ゼルダの伝説でエロパロ 【5】

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1名無しさん@ピンキー
このスレはゼルダの伝説について語ったり、SSを書き込むスレです。マターリして下さい。
荒らしはスルーでお願いします。

<前スレ>
ゼルダの伝説でエロパロ 【4】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1177259262/

<保管庫>
http://red.ribbon.to/~eroparo/
ゲームの部屋1号室になります

過去スレなど↓
ゼルダの伝説のエロパロを書くスレ
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1082282005/
ゼルダの伝説
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1096633379/
ゼルダの伝説でエロパロ 【2】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1147879180/
ゼルダの伝説でエロパロ 【3】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1169875819/
2名無しさん@ピンキー:2007/07/29(日) 23:34:23 ID:jk91UuIQ0
2
3名無しさん@ピンキー:2007/07/29(日) 23:35:07 ID:jk91UuIQ0
人生初の2ゲット
4名無しさん@ピンキー:2007/07/29(日) 23:36:48 ID:uFhI52KC0
>>1乙〜
このスレでもどうか素敵なSSが続々投下されんことを
5名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 01:47:21 ID:2gI/uaux
>>1乙ー
6名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 23:48:42 ID:SWWLsbKX
乙なんだぜ
7名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 13:19:09 ID:w8S3C1GK
>>1乙!!
8名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 13:17:05 ID:s80wWtaX
>>1
>>3
乙!
9名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 12:40:32 ID:YuBqkKLM
乙elda
10 ◆JmQ19ALdig :2007/08/04(土) 12:35:20 ID:BA4MZYle
>>1どうも乙です。

私本・時のオカリナ/第三部/第七章/アンジュ編その5/中編、投下します。
前後編の予定でしたが、三分割になってしまいました。
註:アンジュ(仮名)=コッコ姉さん
113-7-2 Ange V-2 (1/12) ◆JmQ19ALdig :2007/08/04(土) 12:36:26 ID:BA4MZYle
 朝食がまだ、というリンクを、アンジュは家に迎え入れ、台所の椅子にすわらせた。パンに
加えて野菜のサラダとスープをあつらえ、二人で向かい合って食事をした。その間、アンジュは
しきりとリンクに話しかけた。
 いまどうしているのか、というアンジュの問いに、リンクは少し迷う様子を見せながらも、
すぐにはっきりとした声で答を返してきた。
 神殿と賢者を求める旅。カカリコ村へ来たのは、この村の墓地とデスマウンテンにある神殿を
訪れるため。
 シークと同じことを?──とアンジュは驚いたが、かつてシークの素振りから、二人が知り合い
らしいと察したことを思い出し、そこを質してみた。シークは友人であり、いまは同じ使命を
帯びて行動しているのだ、とリンクは言った。その使命の詳細をリンクは語らなかったが、同じく
それを語らないシークのことが頭にあったので、アンジュは追求しなかった。
 リンクの方は、アンジュとシークが知り合いであることを、シークから聞いていたらしく、
アンジュがシークの名を出しても驚きはしなかった。が、墓地に神殿があるとシークに教えたのは
自分である、とアンジュが告げると、それについては知らなかったようで、
「なんだ、シークったら、全部一人で調べ上げたのかと思っていたら……ほんとうはアンジュが
助けてくれていたんだね」
 と言い、声をあげて笑った。アンジュはその笑顔をまぶしく見つめた。
 朝食のあとはお茶の時間となった。話題は自然に七年前の出会いの件へと移り、庭のベンチで
お茶を飲んだ時のことが、二人の間で懐かしく語られた。リンクは、お茶を飲むきっかけとなった
コッコ探しの大変さと、その際のアンジュのおろおろした様子を、大げさな口調で再現した。
「わたし、そんなに滑稽だった?」
「そうだよ。コッコは高くは飛べないから焦らなくてもいいのに、いまにも全部飛んでいっちゃう
って口ぶりでさ」
 リンクは肩をすくめ、いたずらっぽい目でアンジュを見た。アンジュは思わず吹き出してしまい、
それを機に、二人は大きな笑いに包まれた。笑いながらアンジュは、こんなに笑ったのはどれくらい
ぶりかしら、と考えていた。
 笑いが引き、沈黙が落ちた。
 その沈黙の意味を、アンジュは悟った。
 七年前のやりとりで、まだ話題になっていないこと。二人にとって最も大きな思い出のはずなのに、
二人ともが触れようとしない、あのこと。
 リンクが真面目な表情になっていた。何かを言い出そうとして、なかなか言えない。そんな表情。
 テーブルに両腕をのせ、リンクに顔を近づける。誘うように、リンクの顔を見る。
 うつむいていたリンクが顔を上げ、こちらの視線に気づいて、はっとした様子になる。
 ──いいのよ。言って。
「実は……」
 思い切ったように、リンクが言い始める。
「ここへ来たのは……他にも……理由があって……」
 言葉が途絶える。
「なに?」
 問いかけてやる。ためらいで伏せられるリンクの目。またも続く沈黙。
 待つ。
 やがてリンクは決然と目を戻し、しかし口にはためらいを残したまま、ついにその意思を
明らかにした。
「……女を……教えて欲しいんだ」
123-7-2 Ange V-2 (2/12) ◆JmQ19ALdig :2007/08/04(土) 12:37:20 ID:BA4MZYle
 胸がどきりと動悸を打った。
 驚きながらも、わたしは心の奥でその求めを期待していたのだ、と知る。
「どうして……わたしに……?」
 訊くまでもない。七年前の、あの体験。
 なのに、リンクは答えない。なぜ? 言えない理由ではないはず。
 まさか……リンクはわたしのなりわいを知っていて?
「わたしがこんな商売をしているから?」
 言ってしまう。見開かれるリンクの目。
「わたしが娼婦だから?」
 ああ、そこまでも言ってしまった。どうして……どうしてリンクにはこんなことまで言って
しまえるのか。
 が、思ってもみなかった、とでもいうような表情でリンクが漏らした言葉は、
「……その……ショウフって……どういうものなの?」
 え?
 そうじゃなかったの? それにいまの言葉……そもそも娼婦というものを知らない?
 問いには応じず、確かめてみる。
「リンクは……女を知りたいのね」
「……うん……」
「それがどういうことなのか、わかってるわよね」
「……実は……よく……わからなくて……」
 何ですって?
「セックスって、何のことか知ってる?」
「……いや……」
 あきれる。と同時に、おかしくなってしまう。
 何も知らないのだ。七年前と同じように。結婚というものを知らなかったように。どうしたら
子供が生まれるのかを知らなかったように。どうして大人の女の胸がふくらんでいるのかを
知らなかったように。まるであの時の子供がそのまま大人になったかのように。
 何という奇妙なアンバランス!
 こんな無知な状態で、なぜ「女を教えて欲しい」とだけは望めるのだろう。
 だけど、その疑問も……(わたしが教えてあげないと)……あの時と同じ衝動にかき消されて……
 つん、と身体の奥が刺激される。
 七年前にも、わたしはリンクに女を教えようとした。胸を見せ、触ってもいいとさえ言った。
それ以上のことまでは考えなかったけど……いいえ、成りゆきによっては……そうしていたかも……
 思いとどまらせたのは、リンクの目だった。
 正しいものを求めようとする、まっすぐな感情。侵してはならない純粋さ。
 あの時は、その純粋さを侵さないのが正しいことだった。
 けれども、いまは違う。リンクは女を求めている。同じ純粋さで。だから、いまはそれに応じる
のが正しいことなのだ。
 心の中で苦笑する。
 自分を正当化する言い訳だ。
 それでもいい。リンクが欲しい。何も知らない男を自分のものにする妖しい悦び。
 アンジュは立つ。
「いらっしゃい」
 リンクの腕をとり、立ち上がらせる。そっと手を引き、寝室にいざなう。
『こんな朝っぱらから……』
 でも、もう止められない。
133-7-2 Ange V-2 (3/12) ◆JmQ19ALdig :2007/08/04(土) 12:38:17 ID:BA4MZYle
 どういうことなのか。自分で求めておきながら、これから何が起こるのか、ぼくにはわからない。
 導かれた部屋。カーテンが引かれた窓。薄暗い空間。隅にはベッド。
 ──ベッド……?
 背後で戸が閉まる音。アンジュが閉めたのだ。ああ、外とは切り離された。戻れない。もう
あとには戻れない。
「そこにかけて」
 アンジュの声。閉ざされた部屋にアンジュと二人きりで。
 椅子もあるというのに、ぼくはベッドに歩み寄り、その縁に腰かける。
 アンジュが立っている。ぼくの前にアンジュが立っている。感情の消えた顔が、そこだけに
意志を宿す目が、ぼくをまっすぐ見下ろしている。
 すべてが七年前のあの時と同じように。
 どうなる? どうする? 次にアンジュのすることは……

 どうするか──と考えながら、わたしは何の迷いも持っていない。
 すべてを七年前のあの時と同じように。
 服の前に手をかける。上から、下へと、ひとつひとつ、左右をとめるボタンをはずす。開いた
服を脱ぎ捨てる。露出した肩にかかる下着の紐。左を下ろし、腕を抜く。右を下ろし、腕を抜く。
その腕は身から離さず、右の手で左の、左の手で右の、それぞれのふくらみを覆い隠す。
 リンクの目。茫然と開いたリンクの目。
 覚えてる? 思い出してる? これがどういうことなのか、リンクにはわかる?
 まだわからない? じゃあ……

 アンジュの手が落ちる。そこにある、それ。
 ぼくがかつて見たもの。ぼくがずっと思ってきたもの。ぼくがいま見ているもの。
 まるくて、やわらかそうで、はかなげで、それでいてしっかりとそこにあって。
 乳房。二つの乳房。女のしるし。大人の女のしるし。
 ──女……?
「触ってもいいのよ」
 アンジュの声に、心臓が大きく収縮する。
 これがそうなのか? これがぼくの知りたかったことなのか?

 これがそうなのよ。これがリンクの知りたかったことなのよ。七年前に知ろうとして、だけど
知れなかったことなのよ。さあ、来て。いまこそこれを知りなさい。
 リンクが、立つ。一歩、踏み出す。
 すべてが七年前のあの時と同じように。そして七年前には果たせなかったことまでも。
 あの時、リンクは言った。
『ほんとに……いいのかな……こんなこと……』
 いまは言わない。何も言わない。目を惑いでいっぱいにして、けれども一歩が二歩、二歩が
三歩と、リンクが近づく。左手が上がる。指が広がる。とうとうリンクが触れてくる。

 はっ──とアンジュが短く息を吸う。その音にぼくも息を呑む。それでも手はしっかりと、右の
乳房に吸いついてゆく。
 このまるみ。このやわらかさ。たとえる言葉もないこの感触。ぼくがずっと思い追ってきたもの。
 これがそうなのか? これがぼくの知りたかったことなのか? だとしたら……いまのぼくは
……もう……
 心をよそに、身体は動く。左手を右の乳房に置いたまま、右手で左の乳房に触れる。両の乳房を、
ぼくは得る。
 猛っている。ぼくは猛っている。股間のそれから、手にも猛りが乗り移る。感じてやる。
感じてやる。アンジュの女を感じてやる。
「あ……」
 一瞬アンジュは目をふさぎ、すぐに再びそれを開く。そこには何かが燃えている。
143-7-2 Ange V-2 (4/12) ◆JmQ19ALdig :2007/08/04(土) 12:39:21 ID:BA4MZYle
 両の乳房に加わる力。眼前にあるその力の主。
 男。
 七年前の子供とは違う。男なのね。わたしの目の前にいるのは男なのね。何も知らないはず
なのに、それでも女を求める男なのね。
『わかったわ』
 顔を寄せる。いまだ惑いを残しながらも、興奮に沸きたっているリンクの目。その目にぐいと
近づいて──
 唇を合わせる。
 これで三人目。彼と、シークと、そしていまリンクと。数限りない男を身体に迎えたわたしが、
キスを許し、求めたのは、三人だけ。リンクはその三人目。
 かまわないわ。当然だわ。教えてあげなくちゃならないんだもの。
 リンクの手を胸に受けたまま、背に両腕をまわす。合わせた唇を少しずつ動かす。とがらせ、
開き、吸い、押しつけ、そして舌を送りこもうとしたところで──
『!』
 リンクの舌が突っこんでくる。思わず動きを止め、それを受けながら、次いで負けじと自分を
絡ませながら……
 意外。慣れた感じ。キスの経験はあるのかしら。
 それなら……

 手に触れていた胸が、背に触れていた腕が、そして絡み合っていた唇と舌が、すいと離れる。
 はっとして目をあけると、一歩引いたアンジュが、じっとこちらに目を据えている。誘うような、
挑むような、妖しい光を放った目。
 無言の対峙。
 それも束の間。
 アンジュの手が動き出す。残った衣服が次々に脱ぎ捨てられる。リンクに視線を向けたまま、
アンジュはついに素裸となる。
 これは……マロンと同じことなのか? 女を知るというのは、やっぱりこういうことだったのか?
それならもう知っている。知っているけれど……ここで「もう知っているから」などとは、とても
言えない。それに……
 目の前に立つアンジュ。
 女の裸。裸の女。
 静かに燃える青い瞳。首筋に触れた茶色の髪。全身を覆う薄紅色の皮膚。何を隠そうという
意図もなく脇に降ろされた両腕。重みに垂れながらも誇らかに盛り上がった乳房。その頂点に
咲く赤茶色の乳首。細めの胴は半ばでさらにくびれ、再び腰に向かって張り出してゆき、腰は
わずかに開いた、これも細い両脚に支えられ、それが合わさる中心部は、逆三角形に生えた
暗褐色の毛に覆われて……
 やせているのに、ぼくより背が低いのに、ぼくを圧倒する、アンジュの、この存在感。
 ルトも裸だった。でもこんなにまともに向かい合ったことはないし、これほど成熟しても
いなかった。
 マロンの時は暗くてここまでわからなかった。確かめようという余裕もないくらい無我夢中だった。
 それが、いまは……
 薄暗い部屋の中でも、はっきりとわかる、その全貌。
 女って……どうして……こんなに……「女」なんだ!
 マロンを知ったぼくだけれど……ぼくには……まだ、たくさん……知らないことが……
 知りたいのか? ぼくはそれを知りたいのか?
『知りたい!』
 心が叫んだ時には、もう手が身にしたものを解き放ち始めていた。
153-7-2 Ange V-2 (5/12) ◆JmQ19ALdig :2007/08/04(土) 12:40:03 ID:BA4MZYle
 リンクが服を脱ぐ。激しい意志のこもった視線をわたしに向けて、何かに取り憑かれたような
勢いで、どんどん、どんどん、リンクがすべてを捨ててゆく。
 やがてそれは現れる。若く逞しい男の裸。
 首筋も、肩も、胸も、腹も、腕も、脚も、中心でいきり立つそれも、むせかえるような若い男の
力に充ち満ちている。
 裸のわたし。裸のリンク。二つの裸が向かい合い、じっと向かい合い、いまにも爆発しそうな
衝動を抱えて、それでも動かずに向かい合い、そして……
 ぶつかる。
 リンクの腕が強くわたしを包む。わたしもそっとリンクの胴を抱く。
 密着した二人の間で、乳房はリンクの胸板の圧力につぶれ、下腹はリンクの屹立にぐいぐいと
押され、いま一度、リンクの唇がわたしに吸いつき、舌が挿しこまれ、わたしはそんなリンクの
さまざまな男の部分を味わって……
 一歩、引く。リンクが一歩、前に出る。
 さらに、引く。リンクがさらに、足を送る。
 一気に後ずさり、背中からベッドに倒れこむ。密着を保ったまま、リンクがわたしにのしかかる。
 顔が離れる。ぎらぎらと男の欲望に燃えたリンクの目。いまにもその欲望を貫いてきそうな
切迫した目。
 ──焦っちゃだめよ。
 いなすように身をずらす。横になって見つめ合う。再び攻めかかる機を図るこわばった顔に、
ちらりと笑みを投げておき、先まわりしてリンクを握ってやる。
 きゅんと身体を固め、くっと目を閉じ、かっと口を開いて──はあっ……と荒い息を漏らすリンク。
 そっと、そっと、揉んでやる。ゆっくりと、ゆっくりと、しごいてやる。ぬるりと露出した
先端に、さらさらと指をすべらせてやる。
「……ぅ……あ……」
 攻めを忘れた、頼りない呻き。
 ──どう? まだ大丈夫? まだ我慢できる?
 と、心の中で微笑んだ瞬間──
「あッ!」
 こっちが触れられた。わたしのあそこに、指が触れてきた。
 ──そんなことができるなんて……でも……
 すっかりぬかるんだ秘裂の中で、ぬちぬちと音を立ててリンクの指が動きまわる。動きまわる。
快感の破片を散らばらせながらも、しかしその動きは目標への統御を欠いて……
 ──やっぱり、よく知らないんだわ。
 余した手をリンクの手に重ねる。綴じ目の上で高ぶる小さな芽に、リンクの指を押しつける。
「ん……!」
 続けて、続けて、押しつける。
 ──ここよ、わかった?
 力を緩めてやると、リンクは忠実に習った刺激を繰り返す。
「ん……んあぁ……あ……んん……」
 じんじんとする快感にしばし身をゆだね、そして次の段階へと、今度は下へ手をずらす。
リンクの指を、もぐらせる。奥へと、奥へと、送りこむ。
 ──ここも……知っておいて……
 教えるという意識を残しながらも、ずぶずぶと、くいくいと活動し始めるリンクの指に、
「くぅ……ぅ……ん……んぁ……ぁ……」
 口からは止めようもなく快美の声が漏れる。けれど忘れちゃいけない、と、こちらもリンクを
握りしめ、
「うぁ!……あ……」
 互いを手と指で攻め合う二人の、荒ぶる呼吸と動物的な呻きが、密閉された部屋に充満してゆき……
 ──もう……いいわね……
 仰向けになる。上にリンクを引き寄せる。股を開いてはさみこむ。手にしたリンクを中心に
あてがう。
「来て、リンク……」
163-7-2 Ange V-2 (6/12) ◆JmQ19ALdig :2007/08/04(土) 12:40:47 ID:BA4MZYle
 触れている。ぼくの先端が触れている。
 いままでぼくの指が入っていた場所。これからぼくの物が入ってゆく場所。マロンの時には
じっくり感じる余裕もなかった、女の入口の、この熱さ。この潤み。
「いいのよ……来て……」
 アンジュがささやく。手がぼくを引き入れる。先がもぐりこむ。なおも熱く、なおも潤んだ
その中に。もうじっとしてはいられない! もう入らないではいられない!
 ずん!──と一気に貫く。
「あぁッ!……ぅぅ……ぅ……」
 アンジュが呻く。がっと背をかき抱かれる。その力に、アンジュの中のぼくもぐいと
押しつけられて……
 いい。耐えられない。このまま、このままぼくは……いますぐにでもぼくは……
「動かないで」
 アンジュの声に衝動が止まる。
「まだよ」
 下から見上げるアンジュの目。かすかな笑み。そこに秘められた何かの企み。
「ぉあッ!」
 思わず声が出る。思わず目を閉じる。ぼくを包むアンジュの襞。それがぼくを締めつけて、
放して、締めつけて、放して、ぴったりとくっついたかと思うと、さやさやと撫でるように、
まるでそこだけが別の生き物であるかのようにぼくを……ぼくを……
「どう?」
 静かな声。ぼくはそれに頷いて、ただ頷くことしかできなくて……
 蠕動が続く。アンジュがぼくを弄ぶ。強く、弱く、長く、短く、じわじわと、ひたひたと、
少しずつ、少しずつ、ぼくを追いこんで、ぼくを追いつめて……
 ぼくは女の中にいる。女に包まれている。マロンの時と同じように。だけどマロンの時とは
全然違ってもいて。これも女。これがアンジュ。アンジュ。アンジュという女!
「あ……くッ……」
 あれが来る。このままだとあれが来る。もう……もうそこまでそれは来て!
 不意に蠕動が止まる。
 暴発寸前で解放され、大きく息を吐く。
「そのままでいて」
 続けて息を吐きながら、アンジュに従い、身体の力を抜く。
 落ち着け。落ち着け。まだ早い。まだ早い。
 ぎりぎりの切迫感が引いてゆく。引いてゆく。危機を脱して安んじた、その直後。
「あッ!……う……ぉ……」
 またもアンジュが蠕動し始める。もう一度それはぼくを弄んで、追いこんで、追いつめて……
 止まる。
 それが幾度も繰り返される。その間、優しくも厳しいアンジュの言葉がぼくを縛りつけ、ぼくは
一寸たりとも動くことを許されない。ただアンジュに翻弄されて、アンジュのなすがままになって、
アンジュの女を徹底的に味わわされて……
173-7-2 Ange V-2 (7/12) ◆JmQ19ALdig :2007/08/04(土) 12:42:03 ID:BA4MZYle
 寄せては返す快感の波。その波は、押し寄せるたびに高さを増し、振幅を増し、これ以上は
どうあっても耐えられないという限界まできたところでアンジュが──
「よく我慢したわね」
 目をあける。きれぎれに必死の息をつくぼくの下で、アンジュが微笑む。余裕をこめてゆったりと、
しかし目には爛々と何かを求める炎を燃え上がらせて。
「もういいわ……して……存分に……」
 ようやく許しを得て反射的に動き出そうとする身体。でも……でもそれをぐっと抑えつけ……
 アンジュはここまでぼくに感じさせてくれた。だから……
「今度は……アンジュが……ぼくを……感じて……」
 え?──と、意外そうなアンジュをよそに、ぼくは動き出す。すぐにも噴き出させたい欲求に
耐え、耐え、耐え、ゆっくりと、ゆっくりと、ぼくは進み……退き……進み……退き……
煮えたぎる坩堝の奥底まで侵攻しては……どろどろと熱い液体をこぼれさせる入口まで退却し……
大きく……大きく腰を前後させて……静かに……静かに……けれど力をこめて……こめて……
「ぁ……ぁ……ぁぁ……ぁぁぁあああああ……」
 アンジュの口が少しずつ開き、少しずつ声が絞り出され、少しずつ声は大きくなり……
 ──感じてる? アンジュは感じてる? アンジュはぼくを感じてる?
「ああ……リンク……感じる……感じるわ……」
 ──もっと、もっと感じて……ぼくを感じて……
「リンク……もっと……ああ……もっと……」
 アンジュの腰が動き出す。ぼくをくわえこんだまま、ぼくの動きに呼応して、ぼくが進めば
前に突き出され、ぼくが退けば後ろに引かれ、二人が触れる幅を倍にしようとして、二人の感じる
悦びを倍にしようとして……
「はぁッ!……はぁッ!……リンク!……あぁんッ!……」
 速くなる。アンジュの動きが速くなる。ぼくも合わせて速くなる。
「あぁッ!……うぁッ!……もっとッ!……リンクッ!……」
 速くなる。速くなる。速くなる。動きが、摩擦が、声が、衝撃が、快感が、何もかもが、
「あッ!……あッ!……あッ!……あッ!…あッ!…あッ!…」
 二人の共有するあらゆるものがただその一点に向けて真っ逆さまに加速する。加速する。
 もう止められない! もう引き返せない! もう最後まで行くしかない!
「あッ! あッ! あッ! あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!」
 ──アンジュ! アンジュ! ぼくは! ぼくは!
「あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!」
 ──もう! アンジュ! どうか! ぼくと! ぼくとぼくとぼくとぼくとぼくと!!
「あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!あ……ぁ……ぁぁ……ぁぁぁあああああああーーーーーーッッッ!!!」
 アンジュの絶叫が空気を裂き耳を貫き脳髄を撃ち──
「アンジュ!」
 小さな叫びとともに──リンクもまた、アンジュの深奥でおのれを爆発させた。
183-7-2 Ange V-2 (8/12) ◆JmQ19ALdig :2007/08/04(土) 12:42:49 ID:BA4MZYle
 達してしまった。
 そのつもりはなかったのに。
 ぐったりと力を失って傍らに横たわるリンクを抱き、自らも陶然と絶頂の余韻に酔いながら、
アンジュはぼんやりと考えていた。
 自分が行き着かなくてもよかった。ただリンクに女を感じさせてやりたかった。わたしという
女を、リンクにしっかりと感じてもらいたかった。そのために、わたしができる最高のやり方を、
リンクに披露してやったのだ。
 中に迎えた男を歓待する技術。
 彼との体験で覚えたこと。最初は無意識の動きだった。だけど悦ぶ彼を見て、彼が悦ぶのが
嬉しくて、もっともっと彼に悦んで欲しくて、わたしは技を磨いていった。
 それはわたしの武器になった。わたしが娼婦としてやってこられたのも、この技があったからだ。
これを使ってやれば、どんな男だって、あとは我を忘れて一直線に最後まで突っ走ることになるのだ。
慣れない男なら、これだけで射精に導くこともできる。
 ところが、リンクは……
 最後まで至らないように手加減していたとはいえ、わたしの技に耐えただけでなく、その上で
なお自分を保って、自分の意志をもって……
『今度は……アンジュが……ぼくを……感じて……』
 あのリンクの言葉。思い出すだけで胸が熱くなる。
 そんな言葉をかけられたのは初めてだ。金のために抱かれた男たちはもちろんのこと、彼や
シークでさえ──心の中では思っていたに違いないが──そんなことを直接わたしに言いは
しなかった。男としては照れ臭くなる台詞だろう。けれど、リンクの、その馬鹿正直なまでの
まっすぐな気持ちがわたしを打って……言葉にもならない喘ぎしか吐き出せないほどにわたしを
舞い上がらせて……わたしを絶頂させてしまったのだ。
 でも……
 その情熱だけでは頷けない。
 リンクはシークのような技巧を持ってはいない。秘部への触れ方も慣れたものではなかった。
それでもリンクは自分からそこに触れてきた。ディープキスの経験もあるに違いない。何より、
あそこまで耐えて、なおかつ自分を忘れずに行動できるなんて……
「リンク」
 腕の中で、目を閉じて静かに息を整えている若い男に、アンジュはそっとささやきかけた。
その男が、ぼうっとした目を向けてくる。
「ほんとうは、初めてじゃなかったんでしょ」
 意味が伝わるのに少し時間がかかった。が、やがてリンクは目を伏せ、
「……うん……」
 と頷いた。
「どうして嘘を言ったの」
「……え?」
「女を教えて欲しいだなんて……リンクはもう知ってたんじゃないの」
 気まずそうに、しかし真面目な顔で、リンクが答える。
「嘘じゃないんだ。ただ……」
「……ただ?」
「……女を知るっていうのが……このことだとは……思わなくて……」
 唖然とする。と同時に、またも笑いがこみ上げてくる。
 すでに知っていたことを、知らないと思いこんでいたと? リンクの性知識は、いったい
どうなっているのか。
「何回目?」
「……二回目」
 やっぱり、まだ慣れてはいないのだ。
193-7-2 Ange V-2 (9/12) ◆JmQ19ALdig :2007/08/04(土) 12:43:39 ID:BA4MZYle
「それでも、どうして子供が生まれるのかは、わかったわけね」
 かつての会話を思い出し、からかうように言ってやる。が、リンクは、
「え?」
 と不思議そうな顔だ。
「七年前、わたしに訊いたでしょ。どうしたら子供が生まれるのかって」
 リンクは黙っている。
「……わかってないの?」
「……あ……うん……」
 ああ、またしても。何という奇妙なアンバランス!
 わたしが教えてあげないと。
「セックスよ」
「……セックス……って?」
「いまわたしたちがしたこと」
 絶頂時にペニスから噴出する液体のことは──精液という名称は別として──さすがにリンクも
知っていた。けれどもその意味はわかっていなかった。
 アンジュは順を追って詳しく説明していった。
 セックスによって男が女に送りこむ精子と、女が体内に有する卵子との結合。受精、受胎、妊娠、
そして出産。
 リンクは目を丸くして聞いていたが、話が一区切りついたところで、強迫的なほどの真剣さを
もって言葉を発した。
「確かアンジュは……前に言ったよね。男と女が結婚したら、子供が生まれるんだって」
「そう、それが普通よ。だけど、ほんとうは、結婚してなくても、セックスすれば子供はできるの」
 もう真実を知られてもかまわない。いや、いまこそ真実を知らせておくべきだ──とアンジュは
考え、そう告げたのだが、聞くやいなや、リンクはがばと身を起こし、目に見えて動転した挙動を
示し始めた。
「じゃ、じゃあ、アンジュは……アンジュはぼくの子供を産むの? ぼ、ぼくは、どうしたら……
いや、アンジュだけじゃない、マロンは……」
 自分の知らない名前が出たことに気づいたが、それ以上にリンクの早合点がおかしく、
アンジュは声をあげて笑ってしまった。その笑いにさらに茫然とし、惑乱の極みを呈するリンクに、
「笑ったりして、ごめんなさいね。でも──」
 セックスしたからといって必ずしも子供ができるということにはならないのだ、と、とりあえず
言っておき、アンジュは教育を続けていった。
 ハイリア人女性の月経周期はきわめて規則的であり、よほどのことがない限り、一日とずれる
ことはない。月経周期は三十日で、月経開始から排卵までが十五日、さらに次の月経開始までが
十五日。月経期間は四日間。ここで重要なのは、妊娠可能な期間も排卵から四日以内と決まって
いることで、それ以外の時期のセックスは決して妊娠をもたらさない(もちろんその時期内で
あっても、必ず妊娠するというわけではない)。
 さらにハイラルの暦では、一年が三百六十日で十二ヶ月、つまり一ヶ月が常に三十日で、
月経周期と一致するから、各々の女性にとって、月の何日に月経が始まり、何日に月経が終わり、
何日に排卵が起こり──そして何日から何日までが妊娠可能か、逆に言えば、妊娠の可能性のない
期間がいつなのかが、ほぼ完全に決定していることになる。ハイリア人女性はみなそれをよく
わきまえているので、子供をつくるという同意なしに、女が自らの意思でセックスに臨むならば、
それは基本的に妊娠の可能性のない時期だと見なしてよい。事実、わたしの場合もいまは妊娠の
可能性がない時期である──
 リンクにとっては未知の単語が多く、理解させるには時間を要したが、アンジュの丁寧な
説明により、最後にはリンクも安心したようだった。リンクは大きく息をつき、再びアンジュの
そばに身を横たえた。
 が、リンクの当惑は、まだ解消してはいなかった。それは続くリンクの言葉で明らかになった。
203-7-2 Ange V-2 (10/12) ◆JmQ19ALdig :2007/08/04(土) 12:44:41 ID:BA4MZYle
「……セックスって……何なのかな……」
 アンジュはいぶかしい思いでリンクの顔を見た。リンクは目を合わせようとせず、訥々と言葉を
続けた。
「ぼくとアンジュは……結婚しているわけじゃないし……子供をつくろうとしてるわけでもない……
だったら、何のためのセックスなんだろう……」
 困惑する。とりあえず端的な答を返してみる。
「素敵な気持ちになれるわ」
「うん……」
 短い肯定。だが深刻な表情は変わらない。
「確かに……とても素敵で……気持ちがよくて……こんな素敵なことは他にないっていうくらい
素敵なことだと、ぼくも思うよ。でも……それだけなのかな。セックスって、ただそれだけの
ことなのかな」
 言ってしまえば、それだけのことだ。特に、日々わたしが相手にしている男たちにとっては。
しかしリンクはそんな答には満足すまい。セックスの意味を真剣に考えている。
 若い。
 けれど、その若さが微笑ましく、また羨ましい。
 こちらも真剣に答えてやらなければならない。
「男が女を求めて、女が男を求めて、セックスしたいと思うのは、自然なことよ。本能と言っても
いいわ」
「本能──か……」
 リンクが繰り返す。動かない表情。納得していない。
「それは他の人にも言われたことがあるけれど……それですませられればいいんだろうけれど……
でも……ぼくの中には……それではすませられないっていう気持ちがあって……つまり……ぼくが
アンジュとセックスして……いや、アンジュだけじゃなくマロンとも……他の人ともセックスして、
それでいいのか──って……」
 リンクの口調は次第に熱を帯び、はずされていた視線がアンジュに向けられた。
「アンジュは、前に、愛のことも言ってたよね。男と女が愛し合って、それで子供が生まれるんだって。
大人になればわかるってアンジュは言ったけれど、まだぼくには、愛っていうのがどんなものなのか、
わからないんだ。それがセックスとどう結びつくのかもわからない。わからないんだよ!」
 激しい感情の吐露をもって、リンクの言葉は終わった。言葉は脈絡を欠いていたが、アンジュには
リンクの言いたいことが理解できた。そして、リンクが突きつけた容易ならぬ問いは、アンジュに
即座の応答を許さなかった。
 どう答えてやればいいか。完全な答は、誰にもできないだろう。
 アンジュはその糸口を、リンクが二度、口から漏らした名前に求めた。
「マロン──っていうのは、リンクの初めてのひと?」
 リンクが頷く。
「その時のことを、教えてくれない?」
 口ごもりながらも、リンクは初体験の顛末を語った。
 牧場の娘、マロン。酷使され、虐待されていた、不幸な少女。その少女に会って、リンクが
どう思い、どういう行動をとったか。
 リンクは自分のことのみを述べ、マロンの心情には言及しなかった。しかしアンジュは、
マロンが抱いていたであろう感情を洞察することができた。マロンがリンクという人物に会って、
何を思い、何を得たか。マロンと似て不遇な状況にあるアンジュには、それがよくわかった。
213-7-2 Ange V-2 (11/12) ◆JmQ19ALdig :2007/08/04(土) 12:45:46 ID:BA4MZYle
 アンジュは慎重に、心をこめて、できる限りの答をリンクに施していった。
 愛。結婚。妊娠。快楽。そしてセックス。密接に関わり、重なり合いながら、けれども完全に
一致することのない、それらの事ども。
 結婚した夫婦のセックス。子供をつくるためのセックス。愛し合う者同士のセックス。
コミュニケーションとしてのセックス。快楽のためのセックス。いろいろな形のセックスがある。
男がおのれの快楽を金で求めるだけのセックス(──と、娼婦という自らの例まで引いて
アンジュは説明した)、さらには強姦という、暴力による一方的なセックスすらある。
 セックスとはどうあるべきか。人によって考え方は違うけど、わたしの場合は……
「人と人との繋がりを確かめ合うもの──だと思うわ」
 男が女を、女が男を、それぞれの相手を、知りたい、理解したいという気持ち。心を許し、
身体を許し、二人がすべてを触れ合わせ、その繋がりを喜び合う。
「だから、リンクがそれを望んで、相手のひともそれを望むなら、そうするのが自然なことなのよ」
 望まないセックスを続けてきたわたしは、望み合う二人のセックスがどんなにすばらしいもの
なのかを、痛いほどよく知っている。
「愛のことは──いまは、まだわからなくても──いろいろなひとに会って、そのひとのことを
知って……そういう出会いを重ねていけば……わかる時が、必ずくるわ」
 リンクは黙っていた。激しい感情はすでに去り、表情には静けさが戻っていた。が、その沈黙は、
なおもリンクが心に重みを宿していることを示していた。
 アンジュは言葉を継いだ。
「リンクは、言ったわね。マロンと経験して、マロンという一人の人間がそこにあったと理解できた
──って」
 小さく頷くリンク。
「それはリンクが、マロンとの繋がりを確かめられたということなのよ。それに……」
 間をおき、じっとリンクの目を見つめながら、アンジュは言った。
「マロンはリンクに抱かれて幸せだったと思うわ」
 リンクの目が動いた。みるみるうちに、そこにはまたも大きな感情が湧き上がってきた。
「そう……思う……?」
 静かに答える。
「ええ」
 目に感情を湛えたまま、リンクは絶句し……そして、その感情を口にした。
「……そうであって欲しいと……そうに違いないはずだと……思ってはいたけれど……アンジュに
そう言ってもらえたら……ぼくは……」
 リンクは目を閉じた。感情をじっくりと反芻しているようだった。やがて再び目を開いた時、
深刻な懸念の色はリンクの顔から消え去っていた。
「ありがとう。アンジュが教えてくれたことは、よくわかった──と思う」
 そこで表情をゆるめ、リンクは訊いてきた。
「アンジュは? ぼくとセックスして、アンジュはどう?」
 まあ──なんてあからさまな。
 どこまでもまっすぐなこと。
 でも、リンクの、そのまっすぐな真情ゆえに──二人で話すことができて、二人で笑い合う
ことができて、そしてリンクに感じてもらうことができて、リンクを感じることができて……
「幸せよ、とても……」
 アンジュは微笑み、訊き返す。
「リンクは?」
 はにかむように口元をほころばせ、リンクは答える。
「アンジュと、こうならなかったら、こんなにたくさんのことはわからなかったし……こんなに
落ち着いた気持ちにも、なれなかったよ」
 二人は優しく抱き合った。
223-7-2 Ange V-2 (12/12) ◆JmQ19ALdig :2007/08/04(土) 12:46:58 ID:BA4MZYle
 アンジュと、こうならなかったら、こんなに落ち着いた気持ちにはなれなかった。
 たったいま自分が言った言葉を、何度も心の中で繰り返しながら、その安寧をもたらしてくれた
相手の肌を、リンクは静かに味わっていた。アンジュの身体は、リンクの胴と両腕によって
すっぽりと包まれてしまうほど細く、はかなげであったが、その内にある真心は、深遠な癒しと
なって、逆にリンクを大きく包んでいるのだった。
 セックスのこと。愛のこと。
 アンジュの言葉は、ぼくがこれまで思い惑ってきたことに、ひとつの決着をつけてくれた。
完全な答とはいえないのかもしれない。まだわからないことは残っている。それでも、いま、
この時ほど、自分自身を素直に受け入れられ、かつそれが安らかに感じられたことはなかった。
 心を解放し、飛翔させ、しかし身体はその場にとどめ、リンクはアンジュの慈しみを快く
おのれに染みとおらせていった。
 どれほどの時間が経ったのかわからなかったが、やがてリンクは、アンジュがそっと身を
離すのを感じた。
「もうお昼になるわ」
 アンジュは穏やかに言い、ベッドから降りると、全裸のまま部屋から出て行った。
 ベッドに横たわって待ったが、アンジュは戻ってこなかった。不思議に思って耳をすませると、
台所の方から物音がする。リンクはベッドから降り立った。服に手をかけたが、アンジュが
裸なのに自分だけが着衣するのも変な気がし、戸惑いながらもそのままの姿で、台所に顔を
出してみた。
 後ろ姿のアンジュが、竈に向かって盛んに手を動かしていた。リンクが出てきた気配を
感じたのか、アンジュはふり返り、
「もうちょっと待っててね。いまお昼ごはんにするから」
 と明るく笑いながら言った。
 リンクは椅子に腰かけ、アンジュの作業を見守った。軽やかともいえる身のこなしで、
アンジュは台所の中を移動した。それは食事の支度としての機能的な動き以上の何ものでも
なかったが、動いているのが全裸の女性であることで、そこには奇妙な美が醸し出されていた。
アンジュは自分が何も身に着けていないことなど気にもとめない様子であり、その自然な態度が、
なお幻想的な趣をリンクに感じさせるのだった。
「あり合わせのものしかなくて、悪いんだけど……」
 供されたのは、芋と野菜の炒め物、朝と同じスープ、そしてパンという、言葉どおりの質素な
メニューだった。だが極度に切り詰めた食生活を続けてきたリンクにとっては──朝食も同様で
あったが──充分ご馳走の範疇といえる内容だった。アンジュの裸体は相変わらずその場に
しっくりと調和しており、リンクは自分も同じ姿であるということを忘れ、心身ともに満たされた
思いを得るのだった。

 昼食を終えたのち、アンジュはふと思い立って、伸びかけた髭を剃ってやろう、とリンクを
誘った。リンクはあわてたように辞退したが、アンジュはかまわず剃刀を手にし、リンクの前に
位置を占めた。顔をきれいにしてやりながら、若々しい男の匂いを感じて、アンジュの胸は高鳴った。
 髭剃りをすませてから、アンジュはリンクに勧め、内井戸の水で身体を洗わせた。次いで自分が
身を清めた。濡れたタオルで身体を拭く、その動作を、昼食時には抱かなかった意図をもって、
アンジュはリンクに披露した。顔、両腕、脇、乳房、腹、両脚、そして両脚の間へと、余すところなく
手を這わせ、各部の曲線を強調させるように、執拗に撫でまわして見せた。それから目を離せず、
明らかな男の反応を示し始めたリンクのさまをひそかに楽しみ、アンジュの胸は、さらなる
企てに向け、熱を増し続けていた。
 リンクの童貞は得られなかった。けれどリンクが知らないことは、まだ多く残っているはず。
『それを全部、教えてあげるわ』


To be continued.
23 ◆JmQ19ALdig :2007/08/04(土) 12:47:34 ID:BA4MZYle
以上です。リンクの教育と説得に紙数を取られてしまった。
後編は、また後日に。
24名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 12:56:46 ID:L8oZMmQD
乙!
リアルタイムで始めて見れた(*゚∀゚)=3
リンクもアンジュもかわえー
25名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 14:24:10 ID:tP0yWIxu
全裸炊事(;´Д`)ハァハァ全裸朝食'`ァ'`ァ(*´Д`)=3 '`ァ'`ァ

ハイラルにもオギノ式が普及していたとは。きっとみずうみ博士の他にも
しおのぎ博士とかが居るにちがいない。

リンクは今後どんなハーレム展開になってハメまくっても
ヤリチンにならなそうな感じで好もしいです。

この際アンジュさんはリンクに男のオナニーも教えてあげればいいのに。
あと処女ともアナルセクロスできるくらいのアナルテク伝授も期待
26名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 23:18:03 ID:5/PW18rb
生理の周期がずれないハイリア人ウラヤマシス

しかしこの作者様、男性の心理描写も女性の心理描写も見事に書いていてマジですげぇよ…
激しく激しくGJ
27名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 16:01:49 ID:QxEH0w4u
夜通しROMってた保管庫から、
飛んできた途端、続きにぶつかった!!

自分の知らなかったハイラルの七年間のくだりといい、
リンクの心と体の不安定なその様といい
素晴らし杉!

今更ですが・・・ファンになりますた
28名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 22:41:51 ID:mlptxM6M
相変わらずすごい技量ですね。
これまで何篇の文章を書いていたのか気になるところ
29 ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:14:46 ID:WfhGWI97
私本・時のオカリナ/第三部/第七章/アンジュ編その5/後編、投下します。
基本的に、アンジュ×リンク。長いです。
註:アンジュ(仮名)=コッコ姉さん
303-7-3 Ange V-3 (1/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:15:55 ID:WfhGWI97
 二人は寝室に戻った。服を着ようとするリンクの腕を押しとどめ、アンジュは言った。
「もっと知りたいの。リンクのことを」
 リンクの目が固まり、次いで、揺らめき始める。その揺らめきを煽るように、言葉を続ける。
「リンクは、もう知りたくはない? わたしのこと、女のことを」
 答はない。が、ぎゅっと腕をつかまれる。それが答だった。
 ベッドに腰かけ、リンクを隣にすわらせる。予定を訊くと、二、三日は村にいる、との返事。
ならば、と意図をこめ、誘いをかける。
「じゃあ、その間、うちにいて」
「うん……」
 頷くリンク。顔がこわばっている。こちらの意図を察している。
 ひそかに満足の笑みを漏らし、リンクの肩を抱いて、ベッドの上に寝転がる。
「続きよ」
 すでに全裸の二人。すぐに行為が始まる。唇を触れ合わせ、互いの肌の隅々まで手を伸ばし、
さっきのおさらいとばかりに秘部への愛撫を交換し……
 ひとしきりの接触ののち、リンクを仰向けにとどまらせ、全身に舌を這わせてゆく。唇から頬、
額、首、肩、腕、手。
 次は胸に。乳首を吸ってやる。
「ぅ……」
 と小さな呻き。
 男は女ほどには感じないはずだけど、リンクはけっこう敏感みたい。
 続けて腹、腰。とんで、脚。そして……
 下半身に覆いかぶさり、すでに天を衝く勢いのそれに手を添え、先端に軽く接吻する。
 はっ──と短く息を吸うリンク。訊いてみる。
「これは、経験ある?」
 無言の頷き。
 あら、そうなの。マロンはずいぶん積極的だったのね。でも、わたしだって……
 亀頭を唇で軽くこする。表面にぐるりと舌を這わせ、縁をなぞり、裏筋をくすぐる。透明な
液体をあふれさせる小さな口に、つんつんと触れる。続けて根元まで舐め下り、再び先に戻って、
口に含む。舌と口蓋と頬粘膜の動きで包みこみ、断続的に咽頭まで届かせる。
 一連の操作を繰り返す。舌で、唇で、口で、上から下まで、じっくりと味わう。二つの袋も
含めて。手と指の刺激も加えながら。
 密生した陰毛が顔に触れる。そそり立つ陰茎の逞しさ。シークよりも濃い。シークよりも太い。
中性的なシークとは違う、明らかな男の様相。
 その男が、ひたすら息を荒げている。わたしの口技に酔いしれて。まだ慣れていないリンクの
こと、いまはこのくらいで……
 口を離し、身を戻して、リンクと顔を合わせる。頼りなげな目を向けてくるリンク。
 そんな目をしないで。さあ、次は──
「リンクの番よ」
313-7-3 Ange V-3 (2/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:16:34 ID:WfhGWI97
 先刻、女の部分にさんざん翻弄された物を、今度は口で攻め立てられ、リンクは快感に振り回された。
口の方が、もっと複雑で、もっと巧みだった。マロン以上に玄妙なアンジュの技を、リンクはただ
甘受するのみだった。
 高まりつつあったところで、放り出された。こっちの番と。
 どうするか。
 同じようにしてやるしかない。
 アンジュに倣って、舌を這わせる。思いつく限りの場所に。思いつく限りのやり方で。
 できるだけ均等に、とは思うものの、やはり興味はそこに集中する。
 胸。乳房。女の証となる、その隆起。
 柔らかい二つのふくらみの間に顔を埋める。手で撫で、触れつつ、左の頂点を口に含む。唇に
はさみ、舌で転がす。さっきアンジュにされたように。
「は……」
 アンジュのため息。感じている。これでいいんだ。
 次いで右。同じように。深くなるため息。よし。
 ふと思いつき、歯で軽く噛む。ぴくりと痙攣するアンジュの身体。
 どうだ? いいのか? もう少し強く?
「つッ!」
 アンジュの顔が歪む。
「あんまり強く噛まないで。敏感な所だから」
「……ごめん」
 わかった。どの程度にしておけばいいか。優しく。あくまで優しく。
 しばらく両胸と戯れたのち、執着を抑えて、下半身に挑む。
 下腹部の茂み。それが間近に。自分にも生えている毛が、女に生えているというだけで、
どうしてこんなに胸を騒がせるのか。そして……
 その奥にある女の部分。挿入したことはあっても、見たことはない。そこは……いったい……
どうなって……
「ここを見るのは初めて?」
「……うん……」
 見透かされた。なぜわかるんだろう。態度に出てしまっているのか?
 いいじゃないか。知らないものは知らないんだ。アンジュに……教えてもらえば……
「見せてあげる」
 言葉とともに、脚が広げられる。思わず顔を寄せてしまう。男を受け入れるそこは……そこは……
 驚く。
 これが……女なのか!
 黒ずんだ構造の中に、ぱっくりと開いた陥凹。周囲と対照をなす、鮮紅色の粘膜。複雑な、
奇妙な、だけどきれいな、生き物のような……例えるなら……そう……何かの花のような……
そして、そこは……
「濡れてる……」
 これまでにも触れてわかっていたことだけれど……実際に見てみると……なんて不思議な……
泉のようにしたたって、きらきらと光って……
「女は感じるとこうなるの。男だってそうよ」
 そういえば……さっきアンジュに触られた時、ぼくの先端はぬるぬるとすべって……
「どうして……」
 思わず漏らした疑問を、アンジュが解き明かしてくれる。
「二人がそこを優しく触れ合わせられるようにするため」
 そうか、こすれても痛くないように……
323-7-3 Ange V-3 (3/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:17:11 ID:WfhGWI97
「女の身体を教えてあげるわ。いい? ここが──」
 指で示しながら、アンジュが各部の名称と、その役割を述べ始める。どれも初めて聞く言葉。
不思議な語感。不思議な音列。
「──で、この奥に、子供が宿る所があるの。指を挿れてみて」
 挿れてみる。もう挿れたことがある場所なのだが、「膣」という名前を知ったいまでは、同じ
ようにぬめった感触にも、新たな印象がかき立てられる。
「もっと奥よ。そっと……伸ばして……」
 そっと伸ばす。奥へと。奥へと。やがて指先は感じ取る。こりっとした固く丸い部分。
「そう……それが子宮……子宮の入口……」
 子宮。この中に子供が。膣に出された精子が、この中に入って……
 感動すら覚える、その実態。
 その感動に心を揺らすうち、アンジュの呼吸が速くなる。どうして? ああ、そうか。ぼくが
指を挿れっぱなしだから……
 そっと、抜く。アンジュが、はぁッ──と息を吐く。
「そういえば……男の方の場所の名前を、リンクは知ってるの?」
「よくは……」
 再びアンジュが名前を挙げ始める。ぼくを手に取って。ぼくの……「陰茎/ペニス」を……
触りながら……
 知っている名前もあれば、知らない名前もある。でも、もうわかった。理解した。男と女の
性器の名称と、その役割。
 アンジュが微笑む。
「じゃあ、リンク……わたしを、口で……してちょうだい……」
 そう、ぼくの番。さっきはアンジュに口でしてもらった。だから今度は……
 広げられたアンジュの股間。開いた部分に顔を近づける。左右に割れた二重の隆起。厚く
ぽってりとした外側の堤と、薄く皺の寄った内側の壁と。
 陰唇。
 まさに唇のように……唇……唇なら……キスしなくちゃいけない……
 キスする。熱い。柔らかい。
 舐める。酸っぱい。粘っこい。
 舌を伸ばす。奥へと。そこに迎えてくれる舌はない。ただ深い隧道だけが──膣だけが──
続いている。ほんとうはペニスが収まる場所。舌を固めて送りこむ。出し入れする。小さな硬直。
小さなペニス。
「ああ……リンク……上手よ……」
 そう? ほんとうに? それなら……
 残った場所。陰裂の上の合わせ目にある、小さいしこり。男の亀頭と同じように、女の最も
敏感な場所。
 陰核/クリトリス。
 そっと、舐める。
「んッ!」
 アンジュが固まる。
 そっと、吸う。
「あッ!」
 アンジュが震える。
 そっと──ああ、ここは敏感な場所、優しく、優しく──噛む。
「きゃッ!」
 アンジュが跳ねる。
 繰り返す。刺激を繰り返す。恥毛の感触を顔に得ながら、そこばかりでなく全体を。アンジュの
性器の全体を。
「あ! リンク! 待って! 待ってぇッ!!」
 切迫した調子を感じ取り、叫びに従って動きを止める。大きく肩を上下させ、喘ぐアンジュ。
ややあって、口を開く。
「もう、いいわ……次に……行くわよ……」
 次に? 何だ? 本番のセックス?
 考える暇もなく、アンジュがぼくを押し倒す。仰向けになったぼくに、アンジュがかぶさる。
逆向きに。アンジュの股間がぼくの顔の上に。アンジュの顔がぼくの股間の上に。これは……
ひょっとして……
333-7-3 Ange V-3 (4/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:18:51 ID:WfhGWI97
 危うく達してしまうところだった。リンクが口を使うのは初めてのはずなのに。
 わたしもそんなに経験を積んでいるわけじゃないから──口でされるのは、キスと同じく、彼と
シークに次いで、まだ三人目だから──かもしれない。でも、それにしたって……
 単なる技術ではない。これも、相手を悦ばせようとする誠実な心根の表れなのか。
 けれど、教えるんだから、負けてはいられない。
 見下ろす形になったリンクの屹立を、まずは手に握りしめ、ごしごしとしごきたてる。
「うッ!」
 リンクが呻く。その口に股間を押しつけ、呻きを封じる。べたり──と動きのない接触。が、
すぐに口が動き出す。さっきのように、リンクが口で攻めてくる。
 背筋を這い上がるぞくぞくとした感覚に震えつつ、こちらも攻めを開始する。
 さっきは手控えしたけど、もう、それもなしよ。
 かぶりつく。口の中を総動員して、固まりきったそれをなぶりつくす。
 両の尻にかかるリンクの手に力がこもる。しこりを舐められる。唇を食べられる。舌を突っこまれる。
 迫り来る快感と戦いながら、激しく頭を上下させて、口を膣にして、締める。絞る。吸いこむ。
 リンクの腰が固くなる。筋肉が収縮している。リンクも戦っている。射精の欲求と戦っている。
 ──いって!
 防壁を打ち破るべく、アンジュは最後の攻撃に入った。

 互いの秘所に口づけ合う。思いもしなかったその行為に、ぼくはいま嵌りこんでしまっている。
可能な限りアンジュを攻め、同時にアンジュの攻めをも受け……
 さっきぼくを振り回した快感よりも、さらに桁違いに大きい快感が、ぼくを取り囲む。ぼくを
縛りつける。ぼくを打ちのめす。
 もう……近い……このままだと……このままだと……
「……出ちゃうよ……」
 口を離して警告する。アンジュは止まらない。それどころか、ますます動きを速めてゆく。
聞こえないのか。
「アンジュ……だめだよ……いきそう……」
 まだ止まらない。
「離れて……すぐ……出るから……」
 まだ。
「アンジュ!」
「いいの!」
 さえぎられる。やっと口を離したアンジュの、激しい意思表示。
「出して! 口の中に!」
 ──口に中に出す!?
 必死で意味を反芻しようとする間にも、アンジュは再びぼくをくわえこみ、激しい動きを継続する。
 いいのか? いいのか? 口の中なんかに。
 そうか! セックス、これもセックス、口でするセックスなんだ! いいんだ! 出していいんだ!
このままいってしまってもいいんだ!
 安堵が防壁をがらがらと崩し、巨大な波が押し寄せる。
 ──来た!
 びゅん! と逸走する快美。どくどくと撃ち出される弾丸。そして──
 ごくり、と嚥下音。
 ──飲んだ!?
 顔面をぐいとアンジュの股間に押しつける。口も、鼻も、顎も、すべてをアンジュに、アンジュの
ために!
「んーーーーーんんんッッ!!」
 くわえたままの喉から絞り出される終局の呻き。アンジュの全身が硬直し、どっと尻が落ちてくる。
その重みを敢えて受け、顔を塞がれたぼくは、もう、息もできなくて……
 それでもいい。
 アンジュは、ぼくを……ぼくの命を……飲んでくれたんだ……
 限りなく心が震える、それは感激の結末だった。
343-7-3 Ange V-3 (5/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:21:53 ID:WfhGWI97
 絶頂のあとのけだるい忘我にふける楽しみを、アンジュは早々に打ち切った。続けてリンクと
交わる気はなかった。起き上がり、今度は衣服を身に着け、リンクにも同じようにさせた。
 時間は充分にあるのだ。ゆっくり進めればいい。リンクの体力のことも考えて。そのためにも、
他にしておくことがある。まだ日が暮れるには間があるが、そろそろ準備を始めなければ。
 アンジュはリンクを連れて、村の広場へ赴いた。二人で一緒にいるところを村人に見られる
ことになるが、そんなことは気にならなかった。
 シークの場合は、こうはいかない。村を訪れる時、シークは可能な限り人目を避ける。アンジュが
シークと顔を合わせるのは常に自宅の中のみで、二人して戸外に出ることは決してない。村には
シークが「インパの息子」であることを知る者が、少数ではあるが残っており、時折やって来る
ゲルド族に通報されるおそれがあるからだ。が、その理由がなかったとしても、自分はシークとの
関係を公にはしなかっただろう。娼婦という商売への影響を考えなければならないし、何より、
年若い情夫とともにいる姿を他人に見られること自体に、ためらいを禁じ得ないのだ。
 ところがリンクの場合は、全然そんな制約を感じない。リンクとは会ったばかりで、商売への
影響を顧慮する必要はない、という理由もあるが、シークと同様、身体の関係を持ちながら、
リンクといる姿を衆目にさらすことには、なぜかためらいの気持ちが湧かないのだった。
 二人に対する認識の違いのせいだろうか。
 シークへの想いは尽きないが、その立場は「情夫」という一語で説明可能だ。だがリンクの
立場は、いったいどう表現したらいいだろう。情夫とは言えない。友人……でもない。ましてや
単なる知人とは言い得ない。
 結論の出ないまま、アンジュはリンクと連れだって、広場の一角にある市場へと足を向けた。
市場といっても、そこは構えの大きな一軒の商店に過ぎなかったが、闇物資の中継地点となって
いるカカリコ村だけあって、生活に必要な品物は、たいがいその店で購うことができた。
 アンジュは食料を買いこんだ。パン、ミルク、乳製品、野菜、卵、それにふだんめったに口に
しない肉類までをも購入した。天候の悪さを反映し、野菜類の品揃えはよくなかったが、値が張る
ことは承知の上で、できるだけ良質なものをアンジュは選んだ。いくつもの袋がアンジュの手に
渡った。持ちきれないのがわかっていたので、リンクを連れてきたのだが、全部持とう、と
リンクは言ってくれた。アンジュは素直にその好意を受け取った。
 帰途、アンジュは酒場に立ち寄り、女主人に、二日ほど商売を休む、と告げた。客の斡旋を
してくれているので、事前に言っておく必要があったのだ。女主人は了解し、次いでリンクを
見やると、馬はどうするのか、と訊いてきた。エポナという馬を預けているのだ、とのリンクの
説明で事情がわかり、続けての世話をアンジュは依頼した。
 金額を確かめると、明らかに通常の相場を上回っていた。アンジュは女主人と交渉し、今後は
追加料金を取らず、リンクがエポナを引き取りにくるまで、すでに支払った額ですべてを賄う
ことを了承させた。女主人は渋い顔をしたものの、ぼっていたのがばれた後ろめたさのためか、
文句は言わなかった。そのかわり、詮索するように質問を投げかけてきた。
「そっちの剣士さんは、あんたとどういう関わりなんだい?」
 さっきまで自分が考えていたことを訊かれ、アンジュは困ったが、口は咄嗟に答えていた。
「前からのつき合いで……まあ、弟みたいなものよ」
「なんだ、親戚かい」
 当てがはずれたような顔をする女主人には勝手に誤解させておき、アンジュはリンクとともに
その場を去って、家へと向かった。
353-7-3 Ange V-3 (6/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:22:51 ID:WfhGWI97
 リンクを「弟」という表現したことに、アンジュは自ら感心していた。セックスした相手を
そう呼ぶのはおかしいのだが、まさにリンクにぴったり当てはまる言葉のように思えたのだ。
それはひるがえって、自分がリンクの姉という立場にあることを意味する。仮とはいえその立場が、
アンジュには実に喜ばしく、温かな思いを誘うものと実感されるのだった。
 そもそも七年前、両親も家族もいないというリンクを無性にいとおしく感じたのが、リンクを
意識するようになった最初のきっかけだ。当時は母親に近い感情などと思ったものだが、むしろ、
姉のような、と呼ぶ方が、しっくりくる気がする。いろいろなことを親しく教えてやるという
立場も考えると、なお。
 アンジュは横を歩くリンクを見て微笑んだ。アンジュの内心を知るよしもないリンクは、
きょとんとした顔で視線を返してきた。その無邪気な様子が、なおさら微笑ましかった。

 台所のテーブルに荷物を置かせたあと、アンジュはリンクに、夕食までエポナの様子を見に
いってはどうか、と勧めた。自分にとって、リンクとともにいる時間をこれからさらに持てるのは、
心躍ることだったが、リンクをエポナから引き離す時間を長くしてしまうことにもなるのが気に
なっていた。リンクも気がかりだったのだろう、頷くと、すぐに外へと出ていった。
「さて」
 と声に出し、アンジュは夕食の準備を始めた。リンクを外にやったのは、準備の間、リンクが
手持ちぶさたになるだろうから、という意図もあったのだ。手伝いは期待しなかった。むしろ
手伝いなどなく、自分ひとりで夕食を仕上げたいという気持ちだった。
 料理が得意というわけではない。むしろ苦手な方だ。ふだん自分だけの食事を作る時は、どうせ
食べるのは自分なのだから、と、ついつい手抜きになることが多かった。でも、いまの気分は違う。
 朝食も昼食も、粗末なものになってしまった。せめて夕食は立派に調えなければ。
 リンクを歓迎し、ねぎらう意味があることは言うまでもない。が、のみならず、リンクとは
無関係に、ちゃんとした食事をしようという、ただそれだけの欲求が自分の中に生まれている
ことを、アンジュは自覚していた。
 買い物をしながら考えた献立に、一生懸命、アンジュは取り組んだ。味見と調製を念入りに
繰り返した。神経を使う作業だったが、それが楽しいとも感じられた。

 酒場の女主人は、がめつくとも世話はきちんとしてくれていたようで、エポナは元気を保って
おり、機嫌も上々だった。馬小屋でしばしエポナと戯れたのち、リンクは女主人の許可を得て、
短時間、付近を騎乗してみた。エポナはリンクを背に乗せたがっていたらしく、ともすれば逸って
先へ進もうとし、なだめるのに苦労するほどだった。
「また来るからな」
 日が暮れてから、そうエポナに言い置いて、リンクはアンジュの家に戻った。
 玄関のドアをあけた瞬間、家の中に漂う芳しい匂いに気づいた。台所のテーブルに並べられた
夕食のメニューは、リンクをさらに驚かせた。
 牛肉入りのシチューと鶏肉のソテーをメインとし、具の多いスープ、色とりどりの野菜を配した
サラダ、軟らかいパン、新鮮なチーズなどが、リンクの目を奪い、舌を楽しませた。ハイラル城での
晩餐ほど豪華で洗練された料理ではなかったが、リンクの経験した中では、それに次ぐすばらしい
食卓であり、野趣に富むともいえる味は、むしろ、より親しみが湧くものだった。リンクは率直に
賞賛を述べ、アンジュはいかにも嬉しそうに礼を返した。
 デザートは手焼きのクッキーで、いつものお茶が添えられていた。こういう雰囲気が家庭的と
いうものなのかな、と思いながら、リンクは快くそれらを味わった。
 最後になって、アンジュが酒を出してきた。あわてて断ったが、これも社会勉強だという
アンジュの勧めに抗しきれず、グラスにわずかに注がれた赤紫色の液体を、リンクはおそるおそる
舐めてみた。口当たりのいいものを選んだから、とのアンジュの言葉どおり、意外にいける味で、
やがてグラスは空になった。
 リンクはアンジュに酒の名前を訊ねた。長ったらしい銘柄で、覚えるのに苦労した。なぜ
覚えようとするのか、とアンジュに問われたので、正直に返答した。
「この先、酒を飲む機会があったら、これに限ろうと思って。これならぼくでも大丈夫そうだし」
 大笑いされてしまった。真面目に言っているのに、と心外に思ったが、アンジュの笑う様子が
逆におかしく、そして喜ばしく感じられ、いつしかリンクもその笑いに和していった。
363-7-3 Ange V-3 (7/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:24:06 ID:WfhGWI97
「もう寝みましょうか」
 夕食の片づけもそこそこに、アンジュが呼びかけてきた。その言葉はリンクをどきつかせ、
同時に身体の奥で眠っていたものを呼び覚ました。食欲が満たされたあとは、別の欲望が喚起される
番だった。
 二人で寝室に入る。朝と同じ展開を予想したが、アンジュは脱衣することなくベッドに歩み寄り、
そこに横たわった。リンクもそれに従った。
 弱められた灯火のもと、部屋は薄暗く、それでも互いの姿は明瞭に認められる。
 抱き合う。
 アンジュの手が頭に、顔に、背に、腕に、尻に、そして股間に伸びてくる。リンクも同様に
アンジュの全身を撫でる。服を隔てた接触は歯がゆく、しかしそれゆえ素肌への渇望がさらに
増幅された。寝むというのは言葉ばかりで、二人の活動は徐々に勢いを増していった。
 両の胸の隆起をなぞると、目を閉じたアンジュが深い吐息を漏らした。ひとしきり左右の弾力を
味わったのち、左手をアンジュの脚に這わせる。時期を計りかねていると、アンジュの手が
重ねられ、スカートの中に導かれた。逆らわずにゆっくりと手を動かし、アンジュの中心に至る。
下着の上から触れ続けるうちに、指が湿りを感じ取る。
 アンジュがこちらの股間を開放し、硬くなった物をじかに弄び始めた。思わず荒い息を吐き、
こちらも呼応してアンジュの下着の中へ手を入れる。ざらりとした恥毛の感触。奥で蠢く濡れた谷間。
 硬直を握るアンジュの手に力が加わり、こする周期を速めてゆく。その快感に身をゆだねつつも、
我を忘れず、アンジュの内奥をなぶってやる。
 互いの急所への穏やかな攻めは、アンジュの言葉で中断された。
「脱がせて」
 他人の服を脱がせたことなどない。しかも女性。これも教わるべきことのうちなのか。どういう
ふうにしたらいいのか。
 戸惑いながらも、アンジュの脱衣の動作を思い出し、服に手をかけ、開いてゆく。不器用だと
自分でもわかる。だがアンジュの巧みな動きに助けられ、その肌は徐々にあらわとなる。あらわに
なるにつれ、アンジュの息が深くなり、リンクの呼吸も同期する。
 下着だけになったところで、今度はアンジュが動き出す。仰向きに制せられ、その手に身を
任せる。優しい愛撫とともに、リンクは脱がされる。脱がされてゆく。
 なんという自然な流れ。不器用な自分とは違って。
373-7-3 Ange V-3 (8/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:24:39 ID:WfhGWI97
 あとわずか、という段階で、アンジュは止まる。無言の誘いを察し、白い下着に手を伸ばす。
 この下にあるアンジュの素肌。見たい。触れたい。感じたい。
 逸る。逸る。逸る気持ちを抑え、すでに露出した部分を、そしてまだ隠された部分を、ゆっくり、
ゆっくり、手と指で味わう。
 速まるアンジュの息。くねるアンジュの身体。まだ。まだ。もう少し。もう少し。
 自制。その効果が、やがて現れる。
「……お願い……もう……裸にして……」
 アンジュが言った。アンジュに言わせた。アンジュに求めさせることができた。
 ひそかな満足感をもって、けれどもまだゆっくりと、白い布を剥いでゆく。剥いでゆく。胸が、
下腹が、さらされる。アンジュのすべてがさらされる。
 見る。アンジュの肢体を目に焼きつける。ほっそりと、しかし熟れつくした、美しい大人の女性。
 アンジュ。目を閉じて。仰向けに横たわって。それでもこちらの視線を感じて。見られている
ことを知って。見せつけて。
 動きも言葉もなく、ただそこにいるだけの誘いが、これほど強烈なものだなんて。
 待つ。アンジュを待つ。
 動かない。アンジュは動かない。
「……今度は……ぼくを……」
 ああ、言ってしまった。言わされてしまった。求めてしまった。
 アンジュが目をあける。してやったりと言わんばかりの微笑。やり返された。でも、かまわない。
かまわないから、早く……
 触れられる。撫でられる。弄ばれる。さんざん焦らされた末に、最後の肌着を奪われる。
 待ちに待った瞬間。衝動を解放し、アンジュを抱きしめる。強く、固く、あらゆる部分の肌を
密着させる。
 日中の復習を兼ねて、絡み合う。高め合う。煽り合う。
 交錯する手。這いまわる唇。荒れる息。熱する皮膚。滲み出る汗。
 二人の影が重なり、離れ、重なり、離れ、そしてついに、もう離れたくないと切望する、
その時が来る。
 アンジュの上にのしかかる。脚を割って迫ってゆく。見上げるアンジュが、かすかに頷く。
 言葉はない。言葉などいらない。わかっている。もうわかっている。
 濡れそぼる陰裂に照準を合わせ、力をこめて、リンクは突入していった。
383-7-3 Ange V-3 (9/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:26:01 ID:WfhGWI97
 膣粘膜をこすりたてる逞しい肉棒の感触に酔いながらも、頭の隅に冷静さを残し、アンジュは
これからの段取りを考えていた。
 二度の射精が耐久力を、食事と適量のアルコールが体力と興奮を、リンクに与えている。すぐに
達することはないだろう。
 しばらくはリンクのやりたいようにさせた。上に乗ったリンクは、もう心得たもので、一気に
爆走することなく、セーブしながら緩急をつけて攻め寄せてくる。それに耐えるのは容易ではなく、
何度となく訪れかける熱狂の罠を、アンジュはかろうじて切り抜けた。
 やがてリンクは動きの調子を変え、スパートをかける気配を示した。その機先を制し、
「リンク」
 と声をかける。腰を折られた形のリンクが、不思議そうな顔になる。
 ──いいのよ。このままいくんじゃ、もったいないわ。
「マロンとは、どんなふうにしたの?」
 なぜこんな時に、と言いたげに、それでも素直に、リンクが答える。
 正常位と騎乗位。最後までいったのは正常位。
「そう……じゃあ、別のやり方を教えてあげる」
 慎重に身体を動かし、横向きになる。巧みに脚を組みかえ、接触を保つ。激しい動きには
向かないが、穏やかでいたい、いまのような時には、ちょうどいい。
 断続的にゆっくりとした抽送を楽しんだあと、上半身を離し、結合部を中心として回転する
ように位置を変える。二人の頭部は遠く隔てられ、交差した両脚の真ん中で、局部だけが密着する。
これほどの密着感は、他の体位では得られない。
 腰を振りたて、密着の上にも密着を求める。
 素敵。感じる。皮膚も含めて、股が全部、性器になったみたい。
 リンクは? リンクはどう?
 感じている。リンクも感じている。顔をしかめて、上半身をのけぞらせて、リンクが必死に
耐えている。
 限界に達する前に、力を抜く。回転して、再び向かい合う。
 今度はわたしが上に。また横に。もう一度、下に。
 正面を触れ合わせたまま次々に位置を変え、ベッドの上を転げまわる。転げまわる。
 さすがに疲れてくる。少しペースを落とさないと。
 仰向けになったリンクの上に身をもたせかけ、呼吸を整える。リンクも喘いでいる。喘いでいる。
けれどわたしの中で、それは、まだ硬く、強く、再攻の時を待って……
 突然、リンクが起き上がる。すわったリンクの脚の上で、わたしは抱きかかえられる。
 ああ、これも一つの体位。知ってたの? リンクは知ってたの? それとも自然に? 本能の
ままに?
 リンクの口が寄ってくる。キス。キス。キス。絶え間ない唇と舌の交歓。
 リンクの手が胸を這う。乳房を揉む。乳首をつまむ。撫でられ、つかまれ、なぶられる。
 口と、胸と、そして性器と。三つの場所が同時に攻められる。攻められる。わたしは……
わたしは……リンクの背に腕をまわし、腰に脚をまわし、リンクに抱きついて、ただ抱きついて
……その攻めを受け入れて……受け入れるだけとなって……
393-7-3 Ange V-3 (10/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:27:12 ID:WfhGWI97
 ──だめよ!
 意志を取り戻す。このまま終わりはしない。
 締め上げてやる。ぐいぐいと。わたしの武器。わたしのあの技で。
「あッ!……う……ぁ……」
 リンクが呻く。
 この体位では、リンクは自ら動けない。上にいるあたしが有利。そして、もっと優位に立つ
ために……
 前のめりに体重をかけ、リンクを再び仰向けにさせる。上半身を離し、腰の上に跨る。
 騎乗位。もうリンクが知っている体位。
 いや、まだリンクは全部を知らない。この体位では達していない。いかせてあげる。いかせてあげる。
この格好でいかせてあげる。
 すべての動きを解き放つ。上へ、下へ、右へ、左へ、前へ、後ろへ、まっすぐに、そして
回転させて、ぐりぐりと、さわさわと、腰をひねり、ねじり、中では中で、収縮と弛緩を続けて、
切って、続けて、切って、できる限りの技でリンクを捕らえ、拘束し、いたぶりつくして──
 なすすべもなく横たわるリンク。目をぎゅっとつぶって。馬鹿みたいに口をあけて。情けなく
両腕を投げ出して。
 どう? わかる? これも女よ。女はこういったこともできるのよ。いきなさい。もういきなさい。
もうさっさといっちゃいなさい。
 自覚する。頬に浮かぶ獰猛な笑み。胸に湧き上がる攻撃的な快感。それらを全開にしてとどめを
刺そうとした瞬間、
「あんッ!」
 乳房を鷲づかみにされた。まだそんな余裕が──と思う間もなく、もう一方の手が二人の
接触部に侵入し、
「くぁッ!」
 急所を突く。結合の圧力は手を強くはさみこみ、必然的に急所への刺激も圧を増す。
 思わず動きが止まってしまう。乳房と陰核への刺激を痛いほどに感じ、感じ、感じ……
 もう我慢できない。わたしもいきたい。いきたい! いきたい!!
 ──でも!
 主導権は渡さない。
 リンクの両腕をつかみ、胸と股間からもぎ離す。前に傾斜して、両腕をベッドに押しつける。
リンクの動きを封じておいて、こちらの腰を上下させる。上下させる。上下させる。
激しく、激しく、激しく激しく激しく!
 弓なりに反るリンクの背。声にならない叫び。震え始めるペニス。
 あと少しでいかせられる! いかせてやる! けれど、ああ、わたしもいってしまう!
 限界まで速められた上下動が、ついに限界の訪れを知り、ぴたりと止まる。が……
 ──もう一回!
 腰をじりじりと上げる。粘液にまみれた陰茎が、少しずつ、少しずつ、外気にさらされ、亀頭が
露出する寸前となった時──
 ずん!──と全体重をかけて腰を落下させる。
「ぅあああッッ!!」
 リンクが吼える。子宮口にぶつかるリンクの先端。噴き上がる男の終末。
 それを受け、
「リンッ!……クッッ……!!」
 しゃがれた呻きとともに、アンジュも全身を歓喜で引き絞らせた。
403-7-3 Ange V-3 (11/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:28:17 ID:WfhGWI97
「どうだった?」
 激烈な遂情から半時間ほどが経ち、二人の荒れた呼吸の音だけに満たされていた部屋が、
ようやく静けさを取り戻した時、アンジュがそっとささやいた
 リンクは、なお深々と息を整えながら追想し、短く答えた。
「すごかった……」
 間をおいて、続ける。
「……特に……最後が……なんていうか……まるで……」
 言葉を探す。が、適当な言葉が見つからない。アンジュがそれを引き取った。
「犯されてるみたいに?」
 その表現にどきりとしつつ、
「……うん……」
 と素直に頷く。
 マロンとも、今朝のアンジュとも、最後は自分が攻める形だった。そんなものなんだと思っていた。
なのに……
「セックスでは、普通、女が受け身になるけど……その逆もあるのよ……さっきのように……」
 夢見るような口調でアンジュは言い、そして、
「でも、リンクもすごかったわ」
 と、艶やかに笑ってつけ加えた。
「そうかな……」
 自分ではよくわからない。できるだけアンジュを悦ばせてやろうと頑張ったつもりではあるが……
 何も言わず、アンジュが身を預けてくる。並んで横たわる二人は、互いの身体を緩やかに抱いた。
 アンジュの肌から火照りが引いてゆくさまを感じ取りながら、しばしの沈黙を経て、リンクは
再び口を開いた。
「セックスって……いろんなやり方があるんだね」
 アンジュが静かに応じる。
「ええ……でも、リンクの知らないやり方が、まだあるわ」
「まだ?」
「そう……まだ……もっと……」
 アンジュが股間に触れてくる。うなだれたぼくの物に、優しく、優しく、指が触れかかる。
けれどそれは……疲れきって……アンジュの誘いにも応じられないほどに……
「もうこれ以上は……だめみたいだ……」
 失望させてしまっただろうか──と、恥ずかしい気持ちになるが、
「朝から三回ですもの。勃たなくて当たり前。逆に……三回もできるなんて、立派なものよ」
 その言葉に安心し、リンクは大きく息をついた。が……
「じゃあ、触ってくれても、役には立たないよ」
 アンジュが首を振る。
「そうじゃないの。こうして触っているだけで、気持ちがいいの」
「……触るだけで?」
「そうよ。挿れて射精するばかりがセックスじゃないってこと」
 確かに……萎えた状態でも、こうして触られていると……いきり立った時のような、研ぎ澄まされた
快感とは違うけれど……解きほぐされるような、穏やかな気分に……
 アンジュの背中に、手のひらを這わせる。柔らかな、しかしかすかにざらつくような感触。
それが不思議に……気持ちよくて……
 は──とアンジュが吐息を漏らす。
 感じているんだ。ぼくの手を。
 これもセックス……セックス……なんだね……
 深く、静穏な安らぎに満たされ、リンクは眠りの淵に沈んでいった。
413-7-3 Ange V-3 (12/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:29:04 ID:WfhGWI97
 目が覚めたのは明け方だった。
 窓の外は薄暗い。アンジュは隣で寝息をたてている。起きるには、まだ早いか……
 身体を動かそうとした時、リンクは気づいた。
 自分は右を向いて横になっている。そっちではアンジュが仰向けに寝ているが、その左手が
ペニスを軽く握っているのだ。
 ゆうべ、アンジュもあのまま眠ってしまって、いままで二人とも身動きひとつしなかった、
ということなのだろうか──などとぼんやり考えているうち、やっと自らの状態が把握できた。
 勃起している。
 アンジュに握られていたせいなのか。そんなに強い刺激が加わるような握り方ではないが……
 リンクはゆったりと腰を前後させた。動かない左手の中で、それはゆるゆると往復し、快感とも
呼べないほのかな感覚をリンクにもたらした。
 そのまま怠惰な動きを続けていると、アンジュが目をあけた。焦点の合わない視線をリンクの
顔に向けたのち、目覚めを呼んだ左手の触覚の原因に目をやり、ぼうっとそれを眺めている。
「こんなに……」
 茫洋としたアンジュの声。
「起きた時には、こうなってたんだ」
 リンクが言うと、アンジュは眠たげに応答した。
「……男の人は……朝……こうなることがあるのよ……」
「どうして?」
「……さあ……素敵な夢でも……見たんじゃない?……」
 夢? そんな覚えはないけれど……
 覚めきっていない脳に思考を漂わせながら、意識するともなしに腰を動かし続ける。
 気持ちがよくなってきたな──と思い、下を見ると、いつの間にか、アンジュの手も前後に
動いている。
「ああ……」
 思わず声が漏れる。アンジュの顔がこちらを向く。目を半分閉じていて、まだ眠たそうだ。
しかしその目は潤みを湛え、わずかにではあるが、呼吸が速くなっている。
 握る力が強くなった。同時に、アンジュの右手に左手首をつかまれ、股間へと引き寄せられた。
そこはじっとりと濡れていた。
 欲情してるんだ。
 思った瞬間、心に火がついた。アンジュをまさぐりながら、腰の動きを強める。息を荒くし、
アンジュが言う。
「したい?」
 頷く。
 したい。アンジュは?
 顔を見る。微笑。
「して」
 アンジュはくるりと横に転がり、両肘と両膝で四つん這いになった。
「別のやり方よ……後ろから……して……」
 後ろから? そんなやり方もあったのか。
423-7-3 Ange V-3 (13/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:30:07 ID:WfhGWI97
 驚きもそこそこに、アンジュの尻に向かう。両脚の間に膝で立つ。
 どうするのか。いつもとは反対向きだ。けれど場所は同じ。同じように挿れてやれば……
 すでにどろどろとなった膣口に先端をあてがい、じわりと埋める。
「んんんーーーーーんんあああ……あ……あ……ああ……あぁぁぁぁぁぁ……」
 長い呻きに応じて、ゆっくり、ゆっくり、進ませる。まだ進む。これは思ったより……
「深い……」
 思わず漏らした言葉に、アンジュがきれぎれの声で答える。
「そう……この格好が……いちばん……奥まで……届くの……」
 思い切り突き出して、ようやく進まなくなる。そのまま動かず、みっちりと満たしきった感触を
楽しむ。
「胸を……触って……」
 その要望に応えるためには……上半身を前に倒して、後ろから手を回して……
 垂れ下がる乳房を両手に捉え、揉みしだく。硬くなった乳首をこねまわす。
「下も……」
 そっちにも?
 二つの乳房を集めて右手に預け、腹に沿って左手を伸ばす。恥毛に触れる。
「もっと下……」
 さらに伸ばす。膣に打ちこまれた自分。そのそばの……
「もうちょっと……」
 そのそばにあるはずの……
「ああ、もう少し……」
 これだ。
「そこよッ!」
 そっと押さえる。
「もっとッ!」
 力をこめる。
「まだよッ!」
 眠気が吹き飛んだような叫びをあげて、アンジュが自らの手を重ねてきた。それでいいのかと
思われるほどの圧力で、ぐりぐりとこちらの手を押さえつける。ならば、と従い、こねくりまわす。
「ああッ! いいわッ! 気持ちいいッ!」
 アンジュの手が離れる。この触れ方でいいということ。
 左手で陰核への刺激を続けながら、右手にある乳房も翻弄する。さらに、目の前の背中に舌を
つけ、舐めおろす。
「はあぁッ!!」
 悲鳴に近いアンジュの喘ぎ。
 両手と口と陰茎で、四カ所を同時に攻めている。その満足感。その充実感。
 が、この前傾姿勢では腰を動かしにくい。
 挿入した怒張を少し引こうとしたところで──
「む!……あぁぅッ!……」
 あれだ。あれが始まった。アンジュの技。アンジュの膣の蠕動。アンジュの反撃。
 やっぱり……すごい……いや……前よりも……もっと……このままだと……こっちが……先に……
 上体を起こす。両手で腰をつかむ。他の部分を捨てて、一点のみに集中する。
 この状態なら、アンジュは手も出せない。這いつくばっているだけだ。こっちが一方的に攻勢に
出られるんだ。ゆうべはアンジュに「犯された」けれど、今度はぼくがアンジュを犯してやる!
 リンクは抽送を開始した。可能な限り強く、激しく、アンジュを突きまくった。時には小刻みな、
あるいは焦らすようにゆっくりとした間奏をはさみながら、リンクは攻め続けた。怒濤のような
この攻撃の前には、アンジュの技も効果を失い、アンジュはただ、腰を後ろに突き出し、顔を
ベッドに押しつけ、両手でシーツを握りしめ、悩乱の叫びをあげて酔い狂うだけだった。
 やがてリンクはアンジュの膣の最深部に残り少ない精を噴射させ、至福のうちに倒れ伏した。
433-7-3 Ange V-3 (14/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:30:58 ID:WfhGWI97
「もう起きたら? お昼が近いわよ」
 それで目が開いた。声の方に目をやると、ベッドの脇に、笑みを浮かべたアンジュが立っていた。
 のろのろと起き上がる。
「あと少しで食事ができるわ」
「……うん……」
 答えはしたが、すぐには身体が動かない。アンジュがベッドに腰を下ろし、顔を寄せてくる。
「疲れた?」
「いや……それほどでも……」
 ずっと旅を続けてきた身としては、大した疲労感ではない。ただ、普通の疲れとは違う、
放心──というに近い、何かが抜けきったような感じがするのだ。
 今朝の交わりの結果だろうか。
 交わりといえば……
 ぼくは全裸のままだが、アンジュはきちんと服を着ている。食事の支度もしているようだ。
いつ起きたのだろう。ぼくと違って溌剌としていて。心なしか肌もつやつやして。何もなかった
ように、けろっとして。今朝はあれほど、ひいひい言って乱れていたのに……
 そこで思い出した。
「アンジュ」
「なに?」
 笑みを絶やさず、首をわずかに傾けるアンジュ。
「今朝は……ぼく……悪いことをしたんじゃ……」
「悪いこと?」
「あんなに……夢中になって……乱暴なやり方をして……」
「ああ、そのこと」
 ぱっと笑みが大きくなる。
「女っていうのはね、あれくらいにされた方が嬉しかったりするのよ。気にすることないわ」
 そこでアンジュは真顔になった。
「でも、暴力はだめよ」
 その様子にリンクも背筋を正す。
「この際だから言っておくけど、リンクがこの先、女の人とつき合うことになったら、大切な
ことは──」
 セックスを無理強いしてはいけない。必ず同意を得ること。相手のいやがることはしない。
暴力などはもってのほか。
 人と人との繋がりを確かめ合う、という本質からは当然の帰結だ。リンクは神妙に頷いた。
「それから、相手が処女で、セックスの経験がない時には──」
 処女膜というものがあるから、傷つけるつもりはなくても、痛みや出血を伴うことが多い。
できるだけ優しくしてあげること。
 どれくらい痛いのだろう、と疑問になったが、自分が感じることのできない痛みだから、
知りようがない。それだけに思いやりが必要なのだな、と理解できた。
「じゃあ、起きなさい。食事の前に身体を洗うといいわ」
 台所の内井戸の水で昨日と同じように身を清めたのち、寝室で着衣し、台所に戻った時には、
ちょうど朝昼兼用の食事ができていた。バターをのせたパンケーキ、鶏肉入りのサラダ、コーン
スープ、ミルク、それにリンクの知らない果物がテーブルに並んでいた。果物は甘い中に苦みを
もっていたが、よく熟れており、容易に喉を通った。他のメニューもリンクの気に入るものだった。
 食べながら、リンクはこれからの行動を考えた。
 アンジュにはいろいろと大事なことを教わっているが、ここへ来た目的はそれだけではない。
探索の方を進めなければ。今日は寝坊してしまったから、デスマウンテンへ行く余裕はない。
それなら、もう一度……
443-7-3 Ange V-3 (15/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:31:57 ID:WfhGWI97
「墓地を調べにいってくるよ」
 食事のあと、リンクが言い出した。灯りを欲しがったので、カンテラを貸してやった。昼間
なのに、と不思議には思ったが、使命について訊かなかったのと同様、詮索はしなかった。
 リンクが出ていったあと、アンジュは台所の椅子に腰かけ、しばし思いをめぐらした。
 少し残念だった。今朝の交合中、アンジュは──熱中していたリンクは気づかなかっただろうが
──三度も絶頂に達してしまっており、その際のとろけるような快感を、肉体が忘れていないのだった。
 だが、リンクの本来の目的は、神殿の探索なのだ。妨げてはいけない。セックスに溺れきって
しまわず、なすべきことを忘れずに行動するリンクの姿には、見ているこちらも励まされる。
 アンジュは椅子から身を起こした。
 さあ、わたしもなすべきことをなそう。
 食事のあと片づけをしなければならない。ゆうべの洗い物も残っている。
 溜まった食器を洗い、調理に使った場所を整理する。テーブルを拭く。汚れたテーブルクロスを
洗濯にまわす。床の埃が気になり、箒で掃く。気がつくと、台所全体を掃除し始めている。
 そうなると、他の場所にも手をつけたくなってくる。台所に続く廊下を掃く。寝室の床も。
そうだ、ベッドを整頓しなくては。数回の性交でシーツも布団も汚れている。窓をあけて澱んだ
空気を追い出して。暖炉の薪が減っているから補充が必要だ。棚に埃が溜まっている。鏡に手の
脂がついたままだ。ああ、玄関もしばらく掃いていない。
 家中の大掃除になってしまう。いや、掃除だけでは治まらない。布団を干して、テーブルクロスと
シーツを洗って。そういえば、まだ下着の替えはあっただろうか。他の服も。今日中に洗濯して
おこう。それから夕食の準備を──
 アンジュは忙しく立ち働いた。一刻も無駄にできないほどの仕事量だった。家の中を飛びまわり、
休むことなく身を動かし、アンジュはくたくたになった。
 不思議に心地よい疲労だった。
453-7-3 Ange V-3 (16/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:32:51 ID:WfhGWI97
 真っ昼間に墓石を動かすのは憚られたので、リンクは風車小屋から地下通路に入った。カンテラで
周囲を照らし、注意深く目を配りながら、何度も往復した。次いで風車小屋を出て墓地に赴き、
例の石碑、さらには数々の墓標をくまなく調べてまわった。墓地の隅にある掘っ立て小屋──
シークによれば、ダンペイという墓守の住居だった場所──を調べてみた。墓地を取り囲む山々の
光景にも目を凝らした。
 得るものはなかった。
 力なく村へと戻ったリンクだったが、馬小屋に立ち寄り、再会を喜ぶエポナの勇んだ様子を
見ると、元気が湧いてきた。目覚めた時の何かが抜けきったような感じも、いつの間にか消えていた。
しばらくそこで休んだのち、リンクはアンジュの家へと戻った。
 すでに日は暮れ始めていた。昨日のような夕餉の芳香を期待して玄関のドアをあけたリンクは、
出かける前とは一変して雑然となった屋内の状況に驚いた。ばたばたと走りまわっていたアンジュが、
リンクを認めて焦ったように言う。
「ごめんなさい、片づけが終わってないの。晩御飯の仕度にも、まだ取りかかれなくて……」
 あわてた口ぶりに、かつてのコッコ探しが想起され、思わず笑みが漏れる。
「手伝うよ」
 リンクの言葉に、アンジュは困ったような顔をしたが、背に腹は替えられない、といった様子で
返事をよこした。
「じゃあ、お願いするわ。わたしは食事の準備にかかるから」
 アンジュは台所で竈に向かい、リンクは散らかった場所の整理を受け持った。それをあっちに
置いて、あれをこっちに持ってきて、というアンジュの指示は複雑で、リンクはしばしば混乱に
陥った。それでもやがて家の中は、見られるほどに片づいた。ほどなく食卓に夕食の皿が並んだ。
洗濯されたとおぼしきテーブルクロスには、湿りが残っていたものの、料理へのリンクの関心を
損なうことはなかった。
 リンクが初めて見るその料理を、アンジュは「グラタン」と呼んだ。芋と野菜と鶏肉にチーズを
絡めて焼いたもので、独特の風味がリンクを魅了した。スープやサラダも含め、食材は前日の
夕食と共通していたが、それぞれに新たなアレンジが加わっており、アンジュの工夫が偲ばれた。
 デザートは先の食事にも出た果物だった。これはどういったものか、とリンクが訊ねると、
アンジュは果物の名を言い、
「食べると元気が出るのよ」
 とつけ加えた。
 最後に酒が注がれた。頼むまでもなく昨夜と同じものであり、リンクは安心してそれを味わった。
463-7-3 Ange V-3 (17/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:34:07 ID:WfhGWI97
 グラスを空けたのち、何ごとかを考えるように黙っていたリンクが、おもむろに口を開いた。
「明日はデスマウンテンへ行くよ」
 そこに込められた言外の意志を、アンジュは感じ取った。
「そう……」
 明朝、リンクはここを去る。今夜がわたしたちの最後の時間。
 まだ教えていないことがある。教えるには早すぎるかと迷っていたのだが……この際……
「服がずいぶん汚れているわ。洗ってあげる」
 話題の転換に戸惑うリンクを、かまわず促し、脱衣させる。すでに見慣れた、けれどもなお
魅惑的なその肢体を、しばし目で楽しんだあと、アンジュはリンクを先に寝室へと引き取らせた。
 よほど汚れた時には川や池で洗ったりもする、とリンクは言ったが、実際にはほとんど洗濯する
ことなどないのだろう、少々のことでは落としきれない汚れが、服にはこびりついており、
リンクの旅の苦労を物語っていた。服を水に浸し、力をこめて揉みこすりながら、それをリンクの
新たな出発へのはなむけとできる喜びを、アンジュは快く噛みしめた。
 そして、これからベッドで展開されることになる、もう一つのはなむけへの思いが、アンジュの
胸を焦がし始めていた。
『あの果物……』
 くすっ──と笑いが漏れる。
 母親が薬屋であったために知っているのだが、例の果物は栄養価が高く、滋養剤の原料として
使われる。世間ではこれを精力剤と誤解している人が多く、客の中にも、その原料となる果物を
欲しがる者がいるので、一つのサービスとして──もちろん誤解を解いてやったりはしないで──
提供するために、家に置いてあるのだ。
 リンクは昨日から四回射精している。少ない数ではない。今日の日中は間があいたが、それでも
体力が心配だった。セックスへの効果はともかくとしても、あれはリンクの体力回復の助けに
なるはず。
 洗濯を終え、アンジュは台所に服を干した。
 ストーブに火を入れておけば、明日の朝までには乾くだろう。
 入念に身体を洗う。特にあの部分。そこをきれいにするさまを見られるのは、さすがに
恥ずかしかった。だからリンクを先に寝室へやったのだ。
 丁寧な作業を続けながら、前がすでに潤み始めているのを感じ、アンジュの心は高ぶりを
増していった。

 前段はそれまでの復習だった。
 手と口による長い前戯で互いを高めたのち、さまざまに体位を変えながら、二人は交わった。
途中で一度、どうにも我慢できず気をやってしまったアンジュに対し、リンクは立派に活動を
維持し続けた。最後は正常位となり、激しい体動の末、リンクは射精した。変わらぬまっすぐな
情熱を膣の奥に受け、アンジュも二度目の絶頂に達した。
 精液は少なく稀薄であり、先が危ぶまれたが、アンジュの優しくも辛抱強い愛撫により、
リンクはやがて力を取り戻した。
『ほんとうに元気だわ』
 果物が予想以上の効力を発揮したのか、あるいは、抑えきれない若さのためか。
 ただ、いずれにしても、限界は近いだろう。
 始めよう。
「リンク」
 目を寄せ、ささやく。
「お尻でするやり方を教えてあげるわ」
473-7-3 Ange V-3 (18/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:35:04 ID:WfhGWI97
 最初、理解できなかった。が、次第にアンジュの言葉が意味をなしてゆき、リンクの脳は驚愕で
満たされた。
 尻で? あれを? まさか!
 膣と同じく筒状の器官。挿入は可能かもしれない。けれど、それにしたって……
「汚いと思うかもしれないけど、これもセックスの一つよ。覚えておいて」
 ベッドから起き上がったアンジュが、鏡台の前に歩み寄り、そこに並べられた瓶の一つを手に
して戻ってくる。
「前の方と違って、自然に濡れない場所だから、すべりやすくしておかないとだめなの」
 アンジュが瓶をあける。化粧品の一種なのだろう、白っぽいクリーム状のそれを、アンジュは
指で掬い取った。その指が股間に伸び、もぞもぞと蠢く。
 仰向けとなり、片膝を立てたアンジュの横に、リンクはにじり寄った。アンジュの手が股間から
離れ、リンクの手を取る。引き寄せられる。
「触ってみて。きれいにしてあるから大丈夫よ」
 その言に背を押され、唾をごくりと呑みこんで、後ろの穴に指を触れさせる。細かい襞が
集中するすぼまり。潤滑剤があっても、そこは膣口より固く、緊満した隘路だ。
 ここに……こんな所に……ほんとうに……あれが……
「挿れて」
 人差し指に力が入る。反射的に。
「くッ!」
 音のない呻きとともに入口が締まる。これも反射的に。
「ここは……前よりずっとデリケートだから……優しくして……」
「うん……」
 そのまま指をとどめる。と、締めつける圧力が不意に緩み、アンジュが、はあっ──と大きく
息をつく。
「いいわよ……奥へ……」
 そろそろと、指を伸ばす。じりじりと、指が入ってゆく。入ってゆく。つけ根まで入っても、
なお果てのない、その内奥。
「動かしてみて」
 膣よりもきつい直腸の中は、しかし入口ほどには強い圧迫をもたらさず、指の活動に支障は
なかった。
 そっと、ゆっくりと、指を曲げる。回す。前後させる。
 苦痛なのかと心配になるくらい、アンジュの顔はぎゅっとしかめられている。が、その口から
漏れ出てくるのは、
「……ああ……そうよ……いいわ……そのまま……」
 まぎれもない快美の言葉だ。
 尻でもこんなに感じられるなんて。女って……どうしてこんなに……不思議で……魅力的な
生き物なんだろう……
 考えたこともなかった場所への接触に、いまはすっかり魅了され、リンクは陶然と手を動かし
続けた。
483-7-3 Ange V-3 (19/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:36:07 ID:WfhGWI97
 しばらくののち、その手がつかまれる。
「……そろそろ……本物を……ちょうだい……」
 本物! ついに!
 動きが止まった指を引き離し、身を起こしたアンジュが、ぼくの股間に手を這わせてくる。
期待と緊張で硬直しきった陰茎に、クリームが塗りたくられる。
 次いでアンジュは四つん這いとなる。後ろに膝で立つ。
 今朝と同じ格好。でも、いまは……
 粘液をあふれさせる膣口の上で、クリームの白い泡立ちを伴ってもなお、黒ずんだ色調を
あらわにする、もう一つの穴。
 肛門。
 放射状の襞に縁取られた、浅い漏斗のような陥凹。閉じきったように見えるその奥は、しかし
まさに漏斗のように底無しなのだ。
「来て……」
 アンジュの促しに鼓舞され、先端を触れさせる。そっと、押す。そこはやはり固く、指よりも
はるかに太い陰茎が侵入できるとは、とても思えないほどだ。
 だけど、もうわかっている。
 両手でアンジュの腰を固定し、怒張を押しつける。手強い抵抗が、すいと失われ、亀頭がめりこむ。
「んッ!」
 アンジュの呻きを無視して、けれども自分をしっかりと抑制して、少しずつ、少しずつ、ぼくは
進んでゆく。
「……ぅ……ぁ……ぁぁ……ぉ……ぁぁぁ……ぅぁ……」
 つぶれた声を絞り出すアンジュ。その双臀に、ぼくの下腹が接触する。入った。全部が入った。
いま、ぼくは、いる。アンジュの尻の中に!
 動けない。ぼくは動けない。その感動のためだけでなく、ぼくを押し包む力のために。
 きつい。ひたすらきつい。膣の何倍もの密閉感。こんな状態では……ぼくは……全く……
どうしようもなく……
 いきなり力が弱まる。ほっと息をつく間もなく、そこは、
「うぉ!」
 さらなる力をもってぼくを締め上げる。膣の、あの繊細な技とは違った、豪快ともいえる
粘膜の躍動。
 立て続けに刺激が加わってくる。それが早くもぼくを煽りだす。動けないにもかかわらず、
ぐんぐんと快感が増してゆく。増してゆく。増してゆく。
 ──まだ!
 必死に耐え、上体を前傾させる。今朝と同様に、胸と陰核に手を伸ばす。
 そうだ、こうして、アンジュも、刺激して、そうすれば、少しは、ぼくにも、余裕が、できて……
493-7-3 Ange V-3 (20/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:37:22 ID:WfhGWI97
 余裕どころではなかった。
「ひゃあッ!」
 裏返った声でアンジュが叫ぶ。その瞬間、アンジュの筋肉はぎりりと引き絞られ、これまでを
上回る最大の力に襲われてしまう。
「!!!」
 息が止まる。声も出ない。何という力。何というアンジュ!
 だめだ。耐えられない。
「……もう……いっちゃうよ……」
 やっとのことで口に出し、股間を焼きつくさんばかりの快感に身を投げ出そうとした時、
「待って!」
 アンジュの制御の声とともに、直腸壁の締めつけがわずかに緩まった。
「あと……少しだけ……」
 胸を上下させ、はあはあと呼吸を乱しながら、アンジュが呟く。その呟きに、土壇場で踏みとどまる。
静かに、静かに、息を整える。どうにか安定を保ったところで、
「突いて……そっとでいいから……」
 とアンジュ。
 動かせばすぐにも達してしまいそう。それに、ぎちぎちのこの中では、動くこと自体が難題だ。
 それでも、ぼくは動き出す。自分を見失わないように、抑えに抑えて、小刻みに腰を前後させる。
「ぁ……ぁ……ぁ……ぁ……」
 シーツに顔を埋めて、アンジュが喘ぎ始める。短く、小さく、突きに応じて規則的に。
 小刻みな動きを続ける。これなら何とか長引かせられるかも……
「ぁ……ぁ……あ……ああ……ああああ……」
 アンジュの声が上ずってくる。
 興奮してるんだ。
 尻にペニスを突っこまれて悶える女。なんて淫らな、なんて底知れないその存在!
 それを感じたくて、それを知りつくしたくて、ぼくの動きは大きくなる。前後する幅が広くなる。
強い抵抗にもかかわらず、中を押し割って、ぼくは動く。突き入れる。力をこめる。
 その時。
「ああ……あぅぁ……ぉあ、ああ! ぅぉぁぁあああああああッ!!」
 アンジュの喘ぎが規則性を失い、尻上がりに音量を上げてゆく。
「ぅあッ! ぁあッ! いくッ! いきそうッ!」
 反り返るアンジュの背。たがのはずれた叫び。
「ぉああッ! ぉわあッ! ぁぁぁあああいくッ! いくううぅぅぁぁあああッ!!」
 獣のような吼え声に合わせ、尻が後ろへ突き出される。立て続けに、ものすごい勢いで、動きを
忘れたぼくの腹に、どしんどしんとそれはぶつけられて! ぼくを締めて締めて締めながら
こすり立てて!
「いくぅッ! いかせてぇッ! リンクッ! リィィィイイイーーーーンクッッ!!」
 動けない。またも動けない。背後から一方的に攻める体勢のはずなのに、アンジュが哀願して
いるというのに、ぼくは棒のように立って、立ちつくして、アンジュを、アンジュの尻の攻めを
ただ受け止めるしかなくて!
「んあぁッッ!! いくぅッッ!! いくわぁぁぁあああああーーーーーッッ!!」
 ──だめだ! ぼくは! もう! これ以上は! どうにも!
「あッッ──!!!」
 狂ったように喚いていたアンジュが絶句し、次いで全身を痙攣させた。その震えはリンクの
限界をも打ち破った。最後の一矢とばかりにおのれを打ち込み、リンクはアンジュの腸内で、
電撃のように走る激越な快感を、意識とともに砕け散らせた。
503-7-3 Ange V-3 (21/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:38:13 ID:WfhGWI97
 意識が戻った。
 気が遠くなった時のことは、どうにか覚えている。それからどのくらい経ったのだろう。
 失神の経験はある。彼とシークがもたらしてくれた。でも、アナルセックスで失神したのは
初めてだ。シークとの交わりでさえ、そこまでは行かなかった。
 うつ伏せになっていた身体を、ゆっくりと横に向ける。目を閉じたリンクが仰向けに倒れている。
 声をかけようとして、アンジュは気づいた。粘っこい液体をわずかに漏れ出させる肛門が、
ひりひりとした刺激感を訴えている。さほどの痛みではない。が……
 優しくして、と言っておきながら、自分からめちゃくちゃに動いてしまった。動かないでは
いられないほど、すばらしい交わりだったからだが……リンクには注意しておかなければ。
 そっとリンクの頬に触れてみる。気がつかない。眠っているのか。
 肩を揺らしてみる。呼びかける。
「リンク」
 それでやっと、リンクが目をあける。その目が生気を取り戻すのを待って、静かに問いかける。
「どう?」
 かすかに微笑み、リンクは答える。
「とても……よかったよ……まだ信じられないような気分だけれど……ぼくたち……後ろで……
しちゃったんだね……」
 アンジュも微笑み、優しく頷く。
「ええ……だけど──」
 肛門でのセックスは、やたらにするものではない。嫌う人もいるので、相手を選ぶこと。
する時には、さっきのようにすべりをよくして、優しい上にも優しく。経験がない相手なら
なおさら。力任せに無理やり動いたりはせずに。わたしは慣れているからよかったが。
「お尻の穴の筋肉──括約筋が締めつける力は、とても強いの。指で慣らしてから、そこの力を
抜くようにさせて、ゆっくり挿れる。それがこつよ」
 説明を聞くリンクは、真剣な顔で何度も頷きを返してきた。アンジュはその真剣さを信じた。
「わたしが教えられることは、これで全部よ。あとは自分で経験していきなさい」
 そう締めくくり、アンジュはリンクの肩を抱いた。
『ほんとうは……』
 リンクの知らないセックスは、まだまだある。アブノーマルなものも含めると。その中には、
わたしが知っているものもあれば、わたしですら知らないものもある。でも、いまのリンクには、
これで充分。
 リンクは立派に行動した。初心者とは思えないほどに。
 そして、形のことばかりではなく……
 リンクなら、あのまっすぐな気持ちを忘れずに、誰に対しても、誠実に、真剣に、優しく、
心をこめて、接していくだろう。そうすれば──わたしがすでに言ってやったように──「愛」の
ことも、いずれ必ず解決するはずだ。
 リンクが胸に顔を埋めてくる。甘えたようなその態度が、またも微笑を誘う。
 男をリードするという立場。それは本来、わたしに合っている。リンクとの一連の体験は、
まさにその嗜好を満たしてくれるものだった。後ろから攻められて絶頂しても、それは一時の
バリエーションに過ぎず、すぐ教えるという立場に戻ることができた。さっき肛門を抉られた
時でさえ、最後にはわたしの方が優勢だった。
 リンクには、屈服するという感覚は持てない。
 そこがシークと違うところだ。
513-7-3 Ange V-3 (22/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:42:39 ID:WfhGWI97
 シークに対しては、わたしはすべてを忘れ、何もかも放り投げ、夢中になって身を任せてしまう。
シークに騎乗して激しく身体を振り動かす時ですら、わたしは下にいるシークに支配されている。
わたしは完全に屈服してしまうのだ。他の男では決して得られない、シークでしか得られない、
わたしにとっての至高の時間。
『シークといえば……』
 思考がめぐる。
 最初から抱いていた疑問。リンクはなぜわたしのところへ来たのか。「女を教えて欲しい」と
いう言葉の意味もわからずに、どうしてそれを望むことができたのか。
 誰かに言われたのだ。その誰かとは……リンクの交友関係を考えると……
「リンク」
 胸の中のリンクが、顔を上げる。
「わたしに女を教わりに来たのは、シークに言われたからでしょう」
 あわてたようにリンクが言い始める。
「いや……それは……ぼくが自分で……自分でアンジュに……教わりたいと……」
 目が泳いでいる。おどおどと。嘘がつけないのね。どこまでもまっすぐなリンク。
「やっぱり、シークなのね」
 決めつけてやる。リンクは黙ってしまい、やがて、ぼそりと言う。
「……実は……そうなんだ。シークには、口止めされたんだけれど……」
 どういうことなのか。
 リンクの教師として見込まれた、ということなのだろう。だが……
 そういう理由があったにせよ、わたしがシーク以外の男に抱かれることになるのを、シークは
何とも思わなかったのか。シークはそれで平気だったのか。
『違う』
 もしそうなら、リンクに口止めする必要はなかった。シーク自身がわたしのところへ来て、
「リンクに教えてやってくれ」と頼んでもよかったのだ。なのに、シークは、自分の意図を
わたしに知らせないようにした。
 なぜ? わたしがシークの真意を計りかねて、あれこれ思い悩むのを、未然に防ごうという
気遣いか? それとも……
 わからない。けれど、一つだけ確かなこと。
 シークにも葛藤があったのだ。
 その葛藤を越えてまで、シークがわたしのもとへリンクをよこした理由。リンクのために、
というだけではなく、わたしのために、という理由があったのではないか。あったと思いたい。
いや、あったに違いない!
「アンジュ?」
 リンクの声。浮遊する思いが呼び戻される。
「シークのこと……黙っていて……悪かったかな?」
 微笑んで、答える。
「いいえ……いいのよ……」
 リンクの髪に、そっと手を触れる。
「もう寝みましょう。明日は……早いんでしょ」
 枕元のテーブルに置いた蝋燭を吹き消す。真っ暗となった部屋に、沈黙が満ちる。
 リンクと肌を合わせ、その暖かみを味わいながら、アンジュの心は、もう一つの暖かみをも、
しっかりと感じ取っていた。
『シーク……』
 わたしには、わかる。シークの真情。シークこそは、わたしのことを理解してくれている。
 この上もなく、嬉しかった。
523-7-3 Ange V-3 (23/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:43:58 ID:WfhGWI97
 翌朝、アンジュはリンクよりも早く起きた。着衣して台所へ向かい、軽めの、しかし栄養に
気を配った朝食を調えた。すっかり乾いていた服を携えて寝室に赴き、リンクを起こした。顔を
洗わせ、二人で食卓についた。二日で六回もの射精を経たにもかかわらず、リンクの心身は活力を
保っていた。アンジュは安堵し、旺盛な食欲を示すリンクを温かく見守った。
 食後のお茶の時間を過ごしたあと、リンクは立ち上がり、装備を身にまとった。その雄々しい
姿を、アンジュは改めて目に焼きつけた。
 玄関を出て、二人で戸外に立つ。
「どうか、気をつけて」
「うん」
 無事を願う言葉に短く答えたあと、リンクはアンジュに向き直った。
「アンジュが教えてくれたことは、忘れないよ。ほんとうに、ありがとう」
 次いで、心配顔になる。
「たくさんご馳走にもなっちゃって……ずいぶんお金を使わせてしまったんじゃない?」
「何を言うのよ」
 思わず笑ってしまう。リンクでも、そんなことに気が回るのか。
 散財してしまったのは事実だ。だけど……
「気にしないで。リンクは、それ以上のすばらしいものを、わたしにくれたんだから」
 リンクは不思議そうな表情となったが、アンジュは説明を加えず、自分の心の中のみに思いを
とどめた。
 リンクと過ごしたこの二日間が、わたしにとってどれほど充実したものだったか。
 セックスばかりではない。
 鬱屈を忘れて何度も笑うことができたのは、どうしてか。
 得意でもない料理に楽しく挑むようになったのは、どうしてか。
 時ならぬ大掃除などを始めてしまったのは、どうしてか。
 生きることへの活力。それをリンクは取り戻させてくれたのだ。
 ただ……
 折からの風が火山灰をまき散らし、発作が誘発される。何度か苦しい咳が出る。
「大丈夫?」
 気遣わしげなリンクの声。
「ええ……大丈夫……」
 安心させるように答えながらも、思い出してしまう。あの客が残した、胸の痛み。
 容色の衰え。
533-7-3 Ange V-3 (24/24) ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:48:55 ID:WfhGWI97
 不意に記憶が立ちのぼる。目の前にいるリンクが、七年前、いまと同じこの場所で、別れの時に
言ったこと。
 唐突に言葉が出る。
「わたし、まだ、きれいだったかしら」
 束の間、リンクの目に驚きの色が宿る。が、すぐに表情はほころんで、はにかみを湛えて、
「うん……とても……きれいだったよ」
 ああ、同じことを。そればかりか……
「……あの頃よりも、ずっと」
 そんなはずはない。わたしはあの頃よりも衰えている。明らかに。
 でも……でも……七年前と同じように……
『リンクがそう言うのなら、それがリンクのほんとうの気持ちなんだわ』
 熱いほどに、アンジュは感じる。リンクの純粋さ。リンクの真情。
 シークには、こんなことは訊けない。もし訊いたりしたら、シークは答に困ってしまうだろう。
 リンクとシーク。陽と陰。正反対ともいえる二人。
 二人の違い。しかしそれは、どちらの方がよいというものではない。
 リンクからでなければ得られないものがある。シークからでなければ得られないものがある。
それをともに得られたわたしは、実に幸せと言わなければならない。
 そして……
 シークがわたしのもとへリンクをよこした理由。それは、リンクからでなければ得られない
ものを、わたしが得られるようにという、深い、深い、シークの思いやりだったのだ。
「シークに伝えて」
 高まる熱に身を浸し、アンジュは言う。
「ありがとう──って……」
 いぶかしげな顔をするリンクだったが、じきに笑みを戻し、
「わかった」
 と答えた。
 しばしの沈黙。
 それを破って、
「じゃあ」
 声とともに、リンクが軽く手を上げる。無言の頷きで、それに応える。
 リンクが背を向ける。走り出す。デスマウンテン登山口へ向けて、リンクの後ろ姿が遠ざかる。
遠ざかる。遠ざかって……それは不意に視界から消える。
 デスマウンテン。いまだ噴火を続ける、危険きわまりないその場所へ、リンクは行く。かつて
シークも行った。そこに何があるというのか。
 二人の使命。
 あんなに対照的な二人が、それだけは共通した目をもって──未来を見つめる確かな意志を
もって、挑んでいること。わたしには、わからないこと。
 けれども、その使命が果たされる時……
 アンジュは頭上をふり仰いだ。天は今日も陰鬱な雲に閉ざされ、冷たく吹きすぎる風に舞う
火山灰が、どんよりと空気を濁らせていた。
『でも……いつかは……きっと……』
 その彼方にあるはずの、青い空。どこまでも続く、澄みきった空。
 アンジュの目には、それが見えた。


To be continued.
54 ◆JmQ19ALdig :2007/08/12(日) 04:49:44 ID:WfhGWI97
以上です。イベントが多く、心理描写も大事なので、長大化してしまいました。
これでアンジュの話は一段落。次は別の章となります。
55名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 06:08:00 ID:csltj3mp
乙です!
気が付くと、◆JmQ19ALdigさんの作品投下を待っている自分が忌ま忌ましいw

「教えるんだから、負けてはいられない」
コッコ姉さんの、愛の個人授業―というより闘い!! 堪能させていただきました。

姉さん、リンクにマカ食わせてるんスねwww
56名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 23:07:18 ID:/dCKCjLR
GJ!!
姉さんの個人授業とても素敵でした
濃厚なエロスに話が組み合わさって毎回満足感を味わっています
57名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 02:10:43 ID:C0bIUnUR
乙でした! やっぱりエロも心理描写も素晴らしいですね…。
ただの「コッコ姉さん」がこんなに深い人物になるとは驚きです。また次回からも楽しみにしてます。
58名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 12:22:42 ID:iyJSvJVG
GGGGGJJJJJ!
リンクに一通り知識がそろった今、これからが楽しみです!
59名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 15:02:21 ID:G1ohf4vK
最初のフェラ射精でまだ4/24なことに戦慄し、
次の食料買い出しにアンジュさんの本気を見てまた戦慄、
そしてなんというアナル(;´Д`)ハァハァ'`ァ'`ァ(*´Д`)=3 '`ァ'`ァ

「2日間セクロス」だと、「その後獣のようにまぐわい何回やったか記憶がない」
とまとめそうなところを、6回に絞りそれぞれをきっちり書きこむ構成も
読み応えがありました。


全裸生活&アナル(;´Д`)ハァハァの自分は、今後リンクが学んだアナルの技を
何回生かしてくれるかとwktkですが、
よく考えたらもう他にゼルダしか生存してる女性がいないような(つД`)
60名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 12:49:30 ID:WNQFgF55
保管庫で二日かけて追いついたよー
ちっくしょう、先が気になるじゃないかこんちくしょー
61名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 10:40:38 ID:iErdKL3W
wktk
62名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 18:06:53 ID:PEqKy8tM
まさに「なんと言うアンジュ!!」

続きが気になってwktkだけど、女キャラがほぼ壊滅状態の中で
どう進んでいくのか、
次は誰がくるのか楽しみ!!
63名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 20:53:50 ID:IinWE5yw
ルトとかは死んだの?たまに見逃す時あるから分からん。
64名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 22:20:41 ID:kXahcRnS
>>63
そういう時こそ、保管庫ですよ!
自分は保管庫でまとめ読みして、ここにたどり着いたんですけどね
65名無しさん@ピンキー:2007/08/21(火) 02:32:16 ID:j65FUjXc
一時的な死亡状態らしい。
変な日本語だな。
66名無しさん@ピンキー:2007/08/21(火) 19:55:55 ID:DNPCcgw4
保管庫って2ちゃんねるにログインしてる人だけしか見れないの?見方が分からないw誰か教えて><
67名無しさん@ピンキー:2007/08/21(火) 20:40:33 ID:oLx+Oelf
>>66
携帯厨の自分でも、>>1のテンプレからいけるんだから
大丈夫だと思うんだが・・・
68名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 04:35:58 ID:FpvKiJGB
http://red.ribbon.to/~eroparo/ これのことですか?
69 ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:30:04 ID:pfSRZyrh
私本・時のオカリナ/第三部/第八章/ゲルドの女たち編/前編、投下します。
またも長くなったので前後編とします。今回は前編。
ゲルドの女たち×リンク。ただしエロは薄目。
TNT氏の「魅惑の剣」と設定がかぶります。ご容赦を。
703-8-1 Gerudo Women (1/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:31:44 ID:pfSRZyrh
 七年前にも進むのに苦労したデスマウンテン登山道だったが、現在の状況のひどさは当時を
はるかに上回っていた。
 道らしい道はなく、かつての記憶をたどりながら、覚束ない足取りで先を目指すリンクに、
無数の火山弾や落石が容赦なく襲いかかった。視界を奪い呼吸をも妨げる厚い火山灰の中から、
それらは予測もつかない頻度と間隔で到来した。しばらく落ち着いたかと思うと、次の瞬間には
集中的に降ってきたりする。ただ空気を切り裂くような飛翔音、あるいは山肌が崩れる不気味な
鳴動だけが前兆となり、かろうじて危険を回避することができるのだった。それでも無傷という
わけにはいかず、リンクは無数の擦過傷と打撲と火傷を負った。せっかくアンジュが洗ってくれた
服も、土や火山灰で見る影もなく汚れきり、さらに熱した火山弾によって、あちこちに焼け焦げが
できてしまっていた。
 相変わらずの曇天に大量の火山灰が加わって、太陽の位置すら知れず、正確な時刻は不明だったが、
正午を過ぎてしばらく経ったかと思われる頃、リンクの足は止まった。
 シークもここで引き返さざるを得なかったという。いまならどうにかなるかと思って来てみたが……
 炎の渦が猛威を振るうデスマウンテンの頂上は、立ちこめる火山灰を通してもなお、かろうじて
見てとれた。そこからは煮えたぎる熔岩が引きも切らず流れ落ち、谷を埋め、道を完全に遮断していた。
 ゴロンシティの位置は、だいたいわかる。熔岩の流れは明らかにそこを覆いつくしている。
ゴロン族の滅亡に疑いを差しはさむ余地はなかった。
 暗澹たる思いに沈むリンクだったが、状況はそんな時間の余裕すら与えてくれなかった。
 ひゅうううう──と甲高い音がした。あっと思った時には遅く、頭部にがつんと衝撃を感じた。
火山弾を食らったのだ。幸い大きなものではなかったようで、命に別状はなかったが、一瞬、
意識が遠くなってしまった。
 それを機に、リンクは来た道を引き返した。無念だったが、どうにもならなかった。
 頭部の傷は痛み、歩くほどに足はふらついた。時は刻々と過ぎ、空が暗さを増し始めた。
 夜までにカカリコ村へは戻られそうにない。
 まずい──と思った時、岩肌に穿たれた穴に気がついた。ドドンゴの洞窟だ。リンクはその中へと
身を引きずりこませた。
 洞窟の奥は落盤によって塞がれており、先へ進むことはできなかった。しかし入口の近くには、
人がひとり休めるだけの空間は充分に残されていた。火山弾や落石に遭う危険もない。身体の
状態も勘案し、リンクはそこで夜を明かすことにした。
 アンジュが持たせてくれていた食料と水で一息つき、リンクは洞窟の内壁に身をもたせかけた。
疲労が意識を奪いそうになったが、何とかそれに耐えて思考の流れを保った。
 神殿はどこにあるのか。カカリコ村からゴロンシティまでの間ではない。いまも、そして七年前も、
その範囲に神殿が存在するような形跡はなかった。ゴロンシティよりも、もっと山頂寄りに違いない。
だが、そうだとすると……それはすでに熔岩に巻きこまれてしまっていることになる。
 ダルニアが神殿に関することを何か言ってはいなかったか──と記憶をまさぐってみるが、
何も思い浮かんではこない。
『ダルニア……』
 思いが移ってゆく。
 七年前、このドドンゴの洞窟で、ぼくたち二人は力を合わせてキングドドンゴを倒し、信頼する者
同士という関係を結ぶことができた。乱暴な物言いの中にも、ぼくを信じ、ぼくを思いやる真心を、
ダルニアは示してくれた。そこには男以上に逞しいダルニアの、女としての片鱗がひそんでいた
ように、いまとなっては思われる。
 そのダルニアも──賢者と目されるダルニアも──デスマウンテン大噴火ののち、消息を絶った
という。もう会える望みはないのだろうか。
 リンクは強く首を横に振った。
『諦めるな』
 すでにいろいろな場面で発してきた言葉を、リンクは再び胸に刻みこんだ。
713-8-1 Gerudo Women (2/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:32:31 ID:pfSRZyrh
 カカリコ村に着いたのは、翌日の昼前だった。市場で食糧を補給し、酒場の女主人からエポナを
引き取ったリンクは、その足でハイラル平原へと出て行った。今後の旅に向けて奮い立つ心が、
リンクを自然に先へと進ませたのだった。
 シークと会う予定の時刻までには、かなり間があったので、リンクは乗馬の練習にいそしんだ。
エポナは久しぶりにリンクを背に乗せるのが嬉しくてたまらないようで、はしゃぐがごとく活発な
動きを示した。そんなエポナを御すのはいささか難儀ではあったが、これも練習のうち、と
リンクは頑張った。
 日が落ちる頃になって、約束の場所である平原の高台へ赴いた。シークはすでにそこへ来ており、
例のごとく焚き火を前にしてすわっていた。
 短い挨拶を交わしたあと、エポナは勝手に休ませておき、二人は夕食をとった。静かな夜で、
リンクは落ち着いて時を過ごすことができた。ポウの縄張りが近いのか、時に「ケケッ」という
例の声が、高台の下の方から聞こえてきたが、それさえもひとつの風情であるように感じられた。
 神殿の探索については、何の成果もなかった、と告げざるを得なかった。が、墓地の地下通路に
おける水漏れの件は、シークの注意を惹いたようだった。
「僕が調べた時には、水漏れなどなかった。おそらく断続的な地震のせいで、扉に緩みが
生じたんだろう」
 しかし、扉の向こうに存在すると思われる水にどんな意味があるのか、という疑問には、
シークも答えることができず、今後の課題とするにとどめるしかなかった。
「で……」
 食事を終え、神殿についての話にも区切りがついたあと、シークが話題を変えた。
「アンジュには会ったのか?」
「うん……」
 訊かれることはわかっていた。言わなければならないとも思っていた。とはいえ……どんな
ふうに話したものだろう。他にもシークには知らせていないことが……
「女を教えてもらったか?」
 こちらのためらいを押しやるように、シークが問いを重ねる。
「ああ……教えてもらったよ。だけど、その前に……黙っていて悪かったけれど、実は──」
 そう前置きして、リンクはマロンとの初体験のいきさつを告白した。次いで、
「でも、君がアンジュを薦めてくれたのは、無駄じゃなかった。それどころかアンジュは、とても
大切なことを、たくさん教えてくれたよ」
 と言い、これも詳細に、アンジュとの体験の内容を物語った。
723-8-1 Gerudo Women (3/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:33:07 ID:pfSRZyrh
 長い話を黙って聞いていたシークは、リンクが語り終えたのち、さらに問いかけてきた。
「知った上で、いまはどうだ? まだ女性のことを考えると、いてもたってもいられない気分に
なるか?」
「いや……」
 短く答え、やや間をおいて、リンクは続けた。
「女の人のことを考えて、胸がどきどきしたりするのは変わらないけれど……どこか……
落ち着いたっていうのか、すっきりしたっていうのか……女の人と、どう接するものなのかが
わかって……前みたいに、どうしようもなく追いつめられたような気持ちには、ならなくなったよ」
「ふむ……」
 シークは目を伏せ、何ごとかを考えている様子だったが、再び視線を上げると、別の質問を
投げかけてきた。
「ゼルダのことは?」
 今度はすぐに返事ができなかった。時間をかけて思考を反芻し、慎重に言葉を選んで、リンクは
答えた。
「ぼくは……マロンやアンジュと、こんなふうになったことを、悔いてはいないし……これからも、
そういう出会いを大切にしていきたいと思う。そんなぼくをゼルダがどう思うか、正直、少しは
……いや、とても……気になるけれど……君が前に言ったように……これは、ぼくがゼルダに
会うまでは知りようがないことで……それでも……ぼくとゼルダの間に、特別な『何か』が
あるっていう……あの確信は、変わらないよ」
 言ってから、苦い笑いが漏れてしまう。
「身勝手かな」
 ややあって、シークが静かに口を開いた。
「いや……それでいい、と思う」
 場に沈黙が落ちた。それを破ったのは、またもやシークの質問だった。
「君は……アンジュのことはともかく、マロンのことを……どうして僕に話した? 君の個人的な
事情なのだから、何も無理に言う必要はなかったんだぞ」
「うん……どうしてだろうな……」
 自分でも、よくわからない。
「でも、君には言っておかなければいけない、と思ったんだ」
 シークは返事をしなかった。しかしシークにそう告げることができただけで、リンクは満足だった。
733-8-1 Gerudo Women (4/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:34:45 ID:pfSRZyrh
 シークは安堵した。
 セックスを経験することによって、リンクの混乱は収束し、荒れ狂う性欲になすすべもなく身を
焦がすばかり、という状況からは脱したようだ。心と身体の乖離が解消されたのだ。これで
リンクは、女性に対する欲望を過剰に意識することなく、安定した大人の男として、自然に女性と
接してゆけるだろう。その結果、リンクが将来抱くことになる愛の姿がどのようなものになるかは、
知る由もないが……
 そう思いながらも、リンクとゼルダを繋ぐ特別な「何か」が、いまだ堅固に保たれている点は、
シークの心を安んじさせた。
 リンクがマロンと初体験を果たしていたという件は、シークにとって少なからず驚きだった。
が、そのマロンとの体験が、リンクをよい方向へと導いたことは明らかだった。そしてマロンの
方も──アンジュが評したというように──リンクによって救われたことは確かだと思われた。
『そして、アンジュも……』
 リンクの話がシークに確信を与えていた。
 リンクはアンジュによって、心身ともに大きな成長を遂げることができた。と同時に、
アンジュはリンクによって、生きることへの積極性を取り戻すことができたのだ。
 自分がその変化をもたらせなかった点に、シークは負の感情を抱かなかった。アンジュが
幸せを得られたというだけで充分だった。
 そこでリンクがためらいがちに言い始めた。
「もう一つ、君に言っておかなくちゃいけないことがあるんだ」
 聞けば、女を教えてくれるようアンジュに頼め、と自分が薦めたことを、リンクはアンジュに
しゃべってしまったのだという。
「口止めされていたのに、申し訳ないけれど……でもアンジュは、ぼくが言う前から、君が
薦めたんだとわかっていたみたいだったよ」
「そうか……」
 しかたがあるまい。だが、アンジュはどう思っただろう。よけいな気を回させてしまっただろうか。
「それから……アンジュが、君に伝えてくれって」
 リンクが言葉を続けた。
「ありがとう──って」
 思考が止まる。
 胸が静かに潤いで満たされる。
『アンジュはわかってくれていた』
 この上もなく、嬉しかった。
743-8-1 Gerudo Women (5/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:35:22 ID:pfSRZyrh
 アンジュの伝言の意味が、リンクにはわからなかった。わからないままに、言われたとおり
シークに告げたのだが、シークは何の返答もよこさなかった。けれどもシークの様子には、その
言葉を深く心の中で味わっている雰囲気がうかがわれた。それがリンクに、以前にも抱いた疑問を
思い出させた。
 シークとアンジュの関係。
 すでにシークから断片的には聞いている。子供の頃、カカリコ村で知り合い、その後も何度か
会っていると。竪琴もアンジュから貰ったのだ、と言っていた。
 それだけなのだろうか。ただの知人同士に過ぎないのだろうか。いや……
「シーク」
 思わず問いかける。
「君はアンジュと……どういう……」
 言葉が途切れる。どう訊けばいいのか。訊いていいことなのだろうか。
「アンジュは……娼婦だそうだけれど……」
 いきなりシークが顔を上げ、鋭い視線を飛ばしてきた。
「僕はアンジュに金を払ったことなどない!」
 峻厳な声だった。これほど感情をあらわにするシークを見るのは初めてだった。
「あ……すまない、そんなつもりじゃ……」
 弁解の言葉もまともに口から出せないくらい、シークの表情は硬かった。が、その表情はすぐに
冷静なものへと戻り、
「いや……こちらこそ、すまない」
 小さな声で言うと、シークは顔をそむけた。
 しばらくは二人とも口をきかなかった。気まずい思いを胸に溜めながらも、リンクはあることに
気づいていた。
 シークは、アンジュを金で買ったことは強く否定したが、身体の関係があること自体を否定は
しなかった。ということは……
「ひょっとして……シーク、君は……アンジュに特別な気持ちを──」
「そうじゃない」
 シークがさえぎる。
「そんなんじゃないんだ」
 言葉は明確だったが、声の調子からは、シークの本心が言葉ほどの明確さを有していない
ようにも思われた。しかしその食い違いゆえに、リンクにはそれ以上の追求ができなかった。
 再び長い沈黙がわだかまった。
 耐えきれなくなりかけた時、シークが穏やかな声で言った。
「『幻影の砂漠』についてだが……」
 新たな話題の呈示にほっとして、リンクは頭の中を切り替えた。
753-8-1 Gerudo Women (6/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:36:06 ID:pfSRZyrh
 翌日から西への旅が始まった。
 今度はシークも同行すると言い、二つの理由を挙げた。シーク自身がまだ魂の神殿に到達して
いないから、というのが第一の理由だった。もう一つは、ゲルド族の支配領域を突破するには、
情報を知らないリンク単独では不可能だから、というものだった。リンクは納得した。シークと
行動をともにできるのが嬉しくもあった。
 道すがら、二人はゲルド族の情勢について話し合った。すでにリンクは、かつてシークが奴隷と
なってゲルド族の町に潜入した経緯を、ざっと聞いてはいたが、ここでシークが語ったゲルド族の
情報は、さらに詳細で多岐にわたっており、リンクを驚かせた。
 だがシークは慎重だった。
「僕がゲルド族の町にいたのは、もう三年ほども前だ。その時はゲルドの谷でツインローバに
妨害され、魂の神殿に行くことはできなかった。以後もしばしば潜入を試みたが、結局うまく
いかなかった。現在の状況については、僕にも詳しいことはわからない」
 それでも、潜入を試みたという折りに得た知識は、シークの持つ情報を、随時、新しいものに
しており、その苦労は決して無駄ではなかった、とリンクには思われた。
 シークは、ハイラル城下町に駐留するゲルド族の数がめっきり減っている事実をもとに、
ガノンドロフと他のゲルド族との間に距離が生じているのではないか、という推測を述べた。
リンクも、奴隷の集団脱走の件から、ゲルド族に混乱が生じているのでは、とみずうみ博士が
指摘したことを、シークに語った。
「混乱──か。何かが起こっているのは、確かなようだな」
「でも、その何かが何なのかは、まだよくわからないね」
「そう、その点はこれから調べてみる必要がある」
「うん……ところで──」
 リンクはシークに二つの質問をした。
 一つは、シークが名を漏らしたツインローバという人物のことだった。ガノンドロフの片腕に
して、氷と炎の魔法の使い手、二人の老婆と一人の熟女という二形態を自由に使い分け、人の心を
読むという能力をも持った、恐るべき敵の詳細を、シークは語った。
「この先、君はいつかツインローバと会うことになるだろう。注意しておきたまえ」
 頷きつつも、強敵への警戒と対抗心とで、リンクの心は震えた。
 もう一つの質問は『副官』についてだった。奴隷であった時の主人であり、のちにナボールの
一党とわかって同志となったその人物のことを、シークはすでにひととおり説明してくれていたが、
数ヶ月にわたった二人の生活の内情までは語られていなかった。
「『副官』は、いまもその町に住んでいるのかな」
「さあ……わからない」
「もし会うことができたら、きっとぼくたちの力になってくれるだろうね」
「……そうだな」
 シークの答は素っ気なかった。が、そこには何らかの感情がひそんでいると、リンクには
感じられた。
763-8-1 Gerudo Women (7/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:36:42 ID:pfSRZyrh
 ゲルド族の支配領域の外縁に達するまでに、一週間かかった。さらに一週間を費やして、
領域内の情勢をうかがった。ゲルド族の動きは以前ほど活発ではなく、侵入にそれほどの困難は
ないだろう、とシークは結論づけた。二人は先へ進むことにした。
 問題となったのはエポナの処遇だった。
 当初、エポナはシークに気を許さず、シークが近づいただけで威嚇の声を発するほどだった。
けれども、リンクがシークに寄せる信頼を、エポナも感じ取ったのだろう、時が経つうちに
エポナの態度は和らぎ、シークの接近を許すようになった。のみならず、ついにはシークが
騎乗することさえも許容した。ただしそれは、シーク単独ではなく、リンクと二人で乗る限りの
ことではあったが。
 そんなエポナが、旅に有用なのは言うまでもない。速く移動できるし、疲労も軽減できる。反面、
隠密行動ができず、敵に発見される危険が高くなることも、また確かだ。
 熟慮の末、二人はエポナを連れて行くことにした。危険性よりも機動性を重視してのことだった。
 シークの指示により、人口密度の稀薄な地域を縫って進んだせいで、敵に遭遇することは
なかった。魔物も姿を現さなかった。天気は上々で、この世界で目覚めて以来、初めてまともに
太陽の光を浴び、リンクは実に清々しい気分に浸ることができた。しかし、それはガノンドロフが
魔力で天候を制御しているためだ、というシークの指摘が、浮き浮きした気持ちからリンクを
引き離した。ひるがえって他の地域の暗鬱な環境が思いやられ、リンクの心には新たな憤りが
湧き起こるのだった。
 旅は順調に進み、二人は平原の西端の町に近づいた。ゲルド族の居住地が増えてくる地帯と
あって、厳重な警戒は怠れなかったが、それにしても以前と比べると敵の警備がずいぶん甘く
なったようだ、とシークは言った。
 平和に慣れてしまっているのか。各地に散っているゲルド族の数そのものが少なくなって
いるのか。だとすると、減った人数はどこに移ったのか。
 疑問は尽きなかったが、答を探している暇はない。『幻影の砂漠』に到達することが第一だ。
この絶好の機会を利用して。
「ただし、このまま無事にすむとは思えない。油断は禁物だ」
 あくまで冷静なシークの声に、リンクも気を引き締めた。
773-8-1 Gerudo Women (8/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:37:30 ID:pfSRZyrh
 ゲルドの谷への道を遮断するがごとくに存在する町を、どうやって突破するか。それをリンクと
話し合っていた時、シークは背後に気配を感じた。
 ──来た!
 二人はエポナに乗っていた。手綱はリンクが持ち、シークはその後ろに跨っていた。手足を
固定できない格好だったが、エポナはゆっくり進んでいたので、振り落とされる気遣いはなかった。
 だが、これからはそうもいかない。
 シークは馬上で器用に身を動かし、リンクと背を合わせ、反対向けに跨る形になった。
「どうした?」
 いぶかしげなリンクの声には答えず、耳に神経を集中させる。
 果たして、聞こえた。かすかだが、急速な馬蹄の響き。
「敵が追ってくる! リンク! 行け!」
 叫ぶと同時に、リンクがエポナに拍車を入れた。一声嘶いたエポナが疾走し始める。
 シークは振動に耐えるため、両脚でエポナの胴をはさみ、左手を後ろにやってリンクの服を
つかんだ。不安定な体勢にもかまわず、じっと後ろに視線を向ける。
 後方からの馬蹄の音は次第に大きくなり、やがて追跡者の姿が目に入った。
「ゲルド族だ! 四騎!」
「はッ!」
 掛け声とともにリンクはエポナの速度を上げた。しかし敵の速度はそれ以上で、彼我の距離は
徐々に縮まった。
 エポナがいかに優れた馬とはいえ、人を二人も乗せていては、全速力は出せない。いずれは
追いつかれてしまう。
 さまざまな対応策を頭に浮かべ、瞬時に取捨選択する。ほとんどの策が捨てられる。残った策は
ただ一つだけ。
 追跡者が馬上から矢を射始めた。まだ簡単に命中するような距離ではないが、流鏑馬に長けた
ゲルド族のこと、狙いはかなり正確で、何本かの矢は至近を通過した。
「直進するな! こまめに方向を変えるんだ!」
 応じてリンクがエポナを操る。右に左にとジグザグ模様を描いて。
 後方の一騎がぐんと速力を増した。騎射をやめ、とにかく追いつこうという意図と見えた。
シークは右手に短刀を持ち、その一騎を注視した。
 敵はじわじわと迫り、その表情までもがはっきりと見分けられるようになった。
 獰猛な女戦士。
 殺意に満ちた顔がゆがみ、腰から長大な堰月刀が引き抜かれた。もう距離はほとんどない。
あとわずかで追いつかれる。
 女が刀を振り上げた。その瞬間、シークは短刀を放った。狙いは過たず、短刀は馬の首に
ぐさりと刺さる。馬は大きく嘶いて驚き暴れ、女は地上に放り出される。
「何だ!?」
 リンクの声。前方しか見ていないリンクにはわからないのだ。
「一騎倒した! あと三騎!」
 引きつけておいて狙う戦法が図に当たった。が、敵も慎重になるだろう。二度は通用すまい。
 案の定、残る三騎は突出して追ってはこない。少しずつ間を詰めながら、時に矢を射かけてくる。
ぎりぎりで命中せずにすんでいるが、これ以上近づかれると危ない。
 最後の策を実行しなければならない。しかし真っ昼間、遮蔽物もない平原のただ中では……
 前方に目をやったシークは驚いた。
 森が見える。もう平原の西端に達したのだ。
 この機を逸してはならない!
783-8-1 Gerudo Women (9/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:38:09 ID:pfSRZyrh
「リンク! 別行動だ!」
「え!?」
「森に近づいた所で僕は飛び降りる! ここから先は君ひとりで行け!」
「何だって!? 君を置いては──」
「このままでは追いつかれる! それしかない!」
 わずかな間をはさんで、リンクが言う。
「……町はどっちだ?」
「森から右方向! ここからだとすぐだ!」
「わかった!」
「あとの道は前に教えたとおりだ! 途中で止まるな! 町を突っ切ってまっすぐ砂漠まで行け!」
「君は!?」
「あとから行く!」
 せわしない会話の間にも、森はぐんぐん近づいた。前方を見ながらタイミングを計る。
「いくぞ! 僕が飛び降りたらすぐ方向を変えるんだ!」
「気をつけろ!」
 シークは空中に身を躍らせた。とるべき動きはすでに想定していた。その想定に従って受け身を
とり、地面の上を転がる。そのまま地に伏せ、草の陰で気配を絶つ。
 目の前を三頭の馬が通り過ぎた。その先にリンクとエポナの後ろ姿があった。速力を上げる
エポナを追い、三騎はたちまち遠ざかった。と思うと、突然、一騎が方向を変え、こちらに
向かって突進してきた。
『やはり見逃してはくれないか』
 シークは中腰の体勢になった。そこへ矢が飛んできた。咄嗟に後ろへとんぼを切って矢を避ける。
敵の馬は急には止まらず、いったんその場を駆け抜ける。その隙をついて、背後の森に飛びこむ。
 身ひとつで馬に乗った敵を相手にするのは分が悪い。
 シークは森の奥へと駆け進んだ。適当な所で大木の陰に隠れ、来た方向をうかがった。敵が
追ってきたら立ち向かうつもりだったが、その様子はなかった。
 こちらを見失ったか、あるいは、馬と密着したゲルド族の習慣が、馬を捨ててまで森の中を
追ってくる気にさせなかったのかもしれない。
 ほっと息をつき、シークは地面に腰を下ろした。念のため、しばらくは森の中にひそんでいる
つもりだった。
 水筒の水を口に含み、人心地を取り戻す。同時に、別れた仲間へと思いを馳せる。
 あとから行くとは言ったが、自分ひとりで町を突破して『幻影の砂漠』に到達するのは困難
だろう。可能だとしても相当の時間がかかる。ここはリンクに期待するしかない。
『頼むぞ、リンク』
 残された最後の神殿への希望を託し、シークは祈るがごとく目を閉じた。
793-8-1 Gerudo Women (10/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:39:10 ID:pfSRZyrh
 背をつかんでいたシークの手が離れた瞬間、リンクはエポナを右へと向けた。負担となる重量が
減り、エポナはぐんと速度を上げた。背後から矢は飛んでこない。ちらりとふり返ると、二騎の
敵が追いすがってくる。だが距離はかなり開いたようだ。
 前に向き直り、ひたすらエポナを急がせる。やがて森の風景が途切れ、密集した人家が見えてきる。
 町だ!
 平原から門をくぐり、まっすぐ町を抜けると、あとは一本道でゲルドの谷に至る。シークは
そう言っていた。
 その門が見えた。行く手をさえぎるような扉や柵はない。が、十人ほどのゲルド女が立ちふさがり、
こちらに注目している。何人かは弓を構えている。
 止まって戦っている余裕はない。
 腰の袋から爆弾を取り出す。ゴロン製の小型爆弾は、簡単な安全装置をはずすと点火するように
作られており、馬上での操作も可能だ。
「行けッ!」
 声でエポナを駆り立てる。エポナはさらに速力を増す。前方から飛んでくる矢に怯みもせず、
エポナは門に殺到する。
 突入寸前、リンクは左右に爆弾を投げ、続けてデクの実を放った。
 閃光と爆発に狼狽の声が上がる中、エポナは敵を蹴散らし、町の通りに駆けこんだ。
 人通りは少なくなかったが、リンクは斟酌しなかった。通りの人々のほとんどは非武装で、
突然の闖入者に対抗する意志を持たず、あわてて左右に逃げ散った。その間に開いた一筋のすき間を、
エポナは全速力で駆け抜けた。
 ほどなく町の出口が見えてくる。門に女兵士たちが群がっている。だが矢を射かけてはこない。
一般人のいる町中に向けて攻撃することになるので、ためらっているのだろう。
 その機に乗じる。再び爆弾とデクの実を投じて混乱を誘い、門を突破する。
 なおも止まらず走り続ける。
 やがて風景が変わる。左右に岩肌が迫り、道はくねって山峡に入る。
『どうだ?』
 初めて速度を落とし、背後をうかがう。追ってくる敵は……
 いる!
 エポナのものではない馬蹄の音が後ろから迫り、聳える岩壁にこだましていた。即座に拍車を
入れ、リンクはエポナを急発進させた。
 さすがにエポナにも疲れが見える。無理はさせたくないが、ここは耐えてもらわなければ……
 近づく追跡者の気配に追われ、焦りを覚えるリンクの前に、ぱっと新たな風景が開けた。両側の
岩肌が切れ、ちょっとした広場となった先を、横一線の深い峡谷がさえぎっていた。道の先には
細い木製の吊り橋が架かっている。
 ゲルドの谷!
 吊り橋を駆け抜けようとしたリンクだったが、あることに気づき、直前でエポナを止まらせた。
 ずいぶん古く、頼りない橋だ。このまま渡っても大丈夫だろうか。強い衝撃が加わったら、
切れて落ちてしまうかもしれない。
 背後の音が大きくなった。ふり返ると、ゲルド女が二騎、広場に姿を現したところだった。
 迷っている暇はない!
803-8-1 Gerudo Women (11/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:40:05 ID:pfSRZyrh
 エポナを一歩踏み出させる。その瞬間、眼前に火が降ってきた。何が起こったのか、と思う間も
なく、橋はみるみるうちに炎に包まれた。
 再度ふり返る。一方のゲルド女が弓を持っていた。火矢を放ったのだ!
 もう一方の女が突進してきた。あわててエポナの向きを変え、崖際から離れる。刀を抜いた女に
対し、こちらも剣を抜き放つ。
「やあああッ!」
 気合いとともに刀が迫る。がっきと受けて、もう一人にも注意を向ける。矢を射られると面倒だが、
射てくる様子はない。敵味方が切り結んでいる状態では射られないのだろう。
 そこはよし、と思った時、鍔迫り合いをしていた相手が、
「つああッ!」
 女とは思えないほどの力を加えてきた。同時に抜刀したもう一人が近づいてくる。
 受けられるだけ力を受けておいて、すいとエポナを進ませる。いなされた相手が体勢を崩す。
その隙に、横から迫る敵へデクの実を食らわせ、
「くッ!」
 ふり返って先の相手にも同じく、
「うあッ!」
 眩い光を味わわせてやる。二頭の馬は棒立ちとなり、女二人は地面に落ちる。
 これで数分は時間が稼げる。が……
 吊り橋はすでに焼け落ちていた。もう先には進めない。
『戻るしかない、か……』
 引き返そうとして広場を去りかけた時、リンクは聞いた。馬を駆る音。新たな追跡者だ。今度は
人数も多い。
 絶体絶命。
 残るは強攻のみか、と覚悟を固めた時、エポナが勝手に回れ右をした。
「どうした?」
 不思議に思って呼びかける。エポナの鼻息は荒く、盛んに前脚で地面を掻き、ぐいぐいと前に
進もうとする。抑えつつ前方を見る。あるのは谷だけだ。エポナは何を……
 ──まさか?
 それができれば最善だ。だが疲れているエポナにそれができるのか? そもそもぼくの乗馬の
技量でそんなことが……
 追跡者の迫る音が大きくなる。もう時間がない。
「行けるか?」
 大きく嘶くエポナ。
「よし、行け!」
 高々と両前脚を振り上げると、エポナは突進し始めた。
 リンクは決めていた。
 エポナにすべてを任せるしかない!
 谷が迫る。どんどん迫る。エポナは速度を上げに上げ、崖際で最高速に達すると、
 ガッ!
 と蹄の音を残して空中に身を躍らせた。
 必死でしがみつくリンクの目に、山が、空が、雲が、流れるように映り、頂点に達したとみるや、
重力に引かれて身は落ち始め、再び山が見え、このまま無限の谷底へ吸いこまれてしまうのか──
と思った瞬間、
 ドッ!
 という衝撃とともに、エポナの脚は大地を捉えていた。
 ──跳べた!
 いまだ残る緊張と、成功の感激に胸を弾ませながら、勢いが治まるまで前進したのち、リンクは
エポナを立ち止まらせた。
 後ろをふり返る。対岸の広場にはすでに数騎の追っ手が到着していたが、右往左往するばかりで、
谷を越えて追ってこようとする者はいない。それだけの能力が、彼女らの馬にはないのだろう。
「よくやった! ありがとう!」
 ぽん、と首の後ろを叩いてやる。エポナは嬉しそうに嘶いた。
813-8-1 Gerudo Women (12/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:40:57 ID:pfSRZyrh
 日が暮れかかる中、リンクはゆっくりとエポナを進ませた。
 追っ手を気にする必要はなくなった。それにシークの話では、この先は無人地帯で、行く手を
邪魔されることもない。もう少し行けば、かつてのゲルド族の本拠地である砦があるはず。そこで
砂漠に乗りこむ準備をしよう。
 道端に湧き水を見つけ、リンクはエポナから降りた。喉を潤し、水筒を水で満たしたあと、
場所をエポナに譲った。エポナは一心に水を飲み続け、その渇きはすぐに癒える様子もなかった。
 あれほどの大活躍だったのだ。かなり体力を消耗したに違いない。好きなだけ飲ませてやろう。
砦に着いたらゆっくり休ませてやらなければ。
 近くの石に腰をかけ、エポナを待つ。疲労のせいか、ともすれば意識が浮遊する。
 ハイラルの西端に位置する『幻影の砂漠』の、さらに西の果てにあるという巨大邪神像──
魂の神殿。そこでナボールに──『魂の賢者』と考えられるその人物に──ぼくは会うことが
できるだろうか。いまのところ、他の賢者たちには会えそうもない。ナボールが頼みの綱なのだ。
どうにかして会って、賢者としての目覚めをもたらして、それで……
 その先に、賢者の覚醒を果たした時に、ぼくを待っているはずの、君。
『ゼルダ……』
 しまっておいた耳飾りを取り出す。小さなトライフォースの輝きに、記憶の中の笑顔が重なる。
 その笑顔を見たい。いや、七年経ったいまでは、君の笑顔も、記憶の中のそれとは異なっている
はずで……けれど……きっとそれは……ぼくが思いもつかないほど美しいはずで……そして
美しいのは……顔だけではなくて……
 脳裏に立ちのぼる、その姿。
 ぼくは何を考えている? 何を望んでいる? 男と女の行為を知ったぼくは、ゼルダに対して
何を……
 自覚する。高ぶる股間。それを引きずり出し、握って、動かして……
 あの泉で経験して以来、二度目の行為。その行為の相手が君であることに、ぼくはもうためらいも
持たず……
 エポナが鋭く嘶いた。驚いてあたりを見まわそうとした瞬間、がん!──と脳天に衝撃を感じた。
 前のめりに倒れる。身体が動かない。しかし意識だけはなお漂って……
「あんまり手荒なことはすんなよ。活きのいい男は久しぶりなんだから」
「これくらい大丈夫さ。ありゃ、この野郎──」
「ヒャハハッ! こいつマスなんかかいてやがったよ!」
「精がありあまってるってか? こりゃあ期待できそうだねえ」
 ──ゲルド族?……こんな所に……いたとは……
 その意識も、じきに絶えた。
823-8-1 Gerudo Women (13/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:44:16 ID:pfSRZyrh
 目があいた瞬間、頭に痛みが走った。
「くッ……」
 再び目を閉じ、痛みが去るのを待って、そろそろと目蓋を開く。
 薄暗い空間。上には石の天井。周囲は同じく石の壁。部屋ともいえないような殺風景な場所だが、
屋内であることは確かだ。床もまた硬い石造りで、触れている横腹と腰に、ごつごつとした不快な
感覚をもたらしている。
 横たわった身体を動かそうとしたリンクは、自分が後ろ手に縛られていることに気がついた。
両の足首も縄でひとまとめに括られている。
 不意を衝かれて頭を殴られ、ゲルド族に捕らえられてしまったのだ。油断も油断。敵がいる
ことにも気づかず、ゼルダを想って、快感を発散させようとして、自分で自分を弄んでいる最中を
襲われてしまうなんて……なんと情けないことだろう。
 悶絶しそうな羞恥を無理やり心から追い出し、リンクは自身の運命を考えた。
 あの場で殺さなかったのだから、ぼくを捕まえたのは追っ手の一団ではないのだろう。気を失う
前に聞いた彼女らの言葉も、切迫したものではなかった。追っ手とは別のゲルド族の集団が、
このあたりにいたのだ。ゲルドの谷より西方には誰も住んでいない、とシークは言ったが、状況は
変わっていたようだ。ぼくを拘束した目的は何だろう。ただの強盗なら、すぐにぼくを殺して
いたはず。そう、彼女らの、あの台詞は……
 ゲルド族が捕らえた男をどういうふうに扱うかは、シークから聞いていた。そんな目に
遭わないよう注意しろ、と釘を刺されていたのだが……
 笑い声が聞こえ、リンクは、はっとしてその方を見た。部屋の隅に通路が開いており、奥が
赤っぽく染まっている。通路の先に明るい別の部屋があって、そこに人がいるのだ、とわかった。
 声は女のもの。明らかにゲルド族の連中。少なくとも、六、七人はいるようだ。
 通路に影が差し、足音が聞こえた。リンクは身体を固くした。
 剣と楯は奪われている。縛られていて確かめようがないが、爆弾など、武器になるようなものは
すべて巻き上げられているだろう。ここで襲われても応戦できない。
 ゲルド女が一人、部屋に入ってきた。そばまで来て女はしゃがみこみ、リンクの胸倉をつかんで
上体を引き起こした。
「目が覚めたかい」
 ドスの効いた声だった。リンクは女を睨みつけた。
「なかなかいい目つきをするじゃないか」
 女は動じず、口の端に嘲るような笑いを浮かべた。
「心配するな。抵抗さえしなきゃ、殺しはしないよ。ただ、あたしらの要求には従ってもらうけどね」
 意味ありげに言うと、女はリンクの足首を縛っていた縄を解いた。意外だったが、それは単に
移動を容易にするというだけの目的だった。後ろ手に縛られた状態のまま、リンクは女に背を
小突かれて、通路の先へと追い立てられた。
 予想どおり、その先は広い部屋で、壁際に立てられたいくつかの燭台が光源となっていた。
中央の床には一枚板の食卓が据えられ、食べかけの皿や酒瓶が乱雑に並んでいた。その食卓を
取り囲んで、何人かのゲルド女たちがすわり、あるいは寝そべっていた。リンクは素早く女たちを
観察した。
 自分を連れてきた女を含めて、人数は十人。いずれも二十代から三十代。額や胸に宝石を
あしらった装飾品をつけているのが女性らしいが、手元に置かれた堰月刀や薙刀が、戦闘集団と
いう雰囲気を醸し出している。身なりは一様にゲルド風だ。下半身にはだぶだぶの長いパンツ。
一方、上半身は細い布を胸に巻いているだけで、浅黒い皮膚があらわになっている。顔つきや髪の
長さはさまざまだ。しかし髪の色が赤い点は共通している。そして、もう一つの共通点は……
 部屋の全員がリンクに視線を向けていた。その目は例外なく、ぎらぎらと燃え盛っていた。
833-8-1 Gerudo Women (14/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:45:06 ID:pfSRZyrh
 背後の女にいきなり脚を払われ、リンクは床に転がった。さらに蹴られて仰向けにされる。
「しばらくおとなしくしてな。さて──」
 女が他の連中に向き直った。
「そろそろお楽しみといこうじゃないか」
 みなが弾かれたように身を起こし、リンクのまわりに集まってきた。
「順番は決まったのかい?」
 女の声に、一人が応じる。
「いや、まだだ。あんたが最初にやる?」
「あたしはあとでいい。先に好きなようにしなよ」
「さっすが、話がわかる。すまないねえ」
 女はリンクから離れ、食卓の前にすわって肉を食らい始めた。態度から見て、この女が一団の
リーダーと思われた。残りの九人がわいわいと議論を始める。
「どうする?」
「公平に籤でも引くか」
「いいだろ。紙をこっちへよこせ」
「早くしようよ、もう我慢できないよ」
「落ち着きなって。待ってりゃ確実に回ってくるんだからさ」
「さあ、籤だ。一人が一本ずつ引くんだ」
「よし、これだ」
「あたいはこれ」
「どっちがいいかなあ、こっちにしようか」
「おい、あんたはいま危険日だろうが」
「いいじゃないの、こいつがいく前に終わらせりゃ」
「うーん、それもそうだな」
「全員引いたか? じゃあ開け」
「やったあ! あたしが一番!」
「げっ、最後かよ……」
「四番目ね、まあよしとするか」
 会話は意外にのんきなものだったが、彼女らが何について話しているかを考えると、リンクの
背筋は寒くなった。これから全員に犯されるのだ。女たちの声は上ずり、目のぎらつきはますます
勢いを増していた。
 一番手の女が迫り、リンクの股間を探って、縮こまった一物を引き出した。こんな状態で
勃起するわけがない、と思っていたが、女が下半身の衣装を脱ぎ、股間を露出させたのを見て、
不覚にもそれは一気にそそり立ってしまった。
「ひょおー、元気なこと。若い男はいいねえ」
 女は嬌声をあげ、せかせかとリンクの腰に跨ると、直立したそれをつかんで自らの中心に
押し当てた。
「おいおい、いきなりでいいのかい?」
「大丈夫、もう準備はできてるさ。濡れ濡れだよ」
 周囲のからかいに露骨な答を返し、
「いくよッ!」
 と叫ぶが早いか、女はどすんと腰を落としてきた。
843-8-1 Gerudo Women (15/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:45:54 ID:pfSRZyrh
「うッ!」
 思わず呻きが漏れてしまう。快感のためではない。縛られて後ろに回され、背と床の間に
はさまれた腕が、女の体重による圧迫で、激しい痛みを訴えたのだ。床には絨毯が敷かれていたが、
下は硬い石であり、衝撃を吸収する役割は果たしてくれなかった。
 痛みが軽くなって初めて、結合部に注意が向いた。女が言ったとおり、その入口はすでに
洪水状態で、リンクの怒張は完全に膣に埋まり、ものすごい力で締め上げられていた。が、
奇妙なことに、女は目を閉じ、口を大きくあけ、挿入直後の体勢のまま、凍りついたように
動かなかった。
 周囲の面々も不思議に思ったのだろう、
「おい、どうした?」
 などと呼びかけてきたが、たちまち大きな笑いが巻き起こった。
「こいつ、もういっちまってるよ」
「挿れてすぐとは、ちいと早すぎやしないかねえ」
「生の男は久しぶりだから。しかしそれにしても……」
「いいじゃないの、次が早く回ってくるんだし」
「ほら、あんたはもう終わりだよ。さっさと場所を空けな」
 それでも一番手の女は呆けたように動かず、業を煮やした他の女たちによって、リンクの上から
引きはがされた。リンクは狐につままれたような気分だった。何もせず、何も感じないうち、
あっという間に終わってしまったセックスだった。
 その後も大同小異だった。一番手ほど極端ではなかったが、次々に跨ってくる女たちは、どれも
一方的に激しく身体を動かしたのち、あっけなく絶頂した。一人の持続時間は最長でも五分に
満たず、全員が行為を終わるのに三十分もかからなかった。リンクが感じたのは、下腹部への
機械的な衝撃と背後の腕の痛みがもっぱらで、快感といえるほどの快感もなく、射精には遠く
至らなかった。思ったほどひどい目に遭わずにすんで、ほっとしたリンクだったが、これが
ゲルド族のセックスの流儀なのかと思うと、索漠とした気持ちにもなった。
 離れてすわっていたリーダーの女が腰を上げた。
「あんたら、ほんとに味気ないまぐわいだねえ。九人がかりで男一人いかせられないなんて」
 嘲弄するような台詞に、一息ついた残りの女たちが反論する。
「んなこと言ったって、しょうがないだろ。長いこと男とはご無沙汰だったんだから」
「早くいっちまったのはともかく、男相手のセックスなんざ、こんなもんだろうが」
「この野郎をいかせようなんて、初めから思っちゃいないぜ」
「そうだよ、こっちが楽しめりゃ、それでいいじゃないのさ」
 リーダーの女は大きくため息をつき、
「あたしも前はそう思ってたさ。でも男ってのは、そんなもんじゃないんだよ……まあそれは
ともかく──」
 最後は口調をいかめしいものに変えると、リンクのそばへ歩み寄ってきた。
「次はあたしの番だ。じっくり楽しませてもらうとするか」
 まわりから自嘲と諧謔をこめた声がかかる。
「ちぇッ! せいぜい楽しんどくれ」
「あんたが楽しめるのは、あたしらのおかげだってことを忘れなさんな」
「あたいらが味気ないせいで、そいつはここまでもったんだからね」
「そうそう、こちとら、礼を言ってもらいたいくらいさ、『副官』さんよ」
853-8-1 Gerudo Women (16/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:46:40 ID:pfSRZyrh
 最後の言葉が、反射的にリンクの口を開かせた。
「『副官』?」
 リーダーの女の目がいぶかしげに細められた。
「君が『副官』なのか?」
 続くリンクの問いかけに対し、直接は答えず、女は警戒するような面持ちで、ゆっくりと言った。
「……お前……なぜ、その呼び名を……」
「シークさ。シークから聞いたんだ」
 女は目を大きく見開いた。
「お前……シークを知ってるのか?」
「知っているとも。シークはぼくの友達なんだ」
「あんた!」
 女──『副官』は、リンクの肩をつかみ、激しく揺すぶった。呼びかけが変わってしまったのを、
自分でも気づいていないようだった。
「教えてくれ! シークは生きてるのか? いまどうしてる? どこにいるんだ?」
 身体を床に打ちつけられる形になり、リンクは呻き声をあげた。『副官』は我に返った様子で、
「ああ、こりゃ悪かった」
 とすまなそうに言い、リンクを縄から解放した。リンクは上半身を起こし、硬直した背と両腕を
伸ばして吐息をついた。
「それでシークは?」
 なおも問いつめる『副官』に、リンクは事情を説明した。シークが『副官』に使命の詳細を
明らかにしていないことを知っていたので、その点は大まかな内容にとどめた。
 先に『副官』と別れたあと、ツインローバの妨害のため、シークは『幻影の砂漠』へ行けなかった
こと。その後、何度もゲルド族の支配領域への再侵入を試みたが、成功しなかったこと。今回、
自分とシークとでやっと侵入に成功したものの、敵に追われて別行動を余儀なくされ、自分だけが
町を突破して、ここまでやって来られたこと。
 リンクが話を終えると、身を乗り出して聞いていた『副官』が、真剣きわまりない様子で訊いて
きた。
「シークはどうするって?」
「あとから来ると言っていたよ。でも橋を焼かれてしまったから、ゲルドの谷を渡ってくることは
できないだろうね」
 リンクは『副官』の気持ちを察し、言葉の裏に同情をこめた。『副官』は下を向き、黙っていた。
その目が潤んでいるのが見えた。
 やがて『副官』は、
「……生きてりゃ、また会える時もくるだろうさ。シークが無事だっていうんなら……それだけで
……あたしは……」
 と声を絞り出したのち、きっと顔を上げた。別人のように精悍な表情となっていた。
「じゃあ、あんたは、これから巨大邪神像へ行って、ナボールの姐さんを捜す気なんだね」
 頷くリンクに向け、『副官』は、にやりと笑って言った。
「わかった。協力しようじゃないか」
863-8-1 Gerudo Women (16/17) ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:48:58 ID:pfSRZyrh
 次いで、今度は『副官』が自身の経緯を語り始めた。
 シークと別れて以来、町で逼塞した生活を続けていた『副官』だったが、奴隷制度に依存し、
ゲルド族本来の生き方を忘れた連中とともに暮らすのが、いやになるばかりだった。しかし
ゲルド社会に生じ始めた動揺が、『副官』の意志を動かすことになった。
 動揺の一つは食糧事情の悪化であった。天候不順により、ハイラル諸地域での農業生産は、
徐々に低下していた。ゲルド族の支配領域は、天候こそ保たれているものの、自給自足ができない
ため、次第にその影響を受けるようになった。当初は収奪の強化で凌いでいたが、現在では
それでも追いつかないほどの問題となっている。
 割を食ったのは奴隷たちだった。真っ先に食糧供給が制限され、そのことが引き金となって、
反抗や逃亡が頻発するようになった。統制強化のため、支配領域に散っていたゲルド族が町に
集められ、反対に人口の減った他の地区は、少しずつ荒廃し始めた。それが第二の動揺だった。
 最も大きな動揺は、そうした社会不安に対して、ガノンドロフが適切な処置を下そうとしない
ことによるものだった。魔王として君臨するガノンドロフは、ガノン城にこもって放蕩にふける
毎日を送っている。ほとんど陽の差さない城下町の劣悪な環境は、駐留する兵士たちですら
忌避したくなるもので、そんな彼女らの漏らすところによれば、ガノンドロフの関心はもっぱら
トライフォースに集中し、ゲルド族の実社会にはろくに興味を示さなくなってしまった、という。
 一年ほど前、『副官』は町を出て砦に──自分たちがいまいるこの場所に──戻った。腐った
社会から離れ、ゲルド族の誇りを体現しようと、新たな生活を始めたのだった。噂を伝え聞いて、
かつてのナボール党の面々が一人二人と集まってきた。以前ほどの人数ではないが、いまでは
こうして十人の仲間が結束し、行動をともにしている。
 ただ、旅人も通りかからない、こんな辺鄙な場所では、男を狩るというゲルド族の風習は
捨てざるを得なかった。リンクは実に久方ぶりの獲物だったので、こういう扱いをすることに
なってしまったのだ──
 そう締めくくり、リンクに詫びを述べたあと、『副官』はナボールの件に話を戻した。
「ナボールの姐さんのことは……巨大邪神像へ行っちまってから、何年も経ってるし……正直
言って、もう諦めてたんだ。だが、あんたが希望を捨てずに行くっていうんなら……あたしらの
姉貴分だった人のことだ。協力は惜しまない」
 再び力添えを提言し、『副官』はさらに言葉を続けた。
「あたしだけじゃない。ここにいる全員が味方になるよ。なあ、みんな!」
「おう!」
 女たちが一斉に応じた。リンクと『副官』の話が続くうち、他の連中もそれに引きこまれ、
いつしかみなが『副官』と心を一つにしていたのだった。
 囚われの性奴隷から客人へと身分が昇格したリンクは、改めて一団から熱心な歓迎を受けた。
女たちはさっきの輪姦騒ぎなど忘れ去ったようにリンクを仲間扱いした。その大らかな態度が
微笑ましく、リンクは彼女らを責める気にはなれなかった。そればかりか、彼女らと知り合えた
ことが、実に心強く、嬉しく感じられた。
 今後の方針が話し合われた。いまは砂嵐の季節であり、ここ数日は砂漠に足を踏み入れることは
できないが、それが治まるのを待つ間、この砦でじっくり準備を調えればいい、と女たちは口を
揃えた。リンクはその忠告に従うことにした。


To be continued.
87 ◆JmQ19ALdig :2007/08/24(金) 01:50:36 ID:pfSRZyrh
>>86 ナンバーミス  ×16/17 ○17/17

以上です。いろいろと無理なところがありますが、とにかく話を進めました。
後編は後日に。
88名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 03:11:46 ID:5AxJYUtV
乙です。手淫中を襲われるリンク(;´Д`)ハァハァ
ゲルド族の即イキはリンクの勇者能力が股間にも宿る兆し?
ハイラルの性豪伝説wktk
89名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 12:44:33 ID:34T/j2Ul
おツ!!

毎度の事ながら状況が変化していくまでの経緯が細かくてスバラシイです。
何かいろいろ納得してしまいます。
次にも期待!!wktk!!
90名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 13:03:21 ID:Po7Jd+mA
乙です!

ナニの最中に襲われるなんて、なにやってんだか、我らが勇者は・・・トホホ。
と思いつつ、人間くさい勇者リンクが良いんだよね。
91名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 20:18:33 ID:jLxWpiy2
GJ。1つ気になってたんですがこれだけの1区1区を1分ほどで書けるなんて凄いですね。人間じゃないですよ^^もしかしてコピペですか?だとしたら失望。
92名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 21:33:00 ID:ukXove7b
乙です。

状況描写と心理描写の巧みさに脱帽です。

悩んだり迷ったりする等身大な勇者の活躍にwktkが止まりません。
次も期待しています。
93名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 21:40:08 ID:cScDRVKe
>>91
何言ってるんですか
94名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 22:17:12 ID:YbWawACM
>>91
お前頭悪いな
95名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 22:47:03 ID:ohpg6Gtj
何というゆとり…
>>91は間違いなくゆとり世代
96名無しさん@ピンキー:2007/08/25(土) 00:08:27 ID:chkJUaMm
>>91
こういう奴が糞みたいな台本小説作るんだろうな。
なんも練らないで、思いつきをそのまま垂れ流すだけ
それを「キャラが脳内で勝手に動きまわるのでそれを書けば〜」とか勘違いも甚だしい事を言ったり
ごめん全部俺が過去に見たトラウマ
97名無しさん@ピンキー:2007/08/25(土) 00:21:45 ID:kN1kPHKa
何という集中攻撃w
98名無しさん@ピンキー:2007/08/25(土) 02:49:55 ID:2xOXw2ZV
>>91
釣られてマジレスすると、
自分であらかじめオフラインで書き溜めた長文を、テキストエディタから
コピペして書き込むのはコピペとは言わないよ。

他人の文を丸パクしたならまさしくコピペだが、そんなインチキはすぐ
google先生が見破ってくれる。
99名無しさん@ピンキー:2007/08/25(土) 02:53:17 ID:k7H+fOHC
釣られ過ぎ
100名無しさん@ピンキー:2007/08/25(土) 03:00:01 ID:op/thUys
皆暇なのさ
101名無しさん@ピンキー:2007/08/25(土) 09:56:48 ID:/00njsrK
スルーしたくないの?
102名無しさん@ピンキー:2007/08/25(土) 11:37:10 ID:kN1kPHKa
>>101
スルーしなよ
103名無しさん@ピンキー:2007/08/25(土) 11:42:25 ID:cLa8tSbc
みんな、構いたい年頃なのさ
ヒマだね
104名無しさん@ピンキー:2007/08/25(土) 18:06:45 ID:kN1kPHKa
>>103
構うなよ暇人
105名無しさん@ピンキー:2007/08/25(土) 19:18:46 ID:cgqASrQp
面白かったよー
リンクのマスターソードは着実に強くなってるなw
106名無しさん@ピンキー:2007/08/25(土) 23:42:06 ID:LYJ3QKLL
GJ
時間を忘れて没頭して読みました
後編期待しております!
10791:2007/08/25(土) 23:46:22 ID:cf4JZUT+
上手に釣れました〜!>>98書き溜めた文章だったんですか。

>>93何言ってるんですか
>>94お前頭悪いな
>>95ゆとり乙^^
>>96こう言う奴に限って糞の小説しか描けないんですよね^^
>>97なんと言う暇人^^

結果的に言えば、>>98以外は皆ゆとり&暇人。
108名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 01:10:50 ID:EChJRKze
俺98だけど、>>93〜97までのツッコミでピンとこなくて、
>>98読むまでマジで自分じゃ気づけなかったなら、>>107はゆとりの中のゆとり、
伝説のゆとりモンスターだぜ。礼なんかいらんから夏休みの宿題やれ。
109名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 01:33:14 ID:/7CNwypp
もはや釣りでもなんでもない
かわいい馬鹿だ
110名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 07:33:15 ID:I5xc5A2+
なるほどMH厨だったのか
どおりで
111名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 08:27:41 ID:KkCzySE2
せっかく職人さんが投下した後なのにこの流れはやめようぜ
112名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 11:50:04 ID:M26+5PiI
夏ですn(ry
113名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 13:22:55 ID:Jt+1daTM
スルーしなくていいの?
114名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 19:18:59 ID:M1ZSqie2
釣り話はここで終了
115名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 20:38:33 ID:ZpXaYQvX
あっ、やべぇwwwこんなにキモヲタと喋ったらキモヲタ病が移るwキモッw
116名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 20:42:08 ID:ZpXaYQvX
つーか、「もしかしてコピペですか?」って聞いただけなのにこの釣られようwよほどの信者(変態)のようだなw
117名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 20:51:13 ID:aT4PLu+j
ポシードンが釣れなくて困る人が集うスレはここです
118名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 21:08:37 ID:/7CNwypp
>>115-116
釣られるなよ
119名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 21:35:13 ID:cuZVzOuP
過疎スレだと思ってたけど荒しが来るほど発展したんだなあ
まったくこの時オカSSはすげえ
120名無しさん@ピンキー:2007/08/27(月) 06:04:38 ID:ArxymiRC
保管庫含めやっと読みおわった・・・
続き楽しみにしてます!
121名無しさん@ピンキー:2007/08/27(月) 08:35:00 ID:6VnHW0Y1
レスが増えてたから作品来た!と思って開いた俺は釣られたのか。
122名無しさん@ピンキー:2007/08/27(月) 13:17:50 ID:DKGlekPv
ここの住人ってさ、「釣り」や「暇人」や「ゆとり」って言葉ばっかり言うよね。

123名無しさん@ピンキー:2007/08/27(月) 15:53:51 ID:siVPIqGX
別にこのスレに限ったことじゃないと思うが
124名無しさん@ピンキー:2007/08/27(月) 16:20:25 ID:iOpGoDk1
釣りか、さもなくば2ch歴2週間の小学生の書き込みだからスルーしる
125名無しさん@ピンキー:2007/08/28(火) 08:06:44 ID:qTOW+sNl
wktk゚+.゚(・∀・)゚.+゚
126名無しさん@ピンキー:2007/08/28(火) 14:53:52 ID:lxciW+uv
前スレまだ埋まってないんだね…
127名無しさん@ピンキー:2007/08/31(金) 00:04:55 ID:tU3jHVoY
今日初めてここの存在を知って◆JmQ19ALdig氏の儲になりました。
続きをwktkしながらお待ちしまっす!
128名無しさん@ピンキー:2007/08/31(金) 08:07:19 ID:kzbl1zgZ
いくらリンクの神懸りなマスターソードでもこの性描写ありえないw
女の「イク」は果てがない。
129名無しさん@ピンキー:2007/08/31(金) 12:22:53 ID:eRss05fq
透明あぼーん機能はとても便利です。
130名無しさん@ピンキー:2007/08/31(金) 16:59:03 ID:IqfDBKgq
>>128
その辺はトライフォースと勇者の力で何とか
131名無しさん@ピンキー:2007/09/01(土) 01:07:19 ID:Y8LSn8wy
やっと前スレ終わったか…
132名無しさん@ピンキー:2007/09/01(土) 22:11:02 ID:CRSMV7j/
そろそろ続き来るかな。
133名無しさん@ピンキー:2007/09/01(土) 23:05:37 ID:xlDskEaP
【2】の頃はいろんな人が投下してたんだな・・・
134名無しさん@ピンキー:2007/09/01(土) 23:45:52 ID:YpLc7OOC
保管庫見れなくなってるのは俺だけ?
135名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 10:11:20 ID:OzfB9O+J
>134
普通に見れたよ。保管庫、いつの間にかジャンル分けをしたんだね。
136 ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:45:52 ID:7nhaBmHm
私本・時のオカリナ/第三部/第八章/ゲルドの女たち編/後編、投下します。
リンク×ゲルドの女たち(含『副官』)。
同性愛・張形・3Pの点描&言及あり。
註:『副官』=大人時代のゲルドの砦にいる親分格のゲルド女、という設定。
1373-8-2 Gerudo Women -2 (1/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:46:48 ID:7nhaBmHm
 議論に区切りがつくと、あとは宴会になった。リンクはやたらと酒を勧められた。必死で
辞退したが、そうもしきれなくなり、しかたなくグラスに口をつけた。かなり濃い酒で、舐めた
程度だったにもかかわらず、リンクは酔いを感じてしまった。女たちの方も酒が進むうち、
もともとあけすけだった態度が、いっそうくだけたものとなっていった。
「なあ、さっき話してたシークってのは、いったい誰なのさ」
 一人の女が『副官』を追求した。『副官』はうつむいた。いくら飲んでも色の変わらなかった
顔が、その時になって赤みを帯びた。が、思い切ったように昂然と顔を上げると、『副官』は
悪びれない調子で言い放った。
「シークはあたしの彼氏さ」
「彼氏ぃ!?」
 他の女たちが一様に素っ頓狂な声を発した。
「こりゃ驚いた。あんた、男とつき合ってたのかい?」
「彼氏持ちのゲルド女なんて、聞いたことがないよ」
「珍品中の珍品だな」
「『副官』ともあろうお方が、なんでそんな軟弱なことを」
「そうさ、男ってのは犯すもんだろうが」
 周囲の囃したてに対し、『副官』は声を強くして反論した。
「そんなこたあない。どうせあんたら、男なんて生の張形くらいにしか思ってないんだろうが、
男と楽しむやり方がわかっちゃいないのは、あんたらの方さ」
 言われた側も声を荒げる。
「おう、言ってくれるじゃないか」
「たいそうな講釈だねえ」
「犯す以外にどうやって男とやるのか、あたしにゃわからん」
「そんなに言うなら教えてもらおうじゃないの、男と楽しむやり方とやらをさ」
「ああ、教えてやるよ」
 売り言葉に買い言葉といったやりとりを交わすと、『副官』はリンクに向き直った。
「そういうわけだ。相手になってくれ」
 いきなり話を振られ、リンクは返事ができなかった。横にいた『副官』が、さらに身を寄せてきた。
「あたしだけ、まだだったんだ。ちょうどいい」
「いや、あの……」
「さっきの続きだと思いな。だけどシークの友達なんだから、悪いようにはしないよ。あんたも
好きなだけ動いていいから」
「ちょっと待てよ、君はシークとつき合って……」
「野暮なことを言いなさんな。シークはシーク、あんたはあんたさ」
「けれど……」
「あたしに恥をかかせる気かい?」
『副官』の語調がきつくなった。リンクは言葉を継げられなかった。
 あっという間の成りゆきについてゆけず、追いつめられた形になってしまった。混乱の中で、
リンクは何とか自らの思考を追跡した。
 話の内容から、『副官』がシークと肉体関係を結んでいたことは、ぼくにもわかる。けれども
他の男と交わることを、『副官』は全然ためらっていない。そういう奔放さがゲルド流なのかも
しれない。またその態度は、ある意味、いろいろな人との出会いを大切にしていこうという、
ぼく自身の思いにも通じるところがある。しかし『副官』と交わる積極的な理由が、こちらにある
わけではない。確かに『副官』とは同志の間柄になったが、かといって──
1383-8-2 Gerudo Women -2 (2/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:47:57 ID:7nhaBmHm
『副官』は、つと立ち上がり、やにわに衣服を脱ぎ始めた。下半身だけでなく、胸を覆う上半身の
布すらも解き放った。次に頭の後ろで髪を束ねていた装具をはずし、首を素早く左右に振った。
赤く長い髪がぱっと広がり、肩から背に流れ落ちた。
「おっ、いよいよ始まりか」
「しっかりやれよ、見ててやるからさ」
 女たちの揶揄の声をよそに、胸や股間を隠そうともせず、褐色に光る若々しい皮膚を惜しげもなく
さらして、『副官』は立ちはだかっていた。表情は固く引き締められていたが、すべてを捨て去った
その姿は、もはやゲルド族の一団を率いるリーダーとしてのものではなく、一人の女としての
ものだった。
 ぞくぞくとした波動がリンクの背筋を走り下り、局部に集中した。不完全燃焼を強いられてきた
陰茎が、その反動によってか、いままでにも増して猛然と自己を主張し始めた。が……
 好きなだけ動いていいとは言われたものの……さっきのように動く余地もなく一方的に受け身と
なるのならともかく……この衆人環視の状態で、自分から動いてセックスするなんて……
『副官』は気にならないのか……せめて……どこか別の所で……
 待て。やること前提で考えているじゃないか、ぼくは。見られていない状態ならいいというのか。
そういう問題じゃないだろう。
 ──などと抑えにかかる心も、熱した股間を冷ますことはできない。
『副官』が傍らに膝をつき、じっとこちらを見つめた。と思うと、突然、どっと身を預けてきた。
両腕が首にからみつく。抱きとめるのが精いっぱいだったリンクは、『副官』の顔を避けることが
できなかった。それはリンクの眼前に迫り、間もおかず、唇と唇がぶつかった。
 頭の中は急に酔いがまわったようにぐるぐると渦巻き、リンクは身体を動かせず、ただ柔らかい
唇の感触を茫然と受け止めるままになっていた。これではいけない──と立て直す思考は、
『副官』の次の行動によって、またも立ち往生を強いられた。
「頼む」
 唇を離した『副官』がささやいた。周囲には聞き取れないような、かすかな声だった。
「抱いて」
 どきりと胸が拍動した。
 それまでの男まさりの言動が嘘のような、女の言葉だった。他の連中に男と楽しむやり方を
教えるというもっともらしい理由を超えた、『副官』自身の生の意志が──手を差し伸べずには
いられない、はかなげな思いが──そこにはうかがわれた。
 女としての姿を見、女としての声を聞き、女としての意志を感じ取ってしまうと、もうどうにも
ならなかった。リンクは抱きとめていたその「女」を、さらに強く抱きしめた。背はわずかに震え、
肌は汗ばんでいた。その震えと湿りを感じ、リンクの手には、ますます力がこもった。まわりの
連中に見られていても一向にかまわない。そんな気持ちだった。
 そのまわりの連中からは、もう声はかからない。固唾を呑んでこちらに注目しているようだ。
 固く抱き合う無我の時が過ぎると、『副官』は身を動かし始めた。裸の自分と同じ姿にしようと、
その手がもどかしげにリンクの服にかかる。リンクも応じて身体を動かす。あらわとなった皮膚の
上を、『副官』の唇が這いまわる。上半身から下半身へと露出が進むにつれ、唇もまた下がって
ゆき、ついにすべてがさらされてしまっても、それはとどまることなく──
 そそり立つリンクの中心に触れかかる。
1393-8-2 Gerudo Women -2 (3/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:48:53 ID:7nhaBmHm
「おおーッ!」
 周囲からどよめきがあがった。
 驚くのも無理はない。男といえば犯す対象としか考えないゲルド族にとって、男の物を口にする
など、異常な行為としか思えないのだろう。ひるがえって、そんな「異常」な行為にためらいも
持たない『副官』が、何ともかわいらしく思えてしまう。
 そう、かわいらしく。
 二十代半ばほどの、自分よりも年上の女性を、かわいらしいと表現するのはおかしいかもしれない。
だが、男の硬直を一心に舐め、吸い、含む、そのさまは、アンジュはもちろん、マロンほどの
技巧も伴っていないにもかかわらず、相手を悦ばせようとする熱意に満ち、単なる技巧を超えた
真情として、心を打つのだった。
 口の奉仕にしばらく身を任せたのち、股間にうずくまる『副官』の頬に、そっと触れる。
上げられた『副官』の顔が、切なげにゆがむ。
「だめかい?……あたし……下手だから……」
 胸が締めつけられ、
「そんなことない」
 身をずらせて、今度はこちらが『副官』の下半身に顔を寄せる。仰向けとなり、互い違いに
『副官』を跨らせる。
 目の前に開陳される『副官』の陰部。浅黒い皮膚の色が、そこでは、より濃さを増し、あふれ出る
粘液がてらてらと輝く中心部の充血した粘膜と、鮮やかな対比をなしている。
 唇で、触れる。
「あッ!」
 小さな悲鳴とともに『副官』が全身を震わせる。
 優しく舌を這わせて、少しずつ震えを治まらせてやる。
 硬い恥毛が頬をちくちくと刺し、濃密な体臭が鼻腔を刺激する。しかしそれらも、『副官』と
いう女の、あるべき個性なのだ。そう思うと、いっそう心が沸きたつ。
 喘ぎながらリンクの舌を股間に受けていた『副官』が、膨張しきった陰茎を含んで口技を再開する。
情熱にあふれたその動きと、生々しい女の匂いとが、リンクをさらに高揚させ、舌の活動を激しく
させる。それがますます『副官』を煽り、煽られた『副官』がなおもリンクを煽って……
 陶酔的な相互吸綴は、限界に至る前に中断された。リンクの上で身を起こした『副官』は、
くるりと向き直ると、哀願するような視線を送ってきた。リンクが頷くが早いか、『副官』は
直立していた物に手を添え、大きく開いた股の中心に先をあてがい、ゆっくりと身を沈めた。
 目をぎゅっとつぶり、しばらく『副官』は凝固していた。自分を貫く剛直を、深々と味わって
いるようだった。リンクの方も、剛直をきつく包む肉の鞘の感触を、じっと横たわったまま賞翫した。
 やがて『副官』は、ゆるゆると体動を始めた。同じ体位ではあっても、他の連中のような
荒っぽい上下動ではなく、リンクを感じ、リンクに感じさせようとする、温雅で複雑な動きだった。
リンクはなおもおのれを押しとどめ、ゆったりと舞うがごとくの『副官』を、目と局部で
じっくりと味わった。
『副官』の舞いは次第にテンポを速め、吐く息は深くなった。その息の下から、
「突いて」
 と漏らされた言葉に応え、リンクは周期的に腰を上下させた。同時に、それまで敢えて
放り出していた両手を、『副官』の肌に這わせていった。
1403-8-2 Gerudo Women -2 (4/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:49:43 ID:7nhaBmHm
「……ん……ん……ん……ん……」
 突きに一致した『副官』の呻きに心を躍らせながら、リンクはその肌をまさぐった。横たわった
状態からでも、ほぼ全身に手が届いた。それは『副官』が小柄な方だったからだが、熱っぽく
張りきった皮膚は、内から湧き出る活動力の強さを表すかのようで、体格以上の存在感を
主張していた。乳房もまた、小さめながら生き生きとした弾力を持ち、若さの凝縮を感じさせた。
 両腋に生えた毛は印象的だった。男が髭を剃るように、これは女の身だしなみなのだ、と言って
腋毛を剃っていたアンジュとは異なり、ゲルド族の女はその処理を行わないようである、と、
すでにリンクは気づいていたが、間近で見る『副官』のそれは、彼女の野性味を強調し、一風
変わった興奮を与えてくれるのだった。
 上体を立てていた『副官』が、結合を保ったまま、がくりと前に身を折った。両手で頬を
はさまれ、激しい勢いで口を吸われた。劣らぬ勢いで応じつつ、膝を立て、腰の動きを速める。
前傾に伴って『副官』の身体は少しく前に寄っており、その下半身を斜め下から突き上げる形に
なった。『副官』の動きは前後方向に近いものとなり、リンクが腕を背にまわして抱き寄せる
ことで、勃起した二人の乳首がこすれ合った。
「あぅ!」
「お!」
 同時に発する声が、互いを、そして各自を励起させ、二人の活動は勢いを増した。
 口と、胸と、性器と、さらには可能な限りの範囲の肌とで、二人は交わり、快感はどんどん
増幅していった。
 このままいってしまおうか──と、思いかけた時、
「あ! う! あぁッ! はぅッ!」
 急に『副官』の声が高まり、動作が止まった。きゅん、と膣壁が縮まったとみるや、肢体に
震えが走り……やがて、終息した。
 絶頂したのだ。
 一度、達してしまったのだから、もう終わりか。
 ふくらむばかりの欲情を抱えながら、またも機を逸し、煩悶に身を焼かれる思いで、リンクは
周囲の空気をうかがった。
 場は静まりかえっていた。誰も止めに入らなかった。
 ──かまうもんか!
 脳の安全弁が吹っ飛び、理性が砕け散った。
 がばりと身を起こし、坐して『副官』を抱きかかえる。いまだ力の戻らない『副官』を、ずいと
床へ押し倒す。両脚をつかんで大きく広げ、前に押しやり、上から野蛮な突きを開始する。
 もうまわりのことなどどうでもいい。相手のことすら思う余裕がない。
 突いて、突いて、突いて突いて突いて突いて突きまくって、ひたすらに、ただひたすらに、
おのれの到達点を目指して、目指して、そう、それはもう、もう、すぐそこまで来ていて……
「リンク!」
 叫びが意識を呼び戻す。はたと見下ろす目に、『副官』の顔が像を結ぶ。
 苦しげにゆがむ表情は、しかし歓喜をも宿し、さらなる密着を求めていた。
 脚から手を離し、頭をかき抱く。上げられていた両脚が、そのままリンクの腰に巻きつき、
そして両腕が背に巻きつき、力をこめて引き寄せる。互いの前面をぴったりと合わせ、けれども
肉柱のみは、急速な上にも急速な運動を続け、続け、続け──
「んんあぁッ!!」
 ついに得た到達点で、獣めいた唸りとともに、洞窟の深奥に奔流を浴びせかけ、直後、その
洞窟が急激に収縮するのを感じ取り、おのれの霞みゆく目で、相手の潤み果てる目を捉え、そこに
喜悦の終末を確かめ得た時──
 リンクはすべての力を失った。
1413-8-2 Gerudo Women -2 (5/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:50:40 ID:7nhaBmHm
「悪かったね……」
 その声に、はっと目が開いた。いや、起きてはいたのだが、靄がかかったように脳がぼんやりと
していて、まとまったことを何も考えられない状態だったのだ。まだ身体がゆるゆると回転して
いるような気がする。心臓の鼓動に合わせ、頭の芯でどくどくと鈍い痛みが反復する。酒の酔いが
続いているのだろうか。
「……無理にやらせちゃって……」
『副官』が続けた。小さな声だった。
「いや……」
 反射的に応じる口は、しかしそれ以上の言葉を出せなかった。朦朧とする意識の中で、リンクは、
ばらばらになった思考を少しずつ組み直そうと試みた。
 確かに『副官』は強引だった。いけないと思いながらも、ぼくは『副官』に圧倒されて……いや、
『副官』のせいじゃない。結局はぼくが欲望に負けて……酒に酔って心の抑制を失ってしまった
ためか……
 違う。酒のせいでもない。欲望に負けたんでもない。これはぼく自身の意志だった。何がぼくに
そうさせたのかというと……
「なんだか……急に……男に抱かれたくなっちゃってさ……」
 自嘲めいた口調で、『副官』が呟く。
「あたしは、もともと受け身なたちで……抱くよりも、抱かれる方が、嬉しい女なのさ……
ナボールの姐さんやシークに抱かれて……それが……あたしには……いちばん合ってるやり方で……」
 訥々とした告白が、リンクの意識を徐々に明るくする。やっと自分の体勢に気づく。リンクは
『副官』の背に左腕をまわし、『副官』はリンクの左肩に顔をのせて、寄り添って横たわって
いるのだった。
「それが……ここんとこ……気の張る生き方をしてきて……弱気になっちゃいけないって……
そればかり思って暮らしてきて……」
 そこで『副官』は、ふっと寂しげな笑いを漏らした。
「疲れてたんだろうね……あたしは……」
 わかるような気がした。
 砦にいる集団の中で、『副官』は最も若い世代に見える。そんな歳で頭を張れるのは、相応の
能力があるからだろう。シークによれば、『副官』という彼女の渾名は、かつてのリーダーである
ナボールに懐いていたことに由来するのだが、のちにはその名に恥じない人望を得るようになった、
という経緯もあるのだ。とはいえ、年少者が上に立って仲間を束ねるのは、たいへんな仕事のはず。
そもそも『副官』が砦に戻って新しい生活を始めたのも、最初はただ一人でのことだったのだ。
ずいぶん苦労を重ねてきたに違いない。
「そこへ、シークの友達だっていうあんたが来て……シークのことを思い出しちまって……
そうなると……もう矢も楯もたまらず──ってやつでさ……」
『副官』が顔を上げ、いかにも申し訳なさそうな目を向けてきた。
「ほんとに……あんたには悪いことを──」
「いや」
 さっきと同じ言葉で、リンクはさえぎった。しかし今度は、さっきとは違って、言葉に明確な
意味をこめた。
 抱き合う前、『副官』がぼくに示した態度。男に抱かれたいという、女の願い。救いを求めて
やまない、あのはかなげな思いを、ぼくは受け止めてやらずにはいられなかった。そうしなければ
ならないと思った。だからぼくは、その意志をもって『副官』を抱いたのだ。
 ぼくはシークの代役だったのかもしれない。だが、それがどうだというのか。たとえそうだと
しても、『副官』がぼくを求めて──そう、行為の最中、『副官』はぼくの名を叫んだではないか──
そして、ぼくが『副官』の求めに応えることができたのなら、それで……
「いいんだよ」
 微笑んで、『副官』の額にそっと口づけする。
「ぼくも、嬉しいから」
 不思議そうな表情となったのち、『副官』の顔は、ほっと和らいだ。
「……そうかい……なら……よかったよ……」
 再び頭が肩に寄せられる。
 並び臥す二人に、静かな時が覆いかぶさっていった。
1423-8-2 Gerudo Women -2 (6/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:51:32 ID:7nhaBmHm
 やがて『副官』は上体を起こし、今度は、やや活気を帯びた声で言い始めた。
「けどね、男と楽しむやり方を仲間たちに教えてやるっていうのも、まんざら、ただの方便じゃ
なかったんだよ」
 意味ありげな笑みを浮かべ、『副官』は周囲に目をやった。
「こいつら、初めはなんだかんだと茶化してやがったが、どうやら、あたしたちにあてられちまった
ようだ。ほら、見てみなよ」
 初めてまわりに注意が向いた。あちこちでくぐもった声がする。前から聞こえていたはずなのだが、
その時まで気にもならなかったのだ。
 勧めに従って上半身を立て、あたりを見まわしたリンクは驚愕した。
 女たちがさまざまな格好で蠢いていた。
 こちらを見ている者はいない。みなが各々の行為に没頭している。
 隣では、立て膝をついた一人の女が、息を荒げ、股間にやった手を激しく動かしていた。
「これは……」
 リンクは絶句してしまったが、『副官』は平気な顔だった。
「オナってんだね」
「え?」
「オナニーだよ。男もやるだろ。あんただって、あたしらにとっつかまる前にやってたっていう
じゃないか」
「ああ……でもあの時は、誰かが……マスをどうとか言ってたけれど……」
「マスをかいてたってんだろ。マスターベーション。そうとも言うのさ。他にも、自慰とか
自涜とか手淫とかね。だけど、あんた……」
『副官』が顔を覗きこんでくる。
「そういう言葉を知らないのかい?」
「あ……うん……」
 ハッ──と『副官』は短く笑い、
「変な男だねえ。やることはやっときながら、それを何ていうかは知らないなんてさ」
 あきれたような声であとを続けた。
 気恥ずかしかったが、おのれでおのれを弄ぶ行為の名称がわかり、男も女もそれをすると
知れたのは、収穫ではある。セックスについては、まだ自分の知らないことが、たくさんあるようだ。
1433-8-2 Gerudo Women -2 (7/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:52:22 ID:7nhaBmHm
 その知らないことが──と、リンクの視線は動く。
 これだ。
 絡み合う全裸の女たち。ある二人は、正面から向き合って互いを抱き、乳房と秘所をこすり
合わせている。別の二人は、互い違いの向きで秘部に口をつけ合い、盛んに舌を使っている。
他にもいろいろな行為が、いろいろな組み合わせで展開されていた。
 男女のセックスと格好は似ているが、それが女と女でなされているという点が、リンクの意識を
奪っていた。
「どうしたんだよ、ぽけーっとして」
『副官』の声で我に返るが、眼前の光景からは目を離せない。
「あんた、女同士のまぐわいを見るのは……その様子じゃ、もちろん初めてなんだろうが……
ひょっとして、そのこと自体、知らなかった──とか?」
 一言も発せないまま、こくりと頷く。
「意外にウブなんだねえ。あたしとやってる時には、立派な男だったっていうのにさ」
 からかうように『副官』が言う。その態度からは、先ほどまでのしおらしさは消え、かわりに
何とはない優越感がうかがわれた。ただそれは、無知なリンクをあざ笑うといったものではなく、
『しようがないね』とでもいうような、微笑ましげな好意をこめたものと察せられた。
「よそじゃどうだか知らないが、ゲルド族は女ばかりだから、女同士のセックスなんて、珍しくも
何ともないんだよ。男も女も両方こなすのが普通のゲルド女なのさ。どっちが好きかは人それぞれ
だがね」
 リンクは先の『副官』の言葉を思い出した。
『ナボールの姐さんやシークに抱かれて』
 そう、『ナボールの姐さん』だ。その時は聞き流してしまったが、『副官』はナボールとそういう
関係にあったのだ。
 そこで『副官』が、にやりと笑って言った。
「男同士のセックスもあるって、あんた、知ってるかい?」
「えッ!?」
 思わず大きな声が出てしまう。
 女同士のセックスがあるのなら、男同士のセックスだってあるだろう。理屈ではそうだ。が……
 もともとベニスのない女同士なら、ありのままに触れ合うだけで、事はすむだろう。しかし
ペニスを持った男が、挿れる場所もない男相手に……いったい……
「どうやって……」
「尻の穴を使うのさ」
 こともなげな『副官』の言葉に、リンクは二度びっくりした。
「別におかしなことじゃないよ。女だって男の物を尻の穴に挿れるんだから。それくらいは
知ってるだろ? 知らないのかい?」
「いや、それは……知っているけれど……」
 知っているどころか、実行したことさえある。だから思いついて当然だったのだ。それを
思いつかなかったのは、男同士の行為というものを想像すると、あまりにも異常で、違和感が
あって、信じられないような気がするからだ。
 男の肛門に挿入する自分を思い浮かべるだけで、頭がくらくらする。ましてや、その反対に……
1443-8-2 Gerudo Women -2 (8/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:53:35 ID:7nhaBmHm
 ぞっ──と、リンクの背筋を何ともいえない異様な感覚が駆け抜けた。
「興味があるかい?」
 面白がっているふうの『副官』に対し、必死で首を横に振る。
「ない? まあ、それが普通の男ってもんだろうね。いずれにしても、男同士のまぐわいなんて、
ここじゃ関係ない話さ」
『副官』は上を向き、からからと笑った。が、急にその笑いを止め、
「いや、そうでもないか」
 と言うと、奇妙な感じの笑みをリンクに投げたのち、室内を見まわした。何かを探している
様子だったが、すぐにそれを見つけたようで、リンクの腕を引っぱった。
「あれを見てごらん」
 指さす方に目をやると、仰向けに横たわった一人の女の上で、向かい合う別の一人が激しく腰を
動かしていた。男のような動きだ──と思ったリンクは、次の瞬間、上になった方の股間に男の
持ち物を見いだし、仰天した。
 一団の中に男がいたのか? ゲルド族に男は百年に一度しか生まれない、今の世ではそれが
ガノンドロフなのだ──とシークは言っていたが……あの男は……
 いや、待て。あれは男じゃない。胸の隆起は明らかに女のものだ。ということは……
 しばし注視し、やっとそれが真の男根ではないとわかった。男根を模した人工物だ。付帯した
ベルトを腰に巻き、股間からそれを突出させて、男のように装っているだけなのだ。
「驚いたかい?」
『副官』が顔を寄せてきた。
「あれは張形といってね。見りゃあわかるだろうが、女同士の時、ああやって片方が男の役をする
ことがあるのさ。ほら、あいつも使ってるよ」
 その別の女は、顔をとろんとさせ、ベルトのない偽の男根のみを手に持って、ゆっくりと股間に
出し入れしていた。オナニーの道具として使用しているのだ。
「あんなので……気持ちがいいのかな?」
 素朴な疑問が湧く。
「それなりだね。ほんとの男の方がずっといいと、あたしは思うよ。でも男がいなきゃ、ああでも
するしか方法はないし……それに女同士が好き合ってるんなら、あれでも充分、役に立って
くれるのさ。あたしと姐さんもそうだったし──で、何が言いたいかっていうとだね」
 いったん言葉を切り、『副官』は凄みを感じさせる表情になった。
「張形をつけた女相手なら、どうだい?」
「どうだい──って?」
「だからさ、そういうふうにすりゃ、あんたは男同士のやり方を真似て、だけど実際には女を
相手にして、受けに回れるってわけさ。やってみる気はあるかい?」
「冗談じゃないよ!」
 本気で憤然としてしまう。
 文字どおり、女に犯されるっていうことじゃないか。男同士の方が、まだわかる。
「ちょっと言ってみただけだよ。本気にしなさんな」
 くつくつと笑いながら、『副官』は煙に巻くような台詞で事を収めた。
 とりあえずは、ほっとした。だが考えてみると、もし自分にシークの友人という特権がなく、
囚われのままであったなら、そういう目に遭わされていたに違いないのだ。
 女と女。男と男。そして男女の逆転。女が男の役割を果たし、男が女の役割を果たす、男女の
区別すら不明確な、奇怪ともいえるセックス。
 思いもよらなかった性の世界の深淵を垣間見て、リンクの思考は、またも大きな混乱の渦に
巻きこまれていくのだった。
1453-8-2 Gerudo Women -2 (9/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:54:49 ID:7nhaBmHm
 その混乱を抑えようとして、リンクは別の話題を持ち出した。『男と楽しむやり方を仲間たちに
教えてやるっていうのも、まんざら、ただの方便じゃなかった』という『副官』の言葉の意味が、
疑問として残っていたのだ。その点を問いただしてみると、
「ああ、あれね」
 真面目な顔になって、『副官』は話し始めた。
「あんたもさっき経験したように、ゲルドの女にとって、男といやあ犯すものだ。女同士なら、
いまのこいつらのように──」
『副官』は周囲に顎をしゃくって見せ、ふっと短く息を漏らした。
「──お互い仲よく抱き合えるんだがね。まあ、それがゲルド族の流儀だ、と言ってしまやあ
それまでなんだけど……」
 と言葉を収めつつも、『副官』の表情には鬱勃とした思いが感じられた。その表情のままに、
『副官』は話を続けていった。
 ゲルドの女が、まともだと認めて接する男は、ガノンドロフだけだ。ガノンドロフにはゲルドの
王という地位があり、さらに独特の妙な牽引力もあって、一族の女たちのほとんどが、セックスも
含めたあらゆる面で、彼に服従を誓っている。
 しかし中には少数ながら、ガノンドロフに反発を感じる者がいる。かつてのナボール党が
そうだった。いまこの砦にいる面々も、その一部だったのだから、もちろん同じだ。反発の原因は
さまざまだが、セックスの面でガノンドロフとの接触を嫌う点では、誰も変わりがない。自分や
ナボールのように、はなからガノンドロフとの性交を拒否した者もいれば、一度はガノンドロフと
交わりながら、肉体的、あるいは精神的苦痛を伴うなどして嫌悪の情が引き起こされ、以後の
交渉を断った者もいる。
 ただそれゆえに、ここの連中は男相手の真のセックスというものを知らない。ガノンドロフに
抱かれて──誰もそんなことは望んでもいないのだが──恍惚に喘いだ経験がなく、襲撃などで
捕らえた男を「生の張形」としてぞんざいに取り扱うだけだったのだ。
「あたしはシークのおかげで、男と交わる悦びを知ることができた。男とそんなふうに接する
こともできるんだってことが、よくわかったのさ。だからそれを仲間にも知って欲しいんだよ。
そうすりゃ楽しみの範囲が広がるし……それに……」
 そこで『副官』は言いよどみ、ためらっている様子だったが、すぐに熱心な口調で言葉を継いだ。
「最近、あたしは思うんだけど……人と人とのつき合いって、そういうところが大事なんじゃ
ないかな。軟弱と言われるかもしれないが、ゲルド族だって、これからはそのへんのことを
考えないと……いままでさんざん男をおもちゃにしてきて、ハイラル王国を滅ぼしちまった
ゲルド族の、その一員のあたしが言える立場じゃあないってことはよくわかってるけど、それでも
……このままじゃあ……この世界が……」
「それは──」
 咄嗟にリンクは口をはさんだ。
「──とても大事なことだと思う。もし君が……君たちが……他の所の人たちと仲よくやって
ゆけるのなら……」
『副官』もまた、世界の危機を感じている。それと知り、リンクの胸は高鳴った。
 先に『副官』が語ったゲルド社会の動揺は、リンクとシークが推測した内容を裏づけるものであり、
リンクにもその重要性は深く理解できていた。
 ゲルド族の中に、ガノンドロフへの懐疑が生まれている。『副官』はそれを契機として、独自の
活動を開始した。これらの動きを活用すれば、ゲルド族をガノンドロフから離反させることが
できるかもしれない。
 ただ『副官』には、ナボールの件は話してあるものの、自分の使命についての詳細は明らかに
していない。腹を割った話が必要だが、『副官』には積極的な裏切りをさせることになる。話は
慎重に進めなければ……
 思いをめぐらすリンクに向け、
「あんたもそう思うかい」
 我が意を得たりとばかりに『副官』は表情を明るくし、次いで、こう言った。
「じゃあ手始めにさ、あんたがここの連中と仲よくしてやってくれないか?」
1463-8-2 Gerudo Women -2 (10/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:55:34 ID:7nhaBmHm
 翌日から、ゲルド族一団の協力のもとに、砂漠へ向かうリンクの旅の準備が始まった。
 食料に関しては、砦はある程度の自給自足体制を整えており、以前からの備蓄も豊富だったので、
必要な分を供給してもらうことに問題はなかった。水も充分にあった。衣服については、
男まさりのゲルド族の中にも手先の器用な者はいて、かなり傷んだリンクの服を補修してくれたし、
砂や直射日光を防ぐために身にまとう大きな布も得ることができた。その他、コンパス、医薬品や
包帯、砂を掘るシャベル、緊急連絡用の発煙筒などが提供された。
 問題は、砂漠では馬による移動ができないため、あまり多くの荷物を持って行けないことだった。
剣と楯は手放せなかったし、爆弾やデクの実も捨てては置けない。そのうえ新たな品を携行すると
あっては、食料や水の量を制限せざるを得なかった。
 ゆえに、行程の無駄はできるだけ省かねばならなかった。だが巨大邪神像までの正確な道筋を
知っている者は、砦にはいなかった。かつてそこへ向かった者が、道しるべとして赤い旗を残して
いる、とのことだったが、それがどれほど残っているかは不明だった。ただ、中間地点に地下室を
備えた建物があると知られており、まずはそこを目標にすべきだと思われた。
 砂嵐が治まるまでには一週間はかかる、と予測されていたが、旅の準備は二日のうちに終わって
しまった。けれどもリンクは、残された日を無駄にはしなかった。
 砦には武芸にいそしむ者のための修練場があり、そこでリンクは、一団の面々と剣術の腕を
競った。ゲルド族の剣技は独特で、刃渡りの長い堰月刀を使いこなし、しかも二刀流を披露する
者もいて、初めのうちリンクはかなり戸惑った。しかし立ち合うほどにこつもわかり、リンクの
剣は彼女らを圧倒するようになった。みなは率直にリンクの腕を賞賛した。
 弓術も試してみた。それまで弓の経験はなかったが、慣れてくると、そこそこ的に矢を
当てられるようになった。女たちは、初めてにしては筋がいい、と言ってくれた。
「流鏑馬もやってみるかい」
 と言われ、リンクはエポナに跨って挑戦した。
 エポナは、リンクが捕らえられた際、一団によってともに捕獲されていた。
「その気になりゃ逃げられただろうに、あんたが心配だったんだろう、捕まえた時も、暴れもせず、
おとなしくしてたよ。いい馬を持って、あんた幸せだね」
 馬を大切にするゲルド族にそう言われて、リンクは嬉しかった。実際、エポナの体躯や
運動能力は、ゲルド族の目から見ても優れたものであるらしく、リンクは女たちから、常に羨望の
言葉を寄せられた。
1473-8-2 Gerudo Women -2 (11/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:56:18 ID:7nhaBmHm
 そのエポナをもってしても、流鏑馬はどうにもならなかった。原因はエポナにではなく、むしろ
リンクの技量にあった。走るエポナに乗り、手綱から両手を離して弓を構え、射た矢を的に当てる、
といった一連の動作を会得するのは、一朝一夕ではとうてい不可能なことだったのだ。リンクは
まともに矢を射ることさえできず、挙げ句の果てには落馬する始末だった。
「ほらほら、何やってんだよ」
「へったくそだねえ、まったく」
 すごすごと引き下がるリンクに、女たちは遠慮なく嘲笑と罵声を浴びせた。だがその態度は
決して悪意によるものではなく、あけっぴろげな親しみの発露といえた。リンクにもそれは
わかっていたので、怒りなどは覚えず、みなと一緒になって自分自身を笑うことができた。
 そんなゲルドの女たちとの日々は、リンクにとって心楽しいものだった。彼女らの口のきき方は
荒っぽく、時には仲間うちでも喧嘩のようなやりとりになったが、あとを引くようなことは
なかった。みな大らかで、さっぱりとしていて、親切だった。
 型にはまった礼儀作法がない点も気に入った。リンクが最初の日から見聞きしたように、
リーダーである『副官』に対してさえ、誰もかしこまった物言いはしなかった。『副官』の方も、
それを当然と思っているようだった。『副官』が年少だからではない。他の連中の間でも、年齢の
上下による立場の差はなかった。にもかかわらず、みなが『副官』に多大な敬意を抱いている
ことは明らかだった。自身がもともと礼儀作法に頓着しない生活を送ってきたせいもあり、
そのような人間関係が、リンクには快かった。
 とはいえ、そうした日々は、必然的にリンクを一つの疑問へと誘うことになった。
 これまでリンクは、ゲルド族を敵としか認識していなかった。実際、ハイラルの各地で暴威を
振るうゲルド族に対しては、いまでも大きな憤りを感じる。ところが自分が接している連中に
対しては、憤りどころか好感すら覚えるのだ。彼女らが反ガノンドロフであり自分の味方である
ことが、その理由であるのは確かだが、しかしそれだけでは完全な説明にはならない。いったん
戦場に出れば、他のゲルド族と同じく、彼女らもまた、剽悍な戦士として暴れまわるに違いない
からだ。
 ほんとうにつき合ってみなければ、その人となりはわからない、ということなのだろうか。
だとしたら、ふだん親しくつき合う機会のない者同士が敵対し、一方が他方を隷属させている、
この世界の現状は、何と不毛なものであることか。
 こうした自身の疑問に照らし合わせてみると、『副官』の意図するところがよくわかる。
 魔王となったガノンドロフは、もはやゲルド族すら眼中になく、世界を滅びに導こうとしている。
それを防ぐには、いままでにはなされなかった、新たな行動を起こさなければならない。部族の
違いを超えた協力が必要なのだ。
 その行動は、まさに自分の使命と合致する。
 再びリンクは思う。
『副官』を、そして他の面々を、真の同志としなければならない。が、そのためには……
『ここの連中と仲よくする──か……』
 いま、自分は、昼間、こうやってみんなと仲よくしているわけだが……
 リンクはため息をついた。
 それは昼だけでなく、夜にも行われるべきことなのだった。
1483-8-2 Gerudo Women -2 (12/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:57:26 ID:7nhaBmHm
 リンクと交わった日の翌朝、『副官』は仲間たちを前に、こう宣言した。
「あんたらの中で、あたしのように、男と楽しむやり方を経験したい者がいたら、そう言いな。
リンクが教えてくれるってさ」
 全員が一斉に手を上げた。
「ふふん、ゆうべのあたしらを見て、あんたらもその気になったかい」
『副官』は含み笑いをし、リンクに向き直った。
「──というわけだ。よろしく頼むよ」
 前夜、『あんたがここの連中と仲よくしてやってくれないか?』と『副官』に言われた時、
リンクは大いに驚いた。
 確かに、ゲルド族は、よその男と仲よくやっていくべきだ、と思う。だが、その男が自分に
なるとは考えていなかった。
 リンクは抵抗を試みたが、男に対する仲間たちの視野を広げてやるため、という大義名分を掲げ、
のみならず、ここらにはリンク以外に適当な男はいないから、と理屈を述べる『副官』に、
とうとう押し切られた。『副官』の宣言の際にも、何とか少人数ですめば、と期待をかけたのだが、
それもかなわず、全員を相手にするはめになってしまった。
 困惑するリンクをよそに、女たちは勝手な相談を始めた。
「出発までは一週間ってとこかね」
「じゃあ一晩に一人か二人だな」
「一人何回まで?」
「あんまりやらせちゃ、旅に差し支えるだろう。一人一発にしとこう」
「どうせならさあ、二人っきりでやらせてもらえないかなあ」
「うーん、やってるのを見たい気もするんだが……」
「見たい奴が二人で組になって、三人でやりゃあいいんだよ」
「お、名案」
「じゃあ、いつ、誰がやる?」
「危険日と生理日を考えないとな」
 あっという間に予定が組み上がった。全員の合意により、ことは当事者のみが一室にこもって
行うと決められた。一対一を希望した五名は、各人がリンクと二人きりで一夜を過ごせるわけ
だった。残りの四名は二組のペアを作り、やはり各組が一夜ずつリンクを独占することになった。
リンクの意思は全く顧みられなかった。
 リンクは天を仰ぎたくなるような気分だった。が、それでいて実は、彼女らとの交わりを心から
忌避したいわけではない、という点が、リンクを当惑させていた。
 日中、親しくやりとりするうち、リンクは彼女らを、ゲルド族と一括して見るのではなく、
個々の人間として分けて見ざるを得なくなっていた。肌や髪の色、衣装などは同様であっても、
風貌や気質にはそれぞれ確かな個性があり、どれも相応の魅力を備えていた。さらに、みなの示す
親愛の情が、各人のことをもっと知りたい、というリンクの気持ちを強くさせていた。
 それがリンクを動かした。
 彼女らとはすでに一度ずつ交わっている。しかしその交わりは、きわめて不自然かつ不完全な
ものだった。このままにしておいては、彼女らに対して、かえって誠実ではないことになるだろう。
 忸怩たる思いを抑え、リンクは結論した。
1493-8-2 Gerudo Women -2 (13/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:58:09 ID:7nhaBmHm
 規律正しいというのか、義理堅いというのか、リンクとの交渉は夜に行う、と決めてしまうと、
女たちは、昼の間、リンクに手を出そうとはしなかった。仲間に黙って抜け駆けをしようとする
者もいなかった。ただし態度は積極的であり、リンクに向け、諧謔をこめて、夜への期待を露骨な
言葉で表現したり、いい男だと褒めそやしたり、過去の経験を聞き出そうとしたり、といった
例には事欠かなかった。
 だが、そのような余裕ある態度は、昼間の彼女らが集団であったがためのものかもしれない。
 いざ夜の寝室で個別に相対してみると、程度の差はあれ、女たちの態度はどれも神妙なものに
なった。どうやってリンクと接したらいいのかわからず、戸惑っている様子だった。
 戸惑いを感じるのはリンクとて同じだった。アンジュに女を教わったのは、ついこの間のこと
なのに、その自分が今度は、教える立場となってしまったのだ。が、事ここに至ってはしかたがない、
と腹を決め、リンクは行動に出た。
 女たちの肉体は実に多彩だった。容貌、身長、体格、髪の長さなど、すでに把握していた特徴に
加えて、衣服を脱ぎ去った彼女らの姿は、乳房の大きさや形、恥毛の範囲や密度といった、
性的存在としての特徴を、雄弁に主張していた。間近に見れば、同じと思えた髪や肌の色でさえ、
みな微妙に異なっていた。
 視覚のみが多様性を認識したのではない。身体を合わせてみると、肌の性状や皮下脂肪の量、
口から漏れる言葉や喘ぎ、身体から発散する匂いの相違を、それぞれ触覚、聴覚、嗅覚が感知した。
全身に舌を這わせることにより、味覚さえもが個々を感じ分けられるような気がした。
 多様性が示されたのは、肉体だけではなかった。各人が表すリンクへの反応にも違いがあり、
日中に感じた彼女らの気質の差が、それに反映されているようだった。行為を重ねるうちに
わかってきたのだが、女同士の交わりで受けに回る者は、リンクを相手にしても、比較的容易に
心身を開く傾向があった。反対に、攻めるのが好みの者は、どこか動きが硬く、ぎこちないものに
なりがちだった。そうした違いを各々の特性として認識しつつ、最善と思われる対応を、リンクは
試みた。前者に対しては、初めから攻勢に出て、種々の行為へと誘導した。後者に対しては、
ゆっくりと時間をかけて、硬さを解きほぐしてやった。
 その対応が真に最善であったかどうかはわからなかったが、誰も文句を言わなかったところを
みると──あけっぴろげな彼女らのこと、不満があれば遠慮なく言い立てていたに違いない──
自分のやり方は間違いではなかったのだろう、と、リンクはひとまず安心した。
 男を性奴隷としか見なしてこなかった彼女らにとって、最大の関門は、ペニスを口に含むことで
あっただろう。本来なら屈辱ともいえる行為を、しかし彼女らはみな、結局は自発的に行った。
それはリンクの真摯な行動がもたらした成果であり、技巧的にはお世辞にも優秀とは言えなかった
ものの、彼女らを動かし得たことで、リンクは深い満足感を覚えた。
 そこまでくると、彼女らはもう、全面的にリンクを受け入れる態勢となっていた。各人の望みに
沿った体位をとって、リンクはおのれを膣内に進め、男としての強さを発揮した。我を忘れて
悶える女たちの動きに耐えるのは難事だったが、一人一回と決められている以上、自分が先着する
わけにはいかない。リンクは我慢を重ね、相手が先に到達するのを確かめてから、初めておのれを
解放し、その熱した体内で精を放った。
 二人組と事をなす場合は、少し様相が異なっていた。同僚が横にいるとあって、女たちは
一対一の場合よりも行動的だった。初めリンクは単純に、自分が片方と交わっている間、
もう片方がそれを見物するのだろう、としか思っていなかったのだが、見物する側は例外なく
奔放に自慰を行い、そればかりか交わりに合流さえしてきたのだった。
 一方の女が後背位でリンクを受け入れながら、もう一方の女の秘所を舌でなぶる、という
組み合わせもあれば、一人が仰向けになったリンクの腰の上で陰茎を膣に収め、もう一人は顔に
跨ってリンクの舌を局部に受け、向かい合った二人が胸と口を求め合う、という組み合わせも
あった。正常位で重なる二人の女の、さらにその上にリンクが重なり、二つ並んだ膣を交互に
攻めることを要望される場面もあった。
 三人で行うセックスは、リンクをすこぶる驚かせ、興奮させたが、ここでもリンクは役割を
忘れず、女たちが最終的に絶頂するまで、自分を保ちきった。
1503-8-2 Gerudo Women -2 (14/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:59:04 ID:7nhaBmHm
 一週間をかけて、リンクが全員との行為を果たし終えた頃には、予想どおり、砂嵐も終息の
気配を示していた。
 リンクと一緒にいられない間、自慰や女同士の交わりで気を紛らわせる他の連中とは異なり、
『副官』だけは禁欲を通していた。それは、リーダーとして毅然たる態度をとる、といった立派な
理由からではなかった。
 真意が明らかとなったのは、出発を翌日に控えた最後の夜のことだった。仲間たちの了解の
もとに、その一夜をリンクと共有した『副官』は、溜まりに溜まった欲情をここぞとばかりに
吐き出し、慎みのかけらもなくベッドの上で乱れ狂った。毎夜の性交を経てきたリンクも、
『副官』の嬌態にはそれまで以上の情熱をかき立てられ、一心に身を躍動させることとなった。
 全裸で激しく互いを貪りつくした末、二人はともに頂点に達した。
 事後の余韻をしみじみと味わう安楽な時間を、抱き合う二人は沈黙のままに過ごした。
 言葉は、やがて『副官』から発せられた。
「ありがとうな」
 言ってから、あわてたように『副官』は続けた。
「いや、仲間たちのことさ。みんな、あんたには満足してる。よくやってくれたよ」
 女たちが自分をどう評価しているかを、リンクはある程度、知っていた。経験ずみの者たちが
わいわいと談じ合うのを、耳にしたことがあったのだ。
『こんな素晴らしいやり方を知らなかったなんて、ほんとにもったいないことをしてたよ、
あたしゃ』
『確かに、病みつきになりそうだな』
『そうか? そこまで言うほどのもんでもないだろうが』
『女同士でやるよりは、よかったと思うぜ』
 分け隔てなく接したつもりだったが、各人の感想には温度差があり、リンクは複雑な気持ちに
なった。
 だが、いまの『副官』の言によれば、おおむね好評と受け取っておいていいだろう。
 安堵したリンクは、以前にも考えていた案のことへと考えを移した。
 彼女らが男とのつき合い方を改め、ゲルド族以外の人々と新たな関係を築いていこうと
いうのなら、反ガノンドロフ勢力を強化するチャンスになる。『副官』には、ここではっきりと
言っておいた方がいい。
1513-8-2 Gerudo Women -2 (15/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 00:59:57 ID:7nhaBmHm
「実は……」
 心を決めたリンクは、『副官』に対し、自らの目的について、それまでよりも、もっと
突っこんだ点を語った。
 自分の使命は、ガノンドロフを打ち倒すことである。ガノンドロフを孤立させるために、
ゲルド族を離反させることができないか。『副官』たちに、その役割を担ってはもらえないだろうか。
 真剣な表情で、『副官』はリンクの話を聞いていた。聞き終わると、思ったほどの驚きも示さず、
冷静な声で『副官』は言った。
「あたしもそう考えてたのさ」
 このままガノンドロフをのさばらせておいては、とんでもないことになる。決してゲルド族の
ためにはならない。自分の力はあまりにも小さく、具体的にどうしたらいいのか、ずっと
思いあぐねていたのだが、リンクがガノンドロフ打倒を目指して突き進むのなら、自分は全面的に
協力する。ここの仲間たちが同意してくれるのは間違いないし、他にも、ここにはいない以前の
ナボール党員や、さらには最近の不吉な情勢に動揺している別の連中を説得して、味方に
引き入れることはできるだろう。
 明白な裏切り行為になってしまうが──と、リンクは危惧を口にしたが、『副官』は動じなかった。
「あたしに言わせりゃ、これは裏切りじゃない。裏切ったのは、ガノンドロフさ。あいつの方が、
あたしらゲルド族を裏切ったんだ」
 憤りをあらわにする『副官』は、次いで深刻な顔になり、
「ナボールの姐さんも、あたしと同じことを考えてたと思うんだ。だから──」
 じりじりしたように言うと、リンクの腕をつかみ、熱心な調子で続けた。
「どうにかして姐さんを見つけて、連れて帰ってきてくれ。姐さんがいたら、きっと大きな勢力が
できる。ゲルド族全員をガノンドロフから引き離すのだって、夢じゃない」
 そこで『副官』は口を閉じ、間をおいて、ぽつりと言葉を漏らした。
「頼むよ」
 リンクも『副官』の手を取り、短く、しかし強い思いをこめて言った。
「わかった」
『副官』の意志が思いのほか堅固であり、自分の望みに沿って動いてくれることがわかって、
リンクは大いに力づけられた。
1523-8-2 Gerudo Women -2 (16/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 01:01:09 ID:7nhaBmHm
 ほどなく『副官』が、がらりと変わった口調で言い出した。
「方針も決まったところで、だ。まだ夜は長い。もう一回どうだい?」
 言われた直後は、何のことかわからなかった。やっと気づいた時、からかうような声が
かぶさってきた。
「どうしたい、妙な顔して。もう身体がもたないか?」
 煽られていることは明らかだった。リンクの中で、むらむらと対抗心が湧き上がった。
 連夜のセックスなど全く負担にはなっていない、と言えば嘘になる。けれども体力は保たれている。
苦しい旅を続けてきたのだ。この程度のことで参ったりするものか。砦に来てから、食事は充分に
させてもらっている。それはこちらの体力を維持させ、増進させるためだったに違いないが、
そこまで厚遇されているのだから、なおさら引き下がるわけにはいかない。
「一人一回じゃなかったっけ?」
 敢えて水をかけるようなことを言ってみた。『副官』は平然としていた。
「そこはリーダーの特権さ。で、どうなんだ?」
 リンクは身を起こした。
「その気になったかい? じゃあ今度は、後ろでしてもらおうか。あんたにできればの話だがね」
 なおも挑発的な『副官』に向け、リンクは心の中で言い放った。
 ──上等!
 オナニーや同性愛の件で、ぼくが無知をさらけ出したものだから、アナルセックスの経験など
ありはいない、と、舐めているのだろう。普通のセックスでは、あれだけしおらしい態度をとって
いたくせに。
 先刻の『ありがとうな』という『副官』の言葉が、仲間たちへの指導に関する礼ばかりではない
ことを、リンクは感じ取っていた。
「塗るものはあるかな」
 表情を固く保って言う。
「え?」
「すべりをよくするためにさ」
『副官』はベッドから降り、室内のテーブルに歩み寄った。そこには、片手で持てるほどの
大きさの瓶が置かれていた。二人で寝室に入った時、『副官』がそれを手にしていたことを、
リンクは思い出した。
 気にとめてもいなかったのだが、それがここで使うものだというのなら……『副官』は初めから
そのつもりでいたことになる。せいぜい期待に応えてやらなければ。
 手渡された瓶の中には、粘稠な透明の液体が入っていた。
「これは?」
「油だよ。日差しがきつい時、肌に塗るのさ。だけど、あんた……」
 手慣れている──とでも言いたいのかな、と、胸の中でひそかに笑う。
 すでに臨戦態勢にある勃起に油を塗布する。ベッドに戻った『副官』の尻の間に手を伸ばし、
同じ粘度を与えてやる。
「したことあるのかい?」
 意外そうな『副官』の言葉には答えず、その小柄な身体を裏返し、腰を持ち上げる。後ろに膝で
立ち、猛った武器を接触させる。
「いくよ」
 前戯もなく、いきなりの行為になってしまったが、もうやめられない。
 それでも、優しい上にも優しく、というアンジュの言葉を思い出し、あくまでも穏やかに、
リンクは腰を送り出した。先端が肛門にもぐりこみかけ、筋肉の抵抗に遭う。
 力を抜いて──と声をかけようとした時、先んじてそこは開放され、陰茎はずぶすぶと直腸に
没していった。入りきったところで、強烈な収縮が生じた。リンクは身を固くしてそれに耐えた。
1533-8-2 Gerudo Women -2 (17/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 01:01:56 ID:7nhaBmHm
「……知って……たん……だね……」
 ベッドに顔を押しつけた『副官』が、きれぎれに言葉を漏らした。リンクは上半身を前に傾け、
できるだけ耳に顔を近づけて、小声で言った。
「君だって、ずいぶん慣れてるみたいじゃないか」
 小ぶりの乳房を弄びながら、さらに、ささやく。
「何度も後ろでしたんだろう?」
 小さく頷く『副官』。
「誰と?」
「……シークと……」
「それだけ?」
「……男は……それだけ……」
「女は?」
「……いっぱい……数え切れない……」
「張形で?」
「……うん……」
「最初は誰と?」
「……ナボールの……姐さん……」
 優しく、しかし容赦なく、リンクは『副官』を問いつめていった。『副官』は苦しそうな吐息を
はさみながらも、抗うことなく、リンクの問いに素直な答を返した。そんな状況が高ぶりを
引き起こすようで、『副官』の息は徐々に荒くなった。リンクもまた、言葉で『副官』を制する
ことにより生じる快感を抑えきれなくなった。
「動くよ」
『副官』が、二度、三度と強く頷くのを確かめ、リンクは上半身を戻した。両手で腰をつかみ、
ゆっくりと前後運動を開始した。
「……ぁ……あぁ……いい……いいよ……リンク……」
 顔をベッドに埋めたまま、『副官』が切ない声をあげる。同時に、高々と上げられた腰が、
リンクの動きに合わせて、前後に揺れ始める。
 あれだけ煽っておきながら、事に及ぶや、うってかわった、かわいらしい態度。この落差が
『副官』の魅力だ。いまにすれば、あの煽りは、案外、こちらを奮い立たせるための装い
だったのかもしれない。いや、仮にそうだとしても、実にかわいい策略ではないか。
 思うにつれ、リンクの脳は抑制を失い、肛門を穿つ硬直の勢いは、どんどん増していった。
ベッドはぎしぎしと鳴り、応じて『副官』の喘ぎも、次第に音調を上げてゆく。
「おぉッ……リンク……リンク!……いいよッ!……いいったらぁッ!……」
 いまやリンクの陰茎は、可能な限りの速さで『副官』の腸内を往復していた。きつい圧力を
ものともせず、それは猛々しく突進を繰り返した。一人一回という制限があったため、他の
女たちとは肛門での接触をしていない。アンジュ以来の腸粘膜の感触が、リンクを急速に
沸騰させつつあった。
 突然、『副官』が右手を股間にやった。腸壁を隔てて、何かが『副官』の中で激しく
動き始めるのを、リンクは感じた。『副官』が膣に指を挿入したのだ。
「んんッ! んあぁッ! んんんんぁぁぁああああああッ!!」
 呻きとも叫びともつかぬ音響が、『副官』の喉から絞り出された。
 ペニスで肛門を、指で膣を、二本の棒で二カ所を同時に刺激される快感とは、いったい
どれほどのものだろう。
 惑乱する意識の中で馳せる思いは、たちまち消え散った。脈動する『副官』の指が、壁越しに
リンクの欲望の塊をこすり、翻弄し、打ちのめした。
 もう限界──というところで、はたと『副官』の指が止まった。無音の絶叫とともに、
『副官』の全身が固まった。それを感じ取り、リンクもついに抵抗を捨て、最後の精を
ほとばしらせた。
1543-8-2 Gerudo Women -2 (18/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 01:02:53 ID:7nhaBmHm
 翌朝になると、『副官』は完全にリーダーの顔へと戻り、溌剌とした様子でリンクに接してきた。
 この豹変も、彼女の魅力である落差のうちか。いや、アンジュの例もある。男の精を受け取る
ことで、女は自らの活力を高めるのかもしれない。
 ──とまで考え、リンクは思わず苦笑してしまった。
 砂嵐はやんでいた。女たちの助けを得て、リンクは最後の準備を調えた。前夜、激しく
交わったにもかかわらず、その後の睡眠が深かったせいもあってか、疲れは感じていなかった。
 装備を完了させ、『幻影の砂漠』へと続く門をくぐるリンクを、『副官』以下、一団全員が
見送った。
「姐さんのこと、頼んだよ」
 思いのこもった『副官』の言葉に、リンクは力強く頷いた。
 君も一緒に行かないか──と、先にリンクは『副官』を誘ったことがあった。が、『副官』は
首を横に振ったのだった。
「行きたいのはやまやまだけど、あたしはここで仲間を見てなきゃならない。それに、あんたを
追って町から誰かがやって来るかもしれないしね。そうなったら、命がけでも防いでやるよ」
 その好意を改めて謝し、対ガノンドロフの行動についても、再度、確認し合い、最後に
帰還までのエポナの世話を頼んでから、リンクはみなに別れの挨拶を述べた。
 微笑みつつ、軽く手を上げる。向きを変えて、砂漠に臨む。
『ナボール……』
 いまだ出会ったことのないその人物に、深い思いを馳せながら、どこまでも続く砂の大海へと、
リンクは足を踏み出していった。
1553-8-2 Gerudo Women -2 (19/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 01:03:39 ID:7nhaBmHm
 ガノン城の一室に向かう長い廊下を、熟女姿のツインローバは歩いていた。
 壁には弱々しく灯火が揺らめいているが、それではとうてい追いつかないほどの深い暗黒が、
その場には充ち満ちており、足元もろくに見えない状態だった。しかしツインローバは、そんな
不自由さをものともせず、勝手知ったる所とばかり、すいすいと歩を進めていった。
 暗黒に満たされているのは、この廊下ばかりではない。ガノン城のあらゆる場所がそうだ。
魔王の居城はそうあるべきなのだ。
 ツインローバは、かすかに笑みを漏らした。だが次の瞬間には、憂慮すべき他のことがらへと
思いを飛ばしていた。
『その魔王様ときたら、最近は……』
 眉根をひそめた表情のまま、ツインローバの歩みは続いた。目的とする大きな扉の前に至るまで、
ひそめられた眉は元に戻らなかった。
「邪魔するわよ、ガノン」
 厚い扉を介しては、中に届くはずもない、ささやかな声でありながら、扉はひとりでに開かれた。
 廊下と同様、限りなく闇に近い部屋だった。やはり暗さを気にもせず、ツインローバは
つかつかと部屋の奥へ歩み進んだ。四隅の燭台からの頼りない光に照らされた、大きな寝台の上に、
全裸のガノンドロフが横たわっていた。その左右には、同じく全裸のゲルド女が一人ずつ寄り添い、
ガノンドロフの手を股間に受け入れ、喘ぎながら身をくねらせている。
「取り込み中、悪いんだけど」
 別段、悪いとも考えず、ツインローバは声をかけた。ガノンドロフが、じろりと視線を
動かしてくる。
「何だ?」
 うるさい、とでも言いたげな……
 それでも、何と言われようが、告げておかねばならないことがあるのだ。
「リンクが魂の神殿へ向かったわよ」
 ガノンドロフは答えなかった。いらつきを抑えて、ツインローバは言葉を継いだ。
「あたしは長年、この時を待ってたんだ。ナボールのこと、覚えてるだろうね」
「好きにしろ」
 投げやりな調子だった。
「賢者を皆殺しにできる機会がやっとめぐってきたっていうのに、気乗り薄のようじゃないの」
 思わず声が大きくなる。対するガノンドロフの声も荒くなった。
「だから好きにしろと言っている。ナボールが賢者とわかったら、だがな」
 ──それもすぐにわかるわよ。
 口には出さず、心の中で毒づく。
1563-8-2 Gerudo Women -2 (20/20) ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 01:04:26 ID:7nhaBmHm
「それよりも、トライフォースだ」
 ガノンドロフが声を落とした。ふん、と小さく鼻で笑い、ツインローバはできるだけ優しい声を
出した。
「賢者がみんな死んじまったとなりゃ、どうしようもなくなって、ゼルダも姿を現すわよ。
もう少しの辛抱さ」
 ガノンドロフの目に、ちらりと光が差した。励ますべく、さらに言を重ねる。
「それを思い知らせるために、ちょいとリンクを痛めつけてやろうと思ってるんだ。なにしろ、
精神的に敗北させてやらなきゃならない奴だからね」
 最後の言葉に力をこめた。
「ふむ……」
 しばしの沈黙ののち、ガノンドロフの唇の端に、凄みのある笑いが湧き上がった。
「わかった。任せる」
 即座に背を向け、ツインローバは部屋をあとにした。
 一族の不穏な情勢については、ツインローバも気になっていた。だが、それを言い出そう
ものなら、ガノンドロフは決まって機嫌を悪くする。だからいまも、その件には触れなかった。
 魔王たるもの、些事には拘泥しない、ということなのかもしれないが……
 ツインローバは首を振る。
 いまのガノンドロフは、トライフォースに囚われすぎなのだ。賢者の問題が片づき、すべての
トライフォースを得れば、態度も元に戻るだろう。
 そのためにも──と、ツインローバは目を先に向けた。
 最高の効果を上げられるよう、機会を見誤らず、行動する必要がある。以前から折に触れて、
リンクの行動は探知していたが、この先、しばらくは、リンクから目を離せない。
 あのシークが生きていて、リンクと接触している点は意外だった。が……
『じきにお前ら二人とも、絶望のどん底に突き落としてやる』
 嗜虐の冷笑が頬に浮かぶのを自覚しつつ、ツインローバは分裂を開始した。
「それじゃあ」
「行くとするかね」
 箒に乗った二人の老婆は、冷笑を顔に残したまま、ガノン城の窓をくぐり抜け、はるか西へと
向かって飛び去っていった。


To be continued.
157 ◆JmQ19ALdig :2007/09/03(月) 01:05:01 ID:7nhaBmHm
以上です。これでリンクにはひととおり、経験と知識を与えられたと思います。
リンク元気すぎだな。
158名無しさん@ピンキー:2007/09/03(月) 01:58:38 ID:s4TJ3yXy
もはやリンクの旺盛なセクロスを範として少子化進行をくいとめんとするが如き
濃厚かつ怒涛のゲルドハーレム(;´Д`)ハァハァ
といいつつ副官とのアナル'`ァ'`ァ(*´Д`)=3 '`ァ'`ァ

砂漠の邪神像ではリンク一回子供に戻るのかなあ(;´Д`)ハァハァ

159名無しさん@ピンキー:2007/09/03(月) 02:47:02 ID:JWyTfsFl
GJ! 副官のエロさに(;´Д`)ハァハァ

次回はツインローバ×リンクなのかそれともナボールなのか……
続きが楽しみです
160名無しさん@ピンキー:2007/09/03(月) 07:42:27 ID:e53r08Tw
GJ!!!!

リンクの次に副官ファンなんで
二人のまぐわいを、堪能させていただきました!

勇者リンク、愛の伝導師役ご苦労様でしたw
161名無しさん@ピンキー:2007/09/03(月) 19:54:56 ID:L8g45vjH
勇者さん言葉責めしてるー(*´A`)

そしてますます副官好きダアァァァア
ごっつあんです。GJです。次も楽しみッ
162名無しさん@ピンキー:2007/09/04(火) 10:48:59 ID:B1+kTlcI
やっぱ副官イイわ(*´Д`)
163名無しさん@ピンキー:2007/09/04(火) 13:49:52 ID:VifG+I44
もし今後ルト姫やサリアが復活するなら初登場時の年齢のままでキボン

そんでモーファの触手に開発されたもののガノンには汚されてないルト姫のアナr(ry
164名無しさん@ピンキー:2007/09/04(火) 19:56:33 ID:erzxmtk3
欲望に忠実ながらさりげに紳士的なリンク良いよー!いつもいつもGJです!
165名無しさん@ピンキー:2007/09/07(金) 12:50:48 ID:WzHSrvFl
俺は大人になったのが見たいわ。
166名無しさん@ピンキー:2007/09/08(土) 03:34:13 ID:HzuM1xAN
そのつど依頼されてるようでもないのに、保管庫の更新頻度が半端じゃないんだが
それだけこのスレは注目されてるのかな
167名無しさん@ピンキー:2007/09/08(土) 04:16:10 ID:9+N7Ki3n
管理人さんがファンとか
168名無しさん@ピンキー:2007/09/09(日) 13:41:15 ID:GKTx0J+s
雑談でスレが伸びないから分かりやすいのかと
169名無しさん@ピンキー:2007/09/10(月) 17:02:51 ID:0IxI6nv2
なるほど…
170名無しさん@ピンキー:2007/09/11(火) 01:31:13 ID:ErTudYRT
そろそろ来るかな。
171 ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:20:38 ID:djIraKEi
私本・時のオカリナ/第三部/第九章/ナボール編その3、投下します。
エロは陵辱再現ダイジェストのみ。ナボール死亡(一過性)。
1723-9 Nabooru III (1/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:21:58 ID:djIraKEi
 踏み出す足が、砂に埋もれる。次の一歩も、さらに次の一歩も、細やかな、それでいて意外な
粘度を持った砂に捉えられ、体力は少しずつ殺がれてゆく。ブーツの丈は高いのに、いつの間に
侵入してくるのか、砂は靴底をひたし、足の裏に不快な刺激を送ってくる。
 大きな布を身にまとっていてもなお、砂は服の中に入りこみ、ざらついた違和感を全身の皮膚に
もたらす。帽子をかぶっているにもかかわらず、その中の髪までが、うっすらと砂にまみれている。
 身を蝕むのは、砂の陰湿な攻撃だけではない。
 曇り空のもとではひたすら渇望された太陽が、片時でもいいから翳ってくれと思わずには
いられないほどの強烈な熱を、ここでは無慈悲にぶちまけてくる。それがやっと地平線に
没したかと思うと、空気はどんどん冷えこんでゆき、今度は身の震えを止められない。
 砂漠という未知の環境が、常ならぬストレスを心身にもたらす。
 それでも、先を目指す意志と、苦境に立ち向かう勇気は、損なわれはしない。
 苛酷な自然に耐え、リンクは着実に歩を進めていった。

 どこを見ても砂ばかり、という風景は、多少の起伏はあっても、実に単調きわまりなく、
うっかりすると方角さえわからなくなるほどだった。コンパスによって何とか西への向きは保てる
ものの、魂の神殿が真西にあるという保証はない。不安を感じるリンクだったが、砂嵐が去って
くれたおかげで見通しはよく、進むにつれ思い出したように現れる道しるべ──赤い布を先に
巻きつけた木の棒──を見落とすことはなかった。
 中間地点に達したのは三日目だった。小さな石造りの建物が、砂に埋もれんばかりとなって
建っていた。入口を塞ぐ砂をシャベルでかき分け、地下室に身をひそませる。水の補給すら
できない、何もない閉鎖空間だったが、砂と太陽の侵蝕を避けることはできた。一時の休息を得て、
リンクは体力と気力を取り戻した。
 そこから先は妨害が増えた。リーバだ。植物と動物の合いのこのような、背の低い円錐形の
その魔物は、いきなり数体ずつ砂の中から現れては、回転しながらリンクを取り囲み、突進してきた。
防御力は弱く、剣で倒すことは容易であり、それほど頻繁に襲ってくるわけでもなかったが、
いつ現れるかわからないという緊張感は、少しずつ、だが確実に、リンクを苛んでいった。
 道しるべは徐々に少なくなった。足はともすれば右往左往し、進行速度は落ちた。手持ちの水は
どんどん減っていった。このままではまずい、と焦りを抑えきれなくなった時──
 それは忽然と現れた。
 砦を出発してから、一週間が経過していた。
1733-9 Nabooru III (2/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:22:49 ID:djIraKEi
 目標である巨大邪神像を前にして、しかし真っ先にリンクが足を向けたのは、像そのものでは
なく、近くのオアシスだった。水を極度に節約していたため、喉は渇ききっていた。
 ぐびぐびと音をたてて水を飲む。衣服を脱ぎ捨てて全身の皮膚に潤いを与え、執拗にまとわり
ついていた砂粒を洗い流す。
 渇きと乾きを癒しきって初めて、他のものに注意を向ける余裕ができた。
 オアシスの水際には、ハイラル平原では見られない、風変わりな植物が自生していた。その
葉陰を通して、広大な砂漠の中に立ちはだかる大岩が見える。ゲルド風の顔貌と装いとを持つ、
巨大な一体の女神像が、側面に彫られていた。目は穏やかに閉じられ、口はかすかな笑みを宿し、
両手は何ものかを支えるように、掌を上に向けて前に差し出されている。文化の違いを偲ばせる
風変わりさと、心を落ち着かせるような静かな威厳とを、それは同時に醸し出していた。
 着衣と装備を調え、リンクは像に近づいた。傍らに一体のゴシップストーンがあった。シークの
話を思い出し、その前に立ってみる。さらに『時のオカリナ』で『ゼルダの子守歌』を奏でて
みたが、噂もメロディも聞こえてはこない。
 やはりシークでなければ、メロディを聴くことはできないのだ。
 神殿に重要な関わりがあるというメロディ。それなくして、自分の探索は成功するだろうか。
 疑問を覚えつつ、リンクは女神像の前へと歩み寄った。像の真下に大きな入口があった。中を
覗きこんでみたが、まぶしい太陽の光に満ちあふれた外とは対照的に、入口の奥は暗く、様子を
うかがうことはできなかった。
 ともかく、中へ入ることに障害はなさそうだ。
 周囲に注意を払いながら、リンクはそろそろと進んでいった。

 予想されたように内部は暗かったが、どこからか光が差しこんでいるようで、目が慣れてくると、
まわりの状況を把握するのは困難ではなかった。そこは大広間で、壁面は見慣れない様式の彫刻で
飾られ、壁際には奇妙な形態の彫像が安置されていた。奇怪ともいえる光景だったが、神聖な
雰囲気も確かに感じられ、いま自分はまさに魂の神殿の中にいるのだ、という実感を、リンクは
得ることができた。
 正面にある低い階段を登ると、道は左右に分かれていた。左側の通路は、たちまち壁に
突き当たった。壁と床が接する所に小さな穴があり、通路はその向こうに通じているようだった。
子供であれば穴を通り抜けられただろうが──と心を残しながらも、リンクは右側の通路を
たどっていった。
 いくつかの部屋を通り抜けた。各々の部屋は上り階段で繋がれ、順路は徐々に神殿の上階へと
続いているようだった。行く手をさえぎられることはなく、安全な行程だったが、あまりにも
安全すぎることが、かえってリンクに不安を抱かせた。
 人の気配が全くない。この神殿でも成果は得られないのだろうか。
 不安が焦燥に変わり始めた時、吹き抜けの大きな部屋に到達した。中央には、神殿の外観と
似た形の女神像が、周囲を圧する規模をもって坐していた。床に立つためには、階下に相当する
高さまで下りて行かねばならなかったが、像に興味を覚えたリンクは、労を厭わず、身を下へと
降ろしていった。
 像の顔の部分を見上げながら、リンクはゆっくりと部屋の中央へ歩み進んだ。ふと目を移すと、
像の正面にあたる場所に、人の形をした奇妙な物体があった。
 巨大な斧を抱えた、金属製の甲冑だった。
1743-9 Nabooru III (3/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:23:52 ID:djIraKEi
 装飾品の一つか──と考えながら、リンクは甲冑に近寄った。
 妙な感じがした。
 立ち止まる。何も起こらない。さらに近づいてみる。
 鈍く灰色っぽい光を帯びた、頑丈そうな甲冑だ。それだけで人の全身の形態を完全にかたどって
いる。まるで中に人がいて、甲冑を身にまとっているかのようだ。
 目の部分にすき間があった。何気なく中を覗きこむ。
 顔。
「あッ!」
 思わず叫びをあげるのと、顔が目をかっと開くのが同時だった。リンクは瞬時に後ろへ跳びすさった。
 がちゃり、と重い音をたてて、甲冑──いや、甲冑を着た何者かが、ゆっくりと足を踏み出した。
 無機的な声がした。
「ガノンドロフ様ニ……サカラウ者……コロス……」
 ガノンドロフ様? こいつは敵か? だが、中に見えた、あの顔は……
 思考は続かなかった。相手はいきなり斧を振り上げ、ものすごい勢いで打ちかかってきた。
横っ飛びでよける。斧は床に食いこみ、石の破片が飛び散った。
 そのわずかな隙の間に距離をとり、リンクはマスターソードを抜き放った。同時にハイリアの
楯を構える。
 中の人物が誰であろうと、ここは戦わなければならない。
 間合いを測るリンクに向かい、相手は無造作に距離を詰めてきた。再び斧が振り上げられる。
楯で受けようと右腕を上げたリンクは、しかし次の瞬間には、またも横っ飛びで身を避けていた。
一瞬遅れて斧が床に突き刺さる。
 とても楯では受けられない威力。
 どうするか。
 攻撃範囲はマスターソードよりも斧の方が広い。下手に攻撃しても、こちらの剣が届かない
うちに斧を食らってしまうだろう。一度でも食らえば、確実に死ぬ。
 対抗策を思いつかないうちに、敵が寄ってきた。甲冑が揺れる重厚な音とともに、腕が持ち上がる。
 横っ飛びの態勢をとりかけたリンクは、相手の動きがこれまでとは異なることに気づいた。
 咄嗟のバック宙。
 案の定、今度は斧を横に薙いできた。刃先はすれすれの所で空を切り、そばにあった燭台に
ぶち当たった。燭台は真っ二つになり、部屋の端へとすっ飛んでいった。
 横っ飛びだとやられていた。
 冷や汗がこめかみを流れる。
 攻めるためには近づく必要があるが、近づけばそのつど斧が風を巻いて襲ってくる。リンクは
じりじりと後退せざるを得なかった。
 部屋の隅に追いつめられる。ここで斧を振るわれたら一巻の終わりだ。必死で横に身を飛ばす。
甲冑の重みのためか、敵の動きは緩慢で、どうにか壁を伝って逃げることができた。
 間合いをとり直すリンクに、敵はのしのしと迫ってくる。斧を振りまわす。疲れた様子もない。
何という沈着かつ機械的な動作。
 背筋に冷たいものを感じながらも、同時にリンクは、敵の動きが機械的である点に活路を
見いだしていた。
 言い換えれば、単調ということだ。俊敏さもない。特に、斧を振るった直後は、次の攻撃までに
若干の間が生じる。そこを衝くしかない。
 敢えて接近し、攻撃を誘う。何度かそれを繰り返し、斧の到達範囲を確認する。近づきすぎても
離れすぎてもいけない。
 見切ったところで、覚悟を決める。攻撃に専念するため、楯を捨てる。
 ずいと近づく。斧が振り上げられる。落ちてくる直前にバック宙。目の前を刃先が通過し、床に
激突する。
 いまだ!
 間をおかず、ジャンプ斬り。全身の力をこめて、両手に握ったマスターソードを、相手の
頭頂部に叩きこむ。
 ガン!──と激しい衝撃が両腕に伝わる。
 着地するやいなやのバック宙で距離をとり、攻撃の効果を確かめる。
 硬い兜。マスターソードでも切断することはできなかったが……
 立ちつくす敵。微動だにしない。
 だめか──と歯噛みした瞬間、兜が二つに割れ、次いで全身の甲冑がばらばらと剥げ落ちた。
 中にいた人物が、ばたりと床に倒れる。
 若い女だった。
1753-9 Nabooru III (4/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:24:45 ID:djIraKEi
 甲冑のすき間から中を覗いた時点で、中の人物が女性であることはわかっていた。その顔に
現れた種々の特徴も、はっきりと見えていた。褐色の肌。吊り上がった目尻。高い鼻。ゲルド族で
あることは明らかだった。
 いま目の前に倒れている、その姿も、明確にそれを証明している。赤い髪。そして特色のある衣装。
 予感があった。
 リンクは剣を鞘に収め、女のもとに駆け寄った。
 剣は兜を割っただけだ。肉体を傷つけてはいない。それでも胸は騒ぎ、抱き起こす腕が震えて
しまう。
 手を取る。脈を探る。弱いながらも規則的な拍動が指に触れる。意識はないが、呼吸は保たれている。
 大きく安堵の息をつき、リンクは改めて女の顔を注視した。
 風貌が『副官』に似ている。長い髪を後ろで留めて。いや、むしろ『副官』の方が、この女の
格好を真似ているのだろう。
 女がかすれた声を漏らした。唇が乾ききっている。水筒を取り出して、口につけてやる。だが
自力で飲むことはできないようだ。
 しかたがない。
 リンクは水を口に含み、女の唇に自らの唇を合わせた。わずかに開いた口のすき間に、少しずつ
水を流しこむ。溜まった水が、口の端からあふれてくる。と、女の喉がわずかに動き、水は
ごくりと飲みこまれる。
 ほっとして唇を離す。直後、女の目が開かれた。
 リンクは呼びかけた。
「ナボール?」
1763-9 Nabooru III (5/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:25:29 ID:djIraKEi
 ナボール……それは……あたしの名前……
「ああ……」
 呼びかけに対し、口が勝手に反応する。けれども、頭の中は泥が詰まったように重く、暗く、
鈍く……目をあけたはずなのに、自分は何かを見ているはずなのに、そこに何があるのか、
感じ取ることができない……
 何がどうなっているのか。
 確か……目を……そう、誰かに目を覗きこまれて……あの時、あたしは……とてつもない快感の
中にいて……誰かと一緒に……男と……ガノンドロフと……
 ──ガノンドロフ!
 急に意識が明らかとなる。自分を抱く腕の感触。目の前の顔。男。
 ──まさか!
 突き飛ばす。後ろへ飛びのく。睨みつける。が……
 ガノンドロフではなかった。見たこともない男が──緑色の服を着た若い男が──唖然とした
表情で、こちらを見ている。
「お前……誰だ」
 警戒をこめて鋭く発した声に、男は急きこんだ口調で応じてきた。
「ぼくはリンク。君はナボールだね。君を捜しにここまで来たんだ」
 リンク? 何者?……待てよ、その名はどこかで……それに、こことは、いったいどこなんだ?
「砦で仲間が君を待っているよ。『副官』も──」
「『副官』?」
 はっとする。
 そうだ。あたしは『副官』を──仲間を砦に残して……一人で巨大邪神像まで来て……
ここは、その像の中……
「ずいぶん長いこと音沙汰がないんで、みんな心配していたよ。君はここで、何をしていたんだ?」
 あたしは何をしていたのか。
 頭を探ってみる。徐々に記憶が戻ってくる。
 像の中を調べて……入口に戻ったところで、ツインローバとガノンドロフに出会って……
 かっと身体が燃え上がる。憤怒と羞恥のために。
 あたしはガノンドロフに犯された。嫌い抜いていたあいつに無理やり……いや──そこが
なおさら悔しいのだが──あたしはあいつの前に屈服して……そればかりか……
 思い出した! ツインローバがあたしに何かしたんだ!
 何ということ! あたしはあれから……いったい……何を……
 その先の記憶は、どうしても戻らなかった。知りたいというもどかしさと、知らずにすむという
奇妙な安心感とが、脳内で渦を巻き、混和し、そして静かに沈澱していった。
「どうやら……あんた……あたしを助けてくれたみたいだね」
 身体から力が抜けていた。声も落ち着いている、と自分でも認識できた。
 リンクと名乗った若い男が、穏やかな笑いを浮かべて言った。
「助けるには、かなり苦労したけれど……でも、君が自分を取り戻してくれて、よかったよ」
 そう、あたしは、やっと、自分を取り戻した。
『やっと?』
 そういえば……『長いこと音沙汰がない』とリンクは言ったが……
「いまは……いつなんだ?」
1773-9 Nabooru III (6/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:26:33 ID:djIraKEi
 答を聞いて驚いた。
 ガノンドロフが反乱を起こしてから七年。あたしが巨大邪神像に来たのは……六年前だ。
 六年! それほどの間、あたしはここで、ただ一人、馬鹿みたいに、時間を無駄にしていたと
いうのか?
 茫然自失。その時間が、どれくらい続いただろう。
『そうだ!』
 ガノンドロフはどうしている? 仲間たちは? そして世界はどうなった?
 矢継ぎ早の質問に、リンクは答えてくれた。いまやガノンドロフは世界を席巻し、ゲルド族すら
眼中にないという態度で、暴走の気配を示しているとのこと。
 驚愕はますます募り、同時に、
『やっぱり、あいつはやばすぎる奴だった』
 自らの予感が的中したことへの満足感と、その予感が行き着く先を思えば必然的に生じてくる
焦燥感とが、胸を熱く燃え上がらせた。
 このままではいけない。ガノンドロフを倒さなければならない。中断させられた行動を、再び
実行に移さなければ。
 聞けば、『副官』も同じく世の情勢に憂慮を抱き、反ガノンドロフの活動を始めつつあるという。
あの『副官』が自分と同じように──と思うと、胸がさらに熱くなる。のみならず……
 決然とした声で、リンクが言った。
「ガノンドロフを倒し、世界を救う。それがぼくの使命なんだ。そして君は、この使命を果たす
ために、なくてはならない人なんだよ」
 若いのに、頼もしいことを言う。自分と同じ意志。同志がいたのだ。
「あたしは何をすればいい?」
 高ぶる思いに、言葉が弾む。答えるリンクの声もまた、高揚をあふれさせんばかりの張りを
示していた。
「賢者としての覚醒を」

「はぁ? 賢者?」
 素っ頓狂な声が出てしまった。
「君は……『魂の賢者』だろう?」
 怪訝そうなリンクの声。
「あたしが……賢者だって?」
 わけがわからない。
 リンクが大きくため息をついた。露骨にがっかりした表情をしている。
「その賢者ってのは、いったいどういうものなんだい?」
 ガノンドロフを倒すためには、ハイラルに眠る六人の賢者を目覚めさせ、その力を得なければ
ならない。その一人、『魂の賢者』が、君だと確信していたのだが──とリンクは語った。
「すまないけど……賢者なんて、あたしにゃ全然、思い当たることがないよ」
 そう答えるしかない。いや……何かが頭の隅に引っかかっているような気もするのだが……
確たる概念としては浮かび上がってこない……
 二人の間に、重苦しい沈黙が落ちた。
1783-9 Nabooru III (7/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:27:42 ID:djIraKEi
 やっとのことでナボールに会えた。いままで失敗続きだったが、ついに賢者の一人に会うことが
できたのだ。
 ──という喜びも、一時のものでしかなかった。リンクの脳は、大きな失望と疑問で満たされていた。
 賢者のことなど全く知らない、とナボールは言う。どういうことなのか。
 ナボールは賢者ではないのだろうか。いや、ナボール以外に『魂の賢者』であり得る人物が
いるとは思えない。では、賢者でありながら、自分ではそれに気づいていないのか。
 あり得る。賢者としての覚醒を果たしていないうちは、自分でもそれと感知できないのかも
しれない。ならば、どうすれば覚醒させることができるのか。当人に会えば何とかなると思って
いたのだが……
 わからない。ぼくはこれから、どうしたらいいのか。
 じりじりと思いに浸るリンクに、明るい声がかけられた。
「当てがはずれちまったみたいで申し訳ないが、ここでうろうろしててもしかたがない。とりあえず
砦に戻ろうじゃないか」
 ナボールが軽い笑いを浮かべていた。意識を取り戻した直後の茫然とした感じや、その後の
驚きの色はすでになく、生き生きとした活力にあふれた表情だった。
 立ち直りが早い。豹変するのも『副官』との共通点か。
 思わず微笑が漏れる。
「そうだな」
 賢者のことは、これからじっくりと検討してみよう。本人が見つかったのだから、焦る必要はない。
ここはナボールが言うように、いったん砦に帰って、『副官』たちとともに、反ガノンドロフ
活動の具体化を考えるべきだろう。
 リンクは身を起こし、ナボールに手を差し出した。にやりと笑いを大きくし、その手を握って
ナボールが立ち上がる。立ち上がってもなお、二人の手はがっちりと繋がれたままだった。
「やろうぜ」
 熱のこもったナボールの言葉。リンクも強く頷きを返した。
 見れば見るほど、雰囲気が『副官』と似ている。年齢も同じくらいだ。しかし身体はひとまわりも
ふたまわりも大きい。それに、頑張りながらも弱さのあった『副官』とは異なり、態度がどっしりと
していて、いかにも頼りがいがありそうだ。彼女らの姉貴分として一党を率いていただけのことはある。
 その堂々とした存在感に影響され、全身に力が湧き上がるのを感じながら、リンクはナボールと
ともに、神殿の出口へと向かった。
1793-9 Nabooru III (8/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:28:52 ID:djIraKEi
 外に出たところで、ナボールの足は止まった。
「どうした?」
 リンクが不思議そうな声を出す。
「いや……」
 何でもない──と言おうとして、言葉が切れる。
 気になる。何が気になるのか、自分でもよくわからないが……
 いま出てきた場所をふり返る。足が邪神像に向けて、ふらふらと戻ってゆく。取り残された
リンクが問う。
「神殿に、何か忘れ物でも?」
 再び足が止まる。
 忘れ物? そういえば、刀がどこかへいってしまった。でも気になるのはそんなことじゃない。
いまのリンクの言葉……
『神殿?』
 巨大邪神像が神殿だって? ここはゲルド族の聖地。神殿という呼び方も、あながち的はずれでは
ないが……その言葉が、なぜか心に引っかかって……
 心に引っかかるといえば、さっきもあたしは同じように……あの時は……あの時の言葉は……
『賢者』
 それだ。
 神殿。賢者。
 暗合を感じる。それに、自分の足を止めた、気になるものの正体とは……
 そもそもあたしは、六年前、何のためにここへ来た? ここにはガノンドロフ打倒に関係した
重要な何かがある。そう思ったのではなかったか? とすれば……あたしは……ここを離れては
いけないのでは? なぜ? ここが神殿だから? あたしが賢者だから?
 記憶が稲妻のようによみがえる。
『残念ながら、賢者のオーラは感じないねえ』
『だからといって、疑いが晴れたわけじゃあないが』
 そうだ! あたしが賢者だとほのめかした奴が、前にもいたじゃないか!
『ナボール、お前』
『リンクに会ったことはあるかい?』
 リンク! その名も同じ時に聞いていた!
 誰の台詞だ? 互いを補い合うような、二人組の掛け合い……
 ツインローバだ!
 あいつらは何を知っていた? あいつらは何を言おうとしていた? リンクとの出会いが、何か
重大なことだとでも言いたげに。重大? もしそうなら、リンクと出会った、いまのあたしは……
「とうとう尻尾を出したね」
「とうとう正体を見せたね」
 聞き苦しい二つのキイキイ声が、頭上から降ってきた。
 心臓が破れそうな衝撃。
 見上げる。
 箒に乗った二人の老婆が、宙に浮いていた。
1803-9 Nabooru III (9/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:29:39 ID:djIraKEi
 その声でリンクも初めて気づいた。気配もなく空にあった二人の老婆の姿が、反射的に記憶を
刺激し、
「ツインローバ!」
 続くナボールの叫びが、それを証明した。
 シークが言っていた、あのツインローバ!
 リンクはマスターソードを抜いた。空中にいる敵には届くはずもないが、そうしないでは
いられなかった。
 が、二人の老婆は、リンクにはほんの一瞥を与えただけで、すいとナボールの頭上まで舞い降りると、
のんびりした調子で旋回し始めた。
「洗脳を解くとは」
「さすが勇者といったところだが」
「お前がリンクと出会ったことで」
「賢者のオーラが見えるようになったよ」
「あたしらはこの時が来るのを」
「六年間も待ったんだ」
「長かったねえ、コウメさん」
「長かったよ、コタケさん」
「ガノンさんの許しは貰ってあるから」
「もう何の遠慮も要らないね」
 突然、老婆たちが静止した。そこにとてつもない邪悪さを感じ、リンクは少し離れた所に
立っていたナボールのそばへ駆け寄ろうとした。ところが、
「おっと」
 コタケと呼ばれた老婆の片割れが、こちらに向けて腕を振った直後、
「お前はそこでじっとしてな」
 身体は前に進まなくなった。足が動かない。見ると、あたり一帯の砂が凍りつき、埋まった足が
固定されてしまっていた。
「さあ、ナボール」
「いやさ、『魂の賢者』」
「「おとなしくあの世へ行くがいい!!」」
 今度はコウメが腕を振り上げた。
「逃げろ、ナボール!」
 動けないまま、リンクは声を張り上げた。すでにナボールは神殿に向かって走り出そうとしていた。
振りおろされたコウメの指先から激しい炎が噴き出し、ナボールを追って疾走した。炎がナボールを
捕らえた。耳を引き裂くようなツインローバの二重の哄笑が響きわたる中、束の間、ナボールの
身体は硬直し、たちまち人の形を失って崩れ落ちた。炎が消えたあとには、それだけでは元が
何であったのか推測もできない、真っ黒な滓が残っているだけだった。
 あっという間のできごとに、リンクは声も出せなかった。何が起こったのかも、すぐには
理解できなかった。
 次第に状況がわかり始める。
 ナボールは死んだのだ。
 人が死ぬ瞬間を見たのは初めてだった。ただでさえ大きなその衝撃は、死んだのが他でもない
『魂の賢者』であることで──ツインローバの言葉が図らずもそれを裏づけていた──この上もなく
激烈なものとなって、リンクを打ちのめした。
 やっと賢者に会えたというのに、その賢者が殺されてしまった。しかもその場にいながら、
ぼくは何もできなかった。ナボールが死んでゆくのを、なすすべもなくただ見ているしかなかった。
ぼくは……ぼくは……
1813-9 Nabooru III (10/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:30:51 ID:djIraKEi
「さあて、リンク」
「お前の方は……」
 箒に乗った二人のツインローバが、頭上をくるくると回り始めた。
「ここでお前を殺すのは簡単なことだが」
「お前には、まだ役に立ってもらわなきゃならない」
「もうしばらくは生かしといてやるよ」
「ありがたく思うんだね」
「ただ……」
「もっとも……」
 二体の老婆が接近し、重なったかと思うと、次の瞬間には、新たな一人の人物──三、四十代に
見える背の高い女が、砂上に出現していた。
「お前、なかなか美味しそうだから、なぶってやりたいところではあるね」
 聞きづらいキイキイ声が、しっとりとした低い声になっていた。冷たそうな表情からは、しかし
熟しきった女の色もうかがわれ、豊満な両の胸が、それをいっそう際立たせていた。
 けれどもそうした性的特徴は、リンクに何の刺激ももたらさなかった。ナボールの死による
衝撃が、まだ去ってはいなかったのだ。二人の人物が合体して一人の人物になるという超自然的な
現象すら──すでにシークから聞いていたこととはいえ──驚きとはならず、目に映るままを
事実として認識するだけだった。耳には届いていたその言葉も、意味のあるものとして把握できては
いなかった。
「けど、まあ、ここは我慢のしどころかね。せっかくだから、もっと美味しくなる場面を待つことに
しようか」
 何のことだろう──と、リンクの意識はかすかに動いた。
 もっと美味しくなる場面? こいつは何を期待している? ナボールが死んで、これ以上、何が
新たに起こるというのか。
 待てよ。
 六人の賢者。そのうちインパとナボールは死んでしまった。だが他の四人がどうなったのかは、
まだわかっていない。
『諦めるな』
 いつも思ってきた言葉を、心によみがえらせる。
 ツインローバが高らかに笑い始めた。
 はっとして、その顔を見る。
「おめでたい奴だねえ。賢者がただの一人でも無事でいると、お前は思っているのかい?」
 ぎょっとする。なぜこちらの考えていることがわかるのか。
 ああ、こいつは人の心を読むことができるんだ。シークがそう言っていた。いまこいつは、
ぼくの心を読んだんだ。だけど、それ以上に大事なのは……
 ツインローバの言葉が、ようやく意味をもって頭の中に染みとおってきた。
「賢者どもがどういう目に遭ったのか、知りたいかい?」
 顔を寄せてくるツインローバ。口の両端が吊り上がり、壮絶な笑みが生じる。
 リンクは一言も発することができなかった。
「教えてやるよ。あたしの知っていることは、全部ね。実際には見ていないものまで、見ていた
仲間の心からかき集めてきたんだから」
 意味不明なことを言い、ツインローバは背筋を伸ばした。と思うと、そこには再び、箒に跨って
空中に遊弋する二人の老婆が現れた。
「ホーーーーホッホッホッ! 待っておいで」
「ヒーーーーヒッヒッヒッ! 楽しみにね」
 耳障りな嘲笑とともに、二人は砂漠の方へと飛んでゆく。
 追おうとしたリンクの上半身が、凍った砂の上に倒れた。足を固定している氷がもたらす、
痛みにも近い強烈な冷気を、その時になって、リンクはやっと自覚した。
1823-9 Nabooru III (11/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:31:34 ID:djIraKEi
 灼けた砂の上だというのに、氷は一向に溶けなかった。リンクはマスターソードを使って、足の
周囲の氷を削り取ろうと試みた。時間はかかったものの、苦労の末、何とか足を自由にすることが
できた。ただ……
 作業に専念しているうちは、まだよかった。動けるようになって、リンクは新たな問題に
直面せざるを得なくなった。
 これからどうするか。
 ナボールの死によって、魂の神殿まで来た意味はなくなってしまった。
 戻るしかない。
 とはいえ、戻ったところで、この先、何をすればいいのか。
 全身から力が抜け落ちてゆくような気がする。
 それでも、戻るしかない。
 復路は往路よりもさらに厳しい旅となった。砂漠の苛酷な自然と、砂中からのリーバの攻撃に
加え、目標の喪失という精神的な打撃が、体力以上に気力を奪い、足取りを重くした。
 賢者がどうなったのか教えてやる、と言ったツインローバは、神殿の前で姿を消したきり、再び
現れることはなかった。賢者の運命に関し、リンクの懸念は増す一方だった。何でもいいから
教えて欲しい、という、捨て鉢な気分にすら陥った。
 やがてそれは、驚くべき形で、リンクの前に呈示された。
1833-9 Nabooru III (12/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:32:19 ID:djIraKEi
 魂の神殿をあとにしてから三日目。
 疲れた足を引きずるリンクの前には、灼熱の太陽のもと、ゆらゆらと陽炎が立ちのぼる、砂の
地平が広がっていた。どこまでも変化のない単調な光景を、霞みつつある目で、リンクは見渡した。
 とにかく砦まで行かなければならない。その先に何らかの望みがあるというわけでもないのだが……
 リンクは首を振った。
 よけいなことは考えまい。いまは戻ることだけを考えよう。
 再び目を砂漠に向ける。と、風景が不可思議な変化を起こし始めた。
 砂ばかりのはずの地面が、どろどろと熔けたように流動し、色を真っ赤に変えた。それまで
以上の熱気が、リンクに向かって押し寄せた。
 ──熔岩?
 と思う間もなく、その中から、炎を身にまとった巨大な生物が飛び上がった。
 反射的に腕が動き、マスターソードを抜く。が、ことの異常さに心がついていかない。
 ごつごつとした赤黒い鱗に覆われた長大な胴。ねじれた二本の角。爛々と光る碧色の眼。
 竜だ! だがこの背景は? なぜいきなり熔岩が?
 竜が口をあけ、猛烈な炎の帯を吐き出した。避ける暇もなく、炎はリンクの身体を押し包んだ。
思わず叫びをあげてうずくまったが、奇妙なことに、焼かれたはずの身体には何の苦痛もない。
 目を上げる。高い山が見える。頂上を取り囲む禍々しい炎の渦。
 デスマウンテン!
 リンクの視界に、再び竜が現れる。宙をくねる姿を目で追ううち、眼前に二人の人物がいるのに
気づく。一方はガノンドロフ。そしてもう一方は……
「ダルニア!」
 叫びは無視された。二人の身体がぶつかった。ダルニアが押し、ガノンドロフが受ける。
激しい力の応酬は、やがてガノンドロフの勝利に終わり、ダルニアは地面に倒れ伏した。
 ガノンドロフが後ろからダルニアの腰を持ち上げ、長大な陰茎を肛門に挿入した。苦痛にゆがむ
ダルニアの表情をよそに、肛姦は延々と続いた。ダルニアが絶頂しても陵辱は終わらず、次には
女の入口が襲われた。ダルニアの口から、悲痛な、それでいて明らかに快美のこもった声が漏れ出す。
それが徐々に高まり、ダルニアは再度の絶頂に達した。
 ガノンドロフが立ち上がり、横たわったままのダルニアを蹴った。身体はごろごろと転がった。
崖の上から落ちた。熔岩の中に沈んだ。それきりだった。
 リンクは言葉もなく目の前の光景を見続けていた。
 これはいったい何なんだ? ぼくは何を見ているんだ?
 ツインローバが言ったのはこのことか? ダルニアは実際にこういう目に遭ったと?
 信じられない。
 あの逞しいダルニアが、女のよがり声をあげて、一方的にガノンドロフに犯されるなんて。
 あり得ない! デスマウンテンがここに存在するのと同じく、あり得ないことだ!
 そうだ、ここは『幻影の砂漠』。ぼくが見たのは幻影だ。ただの幻に過ぎないんだ。
 ツインローバのまやかしだ!
1843-9 Nabooru III (13/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:33:18 ID:djIraKEi
 風景が一変した。
 家々が立ち並ぶ村。奥に建つ風車。カカリコ村だ。
 そこは村の広場。二人の人物が剣で戦っている。ガノンドロフとインパだ。壮絶な戦闘だが、
インパの方が押している。ガノンドロフは防戦一方だ。
 リンクは手に汗を握って攻防を見守った。
 インパが煙幕玉を放ち、ガノンドロフの背後をとった。
 そこだ!──と叫ぼうとした時、二つに分かれた巨大な黒い手が、後ろからインパを捕らえた。
身をよじるインパ。逃れられない。ガノンドロフが迫り、インパの腹と顔面に拳を叩きこんだ。
インパは、ぐったりと崩れ落ちてしまった。
 あと少しだったのに……でも、さすがはインパだ。立派な戦いだった。ガノンドロフをあそこまで
追いつめるとは。あの正体不明の黒い手が邪魔さえしなければ……
 しかし次の場面は、リンクの持つインパ像を粉々に打ち砕いた。
 村人たちが見守る中、広場の中央で、全裸に剥かれたインパが、背後からガノンドロフに
犯されていた。インパの声も、また表情も、屈辱とともに、疑いようのない快楽の色を宿していた。
インパはガノンドロフに向け、「いかせてくれ!」とまで叫んだ。永遠とも思える陵辱の末、
ついにインパは絶頂に至り、力なくその場にくずおれた。
 リンクは茫然となっていた。ダルニアもそうだったが、あの男まさりのインパが女として犯され、
しかも快感に喘いでいるという状態は、とても現実のものとは思えなかった。そもそもリンクに
とっては、ダルニアもインパも、セックスと直接的には結びつかない人物だった。けれども眼前の
光景は、二人が性的にも女であるとの事実をリンクに突きつけ、さらに、その二人の「女」を
暴露して暴力的に蹂躙したガノンドロフへの脅威を、ひしひしと感じさせたのだった。
 ──いや! これは幻影だ! 現実ではないんだ!
 リンクは必死で否定しようとした。が、否定しきれないだけの鮮やかな生彩を、この幻影は
放っていた。
 インパとガノンドロフの立ち合いは、まさに目の前で実際になされているとしか思えないほどの
精緻な情景だった。実際、自分は我を忘れ、戦況に一喜一憂するほど、のめりこんでしまったでは
ないか。
 追い討ちをかけるように場面が移った。
 室内。ベッドの上でガノンドロフが女を組み敷き、乱暴に腰を動かしている。女はアンジュだ。
アンジュもガノンドロフに犯されていたのか!
 いきなり部屋の扉が開き、剣を手にした全裸のインパが飛びこんできた。ガノンドロフに
斬りかかろうとして、ぴたりと立ち止まった。と見るや、インパは自分の首筋に剣を当て、一気に
腕を動かした。
「!!!」
 インパの首が胴から離れ、どっと鮮血が噴き出した。首が床に落ち、次いで胴が音を立てて倒れた。
 これがインパの死!
 驚愕に身が震える。どんな事情があったのかはわからないが、インパはそこまで切羽詰まった
状況に追いこまれていたのだ。
 ──違う……これは……現実じゃない……
 否定にかかる心も、もはや力を失いかけている。
1853-9 Nabooru III (14/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:34:21 ID:djIraKEi
 さらに場面が変わる。
 広々とした屋外。満々と水を湛えた湖。ハイリア湖の風景だ。
 岸の近くの水面に、一人の人物が見える。小柄な身体。全裸の少女。
 ルトだ!
 岸に向かって進もうとしているが、うまく進めないようだ。何かに邪魔をされているのか。
 水面から細長いものが飛び出した。まるで水そのもののような、透明な触手。それはルトの首に
巻きつき、さらに数を増して全身を絡めとった。苦悶と嫌悪にゆがむルトの顔が、次第にとろける
ような恍惚の色を帯びてゆく。
 なぜ? まさか、あの触手が、水中で、ルトのあの部分を?
 そうとしか思えない、明白な喜悦の表情だった。やがて喜悦が爆発し、爆発は幾度となく続き、
その果てに、ルトはがっくりと力を失った。
 いったいルトは何を相手に──との疑問は、場面の暗転によって妨げられた。
 場は同じくハイリア湖のほとり。時は夜。横たわったルトの前に、ガノンドロフがうずくまっている。
 その両手がルトの両脚を大きく左右に押し広げた。あっ──と声を上げる間もなく、ルトの
股間にぐいと巨体が押しつけられた。ルトの口から絶叫がほとばしる。
 正視に耐えず、リンクは目を固く閉じた。にもかかわらず、リンクはその光景を見続けなければ
ならなかった。目を閉じたくらいでは、幻影は去ってはくれなかった。
 悲痛の極みといった悲鳴をあげ、必死に身体を動かして抵抗するルトに、ガノンドロフは何の
斟酌もしなかった。暴戻な陵辱が展開された。苦痛のあまりルトが意識を失っても、なお陵辱は
終わらず、ガノンドロフの剛直は、鮮血のあふれる未熟な陰門を、情け容赦もなく犯し続けた。
 ルトが……ルトまでが……
 言葉では言い尽くせないほどの惨状に、リンクの胸は破裂寸前だった。しかし次の場面に
比べれば、まだましだった。
 湖に浮かぶ第二の小島。ぐにゃりとなったルトの身体を、ゲルド女たちが抱きかかえ、水の
中へと放り投げる。
「あ……」
 リンクは見た。水中に没するルトの四肢と胴体に、大きな石を結んだ縄が巻きつけられているのを。
 記憶が脳を突き破る。
 ハイリア湖の底で泥に埋もれていた白骨死体。
 何てことだ……何てことだ!
 あれはルトだったんだ! ルトの身体だったんだ!
 ぼくはルトに会っていた。なのに、そのすぐ近くに立ちながら、ぼくはそれがルトだと気づきも
しないで、無感動にも「ああ、ここでも人が死んだんだな」などと……
 激しい悔恨がリンクを襲った。抑えきれない呻きが喉から漏れ出た。知りようがなかったのだ、
どうしようもなかったのだ、と思おうとしても、何の慰めにもならなかった。
 あまりにも不憫なルトの運命。そして、その亡骸にろくな関心も払わず立ち去ってしまった自分。
 悲嘆と自責の念に加えて、さらに一つの概念が、リンクを叩きのめした。
 幻影が示す物語の結末を、我と我が目で見てしまった以上、この幻影は真実であると認めざるを
得ない。
1863-9 Nabooru III (15/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:35:16 ID:djIraKEi
 続けて場面が変化する。
 なじみ深いコキリの森の風景が目に映った時、リンクは頭に激痛を感じた。これから起こることが
否応なく予想されてしまったのだ。
 それは予想をはるかに上まわる、地獄のような光景だった。
 森の仲間たちが、ゲルド女らに襲われ、さまざまな形で陵辱されていた。そしてサリアは、
「やめろ……」
 熟女姿のツインローバに後ろから抱きすくめられ、身体中をまさぐられ、衣服を奪われて
全裸にされ、股間に指を突き立てられ、声もあげず、しかし快感に悶えるさまは疑いようもなく、
とうとう全身を震わせて絶頂し、次いでその身はガノンドロフに引き渡され、
「やめろ」
 向かい合った形で抱きかかえられ、持ち上げられ、巨大な肉柱をあてがわれ、
「やめろ!」
 一気に貫かれ、激しく上下に揺すぶられ、顔は苦悶にゆがみ、両の目からはとめどなく涙が
あふれ、噛み破られた唇から血が流れ、
「やめてくれ!」
 それでも一言すら発さないうちに、ガノンドロフの遂情の一撃を受け、傍らに放り出され、
股間からは血の混じった精液がどろりと流れ出し、
「もうやめてくれ!」
 変わって『森の聖域』では、ガノンドロフそっくりの何者かが、全裸のままのサリアにのしかかり、
血まみれの部分を再び犯し始め、
「これ以上!」
 そこに現れた本物のガノンドロフが、何者かに騎乗させられたサリアの後ろから、暴虐きわまりない
二重の強姦を開始し、
「見たくない!」
 やっと開かれたサリアの口から漏れる声も虚しく、二つの部分が同時に引き裂かれ、やがて
そこに劣情の終末たる白濁が満ち、
「もうたくさんだ!」
 地に叩きつけられたサリアが、これも血にまみれた顔を上げ、息もたえだえの状態で立ち上がった
ところへガノンドロフの剣が振りおろされ、
「!!!!!」
 切り裂かれたその身は、またも地面に倒れた。
 伏せられた顔。その口が、わずかに動く。声はない。が、リンクには、口の動きがはっきりと
見てとれた。
『……助けて……リンク……』
 自分が『森の聖域』で聞いた声。あれはサリアの断末魔の想い。
 吼えるがごとくの絶叫が、止めようもなく口から噴出する。
 サリア! サリア! サリア!
 叫びは何も変えられない。
 動かなくなったサリアの身体。それはコキリの森のすべてとともに、轟々と燃え盛る炎の中で、
跡形もなく消え去った。
1873-9 Nabooru III (16/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:36:03 ID:djIraKEi
 考える力すら失ったリンクの前に、何かが音を立てて落下した。
 ──まだ続くのか……
 ゆるゆると目を上げる。すでに炎はなく、そこには見覚えのある大きな建物が聳えていた。
 時の神殿。その前にうずくまる、巨大な鳥。梟。
 ケポラ・ゲボラ!
 閉じかかった心が、防ぎようのない幻影の刺激によってこじ開けられる。
 まさか……ラウルまでも……
 熟女姿のツインローバが視界に入ってくる。全裸だ。股間には隆々と勃起した陰茎が
そそり立っている。いや、あれは本物じゃない。張形だ。ツインローバが張形をつけているのだ。
 何のために──と思いをめぐらす暇もなく、それはケポラ・ゲボラの背後から、肛門へと
突き入れられた。
 予想もしなかったおぞましい行為に、胸が激しくむかついた。
 意味不明の叫び声をあげ、顔を狂的な熱情に満ちあふれさせながら、嵐のごとき勢いで、
ツインローバはケポラ・ゲボラを犯しまくった。この世のものとは思えない、倒錯しきった
光景だった。
 ツインローバが獣のようにわめき始めた。ガノンドロフがケポラ・ゲボラの頭部に歩み寄り、
抜く手も見せず剣を振りおろした。ケポラ・ゲボラの首がすっ飛び、大量の血液が飛び散った。
 耐えきれず、リンクは嘔吐した。胃はとめどなくのたうち、何度も、何度も、中身が口の外に
ぶちまけられた。胃が空になっても嘔吐は治まらなかった。内臓すべてが口から飛び出しそうな
感じさえした。
 絶え間ない精神的打撃に、猛烈な肉体的苦痛が加わった、身も心もばらばらになってしまうかと
思われるほどの破滅的感覚だった。
1883-9 Nabooru III (17/17) ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:36:57 ID:djIraKEi
 リンクは東に向かって歩き続けた。しかし歩みに確たる意志はなく、ほとんど自動的に足が
動いているだけだった。心は虚ろで、まとまった思考は皆無に近かった。砂の中から襲ってくる
リーバに立ち向かう気力もなく、かといって逃げ切るだけの体力もなく、足はいくつもの傷を
負った。砂と太陽の威力も相変わらずだった。
 幻影の到来は、一度きりでは終わらなかった。四人と一羽の、その陵辱と死の光景が、繰り返し、
繰り返し、リンクに襲いかかった。のみならず、実見したナボールの死と、かつてガノンドロフと
ツインローバによって行われたとみられるナボールへの陵辱までもが、新たな幻影として加わっていた。
 筆舌に尽くしがたい苦闘の末、リンクは中間地点の建物に到達した。地下室で荒い息を吐きながら、
自分はどうやってここまで来ることができたのか、と、リンクは不思議に思った。
 どういう道筋をとったのか、全く覚えていない。あるいは無意識のうちに、往路の記憶をたどり、
コンパスを使い、道しるべを見ていたのかもしれないが、そうした記憶が全然ないのだ。時間の
感覚も失われている。魂の神殿を出発してから何日経っているのかさえ、まるでわからない。
 自分の中にある生命力のためか、と、ぼんやり考える。
 だが、その生命力も、いつまでもつだろうか。すでに食糧は尽きている。神殿の前のオアシスで
補給した水も、いまは残り少ない。この地下室にいれば、砂と太陽は避けられるが、水がなくなって
しまえば、あとは死を待つばかりだ。
 リンクは再び砂漠へとさまよい出た。リーバがいない分、行程が楽になると思われたが、
それ以上の苦難が襲ってきた。
 いったん終息していた砂嵐が、再び荒れ狂い始めたのだ。
 無数の砂粒が全身に叩きつけられる。視界はきかず、呼吸すらまともにできない。飛散する
砂によって空は覆い隠され、昼夜の区別もつかず、再び時間の感覚が失われてゆく。そのうち水も
なくなった。
 またもや幻影が見えてくる。
 サリア、ダルニア、ルト、インパ、ナボール、そしてケポラ・ゲボラ。
 六人の賢者は、すべて死に絶えてしまった。
 もう世界を救うことはできない。
 脚の力が抜け、膝が砂につく。その態勢すら保てず、全身が砂の上に倒れる。砂が吹き寄せられる。
身体が砂に埋まってゆく。
 動けない。
 ──ぼくは……ここで……死ぬのか……
 絶望と諦めが心を浸す。
 ──もういい……このまま……ぼくは……
『リンク!』
 ──なに?
『しっかりして!』
 ──誰?
『あなたは……』
 ──ぼくは?
『………………』
 ──幻聴?
 幻影を見るくらいだ。幻聴があってもおかしくはない。
 ──だけど……
 沈んでゆく意識の片隅で、最後の煌めきが像を結び、
 ──いまの声は……誰の……
 かすかな力となって記憶を掘り起こし、
 ──そうだ……ぼくは……あれを……持って……
 しかし意識は沈降をとどめることなく、深い闇へと落ちこんでいった。


To be continued.
189 ◆JmQ19ALdig :2007/09/12(水) 01:38:49 ID:djIraKEi
以上です。
アイテムがないので、「砂の大河」や「幻の案内人」は出せずじまい。じゅうたん商人も。
190名無しさん@ピンキー:2007/09/12(水) 08:55:40 ID:74PwIxgG
乙です!!!
最初に「ナボール死亡」の設定を見てしまってちょっと悲しかったけど、
「一過性」ってのが気になりますな(゚∀゚*)=3
191名無しさん@ピンキー:2007/09/12(水) 15:18:08 ID:yI9Pt6oI
どひー、ショックのあまりリンクが心因性EDになりそうだ…
192名無しさん@ピンキー:2007/09/12(水) 17:04:43 ID:m5+149Yz
そいつぁ一大事だww
193名無しさん@ピンキー:2007/09/12(水) 17:10:00 ID:EzQxVfXj
これではリンクは今後セクロスの度に
ガノンのレイプ&惨殺がフラッシュバックしちゃうお(´;ω;`)
194名無しさん@ピンキー:2007/09/12(水) 17:38:48 ID:qP9M3vp0
そこでゼルダはんの登j(ry
195名無しさん@ピンキー:2007/09/13(木) 11:28:31 ID:UPwlrcS5
>>193
それを乗り越えてこそ真の勇者!
196名無しさん@ピンキー:2007/09/13(木) 21:12:11 ID:1VMgY3iA
よっしゃ、いよいよ「ずっとリンクのターン!」の始まりだぁ!
197名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 15:18:32 ID:DsBjtJr0
今度こそ溜っていた鬱屈感が一気にカタルシスへ…
何が言いたいかというと続きwktk
198名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 18:32:07 ID:l+DZ9AS5
リンク大人になって復活の時点で
「ずっとリンクのターン!」スタートだと思いこんでたのでへこんだ
199 ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:35:24 ID:r0cEso4m
私本・時のオカリナ/第三部/第十章/シーク編その3、投下します。
ほぼエロ無し。ただ、リンクとシークが、ある行為に及びます。
801のつもりはないのですが、一応、注意をお願いします。
2003-10 Sheik III (1/15) ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:36:44 ID:r0cEso4m
 ゲルドの砦は二方向に出入り口を持っていた。一方はゲルドの谷を経てハイラル平原へと続く
東側の出入り口、もう一方は『幻影の砂漠』に向かう西側の出入り口で、それぞれの場所には門が
構えられ、傍らには見張り台が建てられていた。
 砦がゲルド族の本拠地であった時代、東側の見張り台には、昼夜を分かたず人員が配置されていた。
敵対していたハイラル王国を警戒し、その動向を探るためである。それに反し、西側の見張り台の
需要は格段に低かった。『幻影の砂漠』以西には、敵にせよ味方にせよ、人が全く住んでおらず、
警戒の要がなかったからだ。せいぜい、時に荒れ狂う砂嵐の観測に使用されるくらいだった。
 ハイラル王国の滅亡後、ゲルド族がハイラル平原に移住し、さらに残留していたナボールの
一党が解散してからは、無人となった砦自体とともに、見張り台も──西側のものだけでなく
東側のものも──過去の遺物と化していた。『副官』らの復帰によって、砦は再び生活の場と
しての役割を取り戻したが、見張り台は無用の長物のままだった。
 その見張り台が、巨大邪神像を目指してリンクが砦を出立した直後から、にわかに人の占める
ところとなった。
 ハイラル平原への出口にある町を強行突破してきたリンクが、お尋ね者となっているのは
確実だった。そのため東側の見張り台には、かつてと同じく、常時、人が立つことになった。
のみならず今回は、西側の見張り台までもが重要視された。砂漠へ向かったリンクの安否を
気遣ってのことだった。

 リンクの出発から二週間あまりが過ぎた、ある日の昼下がり。
 高所から砂漠に目を凝らしていた見張り役の女は、吹きすさんでいた砂嵐がぱったりとやんだ
あと、遠方に一条の煙が立ちのぼるのを見た。緊急連絡用の発煙筒から生じた煙であること、
発煙筒を使用したのがリンクであることは、ともに明らかだった。場所は砦から一日ないし
二日ほどかかるあたりと推定された。直ちに捜索が決定され、『副官』に率いられた四人の
救助隊が、あわただしく砂漠に踏みこんでいった。
 砂嵐に遭遇する危険も顧みず、一行は昼夜兼行で砂上を急ぎ、翌日の夕刻、砂漠に倒れていた
リンクを発見した。身体がほとんど砂に埋まり、窒息寸前となっていたが、まだ息はあった。
とはいえ、重篤な状態であることには違いなく、ひどい脱水症状を呈しており、心神は喪失していた。
口につけられた水を飲みこむだけの力はかろうじて残していたものの、意識が戻る気配はなかった。
救助隊は慎重に、かつ、できる限りの速さで、リンクを砦へと搬送した。
2013-10 Sheik III (2/15) ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:37:35 ID:r0cEso4m
 ベッドに寝かされたリンクは眠り続け、ようやく目をあけたのは、砦に帰還してから二日後の
ことだった。当初は身を動かすこともできなかったが、女たちの熱心な看護により、体調は
日増しに好転していった。
 ただし精神面は別問題だった。リンクの態度には、話しかけることすら躊躇されるような、
隔絶的な雰囲気があった。口から言葉が出ることはほとんどなく、表情は空虚だった。リンクに
無用の刺激を与えないよう、女たちは注意深く行動した。身体の交わりなど論外だった。
 ある時、『副官』は意を決し、ナボールの消息をリンクに訊ねた。リンクは黙って首を横に
振るだけだった。暗い顔には、しかし激しい感情が秘められているようにも見え、単に消息が
得られなかったのではなく、何らかの事件があったのではないか、と案じられたが、リンクが何も
語ろうとしないため、それ以上の情報は得られなかった。

 一週間が経過し、かなりの程度まで体力が回復すると、リンクは、ハイラル平原に戻る、と
言い出した。
 一同は引き止めた。体力はともかく、リンクが精神的に立ち直っているとは思えなかったのだ。
再び町を突破しなければならないこと、その町の者に追われる身であること、さらに、橋が
架け直されておらず、ゲルドの谷を渡るのは困難であることが、説得の材料に使われた。
 リンクの言は変わらなかった。
「また来てくれるかい?」
 反ガノンドロフ行動について煮詰める必要もあるから──と、出発間際のリンクに『副官』は
問いかけた。
「ああ」
 短く答えるリンクの顔には、かすかな笑みが浮かんでいた。が、それは真の感情の現れという
よりは、顔の筋肉が勝手に収縮しているだけ、というふうに、『副官』には見えた。
 リンクはエポナに跨り、東へ向けて去っていった。
 あれほど力強かったリンクに、いったい何があったのか。
 悄然とした後ろ姿を見送りながら、『副官』は大きくため息をついた。
2023-10 Sheik III (3/15) ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:38:37 ID:r0cEso4m
 ぼくは何をしようとしているのか。どこへ行こうとしているのか。
 エポナの背でおのれの身がふらふらと揺れているのをぼんやりと感じながら、リンクは同じ
疑問を心の中で繰り返していた。
 答は出なかった。
 すべての希望は失われた。どこへ行こうが、何をしようが、世界を救うという使命を果たす
ことはできないのだ。そのはずなのに……
 ぼくではない何かが、ぼくを前に進ませている──としか思えない。
 何かとは何なのか。
 砂漠で倒れ、死を受け入れようとしていた時……ぼくは発煙筒を持っていることを思い出し……
思い出しはしたが、そのまま意識を失ってしまい……けれどもおそらくは、その後の無意識の
身体の動きで、発煙筒を取り出し、煙を発する操作を行い……そして、九死に一生を得ることが
できた。
 あの時、ぼくに発煙筒のことを思い出させたのは、何だったのか。何かの力が、ぼくの記憶を
掘り起こしたのだ。意識を失いかけていた時のことであり、いまとなっては、その力の正体を、
ぼくはどうしても探り当てることができないのだが、ここでぼくを前に進ませている何かとは、
その力と同じものなのだ──と、思えてならない。
 ぼくを生かさせ、ぼくを進ませる、その力。
 だが問題なのは、その力が何なのか、ではなく、その力がぼくをどこへ導いているのか、なのだ。
それが知れない限りは、いかなる力であろうと、何の意味もありはしない。
 目を閉じ、頭を振る。
 当てのないことばかり考えていても、しかたがない──と、無理やり思いを閉じる。そうしなければ、
やり場のない激情が噴き出し、収拾がつかなくなってしまいそうだった。
 眼前の課題に目を向ける。
 とりあえず、ゲルド族の支配領域から脱出しなければならない。そのためには、まず……
 リンクは我に返った。エポナの足が止まっていた。
 風景を見渡す。
 ゲルドの谷が、底なしの裂け目を見せて横たわっていた。
203名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 00:39:09 ID:rG4AURw5
>>198
世界を救うってのはそう簡単にはいかないって事ですよ

俺は逆にガノンドロフの恐ろしさやラスボスとしての風格が際立っていいと思うし、
これからリンクがどうやって打開策を見つけるのか楽しみだ
2043-10 Sheik III (4/15) ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:39:25 ID:r0cEso4m
 砦の女たちに聞いたとおり、橋は再建されていなかった。来た時と同じく、エポナの跳躍に
すべてを任せるしかなかった。幸い、対岸に追っ手の姿は見えず、行動を妨げられることは
なさそうだった。
 重く沈む心を励まし、慎重に場所と距離とを確かめてから、エポナを走り出させる。
 エポナはみごとに谷を跳び越えた。リンクの方は、エポナにしがみついているのが精いっぱいだった。
着地の際には、その体勢すら保てず、エポナの脚から伝わる衝撃で安定を失い、無様にも地面に
転げ落ちてしまった。
 痛みに耐え、のろのろと身を起こす。
 その時、
「リンク!」
 小さく鋭い声が聞こえた。驚いて周囲を見まわす。
「ここだ!」
 崖際の広場。その隅にある岩の陰から、一人の人物が立て膝をつき、半身を覗かせていた。
「シーク……」
 緊張が解けるとともに、身体から力が抜けていった。

 リンクと別れたのち、シークは町の近辺にひそみ、つぶさに情報を収集した。漏れ聞いた
女兵士たちの話から、リンクが町を突破し、ゲルドの谷をも越えて、『幻影の砂漠』の方へと
向かったことがわかった。シークはあとを追った。リンクの強行突破の影響で警備が強化され、
町を通り抜けるのは相当の難作業となったが、細心の注意を払い、以前の滞在で得た土地勘をも
駆使した隠密行動の末、ついにシークはゲルドの谷まで到達することができた。しかし橋がない
状態では、追跡は続けられなかった。町の連中は橋を架け直してまでリンクを追いかける気はない
ようだったので、シークはそこに腰を据え、リンクを待つことにした。
 リンクは戻らなかった。
 別れてから一ヶ月が過ぎる頃になると、シークも焦りを覚え始めた。
 危険を冒して谷底に下り、対岸で上りの道を探すか。あるいは、いったんハイラル平原へ戻り、
かつてゲルド族がハイラル城襲撃の際に通ったという、北方の迂回路をたどってみるか。
 ──などと、覚束ない方法にまで、心を動かしかけていた時。
 とうとうリンクが姿を見せたのだった。
2053-10 Sheik III (5/15) ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:41:38 ID:r0cEso4m
 ゆっくりと歩み寄ってくるリンクの顔を見て、シークは大きな驚きに打たれた。頬はこけ、
顔色は泥のように濁り、目は暗く澱んでいた。何よりも、常にリンクが持っていた、前向きの
活力というものが失われていた。コキリの森の壊滅を知った時の意気消沈ぶりすら及ばない、
失意の極致とも呼べるような、暗澹とした雰囲気だった。
 シークの前まで来て、リンクは地面に腰を下ろした。いや、崩れ落ちた、と言った方が正確かも
しれない。立て膝をついた姿勢のまま、シークはリンクを見守った。うつむいた顔は動く気配もない。
ものを言う力さえないようだ。
「魂の神殿に行ったのか?」
 シークは敢えて端的に訊ねた。リンクはかすかに頷いたが、やはり口は閉じられたままだった。
「ナボールには会えたのか?」
 続けて問いかける。しばし沈黙が続き、ようやくリンクは言葉を発した。
「……ナボールは……死んだよ……」
 胸にずきりと痛みを感じながらも、リンクの言が「死んでいた」ではなかった点を、シークは
いぶかしんだ。
「会ったのか?」
 重ねて問う。再びリンクが頷く。その肩が小刻みに震え始める。
「……ナボールは……ツインローバに焼き殺されたんだ。ぼくの目の前で」
 声が上ずってゆく。
「ぼくはそれを見ていながら、何もできなかった。ナボールが焼け死んでいくのを、ただ見ている
だけだったんだ。どうしようもなく無能だよ、ぼくは!」
 血を吐くような自虐がリンクの口から放たれた。シークは慰めも言えなかった。リンクが語った
事実が、頭の中で反響し続けていた。
 ──ナボールが死んだ……
 可能性を考えていないわけではなかった。それでも期待をかけずにはいられなかった。が……
その期待もかなわなかった、と……
 奈落の底に落ちかかる心を、かろうじて引きとどめる。
 死んだと判明したのは、インパとナボールの二人だけだ。残りの賢者は、まだ……
「それだけじゃない」
 こちらの思いを見透かしたようなリンクの言葉。シークはぎくりとした。
「賢者はみんな死んだんだ。もう一人も生き残っちゃいない」
 ──何だって?
「なぜ君にそれがわかる?」
 激しく波立つ胸を抑えつけ、シークは問いつめた。
 リンクは動揺している。理由のない疑惑なら払拭してやらなくては。そう、理由のないことで
あるならば……
「幻影を見たんだ」
「幻影?」
「賢者が死んでいくさまを、ぼくは全部、見せられた。みんなガノンドロフに追いつめられて……
そればかりか……ガノンドロフとツインローバに……犯されて……」
「いったい何を言っているんだ?」
「ツインローバがぼくに見せたんだ。ダルニアはデスマウンテンで熔岩の中に突き落とされた。
インパは……君は知っていたか? インパは戦死したんじゃない。自分で自分の首を斬り落としたんだぞ!
ガノンドロフに犯されたあとで!」
「リンク!」
 堰を切ったように能弁となったリンクを、シークは一喝した。
「君が何を見たとしても、それは幻影なんだろう。事実じゃない。君はツインローバに惑わされて
いるんだ!」
2063-10 Sheik III (6/15) ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:42:40 ID:r0cEso4m
「事実だ!」
 初めてリンクは顔を上げ、シーク以上の大声で叫んだ。目が異様な光を湛えていた。
「ぼくにはわかるんだ! ルトが……ハイリア湖に沈められて……この前、ぼくは……その骨を
見て……ルトはずっと一人であそこにいて、なのにぼくは気づいてやれなくて……すまない……
ルト……」
 シークは言葉を継げられなかった。
 言っていることがよく理解できない。
「それにサリア……ぼくに助けを求めていたのに、やっぱりぼくは助けられないんだ! サリアが
いくらひどい目に遭っても、ガノンドロフに斬り殺されても、ぼくは何もできなかった! ぼくが
サリアのためにしてやれることは、もう何もないんだ!」
「落ち着け! リンク!」
 こんなリンクは見たことがない。完全に錯乱している。何とか気を静めてやらなければ。
 だが……
 錯乱による妄言──と決めつけにかかりながらも、シークは、賢者の全滅という大破局を、
否応なく容認しそうになっている自分に気づいた。
 常に心の底にあった、しかし意識にはのぼらせたくなかった危惧。
 ──いや!
「たとえそれが事実であろうともだ。まだ賢者は残っている。ラウルが──」
「ラウルも死んだ!」
 シークの最後の拠り所を、リンクは一言で打ち砕いた。
「ケポラ・ゲボラが姿を現さないのは当然さ。だって、もうガノンドロフに殺されていたんだから!」
「馬鹿な!」
 叫びが口から飛び出す。
「そんなはずはない!」
「なぜそう言えるんだ? 君はラウルのことになると、どうしてそう楽観的なんだ? あの予感と
いうやつか? 何の根拠もないだろう! 夢のお告げとはわけが違うんだ! 君はゼルダじゃ
ないからな!」
2073-10 Sheik III (7/15) ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:43:25 ID:r0cEso4m
 シークは絶句した。
 確かに、ラウルの生存を信じる自分の思いには、何の根拠もない。そうあって欲しいという
だけの、はかない望みに過ぎない……のか……
 さらに異なる衝動が、シークの胸をざわめかせる。
 いまのリンクの発言……その最後で挙げられた名前……
「もう……だめだ……」
 一転して、リンクの声が小さくなった。
「すべてが終わったんだ……絶望だよ……」
 絶望! そんな言葉をリンクの口から聞かされるとは!
 シークは愕然となった。あらゆるものが音をたてて暗黒の底へ崩れ去ってゆくような気がした。
その心の中で、残っていた胸のざわめきが、まばゆい煌めきを誘発し、シークを揺さぶった。
 君は世界に残された最後の希望。その君自身が絶望を口にしてはいけない!
 助けなければ! 僕がリンクを助けなければ!
 肩に両手をかける。ぐっと顔を近づけ、目を覗きこむ。
 ──リンク!
「リンク!」
 ──しっかりして!
「しっかりするんだ!」
 ──あなたは時の勇者!
「君は時の勇者!」
 ──あなたの勇気を!
「君の勇気を!」
 ──わたしは信じています!
「僕は信じている!」
 見る。リンクの目を見る。弱々しく、涙さえこぼれ落ちそうになった二つの目には、しかし、
わずかに、新たな光が胎動していた。
 その光をなくさないで!
 次の瞬間、シークはおのれの唇を、目の前にある唇に、固く重ね合わせていた。
2083-10 Sheik III (8/15) ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:44:18 ID:r0cEso4m
 あらゆる思考が吹き飛んだ。身動きひとつできなかった。思いもよらないシークの行為を、
リンクはただ、なすすべもなく受け止めるだけだった。
 あまりにも唐突。あまりにも異常。
 なのに、拒めない。いや、拒むどころか、これこそがあるべきことだったのだ、というわけの
わからない確信が心の隅に生まれ、それもやがて、風に吹き払われる塵のように、いずこへともなく
消え去ってゆき……
 この上もなく温かな触れ合いが、どのくらいの間、続いただろう。
 シークが、そっと唇を離した。肩から腕をはずし、後ろへ身を引いた。さっきまで激しい情熱に
満ちていたシークの目は、すでにいつもの冷静さを取り戻しており、同じく冷静な短い言葉が、
ぽつりと口から外に出された。
「落ち着いたか?」
 茫然とシークの顔に目をやったまま、リンクは頷いた。
 不思議に──実に不思議なことに──自分のすべてが澄み渡ったような感覚だった。

 なぜこんなことをしてしまったのか。
 冷静な態度を示そうと努めながら、いまだ強く動悸を打つ胸の中で、シークは自問した。
 どう考えても異常な行為だ。自分で自分が信じられない。なのに、僕の心には一片の悔いもない。
悔いるどころか、これこそがあるべきことだったのだ、というわけのわからない確信がある。結果、
リンクを鎮静に導くことはできた。だが、なぜ僕は……?
 あたかも、自分の中にある自分ではない何者かが、僕を突き動かしたかのような……
 その衝動を生んだのは……リンクが漏らした、あの名前……
 ──そうだ!
 にわかに思考が旋回する。
 リンクが見たという幻影は真実なのかもしれない。賢者はすべて死に絶えてしまったのかも
しれない。けれども、たとえそうだとしても、なお、ただ一人、残った者がいるではないか!
 それは……
2093-10 Sheik III (9/15) ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:45:11 ID:r0cEso4m
「ゼルダだ」
 シークの声に、身体がぴくりと反応する。
「……ゼルダ?」
 反射的に問い返す。シークが声をかぶせてくる。
「君が見た幻影に、ゼルダは出てきたか?」
「いや……」
 思い出すまでもない。
「ならば、ゼルダは生きているということだ。もしゼルダが殺されたのなら、ツインローバが
その光景を君に見せないはずはないからな」
 シークの声が強くなる。
「ゼルダは生きている! それを忘れるな!」
 ……そうだ。ゼルダは生きている。あの泉で、トライフォースの耳飾りを見つけて、ぼくは
それを確かめたじゃないか。
 そう! ゼルダ!
 これまでどうしてそのことが思い浮かばなかったのか。さっきゼルダの名をシークに言いさえ
したというのに、どうしてぼくはその重要さに思い及ばなかったのか。それほど動転していた
ぼくを我に返らせたのは、シークとの行為であり……いや、その直前にも……ぼくを呼び覚まそうと
したものが……
 シークがぼくに送ってきた言葉。「しっかりするんだ」という真摯な呼びかけ。
 何かに重なる。何かを思い出させる。あれは……あれは……
(しっかりして!)
 砂漠でぼくが聞いた声!
 あれはゼルダの声だった! ぼくを生かさせ、ぼくを前に進ませてきたのは、他ならない、
ゼルダの声だったんだ!
 この世界のどこかで生きているゼルダの思いが、ぼくに届いたというのだろうか。
 そうなのかもしれない。
 でも、それだけじゃない。ゼルダならぼくにそう言うだろう、と、ぼく自身が心の底で思って
いたんだ。打ちひしがれながらも、自分の力を忘れるな、と、ぼくはぼく自身を励ましていたんだ。
 絶望してはいけない!
2103-10 Sheik III (10/15) ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:46:31 ID:r0cEso4m
 だが──と、心は暗転しかかる。
 すべての賢者が死んでしまったいま、いったいどうやって世界を救えばいいのか。頼みと
なるのはゼルダだけなのか。
「なら……ゼルダはどうして姿を現さないんだ? もうこうなったら、ゼルダに会わないことには、
どうにもならないというのに……」
 淡々とした声でシークが答える。
「ガノンドロフもそれを待っているだろうな」
「あ──」
 そうだった。ガノンドロフはぼくとゼルダが出会う時を狙っている。ぼくたちのトライフォースを
奪おうとして。
 ツインローバの言葉を思い出す。
『お前には、まだ役に立ってもらわなきゃならない』
『せっかくだから、もっと美味しくなる場面を待つことにしようか』
 あれはゼルダのことだったんだ。ツインローバが期待していたのは、ゼルダがぼくの前に現れる
ことだったんだ。
 奴らの思惑にはまるわけにはいかない。ゼルダを待っているだけではいけない。
 けれど……
「じゃあ……どうすればいい?」
 すがるがごとく、シークに問う。常に冷静で、用意周到なシークなら、何かいい考えを持って
いるのでは……
 シークの顔は、しかし重苦しくうち沈んでいた。
2113-10 Sheik III (11/15) ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:47:35 ID:r0cEso4m
 リンクは惑いから抜け出した。七年間の眠りから覚めた時と同じく、ゼルダの名がリンクを
鼓舞し、よみがえらせたのだ。
 シークは深く安堵した。
 とはいえ……
「じゃあ……どうすればいい?」
 リンクの問いに、僕は答えるすべを持たない。賢者の覚醒が望めなくなってしまった現状を、
いかに打開すればいいのか。せっかくリンクが立ち直ってくれたというのに、その力をどこに
向けてやればいいのか。僕には全くわからない。このままでは、再び絶望の淵に落ちるしか道は
なくなってしまう。
 何か打つ手はないか。何か方法はないか。
 じりじりと脳が灼けてゆく。思考は一向にまとまらない。
『いっそ時を戻して、何もかもやり直すことができたら!』
 破れかぶれの妄想までが浮かんでくる。が……
『時を戻す?』
 自分で思ったことが、なぜか心に引っかかる。いったん治まった胸のざわめきが、再びじわじわと
湧き上がってくる。とともに、何かが僕の中で警鐘を鳴らす。何に対して? 僕は何を気にかけている?
 時。
 極限までに短い、その言葉。
「時の……勇者……」
 呟きが口から漏れる。
「え?」
 いぶかしげなリンクの顔。
 その時、新たな概念が雷のようにシークの脳髄を打った。
 荒唐無稽──と省みるいとまもなく、その概念に至る論理を、思わずシークは口にしていた。
「リンク、君は……なぜ、時の勇者なんだ?」
2123-10 Sheik III (12/15) ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:48:26 ID:r0cEso4m
 リンクはあきれた思いでシークの顔を見つめた。
 いきなり何を言い出すのか。
「ぼくがマスターソードに選ばれたからだろう。君自身、そう言っていたじゃないか」
 シークの態度は変わらなかった。
「ただの勇者なら、それでもわかる。だが、なぜ『時の』勇者なんだ? 『時』という言葉に、
どういう意味がある?」
 面食らいながらも、思いつくままに答える。
「それは……マスターソードが……時の神殿にあったからで──」
「ではなぜ、あの神殿は、時の神殿と呼ばれているんだ? 他の何の神殿でもなく、『時の』
神殿と呼ばれる、その理由は、いったい何なんだ?」
 詰まってしまう。わからない。
「君には……何か考えがあるのか?」
 逆に訊いてみる。シークの言い方に、話を誘導するような流れが感じられた。
「根拠がない──と言われれば、それまでだが……」
 と前置きし、シークは噛んで含めるような口調で話し始めた。
「君は時の神殿でマスターソードを台座から抜き、光の神殿に封印された。その後、封印が解ける
までに七年が経過したわけだが、目覚めた時、マスターソードを抜いたのは、ほんのついさっきの
ような気がする──と君は言っていた。そうだな?」
「ああ」
 シークの言いたいことがわからず、リンクは、ただ短く返答した。
「つまり君の感覚では、マスターソードを台座から抜くことによって、君は一瞬のうちに、
七年後の未来の状態へと変化したことになる。ならば、だ」
 いったん言葉を切り、シークはぐいと目を近づけてきた。
「マスターソードを台座に戻せば、君は七年前の過去の状態に戻れるんじゃないだろうか」
 口がきけなかった。
 何という──
「突拍子もないことを──と思うかもしれない。だが、そうとでも考えないことには、『時』と
いう言葉の意味が理解できないんだ」
 言われてみれば……これまで時の勇者という名を背負い、マスターソードを持って旅をして
きたが、『時』という言葉に関係したできごとには、遭った経験がない。これまでとは全く違った
行動をとらない限り、そんな経験は得られないだろう。そして、その行動というのは、シークが
言う以外のこととは思えない。そう、確かに!
「この考えが正しいのかどうか、僕にはわからないが、やってみる価値はあると思う」
「うん……でも、過去に戻れたとして、ぼくに何ができる?」
「わからないか? 七年前だ。君が封印された時点の世界だ。その時点では、まだガノンドロフは
暴威を振るうには至っていない」
「すると……賢者は──」
「賢者は生きている! 君は生きている賢者に会えるんだ!」
 生きている賢者!
「賢者が誰なのかは、もうわかっている。会うのにそれほど苦労はないはずだ」
 そうだ。ツインローバの幻影が、図らずも賢者の正体を裏づけてくれた。
2133-10 Sheik III (13/15) ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:49:19 ID:r0cEso4m
 ただし、問題が一つある。ナボールと会った時にも直面した問題。
「賢者に会って……何をすればいいんだろう。賢者を覚醒させる方法が、ぼくにはわからないんだ
けれど……」
「それは──」
 シークの眉根が曇る。
「大きな問題だが……その方法がわかったとしても、過去の君に賢者を覚醒させることはできない
だろう」
「どうして?」
「過去に戻れば、君は子供だ。時の勇者としての力を、まだ発揮できない状態なんだ」
「じゃあ、どうしたらいいんだ?」
「何かできるはずだ。賢者にガノンドロフの脅威を知らせて、身を守るよう警告するとか」
「そのあと……力を発揮できるようになるまで、七年間、ずっと待つのか?」
「そうもいくまい。いずれガノンドロフは君の存在に気づく。子供の君では対抗できない」
「では……」
「君は七年後の──いまの、この世界に帰ってくる必要がある」
「どうやって?」
「過去に戻れるのなら、未来に帰るのは簡単だ。もう一度、マスターソードを台座から抜きさえ
すればいい」
「それから?」
「君が過去でうまく行動して、賢者が身を守ることができたなら、七年後も賢者は生き続けている
わけだ。いまの僕たちから見れば『生き返った』ことになる。その上で賢者を目覚めさせるんだ。
覚醒の方法はそれまでに考えよう」
 奇想天外にして起死回生の策!
 茫然と、しかし心底からの賛嘆をこめて、リンクは言った。
「君は……ほんとうに知恵がまわるんだな」
 瞬間、シークの右手がぴくりと痙攣し、はっとその表情が動いたが、すぐにそれは元へと戻り、
真剣な視線がリンクに据えられた。
「やるか?」
「やるとも!」
 間髪を入れず答える。
「それしか方法がないのなら、ぼくはやるよ」
 力が湧く。血が滾る。勇気が胸をいっぱいにする。
「なすべきことなせ──ぼくはずっと、自分にそう言ってきたから」
2143-10 Sheik III (14/15) ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:50:09 ID:r0cEso4m
 日没後、夕食をすませるやいなや、リンクは出発の準備にかかった。一晩くらい休みをとったら、
とシークは勧めたのだが、リンクは聞き入れようとはしなかった。
「町を突破するなら、夜の方がやりやすいだろうからね」
 姿を見せた時の憔悴が嘘のような勇み立ちぶりだった。エポナを駆って意気揚々と東へ向かう
リンクを見送りながら、シークは微笑ましくも温かい思いを胸に抱いていた。
 危険を考慮して、ここで別れることにしたが……あの調子なら、町を突破するのは困難では
あるまい。
 リンクが過去と未来を行き来できる、という考え。その考えが正しいのかどうかはわからない、
とリンクには言ったが、正しいはずだ、との確信が、僕の中にはある。
 過去での行動の成果を、未来に帰って確認する。リンクはそれを繰り返すことができる。だから、
過去で賢者を救う目途が立ったら、賢者全員に会わないうちであっても、いったんこの世界に
帰ってくるように。帰ってきたら、南の荒野の洞窟で会おう──と、二人は約束を交わしていた。
 だが……
 懸念が残っていた。
 リンクがこの世界に帰ってくるのは、いつのことになるか。
 そして……
 過去の改変。それは、賢者の生存のみならず、他の何らかの影響を、この世界に及ぼすのでは
ないだろうか。僕とリンクの関係は、その時、どうなっているだろう。
 シークは自らに言い聞かせた。
 どうなろうとも、やるしかない。これは、世界の運命が懸かった、最後の手段なのだから。
 空を見上げる。
 流星が一つ、煌びやかな光芒を放ちながら天空を横切り、暗雲の渦巻く東の空へと消えていった。
2153-10 Sheik III (15/15) ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:51:17 ID:r0cEso4m
 来た時を上まわる勢いで、リンクは町に突入した。思ったとおり、夜間とあって警戒する人数は
少なく、町を通過するのに支障はなかった。数騎の女戦士に追われたが、さえぎるものもない
広大なハイラル平原を、エポナは飛ぶ矢のごとく疾走し、追っ手を遠く引き離した。
 続けて可能な限りエポナの速度を保ち、リンクは平原を横断した。ゲルド族の支配領域を脱して
初めて本格的な休息を取ったが、その後も必要以上の時間は費やさず、一心に先を目指した。
 城下町が見える地点に到達したのは、六日後の夕方だった。念のため、夜になるのを待ってから、
ひそかに城壁へ接近し、西端の門をくぐって、王家の別荘の跡に侵入した。エポナは、門の近くに
建つ、かつての馬小屋で待たせておくことにした。平原に出れば草や水は自力で摂れるし、万一
危険があっても逃げられるだろうから、と考えてのことだった。
 エポナとの別れを惜しみつつ、リンクは馬小屋をあとにした。城下のゲルド族の数は少ないと
シークから聞いてはいたが、油断はならなかった。警戒の上にも警戒を重ねて町の通りを進み、
ようやく時の神殿の前に行き着いた。
 立ち去った時と同じく、時の神殿は、どっしりと荘厳な佇まいを見せて、そこに建っていた。
が、その上空には、限りなく濃密な黒雲が、一帯を押しつぶすような禍々しさをもって充満しており、
彼方のデスマウンテンのみが、深紅の猛炎を頂上で踊らせ、光の源となっていた。
 リンクは思う。
 この暗黒の世界を救えるのは、ぼくだけなんだ。
 一度は捨てかけた意志。それを取り戻したいま、ぼくは、もう、惑わない。
 神殿に足を踏み入れる。中は真っ暗で、何も見えない。シークから貰っていた蝋燭に火をつけ、
足元を確かめながら、そろそろと奥に向かう。
『時の扉』を抜けると、壁からの発光で、少しは周囲が見やすくなった。低い壇となった部屋の
中央に歩み寄り、台座の前で立ち止まる。蝋燭を傍らの床に置く。
 背負った鞘から、マスターソードを抜き放つ。柄を両手で持ち、剣先を下に向け、台座に触れさせる。
 手が止まる。

 過去への旅。そこに何が待っているのか。
 わからない。
 けれども、ぼくは行く。
 この先に待つもの。それが何であろうとも、ぼくはまっすぐそこへ向かって行こう。
 勇気をもって。

 両手に満身の力をこめ、リンクはマスターソードを台座の底へと突き刺した。
 直後、周囲の光景は揺らぎ、暗転し、すべてが闇の中へと呑みこまれ──

 あとにはただ、八方からの微光と蝋燭のかぼそい炎とを受け、かそけくも凛冽たる煌めきを刃に
宿すマスターソードが、孤高の姿を保って台座に立っているばかりだった。


<第三部・了>


To be continued.
216 ◆JmQ19ALdig :2007/09/17(月) 00:52:02 ID:r0cEso4m
以上です。中の人あってこそのシークの行為と考えて下さい。

エロ無しが多かった第三部も、これで終わり。
次回より第四部。ゲーム本編に近い展開となります。
217203:2007/09/17(月) 01:18:58 ID:rG4AURw5
>>216
GJ!!そして大変申し訳ない…
書き込んで更新してみたら投下の最中だったとは…本当にすみませんorz

賢者復活の方法も判明し、読んでいる方も今後どうなるのか気になりっぱなしです
時の勇者リンクの活躍にこれからも期待!
218名無しさん@ピンキー :2007/09/17(月) 03:18:48 ID:Xt4gmsnA
しばらくこのスレから目が離せない
219名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 03:35:09 ID:c4GXpf11
GJです!!

立ち直った勇者に幸あれ!
超大作も、いよいよ第4部突入か
220名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 04:37:46 ID:32NiZ4B/
>「過去に戻れば、君は子供だ。時の勇者としての力を、まだ発揮できない状態なんだ」
「時の勇者としての力」にwktk(性的な意味で)
221名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 12:13:10 ID:Bn0SsZ4S
再びショタ分クル━━━━!!?

しかし、もはやエロパロのレベルじゃないような気がするなぁw
普通に完成度が高すぎる。エロがなくても本当に楽しみ。
もちろんエロも楽しみですが(*´Д`)
222名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 16:54:29 ID:DyQBgCMn
GJすぎる…!
なんという超大作
リアルにこの時期にこの作品と巡りあえて良かった
223名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 17:53:58 ID:9gd5886k
賢者以外にもマロンやアンジュの未来も変えそうですね
224名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 20:42:31 ID:8n25YDQv
ずっとリンクのターン!
225名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 20:52:46 ID:wzFTOX9v
これ、エロパロで済ませていいのか…!?
とんでもない大作の予感。
226名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 21:32:02 ID:VXbJfDuv
ネ申という言葉はこの筆者の為だけにあるような気さえしてきた・・・
227名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 22:11:22 ID:HHOeLeYE
この作品を読めて本当によかった
もはやエロパロじゃない
228名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 04:15:38 ID:Yd6mlqxj
ゲームに近い展開とは言う物の…過去に行く目的が賢者の復活あるいは守護ということはかなり違う感じになるのでは?
どちらにしてもGJ&wktk
229名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 16:00:41 ID:zSYFbKgB
いつ終わるのこの話。長すぎる。
230名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 17:23:50 ID:62v7HD4G
>>229はツンデレ
231名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 17:32:26 ID:g4dZnVoI
>>229
◆JmQ19ALdig氏曰く年末頃まで続きそうとかなんとか
でもこのままだと来年まで行きそうな
何にせよ、どんな流れで結末まで運ぶのかwktk
232名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 19:15:32 ID:OHQdQvWW
長くなっても、きちんと完結してくれるなら、自分は応援していくよ。
途中でホン投げられるのが一番辛い。
233名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 22:36:51 ID:L9EkFaZB
GJ!
毎回ここにくることが楽しみになってますよ
234名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 08:09:23 ID:NgpMhPP4
結末も確かに気になるんだけど、
毎回GJ過ぎて、次の展開ばかりに夢中になるわ。
エロ無しでも、毎回「ごちそうさまでした!!」って気分になる。
って事で次回にも期待。wktk
235名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 12:13:27 ID:ieXXQDVX
GJ!
これほどのものを見れるとは思いませんでした。
次回の更新を楽しみにしています。
236名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 12:19:11 ID:C2jA7FKv
SSの内容に入り込みすぎて、リンクが過去に戻れるという設定を
すっかり忘れてたのは俺だけ?
237名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 21:32:05 ID:1KlP5QMX
大人リンク×サリアとか見たいなあ・・・!
238名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 00:50:33 ID:Z+xDkx6K
>>236
俺もほとんど忘れてた。
暗いのも嫌いでは無いけれど少し苦手だから、
一時的にとはいえ明るかった日々に戻れそうでwktk
239名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 18:36:14 ID:Yd6XCAB/
しかしまぁ・・
この作者の方の才能には脱帽ですな。
そこらのネット小説とはレベルが違いすぎる・・
240名無しさん@ピンキー:2007/09/24(月) 22:24:20 ID:NM8LZZZd
wktkでルト姫とペアルック正座待機

過去に戻ったリンクがまだ生きてるルト姫を見たときの反応が楽しみ
241名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 00:22:41 ID:TtBHhW8P
これまで悲惨な運命を辿った分、これからの快進撃がwktkすぎる……!
今までの展開だってもちろん萌えたさ!暗いの好きだし!
でも時の勇者本領発揮の今後が更に楽しみだ
声援のつもりですがプレッシャーになったらすいません。
242名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 01:14:21 ID:3R9UwLNI
ついに子供の体で本番やっちゃう時がくるのか
243名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 04:39:06 ID:xhnvuvW3
>>242
子供時代では賢者達をガノンの襲撃から逃すのに精一杯では。
覚醒させることも出来ないみたいだし。

でも子供リンクに翻弄されるインパやナボールもいいな。
244名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 04:39:47 ID:xhnvuvW3
>>242
子供時代では賢者達をガノンの襲撃から逃すのに精一杯では。
覚醒させることも出来ないみたいだし。

でも子供リンクに翻弄されるインパやナボールもいいな。
245名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 04:41:02 ID:xhnvuvW3
スマソ
246名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 04:41:24 ID:qTtwJ0gN
もう女の体を知ってしまった以上、子供のちんこでも反応しちゃう(;´Д`)ハァハァ
247名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 16:30:27 ID:MGNR4fMc
「次回より第四部。ゲーム本編に近い展開となります。」ゲーム丸写しだとしたらこの小説終わったな。
248名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 17:03:24 ID:xHqg6zs7
前回の投下からしばらく日にちが経ってくると
1日に3回はスレ確認しに来てる。
待ち遠しくて(*゚∀゚)=3ハフンハフンしてる!!
249名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 17:43:05 ID:Lz1ZB0/A
>>247
状況が違うから丸写しの方が難しい
250名無しさん@ピンキー:2007/09/29(土) 02:19:11 ID:2ISQLYuF
読んでるとまた時オカやりたくなってくる
蜘蛛とか井戸とか超怖かったけど
251名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 09:40:14 ID:YEAefIt1
時オカと重ねると…
ヤベェハアハアしてくる…。
252名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 09:43:34 ID:YEAefIt1
ねーねー誰かガノンドロフとリンクとシークに
やられるゼルダ書いてよー。
253名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 14:05:22 ID:IZwJqCT2
なるほど。3Pで強制自慰ですな
254ピンキー・ピンキー:2007/09/30(日) 14:12:02 ID:YEAefIt1
252》に賛成です、他にも、是非×2
やっちゃてください❤
255名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 14:43:27 ID:YEAefIt1
家族に見られると恥ずいので
お早めにお願いします。
この通り、本っ当にお願いします。(姿は見えませんが)
256名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 15:19:06 ID:NBeaf3Ev
ID:YEAefIt1 が何をやりたいのかわからないのは俺だけか?
257名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 15:27:35 ID:/o7OIVmA
目欄がイミフ杉で吹いたw
258名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 15:42:49 ID:YEAefIt1
いやマジお願いしますって、
252》のやつ見たいんですよ〜
256》サン。気ィ落とすんでンなこと
言わんとって下さいよ〜!
259名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 16:47:58 ID:6xz4pElE
>>258 は、SSが頼まれてものの一日足らずで出来上がると思ってるのだろうか?

すまん釣られた。
260名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 17:20:46 ID:YEAefIt1
≫259さんそんな事は思っていません。
でも希望するなら1か月位?
261名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 17:32:14 ID:hytjb2E8
取り合えず半年ROMれと言う言葉を送る
262名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 20:17:47 ID:YEAefIt1
月から金まで見に来るの
夕方と夜だけですから
263名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 21:12:22 ID:u6pJ4nsV
来るのはいいが書き込むな。
264名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 02:15:03 ID:8KvBSg5D
今後このリク厨が来たら即NGIDだな。
265名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 09:49:41 ID:6zaO4p2W
この板も荒れたな
266sage:2007/10/01(月) 09:51:12 ID:6zaO4p2W
すまんsage忘れた
267名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 09:53:58 ID:6zaO4p2W
2度も本当に申し訳ないと思っている
268名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 10:25:12 ID:rcY/bHru
それ以前に変なのが紛れただけで別に荒れてはないと思うが
269名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 12:48:03 ID:3QCqbz6Z
お前らあんまり荒らすと1003呼ぶぞ。1003まだかな。
270 ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:21:30 ID:VPpF8+87
感想をどうもありがとうございます。ほんとうに励みになります。
この話、まだ先は長いです。今回を含めてあと31回(あくまで予定ですが)。

では第四部開始。
私本・時のオカリナ/第四部/第一章/サリア編その5。
リンク×サリア@子供時代。長くなりますが一括で投下します。
2714-1 Saria V (1/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:22:41 ID:VPpF8+87
 突然、意識が引き戻される。
 何よりもまず、おのれの姿に目をやる。見えない。暗い。壁のかすかな発光が感じられるが、
それだけだ。蝋燭の炎は消えてしまったのか。
 マスターソードから手を離し──同時にかすかな違和感を覚えながらも、それどころではないと
──しゃがんで床を探る。足元に置いたはずなのに、蝋燭は手に触れない。どこにいってしまった
のだろう。
 舌打ちした瞬間、思い出す。視覚以外の感覚。
 もどかしい思いで両手を身体に這わせる。両腕。両脚。ともに素肌。肌着を着けていない。顎。
髭の感触は全くなし。
 背負ったものを床に降ろす。見づらくても手触りでわかる。刃渡りの短いコキリの剣。木で
できたデクの楯。
 胸が激しく動悸を打つ。だんだん目が暗さに慣れてくる。それにつれて明らかになる、自分の
身体の小ささ。
 間違いない! ぼくは子供に戻ったんだ! シークの言ったとおり!
 リンクの胸に爆発的な感動が満ちた。
 その感動も、すぐに次の思考へと移る。
 いまは、いつだ? シークは七年前と言った。ほんとうにそうなのだろうか。
 あわただしく持ち物を確認する。
『時のオカリナ』に、サリアのオカリナ。いくつかの身の回りの品。それらはずっと持っていた。
参考にはならない。他には?
 パチンコとブーメランがある。食べかけのパンには軟らかみが。二通のゼルダの手紙。紙は新しい。
 爆弾とデクの実。数が増えている。違う。増えたんじゃない。使った分が元に帰っただけだ。
ルピーもそう。ぼくが封印される前に持っていたのは、確かこれくらいの額だった。
 ぼくは七年前の過去の状態に戻った! 未来の記憶を保ったままで!
 蝋燭がないのは当たり前だ。あれを床に置いたのは、七年後の未来のことなんだから!
 身が小さく震える。視線も揺れる。その視線が、改めて眼前のマスターソードに止まる。さっき
違和感を覚えた理由が、ようやくわかる。自分が小さくなって、柄にかかる腕の角度が変わって
いたからだったのだ。
 そのマスターソードの刃に、わずかな明るみが映っている。壁からの光。いや、それだけじゃない。
微細な光の粒。どこから? 上の方から?
 見上げる。天窓。向こうは暗い空。小さな光点が散らばっている。
『星!』
 星が見える。雲がない。常に空を埋めつくしていた暗雲が存在しない。ガノンドロフが暴威を
振るうに至っていない七年前の世界だから!
2724-1 Saria V (2/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:23:22 ID:VPpF8+87
 だが、正確な日時は? いまは夜。子供のぼくがここでマスターソードを抜いたのも夜だった。
その直後の時点に、ぼくは戻ってきたのだろうか。
『待てよ』
 だとすると、トライフォースは、まだガノンドロフに奪われていないことになる。このまま
奪われずにすめば……すべてが変わる!
 胸は興奮に轟き、同時にとてつもない緊張が襲ってくる。
 ガノンドロフはこれからここへやって来る? いや、もうそこまで来ているかもしれない!
 あわててふり返り、『時の扉』の方に注意を集中させる。
 気配はない。
 ふと目が移る。右手の甲。そこに輝く勇気のトライフォース。
『あ……』
 ということは……トライフォースはすでに分裂していて……いまはガノンドロフがトライフォースに
触れたあとであって……
 興奮の反動で、どっと失望が心を浸す。
『いや!』
 失望している暇はない。そんなに簡単に解決するとは、もともと思っていなかった。これから
どうするかが問題だ。ぼくが封印された時点から、どれくらいの時間が経っているのか、まず
それを確かめなければ。
 急いで持ち物をしまい、剣と楯を背負う。『時の扉』を過ぎ、吹き抜けの部屋へ出る。そこで
あることに思い当たり、リンクの足は止まった。
 マスターソードをこのままにしておいていいのだろうか。『時の扉』は開きっぱなしの状態だ。
誰かが──そう、ガノンドロフとかが──ここに来て、マスターソードを手にすることにでも
なったら……
 ためしに『時のオカリナ』で『時の歌』を奏でてみる。『時の扉』は微動だにしない。石板の
三つの精霊石を取りはずせないか、と手をかけてみるが、填めた時には普通に置いただけなのに、
いまはぴったりと吸いついたように離れない。
 開きっぱなしにしておくしかない──と、リンクは腹を決めた。
 考えてみれば、マスターソードを引き抜けるのは、勇者の資格がある者だけだ。ぼく以外には
できないことだ。奪われる心配はないだろう。
 ひとまず心を安んじさせ、リンクは神殿の出口へと向かった。
2734-1 Saria V (3/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:24:29 ID:VPpF8+87
「あッ! お前、まだ中にいたのか!」
 神殿を走り出ると、後ろから驚いたような声がかかった。こちらも驚いてふり返る。入口の
両脇に、兵士が一人ずつ立っている。神殿に入る時、ゼルダの手紙を見せて通してもらった、
見張りの兵士。絶好の証人だ。
 急きこんで一方の兵士に問いかける。
「ここにガノンドロフが来なかったか? 教えてくれ!」
 言ってから気がつく。甲高い子供の声。それに不似合いな大人びた台詞。七年後の世界で
暮らすうち、シークなどに影響されてか、話し方が変わってしまっている。兵士も奇異に
思ったのだろう、目を白黒させていたが、それでも答は返してくれた。
「ガノンドロフなら、ついさっき出て行ったぞ」
 ついさっき! ぎりぎりのところで行き違ったか!
「ぼくが神殿に入って、どのくらい時間が過ぎた?」
 今度は口調に気をつけて訊いてみた。兵士は首をかしげ、相棒の方に顔を向けた。
「どのくらいかな」
「さあ……二時間くらいじゃないか」
 二時間! マスターソードで時を移動する際には、前後に多少の時間差が生じるようだ。いまは
封印直後ではない。が、限りなくその時点には近い。
「ありがとう!」
「あ! おい!」
 短く礼の言葉を投げ、呼び止める兵士の声を無視して、リンクは神殿の前から走り去った。

 時の神殿から続く細い路地の両側には、扉の閉ざされた家々が立ち並んでいた。しかし窓から
漏れ出る灯火は、家々に人が住むことを明示していた。荒廃しきった七年後の世界とは違うのだ、
と力が湧き、路地を走りながら、リンクは今後の行動方針を頭の中で検討した。
 どこへ行くか。何をするか。
 そればかりを考えていて、周囲への注意がおろそかになっていた。路地を抜け、正門に通じる
大通りに飛び出した瞬間、
「あッ!」
 叫びとともに馬蹄の響きが耳を打った。あわててそちらを見る。疾走する馬がすぐ右手に
迫っていた。
 咄嗟に前方へ身を投げ、面を伏せる。馬蹄の音が乱れ、何かがぶつかるような音、続けて女の
悲鳴のような声がした。だが自分の身体に衝撃はない。
 顔を上げる。馬は道に面する家の壁際で止まっていた。すぐそばで男が尻餅をついている。
騎兵の格好。馬に乗っていた人物だろう。直前で馬の向きを変えてくれたのだ。そのおかげで
助かった。
「大丈夫?」
 駆け寄って声をかける。騎兵がこちらを向いた。怒鳴られるかと思ったが、
「こっちは大丈夫だ。お前こそ無事か?」
 立ち上がりながら、意外に温和な声をかけてきた。リンクは素直に謝った。
「うん。ごめんよ、急に飛び出したりして」
「無事ならそれでいい。今度から気をつけろ。ただ──」
 騎兵が心配げな目を馬に向けた。
2744-1 Saria V (4/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:25:06 ID:VPpF8+87
 騎兵は内心、気が気ではなかった。
 失踪したゼルダ姫を追って、急遽、出動した騎兵団。その第一陣に乗り遅れ、あわてて馬を
駆っていて、子供を蹄にかけそうになり、ぎりぎりでかわしはしたものの、脇の壁に衝突して
しまった。子供が無事だったのは何よりだが、馬がどこかを痛めはしなかっただろうか……
 見たところ、馬は平気な様子だった。これなら平原へ乗り出しても問題はないだろう、と、
騎兵は胸をなで下ろした。
 だが、もう一つ気がかりなことがある。さっき女の悲鳴のような声がした。壁に衝突した時、
誰かを巻きこんでしまったか。
 あたりに目をやる。夜のこととてすぐには気づかなかったのだが、馬の足元で女がうつ伏せに
なっていた。
「おい、怪我はないか?」
 呼びかけ、しゃがみこんで肩に手をかけようとした瞬間、女はいきなり身を起こし、駆け去ろうとした。
「あ! 待て!」
 騎兵は女を捕まえようと手を伸ばした。女はするりと身をかわし、正門の方へと走り出した。
が、ちょうどこちらに向かって歩いていた男と鉢合わせしてしまい、またも悲鳴をあげてその場に
うずくまった。その隙に騎兵は女を取り押さえた。
 服装は一般のハイリア人のものだが、ちらりと見えた顔は……

「お前、ゲルド族だな。こんな所で何をしている」
「何もしてないよ! ちょっと散歩していただけさ!」
「散歩だと? 城内の宿舎にいるお前たちは、許可なく城下へは出られないはずだ」
 そのとおりだ。だから絶対に見つかってはならなかったのに……
 反乱軍の進撃を急ぐよう、砦にいるツインローバに伝える。女はそのための急使だった。
 ゼルダ姫失踪の騒ぎに乗じて、城下町を抜け出そうとしていたところだったのだが、走ってきた
馬をやり過ごそうと道の端に身を隠したら、あろうことか、その馬が自分の方へ突進してきた。
逃げようとすると、今度は誰かにぶつかってしまい……
 その相手が怒鳴りつけてくる。
「おい、どうしてくれるんだよ! 大事なものが壊れちまったじゃないか!」
 禿げ頭のくせに顎髭はふさふさとした中年男だ。大きなラッパのついた箱のようなものが道の
上に転がっている。ぶつかって倒れた拍子に破損したのか。
「知ったこっちゃないよ! 前を見てないそっちが悪いのさ!」
「何だと! 当たってきたのはお前の方だろう!」
「二人とも黙れ!」
 騎兵が一喝し、次いで女に硬い声を向けた。
「お前には怪しいところがあるから、警備の兵に引き渡して調べてもらう。来い!」
 腕をつかまれ、引き立てられる。
 しかたがない──と、女は観念した。
 暴れても逃げられない。ここはおとなしくしておこう。証拠になるようなものは身につけて
いないから、何を訊かれても知らぬ存ぜぬで通せば、そのうち釈放されるはずだ。ただ、砦への
連絡が遅れてしまうが……
2754-1 Saria V (5/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:26:04 ID:VPpF8+87
「ちょ、ちょっと! 俺の方はどうなるんだい? その女を連れて行かれちゃ困るよ。落とし前を
つけてもらわないと」
 あわてて言いつのったが、騎兵は全く相手にしてくれなかった。
「それどころじゃないんだ。怪我がないのなら、もういいだろう」
「よくないよ! 大事なものを壊されちまったんだ。それともあんたが何とかしてくれるのか?」
「知らん。災難だったと諦めるんだな」
 騎兵は女を追い立てて行ってしまった。男は大きくため息をつき、傍らに転がった「大事な
もの」を見下ろした。
 手回しオルガン。苦心して自作した楽器だ。これで一旗揚げようとカカリコ村から出てきて、
城下町で芸を披露してみたら、思いのほか好評。いまでは「グル・グルさん」と呼ばれる町の
人気者だ。ずっと滞在して儲けさせてもらうつもりだったが、壊れてしまってはどうしようもない。
カカリコ村に戻って、修理するしかない。
『まあ、これまででもけっこう金にはなったんだ。それでよしとするか』
 もう一度ため息をつくと、男は壊れた楽器をかつぎあげ、宿への道をたどっていった。

 眼前の一幕を、リンクは茫然と眺めていた。
 不用意に道へ飛び出したのがきっかけで、あれよあれよという間に三人の人物を巻きこむ
小事件が起こり、目まぐるしい展開を示すうちに、ことは終わってしまった。
 何があったのか、よくわからないが……自分はこうして放っておかれたのだから、行って
しまってもいいだろう。
 偶発的な些事と思い捨て、胸に再び意志を戻し、リンクは正門へ向けて走り出した。

 正門は立ち騒ぐ人々でごった返していた。見覚えのある光景だった。リンクは記憶を引き出し、
大きな感慨に打たれた。
 南へと逃げ去るゼルダが残した『時のオカリナ』を拾い上げ、そのあとガノンドロフに
叩きのめされた自分が、足を引きずりながらこの門をくぐって城下町へ入っていったのは、
たった二時間あまり前のことなのだ。
 二時間あまり! とうてい信じられない! ぼくはその間、七年の眠りにつき、さらに三ヶ月も
旅を続けてきたというのに!
 だがそれが事実なのだ。その七年と三ヶ月という時間を一挙に巻き戻して、ぼくはいま、
ここにいる。ぼくはこれからどうするか。
 真っ先に頭に浮かぶのはゼルダのこと。ゼルダを追って南へ向かうか。
 いや──と首を振る。
 さっき時の神殿で持ち物を調べた時、いま持っているものだけではなく、いま持っていない
ものをも、ぼくは確認した。一つはシークに貰った剃刀。もう一つは、あの泉で拾ったゼルダの
耳飾りだ。
 その耳飾りは、いまどこにあるのか。
 ゼルダの耳にある!
 この世界でゼルダは生き続け、そして、あの泉に耳飾りを残すことになる。七年後の世界でも
ゼルダは生きている。ここでぼくがゼルダに会いに行かなくとも、ゼルダの安全は保証されて
いるのだ。それがわかっている以上、もっと重要なことを、ぼくは優先させなければならない。
 もっと重要なこと。七年後には死に絶えてしまっている、けれどもいまは生きている賢者に
会うことだ。
 まず誰に?
 迷うことなく、その名を心の中で叫ぶ。
『サリア!』
 混乱の色濃い正門を抜け、リンクは駆けた。
 行く手に横たわるハイラル平原は深い闇に沈み、先の活動の困難さを象徴しているように
思われた。が、夜空を彩る半月の光と無数の星の輝きは、いまだ世界は希望の場であるという
確かな思いをリンクに与え、強く、逞しく、その足を前に進める力となるのだった。
2764-1 Saria V (6/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:26:42 ID:VPpF8+87
 リンクが冒険に乗りだしたばかりの時、コキリの森を出て城下町に到達するまでには、
二週間もの時間が必要だった。詳しい道筋を知らなかったし、食料を得るのに寄り道や停滞を
余儀なくもされた。またその際には、特に先を急いでいたわけでもなかった。
 大人の身ですら一週間かかった。城下町からコキリの森へと逆方向の旅をした時のことだが、
かつてをはるかに上まわる体力を持ったリンクが、可能な限り急いだ上で、やっと所要時間を
半分にすることができたのだ。
 それを考えると、子供に戻ったいまのリンクの進行速度は驚異的だった。
 種々の好条件が重なった結果である。道はすでに熟知していた。途中の村々はまだ平和であり、
ルピーも充分に所持していて、食料の入手は容易だった。大人の時とは異なり、魔物の妨害も
なかった。
 しかし最大の理由は、リンク自身の気力が充溢していたことだった。昼も夜もなく、リンクは
前進した。常に駆け足か早歩きで、ほとんど足を止めなかった。食事すら歩きながらすませ、夜は
ごく短時間の仮眠をとるだけだった。当然、疲労は溜まった。だが疲労を疲労と認識しないほど、
リンクの気は張りつめていた。
 天候は上々で、陽光に満ちあふれたハイラル平原は、実に美しく生彩に富み、荒れ果てた
七年後の状態を思うと、まさに別世界の風景といえた。それだけに、この世界を救わねばならない
という使命感は、いやが上にも強められ、リンクの気力をさらに奮い立たせた。ただ、いまの
リンクは、世界を救うという命題を、より具体的な対象に集約させていた。
 その対象の命運がいまにも尽きようとしているわけではない。がむしゃらに急行しなければ
ならないほどの理由はないのだ。けれども、そうとわかっていながら、リンクは進む速度を
落とせなかった。むしろ対象を思えば思うほど、速度はどんどん増していった。
『サリア!』
 思いを馳せ、急ぎに急ぎ、城下町を出てからわずか五日後、リンクは、ハイラル平原の南東端に
ある、最後の稜線を越えた。いずれ一面の焦土と化すことになる、その先の場所には──
 リンクの記憶にあるとおりの、鬱蒼とした大森林が、数限りない生命の気配に充ち満ちて、
和やかに、厳かに、はるかな広がりを示していた。
2774-1 Saria V (7/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:27:21 ID:VPpF8+87
『森の聖域』は、今日も変わらぬ静けさを湛えていた。
 周囲を取りまく樹木の間から、みずみずしい空気が漂いあふれ、空の霞と溶け合って、廃墟と
なった神殿を、慈しむように包みこむ。枝葉の穏やかなうねり、小鳥の気まぐれなささやきが、
静謐を破ることなく調和する。どれもが欠くことのできない要素として、緊密に、しかしあくまで
優美に、唯一無二の空間を形づくる。
 その妙味を味わいながら、サリアは湿った下草を、そっと踏み歩んだ。自分の場所と決めている
切り株の前に立ち、ゆっくりと腰を下ろす。
 いつもの空間。いつもの静けさ。そして胸に宿る、いつもの想い。
 リンクが森を出て行ってから、もうひと月が過ぎている。
 別れの時、あの吊り橋の上で、リンクは言った。「帰ってくるよ」と。
 あたしはそれを信じている。かたときも疑ったことはない。でも……
 リンクはいま、どこで何をしているのか。リンクはいつ帰ってくるのか。
 苦しい。哀しい。
 でもあたしは、想いを捨て去りはしない。いくら苦しくても、いくら哀しくても、その想いが
ある限り、二人の絆は保たれる。
『あたしはリンクが好き』
 リンクが去ってから、サリアは前にも増して足繁く、ここを訪れるようになっていた。仲間と
一緒に暮らしていると、日々の生活とかけ離れたリンクへの想いが、ともすれば色褪せてしまい
そうになる。けれども、他に訪れる者のない、この『森の聖域』では、心おきなく自らの想いを
深めることができるのだった。
 リンクとの絆の証。サリアの脳裏に、それは鮮明に焼きついている。
 別離の時の、唇の触れ合い。そこに感じた、無上の幸せ。
 あの幸せを、もう一度、感じたい。
 衣服の上から、そっと触れてみる。両胸のほのかなふくらみを。未知の内奥を秘める両脚の
分かれ目を。
 以前、いまと同じこの場所で、身にまとうすべてのものを捨て去って、あたしはそこに指を
さまよわせた。でも、その時には、まだ、わかっていなかった。
 いまは、わかる。どうすれば、あの幸せを感じられるのか。
 もっと強く、もっと深く、そこに触れさえすれば……
『だめ』
 わかるけれど、そうはしない。
 あの幸せは、リンクとともに分かち合いたい。あたしひとりのものにはしたくない。
 手を離す。
 が、離された手は、感触を覚えている。その感触が、別の思いを引き起こす。
 かつてあたしを惑わせた、乳房のほころびと、かすかな発毛。それらは兆しだった。それらが
あったからこそ、あたしはあの幸せを体験できた。
 では、なぜ、そうなったのか。
2784-1 Saria V (8/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:28:06 ID:VPpF8+87
 ひとつの言葉が胸を刺す。
 使命。
 デクの樹サマは言った。
『確かにおまえには、他の者とは異なるところがある。しかしそれは意味があってのこと。それが
おまえの運命であり、使命とも言えるのじゃ』
 使命とは何なのか、ずっとわからないままだった。でも、いま考えると……
 あたしの身体の変化に意味があるというのなら──身体の変化がもたらした、あの幸せの体験に
よって、リンクと絆を結んだこと──それがあたしの使命だったのだろうか。その使命は、すでに
果たされているということなのか。
『違う』
 サリアは確信する。
 使命は果たされていない。あたしはリンクを待っている。リンクを求めている。それはリンクとの
絆が、まだ完全ではないからだ。
 リンクに再び会えた時にこそ、使命は果たされるだろう。絆は完全になるだろう。あの幸せの
体験を、さらに突きつめることによって。リンクと分かち合うことによって。その時、実際に何を
すればいいのか、まだはっきりとはわからないのだけれど。
 サリアは得る。ひとつの予感。
『ここは、これからの──(そう、これからの!)──二人にとって、とても大事な場所になる』
 なぜだろう。この『森の聖域』に、何があるというのだろう。
 わからない。でも……あたしがずっとここを好きだったのは、きっと、自分でも気づかない
うちに、それを知っていたから……
 その時、サリアは聞いた。
 草を踏む、かすかな足音。駆けてくる。近づいてくる。この『森の聖域』に、誰かがやって来る。
誰だろう。ここには誰も来ないはず。あたしの他には。そう……あたしと……もう一人の……
他には……
 胸がどくんと響きをたてる。
『まさか……』
 鼓動が速まる。どんどん強くなる。誰? 誰? あたしが考えている人? そうなの?
ほんとうに? 足音が大きくなる。角を曲がって。石段を登って。ああ、もうそこまで来ている。
もうすぐここに来る。早く! どうか早く! その姿をあたしに見せて!
 待ちきれず立ち上がった瞬間、サリアは見た。
『森の聖域』の入口で立ち止まり、大きく息を切らし、くずおれんばかりに脚を震わせ、しかし
目には限りない意志をみなぎらせてこちらを凝視している、一人の少年を。
2794-1 Saria V (9/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:28:46 ID:VPpF8+87
 平原から森へ入ったリンクは、以前の記憶をたどり、道なき道を飛ぶように進んだ。出て行った
時とは違い、日のあるうちの移動だったので、見通しは充分にきいた。
 数時間で谷川に架かる吊り橋に行き着いた。続けて両側に木々が生い茂った一本道を駆ける。
駆け抜けて周囲が開けると、そこが懐かしい場所だった。
 昼なお暗い森の中で、ここは樹木の密度が低く、小川や池、ちょっとした丘や崖など、変化に
富んだ自然の形状を見ることができる。そのあちらこちらに、コキリ族の仲間たちが住む、木を
利用した小さな家々が点在している。
 去った時のままの風景。焼亡の気配など露ほどもうかがえない、平和な風景。
 束の間、リンクは立ち止まり、こみ上げる思いを胸に満たした。が、敢えて思いを振り払い、
開けた場の中へと身を飛びこませた。
「あ!」
「リンク!」
 突然の来訪者に気づき、さらにその正体を認めて、仲間たちが驚きの声をあげる。それさえも
無視し、リンクはひたすらに駆け、サリアの家の前に至った。
 声を出そうとして、出せなかった。それほど疲れていることに、いまさらながら気がついた。
呼びかけを諦め、戸をくぐる。
 いない。
 瞬時に思いつく。
『森の聖域』だ!
 疲労を自覚してしまった身にとっては、苦行ともいえる追加行動だったが、残る力をふり絞り、
リンクは迷いの森へと踏みこんだ。道筋はよく覚えていたものの、右へ左へと複雑に折れ曲がる
行程は、実際の距離以上の長さと感じられた。息は切れ、膝はいまにも折れそうだった。それでも
リンクは止まらなかった。
 サリアに会える。もうすぐ会える。生きているサリアに、ぼくは会えるんだ!
 迷いの森を抜け、再び開けた場所に出る。限界がみえる体力の、あるかなきかの残量を投入し、
最後の行程に足を進める。またも左右に曲がる道。上りの石段。
 止まるな! 駆けろ! もう少し! もう少し!
 石段を登りきった瞬間、リンクは見た。
『森の聖域』の奥にある切り株の前に立ちつくし、両手で口を押さえ、ぴくりとも動かず、しかし
目にはひたむきな願いを満たしてこちらを凝視している、一人の少女を。
2804-1 Saria V (10/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:29:28 ID:VPpF8+87
「サリア!」
「リンク!」
 二人の口から、あらゆる想いをこめた叫びがほとばしる。
 その叫びが、あらゆるものを静止させる。
 凍りついたように動かない二人の身体は、わずかののち、想いという熱に溶かされ、どちらから
ともなく一歩が踏み出され、次いで一歩が、さらに一歩が加えられ、たちまち互いへと向かう
奔流となって二人を押し出し、静謐な空間の真ん中で、ついに二人は互いの前に立つ。
 見交わす目と目。重なる手と手。
 言葉もない、その繋がりが、二人の想いを燃えたたせていた。

 脳裏に描いていたとおりのサリア。それが思った以上の衝撃となって、リンクの心を震わせる。
 身の丈。表情。そして声。別れた時と全く同じ。服装もそう。襟が首まであるセーターと、
上に重なる薄手のベスト。ベルトでとめられた半ズボン。膝下までのブーツ。頭につけられた
ヘアバンド。それらすべてが緑系統の色でまとめられ、表に出ている顔と両手と両脚の白い素肌と、
鮮やかな対照をなしている点も変わらない。衣装が緑色なのはコキリ族みんなに共通したことだが、
サリアは髪の毛も緑色だ。耳の下でくるりと巻いた短めの髪。その巻き方までもが寸分違わない。
 コキリの森にいた九年間、ずっと見慣れてきたサリア。その見慣れた姿、見慣れた装いが、
どうしていまはこんなに心を打つのだろう。
 この世界では、ぼくがサリアと別れてから一ヶ月ほどしか経っていない。サリアに変わりが
ないのは当たり前だ。ところがいまのぼくは、変わりがないというそのことが言いようもなく
嬉しく、変わりのないサリアがこの上もなくいとしい。
 ここでの一ヶ月は、ぼくにとっては永遠とも思える時間だったのだから!
2814-1 Saria V (11/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:30:28 ID:VPpF8+87
 思いがけない再会の喜びが爆発する寸前、目の前にあるリンクの姿が、意外な衝撃となって、
サリアの心を震わせる。
 見たところは別れた時と同じ。先が長く尖った緑色の帽子。腰のベルトで絞られた緑色の
チュニック。左肩から右腰へ斜めに巻かれたもう一本のベルト。その後ろで留められた剣と楯。
丈夫そうな褐色のブーツ。身の丈も、声も、額にかかる金色の髪も、記憶にあるそれと寸分違わない。
 なのに──と、サリアは大きな驚きに打たれる。
 リンクは変わった。この変わりようは、いったいどうしたことだろう。
 肌に刻まれた、いくつもの傷跡。
 そして、その目。いつも遠い何かを見つめていたリンクの目。いまはあたしを見つめている
リンクの目。前と同じように輝きながら、確かな喜びの色を湛えながら、そこには前にはなかった
苦しみと哀しみが秘められているようで……まるで、途方もなく長い間、苛酷な運命のもとで
生きてきたかのように……
 何があったの? 『外の世界』でリンクは何を経験してきたの? あたしにはうかがい知る
ことのできない、そんなにつらい何かを、リンクは知らなければならなかったの?
『とても疲れているんだわ』
 見ればわかる。息を切らして。脚を震わせて。けれど、それだけじゃない。目には見えない
ところでも、重く、深く、リンクは疲れている。
 ああ、あたしに何ができるだろう!

 サリアが両手を差し伸べ、そっとリンクの両頬に触れる。
 その手の温かみが、リンクの感情を刺激する。
 サリア。いまはぼくが知るとおりの、変わるところのないサリア。でも……いずれは……この
ままでは……サリアは……
 悲惨きわまりない現実を甘受しなければならなくなる! ガノンドロフに犯され、殺されるという、
あの身の毛もよだつほどの悲惨な現実を!
 そんなことがあってはならない!
 あの断末魔の声──(……助けて……リンク……)──絶対、絶対、サリアにそんな言葉を
出させるようなことがあってはならない!
 ぼくはそのために過去へ来た。賢者の未来を変えるために。
 そう、サリアは賢者。だけどいまのぼくはサリアが『森の賢者』であることなどどうでもよく、
ただサリアを、サリアその人を、ぼくのいちばんの友達、いや、友達という言葉などでは
言い表せないぼくにとってかけがえのない存在でありいまこうして見つめ合いその手のぬくもりを
ぼくの頬に伝えてくれているこのサリアをどうにかして助けたいとそればかりを考えていて、
でも助けるためにはどうすればいいのかぼくにはわからなくて、でも何とかしなければならない、
でもどうしたらいいのかわからない、わからない、ぼくはわからない、ぼくは、ぼくは、
ぼくはぼくはぼくはぼくはぼくは!
 ああ、ぼくに何ができるだろう!
2824-1 Saria V (12/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:31:19 ID:VPpF8+87
 リンクの唇が、サリアの唇に押しつけられる。
 その強い接触が、いきなりサリアを舞い上がらせる。
 これ! これよ! これをあたしは待っていた。これをあたしは求めていた。リンクと唇で
触れ合うこと。リンクの唇をあたしの唇で感じること。これが二人の絆! これが二人の幸せ!
 ──幸せ?
 そう呼ぶにはあまりにもあわただしいリンクの行動。
『あ!』
 ぴったりと合わさった唇の間に、何かが現れる。あたしの上下の唇を割って、リンクの口の
中から、その何かがあたしの口の中に入ってくる。これは何? 舌? リンクの舌? リンクの
舌があたしの口の中に? こんなことって、こんなことって、ああ、こんなことがどうして
こんなにも……
 うずきだす。感じだす。あの場所が、二つの胸の先端と、両脚の間の窪みの奥が、痺れるように、
灼かれるように、何かを欲しがって、そう、ひと月前、あの吊り橋の上でリンクと唇を合わせた
時と同じように……
 舌が舞う。舌が踊る。強く、速く、荒々しく。感じる。感じる。でも、でも、待って、ちょっと
待って、なぜ、リンク、なぜこんなに急いで、リンク、リンク!
 いきなり身体が傾く。どうなったのかと思う間もなく背中に感じる衝撃。
「んんッ!」
 背中が地面についた。押し倒された。あたしはリンクに押し倒された。どうして? リンクは
何をするつもり?
 リンクが舌を戻す。唇を離す。顔を引く。見上げるあたしの目と、見下ろすリンクの目が、
ひたと合わさる。
 リンクの目!
 疲れの澱む中にも爛々と燃え盛る何かが、あたしを身震いさせる何かが、そこにはあらわに
なっていて!
 どうしたの!? 何をしようとしているの!?
 リンクは何も言わない。あたしの思いは通じない。ただリンクにしかわからない激しい感情が
あたしに向かって一方的に投げかけられていて、でもあたしはその感情を受け止めることが──
 いきなり身体に重みがかかる。リンクがあたしの上に覆いかぶさる。もう一度リンクの唇が
あたしの唇に、そればかりか頬に、顎に、首筋に、同時にリンクの腕があたしを抱いて、
抱きしめて、強く、強く、身を折らんばかりに強く抱きしめて、
「く……ッ!」
 そして手が、リンクの手が、服の上から、あたしの身体を、あっちこっちを、押さえて、
つかんで、何かを求めるように、どこかを求めるように、それはあたしの小さな二つの胸と、
「あッ!」
 両脚のつけ根と、
「ああッ!」
 あたしが感じているまさにその場所をリンクは求めていて、だからこれでいい、この身体の
触れ合いはあたしが望んでいたことだと思おうとしながらも、何かが違う、何かが間違って
いるという心の奥からの抗議をあたしは抑えられなくて、
「リンク……」
 ためらっている間にも、リンクの手がせわしなくあたしの腰のベルトを緩めて、
「あ! ちょっと──」
 ズボンが下着ごと足首まで引きずり下ろされて、
「待って!」
 身を起こしたリンクも同じ場所を、男の子にしかないあれを剥き出しにして、
「だめよ!」
 それを女の子にしかないあたしのあそこに向けてまたどさっとのしかかってきて、
「リンク!」
 ああそうだ、リンクのその場所は形が違っていようがあたしが感じるその場所と同じように
感じるはずで二人のその場所を触れ合わせてこそ二人の絆は完全になるんだと唐突に理解しつつも
やっぱりこれではいけない、いけない、いけないと思ううちにもリンクのあれはあたしのあそこを
押して、突いて、割って、そこに何ともいえないぞくぞくとした感触とともに鋭い痛みを感じて
あたしは思わず叫んでしまう!
「やめて!! お願い!!」
2834-1 Saria V (13/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:32:34 ID:VPpF8+87
 耳を貫くサリアの叫びが、すべての感覚を現実に戻す。
 視覚。いままでも見ていたはずのものが、初めて見るものであるかのように、リンクの目を射る。
真下にあるもの。深い青みを帯びた二つのつぶらな瞳。涙と怯えが溜まったサリアの目。
 触覚。いたるところで触れ合う身体。腕。胴。脚。そしていつの間にか露出された股間。その
中心で凝結する欲望の器官が、いまにもサリアの中心を攻め破らんばかりの位置に据えられていて。
 弾かれたように身が浮く。
 ぼくは……ぼくは……何をしようとしていたんだ?
 セックス? サリアと? 子供のぼくが? 子供のサリアと? なぜ? ぼくは何を考えていた?
ガノンドロフに奪われるくらいならいっそぼくがと? わけのわからないその激情を止めることも
できないで? ぼくの気持ちを伝えもせずに? サリアの気持ちを確かめもせずに?
 何ということを! ぼくはサリアを傷つけようとしていた! 自分勝手きわまりない理由で!
 サリアを助けたいと思ったあげくの馬鹿げた行動。疲労が脳を麻痺させてしまっていたのか。
けれどそれは何の言い訳にもならない。結果としてぼくがしようとしたことは、ガノンドロフが
したことと全く同じじゃないか!
 立ち上がる。ふらふらと。
 上半身を起こしたサリアが、ずり下げられた半ズボンをそそくさと元に戻す。それを見て
こちらもあたふたと下着を引き上げる。
 何とみじめな自分!
 サリアに何と言ったらいいのか。そもそもサリアに何か言うことがぼくに許されるのか。
 許されるわけがない!
 地に腰をつけたサリアから目を離せないまま、リンクの足は、一歩、二歩と後ずさった。

 叫びは届いた、とサリアは悟る。
 あたしを身震いさせたあの何かが、あたしに向かって一方的に投げかけられていたあの激しい
感情が、リンクの目から消え去った。あたしの知っているリンクが戻ってきた。
 よかったと安堵する間もなく、サリアは気づく。いまや別の新しい感情がリンクを支配している
ことに。
 リンクは悔いている。性急な行動を後悔している。そうだろう。そうあって欲しい。そうあって
当然の行いだった。でも……でも……
 あたしはリンクを拒んだ。『待って!』『だめよ!』『やめて!!』──確かにあたしはそう
言った。だけど、そうじゃない。あたしの言いたかったのは、そんなことじゃない。だから……
だからリンク……
 リンクが立ち上がる。足が動く。一歩、二歩と後ずさる。
 ああ、リンクが行こうとしている。また行ってしまおうとしている。いけない。いけない。
まだ終わってない。あたしたちがしなければならないこと。あたしたちの絆! あたしたちの幸せ!
 さらにリンクが後ずさる。それがサリアの胸を突く。いまにも身をひるがえそうとするリンクの
動作を目が捉えるやいなや、サリアは再び叫んでいた。
「行かないで!!」
2844-1 Saria V (14/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:33:17 ID:VPpF8+87
 サリアの再度の叫びが、リンクの動きを押しとどめる。
 おそるおそるサリアを見る。地面にすわったサリアが、ぼくに必死の目を向けている。
 ここにいろと? 何をしろと? そうだ、ぼくは逃げようとしていた。サリアに謝ろうとも
せずに。何を言うのも許されないなどと理由をつけて。サリアはそれを責めているのか。
責められてもしかたがない。どこまでも愚かな自分!
「……ちょっと……びっくりしたけれど……」
 静かなサリアの声が、リンクを驚かせる。
「……でも……あたし……」
 どうしてサリアはこんなに落ち着いて──
「……ほんとは……いまみたいなこと……」
 いったいサリアはぼくに何を──
「……いやじゃないよ」
 え──?
「……だけど……ね?」
 目に何かの思いを満たして、ほころぶサリアの口元。
「……もっと優しくしてくれなくちゃ、だめじゃないの」
 ああ、これだ。聞き分けのない子供を相手にするような、保護者めいた言葉。これがサリア!
いつものサリア! ぼくが知るとおりのサリア!
「ごめん!」
 思わず叫ぶ。素直にうなだれる。そうせずにはいられないサリアのお小言。けれどそれは
あくまでも温かくぼくを包んでくれて。
「ううん」
 サリアが軽く首を振る。口元の笑みが大きくなる。
 こんなぼくをサリアは許してくれている。そのいたわり。その慈しみ。ぼくはどうしたら
いいだろう。サリアの気持ちに、ぼくはどうしたら応えられるだろう。
 そこで意識が動き出す。
『いやじゃないよ』? 『もっと優しくしてくれなくちゃ』?
 サリアが言いたいのは、サリアが求めているのは──と筋道を追い、真意をつかみかけて胸が
大きく波立った瞬間、先回りするようにサリアが続ける。
「あたしが言ったこと、覚えてる?」
 サリアが言ったこと?
「リンクに見せたいものがあるって……前に、言ったでしょ?」
 ああ、サリアはそう言っていた。ぼくが旅立つ前、デクの樹サマが死んでしまう前、サリアは
ぼくの所に来て、やけにおずおずと意味ありげな調子で……
「いま……見てくれる?」
 何を?
2854-1 Saria V (15/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:34:22 ID:VPpF8+87
 サリアが立ち上がる。腰に当てられた両手が胴の両側に下りる。半ズボンがすとんと下に落ちる。
白い下着が目に飛びこみ同時に心臓が大きく収縮し、ベルトが緩んだままだったのにサリアは
気がつかなかったのかと思った直後、サリアはブーツを脱いで半ズボンも脚から抜いてしまって、
じゃあわかった上であんなことをしたことになるけれどいったいなぜという疑問が湧き上がる
よりも前にサリアはベストを脱ぎセーターを脱ぎ上下とも下着になってしまいそれでもサリアは
止まらないどころかいっそう手を速めとうとう下着も全部脱ぎ捨ててしまっていまサリアは
ぼくの前に立っている!
 言いようのない衝撃!
 サリアの裸を見るのは初めてじゃない。水遊びの時などに何度も見たことがある。なのに
どうしてぼくはこれほどサリアの裸に動揺するのかというとぼくは大人の時に女性の裸という
ものの持つ意味を知ってしまっているからで、いや、サリアは子供じゃないかと思い直す間もなく
ぼくはいま目の前にある──
「……見て……全部……」
 ──サリアの全部を見てしまってほのかにふくらんだ胸(!)と淡い恥毛(!)をも見て
しまってびっくりしてしまって、前はこうじゃなかった、胸は平たくてあそこの丘はつるつるで
他の女の子と同じだったのにいつの間にサリアは大人の、ああそうだ、サリアはいま大人の入口に
立っているんだ、サリアはぼくより一つ年上だから先に大人になり始めたんだ、いや、それは
おかしい、仲間の中にはサリアよりも早く生まれた女の子だっているのになぜサリアだけが
そんなふうになるのか、コキリ族は大人にならない種族だからそんなことがあるはずはないのに
なぜサリアだけがそうなるのか全然わからないけれど──
「……これが……あたしなの……」
 ──サリアの言うとおりぼくがいま見ているのがサリアのほんとうの姿で、それは素晴らしく
きれいで身体の内から命が弾みだしてきそうなほど生き生きとしていて、ぼくはこれまで成熟した
大人の女性しか知らなかったけれど大人になり始めのサリアの素晴らしさがわかってそれがとても
感動を呼んでいて、だけどどうしてサリアはその姿をぼくに見せたいと思ったんだろう、あ!
そうか、さっきのようなことがいやじゃないというのはやっぱりそういうつもりだったのか、でも
いくら大人になり始めといってもサリアはまだまだ幼いしぼくはそれよりももっと子供なのに──
「……リンクも……見せて……」
 ──サリアはぼくを見たがっている、ぼくを求めている、いいんだろうか、ほんとうにそれで
いいんだろうか、迷う、迷う、迷う前に自分がどう思っているのかを確かめろ、ぼくはどうしたい?
サリアとどうなりたい? 確かめるまでもない、ぼくはサリアを抱きたい、サリアと結ばれたいと
思っていて、二人が望むならそうするのが自然なことだとアンジュも言っていたじゃないか、
ぼくたちが子供だなんて関係ないんだ、そうするのが自然だしそうしなければならないとまで
ぼくは思っていて、なぜならそうすることこそがサリアを救うことになるからという不思議な
確信がぼくの中に生まれているからで、さっきぼくがそうしかかったのも実はその確信がすでに
あったからで、ただ途中のやり方が間違っていて、けれどいまはサリアが正しいやり方を示して
くれているんだからぼくはサリアの言うとおりにするべきなんだ!
2864-1 Saria V (16/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:35:16 ID:VPpF8+87
 暮れなずむ空を彩る残光が静かに触れかかる中で、リンクは衣服を脱ぎ去った。
 二つの幼い裸体が自然に向かい合い、自然に近づき、自然に重なり、互いの腕が自然に互いを
抱き、互いの目が自然に互いを見、そして互いの唇が再び──今度は自然に──触れ合った。
 こうでなければならなかったんだ。ぼくたちにとってこの上もなく大切な、あの別れの時の
触れ合いを、このように再現してこそ、ぼくたちは次に進むことができるんだ。
 陶酔にうち震えながらも、自分がわずかに首をのけぞらせているのに気づく。
 ああ、サリアは背が伸びたんだ。前はほとんど同じ身長だったのに、いまはサリアの方が
ぼくより少しだけ背が高いんだ。サリアは大人になり始めているから。
 その証の別の一つを、ぼくは別の所でも感じている。ぴったりと合わさった二人の胸。ぼくの
胸は押されている。サリアの胸に。ほんのりとふくらんだサリアの胸に。
 いったん縮んでしまったぼくの男の部分が、またよみがえって、子供だというのに、硬く、
声高に、あるべきものを求めていて、それは密着した二人の下半身の間で、サリアの下腹に
押しつけられていて、サリアはそれを感じているはずで……
 脚の力を抜く。同時にサリアの脚の力も抜ける。言葉もないのに、まるで示し合わせたように
意図は一致していて、自然に、自然に、ぼくたちは草の上に横たわる。
 唇を合わせたまま、手でサリアの肌をさぐる。すべすべの表面。ほっそりとした単純な曲面。
仰向けだと二つの胸はほとんど隆起を失っている。しかしそこはやはり大人の兆しを秘め、手には
確かな弾力が伝わってくる。
 片側の胸の頂点に、指の腹をのせる。サリアが大きくため息をつく。そっと撫でてみる。
指の下で小さな粒が固まり始める。サリアの息が深くなる。もう片側でも同じように、先端を
尖らせる。サリアの息が速くなる。目はしっかりと閉じられて。けれども胸は大きく上下して。
 唇に舌を触れさせる。サリアは自ら口を開く。その誘いに従うと、今度はサリアも舌を送ってくる。
サリアの口の中で、ぼくの口の中で、そして二人の口の間で、二人の舌は絡み合う。絡むにつれ、
ぼくの指の下で二つの乳首が硬さを増してゆく。
「……は……ぁッ……」
 とうとうサリアが声を漏らす。いままで我慢していたんだろうか。声を出すのが恥ずかし
かったんだろうか。我慢なんかすることはないんだ。恥ずかしくなんかないんだ。だからサリア、
もっと、もっと──!

 あたしがずっと求めていた唇の触れ合い。さっき片鱗を感じて、いまはもっと深く感じていて、
幸せ、幸せ、これ以上の幸せはない、ないはずなのにあたしはもうそれだけでは収まらなくて、
身体のあらゆる部分でリンクを感じたくて、素肌をつけて、舌を絡み合わせて、二つの胸を
触られて、嬉しくて、気持ちがよくて、そうなの、とても気持ちがよくて、声が出るほど気持ちが
よくて、それでもまだ足りなくて、もっともっと気持ちよくなりたくて、そうなるためには
どうしたらいいのかあたしにはもうわかっていて、わかっていながらこれまで自分ではやらなかった
そのことを、幸せを分かち合うためにはどうしてもリンクにしてもらわなければならないその
ことを、どうかリンクにして欲しい、早くして欲しい、欲しい、欲しい、リンクが欲しい、
リンクが欲しい、あたしはリンクが欲しい、だからリンク、もっと、もっと──!
 リンクの手が胸から離れる。少しずつ、少しずつ、下がってゆく。そうよ、そっちよ、下の方、
もっと下の方、あたしの脚の間、窪みの奥、じんじんとうずいて感じて痺れて灼かれている
あたしの中心、あたしが触れたくて、でもまだ触れたことのない、リンクしか触れちゃいけない
そこ、そこ、そこに早く、早く、早く触れて欲しいのに、リンクの手はその直前で止まって、
まばらに生えた毛をさわさわと弄んだりして、そんなにそれがいいのかしら、そんなにあたしの
恥ずかしいものに触りたいのかしら、でもリンクが触ってくれるなら恥ずかしくなんかないんだ、
ないんだけれどやっぱりあたしがいちばん触って欲しいのは別の所だからお願いそっちに、
そっちに、そっちにやっとリンクの手が、窪みの上に、中に、奥に、いつの、間にか、あの時の、
ように、じんわりと、濡れた、その、場所に、とうとう、リンクが、指を、ひたして、ああ、
とても、気持ち、いい、リンク、いい、いいの、いいわ、いいけれど、もう、ちょっと、だけ、
あたしの、あたしの、ほんとに、感じたい、所に、どうか、どうか、近づいて、触れて、
ちょうだい、リンク、触れて、そう、そこ、そこ! そこ!!
2874-1 Saria V (17/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:36:03 ID:VPpF8+87
「ぅあ! あんッ!」
 弾けるサリアの声。跳ねるサリアの腰。固まるサリアの全身。
 サリアは感じている、こんなに幼い身体でも感じている、なぜならサリアは女だから、幼くても
サリアは女だから、もうこんなに濡らして、女の快感をはっきりと主張して、その快感の原点を
ぼくはそっと、そっと、撫でて、押して、こすって──

 そこ! そこ! そこをついにリンクに触れられて、やっぱりそこだったんだ、やっぱりそこが
いちばんいい、いちばん気持ちいい場所なんだ、気持ちいい、気持ちいい、ほんとにほんとに
気持ちいい、止まらない、恥ずかしい声が止まらない、いいえ恥ずかしくなんかないんだったわ、
リンクになら、リンクになら、何を聞かれたってかまわない、だからもっと、もっと、もっと
もっともっと触って、触って、触って、リンクの手で、リンクの指で、触ってもらえてこんなに
あたしは嬉しいの!

 そうだよ我慢しなくていい、ぼくはサリアの声を聞いていたいから、サリアが感じているのが
嬉しいから、ぼくの手でサリアが感じてくれているとわかって嬉しいから、どうか好きなだけ声を
出して、でもそれだとぼくは唇に触れられない、だからぼくは口を他の場所に、頬に、首に、肩に、
胸に──
「はぁッ! あ……ぅッ!」
 噴き出すサリアの声、それをわくわくと聞きながら、乳房とも言えない未熟なふくらみの先端で、
そこだけは硬く持ち上がった右の、そして左の粒にぼくは口をつけて、舐めて、吸って──

 吸われてる、あたしはリンクに胸を吸われてる、この心地よさ、この暖かさ、まるであたしの
胸はいまこの時リンクに吸われるためにふくらんできたんだと思えるくらいに、そうよ、それ
以外の理由なんてありはしない、だからリンク、吸って、吸って、あたしの胸を吸いつくして!

 吸って、吸って、吸いつくして、けれどまだ終わらないで、手でサリアの中心を探りながら、
サリアの横に置いた身を逆に向けながら、ぼくは口をさらに下へ、下へと移して、柔らかい腹、
窪んだ臍、緩やかに盛り上がった恥丘とそこに薄く芽生えた大人のしるしを唇で追って、確かめて、
そしてさらに──

 来る、リンクが来る、リンクの口が下に来る、嘘でしょ? 嘘でしょ? まさかそんな所に口を
つけたりはしないよね? ね? ね? でもリンクの口は止まらない。するの? ほんとに?
信じられない、でも触られるだけでこれほど気持ちいいんだから口づけられたらもっと気持ちが
いいに違いない、だからいいよリンク、好きなようにして、リンクになら何をされたってあたしは──
2884-1 Saria V (18/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:36:52 ID:VPpF8+87
「あ! あぁあ! ぁああぁあ!」
 そこに口をつけた瞬間、サリアの喉から抑揚の乱れた叫びが飛び出す。がくがく揺れる腰を
両手で抱きとめ、ぼくはしっかりと口をとどめて、唇で、舌で、歯で、サリアのその場所を、
限りなく清く熱く紅く美しいその場所を、ひたすらに、ただひたすらに感じ、味わい、いとおしみ、
凝縮した小さな塊を沸きたたせ、震える襞を左右に分け、ひくひくと痙攣する奥の入口を、そっと、
そっと、広げてやり──

 ああ! ああ! これほどだったなんて! リンクの口をそこに受けるのがこれほどのこと
だったなんて! 気持ちがいいどころじゃない、でも何て言ったらいいのかわからない、
わからないほどすごい、ものすごい!
 ここまであたしにしてくれるリンク、そのリンクにあたしはどうしたらいい?
 ずっと固く閉じていた目をあける。すぐ前にリンクのそれがある。あたしの横で、あたしと
反対向きになって、あたしのそこに口をつけているリンクの、男の部分!
 さっき思った。リンクのその場所は形が違っていようがあたしが感じるその場所と同じように
感じるはず。だからあたしはこうしなくちゃいけない!

「ぉあ!!」
 何だ? どうした? ぼくのあの部分が突然何かに、熱い何かに包まれて、何かに、何かに、
そうだ、サリアの口に、サリアの口がぼくを含んで、ぼくがサリアにしているのと同じことを
サリアもぼくにしてくれて、ああサリア、感じる、感じるよ、感じすぎるよ、おかしい、何か
おかしい、そこを口に含まれるのは初めてじゃないのに、いまのこの感じはいままでとは比べものに
ならないほど激しくて──

 リンクは感じてる、やっぱりそこで感じてる、かわいいそこで、毛も生えていないそこで、
けれど男らしくかちかちにいきり立ったそこで、幼いながらも精いっぱいに感じてる、もっと
感じて、もっともっと感じて、あたしが舐めてあげる、あたしが吸ってあげる、でもリンク、
感じてばかりいないであたしも感じさせて、もっと感じさせて、もっともっと感じさせて!

 どうしたんだろう、どうしてぼくはこんなに敏感になってしまったんだろう、ともかくサリアが
ここまでぼくにしてくれるのならぼくもそれに応えないと、だからいままで以上に口で、口を
使ってサリアを感じさせてあげる、こうやって、こうやって、ああ、サリアが呻いている、ぼくを
含んだまま呻いている、感じてくれている、ぼくを感じてくれている、でもサリアの口の動きも
速くなる、速くなってぼくはますます感じる、感じてしまう、このままだと、このままだと
最後までいってしまう、ここでいっちゃいけない、ぼく一人だけでいっちゃいけない、いけない
からサリア、もう、もう──!
2894-1 Saria V (19/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:37:53 ID:VPpF8+87
 出し抜けにリンクが口を離す、身を動かす、大きく息をつく、何が起こるのかがわかって
あたしも口を離す、リンクが向きを変える、あたしの上にくる、あたしの上に重なってくる、
やっぱりそうなんだわ、あたしが思ったとおり二人がいちばん感じる部分を合わせるその時が、
さっきみたいに無理やりじゃなく二人が心から望んでそうする時がきたんだわ、いいわリンク、
そうして、そうして、あたしはもう拒まない、だってそうして欲しいから、リンクにそうして
欲しいから、ああ、もう触れている、リンクのあれがあたしのそこに触れている、硬い、硬い
リンクの男の部分が、待ち焦がれるあたしの女の部分に、もうぴったりと触れている!

 もうぴったりと触れていて、これからぼくはサリアと、ついにサリアと、でも気をつけないと、
サリアは初めてだ、間違いない、ぼくは言われた、できるだけ優しくしてあげること、誰の言葉
だったか思い出せない、それくらいぼくは興奮している、だけど優しくすることだけは忘れちゃ
いけない、口で広げてやったけれどそれで大丈夫だろうか、でも、ああ、もう我慢できない──!

 そっと、そっと、進めて──そっと、そっと、受け入れて──
 じきに進まなくなって──じきに受け入れられなくなって──
 もっと力を入れていいんだろうか──もっと力を入れていいのよ──
 いいんだろうか──いいのよ──
 いいの?──いいの──
 いいんだね?──いいわ!
 いくよ!──きて!

 突き入れる!
 受け止める!

 この結ぼれの何という──!

 ぼくはサリアの中にいる。
 リンクはあたしの中にいる。
 とうとうひとつになった、ぼくたち/あたしたち!

 でもどうしたんだぼくは、この圧倒的な快感、サリアの口に含まれた時と同じように、もう
何度も経験したはずのこの感覚が、いまはなぜか、なぜか、生まれて初めて感じるもののように、
生まれて初めて、初めて、初めて、そうだ、初めてなんだ、記憶はそうでなくても身体は初めて
なんだ、子供に戻ったぼくはいま初めての体験をしているんだ、初めての交わりを、サリアと、
サリアと、サリアと!

 痛い、痛いけれどこの圧倒的な充実感、リンクと繋がるこの絆、リンクと繋がるこの幸せ、
あたしが求めてきた、ずっと、ずっと、求めてきたこの感じ、どんどん強くなってくるこの感じ、
生まれて初めて持ったこれほどの絶大な感じ、生まれて初めて、初めて、初めて、そう、いま
初めての体験を、初めての交わりを、リンクと、リンクと、リンクと!
2904-1 Saria V (20/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:38:34 ID:VPpF8+87
 リンクは果てた。同時にサリアが身を固く引き絞るのが感じられ、サリアもまた絶頂したことが
わかった。あるべき動きもなく、あっけないと言わざるを得ない幕切れだったが、ただ互いの
中心を深く接し合わせるだけで達することができたのは、二人の結びつきがこの上なく純粋だった
からなのだ、と、薄れる意識の中でリンクは思った。
 それで充分だった。

 最後になって訪れた、それまでの快感をはるかに凌駕する爆発的な感覚に、サリアの意識は
激しくうち震え、乱れ飛び、浮き漂い、そして静かに沈澱していった。
 サリアが我に返った時、まだリンクは上にいた。動かなかった。眠ってしまっているようだった。
『やっぱり、疲れていたんだわ』
 サリアは微笑んだ。リンクの重みがずっしりと身体にかかっていたが、苦痛だとは思わなかった。
むしろその重みを自分の身に感じられるのが嬉しく、それを逃がすまいと、サリアはリンクの背に
両腕をまわし、優しく抱きしめた。
 すでに日は暮れ落ち、森は深く夜の帳に包まれていた。正円にはわずかに足らない、しかし
明るみはもう充分な月が、東の樹林の上に姿を現し、二人が横たわる『森の聖域』に、清く
静やかな光を投げかけていた。空気は爽涼とし、皮膚が熱しているうちは快かったが、時が経つに
つれ、裸の身にはいくぶん冷たく感じられるようになった。が、触れているリンクの温かみが、
それを補って余りあった。
 リンクの男の部分は、サリアの中に収まったままだった。張りつめた硬さは失われていたものの、
自分の方が収縮して押し包むことができるので、入ってきた時と同じ充実した気分を、サリアは
味わうことができた。痛みはすでに消え、その分、より満ち足りた気持ちになれた。
 これであたしとリンクの絆は完全になったのだろうか。
 なったのだ──と思う。
 あたしが究極の快感を得るのと同時に、リンクはあたしの中で何度も大きく脈打った。あれは
あたしとリンクが同じ幸せを分かち合った証拠。
 では使命は? これであたしの使命は果たされた?
 それには確信が持てない。まだわからないことがある。
 思い出す。旅立つ前のリンクの言葉。
『何か悪いことが起ころうとしている』
 悪いこと。デクの樹サマの死もそのせいなのだ、とリンクは言い、『外の世界』へと旅立った。
悪と戦う使命を持って。
 悪とは何か。その正体は何か。リンクはどのように戦っているのか。どのように使命を果たすのか。
そして、あたし自身の使命が、そこにどうかかわるのか……
 その時、リンクの身体が動いた。
2914-1 Saria V (21/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:39:20 ID:VPpF8+87
 気がつくと、サリアが下にいた。微笑みに微笑みを返し、けれどもなおぼんやりと余韻を味わう
うち、サリアの腕が背にまわされているのを知り、さらに自分がサリアに全体重を預けてしまって
いることがわかって、リンクの意識はにわかに明らかとなった。
「ごめんよ、重かっただろう?」
 あわてて腕で身体を浮かせる。
「ううん、そんなことないよ」
 微笑みを絶やすことなくサリアの首が横に振られ、その手が名残惜しげにリンクの腕を撫でた。
リンクもサリアから離れたくはなかったが、サリアを圧迫する体勢のままでいるわけにはいかなかった。
 腰を引くと、力を失った陰茎がサリアの膣から抜け落ちた。
 ぼくは射精していないんだな、子供だから当然だけれど──と思った直後、リンクはぎくりとした。
 陰茎が血に染まっていた。血はサリアの陰部にもこびりついていた。
「あの……痛かった……?」
 おずおずと訊く。
「ううん」
 またサリアが首を振る。
「ちょっと痛かったけれど……でも、大丈夫」
 声が落ちる。
「リンクが……優しくしてくれたから……」
 急に胸が熱くなった。何か言いたかったが、何を言ったらいいのかわからなかった。
 傍らに身を落とし、横になってサリアを見つめる。サリアも横を向いてこちらを見つめている。
そのまま互いを抱き、唇を触れ合わせる。徐々に意識が遠ざかる。
「ね、リンク?」
「……え?」
「訊きたいことが──」
「……何を?」
「……ううん、いいわ。あとで……」
「……いいの?」
「うん、あとで……だから……ゆっくり……休んで……」
「……ああ……」
 目を閉じる。深く、深く、心は落ち着く。サリアを抱いて、サリアに抱かれて、それ以上の
なにごともなく、それだけで満足だった。
2924-1 Saria V (22/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:40:21 ID:VPpF8+87
 目が覚めたのは明け方だった。東の空はすでに白く、夜の間は沈黙していた鳥たちが、一日の
始まりのさえずりを交わし合っていた。
 腕の中のサリアは、目を閉じ、口をわずかに開いて、安らかな寝息をたてていた。唇に軽く
キスしてみる。寝息の調子は変わらなかった。
 背にかかるサリアの腕をゆっくりとはずし、リンクは上体を起こした。大きく伸びをし、筋肉の
凝りを解きほぐす。疲労は残っているものの、一夜の安息が自分に新たな活力をもたらしてくれて
いると実感された。
 リンクは不意に身震いした。サリアと肌を合わせている間は気づかなかったが、朝の空気は
さえざえしくも冷ややかで、裸のままではいささか問題がありそうだった。
 サリアに目を戻す。まだ目覚める様子はない。
 揺り起こそうとして、血のついた陰茎が目に入った。ハンカチ代わりに使っている布を取り出し、
草上の朝露を浸して、血を拭った。次いでサリアの身体を仰向けにし、同じく血に彩られた部分を、
そっと拭いてやる。
 サリアが身を動かし、目をあけた。首を上げ、リンクの行動を眺めている。みるみるうちに
顔面が紅潮する。両脚がぎゅっと閉じられ、手をはさまれてしまう。
「いいから」
 軽く笑いかけ、待つうちに、脚の力は緩んだ。リンクは再び手を動かした。サリアはじっと
黙ってその動きを受け入れていたが、ほどなく行動を終えたリンクに、
「……ありがと」
 とささやくように言うと、両手を肩にやって、恥ずかしげに目を伏せた。
 リンクはあたりに散らばった服を集め、サリアに手渡した。
「冷えるよ」
 小さく頷き、サリアは服を身に着け始めた。リンクも自分の服を手に取った。
 着衣した二人は、草の上に並んですわった。互いを見るでもなく、腕が触れ合う以上の接触も
なく、言葉さえない二人だったが、リンクにとっては実に心温まる時間であり、それはサリアに
とっても同じに違いないと、リンクは思った。
 しかしその時間も、長くは続かなかった。
2934-1 Saria V (23/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:41:45 ID:VPpF8+87
「訊いていい?」
 ぽつりと言葉が漏らされた。横を見ると、サリアが真剣な表情をこちらに向けていた。
「なに?」
 促しつつ、昨晩サリアが自分に何かを問いかけようとしていたことを、リンクは思い出した。
「リンクは……『外の世界』で、何を見てきたの?」
 瞬間、さまざまなことがらが頭の中を飛び交った。
 何と言おう。どう言ったらいいだろう。
 整理がつかないまま、つっかえながらも、リンクは言葉を並べていった。
「サリアに……どうしても伝えないといけないことがあって……ぼくは来たんだけれど……前にも
言ったように……デクの樹サマが死んだ、その大本の……悪と……ガノンドロフという奴と……
ぼくは戦わなきゃならない、でも……でもそいつは……とてつもなく強大で……世界を暗黒に
落としこもうとしていて……コキリの森も……それに巻きこまれてしまうんだ」
 サリアが性急に口をはさんだ。
「コキリの森が? どうなるの?」
「……全部……燃えてしまう」
 息を呑むサリア。ややあって、震える声がした。
「……いつ?」
 いつだろう。正確な時期はわからない。シークも知らなかった。だが、おおよそ──
「二、三年のうちに」
 沈黙が場に張りつめた。しばしの間をおいて、サリアが沈黙を破る。
「どうしてリンクにそれがわかるの?」
 答えようとして、詰まってしまう。七年間の封印。過去への旅。そんなことを話しても
サリアには理解できないだろう。
「うまく言えないけれど、でもほんとうなんだ。だから……だからサリア、そうなったら……いや、
そうならないうちに、サリアも、他のみんなも、どうにかして身を守るんだ。ガノンドロフに
見つからないように、どうにかして──」
「どうにかって……どうしたらいいの?」
「どこか……安全な所に隠れて──」
「どこ? 森にそんな所がある?」
「森はだめだ。全部燃えてしまうから」
「でも、あたしたち、森の外へは出られないよ」
「あ──」
 そうだった。コキリ族は森の外へは出られない。けれどもそれはデクの樹サマが障壁を築いて
いたからで、その障壁もいまはなくて、出ようと思えば外に出られるはずで、だけど出てしまったら
どんなことになるのかわからない、そんな危険を冒すわけには……いや、それでも……いや、
やっぱり……
 どうしたらいいだろう、どうしたらいいだろう、その時に至ってサリアがどう行動したら
いいのか、ぼくはサリアに教えてやれない、でもサリアを死なせちゃいけない、サリアはぼくに
とってかけがえのない存在だから、いや、それだけじゃない、サリアは賢者だから、『森の賢者』
だから──
 賢者?
 連想が脳を刺激する。
「……神殿……」
「え?」
「そうだ! 神殿!」
 思わず立ち上がってしまっていた。目の前にある廃墟。森の神殿!
「この神殿だけは焼け残るんだ。賢者と神殿は深い関わりがある。だからサリア、火事が
起こったらこの神殿に身を隠すんだ。サリアは賢者なんだから!」
「賢者?」
「そう、サリアは『森の賢者』なんだ! サリアは無事でいなくちゃならない! ぼくがここに
戻ってくるまで! そしてもう一度会えたら、サリアは賢者として目覚めることになるんだ!
ぼくが悪を打ち倒すためには、使命を果たすためには、それが絶対に必要なことなんだ!」
2944-1 Saria V (24/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:42:39 ID:VPpF8+87
 興奮しきったリンクの言葉を、サリアは茫然と聞いていた。細かいことは理解できなかった。
が、リンクが自分に求めていること、自分がしなければならないことだけは、深くサリアの腑に
落ちた。ずっと抱いてきた疑問への回答であったから。
「わかった」
 きっぱりと言う。
「森が火事になったら、神殿に身を隠す。そうして、リンクが来るのを待つ。それでいいのね?」
「そう」
 力強く頷くリンク。その雄々しい表情に打たれながらも、サリアの心は寂寥の気に満ちた。
 リンクがここに戻ってくるまで、ということは……
「リンクは……また、行っちゃうのね……」
 卒然と我に返ったような顔になり、リンクはうつむいた。興奮の色は消えていた。しかしその目は、
遠い何かを、いまでは自分にもうかがい知ることのできる強固な意志の行き着く先を、はっきりと
見ているのだ、と、サリアは悟った。
 リンクは行く。悪と戦う使命を持って。
「いつ、戻ってくるの?」
 うつむいたまま、リンクが言う。
「七年後」
 七年!
 何とはるかな未来! 想像もつかないほどの!
 でも……
「待つわ」
 そうしなければならない。
「あたし……いつまでも……待ってるから……」
 立ち上がる。向かい合う。
「……だから……必ず……戻ってきてね」
 リンクが目を上げる。
「必ず」
 短い、けれども明確なリンクの言葉。
 ひと月前の別れの時、リンクは帰ってくると言い、そして帰ってきてくれた。だからいまの
リンクの言葉も、あたしは信じられる。
2954-1 Saria V (25/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:43:53 ID:VPpF8+87
 リンクの手が肩に置かれる。
「家まで行こう」
 サリアは首を振る。
「あたし……もう少し、ここにいるわ」
 何か言いたげな様子を保っていたリンクだったが、やがて肩から手をはずすと、小さく呟いた。
「じゃあ……」
 リンクの足が、数歩、後ろへ下がる。そこで止まる。
 見つめ合う。見つめ合う。時はさらさらと流れてゆく。
 切なげなリンクの表情が、しんみりとほころび、静かな声を送り出す。
「ゆうべは、とても幸せだったよ」
 想いが胸にこみ上げる。声を出せない。出せないうちに、リンクの表情は引き締まる。背が
向けられる。駆け出してゆく。視野から姿が消える。足音が遠ざかる。じきにそれも聞こえなくなる。
 限りなく静謐な空間に、サリアはひとり立ちつくした。
 ふと足元に落ちた目が、草の上に残されたものを捉える。拾い上げる。
 血の染みついた布きれ。
 あたしの血。あたしの初めての証。あたしが初めてリンクを身体の中に迎え入れたしるし。
 サリアは思う。
 リンクがここに帰ってきたのは、森に迫る危険をあたしに伝えようという、それだけの意図
だったのだろうか。
 そうだったかもしれない。リンクにとって、あたしとの交わりは、ただの突発的なできごとに
過ぎなかったのかもしれない。
 それでも──とサリアは確信する。
 リンクは幸せだったと言ってくれた! あたしはその証拠をあたし自身の身体で感じ取った!
そしてあたしも同じ幸せを得た! あれは確かにあたしたち二人の至上の幸せだった!
 けれど、それだけでない。いまのあたしにはわかる。
 あたしとリンクの交わりには、何かの意味がある。リンクの幸せ、あたしの幸せ、あたしたち
二人の幸せであるばかりではなく、リンクの使命、そしてあたし自身の使命にとって、重要な
意味のある、必要不可欠な儀式だったのだ。
 リンクの使命。それは世界を滅ぼそうとする悪と戦い、それを打ち倒すこと。
 あたしの使命は? 『森の賢者』としての、あたしの使命は?
 リンクを待つこと! 七年間!
 あたしたちの使命は、まだ果たされていない。果たされるのは七年後。では七年後に何が
起こるのか。あの儀式にはどういう意味があったのか。
 わからない。わからないけれど……
 あたしがいま立っている『森の聖域』。あたしとリンクの二人にとって、とても大事な場所。
二人が初めての体験をした、大事な、大事な場所。
 そして、目の前に建つ神殿こそが、最も大事な場所になる。
 それまで古びた廃墟としか見えていなかった建造物が、にわかに壮絶な重みをもって、身に
のしかかってくるような気がした。その重みに耐え、自らの使命を全うする決意を固めながら、
一方で、自分は幸せを幸せのみとして生きることはかなわなくなったのだ、という蕭条とした
思いをも、サリアは胸に抱いていた。
2964-1 Saria V (26/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:44:32 ID:VPpF8+87
 迷いの森を抜け、リンクは仲間たちが暮らす開けた土地に戻った。
 できるだけ人目には触れたくなかった。
 仲間に会ってしまうと、デクの樹サマの死のことや、自分のこれまでの行動について、面倒な
話をしなくてはならなくなるかもしれない。
 早朝とあってか、あたりに人影はなかった。リンクは安堵した。
 森の出口へ向かおうとして、気が変わり、自分の家に行ってみた。高い樹の中ほどに、
しがみつくように建てられた家は、リンクの記憶にあるそれと、全く違っていなかった。ここも
数年後には焼けてなくなってしまうのだ、と思うと、無性に寂しくなり、リンクは梯子を登って、
家の中へ入った。そこはやはり、リンクが森を去った時と同じ状態だった。
 ベッドに腰を下ろすと、思いが胸に湧き上がってきた。
 神殿に身を隠せ、とサリアには言ったが……ほんとうにそれで大丈夫なのだろうか。焼け残る
はずの建物とはいえ、出入りは自由だ。ガノンドロフに襲われたら、神殿の中にいても安全とは
言い切れない。その危険を乗り切ったとしても、森が全焼してしまったあと、どうやって生きて
ゆけばいいか。
 ぼくがサリアについていてやれたら!
 けれども、そうはできないのだ。ぼくには使命がある。サリア以外の賢者をも、ぼくは
救わなければならない。
 不安と焦燥を覚えながら、しかし自分の中に奇妙な楽観が居座っていることを、リンクは
感じ取った。
 あの確信。サリアと結ばれることがサリアを救うことになるという不思議な確信。
 理由はわからない。わからないが……
 サリアが賢者であることと、これは何か関連しているのだろうか。子供のぼくに賢者を
覚醒させることはできない、とシークは言った。事実、サリアは賢者として目覚めてはいない。
いないはずだ。そんな様子はなかった。なかったが……
 リンクは頭を振った。
 いま考えてみても始まらない。サリアが無事でいられるかどうかは、七年後の未来に帰って
みればわかることだ。
 家を出て、梯子を降りる。地面に立ち、向きを変えたところで、リンクの動きは止まった。
 ミドが立っていた。
2974-1 Saria V (27/27) ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:45:23 ID:VPpF8+87
 ミドは無言でこちらを睨みつけている。リンクも沈黙を保つ。
 やがてミドがぶっきらぼうに口を切った。
「どこへ行ってたんだよ?」
 リンクは答えなかった。ミドに説明してもとうていわかりはすまい、と思ったからだった。
いらついたように、ミドの声が大きくなる。
「サリアに会ったのか?」
 どきりとした。どうしようかと迷ったが、結局、正直に返答した。
「うん」
「また行っちまうのか?」
 重ねてミドが問う。
「うん」
 やはり正直に答える。
 しばらく黙っていたミドが、低く声を絞り出した。
「二度と帰ってくるなよ」
 はっとする。
「サリアを幸せにできないなら、二度と森へは帰ってくるな!」
 続けて大きく叫びをあげると、ミドはいきなり背を向け、走り去った。その後ろ姿は、あっと
いう間に木立の中へ消えていった。

 リンクは佇んだまま、ミドの言葉を心の中で反芻した。
 厳しいミドの言葉。しかしその裏にある意味はわかる。
『サリアを幸せにできないなら』
 では、ぼくがサリアを幸せにできるのであれば……
 そこへ勃然と疑問が湧き起こる。
 できるのだろうか。
 ゆうべの交わりが、ぼくの幸せであったのと同じく、サリアの幸せでもあったことは、疑いない。
だが、この先、賢者としての使命を負い、七年間を生きてゆかねばならないサリアの運命は、
そして七年後、賢者としての覚醒を──ぼくにそれができたとして──成し遂げたのちのサリアの
運命は、果たして幸せと言えるだろうか。
 サリアという一人の人間にとって。
 考えたこともなかった、重い命題。
『それでもぼくは、なすべきことをなさなければならない』
 リンクは思い定める。
 賢者の運命、それもまた、おのれに課された使命の一環なのだ──と。


To be continued.
298 ◆JmQ19ALdig :2007/10/01(月) 21:46:02 ID:VPpF8+87
以上です。Saria III からの長文引用は意図的なものです。
変わった表現方法を試みてみましたが、読みにくいかも。
299名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 21:51:13 ID:6VcynZNU
途中で更新に気づいて追っかけてました

超GJ
等身大の勇者が大好きです。
サリアの復活にこちらとしても大感激です。

後、さりげなくグルグルさんを出すあたり抜け目がないですね

まだまだ続くようですし、ますますこのスレから目が離せません
300名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 21:55:38 ID:nWpBWdxb
リアルタイムで出くわしたのは初めてだ。

頑張ってください、としか言えない。
そのペースで書き続けられるのが羨ましい……
301名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 22:19:21 ID:DJShfytl
リアルタイムではじめて見れた


302名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 22:34:53 ID:shathUIw
なんというクオリティ
エロパロ板においとくのがもったいないくらいだな
303名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 22:40:19 ID:HnYV9EGD
なんというか
タダで読むのが勿体無いよこれ。お金出させて欲しいくらい…
いや、金銭にするのが価値あるってわけじゃなくてさ。プロ並みじゃん?
ほんと感謝せんば。
投げ銭とかあったら是非投げさせて欲しい。
304名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 23:03:26 ID:Sj4eotk7
体は子供、頭脳は大人なリンクの子供同士セクロス(;´Д`)ハァハァ
7年後の世界でヤリまくってきたのに子供に戻ったらちんこが敏感になってて
うろたえるリンク(;´Д`)ハァハァ。もう剥けてるんだろうか…
今回の本文によれば子供リンクは発毛も精通もまだだから
もしまだ被ってるとしたら今後初剥きイベントや精通イベントもありかな?

生殖をしないコキリ族だから、性知識ゼロのまま初セクロスしちゃうサリアも萌え。
もしリンクが7年後の経験を生かしてついアナルセクロスしちゃっても
リンクの口淫に応えて知らず知らず69してしまったのと同様
知識のなさゆえ自然に受けいれてしまいそうで(;´Д`)ハァハァ

『1-1 Saria I』を読みかえしたらサリアが「恥ずかしい」という表現をしないのが
性的羞恥心を持たないコキリ族らしくてよかったのですが
今回は普通に恥ずかしがってるんですね。


性を知ってしまったリンクと全裸ルト姫が再会したらどうなっちゃうかwktk
305名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 00:18:29 ID:sYMdKIZH
暗い話が続いた後に今回のような話がくると感慨も一入といいますか
平和ってイイナー
って気にさせてくれる
306名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 01:09:36 ID:eVBjSQin
おぉぉぉ更新きてたー!!
平和であることの喜びはゲームでもすごく強く感じて印象に残ってたから
あらためて感じられて嬉しい。

そしてリンクはもしやすべての賢者とセクロスして目覚めさせるのか…!?
なんというエロス!
いやエロスがなくても読みたい!
307名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 01:10:12 ID:PL/IDCP/
サリアはやはり萌えるキャラだと認識し直した
そんな自分の意見はともかくGJ!
初々しさが全面に出ていて、初めてのサリアと、子どもの姿では初めてのリンクが眩しかった

あと30回も読めると思うと興奮する…と同時にあと30回で終わってしまうのかとちょっと寂しさを今から感じてしまう

何回でも言わせてもらうぜ、GJGJGJ!
308名無しさん@ピンキー :2007/10/02(火) 02:03:19 ID:6aH+zXxc
何かもう、レベルが違うな
309名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 02:09:07 ID:vh+jYk7g
何回GJ!!と言っても足りない
>>307
GJGJGJが[JG]=[J.ガイル]に脳内変換された
310名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 03:50:19 ID:MBndjp5b
誰か…GJに代わる新しい上級の褒め言葉を…GJでは軽過ぎる…
311名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 06:10:30 ID:rwHVcZMy
続きキテるー! GJ!!
サリアったら、初まぐわいで69ですか!!

ゴロンのアニキやインパ相手に・・・
先読み良くないとは思いつつ、色々と想像してしまいます。
312名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 08:56:28 ID:eVBjSQin
きっとこのスレでのGJはGoodJobじゃなくてGodJob
313名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 10:48:03 ID:LN8Y7djJ
何かもう・・・GJ過ぎる!!!
あと30話も読めるんですね。いや、ほんとお金出したいくらい。
あまりのGJさに、みんなのコメント読む事さえも楽しいです。
コキリの森の描写も表現が上手いので、
マイナスイオンがここまで漂って来そうなほど入り込んでしまいました!!
314名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 15:46:43 ID:QFJcFsXb
なんだこの異様なまでの称賛レス。
自分はみんなのレスがキモイよ。
315名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 16:27:24 ID:xzHcHtfI
このスレは相当恵まれてるな
◆JmQ19ALdig氏、これからも頑張ってください
316名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 18:06:49 ID:VAgkpKab
>>314
まぁ自分も少々行き過ぎかなぁとは思うが
クオリティの高さに加えて◆JmQ19ALdig氏以外めぼしい投稿が無いから仕方ないんじゃ
317名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 20:09:53 ID:9VtKRMU3
書き手側からの意見だけどめぼしい投稿もなにもこの流れで出しにくいと思う
氏の作品は楽しみだけど、他の人の書いたメドリとかミドナとかのエロも見たいなぁ
318名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 21:56:01 ID:W2S0bN8z
GGGJ!!!
319名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 23:45:22 ID:rwHVcZMy
っていうか、すごく人がいたんだねココ
320名無しさん@ピンキー:2007/10/02(火) 23:49:27 ID:rjqmhdhY
リンクとサリアの、溌剌とした生命力に感動した。
セックスって、こんなに幸せでキラキラしたものだったかなw
ガノンドロフの、腐臭が漂ってくるような性描写との描き分けがすごいね。
321名無しさん@ピンキー:2007/10/03(水) 00:13:25 ID:MfRFMT1N
なんという神…
このスレは間違いなく永久保存
322名無しさん@ピンキー:2007/10/03(水) 01:19:45 ID:O6H5iTxS
ずっとリンクのターン!
323名無しさん@ピンキー:2007/10/03(水) 04:02:03 ID:EX82bm3m
あと30回…ということはリンクはあと30発ぐらいやる訳ですな'`ァ'`ァ(*´Д`)=3 '`ァ'`ァ
324名無しさん@ピンキー:2007/10/03(水) 04:13:21 ID:C3q3WSF9
仲のいい幼馴染だったリンクとサリアとは即ハメOKだったけど、

ルト姫とはつきあい短いから
セクロスまで多少の段取りが必要なはず。
一時おあずけ状態にもかかわらず最初から全裸のルト姫に
性欲をもてあますリンクを想像するだけで俺ももてあさざるを得ない。
325名無しさん@ピンキー:2007/10/03(水) 08:01:23 ID:xqGi30f9
>>314
俺もこのスレ以外ならそう思うだろうが事実かなりの質のSSなんだからしょうがない。ときたま現れる伝説級の神職人なんだよ。
326名無しさん@ピンキー:2007/10/03(水) 09:55:36 ID:5Xn2sldv
>>317
そんなあんまり気にせず投下して貰いたいんだがなぁ
まぁ見ている側の勝手な意見だけど
327名無しさん@ピンキー:2007/10/03(水) 19:08:19 ID:GSB/PEjO
◆JmQ19ALdig氏のSSは、エロパロとしてはかなり独特なので
もっと軽い肩の凝らない話も読みたいと思っている。
そういう意味で他の書き手さんには期待している。
328名無しさん@ピンキー:2007/10/04(木) 18:09:15 ID:+BIdayxR
>>327
禿同。物怖じしないでどんどん投下して欲しいぜ。
329名無しさん@ピンキー:2007/10/04(木) 18:16:39 ID:LtNUgSIa
無理
330名無しさん@ピンキー:2007/10/04(木) 19:15:14 ID:grk3U92k
投下出来るの、スレ埋めSSくらいじゃない
・・・この流れじゃ
もう400k近いし、勝負は次スレが立ってからさ!
331名無しさん@ピンキー:2007/10/06(土) 23:40:55 ID:LyVy5MTh
次スレは>>330に期待しても良いんだな?
332名無しさん@ピンキー:2007/10/07(日) 00:29:24 ID:51QTXMii
つかスレの容量って約500KBじゃなかったか?
まだまだ余裕じゃね?
333名無しさん@ピンキー:2007/10/07(日) 17:38:23 ID:2yE7Kewm
前スレは、500kを超えた442レス以降スッパリ切り落とされてるね
ああなるとスレ埋めも虚しいな
334名無しさん@ピンキー:2007/10/07(日) 23:47:53 ID:Xmva7qVZ
更新遅いらw
335名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 03:19:14 ID:bYL4dQl3
そりゃあれだけの文章書くには長期の推敲が必要なんだろうな
336名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 11:12:31 ID:2CmnqQFa
今日も休みなんだからのんびり書いててもおかしくないし、
そもそも毎週続きをうpするなんてルールないし…
337名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 20:37:22 ID:yEOtcCGP
楽しみではあるけど、無理したせいで体壊したら意味ないしな。
338名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 21:46:07 ID:39MjVWM8
ルールはないが読む人からすれば少し遅いってのが現状。てか体壊したんなら真っ先に連絡するるべきだと思うぞ
339名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 21:55:24 ID:yt9IvI3a
全然遅くないと思うけどな。てか急かしたりしてどうにかなるもんじゃないと思うし本人のペースでいいんじゃないかな。

固いルールもないし、楽しみな気持ちはみんな一緒なわけだしね。
340名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 21:56:55 ID:zZOQ2yQ6
なんだその身勝手さwww
作者さんは仕事でやってるわけじゃないんだからさー
でもやっぱり続きは気になるのー。のー。
341名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 22:02:47 ID:zZOQ2yQ6
あ、340は、>>388 へのレスね。
342名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 22:06:05 ID:SgRFWNL6
遅いとか言う奴はまず自分が定期的に作品投下してみれば
343名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 22:19:19 ID:2v3G1gL+
>>338どんだけ自己厨 
空気嫁ちゅうか催促するのは上から目線も甚だしいんじゃね?
これだけのクオリティの作品を投稿してくれる人なんかそうそういないんだからさー、
大事にしたいとか思わねぇの???
344名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 23:00:18 ID:yt9IvI3a
まあまあ(´・ω・)つ旦~
みんな楽しみにしてるのは同じなんだからそうカリカリするのイクナイ。
気長に待って投下しやすい空気作ろうぜ。
345名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 23:39:46 ID:ILtqm4/p
そういうことやね。マターリしながらwktkしていよう。

ところで、シークとツインローバの描き方がイイ!!と思うのは俺だけかいな?
この二人については、みんなあまり触れないけれども。
346名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 15:52:55 ID:1rW2bLSc
>>345
同意
原作のイメージを壊さず上手く膨らませてあると思う
347名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 16:25:55 ID:bZLdF4Ia
>>343お前はどんだけこの作品気に入ってるんだwまあ俺もだがw信者にもほどがあるw何でここには変な奴しかいないんだ?返答の仕方もウザ過ぎるw
348名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 16:31:28 ID:eSPhtaNy
もうやめろよ。てか空気嫁。
349名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 18:14:10 ID:GdJyi5pS
スルーしとけ

>>345
ツインローバのポジションとか何か色々美味し過ぎる
350名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 22:41:55 ID:IM+HStZI
取りあえず>>388の身勝手な書き込みに期待。
351名無しさん@ピンキー:2007/10/10(水) 14:44:56 ID:aWsPj5Nt
華麗なロングパスだな。
352名無しさん@ピンキー:2007/10/10(水) 16:35:08 ID:kXjrrpIp
>>341
な ん と い う 無 茶 振 り w
353名無しさん@ピンキー:2007/10/10(水) 23:43:17 ID:5e8cH9fH
多分このスレは387止まり。
354名無しさん@ピンキー:2007/10/11(木) 14:23:54 ID:6ZW0X4Ek
予言者現わる
355名無しさん@ピンキー:2007/10/11(木) 21:28:00 ID:JS1PTfjW
GJ
356名無しさん@ピンキー:2007/10/13(土) 11:11:15 ID:6JqRZYPB
でっていう
357名無しさん@ピンキー:2007/10/13(土) 21:14:04 ID:jwBLY0Oe
でっていう自重www
358名無しさん@ピンキー:2007/10/14(日) 07:13:28 ID:sENcAERQ
オドルワの巨根
359名無しさん@ピンキー:2007/10/14(日) 08:59:11 ID:bICm5Mkn
>>358
朝早くからお前は何て書き込みを・・・
360名無しさん@ピンキー:2007/10/14(日) 15:51:55 ID:GVASV4eE
ゴートの獣姦
361sage:2007/10/14(日) 22:11:53 ID:/v3iZ7+R
グヨーグ+小魚の輪姦
362名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 00:21:11 ID:BDu+0KGZ
ウホッ いいウミヘビ・・・

363 ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:47:21 ID:EVjYTKmN
>>304
Saria I に「恥ずかしい」という単語がないのは、意図したものではなく偶然です。
言われるような効果に気づいていればよかったんですが・・・

私本・時のオカリナ/第四部/第二章/マロン編その5、投下します。
リンク×マロン@子供時代。
3644-2 Malon V (1/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:48:43 ID:EVjYTKmN
 この七年前の世界に戻って、最初にどの賢者のもとを訪れるか、と考えた時、ぼくは迷わず
サリアを選んだ。個人的な感情が影響していたのは事実だが、その選択をぼくは後悔しては
いないし、それでよかったのだといまでも確信している。
 ただ──と、リンクは足を進めながら思った。コキリの森を出て、ハイラル平原を北へと
向かい始めたところだった。
 城下町から遠く離れたコキリの森を最初に訪れたことで、日数を費やしてしまった。シークの
話では、ゼルダがハイラル城を脱出してから一週間後に、ゲルド族の反乱が勃発したという。
今日はぼくが城下町を発ってから──つまりゼルダの失踪から──六日目だ。明日には反乱が
始まってしまう。これからの行動が難しくなるだろう。反乱さえなければ、じっくりと各地を
まわることができるのだが……
「あッ!」
 思わず声が出る。足が止まる。
 ぼくは何て馬鹿なんだ! 反乱は防げたはずなのに!
 この世界に戻ってすぐ、誰かに──そう、時の神殿を見張っていた兵士にでも──ガノンドロフの
目論見を伝えて、奴の動きを抑えておけばよかったんだ。そうすればこれからの旅も楽になって──
いや、それどころか! ガノンドロフが世界を支配し、賢者全員を殺してしまう、という歴史
そのものが、大きく変わっていたに違いない! どうしてこんなことに気づかなかったんだろう!
 自分の迂闊さを呪ったが、いまさら悔やんでもしかたがない。
 無理やり頭を切り替えて、今後の方針を考える。
 反乱による危険は覚悟の上で、この世界にとどまり、賢者との出会いを図るか。それとも……
 過去で賢者を救う目途が立ったら、賢者全員に会わないうちであっても、いったん七年後の
世界に帰ってくるように──とシークには言われている。森の神殿に隠れてガノンドロフの襲撃を
避けろ、とサリアに伝えたが、それがうまくいくのかどうか、早く確かめたい。だが未来に帰る
ためには時の神殿へ行かなければならない。反乱の真っ只中にある城下町に入るのは至難の業だろう。
 考えた末、リンクは結論を出した。
 ともかく城下町の様子を探ってみよう。町に潜入できるようなら未来に帰る。無理であれば
ここにとどまる。
 では、どこで様子を探るか。できるだけ城下町に近い場所がいい。しかも反乱の影響を直接
受けないような場所。
 さらに思考をめぐらし、格好の地を思いつく。
 ロンロン牧場。
 封印前に牧場を訪ねた時、城下町までは馬車で半日くらい、とマロンは言っていた。町の様子は
早く伝わるだろう。また七年後の世界でマロンから聞いた限りでは、反乱時に牧場が大きな被害を
受けたわけでもなかったようだ。
 心を決め、ハイラル平原の中央部へと、リンクは足を急がせていった。
3654-2 Malon V (2/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:49:29 ID:EVjYTKmN
 疲れもあって、コキリの森へ向かった時ほどの速度はさすがに保てなかったが、それでも夜を
日に継いでの旅を続け、森を出てから五日後の昼前、リンクはロンロン牧場に到着した。そこは
ハイラル平原の最高地点で、上り下りの斜面が入れ替わる境目となっており、それまで目にする
ことができなかった、平原の北方を見渡せる。リンクは牧場の門の前で立ち止まり、城下町のある
北の方角を注視した。
 町を出てから十一日目。反乱は四日前に始まっている。何か状況がわかるか、と思って目を
凝らしてみるが、変わったところはない。穏やかな野の風景が広がっているばかりだ。
 ここからは城下町を直接見ることはできない。事情を知る人の話を聞いた方がいいだろう。
 門をくぐり、細い道を左に折れる。母屋と馬小屋の間に立つ。ともに人のいる様子はない。
さらに進んで牧場へ行ってみる。
 広々とした空間が現れる。雲ひとつない青空のもと、燦々と降る日の光と、澄みきった空気に
包まれ、緑あざやかな草の上で、佇み、歩む、馬たちの姿。のどかで平和な、そんな光景の
真ん中に、一人の少女が立っている。
『マロン!』
 呼びかけを胸にとどめ、ゆっくりと歩を進める。マロンはこっちに気づいていない。どこで
気づくだろうか。牧場を囲む柵に沿って歩いて、柵の切れ目に至って、切れ目から中に入って。
まだ気づかない。子馬の横に立って、その背を撫でている。
 ああ、エポナだ。あの子馬はエポナだ。前にここで仲良くなって、未来ではずっと一緒に旅をして。
 鼻歌が聞こえてくる。前にも口ずさんでいた『エポナの歌』。世話に没頭しているのか、
ふり返る気配もない。もう足音が聞こえるくらいの距離なのに。あ、こっちを向いた。マロンが
こっちを見た。その顔が、一瞬、驚きに満ち、みるみるうちにまぶしく輝き立つ。
「リンク!」
 叫びとともに駆け寄ってくるマロン。目の前でぴたりと動きが止まる。ぎゅっと手を握られる。
「来てくれたのね! 嬉しい!」
 あふれんばかりの喜びが、花のように咲きほこる笑顔が、まっすぐこちらに向けられる。
その率直な感情の発露に心は弾み、こちらも思い切りの笑みを返す。同時に胸が締めつけられる。
 この明るさいっぱいのマロンも、いずれ、つらく哀しい生活を強いられることになるのだ。
「よう、この間の坊主か」
 背後からの声に驚いてふり向くと、熊手をかついだインゴーが立っていた。言葉はぞんざいだが、
口元はわずかに緩んでいる。妙に優しげだ。けれども、この表情を額面どおりには受け取れない。
この先、マロンを苦しめる張本人がこいつなのだから。
 むらむらと怒りが湧いてくる。しかし、ここでインゴーと争っても意味はない。それよりも……
3664-2 Malon V (3/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:50:03 ID:EVjYTKmN
「城下町はどんな具合かな?」
 マロンとインゴーを等分に見て訊ねる。いぶかしげな二人の表情。
「反乱はどうなってる?」
 二人が顔を見合わせ、次いで、あきれたような視線を送ってくる。
「いったい何のこと?」
「なに言ってんだ、おめえ?」
 リンクはいらいらしてきた。
 こんな切迫した状況だというのに、二人とものんきすぎやしないか。
「ゲルド族の反乱のことだよ。四日前に城下町が攻撃されただろう」
「ははあ……」
 インゴーが、合点がいったとでも言いたげに、にやりと笑った。
「ゼルダ様が城から逃げ出した話を、どっかで聞きかじってきたんだな」
 ゼルダの話? 何を的はずれなことを──
「確かに城下町は、それで落ち着かねえ雰囲気になってるようだ。ゲルド族の仕業じゃねえかって
噂もあるらしい。けどな、おめえ、何か勘違いしてるようだが、反乱なんか起こっちゃいねえぞ」
「え──?」
 どういうことだろう。今日は反乱勃発から四日目のはず。計算は合っている。それとも、
ゼルダ失踪から反乱勃発まで一週間というシークの情報が間違っていたのか。あの緻密なシークが
そんな間違いをするとは思えないが……いや、シークも、それを自分で経験したわけではない。
あとから伝聞で得た情報だ。いつの間にか誤った日数が伝わっていたのかもしれない。
「町の様子が気になるんなら、父さんに訊いてみたらいいわ」
 マロンが熱心な調子で言った。
「今日は父さん、町へ牛乳の配達に行ってるの。夕方には帰ってくるから」
 牛乳配達に行くくらいなら、反乱が起こっていないというのはほんとうだろう。すぐに町へ
向かえば、安全に未来へ帰ることができる。そう、すぐにここを出発すれば……
 決心しかけた時、マロンの顔が目に入った。
 何かを期待するように、目がきらきらと光って。けれども、そこはかとなく不安げに、眉は
少しく落とされて。
 心が動く。
「じゃあ、夕方まで待たせてもらっていいかな?」
「いいよ! もちろん!」
 マロンの顔が、またもや、ぱっと花開く。それが快い一矢となって、リンクの胸を刺す。
 いますぐここを発ったとしても、城下町に着くのは夜になる。正門は閉じられてしまうから、
どうせ明朝まで町へは入れない。もっと遅くに出発したって同じことだ。それならタロンの帰りを
待って、町の情報を仕入れておいた方がいい。夕方まで身体を休めることもできるし、それに……
「お昼御飯の仕度をするわ。リンクも手伝って!」
 いきなり手を引っぱられ、よろけてしまう。マロンは気にもとめない様子で、どんどん母屋の
方へと突き進んでゆく。
 このマイペースな振る舞いも、いまはただ、懐かしく、微笑ましい。
 引きずられるようについて行きながら、リンクは自分の心がやんわりと和んでゆくのを感じていた。
3674-2 Malon V (4/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:50:45 ID:EVjYTKmN
 母親を早くに亡くして以来、ずっと家事を分担してきたのだろう、小さな子供だというのに、
マロンの炊事の手並みはかなりのものだった。卵と肉と野菜からなる食材が、簡潔ながらも食欲を
そそる料理へと、見る間に姿を変えていった。マロンはリンクにあれこれと指示を出したが、
台所に慣れないリンクは右往左往してしまい、かえってマロンの足を引っぱる結果となった。
が、マロンは意に介するふうもなく、嬉々として仕事をこなしていった。
 食卓の用意が調い、マロンは外で働いていたインゴーを母屋に呼び入れた。昼食が始まった。
マロンに旅の話をせがまれ、リンクは、以前ここを去ったあとに訪れた、ハイリア湖のことを
話題にした。マロンは興味津々といった態度で話を聞いてくれたが、美しい風景を語るうち、
その七年後の荒廃した状態が否応なく頭に浮かび、リンクの心は翳りを帯びた。連想が、同じく
七年後にマロンが陥る悲惨な境遇を思い起こさせ、ますます胸は痛んだ。
 インゴーは、ほとんどものを言わず、さりとて不機嫌というわけでもなく、淡々と料理を口に
運んでいた。一足先に食事を終え、仕事に戻ると言って、早々に席を立った。
 去りかけたところで、インゴーがマロンに話しかけた。
「もう少ししたら、馬小屋には近づかねえようにしてくだせえよ、お嬢さん」
「はーい」
 明るいマロンの返事に送られて、インゴーは外へと出て行った。その後ろ姿に目をやりながら、
リンクはひそかに考えた。
 あいつさえいなければ、マロンが不幸になることはないのに……
「どうぞ、リンク。ロンロン牛乳よ」
「ああ、ありがとう」
 マロンが差し出すコップを受け取り、中の飲み物を口にしながらも、味を堪能するだけの余裕を、
リンクはすでに持たなかった。頭の中では一つの企てが形をなし始めていた。
 賢者の未来を変えるために、ぼくは過去へとやって来た。同じようにマロンの未来も変えられ
ないだろうか。どうにかしてマロンをインゴーから引き離すことができれば……
3684-2 Malon V (5/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:52:17 ID:EVjYTKmN
 昼食のあと、リンクはマロンに手を引かれて再び牧場に出、改めてエポナに引き合わされた。
七年後の再会の時にもリンクを覚えていたエポナとあって、もちろんいまもリンクを忘れるはずは
なく、甘えるように身を寄せ、再度の対面を心から喜んでいる様子だった。そんなエポナを前にし、
しきりと話しかけてくるマロンにも応じつつ、しかしリンクの心は、ともすれば、マロンを救う
手だてを求めて、あらぬ方へと浮遊した。
「あたしといるの、楽しくない?」
 はしゃぐように活発だったマロンが、急に声の調子を落とした。はっとして見ると、マロンは
口を尖らせ、いかにも残念そうな目をこちらに向けていた。
「そんなことないよ、楽しいよ」
 あわてて否定したが、上の空であることを見抜かれてしまったからには、口だけで否定しても
説得力はない。リンクは正面からマロンと向かい合わざるを得なくなった。
「インゴーのことだけれど……」
 話題の主が近くにいないことを確かめてから、考え考え、リンクは口を切った。
「あいつには気をつけた方がいいよ」
「なんで?」
 きょとんとした顔のマロン。
「あいつは、きっと、君をひどい目に遭わせるから」
「ひどい目に──って、どんな?」
 顔が不審の色を帯びる。
「君を殴ったり蹴ったり、それどころか、もっとひどいことだって──」
「インゴーさんはそんなことしないわよ」
 表情が変わる。心外きわまりない、というふうに。
「暴力を振るうような人じゃないわ」
「いまはそうでも、そのうち本性を現すよ。あいつは悪い奴なんだ。君のお父さんを追い出して、
この牧場を自分のものにして、君をこき使うようになる。あんな奴は早くクビにして──」
「ちょっと、リンク」
 硬い声。
「インゴーさんがいなかったら、うちはやっていけないの。そりゃあ確かに無愛想で愚痴も多いけど、
仕事は真面目にやってくれるし、信用できるわ。だいたい、リンクはインゴーさんのこと、ろくに
知らないのに、どうしてそんなこと言うのよ」
 本気で腹を立てているようだった。これほど心配しているのがわからないのか、と、こちらも
むっとしてしまう。同時にやりきれなくなってくる。
 マロンはインゴーを信頼しきっている。いくら言っても聞き入れはすまい。逆に、言えば
言うほど臍を曲げてしまうだろう。ぼくは七年後の世界ですべてを見聞きしてきたのだ、と
叫びたくなるが、そんなことをしても、頭がどうかしたと思われるのが落ちだ。
「ごめんね、怒った?」
 マロンの小さな声がした。口論になりかかったのを後悔しているのか、悲しげな顔になっていた。
胸がきゅっと絞られるような感じがした。
「いや、怒ってないよ。こっちこそ、ごめんよ」
 できるだけ優しく答えてやる。
 マロンが謝るいわれはない。悪いのはぼくの方なのだ。いきなり身内を非難されれば、腹が
立つのは当たり前だ。
 とはいえ、諦めたくはない。インゴーを牧場から追放するのは無理のようだが、他に二人を
引き離す方法は……
「ねえ、マロン、君には、お父さん以外に頼れる人がいないかい? どこか別の所に。親戚とか」
 話題の変化に戸惑った様子を示しつつも、マロンは答を返してきた。
「いないわ。父さんとあたしと、ずっと二人きりだもの」
「そうか……」
 考えてみれば、頼るあてがあるのなら、七年後のマロンだって、とっくに牧場から逃げ出して
いたはずだ。それに、牧場の外が安全というわけでもない。じきにハイラルは、戦雲が渦巻き、
魔物が跳梁する世界となる。外へ出て行けば、命を落とす危険性は高いし、ゲルド族の奴隷と
なってしまうおそれもある。記憶をなくした、あのタロンのように。
 牧場にとどまる方が、まだましだということなのか。あの不幸な生活からマロンを救い出して
やることは、ぼくにはできないのか。
 どうしようもないという無力感が、リンクの心を浸していった。
3694-2 Malon V (6/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:53:02 ID:EVjYTKmN
 つい、むかっとしてしまったものの、怒りを長続きさせる気は、マロンにはなかった。働き者の
インゴーをあしざまに言う真意はつかめなかったが、リンクは自分を気にかけてくれている、と
察することはでき、それがマロンの心を温かくしていた。
 インゴーについては、リンクはきっと何か誤解をしているのだ。気にしないでおこう。
「いやなことは、もう忘れましょうよ。楽しく過ごしたいわ」
 沈んだ雰囲気のリンクに、努めて明るく声をかける。
「……そうだね」
 すっぱりと気分を変えて、といった感じではないにせよ、リンクの顔には微笑みが浮かんだ。
それがマロンを力づけた。
 そうよ、せっかく一緒にいられるんだから、もっと楽しまなくちゃ。
 もっと楽しむ──その言葉が、妖しい感覚を呼び起こす。
 前にリンクがここへ来た時は、意地悪く、覚えていないふりなんかしたけど、今日はそんなこと、
頭に浮かびもしなかった。だって、リンクに会えてほんとに嬉しかったから。二週間ちょっとの
短いうちにまた会えるなんて、思っていなかったから。
 あの時……夜空を埋めつくすような星の光を浴びながら、ここに──そう、牧場の真ん中の、
この場所に──あたしたち二人は並んですわって、そして、あたしが……
 初めてのキスをねだって。
 もう少しのところだったのに、邪魔が入った。急に現れたグエーを斬って捨てたリンクは、突然、
使命のことを言い出して、あっさり姿を消してしまった。
『今度リンクと会った時には……』
 ずっとそればかり考えてきたあたし。
 そのリンクは、いま、あたしのそばにいる。
 風変わりで、単純で、けれど、純粋で、かっこよくて、優しくて。
 そんなリンクが、そばにいる。
 果たせなかったことを、今度こそ……
 でも、どんなふうに事を進めたらいいだろう。いきなりキスのことを持ち出すのも気がひける。
 その時、遠くにインゴーの姿が見えた。馬小屋のそばだ。牧場に面する側の、幅の広い戸を
あけている。
『そうだわ!』
「ねえ」
 思わず声が出ていた。
「面白いもの見せてあげる」
「面白いもの?」
「来て」
 不思議そうな顔をするリンクの手を引き、インゴーに見つからないよう遠回りをして、母屋の
前まで行く。母屋の向かいにある馬小屋の、小さい方の戸を、そっと細く開く。
「馬小屋には近づくなって言われたんじゃ──」
「いいのよ。でも、静かにしてなきゃだめよ」
 怪しむリンクを制しておいて、中の様子をうかがう。インゴーはいない。馬を連れてくるために、
牧場の方へ行ったのだろう。
「いまのうちよ」
 素早く戸をあけ、馬小屋に入る。馬はみな牧場に出ていて、中はがらんとしている。ぼんやり
立っているリンクを引っぱって、積まれた木箱の後ろに隠れてすわる。そこは牧場の側の戸に近く、
これから起こることを見るのは容易だ。下には藁が敷き詰められていて、じっと動かずにひそんで
いても、身体に負担はかからない。
 これをやる時はいつも、馬小屋に来るなと言われる。教育上よろしくない、ということなのだろう。
だけどあたしは、もう何度もこれを見た。最初は偶然。次からは、自分から求めて、いまみたいに
こっそりと。
「何を見せてくれるっていうんだい?」
 不審げに、それでも興味ありげに、状況を察してか、声を小さくして、リンクが訊いてくる。
その目を覗きこむように顔を近づけ、ささやき声で答える。
「馬の種付けよ」
 ぽかんとしているリンク。意味がわからないんだわ。言い換えてあげてもいいけど、それだって
リンクにわかるかどうか。キスという言葉さえ知らなかったんだもの。
 思いながらも、マロンはその言葉を、ゆっくりと口にのぼらせた。
「 馬 の セ ッ ク ス 」
3704-2 Malon V (7/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:53:54 ID:EVjYTKmN
 リンクは驚いた。
 言葉の内容自体にも驚いたが、もっと驚きだったのは、セックスという露骨な単語を、マロンが
ためらいもなく口にしたことだった。
 返事もできないでいると、牧場の方から足音が聞こえてきた。マロンが木箱の陰で身を小さく
するのに合わせ、リンクも全身を硬くした。見つかってはいけないということは理解できていた。
音がしないよう、背負った剣と楯を下ろして脇に置いた。
 インゴーが一頭の馬を連れて馬小屋に入ってきた。その馬を戸のそばに留め置き、もう一度、
外へ出て行く。
「あれは牝馬よ。発情期に入ったの。次は種馬が来るわ」
 マロンが小声で説明する。知らない言葉が混じっていて、よく理解できない。
「セックスって、意味、わかる?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべるマロン。幼い女の子が、かわいい顔で「セックス」と言う、その
不釣り合いさに、再び胸がどきりとする。一方で、上に立って教えてやろう、とでも言いたげな
マロンの態度に、反発心が呼び覚まされる。
 確かに、ハツジョウキとかタネウマとかは、意味がよくわからない。けれど──
「セックスくらい、わかるさ」
 当然、といったふうに答えてやる。
「なーんだ、知ってたの」
 意外そうなマロンの声。相当、無知だと思われているらしい。しかたがないか。前はキスという
言葉も知らず、マロンに笑われたものだ。だけどいまのぼくは違う。セックスなんて、言葉を
知っているどころか──
「ひょっとして……したこと、ある?」
「ああ」
 考えもなしに返答してしまった。
「ほんと!?」
 大声を出したマロンが、ぱっと自分の口を押さえ、牧場の方を見た。リンクもあわてて同じ
方向に目をやった。インゴーの姿は見えない。
 胸をなで下ろしたところへ、懲りもせず、マロンが性急に質問を投げかけてくる。
「いつ? 誰と? 何回? どんな感じだった?」
 たじたじとなる。城下町でキスの話をした時もこうだった。何という開けっぴろげな積極性!
「初めての時はどうだったの? 誰としたの?」
「それは──」
 思わず言いかけ、絶句する。
 それは、君なんだ。ぼくの初めての女性は、他ならない、君なんだ。
 脳に満ちあふれる甘酸っぱい記憶。無我夢中で過ごした激情的な一夜。
 あのマロンが……ぼくに最初のセックスを教えてくれた、あの大人のマロンが……いまは小さい
子供の姿で、ぼくの前にいて……
『あれ?』
 自分の記憶の流れの中では、ぼくの初めての女性がマロンであることは、動かせない事実だ。
でも現時点では、それは、まだ起こっていない未来のできごとであって、いま子供であるぼくは、
初めての体験を、すでにサリアと果たしている。
 ぼくの初体験の相手は、どっちなんだ? マロンなのか? サリアなのか?
3714-2 Malon V (8/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:54:30 ID:EVjYTKmN
 時を越える旅によってもたらされる、奇妙な矛盾についての考察は、再び聞こえた足音によって
中断された。
 リンクは身を竦ませ、木箱の陰から戸の方向をうかがった。マロンも、もう口をきこうとはせず、
そちらに注目している。
 インゴーが現れた。新たに一頭の馬を牽いている。
 あれがマロンの言う種馬なのか。
 その種馬が、先に連れてこられていた牝馬の後ろに寄り、尻の部分に鼻を近づけた。匂いを
嗅いでいる。妙に息が荒く、落ち着かない様子だ。牝馬の方はおとなしくしているが、尻を
わずかに揺らし、何となくそわそわしたような感じでもある。
 インゴーが二頭の馬を小屋の隅に移動させた。外から直接見えない位置に持っていったのだろう。
それでも、近くにある、広くあけられた戸を介し、新鮮な光と空気に満ちた戸外とつながって
いるので、開放的な雰囲気が、小屋の隅まで届いている。
 それなのに、ぼくは感じている。身を圧迫するような緊張感。これから目の前で行われること。
馬のセックス。いったいどんなものなのか。
 インゴーが牝馬の前に寄り、頭を押さえた。直後、一声大きく嘶いた種馬が前脚を上げ、
後方から牝馬にどっかりとのしかかった。ぼくも同じような格好でしたことがある──と思った
瞬間、種馬の股間にある、どす黒い物が目に入った。
 驚愕した。
 自分の腕ほどもありそうな、太く、長い、巨大な肉の棒。
 あれが馬のペニス!
 種馬は歯を剥き出し、ぶるぶると荒く鼻を鳴らしながら、やみくもに腰を動かしている。
膨れあがった先端が、牝馬の尻のあたりを突きまくっているが、なかなか安定した所へはいかない。
 インゴーが牝馬の頭から手を離した。その顔に目をやったまま、尻の方向へ、そろそろと足を
ずらしてゆく。暴れないかと気遣っているようだ。大丈夫と見たのか、インゴーは素早く牝馬の
尻の横に移動した。尻尾をずらし、うろつく種馬の一物をつかんで一点に据える。刹那、それは
一気に牝馬の体内へと没していった。
 交合が開始された。種馬の長大な剛直が、牝馬の局部を刺し貫き、大きく前後に往復する。
動きはさほど激しくはなく、ゆったりとしたものだった。が、二頭の図体の大きさもあり、
それは雄壮ともいえる、実に大規模な運動だった。
3724-2 Malon V (9/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:55:14 ID:EVjYTKmN
 眼前で展開されるその運動に圧倒されっぱなしのリンクだったが、ふと、かすかな音が
するのに注意を惹かれた。音の正体はすぐわかった。隣にいるマロンが、はあはあと息を荒げて
いるのだ。
 横を見る。マロンは瞬きもせず、二頭が交わる部分を凝視している。もともと大きめの目が、
いまはさらに見開かれ、潤みさえ湛えている。
 興奮しているんだ。
 またも示された、幼い少女らしからぬ様相に、リンクの胸は波立った。その波立ちは、同時に
なされていたマロンの行為によって、さらに大きな波濤となった。
 マロンの右手が、服の裾から奥にもぐりこみ、細かく動いている。
 直感できた。
 オナニー!
 無意識の行動なのか。それともぼくがそばにいるのを承知の上でのことなのか。そもそも自分の
していることの意味がわかっているのか。
 いや、わかっているはずだ。セックスとは何かを知っているマロンだ。目的を持ってやって
いるのは明らかだ。
 性的快感を得るために!
 こんな小さな女の子が!
 いつも動物の交合を見ながら、こうやって自慰にふけっているのか。今日もその機会を逃さずに……
『待てよ』
 どうしてマロンはぼくに種付けを見せようとしたんだろう。自分だけの楽しみなら、ぼくは
邪魔になるはずだ。ということは……マロンは自分を煽るだけでなく、ぼくをも煽ろうとして……
つまりマロンは……ぼくと……
 高ぶった種馬の嘶きが聞こえ、リンクは、はっとしてそちらに視線を戻した。ちょうど最後の
瞬間が訪れたところで、牝馬に突き立てられたペニスがどくどくと脈打っていた。白い液体が
結合部から漏れ出し、牝馬の後脚を伝って流れ落ちた。
 ずいぶん長い時間に思えたが、実際には、挿入から射精まで一分も経っていないだろう。
それほど強烈な印象を与える二頭の行為であり、マロンの行為だったのだ。
 やがて落ち着きを取り戻した種馬を、インゴーは牧場へと牽いていった。戻ってから、あたりを
ざっと掃除し、今度は牝馬を馬小屋から連れ出して、戸を閉めた。
 リンクとマロンだけが、そこに残された。
3734-2 Malon V (10/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:55:55 ID:EVjYTKmN
「どう?」
 声を抑えて、訊く。リンクは黙っている。
「すごかったでしょ?」
 かぶせるように言葉を続ける。
「うん……」
 やっと短く答えるリンク。うつむいて、こちらを見ようともしない。
 どぎつすぎたかしら。でもリンクは経験あるんだから、平気よね。
「どんな感じ?」
 返事がない。
 どうしたのよ。これじゃあ話が進まない。
「変な気分にならない?」
 思い切って、言う。右手をリンクの左手に重ねる。その手がぴくりと動く。けれど口は開かない。
 あたしのして欲しいことが、わからないのかしら。鈍感ね。あ、それとも……
「インゴーさんなら、当分、ここへは来ないわよ」
 種付けのあとは、牝馬の様子を見ていなければならない。来るとすれば、夕方、牧場の馬を
小屋に戻す時だ。邪魔が入る心配はない。
 それでもリンクは反応しない。いや、目が反応している。あたしの右手を見ている。
『あ』
 そうだ。あたしの指は濡れたまま。オナニーの時のまま。種付けが終わってから手を引っこめた
けど、拭くのを忘れていた。リンクは気がついたんだ。
「あたしがしてたこと……わかっちゃった?」
 セックスを知ってるなら、オナニーだって知ってるはず。
 馬のあれを見ていて、いつものようにしたくなって、でもリンクが横にいるからだめだって──
「わかっちゃったら……恥ずかしいなって……思ったんだけど……」
 とても気持ちがいいことだから、あそこがぴりぴりしてしょうがなかったから、どうしても
したくなっちゃって、どうしても我慢できなくて、それで──
「リンクになら……わかっちゃっても……いいかな──って……」
 いったんそう思ったらどうにもならなくなって、とうとう、あたしは、しちゃったの。
 あたしって、はしたない? でも、それがあたしの正直な気持ちなの。あたしはこんな女の子なの。
わかって。わかって。あたしが何を求めているのか、リンクに何を求めているのか、どうか、
どうか、わかってちょうだい!
3744-2 Malon V (11/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:56:33 ID:EVjYTKmN
 いきなりマロンが抱きついてくる。ぼくはあわてて受け止める。小さなマロンの身体が、ぼくの
腕にすっぽりと包まれる。服を通して感じられる、その体温、その鼓動。幼い肉体いっぱいに
満ちた、激しいまでの、その衝動。
 マロンが何を求めているのか、ぼくに何を求めているのか、ぼくにはわかる。痛いほどわかる。
けれど、いまのマロンはあまりにも……
 マロンが身を引く。顔が正面に据えられる。大きな青い瞳から、決然とした視線が発せられる。
「キスして」
 ささやくように、しかし断固とした声で、マロンが言い放つ。
 ああ、またせがまれた。キスをせがまれた。かつての君とは未遂に終わった。未来の君とは
すでに交わした。では、いまの君とは? どうする? ぼくはどうする?
 動けないままのぼくに、ぐいと詰め寄ってくるマロンの顔。焦点が合わないほどに近づけられた
その顔の、鼻と口から吐かれる息が、ぼくの口元をくすぐって、そして──
 唇と唇が触れ合って。
 温かく、柔らかく、しなやかな弾力を秘める、マロンの唇。じっと動かず、ただぴったりと、
それはぼくの唇に押しつけられて。そのひたむきさに、ぼくの想いはかき立てられて。
 背にまわされたマロンの両腕に力がこもる。ぼくもマロンの肩に置いた手を、背までまわして
力をこめる。背に流れる長い髪の毛と一緒に、ぼくはマロンを抱きしめる。
 無心の触れ合いがひとしきり続いたのち、マロンの腕の力が緩む。合わせてぼくも力を解く。
顔を離したマロンが、くすりと笑って、ひとこと。
「やっと、教えてもらえたわ」
 君の方から迫ったくせに──と、思わずこちらも苦笑いしてしまう。そう、何もできずにいた
ぼくに覆いかぶさり唇を寄せてきた、未来の君と同じように。
 ぼくの笑いに力を得たのか、続けてマロンが言うのには──
「じゃあ……もっといいこと……教えてくれる?」
 きた。もっといいこと。わかっていた。マロンがそれを望んでいることは。それを欲している
ことは。
「……セックス……して……」
3754-2 Malon V (12/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:57:19 ID:EVjYTKmN
 セックス。またも聞かされた、幼い少女には不似合いな言葉。それがぼくをぞくりとさせる。
言葉だけじゃない。マロンの目が、マロンの全身が、欲望を一心に燃え上がらせて、ぼくを
煽り立てている。
 でも……でも、マロン、君は……
「君は……まだ、子供じゃないか。早すぎるよ」
「何よ」
 一転して憤慨の気に満ちるマロン。
「リンクだって子供じゃないの。リンクがセックスしてるんなら、あたしがしたっていいじゃない」
 そんなにセックスセックスと言わないでくれ。君がそう言うたびに、さっきからずっと
立ちっぱなしのぼくの部分が、ずきずきしてしまうじゃないか。
 そう、確かにぼくは子供だが、子供だけれど子供じゃない。君のような、ほんとうの子供とは
違うんだ。
 サリアも子供だった。でもぼくよりは年上で、大人の入口に立っていた。マロンはぼくよりも、
もっと年下で、正真正銘の子供であって……
 ああ、しかし!
 マロン。明るいマロン。かわいいマロン。一途にぼくを求めているマロン。
 そのマロンは、この先、どうなるか。
 七年後の世界で、ぼくがロンロン牧場に着いたばかりの時、場所も同じこの馬小屋で、マロンと
インゴーが何をしていたか。まだ女性を知る前だったぼくにはわからなかった。けれども、いまの
ぼくは知っている。マロンが暴力でセックスを強要され、しかも、その苦しみを、それこそ子供の
頃から、何年にもわたって甘受しなければならなかったことを。
 そんなマロンの未来を、ぼくは変えてやることができない。堕ちてゆくマロンを救ってやる
ことができない。
 ならば、せめて……せめて……いま、この場面では……マロンの望みをかなえてやるべきでは
ないだろうか。初めての体験の相手がぼくであることで、これからのマロンが、わずかなりとも
救いを得るのであれば……
「わかった」
 マロンを抱きかかえ、
「セックス、するよ」
 そっと藁の上に横たえる。
「君と」
3764-2 Malon V (13/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:58:06 ID:EVjYTKmN
 仰向けのマロンの横に身体を置き、上半身をかぶせる。顔に顔を寄せる。マロンは身じろぎもせず、
両腕を横に投げ出し、言葉もなく、ぼくを見上げている。
 さらに顔を近づける。マロンが目を閉じる。合図なのか、それともぼくの視線に耐えられないのか。
どちらでも同じ、と、今度はこちらから、唇を重ねる。
 きゅっ──と固まるマロンの身体。両手で頬をはさみ、じっと唇をとどめる。手のひらと唇から
伝わってくるマロンの温かみが、徐々に増してくる。
 舌で唇に触れてやる。動かない唇。続けて舐める。やっと唇が開く。機を逸さず舌を進ませる。
歯に触れる。歯をこじ開ける。口いっぱいに舌を踊らせる。
 ひとしきり一方的に戯れたのち、唇と舌を移してゆく。上気した頬に、なめらかな額に、震える
目蓋に、栗色の長い髪に、汗ばんだ首筋に、そして、肩にかけられた茶色のスカーフを下に寄せ、
鎖骨に沿って、喉の下の窪みへと。
 のけぞるマロン。わずかに開いた口が、浅い呼吸を速めてゆく。何も言わない。目を閉じたまま、
腕を投げ出したまま、なすすべもないように、ぼくの行為を、じっと、ただただ、受け入れて。
 どうしたんだ? あれほど積極的だったマロンが、なぜこんなにおとなしく……

 あたしは動けない。全然、動けない。だって、どうしたらいいのかわからないんだもの。
 キスは唇にするものだと思っていた。なのに、リンクは、舌を口に入れてきたり、首にまで
這わせてきたり、あたしの知らないことを、どんどん進めて。
 セックスなんて、男のあれを女のあそこに挿れる、くらいにしか考えていなかった。でも、
それだけじゃなかったんだ。
 これからリンクが何をするのか、予想もできない。ちょっぴり、こわい。
 だけど、やっぱり、したい。
 だからリンクを信じて、リンクにすべてを任せて……

 肌を味わうぼくに、甘い匂いが届いてくる。七年後の未来で嗅いだのと同じ、マロンの匂い。
 その匂いは同じでも、そうだ、いまのマロンは七年後とは違う。マロンは初めてなんだ。
未来ではマロンがぼくに教えてくれたけれど、いまはぼくがマロンに教えなくちゃならないんだ。
 ぼくを信じて、ぼくにすべてを任せてくれているマロンに。
 だから、優しく、落ち着いて……
 喉元に口をつけ、手をマロンの肩へと、短い袖口からのぞく細い二の腕へと伸ばす。すべすべと
した皮膚の、ある部分は熱を持ち、ある部分は冷やっこく、その複雑な触感が快い。
 次いで胴の前面を服越しに撫でまわす。胸には、まだ成長の兆しもなく──
『え?』
 何の気なしにすべらせた手が、かすかな段差を感じ取る。手を止める。探る。
 これは……

 リンクが気づいた。あたしの胸に気づいた。
 少し前から、先っぽが、ちょっぴり盛り上がってきた。触ると、何となく、くすぐったいような、
痛いような、変な感じがして、それよりも小さい頃から慣れてきたあそこの方が気持ちよくて、
胸にはそれほどこだわらなかったけど、いまリンクに触られていると、そんな変な感じだけじゃ
なくて……何か、こう……ああ、服の上からだと、よくわからない。もどかしい。
 リンクの手が下へと動く。
 もう終わり? もう触ってくれないの?
 手が腿のところで止まる。どうするのか、と思う間もなく、手が裾から──
『あ!』
 服の下に入って、今度はぐいっと上に伸びて、おなかにじかに触れて、そこでも止まらないで、
まっすぐ、あたしの、小さな、胸に──
3774-2 Malon V (14/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:58:49 ID:EVjYTKmN
 やっぱりそうだ。
 ふくらみ始めた蕾のような、マロンの胸。乳房としての形は全くないのに、その先端で、乳首と、
そのまわりの小さな丸い部分だけが、低い円錐をなして、かすかに隆起している。
 サリアほどではないけれど、ほんのわずかなものだけれど、これは、明らかな、女のしるし。
 急に胸の鼓動が速まる。
 ぼくより年下なのに、ほんの子供だと思っていたのに、マロンは、もう……
 そっと指で押す。隆起がへこむ。指を上げる。隆起が戻る。
 圧迫を反復させ、合間に、隆起の裾野をゆっくりと指でえどる。繰り返すうち、乳首が硬く
持ち上がってくる。
 左右の蕾を交互に刺激する。左右の乳首を勃起させる。七年後とは比べものにならない、小さな、
小さな、固まり。けれどもそれは──
「あ……ぁ……」
 マロンに声を漏らさせるほど、すでに女としての部分であって……
 目が下に移る。胸に伸ばした腕によって、上下ひと続きの服の裾が、肌着と一緒にまくり上げられ、
マロンの下半身は露出してしまっている。
 腹と、二本の脚の中間の、白い下着に包まれた部分。そっちの方は、いったい、どうなって……

 リンクが触れる二つの場所に、不思議な感覚が生まれる。ちりちりと、きりきりと、細かい波の
ように、それは湧き出して、広がって、身体いっぱいに伝わっていって。
 全身の力が抜けてしまうような、いいえ、そうじゃない、全身に力が溜めこまれていくような……
ああ、どっちなんだろう、どっちとも言えない、どっちも当たっているのかも……
 この感覚をどう言い表したらいいのか。あそこに触れた時の感覚とは違う。違うけど、これを……
ひとことで言うのなら……
『気持ちいい!』
 そう、気持ちいい! 気持ちいい! 気持ちいい!
 胸に触れられるのがこんなに気持ちいいなんて! 自分で触れるのではわからなかった!
リンクに触れられて初めてわかった!
 硬くなってる。あたしの二つの胸の先が、リンクの指の下で、硬く、硬く、しこりを増していく。
あそこのしこりと同じように。あたしの両脚の間にある、あの秘密のしこりと同じように。
 いつまでも、こうやって、触っていて欲しい──と思うのに、リンクの手は、そこから離れる。
「あ……もっと……」
 あたしったら、何を言ってるの、恥ずかしげもなく。
 でも終わりじゃなかった。リンクの手が下りていく。おなかの上をすべって、近づいていく。
あの部分に。あたしのもう一つのしこりがある、あの場所に。
 手が下着の上端に届く。
「ああ、リンク……」
 下着の中に入りこむ。
「そうよ、そうして……」
 奥に伸びてくる。
「触って……そこも触って!」
 止められない。恥ずかしい言葉を、もうあたしは止められない!
3784-2 Malon V (15/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 01:59:56 ID:EVjYTKmN
 下腹部のなだらかな隆起。皮膚の感触だけを、ぼくは得る。さすがに発毛はしていない。けれど──
「来て……もっと、下に……」
 口だけは七年後のマロンと同じように、次々と欲情の断片をばらまいている。いや、同じなのは
口だけじゃない。その欲情の中心点である、この場所は……
 さらに下ろした手が感知する。一筋の谷間から異常な量の粘液があふれ、一帯をべっとりと
濡らしている。
 こんなに!
 オナニーの時から濡らしっぱなしなのだろう。すっかり下着にも染みこんでしまって。
「マロン、君は……何て……」
 淫らなんだ!──との言葉は、やっとのことで胸に納め、しかし思ってしまった言葉は否応なしに
脈拍を加速させ、指の動きを扇動し、氾濫のただなかに指はどっぷりと浸かり、そのまま上に
曲げられ固まった一点を押して、
「あッ!」
 つついて、
「んぁッ!」
 こすって、
「んぁんッ!」
 くぐもった叫びを立て続けにあげさせて──

 リンクが触ってる。あたしのあそこに触ってる。遠慮もなく、容赦もなく、あたしのしこりを
攻め立ててくる!
 刺激が加わるたびに、そこは小さな爆発を繰り返し、まわりに、そして身体の上へ下へと、
快感の波を放っていく。
 オナニーとは全然違う!
 自分で触れる時は、どこをどうすればどんな感じがするのか予測できた。予測して身体が
待ちかまえていた。だけど、いまはそうじゃない。リンクの指の動きは、あたしのとは違ってる。
どういうふうに動くのか予測できない。予測できないから準備できない。準備できないから、
自分がどんな反応をするのか、自分でもさっぱりわからない!
「いいわッ!……リンク!……すごくいいッ!」
 あたしが何か言ってる。何て言ってるの? 聞き取れない。でもかまわない。何を言おうと
変わりはないから。気持ちのよさに変わりはないから。リンクにされたいっていう気持ちに
変わりはないから!
「はぁッ!……いいのッ!……リンク!……もっと!」
 もっと、もっと、気持ちよくして! いま触ってるそこだけじゃなくて、あたしが感じられる
もう一つの場所に、あたしがいつもしているように、どうか、どうか──
「お願いッ! そこにッ! 指をッ! 指を挿れてぇッ!」

 奔放さの極まったマロンの叫びが、ぐわりと脳を揺さぶる。いいのか、と一瞬ためらうものの、
もはやおのれの欲情も止められないところへ来てしまっている。
 人差し指の先を、膣口に当てる。そっと、進ませる。
「あ……んッ……」
 顔をしかめてマロンが呻く。けれども苦痛は訴えない。圧迫はきついが、さほどの抵抗もなく、
少しずつ、少しずつ、指はマロンの膣内へと吸いこまれてゆく。
「くぅッ……ぅぅッ……ぅぅぅぅぅッ……!」
 マロンが唸る。身を固くして、身を震わせて、マロンがぼくの指を締めつける。
 入ってしまった。こんなにスムーズに入るなんて。いつもオナニーで自分の指を挿れているのか。
それにしても驚きだ。マロンのそこは、どんな具合に……
 上体を起こす。その部分を見る。白い無毛の裂隙が、かすかに震えながら、時々大きく波打ち
ながら、指を深々と受け入れている。何という貪欲さ。何という淫蕩さ。これがぼくよりも年下の
女の子だなんて、とても信じられない。
 だからもっとはっきり確かめてやる!
3794-2 Malon V (16/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 02:01:07 ID:EVjYTKmN
 やっと満たされた悦びに浸る間もなく、指が引き抜かれる。
「あッ! 待って──」
 引き止める言葉が終わらないうち、そこには別のものが押しつけられる。
「ひゃぁッ!!」
 何なの? 何なの? 指とは違う柔らかいものが、そこら中を這いまわって、これは、これは、
舐めている、吸っている、あたしのあそこを、リンクの舌が、リンクの唇が!
 ずっと閉じていた目を開く。股間に埋められたリンクの頭。間違いない。こんなことするなんて。
リンクがこんなことするなんて。あの種馬みたいにあたしのあそこに顔をくっつけて!
 投げ出していた手をリンクの頭にかける。ぐっと押さえこむ。リンクの口の圧力を感じて快感を
噴き上げるあたしの中心!
「うぁッ! あッ! ひぃッ!」
 舌があそこに入ってくる。上下左右にぶれながら、奥へ奥へと突っこんでくる。
「あぁッ! リンク! いいッ! んぁぁッ!」
 舌が引っこむ。また突っこまれる。繰り返し、繰り返し、あたしは舌で攻められる!
「してッ! してぇッ! もっとッ! もっとぉッ!」
 舌が来る。かわって指が来る。また舌が来る。指が来る。舌が、指が、交互にあたしを
攻めまくって!
「うぁぁッ! はぁぁッ! いいのぉッ! やってぇッ!」
 さんざんなぶられて、どんどん舞い上がって、何が何だかわからなくなって、でも気持ちいいと
だけはしっかりわかっていて、指もいい、舌もいい、だけどそれは本物じゃない、あたしが
欲しいのは、リンク、あたしが欲しいのは──!
「ちょうだいッ! あたしにッ! ほんとのッ! ほんとのリンクをちょうだああぁぁぁいッッ!!」

 ほんとのぼく!
 いいとも! マロン! ほんとうのぼくを!
 下半身の下着を脱ぐ。服をすべて脱ぎ捨てたくなるが、マロンの服をも引き剥いで裸の接触を
堪能したくなるが、それはどうか、ここではまずいかも、インゴーは来ないとマロンは言った
けれど実際どうかはわからない、ああ、もう余裕がない、だからこれでいい、爆発しそうな
ほんとうのぼく、マロンが欲しがっているほんとうのぼく、ぼくもマロンが欲しくて、少しでも
早くマロンが欲しくて、欲しくて、欲しくて欲しくて欲しくて!
 マロンの両脚の間に位置を占める。上にかぶさる。股間を触れさせる。
「リンク! 早くッ! 早くぅッ!」
 ぼくの顔の下で、欲情にぎらつく二つの目が、まっすぐこちらを見上げている。負けじとぼくも
欲情の丈を目にこめて、欲情が充満した器官の先を目的の場所にあてがって、さあ行けと叫ぶ心に
従おうとしてその寸前でとどまって、優しく、そうだ、優しくしないと、指と舌を苦もなく
受け入れながらも見た限りマロンのそこはやっぱり狭い、子供であっても指よりは太いぼくの物、
マロンに耐えられるだろうか、耐えられるように気をつけて、気をつけて──
「来てッ! リンク! 来てぇッ!」
 気遣いなど要らないとばかりに欲望をぶちまけるマロンの口、しかしそうはいかない、君は
子供なんだ、君は小さいんだ、だからゆっくり、ゆっくりしてあげる、もう先は入っている、
ぬめぬめのどろどろの君の中へ、少しずつ、少しずつ、進んで、進んで──
「あぁッ! もうッ! 行くわッ!」
 達したのかと思うより早くマロンの腰がぐいと持ち上がり、ぼくは一瞬のうちに根元まで
マロンの中に呑みこまれてしまった!
3804-2 Malon V (17/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 02:02:03 ID:EVjYTKmN
 やったわ! やったわ! やったわ!
 とうとうあたしはセックスしてる! あたしはリンクとセックスしてる! 待って、待って、
待ち望んだこの瞬間!
 いままでになく広がってしまったあたしのあそこ。ちょっぴり痛い。でもこれくらい平気。
だって中にいるのはリンクなんだもの!
 その背に腕をまわす。抱きしめる。
 気持ちいい。セックスって、気持ちいい。オナニーなんかより、ずっと、ずっと、気持ちいい。
あそこだけの触れ合いじゃないから。こうやって身体中でリンクと触れ合えるから。
 けれど、ああ、オナニーだって指を動かしたらあれだけ気持ちいいんだ、リンクが動いて
くれたらもっと気持ちよくなるのに。だからリンク、動いて、動いて、動いて、あたしを突いて、
突き刺して!
 どうしたの? 動かないの? それならあたしが──

 きつい! 熱い! そのうえ敏感になってしまっているぼく自身!
 動けない。とても動けない。動いた瞬間にどうにかなってしまいそうだ。なのにマロンは、
マロンは両脚をがっちりとぼくの腰に巻きつけてきて、両腕と両脚でぼくにしがみついてきて、
それどころか、腰を、腰を、腰を小刻みに動かして、動かして、動かし続けて、マロンの膣が
ぼくをこすって、ぼくをしごいて、ぼくを絞りたてて!
 何という女の子! 何という淫らさ!
 もういきそうだ、でもこのままじゃ終われない、ぼくだって、ぼくだってやることはやってやる、
マロン、君を、君を──!

「んぁんッ!」
 リンクが動いた、リンクが動き始めた、あたしに合わせてリンクが動く、動く、動く!
「あぅぅッ! リンクッ! いいわぁッ! リンクぅッ!」
 あたしが引けばリンクも引いて、あたしが突き出せばリンクも突き出して──
「いいのぉッ! もっとぉッ! 強くぅッ! 早くぅッ!」
 二人の動きが同期して、どんどん強く、どんどん早く──
「うぁぁッ! そうよッ! んぁぁッ! そうなのぉッ!」
 身体が限界まで激しくぶつかり合って、ああ、あたしは──
「もうッ! 来るぅッ! あれがぁッ! 来てるうぅぅぅッッ!!」
 あたしは、あたしは、あたしは──!!!

「マロン!!」
「リンク!!」
 二人の叫びが衝突する。二人の唇が衝突する。同時に、結び合う二人の部分が炸裂し、
この上もなく深く、密に溶け合わさって──
 ──二人は、ともに、法悦の果てを得た。
3814-2 Malon V (18/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 02:02:37 ID:EVjYTKmN
 どっちが初めてなのかわからない、そんな交わりだった──と、マロンの上に身を横たえたまま、
リンクは思った。
 初めこそ、こちらがリードしていたものの、途中から立場が逆転し、最後は完全に主導権を
奪われていた。
 けれど……
 リンクは身体を起こし、結合を解いた。サリアとの時ほどではないが、マロンのその部分には
かすかに血が滲んでおり、この交わりがマロンにとって確かに初めてのものであったことを示していた。
 指を挿入した経験があるからこそ、あれほど激しく動いても、大して苦痛はなかったのだろうし、
出血もこの程度ですんだのだろう。だが、それにしても……
 マロンの隣に身を移し、寝転がる。マロンがこちらを向き、にっこりと笑って、胸に顔を埋めてくる。
 このあどけない女の子が、あんなに大胆に、奔放に、淫らに振る舞うなんて……
「嬉しい」
 マロンが呟いた。
 短い言葉だったが、単なる快楽にとどまらないマロンの真情がそこにはうかがわれ、リンクの
心は切ない感動に満ちた。マロンを軽く抱いてやり、リンクは胸の中で独り言ちた。
 どっちの立場がどうであっても、かまわないじゃないか。それでマロンが幸せだと思うのなら。
 穏やかな時の流れに浸りながら、二人は静かに身を寄せ合っていた。
 うとうとしかけた時、マロンが手を動かし、股間を探ってきた。陰茎を握られた。萎えていた
それは、マロンの手の中で、徐々に硬度を取り戻していった。
 マロンがくすっと笑い、上目遣いでリンクの顔を見た。笑みを返してやると、マロンは、
あの悪戯っぽい表情になり、小さな声で言った。
「また、する?」
 答のかわりに、マロンの服をまくり上げ、わずかに盛り上がった乳首に口づけする。
「あん……」
 喘ぎながら、マロンは自らの手で、裾を首まで持ち上げた。首から下がすべて裸となって、
リンクの目にさらされた。
「脱いじゃおうか」
 マロンのささやきに、どうしようかと状況を勘案し始めた時。
 遠くから物音が聞こえてきた。少しずつ大きくなる。がらがらと車輪が回転する音。
「大変!」
 マロンが弾かれたように飛び起きた。
「父さんよ! 帰ってきたんだわ!」
 そうか、あれは馬車の音、もうそんな時間だったのか!
 二人は下着を探し求め、あわただしく身に着けた。服についた藁屑をはたき落としながら、
マロンがぶつくさ言う。
「いつもはもっと遅いのに、どうして今日に限ってこんなに早く帰ってくるのよ」
 逢瀬の中断が残念なのはリンクも同じだったが、マロンの素直な感情の吐露が微笑ましくもあった。
3824-2 Malon V (19/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 02:04:00 ID:EVjYTKmN
 馬車が母屋の前を通過し、牧場に入っていくのを見計らって、リンクはマロンとともに母屋の
側の戸から外へ出た。それで二人が馬小屋にいたことは気づかれないはずだった。
 牧場にまわり、タロンに挨拶した。タロンはリンクのことをよく覚えており、気のいい歓迎の
言葉をかけてくれ、さらに以前のごとく、傍らにいるマロンとの仲を冷やかすような発言をした。
後ろめたい気がしたが、ほんとうのことを話すわけにもいかない。マロンも、どこ吹く風といった
態度だった。
 日没までには、まだ間があったが、すでに日は翳り始めていた。夕食の準備をすると言って、
マロンはその場を離れた。後ろから見ていると、股間に違和感があるのか、妙にぎこちない
歩き方だった。ひやひやしたものの、タロンはそれに気づいていないようだった。
 リンクはタロンに城下町の状況を訊ねた。とりたてて変わったことはない、と、タロンは
のんきな調子で答えた。ただ、ゼルダの失踪によってだろう、ハイラル城は緊迫した雰囲気に満ち、
牛乳の配達もそこそこに、追い出されるような感じで退出しなければならなかった、とのことだった。
タロンがいつもより早く牧場に帰ってきたのも、そのせいなのだろう、とリンクは思った。
 それとなくインゴーの件を持ち出してみた。あわよくばタロンを説得して、インゴーを牧場から
追放できないか、と思ったのだが、タロンはマロン以上にインゴーを信頼しているようで、
その熱心な仕事ぶりを手放しで賞賛するのだった。説得は諦めるしかなかった。
 リンクは母屋に赴き、夕食の仕度をしているマロンに、城下町へ行く、と告げた。ただ、
マロンのたっての願いで、夕食はともにすることとした。
 さらにマロンは、リンクに向かい、熱のこもった口調で言った。
「一晩、泊まっていかない?」
 すがるような目だった。
「あたしのベッド、広いから、一緒に寝られるわ」
 蠱惑的な言葉と面持ちに、大きく心が動いたが、やっとのことで、リンクは答えた。
「いや……やっぱり、行くよ」
 マロンは、それ以上、何も言わなかった。
 夕食を終え、一同に別れの挨拶をして、リンクは戸外に出た。マロンが見送りに出てきてくれた。
 門まで来て、立ち止まる。
 満月と下弦の半ばにある月が東の空にかかり、広大な夜のハイラル平原に、淡く清冽な光を
届かせていた。
 マロンに向き直り、最後の言葉をかけようとして、先取られた。
「次は……いつ来てくれるの?」
 迷ったが、精いっぱいの答を返した。
「かなり先になると思う。でも……必ず、会いにくるから」
 何かを察したのか、マロンの表情は、平静に見えながら、いまにも崩れそうな脆さを奥に
秘めている、と感じられた。が、その脆さを打ち消すかのような、強い意志をこめた言葉を、
マロンは、ゆっくりと、口にした。
「あたし、今日のこと、一生、忘れない」
 湧き上がる想いを微笑みに変え、リンクは短く応じた。
「ぼくも」
 沈黙が落ちかかる。
 その重みを振り払い、
「じゃあ」
 片手を上げ、背を向け、一散に、リンクは平原へと駆け出していった。
3834-2 Malon V (20/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 02:04:50 ID:EVjYTKmN
 駆けながら、リンクはマロンの言葉を心の中で何度も反芻した。
『次は……いつ来てくれるの?』
「また来てくれる?」じゃない。「いつ来てくれるの?」だ。マロンはぼくが来ることを信じている。
その望みに、ぼくは応えなければならない。
 ただ、七年後、とは言えなかった。そんなに遠い未来と明言することは、ぼくにはできなかった。
 でも、ああ、マロン、待っていてくれ。ぼくは君の未来を変えてやることはできなかったけれど──
『あたし、今日のこと、一生、忘れない』
 ──どうか忘れないで、それが君の支えとなるのなら、七年間、どうかそれを忘れずにいてくれ!
 七年後、君はぼくに会う。その時までの未来は変えられなくても、それから先の君の未来は、
ぼくが絶対に変えてやるから!
 それに──とリンクは希望にすがる。
 マロンの未来が変わる可能性が、完全になくなってしまったというわけではない。
 まだ反乱が始まっていないのなら!
 激しく吹きすさぶ感情が、駆ける足へと力を及ぼし、冴えわたる月光のもと、リンクは
まっすぐに北へと突き進んでいった。

 夜道を駆け通し、翌日の早朝、リンクは城下町の正門前に到着した。ちょうど太陽が東の
山地から顔を出したばかりで、まさに正門が開かれつつある時だった。そこを駆け抜け、道を
急ぎたどりつつ、リンクは町の様子を観察した。朝早くとあって人通りは少なかったが、タロンの
言ったとおり、見たところは平穏そのものの城下町だった。これなら反乱を未然に防ぐことが
できそうだ、と胸を躍らせ、リンクは時の神殿へと急行した。
 神殿の入口には、例の見張りの兵士が二人、眠たそうに立っていた。
 ゲルド族が反乱を起こそうとしている、すぐ城に伝えて、ガノンドロフを捕らえるように──と、
リンクは勢いこんで兵士たちに告げた。
 一方の兵士が嘲るように、冷たい言葉を投げかけてきた。
「いい加減なことを言うんじゃない。悪戯にしてはたちが悪すぎるぞ」
「おい、ちょっと待てよ」
 もう一方の兵士が、こちらは心配そうな様子で、相棒に話しかけた。
「ゼルダ様が逃げ出された晩、ガノンドロフがここへ来て、神殿に押し通っていっただろう。
他のゲルド族の連中も、妙な動きをしていたようだし、反乱というのも、あながち根も葉もない
話じゃあないんじゃないのか」
 その目がリンクに向く。
「この子はゼルダ様の手紙を持っていることでもあるし……」
「ふむ……」
 邪険な兵士も少しは考え直したようで、うさんくさそうな顔を保ちながらも、
「わかった。一応、城の方には伝えておいてやる」
 と言った。
 あまり熱心ではなさそうなのが気になったが、反乱の根拠を詳しく話すこともできない。兵士の
言葉に期待をかけることにして、リンクはゼルダの手紙を取り出し、神殿に入る許可を求めた。
ここで手紙を見せるのは二度目になる。もう慣れたのか、文面をろくに確かめようともせず、
兵士は許しをくれた。ただ、手紙を持っている理由、ゼルダとの関係、神殿での用事の内容などを
訊かれたのには困った。まあいろいろ──と、あやふやな返事で追及をかわし、リンクは神殿の
中へと駆けこんだ。
 まっすぐ奥の部屋まで行き、マスターソードの前に立つ。
 世界を救うという使命。それを果たすまでの道のりは、まだまだ遠い。けれども、今回の
過去への旅が成果を生めば、目標に大きく近づくことができるだろう。
 未来にどのような変化が生じたか、ぼくは、いま、確かめに行く!
 意志と勇気を胸に奮い立たせ、リンクはマスターソードの柄に手をかけた。
3844-2 Malon V (21/21) ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 02:05:46 ID:EVjYTKmN
 朝のハイラル平原の上で、騎兵は馬を急がせていた。
 失踪したゼルダ姫を追って急派された騎兵団にあとから追いつき、捜索を続けていたところを、
ゲルド族の一隊に襲撃された。前から怪しいとは思っていたが、姫を襲ったのがゲルド族である
ことは、これで明確になった。
 甚大な被害を受けた味方の中で、唯一、無傷の自分が、城への伝令となったものの……途中で
馬が倒れてしまうとは!
 運悪く、近くに駐留している味方はいなかった。ようやく村に行き着き、こうして馬を借りる
ことができたが、それまでは敵を警戒しながら徒歩で移動せざるを得なかったので、数日を余計に
費やしてしまった。
 城下町を出る時、壁にぶつかったのがまずかった。やはり馬は傷を負っていたのだ。気づかなかった
のが悔やまれる。
 あの子供が道に飛び出してきさえしなければ!
 いや、思っても詮ないこと。数日の連絡の遅れはしかたがない。いまは一刻も早く、ゲルド族の
暗躍の件を城に伝えなければならない。
 城下町の正門が見えてきた。日の出から一時間が経っている。もう城では一日の活動が始まって
いる頃だ。
 ハイラル城まで最後のひと駆けとばかり、騎兵は疾駆する馬に鞭をくれた。

 隠密組の女が足音もたてずに近づき、ガノンドロフにささやいた。
「準備完了。午前十時きっかりに始めます」
 ガノンドロフは頷きのみを返した。女は立ち去った。
 背後からナボールの声がした。
「ガノンドロフ様」
 無言でいたが、怖じた様子もなく、ナボールは問いを発してきた。
「ゼルダ姫の失踪に、ガノンドロフ様は、何か関係しているのですか?」
 ふっ、と、ガノンドロフは小さく笑った。
「聞きにくいことを、はっきり言う奴だな」
 ふり向きもせず、応じる。
「だが、その心意気がお前のいいところだ。よかろう。教えてやる」
 ガノンドロフは歩きながら話を続けた。
「十二日前、別荘にいるゼルダ姫を、何者かが襲撃した。俺はそれを察知し、隠密組を連れて
救助に赴いた。ゼルダ姫は襲撃者に追われてハイラル平原に逃げ、俺はそれをさらに追った。
正門まで行ったところで見失った。その時には騎兵団が出動していたので、俺は城内へと引き上げた。
納得したか?」
 返事はなかった。
 この程度の話で丸めこまれるようなナボールでもないだろう……
「城の連中は納得していないようだ。この十二日間、毎日呼び出されては質問攻めだ。今日は何を
訊かれるか……」
 何を訊かれても、その時までは、空とぼけておけばいい。
「証拠はないからな」
 その時は、もっと早く来るはずだったのだが、ゼルダ襲撃の晩に放った密使が、運悪く城下町で
捕まってしまい、ツインローバへの連絡が数日遅れることになった。が……
「それにもう……弁明を繰り返す必要もなくなった」
 その時は来た。反乱の火の手を上げるまで、あと二時間。俺が魔王として世界を征する第一歩を
踏み出す時が、あと二時間で訪れようとしているのだ。
 身体と心を満たす邪悪な力に、陶酔にも似た充実感を覚えながら、ガノンドロフはひそかな
笑みを唇の端に浮かべていた。


To be continued.
385 ◆JmQ19ALdig :2007/10/15(月) 02:06:24 ID:EVjYTKmN
以上です。第一部での不用意な日数設定のツケがまわってきた。
マロンの言動が相変わらず年齢に似合わないのは仕様です。
386名無しさん必死だな:2007/10/15(月) 02:28:42 ID:6X3jaxJ9
マロンが先なのかサリアが先なのか、リンクの疑問ももっともだな

>>385
gj
387名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 02:33:00 ID:AWlTvwPy
セクロスに興味津々すぐるマロンと
マロンにセックス連呼されるだけでギンギンになっちゃうリンク(;´Д`)ハァハァ

子供リンクはもう剥けてるのかな
388名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 14:11:36 ID:72duNaa1
飛び出し事故のせいで反乱を遅らせてる事に
リンク本人は気づいてないことにワロス
389名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 15:06:08 ID:Twedcryp
負けず嫌い王だなwww
さすが勇者リンク
390名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 22:48:51 ID:wwcMX/Ir
http://www.geocities.jp/ne_komimi_moe/maronmini.jpg
空気を読んで描いて見た^q^
391名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 22:54:01 ID:wwcMX/Ir
すまん間違ってあげてしまった
392名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 23:16:50 ID:Twedcryp
>>390
マロン可愛いよマロン

横にあるロンロン牛乳を、油壺と思ってしまった自分は汚れてますね
393名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 23:22:05 ID:qBzUMiz9
相変わらずなんというクオリティ・・・GJ!
未来がどう変化しているか楽しみです。
>>391
マロンかわええ〜!サリアもおながいします是非とも。
394名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 10:36:22 ID:N9Hj1+Z6
もし全キャラの性別が逆だったらリンクはどっちの時代で純潔を失った事になったのだろうか
395名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 13:22:04 ID:atmOC0dY
GJ
子供に戻ってからすぐの騎兵団やゲルド女の前振り見て
何なんだろうなぁとか思っていたらそういう訳だったのか
396名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 08:50:46 ID:/vhaDkdM
「何という女の子!!」
この言い回し好きw

>>390
GJ!!
ひさしく絵を見ていないので、マロンの顔うろ覚えだったけど
おかげで思い出したw
このスレに絵がついてきたら最強。
397名無しさん@ピンキー :2007/10/20(土) 04:22:34 ID:wTrSv/AC
ほしゅ
398名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 16:47:46 ID:4xytRHVl
安西先生…不思議の帽子のシマロ×リンクってのがあったはずなんですが保管庫にありません…。
あの寝てるのに感じちゃってるリンクたんがまた読みたいんだいっ!
399名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 17:51:57 ID:xGENDQFa
400名無しさん@ピンキー:2007/10/23(火) 09:16:21 ID:qUes7VUM
ということで、400ゲッツ!
401名無しさん@ピンキー :2007/10/24(水) 23:28:57 ID:NfR900Ku
すっかり人が寄り付かなくなったな
402名無しさん@ピンキー:2007/10/24(水) 23:45:19 ID:oAOc/DFQ
>>401
>>400が空気嫁てないこと言うから・・・
403名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 03:43:38 ID:2EwvO1hW
404名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 07:57:33 ID:BaN/MYxn
寄り付かないわけないだろうよ。
書き込みこそしないけど、みんなwktkして待ってるぞきっとw
405名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 10:42:45 ID:YAex4L0A
投下されれば必ず感想来るしなぁ
他に語ることもないからROMっている奴が多いだけだろ
406名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 17:13:04 ID:xsgisZl6
まさしくその通りの俺がいる
407名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 01:24:25 ID:UQwhqBwW
wktk
408名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 10:17:22 ID:VgQAjpl6
全裸正座
409名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 22:12:29 ID:ySUEdY18
なんという気の早さ!
>>408は間違いなく風をひく!
410名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 23:50:16 ID:TcTnYPwB
>>408
つ[毛布]
411名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 15:15:25 ID:8elaYMi6
>>408
つ[枕]
412名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 18:08:51 ID:0GkES6oh
>>408
つ[羽毛布団]
413名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 19:43:41 ID:9YlpzD3C
>>408
つ「サウナ」
414名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 19:52:15 ID:vj5ZHwux
>>408
つ[ガノンドロフ]
415名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 20:48:46 ID:8elaYMi6
>>408
つこたつにミカン
416名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 22:13:24 ID:DCpjGHn8
>>414
一過性の死亡フラグwww
417名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 01:15:10 ID:jsJSY/52
つまり>>408は、ガノンドロフにうっかり掘られてしまう訳ですね
418名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 07:42:23 ID:gn5xMpI1
しかもサウナの中で布団敷いて炬燵の中で毛布被って蜜柑食いながら掘られる
419名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 13:45:22 ID:eV9b6+Su
バロスwwww
420名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 16:46:49 ID:mKLfKroI
つまり尻だけ出してる状態なわけか
シュールだな
421名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 20:01:26 ID:w2ym6uov
風邪はひかないだろうけど身体中のあらゆる水分が抜けるぞ
422 ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:05:14 ID:y92DM/TJ
私本・時のオカリナ/第四部/第三章/マロン編その6、投下します。
リンク×マロン@大人時代。
4234-3 Malon VI (1/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:06:23 ID:y92DM/TJ
 闇が消え失せた瞬間、ぐらりと足元が揺らいだ。手にしたマスターソードを咄嗟に下へ向け、
刃先を床に突き当てて身体を支える。
 ──地震?
 という言葉が頭をよぎるが、あたりはひっそりと静まりかえり、神殿の建物が揺れている様子も
ない。疑問には思ったものの、それよりも重要なことがある、と、リンクはおのれの姿に注意を
ふり向けた。
 高くなった身長。服の下の肌着。背にはハイリアの楯。手に握っているのは──いま見たじゃ
ないか、もっと早く気がつけ自分──マスターソード。そして……
 懐を探る。確かにある。ゼルダの耳飾り。
 シークの言ったとおりだ! 過去の世界でマスターソードを抜けば、ぼくは未来に帰ってくる
ことができるんだ!
 予測はしていたが、その予測が当たったことで、リンクは深く安堵し、同時に大きな興奮と
満足感を胸に満たした。
 では、いまはいつだろう。
 暗い。夜だ。けれども室内には小さな光がある。壁の発光ではない明瞭な光源。すぐに自分の
姿を確認できたのも、それがあるからだ。その光の正体は……
 床に置かれた蝋燭!
 ということは、ぼくが過去へ旅立った直後の時点……いや……
 しゃがみこんで蝋燭を観察する。置いた時よりも短くなっている。どれだけ時間が経ったのか。
一、二時間といったところだろうか。
 過去へ戻った時と同じだ。過去から未来へ帰る場合でも、前後にそれくらいの時間差が生まれる。
しかし、その間に過去の世界で十二日もが経ったことを考えると、無きに等しい差。時間を有効に
使える。ありがたい。
 だが──と頭を切り換える。
 問題は、過去の世界でのぼくの行動が、この七年後の世界にどんな影響を及ぼしたか、という
点だ。それを確かめなければならない。ゲルド族の反乱を防ぐことはできただろうか。
 見上げる。天窓。その向こうの空。
 真っ暗だ。
 じわりと忍び寄るいやな予感を無理やり抑え、リンクは足早に『時の扉』へと向かった。

 神殿を出たところで、リンクの足は止まった。
 眼前に広がる城下町。夜とあって細かな点はわからないが、家々に灯火は全くなく、荒廃した
雰囲気がありありとしている。空は重苦しい密雲で埋めつくされ、月どころか星の一つも見えない。
デスマウンテンの頂上では、あの見慣れた炎の渦が、見慣れたさまで乱舞している。
 何も変わっていない!
 反乱は起こってしまったということか。あの兵士は、ぼくの警告を、ハイラル城へ伝えては
くれなかったのか。
 くずおれそうになる膝を、どうにか支える。
 大勢に変化はなくても、まだ望みはある。サリアだ。サリアが生き延びることができたか
どうかが、最も重要な問題だ。すぐコキリの森へ行って……いや、その前に、南の荒野だ。そこで
シークと会う約束をしている。
 リンクは気力を奮い起こし、神殿の前を去って、町の中へと足を忍ばせていった。
4244-3 Malon VI (2/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:07:13 ID:y92DM/TJ
 敵の気配を探りつつ、慎重に城下町を通り抜け、その西端にある王家の別荘跡へと、リンクは
至った。
 馬小屋に入る。
 エポナはいない。
 あたりを捜しまわり、城壁の門から平原をも見渡してみたが、どこにも姿はなかった。
 どうしたのだろう。ここでエポナと別れてから、そんなに時間は経っていない。過去への旅の
前後の、一、二時間の差に、ここと時の神殿の間を往復した時間を加えても、四時間を超えては
いないはずだ。エポナがそんな短時間で、ぼくを見捨ててしまうとは考えられない。ゾーラの里を
訪れた時には、半日以上もぼくを待っていてくれたエポナではないか。
 あるいは城下のゲルド族に発見されて──そんな騒動があったようにも見えないが──捕らえ
られてしまったか。ゲルドの砦で捕まった時のように……いや、あの時は、先に捕まったぼくを
気遣い、エポナは敢えて一緒に捕まったのだ。ぼくのいない場面なら、簡単に捕まったりはせず、
遠くへ逃げ去るくらいの分別はあるはず。とすれば、賢いエポナのこと、危険とわかっている
ここへ戻ってくることはあるまい。少なくとも、すぐには。
 そのような局面で、エポナはどうするだろうか。
 考えてみて、一つの可能性に到達する。
 ロンロン牧場へ行ったかもしれない。ここからさほど離れていないし、土地勘もある。
 それならぼくも行ってみよう──と心を決める。
 そうするだけの価値はある可能性。南の荒野と同じ方角で、大して寄り道にはならない。それに、
いずれは行くつもりだった場所だ。
 過去の世界では、マロンの未来を変えてやれなかった。そして……
 そもそもマロンが不幸に陥ることになったのは、ハイラルの支配者となったゲルド族に馬の
世話を命じられ、インゴーが──褒美に目が眩みでもしたのだろう──態度を豹変させたからだ。
反乱が起こらなければ、そうした状況にも変化が生じるかもしれない、と思っていたのだが……
いまはその望みも絶たれてしまった。
 マロンは不幸のままなのだ!
 この世界で、ぼくが大人のマロンに会ったのは、二ヶ月あまり前だ。あの時は、マロンの
行く末が気遣われながらも、そのまま別れざるを得なかった。けれどもぼくは、過去の世界で
子供のマロンに会い、彼女を救ってやれないつらさを、さらに味わってしまった。もう放って
おくことはできない。
 インゴーをぶちのめしてでも、ぼくはマロンを助けてやる!
 拳を固く握りしめ、リンクは決意を胸に燃やした。
4254-3 Malon VI (3/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:07:57 ID:y92DM/TJ
 家事を終え、いつも寝泊まりしている牛小屋へ赴こうとして、台所の戸に手をかけた時、
背後から声が投げられた。
「待ちな」
 ああ、やっぱり……
 マロンは足を止めた。そのまま脚がへたってしまいそうだった。
 仕事が終わって、すぐ眠りにつくことなど、許されるはずがないのだ。
「こっちへ来い」
 インゴーが言葉を継いだ。低く抑揚のない声だ。マロンはしかたなく向きを変え、椅子に
すわってテーブルに頬杖をついているインゴーの前へ、のろのろと歩み寄った。うつむいて立つ
マロンを、下からじろりと睨め上げながら、ねちねちとした口調でインゴーが言い始める。
「おめえ、ここんとこ、家事の手を抜いてやがるな」
「……そんなこと、ありません」
「口答えすんな!」
 いきなり声を荒げたインゴーが、テーブルに手のひらを叩きつけた。板を破らんばかりの激しい
音が台所の中に響いた。コップが倒れ、テーブルの上をゆっくりと転がって、床に落ちた。
「飯がまずい。量も少ねえ。さっきの晩飯なんざ、食えたもんじゃなかったぞ!」
「それは──」
 あたしのせいじゃない。
 馬の世話をする代償として、ゲルド族の連中から分けてもらっている食材の量が、最近は徐々に
減り、質も悪くなっている。天候が不順で食糧事情がよくない、と連中には言われた。食事が
おいしくないのは、そのためなのだ。それはインゴーにもよくわかっているはずなのに……
 いや、わかっていて言っているのだ。こうやって、あたしをいじめる理由を見つけて、それで……
「お仕置きが必要だな、おめえには」
 再び声を低くし、にたりと笑うと、インゴーは、テーブルに置いていた鞭を手にして立ち上がった。
「性根を叩き直してやる。そこへ這いつくばって、尻を出せ」
 言われたとおりにするしかない。逆らったりしたら、よけいひどい目に遭わされる。
 マロンは床に四つん這いになり、インゴーに尻を向けた。
 こんなふうになったのは、二ヶ月前からだ。予想したとおり、エポナがいなくなったことを
知って、インゴーは烈火のごとく怒った。エポナをリンクに与えたことは、もちろん漏らしも
しなかったが、根拠は不要と全責任を負わされ、あたしは鞭でめった打ちにされた。そのあと外の
牧場で裸にされ、昼間からめちゃくちゃに強姦された。
 毎日のようになされる陵辱に、以来、鞭打ちという行為がつけ加えられるようになった。
インゴーは、あたしを鞭打つことで快感を得ているらしい。鞭打たれる方も快感があるだろう、と
インゴーはうそぶくが、あるわけがない。ただ犯されるだけならともかく、鞭打ちなど苦痛なだけだ。
 そんな思いは一顧だにされず、今夜もあたしは鞭打たれ、犯される。
「早く生の尻を出しやがれ。でねえと、いつもの倍、ぶってやるぜ」
 嘲弄をこめながらも残酷きわまりないインゴーの台詞に追い立てられ、マロンは手を後ろに
やった。スカートをまくり、下着に手をかける。
 つらい。哀しい。
 けれど、あたしは耐える。リンクと初めて結ばれた、二ヶ月前の、あの夜を想って。あたしに
生きる力を取り戻させてくれた、リンクとの触れ合いの、あの暖かみを想って。
「さっさとしねえか! 尻が腫れあがるまでぶちのめして──ん?」
 インゴーが言葉を切った。同時に、床についた四肢が、ぐらりと揺らいだ。
 ──地震?
 にしては妙だ。テーブルも、椅子も、家具も、この家自体も、全く揺れてはいない。
4264-3 Malon VI (4/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:08:41 ID:y92DM/TJ
「地震ですかね?」
 同じように思ったらしく、インゴーが不思議そうな声を出した。
「さあ……でも、もう揺れは治まったみたいね」
 インゴーがテーブルの下に落としたコップを、四つん這いになって拾いながら、マロンは答えた。
「どうもすいません。俺の不注意で……」
「いいのよ、気にしないで」
 立ち上がり、すまなそうに頭を掻いているインゴーに微笑みかけ、コップをテーブルに戻して、
椅子に腰を下ろす。
「あたしの方こそ、ちゃんとした食事も作ってあげられなくて、インゴーさんには申し訳ないと
思ってるわ」
「お嬢さんのせいじゃねえですよ」
 インゴーが声を強くする。
「天気のせいで作物のできが悪いから、しょうがねえんだ。お嬢さんこそ気にしねえでくだせえ」
 マロンは黙って頭を垂れた。インゴーの心遣いが身に染みた。
 魔王となったガノンドロフにより、荒廃の極に追いこまれたこの世界で、牧場を守ってここまで
やってこられたのは、インゴーが献身的に尽くしてくれたおかげなのだ。一儲けしようと
分不相応な望みを抱いて、牧場を出て行ったまま戻らない父とは大違い。
「で、これですがね」
 インゴーが手にした鞭を差し出した。
「先月、あの村から調教を頼まれた馬も、最近は慣れてきて、これも要らなくなりましたんで、
こっちに置いといてくだせえ」
「わかったわ」
 マロンが鞭を受け取ると、インゴーは軽い笑いを顔に浮かべ、
「じゃあ、俺はそろそろ寝ますんで……」
 と言い、台所の戸に向かおうとした。
「あ、ちょっと待って」
 足を止め、インゴーがふり向く。
「前から言ってるけど、インゴーさんも母屋の方で寝んだら? 父さんのベッドが空いてるし……」
 これまでずっとインゴーは、馬小屋に接した粗末な部屋で寝泊まりしている。その功労を
考えると、あまりに不当な処遇、と、気になっていたのだ。
「とんでもねえ」
 インゴーが大きく首を横に振った。
「タロンの旦那のベッドなんか、使わせてもらうわけにゃあいきませんや。ましてや、お嬢さんと
一つ屋根の下にだなんて、あっちゃならねえことでさ」
 最後は小声になり、照れたように一礼して、インゴーはそそくさと台所を出て行った。
 マロンは、ほっと息をついた。
 使用人としての分を忘れない、忠実な態度。いつかはその労に報いてやらなければ。決して楽な
暮らしではないが、インゴーがいてくれてこその、いまのあたしなのだ。
 台所を片づけ、マロンは自室へ引き取った。寝間着に着替え、灯りを消して、ベッドに入る。
じっと横たわって、いつもの相手を頭に浮かべる。
 いまのあたしがあるために、欠くことのできなかった、もう一人のひと。
 七年前、幼いあたしが処女を捧げたひと。
 リンク。
 リンクとの体験が、もう一度リンクに会いたいという想いが、必ず会いにくるというリンクの
言葉が、これまであたしを支えてくれた。
 いつ会えるだろう、と思い続けて、もう七年。ほんとうに会えるのか、もう会えないのでは
ないか、と、疑いが、諦めが、心に浮かぶこともある。
 それでも……あたしは……リンク……あなたを……
 手が、乳房と秘所に伸びる。かつてはほとんどふくらみのなかった胸。かつては叢の影も
なかった股間。そこも、いまは、もう……
 脳裏の幻想に身を任せ、長きにわたってふけってきた指の戯れに、マロンは今夜も没頭して
いくのだった。
4274-3 Malon VI (5/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:09:53 ID:y92DM/TJ
 視界の開けたハイラル平原でも、周囲の目を避けられる場所はある。野営の際には注意深く
そのような場所を選ぶのが、シークの常だった。その夜もシークは、南へと緩やかに下る平原の
斜面が、一休みするかのように平坦となり、かつ大きな岩が集まって遮蔽の役を果たしてくれる、
野営にはうってつけの場所に、腰を落ち着けていた。スタルベビーに襲われないよう、草の生えた
領域を避けることも、もちろん忘れていなかった。
 ゲルドの谷でリンクと別れて以来、六日が過ぎていた。リンクのあとから東へ向かい、
隠密行動に徹して平原西端の町を通り抜け、いまは南の荒野を目指して南東へと進んでいる
途中だった。ゲルド族の支配領域を脱したばかりで、それまでは避けていた焚き火を久しぶりに
おこし、シークは夜気に冷えた身を暖めていた。
 そろそろ眠るか──と考え、あたりを片づけようと腰を上げた時、両脚がぐらりと揺らぎ、
同時に、きりっと頭痛がした。
 ──地震?
 動きを止め、足に神経を集中させたが、地面が揺れている様子はない。いぶかしく思いながらも、
警戒の要がなければそれでよし、と深くは考えず、シークは火を弱め、その傍らで横になり、
目を閉じた。
 眠れなかった。
 何かが心の中にわだかまっている。何だろう。わからない。わからないが、僕の中で何かが
変わった、という気がしてならない。さっき、脚の揺れと頭痛を感じた、あの時から……
 ざわざわと騒ぎ始める胸を抑制し、じっとおのれの内部を見つめてみる。見えてくる。
 自分がこれまでに経験してきたことの記憶に関する問題のようだ。
 記憶をたどる。
 この南の荒野でインパに救われた。インパに連れられてカカリコ村へ行った。戦闘訓練を受け、
アンジュと出会った。インパとの初体験と別離を経て、南の荒野に潜伏した。三年間の修行ののち、
まずハイリア湖へ行き、次いでカカリコ村を訪れ、アンジュと再会した。デスマウンテンや
ゾーラの里に寄りつつ、コキリの森へ向かった。コキリの森では……
『何だって!?』
 跳ね起きる。
 これは、いったい、どういうことだ!?
 自分の記憶の異常さに愕然とし、頭が空白となったまま、時間が過ぎてゆく。過ぎるにつれ、
ゆっくりと思考が働き始め、やがて猛烈な活動に移り、だんだんと状況が理解できてきる。
 リンクだ。
 リンクは無事に過去の世界へ戻ることができたのだ。過去でのリンクの行動が、未来に──
いまの、この世界に──変化を及ぼしたのだ。
 それはいい。リンクが過去へ戻った目的は、まさにそのため。だが、僕の記憶の混乱は、なぜ
生じたのか。
 さらに思考をめぐらし、シークは結論に達した。
 理屈はわからないが、そうに違いない。そうとしか考えられない。さっきの「地震」、その
瞬間に「それ」は起こったのだ。
 それでは、なぜ僕は「それ」を認識できるのか。
 漠然とした考えが浮かんでくるものの、完全には納得できない。思考があちこちさまよううち、
別の疑問が湧いてくる。
 なぜ「それ」は、いま起こったのか。過去のどの時点でもなく、いまになって「それ」が
起こった理由は何なのか。
 必然的に答は出る。
 目的地までの残りの距離と日数を、瞬時に計算する。
 焚き火を消し、痕跡を残さないよう後始末をしてから、シークは南の荒野に向かって、夜の
ハイラル平原を急ぎ足で進み始めた。そこでリンクを迎えてやるためには、時間の余裕はあまり
ないのだった。
4284-3 Malon VI (6/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:10:29 ID:y92DM/TJ
 敵の至近に長くはとどまれないと考え、夜の間に城下町を出て、ハイラル平原に足を踏み出した
リンクだったが、次々と地から湧き出るスタルベビーは避けようがなかった。無視しようにも、
出現はあまりに頻繁で、再々、剣を振るわざるを得ない。やがて疲れが溜まり始め、これでは
いけない、と、折よく見つけた木立の傍らの裸地に、リンクは腰を据えた。すでに城下町からは
かなり離れていたので、さほど厳重な警戒も必要なく、夜明けまで数時間の仮眠をとることができた。
 目を覚まし、持ち合わせの食料で簡単に朝食をすませてから、リンクは南への旅を再開した。
夜が明ければスタルベビーは出てこない。大して強力な敵ではないとはいえ、会わずにすめば
気は休まる。たまにポウが姿を現したが、こっちの方は、相手にせず放っておくうちに、勝手に
どこかへ消えてしまった。
 魔物を気にせずともよくなったハイラル平原は、しかしそれでも、決して快い場所とは
言えなかった。空はどこまでも暗雲に満ち、地は枯れた草に貧しく覆われ、言いようもなく
沈鬱な空気が垂れこめていた。見慣れたはずの光景が、ひとたび過去の美しい姿を再見した身に
とっては、実にもの悲しく、索漠としたものと感じられ、リンクの胸は改めて大きな痛みに
抉られるのだった。
 その痛みに耐え、リンクは足を急がせた。この世界の不幸なるものの、たとえ一部であろうとも、
いまの自分の力が及ぶ限り、ぼくは打ち払ってやるのだ──と、心に誓いながら。
4294-3 Malon VI (7/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:11:14 ID:y92DM/TJ
 ロンロン牧場に着いたのは、その日の昼下がりだった。何があってもやりたいようにやってやる、
と気を強くし、リンクは堂々と門をくぐった。
 母屋と馬小屋には人の気配がなかった。リンクはまっすぐ牧場へと進んだ。
 空を覆う暗雲のもと、沈鬱な空気はここでも変わりはなかった。けれども丹精の賜物か、
牧草には一応の保全がなされ、あちこちに散った馬の姿とも併せて、のどかな雰囲気の一端を
とどめてはいる。
 牧場の真ん中に、ひとり佇む人物が見える。近づくにつれ、姿は明らかとなる。栗色の髪を長く
伸ばした、若い娘。見間違えようもない、それは二ヶ月前と同じ、マロンの姿だった。
 マロンは馬の世話をしている。エポナだ。エポナはやっぱりここへ戻っていたんだ。聞こえて
くる鼻歌はもちろん『エポナの歌』。両者が大人であることと、マロンの服装を除けば、過去の
世界でぼくが見聞きしたのと全く同一の状況。白いブラウス。淡紅色のスカート。褐色調の
エプロン。ただ肩のスカーフだけが、あるいは同じものだろうか。
 こちらに気づくいとまも待てず、逸る思いが口を開かせる。
「マロン!」
 ふり向く間にも、ぐんぐん大股で歩み寄り、前に立つ。
 茫然と見開かれたマロンの目。視線がこちらの頭のてっぺんから爪先までを瞬時に走り、直後、
「リンク!」
 大きく腕を広げた身体が投げ出され、その衝撃を受け止めるぼくの背に、腕がしっかりと
巻きつけられ、ぼくも背にしっかりと腕をまわし、しばしの固い抱擁ののち、離れたマロンの顔が、
あの咲きほこる花のような輝きを湛え、二つの瞳は涙に潤い、しかし声はあくまで朗らかに、
「久しぶりね! ほんとに久しぶりね!」
 ああ、二ヶ月前の再会の時と、同じ言葉でありながら、いまは何と屈託のない、率直な感情の
発露であることか。
「元気そうだね」
 想いをこめて、微笑みかける。
「ええ……」
 想うあまりか、言葉は途切れる。
 二ヶ月の間に、マロンはずいぶん明るくなった。別れる前のマロンの微笑みと頷きに見た
明るさの萌芽が、順調に育まれているということなのか。あるいは七年前の、ぼくとの新たな
交わりが、マロンを支えた証でもあるのか。この明るさをぼくがもたらしたといえるのなら、
それがマロンの不幸な生活の中のささやかな要素に過ぎないとしても、ぼくは嬉しい。
 ただ──と、嬉しさがおかしさに移る。
 久しぶりと君は言う。君にとっては二ヶ月の間隔。確かに長いものだっただろう。けれどぼくに
とってはそぐわない言葉。ぼくが子供の君と別れたのは、つい先刻のことと言ってもいいのだから。
「お客さんですかい?」
 後ろから声がした。見るまでもなく、インゴーの声だとわかった。
 そうだ、こいつだ。たとえマロンが少々明るくなろうと、こいつがいるうちは、マロンの不幸は
取り除けない。
 リンクはふり返った。熊手をかついだインゴーが立っていた。
 七年前は見上げるばかりだったインゴーの顔が、いまは目の下にある。ぶちのめすことなど
朝飯前──と拳を握った、その時。
「あ、インゴーさん。覚えてる? リンクよ。ほら、子供の頃、ここに来たことがあったでしょ」
『は?』
 何なんだ? マロンの台詞からくる、この違和感は?
 腕にこめた力が、行き場を失ってしまう。
 インゴーがいぶかしそうに目を細め、こちらを見つめている。すぐに目は大きく開かれ、顔に
大きな笑いが浮かんだ。
「そういや、その緑色の服には覚えがあるぜ。ずいぶん久しぶりじゃねえか。ありゃあ反乱前の
ことだから、もう七年になるか。この物騒な世の中で、いままでどうしてやがったんだよ」
 馴れ馴れしく肩を叩いてくるインゴーに、どう対応していいのかわからず、リンクは生返事だけを
返した。マロンとインゴーは当時の思い出話を始めた。二人とも声を出して笑っている。実に
親しげな雰囲気だ。
4304-3 Malon VI (8/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:11:57 ID:y92DM/TJ
 どういうことなんだ? あの無愛想なインゴーがにこにこしているのも不思議だが、もっと
不思議なのはマロンの態度だ。自分を虐待している相手と、どうしてこうも楽しそうに話が
できる? 二ヶ月の間に状況が変化したのだろうか。それにしても、このあまりの変わりようは……?
 心に無数の疑問符を残しつつも、事態の改善は喜ぶべきこと──と、リンクは無理やり自分を
納得させ、本来の目的へと意識を向けた。
「エポナのことだけれど……」
 マロンとインゴーの話の区切りを待って、リンクは話しかけた。
「ここにいたんだね。安心したよ」
「ええ、エポナも元気よ」
 マロンがにこやかに表情を崩した。その表情に心が和んだが、マロンはエポナが単独で戻って
きたのをおかしいとは思わないのだろうか、と奇異な感じもした。
「いつここへ来たんだい?」
 続けて訊ねると、マロンは怪訝そうな顔になった。
「いつって……もうかなりになるけど」
 かなり? いい加減な言い方だな。まあ、エポナがここにいることがわかれば、それでいい。
目的はもう一つ残っている。話しにくいことではあるが……
 リンクは態度を改めた。
「マロン、君に伝えなくちゃならないことがある。ぼくは君のお父さんに会ったんだ」
「父さんに……」
 マロンの顔が曇った。やはり心配だったんだ。けれど驚いた様子はない。なぜだろう。
「じゃあ、カカリコ村へ行ったのね」
 びっくりする。
 カカリコ村? カカリコ村だって? そうじゃない、ハイリア湖だ。あそこの釣り堀の跡地に、
記憶をなくしたタロンが──
「父さんたら、城下町で牛乳を売れなくなったから、カカリコ村に鞍替えだって、行ったは
いいんだけど……ほら、あそこって、いまは柄がよくないでしょ。博打にのめりこんで、帰って
こなくなっちゃったの。インゴーさんが迎えに行っても、帰らないの一点張り。借金もある
らしいわ。あんまりだから、頭を冷やすまで放っておくことにしたのよ。ほんとに情けないったら
ありゃしない」
 憤慨したような態度で一気にしゃべるマロンを、リンクは唖然として眺めた。
「で、父さん、何か言ってた?」
「……いや……別に……」
 口は勝手に答えるが、頭の中は混乱しきっている。その混乱が徐々に一点へと収束してゆく。
 これは……このわけは……
 マロンの顔にまぶしい笑みが戻る。
「リンク、今日はゆっくりしていってね。なにせ七年ぶりに会ったんだから」
 七年ぶり! 二ヶ月ぶりではなく! そうだったんだ! そういうことだったんだ!
 リンクは笑った。高らかに笑った。笑い続けた。止まらなかった。
 ようやく笑いを収め、マロンの両肩に手をかける。
「マロン、君は、いま、幸せかい?」
 きょとんとした表情が、やがて、ぽろりと、
「ええ、まあ、それなりに」
 リンクはマロンを力の限り強く抱きしめ、熱い想いをこめて唇に接吻した。
 できなかったと思っていたけれど、いまでも経緯はわからないけれど、それでも……ああ、
わかった! ぼくにはわかった!
 マロンの未来は変わったのだと!
4314-3 Malon VI (9/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:12:34 ID:y92DM/TJ
 リンク、いったいどうしたの?
 妙に噛み合わない、変なことを言うと思ったら、突然、馬鹿みたいに笑い出して、いきなり
あたしを抱きしめて、キスなんかしたりして。ほら、インゴーさんが口をあんぐりあけて
見てるじゃない。時と場所を考えてよ。ああ、でも嬉しい。リンク、あなたに抱きしめられて、
あなたにキスされて、あたし、ほんとに──
 あきれた気持ちが陶酔に変わり始めた時、リンクの唇が離れた。
「エポナに乗ってもいいかな?」
 飛躍した言葉。あっけにとられる。
「いいけど……乗り方は知ってるの?」
「知ってるさ。いい人に教えてもらったからね」
 陶酔の残滓を未練がましく追いつつも、意味ありげな台詞を不審に思い、マロンはエポナに
歩み寄るリンクを見やった。
 あたし以外の人を簡単には寄せつけないエポナが、甘えるようにリンクに頬ずりしている。
エポナはリンクを覚えているのだ。七年ぶりだというのに、エポナはリンクを一目で見分けたのだ。
 傍らに置いていた馬具を装着してやると、リンクは颯爽とエポナに跨り、牧場の中を走りまわり
始めた。
「あいつ、すげえな。最初っからあんなに乗りこなせるなんて。俺だってエポナ相手に、ああは
いかねえよ」
 インゴーが感嘆したように呟く。
 そのとおりだ。ただ乗馬ができるというだけでは、癖のあるエポナを御すことはできない。
よほど馴れないと無理なはず。エポナがリンクに心を許しているせいなのだろうが、それにしても、
リンクの巧みさは、もう長いことエポナに乗った経験があるかのようだ。
 ふと連想が自分のことに及ぶ。
 エポナは一目でリンクを見分けた。あたしもそう。さっきリンクを見て、あたしはすぐにそれが
リンクだとわかった。インゴーさんが言ったように、緑色の服は特徴があるけど、あたしが
わかった理由は、服じゃない。なぜかしら。大人になったリンクは、子供の時からするとずいぶん
変わってる。いま思うと、どうしてわかったのかわからない。まるであたしが、いまの大人の
リンクに、もう会ったことがあるかのような……
 ふっ、と小さな笑いが漏れる。
 何を考えてるのかしら、あたし。きっと、あたしがリンクに会いたいと、ずっと思ってたから
なんだわ。直感。そう、直感よ。
 リンクがエポナの速度を落とし、近くに寄ってきた。さっきの誘いの返事を聞いていないことを
思い出す。
「今夜、泊まっていかない?」
 子供の頃のリンクは、いつも夜になると去ってしまった。今度こそは行かせなくない。
「もちろん!」
 声を弾ませてリンクが答える。
『よかった!』
 そこにかぶさるリンクの言葉。
「ぜひお祝いをしなくちゃ」
 お祝い? 何の?
 そんな疑問も喜びの前では些細なこと、と意識は離れ、マロンの胸は夜に向けて、早くも
燃え立ち始めていた。
4324-3 Malon VI (10/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:13:19 ID:y92DM/TJ
 乏しい食材にもかかわらず、マロンが腕を振るった結果、夕食は、かなりの見栄えと味を
楽しめるものとなった。料理とともに食卓を賑わせたのは会話だった。マロンは例によって旅の
話をせがんできたが、七年間の空白のため話題は持ち合わせず、また各地の悲惨な現状を述べる
気にもなれないので、リンクは逆にマロンの話を要望した。ロンロン牧場の七年間が語られた。
それは決して安寧な歴史ではなかったが、限りなく暗鬱な世界で、それでも生きていこうとする
マロンらの意気がうかがわれ、リンクは安堵し、力づけられた。
 マロンはとりわけインゴーの奮闘ぶりを強調した。ゲルド族に占領された城下町に替えて、
近隣の村々と交渉を持ち、牛乳や家畜の販路を開拓したり、馬の調教を請け負ったり、あるいは、
時々やってくるゲルド族に対し、軋轢を作らぬよう、嫌いぬいている相手であるにもかかわらず、
ご機嫌をとってうまく立ち回ったり、その活躍の例を挙げればきりがない──と褒めそやした。
「大したことじゃねえですよ」
 インゴーは照れ臭そうに言うだけだったが、牧場が無事を保ち、マロンが不幸に陥ることなく
生きてこられたのは、ひとえにインゴーの働きゆえ、と結論する他はなかった。
 リンクは、まじまじとインゴーを見つめた。
 以前の無愛想さが影をひそめているのは、外部との交渉の際に、多少とも社交術が必要だった
からなのだろう。だがそれを差し引いても、いまのインゴーは、自分が未来を変える前の世界の
インゴーとは、まるで別人だ。あの世界のインゴーは、なぜあれほど横暴で残酷な人間となって
いたのか。
 そういえば──と思い出す。
 マロンが不幸に陥る契機となった件。あれは、いまのこの世界では、どのような展開を示したのか。
「この牧場では、ゲルド族の馬の世話をしていたんじゃなかったっけ」
 探りを入れるリンクに、
「ああ──」
 インゴーが顔を向け、憤りとも苦笑いともつかぬ表情で話し始めた。
「確かにそんな話があったよ。ありゃあ反乱が起こってから十ヶ月くらいだったか、ゲルド族の
奴らがここに来て──そうだ、あんときゃ確か、お嬢さんが最初に応対したんだ」
 目を移すインゴーに、マロンが頷きを返す。
「ええ、覚えてるわ」
 インゴーはリンクに向き直った。
「それで俺が話を聞きに出ていったのさ。そしたら、いつも来る下っ端どもの他に、偉そうな女が
一人いて……背の高い、妙に色気のある年増だったが……そいつが言いやがったよ。ここで
自分らの馬の世話をしろってな」
 当時を思い出してか、インゴーは、いまいましそうな表情で鼻を鳴らした。
「ふざけるな、誰がてめえらなんぞの──とは思ったが、まさか口には出せねえ。どうやって
断ってやろうか、と思案した末に、馬小屋を見せてやることにしたのさ。実はその三日前、
馬小屋が小火を起こしてたんだ」
 そこでインゴーが、ちらりとマロンに目をやった。マロンはうつむいて黙っている。その頬が、
なぜか、赤らんでいる。
「そしたら案の定、馬小屋から火を出すようなとこにゃ、危なくって馬は預けられねえってんで、
奴ら、帰っちまった。そう言わせようと思って馬小屋を見せたのが、図に当たったってわけよ」
 インゴーが自慢げにそっくりかえる。
「そのうち、奴ら、西の方に、でけえ牧場を作ったようで、こっちへの話はそれっきり、
立ち消えになっちまった。いまでも時たま下っ端がやって来て、餌をよこせだの馬具を直せだの、
鬱陶しいことを言いやがるが、そんくれえなら我慢もできる。適当に相手してお引き取り願ってるよ」
4334-3 Malon VI (11/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:15:50 ID:y92DM/TJ
 インゴーの言う、妙に色気のある背の高い偉そうな女というのが誰なのか、リンクには見当が
ついた。
 ツインローバ。
 人の心を読み、人に幻影を見せる能力を持つツインローバだ。人の心を変えてしまうことも
できるのではないか。おそらくあの世界のインゴーは、ゲルド族のために牧場の支配者となるよう、
ツインローバによって心を操られていたのだ。横暴で残酷だったのは、そのせいだ。この世界では、
結局、馬の世話をする話が流れてしまったので、インゴーの心も変えられずにすんだ。そこが
運命の分かれ目だったのだ。
 これで未来が変わった経緯が明らかになった──と、晴れ晴れした気分になるリンクだったが、
『いや』
 まだわからないことがある。
「じゃあ、俺はそろそろ……」
 インゴーが唐突に席を立った。
「あら、インゴーさん、お茶くらい飲んでいったら?」
 マロンが立ち上がって引き止めた。つられてリンクも腰を上げる。しかしインゴーは手を振り、
「いやいや、かまわねえでくだせえ。あとはお二人で、どうかごゆっくり……」
 にやにやと顔に笑いを浮かべて、外へ出て行った。
 残された二人は、立ったまま顔を見合わせた。
「インゴーさん、気を遣ってくれたのかしら」
 マロンが言い、次いで自分の言葉にあわてた様子で目を伏せた。それを見てこちらもどぎまぎし、
目は下を向いてしまう。
 沈黙が漂う。
 耐えきれず、
「ええと──」
「あの──」
 発した言葉が交錯する。
 再び沈黙。
 それを押し分けて、
「なに?」
 上目遣いで、マロンがささやく。
 何か言わないと。何を言おう。そうだ、さっき気になったこと。
「馬小屋が小火を起こしたって、言ってたけれど……」
 未来が変わったのは、ゲルド族の馬の世話をしなくてもよくなったからだが、その原因と
なったのは馬小屋の小火だ。それは、いったい──
4344-3 Malon VI (12/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:16:27 ID:y92DM/TJ
「大したことはなかったのよ」
 焦ったように早口で答えるマロン。
「焼けたのは三分の一くらいで、馬はみんな無事だったし、いまはきれいに建て直してあるし……」
 態度がおかしい。さっきインゴーが小火の話を出した時も、マロンは変にもじもじしていた。
「どうして小火が起きたんだい?」
 またもやマロンは目を伏せる。またもや頬を赤らめて。
「あたしが……」
「君が?」
「あたし……夜、馬小屋へ行って……うっかりして、ランプを藁の上に落として……それで……」
「なぜ夜に馬小屋なんかへ……」
 何気なく発した問いが、意外な反応を引き起こす。マロンがいきなり面を上げ、まっすぐ視線を
突きつけてくる。
「リンクのせいよ」
 ぼくの?
「あたし……あの時のことを……思い出して……」
 揺れる声。潤みだす目。顔に湧き上がるその感情。
「どうしても我慢できなくなって……リンクと初めてした場所へ行って……そこでリンクを想って
……あたし……」
 言葉は詰まり、感情はついにあふれて──
「一人でしてたの!」
 マロンがどっと身を投げてくる。それをしっかりと抱きとめる。胸は絞られ、そして──ああ、
この気持ちを何と呼ぼう!──驚きと喜びと愉快さと幸福感とが渾然一体となったこの気持ち!
 七年前のぼくたちの営みが、マロンの馬小屋での行為を呼び、馬小屋の小火をもたらし、
マロンの未来を変えたのだ。何という偶然! 何という運命!
「でも、今夜は……」
 マロンが呟く。
「一人じゃないのね」
 そうだとも!
 腕に力をこめてやる。同時に浮かぶ微笑ましい思い。
 君は言う。「リンクと初めてした場所」と。何を「した」というんだい? 七年前の君は、
ためらいもなく、その言葉を口にしていたじゃないか。君も大人になって、多少は慎みという
ものを身につけたと?
 それを確かめさせてもらってもいいだろうね?
 顔を寄せ、見つめる。
 唇が、そっと無言の返事をよこした。
4354-3 Malon VI (13/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:17:12 ID:y92DM/TJ
 部屋の戸をあけ、リンクを中へ入らせる。そのあとから自分も部屋に身を入れ、リンクに背を
向けて、戸を閉める。
 とうとう、この時がきた。
 これまでずっと、ひとり自分を慰めるだけだった。でも、今夜は、リンクがいる。
 リンクと二人きりで過ごす夜。待ち焦がれたはずの、その時を迎えて、なぜか、あたしの身体は
動かない。リンクに話しかけることもできず、リンクを見ることさえできない。どくどくと
破裂しそうな胸を抱えて、ただ後ろ向きに立っているだけ。
 あたしはどうしてしまったのだろう。
 子供の頃は、こうじゃなかった。もっと大胆に、もっと大らかに、リンクに迫ったものだった。
 露骨な言葉を口に出して。
 いまはそんなこと、とても言えない。して欲しいと思う気持ちは子供の頃よりもずっと強いのに、
大人になって、世間の常識というものを知って、あたしは臆病にもなってしまったのだろうか。
「言ってたとおりだ」
 リンクの声に、身体がぴくりと震える。
「君のベッド、広いんだね」
 ああ、確かにそう言って、リンクを誘ったことがある。リンクも覚えていたんだ。
 大人になったいまでも、ベッドの広さには余裕があって、二人くらいなら楽に寝られる。だから
同じように誘えばいいのに、やっぱり、あたしは、声を出せない。
 リンクの方から音がする。剣と楯を床に下ろしたんだ。でも、それだけじゃない。続けて
聞こえる。さらさらと、衣服を解く音。
 リンクが脱いでいる。脱いでいる。動悸が激しくなる。激しくなる。
 音がやむ。
「マロン」
 リンクの声。
 もうこのままではいられない。もうぐずぐずしてはいられない。
 ふり向く。
 全裸のリンクがそこにいる。
 七年前には見られなかったリンクの裸。七年間想像してきたリンクの裸。そしていま、想像を
はるかに凌駕する、逞しくも美しい裸身が、あたしの前に立っている。
「君も……」
 ──あたしも?
「さあ……」
 ──あたしが?
 そう、あたしが!
 心はついに一線を越え、ごくりと唾を呑みこんで、マロンは自らの服に手をかけた。

 眼前にさらされるマロンの裸身。すでに目にしたはずの、成熟した姿が、図らずも新鮮な刺激と
なってぼくを打つ。
 ひとすじの月光だけが頼りだったあの時とは違って、ささやかながらも灯火に満たされた
この部屋では、より明瞭に、より鮮明に、マロンの身体の詳細がわかる。
 大人とはいえ、まだ年若いマロンなのに、乳房の豊かさは驚くほどだ。アンジュや『副官』を
優に上まわっている。対して恥毛は、やや薄い。その対照が、ぞくぞくするような興奮を呼ぶ。
 それに、ああ、あの時と比べると、身体全体がふっくらしているような気がする。不幸を
知らずにいられることで、身体もまた、健やかであることができたのか。
 その運命の転変に、その肉体の健康に、いま、心からの──
 リンクは静かに歩みを寄せ、祝福の対象たる美しい裸体を、そっと腕に包んだ。
4364-3 Malon VI (14/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:17:48 ID:y92DM/TJ
 リンクがあたしを抱いている。何にもさえぎられることなく、二人の肌がぴったりと合わさって。
暖かい。暖かい。この暖かさを、あたしは前にも感じたことがある。七年前? そうだったかしら?
 いきなり身体が傾く。意識を戻す間もなく、身体はベッドに倒れこむ。仰向けのあたしの上から、
リンクの顔が近づいてくる。近づいてくる。唇で受ける。舌で受ける。七年前と同じように、
なすすべもなく、あたしはリンクの口を受け入れる。
 口だけじゃない。リンクの手。それはあたしの頬を、髪を、首を、肩を、腕を、背を、腰を
撫でて、撫でて、優しく撫でさすって、そしてあたしの胸に、七年前はわずかな盛り上がりでしか
なかったあたしの胸に、いまは大きく張りきったあたしの胸に、その頂上でふくらむ乳首に、
リンクの手が触れて──
「ん……んんんん……んぁ……んぁん……」
 リンクの口が胸に移る。撫でられて、揉まれて、舐められて、吸われて、噛まれて、好きな
ように弄ばれるあたしの乳房。
 息が苦しくなる。喘ぎが止まらない。胸でこんなに感じられるなんて。子供の時にリンクが
教えてくれて、それからは自分の手で触れてきて、わかったつもりでいたけど、全然わかって
いなかった。気持ちいい。やっぱり自分でするよりずっと気持ちいい。大人のあたしが、大人の
リンクに触れられて、とっても、とっても、気持ちいい!
 リンクの手が下りていく。リンクの口が下りていく。ああ、あそこに来る。リンクの手と口が、
あたしの、あたしの、もうびっしょりと濡れたあたしのあそこに──!

 もうびっしょりと濡れたマロンのそこ。濃褐色の秘めやかな叢の下で、鮮やかに充血した粘膜の
赤らみが、そこに凝縮する欲情の激しさを物語っている。
 なのにマロンはそれを口にしない。ひたすら喘ぎながら、ひたすら呻きながら、ぼくへの求めを
口に出そうとはしない。
 触れてやる。つついてやる。こすってやる。短い叫びが立て続けにあがる。それでも抑制を
解かないマロンの口。
 どうしたんだい? 君の望むことは何だってしてあげようというのに。七年前、君が言ったこと。
いまも君はそうして欲しいんだろう? どうしてそう言わないんだ? ぼくを駆り立て沸き上がらせた、
あの素敵な奔放さを、君は忘れてしまったのか?
 むっちりと熟した秘唇を押し分け、じわじわと指を挿れてゆく。
「はあぁぁ……ぁぁぁ……ぁ……ぁ……んん……んぁん……」
 口は切ない声を漏らすだけなのに、ここはぼくの指をすべて受け入れて、締めつけて、逃がしは
しないと貪欲に主張する。ここの方がよほど正直だよ。君は大人になって、慎みを身につけた
みたいだけれど、慎みのある君なんて、君らしくもない。ぼくをびっくりさせるくらい、淫らに
なってみせてくれないか、マロン!
 指で貫いたまま、口を押しつける。唇と舌を目まぐるしく踊らせる。さらに指を曲げて、回して、
前後させて──
4374-3 Malon VI (15/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:19:17 ID:y92DM/TJ
 いいわ! して! もっと! もっと!
 心の中で絶叫する。だけどやっぱり口には出せない。あたしは分別のついた大人なんだから、
子供の時のように考えなしじゃないんだから、ずっと頑張って働きながら、誰にも身体を許さず
慎ましく生きてきたんだから、そんなこと、そんなこと、口には、口には、ああ、出したい、口に
出したい、何もかも言ってしまいたい、言えたらどんなにかいいだろう、でも言ったらリンクに
どう思われるだろう、恥ずかしい、恥ずかしい、大人になって意識してしまったその言葉、大人の
あたしを縛っているその言葉、それを忘れられない、けれど忘れたい、けれど忘れられない、
けれど忘れたい……
 なんでそんなに迷っているの。いまさら何をためらっているの。言ってしまえばいいんだわ。
リンクは昔のあたしを知っているんだから。慎ましく生きてきた? 違うでしょ。毎晩リンクを
想って自分を慰めてきたあたしじゃないの。今日だって、泊まっていってと誘いをかけて、
馬小屋での行為さえ告白してしまったあたしじゃないの。いまこの瞬間だって、リンクに
攻められてひいひい喘いでるあたしじゃないの。それがほんとのあたしなのよ!
 慰める? 行為? そんなこと言ってるからだめなんだわ。ちゃんと言いなさい。言える?
あたしに言える?
 言えるわよ!
 オナニー! オナニー! オナニー!
 さあ言ったわ。次は口に出して言うのよ。あたしがして欲しいことを、あたしが思っている
ことを、正直に、リンクに聞こえるように言いなさい!
 言おうとした瞬間、指と口を離したリンクが上半身をかぶせてくる。あたしの開いた両脚の間に
身を置いてのしかかってくる。リンク、リンク、するの? するのね?
 手を持たれる。引かれる。導かれる。握らされる。
 これ。リンクのこれ。硬くて、熱くて、ぴくぴくと脈打ってて。子供の時に握ったことは
あるけど、あの時とは段違いに大きい。太い。
「あの!」
 思わず口が開く。
「あたし……あの時から……したことないから……こんなの……大丈夫かしら」
「何を?」
「え?」
「何をしたことないって?」
「あ……あれ……」
「あれって?」
 何てこと。リンクはあたしに言わせようとしている。あたしが言いたくて言えないあの言葉を。
「したいんだろ?」
「え……ええ……」
「だったら言って」
「でも……」
「言って欲しいんだ」
「え?」
「君に言って欲しいんだよ!」
 ぐいと顔が寄ってくる。
 リンクが? ほんとに? だったら……だったらあたし──
「マロン!」
「セックスよ!」
 ついに言葉が放たれる!
「セックス! セックス! セックスよ! お願い! リンク! して! いますぐ! あたしと!
あたしと! セックスしてぇッ!!」
4384-3 Malon VI (16/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:19:58 ID:y92DM/TJ
 堰を切ったようにあふれるマロンの叫びが、握った自分を引き寄せるマロンの手が、リンクを
感激で震わせる。濡れに濡れた熱い谷間に先端が触れる。
「大丈夫だよ」
 熱狂するマロンを優しく制し、狙いを定めてそっと腰を出す。
 ──指があれほどすんなり入るんだ。七年ぶりだろうと心配ないさ。こうしてゆっくりと進めて
やれば……
「そうよ……」
 ──ゆっくりと、ゆっくりと、ほら、入ってゆくよ。このまま進めても、大丈夫だね?
「そうよ、そのまま……」
 ──きついけれど、問題ないよ。七年間、ずっと指を挿れてきたんだろう?
「ああ、そうよ、そうよ……」
 ──君の中、とてもいい。だからこのまま、もっと先に進めていくよ。
「そのまま、そのままずっと、ずっと先に……」
 ──あの世界の君とも、ちょうどいまと同じようにして……
「来て……んん……もっと、ずっと……」
 ──あの時は、あっという間にいってしまったぼくだけれど……
「くうぅぅ!……そうよぉ……」
 ──いまはこうしてすっかり君を満たしてしまっても、まだ余裕があって……
「あぁぁ!……んぁん!……そうよ……そうなのぉ……そうなのよぉッ!」
 ──子供の時のような異常な敏感さもなくて、じっくりと、しっかりと……
「んんんああああぁぁぁぁッ!……もう少し……もうちょっとぉぉッ!」
 ──君の強い圧迫にも耐えて、いまにも達しそうになって悶える君を……
「あぁッ! もうッ! もう来るッ! もう来ちゃうぅぅッッ!!」
 ──ついに達してしまった君を、こうやって、受け止めてあげることができるんだ。
4394-3 Malon VI (17/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:20:46 ID:y92DM/TJ
 いまだ止まらぬ快感の余波に、大きく息を喘がせながら、マロンはリンクの下で、仰向けの
身体を弛緩させていた。
 慎みという抑制を振り切った解放感、七年という時を隔ててリンクをおのれの中に迎え入れた
感動、挿入直後から一気に突っ走った爽快さ、そして最後に訪れた圧倒的な絶頂が、マロンから
あらゆる思考を、あらゆる言葉を奪っていた。
 やがてリンクが身を起こし、それがようやくマロンの意識を動かした。
 大丈夫だった。痛くも苦しくもなかった。ただただ快いだけだった。リンクがそうしてくれたんだ。
ああ、リンク、あたし、あたし……
 そのリンクは、なおも逞しさを失わず、マロンの内奥で息づいていた。
 なら……もう一度……
 いったん開花した欲情はとどまることを知らず、再びマロンを炙り始める。
 その時、急に身体が浮き上がった。リンクに両脇を持たれ、上体を起こされたのだ。と思うと、
リンクは後ろへ倒れ、マロンは仰向けのリンクの上に跨る形となった。結合は保たれたままだった。
「動いてごらん」
 リンクの言葉に、一瞬、はたと当惑する。
 動く? あたしが? この格好で?
 が……
 マロンの身体が動き始める。ゆっくりと……上へ……下へ……円を描いて……
 どうして……どうしてこんなに自然に動けるの……
 こんな格好でしたことなんかないのに、こんなやり方があるなんてことさえ知らなかったのに、
どうしてあたしは……こんなに……こんなに……
「あッ!」
 リンクが下から突いてくる。あたしの動きに合わせて、あたしを貫くあれ、あれ、そう、ペニス、
ペニス、ペニスを突き動かして!
 快感が高まってゆく。高まってゆく。
「リンク……リンク……もっと……もっと……」
 もっと速く……もっと強く……
「……はぁッ!……リンク……はぁッ!……んぁん!」
 激しく摩擦を続ける二人の連結点で、
「……はぁッ!……リンクぅ……あたしに……はぁッ!……はぁッ!」
 快感が渦を巻き、湧き上がり、沸騰し、
「あたしに……んぁんッ!……あなたを……ちょうだああぁぁぃぃぃぃ……」
『何を言ってるの、あたし』
 わずかに残る理性が、ふと羞恥心を取り戻させ……
 でも……でも……
 それがあたしのして欲しいこと。ほんとのあたしが望んでいること。七年間、ずっとずっと
思ってきたこと。そうよ、あたしは七年間、ずっとこうやるしかなくて──
 手が自らの急所に伸び、腫れ上がったしこりを、ぐっと……
「ひいぃぃぁぁぁッッッッ!!」
 どん! と叩きつけられるような衝撃。もう止まらない。あそこも、指も。
 さらに胸をつかまれる。
「くううぅぅぅぁぁぁッッッ!!」
 触って……触って……あたしを……もっと悦ばせて……
 リンクの手が、指が、乳首を、乳輪を、豊かな両の乳房全体を、優しく、激しく……
「あああぁぁぁんッ!……リンク……リンク……リィィンンクゥゥゥ……!」
 ──嬉しい、気持ちいい、感じる、素敵、だから、だから、だから!
「ひぃッ!……ひぃッ!……リンク……はああぁぁぁぁッッ……!」
 ──来て、来て、来て、あたしの中で、あたしをいっぱいにして!
「リンクぅ……リンクぅぅぅぅぁぁぁぁあああああッッッッッ!!」
 ──欲しい、欲しい、欲しい、だけど、ああ、だけどあたし、あたし、あたし!!
「来るぅ!……来るわぁぁッ!……もうッ!……もうだめええぇぇぇッッッッ!!!!」
4404-3 Malon VI (18/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:21:30 ID:y92DM/TJ
 激しい上下動を繰り返していたマロンの身体が突然止まり、全身の筋肉が引き絞られる。
 再度の絶頂ののち、力を失って前に倒れるマロンを両手で支える。身を起こす。抱きしめる。
胸に手を残したまま、口で口を塞ぎ、舌を送りこむ。前に体重をかけ、マロンの背をベッドに
押しつける。
「あ……あ……あぁぁぁん……」
 マロンが悩ましい声をあげる。
 まだ燃え尽きない旺盛な欲情に感嘆しつつ、それをおのれの欲情に転化させ、ここまで
耐えたのだから、ここまで見届けたのだから、もう我慢してはいられない、もう自分をとどめては
いられない、君の欲しがっているものを、君が望んでいるものを、いまこそ君にあげようじゃないか!
 突く。突く。突く。突く。
「うッ!……うッ!……うッ!……うッ!……」
 マロンの口が短く規則的な呻きを漏らす。
 さらに突く。突いて、突いて、突いて突いて突いて──
「うぁッ!……リンク!……すごい!……うぁッ!……」
 呻きが妄言にかわってゆく。
 強く強く強く速く速く速く突いて突いて突いて──
「うぁぁッ!……はぁぁッ!……んぁぁッ!……おぁぁッ!……」
 意味不明となった叫びが響きわたる。
 これ以上は不可能な強さと速さで突いて突き刺して突きまくって──
 ──ああ、もう限界だ、マロン、いいかい?
「いいわ!……いいわ!……リンク!……来てぇぇッ!」
 ──いいね? いくよ? いいんだね? 
「そうよ! いいのぉ! いいのよぉぉッッ!!」
 ──じゃあいくよ! いまいくから! 君の中でいかせてもらうよマロン!!
「んぁぁッッ!! 来てぇぇぇッッッ!!!」

 とうとうリンクが到達する。次から、次へと、リンクの命が放出される。
「……い……く……う……ぅ……ぅ……ぅ……」
 その命を受け取りながら、マロンもまた、この上なく深い絶頂に達し、両脚が高々と持ち上がり、
組み合わされ、ぐっとリンクを自分に押しつけ、この幸せをできうる限り長く保っていたいとでも
言うかのように……
 ああ……リンク……あなたは……一緒に……
『……いって……くれたのね……』
 マロンの頬に、究極の恍惚が微笑みとなって浮かんだ。
4414-3 Malon VI (19/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:21:59 ID:y92DM/TJ
 リンクの胸に顔をもたせかけ、マロンはぼんやりと思いにふけっていた。
 こうやって、いつまでもリンクと触れ合っていられたら、どんなにいいだろう。
 それは、しかし、かなわないこと──と、マロンは理解していた。
『リンクは世界に出て行く人……』
 子供の頃から、ずっと旅をしているリンク。ひとつ所にとどまることなど、ありはしないのだ。
 でも──と思いは旋回する。
 そういえば、リンクの旅の目的とは、何なのだろう。
 前に聞いたことがある。リンクには使命があると。世界には悪いことが起こり始めていて、
リンクはそれを防がなければならないのだと。
 リンクの言ったとおり、世界は悪の手に落ちた。リンクには防げなかったのか。いや、リンクは
いまも、その悪と戦っているのか。
「ねえ、リンク」
 そっと、訊ねる。
「この世界って、これから、どうなるのかしらね……」
 間をおいて、リンクが答える。
「よくなるよ」
 静かな、けれども力のこもった声だった。
「ぼくがよくしてみせる」
 リンクが?
「世界を闇に落としこんだ、あのガノンドロフを、ぼくは倒す。そして、この世界に生きている
人たちの幸せを、取り戻してみせる」
 ガノンドロフを倒す? あの魔王を?
 そうなのね。リンクは、やっぱり、悪と戦っているのね。
「実は、それはもう、うまくいき始めているんだ」
 リンクがあたしを見る。あたしを慈しむような、その目。
 あたし? そうね、確かにあたしは、リンクと知り合えて、リンクに抱かれて、とても幸せだわ。
「頑張ってね」
 頬に手を触れ、ささやきかける。
 リンクが旅の空の下で、どんなことをしているのか、あたしは知らないけど、きっとリンクなら、
この精悍な顔、この引き締まった口元、そして、すべてを見とおすようなこの力強い眼差しで、
まっすぐに未来を目指して、戦っているに違いない。
4424-3 Malon VI (20/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:22:45 ID:y92DM/TJ
 それだけかしら──と、寂しくも微笑ましい思いが湧き起こる。
 これほどあたしを夢中にさせてくれたリンクだもの、戦い以外のことだって、ずいぶん経験を
積んでいるんじゃないの?
 リンクが身体をずらし、胸に顔を埋めてくる。手でさわさわと触れながら。
「あたしの胸、どう?」
「気持ちいい。張りがあって、大きくて」
「そんなに大きい?」
「大きいよ」
「他の人よりも?」
「ああ」
 思ったとおり。
 ぼんやりしてて気がついてないみたいだけど、リンクは白状した。他の女の人の胸がどれくらいの
大きさなのか、リンクは知っているんだわ。
 いいじゃない──と、マロンは思う。
 あたしが初めてリンクとセックスした時、リンクはすでにセックスを知っていた。リンクが他の
誰とセックスしてたってかまわない。たまに来て抱いてくれたら、あたしはそれでいいの。
 だけど──と、今度は心を強くする。
 いまはあたしと一緒にいるんだから、あたしの方を向いててくれなきゃだめよ。
 リンクのペニスを握ってやる。萎えてしまったそれは、握ったくらいでは力を取り戻さない。
それなら、と身体を動かし、股間に顔を寄せる。
「マロン……」
 戸惑ったようなリンクの声を聞き流し、口に含む。舌で舐める。唇をすべらせる。それは
ぐんぐん硬さを増してゆく。
『やったわ』
 と、ほくそ笑みながら、不思議な思いも浮かんでくる。
 初めてのことなのに、いままで経験もないことなのに、どうしてあたしはためらいもなく、
男のペニスを平気でくわえられるのだろう。リンクの物なら、という理由もある。リンクだって
あたしのあそこを口でしてくれたから、という理由もある。けれど、それだけじゃない。そう、
さっきリンクに跨ってした時も、同じように感じた。初めてのはずなのに違和感のない行為。
「あ──」
 思いが破られる。身を離したリンクが、あたしをうつ伏せにして、腰を持ち上げて、後ろから、
ああ、後ろから──
「あ! ああッ!」
 再び高ぶりきった、硬い、硬いそれを──
「あうぅッ! くッ! ぅあッ! あ! ああああぁぁぁッ!」
 一気に膣に挿れてきて、腰を叩きつけてきて、奥をずんずん突きまくってきて!
 馬みたいな、牛みたいな、動物みたいな格好であたしたちはいま交わっていて!
 やがて胸までもリンクの両手に明け渡し、またも沸騰し始めた欲情の坩堝へと、マロンは
ひたすらにおのれを投じていった。
4434-3 Malon VI (21/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:24:22 ID:y92DM/TJ
 傍らで動くものの気配がし、リンクは目を開いた。マロンが身を起こしていた。
「もっと寝てていいのよ」
 微笑みながら言い、マロンはベッドから離れ、服を着始めた。
「君は?」
「朝御飯の仕度をするわ。お掃除とお洗濯もあるし」
 窓を見る。外は明るくなりかかっているが、まだ日の出の刻にはなっていないだろう。マロンは
いつもこんなに早くから起きて働いているのか。
「ぼくも起きるよ」
 リンクもあわてて床に降り、着衣した。
 手伝おうという提案は、初め、笑って拒否されたが、重ねて主張した結果、
「じゃあ、母屋の前を掃いてくれる?」
 と箒を渡された。リンクは戸外に出、言われた仕事をした。目の前の馬小屋からは物音が
しており、インゴーも早朝から仕事をしているのだ、とわかった。
 掃除を終えてから、馬小屋へ入ってみた。
「よう」
 馬に餌をやっていたインゴーが、短く声をかけてきた。
「おはよう」
 こちらも挨拶する。インゴーは馬に目を戻し、給餌を続けながら、にやりと笑って言った。
「ゆうべはお楽しみだったか?」
 どきっとし、同時に、その品のない発言が気に障ったが、インゴーは平然として言葉を続けた。
「お嬢さん、ちょいと、はしたねえとこはあるんだけどよ、明るくって優しくって、いい人だよ。
おめえもそう思うだろ?」
「うん」
 思わず頷いてしまう。
「お似合いの相手がいてくれたらなって、俺はいつも思ってんのさ」
 インゴーがちらりと視線を送ってくる。
 リンクは返事ができなかった。
 目の前にいるのは、マロンを虐待していた、あの世界のインゴーとは別人なのだ、とわかっては
いても、あまりの違いに戸惑いを禁じ得ない。それに、いまのインゴーの言う意味は……
「おめえもあちこち旅をしてて、いろいろと忙しいんだろうがよ、ちょくちょく会いに来て
やっちゃあくんねえか?」
 インゴーの真面目な声、真面目な表情には、マロンを案ずる真情が明白に滲み出ていた。
さっきの下品な発言も、もう気にはならなかった。
「わかった」
 使命を負った自分が、この先、マロンに対して、どれほどのことができるのか、と、不確かな
思いは残る。けれども自分にできる限りのことを──と、リンクは心の中で約すのだった。
4444-3 Malon VI (22/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:24:58 ID:y92DM/TJ
 朝食のあと、お茶を飲みながら二人で続けていた他愛のない会話にも区切りがつき、リンクは
マロンに出立を告げた。マロンは一瞬、眉を落としてうつむいたが、すぐに顔を上げ、晴れやかな
笑みをそこに満たした。
「リンクはこれからも旅をして、遠い所まで行くんでしょ?」
「ああ」
 頷くリンクに、
「ここにいて」
 と言い置き、マロンは母屋の戸をあけ、外に姿を消した。出発の準備を調え、しばらく待つ
うちに、再び戸が開かれ、マロンが手招きをした。戸外に出てみると、そこには馬具一式を
装備したエポナが立っていた。
 笑みを浮かべたまま、マロンが熱心な口調で言った。
「エポナを連れていらっしゃいよ」
「え? でも……」
「そうしなさいよ。旅をするには、馬は絶対必要なんだから」
 マロンの未来が変わったこの世界では、エポナの未来も変わっていた。リンクに譲られることには
ならず、ずっと牧場に居続けていた。あの世界で親友になったエポナと一緒にいられないのは
残念だったが、それも運命──と、リンクは、これから先、一人で旅をする覚悟を固めていたのだ。
 ここでエポナを譲ってもらえるなら、とても助かる。が、エポナはマロンの親友でもあるのだ。
ほんとうにかまわないのだろうか。
「インゴーさんも賛成してくれたわ。実は──」
 先日やってきたゲルド族が、エポナを欲しがるような態度を示していた。いずれ必ず、エポナを
よこせと言い出すだろう。そうなったら無下には断れない。奴らに渡すくらいなら、リンクに
乗ってもらった方がずっといい。リンクはエポナを充分に乗りこなせるし、エポナも喜ぶだろう
から──とマロンは語った。
 そういうことなら──と、リンクはマロンの手を握り、素直に好意を受け取るべく、短い言葉に
思いをこめた。
「ありがとう」
4454-3 Malon VI (23/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:25:41 ID:y92DM/TJ
 マロンは、はっと胸をつかれた。返事ができなかった。
 リンクはエポナに近寄り、親しげに話しかけながら、ひらりとその上に跨った。身に広がる
小さな震えを感じながら、マロンはただリンクを見ていることしかできなかった。
 ありがとう。この単純な言葉。
 いつも何気なく使っているこの言葉が、いまはどうしてこんなにあたしを揺り動かすのだろう。
そう、この言葉について、何か大きな印象を得るような経験を、つい最近、あたしは、したのでは
なかったか。
「また来るよ」
 馬上からのリンクの声が、再びマロンの意識を揺らす。
「ここはエポナのふるさとなんだし、それに……ぼくも……」
 言葉が消える。その先を、しかしマロンは聞きただそうとは思わなかった。
 あたしが望む言葉が、リンクの心にはある。そう信じられれば、これ以上、求めるものなど
何もない。リンクの「また来るよ」という言葉。それであたしには充分なの。
 リンクがエポナの脚を前に送る。マロンも横について歩を進める。門の所でエポナを止めた
リンクは、はにかんだような表情を、いかにも邪気のない笑みに変え、優しい声で言った。
「じゃあ」
 マロンもまた、微笑みながら応えた。
「またね」
 リンクはマロンに軽く手を上げて見せ、門をくぐり、ハイラル平原へとエポナを歩み出させていった。
 エポナが向かう方角に、マロンは怪訝な思いを抱いた。
 南へ行くのね。東じゃなくて。
 その思いが、さらに怪訝な思いを呼び寄せる。
 どうしてあたしはリンクが東へ行くと考えたのだろう。誰に言われたわけでもないというのに。
 何かを思い出せそうな気がする。なのに、どうしても思い出せない。
 自らの記憶の奇妙な曖昧さを、あれこれと吟味するうちにも、リンクの後ろ姿は、南へと下る
緩やかな斜面の上を、少しずつ、少しずつ、遠ざかっていった。広大なハイラル平原の中で、
それはごく小さな一点でしかなかったが、その安定した歩みと、まっすぐに伸びた背筋が、
目に見える以上の大きな存在感を表出している、と、マロンには感じられるのだった。
 リンクは行く。今日も暗雲に覆われる、この荒みきった世界を救うために。悪を討ち果たし、
人々の幸福を取り戻すために。
 荒唐無稽ともいえるその意志を、あたしは素直に酌み取れる。なぜなら、リンクは──
 唐突に頭に浮かぶ一つの文言。
 これは何? まるで記憶のどこかに埋もれていたかのような……あたしは夢でも見たのかしら……?
 惑いながらも、身は自然に動く。地に跪き、両手を組み、頭を垂れ、不思議に暖かな心持ちで、
マロンはその言葉を口にした。
「神よ、勇者を護りたまえ」
4464-3 Malon VI (24/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:26:41 ID:y92DM/TJ
 リンクはゆっくりとした歩調で、エポナを南へ進ませていた。マロンを不幸な境遇から救い出す
ことができたという喜びと満足感、そして、そのマロンとの情熱的な一夜の余韻が、リンクの心を
浮き立たせていた。
 ただ一方で、心にはかすかな翳りも差していた。
 過去に旅立つ前、ぼくがマロンに会い、初めての体験をした──という、ぼくにとっては
感動的なできごとが、マロンにとっては、なかったことになってしまった。その思い出を
共有できないのは、何とも寂しい。
 だが、「なかったこと」でもかまわない。マロンが自らの不幸な境遇を知らずにいられるのなら、
それに越したことはない。思い出はぼく一人がひっそりと守ってゆけばいい。
 翳りを振り払い、今後のことに思いを向ける。
 シーク。
 ぼくの過去での行動は、確かに未来を変化させた。シークの考えは正しかった。この成果を
早く伝えて……
『待てよ』
 リンクの胸はどきりとした。その時になって初めて思いついた。
 変化をきたしたこの未来の世界で、かつてのマロンとの出会いは「なかったこと」になった。
では、シークについてはどうだろう。南の荒野で会った時、シークはぼくのことがわかるだろうか。
いや、そもそも南の荒野でシークに会えるのか。ぼくがシークと知り合ったこと自体が「なかった
こと」になっているのでは? それどころか、ぼくが時の神殿で目覚めてからの、三ヶ月あまりの
できごとが、すべて「なかったこと」になっているとしたら?
 激しい動揺に襲われる。が……
 そんなはずはない。ぼくはゼルダの耳飾りを持っている。三ヶ月の旅の間に、あの泉で拾った
ものだ。シークに関しては……
 あわただしく懐をあらためる。シークに貰った剃刀が、そこにあることを確認する。同時に、
過去から帰ってきた時、マスターソードの台座のそばには蝋燭があったこと、その蝋燭は、やはり
シークから貰ったものであることを思い出し、リンクは大きく息を吐いた。
 未来が変化したといっても、変化したことと、変化しなかったことがある。シークとの出会いは、
変化しなかったことだ。
 安堵しながらも、懸念を完全に払拭したいと心は逸り、リンクは南の荒野に向けてエポナを
急がせていった。
4474-3 Malon VI (25/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:27:20 ID:y92DM/TJ
 四日後の夕刻、リンクは南の荒野に到着した。目的地の洞窟は、多数の岩がそそり立つ、足場の
悪い所にある。リンクはエポナから降り、轡をとって、足元を確かめながら、注意深く歩を進めた。
 シークは洞窟の前で焚き火の仕度をしており、リンクが近寄っていくと──接近していることは
とうに気づいていたのだろう──驚いた様子もなく、悠然とふり向いて、声をかけてきた。
「思ったより早かったな。僕もついさっき着いたばかりなんだ」
 いつもと同じ平静な声だった。その調子にほっとしたが、
「ぼくのことがわかるんだね」
 と、念を押さずにはいられなかった。シークはにっこりと笑い、諧謔味の感じられる口調で言った。
「わかるさ。けれども、そう言うところをみると、過去の改変が未来にどういう影響を及ぼしたか、
君はもう経験したようだな」
「うん。でも、君こそ、そう言うところをみると、ぼくが無事に過去へ行ってこられたと、
よくわかっているみたいだね」
「ああ。だが詳しい話はあとにしよう。まずは腹ごしらえだ」
 シークは焚き火をおこす作業に戻り、リンクはそれを手伝った。
 草の一本も生えていないここでは、エポナに食事をさせることはできなかった。気の毒だったが、
事態を予想し、ここに着く少し前、草のある場所ですでにたらふく食わせていたので、エポナには
翌朝まで我慢してもらうことにした。近くの小川へ赴き、水だけは充分に与えておいた。
 夕食の準備が調い、二人は焚き火の前に腰を下ろした。手持ちの食料に加え、シークが獲ていた
野禽が焼かれ、二人の胃に収まった。食事が一段落したところで、改めてシークの口が開かれた。
「では、まず君の話を聞こうか。七年前の世界は、どうだった?」
 リンクは過去への旅の内容を語った。コキリの森でサリアに再会し、森の神殿に隠れて
ガノンドロフの襲撃を避けるよう伝えたこと。途中でロンロン牧場に立ち寄り、マロンに
会ったこと。その出会いが七年後のマロンの運命を一変させていたこと。二人の女性との微妙な
経緯まで告白するのは憚られたが、それ以外については思いつく限り、詳細を話して聞かせた。
「──そんなわけで、マロンの未来は変わった。で、サリアはどうなんだ? サリアは無事に
生き延びることができたのか? 君は知っているんだろう。教えてくれ!」
 抑えてきた欲求を解き放ち、リンクは勢いこんでシークに詰め寄った。シークは感情を面に
現さず、奇妙な回答をした。
「サリアは、無事だともいえるし、そうでないともいえる」
 はぐらかすようなシークの言葉に、頭が混乱する。
「……どういうことだ?」
 シークはすわりなおし、リンクをじっと見据え、落ち着いた声で言い始めた
「君の過去での行動は、実は大して現状を変えてはいない。ガノンドロフが世界を支配し、賢者を
滅ぼしてしまった、という大筋はそのままだ。が、大きく変わった点もある。それがコキリの森の
情勢だ。詳しいことは、今後、君自身の目で確かめられるだろうが──」
 そう前置きし、シークは淡々と話を続けていった。
 三年間の修行を終えたシークは、まずハイリア湖へ、次にカカリコ村へと赴き、荒廃した世界の
状態を目の当たりにした。デスマウンテンの大噴火とゾーラの里の氷結が、ゴロン族とゾーラ族を
それぞれ滅亡させており、ゲルド族の軍門に下ったカカリコ村も、荒れた雰囲気となり果てていた。
そこまでは改変前の歴史と同じである。しかし次いで訪れたコキリの森は、見渡す限りの
焼け野原となっていた改変前とは異なり、その外郭が焼失しただけで、中心部は焼けていなかった。
 シークは森に潜入した。コキリ族は生存していた。外部の人間を知らない彼らを慮って、姿は
見せず、こっそりと話を聞き取った。それによると──
 ゲルド族の反乱が起こってからほぼ一年後のこと。コキリ族たちは、森の外に黒煙が上がるのを
見た。サリアは急遽、森の神殿へと走り、その中に入っていった。煙はそのうち見えなくなり、
森は焼亡を免れたが、サリアは神殿に姿を隠したまま、現在に至るまで戻ってこない──
4484-3 Malon VI (26/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:28:04 ID:y92DM/TJ
 シークの話は終わった。リンクは釈然としなかった。
 ぼくが指示したとおり、火事が起こったのを知って、サリアは森の神殿に身を隠したのだ。
それはいい。だが、その後、サリアはどうなったのか?
 火は森の中心部までは及ばず、コキリ族の仲間たちも無事だという。それもいい。実に喜ばしい
ことだ。だが、火事がガノンドロフの仕業であることは疑いないのに、どうしてガノンドロフは、
森の外郭を焼きながら、奥まで侵入しなかったのか?
 シークに問いただしてみた。シークは、やや間をおいてから、冷静な口調で言った。
「森に結界が張られたのだ、と思う」
「結界?」
「ガノンドロフや、他のゲルド族の侵入を阻むような結界だ」
「誰がそれを?」
「サリアだ」
 リンクは二の句が継げなかった。シークが説明を補完する。
「サリアが森の神殿に入った結果、ガノンドロフの侵入が阻止された。神殿で何らかの力を得た
サリアが、森と自らを守るために結界を張ったとしか考えられない」
「何らかの力って……すると、サリアは『森の賢者』として覚醒したというのかい?」
 驚いて問う。
「完全な覚醒ではないと思う。前にも言ったように、時の勇者としての力を発揮できない子供の
君には、できないはずのことだからだ。それでも、神殿という場が、サリアに……何というか……
半覚醒──とでもいうような状態を引き起こしたんじゃないだろうか」
「半覚醒……」
 リンクは茫然とその言葉を繰り返した。シークの説明は続いた。
「完全な覚醒ではない、という理由は、他にもある。結界の力が、最近は弱まっているようなんだ」
「弱まっている?」
「森の中に、いろいろな魔物がはびこるようになった。明らかにガノンドロフの魔力のせいだ。
いまだに奴自身は森へ入れないが、結界を弱体化させて、魔物を送りこむことはできたんだ。
その数は徐々に増え、いま、コキリ族の生活は危機に瀕している。おそらく神殿にいるサリアの
身にも、危険が迫っているに違いない」
「ということは……いまこそ──」
「そう、いまこそ!」
 シークが声を強めた。その先をシークは言わなかったが、リンクはおのれのなすべきことを
完全に理解していた。
 いまこそぼくは森の神殿を訪れ、賢者としての完全な覚醒を、サリアにもたらさなければ
ならない。サリアはぼくを待っている。半ば目覚めた状態で、半ば眠った状態で、精いっぱいの
力で森を守りながら、迫り来る危険と戦いながら、サリアはぼくを待っているのだ!
 しかし──と、高揚する心が引き戻される。
「賢者を覚醒させる方法が、わからないままだけれど……シーク、君は何か思いついたかい?」
 シークは眉を寄せ、やや沈んだ声になった。
「それは……僕にもわからない。だが──」
 リンクを、そして自らをも励ますような調子で、シークは言葉を続けた。
「サリアが賢者として半覚醒の状態なら、君がサリアに会えば、その方法もわかるんじゃないだろうか」
「そうだな……」
 答えながらも、自分自身が解決の糸口を握っているような気がして、リンクは頭の中で思考を
敷衍させようとした。が、その試みはシークの新たな発言によって遮られた。
4494-3 Malon VI (27/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:28:57 ID:y92DM/TJ
「もう一つ問題がある」
「もう一つ?」
 問い返すリンクに対し、冷静に戻ったシークの声が応じた。
「神殿の入口の扉が閉じられている。これも改変前とは異なっている点だ」
 思いがけない変化。
「それでサリアの身が守られているわけだ。魔物を防げるかどうかは疑問だがね。少なくとも僕は、
何度か森の神殿を訪れたけれども、中へは入れなかった」
「じゃあ……ぼくはどうやって神殿に入ればいいんだ?」
「考えがある」
「どんな?」
 一呼吸おき、シークは短く言った。
「『森のメヌエット』」
「あ──!」
 神殿の前にあるゴシップストーンがもたらしたという、神殿に何らかの関わりがあるという、
あのメロディ。あれはこういう場面で、神殿の扉を開くための鍵だったと! 『時の歌』が
『時の扉』を開くための鍵であったように!
「僕の竪琴では、効果はなかった。だが勇者である君の『時のオカリナ』なら、神殿の扉を開く
ことができるだろう」
 リンクは大きく頷いた。シークの言に深く納得できた。さらに、自分が封印されていた間の、
言葉に尽くせないほどのシークの苦労が、ここに至ってやっと報われることになったのだ、と
理解され、リンクの心は改めて、シークへの感謝の念に満たされた。
 過去のことばかりではない。いまもシークは、改変前と改変後の歴史を対比させて、理路整然と
ぼくに説明してくれた。さもなければ、時を越える旅によるさまざまな変化を受け入れるのに、
ぼくはかなり難儀することになっただろう。
『え?』
 そこで初めておかしいと気づいた。
 マロンは改変後の歴史だけしか知らなかった。改変前の歴史の記憶は、全く頭にないようだった。
なのに──
「シーク、君はなぜ……改変前と改変後の、両方の歴史を知っているんだ?」
 かすかな笑みがシークの顔に浮かんだ。
「君の疑問はもっともだ。順を追って説明しよう」
 そこで真顔に戻ると、シークはリンクの方に身を乗り出し、ゆっくりとした口調で話し始めた。
「君の過去での行動が世界を変えた。しかし変えたといっても、元の世界がなくなってしまった
わけじゃない。言うならば、新たな世界が枝分かれをし、平行した二つの世界となって、これまで
ずっと時を経てきたんだ。ここまではわかるか?」
 必死でシークの話を追いながら、リンクは自分の頭を整理させた。
 コキリの森が全焼してサリアが命を落とし、マロンが虐待されていた、改変前の世界。過去に
戻ったぼくがサリアとマロンに会ったことで、そこから新しい世界が生まれた。コキリの森が
焼け残ってサリアが森の神殿に逃れ、マロンが平和な生活を保っているという、改変後の世界だ。
その二つの世界が、別個のものとして存在していると。
「わかるよ、何となくだけれど」
 あやふやな思いで答える。頷いたシークが話を再開する。
「二つの世界は別々だから、本来、一方の世界にいる人物が、もう一方の世界の状況を知ることは
できない。事実、改変後の世界にいる僕は──いま君の目の前にいる、この僕のことだが──
さっき話したように、サリアは森の神殿に姿を隠し、コキリの森はガノンドロフの侵略を免れた、
と認識していた。それが唯一の現実だった。五日前までは」
4504-3 Malon VI (28/28) ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:29:51 ID:y92DM/TJ
 五日前?
「五日前の夜、僕は平原で野営していたんだが、突然、僕の頭に、それまで認識していたのとは
異なる、別の記憶が現れたんだ。その記憶では、コキリの森はガノンドロフによって焼き払われ、
コキリ族は全滅し、サリアも死んだことになっていた。初めて意識した内容なのに、僕はその
歴史を実際に経験した、と確信することができ、すべてを理解した。これは過去でのリンクの
行動の結果だ、僕はいままでリンクによって改変された世界で生きてきたんだ、いま頭に浮かんだ
記憶はリンクが過去に戻る前の、改変前の世界のものなんだ──とね」
「五日前の夜というと……ぼくが過去からこの世界に帰ってきた時だ」
 シークの奇怪な話に驚きながらも、その奇怪さを解決に導くだろうと直感される点を、リンクは
思わず指摘していた。得心したように、シークはまたも頷いた。
「やはりな。僕もその時、これは君が過去から帰ってきたということだ、と思った。僕がそれを
感じた際、地震のような揺れを脚に感じたんだが、君はどうだった?」
「ぼくも感じた! マスターソードを抜いて、この世界に帰ってきたとわかった瞬間、脚が揺れる
感じがしたよ!」
「その時──」
 シークが厳かに言った。
「君がマスターソードを台座から抜いた時──正確には、その過去の側ではなく未来の側の時点で
──二つの世界が統合されたんだ」
「統合?」
「改変前の世界が、改変後の世界に吸収された──と言った方が適切かな。まさにその瞬間、
改変前の世界の記憶が、改変後の世界の僕に宿ったわけだから」
 感動的な心のうねりが、リンクの身体を震わせた。
 マスターソードを台座に戻せば、ぼくは過去に戻れる。過去での行動は新たな世界を生むが、
マスターソードを台座から抜けば、ぼくが未来へ帰るとともに、複数となった平行世界が一つに
統合される。何と完結的なマスターソードの作用!
 しかし、まだ疑問は解決していない。
「改変前の世界の記憶が宿るのは、君だけなのか? マロンや……それにインゴーも……改変前の
世界のことなんか、全然覚えていなかったけれど……」
「いや──」
 シークが首を横に振った。
「世界全体が統合されたのだから、改変前の世界の記憶は、あらゆる人に宿るはずだ。ただ、
それは記憶の奥底に封じられて、意識の上には浮かんでこないんだろう。さもないと記憶が
混乱して──僕も初めはそうだったが──まともに生きてはゆけなくなるだろうからな」
 リンクは心が安らぐのを感じた。
 改変前の世界での、ぼくとマロンの関係。マロンにとって、それは「なかったこと」ではなく、
ただ思い出せないだけのことなのだ。マロンの記憶の底にしまわれている、確かな事実なのだ。
そう思えば、あの心の翳り、あの寂しさも、充分に癒されて余りある。
 だが──と疑問に戻る。シークの説明は不充分だ。
「君の場合は、改変前の世界の記憶が封じられないで、意識の上に浮かんでいるね。それは
どういうわけなんだい?」
 シークは沈黙した。ほとんど無表情だったが、目にはかすかな感情がうかがわれた。
 ややあって、シークはおもむろに口を開いた。
「それは僕にもよくわからない。考えられる理由は、僕が時の勇者である君のそばにいて、君を
助ける立場にいるから、というものだが……」
 言葉は消えるように途切れた。シーク自身も納得していないような感じだった。
 改変前の世界の記憶を意識してしまえば、記憶が混乱し、まともに生きてゆけなくなるだろう
──とシークは言う。シークはその混乱を実際に経験している。両方の世界の記憶を自然に持つ
ぼくには実感できないが、まともに生きてゆけないというほどの混乱を、シークは甘受し、
消化してゆかなければならないのだ。それも、シークという人物の、使命の一環ということ
なのだろうか。
 シークが目を伏せていた。膝の上に置いた、自分の右手を見ているようだった。意図は
酌み取れなかったが、シークが持つ峻厳なまでの固い意志を、その態度は物語っている、と、
リンクには思われるのだった。


To be continued.
451 ◆JmQ19ALdig :2007/10/28(日) 20:31:41 ID:y92DM/TJ
以上です。スレの残り容量を僅少にしてしまいました。すみません。
Malon IV からの引用は、例によって意図的なものです。
>>425-426はひと続きです。間に抜けはありません。
時間移動の現象面は原作に準拠しましたが、もともと原作に矛盾点があり
さらに過去改変という独自設定を加えたことで、どうしても不自然な点が残ってしまいました。
そのあたりは敢えて描写をぼかしていますが。
452名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 21:20:33 ID:3JTbduvp
いきなり来てたー
いつもお疲れさま。
453名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 21:59:11 ID:hvjYthxR
乙です!!!
454名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 00:51:19 ID:F9lm1oBL
いつもながら素晴らしい!GJ!

そうか、時オカはファンタジーじゃなくSFだったのか・・・
455名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 01:11:01 ID:A66VWQ/r
GJ

SFだろうがファンタジーだろうが関係ない。
◆JmQ19ALdig氏の作品が面白いというだけで充分だ。
456名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 02:20:06 ID:RIdTMmLX
GJ!

場面転換に一瞬戸惑ったが、
ここ(地震)で話が枝別れしたんだな、と理解した
457名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 03:59:03 ID:i+xpUaaH
エロ小説を15年以上読んできたのに
まるで生まれて初めてエロ小説を読むような瑞々しい恥ずかしさとドキドキに
つつまれてしまった…この得がたい読書体験には
3日間の全裸正座など比ぶべくもない! 毛布等のさしいれもあったしアッー!

ロリルト姫とのアナルセクロスキボ(ryアッー!
458名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 09:22:39 ID:uxQaIFnZ
GJ!!

時間の差がなんだかややこしい事になってきたみたいですが、
後編の説明で納得しました!!
不自然な点?特に気になるところはなかったですよ!!

あと、>>457も乙w
459名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 13:03:45 ID:E2lsVfv+
GJ!かなり上手く時空問題を片付けたのでは?一つの行動が波及して因果を書き換えて行くあたりはさすがに時の勇者。ファンタジー的にどうにでもなるものを極力SF的に処理したところもお見事。
牧場を守り抜いたインゴーに拍手。森の神殿wktk。
>>457乙。超カオスwwwww
460名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 20:43:32 ID:LV35OwYb
GJ!!
マロンがちゃんと救われていて本当に良かった!地震後の四つんばいや鞭の下りは流石
インゴーは、ゲーム中のエポナを巡るレースでかなりイラつかせられたが、
この作品の中の彼を見ていると意外といい奴かもしれないと思えた
シークが変更前と後の記憶を共有しているのは、やはり正体があの方だからでしょうか?w
次も楽しみにしています
461名無しさん@ピンキー:2007/10/31(水) 23:31:58 ID:UELRPbli
次スレ…携帯厨には無理…ガクッ…
462名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 01:11:21 ID:W+VsEQED
保管庫様に依頼出しました。
保管完了まで保守よろ。2・3日に1レス程度でいいと思う。
新スレは誰かお願いします。

あと、保管庫にある自分の過去SSについて削除依頼しました、ご了承ください。
アッシュについては一応書き続けてはいるので、忘れた頃に完結したらあぷろだにでも上げます。
463名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 16:30:11 ID:6ret4Ylo
立てた

ゼルダの伝説でエロパロ 【6】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1193902153/

464名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 11:57:26 ID:N9QDZs0s
保管庫依頼出していたのってアッシュの人だったんか…
465名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 01:28:58 ID:bJG3LrJa
埋め
466名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 18:40:52 ID:8LzltxK6
埋める
467名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 22:31:00 ID:BRACebmX
俺の肉棒で
468名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 22:51:05 ID:6RBwiUf/
全裸ルト姫さまとの再会期待埋め
王女として、結婚するまで処女は守らないとならないとかの理由で
アナルセクロスキボン
469名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 10:05:16 ID:Txe1r/wm
埋め
470名無しさん@ピンキー:2007/11/08(木) 15:25:13 ID:jbWkefR1
埋まった?
471名無しさん@ピンキー:2007/11/08(木) 16:04:07 ID:1IMXNCcL
ゼルダの伝説でエロパロ 【6】
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1193902153/
472名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 04:58:03 ID:Xrz84U8w
埋め
473名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 20:31:02 ID:NgqwZSot
早過ぎた。あまりにも早過ぎたよ次スレ埋め
474名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 01:07:29 ID:OHLiCFFy
全くだな
475名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 02:08:57 ID:5ji3nnBW
でも次スレ立てないとSSが容量的に投下できない感じじゃなかったかな。
476名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 02:55:45 ID:6c74wNwW
そりゃあ一行レスばっかならたくさん書きこめるわな
477名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 06:02:47 ID:dJbWvIAM
やったーエロパロ小説できたよー(^o^)ノ

 ───アタシの名前はゼルダ。心に傷を負ったお姫様。モテカワスリムで恋愛体質の愛されプリンセス♪
アタシがつるんでる友達は森でヒキコモってるサリア、パパにナイショで
働いてると見せかけてサボってるマロン。訳あって不良グループの一員になってるナボール。
 友達がいてもやっぱり城内はタイクツ。今日もサリアとちょっとしたことで口喧嘩になった。
女のコ同士だとこんなこともあるからストレスが溜まるよね☆そんな時アタシは一人で平原を歩くことにしている。
がんばった自分へのご褒美ってやつ?自分らしさの演出とも言うかな!
 「あームカツク」・・。そんなことをつぶやきながらしつこいモンスターを軽くあしらう。
「ギョエェェエエ……ブモオゥォ……」どいつもこいつも同じようなセリフしか言わない。
城下町の男はカッコイイけどなんか薄っぺらくてキライだ。もっと等身大のアタシを見て欲しい。
 「すいません・・。」・・・またか、とセレブなアタシは思った。シカトするつもりだったけど、
チラっとキャッチの男の顔を見た。
「・・!!」
 ・・・チガウ・・・今までの男とはなにかが決定的に違う。スピリチュアルな感覚がアタシのカラダを
駆け巡った・・。「・・(カッコイイ・・!!・・これって運命・・?)」
男は自称勇者だった。連れていかれてオカリナ取られた。「キャーやめて!」ガノンドロフが来た。
「ガッシ!ボカッ!」アタシはシークになった。トライフォース(笑)
478名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 09:21:57 ID:Zc+ldD0y
・・・・・・
(これが噂の「スイーツ(笑)」なんだろうか)
479名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 12:09:35 ID:ToRfb3SN
スイーツコピペwww
480名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 14:09:05 ID:ZEnM9Byx
クソワロタwww
481名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 23:57:39 ID:dJbWvIAM
じゃあ埋めます
482名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 00:01:20 ID:dJbWvIAM
出る出る
ゼルダの伝説!
出る出る出る出るついに出る!
ゴージャス!今度の冒険
リアル!キミもすぐに体験
ハッと息のむ謎解きアクション
なるほど!スーパーファミコン!
知らず知らずと真剣勝負、今宵もゼルダは最高潮!
スーパーファミコンゼルダの伝説出る出る出る出るついにでる〜!

GO!GO!GO!GO!
483名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 00:02:52 ID:BQ5R3kSn
500kb超えました
484名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 00:04:51 ID:BQ5R3kSn
あれ、まだ書き込めるのか。
485名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 01:08:14 ID:R96vrMd2
なかなか埋まらないね
486埋めで。無限の砂時計のフォーチュンで。
壁際に追い詰められたフォーチュンは既に落ちたも同然だった。
口中で暴れる舌に知らず知らず服従し、ドレスの隙間から忍び込んだ手に乳房を弄ばれながら昂揚する身を抑えられなかった。
フォーチュンの腕を押さえつけ自由を奪っていた相手の右手が下着の中に滑り込み、既に濡れ溢れた秘所に強引に潜り込むと蹂躙を開始した。
指の動きに合わせて短い喘ぎ声を上げながらあの夜のことを思い出すフォーチュン。

カシヅクが振り返るとそこには一糸も纏わずに立つフォーチュンの姿があった。
後ずさると、いきなり地面に伏せて土下座し首を横に振るカシヅク。
「フォーチュン様、勿体無うございます。お願いですからわたしのような下賎な者に心を残さないでください。」
「あなた‥わたくしの事が嫌?」
「滅相も無い!ただ、貴女のような尊い方は安易な同情などでわたしごときに汚されてはなりません。いずれフォーチュン様にはもっと相応しいかたが現れるでしょうから。」
「わたくしは‥」
「さあ早く、怪物共に襲われる前に急いでこちらに避難してください。扉の封印はわたしが。いえいえ、心配なさらずとも大丈夫、辺りが安全になれば必ず戻ってきますとも。」
カシヅクはそのまま足早に立ち去って行き、そして2度と戻らなかった。

回想半ばで下着を引きおろされうつ伏せにされ後ろから挿入され歓喜の悲鳴をあげる。
騎乗位に座位にと次々と体位を変えて男に陵辱されながら、蝋燭の灯りに映し出され水晶球に反射する自身の姿を見つめるフォーチュン。
半裸で髪を振り乱し自ら開いた股間に男の物を出し入れされながら上下の口から涎を流して悦びの声をあげるあられもない自分の姿を凝視しながらフォーチュンは思う。
聖女でも女神でもなく、通りすがりの男に簡単に身を任せて快楽に溺れるようなどうしようもない女なのに、どうして彼はわたくしを崇めるだけでただの女として見てくれなかったのだろう?

我知らず一筋の雫がフォーチュンの頬を伝わる。
ひたすら欲を求め激しく突き上げては引き体内を熱く掻き回していたものが、ふいに動きを止める。
「身体は正直だな。口で幾らアンアン言ってても気分は乗ってネェだろ?お前、男に死なれてヤケクソになってるだけじゃネェのか?」
「い‥いいえ。違います。これは‥。どうか気になさらず続けてください。」
「ムチャ言うなぃ。死人の身代わりにされてるって知ったら萎えちまったぜ。」

萎えたと言いながらも、身体を引き起こし仰向けにして再び進入を開始する男に安堵するフォーチュン。

あの時、これも定められた運命だからと、これからカシヅクの身に起きる予感の全てをフォーチュンは納得し受け入れたはずだった。
しかしそれもただの思い込みで、親しかった人を失う痛みに堪えられるほど心は強くなかったと今になって彼女は思い知った。
フォーチュンは気持ちを切り替え心を集中させる。
私は未来を見つめる者。過去を振り返ってはだめ。過ぎた事に心を囚われてはいけない。
彼の死は予定されていた事なのだからもう忘れなければ‥。

乳首を甘噛みしていた唇がそっと離れると、首筋を軽く這い耳たぶを齧りながら
「惚れた男を失って辛いならよ、意地を張らずにいっぱい泣けば楽になるぜ。」と囁いた。

「わたくしに優しくしないでくださいまし。」‥どうか貪欲な獣のようにこの身を喰らい尽くし何もかも忘れるぐらいに滅茶苦茶にしてくださいませ。
「別に、自分を苛めるプレイが望みってわけじゃネェだろ?「『運命だから仕方ない』な〜んて奇麗事を言って痩せ我慢せずに、悲しくて泣きたいなら好きなだけ泣きゃいいじゃねぇか。オレは見てみねえフリをしてやっからよ?」
「悲しむなどとんでもありません。運命とは抗わず受け入れるものなのです。彼は運命に従って天に召されたのですから明るく見送‥」
「バカだろお前?」

ふいに唇を塞がれ優しく髪をなでられる。

フォーチュンを見つめる緑色の瞳の奥に男の未来が一瞬垣間見えた。
凶悪な魔物と対峙し不気味な触手に巻きつかれ苦痛の悲鳴を上げ闇に飲み込まれていく姿と、そして‥。

貴方は未来を知らなければ運命から逃れられると思っているのですか?
たとえ知っても自分なら運命を変えられると本気で信じているのですね。

いつのまにか零れ落ちだした涙は止まらずに歓喜の涙と混ざって零れ続けた。