【2次】漫画SS総合スレへようこそpart63【創作】

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1作者の都合により名無しです
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://changi.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1231456492/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss
2作者の都合により名無しです:2009/03/22(日) 19:39:32 ID:fyg2cq5w0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/49.html (現サイト連載中分)       
1段目2段目・戦闘神話  3段目・VP (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/16.html (現サイト連載中分)       
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/501.html
永遠の扉  (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/552.html (現サイト連載中分)
1・ヴィクテム・レッド 2・シュガーハート&ヴァニラソウル
3・脳噛ネウロは間違えない 4・武装錬金_ストレンジ・デイズ
5・星盗人 (ハロイ氏)
 1.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 2.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 3.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
 4.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/427.html
 5.http://changi.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1231456492/363-367
3作者の都合により名無しです:2009/03/22(日) 19:44:52 ID:fyg2cq5w0
1段目2段目・その名はキャプテン・・・ 
3段目・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない― (邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/259.html (現サイト連載中分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/453.html
ロンギヌスの槍   (ハシ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/561.html  
上・HAPPINESS IS A WARM GUN 下・THE DUSK (塩おむすび氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/608.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/617.html
ジョジョの奇妙な冒険 第三部外伝未来への意思 (エニア氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/195.html  
遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜  (サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/751.html
女か虎か (電車魚氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/783.html
しけい荘大戦 (サナダムシ氏)
 http://changi.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1231456492/350-352
4作者の都合により名無しです:2009/03/22(日) 20:38:52 ID:fEuAGteG0
>>3
しけい荘大戦 (サナダムシ氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/888.html

星盗人(ハロイさま)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/890.html
5ふら〜り:2009/03/22(日) 21:45:11 ID:LVDXT2GU0
>>1(ハイデッカさんが心配ですな)
おつ華麗さまっ! 骨折初体験しかも右肘&仕事が繁忙期突入&またまた転勤しそう……
でしばし沈んでましたが、生きております! 生きてる限り、なんとかしてここには来ます!
長いことSSを描けてないのが申し訳ないですが、いつかいつか必ずやっ。

>>ハロイさん(孤軍奮闘というには充分過ぎる量と質、おつ華麗さまですっっ)
通じて、目に映る風景はふんわり幻想的なのに、聞こえてくる音声は姦しく現実的ですな。
僻地でネットから切り離されて友に会えぬ辛さは、私も味わったなぁとしみじみ。神様でも
妖怪でも人間でも、各種不満や願望に貴賎の別なし……親近感湧きます。そして、ば河。
6作者の都合により名無しです:2009/03/22(日) 22:45:07 ID:NWAzT7VB0
1さんハロイさん乙ですー

ハロイさんの書くキャラは台詞回しが上手いので活き活きとして好きです
神様とか幽霊とかカッパとかなのにちょっと偏差値が低い女子高みたいだw
7作者の都合により名無しです:2009/03/23(月) 07:06:42 ID:rKkiQT2s0
ふら〜りさんは絶対に東方は知らないだろうw
8作者の都合により名無しです:2009/03/23(月) 17:53:05 ID:BJKdXbJJ0
ハロイ氏は現スレこそシュガーハートを復活してくれまいか
星盗人を終わらせたあとで
9作者の都合により名無しです:2009/03/23(月) 22:48:35 ID:Zvd9Wfxw0
1さん乙

一番乗りは誰かな
ハロイさんが一気に星ぬすっとを終わらせるか
10作者の都合により名無しです:2009/03/24(火) 18:54:07 ID:o8ptZpjD0
日本が優勝したから俺も現スレで復活するか!
11作者の都合により名無しです:2009/03/24(火) 18:57:45 ID:+2VM8yjg0
キムチ国が相手だろ?
優勝しても全然嬉しくねえ。
12作者の都合により名無しです:2009/03/25(水) 19:29:36 ID:97t06wDSO
マンコ臭いスレだな
13作者の都合により名無しです:2009/03/27(金) 10:44:51 ID:mD9KKJr40
なかなか来ないな
14遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/03/27(金) 12:12:31 ID:K4K9FCif0
第三十六話「死せる英雄達の戦い―――最悪の結末」

十九年前―――
レオンティウスは、泣いていた。
悲しくて、悔しくて、ただ泣いていた。
「母上…どうして?どうしてあの子たちはすてられたの!?ぼくのおとうとといもうとなのに!」
イサドラは、悲しげに俯いて首を振った。
「泣かないで、レオンティウス…どれだけ残酷な仕打ちだろうと、それが運命の女神の思召しならば、人はただそれ
に従う他はないのです」
「なんで…神様は、なんでそんなことをするの?」
イサドラは答えられない。ただ、静かに語る。
「…運命は残酷です。されど、彼女を恐れてはなりません。女神(ミラ)が戦わぬ者に微笑むことなど、決してない
のですから」
だから、レオンティウス。どんな苦難にも、勇敢に立ち向かいなさい。
「離れた者が再び繋がる時も、いつか訪れるでしょう―――きっと」

―――予言の忌み仔として、双子の兄妹は産まれ、そして捨てられた。
親の庇護もなしに放り出された以上は生きていけるはずもない。
かくして忌み仔はこの世から消え去り。全てはこのまま終わるはずだった―――


「…ならば、それが私やミーシャと何の関係がある?その双子はもう死んだのだろう…それともなんだ?我らこそが
その捨てられた双子だというのか?」
エレフは苛立たしく吐き捨てた。
「バカめ!我が父はポリュデウケス、母はその妻デルフィナだ!」
「エレウセウス…」
「その名で呼ぶな!何の証拠があって、そのような世迷言を!」
「―――エレウセウス様。全て本当のことです」
そう言って歩み寄る男の姿に、エレフは目を見開いた。
15遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/03/27(金) 12:13:29 ID:K4K9FCif0
「…まさか…カストル叔父さん?」
「お久しぶりです…最後にお会いしたのは、まだあなたが子供の頃でしたな」
「―――何なんですか、その喋り方は。あなたは、我が父の弟で、私の叔父上でしょう。何故そんな…」
「そう。あなたとアルテミシア様は我が兄上ポリュデウケスの仔…そういうことになった」
カストルは天を仰ぎ、遠い昔に想いを馳せて目を閉じた。
「そうとでもしなければ…あなた達は、本当に打ち捨てられるしかなかったのです…」


「―――後のことは頼んだぞ、カストル」
その腕に双子を抱き、ポリュデウケスはカストルに背を向けた。
「兄上…本当に、これでよろしいのですか」
カストルはやり切れなさそうに俯いていた。
「アルカディア一の英雄と呼ばれたあなたが、その若さで隠遁生活に入るなど…」
「カストル」
ポリュデウケスは弟に向けて笑いかけた。その顔には、後悔の色はまるでない。
「私は父としてこの子達を育て、守る―――そう誓ったのだ」
「…分かりました。もう何も言いますまい」
カストルは、静かに寝息を立てる子供達に語りかける。
「エレウセウス様。アルテミシア様。どうか…どうか、幸せに生きてくだされ…」

―――こうして、無情に命を落とす筈だった双子は、ポリュデウケスの元で育つことになった。
兄・エレウセウス。
妹・アルテミシア。
数奇な人生を送る二人の、それが始まりだった―――


「―――嘘だッ!嘘だ嘘だ嘘だ―――みんな嘘っぱちだ!」
エレフは声を荒げ、イサドラとカストルに向けて剣を突き付ける。
「そんな出任せで剣を引かせようという魂胆だろう!それ以上下らんことを抜かすなら、女だろうと叔父上だろうと
容赦しない!貴様らから殺してやっても―――」
16遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/03/27(金) 12:14:17 ID:K4K9FCif0
「もうやめて、エレフ!」
その声が、エレフの激昂を鎮めた。毒気を抜かれ、エレフはどこか呆けたような顔で振り返る。
彼の眼に映ったのは、大粒の涙を零すミーシャの姿だった。
「もうやめて…私はもう見たくない…そんなエレフ、見たくないよ…」
「ミーシャ…」
エレフの紫の瞳が、迷いを宿して揺れる。怒りと憎しみ。それに相反する愛と慈しみ。二つの天秤はどちらに傾くか
を決めかねていた。
重い静寂の中、レオンティウスが最初に言葉を発した。
「…カストル。母上とミーシャを連れて、少し下がっていてくれ」
「陛下…」
「彼と、話がしたい…」
三人が言葉通りに下がったのを見届け、レオンティウスとエレフ―――兄と弟は再び向い合う。
「アメジストス―――いや、エレウセウス」
「…………」
「何も、答えてはくれぬか…」
「何も、言うことなどない。私は貴様を殺すためにここにいるのだからな」
「そうか」
レオンティウスは、ただ寂しげに笑った。
「構わない…それでお前の気が済むならば、私の命など好きにすればよい」
「―――!」
「確かにお前が私の弟だという完全な証拠はない…だが、私には分かる。お前は確かに、我が兄弟だ」
「貴様…」
「私はどうしようもない兄だったよ。お前に、何もしてやれなかった」
だから、せめて。
「最期くらい、弟の我儘を叶えてやるさ―――私は、お前の兄だからな」
「くっ…黙れ!さっきから聞いていれば、つまらない戯言ばかり繰り返しおって!よかろう―――
ならば御望み通り、その首を落としてやる!」
剣を強く握りしめたその時、風を斬る音と共に何かが飛来する。それはエレフの手に突き刺さり、彼は呻きながら剣
を取り落とした。
17遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/03/27(金) 12:15:08 ID:K4K9FCif0
「もうよせ―――エレフ」
カードをまるで手裏剣のように投擲した体勢のまま、海馬は静かにエレフを諌める。
「―――オレ達は勝ったのだ…ならばその男は殺さずとも、捕虜にでもすればいい。その解放と引き換えに、この場
にいる奴隷の独立を約束させる。それで決着だ…それでよかろう」
「海馬…」
「何があろうとも…兄弟で殺し合うな。それだけは、してはならん」
その言葉に、エレフは沈黙して顔を伏せる。再び誰かが口を開くまでの僅かな時間が、永遠にすら等しく永い。
「―――ぼくはね。別に何かをしたかったわけじゃなかったんだ」
エレフは不意に、子供のような口調で語り始めた。そのまま何気ない仕種で、剣を拾い上げる。
「ただ静かに、幸せに暮らしたかった…父さんと母さん、ミーシャと一緒に、いつまでもいたかった」
そう。それだけで、満たされていた。それだけで、幸せだった。
「それだけでよかったのに、お前達が奪ったんだ…家族も…幸せも…ささやかな未来さえも…」
エレフは微笑する。背筋が凍りつくような凄絶な笑顔だった。
「それなのに、また奪うのか―――お前達はぼくから…怒りと憎しみさえも奪うつもりか!」
その身から狂おしいほどの怒気が噴出する。剣を握る腕に、更なる力を与えた。
「奪わせない!これだけは誰にも渡さない!もうお前達には…何一つ奪わせるものかぁーーーーーっ!」
振り上げられた刃は、もはや止まらない。
彼自身をも破滅させるまで、止まらない―――
「おやめなさい!」
だから―――止まらなかった。
「イサドラ様!」
カストルの制止も無視して。
「お母様!」
ミーシャの声も振り切り。
「母上…!」
イサドラが大きく手を広げて、レオンティウスの前に飛び出してきても。
18遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/03/27(金) 12:15:58 ID:K4K9FCif0
その刃は、止まらなかった。
「…あ…」
エレフは茫然と、血に染まった剣と自らの手を見つめ。
そして、地に崩れ落ちるイサドラの姿を見た。
その瞬間、気付いた。今になって、理解してしまった。理屈ではなく、本能で悟った。
彼女こそが―――自分の母であるという事実を。
「くっ…そこをどけ、エレフ!」
誰もが愕然とする中で真っ先に動いたのは海馬だった。エレフを押し退けながら、イサドラの元に駆け寄る。
「魔法カード発動―――<ホーリーエルフの祝福>!」
海馬の背後に召喚されたのは、聖なる力を持ったエルフ。彼女がその手を掲げた瞬間、イサドラの身体を癒しの光が
包み込む。
「海馬!」
闇遊戯、少し遅れてオリオンを背負った城之内も、海馬の後を追うように息を切らせながらその場に駆けつけた。
「城之内くん!回復系のカードはあるか!?オレ達も…」
「―――無駄だ」
海馬は無慈悲なほど静かに、事実だけを告げる。
「傷は塞がらんし、血も止まらん…完全に致命傷だ。もはや回復効果を受け付ける生命力自体が、この女に残されて
いないのだ…」
「何だと…おい!どうにかなんねえのかよ、海馬!」
海馬の肩を掴んで城之内が唾を飛ばすが、海馬はただ首を振った。
「何か手があるならとっくにやっている―――もうどうにもならん」
「そんな…お母様!」
ミーシャがイサドラの身体を抱き起こし、必死に呼びかける。
「…ミー…シャ…」
やっとのことでイサドラは言葉を発する。死相が色濃く表れたその顔に、ミーシャの涙が落ちた。
「泣かないで…おくれ…ミーシャ…」
「お母様ぁ…!」
「…ごめんね…もっとお話ししたかったけど…もう…時間がないわ…」
19遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/03/27(金) 12:41:50 ID:K4K9FCif0
イサドラは苦しげに息を吐く。一呼吸ごとに、命の灯が消えていくように顔から精気が失われていく。
「カストル…皆のことを…お願いね…」
「イサドラ様…いけません!どうかお気を確かに!」
カストルは必死に言い募るが、彼も既に気付いていた。イサドラは最期の時を前にして、自分の想いを遺される者達
に伝えようとしているのだと。
「あなたたち…ミーシャと、エレウセウスのお友達…どうか、ずっと、仲良く…」
「イサドラさん…ダメだ、気をしっかり持て!」
闇遊戯の励ましにも、彼女はただ首を振った。
「報い…かしらね…あの日、子供達を捨ててしまった…最低の母親だもの…」
「確かにそうかもしれねえよ。だけどよ…死んじまったら、親子としてやり直すこともできねえだろうが!」
城之内は泣きそうになるのを堪えながら、イサドラに向けて喋り続ける。
「死ぬな…死ぬなよ、イサドラ様!あんたもエレフも、それにミーシャもまだ始まってもいねえだろ!もっともっと
生きて―――何すりゃいいとか、俺は頭わりいから分かんねえけど、とにかく何かやることあるだろ!」
オリオンもまた、自身の傷の痛みも忘れてそう叫んだ。
「…いい子ね。あなた達は、本当に…」
「クソババアが…!」
海馬は吐き捨てるように言った。
「そんなに子が大事なら、何故エレフ達を捨てた!貴様がその時に身を挺してでも庇っていれば、このような事には
なっていなかった!今さら母親面をして、さぞいい気分だろうさ―――クソッタレめ!」
「…あなたは、とても厳しい人ね…」
けれど、優しい人。イサドラはそう付け加えた。
「不器用なだけで…本当は暖かい人…優しいからこそ、私を赦すことができない…赦す方が、よほど残酷だから…」
「…………」
「レオンティウス…」
「母上…死なないでください!あなたがいなくなったら、私は…!」
「レオン…私はもうすぐ、あなたの世界から…消えてしまう…けど…どうか…何も恐れず…凛と往きなさい」
イサドラは、優しく微笑んだ。
「エレウセウスと…ミーシャ…兄弟力を合わせて…生きて…」
「母上…」
イサドラの手を握り、レオンティウスは恥も外聞もなく、ただ泣いた。
20遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/03/27(金) 12:42:50 ID:K4K9FCif0
「エレウセウス…」
魂が抜けたように立ち尽くしていたエレフは、その声で我が返ったようにイサドラを見つめる。
「どうか聞いて…愚かな母の…最期の…願い…」

そして。

「あなたは…」

彼女は。

「しあわせに…おなりなさい…」

微笑んだままで逝く―――

「さよなら…私の可愛い…王子様…」

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!」
絶叫。
「ああああああああああああっ!」
形容しがたいほどの感情の渦が、エレフの心をずたずたに引き裂く。
「これが…こんなものが…」
こんなものが―――運命か。
「女神(ミラ)よ…これが…貴柱(あなた)の望んだ世界なのか!!!」
その場に突っ伏して、地面を引っ掻き回す。爪がバリバリと剥がれても、その痛みさえ感じない。
そして。エレフは聴いた。
21遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/03/27(金) 12:44:07 ID:K4K9FCif0


(可哀想ニ…悲シィカィ?苦シィカィ?痛ィカィ?)

あの声が、また。

(サァ、モゥィィダロゥ?ソンナニ必死ニ生キテキタォ前ヲ、母上(ミラ)ハァッサリト踏ミ躙ッタ―――)

だから、もう。

(コンナ世界ハ捨テヨゥ…ソシテ)

我ト一ツニ。双ツハ―――ヒトツニ。

(ああ、いいともさ)

くれてやるよ、こんな痛いだけの身体も、心も。

(この悲しみが…苦しみが…痛みがなくなるのならば)

もう、いいんだ。

声が笑った。

(冥府ヘヨゥコソ―――我ノ器ヨ)

そして―――
θは、解き放たれた。
22遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/03/27(金) 12:44:52 ID:K4K9FCif0


誰もがイサドラの遺骸に縋り付き、涙する中で。
―――その変化に最初に気付いたのは、闇遊戯だった。
「エレフ…?」
先程までの狂態が嘘のように、彼は落ち着き払った様子で静かに佇んでいた。
それが逆に、あまりにも不自然だった。
指先からは血が滴り落ちている。当然だ。十本の指は悉く爪が剥げ落ちているのだから。
爪を剥がす苦痛は大の男でも悲鳴を上げるほどだというのに、エレフは笑みすら浮かべているのだ。
(―――違う!こいつはエレフじゃない!)
「お前は誰だ…!」
思わず漏れた言葉に、城之内達もようやく異変に気付いた。
「エレフをどこにやったんだ…お前は何者だ!」
エレフ…否。エレフの姿をした何者かは体を動かさず、首だけを不気味に回して闇遊戯を見た。

「―――我ノコトカィ?名乗ル程ジャナィケレド、ソレモ失礼ナ話ダネ」

その声は、確かにエレフの声でありながら、何かが決定的に変わっていた。
形容し難いその<異質>―――そう。
彼はもはや、人間ですらなかった。
「我ハ冥府ノ王ニシテ、君達人間ガ死神ト呼ブ存在―――」

「ソゥ―――我コソガθ(タナトス)」
そう―――彼こそが冥王。
「我コソガ―――死ダ」
23サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/03/27(金) 12:45:48 ID:K4K9FCif0
投下完了。前回は前スレ337より。
かつてないアクセス規制。一ヶ月くらい直らないよ…。
内容に関しちゃ、相当厳しい話になりました。次回、第二部完。
最後の闘いが待ち受ける第三部へ。

話は変わりますが、出ましたね、スパロボK。
なんつーかあれだ、今回の主人公には好感が持てない…参戦作品は神なんですが。

>>ふら〜りさん
欝ってほど欝じゃなかった気もしますが、書くのに相当時間がかかりました…。
こういうシーンはやっぱ苦手。

前スレ339
中盤のクライマックスなんで、多少暗いのは仕方ないかなと。

前スレ347
アクセス規制によるモチベの低下とスパロボKがみんな悪いんや…(責任転嫁)

前スレ348
もうちょいペースを上げていきたいとこですね

前スレ349
誠意…あるんだろうか(汗)社長はなんというか、興味のあることとそうでないことに対する差が
激しすぎる。

>>電車魚さん
死亡フラグの通り、冥府へ旅立たれてしまいました…タナトス様は手加減がなかった。
「い〜き〜て〜る〜の〜ね〜」はChronicle 2ndです。海賊のヤツ。
しかしながらネウロの最終兵器、あれを見てfateを思い出しました。ジョジョでいうならキンクリ。
「過程は吹き飛び、結果だけが残る。<結果>だけだ!」
ここはワカメさんもレクイエム進化するしか!(違う)
24サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/03/27(金) 13:08:31 ID:K4K9FCif0
忘れました。
>>1さん乙です。
25作者の都合により名無しです:2009/03/27(金) 14:23:18 ID:yGPHkTTL0
サマサさん投下乙です
丁度ミラを聴きながら読んでたらラストが被って…イサドラ様…
冥王に取り込まれたエレフがどうなるか、怖いですが楽しみです。
26作者の都合により名無しです:2009/03/28(土) 09:58:06 ID:VmasVUek0
おお、しばらく投下なかったから心配してたけど
サマサさん一番手おつかれです。
1部2部と経るごとにシビアになっていきますね。
3部の大決戦の後のエンディングは、爽やかにしてほしいな。


スパロボKは曲をパクっちゃったからなあ・・
27作者の都合により名無しです:2009/03/28(土) 16:34:13 ID:mBprvj0O0
こういうのはサマサさんの得意な展開ですなあ。
前作のプリムラのシーンが重なる。
タナトスエレフはラスボスになるのかな?
28作者の都合により名無しです:2009/03/31(火) 21:54:05 ID:Ze8G4CdK0
こないなあ・・
29THE DUSK:2009/03/31(火) 23:45:21 ID:nhQsWUUJ0
俺もお前も半生状態にされて落ちていくとこさ。馬鹿になる為に成長し、「何もするな」と教育される。

俺はドラッグが好きな訳じゃない。ドラッグが俺を好きなんだ。



第七話 『DOGVILLE』



放課後の銀成学園高校。生徒玄関からは一日の授業を終えた生徒達が次々に出てくる。
それら帰宅の途につく人の流れの中、校門前では柴田瑠架が携帯電話を片手に佇んでいた。
彼女の指が繰る携帯電話の液晶画面には――

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――等の文字列が現れては消えていく。
外出先で暇な時に見るのは大抵2ちゃんねるの“ニュース速報+”だった。
常駐スレに携帯から書き込むのは嫌だし、アップされた画像もほとんどがサイズオーバーで表示されない。
それならば、見出しと1レス目だけで大体を把握出来て(その後に続く999レスに然したる価値は無い、
と彼女は考えていた)、テレビや新聞が報道しない世の流れも手軽に知る事が出来るニュー速+がちょっとした
暇潰しには一番相応しい、との結論に至ったのだ。
ニコニコモバイルから携帯電話でニコニコ動画を観られない事も無いのだが、画質や音質の悪さ、
それとボタン連打に辟易してしまい、すぐに利用しなくなってしまった。

ふと画面の右上に表示されている時刻をチェックすると、この場所で待ち始めてから約三十分が経過していた。
生徒玄関の方に眼を遣るも待ち人は来ず。
粗方のスレを見尽くしてしまい、今度はファイルシークからwikipedia巡りを始める。
自分の好きな事柄についてwikipediaで検索して、文章中のリンクを次々に辿っていく。
30THE DUSK:2009/03/31(火) 23:46:59 ID:nhQsWUUJ0
思いもよらない繋がりが楽しいし、時間も潰せる。これも外出時の携帯電話いじりの中ではお気に入りである。

「おまたせー! ごめんね、遅くなっちゃって」

そんな声が掛かったのは、『最遊記シリーズ』の項目から声優巡りでも始めようか、と思案していた時だった。
顔を上げて振り返ると、いつの間にか“待ち人”は現れていた。しかも、息を切らせた満面の笑みで。
1年A組の同級生、武藤まひろ。
入学から一年が経過しようとする二月に、この高校で初めて作った友人だ。
瑠架はいそいそと携帯電話を仕舞い、自然と浮かんでしまう慣れない笑顔を持て余しながら答える。
「そ、そんなに待ってないから、大丈夫…… でも、何してたの……? 今日は掃除当番じゃないよね……?」
何の気無しに瑠架が尋ねたのと同時に、二人は並んで歩き始めた。
「あのね、東風谷さんと一緒に知得留先生のカレー菜園作りを手伝ってたの」
「東風谷さん……?」
実のところ、瑠架はクラスメイトの名前を九割方憶えていなかったし、憶えようともしていなかった。
最初から憶えるつもりなど無いのだ。それは小学校高学年時のクラス替えから変わっていない。
いつまでも口に手を当てたまま首を捻っている瑠架を不思議に思ったのか、まひろが付け足す。
「え? ほら、クラス委員で。ヘビさんとカエルさんの髪飾りをしてて。よく『常識に囚われてはいけません!』って」
脳裏に不鮮明な映像が浮かぶ。礼儀正しくて丁寧な言葉遣いだが、少し騒がしい少女だったような。
余程の特徴がある生徒ですら完全には憶えていない。いわんや自分と似た、目立たない性質のクラスメイトなどは
制服の静止画くらいしか頭に浮かばない。
それは、学校にいる間は数式や英単語にしか記憶力を使いたくない、と願い続けた結果だった。
しかし、そんな事をいちいち説明する程、瑠架は馬鹿ではない。当たり障り無く答えるのがベストと知っている。
「あ、ああ…… うん、思い出した……」
厳密な意味では“思い出した”という言葉は嘘になる。
ただ単に名前と脳内の情報が合致しただけであり、最初からその女子生徒を憶えていた訳ではないのだから。
そんな隣の友人の内心など知る由も無いまひろは、鞄を大きく振り、幸せそうに声を張り上げる。

「柴田さんのお家に行くの初めて! 楽しみだなー!」

子供っぽく浮かれるまひろに苦笑気味の瑠架であったが、やがてハッと眼を見張った。
眼の前の光景に、過去の記憶がオーバーラップしていく。
まただ。彼女と知り合ってから何度と無く経験させられた、この現象。
31THE DUSK:2009/03/31(火) 23:49:46 ID:nhQsWUUJ0
浮かび上がる過去の記憶とは――

それは、まだ少しは楽しかった小学校低中学年。いつも横にいた活発で友達思いな少女。
いろんな遊び場所に連れて行ってもらった。自分の知らない知識をたくさん知っていた。いじめられていた
ところを何度も助けてもらった。
どんな男の子よりも元気で、どんな女の子も敵わない愛らしさの、彼女。

彼女が道を誤る事無く成長していれば、この友人のようになっていたのだろうか。
もしそうだったら、中学生時代はもっと楽しく、高校に入ってからも彼女とこの友人と三人で――
いつも繰り返してしまう詮無き思いは、バス停に到着してまひろに路線を尋ねられるまで続いた。



埼玉県、緑青町。
人口5024人の小さな小さな町。取り立てて観光名所も特産物も無い、只の住宅都市。
銀成市やさいたま市、もしくは東京都内へ通勤している者の住む住宅がほとんどの、所謂ベッドタウンである。
隣接する街は銀成市のみで、それ以外の方向は山や林に囲まれている。
そして、不幸な事にJRも私鉄も通っておらず、バスと自家用車のみが交通手段だ。それにも関わらず、
国道は一本のみ。バスも決して本数が多いとは言えない。
大半の住人の通勤先は銀成市で、さいたま市や東京都内に向かう者も一度銀成市を通過・経由しなければならない。
まさに“行き止まり”の町と言って良いだろう。

商業の面でも、充実しているとはお世辞にも言い難い。
昔からあるいくつかの個人商店の他はコンビニが二軒と、ショッピングモールですらない中規模の
スーパーマーケットが一軒。
家庭の食卓を賄うだけならばそれらだけでもあるいは充分かもしれないが、服飾・書籍・音楽・玩具・その他諸々の
二次的な生活関連物を手に入れようと思えば、やはり銀成市に出向く必要がある。
更には映画館を始めとした娯楽施設も存在しない。
上記の“ベッドタウン”という言葉も頷ける。本当に語源通りの“寝に帰る場所”だ。

人口や住人の平均年齢を考慮すればある程度は仕方の無い事なのかもしれないが、それでもこの状況では
学生等の若者や、延いては青年層の社会人に「この町にいるな」と言っているようなものである。
32THE DUSK:2009/03/31(火) 23:53:18 ID:nhQsWUUJ0
町のセールスポイントが安価な土地代や賃貸物件だけでは、住みたいと思う人間もなかなか増えない。
おそらく近い将来には銀成市との合併が待っているのだろうが、肝心の“交通機関の改善”や“企業の誘致”が
期待出来ない以上、当地区の活性化が促されるとは正直考えづらい。



さて、停車したバスから降り、緑青町の地に立ったまひろと瑠架の二人。
と書くといささか大袈裟なのだが、住人の瑠架はともかくとして、初めての土地に訪れたまひろにしてみれば
外国に来たようなものだ(あくまでも“まひろにしてみれば”なので誤解の無きよう)。
何の変哲も無い住宅地だというのに、まひろはまるで観光客のようにキョロキョロと周りの風景を見渡している。
彼女の反応を最大限好意的に解釈するならば、新しめの賃貸アパートや似たような建売の一軒家の中に
古めかしい旧家屋が点在している異質な風景に興味を惹かれる、といったところか。
「へぇ〜、ここが柴田さんが住んでる町かぁ。いいところだねっ!」
「そ、そうかな…… ありがとう……」
何を以ってして“いいところ”なのかはわからないが、自分の生まれ育った町を褒められて悪い気はしない。

二人は瑠架の自宅へと歩き続けた。
町内を走るバスの路線はたった一本の為、バス停から離れた場所に住む者にとっては徒歩の時間も
通勤通学に大きく影響する。
瑠架の自宅はまさにその代表格である。家からバス停までの距離に要する時間は大体三十分弱と、
かなりの不便を感じるものだ。
延々と変化の無い風景が続く道を歩きつつ、まひろは飽きもせずにそれらを眺め続け、何か自分なりの
発見がある度に感想を述べる。
充分楽しそうに見えるのだが、瑠架としては性格上、どうしても気を遣ってしまう。
「い、いっぱい歩かせちゃってごめんね…… もうすぐ着くから……」
「へーきへーき! 初めての町だからいろんな発見があって面白いよ。あっ、猫さんだ。おーい!」
おそらく、それは本心なのだろう。理解はし難いが。
まひろの能天気な返事は、瑠架の忙しく押し寄せる不安な心を幾分和らがせてくれる。

そうこうしているうちに、ある一軒の古びた家の玄関先から不意に声が掛けられた。
「おや、瑠架ちゃん。おかえりなさい」
33THE DUSK:2009/03/31(火) 23:55:44 ID:nhQsWUUJ0
見ると、“木戸房江”と書かれた粗末な表札が掛かった玄関の前で、一人の老女がホウキを両手にこちらへ
微笑みかけていた。
老人特有の地味な装いではあるが、背中はシャンと伸び、決して田舎臭さを感じさせない涼やかな雰囲気がある。
どうやら瑠架の顔見知りのようだ。
見かけて気軽に声を掛けられるという事は、町民同士の近所付き合いも割と親密なのだろう。
住宅地と田舎町が混合したこの町ならではといったところか。
「あっ…… こんにちは、木戸さん……」
気づいた瑠架が慌てて頭を下げると、まひろもそれに倣い、大きな声の挨拶と共にお辞儀をする。
「こんにちは!」
今時の若者には珍しいしっかりとした挨拶を受け、房江は嬉しそうに眼を細める。
「おやおや、元気がいいねえ。お友達かい?」
「は、はい……」
もじもじと照れながら俯く瑠架の横で、まひろは挨拶の時より少し丁寧に自己紹介をする。
「はじめまして、武藤まひろです」
「はい、はじめまして。まひろちゃん、瑠架ちゃんと仲良くしてあげてね」
その言葉を聞くや、まひろは突如として隣の瑠架に抱きつき、笑顔で答えた。
「はーい! すっごく仲良しです!」
顔を真っ赤にしながら振りほどこうとする瑠架。
離すものかと抱きつく力を強めるまひろ。
ややズレ気味の仲良しっぷりに、房江は相好を崩す。
クラスメイトであれば、まひろのこういった奇行には“笑う(悪い意味で)”か“呆れる”か“眉をひそめる”
といったところだ。
しかし、そこは年の功。目の前の大分変わった女の子を、“子供らしくて良い”と受け止める度量がある。
「あははは、良かった良かった。 ……でも、遊ぶのはいいけど、あまり遅くなっちゃいけないよ。
最近はこの緑青町も物騒だからね」
「そうなんですか?」
まひろの言葉に頷いたのは房江だったが、それについての説明は同じく頷いている瑠架の口から為された。
「ここしばらく、立て続けに人が“いなくなる”の…… 中学生や高校生くらいの子が突然いなくなったり、
夜中のうちに一家全員が突然いなくなったり…… 町の大人や警察は、家出とか急な引越しだって思ってるけど……
でも……」
瑠架は不安げな表情を見せる。
34THE DUSK:2009/03/31(火) 23:59:09 ID:nhQsWUUJ0
この老女から“町の言い伝え”を聞き、多少アレンジを施して授業中に発表した彼女でも、
それが現実味を帯びてくると少しは怖くなるらしい。

「この町は呪われているんだよ……」

まひろと瑠架がギョッとする程の暗い声が傍から聞こえてきた。
声は勿論房江のものだが、同一人物とはまるで思えない。
さっきまでの朗らかな表情は影を潜め、死人のように無表情な顔貌で俯いている。視線は地面の辺りに
置かれているのだろうが、虚ろでまったく定まっていなかった。
“不気味”と言っても良いくらいの低音の、ゆっくりとした口調で言葉を続ける。

「いや、町じゃない。この“土地”そのものが呪われてるんだ。呪いが悪霊を呼び、この土地の人間を喰らい、
喰われた人間もまた悪霊となって災いを起こす…… 三十年に、一度……」

「あの一家…… “兼正館”に引っ越してきた、“桐敷”とかいう一家…… あいつらが来てから
おかしな事ばかり起きる……」

「今度はあいつらが悪霊を呼び寄せているんだよ…… いや、悪霊そのものだ……」

ついにはホウキを握る両手がブルブルと震え出し、言葉が終わっても半開きの口からはヨダレが垂れ落ちる。
どう見てもまともではない。異常者の振る舞いだ。
「木戸さん、私達そろそろ…… 行こう、武藤さん……」
瑠架は房江と眼を合わせないように頭を下げると、まひろの腕を掴んで促す。
「う、うん」
流石のまひろも房江の急激な変貌に薄ら寒さを覚え、余計な事も言わず瑠架に付き従った。
ある程度の距離を歩いてから二人が振り返ると、老女は尚も同じ姿勢のまま玄関先に立ち尽くしていた。
「ご、ごめんね…… 木戸さんのお婆ちゃん、いい人だけど少し変わってるから……」
「ううん、平気だよ。でも、あのお婆ちゃんが言ってた“兼正館”とか“桐敷さん”とかって……?」
瑠架は立ち止まると、宙空に人差し指を伸ばし、ある場所を指した。

「あれ…… あの洋館……」
35THE DUSK:2009/04/01(水) 00:01:21 ID:nhQsWUUJ0

彼女の指の向こうは草木が生い茂る小高い丘となっており、そこには木々の葉に覆い隠されるようにして
一軒の古めかしい洋館がひっそりと佇んでいた。
全体像は樹木のせいで少々見えづらいが、三階分の窓の数やワンフロアの高さから推して相当な大きさと窺える。
町の一番奥の、町で一番高い場所に建てられた洋館は、まるで緑青町全てを見下ろしているかのようだ。
まひろは元々丸くて大きな眼を更にまん丸くして洋館に見入り、感嘆の声を上げる。
「わっ、すごーい。立派なお屋敷だね」
「あれが“兼正館”…… 百年以上前からあの丘の上に建ってるんだけど、三ヶ月くらい前に“桐敷”って言う一家が
あそこに引っ越してきたの…… 旦那様と奥様とお嬢様と、それに使用人さんの四人……」
視線を兼正館の方へ向けたまま、瑠架は町の新たな住人について、更に詳しく語り続ける。
「奥様とお嬢様は“SLE”っていう難病なんだって…… 使用人の辰巳さんがご挨拶の時に話してた……
自分でもネットで調べてみたんだけど、正しくは“全身性エリテマトーデス”と言って、皮膚炎に関節炎、
あとは多臓器機能低下が主な症状の自己免疫疾患で、関節リウマチと同じ膠原病の一種なの……」
まひろの知らない、難しげな医学的な用語が瑠架の口から次々に飛び出してくる。
わざわざ会話の中に出てきた単語を憶えてまで、隣人の病気をインターネットで検索とは、ある意味
感心するべきなのかもしれない。
いくら娯楽の少ない町とはいえ、よくもまあ只の転居者にそれ程の興味を持てるものだ。
それとも、興味を持たせるだけの何かが“桐敷家”にはあるのか。
「それと光線過敏症もあるから、日光には当たれない身体なんだって…… だから夕方や夜にしか
外出できないみたい…… 私も二人にはまだ会った事が無いし…… 旦那様と辰巳さんはよく見かけるけどね……」
「そうなんだ、大変だね。何だかかわいそう……」
まひろの口調には、真剣みを含んだ同情の響きがあった。瞳は若干潤んでいるようでもある。
面識の無い、話の上での他者の不幸にさえ、心の底から“かわいそう”と思えるのは彼女の美点と言ってもいい。
しかし、一方の瑠架にはそういった感情はあまり見受けられない。
件の病気に関しても、“桐敷家そのもの”への興味から発生した知的好奇心の範囲を出ないのではないか。
その証拠に、“桐敷家の夫人と令嬢を襲った病魔”を語ったのと同じ口から、次のような言葉が飛び出した。

「夜中に突然引っ越してきて、あまり町の人と触れ合わないから、皆は『あやしい連中だ』とか
『お高くとまってる』とか悪口ばかり言うけど…… でも、私は……――」
36THE DUSK:2009/04/01(水) 00:03:03 ID:nhQsWUUJ0
 
多くの羨望と少しの嫉妬に満ちた眼差しが兼正館を捉える。

「――羨ましいな…… あんなに立派なお屋敷に住んで、丘の上から私達を見下ろして…… 上流階級っていうか、
セレブっていうか、すごく憧れちゃう……」
 
 
 
37さい ◆2i3ClolIvA :2009/04/01(水) 00:05:35 ID:YrqGXpWk0
じゃあ俺は柚木涼香と結婚する!(東京都多摩地方の方言で「『HELLSING』10巻は出たけど
『コンビニDMZ』の3巻はまだかね?」の意味)
どうも、こんばんは。まっぴーと早苗さんは似ているのではないかと思い始めている、さいです。
地震もミサイルも嫌なので、色々詰めた防災避難リュックを用意した今日この頃。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

前スレ346さん
そんな事を言われると少し知的にしたくなるw 徹底的に超下品な奴にする予定なのにw
英語はそんなペラペラじゃないですよ。文法とかスペルとか全然メチャクチャですし。
音楽関係とかその辺の影響じゃないですかね。でも、いつかはアイルランドに行きたい……

前スレ348さん
ご期待と応援のお言葉、嬉しく思います。ありがとうございます。
ただ、この後の三部作最終章はバキスレで連載して良いものか悩んでおります。
ストーリー展開的にというか、ハードすぎる表現的にというか。

前スレ349さん
まあ、アレです。確かにカトリック教徒ではありますが、SSはエンターテインメントですから。信仰心は左右されませんし。
娯楽作品の『ダ・ヴィンチ・コード』にも大真面目に文句を言うヴァチカンには若干疑問を覚えましたし。
つか、冒涜的で下品なセリフを言わせないと、自分の考えている理想のジェイブリードになってくれませんからねw

>ふら〜りさん
北斗のモヒカンwww ギャグになってしまうw でもまあ、威厳のイメージを着せなくていいキャラってのは
楽ですね。書きやすくて、自由度があって、キャラも作者も好きなだけイカレられるんで。
とはいえ“ある方面に特化した語彙”はストックに限りが…… もっといっぱい考えなきゃ。でも下品最高。

>電車魚さん
おお、電車魚さんも『屍鬼』を読んでましたか! しかしですね、『THE DUSK』では桐敷家四人が目当てなもので……
ええ、ホントすみません。静信や敏夫や夏野ってなるともうキリが無くなるんで。ハイ。
あと、オリキャラを好意的に受け取って頂けてありがたいです。クロスオーバーは作品同士を繋ぐオリキャラが必要になっちゃうんで。


では、御然らば。
38作者の都合により名無しです:2009/04/01(水) 06:58:33 ID:ZfHoggZa0
まひろの少し足りなげな明るさは
誰とでも友達になりそうな度量を持ち合わせますな。
でもなんかこの房江さんもその後に関わってきそうですな。
39作者の都合により名無しです:2009/04/01(水) 08:19:36 ID:LkUANQ3N0
さいさんに戻りましたかw

乙です。
洋館ホラーっぽい展開も楽しそうですな。
40作者の都合により名無しです:2009/04/01(水) 19:03:05 ID:Q0kIYZjf0
まひろにホラーはどうかな?
驚くけど恐怖は強そうな気がする。
41作者の都合により名無しです:2009/04/01(水) 23:03:55 ID:437/EirK0
さいさん乙です。
呪われた町を象徴するような不気味な洋館に
撒きこまれた美少女。
どんな事件が起きるのか楽しみですね。
ちょっとエロティックな感じでもいいかなー
42作者の都合により名無しです:2009/04/02(木) 07:07:13 ID:PlmVsrO10
早く…婦警とまひろの百合を…
43作者の都合により名無しです:2009/04/04(土) 00:51:07 ID:lnj5pyTq0
あげ

誰か老人赤木の話描いてくれないかな
44しけい荘大戦:2009/04/04(土) 10:05:17 ID:qJiJufay0
第二話「ルーザールーズ」

 しけい荘203号室。シコルスキーとゲバルは暇を持て余していた。
「ゲバル、なんか面白い話とかないのか?」
「ン〜……面白い話はないが……」
「ないが?」
「面白いゲームなら知っている」
 目を輝かせ、身を乗り出すシコルスキー。
「どういうゲームなんだ?」
「ルーザールーズといって、ハンカチを使うゲームさ。もっともハンカチでなくとも丈夫
な布であればいいがね」
 ルーザールーズ。シコルスキーには初耳だった。
「聞いたことがないな」
「へぇ、俺の故郷や米国(ステーツ)らへんじゃ結構有名なゲームだけどな」
「あいにく、ロシアは情報が閉ざされた国でね……暗黒街はそうでもないらしいが」
 過剰に沈むシコルスキーを、ゲバルが励ます。
「あまり気にしないことだ。せっかくだし、アパートの皆を集めて説明しようか」

 ルーザールーズというゲームについて、各々の反応ははっきりと二極化した。
 知っていたのはゲバルと、アメリカ出身のオリバ、ドリアン、スペック。懐郷心が刺激
されたのか、子供のようにはしゃいでいる。一方シコルスキー、ドイル、柳の三人はルー
ザールーズのルの字も知らなかった。
 分からない三人のために、ゲバルが説明を開始する。
「難しいゲームじゃない。ルールは至って簡単、二人でハンカチを握り合って殴り合う。
勝敗は、先にハンカチを離した方が敗けだ。元々は貴族発祥のゲームで、ハンカチを失っ
た者(ルーザー)が名誉をも失う(ルーズ)というのがネーミングの由来になっている」
「ずいぶん簡単だね」腕を組み、柳が感想を述べる。
「ようするに、パンチ(打撃)力とピンチ(つまむ)力が勝敗を左右するゲームってとこ
ろか」顎に手を当て、ドイルが分析する。
「基本的にはね。しかしこなれてくると、驚かせた隙にハンカチを引っぱったり、顎を狙
ってハンカチを握ってるのを一瞬忘れさせる、などといった風に色々と戦略を立てられる
ようになる」
45しけい荘大戦:2009/04/04(土) 10:06:26 ID:qJiJufay0
 ルール説明を終えたところで、まずはルーザールーズを知っているオリバとゲバルがや
ってみることになった。
「いやァ〜童心に帰るよ、ゲバル」
「俺もだ、アンチェイン」
 決闘開始。一撃が重いオリバと、手数で攻めるゲバル。一進一退の攻防が続く。
 ゲバルが一本拳で顎に連撃を浴びせれば、オリバは腹部に強烈なボディブローを喰らわ
せる。しかし、どちらもハンカチを決して離さない。
 しばらく殴り合いを続けた後、オリバがふと提案をする。
「ゲバル、そろそろアレをやってみないか」
「アレとは?」
「ジルベルトスタイルさ」
 ルーザールーズの変則ルール、ジルベルトスタイル。ハンカチを握らず、手に乗せただ
けの状態で戦うことをこう呼ぶ。なおジルベルトという名は、かつてシチリアで名を馳せ
たホテル王から来ている。
 大いに盛り上がるスペックとドリアン。
「オォ〜“ジルスタ”カヨッ! 二人トモ通ダナ、ハハハハハッ!」
「いきなり“ジルスタ”とは……なんとファンタスティックな」
 どうやらルーザールーズ通はジルベルトスタイルを「ジルスタ」と略すらしい。ドイル
と柳は完全に取り残されている。
「なァ柳……こういうのって辛いよな」
「えぇ、ドイルさんとシコルスキーさんがいるからまだマシだが……一人だったらかなり
きついだろう」
「──くしゅるっ!」
 あまりに突然のシコルスキーの強烈なくしゃみによって、ハンカチは吹き飛ばされた。
 ルーザールーズジルベルトスタイル、終了。

 次戦はこれまたルーザールーズを知っているドリアンと、先ほどの試合を台無しにした
シコルスキーとで行われることとなった。
 ドリアンはハンカチを握らない右拳にグリースを塗りたくり、さらにグリースに砕いた
ガラス片をまぶし、凶器の拳を完成させた。これに自称ルーザールーズ通の方々は大喜び。
46しけい荘大戦:2009/04/04(土) 10:07:46 ID:qJiJufay0
「ふふ、ドリアンめ、“アルスタ”をやる気か」
「“アルスタ”にはいい日だ」
「ヘッ、“アルスタ”トハイイ年シテ過激ジャネェカ」
 ちなみに「アルスタ」とは「アルカポネスタイル」の略である。ドイルと柳はついてい
くのを諦めたのか、一言も発しない。
 ここでいつもならば怯えているはずのシコルスキーだったが、なぜか表情には余裕が浮
かんでいる。ドリアンの凶器(こぶし)をまるで恐れていない。
「ルーザールーズ……たしかに面白いゲームだ。しかし、このゲームには致命的な欠陥が
存在するッ!」
 シコルスキーはハンカチをつまむと同時に、指から力を抜いた。
 つまり、試合開始と同時にハンカチから手を離してしまえば、殴られることなく敗北す
ることができる。これこそがルーザールーズ最大の欠点であった。

 シコルスキーは初めから殴り合う気などなかったのだ。
「一発ももらわずに敗けられるなんて、まるで夢みたいなゲームだッ!」得意満面で逃げ
ようとするが──指はハンカチにくっついたままだ。「えっ?」
 ドリアンは一滴の感情もこもらぬ目を向け、重病を告知するような口ぶりで告げた。
「気の毒だが、ハンカチの角には接着剤を仕込んでおいた」
 とたんに泣きそうな顔になるシコルスキーに、ガラスまみれの拳が迫る。
 これから始まるルーザールーズ通らによる、「セメダインスタイル」略して「セメスタ」
の蘊蓄はシコルスキーの耳には届きそうにない。
47サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/04/04(土) 10:09:52 ID:qJiJufay0
第一話から間が空いてしまいました。
よろしくお願いします。
48作者の都合により名無しです:2009/04/04(土) 21:15:34 ID:BdiDcrTY0
おひさしぶりですサナダムシさん。
ルーザールースならシコルはひょっとして
オリバの次くらいに強いかも。
まあ、最後はまたおもちゃにされてしまいましたがw
49ふら〜り:2009/04/05(日) 00:24:08 ID:B0/GQjdt0
>>サマサさん
明るい賑やかシーンでも暗い悲しみシーンでも、大人数に出番を配分してきちんと交通整理
できるのがサマサさんの技ですな。その中で、本作では一番好きな海馬(例によって脳内で
勝手に映像化中)が、いつも通りにキメてくれてて嬉しい。3部から遊戯たちと合流、かな?

>>さいさん
やっぱり背景描写が丁寧だなぁ。瑠架も何だかんだで少しずつまひろに馴染みつつあって良い。
下品なれど語彙豊富国際的バイオレンス転じて、平和日本的女の子ズ&ホラー。めまぐるしく
魅力が移り行く本作、次は何が来るか。防人vs神父は燃えまくりでしたがああいうのはまだ先?

>>サナダムシさん
そうまでして、そうまでしてシコルを……本当に、(徹底的に歪んだ形で)愛されてますね彼は。
ハンカチを放せないのなら、ゲームそのものには負けようがなくなってしまうってのに。シコルが
何かの呪いとか不死の病でも背負ったら、みんな必死に助けようとしそう……なんて妄想が。

>>7
まぁ私の基本ですな基本。バキスレなくば、ネウロも知らず読まずでしたし。そう、私に
とってバキスレなくば、イチもアカギも武装錬金も……SSの魅力で原作の魅力を知る、
感謝です。いや実際、先にSSで自分勝手に脳内妄想映像化してから原作を読んだときの、
ギャップの味わいってのはまた独特で楽しくて。
50ふら〜り:2009/04/05(日) 01:00:38 ID:B0/GQjdt0
× 不死の病
○ 不治の病

……ま、しけい壮シコルの場合はある意味、不死であることが病(災難)なのかも。
51作者の都合により名無しです:2009/04/05(日) 08:32:02 ID:8R4Qhuf70
前半シコルがいじめられてると
後半シコルが確変する。
多分、今回のバトル編の〆はシコルだね。
前回は主役取られちゃったけどw
52作者の都合により名無しです:2009/04/05(日) 14:05:54 ID:IujWTDYM0
サナダムシさん乙です!
ドリアンひでえw
ドラゴンボール再アニメ化記念にまたなんかDB物書いてください!
53しけい荘大戦:2009/04/05(日) 19:05:39 ID:BUWgArLs0
第三話「祝福」

 スペックは不愉快だった。
 この間のしけい荘が生まれた日は、アパート全員で回転寿司を食べに行き、盛況のうち
に幕を閉じた。
 なのになぜ──。
「チクショウッ! 今日ハセッカク俺ノ誕生日ダッテノニ、アイツラ“オメデトウ”ノ一
言モアリャシネェッ!」
 スペックは今日でめでたく97歳を迎える。しかし、だれも祝ってくれない。それどこ
ろか、スペックの誕生日に気づいている気配すらない。
 この日のために一週間前からスペックは入念に伏線を張っていた。
 わざと大声でハッピーバースデートゥーユーを歌い、しけい荘全員の郵便受けにケーキ
の広告を挟み、ことあるごとに「モウスグ俺モ97歳カ」と口ずさんだ。
 結果、これらの努力は実ることなく、彼は一人部屋でくさっていた。
「ヤッテラレネェヤッ!」
 ドアを乱暴に蹴破り、スペックは外に飛び出した。

 肺を空気で満タンにし、エンジンを全開にする。無呼吸で街を全速力で駆け抜けるスペ
ック、実年齢97歳。今、老人は風になった。
 二メートルを超えるジャージ姿の怪人が疾走する姿に、人々はあるいは悲鳴を上げ、あ
るいは逃げ惑い、あるいは腰を抜かし、あるいはこれは白昼夢だと現実逃避した。
 まずスペックはコンビニに入り、肉まんを五個わし掴みにし、逃走した。
 肉まん五個をほぼ丸飲みで平らげると、今度は近くに備えてあった自販機に目をつけた。
54しけい荘大戦:2009/04/05(日) 19:06:33 ID:BUWgArLs0
「喉ガ渇イチマッタナ」
 拳が唸る。スペックの無呼吸連打によって、直方体であったはずの自販機がみるみるひ
しゃげていく。屍から噴き出すコーヒーや炭酸飲料、緑茶が混合(ミックス)された液体
を文字通り浴びるように飲むスペック。
 喉の渇きは癒えた。びしょ濡れになりながら、スペックは再び駆け出す。
「飲ンダラ出シタクナリヤガッタ」
 陰茎から、電柱にジェットの勢いで叩きつけられる無呼吸小便。
 後にこの立ち小便で受けた損傷で倒壊しかけた電柱を、
「ジーザス……。大至急ッ! ステーション大至急ッ! 東京電力が破壊されるんだァッ!」
 東京電力の精鋭たちが守ったのは伝説となった。

 ひとしきり暴れ終えたスペックだったが、心の隅にこびりつくわびしさは消えない。
 ため息をつき、しけい荘202号室に戻るスペック。
 すると──
「おせぇぞスペックッ!」
 ──皆が待っていた。
 ドイル特製のクラッカーが通報まちがいなしの大爆音を鳴らす。
 オリバが、柳が、ドリアンが、ゲバルが、シコルスキーが、とびきりの笑顔と拍手でス
ペックを迎えた。
「オマエラ……知ッテタノカヨ」
「あれだけやかましく主張すれば、だれだって気づく」
 肩をすくめるオリバ。
 しかし、基本的にしけい荘の人間は仲間意識は強く、どんちゃん騒ぎが好きである。誕
生日を祝うことに対して、歓迎こそすれ、面倒なことなどあるものか。
「アリガトウ……アリガトウ……」
 スペックの目にも涙。本来彼の辞書にはないはずの「感謝」が素直に口からこぼれ落ち
た。
55しけい荘大戦:2009/04/05(日) 19:07:20 ID:BUWgArLs0
「トコロデ、ドイルガイネェナ」
 首を左右に振るスペックに、シコルスキーが答える。
「あいつなら、今日は自分がケーキを作るって材料を買いに行ったぜ。……もちろんコッ
クのコスプレで」
「ヘッ、アイツラシイヤ」
 どっと笑いが起こる。このベストタイミングで、勢いよくドアが開かれた。
「材料を買ってきたぞッ! ロウソクも97本なッ!」
 コックの格好で猛スピードで部屋に飛び込み、派手に転倒して業務用小麦粉の袋をぶち
まけるドイル。狭い部屋が小麦粉で充満する。粉まみれになり、咳込み、大騒ぎになる一
同。
「ゲホッ、ゲホッ! スゲェ量ダナッ!」
「……こういう時は一服して落ち着こう」
 冷静に煙草に火をつけるドリアン。

 おめでたい日に相応しい、大爆発。
56サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/04/05(日) 19:11:28 ID:BUWgArLs0
第三話です。

>>48
指の力だけなら、相当なものだと思います。ジャックの引っぱりにも耐えたので。

>>ふら〜りさん
まさに生き地獄です。

>>51
前回よりはオイシイ目にはあわせるつもりです。

>>52
DBの再燃ぶりは凄いですね。ハリウッドのは見てませんが。
57作者の都合により名無しです:2009/04/06(月) 01:15:16 ID:mwaxzc1b0
地上最強の97歳!

・・郭を除いてw
58作者の都合により名無しです:2009/04/06(月) 07:00:16 ID:XTRhtAP50
お疲れ様ですサナダムシさん。
粉塵爆発ですか。ドリフの爆発オチみたいですなw
ドイルの火炎放射でロウソクに火をつけて爆発、ってのもありますね。
59作者の都合により名無しです:2009/04/06(月) 22:59:56 ID:4XM+WMBp0
意外とみんな情に厚いんだよな、しけい荘の面々は
シコルも愛すべきペットって感じだし
60名探偵:2009/04/06(月) 23:49:22 ID:XMfIlbPO0
 地上最強の名探偵、範馬勇次郎。
 探偵は事件を引きつけ、事件は探偵を引きつける。探偵の宿命か、勇次郎は息子刃牙と
ともに宿泊していたホテルにて殺人事件に巻き込まれてしまった。
 ホテルの一室で殺されていたのは、アルバート・ペイン。今年のノーベル物理学賞、受
賞者だ。
 通報を受け駆けつけた片平刑事も、勇次郎の名声を知る一人であった。
「いやァ〜光栄ですねェ。あなたのような名探偵と出会えるなんて」
「どうでもいいんだよ、ンなこたァ。さっさと終わらせるぜ」
 勇次郎はセックスより、食事より、空気より、闘争と事件解決を優先する。
「犯人は決まってるぜ。100%な」
「ジャ、ジャブより疾い……ッ! もう解決してしまったんですか! で、犯人は?!」
 勇次郎の推理スピードはプロボクサーの動体視力でも捉えられない。
「ジャックだ」
「ジャック・ハンマーですか……? なぜ……?」
「あれは血が薄い」
 意味不明すぎる推理ながら、念のため片平はジャックのアリバイを確認する。
「範馬さん」
「ん、礼には及ばねェぜ」
「残念ながらジャック氏は犯行時刻、居酒屋でトイレをゲロまみれにした挙げ句、ダイア
モンド化していたそうです」
 勇次郎はなぜか近くにあった机を叩き壊した。
「奴が犯人でないのは想定通りだ。刃牙ほどでないにせよ、俺の血をひくガキが、下らん
殺人など起こすはずがない」
 さっきまでとはあべこべのことをいっているが、片平はあえて触れない。
「……では、真犯人はいったいだれなんでしょうか」
「愚地独歩に違いねェな」
「あの神心会の館長がですか?!」
「おめェ、あいつが人からなんて呼ばれてるか知っているか?」
「いやァ〜色々ありますよねェ、武神とか、虎殺し、人喰いオロチだとか……」
 突如、勇次郎が眼を見開いた。
「あのヤロウ、とうとう虎だけじゃ我慢できなくなって、殺っちまったんだろうぜ。本当
に人喰いオロチになりたかったんだろうよ。
 エフッ、エフッ……アハハハハハハハハハハハッ!」
61名探偵:2009/04/06(月) 23:50:24 ID:XMfIlbPO0
 ホテル中に響くほどの大声で、勇次郎が笑い出した。笑っている間に片平が署に問い合
わせると、すぐに愚地独歩のアリバイは証明された。
「──というわけで、稽古中だったため愚地氏には犯行は不可能ですね」
 片平が淡々と告げると、勇次郎はなぜか拳で壁にクレーターを作った。
「あのォ〜私はこれで……」
 帰ろうとする片平を、勇次郎はあわてて呼び止める。
「待ていッ!」
「な、なんでしょうか」
「今度こそ分かったぜ。犯人がよォ……」
「だれですか」
「本部以蔵だ」
「なぜですか」
「………」
 適当に思い浮かんだ名前を挙げただけなので、理由などあろうはずがない。悩みすぎて、
勇次郎の顔がどんどん凶悪な貌(かお)に変形していく。
 
 ──どうやらここまでだな、親父。

 刃牙が手を上げた。
 すると、四方に伏せていた腕っこきの狙撃手たちが一斉に立ち上がった。
 銃声。
 銃声。
 銃声。
 銃声。
 銃声。
 撃たれる勇次郎。
「予想もしなかったぜ……こんなところで銃とはッ!」
 拳を握り締め、荒れ狂うが、さすがの勇次郎もついに力尽きた。
62名探偵:2009/04/06(月) 23:51:15 ID:XMfIlbPO0
 片平刑事は後にこう語った。
「地上最強の名探偵、範馬勇次郎の噂は耳にしていましたが、スゴいもんですわ。突然地
面に崩れ落ちたと思ったら、それまでトンチンカンな推理をしていたのがウソのように、
あっという間に真犯人を暴き出してしまいましたよ。口も動いてなかったし、本当に眠っ
ているようにしか見えなかった。
 ──あれが“眠りの勇次郎”なんですねェ……」

 変声機を手に、事件現場から立ち去る刃牙。
 目立つことが嫌いな彼は、決して自ら表には出ない。
 勇次郎の推理が行き詰まると、毎回子飼いのハンターたちに勇次郎を麻酔銃で狙撃させ、
勇次郎の振りをして事件を解決するのだ。
 「地上最強の名探偵」の名声を支えているのが実は彼だということを知る人間はほとん
どいない。  
 地上最強の名探偵の息子、範馬刃牙。今日も彼は勇次郎とともに事件に立ち向かう。

                                   お わ り
63サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/04/07(火) 00:01:16 ID:Qq2AoS+h0
バキ+名探偵コナン。ほとんど勢いだけで書きました。

>>57
郭、劉、スペックはもはや妖怪なので、人間界最年長は渋川先生だというのが私の見解です。

>>58
そうすればよかったかもしれません。

>>59
ペットを虐待していいのは飼い主の特権です。嘘です。
64作者の都合により名無しです:2009/04/07(火) 00:02:10 ID:aIkr3g8m0
相変わらずサナダムシさん上手いなあw
バキネタにコナンを混ぜて探偵物なんてw
65作者の都合により名無しです:2009/04/07(火) 00:06:14 ID:8zED4qYb0
test
66作者の都合により名無しです:2009/04/07(火) 07:15:12 ID:lfKHFg9L0
勢いでこれだけ書けるから羨ましいな。
勇次郎みたいな脳筋に探偵は無理だなw
バキはもっとアホそうなんだけど。
口だけは親子ともども達者か・・
67ダイの大冒険AFTER:2009/04/07(火) 20:29:33 ID:znqlJ/ux0
第一話 黒の核
物語とは人知れず始まり、そして投石されて出来た波紋の様に広がっていく。
しかし、何事もきっかけがなければ何も起こらない。
例えば、この日ポップがある物を見なければ、物語は表に出ることもなく、終了していたのだ。
その日ポップ、マァム、メルルの三人はあの日キルバーンの策略によって行方不明になった勇者ダイを探す為にベンガーナ王国に向けて旅を続けていた。
「ちょっと、ポップ!ベンガーナ王国の場所間違えないでよ。地図をしっかりみたの?」
「う、うるせえ。俺だって間違えることはあるぜ。おかしいな〜この道の筈だと思ったけど。」
マァムには弱いポップだが大魔宮での一件以来、二人の距離は微かに縮まっていた。
それ故に、前からポップに思いを寄せていたメルルは二人を見て軽い嫉妬心もあった。
その時メルルは一つの間違いを見つけた。
「あの、ポップさん。地図、逆です。」
「へ、あっ本当だ!はっはははは。」
「笑い事じゃないわよバカ!!全然別方向じゃない。もうあんたに地図持たせないわ。」
左頬に真赤な手形をつけたポップを先頭に来た道と逆の道を歩くのだった。
森に入った頃には昼過ぎで温度もあがる頃だった。
「この森を抜ければベンガーナに着くぜ。」
ポップは自信たっぷりにそう言った。
その時メルルは不穏な気配を察知していた。
「あの、何か嫌な予感がするんです。うまく言い表せないのですが不吉な物がすぐ近くにある様な気が
冷たい感じがします。この森に入ってから。」
「そんなの俺は感じなかったけどな。」
とさりげなくポップが足元を見るとそこには黒の核があったのだった。
「な、な、なんでこんなところにこんなものが〜〜〜〜」
その場にいる全員が凍りついていた。
小粒程度の小さな結晶だったが充分な破壊力を秘めていると考えられた。
「とっとりあえず、ベンガーナにいくのは後回しだ。先にこの事をみんなに伝えないと。」
三人はルーラでパプ二カへ向かった。
68ガモン:2009/04/07(火) 20:44:18 ID:znqlJ/ux0
初めてですが投下してみました。
原作とちがうところがかなり出てしまったかもしれません。すみません。
駄文ですが読んでもらえるとありがたいとおもっております。
69作者の都合により名無しです:2009/04/07(火) 22:54:23 ID:EJfe/x/D0
少しずつ頑張ってください。
ポップ、マァム、メルルの微妙な三角関係チームはいいですね。
原作で描かれなかった魔界編になるのかな?
70ふら〜り:2009/04/07(火) 23:34:54 ID:iz8k7GEE0
>>サナダムシさん
・「祝福」
おぉ。スペックが、スペックらしく暴れつつもスペックらしからぬほのぼの物語の主役になって
……しけい壮らしいオチに。結束固くてお祭り好きで、そして強い。考えてみれば好漢の巣です。
・「名探偵」
冒頭から「だからなんで勇次郎が探偵っ!?」とツッコミ入れてしまいましたが、見事に納得
させられてしまう展開。麻酔銃と変声機じゃあ、名探偵の評判が立ってもしょうがないなと。

>>ガモンさん(おいでませ大歓迎〜〜〜〜っっ!)
にしてもまぁ何という両手に華パーティ。私としては「貴様メルルの何が不満だ?」とずっと
思ってますんで、本作の核の一つであろう賑やか三角関係の果てには、ぜひ彼女に幸せを
と願ってます。平時のポップの頼りなさとメルルの控えめさとマァムの強気、描けてますよっ。
71作者の都合により名無しです:2009/04/08(水) 00:35:24 ID:JxAdSijU0
ダイ大は好きなので頑張ってほしい
もう少し量を増やしてくれるとうれしいな
72遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/08(水) 07:43:46 ID:5JSs1O7e0
第三十七話「冥王」

「なに…なにを言ってるの、エレフ…」
信じられないといった様子で、ミーシャは変貌したエレフに近寄る。
「アルテミシア」
エレフ―――否。<冥王>タナトスは、優しげな微笑を浮かべる。
「ァノ仔カラノ伝言ダヨ…スマナカッタ、モゥ傍ニィテヤレナィ。ト」
「エレフ…」
「違ゥ。サッキカラ言ッテルジャナィカ。我ハ冥王―――タナトス」
その姿が不意に消える。その次の瞬間には、彼は奴隷部隊の兵士達の眼前に立っていた。
「あ、あ、あ…」
死を告げる紫の瞳に魅入られ、奴隷達はガチガチと歯を鳴らす。
「畏レルナ。死ハ救ィ―――残酷ナ運命カラノ解放」
例ェバ、キミ。そう言ってタナトスは、一人の若い男を指し示す。
「キミハ戦火ノ中デ、家族ヲ失ッタ…父モ、母モ、マダ幼ィ妹モ」
「う…うう…!」
「奴隷部隊ニ参加シタノモ、自由ヲ勝チ取ルタメデハナィ―――死ニ場所ヲ探シテイタンダロゥ?」
「や、やめろ…やめてくれ!」
男は目を閉じ、両手で耳を塞ぐが、タナトスはゆっくりと彼に手を翳した。
「怖ガラナクティィンダヨ。我ハキミヲ愛シテルンダ。キミヲ救ィタィダケナンダヨ」
「救う…俺を…」
「ソゥ。救ォゥ」
サァ。我ガ手ニ抱カレルガィィ。男は言われるがままに、タナトスの腕に縋り付いた。
「冥府デ、家族ガ待ッテイルヨ」
「ああ、父さん…母さん…マユ…」
タナトスの瞳が輝く。そっと腕を離した瞬間、男はぐらりとよろめき、倒れ伏した。周囲の者達が駆け寄るが、男の
身体に触れた瞬間、慌てて手を引っ込めた。
73遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/08(水) 07:44:32 ID:5JSs1O7e0
「…死んでる…!」
「う…嘘だろ…」
狼狽する奴隷達。彼らに向けて、タナトスは語りかける。
「怯ェルナ、仔等ヨ―――彼ハ逝ッタ。只、逝ッタノダ」
そう―――男は逝った。まるで母の腕に抱かれる赤子のように、安らかな死に顔だった。
タナトスの姿がまたしても陽炎のように揺らぎ、消え失せる。
「次ハ…キミ達ダ」
「あ…」
そこにいたのは、幼い兄妹―――フラーテルと、ソロル。
「冥府トハ即チ楽園。サァ…楽園ヘ還ロゥ」
二人は恐怖すら感じることができず、ただ立ち尽くしたまま自らに向かって伸びてくる死神の手を見つめるだけだ。
その刹那、タナトスの背後で閃光が激しく迸る。思わず二人から手を引き、タナトスはそれを見た。

「<死者蘇生>―――<青眼究極竜>!」

三つ首の竜を背に、海馬はタナトスを睨み付けていた。そして、叫ぶ。
「オルフ、シリウス!部隊をまとめて逃げろ!」
「し、しかし!閣下は…アメジストス様は一体…」
「奴はもはやエレフではない―――この場の全員を殺しかねんぞ!」
「そんな…」
「逃げろと言っているんだ!」
「―――くっ…皆の者、退却だ!この場から離れろ!」
その声が契機となり、奴隷部隊の者達が我先にと駆け出していく。しかし、その中でたった二人。
フラーテルとソロルだけは、その場から動かなかった。
「…お前達も行け。ここにいても、危険なだけだ」
「皇帝様…だけど僕は…僕らは…あなたの御傍に…」
海馬はそっと首を振り、そして笑った。不敵でも皮肉でもなく、それはただの微笑だった。
74遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/08(水) 07:45:18 ID:5JSs1O7e0
「生きろ―――お前達は、どこまでも生きるんだ。生き延びるんだ」
「生きる…」
「そうだ、生きろ。そして、誰かに示された道でなく…自分自身の地平線を目指せ!」
「―――行こう、ソロル!」
フラーテルは妹の手を握りしめ、走る。その小さな姿はすぐに周囲の混乱に紛れて見えなくなった。
そしてもう一つの陣営である、アルカディア軍。
「…カストルさん、あんた達も兵を連れて逃げろ。大勢いても被害が大きくなるだけだ」
闇遊戯は険しく顔を引き締めて言った。
「ミーシャと…レオンティウスも頼む。彼はもう、闘える状態じゃない」
「うむ―――陛下、アルテミシア様。こちらへ!」
「…………」
「陛下!」
レオンティウスは死人のような顔で立ち上がり、馬に跨る。カストルは不安げにそれを見届けながらも、イサドラの
亡骸を抱え上げる。
「アルテミシア様、私がお守りいたします―――行きましょう」
「けど、エレフが…それに、皆は…」
「心配すんな。妙なモンが取り憑いた相手なら、オレや遊戯は専門家だからな!」
「おうよ。あのバカの頭でもぶん殴って、正気に戻させてやるさ」
城之内が威勢よく胸を張り、オリオンもそれに続く。闇遊戯も不敵に笑った。
「オレ達は、必ず生きて戻る―――だから、待っていてくれ」
「分かったわ…気をつけてね」
三人は力強く指を立てて歩いていく。それを見届けて、カストルは号令を放つ。
「全軍退却!アルカディアへ戻るぞ!」
それと同時に、アルカディア兵達も撤退を始める。その喧騒をよそに、闇遊戯達は海馬の元へと辿り着いた。
「何をしに来た、遊戯」
「海馬。ここはオレ達も共に闘おう。いくらお前でも、その身体で一人で闘うなど無茶だ」
「―――貴様らの助けなど、必要ない」
海馬は吐き捨て、大地を踏み付ける。
75遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/08(水) 07:46:10 ID:5JSs1O7e0
「奴とは、オレがケリを付ける」
その一部始終を静かに見守っていたタナトスは、悲しげに目を細める。
「退ィテクレナィカ、海馬。キミトハ闘ゥツモリハナィ―――キミハ我ノ救ィガナクトモ生キテユケル強キ人間ダ。
ナラバ、敢ェテ死ニ急グコトモナィダロ?キミノ後ロニィル者達モ同ジダ。死ヲ恐レズトモ、本意デハナカロゥ…
我ハァクマデモ、生ニ嘆キ死ヲ望ム者ダケデモ救ィタィト」
「黙れ。愚神が…!」
海馬はワナワナと拳を震わせ、眼前の死神をその眼光で射抜く。
「エレフ―――そのような下賤な死神に身も心も奪われるくらいならば、いっそ我が手で貴様を砕いてくれるわ!」
主の憤怒が伝わったかのように、究極竜が三つの口から激しい雄叫びを放つ。
「砕け散れ、死神!―――アルティメット・バースト!」
咆哮と共に撃ち出された、破壊の光。だが次の瞬間、信じられない光景を海馬は目の当たりにした。
「ハァッ!」
タナトスは右手を突き出し、その掌で究極竜の一撃を受け止めていた。そのままアッパーカットの要領で、破壊光線
を空へ向けて弾き飛ばす。
「なん…だと…」
「海馬…エレフニ対スル友情ヲ、キミカラ確カニ感ジタ…」
タナトスは語る。
「ダカラキミハ怒ッティルンダネ。友ヲ奪ッタ我ヲ―――本当ニ、スマナィ」
ケド。
「其レデモ、彼ハ待チ望ンディタ我ガ器。還スコトハ出来ナィ。ソシテ、斃サレル訳ニモィカナィ」
「くっ…」
タナトスの瞳が大きく見開かれ、妖しく輝く。漆黒の闘気が迸り、世界が震える。
「強キ者ニモ、弱キ者ニモ、賢キ者ニモ、愚カシキ者ニモ、死ハ万物ニ平等…」
黒き焔が究極竜に巻き付き、一瞬にして細胞の一つまで消し炭に変えた。
「ぐわああぁぁぁーーーーーーーっ!」
海馬は自らが焼かれたかのような苦痛に絶叫し、倒れ伏した。それを見つめ、タナトスは言い放つ。
「死(タナトス)ハ、誰モ逃ガサナィ」
「この野郎ォォーーーっ!」
オリオンが猛り、星屑の矢を構える。
「エレフの身体で…好き勝手なことやってんじゃねえ!」
放たれた星屑の矢。それは一筋の流星と化して、タナトスを確かに射抜いた。
76遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/08(水) 07:47:00 ID:5JSs1O7e0
「星女神(アストラ)ガ与ェシ星屑ノ矢カ…」
だが、タナトスは眉一つ動かすことなく矢を引き抜き、それをぽっきりとへし折った。
「残念ナガラ、今ノキミハ満身創痍ダ。其レデハ星屑ノ矢ノ力モ半減シテシマゥヨ」
蠅を払うような動作で腕を振る。ただそれだけで烈風が吹き荒び、オリオンは羽毛のように跳ね飛ばされた。
「くそっ…よくもオリオンを殺りやがったな!(※死んでません)次はオレが相手だ!」
城之内の闘志に呼応するかのように、雷を纏う騎士が顕現する。
「―――<ギルフォード・ザ・ライトニング>!オレのデッキ最強のモンスターだ!」
雷光の騎士は雄々しく剣を振り上げ、勢いよくタナトスに向けて振り下ろす―――だが。
タナトスはその剛剣を、人差し指と中指で挟み込む。たったそれだけで、もはや微動だにしない。
そして軽く指を捻ると、巨大な剣がまるでマッチ棒のように根元から折れる。そのまま貫手でギルフォードの心臓に
風穴を開け、彼を一瞬で消し飛ばす。愕然とする城之内に対し、額と額が触れ合うほどに顔を近づける。
「城之内。キミハ好マシィ男ダガ―――勇気ト無謀ノ違ィハ知ッテォィタ方ガィィ」
トン、と。何気なく城之内の胸板を指先で叩いた。それだけでその身体は、大砲で撃ち出されたような勢いで大地に
叩き付けられた。そしてタナトスは、闇遊戯へと視線を向ける。
いや―――正確には闇遊戯ではなく、その首にかけられた千年パズルへ。
「先程カラ気ニナッティタケレド、キミノ持ツ其ノペンダント―――其レハ、闇ノ力ニテ産マレ出シ物ダネ。人間界
ニ在ッテハナラナィ物ダヨ、其レハ」
「…………それが、どうした」
「我ニハ分カルンダ。ソシテキミモ、現世ニ存在シテハナラヌ古ノ亡霊…」
タナトスは、ゆっくりと手を差し伸べる。
「我ト還ロゥ。キミノ眠ルベキ地―――冥府ヘ」
「悪いな。そいつは遠慮させてもらうぜ!」
闇遊戯は一枚のカードを天に向けて翳す。それは三幻神最後の一柱にして、最強の神!
「光臨せよ!不滅にして無敵、あらゆる神の頂点たる太陽の翼!」
夜空を煌々と照らし、それは大きく翼を広げる。

「この日輪の輝きを恐れぬのなら、かかってこい!太陽神―――<ラーの翼神竜>!」

生命の象徴たる日輪。その金色の輝きと大いなる焔を宿す巨大な鷹。圧倒的な神気が世界を満たし、灼熱の風が
大地を駆け抜ける。灰燼と化すまで闘い、灰燼と化してなおその裡より蘇る伝説の不死鳥。
頂点の中の頂点―――太陽神ラー!
77ダイの大冒険AFTER:2009/04/08(水) 07:50:53 ID:55yMYpi20
三人がルーラでパプニカに着いた頃にはラーハルトとヒュンケルが城下町を歩いていた。
「おい、お前ら何でパプニカにいるんだ。」
二人を見つけたポップは少し不愉快な顔で二人を見つめていた。
「実は旅先でダイ様に関する手掛かりを見つけてな、レオナ姫に報告する為に立ち寄ったというわけだ。」
ポップ、マァム、メルルの三人は最初自分の耳を疑った。
「おい、本当かそれ!!ダイに関する手掛かりって、今までこの半年世界中が探して何も見つけられなかったのに。」
「それじゃ、ダイに会えるのね!」
「そうかもしれないと言うだけだ。俺達の勘が正しければ、俺達は二度とダイに会うことは出来なくなるだろう。」
ヒュンケルの言葉に三人は不安を覚えた。
「ダイさんに会えなくなるって、一体何が・・・」
「その話は宮殿で話す。お前たちは一体何でここに来たんだ?」
ラーハルトの質問にポップは黒の核を見せて答えた。
「それでお前達もパプニカに来たのか?もし黒の核が爆発したらこの大陸は消えてなくなるぞ!!」
ラーハルトはいつにも増して大きな声で怒鳴った。それは実際に黒の核の恐ろしさをかつての主バランにきかされていたからである。
「すまねえ、だけどこの状況で知らせないわけにもいかないだろう。何も知らないまま地上が滅んじまう可能性もあったんだ。」
ポップの言葉に対しラーハルトは何も言えなかった。
「喧嘩をしている場合じゃないだろう。宮殿に急ぐぞ。」
ヒュンケルの指示で全員は宮殿に向かった。
「この胸騒ぎ、思いすごしならばよいのだけれど。もしかしたらダイさんの身に何か起きているのでは?」
メルルは言い知れぬ不安を抱いていた。後にメルルの予感は現実の物となる。
78ダイの大冒険AFTER:2009/04/08(水) 07:55:46 ID:55yMYpi20
お読みして下さった皆様、ありがとうございます。
忙しいので小出しになりましたが次からはまとめて出せると思います。
79遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/08(水) 08:06:23 ID:ttEDoEQZ0
「太陽の前に消え去れ、冥王よ―――ゴッド・フェニックス!」
ラーは咆哮し、その全身が獄炎と化す。遍く全てを焼き尽くす焔はタナトスへと襲い掛かり、その身を呑み込んだ。
火柱は天高く燃え上がり、熱風が闇遊戯の肌をも焼いていく。
「やったか…」
だが。
「コノ力…マサニ太陽カ。フフ…ケレド、太陽ノ光モマタ、闇ノ前デハ無力。水辺ノ儚キ水泡ニ過ギヌ」
焔の中で、タナトスは笑っていた。
「吹キ荒レロ。永遠ナル理力ノ吹雪ヨ―――」
その全身から迸る魔力が、絶対零度の冷気と化す。
「―――エターナル・フォース・ブリザード!」
一瞬だった。天を焦がす焔は刹那で凍り付き、砕け散る。無数の氷の破片と化したラーは月と星の灯りに照らされ、
美しく煌きながら散っていった。
「バカな…ラーが、こうも簡単に破れるだと…!」
「ココマデダヨ、古ノ王(ファラオ)…フンッ!」
「アッー!」
タナトスから放たれた衝撃波が、闇遊戯を吹き飛ばす。息が止まるほどに地に叩き伏せられ、呻きながら転がる。
「…ゴメンヨ。痛ィ思ィナドサセタクナカッタノニ」
「う…うう…」
苦鳴を漏らす闇遊戯―――否。その姿からは彼特有の険しさが消え、年相応の少年の顔となっていた。
「フム。ドゥヤラ、今ノ衝撃デ人格ガ入レ替ワッタカ…ソレナラ好都合ダ」
タナトスはそっと千年パズルに手をかける。その腕を、遊戯は渾身の力で掴んだ。
「ダメだ…パズル…は…もう一人のボクは…渡さ…ない…」
「何度モ言ワセナィデクレ」
タナトスはあっさりと遊戯の腕を振り解き、千年パズルを奪い取った。
80遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/08(水) 08:07:09 ID:ttEDoEQZ0
「死者ハ冥府デ眠ルベキ―――現世ニ留マッテハナラヌ」
「…そんなことは…分かってる…けれど、今はまだ…」
「キミモ、疲レタロゥ…少シ眠リナサィ」
掌を遊戯の眼前に翳し、タナトスは微笑む。どこまでも優しく―――残酷に。
「ォ休ミ。ソシテ、ォ別レダ。二度ト会ゥコトモナカロゥ…キミガ天命ヲ全ゥスル、ソノ時マデ」
急激な睡魔が遊戯を襲う。意識を失う寸前に目に焼きついたのは、タナトスの微笑。
そして彼の手に握られた、自らの半身―――


死の神にして冥府の王タナトス―――
そして彼に挑む、死すべき者達―――
人の世の戦乱は終わりを告げて、神と人の闘い―――<死人戦争>が始まる―――
限りなき命を持つ神と、限りある命を燃やす人間―――
神が人を殺すのか、人が神を殺すのか―――
運命の女神は今なお、黙したまま、何も語らず―――
81サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/04/08(水) 08:11:39 ID:ttEDoEQZ0
投下完了。前回は>>22より。
これにて第二部完。第三部は最終決戦を残すのみなので、そんなに長くはならないかと。
奪われた千年パズル…ドラえもんに例えると、四次元ポケットを奪われたレベルのヤバさです。
あと今回、タナトス様に救われちゃった彼はとあるアニメキャラを連想させるでしょうが、全く関係ない
です。名前だけ使わせてもらっただけです。悪しからず。

それはそうとスパロボK、甲児くんが空気にも程がある…合体攻撃もなくてカイザーもないマジンガーで
頑張る甲児くんに敢闘賞をあげたい。
どうでもいいけどファフナー未見の僕は、カノンとかを見て「あれ?種にこんなのいたっけ」と素で思って
しまいました。ファフナーファンの皆さん、ごめんなさい。
しかしゾイドの性能面での不遇っぷりは何なんだ(ゴリラだけは異様に強いけど)。初参戦でここまで
弱かった奴って、ここ最近のスパロボじゃそうそうないぞ。
種勢で一番愛を注いだのはシンちゃんでした…種勢で唯一機体・武器共にフル改造してあげた。なのに
そこそこ改造しただけのキラさんの方が明らかに強いのは何故なんだぜ。ストフリは性能壊れすぎだ。
そして、まさか後半まで生き残るとは思わなかった邪魔大王国の皆さん。15段階フル改造ジーグの
鋼鉄神ジーグできっちり止めを刺しました(魂かけたら10万近くダメージいって吹いた)。
しかしSSの後書きで、ここまでスパロボについて語る奴もいなかろう。ごめんなさい。

>>25 こんな形になりました。タナトス様がちょっとノリすぎ。
>>26 最後はきっちり爽やかで決めたいですね。曲パクリ…魔王決戦はまんますぎた。
>>27 まあその辺り、お約束の展開になるかと>ラスボス
>>ふら〜りさん
第三部予告。
「勘違いするな…貴様らと馴れ合うわけではない!オレと、何よりもブルーアイズを侮辱してくれたタナトスとやら
をブチのめさなければオレの気がすまんだけだ!奪われた魂(プライド)は―――我が手で取り戻す!」
こんな感じでいきます。社長はツンデレなので、一緒に闘おうなんて死んでも言わんでしょう。
>>ダイ大アフターさん
頑張れ新人類。初めの内は戸惑うこともあるでしょうが、根気よく。それと口うるさいかもしれませんが、他の作品が
投下されてる最中はそれが終わるまで待ってから書き込んだ方がいいです。気を悪くされる方もいるかもしれないので。
82作者の都合により名無しです:2009/04/08(水) 13:47:39 ID:xXE+qyoW0
乙です

エターナル・フォース・ブリザードをまともに使ってるやつは始めてみました
83ガモン:2009/04/08(水) 17:24:01 ID:lP/tFzF60
>>サマサさん
貴重なご意見ありがとうございます。これからは気をつけて書き込もうと思います。
84ガモン:2009/04/08(水) 17:34:43 ID:lP/tFzF60
すみません、肝心な事を言っていませんでした。乙です。
85ダイの大冒険AFTER:2009/04/08(水) 18:14:17 ID:lP/tFzF60
            〜魔界〜
ここは地上とはまるで異なり住んでいる生物も強大な力を持ったものばかりである。
地底深くにあることは知られているが魔界への入り口などは知られてはいない。
その魔界を統べる魔界の神、大魔王バーン、冥龍王ヴェルザーの二人の権力者は、
一人は竜の騎士によって倒され石像と化していた。
そしてもう一人は竜の騎士の息子の覚醒によって滅びた。
だがそのうちの一人、冥龍王ヴェルザーは石化してなお地上を欲する事を諦めてはいなかった。
「ピロロめ、しくじったか。バーンも勇者も殺せずに死ぬとは、奴に命令しなければよかったな。」
ピロロとはキルバーンの横についていた使い魔の様な存在であったがじつはピロロが正体でありキルバーンは人形であった。
「やっぱあんなガキに俺の傀儡人形を使わせたのは不味かったじゃん。」
「カンクロウか、だがお前が地上に設置した黒の核が勇者の仲間に見つかったのだ。これは由々しき問題だ。責任を取れるのか?」
「任せて下さいよ。黒の核を見つけた彼らにとってこれは大きな脅迫になったはず。
それにあの規模であれば地上征服に支障はきたさないですよ。」
カンクロウはそう言うとヴェルザーの部屋を出た。
「さてと、正直あそこで見つけられるのは想定外だったが仕方ない、
黒の核を持っているであろう勇者の仲間達を殺しに行くじゃん。
俺はピロロみたいに甘くないからな。」
カンクロウはその日魔界から姿を消した。
「ふふふふ、もう少しだ。もう少しで私の体が元に戻る。バランめ、あの日に受けた屈辱を貴様の息子を殺すことによって晴らす!
幸い勇者ダイも魔界にいるようなのでな。はははは。」
ヴェルザーの目的は魔界と地上の制圧、そして勇者ダイを殺すことだった。



86ダイの大冒険AFTER:2009/04/08(水) 18:50:42 ID:lP/tFzF60
             〜パプニカ宮殿〜
ポップ達五人は今までの経緯をすべて話した。
黒の核の事そしてダイに関する重要な手掛かりを・・・
「これがその証拠の品です。」
それはキルバーンの爆発に巻き込まれるまえにダイが履いていたズボンであった。
「たしかに所々荒んでおりますが判別ができる、普通ならば黒の核にふれれば跡形もなく消滅するはず。
しかしこうしてあの日ダイ様が履いていた物がこうして我々の目に映っているという事はダイ様はどこかで生きているということです。」
ラーハルトの言葉に先程のポップ達のようにレオナ姫は感激した。
「それでダイ君がどこにいるのか分かったの?いま彼はどこにいるの?」
レオナ姫は国政の為感情を殺してまで国事に紛争していたがこの半年ダイのことが気掛かりでならなかったのだ。
「その事なのですが・・・」
メルルが話そうとした瞬間ヒュンケルが静止した。
「ここから先は俺が話します。ダイのズボンがあそこにありダイがいなかったことには確信に近い一つの答えがあるからです。」
ヒュンケルのやけに小さい声にレオナ姫は不安な気持ちを持ち始めた。
「あの日キルバーンは大陸ごと黒の核で俺達を消し飛ばし自分は魔界に帰ろうとしていた、
そしてダイとポップに阻まれキルバーンは倒れたわけですが、もしもあの時キルバーンの開けようとしていた穴が不完全ながら黒の核の爆発によって空いてしまったとしたら。」
87ダイの大冒険AFTER:2009/04/08(水) 19:34:30 ID:lP/tFzF60
「ちょっと待って、もしかしたらダイ君はその不完全に空いてしまった穴に入ってしまったの?」
カール王国のフローラ姫は少し信じられないといった表情だったがラーハルトの言葉が真実味を醸し出した。
「あの時ダイ様は遥か上空まで飛びあがり同じ上空にいたポップにもダイ様の姿を見ることはできなかった。
魔界と地上を繋げる穴はせいぜい成人男性が入れる程度、ですがその吸引力は巨大生物ですら呑み込むのです。」
「ということはあの時本当はダイ君の近くにその魔界に続く不完全な穴が開いていてそれを肉眼でとらえることは不可能であった、ということですか?」
さすがの勇者アバンも半信半疑であった。それ程この仮説は信じがたいものだった。しかしラーハルトの仮設は続く。
「何故この穴が不完全かというとダイ様の肉体しか魔界に運び込むことが出来なかったからです。
実際に魔界に通じる穴を使った人物がいるのです。」
ラーハルトの言葉にレオナ姫は問いただした。
「一体誰なのその人は?」
「それがよ、その穴を通ったのはバランなんだ。」
ポップの言葉にレオナ姫は驚いた。
「そう、ヴェルザーが黒の核を使いバラン様をおいつめましたが、結局ヴェルザーはバラン様に倒された。
しかし、ヴェルザーの黒の核の影響で黒い穴が空き、バラン様は穴に吸い込まれて地上に出てきたのです。
そしてバラン様はおぼろげながらも答えを導き出しました。」
        〜結論〜
黒の核は開こうとしている次元の穴の近くで発動すると不完全に穴が開き、不完全に対象を呑み込む。(ダイのズボンが残ったのはその為)
しかしヴェルザーの使った黒の核は何もないところから偶発的に完全な次元の穴を出現させ、対象をそのままの状態で送り込む。

「これでバランが地上に戻ってきたみたいなの。私自身まだ半信半疑だけどこの二人が言ってることは事実だと思うわ。」
マァムは情報源がヒュンケルのせいかすぐに話を信用した。
その時のポップの心情はなにか遣る瀬無い気持ちであった。
「しかし、もしそうならダイ様は既に殺されていてもおかしくはない。会えなくなる可能性もあるということです。」
ラーハルトの言葉に城内の空気は重くなっていた。
88ダイの大冒険AFTER:2009/04/08(水) 19:38:02 ID:lP/tFzF60
第一話投下完了しました。
自分文章力ないですねorz。
これからも頑張っていきたいと思います。
89ガモン:2009/04/08(水) 20:00:08 ID:lP/tFzF60
黒の核ではなく黒の結晶でした。すみません。
90作者の都合により名無しです:2009/04/08(水) 20:08:47 ID:fMJxGWho0
ドラゴンボールのシェンロン

http://love6.2ch.net/test/read.cgi/hotel/1239077130
91作者の都合により名無しです:2009/04/08(水) 23:54:14 ID:Rq+t3H3l0
>サマサさん
太陽神ラーは三幻神最強のはずなのに何故か俺の中でカマセの認識があるなあ。
やはり本作でもカマセになりましたねw こりゃやはりエグゾディアの出番かな?

ちなみに俺がスパロボKで一番許せないのは、他のゲームの曲を丸パクした事。


>ガモンさん
魔界編ではラーハルト・クロコダイン・新キャラで新竜騎衆になる予定だったらしいけど、
この作品で見られるかな?しかしヴェルザーはどう考えてもバーンより下なんだけどな。

92しけい荘大戦:2009/04/09(木) 01:25:48 ID:Apt7H8P40
第四話「しけい荘最大の危機」

 響く打撃、蠢く殺気、轟く悲鳴。これらはしけい荘が今日も平和であることを示す証で
ある。
 ──オリバの巨拳が腹筋を穿つ。
 ──柳の鞭打が肌を抉る。
 ──ドイルの刃が肉を切り裂く。
 なすすべなく崩れ落ちるシコルスキー。ここでいつもなら泣きわめくか、命乞いをする
か、逃げ出すか、のいずれかであったが──。
 シコルスキーの目にはあざけりの光が宿っていた。あえて表現するなら、この場は勝た
せておいてやる、といったような輝きだった。決して負け惜しみや強がりではなく、本気
でそう思っている。
 シコルスキーはよろよろと立ち上がると、
「いやァ痛かった……。さすがに強いな、みんな……」
 と部屋に戻っていった。その佇まいにはやはり余裕というか、貫禄が漂っている。
 残されたオリバ、柳、ドイルは追撃をしにくい雰囲気となってしまい、立ち尽くすのみ。
「シコルスキーめ、原因は分からんが最近変わったな」首をひねるオリバ。
「やはり大家さんも感じたか。明らかに様子がおかしい」同調するドイル。
「ふむ、猛毒のキノコでも食べたか……」実に柳らしい推測を展開する柳。
 結局議論はうやむやになり、いざとなればシコルスキー本人に吐かせれば良い、という
結論に終わった。

 同様の疑問は他の三人も抱えていた。
 いくら殴ろうが、いくら蹴ろうが、シコルスキーは終始勝者であるかのような表情を浮
かべているという。
 あのオーバーすぎる負け犬リアクションがなければ、シコルスキーをいじめる楽しさは
半減してしまう。あるいはそれを狙ってシコルスキーが演技をしている可能性もあるが、
これほど突発的にそこまでの根性が宿るとは考えにくい。
93しけい荘大戦:2009/04/09(木) 01:26:59 ID:Apt7H8P40
 まさしく、しけい荘最大の危機。オリバはシコルスキーを除く全員を自室に集めた。
「ゲバル。君はルームシェアをしているが、最近シコルスキーに変わったところはあるか
ね?」
「いやァ〜俺も来月の米大統領来日の件で忙しくて……ただ、理由は知らないが鏡をよく
磨いているな」
「鏡か……ふむ」
 思案にくれるオリバ。が、パズルはすぐに行き詰まる。
 続いての証言者はスペック。
「最近アイツ、タマニ部屋ノ中デ暴レテルンダヨナ。トレーニングデモシテルンジャネェ
カ? モシカシテ、ソレデ自信ヲツケタノカモナ」
「トレーニングか……。ゲバルが気づかぬはずがないから、どうやら一人でいる時のみ行
っているようだな」
 オリバの頭の中に浮かぶパズルに、また一つピースが差し込まれた。
「あ、そういえば」突如、ドリアンが声を上げた。
「なんだね?」
「少し前、シコルスキーが催眠術を習いに来たな。もっとも初歩しか教えてないから、よ
ほど単純な者でなければかからんだろうが……」
 得意げにドイルが身を乗り出す。
「分かったぞ! あいつ、俺たちに催眠術をかけてるんじゃないか? 本当はボロボロな
シコルスキーが、平然として見えるように」
「いくらなんでも、付け焼刃の催眠術では難しいだろう」
 冷静な柳の指摘に、押し黙るドイル。
 皆が議論に熱中する中、オリバは黙々と考え込んでいた。
 鏡、トレーニング、催眠術──これらとシコルスキーの余裕を繋ぎ合わせる。
「──謎は解けたッ!」

 地上最強の包囲網が完成した。シコルスキーを囲む、オリバ、柳、ドリアン、ドイル、
スペック、ゲバル。
 シコルスキーは、突っかけるスペックの無呼吸連打をやすやすかわし、
「真の強者は一撃しかいらぬ」
 と宣言通り、ストレート一発でスペックをのしてしまった。
94しけい荘大戦:2009/04/09(木) 01:27:52 ID:Apt7H8P40
 ドイルをアッパーで片付けると、背後から迫る柳を振り返りざまのハイキックでノック
アウト。
「ガソリンはお好きかな」
「どちらかというと血を浴びる方が好きだ」
 喉を一本拳で切り裂かれ、手に持ったガソリン満タンのバケツとともに沈むドリアン。
鮮血がシコルスキーに降り注ぐ。
 残るは二強、オリバとゲバルのみ。
「アンチェイン、力を合わせるしかなさそうだ」
「ふぅむ……やむをえんな」
 オリバとゲバル。ダブルアンチェインによる同時パンチ。当たれば即死まちがいなしの
二撃を、シコルスキーはそれぞれを片手で軽々と受け止めた。
 驚愕するオリバ。
「し、信じられん……ッ!」
 防御が終われば反撃の時間。シコルスキーはドロップキックの右足をオリバに、左足を
ゲバルにぶち込み、なんと二人を同時に昏倒させてみせた。
「これで分かっただろう……しけい荘最強が俺だってことがッ!」
 ──こう叫んだ瞬間、シコルスキーは大きく手を叩いたような音を耳にした。

 203号室で我に返ったシコルスキーを、ノックもなしにお邪魔していたしけい荘一同
が囲んでいた。
「あれ……?」
「ご苦労だった、ドリアン。おかげで目を覚ましたようだ」
 凄まじい形相の住民たちの中で、ただ一人オリバはにこやかに笑っていた。
「楽しかったかね」
「いや、あの……」
「君の叫び声と動きで大まかな内容は理解できた。おそらくはスペックをパンチで倒し、
ドイルと柳を立て続けにノックアウト、ドリアンを沈め、さらにはゲバルと私を同時に倒
してのけた……といったところか」
95しけい荘大戦:2009/04/09(木) 01:28:39 ID:Apt7H8P40
 声一つ出せないシコルスキーを尻目に、説明は続く。
「シコルスキー。君は部屋で一人の時に、鏡を使い、自分自身に自己催眠をかけ、幻覚の
中で我々を打ちのめすのを楽しんでいた。単純な君ならば習いたての未熟な術でも効果が
あるだろう。そして日頃からよく鏡を磨いていたのは催眠術の精度を高めるためだったわ
けだ」
 汗、涙、鼻水、唾液、そして尿。シコルスキーから体液が抜けてゆく。
「いい運動にもなるし、最高のストレス解消だったろうよ。現実で受ける暴力など滑稽に
しか映らなかっただろう。“夢の中ではいつも俺にボロ負けしてるくせに”とね……」
 推理完了──。
 シコルスキーは悟った。きっと催眠術のやり方を忘れるほど殴られるにちがいない。
 響く打撃、蠢く殺気、轟く悲鳴。これらはしけい荘が今日も平和であることを示す証で
ある。
96サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/04/09(木) 01:35:47 ID:Apt7H8P40
第四話終了です。前話>>53
今回はミステリー回(?)です。

>>64
今度は逆をやってみようかと思います。

>>66
範馬親子の真の武器は鬼ではなく、口なのかもしれません。
97作者の都合により名無しです:2009/04/09(木) 07:24:59 ID:dzLSjStQ0
久しぶりにいっぱい着てるな。
出勤前なので1行感想で。

・サマサさん
闇遊戯奪われて通常遊戯がメインバトルキャラか。ラーもう少し活躍すると思ったがw

・ガモンさん
ラーハルトは好きなキャラなので登場してうれしい。人間に敬語はちょっと違和感だけど。

・サナダムシさん
シコルスキーは哀れで可愛いなw 住民のストレス発散のために存在してるだけだw
98作者の都合により名無しです:2009/04/09(木) 09:41:12 ID:LEtnb8Pu0
悪の組織フロシャイム・川崎支部。
今ここに、新たなる恐怖の化身が舞い降りようとしていた―――!
「ふもっふ!」
「…………なにこれ」
我らがヴァンプ将軍は、玄関口で元気よく手をフリフリしているクマだかネズミだかよく分からんナマモノを前
に困惑するのであった。

読者の皆!今回は、ニクたら可愛い奴らが大活躍しちゃうぜ!


天体戦士サンレッド 〜決死の潜入作戦!軍曹、命を賭した任務!


「もー!なにこれじゃなくて、新しくアニマルソルジャーに入った凶悪無比のボン太くんですよっ」
どこぞのハムスターによく似た声のウサギのぬいぐるみ型怪人・ウサコッツはプンプンしながら抗議する。
<アニマルソルジャー>。それは愛くるしいぬいぐるみ型怪人達で構成された、恐るべき殺戮集団。
女学生を中心に絶大な支持を誇る彼らだが、その容姿に騙されてはならない。
奴らは使い古しのフライパンを空き缶入れに不法投棄しようとするほど悪辣で狡猾なのだ。ああ、恐ろしい!
メンバーは以下の通りである。

ウサコッツ(リーダー格。川崎支部でも有数の凶暴性と対サンレッド戦における実績を持つ)
デビルねこ(ネコ型。最大の敵は糖尿と四十肩。インシュリンが相棒)
Pちゃん・改(鳥型。無口。液体金属のボディを持ち、飛行速度は米軍の戦闘機に匹敵する。最終兵器は核)
ヘルウルフ(狼型。満月を見ると凶悪な姿に変身する。アニマルソルジャー期待の新人)
ムキエビ先輩(殻を剥いた海老。川崎支部最年長者。ウザい。可愛くない。そもそもメンバーじゃない)

それはさておき、ボン太くんである。
「ワハハハハハハハハハ!」
「ヒーッヒッヒッヒッヒ!」
居間に入るなり大笑いしてきたのは、川崎支部所属の二人の怪人であった。
99作者の都合により名無しです:2009/04/09(木) 09:42:25 ID:LEtnb8Pu0
肩に装着された砲門は鋼をも容易く溶かす、不気味な仮面を被った人型怪人のメダリオ。
太古の呪いで敵を確実に死に至らしめる悪夢の呪術師、ミイラ怪人のカーメンマン。
ちなみに二人まとめてサンレッドにワンパンチで倒された。誤解しないでほしいがこの二人が弱いわけでは
なく、レッドさんがアホほど強すぎるだけである。
「もー、皆してボン太くんのことをバカにしてー!」
「だ、だってお前、その顔と名前で凶悪無比って!そりゃねーって、ギャハハハハハ!」
「ますますお前らの偏差値上がっちゃうじゃん、可愛さの!あーもー可愛いでちゅねー!プップクプー!」
「ムッカー!ぼくは全然可愛くなんてないもーん!」
「オマエタチ コロス」
笑い転げる二人と、怒りのボルテージが上がっていくウサコッツとヘルウルフ。傍らに控えていたデビルねこ
も猛抗議する。
「笑っていられるのも今のうちだよ!ボン太くんはその実力から<地獄の鋼鉄魔獣(フルメタルビースト)>
とまで呼ばれてるんだからねっ」
「じ…じごくのふるめたるびーすとー!?」
「どこが地獄だよ、魔獣だよ!どー見ても遊園地のマスコットキャラじゃん!」
「もー、その辺にしときなよ、二人とも。失礼でしょ!」
「だってヴァンプ様。明らかにサンレッド抹殺に向いてないでしょ、この子」
「これじゃ精々小さなお子様がターゲットじゃないっすか」
「うーん…」
悩むヴァンプ様。と、ボン太くんはその肩をポンポンと叩く。
「ふもふも、もふもっ(将軍殿。上官達が仰ることには一理あります。組織としてもロクに実力も分からぬ者を
雇う訳にはいかないでしょう。自分がフロシャイムの一員として相応しいかどうか確かめていただきたい!)」
「…何言ってるのかよく分からないけど、要するに入団テストをやってくれって言いたいのかな?」
ボン太くんはブンブン首を縦に振った。
「よし。じゃあちょっと外に出て。戦闘力をテストしてみるから」


いつもはサンレッドとの対決の場である公園。
「もっふー、ふもふもふも、ふももー!」
やる気満々のボン太くんの眼前には、二体の量産型ロボット。しかし決して侮るなかれ、平均的な怪人と同等の
能力を持ったそれは、そう易々と打ち破れるものではない。
100作者の都合により名無しです:2009/04/09(木) 09:43:23 ID:LEtnb8Pu0
「おいおい、大丈夫かー?」
「一体だけにしといた方がいいんじゃないのー?」
「黙って見てなよ二人とも!ヴァンプ様、ボン太くんはもういけるよ!早速始めて!」
「よし―――ボン太くんよ!我が前にその力を示せ!力なくばこの地で土に還るがいい!」
その声と同時に疾駆する、二体のロボット。だがボン太くんは、より速く、より疾く動いた。
「ふもっふーっ!」
強烈な電撃を放つ特殊警棒を振り下ろす。その衝撃で動きが止まったロボットに対して馬乗りになり、嵐の如き
連撃を叩きこむ。完全にその機能を停止したのを確認し、もう一体のロボットに向き直った。接近戦は分が悪い
と判断したか、距離を取るロボット―――だが。
「ふもーっ!」
ボン太くんは懐から手榴弾・マシンガン・散弾銃・バズーカ砲・その他諸々を取り出し、一斉に放った。
轟音。閃光。キノコ雲。
哀れ、ロボットは爆発し、爆散し、爆裂し、爆滅した。
戦闘開始より、実に10秒も経過していない。まさに圧倒。まさに瞬殺だった。
「どう?すっごいでしょー、ボン太くんは!」
「ね、ね?鋼鉄魔獣の異名はダテじゃないでしょ!」
「ボン太くん スキ」
「うん、うん!すごいよー、ボン太くん!頼もしいよ!」
大はしゃぎするアニソルメンバーとヴァンプ様。
「ま…まあまあ、かな…結構やるじゃん、ははは…」
「と、とりあえずは合格ってことにしといてやるか、あはは…」
そして、冷汗をダラダラ流すメダリオとカーメンマンだった。
―――ざっ、ざっ、ざっ。不意に聴こえた足音に振り向くと。
101作者の都合により名無しです:2009/04/09(木) 09:44:24 ID:LEtnb8Pu0
「んー?お前ら、何してんだ。ガン首揃えちゃってよー」
「おっお前は…我らが宿敵・天体戦士サンレッド!…いたっ!なんで頭を叩くんですか、もー!」
「急に悪役っぽくなるんじゃねーよ。で?こいつ何?新しい怪人?今度はこいつが俺と闘うのか?」
「一度にそんな色々訊かないでくださいよ。この子は新人のボン太くんです。まだレッドさんと闘う予定はない
んですけど…あ、そうだ。折角だからレッドさんに脅し文句の一つでも言ってみようか。予行演習に!」
「んな予行演習すんじゃねーよ…」
「まあまあ、そんなこと言わずにちょっとだけ付き合ってくださいよ。ほらボン太くん、何か言ってみて」
「ふもっ!」
大きく頷き、ボン太くんはレッドににじり寄った。
「ふもふもふもふもふもー、もっふふもふもふー、ふもっふ!」
「…………何て言ったんだよ。こいつは」
「え?えーっと…ボン太くん、悪いけど紙に書いてみて。ほら、ペンとメモ帳あるから、ここに」
ヴァンプから手渡された紙に、さらさらと走り書きしていく。そこにはこう書いてあった。
<ウジ虫のクソほどの価値もないアカ野郎が!ママの○○にこびり付いたパパの○○で生まれたのがお前だ!
この地球上で最も劣った生物だ!この俺が貴様の口に銃を突っ込み、ケツから鉛のクソをひり出させてやる!
貴様の苦しむ顔を見ることが俺の楽しみだ、この(以下更に過激な表現のため検閲)>
あまりといえばあんまりな内容に、ゾーッ…とヴァンプ達の背筋に戦慄が走る。
「ひでえ…俺だったらこんなん言われたら立ち直れないよ」
「ケツから鉛のクソって、どういう怪人生送ってたらこんなフレーズ浮かぶんだよ…」
レッドもまた、ゲンナリした様子でああった。
「…帰るわ、俺。じゃあな」
「あ、どうも、お疲れ様です…」
とぼとぼ歩いていくレッドを見送るフロシャイムの面々。そしてレッドはこう思った。
(俺主役なのに、出番これだけかよ…)


―――翌日。
某所に存在する、某高校にて。
とある少年と少女の会話。
102作者の都合により名無しです:2009/04/09(木) 09:45:41 ID:LEtnb8Pu0
「どーしたのよ、ソースケ。疲れた顔しちゃって」
「千鳥か…実は昨日から、悪の組織の元へ潜入していてな」
「へー、そう」
話半分といった様子で聞き流す少女。この少年、実はとある組織に所属する凄腕のエージェントである。
少女とてその事情は分かっているが、少年は大真面目に大ボケをやらかすことが日常茶飯事なので、こういう
話を一々真に受けていたら身が持たないのである。
「で、どんな感じなのよ」
「うむ…例のパワードスーツを持ち出さねばならないほどの激務といえば分かってもらえるだろう」
「あ、そう」
会話はますます右の耳から左の耳へと抜けていく。<例のパワードスーツ>の正体を知る彼女にしてみれば、
アレを持ち出す時点でシリアス展開とはほど遠いと容易に推測できた。
「そんなに大変な任務なら、ウチに来て晩御飯食べてきなさいよ。どうせロクなもん食べてないんでしょ」
「いや、その悪の組織の将軍が大変な料理上手でな。千鳥の料理より美味かった…」
パシン!と何処からともなく少女はハリセンを取り出し、少年の頭をどついた。
「痛いぞ、千鳥」
「うっさい、バカ!」
傍から見れば痴話喧嘩そのものの、平和な光景がそこにあった。
何でもないようなその時間が何より大切だったと、いつか彼らは思うのだろう。

―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
103サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/04/09(木) 10:00:54 ID:LEtnb8Pu0
投下完了。微妙にシリーズ化しつつあるサンレッドネタ第三弾。
フルメタルパニック知らなきゃ意味不明だろうな、これ。
フルメタは原作じゃ現在進行形でシャレにならない状況ですが、どうなることやら。
サンレッドがいればベリアルもワンパンで倒せそうな気がする…そう思えるくらい戦闘力に関しては
彼は頼りになるんです。ヒモ野郎だけどw
しかしフルメタがハリウッド映画化ってマジか…。もし実現したとしてもすっげー微妙になる気が。
あの似非ドラゴンボール見る限り、ハリウッドはダメだわ。

>>82 まあ、大概ギャグでしか使われないですからね。

>>ガモンさん
ダイ大で一番好きなのはクロコダインのおっさんな僕…このSSでは活躍するのでしょうか。
ヴェルザーはバーンよりは弱いだろうけど、ダイのいないメンバーでは苦戦するかな?

>>91 ヘタレボスの闇マリクに使われた上に、入手後はこれといって活躍してないですからね…。
    城之内にも実質負けだしw

>>97 ラーが弱いんじゃないよ!タナトス様が強かったんだよ!
104作者の都合により名無しです:2009/04/09(木) 16:34:26 ID:XVWuzZlw0
>>サナダムシさん
ひたすらシコルが哀れwww
でも、やられっぱなしの方が彼らしいし可愛いな。
催眠術かけてるの想像したら笑えたw

>>サマサさん
フルメタとサンレッドとは驚いた。しかも違和感無い。
決闘神話の方も順調そうで何よりです。
そして日輪の輝きで麦茶吹いたwww
次にラー呼び出すときには勇者とか言いそうだ…
105作者の都合により名無しです:2009/04/09(木) 23:05:01 ID:kyIrDgZ40
サナダムシさんのシコルへの試練は愛への裏返しでしょうw

ガモンさん、お久しぶりの新人さんの連載なので頑張って下さい。

サマサさん、フルメタとはまたいい所持って来ましたなw


前にフルメタのSS書いてくれた人誰だったっけ?
完結したっけ?
106ふら〜り:2009/04/09(木) 23:32:07 ID:sRnGq7zK0
おぉ。前回の感想から僅か二日でこの量というのは、かーなーり久々なこと! めでたい。

>>サマサさん
・決闘神話
パワーでもないスピードでもない炎でもビームでもない、ただ「死」だけを使う。そして言葉遣い
だけでなく、言ってる内容も柔らかいものがあるから、威圧感というよりひたすら冷たく怖い……
・サンレッド(フルメタは、昔々にリアル仕事で少々関わったことが有。あの頃は〜楽しかった〜)
誰だか知らないけどミスリル上層部の誰か〜。何を考えてあんなとこに潜入任務させてるん
ですか〜と。国際的紛争・テロの火消し役様の目に止まるとは、ある意味光栄なことかも?

>>ガモンさん
む、最初の三人であれこれもつれると思ってたら、早々にヒュンケルが出てきましたか。ラーハルト
はその辺には絡まないでしょうし、はてさてどうなるか。ヴェルザーは原作が続いてれば出てきた
であろうボスキャラ。本作では完全復活してポップたちと戦う姿が見られれたらいいなぁと。

>>サナダムシさん
最大の危機、がこれか。やはりしけい壮の中心人物、マスコット、そしてサンドバッグですね彼。
催眠術も何も要するに濃い目の妄想なわけで、それで辛い現実を強く耐え抜こうってのが
前向きなんだか何なんだか、それもまたシコルらしい。オチも綺麗に様式美、微笑ましいです。
107作者の都合により名無しです:2009/04/10(金) 00:43:56 ID:nCzRir/Y0
サマサさんにしろサナダムシさんにしろ何やってる人だろう・・
特にサナダムシさんは謎。ふらーりさんは割合に情報があるがw
108作者の都合により名無しです:2009/04/10(金) 07:17:20 ID:iYHXgsQc0
フルメタはわかるけどサンレッドがわからんw
しかしふら〜りさんは何物だよw
109ダイの大冒険AFTER:2009/04/10(金) 18:52:14 ID:69RhnqWh0
第二話 王女誘拐
「はっはははは、これが地上か。ヴェルザー様が欲する理由もわかるじゃん。」
傀儡師カンクロウは例の次元の穴で地上に出現した。
「カンクロウ様、当初は勇者一行を殺すと言っておりましたがここで彼らに死なれては困るのでは?」
カンクロウにつき従っているアークデーモンがカンクロウに忠告した。
「確かに、何人かは残さないと勇者は出てこないかもな。だがそれは一人人質を取ればすむ・・・」
ふとカンクロウは考え込んだ。
「よし、こうしよう。俺達だけで戦っても勝利よりも敗北の色が濃い気がしてきた。
だったら一人を人質にして全員魔界に呼び寄せる。勇者一行は全て死亡するじゃん。」
こうして、カンクロウは勇者一行がいるであろうパプニカとカールを攻め込んだ。
その頃パプニカでは黒の核晶の始末について話し合っていた。
爆発のチャンスがいくらでもあったのに爆発を起こさなかったので当面はアバンのいるカール王国が見張ることになり、全員の意見が一致した。
ポップ、マァム、メルルは宿に泊まりヒュンケルとラーハルトはアバン達と共にカールに向かった。
その日の夜、二大国は魔界のモンスター達に襲撃されることになった。
110ダイの大冒険AFTER:2009/04/10(金) 19:23:47 ID:69RhnqWh0
「モンスター達が〜!!!」
カール王国の国民達は突如として襲い掛かってくるモンスター達から逃げ回っていた。
「なんてことだ・・・こうしてはいられない!」
アバンは剣を持ち王宮から城下町に出た。
「待ってアバン。私も一緒に戦うわ。」
フローラ姫はアバンの後を追ったが彼に止められた。
「姫、貴女はもう貴女だけの命ではないのです。私の様な騎士団の代わりはいるでしょうが、
この国を引き上げていくあなたの代わりは利きません。」
「待ってアバン。私は、私は貴方を・・・」
アバンはフローラ姫にラリホーマをかけた。
「ア・・・バ・・・・ン。」
フローラ姫は愛する男の名を呼びながら深い眠りに堕ちた。
「すみません、私は貴女をを幸せにすることが出来なかった人間です。」
師と弟子は似通う点が幾つかあるという話もあるがこの時のアバンはかつてパプニカの三賢者、エイミに告白されたヒュンケルと同じだった。
アバンは既に炎が蔓延した城下町でヒュンケルを見つけた。
アバンは背にフローラ姫を背負っていて動きが鈍っていた。
「ヒュンケル、フローラ姫をパプニカへ連れて行ってください。」
「・・・わかった。」
ヒュンケルは多くを語らず、すぐにカールを脱出した。
『死ぬな、アバン。』
ヒュンケルは心の奥で師の無事を願った。本来ならアバンと共にモンスターと戦う筈の彼だが、
幾度の戦いを経て、戦うことが出来なくなった体ではかえって足手まといになり自分の所為でアバンを殺しかねないという思いがヒュンケルを戦場から引き離した。
アバンはモンスター達の軍勢に飛び込んで行った。
111ダイの大冒険AFTER:2009/04/10(金) 19:56:50 ID:69RhnqWh0
アバンはモンスターの軍勢に全くひけをとっていなかった。
しかしそれでも多勢に無勢、アバンの体はすでに傷だらけであった。
「これだけの軍勢を相手に一人で戦うなんて馬鹿を通り越して哀れだぜお前。」
モンスター達の嘲笑がカール全域に渡った。
既に国民の死者は数千人を超えていたがそれでもアバンの勝利を信じて疑わなかった国民達はその笑い声に絶望した。
「どんなに、笑われようとも、蔑まれようとも私は倒れるわけにはいかない。
こんなことで私が倒れたら、それこそ世界を救った私の弟子に笑われてしまう。私は人々を守る為にも、ここで死ぬわけには・・・」
アバンへの攻撃は尚も続いた。しかしどんなに拳を叩きこんでも、切り刻まれても、呪文で攻撃されても、アバンはモンスター達を討伐し続けた。
もはや、かれを支えているのは肉体ではなく、真の勇者のみが持つ精神に支えられて立ち続けた。
それでも、アバンに限界は来た。愛用のダテ眼鏡も壊れ、アバンの肉体は切り傷に重度の火傷等で立つのも一苦労だった。
「へへへへへ、偉そうな事を言った割には手ごたえがなかったな。」
一人で立ち向かうことも出来ない低級の魔族達は一斉にアバンに襲い掛かった。
アバンは抵抗することもできず魔族達にタコ殴りにされていた。
一方パプニカにはモンスターは一体も出没せず、代わりに一人の黒服をきた男が現れた。
「さてと、カールのほうはテマリが上手くやってるだろう、そろそろおれも作戦を決行じゃん。」
カンクロウはパプニカ王宮に一人で入って行った。
「ま、待ってください。」
お供のアークデーモンも主の後を追って王宮に入った。
カール国民は絶望の淵に立たされた。
アバンは今モンスター達の手によって抹殺されかかっていた。
しかしモンスター達はわざと手を抜き、ぎりぎりアバンが死なない程度にいたぶり、楽しんでいた。
アバンはもはや声すら出せなかった。それでも立っていた。
「アバン様ーー。」
一人の子供がアバンの名前を呼んでも彼は応えることが出来なかった。
次第にモンスター達も飽きはじめ、一人のアンクルホーンが止めを刺そうとした瞬間だった。
「ハーケンディストール。」
112ダイの大冒険AFTER:2009/04/10(金) 20:21:12 ID:69RhnqWh0
突然、そう突然だった。
アンクルホーンが手を振り上げた瞬間にアンクルホーンの四肢、胴体が細切れになったのである。
「あな・・・た・・・は?」
既に疲弊し尽くしたアバンが傍にいる男にしか聞こえぬ様な声を出した。
そこにいた男は間違いなくヒュンケルの盟友、ラーハルトであった。
「ヒュンケルの頼みでここに来た。カール王国の国境を出た所でヒュンケルに会い、『アバンを助けてくれ。』
とな。」
ラーハルトはモンスターの襲来にいち早く気づきモンスターの討伐のため、カールから出ていた。
「ヒュンケルに決して殺させるなと訴えさせた男だ、俺もあんたの事を評価している。」
ラーハルトはアバンに世界樹の雫を飲ませた。
「ふう、楽になりました。ラーハルトさんでしたね、この恩はいつか必ず。」
体力が回復したアバンの眼を見てラーハルトは思った。
『幾ら世界樹の雫を使ったとはいえ、これが先程まで生死を彷徨っていた男か?それにあの眼は全てを見透かしているような・・・』
ラーハルトもアバンの底知れぬ器を垣間見た気がした。
「あんたもバラン様やダイ様と同じような物を感じる。竜の騎士でもないのに。」
「そんな、私にそんな大きな力はありませんよ。」
アバンのこの謙虚そうな性格も彼の一つの魅力なのだろう。
「おらおら、てめえらさっきから何をごちゃごちゃいってやが、」
アバンとラーハルトの怒涛の逆襲が始まった。
そしてこの争いは十分足らずで終わった。
しかし二人の戦いは終わっていなかった。
113ダイの大冒険AFTER:2009/04/10(金) 21:15:38 ID:69RhnqWh0
「感じます。今まで感じていた邪悪な気配が王宮に向かっています。」
メルルが宿でポップ達に話していた頃にはもうカンクロウは王宮の玉座の前に立っていた。
「あなたは何者なの?まさか城の皆に危害を加えてないでしょうね?」
「御立派御立派。自分の身よりも家臣の心配をする所はさすが一国を王女といったところじゃん。」
カンクロウとアークデーモンはレオナに近づいていた。
「安心しな。城の連中にバレちまうような隠密行動やってたら今頃大騒ぎだろう?
だれも傷一つついてないよ。」
城の者達の心配は一応無くなったがカンクロウの素性が知れないレオナは警戒を解かなかった。
「単刀直入に言う。魔界に来い。ヴェルザー様が温かく迎えてくれるだろう。」
ヴェルザー、その言葉を聞いてレオナは警戒心を強くした。
大魔王バーンとの決戦において闇から姿を現した龍の石像、冥竜王ヴェルザーを知っていたレオナにとってカンクロウは、
危険な存在にちがいはなかったのだ。
「キルバーンの言ったとおり、まだ地上を諦めてなかったのね。黒の核晶を地上に送ったのもあなた達の仕業ね。誰が行くもんですか!」
「あんたは人間共の指導者で泳がせておくには危険すぎるんだよな。
折角話し合いで解決しようと思ってたのに仕方がない、腕ずくででも連れて行くじゃん。」
カンクロウがレオナに手を差し向けたその時、天井から三人の人間が落ちてきた。
「おい、この顔中ペイントヤロー、女に、姫さんに手を上げようとするなんて最低のクズだな。」
声の主はポップであった。さらにマァム、メルルの二人もいた。
「もうあんた達はにげられないわ、観念しなさい。」
マァムの声に恐れたのかアークデーモンは逃げようとしていた。
しかし、それを見逃す筈もなくマァムの閃華裂光拳でアークデーモンを倒した。
「あらら、俺の付き人がこうもあっさり。」
「次はお前の番だぜ。」
ポップは既にメドローアの構えを取っていた。
しかしカンクロウはポップの想像以上に速く動き、レオナの胸倉を掴んだ。
「くくく、この姫が死んでもいいならそれを撃ちな。まあ、出きればだけどな。」
「く、くそ。」
「そんな、レオナさんが。」
メルルの予言は最悪の形で実現してしまった。
「誰があんたなんかと、心中するもんですか。」
レオナは忍ばせておいたナイフでカンクロウの腕を斬った。
「この小娘が!やってくれるじゃんよ。」
カンクロウは作戦を忘れレオナを殺そうとした。しかしその一瞬の隙にレオナはカンクロウの魔の手から逃れた。
「畜生がーー!!」
我を忘れてカンクロウはポップ目掛けて走り出した。
「今しかねえ、メドローア!!!」
メドローアはカンクロウに近づいて行った。その瞬間カンクロウの背負っていた荷物の包帯が解けた。
「フン、こんなもの当たるかよ。」
カンクロウは突如として二人に別れ包帯から解かれた方のカンクロウはポップの後ろへ回りもう一方のカンクロウはポップの体に巻きついた。
「ジャアコンドハボクノバン。」
ポップの体に巻きついた方のカンクロウはメッキを剥がすように外郭が剥がれおち、
出てきたのは傀儡人形だった。
「な、なんだこりゃあ!?」
カンクロウは指についている紐を手繰り寄せながら言った。
「地上じゃ相当ばかし合いが上手いと聞いていたが俺の敵じゃねえじゃん。」
「ポップさーん!!!」
「ぽっぷーー!!!」
「ポップ君ー!!!」
三人の叫び声も虚しくポップは体中の骨を破壊された。
「骨まで砕けばグニャグニャになれるじゃん。ただし、首以外にしといてやるよ。くくく。
さてと、レオナ姫、貴女は俺について来い。」
カンクロウはレオナの胸倉を掴み次元の穴を作り、入っていった。
114ガモン:2009/04/10(金) 21:22:59 ID:69RhnqWh0
第二話、投下完了です。
ポップ好きの方やカンクロウ好きの方々まことにすみません。
物語を進展させるためとはいえ、色々なキャラクターを崩壊させてしまったので申し訳なく思っております。

>>サナダムシさん とても面白いです。
シコルスキー、最後はやっぱり殴られてるんですね。
115ガモン:2009/04/10(金) 21:26:23 ID:69RhnqWh0
変換ミスがありました。すみません。
なんか謝ってばかりですね。
116作者の都合により名無しです:2009/04/10(金) 23:37:59 ID:9Qh1hd0+0
お疲れ様ですガモンさん。
今の面子では一応ラーハルトが最強か。
カンクロウはナルトからヒントを得たキャラかな?
俺が一番好きなバランは回想以外出ようが無いだろうなあ
117作者の都合により名無しです:2009/04/11(土) 00:18:34 ID:1/2EFPfO0
ガモンさん頑張ってるな。
でもナルトキャラに負けるアバンは見たくない気もするな。
118作者の都合により名無しです:2009/04/11(土) 07:25:31 ID:QGRpNtcQ0
カンクロウが強いのかポップが弱いのかw
119しけい荘大戦:2009/04/11(土) 08:02:39 ID:M+ZMKSKO0
第五話「海王になろう」

「今年の海王認定試験の開催地は、日本(リーベン)に決定した。君らならば充分合格圏
内にある。是非参加されてはいかがかな?」
 コーポ海王の管理人、劉海王からの誘いだった。
 試験の門戸は意外に広く、健康な男性ならばだれでも受験が可能なのだという。
 しけい荘の住民たちは大いに奮い立った。中国拳法最高峰の証、海王。実に挑戦しがい
のある試練ではないか。
 まして、彼らが暮らす日本は資格社会である。資格さえあれば実際に通用するかはとも
かく、スタートラインには立ちやすくなる。海王の称号があれば、道場を開くこともでき
るし、講演会のネタにも困らない。
 いくらかの打算を含む向上心から、しけい荘一行は受験を決意した。
 ドリアンによると、試験の内容は毎年変わり、しかも武術性を重視するため当日まで明
かされないという。
「ちなみに私の時は山に素手でトンネルを掘る試験で、合格者は私一人だったな」
 誇らしげに語るドリアン。
 つまり、事前対策は一切不可能。どんな試験が待ち受けていてもクリアできるだけの技
量を持たねば、海王を名乗る資格はないということだ。

 受験勉強が始まった。
 シコルスキーは指の強化に重点を置く。部屋の天井に埋めたナットに指二本だけで掴ま
り、懸垂のような上下運動を何時間も繰り返す。地味だが、人間の域を超えた鍛錬である。
 小指逆立ちで訓練するゲバルも、呆れるほどの執念だ。
「はりきっているな」
「よォ、ゲバル。アンタとちがって俺には指(これ)しかないからな。むろん海王にもこ
れで挑む」
「一途な奴だな。しかしやり過ぎると──」
 ナットが抜け落ち、シコルスキーは無様に頭から着陸した。
120しけい荘大戦:2009/04/11(土) 08:03:30 ID:M+ZMKSKO0
 スペックはひたすら動く。ただ動く。無計画に動きまくる。なぜなら、スペックはこれ
がもっともスタミナを高める方法だと知っていた。かつては五分が限界だった無呼吸運動、
今では六分間可能だ。
 決して止まらぬ連撃で敵を無力と成すことこそ、この怪人にとっての最上の喜びなのだ。
「コノ持続時間ヲサラニ──引キ上ゲルッ!」
 つい先日97歳を迎えたスペック。今だ成長期である。
 しばしの瞑想の後、柳はあらゆる素材に足裏を添える。
 鉄板、木材、ガラス、プラスチック、ビニール、和紙──。
 全ては「空道」の未知なる領域、足による空掌を完成させるため。もし一呼吸で人間を
絶命し得る猛毒を両手のみならず、四肢全てに得たならば──
「ふふ……私としたことが完成してもいない技を夢想して、笑ってしまった」
 ──まちがいなく地上最強になれる。
 それぞれの得意分野を鍛え込む他の住民とちがって、ドイルは意外にもオーソドックス
なトレーニングを実行していた。海王認定試験では、体内に仕込んだ武器の使用は即失格
となる。だからこそ、彼にとっては「オーソドックス」こそが強くなるための近道なので
ある。
 ストレッチから始まり、ウェイトトレーニング、ランニング、そして空手やボクシング
のジム通い。
「手品の練習に比べれば、大したことはない……」
121しけい荘大戦:2009/04/11(土) 08:04:58 ID:M+ZMKSKO0
 そして皆の代表である、大家オリバの鍛錬は常軌を逸していた。
 軽トラックを担ぎながらのスクワット。もはや人間どころか、生物ですらない。百回を
軽くこなすと、ステーキ五十キロをぺろりと平らげてしまう。
 食後のワインを済ませ、楽しそうに独りごちる。
「オリバ海王というのも、悪くねェな」

 海王認定試験、いよいよ当日。劉を通じてエントリーしていたオリバたちも、数日前に
郵送されてきた案内状を手に、大いに盛り上がっている。
 しけい荘から会場までの距離はおよそ百キロ。一般人ならばなんらかの交通手段を選択
すべき場面であるが、
「諸君。全員私のように一切の道具を持たず、パンツ一丁となるのだ。今日は肉体以外を
使うことを許さんッ!」
 肉体美を晒すオリバの一声によってパンツ(柳のみふんどし)一丁の全速ランニングが
決行されることとなった。
「海王でよかった……」
 ドリアンは彼ら六人を見送りながら、心からこう漏らした。
 百キロ余りをほぼ全速力で完走した一行だったが、すでに受付時間ギリギリになってし
まっていた。
 息を切らし、試験の受付係に話しかけるオリバ。
「今日グループで一括エントリーをしていた、しけい荘のビスケット・オリバだが」
「はい、ではお一人様当たり受験料五百円を頂きます」
「え?」
 オリバの怪力はコインを折り曲げることさえ容易い。しかし、今日はそのコインすら持
っていない。
122サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/04/11(土) 08:13:36 ID:M+ZMKSKO0
おはようございます。
第五話終了です。
123作者の都合により名無しです:2009/04/11(土) 10:17:08 ID:zI4K7YJR0
今更だけどガモンさん、2chでメアド晒すのはヤバくないですか?
メール欄は「sage」だけ入れておいた方が無難ですよと
124ダイの大冒険AFTER:2009/04/11(土) 18:43:49 ID:yDHEGZW90
第三話 破邪の洞窟の真実
カール王国は数千の被害を被ったがアバンとラーハルトの活躍によって壊滅は免れていた。
しかし、アバン達は倒壊した家の影に隠れているとても大きな扇子を持った少女を見逃さなかった。
「貴女は誰ですか?」
普通の人間ならばこの少女も戦禍に巻き込まれるのを恐れて隠れていたのだと思うだろう。
だがアバンとラーハルトはどう見ても不気味な気配を発していた様に見えたのだ。
何故ならこの少女は先程の戦いを監視していたのだから。
「なかなかやるね、私はテマリっていうんだけど。」
「お前がこの国にモンスターを嗾けたのか?」
「待ってくださいラーハルトさん、もしもそうならそう簡単に私達には話さないでしょう。」
しかしテマリは驚くほど簡単に秘密を洩らした。
「そうだよ。別にこの国を攻めること自体は大した目的じゃない、あんた達がバーンを倒した勇者の一味かどうか探りに来たんだ。」
その言葉を聞いたアバンの顔に憤怒の表情が浮かび上がった。
「そんなことの為に、この国の人々を殺したのですか?彼等にはそれぞれの夢や希望、それぞれの人生があった。
貴女は私達の正体を見破る為だけにそんな彼等を殺したのか!!」
アバンは鞘に収めていた剣を再び振りかざした。
「どうせヴェルザー様に支配されるんだ。この地上の生物に夢や希望なんてあの方は与えないよ。」
「ヴェルザー・・・キルバーンが仕えていた真の主。つまり貴様等がダイ様を連れ去ったのか!!」
ラーハルトはダイが消えたあの日からキルバーンを従えていたヴェルザーこそ諸悪の根源だと確信していた。
「貴様がヴェルザーの部下と知ったからには女だからとて容赦はしない、
全力で貴様を葬りヴェルザーも殺す!」
ラーハルトはテマリにハーケンディストールを放った。
「ま、地上の連中じゃこんなものね。」
突然突風がラーハルトに襲い掛かった。
「カマイタチの術。」
テマリは持っていた巨大な扇子を振り回しラーハルトを遠ざけ、なおかつ物理的なダメージを与えた。
ラーハルトは突風に巻き込まれ建物に衝突し気を失った。
「まあ今はいいわ。ヴェルザー様復活しが地上を制圧するのも時間の問題、
精々残りの余生を楽しむのね。」
「待て!」
アバンの声も虚しくテマリは次元の穴を開け
笑いながらアバンの元から去って行った。
125ダイの大冒険AFTER:2009/04/11(土) 19:11:01 ID:yDHEGZW90
アバンは急いでラーハルトの元へ向かい介抱した。
二人はその足でパプニカへ向かった。
一方ヒュンケルは既にパプニカに着き、マァムやメルルに状況を聞いた。
「まさかポップが簡単にやられるとは、一体敵はどのような戦い方をしてきたんだ?」
「それが、ポップがメドローアを撃ったまでは良かったんだけど・・・」
ポップの完全な敗北にヒュンケル、そして既に目を覚ましていたフローラ姫は驚いた。
フローラ姫は急いでポップの治療に向かった。
マァムとメルルもやはりポップの様子を見に行った。
メルルはポップの姿を見るなり顔を隠し泣いてしまった。
その時リリルーラでアバンとラーハルトの二人が病室に到着した。
「アバン、生きていたのね。良かった。」
フローラ姫はアバンに飛びついて行った。
「フローラ姫、ポップ君の治療がまだ終わってません。放していただけますか?」
フローラ姫は余りの恥ずかしさに赤面してしまった。
ポップの治療には五日掛かった。あらゆる回復のアイテム、呪文を使っても骨の再生は容易に出来ることではなかった。
例えであるが、ポップの治療がもう少し遅ければ、彼は死んでいただろう。それ程深刻な容体だった。
この五日間で二つの国で起きた事件は既に世界に知れ渡っていた。
一つはパプニカ王女、レオナの失踪、そしてカール王国の襲撃である。
「くそ、ヴェルザーが動き出したのか。」
まだ完治したとは言えない体を引きずってポップは魔界へ行こうとしていた。
126ダイの大冒険AFTER:2009/04/11(土) 19:45:47 ID:yDHEGZW90

〜天界〜
かつて冥竜王ヴェルザーを封印した精霊の一人、アルテミスは天界に迫る邪悪な気配を察知した。
「来る、ヴェルザーにも劣らない力を持った者が。」
アルテミスはヴェルザーの本体が封印されている牢の監視役に任命されそれからは牢の番人として暮らしていた。
そして邪悪な気配を持った者は封印を守るアルテミスの前に立った。
「一体誰なの?ヴェルザーの封印を解こうとしているの?」
アルテミスの質問に男は答えない。その男のプレッシャーにアルテミスは押されていた。
その男は体も小さいが、眼の下のクマ、やたらと大きい瓢箪、額の愛の文字が恐怖の対象となった。
その男はヴェルザーの肉体が封印された檻の前に立ち、ヴェルザーの肉体の前に立った。
「貴方はやはりヴェルザーの部下ね。絶対に封印は解かせない。バーンが倒れた今、ヴェルザーがここにいれば平和を脅かす者はいなくなる。
貴方達にどんな事情があろうとこの檻は外さないわ。」
しかし、アルテミスの声が届いていないかのようにその男は立ち尽くしていた。
アルテミスはこの男の不気味さを感じ取りすぐにでも逃げ出したい気持ちになった。
『もう…いや。』
アルテミスは逃げ出す訳にもいかずとった行動は、メラゾーマだった。
アルテミスのメラゾーマは確実に決まった…筈だった。
「う、嘘。」
男の体には傷一つ無く、まるで何事も無かった様な無表情な顔をアルテミスに見せた。
このとき、男は口元に少し笑みをこぼし始めていた。
その瞬間爆発が起き、ヴェルザーの檻は粉々に砕かれ、男とヴェルザーの肉体だけがその場に残った。
アルテミスは体に巨大な爪で引き裂かれた跡がある無残な死体と化していた。
127ダイの大冒険AFTER:2009/04/11(土) 20:07:14 ID:yDHEGZW90
「う、体が動かねえ。」
ポップは魔界に行く道を探すためにパプニカを出ようとしていた。
少なくともレオナが連れ去られたのは自分の責任だと実感していたからだ。
しかし、半病人が国を出ようと思っても不可能な話であった。ポップはそのまま道に倒れこんでしまった。
「あ、良かった。目を覚ましました。」
ポップが起きた場所は王宮の寝室であった。
隣にメルル、マァム、ヒュンケル、そしてパプニカ三賢者の一人、エイミがいた。
「まったく、無茶するんだから!もう二度と勝手な真似はしないで。」
ポップはこの日マァムの態度が少し違うことに気づいた。いつもならここでビンタの一つや二つ横面に叩かれるものだがそれがなかった。
『おいおい、これってひょっとして俺の事を本気で心配してたのか。」
ポップはマァムに対しての申し訳なさと内心とても嬉しい気持ちとが同居している様な顔になったが、そんな顔をマァムに見せる訳にもいかなかった。
それから数週間経ち、ポップの体も完治していた。
その頃、ロンベルク、ノヴァ、マトリフがパプニカに来ていた。
「師匠にロンベルク、ノヴァまで、どうしたんだよ?」
「ど、どうしたんだよって姫は失踪してお前は死にかけたっていうからこうして来たんじゃないか。」
「それにお前が一人で魔界に行こうとしていることもこの男から聞いた。」
ロンベルクの後ろからバダックが顔を出した。
「ポップ、わしは姫が失踪したのはお前だけの責任ではない!あの夜に侵入者の存在に気付けなかったわしも同じじゃ。」
「だが俺は、傍にいたのに守ってやれなかった。」
128ダイの大冒険AFTER:2009/04/11(土) 20:54:47 ID:OUVCf2UP0
「ポップ。」
師匠マトリフに呼び止められたポップは申し訳なさそうに師の表情を伺う。
「おめえは今までダイに頼り過ぎていたこともあった、お前のその油断が姫さんを拉致させちまったんじゃねえか?」
「それは・・・」
ポップは反論することが出来なかった。
「いつかお前は言ったよな、『あんたのできることは全部俺が覚えてみせる』と、
だが俺はアバンと一緒にハドラーと戦った時、俺は奴には細心の注意を払い絶対に奴を一人にしなかった。
ところがお前はみすみす姫さんを捕られちまった。そんな事で俺のできることをすべて覚えるだと?のぼせ上がるのもいいかげんにしやがれ!!!!」
「そんな、ポップさんはとても・・・」
「いいんだ、メルル。」
ポップはメルルを止めた。
「確かに俺はのぼせ上がってたな…」
ポップは全身に力が入らなくなった。思えばポップは前にもダイを危険にさらしてしまったこともあった。
二度と繰り返さないと誓っていたことを二度目にしてしまったのである。
「ポップ、もし本当に仲間を守りたいという気持ちがあるなら一人で勝ち目のない戦をしかけるな。
助けてやりたい仲間がお前の不注意で死んじまうかもしれねえ、少し頭を冷やせ。」
このときポップは常日頃から言われていた『魔法使いはクールでなければならないという言葉を思い返していた。
ポップは自分の責任で犯してしまった事で一人で熱くなり過ぎていたのだ。
ポップはこの日、マトリフに頭が上がらなかった。
129ダイの大冒険AFTER:2009/04/11(土) 21:26:37 ID:OUVCf2UP0
翌日パプニカで会議が執り行われた。ポップは先走って魔界へ行こうとしていたが魔界へ行く手掛かりは何一つ無かった。
よって今回の議題は捕らわれたレオナを救出する為にどのようにして魔界へ行くかということだった。
「一人でも穴を開けられる奴はいねえのかよ。」
ポップはロンベルクを見ながら言った。
「残念だが俺はその手の能力はない、だがキルバーン等が使っている穴はあくまでも魔界への裏口にすぎない。
本当の入り口はお前等もよく知っているあの場所にある。」
「本当の入り口ってそんなものどこに?」
マァムの質問に答えるようにロンベルクは説明した。
「魔界への入り口、それは破邪の洞窟だ。」
一同は驚きを隠せなかった。
特にフローラ姫は自分の治めているカールの領土に魔界への入り口があることなど信じたくなかった。
「かつてバラン様も破邪の洞窟を降り、魔界に辿り着いたと仰られた。」
ラーハルトがロンベルクの後に続くように言った。
「どういうことだよ、破邪の洞窟ってその名の通り光の特技や呪文を手に入れる場所じゃないのか?」
ポップの質問にラーハルトが答えた。
「本来破邪の洞窟とは魔界へ挑む冒険者達の為に神々が遺した最後の砦だという説もある。
つまり破邪の洞窟で力を蓄えながら魔界へと向かっていくシステムだったんだ。」
その言葉は意外と自然に理解することが出来た。
「でもよ、地下何階なんだ?魔界に出られるのは。」
マトリフの質問にはロンベルクが答えた。
「地下百五十階だ。」
「てことは先生は既に最下層までいったんですね。」
「まさか最下層まで下りて行ってたとは、しかし魔界の入り口等見つけられませんでしたが?」
「最下層はとても難解な造りになってる、一人で見つけ出すのは不可能に近い。だから奴らは穴で出入りしているのさ。」
会議は夜まで続き、翌日は魔界にいくメンバーを決めようとしていたところで重大な事件が発生した。
「会議中失礼します!!!しかし大変なことが起こったんです!」
城の兵士達が息を切らせて伝えてきたこと、余程のことでも起きない限りあり得ないことだった。
「ゆ、勇者ダイ様の剣がどこにも見当たらないのです!!!」
部屋にいた者全員が耳を疑った。
130ガモン:2009/04/11(土) 21:37:11 ID:OUVCf2UP0
第三話 投下完了しました。
テマリのセリフがおかしくなってしまった事をお詫びします。
正しくは「ヴェルザー様が復活し地上を…」です。申し訳ございませんでした。

>>サナダムシさん お疲れ様です。今回もシコルスキーには笑いました。
オリバは受験におちてしまうんでしょうか?

>>123 ご指摘ありがとうございます。
早速アドバイスの通りにしてみました。
131作者の都合により名無しです:2009/04/11(土) 21:42:34 ID:GjFHeuTF0
オリバも凄いけど柳の方が凄そうだなあ。
海王たちがまた立ち塞がるのだろうか
132作者の都合により名無しです:2009/04/11(土) 22:23:39 ID:9EZ1vjvW0
ガモンさん頑張ってるなー。

ダイの剣が消えたのは本人登場の伏線か敵の作戦なのか…
ダイ大好きだったから続きも楽しみにしてる。
133作者の都合により名無しです:2009/04/11(土) 23:56:45 ID:NIMJ4bHp0
ベテランと新人の競演ですな。
そういえばハロイさんまた消えちゃった・・

>サナダムシさん
オリバのアンチェイン振りが相変わらず光ってますね。
でも一応、しけい荘は超人ぞろいなんだよね。
シコルもまた確立変動しそうだ。

>ガモンさん
ヴェルザーは魔界の双頭の割にはバーン様より格落ちな
気がするんだけど、ダイのいない今ではバランス取れてるのかな
個人的にラーハルトに期待。
134作者の都合により名無しです:2009/04/12(日) 13:54:57 ID:+piy18yG0
サナダムシさんも好調になってきましたね。
今回の新登場キャラは誰かな?
今編はバトル編突入が少し早そう?

ガオンさんもお疲れ様です。
アバンやラーハルトじゃトドメ役いないから
ダイが復活するのかな?
135しけい荘大戦:2009/04/12(日) 19:18:15 ID:oWFLCvNU0
第六話「幕開け」

 米国大統領ジョージ・ボッシュ、来日。
 政治にはまったく無縁なしけい荘にとっては、はっきりいってどうでもいいニュースで
ある。──ただ一人を除いては。
 戦闘時にも劣らぬ真剣さで新聞に目をやるゲバルに、シコルスキーが声をかける。
「熱心に読んでるな。俺なんて日付くらいしか読まんぜ」
「せめてテレビ欄、最低でも四コマ漫画くらいは読んでくれ」
「ところでどの記事を読んでるんだ?」
「これさ」
 ボッシュ来日の記事に、きょとんとするシコルスキー。この記事とゲバルの関係性を瞬
時に推測しかねた。
「これがどうしたんだ?」
「日本にいる間、奴の護衛を俺が任されることになった。準備や下調べのため、今日から
しばらく留守にすることになるが、よろしく頼む」
「へぇ〜すごいじゃないか!」
「すごい? ……なにがだ?」
「護衛を任されたことがだよ。アメリカの大統領っていったら地球でイチバンっていって
もいいくらいだろ」
「……下らん男さ」
 ボッシュについてそう切り捨てたゲバルの目には、普段の彼からは考えられぬほどの闇
が滲んでいた。

 一方、101号室。オリバのもとを、園田警視正が訪ねてきていた。
 土下座。これは、園田の依頼内容の難易度の高さを端的に示していた。
「ミスターオリバ。犯罪者ハンターという領域からは外れてしまうかもしれないが、是非
ご協力頂きたいッ!」
「ふむ……大統領の護衛、ね」
136しけい荘大戦:2009/04/12(日) 19:19:06 ID:oWFLCvNU0
 くわえていた葉巻を唇から取り、膨大な量の紫煙を吐き出すオリバ。部屋一面が煙に覆
われ、むせ返る園田。
「ゲホッ、ゲホッ!」
「よかろう」
「──えっ!」
「引き受けよう。ただし条件がひとつある」
 目を丸くする園田に、オリバは最高のスマイルを浴びせた。
「護衛は私個人ではなく、我々しけい荘にお任せして頂きたい」

 あずかり知らぬところでいつの間にやら、オリバの気まぐれで大統領護衛チームにされ
てしまった五人。
 もちろん従う以外に道はない。背こうものなら、胸が陥没するか、五十メートルくらい
飛行するか、地面にうずまるか──いずれにせよろくな目に遭わない。
「いい修業になるかもしれん」と柳。
「一応母国のトップだし、守ってやるかな」とドリアン。
「大家さんにいわれたら、やるしかあるまい」とドイル。
「暇潰シニニハ丁度イイヤナ」とスペック。
「結局ゲバルと同じことをするはめになったな」とシコルスキー。
 なぜ警察がわざわざオリバを頼ってきたか、説明を付け加えるオリバ。
「ボッシュは来日後、東京の徳川ホテルに宿泊することになるのだが、どうやらテロリス
ト集団から予告があったらしい」
「予告?」
「我々は手段を選ばない。地上に平等な愛をもたらすため、あらゆる人員を用いて必ずボ
ッシュを殺す、と」
 冷酷なほど単刀直入な内容に、だれもが一瞬口を閉ざした。
「相当な武闘派らしい。おそらく当日、ホテルは戦場になるのではないかという見解もあ
る」
137しけい荘大戦:2009/04/12(日) 19:19:52 ID:oWFLCvNU0
「……来日を取り止めた方がいいのでは?」
 柳の真っ当な質問に、オリバも頷く。
「もちろん側近のだれもがそう提言した。が、ボッシュ本人が絶対に止めないといってい
るらしい。彼曰く、ここで退けば開拓精神の敗北だとかなんとか……」
 呆れる面々。さすが自由の国のボスだけあって、なかなかのアンチェインのようだ。
 かくして最凶のボディガード軍団が誕生した。
 ──舞台の開幕は十日後。
 目標ができたことで、平和ボケしていたしけい荘一同に日本刀にも似た煌めきが戻り始
める。彼らの強さを腐らせぬためには、定期的に強敵をあてがわねばならないことを、オ
リバはよく知っていた。
「フフ、みんないい貌(かお)になりやがったぜ」
 しかし此度の大戦争。まさか他ならぬオリバの予想をも超える事態が起ころうとは──。
138サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/04/12(日) 19:22:22 ID:oWFLCvNU0
新章スタートです。
もう大統領はオバマさんですが、バキ本編(ガイア外伝には登場)に未登場なのと、
ボッシュさんの方がキャラとして面白いのでそのままにしております。

>>ガモンさん
ありがとうございます。
オリバたちはお金がなかったため、受験すら出来ませんでした。

>>131
今後、柳には見せ場はある予定です。

>>133
バキ1〜3巻当たりの頃、死刑囚に対して抱いた「こんな奴ら誰が勝てるの?」という
思いが懐かしいです。

>>134
ありがとうございます。
もうしばらくいいペースで書けそうです。
139ふら〜り:2009/04/12(日) 19:57:51 ID:NXfWCnkk0
>>サナダムシさん
・海王になろう
このメンツが、パンツ(フンドシ)一丁で、汗を流して息を切らせて全力疾走百キロって。道中、
何度通報されたことやら。それとも半径百キロ圏内ぐらいの住人なら今更動じない光景か?
・幕開け
>さすが自由の国のボスだけあって、なかなかのアンチェインのようだ。
現実まで含めて、凄まじく的確な皮肉ですな。原作中では衛星組三人に振り回されてますが。
いつも一段上にいたオリバがシコルたちと同列参戦とは……敵となるテログループの正体は?

>>ガモンさん
ダイがいない今、戦い方によってはメドローアを筆頭に多芸なポップは充分最強候補なのに、
その彼があっさりと。これはポップも他メンツも、パワーアップイベントが必要なようですな。
あと今回はマトリフのマトリフらしい厳しさが嬉しかったです。先生に非ず師匠、こうでなくては。
140ダイの大冒険AFTER:2009/04/12(日) 23:08:00 ID:iFJpE9nI0
第四話 ダイのその後
大魔王バーンが倒れ、地上に平和が戻ったその日、ダイは魔界に堕ちていた。
ダイが目覚めた時、彼は見知らぬ女性の隣で寝そべっていた。
「わ、びっくりした!」
ダイは仰天して飛び起きた。
その物音で女性を起こしてしまった。
「あら、やっと起きたのね。君外に倒れていて家に連れて来たんだけど十日も目を覚まさなかったのよ。」
「そうなんだ、は、キルバーンは?ポップは?皆は何処にいるの?」
ダイは状況が全く読み込めずに混乱していたが、女性にも同様に十日間疑問に思っていた事を聞いた。
「私は君に一体何が起きたのか知らないけど私も君に聞きたい事があるの。
どう見ても魔界の住人には見えないけど、どこから来たの?」
「へ、ここは魔界なの?」
「気付かなかったの?」
よく見ると女性は耳の先が角の様に伸びていて肌も薄い褐色であった。
「私達自己紹介をしてなかったわね、私の名前はレイラよ、よろしく!」
「俺はダイっていうんだ。」
ダイの名前を聞いた時レイラは動揺した。
「ダイってまさか、あの大魔王バーンを倒した勇者が・・・」
「そうだけど?」
大魔王バーン、魔界の神と称される彼の死と理由は翌日魔界全体に広まったのだ。
「もしもそうなら、私を助けて欲しいんだ!]
レイラの急な発言にダイは首を傾げる他はなかった。
141作者の都合により名無しです:2009/04/12(日) 23:09:13 ID:8fj/jSxo0
サナダムシさんお疲れ様です。
しけい荘最強?ガードマン部隊対テロリストですか。
テロリスト軍団誰だろ?勇次郎がもし出ちゃったら
オリバ以外瞬殺だし・・
142ダイの大冒険AFTER:2009/04/12(日) 23:43:57 ID:iFJpE9nI0
「実は私は地獄の帝王の生贄にならなければならない。私達の村では二十歳を過ぎた女を五年に一回地獄の帝王に生贄を捧げなければならず、
今年八百二十五年目の生贄は私が選ばれた。それでも、いざその時が近づくと、不安で、恐ろしくて・・・」
レイラの目からは自然と涙が浮かび上がっていた。
何とかして地上に戻らなければいけないと思っていたが、女性の涙はダイの様な純粋な少年にも弱かった。
「何とかする。生贄なんて必要ない、皆それぞれの人生があるのにこんな理不尽に殺されることなんてないよ!」
ダイはレイラの住む村、アーリーに向かった。
「ダイ、やっぱり私諦めるよ。養老が許す筈もないわ。」
レイラは先刻までとはうって変わり、弱気な発言をしていた。
それは今まで村の長老に頼んでも承諾しては貰えない女性達を数多く見てきたからだ。
彼女もいざとなると、どうしても恐れを感じずにはいられなかった。
「大丈夫、絶対に助けてみせる。」
こうして二人は村の長老の家に着いた。
「長老、私は地獄の帝王の生贄にはなりたくありません。どうかお許しください。」
レイラは長老に土下座までして懇願したが長老がそれを許す筈もなかった。
「五年に一度二十代の女が地獄の帝王様のもとへ行かねば村は一夜にして滅びるじゃろう。
より多くの命の為にも、仕方のない犠牲なのじゃ。」
「いい加減にしろ!!」
レイラの後ろにいたダイが長老の前に立ち、怒鳴った。
「レイラの気持ちを、今まで犠牲になった人達の事を考えたことがあるのか!?
地獄の帝王のやっている事が自分達がやっていることが正義だって言えるのか?そんなの間違ってる!!
人の犠牲の上に立つ平和なんて平和であるはずがない。」
ダイの言葉に長老は少し動揺したが長老の意見は変わることはなかった。
「人間が口出しせんでくれ。これは魔族の、我々の村の問題じゃ。」
「レイラは俺の命を救ってくれた。もうこの時点で俺の問題でもあるんだ。」
長老はついに何も言えなくなってしまった。
「どうしても、どうしても帝王から逃れられないのなら、俺が地獄の帝王を倒す。」
ダイの言葉に長老は肝を抜かれた。
143ダイの大冒険AFTER:2009/04/13(月) 00:02:17 ID:iFJpE9nI0
翌日、長老はダイとレイラがいる家に朝早くに上がった。
「ダイ君、君の熱意はよく分かった。もうわしからは何もいわん、じゃが、今まで犠牲にしてきた者達の為にも、
君にこれを渡そう。」
長老はダイにちょうどサイズが合うような鎧とマントを贈った。
「遥か昔、その龍神の鎧とマントを身に羽織った英雄が天界の神になったという伝説がこの村にある。
その英雄が装備していた鎧とマントじゃ、地獄の帝王に立ち向かうという君に、せめてもの手向けとして、受け取ってほしい。」
「ありがとう。」
長老は昨日自分に対して嫌悪していた男と今の純真な子供が同一人物とは思えない程にダイを見て不自然に思った。
ダイの中でも気付かない内に、父バランに近づいているのかもしれない。
そんな折、突如として家の床に刺さった物があった。
「これは、真魔剛龍剣!なんでここに。」
かつて、父の愛用としていた剣が大魔王バーン戦、そして今、再びダイの手元に贈られたのだった。
「父さん。」
ダイは小さな声で呟いた。
144作者の都合により名無しです:2009/04/13(月) 00:23:49 ID:lv0DFRIf0
>サナダムシさん
テロリストって事はガイアと自衛隊部隊が相手?
そういう戦いではオリバみたいなパワー型よりも
柳やドリアンみたいなトリッキーなタイプの方が役に立ちそう。


>ガモンさん
ダイがいよいよ現れましたね。原作準拠だと後半のダイは強すぎて
パワーバランスに苦労すると思いますが、主役はやはりダイだと
思うので期待してます。剛竜剣はダイの剣より好きだな。


145ダイの大冒険AFTER:2009/04/13(月) 00:24:56 ID:zfWOsFUO0
「それじゃ、絶対に地獄の帝王を倒してくるから、安心して待ってて。」
ダイはレイラにそう伝えると足早に村を去り南西にあるという神殿へと向かい走り出した。
「彼は、本当に大丈夫なのでしょうか?いくらバーンを倒したとはいえ、戦力は帝王の方が。」
「いや、わしはあの少年に賭けたのだ。必ず、生きて地獄の帝王、エスタークを倒すと信じておるよ。」
性格の変化はダイよりも長老の方が不自然だった。
ダイは神殿に向かう途中に不思議な少年を見た。
そしてその視線が気になったのか、少年もダイの顔を見た。
二人の間に不穏な空気が流れつつあった。二人の沈黙の時間が続いたが、先に話したのはダイだった。
「なんで顔に字が書かれてるの?」
しかしダイの質問に男が答える素振りを見せなかった。
ダイは自分の身の丈程ある瓢箪を持ち、眼の下にクマが出来ている少年に親近感が湧いた。
男は言葉を発することもなく、何かを憎むような眼でダイを見つめた。
男はそのままダイの走ってきた道を歩き出した。
「俺、ダイっていうんだ。君は?」
「我愛羅、我愛羅だ。」
我愛羅はそのまま立ち去った。
しかし、これは二人の出会いに過ぎなかった。
二人が再び出会う日は、そう遠くない。
「こうしちゃいられない、急がないと。」
ダイは神殿へ走り出した。
146ガモン:2009/04/13(月) 00:34:14 ID:zfWOsFUO0
第四話 投下完了です。
地獄の帝王との戦いはダイがメインになるので暫くポップ達は書かないかも知れません。

>>サナダムシさん お疲れ様です。
原作通り、ゲバルはボッシュの事を憎んでいるようですね。
テロリストはゲバルの島の人民で無いことを祈ります。
規格外のモンスター、オリバの予想を超える事態になるということはどうなるんでしょうか?
私には想像もつきません。
147作者の都合により名無しです:2009/04/13(月) 07:04:31 ID:yfvJrL9z0
地獄の帝王はエスタークか。
確かこの作者さんの読みきりで登場したよね。
148作者の都合により名無しです:2009/04/13(月) 21:59:54 ID:bhvR1AVa0
>ガモンさん
エスタークはハドラーくらいの実力か?
とりあえず、ダイが復活して嬉しいね。
パワーバランスが難しくなりそうだけど・・

>サナダムシさん
オリバの予想も超える出来事って
いよいよピクル登場かな?
原作でもバランスブレイカーだから無理かw
149しけい荘大戦:2009/04/13(月) 23:36:47 ID:X7Y/GwIC0
第七話「挑戦者たち」

 102号室──。
 珍しく空道の道着を着用し、片足立ちで不気味な沈黙を保つ柳。右手につまんだ和紙を
解放し、重力に委ねる。ひらりひらりと木の葉の如く、頼りなく和紙が落ちる。
 浮いている右足裏を和紙に近づける。これがもし「右手」だったなら、和紙は吸い込ま
れるように掌に張り付くことだろう。
 穏やかな瞳が、突如見開かれる。
 酸素濃度6%未満──真空の発現。
 和紙は足裏に引き込まれ、くっついたものの、一秒と経たぬうちに剥がれ落ちてしまっ
た。
 失敗。しかし落胆も失望も省略し、すぐに柳は修業を再開した。
 片足立ちとなり、和紙を空中に落とす。
 常軌を逸した執念。歴史の闇を暗躍していた空道の歴史にあって、だれもが不可能と断
じ、試行錯誤すらしなかった。足による空掌。
 柳は必ず完成できると信じていた。
「大家さん、いい機会を与えてくれた……。必ずや我が四肢に真空を作り出すッ!」

 ドリアンはコーポ海王を訪ねていた。
 アパート内にある鍛錬場にて、站椿のまま向き合うドリアンと烈。
 持続時間はまもなく六時間にもなろうとしていた。なのに、まるで微動だにしていない。
二人の足元には夥しい汗が落ち、水たまりが形成され、乾いた箇所にはうっすらと塩が浮
かび上がっている。
 ──六時間経過。
 二人は全く同じタイミングで構えを取った。
150しけい荘大戦:2009/04/13(月) 23:37:35 ID:X7Y/GwIC0
「始めましょう」
「烈君、年長者から攻めさせる気かね? まずは君から来たま──」
 床を足指で抉るような踏み込みで、突如間合いを詰めるドリアン。
 強烈な中段突き。が、烈もきっちり防御を決めた。
「さすがだ。残り十日間、君という天才から学ばせてもらおう! ──噴ッ!」
「いいでしょう。海王がいながら大統領が殺されては冗談にもならない。──破ッ!」
 気合を発露させ、白林寺の兄弟弟子、激突す。

 体内に仕込んだ武器(タネ)による手品で、大勢の客を沸かせるドイル。
 手品師としての仕事をこなしつつ、彼は迷っていた。
 十日間、己をどう磨くべきか。外科手術に頼るべきか、格闘士のように肉体を鍛え上げ
るべきか。
 ドイルは同業である鎬昂昇と龍書文に、苦しい胸の内を打ち明けた。
「難しいな……。私ならば迷わず徒手を選択するが、君とは土俵が違うからな……」
 親身になって悩んでくれる昂昇だが、親身ゆえに結論が出せない。
 一方、龍書文は即答だった。
「簡単なことだ」
「えっ?」きょとんとするドイルと昂昇。
「両方やればいい」
 「不可拘束」の異名がもたらした結論は実に明快だった。武器も肉体も、ドイルにとっ
ては重要な構成物質だ。ならば、どちらも進化させればいいだけのこと。
 ドイルの心に一筋の光が差し込んだ。

「止メダ、止メダ、ヤッテラレネェヤッ!」
 特訓を放り出し、スペックは渋川流道場から走り去ってしまった。
 呆れる老人会のメンバーたち。Sirと中国拳法が大好きな老人が不満をこぼす。
「やれやれ、まったく我慢が足りん。自分から特訓を申し出ておいて、勝手な奴だ」
「この世でもっとも我慢ができない生物でございますか。赤ん坊、反抗期の少年、色々ご
ざいますなァ。ただ、たった一つだけというならやはり……スペックでございます」
151しけい荘大戦:2009/04/13(月) 23:38:22 ID:X7Y/GwIC0
 渋川は何を今さら、といった風に笑う。
「カッカッカ、まぁいいセンはいっていたんですがな。わしの合気、消力(シャオリー)、
軍隊格闘術、中国拳法──どれもスペックさんはお気に召さなかったようで」
 車椅子に座る郭が口をへの字に曲げる。
「じゃが、分からんぞ」
「……え?」
「あの年齢であの体躯、才能も並大抵ではない。あやつが限界を迎えた時、わしらの教え
がぱあっと開花するやもしれぬ……」
 意味深な郭の言葉に、だれもが真意をはかりかねた。

 親指逆立ちでの町内ジョギング。シコルスキーはひたすら指を鍛えていた。
「シコルスキーさんっ!」
 話しかけてきたのはかつてのいじめられっ子、鮎川ルミナだった。ランドセルを背負っ
ていることから、学校帰りのようだ。
「久しぶりだな、ルミナ。元気そうじゃないか」
「うん。あいつらとも仲直りできたし、今日もランドセルを置いたらすぐにサッカーに行
くんです。これもシコルスキーさんがマウスを倒してくれたおかげです」
 いじめを克服し、充実した小学生ライフを送るルミナに、安堵と幾分かの嫉妬を覚える
シコルスキー。いい歳をして、己の小ささが恥ずかしくなった。
「ところで、シコルスキーさんは? 特訓してるんですか?」
「今度アメリカの大統領が日本に来るだろ? 色々あってしけい荘が警護を任されること
になってな。これが終わったら空拳道の道場でトレーニングだ」
「すごいじゃないですか!」
「すごい? ……なにが?」
「アメリカの大統領っていったら、すごい偉い人でしょ? そんな人の警護をやるなんて
すごいことじゃないですか」
「……下らん男さ」
 ゲバルがいっていた台詞を盗み、逆立ちのまま格好つけるシコルスキー。
「じゃあ、頑張って下さいね! 僕、みんなに自慢しますから!」
「あぁ、武勇伝を聞かせてやるよ」
 小さな親友(とも)と約束を交わし、シコルスキーは闘志を燃やす。
 
 ──そして当日!
152サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/04/13(月) 23:42:10 ID:X7Y/GwIC0
第七話終了。

毎度ありがとうございます。
テロリストメンバーとオリバの予想を超える出来事は今から頑張って考えます。
今週のヴィルトゥスは凄まじすぎる……。
153作者の都合により名無しです:2009/04/14(火) 07:09:05 ID:vtJIBJbd0
>今から頑張って考えます
ゆでたまごの名言「来週の俺が考えてくれる」を思い出したw

書文がかっこいいな。
154作者の都合により名無しです:2009/04/14(火) 14:15:58 ID:e6Cnzhns0
なんか王道の決戦前のワンシーンですな
敵もしけい荘メンバー分、5人以上現れるのかな?
個人的にはシコルより柳の方が好き。
155ダイの大冒険AFTER:2009/04/14(火) 17:22:11 ID:BtTxMrmn0
第五話 神殿の牢獄
ダイはついに神殿へと辿り着いた。
その神殿の外見は意外にも小さく、地獄の帝王が住んでいるとは到底思えない場所だった。
「ここに、凄い力を感じる。本当にここに帝王がいるんだ。」
改めてダイは気を引き締め、神殿に入り込んだ。
中は外と違い、神聖な雰囲気のある女性の象が中央にありどこかカビ臭さを感じさせる、
典型的な神殿のイメージがあった。
「まるで、初めて父さんと闘った時に来た龍の騎士の神殿みたいだ。」
神殿の奥に進むほどダイが感じる邪悪な力が近付いてきた。
不意にダイの後ろから二人の魔物がダイに攻撃してきた。
「ここでこいつを倒せば出世は間違いねえ。」
「おい、あくまでもこの男はヴェルザー様が殺すんだ。我々はこの男を生け捕りにすることだ。」
ダイの目線の先にデーモンレスラーとフロッグキングがいた。
二人共魔界ではそれなりに強い分類に入るがダイの敵ではない。
「ヴェルザーっていったよね、お前等はヴェルザーの部下なのか?」
「ああ、そうだ。」
デーモンレスラーが返答した瞬間二人はダイによって斬られていた。
ダイはすぐに神殿の奥に入った。
しかし、地上を欲するヴェルザーが動き出した事によってダイは少なからず危機感を覚えた。
神殿の奥に一つの小さい部屋を見つけた。
156ダイの大冒険AFTER:2009/04/14(火) 17:43:31 ID:BtTxMrmn0
「やはりあの二人ではダイの相手にならんな。」
ヴェルザーは少し嬉しそうな表情でテマリに話した。
「あんなどこにでもいるようなモンスターを嗾けてもダイを捕えられる訳もないと思いますが、
お遊びが過ぎるのでは?」
「ふふふ、あやつらはダイの力量を確かめるために使っただけだ。
予想通りの実力だった。流石はバーンを倒しただけの事はある。
しかしそれよりも驚いたのは、魔界に堕ちて半年も眠りつづけていたとは、
双竜紋の力かどうか分からんが、あらゆる能力がバランを上回っているというバーンの言葉は的を射ているようだ。
先程、カンクロウが地上へ向かった。テマリ、お前も地上へ行け。我愛羅には別の仕事をしてもらうが。」
「ヴェルザー様、それが、先程から我愛羅の様子がおかしいのです。またあのような事に・・・・」
「もしあの状態になってもそこまで支障は出ないだろう。オレの肉体が傷つかなければいいが、さあ、早く行け。」
テマリは魔界を後にした。

神殿の小部屋には牢屋がありダイはその牢屋に近づいた。
そこでダイが見たものは驚くものだった。
年の差が幅広いが、多くの魔界の女性が牢に入っていたのだ。
157ダイの大冒険AFTER:2009/04/14(火) 18:20:12 ID:BtTxMrmn0
「一体どうしてここにいるの?」
ダイの声に女性達は驚いた。今までこの部屋には誰も近づかなかったからである。
牢の中に十三人いる女性には話しかけても脅えられるばかりでダイは困り果てていた。
その時、おもむろに、比較的年配の女性が話した。
「私は八百二十五年前に初めて帝王エスタークの生贄に捧げられた女さ。
よく見ると牢に入っている女性は全員魔族だった。
「生きてたんだ、良かった。」
ダイは自分のの事の様に安心し安堵の溜息を吐いた。
「エスタークは純粋な悪という訳ではない。邪悪なる存在が進化の秘法をエスタークに使った事により異常な進化を遂げ、理性を失った怪物に成り果てた。
しかし、奴の最後の理性が私達を殺さずにいたのだろう。」
例えエスタークに殺されなくとも、病死や脱出出来ずに絶望の内に自殺してしまい四人の女性が亡くなっている事も彼女は語った。
「それじゃ、その邪悪な存在がエスタークに進化の秘法を使わなかったら、邪悪な怪物にならなかったのか。」
ダイはその時聖母竜の言った邪悪なる力と関係がある様に感じた。
だが、彼がそれを知るのはまだ先のことである。
「頼む、もしエスタークを倒すために来たのなら、奴の魂を、救ってくれ!」
女性の言葉にダイは無言で頷き、部屋を去った。
「よいのですか、彼に頼んでも。」
「よい、この八百年経っても変わっていないであろう力で全てを決める魔界を変えてくれると、直感した。
それが、破壊であるか創造であるかは分からないが。」
ダイの進む方向を見ながら女性は微笑んだ。
158ダイの大冒険AFTER:2009/04/14(火) 18:52:41 ID:BtTxMrmn0
ダイは巨大な扉の前に立った。
「ここから、強い、悲しい力を感じる。」
ダイは扉を開け、中に入った。
とても大きな部屋で軍隊の大隊を2,3個程入れることが出来る様な広さである。
しかしその巨大な部屋の中でダイは目の前しか見なかった。
部屋の中央にいる巨大な体躯、青い体、人を一気に十人は貫けそうな角、
しかし、何よりもダイが驚いたのは眠っていても両手に二本持つ剣を離さないことだった。
眠りながらいつ敵が来ても迎撃出来る絶対の自信がある、と主張しているように感じられた。
「レオナが言ってた。倒せる内に倒す倒し方もある、行こう。」
ダイは意を決してエスタークに斬りかかった。
「大地斬!!」
一気に攻め立てるダイ、対するエスタークは眠っていた。
が、ついにエスタークが目を覚ました。
「我の・・・眠りを妨げる者は・・・殺す。」
開かれた三つ目がダイの体を射抜くように眺めた。
「仕方がない、一気に行くしかない。」
ダイは二つの紋章を解放し、エスタークに飛び掛かった。

「ふふふ、双竜紋で挑むか、しかしそれがあの地獄の帝王に通じるかな?」
ヴェルザーは二人の闘いを観戦していた。

エスタークはダイの攻撃を受けても身じろぎもせず逆に二本の剣を振り、ダイに斬りかかって来た。
ダイはある程度余裕を持って闘っていたがエスタークの不意に出す強力な一撃を食らい攻めあぐねていた。
「くそ、ここまでとは思わなかった。でも今のところダメージならアイツの方が上の筈、
なんとかして一撃を決めれば。」
その時エスタークの眼を見たダイに異変が起きた。
エスタークの眼が光った瞬間、竜闘気が消えたのだ。
159ガモン:2009/04/14(火) 19:10:31 ID:BtTxMrmn0
第五話投下完了しました。
設定上ダイ編と一話から三話までは同時並行で物語が進んでいます。
しかしダイ編が三話ではなく次回で終われば終わらせようと思います。

サナダムシさん
お疲れ様です。 今回は決戦前の修業というところでしょうか。
柳、ドイルの新たな試み、スペックは根性無しかと思ったけど活躍しそうな予感、
シコルスキーがいつになく格好良い男に成長した気がします。
私はドイルが好きですね。

ふらーりさん
ポップ達のパワーアップイベントは物語に入れると思いますが、いつにするかは分かりません。

今まで読んでくださっている方々、有難うございます。
これからも出来る限り頑張っていこうと思います。
160作者の都合により名無しです:2009/04/14(火) 22:06:32 ID:n/j4AXzt0
>答した瞬間二人はダイによって斬られていた
意外とダイ残酷ですなw
エスタークはそれなりの実力みたいですね。
流石にピサロは出ないのかな?
ちょっと説明セリフが多いのが気になったかな?
161ふら〜り:2009/04/14(火) 23:12:02 ID:8/V8qhyt0
>>サナダムシさん
渋川の見込みが正しかった場合、今度の戦いの中でスペックがとんでもないことになりそう。
これは実に楽しみ。で柳同様、シコルも何気に原作越えなこと(指ジョギング)をやってます
ね。いいお兄さんっぷりを見せつつ嫉妬もあるのが本作の彼らしい、小さくて可愛いところ。

>>ガモンさん
4までしか知らぬ身ですが、原作DQではストーリー的にも強さ的にもいまいち印象が薄い
エスターク。しかし本作ではなかなか強そう……というかこのまま双竜紋をあっさり破って
しまったら、完全にバーン以上ではないですかっ。この調子だとヴェルザーはどれほどの?
162ふら〜り:2009/04/14(火) 23:13:33 ID:8/V8qhyt0
不覚! すみません……

× 渋川の見込み
○ 郭の見込み
163作者の都合により名無しです:2009/04/14(火) 23:46:46 ID:IJdZcqN20
エスターク強いね。
ヴェルザーはもっと強いのなら
バーンとタメはったのも納得。
164しけい荘大戦:2009/04/15(水) 00:00:04 ID:C/0Ky/BT0
第八話「東西南北」

 広大な敷地に、高層ビルさながらのホテルがそびえ立つ。選ばれた富豪だけの領域。だ
れもが一瞬、ここが都会の一等地であることを忘れてしまう桃源郷。
 日本最大級にして最高級のホテル『徳川ホテル』──徳川財閥最高傑作の一つである。
 オリバに借りたタキシードを着用し、始めは気が大きくなっていたしけい荘一行だった
が、ホテルに入って五十歩も進むとすっかり小さくなってしまっていた。
 列の最後尾を歩くドイルが、すぐ前のシコルスキーにささやく。
「……シコルスキー」
「どうした、ドイル」
「よく周囲を見渡してみろ。いくらボディガードのためとはいえ、私たちなんかが入って
いいホテルじゃないぞ」
 踏むたびに無重力を錯覚するほどにふかふかの赤絨毯。左右には無数の石像と絵画が美
術館さながらに展示されている。おそらくはいずれも一般人の年収など遥か後方に置き去
りにするほどの額にちがいない。
 このうちどれか一つでも傷つけてしまえば、己の内臓全てを売り払っても到底弁償しき
れまい。
「ふ、ふしゅる……ふしゅ……」
 急に恐ろしくなり、呼吸困難に陥るシコルスキー。
「し、しまったっ! おい、しっかりしろっ!」

 入り口から赤絨毯を奥に進むと、しけい荘に警備を依頼した園田と、数人のボディガー
ドに囲まれた徳川財閥の長、徳川光成が待っていた。
「来てくれたか、アンチェイン」
「いやァ〜待っておったぞ。おぬしらのような格闘士がおれば、わしも存分に楽しめると
いうものじゃ」
「と、徳川さん……」
 小さな体に似合わず大声ではしゃぐ老人に、園田はだいぶ手こずっているようだ。
165しけい荘大戦:2009/04/15(水) 00:00:52 ID:C/0Ky/BT0
 さっそくオリバが問う。
「格闘士とはどういう意味だろうか?」
「決まってるじゃろう。わしの所有物(ホテル)を存分に破壊しながら、おぬしら格闘士
とテロリストとで繰り広げられる空前絶後の闘争……想像するだけで今から血がたぎるわ
いッ!」
 光成はホテルが戦場になることをまったく恐れていない。むしろ歓迎し、間近で観戦で
きることに幸運すら感じている。
 ドリアンが訝しげに目を細める。
「なんだか、あの老人こそが黒幕に思えてきたよ……」
 独りで盛り上がる光成は放っておいて、園田が改めて挨拶を始める。
「私は今日の大統領警護にて、指揮を務める園田盛男だ。よろしく頼む」
 揃って頭を下げるオリバたち。
「ところで園田よ、人員の配備はどうしている?」
「ホテル周辺はすでに機動隊によって厳戒態勢を敷いている。さらにこのホテルには東西
南北に入口があり、それぞれに百名ずつ、ホテル内にも百名の警官を配備している。大統
領は最上階に宿泊し、身辺警護はシークレットサービスに任せてある」
「……不安だな」
 半ばあざけりが混ざったオリバの呟きに、園田は眉をひそめた。
「聞き捨てならんな。どの辺りが不安だというんだ。質、量ともに申し分ないはずだ。蟻
一匹ホテルには侵入できん」
「甘いな。もしテロリストに我がしけい荘級、あるいはそれ以上の猛者がいれば、その程
度の警備など水に濡れた和紙にも等しい」
「……で、ではどうすればいいというのだ」
166しけい荘大戦:2009/04/15(水) 00:01:50 ID:AIQHOEab0
 悔しそうに歯ぎしりする園田に、待っていたとばかりにオリバは歯を見せて笑った。
「東西南北にあるというホテルの入り口──四方を一人ずつしけい荘の人間に守らせる」
「───!」
「さらに私がホテルの玄関を固め、万一に備えて大統領周辺にも一人当たらせる。これで
計六名。安心したまえ、園田。君のクビが飛ぶようなことはせぬ。大統領は我々が守り切
るッ!」
 オリバは心の底からしけい荘を信頼していた。断言したアンチェインに逆らう術などあ
ろうはずもなく──園田は力なく「分かった」と頷くしかなかった。

 持ち場の割りふりは平等にくじ引きで決定された。
 東を守るのは柳、西にスペック、南はドリアン、北にはドイル、そして大統領の身辺警
護はシコルスキーに決定した。
 大統領がホテルに入るのは午後六時頃。もう三時間も残されていない。
 テロリストの予告など実は嘘っぱちで、襲撃など起こらず無事に一日が終わってくれる
だろうか。いや終わるわけがない。なぜなら、それがしけい荘だからだ。
「皆の武運を祈るッ!」
 オリバの号令で、しけい荘は一時解散した。勝利と生存を誓って。
167サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/04/15(水) 00:11:34 ID:AIQHOEab0
第八話終了。
決戦前夜&持ち場決定の回です。

>>153
書文は良い強敵にできそうだったので、以前出してしまった事が悔まれます。

>>154
ありがとうございます。今回全員活躍させる予定です。

>>ガモンさん
私も死刑囚五人の中ではドイルが一番好きですね。

>>ふら〜りさん
(原作では)死刑囚の強さが初期と末期(スペック除く)ではあまりに違い過ぎるのが厄介です。
168作者の都合により名無しです:2009/04/15(水) 07:11:55 ID:82+nrg0D0
光成は腹黒くは無いけど無邪気だから結果としてそれが悪くなるw

でもなんだかんだでオリバはみんなを信頼してるんだな。
一番肝心な大統領警護がシコルか。さすが主役。
169作者の都合により名無しです:2009/04/15(水) 11:37:45 ID:hZYzupBJ0
サナダムシさん絶好調だな
今回はシリアスモードになるのが結構早いですな
170作者の都合により名無しです:2009/04/15(水) 16:10:38 ID:6kAL4Q+F0
サナダムシさん乙です。

ところでヴィルトゥス読んでたんですね。
あの親父のキャラはあまりにも素敵過ぎるんで、いつかSSにも出して欲しいですwww
171ダイの大冒険AFTER:2009/04/15(水) 16:31:57 ID:CNT6IRwd0
第六話 浄化されゆく力
「竜闘気が・・・消えた?」
ダイはもう一度竜闘気を解放させエスタークに向かって行ったが、また竜闘気が消えてしまった。
さらにエスタークの追撃がダイを襲った。

「凍てつく波動、これの前には竜闘気も通用しないが、もしもオレの想像通りなら…」
ヴェルザーの眼に映るダイは一片の不安も感じさせなかった。

「これだけは使いたくなかったけど、もうそんなことは言ってられない。」
両手に二つの紋章を輝かせ、さらにダイは二つの紋章を一つにした。
竜魔人を想わせるその風貌はかつて、大魔王バーンを倒したダイの最終形態だった。
エスタークの力を大きく上回る力を持つダイの力に傍観を決め込んでいたヴェルザーにも衝撃が走った。
「あれが、バーンを倒した力か、エスタークも終わりだな。」
ダイは即座にエスタークに近寄り、斬りかかった。
「大地斬!」
エスタークは一気に攻め立てられ、反撃が出来なかった。
さらにダイの攻撃は続く、一瞬にして体中が傷だらけになったエスターク、
バーンの様な奥の手もなく追い詰められていた。
「ぬう・・・・があああああああああ!!!」
エスタークの凍てつく波動がダイを襲う、しかし波動はダイの前で消滅した。
172ダイの大冒険AFTER:2009/04/15(水) 16:57:16 ID:CNT6IRwd0
「やはり、凍てつく波動も今のダイには通じなかったか、奴の敗因は双竜紋を作る隙をダイに与えたことだな。」
勝負を先読みしたヴェルザーはため息をつき、観戦をやめた。
エスタークは自分の持てる力を全て両手の剣に集め、振り下ろした。
「お前の全てを俺にぶつけてこい!」
ダイの構えはギガブレイク、しかし形は少し変わっていた。
ダイの構えは徐々に師アバンの奥儀、アバンストラッシュに変わっていった。
「ギガストラッシュ!!!」
エスタークの二刀とダイの真魔剛竜剣が衝突した。
その瞬間、部屋は閃光の様に光り輝いた。
光が消えたとき、勝負はついていた。
ダイは無傷で立っていたが、力を使い果たしたのか元のダイに戻っていた。
ダイの後ろには人間の様な姿をした魔族がいた。
「これが、真のエスタークの姿・・・」
「そう、そして私がこいつに八千年前、進化の秘法を使ったものさ。」
ダイが振り返った先には魔道士の姿をした魔族がいた。
「私の名はエビルプリースト、この世で最も強い力を持った方の直属の配下だ。」
「ヴェルザーの部下か?」
エビルプリーストはダイに近づき驚きの真相を口にした。
「私はザボエラの兄だ。」
「ザボエラの兄?」
「まあ、別にヴェルザーの部下でもなければ弟の仇打ちに来たわけでもない、
あの方の様子を見に来ただけだ。」
突如、エスタークの体から黒い煙が出た。
173ダイの大冒険AFTER:2009/04/15(水) 17:30:51 ID:CNT6IRwd0
「ふっふふふふ、エスタークめ、進化の秘法の副作用により理性を失っても俺を封印していたとは。」
黒い煙が形を成し、やがて、一人の戦士の様な魔族になった。
「復活したか、、ダークドレアムさん。」
エビルプリーストは嬉しそうに戦士に話しかけた。
「エスタークをここまで追い詰めるとは、褒美をとらせよう、何がいい?」
話が読めないダイは何も答えなかった。
「普段なら私を倒さなければ褒美はとらせぬのだ、こんな機会は二度とないが、
望みはないか?」
ダークドレアムの放つプレッシャーにダイは呑まれていた。
「流石は元魔界の神を名乗っているだけの事はありますな。」
エビルプリーストの強者に媚を売る様な物言いは弟に似ていた。
「望みがないのなら、私は帰らせてもらう。」
ダークドレアムは一瞬でその場から立ち去った。
ダイはエビルプリーストを見た。
「話の途中だったな。弟には進化の秘法の研究の為に超魔生物の研究をさせただけだ。」
「それじゃ、超魔生物は進化の秘法で変身していたのか。」
174ダイの大冒険AFTER:2009/04/15(水) 17:56:33 ID:CNT6IRwd0
ダイはかつての強敵、ハドラーまで実験に使われていただけだという現実に失望した。
「お前達の研究の為にハドラーが死んだのか。」
ダイは最後に分かり合えた宿敵ハドラーの事を考えると胸が痛くなった。
「お前だけは絶対に許さない!!」
「ほほほ、お前と闘っている暇はない、それに、その剣では闘えないだろう。
エビルプリーストは次元の穴を開け神殿を脱出した。
「待て・・・」
その時ダイの真魔剛竜剣が砕け散ってしまった。
「そ、そんな。」
エスタークの剣との激突で剣は既に限界を超えていた。
「う、私は一体・・・」
ダイの振り返った先には、人型の魔族になったエスタークがいた。
「お前がエスタークの真の姿なのか。」
「確かに私はエスタークだが、君は誰だ?」
ダイはこれまであったことを全て話した。
「そうか、私が進化の秘法をエビルプリーストに使わされてからハ千年の時が経ったのか。
そして村の女性を監禁していた・・・」
「今すぐに女性達を解放できるかい?」
「私はこの神殿の中の鍵なら全て持っている、彼女達の監禁を早速解こう。」
こうして二人は牢の小部屋へ足を急がせた。
175ガモン:2009/04/15(水) 18:12:18 ID:CNT6IRwd0
第六話 投下完了です。
前回の書き込みで三話で終わらせるつもりと書きましたが、次回まで掛かりそうです。
ピサロを登場させるのであれば、どうしてもデスピサロ戦や世界樹の花を出さなければならないのでエスタークに代わりになってもらいました。
彼はこれから活躍してもらうつもりですが、エスタークを倒して欲しいと思っていた方々には不快なストーリーになってしまったかも知れませんので、
お詫びします。

>>サナダムシさん
光成は相変わらず闘いを観ることが好きですね。
戦いに巻き込まれなければよいのですが・・・
大統領の身辺警護にあたったシコルスキーは一番戦闘回数が多いかもしれませんね。

>>160貴重なご意見ありがとうございます。
気をつけはしましたが、まだ説明文の様な箇所が多いので一層注意して書き込みます。
176作者の都合により名無しです:2009/04/15(水) 20:32:08 ID:bvza3P6c0
ガモンさん、投稿するときレスとレスの間にだいぶ時間があいてるけど
ひょっとして書きながら投下してる?

書きながら投下はストーリーに矛盾が出たり
文章が荒くなったりしやすい
メモ帳かなにかに一定量書き溜めてから投下がおすすめだよ

もし書きながら落としてるわけじゃないならメンゴ
177ふら〜り:2009/04/15(水) 21:44:11 ID:MSrNl3jt0
私の感想書き込み、今回をもって3回連続、サナダムシさん&ガモンさんのお二人。
スレを支えて頑張って下さる双璧で竜虎なお二人に感謝しつつ、他の方も待ってますよ〜。

>>サナダムシさん
目的地を阻む形で門番が一人ずつ、か。悪魔騎士の五重のリングかポセイドンの柱か。
何にせよ普通は敵キャラのやることですな……って彼らは原作では元々敵キャラですけど。
しかしこれだと他の四人、あるいはオリバを突破したバケモノがシコルのところへ来るかも?

>>ガモンさん
連載開始以来、一番面白かったです! 凍てつく波動の性能、それを軸にしての攻防展開
に唸り、ザボエラの兄という設定に驚いて。あのバーンより強いと立証済みのダイが相手です
から、ヴェルザー以下の本作敵キャラ陣にはこれぐらいのものが求められるってことですね。
178作者の都合により名無しです:2009/04/15(水) 21:46:32 ID:e5Gp2rr60
ダークドレアムは強すぎるけどヴェルザーやバーンとの関係はどうなんだろ?
179しけい荘大戦:2009/04/15(水) 23:30:04 ID:AIQHOEab0
第九話「アメリカ合衆国大統領」

 午後六時──米国大統領、到着。
 大勢のシークレットサービスを引き連れ、ボッシュは徳川ホテルの最上階に移動する。
 東西南北に仲間が散り、しけい荘メンバーでホテル内にいるのはオリバとシコルスキー
の二人のみ。
「シコルスキー、大統領が到着したらしい。今すぐ部屋に向かいたまえ」
「えっ、俺一人でか!?」
「当然だろう。心配するな、話はつけてある」
「し、しかし……本当に俺みたいな馬の骨が──」
 シコルスキーが弱音を口にした瞬間、オリバはぐいっと胸ぐらを掴み上げた。
「お、大家さん……!」
「君は私のアパートの住民だ。たかが大統領如きに怯える必要など一ミクロンたりともな
い。……分かるな?」
「……はい」
「もし外の四人が敗北し、私が突破されたなら、君の出番だ。──頼んだぞ」
 オリバはシコルスキーを振り向かせ、背中に張り手を喰らわせた。凄まじいパワーに五
メートルほど転げ回るシコルスキー。が、起き上がると不思議と体から余分な力が抜けて
いた。
「スパスィーバ(ありがとう)、大家さん……いや、アンチェインッ!」
 走り去るシコルスキーを、父親のような瞳で見送ると、オリバはわずかに微笑んだ。

 ホテルの外壁をよじ登って最上階を目指すシコルスキーだったが、不審者とまちがわれ
て発砲されたため、大人しくエレベーターで向かうことにした。
 最上階は地上とは別世界だった。最高級の彫刻に、最高級の絵画、最高級のシャンデリ
ア、ドアですらが最高級だ。
 しかし、アンチェインに比べればどうということはない。
 執拗とすら感じるほど厳重なボディチェックを切りぬけ、いざ大統領の部屋へ。
180しけい荘大戦:2009/04/15(水) 23:31:25 ID:AIQHOEab0
「失礼します」
「おォ〜よく来たね」
 タキシード姿のシコルスキーを出迎えたのは、Tシャツでくつろぐ大統領ジョージ・ボ
ッシュその人だった。東洋人を含むシークレットサービスらが隙のない眼差しを向ける。
おそらくは精鋭中の精鋭なのだろう。
 さらに、驚くべきゲストが一人。
「久しぶりだな、シコルスキー」
「──ゲバルッ!」
 タンクトップにジーンズ、おなじみの青いバンダナ。ゲバルがソファに腰を下ろしてい
た。
「ゲバル君、君の知り合いかね?」
「あァ、大切な友人だ」
「ふぅん……」
 値踏みをするように好奇の視線を、シコルスキーに投げつけるボッシュ。
 一通りの審査を終えると、ボッシュの目にあからさまに失望の色が浮かんだ。
「あのアンチェインの部下だというからそれなりに期待していたンだが、平凡そうな若造
じゃないか。しかもロシア人なんだろう? 共産圏の人間はサボることしか考えていない
から苦手なのだよ」
 テレビカメラ前ではないからとばかりに、いきなり飛び出すボッシュの暴言。当のシコ
ルスキーでさえ憤ることを忘れた。
「私はテロリストなど恐れていない。まァ君は優秀なスタッフの邪魔にならないよう、せ
いぜいそこらでたむろしていたまえ」
 ボッシュが葉巻に手をつけようとした瞬間、すかさず近くの日本人ボディガードがライ
ターを差し出した。
「すまないね、天内君。まったく君は女房以上だよ」
「いえ」
 天内と呼ばれたボディガードは女性的な面立ちから、にっこりと曲線的な笑みを返した。
要人警護よりも執事やホストの方がよっぽど似合いそうだ。
181しけい荘大戦:2009/04/15(水) 23:32:19 ID:AIQHOEab0
 しかし、シコルスキーは見抜いていた。今のライターの差し出し方。タイミング、スピ
ード、動作、どれをとっても完璧だった。否、完璧すぎた。たとえ台本があってもああは
いくまい。まるでボッシュの心を読んでいたかのようだ。
 ──天内(こいつ)は強い。
 シコルスキーは己の戦力分析を、脳の片隅にそっとメモした。
「シコルスキー、ミスターボッシュのオフレコでの毒舌は有名なんだ。あまり気にするな
よ」
「ゲバル」
「せっかくだ、俺の部下も紹介しておこう」
 ゲバルに呼ばれ振り向くと、ゲバルの横にもう一人、シークレットサービスが立ってい
た。オールバックの髪型に整った顔立ちは、さながらハリウッドの二枚目俳優といった風
貌だ。
「カモミール・レッセン。俺の国と米国(ステーツ)との友好の証に、ミスターボッシュ
にレンタルしている。俺の部下の中でも特に優秀な男だ」
「よろしく、ミスターシコルスキー」
「よろしく……」
 ゲバルは強い。オリバに親友として認められ、あの烈海王とアライJrを相手に白星を
飾っている。そのゲバルが優秀だと認めるのだから、強くないわけがない。
 シコルスキーはレッセンの名も、天内と同じくメモを取った。
 十名のシークレットサービスの中でも、天内とレッセンがずば抜けているのはまちがい
ない。
 精鋭無比すぎるスタッフに囲まれ、シコルスキーは不安になった。
「俺、役に立てるのかな……」
 不安と緊張で汗まみれになるシコルスキーに、これまた絶妙なタイミングで天内が水が
入ったコップとハンカチを差し出してきた。
「どうぞ」
「ど、どうも……」
182サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/04/15(水) 23:45:37 ID:AIQHOEab0
第九話終了。そろそろ打ち止めとなります。

>>168
ご老公は好きには決してなれませんが、なかなか憎めないキャラです。

>>169
「大戦」と銘打っているので、早めに移行しました。早く書きたかったのもありますが。

>>170
やぁ!

>>ガモンさん
お疲れ様です。
エスタークは好きなキャラなので期待しております。10ターン……。

>>ふら〜りさん
いつもありがとうございます。防衛戦の魅力(?)を少しでも出せるようにします。
183作者の都合により名無しです:2009/04/16(木) 07:07:42 ID:giXqwT0B0
シコルは相変わらず可愛いなあ
オリバがシコルを息子みたいに信頼してるみたいでいい
しけい荘でいえば末っ子みたいなもんか、シコル
184ダイの大冒険AFTER:2009/04/16(木) 11:24:06 ID:yr/GRrsS0
第七話 新たな伝説の始まり
「この鍵で開く筈だ。」
牢の合鍵で扉を開けた。
「やった!」
「出られるなんて、信じられない。」
捕らわれていた女性の中には、歓喜に震え、ある者は涙さえ流した。
「やはり、エスタークを救う事が出来たのだな。」
「いやあ、運が良かったんだ。」
ダイはそう言いながらも頬を赤らめた。
「私達は村に帰るが、そなたも来てくれないか?」
ダイは快く頷いた。
こうして、全員で村へ帰った。
「ダイ、俺は村に入る訳にはいかない。村の女性を監禁してきた罪は許されるものではない。」
そう言って、エスタークは村に入ることを拒んだ。
「俺はお前に話したいことがある、村の前で待っている。
ダイはエスタークの気持ちを汲み取り、村に引き入れなかった。
村に入るとレイラと長老が出迎えた。
「なんと、全員ではないが、女達が生きておったか!!」
長老は帰って来た女達にひたすら謝り続けた。
謝っても許される問題ではないことも分かっていたが、それでも長老はそうせずにはいられなかった。
「本当にエスタークに勝ったなんて、信じられない。」
レイラは安堵し、喜んだ。
「長老さん、俺、そろそろ行かなきゃいけないんだ。」
その言葉にレイラが反対した。
「嫌よ!!ダイは私の命の恩人なのに、こんなに早く別れなきゃいけないなんて・・・」
「レイラ、ごめん、でも俺は地上に戻らないといけないんだ。」
ダイの言葉も今のレイラには聞こえなかった。
レイラは知らないうちにダイに恋心を抱いていたのだ。
「ダイ君には帰るべき場所があるのだ、ここに残ることは許されない。
それに今生の別れという訳でもあるまい、またいつかどこかで会うことも出来るじゃろう。」
レイラは涙ながらに無言で頷いた。
「それじゃ、さようなら!!」
ダイは村を出発した。
「ダイーー!!必ず、またこの村に来てねーー!!」
レイラの声にダイは頷き、走り去った。
185ダイの大冒険AFTER:2009/04/16(木) 11:26:42 ID:yr/GRrsS0
「レオナ姫を連れてまいりました。」
カンクロウはヴェルザーの前に立ち、その場で敬礼した。
「御苦労だった。そろそろ我愛羅もオレの体を持ち帰って来る頃だろう。」
ヴェルザーはやたら上機嫌にカンクロウに話した。
「あんたがヴェルザーね、何故私をこんなところに連れてきたの?」
「オレはお前を連れてこいという命令はしていない、全てカンクロウの独断だ。」
レオナは部下の好きに行動させるヴェルザーの感性がとても信じられなかった。
「カンクロウが貴様を捕えるという機転を利かせてくれたおかげで地上の制圧は捗るだろう。」
「だったら、私を殺した方が良かったんじゃないの?」
「人質があるからこそ地上の制圧は上手くいくのだ、貴様もオレの道具としてこれから生きていけ、ハハハハハハ。」
ヴェルザーの部下たちによりレオナの身ぐるみは剥がされ、口に布を噛ませて自害をさせないようにした。
もはや死ぬことさえ出来なくなったレオナはただ祈ることしか出来なかった。
『助けて、ダイ君。』

アーリーの村を出たダイは村の前に立っていたエスタークに声を掛けられた。
「俺も連れて行ってくれないか?」
「いいけど、どうして?」
「俺は八千年前にエビルプリーストに進化の秘法を俺に使用した時点で俺は死んだ筈だった。」
「どうして進化の秘法を使われたの?」
ダイの質問にエスタークは絶望した表情を浮かべながら話した。
俺の両親を殺したダークドレアム、奴に二度戦いを挑んでも、一瞬で惨敗した。
俺は三度目に奴を自分の体内に封印することで勝利したと思っていた。
だが、俺のような魔族に封印しきることは無理だった。
そんな中エビルプリーストが進化の秘法を使えば完全に封印することができると話したんだ。」
「けど、エビルプリーストとダークドレアムは繋がっていたよ。」
ダイの言葉にエスタークは頷いた。
「ああ、ダークドレアムが俺の体内に自ら飛び込むように入っていったのもその為だろう。
そして、俺は理性を失った怪物になり下がった。
その俺を救ってくれたのがお前だ。どうしてもこの恩を返したい。」
「話したい事ってそれだったんだね、俺としても仲間が増えるのは嬉しいし、
是非仲間になってくれよ。」
ダイはエスタークの申し出に承諾した。
186ダイの大冒険AFTER:2009/04/16(木) 11:27:35 ID:yr/GRrsS0
その時突然二人の前に物体が落ちてきた。
「これは、俺の剣!!」
地面に強く刺さったダイの剣をダイは抜いた。
「それが、お前の剣か?」
ダイは嬉しそうに頷いた。
真魔剛竜剣がなくなった今、ダイにとってはこれ以上ない武器が主の元に戻ってきたのだ。
「俺と戦った時の剣よりも強い力を感じる、その剣を造った者は相当の腕の持ち主だな。」
エスタークは瞬時にダイの剣の力を知った。

アーリーの長老の家に捕らわれていた女性が来ていた。
「長老、かつて私は一人の騎士によって魔界に変革が訪れると予言した事を覚えていますか。」
「もちろん、覚えているとも、それがどうしたのかね?」
「私はあの少年こそがその騎士の様に思えるのです。
何千年経っても変わらないこの魔界に新しい歴史を創ると私は確信しています。
「まさか、気のせいじゃろう。」
しかし、この予言が現実の物となるのは目と鼻の先である。
後年の人々はこれから始まる天地魔界を激突させた戦争においてその戦争を収めた最後の竜の騎士をこう呼んでいる。
      
            三界の救世主と。
187ガモン:2009/04/16(木) 11:28:28 ID:yr/GRrsS0
第七話 投下完了です。
今回でダイ編も終わったので第一部終了といった形にしてみました。
第八話からはポップ達をまた書いていくつもりです。
今回やたらとセリフが多かったので直そうと思いましたが時間の都合により出来ませんでした。
ご容赦ください。

>>サナダムシさん
お疲れ様です。
たかが大統領如きに…というセリフはオリバや勇次郎にしか言えないでしょうね。
今回の話でオリバはシコルスキーをとても信頼していますね。
シコルスキーには活躍してほしいです。

>>ふら〜りさん
この上ないお言葉どうもありがとうございます。
同じようなクオリティで書けるかどうか分かりませんが、頑張っていこうと思います。

>>176
ご指摘していただきありがとうございます。
以後気をつけようと思います。


188作者の都合により名無しです:2009/04/16(木) 16:54:12 ID:SrohQy2m0
ヴェルザーがなんとなく可愛いなw
ダイも復活して、主要面子はこれでそろったのかな?
189作者の都合により名無しです:2009/04/16(木) 22:32:37 ID:hC2I54zy0
>サナダムシさん
シコルスキーを結局最後は信頼するオリバは良いですね。
しけい荘メンバーを大統領より上に思ってるのもいい。
でも敵メンバーは本当に誰なんだろ?

>ガモンさん
第一部終わりですか。間を置かず2部へ移行して欲しいです。
ダークドレアムは強すぎるから、これから先、使い辛いですな。
出ないのかな?
190作者の都合により名無しです:2009/04/17(金) 00:13:22 ID:tIhrXMxe0
サナダムシさんそろそろ打ち止めって
連載が終わってしまうのか
ハイペースが終わってしまうのか?

ガモンさんは頑張ってるなあ。
ヴェルザーとダークドレアムが
ラスボスになるのかな
191作者の都合により名無しです:2009/04/17(金) 07:13:35 ID:qdWrIeJu0
サナダムシさんガモンさんだけでなく
他の人も描いて欲しいなあ
192ダイの大冒険AFTER:2009/04/17(金) 22:36:18 ID:OsOvBETv0
第八話 魔界突入
「どういうことなんだよ!まさかダイが死んだなんて言うんじゃねえだろうな!!?」
ポップは動揺し兵士の胸倉を掴み怒鳴った。
「慌てるな。ダイの剣はダイが死んだ時光が消える、しかしダイの剣が消えたのなら、
それは真の所有者の元へ帰ったということだ。」
剣を作ったロンベルクが自信有り気に語った。
「そして、剣が舞い戻らなければならない所にダイはいるということだ、つまり・・・」
「魔界に行く理由が一つ増えたのですね。」
アバンは既に答えを導きだしていた。
「ならすぐに魔界に行こうぜ!ダイと姫さんを探すために。」
ポップの発言で魔界突入が決まった。
         〜デルムリン島〜
「そういうわけだから、力を貸してくれないかしら?」
マァムはヒム、クロコダイン、チウに話した。
「行こうぜ!それにハドラー様が生まれ育った魔界がどんなものか見てみたいしな。」
ヒムは二つ返事で承諾した。
「俺達も行くぞ。姫を助け出さねばならぬし、ダイをこの目で見たいからな。」
「僕も行きますよ。マァムさん!」
こうしてヒム、クロコダイン、チウ率いる獣王遊撃隊がマァムと共に島を出た。
カール王国に集まり、方針を考えていた。
「それじゃ、魔界に行くのは俺、先生、ヒム、ラーハルトの四人でいいのか?」
このチームに異論も無く、四人は破邪の洞窟に向かった。
193ダイの大冒険AFTER:2009/04/17(金) 22:59:49 ID:OsOvBETv0
四人は破邪の洞窟に到着した。
「さあ、行こうぜ。」
ポップが先頭を切って走り出した。
「はあ、なんであいつが仕切ってやがんだ?」
ヒムがあきれながら後を追う。
「やれやれ、疲れ果てなければ良いのですがね。」
アバンの心配は現実の物となる。
         地下十階
勢いよく出発し、二時間で地下十階まで下りることが出来たが、ゴーレム等のモンスターが多数で襲い掛かり、苦戦を強いられていた。
「ハーケンディストール!」
ラーハルトによって敵を全員倒すことが出来た。
「油断するな!先はまだ長いぞ。」
           地下五十階
流石に疲れが見え始めたが四人は下り続けていた。
「はあ、もうここに入って三日、どんどん構造は複雑になっていくぜ。」
ヒムはため息をついていた。
「頑張りましょう、私達は地上に残った人達の為にも必ず魔界につかなければなりません。」
アバンの一言が全員を活気づけさせた。
               地下百階
キラーマシン、ボーンファイターといった屈強なモンスター達と戦い、既に二週間の時が過ぎていた。
「もう限界だ。」
ポップが床に倒れこんだ。
「こいつ、だからあんなに張り切らなければ良かったのによ。」
ヒムが冷たく言い放った。
「ちょっと待っててくださいね・・・べホイミ!」
流石にこの長い戦いで各々の魔力も無くなってきていた。
「仕方がありませんここでテントを張りましょう。」
「しかし、もうテントもないぜ、どうするんだ?」
「先に進むしかないだろう。」
四人は一泊しさらに複雑になる迷宮を進んで行った。
194ダイの大冒険AFTER:2009/04/17(金) 23:02:01 ID:OsOvBETv0
地下百五十階
「もう、立てねえ・・・・・」
破邪の洞窟を降りて一か月、常人では決して不可能なペースで降りたが、モンスターとの戦いによるダメージや疲労により最下層で、
全員倒れこんだ。
「一体出口はどこにあるんだ!!」
ヒムが怒鳴り散らしたところで出口が見つかるはずもなく、四人は最下層で既に三日の時を過ごしていた。
「くそお、ここにもない。」
そう言ってポップは倒れこんだ。
「しっかりしなさいポップ!あなたがそんなことでどうするのですか?」
「先生・・・」
「安心しなさい。出口は必ず見つかります。」
とはいえさすがのアバンも疲労を隠せずにはいられなかった。
そんな中、一筋の光が洞窟に差し込んでいるのを見つけた。
「もしかしたら、あれが出口か?」
ラーハルトとヒムが光のさす場所を見た。
そのあとに続いてポップとアバンが光を見た。
「見ろ、出口だぜ!!!」
ヒムが歓喜の声を上げて走り出した。
「ちょっとまってくれえ〜」
歩くのも億劫な状態のポップはあらん限りの力を振り絞って外に出た。
出口を抜けるとそこには黒い地上が広がっていた。
「ここから、光が発せられていたのか?」
ラーハルトの疑問も最もである。
何故なら辺りは漆黒に包まれたような世界である。
信じろ、という方が無理な話だった。
「ロンベルクの話では出口付近にアーリーという地上の生物に友好的な種族の村があるようだな。」
「だったら、そこに行こうぜ・・・俺はもうくたくたで動けねえ。」
限界に達して倒れてしまったポップをアバンとヒムが担ぎ四人はアーリーの村へ向かった。
195ガモン:2009/04/17(金) 23:06:44 ID:OsOvBETv0
第八話 投下完了です。
今回から第二部スタートです。
クロコダインやチウなどはこれから活躍させていこうと思います。
投稿するときに少し手順を間違えて書き直してしまったので大分時間に間隔が開いてしまい、すみませんでした。
ここ最近短かったのですがこれからは少しずつ長い文章に戻していくつもりです。
196作者の都合により名無しです:2009/04/17(金) 23:23:46 ID:LuMJEhIs0
魔界編になるの?
197作者の都合により名無しです:2009/04/18(土) 07:29:38 ID:CPpY0bkK0
いつもお疲れ様ですガモンさん
男性チームとダイが次回あたりに出会うのかな?
ダイとポップの邂逅が楽しみですね。
198作者の都合により名無しです:2009/04/18(土) 17:27:05 ID:0lrMYv+60
ガモンさん凄いペースだな
本編終了後の続編と言う事で何かと制約多いと思うけど
頑張って完結までいってほしい。
199作者の都合により名無しです:2009/04/18(土) 20:52:00 ID:WfVZazg30
うんうん
200ふら〜り:2009/04/19(日) 19:15:39 ID:kFQeIYdX0
>>サナダムシさん
一般人基準で考えれば充分に超人だけど、周囲が周囲だから弱そうに見えてしまう。思えば
ヤムチャそのものなシコルですが、本作の彼は性格的に大人しく非好戦的なだけで、能力的
には(オリバ以外には)劣らぬどころかむしろ……で、そこをオリバは鋭く見抜いている、ような。

>>ガモンさん
ダイ読者待望の魔界編ですな。言われて気づきましたが、魔界ってのは単に敵地というだけ
ではなく、「ハドラーの故郷」という見方もあるんですよね。もちろんハドラーは元々は敵なん
ですけど。今のポップやアバンの旅・戦いを、草葉の陰からどんな思いで見ていることやら。
201しけい荘大戦:2009/04/19(日) 19:45:12 ID:FnMgC1BA0
第十話「開戦!」

 ボッシュがホテルに入ってから一時間余り。いまだに襲撃が起こる気配はない。徳川ホ
テルは昨日までと同じように時を刻んでいた。
 ボッシュ殺害を予告したテロ組織は、自由、平等、博愛を掲げ、これまでも地球上あら
ゆる場所で予告テロを成功させている。一方で規模や人員は一切が謎に包まれており、首
謀者ですら明らかではない。分かっていることは、予告が決して脅しではないということ
だけ。爆破するといったら必ず爆破し、拉致するといったら必ず拉致し、殺害するといっ
たら必ず殺害する。
 ホテル内に緊急設置されたモニター室。ホテルの要所に仕込まれた監視カメラから映し
出される、無数の壁一面のモニターを、飽きもせず眺める二人。徳川光成と園田盛男。
「なかなか始まらんのう。つまらん」
「つまらなくていいんですよ、徳川さん」
「しかし、格闘士とテロリストのガチンコの闘争なんてめったに観戦できるもんじゃない
ぞ。これほど興奮するのはいつ以来かのう」
「徳川さんッ! もしホテルが戦場になれば、あなたの命だって危険なんですよ!」
 あくまでも個人的な好奇心を優先させ、マイペースを貫く光成に、園田はつい声を荒げ
てしまう。すると園田の背後から声がかかった。
「ご心配には及びません」
「……いっ、いつの間にッ!」
 徳川家親衛隊隊長、加納秀明が気配を殺して園田の後ろに立っていた。
「徳川老には私がついています。あなたがたは職務以外のことに気を回さず、大統領と己
の地位の死守に専念することですな」
 自信と皮肉に満ちた笑みの加納に、園田は返す言葉もなかった。
「……分かりました。しかし油断だけはしないで下さいよ」

 最上階。天内がくれた水を一気に飲み干すシコルスキー。人心地がつき、大きく息を吐
く。
「助かったよ、えぇと……天内。ところでさっきから訊きたかったんだが──」
「なぜ私が、大統領やあなたが望むことを、計ったようなタイミングで遂行できたのか、
でしょうか?」
「───!」
202しけい荘大戦:2009/04/19(日) 19:46:01 ID:FnMgC1BA0
 シコルスキーが問おうとしたことを、天内は一寸の狂いもなく当ててみせた。
「……その通りだ」
「答えは単純(シンプル)です。これは手品でもなんでもなく、愛の作用によるものです」
「え、ハァ? あ、愛って……アンタが俺を?!」
「大統領も同様です。他者がもっとも望むことを瞬時に察知し、実行する。これは愛があ
るからこそ可能なのです」
「な、なるほど……」
「そしてもうひとつ。もっとも望むことが分かったなら、同時にもっとも望まないことも
分かる。もっとも望まないことを瞬時に選択し続けること、これが闘争に勝利するコツだ
というのが私の持論です。
 例えば、先ほどあなたは緊張で水分を欲していました。それを満たすために私は水を手
渡したわけですが──逆に、私が意地悪く暖房の温度を上げるなどすればあなたはもっと
渇きに苦しんだはずです」
「勉強になるな……」
 天内の講義(レクチャー)にすっかり夢中になるシコルスキー。
「これを闘争に利用するなら、もしあの時私が唐辛子入りの水でも渡していれば、あなた
は辛さでとても戦える状態ではなくなるでしょう。もっと手段を問わないのであれば、無
味無臭の毒を入れていたら今頃あなたは──」
 天内の殺気をはらんだ眼差しに、シコルスキーは反射的に身構えた。
「おまえ、まさか毒を……ッ!」
「ハハ、冗談ですよ。そんなことをするはずがないでしょう」
 いきなり温和な笑顔に変わる天内。毒を飲まされていないと知り、ほっと胸を撫で下ろ
すシコルスキー。
「冗談はさておき、私は愛と闘争は対極なのではなく、表裏一体であると考えます。私の
戦力もこの考えに起因しているところが大きい。……これであなたの知りたいことへの答
えになったでしょうか?」
「ありがとう、ロシアの喧嘩が遅れてることがよく分かったよ」
203しけい荘大戦:2009/04/19(日) 19:46:49 ID:FnMgC1BA0
 互いに丁寧に頭を下げると、天内はボッシュの傍らに戻っていった。
 ちょうど入れ違いに、ゲバルが話しかけてきた。
「ずいぶん熱心だったが、ミスター天内の話は参考になったか?」
「いやァ、いきなり天内に愛の告白を受けたんだ」
「え?」
「戦う時は相手を愛さなければいけないってことがよく分かった」
「そ、そうか……よかったな」
 シコルスキーには馬の耳に念仏だったようだ。

 一方、ホテル外は騒然としていた。
 徳川ホテル周辺を固めていた機動隊がテロリスト部隊に突破され、今まさに東門に大軍
勢が迫りつつあった。
「あ、あれは……北沢軍団! 奴らも加わっていたのかッ!」
「いよいよ来よったか!」
 監視カメラを通じてモニターに映し出された勇敢なる国家権力が敗走する姿に、青ざめ
る園田とときめく光成。
 東門担当の警備が浮き足立つ中、似合わないタキシード姿で呑気に煙草を嗜む武術家。
 柳龍光。
「ようやくお出ましか。ノンビリしたものだ」
「どっ、どうしましょう! 一度退却して応援を呼んだ方が……」
「ざっと一千人といったところか。つまらん相手だが、新技を試すには丁度いい素材だ」
「えぇっ、チョッ、あの……」
「君たちは下がって茶でも飲んでいたまえ」
 柳は吸い殻を指で弾くと、朝の散歩のような足取りで大軍に近づいていく。
 しけい荘対テロリスト、ついに開幕戦が火蓋を切った。
204サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/04/19(日) 19:48:04 ID:FnMgC1BA0
第十話です。前話>>179

今回より本格的にバトル開始です。
よろしくお願いします。
205作者の都合により名無しです:2009/04/19(日) 21:19:57 ID:iLhBAlEy0
なんか柳がカッコいい
意外とタキシードは似合うかもね
206作者の都合により名無しです:2009/04/19(日) 22:43:08 ID:fczBucg00
サナダムシさんお疲れ様です。
今回は展開が速いですね。早くもバトル編ですか。
先鋒の柳がどんな活躍を見せてくれるか楽しみにしております。
意外とシコル対天内がラストバトルになるのかな?
207作者の都合により名無しです:2009/04/20(月) 07:08:26 ID:8o6DC3St0
一気に終わっちゃいそうだな。
バトル編はちゃんと各々のしけいそうメンバーに見せ場がありそうだけど、
オリバやゲバルにもあるのかな?
208女か虎か:2009/04/20(月) 20:08:15 ID:qrbpyN//0
11:ELECTRIC EYE

 寒い夜だった。
 天頂には凍ったような円い月。湿度の低い透き通った空気が、空に散らばる星の屑を透かしている。
 息を吐くと瞬く間に白くなった。鼻の脇から生えた髭に、まとわりついて凍てつくのではないかと思われた。
 たゆたう水や踏みしめる土から這い上がってくるのは、一種痺れにも似た冷たさ。極寒の秘境を狩場にしていた≪我鬼≫にとっては、皮膚そのものに焼きついた懐かしい感覚だ。
 体内では寒さに打ち勝つために絶えず脂肪が燃焼し、凄まじい勢いでカロリーが消費される。
 そろそろ狩りに出なければならない。
 ≪我鬼≫は薄緑色の水の淵から顔を上げた。河とは違う扁平な水底を前脚で強く蹴ろうとしたとき、冷えた大気に入り混じって嗅ぎ覚えのある匂いを感じた。
 脆弱な二本足ばかりのこの地で、彼が出遭った唯一の肉食獣。
 ≪我鬼≫は歯を剥き出した。≪二本足≫の概念からすれば、ともすれば笑ったようにも見て取れる顔だった。

 ――向かって来るか、小さき我が天敵よ。

 ≪我鬼≫はまた息を吐いた。高揚が彼の吐息に熱を与えた。
 呼気は零度近い気温に即座に冷やされ、白く曇って巨大な顎門(アギト)を覆い隠した。



 夜を駆けるセダンの中は、摂氏二十五度の温風で満たされていた。ドアを開けた瞬間襲ってきた寒気は極端な温度差とあいまって、ナイフの切っ先めいた鋭さでサイの頬をひと撫でした。
 道の脇の柵に据え付けられた看板には、涼しげな青い飾り文字。
 『ウォーターゲートパーク』。
 ただしところどころ色は剥げ、暴走族によるものらしい下品な落書きがスプレーで吹き付けられている。
「この位置で待機でいいんですかい」
 車外に降り立ったサイに、運転席から葛西が尋ねた。
「今のところはね。適当なところで後から来てよ」
 言いながら、サイは指で自分の耳を軽くはじく。
 通信機。前回密輸船に潜入したときに、アイとの交信で使用したものだ。今回は更に、現在位置を自動で知らせる機能も付属している。場所を踏まえて防水加工も施されていた。
 チャキリと音を鳴らしながら、散弾銃のセーフティを上げる。
 身に纏うのはいつものだぼだぼの長衣ではなく、袖も裾もすっきりと身の丈に合う軍服めいたデザインの衣服だ。更にその下には防刃ジャケット。未成熟な骨ばった体が、これのせいで膨れて見えるほどの厚みがある。
「それじゃ行ってくるよ、葛西」
「行ってらっしゃいませ」
 帽子を押さえて頭を下げる葛西に、サイは背を向ける。
 アスファルトの一蹴りで細い体が宙を舞う。道路とパークの内部を隔てる、高い柵の上に着地する。
 そして更に一蹴り。
 荒れ果てた園内にサイは足を踏み入れた。
209電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/04/20(月) 20:09:30 ID:qrbpyN//0
……すみません、制限字数変更したのかな? と確認するつもりが
変なふうに投下してしまいました
投下レスを配分しなおしてまた最初から投下しなおします
210作者の都合により名無しです:2009/04/20(月) 20:22:46 ID:cFr+Qk9+0
電車魚さんおひさしぶりー!
211女か虎か:2009/04/20(月) 20:43:07 ID:qrbpyN//0
11: ELECTRIC EYE

 寒い夜だった。
 天頂には凍ったような円い月。湿度の低い透き通った空気が、空に散らばる星の屑を透かしている。
 息を吐くと瞬く間に白くなった。鼻の脇から生えた髭に、まとわりついて凍てつくのではないかと思われた。
 たゆたう水や踏みしめる土から這い上がってくるのは、一種痺れにも似た冷たさ。極寒の秘境を
狩場にしていた≪我鬼≫にとっては、皮膚そのものに焼きついた懐かしい感覚だ。
 体内では寒さに打ち勝つために絶えず脂肪が燃焼し、凄まじい勢いでカロリーが消費される。
 そろそろ狩りに出なければならない。
 ≪我鬼≫は薄緑色の水の淵から顔を上げた。河とは違う扁平な水底を前脚で強く蹴ろうとしたとき、
冷えた大気に入り混じって嗅ぎ覚えのある匂いを感じた。
 脆弱な二本足ばかりのこの地で、彼が出遭った唯一の肉食獣。
 ≪我鬼≫は歯を剥き出した。≪二本足≫の概念からすれば、ともすれば笑ったようにも見て取れる顔だった。

 ――向かって来るか、小さき我が天敵よ。

 ≪我鬼≫はまた息を吐いた。高揚が彼の吐息に熱を与えた。
 呼気は零度近い気温に即座に冷やされ、白く曇って巨大な顎門(アギト)を覆い隠した。



 夜を駆けるセダンの中は、摂氏二十五度の温風で満たされていた。ドアを開けた瞬間襲ってきた
寒気は極端な温度差とあいまって、ナイフの切っ先めいた鋭さでサイの頬をひと撫でした。
 道の脇の柵に据え付けられた看板には、涼しげな青い飾り文字。
 『ウォーターゲートパーク』。
 ただしところどころ色は剥げ、暴走族によるものらしい下品な落書きがスプレーで吹き付けられている。
「この位置で待機でいいんですかい」
 車外に降り立ったサイに、運転席から葛西が尋ねた。
「今のところはね。適当なところで後から来てよ」
 言いながら、サイは指で自分の耳を軽くはじく。
 通信機。前回密輸船に潜入したときに、アイとの交信で使用したものだ。今回は更に、現在位置を
自動で知らせる機能も付属している。場所を踏まえて防水加工も施されていた。
 チャキリと音を鳴らしながら、散弾銃のセーフティを上げる。
 身に纏うのはいつものだぼだぼの長衣ではなく、袖も裾もすっきりと身の丈に合う軍服めいたデザインの
衣服だ。更にその下には防刃ジャケット。未成熟な骨ばった体が、これのせいで膨れて見えるほどの厚みがある。
「それじゃ行ってくるよ、葛西」
「行ってらっしゃいませ」
 帽子を押さえて頭を下げる葛西に、サイは背を向ける。
 アスファルトの一蹴りで細い体が宙を舞う。道路とパークの内部を隔てる、高い柵の上に着地する。
 そして更に一蹴り。
 荒れ果てた園内にサイは足を踏み入れた。
212女か虎か:2009/04/20(月) 20:46:07 ID:qrbpyN//0
 月明かりしかない闇の中を、彼の目は暗視スコープさながらに映し出す。
 敷き詰められたタイルの隙間から、全体を覆うようにびっしりと雑草が生えている。
 水槽にたたえられた水はどんよりと淀んでいた。流れそのものは完全に止まっており、
目玉アトラクションだったらしい螺旋型ウォータースライダーも乾ききった表面を晒している。
 南国をイメージして植えられたらしい椰子の木が、長細い葉を冬の寒気に震わせていた。
 地を這うように密集したイヌフグリなど、放置された場所から生えてきたありふれた草たちも、
ここは日本だと声なき声で訴えている。
 人間が演出した虚構の世界など、自然の前には無為なるものにすぎない。
 サイは五感を全開にして気配を探った。

ちゃぷん

 ほどなくその耳をとらえたのは、流れを止めたはずのプールの水がうねる音。
 歩を進める。下草に覆われたタイルの上を音を立てないように歩くのは一般人には困難だが、
彼にとっては造作もない。

ひちゃん

 髪の毛先の一本までが、水音を受容する器と化した。
 吸い寄せられるように自動的に体が動いた。小鳥でも小動物でも枯葉でもない、もっと巨大な
生き物の気配を追いかけた。
 向かう先は『流れるプール』。もっとも水も電力も供給が絶たれた今は、普通のプールと何ら変わらない、
単なる深夜の闇を映した澱んだ水だ。
 深さは場所による。アイに渡された図面によれば、この辺りは最も深いはずだった。
 風が吹く。椰子の枝が寒さに震えるようにさわさわと鳴る。
 雑音を無視してサイは進んだ。
 求めるのは、塩素臭い闇の底にきらめく金色の瞳。

ざぶん

 ひときわ大きな水音が上がった。
 サイの聴覚でなくても捕捉可能なその音は、いっそ聞こえよがしでさえあった。
 銃を構え直し、黒い銃口を音の方向に向ける。
 プールサイドへと僅かずつにじり寄る。
 水際まであと三メートル。二メートル。

 残り一メートルまで迫った瞬間感じたのは、プールの底を魚雷のごとく泳ぎ来る殺気だった。

 タイルを蹴って後ろに跳んだ。
 視界を水しぶきが支配した。
 巨大な体がプールから躍り上がった。
 眼前に広がる裂け広がった顎門。

「≪我鬼≫……!」

 黄色い牙が並ぶ口めがけ引き金を引いた。
 散弾がバラ撒かれた。一つ一つが肉をちぎり、内臓を引き裂く鉛の塊だった。
213女か虎か:2009/04/20(月) 20:48:46 ID:qrbpyN//0
 爆音とともに散る血と肉と脳漿。プールの水とは違う生温かい飛沫。塩素と混ざったむっとする臭気。
 もたついてなどいられなかった。反動に耐えつつ続けざまに連射した。炸裂音が耳をつんざいた。
 再生の暇など与えない。中身を見るのに支障のない程度に、手早く粗微塵にするのが最も上策。

 虎の頭蓋を半ば以上吹き飛ばし、四発の弾は瞬く間に尽きた。
 シェルの入ったチューブを、マガジンに当てそのまま押し込む。
 スピード・ローダーによる全弾の装填。

 一瞬傾いだ≪我鬼≫の体は、しかし倒れることなく地を踏みしめた。
 ほぼ下顎のみになった口から、鼓膜を突き破るような咆哮が溢れた。
 ミシミシと音を立てて傷口から肉が隆起していく。
 そう簡単には倒れてくれないらしい。ならば続けて散弾を撃ち込み、完全に行動不能に追い込むまで。

 引き金にかけた指に力を込める。
 五発目を放つべく引き絞る。
 金色の閃光が眼前をかすめたのは、その瞬間だった。

「ガッ!?」

 激しい衝撃が脳を揺らした。
 横殴りに数メートル跳ね飛ばされ、サイの体は宙を舞った。散弾銃が手から離れ、タイルに当たって
硬質な音を立てた。プールサイドに叩きつけられ、へし折れる骨を感じたとき、ようやく何が起こったのか理解した。
 一条の閃光かと見えた『それ』は、むろん光ではなく実体を伴っている。
 金色と黒の縞を帯びた細長いもの――
「尻尾……!」
 再生中の半崩れの顔面で、≪我鬼≫が笑ったのが確かに見えた。

 腕をバネにして半身を起こす。
 ≪我鬼≫の尾の先がまた閃いた。恐ろしい速さで疾るそれは、空を切りながら形状を変えた。
 しなる鞭から槍の穂先へ。
 サイの脳天を貫こうと一直線に向かい来る。

「っ!」

 跳んで避けている暇はない。腕を振り上げ頭部を庇う。
 風切り音とともに槍と化した尾が迫る。

 血がしぶくかと思われた。
 しかし赤い花は咲くことなく、ただ硬い音が辺りに響き渡った。
 甲殻類の殻のごとく変化したサイの右腕が、≪我鬼≫の尾の槍をめり込ませて受け止めていた。
「……っ痛ぅ」
 力任せにそのまま振る。あっけないほど簡単にへし折れる槍。
 腕に刺さった穂先を、歯を食いしばって引き抜いた。
 放り捨てる。金属と変わらぬ質感のそれは、タイルの上で数度跳ねてプールの底へと落ちていく。

 ≪我鬼≫の再生はまだ続いていた。散弾四発をもって吹き飛ばしたはずの頭蓋は、徐々に形を
取り戻しつつある。薄ピンク色の骨を赤と白の筋が覆い、毛皮が更にそれを包んでいく。

 プールサイドに転がった散弾銃との距離は、ざっと五メートル。跳躍一つで取りに行けないことはない。
 だが悠長なことをしていては、向こうの体の再生が終わってしまう――
214女か虎か:2009/04/20(月) 20:53:36 ID:qrbpyN//0
 サイの判断は迅速だった。
 甲殻を模した二の腕を、ミシリと再び変異させる。
 肉の柔らかさを取り戻した腕の、内側から突き出すのは尺骨を変化させた鉤爪。右だけに留まらず左腕も。
 強靭な脚でタイルを蹴った。
 研ぎ澄まされた爪で太い首を狙う。

 散弾で潰れた≪我鬼≫の眼球は、まだ再生の半ばだった。機械部品を思わせる金の眼が、周囲の筋肉の
リアルな色を見せつけながらサイへと向いた。
 サイの右の爪が虎の首を抉る。同時に虎の巨大な顎が、華奢な彼の右肩を食いちぎる。異形の牙は
防刃ジャケットを易々と破った。
 肉を抉る感触と抉られる感触。
 痛みにも派手な出血にも、今更怯むようなサイではない。すかさず左の爪を閃かせる。
 素材こそ自身の骨のカルシウムだが、変異する細胞によって匠の居合刀のごとき鋭利さを備えている。
 再生途中の脆い頭部を一刀で切り落さんと――

 だが≪我鬼≫も黙ってはいない。
 牙が粘着質な輝きを放った。肋骨をへし折る音とともにサイの胴に食らいついた。
「グァッ!」
 穴の空く肺、押し潰される心臓。

 ≪我鬼≫はプールサイドのタイルを蹴った。
 悶えるサイを咥え込み、汚水を溜め込んだプールに飛び込んだ。

「………っ!」

 塩素混じりの水が気管に流れ込む。
 水中でも≪我鬼≫はサイの体を離さなかった。硬い水底に押し付け、のしかかりながら牙を深く
食い込ませた。
 生命維持に必要な器官をこのまま破壊する気か。
 もがく体内の奥深くで、骨と内臓が再生の軋みを上げ始める。一方で虎の顎と体重による圧迫は、
回復する端からミリミリとそれらを押し潰していく。
 ブクッと口から気泡が漏れる。
 傷口から血が溢れ、プールの澱んだ水を赤黒く汚していく。
 この均衡はそう長く保たない。

 見開いたサイの目に、水面越しに白い月が映った。
 涙で滲んだかのように溶け崩れた形だった。

 ――ケモノ風情が……

 塩素とも血とも違う苦い味が口の中に広がった。

 ――人間様に……

 爪の形状が変異する音は、たゆたう水に遮断された。
 生物的な緩やかなカーブから、真っ直ぐな刀剣の形へと。いや数ミリにも満たぬそれは、
剣よりむしろ長大な針。
 濁りきった水の底、光届かぬあやふやな視界の中でサイは腕を振り上げた。
 金に輝く虎の左眼に、針と化した爪をありったけの力で突き刺した。
 水晶体を破壊し、一気に脳髄まで貫く。
215女か虎か:2009/04/20(月) 20:55:16 ID:qrbpyN//0
 虎の口から噴き上がる苦悶の泡。
 顎の圧迫が軽くなった。悲鳴を上げる肺と心臓を無視し、水面めがけて一気に浮上。
 聞こえていないのも聞こえたとして理解できないのも承知で、憎悪を込めてこう吐き捨てた。

「……勝てると思うな、ドラ猫がっ!」

 プールの中では勝算が薄い。先日アイが言っていた通り、アムール虎は水中でも狩りを行う。
 人間を超えた人間であるサイだが、水の中での戦闘はいわばアウェイ、百パーセントの実力は発揮できない。
 ≪我鬼≫が浮上してくる前に早急に地上に――

『サイ、俺です』
「葛西?」
 唐突に耳に入ってきたのは放火魔の声だった。
 後から来いと言っておいた通り追いかけてきたらしい。
『十秒で水から上がって下さい。危ねぇんで』
「危ない?」
『ええ。……説明は後です、とにかく地上に。できれば濡れてねえ乾いたトコに』
 言われなくともそのつもりだ。だが単に不利というだけならともかく、危ないとはどういうことか。
 つべこべ考る暇はない。じき金色の巨体が浮かび上がってくる。また水底に引きずり込まれ、同じ
轍を踏むのは御免だった。
 プールサイドへとサイは跳躍した。
 両の足がタイルを踏んだ瞬間、月灯かりのみの暗闇にオレンジ色の光が走った。
 振り向いたサイの目を火照りが焙った。
 プールの水面を炎が覆い、高熱の舌を覗かせて燃え盛っていた。
216電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/04/20(月) 20:58:36 ID:qrbpyN//0
今回の投下は以上です。

お久しぶりです。少年漫画板の制限字数が60字になったんですね。
以下はネウロ最終回ネタバレです。未読の方はスルーしてください。
興奮してるのでテンションおかしいです。それが嫌な方もスルーしてください。








葛西生きてたのかよ!!
あの状況で生き延びるのはサイでも無理があるレベルだと思うのですが、
ネウロ世界ノ人体の強度ハワカラナイヨー。
最初はえーっと思いましたが、よく読むと最終回に彼が出ているおかげで、
「人間の可能性」の光と影が両方描かれた形になっていて、テーマのまとめ方に
奥行きが出てるんですね。うまいなー。

19歳弥子の髪型は読切のそれを思い出します。クセ付いてるけど。あと髪飾り片方だけだけど。
ついでに出戻ってきたネウロの頭も読切当時のラーメン頭になってることをひそかに期待しましたが、
そんなことはなかったぜ!

ネウロは連載第1話からリアルタイムで追いかけているのですが、
引き伸ばされることもなくちょうど良いタイミングで終わらせてもらえて
松井先生も読者も本当にしあわせだと実感します。
この作品の何が一番好きって、善も悪も呑み込んで「人間」を描く懐の深さが好きでした。
これからもずっと好きでいられる自信があります。

ただ……終わりでなく始まりを感じさせる最終回にメチャメチャ興奮したのはいいんだけど……
来週のジャンプにはもうネウロが載っていないことを思うと心が折れそうでうわあああああああああ
217電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/04/20(月) 21:01:48 ID:qrbpyN//0
追記。

SQの松井氏新作読切……
タイトルが『離婚調停』かよっ!!
218作者の都合により名無しです:2009/04/20(月) 21:19:10 ID:tzpBhA7h0
このタイミングで復活w
必死過ぎるだろw
219作者の都合により名無しです:2009/04/20(月) 21:20:30 ID:tzpBhA7h0
すまん
スレまちがえた
220作者の都合により名無しです:2009/04/20(月) 21:25:24 ID:cFr+Qk9+0
お疲れですー電車魚さん。

ネウロは終わっちゃったけど、女か虎かはまだ続きそうでうれしいです。
葛西の少し斜に構えた悪役な感じ、この作品でもいいですな。
なんとなく我鬼にもの悲しさも感じます。
221作者の都合により名無しです:2009/04/20(月) 23:16:08 ID:ppRJjJZ70
アムール虎とシベリアトラってどっちが強いのだろう

なにはともあれ乙です電車魚さん。
この虎は頭もいいし戦闘能力も桁外れだし
サイとアイのコンビでも梃子摺りますね。
葛西には何気に活躍して欲しいですが、はてさて。
222ダイの大冒険AFTER:2009/04/21(火) 00:25:17 ID:UCk5OMQQ0
第九話 動き出した三界
「おやおや、また人間がこの村に来なさったんですね。」
一人の気の優しそうな初老の魔族がポップ達に話しかけた。
「一月ほど前にも人間がいらっしゃいましたね、最近魔界に来る人間が増えているんでしょうか?」
その言葉に半死半生だったポップが立ち上がった。
「おいおっさん!その人間って誰だ!もしかしてダイって奴じゃねえだろうな!?」
「おや、知り合いかい?もしそうなら長老達の方が詳しく知っているから、
話を聞いてみるといい。」
四人は早速長老の家に向かった。
「ここが長老の家か、やっぱりでかいな。」
ポップが豪邸の大きさに舌を巻いていると中から、一人の女性が出てきた。
「あれ、人間がこの村に何の様なの?」
「俺達は仲間達を探しに来たんです。それでこの村にダイが来たって事を聞いて・・・」
「ダイ!?」
「ダイ君を知っているのですか?」
アバンの質問に女性は答えた。
「知っているも何も私はダイに命を救われた様な物なのよ。」
女性の言葉に一同は騒然とした。
「とりあえず上がって、と言っても私の家じゃないけど。
私の名前はレイラっていうんだ。」
四人はレイラと共に長老の部屋に来た。
「・・・というわけなのですが。」
一通りの説明も終わり、ダイに関する手掛かりを聞いたが、特に意味はなかった。
「村を救った後、すぐにこの村を去って行ったよ。まだ魔界にいるとは思うがの。」
「どこに行くかとか聞いてなかったのか?」
ポップが詰め寄って話を聞いても答えは同じ、結局長老の家で泊まることになった。
223ダイの大冒険AFTER:2009/04/21(火) 00:26:56 ID:UCk5OMQQ0
〜天界〜
「ああ、まさかアルテミスが殺されてしまうなんて・・・」
天界に住む精霊ルビス、彼女は精霊達の中でも特に強い力を持ち、ヴェルザー封印の際にはその能力をふんだんに発揮し、
ヴェルザーを封印した。
大いなる力を持つ彼女は、太古から世界樹の化身として人々に崇められていた。
しかし、その彼女をして同胞アルテミスを殺した男に恐怖した。
復讐の二文字が霞んで消えてしまうほどに。
「ある意味ではその少年とやらはヴェルザー以上に恐ろしい存在かも知れぬ、しかしルビスよ、
魔界にはそれ以上に危険な者がいることを忘れるな。あの怪物が世に放たれた瞬間、三界は跡形もなく消滅するだろう。」
ルビスの背後に立つ年老いた隻眼の男、その姿を見るや、ルビスは敬服していた。
「最高神・・・オーディン様!」
「今回の事件は流石に精霊や地上に居る者達で解決出来る可能性は皆無、
竜の騎士の成長と共に悪も進化し続けている。このままでは、何かの拍子に・・・」
オーディンはそれ以上口を開かなかった。ルビスにもその意図は分かっていた。
そしてその二人を遠くから傍観していた者が一人、
「フフフフ。」
一見安泰に見える天界、だが近い先、この華やかな世界に絶望の炎が降り注ぐ。
              〜地上〜
地上に残った戦士達はベンガーナへ向かった。
かつて大魔王バーンとの戦いの時尽力を尽くすと誓ったクルテマッカ七世に応援を頼むためだった。
レオナがいない今、戦士達の出来る最良の方法とはもう一度地上の連合を造り、いつ来てもおかしくない魔界の生物達に立ち向かうことだった。
224ダイの大冒険AFTER:2009/04/21(火) 00:30:07 ID:UCk5OMQQ0
「しかし、レオナ姫のいない今、諸国が力を貸すというのは確率としては低すぎると思うが。」
クロコダインの言葉にヒュンケルが答えた。
「らしくないぞクロコダイン、それでも獣王のセリフか?姫が言っていただろう、
大きな奇跡を起こす時に小さな奇跡を起こすことが出来なければどうする、と。
「はは、そうだった。俺も知らぬ間にヤキが回ったか。」
「さあ、ベンガーナが見えてきたぞい。」
何故かバダックが先陣を切っていた。
             〜魔界〜
「地上に出る所はないのかな〜、どれくらいここにいるんだろう。」
「少なくとも俺と旅を始めてからは一か月は経っている。」
ダイとエスタークは地上に向かい旅を続けていたが、自分自身何故魔界に来たのか分からないダイと魔界から出たことのないエスタークが、
そう簡単に出口を見つけられる筈がなかった。
そしてそんな二人の後をつけている者がいた。
ザボエラの兄にして狡猾な邪教の神官、エビルプリーストである。
そして接近に気付かない程鈍い二人ではない、エビルプリーストの奇襲を察知した。
「しつこいな、なんで俺達に付きまとうんだ!」
ダイの言葉に耳も貸さずエビルプリーストはイオナズンを放った。
「お前たちに生きていられると私の計画が危うくなる、よってお前たちをここで殺すことにした。」
気がつけば辺りは魔界のモンスターで埋め尽くされていた。
「ち、いきなりこれか。」
二人は剣を抜き、構えた。が、次の瞬間敵にとって予想だにしないことが起こった。
225ダイの大冒険AFTER:2009/04/21(火) 00:31:26 ID:UCk5OMQQ0
モンスター達が一斉に飛び掛かった、がその先に二人はいなかった。
二人は飛翔呪文(トベルーラ)で移動していったのである。
「まあ、無理に追うこともないだろう、どうせダークドレアムが奴等を始末するだろうからな。」
目上の者が近くにいなければ平気で呼び捨てにする所も弟と同じだった。
「まだ飛べるか?ダイ!」
「そっちこそ大丈夫なのか?」
二人は相当な距離を飛び、近くの丘で降りた。
「ここまでくれば、追ってくることもないだろう。」
しかし、その様な逃走も虚しく、二人はさらなる絶望に晒されるのである。
「エビルプリーストめ、世話を焼かせおって。」
「ば、ばかな・・・」
エスタークにとっては恐怖の塊、そして憎むべき相手、ダークドレアムが二人の前に姿を現した。
「く、くそ!!」
エスタークが剣を振り上げた瞬間ダイに突き飛ばされた。
「ダイ、お前。」
ダイとダークドレアムは向かい合っている。
「すまないが、今回は褒美はないぞ。私はお前たちを殺さなければならないのでな。」
「そんなこと、させるか!!」
ダイとダークドレアムは空中で激突した。
226作者の都合により名無しです:2009/04/21(火) 00:50:11 ID:PymG7bEc0
ダークドレアム相手では
さすがのダイも勝てないんじゃないかなあ。
227ガモン:2009/04/21(火) 06:26:48 ID:u2ikadH80
第九話 投下完了 前回>>192
アクセス規制により書き込みがおくれてしまいました。

>>サナダムシさん
お疲れ様です。いよいよ戦闘開始ですね。
次回では柳の活躍でしょうか?

>>電車魚さん
お疲れ様です。
サイはやはり強いですね。
個人的に葛西に期待しています。
228作者の都合により名無しです:2009/04/21(火) 07:02:19 ID:4ZhV7sEd0
>サナダムシさん
柳が渋く決めている反面、シコルは相変わらず可愛いですね。
素直と言うか、無邪気と言うか。主役なので最後には決めてくれるんでしょう。

>電車魚さん(お久しぶりです)
サイは超越的な強さを持ってますが、我鬼も負けてませんね。化け物対決。
虎特有の野生がサイをどこまで追い詰めるのかな。葛西の活躍も楽しみです。

>ガモンさん
ダイもダークドレアムも大魔王以上の怪物だし、ヴェルザーも危険ですな。
ヒュンケルたちレベルではこの3者にはもう対抗しきれない気もしますが…。

229作者の都合により名無しです:2009/04/21(火) 20:44:35 ID:WqdJtlEh0
電車魚さんの復帰はうれしいな。
最近はサナダムシさんとガモンさんのお2人に負担が掛かってたからねえ
ガモンさんは本当に頑張ってくれるなあ
230ふら〜り:2009/04/21(火) 21:54:53 ID:AHLigqvU0
>>サナダムシさん
あぁもう事態は緊迫しつつあるってのに、相変わらずシコルが可愛い。ロシアの喧嘩は〜の
下りなんて、「謙虚」と言わずして何と言う。にしても北沢軍団。一千人という規模はそりゃ
凄いけど、でも北沢軍団。一体彼らがどういう武装でどういう技で柳と戦ってくれるのか?

>>電車魚さん(8巻。昔、HALみたいなのとゴルゴが戦って、5インチFDで倒してたなぁ……)
我鬼、ここからもうひと踏ん張りできるか? 作品によっては警察官と協力して戦うこともあり
そうなシチュですが、本作では犯罪者連合のみ。私は「敵にも敵の正義が〜」っての、あまり
好きではないんですけど、本作(原作も)は悪は悪として胸張ってるのが気持ちいいとこです。

>>ガモンさん
長いダンジョンを抜け、聞き込みして、人探しに歩き回る。ポップたちは実にRPGらしく動いて
ますねぇ。と思ってたらタイトルの「三界」では勇者・冒険者段階ではない、それぞれのトップ
連中が動き出してる。視点の位置・規模がいろいろあって、作品世界の厚みが味わえてます。
231しけい荘大戦:2009/04/21(火) 23:04:27 ID:LrxFYSUB0
第十一話「我、五体猛毒なり」

「大統領の命(タマ)ァ取ったる……ぞォォォッ!」
「オオオオオッ!」
 リーダー北沢に率いられ燃え盛る、一千人からなる大軍勢。
 対する大統領陣営は、ホテル東門をオリバから任された柳ただ一人。津波の如く押し寄
せる群れから、柳は冷静に中心人物(キーマン)を見破る。
 北沢ではない。おそらく実質のトップは、北沢の横にいる長身で浅黒い肌を持つ若者。
「まずあれを叩くか……」
 たった一人でテロリストを迎え撃とうとする柳に、北沢が吠えかかる。
「おい、チビ親父ッ! まさかてめぇ、一人で俺らの相手するつもりかよッ!?」
「おい北沢、あいつは俺にやらせろ。軽く血祭りに上げて、さらにムードを盛り上げる」
「分かったぜ、内藤さん」
 柳が標的にした若者は内藤という名だった。わざわざ向こうから来てくれるとは、これ
ほど楽なことはない。
 拳を構え、内藤が柳めがけて突っかける。
「死ねやァッ!」
 拳が飛んできた。もっとも柳にとっては漂ってきた、といってもよい遅さだ。
「ぬるい」
「えっ?」
 柳は拳をやすやすと右手で捌くと、残る左手で内藤の太股に鞭打を決めた。
「ヒィギャアアァァァッ!」
 肉を抉られる鋭い痛みに、悲鳴を上げる内藤。柳は容赦しない。鞭と化けた右手を次は
肩へと叩きつけた。
 口から泡と絶叫を吐き出しながら、内藤が地面をのたうち回る。柳の目は冷ややかにそ
れを見つめる。
232しけい荘大戦:2009/04/21(火) 23:06:15 ID:LrxFYSUB0
「気絶はさせんよ。拷問は空道では基本に過ぎん」
 肋骨につま先を引っかけるような蹴り。横隔膜に多大なダメージを受け、吐しゃ物をま
き散らす内藤。
「ひっ……ゲェッ! ゆ、許してくれェェェッ!」
 血祭りに上げるとまでいった威勢はどこへやら、内藤は膝をつき、涙に歪んだ顔で命乞
いをする。
 トドメは顔面蹴り。前歯を全壊させ、ようやく内藤は失神を許された。
「なっ、内藤さんがッ!」
「さて……次はだれが来るのかな」
 格の違いを見せつけ、一千人に向き直る柳。

 北沢軍団でも屈指の実力を誇る内藤が、無残な敗北者として屍を晒している。
 柳の計算ではこれで敵の戦意を挫けた──はずだった。
「──ビビッてんじゃねぇぞッ! あの親父がどんだけ強かろうと、数で押せば敗けるは
ずがねぇんだッ! 突撃ィィィッ!」
 北沢の号令で、手下たちが息を吹き返した。
 再度、津波となって柳を呑み込まんとする北沢軍団。
「やれやれ、やはりそう上手くいくものではないな。……もっとも、この展開の方が私と
しては望ましいのだがね」
 ぼそりと独りごちると、柳は靴を脱ぎ捨てる。これで素手に加えて素足となった。
「やっちまえェェェッ!」
「人生の先輩として、君たちにひとつ質問をしよう。地上でもっとも強力な毒ガスとはな
にか分かるかね」
233しけい荘大戦:2009/04/21(火) 23:07:49 ID:LrxFYSUB0
「知るかァッ!」
「──では、身を以って味わうといい」
 柳の眼が妖しく光った。

 金属バットを振りかぶる北沢の口元に、柳はそっと右手を添えた。たったこれだけの動
作で、北沢は糸が切れたように崩れ落ちてしまった。
 むろん、テロリストたちはこれが空道の技術「空掌」によるものだとは知る由もない。
「てめぇ、よくも北沢さんをッ!」
「えぇい、かまうか、ぶっ殺せッ!」
「囲め、囲めぇっ!」
 リーダーを失っても、北沢軍団に勢いの衰える様子はない。ところが、柳は変わらず涼
しい表情だ。
 ──戦闘開始。
 己を狙う殺気で充満した武装集団の中を、液体のようなしなやかさで舞う。
 柳が通るたび、道筋に立っていた人間がばたばたとなぎ倒される。絶え間なく繰り出さ
れる手足が、四方の敵の口と鼻を塞ぎ、一瞬にして身体機能を奪い去る。四肢に毒を得た
以上、もはや多勢は意味を成さない。
 理解不能の現象に巻き込まれ、北沢軍団から立っている者がいなくなっていく。
 空掌による猛毒は息を止めれば防げるのだが、戦闘という緊急事態に興奮した彼らの呼
吸は乱れ切っており、攻略法にたどり着く可能性は絶無。
 一千人からなる多勢も、半分を切ると逃亡者が続出、五分も経過すると、もはや警備に
当たる警官だけでも十分制圧できる数にまで減少していた。
「君らも汚名返上をしたいだろう。あとは任せたので、よろしく」
 息切れ一つない柳と入れ替わりに、これまでの失態を晴らすべく突撃する警官たち。
 かくして東門の平和は保たれた。

 ──柳龍光、完勝。
234サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/04/21(火) 23:09:16 ID:LrxFYSUB0
第十一話。前話は>>201です。
柳VS1000人。
次回もよろしくお願いします。
235作者の都合により名無しです:2009/04/21(火) 23:24:20 ID:fa1K4xKt0
柳無双ですなw
なにかここだけ見たら、柳しけい荘最強でもよさそうな感じ。
原作でも登場時はドリアンか柳が最強と思ったからなあ。
実際はみんな花山以下の雑魚だったけど・・
236作者の都合により名無しです:2009/04/22(水) 00:23:56 ID:x6cIl1m40
柳は一般人相手だと強いなw
237作者の都合により名無しです:2009/04/22(水) 07:08:18 ID:WSweVZwM0
お疲れ様です。
これからしけいそうのメンバーが1人ずつバトルをしていくんですね。
相手が気になるけど、もう残ってるのかな、バキの強豪たち・・
238作者の都合により名無しです:2009/04/22(水) 13:17:30 ID:H7njRqtB0
ダークドレアムが思い出せん
どんな奴だったっけ?
239作者の都合により名無しです:2009/04/22(水) 13:23:30 ID:s5mwxQia0
まっぱにビキニパンツに逆モヒカン兜、肩当にマントの変態
240作者の都合により名無しです:2009/04/22(水) 20:30:15 ID:H8qJ4ZzU0
一応設定的にはドラクエ史上最強ボスキャラだっけ
241作者の都合により名無しです:2009/04/22(水) 20:45:54 ID:6J1KTZPa0
デスタムーアを瞬殺したあいつか。ナツカシス
242作者の都合により名無しです:2009/04/22(水) 23:15:02 ID:541p0Pk10
そろそろサナダさんの新作うんこも読みたいぜ!
243作者の都合により名無しです:2009/04/23(木) 20:10:25 ID:3tew5cNN0
>>239
考えてみればダークドレアム(デュラン)といいハッサンといい、ドラクエ6はいい男揃いだなw
244ダイの大冒険AFTER:2009/04/23(木) 21:44:58 ID:eTA8vD+O0
第十話 完全敗北
剣先だけでダイの剣を押すダークドレアム、次第に均衡は破られつつあった。
「こんなものか?もう少し粘って欲しいのだが・・・」
ダークドレアムは闘気を解放させた。
「ぐ、くそ・・・」
ついにダイはプレッシャーに押され、なぎ倒されてしまった。
「ダイ!!」
エスタークがダイの元へ飛んだがそれをエビルプリーストが許さなかった。
「ヒョヒョヒョ、お前は私が始末してやろう。」
「貴様!!」
エスタークが剣を構えた瞬間、エビルプリーストは背中を斬られた。
「な、何をするんです!ダークドレアムさん!!!」
「突然転がり込んできた貴様が手柄欲しさに奴等の相手をすることは許さん!!!
これ以上醜い姿を晒すというのなら、俺が貴様を殺すぞ。」
「ヒヒイィ!!」
エビルプリーストは逃げる様にその場を去った。
「くそ、くそ、くそ!!!!!少しばかりあの方に気に入られているからといってつけ上がりおって!」
悪態を吐いて走り去る姿はまるで寄生虫のようだった。
「大丈夫か!ダイ!!」
「ああ、大丈夫だ。」
そうエスタークに告げ、ダイはまたもダークドレアムに斬りかかった。
245ダイの大冒険AFTER:2009/04/23(木) 21:46:41 ID:eTA8vD+O0
「まだ向かってくるか、しかしそうでなくては面白くない。」
ダークドレアムは俗に言う剣道の”面”の形をとっていた。
「先にお前から仕掛けてきたらどうだ?」
「言われなくても、そうするさ1]
ダイはギガストラッシュの形をとり、ダークドレアムに突進した。
しかしダークドレアムは何の動作もせずギガストラッシュの餌食になった。
「勝ったのか?」
エスタークは少し笑みを浮かべながらダイに近づいた。
「来るな!!!」
ダイの声にエスタークが止まる。それはダークドレアムが死んでいない事を示唆していることが充分理解出来る言葉だった。
「ククク、中々・・・強いな。」
ギガストラッシュによって胸に大きな刀傷が付き、そこから夥しく青い血が溢れ出ていた。
「如何に戦闘能力が違うか、これで分かったか?」
だんだん血が止まり始め、ダークドレアムは再び”面”の形を作る。
「今度は私の番だ、お前達は燕という鳥を知っているか?
燕は時速二百キロのスピードで飛び回る、しかしそれ程のスピードを出してもあらゆる障害物を避けることができる。」
ダークドレアムは剣を振り上げたままダイに近づく。
「は、反撃したいのに、体が動かない・・・」
「私はバーンよりも長く魔界の神と呼ばれていた、バーンを殺すことなど私はたやすく出来ることだ。
その証拠に、お前は私がここまで接近しているのに反撃することは出来ない。
さて、先程の答えを教えて差し上げよう。」
ダークドレアムはダイに向かい剣を一直線に振り下ろした。
246ダイの大冒険AFTER:2009/04/23(木) 21:49:20 ID:eTA8vD+O0
一瞬プレッシャーが途切れたのか、ダイは一撃を避けることが出来た。
しかしダイは下腹部から胸にかけて斬られてしまったのである。
ダイは一気に意識を失い、真っ逆さまに地上へ転落した。
「答えは障害物に当たる前に跳ね返ることが出来るからだ。」
「まさか、あの大きな剣を反転させ下から斬り上げるとは・・・馬鹿な。」
エスタークはただ呆然としていた。
「私はこの技を燕返しと呼んでいるがね。」
ダークドレアムはエスタークに近づいて行った。
「あの少年は助からぬだろう、弱さゆえに私に負けたのだ。
この世界において脆弱は許されぬ、正義を振りかざすことが出来るのは強者のみ!」
「貴様のその身勝手な精神で父、母、ダイ、そして妹を殺したのか!!!?」
エスタークは我を忘れ、ダークドレアムに突進した。
「逆上した貴様に私を倒すことは出来ない。」
ダークドレアムはエスタークの胴を斬ったが彼は生かされた。
「この傷では貴様はあと数時間といった所だ、家族の仇、友の仇も取れぬまま、後の数時間悔みながら死んでいくがいい。
力無き者には似合いの末路だろう。バーンの言った事は間違いでは無かったな、はははは。」
ダークドレアムは高笑いをしながらその場を去った。
その時、傷つき倒れたダイの体を抱き寄せる様な者がいた。
その者はダイを運ぶようにして飛び去って行った。

運命とは、皮肉なものである。
何故なら、彼等が闘っていた場所は偶然にもアーリーの村の近くだったのだから。
247ガモン:2009/04/23(木) 21:52:47 ID:eTA8vD+O0
第十話 投下完了です。
次回はポップ達四人がメインです。

>>サナダムシさん
もう二十歳過ぎの筈なのに上等扱いてる北沢軍団に笑ってしまいました。
「答えは酸素・・・」に期待していたのですが今回はありませんでしたね。
248作者の都合により名無しです:2009/04/24(金) 07:13:06 ID:PqjQIqtK0
お疲れ様です。
ダークドレアムはラスボスなのかな?
強さは最強だけど、あの容姿がw
249作者の都合により名無しです:2009/04/24(金) 14:35:12 ID:ziIiaRfG0
ガモンさん乙です
ダークドレアムはバーンやベルザーよりも強いのか
確かに、ヴェルザーじゃ原作最終ダイにはかないそうもない
250作者の都合により名無しです:2009/04/24(金) 19:05:53 ID:rYQc4b7J0
ダークドレアムは強いけど見た目がなあ
251しけい荘大戦:2009/04/25(土) 00:55:21 ID:pTNrEKZ60
第十二話「殺し屋」

 東門に設置された監視カメラが、モニター室に陣取る徳川光成と園田盛男に柳の勝利を
報告する。
「ほっほっほ、さすがじゃのう。あの暗器メーカー“クードー”で史上ナンバーワンとい
われるだけのことはあるわい」
「人間じゃない……。北沢軍団をたった一人で退けてしまうとは……」
 喜びも束の間、すぐさま部下の手によって新手の情報が舞い込む。
「園田警視正ッ!」
「どうした」
「機動隊が突破され、南門にテロリストが迫っているとの情報がッ!」
「南門か……。たしか、しけい荘ではドリアン海王が担当していたな」
 園田も柔道家のはしくれとして、海王の名については多少の知識を持つ。このため、東
西南北を守護するしけい荘メンバー四名の中で彼がもっとも信頼を置いていたのは、ドリ
アンだった。
「ミスタードリアンは中国拳法の達人だ。さほど問題はあるまい」
「それが、その……」
「どうした?」
「実はテロリストも中国拳法の使い手なのです」
「──なんだとッ?!」
 予想すらしなかった中国拳法同士という組み合わせに、身を乗り出す光成。
「こりゃまた面白そうな対戦カードじゃのう! いったい、敵はなんという名じゃ?」
 園田の部下は息を飲み込んでから、ゆっくりと告げた。
「殺し屋……郭春成」

 機動隊の血で染め上げた己が拳を、美味でも堪能するように舌で舐める拳法家。彼を雇
ったテロリストたちですら、その姿に戦慄を覚えた。
252しけい荘大戦:2009/04/25(土) 00:56:09 ID:pTNrEKZ60
「つまらねェ仕事だぜ。で、あとはホテルに乗り込んで大統領を殺ればいいんだろ?」
「あぁ、アンタの拳をボッシュのクソヤロウに叩き込んでくれ。警備は厳しいだろうがア
ンタなら問題ないはずだ」
「了解。ま、邪魔する奴らは全員ブッ殺しちまえば、問題ねぇでしょ。当然、殺した分だ
け報酬は頂くがな」
 殺し屋、郭春成。身につけた中国拳法を駆使し、仕事の一切を素手で行う。
 武術家としての才能はもちろん、生まれついて殺しを全くためらわない精神性を持ち合
わせる彼にとって、殺し屋はまさしく天職だといえる。彼の手にかかった犠牲者は数え切
れない。
 さわやかな風貌とは裏腹に、貪欲に血と金を求める春成を、人々はいつしか「狂獣」と
呼んだ。

 徳川ホテル南門──。
 ドリアンは視認せぬうちから、警戒に値する殺気を感知していた。足手まといにしかな
らない警官を退避させ、単独で敵を待ち受ける。
 冷たい夜風が強く吹きつけると同時に、二人の戦士が互いの存在を肉眼に認めた。
 一歩ずつ、ゆったりと間合いが縮まってゆく。
 距離五メートルというところで、両者は足を止めた。
「門番はジジィ一人かよ。老い先短ぇのに、わざわざブッ殺されるためにつっ立ってると
はご苦労なこった」
 春成の過激な挑発に、ドリアンは寂しげにため息をついた。
「もし私が家庭を持っていたならば、ちょうど君ぐらいの年齢の孫がいたことだろう。ほ
ら、キャンディをあげよう」
「……あァ?」
253しけい荘大戦:2009/04/25(土) 00:56:58 ID:pTNrEKZ60
 無邪気な笑顔で話しかけ、丸いキャンディを差し出すドリアン。
 呆気に取られ、呆然とする春成。

 ──若い。

 ドリアンの握力で一瞬にして粉末と化すキャンディ。それを春成めがけて強烈に吹きつ
ける。
「ぐわァッ!」
 とっさに目をカバーした春成だが、すでにドリアンはエリアに侵入していた。
「て、てめぇ──」
「君はクレバーではない」
 上段蹴りが春成の顎を射抜いた。さらに全力の左拳が、春成を体丸ごと吹き飛ばす。春
成は受け身を取れず、地面に叩きつけられる。
「君程度では私に絶命をプレゼントするなど、とてもとても……」
 あざけりながら、トドメに向けて歩き出すドリアン。
 しかし、春成は立ち上がった。両の眼(まなこ)に己の持ちうる全殺気を集中させ、ド
リアンを睨みつける。
「てめぇ……中国拳法だな。どこの流派だ」
「白林寺」
「耳にしたことがある。かつて、あの名門白林寺で西洋人出身の海王が出た、と」
「ならば理解できただろう。海王である私が、君にとって絶望的な戦力を持つことが」
 これを聞いた途端、春成は笑い出した。
「はァ〜? 笑わせてくれるぜ。海王なんつぅカビが生えた肩書きなんざ、強さの証明な
んかにゃなりゃしねェよ」
「ほう……」
「教えてやるよ。俺が人間を殺すためだけに磨き上げた、最新鋭の中国拳法ってやつを」
 徳川ホテルを舞台とした、中国拳法家同士の果し合い。最後に立っていられるのは、ペ
テン師か、はたまた殺し屋か。
254サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/04/25(土) 00:59:13 ID:pTNrEKZ60
>>231より。

第十二話終了です。
よろしくお願いします。
255作者の都合により名無しです:2009/04/25(土) 01:14:54 ID:mEGC4/z40
春成は一瞬でやられたカマセ犬だったので
なかなか戦う姿が思い浮かびませんな。
この戦いくらいは春成を強く書いて欲しいです。
256作者の都合により名無しです:2009/04/25(土) 11:57:09 ID:cdOgxRRx0
サナダムシさん乙です。
20話くらいで終わってしまいそうかな?
春成りはドリアンにどれだけ対抗できるか楽しみです。
まあ、ドリアンも烈に一発で負けたけど・・
257作者の都合により名無しです:2009/04/25(土) 21:47:15 ID:AWpC1rYT0
春也出てきたって事は龍も出てくるのかな?
258しけい荘大戦:2009/04/26(日) 22:29:12 ID:IAgdTZqj0
第十三話「駆け引き」

 郭春成が嗤(わら)う。
 これから味わえる殺しという美酒を予感するだけで、彼の唇周辺を構成する筋肉が快楽
に歪む。
 身体中の全細胞が「殺させろ」と叫んでいる。
 狂える獣が、その異名に恥じぬ速度と狂気を帯びて、駆け出す。
 ドリアンは百戦錬磨である。が、それゆえに、数十年間で初めて体感する猛烈な殺気に、
体を一瞬硬直させてしまった。反応が遅れる。
 ダッシュの勢いをそのままに、まともに鳩尾に突き刺さる崩拳。
 しけい荘においてスペックに次ぐ巨躯が、拳の一撃で吹き飛ぶ。
 ──が、春成はすかさずドリアンの足の甲を足刀で潰した。これでドリアンの体は吹き
飛ぶことなく、停止した。
「ぶん殴るたびに間合いが開いてちゃあ、面倒だからなァ」
 正中線──喉、鳩尾、ヘソを貫き手が抉る。
 さらに折れやすい鎖骨めがけ、放物線を描く変則ハイキック。ぶ厚い筋肉に包まれたド
リアンの右鎖骨がたやすく砕かれた。
「これでもう右腕は使えねェな」
「くっ……強いな、感動的なほどに」 
「結局、武術なんてぇのは殺しの技術だ。より多く敵を殺傷した奴が一番強くなれる。ご
く単純な理屈さ。海王なんてお飾りに目を奪われてる時点で、てめぇは道から外れてるん
だよ」
 春成の肘が鼻にヒット。鼻血をまき散らし、ドリアンが後退する。
「……君は分かっていないな」
「なんだと?」
「海王とは──否。拳法家とは、君が思うよりずっと──」ドリアンは残る左掌で顎を狙
うが、簡単にガードされる。「ファンタスティックなのだッ!」
 すぐさま次弾。折れた鎖骨に鞭打ち、使えぬはずの右拳が春成を直撃する。
259しけい荘大戦:2009/04/26(日) 22:30:04 ID:IAgdTZqj0
「ごっ……ガハァッ!」
 七メートル。背中から墜落した春成が記録した飛距離である。
「立ちたまえ……。君は学習する必要がある」

 タキシードを華麗に脱ぎ捨て、上半身を晒すドリアン。中華の英知を詰め込んだ、西洋
の肉体があらわとなる。折れた鎖骨部が黒に近い紫色に腫れ上がっている。
 立ち上がった春成が血を吐き捨て、より凶悪となった殺気を発露する。
「強がりやがって。今の強引な一撃でてめぇの右腕は完全に使用不能になったはずだ。殴
られた感触で分かる」
「君のような未熟なハネッ返りを教育するには、左腕だけで十分ということだ」
「ほざきやがれァッ!」
 余裕のドリアン、怒る春成。打撃戦が幕を開ける。
 中国拳法独特の、ビデオの早送りを彷彿とさせる攻防が、より速く、より重く、より精
密に展開される。
 右腕を早々に痛めたハンディは大きく、徐々にドリアンの被弾率が上昇する。
 強烈な左廻し蹴りが、ドリアンの右腕を穿つ。
「グウゥ……ッ!」
 呻き声を合図に、春成の攻撃が露骨に右腕に集中し出す。ドリアンには攻撃はおろか防
御する手段すらない。
 脂汗まみれのドリアンに、叩き込まれる手刀。むろん右腕にクリーンヒット。
「弱点がこうまで分かりやすいとよォ……やりやすいったらねェぜ」
「なるほど……」ドリアンは口元をわずかに緩めた。「やはり、君はクレバーではない」
 己の右腕にぶつからんとする春成の一本拳をゆるりとかわし、ドリアンはカウンターの
裏拳を顔面に浴びせる。
 次いで前蹴り。胃袋を抉る一撃が、春成の胃液を強引に押し上げる。
「……うげぇぇっ!」
「あれだけ分かりやすく弱点を突いてくれると、やりやすくて助かるよ」
 春成の変質的攻撃癖(サディスティック)な性質を逆に利用したドリアン。逆襲の効果
は軽くない。
 ならば、と春成は右腕を攻撃するフェイントを織り交ぜ、無事な左腕に的を絞る。が、
ドリアンに焦りの色はなかった。
「やはりな……」
260しけい荘大戦:2009/04/26(日) 22:31:55 ID:IAgdTZqj0
 渾身の廻し蹴りは空を切り、体勢を立て直す寸前の春成の背骨に、ドリアンの拳がめり
込む。激痛に身をよじる春成。
「心理戦では私に勝てぬと分かっただろう。君に残された手段は一つしかない」
 腰を落とし、左拳を構えるドリアン。
 遅れて、同じく拳を装備する春成。
 思想は違えど、やはり拳法家。ドリアン海王対郭春成、最後の最後、両雄が選んだのは
拳による激突であった。

 互いの鍛え抜かれた拳が、いつ打ち出されても構わぬよう疼いている。ひとたび力を解
放されれば、最短距離で敵を討つことだろう。
 ただしそれは相手が無抵抗であればの話だ。一流同士の睨み合い。放つタイミングを誤
れば、敗北は免れない。
 二人の身体能力を分析すると、今のところ力ではドリアンに、速度では春成に分がある。
 春成が勝利するには、先手での一撃必殺、あるいは後手でのカウンターを確実に決める
必要がある。
 一方、ドリアンが勝ちを得るには、速さで勝る相手の一撃を堪え、拳を叩き込まねばな
らない。
 張りつめた空気が臨界点を迎えようとする寸前、ドリアンは唐突に口を開いた。
「さて……と。君は私がこの残された左拳に、なにかを握り込んでいると考えてはいない
かね?」
「握り……込む?」
「君は警戒しているはずだ。よもや小細工を弄する余地などないこの最終局面においてな
お、私が拳以外の手札を切ることをね」
 春成を凝視するドリアン。
「口八丁で惑わそうったって、無駄なんだよ」
 強気な語調とは裏腹に、春成の中でドリアンの左拳はこの世でもっとも疑わしい物体と
化していた。もし一掬いの砂でも握り込まれていようものなら、強力な武器となる。

 ──しかし!

 春成は思考する。ドリアンがいかなる策を講じようと、スピードで有利な己の拳は策の
発動後に動いたとしても十分刺さる。疑念はあれど、迷いなし。
261しけい荘大戦:2009/04/26(日) 22:32:53 ID:IAgdTZqj0
 後手を取る決断を下した春成に呼応するように、ドリアンが動く。
 拳を発射した瞬間、ドリアンの脳細胞は彼の烈海王との修業の一場面を映していた。
「すごい技だな、今のは……」
「演武であればこれくらいは可能です、が、私とて実戦での使用経験はありません」
「技の難易度はもちろんだが、使いどころが難しい、ということか」
「はい。しかしドリアン海王、あなたは戦いにおける駆け引きという点においては、我々
の中でも群を抜いている。あなたならばあるいは──この技をもっとも効果的に駆使する
時機を、戦いの中で知ることができるはず」
「……ふむ。ありがたく頂戴するとしよう」
 烈ですら乗りこなせぬじゃじゃ馬を伝授されたドリアンは、ふと思った。

 ──少し、失敗(ミス)ったかな。

 突きに使用する関節を同時加速させることによって、拳を音の領域へと運ぶ絶技、音速
拳。
 残念ながら今回は関節連動で一ミリ以下の誤差が生じ、音速に達することはなかった。
 それでもなお、ドリアンの放った疑似音速崩拳は、先手を譲っても先に刺せると「思い
込んでいた」春成を打ち砕くには十分な代物だった。
 中国拳法とペテンの融合術士、ドリアン海王はめざましい進化を遂げた。
「……おかげで海王の名を守れたよ、烈君」
262サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/04/26(日) 22:38:21 ID:IAgdTZqj0
キャンディVS2秒

第十三話終了。
春成は崩拳しかしていないので、戦法はほとんど想像です。
父ちゃんの消力は多分出来ないと思います。
263作者の都合により名無しです:2009/04/26(日) 23:27:01 ID:8vgRTo7w0
消力使えたら音速拳もなんとかなるでしょうし
そもそもバキにあんなに簡単に負けてないでしょうからねえw
乙でした。次はスペックあたりが参戦かな?相手は誰だろ?
264作者の都合により名無しです:2009/04/27(月) 07:11:18 ID:+BuCyl+c0
お疲れ様です。
ドリアン渋いですね。春成りもまあまあ頑張った。
でも使える敵キャラがどんどんいなくなりますね。
しけい荘シリーズ大丈夫かな?
265ふら〜り:2009/04/27(月) 07:16:10 ID:ZFvzixTL0
>>ガモンさん(4までしか知らぬ私は、ベホマ使いのシドーが一番。正攻法では勝ててない……)
ダークドレアムは本作が初見ですが、ドえらい強さですな。ダイをここまで、ギガストラッシュまで
出させた上での横綱相撲で圧倒してしまうとは。小細工なし、真正面から攻撃力と防御力で
押し切ってしまう強さですから、攻略するには「こいつより強くなる」しかなさそう。どうする?

>>サナダムシさん(私は「春成の本当の実力は龍と互角かそれに近いはず」派です)
北沢軍団→春成を見るに、もしかして徐々にランクアップしていくのかも。とすると最後は
一体誰が? 柳は圧勝でしたが、ドリアンは結構苦戦でしたね。その中で老獪さによる逆転、
練られた技による決着と、ドリアンの持てる力と魅力をフル発揮しての勝利。お見事でした!
266作者の都合により名無しです:2009/04/27(月) 20:20:33 ID:gp7LaxiL0
ドリアンは登場シーンの底知れなさと
実際の底の浅さが最も隔っていたキャラなので
(死刑囚は全員そうだけど)強く描いてくれると嬉しい。
対して春成はカマセ臭さが最初からぷんぷんしてたからw


ふらーりさんも何か書いてよ
267遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/28(火) 21:47:41 ID:oTVFZRn80
幕間劇―――遥か地平線の彼方へ

霞がかかったような意識がゆっくりと覚醒していく。
「ここは…どこだ?」
海馬はゆっくりと身体を起こし、周囲を見回す。どうやら自分はどこかの民家で寝かされていたようだった。
「オレは…どうなった?」
脳裏にあの瞬間が蘇る。
絶対にして無敵、最強の白龍をも呆気なく葬り去った<死神>。
「くっ…!」
踏み躙られた誇りと傷ついた魂が、海馬の心を苛んだ。
「ほっほっほ…気が付いたようじゃな、少年」
そんな憂鬱を吹き払うように軽妙な声が響き、海馬は胡乱げに顔を向けた。
そこにいたのは白髪の老人。長く伸びた白い髭を三つ編みにした、見るからに胡散臭い容姿ではあるが、どことなく
知性と慈悲を感じさせる、不思議な雰囲気の持ち主だった。
例えるなら穏やかな春の日、黄昏に佇む賢者―――
しかし海馬はこう思った。
(なんという胡散臭さだ…あのズヴォリンスキーとかいうジジイに似ている…!)
まことに失礼ではあるが、とにかく悪人ではなさそうだった。
「…どうやら、貴様に助けられたようだな。それについては礼を言おう」
「ほっほ…ワシは何もしとらんよ。感謝ならその子らにするがよいぞ」
老人が海馬のすぐ横を指し示す。膝を抱えて眠る、二人の子供。
「フラーテル…ソロル…」
「お主を抱えて彷徨っていた所をワシが見つけての。この村まで一緒に運んだのじゃ」
ほっほ、と老人は笑う。
「お主は三日ほど寝込んでいたが、その間この子らは片時も傍を離れようとせんかった。余程慕われておるようじゃ
な、少年。ほっほっほ…」
「ちっ…こいつら、結局あの場に戻ってきたのか」
そう言うものの、そのおかげで助かったのだ。そうでなければ、あのまま野垂れ死んでいてもおかしくなかった。
268遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/28(火) 21:48:45 ID:oTVFZRn80
「ところで、少年」
「…海馬だ。少年などという名ではない」
「ほっほっほ、そうか。ワシはミロス。見ての通り旅の詩人じゃ」
どこが見ての通りだ貴様などただの胡散臭いジジイだ路地裏で背中を刺されて死ね変態と海馬は思ったが、口に
出すのは流石に慎んだ。彼とて世話になった相手に対してそんな暴言は吐かない程度の社会性はあるのだ。
「愚かな提案があるのじゃが、どうじゃろう…ワシでよければ、お主の話し相手になりたい」
「オレには貴様と話すことなどない」
それはすまんのお、とミロスは微笑んだ。
「お主を見ていると、不肖の弟子を思い出してしまっての…少し、話してみたかったのじゃが」
「貴様の弟子のことなど知るか」
「エレウセウス」
彼が口にしたその名に、海馬は目を見開いた。
「もう十年近く前になるかの…出会った時のあの子は、見ていられないほど酷いものじゃった。世界を憎み、運命を
憎み、何より自分を憎んでおった」
「…………」
「一度は掴んだ妹の手を離してしまったと、自分を責めておった。自分の無力さを、呪ってさえいた」
ミロスは静かに語り続ける。
「だからこそワシは、そんなあの子の話し相手になりたかった」
「…そうか」
「最初の内は随分と嫌われたがのぉ…ほっほっほ。丁度今のお主のような態度じゃったよ」
「だからオレとも話したいと?ふざけるな。いい迷惑だ」
「詳しい事情は訊かぬが、お主もまた無力に苛まれておる。そして、無力な自分が赦せんのじゃろう」
海馬の言葉を無視して、ミロスは言う。
「されど、どうにもならぬことは世界にはいくらでもある。運命はどこまでも無慈悲じゃ」
「…………」
「それに膝を屈したとしても、誰もお主を責めたりはせぬよ…」
しばしの沈黙。そして。
269遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/28(火) 21:49:35 ID:oTVFZRn80
「く…くくっ…」
すすり泣くような声が、海馬から漏れる。だが、違う。
「く…く…ククク…ハァーッハッハッハッハッハッ!」
海馬は笑っていた。無力感と絶望からくる笑いではない―――
どこまでも不敵で自信に満ち溢れた、いつもの彼の高笑いだった。
「少しは賢いかと思ったがとんだ耄碌ジジイだったな―――貴様はオレという人間を何一つとして理解していない!
オレは奪われたまま泣き寝入りなどしない…踏み躙られたなら、今度はオレがそいつの頭を踏み付けて笑ってやる!」
「…運命とは云わば決して越えられぬ壁じゃ。神の摂理を識って、尚それに挑むか?」
神に比して余りにもか弱き、人間の身で。ミロスはそう問うた。
「越えられぬ壁なら、砕いて進む。それだけだ」
運命(かみ)如きが、人間を侮辱(なめ)るな。海馬の瞳はそう言っていた。
「どうやらワシの言葉など、本当に蛇足じゃったな…」
ミロスは呆れと感嘆が入り混じったように笑う。
「既に心が決まっておるのならば、胸を張ってお往きなさい―――お主はお主の地平線を目指して!」
「貴様に言われるまでもない―――オレが見据えるは、未来のみ」
海馬は立ち上がり、コートを翻らせる。そして、寝息を立てている兄妹を見下ろした。
「…こいつらは、歌と竪琴が上手いんだ。吟遊詩人として生きていく道があるだろう」
海馬はそう呟く。
「それまではどうか面倒を見てやってくれないか。オレはもう…こいつらと共にいることはできんだろう」
「よかろう。この子らのことは任せなさい」
その言葉に頷いて、海馬はしゃがみ込み、眠る二人にそっと顔を近づけた。
「オレはこれから最後の闘いへと往く。そして、お前達の世界からは消えるだろう」
だから、オレのことなど忘れて生きていけ。
「これから手にするものを愛するために、お前達は生きていくんだ―――生き延びるんだ」
海馬はそう言い残し、二人に背を向ける。
「そしてどんな困難があろうと、決して諦めるな…それがオレの、唯一の望みだ」
扉を開けて、外へ出る。降り注ぐ太陽の光を全身に浴び、海馬は顔を引き締めた。
「来い―――ブルーアイズ!」
270遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/28(火) 21:50:22 ID:oTVFZRn80
彼の力の象徴たる、蒼き瞳の白龍。それは烈風を纏いながら大地に降り立つ。突如出現した幻獣の姿に慌てふためく
村人達を意に介さず、海馬はその背に飛び乗った。
「オレは、己の信じる道を往くのみ…ブルーアイズと共に!全速前進だ!」
翼を羽撃(はばた)かせ、白龍は大空へと舞い上がる。その姿には、激しい怒りすら感じられた。
だがその怒りに、澱みはない。どこまでも突き抜ける閃光のように、真っすぐな怒りだ。
空を、雲を、世界を貫き、白龍は主を乗せて駆け抜けていく―――


白き翼を見送りながら、兄妹は互いの手を強く握り締めていた。
「よいのか?別れの言葉くらいあってもバチは当たるまいに」
ミロスの言葉に、フラーテルは首を振った。
「いいんです。あの方の重荷になるようなことは、したくない」
「既にこれ以上ないほどの恩が、皇帝様にはあります…これ以上は望みません」
ソロルもそう言って、悲しそうに笑った。
「…どこから起きておった?」
「皇帝様が高笑いしたところからです」
何せあんな笑い方、皇帝様以外はやりませんから。二人揃ってそう言った。
「ほっほっほ…そうかそうか。しかしまあ、とんでもない大器の持ち主じゃった。ありゃあ本当に運命の一つや二つ
ぶっ潰してしまうかもしれんのぉ。ワシのような凡人の想像の斜め上を往くぞ、奴は」
ミロスは楽しげな口調で語る。
「さて…ワシもそろそろ旅に戻るとしよう。お主らのことも彼から頼まれておるが、ワシのような妙なジジイでもいい
なら一緒に来るか?ワシも詩人の端くれじゃ。少しはお主らのためになることを学ばせてやれよう。何ならばもっと
いい詩人も紹介するぞ。レスボス島にいる旧知の友じゃが、聖なる詩人と呼ばれていての…」
「は、はあ…」
「これがまた、賢く美しいという女性の鑑とも言うべき女でな。ほっほっほ、お嬢ちゃんも大人になったらああいう
女になれという見本になるぞ」
「そ、そうですか…」
「思えば彼女との付き合いは、まだワシが渋い中年の魅力を発しておった頃から始まる。幼くして既に聡明であった
彼女の目に、ワシというナイスミドルはどのように映ったのか…」
271遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/28(火) 21:51:17 ID:oTVFZRn80
口を挟む間もなく繰り広げられるミロストーク。何と言うべきか、すでに一緒に行く以外の選択肢はないような気が
した。それはそれとして、二人は白龍が去っていった空を見上げる。
「皇帝様…たった一つだけ、あなたの言葉に背きます」
「私もお兄様も、あなたのことを忘れません」
そう。あの力強い翼を、僕達は忘れない。誰よりも誇り高き彼の姿を、僕達は忘れない。
そして、世界中に語り継ごう。白龍の詩を。
奈落という名の楽園に堕ちることなく、兄妹で憎み合い、殺し合うことなく。

「あなたのいる世界にまで、届かせる。白龍の詩を…あなたの詩を―――」

「死すべき者達よ…我は詠おうぞ。<エレフセイア>愛すべき友の、闘いの詩を―――」

―――こうして<死せる英雄達の戦い>と称されし戦乱は幕を閉じた。
<紫眼の狼><白龍皇帝>についてはそれ以降の足取りは完全に途絶え、歴史の表舞台からは姿を消すこととなる。
詩人が紡ぐ叙事詩にのみその姿を現す二人は、後世においてはその実在そのものを疑問視され、最後には架空の英雄
に過ぎないと片付けられた。
だが―――<奴隷達の英雄>は、確かに存在していた。
残酷な運命に屈することなく真っ向から闘った英雄達。その誇り高き生き様は、消えはしない。
老賢人が詠うは狼の詩。兄妹が詠うは白龍の詩。
それは遥かな時代を越えて、遠く未来にまで語り継がれることとなるのだった。
272遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/28(火) 22:10:35 ID:uIOFbUhU0
番外編・良い子のためのカード紹介B

オリオン「さあ、始まるザマスよ」
ミーシャ「いくでガンス」
城之内「フンガー!」
タナトス「マトモニ始メ給ェヨ!」
遊戯「うわああああ!何でいるのさ!?てゆーか千年パズル返してよ!」
海馬「失せろ、この愚神が!」
城之内「ヒィィィィ!悪霊退散悪霊退散!」
タナトス「ソンナ冷タィ態度ヲ取ラナィデクレ。我ハコゥ見ェテモ繊細ナンダ」
オリオン「嘘つけ、この野郎!」
ミーシャ「いくら番外編でも、出ていいキャラと出ちゃダメなキャラがいるでしょう!?」
タナトス「大丈夫ダヨ。ココニィル間ハ殺メルノ我慢スルカラ…」
遊戯「そうでなきゃ困るよ!」
海馬「ええい、もうこいつは無視して始めろ!話が進まん!」
城之内「そ、それじゃあ気を取り直して…今回は第二部のクライマックスに相応しく、大型モンスターが大暴れ
     したよな!最初は<メテオ・ブラック・ドラゴン>だ!<メテオドラゴン>とレッドアイズとの融合で
     生まれる超強力モンスターだぜ!」
遊戯「攻撃力は3500!純粋な力勝負なら、ブルーアイズでさえ敵わないよ」
ミーシャ「事実、城之内はこれで海馬に対して優位に立ったわよね」
オリオン「割とあっさり逆転されちゃったけどな…」
海馬「当然の事だ。オレが凡骨に負ける要素などこの世に存在するはずがないからな!ワハハハハ!次のカード
    で更に力の差を思い知らせてくれる!」
273遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/28(火) 22:11:25 ID:uIOFbUhU0


海馬「<青眼の光龍(ブルーアイズ・シャイニングドラゴン)>!究極竜より転生する、ブルーアイズの更なる
   進化形態だ!」
タナトス「攻撃力3000。コレダケナラ通常ノブルーアイズト同ジダケレド、数々ノ特殊能力ヲ備ェル恐ルベキ
     ドラゴンダネ。単純ナ数値デハ計レナィ強サヲ持ッティルヨ」
オリオン「お、おう…こいつにゃ苦戦させられたぜ…(早く帰れよこいつ…)」
城之内「ま、まあ、オレ達の結束の力の前には大した相手じゃなかったぜ、はは…(帰ってくれよホント…)」
遊戯「そ、そうそう。やっぱり友情って大事だよね!ははは…(パズルだけ置いて帰ってよ…)」
ミーシャ「声が裏返ってるわよ、三人とも…」
海馬「ええい、気に食わん!こんな奴らに我が最強のブルーアイズが敗れたなどと…」
タナトス「頑張リナサィ、海馬。我ハキミヲ応援シティルヨ」
海馬「帰れ」
オリオン(言っちゃった…)
城之内(海馬…初めてお前を尊敬したぜ…)
ミーシャ「流石は海馬ね…」
遊戯「さ、さーて!次のカードはこれだよ!」
274遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/28(火) 22:12:12 ID:uIOFbUhU0


遊戯「神のカード!<オベリスクの巨神兵>―――そして<ラーの翼神竜>!」
海馬「オベリスク!ラー!共に神の名を冠する三幻神!その力は他のあらゆるカードを凌駕する…!」
オリオン「攻撃力だけみてもオベリスクは4000!半端なモンスターじゃ傷一つ付けられないぜ!」
ミーシャ「かと言って魔法や罠も殆ど効果がないなんて…どうやって倒せばいいの!?」
城之内「更にはモンスターを生贄に捧げることでその攻撃力は無限と化し、全てを打ち砕く―――その姿はまさ
     に破壊神だぜ!」
タナトス「元々ハ海馬ガ所持シティタカードダカラネ。攻撃的ナノモ頷ケルヨ」
海馬「フン…!いずれ三幻神全て、まとめて奪い返すさ」
遊戯「あはは、お手柔らかにね…さて、ラーの翼神竜だけど、このカードは三幻神の中でも頂点に君臨している。
   つまりは事実上、世界最強のカードということになるかな…」
ミーシャ「けれど攻撃力は生贄にするモンスターによって変わるから、極端に高くなったり低くなる事もあるわ。
     あまり安定しないのはありがたいわね」
城之内「だがラーの本当の恐ろしさは攻撃力じゃねえ。神の特性である魔法や罠の無効化は勿論だが、恐ろしい
    能力を三つも持ってやがるんだ」
オリオン「しかも、その能力を解読してラーを操れるのは極僅かな限られた人間だけ…しかしこれ、もうカードゲーム
     じゃねえな」
タナトス「身モ蓋モナィコトヲ言ゥモノジャナィヨ。小サナォ子様ダッテ見テルカモシレナィダロゥ?」
海馬「貴様の存在が一番身も蓋もないわ!」
遊戯「小さなお子様にもお勧めできない!」
275遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/04/28(火) 22:13:05 ID:uIOFbUhU0


タナトス「サテ。モンスターハコレクラィニシテ、魔法ヤ罠モ紹介シヨゥ。ココハゲストデァル我ガ担当スルヨ」
城之内「するな!しかもゲストじゃねえ!」
タナトス「<スケープ・ゴート>!四匹ノ可愛ラシィ羊ガ、攻撃ヲ代ワリニ喰ラッテクレルンダヨ。チョッピリ
     罪悪感ガ湧ィテクルヨネ」
オリオン「聴いてない、こいつ…」
タナトス「<エネミーコントローラー>!敵ノモンスターヲ自在ニ操ッテシマゥンダ。今回ハ城之内ガ使ッタガ、
     本家ハ海馬ダヨ。バカデカィコントローラーヲ操ル海馬ノ姿ハ一見ノ価値ァリサ」
海馬「…………(聴いてないフリをしている)」
タナトス「<融合解除>!読ンデ字ノ如クダカラ、説明シナクティィネ」
ミーシャ「手抜きしてる…こんないい加減な神様がいていいのかしら」
タナトス「<神ノ進化>!タダデサェ強大ナル神ニ、更ナル力ヲ与ェル禁断ノカードサ。友達トノ決闘デコレヲ
     使ゥト、友情ニ罅ガ入ルカモシレナィカラ気ヲ付ケ給ェ」
遊戯「心配しなくても、そのカードは商品化されてないよ…」
タナトス「<時の機械・タイムマシーン>!モンスターガヤラレタ瞬間ニ発動サセテ、時間ヲ遡ッテ復活サセル
     コトガ出来ルヨ…ケレド、現実ニハ過ギ去リシ時ハ戻ラナィ。ダカラ皆、コノ瞬間ヲ大切ニネ!」
城之内「何か無理矢理いい話にして締め括りやがった!」


タナトス「ヤァ、実ニ楽シィ時間ダッタヨ。コゥィゥノモ偶ニハィィネ。是非マタ呼ンデォクレ」
オリオン「誰が呼ぶか!」
城之内「つーか、今回だって呼んでねえよ!」
遊戯「あと、パズル返せ!」
ミーシャ「エレフの身体も返して!」
海馬「全く騒がしい奴らだ…一流の決闘者を目指す良い子達よ、ゴールデンウィークの間も鍛錬を怠るなかれ!
   決闘をしない時でも常にデッキに触れてカードの感触を確かめるのだ!真の決闘者とは、そこまでして
   やっと辿り着ける境地なのだからな!しかし良い子なら宿題も忘れずにな、ワハハハハ!」
遊戯「そ…それじゃあ皆、第三部もよろしくね!」
276サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/04/28(火) 22:15:01 ID:uIOFbUhU0
投下完了。前回は>>80より。
随分間が空きましたが、ようやく投下できました。
事実上の第二部最終話というべき幕間は、社長で締めました。第二部はまさに<海馬の章>
とでもいうべき内容だったので。カード紹介は…正直ふざけすぎですw

スパロボK二周目クリア…やればやるほど今回は皆性格の悪さが浮き彫りになっていく。
勝手によそ様の学校に入り込んで大騒ぎした挙句、それを注意してきた教師に対して
「なんでえ、やなセンコー!」「あんな先生がいたんじゃ、学校が嫌いになりそうだわ!」
とか抜かすDQNが正義のスパロボ軍団だなんて信じたくないよ…。

>>104 万丈さんがいればKももっとマシだったかなあ…最終決戦はこれで行こう。
     「これが運命をも越えた…絶対勝利の力だぁぁぁぁぁーーーっ!」(嘘です)

>>105 フルメタは本編よりもギャグ短編の方が好きかな…そんなノリで書きました。

>>ふら〜りさん
いやあ、彼らは立派に強大な悪の組織ですよ。構成員のほぼ全員がラスボス級の実力の
持ち主。ただレッドさんがダークドレアム級の強さなだけです(ガモンさん、応援してます)。

>>107 ゴールデンウィークには休みなしで出勤しなきゃいけないサービス業…
     何が16連休だ!
>>108 サンレッド、とても面白いのでブックオフ辺りで見かけたら是非読んでみる事をお勧め
     します。結構好みが分かれる作風ではありますが…。

>>電車魚さん
ネウロ最終回、ここ最近のジャンプ漫画では屈指の<キレイな最終回>だったと思います。
グダグダに引き伸ばした挙句に風呂敷を畳めない終わり方をする作品も多い中、巻末コメントの
通りに完全燃焼させたなあ…と。
そして火火火のおじさん…夢が叶って本当におめでとう。最後まで癒し系極悪人でしたよ、この人は。
277作者の都合により名無しです:2009/04/29(水) 00:54:00 ID:E9D5ls/00
お疲れ様です。ちょっと間が空いたので心配しておりました。
海馬が去っていく場面は態度は悪いですが勇者の去り方ですね。
カッコいいです。
おまけの番外編もあって、今回はなんか得した気分ですね!
278作者の都合により名無しです:2009/04/29(水) 07:27:03 ID:/CV1fdR10
第三部が最終部になるのかな?
でも五部くらい行きそうな気もする

サマサさんが幕間に書くいい意味で力の抜けた番外編が好きだ
なんとなくキャラが仲よさそうで
279作者の都合により名無しです:2009/04/29(水) 14:33:30 ID:HBaMQVok0
サマサさん復活うれしいな。しばらく来なかったから
社長らしい傲慢な締め方で良かった。
次のシリーズも期待しております
280しけい荘大戦:2009/04/29(水) 16:13:59 ID:7/hrV0SF0
第十四話「エレファントキラー」

 徳川ホテル西門では、機動隊とテロリスト部隊による激しい衝突が始まっていた。
 守る側と攻める側、互いに相反する目的に従いながら、誇りを懸けて一進一退の攻防を
繰り広げる。
 部隊の最後尾で指揮を執るテロリストらの幹部、ケント。身長250センチ以上を誇る
ギネス級の大巨人である。
「ジャパニーズポリスもなかなか優秀なようだな……」
 長引かせては、警察側に新たな戦力を投入され不利になるのは明らか。とはいえ膠着を
脱する妙案もなく、ケントが手をこまねいていると、彼の背後に見知らぬ四トントラック
が停車した。
「何者かね……?」
「私ですよ、ケントさん」
「アレン君!」
 トラックの助手席から、眼鏡と白衣を身につけた科学者風の男が降り立った。
 名はアレン。テロリストに助力するという名目のもと、彼らから資本を得て、生物兵器
の開発を行っている。
「大統領なんてさっさと殺しちゃえばいいのに、いつまでかかってるンですかァ、だらし
がない」
「アレン君……君は我々を侮辱するつもりか……ッ!」
「私は一科学者として事実を述べているまでですよ。はっきり申し上げますが、このまま
では大統領暗殺は失敗しますね。あえて確率でいうと、百パーセントほどで」
 アレンの指摘は正しかった。ゆえに、ケントは悔しさで唇を歪めるしかない。
「しかしまァ……私が来たからにはもう心配いりません。私が造り上げた“彼”からすれ
ば、武器を持った警官も、虫ケラと大差ありませんから」
「ついに完成したというのか、究極の生物兵器が……ッ!」
「えぇ」
 アレンが得意げに指を弾くと、アレンが乗っていたトラックの荷台部が突如として大破
した。内側から恐るべき怪力で破壊されたのだ。
 ぐしゃぐしゃになった鋼鉄の荷台から飛び出したのは、なんとアフリカゾウ。
281しけい荘大戦:2009/04/29(水) 16:14:50 ID:7/hrV0SF0
「こいつには私が調合した特殊な興奮剤を投与してあります。一般的なゾウの数十倍の戦
闘力を誇り、たとえ相手が装甲車でも互角以上に戦ってのけるでしょう」
 長い鼻を振り上げ、荒れ狂い、凶暴な鳴き声を上げるゾウにケントは絶句した。
「す、すごい……ッ! これが我々に加われば、一気にホテルになだれ込めるッ!」
 だが強力な援軍に感動するケントに水を差すように、アレンが告げる。
「あのォ〜……いつ私の作品がこいつだなんていいましたか?」
「え?」
「あのゾウは“彼”のウォーミングアップの材料に過ぎませんよ」
「ウォーミング……アップ……?」
 アレンの研究発表の本番はここからであった。
「そこはほら、話すより見せる方が早いでしょ」
 ──この直後に発生した惨劇によって、ケントは失禁することとなる。

 しけい荘メンバーで西門警備を託されているスペックはというと──寝ていた。
 「待ッテルノハダルイカラヨ、敵ガ来タラ起コシテクレヤ」と、ごろりと寝転がったき
り、ぐっすりと眠っている。大きなあくびと歯軋り、口から惜しげもなく垂れている涎が
その証拠といえよう。
 スペックも一応は人間なので、眠れば当然夢を見る。自分が大好きな彼は、原則として
自分自身を脅かすような夢を作り出さない。97年間、ずっとそうだった。
 しかし本日、生涯で初めて彼は「悪夢」によるショックで眠りから目を覚ました。否、
目を覚めさせられた。
「ウオオオオオオオッ?!」
 夢の中ですら形を具現化できぬほどの、想像を絶した化け物に、他ならぬスペック自身
が喰われる夢──。
282しけい荘大戦:2009/04/29(水) 16:15:50 ID:7/hrV0SF0
 人は時折、悪夢に対して「これから現実になるかも」と正夢化の懸念をするが、この時
のスペックに関してはそれはなかった。
 なぜなら、正夢だったから。
 起きたと同時に、悪夢が現実となって襲ってきたから。
「ナンダコイツハァッ!」
 スペックほどの怪人が総毛立つほどの、とびきりの化け物。
 体重100キロはあろう『巨大カマキリ』が前脚イコール鎌を振りかざし、眼前に立っ
ていた。

 満足げなアレンと、血の気を失っているケント。彼らの前に転がる、もはや原形を留め
ぬほどに解体されたアフリカゾウの死骸。アレンの研究成果の一端である。
「もっと粘ってくれるかと期待したけど、こんなもんですかねェ」
「ア、アレン君……なんだったんだ、さっきの化け物は……。突然空から音もなく降って
来て、ゾウをあっという間に……」
「カマキリですよ。一目で分かるでしょうに」
「あんなでかいカマキリがいるかッ!」
 小指で耳をほじくり、付着した耳くそを吐息で飛ばすと、アレンはわざとらしくため息
をついた。
「ですからァ、あの巨大カマキリこそが私の作品なのですよ。遺伝子操作とクローン技術
による──ね」
「しかし、なんでまたカマキリ……?」
「地上の生物が全て同じ大きさになったと仮定したら、カマキリは最強候補の一角に挙げ
られます。あのパワー、俊敏性、そして象徴ともいえる二丁の前脚(カマ)……。中国に
はカマキリの動きを模倣した武術もあるそうですよ」
 ケントはアフリカゾウを苦もなく瞬殺した、巨大カマキリの猛威を思い返した。
「体重100キロのカマキリ──せいぜい思春期の少年の空想でしか存在しえぬ化け物を、
私は造り出したのですよ」アレンは仰々しく、自分の頭と胸を指差した。「ここと、ここ
でね。あいにく餌はチョウチョってわけにはいきませんが」
 両手でカマキリの真似をし、けらけらと笑うアレン。
「カマキリが強いことはよく分かった……。だが、あんなのを野放しにしてしまって大丈
夫なのか? 敵味方の区別はきちんとつくのか?」
 ケントのもっともな疑問に、アレンは驚くほどあっけらかんといい放つ。
「さァ……? そんなことは私は知りません」
283サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/04/29(水) 16:18:38 ID:7/hrV0SF0
前話>>258
第十四話終了です。

学者として不適、でも人間として素敵、強敵に最適なアレン君の登場です。
あとカマキリ。
284作者の都合により名無しです:2009/04/29(水) 17:30:17 ID:ramVGS4l0
何をやってるんだアレン君wwwwwww
285作者の都合により名無しです:2009/04/29(水) 19:46:18 ID:FLSWWkac0
また物凄いところをもってきましたなw
カマキリとアレン君とはw

でも、どー考えても100キロのカマキリより
ゾウの方が強いと思うw
286作者の都合により名無しです:2009/04/29(水) 23:14:45 ID:ltuyJi1B0
>サマサ氏
海場が最後まで美味しいところを持っていったところで3部終了。
皇帝たちの物語も一応の幕が降り、次回から新展開ですか。
楽しみですね。いつものおまけ幕間SSもみんな可愛くて好きです。


>サナダムシ氏
アレンはネタキャラとしても強烈ですが(ウディ・アレンがモデルかな?)
このSSでもいい味を出してますね。スペック対カマキリ、野獣対決ですな。
ドイルとシコルの相手は誰になるんだろう?
287作者の都合により名無しです:2009/04/30(木) 07:08:45 ID:9G3M6K7H0
昆虫は体格構成上人間の大きさになったら自壊してしまうけど
バキ世界では何でもありだからな
288作者の都合により名無しです:2009/05/01(金) 07:34:44 ID:XWEfHqPT0
カマキリはバキの妄想の産物だからその例えはどうかな
なんでもありというのは激しく同意だが
289ふら〜り:2009/05/02(土) 08:43:47 ID:TKo68MEt0
浜松へ転居完了。駅前繁華街を歩くと、雀荘の数がキタやミナミを上回っているような気が。

>>サマサさん
・本編
あぁもう相変わらずこの人は。「定められた運命なんかには従わない、自力でどんな壁も
越えてみせる!」とか、愛してくれる人の平和を願って自分は戦場へとか、とことんヒーロー
してますな。彼の素直じゃない口調を聞いてると、からかってくれるヒロインが脇に欲しくなります。
・番外編
で、そのヒロインというかマスコットキャラ的だなぁと思えたのがタナトス。いろいろ超越しては
いるものの一応は好意があり、物腰も柔らか丁寧で、見ようによっては可愛げがありますし。

>>サナダムシさん
まさかここでピクルってこたぁあるまいし、と思ってたら妄想カマキリ! 僅か数行で予想を
裏切り期待を越えてくれました。やはり段々と強くなっているテログループ、対するは原作での
我が最愛死刑囚スペックときましたか。彼が悪夢にうなされてる姿ってのも、ちと見ものです。

>>266
ご期待、光栄のいったりきたり。鋭意努力中ではありますがなかなか……申し訳ござらぬ。
290作者の都合により名無しです:2009/05/02(土) 18:58:45 ID:1GT+c65i0
ふらーりさんはどれだけ転勤するんだよ
やはり男の人なのか
夏が過ぎ去り、次の季節が訪れようとしている夕暮れ時。
薄暗い路地を歩く男が軽く肩を擦りながら呟く。

「寒くなってきたな……スーツを新調するか。
『ヴァレンチノ』か『ジャンフランコ・フィレ』がいいんだが……」

彼……『吉良吉影』はここで考えた、果たしてお気に入りのブランドスーツを着ていいものだろうか。
この間の『女』の様に私を追うものが居るだろう。
あの時話した『ジョースターのジジイ』とは何者だろうか?

名前からして外人なのは間違いない。
ジジイという事は老人か、そうでなくても初老は迎えているだろう。
そうなれば特定するのは難しい事ではない筈だ。

「急ぐことはない、仗助の仲間ならカフェ・ドゥ・マゴの辺りに出るかな……父に調べさせるか」

そこまで考えて足を止め、交差点脇にあるカメユーデパートに目を向ける。
前の職場とは別店舗だし万が一、ということもないだろう。
そう思い足を運んだ。

店員の挨拶をシカトしてカゴを手にすると切らした食材とスナック菓子、そしてキャットフードを詰め込む。
他にもワインや酒の肴にするチーズを少し手にすると、レジへ向かう。

「いらっしゃいませ…」

レジ打ちは若い女性のアルバイトで、全くやる気を感じさせない声色で挨拶をした。
容姿は悪くないのだが、パサパサした金髪が目立つ。
ノロノロとぎこちない手付きでバーコードを探し当て、機械を押し当てる。

(ガラは悪いが美しい手首をしている……)
今年の私は絶好調だ……スタンドは成長し邪魔者を消し去る事に成功しつつある。
恐らく彼女は学生、この時間のシフトなら深夜前には交代するだろう。
一度家に帰って、家族を安心させたら今の彼女と『手を切って』新しく彼女の『手を切る』とするか……。

会計を済ませるとレジに人が並んでるわけでもないのに袋を何枚か渡された。
思わず最近の若い娘は……と爺臭い事を一瞬考えてしまった。
レジの奥にあるテーブルの上で袋に買ったものを詰めていく。

「もしもし?ユウちゃん聞いてよォ〜〜」

驚いたことに仕事中に電話まで始めた。
右腕の肘をみるとタトゥーまでしている、店員も注意しないなら雇わなければいいものを。

(余り私の好みではないが、たまにはこういうのもいいだろう。
私がすぐにユウちゃんの事を忘れさせてあげよう……タトゥーも綺麗に消してあげるよ、肘から上も一緒にね……)

「写真のオッサン見つけたんだけど……」

写真……?

ゴゴゴゴゴゴゴ……

あの時……山岸由香子も私の写真を持っていた。
とった覚えがないので不振に思っていたが今思うとカメラを向いていた気がする。
カメラを構えた人間なんてここ最近私の視界には入っていない……ジョースターのジジイ……能力は………『念写』……!?

ボンッ!ボンッ!

背後で何かが弾けるような音が聞こえる。
振り返るとそこには、無数の『足』があった……。
「これは『墳上裕也』の『ハイウェイ・スター』……!」

匂いで相手を感知し、時速60キロで相手を追跡する……弱点のないスタンド……だが私の匂いは知らない筈。
こいつが私を追う事は不可能だ。

ピタリと動きを止めた足が、こちらを向いた。
まさか……そんな筈は……奴等に渡した私の痕跡……。
奴等が初めて私に迫ったあの靴屋……私がそこでした注文……ボタン…!

「まずいっ!『キラークイーン』!」

手にした袋を爆弾に変え、投げつける。
後ろに飛びのいて爆破の安全圏まで移動して、爆破する。
足の一つ一つがスタンド、数は多くないので5,6潰せば少なからずダメージになる筈。

しかし爆破の位置が悪かったのか、大多数は下から潜り抜けて迫ってきた。
一度体内に侵入されれば体中の養分を吸い尽くされる。
弱点のないスタンドが残り数十センチという所まで迫っているのを吉良吉影はハッキリと目撃した。
だが、彼に動揺はなかった。

「匂い…家には匂いがあり長く住めばその匂いが体に染み付く……。
私の匂いは『川尻浩作』のものになりつつある。そして……」

あと数センチという所まで迫りながら『ハイウェイスター』は散り散りに飛び店中を駆け回った。
素早く店を出ると周囲に時速60キロ以上で走行可能な乗用車を探す。

「袋の中で焼けた『チーズ』が奴の嗅覚を狂わせているうちにこの場を離れるッ!」

私の匂いを判別できたかは判らないが、もしかしたら周囲の人間全ての養分を奪うつもりかもしれない。
そうなる前にここを離れるのだ。
「見つけたぜ……吉良吉影ぇ〜〜〜」

バイクに跨る男子高校生は血管を浮き出しながら怒りに打ち震えていた。
彼の手足からは少量の出血が見られたが、それを気にする様子もなく携帯電話に叫んでいた。

「逃げろヨシエッ!そいつに決して近づくんじゃねーぞ!」
「ユ……ユウちゃんどうしたの?」
「どうなってんのよ…いつ怪我なんてしたの?」

二人の女性が心配そうに男を見つめる。
彼は暴走族だ、よく怒鳴るし語気も荒い。
だが今の彼はかつてないほど真剣だった。

「オレはこれから一っ走りしてくる……ただオレが戻らなかったそん時は………テメーらこの町から逃げろ」
「な、何言ってんのよ……」
「ま、まさかヤバイ薬に手出しちゃったとか?」

冗談めかした彼女達を男は鋭い眼差しで睨みつけた。
いつもはこんな時、怒ったような顔でそれでも優しい目を見せるのだが……。
瞳には堅い決意と静かな怒りが見てとれた。

「最後かもしれねぇから言っておく……こんなオレに付きまとってくれるおまえらを失いたくねーんだ……。
オレはおまえらがいるからこそオレなんだ……おまえらを失うってのはオレを失っちまう事だ……。
そう考えると『奴』を生かしておくのは……この墳上裕也のプライドが許さねぇ…!」

女たちの返事も待たずに彼はスロットルを開け、タイヤは地面を巻き込みながら急激に発進した。
ゴムの焦げた匂いをアスファルトに刻みつけ、彼女達を後にした。

「ドブ臭ぇ『殺人鬼』……テメーは殺すッ!」
初めての方は始めまして、お久しぶりです邪神です。
再びHDDが吹っ飛び再セッタップ!の洗礼を受けました。(;0w0)

終わりだよ…ホークは終わったんだ………ホークはもうお終いなんだよォォォォ〜〜〜っ!

そんな絶望を身に受けてたら何故か吉良の方を閃いたので復活。
しかしながらホークの復活は正直目処が立ちません、申し訳ない……。
更に今だ求職活動は続いているのでスローペースだと思います。

〜復活の需要を全く感じさせない講座〜

ヨシエ 墳上裕也の取り巻き三人衆の金髪。

アケミ・レイコ 取り巻き三人衆の二人、前髪がある方がアケミ、無い方がレイコ。
296作者の都合により名無しです:2009/05/03(日) 21:53:13 ID:Oy2y4ih20
キャプテンはとりあえず休止ですか。
パソコンのクラッシュは仕方ないですな・・

それにしてもお久しぶりです邪神さん。
1年ぶりくらいな気がする。
キャプテンは残念ですけど、ジョジョは是非完結させて下さい!
297フルメタル・ウルフズ 第20話:2009/05/03(日) 22:21:28 ID:TyQomms00
フルメタルウルフズ! 第二十話

海外の商店街に一人の男が立っていた。
男は紫色の髪にスーツというビジネスマン風のスタイルだった。
が、カバンは提げておらず時計をしきりにながめている。
男の時計からピーと音が鳴った。
男は時計から視線を外すと空を見やった。
男の視線の先には人型の物体があった。
その人型の物体から一筋のビームが発射され街の建物が破壊されていく。
「始めたか!コールゲシュペンスト!」
男の叫ぶと同時に黒いスーツが変形し男の体を包む。
「街の平和の為に!」
頭部の両脇と肩が尖ったパワードスーツ、ゲシュペンストを身に纏い
男は跳躍した。
一ッ飛びで三階建ての建物の屋上に辿り着くと男は腕にライフルを出現させた。
「そこだ!」
ライフルから放たれた光線が空中に浮かぶ人型の腕に当たる。
が、相手の動きは変わらない。
今度は相手の番だった。
ゲシュペンストを駆る男めがけて相手が突っ込んでくる。
「遅い!」
ゲシュペンストを駆る男がカウンターでキックを振る。
が、避けられた。
「遅いのはお前だよ」
空中の人型が侮蔑の言葉を吐くと旋回してゲシュペンストのサイドに回りこむ
「!」
滑らかな動きに驚愕するゲシュペンストの後頭部を相手のパンチが直撃する。
ゲシュペンストの膝が折れた。
「旧式のパワードスーツと君の腕では蚊すら倒せんよ」
「いわせておけば!」
ゲシュペンストは立ち上がるとジャブを数発繰り出した
が、まるで相手は見えているかの様に全てを捌いた。
「言っただろう。その程度のジャブでは捌いてくれと言ってる様なものだよ」
相手は嘲笑しながらゲシュペンストの首を掴んで片方の腕で顔面を数発殴った。
「ぐ…が…」
ゲシュペンストのヘルメットが割れ装着者の顔が露になる
「こちらもマスクを外そうかな」
「…お前は!まさか…そんなバカな…」
ゲシュペンストの装着者、ギリアム=イェーガーは驚愕した。
それもその筈、目の前にいるパワードスーツの装着者は自分の上司、ユーゼス=ゴッツオだったのだ。
「このスーツのテストをしていたらお前が現れるとはな いかんせんスーツの性能に頼りすぎだ!」
「ちぃッ…テストで街を壊すとはゼウスのメンバーたる資格は無い!俺は今ここでお前を倒す!」
「やってみるがいい!」
ギリアムがユーゼスに突撃した。
持ちうる限りのエネルギーを駆動に回し単純な破壊力を上昇させる。
「だああ!」
ギリアムの拳がユーゼスの顔面に迫る。
ユーゼスは不敵な笑みを浮かべながら微動だにしない。
決まる。
ギリアムが勝利を確信したその時だった。
突如としてゲシュペンストのパワーがストップした。
298フルメタル・ウルフズ 第20話:2009/05/03(日) 22:22:09 ID:TyQomms00
「え」
何が起こったのか理解できないギリアムが次に感じたもの それは脇腹の痛みだった。
切られていたのだ。
ギリアムが拳を振りかぶった時既にユーゼスはギリアムの脇腹を切っていたのだ。
「ケイトラゴウケン、と私は呼んでいるよ」
ドシャリと音を立ててギリアムは沈んだ。
「待て…」
「何だ ギリアム」
「お前のそのスーツは何というんだ…」
「グルンガストだ 又会う日が来るならば強くなっている事を望むよ!」
ギリアムの目の前が霞んで行く。
(う…くそっ…)
気絶する前にギリアムが目にしたものはグルンガストが飛行機型に変形する瞬間だった。


ーー陣代高校、日本ーー
一人の男子高校生が昼飯を屋上で食っていた。
彼の名は椿一成(イッセイ=ツバキ)
頭に白いバンダナを巻いており腕を巻くしあげ所謂体育会系の様な井出達である。
その彼に近づく人影があった。
用務員の服装でモップを持っている。
「おい」
用務員が一成に声を掛けた
「何ですか」
「大導脈流だな?」
「!」
一成の体の温度が変わった。
体がこわばり肩の温度が上がっていく。
ドロリとした何かが腹の中に溜まる。
一成は眼鏡をかけた。
近眼用の瓶底メガネである。
「立会いが望みだ」
「用務員の人が学生と喧嘩…これはちょっとしたニュースになるぜ」
「ニュース…か それはこちらの望みではない」
用務員が脚を前後に開いた。
「あんた用務員じゃないだろ?」
用務員は一成の問いに答えずに距離をつめた。
「質問に答えろよ!」
一成が軽いフックを放つ。
距離からしてみればそれだけで牽制になるはずだった。
が。
突然一成の視界がぼやけた。
「あ…」
メガネが消えていたのだ。
「探し物はこれかな?」
男が脚を上げていた。
つま先に一成のメガネがかかっている。
先程距離を詰めて一瞬の蹴りで一成から眼鏡を奪ったのだ。
「やるじゃねえか」
一成は困っていた。
近眼である彼は眼鏡がないとマトモに見る事は出来ない。
「ふ…大動脈流は眼鏡がないと戦えないのか…とんだ 期待はずれだった様だ」
男は一成に眼鏡を投げ返した。
「待ちやがれ!」
「俺は眼鏡がないと戦えない奴とは戦わない。 眼鏡を奪った時点で勝負は付いてしまう。じゃあな」
「てめーの名は何だ!」
「俺の名は葵飛丸(トビマル=アオイ) さらばだ」
男は学校の屋上から走り去っていった。
299フルメタル・ウルフズ 第20話:2009/05/03(日) 22:22:59 ID:TyQomms00
一成は地面に膝をついた。
悔しくて涙が溢れてきた。
「うっ…ううッ…」
肉体的なダメージは無い。
だが、精神的なダメージが一成を深い悔いの底へと引きずりこもうとしていた。
バタン。
突如、ドアが開いた。
「椿!どうした!今屋上にいた男は!」
相良宗介が椿にかけよった。
「そいつなら去っていった…」
「どこにだ!」
「知らない…名前は葵 飛丸。かなり使う…」
一成の目は焦点が定まっていない。
ピピピピ。
宗介のケータイの着信音が鳴った。
「はい こちら相良宗介」
「ソースケか こちらクルツだ。ニューヨークでテロだ。詳細は合流してからだ」
「了解だ。そちらに行く。」
通話を切ると宗介は元来た道を足早に戻っていった。
「葵 飛丸…一体何者だというんだ…」
ごろりと仰向けになった椿だけがその場に残された。

300フルメタル・ウルフズ 第20話:2009/05/03(日) 22:24:35 ID:TyQomms00
お久しぶりです。
数年ほど前にこのスレに作品を投下させていただいていたものです
大学の方が忙しかったので今まで続編を書く事が出来ませんでした
改めてよろしくお願いいたします
301作者の都合により名無しです:2009/05/04(月) 00:52:48 ID:LCF6LR/b0
邪神さんもフルメタ作者さんもえらい久しぶりですなぁ
お2人のこれからの活躍を期待してます。

とりあえず、フルメタルウルブスのアド。
旧バキスレになるんだなぁw

http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
302作者の都合により名無しです:2009/05/04(月) 10:46:14 ID:yRqpCzSa0
>邪心さん
吉良が追い詰められていく様子が楽しいですね。
ジョジョはそんなに詳しくないのですが、
原作に吉良対墳上ってあったのかな?
就職活動、この時期大変ですが頑張って下さい。

>名無しさん
2年ぶりくらいになるのかな?お久しぶりです。
餓狼伝とフルメタの融合世界、また楽しみにさせて頂きます。
飛丸は結構好きなキャラなので、活躍すればいいなあ。
もう一度読み直して来ます。
303作者の都合により名無しです:2009/05/04(月) 13:03:33 ID:/AW94XPk0
正直、邪心さんもフルメタルパニック作者さんも投げ出しと思ってたよw
復活は以外だったので嬉しい。なんとか完結させてください。
304しけい荘大戦:2009/05/04(月) 13:45:47 ID:nYMYKi2k0
第十五話「オリバの予感」

 もし一匹のカマキリと殺し合いになったとしたら、人間はどう対処するだろうか。
 足で踏み潰すだろうか、それとも手で叩き潰すだろうか、あるいは残酷にも体をバラバ
ラにしてみせるだろうか。手段はどうあれ、人間の圧勝という結果は揺るがないだろう。
 だが、カマキリのサイズが少し変わるだけで、結果は大きく揺らぐ──。
「テロリストト戦ウッテノハ聞イテタガヨ……相手ガカマキリダトハ聞イテナカッタゼ」
 巨大カマキリを前に、さすがのスペックも動揺していた。
 幻覚などでは、断じてない。
 嫌でも目につく巨大な二丁鎌の前脚、細長く硬そうな胸部、重そうに大きく膨れた腹部、
表情を持たない逆三角形の頭部──いずれも緑色を基調として染色されている。
 カマキリの後ろには、さっきまで勇敢に戦っていた警官とテロリストが無数に散らかっ
ている。ケントが危惧した通り、敵味方の区別などまるでない。ゾウをもたやすく殺す無
差別殺人マシーンの間合い(エリア)に、スペックは入ってしまっていた。
「ヤルシカネェヨウダナ……」
 スペックの全力右ストレートが、カマキリの頭部をまともに捉えた。
 これ一発で普通人ならば絶命モノだが、
「──硬ッテェッ!」
 カマキリの外皮は普通ではなかった。
 殴った瞬間に金属音を生ずるほどの硬度と強度。ダメージは認められず、喰らったカマ
キリは呑気にきょろきょろと首を動かしている。
「クッ!」
 間髪入れず、左アッパー。下顎にクリーンヒットするが、やはりダメージはない。
 警戒に値する二撃をもらい、ついにカマキリが動く。
 右前脚を振り上げ、高速で振り下ろす。直撃は免れるも、かすった腕に爪で抉られたよ
うな傷がつく。本来は獲物を逃さぬためのストッパーである、カマキリの前脚(カマ)に
ついたギザギザ状の突起が、このサイズになると兇悪な刃物と化している。
305しけい荘大戦:2009/05/04(月) 13:46:42 ID:nYMYKi2k0
 一度距離を広げようとするスペックだったが、カマキリは逃さない。
 左前脚に右腕を捕えられ、投げられた。
 元の大きさであれば自重以上の獲物をも軽々捕えるカマキリのパワー。彼にしてみれば、
単に敵を振り払っただけだったのだろうが──
 ──スペックは飛んでいた。

 投げられ、放物線を描き、約三秒ほど空中遊泳を楽しんだあと、スペックは展示されて
いるギリシア彫刻の上に墜落した。美しい彫刻が粉々に砕けたのはいうまでもない。
 遠のきゆく意識を闘志で押さえつけ、スペックは立ち上がった。
「コンナニブン投ゲラレタノカヨ……ッ!」
 スペックのカマキリとの間合いは、十五メートル近くにまで広がっていた。
 獲物を狩るべく、カマキリが駆ける。スペックの想像を超える速さ。六本の脚が瞬く間
に、主人(カマキリ)と標的(スペック)の間合いを埋めた。
 距離が開いたことで、少し時間を稼げると踏んだスペックの当ては外れた。
「チィッ!」
 舌打ちと同時に発射された右フックが、突進するカマキリを打ち抜く。が、カマキリは
かまわず左前脚を振り下ろした。
 綺麗に脳天にヒット。コンマ数秒、視界がブラックアウトするほどの衝撃だった。
 ふと気づくと、スペックの顔面は地面に埋まっていた。陥没跡に残された何本かの前歯
と血がダメージの深さを物語る。
 顔を上げると、カマキリの巨大な下顎がすぐそばまで迫っていた。
 喰われる。
 咄嗟に身をかわしたが、左肩を強靭な顎によって大きく食い千切られた。もう数センチ
ずれていれば頸動脈をやられていた。左肩から噴き出す己の血に、スペックもヒートアッ
プする。
306しけい荘大戦:2009/05/04(月) 13:47:35 ID:nYMYKi2k0
「ヤッテクレルジャネェカ……人間サマヲ嘗メヤガッテ……。パワーデカナワネェンナラ、
パワーヲ活カス時間サエ与エネェッ!」
 不意に大きく息を吸い込むスペック──チャージ完了。
 無表情のカマキリを、無呼吸連打の脅威が襲う。

 徳川ホテル玄関──。
 ロビーのソファに腰かけ、優雅にコーヒーを嗜むオリバ。違いの分かる男はまず匂いか
ら楽しむ。
「うぅむ、香ばしい。やはりコーヒーはブルーマウンテンに限るな」
「恐れ入ります」
 丁寧に頭を下げ、後ずさるホテルの使用人。
 午後九時を少し回った時刻、今のところホテル内は一度も戦場になっていない。警官隊
と機動隊、東西南北に散ったしけい荘メンバーが奮戦しているためだ。すでに柳がいる東
門と、ドリアンが担当する南門は、テロリスト勢力の制圧がほぼ完了したとの報告も入っ
ている。
 このままいけば出番はないかもな──と、オリバが嬉しそうにカップを口に運ぶ。
 すると口をつける寸前、力を加えていないのに、カップの取っ手がぽろりと取れた。熱
いコーヒーがオリバの膝を濡らす。
「これは……」
 顔面蒼白となって、タオルを持って飛んできた使用人の言葉など、耳に入らなかった。
 不吉な予感。
「私の出番が近いのかもしれんな」

 始まったが最後、決して止まぬ無呼吸の打撃。
 97年間、スペックを好き勝手させてきた拳足が、嵐となってカマキリの全身を打ちま
くる。金属音がけたたましく奏でられる。
 昆虫が生きる世界に、このような連打(ラッシュ)はありえない。防御術を全く持たぬ
カマキリはノーガードで打撃を浴び続ける。反撃に移れるはずがない。
「ハハハハハッ! ドウダイ……テメェガブッ壊レルマデ、俺ハ止マラネェゼッ!」
 絶好調。大笑いしながら、スペックが暴虐の拳を振るう。
307しけい荘大戦:2009/05/04(月) 13:48:28 ID:nYMYKi2k0
 サイズさえ平等ならば地上最強とも謳われるカマキリを、スペックの規格外の肺活量と
身体能力が圧倒していた。
 一分ほど経過した頃、スペックが右ストレートを叩き込もうとする──刹那だった。
 カマキリは突如右前脚を振るった。
「エ」
 スペックの左頬がしたたかに切り裂かれた。
 狼狽するスペック。反撃する暇などないはず。そもそもあれだけパンチとキックを浴び
せたのだから、相当量のダメージが蓄積されているはず。
 カマキリは全身がところどころひしゃげているはいるものの、いたって平然としていた。
反撃できなかったわけではない。しなかっただけ。反撃しようとすれば、いつだってでき
たのだ。
 両者の実力差──否、性能差にはそれほどまでに隔たりがあった。
「……シィィットッ!」
 無呼吸打撃を再開しようとするスペックだが、そこに左前脚によるフックが炸裂。スペ
ックから意識が抜け飛ぶ。
 さらに、右前脚がスペックの首を挟み、強引に地面へ叩きつける。頸椎への影響を心配
する間もなく、投げ飛ばし。飛距離は、振り払った結果に過ぎない一回目の投げを、大幅
に更新した。
 三十メートルは吹っ飛んだスペックはホテルの壁にもろに激突し、動かなくなった。
 なお、スペックがぶつかった箇所には、血の花が咲いていたという──。
308サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/05/04(月) 13:51:32 ID:nYMYKi2k0
>>280より。
第十五話終了です。

書いてると意外に楽しいカマキリ。
巨大昆虫は男の夢ですね(本当に出くわしたら泣きますが)。
309フルメタル・ウルフズ 第21話:2009/05/04(月) 14:44:11 ID:nvV0bqVz0
フルメタルウルフズ! 第21話

――東京都 某所――
一人の男がバーで酒を飲んでいた。
ウィスキーをロックで割っている。
ジャズが鳴り豆電球がメインの店内はちょっと地味な雰囲気だ。
男の名は立脇如水。
スラックスに革ジャンという出で立ちである。
暇を潰す為に酒をチビチビやりながら考えていた事があった。
今の自分の肩書きは北辰館の日本チャンプ。
今度の大会で防衛をする事になる立場。
北辰館にいる人間の中で自分は中堅以上の強さを持っている。
だがそれだけでは満足できないのだ。
「空手」という枠組みからはみ出ても強い。
そういう人間こそが「チャンプ」と名乗れるのだろう。
勘定を払って店から道に出た。
先日、鞍馬彦一というFAWのレスラーに野試合を挑み勝利した。
以前に不意打ちでダウンした仕返しだったが。
鞍馬との野試合後振り返ってみると彼は関節技を一切使っていなかったのだ。
こちらが運良く勝てていただけなのだ。
互いに全力を出し合って勝ったのでは無い。
もしあの時彼が関節技を仕掛けて来たならば勝敗はどうなっていたんだろうか。
立脇は自分の中に黒い何かが溜まるのを感じていた。
310フルメタル・ウルフズ 第21話:2009/05/04(月) 14:45:03 ID:nvV0bqVz0
夜の道は暗い。
街灯が無ければ足元すら見えないぐらいに。
路地裏ともなれば目が闇に慣れるまで時間がかかる程である。
風が冷たく立脇の顔を撫でた。
肌寒いくらいが丁度いい。
車や機械の音以外はあまり無い静かな路地裏だった。
そんな中ギシャンと音がした。
まるでロボットの関節が動く時の様な音。
立脇は振り返った。
音の主はそこにいた。
顔が尖っていて胸の部分に逆三角形のマークが描かれているフォルムのボディ。
「ニョスイ=タテワキだね?」
「何故俺の名前を知っているんだ?」
立脇は戦慄した。
相手が何者であるかわからないが関与したらロクな事にならないであろう臭いがするのだ。
「用があってね」
「へぇ」
音の主のフォルムが近づいてくる。
歩いているのでも駆けているのでも無い。
浮かんでいるのだ。
フワリとしたモーションで近づいてくるのだ。
「驚いたかい?」
「ああ」
立脇が一歩後ずさる。
警戒もあるが相手の動きが不気味なのもあった。
殺気が無い。
仮に攻撃をしようとしてるならば普通は何かしら雰囲気の様なものがある
殺気を纏っているのと同じである。
が、こいつにはそれが無い。
「一緒に来てもらうよ」
「何の為にだ」
「君の技術を買って…という所かね」
音の主が立脇の両脇を掴んで持ち上げる
「離せッ!」
「嫌だね」
二人の人影はそのまま浮上すると地上から夜空へと消えていった。
丁度満月の夜だった。
人影が月光に照らされるとそれはまるで映画のE.T.の様にも見受けられた。

311作者の都合により名無しです:2009/05/04(月) 20:21:39 ID:g4N9ritcO
・舞台は「金色のガッシュ」の1000年前、つまり平安時代
・清麿顔の安倍晴明
・この時V様と戦って撃退
(本を燃やすと未来が変わってしまうから)
・V様を撃退したことが起源となって「鳥居」ができる
(注:鳥居のホントの起源はもっと前)

…というネタを思い付いたけどSS化出来んので誰かいりません?
312作者の都合により名無しです:2009/05/04(月) 21:55:41 ID:UyUEQc5J0
>しけい荘
スペック敗北かな?しけい荘軍団全勝もアレなのでこれはこれでいいかも。
でも、カマキリって複眼だから目の前で棒をクルクルさせれば倒れると思う。

>フルメタルウルブス
このSSの立脇は鞍馬に勝つほど強かったですっけ?ちょっと忘れたw
執筆ペースが上がってきましたね。フルメタの方は知らないけど楽しみです。
313作者の都合により名無しです:2009/05/04(月) 23:58:41 ID:C6oMdQa20
>ジョジョ
キラークイーン対ハイウェイスターはなかなか興味のある対決。
吉良は最後には助かるんでしょうけど、奮戦を期待したいですね。

>フルメタル・パニック
立て脇は原作では確か強かったですからね。板垣はカマセにしたけど・・
葵たちも絡まって、復活そうそうかなり盛り上がりそうですね。

>しけいそう大戦
カマキリ結構強いですね。スペックはまだまだ反撃するのを期待。
オリバの悪寒によると、まだ何か隠し玉があるのかな?
314作者の都合により名無しです:2009/05/05(火) 00:35:57 ID:ycB8JXo50
邪神さんとフルメタル作者さん復活か。
ピンチになると誰か復活するね、バキスレ

さいさんとハロイさんとスターダストさんはまた消えちゃったけどなw
315作者の都合により名無しです:2009/05/05(火) 05:14:21 ID:vdMXCRQc0
しけい荘、まだ敵は残ってるのか?
なんかこの大戦で最後になりそう
316作者の都合により名無しです:2009/05/05(火) 17:25:36 ID:Ft5V5tkM0
しけい荘はきっと続くな
317ふら〜り:2009/05/06(水) 13:38:14 ID:wPhBGr1j0
>>邪神さん(おぉおぉお久し振りですっ!)
原作でもエニグマ戦でなかなかキメてましたけど、ここはヒロイン(可愛くはないですが)と
絡んでるおかげで、より一層ヒーローらしさが輝いてます墳上。正面から戦えばさほど強く
はないハイウェイスター、でも今の吉良は正面から戦えない。うまく緊張感が出てます。

>>フルメタル・ウルフズ作者さん(フルフズさん(仮)としてますんで、よろしければ御名前を)
邪神さんに続き、お久し振りですっっ! 本作は漫画とラノベ、萌え作品と燃え作品といった
題材の融合がお見事。にしても椿は(同じ作品の宗介まで含めても)一般人高校生たる身。
各方面のプロや兵器がひしめく中、彼が再起・活躍すれば面白いとこですが……厳しいか。

>>サナダムシさん
スペック、やられましたか……原作の花山同様、相性の悪い相手に当たってしまったって
気もしますが、それは言い訳というものか。いやまて、もしかしたら原作同様、ここからまた
立ち上がって次の段階、武器使用しまくりモードで反撃とか? でもオリバのあれ……う〜む。

>>邪神さんへ
データ消失は痛恨でしたね……バキスレでも何度かその報告、ありましたよ。私も過去に
経験してます。やはり外部バックアップは必須ですね。気に入ってる長編ならば特に。
個人的にはケンと和解して他の仲間も交えて仲良く旅してるシン、というのが非常に
見応えのある光景ですので再開希望。創作意欲が戻り高まった暁には、ぜひ!
318作者の都合により名無しです:2009/05/06(水) 14:40:14 ID:0harPA/Z0
ふらーりさん本当に全部読んでいて
しかも内容覚えてるんだな
すげえ
319しけい荘大戦:2009/05/06(水) 23:36:52 ID:9greNG8c0
第十六話「甘い」

 しけい荘の老怪人、スペックが敗北を喫した。
 ホテルの外壁に叩きつけられ、落下し、うつ伏せのままぴくりともしない。
 このショッキングな映像はむろん、モニター室から戦闘を監視する光成と園田にも届け
られた。
 開戦からずっとはしゃぎっ放しだった光成から、初めて笑みが消えた。
「な……なんということじゃ……」
 園田も同様だった。無念そうに首を振る。
「完全に計算外だった……。テロリストがあんな化け物を用意していたとは……。自衛隊
がいたとしても、いやアンチェインでも勝てるかどうか……」
 果たしてアレを止められるのか。最悪の結末が頭をよぎる。
 しかし、映像の中のカマキリはまっすぐホテルには向かわない。
「なにをしておるんじゃ……あやつは」
 カマキリはサイズに合わせて肥大化した本能と鋭敏化した感覚で、とある気配を察知し
ていた。
「ま、まさか……ッ!」カマキリの動きから、先に感づいたのは園田の方だった。「ここ
を探しているのでは……」
「な、なんじゃとッ?!」
 彼らのいるモニター室は、ホテル内ではなくホテル西門の庭にある地下室に設置されて
いた。ホテル内では園田がすぐに現場へ駆けつけられない上、また観戦する光成の身も灯
台下暗しでかえって安全だろうと判断したためだった。
 むろん、地上には入念なカモフラージュを施してはいるが、カマキリは確実にモニター
室へのドアが隠された座標に迫っている。
「まずいのう……まっすぐこっちに向かっておる」
「これは……私のミスです……。私が囮になりますゆえ、徳川さんはその隙に──」
320しけい荘大戦:2009/05/06(水) 23:37:48 ID:9greNG8c0
「なにを慌てているのです、園田警視正」
 自信がたっぷりと含まれた声色。
「ここに来る前に、地上であのカマキリを退治してしまえばよいだけのこと。ご老公、心
配せずにお待ち下さい。すぐに私が片付けて参ります」
 徳川家親衛隊隊長、加納秀明がついにテロリスト戦争に参戦を表明をした。

 とうとう隠された地下室の目星をつけたカマキリ。芝生による巧妙な偽装も、野性には
通用しない。カマキリの筋力があれば、入り口をこじ開けることなど朝飯前だ。
 だが、カマキリがこじ開けようとする前に、入り口は地下から開かれた。徳川家を守護
する戦士、加納秀明がカマキリに宣戦布告する。
「こ、これは……間近にすると、とんでもない化け物だな。
 しかし、悪いがこの下に行かせてやるわけにはいかないな……。ご老公には指一本触れ
させんぞ」
 加納はディフェンス術に長けた戦士である。敵の構えをそっくり真似ることで、敵の動
きを予測し、あらゆる攻撃を捌いてしまう。
 巨大カマキリの異形に面食らったものの、すぐに加納はいつもの自分を取り戻した。
「さァ来たまえ、私の初弾を避けられるかな?」
 な、と発声した加納に、横になぎ払われた左前脚が命中──真横に吹っ飛ぶ。
 十八番の防御術も機能せず、哀れ加納は白目を剥いて横たわってしまった。
「やっぱりのう……」
「やっぱりな……」
 この戦いも監視カメラで期待せず観戦していた光成と園田だったが、呆れながらほぼ同
じ言葉を吐いた。

 親衛隊長の挑戦は、光成たちの想定内の結末で幕を閉じた。
 とはいえ加納が戦線離脱したため、カマキリの地下室への侵入を防げる者はもういない。
 予想だにしなかった「カマキリによって殺害される」という極めて発生確率が高い未来
を目と鼻の先にし、光成から血の気が引いていく。
321しけい荘大戦:2009/05/06(水) 23:38:58 ID:9greNG8c0
「ど、どうしたもんかのう……園田君……」
「先ほども申し上げたように、私が囮となります」懐から拳銃を取り出す園田。「ヤツの
外皮にこんなものが通用するとは思えませんが、隙を作るくらいはできるはず」
「しっ、しかし……」
「もう議論している時間はありません、行きますよ!」
 特攻あるのみ。銃でカマキリのどの部位を狙うべきかプランを練りながら、園田が階段
で地上へ出ようとする。と、そこへ光成の声。
「ちょ、ちょっと待てい……園田君ッ!」
「どうしました?」
「まだ終わっとらんかったぞッ!」
「え、え……え?」
 両拳を握り締める光成。訳が分からない園田。答えはモニターにくっきりと映っていた。

 カマキリが動かない。いや、動けない。
 袋状に膨れた腹部を、人間の両腕によって背後から組みつかれ、モニター室どころでは
なくなっていた。
 しかし、たとえ組み合いでもカマキリのパワーは健在だ。脚を使って引きはがしにかか
る。が、動いた瞬間、体重100キロ以上を超えるカマキリがふわりと浮いた。
 浮いて、後ろに向かって曲線を描いて、頭部から地面に突き刺さるカマキリ。
「本当ニ甘イ……ヤハリ昆虫(インセクト)デス……」
 ──カマキリを見下ろすスペック。
 頭から首まで、紅い縞模様が形成されるほどに流血している。致死量級のダメージを負
いながらも復帰し、しかもカマキリ相手にジャーマンスープレックスを決めてみせた。
「アノママ一気ニ追イ込メバ、君ノ勝チモ十分ニアリエタ」
 起き上がろうとするカマキリの頭部に、踵による強烈な踏みつけ。金属音と破砕音とが
混ざった凄まじい音が響いた。
「俺タチノ戦イハネ、カマキリ君。食物連鎖ナンテイウ甘ァ〜イ世界ジャナインダ」
322しけい荘大戦:2009/05/06(水) 23:40:48 ID:9greNG8c0
 片足では足りぬと感じたのか、今度は両足で全体重を乗せて踏みつける。さらにひどい
音がホテル近辺を駆け抜ける。
「オソラク、サホド空腹デナカッタカラ俺ヲ追撃シナカッタノダロウガ、人間ノ世界デハ
ソンナ悠長ナ考エハ通用シナイ。ドンナニ満タサレテイヨウト“殺ル時ハ殺ル”──コレ
ハ食イ合イナンカジャナク、殺シ合イナンダヨ」
 血にまみれたスペックの殺気に危機を感じたのか、カマキリががばっと立ち上がる。踏
まれた頭部にひびが入っているが、ダメージ量としては多くない。脳容積が人間に比して
遥かに少ないため、脳震盪がほぼ起こらないという点も闘争の上で有利に働いている。
「ジャアカマキリ君、ラウンド2ゥ〜ヲ始メヨウカ」
 復活は遂げたが、彼のいう1ラウンド目に受けた被害は甚大だ。流血は収まっておらず、
五体には鋭い痺れが残っている。到底戦えるコンディションではないのだ。
 なのに、スペックはリベンジを選んだ。無呼吸連打──開始!
323サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/05/06(水) 23:45:36 ID:9greNG8c0
>>304より。
第十六話終了です。
CリーグドンケツVSカマキリ。

書き終えた瞬間、>>321で「体重100キロ以上を超える」を発見しました。
ご了承下さい。
324作者の都合により名無しです:2009/05/07(木) 02:46:52 ID:PDkwsfLf0
加納は何しに出てきたんだw
スペックはやはりもう一頑張りしますね
325作者の都合により名無しです:2009/05/07(木) 07:00:37 ID:1/htLAAg0
お疲れ様ですサナダムシさん。
カマセの瞬殺はバキのお約束ですが、加納はもう少し頑張って欲しかったなw
スペックの反撃楽しみです。オリバ対カマキリも見たかったな。
326作者の都合により名無しです:2009/05/07(木) 22:22:46 ID:/90gxmpi0
ウンコも読みたいな、ひさしぶりに
327女か虎か:2009/05/09(土) 19:10:46 ID:i7Ca5osy0
12:HAIL AND KILL

 手品の種はナトリウムだ。
 水と激しく反応することで、水酸化ナトリウムと水素を生成する。反応熱により水素は発火し、
結果、火を制するはずの水によって燃え上がるという一見矛盾した現象を引き起こす。
 無論、それのみでこれほどの炎は生じない。各種薬品を配合し威力を飛躍的に向上させているのは、
かすかに鼻をつく刺激臭からも明らかだった。
「火火ッ」
 乾いた下草を踏むガサリという音に、サイは視線を走らせる。
 三メートルほど離れた位置に、葛西善二郎が立っていた。
 通信機の要らない至近距離。
 放火魔は揺れる炎の波を受けながら、豊齢線の浮きかけた口元を歪ませ笑った。
「葛西」
 サイの全身が軋む。押し潰された上半身が急ピッチで再生していく。
 かふっ、と喉の奥から咳が漏れた。こぼれた血は他の体液と入り混じり、苦味とも酸味とも
つかない味が舌を刺した。
 口に溜まった血を吐き捨て、赤く染まった顔を拭う。
 殺気の余熱を生々しく残した目で葛西を見た。
「……タイミングいいじゃん。今のはちょっと助かったよ、やっぱりあんたは俺が見込んだ通りの……」
「火火火」
「ちょっと、葛西?」
「火火ッ、火火火火火」
「葛西、葛西ったら」
「火火火、火火火火、火ャーーーーーーーーッハッハハハハハハハ! ……グハァッ!?」
 テンションMAXの高笑いは、サイの無言の膝蹴りで中断した。
 腹にもろに一撃を食らった葛西は、形容しがたい表情で体を折って痙攣する。
「ハイになるのは勝手だけど、人が話しかけてるときはちゃんと返事しようね葛西」
「へ、へぇ、すみません、いっぺん火がつくとつい……い、痛ぇ……」
「そうそう、それから」
 身悶える放火魔にサイは更に付け加えた。
「今すぐ退いて。まだ終わってない」
「は?」
「援護できるギリギリの位置に下がって。早くして。蹴り潰されたいの?」
 言い放ったそのときだった。
 火の海と化したプールから、激しい火柱が噴き上がった。
 眼球からも口からも炎を迸らせ、≪我鬼≫は巨大な火の球と化していた。髭も毛皮も何もかも
業火に呑まれながら、それでも倒れることなくサイめがけて突進した。

「おいおい……」
 葛西の手から煙草が落ちた。

「しぶといじゃん、クソ猫」
 サイは白い歯を剥いて笑った。
 そちらがそのつもりなら構わない。最後まで付き合ってやるだけだ。
 抗うことすら敵わぬ肉塊となるその瞬間まで。
「さあ……来いよっ!」
 走り来る異形に、サイは全身の細胞で咆哮した。
328女か虎か:2009/05/09(土) 19:13:31 ID:i7Ca5osy0


 アイはヘリの窓から外を見下ろす。
 地上数百メートル。眼下にぽつぽつと散る小さな光は、民家ではなく街灯のそれ。周囲に住宅や
店は殆どなく、あっても既に寝静まっている。
 テールローターの代わりに、圧搾空気の吹き出しで機体を制御する低騒音ヘリ。これなら住人たちの眠りを
覚ますおそれもない。とはいえ夜明けはすぐ傍まで迫っており、彼らが起き出してくるまでそう長くはかかるまい。
 冷たい夜の底に、大地はひっそりと横たわっている。
 その一角に息づくひときわ広大なエリア。首長竜のようなウォータースライダーがそびえる、
打ち捨てられたテーマパーク。
 電気の供給もなく闇に閉ざされているはずのそこは、今は鮮やかなオレンジの光を灯している。
「始まっている……と考えてもいいものかな」
「恐らくは」
 早坂久宜の言葉に短く答えた。葛西の炎であることは明らかだった。
 音は聞こえない。地上からの距離が邪魔をする。この高さから状況を把握できるほど視力がいいわけでもない。
「高度を下げてください。対地高度百フィートまで」
「人遣いの荒ぇ女だ」
 ユキこと幸宜がぼやいた。
 スティックを緩やかに倒していく。エレベーターで降りるときのそれを数十倍に濃縮したかの
ような、重力のひずむ感覚。
「あっさり食い殺されて骨になってたりしてな」
「それはあり得ません」
 軽口をぴしゃりとはねつけると、ユキは鼻を鳴らした。
「いい信頼関係をお持ちのこって。その信頼が裏切られなきゃいいがな」
「あなたに心配していただく必要などありません」
「……百フィート行く前に空から突き落としてやろうかクソアマ」
 毒づくユキをアイはあくまで無視した。
 膝の上に置かれているのはノートPC。
 ショパンでも弾くような優雅さで、アイは指を躍らせる。流れ出るのはノクターンでもエチュードでも
ない、カタカタという無粋な打ち込み音。無数のウインドウが画面に現れては消えていく。
「何を見ている?」
 早坂の目がサングラスの奥で光った。
「いえ。そろそろ限界のようなので」
「何がだ」
「警察が≪我鬼≫事件の捜査経過を発表しようと動いています。恐らくは――夜が明ける頃には
 公共の電波に乗るでしょう」
「それがどうした」
 早坂が組んだ脚を組み替える。
「どの道これだけ派手にやっていれば、夜明けまでには誰かが気づく。時間がないことには
 変わりあるまい」
「……そうですね」
 東の空にアイは目をやる。視線の先にはまだ濃紺とも紫黒ともつかぬ闇。
 ヘリが降下する。
 地上で燃え盛る炎がぐんぐん近づいていく。
329女か虎か:2009/05/09(土) 19:16:15 ID:i7Ca5osy0


 真一文字に閃いたサイの爪が、巨獣の前脚を引き裂いた。
 だが虎の勢いはその程度では止まらなかった。火達磨のまま突っ込んできた≪我鬼≫を、サイは
真正面から迎え撃つ。
 体重差は百倍以上。華奢な肢体はなすすべもなく吹っ飛ばされる、あるいは引きちぎられるかと思われた。
 だが五十キロにも見たぬはずのサイの体は、五トン超の≪我鬼≫の突撃に耐え抜いた。鋼鉄のごとく
変化した左腕が顎を受け止め、足先はハーケンのように変異しタイルにめり込んで自らを支えていた。
 炎が服に燃え移る。少年の柔らかい肌を焼いていく。
 自分の肉がローストになっていく匂い。
「手負いの虎は手がつけられないっていうけど……」
 左腕が軋みを上げる。変異ではなく硬いものが捻り潰されていく音。
 受け止める硬度と食いちぎる顎の力の戦い。
「こっちだって負けちゃいないってこと、教えてやるよ!」
 空いた右手が風を切る。
 ハンマーと化した拳が≪我鬼≫の脳天を割った瞬間、サイの左腕が粉々に砕け散った。
 ≪我鬼≫が後ろに跳ぶのと同時に、サイも足を変化させてタイルを蹴った。
「葛西!」
『言われねぇでも』
 声は通信を介して響いた。
 オレンジ色の火が照らす空間に、迸ったのは青い炎だった。
 放火魔の袖の火炎放射器から放たれた焔は、建物ならば軽く天井を抜く勢い。変異細胞を焼き切り、
再生を阻む高温の火。
 だが通常なら炭と化すはずの巨体は、倒れるどころかなお強く足元のタイルを踏みしめた。
 太い四つ足に力を込めて跳ぶ。
 ひと跳びで葛西へと肉薄する。
 だが虎の牙が放火魔を屠る前に、怪物の強盗がそこに割り込んだ。
「あんたの相手はこの俺だろ?」
 さっき砕け散った右腕がミシリと再生する。
 腕は鞭となってしなり、虎の太い首に絡みついた。
 首だけではない。筋繊維の鞭は何十本にも枝分かれし、≪我鬼≫の四肢を残らず拘束した。
 皮やゴムとは訳が違う。下手をすれば鎖よりも更に、引きちぎることの難しい代物。
 ≪我鬼≫の体が地から浮いた。
 変異細胞で形成された肉の鞭は、五トンの肉体を縛めたまま持ち上げた。
 もがく巨体が抱え上げられていく。燃え盛る青い炎に鞭が焼け焦げ、肉の焼ける匂いを撒き散らし
一本また一本とちぎれ落ちても、構わず天を目指して高く高く。
 地上七、八メートルに達したかと思われるところで、最後の鞭が焼き切れる。
 体重のぶんだけ落下の衝撃も大きい。巨大な体が地に叩きつけられ、衝撃が辺りを揺るがす。
 明らかに骨が潰れたと分かる凄まじい音が響く。
 上がった吼え声は明らかに悲鳴だった。
 悲痛な声は、すぐに憎悪のこもった唸り声に変化した。
「痛いだろ? 俺が憎いだろ? だったらよそ見せず真っ直ぐ俺に向かって来いよっ!」
 ≪我鬼≫の体が再生していく。
 高温の炎に焼かれているにも関わらず、その回復力は留まる所を知らない。
 弱肉強食に生きる獣であるが故なのか、単純に変異細胞の性能がサイのそれを凌いでいるためか。
 虎の限界は分からないが、自分の限界ならある程度推測できる。細胞変異による再生はそろそろ、
扱いに思慮を要する域に踏み込もうとしていた。≪我鬼≫との戦闘もさることながら、直前にあの
兄弟から受けた傷の回復が、思いもよらない形で負担となっているのだ。
 再生に使用するエネルギーが蓄積したエネルギーを超える場合、別の体組織を燃焼させてそれに
換えなければならない。畢竟どうしても効率は落ち、肉体への負荷も蓄積分を使うより遥かに大きく
跳ね上がる。
 慎重に利用し持久戦に持ち込むか、一気に畳み掛けて短期で決着をつけるか、二つに一つ。
330女か虎か:2009/05/09(土) 19:17:48 ID:i7Ca5osy0
「葛西」
『はっ』
「壁作って。奴が逃げづらいように」
『了解』
 高い火柱が上がる。柱は瞬く間に広がり、青白く燃える炎のリングを作り出す。
 中心には、かつて目玉アトラクションとして人気を集めたウォータースライダー。半径三十メートル
ほどの空間を業火が囲む。
 鼻腔を刺す燃料の匂いがいっそう濃くなった。

 再生の軋みを上げながら≪我鬼≫が身を低める。跳躍の反動をつけんと前脚を折り曲げる。
 サイは深く息を吸った。
 気温だけなら夏と勘違いしかねない、熱せられた空気が肺を満たしていく。
 叩きつけるようにタイルに手をつく。四足歩行の獣のように、両手足で体を支える体勢になる。

 ドクン、と心臓が鳴った。
 
 変異は手指の先から始まった。
 五本の指は退化するように縮こまり、表面を覆いはじめた厚い毛皮に飲み込まれる。筆で描き殴った
ような荒々しい縞模様が全身へと広がっていく。
 しなやかな腕と脚は、見違えるほど太く逞しく。
 腰から伸びて垂れ下がるのは尾、ヒトがサルとの分化に際し失ったもの。
 細やかな動きに長けたホモ・サピエンスから、狩猟に特化したパンテラ・チグリスへ。
 盛り上がった筋肉に衣服がはち切れた。ボタンが爆ぜ、生地は裂け、用をなさぬ数枚の布切れと
なって、炎が起こす熱風に巻き上げられていった。
 体に続いて次は顔。あどけない面立ちの鼻先が軋みを上げて隆起する。顔の横から生えた耳朶が、
頭蓋を割り進むように頭の上へと動いていく。

 怪盗"X"は白銀の虎と化した。

 筋肉の変異が終わりきる前に、サイは高く跳躍した。
 人間時の実に数十倍のジャンプ力で≪我鬼≫に迫った。

 持久戦など彼の性には合わない。
 ただ全力を尽くすのみ。

 黄金と白銀の光が中空で交錯した。
331電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/05/09(土) 19:20:43 ID:i7Ca5osy0
今回の投下は以上です。

××××××になれるくらいなんだから虎だってラクショーだろ! 朝飯前だろ!
原作未読の方から見ればトンデモ展開になるかもしれません。すみません。
テンポの関係で虎化に関する説明は省きましたが、一応は原作準拠のつもりです。
え、原作ふまえても無理がある? ノープロブレム。サイなら気合と根性でやってくれるさ。


>>220さん
そうですね、「もうちょっとだけ続くんじゃ」ってとこですね。
葛西はいいキャラなんて何だかんだで生きてて嬉しいです。服も更にファンキーになりおって。
我鬼が物悲しく思えるのは間違ってないと思います。
ごはん食べてるだけなのにいろんな奴らに追い回されるなんて可哀想なやつ。
まるでどこぞの魔人さんのようだ。

>>221さん
調べてみたところ、アムールトラとシベリアトラは同一亜種の別名称だそうです。
南方にいるベンガルトラ(インドが舞台の「ちびくろサンボ」に出て来るのがこれ)
あたりと比べてみるのも面白いかも。
どうでもいいですが私はベンガルよりアムールのほうが好きです。モコモコは正義。
我鬼はたぶんネウロが相手でも、弱体化の進行具合によってはそれなりにてこずる程度の
戦闘力持ってると思います。頭も多分、虎の尺度で考えるなら良い部類でしょう。

>>228さん
そうですね、化物対決。ネウロと比べるとサイの強さは、観察力・膂力などに任せた
野生的な部分がありますので、見ようによっては彼も猛獣っぽいと思います。

>ふら〜りさん(8巻! HAL編は個人的に一番面白いです。好きなのは自分像編だけど)
警察官との協力は……ないでしょうねえ〜w 決して断じて間違ってもありえないw
百歩譲ってサイが協力したがっても笛吹や笹塚が嫌だと言うでしょうw
ネウロ世界の悪は決して「俺だって正しいんだよ!」と言い訳しなところがいいですよね。
周囲に何と言われようが自分の信じる道を驀進する潔さ。
332ふら〜り:2009/05/09(土) 21:01:03 ID:srrbZw1a0
>>サナダムシさん
ぅありがとおおぉぉ(涙)! スペックがカッコいいぃぃっ! 危機一髪の救出対象が光成なのは
残念ですが(流石に美少女は無理か)、野生を上回る闘争心を見せつつも激昂・咆哮はしない
のがまたスペックらしくて良! 原作では叶わなかったここからの逆転、いけぃスペックっっ!

>>電車魚さん(9巻。知恵vs力の構図が、普通の漫画と逆ですな。主人公側が力押し……)
以前言われた、寄生獣の後藤並ってのを実感。パワーとスピードと再生能力、そして変身能力。
サイはネウロ以上に力押しな人ですから、それを上回る力か、あるいは知恵で対抗するしか
ない、しかし我鬼は畜生の身、更にサイは一人じゃない。思えば十二分に健闘してますね我鬼。
333作者の都合により名無しです:2009/05/09(土) 23:33:01 ID:8FdnpGFd0
我鬼は5トンのアフリカゾウ並みのトラだから
流石のサイも苦戦ですな
ピクルでも我鬼はなかなか狩れまいw
334作者の都合により名無しです:2009/05/10(日) 00:27:49 ID:NPHOF0rq0
単純な戦闘能力ではガキの方が上なのかな?
サイは特殊能力と仲間?の支援により互角に戦いを進めているだけで。
335作者の都合により名無しです:2009/05/10(日) 09:37:59 ID:nr3Ettyz0
お疲れ様です電車魚さん。
いよいよサイ対我鬼の決着が近付いてきたかな?
でもサイと直接対決で力押しで決着、というより
タイトル通りアイが間違いなく決着に絡むでしょうね。
まだまだ一波乱二波乱ありそうです。
336作者の都合により名無しです:2009/05/10(日) 16:42:47 ID:7PYu7U3H0
電車魚さんってこの作品が1本目なんだだよなあ
短編も読んでみたかったり
337しけい荘大戦:2009/05/10(日) 20:03:19 ID:erJ1TPEz0
第十七話「無呼吸の果て」

 戦闘時、スペックは両の拳を天に捧げる構えを取る。脇腹をがら空きにしてでもパンチ
に体重を乗せることを優先する、いわば攻撃特化のスタイル。息継ぎを伴わない不断の高
速連撃が、この構えを支えていた。
 かつてスペックはある女性をめぐってドリアンと戦った。あのドリアンでさえ、無呼吸
連打に対しては防御を固めるしかなかった。
 しかし、今彼が対峙している敵は次元がちがう。人間など及びもつかぬ攻撃性能と防御
性能で、スペックのラッシュなどお構いなしに反撃してくる。
 ──ならば。
 体全体を回転させてのフルパワー右フック。自らの血で飛沫を巻き上げながらの初弾も、
効力は薄い。すかさずカマキリが両前脚を振り下ろす。
 スペック、これをバックステップでかわし、間を置かず左ストレート、左ミドルキック。
 カマキリの右前脚によるフック。当たれば集中治療室行きの一撃も、スペックはしゃが
んでやり過ごすと、真下から頭部に右アッパーを突き上げる。
「──イケルッ!」
 肺活量にモノをいわせたごり押しが通じぬなら、肺活量にモノをいわせた間合いの支配
で勝負。
 休憩ゼロの無呼吸ヒットアンドアウェイ──。
 手を休めながらの打撃が通用する相手ではないし、呼吸をすればその隙を必ず突いてく
る。絶えず打ってかわして叩きのめす。土壇場で、スペックは最良の選択をしてみせた。
 効いている。しかし、一分、二分、そして三分が経ってもカマキリの勢いは衰えてくれ
ない。
 焦りは厳禁。焦りは体と判断力を鈍らせ、ミスを生む。ミス、すなわち被弾。闘志はあ
れど、もうスペックの肉体にカマキリの近代兵器級パワーを喰らえる余裕はない。
「チッ……ダガ七分マデナラ……!」
 特訓を積んだ現在のスペックならば、およそ七分間の無呼吸運動が可能だ。が、もしリ
ミットまでにカマキリが沈まなければ──
「終ワリダナ」
 ──死ぬ。
338しけい荘大戦:2009/05/10(日) 20:04:06 ID:erJ1TPEz0
 五分経過。どれだけ叩き込んだだろうか。
 六分経過。少しずつカマキリが弱ってきているのが分かる。
 六分半が経過。スペックの全体重を加えた左ストレートが、カマキリからダウンを奪う。
あと少し。
 一撃必殺の鎌と牙をかすりつつ、生傷と痣を増やしつつ、ようやく光明が差し込んだ。
 残り酸素から割り出される、スペックに許された行動回数は三回。右前脚フックをかわ
すのに一回、続く左前脚の振り下ろしをもう一回分使って紙一重でやり過ごす。
 あと一回で、仕留めてみせる。
「ヌオリャァッ!」
 乾坤一擲、右拳がカマキリの左複眼を粉砕した。

 ──が。

 カマキリは立っていた。
 正真正銘空っぽになったスペックは悔しさと諦めから引きつった笑いを浮かべる。人間
離れした肺機能を生まれつき備える自分が、まさか酸欠に陥るはめになろうとは。
 目がかすむ。吐き気がする。意識が歪む。
 呼吸という人体に絶対不可欠な生命維持活動を捨てることによって、スペックはカマキ
リを追い詰めることができた。それでも、打ち倒すことはかなわなかった。
「チクショウ……」
 勢いを取り戻し、猛スピードで襲いかかるカマキリに、せめてもの抵抗としてスペック
は拳を突き出す。
 ゆるゆると向かっていく右拳は、カマキリの胸部にくっつき、
「───ッ?!」
 なぜか大ダメージを与えていた。
 鋼鉄の外皮に拳型の凹みができるほどの一撃。体液を口から吐き出し、無表情とはいえ
カマキリの狼狽は明白だった。
 さらにスペックは、追撃の右前脚を朦朧とした意識で掴むと、力をカマキリに委ねた。
 すると、カマキリはくるりと半回転し、頭部から地面に到達した。
「今ノハ……」スペックはすぐさま二人の老人を思い返した。「郭ジジィノ消力(シャオ
リー)ト、渋川ノ合気!?」
339しけい荘大戦:2009/05/10(日) 20:04:55 ID:erJ1TPEz0
 左足の甲で土を掘り返し、カマキリの壊れた複眼に蹴り飛ばす。Sirに教わった裏技。
 目をやられたカマキリが露骨に嫌がっている。
 掌底、直突き、足先蹴りを、連続でカマキリの中心部に叩き込む。中国拳法が大好きな
老人に教わった秘術。
 ボディガードに任命されてから今日までの十日間。少しずつおすそ分けしてもらってい
た老人会の仲間たちの奥義の数々が、全酸素を使い果たした空白の境地にて、突如芽吹き、
花を咲かせた。
 修練の辛さに耐えかね途中で放り出してしまったが、97年間衰えを知らない人類史上
稀有な肉体と才能は、インスタント奥義でも十二分に生かし尽くす。
 カマキリが攻めあぐねている隙に瀕死だった息を整えると、スペックが驚異的な攻めに
転ずる。

 再び左前脚を振りかざすカマキリの懐に、あえて飛び込むスペック。左前脚の根っこを
脇でがっちり固め、力ではなく消力で逆方向にへし折る。Sirの軍隊格闘技と郭の消力
の複合技。
「ギッ……キシィィィィッ!」
 下顎を噛み合わせ、奇怪な悲鳴を奏でるカマキリ。
 次は右前脚を奪い、カマキリの力を利用して投げ飛ばす。さらに宙に浮いたカマキリの
顎に手を添え──頭から叩きつける。合気の炸裂である。
 なお続く猛攻を太極拳を彷彿とさせる舞踊でかわし切り、攻めの消力による打拳をバッ
チリ決める。100キロの巨虫が舞った。
 今カマキリの複眼には、スペックを含め五人の老人が映像化されていることだろう。
「終ワラセルゼ」
 大きく、深く、肺に空気を取り込むスペック。
 打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って、打ちまくる。
 呼吸を捨て、防御と回避を捨て、技術をも捨て、己の両手両足をフル動員してスペック
は最後の無呼吸連打に打って出た。
340しけい荘大戦:2009/05/10(日) 20:06:03 ID:erJ1TPEz0
 互いに残り体力はわずか──ここを押し切らねば絶対に勝てない。
「OHHHHHHHHHHHッ!」
 ──自分のこれまでの人生、そしてこれからの人生のために。
 ──敗北寸前で力を貸してくれた老人たちのために。
 ──誕生日を祝ってくれたしけい荘の仲間のために。
 身勝手で野放図な性分ながら、通すべき筋くらいはわきまえている。
 敗けられない。ここは通さない。たとえ不死身の化け物であろうとも──勝つ。
 戦闘に関連する性能を単純比較するならば、カマキリはスペックを完全に上回っている。
が、全てを賭したスペックには性能という数値以上の味付けが成されていた。
 精神力。ヒトにはあって、ムシにはない特別な力。
 しかし、カマキリも狩人としての意地か、折られた左前脚でスペックの頭をかち割った。
「ギィィィィッ!」
「オアァァァッ!」
 怪物と怪人。もはやどっちがどっちの声か判別すらできない。
 頭突き。スペックが血の湧き出す頭を、カマキリの下顎にめり込ませる。さらに両手を
組んだ、凄まじいハンマーパンチが頭部を叩き割る。
 頭から地面に突っ込んだカマキリは、その強靭すぎる肉体の活動を停止した。
 ほっと一息。スペックもまた、スイッチが切れたように大地に背中から横たわった。
 スペック対巨大カマキリ。究極の異色対決、決着。
341サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/05/10(日) 20:07:28 ID:erJ1TPEz0
>>322より。
第十七話終了です。カマキリに四話も使ってしまいました。


>>312
虫は意外に穴がありますね。
私も書いてる途中で触角どうにかすればあっさり勝てる(無力化)んじゃね?と思いました。
鳥になったら勝てるっていうのは、どうにも納得できませんでしたが。

>>325
おそらくオリバなら、カマキリはワンパンで倒しそうです。

>>326
いずれまた。
ネタがあれば……。
342作者の都合により名無しです:2009/05/10(日) 21:18:15 ID:WiMO7Qu90
アレン君がどうなるのか楽しみだw
343作者の都合により名無しです:2009/05/10(日) 22:24:59 ID:lajLplWV0
まさかスペックが無想転生を使うとはw
カマキリは意外と強敵でしたね。
それにしてもオリバとスペックって
このSS上でもそれほどの差があるのか。
344作者の都合により名無しです:2009/05/10(日) 23:00:53 ID:GZlDyLDD0
カマキリ戦意外と長かったですな
次は何が敵として出てくるのか?
まだネタがあるのか?w
345作者の都合により名無しです:2009/05/11(月) 01:26:57 ID:mH9xGIzR0
範馬親子は最終章までとってあるんだろうか
確かまだ出た事無いよね?
346カルマ:2009/05/11(月) 21:19:45 ID:kKsdz0Wk0
後編

どろりとした悪意が滲んだ顔で、デスマスクは哂う。

「生きるの死ぬのは一瞬だ。
 無理に延命させずに、今ここでさっくり逝かせてもいいんじゃないか?
 お前には無理でも、俺には出来る。積尸気の使い手である俺にはな」

悪意に対し平静を装う冷静さを、アフロディーテはこの時点ではまだ持ち合わせていた。

「それを他人に強制するのは、いかがなものかと思うがな」

デスマスクの口が弧を描く。

「ハッ今更!今更なにを言っているんだお前?
 染み付いた血の匂いをいくら薔薇でごまかしたってな、こびり付いた血潮は落とせやしねぇよ。
 それとも、お前、あのガキに触れなきゃ自分の汚れが理解できないほどモウロクしちまったか?」

ぎちりと、テーブルの下のアフロディーテの握りこぶしが軋んだ。

「馬鹿いうなよ、お前。俺ほど殺しちゃいるまい?
 …おまえがこのままあのガキに世の悪意を隠したってな、いずれは暴かれる。
 知ってるか?無垢なものほど汚れのほうから好かれてるんだぜ?
 あの餓鬼が、ピスケスのアフロディーテの甥が、聖域に見つからずに生きていけると思うなよ」

考えないようにしていた事だった。
あの無垢な少年が、鉄火と殺意の渦巻く狂乱の世界へと征く。

「…いくら奇麗事を言っても、俺もお前も本質は同じだ。
 目的達成の為なら、いくらでも屍を積み重ねられる人種だ。」
347カルマ:2009/05/11(月) 21:23:47 ID:kKsdz0Wk0
楽しげにデスマスクは哂う。
この男にとって、偽善は憎むべきものだが、露悪は好ましいものだ。
隠せばいずれ暴かれる、ならば端から露わにしてしまえばいい。

「もうその道を歩き出しちまったんだ。いまさら嘆いてもしかたねぇよ。
 せいぜいくたばるまで屍の山ぁ築くだけだ。
 それが冥闘士だろうが、海闘士だろうが、聖闘士だろうが、人間だろうが知ったこっちゃねぇ。
 大将について行くって誓ったろう?シュラと、俺と、お前で」

しかし、それでもアフロディーテには躊躇いがある。
つい先ほどまでだんらんの場だったからだろうか。

「願わくば、秘密は墓穴まで持っていきたいものだ…」

デスマスクがそれに食い付かない道理は無かった。
悪は悪であるべきであり、染まりきれない半端者など必要ないのだ。
少なくとも、彼の道には。

「無理いうなよ。
 そのうちあのガキも学校通わせるんだろ?だったら淫ば…」

黒薔薇がテーブルごと切り裂くが、デスマスクはふわりと避ける。

「怒るなよぉ、父なし子なんてどこでもそんな目で見られるんだよ。
 軽い冗談だ。」

にやにやと哂うデスマスクに、アフロディーテの麗貌が怒りに染まる。

「…痛くない事になっている腹を探られたくないのは、お前も同じだろう?
 路地裏の」

燐光がアフロディーテの立っていた場所をなぎ払っていた。
一切の表情が消えたデスマスクの顔がそこにあった。

「怒るなよ、お前風の冗談だ」

侮蔑でもなく、悪意でもなく、ただ淡々と事実を話す。そういった風のアフロディーテ。
殺気が大気を焦がす。
大気が小宇宙で歪む。
黄金の小宇宙が煌々(けいけい)と燃え盛る。
いうなれば、一触即発。
348カルマ:2009/05/11(月) 21:28:04 ID:kKsdz0Wk0

「盟にーちゃーん!こっちこっちー!」

アドニスに呼ばれて盟は歩く。
師匠と離れられて内心ほっとしているのは事実だ。
師・デスマスクはああ見えて身内には優しい、だからこそ聞いてはいけない話なんだろうとあたりをつけた。

そういうことばかりだ。

子供だから知らなくていい、などと言う事はない。
何れにせよ何らかの形で選択を迫られる。
その選択肢の内、盟が己の意思で最良をの選択をなすことのできるモノなどたかが知れている。
それが分からない程彼は幼くない。不幸にも、だが。

「盟にーちゃんねー、ホントは秘密なんだけどね、盟にーちゃんだからね!」

アドニスが秘密を打ち明けてくれるようだ。
盟にーちゃんという呼び方に、少しばかりの気恥ずかしさと、
生き別れ同然に世界各地の修行地へと飛ばされた異母兄弟を思い出す。
城戸光政。
あの男の息子であるというだけで、理不尽にも暴力の世界へと叩き込まれた兄弟たち。
彼らを救うには幼すぎ、彼らを無視して安寧をむさぼるには盟は賢しすぎた。

「なんだい?アドニス」

力が欲しい。
何者にも屈しない、何者をも屈させない、何者をも傷つけない、そんな夢のような力が。
アテナの聖闘士の最高格である師・デスマスクのような力が欲しい。

「これー!」

ぼう、とアドニスの掌が光っていた。

「これねぇ!おじちゃんの真似ー!」

盟は絶句した。
349カルマ:2009/05/11(月) 21:31:07 ID:kKsdz0Wk0
未だ自分が会得できない小宇宙の発露、それをこんな幼子が。
天賦の才というのだろうか?

「きらきら光ってね!きれい!
 きれいでつよいの!おじちゃん!」

この子は理解しているのだろうか、己のもつ才を。
破壊の才覚を。

「拳はな、人間が最初に手にして最後に手放す武器だ。
 どんなお大尽だろうが、どんな聖人だろうが、最期は掌を開いちまう。
 拳を開く時は負けるときだ」

デスマスクが盟に最初に言ったことばを思い出す。

「盟にーちゃん?」

アドニスの声にはっとして、盟は勤めて明るい声と顔をつくった。

「むー。
 盟にーちゃんもおじちゃんみたいな顔するー。
 わらってない」

城戸光政の息子である以上、笑顔でいることを求められるケースは多かった。
自然、身についた技術であり、初見で見破られたことは師をおいて他にない。
ましてやこんな幼子に見破られるほど易くはない。

「おかーさんがね、こんこんするとね、おじちゃん盟にーちゃんみたいな顔する」

優しい嘘でも、嘘は嘘だ。
アドニスと彼の母を守る為の嘘、この少年は見抜いていた。

「ごめんよ、アドニス。
 本当に、ごめんよ」

笑顔で謝る盟だが、アドニスは怪訝な顔をしたままだ。
350カルマ:2009/05/11(月) 21:33:36 ID:kKsdz0Wk0
当然だ、今の盟は泣いている。
泣かぬと決めたのだ、聖闘士として生きる事を決めた日から。

「ないてる?盟にーちゃん?」

「アドニス、男はな、泣いちゃいけないんだよ。
 泣いていいのは背中だけだ」

自分でも何を言っているのかわからなかった。
だが、なぜか父である男の背が思い浮かんだ。あの男も泣いていたのかもしれない。

「うん!わかった!
 ぼく泣かないよ!」

盟の言葉の意味を理解したのか、していないのか、アドニスは素直に頷いたのだった。
すると、突然アドニスは走り出した。
盟が驚いたのは彼が突然走り出したからではない、その表情にだ。
幼子に似合わぬ、必死な顔。
彼を追って走り出した盟も、その理由に気がついた。
巨大な小宇宙のうねり、そして積尸気から漏れる死のにおい。
師・デスマスクと、ピスケスのアフロディーテがぶつかろうとしているのだ。

「だめーっ!」
351カルマ:2009/05/11(月) 21:35:26 ID:kKsdz0Wk0
後編その1でした
皆々様お久しぶりです、銀杏丸です
デスマスクがチンピラみたいですが、まぁ十代中盤の彼ならこんなじゃなかろうかと
車田ユニバースの登場人物は精神的成熟がアンバランスすぎて
二十台も中盤になってから見返すと危なっかしい連中ばっかりです

仕事が忙しく、休みないです
GW?ガンダムウィングですか?
四月頭からずーっと忙しい、五月もずーっと忙しい、後編その2もたぶんだいぶ時間空きそうです申し訳ない
ovaロスキャン発売までにはこのお話終わりにしたいなぁ
さっさと戦闘神話再開したいなぁ
トランスフォーマーリベンジ楽しみだなぁ
では、またお会いしましょう
352銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2009/05/11(月) 21:37:38 ID:kKsdz0Wk0
鳥忘れてた

では、また!
353ふら〜り:2009/05/11(月) 22:28:02 ID:djoGUI220
>>サナダムシさん(そういや昔々、天地魔闘の構えに対して、烈もこんな戦いをしてましたね)
あの時予言され、期待してたスペック覚醒。いやもうこれは期待以上っっ! 原作で活躍でき
なかったキャラの活躍、ハデな見せ場が見られる。二次創作の醍醐味ですよね……ぅぅ感無量。
力と技と友情(あのスペックがッッ)で強敵を倒す。少年漫画的に、実に読み応え充分でした!

>>銀杏丸さん(お久しぶりですっっ! 自分が歳とると、キャラの見え方は変わりますね確かに)
むぅ深い。蟹と魚、確かにすぐ手が出るところは若々しくて危なっかしいとも見えますが、言ってる
内容は結構……いや、これはこれでまた若い未熟な考え方とも言えるか。難しい。大人として
子供に接しようとしてる本人が、はたして大人かどうか。で導かれる子供はどうなるか。う〜む。 

>>天地魔闘の構えに対して〜
ttp://ss-master.sakura.ne.jp/baki/mugen/makai/c/70.htm
名場面です。
354作者の都合により名無しです:2009/05/11(月) 23:45:55 ID:/cBsHTgc0
銀杏丸さんおひさし
正直間が空きすぎで前編忘れたw
でもデスマスクいいな
355作者の都合により名無しです:2009/05/12(火) 00:07:38 ID:BdvFK+n30
銀ちゃんも帰ってきたか。まだバキスレ続くな。
書き手として頑張ってるうちに
学生さんから社会人になった人もいるんだろうな・・
バキスレ長いからな歴史。
356作者の都合により名無しです:2009/05/12(火) 20:19:56 ID:xab9AzfI0
デスマスクとアフロの黄金最下位決定戦か
ミロと牛さんも参加させたいな
357遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/05/13(水) 09:52:35 ID:qNBzbHc/0
第三十八話「再起」

アルカディア城の客間。遊戯は自分の胸元に手を当て、落胆する。そこにあるべきものが、ない。その喪失感が遊戯
の心を責め立てる。
「千年パズル…もう一人の、ボク」
あの闘いから、既に数日が経過していた。あれからどうなったのかは分からない。目が覚めた時には、自分はここで
寝かされていた。城之内に訊いた話では、オリオンが抱えて運んできてくれたそうだ。
「オレも一緒にな。あいつが一番大怪我してたってのに、無茶するぜ」
そう言って城之内は力なく笑った。
「海馬くんは…どうなったのかな」
「さあな。オリオンが言うには、エレフ…いや、タナトスは千年パズルを持ってそのまま消えてっちまったらしい。
後はもうオレ達を連れてその場から逃げるだけで精一杯で、海馬のことまでは分からないってさ」
ま、あいつのことだから生きてるだろ。その言葉には遊戯も迷うことなく同意した。
「だけど…もう一人のボクは、あいつに連れていかれた」
壁に拳を打ちつけ、遊戯は唇を噛み締める。その時、ドアがやや強めにノックされた。
「入るぞ、遊戯」
「オリオン…怪我は、もういいの?」
「なーに。あんなもん、肉を食えば治ったよ。お前もそんな暗い顔してないで肉食え、肉」
お前は某ゴム人間かと遊戯は思ったが、ツッコミをかませる気分でもなかった。
「…もう一人のお前のこと、考えてたのか?」
「うん…」
「すまなかった。俺がもっと強けりゃ、取り戻せたかもしれねえのに」
「それは違うよ、オリオン。彼は…ボクが守らなくちゃいけなかったんだ」
遊戯は悔しさで目を伏せる。オリオンはそんな彼に言った。
「…取り戻す方法、あるかもしれねえぜ。相当きつい道だけどよ」
顔を上げる遊戯に、オリオンは続けた。
「その事でカストルさんから話があるそうだ…行こうぜ」


―――普段は会議に使われているのであろう、椅子が並んだ大部屋。
今そこにいるのは遊戯、城之内、オリオン、ミーシャ。そしてカストルだ。
358遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/05/13(水) 09:53:23 ID:qNBzbHc/0
「…………」
ミーシャは何かに耐えるように口元を引き結び、じっと黙りこくっている。カストルもまた重苦しい表情で、じっと
宙を睨んでいた。
「あ…あの、レオンさんは?」
「…陛下は城に戻られてから、部屋に籠りきりになってしまわれた。御顔さえ見せようとなさらぬ」
「そうですか…」
生き別れた弟と殺し合ってしまったという事実。最愛の母との悲劇的な死別。そしてあの惨劇。それらは果たして彼の
心にどれほどの翳を落したのか。
所詮は傍観者でしかない自分達には、計り知れない程の苦悩と悲しみなのだろう。
「それで…カストルさん。話っていうのは?」
「<冥王タナトス>―――<彼>は、そう名乗っていたな」
その名前に、ぎょっと身体を強張らせる一同。
「タナトス…それは即ち、冥府の王。数多の神々の中でも我ら人間が最も畏れる存在―――死神」
だが。
「彼は決して、悪ではない…そう。悪ではないのだ…」
「悪くない…だと?バカ言うな!じゃあ何であんなことをするんだよ!?」
激昂する城之内に対し、カストルはただ静かに首を振った。
「私にも分からぬ。だが、そんなことは問題ではない―――我々の眼前に現れたあの方が本当に神であるなら、その
行為はまさに神意なのだ」
カストルは溜息をつき、目を伏せた。
「…あの日以来、各地から報告があった。曰く、大勢の人間が変死しているとな」
「変死…どういうことですか?」
「さあな。原因も何もまるで分らん。彼らは例外なく、ただ眠るように安らかな顔で、静かに息絶えていたそうだ」
「タナトスがそれをやったってのか?なら早くどうにかしねえと、どんどん人が死んじまうってことじゃねえか!」
「どうにかする?どうするというのだ?」
「決まってんだろ!冥府ってとこに行って…」
と、城之内は言葉を切って遊戯を見る。
「なあ、遊戯。冥府ってどこにあるんだ?」
「いや、ボクに訊かれても…」
359遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/05/13(水) 09:54:28 ID:qNBzbHc/0
「だよな…オリオン」
「俺に訊かれたって知らねえよ、バカ」
「…だよな」
そんな城之内を横目に、カストルは嘆息する。
「ここアルカディアの辺境地帯に広がる大森林…<ラフレンツェの森>と呼ばれる禁断の地がある」
「おお、何だかRPGっぽい話に!」
「茶化しちゃダメだよ、城之内くん」
「すんません…で、その森がどうかしたんすか?」
「かつてその森には、冥府の門を護る魔女・ラフレンツェがいた…銀色の髪に緋色の瞳。雪のように白い肌。背筋が
凍るほどに美しい少女だったという。彼女は己の純潔を以て冥府の扉を封印していたが、森に迷い込んできた一人
の男に恋をしてしまい…そして、純潔を捧げてしまった」
だが。
「その男はラフレンツェの想いに応えたわけではない。ただ、冥府への扉を開きたかっただけだったのだ―――彼は
最愛の妻エウリデュケと死に別れていた。彼女を冥府から連れ戻すために、その扉を開くためだけに、ラフレンツェ
を利用しただけだった」
「…それで?」
「その後どうなったかは分からぬ。無事に妻を連れ帰ったとも言われるし、魔女の呪いで冥府に閉じ込められ、暗く
冷たい冥府の河に鎖されたと語る者もいる。ただ、いずれにせよ共通しているのは、彼が開いた冥府への門は未だ
に開かれたままだということだ」
そこまで聞いて、城之内はパチンと指を鳴らし―――たかったのだが、失敗してスカっと音がしただけだった。
「つまり、そこから冥府に行けるかもしれねえってことだな!?おっしゃあ!なら早速―――」
「行ってどうする」
カストルはにべもなく言う。
「あの凄まじいまでの力…人間とは神の前に、かくも無力なのだ。それはキミ達も身を以て知っておろう」
「…………」
遊戯達は答えられない。確かにそれは、動かし難い事実だった。
「何より、タナトスは仮にも神々の一柱。どれだけ残酷に思える行いであろうとも、神の御心とあらば、我ら人間は
それを受け入れるしかないのだ…」
「―――ふざけんな」
そう言い放ったのは城之内だった。
360遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/05/13(水) 09:55:28 ID:qNBzbHc/0
「オレ達は何のために生きてるのかなんて…そんなのは分からねえ。だけどよ。いくら神様だろうが、勝手な理屈で
生きるか死ぬかを決める権利なんざあるか!」
「な…何という畏れ多いことを!キミは神をなんと心得ておるのだ!?」
「何が神様だ…神なんかより、生きてるオレ達の方が、よっぽど大事だぜ!」
血相を変えるカストルに対し、城之内は堂々と胸を張る。その揺るぎない姿に、カストルは黙るしかなかった。
「全く、バチ当たりが…ま、俺も人の事は言えねーか」
オリオンは呆れたように苦笑しつつ、城之内の肩を叩く。
「俺もお前と同意見だよ。神様に何でもかんでも決められてたまるかっつーの」
「ボクだって」
決意を露わにして、遊戯も立ち上がる。
「ボクだって…取り戻さなければならないものがある。相手が誰でも、逃げるわけにはいかないよ」
「な、なんという不信心な連中か…!」
カストルは頭痛を堪えるように頭を抱える。
「そうね…どうかしてるわ、皆」
「全くです!一体どんな育ち方をしたのやら…」
「けど、ごめんなさい。カストル叔父様…私も、どうかしてる側の人間よ」
は、と思わず間の抜けた声を上げたカストルに向かって、ミーシャは笑う。悲しみと失意が滲んだ、されどそれ以上
に真っすぐな想いを秘めた笑顔だ。
「私も、決めたの。精一杯頑張って生きるって」
「あ…アルテミシア様…」
「だから、私も皆と一緒に往く―――運命(かみさま)なんか、知ったこっちゃないわ」
恐れず、揺るがず。ミーシャはそう言ってのけたのだった。カストルはもはや顔面蒼白である。
そこへ、ドアが乱雑にノックされた。
「ええい、今取り込み中だ!少し待て―――」
「待たん」
簡素かつ力強い返事と共に、ドアが吹っ飛んだ。すわ敵襲かと身構えた一同の前に姿を現したのは。
「あ、あ、あ、アンタはぁぁぁぁぁっ!」
盛大に後ずさりながら、城之内は口を金魚のようにパクパクさせた。
「おや、城之内。何を人の顔を見るなり部屋の隅でガタガタ震えて小便チビりながら命乞いをしている?」
そう―――女傑部隊を統べる女王・アレクサンドラ。ちなみに城之内は彼女の存在がトラウマになっている。
361遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/05/13(水) 09:56:24 ID:qNBzbHc/0
「違う!オレは城之内じゃねえ!凡骨馬之骨乃介負犬佐衛門だ!しかも小便チビってねえし命乞いもしてねえ!」
部屋の隅でガタガタ震えているのは否定しない城之内であった。
「何でアンタがここにいるんだよ!?」
「そうつれないことを言うな。話は大体聞かせてもらったぞ!…しかし、小難しくてさっぱり分からんかった!」
「だったら何しに来たんだよ!?」
「いや、暇で暇でしょうがなかったから遊びに来たのだ」
「アンタ本当に敵国の女王なのか!?そんなんでどうやって成り立ってんだよ、アンタの国!」
「案外ノリと勢いだけでどうにかなるものだぞ?私が言うのだ間違いない」
「いくらフィクションでも納得いかねー!」
「いやあ、本当にお前は楽しい男だな。その反応を見れただけでここに来た甲斐があったというもの…おや?」
アレクサンドラは言葉を切り、ミーシャを見つめた。
「娘…お前、私とどっかで会わなかったか?なんか馬で蹴飛ばされたような気が」
「き、気のせいですよ!私、馬なんて乗ったことがないもの!」
「…そうか?何かが引っ掛かるが、まあいいか」
どう考えてもいいわけはないのだが、彼女はそんなことを気にしない大雑把…もとい、大物だった。
「アレクサンドラ…一体ここまでどうやって来た!?衛兵は何をしている!」
「ん?お前は確かレオンティウスの傍にいつもくっ付いている男だったな。衛兵だったら殺してはいないから安心
しろ。今日は先も言った通り、暇だから遊びに来ただけなのでな」
そう言ってからから笑うアレクサンドラ。もはやカストルは文句を言う気力も失くしたようで、怒りもしない。
「ところで、先の戦争の時から気になっておったのだが…そこの色男」
「へ?俺?」
オリオンは呆気に取られた様子で自分の顔を指差す。
「うむ、お前だ。何というか、そう…お前、私の肉奴隷になる気はないか?」
「遠慮します」
即答である。いい女に弱いオリオンではあったが、流石にホイホイついてかなかった。
「そうか。残念だ…八割方いけると踏んでいたんだがなぁ」
「その計算式、どっから出たんだよ…」
「あのー…ちょっといいですか?」
遠慮がちに声をかけた遊戯を、アレクサンドラは少し戸惑ったように見つめる。
362遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/05/13(水) 10:21:40 ID:OqPYY+VG0
「お前、確かあの時の…しかし、どうも印象が違うな…ふむ。しかしこれはこれで悪くないな。どうだ。お姉さんと甘く
危険な夜を過ごしてみないか?」
「遠慮します」
「またも即答か…おかしいな。私は自分の容姿にはそれなりに自信があるのだが…」
どうやら問題はまるで別の所にあるのだということを理解していないようだった。
「そ、そういうことじゃなくてですね…ボク達はその、重大かつシリアスな話をしてるわけでして。出来ればここは退席
していただければと思ったりなんかしたりして…」
「む?まるで私が邪魔者のような言い方ではないか。まあ…いきなり押しかけて迷惑をかけたのは事実か。この場
はそろそろ退散するとしよう―――そう言えば、レオンティウスはおらんのか」
「あ…レオンさんは、今はちょっと…」
「そうなのか。では<次こそはお前を私のものにしてやるぞ>と伝えておいてくれ…いや、折角ここまで来たのだ。
自分で挨拶してくるとしよう」
そう言って、アレクサンドラは悠々と風通しのよくなった部屋から出ていく。遊戯達はその後を慌てて追いかけた。
「ま、待って下さい!」
「ん?案内ならいらんぞ。私は一度会った人間なら匂いを辿れるからな。クンクン…そろそろ近いな」
「アンタは犬か!いや、そうじゃなくて、今はそっとしておいてやれよ!」
「そっとしておけ?…もしやあの日か?お、この部屋だな」
「男にあの日なんてない!ああもう!」
遊戯と城之内は、ドアの前に立ちはだかる。その様子に、アレクサンドラは怒るというより困惑した。
「…そこまでしてレオンティウスに会わせたくないのか?」
「頼むよ…静かにしておいてやってくれ。あいつは今…本当に、きつい所にいるんだ」
「…………」
アレクサンドラは、ここに来て初めて沈黙する。分かってくれたか、と一同が胸を撫で下ろしたその時。
「この―――大馬鹿者めがァァァァァァァァァァっ!」
鼓膜が破れるかと思うほどの大音響で、彼女は怒鳴った。耳を押さえて蹲る遊戯達にはもはや目もくれず、ガシガシ
とドアを揺する。
「私にはお前がどんなことで悩み苦しんでいるのかは分からん…だが、これだけは言ってやるぞ!お前は今逃げて
いる!辛い現実から目を背けて、逃げだそうとしているのだ!」
その声は、レオンティウスにも聴こえているはずだ。だが、返事はない。
363遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/05/13(水) 10:22:28 ID:OqPYY+VG0
「そう…お前はきっと、何か大事なものを失ったのだろう。それこそ、命に匹敵するものなのかもしれん。その苦悩が
如何なるものかは、私には想像しかできぬ」
「おい!もうやめろよ!」
城之内がたまらず叫んだ。
「本当に辛くて、へこんでる奴に、そんな言葉なんて何の意味もねえだろうが!そんなの―――」
「ああ、そうとも!こんなもの、レオンティウスの為でも何でもない!私が言いたいだけだ!私の我儘だ!」
アレクサンドラは叫び返す。
「ただ単に、私が見たくないだけだ―――運命に屈して怯える負け犬の姿などな!それがレオンティウスならば尚更
だ!私の知るレオンティウスという男は、真に王者として生まれついた男だ!はっきり言って、世界最強だ!そんな
お前と出会い、刃を交えたことがどれだけの歓びか、余すことなく全て伝えたいくらいだ!だから赦さん…赦さんぞ、
レオンティウス!他の誰かならどうでもいい、捨て置けばいいが、お前だけは駄目だ!お前だけはそんな惨めな姿を
晒してはならん!お前は気高い―――お前は美しい―――お前は強い―――お前は誰もがこうありたいと願う全て
を手にして生まれた男だ!そのお前がそこいらの凡俗と同じように堕落してはならん!お前は運命を呪うより、苦しく
とも闘い続ける道を選ぶ!そんな―――最高にかっこいい男だろう!私はそんなお前が大好きなんだ!お前に会えた
ことは間違いなく人生最高の幸運だと断言できる!お前は本当に素晴らしい…お前以上の男などいない!いや、例え
いたとしても、私にとってはお前が最高だ!ナンバーワンで、オンリーワンだ!だから、お願いだ―――
そんな最高のお前が、たかだか運命如きに、負けないでくれ。どんな苦難であろうが、勇敢に立ち向かえ」
そして彼女は最後に、これまでの烈しさが嘘のように静かな声で、唄うように言葉を紡いだ。
「運命は残酷だ。されど彼女を恐れるな。女神(ミラ)が戦わぬ者に微笑むことなど、決してないのだから―――
お前の言葉だろう、レオンティウス」
アレクサンドラは踵を返し、背を向ける。
「私の言いたいことはそれだけだ―――邪魔をしたな、レオンティウス」
遊戯達はただそれを見送るしかできない。

「…本当に…お前は、最悪な女だ」

その背中に、ドア越しに声がかけられた。掠れてはいたが、それは確かにレオンティウスの声だった。
「無礼で女らしさの欠片もなく、がさつで口も悪い。我が母とは大違いだ…なのに、どうしてだろうな…」
ドアが開かれた。そこに立つレオンティウスは、見るに堪えない程に痛々しく憔悴していた。だが―――その瞳には
強い光を宿していた。その輝きは遊戯や城之内―――或いはオリオンや海馬、そしてエレフ―――に共通する、過酷
な運命を恐れずに突き進む者だけが持ちうるものだった。
364遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/05/13(水) 10:23:19 ID:OqPYY+VG0
「先程のお前から、少しだけ…母を思い出した」
「…そうか。さぞ、立派な母君だったのだろうな」
「ああ、素晴らしい方だった―――ならばこそ」
レオンティウスは姿勢を正し、精一杯に胸を張った。
「ならばこそ私は―――彼女の仔として恥じぬ男でなければなるまい」
「レオンさん」
遊戯は、レオンティウスに手を差し出した。
「ボク達は今から、大事なものを取り返しに行こうと思ってるんだけど…一緒にどうかな」
レオンティウスは、その手を力強く握り返した。
「地獄の果てまで、御伴しよう」
「おう!死神ヤローの顔面に、一発キツいのくれてやろうぜ!」
城之内とオリオン、ミーシャもその上から自らの手を次々に重ねていく。アレクサンドラはその光景を誇らしげに、
そして少しだけ羨ましそうに見つめていた。
―――カストルはもはや卒倒せんばかりだったが、可哀想なことに誰も気にしちゃいなかった。


人間と、冥王<タナトス>との、熾烈なる闘い。
後世に<死人戦争(ネクロマキア)>として伝えられる、最終戦争の幕開けであった―――
365サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/05/13(水) 10:24:09 ID:OqPYY+VG0
投下完了。前回は>>271より。
SS書いてると、よく「あー、こういう展開にすりゃよかった!」と思うことがあります。
あるいは後になって小ネタを思いついて「あー、別に絶対必要でもないけどこのネタ使いたかった!」
などといった後悔をすることがあります。
一例としては「ズヴォリンスキーと双六じいさんは旧友で、昔は一緒にムチャやってた」とかのネタが
あったんですが、これを思いついたのは既に第一部も終わりかけの頃で、今更序章を書き直すのも
なんだかなあ…と思い、結局お蔵入りです。
しかしこのSS、地理関係とかタイムテーブル無茶苦茶です。自分ですら気付かない突っ込み所が
どれだけあるか、正直不安…。大吉ワープってレベルじゃねーぞ。
それにしても<死人戦争>は原曲にもあるキーワードなんですが、盛大に解釈を間違えてる気がする…。

それとお手数ですが、まとめサイトの超古代決闘神話、三十七話が抜けてるので、よろしければ保管を…
現スレの>>72からの投下分です。どうかよろしくお願いします。

>>277 むしろ番外編は蛇足かもしれません。登場人物全員アホすぎる。
>>278 五部までいったらもはやMoira原曲の面影すら残らないと思います(汗)
>>279 社長は正直、僕の力量で描けるかどうか不安なキャラでしたが、好意的な意見が多いので
     ほっとしてます。傲慢と暴力こそが社長ですね。
>>286 さて、新展開ですが、どうなることやら。できる限り間を置かずに続けたいところです。

>>ふら〜りさん
社長にはヒロインなどという軟弱な存在は必要ない…つーか、遊戯王という作品そのものに、ヒロイン
っていないんですよね…女の子キャラもいるにはいるんですが、はっきり言って空気もいいとこだし。
タナトス様はきっと、僕が書いてきた中でも最高クラスの萌えキャラだと思います。

>>電車魚さん
巨大虎に化けるのは流石に…しかしサイなら…サイならきっとなんとかしてくれる…!彼の変身能力は
多分これでもまだ限界ではないんじゃないでしょうか?原作でも、実力そのものはネウロには勝てなかった
けど、変身能力は底を見せてなかった気もするし…正直、もっとやべえもんにもなれる気がします。
366作者の都合により名無しです:2009/05/13(水) 20:50:53 ID:SmaLew7I0
お疲れ様です。
原作にはないちょっとしたお色気がちりばめられてていいですね。
アレクサンドラは姉御肌でいい感じですな
城の内とか彼女のいいおもちゃになりそうだ
367作者の都合により名無しです:2009/05/13(水) 22:06:41 ID:INpCRu3b0
お久しぶりですサマサさん。
いよいよ新展開開始ですか。
遊戯と黒遊戯が分離してあるいみ主人公の力の見せ所ですな。
魔女のくだりはよかったです。


ガモンさん来なくなっちゃったけど大丈夫かな?
368作者の都合により名無しです:2009/05/14(木) 07:02:20 ID:0zaQaPwe0
新展開楽しみですね。
オリキャラも社長たちに負けないくらい迫力ありますし。
最終戦争だからこのパートが最終章なのかな?
369フルメタルウルフズ 第二十二話:2009/05/14(木) 22:58:44 ID:tc5pRuB60
フルメタルウルフズ 第二十二話
フルメタルウルフズ 第二十二話 領収書

東京都内某所

そこは落ち着いた雰囲気の店だった。
バーを兼ねたレストラン。
バーテンダーがカクテルを作り2〜3人の客がテーブルで談笑をしている。
顔に髭を生やしたバーテンダーが奥に引っ込むと入れ替わりに高校生ぐらいの人間が姿を現した。
新しいタオルを手に取るとグラスを拭いて指定された場所に置く。
「あ、ワインとチーズウィンナーセットをくれないか」
「かしこまりました。ワインとチーズウィンナーセットですね」
客の注文を聞くとバーテンダーはワイングラスにワインを注いだ。
ウィンナーをガスコンロで焼いてチーズを冷蔵室から取り出す。
「どうぞ。ご注文の品です」
「ああ」
バーテンダーがカウンターに品を置いた。
客が品を自分の目の前に移動させると片手でグラスを持ってチビチビと飲み始める。
男の風貌は若干年季が入っていて目が少し細くて鼻が高い。
何かを考える様に遠い目をしながら少しずつチーズとウィンナーを口に運んでいく。
「ごちそうさん。料金はここによろしく」
男は立ち上がると名刺を取り出した。
“地球防衛組織 ZEUS係長 ユーゼス=ゴッツォ ”
名刺にはそう書かれていた。
「わかりました」
バーテンダーが名刺を丁寧に受け取ると伝票を記入する
「播磨君、今日はもう上がっていい」
「店長、売掛金(簿記上でいうツケ)です」
「ああ…ツケの先はどこかな?」
「その人が名刺で示してくれました」
370フルメタルウルフズ 第二十二話:2009/05/14(木) 22:59:26 ID:tc5pRuB60
数時間後…ミスリル所属潜水艦 “トゥーアハー・デ・ダナン”にて

作業衣姿の男達が作業をしていた。
飛び散る火花と機械の駆動音。
指示の声と小刻みな足音。
今、作業員達は“アームスレイブ”と呼ばれるロボットを急ピッチで整備中なのだ。
その光景を一人の少年が通路から見つめていた。
名を相良宗介 ミスリル所属軍曹。
その脇にもう一人男がいた。
髪が長く顔半分が毛で隠されている。
少年よりも若干背は上である。
「ここの整備員の腕は保証する」
相介が事務的だが確信を含んだトーンで男に話しかけた。
「わかっていますよ。ですが私の用件は非常に細かい分野なんです」
男が真面目などこか苦悩が混ざったトーンで応えた。
「詳細は大佐殿と一緒に聞こう」
宗介達はその場を後にした


数分後 ダナン内 大佐専用室にて
「貴方がZEUSから来られたギリアム=イェーガーさんですね?」
「はい。貴方がダナン艦長 テッサ=テスタロッサですね」
木製の机をはさんで二人は相対していた。
「ZEUSから聞いた所、貴方はアマルガムに関する情報を持っているそうですね」
「ええ。もっというとアマルガムだけではありませんが」
ギリアムは懐から一枚のディスクを取り出した。
宗介が念の為ギリアムからディスクを受け取ると軽くチェックする。
爆弾でないか知る必要があるのだ。
データディスクである事を確認すると宗介はテッサにディスクを渡した。
「中身は何なのですか?」
「アマルガムが新規に開発しようとしている人間サイズのアームスレイブに関するデータ及びその試験内容です」
テッサは驚愕の色を僅かに目に表した。
現在アームスレイブは戦闘においてかなり普及している。
ミスリルが主に使う“M9”と呼ばれる機種は新型だ。
そのM9をもし人間サイズにする事が出来たならば白兵戦では驚異的な戦力を得る事になる。
「とにかく見てみましょう」
テッサはノートPCにディスクを入れた。
ディスクが再生され、中身のデータがホログラムで空気中に映し出される。
人型アームスレイブ、或はパワードスーツのスペックが表示され、テストと思わしき画像が浮かび上がる。
「連中はテストを街中で行ったのです。自分は接触したのですが逃げられてしまいました」
「…このテストを行っている人は…ユーゼス=ゴッツォ氏では?」
テッサは少し動揺していた。
ZEUSという組織のユーゼス=ゴッツォという人物では軍の世界ではそれなりに名が知れている。
科学者でもあり兵でもあるという凄腕の人物である。
「私も信じられませんでした。あろう事か平和を守る立場である筈の彼が街を破壊したのです!」
ギリアムが眉間に皺を寄せながら叫んだ。
彼自身まだその事実を受け入れていないのだ。
371フルメタルウルフズ 第二十二話:2009/05/14(木) 23:00:13 ID:tc5pRuB60
「Mr.イェーガー、これはZEUSの意思なのですか?」
「違います。それはゴッツォ個人の意思です」
「しかし…この問題を私達に提示しても私達はまだ人間サイズのアームスレイブの実用化に着手してはいません」
「知っています。ですから0からではなく実用化が可能なレベルにまで情報を提供しようというのです」
ギリアムがブレスレットを外した。
「貴方のそれを解析する事で本当に可能なのでしょうか?」
「ミスリルにならそれが可能だと思います。世界でテクノロジーの最高峰といえばミスリルとアマルガムぐらいでしょう」
「なる程…前向きに対処します」
「よろしくお願いします」
ギリアムは礼を言うと大佐室から静かに退出した。
宗介がそれに続く。
廊下を歩きながら二人とも少しの間、無言だった。
その沈黙を破ったのは宗介が先だった。
「Mr.イェーガー・・・貴方は脇腹に傷を負っている。回復してはいる様だが…その分だと…ゴッツオを追えるのか?」
「やはり君にはバレていたか。今のままでは戦うのは無理だ。」
イェーガーが苦笑いをして脇に手を添える。
「我々に技術を提供する事の見返りは何を要求するんだ?」
宗介が尖ったトーンを含んだ口調になった。
組織同士の協力は政治的な駆け引きがある。
何もなしに情報が動くワケではない。
何かしらの利益が双方に存在するのだ。
「私のパワードスーツ“ゲシュペンスト”の強化かな」
「貴方は俺が以前使用した“ボン太君”を知っている。それと混ぜる事で強化できないか?」
「わからない。可能性はあると思う」
ギリアムが持ってきた情報は新たなる兵器と新たなる闘いの胎動を呼び起こそうとしていた…。
372フルメタルウルフズ 第二十二話:2009/05/14(木) 23:01:25 ID:tc5pRuB60
>ふら〜りさん
自分はコテやトリを付けるといった自己アピールはしない主義なので…
自己主張はSSだけで自分にとっては十分なんです
373作者の都合により名無しです:2009/05/15(金) 07:03:29 ID:7Y4FuK1d0
地球防衛組織って名刺はシュールだw
パワードスーツの強化は新たな戦いの布石かな
374電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/05/15(金) 17:04:27 ID:WURbHMjh0
>ふら〜りさん(HALは設定上究極の頭脳派ですからねえ)
ふら〜りさんの提示された構図にならえば、サイVS我鬼は「力VS力」のきわめて単純な
図になってしまうんですよね。これってかなり難しく、実際書いてる私も結構大変です。
日ごろバトルものを書いてらっしゃる方をすごく尊敬します。
サイ本人は基本力押し(+超観察力)の人ですが、通常は仲間、とりわけアイのサポートが
それを補っています。逆にいえばアイのサポートが得られなくなったときこそが、彼の最大の危機
ともいえるのですが。

>>333さん
体重が重ければそれだけで、攻撃の威力がグンと増すらしいですね(当たり前か)
人間形態だと「ボクシングの級とかってレベルじゃねーぞ!」という体重差ですので、
その辺も補うために虎化したものと思われます。多分。それでも軽く2トンは差がある悲しさ。
ピクルw巷でうわさのシベリアトラさえ食ったという原始人www
このSSがクロスオーバーものだったら是非戦わせてみたいところですが、そうでないのが残念。

>>334さん
そうですね、ご指摘の通り、単純な力では「我鬼>>>(越えられない壁)>>>サイ」ですね。
その辺の単純な力量差をどうやって埋めるかがこの戦いのキモになるかと思います。
双方ハンパなく丈夫なのでなかなか決着がつかず書いてる私涙目。

>>335さん
分かりやすいタイトルつけすぎましたw
仰る通り、力押しでの決着はないと思っていただいて結構です。
一応本作のヒロインですし、アイにはもう少し頑張ってもらう予定でいます。
戦闘の短さで定評のある原作に倣い、バトルはスパッと終わらせてさっさと話を進めたいところ。

>>336さん
別コテでではありますが短編も投下したことがあります。
WIKIまとめの方に載ってますので、お暇なときにでも読んでいただけると喜びます。
正直言って短編は苦手ですが。うまく書ける人スゲエ。
375電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/05/15(金) 17:05:35 ID:WURbHMjh0
>サマサさん
サイはどんどん進化していきますからね。シックスの手も加わったとはいえ最後には
「顔見ただけで人のk(略)」なんてチートな能力まで加わってましたし……
哺乳類の域を出てないだけ虎はまだいい方かもしれません。
ちなみに私の知人は連載当初、「Xがカピバラに化けてネウロを追い詰める」という
展開を期待していたそうです。それはそれで面白そうですが、別の漫画になってしまいそうだ。

>サナダムシさん(SS感想)
でかいカマキリ……そういえば『デッドリー・マンティス』という巨大カマキリが出て来る映画が
あったなあと、妙なところで昔をなつかしんでしみじみしてしまいました。映画では確か毒ガス弾で
カマキリを倒していたのですが、もちろんしけい荘メンバーはそんな無粋なことはしませんね。
しかしここで誕生日が生きてくるとは。なにげない短いエピソードもきっちり話の流れに活かす
なんて、うまいなあ……
キャラクターで印象に残ったのは天内でした。愛と闘争……その発想はなかったわ。
彼がラスボスになればいいなあと密かに期待。

>サマサさん(SS感想)
ヤミちゃんがさらわれた……まさかの展開に唖然呆然。いやしかし、原作主人公の遊戯が
ヤミちゃんの力を借りず彼自身の力で戦う光景はすごく見たいぞ。がんばれ。
アレクサンドラ様大好きなので、再登場が嬉しいです。コミカルとシリアスが入り混じって、
実にいいキャラしてますね彼女。そして何より最終決戦を前に、こういうギャグを取り入れつつも
きっちり燃え展開を作ってしまうサマサさんご自身に拍手。

>フルメタル・ウルフズの方
フルメタ懐かしい……ギャグ短編しか読んでないので『ミスリル』の面子はわからないのですが、
まとめサイトで読んで美樹原蓮とか出てきたときは思わず涙がちょちょ切れました。
ちょっとハードボイルドな雰囲気がキャラに合ってていいですね。
ボン太くんとゲシュペンスト混ぜるとすごく可愛いものが出来上がりそうな気がする……


『カルマ』と『ダイの大冒険AFTER』はキャラクター把握に原作読了が必要そうなので、
今度漫喫いって聖矢とダイ大読んできます。
376ダイの大冒険AFTER:2009/05/15(金) 21:50:52 ID:oHV6QwlC0
第十一話 神を超える巨悪達
「今の落雷はライデインだった。何で勇者しか使えない筈のライデインが・・・」
物思いに耽るヒムを尻目に三人は声を揃えて言う。
「ダイ(様)があそこに!!!!」
「長老にレイラ、世話になったな!」
そう言うとポップはすぐに飛び立ってしまった。
「なんとも慌ただしい旅立ちじゃな。」
ポップの後を追いかける三人にレイラが話しかける。
「必ず、必ずダイを見つけたら、この村に来るように言ってね!?
絶対よ!!」
レイラの少し濡れた顔を見て三人は赤面した。
「ダイ君も困りものですね。レオナ姫やレイラさんをこんなに心配させるなんて。」
アバンはそう言っているが、かつて自分もフローラ姫に心配を掛けさせている。
「ぐずぐずしている暇はないぞ!急ごう。」
こうしてポップ達はアーリーの村を出た。彼等の背中を見ながら長老と女性が話す。
「漆黒に彩られたこの魔界を変えることが出来るのはやはり、あの人間達かもしれんな。」
「私もそう感じます。」
近い未来に魔界は変革を起こす。
その先にあるのは絶望か、希望か。
「ここにダイがいるかも知れないんだな?」
ポップ達四人は必至でダイの行方を捜した。
「ん?何だありゃあ。」
377ダイの大冒険AFTER:2009/05/15(金) 21:54:05 ID:oHV6QwlC0
ヒムの目線の先には一人の人間に近い魔族が倒れていた。
「や、やべえんじゃねえか?」
四人は息も絶え絶えの魔族に近づいた。
「もしかしたらここで何があったかを知っているかもしれませんね。」
四人はとりあえず治療をした。
魔族の男はもう少し発見が遅れていれば死んでいただろう。それ程深い傷だった。
ポップはメルルを救ったザオリク級の魔力で見る見るうちに彼の傷を塞いだ。
「やっぱり結構魔力が減るな・・・」
ばてているポップを尻目に男は目を覚ます。
男の言葉を聞いた瞬間体力のきれたポップですらが飛びあがった。
「ダイ!!!ロザリー!!!」
「ダイだって!!!!!!」
四人は一斉に男に飛び掛かった。
「お前達は一体!?」
「「「「それはこっちのセリフだーーー!!!!!!」」」」
冷静に男の立場になれば最悪の状況である。
死にかけの状態から回復したと思ったら男四人が大声を張り上げて顔を近づけるのだ。
ホモでなければ吐いてもおかしくはないが比較的にムサくない事が唯一の救いだった。
「ダイを知ってるのか、知ってるのかー!!」
ポップは唾を飛ばして男に顔をぶつけて叫んでいた。
「言え!!!ダイ様は今どこにいる!!!どこだーーー!!!!」
「ラーハルトってあんなキャラだったか?」
ヒムがかなり戸惑った顔でラーハルトを見ている。ポップとラーハルトはメダパニに掛かった様な顔で男を見る。
「まあ、待ってください。いきなり大声を出しても何も分かりませんよ?落ち着いて、
まずはあなたの名前を教えて頂けませんか?」
アバンの言葉によって二人は落ち着いた・・・様に見えた。
「俺の名前はエスタークだ。」
378ダイの大冒険AFTER:2009/05/15(金) 21:56:11 ID:oHV6QwlC0
ヴェルザーの間
「それでは地上に殴りこみですね?」
「ああ、だがあくまでも宣戦布告だ。間違っても地上を破壊するな。」
「分かりました。」
カンクロウはヴェルザーの命令を受け、地上に向かった。
「これで地上は俺の物だ。」
その時我愛羅がヴェルザーの肉体を持ち帰ってきた。
「おお、やっと持ち帰ってきてくれたか!!!礼を言うぞ我愛羅。」
ヴェルザーの石像から黒い影が伸び、その影がヴェルザーの肉体に結びついた。
その瞬間、石像は崩れおち、巨大な漆黒の竜が眼を開けた。
「フフフ、はははははははははーーー!!!!!やっと元に戻ったあ!!!待っていろ地上、そしてダイよ。
バランの血を引く貴様を殺し、地上を、太陽の光をわが手に!!!」
限りなく強欲な暗黒の竜を睨みながら我愛羅は部屋を後にする。
「くくくくく。」
極限まで喜びに浸っているヴェルザーに周りは見えていなかった。
「自身の復活、そして地上支配のスタート、幸運続きで微笑ましいですね。ほほほほほ。」
全長数十メートルあるヴェルザーの後ろに190センチ程の魔族が立っていた。
379ダイの大冒険AFTER:2009/05/15(金) 21:58:02 ID:oHV6QwlC0
「貴様は魔道士ゲマ!どうせミルドラースの使いだろう。」
「ほほほ、その様に邪険になさらなくとも・・・」
上機嫌だったヴェルザーの表情が一変して憤怒の顔になっていた。
「ミルドラースは今何をしている?バーンが死んで一番喜ぶだろうが・・・」
「ミルドラース様は大変不機嫌でございますよ。『獲物を横取りされた』と。ほほほ。」
数百年前、魔界の神の座を競い合い、戦った二人の魔王。バーンとミルドラース。
そして主君を護衛するゲマとミストバーン。
四人は魔界の平原で死闘を繰り広げた。
死闘に終止符を打ったのはバーンのカラミティエンドだった。
ミルドラースは肩から切り裂かれ、事実上勝敗を決した。
ゲマとミストバーンの戦いは両者共に無傷であったが、主君の戦いが決した事により、戦いを止めた。
その戦いをヴェルザーはすべて見ていた。
「あの戦いはまるで昨日の様に覚えている。地上を欲したオレと地上を消そうとしたバーンとミルドラース、
そのうちの一人は死んだがな。」
「バーンに復讐する為にミルドラース様は『奥の手』を編み出したのですが、
バーンがダイに殺されたそうなのでミルドラース様はダイに矛先を変えるそうです。ほほほ。」
「相変わらず小さな男だ、いつまでも『エビルマウンテン』に閉じ籠っていると小さな事にとことんこだわるな。」
ヴェルザーはまた高笑いを繰り返す。
              
「ダイは死んでなんかねえよ!あいつの死体なんかこの近くになかった。」
「ならばダークドレアムが消したのだろう?ダイが生かされている保障などない!!!
とにかく俺はダイの仇を討つ、お前達には感謝している。」
エスタークは呟きながら、涙を流して去って行った。
「先生、ダイは死んでなんかいませんよね!!」
ポップの言葉にも心なしか力が入らなかった。
380ガモン:2009/05/15(金) 21:59:47 ID:oHV6QwlC0
第十一話 投下完了です。前回>>244
接触事故で入院していた為長い間書き込みができずにいました。
申し訳ございませんでした。

>>サナダムシさん
お疲れ様です。
スペック対カマキリ、想像以上に胸が高鳴りました。
スペックの無呼吸連打はいまだに健在ですね。


>>銀杏丸さん
お疲れ様です。
とてもおもしろいです。
しかし原作キャラをあまりよく知らないのでこれを機に読もうと思います。

>>フルメタル・ウルフズさん
お疲れ様です。
失礼ながらやはり原作を知らないのですが、シュールだなあと思いました。

>>サマサさん
お疲れ様です。
この死人戦争が物語の最終章になりそうですね。
遊戯王とサンホラもドラえもんと同じ様にシリーズ化されるのでしょうか?
381作者の都合により名無しです:2009/05/15(金) 22:54:25 ID:mKs5cS8h0
電車魚さんの別コテってなんだったっけ?

>フルメタ作者さん
最近好調そうで嬉しいです。宗助もいよいよ暴れてきそうですな。
ボン太君と調合してとんでもない兵器が生まれそうな感じだ。

>ガモンさん(入院とは大変でしたな)
力関係はダークドレアム>バーン=ヴェルザー>ミルドラース>エスターク?
ドレアムの強さは確かに郡を抜いているような
382作者の都合により名無しです:2009/05/16(土) 00:09:43 ID:OsJUhFkb0
ガモンさん大変だったんだねえ
383作者の都合により名無しです:2009/05/16(土) 03:12:50 ID:08zYK4Vz0
ガモンさん乙。大変だったな
もう大丈夫なのかな?

ところで語ろうぜスレってもうないの?
384作者の都合により名無しです:2009/05/16(土) 17:21:44 ID:FxDMC+x80
以前に落ちたね>語ろうぜスレ

フルメタルウルブス元ネタ好きなので復活うれしい
コテは主義でつけないかー。それもアリかもね
385作者の都合により名無しです:2009/05/16(土) 20:54:38 ID:47OGGbuO0
エスタークなんとなく可愛いなw
386作者の都合により名無しです:2009/05/16(土) 23:51:45 ID:RI5l80tu0
とある小さな公園にて。
「うわーん、やめてよじん君!耳が取れちゃうよー!」
ちょっと意地悪そうな男の子が、ぬいぐるみっぽい何かの耳を引っ張っていた。
その名はウサコッツ。可愛らしい見かけは世を欺く卑劣な策略。本性は邪悪なる悪の手先・フロシャイムの一員だ。
しかし彼は悲しいかな、子供に危害は加えることが出来ないように設計されて造られているのだ。子供の誘拐が主な
任務であるが故、人質にした子供に万一のことがあってはならないからである。
そんな彼の元に、救世主は現れた。
「こら、よしなさい。弱い者いじめなんてしちゃダメでしょ?」
まだ幼さを残す声。そこにいたのは、妖精のように可憐な一人の少女だった。
―――いささか緊迫感に欠ける、ウサギと少女の馴れ初めであった。


天体戦士サンレッド 〜友情秘話!?ウサギと少女と真っ赤なヒーロー


「じん君はいじめっ子でねー。いっつもぼくやぼくの友達をいじめるんだ。ひっどいよねー」
フロシャイム川崎支部所属・ウサギのぬいぐるみ型怪人ウサコッツはプリプリ怒りながら少女に熱弁を振るう。
「政治家もさ、こういうところから考えていかないとダメだと思うんだ。郵政民営化とか定額給付金もいいけどさ。
そう思うでしょ、えっと…」
「テレサ・テスタロッサよ。テッサでいいわ」
「へー、テッサちゃんかー。外国人だね、かっこいい!あ、ぼくはウサコッツだよ」
「ふふ、可愛いお名前ね、ウサちゃん」
「もー、バカにして!ぼくはぜんぜん可愛くなんてないよっ!」
ぶんぶん腕を振り回す姿は、どこをどう見ても可愛かった。少女―――テッサの胸をズキューンと貫くくらいに。
「でもテッサちゃん、初めて見る顔だよね。どっか遠い所に住んでるの?」
「え?そ、そうね。遠いと言えば遠いかしら…」
「じゃあ、今日はお休みだから遊びに来たとか?」
「ええ…気分転換に、ちょっと遠出してみようかなって。ウサちゃんは近くに住んでるの?」
「うん。この近くにアジトがあるんだ。世界征服を企む悪の組織・フロシャイム。ぼくはその一員なの!」
「世界征服…悪の組織…!?その一員って…どんな悪いことをしてるの?」
387遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/05/16(土) 23:52:32 ID:RI5l80tu0
テッサは息を呑んで居住いを正し、目つきを少し鋭くした。
―――知ってる人は知っていようが、彼女はとある<正義の組織>において、重要な地位にいる。
眼前にいるのが如何に見かけはファンシーなぬいぐるみでも、本当に悪事に手を染めているのならば、決して容赦は
しない。彼女の立場と責任感が、悪を見逃すことなど許しはしないのだ。
「えーっとねえ…空き缶入れに、使い古しのフライパンを捨てようとしたことがあるよ!それから、人ん家の蛇口の
元栓を固く締めちゃったこともあるかな」
「…………」
「あ、そうだ!後輩のアントキラーっていうアリジゴク怪人は停めてあった自転車を勝手に持っていったし、ギョウ
って奴はね、合コンで失敗した腹いせに自転車を蹴り飛ばしてお巡りさんに注意されたくらいの悪党だよ!」
「…………」
テッサは思いっきり脱力した。確かにどれもこれも悪事には違いないが、<悪の組織>がやるレベルではない。街に
よくいる<素行不良のおにーちゃん>レベルだ。
「そうだ!忘れちゃいけない!ヒーローの抹殺だって企んでるんだよ!」
「ヒーロー…?」
「そう。天体戦士サンレッドって奴でね―――」
「お?なんだなんだ、ヴァンプのとこのウサ公じゃねーか。女の子なんか連れちゃって、生意気にデートか?」
噂をすればなんとやら―――溝ノ口発の真っ赤なヒーロー・サンレッドの登場である。
「あ!あいつだよ、テッサちゃん!あいつがサンレッド!」
「あれが…」
テッサはマジマジとその姿を見つめる。頭部はなるほど、ヒーローらしく真っ赤なヘルメットを被っているが、他は
<アニメ第二期決定>と文字の入ったTシャツに半ズボン、サンダル履きというだらしない格好だ。
テッサの中の<正義のヒーロー像>が、ガラガラと崩れていくには十分過ぎる。そんな彼女を尻目に、ウサコッツは
レッドに駆け寄り、飛び掛る。
「レッド、今日こそぶっ殺すよー!」
拳から飛び出した鋭利な爪―――ウサコッツ必殺のデーモンクロー。鋼鉄さえも易々と断ち切る爪はしかし届かず、
ウサコッツは耳を捕まれて宙釣りにされた。
「お前な…毎回毎回、やめろって。そろそろ無駄だって悟れよ…」
「うっうるさいやい!レッドのバーカ!甲斐性なし!ヒモ!かよ子さんに捨てられちゃえ!」
「…………」
388遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/05/16(土) 23:53:39 ID:RI5l80tu0
レッドは無言でウサコッツをぶん回す。ウサコッツは世にも哀れな悲鳴を上げた。
「ちょ、ちょっと!やりすぎですよ、あなた!」
「あん?何だよ、えーっと…」
「テッサです。それよりウサちゃんを離してあげてください!そこまですることないでしょう!」
「…命狙われたんだけど、俺…」
毒気を抜かれつつ、レッドはウサコッツを離した。グルグル目を回しながらも、ウサコッツはどうにか立ち上がる。
「うう…綿がひっくり返るかと思ったよ…」
「自業自得だろうが…全く」
やれやれとばかりに鼻を鳴らすレッド。テッサはウサコッツを介抱しつつ、レッドに尋ねた。
「えっと…レッドさん?あなたの目から見て、フロシャイムとはどういう組織ですか?」
「あー?どういうって…失格だよ失格!悪の組織として!」
レッドはぶっきらぼうに言い放つ。
「近所付き合いは欠かさない。ペットボトルは洗って捨てる。秋の味覚はお裾分けしてくれるわ、世のため人のため
になることはするわ―――もう悪の組織よりボランティアクラブでもやってろっての!こんなんじゃ世界征服なんざ
百年経ってもできねーよ!」
「でも、あなたの命を狙ってるんですよね?」
「そうは言うけどな、こいつら<Tシャツ>の俺にいつもボロ負けしてんだぞ?バトルスーツ着せることもできねー
んだぞ?はっきり言うけどダメダメだよ!何が何でも俺を殺したいって<熱意>がさっぱり感じられねーんだよ!」
少しは自覚もあったのだろう、ウサコッツは項垂れてションボリしている。レッドも多少は気が咎めたのか、バツが
悪そうに顔を背けた。
「わりーけど、本音だよ…えっと、フグ刺しちゃんだっけ?」
「テッサです」
「…あんたからも忠告しといてやれよ。悪の組織なんてやめろって。それじゃあな」
レッドは公園から去っていく。あとには春には似つかわしくない寒々しい風と、立ち尽す一人と一匹が残された。
「ねえ…ウサちゃん。あの赤い人の言う通りだわ。あなた、悪の組織なんてやめなさい」
テッサは真摯な面持ちで語った。
「あなたに悪党なんて、どう考えても向いてません。もっと自分に合った生き方が、きっとあるはずです」
「テッサちゃん…」
389遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/05/16(土) 23:55:27 ID:RI5l80tu0
「小学生にいじめられて、悪事もロクにしない。相手にしてくれるのは、正義のヒーローとは名ばかりのチンピ…
コホン、ちょっとガラの悪い赤い人だけ。そんなんじゃ、世界征服なんて夢のまた夢じゃない。いえ、そもそもがそんな
恐ろしいことを夢見ちゃいけません」
「…………」
ウサコッツは、黙ってそれを聞いていた。
「私もできることなら協力するから。ウサちゃんには悪の道よりも、陽の当たる世界で生きてほしいの…」
「…ありがとう、テッサちゃん。心配してくれて」
でも、それはダメだよ。ウサコッツは迷いも屈託もなく答えた。
「ぼくはこれでも極悪非道の怪人なんだ。今さらまっとうな生き方なんてできないよ」
「ウサちゃん…あなたは裏の世界の本当の恐ろしさを知りません。さっきの赤い人みたいな、敵対しつつも適度に
馴れ合って手加減してくれるような正義の味方ばかりじゃないわ。圧倒的な兵力と科学力を以て容赦なく悪を挫く…
そんな正義の組織に目を付けられたら、どうするの?工作員を送り込まれ、組織は壊滅。あなただって無事では…」
「望むところだよ!」
ウサコッツは夢と希望に満ちた笑顔(彼には表情というものはないが、テッサにはそう見えた)を浮かべる。
「ぼくは立派な悪の化身としてフロシャイムを盛り立てていくんだ。正義の組織が工作員を送り込んでくるんなら、
大歓迎だよ。そんくらいの方が<ハク>が付くじゃん!逆に返り討ちにしてやろうってもんだよ!」
「…………」
「うわー、何だかその気になってきちゃった!早く来ないかなー、正義の工作員!楽しみだな〜!」
「…そうね」
テッサは、少し寂しげにウサコッツに笑いかける。
「来てくれるといいですね、正義の組織からの工作員」
それはまるで、無邪気にサンタを信じる子供と、そんなものはいないと理解してしまった大人のようだった。


「あ、もうこんな時間だ。ぼく、そろそろ帰らなきゃ」
「あら、ほんと…随分話し込んじゃいましたね」
ウサコッツはすたすた公園の出口へと駆けていき、そこで名残惜しそうに振り返った。
「ねえ、テッサちゃん。また会えるかな?」
「そうね…またお休みが取れたら、きっとここに来るわ」
「うん、きっとだよ!じゃーね、テッサちゃん!バイバイ!」
手をふりふり、ウサコッツは夕暮れの道をポテポテと歩いていく。その姿が消えるまで、テッサも手を振り返していた。
390遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/05/16(土) 23:56:44 ID:RI5l80tu0
「…ふう」
そして溜息とともに、テッサは携帯電話を取り出した。彼女だって携帯電話は持ってますよ…一般のものとは比較に
ならないほど高性能の携帯電話をね…。
テッサはそれを握り締めて、しばし逡巡する。脳裏を駆け巡るのは<職権乱用><本末転倒><公私混同>といった
四字熟語の羅列。そして、ウサコッツの笑顔だった。
(ぼくは立派な悪の化身としてフロシャイムを盛り立てていくんだ。正義の組織が工作員を送り込んでくるんなら、
大歓迎だよ。そんくらいの方が<ハク>が付くじゃん!逆に返り討ちにしてやろうってもんだよ!)
「…くっ!」
そうは言っても、どう考えても彼女の所属する<組織>が、フロシャイムへの派兵を認めるとは思えない。それ以前
に、鼻にも引っかけない可能性の方が高いだろう。
<組織>はヒーローごっこをやっているわけではない。もっと対処すべき巨悪は、たくさんあるのだ。
そんなこと、テッサは分かりすぎるくらいに分かっている―――それでも。
それでも、ウサコッツの笑顔を心の中から消すことはできなかった。
今から自分の為そうとしていることが、恐ろしい程の背信行為であることも理解している。
普段の彼女なら思い浮かべることすらない、悪徳。
絶対に選ぶはずのない、裏切り。
―――ある意味で、彼女は完膚なきまでに敗れ去っていたのだ。ウサコッツの、桁外れの愛くるしさの前に。
震える指でボタンを押した。程無くして、繋がる。
「…サガラさんですか?」
「!た…大佐殿!?一体どうしたのですか!大佐殿が自ら連絡してくるなど…」
「単刀直入に言います。相良宗介軍曹―――あなたに、ある任務に就いてもらいたいのです…」
「任務…ですか?」
「はい。実は私、偶然ですがある悪の組織と接触したんです」
「な!?ま、まさか拉致監禁された挙句、過酷な拷問を…!?」
「されてません!…何と言いましょうか、彼らは巧妙に偽装し、世間的にはまるで単なる慈善団体であるかのように
振る舞っているのです。しかし…私は彼らの中に、恐るべき<悪>の匂いを嗅ぎ取りました」
「悪の匂いを…!」
電話越しでも、彼の戦慄が伝わってくる。テッサはあまりの罪悪感に頭痛と眩暈がしてきた。
391遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/05/16(土) 23:57:31 ID:RI5l80tu0
「しかし、現時点ではあくまでも<匂い>だけなんです。彼らは完璧な工作によって、証拠は一切残していません…
これでは<ミスリル>としても動きようがないのです」
「くっ…バカな!確かな悪がそこにありながら、身動きが取れないと仰るのですか!?」
「その通りです―――そこでサガラさん。あなたにその組織に潜入してもらいたいのです」
「潜入…即ち、<ミスリル>が動くに足るだけの証拠を押さえてくればよいのですね。了解しました。必ずや大佐殿
の期待に応えてみせます!」
その声は真剣そのものだ。テッサは自身への嫌悪感で腹痛と吐き気を覚えた。
「あ…あの、あくまでも私の予感でしかないのですし、あなたにも本来の任務があることですし、そこまで気負って
もらわずとも…本当に、任務というよりは私の個人的なお願いくらいに考えて、空き時間を利用してのちょっとした
様子見程度でいいので…」
「いいえ!やるからには誠心誠意、決死の覚悟で任に当たらせていただきます!」
「…あ…ありがとう…では、詳細は後ほど…」
テッサは電話を切り、深く、ふかーーーく溜息をついた。自分は悪魔に魂を売ってしまったのだ…。しかもこれだけ
の悪徳を為したところで、これが本当にウサコッツのためになるのかどうかさえ分からない。今考えると、もっと他に
いい方法はなかったものかと思える。
だが…もう、自分はやってしまったのだ。改めて己の罪の重さを自覚し、少女は泣いた。
断っておくが、本来のテッサは間違ってもこのような愚行に手を染めるような人物ではない―――だが。
そんな彼女から判断力と冷静さとモラルを完全に失わせて、こんなことをやらせてしまうのがウサコッツ自身ですら
気付いていない、恐るべき能力…。即ち―――<可愛いは正義>である!


―――そして、別の日。
「へー。この公園でそんなことがあったんだ」
「うん。とってもいい子だったんだよ」
「ソイツ スキ」
ウサコッツはアニマルソルジャーの面々と共に、公園を訪れていた。そこに。
「こんにちは、ウサちゃん」
「あ…こんにちは、テッサちゃん!」
三つ編みにした髪を風に靡かせ、ウサコッツ達に向けて笑いかけるテッサの元に、アニソルの面々が駆け寄る。
392作者の都合により名無しです:2009/05/16(土) 23:58:38 ID:RI5l80tu0
「この子?こないだここで会ったのって」
「そーだよ、ねこ君。テッサちゃんだよ」
「はじめまして。皆、ウサちゃんのお友達?」
「うん。デビルねこにPちゃん、それにヘルウルフだよ」
「よろしくね!」
「オマエ スキ」
無口なPちゃんは何も喋らないが、翼をパタパタさせて挨拶する。
「ふふ、皆よろしく…ところでね、ウサちゃん。ちょっとお願いがあるの。聞いてくれる?」
「お願い?」
「実はね。あなた達の組織に入りたいって子を紹介したいんだけど…」
「え!ホントに!?」
「すごいや、ウサちゃん!ねえねえ、どんな子なの?」
はしゃぎ回る可愛い奴らに頬を緩めつつ、テッサは公園の茂みに向けて声をかけた。
「出ておいで、ボン太くん!」
「ふもっふー!」
草むらから飛び出したモフモフした謎のナマモノは、元気よく鳴き声をあげて愛想を振りまくのであった。

―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
393作者の都合により名無しです:2009/05/17(日) 00:11:16 ID:o7YYIV390
フグ刺しで赤い人だとどうしてもアカギを連想する
今回もう番外編かw第三部始まったばかりなのにw
連投規制中?
394サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/05/17(日) 00:18:39 ID:6XKxmPB70
投下完了…そして今気付いたが、>>387から遊戯王のタイトル消すの忘れてた!
えー、今回のサンレッドは前回(>>98->>102))より時系列は前の話となります。某Fさんからの疑問である
<何だってミスリルが軍曹を送り込んだのか>のアンサーとなります。本文中でも言ってますが、テッサは
こんなろくでもない真似をする人間じゃ<絶対に>ありえません。それでもやっちゃったのが、ウサコッツの
恐るべき愛らしさ。彼はある意味フロシャイム最強の怪人なのです。

話は変わりますが、ジャンプで新連載の<めだかボックス>。敬愛する西尾師原作なので悪く言いたくないのですが、
正直「こういうのはいいからりすかの続き書いてよ…」としか。
だってあんなごく普通の漫画、別に西尾師じゃなくてもいいじゃん!言語センスやネーミングセンスくらいしか
西尾を感じられないよ!そもそも西尾師の味は、クドいくらいの文章なんだから、漫画とは致命的に相性悪い
気がする…。とまあ、敬愛するからこそ、厳しいことを言わせていただきました。悪しからず。

>>366 城之内はいじられキャラですね、やっぱり。
>>367 遊戯はイマイチ活躍できてないので、頑張らせたいです。
>>368 何度も言ってるけどオリキャラじゃなくて<Moira>の登場人物ですよ…何度も同じことを言わせないで
     ください・・・何度も言わせるって事は無駄なんだ…無駄だから嫌いなんだ…無駄無駄…。
     感想書いてくださってる人に言うセリフじゃないですね、すいません(汗)
>>フルメタル作者さん
遅ればせながら、復活おめでとうございます…しかしユーゼス!なんて胡散臭い男なんだ、あんたは!
もう彼の名前を見ただけで笑っちまいます。僕の中で彼は全ジャンル通じても5本の指に入るネタキャラ
なんで…。もう彼がメシ喰って領収書を貰ってる姿だけでご飯三杯はいけます。

>>電車魚さん
サイは確かに力押しの人ですよね。大概はそれで押し切れるだけの実力があるし…惜しむらくは、やはり
「相手がネウロだった」この一点に尽きると思います。
レベル99で余裕こいてたら、レベル500くらいの超チート野郎だったとか、可哀想にも程がある…。まあ
ネウロ相手にした全員に言えることでしょうが。
395サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/05/17(日) 00:21:38 ID:6XKxmPB70
>>ガモンさん
入院…お疲れ様です。
しかしながらこの魔界、ヴェルザーはいるわミルドラースはいるわダークドレアムはいるわ、
なんというか幽白の魔界篇を思い出す群雄割拠ぶり。
ここは一つ魔界最強トーナメントを開催するしか(ねーよ)。

>>393
こういう話も書いとかないと、暗い話ばかりじゃ気が滅入るので…。
連投規制の支援、ありがとうございました。
396作者の都合により名無しです:2009/05/17(日) 09:56:43 ID:c08c3RlE0
サンレッドの元ネタは知りませんが
いい意味でドタバタとほのぼのとしてて
サマサさんらしい味が随所に出てて宜しいです。
こっちの話は徹底的に明るく楽しくされた方が
サマサさんも遊戯王でノリやすいでしょうね。

俺もめだかボックスはイマイチと思います。
西尾さんが本当に原作かぁ?普通の学園モノですよねえ。
397作者の都合により名無しです:2009/05/17(日) 17:07:52 ID:o7YYIV390
お疲れさんですサマサさん
牧歌的な正義と悪の組織でほのぼのするなw
398しけい荘大戦:2009/05/17(日) 20:01:30 ID:1dYkt42X0
第十八話「チェックメイト」

 光成と園田が、死闘を制したスペックのもとに駆け寄る。
「い、生きとるかっ?!」
「もうすぐパトカーが来る! しっかりしろッ!」
 救急車はすでに警官やテロリストの搬送で手一杯のため、園田は機転を利かせ前もって
パトカーを呼んでいた。
「ハハ……元気、イッパイ……ダゼ……」
 精一杯の虚勢を張るスペック。唇を動かすたびに口の中から血が滴り落ちる。
 まもなく到着したパトカーにスペックと加納を乗せると、園田は改めて現況の整理に取
りかかる。
「アンチェイン……いや、しけい荘には本当に感謝せねばならんな。これで東西南北のう
ち、東、西、南からの攻撃は防げた……。あとは残る北門を守りきれば、我々の完全勝利
だッ!」
 すると、光成の甲高い声が園田を呼ぶ。
「おォ〜い、園田君。なにをやっておるんじゃ」
「はい?」
「モニター室で観戦の続きじゃ、続き。カマキリ以上の化け物が出ないとも限らんしのう。
ホッホッホ、こりゃあ血がたぎるわい」
 もう少しで死ぬところだったのに、光成の観戦欲は一ミリも萎えてはいなかった。
「ほ、本当にこの人は……」
 苦笑いを浮かべるしかない園田であった。

 西門攻略に失敗したケントたちテログループは、切り札のカマキリに味方の大部分をや
られたこともあり、その後あっけなく制圧された。
 機動隊数人に取り押さえられ、もがくケント。
「さァ来るんだ、色々しゃべってもらわなきゃならんからな」
「ガッデムッ! アレンめ、アレンの奴はどこに行きやがった! あいつもタイホされた
のかッ?!」
399しけい荘大戦:2009/05/17(日) 20:02:18 ID:1dYkt42X0
「アレン……? この辺りのテロリストは全員逮捕したが、アレンなんてのはいなかった
ぞ。ウソばかり吐きやがって、いい加減観念しろ!」
「くっ……くそォッ! あいつさえ、あいつさえいなければァッ!」
 逆上する大巨人と警察が格闘している頃、肝心のカマキリの生みの親はというと──
「いやはや、まさか敗けてしまうとはね。でかくしたみたところで、ムシは所詮ムシって
ことか」
 ──あらかじめ用意していたママチャリで逃走していた。
「しっかし、これからどうすっかねェ。……ペイン博士の研究チームに、また戻ってみる
かな」

 吉報は摩天楼を駆け上がり、ホテル最上階の大統領本陣にも伝えられる。ワインを嗜ん
だ赤ら顔で、上機嫌に笑うボッシュ。
「優秀なるボディガード諸君、どうやら憎きテロリズムの敗北はほぼ決定的のようだ。こ
れだよ、これこそが開拓精神だよ。君らの手腕を発揮する機会を与えられなかったのは残
念だがね」
 天内がボッシュに微笑みかける。
「なにをおっしゃいます、大統領(プレジデント)。あなたは今こうして怪我一つするこ
となく、リラックスしてワインを楽しんでおられる。この事実こそ、我々がなにより職務
を全うしていると感じられる瞬間なのです。
 そして、我々が戦闘をせずに済んでいるのはあなたのために集まった大勢の人間による
もの──すなわち大統領のご人徳の賜物に他なりません」
 歯が浮くような台詞に、ボッシュはさらに気を良くする。やはり天内は人を喜ばせるツ
ボを心得ている。
400しけい荘大戦:2009/05/17(日) 20:03:07 ID:1dYkt42X0
 二人のやり取りに、半ば呆れた目を向けるゲバル。
「……やれやれ、すっかり祝勝会ムードだな。しかし、どうやら俺たちにアクションスタ
ーの役は回ってきそうにないな、シコルスキー」
「まったくだ。テロリストをこの手でハントしてやりたかったがな」
 口ではこういっているが、シコルスキーは「助かった」と心の中で何度も呟いていた。

 ──テロリストの『ボス』が濁り淀んだ心の声でささやく。
 不甲斐ない奴らめ。
 しかし、私の腹心の部下は全て北門に集結させている。
 北沢軍団は最初から場を乱す程度にしか役立たないと分かっていた。腕が立つという殺
し屋郭春成も、結局は金銭でしか闘争理由(モチベーション)を見出せない薄汚いハイエ
ナに過ぎない。ケントの補佐をさせたアレンは「私がいれば大統領の殺害など朝飯前です」
などとうそぶいていたが、ろくな兵器を造れなかったにちがいない。
 全ては前座。
 全ては捨て駒。
 全てはここから始まる。
 そしてホテルになだれ込めさえすれば──私の勝利だ。

 ホテル北門に立つ凶器人間、ヘクター・ドイル。彼はこれから最後の防衛戦に挑む。
401サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/05/17(日) 20:03:53 ID:1dYkt42X0
>>337より。
第十八話終了です。
402ふら〜り:2009/05/17(日) 20:17:38 ID:Glm4CcIX0
ふと気づいてみればフルメタが人気なようですな。

>>フルメタル作者さん
人間サイズのアームスレイブ、ときましたか。そう言われるとかなり凄そうですけど、しかしそこに
混ぜるのがボン太君て。しかもギリアム氏、全く否定せずむしろ肯定してる。でも本作においては、
ちゃんとシリアスバトルで活躍済みなんですよねボン太君。混ぜられてバージョンッアップするとか?

>>ガモンさん
当然のように賢者、もとい大魔道士として活躍してるポップが流石。で敵側の首脳会談で、「あの
バーンを倒した者!」としてダイのことが恐れられていないのが彼らの余裕を感じさせます。いわんや
ポップたちをや。でも各々の得意分野で活躍するのがダイ大戦闘の醍醐味、きっと皆見せ場がっ。

>>サマサさん
・決闘神話
お前を神なんかとは認めない! といえば009。ヒーローですねぇ。で待ってましたアレク女史! 
登場するなり、あっという間に硬軟両面の魅力を振りまき最後に母性。正直、ミーシャよりも……
・サンレッド
なるほどなるほど。公私それぞれの責任感に悩む大佐が可愛い。でもこうしてみると宗介は、
乱暴に言えばテッサ>ミスリルな面があるか。組織の命令なくともテッサの指示あらば動くと。
403ふら〜り:2009/05/17(日) 20:27:20 ID:Glm4CcIX0
リロード忘れとは不覚。でも割り込みにならなくて良かった……

>>サナダムシさん
ふむ、四人のトリはドイルですか。シコルたちの出番がないってことはないでしょうし、すると
ここが突破されてしまうか? でも天内もゲバルもいるし、まだまだ防御は厚い。なのにまだ
動じてない『ボス』……あの巨大カマキリを遥かに上回る攻め手が残っているということか。
404ダイの大冒険AFTER:2009/05/17(日) 22:45:14 ID:8u4nuEey0
第十二話 宣戦布告
ベンガーナ王国で世界会議が開かれ、ロモス リンガイア カール パプニカの国々が顔を出した。
しかしパプニカでは信頼の置ける王女レオナが不在、カール王国のアバンもいないので会議は困難を極めた。
「どうすればいいのかしら?」
前回はレオナやダイの活躍で各国の王も団結したが良き指導者がいないという事実にマァムも頭を痛めた。
そんな中クルテマッカ七世が発言する。
「ベンガーナはこんなこともあろうかと新たな兵器の導入に着手していたのだ。
それがアバン殿の発案した魔弾銃なるものを基本とした戦闘機と戦車だ!」
「確かに魔法攻撃の出来る軍隊なら、少なからず抵抗は出来るが、向こうは冥竜王ヴェルザーの主力部隊が相手だ。
圧倒的な戦力を持った者がいなければ到底魔界の魔物達には及ばない。」
実際に大魔宮で魔界のモンスターと死闘を演じたヒュンケルには俄仕込みの魔法軍隊が通じるとは思えなかった。
「その点は心配ございません。私どもの軍事力と魔力は某コールには劣りますが大抵の敵は一瞬で崩せます。」
冷や汗を掻きながら話すアキームに自信は感じられない。
「その会議、僕も混ぜてもらおうかな?」
会議室出入り口には信じられない者がいた。
「キルバーン!!?」
「いや、私はキルバーンではございません、黒の核晶もありませんしね。」
物腰が穏やかな所はキルバーンの面影を感じさせる。
「この人形を操っているのは誰?いたらまた私が倒すわ!」
マァムは辺りを見回す。しかし人形の周りには怪しい者はいない。
「こういう場合、考えられる事は一つしかねえ。あの人形後ろが少し出張ってるだろ?
あの人形の中に本体がいる。十中八九ポップは見たくねえだろうがな。」
マトリフは微笑を浮かべながら話す。
「くくく・・・」
人形は怪しげに笑う。
「今日は大事な用があってきたんですよ。」
405ダイの大冒険AFTER:2009/05/17(日) 22:46:25 ID:8u4nuEey0
「大事な用だと?」
「ええ、この人形は戦闘をする為に作ったものではないのですよ。」
「だったら一体何の為に?」
メルルが質問するや否や人形は光り出す。光の中からはマァム メルルには忘れられない人物が出てきた。
「開会宣言じゃん♪」
言い残すとカンクロウは穴を造り入っていく。
「待ちなさい!!」
マァムはカンクロウの後を追い穴の中へ入っていく。
「待て!マァム!!」
ヒュンケル達が動いた時には既に遅く、穴の中からランガーやオーがキング、ゴールデンゴーレム等が湧き出てくる。
メルルは急いで王達を避難させる。
「マァムさんをどうしたんだ!!」
突如穴から出てきた魔物にチウが怒鳴り付ける。
「ああ、いきなり魔界に来た女だな?俺達は地上に乗り込むようにカンクロウさんに言われてるんでね。
女は今頃カンクロウさんに返り討ちにされるか迷い込んだんじゃねえか?」
下卑た笑いを浮かべるゴールデンゴーレムにチウはキレた。
「ふ、ふざけるなあ!!!!」
チウがゴールデンゴーレムに襲い掛かる。
「窮鼠文文拳!!!」
床に沈められたチウに唾を掛けてモンスター達が詰め寄る。
気絶しているチウに獣王遊撃隊が近付く。
「心配ない、これくらい何度も経験しているさ。」
強がって見せるがやはりダメージは大きい。
「無理をするなチウ!」
クロコダインがチウの方向を向いた瞬間、ランガーがクロコダインを蹴り飛ばす。
「く、中々やるな。ならばこれはどうだ?獣王会心撃!!」
「ぐああ!!」
ランガーはカウンター気味に食らったので避けられず直撃した。
「何故こんなにも人数が少ない?一体ヴェルザーは何を考えている?」
ヒュンケルの問いにオーがキングの一匹が答える。
「戦力になりそうな人間がいないと聞いていたからな。これだけで十分だろう?」
「なめられたものだな。」
ヒュンケルは両手を交差した。
406ダイの大冒険AFTER:2009/05/17(日) 22:49:30 ID:8u4nuEey0
「やめてヒュンケル!!その技だけは!!!」
エイミが涙を流して訴える。
「貴方は例え闘えなくともアバンの使途の長兄なのです。ここでグランドクルスを使うのはとても危険な行為よ。」
フローラも必死でヒュンケルを説得するが彼の決意は固い。
「俺は死ぬつもりはない。信じてくれ。」
「ヒュンケル、ヒュンケルーーー!!!」
エイミが叫ぶ。しかしヒュンケルはエイミの叫びを聞き入れない。
「グランドクルス!!!!!!」
「な、なんだこの光は!!」
瞬く間に魔物達は光に包まれ、消滅した。
「ヒュ、ヒュンケルーー!!!」
エイミが急いでヒュンケルの元へ近づく。幸いヒュンケルは無事だったが無理なグランドクルスの発動で、
両腕と腰にかけて、夥しい程の血を流していた。
気がつけば穴は塞がっていた。
              〜天界〜
「あれ、ここはどこだ?俺、確かダークドレアムに斬られて・・・」
「ようやく目を覚ましましたか?」
ダイが目を開けたそこには理想郷の様な世界だった。
「あなたは誰?」
「私は世界樹の精霊、ルビスと申します。貴方に会って頂きたい方がいるのです。」
ルビスに連れられるままにダイは歩いた。
「ここは天界、今でこそこのような華やかな世界に見えるでしょうけれども”あの方”の予言では、
この天界が滅ぼされるかも知れないと危惧されています。」
「ここが天界!!?それに滅ぼされるかも知れないって。」
「着きました。」
二人の前には隻眼の老人が立っていた。
「私が神、オーディンだ。」
「神!!!」
驚くばかりのダイであった。
「そのように驚かなくともよい。既に君はこの私を遥かに超える力を持っているのだから。」
407ダイの大冒険AFTER:2009/05/17(日) 22:52:07 ID:8u4nuEey0
「一体どうして俺を天界に?」
「私の見た予言に、一人の竜の騎士が奇跡を起こすと出た。この先天地魔界は滅びの一途を辿るか、変革を起こすかの二つに一つしかない。」
オーディンはさらに語気を強める。
「私はバーンにさえ敵わぬ力しか持たぬ、そのうえ太古より生まれた”あの怪物”が解き放たれたら・・・世界は消滅する!!!」
ダイは話のスケールが大きすぎて訳が分からなくなった。
「それってダークドレアムのこと?俺はあいつに負けちゃってるからあいつを倒すなんて出来そうにないけど・・・」
「ダークドレアムも確かに脅威だが、私が言っているのは彼でもない。」
神の力を超えるバーンやダークドレアム、そしてさらに巨大な力を持つ怪物。
あまりにも次元の違う話となる気分である。
「その怪物ってなんなの?あなたは知っているんでしょ。」
「その名だけは口にしたくない。敢えていうなら奴のキーポイントは『忘れさせる』事が出来るということだ。
我々は”神々の過ち”呼んでいるがね。」
神の言葉にダイも固唾を飲み込んだ。
そして”彼”は最高神と勇者の語らいを見て微笑んでいた。
             〜魔界〜
「ここにもいないわ。」
マァムは一人魔界にいた。
「どうしよう、一人で魔界に来ちゃって、皆はどうしているかしら?」
思い悩むマァムを好戦的なモンスター達が襲いかかる。
しかしマァムにとっては大した敵ではなかったのですぐに戦闘は終了したが。
「とりあえずどこか休める場所に行かなくちゃ。話はそれからだわ。」
マァムは一人魔界の道を歩きはじめた。
408ガモン:2009/05/17(日) 22:56:00 ID:8u4nuEey0
第十二話 投下完了です。
パオさんや転生作者さん、オタクさんなどダイ大を取り扱っている方々がまとめサイトにいらっしゃったので、
正直偉大な先人の方々と同じ題材にしているんだなと思うとプレッシャーが掛かりますね。

>>サマサさん
お疲れ様です。
善と悪の壮絶な戦いの物語である!ですがとても見ていて和むような感じで、
とても楽しく読ませてもらいました。
決闘神話の方も楽しみにしています。

>>サナダムシさん
お疲れ様です。『ボス』の言う切り札、どういうものか気になりますね。
スペックの「元気、イッパイダゼ」はもはや私の中では名言です。


409作者の都合により名無しです:2009/05/18(月) 01:13:52 ID:WV0UU71i0
>サナダムシさん
光成・ボッシュ・アレンはしけい荘メンバーより遥かに極悪な連中と思うw
ドイルとシコルの相手が気になりますな。オリバは参戦するのか?

>ガモンさん
オーディンはFFからの参戦かな?ダークドレアムより上の存在がいるみたいですな。
カンクロウとかちょっと浮いてるようなw
410作者の都合により名無しです:2009/05/18(月) 07:11:00 ID:NmjycfzE0
しけい荘もいよいよ大詰めかな?
でもサナダムシさんは30話までやってくれそうだからまだまだかw

ダイの大冒険はダークドレアムより強いのいるのか。
どれがラスボスになるんだろ?
411作者の都合により名無しです:2009/05/18(月) 22:51:20 ID:el1praAc0
しけい荘はシコルとオリバがいずれガチで戦う気がする
412ダイの大冒険AFTER:2009/05/20(水) 22:33:58 ID:v2ACoJ5L0
第十三話 雪辱戦
「まさかあそこでヒュンケルとやらがグランドクルスを使うとはな。
だが地上の戦闘力はバーンとの戦いで大分崩れた。叩くのは今だ。」
ヴェルザーが重い腰を上げる。冥竜王は空高く舞い上がった。
「カンクロウ、貴様は魔界に来た雑魚を殺しておけ。あの中にダイはいないようなのでな。」
「仰せのままに。」
一方ダイの死を頑なに拒み続けてはいても立ち直れていない四人がいた。
いつもならばダイは生きていると信じているポップ、ラーハルトもエスタークの説明を聞いたあとでは下を向いたままだった。
「まだ死んだと決まったわけではありませんよ。きっとどこかにいる筈です。」
今ではアバンの説得も虚しく聞こえる程である。
その二人に喝を入れたのはヒムだった。
「情けねえ、アバンの使徒ってのはこんなに簡単に諦めるモンなのかよ!!?
こんな姿、ハドラー様が命を懸けて闘った奴らがここで立ち止まるのか!!俺はこんな醜い姿を晒すくらいなら、
死んだ方がいいと思ってるぜ!!!ヒュンケルには違うと言われたが、こんな体たらくじゃあよ。」
「分かってる、分かってるよ。」
ポップが答える。その声には少し力が入っている。
「そうだよな、ここで立ち止まったら決死の覚悟でダイと闘ってきたハドラーに笑われちまう。
あいつがあの時自分の体を擲って俺を救ってくれたこの命、こんなんで諦めたら俺達は例えダイが生きてても二度と会えねえ。
ここで諦めたら、駄目なんだ!!!」
消えかけていたポップの心の中の炎が燃え上がった。
「そうだよ、これが俺の好きになったアバンの使徒だ。」
ヒムも笑顔を浮かべていた。
「そうだ、まだ諦めるのは早い。」
「さあ、行きましょう。ダイ君とレオナ姫を探しに!!」
四人は先程とは全く違う表情を浮かべ、歩き出した。
413ダイの大冒険AFTER:2009/05/20(水) 22:38:56 ID:v2ACoJ5L0
その四人の前に一人の男が立っていた。おそらくポップは見たくない顔だっただろう。
「ヴェルザー様の言っていた人間共はこいつらか。人間じゃないのもいるが。
お?お前は城であった魔道士じゃん。」
カンクロウは四人に近づく。
「な、なんでお前がこんなとこにいるんだよ?」
ポップは内心怯えていた。
「ヴェルザー様が地上から来た雑魚の掃除をしろと言われてここに来てんじゃん。」
「そう簡単に殺される訳にもいきませんね。ここは全員で・・・」
その時アバンをポップが止める。
「先生、皆を連れて先に行ってください。こいつは俺がやる。」
「馬鹿言うな!お前こいつにやられたらしいじゃねえか、お前一人で勝てる相手じゃなさそうだぞ?」
ヒムの言葉に耳を傾けないポップ。その表情を見てラーハルトが呟く。
「行こう、こいつは何を言っても闘う気だ。」
ポップの決意を読んだアバンも無言で頷く。
「必ず、付いてきなさい。」
「はい!!」
三人は素早くその場を去った。
「随分優しいんだな俺達の事を待って、攻撃してこないなんて。それとも余裕を見せてるのか?」
「いや、こっちとしても一人ずつ殺した方が確実だからな。」
二人が向かい合った。
414ダイの大冒険AFTER:2009/05/20(水) 22:40:54 ID:v2ACoJ5L0
カンクロウは傀儡人形カラスを出し、攻撃態勢に入る。
対するポップには武器がなく、未だに無防備の状態である。
「お互い、中距離、遠距離の戦いが得意じゃん。」
とはいえブラックロッドの無いポップは明らかに不利であった。
『こうなったら呪文とこの頭をフル回転させて闘うしかねえ。』
「早速いくじゃん!」
カラスの頭がポップに目掛けて飛ぶ。中には毒の塗られた針が入っていた。
「くそ!」
「この毒は少しでも触れれば肉体が動かなくなるじゃん。発動まで一秒程掛かるが。」
ポップは右腕の部分に針が当たってしまった。
『今、何かしたような気が・・・』
不審な気持ちを張り巡らせつつもカンクロウは追撃に出る。
対してポップは右腕を使えないという事態に陥っていた。
「メラゾーマ!!」
ポップが攻撃したものは傀儡人形の糸、これでカンクロウとカラスが離れた。
「よし、傀儡さえなきゃこっちのもんだ!!」
もう一度メラゾーマを唱えようとしたその瞬間、ポップはカラスの顔の針に左腕を貫かれていた。
415ダイの大冒険AFTER:2009/05/20(水) 22:42:01 ID:v2ACoJ5L0
「油断したな、一流の傀儡師は魔力の糸で傀儡を操る事もできる。
これでお前の体で動く箇所は大分無くなったじゃん。」
カラスを自分の元へ戻し、ポップに止めを刺そうと近づいた。
「このカラスにはいたる所に仕込みをしていてな、この腹部にも毒ガスを仕込んである。
もう両腕が動かないお前に勝ち目はないじゃん。」
毒ガスがポップの周辺に充満していく。
「そろそろ息も出来なくなるじゃん。」
しばらくするとポップは白い眼を向いて倒れていた。
「さて、次行こうか・・・」
カンクロウはその時死んだ祖父を見た様な顔をしてポップを見た。
「化かし合いは、俺の勝ちだ。」
「な、何でお前立って、いや、その前に腕を・・・」
ポップは笑いながら答える。
「最初の攻撃でお前は優越感に浸って毒の発動まで時間がある事をわざわざ俺に教えてくれた。
だから俺は自分から右腕を出したんだ。最初から麻痺性の毒を使うと分かったから俺も対策を取りやすかった。
魔力を集中させながら右腕をわざと差し出し、一秒足らずでキアリク、ギリギリだったが、間に合ってよかった。」
カンクロウは最初の異変がどういうことだったのかを思い知らされた。
「あの一瞬の間にそんなことが出来る筈が・・・お前普通の魔道士じゃねえじゃん?」
「おう、俺の事は、大魔道士ポップとでも呼んでくれ!」
「後は右腕が使い物にならないフリをして逃げながらチャンスを待っていたってことか。
だが、俺の技は他にもあるじゃん!」
カンクロウはカラスの手足を伸ばし、ポップを縛ろうとしたが、ポップのヒャダルコによって阻止された。
「く、くそ。」
「メラゾーマ!!」
ポップはカラスを燃焼した。
「こ、こんなはずじゃ!!?」
「あんたの敗因は自分の能力を敵にばらしちまった事だ。一度勝った油断から来た・・・」
ポップはメドローアの形を作る。
「確かに俺が自分で自分の首を絞めた形になったじゃん。納得いかねえけど、しかたない、か。」
「メドローア!!!!」
ポップのメドローアがカンクロウを包み込む。
416ガモン:2009/05/20(水) 22:44:02 ID:v2ACoJ5L0
第十三話 投下完了
カンクロウが浮いていたので出来るだけ早く舞台から降ろそうと思ったらグダグダになってしまったような。
原作の彼はあんなに不用心ではないのですが。
ポップの活躍が書ければ良いと思っていましたが、これが難しかったりしますね。
417作者の都合により名無しです:2009/05/20(水) 22:52:07 ID:jJO0eQul0
お疲れ様です。リアルタイムで読んでました
カンクロウが浮いてるのはあの口調のせいですなw
ポップのメドローアで最後なんてある意味贅沢。
418作者の都合により名無しです:2009/05/21(木) 07:08:22 ID:rQyPkPh/0
お疲れ様ですガモンさん。
ドラクエのキャラで絞った方がまとまりは良くなるかも知れませんね。
ポップは大好きなキャラなのでこれからも活躍して欲しいです。
419作者の都合により名無しです:2009/05/21(木) 12:53:19 ID:zqueK65T0
ガモンさんがんばるなあ
これなら完結間違いなしだな
420作者の都合により名無しです:2009/05/23(土) 00:04:25 ID:aMAPGVVIO
ほっしゃあげー
421しけい荘大戦:2009/05/23(土) 15:04:04 ID:CkF/1cUn0
第十九話「愛国心」

 ここを守りきれるか否かで勝敗は決する。最後の防衛ラインとなった徳川ホテル北門は
これまでにない猛攻に晒されていた。テロリストの中でも特に優秀な精兵が、格闘、ナイ
フ、銃火器とあらゆる手段を用いて殺到する。
 これに対し、警察側も園田が東、西、南から応援を向かわせたことによってどうにか五
分五分の戦いを演じていた。
 とりわけ、しけい荘メンバーであるドイルの活躍はめざましかった。
「スッゲェ……あいつ一人でもう百人は倒してるんじゃねぇか?」
「体中から武器が飛び出るし、いったいどんな構造してやがんだ」
「とにかく、心強い戦力だということはたしかだな」
 場違いなタキシード姿の二枚目イギリス人に手も足も出ないなど、テロリストらは想像
すらしていなかったことだろう。
 磨きに磨き上げた体術と、仕込みに仕込んだ武器(タネ)。並大抵の人間では太刀打ち
できるはずもない。
 また一人、敵兵がドイルのスプリングパンチによって沈められる。 
 と同時に、間合い(エリア)にこれまでの敵とは異質な侵入者を認めるドイル。
「どうやら君を投げ殺さねば、ホテルには入れんらしいな」
 アマチュアレスリングのユニフォームとシューズを着用し、ドイルの数メートル前に仁
王立ちする巨漢。
 すぐに正体を掴んだドイルが興味深そうに口を開く。
「ほう、まさかロシアで英雄とまで称えられた金メダリストがテロリストだとはな」
「最高幹部である私が出向いたからには、君にもう勝ち目はない」
「そうかい。ただ、ひとつだけ聞きたい。なぜ君のような優秀なスポーツマンが、テロリ
ストなどに身を落とした?」
「我がロシア共和国の地上最強を示すためだ」
422しけい荘大戦:2009/05/23(土) 15:05:46 ID:CkF/1cUn0
 事前に園田から今回のテログループの活動内容を聞いていたドイルは首をかしげる。
「ロシアの最強……? 君たちの破壊工作は全世界に及び、ロシアも例外ではないと聞き
及んでいるが……」
 巨漢は心底残念そうに首を振ると、直後に信じられない言葉を口にする。
「あれはもうロシアではない。この私こそがロシア共和国たる資格があるッ!」

 アレクサンダー・ガーレン。
 北に生まれ、極寒に生き、祖国のために死ぬと誓った、ロシアが生み出した大巨人。
 物心つく頃から「ふるさとを最強にしたい」と豪語していた生粋の愛国者に、人々はア
マレスという輝かしい舞台を用意した。ソ連崩壊の激動も、彼は人を投げまくることで生
き抜いた。
「出たぞ、ガーレンスペシャルゥッ!」
 ロシアの最強を全世界に知らしめるため、ガーレンは桁外れの潜在能力で、がむしゃら
に勝利し続けた。次々に並みいる強豪を投げ飛ばし、ふと振り返ると公式戦六百戦無敗と
いう前人未到の記録を打ち立てていた。もはやオリンピックのレスリング競技における金
メダルは、彼の参加賞と化していた。
 しかし、いくら名誉を手にしようと、彼の心が晴れることはなかった。
 ひとたび勝利すれば、尊敬する大統領が喜び、愛すべき国民は沸き上がる。──が、そ
れだけ。
 レスリングは戦争ではない。マットの上でどれだけ敵国を投げ飛ばしたところで、捕虜
が手に入るわけでもなければ、祖国に有利な条約が結べるわけでもないし、領土が増える
わけでもない。ロシアは決して最強にはなれない。
 ──ならば。
 ──ならばどうする。
423しけい荘大戦:2009/05/23(土) 15:07:14 ID:CkF/1cUn0
 ある日、ガーレンは知人にこう告げた。
「ロシアが最強になれぬなら、私がロシアになればいい」
 これ以降、ガーレンは表舞台から一切行方をくらます。混乱を避けるため、表向きには
報道で「膝の故障による入院」と締めくくられた。

 史上最大の愛国者が行き着く果ては、自身を祖国とすることであった。
 己一人と天秤にかけるならば、ユーラシア大陸に君臨する広大な領土も、北の大地でた
くましく生きる一億を超える国民も、帝政時代より永く受け継がれてきた歴史も、ロシア
として相応しくない。ガーレンは本気でこう信じている。
「真のロシアとして“かつてロシアだった国”の破壊に暗躍する私に、ボスは“同盟国と
して私に協力してくれないか”とおっしゃった。もちろん私は応じたよ。ボスの同盟国と
して世界を崩壊させれば、私(ロシア)が最強となる夢もより実現に近づくからな」
 ドイルはガーレンのもっとも恐るべき点は、恵まれた体格でもレスリング技術でもなく、
イカれているといってもよい鋼の愛国心にあると悟った。
「私の邪魔をする輩は人であろうと国であろうと、全て投げ殺してやるッ!」
 全筋力を総動員した猛タックル。金メダリストから国家へと進化したガーレンが迫る。
 一方、ドイルは自分でも驚くほど冷静だった。ガーレンの異常極まりない思想に触れ、
かえって落ち着くことができたのかもしれない。
 ガーレンのタックルを横にかわし、刃を作動させた左膝で脇腹を全力で抉る。
「ぐゥッ……!」
 右脇腹から滴り落ちる血に、ガーレンの顔色が変わる。
「いくら国になったと思い込んでるとはいえ、所詮スポーツマンだな。流血にはさほど免
疫がないか」
「ゆ、許せん……」
 ガーレンはおぞましい表情でドイルに振り返った。開かれた瞳孔、膨らんだ鼻穴、びっ
しりと全身に描かれた赤と青の血管、全てが怒りに満ちている。
「我が領土に傷跡を残し、あまつさえ血液という我が国の貴重な資源までも奪うとは……。
貴様の罪はあまりに重いッ!」
424しけい荘大戦:2009/05/23(土) 15:08:14 ID:CkF/1cUn0
 激情をタックルに変え、再びドイルに突進するガーレン。が、組み合いとなる間合いの
寸前、ガーレンは掌を拳に切り替えた。プロボクサーも裸足で逃げ出すほどの、テクニカ
ルでスピーディな右フックがドイルに触れる。
「ボ、ボクシ──?!」
 まともに喰らい、よろめくドイル。
「驚いたかね。レスリングだけではない。私がその気になれば、いかなる競技であろうと
明日にでもグランドチャンプになることができる。たとえボクシングでもッ!」
 綺麗な左ストレートがドイルの顔面を打ち抜く。
「ジュードーでもッ!」
 背負い投げによって、背骨から地面に落とされるドイル。
「スモウレスリングでもッ!」
 起き上がりかけたドイルが、強烈なぶちかましで大きく吹っ飛ぶ。
「あえて付け加えるなら──」ドイルの細長い体を、まるでバーベルのように天に掲げる
ガーレン。「ウェイトリフティングなら今日にでもだッ!」

 90キロ近いドイルがバウンドするほどの叩きつけ。あまりに巨大な衝撃は、ドイルに
血を吐き出させる。
「ゲハァッ!」
 ダウンしたドイルになおも襲いかかるガーレン。
「ロシアとなった私に敵はないッ!」
「……ふん」
 人差し指を曲げるドイル。これを合図にスプリングの推進力を得た拳が、ガーレンの鼻
を潰す。
「グアアァッ!」
425サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/05/23(土) 15:11:01 ID:CkF/1cUn0
克巳に火傷を負わせた男VS花山を一撃で倒した男ッッッ

第十九話終了です。
毎度ありがとうございます。
426作者の都合により名無しです:2009/05/23(土) 19:38:02 ID:F/XJkrRo0
ガーレンかあw
意外な選出だけど、そろそろキャラがなくなってきたという気もw
427作者の都合により名無しです:2009/05/24(日) 22:21:24 ID:sj570pvh0
お疲れ様ですサナダさん。
残りはドイルとシコルだけか。
オリバとヤイサホーも戦わないのかな?
428ふら〜り:2009/05/24(日) 22:35:42 ID:uudNNw8v0
>>ガモンさん
正に「雪辱戦」。ポップが一人で戦うと言った時には、何か策を用意してるのかと思いました
が、さにあらず。そんなもの用意してなくても、実戦中に策を組み立ててその場で実行、そして
勝利! 回復魔法も効果的に使い、キメはメドローア。大魔道士の貫禄充分な戦いでした。

>>サナダムシさん
ガーレンとはまた予想外。狂っているとはいえ強い愛国心、ここへきて遂にテロリストらしい
思想の持ち主が出てきたという気も。とりあえず今回、原作で彼が見せた強さ・攻撃手段は
大体出たみたいですが、自らを母国と称する本作版ガーレンの本領は次回発揮される、か?
429ダイの大冒険AFTER:2009/05/25(月) 18:53:00 ID:oKjvlCBK0
第十四話 旅の扉
「おい、アイツを一人にして良かったのか?」
ヒムは一人疑問に思った顔で二人に問う。
「彼は前回自分の所為でレオナ姫をあの男に攫われた。その事に対してポップは責任を感じていた事でしょう。
一人で闘うと言った彼の男気を曲げる訳にもいきません。それに、彼はきっとあの男に勝てるでしょう!」
アバンの自信にヒムも笑うしかなかった。
『はは、弟子が一人で闘うってのに肝が据わってやがる。』
そんな三人は暗黒に包まれる魔界の大地で一筋の光を見た。
「見た所祭壇のようですが・・・」
三人が光り輝く祭壇の中心に見た物は青白い渦だった。
「これは噂に聞く旅の扉か?」
ラーハルトは唖然とした顔をしている。
「旅の扉って何だ?」
「簡単に言えばこの渦と同じ渦がある場所にワープするという代物です。
一説によれば地上にもあると言われていますがここにきて初めて本物を見ましたね。」
学者家系のアバンの博学にヒムも舌を巻く。
「おーーい!!!!」
その時上空からポップがアバン達の元に駆けつけていた。
430ダイの大冒険AFTER:2009/05/25(月) 18:55:36 ID:oKjvlCBK0
「ポップ!あの男に勝ったんですね?」
アバンの言葉にポップが軽く頷く。
「闘いが終わって空から皆を探そうと思ってたら光ってる所があったんで見てみたら先生達がいたんですよ。
それにしてもこれ何ですか?」
アバンは先程ヒムにした説明をポップにもしていた時、祭壇の奥から声が聞こえる。
「皆!やっぱりここにいたのね!!?」
「マァム!!!?」
ポップは臨戦態勢に入っている。理由はこの魔界に入っているとは考えがたく、またかつてザボエラの謀略で騙されたこともあり、
慎重になっていた。他の三人も同意見である。
「なんか少し疲れてる様にも見えるけどやっぱり怪しい、本物ならこれを避けられる筈だ!!」
ポップはメラゾーマを放つ。
「へ、ちょ、ちょっと何してんのよ!!!」
メラゾーマを避けたマァムはそのままポップを殴り付ける。
「や、やっぱり偽物か?」
ヒムを除く三人は本人だと確信していた。
『この一撃の重さ・・・間違いない。』
マァムに踏み付けられながらポップは悟る。好きな人に踏み付けられているポップは傍から見るとイキかけている様な顔をしていた。
「まあまあ、その辺でやめておきなさいマァム。それよりどうしてあなたはここに?」
マァムは今までにあったことを話した。
431ダイの大冒険AFTER:2009/05/25(月) 18:59:18 ID:oKjvlCBK0
「・・・という訳なんです。」
マァムのこの行動に三人は開いた口が塞がらなかった。
「もしアイツに殺されたらどうするつもりだったんだ!!?」
ポップがマァムに怒鳴る。マァムも自分の軽率な行動を恥じていた。
その後五人は旅の扉に入る事にした。
「もしかしたらこの先にダイ君がいるかも知れませんからね。物は試し、入ってみましょう。」
五人が旅の扉の上に立った瞬間、その場から姿を消した。
「へえ、こんなところに旅の扉があったのか。兵を集めて奴等を追うか。」
テマリは微笑みながら旅の扉を見つめる。
「うわ〜〜〜〜!!!!!」
五人が辿りついた先、それは薄暗い城の内部の個室だった。
「この暗さはまるで地下のようですね。」
アバンが辺りを見回すが旅の扉以外は何も無い。出口さえ無かった。
「こんな辛気臭え場所にいたら鼻が曲がっちまうぜ。」
ヒムは闘気拳で壁を殴る。大体の話では壊れない様なシナリオだがこの壁は容易く破壊出来た。
「あらま、こんなに簡単に・・・」
ポップは呆気ない展開にずっこける。
「とりあえずそこに階段がありますから登りましょうか。」
「ここは、どこかで見た気がするのは俺だけか?」
ラーハルトの疑問は全員が持っていた。やがてその疑問は実際の物となる。
「ここで大きな音がしたのだ・・・が・・・?」
「ベンガーナ王!!!???」
今回の魔界突入メンバーは成果を得られず地上に帰る羽目になった。
432ダイの大冒険AFTER:2009/05/25(月) 19:00:39 ID:oKjvlCBK0
              〜魔界〜
カンクロウが倒れた事に拠って地上制圧を先延ばしたヴェルザーは思わぬ来客と話していた。
「久し振りだな、冥竜よ。」
「貴様は・・・ダークドレアム!!」
冥竜王と最強の魔神、二人が初めて出会った四千二百六十三年前、ヴェルザーはダークドレアムと闘ったことがあった。
「バーンでさえ貴様と闘った事はないだろう。貴様と闘って生き延びていられたのはオレだけだからな。
あの日から差は縮まるどころか益々伸びていく、そしたらいつの間にか貴様は姿を消した。死んだと思っていたがな。」
「俺は三万年の間戦い続けてきた魔界の神だ。そう簡単には死なぬ。それにしてもしばらく大人しくしている内にバーンが魔界の神を名乗っていた事は驚いた。」
ダークドレアムはさらに続ける。
「お前とボリクスの戦いも俺は鮮明に覚えている。中々竜同士の戦いも悪くない。」
「昔話をしに来た訳ではないだろうダークドレアム。何の様だ?」
ヴェルザーは息を巻いてダークドレアムに近づく。しかしダークドレアムはまるで物怖じしない。
「いや、最近地上でも魔界でも”光の教団”というカルト教団が布教していてな。どうもきな臭い。
心当たりはないか?」
「そんな事、オレの知ったことではない。」
そう告げたヴェルザーの脳裏にゲマの顔が思い浮かぶ。
「もしかしたらミルドラースが関係しているかも知れんな。」
「ミルドラースか・・・」
心なしかダークドレアムの顔は笑っていた。
その頃、地上では”光の教団”の信者達が増え続けていた。
433ガモン:2009/05/25(月) 19:01:58 ID:oKjvlCBK0
第十四話 投下完了です。
しばらくポップチームを書くと思います。

>>418さん
出来るだけドラクエキャラでまとめようと思いますが、既出しているキャラにも出番はまだありそうです。

>>サナダムシさん
お疲れ様です。
「ロシアとなった私に敵はないッ!」
彼は愛国心から狂気に変貌していますね。
スプリングによる反撃からジャック顔負けのドイルの勝ち方が眼に浮かびます。

>>ふら〜りさん
ありがとうございます。
これからもポップに活躍して貰おうと思います。

434しけい荘大戦:2009/05/26(火) 22:00:12 ID:gXR3VjJS0
第二十話「バックファイア」

 へし折れた鼻から夥しい量の血があふれ出す。ガーレンの鼻から顎にかけ、あっという
間に赤が塗りたくられる。
「おのれ……一度ならず、二度までも……ッ!」
 無残に『領土』から垂れ流される『資源』に、ガーレンの怒りが頂点に達する。
 これを好機(チャンス)と見たドイルは素早く立ち上がり、下半身の強化スプリングを
も起動させ高速で踏み込むと、万全のスプリングパンチをお見舞いする。
 効いた。ガーレンの巨体が大きくのけぞる。
 右手首から飛び出た刃で胸に一太刀浴びせ、ジャンプ。右足、左足と華麗な二段蹴りを
決め、スマートに着地まで魅せるドイル。が、ガーレンも倒れない。
「どうやら……」虚ろな目で、重心を低く構えるガーレン。アマチュアレスリング特有の
体勢だ。「やはり君は投げ殺される運命にあるらしい」
 突如、腕立て前方転回でドイルに迫ると、側転に技を切り替えて側面に回り、ダイナミ
ックな月面宙返りで瞬く間にドイルの背後を取った。
「しまった!」
 ドイルの腰にがっちり組みつき、血まみれの笑顔でガーレンがささやく。
「貴様には、我が国でもっとも重い刑罰を与えてやろう」
 後方への反り投げ。むろん、ただの投げ技ではない。
 ──ドイル、飛ぶ。
 まさに投石機ならぬ投人機。筋力のみを動力に射出されたドイルは、高度、飛距離とも
に十メートルほど投げ出され、成す術なく地面と激突した。
 投げの威力はダメージのみならず、武器(タネ)にまで悪影響を及ぼす。
「くそっ……今の音、どこか配線が狂ったな……」
 得意満面でドイルに歩を進めるガーレン。
「どうかね。今まで生きてきて、これほど投げられた経験などなかっただろう」
 この問いに、ドイルはコンマ一秒とかからず即答する。
「いや、今以上に飛んだことはいくらでもある……。私のアパートには怒らせるとおっか
ない大家がいるからな」
「減らず口を……ッ!」
 今度は正面から組みつこうと、ガーレンが全速力で駆ける。あっさり捕まるドイル。
435しけい荘大戦:2009/05/26(火) 22:01:50 ID:gXR3VjJS0
「動きが鈍っているぞ。三半規管でも痛めたかね」
「ちぃっ……手品は、これからだぜ……」
 ドイルが自らの鼻をつまんで左にひねる。と、涙腺付近に仕込まれた水袋から、左目を
通して塩水が猛烈な勢いで噴射された。
「───?!」
 ガーレンの左目のやや下──人体急所のひとつ『涙穴』に叩きつけられる塩水。目と鼻
を同時に水分が侵入し、クラッチどころではなくなったガーレンの両腕がドイルから離れ
る。すかさず左肘の刃のスイッチを入れ頸動脈を狙うドイルだったが、不運にも先ほどの
投げで配線の接触が悪くなっており、単なる肘打ちに終わる。
「チッ、運がねェ……。いや、ロシアの英雄さんが幸運だというべきか」
 悔しがるドイルだが、話しぶりにはまだ余裕がある。今日のために外科手術で仕込んだ
カラクリは数知れず。手札は大量に残っているのだ。
 仕込み武器をどうにかせねば──初めてガーレンはドイルの戦法に脅威を覚える。よほ
ど今の涙穴攻撃に面食らったようだ。そこでガーレンは一計を案じる。
「君はなかなか面白い戦士だな。しかし残念ながら、肝心な素手でのファイトはお粗末な
ようだ」
「なんだと……」
 ドイルの眉が不快そうに動く。これをガーレンは見逃さなかった。
「もっとも、この私と素手でやり合うなど最初から無理な話だ。遠慮せず何でも使いたま
え、次は毒ガスか? それとも爆薬か?」
「侮辱する気か……私をッ!」
「君にも一応、肉体に対するプライドがあるようだな。ならば、私とやってみるかね……。
武器を使わず、正々堂々と」
 ドイルは少し間を置いてから、いきり立った。
「……面白い。やってやろうじゃないか、堂々と!」
 両手の指をいじり、体内の全武器をオフにする。ガーレンは己の策略が功を奏したこと
を知った。
 ──ロシアは武力だけでなく、外交戦略も一流でなければならない。
436しけい荘大戦:2009/05/26(火) 22:02:55 ID:gXR3VjJS0
「ヌオオオオッ!」
 まずは打撃でドイルを弱めようと、ボクシングスタイルで攻めるガーレン。
 しかし、ガーレンの凄まじい右ストレートをかいくぐり、ドイルはさらに強力な右スト
レートでカウンターを決めた。武器に一切頼らない、純粋無垢な拳。
「ガハッ……!」
 まさか──膝をつくガーレンに、ドイルは力強くいい放つ。
「だいたいアンタの戦力は分かった。さすがロシアの英雄といわれただけあって、とんで
もない潜在能力(ポテンシャル)と精神性(スピリッツ)を秘めている。しかし……私の
知り合いにロシアの恥晒しっていっていいほどダメな男がいるが──そいつの方がアンタ
より上だ」

 武器を用いぬ闘争になっても、ドイルの優勢は明らかだった。
 破壊者として全筋力を挙げて攻め立てるガーレンの、常に一歩上をゆくドイル。
 拳と蹴りのコンビネーションから、長い脚を存分に生かした左ハイがガーレンのこめか
みを捉える。がくん、と崩れ落ちるガーレン。
「ロ、ロシアである、この私が……」
「あのアパートで暮らして、なおかつトレーニングも課したら、嫌でもこれくらいにはな
る。敗北を知ったと感じたなら、さっさとタイホされてくるんだな」
 振り返り、遠ざかっていくタキシードの背中に、ガーレンは怒りの猛突進をしかける。
「ハラショーロシアッ! 私こそがッ、ロシアこそが世界最強なのだァッ!」
 背後から怒涛の勢いで押し寄せるガーレンに、ドイルは振り返ることなく左手親指のス
イッチを入れた。
 ──爆発。
 ドイルの背中から噴き出た炎熱が、ガーレンの巨体を覆い尽くした。
「グッドラック」
 火傷まみれで力尽きるガーレンに、ドイルは一度も目をやることなく立ち去る。
 テロ組織最高幹部にして真のロシア連邦、アレクサンダー・ガーレン。祖国を愛しすぎ
たがゆえの野望は、今、幻と消えた──。
437サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/05/26(火) 22:03:55 ID:gXR3VjJS0
毎度ありがとうございます。
今回で二十話となりました。

>>426
四人の対戦相手は、カマキリ、春成はすぐ決まりましたが、残り二人は苦しみました。

>>427
次回、あの人の出番です。

>>ガモンさん
踏まれるポップ、幸せそうですね。
本筋は魔王揃い踏みになりそうで、期待しています。
438ふら〜り:2009/05/26(火) 22:53:31 ID:ziydGP3M0
>>ガモンさん
アバン先生の信頼に、これぐらい当然! とばかりに軽く応えてみせたポップがカッコいい、
と思ったらいきなりメラゾーマですかぃ。まぁこれもこれでマァムに対する信頼? なのかも。
魔界側は相変わらず何というかデカい……あのバーンが全然最強扱いされてないのが……

>>サナダムシさん
あまりにもあからさまな敗北フラグ、「挑発に乗って得意分野封印」。なのにそのまま圧倒
してしまいましたね。でも最後の一撃はやっぱり、なのが彼らしい。そしてそして、シコルの
ことをバカにしながらもちゃんと認めてる。お前はロシアじゃあ二番目だ、ってとこですかね。
439作者の都合により名無しです:2009/05/27(水) 14:45:06 ID:71bW/fEw0
>ガモンさん
ミルドラースですか。ドラクエ最強のダークドレアムがいるから
ちょっと影が薄くなるかもw 個人的にはゾーマがやはり一番だけど
バーンとかぶるから出しづらいですかね。

>サナダムシさん
ドイルはエキセントリックな勝ち方がよく似合いますな。
ガーレンは純粋なパワーファイターなのでカモにされやすいかも。
次はいよいよ主役かあ。
440作者の都合により名無しです:2009/05/28(木) 10:46:53 ID:efvGv/kI0
意外とドイル戦はあっさりしてましたね。
サナダさんが一番好きといっていたので
長期戦になるかと思いましたが。
しかし敵の人選は苦労してるんですね。
ピクルとかは強すぎるだろうし・・
441女か虎か:2009/05/28(木) 22:48:38 ID:/7gQ2RX80
13:KINSLAYER

 笛吹の上司である刑事部長は、記者会見を前にしきりに鏡写りを気にしている。
 ネクタイが曲がったといっては直し、吹き出物の痕が気になるといっては擦り、しまいには
部下の女性警察官からファンデーションを借りてパタパタとはたき始めた。
 更にその横に座っているのは、同じく笛吹の上司の総監代理。
 こちらは逆に、『事件の心労でやつれ切った警察官僚』を装い、記者たちの追及を逃れたいらしい。
同じ女性警察官からアイシャドウを拝借し、目の下に慌ただしくクマを描いている最中だ。
 ――まったくどいつもこいつも、自分の目先の利益にしか興味がない。
「笛吹さん、眉間に皺が寄っています」
「分かってる。機嫌が悪いから寄ってるんだ」
 捜査一課長である笛吹も、この会見には参加することになっている。
 開始まで残り三十分。既に堪忍袋の尾は断裂寸前だ。
「不安に怯える国民に情報を公開するのが重要なのは理解しているつもりだが……正直、これは茶番だな」
「お気持ちは自分もよく分かります」
 この会見は、捜査の遅れを口々に糾弾するマスコミ勢に、苦し紛れの言い訳を提示するためのものだ。
 『警察は何をしている』『一刻も早く詳細な情報を』。テレビも新聞も雑誌も、およそメディアと
名のつく存在は口を揃えてこう喚く。彼らの論調は彼らから情報を得る国民にも伝播し、組織のトップの
立場を劇的に悪化させる。
 警察上層部のお偉方は、それを少しでも和らげたいのだ。
 失われていく国民の命より何より、それこそが肝要。
「彼らも元は正義感と志を持って入庁した身のはずだが……ああはなりたくないものだな」
「そのお気持ちを忘れないでいてくださればそれで充分かと。自分も肝に銘じておこうと思います」
 加熱しきった笛吹の頭に、あくまで物静かな筑紫の言葉は鎮静剤のごとく作用した。
 熱気を帯びた吐息を体外に押し出し、笛吹は首を振る。筑紫の差し出した記者の想定問答集を
受け取り、ペンを片手に読み返し始める。
 三十分。
 夜が明けて光が差し、記者会見が始まるまで、残りあと三十分。



 白虎となったサイの牙が、黄金の虎の頚椎に食らいついた。
 体躯はおよそ三メートル。アムール虎としては小柄な部類、ましてや≪我鬼≫とは比するべくもない。
 内臓その他内側も人間そのまま、あくまで大雑把な形状を模しているのみ。
 それでも、膂力や耐久性は大幅に向上している。
 以前犯行目的で侵入したある家で、飼い犬のドーベルマンに化けたことがあった。その応用だ。

 跳躍から落下に転じながら、太い首を半ばまで噛み砕く。
 普通なら即死。
 ≪我鬼≫は普通ではない。

 くわえ込んだ頭をサイは大きく振りかぶる。
 落下の衝撃に更なる勢いを乗せ地に叩きつければ、与えるダメージは倍加する。

 だが≪我鬼≫はその手には乗らなかった。
 風を灼くジュッという音が耳をなぶった。
 異常を感じたときには遅かった。錐と化した≪我鬼≫の尾の先が伸び、サイの後頭部を貫いていた。
「………っ!」
 ≪我鬼≫の首が口から離れる。

 痛みより先に熱が疾る。間脳と中脳が破損した。
 ブラックアウトする視界。大脳への中継が遮断され、サイの世界は無音の闇に包まれた。
442女か虎か:2009/05/28(木) 22:51:13 ID:/7gQ2RX80
 ――まずい!

 落ちていく。黒い闇に閉ざされたまま落下していく。

 ――このままじゃ……!

 五感のうち、シャットダウンされたのは視覚と聴覚。
 残るは触覚・味覚・嗅覚。
 受容可能な情報の大半がカットされた形になる。
 長年にわたる観察のキャリアによって、研鑽と強化を積み重ねてきた。感覚器の鋭敏さには自信が
あるが、果たしてそれだけで五感の主たる二感の機能喪失をカバーできるか否か。

 ――いや!
 ――カバーするんだ、意地でも!

 体を覆う毛が逆立った。
 全身の細胞を総動員する。毛筋一本をそよがす風の流れにまで意識を集中する。
 炎の熱気を帯びた大気が鼻腔をくすぐった。
 研ぎ澄まされた嗅覚が、焼け焦げていく肉の匂いをとらえた。
 空気の動きが、≪我鬼≫の筋肉の動きを伝える。ダークアウトした視界にイメージで絵図を描く。
 間近に迫る地上を前に、着地に備える姿。

 退化した奥歯を食いしばり、サイは身を捻った。
 重力に従い落ちていきながら、≪我鬼≫の首へとなおも食らいつく。
 顎の間で骨が砕ける感覚。血と肉の生温かさ。
 ≪我鬼≫は吼え声を上げたかもしれない。
 聴覚を失ったサイの耳には何も届かない。

 絡まりあったまま二頭は地に叩きつけられた。



 地上百フィート、メートル換算にして三○.四八メートル。ヘリの操縦席からも充分に、地上の
様子が観察できる高度。あかあかと燃える火が照明となり、深夜の暗黒を照らしてくれる。
 操縦席から眼下を見下ろし、ユキはサングラスの奥の目をしばたかせた。
「何だ、ありゃあ」
 虎が二頭に増えている。
 金色の大きい方は無論のこと≪我鬼≫。一方で小振りな銀色の方は全くデータにない個体だ。
 しかしデータの有無に関わらず、アイには一目でそれが誰なのか理解できた。
 冷ややかな声で事実を口にする。
「主人です」
「は?」
 兄弟の声が完璧な和音を奏でた。
「あれは主人です。姿形が少々異なりますので分かりにくいかもしれませんが」
「いや少々とかそういうレベルじゃねえだろあれ」
「とにかく、主人です」
 サイの特殊な細胞について今ここで説明するわけにはいかない。たとえ説明したとしても、理解
できるとも思えない。抜きん出た能力を持つこと自体は認めるが、所詮は社会の掃き溜めで這い回る
だけの運び屋だ。
443女か虎か:2009/05/28(木) 22:54:28 ID:/7gQ2RX80
「そういうことか」
 意味ありげに兄の方が唇を歪めた。
「本人がどう否定しようと現実は残酷だな。やはり化……」
「早坂久宜」
 アイは絶対零度の瞳で早坂を射抜く。
「その先を口にすることは、私が許しません」
「事実だろう。目の前の光景から目を背けてどうする?」
「目を背けてなどいません」
 眉一つ動かさない無表情。もしこの顔を写真に撮って、全くの他人に見せたとしても、そこに
怒りを見る者は一人もいまい。声音の方もまた同様に、熱気や上ずりは感じられないはずである。
 人間らしい情動など、とうの昔に磨り潰した。怒りは特に、真っ先に削ぎ落とさなければならない
感情だった。冷静さを見失わせ、『仕事』の精度を低下させるからだ。
 それでも、耐えられないことというのはあった。
 今の早坂の言葉は彼女にとって、決して捨て置くことのできぬ侮辱なのだ。
「あの方は人間です。『人間の限界を越える人間』なのです」
「理屈を捏ねてみても要は同じことだろう。獣に姿を変える人間を人間とは呼ばんよ。お前の言い分だと、
 虎に身を堕とした隴西の李徴まで人間になってしまうぞ」
「いいえ。……いいえ」
 アイは頑として首を振った。
「あの方は人間です。訂正してください。今すぐにです」
 いささかの軟化も見られぬアイの態度に、早坂は肩をそびやかせた。明らかな辟易の見て取れるしぐさだった。
「分かった、分かった。ひとまずそういうことにしておいてやる。忠実な雌犬相手に水掛け論をしたところで、
無駄に時間を食うだけだ」
「ありがとうございます」
 一ミリの心もこもらぬ礼の後、PCに視線を落とした。
 外付のボックスからはコードが伸び、耳に装着したマイク付イヤホンに繋がっている。
 キーを叩くと、ジジッという音とともに通信が繋がった。
 マイクの向こうの相手に呼びかける。
「……サイ?」



 破壊された間脳と中脳の再生が急務だった。
 蓄積分のエネルギーが尽きた今、体組織を犠牲にして回復に費やすしかない。
 筋肉と骨格は放棄できない以上、内臓を捨てる以外に選択肢はなかった。
 ひとまず現在は不要な消化器官。

 ボコン、と腹の中が蠢くのが分かった。
 胃袋と腸が分解されていく感覚は、痛みというより嘔吐感に近い。
 呼応するように後頭部の傷口が軋みを上げる。

 と――

『……サイ?』

 耳の中に埋もれた通信機が、回復しはじめた聴覚を刺激した。
 葛西か。いや。
444女か虎か:2009/05/28(木) 22:57:18 ID:/7gQ2RX80
「ア、イ?」
『はい。勝手ながら通信に割り込ませていただきました』
 かろうじて発語の機能を残した声帯で、吐き気をこらえながらサイは答える。
 もっとも口から漏れた声は、普段の少年のそれとは程遠い低く太くひび割れたものに変じている。
 加えて虎の口は人語を喋るのに適していない。電子化の過程を経てから彼女の耳へと届く言葉は、
さぞかし聞き取りにくいくぐもったものになっているだろう。
『それから葛西。まだ死んではいないようですね』
『何か色々引っかかる言い方だな……まあ一応な』

 ――通信で生じた一瞬の隙を、≪我鬼≫は迷わず突いてきた。
 重量級の前脚の一撃を、硬く変異させた尾で受け止める。
 先ほどの≪我鬼≫の芸をそっくりそのまま真似た形だが、この際オリジナリティなど気にしては
いられない。

「何!? 今……忙しいん、だ、けど!」
 ぐじゅっと嫌な音が腹腔内部で響いた。柔らかい体毛に包まれた腹は、明らかにさっきより凹んでいた。
 中がどうなっているのかは想像したくもなかった。
 今の攻撃は跳んで避けるべきだったと、今更ながら苦い後悔が襲う。体組織の分解を要するのは
再生だけではない。変身であろうと何であろうと、およそ変異細胞に影響を及ぼす行為は今後全て
代償を必要とする。
 フックを防がれた≪我鬼≫は、また牙を剥いてサイに襲い掛かった。
 今度の狙いは――

『サイ。葛西。お取り込み中申し訳ございませんが、お二人にお願いがあります』
「……! なん、だよっ!」

 今にも耳まで裂けそうな口、そこにずらりと並ぶ牙が狙ってくるのは、たった今内臓を失った腹。
 野獣の原始的な知性でも、そこを庇っているのが分かるのか。あるいは野生の獣だからこそ、本能で
敏感に察したのか。
 後ろに跳び退って回避する。
 高いパワーと耐久性がこの姿の長所だが、人型のときと違って両腕が自由に使えないのはネックだった。
 変異をほしいままに扱えるならいくらでもカバーのしようがあるが、体を作り変えるたびに別の
どこかを犠牲にせざるを得ないこの状況では、そうもいかない。
 防御面が心許なくなるのは当然の帰結である。

『私が今から申し上げる通りになさって下さい。よろしいですか、……………』

 退いて距離をとったところを、葛西の青い火炎がまた襲う。
 通常火を嫌うとされる野生動物だが、≪我鬼≫には当てはまらないらしい。躊躇なく火の中へと
突っ込んでいく。身を焼きながらの突撃もサイは跳躍で避ける。
 アイの淡々とした声を耳に聞きながら地を蹴り、尖った牙の先を閃かせた。
445女か虎か:2009/05/28(木) 22:59:11 ID:/7gQ2RX80


 ≪我鬼≫は焦り出していた。
 かつて棲家としていた深い森では、彼は無敵の存在だった。天を舞うものも地を這うものも例外なく、
顎のひと噛みであえなく息絶え、彼の血肉を形成するための贄となった。彼を取り巻く世界のすべてが、
彼を生かすために在ったと言い換えてもよかった。
 つまり、である。
 ≪我鬼≫には、追い詰められた経験がなかったのだ。
 全てがイレギュラーだった。抉られる肉も潰される骨も折れて妙な方向に曲がった首も、嫌な匂いを
撒き散らしながら身を焼き焦がしていく熱も、断続的に傷つけられることで少しずつ再生速度の鈍って
いく体も、未だかつて味わったことのない感覚を彼の胸に呼び起こした。
 "敗北"の恐怖。
 "死"のイマジネーション。
 食らうことで生を紡いできた彼が、食らわれることで終焉を迎える――
 それは、永く玉座に君臨せし王者が臣下の反乱に戸惑うのに似ていた。
 戸惑いは憤怒となり、憤怒は衝動となり、衝動は破壊を目指して力そのものと化す。

 ゴトンッと心臓が音を立てた。
 生命維持の根幹たるこの内臓は、肉体に燃料を送るいわばポンプだ。体が大きければ大きいほど、
より強力なものが必要となる。
 全長五メートル超の≪我鬼≫の心臓が、更なる力を得て肥大化した。肺も肋骨も、そしてそれを
取り巻く筋肉郡も、勢いを増す血流に応え細胞変異の軋みを上げた。
 自らの肉体の構造を≪我鬼≫は知らない。知りたいとも思わない。そんなことはどうでも良いのだ。
 今この瞬間にこの形でこの場に在る。その事実をただ受け入れ活用するだけ。

 肋骨が毛皮を突き破る。
 肩、前脚、後ろ脚。肉が弾け、太さと長さを増した骨が露出していく。一拍遅れて、生々しい
ピンク色の筋肉がそれを追いかける。
 毛皮はあえて再生しない。表皮の役割は防寒と、外部からの異物の遮断による感染や化膿の抑止。
 目の前の天敵の排除が最優先である今、削ぎ落としても止むを得ない機能だ。
 肉を剥き出しにしたまま≪我鬼≫は巨大化していく。

 十メートル超。
 全長だけならスミソニアンのフェニコビ・エレファントをも凌ぐ、地上最大級の哺乳類が
プールサイドに出現した。
446女か虎か:2009/05/28(木) 23:02:09 ID:/7gQ2RX80
「ふん。デカけりゃいいってもんじゃないよ」
 二本足が――ついさっきまで二本足だった、彼の天敵が鼻を鳴らした。
 大人と子供以上の体格差は、外観上同じ獣をなぞっているぶん余計に強調される。さっきより遥かに
高くなった視座から、≪我鬼≫は天敵を見下ろした。
 高らかに≪奴≫が吼えた。
「葛西、頼んだよ!」
「合点で」
 跳躍ひとつ。
 また馬鹿の一つ覚えで首への攻撃か。
 逞しさを増した前脚で薙ぎ倒す。もんどり打って倒れ込む≪奴≫は、それでもなお地から身を
引き剥がし向かってくる。

 王に反旗を翻そうという、その度胸は買おう。
 だが身の程知らずの末路など決まっている。

 翻した前脚を地についた瞬間、足元が光とともに破裂した。
 エクスプロージョン、外部志向性の爆発が右半身を嬲る。
 特注の火薬を配合・調整し、衝撃によって炸裂させるいわば簡易地雷。そのからくりを見抜く
だけの知恵は≪我鬼≫にはない。
 だがサイズと膂力を増した巨体は、大気に走る断裂をものともしなかった。直径数ミリのボール・
ベアリングが無数に体に突き刺さってもどうということはなかった。厚みを増した脂肪、そして
筋肉が全てを受け止めたからだ。
 ただ爆発のほんの一瞬、わずかに目の前の≪奴≫から意識が逸れた。

 気配が背後に膨れ上がるのを感じた瞬間、同種の牙が後ろから首を襲う。
 深い一撃。さっきまでなら確実に、頚動脈が損傷し血が噴き出していた。だが固い肉は鎧となって
牙を弾き返し、≪奴≫の牙をへし折ったのみに終わった。
 無造作に首を振ると、≪奴≫の体が吹っ飛んだ。
 三メートル弱の肢体は、園内の建物に激突する。≪我鬼≫の目には四角い巨大な岩のごとく映って
いたそれは、岩よりは軽いメリメリッという音とともに大きく揺れる。
 ≪我鬼≫は倒れ込んだ≪奴≫に襲い掛かった。
 狙うのは腹。さっきから≪奴≫が庇い続けている部分。

 時計のないここでも確実に時は進む。刻一刻と夜明けが迫っていく。
 ≪我鬼≫は気づかない。
 自分がある一点に誘い出されていくことに。
 気づいたとしても、彼にはそれが何を意味するか理解するだけの材料もない。
 ≪奴≫と共にいたはずのもう一匹の二本足が、いつの間にか見えなくなっていることにも考えが
至らない。

 突進しながら≪我鬼≫は咆哮する。乾いた空気を震わせて吼え声は響く。
 彼らの攻防はまだまだ終わらない。
447女か虎か:2009/05/28(木) 23:04:09 ID:/7gQ2RX80


「……さっきからチマチマと何をやっている」
「そのうち分かります。今は少し黙っていてください」
 早坂久宜の問いを軽く流して、アイはPCの操作を続ける。
 画面には、さっきまでとは明らかに異なるウインドウ。
 見る者が見れば、彼女が何をしようとしているか一目瞭然だ。もっともこの兄弟の本分は情報を
扱う裏稼業、彼らにこれが理解できるかどうかは定かでない。
 全ての完了まで、あと五分程度といったところか。
 いや、三分だ。
 この作業は時間が勝負。万に一つもタイミングを逃すわけにはいかない。

 ――Caution Security Area――
 ――警告・この端末からではアクセスできません――

 ファイヤーウォール。耳ざわりなビープ音とともにメッセージが吐き出される。
 この程度の防御機構は予想済み。あらゆる分野の工作技術をその身に叩き込まれたアイにしてみれば、
幼児の手になる砂の砦に等しい。

 ――Caution Security Area――
 ――Caution
 ――WARNING
 ――WARNING
 ――KEEP OUT
 ――KEEP OUT
 ――KEEP OUT!
 ――KEEP OUT!!

 画面を埋め尽くしていくメッセージに、アイは慌ても騒ぎもしなかった。
 眉の端すら震わせることなく、前もって構築しておいたプログラムを起動させた。
 厳密には、構築という言葉は不適当である。このプログラムは、アイが一から構想し組み上げた
ものではないからだ。
 手本となったオリジナルが存在する。彼女はそのごく一部をなぞり、ウイルスプログラムとして
多少アレンジを加えて仕上げたにすぎない。

 ――KEEP OUT!!
 ――KEEP OUT!!
 ――KEEP OUT!
 ――KEEP OUT
 ――KEEP OUT

 かつてこの国に、春川英輔と呼ばれた男がいた。
 各分野、ことに脳科学とコンピュータサイエンスにおいて天才の名をほしいままにした学者。
 このまま斯界の道を究めれば、間違いなく歴史に名を残すといわれた男。
 しかしその男は皮肉にも、学術史ではなく犯罪史の方に名を刻むこととなった。
 彼が己自身の脳をコピーし、産み出したプログラム人格≪電人HAL≫。クラークの名作に登場する
コンピュータと酷似した名を持つその人工知能は、その作品の展開をなぞるかのごとく、オリジナルの
意思を無視して暴走した。
 ネットを介した一般市民の洗脳、当時この国に停泊中だった原子力空母オズワルドの占拠。
 一般に≪HAL事件≫と呼ばれるこれら一連の事件は、史上初の人工知能による犯罪として、
全世界の人間が記憶するところである。
 アイが注目したのは、このHALの構造だった。
 無論、HALそのものを造ることはできない。あらゆる分野において相当の知識技術経験を持つ
アイだが、彼女はあくまでゼネラリスト、斯界のスペシャリストであった春川英輔には敵うべくもない。
 だが。
448女か虎か:2009/05/28(木) 23:07:20 ID:/7gQ2RX80
 ――KEEP OUT
 ――KEEP OUT
 ――WARNING
 ――WARNING
 ――WARNING
 ――WARNING

 散逸した開発資料を収集し、個々は単なる断片でしかないそれらをつなぎ合わせ、足りない部分を
必要最低限自分の知識で補い、≪劣化コピー≫程度のものであれば造ることができる。
 HALのように、独立した人格を持つレベルには至らない。モデルに選んだ人間の行動様式を
大雑把になぞらせ、機械では読み取れない漠然とした一貫性を再現しただけだ。
 モデルは怪盗"X"。今まさに、はるか眼下で死闘を繰り広げる彼女の主人。

 ――WARNING
 ――WARNING
 ――WARNING
 ――WARNING
 ――WARNING

 わがまま放題気まぐれ三昧、いつ何をしでかすか分からないサイの行動様式は、1と0の演算で
全てを処理するコンピュータ・システムにとってはイレギュラーの塊である。いっそ爆弾と言い換えて
しまってもいい。
 このプログラムを流し込まれるだけで、大概のセキュリティシステムはダウンする。そして防衛
機構を手当たり次第に蹂躙され、ものの数十秒で完全に再起不能に陥る。
 決して定まらぬが故に無敵のウイルスプログラム。

 ――WARNING
 ――WARNING
 ――Caution
 ――Caution
 ――Caution
 ――Ca
 ………………

 ディスプレイが完全に沈黙した。
 アイは休まない。すかさずキーボードを叩き、目当てのデータベースに潜り込む。
 ここに至るまで三十秒。残り二分三十秒でデータを改竄し、修復プログラムを流し込んで離脱
しなければならない。
 地上の戦闘とはまた別の、もうひとつの戦いがここにあった。
449女か虎か:2009/05/28(木) 23:10:10 ID:/7gQ2RX80


 いっそう巨大となった顎が、サイの前脚を食いちぎる。
 たたらを踏んだところにフックが迫った。四足歩行に慣れない体が重心を失い、くずれ落ちかける
のを地に爪を立てて踏みとどまる。
 変異のエネルギーに費やされ、内臓は一つまた一つと用をなさなくなっていく。
 消化器官に続き肝臓、腎臓。腹が凹んで軽くなるのと引き換えに、強烈な吐き気と眩暈が襲う。
 生命維持に即影響するわけではなくても、生物のシステム上重要な機能を切り捨てれば当然負担は
かかる。そして長時間その負担が続けば、積もり積もってそのうち限界を迎える。
 その前に……
 サイは歯を食いしばった。
 その前に。

 渾身の力を後脚に込めて跳んだ。前脚の傷から血が溢れ、辺りに独創的な模様を描いた。
 ここが仕留める好機と取ったか、三本脚で駆けるサイを≪我鬼≫が追う。
 酸素不足に喘ぎながら駆ける先は……

「アイ! まだ!?」
『残り二分、いえ一分三十秒です。それまでどうか』
「遅い! 一分でやって!」
『かしこまりました』

 建物の壁を体当たりで破壊する。虎としては小振りな体格でも、人間仕様の出入り口を通るには
無理がある。
 舞い散るコンクリートの粉塵に、むせている時間はこの際ない。
 狭い通路をひた走る。頭の中でカウントダウンが鳴り響く。
450女か虎か:2009/05/28(木) 23:12:17 ID:/7gQ2RX80
 ――五十、四十九、四十八……

 追いすがってくる≪我鬼≫の体は、この通路の幅には明らかにサイズオーバーだ。
 だが怪物じみた膂力と強靭な体躯は、行く手を阻むかに見えた壁をやすやすと破壊する。
 壁を崩し、柱をへし折り、天井すらも崩落させながら巨獣は追って来る。

 ――四十、三十九、三十八……
 ――三十、二十九、二十八……

「葛西! そっちはどう!?」
『いつでも結構でさァ』
「オッケー」
 顔に当たるコンクリートの破片を感じながら、サイは虎の顔のままで笑った。

 ――二十、十九、十八、十七。
 ――十六、十五、十四、十三。

『そんじゃ、俺ァ避難させていただきますよ。巻き込まれちゃあたまらねえ』
 葛西からの通信が途切れる。

 ――十、九、八。
 ――七、六、五。

 廊下の突き当たりにドアが見えた。
 かすれた文字で書かれた表示は、『関係者以外立入禁止』。
 サイは速度を上げる。引きちぎられた前脚も再生させ、全速力で疾走する。

 ――四。
 ――三。
 ――二。一。

『サイ! 今です!』

 アイの声とともにサイは床を蹴った。
 白銀の体は全力疾走の勢いを乗せて跳び、脆い天井を破壊して夜明け前の空に舞った。
 しかし≪我鬼≫の勢いは止まらない。
 全長十メートル体重十一トン超。列車がすぐには止まれないのと同様、充分にスピードのついた
この巨体にブレーキをかけるには、相応の時間を要する。
 ≪我鬼≫が廊下の突き当たりに突っ込んだ。
 轟音とともにぶち破られるドア。

 ――ゼロ。

 金の閃光がほとばしった。嵐の夜、空に轟く遠雷と同じ色をした光だった。
 絶叫に似た吼え声が上がった。
 内側から肉を黒焦げにする、高圧の電流が≪我鬼≫の体を走り抜けた。
451電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/05/28(木) 23:12:58 ID:/7gQ2RX80
今回の投下は以上です。
それでは、また。
452星盗人:2009/05/29(金) 21:38:39 ID:Px5Ib9VLO
 妖怪の山に、深い夜が降りてくる。
 春先と言えど、この時間にもなると少々肌寒い。
 霊夢はちょっと身震いして懐の黒猫を抱き締めた。
「あー、ぬくぬく……あんたを連れてきて正解だったわ、燐」
 すると猫は嬉しそうにもぞもぞし、尾をぴこぴこさせる。
 切り立った崖に腰掛け、星の無い空を、霊夢は見上げていた。
 ひゅうひゅうと吹く夜風が漆黒の髪をさらさら揺らし、時折うなじに冷気を感じる。
 星一つ無い漆黒の空。月の光だけが無明の天蓋に陥穽を穿っている。
 いつもの夜空とは似ても似つかない、まるで異界のような風景。
 今頃、他の幻想郷の住人たちはこの状況をどのように捉えているだろうか。
夜の空から星を奪いつくすという暴挙が、一部の高位妖怪たちの手によって行われていて、
その動機がたった一匹の妖怪の気まぐれによる思いつきだと知ったら、その事実をどのように受け止めるのか。
「……まさかわたしが『異変』を起こす側に回るとはね」
 『異変』──それは、この幻想郷でしばしば発生する異常事態の総称であった。
 それは例えば「いつまで経っても春が来ない」というものだったり、例えば「温泉と一緒に怨霊が沸いた」というものだったり、
閉ざされた幻想に生きる少女たちの、その非(ナル)現実に立脚した認識すら越えて勃発する怪奇──それが『異変』である。
 そして、幻想郷を外界より隔離する二重結界の片肺を担う『博麗大結界』の守り手である博麗神社の巫女、すなわち博麗霊夢には、
暴走する怪奇が幻想郷に深刻な変化を及ぼす前に、その『異変』を解決に導く義務がある。
「だけど、この場合、私はどうすりゃいいのかしらね? 自分で自分を成敗するべきなのかしら?」
 ごろごろと喉を鳴らす燐をあやしつつ、そっと洩らす。
「それは違うわ、霊夢」
 左後方からか細い声が聞こえてきた。
 だが、霊夢は振り向かない。ただ黙って燐の背中をくすぐっている。
 そのか細い声は続ける。
「『博麗神社の巫女には決して手を出してはならない』──それが、この幻想郷における暗黙の了解。
そのルールは貴女自身にも適用されるわ。それが誰であろうと博麗の巫女に手出しは無用、つまりそういうことなの。
なにより……自分を傷つけるような発想はいけないことだわ、霊夢」
 そこでやっと振り返る気になった霊夢は、背後の紫へと身体を向ける。
「じゃあ、わたしはどうしろって?」
「貴女のお好きになさい。全ては許されているわ」
453星盗人:2009/05/29(金) 21:42:15 ID:Px5Ib9VLO
「『異変』解決が仕事のわたしが、自ら『異変』を起こすことが許されていると本気で思ってるの、紫」
「いいえ……貴女の言はまず前提が間違っている。これは『異変』では有り得ないわ。なぜなら」
 と、紫はここで言葉を切り、手にした日傘をくるんと一回転。
「こちら側に博麗霊夢が立っているのだから」
 ぱし、と小さな手で受け止めた。
「……意味不明すぎ」
「そうかしら。こんなにも自明な論理は無いと思っているのだけれど」
「だとしたら、あんたの論理回路はぶっ壊れてるのね。修理を勧めるわ」
「あら、そう? 嬉しいことね。お気遣い痛み入ります。良いエンジニアを紹介してもらえるかしら?」
 ──どこまで行っても埒の明かない問答。この対話はどこへ向かっているのだろうか?
 さくさくと密やかな音で草を踏みわけ、紫は霊夢の隣に来る。
 そしてゆったりとした動作で膝を曲げて同じく崖に腰掛けた。
「ちょっと、なんで隣に座るのよ」
「貴女は『空を飛ぶ程度の能力』の持ち主だから」
「はあ?」
「真に宙に浮くということは、この世の全ての呪縛から解き放たれて自由であるということ」
「その気味の悪い顔をこっちに近づけないで。なんのつもりよ」
 そうした霊夢の抗議などにはまるで耳を貸すつもりが無いように、紫は好き勝手に述べ立てている。
 霊夢の発言とはまるで関わりのなさそうなことを、断定口調で、しかも相手のレスポンスを待つこともなく。
「『異変』とは個と世界の間に吹くスキマ風のようなもの。
どこかの誰かのささやかな想いが、別の『どこかの誰か』に到達することを阻む、空虚で歪曲した現実──
そうした世界の残酷さの一歩先に足を踏み入れたとき、『異変』が幻想郷に興る」
 いつの間にか、紫の茫漠とした瞳がとても近いところに──鼻が触れ合いそうなところにまできていた。
 じっと霊夢に注がれる視線の源、それはまるで、星の失せた天のような、空っぽで底のない、暗黒の瞳。
 見つめられるだけでどこまでも落ちてしまいそう。
「わたしから離れなさい、紫」
 知らず、口調が険しくなっている。
 だが、紫は取り合わない──いや、
「貴女は全てから距離を置いた状態であり続けることを決定された存在。そういう『能力』を持って生まれてきた少女。
人の想いも、世界の歪みも、貴女にとっては遠く離れた──対岸の火事程度の事象に過ぎない」
454星盗人:2009/05/29(金) 21:44:42 ID:Px5Ib9VLO
 ここに至って霊夢は理解していた。
 この支離滅裂な発言を繰り返す妖怪少女、八雲紫は、霊夢の言をはぐらかすために口を動かしているのではないということを。
彼女は彼女なりのレトリックに従い、極めて真剣に、真摯な態度で、霊夢と受け答えをしているのだということを。
 ──両者の思考の層(レベル)があまりにもかけ離れている故に、話が噛み合っていないだけで。
 背筋を走るなんとも言えぬ感触、なにかが胸にこみ上げてくる。
「博麗霊夢は『異変』を起こせない……それはきっと、とてもとても怖ろしいことだわ。
『なににも縛られない』という究極の不安感を、貴女はどのように御しているのかしら。
わたしはそこが知りたい。だからこそ、貴女を──」
 また少し、紫の顔が近づく。
 それはもう、お互いの吐息の湿り気が唇に感じるほどの、文字通りの紙一重の距離に。
 紫を拒絶したいと思った。
 だが、言うべきことはなにも無かった。
 どれほどの言葉を重ねても、それが紫に届くことは無い──紫の言葉が、決して霊夢に届いていないのと同様に。
 なぜ自分たちは並んで座っているのだろうか?
 噛み合わぬ会話、重ならない心、そこに横たわる隔絶。
 紫は霊夢の『能力』を『全てから距離を置いた状態であり続けることを決定された存在』と評した。
 ならば、なぜ、彼女は今距離を縮めようとしているのか?
 その不条理極まりない行為の中に、なにを求めているのだろうか?
 星の無い空にあっていまだ朧に浮かぶ、あの月なら答を知っているのだろうか──。
 刹那の距離にある小さな眼、紫の二つの瞳が、わずかに輝く。
 そこに映る月光の輪が、二重になって仄かに浮かんでいた。
 霊夢の懐に潜り込んで首だけ表に出している燐が、小さくニャーと鳴いた。
455星盗人:2009/05/29(金) 21:48:33 ID:Px5Ib9VLO



 夜の闇を、二人の少女が飛んでいた。
 片方は夜の闇を裂くように、鮮やかな色合いの装いを風になびかせて。
 もう片方は夜の闇に溶けるように、漆黒の魔女衣装を風に膨らませて。
「綺麗な月ね」
 星の無い夜空にたった一つ浮かぶ月を見渡し、アリス・マーガトロイドはなんとはなしにそんな感想を漏らした。
 だが、箒に跨り隣を飛ぶ魔法使いルックの少女、霧雨魔理沙は気のなさそうな声を返すだけだった。
「そうか? 私にはいつもと同じに見えるけどな」
「はあ……貴女には詩美的な感性ってものがまるでないのね、魔理沙。ホント、がさつにできてるんだから」
「ふふん」
「なによ、その含み笑いは」
「いけないな、そういう言い方。語るに落ちるというやつだぜ、アリス」
「はあ?」
「月が綺麗なんて嘘っぱちっだと自分で白状してんのさ」
「なんでそうなるのよ」
「だってそうじゃないか? 今、私とお前は同じものを見ている。だけど、それをどう見るかで意見が分かれている。
そしてその理由を、お前は私の眼球ではなく感性のせいにした。そんな曖昧で不確かなものが『本物』であるわけがないだろ?
あそこに月がある。それは私たち二人にとっては真実だ。しかしお前が見ている『綺麗な月』はお前だけの幻想(イリュージョン)に過ぎない」
「また屁理屈ばっかり捏ねて」
「屁理屈も理屈だぜ。悔しかったら論破すりゃいいさ」
「悔しいとか悔しくないとか、そんな問題じゃないでしょ?」
「いつだって私はそこを問題にしてるんだ。そう、気持ちの問題さ。──おっと、結論が出たな。つまりそういうことさ」
「そういうことって、どういうことよ」
「あー? 今言っただろ? 気持ちの問題だ気持ちの」
 だから分からないって、と言いかけたアリスの耳に、『それ』は飛び込んできた。
「月に綺麗も汚いもない──もしそれが綺麗に見えるとしたら、他でもない、綺麗なのはお前の心なんだ」
 それこそ、ぼっ、と音を立てて顔が赤くなったような気がした。
「な」
「ながどうした、アリス」
 しかし、アリスは口をぱくぱくとさせることしか出来ないでいる。
456星盗人:2009/05/29(金) 21:55:04 ID:Px5Ib9VLO
「ななな……」
「『七色の人形遣い』アリス・マーガトロイド。自己紹介されなくたって、そんくらい知ってるよ」
「な、なにを言うのよ……」
 馬鹿なこと言ってんじゃないわよ、と啖呵を切るつもりだったのに、出てきたのは情けなくなるくらいに小さな声。
 彼女はどこまで本気なのだろうか、と今更思う。
 自分がどれだけ勇気を振り絞っても決して言葉にできない事柄を、彼女はさらりと言ってのける。
 彼女には怖いものがないのだろうか。
 自分がおっかなびっくり手探りで進んでいるような世界を、彼女は脇目も振らずにずんずん走っている。
 とても追いつけそうにない──。
 魔理沙はアリスが返事をよこさないことで会話が終わったのだと決め込み、周囲に目を走らせている。
 その瞳にはもうアリスは映っていない。もっと面白そうなもの、『星を盗んだ者』の手掛かりを求めてあちらこちらへ忙しく動いている。
 もう、声をかける気力はなかった。ただ、所在なさげに魔理沙の後に追随するだけである。
 魔理沙の肩にしがみつくペットの地獄鴉と目が合った。鴉はちょいと首を傾げ、カ、カァと短く鳴いた。
 それはまるで、自分も月を綺麗だと感じていると訴えているようだった。




季節感もスレチもアク禁もかなぐり捨てて携帯より。しかし小休止。
壊れ気味の会話を書くのに全力を注いでると他が疎かになるのはどうにかならないのか。
どうにもなりません(自問自答)。
457しけい荘大戦:2009/05/30(土) 15:03:40 ID:+TX1m9cs0
第二十一話「始まってしまった」

 米国大統領ボッシュ来日を引き金とし、勃発した対テロリスト戦争。
 戦場と化した徳川ホテル東西南北の門は、ついに突破されることはなかった。
 まだ残党による抵抗はあるものの、しけい荘住民の活躍によって主要メンバーを欠いた
者たちでは大統領までたどり着くことはほとんど不可能に近い。事実上、ドイルが担当す
る北門の勝利によって戦争は決着した。
「よくやってくれた……。しけい荘の彼らがいなければ、今頃ボッシュの命はなかったか
もしれんな」
 モニター室。全ての終わりをようやく実感した園田は、素直にオリバを始めとするしけ
い荘の面々に感謝の念を覚えた。
 もちろん隣では、ある意味では黒幕といえる光成が満面の笑みを浮かべている。
「いやァ〜どの戦いも楽しめたわい。これほど堪能したのは本当に久しぶりじゃ。どうせ
なら、ホテルを全壊させるくらい派手にやって欲しかったがのう」
「徳川さんッ!」
 園田の一喝に、さすがの徳川も肩をすぼめた。
「じょ、冗談じゃよ、冗談……」
「いいですか……。あなただって、一歩まちがえればカマキリの餌になっていたんですよ。
少しは反省して下さい」
「ン、分かっちょるよ、園田君」
 絶対分かってない、と園田は心の奥底で深くため息をついた。

 ホテルの玄関ロビーで満足げに葉巻を吸うオリバ。己の信じた仲間たちが、各々期待以
上の戦果を挙げたのだから、これほど嬉しいことはない。
 東門、柳によって北沢軍団が総崩れとなる。
 西門、スペックが巨大カマキリ退治に成功する。
 南門、ドリアンが郭春成相手に貫禄勝ち。
 北門、ドイルの手で最高幹部ガーレンが焼却された。
458しけい荘大戦:2009/05/30(土) 15:04:46 ID:+TX1m9cs0
「先ほどの不吉な予感は、杞憂に過ぎなかったようだ。彼らは私の直感を超えてくれた」
 しみじみと独りごちると、オリバは太い首で天井を仰いだ。
「今頃、シコルスキーは喜んでいるだろうな。戦わずに済んだ、と」
 ボッシュに対する脅威がほぼ無力化したならば、これ以上ホテルに滞在する意味はない。
唯一出番がなかったシコルスキーをどう料理するか考えながら、オリバはソファを立とう
とする。
 すると──

 ぼこっ。

 ──ホテルの受付付近の床がうっすら隆起した。
 最初から気づいたのはオリバだけだったが、変化が大きくなるにつれ、ホテル従業員も
異変に気づき始める
 何者かが床下に潜んでいるのは明らか。緊張の面持ちで変化を観察するオリバ。
 まもなく予想通り床は砕け散り、地下から一人の人間が飛び出した。
「ふぅ……汚れちゃったよ」
 泥まみれのTシャツ、泥まみれのジーンズ、泥まみれのスニーカー。下水道を通ってき
たのだろう。侵入者の正体は身長170センチにも満たない、まだほんのわずかに顔に幼
さを残す少年だった。
 対するオリバも動じることなく、侵入者とのコンタクトを試みる。
「ウェルカム、といいたいところが……さっそくガードマンとして質問だ。君はテロリス
トかね?」
「俺は刃牙ってんだ。テロリストじゃないぜ」
「フム、けっこうだ。ならば、なぜこのホテルに……?」
「いやァ、わざわざ人に話すことでもないんだけど……」照れ臭そうに、オリバから視線
を外す刃牙。「ちょっと大統領を誘拐しようかな……って」
 平然ととんでもないことを口走る刃牙に、さすがのオリバも目を丸くする。
459しけい荘大戦:2009/05/30(土) 15:05:33 ID:+TX1m9cs0
「ほう、大統領を誘拐とは……よほどの理由(わけ)があるようだな」
「少なくとも、俺にとってはね」
「よければ話してくれんか。私でよければ力になれるかもしれん」
 すっかり交渉人(ネゴシエーター)と化したオリバ。
「実は俺、明日彼女と初デートなんだよ。とりあえず喫茶店にでも寄ろうかとプランを練
ってたんだけど、さっき確認したら財布に全然金がなくてさ。仕方ないから、大統領でも
誘拐して身代金でコーヒー代を要求しようと思ってね。ざっと10ドルほど」
「………」
 オリバはもう、どうしていいのか分からなくなった。「若気の至り」だとかそういうレ
ベルではない。デート資金欲しさに大統領誘拐を企て、しかも即実行に移すなど、はっき
りいってしまえば、バカだ。
「ン〜……例えば、金を使わないデートプランに変更することはできんのかね?」
「無理だね。アンタも結構強そうだけど、強さってのはそういうもんだろう?」
 刃牙がオリバに接近する。
「俺を止めたきゃ、腕っぷしで来るんだな。それともアンタのバカでかい筋肉は──」刃
牙のハイキックがオリバにめり込む。「飾りかい?」
 一瞬、天地が揺れた。小柄な体格からは予測もつかない威力。天下無敵のアンチェイン
が、たったの一発で片膝をつけさせられた。
 さらに、強烈無比なサッカーボールキックがオリバの顎を蹴り上げる。が、大ダメージ
にもかかわらず、オリバは笑っていた。
「ブラボー刃牙、ようやく追いついたよ」
 刃牙の後頭部を無造作に掴むと、顔面を力ずくで床に押し込む。
「マイネェムイズ、ビスケット・オリバ。地上最凶のアパートの大家だ」
 オリバと刃牙。始まってしまった。なぜだか分からないが、始まってしまった。
460サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/05/30(土) 15:08:53 ID:+TX1m9cs0
第二十一話終了です。
前回>>434


>>440
ドイルは好きですが、武器人間という性質上、扱いが難しいですね。
461ダイの大冒険AFTER:2009/05/30(土) 18:07:56 ID:S0XhE6Ce0
第十五話 天空城
地上に戻ってきた五人は城の会議室に行くことにした。
「私達が魔界に行っている間に魔物が襲ってきたという事はもう既にヴェルザーが地上を狙っている証拠。
ダイ君やレオナ姫が気になりますが一時地上に留まりましょう。」
「ダイ・・・姫さんも何処にいるんだ?」
不本意ながらも五人は地上に留まる事を余儀なくされた。
「これからもし魔物達が大軍で攻め込んできた時の事を考えましょうか?」
「相手の出方が分からない今正面からぶつかるしかない。」
バーンとの戦いと違い敵が攻めなければ情報の得られない状況ではヒュンケルの答えにすがる他はなかった。
そんな中会議室の窓から一通の手紙の様な物が入ってきた。
           〜宇宙〜
”それ”は太陽の近くから発生した。
一人の魔族の死体から発生した黒い霧、”それ”は太陽を求めて戦い続けた魔族の凄まじい(生への執着)を意味していた。
黒い霧はだんだんと人の形を模る。”それ”は急速に星に落ちる。
一人の魔族は凄まじい生への執着と目的を達成する為、転生を始めていた。
              〜天界〜
「この花を竜の騎士の神殿の奥に置いてくれるか?」
オーディンは一本の花をダイに渡す。
「大きな花だね。でも何でこれを神殿に?」
「理由は少しすれば分かる。さあ、私が君を地上に送ろう。」
オーディンのバシルーラによってダイは天界から消えた。

462ダイの大冒険AFTER:2009/05/30(土) 18:10:23 ID:S0XhE6Ce0
ダイが飛ばされた場所は神殿の水晶のある部屋だった。
「ここに花を置けばいいんだよね?」
ダイは水晶の近くに花を添えた。
しかし花を添えても何も起こらなかった。
「あれ?何も起こらないや。何でだろ。」
不思議に思いながらもダイは神殿を後にする。
神殿から出て湖を泳ぎ切ると水面上に神秘の国、テランが映る。
ダイは地上に上がり、実感した。
「ああ、地上に帰って来たんだな。」
回り道をしながらも地上に戻ったダイだが魔界に残したエスタークの事を考えると素直に喜べなかった。
                〜天界〜
「オーディン様、”世界樹の花”を渡して良かったのですか?」
「もう神々の力ですら止めることが出来ぬ程の悪が栄え、聖母竜は新たな竜の騎士を産むことは出来ない。
しかし”あの男”ならば蘇生が間に合うはずなのでな。駄目で元々、世界樹の花の蘇生力に賭けるしかない。」
オーディンはこの絶望的な状況で一筋の光を見出したかのように呟く。
その願望に応える様に竜の騎士の神殿は光り出した。
運悪くダイは水面が光り出した事に気付かないまま出発してしまった。
一方ベンガーナ城に入った一通の手紙を一行は読んでいた。
『地上の様子を見ていました。貴方達に頼みたい事がありますので是非天空城へお越しください。
追伸 天空への塔を経由して下さい。』
「これ、行くのか?」
ポップが問う。場内にいる全員答えはYESだが主戦力が行くという事はなるべく避けたかった。
「俺は天空城に行くぜ。城に留まるなんて出来ねえからな。」
「ダイ様も天空城に呼ばれている可能性もあるかも知れん。俺は行く。」
ヒムとラーハルトが出発すると意気込んでいる所をフローラ姫がまとめる。
「今回はマァム、貴女が行って下さい。何時攻められるか分からない状況でアバンが動く訳にもいかないでしょう?」
こうして最初の四人の内、アバンの代わりにマァムを入れる形になって天空城へ向かうことになった。
「ポップさん、お気をつけて・・・」
メルルは少し小さい声でポップに告げる。
「心配すんな!必ず戻ってくるさ。」
そして四人は出発した。
463ダイの大冒険AFTER:2009/05/30(土) 18:12:21 ID:S0XhE6Ce0
世界の中心に空高く聳え立つ塔、天空への塔に四人は行きつく。
「うわ!てっぺんが見えねえ!!」
やけにハイテンションなポップを尻目に三人は中へ入る。
塔の中はやたらと複雑なうえ、モンスターも出てくる。
「あー、またあのシールドヒッポの野郎アストロンをしやがった!!」
というような声も珍しくはない。
既に三時間は経っているが塔の全行程からすればまだ序盤の方である。
「はあ、そろそろ疲れたぜ。」
と、ポップが言い始めていた時正面に少し小柄な中年に入っていそうな男がガーゴイルから逃げ回っていた。
「わーーー!!!」
「ペタン(重圧呪文)!!!」
ポップの重圧呪文でガーゴイルを退け、一命を取り留めた男性が近付く。
「ありがとうございます。私はプサンと申します。天空城へ行きたいのですがモンスターが強くて・・・」
「ああ、だったら俺達と一緒に行こうぜ?」
ポップの言葉にマァムが反対する。
「ちょっと!こんな素性も知らない人と・・・」
「いや、俺は賛成する。」
答えたのはラーハルトだった。
「うまく言えないがこの男はバラン様やダイ様と同じ様な気配を感じるのだ。」
こうしてプサンが加わり五人となったチームで塔を登ることにした。
             〜魔界〜
「気分はどうかな・レオナ姫。」
個室で幽閉されているレオナを覗き込むようにヴェルザーは話す。
「こんな所で気が休まるわけないじゃない。」
レオナは衰弱仕切っていていつ死んでもおかしくなかった。
「死なせはせん、貴様にはまだ利用価値があるからな。」
ヴェルザーの高笑いが魔界に響き渡った。
464ガモン:2009/05/30(土) 18:14:35 ID:S0XhE6Ce0
第十五話 投下完了です。前回>>429
次回は天空城に到着すると思います。

>>電車魚さん
お疲れ様です。
サイと我鬼の闘いもいよいよ大詰めでしょうか?
今回はアイが活躍しましたね。

>>ハロイさん
お疲れ様です。
魔理沙とアリスを見比べるとアリスの方が人間ぽいと感じてしまいました。

サナダムシさん
お疲れ様です。
10ドルの為に大統領を誘拐しようとする刃牙の行動力に笑ってしまいました。
オリバの後はいよいよシコルスキーでしょうか?
465作者の都合により名無しです:2009/05/30(土) 22:30:57 ID:0bLr0EOJ0
>女か虎か(今更ですがあの有名な小説のリスペクトタイトルでしょうか?)
肉体の部分はサイが担当し、頭脳の部分はアイ。見事なコンビネーションですな。
我鬼とはいえ最後の電流は大ショックでしょう。ラストが近いのかな?

>星盗人(お久しぶりです!)
霊夢たち可愛いなあ。ハロイさんの会話は大好きですよ、シュガーハートといいこれといい。
一見軽い感じなのに、必ず一文に意味があるし。原作調べてみようかな?

>しけい荘大戦
あれ、いよいよ範馬一族の刃牙が登場ですか!シコルには荷が勝ちすぎる相手。
オリバが相手を勤めるのかな?でも、シコルの相手が居なくなるからなー?

>ダイの大冒険
なつかしいなープサン。あえてここで正体は秘しますがw なんとなく異魔神が
登場しそうな雰囲気だったけど気のせいか。ラスボス級が沢山居ますな。
466作者の都合により名無しです:2009/05/31(日) 11:50:10 ID:8l41v+eJ0
ようやくバキスレ巻きなおしてきたかな、と思いきやまたアク禁。
感想が書けなかった。ハロイさんの唐突な復活や電車魚さんの定期更新、
サナダムシさんとガモンさんの好調など好材料ですな。

>電車魚さん
ガキとの死闘もいいけど、アイがサイをかばうシーンとかがいいですね。
完璧なアイが子供みたいで。この2人はネウヤコに次ぐ作中名コンビだな。

>ハロイさん
どこか昔話のようなのほほんとした感じのなかに全てから放たれた呪縛とか
深い言葉が。思考のレベルの差ってのは残酷だけど暖かいやりとりだなあ。

>サナダムシさん
なんかバキが好青年っぽい登場の仕方で吹いたwでもやる事はキチガイの域。
原作でもバキ嫌いなのでオリバにきついお仕置きをされないかなあ。

>ガモンさん
ベースはダイの世界とドラクエ5なのかな?ミルドラースも暗躍してるみたいだし。
レオナはいつも魔王クラスにつかまるなあ。姫キャラの宿命か。
467作者の都合により名無しです:2009/05/31(日) 18:10:29 ID:Wy32mhUC0
ハロイさん戻ってきたか。
元ねた知らないけど相変わらず会話のセンスいいな

電車魚さんとサナダムシさんの連載がなんとなくもうすぐ終わりそうだ…
ガモンさんの作品はまだまだ続きそうだね
468ふら〜り:2009/05/31(日) 21:37:01 ID:U4sVFxCI0
来るときゃ来る! のがバキスレですな。うん。

>>電車魚さん
読んでて、脳内でイメージを描いてて、文字通り「息が詰まるような」思いでした。ダメージの
回復というか修復に、自分の内臓を使うって……サイならではですね。そんなサイから見ても
バケモノな存在になった我鬼に、映画「ジョーズ」ラストのような一撃。いよいよ決着、なるか?

>>ハロイさん(お久しぶりと思ったら、さいさんと同じくアク禁ですか……お察しします)
これだけの量と質を携帯電話から……ってのにまず驚愕で感服です。いつもながらの仙人
みたいな視点の会話ですけど、月の美しさの話は頷かされました。同じものを見ても、感想
は人それぞれ。でも誰かが描いてくれたから鑑賞でき感想も書ける、のは不動の事実。感謝。

>>サナダムシさん
そ、そうきましたかっっ! これは豪快に意外でした。確かにカマキリを筆頭とするこれまでの
敵勢の誰よりも強く、動機もきっちり原作に沿ってて無理がなく、刃牙がバカなのは全国の
バキ読者の共通認識! 文句のつけようのない原作主人公登場……って、オリバ負ける?

>>ガモンさん
ダイが地上に帰って来たか……と思ってたら、最後に思い出されるレオナの現状。入れ替わる
ように彼女が囚われているんですよねえ今。ダイとポップたちとの合流はまだまだ先になりそう
ですし、魔王勢はまた何か動き始めてるらしく、でもポップたちは何も知らない。前途多難……
469作者の都合により名無しです:2009/06/02(火) 20:28:04 ID:5F4V3KVr0
アク禁止はどうにかならんかねえ
せっかく好きなハロイさんと電車魚さんが
久しぶりに着てくれたのにその日のうちに
感想かけなかった
470しけい荘大戦:2009/06/02(火) 22:42:48 ID:C3g0Aijt0
第二十二話「地上最強のガキ」

 恨みはない。面識すらない。対決する必要は全くない。だからといって、やるからには
全力でやらねばならない。
 オリバの剛腕が、刃牙の顔面を半分近く床に埋め込んだ。刃牙が腕立て伏せの要領で上
からの圧力に抗うが、押し込められた顔は一ミリさえ持ち上がってくれない。力での抵抗
は無意味に近い。
 刃牙は真っ向からの脱出を諦め、発想を転換させる。自らの後頭部を掴むオリバの右腕
を、無我夢中で引っ掻いた。オリバの黒い皮膚に、赤い線が何本も刻まれる。
 激痛で一瞬だけ力が緩んだ巨腕から、刃牙はようやく逃れることに成功した。
「ふぅ……スゲェ力だな、アンタ」
 深く息を吸い込み、オリバの怪力に狂わされた体内リズムを整える刃牙。
「フム……粗塩も意味を成さんか。まだ若いのに、戦い慣れている」
 傷まみれの右腕を観察し、感心するオリバ。
 再び構え、即突っかける刃牙。オリバのパワーを味わったばかりだというのに、全く恐
れていない。
「ちぇりあァァッ!」
 ボディを右ストレートで突き刺し、次いで左アッパーが顎を打ち上げ──
「いい打撃だ」
 ──ない。停止する左拳。オリバの丸太のような首が、脳へのダメージを遮断する。
「では、今度は私から……」
 日々アパート住民を懲らしめている豪快な張り手が、刃牙にクリーンヒット。
 まるで、爆薬(エクスプロシブ)──。
 砲弾と化し、まっすぐ、猛スピードで壁に突き進む刃牙。が、激突する寸前に壁を蹴り、
反動で一気にオリバのもとに帰還する。オリバは反応できない。
 空中後ろ廻し蹴り、炸裂。
 これを鼻っ面に真正面からもらい、さすがのオリバも数歩よろめく。とろりと落ちる鼻
血。刃牙の猛攻はこれだけでは収まらない。
 初弾を凌ぐ速度の左ハイを浴びせ、足刀で喉を抉る。水月を踏み台にして跳び上がると、
バレーボールのスパイクさながらのチョップブローを浴びせる。ウェルター級が打撃でヘ
ビー級を後退させる。にわかには信じがたい光景だ。
471しけい荘大戦:2009/06/02(火) 22:43:49 ID:C3g0Aijt0
 刃牙が地に足をつけた瞬間、オリバの右手がにゅうっと伸びた。
 右手は右腕を掴んだ。
「うっ!」
「フフフ……次は回ってみるかい」
 力だけで持ち上げられ、刃牙の両足が床から離れる。片手でのジャイアントスイングが
始まった。
 もう刃牙はどう投げられても受け身が取れるよう、覚悟を決めるしかない。
 回転はどんどん速度を増していき、横だった回転がいつの間にか縦に近くになっている。
 投げた。上へ。
 刃牙は背中から天井にぶつけられる。ぶつけられた天井は大きくひび割れた。
 落ちてきた刃牙の右脚を、オリバはすかさずキャッチ。間髪入れず、刃牙をホテルの床
に叩きつけた。
 破壊という二文字こそが相応しい、轟音が響いた。
 この一撃は、ホテル全体を駆けめぐるほどであった。

「───!」
 ホテル最上階で大統領警護を務めるシコルスキーが、ホテルに起こった異変に気づく。
「ゲバル、今……」
「あァ、揺れたな。しかも地震じゃない」
 しけい荘203号室コンビの研ぎ澄まされた感覚は、震源をも特定する。二人が感じた
揺れは、まちがいなくホテル内で発生したもの。同時に、犯人すら推理できてしまう。も
っとも今ホテルにいるメンバーで、これほどの衝撃を生み出せる人間はたった一人しかい
ないのだが。
「大家さんが……戦っている……?」
「そうとしか考えられないな。しかもこのパワー、あのアンチェインでも手を抜けない相
手だということだ」
「しかし……なぜ! まさか、まだとんでもないテロリストが──」
 オリバの苦戦。想像すらできない事実に、焦燥の色を隠せないシコルスキー。するとシ
コルスキーとゲバルに、割って入る甘い声。
472しけい荘大戦:2009/06/02(火) 22:45:03 ID:C3g0Aijt0
「どうやらあなた方も気づかれたようですね、今の揺れのおかしさに」
「あ、天内……」
「おそらくこの部屋で気づけたのは、あなた方お二人と私──あとはレッセン氏くらいの
ものでしょう」
 いつもの柔らかなデザート風の微笑みとともに、天内はそっと耳打ちする。
「くれぐれも口をお慎み下さい。大統領を不安にさせてはなりません。ですから、今は信
じるのです。勇敢なる仲間の勝利をね」
 米国一喧嘩が強い男に敗北などあるものか。シコルスキーは遥か階下で戦う大家の勝利
をただ祈る。

 断じて技などと呼べる現象ではない。オリバの怪力によって弄ばれ、天地に叩きつけら
れた刃牙。口からは喀血し、ダウンしたまま動かない。
「さて、どうするね。これ以上続けると、君がデートに行けなくなってしまうぞ」
「ヘッ、強ぇな……。この無茶苦茶な力、範馬勇次郎とヤッてる錯覚さえ生ずる」
 地上最強の生物、範馬勇次郎。まさかこんなところであの名前を耳にしようとは──オ
リバの脈拍が若干上昇する。
「ミスター刃牙。君はあのオーガと戦ったことがあるのか」
「あいつは俺の親父さ。どうも昔から気が合わなくてね、ちょっと揉めてんだ」
 父親の話をし出した途端、刃牙から発せられる闘気が増幅される。もし本当にあの範馬
勇次郎の息子ならば、この程度で勝利を得られるはずがない。舌打ちすると、オリバがト
ドメを刺すべく走る。
 オリバの下段突き。が、刃牙が起き上がる方が速かった。
 立ち上がった刃牙は悠々と汚れたTシャツを破り捨て、靴を放り投げる。ジーンズから
脱皮するように跳び上がると、トランクス一丁となる。無数の傷跡を眠らせる、百戦錬磨
の肉体があらわになる。これからが本番だということか。
 ならば応えよう。オリバが体中に力を込めると、彼が着ていたタキシードが四方に弾け
た。タキシードだった布が、桜吹雪のようにホテルの中を舞う。ついに黒い肉戦車が解き
放たれた。
473しけい荘大戦:2009/06/02(火) 22:45:51 ID:C3g0Aijt0
「オーガの倅ということなら、遠慮なくやれるってもんだ」
 右拳を放つオリバ。初めての刃牙の人生を考慮しない一撃。これを神速フットワークで
掻い潜ると、刃牙は猛烈なボディブローを腹筋に叩き込む。
「──ごっ?!」
 動きを止めたオリバの顎に、左アッパーカットがクリーンヒット。先ほどは打ち抜けな
かった刃牙だが、今度の拳は問答無用でオリバの首を上に折り曲げてみせた。
 さらに天を向いたオリバの顔面に、速度と体重を物理法則以上に乗せたヘッドバットが
入った。
 巨大要塞、傾く。踏みとどまる素振りすらなく、崩れ落ちるオリバ。完全なるノックダ
ウン。
「ッシャアアッ!」
 刃牙が吼える。兎が獅子に化けるほどに、不自然なほど急激なレベルアップの正体。第
一の目撃者は対戦している二人ではなく、傍観者に過ぎないホテルの従業員だった。
「な、なんだ……あの背中……ッ! お、おお、鬼だァッ!」
 範馬刃牙の背中に形成された、怪異なる打撃用筋肉(ヒッティングマッスル)。鬼の貌。
 闘争に人生を支配された呪われた人種にのみ、授けられるという悪魔の力。いかなる技
術や筋力をも蹂躙する強靭にして無慈悲な鬼が、弱冠18歳の少年を己が巣食うに値する
宿主であると認めていた。
474サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/06/02(火) 22:46:45 ID:C3g0Aijt0
第二十二話終了です。
次回へ続く!
475L'alba della Coesistenza:2009/06/02(火) 22:54:50 ID:kl6jdJ640
ダイの大冒険の話を投下させていただきます。

『L'alba della Coesistenza』


第一話 幕開け

 白銀の髪を持つ長身の魔族が、黒い髪の少年、バンダナを巻いた少年、少女の三者に向かって高らかに笑った。
 数千年をかけた大事業を潰された男――大魔王は諦めず、再度実行することを選んだ。
 地上破滅計画を。
 それに対し、小さな勇者は地上の平和を守るためにある決断を下した。
 人と竜と魔を合わせた竜の騎士の血を引く彼は、生まれながらに持つ紋章と父から受け継いだ紋章がある。二つの紋章――双竜紋の力を完全に解き放てば、爆発的に強くなれる。
 しかし、それは自分が自分でなくなってしまうかもしれないことを意味した。
 最後まで勇者として戦いたかったため使わずにいた力を、彼は解放した。
 仲間と地上の未来を守るために。
 少年の髪が逆立ち、両手の紋章が額で合致し、輝き始める。
「ば……化物……め!」
 竜の騎士の中で最強の、双竜紋を持つ少年さえも敵わなかった大魔王。
 その彼をして化物と言わしめる存在へと変貌した少年は、荒れ狂う衝動のまま咆哮した。今まで父にあって少年になかったもの――底知れぬ殺気をその眼にみなぎらせて。
「“力が正義”……常にそう言っていたな」
 地を蹴り、魔獣のように大魔王に殴りかかる。
 魔界の頂点に立つ最強の男がなすすべもなく、一方的に攻撃を受けることしかできない。
「これがッ! これがッ! これが正義かッ!? より強い力でぶちのめされれば、おまえは満足なのかッ!?」
 少年は凄まじい力で殴り続ける。
 力こそ全てだと主張してきた男を遥かに上回る力で。
 男の唱え、掲げてきたものと同じ力で。
「こんなものがっ……! こんなものが正義であってたまるかっ!」
 少年は殴りながら涙を流していた。
 強大な力をぶつけることでしか相容れぬ者を止められぬ現実に、胸を痛ませて。
 魂から搾り出された叫びとともに渾身の力で殴り飛ばす。
 踏みとどまった大魔王は、力の差を知りながらも退かなかった。
「負けぬッ! 負けるわけにはいかぬッ!」
 拳を握り締め、敵の姿を睨み据える。
 ここで逃げては彼を支えるものが砕け散ってしまう。今まで歩んできた道や大魔王の名までも汚し、否定することになってしまう。
 彼が彼であるために、大魔王が大魔王であるために、立ち向かう。
「余は大魔王バーンなり!!」
 勝利のために全てをかなぐり捨てて戦う二人の激突に、大魔宮は崩壊を始めた。
476L'alba della Coesistenza:2009/06/02(火) 22:55:37 ID:kl6jdJ640
 しばらくして大魔王は瓦礫にもたれかかるようにして身を横たえていた。衣はあちこち破れ、全身に傷を負い、呼吸も荒い。
 このままでは敵わぬと悟った大魔王は、少年と同じように勝利のために全てを捨てることを決意した。
 力こそ全てと主張してきた男は、圧倒的な力を叩きつけられても己の正義が間違っていたとは考えなかった。
 大切なものを捨ててでも強くなり、跳ね返すことを選んだのだ。
 頂点に立つ者――王としての誇りがあるのだから。
「余も……捨てねばならぬか」
 彼は震える手を見、口元をかすかにゆがめ額の眼を抉り出した。
 魔力の源である第三の眼――鬼眼を解放し肉体に上乗せした状態になれば、二度とは戻れない。
「だが! 敗北よりはよい、敗北よりは! 大魔王バーンの偉大なる名だけは守り通すことができるッ!」
 自分と同じ決断を下した大魔王の猛攻に少年は力尽き、敗れそうになった。
 竜の騎士最強の呪文も、父から受け継いだ剣も通じず、力尽きそうになった少年の脳裏に相棒の言葉がよみがえる。
 諦めそうになった時、挫けそうになった時、立ち上がらせてくれた最高の友の言葉が。
『結果が見えたってもがきぬいてやる! 一生懸命生き抜いてやる! 一瞬……だけど……閃光のように!』
 勇気を与えられた勇者の体に力が湧き上がる。
『閃光のように!』
 己をつかむ右手を破壊した少年を追って大魔王も飛ぶ。
 振り向いた少年は全身から光を放った。
 太陽のような、全てを照らす閃光を。
 光に眼を奪われた大魔王の顔から表情が抜け落ちた。
 生じた一瞬の隙に勇者はまっすぐ飛び込み、己の剣の柄をつかみ一気に切り下ろした。
 大魔王の身体が、夢を具現化した玩具と同様に真っ二つに切り裂かれていく。
 音の無い空間で少年は瞼を閉ざし、別れを告げた。
 勝利のために全てを捨てて戦った敵へ。
 対極の立場でありながら最も心の近かった相手へ。
「さよなら……! 大魔王バーン!」
 己の正義を最後まで貫き、全ての力を出し尽くして命を落とした大魔王。
 太陽を渇望した彼の亡骸は、太陽へと消えた――。
477L'alba della Coesistenza:2009/06/02(火) 22:56:28 ID:kl6jdJ640
 機械仕掛けの人形を抱え、二人の少年が飛ぶ。
 生まれ育った地を壊させないために。
 大切なものを守るために。
 もはや人形を手放す時間はない。
 それでも勇者の相棒は不敵に笑った。
「おまえとなら……悪かねぇけどな! ダイ!」
 二人は冒険の中で深い絆で結ばれていった。
 互いに勇気を与えあった仲だからこそ、心からそう言える。
 だが、予想に反して小さな謝罪の言葉が返された。
「ごめん、ポップ」
「えっ!?」
 ポップの身体を鈍い衝撃が襲った。一緒だと誓ったはずの友人から蹴り落とされ、唖然としたのも一瞬のことだった。すぐさま相手の薄情な仕打ちをなじる。
「なぜなんだよォォッ! ダイッ!」
 泣きながら叫ぶポップと同じくダイも涙を流していた。
(許してくれポップ。こうすることが……こうして自分の大好きなものをかばって生命をかける事が……! ずっと受け継がれてきたおれの使命なんだよ!)
 願うのは、皆の幸せな未来。
 大切な者達に平和を味わってほしい。
 そのためならば危険に身を晒すことも厭わない。
 ポップは親友の覚悟を――ただ一人で行こうとしている現実を受け入れられず、叫ぶしかなかった。
「バッカヤロオォォオォーッ!!」
 悲痛な咆哮と同時に閃光が炸裂し、ダイの意識は衝撃に吹き飛ばされた。
478L'alba della Coesistenza:2009/06/02(火) 22:58:00 ID:kl6jdJ640
 不可思議な色の地面にあおむけに倒れている少年へ、どこからともなく呼びかける声がした。
「目を、覚ましてください」
 力無く横たわっていた小さな体がわずかに動いた。
 黒い髪が揺れ、少年は瞼をゆっくりと開いた。自分の置かれている状況がわからずにパチパチと目を瞬かせる。
「……ここは?」
 身を起こそうとすると、鉛を詰め込まれたかのような動きになってしまった。立ち上がって慎重に進んでいく。
 雲のような白い靄が視界を遮り、冷たい空気が肌を包んでいる。思わず身ぶるいした彼は辺りを見回したが、生命の気配は感じられない。
 黒の核晶の爆発に巻き込まれたはずだが、生き延びたのだろうか。それとも、生命を落としあの世に来てしまったのだろうか。
 地面を踏む感触は頼りなく、まるで夢の世界を彷徨っているような心地だ。
 あてもなく歩いていると再び小さな声が霧の彼方から響いた。
「竜の騎士、ダイよ」
 声は今にも消えてしまいそうだ。ダイは耳を澄まして聞き取ろうとする。
「あなたは?」
「私は……天界の精霊の一人です」
 ダイは目を丸くして唾を呑みこんだ。
 ここは天界なのか。爆発の衝撃で吹き飛ばされたのか。
 情報を求める眼差しに応えるように、か細い声は淡々と説明した。
 爆発に巻き込まれたダイを保護し、かろうじて生命をつなぐことに成功したこと。
 ダイにとっては数時間寝ていただけのような気分だが、実際は数週間が経過しており、その間に少しずつ傷が癒されたこと。
 そして、天界が滅びかけていること。
 完全な回復には間に合わず、滅亡する前に逃がすために目覚めさせたのだ。
 話が進むにつれてダイの表情は険しくなっていった。
 天界をも脅かす存在、大魔王バーンは倒れた。もう世界の危機は去ったはずだった。
「我々は邪悪な力に蝕まれています。魔界の――第三勢力と言うべき存在に」
 つきつけられた無情な宣告にまだ幼さの残る少年の顔が陰る。
 バーンの野望が潰えた今、第三勢力は動き出すに違いない。精霊に封じられていたヴェルザーの魂も解放されるはずだ。
 生命をかけて守ったはずの地上の平和はすぐに破られてしまうだろう。
 もっと地上の様子や魔界の情勢、第三勢力について知りたい。
 そう思い手を伸ばしたダイの耳に、最期の力を振り絞ったであろうかすれた声が届いた。
「――に陽光の守りがあらんことを……」
 言葉とともに、世界がさあっという音とともに色を失っていく。色が消え、透明になると、ダイの身体は虚空に放り出された。
 彼の意識は落下する感覚に飲み込まれ、途切れた。
479L'alba della Coesistenza:2009/06/02(火) 22:59:41 ID:kl6jdJ640
 目を覚ましたダイは洞窟の中にいることに気づき、起き上がった。
 身体が重い。
 傷が癒えきっていないのか、体中が痛い。しばらく俊敏な動作はできないだろう。
 外に出ても洞窟の中とさほど明るさは変わらなかった。暗い空にある光は弱々しい。
 説明されずともわかる。
「ここが……魔界」
 荒れ果てた大地とマグマが広がっている不毛の世界。
 平穏など永遠に望めないような場所。
 黒雲に閉ざされよどんだ空。
 人工の太陽が光源となっているが、本物には遠く及ばない。生命を育む熱は感じられない。
『我が魔界にはすべての生物の源たる太陽がない』
『太陽……素晴らしい力だ。いかに我が魔力が強大でも、太陽だけは作り出すことができん』
 宿敵の言葉がよみがえり、心に重くのしかかる。
 魔物に襲われるかもしれず、ダイは竜の騎士の力を発現させようとした。
 しかし、かろうじて生き延びたためか、竜魔人化の反動か、紋章は現れない。
「どうして……!」
 このままでは第三勢力を止めるどころか自分の身を守ることすら難しいだろう。
 懸念が的中し、魔物の群れが現れた。彼へと近寄るモンスターはみな強固な外皮や爪、牙を持ち、強そうである。逃げ道もふさがれている。
 力が失われ、万全には程遠い今の状態では苦戦を強いられることになるだろう。
 絶体絶命の獲物へと数匹が飛びかかった。
 攻撃を食らうことも覚悟して身構える。
「え!?」
 ダイが次の瞬間見たのは、轟音とともに立ち上った巨大な火柱だった。
 盾のような外皮を持つ魔物があっという間に焼き払われる光景を全員が動きを止めて見つめたが、残った魔物は諦めず地を蹴った。
 巨体からは想像もできないほどの素早さにダイが目を見開いたが、攻撃が少年に達するより先に飛び込んできた人物がいた。炎を放った相手だ。
 拳を握りしめ、殴りつける。
 どれほどの力がこめられていたのか、魔物はたった一撃で頭部を粉砕され、吹き飛び地に叩きつけられた。
 ダイは己の眼を信じられなかった。
 窮地を救った魔族の白銀の髪は長く、鍛え抜かれた身体を武闘家のような動きやすい装束に包んでいる。
 長身から放たれる威圧感は彼の知る人物によく似ていた。
 魔族の背へかすれた呟きが吐き出された。
「バーン……!?」
480作者の都合により名無しです:2009/06/02(火) 23:02:00 ID:kl6jdJ640
以上です。

戦闘力のインフレを書くのは難しいと思いましたので、「フッ、バーンなど我々魔界○○の中でも(ry」な状況は避ける方向で行きます。
緊張しますが、読んでいただけると嬉しいです。
481ダイの大冒険AFTER:2009/06/03(水) 01:14:01 ID:pIimPaQP0
第十六話 ダイVSエスターク2nd
           〜天界〜
「やはり、私の睨んだ通り、”彼”の肉体が宿るというオーブが神殿に出現したか!!」
「流石に生命を司る世界樹の花だけの事はありますね。」
オーディンとルビスは喜々とした表情を浮かべる。
           〜魔界〜
ポップ達が使ったものとは違う旅の扉の近くで、エスタークは一人、当てもなくダークドレアムを探している。
「ダイ、お前の仇は必ず俺が討つ!!」
そんな折、彼は不穏な殺気を感知する。
「誰だ!!近くにいるのは分かっている。出てこい!!!」
「おほほほほ、その様に敵意を向き出しにされてはこちらとしても話し辛くなります。まずは自己紹介といきましょうか?
私の名前はゲマと申します。おほほほほ。」
ゲマと名乗る魔族は一瞬でエスタークの間合に入る。エスタークは剣に手を掛け、臨戦態勢を取る。先に動いた方はエスタークだった。
「何故俺に近づく?」
剣を振い、威嚇しても彼には意味をなさなかった。
「私は貴方に頼みたい事があるのです。」
見るからに異様な笑顔を浮かべゲマは近づく。その笑顔は狂気に満ちていた。
「頼みたい事?」
エスタークの問いかけにゲマは答える様に”あるもの”を見せる。それはエスタークにとって信じられない光景だった。
「ロザリー!!!???」
エスタークは気が動転していた。今までダークドレアムに殺されたと思っていた最愛の妹が目の前にいる。
勿論彼はモシャスによる変装なのではないかと疑った。どうしても彼には目の前で起こっている事態が真実だという事を肯定出来なかった。
「本当にお前なのか?」
エスタークの眼は少し滲み、声は掠れていた。
482ダイの大冒険AFTER:2009/06/03(水) 01:15:15 ID:pIimPaQP0
「お兄様!!私・・・私・・・・」
兄の姿を前にロザリーは涙した。彼女も兄に会えた事が嬉しくて仕方がなかったのだ。
エスタークも妹の健気な姿を見せられ、最早完全に信じ切っていた。
「残念ですが、私の頼みを聞いてもらわなければ、貴方の妹はこの鎌によって首が胴体から離れる訳ですが。」
ロザリーの首元に死神の鎌を突きつけゲマは嘲笑う。
「や、やめろ!!言うことは聞く!いったい何が望みだ!!」
エスタークの問いにゲマは一本の剣を差し出しながら話す。
「これは古の魔界の職人が作った”覇王の剣”という代物でしてね、覇者の剣でさえこの剣をモデルにしたとされています。
攻撃力も大変素晴らしいものです。是非、この剣で勇者ダイを殺して欲しいのですよ。おほほほ。」
ゲマの依頼にエスタークは驚愕した。それはダイが今も生きているという事以上に自分がダイを殺さなければならないという事実に怯えていた。
しかし、ダイを殺さなければロザリーが殺されてしまう。
「お兄様、私の事は心配しないで。人を殺すなんてそんな恐ろしい事をしないで!!」
ロザリーが叫ぶ。しかしエスタークの頭の中にはロザリーが無事でいてくれる事が最優先だった。
「分かった。ゲマ、その剣を渡せ。」
ゲマは笑いながら覇王の剣を渡す。
「向こうにある一筋の光は旅の扉と呼ばれるものです。あの場所から地上に出ることが出来ます。
ダイを地上で抹殺して下さい。おほほほほ。」
エスタークはゲマの嘲笑を背に受けながら旅の扉に向け、走り出した。
「中々芝居が上手くなりましたね、ジャミ。」
「お褒めに預かりまして光栄でございます。」
ロザリーは突如馬人の様な姿になる。
「八千年経って容姿の変わらない生物等居る訳もないのに、簡単に騙されるものですね。おほほほほ。」
ゲマの嘲笑はエスタークには聞こえていなかった。何故なら彼は既に地上に飛び立っていたのだから。
483ダイの大冒険AFTER:2009/06/03(水) 01:16:50 ID:pIimPaQP0
地上に到着したエスタークは早速飛翔呪文でダイを探す。
右手には先程ゲマに手渡された覇王の剣を持っていた。
「ダイ、俺はお前には恨みはない、だがお前を殺さなければロザリーはゲマとやらに殺されるんだ。」
エスタークは下唇を噛み歯がゆい気持ちで辺りを見回した。
偶然にもテラン周辺に辿りついていた彼はダイを見つけてしまう。
エスタークはダイの前に降りる。
「あ、エスターク!!無事だったんだ。良かったー!どうやってここまで来れたの!?」
ダイは特に警戒心も持たずエスタークに近づく。その瞬間をエスタークは逃さなかった。
エスタークは覇王の剣を振り上げ、ダイに斬りかかる。ダイは間一髪避ける事に成功する。
「ど、どうしたんだよ!!?」
ダイの質問に答える素振りも見せずエスタークは斬りかかる。
『ダイ、本当に生きていたのか・・・良かった。だが俺はお前を殺さなければならない。
許してくれ!!!ダイ!!!!!」
エスタークは表情も変えずに斬りかかり、ダイはそれを上手くかわす。
『何でいきなりエスタークが襲いかかって来るんだ!?」
一切の事情を知らないダイはただただ戸惑うばかりだった。
ダイも剣を抜き身構える。
エスタークも攻撃の手を止め、迎撃態勢に入る。
「大地斬!!」
「ふふふ、微かにだが覚えているぞ、初めて出会った時もお前はその技で俺との戦いを始めたんだ。」
エスタークの声は少し震えている。
エスタークとダイは真っ向からぶつかった。
484ダイの大冒険AFTER:2009/06/03(水) 01:17:39 ID:pIimPaQP0
二人は剣を交差したまま動かなかった。
エスタークの剣は大地斬の衝撃にも軽く耐えられる程の強度を誇っていた。
二人はその場から離れ、そのまま向かい合う。
二人とも剣を相手に向けたまま動こうとはしない。
否、正確には動けなかったのだ。一歩踏み出した瞬間に相手を斬る。二人は動いていなくとも”先”を取り合っていた。
二人の間に涼やかな風が吹く。刻一刻と時間は過ぎ・・・先に動いたのはダイ、彼は海波斬を放つ。
エスタークはその技に入る一瞬の隙を逃さず突いてくる。
しかしダイのセンスも半端ではない。攻撃を紙一重でかわし、更に攻撃を返す。
二人の闘いは実力が限りなく近いが、それ故に攻めあぐねていた。
それでも、片や相手を殺す気で闘うエスタークとそうではないダイとではそのせめぎ合いも崩れる事になる。
今度はエスタークがダイに斬りかかり、ダイはまたそれをかわす。するとエスタークは突然近くにあった木を切り倒す。
一瞬ダイが木に視線を向けていると、エスタークはダイに火炎斬りで斬りかかる。
見事にダイに直撃し、更に木が倒れこむ。ダイは下敷きになったかの様に見えた。
「すまない。だが、こうするしかなかったんだ・・・」
エスタークは倒れた木を背にした。
「やっぱり・・・理由があったんだね?」
エスタークが振り向く、その先にはダイが立っている。
「ば、バカな!!」
ダイは間一髪木が倒れこむのを避けていた。(例え当たっていても無事だとは思うが。)
「なんで俺と闘おうとしたのか教えてくれないか!?」
しかしエスタークも後には引けなかった。闘気を解放させダイに襲いかかる。
それに応じてダイも竜闘気を解放させた。
ダイVSエスターク、二人の戦いに間もなく終わりが近付こうとしている。
485ガモン:2009/06/03(水) 01:18:41 ID:pIimPaQP0
第十六話 投下完了です。
今回は二話続きのバトルです。

>>サナダムシさん
お疲れ様です。
圧倒的な腕力で追い詰める大家、ビスケットオリバにまた正面から戦う刃牙。
鬼の形相が現れた事により事態はますますヒートアップしそうですね。

>>L'alba della Coesistenza作者さん
お疲れ様です。
無理の無い展開にバーン、ヴェルザー以外にも存在する第三勢力の存在に突如現れたバーン?等
読んでいてとても面白いです。
私もダイ作品を書いているので。自分にとってもいい手本になっています。
これからも頑張ってください。
486作者の都合により名無しです:2009/06/03(水) 14:16:06 ID:8JyWIe4n0
来る時は一気にくるなあw

>サナダムシさん
ああ、なんかしけい壮シリーズも今作か次作で最終章っぽいなあ、と
ちょっと寂しくなった。バキ親子が出てきちゃね・・。オリバ頑張れ。
出来ればバキを殺して勝って欲しい。負けそうだけど・・w

>L'alba della Coesistenza作者さん (タイトルってどういう意味ですか?)
おお、スレ終盤に新作とは嬉しいです。ダイ物は描き甲斐のある素材かも。
バーン戦以後、ダイたちがどうなったかをガモンさんとは違う視点で
書いて頂けるのを楽しみにしております。

>ガモンさん
エスタークとロザリーが兄妹設定ですか。ロザリーは悲劇のヒロインなので
救われると嬉しいですね。人間味のあるエスタークもまたいいですな。
ダイの仲間になりそうなフラグですね、エスターク。


そろそろ次スレですか。
487作者の都合により名無しです:2009/06/03(水) 20:01:57 ID:vXm63u8d0
おお、復活してきたかバキスレ?
サナダムシさん、ガモンさん好調連載ご苦労様です。
L'alba della Coesistenzaさん、新連載ありがとうございます!

・しけい荘
刃牙の勇次郎発言が出たってことは、まさかシコルの相手は勇次郎?
いやあまりに強大すぎて、ちょっと相手に考えづらいか?

・L'alba della Coesistenza
バーン様はラスボスの風格がありすぎてヘタレ化はさせにくいですね。
これからいっそう面白い展開になるのを期待しております。

・ダイの大冒険アフター
エスタークはゲームでは健忘症のモンスターでしたが、この作品では
意外といい人みたいですな。ロザリーを救ってほしいです。
488ふら〜り:2009/06/03(水) 20:24:22 ID:Oq6Rqf1Y0
ダイが大人気。個人的には、どうにかこうにかメルルを幸せにしてあげて欲しいんですが。

>>サナダムシさん
作中の「格」においては原作より上と言える本作のオリバ。その彼と渡り合えるのは、やはり
これしかありませんねの鬼刃牙登場! でもまだテロ軍団のラスボスではないはずですし、
ここでオリバが相討ちぐらいになってその後シコルたちかな。でも刃牙vs本作シコルも見たいなぁ。

>>L'albaさん(おいでませっっ! 次回作補完の日の為、できましたらば御名前を)
違う職人さんの、同じ時間軸の、それぞれの『ダイ』。こちらも魔界・天界を巻き込んでの大きな
物語になりそうですね。ダイは一発兵器ではなく純然たる自力でバーンに勝ってるわけですし、
その彼の前に立ちはだかる、あるいは手を組んで戦うのはどんな奴らか。楽しみにしてますよっ。

>>ガモンさん
出てくる魔王クラス連中の顔ぶれ、戦闘能力、目標、などここまで壮大に押してきましたけど、
一気に古典的な技できましたねゲマ。人質、しかも騙し。まあ凝った技でないからこそ、却って
エスタークもかかってしまったか。ダイ一人ではこの状況はどうにもできなさそうだし、どうする?
489遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/06/04(木) 09:07:49 ID:MIb4xLfj0
第三十九話「ある夜の語らい」

「分かりました…もう止めますまい」
カストルは開き直ったかのように、そう言ったのだった。
「皆…どうか生きて帰ってくだされ」
「辛気臭い男だな、全く」
アレクサンドラは鼻を鳴らす。
「私は何も心配などせん。お前達を倒すのはこの私だからな―――さっさと用を済ませてこい」

交わした言葉は短くとも、その奥に込められた想いは、誰もが理解していた。それに深く感謝して、遊戯達は速やか
に旅立った。目指す先は<死神>タナトスが支配する地―――冥府。
最後の戦いの時が、すぐそこまで迫っていた。


「さ、さ、さ、さあ皆…びびび、ビビってんじゃねえぞ…」
「お前がな…」
オリオンは呆れながら城之内をジト目で見る。城之内は生まれたての仔鹿もビックリなくらいガクブルしていた。
―――かつてある男が冥府への扉を開いたとされる大森林・ラフレンツェの森。
鬱蒼と茂る暗緑の木々。不気味な鳥の鳴き声。実に退廃的な空気が漂う場所なのだ。今にも幽霊でも出てきそうだ。
まして城之内はオカルトが大の苦手と来ている。怖れ慄くのも無理はない。
「しっかりしなさい、城之内。今からそんなんじゃ、冥府なんていけないわよ。ねえ?」
ガウ、とミーシャを背に乗せたレッドアイズが<そうだそうだ>と言いたげに唸る。
「レッドアイズ…お前、オレの相方じゃん。もっとフォローしてくれよ…」
そうは言ってもレッドアイズとてオスである(多分)。ムサい御主人より奇麗なお姉さんの味方をしたくもなろう。
「でも、城之内くんの気持ちも分かるよ。そろそろ暗くなってきたし…」
遊戯も不安そうに辺りを見回す。既に日も落ちかけ、宵闇が迫る森は一層おどろおどろしく見えた。
「どこかで休めないかな?」
「ふむ…そうだな。夜間の移動は危険だし、皆の疲れも溜まっているようだ。向こうに空き地が見えるから、今日は
そこで野営をしよう」
「そうですね…よし!<クリボー>召喚!」
490遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/06/04(木) 09:09:27 ID:MIb4xLfj0
ポムポムと飛び跳ねながら黒い毛玉がクリクリ愛嬌を振りまきながらやってくる。そして。
「魔法カード<増殖>を発動!クリボー、そこら辺で薪を拾ってきて!」
一斉に飛び散るクリボー数十匹。十秒ほどで戻ってきた時には、空き地の中央にはキャンプファイアーが出来そうな
くらいに薪が山盛りになっていた。その結果に満足して、クリボーは元通り一匹に戻る。
「お、やるな遊戯。よーし、レッドアイズ!お前も負けずにやってやれ!」
レッドアイズがグワっと口を開けて、通常よりも百分の一程度に威力を抑えた火球を吐き出す。一瞬で薪に火が付き、
夜の闇を明るく照らした。
「ほお…便利なものだな」
「いやあ、それほどでも。えへへ…」
照れる遊戯。気分はどこぞの青色タヌキだ。それはともかく、皆で焚火を囲んで座る。夜の冷気に芯まで凍えた身体
が、暖かい炎でゆっくり溶け出していくようだ。
パチパチと爆ぜる薪。闇深く閉ざされた森の中で、それだけが地上に残された唯一の光のように燃え盛る。
「ほーら、甘いのが欲しいの?一個、二個…それとも三個?…クスクス、いやしんぼね」
ミーシャは角砂糖を片手にクリボーと遊んでいる。勢いよく三方向に投げられた角砂糖を、クリボーは俊敏な動きで
全てキャッチした。
「よーしよしよし、いい子ね」
クリボーの頭(というか身体)を抱えてナデナデしている。そんな平和な光景である。
「…これは俺が本当に体験した話なんだが…」
オリオンがいきなり語り始めた。バチンっと大きな音を立てて薪が燃え上がる。その炎に照らし出されたオリオンの
顔は、異様に怖かった。自然、一同は息を呑む。
「あれは俺がイリオンを脱出してしばらくのことだった…俺はその時、アナトリアにいたんだ。アナトリアでは当時
から東方蛮族(バルバロイ)の侵攻が苛烈で、優秀な戦士を集めようと武術大会が盛んに行われていたんだ。そして
その武術大会には、俺も参加していた」
やたら暗い口調で語るオリオンは、まるで幽鬼に取り憑かれたような有様だ。
「はっきりいって、大した奴はいなかった。まだガキだった俺が勝ち進む度に最初はバカにしてた連中が黙りこくる
のが楽しかったな…はは、そんな風に思うのも若気の至りって奴だな。まあそんな感じで、大会そのものはまるで
問題なかった。だが、俺はどうにも腹が痛くなってな。便所に駆け込んだんだ。そこには誰もいなかったから、俺は
ゆっくり用を足した…」
オリオンは、かっと目を見開いた。遊戯達はビクっと身を竦ませる。
491遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/06/04(木) 09:13:20 ID:MIb4xLfj0
「その時だった…俺は…俺は…余りにも恐ろしい事実に気が付いてしまった…何故、何故今まで気付かなかったんだ。
それは誰が見ても明らかじゃないか。ちょっと注意していれば分かったのに…どれだけ後悔しても、もう遅かった…
俺にはもう、その恐ろしい事実に抗う術はなかったんだ…」
その瞬間の恐怖を思い出したのか、彼の身体は汗で塗れていた。そして語られる、世にもおぞましい結末―――
「俺が入った便所には…
紙   が   な   か   っ   た   ん   だ   !   」
「うわあああああああーーーっ!」
「きゃああぁぁぁぁっ!」
静かな森に悲鳴が木霊する。鳥達がけたたましく羽ばたき、一斉に飛び去った。
場に落ち着きが戻るのを待って、オリオンは続けた。
「…俺は武術大会の覇者となったものの、心にはそれが重く圧し掛かっていたよ。アナトリアの王から直々に士官の
誘いも受けたが、丁重に断ったよ。俺はもう、便所に紙も置いてない恐ろしい国にこれ以上いたくなかったんだ…」
恐ろしい恐ろしいと、オリオンは何度も繰り返す。彼の身に降りかかった惨事に対し、誰もが言葉もなく、ただ固唾
を呑んで怯えるばかりだった。
「お…オレ、ちょっとションベンしてくる…」
城之内が立ち上がった。夜気で冷えていた上に、この話である。催すのも無理はないだろう。
「ボ、ボクも…」
「じゃあ俺も」
「では私も」
「…行ってらっしゃい」
ミーシャは当然ながら留守番を選んだ。ちなみに彼女がそういう方面をどうクリアしているのかについては訊かない
ように。二次元の女性はトイレになんか行かないのだ。
そんなことは置いといて、四人は一列に並び用を足す。男の友情がそこにはあった。嫌な友情だった。
「ところで私の(放送禁止)を見てくれ。こいつをどう思う?」
「すごく…大きいです」
「そういう会話はシャレにならねーからやめろよ…」
「ぎゃああああ!先っぽに蚊が!」
―――連れションでここまで盛り上がれるのは彼らの他には某占い師とフランス人くらいだろう。
492遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/06/04(木) 09:14:20 ID:MIb4xLfj0
「…ところで皆。少しだけ相談に乗ってほしいことがあるんだが」
戻ろうとした所で、レオンティウスがそう切り出した。
「なんだよ。結構マジな話?」
「あ、いや。なんというか…ミーシャのことなんだ。というのも、彼女に対して私はどういう態度を取ればいいのかが
分からなくてな…」
苦笑するレオンティウス。事実、いきなり生き別れの妹と言われても、ピンと来ないのも仕方あるまい。
「そもそも私は女性の扱いというものが苦手でね。男の扱いならばアレなんだが…いや、それはいい。とにかく私が
関わった女性といえば、母上とアレクサンドラくらいだからな。母上に対するように甘えるのも兄としてどうかなと思う
し、アレクサンドラとはあの通りだ。だから、ミーシャにはどう接すればいいのか…」
「悩んでも仕方ねーよ、んなもん」
城之内は軽く笑う。
「これから、いくらだって時間はあるんだ。じっくり向き合っていけばいいだけだろ…心配ねーさ。同じ血を分けた兄妹
なんだからな」
「じっくり向き合え、か…」
「ああ―――エレフの奴も一緒に、な」
決意を込めた目で、城之内は空を見据える。
「そのためにも、絶対ぶっ飛ばしてやろうぜ。いけ好かねえ死神ヤローをな」
うん、と遊戯が頷く。レオンティウスも、口元に笑みを浮かべた。
「ミーシャ、か…」
オリオンは少し俯き、やがて口を開いた。
「…なあ。俺もちょっと聞いてほしいんだけど、いいか?」
「何だよ」
オリオンは一拍おいて、神妙な顔で語った。
「この闘いが終わったら、俺、ミーシャにプロポーズするんだ」
493遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/06/04(木) 09:15:07 ID:MIb4xLfj0
「…………」
何故。よりにもよって、このタイミングでヤバいフラグを立てるのか。
最終決戦。死ぬにはいい日にも程がある。
「なんと…ではオリオン、キミは私の義弟になるかもしれないということか!」
<あのフラグ>の概念を知らないレオンティウスが話題に喰い付いた。
「そうか…それは楽しみだな、ふふふ」
「…何がどう楽しみなのかは聞かないことにするよ」
そう言いつつ、オリオンはさり気なくレオンティウスから距離を取った。そして、続ける。
「昔の俺は、どうしようもないガキだったよ…そんな俺にも、ミーシャは優しく微笑んでくれたんだ。上手いことは
言えないけど、だから俺は、あいつを好きになっちまったんだ」
過去を語り始めたオリオン。彼のライフはもう0と言ってもよかった。
「へへ…ちょっと湿っぽい話になっちまったな!それはともかく、生きて帰れたら俺も今から学問をやってみようかと
思うんだ。頭悪いってバカにされるのもいいかもな…いや、その前に皆で豪勢なメシを食おうぜ!熱々のピザなんて
いいな。上にボルチーニ茸も乗っけてもらおう!」
もはや次の瞬間にも串刺しになって死にそうだった。
「はは…そ、そりゃあ楽しみだ…ま、まあ、そういう話は闘いに勝ってからだな、うん…」
「ふっ。まあ頼りにしてろよ。何せ俺は不可能を可能にする男だからな」
敵の攻撃から味方を庇って死ぬフラグが立った。同時に続編で仮面の男として復活するフラグも立った。
494遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/06/04(木) 09:28:41 ID:MIb4xLfj0
「お?それにしてもここは星空が奇麗に見えるな」
「ホントだ。満天の星空ってやつだね」
「ああ。特にあれ、北斗七星の脇に輝く星なんて格別の美しさだな」
それはまさかアレではないとか思ったが、恐ろしすぎて確認できなかった。
「オ…オリオン!これをキミにあげるよ!」
このままでは拙い。遊戯は一枚のカードを取り出し、オリオンに差し出した。
「これは<戦いの神オリオン>ってカードなんだ」
「へえ、俺と同じ名前なのか…その割にゃカッコよくねーし、別に強そうでもねーな…」
実際、さっぱり強いカードではありません。
「で、でも、オリオンと同じ名前なぐらいだから、御守りに持っててよ!お願いだから!」
「何をそんなムキになってんだよ…ま、いいか。くれるんなら貰っておくぜ」
オリオンはカードを胸元に仕舞い込む。ようやくの事でオリオン生還フラグを立てることに成功した遊戯は、ほっと
胸を撫で下ろした。

―――決戦前夜は、こうして騒がしく更けていくのだった…。
495サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/06/04(木) 09:34:22 ID:MIb4xLfj0



一拍置きます。
続けてサンレッドネタ。
496作者の都合により名無しです:2009/06/04(木) 09:36:54 ID:MIb4xLfj0
某ファミレス前。
二人組の怪人が、時計と睨めっこしていた。
奴らの名は、モギラとモゲラ。モグラをそのまま大きくしたような姿の怪人であり、言うまでもない事だが悪の組織
フロシャイム・川崎支部の一員である。
「もうそろそろかな、アントキラーさん」
「それにしても店の中じゃなくて駐車場で待ってろって、どういうことだろ?」
その時だった。爆音を響かせ、一台のバイクが疾走してきたのだ。目を丸くする二匹の前でバイクは盛大にドリフト
しながら停車する。
真っ赤なバイクだった。まるで特撮のヒーローが乗っているような、如何にもなシロモノだ。そしてそれに跨っている
のはヒーローではなくこれまた怪人。干からびたように水気のない身体を、簡素な鎧が包んでいる。頭部を守るのは
二対の巨大なツノを備えた兜。
「よぉ〜おめーら、待たせたな。どうよ、スゲーだろ?」
この男こそが件のアントキラー。古代エジプト出身のアリジゴク型の怪人であり、ちょっぴり嫌な先輩である。
ちなみにミイラ怪人カーメンマンの弟で、バカ兄弟と一部で評判であった。


天体戦士サンレッド 〜参上!地獄の暴走ライダー


「いらっしゃいませ!ピ○・キャ○ットへようこそ!」
「おー。喫煙席に怪人三匹ね」
フリフリ制服の可愛らしいウエイトレスさんに案内され、席につくアントキラー達。
「いやー。それにしてもどうしたんですか、あのバイク。ビックリしましたよ〜」
「あ、まさか、以前の自転車みたいにまたおパクリ…」
「してねーよ、バカ。もう懲りたよあれは…うっ…いてー…くっそー、レッドのヤロー…」
古傷の痛みに顔をしかめるアントキラー。彼は自転車おパクリを咎められて、我らがサンレッドに病院送りにされた
のである。
497作者の都合により名無しです:2009/06/04(木) 09:38:31 ID:MIb4xLfj0
「じゃあ買ったんですか?でもああいうのって、相当高かったんじゃ…」
「いや、それがな。俺も驚いたんだけどよ、23万だったんだよ、アレ」
「に、23万!?ドルじゃなくて円ですか!?」
「おう、円だよ。円。それだけじゃなくてな、アレ、レッドが売りに出したバイクなんだよ」
「レッドがー!?で、でもあいつヒーローでしょ?ヒーローが自分の乗り物売っていいんですか!?」
「実際売られてたんだからいいんだろ。まあとにかく、それで商談成立ってわけだよ」
「はあ、そうなんですか…だけど、23万だって安い買い物じゃないでしょ。よくお金が…あ、そうか。アントキラーさん
百年ほどバイトしてたからお金はあるんですね」
「あ、それはそうなんだけどよ。最近始めた副業が当たってな。折角だからデカい買い物しとこうと思ってさ」
「副業?」
「おう。ただの球根を植物型怪人に育ちますっつって売るんだよ。一つ57万円!」
「うわー…モロ詐欺じゃないっすか、それ」
「バーカ。別にいいんだよ、俺ら悪の怪人なんだし(笑)」
「だけど、それでよく売れましたねー」
「値段が値段だからな。中々買い手がつかなかったんだけど、静岡にいるベムって奴から問い合わせがあってな…
売ったよ。ただの球根を、57万円で!今頃立派な花が咲いてるぜー、くっくっく…」
「お客様、御注文はお決まりでしょうか?」
「あ、じゃあ俺はハンバーグランチで」
「俺もそれで」
「じゃあ俺は日替わりランチで。ドリンクバーもお願いね」
「ありがとうございます。では御注文はハンバーグランチがお二つ、日替わりランチがお一つ、ドリンクバーお一つ
ですね?ランチのサラダはあちらでセルフサービスになっておりますので、御自由にどうぞ!」
忙しいにも関わらず、屈託のない笑顔で接客するウエイトレスさん。怪人三匹はそれを微笑ましく見つめていた。
「しかしこの店、女の子のレベル高いっすねー…」
「だろ?俺もここ来たのは初めてだけどよ、可愛い子ばっかって評判を聞いててな。一度来てみたかったんだよ」
それに、とアントキラーは声を潜める。
「最近、メチャクチャ可愛い子が入ったってもっぱらの噂なんだよ。分かる?こんだけルックスいいのが揃ってるん
だぜ?普通に可愛いくらいじゃ、噂にならねーだろ」
「つまり、可愛い中で更に注目を浴びるくらい可愛い…」
「そりゃ、確かに興味ありますねー」
「だろ?」
498作者の都合により名無しです:2009/06/04(木) 10:44:13 ID:MIb4xLfj0
くっくっく、と三匹で含み笑いしたその時。
「きゃー!」
「可愛いー!」
「こっち向いてー!」
「やだー、こっち来て、こっちー!」
客、そして店員からすらも黄色い声が上がる。皆して可愛い可愛いと大合唱だ。人だかりまで出来ている。
「あ、もしかしてあれが?」
「ウエイトレスさんまで騒いでるよ…どんだけレベル高いんだって話ですね」
「おい、ちょっくら見に行こーぜ。サラダ取りに行く振りして」
ヘラヘラしながら席を立ち、人だかりに近づく。そこで三匹が見たものとは。
「もー、やめてよー!ぼくは全然可愛くなんかないもん!」
―――ウエイターの制服に身を包む、ウサギのぬいぐるみ―――否。
「ウ…ウサ兄さんじゃないっすか!」
「あれ?アントキラー達、来てたの」
直立不動でビシっと背筋を伸ばしたアントキラー達の元に駆け寄るウサギ(そう、ウサコッツである)。なお、彼らの
フロシャイム内での序列においてはウサコッツが一番先輩である。そう、先輩であるという事実の前には、他の価値観
は駆逐される。よって愛くるしいぬいぐるみに厳つい怪人三匹が直立不動で挨拶するという珍妙な光景になっていた。
「ウサ兄さん、ここで働いてるんすか?」
「つい最近からだけどね。ほら、アニマルソルジャーも軍団員が増えてきたでしょ?工事現場のバイトだけじゃ活動費
が足りなくなってきてさー」
なお、工事現場でのウサコッツの仕事は監督の仕事ぶりをじっと見つめることである。そうすることで監督のモチベは
上がるのだ。これもウサコッツが可愛いからである。
「あー、そういやこないだ新しい子が加入したんですよね。ヴァンプ様が将来有望だって褒めてましたよ!」
「うん、ボン太くんっていってね。ちょっと変わってるけど頼りになる子で…あ、ごめんね。今は仕事中だからあまり
手が離せないんだ」
「いえ、こっちこそ仕事の邪魔してすいませんでした」
小さくなってそそくさとサラダを取り、席に戻る三匹であった。
499作者の都合により名無しです:2009/06/04(木) 10:45:13 ID:MIb4xLfj0
「あービックリした…ウサ兄さんのことだったのか」
「でも納得だよ。兄さん可愛いからな」
「声デケーよバカ野郎!聞こえたらどうすんだ。兄さんは可愛い可愛いって言われるのを結構気にしてんだぞ!」
「す、すんません…」
「全くおめーらはよ…とりあえず兄さんも顔見知りがいたら気になって仕事しにくいだろうし、食ったらすぐ出るぞ」
「はい」
三十分後。三匹は無事食事を終えて○ア・キャロッ○を出る。
「ふー…ウエイトレスは可愛かったけど、味はもうちょいだったな」
「まあこういうファミレスに来る人は、味はそこまで求めてないんじゃないっすかねー」
「だな。俺達だって美味いもんが食いたいならアジトでヴァンプ様の料理食わせてもらえばいいんだし」
「ですよねー」
この時、ヴァンプ様がくしゃみをしたかどうかは定かではない。
「じゃー俺はちょっくらコイツで走ってくるからよ。風になってくるわ、風に」
「風…ですか」
「おう。風になってどこまでも行くのさ。コイツ(相棒)と一緒にな」
「は、はあ…お気をつけて」
「おう。それじゃーな!」
ブォンブォンとマフラーを空吹かしして、アントキラーはレッドバイクと共に走り去っていく。
「…結局、バイク自慢したかっただけなのかな、あの人…」
「多分…」
溜息をつくモギラとモゲラ。メシを奢ってもらったのを差っ引いてなお、アントキラーは話していると嫌な汗が出てくる
タイプの先輩であった。


翌日。二匹はアントキラーと共に再びファミレスでメシを食っていた。
アントキラーは昨日とはうって変わって陰鬱な空気を醸し出していた。
「そりゃよー…俺もちょっとスピード出し過ぎたよ。けど、免停はあんまりだろ…チクショー、あの警官め。世界征服
したら真っ先に殴ってやる…なんであんなとこでネズミとりやってんだよ…」
「さ、災難でしたね…」
モグラコンビとしては、無難な言葉をかけるしかない。
500作者の都合により名無しです:2009/06/04(木) 10:46:09 ID:MIb4xLfj0
「大体がスピード違反よりもっと取り締まるべきことなんて山ほどあるだろ。スピード違反した俺にネチネチ得意げ
に説教してるその横で悪質放火魔が通り過ぎてるかもしれないっつーの…あ、そういやあの時横切ってったヒゲ
親父、ちょっと指名手配の写真で見たことあるな…火火火とか妙な笑い方してたし…」
「そ、そうですか…」
俺らに言われても仕方ねーよと言えるもんなら言っている。ゴホッゴホッとアントキラーは咳き込んだ。
「チクショー…なんか身体は重いし頭いてーし咳はヒデーし…あーダルい。まじダルビッシュ」
「カゼ引いたんですか?」
「カゼ引いたんですかじゃねーよ。カゼだよ、チクショー」
「あー…カゼですか…」
「カゼだよカゼ。あーダリーなーチクショー。まじ<日本ハム不動のエース>だよ、チクショー」
「はは…カゼか…」
風じゃなくてカゼになったんですね、なんてジョークは、とても言える雰囲気ではなかったという。

―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語であるが、悪の怪人だって案外世知辛い
のだということを、どうか忘れないでほしい。
501サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/06/04(木) 10:48:03 ID:MIb4xLfj0
投下完了。遊戯王の前回は>>364から。
「戦いの神オリオン」のカードを知ってる人は、相当の通だと思う。
サンレッドネタはここまで続くとは思わんかったw次辺り、レッドさんにも本気で闘ってもらおうかな。
しかし今回のネタ、アニメのサンレッドも見てる人じゃないと分からんな…(苦笑)。

松井先生の新作読みきり「離婚調停」。予想は裏切り、期待は裏切らない良作。ネウロとはまた違うベクトル
ですが、「ああ、松井先生の漫画だ!」というテイストが素晴らしい。ネタとしては、少女が出会ったさえない
男が実は…という王道のものなんですが、男の正体が凄すぎ。それは剣というにはあまりにも巨大すぎた
っていうかもう剣とかそういうレベルじゃねえ!これ以上はネタバレにつき伏せますが、ネウロとはまた違う
松井先生が見れてよかったです。

要請  http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/865.html
第三十七話→幕間劇→第三十八話の順に直していただけないでしょうか?よろしくお願いします。

>>396 遊戯王は書いてて力が入る、サンレッドは書いてて楽しいという感じです。
>>397 フロシャイムになら、正直なところ怪人になってでも入ってみたい。

>>ふら〜りさん
ミーシャが可哀想な子なんて言っちゃダメ…原曲だともっと(まともな方向で)可哀想なんだから。
宗介はさらにいえば、かなめ>>(越えられない壁)>>その他の全てですね。最初の方の彼と比べると、
随分変化してますよね。

>>ガモンさん
なんですかこのドラクエオールスターは。僕を悶え死にさせる気ですか。ゲマはもう原作ドラクエ通り
卑劣で卑怯で最低最悪で(褒め言葉)言う事なしです。
だけど力押しだけでなく、こういう搦め手を使う敵がいてこそ面白いですね。頑張れ、ダイ。

>>電車魚さん
サイがここまで追い詰められるとは…やっぱ化物です、我鬼。そしてここで来た春川さん(電人HAL)。
原作でも最後の最後でいいとこ持っていったし、ネウロには本当に良キャラが多すぎです。
502作者の都合により名無しです:2009/06/04(木) 19:47:17 ID:sZGraP8U0
サマサさん連作乙です!
プロポーズフラグにはいつも死兆星が光りますが
なんとか難を逃れてほしいものです。
サンレッドは・・元ネタわからんw

ちょっと長い作品がきたら現スレヤバいと思うので
スレを立てます。テンプレ流用で大丈夫かな?
503作者の都合により名無しです:2009/06/04(木) 20:15:29 ID:sZGraP8U0
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1244113716/

新スレ立てておきました。
テンプレをここに書くとメモリオーバーしそうな気がするので
直接立ててしまいました。

もしかしたら不手際があるやも知れません。
その場合はどなたか訂正をお願いします。
504作者の都合により名無しです:2009/06/06(土) 20:58:39 ID:tUd8Ioki0
保守
505作者の都合により名無しです
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