……なのかもしれない。しかしそれは、アンジュがこちらに心を許している証とも、
シークには感じられた。
 アンジュはベッドに腰かけ、ティーカップにお茶を注いだ。ベッドの上にあぐらをかいた
シークは、アンジュが手渡すティーカップを、黙って受け取った。
 二人はお茶を飲んだ。沈黙が二人を包んでいた。けれどもその沈黙は、二年前のような
気詰まりなものではなかった。落ち着いた、静かな時間だけが、流れていった。
 シークの視線が、アンジュのこめかみに止まった。夜の間には気づかなかったが、そこは
小さな内出血をおこしていた。酒場でグラスをぶつけられた場所だ。いまのいままでそれに
留意しなかったことで、シークは胸に小さな痛みを覚えた。
「ここは……」
 思わず伸びた手が止まる。
 触ると、まずいか……
「大丈夫よ」
 アンジュが自分の手で、そこに触れる。
「もう、なんともないわ」
 顔が、うつむき、
「あの時は……シークがあそこにいるとは、思いもしなくて……でも……」
 そしてシークに向けられる。あざやかにほころぶ、その表情。
「嬉しかった……」
 化粧が落ちたアンジュの顔は、やせ気味で、貧血でもあるのか青白く、肌はざらついていた。
それはあるいは昨夜の狂乱のせいかもしれないが、目尻に刻まれた皺が、そればかりではない
ことを物語っていた。
 隠せない年齢。隠せないやつれ。
 もう二十代の後半のはず。『副官』のような、若々しさにあふれた身体ではない。
 特に顔が美しいわけでもなく、特に胸が豊かなわけでもなく、中庸で、平凡な、若さの盛りを
過ぎた、生活に疲れた、一人の女。
 なのに、アンジュの、この穏やかさ、暖かさは、どこから生まれてくるのだろう。
 えもいわれぬくつろぎを、シークは感じる。
「村には、いつまで?」
 笑みを絶やさず、アンジュが問う。シークが去ることを認めた上で。
「あと、二、三日は……」
 シークは答える。
「そう……」
 一拍の間をおき、アンジュは言う。
「それまで、うちにいてね」
 自然な言葉。自然な求め。引け目もなく。気遣う要もなく。
「ありがとう」
 素直に、そう言えた。
1362-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (14/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:44:51 ID:SKJE+xQV
 シークは墓地を探索した。
 見える範囲に手がかりがないことは、すぐにわかった。それでわかるくらいなら、神殿の場所は
とっくに人の知るところとなっていただろう。あとは見えない範囲を探さなければならない。
 見えない範囲──それは墓穴だ。
 戦争中に作られた墓は、墓石の下に遺体が埋められているだけの簡素なものだったが、アンジュに
それとなく訊いてみると、それ以前の墓には、かなりの広さの納骨堂を地下に備えたものがある、
とのことだった。詳しく観察すると、力を加えれば動かせそうな大きめの墓石がいくつかあり、
シークは昼の間に、そうした場所を確認しておいた。
 人目を避けるため、夜になってから、シークは再び墓地を訪れた。案の定、目をつけていた
墓石は動かすことができ、それらの地下には通路が延びていた。すぐに行き止まりになるものが
ほとんどだったが、そのうちの一つは、あたかも迷路のような複雑な行程を経て、驚いたことに、
風車小屋の中へと通じていた。
 その通路は明らかにただの墓穴ではなく、闇の神殿との関連があることは確実だと思われた。
神殿へ至る道が途中のどこかにあるのではないか、と探し回ったところ、二つ三つ、怪しげな扉が
見つかった。が、押しても引いても、あるいは子守歌を奏でても、扉は開くことはなかった。
 シークは墓地に戻り、その片隅にある、以前ダンペイが住んでいた掘っ立て小屋を調べてみた。
ダンペイは何かを知っていたはず、と思ったからだ。日記帳が見つかった。しかし神殿についての
記載はなかった。
 地下の通路と関係があるかどうかはわからなかったが、シークの注意を惹いたものが、もう一つ
あった。それは墓地の最も奥に立つ石碑で、もとは大きなものだったようだが、いまはひどく
崩れていた。アンジュの話では、言い伝えがあって、いつとも知れぬ昔からそこにあり、落雷に
よって破壊されたまま、かなりの年月を経て現在に至っているのだという。表面には文字らしき
ものが刻まれていたが、古代の文字のようで、シークには解読できなかった。
 無念ではあったが、それ以上、探索を進めることはできなかった。
 だが、神殿の謎には一歩近づいた。まだ隠された手がかりがあるに違いない。時間をかけて
調べてみよう──とシークは自分を励ました。

 シークは、いったんカカリコ村を離れることにした。
 アンジュとの別れは淡々としたもので、再会を約する言葉もなかったが、言いたいことも
言い出せなかった先の別れの時とは異なり、シークの心は平静だった。見送るアンジュもまた、
感情を露出させることなく、微笑みとともに別れの挨拶を口にした。ただその微笑みに、
そこはかとない寂しさの影が宿っているのを、シークは認めずにはいられなかったのだが。
1372-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (15/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:45:44 ID:SKJE+xQV
 シークが目指したのは、ハイラル城下町だった。
 ガノンドロフの本拠地とあって、シークは最大級の警戒をし、ことにあたった。シーク自身は
城下町やハイラル城を訪れたことはなかったが、インパからある程度のことは聞いていたので、
行動の方針は立てることができた。
 警備のゲルド族がいるため、正門から城下町へ入ることは不可能だった。シークは城下町の
西方へまわった。そのあたりはゲルド族の支配領域で、城下町を出入りするゲルド族が行き来する
道が通っていたが、往来は低頻度であり、さほどの困難もなく、シークは城壁に近づくことができた。
 城壁の西の端には小さな門があった。幸い、そこには見張りがおらず、シークは容易に城壁内へと
入りこめた。門をくぐった所には、広い庭を伴う大きな建物があった。インパの話で、それが
王家の別荘であることを、シークは知っていた。落城の際の略奪によってか、建物は荒れ果てては
いたが、いかにも貴人の別荘といったふうな、趣味のよさがうかがわれた。ここにゼルダ姫が
滞在することもあったのだな──と、シークは感慨深く思った。
 意外なことに、城下町にいるゲルド族の数は、決して多くはなかった。もちろんハイラル城の
警備はなされていたが、軍勢としては一個中隊が常駐している程度で、その他には、正門や城下町の
数カ所に、せいぜい十数人ずつの小部隊が散在しているに過ぎなかった。一般住民が城下町で
暮らしている様子はなかった。
 理由はいくつか考えられた。もともとゲルド族は遊牧民であり、大都市に住む習慣がない。
城下町は反乱勃発時に相当の破壊を被っており、居住のために多大な手間をかけて町を修復する
よりも、それを放置したまま平原で暮らす方を、彼らは選んだのかもしれない。警備がそれほど
厳重ではないのも、ガノンドロフ本人の力があまりに強大であるため、あえて周囲を手厚く守る
こともない、という発想からかと思われた。
 あるいは城下町は、ガノンドロフの存在ゆえか、上空の雲が他の地域よりもさらに厚く、
真昼ですら薄暮のような光の乏しさで、人が長期間にわたって暮らしてゆくのに耐えられない
環境であるからかもしれなかった。実際、ゲルド族の話を盗み聞いたところでは、城下町の部隊は、
平原にいる部隊と定期的に交代しており、平原へ移ることになった連中が、一様に喜びの色を顔に
浮かべるのに対し、新たに城下町へ来た連中の顔には、何となく冴えない色があるらしかった。
 いずれの理由にせよ、城下町の、このような状態は、シークにとっては好都合だった。シークが
城下町の探訪を思い立ったのは、やがて封印の解けるリンクが、敵のまっただ中で目覚めることに
なるのを心配し、その時には自分がリンクを待っていてやらなければならない、と決意していた
からであったが、この様子なら、それも難しいことではなさそうだった。
1382-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (16/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:47:39 ID:SKJE+xQV
 シークは時の神殿を訪れた。見張りもいない入口をくぐり、シークは神殿の中へと足を踏み入れた。
石版に填めこまれた三つの精霊石。開け放たれた『時の扉』。マスターソードが刺さっていたと
おぼしき空白の台座。それらはいずれも、かつてリンクがここにいたという、まぎれもない証跡
だった。
 台座の近くの床には、黒々とした穴が開いていた。先の全く見えない暗黒の底へと続く螺旋階段を、
シークは足探りでゆっくり下りてみたが、どこまで行っても、何の発見もなかった。おそらくは、
この暗黒の中にかつてトライフォースがあり、いまの自分と同じようにここを下りていった
ガノンドロフが、それを発見したのだろう、と、シークは推測した。
 台座のある八角形の部屋へ戻り、シークはしばし思いにふけった。
 リンク──
 時の神殿の地下にあるという、光の神殿。君はそこで眠りについている。どれほどの深さの
地下なのか、うかがい知ることはできないが……僕がここにいる、いま、君と僕との距離は、
これまでで最も短くなったのだ。そして君が十六歳の誕生日を迎え、この世界に帰ってきた時にこそ、
二人の距離はゼロとなる。
 リンクの誕生日が正確にはいつなのかを、シークは知らなかった。インパも知っていなかったし、
そのインパの話では、そもそもリンク自身が、自分の誕生日を知らなかったというのだ。それでも、
だいたいの時期はわかっている。シークはその時期が来たら、危険を覚悟で時の神殿に張りつく
つもりだった。
 だから、リンク……君は、安心して目覚めたまえ。僕が、君を、迎えてあげるから……

 時の神殿の横で、シークは四体のゴシップストーンを見つけた。そのうちの一体から、シークは
新たなメロディを得た。インパによれば、『時の歌』というメロディがすでにあり、それが時の
神殿に対応する曲と思われたので、新しく知ったメロディには、『光のプレリュード』という名を
つけた。光の神殿に対応させたためだが、その方がより妥当であると、シークには実感できた。
 さらに危険を冒し、シークはハイラル城へと接近してみた。さすがに警備の目があり、また
無理をする気もなく、城外の広場に達しただけで、すぐに引き返しては来たが……その過程で、
二体のゴシップストーンが見つかった。メロディに関しては収穫なしだったものの、一方の語る
噂を聞いて、シークは思わず、噴き出してしまった。
『……こっそり聞いた話だが……ハイラル城のゼルダ姫は、意外におてんばらしい』
 そうだったのか? 噂の信憑性には、疑問符もつくが……
 ただ……その、おてんばだというゼルダ姫に会えるのは、いつのことだろう。
 一転、心が沈んでゆく。
 賢者を捜すという、僕の使命。僕がそれを充分に果たしているとは、とても言えたものではない……
 いや。
 僕は決めたはずだ。くじけないと。
 リンクの帰還まで、あと二年足らず。それまで僕は、進み続けなければ……
 シークは城下町を離れ、さらなる旅を続けるべく、ひとりハイラル平原を歩んでいった。
 空はいよいよ暗く、雲間からは時おり電光が走り、嵐の到来を予感させた。いまだ光明の
見えない世界の前途を暗示するかのようでもあった。
1392-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (17/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:48:32 ID:SKJE+xQV
 折にふれて目にしていたものが、いざ探すとなると、なかなか見つからないことがある。
ガノンドロフとツインローバにとって、ケポラ・ゲボラは、ちょうどそんな存在だった。
 部下たちに確かめてみると、ケポラ・ゲボラの目撃情報は、以前から少なからずあり、発見は
容易と思われた。が、捜索を始めてみると、これがなかなか見つけられないのだ。見かけたという
知らせも稀にはあって、そのつど捕獲を試みるのだが、いつも簡単に逃げられ、姿を見失って
しまうのだった。
 ツインローバは躍起になって、捜索を強化するよう言いつのった。ハイラルがゲルド族の天下と
なり、わが世の春を謳歌しているさなか、なぜ梟なんぞを探さなければならないのか──といった
不満が部下の間でくすぶっていることは、ガノンドロフも承知していたが、ツインローバは全く
耳を貸さず、ひたすら『光の賢者』であるラウルへの復讐に邁進していた。ガノンドロフ自身も、
賢者の抹殺という重要課題を放棄する気はなく、カカリコ村など、平穏な地域に常駐していた
部隊を引き抜いて、捜索にまわした。が、効果があったとは言えなかった。時間ばかりが無為に
過ぎ去っていくかと思われた。
 ところが、捜索開始から一年半ほどが経ったある日、事態は急転した。

 早朝。
 ガノンドロフとツインローバが、ハイラル城の寝室で目覚めの一戦を交わしているところへ、
部下が一人、何の前触れもなく、扉を押し開いて駆けこんできた。交合している場面を他人に
見られることなど平気な二人だったが、咎めるべきことは咎めねばならない。ガノンドロフが
叱責の言葉を吐こうとした時、いち早く開かれた部下の口から、衝撃的な報告が飛び出した。
「梟が来ています!」
「何だって!?」
 ツインローバが飛び起きた。
「どこ!? どこにいるんだい!?」
「城下町です! 時の神殿の屋根の上にとまって……」
 こちらをふり向くツインローバ。目が語っている。
『なぜ?』
 ガノンドロフにもわからなかった。
 自分の正体がばれ、狙われていることを、これまでの経緯で、ラウルは知っているはず。なのに
どうして、奴にとっては敵の懐にあたる城下町に、突然、現れたりしたのか。
 待てよ……時の神殿?
 思い当たった。ツインローバも悟ったらしく、目が大きく見開かれた。
「リンクか!」
「リンクだよ!」
 二人は同時に叫んだ。
「ラウルの奴、リンクの様子を見にきたに違いない。案外、これまでにもちょくちょく来てたの
かも……あたしらが知らなかっただけで……」
 そうかもしれない。ケポラ・ゲボラの捜索に乗りだしたのは、ここ一年半ほどに過ぎない。
それ以前に奴が時の神殿を訪れていた可能性は、大いにある。
「捕まえたのか?」
 ガノンドロフは早口で部下に訊ねた。
「いえ……仲間が神殿のまわりを取り囲んで、下から盛んに矢を射かけてはいますが……なにぶん
距離が遠くて……それに相手が鳥なもんで……」
「逃げてはいないのだな?」
「はい。矢を避けて飛びまわってはいますが、すぐにまた神殿の屋根にもどってきます」
「神殿に用があるからだよ。やっぱり、リンクを……」
 口をはさんだツインローバは、瞬時に二人の老婆の姿に分裂すると、最高速で箒を駆り、寝室を
飛び出していった。
 時の神殿は城から目と鼻の先だ。そのまま飛んでいくつもりだろう。
『裸のままで……とはな』
 老婆の状態でのツインローバは、ガノンドロフ以外の者に決して裸を見せることはなく、
ガノンドロフの目すら、可能な限り避けようとしていた。それを完全に忘れてしまうほど動転して
いるツインローバを笑うだけの余裕が、ガノンドロフにはあった。
 とはいえ、のんびりしているわけにはいかない。
 手早く衣服を身につけ、茫然とツインローバを見送っていた部下を残し、ガノンドロフは
寝室から走り出た。
1402-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (18/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:49:50 ID:SKJE+xQV
 城からひと飛びで時の神殿の上空に至ると、二人のツインローバと巨大な梟が、空中戦を
展開している最中だった。といっても、攻撃しているのはツインローバのみで、二人が繰り出す
炎と氷の噴出を、ケポラ・ゲボラは巧妙に避けているだけだった。だがそれが結果的に、
ケポラ・ゲボラがツインローバを揶揄しているかのような状況を作り出していた。いきり立って
攻撃を繰り返すツインローバだったが、狙いは大きくはずれるばかりだった。
 地上では、口を大きくあけた部下たちが、空中戦の様子を見守っている。ツインローバが
飛んでいるので、矢を放つこともできないのだ。
『醜態をさらすのも、いい加減にしておけよ』
 なおもツインローバを笑う余裕を持ったまま、ガノンドロフは右手に魔力を溜めた。
「はぁッ!」
 空中にとどまった状態で、一直線に波動を放つ。こちらには何の注意も払っていないかのように
見えたケポラ・ゲボラは、波動が届く直前に、するりと身をかわした。
 何度か波動を投じてみたが、すべて避けられた。ツインローバの炎と氷をも避けながらだ。
こちら側の攻撃が、完全に見切られている。
『食えぬ奴……』
 ならば──と、ガノンドロフは、右手の魔力を最大限にした。
「むあああああッッ!」
 と気合いをこめ、右手を高々と掲げる。右手のまわりに暗黒が凝縮する。
 直後。
 右手から八方に稲妻のような光が飛び、鋭く振動する曲線を描いて、一点に殺到した。
ケポラ・ゲボラは集中する光に押し包まれ、一瞬、空中に静止したのち、地上に向けて落下した。
神殿の前に集まっていた人の群れが割れ、空隙ができた。石が敷き詰められたその空隙に、鈍い
音響をたてて、ケポラ・ゲボラの巨体が激突した。
 二人のツインローバは急降下し、ガノンドロフも浮遊していた身体を地面に降ろした。
「まだ生きてるね」
「まだ息があるね」
 にんまりと笑ったツインローバは、そこで初めて自分らが裸であることに気づいたのだろう、
あわてて合体すると、それでも全裸のまま、ケポラ・ゲボラの顔の前に傲然と立った。
「さて、どうしてやろうか……」
 ツインローバが傍らの部下の一人に、何かをささやいた。部下は驚いたように顔をゆがませたが、
すぐにハイラル城へ向けて走り去っていった。
「こいつの心が読めるか?」
 ガノンドロフはツインローバに声をかけた。うつ伏せの状態で身動きもしないケポラ・ゲボラを、
ツインローバはしばらくの間、顔をしかめて睨み続けていたが、
「……どうも……鳥の心を読むってのは……人とは勝手が違って……よくわからないね……」
 と、低い声できれぎれに言った。
「賢者のオーラも……はっきりしない……だけど……それも鳥だからかも……」
 いらついたような声が続く。が……
「待って」
 ツインローバは、それまでとは異なった様子で、ケポラ・ゲボラを観察し始めた。やがて、
その目が輝いた。
「こいつからは、ラウルの匂いがするわ。間違いない」
「匂いでわかるのか?」
「匂いといっても……鼻で嗅ぐんじゃなくて……何ていうか……『心の匂い』なのよ。普通に心を
読むのとは、ちょっと違って……口じゃうまく説明できないけど……とにかく、わかるのさ」
 言葉は曖昧だったが、ツインローバの表情は確信に満ちていた。
1412-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (19/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:50:45 ID:SKJE+xQV
「で、ガノン、あんたはこいつをどうする?」
 一転して、からかうような笑みを浮かべ、ツインローバが訊いてきた。
「殺すさ」
 感情をこめない短い答えに、ツインローバの声が、かぶさった。
「そうじゃなくて……あんた、いままで賢者相手に、何をしてきたっけ?」
 さすがに驚いた。言葉が出なかった。
 抑えきれない、といったふうに、ツインローバの口から、高らかな笑い声が響いた。まともな
精神状態にあるとは思われない、心のどこかが切れてしまったような笑いだった。
 ほどなくしてその発作は治まったが、なおも顔に笑いの痕跡を残したまま、ツインローバは言った。
「安心してよ。そんなことをやれ、とは言わないわ。あんたにはね」
 さっきツインローバが話しかけた部下が戻ってきた。その手から受け取ったものを、ツインローバは
ガノンドロフの目の前で振った。
 特大の張形だった。
「あたしがやるわ」
 言うが早いか、ツインローバは張形を装着し、ケポラ・ゲボラの背後に立った。尾をへし折るが
ごとくにかき分け、自分の何倍もある巨体の腰部をつかむと、ためらいもなく、張形を肛門へと
めりこませていった。
 ケポラ・ゲボラの口から、人間の言葉では表現できないような、奇怪な音声が絞り出された。
その音声をも、また周囲を取り巻く部下たちの引きつった顔をも無視して、ツインローバは
狂ったように、ケポラ・ゲボラの肛門を犯した。
「……ラウル!……これは!……復讐さ!……姉の!……恨みを!……ついに!……晴らして!……」
 張形を突入させるリズムに合わせ、ツインローバは、妄言にも似た呪いの言葉を吐き連ねた。
言葉は徐々に聞き取りづらくなり、性的に高ぶった喘ぎへと変化していった。それが頂点に
達するかと思われた時、ツインローバの絶叫が場に響き渡った。
「ガノンッ! こいつを殺ってッ! こいつの首を斬り落としてぇぇッッ!!」
 半ば唖然とし、半ば興をそそられて、ツインローバの狂態を眺めていたガノンドロフだったが、
その叫びに心が沸きたった。ケポラ・ゲボラの顔の横に立ち、
「つぁぁッ!」
 抜くと同時に、剣を振りおろした。
 ざん!──と斬り離された頭部が飛び、胴の側の断面から血液がどっと噴出した。
「わッ!」
「げッ!」
 周囲の部下たちがどよめき呻いて後ずさる中、
「うおあああぁぁぁーーーーッッッ!!!」
 ツインローバのわめき声があたりを圧して爆発した。絶頂したのだ。
1422-11 Ange IV + Kaepora Gaebora (20/20) ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:51:53 ID:SKJE+xQV
 そのまま、ツインローバは動かなかった。ぜいぜいと息を荒げ、もう二度と呼吸をすることの
なくなったケポラ・ゲボラの腰に手をやって、立ちつくしていた。やがて、張形をずるりと
肛門から抜き、下半身から解いて、地面に落とした。一歩一歩、ゆっくりと、だが確実な足取りで、
ツインローバは斬り落とされた頭部に近づいた。
 立ち止まって、頭部を見下ろす。悪魔のような笑いが湧き上がる。
 かがみこんだツインローバは、胴の側の切断面に手を触れた。斬られた直後に噴き出していた
血液は、いまや勢いなく垂れ落ちているばかりだったが、ツインローバの手を真っ赤にするだけの
量は、まだあった。
 ツインローバが立ち上がり、豊満に張りきった乳房を、自らの手でつかむ。乳房がべっとりと
血に染まる。手が胴をかきむしる。胴が一面、深紅に彩られてゆく。
 狂的に燃え上がる両の眼。限界まで吊り上がった両の口角。
 それは凄絶な美しさだった。
「ガノン……」
 ツインローバが歩み寄ってくる。
「あたし……とうとう……やってやったわ……」
 腕が、ぐいとガノンドロフを仰向けに押し倒す。手が股間を探ってくる。一連の情景に刺激され、
隆々と勃起していた陰茎がさらされると、ツインローバは一気に腰を落とし、すでに粘液の海と
化した秘孔へそれを没入させた。
「ガノンッ!……あたしッ!……やったのッ!……やったのよおぉぉッッ!!」
 身の上で踊り狂うツインローバを見上げながら、ガノンドロフもまた、心の底から湧き起こる
満足感にひたっていた。
 これで賢者どもは一掃された。『魂の賢者』の問題は残っているが、最有力候補であるナボールは、
いまは生ける屍だ。
 俺を闇の世界に封印することができる者は、もはやいない。
 あとは……ゼルダとリンク。二つのトライフォース。
 ゼルダを自力で見つけだすことは、もうできないだろう。だが、リンクがこの世界に戻ってくれば、
二人は必ず接触しようとするはずだ。リンクを泳がせておけば、いずれゼルダは姿を現す。それを
待って、二人とも……
『城を造るか』
 不意に別の思考が頭をよぎる。
 ハイラル城も悪くはないが、なにぶん明るすぎる。自分の存在を脅かすものが何もなくなった
いま、魔王の居所にふさわしい城を造るのもいいだろう。
 ツインローバの力を借りて、反乱前から少しずつ、各地の魔物を動かし始めてきたが、いまでは
自分の力で、世界中の魔物を操れる。天候も支配することができる。世界全体を暗黒の淵に
落としこむことすら可能だ。
 俺は魔王なのだ。誰も俺を止めることはできないのだ。
 上で躍動する腰をがっしりと両手でつかみ、自分も下から激しく突き上げ、再度の絶頂へと
ツインローバを追いこみつつ、ガノンドロフは、かつてないほどの強大な自信と力が、おのれを
満たすのを感じていた。


To be continued.
143 ◆JmQ19ALdig :2007/05/24(木) 02:53:14 ID:SKJE+xQV
以上です。設定上とはいえ、変な話で申し訳ない。
次回は唐突にゼルダ登場。第二部完結編。
144名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 13:39:05 ID:FVkWhSC8
GJ!
145名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 14:09:20 ID:bdKeYf4F
うおっ、なにげなく覗いてみたら来てた
GJ!!
ついに第二部完結ですか
頑張って下さい

146名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 21:10:11 ID:Jg0mz8mx
メドリを書こうと思ってリンクのほんわか初恋話にしようと思ったらぜんぜん書けなかった、残念

よしリンクに強姦させるか
147名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 22:44:48 ID:Dvw8jFMc
>>146
ちょw
とにかくおまえさんの腕に期待
148名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 01:23:36 ID:ZDl89VG0
またもアナル和姦あっさり終了の上、コマツとコタケの全裸&フクロウファックという
あまりに苛酷な責めにM調教されそうです
149名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 01:27:42 ID:DqCbvGEO
>>143
GJ!!
1〜2週間でこれほどのクオリティーのものを
定期的に投下できるなんて、ほんと脱帽する
次回ゼルダ登場ktkr

>>146
wktk
150名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 19:57:01 ID:c71Zjpfs
>>146だけど何がどうなったのか気づいたらメドリ死んだ。あれー?
どうやら愛が足りないようです、誰か分けてくれ
151名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 20:33:39 ID:UC6V8atQ
>>150
つ哀
152 ◆JmQ19ALdig :2007/05/27(日) 18:51:30 ID:yvweH+Wl
連投に近くなってしまいますが
私本・時のオカリナ/第二部/第十二章/ゼルダ編その4、投下します。
今回はゼルダの独演です。
1532-12 Zelda IV (1/8) ◆JmQ19ALdig :2007/05/27(日) 18:53:10 ID:yvweH+Wl
 月は、まだ東に寄っていた。常には頼りないその光も、満月である今夜は、厚い雲を通しても
なお、おぼろな明るみとなって地上に到達している。南から西にかけては、珍しく雲が切れており、
一つの星が、陰からの月光に耐え、小さな銀色の輝点として、存在を主張していた。
 あの満月が雲の切れ目に達し、南中する時。それが真夜中。日が変わり、わたしは十六歳となる。
 空を見ながら、ゼルダは思った。
 ハイラルの東の果て。鬱蒼とした木々に囲まれ、外界から隔絶されたように、ひっそりとある、
泉のほとりに、ゼルダはひとり、すわっていた。
 リンクの誕生日は、わたしのそれよりも、少しだけ遅い。リンクが十六歳になり、封印が解け、
この世界に帰ってくる日まで、もう、あと、わずかだ。
 待ちに待った時であるはずだった。が……
 ゼルダは疲れ果てていた。身体のあらゆる部分に疲労がこびりつき、指一本、動かす気に
なれなかった。腰を下ろしている地面に、ずぶすぶと身が沈んでいくような錯覚さえ感じる
ほどだった。
 下腹部にしこる鈍い痛み。そのせいだ、と、わかってはいるが……
 身体ばかりではなく、心も、限りなく重い。

 いまや絶望だけが支配する地となったハイラル。
 その原因は、わたしにある。
 ガノンドロフに対抗し、自らがトライフォースを得て、聖地を制御しようなどという、愚かで、
浅はかで、思い上がった考えを持っていたわたしに。
 結局、トライフォースはガノンドロフに奪われ、彼は魔王となり、ハイラルは魔界と化して
しまった。
 わたしは責任を取らねばならなかった。
 世界に平和をもたらす使命を帯びたリンクの帰還を待ち、わたしもまた、自らに使命を課した。
リンクが帰ってくるまでに、賢者の居所を探し出すと。
 しかし……
 わたしはその使命を、全く果たせなかった。賢者を見つけるどころか、それが不可能だという
ことを確かめただけだ。
 さらに。
 この暗黒の七年の間、多くの人々が、命を失い、幸せを失っていった。
 それも、すべて、わたしの過ちゆえ。わたしの無力さゆえ。
 世界には、わたしを信じて待ってくれている人もいる。なのに、救いであるはずの、そのこと
すら、いまのわたしには、苦痛に感じられる。

 これ以上、わたしに、何ができるというのか。
1542-12 Zelda IV (2/8) ◆JmQ19ALdig :2007/05/27(日) 18:54:11 ID:yvweH+Wl
 いや、まだ望みはある──
 身を押しつぶしそうな重圧に耐え、ゼルダは思いを馳せる。
 リンク。
 世界に残された最後の希望。勇気のトライフォースを持つ、時の勇者。
 リンクはまもなく帰ってくる。リンクなら……リンクなら……手の打ちようもなく荒廃しきった
この世界を、どうにかして救ってくれるはず……
 私の使命は、まだ終わってはいない。
 リンクとともに戦う。その使命を、これからわたしは、果たさなければならない。

 ああ、でも……
 
 わたしがリンクに対して、犯してしまった罪。
 リンクに初めて会った日の夕刻、ハイラル城の一室で、わたしが得た、あの予知。あれは絶対に
必要なことだったと、いまでも確信はしているけれど……
 リンクの人格をも無視して貫きとおした、その行為が、結果、リンクに何をもたらしてしまったか。
 リンクを戦いに巻きこんでしまった。リンクを聖地に封印することになってしまった。もうすぐ
リンクは戻ってはくるが、それまでの七年という時間を、わたしがリンクから奪ったという事実は、
動かしようがない。
 そして、わたしはなおもリンクを欺くことになる。リンクが帰ってきても、『わたし』は
リンクに会うことはできないのだ。
 ハイラルの運命を背負う王女としての、それが自分の定めなのだと、理解はしていても……
そうしなければならないのだと、わかってはいても……
 うち沈んでゆく心は、どうすることもできない……
1552-12 Zelda IV (3/8) ◆JmQ19ALdig :2007/05/27(日) 18:55:16 ID:yvweH+Wl
 月は雲のすき間に姿を現し、中天にさしかかりつつあった。鏡のように静止した泉の水面に、
それは白く美しい正円の姿を映し落としていた。
 ゼルダは大きく息をついた。
 この苦しみを、わずかでも減らすことができるのなら……
 重みに抗して、身を立たせる。
 着衣を解く。
 冷ややかな空気に、ぞくりと身体が震える。
 常に暗雲が空を占拠するハイラル。気温は年ごとに、わずかずつ、しかし確実に、低下しつつ
ある。それでも今夜は、風がなく、過ごしやすい方だ。
 素肌に月光を浴びながら、ゼルダは泉の中へと足を踏み入れた。底の土は軟らかく、足を
取られるような異物はない。
 ゆっくりと歩を進め、泉の中ほどに立つ。浅い。水に浸かっているのは、膝の上くらいまで。
 水底に腰を下ろす。ちょうど肩から上が、水面にのぞく。
 手で水をすくって、肩にかける。
 心地よい。水の中の方が、暖かく感じられるほど。
 こびりついた疲労を落とそうと、身体の表のすみずみまで、手を這わせる。
 その手が、胸に触れる。手が止まる。
 わたしの胸。わたしの乳房。
 七年前とは大きく変わり、それはもう、手で完全には包みこめないくらいの、豊かな丸みを
持っている。小さな隆起を、頂点にもって。
 変わったのは、そこだけではない。
 胸に片手を残したまま、もう片方の手が、下半身へと伸びる。
 おなかの下。両脚が交わる、少し上。
 ほのかに盛り上がる、その部分は、すでに一面、叢々と……
 若く、花開いた、女のしるし。
 そう、わたしは女なのだ。すべての衣装を脱ぎ去り、おのれの身体のみとなり、ただの一人の
女として、わたしはいま、ここにいる。
 それがこの先も許されることなら……リンクの前で、そうあることができるのなら……

 いや、それは許されないことなのだ。
 わたしは王女であらねばならない。わたしは使命を果たさねばならない。わたしは『わたし』
ならざる者として、リンクの前にあらねばならない。
 ねばならない。
 何という、苛酷な言葉!
 その重み。その厳しさ。わたしは、それに、耐えて「ゆかねばならない」……
1562-12 Zelda IV (4/8) ◆JmQ19ALdig :2007/05/27(日) 18:56:27 ID:yvweH+Wl
 視界の隅を、光が横切った。
 月光とは異なる色合いをもったそれを不審に思い、ゼルダの目は、あたりをさまよった。
 桃色の小さな光点が一つ、ゆるやかにたわんだ軌跡を描いて、水面を漂っていた。
 ──あれは……?
 と思う間もなく、同様の光点が、一つ、二つ、三つ……と水面に現れ、みるみるうちに、
泉は、数え切れないほどの光点で埋めつくされた。
 思わず、ゼルダは立ち上がった。泉の中央にいるゼルダは、その光点の群れに、全周を
取り囲まれる形となっていた。
 ──何なのだろう。
 驚き立ちすくむゼルダのまわりで、桃色の光点は、なおも流れるような舞いを続ける。不思議に
恐怖感はない。いや、それどころか……
 目の前を、光点が通り過ぎる。その光の中に、ゼルダは見た。
 かそけく羽ばたく、二対の羽根。
 ──妖精!
 はっと、空を見上げる。満月が、いま、まさに、真南の空にかかっている。
 思い出した。
 満月の真夜中に妖精が現れる泉が、ハイラルのどこかにあるという伝説を。
 妖精の泉。
 ここが、それだったのだ。
 無数の妖精たちが、身体に触れんばかりとなって──いや、もうすでに、極上の布で撫でられる
ような、えもいわれぬ感覚をもたらしながら──ゼルダを押し包んでいた。
 ──ああ……
 目を閉じ、首をのけぞらせ、腕を広げ、ゼルダはおのれを開放した。妖精の乱舞に、すべてを
任せた。
 癒される。癒される。
 水浴では落ちきらなかった疲労の滓が、嘘のように溶け去ってゆく。
 重く沈んだ心の澱が、霧の晴れるように消え去ってゆく。
 鍵がはずれる。枷が落ちる。
「どうあらねばならないか」──ではなく、「どうありたいか」
 わたしはリンクと、どうありたいか。
 自分に問う。考えるまでもなく、答はそこにある。
1572-12 Zelda IV (5/8) ◆JmQ19ALdig :2007/05/27(日) 18:57:31 ID:yvweH+Wl
『会いたい!』

 リンクに会いたい!
 リンクに会いたい!
 リンクに会いたい!

 七年間、ずっと、ずっと、思ってきた。わたしが『わたし』ではない間でも、それは変わらぬ
わたしの願いだった。
 そう、あの時のように。
 精霊石を求めてハイラル城から旅立ったリンクを待っていた時。城下の別荘を訪れ、夜、
入浴していたわたしは……
 思った。リンクに会いたい、と。
 ……それだけ?

 それだけではなかった。

 脳裏に浮かぶ、リンクの顔。
 衝動が、どっと押し寄せる。あの時と同じ衝動が。
 指が、伸びる。繁る叢の、さらに下。
 指が、触れる。秘密の場所。
 その目的で触れるのは、まだ二度目。七年前の、あの時以来。
 あの時は、時間がなかった。わずかに触れただけだった。
 あれから、そこには触れていない。機会がなかった。機会があっても、使命のことを考えると、
その気にはなれなかった。してはならないと思ってきた。
 でも……いまは……いまは……わたしを妨げるものは、何もない。
 自分の中で蠢く何か。殻を破って外に出たいと悶える何か。
 その正体を、すでに、わたしは、知っている。知識として。そして、経験として。
 けれども、その経験は、『わたし』のものではない。
 いまは、純粋に、『わたし』として……この衝動に──この激しい感情のうねりに──ただ、
ただ、身を投じよう。
1582-12 Zelda IV (6/8) ◆JmQ19ALdig :2007/05/27(日) 18:58:35 ID:yvweH+Wl
 潤い始めた谷の間に、下腹の皮膚からせり出す岬。その表面を、上から、下へ、そっとなぞる。
小さな芯が埋まっている。
 ぴくり、と、身体が震える。
 続けて、なぞる。繰り返し。繰り返し。ゆっくりと。ゆっくりと。
 芯が、硬くなる。少しずつ、少しずつ、それは膨らみ、起きあがる。
「ぁ……」
 感じる。感じる。そう、このまま……もっと……
 指の動きが、早くなる。強くなる。もう、なぞるだけでは、治まらない。
 押す。まわす。つまむ。はじく。
「……く……あぁ……」
 声が、漏れる。抑えられない。抑えたくない。
 気持ちがいい。気持ちがいい。
 ──これが……女の……快さなの……
 人差し指を伸ばす。二つに開いた唇の狭間。
 中から湧き出す液体に指を浸し、それまでとは逆に、下から上へと、こすり上げる。
「あッ!」
 じん──としびれる感覚。直接、触ってしまった。
 脚がよろける。
 ──ああ、わたしは立ったままだった。
 自分の姿を想像する。
 素裸で、自然の中に立ちつくして、両脚のつけ根に手を差し入れて、指を動かして、指を
濡らして、息をはずませて、無我夢中で、あられもなく、恥ずかしい声を漏らすなんて。
 なんて、はしたない、わたし。
 一国の王女である、わたしが、こんなことを……
『いいえ!』
 いまのわたしは、王女じゃない。ただの女。一人の女。
 どうありたいか。それだけを考えていればいい。
 余した手を、乳房に這わせる。
 生き生きと張りつめた、女の生に充ち満ちた、二つの膨らみ。
 女。女。わたしは女。
 ぎゅっ──と乳房を握りしめる。さっきまで小さかったはずの、先端の隆起が、突き出ている。
二つとも、硬く、突き出ている。
 指ではさむ。ひねる。ころがす。
「あ!……う!……はぁッ!……」
 噴き上がる快感。
 舞い飛ぶ妖精たち。
 揺れる。揺れる。身体が揺れる。
 指が止まらない。声が止まらない。
 もう、わたしは、止まらない。
1592-12 Zelda IV (7/8) ◆JmQ19ALdig :2007/05/27(日) 18:59:35 ID:yvweH+Wl
 股間の指を谷間に埋める。そのまま、進める。ゆっくりと。でも、まっすぐに。奥へと。奥へと。
 あふれかえるしたたりにも助けられてか、さほどの抵抗もなく、かすかな痛みをものともせずに、
指が入ってゆく。わたしの中へ、入ってゆく。
 身を固くして、それを感じる。
 この充足感。
 これが、女の、最高の快さ……
 いや、違う!
 まだ、そうじゃない!
 わかっている。ひとりでは決して得られない。
 どうありたいか。わたしはどうありたいか。わたしはリンクと、どうありたいか。
 いいのだろうか。それを思って、いいのだろうか。
『かまわない!』
 突き上げるような、衝動! 衝動! 衝動!

 リンクに触れたい! リンクに触れられたい!
 リンクに抱かれたい! リンクを抱きたい!
 わたしたち二人が触れ合って、わたしたち二人が抱き合って、そして、

 二人のすべてを分かち合いたい!

 胸をつかむ手が、右の耳に伸びる。トライフォースの耳飾り。
 これがすべての始まりだった。
 七年前、ハイラル城の中庭で、トライフォースの例を示すため、わたしは右の耳飾りをリンクに
見せた。
『どう? おわかりに……』
 ふり向いた時、リンクの顔があった。わたしの前に。わたしのすぐ目の前に。
 リンクの目。わたしの目。しっかりと結ばれた、二人の視線。
 その時から、
「リンク……」
 そう、その瞬間から、
「わたしは……」
 かたときも、絶えることなく、
「あなたを……」
 ──だめ!
 心の叫びとともに、挿した指がぐいと内壁をえぐる。
「ああッ!」
 ずん!──と、はぜる、法悦の塊。
 これ! これだわ!
 わたしはリンクに「こうされたい」!
1602-12 Zelda IV (8/8) ◆JmQ19ALdig :2007/05/27(日) 19:01:46 ID:yvweH+Wl
 全身の細胞を揺すぶりあげるような、圧倒的な快美感が、ゼルダの体内を駆けめぐった。
硬直した肢体と、開ききった心で、ゼルダは生まれて初めて、女の到達点を迎えた。
 感激が頂上を越え、退いてゆくとともに、筋肉の力も萎えていった。膝が折れ、ゼルダは
水の中に崩れ落ちた。
 目を閉じ、肩まで水に浸かって、ゼルダは、じっと、動かなかった。
 しばらくして目を開くと、あれほどたくさん飛んでいた妖精は、いつの間にか、みな消え失せて
おり、水面には、西に傾き始めた満月の光が映っているだけだった。
 その時、気づいた。再びしこる下腹部の鈍痛。それに続く、流れるような感触。
『始まった……』
 挿しこんだままの指を、そっと抜く。赤黒い血に染まっている。
 脚の間から、水中に、黒っぽい濁りが滲み出している。
 これゆえに、今夜、わたしは『わたし』でいられる。
 月経。
 七年の間にゼルダを訪なった、それはもう一つの女のしるしだった。

 水の中から立ち上がり、脱衣した岸辺へと、ゼルダは歩み戻った。
 岸に上がり、白い布で全身を拭く。股間の処置をし、着衣する。
 草の褥に横たわる。
 依然として下腹部は痛み、夜気は冷たく、ゼルダは身を折り曲げて、それらに耐えた。が、
凝り固まっていた疲労感は、身体からも、心からも、きれいに洗い流されていた。
 回想する。
 リンクと、どうありたいか。その想いを、全部、解放するつもりだったのに。
 リンクに「こうされたい」──とうとう、そこまでも、思ってしまったわたしが……
 絶頂する寸前に、口をついて出た言葉。
『わたしは……あなたを……』
 その先は、言えなかった。まだ、言いたくなかった。
『わたし』がリンクに会える日は、いつか、必ず、来る。過ちを正し、罪を贖い、何のわだかまりも
なく、リンクの前に立てる日が。
 西の空、満月の明るみに抗して、孤高の光を放つ、予兆の星。いま、それを見ているわたしには、
わかる。絶対の確信がある。
 その日まで、最後の言葉は、封じておこう。
 そして、その日を迎えるまでに……
『わたしは、わたしにできる限りのことをしよう』
 淡々と、ゼルダは決意を胸に刻んだ。もう心が沈むことはなかった。
 夜が明け、再び目覚めた時、わたしはすでに『わたし』ではない。この一夜の記憶をすべて
なくして、また、わたしは、立ち上がる。
 この手でリンクを迎えるために。
 ゼルダは目蓋を閉じ、意識を伏せた。深く安らかな眠りが、ゼルダを包みこんでいった。

 ゼルダは気づいていなかった。
 達する直前に握りしめた、右の耳飾りが、その後の熱狂のせいで、手から漏れ、泉の水面に
落ちたことに。
 リンクとゼルダ。
 運命に遠く隔てられた、しかし見えない糸でかろうじて結ばれた、若い二人。
 その二人の繋がりの、最初の証人であった耳飾りは、いま、水底に沈み……やがて、新たな
証言を語ることになるのだった。


<第二部・了>


To be continued.
161 ◆JmQ19ALdig :2007/05/27(日) 19:02:38 ID:yvweH+Wl
以上です。なぜここでゼルダなのか、という点は、いずれ詳細を明らかにします。

鬱だらけの第二部も終了。ガノンドロフとシークが主役のはずなのに
インパ、アンジュ、ツインローバという、スレ的に普通ではない面子に力が入ってしまった。
次回より第三部。リンク復活です。
162名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 19:22:17 ID:poSolbaY
携帯からですがいの一番にGJ。          鬱展開の二章ご苦労さまでした。三章も期待して待ってます。
163名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 20:14:26 ID:6DaWhoLm
リンク復活krkt&乙!

長く重い2部でしたが、最初の2年ぐらいで既に悲惨を極めていたのに
さらに5年耐えねばならなかったハイラルの住人たちの苦労は想像できなすぎる

ゲームの進行上、何度か7年前の子供リンクに戻るシークエンスがどうなるかも期待
164名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 20:18:34 ID:/OTcxyvj
乙GJ!3部も楽しみ!!


ラウル「・・・しまった・・・大人服・・・ビキニパンツにしとけば・・・・・ガクッ」

165名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 01:03:35 ID:mN79GZuT
>>161
グッジョーブ!!
第二部完結お疲れさまです。
七年間の時間配分や人々の心境、ガノンドロフの暗躍など、よく考え込まれていて崇拝
また、耳飾りや月経、賢者達の復活方法等気になることが多く、
第三部でこれらの布石がどう回収されていくのか、新作ゼルダ発売前並にwktkして待ってます
166名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 03:04:27 ID:ZcSzmHAM
>>161
GJ!
遂にリンク復活ですね
wktkwktk
167名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 21:39:38 ID:oXCresNO
第二部簡潔乙&超絶GJ!これからの展開にwktkが止まりません
168名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 23:51:06 ID:/rLK3HD8
前スレ末期の獣姦リンク×ミドナが偉く抜けますな
169名無しさん@ピンキー:2007/05/29(火) 18:32:09 ID:3jvhA72M
>>168
きぼん
170名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 00:45:40 ID:gxZ3lzIr
451 名前:リンク(獣)×ミドナ(小) 1/5[sage] 投稿日:2007/04/29(日) 18:50:55 ID:a64Q3t9D
随分前にリンク(人)×ミドナ(小)を投稿した者です。
今回はリンク(獣)×ミドナ(小)
イリアのポシェット(?)発見から城下町にいくまでの道中
健全な青少年(成獣)リンク。
※デクババはこんなに強くない


―メスの匂いだろ?ツラを見りゃあわかるんだよ―

輪郭の曖昧な、黒と黄に支配された平原を、リンクは獣の足で地をつかんで走っていた。
やっとつかんだ幼馴染の手がかりに嬉々としていただけなのだが、
あんな風に言われ頭にきた。
そんなんじゃないとリンクは唸る。
決してそういう感情は抱いてはいない。
幼い頃から一緒にいる異性というのは
兄妹のようなもので、そういう方向へは持っていけない。
だから彼女の言う"メスの匂い"に過敏に反応したのは
やっと幼馴染を助けられるという安堵からくるものなのだ。

そんなふうに意識していない。断じて違う。
誰に弁解するわけでもないのに、必死にリンクは胸中で否定した。
憤りを、思いきり地を蹴ることで発散しようと、リンクは吼えて速度を上げた。
「うわっ・・・!」
背にまたがっているミドナは後ろに引っ張られ、慌ててリンクの背にしがみつく。
「・・・っおい、オマエ!・・・急くのはいいけど、こういうときこそ冷静になれよな」
リンクの耳をつまんで寄せてミドナは言う。返答はなかった。
ミドナは呆れたように肩をすくめて上体を起こした。
曖昧な闇の向こうに大きな石橋が見える。手前の樹を避けようと急な角度で曲がりかけたとき、
幹の根元の植物が大きく動いた。
171名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 00:46:24 ID:gxZ3lzIr
452 名前:リンク(獣)×ミドナ(小) 2/5[sage] 投稿日:2007/04/29(日) 18:52:05 ID:a64Q3t9D
「!!」
植物の魔物、デクババだ。
牙を剥き出しにして涎をしたたらせている。
地を蹴って後退しようとしたリンクの前足にデクババは噛み付いた。
一瞬の対応の遅れが命取りだ。ぎゃうっと吼えて地に転ぶ。
前足に噛み付いたデクババは粘液のようなものを吐き出しながら、顎にさらに力を加える。
リンクは前足ごとくれてやる勢いで振り切ろうとするが、なぜか力が入らない。
「おいオマエ!なにやってるんだっ・・・、!」
ミドナはリンクの異変に気づき、同時にその要因も理解した。
毒だ。
傷口にこれでもかとどす黒い液体を注がれている。
「ちっくしょう、手間かけさせやがって…!」
ミドナは一旦リンクの背を離れ、目の前の獲物に夢中になって
隙だらけのデクババの背後に回った。
全神経を集中して魔力を高め、
「タチの悪いやつは・・・」
敵に向けて一気に放つ。
「嫌いなんだよ!」
ミドナの髪は、それ自体が魔力の塊だ。
だがまともにそれを食らったはずのデクババはかろうじて生きていた。
ミドナは舌打ちをした。
(こんな弱い魔力・・・っ!)
瀕死でまともに動けないデクババにすかさずリンクは飛びついて、
その頭部を思いきり噛み千切った。

幸い石橋の下には川があり、
流れこそ止まっているが、充分な水があった。
前足を水に浸して毒を洗い流そうとするが、思うように取り除けない。
前足を口元に寄せて毒を吸いだそうとするが、獣の口ではそれも上手くいかなかった。
仕方なしに舌で傷口をちろちろと舐めると、口内にひどい痺れが広がる。
激痛にびくりと体を揺らした。
その様子を見かねたようにミドナが傷を覗き込んで言った。
「しかたないな・・・オマエ、ちょっとおとなしくしてろよ」
言い終わるか終わらないかのうちにミドナはかがんでリンクの前足をとって口付けた。
172名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 00:47:07 ID:gxZ3lzIr
453 名前:リンク(獣)×ミドナ(小) 3/5[sage] 投稿日:2007/04/29(日) 18:52:51 ID:a64Q3t9D
戦いの興奮冷めぬこの獣の体。もう慣れたものだと思っていたが、
先ほどの失態といいこの様といい、非常に情けなく思う。
少々からかわれたくらいで平常の警戒を怠ってしまった。
傷口を吸われるたびに痛みで体がこわばる。
それをなだめて抑えるようにミドナが頬から腕へと撫でる。
やはり情けないと思う。

メス、女性、女――――幼馴染の彼女を、そんな風に見たことがないわけではなかった。
ただあまりに身近にいるために、いわゆるその気が起きないのである。
女といえば、目の前のこの影の者はどうなのだろう。
最初は魔物かと思った彼女は、よくよく見れば大きな瞳に丸みのある体のライン、
そして小ぶりだが確かに膨らんでいる胸。
つまりは女である。
言動のせいか、普段は意識もしていなかったが、こう改めて意識すると
この柔らかい体をいつも背に乗せているということになる。
そう思うと普段の背の感触を思い出してリンクは変な気分になった。
そして今の状況もそれを助長していた。

ミドナはそれこそ狼になった自分より多少背は上だが、
今はかがんで自分の前足を両手で持っている格好で、多少彼女を俯瞰の視点で見ることになる。
そうすると胸に視線がいくわけなのである。
これはまずい。
なにやら先ほどから感じているその変な気分が、どんどん膨らんでいく。
それにやはり片足でも重いのか、ミドナは持ち手を慎重に持ち替えたりする。
その動きがゆっくりと、あの柔らかそうな両の胸を寄せたり離したりするものだから――――
173名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 00:47:50 ID:gxZ3lzIr
454 名前:リンク(獣)×ミドナ(小) 4/5[sage] 投稿日:2007/04/29(日) 18:53:42 ID:a64Q3t9D
気が付けば前足の痛みもそっちのけでミドナを押し倒していた。
「・・・うわっ!ちょ、な・・・・・・ッ!」
突然の事態に上手く体制を整えられないのをいいことに、その上にのしかかる。
自分の状況を飲み込めたのか、ミドナは怒号を浴びせる。
「オマエ!一体何のつもり」
だがそれは最後まで続かなかった。
いきなり腹から胸へとぺろりと舐められたからだ。
「んぁっ、!く・・・・・・」
漏らしてしまった己の妙な声色を聞いて、ミドナは奥歯を噛み締めた。
なんとか逃れようとするのだが、リンクは全体重をかけるように
両前足で自分の腕を押し付けている。びくともしない。
さっきの傷の痛みはどうしたんだと思った。
その間にも、上体を舐めまわされる。
「・・・んっ、ぅんん・・・く・・・」
胸の頂に舌を押し付け、わき腹から胸、首筋を舐められる。
素肌に直接かかる息遣いは雄のものだった。
視線をリンクの下肢にやれば、膨張しきっているその象徴が見えた。
動揺した一瞬の隙をついて、リンクはミドナを四つんばいにさせる。
露になった背骨を舌でたどって耳に甘く噛み付く。
「んんっ、・・・・・・っ!」
ミドナの背がこわばった。
無意識に開いていた脚の間の女の部分に、熱い物があてがわれた。
それが何なのか、意味するところがわからないほど子供ではない。
ただリンクのこの急な発情が、一体なんなのか解せないのだ。
なぜだ、なぜと疑問がぐるぐると胸中を回る。
それは強い衝撃に掻き消された。
174名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 00:49:34 ID:gxZ3lzIr
455 名前:リンク(獣)×ミドナ(小) 5/5[sage] 投稿日:2007/04/29(日) 18:54:29 ID:a64Q3t9D
「!!ぅああっ、あっ!つッ・・・」
内部に、自身の体温と異なる温度を持つものが入ってくる。
痛みと、圧迫感と、なぜか感ずる心地よさ。
襞とそれが擦れて、ミドナはもう声を抑えられなくなった。
「なん・・・で、あ、あっ、んあっ、あッ」
リンクが腰を打ち付けてくる。
ミドナは思考を放棄した。
「んんっ、ゃ、あっ、はッ、・・・」
本能のおもむくままに激しく突き上げられ、擦れて揺さぶられる。
なんの技巧もないが、それが逆に生物としての根源を刺激し、
自分をただのメスにする。
気づけば視界は涙で滲んでいた。
リンクはきしむミドナの背、潤んだ嬌声、そして神経に直接染みる
その体温、感触、そのすべてに追い立てられる。
たまらず彼女のうなじに噛み付いた。
「ぁっ、はあ、んっ・・・く・・・」
耳元の荒い息遣いが、存在を主張し続ける体内の雄が体温が、
快感を増長させる。
終わりが近いのか、律動はさらに加速していく。
ミドナも無意識に、それを助けるように腰を揺らす。
「ぁ、ああっあ、ああ・・・・・・!!」
最奥を、なにか温かいもので満たされ、
ミドナは果てた。
175名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 00:50:47 ID:gxZ3lzIr
本当にDAT落ち寸前のスレ末期に投下されたやつだから
知らない人もいるかもね
176名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 00:52:42 ID:gxZ3lzIr
あ、保管庫に保存されてた
ごめん
177名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 15:50:51 ID:1brRHn/j
どどんまい
178名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 21:27:33 ID:hNKUDm16
さんくす
179名無しさん@ピンキー:2007/06/02(土) 19:39:08 ID:ht6s8j0r
保守
180名無しさん@ピンキー:2007/06/02(土) 22:27:41 ID:I6CgwkLV
メドリが鳩胸に育つように揉む
181名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 01:51:25 ID:MU8aYujA
メドリといえば>>150はどうしているだろうか…
182名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 16:09:17 ID:EqjjUkKT
保管庫ならともかく、書き手でもないのに勝手に再録・転載に抵抗を感じているのは俺だけなのか。
183名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 20:21:53 ID:wG31EHo+
まあ、抵抗を感じるのは普通の感覚じゃないか?
それに保管庫もあるし、再うpする必要性はないしな。

といっても、ID:gxZ3lzIrは善意からやったことだろうし、咎めるのも気が引ける。
184名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 20:24:07 ID:UE8wMRgh
。)ノシ<チャッカリやっちゃったんでしょ?次から気をつけるように。
185名無しさん@ピンキー:2007/06/05(火) 21:43:39 ID:TkTKUCND
保守ついでに…タクトで雌ドリにつかまって飛ぶ奴があるけど、アレ上を見あげると
素敵な光景が…。
186名無しさん@ピンキー:2007/06/06(水) 11:13:30 ID:QqSmMlcA
何かそんな絵があったような無かったような
187名無しさん@ピンキー:2007/06/06(水) 15:43:20 ID:AzLJsfKP
Cスティック禁止〜の絵だな
188名無しさん@ピンキー:2007/06/09(土) 20:14:09 ID:bNGoRUnl
◆JmQ19ALdig氏の話を通読した。
リンゼルメインの話のようだが、のみならず時オカという世界全体への愛を感じる。
現時点で既に多くの伏線が張られているようだし、先が楽しみだ。
個人的には Ange III が一番好き。二人のすれ違いが実に切ない。
189名無しさん@ピンキー:2007/06/09(土) 20:41:43 ID:1DpdZ6Ai
>>188
第二部終了ということで区切りもいいし、通読するには良い機会かもな
読み返してみると、また新たな発見がありそうだ
190名無しさん@ピンキー:2007/06/10(日) 11:52:22 ID:/cejL1Ud
>>150だけど、持病が悪化して検査?入院してた。んでまた明日から入院。だりーwww
コンディションが良ければ向こうで書くかもだけどネットつながらないからしばらく無理そうー。すまんね
191名無しさん@ピンキー:2007/06/11(月) 06:48:21 ID:Qv908BwC
続きものは完結するまで読まない自分は異端。
リンゼルスキーだから読める日を楽しみに待ってるよ。
192名無しさん@ピンキー:2007/06/11(月) 08:03:53 ID:6YS4rnm+
>>191
そう思っていた時期が僕にもありました。
193名無しさん@ピンキー:2007/06/11(月) 22:09:41 ID:9NgGDVBD
ゼルダの絵板が見つからない……
誰かupを頼む……
194名無しさん@ピンキー:2007/06/12(火) 14:57:52 ID:rsam8sMj
んなもんあるの?
n天堂と非エロのムジュラ絵板しか知らないなぁ
195名無しさん@ピンキー :2007/06/13(水) 02:18:33 ID:KRay4Wl6
どこかにあるガンダーラみたいなものか
196 ◆JmQ19ALdig :2007/06/14(木) 00:07:54 ID:RW06vllx
感想ありがとうございます。
第三部開始ですが、賢者がいないため、最初の三章分は極度に貧エロとなってしまいます。
今回は導入部ということもあり、ほとんどエロ無し。
タイトルはシークですが、別にシークがエロいことをするわけではありません。
では、私本・時のオカリナ/第三部/第一章/シーク編その1、投下します。
1973-1 Sheik I (1/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/14(木) 00:09:26 ID:RW06vllx
 いきなり闇が消え失せた。
 しかし暗いことに変わりはない。どこからか、かすかな光が届いているようだが、あたりの
様子は、よくわからない。
 ──これは?……ぼくは?……どうなったんだ?
 目が機能しないのと同様に、頭もうまく働かない。
 じっとそのままの体勢を保ち、感覚が動き出すのを待つ。少しずつ視覚が戻り、周囲の光景が
見えてくる。
 八角形の大きな部屋。
 思わず踏み出した足が、床にある何かに当たり、あやうく転びそうになる。視線を落とし、
自分を躓かせたものを確認する。低い壇。その中央にあるもの。
 ──台座?
 初めて、自分が左手に何かを握っていることに気づく。ずっしりと重く、だが不思議に
しっくりと手に吸いついた、それ。
 マスターソード。
 徐々に記憶がよみがえってくる。
 城下町の正門前で、馬で逃げるゼルダとすれ違って……ゼルダの投げた『時のオカリナ』を
拾って……一方的にガノンドロフにやっつけられて……ゼルダの手紙に従い、時の神殿へ
行って……三つの精霊石と『時のオカリナ』を使い、奥の部屋へ入って……
 そうだ! この部屋へ入って! ぼくはマスターソードを、この台座から抜いたんだ!
 ゼルダの手紙の最後の文章。
『トライフォースはあなたが守って!』
 トライフォースはどこに? マスターソードはトライフォースへの鍵。それを抜いたいま、
トライフォースへの道が開けたはず──
 あたふたと周囲を見まわす。が……
 おかしい。何かが。
 何がおかしいのか──と考えてみるが、わからない。
 いや。
 物の見え方が変だ。見える物の角度が、妙に狂っているような……
 身体を動かしにくい気がして、マスターソードを背負った鞘に戻す。戻してから、ことの
異常さに気がつく。
 ぼくはマスターソードを台座から抜いたばかりだ。なのに、なぜ、その鞘をぼくが背負って
いる? 背負っていたのはコキリの剣だ。
1983-1 Sheik I (2/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/14(木) 00:10:13 ID:RW06vllx
 あわてて背中のものを床に降ろす。鞘に入ったマスターソード。コキリの剣は……ない。
それに楯! デクの楯じゃない。もっと大きな金属の楯だ。トライフォースとハイラル王国の
紋章が描かれている。
 持ち物を確認する。『時のオカリナ』はある。サリアのオカリナも。他には……爆弾、デクの実、
ルピー、コキリの森から持ってきた身の回りの品。
 だが、パチンコとブーメランがない。
 食べかけのパン。石のようにかちんかちんに固まっている。長いこと放っておかれたように。
そしてゼルダの手紙が二通。やけに紙が黄ばんでいる。なぜ?
 ちょっと待て。その前に……ぼくが着ているものは?
 緑色の服と帽子。これは変わっていない──いや、違う! 大きくなっている!
 それに、服の下の白い肌着。外に出ていた腕と脚は、素肌のままのはずなのに。
 身体のあちこちをさまよう手に、目が止まる。左手の甲。小さな三つの三角形が、三つの頂点に
位置して形づくる、大きな三角形。その右下の小さな三角形だけが、金色に輝いている。
「トライフォース!」
 思わず口から出る声が、さらに驚きをもたらす。太い、低い声。まるで大人のような。
 ──ぼくは……ぼくは……いったい……「誰」なんだ?
「待っていたよ。時の勇者……」
 背後からの声に、はっとふり向き、身構える。
 いつからそこにいたのか、部屋の隅から、ゆっくりと歩み寄ってくる、一つの影。
 ほのかな光の中に、その人物の姿が浮かび上がる。全身をぴったりと包む濃紺色の服。正面の
白地には奇妙な紋章。顔の下半分を白い布で覆い、頭には帽子のように同じ白い布を巻いている。
顔に垂れかかる金髪。その下から覗く、赤い瞳。
「誰だ?」
 警戒をこめて発した言葉に対し、その人物は、静かに答えた。
「僕はシーク。シーカー族の生き残り……」
 シーカー族? というと、インパに関係のある人物か?
 警戒をゆるめないまま黙っていると、シークと名乗ったその人物は、ふっと目を穏やかにし、
優しげな声で言った。
「とまどっているね。無理もない。君は七年間も眠っていたのだから」
 意味が頭に染みとおるのに、かなりの時間がかかった。
「七年……間……?」
 それ以上は何も言えず、リンクはただ、その場に立ちつくしていた。
1993-1 Sheik I (3/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/14(木) 00:10:54 ID:RW06vllx
 茫然と動かないリンクを見ながら、シークは心の中で、深い感動を味わっていた。
『ついに、君に会えた……』
 シークは一ヶ月も前から、時の神殿で待機していた。十六歳の誕生日にリンクが帰ってくる
ことはわかっていたが、その誕生日が正確にいつなのかは不明であり、だいたいの時期が知れて
いただけだったからだ。城下町の敵勢が意外に手薄とはいえ、じっと敵中にひそんで待つ間、
シークはかなりの緊張を強いられていた。だが、その苦労が──いや、そればかりではなく、
七年間、ひたすら積み重ねてきた苦労が報われる時が、とうとう訪れたのだ。
 目の前に立つ青年を、温かい思いで、じっと見つめる。
 背は僕より少し高い。驚きがあまりに大きいためか、放心したような表情になっているが……
まっすぐな誠実さを宿す目、強い意志を感じさせる口元の線は、そうあって欲しいと思ってきた
僕の期待を、そのまま映し出したかのようだ。
 とはいえ──と、シークは冷静に戻る。
 そのリンクも、いまはさすがに混乱しきっている。
「……どういうことなのか……教えてくれないか……?」
 ようやく言葉を継いだリンクに向け、できるだけ感情を抑えた声で、シークは経緯を話して
聞かせた。
 七年前、この部屋でマスターソードを台座から抜き放ったリンクは、まさに勇者としての
資格ある者だった。が、勇者であるには、まだあまりにも幼すぎ、『光の賢者』であるラウルの
計らいによって、リンクは七年間、地下にある光の神殿に封印されることとなった。
 その隙を縫って、リンクのあとを追ってきたガノンドロフが聖地に入りこみ、トライフォースに
手を触れてしまった。しかしガノンドロフは完全なトライフォースを得る資格のない者であり、
三つに砕けたトライフォースのうち、力のトライフォースを手に入れただけだった。
 ところが、三分の一のみですらトライフォースの作用は著しく、ガノンドロフは魔王となり、
ハイラル全土は魔界と化した。ハイラル王国はすでに滅亡し、世界はいまや、疲弊の極にある。
 そこに、七年間の封印を経て、十六歳となったリンクが復活した。マスターソードと勇気の
トライフォースを持つ、時の勇者として。
2003-1 Sheik I (4/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/14(木) 00:11:35 ID:RW06vllx
 リンクは驚きに打たれ続けていた。
 七年間の封印。
 信じられない。マスターソードを抜いたのは、ほんのついさっきのような気がするのに。
 でも、信じないわけにはいかない。ぼくは大きくなった。服だけが大きくなったんじゃない。
ぼく自身の身体が、七年分、大きくなったんだ。見える物の角度が変なのも、そのせいだ。声が
変わったのも、ぼくが大人になったからだ。
 七年。いまのぼくは……十六歳!
 なんということだろう。ぼくはマスターソードを抜いて、トライフォースを守ろうと、それを
手にしてガノンドロフを倒そうと……ゼルダの意志を受けて……そうだ!
「ゼルダは? ゼルダはどうなった?」
 大きな声が出てしまう。シークがびっくりしたように目を見開く。
 驚かせたってかまうもんか。ゼルダのことだけは確かめておかないと。
 少しの間をおいて、平静な表情に戻ったシークが、ゆっくりと言い始めた。
「ゼルダ姫は……どこにいるのか、いまはわからない。だが、大丈夫だ。安全な所に身を隠して
いる。だから……」
「居場所がわからないのに、どうして安全だと言えるんだ?」
 思いが先走り、シークの言葉をさえぎってしまう。
「確かだ」
 短く、しかしはっきりと、シークは言った。
「ゼルダ姫は、いずれ姿を現す。君が使命を果たしてゆけば」
 確信がこめられている──と、リンクには感じられた。
「……わかった」
 城下町の正門から逃げ去ったゼルダが、その後の七年間、どこでどうしているのか、大いに
気にかかったが、シークの言うことは素直に信じられた。
「リンク、君にはもっと詳しいことを伝えておかなければならない。が……」
 シークはまわりに目を走らせ、さらに言葉を続けた。
「ここに長くとどまっているのはまずい。敵に気取られる危険がある」
 敵? ガノンドロフのことか? ここは王国の中心である城下町なのに……ああ、ハイラル
王国は滅亡した、とシークは言った。それも信じがたいことだが……
 手招きをするシークについて行こうとして、床に開いた穴が見え、動き出しかけた足が止まる。
「それが──」
 シークが説明した。
「聖地への道だ。君がマスターソードを抜いたことによって、その道が開いたんだ。かつては
その先にトライフォースがあった。いまはもう何もないが……」
 冷静な中にも沈鬱な色を湛え、シークの声は低くなった。が、その沈鬱さを振り払うように、
シークは早足で部屋を横切り、開かれた『時の扉』の方へ歩んでいった。リンクはあとを追った。
 吹き抜けの部屋へ出、三つの精霊石を填めこんだ石版を横目に見ながら、神殿の出口へと向かう。
出口の所で、シークはリンクを手で制し、鋭い視線を左右に飛ばした。安全を確かめているのか。
城下町はそんなに危ない状態なんだろうか。
 再びシークが手招きをした。それに従い、神殿の外に出る。
 暗い。神殿の中にいる時から感じていたが、いまは夜?……にしては、中途半端な暗さだが……
 それに、この寒さはどうしたことだろう。冬? いや、冬とはどこか違った、変な肌寒さ。
 空を見上げる。分厚い雲に覆われていて、月も星も見えない。だが、雲の状態がおかしい。
妙な色を反射しているようで……
 雲に映る色を追って視線を動かし、リンクは背後をふり返った。
 またもや足が動かなくなった。
 時の神殿のはるか後方に聳えるデスマウンテン。その頂上が……
 デスマウンテンは活火山だ。七年前にも噴煙を上げていた。ところが、いまは……噴煙どころ
ではない。頂上を取り囲んで、真っ赤に燃えた炎の帯がぐるぐると踊り狂っている!
2013-1 Sheik I (5/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/14(木) 00:12:40 ID:RW06vllx
「君が封印されてから、半年ほどあとのことだが……ガノンドロフの魔力によって、デスマウンテンが
大噴火を起こした。それ以来、あの状態が続いている」
 相変わらず冷静なシークの声で、我に返ったリンクだったが、激しい胸の鼓動は治まりそうに
なかった。
 ガノンドロフは……この世界に何をしたというんだ?
「危険ではあるが……君も見ておいた方がいいだろう」
 シークは言い、続けて、
「来るんだ」
 リンクに指示すると、油断のない様子で周囲に目を配りながら、小走りに通りを進んでいった。
 遅れないようシークについて行きながら、リンクは違和感を覚えていた。
 人通りが全くない。夜だから、というだけでは説明できない、この空虚な感じ。
 道の両側に建つ家々に目をやる。灯りがついている家はない。どの家も廃屋のような古びかただ。
誰も住んでいないのだろうか。
 先へ行くにつれ、建物の間に不自然なすき間が目立ち始めた。家がなくなっているのだ。
どうして──と思う間もなく、町の一角がまるごと空白になった場所へ出、リンクはその理由を
知った。
 ぽっかりと空いた地面には、崩れた建物の残骸が積み重なり、あるいは火災のために黒々と
焦げた建材が、とり散らかったまま残っていた。
 激甚な破壊の爪痕。
 信じられない。あれほどたくさんの人で賑わっていた城下町が……
 リンクの身体はぞくぞくと震えた。吹きすぎる冷たい風のせいばかりではなかった。
 二人は町の広場を抜け、北へ向かう道へと入っていった。
 これはハイラル城へと続く道。城はどうなったのだろう。
 シークの歩調が遅くなった。あたりの気配に多大な注意を払っているようだ。リンクもそれに
合わせ、まわりの様子をうかがった。何とも言えない、いやな気分になってきた。
 これは……この気配は……いったい何なんだ?
 道は前方で右に曲がっている。曲がれば城門が見え、その向こうに、豪壮な白亜のハイラル城が
姿を現す──と、リンクは記憶を掘り起こした。
 切り通しになった道の端に寄り、土の壁に背を貼りつけた格好で、二人はじりじりと歩を進め、
曲がり角の所まで来た。シークは立ち止まり、先の状態をうかがっているふうだったが、危険が
ないと確認できたのか、それでも言葉は発さないまま、手でリンクを差し招いた。強くなる一方の、
いやな気分に耐えながら、リンクはそっと、シークの横まで歩み出た。角の先が目に入ってきた。
 愕然──
 威容を誇ったハイラル城の姿はどこにもない。そこが城門だった、と、かろうじてわかる瓦礫が
積み上がっているだけだ。代わりに、かつての城の手前には──
 邪悪そのものの城が聳え立っていた。
 全面がおぞましい黒一色に染まっている。醜く鋭い尖塔が立ち並ぶさまは、見るからに攻撃的で、
人を寄せつけない荒々しさだ。そして、そこから襲ってくる、禍々しくどす黒い悪の匂い。そう、
ここに近づくにつれて強まっていた、あの、いやな気分の根源。
 思わず数歩、前に出る。続けて驚きが押し寄せる。
 城は文字どおり、宙に浮いていた。下方の地面は大きく陥没し、真っ赤に煮えたぎる熔岩で
満たされていた。
「ガノン城だ。ハイラル城を破壊して、ガノンドロフが造った城だ」
 やはり──と心で頷きつつ、リンクは、暗黒の塊のようなその城から目を離せなかった。
 さっき目覚めてから、信じられない、という言葉を、何度、繰り返してきただろう。
 その信じられない極限が、この光景──
 いや。
 これが現実なんだ。これが現実の世界なんだ。
 魔王となったガノンドロフ。魔界と化したハイラル。
 シークが口にしたその言葉を、疑いようもなく実感しながら、絶望的とも言える衝撃を、
リンクは感じていた。
2023-1 Sheik I (6/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/14(木) 00:14:02 ID:RW06vllx
 ガノン城の前を離れ、二人は城下町を移動した。どこをどう進んでいるのか、リンクにはよく
わからなかった。わかろうという気にもなれなかった。ただシークのあとについて、機械的に足を
進めるだけだった。
 シークに導かれ、リンクは小さな建物の中に入った。屋根と板壁があるきりで、出入り口には
扉もない。足元には床も張られておらず、地面そのものだ。家とも言えないような建物だった。が、
そんなことなど、どうでもよかった。
 土の上に崩れるように腰を下ろし、リンクは大きなため息をついた。しかし緊張を緩ませる暇は
なかった。
「驚いただろうが……いま君が見たのは、七年の間に世界が経た変貌の、ほんの一部に過ぎない」
 シークはそう前置きし、リンクに向かって、より詳細な七年間の歴史を語っていった。
 ゲルド族の反乱によるハイラル城の陥落とハイラル王の死。ハイラル平原の決戦における
王国軍の大敗。カカリコ村攻防戦の間に起こった、デスマウンテン大噴火とゾーラの里の氷結、
およびそれらに伴うゴロン族とゾーラ族の滅亡。カカリコ村の敗北とインパの死。そして
ゲルド族はハイラル平原に進出し、魔王ガノンドロフは、ハイラルを完全に支配するに至った。
その仕上げとも言えるのが、ガノン城の完成──
 リンクにとっては、最大級の衝撃の連続だった。頭をがんがん殴られまくっているような気がした。
 ゼルダの行方が知れないだけじゃない。インパが死んだって? ゴロン族とゾーラ族が滅亡?
カカリコ村が敗北? ダルニアは、ルトは、アンジュはどうなったんだ? いや、それどころか……
人々は……この世界に生きていた人々はみんな……いったい……どうなって……
 どうにかして落ち着こうとするが、頭の中では変わり果ててしまった世界への驚きが渦を巻き、
とても落ち着くことなどできない。筋道の通ったことが、何も考えられない。
 がっくりと頭を垂れ、リンクは、じっと動かなかった。
 どれくらいの時間が経っただろう。
 ふと、リンクは気づいた。
 目の前で、ぼくと同じようにすわっているシーク。語り終わったあと、黙ってぼくを見つめている。
見守っている。
 シークの目を見る。
 冷静──には違いない。でも、それだけじゃない。そこには……何か……別の感情が……
 むしろ温かい──いや、熱いとも感じられる、シークの秘められた感情。
 初めて心が安らいだ。ものを言う余裕が、やっとできた。
「……ここは?」
 思わず唐突な問いを発してしまったが、シークはすぐに答を返してきた。
「城下の西の端。王家の別荘の跡だ。この建物は馬小屋だったんだろう。すぐそこの城壁の門から、
ハイラル平原へ出て行ける」
 馬小屋。そうか、この建物が殺風景なのは、そのせいか。
 それに……
2033-1 Sheik I (7/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/14(木) 00:14:49 ID:RW06vllx
 王家の別荘という、シークの言葉が、連想を呼ぶ。
 かつてはゼルダも、ここを訪れたことだろう。この馬小屋に足を踏み入れたことも、あったかも
しれない。
 思い出す。
 ゼルダ。
 ゼルダの姿。ゼルダの表情。ゼルダの微笑み。ゼルダの涙。ぼくが記憶する、ゼルダのすべて。
『危険な仕事です。でもこれは、あなたにしか頼めないこと。どうか……お願いします』
 ゼルダの頼みに、ぼくは何と答えたか。
『やるとも。もちろん。それがぼくの使命だから』
 そう、使命!
 トライフォースを守るだけでなく、それを手に入れて、ガノンドロフを倒す──というゼルダの
計画は、裏目に出てしまったらしい。
 かつてゼルダは言った。トライフォースは、それを手にした者の願いをかなえる。心正しき者が
願えば、ハイラルは善き世界に変わり、心悪しき者が願えば、世界は悪に支配される。
 いまはまさに、その後者の状態となってしまった。
 しかし、ぼくの使命がなくなったわけではない。
 シークも言ったじゃないか。
『ゼルダ姫は、いずれ姿を現す。君が使命を果たしてゆけば』
「シーク」
 リンクは呼びかけた。
「君は、ぼくのことを──時の勇者──と言ったね」
 軽く目を伏せて、シークが答える。
「伝説の聖剣、マスターソードに選ばれし者。それが時の勇者だ。ゼルダ姫が、君を、そう呼んだ」
 ゼルダが! ぼくのことを!
「それから……勇気のトライフォース、というのは……」
 左手の甲に浮かぶ三角形の印を、シークに示す。
「三つに砕け散ったトライフォース。力、知恵、そして勇気。力のトライフォースはガノンドロフに
宿った。そして君に宿ったのが──それだ。勇気のトライフォース」
 勇気! それは確かに、ぼくがずっと携えてきたもの。
「じゃあ……もう一つの、知恵のトライフォースが宿っているのは?」
 問う。予感を持って。
 目を上げたシークが、ぽつりとその名を口にのぼらせる。
「ゼルダ姫」
 やはり!
 全身を震えのような高ぶりが駆けめぐる。
 ぼくとゼルダ。ゼルダとぼく。ぼくたち二人の、この繋がり。
 ガノンドロフを倒す。世界を救う。その使命を、これからもぼくは、果たさなければならない。
マスターソードに恥じないだけの、勇者の名に恥じないだけの行動を、ぼくはとらなければ
ならないのだ。
 なすべきことをなせ。
 世界のために。そしてゼルダのために。
 常に勇気を身に伴って。
2043-1 Sheik I (8/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/14(木) 00:15:29 ID:RW06vllx
 リンクにいきなりすべてを知らせるのは酷だ──と思ってはいた。気がついたら七年が過ぎて
いた、というだけでも、とてつもない驚きだったはず。そのうえ、想像を絶する世界の変貌を
矢継ぎ早に見せられ、聞かされたら……
 予想したとおり、リンクは打ちのめされた。長い間、ものも言えなくなるほどに。
 シークは待った。言葉をかけることもしなかった。それほどのショックを受けた状態では、何を
話しかけても無駄だとわかっていた。
 シークは待ち続けた。リンクが自ら立ち直るのを。
 この世界の現実を、リンクは知っておかねばならないのだ。どれだけの衝撃であろうとも、
それを乗り越えてゆかねばならないのだ。
 リンクなら、それができるはず。
 果たして──
 じっと見守るうち、リンクに生じた変化。シークはそれを感じ取ることができた。リンクの目に
力が湧いてくるさまが、まざまざと見えた。リンクの心の高揚に合わせて、自分の心までもが
高ぶってゆくのを、シークは実感していた。
 そして……
 リンクを立ち直らせたものが何であるかを、シークは悟っていた。そのこともまた、シークを
感激させていた。
 先のリンクの言葉が耳によみがえる。
『ゼルダは? ゼルダはどうなった?』
 そう、目覚めたリンクは、何よりもまず先に、ゼルダのことを訊ねたのだ。
 それが僕には驚きで……どういうわけか、とても嬉しくて……
 リンクとゼルダの結びつき。それはガノンドロフを倒すためには必須の事柄であり、僕に
とっても喜ばしいことに違いない。だがそんな理屈としてではなく……内から自然にあふれ出る
喜びとして、僕は二人の結びつきを受け止めている。
「ゼルダ」というリンクの呼び方。「ゼルダ姫」でも「セルダ様」でもなく、ただ「ゼルダ」と。
その率直な呼び方も、心を打つ。
 なぜだろう。僕はなぜ、こうまで……まるで、自分自身のことのように……
「ぼくは、どうすればいい?」
 その言葉で、シークは浮遊する思いから醒めた。
 リンクの表情には、もはや一片の曇りもなく、何があろうとも前に進んでゆこうという、強固な
意志が満ちていた。
 目に宿る光。引き締まった口元。
 ──やはり、君は勇者。
 さらなる感動が呼び起こされるのを感じながら、シークも声に力をこめた。
「賢者だ」
2053-1 Sheik I (9/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/14(木) 00:16:38 ID:RW06vllx
 勇者であるリンクといえども、魔王となったガノンドロフを単独で倒すことは不可能。その
ためには、ハイラルに眠る賢者を目覚めさせ、彼らの力を得なければならない──と、シークは
リンクに説明した。
 賢者は六人。その一人が、『光の神殿』に封印することで七年間リンクを守った、光の賢者こと、
ラウル。そして残りの五人は──

 世界が 魔に支配されし時 聖地からの声に 目覚めし者たち 五つの神殿にあり……
 一つは 深き森に……
 一つは 高き山に……
 一つは 広き湖に……
 一つは 屍の館に……
 一つは 砂の女神に……
 目覚めし者たち 時の勇者を得て 魔を封じ込め……
 やがて 平和の光を 取り戻す

 インパに教えられた、シーカー族に残る神殿についての言い伝えを、シークはそのままリンクに
話して聞かせた。
「問題は……神殿の場所、そして、賢者が誰で、いまどうなっているか──ということなんだが……」
 シークは言いよどんだ。
 ここからが難題なのだ。僕が果たそうとして、果たせなかった使命。生存すら絶望的な賢者を、
どうやって目覚めさせるというのか。肝腎な所で、僕はリンクを助けられない。
「最初の、深き森、というのは──」
 リンクが明確な口調で言い始め、逡巡していたシークを驚かせた。
「コキリの森のことだね」

 神殿。そして、深き森。
 その言葉を聞いた瞬間、リンクは即座に思い出していた。
 コキリの森の北。迷いの森の先の『森の聖域』。そこに建つ神殿の廃墟。
 同時に、激しく胸が騒ぎ始めた。
 七年の間に、コキリの森はどうなったのだろう。さっきのシークの話の中には、コキリの森の
ことは出てこなかったが……森の仲間たちは……そして……
 サリアは!
「ああ……君はもちろん、森の神殿のことは、知っているはずだな。だが……」
 シークの表情が曇った。苦渋が滲み出るようなその表情に、リンクの心は大きく波立った。
「コキリの森は……いまは……」
「言わないでくれ!」
 リンクは叫んだ。
 やはり何かがあったんだ。七年の間の世界の変貌は、コキリの森をも巻きこんでいたんだ。
「森の神殿に行くのが、ぼくの使命なら──いや、使命があろうとなかろうと、ぼくはコキリの
森へ行く。だから、何があったのかは、教えてくれなくていい。ぼくが自分で確かめるから!」
 ここで聞かされるばかりなんて、耐えられない。コキリの森に何があったとしても、サリアの
身に何があったとしても、ぼくは自分自身で、それを知りたい!
 シークは黙ってリンクを注視していたが、やがて、穏やかな声で言った。
「……いいだろう」
2063-1 Sheik I (10/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/14(木) 00:17:24 ID:RW06vllx
 七年間のハイラルの歴史を語る際、シークは故意にコキリの森の件を省いた。いくら真実を
知っておくべきとはいえ、リンクにとっては故郷も同然の場所のことであり、どうしても話すのが
ためらわれた。
 知れば、リンクは大きく傷つくだろう。
 だからリンクが、コキリの森に何があったのかは自分で確かめる、と言った時、シークは内心、
ほっとした。自分の言葉でリンクを傷つけずにすむからだった。
 が、それだけではない。
 リンクはすでにうすうす状況を察し、真実を知ることで自分が傷つくだろうと予想している。
しかしリンクは、真実から逃げることなく、自分ひとりでそれを受け止め、それに立ち向かおうと
している。
 そうしたいというリンクの気持ちが、シークにはよくわかった。前を見据えるリンクの姿勢が
頼もしかった。
 それでも、伝えるべきことは伝えておかねばならない。
 シークは竪琴を手に取った。
「森の神殿へ行くのなら、このメロディを覚えておくんだ」
 ゴシップストーンから得た舞曲風の旋律を、シークは奏でた。演奏が終わると、リンクは
オカリナで──シークが初めて目にする『時のオカリナ』で──正確にその旋律を再現した。
シークは頷き、説明を続けた。
「このメロディを『森のメヌエット』──と、僕は呼んでいる。森の神殿に重要な関係がある
はずの曲だが、どういう意味があるのかは、わかっていない。でも君なら、このメロディの意味を
明らかにすることができると思う」
「わかった」
 リンクは立ち上がった。
 気がせいているな──とシークは感じた。
 当然だろう。だが、焦りは禁物だ。
 シークはリンクから視線をはずし、傍らに竪琴を置いた。自分の冷静さを示すために、わざと
身体をゆっくり動かした。
「それから……」
「ありがとう! また会おう!」
 シークがおもむろに言いかけるのと同時に、舌足らずな別れの言葉がリンクの口からほとばしり、
その身は跳ねるように馬小屋から飛び出していった。
「あ、リンク!」
 あわてて起きあがり、戸口に駆け寄る。
「待て! まだ君には──」
 話しておくことが……と言おうとした時には、もうリンクは城壁の門をくぐり抜け、暗黒の
渦巻くハイラル平原へと走り出ていた。シークの細かい配慮など、吹き飛ばすような勢いだった。
 シークは門まで来て立ち止まり、平原に目をやった。駆け去るリンクの後ろ姿が、かろうじて
見えた。見ている間にも、その後ろ姿はどんどん小さくなっていった。
2073-1 Sheik I (11/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/14(木) 00:18:14 ID:RW06vllx
 なんと無鉄砲な……
 ハイラル平原も、七年前とは変わってしまっている。その可能性を考えないのか。
 たちまち魔物に襲われるだろう。
 それに、水や食料をどうやって入手するつもりなのか。「また会おう」と言ったが、いつ、
どこで会う気でいるのだろう。
 そんなことは、まるきり頭にないに違いない。
 ケポラ・ゲボラの忠告ゆえ、僕は常にリンクと行動をともにしようとは思っていない。が、
その代わりに、と、何年もの間、ハイラルの情報を集めてきたのに。教えておかなければならない
ことが、まだまだ、たくさんあるのに。それを聞こうともしないで。
 肩すかしを食ったような気がした。しかし、シークは失望してはいなかった。リンクの性急な
行動が、微笑ましくさえあった。
 考えられるだけのことをすべて考えて、ことにあたる僕とは、正反対のリンクだが……その
無鉄砲なところも、勇者には必要な資質なのかもしれない。
 『森のメヌエット』を聞かせた時にも言ったことだが……僕には成し得なかったことも、
リンクなら──勇者であるリンクなら──成し得るのでは……
 シークの中に、ある感情が満ちていった。じわじわと胸をひたす、期待という名のその感情を、
シークは立ちつくしたまま、じっくりと味わった。
 そうは言っても──と、シークは頭を冷静に戻す。
 勇気と無茶は同じものではない。この先、リンクはいろいろと苦労するだろう。僕が助けて
やらなければ。
 とうに見えなくなってしまったリンクを追い、シークは平原に足を踏み出していった。

 城壁から少し離れた所で、シークは後ろをふり返り、城下町の空を見上げた。
 ガノン城ができてから、上空の暗雲はますます濃くなり、町はいっそう暗さを増した。昼でも
夜と見まがうほどだ。
 そうした環境の悪化のせいか、最近では城下町のゲルド族の数が、以前に比べて、さらに少なく
なっている。このあたりの平原を行く分には、リンクが敵に見つかる危険はないだろう。
 それに……
 ガノンドロフと他のゲルド族との間に、少しずつ距離ができつつあるように思える。魔王に
なりきってしまったガノンドロフに対し、他の者たちの感情が、微妙に変化しているのではない
だろうか。僕たちにとって、これからの戦いに好材料となることかも……
 だが、楽観してばかりはいられない。
 リンクの復活を、もうガノンドロフは気づいているだろう。奴がすぐに襲ってこないのは、
思惑があるからだ。そのこともリンクに伝えておかなければ。
 その時、シークは感じた。右手の甲に走る、かすかな痛み。
 そういえば、しばらく前から、それを感じていたような気もする。
 怪我でもしたか?
 右手の甲を見る。しかしそこには白い皮膚が見えるばかりだった。
2083-1 Sheik I (12/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/14(木) 00:19:17 ID:RW06vllx
「あぁッ!……は……ぁん……んんッ……」
 膣に埋めた剛直を押し進めてやると、女の喉から喜悦の呻きが絞り出され、こちらの背に
回された腕にぎゅっと力がこもった。その力に逆らわず、下に敷いた女の身体に体重を預ける。
その巨体ゆえ、女にかかる重量はかなりのものであるはずだが、女は苦痛の色など全く見せず、
それすらも快感といったふうに身をくねらせた。
 交合を初めてから、もう一時間は経っている。そろそろけりをつけるか。
 ガノンドロフは、女の中での動きを徐々に速くしていった。それに合わせて女も律動的に身体を
揺らし始め、口から漏れる喘ぎが徐々に大きくなってゆく。
 ガノン城を建てたのを機に、魔王の居所らしく、城下町全体をさらなる暗黒で満たしてやった。
そんな環境に耐えられない手下は少なくなかったが、出て行きたい者は出て行かせた。身を守るのに
人数はいらない。魔王の行動について来られない平凡な連中など、いなくても一向にかまわない。
 隠密組をはじめ、特に息のかかった連中だけが残った。数は少ないが、それで充分だ。
 女の数が少なくなったということは、残った者にとっては、その分、俺に抱かれる回数が増えた
ということ。
 この女も──と、ガノンドロフは唇の端に冷ややかな笑みを浮かべつつ、おのれの下で喘ぐ
部下の女を見やった。
 俺と一対一で交わる幸福を、一時間以上も味わうことができるのだ。かつての砦でも、
ハイラル城でも得られなかった特権だ。好きなだけ享受するがいい。
 膨張しきった陰茎が、女の肉筒を最大限に押し広げ、内面の粘膜をかきむしる。女の喘ぎが
叫びに変わってゆく。
「ひいぃぃッッ!……あああううぅぅぅぁぁああッッ!……ガノンドロフ様ッ!……ガノンドロフ
様あああぁぁッッ!!」
 絶頂を目前にして、女が耳をつんざくほどの声を張り上げ始めた、その時。
 ガノンドロフは感じた。右手の甲に走る、奇妙な痛み。
 動きを止め、そこに目をやる。
 トライフォース。三つの三角形のうち、頂点に位置する一つだけが金色に輝いている。その
輝きが明滅し、それに同期するように、断続的な痛みが右手を駆け抜ける。
 ──これは?
「ああ……ガノンドロフ様!……もっと! もっとおおッッ!!」
 哀願が鬱陶しく、ガノンドロフは身を起こすと、女を脇へ放り出した。女は悲鳴を上げて
ベッドから落ちた。それを完全に無視し、右手のトライフォースを凝視する。
 ──共鳴している?
『そうか……』
 理解した。
 七年前、時の神殿で、自分の目の前から姿を消した、あの小僧が……
『ついに……目覚めたか……』
 抑えようもなく、顔に笑みがあふれてくる。
 目覚めようとも、もう遅い。お前が捜すことになる賢者は、すでにこの世にはいない。絶望に
打ちひしがれて世界をさまようがいい。お前はただ、俺にトライフォースを引き渡すだけの存在
なのだ。
 いや……
 もう一つ、存在価値がある。
 いま、お前からトライフォースを奪うのは簡単なことだが……ここは泳がせておいてやる。
いずれ、もう一つのトライフォースを持つゼルダが、お前に釣られて出てくるだろうからな……
 俺がすべてのトライフォースを手にする時。それは、俺が魔王をも超越し、究極の存在になる時
なのだ。その時が、目の前に近づいている。
 ガノンドロフは高らかに笑った。
 狂気──という言葉ではとうてい追いつかない、人間というものからすでに遠く離れてしまった
者の、それは暴発的な感情の表れだった。


To be continued.
209 ◆JmQ19ALdig :2007/06/14(木) 00:20:01 ID:RW06vllx
以上です。リンクとシークの直接の会話は、書くのが難しい。
そんな設定にした自分のせいなのだけれど。
続く貧エロの二章分は、できるだけ工夫して早く終わらせます。
210名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 00:49:06 ID:iO5wZIDk
乙&GJ!!
ついに第三部スタート、早く終わらせます、なんてもったいない。
211名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 00:58:29 ID:j71zC3aJ
>>209
GJ!!
とうとうリンクktkr
リンゼル好きとしては、リンクが目覚めた時
真っ先にゼルダの事を尋ねたのは何げに嬉しかった

>>210
早く終わらせるってのは、貧エロの二章分だけじゃね?
俺としては早く続きが読めそうなのでwktkしてる
212名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 08:55:42 ID:0wfDrXPz
GJ!
毎回素晴らしいクオリティで尊敬します
213名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 13:49:32 ID:P0vbtJoV
GJ!!
214名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 17:13:55 ID:Ks1vOJ5q
やっとリンクが復活してなんだか続きがさらに楽しみだ
乙です
215名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 18:57:36 ID:YvxKyF6I
リンク&ミドナのネタ以外は面白くない。まぁ乙。
216名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 21:56:13 ID:wVrgtpOC
乙そしてGJ!!
いきなり成長してて驚いたはずなのにもう使命を受け入れてるリンクがカッコ良かった
そしてシークにも心から乙と言いたい
続きがwktkでしょうがないw

>>215
もう少し言い方を考えろよ
217名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 22:39:48 ID:yE7mmLN9
乙&GJ!!
◆JmQ19ALdig氏の話はクオリティが高いし、文章もとても読みやすい
続きを楽しみにしています

>>215
リンミド大好きならリンク&ミドナネタの部分だけ読めばいいだろう
ワザワザ面白くないと書き込むところに餓鬼っぽさを感じる
218名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 00:22:08 ID:C4dvMRDB
>>215みたいなことを書けば、かえってそのネタが
投下されにくくなるってことが解らないような歳の奴が
この板に居るとは思えないんだが。
219名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 08:17:09 ID:2kYty0Tr
マジレスもどうかと思うぞ
220名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 14:36:08 ID:ELjGeCAd
いままでアレな発言があってもスルーしてきたと思ったがな
取り合えず>>209にGJ!!
221名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 21:28:59 ID:N2VSnaus
>>218まあ、215はそれが分かってるミドナアンチです、で終了な


>>209にGJ!! あと、アッシュの続きも読みたい!!

222 ◆JmQ19ALdig :2007/06/17(日) 15:27:55 ID:loqOIel+
私本・時のオカリナ/第三部/第二章/サリア編その4、投下します。
といっても、サリアは姿を現しません。今回はエロ無しです。
2233-2 Saria IV (1/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/17(日) 15:29:16 ID:loqOIel+
 リンクはひたすらハイラル平原を駆けた。
 初めのうちは大きくなった身体を持てあまし、手足が連動しないような違和感があったが、
慣れてくると、成長して筋力が増した分、子供時代に比べてずっと速く走れるようになったと
感じられた。
 空が少しずつ明るくなってきた。
『夜が明けたんだな』
 走りを歩みに変え、リンクは、ほっと息をついた。この世界で目覚めてから、初めて感じる
日の光だった。
『え?』
 ぎょっとして立ち止まる。空を凝視する。
 空は厚い雲に覆われているが、雲を透過する光の強弱で、太陽の位置はだいたいわかる。
ところが、それによれば、太陽は天頂近くにあるとしか見えない。
 どうして? 夜が明けたと思ったら、いきなり真昼になったのか? まさかそんなことが……
 思わず後ろをふり返る。城下町を出てから、ずっと前ばかり見て走ってきた。ふり返るのは
初めてだった。
 城下町を包みこむように、どす黒い闇が渦巻いていた。
 茫然と立ちつくしていたリンクだったが、やっと状況が呑みこめてきた。
 城下町は夜じゃなかったんだ。あの闇のために暗くなっていたんだ。昼だというのに、夜と
区別がつかないほど。
 あの闇は……ガノンドロフの魔力の象徴……
 リンクの背筋はぞくりと震えた。
 そういえば……どこまでも空を覆っている、この鬱陶しい雲も、奴の魔力のせいなのか。気温が
これほど低いのも、その影響だというのか。そして……
 ようやく遠くまで目が届くようになった平原の風景を見渡す。地に生える草が枯れ果てている。
これもまた……
 魔界となったハイラルの姿を改めて見せつけられ、心が深く沈みかかる。
『いや、こんなことで……』
 リンクは首を振り、再びコキリの森に向けて走り始めた。無理にでも自分を励まそうとして。

 ハイラル平原の変貌は、天候や風景ばかりではなかった。
 先を急ぐリンクの前に、続々と魔物が現れた。七年前にはあり得なかったことだ。みずうみ博士の
図鑑の記憶があったので、リンクはそれらの名前を思い出すことができたが、実際の戦闘には
名前など何の役にも立たなかった。
 ポウは、カンテラを片手に持ってふわふわと空中を浮遊する、幽霊のような魔物だった。
リンクは躍起になってマスターソードを振り回したが、ポウは常にぎりぎりのところで剣先を
かわした。間合いを確認しようとして動きを止めると、今度はポウの方がカンテラを振り回し
ながら突進して来、リンクは頬を火傷してしまった。楯を構えて睨み合ううち、「ケケッ!」と
甲高い声を発して、ポウは消えてしまった。まるでからかわれているようだった。コキリの剣
よりも長く重いマスターソードを、まだリンクはまともに使いこなせなかった。
 ピーハット。平原に生える巨大な植物のようなその魔物は、近づくといきなり空中に舞い上がり、
旋回しながら襲いかかってきた。リンクはあわててマスターソードを抜いたが、根っこのように
見えた突起物は刃物であり、剣では斬ることができなかった。腕に傷を負い、楯で防御するのが
精いっぱいだった。距離をとると元の場所に着地して動かなくなったので、リンクは迂回して進む
ことにした。手も足も出ないのが癪にさわったが、しかたがなかった。
 日が暮れると、地面から次々に小型の骸骨──スタルベビーが這い出してきた。数は多いが
脆弱だったので、それまでの鬱憤を晴らすように、リンクは剣を振るって倒しまくった。
マスターソードも手に馴染んできた。それはよかったが、敵の出現にはきりがなく、疲れて
休もうとしても、休む暇がない。リンクは夜通し戦い続けなければならなかった。夜が明け、
やっと敵が現れなくなった時、リンクはぶっ倒れる寸前となっていた。
2243-2 Saria IV (2/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/17(日) 15:30:01 ID:loqOIel+
 時の神殿で目覚めて以来、リンクは、まる一日、まともな食事をしていなかった。固くなった
パンは、もう食料としての意味はなかった。途中で川の横を通ったので、喉の渇きは癒すことが
できた。が、激しい空腹は癒しようがなかった。
 肩を落として歩くリンクの目に、小さな村が見えてきた。その風景に見覚えがあった。
 かつてコキリの森を出てハイラル城へ向かっていた時、いまと同じように空きっ腹を抱えて、
この村に来たことがある。あの時は、村人の仕事の手伝いをして、食事を振る舞ってもらった。
気のいい親切な人たちだった。
 期待に胸を弾ませ、リンクは足を速めていった。
 村が近づくにつれ、様子がおかしいと気づいた。村に入って、はっきりとわかった。
 家々は荒れ果て、人の気配は全くなかった。誰も住んではいないようだった。
 食料を手に入れることは、できそうにない。それでも、一睡もしていない身体を、とにかく
休ませないと……
 リンクは一軒の家に入った。一室でベッドが見つかった。埃まみれであることは気にならなかった。
掛け布団がかすかに盛り上がっているのに気づいたが、深く考える余裕もなく、リンクはそれを
めくり上げた。
「うわッ!」
 瞬間、リンクは後ろに飛びすさった。口の中が乾き上がった。
 ベッドには朽ちた死体が横たわっていた。
 数々の魔物を倒してきたリンクだったが、人の死体を見るのは初めてだった。いきなり訪れた
その衝撃で、リンクはしばらく身体を動かせなかった。
 衝撃は徐々に薄まった。そろそろとベッドに近寄り、死体を見る。かなりの部分が白骨化して
いるが、見える範囲には、傷を負った形跡はない。病気か……それとも飢えて死んだのだろうか。
 他の家に入ってみると、やはり死体が点々と転がっていた。いくつかは明らかに外傷のための
損壊を示しており、暴力による死者と判断された。
 もはやベッドで寝る気にもなれず、リンクは道端に腰を下ろし、頭を垂れた。疲労が頭脳を
麻痺させ始めていた。悲惨な現実を一時でも忘れられることに感謝しながら、リンクは浅い眠りに
落ちていった。
2253-2 Saria IV (3/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/17(日) 15:30:50 ID:loqOIel+
 うたた寝から醒め、リンクは再び歩き始めた。相変わらず、魔物と空腹に苦しめられながらの
行程だった。
 夕方近くになって、やっと人の住む村を通りかかった。だが村人たちは、ただ生きているという
だけの存在だった。一様にやせ衰え、動く気力も失ったかのような人々は、目ばかりを異様に
光らせ、通り過ぎるリンクに、恐怖と猜疑と敵意に満ちた視線を送ってきた。食料を調達する
ことなど、とうてい無理だった。話しかけることすらためらわれる雰囲気だった。とはいえ、
彼らを疎ましく思う気にはなれなかった。苦しい生活が彼らをそこまで追いこんでしまっている、
とわかったからだ。
 幸運──と言えるかどうかは疑問だったが、村のはずれで、アキンドナッツと名乗る怪しげな
行商人から、リンクは食料を入手することができた。食料といっても硬い木の実に過ぎず、
お世辞にも美味しそうとは見えない代物で、しかも法外な額のルピーと引き替えだった。栄養価は
高く、それだけの値打ちはある、とアキンドナッツは強調した。半信半疑のリンクだったが、
食べてみると、確かに元気は出た。
 その木の実だけを糧として、リンクはさらに旅を続けていった。

 できる限り急いだつもりだったが、それでもハイラル平原の南東端へ至るまでに、一週間
かかってしまった。が、目的地に近づくにつれ、リンクの心は弾みを増し、歩調は少しずつ
速くなった。
 あの稜線を越えれば、コキリの森が見える──という所まで来ると、リンクは自分を抑える
ことができなかった。駆け足になった。
 子供時代を過ごしたコキリの森。懐かしさで胸がいっぱいになる。
 同時に──
 七年の間に、コキリの森はどうなったのか。サリアはどうなったのか。不安と焦燥が心を揺らす。
 どうであれ、もうすぐわかる。ぼくは知らなきゃならない。それがどれほどの痛みであっても。
 走る。森に向かって。走る。サリアに向かって。
 もう少し。もうあと少し。そう、ここだ。この稜線に立った、その先には──

 足が止まる。
 膝が、がくりと崩れ落ちる。
 これが現実なのか。ぼくはこれを現実として受け止めなければならないのか。
 予想をはるかに上回る激痛。しかしリンクは、それを痛みと認識できなかった。あらゆる知覚の
閾値を超えた激烈なショックが、リンクを空白にしていった。
2263-2 Saria IV (4/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/17(日) 15:31:31 ID:loqOIel+
 以前は抜けるのに一晩かかったこの森も、焦土と化してしまったいまでは、楽に歩いて行ける。
 だが、それが何の慰めになるだろう。
 やっとことで気力を取り戻し、かつて自分が住んでいた場所を目指すリンクだったが、心は
果てしなく重かった。
 真っ黒に焼け焦げた木々の残骸。どこまでも広がる死の風景。
 リンクは感情を押さえつけた。ともすれば爆発しそうになる思いを、ぐっと抑制した。そう
しなければ、自分がばらばらになってしまいそうだった。
 谷川に行き当たった。吊り橋が架かっていた場所だが、それも焼け落ちてしまったのだろう、
対岸へ渡る道はなかった。大人でも跳んで渡れる程度の川幅ではないので、しかたなくリンクは
いったん谷底に降り、歩いて川を渡ったのち、苦労して崖を這い上がった。
 リンクはさらに足を進めた。自分やコキリ族の仲間たちが暮らしていた場所に出た──はず
だった。が、そこが九年間を過ごした懐かしい場所であるとは、とても思えなかった。
 ぼくの家は、このあたりにあった。サリアの家は、あっちの方角だ。けれど、いまは跡形もない。
あるべきものが、全く見つからない。ただ一面の焼け野原だ。
 家だったのだろう、と、かろうじてわかる場所が、一つだけあった。焼けた看板の切れ端が
残っていた。「ミドさまのおやしき」という文字が、かすかに読める。
 そうだ、ミドの家は、ぼくや他の仲間の家よりも大きかった。大した差ではなかったが、ミドは
いつもそれを自慢していたものだ。
 そのミドや、仲間たちは……そして、サリアは……いったいどうなってしまったのか。
 広がりかかる思いを、またも必死で押しとどめ、リンクは周辺に足を伸ばした。
 村はずれの広場とおぼしき場所。デクの樹サマも、焼けてなくなっている。その跡らしい、
焦げついた盛り上がりが見えるだけだ。
 迷いの森。すべての樹木が焼失してしまい、もう迷うこともない。まっすぐ『森の聖域』へと──
それであった場所へと──進んで行ける。
 神殿の廃墟。森の神殿──とシークは言った。ここに何があるのか。賢者とは誰のことなのか。
 子供の頃は入れなかったが、大人になったいまは、木に登れば入口に到達できる。
 リンクは神殿に足を踏み入れ、中をさまよった。
 暗い部屋や廊下。寂しげな中庭。
 誰もいない。何もない。
 どうしようもなく、神殿を出る。そこで、思い出す。
 シークに教わった『森のメヌエット』。森の神殿に重要な関係があるという曲。
『君なら、このメロディの意味を明らかにすることができると思う』
 リンクは神殿の前に立ち、『時のオカリナ』を取り出して、そのメロディを奏でた。
 これで何かがわかるのだろうか。
 待つ。ひたすら待つ。
 何も起こらない。
 シークの言ったことは、間違いなのか。いや……決めつけるのは早い。この曲の使いどころを、
ぼくがまだわかっていないだけなのかもしれない。
 傍らの切り株に目がとまった。サリアがいつもすわっていた切り株だ。焼けてはいるが、
はっきりそれとわかる。
 その切り株に腰を下ろすと、思いが一気に湧き上がった。考えたくない、達したくない結論から、
リンクはもう逃げることができなかった。
 サリアは死んでしまったのか。他のコキリ族の仲間たちも、みんな死んでしまったのか。
 ──サリア……
 ぼくの保護者を気取って、ああしろこうしろとお小言を言って……それでも、ぼくのことを気に
かけてくれて、ぼくを見守ってくれて……ずっとぼくと一緒にいてくれて……
 コキリの森で、ただ一人、心を通わせられた相手。ぼくにとって、かけがえのない存在。
 七年前の別れの時、あの吊り橋の上で、サリアは言った。
『また……会えるよね?』
 ぼくは答えた。
『帰ってくるよ』
 そう、ぼくは帰ってきた。でも……
 遅すぎた。
 サリアには、もう、会えない。
 ぼくに残されたのは、記憶の中のサリアの面影と……そして……
2273-2 Saria IV (5/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/17(日) 15:32:46 ID:loqOIel+
 手が、懐に伸びる。サリアのオカリナに触れる。ただ一つ、サリアとの絆の証となった品。
 サリアの言葉。
『……あの曲を吹いて……時々はあたしのこと、思い出して……』
 そっとオカリナに口を寄せ、『サリアの歌』を奏でる。弾むように生き生きとした、しかし
どこか寂しげな色調も漂わせる旋律が、神殿の廃墟にこだまし、荒れ果てた焼け跡に消えてゆく。

『……た……………り…………』

 何かが聞こえたような気がして、リンクは演奏をやめた。
 耳を澄ませる。
 が、場を占めるのは、静寂だけだった。
 気のせいか……

『……た……て……りん………』

 違う! 聞こえる! 誰かの声!
 誰? 何と言っている?

『……たすけて……りんく……』

 助けて! リンク!
 サリアの声!

 身を跳ね上げ、周囲を見まわす。
 サリアがいるのか? どこに?
 いない。わからない。
 再度、耳を澄ませてみる。何も聞こえない。
 いまの声は何だったのか。ぼくはほんとうに声を聞いたのだろうか。サリアのことを思う
あまりの幻聴だったのだろうか。
 いや! 確かに! ぼくは聞いた!
 ぼくに助けを求めるサリア。苦しそうな声だった。いまにも消え入りそうな……それでも必死で
ぼくに呼びかけて……
 サリアに何があったんだ?
 狂奔する心に急きたてられ、リンクはあたりを駆けずった。
「サリア!」
 焼け落ちた木々の下。
「サリア!」
 神殿の柱の陰。
「サリア!」
 すべての場所に目を凝らした。再び神殿に入り、中をくまなく走り回った。
「サリアーーーッッ!!」
 残る体力を振り絞って、リンクはサリアを捜し続けた。
 見つけることはできなかった。
2283-2 Saria IV (6/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/17(日) 15:33:40 ID:loqOIel+
 再び広大な焦土を横切り、ハイラル平原に戻った時には、もう日は落ちていた。
 身体は疲労にまみれ、心はどこまでもうち沈み、リンクは立っていることすら精いっぱいだった。
『これから……どうすれば……』
 夜の暗黒に満たされた平原に、あてもなく目をさまよわせる。と……
 目が、小さな光を捉えた。低い稜線が西へ傾いていくあたりに、赤みを帯びた光が揺れていた。
『あれは?』
 リンクは注意を払いながら、光に近づいていった。やや距離があったが、妨げるものはなく、
光は徐々に大きさを増し、やがて正体が見えてきた。
 小さな木立の横に広がる、土が露出した平面の上で、暖かそうな火が、リンクを誘うように
燃え踊っていた。
 自然の火じゃない。焚き火だ。誰かがここに……
「すわりたまえ」
 火の向こうから声がかかった。一瞬、リンクは身を固くしたが、すぐに声の主が誰なのかが
わかった。
 地面に坐したシークが、落ち着いた視線をこちらに向けていた。
「ぼくを追いかけてきたのか」
 リンクは安堵の息をつき、シークに歩み寄った。が、シークの口から放たれたのは、冷徹とも
言える言葉だった。
「君は危なっかしくて放っておけない。行動に際しての考えが浅すぎる」
 思わずむっとし、立ち止まる。
 いきなり何を言い出すんだ。ぼくのどこが──
 言い返そうとして、リンクは息を呑んだ。シークの背後に、大きな植物のような影が見えた。
ピーハットだ!
「危ないぞ、シーク!」
 シークはリンクの視線を追って後ろを見たが、すぐにリンクに向き直った。平気な顔をしていた。
「こいつは夜には活動しない。近寄っても大丈夫だ」
 え? そうだったのか?
 シークを信用しないわけではなかったが、ピーハットに歯が立たなかった経験があるので、
警戒心は抜けなかった。リンクは焚き火を離れ、大回りでピーハットに接近した。
 足が土から草の上に移った瞬間、
「それ以上は行くな!」
 シークが警告の叫びをあげた。
 なぜ──と思う間もなく、足元からスタルベビーが出現した。とっさに剣を抜いてそれを倒し、
さらに背後にも現れたスタルベビーを斬り捨てる。しかしそれでは終わらない。次のスタルベビーが
地面から這い出してくる。
「こっちへ来るんだ!」
 立ち上がったシークに腕をつかまれ、リンクは土の上に引き戻された。二体のスタルベビーが、
ぎくしゃくとした歩調で近づいてくる。マスターソードを突き出して一体をやっつけ、もう一体に
立ち向かおうとした時、その一体の顔面骨と脊椎に、続けざまに二本の短刀が突き立った。
スタルベビーの骨格がばらばらになって崩れ落ちた。ふり返ると、短刀を持ったシークが投擲の
構えを解くところだった。
2293-2 Saria IV (7/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/17(日) 15:34:38 ID:loqOIel+
 シークが戦うさまを初めて見たリンクは、驚きを禁じ得なかった。
 素早い。狙いが正確だ。ずいぶん戦い慣れしている。
 投げた短刀を回収しながら、シークが冷静な声で説明した。
「ピーハットとは逆に、スタルベビーは夜だけ現れる。倒しても倒してもきりがない。だが、
こちらが土の上にいれば、奴らは姿を現さないんだ」
 確かに……ぼくが草の上に移動するやいなや、こいつらは出現した。土の上にいるいまは……
出てこない。
 シークは諭すような口調になった。
「ここに来るまでに、何体も見ただろう。わからなかったのか?」
 わからなかった。そんなことにも気づかず、ぼくは一晩中、こいつらとやり合っていた。全く
必要のない戦いを、ぼくは延々と無駄に続けていたんだ。
「じゃあ……ポウは?」
「出会ったのか? あいつは相手にしても無駄だ。剣の間合いは完全に見切られる。倒すには
飛び道具が必要だ。これとか」
 シークは手にした短刀を示して見せた。
 何もかも知らないことばかりだ。いきなり平原へ飛び出してきたのだから、当たり前だけれど……
それにしても、ぼくはなんと無謀だったのだろう。考えが浅すぎる、と言われてもしかたがない。
 その時、焚き火の方から肉が焼ける匂いが漂ってくるのに気づいた。抑えようもなく、腹が
鳴った。それを聞きつけたのだろう、シークが微笑みながら穏やかに言った。
「食べたまえ。遠慮は要らない」
 リンクは焚き火のそばに腰を下ろした。焼けた肉を手渡しながら、シークが訊いてきた。
「城下町を発ってから、ろくに食事をしていないんじゃないか?」
「どうしてわかる?」
「君がまっすぐここへ来たのなら、食料を手に入れられるような場所は、途中にはなかったはず
だから」
「そのとおりだよ。でも、アキンドナッツから木の実を買った」
「いくらで?」
「ええと……百ルピーだ」
「ぼられたな。あいつは人の弱みにつけこんで暴利を貪る悪徳商人だ。実際に食べられるものが
買えただけよかったが」
 少し道を変えて、平原の中心部に近い道をとっていれば、食料を安く買える人口の多い町が
あったし、魔物に遭遇する頻度も少なかっただろう──と、シークは語った。
 二人は食事をとった。この肉をどうやって手に入れたのか、とリンクが問うと、シークは
平然として、自分で捕まえたのだ、と答えた。野生の獣を狩るなど、リンクにはできないこと
だった。食事を続けるうちに喉が渇いたが、リンクの水筒は空っぽで、シークから水を分けて
貰わなければならなかった。
 肩身が狭かった。何から何まで、シークの世話になりっぱなしだ。
 そのシークとは──と、改めて考える。
 何者なのだろう。シーカー族と言ったが、正体はよくわからない。それでも、知り合ってまだ
間もないというのに、ぼくはシークを深く信頼している。その信頼は、もう揺るぎようがない。
 時の神殿でぼくを出迎えてくれて、七年間の歴史を詳しく教えてくれて、変わり果てた世界での
行動について忠告してくれて、食べ物や水も用意してくれて……
 それだけじゃない。ここでシークに会えて、ぼくは安心できた。コキリの森の壊滅を目の
当たりにした、その激しい絶望感さえ、いまでは多少なりとも和らげられた気がする。
 そこまで頼っているシークに、ぼくはろくに礼も言っていない。
「いろいろとすまない。ほんとうに、ありがとう」
 素直な思いが、素直に口から出た。シークに対して、そういう素直な態度をとれること自体が、
嬉しくもあった。
2303-2 Saria IV (8/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/17(日) 15:35:29 ID:loqOIel+
 リンクの唐突な感謝の言葉に、シークは少し驚いた。
「いや……」
 とりあえず、それだけ言った。
 焚き火に近寄ってきたリンクは、見るからに意気消沈していた。コキリの森の惨状を知って、
やはり大きく傷ついたのだ。下手に慰めるよりは喝を入れた方がいい、と考え、敢えて厳しい
ことを言ってやったのだが……いまの様子だと、効果はあったようだ。
 そう思って、シークの心は、ほのかに温まった。
 リンクが言葉を継いだ。
「君は……ハイラルの情勢に詳しいんだね」
「七年も暮らしていれば、多少は詳しくもなるさ」
 君のために、などとは言えない。それで素っ気ない返事になってしまった。が、リンクにどう
思われただろう。
 リンクの顔を見る。が、リンクは気にした様子もなく、真面目な表情でさらに問いかけてきた。
「君はシーカー族だそうだけれど、インパとは知り合いなのかい?」
「ああ」
 短く答えたあと、シークはしばらく黙ったままでいた。
 自分がシーカー族だとリンクに言ったのは、いままでその立場で暮らしてきた経緯があっての
ことだが、インパとの関連を示唆しておけばリンクには理解しやすいだろう、という意図もあった。
しかし実際には、僕はシーカー族ではない。そして事実とは異なることをリンクに告げるのに、
忸怩たる思いがあったことは否定できない。せめてこれ以上、嘘は言いたくない。だからリンクには、
「インパの息子」と名乗る気はなかった。
 だが、使命のことは明確にしておかなければならない。
 インパの指示を受けて──と前置きし、シークはこれまでの自分の活動を、ざっと述べていった。
 リンクが帰ってくるまでに、神殿の場所を明らかにし、賢者を捜し出す、という使命。それは
結局、果たし得なかった使命であり、シークは話が大げさにならないよう留意した。が、リンクは
大きな感銘を受けたような顔で、話を聞いていた。それが妙に気恥ずかしく、シークは急いで
話題を進めた。
「──で、まずは深き森……君も見てきた、森の神殿のことだが……」
 リンクの表情が曇り、その口からは、自分が神殿を訪れても何の成果もなかったという、
やりきれない結論が語られた。リンクでも『森のメヌエット』の意味を明らかにはできなかった
のか、と、シークは失望せざるを得なかった。が、そのメロディは他に使いどころがあるはずだ、
とのリンクの言葉は、シークを力づけた。
 リンクは僕を信じてくれている。リンクを助けるつもりの僕が、逆にリンクに励まされている。
そう、七年の間、君の存在が僕を支えてくれたように。
 君と僕との、この関係。僕たちの間でしか成り立たない関係。
 その喜びを、シークは改めて実感できた。
2313-2 Saria IV (9/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/17(日) 15:36:16 ID:loqOIel+
 サリアの声を聞いた──というリンクの話は、シークにも驚きだった。決して幻聴などではない、
とリンクは強調し、シークもそれを疑う気はなかった。
 人が死の直前に持った強い思念が、死んだ場所にとどまる──そんな話を聞いたことがある。
リンクが聞いた声も、その類なのだろう。だが……
「サリアは……ぼくに助けを求めていた。でも、ぼくは……サリアを助けられない……」
 表情に苦渋を滲ませてうつむくリンクを見ていると、とてもサリアを死者として語ることは
できなかった。それに……
「そのことは、案外、希望かもしれない」
 シークの言葉に、リンクは、はっとした様子で顔を上げた。
「どういうことだ?」
「僕は何度か森の神殿を訪れたが、そんな声を聞いたことはない。君の奏でた『サリアの歌』が、
その声を呼び起こしたんだろうが……いずれにしても、それは僕ができなかったこと、君にしか
できなかったことだ。一つの進展と言えるのかも……」
 根拠薄弱だとわかってはいたが、捨てきれない要素ではある。リンクもいくらか落ち着いた
ようだった。
『森のメヌエット』の件で自分を励ましてくれたリンクを、今度は自分が励ます形になり、
シークの心はさらに温まった。が、そこに別種の感情が宿ってくるのを、シークは抑えることが
できなかった。
 サリアという人物に対する、リンクの深い感情。
 ちくりと刺されるような痛みを、胸に感じる。この感じは……確か……
 そう、あれだ。リンクとアンジュのことで、リンクとルト姫のことで、かつて同じように感じた
痛み。
 もう克服したと思っていた。実際、間接的な情報では、動じることはなくなっていた。けれども
……こうやって、直接リンクと話していて、リンク本人が感情を吐露するさまを目にすると……
僕は……
 シークは首を振った。
 僕は何を考えているんだ。
 リンクにとって、サリアが大切な存在であることは、何の問題もない。一方、僕とリンクは、
目的を同じくする同志であり、いまでは友人と言っていい関係だ。それだけだ。そう、いまは
それでいいではないか。それ以上の何かが、さらに加わるかどうかは……
 それ以上の何か? 何だ、それは?
 僕は混乱している。なぜだろう。それにいまの思考……以前にも同じ思考をたどったことが
あるような……いつ? どこで?
2323-2 Saria IV (10/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/17(日) 15:37:04 ID:loqOIel+
「他の神殿は……」
 その声で、シークは我に返った。リンクが怪訝そうな顔でこちらを見ている。
「ああ……そう……だな」
 感傷的な心の揺れなどに囚われていてはいけない。
 何とか体裁を整え、シークは他の神殿と賢者のことを、簡潔にまとめてリンクに披露した。
 高き山。神殿は、おそらくデスマウンテンにあり、賢者は、おそらくゴロン族。しかし噴火を
続けるデスマウンテンには近づくことさえできず、いまだ詳細は不明。滅亡したゴロン族の生存は
絶望的。
 広き湖。神殿──水の神殿──は、ハイリア湖にあり、賢者──『水の賢者』──は、おそらく
ゾーラ族。しかし湖底にある神殿は未調査。ゾーラ族が生存している可能性もきわめて低い。
 屍の館。神殿──闇の神殿──は、カカリコ村の墓地にある。地下通路が気になるが、正確な
位置はわかっていない。賢者──『闇の賢者』──であるインパは、すでに死亡。
 砂の女神。神殿──魂の神殿──は、『幻影の砂漠』の西の果てにあるという巨大邪神像。
賢者──『魂の賢者』は、おそらくゲルド族反体制派のリーダーであるナボール。しかし神殿も
賢者も実見してはない。賢者が生存している可能性も、高いとは言えない。
 そして、『光の賢者』、ラウル。地下にある光の神殿に行くことはできず、精神だけの存在である
ラウルとの接触も不可能なのだが、いまラウルは、ケポラ・ゲボラという梟として、この世界に
存在している──
「ケポラ・ゲボラだって!?」
 リンクが素っ頓狂な声をあげた。
「知っているのか?」
「知っているも何も……七年前、コキリの森を出た時から、ケポラ・ゲボラは、ぼくを導いて
くれた。もう三度も会っているよ。だけど、自分が賢者だなんて言わなかった」
「その時は、まだガノンドロフがトライフォースを手に入れる前で、賢者について君に告げる
必要がなかったからだろう」
「そうか……そうだな」
 リンクは納得したようだったが、シーク自身には引っかかる点があった。
 僕が森の神殿の近くで会った時にも、ケポラ・ゲボラは賢者のことでは話をぼかしていた。
明言できない理由があるのだろう、と思っていたが……
「この服や、楯なんかの持ち物も、ラウルが取り替えてくれたのかな」
 リンクが不思議そうな声で言う。
「光の神殿に出入りできるのはラウルだけだから、そうなんだろうな」
 そう答えながらも、疑問が残る。
 なぜラウルは、リンクが目覚める時に接触しなかったのか。自らを覚醒させるには、その時が
最適だったはずだ。それに、封印の事情や七年間の世界の変化をリンクに告げるのは、本来は
ラウルがやるべきことだろう。僕が代わりに話してやれたからよかったが……
 そこまで考えて、シークは初めて思い当たった。
 他の賢者と同様に、ラウルもガノンドロフに抹殺されてしまったのでは……
 ──いや!
 胸に湧く、どす黒い疑惑を、シークは必死で否定した。
 ラウルに限って、そんなことはない。あの賢明そうなケポラ・ゲボラなら……それに他の賢者も、
みながみな、抹殺されたと決まったわけではない。
 弱気になってはいけない!
「神殿と賢者のことも重要だが……」
 疑惑を心の隅に押しやって、シークは話題を変えた。
「ガノンドロフは、すべてのトライフォースを手に入れようと画策している。それに気をつける
ことだ」
「トライフォースを? じゃあ……」
 左手の甲を押さえ、リンクが言いかける。
「そう、奴は狙っている。君の持つ、勇気のトライフォースを」
 リンクの喉が動き、唾を呑みこむ音が聞こえた。次いで、その口が開かれる。
「ゼルダの、知恵のトライフォースも……だね」
 シークは黙って頷いた。
2333-2 Saria IV (11/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/17(日) 15:37:50 ID:loqOIel+
 ガノンドロフが、ぼくを、そしてゼルダを狙っている。
 それはリンクにとって、とてつもない緊張を強いられる事柄だった。七年前、ハイラル城の
正門前で、ガノンドロフと立ち合った時の、身を押しつぶすような重圧を、リンクは思い出していた。
 あの時、ぼくはガノンドロフに全くかなわなかった。殺されなかったのは、ちょうど正門から
騎兵団が出撃してきたからで、単に運がよかっただけだ。
 次にガノンドロフと対決した時、ぼくはあいつにかなうだろうか。
「ガノンドロフは強大だ」
 はっとして、シークに目をやる。ぼくの心を見透かしたような、その言葉。
「そして狡猾だ。賢者の探索がうまくいかなかったのも、奴が先手を打って賢者を攻撃したからだ」
「ということは……コキリの森を焼き払ったのも、ガノンドロフなんだな」
「もちろん」
 何ということを!
 シークの言葉は続く。
「ゼルダ姫は、七年間、ガノンドロフの魔手から身を守り抜いた。だが君はこれから先、いつか
ゼルダ姫と会うことになる。ガノンドロフが狙っているのも、その時だ」
 ゼルダと出会う時。ぼくが待ち望む、その時こそが、ガノンドロフとの対決の時でもある。
 ぼくは大人になった。勇気を持って。マスターソードを持って。けれども、ぼくにはまだ、
実力が足りない。勇者としての裏付けがない。
 だから、その時が来るまで──そして、その時にも──
「ぼくは戦う」
 リンクは言った。短い言葉だったが、全身全霊をこめた決意の表明だった。
「ともに」
 シークも言った。右手で拳を作り、リンクの目の前で右腕を立てた。リンクも左手で拳を作り、
シークに示した。二つの握り拳の尺側が、がつんと打ち合わされた。
 二人の闘志が一つとなった瞬間だった。
2343-2 Saria IV (12/12) ◆JmQ19ALdig :2007/06/17(日) 15:38:49 ID:loqOIel+
「疲れているだろう。早く眠りたまえ」
 ありがたいシークの言葉だったが、
「君は?」
「朝まで見張りをする」
 そう言われて、ひとり眠ることはできなかった。
「君こそ眠れよ。見張りはぼくがやる」
「そうはいかない」
「いいから」
「だめだ」
 ひとしきり言い合いが続いたが、結局、交代で眠ることで決着がついた。先にシークが眠る
ことになった。
「真夜中が過ぎたら起こしてくれ」
 シークは言い、焚き火の横に身を横たえた。すぐに寝息が聞こえてきた。リンクはそっとそばに
寄り、シークの寝顔を見つめた。
 やっぱり、シークも疲れていたんだ。ぼくを追ってはるばる平原を旅してきて、ぼくに気を
遣ってくれて……
 でも、それだけではとても言いつくせない。
 シークが語った、七年間の活動。大したことでもないような、さらりとした話しぶりだった
けれど……
 どれほどの苦労であったことか。どんなに苦しい生活だったことか。
 こんな華奢な身体なのに。
 それもみんな、ぼくのためだったんだ。
 時の神殿で目覚めてから、ぼくは自分のことしか考えられなかった。シークのことにまで気が
回らなかった。
 もう一度、言いたい。
「すまない」
 そして、
「ありがとう」
 漆黒の闇に閉ざされたハイラル平原を、冷たい風が吹き渡っていった。暗黒の片隅に灯った
唯一の光である火のそばで、しかしリンクはその冷たさを、冷たいとは感じていなかった。
それは決して火のせいばかりではないことを、リンクはしっかりと自覚していた。


To be continued.
235 ◆JmQ19ALdig :2007/06/17(日) 15:39:39 ID:loqOIel+
以上です。シークの描写が綱渡り状態。
あと、なんとかデクナッツ族を登場させることができました。でもたぶんこれっきり。
236名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 19:29:39 ID:BlyDtD48
GJ、そして乙です。
焼け野原の描写がとても悲しい。
237名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 20:27:44 ID:GS9NfDez
このSSに触発されて時のオカリナ(GC)を今更ながらプレイ中。カメラ以外は良。

SSを機に始めたからマロンやサリア、ルトに会う度に『可哀想になぁ』って思いつつプレイしてる。
238名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 21:05:03 ID:dLd3a6hZ
リンクの侘しくも淡々とした旅路に、宮崎駿の「シュナの旅」思い出した。
239名無しさん@ピンキー:2007/06/18(月) 15:01:04 ID:lYJiCxX8
GJでした。
今回の話読んでたら、サリアの話読み返したくなってきました
読んで来ますノシ
240名無しさん@ピンキー:2007/06/19(火) 11:59:04 ID:wIFoR6Cm
話が凄い上手いなあ
ちょっとまとめ読み返してくる
241名無しさん@ピンキー:2007/06/22(金) 16:12:58 ID:53RRdAvp
過疎
242名無しさん@ピンキー:2007/06/23(土) 00:40:17 ID:zayACLv6
凄いな。最上にGJ。
243名無しさん@ピンキー:2007/06/23(土) 23:12:16 ID:yoo3kfjJ
GJ!!本当にすばらしい。神過ぎる
244名無しさん@ピンキー:2007/06/23(土) 23:53:29 ID:b0y7gdjl
急に大人になったリンクが肉欲も大人並みになったせいで
文字どおり性欲をもてあます展開もあるんだろうか。
245名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 21:00:30 ID:xhy3oqGp
朝、立派に建ったリンクのテントにドギマギするシーク。
246 ◆JmQ19ALdig :2007/06/25(月) 01:27:10 ID:ii8jOJWP
>>244 見通されてるw

私本・時のオカリナ/第三部/第三章/ゼルダ編その5、投下します。
エロはあるにはありますが、悶々とするリンクの独演です。ゼルダは実際には登場しません。
2473-3 Zelda V (1/9) ◆JmQ19ALdig :2007/06/25(月) 01:28:08 ID:ii8jOJWP
 シークに身体を揺すぶられ、リンクが目を覚ましたのは、まだ日の出前だった。ピーハットが
活動を始める前に移動しなければならない、とシークは言った。どうしてそんな危ない場所で
野営したのか、と、いまさらながらリンクは疑問を持ったが、シークの説明では、スタルベビーを
避けるためには、土が露出している場所でなければならず、かつ、焚き火ができる広さのある
露出部が、そこだけであるからだった。薪が集めやすい木立の近くという利点もあった。シークの
周到な考えに、リンクは感心した。
 安全な場所まで移動し、二人は今後の行動方針について話し合った。
 悲観的な状況──と、言いよどむシークに対し、リンクは声に力をこめた。
「ぼく自身が各地の神殿へ行ってみるよ。何か新しいことがわかるかもしれない」
「そうだな」
 シークが頷く。
「森の神殿でも、僕では探り出せなかったことがあった。君なら糸口がつかめるだろう」
 ハイリア湖の水の神殿へ行くのがいい、という点で、二人の意見は一致した。距離的には
デスマウンテンやカカリコ村の方がやや近いが、それらとは異なり、神殿の場所が明確にわかって
いるからだった。
 リンクはシークから食料を貰い受けた。それはシークが持っていた食料のすべてであったが、
自分は困らないから、とシークは言い、事実、リンクの目の前で苦もなく野鳩を仕留めて見せた。
感嘆の声を発したリンクだったが、自らの無力さが恥ずかしくもあった。
「剣だけでは狩は無理だ。しかし君は、それを真の目的のために使うべきなんだ。他のことは僕に
任せたまえ」
 言葉は淡々としていたが、そこにシークの真情がうかがわれ、リンクは素直な気持ちで礼を言った。
 ただし──と、シークはリンクに一点の忠告をした。
「飲み水が問題だ。ここからハイリア湖までだと、南の荒野までは水場がない。君は水を持って
いないし、僕の手持ちも多くはない。ハイリア湖へ向かう前に、君は水を補給しておくべきだ」
「どこで?」
「いったんハイリア湖とは逆方向へ向かうことになるが、ここから東の山際に沿って、北へ
半日ほど行った所に、きれいな泉がある。森の中にあって、少しわかりにくいかもしれないが、
目印になる木や岩があるから、迷うことはないと思う」
 シークが教示するその目印をしっかりと記憶したのち、リンクは続けて質問した。
「君はどうするんだ?」
「一足先に西へ行って、ハイリア湖への道の状況を調べておく。何も問題がなければ、南の荒野の
洞窟で待っている」
 リンクにとっては未踏の地である南の荒野までの道程を、シークは詳細に説明した。出現する
魔物にも説明は及んだ。
「このあたりもそうだが、辺境にはピーハットが多い。姿を見たら迂回して進むのが得策だな」
 リンクは頷いたが、言葉は出さなかった。
「それから……これを渡しておこう」
 シークが腰の袋から取り出した、小さく細長いものを、リンクは受け取った。剃刀だった。
いぶかしく感じてシークの顔を見ると、目が笑っていた。
「大人の男の身だしなみさ」
 思わず顎に手をやる。伸びに伸びた髭の感触が、そこにあった。
2483-3 Zelda V (2/9) ◆JmQ19ALdig :2007/06/25(月) 01:28:54 ID:ii8jOJWP
 シークと別れ、リンクは泉を目指して北へと進んだ。重く立ちこめた雲が鬱陶しかったが、
シークとの再会と、一晩の安楽な睡眠とが、気力を取り戻させていた。
 正午を過ぎた頃、平原に鎮座する一体のピーハットが目に入った。リンクはまっすぐそれに
近づいていった。
 迂回しろ、とシークには言われたが、初めからそんな気はなかった。ピーハットすら倒せないで、
ガノンドロフを倒せるわけがない。腕を磨くいい機会だ。
 ピーハットが宙に浮き上がり、旋回しながら接近してきた。リンクはマスターソードを抜き、
楯を構えた。ピーハットの底面から周囲に伸びた、いくつもの刃が、回転しつつ、がしがしと楯に
当たる。じりじりと後ずさりし、慎重に間合いを測る。思い切って左手の剣を振りおろそうと
するが、隙が見えない。ためらううちに、左腕を刃がかすめ、皮膚を切られてしまう。それが
何度も繰り返される。
 このままでは埒が明かない。回転がやっかいだ。こいつの弱点は? こいつの回転を止めるには?
回転の中心点を狙えばいい? だが剣はそこまで届かない。届かせるためには?
 剣を下段に構え、振り上げる。回転する刃を、力いっぱい下から叩く。
 がん!──という衝撃音とともに、ピーハットがぐらりと傾斜する。その機を逃さず、前転して
ピーハットの下にもぐりこむ。
 ざしッ!──と右脚を切られる感覚。わずかに前転するのが遅かった。が、目標はすでに目の前だ。
 底面からわずかに飛び出した中心点を、マスターソードが貫きとおす。
 手応えがあった。
 ピーハットは、一瞬、空中に静止し、次いで、どさりと地面に落下した。念を入れて、しばらく
楯を構えたままでいたが、もう動く気配がないとわかり、リンクは警戒を解いた。
 もうこいつと戦うこつはつかんだぞ。
 やられっぱなしの借りを返し、リンクの気分は、やっと晴れた。

 大したことはないと高をくくっていたが、歩みを続けるにつれ、右脚の傷が痛みを増してきた。
包帯がわりに巻いた布に血が染み、それが少しずつ広がってゆく。
 出血が止まっていない。思ったより傷が深いようだ。
 歩みは徐々に遅くなった。足を踏み出すごとに痛みが強くなるような気がした。
 陽が傾いてゆく。このあたりはずっと草原で、土が露出した所がない。夜になったら、また
スタルベビーに襲われる。
 痛みに耐えて進むうち、東の山際に、シークから聞いていた大木が見えた。それを目標に、
平原から森の中へ入る。道は細く、わかりにくかったが、他の目印も参考にし、やがてリンクは
泉に到達することができた。
2493-3 Zelda V (3/9) ◆JmQ19ALdig :2007/06/25(月) 01:29:59 ID:ii8jOJWP
 半日の行程と言われていたが、傷の痛みのせいで時間を食ってしまい、泉に着いた時には、日は
暮れてしまっていた。ただ幸いなことに、泉のほとりでは、土の上でなくともスタルベビーは
出現せず、他の魔物もいないようで、リンクは安心して身体を休められた。
 泉の水で喉を潤したあと、右脚の傷を洗い、布をきつく巻き直した。森で枯れ木を集め、岸辺で
火を焚いた。シークから貰った獣肉を炙り、残っていた木の実とで夕食を終え、リンクは深々と
息をついた。
 そこで思い出した。
 剃刀を持って、髭を剃る。使い方はシークに聞いていたものの、初めてのことで、手元が覚束ない。
どうにか作業を終えたが、あちこちに切り傷を作ってしまい、剃り残しの毛もあった。それは指で
引き抜いた。
 大人の身体というのは、面倒なものなんだな。
 子供の時に比べると、全身の体毛が濃くなっているし、顔の髭のように、密集して生えてくる
場所もある。腋の下とか……それから……
 リンクは股間に目をやった。そこが発毛していることは、もうわかっていた。城下町を出て
すぐあと、排泄の際に気がついたのだ。七年前、ゾーラの里で全裸の男女を見て、大人のそこに
毛が生えることは知っていたが、自分がその状態になってみて、最初は大いに驚いたものだ。
 毛だけじゃない。その中心にある男の持ち物も、子供の時より、ずっと大きくなっている。
 時々いきり立っては、ぼくを戸惑わせた、それ。どんな時だったかというと……
 考えただけで、それは実際に、硬く、起き上がり始める。同時に……
 ああ、これだ。この感覚。むずむずするような、じりじりするような、はけ口を求めて身体の
中でうねる、この感覚。
 その原因、その対象は……
 女。
 女の肌。女の胸。女の秘部。女の裸。
 アンジュ──初めて見た、大人の女の乳房。まるく張りつめた、成熟したふくらみ。先端の
薄赤い乳首が、美しいアクセントになって……
 ルト──一糸まとわぬ、奔放な裸身。成長の中途にある、胸の小さな盛り上がりと、ささやかな
股間の翳り。左右に揺れる、引き締まった尻。
 サリア──唇を触れ合わせた、ただ一人の相手。やわらかく、暖かい、生きた女の感触。
コキリの森にいた頃は気にもしなかったけれど、その身体は、どんなふうに……
 マロン──身体を見たことはない。でも、ぼくにキスをせがんで……(もっといいこと、させて
あげてもいいわ)……何だったんだろう、「もっといいこと」って……
 そういえば、インパやダルニアだって、女なんだ。男のようにいかついインパも、胸は大きく
盛り上がっていた。男以上に逞しいダルニアも、かすかな、しかし明らかな女の胸を持って……
 そして何よりも……ぼくがこの感覚を知った、そもそものきっかけは……そう、ハイラル城から
カカリコ村へ向かう途中、野宿の夜の夢に見た……君の……ゼルダ……君の……
『いけない!』
 意識をふり戻す。
 股間が硬直しきっている。あの感覚が、かつてないほど大きなものとなって、胸をどきつかせ、
呼吸を荒くさせて……
 満腹になり、敵に襲われる心配もない状態で、心が緩んでしまったせいか……大人として
目覚めてから初めて、このことを思ってしまった。けれどもこれは、「いけない」ことなんで
あって……
 いや。
 いけないことなのか?
 ぼくは、ほんとうは、どう思っている? ぼくの正直な気持ちは?
 見たいと思っている。女の人の裸の姿を。ゼルダの裸の……
 激しく首を振る。
 だめだ!
 ゼルダは……ゼルダだけは……なぜか、どこかが、違う。何と言ったらいいのか……そう、
こんなことを考えて……ゼルダを穢してしまってはいけないと……
 頬をぴしゃりと叩き、リンクは焚き火の横で、ごろりと横になった。これ以上、つまらない
ことで悩んでもしようがない。そう思って、無理やり眠りについた。
2503-3 Zelda V (4/9) ◆JmQ19ALdig :2007/06/25(月) 01:32:54 ID:ii8jOJWP
 ──天気がよくなったので、心が浮き立ち、足の運びも速くなった。ハイラル城に着くまで、
そう時間はかからなかった。
 城門は、ゼルダの手紙を見せて通してもらった。先の道がわからなかったが、例の水路を見つけ、
這い進んで庭に出た。うまく警備の兵士たちの目をかすめ、奥の門に到達した。
 通路を抜け、中庭へ向かう。
 ゼルダはそこにいた。
 こぼれ落ちるような笑みを顔に咲かせて、ゼルダが言う。
『お帰りなさい』
 その笑みに胸を弾ませつつ、奥の低い壇に続く階段に、二人並んで腰を下ろす。
『あなたが行ってから、ずっとここで待っていたの』
 ──ぼくがここを発ったのは……そうだ、七年前だ。ゼルダは七年も、ここでぼくを待っていて
くれたのか。けれど、七年経ったというのに、ゼルダの姿は、全然、変わっていない……
『精霊石は?』
 ──精霊石?
 あわてて懐を探る。ない。なくしたんだろうか。そんなはずは……ああ、そうか。三つの精霊石を、
ぼくは時の神殿の石板に填めたじゃないか。
『よかったわ。もう、安心ね』
 ──そうだとも。これで片がついたんだ。何もかも終わったんだ。
『あなたに、お礼をしなければいけないわ』
 ──いや、これはぼくの使命なんだから、お礼なんて……
『お礼をしなければいけないわ』
 ──でも、ぼくは……
『お礼をしなければいけないわ』
 ──いいの?
『ええ』
 ──じゃあ、ぼくの願いをきいてくれる?
『何でもきいてあげる』
 ──ほんとうに?
『ほんとうに』
 ──言うよ?
『言って』
 ──君の裸が見たいんだ。
 ゼルダが微笑む。
『いいわ』
 その手がぼくを、そっと押す。ぼくは壇の上に横たわる。目を向けると、そこにはすでに、
衣服を捨てた君がいる。
 背に流れる金色の髪……ああ、あの頭巾の下に、こんな豊かな髪がひそんでいたなんて……
 なめらかに続く繊細な曲線……首……肩……胸……それらをおおう白い肌……
 胸の平面の左右に置かれた、ほのかな桃色の蕾……
 ぼくは君を見上げている。君はぼくの上にいる。なのに重みは感じられない。
 君の身体が動く……ゆっくりと……
 首をややのけぞらせ、両目を閉じ、眉間に軽く皺をよせ、わずかに口を開き……
 苦しいのか……嬉しいのか……何を思うのか……
 鼻腔をおとなう芳しい香り……
『リンク……』
 君は顔を寄せてくる。
『わたしは……』
 ──君は?
『あなたを……』
 ──ぼくを?
2513-3 Zelda V (5/9) ◆JmQ19ALdig :2007/06/25(月) 01:34:10 ID:ii8jOJWP
 目が覚めた。
 弱まった焚き火の明かりが、目の前でちろちろと揺れている。空気は暗く、冷たく、しかし雲を
通して、丸い月の光が薄くぼんやりと見えている。薄光は天頂近くにあり、時がもうすぐ真夜中で
あることを告げていた。
『夢……』
 寝る前に、あんなことを考えていたからか。
 考えてはいけないと、ゼルダを穢すことになると、わかっているのに。どうしてぼくは、こんな
夢を……あの時と同じ、ゼルダの夢を……
 いや、正確には同じ夢じゃない。ゼルダとの会話を夢に見たのは、いまが初めてだ。ゼルダは
ぼくの願いをきいてくれた。裸を見たいという、ぼくの願いを。だから、いけないことじゃない。
ぼくがそう思っても、ゼルダを穢すことにはならない……
 何を馬鹿な! これは夢だ。ぼくの勝手な夢に過ぎないんだ。現実に、ゼルダにそんなことを
言ったりしたら……
 ……どうだろう。ゼルダは何と言うだろう。
 夢の終わりに、ゼルダは何と言いかけたのか。
『わたしは……あなたを……』
 その次は? ゼルダはぼくを、どう思っている?
 わからない。わかるわけがない。これはぼくの夢なのだから。ぼくが作り上げた妄想なのだから。
 では……夢がぼくの無意識の願望であるのなら……
 ぼくはゼルダに何と言って欲しかったのか。
 何かを言って欲しい。けれど、それをどのように表現したらいいのか……
 それを考えて何になる。どうせ夢なんだ! 現実じゃないんだ!
 でも……
 そうだ。ぼくの夢は予知ではないのか──と、かつて思ったことがある。ぼくは現実の
ガノンドロフに会う前に、あいつの夢を見ていた。だから、ゼルダの夢も……現実になるのでは
ないかと……
 頭はぐるぐると渦を巻き、心臓は胸から飛び出しそうなほどにまで拍動し、そして股間は、硬く、
ひたすら硬く……
2523-3 Zelda V (6/9) ◆JmQ19ALdig :2007/06/25(月) 01:34:55 ID:ii8jOJWP
 リンクは身を跳ね起こした。
 どうかしている。
 夢の中のぼく。三つの精霊石を集めたくらいで、片がついた、何もかも終わった、だなんて。
何をのんきなことを言っているんだ。ぼくの使命は終わってはいない。なすべきことは、まだ
たくさんある。
 夜気がひんやりと身体を押し包む。しかし、身体はかっかと火照っている。
 この火照りを静めないことには……
 泉の縁に跪き、水をすくって顔を洗う。
 足りない。
 頭をざぶりと水に浸ける。息が続かなくなる直前まで耐え、頭を上げる。
 まだまだ。
 装備を置き、衣服を脱ぎ去って、泉の中へと身を躍らせる。水の冷たさを擦りこませようと、
肌をこする。ひたすらこすりたてる。
 ひとしきり乱暴な水浴を続けて、ようやく落ち着きが戻ってきた。
 岸を枕にして、水の中に横たわり、静かに呼吸を整える。右脚の傷がまだ痛むが、肌が慣れた
ためか、冷たいはずの水が暖かいとさえ感じられ、全身にくつろぎが染みとおってゆく。
 感情を抑えて考える。
 会いたい。ゼルダに会いたい。が……まだ、その時期じゃないんだ。使命を果たし、なすべき
ことをなして、それで初めて、ぼくはゼルダの姿を見、ゼルダの言葉を聞くことができる。
その時まで、ぼくは……
 空を見上げる目に、す……と光が降りかかった。珍しく雲に切れ目が生じ、満月が美しい姿を
現していた。身を起こすと、泉の水が鏡のように月光を反射し、その面に正円の分身を映し出して
いるのが見えた。
 が、それだけではない。
『あれは……?』
 水面よりも低い所……水底にも、小さな光が瞬いたような……
 一瞬、目を捉えた、その小さな光を求め、リンクは立ち上がり、泉の中ほどへ足を進めた。
水は浅く、水面はリンクの膝に達しないくらいだった。
 どこだっただろう、あの光が見えたのは……
 歩みによって水面に波が立ち、月の光が乱反射して、底の様子がわからない。それらしい
場所まで来て、立ち止まる。
 やがて波が引き、水面に映る月が正円に戻る。水の底が見えてくる。どこに──と、さまよわせる
目が、再び小さな光を捉える。かがんで手を伸ばし、光の正体を拾い上げる。
 金色に輝く、小さなトライフォース。その頂点の一つに繋がる、細く短い鎖。
 これは……ぼくはこれを見たことがある。そう、これは……
 ゼルダの耳飾り!
2533-3 Zelda V (7/9) ◆JmQ19ALdig :2007/06/25(月) 01:36:33 ID:ii8jOJWP
 ほんとうにそうなのか? 別人のものでは? いや、ハイラル王国の象徴であるトライフォースの
耳飾りなど、王族にしか許されないものだろう。それに……この大きさ、この形……間違いない。
間違いない!
 なぜここに?
 考えるまでもない。ゼルダがここにいたからだ!
 いつ?
 耳飾りは水底の土に埋まってはいなかった。耳飾りそのものも大して汚れてはいない。そんなに
昔のことじゃない。一年、いや、数ヶ月も前ではないだろう。ひょっとすると、ひと月くらいしか
経っていないのでは?
 それほど近しい過去に! ゼルダは! ここにいたんだ!
『ゼルダ……』
 発見の驚きが興奮に変わり、そしていま、無上の幸福感へと昇華する。
 君が無事だ、というシークの言葉を、ぼくは疑いはしなかった。でも、実際にどこにいるのかは、
知りようがなかった。その状況はいまでも変わらないけれど……君はこの世界のどこかで生きている。
ぼくはそれをこうして──ぼく自身の目で──確認することができた!
 ふと思う。この耳飾りは、右のものなのか、左のものなのか。
 わからない。それでも、
『右だ』
 と確信する。根拠はない。が、そう信じずにはいられない。
 耳飾りを握りしめ、目を閉じる。思い出す。
(──ごらんになって)
 七年前、ハイラル城の中庭で、トライフォースの例を示すため、君は右の耳飾りをぼくに見せた。
ぼくはそれに目を寄せて、その形を確かめて……そして君の横顔の美しさに惹かれて……君の
香りに誘われて……顔を近づけて……
(どう? おわかりに……)
 そこで君はふり向いた。ぼくは君の顔を間近に見て、君もぼくの顔を間近に見て、ぼくは動けず、
君も動かず、ただ互いの目を見つめて、見つめ合って……
 すでにぼくたちは、世界の行く末を案じる同志として、一体感を得ていたけれど……それだけでは
なく……あの時……
 ああ、いまになって、やっとわかった。そう、まさにあの時、ぼくたち二人の間で、別の「何か」が
始まったんだ!
 その「何か」が何なのか、そこまでは、いまのぼくにはわからない。でも、ぼくの中で、
ゼルダだけが違っているのは、それのせいなんだ。そして、ぼくがゼルダに言って欲しいことと
いうのは、それに関係していて……
 ぼくとゼルダ。ゼルダとぼく。ぼくたち二人の繋がりは、二人の手にあるトライフォース
だけではなく……その「何か」で……この耳飾りがきっかけとなった、その「何か」で……
 何と言えばいいのだろう。この想いを、何と表現すればいいのだろう。
 ゼルダに会えば、わかるだろうか。
『わかる』
 自分に言い聞かせる。
 ぼくの想いをはっきりさせるためにも、ぼくはゼルダに会わなければならない。そして、
ぼくたち二人の繋がりを、無欠なものとするために……
『この耳飾りを、ゼルダに渡さなければ』
 胸に刻みこむ。それがぼくの新たな「使命」なのだ、と。
2543-3 Zelda V (8/9) ◆JmQ19ALdig :2007/06/25(月) 01:37:36 ID:ii8jOJWP
 想いは旋回する。
 夢に見たゼルダは、子供のままだった。ぼくが知っているゼルダはそれだけだから、当たり前
だけれど……七年経って、ゼルダはどんな姿になっているだろう。
 ゼルダは、いま、ぼくと同じ十六歳。七年前だって、あんなにかわいくて、美しくて、魅力に
あふれていたんだ。大人になったゼルダは……きっと……それよりも、もっと……もっと……
 ふと思う。
 ゼルダは、この泉で、何をしていたのか。
 ──耳飾りが沈んでいたのは、泉の真ん中だ。ということは……水を汲むとか、飲むとか、
そんな目的ではなく……
 どくん! と胸が鼓動を打つ。
 ──水を浴びようとして……だとすると……
 鼓動が続く。周期が速まる。
 ──ゼルダは……いまのぼくと同じように……
 静まったはずの火照りが、治まったはずのあの感覚が、またもや全身を侵蝕し始める。
 ──何も……身に着けないで……
『いけない!』
 心の中で止める自分がいる。でも、想像の奔流は、もう止められない。
 ゼルダはここにいた。裸で。大人の裸の姿で。
 どんなふうに? ゼルダの身体は、どんなふうに?
 顔は? 肌は? 胸は? 下腹は?
 アンジュのように? ルトのように? 女のしるしを、どう伴って?
 そんなゼルダがぼくの目の前にいたとしたら、ゼルダはぼくに何と言うだろう。
(いいわ)
 そう言うだろうか。夢と同じように、ゼルダはそう言うだろうか。
 いい、とは何が? ぼくは、いったいどうしたらいい? そしてゼルダは、ぼくに何をしようと?
 マロンのように? サリアのように? 手と手の、唇と唇の接触を求めて?
 荒ぶる股間。いきり立つ男の中心。
 耐えきれず握りしめる。とたんに感じる。子供の時とは比べようもない、その大きさ、その硬さ、
その熱さ!
『いけない!』
 再度、心が制止の叫びをあげる
 だめだ! ゼルダを……そんなもので……穢してしまっては……
2553-3 Zelda V (9/9) ◆JmQ19ALdig :2007/06/25(月) 01:39:06 ID:ii8jOJWP
 その時。
 足元から光が湧き上がった。いまや天頂に達した満月の光とは異なる、透き通るような桃色の光。
湧くにつれ光は分裂し、微妙に軌跡をずらせた無数の光点となって、一帯の空間を埋めつくしてゆく。
 これは……この光点は……色は違うけれど……コキリ族の仲間たちが連れていたのと同じ……
『妖精!』
 どうしてこの泉に妖精が? いや、そんなことはどうでもいい……この感じ……妖精の光に触れ、
包まれることで、ぼくに生まれる、心が解き放たれるような、この感じは……
 そうだ。やみくもに否定しても、解決はしない。ぼくは、ぼく自身の正直な気持ちと向き合わなければ。
 鍵がはずれる。枷が落ちる。
「どうあってはならないか」──ではなく、「どうありたいか」
 ぼくはゼルダと、どうありたいか。
 いいのだろうか。それを思って、いいのだろうか。
『かまわない!』
 突き上げるような、衝動! 衝動! 衝動!

 ゼルダが欲しい!
 ゼルダを見たい! ゼルダに触れたい! ゼルダのすべてをこの身に感じたい!
 ぼくの中で荒れ狂う、嵐のような、この感情。
 それがぼくの真実なんだ。そのありのままの真実をゼルダに捧げることが、どうしてゼルダを
穢すことになるだろう!
 そしてゼルダもぼくを見て、ゼルダもぼくに触れて、ぼくのすべてをゼルダも感じて!
 二人の想いのままをぶちまけ合って!
 そう、いまのように。いまのぼくのように。
 こわばりきったこの部分に充満し、凝縮するぼくの真実を、ぼくの命を、ぼくはいま! いま! 
いま!

 そうする意図もないままに前後し始め、やがて可能な限りの速さで運動し続けていた手が、
その刺激の対象を、とうとう限界に追いつめた。たとえようもない絶大な快感が、続けざまに
爆発し、噴出し、飛散した。意識はすべてのわだかまりを忘れ、遠く、白く、消え去っていった。
 リンクは水の中に崩れ落ちた。
 生まれて初めて味わう、それは圧倒的な到達感だった。


To be continued.
256 ◆JmQ19ALdig :2007/06/25(月) 01:40:09 ID:ii8jOJWP
以上です。第二部/第十二章 Zelda IV とシンクロした話です。
章立てを変えたため話がずれてしまい、次回、もう一章だけエロ無しになります。申し訳ない。
257名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 02:33:51 ID:eil9fIFi
男のオナニーとか普段なら冗談じゃないしアッーの趣味もないのに
まったく不快感なくというかむしろ清々しく読んでしまえたことに感嘆せざるを得ない。


個人的には、リンクがゼルダへの肉欲を前向きに受けとめられず
もうちょっとオナニーに罪悪感を持ったまま、好きな娘は
むしろおかずにできないの法則によりルト姫の裸がさんざんオナペットにされると
もっとよかった(;´Д`)ハァハァ
258名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 02:36:44 ID:eil9fIFi
でもリンクは「あの娘はだめだけどこの娘ならいいや」なんて発想はしないか
259名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 17:25:32 ID:RRIXwNOM
GJ!
本当に性欲をもてあますリンクでワロタw
260名無しさん@ピンキー:2007/06/26(火) 20:57:32 ID:5WEinNPn
マジで性欲をもてあましてるなリンクw
GJ、乙でした。
261名無しさん@ピンキー:2007/06/26(火) 22:10:13 ID:bxeKaryJ
とうとうあの耳飾りを見つけましたか!GJ!!
一回目はV単体で読み、二回目はIVと平行して読んだ。
二人の対比がすごくいいな、次も期待してます。
262名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 23:45:45 ID:Lo+qx+v7
伏線回収GJ!あの泉からはホムンクルスが・・・

賢者をどうやって復活させるかwktkですよ
263名無しさん@ピンキー:2007/06/29(金) 09:43:52 ID:svxEJMPW
>>262
ここはエロパロ板だぜ?
264名無しさん@ピンキー:2007/06/29(金) 19:03:28 ID:EfCrrZ9O
なんかすごいな・・・。一回一回食い入るように読んでしまいます。
こんな激しい恋をしてみたい〜〜〜!!
265名無しさん@ピンキー:2007/06/29(金) 21:18:02 ID:JiyxKGKm
やっぱりガノン主観よりリンク主観のほうが(;´Д`)ハァハァできる
266名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 13:35:41 ID:+R81fbgu
GJ!!!!
267名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 15:20:32 ID:E4F74Mze
こんなにリンクがゼルダラブラブだと、
今後他の女キャラとのセクロスシーンがあったとしたら
浮気っぽくなってしまうんじゃないかと余計な心配
268名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 18:38:43 ID:+ow09E1A
>>267
うん、余計な心配だと思う。
エロパロ板なんだから浮気がどうこう言っちゃうと、
特定カップル以外の作品投下が制限されそうで困る。
おおらかに行こうや。
269名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 18:56:41 ID:mh7OwWV5
アッシュの話が好きだ。
あの人はもう書かないのだろうか
270名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 21:30:42 ID:0xZD0w7C
>>268
リンクがゼルダラブってのは◆JmQ19ALdigさんの話の中での設定だから、
このスレ全体にカップリングの制限が付くことはないと思う
でも余計な心配ってのには同意だな
話を読む限り、リンクの中でゼルダが特別というのはいかなる時も揺らいではいないようだし、
他の子とするにしても、ガノンのようにそこまで積極的にしたがっているわけではないようだし
271 ◆JmQ19ALdig :2007/07/01(日) 15:40:46 ID:8Cllluok
私本・時のオカリナ/第三部/第四章/シーク編その2、投下します。
リンクとシークの会話の章。行為としてのエロはありません。
2723-4 Sheik II (1/9) ◆JmQ19ALdig :2007/07/01(日) 15:42:05 ID:8Cllluok
 南の荒野へ向かうリンクの旅は、いたって順調に進んだ。
 シークの情報は正確かつ的確で、進路に困るような事態は一度も生じなかった。道すがら、
多数のピーハットに遭遇したが、すでに戦い方を把握していたので、倒すのは容易だった。脚を
切られるような失敗を犯すこともなかった。
 右脚の傷の経過は良好であり、歩行への影響もほとんどなくなっていた。その急速な回復は、
リンク自身にも驚きだった。傷の治癒を促進する効果が、泉の水にあったのかもしれない、と
リンクは思った。
 それとも、あの妖精の効果なのかも……
 思いが揺れ始める。
 あの夜、泉で無数の妖精に触れ、心が解き放たれたことによって、ぼくは直視することができた。
子供の時から折にふれて、ぼくを動揺させ、混乱させてきた、股間の高ぶりと、そこから
引き起こされる、あの感覚の正体を。
 欲望。
 女性を見、女性に触れ、女性を感じたい、という欲望。
 ぼくにはわかった。それは否定しようのない真実であって、女性を求めるおのれをはっきりと
認めることが、この動揺と混乱を克服する第一歩なのだと。
 そして、他ならぬゼルダに対して、おのれのありのままの真実を捧げることが、いかに絶大な
感動と悦びをもたらしてくれたことか。
 しかし──と、リンクの心は暗転する。
 ゼルダを穢すことになる、とまでは、もう考えないが……一時の熱狂と恍惚から醒め、冷静に
なってみると……自分の、あの激しい生の欲望を──それがいくら真実とはいえ──ゼルダが
受け入れてくれるとは、とうてい思えないのだ。ゼルダは、自分のそんな欲望とは別次元の高みに
ある存在のように感じられる。
 問題はそればかりではない。
 欲望を発散する方法を知り、自分は確かに、大人の男として、ひとつ成長したのだ、と思う。
ところが、いったん知ったことによって、これまでの抑制が甘くなってしまったようなのだ。
気がつけば、いつも女のことを考えている。そう、ちょうどいまのように。
 ゼルダ。ゼルダ。ゼルダ。
 それだけなら、まだいい。
 子供の時に出会った、他の女性たち。
 サリア。アンジュ。マロン。ルト。
 かつてはそうとは意識しなかったものの、彼女たちとのそれぞれのできごとが、いまのぼくに
とっては、より鮮明に、より具体的に、欲望の対象となってしまう。
 ぼくはどうかしているんじゃないか。こうも女のことばかり節操もなく考えているのは、世界中で
ぼく一人だけなんじゃないか。ぼくには使命があるというのに。世界を救うという、大きな目的が
あるというのに。
 果てしなく惑う身体と心をどうにかして静めようと、リンクはしゃにむに行動した。昼は休息を
省いてひたすら先へと足を進め、ピーハットを見つけては戦いを挑んだ。夜は敢えて草の上に立ち、
次々に出現するスタルベビーを狩りまくった。惑う余裕を疲労が奪ってくれるだろう、と期待した
からだった。それなりの効果はあった。が、結局は心身に無理を強いているだけであることを、
リンクも内心ではわかっていた。
 風景が平原から荒野に移ると、魔物は現れなくなった。歓迎すべき状況のはずだったが、気を
紛らわせる相手がいなくなったことで、かえってリンクの鬱屈は増した。
2733-4 Sheik II (2/9) ◆JmQ19ALdig :2007/07/01(日) 15:43:11 ID:8Cllluok
 泉を出発してから五日後の夕刻、リンクは南の荒野の洞窟に着いた。シークはそこに待機して
おり、いつもと変わらぬ落ち着いた態度でリンクを出迎え、洞窟の入口の前に焚かれた火の傍らで、
調達していた食料をふんだんに振る舞ってくれた。ハイリア湖までは行っていないが、その半ば
くらいまでの道には特に問題はなかった──と、シークは調査の結果を述べた。
 シークとの再会は、リンクにとってはありがたかった。ずっと自分を悩ませている問題から、
とりあえず逃れられる。リンクはシークとの会話に没頭しようとした。
 ゾーラの里の氷結によってゾーラ川の水が減り、その結果、ハイリア湖の水量までもが減少して
いることを、シークは語った。ただシークが最後にハイリア湖を訪れたのは一年ほども前であり、
正確な現状は不明とのことだった。
 共通の知り合いである、みずうみ博士が話題になったのは、当然のことと言えた。二人は各々の
持つ博士の思い出を語り合った。世を捨てたと言いながらも、気さくで親切な、飄々とした老人の
ことを、リンクは懐かしく回想した。
『水の賢者』とはいったい誰なのか、という話になった。二人ともが気になっていたことであり、
会話には熱が入った。
 シークが問題を提示した。
『闇の賢者』はインパと判明しており、『魂の賢者』はナボールと目される。それをもとにして
考える。二人の共通点は何か。
 しばらく考えた末、リンクは答えた。
「二人とも、それぞれが属する集団の指導者──という点かな」
「そう」
 シークは頷いた。
「インパはカカリコ村では恩人として尊敬されていたし、ゲルド族との戦いにあたっては王党軍の
指導者だった。一方、ナボールは、聞くところによれば、ゲルド族の中でガノンドロフに反感を
持つ反体制派のリーダーだという」
「それが他の賢者にも共通することなら……たとえば、デスマウンテンの神殿に関わる賢者は、
ゴロン族の族長であるダルニア……なのかな」
「そういうことになる。では『水の賢者』について、君はどう考える?」
「キングゾーラか」
「かもしれない。だが、僕は別の考えを持っている」
 意味ありげに言うシークに対し、リンクは先を促した。
「というのは?」
「みずうみ博士の話では、近年のゾーラ族は、大して水の神殿に関心を持っていなかったそうだ。
それでも、ゾーラ族の中で一人だけ、神殿のあるハイリア湖を訪れていた人物がいる。神殿との
関わりを重視するなら、その人物──ルト姫の方が、賢者には適格なのではないかと、僕は思う」
「ルトが……」
 リンクはその名を心の中で反芻した。
 お高くとまって、ぼくが頭にくることばかり言って……かと思えば、急にしおらしくなって、
ぼくの目の前で大泣きした、あのルトが?
 リンクの知るルトの人となりは、賢者というイメージには、うまく合致しなかった。しかし
ルトは仮にもゾーラ族の王女なのだ。その点では賢者としても矛盾しないような気がする。
「じゃあ……『森の賢者』は誰なんだろう」
 独り言のようなリンクの疑問に、シークはあっさりと答えた。
「コキリ族の人々を知らない僕には、推測もできない。わかるとすれば君の方だ」
 解決を任された形になり、リンクは考えこんだ。
 コキリ族の指導者といえば、ミドだろうか。確かにミドはコキリ族のボスを自称していた。でも
ぼくは、ミドに何かを「指導」されたことなどありはしない。神殿との関わりだって、ミドには
ない。むしろ……
2743-4 Sheik II (3/9) ◆JmQ19ALdig :2007/07/01(日) 15:44:16 ID:8Cllluok
『サリア……』
『森の聖域』が好きで、しばしばそこを訪れていたサリア。神殿との関わりなら、サリアの方が
よほど大きい。ルトが賢者だというのなら、サリアが賢者であってもおかしくはないだろう。
 リンクは結論を述べ、シークもそれに同意した。
 ただ、賢者の正体が知れたとしても──と、リンクの心は重くなる。
 すでに死んだというインパはともかく──ダルニア、ルト、サリア……彼女たちに会い、賢者と
して目覚めさせることが、果たして可能なのだろうか。望みはきわめて小さいと言わざるを得ない。
会ったことのないナボールも、シークによれば、ガノンドロフに目をつけられていたそうだし……
『いや』
 忍び寄る暗い不安を、リンクは無理やり振り払った。
 いくら望みが小さくとも、いまはそれを信じて行動するしかない。それに、賢者はもう一人……
 その最後の賢者についての疑問を、リンクはシークにぶつけてみた。
 ケポラ・ゲボラとしてこの世界に存在するラウルもまた、賢者としての力を発揮するために、
ぼくとの接触を必要としているはず。なのに、なぜ、ケポラ・ゲボラはぼくの前に姿を現さないのか。
子供の時はあちこちでぼくを導いてくれたというのに。
 シークはしばらく黙ったままだったが、やがて慎重な口調で言い始めた。
「その点は僕も疑問なんだが……ケポラ・ゲボラには、何か考えがあるのだと思う」
「考え? どんな?」
「わからない。だが、ラウルの件は、いずれ必ず解決するはずだ」
「やけに自信があるんだな」
「自信というか……そういう予感がするんだ」
「予感か……」
 リンクは思わず軽い笑いを漏らした。
「君はゼルダみたいなことを言うね」
 ゼルダの夢のお告げ。もしゼルダがここにいたら、お告げによって、ぼくたちの進むべき道を
指し示してくれるだろうか──と、リンクの思考は浮遊しかかった。が、ふとシークの顔に目を
移したとたん、思考は現実へと引き戻された。
 シークの目は見開かれ、視線はあらぬ方を向いていた。敵が現れたのか──と、リンクは周囲を
見まわしたが、その気配は全くなかった。不思議に思って、
「どうしたんだ?」
 と声をかけると、シークは、はっと我に返ったようにリンクを見、次の瞬間には、
「……いや、何でもない」
 いつもの冷静な表情に戻っていた。
 二人の間に沈黙が落ちた。
 シークの態度に釈然としないものを感じながらも、リンクの思いは、再び賢者をめぐる問題へと
戻っていった。しかし今度は、さっきまでとは別の観点からの思いだった。
 六人の賢者。
 ケポラ・ゲボラであるというからには、ラウルは男なのだろう。だけど、他の五人の賢者は、
みんな女だ。そのうち、サリアとルトは……
 ぼくの欲望の対象。
 そう認めてしまうと、その二人だけでなく、ダルニアやインパまでもが、女というだけで、
これまでとは別の人間のように思われてくる。のみならず、いまだ見知らぬナボールさえ、どんな
女性なのだろう、と気になり始めて……
 リンクは頭を振った。
 やっぱり、ぼくはどうかしている。ぼくの使命に大きく関わる賢者さえ、いまのぼくにかかっては……
こんなことでは……ぼくは……
「シーク」
 どうしようかと吟味する余裕もなく、リンクは目の前の相手に語りかけていた。
「君は……女の人のことを考えて……いてもたってもいられない気分になることがあるかい?」
2753-4 Sheik II (4/9) ◆JmQ19ALdig :2007/07/01(日) 15:45:17 ID:8Cllluok
 シークは何も言わない。じっとこちらを見ている。その静かな態度。自分の発言がたまらなく
恥ずかしくなる。でも、いったん言ってしまったことは、もう消せない。
「ぼくは……おかしくなってしまったみたいなんだ。女の人のことを考えると……胸がどきどき
して、頭が熱くなって……裸を見たいと、肌に触れたいと思って……それで……」
 硬直する股間。その刺激から得られる絶頂感。
 自らを惑乱させる欲望のことを、リンクは言い連ねていった。シークなら聞いてくれるだろう、
と、すがるような気持ちだった。
 リンクの告白が一段落したあと、ややあって、シークが口を開いた。
「君が考える女の人というのは、誰なんだ?」
 リンクは過去の出会いを次々に語った。
 サリア。コキリの森を去る時、別れに際して、生まれて初めてのキスを交わした。
 アンジュ。大人の女性の胸がふくらんでいる理由を訊くうち、裸の乳房を見せてくれた。
 マロン。二人きりの時、キスをせがまれ、内容不明の「もっといいこと」にも誘われた。
 ルト。全裸を目の前にして動揺し、それでもその姿を見ていたくてしようがなかった。
 リンクはそこで話をやめた。ちらりとシークを見る。真剣な視線をこちらに向けている。先を
待っているかのようだ。確かに語るべき女性がもう一人いる。けれども、なぜか口にするのが
ためらわれる。
 しばしの沈黙を経て、シークが言った。
「なかなかもてるんだな、君は」
 皮肉っぽい口調だった。が、それが気になる以上に、シークの言葉が疑問だった。
「何を持てるって?」
 シークが眉をひそめ、奇妙そうな表情になった。
「ぼくが持てると言っただろう。何を持つことができるって?」
 リンクの疑問には答えず、シークは別のことを訊いてきた。
「君はその中の誰が好きなんだ?」
「好きなのは、みんなさ」
「え?」
「みんな好きだよ。嫌いな人なんかいない」
 はあ──と、シークがため息をつく。リンクは居心地の悪さを感じた。
 どうも会話が噛み合わない。ぼくは何かおかしなことを言っただろうか。
 シークがためらうように言い始める。
「訊き方を変えるが……君が……その……最高に気持ちよくなった時にだな……君は誰のことを
考えていた?」
 どん! と心臓が拍動する。
 さっきもその人のことを真っ先に言うべきだったんだ。なのに、どういうわけか、軽々しく
その名前を口にできないような気がして……
 でも訊かれてしまった。答えないといけないだろうか。シークになら……言ってしまっても……
 急速に鼓動する胸と、熱をもった頬とを自覚しながら、リンクは消え入るような声で、その名を
口にのぼらせた。
「……ゼルダ」
2763-4 Sheik II (5/9) ◆JmQ19ALdig :2007/07/01(日) 15:46:37 ID:8Cllluok
 ゼルダ。
 その名に呼び起こされる想いには限りがない。しかしそれ以上、リンクは言葉を続けられなかった。
想いがあまりにも大きすぎるせいなのかもしれなかった。
「君はゼルダの裸を見たいのか?」
 その想いを掘り起こすかのような、ど真ん中をつくシークの質問に、リンクは一瞬たじろいだ。
が、いまさら自分を飾ってもしかたがない。
「うん」
 短く答えた。質問は終わらなかった。
「ゼルダの肌に触れたいと?」
「そうだよ」
「ゼルダとキスしたいと思うか?」
「思うとも」
「ゼルダを抱きしめたい?」
「抱きしめたい」
「君はゼルダが──」
「欲しいんだ!」
 問いを待たず、リンクは答を吐き出した。吐き出してしまうと、もう止まらなかった。
 ゼルダが欲しい! ゼルダを見たい! ゼルダに触れたい! ゼルダのすべてをこの身に感じたい! 
 想いの奔流が口からほとばしり出た。恥ずかしくはあったが、自分の真実をさらけ出すことで、
心の澱がいくらかでも洗い去られるような気がした。
 奔流が尽きたところで、シークがおもむろに言った。
「一国の王女を相手に、そこまでのことを思うのか」
 その言い方に反発を感じた。
「そんなことは関係ないよ。確かにゼルダは王女だけれど、それ以前に、ゼルダはゼルダなんだ」
 と声を強くしつつも、
「でも……ちゃんとわかってるさ。ゼルダが許してくれるわけがない」
 あの心の暗転が胸によみがえり、顔は自然にうつむいてしまう。
「それはどうかな」
 シークの冷静な声がした。いぶかしく感じて顔を上げるリンクに向け、シークは妙なことを言った。
「今度会った時に、頼んでみたらどうだ?」
「頼む?」
「裸を見せてくれと頼むのさ。君の言うように、王女とはいえ、ゼルダは一人の女性だ。案外、
きいてくれるかもしれない」
 どうしてぼくの夢を知っているのか、と、思わず大声が出そうになってしまった。
 泉のほとりで見た夢。『君の裸が見たいんだ』とぼくが言って、『いいわ』とゼルダが微笑んで……
 偶然の一致に違いないが……
 シークの顔を見る。目がかすかに笑いを湛えているようだ。
「そんなこと、頼めるわけないだろう。からかわないでくれよ」
 ぷいと横を向く。
「すまない」
 謝りながらも、シークの声には面白がっているような響きがあった。
「まあ、裸を見せてくれというのは論外としてもだ。頼み方次第では、ゼルダだって、君の望みを
無下には扱わない──と思うが」
 リンクは答えなかった。
 そうだろうか。信じられない。あのゼルダが。
2773-4 Sheik II (6/9) ◆JmQ19ALdig :2007/07/01(日) 15:48:06 ID:8Cllluok
「教えてくれないか」
 シークが、今度は真面目な声で言い出した。
「ゼルダとは、どんな女性なんだ? 僕は会ったことがないから、君がそんなに夢中になる理由が、
よくわからない」
「ゼルダは……」
 答えかけて、困った。
 どう説明したらいいだろう。とても一言では言い表せない。それでも、自分の思うままを伝える
しかない。
 リンクは拙い言葉をつなげていった。
「……きれいな人だよ。金髪で、青い瞳で……肌は白くて、いい香りがするんだ。表情がとても
豊かで……微笑んだり、はしゃぐように大きく笑ったり、不安そうになったり、寂しげだったり、
ちょっと涙を流したり……どの表情も魅力があって……拗ねたようになることもあるけれど、
そこがまた、かわいいんだよ。でもそれだけじゃない。頭がよくて、礼儀正しくて、気品があって、
王女らしい威厳も備わっていて……だけど、決して重々しかったり冷たかったりはしないんだ。
暖かくて、そばにいると、ほっと心が安らぐようで、この人を守ってあげたいと思わずには
いられなくなって……そんないろんな面があって……それが自然に一つになっていて……とにかく
……なんていうか……そんな人なんだよ」
 想いが少しずつ広がってゆく。
「ゼルダに初めて会った時……世界の危機を知って、それに立ち向かおうとしている人が、ぼくの
他にもいるとわかって……同志という一体感が生まれて……ぼくはとても嬉しかった。それから……
ゼルダは友達がいないって言うから……『ぼくじゃだめかな』って訊いたら……ゼルダは笑って、
『ありがとう』と言って……それでぼくたちは友達になったんだ。でも……」
 胸がどんどん高ぶってゆく。
「同志とか、友達とか、それはとても大切なことだけれど……ぼくとゼルダの間には……それとは
別に……『何か』があるんだ。二人を繋ぐ『何か』があるんだよ。それは確かなことなんだ!」
 言い切る。言い切れる。しかし……ああ、しかし……
「確かなんだ、と……ぼくは信じているけれど……それはぼく一人が思っていることで……
ゼルダがぼくをどう思っているのか、ぼくにはわからない。もし……もしゼルダが……ぼくの生の
気持ちを受け入れてくれるとしたら……そしてゼルダが……同じように……ぼくを見たいとか、
ぼくに触れたいとか、言ってくれるとしたら……とても嬉しいよ。それほど嬉しいことはないさ!
でも……ゼルダが……女の人のすばらしさを一身に集めたみたいな、あのゼルダが……そんな
ことを受け入れたり、言ったりするなんて……ぼくには……とても……思えないんだ……」
 声は徐々に弱まり、最後には小さくなって消えてしまった。
 シークが再び口を開いた。
「ゼルダをそこまで想っていながら、君は他の女性にも欲望を感じるわけだ」
 揺れる感情に水を浴びせるような台詞だった。
「それは……」
 ぐっと言葉に詰まる。シークがさらに追い討ちをかけてくる。
「他の女性にもそれぞれ魅力があって、ああしたいとか、こうしたいとか、考えてしまうんだろう」
 そのとおりだ。言い返せない。
「そんな具合に複数の女性を思うのが、何か悪いことのように感じられる。けれども欲望は
止められない。そうだな?」
「……そうだよ。でも……ぼくにとってゼルダは……ぼくとゼルダとの間には、他の人とは違う
『何か』があって……」
「その『何か』のことだが──」
 シークがさえぎった。
「君はゼルダを愛しているのか?」
2783-4 Sheik II (7/9) ◆JmQ19ALdig :2007/07/01(日) 15:49:16 ID:8Cllluok
 愛? 愛とは何だろう。
 アンジュの言葉を思い出す。大人になったらわかると、アンジュは言った。ぼくは大人になった
けれど、いま、それがわかるだろうか。
『この人に触れていたい、この人に抱かれたい、この人が欲しい……そう思うの』
 それはわかる。いまのぼくには。だけど、それだけじゃなかった。
『お互いを大事に思って……この人のそばにいたい、この人と一緒に生きていきたい、この人の
ためなら何でもできる……って、思うようになるの』
 わかるようでもあり、わからないようでもある。
『お互いを大事に思って』
 ──ぼくはそうであっても、ゼルダの方はどうなのだろう。
『この人のそばにいたい』
 ──それはわかる。だが、そばにいて、ぼくはどうすると?
『この人と一緒に生きていきたい』
 ──欲望を向けるばかりで、先のことまでは考えていなかった。
『この人のためなら何でもできる』
 ──できる、と言いたくはなるが、ではいったい何をするというのか。
 抽象的で、ぴんとこない。確信を持って「愛している」とは言い切れない。
「愛……って何なのか、ぼくには、よくわからないよ」
 そう答えるしかなかった。
 シークは黙って何ごとかを考えているようだったが、しばらくして、
「君の悩みは、だいたいわかった」
 と言い、変わらぬ冷静な口調で先を続けた。
「気にしすぎないことだ。男が女に欲望を抱くのは──たとえ対象が複数であっても──ごく
普通のことなんだ。いわば男の本能であって、別に悪いことじゃない」
「君も……そうなのか?」
「ああ」
 リンクは大きく息をついた。
「そうか……」
 ぼくだけじゃなかったんだ。それがわかっただけで、かなり楽になれる。
「ゼルダについては──」
 シークが言葉を継ぐ。
「君がゼルダに会わなければ解決はしないのだから、それまでは、あれこれ考えすぎない方がいい」
 そう言われれば、そのとおりだけれど……ゼルダのことを考えないでいることは……ぼくには……
「ゼルダという女性に幻想を抱かないことだな」
 冷めた声だった。
「幻想?」
「ゼルダは君が考えているほど立派な女性ではないかもしれない、ということさ」
「何だって?」
 思わず、むっとしてしまう。が、シークは涼しい顔をしていた。
「むしろその方が君にとっては好都合だと思うんだが」
 何が言いたいんだろう。
「僕の言う意味がわからないか?」
「さっぱりわからないね」
 ふざけているのか、と思ったが、じっとこちらに据えられたシークの目を見ると、そんな
様子でもない。
 少し間をおいて、シークはまたも奇妙な発言をした。
「君は女性を知るべきだな」
 女性を知る? どういうことだ? ますますわからない。
 シークは視線をそらし、焚き火に木の枝をくべ始めた。話を打ち切ろうとする意思が感じられ、
リンクはそれ以上、問いただすことができなかった。
2793-4 Sheik II (8/9) ◆JmQ19ALdig :2007/07/01(日) 15:50:18 ID:8Cllluok
 夜が更け、もう眠ろうかという頃になって、シークが思い出したように口を開いた。
「君に新しいメロディを教えておこう」
 水の神殿に関係があるというその曲──『水のセレナーデ』を、シークは竪琴で奏し、リンクは
『時のオカリナ』で繰り返した。
 曲を覚えてしまうと、あることが気にかかった。
「シーク、君はこの曲をどうやって知ったんだ? 『森のメヌエット』もそうだけど」
「神殿の前にあるゴシップストーンからだ。この曲を聴かせると反応するんだ」
 シークが新たに演奏する曲を聴き、リンクは驚いた。
「君も知っていたのか」
 不思議そうな顔をするシークの前で、リンクはその曲をオカリナで吹いてみせた。シークは
無言で聴いていたが、リンクが曲をひととおり吹き終わり、続けてもう一度繰り返しにかかると、
竪琴を弾いて伴奏を入れ始めた。初めは一小節ごとにぽつりぽつりと。そして曲の中ほどの
高音部に達するところで、上昇するアルペジオがかき鳴らされ、次いで煌めくような分散和音が
曲を彩った。
 暗黒に満ちた夜の荒野に、オカリナと竪琴の二重奏が流れてゆく。知りつくしたはずのその曲が、
竪琴による伴奏で、より美しく生彩をもって耳に届く。
 リンクは深い感動を味わった。竪琴の熱心な演奏ぶりから、シークも同様に感動しているのは
確かだと思われた。
 何度かの繰り返しのあと、竪琴が結尾の和音を加え、それを合図に演奏は終わった。二人とも
言葉を発しなかった。余韻が言葉を奪っていた。
「いい曲だな」
 やがてシークが、そっと沈黙を破った。
「ほんとうにきれいな曲だね」
 リンクも応じ、思いをつけ加えた。
「ゼルダにぴったりだよ」
「ゼルダに?」
 またもシークが不思議そうな顔になる。
「この曲の題さ。『ゼルダの子守歌』……君は知らなかったのかい?」
「僕は、ただ……子守歌とだけ……」
「……そうか。ぼくはインパにこの曲を教わったんだ。昔から王家に伝わる歌で、ゼルダが幼い
頃から子守歌として聞かせていたと……そう言っていたな」
 シークは返事をせず、つと立ち上がると、就寝前の片づけを始めた。
 交代で眠ることは議論するまでもなかった。その夜は、まずリンクが睡眠をとり、シークが
見張りをすることになった。
 眠りにつくため、リンクは洞窟へ向かったが、入口の所で歩みを止めた。
「シーク」
 ふり返るシークに向け、リンクは明確な意思をこめた言葉を送った。
「君はゼルダに幻想を抱くなと言ったけれど……ゼルダはすばらしい人だよ。その考えは変わらない」
 シークは頷き、
「わかった」
 と答えた。それで満足し、リンクは洞窟の中に入った。
2803-4 Sheik II (9/9) ◆JmQ19ALdig :2007/07/01(日) 15:52:07 ID:8Cllluok
 火を前にして、シークはリンクとの会話を回想した。
『君はゼルダみたいなことを言うね』
 リンクの、あの言葉が、僕を敏感にしてしまったようだ。
 その後、リンクは沸きたつ性欲に翻弄されていることを告白し始めた。リンクの関心が誰に
向いているのか、確かめずにはいられなかった。
 どうということはなかった。かつて僕を悩ませた、アンジュやルトやサリアとの関係も、
いちいち胸の痛みを感じていたのが馬鹿らしくなるくらい──と片づけてしまうには、なにがしかの
抵抗も残るのだが──他愛のないものだった。その程度なら、僕もすべて──いや、それ以上の
ことだって──経験している。
 リンクは複数の女性に欲望を抱いてしまうことを、いたく気にしているようだ。しかしリンクにも
言ったように、男が複数の女を意識するのは当たり前のことなのだ。事実、僕だって複数の女性と
関係しているのだから。
 ただし、問題はある。七年間の封印は、肉体的な成長をこそリンクにもたらしたものの、
精神的には影響を及ぼしていない。
「もてる」という言葉を知らない。「好き」という言葉にその種の意味を感じ取れない。
 身体は大人でも、心はまだ子供なのだ。その不均衡が、いまリンクに大きな混乱を引き起こして
いる。このままでは、発達した身体に心が追いつかず、混乱は増すばかりだろう。使命の遂行にも
支障が出るのは間違いない。
 リンクはセックスを知らなくてはならないのだ。
 知ってしまえば、混乱も収束するはずだ。以前の僕が、インパとの体験で立ち直ったように。
 それに、この先、リンクはゲルド族と接触することになる。セックスの問題は避けて通れない。
これも僕自身が経験したこと。
 リンクと他の女性とのセックス。そこに──なぜか──引っかかりのような感情が湧く。だが
これは必要なことなのだ。ゼルダに対するリンクの特別な想いが──これも理由はわからないが──
その感情を和らげてくれるような気がする。
 ゼルダといえば……かつて、カカリコ村の酒場で、ゼルダをネタにした猥談で盛り上がっていた
連中には、大きな怒りを覚えたものだが……リンクの、あの欲望の告白は、あまりにも正直で、
まっすぐで、むしろ微笑ましく、好感を覚えるほどだ。
『確かにゼルダは王女だけれど、それ以前に、ゼルダはゼルダなんだ』
 その曇りのない見方も喜ばしい。
 ただ……あそこまでゼルダを賛美しなくともよいのに、とも思う。聞いていてこちらが恥ずかしく
なった。ゼルダという存在を必要以上に神聖視するのはよくない。あとになって実際との齟齬が
出てきた場合に、よけいな混乱を招きかねない。この点の忠告は、リンクには理解できない
ようだったが……これもリンクがセックスを経験すれば、自ずとわかることだろう。
 残る問題は……リンクの相手だ。
 こればかりは僕ができることではない。ゼルダであれば最適なのだろうが、現状では不可能だ。
そうなると……僕の知る限りでは……
『彼女しかいないだろう』
 その人物のことを考えると、心に引っかかりを──さっき抱いたものとは別の種類の引っかかりを
──どうしても感じてしまう。が……これは必要なことなのだから……
『愛……』
 リンクには偉そうなことを言ったが、僕だって、愛の何たるかを知ってはいない。リンクは
いずれ知るだろう。だが僕は?
 脈絡もなく、子守歌のことが想起される。『ゼルダの子守歌』。僕はそれをどこで知ったのか。
なぜ題の『ゼルダ』という部分だけを思い出せなかったのか。
 わからない。
 だが……それが僕の記憶の欠落部に属することであるならば……その問題が解決する時こそ、
愛のことも、わかる……そんな気がする。
 シークは竪琴を構え、抑えた音で『ゼルダの子守歌』を奏でた。冷ややかな夜気さえをも
和ませるかのような、優美な旋律を紡ぎながら、自分と、そしてゼルダという人物との間に
結ばれている、不思議な、しかし確かな繋がりを、シークは感じていた。


To be continued.
281 ◆JmQ19ALdig :2007/07/01(日) 15:53:01 ID:8Cllluok
以上です。長くなりすぎました。予定とは異なりますが、ここで章を替えます。
よって、もう一章のみ、エロ無しが続きます。それが最後です。ほんとうにすみませぬ。
282名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 16:14:17 ID:u5+3Eqo6
己の性欲を語るリンク(;´Д`)ハァハァ
シークの言う「彼女」が誰か気になるな・・・

乙です、GJ!!
次も期待してます

283名も無き修行者:2007/07/01(日) 16:23:16 ID:HME8x8bx
GJ!!!今日中に続きが見たいです!
284 ◆JmQ19ALdig :2007/07/01(日) 16:46:23 ID:8Cllluok
>>283
あ、いや・・・続くといってもさすがに今日中は無理です。いつものペースということで・・・
285名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 17:37:58 ID:U6Wmud5R
GJ!
リンク可愛いなw
ところでlmQ19ALdig氏のマロン×リンクが保管庫にないんだが
誰か持ってないか?
286名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 17:51:44 ID:1nVyGCk9
あいかわらず性欲をもてあますリンクと
ゼルダを褒められて照れるシーク(;´Д`)ハァハァ
287名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 19:09:22 ID:eyC5bpg/
若いって、いいよな
288名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 22:05:13 ID:aNffWcCW
GJ!!
シークもいつの間にか「ゼルダ」と呼び捨てにしてるのなw

『彼女』とは一体誰だろう?
勝手にアンジュさんとでも予想しとくか。
289名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 22:27:00 ID:GTEofqxw
GJ
第三部に入ってから、すごく話がしっとりとしてていいですなあ。
第二部ももちろんおもしろかったけど、心臓に悪かった。
290名無しさん@ピンキー:2007/07/02(月) 15:20:50 ID:xFsrKIaF
GJGJ!
エロ無しでもこういうの好きだ
一人でニヤニヤしている自分テラキモスw
291名も無き修行者:2007/07/02(月) 17:26:11 ID:p361MJLO
ずっと思ってたんだけどアンジュって誰だ?忘れた。
292名無しさん@ピンキー:2007/07/02(月) 22:05:20 ID:6KRlZn4C
>>291
カカリコ村にいるコッコねえさんのこと。
本来は名無しだが、作中で「コッコねえさん」という名前にするわけにもいかないので、
ムジュラでコッコねえさんのそっくりさんとして出てくる「アンジュ」の名を借りた。
293名も無き修行者:2007/07/03(火) 16:34:33 ID:lpQBONzB
>>292サンクス。
294名無しさん@ピンキー:2007/07/04(水) 00:12:51 ID:yb4nPsod
なんとゆうクオリティ・・・ただで読ませるのが勿体ない。
しかもなにげに浮気の話題について触れているのは偶然?
GJです!
295名無しさん@ピンキー:2007/07/06(金) 21:12:40 ID:0ipcK8+O
早く続き書いてくれー。
296名無しさん@ピンキー:2007/07/06(金) 22:54:41 ID:AkJZhSUy
催促はよくありませんぞー
297名無しさん@ピンキー:2007/07/06(金) 23:06:51 ID:hgPtd6ik
そこはこう言うべきだろう。

「催促する男の方は、よくありませんよ」

いや、男かどうかは知らんが。
298名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 05:34:48 ID:TBkWTW+D
もうどっちでもWiiDSよ
299名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 14:09:58 ID:Kdska9NS
5 :枯れた名無しの水平思考 :2007/07/06(金) 18:45:28 ID:3ZELDAaP0
>>1
乙です

http://game11.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1183714963/l50#tag276
夢幻の砂時計本スレで神が現れたな。
300 ◆JmQ19ALdig :2007/07/07(土) 14:35:18 ID:MCwPn7Re
私本・時のオカリナ/第三部/第五章/ルト編その3、投下します。
やはりルトは(通常の意味では)登場しません。エロ無し。鬱な話です。
最終レスは「心臓に悪い」かもしれません。
3013-5 Ruto III (1/8) ◆JmQ19ALdig :2007/07/07(土) 14:38:02 ID:MCwPn7Re
 ハイリア湖へは同行しない──とシークは言った。
「その次の目的地は、カカリコ村か『幻影の砂漠』になる。近いのは後者だが、ゲルド族の
支配領域を突破するのは容易ではないから、前者を優先すべきだ。僕は先に行って、状況を
探っておく」
 カカリコ村に近い、平原の端にある台地で落ち合うと決めたのち、北へ向かうシークと別れ、
リンクは西へと道を取った。
 前夜のシークとの会話が、鬱屈をかなり解きほぐしてくれていた。女性を求める欲望について、
まだ理解できない点が少なからず残ってはいたものの、自分がとりたてて異常なのではない、
ということがわかり、リンクの心は軽くなっていた。荒野からハイラル平原に入って、またも目に
つき始めたピーハットに対しても、無差別に戦いを挑むことはせず、不必要な場合は迂回する
だけの余裕ができた。
 だが次第に、今度は現実がリンクをうち沈ませるようになった。

 南の荒野からハイリア湖へ至るには、ハイラルの最南端部を移動することになる。シークから
行程の詳細を教えられていたので、道に迷うことはなかったが、重苦しい雲の下、一軒の人家も
ない辺境を独り歩んで行く旅は、実に気が滅入るものだった。
 その気分をさらに滅入らせるものが、やがてリンクの目に入ってきた。
 平原に野ざらしの死体が散在していた。いずれも白骨化が進んでいたが、中には形状が保たれた
ものもあった。それらは骨と皮ばかりに痩せ、何かの印なのか、火傷のような模様が背中に
つけられていた。皮膚には他にも多数の傷があり、さらに骨にまで達する大きな切創が認められた。
剣で斬られたとわかるその切創が、死因となったことは明白だった。
 人の死体を見たくらいでは動じなくなっていたが、それでも荒涼とした死の光景を前にして、
リンクの胸は痛んだ。
3023-5 Ruto III (2/8) ◆JmQ19ALdig :2007/07/07(土) 14:38:40 ID:MCwPn7Re
 ハイリア湖の風景は、リンクを驚愕させ、重い心をさらに重くさせた。
 湖の水量が減少していることはシークから聞いていたが、実際には、そこは予想以上の惨状を
呈していた。七年前には満々と水を湛えていた湖が、いまは大きく陥没した空間と化し、水は
せいぜい足首が浸かるほどしか残っておらず、湖底の岩や泥があちこちに露出していた。
 みずうみ博士の家は、以前と同じ場所に建っていた。ただ、かつては湖岸にあって、美しい
水面に影を落としていたその家は、湖水の消失により、いまは陥没部にせり出した崖の上に
位置する形となっていた。古びた雰囲気が増してもいた。しかしそれは、変わり果てた風景の中で、
自分の記憶に合致する数少ない要素の一つであり、リンクの心は多少なりとも安らいだ。
 家の前に立ち、戸を叩く。
 返事はない。
 またどこかへ出かけているのだろうか。あるいは……博士もすでに……
 いやな予感が胸に漂い始めた時、家の中で物音がした。ほっとしてノブをつかもうとすると、
先んじて、戸がゆっくりと開かれた。
 みずうみ博士が立っていた。
 この世界で目覚めてから、旧知の人を見るのは初めてだった。懐かしさのあまり──いや、他の
理由も加わって、リンクは声を出すことができなかった。
 もともと年寄りではあったが、七年の歳月は否応なしに、さらなる老いを博士にもたらしていた。
顔の皺は増え、腰は曲がり、頭髪はほとんどなくなっていた。何より驚いたのは身長の低さで、
以前は向かい合った際に見上げていた顔が、いまは、はるか下に見えているのだった。自分の
身長が伸びたのが、その理由であることに気づくまで、少し時間がかかった。
 博士は無言でリンクに目を向けていた。不審そうな態度だった。
 ぼくが誰なのか、わからないんだ。
 リンクは、ようやく口を開いた。
「……久しぶり。ルト姫と一緒に来た時には、ほんとうに、お世話になったね」
 博士の目が見開かれ、がくりと顎が下がった。
「……リンク……か……」
 リンクが頷いて見せても、博士の顔は長い間、茫然と固まったままだった。が、そのうちに、
愛おしむような笑みが、徐々にその表情を満たしていった。
「よう来た。よう来たのう……さあ、さあ中に入って……」
 目を潤ませて手を引く博士に向け、リンクも笑みを返した。笑い合える人との出会いが、実に
嬉しく、ありがたく感じられた。
3033-5 Ruto III (3/8) ◆JmQ19ALdig :2007/07/07(土) 14:39:23 ID:MCwPn7Re
 いままでどうしていたのか──という博士の質問には、口を濁したリンクだったが、現在の
目的については明確に述べた。
「水の神殿に用があって来たんだ」
「水の神殿?」
 二人はテーブルをはさんですわっていた。リンクの言葉に対し、博士は眉間に縦皺を寄せ、
不思議そうに言った。
「前にも神殿のことをわしに訊ねた者があったが……お前さん……もしかして……」
「シークなら、ぼくの友達だよ。ぼくがここへ来たのも、シークに神殿のことを教えてもらった
からなんだ」
 博士はリンクに目を据え、探るように問いかけてきた。
「どんな用じゃ?」
 言ってよいものかどうか、少し迷ったが、リンクは正直に話すことにした。博士は信頼できる
人だとわかっていたし、平原や湖の悲惨な光景が自分に抱かせていた、何とかしなければという
焦りにも似た思いを、解放しておきたかったからでもあった。
 ガノンドロフを倒し、世界を救う。そのために、ハイラル各地の神殿に関わる賢者に会い、
彼らを覚醒させる。
 博士は呆れたような顔で聞いていた。
「世界を救うとは……こりゃまた、大きく出たものじゃのう」
 七年前の、あの小さな子供が──とでも言いたげに、しかしあくまでも飄々とした調子で、
博士は嘆息した。ふとその目が動き、リンクの傍らへと向いた。
「その剣は?」
 リンクは横に置いていた剣を手に取り、短く答えた。
「マスターソード」
「マスターソード?」
 博士が裏返った声で繰り返した。
「あの……勇者の資格ある者だけが抜き放てるという……伝説の……退魔の剣か? なんで
お前さんがそんなものを……」
 さすがは物知りの博士だ。マスターソードのことを知っていた。
 心の中でそう感想を抱きつつ、リンクは、博士の注意が、剣とともにあった楯へも向けられて
いるのに気がついた。
「ハイリアの楯……じゃな」
「これを知っているの?」
 ぼく自身は、この楯のことを知らない。時の神殿で目覚めた時、いつの間にか背負っていた
ものだ。強力で立派な楯だとは思っていたけれど……
「昔からハイラル王家に伝わる楯じゃよ。マスターソードのような、特別な力を持つわけでは
ないが……やはり勇者が持つべきものとされておる」
 自らの言葉で改めて気づいたかのように、博士は驚きのこもった目でリンクを凝視した。
「どういうわけかは知らんが……リンク、お前さんが……勇者……とは……」
 リンクは顔を伏せ、小さく苦笑いした。勇者と人に呼ばれるのは、まだ面映ゆい気がした。
その気恥ずかしさもあって、続くリンクの言葉は、やや急き込んだものになった。
「……で、神殿のことを訊きたいんだ」
 博士はなおも気を奪われたように、
「シークは……なぜ神殿に興味を持つのかとわしが訊ねても、決して理由を言おうとはせなんだが
……そうか、シークは……お前さんを……待っておったんじゃな……」
 と独言したが、不意に表情を穏やかにして、言葉を続けた。
「勇者殿のお訊ねとあらば、お答えせねばならんのう」
 おどけた口調ではあったものの、顔には暖かい微笑みが浮かんでおり、博士がリンクの現在の
立場を認めてくれたことがうかがわれた。
3043-5 Ruto III (4/8) ◆JmQ19ALdig :2007/07/07(土) 14:40:07 ID:MCwPn7Re
 戸外に出、リンクは博士とともに、かつての湖岸の線に沿って歩いていった。
「湖も、すっかり変わってしまったね」
 どうしても声が暗くなる。答える博士の声も沈鬱だった。
「うむ……もう湖と呼べる場所ではないの。ゾーラ川から流れこむ水は、ほとんどなくなっておる。
最近は天候が不順で、雨が増えた分、かろうじて完全には干上がらずにすんでおるがな。それで
わしもまだ、この地で暮らしてゆくことができるんじゃが……」
 石柱が立ち並ぶ所まで来て、二人は足を止めた。
 この石柱が続いている先の小島の奥底に、水の神殿がある。湖の最深部である小島の前には、
まだ水が残っており、底に神殿の入口とおぼしき穴が見えている。潜ってゆけば神殿の中へ入れる
かもしれない──と、博士は語った。
 その話を胸に刻んだのち、リンクは博士に別の質問をした。
「『水の賢者』について、博士は何か知らないかな。ルト姫が賢者ではないかと、ぼくとシークは
考えているんだけれど……」
「ルト姫が?」
 意外そうに繰り返す博士は、しかしこれといった情報を持ってはいなかった。
「ルト姫は……ほれ、七年前、お前さんと一緒に、ここを去るのを見送ったじゃろう。あれきり、
わしも会ってはおらん」
 水が減ったために、地下水路の入口はここだとわかったのだが──と、博士は、石柱の基部に
あたる、湖の底に近い場所に開口した四角い穴を指した。
「ゾーラの里の氷結で、地下水路の水流も止まってしもうたのじゃな。いまはただの穴にすぎん。
もう里と行き来することはできまいし……ルト姫とて、ここへ来ようとしても、来ることは
できなんだのじゃろう……」
 失望が胸を浸す。それを振り払おうとして、リンクは周囲を見渡した。
 意外なものが目に入った。遠く離れた所にある釣り堀の入口の前に、一人の男がすわっていたのだ。
「釣り堀の親父さんも、無事だったんだね」
 記憶を引き出したリンクに対し、博士は首を振った。
「いや……あの親父は、ゲルド族に殺されてしもうたよ」
「え? じゃあ、あの人は……」
 リンクの視線を追って、その男を認めた博士は、
「ああ、あれは──」
 と説明を始めた。
 半年ほど前、ここへ流れてきて、釣り堀の跡地に住みついた男。当初は衰弱しきっており、
身体を動かすこともできなかったので、以来、博士が食事の世話などをしてやっている。いまは
体力も回復したはずだが、生きる気力がないようで、何をするでもなく、一日中、ああやって
ぼうっとしている。背中に焼印があるのを見た。ゲルド族の所から脱走してきた奴隷ではないか……
『焼印?』
 リンクは、平原の死体の背にあった、火傷のような模様を思い出した。
 あれは奴隷の印だったのか。彼らも脱走した奴隷? それでゲルド族に追われて殺された?
近くに人家もないのに、彼らがどこからあそこへ来たのか、疑問には思っていたが……
 博士に話してみた。博士はリンクの考えに同意し、さらにこう続けた。
「以前は奴隷の集団脱走など、考えられんことじゃったが……どうも最近は、ゲルド族の間にも
混乱が生じておるとみえる」
 混乱? 何が起こっているのだろう。今後の旅に影響することかもしれない。シークとも
相談してみよう。
 そう心に決め、リンクは再び、釣り堀の前の男へと関心を戻した。
「あの人は……元はどこに住んでいたのかな」
「さあ……自分の素性を全く話さんのじゃよ。よほどつらいことがあったのか……あるいは記憶を
失っておるのかもしれん。じゃが──」
 時に、家畜やミルクの話に興味を示すことがある。牧場で働いた経験があるのではないか──と、
博士は説明を追加した。
『牧場?』
 そこに注意を惹かれた。
3053-5 Ruto III (5/8) ◆JmQ19ALdig :2007/07/07(土) 14:40:39 ID:MCwPn7Re
 釣り堀の入口まで来たリンクは驚いた。男が誰なのかがわかったのだ。
「タロンおじさん!」
 その顔は確かに、ロンロン牧場で会ったタロンのものだった。ぼろぼろになった服にも見覚えが
あった。ただ、そうとわかったのも、牧場という予備知識があったからかもしれない。それくらい
タロンの風貌は変わってしまっていた。でっぷりと太っていたのに、いまは見る影もなく
やせ衰えている。
「知り合いか?」
 びっくりしたように訊ねる博士をよそに、リンクはタロンに対し、矢継ぎ早に言葉をかけていった。
 ほら、前に牧場を訪ねたリンクだよ。どう? 身体の具合は? これまでどこで何を?
 タロンは何も答えなかった。こちらに顔を向けはしたが、目はどんよりと濁り、リンクの言葉を
理解しているようには見えなかった。
 やはり記憶をなくしているのか──と、リンクは暗澹とした気持ちになり、かける言葉も
途切れてしまった。
 それにしても、タロンがここにいるということは……いまロンロン牧場はどうなっているの
だろう。マロンはどうしているのだろう。気になる。が……訊いても反応は得られまい。
 リンクは、辛抱強く待っていた博士に、この男がタロンという名前であること、ハイラル平原の
中央部にあるロンロン牧場の主人であることを説明した。
「このあと、ぼくはカカリコ村へ行くんだけれど……途中で牧場に寄ってみるよ。事情がわかると
思うし、ここへ迎えに来るように伝えられるかもしれないから」
「うむ……家族がおるのなら、知らせてやるのがよかろう。じゃが……」
 そこで言葉を切り、博士はタロンに目をやった。
「こんな状態じゃからのう……連れ帰るのが、果たしてよいことなのかどうか……まあ、それも
先方の事情によりけりじゃが……」
 痛ましげな表情でタロンを眺めていた博士だったが、やがてリンクに向き直り、安心させる
ような調子で言った。
「最近はゲルド族が湖へ来ることはないから、ここにおれば、とりあえず命の心配はない。連れに
来るにしても、あわてんでよいと……そう伝えてやってくれ」
 自分自身のことではなかったが、博士の親切な申し出に、リンクは心からの礼を述べた。
3063-5 Ruto III (6/8) ◆JmQ19ALdig :2007/07/07(土) 14:41:12 ID:MCwPn7Re
 博士の家で一夜を明かし、翌日、リンクは水の神殿を探索した。
 干上がった湖底を歩き、神殿があるという小島に近づいた。博士の言ったとおり、そこにはまだ、
ある程度の広さで水が残っていた。水面から覗いてみると、底は意外に深く、小島の内部に向けて
通路らしい穴が延びているのが見えた。
 少しためらったが、ためしに水に潜り、穴の先を見透かしてみた。ぼんやりと光がうかがえる。
リンクは思い切って、穴の中へと泳ぎ進んでいった。
 予想したよりも距離があり、息が苦しくなった。
 戻った方がいいか……いや、もう少し……
 限界──と思った時、頭上が明るくなった。必死でもがき、水面へ浮き上がる。
 水から上がると、そこはもう神殿の内部だった。上方から射しこんでいる弱い光が、吹き抜けと
なった大きな空間を満たしていた。中央には、風変わりな意匠が凝らされた、塔のような高い
建物が、どっしりとした重みをもって立ちはだかっている。
 かつてゾーラ族が建てたという神殿。ゾーラ族以外の人間でここに入ったのは、ぼくが最初かも
しれない。
 感慨深かったが、それは湖水がなくなるという異常事態によって、初めて可能になったのだ。
その影響は神殿内にも及んでいるようだった。
 高い所の四方に扉がある。この空間に水が溜まっていれば、泳いでいけるだろうが、虚ろな
空間しかない現状では、そこへ至る方法はない。自分が立っている地階の四方にも道がある。だが、
それらは行き止まりか、あるいは先のうかがい知れない水溜まりとなっていて、進むことが
できない。中央の建物にも扉があったが、押しても引いても開かない。
『時のオカリナ』を取り出し、『水のセレナーデ』を奏でてみる。
 何も起こらない。
 得るところなく、沈んだ胸を抱えて、リンクは神殿を去った。
3073-5 Ruto III (7/8) ◆JmQ19ALdig :2007/07/07(土) 14:41:52 ID:MCwPn7Re
 博士の家の横から、沖の小島に向けて延びている橋を、リンクはそろそろと渡っていった。
七年前は平気で走り渡った橋だが、湖に水のない現在は、高い絶壁をつないでいるような状態で
あり、とても走ってゆく気にはなれなかった。
 その絶壁にはさまれた深い谷を越え、リンクは第二の小島に到達した。この島は内部に水の
神殿をひそませている。神殿内に光が射していたので、島の上から内部に侵入する道があるのでは
ないか、と思ったのだ。
 しかし、道はなかった。
 リンクは木の根元に腰を下ろし、大きくため息をついた。
 ずっしりと疲れが身を侵す。
 ここでも神殿の探索は徒労に終わった。賢者の消息もつかめなかった。
 その賢者のことに、ぼんやりと思いを馳せる。
『ルト……』
 七年前、ぼくはここへルトを捜しに来て、でもなかなか見つからないで、いまと同じように、
この木の根元にすわっていた。気晴らしにサリアのオカリナを吹いて、出会った人たちのことを
考えて……
 そうしたら、水の中からルトが現れたんだ。まさに目の前の、そこから、この島に上がってきて……
 体内が透けて見えそうな青白い肌。表面は濡れて輝き、身体中から水滴がしたたり落ちて……
 なんと清らかな肢体だったことか。
 控えめな胸の隆起。下腹部の淡い叢。大人になりかけの、それでもぼくにとっては圧倒的に
女だった、美しい年上の少女。
 記憶に身体が反応し始める。が……
 その少女の行方も、いまは知れない。ただでさえ陰鬱な風景の中で、それを思うと、さすがに
欲望を煮立てる気にはなれない。
 そういえば、七年前にも、ルトの裸に、ぼくの身体が反応しなかったことがあった。
 ゾーラの泉でバリネードを倒して、そのあと、ルトがぼくの前で大泣きして……
 高慢で、わがままで、頼りなげで、一途で、感情豊かだったルト。
 そう、あの時、ぼくは初めて、人というものの見方を悟ったんだ。
 人の多彩なあるがままを認め、受け入れること。それが理解の始まりになるのだ、と。
 ぼくが、女性に向かう自分の欲望を、結局は素直に受け入れることができたのも──あの妖精の
影響だけではなく──そうした経験があったからだろう。
 ルトとは、あれからすぐに別れてしまったけれど……もう少し接する機会があれば、ルトの
ことを、もっと深く理解できただろうに。
 その機会は、もう二度と得られないのだろうか。
『いや』
 リンクは立ち上がり、岸を目指して、再び橋を渡っていった。
 まだだ。まだ諦めてはいけない。
 その思いだけがリンクを支えていた。
3083-5 Ruto III (8/8) ◆JmQ19ALdig :2007/07/07(土) 14:42:34 ID:MCwPn7Re
 タロンのことを頼み、リンクは博士に別れを告げた。ハイラル平原に続く道へと向かいかけて、
気が変わり、もう一度、湖底を歩いて神殿の入口の前に立った。
 再起を期す。
 期待したような成果は得られなかったが、ここへはまた来ることになるだろう。『水のセレナーデ』も、
『森のメヌエット』と同じく、まだ使い所がわからないだけなのだ。
 去る前に、何か手がかりがないかと、小島の周囲を回ってみた。
 神殿の入口の、ちょうど反対側にあたる所で、湖底に横たわる白骨死体を発見した。仰向けの
格好で、半分ほどが泥に埋まっていた。
 もう驚きはしなかった。格別の感慨も湧かなかった。ああ、ここでも人が死んだんだな、と、
淡々と思うのみだった。
 思ったあと、自分が人の死に慣れてしまい、心が麻痺しつつあるのが実感された。リンクは
それを悔いた。
 死体の骨格はやや小さく、子供のものかと思われた。
 周囲には死体を取り囲むように、大きめの石が転がっていた。不自然な感じがした。注意して
見ると、石の一つには腐った縄が結ばれており、その端は死体の右脚の骨に巻きついていた。
 石を括りつけられて、湖に沈められたのだろうか。いったいどんないきさつがあったのだろう。
博士に訊けば、何かわかるかも……
 首を振る。
 知ってどうなるというのか。ぼくにできることは、何もない。
 重く立ちこめる暗雲から、ぽつりぽつりと雨が落ち始めた。それを機として、リンクは死体に
背を向けた。
 立ち去りかけて、足が止まった。なぜか、心が残った。
 ふり返り、死体を見下ろす。
 雨粒が頭蓋骨の眼窩の縁に滴下した。それはふるふると揺れながらそこにとどまっていたが、
やがて、つ──と流れ、頬骨の表面をすべり落ちていった。
 涙のように見えた。


To be continued.
309 ◆JmQ19ALdig :2007/07/07(土) 14:43:41 ID:MCwPn7Re
以上です。
最終レス>>308が「?」な方は、第二部/第四章 Ruto II を参照して下さい。

>>285 次回、その改訂版を投下します。
310名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 16:10:51 ID:Tz2FvX5h
(´;ω;`)(つД`)これはショッキングと言わざるを得ない
311名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 16:27:58 ID:rJbnYYIj
これは…
ルト姫…
312名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 17:08:46 ID:LgIxTvNh
くぅ。さすがにこれは・・・・。
ルト姫・・・・。
全部がおわったら帰ってきてくれるよな。



ついでにタロンも。
313名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 18:20:57 ID:yR3VEnXZ
ルト姫の全裸回想シーンでギンギンだったせがれも今はうちひしがれています(´;ω;`)
314名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 18:22:33 ID:yR3VEnXZ
前向きに考えるんだ!
つまり年取ってないってことだから
復活しても生えかけロリータルト姫のまま'`ァ'`ァ(*´Д`)=3 '`ァ'`ァ
315名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 17:32:52 ID:Cntuu2J1
GJですねぇ。てか何回も言うけど早く続き書いてくれ><
316名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 18:58:41 ID:7M/UC8Lf
催促する男の方は(ry

なんにせよ果てしなくGJ。
なんでこんなに描写とか上手いんですかッ
濡れ場があっても無くても、この作品、私は大好きです。
317名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 20:38:06 ID:QQRJY9ZJ
だいたい週イチペースみたいだから、それ以上の早さを求めるのは酷じゃね?
318名無しさん@ピンキー:2007/07/10(火) 00:49:55 ID:7Vr0sgjL
最近の週末の楽しみはこのスレを覗く事になってしまった
GJです!
319名無しさん@ピンキー:2007/07/10(火) 11:12:27 ID:+IITwIAf
同じくw
エロパロで続きが気になるなんて…!><
320名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 16:53:27 ID:6kBiV04b
sage
321 ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 11:56:15 ID:cgUG7W7O
私本・時のオカリナ/第三部/第六章/マロン編その4、投下します。
インゴー×マロン。陵辱風。短め。
マロン×リンク。のち逆転。
今回の話は、以前に投下したプレストーリーを書き直したものです。
すでに読まれた方には二番煎じで申し訳ありません。
3223-6 Malon IV (1/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 11:57:18 ID:cgUG7W7O
 ハイリア湖からカカリコ村へは、ハイラル平原を円形と見なすと、南西端から北東端への直径の
上をたどる旅になる。途中にゲルド族の支配領域をかすめる部分があるため、多少の回り道が
必要だったが、ほぼ一直線の行程と言ってよかった。リンクはその道を、一心に先へと進んでいった。
 途中にいくつか村があった。規模はさまざまだったが、いずれも家の数に比して人口は少なかった。
人々はみな、貧しく、疲れ果て、表情には絶望の色が滲み出ていた。
 目の前で苦しんでいる人を助けることも、世界を救う者としての使命ではないか。
 かつて、ジャブジャブ様の病気を治そうとして必死だったルトを見て、ぼくはそう思ったものだ。
しかしいまの自分は、この人たちに対して、直接的には何もできない。ただ将来の勝利を心に
誓って、前へ進むことしかできない。
 リンクは足早に村々を通り過ぎた。おのれの存在の小ささ、力の足りなさが心苦しかった。

 起伏の緩やかなハイラル平原だが、中央部は他の地域に比べて標高が高く、山とは呼べない
までも、ちょっとした丘と言えるくらいの隆起を示している。カカリコ村への道は、その丘の麓を
めぐって北東に延びていたが、リンクはある地点で進路を替え、丘の上へとなだらかな傾斜を
踏み登っていった。
 ハイリア湖を出発してから三日が経ち、その日もいま、暮れようとしていた。リンクは足を
速めたが、暗雲を透かしてわずかに光を届かせていた太陽は、リンクの思いに何の斟酌もせず、
あっさりと西の山脈の陰に姿を消した。大気は急速に夜の暗みへと染められてゆき、リンクが
丘の頂上に達した時には、すでに日没からかなりの時間が経過してしまっていた。
 かすかな月明かりの中、見覚えのある建物が、黒々と影をうずくまらせている。
 ロンロン牧場。
 ハイリア湖で会ったタロンのことを知らせなければ、という思いに駆られ、急いで門をくぐったが、
母屋の前まで来て、リンクの足は止まった。
 母屋に灯火は見えなかった。
 マロンはもう寝てしまったか。
 どうしよう。朝まで待った方がいいだろうか。それとも、いまからでも起こして……
 いや、そもそも、いまマロンがここにいるのかどうかさえ、わからない……
 迷いは背後からの声によって破られた。ふり向いたリンクは、母屋と向かい合う建物の、
わずかに開いた窓の奥に、淡い光を見た。
『確か、馬小屋だったっけ』
 声はそこから漏れてきたに違いない。人がいるのだ。
 安堵したリンクは、窓に歩み寄り、中を覗いた。
 その瞬間、女の叫び声と男の怒声が、リンクの耳を貫いた。
3233-6 Malon IV (2/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 11:57:53 ID:cgUG7W7O
「インゴーさん、もうやめて!」
「うるせえ!」
 平手打ちが頬を襲う。その衝撃で、マロンの身体は馬小屋の隅にふっ飛ばされた。
「おめえとのつき合いも長えんだ。そろそろ無駄な抵抗はナシにしたらどうだ?」
 下卑たインゴーの声。
「さあ、まずは口を使ってもらおうか、いつものようにな」
 いつものように。
 そう、この七年間、毎日がこの繰り返しだ。昼はこき使われ、夜は犯される。この最低の男に。
そしておそらく、この先もずっと……
 インゴーが黒光りする一物を取り出し、マロンの顔に押しつける。もはや逆らう気力もなく、
マロンはそれを口に受け入れる。以前には文字通り吐き気を催す行為だったが、いまではもう
慣れてしまった。物はたちまち膨張し、インゴーの息が荒くなってゆく。
『早く終わらせれば解放されるわ』
 それだけを思って、マロンは舌先に神経を集中させた。右手を茎に添え、ひたすら先端を刺激する。
鈴口からはすでに透明な液体があふれてきていた。
「ん……む……ち、畜生、おめえ……」
 声がかすれている。この調子でさっさといかせてやったら……
「もういい!」
 いきなりインゴーが身を引いた。自身の潤滑液とマロンの唾液とで、べっとりと濡れた肉棒は、
いまや極限まで膨れあがり、亀頭は天を向いていた。
「やばかったぜ……ずいぶんと上手くなりやがったな、このアバズレが!」
 アバズレ。
 聞き飽きたはずなのに、この罵倒を浴びせられると、いまでも身が震える。屈辱と……そして
羞恥のために。
「そんなにいやそうなツラしててもよ、もうおめえも感じてんだろ?」
 ……そうなのだ。身体が勝手に反応してしまう。下半身に蠢く怪しい感覚。いやでいやで
たまらない相手なのに、毎晩この男に犯されるうち、あたしの身体は狂ってしまった……
「フン、おめえは俺のせいだと思ってるかもしれねえがな」
 マロンの考えを見抜いたかのように、インゴーが嘲りの言葉を放つ。
「俺がそうしたんじゃねえ。おめえは根っからの淫乱なんだよ」
「そんな!」
「じゃあこれは何だ!」
 したたか顔を蹴られ、マロンは地面に倒れる。素早くのしかかったインゴーが、腕をスカートの
中に伸ばしてくる。手が下着の中に侵入し、秘部を荒々しくまさぐり始める。
「そらみろ、もう濡らしてやがるじゃねえか」
 やめて……許して……あたしをこれ以上苦しめないで……
「やっぱりガキの頃から、やたらマンズリしまくってるだけのことはあるぜ」
「それを言わないでえッ!」
 思わず叫びをあげてしまう。否定したくても否定できない事実。

 ソウ ワタシハ インランナ オンナ ナンダ
3243-6 Malon IV (3/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 11:58:33 ID:cgUG7W7O
「ケッ、手間をかけさせやがって」
 力の抜けた身体を乱暴に押し広げ、下着を剥ぎ取り、インゴーが性急に剛直を侵入させてくる。
もう言葉で責める余裕もなく、自分だけがゴールを目指し、欲望のままにせわしない運動を
反復し続ける。
 心の通わない交わり。
 だがマロンの方も、いったん火のついた欲情を止める術はなかった。早く終わらせれば、などと
いう意識は失われていた。継続する粘膜への刺激が、意思とは無関係にマロンを燃え上がらせていた。
 口からは規則的に喘ぎ声が漏れ、腰は上下左右に跳ね動き、陰核と乳頭は張りつめ、膣は激しく
収縮し……
『……アバズレ……淫乱……』
 脳内で繰り返される呪文のような響きが、マロンの蠢動をいっそう早めてゆく。それはすでに
インゴーのテンポを上回っていた。
「グッ……こいつめ……もう……」
 マロンの激しい動きに耐えかねてか、インゴーが一気に絶頂へと至る。
 ほとばしる奔流を肉壁に感知し、
「来る……来るわ……あ……あ、ああああッッ……!!」
 マロンもまた、否応なく、快感の頂点を極めさせられていた。

「まだ十五のネンネのクセしてよ。娼婦も顔負けだぜ」
 ことが終わって立ち上がったインゴーは、地面に横たわったままのマロンを横目で見やり、
そう吐き捨てて馬小屋を出ていった。
 動けない。動く気にもなれない。
 今夜、またあたしの呼び名が増えた。
 その卑しい言葉を口に出してみる。
「娼婦……」
 突然、視野がぼやける。抑えられていた涙がどっと湧いてくる。
『どうして……あたしは……』
 たまらなく自分が厭わしい。けれど、どうすることもできない。
 やっぱりあたしは、このまま堕ちていくしかない。どこまでも。どこまでも。
 血を吐くような嗚咽が、マロンの喉から忍び出た。
3253-6 Malon IV (4/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 11:59:16 ID:cgUG7W7O
 薄暗い空間の中でもつれ合う二つの人影。その光景から、リンクは目を離すことができなかった。
『これは……』
 名前が聞こえたとおり、男はインゴーだ。七年前に見た時と姿はさほど変わっていない。では
女の方は……あの見知らぬ少女は……ああ、いや、それでも……(美しく成長したいまでも、
かつての面影が残っている)……確かにマロンに違いなかった。
 しかし眼前の状況は、リンクの記憶と結びつかなかった。
 牧場の主人の娘と使用人。それが二人の関係だったはず。なのに、いまは……いったい何が
起こっているんだ? 二人の言葉も行動も、理解の範囲を超えている。
 インゴーはマロンを虐待しているとしか思えない。思えないが……インゴーに組み敷かれ、
苦しそうな表情で喘いでいるマロンからは、むしろ喜んでいるような雰囲気も感じられるのだ。
 コキリの森を出て、初めて『外の世界』に足を踏み出した時。七年間の眠りから覚め、荒廃した
世界を目の当たりにした時。リンクの日々は驚きの連続だった。だが目の前で繰り広げられる
光景は、いままでにない衝撃をリンクに与えていた。それは背筋を震わせるほど怪しい「営み」で
……そして甘美な「営み」だった。
 思い出す。
 あの感覚。
 ──そっと触れたサリアの唇……
 股間を硬くさせる、あの感覚。
 ──奔放にひるがえるルトの裸身……
 男の器官に凝縮する、あの感覚。
 ──熟れて開かれたアンジュの乳房……
 抑えても、抑えても、なお追い求めたくなる、あの欲望の感覚。
 ──夢に現れるゼルダの姿……
 それは数々の記憶と混じり合ってリンクの脳裏を駆けめぐり……
 もう少し、もう少しでわかるような……これは……これは……

 リンクは我に返った。
 マロンの上に覆いかぶさっていたインゴーが、身体を起こしていた。
 激しい胸の鼓動。やけに火照る頬。それらを自覚する暇もなく、馬小屋から出て行こうとする
インゴーの様子を察し、リンクはあわてて物陰に身を隠した。苦虫を噛みつぶしたような、しかし
どこか満足したようでもある表情のインゴーは、リンクには気づかず、横を通り過ぎ、母屋へと
姿を消した。リンクは警戒し、しばらくそのままの体勢を保っていた。いっとき母屋の二階の窓に
灯りが見えたが、それもすぐに消え、あとには静寂が残った。
 リンクは再び窓から馬小屋の中を覗いた。
 マロンは地面に伏して横たわり、そして……泣いていた。
 さっきとは異なった衝撃がリンクの胸を刺し貫いた。
 インゴーとの行為の間、マロンが垣間見せていた喜びの色。あれはぼくの錯覚だったのか。
 そうではないと思いながらも、マロンの喉から漏れ出る嗚咽は、彼女が確かに不幸であると、
リンクに強く信じさせずにはいられなかった。
3263-6 Malon IV (5/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 12:00:00 ID:cgUG7W7O
 マロンはのろのろと身体を起こした。快感はとうに消え、残ったのは惨めさだけだった。
 土と涙にまみれた顔。引き裂かれた衣服。鈍い痛みを訴える陰部。
 やっとのことで立ち上がると、投げ捨てられた下着が目に入った。それを拾おうと身をかがめた時、
右足に激しい痛みを感じた。インゴーの平手打ちで転んだ時に挫いたらしい。その痛みがマロンの
心をさらにかきむしった。
『もう、いっそのこと……』
 身も心も汚れきってしまっている。こんな状態で明日を迎えられる自信が、あたしにはない。
 かろうじて残った気力を振り絞り、マロンは馬小屋の外に出た。下着を穿き直す気にはなれなかった。
痛む足を引きずって、牧場の隅にある井戸へと向かう。
『せめて身体だけでも……』
 水を汲み、露出した下半身を洗い流す。その冷たさにマロンの身体は震え、全身に鳥肌が立った。
 でもまだ足りない。もう一度……もう一度……
 繰り返し水を浴びせながら、マロンは秘部をこすり立てた。いつもの自慰に似てはいたが、
快感は微塵もなく、むしろそれを拒否した行為だった。水の冷たさとの疲労のために、指が痺れて
動かせなくなるまで、マロンはひたすら機械的に作業を続けた。
 鬱屈した心が晴れるはずもないが、それでもやっと一息つき、マロンは立ち上がって、牧場の
反対側の端にある牛小屋へ歩いていった。マロンはインゴーに、その世話以外の用で母屋へ入る
ことを禁じられており、夜はいつも牛小屋の藁の上で眠るのだった。
 道のりの半分ほど、ちょうど牧場の真ん中あたりで、右足の痛みに耐えられなくなった。
マロンは草の上に腰を下ろした。濡れた股間に風が吹きつけ、いっそう冷たさが増して、マロンの
身体を震わせた。
 空は一面、暗雲に覆われ、わずかに月の光が漏れ差してはいるが、星はただの一つも見えなかった。
星とはどんなふうに光るのだったかしら、と、マロンはぼんやり思った。ガノンドロフが魔王と
化し、ハイラルを魔界に変貌させてしまって以来、空は晴れることがなく、星というものの記憶が
失われつつあるのだった。
『寒い……』
 風が強さを増し、マロンは思わず自分の肩を抱いた。常に空にある暗雲のため、気温は毎年
少しずつ下がり続けており、いまでは季節の感覚もない。農作物にも大きな影響が出ているはずだった。
『……これから……どうなるの……』
 どす黒い空を見上げ、自問する。が、その答はマロンにもわかっていた。
 絶望。それだけだ。
 喉から再び嗚咽が漏れる。
 もう未来はない。自分にも。そして世界にも。
 マロンは地面に伏し、泣き続けた。涙があとからあとから流れて止まらなかった。
3273-6 Malon IV (6/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 12:01:12 ID:cgUG7W7O
 馬小屋を出たマロンを、リンクはそっと追った。声をかけようと思ったが、窓から見た光景と、
悲しみに満ちたマロンの表情が、リンクにそうすることをためらわせた。足を怪我したのか、
マロンの歩みは遅く苦しげで、それがリンクの心をさらに重くした。
 あれが、咲きほこる花のような明るさを振りまいていた、あのマロンなのか。
 井戸のそばで体を洗っているマロンを、リンクは木の陰から見守った。
 どうしたらいいのだろう。わからない。だが、何か……何かしなければ。このままマロンに背を
向けて去ることは絶対にできない。
 思いに押され、牧場を横切って歩き出したマロンのあとを、リンクは追って行った。牧場の
真ん中あたりでマロンは歩みを止め、すわりこんだ。しばらく空を見上げていたが、身を伏せ、
また激しく泣き始めた。その泣き声が、先刻よりもさらに強く、リンクの心を揺さぶった。
 ここにもまた、苦しんでいる人がいる。
 自分がこの世界にいる理由。それを思い出したリンクは、意を決してマロンのそばに歩み寄った。
 草を踏むかすかな音に気づいたのか、マロンが、はっと顔を上げた。
「誰?」
 怯えたような声。リンクはマロンの前で膝をつき、顔を近づけた。
「誰なの?」
 涙に汚れ、不安そうなマロンの顔。それは固く、解ける気配もなかった。
 七年の時が経ち、ぼくも成長している。わからないのも無理はない。
 リンクは懐からオカリナを取り出し、マロンに示した。そして、七年前、ちょうどいまと同じ
場所でマロンに教わったメロディ──『エポナの歌』を静かに奏でた。
 マロンの目が見開かれた。
「その曲……それを知っているっていうことは……あなた……あなた、リンク……リンクなのね!?」
 マロンは声を上げ、驚きとも喜びともつかぬ表情でリンクを見ていたが、たちまち顔が
くしゃくしゃに崩れ、どっとその身を預けてきた。両手がリンクの服をつかみ、顔が胸に
押しつけられ、口からは号泣があふれ出た。それはあたりを憚らぬ大声でありながら、
さっきまでの苦しい泣き声とは異なって、リンクの心を痛めはしなかった。むしろこのまま
泣かせてやりたい。リンクはそう思い、マロンの肩をそっと抱いた。
 マロンは激しく泣き続けた。リンクはかける言葉もなく、ただマロンを抱いていることしか
できなかった。が、徐々に声を静め、落ち着きを取り戻してゆくマロンの様子で、リンクは、
自分の行動は誤りではなかった、と悟った。
 マロンの腕の力がゆるみ、胸から離れた顔がリンクに向けられた。大量の涙のため、顔はさらに
ひどく汚れていたが、目にはそれまでにない光が宿っていた。
「久しぶりね……ほんとに久しぶりね」
 マロンの手がリンクの手に触れる。リンクはその手を握り、小さく頷いた。七年の時を短絡して、
二人の思いが交錯し、結ばれた。
「……マロン……君は……いま、どういう暮らしを……」
 マロンを気遣うリンクの言葉は、しかし不器用に滞った。マロンはしばらく目を伏せていたが、
やがて低い声で自らの七年間を語り始めた。
 ガノンドロフがハイラルの支配者となったあと、部下が牧場に現れ、馬の世話を命じたこと。
突然インゴーの態度が変わり、暴君と化してタロンを追い出してしまったこと。そしてそれ以来、
自分が毎日インゴーにどういう目に遭わされているか。
 マロンが訴えたのは、仕事の上で酷使される苦痛についてのみであり、肉体的な虐待のことは
述べられなかった。けれども、先刻その一端を垣間見てしまったリンクには、マロンの生活が
話以上に厳しいものであることが推測できた。リンクは自分の質問を後悔した。
 なぜマロンにこんな話をさせてしまったのか。ひどい生活の記憶を、なぜもう一度たどらせ
なければならないのか。ここへ来たのはタロンのことを伝えるためだった。でもいまのマロンに、
あの廃人同様のタロンの現況を、どうして話すことができよう。これ以上、この娘を苦しめる
ことなどできるわけがない。
 リンクはいきなりマロンを抱きしめた。そうしないではいられなかった。
 いったい自分に何ができるだろう。この儚い少女のために。
 心は軋み、腕にぐっと力がこもった
3283-6 Malon IV (7/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 12:01:57 ID:cgUG7W7O
 おのれをかき抱く腕の力にマロンは驚き、そして心が躍った。何がリンクにそうさせたのかは
わからなかったが、それは乾ききったマロンの心身が最も欲しているものの片鱗だった。リンクの
腕に抱かれながら、マロンは自分の中で徐々に大きくなってゆくうねりを感じていた。
 衝動と。
 ──助けて、リンク! あたしをここから連れ出して!
 葛藤と。
 ──何を馬鹿なことを、あたし……いまのリンクのことを、何も知らないくせに……
 沈黙が続いた。それを振り払うように、マロンはリンクに問いかけた。
「……リンクは……いま、何をしているの?」
 やや間をおいて、リンクは答えた。
「旅をしているんだ」
「……どういう?」
「賢者を捜す旅さ」
「……賢者? 何のために?」
「世界を救うため」
 マロンはまじまじとリンクを見つめた。
 何を言っているのだろう。
「ハイラルに眠る賢者を目覚めさせ、その力を得て、ぼくはガノンドロフを倒す。そう、この世界を、
世界で苦しんでいる人を助けるために」
 それまでの心のうねりも忘れ、マロンは半ば呆れてリンクの顔を眺めた。
 まるで世迷いごととしか思えない。
 ガノンドロフを倒す? あの魔王を? このリンクが? いったいどうやって……
 だが、リンクの表情は真剣そのものだった。
 精悍な顔。
 ──こんなに逞しかったかしら……
 引き締まった口元。
 ──ああ、けれど七年前のあの時も……
 そしてすべてを見とおすような力強い眼差し。
 ──確かあの時も、リンクは同じ顔であたしに……
 荒みきった世界の中で、これほどまでにまっすぐ、未来を見つめる人がいる!
 静かな感動がマロンを満たした。その感動が身体に染みわたっていくとともに、葛藤を超えた
衝動と、それまでとは違った衝動が、マロンを突き動かした。
 七年前、淡い恋と欲の対象だったリンク。あの時はお互いに幼すぎた。でもいまは……いまは、
もうあの時のような幼いあたしじゃない。だから……だからリンク、どうか……あたしと……
 マロンは立ち上がった。瞬間、
「つッ」
 右足の痛みでよろける身体を、リンクが支えた。脇腹に触れるリンクの手。それに自分の手を
重ね、マロンはささやいた。
「来て」
 二人はゆっくりと牛小屋へ向かった。リンクはずっとマロンを支え、マロンはその手の感触を
ひそかに楽しんだ。
 牛小屋に入った二人は、隅に積まれた藁の上に身を預けた。小屋の中は暗かったが、天窓から
差しこむほのかな月光が、互いの姿をおぼろげに浮かび上がらせていた。
 マロンはリンクの腕を取り、目をじっと見つめ、心を決めて口を開いた。
「……今夜は一緒に……ここにいてちょうだい……」
 一線を越える言葉だった。
3293-6 Malon IV (8/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 12:03:35 ID:cgUG7W7O
 何かが始まろうとしている。
 リンクはどきどきしながら意識し……そして、何もできなかった。二人は並んで藁の上に横たわり、
時間はそのまま過ぎていった。
「リンク?」
 マロンの呼びかけ。
 返事もできずにいると、急にマロンの身体が覆いかぶさってきた。その重みを意識するより早く、
マロンの唇が自分の唇に押しつけられた。
 ──キス!
 かつてマロンにせがまれた行為。ぼくにとって二度目の、それが、突然に……
 リンクは驚く。唇を割って侵入してくる舌。生き物のようなその蠢きに、リンクの舌もおずおずと
応える。二人の口腔の中で、交歓が速度を上げてゆく。
 マロンの舌。マロンの息。マロンの匂い。
 頬を、胸を、頭をまさぐるマロンの手が、すいと動き、リンクの手を引き寄せる。
『あ……』
 これは……この、丸い、柔らかい弾力は……
 マロンがぐっとかがみこみ、さらに圧力をかけてくる。
 胸。乳房。あれだ。あれがいま、ぼくの手に……
 リンクは感じる。あの欲望の感覚。それはもう股間に固まり、凝集し……
『うぁ……!』
 衣服越しにそこを握られ、リンクはびくんと身を震わせる。
「あたしにも……」
 再び手が導かれる。膝に、股に、その奥に……
『……!』
 遮るものもなく、そこは秘めやかな叢に覆われ、手はさらに奥へと……粘っこく濡れた奥へと……
「ん……んんんん……んぁ……んぁん……」
 苦しげな、それでいて安らかな、マロンの喘ぎ。
 リンクを握るマロンの手に力がこもり……
『ああぁ……』
 ……また唇、舌、手……次は、次はどこに……?
「ねえ、リンク?」
 いぶかしげな声。
 はっと我に返ると、動きを止めたマロンが上からこちらをうかがっている。横たわったまま、
なすがままの自分。なぜかばつが悪く、気がとがめる。
 マロンは待っている……でも……
 突然、マロンは服を脱ぎ始める。それがどういう意味なのか、考えをまとめる暇もなく、眼前に
マロンの裸身が現れる。ひとすじの月光に彩られて……それはたとえようもなく美しく……
「あなたも……」
 ──ぼくも?
「さあ……」
 ──ぼくが?
 沈黙。
3303-6 Malon IV (9/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 12:04:29 ID:cgUG7W7O
「……リンク、あなた……ひょっとして……」
「え?……あ……」
 ほっと息をつくマロン。
「……そうなの、あたしったら……ううん、いいの、リンク。そのままでいて」
 マロンが身を寄せ、リンクの服を脱がせ始める。ゆっくりと、だが確実に、リンクの肌が
あらわにされてゆく。新たな場所が現れるたびにマロンの唇がそこを探索し、リンクは一方的に
それを甘受し……やがて、マロンと同じ姿になる。
 ただおのれの皮膚のみをまとった二人。
「リンク……」
 マロンの表情が変わる。目がリンクを見据える。すがるような、追い求めるような視線。
 手が触れ合い、そして腕に、肩に、背中に、互いの手が伸び、二人の胸と唇がぴったりと
合わさり……
 肌の感触。女の感触。この不思議に心地よいもの。
 マロンが再びリンクの中心をまさぐり、リンクはそれに倣ってマロンの胸と、頂上の突起と、
そして同じようにマロンの中心の粘膜を……そっと……そっと……
「はあぁぁ……ぁぁぁ……ぁ……ぁ……んん……んぁん……」
 またマロンが喘ぐ。ぼくの手で、マロンがこの声を……
「ひぁッ!」
 マロンの手が動き出し、自分の口からも声が出てしまう。
 上へ……下へ……上へ…下へ…上へ下へと……これは……この感覚は……そう、あの時と……
泉で経験したあの時と同じ……だけどもっと、もっと強く……大きく……
 マロンがいきなり仰向けに倒れる。リンクは動きに引っぱられ、マロンの上に覆いかぶさる。
大きく広げられたマロンの両脚。その中間に身を置くと、これ以上ないほどに硬くなった部分の
先端が、マロンの熱い谷間に触れかかる。
「そうよ……」
 ──ゆっくりと……うずく二人の中心点を……
「そうよ、そのまま……」
 ──中心点を、一緒に……
「ああ、そうよ、そうよ……」
 ──一緒に合わせて、それで……
「そのまま、そのままずっと、ずっと先に……」
 ──先に、先に、もっと奥へ、奥へ……
「来て……んん……もっと、ずっと……」
 ──ずっと、ずっと、行き着く所まで、深く……
「くうぅぅ!……そうよぉ……」
 ──深く、二人がこれ以上密に接触できない所まで、その場所まで……
「あぁぁ!……んぁん!……そうよ……そうなのぉ……そうなのよぉッ!」
 ──そこまで、ああ、でもそこまで行くと、このままだとあれが、あれがもう……!
「んんんああああぁぁぁぁッ!……もう少し……もうちょっとぉぉッ!」
 ──もう、あれが寸前まで、寸前まで、来て、来て……!!
「待って! 待って! もうちょっと、もうちょっとだけえぇぇッッ!!」
3313-6 Malon IV (10/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 12:05:05 ID:cgUG7W7O
 マロンの強い圧迫に耐えきれず、行き止まりの先端に到達しただけで、リンクの武器は
あっけなく暴発した。刹那、何とも表現できぬ大きな叫び声をあげ、リンクは身を硬直させた。
マロンの情感は、リンクを受け入れたことで急速に高まりつつあったものの、それに追いつく
ことはできなかった。リンクはマロンを置き去りにしたまま、その中で徐々に力を失っていった。
『でも……』
 マロンは上に横たわるリンクの背に腕を回し、身体を抱きとめた。
『リンクの初めての相手になったんだわ、あたし……』
 二人で寝ていても、キスしても、目の前で裸になっても、リンクは自分から行動しようと
しなかった。どうしたらいいのかわからない、そんな感じだった。リンクに経験がないのは
明らかだった。
 あのリンクの顔。当惑しきった表情。さっきまで「世界を救う」と大真面目に言っていた
リンクが……うってかわって、まるで小さな子供のように……
 リンクの呪縛が解け、マロンの上でゆるゆると動き始める。
「……どう?」
 短く問うと、リンクは大きく息を吐き、かすれた声で言った。
「……よく……わからない……けれど……とても……」
「とても?」
「とても……素敵だったよ……マロン……」
 マロンはそっと微笑んだ。
『あたしだけのリンク……』
 リンクを抱く腕に力がこもる。密着した肌を通じて、リンクの体温が伝わってくる。心地よく
それを味わいながら、マロンの血は再び滾り始める。
「もっと素敵になってみない?」
「もっと……?」
「そう、もっと……もっと……」
 膣を収縮させ、締めつける。だがそれはすぐにはどうにもならず……
『いいわ』
 マロンはリンクから離れ、逆にリンクを仰向けにし、股間に顔を寄せる。
 二人の分泌液に濡れそぼち、萎えた、しかし若く清々しいリンクの分身。
 それを口にすると、
「うッ!」
 瞬間、リンクは身体を硬くし……そして少しずつ、少しずつ、マロンの舌と口腔粘膜の刺激に
よって、それは力を取り戻していった。
 リンクは……感じている……感じている……あたしも……感じたいの……もっと……もっと……
 律動的な舌の愛撫に合わせて、リンクの屹立とともに、マロンの情欲もまた勢いを増し、
マロンの身体を、下半身を、その中心を、じわじわと舐め、炙り、焼き、入口からは熱した液体が、
とめどなく、とめどなく流れ続け……
3323-6 Malon IV (11/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 12:06:00 ID:cgUG7W7O
「はぁッ!」
 口を離し、息をつく。リンクはもうすっかり回復し、脈打っていた。
 そう……これを……これをあたしに……
 リンクの腰に跨り、マロンはそれに手を添えて、徐々に、自分の中へと導いていった。
「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッ…………!」
 マロンの喉から絞り出される、獣のような一条の唸り。
 膨張しきったそれがマロンの肉襞を圧迫し、反射的にマロンの筋肉が緊張し……
「んんッ……!」
 リンクも短く呻く。が……
 まだ……大丈夫だわ……
 マロンの身体が動き始める。ゆっくりと……上へ……下へ……円を描いて……
 あたしのリンク……あたしのリンク……硬く、硬く、あたしを貫くリンクのペニス、ペニス、
あたしのペニス、あたしのもの、あたしのもの……
 快感が高まってゆく。高まってゆく。
 どうして……どうしてこんなに気持ちがいいの……
 インゴーとの行為と、やっていることは変わらないのに、どうして相手がリンクだと……
こんなに……こんなに……
『いや!』
 インゴーなんて、思い出したくない。いまは……いまはただリンクを求め、求め……
「リンク……リンク……もっと……もっと……」
 もっと速く……もっと強く……
「……はぁッ!……リンク……はぁッ!……んぁん!」
 激しく摩擦を続ける二人の連結点で、
「……はぁッ!……リンクぅ……あたしに……はぁッ!……はぁッ!」
 快感が渦を巻き、湧き上がり、沸騰し、
「あたしに……んぁんッ!……あなたを……ちょうだああぁぁぃぃぃぃ……」
『何を言ってるの、あたし』
 わずかに残る理性が、ふと羞恥心を取り戻させ……
 でも……でも……
『……アバズレ……淫乱……』
 あの呪文が脳によみがえる。
 でも……でも、それが何だっていうの……
 手が自らの急所に伸び、腫れ上がったしこりを、ぐっと……
「ひいぃぃぁぁぁッッッッ!!」
 どん! と叩きつけられるような衝撃。もう止まらない。あそこも、指も。
 あたしは淫乱。
 インラン
 イ ン ラ ン
 イ  ン  ラ  ン
「そうよぉッッ!」
 子供の頃からこうやって……こうやって自分を……自分をなぶって……
「そうなのぉぉッッ!」
 いいじゃない……いいじゃない……リンクとなら……リンクとなら……あたしがどんなに……
どんなにアレだって……こんなに……こんなに……嬉しいんだもの……
3333-6 Malon IV (12/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 12:06:44 ID:cgUG7W7O
 リンクの手を取り、自分の胸に押しつける。
 触って……触って……あたしを……もっと悦ばせて……
 その願いを汲み取ったかのように、リンクの指は迷わず乳首に触れ、
「くううぅぅぅぁぁぁッッッ!!」
 二本、三本、四本と指が増え、乳首を、乳輪を、豊かな乳房全体を、優しく、激しく、そして
もう片方の乳房にも、リンクの手が伸び、そっちも、同じように、激しく、優しく……
「あああぁぁぁんッ!……リンク……リンク……リィィンンクゥゥゥ……!」
 ──リンク!……リンク!……行かないで!……
「ひぃッ!……ひぃッ!……リンク……はああぁぁぁぁッッ……!」
 ──まだ行かないで!……あたしを置いて行かないで!……どうか……
「リンクぅ……リンクぅぅぅぅぁぁぁぁあああああッッッッッ!!」
 ──どうか……あたしと……あたしと一緒に……!!!
「来るぅ!……来るわぁぁッ!……もうッ!……もうだめええぇぇぇッッッッ!!!!」
 激しい上下動を繰り返していたマロンの身体が突然止まり、全身の筋肉が引き絞られる。
 目の前がまばゆく爆発する。
「…………………!!!!!!」
 声にならない絶叫。
 もう何も……何も……見えない……なんて……なんて……
 遠のいてゆく意識。だがそれをリンクは許さなかった。
『え……?』
 リンクが身を起こし、力の抜けたマロンの身体を抱きしめる。胸に手を残したまま、さっきとは
反対に、リンクの唇がマロンの口を塞ぎ、力強く舌を送りこんでくる。
『……リンク……あなた……』
 まだリンクは達していない。まだだ。まだここにいる。
「あ……あ……あぁぁぁん……」
 欲情が治まる暇もなく、マロンはまた舞い上がり始める。
 リンクはマロンを抱いたまま、さらに身体を前傾させ、マロンの背を藁に押しつける。
 いままではあたしが一方的に攻めていた。でも今度はリンクが……リンクが……
3343-6 Malon IV (13/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 12:07:50 ID:cgUG7W7O
「くぅッ!……うッ!……うッ!……うッ!……」
 リンクが攻めてくる……攻めてくる……強く……強く……繰り返し……繰り返し……
「うッ!……うッ!……うッ!……うッ!……」
 リンクが突くたびに、短く、規則的に、口から呻きが漏れ……
「うッ!……うッ!……リンク!……うぁッ!……」
 徐々に、徐々に、リンクの動きが、速く、速く……
「うぁッ!……リンク!……すごい!……うぁッ!……」
 どんどん、どんどん、身体の奥から湧き上がってくる快感、快感……
「うぁッ!……うぁぁッ!……リンク!……すごいわッ!……リンクぅぅ!……」
 ──どうして……リンク……初めてなのに……どうして……こんなに……
「うぁぁッ!……はぁぁッ!……んぁぁッ!……おぁぁッ!……」
 ──もう……あたしはもう……でも……リンク……あなたは……
「くぁぁッ!……もうッ!……ひぁぁッ!……もうだめッ!……」
 ──なんて……強い……強い……ああ……だから……
「だめよ!……だめよ!……リンク!……いやぁぁッ!」
 ──だからリンク……あなたは……やっぱり……
「だめぇ! いやよぉ! いやよぉぉッッ!!」
 ──やっぱり……あなたは……
「んぁぁッッ!! だめぇぇぇッッッ!!!」

 とうとうリンクが到達する。次から、次へと、リンクの命が放出される。
「……だ……め……よ……ぉ……ぉ……ぉ……」
 その命を受け取りながら、マロンもまた、この上なく深い絶頂に達し、両脚が高々と持ち上がり、
組み合わされ、ぐっとリンクを自分に押しつけ、もう離さない、もう逃がさないとでも言うかの
ように……
 でも……ああ……それでも……やっぱり……あなたは……
『……行って……しまうのね……』
 マロンの頬を、涙がひとすじ流れ落ちた。
3353-6 Malon IV (14/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 12:08:33 ID:cgUG7W7O
 自分はいったい何をしたのか。いったい何をされたのか。
 リンクの記憶はおぼろだった。が、嵐のような交歓の中で、本能の命ずるままに動き、動き、
動き、動き果てた時に訪れた究極の法悦は、リンクの脳にくっきりと刻まれていた。
 男と女の行為。
 あの秘められた感覚の先にあった、それ。
 自分が、自分の男が、自分の男としての欲望が、思うだけの対象であった女という存在と、
いかに触れ合い、いかに一体化すべきものなのかを、リンクは、ついに、知ったのだった。
『……もっといいこと、させてあげてもいいわ……』
 力の抜けきった身体を横たえ、たゆたう意識の片隅で、リンクはかつてのマロンのささやきを
思い出していた。
 もっといいこと。それを、やっと、教えてもらえた……
 静かに寄り添うマロンを抱き、リンクも、そっと思いを伏せる。
 時が過ぎてゆく。
 穏やかな時が過ぎてゆく。
 いつまでも続いて欲しいと願わずにはいられない、限りなく穏やかな時が過ぎてゆく。
 やがて、その時は尽きる。リンクの思いが現実に戻る。
 行かなければならない。ぼくは行かなければならない。使命を果たすために。なすべきことを
なすために。
 ……マロンをこのままにして? 不幸なマロンをこのままにして?
 いや、それでも……ぼくは……行かなければ……行かなければ……
「マロン……ぼくは、もう──」
 言葉が口をついて出る。惑いが言葉を途切れさせる。
 どうする? どうすればいい?
 せめて……せめてわずかなりとも、マロンのために、ぼくに何かができたというのなら……
 マロンの顔を凝視する。そこには……ああ、そこには……
 微笑み。そして、頷き。
 それらに宿る、あの咲きほこる花のような明るさの萌芽。
 リンクは知る。自身の悦びとともに、マロンの悦びもまた、確かなものであったのだ、と。
 充たされた身体。潤された心。
 マロンのためにできたこと。その証を目に刻み、リンクはおのれに許しを与えた。
3363-6 Malon IV (15/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 12:09:35 ID:cgUG7W7O
「マロン……ぼくは、もう──」
 永遠に続くかと思われた、安らかな沈黙。それを破るリンクの言葉を、しかしマロンは
予期していた。
『リンクは世界に出て行く人……』
 いまはその事実を受け入れることができた。自分だけのために、この人を引き止めることは
できないのだ、と。
 あれほど荒れ狂い高ぶっていた感情が、嘘のように静まっていた。だがそれは、冷えて
なくなってしまったわけではなく、埋み火のように、マロンの中でほのかな暖かみを放っていた。
 マロンは微笑み、頷いて見せた。身体を起こし、黙って身支度をした。リンクが衣服を
着け終わるのを待って、マロンは牛小屋の扉をあけ、リンクとともに外へ出た。
 風は冷たく、夜は限りなく暗かった。が、夜明けは近いはずだった。
 二人は無言のまま牧場を横切って行った。右足の痛みは軽くなってはいたが、それでもマロンの
歩みは滞りがちだった。リンクはそのつど黙ってマロンに手を貸した。
 母屋は静まりかえっていた。インゴーは熟睡しきっているのだろう。しかし馬小屋からは、
すでに目を覚ました馬たちがたてる物音が聞こえてくる。
「ねえ、リンク、エポナを覚えてる?」
 突然のマロンの言葉に、リンクは少し驚いた様子を見せたが、すぐに快活な声で応じた。
「覚えているよ。七年前に知り合った、あの子馬だね。ここにいるの?」
「いるわ。会ってみる?」
 マロンは馬小屋へリンクを招き入れ、ランプに灯をともした。リンクはすぐにエポナを見分け、
歩み寄って首を抱きながら、懐かしそうに声をかけた。
「うわあ、お前、大きくなったなあ。もう立派な大人じゃないか」
 エポナもまた、嬉しそうに嘶いていた。七年も会わなかった目の前の青年を、はなから旧知の
仲のリンクと認めているのだ。
 マロンも微笑ましく思わずにはいられなかった。エポナは名馬だが気性が荒く、マロン以外の
人間を容易に近寄らせなかった。特に牧場の主に収まったインゴーには、露骨に反抗心を示した。
インゴーはガノンドロフの歓心を買うためエポナを献上しようと、躍起になって調教を試みたのだが、
それはことごとく失敗に終わっていた。そのエポナが、リンクに対しては親友のように、すっかり
心を許している。
「これから……どこへ行くの?」
 エポナとじゃれ合っているリンクに、マロンは訊いた。ふり向いたリンクが答える。
「カカリコ村へ行くよ」
「それから?」
「たぶん西の砂漠かな。けれど他にもまだ、行かなきゃならない所は多いんだ。ハイラル全土を
旅することになるだろうな」
「それなら……エポナを連れていらっしゃいよ」
「え?……でも、ぼくは……」
「そうしなさいよ。旅をするには、馬は絶対必要なんだから」
「でもぼくは馬に乗ったことがないんだよ」
「馬に乗るなんて簡単よ」
「君は牧場にいるから慣れているだろうけれど……」
「ほんとうに簡単だって。教えてあげるから」
 ためらうリンクをさえぎって、マロンはせわしく言葉を続けた。
 実際には、乗馬はそれほど容易なものではない。ここでリンクにエポナを与えても、しばらくは
苦労するだろう。けれどもエポナほどの馬なら、きっとリンクの助けになるはずだ。
3373-6 Malon IV (16/16) ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 12:10:36 ID:cgUG7W7O
 マロンはエポナを馬小屋の外に引き出した。闇は深いが、扉から漏れ出る灯りで、かろうじて
まわりが見える程度ではある。
「さあ、ここに足をかけて……そう、それでこうやって跨るのよ。で、手綱を持って……」
 インゴーを起こさないように気をつけながら、マロンは小声で教授を続けた。エポナは荒馬の
性癖を忘れ去ったかのようにおとなしくしている。それもあってか、馬上のリンクは、格好だけは
一人前に見えた。
「それなら上等よ。すぐに慣れるわ」
「そうかなあ」
 エポナが少し動いただけで、おっかなびっくりのリンクの身体は、前後左右に大きく揺れる。
それでもリンクはそろそろとエポナの歩みを進め、どうにか牧場の門までたどり着いた。
「うまく乗れるかどうか、まだわからないけれど、でも……」
 そこで言葉を切り、リンクは馬上からマロンに顔を向け、いかにも邪気のない純粋な笑みを
浮かべて言った。
「ありがとう」
 マロンは、はっと胸をつかれた。返事ができなかった。
 リンクはマロンに軽く手を上げて見せ、門をくぐり、ハイラル平原へとエポナを歩み出させて
いった。身に広がる小さな震えを感じながら、マロンはただリンクを見送ることしかできなかった。
 ありがとう。この単純な言葉。
 この七年の間、あたしは誰かにありがとうと言われたことがあっただろうか。
 この七年の間、あたしは誰かにありがとうと言ったことがあっただろうか。
 人と人との繋がりを信じられなくなっていたあたしに、その言葉がどんなに新鮮に聞こえたことか。
 大気は依然として暗黒に満ちていた。しかし東の空はすでに白み始め、夜明けの訪れを告げていた。
広大な姿を少しずつ現し始めた平原の上を、そのかすかな明るみの方角へと、いまリンクは
遠ざかりつつあった。
 気がつくと、エポナの背に跨るリンクの身体は、もう無様にふらついてはいなかった。さすがに
歩調はゆっくりとしていたが、悠揚としたリズムに乗って、それは余裕すら感じさせる安定感を
示していた。あたかもリンクの不動の意志を表明するかのように。
「なによ、乗馬だって上手なもんじゃない……」
 そう独り言を漏らしたマロンは、そこで初めて、リンクと再会の約束すら交わさなかったことに
気がついた。
 でも……
 胸に手を当ててみる。溶け始めた心の鼓動とともに、あの暖かみがしっかりとそこに残っている
ことを確かめる。
『大丈夫』
 今日もまた、つらく苦しい一日になるだろう。エポナがいなくなったことを知れば、インゴーは
怒り狂い、激しくあたしを責めるだろう。もちろんあたしはエポナをリンクに与えたなどと言う
気はない。けれども、毎日あたしをいじめる理由を探しているだけのインゴーにとっては、
あたしが何を言おうと、あるいは何を言わずにいようと、全く関係のないことなのだ。リンクの
方は、エポナを貰うことでそんな事態を招くとは、思いつきもしなかっただろうが……
『でも、かまわない』
 激情のままの身体の触れ合い。それがあたしには暖かかった。この暖かみさえあれば、あたしは
生きていける。そう思った。そのお返しとして、ただリンクの役に立ちたかった。リンクの
「ありがとう」という言葉。それであたしには充分なの。
『だから何が起ころうとあたしは……』
 東の空の明るみはさらに広がり、平原を行くリンクの姿は、遠く離れつつも、まだはっきりと
見分けられた。それはマロンにとっての、いや、のみならず、この世界全体にとっての希望の
象徴だった。
 そのはるかな後ろ姿に向けて、マロンはそっと呟いた。
「ありがとう、リンク」
 そして──これもまた、マロンが七年の間に忘れ果てていた行為であったが──地に跪き、
両手を組み、頭を垂れて、こう言った。

「神よ、勇者を護りたまえ」


To be continued.
338 ◆JmQ19ALdig :2007/07/14(土) 12:11:17 ID:cgUG7W7O
以上です。やっとここまで話を持ってこられた。
今回のエピソードが全編の転回点となります。
339名無しさん@ピンキー:2007/07/14(土) 12:27:54 ID:HXYYC31K
続きキタワァァア
激しくGJ
話の転回点との事でもう次の話がワックワクです。
340名無しさん@ピンキー:2007/07/14(土) 12:29:40 ID:7NPX0NC/
新作乙!
341名無しさん@ピンキー:2007/07/14(土) 15:04:30 ID:8eS9icLT
はわーーー。
ついに、ついにガノンの暗黒時代に朝日が差し込みました!乙です。

マロンかわぇーーー。

しかし、インゴー貴様に更正の余地はない。貴様はガノンに捧げてこい。色々なものを。
342名無しさん@ピンキー:2007/07/14(土) 20:27:03 ID:Ng0eKldv
GJ〜。コピペなんだから普通にどんなに遅くても3日には続き書けると思うんだけどね
343名無しさん@ピンキー:2007/07/14(土) 21:41:37 ID:yhAkOndc
>>342
日本語でおk
344名無しさん@ピンキー:2007/07/14(土) 22:01:53 ID:BZdIychT
>>338
マジGJ!やっとこの話と連載が繋がりましたね!
最中のシーンはもちろん、最後のマロンが祈るシーン、涙腺ゆるみました。


ところで>>342は一体何様なんだ?

345名無しさん@ピンキー:2007/07/14(土) 22:50:10 ID:2vTaZWAQ
GJ!!
これまでの話を踏まえて読むと、最後のマロンの祈りにまた新たな感動が…

>>344
以前から催促してた奴ではないか?
JmQ19ALdigさんが大体一週間おいてから投下されるのは、
毎回投下する間隔が決まっている=毎日のようにスレをチェックする必要がない、とか
続け様に投下しては感想を書き損ねる人が出てくる、とか
推敲するのは勿論、このスレのことも色々と考えて下さってのことだろうに。
素晴らしいエロパロを定期的に投下して下さるだけでも有り難いのに、贅沢はいかん

マジレススマソ
346名無しさん@ピンキー:2007/07/15(日) 01:56:55 ID:8l3yvYdI
JmQ19ALdig氏、GJ!
この話までこういった繋がりがあったんですか。
伏線の仕掛け方も凄く上手くて考えていることが深いですねぇ。
転回点と言うことでより一層面白くなりそうな感じが凄くしますが、
無理をなさらずに書いてくださいw
お待ちしております。
347名無しさん@ピンキー:2007/07/15(日) 09:59:23 ID:YLe5C+k/
>>342
一週間に一話って他の所に比べてかなり早いと思うが
348名無しさん@ピンキー:2007/07/15(日) 12:19:48 ID:HW8erq7W
自分が書いた作品に、こんな風にたくさん感想やコメントもらえて◆JmQ19ALdig氏はすごく幸せだろうなぁ
自分も物書きの端くれとしていつかは彼みたいになりたいと切に思った
349名無しさん@ピンキー:2007/07/15(日) 19:31:19 ID:R9RIoJB/
GJ!
俺のなけなしのボキャブラリーじゃたいした事言えないが、
とにかくGJ!!
350名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 14:05:51 ID:dTjpXw1v
351名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 19:57:34 ID:iK4pOXHB
>>350はスルーって事で
352名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 21:57:06 ID:DqnWyPqn
GJ!!
本当にすばらしいですな
こんな素敵な話をありがとう
353名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 22:09:11 ID:UmGD9QgA
>>350は当然ながら危ないね。
他のいろんな掲示板にも同じ文章を張ってやがる。
暇人だね。
354名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 11:19:32 ID:WDDNzEYX
まだ踏んでないけど、>>350はブラクラ?
355名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 14:11:37 ID:NQzw3l6X
多分出合い系とかそういうの
まぁとにかくこのスレとは全然関係ない
356名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 15:43:31 ID:T4+ljJep
なんでスルーもできないんだおまいらは
もう>>350みたいなのを無視できない年齢じゃないだろ
357名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 18:50:26 ID:d5tDH2y0
まぁダラダラと引っ張確かにアレだが
最初に注意喚起してくれるのは個人的にありがたいんだが
358名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 18:58:49 ID:y58DwWDc
>>356
つーか落ち着けよ
なにカリカリしてるんだ?
359名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 19:23:44 ID:T4+ljJep
スマソ。。。空気悪くしたorz
落ち着きまんた。マロン萌え。
360名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 11:15:40 ID:ihn39zp6
今更ながら、トワプリ後日譚アッシュ編の続き投下させていただきます。
きっちり2ヶ月ぶりになってしまいました。すいません。
361トワプリ後日譚 アッシュ【2】 1/17:2007/07/18(水) 11:16:22 ID:ihn39zp6
 その日テルマの店は夕刻から貸切りとなっていた。
 アッシュの為に仲間達がささやかな祝いの席を設けてくれたのだ。
 ハイラル城の修復が本格的に始まるのに合わせ、王家の別荘である郊外の小宮に暮らしていたゼルダ姫が
城下の町屋を借り上げて移り住むことになり、新規に傍仕えの者を探しているとの情報に応募し、
そして一昨日目出度く採用の通知を受けたのだった。
 「よかったねえ、アッシュ、これで親父さんも安心だろうさ」
 テルマが目を細めて言った。
 情に厚いこの酒場の女将は、うっすらと涙さえ浮かべている。
 
 騎士だったアッシュの父はかつてこの店の常連でもあった。
 体を壊して退役した後故郷であるハイラル北部の山間地に居を移していたが、病は徐々に進行し、
ここ二年程は自力で起き上がることさえも困難となっていた。
 我流ではあったが剣の達人として知られ、平民からたたき上げで騎士の身分を手に入れた彼は
自他に厳しく直情径行な気質の持ち主だった。身体能力に絶対の自信を持っていたその身が病に犯され、
働き盛りに退役を余儀なくされて気難しさはさらに増し、やがてアッシュ以外の人間を寄せ付けなくなっていった。
 そんな父を看取った後、アッシュが再び城下にやって来たのは仕官の為であった。
 しかし彼女にとって久しぶりの城下町はかつての平穏だった頃とは異なり、そこに至るまでの道程共々
不穏な気配が漂っており、街に繋がる重厚な城門は堅く閉ざされていた。
 魔物の跳梁、ゾーラの里の氷結とそれに伴うゾーラ川とハイリア湖の渇水、街道――特に橋梁の破壊……。
 物品や作物の流通は滞り始めており、人々には不安が広がりだしていた。
 就職活動どころではないことを悟ったアッシュは父の知己であるラフレルを頼り、祖国の非常時に対処するべく
共にレジスタンスとして活動していたのだった。
 甲斐あってハイラルに平和は戻りはしたものの、王城は大部分が崩壊の憂き目に会い、少なからぬ兵士が
還らぬ人となっていた。
 今もなお兵団は縮小されたまま、新兵を募ることもなく主に街と王女周辺の警護に当たっている。
 当面は大きな脅威はないはずという王女の判断の元、国家の資金は遺族への保障と復興事業に優先して
回された為、軍備の再構築は後回しとなっていた。
 難を逃れた城仕えの者達は、王女に随伴した少数を除いて今は主の帰還を待って他の仕事
――例えば復興事業周辺――に従事していたり、一時的に身内の元へ身を寄せたりしている。
 そんな状況下、アッシュもまた若者らしく自分の在り方を見つめ直すことになった。
 もちろん王城の兵士として働くことを望んでいたのだが、未だまったく募集が無い。
 もともと多くはなかった貯えも底を付きつつあり、生きてゆく術を真剣に模索するべき時が来ていた。
 腕に覚えがあるとは言ってもやはり女性であるということは、彼女が望む仕事に就こうとする際には大きな枷となる。
 復興の勢いに乗って、人手は慢性的に不足気味であり、仕事の口は少なくはない。
 騎士の子としてのプライドを捨てることが出来るなら、食べてゆくことだけはできるだろう。
 しかし自分が人並み以上にこなせることと言えば、やはり剣であり、弓なのである。
 武具を手放し、市井の庶民に溶けこむことは彼女の今までの人生を否定するに等しかった。
 ――何としても、仕官を。
362トワプリ後日譚 アッシュ【2】 2/17:2007/07/18(水) 11:17:04 ID:ihn39zp6
 焦燥に駆られ出していたアッシュの耳に届いた情報は正に飛びつきたくなる様な内容だった。
 傍仕え――と聞いて最初は失望した。
 自分に女官など到底無理である、あらゆる意味で。
 しかしよく聞けば、『姫君の身辺警護を兼ねて』との言葉が謳われている。
 それはアッシュにとってこの上なく魅力的な殺し文句であった。
 縋る思いで身上書を書き、身元保証人としてラフレルの署名をもらって係官に手渡した。

 アッシュを面接したのは厳しい表情の中年女官と初老の騎士。男のほうには見覚えがあった。
 たしか、先王の近習頭だ。
「姫様は……私のことを覚えて下さっていたそうだ」
 この事実をテルマにはぜひ聞いて欲しかった。
 いまなお小宮に起居し、時折城下を視察に訪れるのみのゼルダ姫に目通りはかなっていない。
 ただ採用の返礼に彼らを訪ねた際、その旨伝えられたのである。
 女将はうんうんと頷き、アッシュの肩を叩いてくれた。それがどういう意味を持つのかを知っているのだ。

 ゼルダ姫――アッシュが同い年のハイラル王女の姿を初めて見たのは、十年以上前になるだろうか。
 現役だった父に連れられて初めて訪れた王城で、新兵を閲兵する先王の傍らに佇んでいた彫像のような美少女。
 白皙の額、黄金の髪、同い年とは思えないほどの落ち着いた光を宿した水色の瞳。
 神々の愛を一身に受けたかのようなその美貌は同じ生き物であることが信じられない程で、同性であるアッシュでさえ
一瞬息が止まるのを禁じえなかった。
「あの方がお前の生涯の主になるだろう」
 ――その頃のアッシュにとって父の言葉は神託にも等しいものだった。
 あの時は、素直に王女と同時代に生まれたことを幸運に思い、仕えるべき主を得られたことを誇りに思うことが
できたものだ……。

 しかし、アッシュが城下に戻って来た時にはすでに、かの姫君は臣民の前に姿を現すことがなくなっていた。
 命からがら災難を逃れた者の言葉によれば、『それ』はあまりにも突然の出来事だったのだそうだ。
 国境を侵すことなく、街道を進軍することもなく、いきなり城内に現れた黒い軍勢。
 城兵の抵抗など小虫を払うかのごとくやすやすと蹴散らされ、瞬く間に城の中心部へと移動していった。
――そしてその後の経過を知るものは誰もいない。
その直後に城門は封鎖され、城が崩壊するまで生きて出てきた者は誰一人いなかったから――。
363トワプリ後日譚 アッシュ【2】 3/17:2007/07/18(水) 11:17:35 ID:ihn39zp6
 少ない情報からアッシュが自分なりに考えていた状況は絶望的なものだった。
 侵略された城主の運命が明るいものであるはずもない。
 城主が若く美しい女性であるならばなおさら、いっそ一思いに殺されるか――自身で命を絶つほうが
ましといったような目に会っているのではないか。
 さらに同じ侵略者に対して最後まで戦おうとしたゾーラの女王の運命を聞くにおよび、ゼルダ姫の無事は
もうないものと諦めていた。
 ――もちろん仲間達の手前、そんな考えを口にすることはなかったけれど。
 侵略者は姫君を質に民に供物や隷属を強いるでもなく、その姿は誰の目にも触れないまま
ただ国中がじわじわと黒雲に覆われて行き、そこかしこに魔物達が湧くようになっていった。
 彼女から主と将来を奪った者共を放置しておくことなどできるはずもなかった。
 アッシュは弔い合戦のつもりでレジスタンスに参加したのだ。

 すべてが終わり、崩壊を免れた地下牢に囚われていた人々(ほとんどが城に勤めていた平民だ)が救い出されたが、
その全員が侵略の日以降の記憶を失っていた。
 そして何人かは行方知れずのまま、遺体さえ見つかっていない――。

 ゼルダ姫の無事を知ったときアッシュは正直驚いた。
 変わらぬ、いや数年前よりいっそう増した美貌は威厳を保って落ち着いており、臣民を安心させ
平和の復活を確信させた。
 喜ばしい事には違いない。けれど何か、どこか違う。アッシュの記憶にあるあのかつてのゼルダ様とは。
 勝手に無事を諦めきっていた自分を申し訳なく思うと共に、消せない不安がアッシュの心に宿っていた。
 やっとお傍に上がれる――かもしれない。
 もっとも、当分は試用期間である旨宣言され、自由行動も制限されることになった。
その内容についてほとんど説明されていないにもかかわらず、仕事の具体的内容も職業上知りえた情報と共に
他言無用と、誓約書を書かされた。
 待遇に不安はあったが、何もできないままもやもやと考えているよりはよほどいい、そう考えるしかなかった。
364トワプリ後日譚 アッシュ【2】 4/17:2007/07/18(水) 11:18:06 ID:ihn39zp6
 工事終了後の打ち合わせが長引き、リンクが店に姿を見せた頃には座はすっかり出来上がっていた。
「お疲れさん、ほら、『特製』」
 テルマが大きな杯をカウンターに置いてくれる。
 もちろんノンアルコールである。
「ありがとう」
 リンクが杯を受け取ると、女将は奥の席に目配せをしてみせた。
 本日の主役は一番奥の席で隣に座った衛兵と話しこんでいるようだ。
 お祝いの席にしてはあまり楽しげには見えないが、彼女が感情を顕にしないのはまあいつものことでもある。
 話の邪魔にならぬよう、声をかけるタイミングを伺うことにした。

 そんな彼に食事を用意してやりながら、テルマが誰にともなく語りだす。
「あの子はねえ、少年騎士団の一員だったんだよ」
 リンクはその名をラフレルから聞き覚えていた。
 少年騎士団はその名の通り、主に騎士階級の子弟――概ね十台前半の――で構成される、
将来の近衛士官の養成を目的とした集団である。
 後のいわゆる幼年学校のようなもので、選抜試験に合格した少年たちが親元を離れての寮生活の中で
王を奉ずる騎士としての知識と教養、武技としきたりを学んでゆく。
 式典や行事の際には鮮やかなそろいの礼装で華を添える姿が見られたのだが、城の崩壊以来その活動を
休止している。
 当然ながら女子は極端に少なく――数年に一人いるかいないかというレベルであり、アッシュの同期にはもちろん、
同時期に団に在籍していたのも彼女一人だったのだとテルマは続けた。
「本当なら今頃は近衛に入隊していたかもしれないよねえ……」
 ふう、と溜息を吐く。
「でも、あの異変で近衛兵が何人もお城で亡くなったっていうんだから……人の命運ってのはわからないもんだねえ…」
 良くも悪くも目立つ存在だったろう彼女が団を離れて浪人していたのはなぜなのだろう。
 リンクへの自己紹介の折にはそんなことにはまったく触れていなかった。
 そのあたりの事情をもう少し聞いてみたくなったが、その時奥の席から追加注文の大声が飛び、
テルマは再び忙しく動き出していた。
365トワプリ後日譚 アッシュ【2】 5/17:2007/07/18(水) 11:19:00 ID:ihn39zp6
「遅い!」
 だんっとカウンターに杯を叩きつける音がする。
 店内の喧騒に紛れ、考え事をしていたリンクが気付かぬ内に、アッシュが隣にやって来ていた。
「明日の打ち合わせが長引いて……ごめん」
 睨め付けてくる彼女にとりあえず詫びておく。
 いつもなら酒を飲んでも顔色にほとんど出ないアッシュだが、目のふちがほんのり赤いように見える――
ひょっとしてかなり飲んでるいるのか? 今夜はちゃんと話をしたかったのだが。
「おめでとう、仕官が決まったって」
「仕官?」
 小首を傾げる
「仕官ね」
 杯をあおる。やはり少し様子が変だ。
「そう、もしかすると姫様のお傍近くに奉じることになるかもな」
 リンクを見据えて、ぐいと顔を近づけてくる。
「――羨ましいか?」
 皮肉な口調に、リンクが面食らっていると、
「あんたはちょっと飲みすぎだね、アッシュ」
 テルマが口を挟んだ。
「もう当分酒も飲めないんだ、別にいいだろう」
 無愛想にアッシュが応え、リンクに向かって言葉を続ける。
「寮に入れとさ。『兵舎』でなく、『寮』だ」
 吐き捨てるように自嘲の言葉が続く。
「は、――昔の素行が悪かったものでな」
「アッシュ!」
 再度テルマが咎める。
「どうせ、私は……」
 何か言い募ろうとしたとしたアッシュが絶句したのは、テルマにコップの水を頭から浴びせられたせいだった。
「ちょっと夜風にでも当たって頭冷しといで」
 厳しい口調でそう言われ、さっきまでの勢いを無くしたアッシュが
「……悪かった」
 小さく呟き、しおしおと扉を出てゆく。
 リンクは戸惑いの表情で扉とテルマへ交互に視線を移していたが、彼に向かって女将が手拭を手渡しながら
「頼んだよ、……どうやらあんたじゃないと駄目みたいだ」
 どこか寂しげな笑顔で言うのを受け、弾かれたようにアッシュの後を追っていった。
366トワプリ後日譚 アッシュ【2】 6/17:2007/07/18(水) 11:19:53 ID:ihn39zp6
 アッシュは店へ続く階段の踊り場で、壁にもたれて俯いていた。鉄製の柵の向こうには町の地下を流れる
水路が露出している。彼女はその暗い水面を腕を組んで斜に見つめている。
「アッシュ、テルマさんは……」
 リンクが話しかけると、ゆっくり頭を持ち上げた。
「わかっている」
 答える顔に濡れた黒髪が貼りつき、さらに組んでいた腕を解くと濡れた衣服が形の良い胸を強調する。
腰に剣こそ携えているが、甲冑は身に着けていない。
「私は、父に育てられた。……物心ついた頃には、母は父の元を去っていたから」
 その口調は穏やかで、先ほどまでの皮肉っぽさはなくなっている。
「こんなだから、同年輩の女友達もいない」
 今日の店での様子では、異性の友人知人は少なくないようだが。
「テルマは、だから私にとって……」
 言い澱んだが、続く言葉はなんとなくわかる。
 情が深くて愛嬌があって豪胆で、そんな女将をアッシュもまた身内のように慕ってきたのだろう。
 リンクは頷いて手にした手拭を彼女に渡し、店へ戻ろうと言おうとして思い止まった。
 もう少し髪や服が乾くのを待ったほうがいいかもしれない、このままでは悪目立ちだ。
「俺は、先に戻ってるから……」
 テルマに報告しておこうと一人店に戻ろうとしたその腕をアッシュが掴む。
 止められてリンクは困ったようにアッシュを見る。
 視線が勝手に濡れたままのその部分へと走ってしまう――リンクにしてみれば先日の自分の部屋での出来事で
目に焼きついてしまっている彼女の裸身や、自覚のないまま自分が眠っていたその状況が脳裏に浮かんできてしまい、
どうにも平静でいられない。
 このまま二人きりでいるのは困る。
「お前、私を避けてただろう?」
 口調はやはり穏やかで、リンクを責めているわけではないようだが。
 そう、実際あれ以来この周辺で遠目に彼女を見かければ、顔を合わせないようそっと避けてしまっていたことは事実。

 目が覚めると彼のベッドに裸のアッシュが居た。
 自分があの時何をして何をしていないのか(しようとしてできなかったとすれば最悪だ)思い出せないまま、
どう彼女に接してよいかわからず――その一方で、彼女が自分について変に誤解したままになってはいないか
ずっと気なってもいた。だから、暫くアッシュに会えなくなると聞いて、その前に話をしたいと考えていた。
367トワプリ後日譚 アッシュ【2】 7/17:2007/07/18(水) 11:20:49 ID:ihn39zp6
「……まあ、自業自得ということかな……」
 アッシュが足元へ視線を落とす。
 そんな彼女にかける言葉をリンクが探していると、背後で扉の開く音がした。
 掴まれた腕を強く引かれ、完全に店からの死角に入ると同時にリンクの唇へとアッシュが手を当てた。
「おーい、アッシュ!」
 店内の喧騒が漏れ、アッシュを呼ぶ声がする。
「っかしーな、帰っちまったのか〜?」
 暫くして、扉が閉じる音がした。
 押し当てられていたアッシュの手が離れると、リンクは尋ねた。
「いいのか?」
 主役が消えたままなんて。
 アッシュが黙って頷く。
「昔の仲間なんだ、一緒に学んだ――いい奴なんだが」
 引き寄せられたリンクの二の腕にアッシュの胸が押し当てられている。困った。
「ただ、いい奴というだけなものだから、未だに外回りの衛兵で」
 言うことは厳しいが口調に棘はない。
 しばしの沈黙。
「――背が伸びたな、リンク」
 低く囁く声が近い。近すぎて耳朶に直接流れ込んでくる……。
 話をしようと思ってはいたが、こういう状況を望んでいたわけではない。
「出会ったころは、チビだったのに――今はもう私とほとんど変わらない」
 気にしていることをはっきりと言ってくれる――リンクは複雑な思いだったが、そんなことより
今はこの状況から抜け出すことが肝要だ。
 彼女に気取られてしまう前に。
 リンクの焦りを知ってか知らずか、アッシュがその頭をリンクの肩へと凭せかけてくる。
「アッシュ――」
 戸惑う声。
「頼む。もう少しだけ、このまま……」
 そんなふうに言われては振りほどくこともできず、リンクはただじっと動かずにいた。
 一刻も早く彼女に得心して欲しい、でないと――

「リンク……」
 掠れた声で低く呼びかけながら、リンクの隣から正面へとアッシュが移動しようとする。
 リンクにふいと顔を逸らされ気分が沈んだ。本格的に嫌われたか――
「……相当飲んでるな」
 酒臭いってか。
 いっそ嫌われついでにと、逸らされた顔を追ってさらに体を押し付ける。
 リンクは反射的に腰を引いた。
「!?」
 アッシュが一瞬身を固くし、顔を上げてリンクの目を見る。
「リンク、お前……」
 だめだ、気付かれた。
 万事休すと、空を仰ぐ。――顔が、熱くなる。
 自分の体の正直さが、情けないことこの上なかった。
「なんだ、そうか……うかつだったな、私としたことが」
 黒茶の瞳がす、と細められ僅かに口角が上がる。
(え?笑った?)
 ひどくレアなものを見た気がして、リンクは一瞬言い訳を忘れてしまった。
 一瞬の後には、元の無表情なアッシュへと戻っていたが、その間に彼女の右手は彼の半勃ちの股間を
しっかりと握ってしまっていた。
368トワプリ後日譚 アッシュ【2】 8/17:2007/07/18(水) 11:26:10 ID:ihn39zp6
 着衣越しに股間を探られ、いよいよリンクは慌てた。
「アッシュ、駄目だ、誰か来たら――」
「そうだな……」
 反してアッシュの口調は落ち着き払っているように聞こえる。
 しかし一向にリンクから離れようとはせず、その昂ぶりを擦り続けている。
 どうにも既視感のある展開なのだがいつだったろうか。
「ああ、いいな、リンク……男だ……」
 ため息交じりの声が熱い。
「し、しかたないだろ、そんな風に触られたら……。ていうかアッシュ、まだ酔ってるだろ」
 リンクはとにかく己からアッシュを引き剥がそうともがきつつ、その肩に手を掛けた。
「そうかもな……」
 リンクに寄りかかっていた体が急に重くなった。
「えっ?」
 力の抜けた腕はだらりと垂れ下がり、リンクはやっと股間の攻めから開放はされたのはいいが――今度は
この酔っ払いをどうしようかと考えなくてはならなくなっていた。
「ええと、アッシュ?」
 返事はない。その体が石畳に崩れてしまわぬようしっかりと抱きかかえる。
「ほら、しっかりしろよ。テルマさんに言って店で休ませてもらおう?」
「…………」
「え?何?」
 何か言ったようだが声が小さくて聞こえない。アッシュの唇にくっつけるように耳を寄せる。
「……帰る!」
 今度はリンクの耳の穴に叩き込むように言い放つと、自分を抱える彼からぐいと身を離し、
ふらりと2・3歩き出した所で膝をがくりと崩した。
 慌ててリンクがその腕を取る。
「無理だって」
「うるさい、帰る」
 振り払おうと身を捩る、が勢いがつきすぎて結局リンクの腕の中へと逆戻りとなった。
 性懲りなくじたばたする雌虎には正論など通用するはずもない。
「ああもう、わかった、じゃあ送るから」
「ふん」
 アッシュの片腕を肩に担ぎ、自分の腕は彼女の腰に廻してそろそろと階段を上る。
 通りに出たところで改めて尋ねた。
「で、どっち?」
 リンクはアッシュの住処を知らない。
「……何が」
「君の家にはどう行けばいい?」
「家?」
項垂れていた顔が僅かに上がる
「家……は、ない」
 リンクは驚いてアッシュを見つめ直したが、彼女の視線はただ前方の何もない空間を漂っている。
 そういえば、さっき店で寮がどうとか言っていたような。
「じゃあ、何処へ帰るつもりなんだ?」
「…………」
 無言のまま、また首を垂れてしまう。戻るべきかとりあえず進むべきかリンクが思案しているうちに
また寄り掛かる体が重くなってきた。
 リンクの部屋はここからなら目と鼻の先である。ほとんどアッシュを背負うようにして階段を上がり、
どうにかそこへ運び込んだ。
 さすがにこのまま泊めるのはまずいけれど、少し休ませてから送れば大丈夫だろう。 
 アッシュをベッドに腰掛けさせ、
「そこで休んでて。俺、テルマさんに報告しとくから――」
 リンクは踵を返そうとしたが、言い終わらぬうちに腕を強く引かれ自らもベッドに倒れ込む形になっていた。
369トワプリ後日譚 アッシュ【2】 9/17:2007/07/18(水) 11:27:19 ID:ihn39zp6
「お前って本当に」
  アッシュの口調ははっきりとしている。先程までの正体の無さは消し飛んでいた。
「いつかそのお人よしで身を滅ぼしかねないぞ?」
 言葉を続けながらリンクの腹に馬乗りになる。
「アッシュ??」
 アッシュは黙ったまま羽織っていた上着を肩から滑り落とすと、まだ湿っているシャツを肌着ごと捲くり上げ、
その裾を口に咥えた。形のいい椀状の乳房がこぼれ出てリンクの目の前に曝される。
 言葉を失ったリンクの視線がそれへと釘付けになるのを認め、右手を後ろ手に伸ばしてその股間に触れる。
「いい反応だ」
 リンクを見下ろす一対の黒曜石が細くなった。

「……よせ」
「……何故?」
 もしかしなくても謀られたらしい、とやっとリンクは気付いた。
「どうして」
「どうして?」
 リンクから視線を逸らさぬまま腰の剣を外して脇へ置き、跨っていた腰を浮かせて下着共々ボトムをずり下げる。
現れた漆黒の茂みにリンクの視線が移動する。
 動けずにいる彼の上に屈み込み、己の股間越しに伸ばした両の手でそのいきり立つ物を掴み、取り出した。
「明日から当分酒も男もお預けなんだ……だから……なあ、コレ……使わせてくれ……」
 正面から口説いたところで、この男がなびかないのはわかっているし、もうそんな時間もない。
 リンクには他に執着する相手が居て、しかし手を出すことのできない状態ならばかえって好都合。
 お互い欲求不満なんだし、いいじゃないか。一度くらい。
 竿を掴む手の親指で裏筋をなぞり、もう一方の掌を亀頭にあて、捏ねる。手の中で硬度を増してゆく感触が
アッシュの心を躍らせた。
『お前のような淫乱は、片時も男無しではいられない』
 蘇る、昔あの男に繰り返し吹き込まれた呪いの言葉。
 ――そうでもなかったぞ。もう半年以上男と寝ていない。
 ハイラルの為にとレジスタンスに集中していたころは自慰さえも忘れていた。
 唯一関心を持った男にはあっさり振られたけれど、――それでも私は狂わずにいられた。
 男にいいようにされるのは懲り懲りだ。相手はあくまでも私が選ぶ。
370トワプリ後日譚 アッシュ【2】 10/17:2007/07/18(水) 11:27:50 ID:ihn39zp6
「つ、使うって……」
 リンクは絶句した。アッシュ――なんという女。
 故郷で関係した女達も大概閨事には積極的だったけれど、こんなのは前代未聞だ。
 手技巧みに弄られ続けた一物は既に限界近くまで膨張し、更なる刺激を求めて脈動しており、
もう彼女にやめろとは言えなくなってきている。
 もしかして、あの日もこうだったのか?
「……リンク……」
 先端に熱くぬるりとした感触、心臓がどきりと大きく鳴った。
「…………ぁ」
 一気に腰を沈め、リンクをすべて呑み込んだアッシュが微かな息を吐いた。
 そのまま彼の上で彼女の体は動かない……のにその内部だけがうねり、絡み、締め付けてきてリンクを翻弄する。
「熱い……それにすごく、硬いな……いいぞ」
 そしてアッシュはゆっくりと体を揺すり始めた

 己の身の内にあってなお、撓むことなくその形を主張する硬さが新鮮で、嬉しい。
 久々の男を堪能するべく、ゆるゆると腰を前後左右に揺らし、回しては腹筋に力をいれて締め付けてみる。
「うあっあっ、そんな」
 上擦った声を上げながら、リンクの手が腿を掴む。
「まだ入れただけだぞ……楽しませてくれよ」
 そう言うアッシュの声も興奮で掠れてきている。
 リンクを咥えこんだままどうにか片脚からブーツとボトムを引き抜くと、下半身が自由に動けるようになった。
 彼の着衣を寛げてその腹に手を当て、腰を浮かせてゆっくり竿を引き抜いては一気に呑み込む。
 反り返ったその先端が自分の好い所を擦るように角度をつけて。
「は、あ……ん、んんっ」
 ぞくぞくと背筋を這い登ってきた快感が全身を覆い、隅々まで熱くしてゆく。
 自分で乳房を掴んで揉みしだき、目を閉じてただ無心に悦楽を追い求めようとしていた彼女をその時、
一際激しい刺激が貫いた。
 アッシュの腰を両手で掴んだリンクが下から突き上げ始めたのだった。
371トワプリ後日譚 アッシュ【2】 11/17:2007/07/18(水) 11:29:14 ID:ihn39zp6
 いくらなんでも、このまま『使われる』だけなのは不本意だ。俺は張型じゃない。
 なにより目の前で繰り広げられるあまりに淫靡な情景に、胸の奥深くしまっておいたはずの欲情が
激しく噴出し始めていた。
 リンクは己の腹の上でくねる女の腰を鷲?み、激しく突き上げた。
「んあぁっ」
 アッシュの声が一際高くなり、またしても内部が蠢きながらきつく締め付けてくる。
 久々の女体、それもめりはりの効いた極上の身体に加えてこの名器、とてもじゃないが持ちこたえられそうにない。
 彼女のペースで動かれるのを防ごうと、繋がったまま身体の上下を入れ替えようと試みてみると、
以外にもアッシュは抵抗なくリンクの胸の下へと組み敷かれていた。
 息つく間もなく抽送を再開する。
 仰臥してなお崩れない乳房がリンクの動きに合わせてぶるぶると揺れ、閉じた瞼を縁取るまっすぐな
黒い睫毛を震わせてアッシュが熱い溜息を吐く。
 その手は身体を支えるリンクの腕に添えられ、今や完全にリンクに身を任せている。
 時折うっすらと開く黒い瞳が潤んでいて、
(……可愛い……!)
 急激に熱いものが昇ってくるのを感じ、リンクは腰を引こうとした。が、できない。
「まだだ……リンク……止まるな」
 切れ切れに言うアッシュの脚がリンクの腰をがっきと捕らえていた。
 そんなこと言われても――
 歯を食いしばってどうにか耐え、両腕でアッシュの脚を引き剥がして大きく開かせ、
その身体を二つ折りにして上から覆いかぶさる。
 半ばやけくそで抉るように、叩きつけるように腰を振り下ろす。
 アッシュは手を伸ばして自らの足首を抱え、リンクの両腕を自由にすると、再び目を閉じ、眉根を寄せて喘いでいる。
「いい、ふ、そう、奥……突いて……もっと」
 とにかく彼女を往かせなきゃならない。
 今は少し緩んで潤い止まないその女陰を夢中でかき混ぜながら空いた手で陰核を探り摘み、揉みあげた。
「ふうぅっ、くぅん」
 普段のアッシュからは想像できない甘い声。
 先程押し倒されたときの勢いといい、次々とアッシュの見せる様々な一面はリンクを驚かせた。
 自分はあまりにも彼女のことを知らなかった。
「リンク……、リンク」
 そんな風に切なげに呼ばれると――、やっぱりもう、無理だ、限界――
 リンクが詫びようとしたその瞬間、組み敷いていたアッシュの背が弓なりに反り、
 声のないまま口を開いて喉を仰け反らせ、抱えていた脚がびくびくと痙攣し始めた。
 リズミカルに痙攣する肉襞に耐え切れず、引き抜いた暴れる一物に手を添える暇もないまま、
勢いよく射精が始まっていた。
 と同時に熱に憑かれていた頭の一角に冷めた思いが浮かび上がってきた。
 いったい何をしているんだろう、俺は……
372トワプリ後日譚 アッシュ【2】 12/17:2007/07/18(水) 11:29:59 ID:ihn39zp6
 久しぶりの交合による快感の余韻に浸りきって脱力していたアッシュがゆるゆると現実へと浮上してきたのは、
暫く後のことだった。既に身体の上に男の気配は消えている。
 腹に、胸に散らされたままの彼の濃い精を指に掬い、己の顔へと運ぶ。
 青臭い、雄の匂い。
 その指を舐りながらリンクへと視線を向ける。
 ベッドの端に背を丸めて座っているその背中へと。
 ――そんなにもあからさまに後悔されると、悲しくなるじゃないか……

 なんとなく昨日会った面接官達のことを思い出した。
「殿方と接するなとは言いません」
「但し、スキャンダルは一切無用」
 釘をさされたのも当然だった。きっちり過去を調べられていたのも予想の範囲内、
そんなことで傷ついてはいられない。
 それを知られた上でこれから彼らと折り合い、永く勤め上げてゆかねばならない。
(姫様は、知っているのだろうか――)
 楚々とした外見ながら、嗜みとして武具の扱いも習得しているという姫君にアッシュが直に声を掛けられたのは
城に上がって間もない頃のこと。
「あなたですね。この度少年騎士団に入団なさった女性というのは」
 両の手を胸の前で合わせ、切れ長の美しい瞳が楽しげに笑いの形を作る。
 もちろん身に余る光栄ではあったのだが、いきなり『女性』という言葉を使われ、面食らったのを覚えている。
 その頃のアッシュは髪も短く、身を飾る装飾品なども一切つけておらず
 ――外見上は他の男子団員と変わらなかった。
 ただ、膨らみかけていた胸をどうにも恥ずかしく感じており、誰にもそれとは言わぬまま普段は布を巻いて
押さえつけていた。
 ――己の性別を認めたくなかったのかもしれない――
「剣と弓が達者なのだと聞きました。ぜひいつかご一緒させてくださいね」
 社交辞令なのかそれとも本気なのか、その笑顔は公式のときとは違い年相応に無邪気にかわいらしく見えて、
アッシュは姫君に対して一気に親しみを感じたものだ。
373トワプリ後日譚 アッシュ【2】 13/17:2007/07/18(水) 11:31:12 ID:ihn39zp6
 そろりと身を起こし、リンクににじり寄る――彼は動かない。
 何を……誰のことを考えてる?
 姫様のこと?それとも……
 その肩口に見える星型の傷に触れてみる。
「……矢傷だな」
 触れる手をそこから少し滑らせ、
「……火傷」
 引き攣れた肌に唇で触れる。
 ゾーラの王子を運んだ際に、魔物の放つ火矢に悩まされたという話は聞いている。
 だが、彼の体のそこここに残るこの傷跡の多さはどういうことだ。
 四肢には大小様々な創傷、鎖帷子のおかげか体幹部に残るのはほとんどが挫傷跡らしく、
皮膚を淡く斑に覆っている。
 しかし脇腹から腹へと並ぶ変色などは、まるでなにか巨大な動物の牙にでも掛かったかの様である。
「……一人で戦でもしていたのか?」
 リンクはぼんやりと前方の床をみつめたまま、ぼそりと答えた。
「…………ない」
「え?」
「……一人じゃない」
 背を丸め、両手で顔を覆う。
「…れは……俺達は…………ずっと一緒に」
 アッシュは続く言葉を待ったが、リンクは僅かに肩を震わせるのみで言葉を継ごうとはしなかった。
 リンクに自分達の知らない仲間が居たらしいことは状況から推測できていた。
 地理に明るくなかったはずの彼の速やかな移動を案内し(これについては私達の情報もあっただろうが)、
さまざまな武具を調達し、あまつさえ既に囚われの身であったはずのゼルダ姫との連絡を――
そんなことをこなせる人物とはいかなる者か。少なくとも王家に近しい者であったろう。
 近衛か近習?あるいは王家子飼の密偵――アッシュはこのあたりであろうと推測していた。
 名前も顔も出せない影の功労者、そして多分もうその者はこの世に居ないのだろう……と。
 崩壊した城の跡地に現れたときのリンクの悲痛な表情。あれはおそらく相棒を喪った直後だったから。
 ――聞いてもおそらく答えは返ってこないのだろう。
 それこそが彼女の考えが事実に近いという証にも思える。王家の秘密が絡んでいるのなら、それは墓場まで
持ってゆくべきことなのだろうから。
 項垂れるリンクの身体を背後からそっと抱きしめた。
 還らぬ兵士達の中にはアッシュが知る者達の名もあった。かつて共に修行した彼らは姫を守って
戦い斃れたのだろうか。その最期が本望であったならよいのだが。

 目を閉じ、ただ生きた人肌の温かさを感じていたアッシュの手首をリンクが掴む。
 振り払われる――そう思ったが、予想は外れた。
 腕を取ったまま体を捻り、もう一方の腕をアッシュの背中に回してそっと再びベッド上へと倒す。
「――忘れさせてくれる?」
 リンクの半分泣きそうな、半分笑っているような複雑な表情。
 アッシュは黙ったまま彼を見上げ、ただその亜麻色の髪を優しく梳いた。
374トワプリ後日譚 アッシュ【2】 14/17:2007/07/18(水) 11:31:43 ID:ihn39zp6
 先ほどは触れようとしなかった乳房に厚みのある手が触れ、やわやわと撫でたかと思うと、
思い切ったように顔を埋める。胸の谷間の顔に両の手で乳房を寄せ、挟むようにして頬摺りする。
 乳首を吸われ、ごく軽く甘噛みされてアッシュは呻いた。
 もちろん童貞だとは思っていなかった。しかし年下の彼はアッシュの予想以上に女体の扱いを心得ているようだ。
 積極的に愛撫を始めたその手も唇も、けして力まかせには動かず、痛みも不快感も無くただぴりぴりと
甘い快感のみをアッシュに与えてゆく。
 彼女が反応すれば、
「ここ?」
 確かめるように愛撫を重ねる。先刻とはうって変わった細やかさで。
 なんなんだ、この男は――
 胸に片手を残したまま、脇へ、上腕へと唇が移動し、吸われ舐められるむずがゆい刺激が細い首を昇って
丸い耳に歯が当たる。
 たまらなくなったアッシュが求めるまま唇が重ねられ、舌が挿入される。互いの舌を絡め、口腔内を舐め回されて、
今度は引いてゆく彼の舌を追ってその唇の奥へと侵入し、今さっき自分がされたと同様の舌戯を返す。
 互いを侵し侵されて長い長い口付けが続く。その間も胸への愛撫は続けられ、アッシュの思考を霞ませた。
 彼が何を忘れたいのかとか、自分の未来への不安とかもうどうでもよくなっていた。
 ただもっと深く彼を感じたくてその背に回していた手を下腹部へと伸ばす。
 それに気づいてアッシュの手を制し、
「まだ」
 唇を離して言った彼の息はすでに荒く、弾んでいる。
「リン…」
 今度は言葉でねだろうとしたアッシュの唇を軽く塞いでおいて、リンクは逆に自分の手をアッシュの
下腹部へと伸ばした。
 アッシュが自ら膝を立てるようにして脚を開く。繁みはもう十分に濡れていて、その奥のぬめる秘裂はリンクの指をすんなりと迎え入れた
「ああっ」
 二本の指が内壁を擦る。もうそれだけでアッシュの腰は跳ねてしまう。

「すごいね、アッシュ」
 リンクが呟いた。感じやすく、濡れやすい身体。指を喰い締めうねる肉壁。
 女陰の入り口を愛撫するだけでまた愛液が溢れてくるのがわかる。
 見事なプロポーションと相まって、その身体はリンクの知る誰よりも淫猥かつ蠱惑的で……、
もしも村にいた頃彼女を知ってしまっていたなら一直線に溺れてしまっていたかもしれない。
 リンクは一旦体を離すと、アッシュの下半身を持ち上げ、そのこんこんと湧く淫液の泉へと顔を埋めた。
「ヒッ」
 アッシュが小さく悲鳴を上げた。反射的に振りほどこうする様子に、リンクは顔を上げて不思議そうに尋ねた。
「舐められるの、嫌い?」
「そんなまねをする奴があるかっ……」
 珍しく、アッシュの表情が強ばっている。そんなところを舐められるなど、想定外だった。
 自分のものを舐めさせることを好む男はいたけれど。
「そう?俺の故郷じゃ普通だったけど……」
 残念そうに
「嫌ならやめるよ」
 抱えていたアッシュの腰をベッドへ降ろした。
375トワプリ後日譚 アッシュ【2】 15/17:2007/07/18(水) 11:32:39 ID:ihn39zp6
 嫌ならやめる?
 アッシュはうろたえた。例によって表情には現さぬままに。
 閨でそんな事を言う奴なんて、彼女の記憶には存在しない。
 行為に慣れていようがいまいが、事に及んでしまえば大抵男は身勝手だ。
 いちいち女の感情など気にしない、自分がしたいようにするだけ。それが当たり前なのだと今の今まで信じていた。
 だから男の期待するリアクションを演じてやれば、その行動をある程度誘導できることも知っている。けれどこの男は
自分が楽しむことより、アッシュの気持ちを優先させようとしている。
 そんな、ばかな。
「別に嫌なわけじゃない……ちょっとびっくりしただけだ。お前のしたいようにすればいい……」
 何をされようと、させられようと受け入れるつもりでいたのだ。今夜は。
 リンクがアッシュの心を計るようにその瞳を覗き込む。せっかくその気になったリンクに余計な気を使わせたくはない。
「――嫌なら、そう言うから」
「うん」
 再び秘所へと顔を埋めたリンクに陰核をやさしく吸われ、
「――ふ」
 おもわず洩れ出す声を呑み込む。
 厚みのある舌が肉襞をなぞり、唇に挟み、吸う。舌で襞を割り広げて隈なく舐め回し、尖らせた舌先で
尿道口を刺激する。指で攻められるのとはまるで違う、知らなかった感覚にアッシュは身を震わせた。
さらに舌は膣内へと挿し入れられ、ぬちぬちとのたうちまわる。
 舌はやがて抜かれたが、熟れたそこにはすぐに指が二本挿し入れられ、内壁への愛撫を引き継いだ。
同時に襞を昇った舌が包皮を押し退け硬くなった突起を直に捏ね始める――
「あ、ああぁぁ……」
 もう声を抑えることはできなかった。
 思わず脚を閉じそうになるのを防ぐため、片脚を上げて抱え込む。
 年下の男に翻弄されることへの抵抗など、もはやなくなっていた。
 思考は白熱して霞み、昇ってくる熱い奔流が弾けて四肢へ、頭頂へと駆け抜けてゆく。何度も、何度も繰り返し――

 指と舌だけで絶頂させられ、まだ引かぬアクメの波に目を閉じたまま大きく胸を上下させているアッシュに、
リンクが覆い被さってゆく。
 入ってくる――アッシュはぼんやりと考えた。
 しかし彼女の耳に届いたのは
「アッシュ……後ろから……いい?」
 またしても想定外の言葉だった。
376トワプリ後日譚 アッシュ【2】 16/17:2007/07/18(水) 11:37:01 ID:ihn39zp6
 どうしてそんなことを聞く?
 命令でも指示でもなく、その手で姿勢を変えさせるでもなく、まず彼女の許可を得ようとしている。
 リンクは決して気が弱いわけではない。時に果断で強引な部分もあることを知っている。
 その呼吸は荒く、彼の興奮を示していたし、アッシュの腿に触れる陽物はもう完全に臨戦態勢だ。
 なのに。
 アッシュは黙って自ら身体を反転させ、腰を持ち上げた。余計なことを言ってまた中断させたくない。
 尻を撫で回す熱い手を感じ、顔を敷布に押し当てたまま腰をくねらせ、無言で誘う。
 早く、早く欲しい。乱暴にしてかまわないから。

「……入れるよ」
 昂ぶってしゃがれた声。
 アッシュの腰を掴んだ両手に力がこもり、ようやく待ち望んだものが侵入を開始した。
 いまだ疼きの治まらぬ膣壁が、リンクを歓迎してびくびくと蠢動するのがわかる。
 ゆっくりと半ばまで進入しては先端を残すまで抜くことを何度か繰り返しながらリンクが呻いた。
「やっぱり、こっちも……すごい……」
 深く挿入してアッシュの背に身体を伏せ、背骨に沿って舐め上げられる。両の手は腰を離れて
引き締まった腹を撫で、やがて乳房を掬って円を描くように揉み始めた。
 それは確かに快いものではあったけれど、その間彼自身の動きが緩慢になるのがやるせなくて、
アッシュはまた自分から腰を使い出していた。
「う、く、それじゃ持たないって――」
 リンクの身体が強張る。やはりこの男は……
 アッシュは上半身を持ち上げ、首を巡らせてリンクを見つめた。
「私は、もう、十分だから――気にせず動け」
 少しの沈黙の後、ぐいと肩を掴まれ、顔ごとぶつけるようなキスがひとつ。
 堪え切れぬといったようにリンクの抽送が速く、激しくなる。耳に降ってくる息遣いが獣じみて聞こえだし、
抉るように腰を打ちつけられるたび、ばちゅんと濡れた音がする――
 ここにきてやっとリンクの箍が外れたようだった。そうだ、それでいい。
「は・あ・あ、んっ、ん」
 突かれる度に、閉じることのできなくなった唇から喘ぎが漏れる。
 暴走する男の動きの中で自身の快感を追うことには慣れていた。
 けれど今はそんなことを意識するまでもなく、リンクに揺さぶり上げられるまますぐそこに快美の頂点が
見えてきている。
 この悦楽は彼に与えられているもの、彼から無償で受け取っているもの――
「いい――、リンク、いいぞ、ああ、もう私、は――」
 できれば同時に、共に、
「俺・も、もう――!」
 再び腰を鷲?みにされ、がくん、がくんと激しく最奥を突かれる。
 アッシュが声にならない叫びと共に全身を痙攣させ、弛緩させる中、リンクはその身を彼女から引き抜いた。
 今度はしっかりと自らを捕らえて最後の摩擦をくれてやり、勢いよく溢れ出す精を自身の掌に受け止めていた。

 後始末をしようと起き上がりかけたリンクの手をアッシュが止めた。精液まみれのその手を丹念に舐め清めてゆく。
 呆然と彼女の行為を見つめていたリンクにちらりと流し目をくれ、そのまま腰に抱きつき力を失いつつある彼の中心に
吸い付いてゆく。
「……絞り尽くす気?」
 それには答えず、一心に竿をしゃぶり続ける女がどうしようもなく可愛い。程なく三度目の勃起に達し、そして――
377トワプリ後日譚 アッシュ【2】 17/17:2007/07/18(水) 11:38:01 ID:ihn39zp6
 リンクが目覚めたとき、すでにアッシュの姿は無かった。ただ敷布に残る明らかに自分のものではない数本の髪と
陰毛が昨夜の情事の名残を示していた。
 窓外は明るく、いつも早朝から始まる市のざわめきが聞こえ出している。
 生き物としての本能の求めるまま、何度繰り返し交わったのか、最後のほうはよく覚えていない。
 もうこの世界の女性と肉体関係は持つまいと思っていた。――その必要もないと。
 実際以前に比べて色情を感じることもずっと少なくなった。女性に対する性的許容範囲が大幅に縮んでしまって
いるのだと思う。
 それでもアッシュに魅力を感じてしまうのはなぜなのか。自信ありげに見えて妙に不器用なところとか、
自分にも他人にも厳しいくせに時々自嘲気味だったりするところとか、飾らない男言葉で話すのにその内側に
とても女性的な一面を持っていたりして――。
……似ているのだ。
 そこまで考えてくっ、と苦笑いが漏れた。ただし、セックスに関しては正反対か。
 結局自分はアッシュに甘えてしまった。ずっと胸の奥に抱え込んでどこにも出せないでいる重苦しいもの――
後悔や自己嫌悪、焦りや嫉妬――がいくらか和らいだ気がする。確かに――癒されている。
 何も聞かずにただ受け入れてくれた彼女に感謝しようと思う。
 さあ、今日もまた一日が始まる。
 アッシュが新しい環境に早く馴染めればいいのだが――
 身支度を整えながらゼルダ姫に付き従うアッシュの姿を想い描こうとし――、この時になってようやく思い出した。
結局例の誤解について話をしていないではないか。
 なんてこった。 リンクは小さく溜息を吐いた。
 けれどアッシュが姫様の傍に居るなら、そう遠からず会うことになるかもしれない。
 その時にでも話そう……今度こそ。
378名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 11:39:34 ID:ihn39zp6
手が遅くてすまんです、今回単調だし。
餅が落ちた訳ではないんですが。

文章体裁少し変えてみました、試行錯誤中。
男運の悪い女剣士と未練たらたらのお人よし勇者の話、やっぱり続いたり。
379名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 15:16:45 ID:yFmAHWDh
GJGJ!!!!
女だけど良かった(*´∀`*) アッシュもなかなかいいね。
380名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 21:28:55 ID:POGGDhtv
>>378
あなた様をお待ちしてました。
涙でました。
続きもマジで楽しみにしてます。
381名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 21:58:59 ID:ihCa2l1D
>>378
行為は実に濃厚なのに、描写に突き放したようなところがあり、やるせない。
それが登場人物の心情にマッチしていて、この話の魅力になっていると思います。
GJ!
382名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 02:36:16 ID:gvUXA7sN
GJ!
時間を忘れられたよ!
383名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 14:16:51 ID:LBDTaXpF
ふーん・・・。
384名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 14:45:08 ID:H2Eti/O8
ミドナマダー?
385名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 21:31:18 ID:fy4FhzzU
そろそろかな…(;´Д`)ハァハァ
386名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 23:43:07 ID:dsa1mPGs
(*´Д`)ハァハァハァハァ
387名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 12:30:18 ID:5aIhMj7e
お前らハァハァしすぎで過呼吸症候群になるなよ?
388名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 13:19:12 ID:zFDkVYoU
テカテカしすぎで太陽拳症候群になりそうです
389名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 13:37:48 ID:bFvFyPAb
ミドナたん(;´Д`)ハァハァ
390名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 14:19:52 ID:43EWwzvj
(*´ω`*)
391名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 15:12:19 ID:7nx+E09T
>>388
ワロタw
392名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 00:10:48 ID:wHK51hbP
wktk
393 ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:43:59 ID:rU9SZd9q
私本・時のオカリナ/第三部/第七章/アンジュ編その5/前編、投下します。
この章は異常に長くなってしまい、スレの残り容量をオーバーすることが確実だと思われるので
とりあえず前編のみを落とします。今回の分には、エロはほとんどありません。
註:アンジュ(仮名)=コッコ姉さん
3943-7-1 Ange V-1 (1/15) ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:45:21 ID:rU9SZd9q
 エポナがブルッと鼻を鳴らした。
 リンクは現実に戻った。馬上で考えごとにふけっていて気がつかなかったが、エポナはちょうど
道が二手に分かれる所で立ち止まっていた。鼻を鳴らしたのは、どちらへ行くのか、リンクの
指示を促すつもりだったのだろう。
 右の道は、ゾーラ川がハイラル平原に流れ出る地点へと向かっている。左の道を行けば
カカリコ村だ。少し考えたのち、リンクは右に道をとった。目的地はカカリコ村だから、回り道に
なる。にもかかわらずそうしたのは、一度ゾーラの里を見ておきたいと思ったからだった。
エポナのおかげで旅がはかどるようになり、日程に余裕が生まれていた。その余裕を利用しようと
いう算段だった。
 それに、乗馬というものにも、もっと慣れておきたかった。
 旅がはかどるといっても、移動時間はそれほど短くはなっていない。なにしろ初めての
乗馬体験なのだ。初めからすっ飛ばせるはずもなく、リンクが操るエポナの歩調は、慎重なものに
ならざるを得なかった。確かに自分の足で歩くのに比べると、疲労の度合いは雲泥の差で、体力を
温存できることにより、相当に楽な旅となってはいる。だが、だからといって、いつまでも
のんびりとはしていられない。
「もう少し急いでみようか」
 リンクはエポナに語りかけた。マロンの教授を思い起こし、足と腰を使って指示を出す。
ながら不器用な動きだ、と思う。しかしエポナは自然に常足から速足へと移った。体勢を保つのに
精いっぱいのリンクだったが、エポナは平然とした調子で足を運ばせてゆく。
 馬に乗るなんて簡単よ、とマロンは言ったが……なるほど、ことは順調──と、リンクは
嬉しくなった。が、慢心はしなかった。
 自分に乗馬の才能があるわけではない。むしろエポナが優れているのだ。信頼する相手であれば、
乗り手が下手でも力を発揮する。逆に乗り手を教育してくれているようでもある。さっき分かれ道で
こちらに指示を促したように。
『エポナにふさわしい乗り手にならないとな』
 気を引き締めて手綱を握り直し、リンクは先へとエポナを進ませていった。
3953-7-1 Ange V-1 (2/15) ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:46:22 ID:rU9SZd9q
 速足の動きに慣れ、馬の操り方もさまになってきたと思えたので、リンクは再びエポナを並足に
戻した。背の上でゆっくりと身を揺らしているうちに、リンクの頭はまたも一つの対象に占められて
いった。分かれ道に至るまでにも考えていたことだった。
 マロン。
 そのままにしてきたことが気がかりではあるが、また訪れる機会はあるだろう。結局言い出せ
なかったタロンのこともある。みずうみ博士は、あせらんでもよいと言ってくれたが、いずれは
伝えなければならない。それに、これほど助けになるエポナを譲ってくれたお礼もしなければ……
 そして、思いは必然的にそこへと向かう。
 マロンとの体験。
 抑えようもなく記憶に立ちのぼる、マロンの裸体。
 手の、唇の、肌の、胸の、そしてあの秘められた場所の、絶妙な感触。
 それらがリンクを高ぶらせる。
 しかし困惑はない。前には自分の中で燃え狂っていた欲望の嵐に手もつけられなかったが、
いまは高ぶりながらも不思議に落ち着いた気分なのだ。ひとたび男と女の行為を経験し、
それまでは知るよしもなかった欲望の行き場を、明確に知ることができたせいだろうか。
 その経験は、女性の見方にも変化を及ぼしたようだ。それまでは、個々の女性の特定の要素
ばかりが集中的に思い浮かんだ。それは、サリアの唇であったり、アンジュの乳房であったり、
ルトの裸身であったりした。マロンの場合はキスの懇願と「もっといいこと」への空想だったのだが、
実際にマロンと身体を合わせてみると──突出した特定要素だけではなく──マロンという一人の
人間がそこにあったのだ、と理解できる。そうした変化も、自分を落ち着かせている理由かもしれない。
 未解決のことがまだ多く残ってはいるが、それでも自分が人生の段階を一つ進むことができたのだと
実感し、リンクは大きく満足の息をついた。が……
 突然、ゼルダの顔が脳裏に浮かび、リンクはどきりとした。
 動揺する。
 この動揺は何なのか。
 痛みとも苦みともつかぬ感情に惑いつつも、リンクは自らを追求した。
 複数の女性に欲望を抱くのは悪いことではない、とシークは言った。その言葉で、自分が
異常なのではないとわかり、ぼくは安心したものだ。なのに、いまのぼくは、なぜこうも動揺して
いるのか。なぜかというと……そう……
 二人を繋ぐ、あの「何か」に象徴されるように、ぼくにとってゼルダは、他の女性とは違う
特別の存在だ。だからあの行為も──この上なく密な女性との接触である、あの行為も──
本来ならゼルダとなすべきことだった、と、ぼくは心の底では考えている。それが動揺の理由なのだ。
 けれども、マロンとの体験が間違いだったとは思わない。自分にとって大きなできごとで
あったと同時に、あれはマロンにも何かをもたらしたはずだ。それは確かだ。
 リンクはおのれに言い聞かせた。心にかすかなしこりが残っているのを自覚してはいたが、
それ以上の追求は、敢えて避けた。
3963-7-1 Ange V-1 (3/15) ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:46:58 ID:rU9SZd9q
 ロンロン牧場を出発してから二日後、リンクはハイラル平原の東端に行き着いた。
 目の前の山並みに刻まれた深い渓谷。しかしそこを流れ下る水はなく、ただそこかしこの窪みに
小さな水たまりが散見されるのみ。豊富な水が激しくしぶきをあげていた七年前が嘘のような、
それがいまのゾーラ川の姿だった。
 皮肉なことに、水がない分、川を遡ってゆくのは容易そうだった。だが傾斜は急であり、馬で
進むのはとうてい無理だった。リンクは、平原から少し奥に入った所にある空き地に、エポナを
残してゆくことにした。繋置はしなかった。口に入れる草や水を求めての移動を妨げてしまうし、
エポナが自分を置いて去ることはないと確信していたからでもあった。
 急流に足を取られる心配はないとはいえ、斜面には沢や淵を形づくっていた複雑な段差があり、
登ってゆくのは思ったほど楽ではなく、リンクは全身に汗をかいた。上流から漂い下りてくる
冷気がそれを和らげてくれたが、冷気の正体を思うと、とてもありがたいとは思えなかった。
登るにしたがって気温は下がり、リンクの身体は、汗をかくどころか、寒さで震えるように
なっていった。
 最上流では雪すらちらついていた。滝は完全に凍結しており、ゾーラの里への入口である滝の
裏の洞穴は、目にすることもできなかった。すでにシークから聞いていたことでもあり、さほどの
衝撃はなかったものの、変わり果てた風景に、リンクの心は重く沈んだ。風景の変貌は他の
地域でも経験してきたことだが、ここではゾーラ族の悲惨な最期の状況が、否応なく想像されて
しまうのだった。リンクはマスターソードの柄で氷を崩そうと試みたが、すぐにそれを断念した。
凍りついた巨大な滝を人力で崩すなど、一生かけても無理なことだった。やむなくリンクは
帰途についた。
 背後の冷気が遠のいてゆくのに影響されてか、下るにつれて、リンクの気分も元に返っていった。
諦めるな、まだ先がある、という思いを、リンクは胸の奥でかき立てた。
 傾斜の下端に近づくと、エポナが空き地に佇んでいるのが見えた。最上流への往復に半日以上
かかったが、エポナはずっとそこで待っていたのだ。予想はしていた。それでも頬に笑みが
浮かぶのを抑えられなかった。
 赤みがかった褐色の毛並みをもつ、得がたい旅の道連れ。いや、もう親友と言ってもいい。
 リンクを認めたエポナも嬉しそうに嘶く。
「よしよし、待たせてごめんよ。また一緒に行こうな」
 歩み寄りながら声をかけるリンクの中で、エポナへの信頼は、より堅固なものとなっていた。
3973-7-1 Ange V-1 (4/15) ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:47:40 ID:rU9SZd9q
 カカリコ村へ向けて北上する間、速足、さらには駆足までも試してみたが、エポナは指示に
対して的確に反応し、実に俊敏でスムーズな動きを示した。エポナ自身の能力とはいえ、自分の
乗馬の腕も上がったように感じられて、リンクの心は浮き立った。
 シークと再会の約束をした場所に着くまで、一日しか要さなかった。そこはゾーラ川をはさんで
東の山地に近接する平原の高台だった。カカリコ村に程近い所だが、人通りはなく、二人きりで
会うには適切と言えた。
 まだ日没には少し間があったが、居場所を知らせるつもりもあったのだろう、シークはいつもの
ように火を焚いて待っていた。リンクを見たシークは開口一番、
「その馬はどうしたんだ?」
 と訊いてきた。問われることが予期されたので、リンクは返事を準備していた。ロンロン牧場に
寄った時に譲り受けたのだ、と、最小限の事実だけを話した。マロンとの体験のことは、すぐには
言い出しかねた。自分に向けられるシークの視線が、なおも説明を要求しているように思えたが、
シークは質問を続けようとはしなかった。リンクは安堵した。
 早めの夕食をしたためつつ、二人は水の神殿の件を話題とした。神殿に入ることはできたが、
それ以上の収穫はなかった、と、リンクは残念な報告をせざるを得なかった。ある程度の予想は
していたのか、シークは、
「そうか」
 と短く言ったきりだった。が、表情に浮かぶ失望の色が、リンクには見てとれた。
 その失望を振り払うかのように、シークは話題を変えた。
 次の目標。二つの神殿。デスマウンテンと、カカリコ村の墓地。今回は神殿の詳細な場所が
わかっていないし、関係するメロディも得ていない。特にデスマウンテンは近づくことすら困難だ。
だが墓地については──
 シークは地下通路と石碑のことを語り、最後をこう締めくくった。
「カカリコ村へは時にゲルド族がやって来るが、いまは来ていないから安全だ。ゆっくり探索
できるだろう。四日後の夜、またここで会おう」
「安全だというのなら、君も一緒に行った方がいいんじゃないか? カカリコ村は君にとっても
馴染み深い場所なんだし……」
 リンクの勧めに対し、シークは首を横に振った。
「いや、僕は西方の状況を調べる。次の目的地は『幻影の砂漠』だからな」
 たった四日では遠くの状況はわからないだろうに──とリンクは思ったが、口には出さなかった。
 シークのことだ。何か考えがあるのだろう。
3983-7-1 Ange V-1 (5/15) ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:48:54 ID:rU9SZd9q
 やや間をおいて、シークが再び口を開いた。
「神殿や賢者とは関係のないことなんだが……」
 ためらうような雰囲気があり、リンクはいぶかしく感じたが、続くシークの声は一転して明確な
ものとなった。
「アンジュに会いたまえ」
「アンジュに? どうして?」
 問い返すリンクに、シークは声をたたみかけた。
「女を教えてもらうんだ」
 リンクは記憶を掘り起こした。
 シークは南の荒野でも似たようなことを言った。「君は女性を知るべきだな」と。
「……どういう意味?」
 前にはできなかった質問をしてみる。が、シークの答は答になっていなかった。
「そうアンジュに言いさえすればいい」
 それだけではあまりにも素っ気ないと思ったのか、シークは言葉をつけ加えた。
「君のためになることだから」
 何なのだろう。
 マロンとの体験が頭に浮かぶ。けれど、それに関係したことなのかどうか……
「……わかった」
 ほんとうは何もわかってはいないのだが、とりあえずそう返事をした。アンジュに会えば
わかるのだろう、と思って。
「ただ──」
 シークが熱心な調子で言い始める。
「僕が君に、アンジュに会えと言ったことは、アンジュには伏せておいて欲しい。あくまでも
君が自分の意思でアンジュを訪ねた、ということにしてくれ」
 意図が理解できなかった。
 シークとアンジュが知り合いだということは、すでにシークから聞いている。カカリコ村が
戦争に負けたと知って、アンジュがどうなったのか心配だったが、シークの話で無事だとわかり、
胸をなで下ろしたものだ。だが……この二人の間柄は、どういったものなのだろう。シークは
詳しいことを話さなかったが……
 訊いてみようか、と思いかけたが、シークの顔は仮面のように感情を欠いており、問いただす
気は殺がれてしまった。
「ああ……いいよ」
 曖昧な気持ちのまま、リンクは頷いた。会話はそれで終わった。
3993-7-1 Ange V-1 (6/15) ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:49:43 ID:rU9SZd9q
 あまり遅くならないうちに着けるだろうから──と言い、日が没していたにもかかわらず、
リンクはカカリコ村へと出発した。エポナに揺られて遠ざかってゆくリンクを、シークは高台に
立って見送った。その姿が見えなくなってから、シークは焚き火のそばに戻り、腰を下ろした。
 思いを探る。
 僕の知る範囲では、リンクの最初の相手としては、アンジュが最も適当だ。二人は以前からの
知り合いだし、アンジュならリンクをうまく導いてくれるに違いない。が……
 そのことへの引っかかりが、僕の中には残っている。
 リンクが他の女性とセックスすることへの引っかかり。
 南の荒野でも、僕は自分を納得させた。リンクには必要なことなのだから、と。しかしそれだけでは、
この引っかかりは消えない。
 なぜ引っかかるのか。
「他の」女性。誰以外の女性だというのか。
 ゼルダだ。
 リンクはゼルダに特別な感情を抱いている。そして僕自身も、リンクの感情を支持している。
リンクとゼルダの結びつきを願っている。それが引っかかりの理由なのだ。
 だが……ゼルダという存在がリンクにとって不動のものである以上、他者との関係によって
それが揺らぐことはない。そう考えれば、この引っかかりは呑みこめる。
 そこで、ふと思い当たった。
『僕はやけにゼルダを贔屓しているな』
 他意はない。リンクの友人として、彼の幸せを念じているだけのこと。
 それだけのこと……なのに……違和感がある。何だろう。
 ゼルダと僕。リンクを介さない何らかの繋がりが、そこにはあって……
 そして、他にも違和感が……
 この引っかかりは、アンジュやルトやサリアと、リンクがいかなる関係にあったのか、という
疑惑に際して、僕がかつて感じた胸の痛み──他愛もないと片づけたものだが──それと軌を一に
している。けれども、僕がその痛みを感じたのは、ゼルダへのリンクの想いを知る以前のことで……
『待て』
 心が警戒を発する。
 この件は置いておけ。それよりも、もっと重要なことがある。
 シークは思考を旋回させた。
 もう一つの引っかかり。アンジュが他の男性とセックスすることへの引っかかり。リンクには
必要なことなのだから、というだけでは、やはり消せない引っかかり。
 アンジュは娼婦だ。男と交わるのは日常茶飯事だ。いままでそれが僕を惑わせたことなど
なかったのに、なぜ、いまはこうも引っかかるのか。
 これまでアンジュとは何度か身体を重ねている。確かにそれは僕にとって大きな安らぎだ。
とはいえ、アンジュを愛しているわけではない。時に会って、抱き合って、安らぎが得られれば
いい、というだけの、割り切った関係だ。アンジュも同じ認識に違いない。だからアンジュが
僕以外の誰とセックスしようと、一向にかまわない。
 かまわないはずなのに……どうしてリンクの場合は引っかかる? 
 僕がリンクに先立ってカカリコ村へ来たのは、リンクに女を教えてやってくれと、直接
アンジュに頼むつもりだったからだ。でも、僕はそうしなかった。会おうと思えばアンジュには
会えたのに、僕は会わなかった。会えなかった。なぜ?
 一緒にカカリコ村へ行った方がいいのでは、というリンクの誘いを、下手な言い訳までして僕は
断った。リンクと二人でアンジュに会いたくはなかった。なぜ?
 アンジュを薦めたことをアンジュ本人には言うなと、僕はリンクに口止めした。僕が薦めたのだと
アンジュには知られたくなかった。なぜ?
4003-7-1 Ange V-1 (7/15) ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:51:02 ID:rU9SZd9q
『気遣いだ』
 自分に言う。
 他の男に抱かれろと僕の口から聞かされたら、あるいは僕がそう言ったと間接的にでも知ったら、
アンジュは何と思うだろう。僕はそう気遣ったのだ。
『……いや……』
 痛みに耐えて、おのれの心をえぐり出す。
『違う』
 自分を飾るな。ほんとうはこうだ。
 他の男に抱かれろと僕の口から聞かされて、あるいは僕がそう言ったと間接的に知って、その上で、
もしアンジュが喜んでそれを受け入れたら、と……
 僕はそれが恐いのか?
 僕がアンジュに特別な感情を抱いているというのか? それが引っかかりの理由だと?
 そんなことはない。愛なんかじゃない。が……
 愛……ではないが……この「情」は……自分でも説明できない、この想いは……
 これが『副官』なら、僕はここまで引っかかりを感じないだろう。では、なぜアンジュには
感じてしまうのか。二人の違いは何なのか。それは……
 境遇。
 不本意な立場ではあっても、『副官』は戦士としての誇りを保っている。自分の道を自分で
決められるだけの自由を持っている。
 アンジュはどうか。
 娼婦。女の誇りを捨て去らなければ生きてゆけない苦しみ。
 僕たち二人の逢瀬が、アンジュにとっても安らぎであることは確かだ。しかしそれはあくまで
一時のもので、僕はアンジュを、その苦しみから救い出してやることができない。いや、
そこまでとは言わずとも……抱き合って安らぎを得てもなおアンジュの表情にひそむ、あの
寂しさの影を、僕は拭い去ってやることができない。
 哀しい。
 情があるから哀しいのか。哀しいから情が湧くのか。
 心の底を凝視する。すべての感情を洗い直す。
 葛藤の末、シークは結論に達した。
 僕にはできないことを、もし他の男ができるのだとしたら……
『それでいい』
 たとえ自身の所産でなくとも、他者の力によるものであっても、アンジュの幸せを願うなら、
僕は喜んでそれを認めるべきなのだ。
『リンクなら……』
 ケポラ・ゲボラの言葉を思い出す。リンクは陽、僕は陰。戦い方だけではなく、それは僕たちの
性格の対比でもある。
 リンクなら、僕にはもたらせない何ごとかを、アンジュにもたらすことができるかもしれない。
 そう……アンジュをリンクの相手に、と考えた時、僕の意識の下には、その思いがすでにあったのだ。
 最後まで残っていた引っかかり。それをいま、シークは静かに呑みこんだ。
4013-7-1 Ange V-1 (8/15) ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:52:12 ID:rU9SZd9q
 二時間経った。あらかじめ決めておいた刻限だ。もう帰ってもらわないと。
 隣の男に目をやる。目を閉じて、じっと横たわったままだ。眠っているのだろうか。
 動きが男に伝わるように身を起こす。布団をめくる。全裸のままベッドに腰かけ、ふり返る。
 男が目をあけていた。気持ちが表に出ないように、声を作って話しかける。
「ねえ、そろそろ──」
 いきなり腕をつかまれ、引き戻される。ベッドに背中を押しつけられる。上にのしかかられる。
「ちょっと……もう時間が……」
 聞く耳も持たず、男が股間をぶつけてくる。かちかちになった肉棒が、すでに潤いの引いていた
谷間に突き立てられる。
「あぅッ!」
 摩擦の痛みで漏れる声を、快感の喘ぎとでも思ったのか、男はにやりと笑い、ぐいぐいと腰を
前後させ始めた。
『しかたないわね……』
 男の背に腕をまわす。
 肉体労働者なのだろう。裸体の表面で筋肉が逞しく緊満している。四十歳以上に見えるが、
それにしては優れた体力。すでに二回、達しているのに、少し休んだだけで三回目だ。顔も
悪くない。苦み走った、と表現できるような、渋い整いがある。
 でも、魅力は感じない。自分の欲望を発散させることしか考えない独善が、その冷たい表情に
反映されている。見ていたくもない。
 目をつぶる。やはり気持ちを隠して、荒げた息を吐いてやる。
 それにそそられてか、男の動きが速まる。やっと濡れ始めた膣の中で、男の物はもう最後に
さしかかり、待つほどもなく、一方的な射精を開始する。
「ああッ! いいわッ! いくッ!」
 いくわけがない。
 装いの声を虚しく放り出し、アンジュは全身の力を抜いた。心は乾ききっていた。
4023-7-1 Ange V-1 (9/15) ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:53:00 ID:rU9SZd9q
「いくらだった?」
 身支度を調えた男が、ぶっきらぼうに言った。こちらも事務的に答える。
「八十ルピー」
「高いな」
 男の声が不機嫌な色を帯びる。
 アンジュは黙っていた。
 初めに取り決めていた額だ。決して高すぎることはない。三回もやっておいて、三十分の延長まで
しておいて、いまさら何を言うのか。それに、ここで値切りに応じたら、これからの自分の相場が
下がってしまう。この手の噂は広まるものだ。
 あからさまに舌打ちをし、根負けしたように財布を取り出すと、男は言われた額のルピーを
枕元のテーブルの上に放り投げた。
「どうも──」
 ありがとう、と言いかけるアンジュを、相変わらず不機嫌そうな男の声がさえぎった。
「最近、この村にも若い女が来たそうじゃないか。あんた、自分の相場を考え直した方がいいぜ」
 捨て台詞──とわかってはいたが、胸はずきりと痛んだ。
 男はさっさと玄関へ向かう。アンジュはあとについていった。ふだんなら、「また来てちょうだいね」
などと愛想の一つくらいは言うのだが、今日は言葉が出なかった。
 無言でドアをあけ、男は夜の戸外へと出ていった。ふり返りもしなかった。
 玄関に取り残されたアンジュは、そのまま立ちつくしていた。男の言葉が脳裏を去らなかった。
 村に新顔の娼婦が来たのは知っている。美しいとはいえない容貌。まだわたしの方が上だ。
けれど、あの娘は男に媚びるのがうまい。わたしにはできないような露骨な態度で男を誘う。
男というものはそんな女の方が嬉しいのだろう。それに何より……あの娘は若い……
 目の前のドアにノックの音がし、アンジュは我に返った。
 次の客だろうか。
 客が来るのは自分の魅力のため、ともとれる。が、いまは……そんな魅力が自分にあるとは
思えない。いまは……男の前に立つ気になれない……
 再びノックの音。思わずきつい声が出てしまう。
「いま一人終わったばかりなのよ。もうちょっとあとにしてちょうだい」
 しばらく様子をうかがったが、それきりノックはされなかった。
 ほっとして、しかし苦い気分は晴れないまま、アンジュは台所へ戻り、椅子に身を落とした。
 さっきの客が言ったことを、ただの捨て台詞と一笑に付すことはできない。もうすぐわたしも
三十歳。若くはない。そればかりか、荒んだ暮らしのせいで、実際の年齢よりも上に見えるはずだ。
容色の衰えは隠しようがない。鏡を見なくてもわかる。
 のみならず……
 喉をついて苦しい咳が飛び出す。肺の異常感と息苦しさを、何とか吹き払おうとする肉体の
反応が、ひとしきり続く。
 近頃、こうして咳きこむことが増えた。
 ずっと火山灰の多い所に住んでいるせいかしら……悪い病気に罹ったのでなければいいけど……
4033-7-1 Ange V-1 (10/15) ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:53:46 ID:rU9SZd9q
 カカリコ村に続く石段の下まで来て、リンクはエポナから降りた。少し迷ったが、人家に近い
場所に馬を放置しておくのは、さすがに不用心だと思い、そのままエポナを牽いて石段を登った。
 村の入口の門が見えてくる。七年前は見張りの兵士がいた。いまは誰も立っていない。
 門をくぐる。立ち止まり、あたりを見まわす。
 雲を通して薄い月明かりが差しているだけの暗い夜で、風景を詳細に観察することはできない。
それでも雰囲気は感じ取れた。
 さほど遅い時刻でもないのに、人通りは全くない。一部が破壊され、修理もされずに放置された
建物がある。まともに立ち残った家も、外観はすっかり古びている。灯火が見えるのは半分ほどで、
あとは住む人もいないようだ。
 奥に立つ風車。羽根は折れ、村の平和を象徴していた、あの緩やかな回転も、いまは止まって
しまっている。
 北に聳え立つデスマウンテンの頂上では、今夜も猛炎が跳梁していた。近場のここからだと、
その邪悪な毒々しさがいっそう強調されて見える。腹の底を揺さぶる不気味な鳴動が、時々
かすかにそこから伝わってき、あたりの静まりかえった空気を震わせる。荒廃した村をさらに
威嚇するかのように。
 炎の色が妙にくすんでいる、と感じたリンクは、折から吹き起こった冷たい風を顔に受け、
咳きこんだ。皮膚がざらつく。火山灰だ。それが空をさえぎり、炎の色を微妙に変えているのだ。
 ここもまた、変わり果ててしまった──
 重苦しい気持ちを抱いて、リンクは再び歩き始めた。どこへ向かうともなく進むうち、思い出を
誘う一角にさしかかった。
 隅に木のベンチが置かれた庭。その隣に立つ家。
 アンジュの家だ。
『女を教えてもらうんだ』
 シークの言葉を思い出す。いまだに意味はわからない。まず、それをはっきりさせておこうか……
 玄関のドアが開き、見知らぬ中年の男が出てきた。馬を連れて少し離れた所に立っていた
リンクを、男はうさんくさそうに見やり、しかし何も言わずに立ち去っていった。
 誰なのかと気になったが、考えてもしかたがない。リンクはドアに歩み寄り、ノックした。
 返事はなかった。
 もう一度ノックする。中からいらいらしたような声が返ってくる。
「いま一人終わったばかりなのよ。もうちょっとあとにしてちょうだい」
 覚えのある女の声。アンジュだ。だが……すぐに会えそうな雰囲気ではない。何が「終わった
ばかり」なのか見当もつかないが、事情があるのだろう。
 重ねてノックする気になれず、リンクは家の前から離れ、エポナを牽いて村の広場へ赴いた。
 がらんとした広場では、風だけが勝手な方向に行き来し、火山灰を拡散させていた。
 ここにも人影はなかったが、広場に面する家の一つから人の声が聞こえていた。その家の扉が
開き、太った中年女が姿を現した。扉の横に積み上がった木箱から何かを取り出し、家の中に
戻ろうとして、動きが止まった。こちらに気づいたのだ。
「あんた、旅の人? よかったらうちに泊まらないかい?」
 女が声をかけてきた。リンクは反射的に答えていた。
「いや……」
 この家は宿屋らしい。女は主人か。ベッドで楽に寝られるのは魅力だが、金を払ってまで
そうする気にはなれない。手持ちのルピーには、まだ余裕がある。けれども倹約するに越した
ことはない。
「村に用があるなら、その間、馬を預かってやってもいいよ。もちろんお代はいただくけどね」
 がめつい女だ、とは思ったが、その誘いには応じることにした。あちこち探索する間、ずっと
エポナを連れ歩くわけにもいかない。
 女に案内され、リンクは裏手の馬小屋へエポナを牽き入れた。慣れない窮屈な場所にリンクと
離れていなければならないことへの抵抗か、エポナは息を荒げて地団駄を踏んだが、リンクが
安心させるように声をかけてやると、それきりおとなしくなった。女が金額を提示した。高すぎる
ように思えたが、餌と水の分が含まれていると言うので、敢えて文句はつけなかった。女はさらに
前払いを要求し、リンクは従った。
「一杯やってかないかい? それくらいはサービスしてあげるよ」
 思わぬ収入に気をよくしたのか、女は笑顔になって柔らかい声を送ってきた。サービスの内容が
わからないまま、リンクはその誘いにも頷いた。
4043-7-1 Ange V-1 (11/15) ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:54:51 ID:rU9SZd9q
 家の中に入ると、そこにいた男たちの視線が、一斉にリンクに突き刺さった。
「誰でえ、見慣れねえ奴だな」
 無遠慮な声がした。
「旅の剣士さんさ。これでも大切なお客なんだから、ちょっかい出すんじゃないよ」
 リンクの後ろから家に入ってきた女が言った。リンクを庇う言葉ではあったが、どこか揶揄する
ような調子でもあった。その発言もあってか、男たちのリンクへの興味は薄れたようで、突っこみは
続かなかった。
 家の中を見まわす。宿屋のはずだが、ベッドはない。板敷きの広間にテーブルと椅子がいくつか。
一方の端には細長い台で区切られた領域があり、いま女がその中に入ったところだ。背後の棚には
瓶やグラスが並んでいる。男たちの数は六人。四人は椅子にすわり、二人は細長い台に面して
立っている。年格好はさまざまだが、みな自分よりは年上だ。思い思いの格好でだべり合うか、
あるいは黙って何かを飲んでいる。ここは飲み物を供する店になっているらしい。そういえば、
女は「一杯やってかないかい?」と言っていた……
「何を飲む?」
 台の向こうの女に訊かれた。近寄って台に手をかけ、リンクは答えた。
「ミルクを」
 隣に立っていた男が口から飲み物を吹き出し、リンクをまじまじと見た。
「ミルクって……ガキじゃあるめえし」
「ミルクは置いてないね。ここは酒場なんだよ」
 親切そうに女は言ったが、目には嗤いが浮かんでいた。
「サカバ?」
「そう、客に出す飲み物は酒だけさ」
 酒──というと、子供の時、ゼルダと席をともにしたハイラル城での晩餐で、終わり際に飲んで
酔いつぶれてしまった、あの飲み物か。あんなものは口にできない。
「じゃあ……いい」
 台から離れようとした時、背後で声がした。
「お前、さっきアンジュの家の前にいたな」
 ふり返ると、部屋の隅の椅子に腰かけた中年男が、鋭い目でこちらを見ていた。アンジュの
家から出てきた男だ、と、やっと気がついた。
「へえ、あんた、アンジュに用があったのかい?」
 女が興味深そうに訊いてくる。黙っているリンクに、男が続けて言葉を投げた。
「若いのに娼婦通いとは、見上げた心がけだな、剣士さんよ」
 嘲られている。どうして? アンジュに会うのが問題なのか? それに、いまこの男は何と……
「さっきまでアンジュの所にいたあんたが、そう言うの?」
「それもそうだな」
 女のからかいが男に飛び、応じる男も顔を崩す。笑い合う二人のどちらへともなく、リンクは
疑問を口にした。
「ショウフ……って?」
 女が答えた。
「アンジュのことさ」
「いや、だから……ショウフって、どういう意味?」
 一瞬、室内が静まりかえり、次いで全員が爆笑した。
 その言葉を知らないのが、そんなにおかしなことなのだろうか。
 気恥ずかしさを覚えるリンクの肩を、隣の男がぽんと叩いた。
「悪いこたあ言わねえ、さっさと村を出て行きな。おめえみたいな世間知らずがうろちょろする
ような場所じゃあねえぞ」
4053-7-1 Ange V-1 (12/15) ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:55:28 ID:rU9SZd9q
 嘲笑を背にして酒場を出たリンクは、村の奥にある墓地へと向かった。馬鹿にされたのは
悔しいが、知らないものは知らないのだからしようがない、と開き直り、村を訪れた本来の目的に
取りかかったのだ。
 夜も更け、ちょうどいい頃合いだ。墓穴をあばくことになるから墓地の探索は夜にすべきだ、
とシークにも言われている。
 ただどうしても灯りが必要になるので、酒場を出る時、女からカンテラを借りた。例によって
料金を請求されたが、リンクは値切りもせずに支払った。カンテラが要る理由は話さなかった。
女の態度は、金さえ払ってもらえばどうでもいい、といったふうだった。
 墓地に入るのは初めてだった。怖れはしなかったが、夜の墓地という不気味な雰囲気は
消しようがなく、リンクの背筋には冷たいものが走った。だがそれも、シークに場所を聞いていた
インパの墓の前に立つと、もう感じなくなった。インパの思い出が、リンクの胸を大きく
満たしていた。
 王党軍を率いてゲルド族と戦ったというインパ。女だてらに──などとは思わない。インパなら
立派に、勇敢に戦ったことだろう。ぼくとの立ち合いで圧倒的な力量の差を見せつけながら、
一方では巧妙に剣術の指南をしてくれていた、あのインパなら。
 ぶっきらぼうで、愛想なしで、歯に衣を着せず、それでも実は暖かい心根を持った、深みのある
大人の女性だった。
 ハイラル城の塔上で風景を見渡しながら、インパはぼくに言った。
『我々は、この美しいハイラルを守らねばならない』
 ぼくは何と答えたか。
『失望はさせません。あなたにも、ゼルダにも』
 いま思えば、たいそうな見得を切ったものだ。身の程知らずと言ってもいいだろう。しかし
インパは、ぼくを嗤いもせず、こう言ったのだ。
『頼んだぞ』
 美しいハイラルは、もう過去のものだ。ぼくはそれを守れなかった。だけど、インパ……
あなたの頼みを忘れてはいない。まだ失望はしないでくれ。ぼくは必ず、美しいハイラルを
取り戻してみせるから。
 二度とは目覚めぬ人に向け、リンクは改めて心に誓った。
4063-7-1 Ange V-1 (13/15) ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:56:09 ID:rU9SZd9q
 墓地の最奥部にある石碑──正確にはその残骸──の前に、リンクは立った。崩れが激しいため、
元の大きさや形状はうかがい知れないが、土台の面積は広く、かなり大きなものだったのだろうと
推測された。他の墓石と比べると、明らかに異質な建造物だった。
 表面の文字はリンクにもさっぱり意味不明だった。古代のものであり、おそらく現在それを
読める人はいないだろう、とシークが言っていた文字だ。
 そのシークは──と、リンクは思う。
 この石碑のことがいたく気になるようだ。神殿との関連があるという根拠もないのに。
 だが、それを否定する根拠もない。あのメロディのように、まだ関連性がわからないだけ
なのかもしれない。
 とりあえず解決を先送りにし、リンクは墓穴の探索に移った。動かせる墓石の場所は、
シークから聞いて知っていた。行き止まりの墓穴には早々に見切りをつけ、長く延びている迷路の
ような通路に、リンクは注意を集中させた。
 通路は意外に広く、背を伸ばして歩くことができたのはよかったが、分かれ道や高い段差の
多さはリンクを疲れさせた。内部の空気はじめじめと澱み、かび臭さとは違った異様な匂いが、
どこからともなく漂っていた。カンテラに照らされる上下左右の内壁には、苔がびっしりと
生えていた。床の苔は時にぼっこりと剥げ、リンクの足を滑らせた。
 三箇所に扉があった。どんなに力をこめても、扉はびくともしなかった。それもシークに
聞いていたことだったが、リンクは失望せざるを得なかった。
 諦めて立ち去ろうとし、ふと足元を見て、床に水が溜まっているのに気づいた。水の範囲を目で
追うと、それは扉の下から少しずつ漏れているのだった。
 何だろう。シークは水漏れのことは話さなかったが……この通路の空気といい、苔の生え具合と
いい、湿度が高いのは明白だ。大量の水が存在する証拠だ。
 扉に耳を当ててみる。が、水の流れるような音は聞こえない。
 肩を落とし、通路の先を目指す。
 行き着いた先は、広く吹き抜けとなった円形の室内だった。シークによれば、風車小屋の中だ。
長い間、無人なのだろう、室内には生活の形跡が皆無で、ただ風車を支える複雑な木組みが、高い
空間に張りめぐらされているだけだった。
 リンクは室内の片隅に腰を下ろした。夜明けまでには、まだかなり間があったので、ここで
一眠りするつもりだった。火山灰が飛び交う戸外で眠る気にはなれなかった。
 気づいた時には、もう朝だった。高い所にある小さな窓から、薄ぼんやりとした光が
差しこんでいた。通路には戻らず、別の場所にある扉をあけると、開けた風景がリンクの目を射た。
カカリコ村は、大地がハイラル平原に向かって緩やかに下る斜面に位置し、風車のある高台からは、
村のほぼ全域が見てとれるのだった。しかし朝の明るみの中では、村の荒れた様子が夜以上に
あらわとなっており、感動は得られなかった。火山灰による空気の濁りも目立ち、曇天による
陰鬱さをさらに強めていた。
 風車の前の階段を下りた所に井戸があった。リンクは足を止めた。
 井戸。水。深い所に続く水。あの通路と関係があるのだろうか。それに風車……
 何か繋がりがあるような気がする。頭に焦燥が渦を巻く。けれど……わからない……わからない……
 首を振る。
 焦ってもしかたがない。まだ得ていない手がかりがあるのだ。わかってみれば、こんなこと
だったのかと拍子抜けするような手がかりが……きっと……
 リンクは村の道をたどり、宿屋に寄って、店を掃除していた女主人にカンテラを返した。
もう一日、エポナの世話をしてくれるよう頼み、その場をあとにした。
 広場を横切って、アンジュの家に向かう。男が二人、傍らの路上で立ち話をしていた。片方は
ゆうべ酒場で隣にいた男だ。こちらに気づいて何か言っている。リンクはそれを無視し、ドアを
ノックした。
 やはり返事はない。まだ眠っているのだろうか。
 再度のノックにも反応はなく、リンクはため息をついた。
 あとまわしだ。今日はデスマウンテンへ行ってみよう。
 身をひるがえし、リンクは登山道に向けて駆け出した。
4073-7-1 Ange V-1 (14/15) ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:56:58 ID:rU9SZd9q
 アンジュは一人で朝を迎えた。
 起きて着替えをしたが、しなければならないことがあるわけでもない。ベッドに腰かけたまま、
アンジュは思いにふけった。
 昨夜のノックのあと、訪れる者はなかった。客を相手にする気分ではなかったとはいえ、
来ないとなると不安になる。あの時、ノックに応えていればよかっただろうか。
『こんな時、シークがいてくれたら……』
 シークはめったにカカリコ村へは来ない。しかし来れば必ず訪ねてくれる。わたしは嬉々として
身体を開き、いつもシークの技巧に圧倒される。抱かれたのは、まだ四回きりだが、そんなに
少なかったかと驚くくらいの充実感がある。
 愛しているわけではない。情事と割り切った関係。それでもわたしは夢中になれる。安らげる。
それはシークも同じはず。
『けれど……』
 心が揺れる。
 互いに安らぐことはできても、なお消えないものが、二人の間にはある。
 表立って想いをあらわにできない遠慮。心から笑い合えないよそよそしさ。
 わたし自身のせいだ。
 一つ。わたしが娼婦だということ。それはわたしの真実だから、シークの前で引け目に
感じたりはしない。シークだって、それを理由にわたしを避けることはない。だからあからさまに
してしまってもよさそうなものなのに、逢瀬の間、わたしは決してその事実に触れないように
している。触れると何かが壊れてしまうような気がして。
 二つ。シークを求めながら、シークからは得られないものを、さらにわたしは求めている。
それは「愛」……いや、そんな大げさなものではなくとも……わたしの殻を破ってくれる
ような力……ほんのちょっとしたものでもいい、そんな力を……
 そして、シークの側にも障壁はある。
 シークはいつも冷静だ。自分の中身を見せようとはしない。人を寄せつけない厳しさがある。
その厳しさが、シークの前に屈服する際の悦びの源なのだけど……シーク以外の男にはない素敵な
魅力なのだけど……そしてその陰にシークの秘められた情を感じもするのだけど……それが二人を
隔てる要素でもあることは否定できない。
 屈服するといえば……
 もともとわたしは男に屈服したがるたちではない。婚約していた彼に対して、わたしは常に
積極的だった。誰かれなしに媚びたりはしないが、心を許した彼には、実に奔放にセックスを
要求したものだ。結婚するまでは、とためらう彼に、強引ともいえる態度で迫って、処女を捧げた。
その後もそう。お互いに家族がいて、家は使いづらい。だから夜の墓地はよく利用させてもらった。
風車の裏手の草むらで、真っ昼間から素っ裸になって抱き合ったこともある。そのほとんどは、
わたしの方から誘ったのだ。
 シークは例外だ。
 ……いや、そのシークも……
 初めてシークと結ばれた四年前──案に相違して、わたしはシークに屈服することになったのだが
──出だしでは、わたしがシークに教えるつもりだった。
 シークの裸身を見た時に感じた魅力。歳の離れた少年への欲望。私が初めて感じた欲望。
『……そう?』
 ……いいえ、そうじゃない。似たような感覚を、もっと前に経験したことがある。
 それだけではない。初めてではないという感じを、そのあとにも持った。
 シークの前で胸をはだけて見せて……男の子にはそうするのがいいような気がしたのだ。
なぜだったのだろう。あの時、わたしは何かを思い出しかけて……あれは……
4083-7-1 Ange V-1 (15/15) ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:58:03 ID:rU9SZd9q
 シークとの関わりを、最初からたどってみる。
 ゲルド族の反乱が起こったあと、インパに連れられて、シークはカカリコ村へやって来た。
戦闘訓練後に庭でシークとお茶を飲む習慣ができて……わたしはシークに興味を抱いて……
どうしてかというと、シークの目が……同じ年頃の誰かに似ていて……
 窓の外から声がする。記憶をまさぐりながら、聞くともなしに、アンジュはその声を聞いていた。
「なんだい、あいつは。ちんけな緑の服なんか着やがってよ」
「ああ、ゆうべ酒場に来た奴だな。でけえナリして、娼婦が何かも知らねえんだぜ。無知にも
ほどがあらあ」
 玄関にノックの音がし、アンジュの身体はびくりとした。
『シーク?』
 一瞬、思ったが、すぐに違うとわかった。
 シークはいつも勝手口から入ってくる。玄関のドアをノックしたりはしない。
 誰だろう。こんな朝っぱらから客が来るわけはないし、他に訪れる人の心当たりもない。
 再びノック。
 出たくない。いまは誰にも会いたくない。このまま思いにふけっていたい。
 それきり音は途絶えた。
 安堵して、思いに戻る。
 どこまで考えたかしら……そう、シークが誰かに似ていると……
『ちょっと待って!』
 さっきの声。ちんけな緑の服? 無知にもほどがある?
 よみがえる。記憶がよみがえる。
 わたしがシークに言った言葉。
『シークを見ていると、リンクを思い出すわ』
 リンク……?
 リンク!
 アンジュは玄関に走った。
 いま思い出した。どうしていままで思い出さなかったのだろう。シークへの想いに隠されて
しまっていたのか。敗戦後の生活の激変のためか。
 ドアを開け放つ。デスマウンテン登山口に向けて駆け去ってゆく後ろ姿。
 ああ、七年前にも、わたしはここに立って、あの後ろ姿を見送った──
「リンク!」
 後ろ姿が立ち止まる。ふり返る。その身なり。その表情。
 近づいてくる。近づいてくる。わたしも足を踏み出して……一歩、二歩と、近寄って……
「……リンクね?」
 目の前に立つ青年。わたしより上に顔がある。これが、あの……小さかった……
 その顔が、微笑む。こくりと、頷く。
『もしわたしが大人になったリンクに会ったとしたら……』
 七年前のわたしの空想。それが、いま……
「ゆうべも訪ねたんだけれど、忙しそうだったから」
 大人の声。だけど、あくまでもまっすぐな明朗さを保って。
 あのノックはリンクだったのね。出ていればよかった。でも……いま、こうして……
「会えて……嬉しいわ……」
 リンクの手を握り、アンジュは万感の思いをこめてささやいた。その思いに溶けた複雑な要素を、
いまだ明確には意識しないまま。


To be continued.
409 ◆JmQ19ALdig :2007/07/26(木) 01:59:51 ID:rU9SZd9q
以上です。後編は後日に。
自分はアンジュに入れ込んでいるなあ、とつくづく思う。
410名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 02:03:49 ID:weXDBzuR
リアルタイム投下キターーーーー
早速読ませて貰いました。
やはり巧妙で読み手を飽きさせない描写と、
ストーリーの構成力には感服するばかりです。
後編はアンジュとリンクの絡みということで、楽しみにして待ってます。
JmQ19ALdig氏、GJ!
411名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 10:31:31 ID:e9URKESs
GJ
412名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 06:25:51 ID:/MwBNeFL
GJ
413名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 09:21:00 ID:8zExci5V
作者アンジュさん好き杉w一回で片付いたマロン立場ナスorz
414名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 13:57:07 ID:ZtWhgv2+
GJ!
娼婦も色々と大変なんだな……

>>413
マロンはもう一度再登場するみたいだしいいじゃまいか
問題は、メインヒロインなのに原作では直接的には一度しか会えないゼルダ姫…
JmQ19ALdigさんの作中ではどう描かれるのか、気になるし楽しみでもある
415名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 01:48:24 ID:McXou9ea
現在484KB

次スレを立てて下さい。
416名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 05:39:53 ID:r/aYlVBY
続きが見たい
417名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 06:53:28 ID:aE0gOBaq
418名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 01:07:42 ID:XynrbyVL
次スレ立ってる

ゼルダの伝説でエロパロ 【5】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1185718980/
一言お詫びとお礼を、と思って何度か声を掛けてはみたものの、すでに二人の世界に入ってしまった彼らには
こちらの言葉などまったく届かないようで。
ミドナにも促され、しかたなくそのまま館を後にした。
ただ、彼らを見ていて前から疑問に思っていたあのことが、俺の中でほぼ確信へと変わった。

「鏡の欠片はあと二つ……また情報集めに城下にでも行ってみるか?」
「……ミドナ、ちょっと聞きたいんだけど」
「何だ?」
「ザントってさ、影の住人の中じゃ大柄なほう?」
「はぁ?」
大きな紅い瞳がぱちくりと怪訝そうに瞬く。
「あーまあ、確かに背はかなり高い、かな。なんでそんなこと……」
てことは標準的な体格はハイリア人と変わらないんだな、『男』は。
「……ミドナ、ほんとは幾つ?」
「!――」
ミドナが固まった。
暫く待ってみたが答えてくれない。しまいにぷいと向こうを向いて、
「さあね」
とだけ投げやりに呟く。
「……百二十歳とか?」
イヤミ半分に聞いてみる。
「かもね」
こちらを向いてくれない――話したくない類の話なんだろうけど。
「実は子供が五人とか……」
「孫もいるぞ?」
答える声に笑いが混じってる。だめだ、皮肉じゃ勝てない。
「……ミドナ、それじゃ一つだけ。俺よりも年上……だったり、する?」
ミドナが見かけ通りの子供でないことは九割がた確信しているけれど。
「――どうでもいいだろ、ワタシのことなんて」
「よくない」
もっと早く気づいてよかったはずだけど、身近にマロという大人びたスーパー幼児が居たこともあって
ミドナもまたそういう類なのかと考えていた。
「もっと、ちゃんとミドナのこと知りたいよ」
元はハイリア人だったという影の住人が、隔離された長い時間にどんな風に変化していったのか。
どうして男女でこれほどの体格差があるのかはわからないけど――
種族が違えば外見の違いはむしろ当然なんだろう。
この館の獣人夫婦だって俺から見たらかなりの体格差だ、でもそんなこと何の問題もなく幸せそうだし――
「なあミドナ。俺達は仲間だろう?」
「大体!」
急に語気を強めてミドナが言う。
「レディに歳を聞くもんじゃないって教わんないのかよ、光の世界じゃ」
「レディなんだ」
「…………」
小さなミドナは、影の世界では――大人の女性なんだ。
だから彼女のちょっとした仕草がやけに嫋やかだったり、一見乱暴な言葉使いが不思議と上品さ持ってたり、
他にもいろんな場面でなんていうか――色気?を感じてしまったりするのも、別に俺の目がおかしい訳じゃなくて。
「怒ってるのか?」
おずおずと、黙ったままのミドナに尋ねてみる。
「……わかってる。リンクには、ワタシのことちゃんと話さなきゃいけないんだって」
俯いて、やっと聞き取れるような小さな声で、
「でも、今はまだ……」
すまなそうに続ける様子に慌てて付け加えた
「うん、いいよ今でなくても。いつか話してくれるって約束してくれるなら」
困らせたいわけじゃない。
ミドナはこくりと肯いて俺の影へと吸い込まれていった。
……でも、あれ?
結局なんにも答えてもらってないぞ。
「待ってミドナ、ええと――独身?」
我ながらまぬけな駄目押しだったけど、
「――ったりまえだろ!!」
即、影の中から返ってきた返事に頬が緩んだ。
今はこれで十分。また頑張れそうだ、うん。

「ミドナ〜」
「ああ、もう何だよ?」
めんどくさそうに声だけで答えてくる。
「ワープして欲しいんだけど。城下へ」
「……歩けばぁ?」
うわ、駄目だ、へそ曲げてるし。
「ミ――」
謝ろうとして声にならなかったのは、ポータルを通過するべく変身が始まっていたからだった。
421名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 13:27:41 ID:SWWLsbKX
禿萌えた
422名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 18:21:57 ID:HLZ95QEB
埋め要員には勿体無さ過ぎる、超GJ
スーパー幼児ワロタw
423名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 00:56:01 ID:53zU67/M
GJ!

そろそろどなたか保管庫に保管依頼を…
424名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 01:27:04 ID:SpFalsSD
>>423
保管庫チェックもせずに書き込みはなぁ…
425名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 13:41:59 ID:7+srJWlD
ミドナー


ミドナー
426名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 19:20:42 ID:t81Biicv
ゼルダの伝説エロ小説
http://www2.bbspink.com/eroparo/kako/1068/10682/1068220024.html
ゼルダの伝説エロ小説 LV2
http://www2.bbspink.com/eroparo/kako/1068/10688/1068813331.html

こんなものを見つけた。内容はほとんどないが。
427名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 23:46:44 ID:u5XkFdHy
埋めます。またエロなしでごめん。自分にはさすがに10KBでエロは無理。
トワプリ・ネタバレ・リンミド?その後なアホ小ネタ
428黄昏にて 1/3:2007/08/12(日) 23:49:38 ID:u5XkFdHy
かつて訪れたときよりも幾分明るく見える穏やかな黄昏の空に、黒雲が淡く流れている。
「……おばか」
そう言ったミドナの貌は相変わらず完璧なまでに端整で、でも笑おうとしてうまくいかないというようにどこか苦しげに見えて、
リンクは彼女を見上げていた視線をついと落とした。
「こうなることはわかってたはずだろ?」
リンクの低い目線に合わせてミドナがしゃがむ。それでもまだ長身のミドナの頭はリンクのそれより高い位置にあって、
リンクの目の前には影の世界独特の体の輪郭を隠さない衣装に包まれた豊かな胸が位置することになった。
もうずっと、何千回も夢に現に想い描いていたミドナの姿。
会いたくて会いたくて、だけどどうにもできずに時だけが過ぎて――
だから突然訪れた千載一遇のチャンスに迷っている余裕などなかったのだ。
わかっているさ、もう光の世界へは戻れない。
そしてもう――人間にも――戻れない。

光の聖剣の加護がなければ、この世界では獣としてしか存在できない。
ミドナがゼルダ姫の力を借りなければ、光の世界で影としてしか存在できなかったように。

ミドナの嫋やかな手がリンクの額に触れ、ゆっくりと、やさしく撫でる。
彼女があんな形での別れを選択したのもこの現実をよく理解していたからだろう。
やっとのことで再会できた喜びも申し訳なさに押し潰されてゆく。
あれほど焦がれたその顔を見ることができない。
彼女の心を痛めたくなどないのに――

「オマエには世話になったからな……。大丈夫、悪いようにはしないよ」
頭を撫で続けていた手が離れたと思うと、こんどは華奢なその腕がリンクの鬣に覆われた首に巻きついてきた。
――心臓が止まるかと思った。
肩に押し当てられるミドナの胸。
緊張で固まる獣の耳に唇を寄せ、ミドナが囁く。
「首輪、作ってやろうな。宝玉の付いた立派なやつ」
……ああ、そうか。そりゃそうだよな……
「庭に小屋も建ててやるよ、専用の世話係りも付けてやる」
つまり、俺は……
「それに、そうだ、宮殿の残飯は美味いぞ?」
声に笑いが混じってる。
残飯……いや、たしかにそれでも自分の普段の食生活よりずっと高級なんだろう。
このおそろしげな姿にもかかわらず宮殿に置いてくれると言うのなら、それだけで感謝するべきなのだろう。
でも、せめて部屋飼いにして欲しいと思うのはやはり我侭なのか。
自分でそうとは気付かないままリンクの耳はしゅんと垂れていた。そのふさふさの首をきゅうと強く抱きしめてミドナは言った。
「偶には、ワタシが散歩させてやるからな」

影の王女、いや今は女王に抱かれて、ただリンクはじっとしていた。
抱き返す腕を持たない彼に、彼女の顔を舐めたいという衝動が沸き起こっていた。
でもそれをしてしまっては心までただの獣になってしまいそうだ。
……いや、いっそその方がこの先幸せかもしれない。
ミドナはただ一人の王族の生き残りとして、いずれ遠からず世継ぎを儲けねばならないのだろう。
そして当然、その前に夫を得ることになるのだろう。
わかっていたさ――自分で選んだ道だ。後悔など、するものか。

彼女の傍に居て、ずっと、ずっと見守ってゆく。
有事には及ばずながらきっと力になろう。
危険が迫れば大声で吼えて報せよう。
魔法は使えなくとも、獣のセンスはきっと役に立つ。立ってみせる。
俺は――王宮の番犬として。

鼻腔を、肺を満たす懐かしく馨しいミドナの匂い。
リンクはただその鼻面をミドナの肩に押し当て、切なげに一声くうん、と啼いた。
429黄昏にて 2/3:2007/08/12(日) 23:51:33 ID:u5XkFdHy
腕を離し、ミドナが立ち上がる。
「さあ、行こうか」
先に立って宮殿の方角へと歩き出したミドナを追ってのろのろと腰を上げる。
頭を一振りして、仕えるべき女主人の背を力を込めて見つめ直す。
覚悟はできた。――でもどうかもう一度だけ、ほんの十秒でいい、この身が人に戻れるなら、抱き締めたい――
ミドナ――!
その名を声に出して呼ぶことさえできないなんて。

「しょうがないなあ……」
立ち止まり、背中越しにミドナが呟く。
「――呪ってやるか――」
怪しげな言葉の内容と裏腹に、語尾にククッと笑いがくっついている。
リンクはなんのことかわからず、ただその背を見つめていた。
ミドナが両腕を上げ、何か唱えたかと思うと紫色に光る光球が浮かび上がり、勢いよくリンクの方へと飛んできた。
光が散る――

「あっ――」
思わず声が出ていた。
獣の唸り声でなく、人の。
視線を落とすと、地面に着いているのは毛皮に覆われた前足でなく、五本の指を持つ手になっていた。
四つん這いの姿勢から跳ねるように立ち上がる。
「ミ・・」
呼びたいのに、声が詰まって出てこない。
「ミ、ドナ」
やっとの思いでどうにか口にする。
応えて振り返る彼女の姿が歪んで見える。
ごしごしと腕で目をこすり、溢れる出るものをぬぐってもう一度大きく、愛しいその名を呼んだ。
「ミドナ――!!」

「オマエねえ」
ミドナが背を向けたまま腰に手を当て、首を傾げる。
「ここで、このワタシを呼び捨てに――」
ゆっくりとしなやかな仕草で振り返り――そして動きを止める。
言いかけた言葉をその唇に乗せたまま。
見開かれた赤い瞳。

そうだった。一国を担う女王に対して不敬にもほどがある。
リンクは反射的に直立不動の姿勢になって
「ごめ、いや申し訳ござ――」
しどろもどろに詫びかけたが、ミドナがその両手でわななく口元を覆うのを見て言葉を止めた。

「オマエ……」
震える声。口元を覆っていた手はゆっくりと上がってゆき、
いまやその麗しい顔全体をかくそうとしている。
「ミドナ?」
リンクが一歩進む。
ミドナがよろりと一歩退く。
「なんで……こんな……そんな」
顔を伏せてしまったミドナに駆け寄り、抱きしめる。
華奢な腰に右手を廻し、左手で彼女の頭を優しく抱き寄せ、フード越しに己の頬へと。
「なん…だよこれ、ワタシの知ってるリンクはもっと」
リンクの手が布越しに肩を撫でる。自らを抱く男の肩幅の広さも胸の厚さもなにより頭の位置が記憶とは違う。
「でも、俺だよ。ミド―」
「だから呼び捨てにするな、離せ、無礼モノ!」
「……畏まりました」
リンクの腕が離れてゆく。
430黄昏にて 3/3:2007/08/12(日) 23:52:21 ID:u5XkFdHy
嘘だろ本当に離すやつがあるか、とミドナが顔を上げるとその頬を厚い両の手で挟まれた。
「よく見て」
微笑む視線がほぼ真正面だ。ぐいと上がった眉、影の住人にはない青い瞳、長い耳……は変わらない。
けれど鼻筋や顎の線はより精悍に通り、亜麻色の髪は肩を越して一つに纏められている。
ああ、それだけの時間が経ったのだ。
視界がぼやける。目元から溢れそうなものを隠したくても、その手が視線を逸らすのを許してくれない。
他になすすべも無く瞳を閉じる、胸が苦しくてそのあまり開いた唇に自分のものではない暖かい吐息が吹き込まれる。
頬を開放した両の手は再びミドナの背に廻されていた。

傍に居ることができるなら、それだけでいいと思っていたはずなのに
彼女をこの腕に抱いたとたん、そんな覚悟が消し飛んでいた。
離さない、もう二度と。
触れたい、もっと。ずっとずっと一番近くに居たい。
――それが叶わないのなら、いっそこの場で手打ちにしてくれ!
罵られるのを承知の上で、ミドナの薄く開いた唇に己のそれを押し当て舌でさらにこじ開ける。
さらに口腔内へ進入してその内部に触れる……ミドナの内側……
抱き締めた細い体は硬く緊張したままだが、やめる気にはならなかった。
仰け反るミドナを何処までも追う。
息苦しくなっては一瞬離れ、瞼に、頬に、鼻に顎に口付けの雨を降らせてすぐまた唇へと戻ってゆく。
覚えのある大きな犬歯を舌でなぞる。
ミドナの緊張がわずかに解け、奥で縮こまったままだった彼女の舌がようやっと応えてくれたのを感じて、リンクは顔を離した。
これ以上続けていると最後の理性までもが飛びそうだった。
ミドナは己の肩に顔を埋め、いつの間にか両腕でリンクの身体に縋りついている。
肩を上下させ、息を整えながら掠れた声で
「……家臣達の前では、気をつけるんだぞ……」
耳元に囁かれ、胸が、全身が急速になにか熱いもので満たされてゆく。
……どうやら手打ちは免れたらしい。
リンクは強く頷き、もう何も言わずただミドナの身体をきつく抱き締めた。


幸せすぎて気が遠くなりそうな気がして、すぐにはそれに気が付かなかった。
ミドナの少し後ろを(並んだり、ましてや前に出てはいけないのだと釘を刺された)宮殿に向かって歩きながらなんとなく背後に、
というか尻に違和感を感じ、首を捻ってみてようやくわかった。嬉しげに左右に振れる尻尾の存在。
「あの、ミドナ……様、これは」
おずおずと問いかける。
ミドナはそっぽを向いている。
「そのくらい自分で何とかしろよ。この国に居座ろうってんなら」
半笑い?なんだか声が少し変だ。
「魔法ワカリマセ〜ン、じゃ通用しないぞ」
――正論である。
「……頑張る」
「頑張れ」
ミドナは此方を見ないまま続ける。
「それを何とかできるくらいになれば、―――てやってもいい」
言葉の後半が急に小声になってよく聞き取れなかった。
そう彼女に告げると、
「二度も言えるか!」
不機嫌そうにそれだけ言うと、ふわりとその身を浮かせ、地面すれすれを滑るように先を急ぎだす。
後ろを向いたままの語調がさっきから上擦って震えているように聞こえるのは気のせいだろうか。
リンクはどんどん先を行くその後姿を追おうと、慌てて走りだしていた。

かつて纏わり付いていた闇の魔力の黒い流れはすでに跡形もなく、本来の姿を取り戻した影の宮殿は、
主とその客人を迎えるべく厳かに佇んでいた。
431名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 00:23:26 ID:PHZsu+qe
リアルタイムGJ
432名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 00:49:16 ID:0sTVu7RU
これはいいリンミド
GJ、乙でした
433名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 01:29:07 ID:GhyzI9i1
わーはー
434名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 17:57:30 ID:XnjmOXvM
あまり意味のない過去ログ

ムジュラの仮面のエロ小説さがしてます
http://www2.bbspink.com/eroparo/kako/1009/10095/1009503336.html
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435名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 22:23:46 ID:49KIiaA6
超GGGGGGGGJ!!!!!!!!!
436名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 13:32:52 ID:1+zUAxG/
どれも即落ちってのが泣ける
437名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 23:33:09 ID:gHXtUpYh
ゼルダスレって伝統的に過疎なんだな
今も過疎気味と思っていたが、恵まれている方だったのか
438名無しさん@ピンキー:2007/08/21(火) 04:34:31 ID:prZ7aABa
心の清いプレーヤーが多いのかね。もちろん私はドス黒いです。
439名無しさん@ピンキー:2007/08/21(火) 15:31:46 ID:Rj2fdwlx
埋め
そろそろ夢幻ネタを誰か
440名無しさん@ピンキー:2007/08/23(木) 16:20:35 ID:1tgQdM9C
誰かエロのリンミド書いてください
441名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 00:30:12 ID:jLxWpiy2
いやエロさは↑くらいのほうがいいだろ。てか早く続きが読みたい・・・。
442名無しさん@ピンキー
続くの?