【2次】漫画SS総合スレへようこそpart57【創作】
4 :
ハイデッカ:2008/06/17(火) 12:53:16 ID:6skLlrQu0
「BAMBOO 電王」がテンプレから外れました。復帰をお待ちしております。
サマサ氏、桃伝をお休みするとの事ですが、サマサ氏の名が無いのは寂しいので
あえて残しました。復帰予定のさい氏やハロイ氏も勿論残してあります。
おかげさまで簡単な手術で除去出来るようです。お騒がせしました。
パート57ではなんか書きたいと思います。
5 :
ハイデッカ:2008/06/17(火) 12:59:45 ID:6skLlrQu0
ん?
ゴート氏のサイトに前スレを保管しようとしたら
wikiのスパム条件がなんたら、って出て出来なかった。どうして?
あとテンプレ、もし間違ってたらすみません。
ハイデッカ氏お疲れ。
病気大した事なくてよかったね
現スレは盛ると良いね
8 :
ふら〜り:2008/06/18(水) 22:03:18 ID:2gXwFHmw0
>>ハイデッカさん(いかなる病も早期発見早期治療が肝心ですからね。安心しましたっ)
おつ華麗さまです! こんなこともあんなことも乗り越えて、何度も黄金期を迎えてきた
バキスレのこと、今スレがまた突然そうなる可能性は充分あり。その時にはまた、
ご一緒にSSを投下できてれば幸い。待ってますよ&頑張ります!
>>ハシさん
ふんわりと和むなぁ……ぬくい体温が伝わってきます。超能力も魔王もない、バトルもラブも
ない、動きも会話も極少、なのにこんなに読み込める。それでいてバトルを描けば鋭く高速、
戦う女性の強さも弱さも描けるんだから羨ましい。精進せねばと思いつつ、次も待ってます!
>>スターダストさん
小札も秋水も、各々無銘と桜花から受け取ったものがあり、それをムダにできぬと思ってて。
無銘は小札に傷ついて欲しくなく、でも小札はその覚悟で戦う。小札の相手の秋水が小札を
傷つけまいとして、でも桜花はそんなこと望まず秋水の無事が最優先でしょうし……複雑だ。
現スレでふら〜りさん復帰か
第060話 「動けなくなる前に動き出そう 其の弐」
銀成市。地上。商店が立ち並ぶそこそこ盛況な道の途中で。
「寄宿舎?」
「そ、寄宿舎。詳しくは話せないけど、戻ったらすぐに沙織を見つけられるよ」
うだるような暑さの歩道ですいすいと人波をかき分け、ヴィクトリアは千里を先導していく。
「はぁ」
白いガードレールの横を車が一台駆け抜けて、むわりとした熱波を少女たちの半身に浴び
せかけた。すると綺麗な短髪はその黒に一段と熱を吸収して、意識を虚無に導きそうなぐら
つきさえ覚えさせた。
(よく分からないけど、当てもなく歩いているよりはいいかも。日射病が心配だし)
千里の瞳は前を歩く少女のまるで光を知らなそうな純白の肌に吸いついた。まだ伸びきらぬ
四肢は白さが余るあまりに半透明にすら見える。そんな少女が心配でもあり、羨ましくもある。
(いいなあ)
ひどく地味な容貌の自分と比べると、ヴィクトリアの人形みたいな可憐な容姿はどうだろう。何
度も何度も梳いた金髪は正に金を束ねたような柔らかくもハリのある感触だったし、うっすらと汗
の宝珠を吸いつかせたままの肌は、その弾力が視覚からさえありありと伺えた。
熱にぼやけているせいか、ヴィクトリアの綺麗さに心臓はとくとくと波打っている。
とにかくも三人の少女は影を洋品店のショーウィンドウに滑らせた。影法師をスライドさせた
のは臨時休業の張り紙のある肉屋の水色シャッターだ。そうして歩道に敷き詰められたタイル
を踏みしめ踏みしめ歩いていき──…
妙に溌剌としたヴィクトリアが角を曲った。千里もそれにつられた。最後に、声が上がった。
「ゴ、ゴメン!」
ヴィクトリアが(何よもう)と軽く瞳を三角にしたのもむべなるかな。声はまひろの声なのだ。
「さーちゃんのコト、二人に任せていいかな? 私、実は行きたいところがあって」
振り返ればすでにそうしている千里が額に手を当て、後姿からでも眼に見えるほどの困惑
を全身から立ち昇らせていた。
「行きたい所って……ああもう」
ヴィクトリアもつられてため息をついた。彼女や沙織のコトで千里は朝から悩んでいたのだ。
なのにココでまひろが離脱すればまた探し人が増える恐れがある。
11 :
永遠の扉:2008/06/19(木) 10:23:39 ID:Ao7vkFjx0
(まったく。そこまで考えてる人を困らせないでちょうだい)
「本当にゴメン! でもちゃんと寄宿舎に戻るから! ケータイだってあるし。ね?」
「分かったわ。でもどこに行くの?」
「……あそこ」
まひろが指さした先にあった物は──…
聖サンジェルマン病院。
「病院って……体調でも悪いの? でもあそこ、土曜日の今の時間帯は診察時間外よ?」
思わず体の向きを変えてまひろに詰め寄る千里に、ヴィクトリアは「お母さんっぽさ」を感じ
た。子供の体調不良を知った時の心底からの心配。遠い遠い昔にヴィクトリア自身もわずか
な期間のわずかな回数だけ向けられた心配。それを見せる千里は心底から好ましく思えた。
「体調は悪くないけど……。あのねちーちん。私……お見舞いに行かなきゃいけなくて」
口をもごもごさせながら弁解するまひろに、千里は何か気づいたらしい。
「お見舞? ああ。そういうコトね」
「本当にゴメン。でもさーちゃんも探したくて、すぐ見つかるって思ってたから遅くなっちゃて」
「まったく。空き缶を覗き込んだり溝に呼びかけたりしてるからよ。もっとちゃんと探しなさい」
「そうだよ。だいたいさっき沙織いないコトに気づいてなかったよね? ねえ?」
友人二人の抗議に、まひろは「う」と呻いて困ったように後ずさった。
「あ!! あのね、空き缶とかは結構本気でさーちゃんを探してたんだけど……ダメだった?」
「いや、いないから。どうしていつもそういう発想になるのあなたは。いわなかった私も悪いけど」
呆れたような半眼で手を振る千里にまひろの狼狽は濃くなった。
「それにさっきさーちゃんいないのには気づいてたよ! でも後で聞いた方がいいかなーって」
「どうだか」
ヴィクトリアはちょっと本性を見せて意地悪く詰った。冷たい缶の意趣返しだ。
「ひどい。本当なのに。せっかくのびっきーとちーちんの再会だから、空気を読んだのに……」
おろろんと落涙して落ち込むまひろを「本当ズレてる」とヴィクトリアは忸怩たる思いで見た。
「とにかく、わざわざ今いいだすぐらいだから、先輩に大事な用事があるのね?」
「う、うん。ゴメンねちーちん。でも」
12 :
永遠の扉:2008/06/19(木) 10:24:23 ID:Ao7vkFjx0
困惑と日中の運動で髪をぼさぼさにしたまひろが、とことこと走り去った。
「斗貴子さんをお見舞いしたらすぐ戻ってくるから!」
一方銀成市の地下。破損と亀裂に彩られた廃墟の部屋では。
「六対一第三回戦ッ!」
マイク代りのロッドに叫ぶ小札の左手で閃くものがあった。
(ハンカチ。マジックで何かを出し、攻撃にあてるつもりか!)
血に煤けた面頬を粛然と締めつつ疾走(はし)る秋水は、意外な光景を見た。
ハンカチから白煙が迸ったかと思うと、棒にぶら下がった大きな銅鑼が出てきたのだ。
同時に小札はすぅっと息を吸うと、ぎゅうっと目をつぶり……
「開始(はじ)めェッッッ!!」
尾を踏まれたロバのような大声で叫ぶやいなやロッドで銅鑼を叩いた!!
マイク代りのロッドだ。凄まじい音響が秋水の右の鼓膜を嫌というほど刺激する。
ジャーン!
ジャーン!
ジャーン!
(音波攻撃!)
脳髄に染みわたる衝撃をこらえながら秋水はなおも走り!
「あわわわ、手が、手がーっ! おおおあうあうゆ揺らめきがつつ突き抜けていきまするぅ〜」
小札は腕から伝播する衝撃に小さな体をぶるぶる震わせた!
从从;゚ヮ゚)))从 ← こんな風に
(違う。ただの合図か……。やはり総角の部下はこういう者ばかりなのか?)
きままな猫娘に無理にテンション上げてる人見知り、偉ぶってるだけの犬少年。そして実況
大好きのロバ少女。碌なのがいない。あと、銅鑼は白煙とともに消えた。
「さあ試合開始、武器の使用以外、全てを認めます!」
「いや、武装錬金は武器じゃないのか?」
13 :
永遠の扉:2008/06/19(木) 10:37:21 ID:Ao7vkFjx0
「青龍の方角は早坂秋水どの! 対する白虎の方角は不肖・小札零! 共に大事な人から様々な
物を受け継いだ二人! 因縁ともいえる対決です!」
秋水の言葉を小札は流した。
「本日午前十一時ごろに開闢(かいびゃく)したる六対一もついに三回戦! いよいよ折り返
し地点であります! さあ、関羽出でかねぬ銅鑼の残響鳴り響くなか幕を開けたこの戦い、勝
利の女神は果たしてどちらに微笑むのか!! 実況解説はおなじみ不肖・小札零! さあさ
まずは小手調べ! うぉうおおう、うぉうおおう、だっだららだっだー! おまえとぉー♪」
マシンガンシャッフルの宝玉から紅い輝きが飛んだ。それは秋水の右ナナメ前方十メートル
で倒れていた丸太のような柱にまとわりつき、その切断面からもわもわと網の目状のエネル
ギーを伸ばした。
「なお奇しくも一回戦ごとに約一時間を要しておりますこれまでの戦い、不肖が実況解説を入
れなかったのは文章上の制約あったらばこそ!! 皆々様の能力過去必殺技の類を描写し
つつ不肖の実況を入れるなどは不可というか雰囲気を壊すので自重していたのであります!
されどされど忍法封印いま破るっ! ちなみに同名の本をかつて無銘くんは不肖の肩たたき
でお小遣いを貯めて買いましたがそれは余話!! 実況こそ不肖の人生でありましょう!」
大きな双眸をきらきらと熱情に満たしながら小札は徹底的にまくしたてている。恐らく我慢に
我慢を重ねていた何事かが爆発しているのだろう。
ちなみに「忍法封印いま破る」は主人公に思いを寄せるヒロイン三人が全員とも主人公の父
親に妊娠させられるお話であるから、十歳たる少年無銘にやすやすと買わせていいものか?
それはさておき、折れた柱の上下それぞれの半分にとろけたチーズのようなエネルギーが
充溢していくのを秋水は走りながら見据えた。
「さて、この戦いどちらが初撃を入れるのか! 先手を取りましたるは不肖の追撃モード・レッ
ドバウ! つないだ物を操る技であります。さあ早坂秋水どの、この技にぴたりと足を止め、
いかなる技か見入っております! やはり初手は慎重にいきたいのでしょう!」
(姉さんへの罪滅ぼしや無銘との約束がある以上、それは当然のコト)
14 :
永遠の扉:2008/06/19(木) 10:38:04 ID:Ao7vkFjx0
床に横たわっていた柱の上半分が切断面から生えるエネルギーによって持ち上げられて行
く。高さは秋水の胸あたり。近さは秋水の四メートルほど先あたり。
「あっと、あっと! ご覧ください! いまや崩れ落ちた柱はエネルギーによってフレイルのよう
に接合され、上の部分がおぞましいうねりを立てて旋回を始めましたぁ!」
(いや、見れば分かるのだが。というか誰への説明なんだ?)
「ちなみにフレイルの構成部位は三つ! 長い棒たる『柄』とそこから伸びる鎖の『継手(つぎ
て』、そして更にそれに連なる『穀物』! 穀物といえばお米など、時に鐶副長がちゅんちゅか
ちゅんちゅかつつかれる五穀を連想される方が多いでしょうが、今回ばかりは否・否・否あッ!」
小札は無意味にロッドを頭の上で回転させると、その柄をむんずと横掴みして突き上げた。
「そう、穀物というのはフレイルの先端! 振り回した時にぶんぶかぶんぶか回る方っ! トゲ
のついた短い棒や鉄球の類の部分を穀物と呼ぶのです!」
(どうする? その穀物を避けて小札を狙うか? いや)
横殴りに回転する柱フレイルの穀物は、徐々にその可動範囲を広げているように見えた。
(おそらくエネルギーでできた継手は伸縮自在……。通り過ぎれば背後からくる! ならば!
「おっと秋水どの、伸縮自在のエネルギー継手(つぎて)を警戒し、まずは柱フレイルを断つコ
トにした模様です! さあ……大胆に踏み込んだあー! かつてもりもりさんに剣道大会の三
位決定戦で惜しくも破れたとはいえその剣腕はやはり鋭い! 連戦の疲労を微塵も感じさせぬ
鮮やかな踏み込みです! しかし柱フレイルの穀物は回転しておりますゆえ、呼吸が合わね
ば切断どころか手痛い反撃直撃は必至! それは連戦で傷を負っている秋水どのとしては避
けたい所。慎重かつ大胆に参りましょう! 最初の最初のアタック、チャンス!」
がぐっと拳を固めて小札は力強い表情をした。
「さあ命運やいかに! いかにっ!? ……行ったぁー!!」
少女の弾けた飛びきり明るい声はもう止まらない。ちなみにロバの声というのは実に奇怪で、
下手なバイオリンと箱ブランコの軋みを混ぜたような感じだが、小札の声がその真逆をいって
いるのは性格ゆえの問題なのだろう。
15 :
永遠の扉:2008/06/19(木) 10:40:13 ID:zocmxtst0
「穀物をド真中から見事に唐竹割に斬り落とし──… 止まらなァァいッッッ!! 連撃連撃連
撃ィ──z_! 鋭く青ざめた光の雨が容赦なく降り注ぐゥ! これは強烈! 大理石の柱は
一たまりもありません! 哀れ大根のように斬り刻まれ秋水どのの足元に散らばるのみ!!
なんという剣腕! 剣術史が幕を開けてゆうに六百年以上っ! 扱う武器が武装錬金へと変
じたとしても、人は武道によりかくも強くなれるのです! おめでとうございます!」
マイクを持ったままぱちぱちと拍手する小札に秋水は「いや」と面頬を引きつらせた。
「技が破られたのになぜそんなに嬉しそうなんだ君は。まさか隠し手でもあるのか?」
小札はにこやかな笑みをびくりと硬直させた。帽子の下ではロバ耳っぽい癖毛が逆立った。
(う。まったく以ておおせの通り。隠し手こと絶縁破壊はいまだ温存中であります。なるべくな
ら長距離から倒すべきとは思いますが、最悪の場合は相討ちに持ち込みましょう!)
無銘を倒した秋水が小札の部屋へ到着するまで……およそ十五分。
それ即ち──…彼がほとんど回復していないという事実に他ならない。
気絶した無銘が意識を取り戻すまでの二十分を合わせても完治には程遠いほどの傷を秋
水は負っているのだ。そして傷があれば小札は絶縁破壊をできる。
手にさらしを巻けど火傷がベトリと張り付き、右膝下に凍傷、頭には無銘の蹴りや貴信の鎖
分銅による打撲。背中には香美に壁へ叩きつけられた疼痛。
右手の甲と顎もかすかに腫れを残し、体の随所に軽度の火傷、左の脾腹に創傷、鎖で絞め
られた首はその形に痣があり、左耳にこびりついた赤黒い血塊は聴覚を妨げている。額の生
傷の血が面頬まで垂れて煤けているのは元より美形の秋水だから却って痛ましい。
(とはいえ絶縁破壊に限っては近距離でなければ放てませぬ。というのも距離が離れれば離
れるほど傷へと向かうエネルギーが大気中で減衰し、髄鞘(ずいしょう)の破壊が成せないの
です! 無機物を操る場合は違いますが、とにかく秋水どのが接近されたその時が勝負!)
16 :
永遠の扉:2008/06/19(木) 10:41:38 ID:zocmxtst0
彼はいかに多数の核鉄を所持しているとはいえ、「桜花の与えた」小札のダメージが少しで
も残っている内に追撃したかったから回復の時間をほとんど設けていない。
それはまったく好ましくないが、さりとて一人きりの姉の敗北を背負っている以上、のうのう
ぬくぬくと回復を選べぬという心情もある。
しかしその心情が却って小札に勝機を与えている皮肉。神ならざる秋水は知る由もない。
ただ彼は自身の無謀を自覚し、援軍を望外として戦っているだけである。
もしかしたら秋水に援軍を送れるかも知れない。
防人はそういう心情によって……ムーンフェイスの情報提供を受けた。
「おや、もっとゴネるかと思いきや意外に素直だね。じゃあ……キミたちがお化け工場と呼ぶ
施設の地下を探してごらん。そうだね、特にマンホールの辺りを重点的に見るのがいいかも」
電話が切れると、防人はふうと息を吐いて傍らの千歳に呼びかけた。
「……千歳。探索を頼めるか? 罠だとしてもお前なら大丈夫だ」
「ええ。無理に戦わずすぐに退くわ。どの道、今の状態では戦士・秋水の捕捉は困難だし」
「やはりヘルメスドライブにはかからないか?」
「ずっと試しているけど、残念ながら無理ね。総角主税が何らかの方法で妨害しているとみる
べき。例えば、アンダーグラウンドサーチライトの周囲にアリスインワンダーランドを敷き詰め
たり。それでも地上なら霧のある場所を見つければいいけど、地下となると……。例え戦士・
根来のように亜空間に潜り込んで探索したとしても、アジトを見つけるのは難しいわね」
となればムーンフェイスの情報に頼らざるを得ない。彼に漁夫の利を得させる結果になろうと、総
角たちの居場所を突き止めねば秋水は孤軍奮闘のままである。
「それじゃあ」
行ってくる、とペンをヘルメスドライブに這わせかけた瞬間である。
「あのー。寮母さんいますか? あ、いた。よかった」
防人は「えぇと」と難しい表情で入室者たちを見た。
千里、そしてヴィクトリア。何とも交錯したタイミングでの登場だがもとより子供に対して率直
な怒りを露にしない防人だ。これが火渡なら舌打ちで着火した不条理な怒声を吐いているが。
17 :
永遠の扉:2008/06/19(木) 10:43:11 ID:zocmxtst0
「そのね、沙織がいなくなってしまったから探して欲しいんだけど……頼んでもいいかな?」
千歳に視線を吸いよせながら、ヴィクトリアはおずおずと言葉を紡いだ。そもそも彼女は戦士
を嫌悪しているのだから、こういう「依頼」をどの面下げてと思っているのだろう。
とはいえ千里の悩みをすぐに取り除ける手段はこれしかない。よって妥協は見せかけている。
「か、代わりに一つだけなんでもするから」
「気持ちは分かるんだが、その、な」
不精ひげの目立つ頬をかきながら防人は千歳を見た。
「ごめんなさい。今からお仕事に行かないといけないから……。それが終わったらすぐに」
「いえ、こちらこそすいません。急にこんな無理を言って」
折り目良く千里が頭を下げると同時に、千歳は「では」と目礼をし、かき消えた。
一方、聖サンジェルマン病院。受付の近くで二人の看護士さんを見つけたまひろは……
「まったく。明日で退院っていうのにどこへ行ったのよあの人」
「あの」
「まあ仕事が忙しい時だから仕方ない。ほぼ完治はしているし大丈夫だろう」
「それは分かるけど、これで二度目よ! そりゃあの時は地下にいってもらったけど、調子に
乗って不必要なケガして戻ってきたじゃない。まったく。あの後最初の予定で退院できるよう
にいろいろ苦労したのは誰だと思ってるのよ! ただでさえあの後患者さんが次々に運び込
まれて大変だったのに! だいたい、来月で内科医が三人辞めて残り二人ってどういうコト!?
これじゃそのうち新しい患者さんの入院や人工透析ができなくなっちゃうじゃない!」
「あのー。もしもし」
「落ち着くんだ。君の苦労は分かってるし感謝している。本当だ。内科医の件は市の広報など
で求人情報を出してもらう。だからあまり騒がないでくれ。患者さんたちに迷惑だ」
「決めた! 私、クリスマス・イヴは絶対に夜勤しないわ。ステキな恋人作ってロマンチックな
聖夜を過ごすんだから。どうせ後三か月もあるんだから夜勤ナシも彼氏作りも大丈夫でしょ」
「あの!」
無視に業を煮やしたまひろが向かい合う看護士さんたちの間に割り込むと、メガネをかけた
女性の方が「おや?」と彼女を見た。
「ひょっとして今朝の付き添いの時に何か忘れ物でもしたの?」
18 :
永遠の扉:2008/06/19(木) 10:44:14 ID:zocmxtst0
「ううん。今度は普通に面会しに……あ! でもこの前みたいな強行突破はしないよ! 何を
隠そう私は空気を読める達人……を目指して修行中ッ! いつか絶対びっきーに空気読める
ねって褒めてもらうんだから! だから入口のパネルもちゃんと読んだんだよ!」
「はあ」
拳を握るまひろを見た特に特徴のない男性看護士さんの方から呆れたような声が漏れたが
彼女は構わず一生懸命問いかける。乾いた汗でぱさぱさのウェーブの髪が揺れに揺れる。
「ほら、ほら! 今は一時半でしょ。で、入口のパネルにも面会時間は午後十二時から七時ま
でで土日祝も同じーって書いてあるし、斗貴子さんも面会謝絶じゃないから大丈夫だよね?」
「分かったわ。部屋はこの前と同じ場所よ」
「……戦士たちは面会時間守ってないけどなあ。今日の朝も早坂桜花が勝手に入ってきたし」
愚痴が男性看護士から漏れるころ、すでにまひろは階段めがけて歩き出していた。
(ちゃんと斗貴子さんと話さないと。秋水先輩とお兄ちゃんのコト)
余談だが、メガネをかけた女性看護士はこの時の懇願むなしくクリスマス・イヴに夜勤をする
羽目になる。そして地下で彼女が邂逅した出来事が一つの悲劇の幕開けとなるのだが──…
それはまた、別のお話。
以下、あとがき。
自分は達人対決が大好きです。武神vs渋川先生はもう漫画界屈指の名勝負で読むたび昂り
ますね。だから小札の実況もこの戦いの実況を参考にしてるんですが、軽い疑問点が一つ。
「せいりゅうの方角」。
アニメの達人対決では「青龍」、原作は「青竜」。なんで変えたのか不思議ですが「青龍」の方
が見栄えがいいので採用。んな戯言はさておきアニメの達人対決は麦人氏と中博史氏の演技
が良すぎですね。あと、水原リンさんも。声付きの愚地夫妻の掛け合いは萌えアニメ見るより
萌えます。夏恵さんはいい女すぎ。
ハイデッカさん
スレ立て&テンプレ編集お疲れ様です。お体の方、くれぐれもお気をつけて下さい。
もちろん、SSの方も心よりお待ちしております!
>>401さん
彼女は太く短く描写したいですねw 貴信や無銘のように掘り下げなくてもすでにあちこち出張
ってましたので、短くてもいいかなーと。その分、内容を濃くしたいというか得意の実況を徹底
させてく方針です。そして今スレ、賑わうといいですね。
>>402さん
百合といえばヴィクトリアと千里もよろしいかとw しかるにこの構図ですとヴィクトリアにとって
少女漫画でいう「憧れの人」ポジションが千里で、「最初いがみあってるけどなんだかんだで
最終的にはひっつく」ポジションがまひろのような気も。
>>403さん
ちょっと気を抜くとああなりますねw そういう意味で貴信や無銘の描写は楽しかったです。
三バカを出せばもうちょい釣り合いが取れるんですが、色々難しいですね。カズキいてこその
彼らですし。果たして小札はこのパートでムーンフェイスに食われずに済むか? 乞うご期待!
>>404さん
一文字違いといえば千里と千歳が地味に恐ろしいですね。頭で分かってても指がしばしば間違える!
ふら〜りさん
あれこれと考えている時は気付かなく、描いてて初めて気付く事柄というのはしばしばありまし
て、小札と秋水の「受け取った者同士の対決」てな構図もその一つでしたw こういう作中で
既に提示した情報がバックボーンのほとんどを占める戦いは、なかなか描きやすいですね。
新スレ一番はやはりスターダストさんでしたか。
お疲れ様です。華やかなお見舞いですな。
でもまひろは絶対に空気を読める達人には成れんでしょ・・w
21 :
作者の都合により名無しです:2008/06/19(木) 14:58:24 ID:dpElUEd50
ああ、小札のセリフはバキの実況オマージュなのか。
スターダスト氏がバキを好きだったとはちょっと意外な気もする
山田風太郎と板垣はハッタリカオス具合がちょっと似てるけど
女の子だらけのSSですな
全員タイプ違うし
23 :
作者の都合により名無しです:2008/06/20(金) 13:17:17 ID:Ga/PkM6T0
スターダストさん新スレ1番のり乙です。
少しずつ日常に溶け込んでいくびっきーと
非日常がそのまま日常の小札の対比がいい感じですね
小札は非日常というより非常識ですがw
24 :
しけい荘戦記:2008/06/21(土) 16:10:12 ID:FGAZyiui0
第四話「ドリアン対スペック」
二頭の雄が同じ雌に恋をした。
アダムに予備はいらぬ。ゆえに取り合いは必然であった。
スペックは宣言通りのラブレター攻勢。愛と性欲を全てぶち込んだ恋文を、一日百通の
勢いで送りまくる。ただし相手の住所を書いていない(知らない)ので、一通たりとも相
手に届くことはなかった。
対するドリアンは自慢の歌声で気を引く作戦を取る。蕎麦屋の近くで夜な夜なシャンソ
ンを披露したが、近隣住民の通報を受けたオリバと警察によってあっけなく取り押さえら
れた。
程度の低さはともかく、両者とも本気(リアル)であった。
何としても彼女が欲しい。たとえ掛け替えのない友人を失うことになったとしても。
そしてついに二人は決定的な対立を迎えることになる。
アパート近くの土手で、ドリアンとスペックは向かい合った。
「やはり我々はこうなる運命だったということだな」
「ヘッ、カマワネェゼ。今日コソ決着(ケリ)ヲツケヨウヤ」
境遇も思想も性格も異なる二人の共通項、それは闘争。もしこの二人がアメリカ大統領
選に出馬したならば、政策論戦でも中傷合戦でもなく殴り合いで白黒をつけることだろう。
冷たい風が吹いた。
腰を落とし崩拳(中段突き)の構えを取るドリアンに対し、スペックは無策で突っ込む。
否、彼にとっては無策こそが上策、特攻こそが勝利への方程式。
「無呼吸連打、受ケテミナッ!」
スペックの初弾をドリアンは紙一重でかわし、カウンターの崩拳を鳩尾にぶつける。
クリーンヒット。が、スペックの連打は止まらない。
「ちぃっ!」
規格外の肺活量に支えられ、規格外の腕力が踊る。大きな手足が、一瞬も休むことなく
ドリアンを打ちつける。もはや手の施しようがない。
25 :
しけい荘戦記:2008/06/21(土) 16:11:03 ID:FGAZyiui0
「ハハハハハハハハハハッ!」
ガードを固め、連打を受け続けるドリアン。スペックの無呼吸連打は五分が限界である。
確実に訪れるであろう勝機を待ち、ひたすら耐える。
パンチパンチキックパンチキックパンチパンチパンチキックキックパンチパンチパンチ
パンチパンチキックパンチキックパンチパンチキックキックパンチキックパンチキックパ
ンチキックキックパンチキックキックパンチパンチキックパンチキックキックパンチキッ
クパンチキックパンチキックパンチパンチパンチパンチキックキックパンチ。
ドリアンの意識が遠のく。強烈なアッパーで舌を噛み、鉄の味が口中に広がる。
だが、スペックの速度は緩やかに低下している。あと十秒、九秒、八秒、七秒、六秒、
五秒、四秒、三秒、二秒、一秒。
「今だッ!」
五分経過。酸素を消費し尽したタイミングを狙い、ドリアンが拳を振るう。
ぐしゃ。
スペックの頭がドリアンの鼻先にめり込んだ。
「ず……ッ 頭突き……?!」
呆然とするドリアンに捻じ込むようなストレートパンチによる追い打ち。二メートルを
超える巨体がごろごろと転がる。
「グアッ!」
「俺ハマダマダ成長期デナ。今ノ俺ハ六分間ノ無呼吸運動ガ可能ナンダゼ」
そういって大きく息を吸い込むスペック。再び六分の動作を保障するエネルギーがチャ
ージされてしまった。
「ダイブ息ガ上ガッテルゼ。ドウヤラ今日ハ俺ノ勝チダナ」
26 :
しけい荘戦記:2008/06/21(土) 16:12:24 ID:FGAZyiui0
「……そう簡単にはいかん」
髭を十数本引き抜くと、ドリアンは吐息でまとめてそれらを飛ばした。散弾となった髭
はまっすぐにスペックに向かう。
「ウッ!」
髭がスペックの右目を奪う。
口から空気の塊を撃ち出し左目をも奪う。
暗黒がスペックを包んだ。
ズタズタの唇で微笑むと、ドリアンが一気に間合いを詰める。喉に貫手を突き刺し、腹
部に掌底をめり込ませ、顎を垂直に蹴り上げる。
百キロを超す巨躯が真上に吹き飛び、ダウンを喫した。
「ヘッ……流石ハペテン師、一筋縄ジャイカネェナ。色々ト器用ナモンダ」
「君こそ、六分間の無呼吸連打はもはや人間ではない」
互いに称え合い、ついに最後の攻撃に移ろうとする。
「おう、なかなか楽しそうなことしてるじゃねぇか」
二人の真剣勝負に口を挟む男。一斉にドリアンとスペックが振り返る。
突然現れた男、背丈は百八十センチ弱といったところ。まるで頭髪のない頭と右目の眼
帯が特に印象に残る。
「なんだね、君は」
「邪魔スルトタダジャスマネェゾ」
「いや悪ィ悪ィ。最近俺の女房がやってる蕎麦屋によく来てくれる客ってのはアンタらだ
ろ? 一度礼をいっておこうと思ってよ。じゃ、続けてくれよ」
彼が吐いた台詞は一瞬にして二人から全てを奪ってしまった。
ドリアンとスペックは生ける死人と化し、男が立ち去った後も、いつまでもいつまでも
土手に立ち尽くしていた。
新スレおめでとうございます。
ドリアン&スペック、死亡確認。
今月中にもう一話投下する予定です。
サナダムシさんが来るとバキスレも安心の気がする
スペックたち早いなw
29 :
作者の都合により名無しです:2008/06/21(土) 23:32:01 ID:CstGDPKq0
お疲れ様です!
老人同士の対決に現れた謎の男・・楽しみですね。
いや、正体は丸分かりですがw
今月もう一回ですか。
以前のサナダさんのペースを知る人間からすると
物足りないけど、お仕事お忙しいのかな?
スペックたちが惚れるメスか。シュールだ。
31 :
作者の都合により名無しです:2008/06/22(日) 21:03:07 ID:jCqHlvX00
スーパー独歩ちゃんに叩き伏せられる死刑囚w
しかも何気ない一言でw
32 :
ふら〜り:2008/06/24(火) 20:06:35 ID:SQGTk0Jm0
>>スターダストさん(実は中学ぐらいの頃に『伊賀忍法帳』読みました。……いいのか私)
肩たたきでお小遣い……この調子だと、他にもいろいろ「母」なことをやってそうだなぁ小札。
無銘との平和な光景が目に浮かびます。秋水のそういった記憶といえば結婚式ごっこ周辺
なわけで。ヴィクトリアの件もあり、秋水は「母親」に対していろんな強い思いがあるだろなと。
>>サナダムシさん
本作らしい、この二人らしいオチに笑わせていただきました。規格外のアホ二人による、人間
離れした壮絶な勝負が、たったの一言で豪快に粉砕。考えてみれば予想は容易だったはずの
オチなのに、この威力は流石。そういやシコルも子供相手に転倒しただけでアレでしたもんね。
ゴートさん無事に帰ってこられたようでよかった
34 :
作者の都合により名無しです:2008/06/26(木) 17:13:26 ID:ky63LuNN0
唐突にミドリさん復活!
とかならないかなー
来襲!冥土番長
23区計画。それは、東京23区一つ一つに<番長>と呼ばれる超人たちを配置し、戦わせ、最後に残った者に
絶大な権力を与え日本の支配者として君臨させるという、次代の独裁者を生み出す恐るべき計画。
だが、それに真っ向から立ち向かう漢がいた。
彼の名は<金剛番長>。日本に残った、最後の硬派である。見るからに無骨でいかつい風貌、まさに漢である。
そんな彼は、なかば無理矢理に手渡されたチラシに嘆息し、目前の少女に目をやる。
「メイド喫茶<冥土印天国(メイド・イン・ヘヴン)>開店でーす!よろしかったら、来店お願いしまーす」
下手をすれば小学生にも見えそうな小柄な女の子。長い髪と泣き黒子が特徴的な、中々可愛らしい顔立ちだった。
そんな彼女の頭にはカチューシャ。身を包むのはエプロンドレス。手には箒。
俗に<メイドさん>といわれるスタイルである。その趣味の方にはたまらない服装だったが、あいにくと金剛は
日本最後の硬派なので、メイドさんに興味はない。チラシを手にしたまま、金剛は学校へと向かった。
「じゃ、お兄さん!ご来店、待ってるねー!」
手を振りながら、その少女は金剛を見送っていた。
さて、金剛が通う雷鳴高校。この学校のU−A組は、ある意味学級崩壊の危機に瀕している。その原因は―――
「む?金剛番長。その手に持っているのは何です?」
尋ねてきたのは女性と見紛うほどの美貌を持った少年。和服の上に学ランをマントのように引っ掛け、机の上に
日本刀を置いた、銃刀法違反上等の漢―――居合番長。
「メイド喫茶?ほほう、我は行ったことはないが、最近流行っておるようだな。我が思うには、これも一つの宗教の
形と―――」
「まるで思わないね」
禿頭の、如何にも僧侶風の実は俗物、念仏番長。そして彼にすぐさまつっこみをいれたのは、ハンチング帽に目元を
隠したマスク、ヘソ出しルックの学ランという、何気にヤバい服装の漢、卑怯番長。
「しかし金剛番長、似合わないものを持ってるじゃないか。それとも実はそういう趣味だったのかい?」
「違う。駅前で無理矢理渡されたんだ。突っ返すのも悪いと思ったからな」
「ふーん。まあいいや。折角だし放課後皆で行ってみないかい?なにか<美味しいモノ>があるかもしれないよ」
ニヤリと笑う卑怯。彼の言う<美味しいモノ>とは、十中八九ケーキだのなんだののことではあるまい。
「美味しいものですか?いいですわね。けれど、喫茶店ということは、甘いものばかりでしょうか?」
上品に訊いてきたのは可憐な顔立ちの美少女。しかし彼女はその華奢な身体に、重機にも匹敵する暴力を有している。
可愛く、おしゃまで、筋肉質。それが彼女―――剛力番長である。
この四人はかつては23区計画の参加者として、金剛番長と闘った者たち。しかし今は、頼れる仲間たちである。
人、これをジャンプシステムと呼ぶ(掲載誌は週間少年サンデーであるが)。
それはともかく、剛力番長はにこやかに笑った。
「私は甘いものは苦手なので、申し訳ありませんけど遠慮しますわ…ああ、けれど美味しいものなんて聞くと、お腹が
空いているのを思い出しましたわ…失礼あそばせ」
言って、剛力は携帯を取り出し、誰かに連絡する。その数秒後、教室のドアが開き、学ランを着込み、巨大な鍋を軽々
と持った初老の漢が顔を出した。
「チャンコでございます。今日は瀬戸内海直送の海の幸を手当たり次第にぶち込んでみました」
「ありがとう。今日も美味しそうね」
その異様な光景に一切つっこみは入らない。平然と剛力は箸を取り出し、チャンコをパクつく。言っておくが、ここは
学校である。教室である。しかし気にしてはいけない。こんなことを気にしていたら、ここではやっていけないのだ。
「ま、いいか。それじゃあむさ苦しい漢四人だけど、メイド喫茶初体験と洒落込もうか」
卑怯は実に、楽しそうだった―――そして、放課後。
メイド喫茶<冥土印天国>に、四人は来店した。
「「「お帰りなさいませ、ご主人様!」」」
一斉に、にこやかに、可愛く頭を下げるメイドさんたち。彼女に案内され、四人は席に着く。店内は中々に小奇麗な
雰囲気だった。可愛らしいメイドさんたちも、言うまでもなく雰囲気作りに一役買っている。
「全く、嘆かわしい。若い娘たちが、こんな和の心の欠片もない、破廉恥な格好で…」
顔を赤らめつつ、ブツクサ文句を言う居合。彼は純情すぎる上に、洋風文化が嫌いなのだ。こういう店は彼にとって
苦手中の苦手だろう。そんな彼の肩をポンと叩きながら卑怯は笑った。
「いいんじゃない?こういうのも若いうちしかできないだろうし、面白いじゃない」
「うむ。中々繁盛しておるようだし、さぞ儲かるのだろうな」
俗物的な思考で語る念仏だった。
「ご主人様ぁ、今日は何になさいますか?」
メイドさんがにこにこ笑いながら注文を取る。各々好き勝手に注文したところで、念仏がメイドさんに声をかけた。
「いや、お嬢さん。我はこういう店には初めて来たが、いい店であるな」
「えへへ、ありがとうございますぅ」
「うむ。そこで我は、この店がもっといい店になるように協力したい」
念仏はにんまりと、実に怪しい笑みを浮かべながら、その手に筆ペンを握り締めていた。
「そこで、我が今日は特別にカチューシャにありがたーい経文を書いてしんぜよう!今なら本来4万円のところを
5割引の2万円!如何かな、お嬢さん?」
「い…いえ、結構です…」
先程までの笑顔を見事に引き攣らせ、メイドさんは後ずさる。しかし、念仏はその目をしかと見据えた。
「本当に!?本当にいいのかね、それで!?」
「う…」
その奇妙な眼力に気圧され、メイドさんはふらふらと財布を取り出し始めた。
「じゃあ…折角だし、お願いしますぅ…」
「あたしもぉ…」
すぐ近くにいた別のメイドさんまで影響されていた。金を受け取り、念仏はカチューシャに経文を書き始めた。
「全く、俗物め…」
そんな彼を見て露骨に顔を顰める居合。だがその直後、彼は硬直した。
「あー、かっこいいご主人様!あたし、この人の注文お取りしたーい!」
「あ、ずるーい!私もー!」
美少年―――それも頭に<絶世の>が来る居合に、メイドさんが殺到した。多数のメイドさんに囲まれ、居合は顔を
真っ赤にして俯いてしまった。メイドさんにはそんな態度が可愛いと映ったのか、さらにキャイキャイとメイドさん
たちは居合とスキンシップを図る。
「…………」
居合はもはやゆでダコのようになって、黙りこくるばかりだった。そんな一同を見て、金剛は真顔で呟いた。
「駄目だ、こいつら…」
金剛は仏頂面で、運ばれてきたプリンを食べた。食べた途端、その無骨な顔に満足げな笑みが浮かぶ。
「うめえ…!やっぱりプリンは最高だぜ…!」
とりあえず彼は、プリンさえ食べられるならば、そこがどこであれ天国なのだ。さすがに公式の登場人物紹介に
<プリンを食べることに強いこだわりを持つ>と書かれただけのことはある。
残る卑怯は、そんな彼らを面白そうに見つめるだけだった。
と、少々問題はあるものの、みんなして初体験のメイド喫茶というものを楽しんでいるようだった。
―――と。
「あ、お兄さん!来てくれたんだね!」
ん、とプリンを食べ終えた金剛が顔を上げると、そこにはチラシを配っていた例の少女。
えへへ、と可愛らしく金剛に笑顔を見せる。
「別に、来たくはなかったんだがな…」
「あー、来てくれてるのにそんなこと言って。お兄さんったら、ツンデレー。ま、それはいいとして、今日は
開店サービスということで、お兄さんには私から特別にご奉仕させてもらっちゃうよ。ほらほら、それじゃあ
あっちの個室にれっつゴ〜」
少女は金剛の手を取り、強引に席を立たせた。
「おい、俺は別にそんなもん…」
「別にいいじゃない、金剛番長。こんな可愛い子のお誘いなんだし、行ってきなよ」
卑怯まで少女の後押しをした。念仏は経文を書くのに忙しく、居合は周囲の状況に構っていられない状態だ。
「全く…」
相変わらずの仏頂面で、金剛は仕方なく、手を引かれるまま個室に入っていった。
個室に入ったところで、金剛は少女に問いかけた。
「で?テメエは、何者だ?」
その言葉を聞いた瞬間、少女の目が一瞬、鋭い光を帯びる。
「…何者って?私はただのメイドさんだよ」
「そうか。ただのメイドか…なら聞くが…」
金剛は一息いれて、少女を睨み付けた。
「<ただのメイド>がどうして、俺が隙を見せるたびに、殺気を放つんだ?」
―――少女は、笑った。今度はにこやかにではなく、酷薄に。
「へえ…すごいね。ただのパワーだけのニブチンだと思ってたよ。ごめんね」
「認めたってことは―――聞くまでもないが、23区計画の参加者か」
「んー、ちょっと違うかな…<これから参加する予定>なんだよね」
「何だと?」
「驚くことじゃないでしょ、お兄さん―――いや、金剛番長さん。あなただって最初はただの部外者だった。けれど
居合番長を倒したことで、番長の名と統括区を得たんだ。それにならって私も、あなたを倒して、計画に参加する。
そして、私の理想国家を建国するんだよ…」
少女はエプロンドレスの上から、学ランを羽織りながら、堂々と名乗りを上げた。
「私の名は小泉ひなた―――又の名を<冥土番長>!金剛番長。悪いけど、あなたの統括してる区は、全部いただくと
するよ」
小泉ひなた。否、冥土番長は金剛に向けてビシッと人差し指を向けた。
「ちなみにあの三人の助けは期待しない方がいいよ。店内のメイドさんたちはみんな私の舎弟だからね」
「問題はない…俺がテメエを倒す。それだけだ!」
金剛は拳を振り上げ、冥土番長に向けて強烈な一撃を見舞う。対する冥土番長は、それをまともに受けて―――
まるで微動だにしなかった。
「―――!?」
「ざーんねん…私の着ているこのエプロンドレスは、近年米軍が開発した特殊繊維が織り込まれていてね。近距離から
のバズーカ砲の直撃ですら、傷一つ付きはしないんだよ」
得意げに説明する冥土番長。しかし、それでは肉体へのダメージは殺せても、衝撃までは殺せないはずだ。すなわち、
それに耐えたのは、純粋に冥土番長の肉体強度ということになる。
「なるほど―――伊達や酔狂で計画に参加するつもりはねえってことか」
「そういうことだよ。ではでは、見せてあげるよ。真の奉仕精神というものをね。さあ―――死闘(ご奉仕)を、始めよう。
メイドの土産に、冥土送りにしたげるよ」
言うが早いか冥土番長は頭からカチューシャを取り外し、金剛に向けて投げ付けた。それは複雑な軌道を描きながら、
凄まじい速度で金剛の肉体を切り裂き、冥土番長の手元に舞い戻る。
「これぞ冥土番長の奉仕技が一つ、カチューシャ・ブーメラン!如何に番長であっても、その動きを予測することも、
その速度を捉えることも不可能!」
「ぐっ…!」
わずかながら、金剛の顔に焦りが浮かぶ。それを好機と見て、冥土番長は手にした箒の先を金剛に向けた。
「お次はこれだよ―――奉仕技その二、ブルーム・マシンガン!」
「!」
反射的に両腕でガードを固める金剛。その身体を、箒―――に偽装した機関銃―――から飛び出した銃弾が容赦なく
肉を抉っていく。鉛の嵐が止んだ時、もはや金剛は傷だらけだった。
「うふふのふー。既に何人もの番長を倒してるっていうからどれほどの強さかと思ったけれど、意外と大したこた
ないね。それとも私が強すぎるのかなー?んー?」
にやにや笑う冥土番長。そんな彼女に、金剛は問いかけた。
「冥土番長。テメエは何故、こんなクソったれた計画に参加してまで、日本を支配したいんだ?」
「おや。そういうことを今聞くかね、金剛番長。まあいいか。メイドの土産に聞かせたげるよ、私の崇高なるプランを…」
冥土番長は余裕たっぷりに両手を広げる。
「金剛番長。あなたは<メイドさん>という言葉に、宇宙を感じたことはないかな?」
「ない」
一瞬で断言され、鼻白む冥土番長だったが、すぐさま反論する。
「つまんない漢だね、全く…メイドさんだよ。ああ、メイドさん!なんていい響きなんだろうね…!実に癒されるよ!
メイドさんはいいね。人類の生み出した偉大な文化だよ!」
冥土番長は段々と熱っぽく、陶酔した顔になっていく。
「私はそんな偉大なるメイドさんの力を持ってこの腐りきった日本を救いたい―――そう、私が日本の支配者となった
暁には、私自らがメイド長となり、一大メイド軍団を結成し、全日本国民に一家につき一人、メイドさんを配備する。
メイドさんがいる生活は肉体・精神に余裕を与え、ストレス社会なんて言葉はもはや死語となり、日本に平和とゆとり
をもたらす―――そう、それこそがこの冥土番長の目指す理想国家なのだよ!」
最後の辺りはもはや絶叫だった。しかし、金剛は冷ややかに彼女を見つめ、言い放つ。
「冥土番長…テメエは一つ、どうしようもなく矛盾している」
「―――矛盾?へえ…私のこのカンペキなプランに何か問題でも?負け惜しみも甚だしいよ…まあいいか。私の最後の
ご奉仕で、その口、永遠に閉じるといいさ。さあ、冥土送りだよ!」
言い終わると同時に、冥土番長はエプロンドレスの至る所から無数のカチューシャを取り出し、金剛に向けて投擲する。
そして一切のタイムラグなしに、マシンガンを発射。それは残弾など一つも残さぬ勢いで銃口から吐き出されていく。
「奉仕奥義、カチューシャ・ブーメラン百機編隊―――そしてブルーム・マシンガン全弾開放!」
それを全て喰らえば、もはや人間一人など塵も残さない―――だが、金剛は。金剛番長は、それを避けようともしない。
それどころか、自分からそれに向かっていく。
(勝った!金剛番長完ッ!)
そう思った冥土番長は、しかし、次の瞬間、己の認識の甘さに気付いた。襲い掛かる無数の兇器と兇弾を、その身で
全て受け止め、その身を血で赤く染めて―――なお、金剛番長の突進は止まらない!
「う、あ―――」
そして繰り出される、金剛番長の鉄拳!
「打舞流叛魔ァァァーーーーーっ!!!」
近距離からのバズーカ砲すら防ぐ特殊エプロンドレス―――だが、本気を出した金剛番長の一撃の前には、紙切れに
等しい強度しかない。
哀れ、冥土番長は吹っ飛び、壁に激突し、床に倒れ、そして、ぴくぴくと痙攣するだけとなった。意識はあるようだが、
もはや戦闘続行は不可能だろう。
「嘘…でしょ…こ…これが…金剛番長…強い…つよ、過ぎる…!」
呻くように冥土番長―――否、敗れ去った今、もはやただの<小泉ひなた>となった彼女は呟く。そんな彼女にかける
言葉もなく、金剛は部屋を出て行こうとした。
「ま…待ってよ!最後に…訊きたい!私の…私の全日本メイド計画のどこに、矛盾があるのさ!?」
ぴたっと金剛の足が止まり、その場で振り向いてひなたを一瞥する。そして、答えた。
「俺はメイドとかいうものはよく知らねえ。興味もないしな。だが、聞く限りメイドってのは、誰かに仕えて、奉仕する
ことが使命なんだろう?」
「そう!それこそがメイドさんだよ!いるだけで幸せな気分になれる、献身と奉仕の心に満ち溢れたいわば―――」
「そしてテメエもその一員なんだろうが。そんな奴が―――誰かに仕えるための存在が、日本を支配しようってのは、
一体どういう了見なんだ?」
「!」
それは―――まさしく死刑宣告に等しかった。自身のアイデンティティ、その全てを揺るがす一撃。
「テメエもメイドの端くれなら―――メイドとしてのスジを通しやがれ!」
「…………」
もはや声もなく、ひなたはがっくりと倒れ付した。それを見届けて、今度こそ金剛は部屋を後にするのだった。
「あれ?どうしたんだい、金剛番長。ボロボロじゃないか」
「ああ、ちょっとな…とにかく、こっちの用事は済んだ。俺は今日カルチャースクールの講習があるからそろそろ帰ろう
と思うんだが」
ちなみに彼が通っているのは料理教室である。無論、究極のプリンを作り出すためだ。以前作ったものは腹ペコの野良犬
にあげてしまったので、今度は更なる高みを求め、至高のプリンを目指しているのだ。
「ああ、そうだね。じゃあいこうか…あ、代金は開店記念でタダでいいってさ。さすがメイドさん、サービスいいね…
<美味しいモノ>も、たくさんあったことだし…ふふふ」
にこやかに語る卑怯。そんな彼を、メイドさんたちは憎しみと、それを遥かに越える恐怖を込めて睨み付けていた。
そして、その中の一人が、もう耐え切れないとばかりに泣き崩れた。そして叫ぶ。
「卑怯者…卑怯者〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ…!!!」
「卑怯者?ふふふ…それはありがとう」
卑怯は―――卑怯番長は、本当に嬉しそうに笑った。
「この卑怯番長にとっては、それが最高の褒め言葉だよ」
言い捨て、意気揚々と自動ドアをくぐって街の雑踏へと消えていく卑怯番長。それを金剛と居合は、苦々しく見送った。
「何をやったんだ、あいつは…」
「あの卑怯者め…!」
その後ろで念仏は、実に十三人にも及ぶメイドさんからの経文の代金総額26万円を握り締め、ホクホク顔だった。
―――その夜、金剛はついに至高のプリンを生み出すことに成功した。しかし、帰り道でおやつのプリンをドブに落とし
泣いている女の子を見つけてしまい、結局彼の口には入らなかったという。
特技は無敵の金剛番長。しかしながら、今日は彼にとってついてない一日であった。
投下完了。今回の題材は以前も書いた金剛番長で。
前はときメモ2とのクロスでしたが、今回は冥土番長を除き周辺のキャラクターは原作通りです。
彼女を○○区の統括者にしなかったのは、どうやっても原作と矛盾するからという一応の配慮です。
冥土番長は外見的特長と名前から、モデルにしたキャラは容易に想像がつくでしょう。
…まあその原作知らないと分からないから、単なるやられ役のオリキャラと思ってもらって構いません。
ただ、ハシさんは分かるはずです。らき☆すたSS書かれましたしね…。
でも性格はあんまりこなたっぽくないです。多少は似せましたが。
ちなみに僕はかがみが好きです。でも彼女はツンデレじゃないと思います。でもらき☆すた好きなひとに
「かがみはツンデレじゃないよね?」とふると、みんな「えー、あの子ツンデレだよ」と言われます。
次に好きなのはみゆきさん。あのとりあえず美味いもん全部ぶちこんでみたラーメンみたいなあざとすぎる
萌え要素の塊具合がいいかんじだと思います。
その次にこなたとゆーちゃんが来るかな…って感じで。すいません、僕個人の好みはどうでもいいですね。
ただまあ、らき☆すたキャラはみんな好きですね…白石くんすら(笑)。
みなみとゆーちゃんのコンビを見るとき、僕もあの眼鏡同人少女と同じ視点になります。おかしくないですよね?
えー、らき☆すたについて一通り語ったところで、今回は終わります。
ではでは。
PS ハイデッカさん。テンプレについてのお気遣い、感謝いたしております。「名前がなくなると寂しい」
とまで言っていただけて、本当に嬉しいです。ありがとうございます。
おお、サマサさん乙
金剛番長は好きなんで嬉しいです。
しかもこの状況で投下は神様に思えます。
45 :
作者の都合により名無しです:2008/06/28(土) 17:18:00 ID:f5uhCNoo0
お疲れ様ですサマサさん!
今回の番長は今のシリーズにのっとった感じの話のつくりですね。
らきすたは知りませんが、番長は好きなのでシリーズ化してくれると嬉しいです。
メイドか・・。メイドガイみたいな奴なら金剛と張り合えるかもw
番長っていろいろと広げやすそうな素材だ
ともあれサマサさん乙。
冥土番長…もっと早いうちに、白薔薇にでも勝負を挑めば、あっさり計画に参加できたろうにw
48 :
しけい荘戦記:2008/06/29(日) 01:35:03 ID:M+rFFnyj0
第五話「パス」
株式会社クードー。日本最大手の暗器メーカー。
元々は「空道」という闇武術の使い手が副業として暗器の精製、販売を行っていたこと
に由来する。それを現取締役社長である国松が本格的に企業として立ち上げ、事業所を海
外にも展開し、近年では年商百億円を超えるほど。彼自身が空道の達人であることはいう
までもない。
しかし、今クードーには国松をも上回る猛者があった。
製品開発部統括部長、柳龍光。国松の部下であり弟子でもある柳は、入社するなり社長
との立ち合いを切望し、国松の右腕を奪った。その後は優秀なアイディアマンとして次々
に暗器を企画・開発し、今ではクードーになくてはならない人物となっている。
相手を一瞬で失神させる大ヒット商品『6%未満酸素』、毒の塗られた手袋『毒手グロ
ーブ』、鞭打と同じ機能を持つ『鞭打ロープ』、絞殺専用黒帯『セイケン』、銃を所持す
る相手を騙すための声が録音されている『安全装置は外して』、鉄骨以外ならば何でも斬
れる『名刀』など、彼が携わった製品全てを挙げることは到底できない。
広々とした会議室にずらりと並ぶ重役たち。中には国松もいる。
柳による新製品のプレゼンテーション。ここでの成否によって、今日柳が持ち込んだ製
品が世に出るかお蔵入りになるかが決定される。
「ヒァヒァヒァ、柳ィ。さっそくだが始めてもらおうか」
「はい」
柳は風呂敷包みを机の上に置いた。
「本日私が考案する製品はこちらです」
ほどかれた風呂敷から出てきたのはヤカン。口からは湯気まで出ている。ざわつく重役
たち。
49 :
しけい荘戦記:2008/06/29(日) 01:35:58 ID:M+rFFnyj0
「ヤカン……?」
「なんだこれは、ただのヤカンじゃないか!」
「柳君、ふざけているのかね」
社の長老連中が猜疑の眼差しを一斉に向ける。だが柳は怯むことなく、この反応は予想
通りだったのか、非常に落ち着いていた。
「あなた方のおっしゃられた通り、これはヤカンです。中にはたっぷりと熱湯が入ってお
り、今すぐにでもお茶を振舞うことだって可能です」
柳がヤカンを手に取って揺らすと、チャポチャポと音がした。
「さて本題に入りましょうか。むろんこれは暗器としての性能を備えております。使い方
は、こうです」
その刹那、柳はヤカンを宙に放り投げた。ヤカンは緩やかに空中で傾きながら、湯をば
ら撒き、そして落ちた。
呆気に取られる面々。
「この瞬間──殺(と)る!」
目を見開き、柳が鋭い突きを空中に放った。拳が空を切る音が会議室中に響く。熱湯が
床に広がる。
「熱湯の入ったヤカン。普通ならば中のお湯を浴びせるとか、あるいは高速で投げつける
などといった使い方を取るでしょう。ですが、そんな使い方では敵も当然予測をしている
でしょうし、容易に対処されてしまいます。
そこで今私が行ったように無造作に相手に放り投げる、すなわちヤカンを“パス”して
やれば敵はまちがいなくほんの一瞬混乱します。ヤカンという日用品を利用して敵の精神
に空白を作り、叩く。これが私が今回新製品として考案する、名づけて“パスヤカン”で
す」
50 :
しけい荘戦記:2008/06/29(日) 01:36:25 ID:M+rFFnyj0
喚声が上がり、にわかに室内が騒がしくなる。まだ全員、半信半疑といったところ。天
秤を自分側に沈めるには、もう一押し必要だ。
「暗器使いが二度同じ相手と戦うことは殆どありませんが、たとえ再戦することになった
としても、例えば中にお湯ではなく水を入れるなどのフェイントも可能です。
ヤカンはどこの家庭にもある日用品。常日頃から持ち歩いていてもまったく不自然では
ありません。しかも中身を熱湯や冷水、あるいは空にすることで戦略の幅を無限に広げる
ことができます。平時には普通のヤカンとして使えるというのもポイントです。今や携帯
電話ですら多機能多機能と持てはやされる時代、我々のような暗器業界もそうした時流に
乗らなければ生き残ることはできないでしょう。
パスヤカンは必ずや二十一世紀の暗器として、武術史に革命をもたらすことができる!」
最後は敬語を使わず、ストレートに熱意を訴えた。
天秤が傾く。
「ふむ、たしかにな。なかなかに優れた武器かもしれん」
「パスという発想が面白いな」
「私もこれはヒットすると思いますな。社長……どうですかな?」
国松は大麻を丸めただけの煙草をくゆらせながら、焦点が合わぬ目で笑いながらゴーサ
インを出した。
「ヒァッヒァッヒァッ、柳ィ、やってみい」
「ありがとうございます!」
一ヵ月後──。
大量のヤカンが積み上げられた社の倉庫を見て、柳は生娘のように目から涙をこぼして
いた。
今回は柳です。
花山外伝では小者化した国松ですが、
あの外伝は結局黒歴史化ということなのでしょうか。
もう一回ほど誰かのエピをやり、アパート全員の話、新キャラ、という流れで考えています。
52 :
作者の都合により名無しです:2008/06/29(日) 21:16:25 ID:XJseJ6yh0
お疲れ様ですサナダムシさん!
そういえば柳はクードーのえらいさんでしたね。
結構、常識人っぽいんだよなしゃべり方はw
新キャラのあとはやっぱりバトルでしょうか?
サナダ氏乙です。
パスヤカンは絶対に売れんわなw
大量の返品を見て柳は何を思うのだろう
なかなかオリバの出番が無いなあ
55 :
作者の都合により名無しです:2008/06/30(月) 13:01:15 ID:cCgugZVB0
スペックドリアン→柳 だから
次はドイルかな。シコルスキーは主役だから
きっと最後に一番おいしいところを持ってくんだよね
サナダムシさんのしけい荘大好きです。
でも、久々に新作うんこも読みたいなw
57 :
永遠の扉:2008/07/01(火) 22:19:32 ID:1ZbW0IZG0
第061話 「動けなくなる前に動き出そう 其の参」
病室のベッドの上で、斗貴子は意外な来訪者に目を丸くしていた。
「こんにちは。お見舞いにきたよ」
「まひろちゃん……」
開けていた窓から柔らかい風が流れ込み、白いカーテンが緩やかに波を打った。
一方、地下。
「ロバの敵が何かご存じでしょうか!」
めくれ上がり空中を飛ぶ床板を迎撃しながら、秋水は内心でかぶりを振った。
「意外や意外、それはヤモリっ! アリストテレスのおじさん曰く、ロバの飼葉桶に潜り込み、
ご飯の邪魔をするのです! 確かに赤のツブツブおぞましいトッケイヤモリどのがお茶碗に入
っていたらば不肖も”うげばー!”とご飯を吹いて気絶するでしょう! むろん不肖と秋水どの
の戦いはそれとは次元を異にするいわば思想の戦い!」
石でできていると思しき床板は、星座の見立て図のようである。破片をエネルギーで結び床
板の形と成している。それに刀が吸いこまれると同時に秋水は周囲に漂う龕灯をちらと見た。
(仕方ない)
吸い込んだエネルギーは、刀身から大きく爆ぜて秋水を焼いた。敵対特性。無銘が最後の
力を振り絞って付与したその特性は、
「恐らく吸収するエネルギーが大きければ大きいほど秋水どのを激しく焼いていくコトでしょう!」
……地の文をキャラが補足していいのだろうか。筆者はこの段を描くにあたってそろそろ悩み
始めている。そもキャラというものはひとたびその性質が決まると筆が進むにつれて刺激的な
部分ばかり強調され、やがて糸の切れたタコのように天空で好き勝手する。核融合にさえ似
「敵とはいえヤモリと比肩すべくもなく気高い秋水どの、探索モード・ブラックマスクドライダーも
打ち破った秋水どの! この機は逃さん超魔爆炎覇ぁ! とばかりに不肖に接近(ちか)づい
てゆくゥ〜! ここにザボエラどのが来たらば試合終了ですがしかしこない! 不肖との距離
はもはや四十メートルといったトコロ! 弓矢なれば鎧武者さえ射ぬける致命の間合いであり
具体的戦闘距離といえるでしょうッッ! しかし手にされているのが刀である以上、制空圏ま
ではまだ遠い! この距離をどう埋めるかが勝負の鍵であるでしょうッ!」
58 :
永遠の扉:2008/07/01(火) 22:20:03 ID:1ZbW0IZG0
上記のセリフを滑舌よく〇・五秒でいった小札は、ばばん! と天井を指さした。
「さあ、無銘くんのくれた敵対特性の概要が掴めたいま!」
疾走(はし)る秋水は気色ばんだがそのまま足を大きく踏み出した。
「そろそろ不肖も小技を廃し、迎え撃たせていただきましょう!」
小札まで、残り三十五メートル。
「ご存じの通り、不肖のマシンガンシャッフルは壊れた物を繋ぐ武装錬金! 味噌っ歯だって
繋げるというかやはりもりもりさん以外には見せたくないので繋げた武装錬金!」
(味噌っ歯?)
そういえば地上で斬りかかった時に小札の前歯が欠けていたような気がする秋水だが、と
りあえず走った。残り三十メートル。
「そしてこのお部屋はもりもりさんがわざわざ作ってくれた場所! 廃墟! 『壊れた部屋』!」
銀色の光だった。
銀色の光が秋水の足先を掠めた。攻撃力はない。確認した秋水の有効視界百六十度の中
で、同じ光が部屋の壁や床、扉にじりじりと走り、星を星座に結ぶように結んでいく。
「かつて不肖は下水処理施設の地上にて、ホムンクルスの皆さまを結界に閉じ込めた経験が
あります! その時の手法を今一度!」
揃えた人差し指と中指を肩の前から弧を描くように振り抜いて、小札はマイクを口に当てた。
部屋は歪な網の目のような光線が迸り、鈍く光り始めている。
「でね、演劇部に昔から伝わるドレスはスゴいんだよ。何年かに一度、学園祭で発表する劇で
突然”ぴかーっ!”って光って短剣とか斧とか、えぇとなんだっけ……その、忘れちゃったけど、
とにかくカッコいい武器が出てくるんだって。だからそれを見たくてわざわざ学校の外から劇を
見に来る人もいるんだよ。すごいねー。私はまだ見たコトないけど、斗貴子さんと一緒に見れ
たらいいなあ。斗貴子さんはどう? 見たい?」
(光って『短剣』や『斧』とかの武器に? それじゃまるで……)
俯いて端正な面頬に影を映していた斗貴子が、はつと疑問に双眸を見開いたのをまひろは
見逃さなかった。見逃さなかっただけで、表情からまるで別の情報を解釈したのはやや的を
外した反応だが、彼女らしくもある。
59 :
永遠の扉:2008/07/01(火) 22:20:30 ID:1ZbW0IZG0
「昨日の夜のコトなら気にしないで。大丈夫大丈夫。確かに最初は驚いたけどね、今はもう平
気だよ」
しんみりと笑って「まぁまぁ」と手を出すまひろに、斗貴子はきゅっと唇を噛みしめた。
しばらく黙らざるを得ない。
(嘘だ。大丈夫な筈はない。キミだって十分に傷ついている筈なのに)
──「自分が助かるためにカズキを刺し殺そうとした早坂秋水を!」
寄宿舎管理人室での叫びがどれほどのショックをまひろに与えたか、分からない斗貴子で
はない。苛烈さを補って余りある冷静な判断力と弱者への優しさを秘めている、というのは彼
女を深く知る者の一致した見解である。ここしばらく”度”を失っているのも限りない喪失とそれ
に降り積もる不運あらばこそ。ああしかし彼女は、澱(おり)を溶かす暖かな太陽が傍にいれ
ば、という渇望を隠して一人その澱(おり)に立ち向かおうと気力を起こし、苛烈さばかりを先
行させている。先行させすぎている。
その行く末でいつしか敵を求むるようになった。深層意識の処刑鎌で斬り飛ばせるような明
確な敵。不明確な澱を塗り固めて目鼻をさえ明瞭に想像できる敵。不特定多数のホムンクル
スではない、太陽の喪失に関わるほどの大きな敵。
それを憎むコトでしか崩れ落ちそうな心理を保つコトができない。だがしかしその末で発した
言葉は最も大事な存在が大切に想う存在を傷つけた。
斗貴子は彼女を見た。戦闘とはまったく無縁の、斗貴子とは比べるまでもなくか弱いただ一
人の少女を。
「昨晩は済まなかった。あの件については私が全面的に悪い。君だけじゃなく……戦士長た
ちにも謝るべきだな」
頭を下げながら、その内部がズキズキと痛むほどの感傷を斗貴子は覚え始めた。
最初はただの適応規制だった。人間なら自然に持ちうる、ありきたりの。
だが問題の本質から目を逸らし、楽な方へ楽な方へと、自分が慣れ親しんだ苛烈な昇華を
繰り返している内、泥人形へ塗り固めた澱がいつしか自らの手足に纏わりついて傷に染み、
痛みの叫びがまひろを傷つけた。
(私は……何をやっていたんだ。あんなコトをやっても何の解決にもなりはしないというのに)
60 :
永遠の扉:2008/07/01(火) 22:21:02 ID:1ZbW0IZG0
今さら気づいた事実に顔色は夜よりも暗く染まり、星のような滴が闇の切れ目からうっすら
浮かんだ。
「あ、あのね、お兄ちゃんのコトだけどね!」
斗貴子がハっと面をあげたのは、何とも素っ頓狂で、斗貴子の空気を読まない無駄に明るい
声につられたからだ。或いはカズキの声を重ねていたのかも知れない。
「私……思うんだ。斗貴子さんのいうように、その、刺されて死にそうになっても、それが間違
いだったり、ちゃんとした理由があったりするなら、お兄ちゃん絶対、その人を許してくれるって」
何がいいたいのか。
相変わらずズレているまひろだが、言葉は一生懸命だ。聞いているだけで心の何事かを溶
かしていきそうな響きがある。以前からこういう「日常」的な会話においてはカズキやまひろた
ちに圧倒されるコトが多い斗貴子だから、その差のせいかも知れない。
「あ、でも」
とここでまひろは顎に人差し指を当て、首をちょいと傾げながら呟いた。
「斗貴子さんや私たちをね、傷つけるような人に対してはすっごく怒ったり、許さなかったりす
るんだ。まぁ、それでも大抵の場合は時間が立つとその人もちょっとずつだけど理解して、い
つかは許しちゃうんだけど、でも許すまでは本当に頑固で説得するのが大変なんだ」
えへへ、と弟をあやすような顔つきで語るまひろに、斗貴子は「そういえば」と頷いた。
(再殺部隊の火渡戦士長のように、か)
火渡、というのはかつて防人を「思惑の相違により臨まずして」という条件付きながらに焼き
殺しかけた男。思い返せばカズキは彼だけは許そうとしなかった。恐らくはこの時も。
(しかしアイツには、早坂秋水にはそういう態度をとっていただろうか……)
とってはいない。手を取って、励まして、桜花が助かった後は笑顔で秋水たちを見ていた。
横目で見ていた笑顔に、胸が締め付けられる思いがした。
或いは最初から理解していたかも知れない。
ただ、心の弱い動きが直視を妨げ、歪な適応規制ばかりを積み重ねていた。
それをいま、認めるべきか否か。
61 :
永遠の扉:2008/07/01(火) 22:21:30 ID:1ZbW0IZG0
そう思考するコトさえ実は逃避に思える斗貴子だ。ゆらい、思考という行為は行動をせず一ヶ
所に留まっている状態である。行動の痛みを恐れて思考に逃げているといえなくもない。
「秋水先輩が、お兄ちゃんにとって大事な誰かを傷つけたりしてないなら、許してくれてると思
うよ」
斗貴子の懊悩を見透かしたのかどうか。まひろの言葉は肩を震わすには十分だった。
「あ!! ゴメン! 責めてるワケじゃないよ。だって斗貴子さんが秋水先輩を『許せない!』
って思うのは……」
しかしすかさずまひろは言葉を引っ込め、斗貴子を追い詰めようとはしない。
カズキの妹らしい配慮だ。しかしだからこそ、見まいとした事実を見るかどうかの決断は斗貴
子に委ねられた形になる。目を逸らせばそれは明確に自らの責任となる。
「お兄ちゃんのコト、本当に大事に思っててくれるからだよね? ありがとう」
間近にいる陽光は、ただ斗貴子の良い部分だけを照らす。その光の前で心を誤魔化すの
は、どうしても耐えがたい。弱さを認めるのと等しく耐えがたい。
(それでも……)
だらだらと弱さを引きずって、地上に残った暖かな光を再び傷つけるのはしたくない。
開いた窓から嫌な汗を撫でる心地よい風が吹き込んだ。
それきり病室はしばらく静まりかえり──…
「違うんだ」
干からびた口内に病院の清潔な空気を軽く吸い込むと、斗貴子は小さく呟いた。
「確かに最初はそうだった」
カズキの命を守るべく、戦いから遠ざけるべく、苦渋の想いで攻撃を仕掛けたその矢先、秋
水はカズキを刺した。
それに対する怒りまでは正当だった。
「でも、途中からは違うんだ」
一種の正当にすがって、喪失や敗北、剛太の負傷といった事象への薄暗い感情までもを秋
水にブツけていた。
果たしてそれは正しいのだろうか。
「……違うんだ」
病院着の半袖から覗く白い一の腕に手を当てながら、斗貴子は外を見た。まひろが視線を
追うと、町並みが飛び石のように下界を通り過ぎ、銀成学園屋上の給水塔に停止した。
62 :
永遠の扉:2008/07/01(火) 22:24:16 ID:O/ulT4gc0
「カズキがアイツを恨む道理など最初から存在していない。……冷静に考えればそんなコトは明
らかだ。怒ったとしても、本当にカズキを想うのなら最初にそれを理解して、矛を引くべきだった
んだ。なのに、私は──…」
再び斗貴子を見たまひろは、儚く細いその腕に悲しそうな表情をした。
「斗貴子さんは悪くないよ。ほら、色々あったし、今だって…………入院するぐらいのケガをし
てるんだし、ね。あんまり自分を責めちゃダメだよ。斗貴子さん、他の人には優しいのに、自分
には厳しすぎるから」
「……すまない。だが今はもうしばらく一人で考えさせてくれ。私は、まだどうすればいいか分
からない」
心に抱えた薄暗い要素は、少し動きを変えたがまだまだ解決には至らない。
(だよね。やっぱり斗貴子さんにはお兄ちゃんがいないと、ダメだもんね)
それほどの関係になった兄と斗貴子が羨ましい反面、今は片翼の鳥のように精彩を欠いて
いる斗貴子が悲しい。
帰るべき、と椅子からお尻を浮かしたまひろは、しかし。
「ゴメンね急に押し掛けたりして。けど最後に一つだけ!」
すう〜っと息をすうと、斗貴子の肩を正面から思いっきり掴んだ。
「お兄ちゃんならきっと必ず帰ってくるから!」
いつか秋水がいったセリフ。まひろがそれで救われたセリフ。
「待つのは確かに辛いけど、でも帰ってきた時に笑ってお迎えできるようにちょっとずつ準備し
ていこうよ」
いつものごとく空気が読めぬまひろ独特の勢いに、斗貴子は唖然と目を見開いて無言でコク
コクうなずくしかない。
「大丈夫。絶対に絶対に絶対に大丈夫! いつになるかは分からないけど、お兄ちゃん、斗貴
子さんが泣いてるって気付くから! そしたら、どんなコトしてでも戻ろうとするから! いまは
元気だせないかも知れないけど、それだけは信じてようよ! 私、保証するから!」
困ったような嬉しいような微妙な表情をしながら、斗貴子はとりあえず脅迫されたようにぎこ
ちなく頷いた。
「だって斗貴子さん、泣いてる顔より笑ってる顔が可愛いもん」
「可愛……!?」
「照れない照れない。私はそう思ってるから。お兄ちゃんだってよくいってたよ。あと、おへそも
綺麗だって。良かったねー」
63 :
永遠の扉:2008/07/01(火) 22:25:21 ID:O/ulT4gc0
口を覆ってからかうように手を上下させるまひろに、斗貴子は真赤になった。
(い、妹に何を吹きこんでいるんだキミは!)
(良かった。ちょっとだけいつもの斗貴子さんだ)
斗貴子は頸まで赤くするばかりで、まひろの安心したような笑みには気づかない。
「とにかく……いまは待ちながらやれるコトをやってこうよ。私と一緒に。ね! ね!」
まひろの力はますます強い。眉がいかって気炎の温度が上がるたび、ゴリラか何かのごとく
無遠慮な力がギリギリと肩を締め上げる。
「わ、わかったから少し力を緩めてくれ! あまり言いたくはないが、私は肩にもケガをしてる
んだぞ!」
悲鳴のような声を上げてようやくだ。ようやく肩が自由になった。
「ゴ、ゴメン! じゃあ今日はもう帰るね」
「ああ。お見舞いは嬉しいが明日はやめてくれると嬉しい。キミが来ると騒がしい……」
「明日は部活で学校行った後にね、奮発してメロン買ってくるから!」
「そこまで気遣わなくていい、というか明日ァ!? ちょ、頼むから話を聞けェ!」
と斗貴子がくちばしを挟みかける頃にはもう病室のドアがばたりと締まり、せわしない早歩き
の音が遠ざかっていた。
(明日……病院の者に頼んで面会謝絶にしてもらおうか)
半ば本気で考えると、ため息が漏れた。
「ったく」
頭に手を当てて俯きながら斗貴子は感じた。調子が乱れている。まひろに乱されている。
(……調子が狂っているのか……それとも狂ってた調子が元に戻り始めているのか……)
<パパパパ! パラララ〜♪
「猫がくずおれ鎖は砕け、もはや型無き兵馬俑」
パパパパ! パラララ〜♪>
「ああ、廃墟のロバよどこへ行く」
<パパパパ! パラララ〜♪
「……星をしのんで歌います。ぎーんのりゅうの、せにのぉってぇ〜♪」
(武藤さん並にやりたい放題だこの子)
何やら演歌っぽいイントロに乗せて前ふりを始めた小札に、秋水はもう何もいわないコトに
した。(ちなみに「銀の竜の背に乗って」とはまったく無関係のイントロだった)
64 :
永遠の扉:2008/07/01(火) 22:26:28 ID:O/ulT4gc0
表情筋が引きつって、歪な苦笑しか浮かばない。
なぜならば秋水の頬を銀の閃光が掠め去ったからだ。恐ろしい速度だ。掠ったと知覚する瞬
間にはもう秋水の背後彼方で熱した鉄を水に入れるような蒸発の音がし、一拍遅れて雷鳴と
地響きが部屋を揺るがした。
瓦礫がぱらつく音の中、愕然と振り返った秋水は、壁に直径十メートルほどのクレーターが
できあがっているのを見た。
まるでミサイルが着弾したような。という感想を抱きかけた秋水の正面から、再び棒状光線
が殺到してきた。しかも今度は極太であり、秋水をまるまる飲み干せそうな口径だ。
(まるで貴信の超新星……いや、それ以上だ!)
傷つき重い体を引きずるように飛びのかすと、特急列車のような速度のビームが灼熱を地
下空間にバラ撒きながら轟然と行き過ぎた。秋水の全身にぶわりと浮かんだ汗は、けっして
光線の熱量だけのせいではない。
上と下。特急列車が壁を壊す音も止まぬうち、まったく異なる方向から同じようなビームが
射出されたせいだ。
美丈夫が脂気のない汗をまき散らしつつ避けたのもむべなるかな。光線は角度も太さもまち
まちながら、しかし着実に秋水を狙い撃たんと迫りくる。
(エネルギーを絡めた攻撃である以上、ソードサムライXなら吸収できる。だが)
秋水の周りを浮遊する龕灯を見よ! これが存在している以上は、刀で光を中和せんと差し
向けてもたちどころに爆ぜて秋水を苛むのだ!
されど光線はまだまだいずる。発祥や口径は、部屋に乱れ走った銀線の「点」に応じて決め
られているようだった。床が割れているならその面積分、柱が折れているならその面積分、
壁が削れているならその面積分、……というように、破損部を覆う銀の光がみるみると光線の
態を成し、秋水に射出される!
(まるで無銘の忍びの水月……いや、『繋ぐ力』を圧縮して撃ち出しているのか?)
三方に行き過ぎた光線を置きながら、秋水は気配だけを頼りにひらりひらりと避けていく。だ
が彼は感じている。その避けられる範囲が徐々に狭まってきているコトを。
光線は増えている。増えながらも射出の間隔を短くしている。
避けたその位置に次が来て蒸発、といった状況さえ笑い話にはなりえぬ現実味を帯びている。
65 :
永遠の扉:2008/07/01(火) 22:29:39 ID:O/ulT4gc0
「急げ『傷跡』、羅針盤になれ! 射撃モード・ライドオンザバック・シルバードラゴン!!」
小札の声に合わせるように光線は熱と瓦礫の飛沫立てつつ降り注ぐ。すると部屋はますま
す破損が進み、砕けた床や削れた柱に新たな光のぬかるみ、または砲台を作成してますま
す逃げ場をなくしていく。
まるで光の雨だ。上下左右の区別もなく乾いた銃声のような音を何重にも合唱しながら鳴り
響き、部屋の構成を次から次へと焼き砕いていく。
背後からの細い光線が、上着とカッターシャツのわずかな隙間を縫って脇腹の傷を熱く焼き、
それを癒合したその瞬間などは流石の秋水も死を描いた。
(もし口径が大きければ腕がなくなっていた)
しかしむしろそれに戦慄したのは小札である。
秋水は見た。
光線弾幕の向こうで両頬を押さえて真っ白になる彼女を。
「う、うぅ〜。攻撃力はありますがビームが増せば増すほど制御しきれないのが難点と言えば
難点。とにもかくにも不肖は地理的要件さえ整えばこれほどの戦力を誇るのです! ……逆
にいえば地理的要件が整わねばものすごく弱くもあるのですが。きゅう……」
おさげを揺らして息まいたりしょげかえったりする小札を光線の中で見ながら、秋水は一つの
結論に達した。
(じっとしていれば光線はますます激しくなり、俺はいつか負ける。つまり動けなくなる前に、
今すぐに、彼女へ斬りかからなければならない)
光線に当たらぬよう当たらぬようソードサムライXを引きつけ、走り出す。
(だが恐らく、彼女に辿りつくのはそれだけで精一杯。一太刀で制するだけの態勢を作る余裕
はない……。そう、ただ走るだけならばそれが限界。ならば回避は総て体に任せ)
光線を右に避け左に避け、秋水は揺れる視界の中で見た。
──「一太刀か、できれば傷つけずに倒す」
(ここまでの道中、結局思い浮かばなかったそれを成すべく、全神経を集中する!)
行き過ぎる光が緑の尾を引く中、小札に視線を吸いつけた。
(確かに条件は難しいが、それでも俺は無銘への言葉を諦めるワケにはいかない)
66 :
永遠の扉:2008/07/01(火) 22:31:15 ID:O/ulT4gc0
思考に浸りながらも武術で叩き込んだ反射は光をスルリスルリと自動で避けていく。全権を
委任さえしてしまえば、鍛えた体はむしろ思考を不要としているようだった。光線の気配だけを
頼りに体は回避を続けていく。
そして小札の顔に吸いつけた視線が、突如として意識の中で横に逸れた。
思わぬ着想。しかし根源的で或いは浮かばなかったのが不思議なほどの簡単な結論。
(狙うべきはただ一点! マシンガンシャッフル!)
右、左後方、右前方。あるいは屈み、或いは飛び、熱線をいなしていく秋水は体の重さも忘
れ、宝石が先端についただけの簡素なロッドを思い描いた。
(例え奥の手があろうとも、武器さえ破壊すれば無効化できる)
ものすごい速度で右から流れた光線を、秋水は軽く胸を引いて回避。凄まじい熱量がすぐ
目の前にあったが、秋水自身は「小札を一太刀で倒す」という課題に神経を集中しているから
汗の一つも流さない。
(ホムンクルス本来の力で逆襲してくる可能性もあるが、その時はまた方法を考えればいい!)
小札までの距離はついに二十メートルを切っている。
馬が早くから戦争に駆り出されたのに対し、ロバはもともと荷車運びなどの平和な雑役に駆
り出された生き物である。一般に力が強く病気にも強いといわれ、ヨーロッパのある地方では
ロバの毛をパンにはさんで食べると百日咳が治るとさえいわれているが、この草食獣の戦闘
能力自体について問われれば「弱い」と断言せざるを得ない。
(……不肖がホムンクルスの形態になったとしても勝ち目は恐らくないでしょう。しかし)
小札はごくりと生唾を飲んだ。
(もはや秋水どのは剣客にしか分からぬ特異な領域に突入されておられます。ならば不肖が
どんなに正確に狙おうと『秋水どの自身には』ビームが当たらぬのは必定……。よって!)
決着はお互いがお互いに最も接近した時!
(そしてその決め手は!)
奇しくも両者はほぼ同じ結論を出した。
(武器破壊!)
(絶縁破壊!)
前者は秋水。近づきつつある少女を凝視しながら。
後者は小札。近づきつつある剣客に緊張しながら。
67 :
永遠の扉:2008/07/01(火) 22:31:55 ID:O/ulT4gc0
……彼らは刻一刻と決着へ近づきつつあった。
「やれるコト、か」
嵐が通り過ぎた病室で、斗貴子はため息をついた。
(私がやれるコトなど始めから限られている……)
錬金の戦士でありながら、錬金術の知識などは全くない。
例えばパピヨンやヴィクトリアなら、己の欠乏を埋めるために知識を縦横に駆使し、望む物を
得ていけるだろう。が、斗貴子にそれはできない。
知っているのは敵を斃す術が幾つか。それを成すための武装錬金にしても火渡や防人、照
星のように規格外でもない。一般的なホムンクルスさえ、パワーが強ければ劣勢を強いられる。
だから斗貴子の持ちうる物は、大事な物をすぐ取り戻す材料には成りえない。
それが分かっていたから薄暗い感情に囚われてしまったのだ。
まひろがいうようにカズキが必ず帰ってくるという保証はない。
信じたいが、すぐ間近から月に向って飛んでいく姿を見てしまった以上、どうしても完全には
信じられない。
(だが、まだ完全に何もできなくなったワケじゃない。なら──…)
窓の外、遠くにある給水塔を見る斗貴子に、本来の冷静な判断力が戻り始めているのを、
彼女自身はまだ気付いていない。
以下、あとがき。
また長くてすいません…… ちなみに、斗貴子さんについては「この時期は荒れるコトもあった
だろうけど、最後には何かのきっかけを手掛かりに自分の意思で負の方向への動きを止める」
という方針です。ファイナル〜ピリオド間で彼女を完全に救うのは何か違う、けれど沈む一方
の彼女を描くのも忍びない。本作では未熟ゆえにいろいろ悪い役回りを任せてしまいました
が、やっぱりまひろとの会話のような、理知的なだけど押しにはちょっと弱い愛すべきお姉さ
んであって欲しいのです。ピリオドは尺の都合上、そういう点が見れなかったのがやや残念……
>>20さん
勢いあってこそのまひろのため、本人の意思とは裏腹にずっと空気は読めないでしょうねw
完全シリアスなら人の気持ちを斟酌できると思うのですが、日常パートじゃ難しい。
>>21さん
最大トーナメントの実況の人は隠れた名脇役と思います。もしかすると全試合皆勤賞? バキ
はあの濃さがいいですねw 花山vsスペックとか血が猛りますし、モニュモニュ肉喰ってるのも
いい。あと確か、VSさんのヤクバレを探してるうちにこちらに辿りついたような気が……
>>22さん
安西先生……そろそろ岡倉とか戦部が出したいです。そしてゆくゆくは火渡を活躍させたい
です。アニメ版の彼はカッコ良いですよね。根来置いて帰りますけど。
>>23さん
小札はもはややりたい放題。強いのか弱いのかも分からないですw
それでいて戦闘描写を前二名より少なくしても、そこそこ主義主張を描けるので不思議なキャ
ラだなーと。頭いいのか悪いのかも描いてて分からないのに、不思議。
ふら〜りさん
無銘が犬形態で肩叩いているのを想像すると和みますw 秋水にとっての真由美さんって複
雑でしょうね。もしかしたら「桜花」「秋水」は真由美さん命名かも? 父親は「いない知らない
分からない」なのに真由美さんについては「母さん」と呼んでいるのが本当に複雑。
69 :
作者の都合により名無しです:2008/07/02(水) 13:06:08 ID:TZBAvZGO0
お疲れ様です。結構お久しぶりですね。
どんなにまじめな場面でもかわいくなってしまう小札ですが
さすがに今回は緊張感を漂わせてますね。
主役の秋水が凛々しいのはいつものことですが。
小札は意外と重要キャラに育ったなあ
当初はそんなに話にかかわってくると思わなかったが
71 :
ふら〜り:2008/07/02(水) 18:44:19 ID:XmjSOVAU0
>>サマサさん(メイドと聞けば「わくわく7」と「殻の中の小鳥」が浮かぶ私は年寄り)
強いわ優しいわ可愛いわ冷静にツッコミもできるわで、なかなか良い漢ですな金剛番長。
しかし一大メイド軍団計画はぜひとも賛同したい。でスカートは長くあってほしいが、そうなる
と絶対領域の問題がとか悩んだり。この調子でいろんな作品からの番長でシリーズ化希望!
>>サナダムシさん
>平時には普通のヤカンとして使えるというのもポイントです。
この時点で気付かなかったのか柳っ。まともに会社勤めして出世して稼いで、しけい荘の
五人の中では比較的まとも(思考の方向だけならシコルが一番常識的かと)な彼、しかし
「比較的」程度ではこうなると。でも、そうでなきゃしけい荘で生きていけないんでしょうが。
>>スターダストさん
>お兄ちゃんにとって大事な誰かを傷つけたりしてないなら、許してくれてる
自分自身が傷つけられたことは許す許さないの考慮対象にならず、か。そして、そんな彼に
恥じぬような生き方をせねばならんという同じ想いを抱いた、対照的な印象の女の子が二人。
で本作の主人公たる秋水の行動原理の主軸でもある。不在でも大きな存在ですね、彼は。
>>ゴートさん
ご挨拶が遅れましたが、お帰りなさいませ!
意外とスターダストさんは途中でヒロインを
まひろ→小札にしたのかも
73 :
永遠の扉:2008/07/04(金) 00:43:09 ID:nQz+Z5Ro0
第062話 「動けなくなる前に動き出そう 其の肆」
(不肖がこれより始めまする攻撃はっ!)
光線を避けていた秋水は、異変に気づいた。
(倒せればよし、倒せずとも距離を縮められる撒き餌のような攻撃!)
部屋を床や壁に展開していた銀の線は、いつしか白く半透明な『面』を形成している。
(かつて金城を退け、廃墟でも使ったホワイトリフレクション──…)
転瞬、極太の光線がバリアーと化した壁へ激突。反射。
それに引きつけた刀が当たらぬよう左半身の輪郭をちりちりと焦がしつつ避けた秋水だが、
しかし彼は同時に腰部右側面に灼熱を感じ、俄かに硬直した。
うなだれるように視線を下げた彼は見た。
右手から右大腿部に引きつけた刀身に、光線が命中しているのを。
(極太の方は囮なのであります! 本命はこちら!)
壁や床や天を繋ぐ斜線の連続──ブロック崩しの玉のように何度も何度も反射を繰り返し
ついに秋水へたどり着いた光線の軌跡、或いは残影──が網膜から消失するのを合図に小
札は密かに駆けた。
(オノケンタウロス状態では蹄の音で気取られる恐れがありますゆえ、あえて人間形態で!)
次から次へと熱を帯びた光が刀に注ぎこまれていく、と秋水が知覚したのは一瞬だ。
敵対特性を帯びた刀身でエネルギーが爆発し、その爆心地に向って光線の反射が次から
次へと殺到する。
(これが切り札? いや──…)
秋水の脳裏に戦闘不能の桜花の姿がよぎった。
その姿は光線を浴びたにしては衣服が綺麗すぎた。
まるで「内部から」灼かれたようだった。
ならば。
(小札の切り札は、この次!)
まずはこの状況を脱するの先決。そして貴信戦では同じような状況から脱出できた。
敵対特性があるとしても、エネルギーの吸収自体はできるのだ。ならば総ての光線の直撃
を浴びるよりは一旦吸収し、刀身の爆発に留めた方が若干ながらダメージは低い。
しかし無銘戦を見ていたという小札だ。思い返せば貴信戦にも口を挟んでいた。
(ならば超新星からの脱出は見ていたに違いない。同じ手を使えば)
(そう。同じ対処を取られれば、敵対特性によって生じた隙へ絶縁破壊を見舞えます!)
74 :
永遠の扉:2008/07/04(金) 00:43:29 ID:nQz+Z5Ro0
小札が向かっているのを知ってか知らずか、秋水は腰に手をまわした。
シークレットトレイル。
根来に渡されこれまで何度となく使用してきた忍者刀の武装錬金。
(コレを使って切り抜ける)
……数条の光線が秋水のいた場所に殺到し、光の飛沫をブチ撒けた。
一方、光の集合地へ突き出すマシンガンシャッフルの宝玉には青い光がうっすら宿っていた。
(飛びださずともこのまま接近すれば有効射程距離!)
光に包まれ見えないが、小札は記憶の秋水との距離をニメートルまで詰めている。
(しかしこの程度の二者択一を強いて勝てる方なれば、香美どの貴信どの無銘くんは倒され
ない筈! 不肖にはそれを考えるべき責務があるのです!)
絶縁破壊の光を放つと見えた小札は、そこでぴたりと歩みを止めた。
「不肖が見るべきは残された物!」
薄れゆく光線に彩られながら、小札は床のある一点、彼女から見て右斜め前方を見た。
距離は五メートルほどだろうか。
「突っ込むのでもなく飛ぶのでもなく、ましてその場で嵐が過ぎ去るのを待つのでもなく。柔軟
な思考によって切り札を回避せんとするその姿勢……まさにご立派の一言に尽きましょう!」
秋水は。
この六対一の戦闘が始まる前、シークレットトレイルによって亜空間を切り開き、ヴィクトリア
を追跡した。通常なら根来のDNAを含む物以外を弾く亜空間。しかし秋水の学生服はすでに
根来がその髪を縫い込んでいる。かつて「血でベットリ」のモーターギアの侵入を許した亜空
間だ。恐らく学生服にも「血でベットリのモーターギア」並の髪の毛が縫い込まれているに違
いない。核鉄や割符もそんな服にしっかとくるんでいれば持ち込めるだろう。
よって。
彼は光線の直撃の瞬間、地中に埋没し難を逃れていた。
「通常なら恐らく所在は分からなかったでしょう。そう、通常ならば。されど」
秋水の周囲に纏わりつく龕灯は例外! 無銘の龕灯は例外!!
「どちらにいらっしゃるかは一目瞭然。無銘くんのおかげで不肖は攻撃に備えられるのです」
一度弾かれたそれは、秋水のいる場所へふよふよ舞い戻り、亜空間に入れないままうろつ
いていた。
75 :
永遠の扉:2008/07/04(金) 00:45:03 ID:nQz+Z5Ro0
少なくても、小札が「よって不肖が見るべきは残された物!」と叫んだ瞬間は、である。
龕灯は稲光とともに飛び出した秋水に押しのけられた。彼はいつの間にか学生服を脱ぎ捨
て二つに斬っていたらしい。そして片方を顔に巻きつけ片方でソードサムライXを巻いているの
は亜空間用の工夫だろう。
(切り札が)
それらをむしり取りながら秋水は一足飛びに五メートルを詰めた!!
(小札が切り札を外した瞬間に仕掛けたかったが、そうもいっていられないようだ)
すでに構えている小札はロッドを前に突き出し、手ぐすね引いて待っている。
(できれば敵対特性発動中の隙へ仕掛けたくありましたが、仕方ありませぬ)
絶縁破壊。
(間合いが遠すぎれば敵対特性と引き換えに無効化されます。連発できさえすればいいので
すが強力な技ゆえそれも叶わず。そして中途半端に近すぎれば決まるより早く斬られます。……
逆にいえば)
一瞬小札はぞわぞわと肌を泡立てた。
(たとえば密着状態なら分かりませぬが、結局、この勝負を決するのは)
互いに不完全な攻撃態勢にいる両者の勝敗を決するのは。
(間合いと、技の速度!)
秋水の目標はマシンガンシャッフル。
武器破壊による決着こそが目算と、逆胴を撃ち放った正にその時。
(逆胴の軌道が……?)
小札は土壇場でようやく気付いた。
彼女の身長は低い。だが逆胴は「逆胴」というにはあまりに高い打点を狙っている。
小札の肩のあたりから顎のあたりまで。
それもそのはず、刀はロッドの先端という比較的高い打点を狙っているからだ。
さらにロッドは突き出されているから、小札を狙うにはあまりに遠い。
(ね、狙いは……武器破壊!?)
「高い」「遠い」その二点から上記の事情を逆算的に知った小札は。
きゅっと唇を結び、年相応の気高い光を双眸に宿らせた。
「…………」
秋水は見た。ぴょん、と一歩。小札が自分に向って飛びあがるのを。
(馬鹿な!)
ソードサムライXが小札の柔らかな腹部の中ほどを行き過ぎた!
76 :
永遠の扉:2008/07/04(金) 00:46:02 ID:nQz+Z5Ro0
同時に秋水の肩に密着したマシンガンシャッフルから絶縁破壊の青い光が流れ込んだ!
意外な行動とホムンクルスとはとても思えぬ柔らかな肉の手応えに秋水が目を見開く間に
も小札は気息奄々と言葉を紡ぐ。
「絶縁破壊モード、ザ・リアルホークブルー……ス」
左手で秋水のカッターシャツにしがみつくのは正に執念。
肩の青い光は随所の傷に到達し、そこから絶縁体たるミエリン鞘を破壊していく。
一方小札の腹部からは下半身が離れ、細い足が数歩たたらを踏んだと思うと凄まじい音を
立てて倒れた。
少女然としながら流石ホムンクルスといった膂力である。小札の上半身は衝突の衝撃で秋
水を後ろ向きに倒していく。
「マシンガンシャッフルさえあれば……切断されたとて大丈夫であります」
呟く顔は秋水のすぐ目の前にある。
「いえ」
小札は一瞬、秋水よりもはるか遠く──…彼の入ってきた扉を見た。
「さて、別に小札が一番手でもいいが、お前たちはどうする?」
「だあもう! あやちゃんはちっちゃくてか弱いんだからそんなんしちゃダメでしょーが!」
『その通り! 筋からいけば最も弱い僕たちが出向くべきだろう!!』
「……小物などブツけるだけ無駄な事。我が初手を務め必ず母上を守ってみせる」
「香美どのも貴信どのも、そして無銘くんも、快く不肖の回復の時間稼ぎを引き受けてくれたコ
トでしょう。そして、傷つき倒れた。なのに……不肖だけが無傷で決着をつけられませぬ」
うっすら浮かべる涙から、痛みに耐えているのが伺えた。
「だからいましばらく……勝利の可能性を……」」
だが彼女の青白い瞼は、言葉をいい終わる寸前に力なく閉じた。
激痛に意識が耐えれなかったらしい。
力を失った指は一本、また一本と開いていき──…
秋水の背中が床に叩きつけられるのを合図のように小札は喪神した。
それまでの約一秒間の絶縁破壊と引き換えに。
秋水の左半身にめぐる神経の髄鞘(ずいしょう)を破壊するのと引き換えに。
77 :
永遠の扉:2008/07/04(金) 00:46:35 ID:nQz+Z5Ro0
マシンガンシャッフルが核鉄に戻り、秋水の横へと転がり落ちた。
秋水は悄然と小札を見た。
「……君は結局、俺と同じ事を考えていた。対象は俺より遙かに広いが」
秋水の説得を邪魔させまいと戦い、倒れた桜花。それに報うため戦いはしたが。
(この結末は…………どうなんだ)
戦って敵を倒す。桜花に報いる。カズキと出会うまでの秋水はそれがイコールだった。
何故ならば存在していた環境は、桜花を狙う者たちで溢れていた。守るにはそれらを倒すだ
で済んだ。強くなればなるほど「桜花と二人きりで永遠に生きる」という目標にも近づけていた。
だが今は違う。果たして桜花にこの戦果を報告しても「報いた」というコトになるだろうか?
むしろ日常の中でごくごく人間的な道義的な助力をしてこそ、桜花に報うコトができるのでは
ないか? 秋水にその答えはまだまだ出せそうにない。
(結局……今の俺にできるのは、姉さんの核鉄を取り戻し、先に進むコトだけか)
もぎ取った勝利は口の中で苦みを帯び、体内に広がっていく感じがした。
「あたた……。やはりホムンクルスといえど痛いモノは痛いモノ……」
そして五分もしないうちに小札は目覚めた。
上半身はまだくっついていない。下半身がおかしなポーズで転がっている。
「今の勝負、実質は相討ちだ」
「いえ。不肖の負けです」
床に上半身の断面をこすりつけ、「いつもより更に小さい」小札が秋水を仰いだ。
「不肖は痛みに負け、絶縁破壊を完全に決められなかった。よって負けなのです」
そうだろうか、と秋水は麻痺した左半身を感じつつ嘆息した。
(例え勝ちだとしても、これだけのダメージを受けた以上)
次の相手に太刀打ちできるか、いや、次の部屋にさえ辿りつけるかどうか怪しい。
「ままま。無銘くんへの誓い自体は遵守されたのでそれでよいではないでしょーかっ!?」
「事実からいえばそうなるが、どうして君は負けたのにそんなに元気なんだ?」
「おお、そうだ、そうでした! 割符と桜花どのの核鉄をお返ししなければ!」
ずるずると内臓らしき物体を引きずりながら、小札は自分の下半身に向って這い出した。
78 :
永遠の扉:2008/07/04(金) 00:49:06 ID:uzLSmnBc0
「あるのはポケット! ぬおお、もう少しだというのに力尽き、そのうえ腕も届かない!」
もみじのように小さい手を床でぱたぱたしながらもがく小札。
「その、何をやっているんだ君は」
「さすがは不肖! 背丈が短いゆえに手も短い! 届かない! 届かないィ〜!」
別に実況しなくてもいいコトをする小札。流石に秋水は見かねた。
「手伝う。そのままじゃ何かと不便というか、見てて怖い」
「ふひゃあ!?」
襟首を掴んで持ち上げられた小札は、上着の裾(正確には切断された部分)を押さえて頬を
赤らめた。内臓みたいな物体は丸見えというかブラさがっているので徒労といえば徒労だが。
「ふ、不肖とて女のコ……。人様に見せられぬ内臓とてあるワケでして……あ。もうちょい右
です。そのままそのままゆっくりと降ろして、あ、ありがとうございます)
もじもじと呟きながら小札は上半身と下半身を接合してポケットをまさぐり、桜花の核鉄と割
符を投げた。
「それから不肖のエバーグリーンで絶縁破壊の回復がご入り用でしたらお申し付けください。
とりもなおさず次の敵は鐶どの! 完全回復は無理ですが、ないよりはマシというもの!」
負けてもちっとも勢いの衰えない小札に、ひどく気圧される秋水である。
いったいこの少女は何なのだろうか。秋水と同じ年齢なのに根本的な部分がはるかにブッ
飛んでいて非常識で、手のつけようもない。
「いや、俺は地上で君に斬りかかり、今も胴体を両断した。これ以上世話になるのも……」
「秋水どのは、かつて病院地下でヘルメスドライブに付与された敵対特性がいかに破られた
かご存じでしょーか?」
小札は座ったままずずっと身を乗り出して、下から秋水を見上げた。
「確か、『戦士・根来の毛髪を編み込んだマフラーでヘルメスドライブを包み込み、亜空間に投
げいれた後にマフラーだけを引き抜く』だったと思う」
それによって敵対特性の要因(ウロコのような物体)が焼き切られ、敵対特性は破れた。
「つまり、破り方は周知の事実」
「そうだが」
「にもかかわず、ここまでの道中、決して無銘くんの付与した敵対特性に対してそうしなかった!
シークレットトレイルをお持ちだというのに、亜空間に潜り込みさえしたというのに」
79 :
永遠の扉:2008/07/04(金) 00:50:03 ID:uzLSmnBc0
秋水は返答に詰まった。確かに知識はあったが、無銘への共感や節義めいたモノのせいで
敵対特性を解除できなかった。といっても今のそれは、自動人形経由の鱗のような物体では
なく龕灯の「性質付与」のせいだから、千歳の敵対特性破りは通じないかも知れないが。
「とにかく無銘くんの意思を汲んでもらったお礼です。ささ、ずずいっとご遠慮なく回復をば!」
「い、いや」
美しい顔を引きつらせながら(左半分は医学的な麻痺だ)断る秋水だが……
「回 復 を ば ! !」
何だかお土産を押し付ける友達(秋水にはいないが)のお母さんみたいな表情に辟易し。
「……ロバは時に頑固というが、君もそうなのか」
結局は押し切られた。
鈍い痺れを残しながらも少し動きやすくなった左手に、返却された小札の核鉄……シリア
ルナンバーIX(九)を握りしめながら、秋水は深々と頭を下げた。
「いろいろとすまない。ところで君の傷は武装錬金で直さなくていいのか? 核鉄が入用なら
置いていくが」
「……たぶん、しても後々無駄になると思いますのでこのままで」
「?」
少しそわそわと部屋の随所を見まわす小札に怪訝な表情をする秋水である。
「まままこちらのコトです! ほかに何かご質問は! 鐶どののコト以外ならば何でもお答え
いたしますが」
「なら、一つだけ聞きたい。姉さんの手紙によると、君の技は『七つ』あるというが」
「そうなのです! 不肖の技は確かに七色! それはもう回復から防御まで色々と!!」
「しかし君が以前廃墟で見せた技と俺や姉さんとの戦いで使った技を合わせても
──「反射モード・ホワイトリフレクション!」
──「探索モード・ブラックマスクドライダー!!」
──「回復モード・エバーグリーン!!」
──「追撃モード・レッドバウ!!」
──「絶縁破壊モード・ザ・リアルフォークブルース」
──「射撃モード・ライドオンザバック・シルバードラゴン!!」
80 :
永遠の扉:2008/07/04(金) 00:51:10 ID:uzLSmnBc0
「白、黒、緑、赤、青、銀。その六色のみ。仲間想いの君が出し惜しみをするのはおかしい」
「う」
困りました、という顔に気づいたのか、秋水は居ずまいを正した。
「良ければ、でいい。いったいどういう理由で七つ目の技を使わなかったのかは」
「それは……まあ、古いお話に原因があるといいますか」
遠い目になった同年齢の少女に、秋水は貴信のいわくありげな態度を思い出したが、それ
は確かに合っていた。当然ながら記憶の内容までは分からなかったが。
「あぐっ!」
「たかが試験体ごときがマレフィックの傷を癒そうなどとは思いあがりも甚だしいぞ!」
「……やめて、やめて下さい」
「くく! やめてと来たか! 穏便に済まそうとしたボクの肩を金色の光で吹き飛ばしたロバが!」
「……ッ!」
「反論反駁の類は慎みたまえよ! 罰としてボクの武装錬金で貴様の大事なモノを殺してやる!」
小札はため息交じりに頬をかいた。
「人生というのは色々あるものでして、残る一つの技は故あって封じているのです」
「……」
「恐らく使うとすれば、それは絶対に倒すべき恐ろしい敵に対してでありましょう。されど」
よいしょ、とシルクハットのツバを治すと小札は微笑した。
「秋水どのは無銘くんの気持ちを汲んでくれましたゆえ、使うべきではないと思った次第」
まあ、それだけです。といった瞬間、小さな頭がぐるぐる回り始めた。
「大丈夫か?」
「う。いろいろ使ったせいで精神力が摩耗し、気絶しそうであります。そ、その前に一言ぉ〜」
目すらナルトのようにグルグルしながら、なお活きのいい声が飛び出した。
「次のお相手は我らが副長・鐶光どの! 不肖など足元にも及びませぬゆえご注意を!」
「分かった。回復と返答……感謝する。」
「では〜」
実況を生業とする小さな小さな体の騒がしいロバ少女──…
彼女は律儀に手を振ったのを最後に床へ倒れた。
「君はもしかすると、無銘以外の仲間にとっても母親かも知れない。戦うには優しすぎるから」
母親、そのフレーズに忘れえぬ一人の女性をフラッシュバックさせたのか。
81 :
永遠の扉:2008/07/04(金) 00:52:12 ID:uzLSmnBc0
秋水は今一度小札へ頭を下げると、次の部屋に向ってぎこちなく歩きだした。
即ち。
小札 零。
敗北。
(残りは二名。……分は悪いが戦い抜くしかない)
疲労困憊の極致に陥った秋水が廊下を壁伝いに歩きだしたその五分後──…
小札は胡坐をかいていた。接合部分の痛みや微妙なズレを気にしながら。
「ふう。流石にホムンクルスといえどマシンガンシャッフルなしでの修復は難しく……さてさて
次は鐶副長。さしもの秋水どのも特異体質には? いやいやしかし或いは下馬評を覆すコト
もあるやも知れませぬ! 例えばダブル武装錬金! 例えば新能力への開眼!!
「負け……ましたね…………?」
「そう、例えば負けましたね! ……ふはっ!」
横に突然現れた影に小札は座ったまま仰け反った。
「のわわわっ!! 鐶副長! い、いつの間にそちらへ!?」
「いましがた……」
「な、なるほど。約定ゆえのご登場というワケですねっ!」
「……無銘くんの敗北、気持ち、無駄に……しましたね…………?」
か細い声が俄かに微妙な怒りを帯びたので、小札はしゅんとうなだれ、
「申し訳ございませぬ」
そのまま鐶の腰のあたりへと話しかけた。
「無銘くんにも申し訳ありませぬ。せっかくの健闘とご配慮を活かせず……よってその、そろそ
ろ休まれてはいかがでしょう」
はてな。無銘をよばわりつつも向いているのは鐶である。
「ほら、鐶副長はエネルギーを絡めた戦いはしませぬし。敵対特性は効果が薄いかと!」
だが小札はそれを当然として話している向きがある。
……なお、これとほぼ時を同じくして、秋水の周りを漂っていた龕灯が核鉄に戻って転がり
落ちたというから、ますます小札の呼びかけは分からない。
82 :
永遠の扉:2008/07/04(金) 00:52:46 ID:uzLSmnBc0
「さて」
お尻を浮かした小札はぴょこぴょこと正座をして膝に手を当てた。
「かく敗戦に至りました以上は取り決め通りお願いする所存!」
「……」
鐶は一瞬怨みがましい視線を小札に送った。
「……私は、特異体質と武装錬金を駆使しても…………”零”には……なれないんでしょうか」
「はい?」
「なんでもありません」
言葉が終わるか終らぬかのうちに、鐶の握ったキドニーダガーが小札の喉首を横一文字に
通り過ぎ、やがて彼女は粘液に塗れる衣服の上でホムンクルス幼体へと姿を変えた。
「リーダーからの伝達事項その四。敗北者には刃を。私の回答は……了解」
鐶は秋水の立ち去った方向を見ると、ぼそりと呟いた。
「次はいよいよ…………私。頑張らないと」
やがて小札の居た部屋は誰もいなくなり、ボロボロの廃墟がさらさらと砂に変わり始めた。
以下、あとがき。
というコトで小札も退場。やっと六対一も2/3が経過というところで一安心。
けれどたぶん、また次のパートが長くなりそうで、なんとも。色々工夫はしてみるつもりなのですが。
>>69さん
ははは。気づいたら結構開いてしまいましたねw ……その、すみません。
小札、なんだかんだで考えて戦ってる感じでした。説明っぽいセリフを連呼してもあまり違和感
がないので、その点はすごく助かりました。あと、宇水状態でも陰惨にならないのも。
>>70さん
ですねーw 登場当初は「総角の仲間その1」だったのにw 能力といい性格といい特技といい、
なんだか描きやすいのが一因でしょうか。本当、次から次へと色々おいしい要素をかっさらう……
ふら〜りさん
原作を読むと、間接的に自分の命を奪ったパピヨンでさえ恨んでませんからね。
カズキのそういう懐の深さというのは、本当に本当に好感が持てて大好きです。
だからこのSSでも「不在でなお主人公!」という特殊な出番をいつか与えたいですw
>>72さん
いやいや、あくまでメインはまひろですよw
……ブレミュ側のヒロインが小札なのは否めないですが。
84 :
流花:2008/07/04(金) 06:42:44 ID:7dSCinV/0
皆様、お久し振りです。1年ばかり前に「アスクレピオス」の
二次SSでお邪魔した、流花(るか)です。
しばらく某SNSで活動していたのですが、向こうでは非匿名という
性質からマンセーレスしか付かないことが多く、より忌憚ない感想が
いただける(または、つまらなかったらスルーされる)2ちゃんの風が
懐かしくなって戻って来ました。
「家庭教師ヒットマンREBORN!」に登場する、ブラックスペル所属の
技術整備士(ちょっと不思議な肩書きですが、作中にこう書かれています)・
スパナのSSです。
調べ物をしている時にアルキメデスの最期の様子を紹介したサイトを
見つけて、「スパナの最期もこんなだったら…」と想像が広がったので
書いてみました。以前SNSで発表したものを、少し手直し。
アルキメデスについてはこちら
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/アルキメデス
ミルフィオーレファミリーのアジトの一角に、スパナの作業部屋はあった。
現場での整備などが長引いた場合は、自室には戻らずここで寝泊まりすることがよくある。
スパナは週の半分以上を、このがらんとした広い部屋――大きな部品を運び入れた時には、
この高い天井と深い奥行き、そしてたっぷりとした幅を備えた大きな空間がそのまま
作業スペースとなるのだ――で過ごすことも多かった。
殺風景という形容がふさわしい部屋だ。四方の壁はおろか、床や天井に至るまで剥き出しの
鉄板で覆われていて、壁や床の隅には何本ものケーブルや配管が走り、そこここに
機械の部品が転がっている。家具とよべるものは冷蔵庫と申し訳程度の寝具くらいで、
あとは雑然と工具が並んだ作業台、そして床に置いたいくつかのドラム缶ばかりが目についた。
上部にペンキで「チャブダイ」の文字がペイントしてある、日本茶の缶とポットやマグカップを
乗せたドラム缶の近くで、緑茶のカップを手にしたスパナが俯いて床に座り込んでいた。
真剣な表情で床の一点を見つめたまま、身じろぎもしない。ひょろりとした長身を
カーキ色のツナギに包んだ、ロボットと技術を愛するこの青年に、今素晴らしいひらめきが訪れていた。
頭の中に次々に描き出される図面を見て、スパナの瞳が燃えるように輝く。
今までの機体とは比べものにならない燃焼効率を生み出す、動力部のシステム。
高速での移動を可能にする、駆動部の構造。
「――これは……イケる……!」
スパナは半ば飛び上がるようにして立つと壁際の机に向かい、大きな白い紙を広げて
筆記用具を手に取り、猛然と新しい機体の外観や内部設計のラフ・スケッチを描き始めた。
要所要所に短い言葉で注釈を付けながら、背中に収納するサブ・ウェポンの構造図を
描き出した時、突然部屋の扉が乱暴に開けられて、銃で武装した数人の男がなだれ込んできた。
机を取り囲んだ男のうちの一人がスパナに銃を突き付けて、有無を言わせない強い口調で告げた。
「ブラックスペルの技術者だな!我々と来てもらう」
スパナは束の間男たちに目をやったが、すぐに設計図に向き直った。
「今、いいアイディアが浮かんでるんだ。邪魔しないでほしい」
別の男が無遠慮に設計図に手を伸ばした。
「こんなものがなんだ。つべこべ言わずに来い!」
男の腕が机に置いていたカップに当たって倒れ、緑茶が書きかけの設計図の上に広がった。
「何するんだ!ウチの図形を乱すな!」
「うるさい!」
男の手にした拳銃が火を噴いた。乾いた音が鉄の室内に響いて、ツナギの左胸を赤く染めた
スパナは、まだ顔に怒りの表情を留めたままゆっくりと前のめりに倒れて、床に崩れ落ちた。
とあるファミリーのアジト。
背の高い革張りの椅子に、葉巻を手にした一人の男がかけていた。男が葉巻を持った手を
口にやると、先に点った火が赤く燃え上がった。
何事かを思いながら男が深く吸い込んだ煙を吐き出した時、扉をノックする音が聞こえて、
部下が一人、足早に部屋に入って来た。
「失礼します」
椅子の正面で姿勢を正して立った部下に、男が声を掛けた。
「やったか」
部下が答えた。
「はい。ミルフィオーレファミリーのアジトの急襲に成功。ブラックスペルのメンバーを制圧したとの
連絡が入りました」
「ブラックスペルの技術整備士……スパナはどうした?」
「はっ。スパナ氏は……突入部隊員に抵抗したため、射殺された模様です」
その言葉を聞いた男の目に暗い光が灯った。
「いかがなされました?」
上司の様子に気付いた部下が尋ねる。
「うむ。――その隊員を銃殺しろ。即刻だ」
「了解いたしました」
短く答えて、部下が出ていく。
再び一人になると、男は葉巻を深く吸い、煙を吐き出しながら呟いた。
「スパナ……惜しい人材を亡くした……」
スパナの故郷、シチリアの海を見下ろす丘の上に、スパナの墓が建てられている。
墓石にはイタリア語の本名に並べて、ややいびつな漢字とカタカナで「酢花゜ スパナ」と彫られていた。
墓石の下半分には、生前彼が「自分が造った最高の機体」と豪語していたキング・モスカの目玉である、
炎吸収パワーアップシステムの簡略化した設計図が刻み込まれている。
技術の追究に生涯を捧げた青年の魂は、失われた大発明と共に、海風が吹く故郷の丘で静かに眠り続ける。
87 :
流花:2008/07/04(金) 06:52:05 ID:7dSCinV/0
というわけで、アルキメデス・トリビュートのスパナです。
アルキメデスについては幾つかのサイトで調べたのですが、ウィキペディアの
記事を読んだ時に最も強く感じたのは、「無理解な凡人(家に踏み込んだ
ローマ兵)に踏み砕かれる天才(アルキメデス)の無念さ」と、「優れた才能を
もつ人物をあっけなく奪い去ってしまう戦争の無慈悲さ」でした。
この2つにすごくドラマティックなものを感じて…そして、自分でも
このテーマで何か書いてみたくなった。その時に、このテーマに関われて
なおかつ自分が動かせそうなキャラとして浮かんだのが、変人でメカおたくの
(そして、天才だと個人的には思っています)スパナでした。
スパナの設計図を汚して奪い取り、射殺してしまう隊員の描写を読んで
憤りを感じてもらえたり、失われた大発明について気になってもらえたりしたら何よりです。
88 :
流花:2008/07/04(金) 06:53:49 ID:7dSCinV/0
ざざっとスレをさかのぼって他の職人の皆さんに感想をば。
(何か専ブラの調子がおかしくて、つい先程まで48スレ目356のレスが
最新であるかのように表示されていたため、当時のスレを読んでのものに
なっています。短くてすみません)
>鬼平さん
パロディの連打にいささか圧倒されました。これは凄い…。
>ハロイさん
かなり書き慣れていらっしゃいますね。とても読みやすく、続きが気になります。(パロはジョジョでしょうか?)
>邪神さん
剣と魔法!ファンタジー大好きなのでワクワクしながら読んでしまいました。テイルズなのですか?
余談ですが、紫の野菜はグレープが多めだった印象があります。
>銀杏丸さん
ローゼン×星矢ですね。なんというカオスっぷり!
>サマサさん
い、いかん…。元ネタがわからなくて、ついていけないぜ…。
>さいさん
実に熱いですね。想定読者は十代とみましたが、読み違えていないやらどうやら?
>スターダストさん
こちらも熱いですね。錬金萌えスレの頃から何度か拝見しておりましたが、
筆熱、なお冷めやらず、といった感があります。
と、もうお一方。こちらも、いま目を通して…。
>サナダムシさん
「真剣にバカをやってる感」がひしひしと伝わってきて面白く読めました。
89 :
流花:2008/07/04(金) 07:00:56 ID:7dSCinV/0
スターダストさんは相変わらず好調だけど
新しい人(といっても以前書いてらしたみたいですが)が
来てくれたのは嬉しいなあ。流花さん頑張って下さい。
91 :
作者の都合により名無しです:2008/07/04(金) 13:39:27 ID:hRzWv8S70
アルキメデスって劇的な死に方したんだな。
歴史の1ページとSSのコラボって意外と新しい感じだ
リボーン知らんけど、これはこれで興味深い
あぁあああPCから本文コピペしてる時に一行抜けた!orz
皆様、すみませんが、
>>85と
>>86の間に以下の2文を追加して読んでください。
>普段、滅多なことでは激昂しないスパナの頬が見る間に紅潮した。
>スパナは立ち上がり、設計図を奪った男の腕につかみ掛かった。
>>90 ありがとうございますノシ
>>91 このSSは史実に引きずられるように書いたので、そう言っていただけるのは
本望に近いです
93 :
流花:2008/07/04(金) 21:38:52 ID:MRctj4YkO
すみません、上のレスは自分です。何かもう色々とgdgdですみませんorz
94 :
作者の都合により名無しです:2008/07/04(金) 23:11:33 ID:zycDU6Ig0
流花さん、こういう短編は好きですぜ。
短いけどシャープに収まっている。
ただ、動きが少ないのでちょっと読み辛いのもあるかな。
スターダストさんいつもお疲れさんです。
小札は負けても可愛いから悲壮感がなくていいですな
まだ戦いは渦中なんでいろいろ大変ですなー。
流花さん連載してくれないかなー
スレが活気付くんだけどなー
ハットなら演算子。
俺はハミルトニアンはmathcalで、ハミルトニアン密度が花文字と使い分ける。
だがmathcalはあんまり好きじゃない。
すまん、誤爆した
98 :
永遠の扉:2008/07/05(土) 22:47:10 ID:YxP2OfXw0
第063話 「滅びを招くその刃 其の壱」
河合沙織という名の少女は悩んでいた。
「……えーと。オバケ工場を歩いてた筈なのになんでこんな所に?」」
幼い顔が皺くちゃになるんじゃないかと思えるほど微苦笑しtつつグルリと周囲を見回した。
暗く湿った空気は人気とは無縁だ。ひたすらに澱んでいる。何故か照明はついているが、そ
こに群がる名称不明の小さな虫たちや蛾の姿はそぞろに戦慄を禁じ得ない。
「う」、と思わず鼻をつまんだ沙織の足元には、干からびた大きな溝が続いている。
照明のない暗い彼方まで伸びているそれは下水道だろう。ならばココは。
「地下なのかな。でもなんで私こんなトコにいるの? 服も何かヘンだし」
とりあえず、沙織は微苦笑を止めた。
「あまり皺寄せてると一気におばあちゃんになりそうだし、やめとこ」
防人はそろそろ受話器を叩きつけたい気分になり始めていた。
「やあ何度もすまないね。実はさっきの電話で言いそびれていたコトがあってね」
相手──ムーンフェイスは慇懃無礼で嫌味たらしい口調である。
千歳はお化け工場の地下にいた。敷地内にあるマンホールをバールのようなものでこじ開け、
潜入していた。探索時間はそろそろ一時間半を越えようとしていた。
「四十分経過。そろそろ行くか」
六つの核鉄を体から剥がした秋水は、それらを今や二つの破片に分かれた学生服の上着の
ポケットへとしまい始めた。
次の敵・鐶光に備えて回復していたのはいうまでもない。
(戦いにおいて相手の手の内が見えないのは至極当然。むしろ今までが恵まれすぎていた)
火傷、凍傷、創傷。もろもろの傷がほとんどふさがったのを確認すると、秋水は立ち上がり
……軽くよろけた。出血による虚脱感や激しい疲労感までは回復できなかったせいだろう。
核鉄には治癒力を高める効果がある。とはいえ生命力を強制変換しているに過ぎず、多用
すれば却って命の危機を招く。いましばし核鉄を当てれば疲労や虚脱も回復するかも知れな
いが、生命力を過度に削っては却って意味はない。
(しかし、無銘の身に何が? 龕灯が武装解除し、津村の核鉄に戻ったが……)
99 :
永遠の扉:2008/07/05(土) 22:47:45 ID:YxP2OfXw0
答えがでないまま秋水は学生服だった布切れを左の小脇に、シークレットトレイルは腰に、
愛刀は右に引きつけ歩いて行き──…
十五分は経っただろうか
次の部屋の扉が見えた。扉? いや、正確にはドアだ。
マンションやアパートにありそうな、ベージュ色で金属質なドア。
そしてそれは……秋水の視界の遥か先で、内側から開いた。
「あー! 良かった! 人がいた」
聞きおぼえのある声。千歳がたおやかな仕草でそちらを見ると。
黄色い髪を両側で縛った丸っこい瞳の少女が、心底安心した顔で駆けよってきた。
「河合沙織さんね。確かに若宮さんたちが探していたけど、どうしてココに?」
怪訝に染まる美しい顔を、沙織は目をまん丸くして眺めた。
「……誰? どうして私の名前を知っているの? っていうか今日は何日……でしょうか?」
千歳の疑問はますます深まった。
寮母として寄宿舎に着任して以来、何度も言葉を交わした千歳に「誰?」はないだろう。
(まさか記憶障害? 確かにムーンフェイスがわざわざ情報を寄こした以上、ここには何かが
あってもおかしくない。この子が巻き込まれ、記憶障害になる何かが)
仮定を元に、この地下をぐるりと見回す千歳である。
(行方不明にならざるを得ない、何かがこの先に──…)
とにかく何があるか分からない。千歳は沙織に同行を求めた。
承諾は得られた。だが同時に千歳は沙織の衣装に眉をひそめた。
「……その服は? いえ、本当に急いでお友達を探しにいったのね。でももう戻ってきたから
大丈夫よ」
「? まっぴーやちーちんのコト? え、いなくなっちゃたの?」
話のかみ合わなさが気になった千歳は、一番それを解決できそうな疑問を投げかけた。
「ところで何かココで変わった物を見なかった?」
「あ、そういえば」
沙織は何か思い当たるフシがあるらしい。
千歳の手を取ってしばらく歩くと、「ココだけど」と扉を指さした。
扉? いや、正確にはドアだ。
マンションやアパートにありそうな、ベージュ色で金属質なドア。
そして沙織は扉を外側へと開けた。
100 :
永遠の扉:2008/07/05(土) 22:48:06 ID:YxP2OfXw0
.
「秋水先輩? なんでココに?」
ドアから出てきた少女の姿に、秋水は軽く目を見開いた。
黄色い髪を両側で縛った丸っこい瞳の少女が、心底安心したという顔でそこにいる。
「君は確か武藤さんの友達の……河合沙織さんだったな」
「でもなんで秋水先輩、こんなところにいるの? なんだかボロボロだし……わ! 血の付いた
刀まで!? い、いったいココで何が……」
拭ったもののうっすら血の残るソードサムライXを目ざとく見つけられ、秋水は困った。
「君こそどうしてココに?」
いうまでもなく彼は沙織の行方不明を知らぬから、驚くのも無理はない。
「びっきーを探してたら突然地面に穴が開いてこんな所に。でも良かった。秋水先輩に会えて」
秋水の正面へ到達した沙織は、恐怖をごまかすようなくしゃくしゃの笑みだ。
「一人じゃいろいろ心細かったし、会えて良かった」
(一人?)
はつと息を呑んだ秋水は、ドアと沙織を交互に見比べた。
「……一人、なのか? 君がいま出てきた部屋には、本当に誰もいなかったのか?」
沙織は目をぱしぱしさせると、不思議そうに秋水を覗き込んだ。
「うん。誰もいなかったけど」
(ありえない)
香美、貴信、無銘、小札。
(今までの敵たちは必ず部屋にいた。だが次の相手は……いない?)
「確かめるために入ってみる? 結構フツーの部屋だったし、危なくないと思うよ」
(総角はいったい何を考えている? そもそもこの子を地下に連れ込んだのは、何のためだ?
人質のつもりなのか? 或いは……手駒?)
総角ならばノイズィハーメルンという鉄鞭の武装錬金で沙織を操るという芸当ぐらいはする
だろう。しかし秋水はかつて同じ共同体にいたノイズィハーメルンの本来の創造者が、人間を
操る様を何度も見ている。その様子といまの沙織の様子はどうしても結びつかない。
(第一、次の相手は仮にも副長。今さら小細工を仕掛けるとも思えない)
様々な思考がよぎるが、部屋は歩いて五分もかからぬ場所にある。
考えていても仕方ない。
101 :
永遠の扉:2008/07/05(土) 22:48:28 ID:YxP2OfXw0
「とにかく俺の傍を離れるな。詳しくは説明できないがここは危険だ」
「うん。分かった」
秋水は沙織を背後に引き連れ用心深く辺りを見回しながら歩き、やがてドアを開けた。
「ありえない事だけど落ち着いて聞いて」
部屋の壁に貼られた一枚の紙。それに視線を釘付けたまま、千歳は硬い声を漏らした。
むしろ沙織より自身に投げかけているような声、彼女は震えながらそう思っていた。
「……さっきの質問だけど、今日は……九月三日。私は新しく着任した寮母の楯山千歳」
「え! じゃあ私、一週間ぐらい寄宿舎に戻ってなかったの!? うぅ、宿題、どうしよう」
頭を抱える沙織の姿をちらりと横目で捕らえる千歳にある感情は、戦慄の一言だった。
(このコは、記憶障害なんかじゃない)
蝋のように白んだ頬を一滴の冷たい滴が流れおちた。
沙織は千歳が着任して以来、ずっと寄宿舎にいた。
千歳の瞬間移動を千里とともに見た。カレーパーティの時もだ。
食堂で缶を振って秋水に直撃させたり、演劇の練習をしたり、時には管理人室を覗いたり。
(でもその間このコはココでただ眠るように暮らしていた! コレを見る限り、そうとしか……!!)
壁からひったくった紙を何度も何度も読む千歳の口から、うわごとのような喘ぎが漏れた。
「だったら今までいたのは、ヴィクトリア嬢を探しに出たこのコは、一体誰だというの……?」
「よ、よく分からないけど」
美しくも恐ろしい千歳に怯えながら
「始めまして、寮母さん」
地下に見合わぬピンクのパジャマ姿の沙織が挨拶をした。
「むーん。銀成学園の生徒に『黄色い髪』を『両側で縛った』『丸っこい瞳』のお嬢さんはいるかな?」
寄宿舎管理人室の防人に粘着質な声が届く頃──…
「ゴメンね先輩」
秋水は自分の身に起こった出来事を理解できずにいた。
「沙織の鋭い爪に後ろから両脇腹を刺され、弓なりになったまま宙に浮かんでいる」
文章にすればそれだけだが、当事者たる秋水は灼熱の痛みが突如脇腹に走った次の瞬間
102 :
永遠の扉:2008/07/05(土) 22:48:57 ID:YxP2OfXw0
にはもう視界が傾きつつ上昇していたから、理解にいささかの時間を要したのも無理はない。
驚愕に首を捻じ曲げると、沙織の右肘から折れ曲がる角ダクトのような異形の腕が生えてい
るのが目に入った。灰色のそれにはくすんだ黄色の細長いアーマーさえついており、たおや
かな細腕の面影を見事に打ち消している。そしてその先端から伸びる爪が左右二本ずつバラ
ンスよく両方の脇腹を貫いているのだ。
ただし左手は普通の腕のままであり、シオマネキのようなアンバランスさがある。
そしてナイフのように鋭い光を放つ爪が、自重によって腹側にいっそう深く突き刺さり、血に
濡れ光った。
「あはは。大成功みたいだね。もずのはやにえ」
沙織は左手でピースをして右ひざを後ろへ可愛く跳ね上げた。更には嬉しそうな小躍りさえ。
「知ってる人の姿なら油断してくれるかと思ったけど、予想通り。ちょっとだけ警戒してたし、避
けようとはしたみたいだけど、すぐ真後ろじゃ流石の秋水先輩でも無理だったねー」
彼の左脇に抱えていた学生服(正確には布きれ二枚)がカラスのように舞い落ちた。
「まさか、君は……?」
ソードサムライXを異形の腕に走らせると、鈍い手応えがした。
斬れないのは態勢の不十分さゆえか、それとも?
「んー。まあ秋水先輩の予想通りかな。ちなみにこの爪の並びは対趾足(たいしそく)っていう
んだよ。フクロウやミサゴなんかがこの形。前後に二本ずつ指があるんだ」
沙織は甘く蕩けそうな笑みをふわりと浮かべた。
「で、銀成学園の生徒に『黄色い髪』を『両側で縛った』『丸っこい瞳』のお嬢さんはいるのかい?」
ムーンフェイスの声に、防人は「……いる」と震える声を漏らした。
「じゃあそいつが『化けている』ね。いや、化けていたというべきかな?」
「うん。そう。この子とは別人。実はね、私」
「話に聞く……ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズ副長・鐶光」
「正解! 不意打ちをしたのは、無銘くんのつけた傷を狙って仇討ちもしたかったし、まあそれに」
ふぅ、と制服姿の沙織……いや、沙織姿の鐶はため息をついて肩をすくめた。
「リーダーからの伝達事項を守るにはこうするしか……と、口調はもう良かったね。失敗失敗」
103 :
永遠の扉:2008/07/05(土) 22:51:01 ID:Y8fdRMJz0
秋水はこの状況から脱出しようともがいている。しかし両脇腹をがっちりと突き刺した爪から
体を揺するだけでは自重のせいで到底脱出できない。表情が灼熱の痛みに歪むのみだ。
かといって何度斬ってもなぜか異形の腕に刃は通らない。
脱出不能の秋水の血が鐶の腕を伝い、赤い絨毯に染みをこぼした。
そう、赤い絨毯。ここは確かに「フツーの部屋」である。
テレビもある。ベッドもある。本棚もあるし犬のぬいぐるみだって沢山ある。
二十畳もあるのを除けば、普通の少女が暮らしている部屋とまったく変りない。
その隅で鐶は一方踏み出し、学生服の上着を軽く踏んだ。
「……口調はもう…………いいですね。姿も」
秋水は見た。「河合沙織」の頬や皮膚に角ばったひび割れがみるみる生じ、金属が打ち合う
音とともに姿が変わっていくのを。
千歳は深呼吸すると、もう一度張り紙を見た。
『※ 忘れても思い出せるようにメモします』
『八月二十七日。廃墟を歩いていた女の子を捕獲』
『リーダーからの伝達事項によりこの子に化けて寄宿舎へ潜入する事にしました』
……文章はまだ続いている。
「むーん。私は幸いにも再就職先で彼女に調べる機会があってね。なんと驚くべきコトに彼女
は、ある『特異体質』を持っているとか。そう、この私が手こずるほどの強力な特異体質を」
先ほどまで「フツー」だった部屋は荒れていた。絨毯は何かが墜落したように大きく破け、
滅茶苦茶に割れた板を天に向けている。壁には爪跡があり、テレビには忍者刀が突き刺さり、
犬のぬいぐるみは頭の中ほどから何かに薙がれたらしく、白い綿を露にしている。
本棚に至っては何があったか上半分丸ごと総てかじられたような痕跡が認められた。
その前で血煙が、伸びた受話器のコードのような螺旋を描きつつ部屋の隅へ向かったかと
思うと、横回転する秋水が壁へ激突した。
瓦礫が降り注ぐ音に紛れて吐血のえずきが響く。
同時にソードサムライXの半ばから無残に叩き折られた刀身が赤い絨毯へ突き立った。
あたかも墓標のごとくである。
「がっ!!」
104 :
永遠の扉:2008/07/05(土) 22:51:38 ID:Y8fdRMJz0
立とうとした秋水の胴体がナナメにうっすら裂けたかと思うと、鮮血が噴水のように迸った。
「初撃が総て……です。……あれで動きが鈍った以上、次で恐らく最後……」
(そうだとしても俺は諦めない)
『元の姿の鐶』へ吸いつけた視線はまだ光を失っていない。
(今のまま相手が接近さえすれば、逆胴を当てる事ができる)
鐶は銀成学園女子生徒の制服を舞い上げ、緩やかに秋水に近づいてくる。
「……ホムンクルスは……動物型であれ植物型であれ…………原型から人間へと姿を変え
るコトが、できます。そして私の特異体質は……その応用。体細胞の変化を意図的に操り、鳥
と人ならば好きな形に変身できます。いま見せた総ての攻撃も鳥の生態のほんの一部」
「もちろん彼女は君の大事な大事な生徒の姿を借りるのなんて朝飯前。私にちょっかいを出し
た時もそうさ。ま、何故か銀成学園の制服を着ていたから、調べるのは簡単だったけど」
防人は気付いた。
千歳が着任した夜、なぜ総角が即座にそれを知り、チャフを撒いたか。
──黄色がかった髪を頭の両側で縛った幼い顔立ちの少女は、興味津々に。
剛太が到着した夜、なぜ香美や貴信がそれを知っていたか。
──「斗貴子先輩。戦士長ってなんですか!? やっぱりブラボーさんも仲間だったり!?」
(どちらも河合沙織に化けた鐶が見ていた! つまり!)
ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズとの戦いが始まった夜から。
(鐶光は寄宿舎に潜み、俺達の情報を仲間に流していた!)
「連絡が遅れてすまないね。君があっけなく従うからつい教えるのが癪になってね。じゃあまた」
電話が切れると防人は、深いため息をついた。
(というコトは、総角がアンダーグラウンドサーチライトを使えるのは、河合沙織に化けた鐶が
ヴィクトリアのDNAを密かに採取していたからなのか……?)
防人は知らない。かつて沙織の姿だった鐶がヴィクトリアの髪をさりげなく引き抜いたのを。
105 :
永遠の扉:2008/07/05(土) 22:51:57 ID:Y8fdRMJz0
──「おはようびっきー、ちーちん。あ、枝毛発見!」
──沙織は開口一番、ヴィクトリアの髪を引き抜いた。
──「え、枝毛なんてあった? 千里に充分梳いてもらったのに」
──食堂の入り口近くで、ヴィクトリアは微妙な痛みに顔を歪めた。
──「そうかなー? 梳いても1本ぐらいはあるよ」
──それを見たかったが、沙織は手際よくポケットにしまったから見るコトはできない。
──廊下に捨てればいいのでは? という疑問も生じたが、恐らく後でゴミ箱に捨てるのだろう。
銀成学園女子生徒の制服がぱらりと落ちた。
「……姿を変えても”普通の体質ならば”不老不死のホムンクルス……年齢までは偽れませ
ん。しかしそれをカバーするのが私の武装錬金。……クロムクレイドルトゥグレイブ。特性は年
齢のやり取り、です。コレも勝利の一因……でしょうか」
鐶は青々とした倒木をまたぎ、更に秋水に近づいた。
そう、普通の部屋にはまるで似つかわしくない「青々とした倒木」をまたいで。
キドニーダガーを握っているのは手足こそ鳥の部品であるが……少女だった。
赤い髪に華奢な体。身長は斗貴子とほぼ同じ。
彼女は七分袖の水色のシャツの上に迷彩柄のダウンベストを羽織り、チュールが重なるカ
ットフレアーのミニスカートを履いている。色はネイビーブルー。そこから伸びるほっそりとした
白い足は靴下はおろか靴すら履いていない。まったくの裸足。そして膨らみかけの胸の上か
紐が斜めに掛かり、その先、腰のあたりには卵のように白く、そして丸いポシェット。
かぶったバンダナと額の境界からは横髪が左右二本ずつ眉毛の辺りまで垂れている。横髪
も左右で同じ長さ。月のしっぽのように内側にカーブした赤い髪が首の辺りまで伸びている。
後ろ髪は長い。肩に乗った三つ編みが腰の辺りまで。トサカのように広がった髪の先に白い
リボンが蝶々結びになって愛らしいアクセントだが、本題ではない。
(まだだ……!)
秋水は約束した。
──「必ず戻ってくる。戻って必ず話す!」
106 :
永遠の扉:2008/07/05(土) 22:54:23 ID:Y8fdRMJz0
(俺はまだ負ける訳にはいかない! 敵を倒し、彼女の元へ戻り、それから……)
贖罪をする。そう決めていた。
だからココまで戦ってこられた。
その意思と戦士たちからの情報のおかげで苦戦を何とか制し、ココまで戦って来られた。
(だからせめて、この相手の能力を完全に暴き、伝えなければ申し訳が立たない!)
「何を祈ろうと思おうと…………無理な物は…………無理です」
折れた剣を支えに立とうとした秋水に鐶が立ちはだかり、自分のすぐ前で短剣を煌かせた。
指揮者のような流麗な捌きだが間合いはひどく遠く、攻撃は外れた。
微細で奇妙な隙だが逃す秋水ではない。
(おそらくこれが最後の機会! 当てて見せる!)
最後の膂力を振り絞り、短剣の残影を突き破るように逆胴を繰り出した。
「終わり……です」
まるで魔法のようだった。鐶の呟きとともに逆胴は命中寸前にピタリと止まり──…
「どうしたのまひろ?」
千里の呼びかけにまひろはハっと我に返った。
「う、ううん。何でもない。ちょっとボーっとしてただけだよ」
笑って手をバタバタさせたまひろは、しかしすぐ憂いを帯びた表情で外を見た。
(何だろう。また嫌な予感がする)
(一体この攻撃は──…)
秋水の瞳孔から輝きがみるみると消え失せ、彼の意識が漆黒の世界へ落ちていく。
原因は羽根のような長く鋭い刃。四方八方から秋水に貫通していた長く鋭い刃。
(彼女が羽根を撃った気配はなかった。一体……この羽根はどこから……?)
力なく開いた掌から日本刀の武装錬金が力なく零れ落ちた。
「…………」
踵を返した鐶の背後で。
数歩力なくたたらを踏み、倒れたのが、この戦闘に於ける秋水の最後の動作となった。
千歳は張り紙を畳み、ポケットへ滑り込ませた。
107 :
永遠の扉:2008/07/05(土) 22:55:03 ID:Y8fdRMJz0
「これからあなたを寄宿舎に戻すわ」
呼びかけるのは沙織。「本物の」河合沙織。
「え?」
「説明は後」
一筋の冷汗を垂らしながら、千歳は沙織とともに瞬間移動した。
(気になるのは……張り紙の最後)
『もし無銘くんたちが負けた時、私は偽装を解き、いかなる戦士にも勝たなくてはなりません』
(一刻も早く戦士・秋水に援軍を送らないと……送らないと……)
「任務完了」
きりりと引き締まった大きな上三角の瞳の少女が事もなげに呟いた。
ただし瞳孔はひどく虚ろでどこを見ているか、何を考えているか分からない
刺さっていた羽根がさらさらと消滅していく。
赤い絨毯に倒れ込んだ秋水を中心に、ドス黒い水たまりが広がっていく。
即ち。
早坂秋水
敗北。
連載当初からの伏線をようやく一つ解消。
読み返していただくとたぶん、「ああ、コレは」となるかも?
>>94さん
両断というちょっとグロい描写に踏み切れたのは小札のキャラ性あらばこそですね。
コレが香美だと何か陰惨。あと、戦いについてはそろそろ方針転換をばw
こっからもまた描きたかった展開の一つです。
流花さん(そりゃあもう連載終わっても武装錬金は当時と同じくらい好きですからw)
不勉強ゆえアルキメデスを知らなかったのですが、「ああ、なるほどなー」と。確かに人生をささ
げられる何か、没頭できる何かを妨げられるのは嫌ですよね。まして抗議した結果殺されると
いうのも理不尽。で、歴史ネタを下敷きにしたSSというのは自分の敬愛する忍法帖シリーズとか
闇の土鬼とか時の行者に通じるものがありまして、好みですw かつ、SS描くために歴史を調
べてそこからいろいろ興味が広がってくのはいいものですので、歴史に興味がおありでしたら
この方面、模索されてはいかがでしょう。あと、金剛番長は「ヘソ出し+マスク」の卑怯番長が人気です。
109 :
作者の都合により名無しです:2008/07/06(日) 00:37:03 ID:OOiT0e6J0
河合沙織ってまひろのお友達?
どうもあの2人はまひろの印象に隠れて影薄いんだよなあ
秋水敗れましたか。
あんまり無敵の能力じゃないからなあ・・。
性格優しすぎるし
110 :
しけい荘戦記:2008/07/06(日) 15:50:35 ID:9xHW9q/T0
第六話「護身開眼」
しけい荘から徒歩十分、『コーポ海王』には大家劉海王を始め、十一名の海王が暮らし
ている。元は中国で高名を馳せたというオリバたちに負けず劣らずの格闘士(グラップラ
ー)軍団である。
寂海王は彼らの中で唯一の日本人であり、コーポ海王に引っ越したと同時に近所に彼の
流派『空拳道』の道場を立ち上げた。
彼の理想は高い。空拳道という武術を通じて若者を心身ともに鍛え、日本という国自体
をより良い方向へと導こうとしている。
だからこそ彼は優れた人材を望んでいる。共に空拳道を発展させるために。そんな寂に
とってしけい荘のメンバーは文字通り宝の山である。筋肉の権化オリバを筆頭に、オリン
ピック選手を遥かに凌駕する肉体の持ち主が何人もおり、その上なぜか世の脚光を浴びる
でもなく、平凡な生活を営んでいるのだから。
「私は必ず彼らを手に入れてみせるッ!」
寂のスカウト魂に火がついた。ほぼ毎日のようにしけい荘に訪れ、スカウト活動を行う
寂に対し、皆がうんざりしていた。ただ一人を除いて。
「なぜだ、なぜ俺を空拳道に入門させてくれないッ!?」
寂の袖にすがりつき、シコルスキーが怒鳴った。寂は心底から冷え切った眼で、シコル
スキーを一瞥した。
「君では日本の若者を導くに相応しくない」
「どうして!」
「君はサムワン君と同じだ。類まれな才能と運動能力を持っているが、敗北に慣れすぎて
しまっている。それでは希望に満ちた若者を指導することはできない」
「……分かったよ」
「分かってくれたかね」
シコルスキーのまだ諦めていなかった。
「だったら、せめて……せめて空拳道の技を一つだけでいいから教えてくれッ!」
目と鼻から汁を垂れ流して土下寝をするシコルスキーに、ついに寂は根負けする。
「……仕方あるまい。道場に来たまえ」
111 :
しけい荘戦記:2008/07/06(日) 15:51:00 ID:9xHW9q/T0
意外にも、道場は至って平均的な雑居ビルの四階に居を構えていた。
「……なんかイメージと違うな」
「都内は地価が高くて、一戸建てはなかなか……」
現実的な会話も程々に、道場に入る二人。外観とは一転、古き良き日本武術の道場が広
がっていた。床には畳が敷き詰められており、壁には門下生の名札が幾つも並んでいる。
上座にある掛け軸『護身』の文字にも武道特有の清潔な力強さが漂っている。
心身のうずきを抑えることができないシコルスキー。
「寂海王! じゃあさっそく俺に技を教えてくれッ!」
「むろんだ。ただしこれから私が教える技は、強くなるための技ではない」
「なんだって?」
「シコルスキー君、君のような若者が強さを追い求めるのは分かる。こうして私にすがる
のも、強くなってアパートの友人たちを見返したいという思いが起因しているのだろう。
しかし、しかしだ。強くなって敵を倒し、ふと後ろを振り返ればぺんぺん草も生えておら
ぬような光景を作り出して一体なにが面白い?
武術には強くなるための手段、という以上の意味がある。君にも今にきっと分かる日が
来るはずだ。……シコルスキー君、強くなるだけではつまらんぞ」
いきなり図星を突かれ、さらには自らが格闘術に求める意味まで否定されてしまったシ
コルスキー。空いた口が塞がらない、とはまさに今の彼を指し示していた。
「さてお説教はこれくらいにして、君には我が空拳道の奥義を授けようと思っている」
「お、奥義?! い、いきなり……」
「サンダル履きでも陸上競技で世界新記録を出せそうな君に、今さら基本を教えてもかえ
って逆効果だろう」
「でも、だからって……」
「さぁ始めるぞ」
途端、寂の目から甘さが消えた。スカウトマンから一流派を担う師範の眼差しに変貌し
た。
112 :
しけい荘戦記:2008/07/06(日) 15:51:26 ID:9xHW9q/T0
寂の凛々しい指示を、真剣な面持ちでシコルスキーが受ける。
「まず膝をついて」
「はいっ!」
「首の後ろに両手を回して、押さえて」
「はいっ!」
「頭を下げて背中を丸めるのだ」
「はいっ!」
出来上がったポーズに寂が微調整を加え、
「よくやったぞ。空拳道の奥義、伝授完了だ」
「えぇっ?!」
あっけなく奥義が完成してしまった。
いくらシコルスキーでも疑問に思わないわけがない。当然の如く訴える。
「からかってるのか! こんな亀みたいなポーズのどこが奥義なんだッ!」
「いったはずだよ。強くなるための技を教えるわけではない、と」
「だけど、奥義なんだろ……?」
「うむ。今君が取っている構えこそが──奥義。護身の究極形なのだよ」
「こ、これが……!」
「背面の耐久力は前面のおよそ七倍といわれる。つまり、君は立っていた時に比べ七倍強
くなったのだ」
体を丸めるシコルスキーに雷鳴が轟いた。
たったこれだけの動作で力量が七倍になってしまうとは。深夜にやっているインチキダ
イエット器具も裸足で逃げ出すほどの効果だ。
「寂海王……いえ寂先生ッ! スパスィーバッ!」
「いやいや、君のような虐げられている若者を救うのも私の役目。しばらくそうしていれ
ば、もっと強くなれるだろう」
「はいっ!」
程なくして、道場にか「本当」の門下生たちがぞろぞろと集結し始めた。老若男女の玉
石混交。まだ数は少ないが、寂の温和な人柄と丁寧な指導を慕って門を叩いた面々である。
一人も休むことなく勢ぞろいした十数名の愛弟子を前に、寂は丸まっているシコルスキ
ーを指差した。
「さて今日はここで丸まっているロシアの人を使って突きと蹴りの稽古をしましょう」
寂さんひでぇwww
115 :
作者の都合により名無しです:2008/07/06(日) 18:49:43 ID:iCrL7yo90
スターダストさん、サナダムシさんお疲れです
>永遠の扉
うーむ、昔からの由緒正しき作戦の偽者作戦にひっかかりましたか。
秋水はIQは高いだろうけど、性格的に搦め手に弱そうだからな。
桜花は滅法強そうだけど・・。
>しけい荘戦記
意外と好きな寂が戦記で見られて嬉しい。
しかし寂さん道場経営の天才だなw
寂さんと新日本プロレスの永田さんの亀合戦がみたいw
116 :
ふら〜り:2008/07/06(日) 21:21:03 ID:dqGJn0g+0
>>スターダストさん
無傷は申し訳ないって限度がありましょうに……それを一瞬で決断し実行し戦果を挙げた
小札に拍手。したと思ったら環あっさり勝利! 年齢操作の戦闘での使い道といえば幼児化
or老人化しか思いつきませんでしたが、なるほど。小札と違って地味で静かな能力、で強い!
>>流花さん
>その隊員を銃殺しろ。即刻だ
解る人は解ってる。こういう、敵対する立場の相手に認められてるってのはカッコいいです
よね。対立していても敬意を、敵であっても好意を抱ける相手。これこそ好敵手ってやつで。
そんな渋さの中、突然出てきた「酢花゜」に微笑ませて貰いました。ぜひまた、次回作をばっ。
>>サナダムシさん(実はバキ強さ議論スレで何度もプッシュしてるほど、寂好きなんです私)
かつて、サマサさんの某キャラが言われてたことですが……SS用にディフォルメ・アレンジ
しなくても原作からしてこんな人、ですよね寂。相っっ変わらず素直で無邪気な本作のシコル
では、軽々と手玉に取られるのも当然。そしてシコルのそんな、弄られっぷりが大好きです。
>スターダストさん
秋水が主人公らしい戦いの後、主人公らしいピンチを迎えていますな
秋水は意外と敗戦が多いキャラだな
>サナダムシさん
寂は武道家より取り込み詐欺師かなんかやった方が成功しそうだw
相変わらずですなシコルは。いい意味で
118 :
作者の都合により名無しです:2008/07/07(月) 13:39:52 ID:eUZAHH7e0
VSさんのブログは唐突に復活するな
こっちでも復活して下さい
119 :
作者の都合により名無しです:2008/07/07(月) 15:10:42 ID:cF/SpLt60
オチのつけ方うまいなあサナダムシさんは
ざっと読み返してみたけど
永遠の扉はまだ半分くらいの進捗率で
普通の長さの長編3本分位の量があるんだな。恐るべし
なんせ1回の投下量が多いからなw
121 :
しけい荘戦記:2008/07/07(月) 22:54:01 ID:LZpfNy9I0
第七話「ソムリエ五人衆」
101号室から話し声が聞こえた。
好奇心に駆られたドイルは、わずかに空いているドアの開き口から中を覗いてみた。
「お願いしますよォ〜絶対受けますって!」
「いやしかしね、困るよ君」
「大丈夫ですって! ギャラもはずみますから!」
「私は別に報酬を求めているのではなく……む」目ざとくドイルの気配を感じ取ったオリ
バ。「悪いが来客だ。今日のところは引き取ってくれたまえ」
これでしつこくオリバを誘っていた男も大人しく引き下がった。ドイルも入り口で一瞥
したが、大人しそうでそれでいて粘着質な印象を持たせる男であった。
「ふぅ、助かったよドイル。なかなか帰ってくれなくてね」
「なんだったんですか、彼は」
「どうやらテレビ番組の制作者らしくてね。今度局でやるソムリエ特集に私を出したかっ
たらしい」
オリバはソムリエの資格を所持しており、技量も抜群である。知る人ぞ知る事実である
が、さすがはマスコミ、並外れた嗅覚でこの世にも珍しいマッスルソムリエを探り当てた
のだろう。
だがドイルにとって、そんなことはどうでもよかった。
テレビ番組。一流の手品師を目指す彼にとって、テレビ出演は一つの目標である。テレ
ビどころかそれに準ずる舞台にも立てていない彼にとって、テレビという華やかなステー
ジはまだまだ雲上にある。
「ど、どうして断ったんですか? ちょっと聞こえましたけど、ギャラもたっぷり出るっ
て……」
「ハハ……私はソムリエを趣味としてやっている。わざわざひけらかす気にはなれんよ」
「そうですか……」
「だがあの様子だとまた来るだろうな。私は今夜から用事でしばらくアパートを空けるか
ら、もしまた来たら当分帰らないと伝えておいてくれるかね」
「分かりました」
従順にうなずくドイル。しかし、すでに艶やかな光を求める渇望と野望は、ドイルの中
で確実に蠢き始めていた。
122 :
しけい荘戦記:2008/07/07(月) 22:54:56 ID:LZpfNy9I0
夕方、満身創痍でアパートに戻ったシコルスキーを待っていたのは、ドイルだった。
「ハローシコルスキー。……ってすごい傷だな」
「今、寂先生から空拳道を習っていてな。おかげで七倍も強くなれたよ」
「だったら試してやろう」
ドイルの胸から高熱の炎が噴き出した。
こんがりハンバーグとなったシコルスキーを自室に運ぶと、いきなりドイルは話を持ち
かけた。
「どうだシコルスキー、テレビに出たくないか」
「テレビ……?」
「以前、私と一緒にコンテストに出てくれたことがあったろう。あいにく優勝はできなか
ったが、なかなかの成果を上げることができた。私は君を買っている。どうだ、また私と
組んで、今度はテレビ出演をしてみないか」
珍しく他人から頼られ、シコルスキーもまんざらではない様子である。
「実は今、大家さんにテレビ出演の依頼が来ている。大家さんは断るつもりだが、私は代
わりにテレビに出てしまおうと考えている」
「一体どんな番組なんだ?」
「なんでもソムリエ特集らしい」
「ソムリエ?! ドイル、おまえにソムリエの知識なんてあるのか」
「なァに、ワインに口をつけてそれっぽいことを話せば何とかなる。向こうもプロだ、た
とえ素人だとバレても上手くやってくれるさ。それに……」
「それに?」
「今回の目的は私の手品をテレビカメラを通じて世に知らしめることだ。飲んだワインを
耳や鼻から出したりすれば、これは絶対にウケる!」
シコルスキーも大きくうなずいた。ドイルが稼げれば、当然自分もおこぼれがもらえる。
そうなれば今度こそ、もっと条件がよく平和なアパートに引っ越すことができる。
「オーケーだ。話に乗らせてもらうぜドイル」
「……決まりだな」
二人の西洋人が狭い一室にてニヤリと笑った。
123 :
しけい荘戦記:2008/07/07(月) 22:55:33 ID:LZpfNy9I0
意気揚々と201号室から飛び出したシコルスキーを、計算外の要素が待ち構えていた。
スペックである。
「ヨウ、スイブン楽シソウジャネェカ」
「ス、スペック……」
シコルスキーを見下ろす、アパート一身勝手な怪人。失恋後しばらく大人しくしていた
が、最近になってまた勢力を盛り返している。
「ドイルトナニ話シテタンダヨ。食イ物ノ話ダッタラ、俺モ混ゼテクレヨ」
「いや、食い物は特に関係ない」
「チッ、ナンダツマラネェ」
立ち去ろうとするスペックの背中に安心し、シコルスキーはつい口を滑らせてしまう。
「食い物じゃないんだが、ワインの話なんだ」
「ワインダトッ?!」
しまった。シコルスキーは慌てて口を塞いだが、スペックの右ストレートで簡単に全て
を吐いてしまった。
「ヘェ……ソムリエトシテテレビニ出ヨウッテカ。ヨシ、俺モアンタラト一緒ニヤラセテ
モラウゼ」
さっそくスペックに命じられ、練習用のワインを買いに行かされるはめになったシコル
スキー。自腹なのはいうまでもない。
「くそっ、なにが練習用だ! あいつがソムリエの練習なんかするわけないッ! どうせ
ラッパ飲みするに決まってんだ!」
怒りの独りごとは思いのほか大きく、偶然近くを通りがかったドリアンに聞かれていた。
「ソムリエがどうしたんだね」
「え、いや、あの……」
「殴られるのと、素直に喋るのと、どっちがいい」
喋っても殴られるんだろう、と思いながらシコルスキーは全てを白状した。やはり殴ら
れた。
「君たちだけでは心許ないな。私も大家さんほどではないが、ワインの知識はあるつもり
だ。是非協力させてくれ」
「はい」
断れるはずがなかった。
124 :
しけい荘戦記:2008/07/07(月) 22:56:24 ID:LZpfNy9I0
その夜、ドイルたち四人は会社から帰宅した柳を、日本酒もワインも同じ酒だから大丈
夫だと無理矢理説き伏せた。
かくしてわずか半日で、大家を除くしけい荘の五名による『ソムリエ五人衆』が誕生し
てしまったのである。
すでに書いていたので第七話投下します。
またしばらく間が空きます。
126 :
作者の都合により名無しです:2008/07/07(月) 23:58:39 ID:lJIpV7Ji0
ソムリエ編笑ったw
でもあいちゃうのか・・。
僕には誰かが必要なんだ。それは誰でもいい訳じゃないけど。とにかく誰かの助けが欲しいんだ。
――だから、助けて!
第二話『SINGIN' IN THE RAIN』
二月の寒気を含んだ風が銀成学園高校の校舎に吹きつけていた。
窓はカタカタと鳴り、風の音と相まって何とも寒々しげな雰囲気を生む。
やがて、授業の終わりを告げるチャイムが校内に響き渡ると風の音は打ち消され、続けて湧き上がる
生徒達の声の中に溶け込んでいった。
校内は暖かさに満ちており、また昼飯時の活気が頭をもたげ、外の空気などは文字通りどこ吹く風だ。
一年A組の教室は授業中とは打って変わった賑やかな雰囲気に包まれていた。
四時間目の授業が終わり、生徒達にとっては待ちに待った昼休みの到来である。
ある者は弁当を鞄から取り出し、ある者は友人とやれ購買だのやれ学食だのと他愛も無く論じ合っている。
そこへ、退室した教師と入れ替わるように教壇に上がった女子生徒が一人。
いや、二人、三人。
人一倍の明るさと天真爛漫さで常にA組の中心人物となっている武藤まひろ。それに彼女の親友である
若宮千里、河合沙織である。
まひろは食事や移動を始めようとするクラスメートに先んじて、その特徴的なファニーヴォイスで
皆に呼びかけた。
「みんなみんなみんな! お昼ごはん食べる前にちょっと聞いてー!」
クラス全員が教壇に立つまひろに注目する。『また武藤が何か始まった』というある種の期待を
含んだ視線で。
「おほん」
まひろはわざとらしく、ひとつ咳払いをすると一際声高らかに発表した。
「私達、もうすぐ二年生になってクラス替えでしょ? だから、三学期の終業式の後にお別れ会兼
進級記念パーティーをやろうと思うの!
まだちゃんと考えてはいないんだけど、どこかのお店を予約してー、ゲームしたりしてー。
んーと、とにかくみんなでいっぱい食べて、いっぱい騒ごうよ!」
突然の提案を受けて皆がざわつく中、一人の女子生徒がオドオドとまひろ達を窺っていた。
彼女の名は毒島華花。
柔らかそうな栗色のロングヘアがどことなく“お嬢様”を連想させるが、元は錬金戦団再殺部隊の
一人である。
毒島はひとしきりモジモジモゴモゴした後、ようやく聞き取りづらい小さな声でまひろに話しかけた。
「あ、あのぉ……。私、この前入ったばかりですけど……私も……?」
彼女は活動を凍結した戦団を離れ、年明けの三学期から銀成学園の第一学年に編入したばかりなのだ。
極度の引っ込み思案と恥ずかしがり屋な性格に加え、クラスになじむ程の時間も経過していないとなれば、
発した疑問も仕方の無い事なのだろう。
しかし、毒島とは対極に位置する性格と言っても良いまひろにとっては、過ごした時の長さなど
まったく問題にならない。
まひろは毒島に飛びつくと、彼女の華奢で小柄な身体を力一杯抱き締めた。
「もちろん、はなちゃんも一緒だよ! だって1‐Aの仲間だもん!」
「ひええっ! は、離して下さぁ〜い」
少々度を越したスキンシップに驚き怯む毒島。
更には、その様子を見ていた沙織までもがツインテールを揺らしながら二人に飛びついてしまった。
「私もー!」
「ひゃあぁあああぁああ!」
とんでもない方向へ脱線し始めたまひろと沙織。
呆れた様子で額に手をやり肩を落としていた千里だったが、やがてまひろに代わって教壇の
真ん中に立った。
とりあえず二人は放置の方向だ。
千里はその性格のままにキリッと眉を上げた生真面目な表情で、まるでクラスの一人一人に
話しかけるように顔をあらゆる方向に向けながら概要を発表する。
「えーと、私から補足。予約したりとか会費集めたりとか、要するに幹事は私が中心にするわ。
まひろだけじゃ、おっかないし……。あ、もちろん、みんなの意見もしっかり聞いてどんな内容に
するか決めていこうと思うの。だから希望、要望は遠慮しないでどんどん聞かせて。
まひろが言ったみたいに皆で楽しんで、1‐Aの思い出を残そうよ」
最初、クラスメイト達は勢い任せでお祭り気分なまひろの提案に戸惑っていた。
だが千里の口から現実味のある計画(ヴィジョン)を聞かされ、少しずつそれが身近なものに感じられて
きたのだろう――
「んー、若宮さんが幹事だったら大丈夫かぁ」
「さんせー!」
「いいんじゃね? 面白そうだし」
「三月でみんなバラバラになっちゃうかもだしねー」
「おーし、やろうぜ! あ、カラオケは絶対入れろよ!」
不安めいたざわつきは、明るさを含んだ賑やかさに変わっていく。
結果のみを大仰に突き出した後に計画を説明するのはプレゼンテーションでよく見られる技術だが、
この落差に一役買ったまひろはそれなりの手柄と言うべきだろう。
まひろは毒島の髪に頬を寄せつつ、盛り上がる教室内の様子にご満悦である。
「最高の思い出作りしよーね! みんな!」
自分の役割の微妙さ加減にいまいち気づけていないのだが。
しかし――
クラスが一大イベントに向けて活気づく中、憮然とした表情で席を立ち、教室を後にしようと
する者がいた。
妙に敏感なまひろは教室の戸に手を掛ける“彼女”に気づき、満面の笑顔で駆け寄った。
「ねえ! 棚橋さん! 棚橋さんもいいよね!?」
溢れる陽の感情は神がまひろに与えた美徳だ。贈り物(ギフト)と言ってもいいだろう。
ならば何故、併せて“人を見る”“人を選ぶ”という感覚も授けなかったのか。
晶はまひろのニコニコ顔を一瞥するなり、眉根を寄せて不快感も露わに吐き捨てた。
「あ? ……なんでアタシがそんなもん出なきゃいけねーんだよ。勝手にやってろ、バカ」
「え……?」
驚きの表情で固まるまひろを捨て置いて、晶はさっさと教室から出て行ってしまった。
好意を以って接触した自分に向けられる突然な、そして理不尽な負の感情。悪意の表情。
世の中においてはさして珍しいものでもないこんな状況も、今の今まで“幸いにも”周囲の人間に
恵まれた環境にいたまひろにはひどく異質に感じられた。
気分を害する以前に、どうして良いのかがわからない。
花畑にも似た頭の中は混乱極まり、セイウチと卵と警官が列になって踊っている。
更に、また一人。
廊下側の最前列に座る女生徒が音も無く、いや“なるべく音を立てないように”席を立ち、
まひろに近づいた。
「あ、あの……」
こちらの“彼女”はなるべく表情を作らず、声も消え入りそうに小さい。
分厚い眼鏡の奥の眼はまひろと合わせぬよう。
「わ、私もそういうの苦手だから、いい……」
「ええっ!? 柴田さんも……? どうして――」
それだけを言うと、瑠架は地味なランチョンクロスに包まれた弁当箱を手に去っていった。
傷んだ髪をまとめただけのお下げを揺らせながら。
教室から姿を消した二人の少女。
集団心理と言い換えてもいい連帯感と盛り上がりに酔う生徒達。
多感な時期の高校生達の小規模社会において、彼ら彼女らを何が繋ぎとめ、何が引き離すのか。
否、そんな小難しい言い方ではない。
『同じクラスのお友達なんだからきっと仲良くなれるはず! 棚橋さんとも柴田さんとも
いい思い出を残したいもん!』
自分の理解の枠を越えた作用(アクション)に直面したまひろの、混乱の上に導き出された反作用(リアクション)である。
>しけい荘
ドイルが主役っぽいシリーズかな?
しかしソムリエ編ってぜんぜん想像がつかん買ったw
>DUSK
おお、アク禁から復活されましたか。
学園ドラマからどんなアクションになるか楽しみにしております。
133 :
作者の都合により名無しです:2008/07/08(火) 12:45:23 ID:2cbVp23I0
サナダムシさん
・一癖も二癖もありそうなメンツが勢ぞろいして
ソムリエですか。よくこんな発想が出てくるな。
早いお帰りをお待ちしております。
・さいさん
ネットカフェからの書き込みお疲れ様です。
まひろはある意味純粋培養されてきたから罵声を浴びせられるのは
キツいでしょうね。でも良いコンビになるのかな?
おお、さいさんお久しぶり
>同じクラスのお友達なんだからきっと仲良くなれるはず
高校時代同じクラスにこんな女いたがマジうざかった。ブスだったし
まひろは美少女だからぜんぜんOKだけど
サナダムシさんのしけい荘は本当にどこに行くかわからんなw
まさかソムリエってwオリバ以外味覚バカだろこいつらw
さいさん復活おめ。
明るく清いまひろが少しずつ汚れていく展開を期待したりしてw
人物紹介役に立つな。
136 :
永遠の扉:2008/07/08(火) 22:25:07 ID:wdQ2/NoHP
第064話 「滅びを招くその刃 其の弐」
話は、八月二十七日の夜──屋上で空を見上げて泣くまひろを秋水が見た頃──に遡る。
銀成学園の職員室で鐶は生徒手帳を広げ、沙織の写真と、それそっくりの顔を並べていた。
「……似てますか?」
「カッコは似てるけどさ、そのタルい話しかたは何とかならんワケ?」
「やっぱり? 私このコの喋ってるとこを無銘くんの忍法で見たけど、すぐ覚えるの無理みたい」
「……うーんとさ。うまいかもしれんけど、キャラかわりすぎじゃん」
突然の豹変に香美は鼻の頭にシワさえ寄せて困惑した。
「はぁ……でも……まだ定着しないというか……友達の呼び方を間違えてバレそうな……」
『ふはは!! その不備を補うべく僕たちはココにいる!! まぁ僕は人間関係について努力
しようとして挫折したクチだが!!』
「ところでさひかりふくちょー。あたしのマネとかできる?」
沙織に扮した鐶の口が明るく裂けて八重歯が覗いた。
「んーにゅ。できるワケないじゃん! だってさだってさだってさ、あたしのしゃべりってテンポ
はやいワケよ! だから途中で……息が切れ……ます。持続しませんすいません……」
「あやちゃん」
生徒手帳をマイクのようにした鐶(顔は沙織)がはつらつと双眸を輝かせた。
「おおっとこれは難題! 果たして不肖ごときに小札さんの口調が模倣できるか分かりませ
ぬが、総ては無銘くんに好いて頂くべく気合一閃大挑せ……持続しませんすいません……」
「あはは似てる似てる!」
体をまるめてケラケラ笑う香美をよそに貴信はしょぼくれていた。
(いつも思うが僕がこういう女の子の会話に介入できないのは何故なんだ!)
さびしそうにパソコンの電源を入れると、の口から総角の物真似のリクが飛び出した。
鐶(顔は沙織)は額に指を当てながら斜め四十五度に顔を傾けた。瞑目はやや気障ったらしい。
「フ。男役など俺に務まる訳ないじゃないか。いくら完全無欠の俺といえど、その技術に限界
がある事ぐらい理解して欲しいんだがな香美。……あ、息、続きました」
「鳩尾!」
鐶は俯いた。
「で、できません……」
「なんで?」
「その……恥ずかしい、から……です」
137 :
永遠の扉:2008/07/08(火) 22:26:24 ID:wdQ2/NoHP
耳たぶまで真赤にする鐶に香美はにゃはにゃはと笑った。
「んー、あいかわらず鳩尾が好きじゃん。ちなみにあたしはご主人が好き!!」
その瞬間、パソコンの電源スイッチから香美の手がずるりと滑り落ちた。
「んにゅ? どしたのご主人?」
『ななななんでもない、ないぞぉ! よ!! よーしやっとパソコンが起動したぞしかしいつも
思うが立ち上がった直後のパソコンはどうして動作が遅いんだ! 遅いんだろうなあ!』
「んー、ひかり副長にしちゃいいかたが似てないじゃん」
「いえ……本人、です」
「あちゃー」
香美は頭を掻いた。間近すぎて却って分からなかったらしい。
(落ち着け! 香美はネコで僕は飼い主、香美はネコで僕は飼い主……!!)
どぎまぎと目を見開いて真赤になる貴信を。
さて、本題。
『演じるという事柄は、その対象のエネルギーの流れを把握し倣うコト!! 態度素行を知れ
ばより詳しく言動も分かる物!』
『よってハイテンションワイヤーで抜き出した記憶のエネルギーを、ダイレクトに伝達する! ……
ですね? 今度は私……です』
「あっはっは! 似てる似てる。ご主人のマネもうまいじゃん」
笑うネコ少女の手から鎖分銅がだらりと垂れさがった。
『その通り!! 伝達は回復用の星の光の応用で何とかする!』
「私も光……です」
「いやそれ関係ないし」
自分を指さす鐶に香美はぱたぱた横手を振った。
『まあともかく、できると信じれば万事何とかなるものだあっ!!』
いうが早いかうねる鎖分銅がPC本体に衝突し、直方体のエネルギーが香美に流れ込んだ。
同時にぽん、と無造作に鐶を撫でる手から小さな光が漏れ、黄色い頭に沁みいった。
貴信はむしろこういう妙技に長けているのかも知れなかった。
「これによって……この生徒さんの客観的な情報が分かり、潜入がますます確実に……」
鐶の言葉を遮って、香美は耳をひくつかせた。そしてしばらく彼方を見ていたかと思うと、突然
あたふたとし始めた。
「ちょ、待ってご主人! なんか向こうの方から足音がするじゃん!!」
138 :
永遠の扉:2008/07/08(火) 22:27:32 ID:wdQ2/NoHP
『なんだとッ!! 落ち着け!! 落ち着いて確認するんだああ!!』
「貴信さんの方が……落ち着いてないような……」
とまれ香美はピタリと止まり唇をMの形に食いしばって糸目になり、ネコ耳をぴくぴくした。
「んー、二人はひろいトコにむかったようだけど……うげ。一人こっちにくるじゃん!」
『むむ。では校庭と反対側に逃げるか!』
「はい。……あ、でもその前にパソコンの電源を消さないと。電気は大切にしないと……」
「よし逃げるじゃん!」
ネコ少女が職員室を風のように駆け抜けた。
「終了しました……あれ? 香美さんたちは?」
置いてけぼりの鐶はちょっと考えた後、窓へふらふら歩きだした。
ややあって。
香美は硬直していた。
職員室に入っていく桜花を見ながら、「さあ逃げるじゃんひかりふくちょー」と横に低く囁いた
までは良かった。しかしいると思った鐶がそこにいない。漫画ならば点線にくくられた鐶の輪
郭が点滅しているような状態だ。
「いないし! どこよ。うぅー。耳をすまして探すしかないじゃん……どこよ。どこよ」
憔悴に舌をもつれさせながら香美が耳をそば立てると。
「あれ……? 香美さんたちは……どこですか……?」
ネコの聴覚が蚊のなくような声をとらえた。所在を割り出した。
「だぁもう! たぶんひかりふくちょー、あっち(校庭の方)に行ってるじゃん!」
『しまった!! 鐶副長は重度の方向音痴!! 手を引いてでも連れてくるべきだった!!』
貴信は呻いた。
『マズいな。いま外にいる鐶副長を見られたら僕たちの計画は破綻しかねない!! どうして
あの生徒がココにいるというコトになり、言い逃れがうまくできなければ!!
「鐶副長を銀成学園生徒に変装させ、寄宿舎での戦士たちの動きを探る」
という計画が破綻する!』
香美の腰が勝手に持ち上がり、彼女は「うおお?」と目を見開いた。
『……仕方ない。ここは僕が囮になろう! 香美、校庭の二人は今どの辺りだ!?』
139 :
永遠の扉:2008/07/08(火) 22:28:46 ID:wdQ2/NoHP
「んーと、道のあたり! うは、というかもりもりと出会ってるじゃん!」
『そうか! ならば多少騒がしくしてもフォローはしてくれるな!』
かちゃりん。かちゃりん。腰につけたチェーンを打ち鳴らしながら香美は歩き貴信は歌い。
あとは第二話の桜花襲撃の通りである。
http://grandcrossdan.hp.infoseek.co.jp/long/tobira/tobira002-1.htm ──『風体からすると早坂桜花かっ! 声は掛けたぞ不意打ちではない!』
──(だれ!? というか歌の意味は!?)
そして教室を流星群が荒れ狂った頃、ようやく鐶は状況を理解し職員室の外壁を削った。
(セキュリティを解除すべく年齢を吸いとった職員室……それを元に戻してから逃げます)
壁に刻まれた”ノ”の字の中心を、キドニーダガーが左上から右下に行きすぎた。
加筆というべきか彫刻というべきか。とにかくも壁には新たな滑らかな傷がついたのだ。
すなわち”ノ”の字は”メ”と化し、桜花が目撃し携帯電話で撮影したのもその傷。直前の、
「何者かが走り去ってく音」
はいうまでもなく鐶の逃げ去る音。そしてその後、香美たちに寄宿舎に送ってもらったが。
──「ごめん千里ちゃん」
──「? 珍しい。私をあだ名で呼ばないなんて」
──「あ、えと。あちこち歩き回って疲れてるせいかな。あはは。まひろみたいについ忘れてて」
──「ホントに疲れてるみたいね。まひろまであだ名で呼ばないなんて……」(第004話−1より)
「結局呼び方を…………間違えたり……」
──「……まぁ、一応、日ごろから演技の練習みたいなコトしてるから……その成果が出たのかも……」
──弁明しつつ、沙織は秋水をちらりと見た。
──それはきっと一種の照れなのだろうと千里は解釈するコトにした。(第006話−3より)
──「なんだろうね今の音。ところでちーちん、このカレーさ、鶏肉とか入ってないよね?」
──「あれ? 鶏肉嫌いだったっけ。入ってるのは牛肉だから大丈夫だけど」(第007話−3より)
「いろいろ……危ない橋を渡りましたが……何とか潜入生活を送るコトができました」
140 :
永遠の扉:2008/07/08(火) 22:30:09 ID:wdQ2/NoHP
鐶は核鉄や割符の入った秋水の学生服を拾い上げた。二つに分かれているそれらのポケッ
トは限界容量ギリギリまで膨らんでいるので、その部分を垂らすようにして。
そして振り返るといつの間にか現れた総角が首をすくめていた。
「結果からいえばお前は戦士の情報をよく伝えてくれた。俺がヘルメスドライブで連中を見ても
良かったが、そもそもコレは皆神市で偶然に入手した代物。どれほど使えるか分からない状態
で指針にするのは少々恐ろしくもあった。第一、プライベートを覗きでもしたら悪い」
「……だから私の特異体質による潜入作戦の方を続行」
「何しろ割符の最後の一つや、『もう一つの調整体』の隠し場所が分からず難儀している時に、
ヴィクターとの決戦が終わり、戦士がこの街に戻ってきたからなぁ。遠からず俺達とぶつかる
のは目に見えていた。だからお前を寄宿舎に潜り込ませ内情を探り」
「なるべく戦わぬよう……」
「したかった。しかしまさかその晩に小札がセーラー服美少女戦士と遭遇するとは……フ。物事
はうまくいかないな。しかしその上手くいかなかった事が今回ばかりはうまく作用した」
内情偵察用の変装が、秋水の虚を突く手段になったのだ。その上。
「……小札さんの絶縁破壊の余波で……左半身の動きが鈍っていたのも幸いしました。背後
からまずはそちらを刺し……右も」
「フ。秋水は核鉄で回復していたようだが、絶縁破壊は一時間未満で治り切るほど甘くない」
正に禍福はあざなえる縄のごとし。その言葉と安心したような吐息を総角は漏らした。
「いつもながら策を弄するのは緊張が連続してよくない。無事に成果が出た今のような瞬間は
どうも気が抜けてしまう。香美、貴信、無銘、小札の四人を倒された後なら尚更だ」
「そう、ですね……」
「ふーん。そういうコトだったの」
寄宿舎管理人室でヴィクトリアは気だるそうに頷いた。
「戦士・斗貴子の代わりに謝るわ。あなたに内通の嫌疑を掛けてしまった事」
沙織に化けた鐶がヴィクトリアの髪を抜き、それを総角に届け、彼がアンダーグラウンドサー
チライトを使用可能になったのを知らずに責めたコト……。
などと聞かされてもいまいちピンと来ないヴィクトリアだ。
141 :
永遠の扉:2008/07/08(火) 22:31:23 ID:wdQ2/NoHP
ただ、なぜ沙織(鐶)に嫌悪感を覚えていたかは分かるような気がした。
(相手がホムンクルスなのを無意識に感じていたようね)
それも百年間ずっと錬金術の産物を嫌っていたヴィクトリアであらばこそ。
思えばほぼ同時期に片や招かれ片や招かれざるして寄宿舎に入居したホムンクルスの少
女たちが、表層だけとはいえ一時的に友人関係を結んだこの偶然。
一連の嫌悪感の半分はもしかするとヴィクトリアの推測通りの近親憎悪かも知れない。
なぜなら彼女たちは形こそ違えど……自身を偽っていたのだから。
(フ。あのお嬢さんがホムンクルスであるコトを鐶に伏せておいて良かったな)
総角はまたため息をついた。
(もし知っていれば微細な態度にそれが出て、ただでさえ危ない橋がもっと危なくなっていた)
由緒正しき偽者作戦も、ヴィクトリアの生活も。
(あのお嬢さんがホムンクルスだと鐶が知っていれば、非常に危険だった)
しかし何とか隠し通せた。秋水も倒せた。
ならばヴィクトリアの件はもう隠すコトもないだろう。と総角が切り出そうとした瞬間。
鐶の手首で異様な音が爆ぜた!
「手段を選ばぬ貴様らだ。かような真似を受けても文句はいえまい」
鐶の手から学生服の上着がこぼれ落ちていく。
……秋水が激闘の末に獲得した核鉄と割符を入れた学生服。
それは床から突き出た腕にむんずと掴まれ、床へ引き込まれていく途中だった
「唯でさえ我々が不利なのだ。まずは確実に戦力を回復するのが先決──…」
あっ、と鐶が手を伸ばした時にはもう遅い。
「忍法天扇弓(てんせんきゅう)。──」
針のついた無数の扇が雨やあられと降り注ぎ、彼女の視界を銀に染めた。
むろんホムンクルスたる鐶にダメージはないが、豪雨のような針と扇は瞬間的に光る壁とな
り、学生服の奪取を妨げた。
やがて何かが爆ぜるような音がすると、部屋はしんと静まり返った。
「そういえば……」
鐶は茫然と呟いた。といってもこの虚ろな瞳の少女は普通に喋っていても茫然に見えるが。
「私の手を撃ったのは無銘くんと同じ忍法吸息かまいたち……。いったい、誰が……?」
142 :
永遠の扉:2008/07/08(火) 22:33:27 ID:wdQ2/NoHP
「フ。無銘以外に忍法を使える奴など限られているだろう。そういえば皆神市の事件でも俺に
忍法を喰らわせていたな。嫌いな鏡を見せられたからよく覚えている」
鐶の手に残っているのがわずかな布の切れはしだけと知ると、総角は肩をすくめた。
「やられたといわざるを得ない。奴は自分の武装錬金もすでに回収済みだ」
彼の指に導かれ、テレビを見た鐶は息を呑んだ。
「先ほどまで忍者刀が刺さっていたのに……なくなって…………います」
「そう。奴の仕業だ」
この時は、九月三日午後三時半。そう。あくまで『この時は』。
「核鉄は回収した」
寄宿舎管理人室に戻った根来は、学生服を無造作に振るった。
すると出るわ出るわ。ポケットはおろか内ポケットからさえも核鉄がぼたぼたと降り注ぎ、質
素なちゃぶ台の上で弾けたり回転したりした。
「……確かに防人君は探索を命じたけど、よく総角主税たちの所在が分かったわね」
数は一、二、……五。数え終わった千歳は思わず目を丸くした。
「地下豪とはいえ亜空間を操る事に変わりはない。防人戦士長からの命が下ると同時に私は
病院を抜け出し、蝶野邸で斬り開いた入口から潜り込んでいたのだ。音を頼りに探すのは少々
骨が折れたが……不可能ではない」
亜空間からの攻撃を生業とする根来ならではの探知方法である。
「ところで戦士・秋水は──…?」
防人の問いかけに根来は首を振った。
「敵は二体。流石に彼まで回収する余裕はなかったというコトか」
「……」
ヴィクトリアが目つきを一瞬鋭くしたのにこの場の誰もが気付かぬまま、会話が進んでいく。
「ええ。割符さえ回収できぬ相手のため」
その言葉に、ちゃぶ台の核鉄の番号を数えていた千歳がぴたりと止まった。
「そういえば割符がない」
「あの時──…」
根来は細い目をいよいよ鋭くして虚空を睨んだ。
「あの時、俺は扇の雨が降り注ぐ中、とっさにニアデスハピネスを放っておいた」
二つに分かれた学生服のうち片方を持ちながら、総角は笑った。
143 :
永遠の扉:2008/07/08(火) 22:36:01 ID:wdQ2/NoHP
「だから引き込まれる寸前、何とかこっちだけ吹き飛ばせた。割符の方が残ったのは運だがな」
「残念ながら割符の入っている方は奴の手に。核鉄も恐らく一つか二つはあちらの手の内」
「いや、ブラボーだ。下手に戦っていれば核鉄さえ回収できなかった。そう。この五つを──…」
シリアルナンバーXIII(13)。XXII(22)。XLIV(44)。LV(55)。LXXXIII(83)。
「LXXXIII(83)はまだ修復までに時間がかかりそうだけど、他は使えそうよ」
千歳の報告に根来と防人は頷いた。
「核鉄が戻り奴らの所在も分かった。今度はこちらから攻める番だ」
時刻は午後三時半を少し回ったころだ。
管理人室から出る前にちらりと時計を見たヴィクトリアは、この九月三日という日のせわし
なさ、様々なコトがありすぎた過剰の日にため息が漏れ、戸へ背を預けると思わず俯いた。
──「でも、さっさと戻ってきなさいよ。このまま居なくなられたら、勝ち逃げされたみたいで不愉快だから」
──「分かっている。君を助ける約束も必ず果たす」
(これだから錬金の戦士は嫌いよ。約束……反故になったじゃない)
滲み出てくるのは負けた秋水への怒りか。
それともそんな彼を敵地へ放置したコトを良しとする防人たちへの怒りか。
「リーダーからの伝達事項その五」
夕焼けの紅にうっすら染まり始めた空を滑るように飛んでいた影が、ひときわ高い煙突に着
地した。その背中のはるか後ろにはオバケ工場があり、正面には午前中に様々な出来事が
起こった蝶野屋敷(今はオバケ屋敷)がこれまた遠くに見えている。
影の視線はしかし、山の手にある蝶野屋敷のそのふもと──銀成市市街に吸いついている。
「残る戦士六名をただちに無力化し、最後の割符を奪還せよ」
しなやかな少女の肩で炎のように赤く長い三つ編みが可憐に揺れた。
「私の回答は……了承。……しかし」
松の湯、という銭湯の煙突から一望できる市街地は、人影がそろそろまばらになり始めてい
る。土曜日の午後三時半といえば昼時もやや過ぎたころだ。買い物客は街から家へと帰り、
市街から遊びに来ていた者も帰りの各種交通機関に揺られている頃。
144 :
永遠の扉:2008/07/08(火) 22:37:09 ID:wdQ2/NoHP
そう。街は朝や昼に比べるといささか活気を失しているようだった。
「無銘くんたちが負けたのは……正面きって戦ったから…………です」
煙突の上から地面に向ってびーんと一直線に飛ぶ紅い光があった。
「…………まずは搦め手で戦士をある程度……減らします。その為に増やすべきは……人」
キドニーダガーの武装錬金、クロムクレイドルトゥグレイブ。
それがアスファルトへざくりと突き立つのを見届けると、鐶は迷彩のダウンベストと青いカット
フレアースカートをあたかも天女のようにゆらめかせながら着地した。
「年齢は五年もあれば充分……です」
短剣の柄に裸足が絡み、親指と中指が球状の装飾を踏みつけるようにするとボロック(睾丸)
ナイフという男性器モチーフの武器がずぶずぶと地面に埋没していく。
「『鶏』は『稽』なり。よく時を稽(かんが)えるなり……!」
やがて鐶が小さく叫ぶと、短剣からドーム上の光が巻き起こった。
それは町の一角という局地的な現象で終わりはしなかった。
見るみると巨大化すると電柱や家屋を飲み干しながら範囲を広げ、街全体を、いや、ついに
は銀成市全体を包み込み、そして消えた。
聖サンジェルマン病院。
「アレは……」
まず桜花がその光に気づき
「何だってんだ!?」
剛太も暇つぶしに解いていたナンクロを放り投げ
「今のは一体?」
斗貴子はベッドから飛び降りて、窓に駆け寄った。
しかし外の景色には、少なくても破壊という恐ろしい爪跡は見受けられない。
むしろさわやかな光に彩られ、スズメが静かにさえずりさえしている。
まるで朝のようだ。斗貴子は形容したが、すぐその考えに目を見開いた。
(まるで朝のよう……? 違う! この景色は!!)
寄宿舎。
「ねえびっきー。いま何時か分かる?」
145 :
永遠の扉:2008/07/08(火) 22:38:12 ID:wdQ2/NoHP
廊下で遭遇したまひろがこう質問してきたので、ヴィクトリアは思わず顔をしかめた。
「午後三時半を少し回ったところよ。間違っていても文句はいわないで。管理人室の時計は
そうだったから」
「そ! そうだよねびっきー! ついさっきまで夕方の三時半だったよね!? でもねでもね!」
太い眉毛をハの字に寄せて、天然少女は困ったように呟いた。
「いま、朝の七時だよ」
「……はぁ?」
「ええと……。コレ本当に読んでいいんですか? だってさっきまで九月三日の午後三時半だっ
たでしょ? 他の地域はどう? え、やっぱり九月三日のまま? じゃあ放送は……」
現在ではすでに絶滅危惧種に指定されたブラウン管の中で、年配のアナウンサーが困った
ように何度何度も念を押している。
防人と千歳はその様子を固唾を飲んで見守り、根来だけが窓から満ちる朝日を避けるように
物影にうっそうと佇んでいる。
やがてGOサインが出たらしい。アナウンサーは数度の空咳に「ローカル局は辛いなあ」とい
うボヤキを織り交ぜると「失礼しました」と頭を下げ、最後に原稿を読み始めた。
「それでは九月四日、朝七時の銀成市ニュースをお伝えします」
以下、あとがき。
忍法天扇弓は「伊賀忍法帖」からお借りしました。ネゴロ終盤にちょろっと出した忍法でもあります。
いつか「組曲 忍法帖シリーズ」を作って歌うなら、「ある晴レタ日ノコト、針のついた扇が、限
りなく降り注ぐ」とかやってみたいものです。
>>109さん
あの二人、元々はモブだったので仕方ないかなーとw でも、いいコたちですよ。
秋水は剣技あってこそですしね。武装錬金の特性は非常に相手を選びますし。
原作の連載当時でも「カズキ以外に使い道がない」てな指摘ばかりあったようなw
ふら〜りさん
初登場時からそうだったのですが、小札はどうしても秋水と相性が悪いので、対抗するには
ああするしかなかったのかなーと。年齢操作についてはボス(総角)前の難関ってコトでいろ
いろやってみたくw たまには広範囲の能力も良い物です。
146 :
作者の都合により名無しです:2008/07/08(火) 22:58:07 ID:cwPifUS40
また今回も投下量多いなw
いや快調そうで結構です。
香美たちに翻弄される貴信が思春期の少年っぽくて良いな
バトルよりも(嫌いというわけでないです)こういうやり取りが好きです。
ほのぼのするからね。
>>117さん
キン肉マンなどの漫画でもけっこう主人公が負けたりしますからねー。
秋水は初見殺しや絡め手使い、ハメ型といった敵にはほとほと弱いような気がします。
やっぱ貴信のような真っ向武術勝負な相手と戦って初めて輝くキャラかも。
>>120さん
おお、気付けばそんなコトにw 思えばすでに64話に突入しているワケで、これも皆様のご感
想あったらばこそです。ありがとうございます。しかし我ながら一回の投下量には困りもの。少
なくしよう少なくしようと思うものの、時間が経つとまるで禁酒か禁煙を破るようにまた多くなる……
サナダムシさん
>スペックの右ストレートで簡単に全てを吐いてしまった。
もうシコルスキーが不憫で不憫でw 本人的には苦痛に耐えて七倍強くなったつもりなのに、
ハンバーグになったりドリアンがやっぱり殴ってきたりw なのに陰湿なイジメみたいな感じが
なくどこかほのぼのしてるのが不思議。そんな彼の属するソムリエ五人衆、どんな騒動を巻き起こすのか!
さいさん(アク禁にはP2を! 五百円弱の支出でアク禁と一年無縁になれるP2を!)
うまくはいえないのですが、全体的にカッキリとした整合性があると思いますよー。視点のブレ
もなく、まひろ・千里・沙織・毒島の「らしさ」もあり、一ファンとして楽しく読ませて頂きました。ち
なみに晶の方が早く仲良くなれそうな気がしましたが、果たして。何にせよ口の悪い女の子はいいものです。
原作あまり知らない俺にはそろそろ登場人物の多さに
頭がこんがらがってきた。頭の中の相関図が怪しくなってきたw
小札とか香る美とか可愛らしいから面白いけどね
149 :
作者の都合により名無しです:2008/07/09(水) 13:25:06 ID:2MtaPqUZ0
スターダストさんはちょくちょく山田風太郎ネタを出してますね
秋水以外のキャラもオールキャストで活躍しそうな雰囲気ですな
銀成市全体を巻き込む事件になっていくのかね?
151 :
仮面奈良ダー:2008/07/09(水) 17:08:58 ID:FrMI6O/s0
前回はここ
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/258.html 第一話 生暖かい日の午後
「全員、両手を上に上げろ」
銀行内に戦慄が走った。
気がつくと十数名の男たちがいつの間にか覆面を被り、客と行員に銃を向けている。
見る人間によってはそれがロシア製の安い自動小銃(北海道○○市の○○港の××埠頭で8万で買える代物との噂)だと判ったろう。
窓口の受付係の女性は小銭を握り締めたまま動けなくなっていた。
ATMでお金を下ろしかけていた男性も顔を引きつらせたまま動けない。
窓口カウンターの前には2mおきに覆面で長身の男が立っている。
あっけに取られる行員をよそに、一瞬でカウンターを乗り越え、数名のやはり覆面の男たちが入り込んだ。
「ええと、君たちにはこれから殺し合いをしてもらいます」
真面目な声で覆面の男が言う。
「というのはもちろん冗談で、お金をバッグに詰めてください、3分です」
そういって時計に向かって顎をしゃくった。
銃口を突きつけられる。
初めて体験する恐怖に表情を硬くして行員たちが動き出す。
最も壁際に座っている受付嬢、外村歩細子(ぶさこ38歳)は咄嗟に警察への連絡ボタンを押そうとした。
銀行内には各所に警察への連絡のためのボタンが設けてあり、銀行強盗時にはそれを押した上で、時間を稼ぐのがマニュアルとなっている。
(作者注:適当です)
「え〜ちなみに、隠れて警察に連絡しようとする人は・・・」
いつの間にか外村の目の前にリーダーらしき人物が来ていた。
さっきまで中央の受付前で話をしていたにも関わらずである。
「死んでしまうのだよね」
と銃口を外村の額に当てた。
152 :
仮面奈良ダー:2008/07/09(水) 17:10:11 ID:FrMI6O/s0
静寂が行内を支配した。
外村は手を撃ちぬかれて床に伏せっている。
「ね、わかりましたか、皆さんは死なないようにせっせと手を動かしてください」
恐怖に支配されたとき、人は唯々諾々と目の前の作業をするしかなくなる。
そして恐怖の時間が限られていれば、その開放の瞬間に向かって全力を傾けるのだ。
そうこの強盗団のリーダーは思っている。
「はぁ〜い1分30秒経過〜。皆さん頑張ってくださいね〜あと少しの辛抱ですよ〜」
「たす・・・て」
母親とともに来ていた小さな女の子のすすり泣きが聞こえる。
幼い心にはあまりにも厳しい状況だ。
「大丈夫、お母さんが付いてるから、お母さんがあなたを絶対に守るから」
そういって母親は震える腕で娘を抱きしめた。
「たすけて、お願い・・・蝶人パピ・・・ン」
少女は小さな声で助けを求めた。
泣きながら鞄に札束を詰め込む行員たち。
刻一刻と時間は経過していく。
「後30秒〜☆皆さん慌てずに、丁寧な作業をおねがいしま〜す」
行員たちは最後の詰めに入る。
もちろん鞄には発信機が付いている。
また、行内を出て行くときに手間取るように鞄の口をわざとずらして止める。
このような連中に好きにさせてなるものか。
その思いを込めてのささやかな抵抗だ。
「5、4、3、2、1、 はぁ〜いタイムアップ」
覆面の男たちがすぐさま出入り口に張り付き合図を送ると大型の金属箱を持った男たちが駆け込んできた。
各鞄をひっくり返し、鞄を丸ごとそれに移し換える。
金属箱の中では発信機は役に立たない、それを抱えて男たちは裏口を含む3方向の出口から出て行く。
153 :
仮面奈良ダー:2008/07/09(水) 17:11:22 ID:FrMI6O/s0
「はい、それでは、皆さん、お騒がせしました。手際よい作業ありがとうございます」
初めから銀行員達の意地など知り尽くしていると言わんばかりたっぷりと皮肉を込めた言葉だ。
「さて、仕上げです、なぁに一瞬ですよ・・・」
顎で促して、出入り口の男たちに向かって合図を送り、自動小銃を構える。
銀行内の人間には出口がなかった。
3つある出入り口は全て自動小銃を持った覆面に抑えられている。
古来、包囲戦においては完全に閉じ込めてしまうのは下策とされる。
しかしそれは相手が窮鼠たりえる場合であり、相手との兵器に圧倒的差がある場合には当てはまらない。
秒間25発の弾丸を打ち出す自動小銃を持つ彼と、せいぜいが行内据付の道具を鈍器として使う程度の行員では技術力にして一万年以上差があるのだ。
誰も抵抗できなかった。
圧倒的戦力差に体を動かすことさえできなかった。
「うーん、張り合いがないなぁ、少しは抵抗して欲しかったのだけど・・・まぁ全部思い通りってわけにはいきませんよね、人生って厳しい!」
引き金に指をかける。
この男、初めから人質を生かして返す気などない。
だって、かっこ悪いじゃん。などと考えている。
「それでは、みなさん、さ、よ、う、な・・・」
男は覆面の下で満足げな表情を浮かべ、
「らぁ〜」
指に力を込めた。
「ぱらららら」
154 :
仮面奈良ダー:2008/07/09(水) 17:12:35 ID:FrMI6O/s0
銃声は聞こえるしかし弾は一向に出てこない。
「え、なんかなまあたたかい・・・そしてなんだかやわらかいような・・・」
自動小銃のグリップとは明らかに違う手ごたえ。
弾が出ないのは当然であった。
「たまは・・・」
「それはたまではない、私のムスコだ」
男の持っていた自動小銃は床の上でひしゃげて無残な姿を晒しており、男の手の中にあるのはやわらかいものであった。
ただのやわらかいものではない。
逆立ちして、男の腕を股間で挟みこんでいる人間のものだ。
それもパンティーを被った男のものだ。
異様な男であった。
顔に被ったパンティー。
水着の如く引き伸ばされたブリーフ。
引き締まった足を包むのは濃い色の網タイツ。
被ったパンティーは湿らせ過ぎないように。
引き伸ばしたブリーフの"ちまき"はレスラースタイルのように。
ゆっくりと歩くのが正義のたしなみ。
であるといわんばかりの風格と色気。
「ぱらららら」
「お前の声かよっ!」
覆面はッコミつつ腕を足の間から引き抜こうとした、しかし、
「ぬ、ぬけない」
生暖かさが増すばかりである。
「ふむ、社会道徳に従って反省する気はないようだな」
155 :
仮面奈良ダー:2008/07/09(水) 17:14:04 ID:FrMI6O/s0
逆立ちで、腕を挟みこんだままパンティー男が上下運動を開始する。
よりいっそう嫌な感触が腕を伝ってくる。
(これは、腕が生暖かさにつつまれていく・・・)
「おしおきだ」
股間にあてがった男の手を中心に、パンティー男の体が回転を始め、腕を回転しながらよじ登ってくる。
ちょっと判りにくいが、等身大の棒状の物体が、およそ15度の角度で腕を中ほどまで挟みこみ、そのまま腕を周回しながら股間を満遍なく押し当てるような動きを想像していただきたい。
筆者の私はうっかり想像しちゃったのでぜひ皆さんにも想像していただきたい。
「いやぁ、か、回転数があがっていくぅぅ」
とうとう腕を上りきった股間は頭部への集会運動に入る。
「もが、息が・・もが、いきしたくな、m、が」
「変態秘技、回転腕ひしぎ天蓮華」
男の顔を正面から挟み込み、大きく手足を伸ばして一回転する。
「成敗」
その様、まさしく胎臓界曼荼羅の中心に咲く蓮華の如し。
臨死において人が見る美しき花、それが今、目の前に咲いた。
首が一気にひねられ、強盗団のリーダーは地に臥せった。
もう2度と(人として)立ち上がることはない。
「な、何者だ!」
「私か、私の名は変態仮面」
世紀末ヒーローここに帰還。
156 :
鬼平:2008/07/09(水) 17:22:02 ID:FrMI6O/s0
今頃になって、また性懲りも無く現れました。
終わりから書いてあったSSのですが、今回分を書いていないでだらだら過ごすうちに一年経ってしまいました。
今週中にもう一話書いて終わりです。
ひどいオチですが、怒らんで欲しいです。
157 :
ふら〜り:2008/07/09(水) 22:53:45 ID:jAq4je+e0
>>サナダムシさん
大食い選手権とかならまだしも、ソムリエって……これは味覚や嗅覚が超人の鋭さでも、
ワインの知識がなければできませんし。ドイルの計画通り真っ当なソムリエは最初から
考えず走るか、それとも誰かが意外に活躍してしまうとか? 先が読めない、だから楽しみ。
>>さいさん
>今の今まで“幸いにも”周囲の人間に恵まれた環境にいたまひろ
う〜……確かに。厳しい言い方ですけど、そのおかげでまひろの今の純粋さが形成された
ってことですからねぇ。どこまでその純粋さを貫けるかな、無論死ぬまで、となるか。天井に
当たって曲がってしまうか。飲み込んで天井より上に行くか。まひろの成長が見所かも?
>>スターダストさん
文字媒体でモノマネが、こんなに面白く描けようとは。スターダストさんの技量はもちろん、
日本語は素晴らしいと再認識。我輩はネコである=アイアムアキャットですもんねぇ。あと
年齢操作。物質の経年劣化加速ぐらいは他作品でも見ましたが、これはまたスケール雄大!
>>鬼平さん
懐かしい〜。ごく自然にメインヒロイン以外の女性と結ばれたという、なかなか珍しい人
でしたよね。行員たちの無駄な抵抗により強盗たちの恐ろしさが際立ち、それによって成敗
される時の変態秘技によるカタルシス(か?)が際立つ。変態仮面の原作の味、活きてます。
158 :
永遠の扉:2008/07/10(木) 13:18:48 ID:R6cYSUVFP
第065話 「滅びを招くその刃 其の参」
「どうも銀成市だけ時間が進んでいるようです」
外を見れば分かる。銀成市の市長はそういいたげに机上の地図をねめつけた。
銀成市は埼玉県にある。そして地図は埼玉県全域の物であり、銀成市に該当する範囲だけ
がすっぽりと赤い丸で囲まれている。
いうまでもなく「時間が進んでいる範囲」だ。
市の職員が休日返上で調べたそれは、驚くほどに綺麗な丸で銀成市を覆っているのだ。
「ところで市長」
「なんだね」
「私が返上した休日は土曜日なんでしょうか。それとも日曜日……?」
「知らん」
同時刻、銀成市に集まってきたマスコミたちも同じような地図を見て興奮していた。
果たしてこの赤い丸の境目にいけばどうなるか?
否、境目にいけばどんな物珍しい風景が取れるのか。
結果からいえば、円の外に出るとそこは普通の夕方だった。
そして円に足を踏み入れると、中天へ上りつつある朝日が見れた。
すなわち、ある境界線からばったりと時空の流れが変わっている!
では、円の境目ギリギリからその外側を見ればどうなるか。
試したマスコミたちは「おおう」と息を呑んだ。
彼らは朝日を浴びながら夕日を見たのだ。
そして円の外側から内側を見れば、夕日を浴びながら朝の銀成市を目撃できた。
「というように、ココ銀成市だけが朝になっているというこの状況、各所の懸命な究明活動にも
かかわらずいまだその原因は判明しておりません」
押倉、という名のリポーターが駅前から中継をしていた。
「なお、この不可思議な現象により銀成市経由のバス・鉄道は大幅にダイヤが乱れています」
手慣れた様子で人々の怒号が飛び交う駅へ手を向ける彼は、リポーター歴ン十年の蝶・ベ
テランである。最近では蝶野一族の失踪事件のリポートを務めたりしていた。
トレードマークは七三に分けた髪と四角いメガネ、そして鼻の下で八の字に生えるヒゲ。
159 :
永遠の扉:2008/07/10(木) 13:26:58 ID:R6cYSUVFP
取り立てて特徴はないが一部の奥様たちには「カワイイ」とそこそこ好評な押倉さんは駅前
から市街に歩を進めると、日曜休業の本屋さんがシャッターを閉めたり、逆に夕方店じまいの
床屋さんが慌ただしく開業準備に追われたりする様子をつまびらかにリポートした。
「と、市民の方々が混乱する中、ダイヤの乱れにも関わらず、市街はこの不可思議な時間変
動を一目見ようと駆けつけてきた人々で溢れています」
テレビに映るのは、人、人、人。銀成市にきてそこそこ長い防人でも、これほどの混雑は日
曜日でさえ全く見たコトがない。
続いて管理人室のテレビにお決まりの街頭インタビューが映し出された。
「どこからきたの?」。「○○から」。あまり何も考えてなさそうな若者が答えていく。
二人連れの少女が片方が諧謔を飛ばし片方が対身内特有の無遠慮な笑いで突っ込む。
そんな一連の様子に防人は、やや呆れた表情を浮かべた。
(あれから二時間ほど過ぎた。他の地域は午後六時前後だというのに、よくまぁ)
きっとマスコミのみならずどこぞの巨大掲示板でも銀成市の異変が話題に上っており、いず
れかを見た面白いモノ好きどもがテレビの大混雑を作っているに違いない。
「いいんですか戦士長。コレを放っておいて」
鋭い声は斗貴子だ。なぜココにいるかというと、この異変を一番に察知して病院を一時退院
してきたからである。防人の許可も降りている。それだけ斗貴子は度を取り戻している……
「危険が生じていない以上、彼らは避難を促しても聞かないだろう」
戦士は基本的に後手なのだ。例えばL・X・Eが銀成学園を狙っていると知っていながらも、
生徒たちをどこかに避難させるという「先手」を打てなかったのが以前の戦いだ。学校に網を
張ってホムンクルスが出るのを待ちに待つのが基本的な戦法だった。
「それもそうですね」
斗貴子は頷くと、湯飲みからお茶をすすった。
(一体キミに何があったんだ?)
防人は困ったように彼女を見た。ささくれだった様子がすっかりナリを潜めている。
「とりあえず街には今のところ異常はないわ。時間の流れ以外は」
瞬間移動してきた千歳の横で、根来も低く呟いた。
「なお、既に総角主税たちは移動済み」
160 :
永遠の扉:2008/07/10(木) 13:28:42 ID:R6cYSUVFP
「……また音を頼りに追跡できないか?」
「先ほどは戦いの音……例えば凄まじい大声や打竹の爆発音、光線が爆ぜるような大きな音
があればこそ。今は私の追跡を警戒したらしく、気配は微塵も」
「やはりお前の耳でも、全く音を立てない相手を追跡するのは難しいか」
実は総角がアンダーグラウンドサーチライトを入手したと知ったその日にも根来は傷を押して
探索に出向いていた。が、それらしい成果は上げられなかった。
そういう苦い経験を思い出したのか、防人は軽く頭を撫でまわした。
「弱った。核鉄がこちらに戻りはしたが、戦うべき相手がいないとなると、ココで網を張るしかな
いのか? しかし、そうすると戦士・秋水がどうなるか……」
「防人戦士長。心配の必要は消滅しましたが、いかがします」
のっぺりとした白い顔を崩そうともせず、根来は無造作にテレビを指さした。
『六対一をしてくれる人募集中』
防人は汗を垂らし斗貴子は面頬を軽く震わせ、千歳は片眉を跳ね上げた。
「河合さんが教えてくれた部屋の張り紙にも同じ字があったわ」
一対いつの間に配置したのか。
ニワトリの描かれた看板が、画面の向かってやや右にさりげなく映っている。
しかもその脇にはこう書かれた張り紙さえあった。
『早くしないと……分かりますね?』
「私は特異体質で……姿を自在に変化させられます」
人混みに中でぼそぼそと呟く声があった。それは誰にも聞こえないほどの小さな声。聞こえ
たとしてもすぐ喧騒に飲まれるほどか細い声。
「フ。今までの連中は、有利な部屋をアンダーグラウンドサーチライトで作れたが、鐶は違う」
ぎゅっと白い手袋をつけながら総角は呟いた。
その彼の足元には長方形の板が規則正しく敷き詰められている。あたかも剣道場のような
そこには声がぽつぽつと響くのみでうら寂しい。
「鐶は姿も年齢も服さえも変幻自在。人が密集している場所でこそ真価の一つを発揮する。そ
う、服とて実は羽毛の変形。ちなみに色は色素色や構造色で調整している」
161 :
永遠の扉:2008/07/10(木) 13:30:39 ID:R6cYSUVFP
そも、鳥の羽毛には大別して四つの機能がある。
1.光や乾燥、摩擦など、外部の刺激に対し皮膚を保護する。
2.飛行器官としての重要な役割
3.体温調節。
4.外観表現。 (どうぶつ社刊 「鳥の生命の不思議」より)
2以外はこれまさしく人間にとっての服と同じ。4などは髪型と共通する要素もある。
だから鐶が、その素肌から生える羽毛を操り服にしても、鳥の生物学的見地からすれば取
りたてて異常ではない。服を特異体質によって換装しても、普通の人間でいう
「髪型を変える」
ような気軽ささえあるだろう。そしてそんな彼女がわざわざ羽毛を引っ込め、沙織の制服を着
ていたのは、着替えや入浴といった日常の行為を普通に行うためである。事実彼女は、ヴィク
トリアと浴室で遭遇した時は一糸まとわぬ普通の裸体であった。
「フ。年頃の娘が物理的にはほぼ裸で街をうろつくのはぞっとしないな。だいたい、基本的にア
イツはいつもそうだからなあ。俺がたしなめてもちっとも聞き入れない。香美でさえ貴信のいい
つけで嫌々ながらもちゃんと服を着ているというのに」
やれやれと総角は視線を下げた。その先に転がる秋水に、目覚める気配はない。
「何はともあれ、地上は奴に任せておけば何とかなるさ。……仮に負けても、な」
斗貴子、防人、千歳、根来の四人はテレビで見た場所へ到着した
「此処で間違いない。そしていうまでもないと思うが」
根来が看板を顎でしゃくる横で、千歳も頷いた。
「戦士・秋水のいる総角主税のアジトの場所を聞き出すには、彼女に勝つ他ないわね」
そういう点では鐶の呼び出しは渡りに舟だ。
「ところで戦士長、その恰好はなんとかならなかったんですか?」
一方、斗貴子は背中を曲げてひそひそと防人に囁いていた。
「ん? 変か? ただの戦闘準備だが」
彼は銀に輝くコートで全身を覆っていた。もちろんコレはシルバースキンという、絶対防御を
誇る武装錬金……とはもはや描きつくした感さえある。
しかし市街からこの時間騒動に引かれやってきた人間たちには防人の姿がひどく新鮮で奇
抜な物に映ったらしく、或いは囁き或いは笑っている。
162 :
永遠の扉:2008/07/10(木) 13:32:18 ID:R6cYSUVFP
.
「なんだアレ。だっせえ!」
「雷門前にいた蝶々覆面ぐらい変!」
「今どきジェヴォーダンの獣のコスプレかよ!」
かかる声は侮辱の割合がやや多い。しかし斗貴子は怒っていいかどうか判断に悩んだ。
(だいたい、コレ(←防人の姿)は擁護の仕様がない)
苦渋満面でこめかみを押さえる斗貴子の耳にピラリンピラリンと響く音があった。携帯のシャッ
ター音だ。きっと後日どこかの掲示板で防人の画像があげられて「ああそれ、銀成市名物の
一つ」とでもいわれるのだろう。
「お前たち」
命運を知ってか知らずか、ようやく銀成市名物の一つは群衆に向き直った。口調は格好に反
比例して非常に厳かである。人波がザっと引きさえしたというから、迫力は押して知るべし。
(ほら見ろ。あまりフザけるからだ! 大体キミたちは事態の重要性も知らず──…)
「俺を選ぶとはブラボーだ。いいぞ。写真なら遠慮せずじゃんじゃん撮れ!」
底抜けに明るい声がジャケットの下から飛びだした。
「戦士長!?」
斗貴子は肩や髪を逆立たせながら叫んだ。口から飛び出るのは絹を裂くような絶望である。
一方、群衆は思わぬ防人の好感触に活気づいたらしく、シャッター音はいよいよ激しくなる。
ポーズのリクエストさえ飛び出し、防人はそれに応じ始めたりしている。彼はこのノリの良さ
をして、どこかの掲示板で神と崇め奉られるコトだろう
(くそう。戦闘前なのに緊張感のない。敵はすぐ傍に迫っているかも知れないのに……)
斗貴子はガクリとうなだれた。しかしその肩に手が乗った。見れば千歳が知性漂う美貌で窘
め始めている。
「落ち着いて戦士・斗貴子。防人君はわざとああしているの」
「我々が見るべきは防人戦士長に意識を向けていない者。不意打ちを目論むのならば」
斗貴子はハッとした。
「そうか。絶対防御のシルバースキンを装備した戦士長より先に私たちを狙ってくる──…」
彼女から群衆の喧騒が途切れ、異様な緊張感が細い肢体に満ち始めた。
「キラキラ光って綺麗な人……! 後で無銘くんに……見せないと……!!」
一方、鐶はやや興奮気味にデジカメのシャッターを切っていた。
ブログ書いたら、もう一個かけ持ちできそうなバイト探してきますノシ
>>146さん
ああいう身近な感情は描いてて心地よいですね。かつて「あばれ天童」の青春臭さに感動し
た自分なので、まだ社会にスレてない純粋な少年は大好きです。いや、性的な意味でなく。
だから一度、バトル一切なしのお話も描いてみたく! 第一章終わったあとぐらいに。
>>148さん
一度作ってみたいです相関図w 時間ができたら、ですが…… 小札はともかく香美はなん
とかキャラを立てれたので、次は鐶を頑張りますね。キャラを出す以上、どこかに見どころ
とか魅力がないと可哀相。それはもちろん、第二章のキャラも同じく。
>>149さん
忍法帖の魅力は、多くても上下巻で世界観とお話が完結するところにあります! だから
テンポよくサクサクと進み、古い作品ながらに今読んでも面白いですw で、ココからは長
らく出番のなかった斗貴子さんたちがメインになります。ボス前だから景気よく行きたい所。
>>150さん
街の色々を巻き込んでビルとか吹っ飛ぶ戦いになったらいいなあ、と思っておりますw
ふら〜りさん
ありがとうございます! 本当、日本語というのは語彙が豊富ですね。「坂の上の雲」と
か「翔ぶが如く」とかの情緒は素晴らしい。なお、銀成市全体の年齢操作。こちらはプロッ
ト上の矛盾を解消するための偶然の産物なんですが、これはこれでなかなか。
前回から
「……良いんだぜ、オレは。無性に今暴れたい気分なんだ」
単騎でありながら、トレインは一睨みで候補生達を射竦めていた。
向こうの頼みは銃の一挺、しかし誰一人仲間や武器を頼りに出来ない。
「…武器を捨てなさい」
「撃てって言ってんだろ。このデカブツと一緒に殺してやるぜ」
トレインの目が鋭くなるのを止めて猫科猛獣の様に見開かれる。
これは怒りではない、瞼が視界を削るのを防ぐ為だ。つまりそれは、完全に戦闘状態に入った事を意味する。
リオンやアウトラウンド達がそれに気圧される中、しかしセフィリアも怪物も鉄面皮であり続ける。
「―――…一つ、言わせて貰うが」
怪物が、朗と響く声で緊迫に一石を投じる。
「俺達ははっきり言って、貴様らの喧嘩などに付き合い切れん。それほど暇な身体でもないのでな」
そう言ってゆっくりと、砲をトレインへと向ける。
同時に、彼の殺意とアウトラウンドの照星が一斉に怪物へと向く。
「ほう……一番に死ぬのはお前か」
「動けば撃つ」
「あの森でオレを撃ったろうが。……まさか今なら当たると思ってんのか?」
「お前に当てる事は不可能だ、ましてこうも開けていてはな」
トレインは全く動じない。しかし寧ろ追い詰められた筈の怪物もまた動じない。
「だが………お前の向こうの親子には当たるな」
トレインの言葉が、一気に止められた。今更になって、怪物とトレインを繋ぐ一直線上にマリア達が居る事を痛感する。
怒りや殺意も消えぬものの萎縮し、まるでカードを裏返した様に一瞬で追い詰められてしまった。
しかも運が悪い事に、この会話が遠すぎてマリア親子やリンスに届いていない。仮に警告すれば、この怪物はその時砲を放つだろう。
「てめえ…」
「クロノスも動くな。もし俺に撃たせたら、黒猫と完全に敵対するぞ?」
アウトラウンドの銃口が震えて止まる。だがそれでも、セフィリアだけは静かに繊手を掲げる。
それが示す手指信号は、『射撃用意』だ。
「――――セフィリア!!!」
「安心なさいハートネット、これは単なる保険です。私ならこの男に撃たせる前に斬れます」
空いた手が、す、と腰の佩剣に添えられる。
「…出来るのか? 貴様の位置は黒猫より遠いぞ」
「簡単な事です。一で両腕を斬り、二の前に両足を落とし、至る頃には両肩の二人も死なない程度に斬っています。
…………嘘とお思いでしたら引き金をどうぞ。すぐにでもご覧に入れましょう」
怪物のセンサーアイが、彼女の豹の様にしなやかな筋肉の挙措を捉えた。
呼吸は深いが一定、重心は気取られぬ様微かに前傾を保ち、脱力した筋肉はそれゆえの素早さを雄弁に物語る。
こうしている間にも、瞬き一つで跳んで来るだろう。
だがその結論を前に、怪物の唇から、くす、と苦笑が洩れる。
「止めておけ、徒労だ」
「……まさか…私に勝つ手立てが有るとでも?」
「……CT−WXを知っているか?」
緊張に空気が軋む中、妙な話が切り出される。聞き慣れぬ単語にセフィリアとトレインは眉を顰める。
「非公式に製造された軍用爆薬だ。爆発力は小さいものだが、発生熱量がずば抜けて高い。
並大抵の金属でも瞬時に気化する焼痍能力なので、国際法に抵触して結局全面廃棄されたが」
我が身の窮地を判っていないのか、一見理解不能の薀蓄をすらすらと並べた。
「…何が言いたい?」
「此処に来た時から既に、自爆装置のセフティを解除している。それだけだ」
「…嘘、ですね」
衝撃の告白に即刻否定を応じたのは、セフィリアだ。
「タイミングが余りにも悪いですよ。それでは交渉に於いて意味が有りません」
「それはブラフだった場合だ。それに、本来は殺傷用ではなく機密保持用だ。
そして、初弾は絶対止められん。俺の腕を切断してもな」
心中の動揺に応える様に、添えられた手が微かに震えた。
「ブラフを掛けたのはお前の方だったな、セフィリア=アークス。
…云って置くがお前達の挙動は俺のセンサーで完全に把握している、判るか?
あの親子を撃つのは俺ではない、お前達が俺に撃たせるんだ。そして情報も、俺と共に二人が蒸発するのでこれも無い。
後に残るのはクロノスがもう一人厄介な敵を拵えた事実だけだ。さあ、どうする?」
冷酷なまでの合理性だった。全てが見えない糸に絡め取られ、二人が頼みにしていた戦闘をこの怪物は全くさせないで居る。
何より恐ろしいのは、怪我人を抱えたまま囲まれても一切恐れを見せず逆に追い詰める冷徹さだ。
「俺を逃がせば誰も死なずに済む。しかし、撃ったが最後死体と禍根を大量生産する事になるがな」
スヴェンが口を挟まないのは、彼にも手の打ち様が無いからだ。
何が起こっているのかようやく気付いたリンスだったが、彼女もやはりどうする事も出来ず歯噛みするより無かった。
この怪物、戦闘力ではトレインとセフィリアに及ばなくとも、それを補って余りある身体能力と直感力が有った。
「…まずは黒猫、クロノスの尖兵共に銃を下ろさせろ」
「……何でオレに言う」
「決まっている、其処の女が今にも俺を撃たせようとしているからだ」
――――言葉を聞くや、セフィリアに目を向ければ確かに彼女の手は先刻の形を維持したままだ。
「何やってるセフィリア! 早く銃を下ろさせろ!!」
アウトラウンド達も下ろしたがっている、しかし彼女は構う事無く状況を静観している。
「成る程。一足で跳んで来るのは可能だとしても、それで俺を止める自信は初めから無いか。
嘘はいかんな、頃合いを見て引き下がらんと引き下がれなくなるぞ」
淡々とした言葉が、少しずつ落ちるギロチンの様に場を鋭く追い詰める。それを皮肉にも、先刻から全く不動のセフィリアが
証明していた。
「…はっ、自分で自分を追い詰めやがった。どうしようも無え大人だな」
怪物の肩に座る少年が、美女を皮肉った。しかしそれが正鵠を射ているのは言うまで無い。
「下ろせって言ってんだよ、セフィリア!!!」
遂にトレインの銃が彼女に向いた。怒りに震える銃口が、爆発寸前の活火山を連想する。
アウトラウンド達も泣きそうだったが、上司の指示では動きようが無い。
「……頼む姐さん、銃を下ろしてくれ。ただじゃ済まん数の死人が転がる事になるぞ!! 頼む!!!」
スヴェンさえも痺れを切らして懇願する。その胸のイヴに到っては、眼差しはすでに憎悪の域だ。
「―――お嬢!!」
セフィリアの背後から聞き慣れぬ男の声。彼女の部下であろうが、強そうな外見と裏腹にその貌は蒼白だ。
「お願いです、ここは堪えてやって下せえ!!! どうか、どうか!!!」
ナイザーも部下の前だと言う事も構わず土下座で頼み込む。事態は其処まで切羽詰っているのだ。
「良かったな、初めに言ったとおり場を支配しているのはお前だ。さあ、撃つな殺すなと好きにすれば良い」
どちらでもいいぞ、と暗に匂わせて怪物の微笑。
蝋人形の様に固まったセフィリアからは何も読み取れない。それだけに空気が軋んでいく、定動か決壊かを求めて。
深海の様な重苦しい時間がじりじり刻みで過ぎ行く。だが緊迫は岩山の様に其処にある。
最早呻き声一つ零れない、程度の差異こそ有れ誰もが彼女の采配に一つの結果を願っている。
「…いいでしょう」
場、よりも一斉に皆の胸中がざわめく。
挙げた手を横に払うと、ようやくアウトラウンド達が銃を下ろした。何人かはへたり込む者さえ居る。
「この場は貴方に譲りましょう、早急にお行きなさい」
静か、ではあるがアクセントに微量な苛立ちの棘。葛藤が故の結果だった。
「その程度には人間だった様だな、感謝する」
怪物の砲口は今も狙うきりだが、その返答に緊張の色は無い。
トレインも何か言いたいが、今現在には何であろうが蛇足であり、仕方なく複雑な感情を噛み殺す。
世は無常だ。強ければ強いほど、自分の無力を痛感する。
169 :
作者の都合により名無しです:2008/07/10(木) 14:07:35 ID:CFOMxorr0
NBさん制限かな?今から仕事に戻らないといけないので
跡でゆっくり読みます。
鬼平さんお帰りです!
「―――おい!!」
爆ぜた声に皆が注目すれば、それは肩に乗った少年のものだ。しかも場の全てに投げ掛けられた声ではなく、スヴェンと共にいる
少女へと向けられたものだ。その証拠に、彼には彼女しか見えていない。
「どうだ!? これがお前が守るとか何とか言ってたモノの正体だ!!
こんなモノの為に其処までボロボロになる価値が有ったか!? 命を賭けるだけの理由が有ったか!?
……無いな! 絶対に無い!! お前はオレが殺す必要なんか無い、絶対こいつらに殺される!」
二人の間に何が有ったか判らないが、怒りと確信に満ちた弾劾は少女のみならずクロノス勢をも責め立てた。
「理由が無いか? いや、有るね。邪魔だと思うとか、寝返る可能性が有るとか、居ない方が都合が良いとか…
もしくは、そうだな………理由なんてどうでも良いが、とかな。
オレは予告するぜ。其処≠ノ居る限り、お前は後ろからも狙われる。そいつらはお前がどれだけ血を流したって有難うなんて
思わない。そいつらにとってお前は、ただのゴミか役に立つゴミかのどっちかだ。恩なんて絶対…!」
「其処までだ」
少年の長口舌を、定番の様に怪物が抑え込んだ。
「もう止めろ、これ以上は暴発させるぞ」
砲を構えたまま半身に引く。目の前で悠々と去りゆくこの件の実行犯達を見逃すのは誰であれ悔しい話だが、どうする事も出来なかった。
圧倒的優勢であるのにこの二重三重の敗北感、少年と怪物は期せずして彼らを敗北させていた。
「……全て丸く収まって何よりだ、それでは今度こそ失礼する」
話しながら、す、と上を見上げる。
―――その頃、クロノス本部オペレーティングルーム。
無数のコンソールに向かう同数のオペレーターの一人が短い悲鳴と共に席を立つ。
「…? ちょっと何? どうしたの?」
脇の先輩オペレーターが彼女の様を訝しむ。
「い、いえ……先輩、その…これ………」
彼女の受け持ちは衛星画像だった。だが今は、人工衛星から送られて来た画像を見る目に僅かな恐怖がある。
一体何かと思い、手を止めてそれを覗き込むと……
「……こいつ、見えてますよね……こっち…」
其処には俯瞰視点の怪物が映っていた。但しその顔だけは画面の向こうから睨む様にこっちに向いている。
仮にそうだとしたら、あらゆる偽装処置を施した世界最高レベルの人工衛星を地上で発見した事になる。
そしてその存在でも確認したかのように元に向き直り、
「今の内しか機会が無いので名乗っておく。
俺は星の使徒所属、汎用機甲化部隊『コンツェルト』総司令機、通称ファルセット。
今夜は雑兵どもをけしかけて済まない事をした、いずれは俺の本隊をお目に掛けよう。そしてその時は、俺もこうして逃げる事無く
正々堂々会い見える事を約束する。では、さらばだ」
と、同時に光学迷彩を起動させて―――…ずん、と響く激しい音。恐らくは宙に舞った。
セフィリアが目で追うと、形明らかならない塊が凄まじい速さで民家の屋根まで上り瞬く間に消える。
「急いで奴を追いなさい!! 全監視衛星を追尾モードにして、後詰めの部隊にも通達を…!!!」
だが、応答したオペレーターの声は泣きそうなほどだ。
『ダメです! 光学迷彩だけでなく多分何か別の機構も仕込まれてます!!
衛星が奴を画像で認識出来ません!! 各種センサー類も全部です!!! もしかするとガイストシステムの可能性も…』
―――ガイストシステム。またの名をコンプリート・ステルス構想。
未だ構想段階でしかない、この世に存在するあらゆる軍事的センサーを欺く完全な隠密機構だ。
これを見破る方法は動物的勘∴ネ外に無い。何しろ人間の五感すら欺く対象なのだ。
「………クリード…」
珍しく、声にほのめく怒りの温度。
かつて近しかった男は、次々ととてつもない怪物を作り出していた。
道、サイボーグ、そしてガイストシステム。どれもクロノスで現在技術化不可能の判を押されたものばかりだった。
悔しがってももう遅い。しかし失策でも驕慢でもない、クリードが想像を超える怪物で、あの怪物が想像以上に上手いだけだ。
ベルゼーに続き、彼女もまた深い敗北を噛み締めた。
……一応断っておきますが、このSSの軍事知識の多くには創作も含まれております。
なので「これでこう有ったじゃん!」とか自信満々に言わない事をお勧めします。
作者の様に民明書房刊を信じ切って醜態晒す事になりかねません。
だからS君、高校の頃真氣虎魂について言い負かしてゴメン。あれ、大嘘なんだ。
と言う訳でNBです皆さん、今日はこんにちは。
さて今回注目すべきはファルセットです。
今までも名前をちょろちょろ出して来ましたが、ようやくちゃんと名乗れて本当に良かった。
何時までも「怪物」では俺自身が上手く把握しづらかったので、これから大々的に使えてえがったわ。
彼が率いる部隊「コンツェルト」ですが、彼も含めて一応ネーミングにはそれなりの意味を持たせています。
ついでに言うと、クロノナンバーズの武装とかコードネームにも俺センスのネーミングをつけているので
引かれないか今から心配ですね。
ま、他の皆さんのようにイカスモノが出来ればこれ幸いですが。
一例として、さいさんの「インヴィジブルサン」…みたいなのとか、スターダストさんの
「ブレーメンタウンミュージシャンズ」…辺りが個人的にツボです。
てな訳で、俺にしては珍しく長々と今回はここまで、ではまた。
なんか急に盛ってきて嬉しい。
鬼平さんお帰りです。
>仮面奈良ダー
前回から1年近く経ったんですか・・。本当にお帰りなさい
変態仮面でも下半身はネタにしなかったと思いますが、奈良だからねw
第一話というからには続くのでしょうか?お下劣なのを期待してますw
>永遠の扉
円の中と外で時間の流れが違うというと、リメンバー13を思い出すなあ・・。
秋水+トキコたち、で戦力は十分ですがなんか全体的に不安な感じ。
ブログで研究されていた鳥の情報をここで使われましたねw
>AnotherAttraction BC
セフィリアは凛々しくてかっこいいけど、この場は完全に負けですな。
なんか怪物の方が大物っぽく見えてちょっと悔しい。
ファルセットというキャラがこれからもどう物語を引っ掻き回すか楽しみ。
>高校の頃真氣虎魂について言い負かしてゴメン
どんな嘘ついたのかw
えらい久しぶりだなあ、鬼平さん
変態仮面とか俺にとってツボだw変態仮面+奈良って最悪だなw
スターダストさんは絶好調ですな
ラストバトル寸前みたいな雰囲気もありますが、まだ半分ってとこですよね?
NBさん、セフィリア姉さんをかっこよく書いて下さい
このまま負けっ放しはイヤ。いっそクリードを斬ってもらってもいいやw
パソコンが急に起動しなくなり今まで書いたSSがすべてぶっとびへこんでいたのですが
ここの保管サイトのおかげで穴を補うことができました。
ありがとう!保管職人!ありがとう!
なかなか続き投下できず申し訳ないけど
未完のまま保管されるのは申し訳ないのでもっと頑張るよ。
へたっぴなSSでも俺には宝物なのさ。
本当にありがとう保管職人。
NBさん復活おめ
まだまだ続くと思うのでセフィリアたちを活躍させてください
>>175 誰か知らんけど復活お待ちしてます
177 :
作者の都合により名無しです:2008/07/11(金) 01:00:23 ID:C/kJUK9i0
>>175 誰だか知らんがゴートさんとスターダストさんに感謝すべし
多分、お2人のうちどちらかが保管してくれたと思うよ
鬼兵さんの復活は個人的にうれしい
変体仮面好きだしな
NBさんやスターダストさんみたいにちょくちょく書いてほしい。
part6
「あぁ!もぅ!なんでこんなときに星矢も紫龍も氷河も瞬も一輝も邪武も那智もいないざんすか!
シャイナさんとあたしの二人きりでどうにかするなんて無理無茶無謀の三重苦ざんすよ!」
泣き言言いながらもキッチリとマスクの男たちをなぎ倒していくのが、市のこの四年の濃密さを示していた。
ライトセイバーで切りかかる男をかわし、すれ違いながらわき腹に毒爪を打ち込む。
男はびくりと震えると、のけぞり、そのまま倒れ爆発した。
「ぬぁああ!もぉおおぅ!ショッカーの戦闘員じゃないんざんすからぁあああ!
一撃もらっただけでぇえええ!爆発なんてするんじゃないざんすぅうううう!
盟はどぉおくぉで油うってるざんすかぁああああ!」
しかし、市に余裕はない。
同時多発的に聖域に侵攻してきたこの一団、その戦力たるや聖域雑兵に比肩する程なのだ。
辛うじて身体能力の点で勝るがゆえに持ちこたえてはいるものの、
聖衣を纏わぬ彼らには、聖衣を纏う正規の聖闘士ほどの耐久力も持久力もない。
雑兵と呼ばれる悲しさだ。
長期戦の可能性が存在する現状、損耗は少ないに越した事は無い。
そういったどこか怜悧な部分以外にも、この四年の苦楽を共にしたという事実が市を否応無く焦らしていた。
今聖域にいる「戦力となり得る」聖闘士はわずか四名。
青銅聖闘士・海蛇座ヒドラの市、同・蛇座サーペントのガイスト、白銀聖闘士・蛇遣い座オピュクスのシャイナ、
そして白銀相当位聖闘士・髪の毛座コーマの盟のみだ。
無論、これが常態というわけではない。
通常、黄金聖闘士の貴鬼・アドニス、または神聖闘士の瞬ないし紫龍が常駐しているのだが、
現時点では軒並みそろって外部任務中なのだ。
市の同僚であり、親友の邪武はアテナ城戸沙織の護衛の為に日本、
那智は貴鬼不在の為にジャミールへと修復済み聖衣を回収しに出向中という有様。
ギガースの裏切りを未だ知らぬ市には、まさか内通などとは夢にも思わず、
この不運をもたらしたモイライ(運命の女神)に向かって盛大に文句を付けていた、胸中で、だが。
「イチぃ!あたしを忘れるな!このモヒカン蛇!」
少女らしい甲高い声を仮面の下からあげ、市に突っ込みを入れつつ、
文字通り蛇じみた軌道でライトセイバーを振り上げた男を中空へとブン投げ、
鞭のような打撃で撃破したのは、シャイナの弟子、青銅聖闘士・サーペントのガイストである。
「無駄口叩くな!」
鋭い叱責と共に雷光が地を走った。
雷光に打たれた戦士たちは、一瞬のけぞり、そしてそのまま爆散する。
シャイナのサンダークロウだ。
その一撃でその場の戦士たちと雑兵たちとの数が逆転した、
雑兵などと言われていても、決して彼らは弱くは無い。しかし、聖衣を纏った聖闘士は強い、過ぎる程に強い。
聖衣ひとつで、そこまでの差が開いてしまうのだ、それが教導者としてのシャイナにはたまらなく悔しい。
かつての弟子カシオスが天馬星座の聖衣争奪戦に敗れて以来、シャイナを焦す想いだ。
「ホラ!次だ!急ぐよ!
アンタたちもしっかりしな!聖衣なくともアンタたちも聖闘士なんだからね!」
ただいるだけで空気が変わる、そういった領域の闘気を纏い、
シャイナ一党は聖域に侵攻しつつある戦士たちをなぎ払っていた。
一箇所にとどまるには他が危うい、かといってこの三人を分散させてしまえば、各個撃破の憂き目に会いかねない。
結果、シャイナたちは遊撃部隊として聖域中を駆けずり回る羽目になっていた。
せめて、瞬の弟子たちが聖域にいればまだここまで負担にはならなかっただろうが、
ないものねだりをしたところでどうしようもない。
次の為の今、シャイナらしさの表れともいえる行動である。
しかし、銀に鈍く輝く仮面の下で密かにシャイナは焦っていた。
わずか四名、一人討たれればそれだけ四分の一が減る。
シャイナは、焦っていた。
いかなるときも己の信念を曲げない。
確かにそれはすばらしい事だろう、しかし…。
「さて、盟よ。
ひとつ提案があるんじゃがの」
盟は苦悩する。
今ここでこの薄汚い裏切り者を殺すことはたやすい。
だが、この襲撃の内容を知るだろうギガースを殺してしまえば、裏が見えなくなる。
アテナの聖闘士に報復の殺戮は許されない。
アテナを、城戸沙織を裏切ったという理由での殺傷は、聖闘士としての道を踏み外すことになる。
「…なんだ?ジジィ」
考えろ、盟。
師デスマスクならどうする?
師デスマスクならどうする!
師デスマスクなら…。
「ワシの拘束を解くのと」
師デスマスクなら…。
簡単な事だ、とても、とても簡単な事だ。
「ここで死ぬのと!
エビルクリムゾン!」
右腕ごと燃やしながら、否、己の右腕を火種にしながら燃え盛る業炎の拳。
通常の炎の朱色ではなく、色の見えない白い炎は、触れるだけで骨も残さず焼き尽くしてくれるだろう。
触れれば、だが。
「…。
戦闘中に余計な事を考えるのは、素人のすることだ。
分かっていますよ、師匠…」
師・デスマスクは苛烈な人であった。
兄弟子・ケルベロスのダンテもその苛烈さに倣った。
しかし、盟はその苛烈さの向こう側にあるものを知っていた。
苛烈なその振る舞いも、敢えて汚れて見せるのも、
その実デスマスクという男が何よりも清冽を望んだからに他ならない。
「アクベンス」
そう、師デスマスクならば、死者に尋ねる。
小気味良いぱちんという音と共に、盟の眼前の空間が真っ二つに裂けた。
その光速の一撃を避けえたのは、偶然か必然か、ギガースの燃え盛る右腕は切断され、
一撃の余波でもんどりうって教皇の間の扉付近まで転がって行った。
ふーっと長い吐息と共に、ギガースにむかって突き出されていた右腕を左手で掴み、
無理やり押さえ込むと、盟はふらりとよろめいた。
同時に、盟の聖衣の両腕のパーツが粉と砕けた。
光速の一撃に耐え切れなかったのだ。
「…め、盟!」
声と共に彼に駆け寄ったのは、さすがにニコルだった。
戦士二人の気迫にあてられたか、ヒューズは佇んだままだったが。
「来るな!ニコル!
この刺客、まだ息が有る!」
盟は苦痛を呑んだ声色で、鋭く叱責する。
彼の右腕上腕、聖衣の僅かな隙間を縫い、一本のハリが打ち込まれていた。
毒針だ。
「恐れ入ったぜ、野郎…」
そういってニコルの前に右腕を差し出す。
針の刺さったあたりが赤く腫れだしていた。
盟は、顔面の筋肉を総動員して笑ったような顔だ、しかしそれは激痛をこらえているのだと知れた。
それが今この場でどれほどニコルの、ヒューズの支えとなっているのか。
「くくく、なんという男だ…。
先の教皇にも、老師にもないぞ、貴様のような風は。
蛮勇と清風が同居しておるわ」
ぐらりと、陽炎のようにギガースは起き上がった。
「恐れ入ったよ、光速拳とはな!
なるほど、確かにお前の師は光速拳をもってしても名の知れた男だったが、
ただの糸使いではなかったという事か!
白銀風情と侮ったわ、くくくく」
「俺の聖衣がランク外なのは知っているだろう?
何をいまさら言いやがる。
この聖衣が相棒にしてくれろと泣きつくからな」
脂汗をにじませながらも、盟は軽口を忘れない。
むしろそうやって己を奮起しているようでもあった。
「聖域史上、位階外の聖衣を纏ったものは何人もいた。
だが、貴様ほど着こなしたものは稀であろうさ…」
ひとしきり笑うと、ギガースは片腕とは思えない速度で教皇の間から逃げ出した。
「ニコル!すまん!毒で眩んだ…ッ!」
しかし、盟は追えなかった。
黄金に指をかけようかという程の聖闘士ですら苛む毒は、まるで炎のように盟の身体を焼いていた。
「たとえ貴様の小宇宙が黄金に匹敵しようとも!その毒は一筋縄ではいかんぞ!
ワシが逃げおおせるまで毒火で炙られ悶えていろ!」
畜生というつぶやきは、いったい誰のものなのだろうか。
聖域最悪と呼ばれることになる惨劇の幕が上がった。
祝・Rozen Maiden連載復活
祝・Peach Pit先生講談社漫画賞児童部門受賞
祝・聖闘士聖衣神話シリーズ神聖衣発売
祝・聖闘士星矢冥王神話ロストキャンパス9巻発売
といきたいところですが、今更感が強いのがアレですね、銀杏丸です
さてはて、ついに聖域侵攻。ここまでくるのが長かった…
序盤の山場です。聖域の主要メンバーはみんな不在、まともに戦える連中はわずか四人
祭壇座のニコルはぶっちゃけ原作小説よりかなり弱く設定してあります、彼と邪武だと邪武のが強いです
敵は量産型アルトリウスと裏切り者ギガースと月顔さん
楽屋裏というかなんというか、この時点で聖域の雑兵とかけずっとかないと
チートみたいな状態になるのでいかんともしがたいです、雑兵ファンの方、ギガースファンの方
誠申し訳ないです。
前スレ
>>366さん
蟹座大活躍はこのSSでもですよ!
今回盟がつかったアクベンスはLCでもマニ兄貴が使っていた技ですが
首切り鋏のイメージで盟に使わせようと思っていたので、シンクロニシティにビビリました
前スレ
>>367さん
申し訳ないです、隔週銀杏丸くらいにはなりたいのですが、月刊銀杏丸というのが現状です
とほほ
前スレ
>>368さん
星矢の原作キャラって聖域側がほぼ全滅してるので
どうしてもこういうマニアックなやつを引っ張り出さないといかず…
独りよがりなものにならないように気をつけます
前スレ
>>369さん
お恥ずかしい限りです
善処します
>>ハシさん
こういうライトな百合はいいですよね、心が洗われます
次はかがみをお願いします
>>スターダストさん
更新スピードの速さにただ驚嘆です。
もうすこしスピード上げたいです、本当に…
>>流花さん
ローゼン(アニメと原作ちゃんぽん)、星矢(アニメ、小説、原作、LC、EpGちゃんぽん)、
アニメ版ハガレン、武装錬金というカオスっぷりです
ぶっちゃけ、いかに星矢勢の力を削るかに悩みますw
>>ふら〜りさん
バキスレの一輝兄さんになりたいもんですorz
実際問題、もし自分の親父が百人もガキこさえたような鬼畜と知れたら、
盟ほど苛烈じゃないにせよなんらかのリアクションを起こすような気がします
星矢キャラは苛烈にして峻厳な気性の漢がおおいのが魅力ですが
そんな硬骨の男たちだからこそ、こういった強烈な行動になるんでしょう、おそらく
では、またお会いしましょう!
おお銀ちゃんの久しぶり
星矢書いてる時の銀ちゃんが一番輝いているな
カニを頑張ってかっこよく書いてくれ
ロスキャン9月で終わると言う噂があるけどホントかな?
188 :
作者の都合により名無しです:2008/07/12(土) 07:25:06 ID:t373ryBk0
お疲れ様です
市やシャイナたちでも頑張ってる姿が良いです
デスマスクもなんか弟子の中で美化されてますな
189 :
ふら〜り:2008/07/12(土) 20:51:48 ID:TvJaC+Ju0
>>スターダストさん
そーか環はこういう子だったか。小札・香美と比べれば比較的お姉さん風味、でもボケる
ところはちゃんとボケててよろしい。長いこと戦線を退いていた斗貴子やブラボーが動き、
舞台を移して事件の質も規模も変わり、新章開始という感じですが……秋水は如何に?
>>NBさん
スヴェンの権謀術数が終わり、続いてトレインの獅子奮迅かと思いきや。こういう展開を
漫画や小説で見る度に思うのが、「これ、作者本人が同じシチュで同じ能力持ってれば
同じ勝ち方ができるってことだよなぁ」。NBさんがスタンドでも持てば凄いことになりそう。
>>銀杏丸さん
蟹のカッコ良さ(回想にすら出てないのにそう思える)、市の活躍、シャイナさんのカシオス
への思い……いつもながら、広大な星矢世界をすみずみまで愛しておられますね。オリキャラ
がちゃんとハマってるのも、その愛と確かな構成力あってこそ。二次創作かくあるべし、です。
>>175さん
今ちょうど賑やかになってきましたし、ぜひぜひどんどん、お願いしますっ。
……言ってる私は、まだまだなかなか、ですが。いずれきっと、
>>175さんとも共に!
190 :
作者の都合により名無しです:2008/07/13(日) 10:58:19 ID:3DVLWpvG0
ふらーりさんも感想増えて嬉しそうだな
鬼兵さん、NBさん、銀杏丸さんと復活続いているし
191 :
永遠の扉:2008/07/13(日) 13:25:28 ID:xSlg33djP
銀成市の中央通りのバス亭から西へしばらく行くと大きな交差点がある。
物々しいビル群の中で縦横はおろか斜めにさえ横断歩道を走らせるその広大な交差点は、
毎週日曜日の朝から夕方まで歩行者天国として開放され、市街一番の大盛況を誇る。
しかし果たして「今」は日曜日なのかどうか。少なくても銀成市にある時計という時計は午前を
指している。パソコンのような日付同伴のタイマーも「九月四日」を指している。朝日もある。
こうなるともう市民は法令や学識に基づく時間概念より目に映る光景こそが総てとなり──
だいたい、ほとんどの者は土曜日より日曜日を祈っているから──、次から次へと街へ繰り出
す始末。つられて市外の人間も中央通りにやってくる。
なし崩し的に銀成警察署も歩行者天国を解放せざるを得なかった。
以上の経緯により多くの人がごったがえする交差点に、斗貴子はやきもきした。
(あの後、敵は結局現れなかった。いったい何を考えている?)
「もしかすると……敵も写真撮影に夢中だったのかも知れないぞ。戦士・斗貴子!」
防人の憶測に斗貴子は言葉をなくし肩をがくりと下げもしたが、
「とりあえず一時間経って何も起きなかったら別の方法を考えましょう」
千歳のその言葉で何とか冷静さを保っているが、しかし来るのは物好きだけだ。
「写真いいですか?」
「ああ!」
また防人にフラッシュが焚かれるのを、剣呑な目つきで一瞥するとため息が漏れた。
(さっきは気づきませんでしたが、あの銀色の人が管理人さん……)
鐶はぼんやりと戦士を眺めていた。群衆の中からいかにも物珍しい物を見るという視線で。
(そういえばリーダーがいってました……。戦士長の武装錬金は……絶対防御を持つ銀の防
護服。顔が見えないから…………つい写真を撮ってしまいましたが、そうと気づけば)
しなやかな指が携帯電話を開きボタンを撫でまわすのを咎める者は誰一人としていない。
現代社会なら誰でもやり、どこでもある見慣れた光景である。……内実を知り得なければ。
(ありました。しかし──)
携帯電話の窓と戦士一同をきょろきょろと見比べながら、鐶は首を捻った。
(戦士の数が……足りません。残りの二人はどこに?)
192 :
永遠の扉:2008/07/13(日) 13:26:53 ID:xSlg33djP
防人、根来、千歳、そして斗貴子。交差点に来ているのはその四人だけである。
(……とにかく、まずは管理人さん以外の人から無力化します。警戒すべきは管理人さん……。
私が寄宿舎にいながら最後の割符を奪取できなかったのは、常にあの人が肌身離さず持ち歩
き、手の出しようがなかったから──…)
中天に上りゆく陽光が高層のビル群に眩く反射し、蟻粒のような人の頭が交差点を流れゆく。
斗貴子が目を光らせ探しているのは鐶光という変幻自在のホムンクルスただ一体。
なのに交差点の人波はいよいよ濃くなってくる。
「おい、スゴい写真撮ったぞ! 見るか!?」
無遠慮で耳障りな大声を立てているのは茶髪にピアスという分かりやすい若者だ。
(戦士長の写真のコトか。まったくどいつもこいつも)
ともすれば指名手配犯さえ見逃す群衆は、すぐ傍にいるかも知れない人喰いの怪物の存在
さえ知らず「時の進んだ銀成市」を気楽に散策している。
ああしかし、その気楽な散策が戦士にとってどれほど恐ろしいか!
「なんだなんだ」
人の流れに僅かだが変化が生じた。茶髪ピアスに若者たちが好奇心いっぱいにすり寄った。
「見ろよコレ! さっき向こうに岸辺露伴がいたから一緒に写メ撮ってもらったぜ!」
「マジっすか!? こせきこうじを尊敬するあの露伴がか!」
(…………岸辺露伴? 確かカズキの好きな漫画家の名前だったような)
いつだったか「斗貴子さん、コレ面白いから読んでみて!」と押しつけてきたからよく覚えて
いる。読んでみるとかつて彼が描いた『上手いけど何か似てない』似顔絵じみた非常に濃い
絵柄のキャラが常軌を逸したセリフを吐き散らかしていて、「今時の高校生はこういう物が好
きなのか?」と非常に困惑したものだ。確かタイトルは「ピンクダークの少年」。
軽い回想に耽る斗貴子をよそに、群衆は茶髪ピアスにすりより彼の携帯電話を覗き込んだ。
「うわ本当だ。むかしジャンプの新年号の表紙で見たとおりの顔だ!」
「しっかし老けないよなあこの人。四十歳になっても五十歳になってもこのままだったりして」
「な、な。やっぱり蜘蛛喰ってたか?」
「ところで何でジャンプの表紙に漫画家の顔が載らなくなったんだ?」
193 :
永遠の扉:2008/07/13(日) 13:28:00 ID:xSlg33djP
「……俺の好きな漫画家のせいかも知れん」
「単にデザイナーが変わったせいじゃないか?」
(気楽な物だな。こっちはいつ敵が来るかも分からないのに)
口ぐちに囃し立てる群衆を遠くに聞きながら、斗貴子ははあと大仰に息を吐いた。
「きっとリアリティがどうとかで取材に来たんだぜ岸辺露伴!」
「そうだよな。この状況は漫画家にとっちゃ最高のネタだし」
「な、な、まだいるのか岸辺露伴? 俺、デビュー当時からのファンだからサイン欲しい!」
「ついさっき歩道に面した店の写真撮ってたから、まだいるんじゃないか?」
「どっち?」
「あっち」
茶髪が西方を指さした瞬間、群衆がどっと動き始めた。
……交差点の角にいる斗貴子たちに向かって。
流石の斗貴子が「い!?」と端正な顔を歪めたのもむべなるかな。
群衆は押しあいへし合いをしながら横断歩道から歩道へと流れ込み、地響き立てつつ走っ
ていく。露伴がいたという場所へ行くには交差点の角を、戦士たちの前を通るしかなかったよ
うだ、ざっと百はある横顔が恐ろしい人口密度でばらばらと音立てよぎっていく。
(マズい! この中に敵がいたら手の出し様がないぞ!)
斗貴子は躊躇した。バルキリースカートを発動するべきか否か。特性こそ精密高速機動で
はあるが、しかし走る人混みの中でただ一人の敵を刺し貫くコトなど不可能に近い。
いや、そもそも敵が紛れているかどうかも分からない。その事実が斗貴子を懊悩させた。
轟音鳴り響かせる戦車のような一群の行く手で軽い悲鳴が上がり、通行人が歩道脇の建物
へ潰れたカエルのようにヘバりつく。
やがてドス黒い塊と土埃とそれが織りなす足音の協奏曲が遠ざかった時、それは起こった。
「な、なにコレぇ!?」
聞き覚えのある、しかしどこか変調をきたしている声が斗貴子の耳に届いた。
「……やられた。やはり人混みに紛れ、すれ違いざまに斬りつけたらしい」
呻く防人の眼前で、千歳がおろおろと自分の腕や長い後ろ髪を眺めている。
おろおろと。そう、冷静沈着の筈の千歳が、「おろおろ」と。
大きな瞳を気弱そうに見開き、二本の三つ編みを揺らして。
再殺部隊の制服を心もちブカつかせ、手の甲を……横一文字にばくりと斬られ。
194 :
永遠の扉:2008/07/13(日) 13:29:06 ID:xSlg33djP
千歳は……十八歳当時の千歳は、「どうしていいか分からない」、そんな表情で佇んでいた。
(……一撃で胎児にしたかったですが走る人混みに紛れていては難しい……です)
岸辺露伴を探す群衆に気取られぬよう、鐶は血のついたキドニーダガーを軽く振った。
(私の武装錬金は斬りつけた物から……年齢を吸収するコトもできます。斬りつけた深さに……
比例して。今の傷は八年分の深さ……)
「落ち着け戦士・千歳。奴の武装錬金の特性が年齢のやり取りだと既に話している筈」
と根来がいうのは、恐らく秋水敗北直前に鐶自身の独白──「特性は年齢のやり取り、です」
──の聞こえる場所にいたせいか。といっても彼の聴覚は飛び抜けているから、声が聞こえ
る場所といっても加勢するには非常に遠かったと見える。
「き!! 聞いてるけど無茶苦茶だよこんな能力っ! 使える人はヘン! 絶対ヘン!」
一方、千歳は悲鳴のような声を上げて抗議するとぐすんと涙を浮かべて防人を見た。
「どうしよう防人君。元の姿に……戻れるかな」
「あ、ああ。奴さえ倒せば武装解除によって戻れる筈」
哀願に濡れそぼる大きな瞳に防人はやや上ずった声を漏らした。長い付き合いだから昔の
千歳がこうだとは当然周知だが、現代の冷静なキャリアウーマンからいきなり戻られると混乱
もやむなしだ。
(確かに攻撃は予測していたが、こういう搦め手は予想外だ!)
斗貴子は歯ぎしりした。
年齢操作で銀成市全域の時間を進めるコト自体、まったく規格外で荒唐無稽だ。しかも鐶は
あくまでそれを攻撃ではなく群衆への撒き餌にしたからますますおぞましい。
(「銀成市だけ時間が進んでいる」。マスコミが飛び付きそうな現象を起こして報道させ、多くの
人を銀成市に呼び込み、しかも彼らで最も混雑するこの場所へと私たちを呼び出した!)
しかも鐶自身はそこへ素知らぬ顔で紛れ込んでいる。正に文字通りの「素知らぬ顔」で。
(認めたくないが奴は考え抜いている。自分の武装錬金の特性を最大限に活かす方法を)
そして群衆に紛れて戦士の年齢を奪っていくのが彼女の方針らしい。
年齢が奪われ続ければどうなるか。
(武装錬金が使えてもいずれ創造者……私たちの方が無力な幼児にされる!)
195 :
永遠の扉:2008/07/13(日) 13:30:06 ID:xSlg33djP
戦慄する斗貴子の横で根来がむっつりと呟いた。
「大方、岸辺露伴とやらも奴が化けた姿だろう」
(携帯電話から動画サイトが見れて……良かったです)
画面を見ながら鐶は頷いた。そこには何かのインタビューに答える岸辺露伴の動画がある。
(性格も動画を参考に……ついでに人物像を検索すればだいたいは掴めます……)
大体にしてほとんど人前に現れない漫画家だ。流布する動画と顔や声さえ同じなら「だいた
いは掴んだ」程度の性格で充分である。相手もまた大まかにしかそれらを知らないのだから。
芸能人でもなくスポーツ選手でもなく漫画家を選んだのは、以上の理由なのだろう。
「くそ、もういない」
「漫画家は人嫌いだから、逃げたんじゃねーの?」
「チンピラに背中合わせて横断歩道渡ったりとかな!」
「またそのネタか。いくらなんでもそんなカッコ悪いコトする訳ないだろあの露伴が」
騒ぐ群衆の中で鐶はまた携帯電話を触った。
(騙してすみません……特に写メ撮った人。で、次は……)
(どうする? 近づく者を迂闊に斬るわけにはいかない!)
防人、そして根来と背中合わせになりながら斗貴子は軽く唸った。
「だ、大丈夫! チラっとだけど姿見たわよ私! 確か二十代前半の髪の短い男の人。だか
ら武装錬金、と。ヘルメスドライブでさっそく捕捉しなきゃ」
意気揚揚とタッチペンで楯の画面を撫でていた千歳だが、その語尾はみるみるとしおれた。
「あ、あ、出ない……。どうして?」
「落ち着け千歳。相手は姿かたちを自在に変えるホムンクルス。今ごろは別人の姿だ」
防人の指摘に千歳は「がーん!」と肩を上げひし形を作るように頭を抱えた。
「そんなぁ! この前の自動人形(無銘)の件といい大戦士長の件といいどうして大事な時に
私は役立たずなの……? ごめんなさい。本当に本当にごめんなさい」
ふぇええんと半ベソをかきだす千歳に斗貴子は歯ぎしりした。
(くそう。性格が変わりすぎだ! 本当にマトモな人間は戦団にいないのか!?)
「くしゅん」
苛立ちを増幅するように千歳は可愛らしいくしゃみをし、「?」と幼女のように鼻をすすった
それをかき消すように、地響きが近づいてくる。
群衆が再び、向かってくる──…
武装錬金には「カズキが岸辺露伴の大ファン」という裏設定があります。(2巻P86)
ハロイさんの武装錬金ストレンジ・デイズ「真紅と〜」の前編冒頭でピンクダークの少年が話題
に上っていたのでこの辺ご存じの方も多いと思います。
ちなみに岸辺露伴はるろうに剣心を「売っ払った」りしてるのでややこしい。(ジャンプSQ1月号P377)
で、鐶の武装錬金「クロムクレイドルトゥグレイヴ」は千歳の没になった武装錬金。
それを念頭に今回を読むとまた違った楽しみがあるかも知れません。
>>173さん
こういうシチュでの太陽の動きってどうなってるんでしょうかw 考えれば考えるほど分からな
いので自分はあまり考えないようにしております。数が勝る相手に正面切って戦わない鐶は
コレまでの連中とは違った手応えがあります。もちろん、鳥の知識はまだまだ出して参りますよ!
>>174さん
恐らく半分ぐらいかなぁと。残りはなるべく構成を考えて短く行けるようにしたくもありますが……
NBさん
白く整った細面に前髪がスダレのように伸び、およそ十二・三頭身……で良かったでしょうかファ
ルセット。怪物という肩書に見合わぬクレバーさがカッコ良いです。例えばハンタのユピーのように
外見が怪物でもその思考や機微というのは作者さんの人格がフィードバックされるんだなあとしみじみ。
銀杏丸さん(ありがとうございます。まぁ、描いてく内に何とかなりますよ!)
確かに原作でもざんす口調でしたが、どうしてもカイジの村岡社長がw で、殺してから聞けば
いいという選択肢、実に理にかなってますね。選択肢なんてのは他人に与えられるのでなく自
ら作り出していくものだという感じで、老獪なギガースに報いた一糸、奪った右手。何かの決め手になったら!
ふら〜りさん
既出の二人が騒がしいのと千歳モチーフのため、あんな性格にw しかし描いてると何だか描
いてる自分より考えてて大人びてきてる、そんな十二歳です彼女。ちなみにブラボーは絶対
防御あるわ攻撃力高いわで、非常にジョーカー的存在。どうしたものか。秋水については後の段にて。
197 :
作者の都合により名無しです:2008/07/13(日) 21:54:33 ID:3DVLWpvG0
お疲れさんです
普段、大人の女してる千歳が幼児化してるのが萌えましたw
岸辺露伴についてそんな設定があるとはw
しかし千歳可愛いですな。
美人だから18歳の頃は当然美少女だったでしょうが
今の千歳と性格も真反対ですね。
全く戦闘の役にはたたないでしょうけど可愛い。
199 :
作者の都合により名無しです:2008/07/14(月) 11:40:01 ID:zJIj/ud+0
この千歳から今の都会的で大人の女の千歳には
どういう道程を経てなったのだろうか
しかし没の錬金があったってことは
まだ続けるつもりだったのかなあ、和月先生
教皇庁――ヴァチカン。
その最深部で、二人の女性が会していた。
一人は青いカソックを纏ったシスターだ。
彼女の名はシエルといった。
「――久しぶりだな、シエル。元気そうじゃないか」
執務室の椅子に座っていた女性は、不敵な笑みでシエルを出迎えた。
ヴァチカンに保管されている優美な絵画がかすむほどの美貌だった。瞳には挑戦的な光が輝き、一挙一挙に自信が満ち溢れている。
だが、美しい花には毒がある。彼女は若輩ながら、教会における超武闘派組織――埋葬機関の長だった。
埋葬機関。設立から400年の時を数える、神の敵である異端を排斥し、殲滅する異端審問集団。
計八名という少人数ではあるが権限は強く、たとえ大司教であろうとも異端認定受けたものは、串刺しは免れない。
その凶暴性故に、教会内の異端として、彼女らは疎まれていた。何度もその行き過ぎた行為をとりただされ、組織存続が議論されてきた
が、現在も教会内の最先鋒として神の敵と闘争を続けている。
「ええ、ナルバレック。あなたも元気そうですね」
「おいおい、それは皮肉か? 一日中机に張り付いて、次から次へと舞い込んでくる書類と格闘する毎日なんだぞ。
……そんな生活に気が滅入っていることぐらい、お前なら分かるだろう。短い付き合いではないんだし」
「あなたは、心労とは無縁の人だと思っていましたが」
「心外だな。私も人だ。落ち込みもすれば怒りもする。最近ストレスがたまって仕方ないんだよ。気分転換に外にでも出てみようか。
アルズベリ・バレステインとか」
「協会と白翼派のにらみ合う危険な場所に、ほいほい出歩かないでください! ……まったく」
くくく、とナルバレックは意地悪く笑う。生真面目な性格であるシエルをからかうのは、ナルバレックの趣味であった。シエルは渋い顔を
しているが、本気で怒り出すことはない。ナルバレックが言ったように、短い付き合いではないのだ。ここでへたに隙を見せれば、いくらで
も付込まれることは重々承知していた。それは、とても、面白くない。
「まあ、冗談はそれぐらいにして。シエル。君を呼び戻したのは、他でもない、君の力が必要になったからだよ」
「……真祖の姫君の監視よりも、重要な任務ですか?」
「確かにそれも重要な任務ではあるが、今はもっと致命的な事態が進行中だ。
――ナチ残党どもが、動いた」
笑みを消し、真面目な表情を作るナルバレック。その態度から、事態の深刻さが察せられた。
「グルマルキン・フォン・シュティーベルという名に、聞き覚えはあるな」
「――ええ」
グルマルキン・フォン・シュティーベル。
かつて第三帝国に手を貸した、本物の魔女。人間との接触を極端に嫌う魔女の中において、彼女は異端の存在だった。
目的のためならば進んで人間に歩み寄り、契約を結び、人間に叡智を授ける。契約の代償として、彼女は混沌を望んだ。
魔女の狙いは、戦争の惨禍が産む混乱そのものだった。ナチスがヨーロッパを征服し、各国の主導権を握れば、彼女ら<闇に近いもの>の
天敵であるヴァチカンの力を削ぐことになる。パワーゲームにおいて<闇に近いもの>がヴァチカンと対等に渡り合い、ともすれば凌駕す
る。そんな世界こそが、魔女の願いだった。
知っての通り第三帝国は崩壊し、彼女の目論みも水泡と帰したが、もしも結果が違っていれば、教会と<闇に近いもの>との勢力図は一気
に塗り替えられていただろう。
シエルもグルマルキンのことは知っていた。彼女の人生を狂わせた蛇――ロアの知識に残っていたのだ。残虐にして冷酷。油断のできない
相手だ。
「旧世代の遺物が、何の間違いか半世紀の時を越え動き出してしまった、というわけだ。だが、現代に残る、数少ない"本物"だ。奴は協会の
ように神秘の秘匿など考えない。なりふり構わず、目的のためなら神秘を行使するだろう。
――そして、私たちが出向かねばならないもう一つの"理由"も存在する」
「理由?」
「奴の目的だよ。聖遺物、それも最上級レベルのモノを、奴は手に入れてしまった。――ロンギヌスさ」
かつて聖人の脇腹を貫いた聖槍。WWUで教会が回収し損ねた、奇跡の残り香。確かに、教会も動かざるを得ない、とシエルは納得した。
聖人に縁のある聖遺物は、破格の奇跡を約束する。ヴァチカンに現存する本物の奇跡を起こす聖遺物は、"エレナの聖釘"のみ。聖遺物管理
局"マタイ"も世界各地から聖遺物を収集しているが、何の力も持たない贋物も少なくない。
神の代理人を名乗る教会としては、切札はそろえておきたい。ただでさえ死徒二十七祖、吸血鬼信望者、そして休戦協定は結んでいるもの
の、油断のならない魔術協会や英国国教騎士団など、敵の数には事欠かないのだから。
「あのスプリガンがロンギヌスを警護していたようだが、グルマルキンに出し抜かれてしまったようでね。まったく、だらしのない。だが、
見ようによって好機だ。グルマルキンとスプリガン、その横合いからから掠め取り、ついでに奴らを殲滅して来い」
やはり、こうなるのだ――ナルバレックが出す指令は、ろくなものが無い。シエルは諦め混じりの溜め息をついた。
「――ええ、わかりました。気は進みませんが……」
ところで、とシエルは疑問を口にした。
「今回、埋葬機関からは私のほかに、誰が派遣されるのですか?」
「キミ以外には、だれもいかない」
しれっと、ナルバレックはいった。ふつふつと、シエルの胸中でイヤな予感が広がる。
「……ちょっと待ってください、他の埋葬機関のメンバーはどうしたんですか」
「全員出払っている。他にまかせられるものがいれば、君を呼ぶわけがないだろう。これでも苦労したんだ。なんとか君以外の人間に、この
任務を頼もうとね。おっかない猫の鈴役に、君以上の適役はいないのだから。だがいくら打診しても、だれも連絡をよこしやしない。だから
残念だけど、埋葬機関からは君だけだ」
「な――」信じられない、とシエルは絶句した。
「グルマルキンなんていう大物に、一人で立ち向かえと?!いくらなんでも、無謀すぎます。以前のように不死ではないんですから」
「だれも一人で、とはいっていないだろう」愉快げにナルバレックは唇を歪める。
「確かに埋葬機関から人員は避けんが、その代わり他の課に援軍を要請しておいた。
――さすがに話の分かる人だったよ、マクスウェル局長は」
その時、バン! という激しい音とともに、扉が開かれた。誰が入ってきたのかを確認する暇もなく、シエルは強い力で引き寄せられた。
がっちりと首をロックされ――ぐしゃぐしゃと髪を揉みくちゃにされた。
「馬鹿野郎! 帰ってたんなら、先に言え!」
「ちょ、ちょっとハインケル……シエルが困ってるわ」
嬉しげな声と、不安げな声。それは、シエルにとって聞き馴染みのある声だった。
「ハインケルに、由美子――?」
まぶしいブロンド、端正な顔立ちに浮かぶ笑みが、シエルを出迎えた。その後ろに、小さく手を振る、きれいな黒髪の少女。
――第十三課、通称"イスカリオテ"の殺し屋。
ハインケル・ウーフー、高木由美子の両名である。
「今回は十三課にも動いてもらうことになった。――教会に忌み嫌われる、鬼子同士の共同戦線さ」
埃っぽい風が老朽化した建物の間を吹き込んでいく。ニューヨークの裏路地にある建物は、どれも薄汚れている。車の排気、整備されてい
ない下水道から溢れた生活排水で汚れているのだ。ニューヨーク・スラムは広く、入り組んだ道路は体内に張り巡らされた鉄線のようだ。そ
の道路を、ダークレッドのジャケットを着た東洋人の男が歩いている。年齢が分かりづらい童顔に、小柄ではあるが鍛えられていることが窺
える、重心のぶれない身のこなし。
男は「HODSON’S INN&BAR」の看板が掛けられた酒場に入った。酒場の中には馴染みの客がいた。
「よう、ロング。久しぶりだな」
「探偵家業は繁盛してるか? ビリー・龍(ロン)」
腰にまで届きそうな長い黒髪を背中のところで一つに結い、眼帯をかけた右眼を隠すように前髪を一房流している東洋人。
清潔な黒のスーツで身を着飾っているが、鷹のように鋭い眼光からは、とても堅気の人間とは思えない。
彼は暗黒街の伝説的な凶手だった。
東洋の神秘を繰る、黒衣の大妖。
黒ずくめの隻眼の東洋人。
名をエドワード・ロング。
ちん、とグラスを鳴らした。旧友との再会を祝うような響き。ロングとビリーは、互いに一息で飲み干した。
彼らは、この暗黒街で仕事をともにしていた。やばい橋も何度も渡った。死に掛けるほどの傷を負ったこともあるし、いくつもの組織に命
を狙われたこともあった。だから相棒(バディ)を解消した今でも親交がある。
「最近ずいぶんと目にしてなかったが、いったいどこにいってたんだ?」
「なに、ただの里帰りさ。日本の酒が恋しくなったんでね」
「ははあ、ならソフィアにもあったんだな」
「てめえの頭掻っ捌いて<マクスウェルの悪魔>見せろってよ」
「おっかねえ。魔女の手にかかる前に、魔物はそうそうに退散するとするぜ」
ししし、とビリーが笑うたび、巨大な犬歯がちらつく。今のニューヨークの最新流行はヴァンパイア・ファッション。その退廃と暴力性に
魅入られた若者の間で、人口の犬歯を生やす遊びが大人気だ。彼らは牙持ち(ファンギー)と揶揄されている。
「だけどよ、なんだって今になって戻ってきたんだ? 日本ならのらりくらりできるだろーによ」
「ま、人間自堕落が過ぎると逆に体を動かしたくなるのさ」
おかわり、と空のグラスをバーテンに差し出すと、ロングは周囲を見渡した。
「ここで待ち合わせしてるんだがね」
予定の時間が過ぎても、ロングの新しい仕事のパートナーは来なかった。退屈しのぎに、ロングはビリーの話に付き合うことにした。この
暗黒街で血と暴力の種は事欠かないのだから、時間つぶしにはちょうどいい。ロングが暗黒街を留守にしていた期間は、それなりに長い――
しかし、久しぶりのホームの情勢は、特別新鮮さを感じることはなかった。それでも感慨深いものがあった。
だが、話が進むにつれ、ロングは次第にうんざりした表情を浮かべ始めていた。さっきから、延々とビリーの愚痴を聞かされ続けていたの
だ。
「近頃の若いもんはだめだ、モラルがなってない。そこらじゅうに食いカスばら撒いてばかりで、責任ってもんがありゃしねえ。誰がてめえ
らの尻拭いをやってるのか、まるでわかってねえ。おかげでゴミ掃除に追われる毎日さ。
手綱を引くドラゴネッティもだめだな。あいつらがまともだった頃は一度もないが、このままじゃフロストに組織を乗っ取られるだろう
な。そうなりゃ、今以上にここらが住みにくくなるぜ。他のファミリーの連中も辛抱強く我慢してきたが、もう限界のようだぜ。秘密協定が
あるとはいえ、こんどなんかあったら戦争になるだろうな」
「ならとっとと店畳んで、けつまくればいいじゃねーか」
「ま、それは最後の手段さ。俺はこの街のやつらを気に入ってるんでな。それこそ"喰っちまいたくなるくらいに"。だから最善はつくすさ。
愛しのホームを守るためにな」
ロングは苦笑した。彼の人間好きは、相棒(バディ)を組んでいた昔から変わらない。
「それにな」ビリーは続ける。
「実際、ここより暮らしやすい街はそうそうないぜ。生まれも育ちも関係ない。どんなやつらでも受け入れる。そりゃあ苦労はいろいろしな
きゃならんが――居場所があるってのは、いいことだよな」
ビリーの視線は、どこか遠いところへと向けられてた。追憶に思いを馳せているのか。ロングは、いまだにこの男の過去の全体像を捉えた
ことはない。大まかな素性を知るのみだ。いままでどのような人生を送ってきたのか。興味はあった。しかし、ロングは人の過去に土足で踏
み入るような趣味は持ち合わせてはいなかった。この街でよい信頼関係を築きたければ、互いの過去に対する徹底的な無関心が要求される。
それに、他人の不幸で泣く真似なぞロングには考えられないことだったし、向こうも不幸自慢するような性格ではあるまい。
「わりいな、愚痴につき合わせちまって」
ロングは肩をすくめた。何をいまさら、というふうに。
「年ィ取ると、誰だってそうなるさ」
そのとき、新たな客が店の中に入ってきた。
来客はコートを羽織った三人組だった。衣服のふくらみから、銃を携帯していることが分かる。店内に向けられた鋭い視線が、無遠慮
に店内に向けられた。その視線に気づいた幾人かの客達は、いそいそと目だ立たない席へとうつった。ここの住人は、危険には人一倍敏感
だ。
「……おいロング」ビリーが険しい顔を向ける。
「お前どんな仕事を請けたんだ。ありゃあ<トライデント>の連中じゃねえか。少し前までくいっぱぐれてた連中だが、今や我らが合衆国政
府がスポンサーについてるらしい。悪いことはいわねえ、考え直せ」
「いや、そこは抜き差しならぬ事情があるっツーか」ロングは親指と人差し指でわっかを作り、苦笑いをした。
「おぜぜが足りんのよ。ま、それ以外にも目的がないわけじゃねーんだが」
そして席を立ち、ロングは二人分の勘定を支払った。
「ま、ちょっくらいってくらあ」
片目に鷹のように鋭い光を宿し、猛禽のような笑みを見せた。
「聖なる槍を奪いによ」
かなり間が空きましたが、ロンギヌスの槍、やっと投稿できました。
次の投稿で主要な登場人物はだいたい出揃います。
さて、SSの随所に散りばめたネタ、いろんな作品からの登場人物、みなさんどれぐらいお気づきでしょうか。
あまりに多く詰め込みすぎて、自分でも何がなにやら。
でもバキスレにはグルマルキンやクリスを知っていた剛の人がいたので、けっこう気がついてくれると思うんですよね。
まあ、次々回あたりで登場人物のまとめをのせるので、そこで元ネタの確認ができると思います。
スターダストさん
らき☆すたssを投稿するのは非常に迷いましたが、結構好評のようで、よかったです。
旬が過ぎた感はありますが、息抜き程度にこれからも書こうかなあと。
ふら〜りさん
こういうほのぼのも好きなんです。バトルは書いてて楽しいですが、気力を使うんで連発できないのが悩みです。
なのでほのぼのが増えている時は、力尽きてるんだなって思ってくださいw
サマサさん
金剛番長は週間で読んでいる数少ない漫画ですので、かなり楽しめました。
メイドは好きです。でもメイド+お嬢様の関係はもっともっと好きです。
>みなみとゆーちゃんのコンビを見るとき、僕もあの眼鏡同人少女と同じ視点になります。おかしくないですよね?
全然まったくおかしくありません。むしろ正常ですよ!
銀杏丸さん
かがこなは俺のジャスティス。
……いえ、冗談です。神が舞い降りてきたら、書こうと思います。
この二人は一度書きたいと思っていましたし。
積層都市に宵闇、HELLSINGに月姫。
すでにカオスってきてるけどまだ増えるのか!
期待してますよー。
208 :
作者の都合により名無しです:2008/07/14(月) 17:09:18 ID:9Xdgr30U0
ハシさんおつ!
現スレは復活祭で嬉しいなー
登場人物もそろそろ出揃ってきて
スプリガンたちの死闘が見られるかな?
>グルマルキンやクリス
調べてみますw
スプリガン、というか皆川作品大好きなので
ロンギヌスの槍の復活は嬉しい
今回はスプリガン勢は活躍せずに淋しいけど
新キャラぞくぞくでいい感じ!
スプリガンキター!
皆川作品大好きだから嬉しい。
これでハロイさんも復活したら狂喜だなw
朧出して欲しい
212 :
作者の都合により名無しです:2008/07/15(火) 18:05:45 ID:abn0F7i50
好調な人は好調だし
鬼平さんやハシさんや銀杏丸さんも復活したし
いい感じだな
ハイデッカさんやハロイさんも復活しないかな
そこでミドリさん復活ですよ
part.7
教皇の間を出たギガースは、走りながら自分の右腕のあった場所を焼き、応急の止血をすると、
そのままアテナ神像・アテナの聖衣の方へと向かっていた。
目指すは天空神ウラヌスを切った神の武器メガスドレパノン。
神々の武器ならば、いまだ彼らの主を縛り続ける鎖を断ち切ることができるのだ。
聖戦の前哨戦ともいうべきティターン神と黄金聖闘士との戦いにおいて焦点となった際に、
その力の一端を垣間見たギガースは確信したのだ。
天空神ウラヌスを切り裂き、時の神クロノスへと王権が移譲したという事実もまた、
この武具が地上の聖域に、アテナ神像の足元に封じられた理由でもある。
アテナのもつシンボルであるニケとアイギスは、それぞれ絶対勝利と絶対防壁を意味する。
そのシンボルとさらにはゼウスの雷の力をもって神話の昔から封じ込められてきたが、
かつての戦いによってそのタガは緩んでいる。
戦闘の当事者たる黄金聖闘士は聖戦において殉教、
それを知る非戦闘者は、サガの乱に乗じてギガース自らが手を下している。
いまやその事実を知る者はギガースをおいて他には無かった。
おまけに、宝物庫ないし封印庫の番はギガースの息のかかったものばかりだ。
教皇シオンの書が紛失したのも、彼の手によるものなのだ。
先ほど盟に向けて放った毒は宝物庫からひそかに持ち出したものだ。
かの英雄ヘラクレスを滅ぼしたヒドラの猛毒と伝わるが、
おそらくはそれを再現しようと作り出されたものなのだろう。
あるいはヒドラの聖衣を作る際に作られたものなのかもしれない。
ペルセウスの聖衣にメデューサの盾が付属しているように、
製作後期の聖衣にはその星座をモチーフとした特殊機能が付属することは少なくない。
アンドロメダの星雲鎖、ドラゴンの盾、ヒドラの無限再生毒牙といったものが有名だが、
ことの詳細はどうでもいい、もはや宝物庫は空に等しいのだから。
ハルペー、アリアドネの糸玉、ネメアの獅子の皮、アルゴンコインといった至宝は
すでに本部に持ち込まれ、解析にかけられている。
本命のメデューサの瞳は宝物庫のどこにも無いことから、
アテナ神像下の封印の中ではないかとギガースは推理していた。
行きがけの駄賃とばかりにメガスドレパノンと共に手に入れることができれば、
この上ない力となるだろう。
「ギガースさん!どうされたのですか!」
火傷に血まみれという凄まじい風体のギガースを不幸にも見とがめたのは、
昨年春から教皇の間の職員となったエウロペだ。
彼女の存在にギガースは心中密かに舌打ちした、彼女の家柄は聖域内でも屈指の権門なのだ。
シオン体制下において発生し、サガによって払拭されるまで聖域の深層心理と化していた
「より強い聖闘士を生み出すことこそ至上」という悪弊に最後まで妄執していた一門だが、
その影響力は大きい。
「たいへんじゃ!賊が侵入した!
ワシもこのとおりじゃ!教皇の間も危うい!」
走りよるギガースの殺気を感じられなかったのは、
ひとえに彼女が非戦闘員であったからに他ならない。
いくら元金牛宮の従卒と言えども、実戦を知るわけではないのだ。
すれ違い様に彼女の細い首を切り飛ばすなど、ギガースにとっては隻腕であっても容易い。
「その賊がギガースだ!エウロペ!」
エウロペの首を切り飛ばすはずだった左手に強烈な蹴りを食らって吹き飛ぶギガースは、
その蹴りの主が盟でないことに気がつくと、内心胸をなでおろした。
「ユーリ!」
エウロペとギガースの声が重なる。
青銅聖闘士・六文儀座セクスタンスのユーリ、聖域天文台の観測員であり、
青銅聖闘士としての実力は最下級の少女だ。
白銀聖闘士・祭壇座アルターのニコルと同門で、彼の妹弟子にあたり、戦闘者よりも官僚よりの存在である。
そんな彼女は、黄金に匹敵する実力をもつ盟を退けたギガースにとっては、文字通り片手で足る相手に過ぎない。
「さっきの轟音聞いたでしょ!コイツよ!」
彼女とて正確に事を掴んでいるわけではないが、
姉のように慕う彼女を殺されかけたという事実が、そう早合点させていた。
実際、実行犯ではないにせよ犯人の側なのだが。
「逃げて!
盟さんかシャイナさん呼んできて!
ここは私がなんとかする!」
少女の悲壮な決意に、ギガースは口の端が釣りあがるのを押さえられなかった。
なんとも可愛い決意をするものだ。このワシをなんとかするなどとは!
「何がおかしい!この裏切り者!」
その思いがにじみ出たか、ギガースの髭に隠れた口の端がそれとわかるほどに持ち上がっていた。
「くくく、お前ごときがこのワシを除けると思っておる事よ…」
そんな事はユーリ自身が一番解っている。
口にすればおそらくユーリは膝から崩れ落ちてしまうだろう。
先程は奇襲という点もあって奇跡的に一撃入れられた、あの時ユーリは確実に急所を狙ったのだ。
それがあっさりと防がれた。
以前、アドニスがユーリに悪戯を働いたとき、彼に張り手を食らわそうとして出来なかった事を思い出す。
まるで空気を相手にしているようだった。こちらの攻撃がすべていなされ、気がつけば息を切らしていたのはこちら。
あの時と同じ感覚を、今ユーリは感じていた。
「ニコル!ヒューズさん!無事か!
無事なら俺の体を抑えていてくれ!」
大の字になった盟だが、そんな状態でも声の覇気は揺るがない。
それが装っているのか本物なのかまでは、いまのヒューズには解らなかった。
「何をする気だ?お前さん?」
ヒューズは、今自分の目の前で起こった超常の戦闘に眩暈がするのを懸命にこらえた。
話には聞いていた、聖闘士とは超常の練達の果てに、その拳で空を裂き、その脚で大地を割ると。
聞くと見るとは大違い、齢三十を超えて解っているつもりだったが、ここまで衝撃的とは思わなかった。
「瀉血、って知ってるかい?」
一般人の範疇のヒューズには判らなかったらしい。
彼は訝しげな表情をしていたが、同じ聖闘士だけにその一言でニコルは察したらしく、さっと顔を青ざめさせた。
「まて盟!今のお前じゃ星命点を突くにも危ういぞ!」
地上において最強を誇る聖闘士の肉体であるが、むろん弱点もある。
そのひとつが聖闘士がもつ守護星座だ。守護星座の形に攻撃をうければ、死ぬのだ。
しかし、適切な順序、適切な小宇宙をこめて打ち抜けば回生をもたらすのだ。
東洋医学・漢方におけるツボ・鍼灸治療に影響を与えたといわれるが、聖闘士のそれはかなりシビアだ。
「あんたの危惧ももっともだ、っつーわけで、頼む。
このまんまじゃ奴にアテナ神殿まで侵される、頼む…ッ!」
同等以上の聖闘士でなくば小宇宙が通らず、過剰な小宇宙を打ち込めば、即ち死ぬ。
「セイメイテン?」
ヒューズのつぶやきに盟は答える。
「急所、みたいな、モンです、聖闘士、の、専門用語。
ちょっ、と、痛い、から、すみません、ヒューズ、さん、俺の、カラダ、抑え、て、て、ください」
ヒューズ相手に笑ってみせようとしても、盟にはできなかった。
毒のめぐりは、ニコルの逡巡よりも早かったのだ。
盟の顔はニコルのそれよりも青くなり、ろれつも怪しい。
「たのむ…」
見る間に弱弱しくなっていく盟の姿に、ニコルは決断した。
もう、逃げるのはやめだ。
そうつぶやくニコルに、ヒューズは何かを感じたのか、顔を引き締めた。
「ヒューズさん、すみませんが盟を抑えていていただけますか?
ええ、肩だけでいいんです」
ぴぃんと空気が張り詰める中、ニコルは盟にその手を振り下ろした。
YAAAAAAAAAAAAAHOOOOOOOOOOOOOOOO
YJについに銀様登場!YAAAAAAAAAAAAAAAAHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
銀杏丸の銀は水銀燈の銀!銀杏丸です!
今回名前だけ出てきたメガスドレパノン
エピソードGのキーアイテムですが、ギリシア神話ではウラヌスの男根を切り飛ばして
神々の王から追放した武器です。形状は鎌だったそうです
中国で宮刑(宦官にする刑)に使われたのも鎌だったそうなので、
民族を問わずに鎌が去勢に使われてたというのは何かイヤなモノを感じますw
ゼウスの雷も「鎌」らしいので、この父子は似たような武器を持っていたことになりますね
ちなみに、このウラヌスの男根が海に落ち、そこで発生した泡のなかから生まれたのが
「美の女神アフロディーテ」、男好きなのもよくわかりますね♪
エウロペは僕の前作「黄金時代」でだしたオリキャラです
危うくまたオリキャラ殺すところでした、危ない危ないw
>>187さん
やや、どうもありがとうございます。
ほかの作品でもそういう評価うけたいです、日々精進…
>>188さん
美化というか、やっぱり自分の師匠なんで悪くは見れないといった感じですね
実際、自分の恩師が犯罪者になったら擁護とまでいかなくとも同情的な見方になるのは
否定できないかな、と思います
>>スターダストさん(どうもありがとうございます、今回はちょっと無理してみましたw)
いやはや、ジャンプの表紙ネタはさすがにファンとしても
引きつり笑いしか出てこないというかなんというか…
K多先生が以前イベントで写真の一件をばらしてましたがw
しかし千歳姐さん、萌えるなぁ
そういえばアニメ(OVA)だとヴァッシュと同じ声の人なんですよ、市さまはw
>>ハシさん
翡翠に宵闇に月姫にクフに、…フロストはブレイドですか?
美津里さんとか出てきたらさらにカオスw
個人的に、ハルピンの鬼姫出てきてほしいっす
>>ふら〜りさん
オリキャラ、といのは僕にとっては「作品世界のどっかにいるだろう誰か」だとおもっています
たとえば、12宮編序盤でサガがくびり殺した巨漢の彼にだって妻子ないし両親がいたでしょうし
(エウロペは彼の年の離れた妹、という設定だったりしますが)
銀成駅前のロッテリやの店長にだって人生があり、
エドワード・エルリックの実家の近所のみんなだって生活しているわけです。
桜田ジュンが引きこもってる最中に彼の家に通販の商品を届けにきた宅配便のおじさんにだって家族
がいるんでしょう
物語中、スポットライトの当たらないキャラクターがいっぱいいて、
その中の誰かに便宜上の名前を与えて作品の中に登場してもらっている。
僕はオリキャラを出すときにそう考えています
富野監督の受け売りで、実行できているかは不明ですがw
なんか生意気な事いってすみません
では、またお会いしましょう!
221 :
作者の都合により名無しです:2008/07/17(木) 01:07:59 ID:o6KpVIe80
お疲れ様です銀杏丸さん
ちゃんと前作とのつながり持たせてるんですな
意外と神話オタクっぽい感じですなw
星矢ファンってそういう人多いがw
最近銀ちゃん好調だな
星矢以外はあまり知らないけど
この好調を維持して頑張って欲しい
前作とつながりあるのか?
前のは短編読みきり連作で
こっちは長編。
銀杏丸さんのお遊びじゃね?
銀杏丸さん会社辞めたのかな
225 :
永遠の扉:2008/07/17(木) 23:45:22 ID:Y3YLpLqD0
第066話 滅びを招くその刃 其の肆」
ややあって。
交差点の一角で、もはや買い替え時期の見えた消しゴムよろしく縮んだ千歳が、天を向いて
滝のような涙を飛ばしていた。
「ああもう〜! どうして私ばっかり〜!!」
(狙いやすいからだ)
(一番狙いやすいからだな)
(貴殿はまったく以て判じ難い)
以上は防人、斗貴子、根来の順である。
群衆が行き過ぎるたび、戦士一行の平均年齢は低下の一途をたどっていた。
(以下は本来の年齢 → 現在の年齢)
防人 27 → 27
根来 20 → 16
斗貴子 18 → 15
千歳 26 → 10
※ 斗貴子の年齢は一巻ライナノートでは「17」。
ただし年齢発表時の作中時間が春先のため、誕生日(8/7)後の9/4は「18」とした。
防人が無事なのはシルバースキンあらばこそ。
「例え群衆に紛れていようと、微かな殺気を感知し避ければ済む。これぞ忍法暗剣殺。──」
といった傍から「殺気のない攻撃」で斬られたのは我らが根来。
斗貴子の手の甲には子猫にひっかかれたような他愛もない傷が数本ある。斬られてもその
瞬間身を引いて年齢吸収をわずかに留めている証だ。
そして千歳が戦士の平均年齢低下にひたすら貢献している。
ああ、七年前の赤鋼島事件を契機に無邪気な感情を押し込め冷静たらんと務めてきた千歳
であるが、しかし鐶の武装錬金の特性たる年齢のやり取りは、人の肉体のみならず精神の年
齢さえも退行させてしまうのか。
おかげで千歳はすっかり昔の無邪気で油断の多い性格──例えば十八歳という年齢で小
学生に扮して潜入できると本気で信じたような──へ成り下がり、後はもう徹底して年齢を吸
226 :
永遠の扉:2008/07/17(木) 23:46:12 ID:Y3YLpLqD0
収されている。そんな事実が千歳を泣きやませた。湿った頬を膨らませ楯を構えさせた。
「こうなったら完全防御体制!! 今度こそ今度こそ本気の完全防御態勢なんだから!」
「お。新手のデュエリストのコスプレかアレ?」
「ち、違うもん!! コスプレは大好きだけど今は違うもん!!」
通行人の揶揄に身を乗り出し断固として抗議する千歳だ。
「はっ!! ちちち違うよ! コスプレなんか大嫌いなんだからっ!」
二つの三つ編みを跳ね上げてあわあわと抗議してくる少女に。防人と斗貴子はそろそろ頭
痛を覚え始め、根来だけが瞑目してため息をついた。
(貴殿はつくづく判じ難い)
もちろん千歳がたっぷり十六年分の年齢を吸われるのを黙って見ていた斗貴子たちでもな
い。狙われやすい千歳を背後に回し、代わりに傷を負うたび瞳を鋭くして群衆の中に短剣を持
つ敵を求めた。しかし見つからない。何しろ攻撃は一瞬なのだ。攻撃を察知する頃にはもう走
る人混みとともに流れ去っている。追いかけて尋問しようにも果たして誰を尋問すればいいの
やら。だいいち呼び止めようとしても、岸辺露伴に熱中する群衆は耳も傾けない。
しかしいいコトもあった。千歳はペロペロキャンディーを貰った。やさしそうなおじいさんが「泣
いちゃダメだよ」と慰めてくれたのだ。
「千歳」
「むぐ?」
(アメを舐めながら喋るな! というか戦闘中にアメを舐めるな!!)
(……なんだか昔より退行していないか?)
ペロペロキャンディーをおいしそうに頬張る千歳に、斗貴子と防人の頭痛は更に増した。
「な、なに?」
「貴殿はどこか遠くへ退避していろ。このまま居てはいたずらに敵へ年齢を与えるだけだ」
噛み砕いたアメを飲み込んだ千歳が「むぐっ!」とむせたのは、アメの欠片より鋭い根来の
意見が胸に刺さったからだろう。
(……同感だ。というかコイツは十代からこういう性格だったのか?)
(さすが元・再殺部隊。いや、千歳も一応再殺部隊だったんだが……)
感心する二人の前で、千歳はぐすぐすと泣きながら根来の袖を引き始めた
「え! そんな! ひどいよ根来くん。私頑張るから、そんなコトいわないで……!」
もちろん、斗貴子たちも引き始めた。千歳の態度に。
227 :
永遠の扉:2008/07/17(木) 23:47:11 ID:Y3YLpLqD0
「い、いや、ヘルメスドライブを持っている以上、いざという時の切り札になる筈だ。多分」
額を押さえながら防人は頭痛を吐くように呻いた。
「真希士の核鉄さえあればなあ」
「戦士長。いま何と?」
暗剣殺を宣言早々破られた根来が聞き返すと、覆面の下からくぐもった愚痴が漏れた。
「いや、戦団にしばらくLII(52)の核鉄を返すコトになってしまってな」
「私が聞きたいのはその一つ前です」
こいつほど敬語の似合わないキャラはいないなあと思いながら、防人は言葉を反復した。
「くそ。露伴本当にいるのか?」
「いるって! 写真だってうpされてたし!」
「見たけど、もう逃げたんじゃあ……」
群衆にもそろそろ疲れが見え始めている。
戦士たちが固唾を飲んで群衆経過を見守っていると、今度は千歳の頭上から長いひも状の
物体がびゅーっと注いだ。
はっと異変に気付いて斗貴子たちが振り返る頃にはもう総てが終わっていた。そこには一段
と小さくなった千歳が服から覗く白い肩を押さえてしくしく泣いているだけだ。ただ根来だけが短
剣にまとわりつく舌のような物体が空へ向かって跳ね上がるのを見た。
それが二十メートルほど先の虚空へ引き込まれるのも。
電線に明らかに人だと分かる巨大な影が逆さ吊りになっていた。異様な光景であった。ぬら
ぬら光るサーモンピンクの肉鞭が影へ飲み込まれたが、電線はわずかにたわむのみで切れ
る気配は微塵もなく、しかもその下、影の頭の先を行き過ぎる群衆は頭上の異形にまるで気
づいていなかった。そもそも根来が「影」と定義したのは正に影としかいいようがないほどあら
ゆる色彩が存在していなかったからである。虫の群れか夜の欠片のようにただ黒い。当たり
前のように電線に逆さ吊りになっていたそれは、根来がようやく輪郭を捉えた次の瞬間には
もうふわりと消えている。光景は、現実を超越した忍法の使い手たる根来でなければ白昼夢
か幻覚かと見逃すほど現実離れしていた。
「私たちが群衆に気を取られた隙に頭上から攻撃とは……!!」
根来から事のあらましを聞くと斗貴子の苛立ちはまた一歩頂点へ近づいた。
「くしっ」
千歳はまた鼻をすすった。
228 :
永遠の扉:2008/07/17(木) 23:48:08 ID:Y3YLpLqD0
(またくしゃみ? 暑いのになんで? 口の中だってカラカラなのに……)
(以下は本来の年齢 → 現在の年齢)
千歳 26 → 6
交差点へ戻った鐶は携帯電話を取り出した。
(エナガは枝に逆さ吊りになれます……。そしてキツツキの舌は非常に長い……です。鼻腔か
ら頭蓋骨の表面を縦に一周して更に伸び縮むするぐらい……)
特異体質で電線へぶら下がり、舌にキドニーダガーを巻きつけて千歳を狙い撃ったようだ。
虚ろな視線の中、そんな鐶の指だけが思考や言葉よりも俊敏に動いていく。
(……もう一撃。もう一撃あればあの女の戦士さんを無効化できます。つまり、胎児に……)
やがて画面の中の景色は、一つの掲示板の一つのトピックに流れ着いた。
【埼玉】ここだけ時間が進んでいる銀成市オフ28
962 名前:名無しさん 投稿日:[ここ壊れてます]: ID:sen530000
くそ。露伴見つからない。見た人報告頼む。
(……ふだんは怖くてあまり……書き込みませんけど…………勇気を出して)
ごくりと生唾を飲み込むと、恐る恐る文字を打ち込んで、確認。
(次はもう少し大きな人の流れが欲しいので……)
鐶はちょっと考えると、「なるべく明るく、明るく」と言い聞かせながら校正し、おっかなびっくり
で書き込みを選択した。
963 名前:名無しさん 投稿日:[ここ壊れてます]: ID:ToriBirD0
>>962さん、露伴先生なら中央通りの大交差点から東に500mほど行った所で見ましたよ!
参考までに写真を♪ →
http://*****/*****/***.jpg (こ、これで……いいんでしょうか?)
無表情がもじもじと気恥ずかしそうに画面を見ながら何度も何度もリロードし始めた。
恥ずかしいながらも自分の書き込みへの反応が見たくて見たくて仕方ないらしい。
229 :
永遠の扉:2008/07/17(木) 23:49:01 ID:Y3YLpLqD0
「?」
斗貴子が首を傾げたのは、一瞬、交差点で人の流れが止まったような気がしたからである。
「止まった」と思った人間は、どういうワケか携帯電話を握ってやや猫背気味に画面を覗き込
んでいたかと思うと、ちょっとした疑念を表情に浮かべ、すぐひどい喜びと驚きを浮かべた。
回りを見回す者もいれば、指を動かしているのもいた。どうやら何かを打っているらしい。
964 名前:名無しさん 投稿日:[ここ壊れてます]: ID:tekiTou20
>>963 マジか! さっそく行ってくるノシ
965 名前:名無しさん 投稿日:[ここ壊れてます]: ID:netakazu0
>>963 dクス。
966 名前:名無しさん 投稿日:[ここ壊れてます]: ID:kakukoto0
>>963 何故あのカリメロみたいな帽子を剥がさなかった
(……これでよし。後は)
鐶はコクコクと頷いた。
斗貴子の眼前で群衆が膨れ上がった。いや、正確にはバラバラに動いていた者たちが俄か
に同じ方向を目指し始めたというべきか。みなご丁寧にも歩道を選び、歩道を選んだから戦士
たちの前を行き過ぎていく。
まるでマラソン大会のスタート地点だ。ごったがえする人々が全力で走り出している。
「だが同じ手はもう食わない! 私は上を見ます。戦士長たちは前を──…」
「きゃあああああああああああ!」
「いった傍からまた騒ぎ! 今度は何だ! 女優か!? それともグラビアアイドルか!」
目を三角にしながら群衆に怒鳴りつけた斗貴子だが、信じられない物をみた。
「……せろォ〜」
見開いた瞳が硬直した。防人も言葉を失くしながら群衆を見た。幸い前方を走る者たちは気
付いていないらしい。気付けば交差点はますます混乱のるつぼだっただろう。
230 :
永遠の扉:2008/07/17(木) 23:51:22 ID:f8ZuwpgH0
(年齢のやり取りを使えば……幼体にして持ち歩いていたコレも元通り…………)
「喰わせろォ〜!!」
人々の垣根があってもひび割れた三角頭が遠望できるほどの巨体が緩やかに交差点の向
こうを歩いているのを見た瞬間、斗貴子の口を叫びが突いた。
「調整体!?」
瞬間、斗貴子は手近な建物と電柱を三角蹴りで往復しつつ上りつめ、屋上へ達した。
「すげぇ」と頭上を見上げ息をのむ群衆が何人もいたが、何に感嘆したかはよく分からない。
一望できる交差点に犠牲者はいない。けが人も同じく。人々はすでに逃げ始めている。すぐ
に危害が及ぶ範囲にはいない。だが放っておけばどうなるか……
調整体の鋭い爪を支柱に浴びた信号機がめりめりと崩れ落ち、その轟音にますます人々の
混乱は加速する。
(フザけるな!! 何も知らない人たちを利用した挙句、危害まで加えるのか!! そして自
分は素知らぬ顔で紛れ込んで一方的に!)
耳を打つ人々の叫びと目に映る恐慌状態の群衆に、斗貴子の何事かが決壊した。
「……倒してきます! この馬鹿げた混乱を鎮めるにはそれが一番の筈!」
いうや否や斗貴子が屋上から人混みを飛び越えた瞬間、群衆の中からフラッシュが瞬いた。
見れば皆、斗貴子を見上げてカメラや写メを焚いている。
(な、何を撮ってるんだキミたちは!! こんな状況で!!)
思わずスカートを押さえる一方、彼女はいい知れぬ予感を覚えた。それは戦闘に身を置くが
ための危機察知。手が促されるようにそろりとポケットへ滑り込み──…
フラッシュの中で数合の火花が散ったかと思うと、斗貴子の細い肢体は横向きに疾駆した。
「やはりな」
一瞬で武装錬金発動と解除を行った核鉄を片手に収めつつ、斗貴子は呟いた。
「落下途中の私を短剣が狙っていた。調整体を見て駆けつけるのも予測済みという訳か」
凛然とした表情はしかし、途中で憤懣やる瀬ないという歯噛みに変じた。
(ついでにいうと私がスカートを押さえて隙ができるのも。全くつくづく小賢しい敵だ!!)
「す、すげえあのセーラー服」
「ああ。落下途中で地面と平行に飛んだぜ……」
「仰向けで、しかも中を見せずに」
231 :
永遠の扉:2008/07/17(木) 23:52:34 ID:f8ZuwpgH0
群衆は息を呑むだけでまるで理解していない。
ただ一人、鐶だけがうっすら痺れる右手から何が起きたか把握していた。
(私の繰り出したキドニーダガーを処刑鎌で叩き……反動で…………調整体の方へ……!?)
斜めに引かれた横断歩道の上で髪をたなびかせながら、斗貴子は軽く舌打ちした。
「できれば武器を破壊したかったがそうは行かないらしい」
元より損壊しているシリアルナンバーXLIV(44)の核鉄は、一段とヒビ割れている。
「攻撃したこちらの武装錬金が逆にダメージを受けている。相当の硬度だ。もっともその分、攻
撃力が普通の武器と変わりないのも既に証明済みだが──…」
手の甲の傷を見ながらふわりととんぼ返りを打って着地。群衆を一瞥。
果たして人の隙間を縫うように動く影がいた。
(今は追えないが覚えておけ。錬金の戦士はいつまでも翻弄されるほど甘くない!)
迷いなく踵を返し、暴れ狂う調整体へとひた走る。
群衆はそんな斗貴子の迫力と流麗さにただ目を奪われるばかりであった。
以下、あとがき。
七年前の千歳の三つ編みなんですが、原作で画面上に描かれているのは常に一本。
でも//のP91には
>千歳はスカートの左のポケットから輪ゴムを二つ取り出すと、長い髪を、手早くみつあみに結んだ。
そしてアニメ第21話の回想(防人の「死なせたくない」あたり)では二本。
以上を考えるとどうも二本らしいですが、しかし髪を輪ゴムで縛るのは貧乏臭いような……。
>>197さん
普段とのギャップが面白いです彼女。属性としてはオーフェンのコギーみたいなw 童顔+無能。
>>198さん
ジョジョと武装錬金両方好きだとなかなか面白い裏設定w
この段はなんだか鐶が千歳に食われてるような気さえしてきました。
//や原作回想より退行してる感じなのは、あの時点から更に幼いからというコトで!
>>199さん
割と千歳に踏み込んだ//でも、変化の経緯は数行程度……ネゴロ描いてた頃からずっと思っ
てるんですが、本当、何をしたんでしょうか千歳。それから「クロム〜」。続ける意思があったの
に活躍できなかったのは残念。同様の没設定には「ヴィクトリアとムーンフェイスの反乱劇」もあります。
ハシさん
シエル、ハインケル、由美子と錚々たるメンバーが! 生真面目な女性はいいものです。から
かわれながらもアレコレ考えて本当の感情を見せないところとか。そしてやはり個人的には建
物の描写に唸ってしまいますね。自分は戦闘が進むと疎かになってしまいますので……
銀杏丸さん
>アンドロメダの星雲鎖、ドラゴンの盾、ヒドラの無限再生毒牙
既存の設定の共通項から「毒」の出自に結び付けられるのは星矢への愛あらばこそだと思い
ます。で、ギガース。侮っていると負けるというのも一種の鉄則。果たして? それからヒュー
ズのような非聖闘士がいると聖闘士の恐ろしさが際立ちますね。
チャイルド千歳可愛いなあ
234 :
作者の都合により名無しです:2008/07/18(金) 13:40:48 ID:MVkwyyxB0
斗貴子の凛凛しさと千歳のだめだめ差の対比がいいですな。
ま、両方とも素敵ですが。
掲示板ネタは好きですw
このくらいの量が多すぎず少なすぎず一番よろしいですな。
千歳、10歳にらしい精神年齢ですが26歳のときの
冷静な感じとのギャップで余計メンバーが戸惑いますね。
後々活躍はしてくれるんでしょうけども。
千歳の三つ編みはイメージに合わない気がする
237 :
ふら〜り:2008/07/18(金) 21:00:23 ID:CaGkb6vE0
>>スターダストさん
>本当にマトモな人間は戦団にいないのか!?
「23歳はすっごいオバさん」とか思ってる人ですから。そう思っていた時代が私にも。ふっ。
幼女千歳も可愛いですが、絵で見たい少年根来……って全っっ然変わらないような気も。
にしても貴信や小札と比べて何とも合理的な環。の割に彼らを見下したりしないのは偉い。
>>ハシさん
ファンタジーな内容を現実的に描いているというか……原作の持ち味でもありましょうが、
ハシさんの文体で重み渋みが出てます。からかわれつつも信頼されてる様子なシエル、
さいさんの作品からも「案外可愛いかも」と思ってるんですけど、本作ではどうなりますやら。
>>銀杏丸さん
「黄金時代」を読み返し、そうそうこの子だと思い出し、そのまま読み耽ってしまったりして。
「黄金時代」が面白かっただけに、その黄金の面々がいないのが寂しく、だからこそ作品
世界の広がりを感じます。弟子でなくとも後継者、衣鉢を継ぐ若者たちの活躍が本作、と。
238 :
永遠の扉:2008/07/19(土) 16:02:59 ID:G9w1hVVI0
「戦士長」
根来は斗貴子を顎でしゃくり、有無をいわさぬ目つきで防人を見た。
「私の武装錬金ならより確実に状況を打開できますが、いかがします?」
ひどく事務的で手短な言葉だ。しかし根来の能力? すでに斗貴子は人垣の向こうだ。飛び
越える前ならいざ知らず、今さら亜空間経由で人混みを乗り越えるのもないだろう。調整体な
ど斗貴子一人で十分倒せる。なのに根来を加勢に送るのは戦略上不利なのではないか?
と防人は思いを巡らしたが、降り注ぐ視線はなおも鋭さを緩めず、むしろますます強くなる。
(まさかお前)
短い沈黙の後、銀色の覆面の下から切羽詰った大声が斗貴子に向って張り上がった。
「ま、待て! 一人では敵の思うツボだ!」
しかし彼女はすでにバルキリースカートを発動して調整体と交戦している。
「臓物をブチ撒けろォォォ!!
「駄目だ。ああなると聞こえないし周りも見えない。すまないが根来、斗貴子を補佐してくれ。
敵の狙いはもしかすると孤立した彼女かも知れない」
「了解した」
いうが早いが防人の横から根来の姿がかき消え、残る戦士は二人。
交差点はもはや混迷の極みにあった。
そしてその演出者はさほどの感動も顔に浮かべず淡々と群衆に紛れていた。
(先に何とかすべきなのは……ヘルメスドライブの持ち主……)
鐶は群衆を器用にすり抜け、防人と斜めになるのを確認すると軽く頷いた。
(……今が好機)
防人の眼前を走る人々はいよいよ増している。ファン心理で走る者と恐怖で走る者の混群が
互いの事情も知らず罵り合って駆けている。重なり合う数多くの声は濁流のようにやかましい。
(確かにこの状況、これだけの人数からたった一体のホムンクルスを探すのは難しい。しかし)
防人は眼光鋭く構えた。
(手段がない訳ではない。狙うは奴が千歳に攻撃を仕掛けるその一瞬)
(警戒すべきはその一瞬……だから確実に注意は群衆へ…………)
歩道を走る群衆のド真ん中、鐶は傍らの人間をとんと押した。ホムンクルスの高出力を不意
に受けたその人間は成す術もなくつんのめり、斜め前の人間に衝突。その人間は更に斜め前
の人間に……と人混みは角行だけの将棋倒しになっていく。
239 :
永遠の扉:2008/07/19(土) 16:04:49 ID:G9w1hVVI0
やがて鐶が心中で謝る中、人混みが雪崩を打って防人へと衝突した。
(これはただの事故か? それとも)
実に十人ばかりのドミノ倒しを物ともせず支えている防人は流石というべきだが、しかし一般
人相手では振り払うコトもできない。しかも運悪く地面に倒れた者は群衆──とりわけ調整体
に恐怖し逃げている者たち──に期せずして踏まれている。それを助けようと止まる者も群衆
と衝突し、或いは言い争いや掴み合いにすら発展し、しかもそれが走る群衆に薙ぎ倒されて
また踏まれて──…千歳が何から手をつければいいか分からなくなり、涙をうっすら浮かべて
しまったのも仕方ないといえば仕方ない。
涙目の千歳を見据える鐶の体が前のめりに揺らいだ
(鳥には……羽づくろい用の尾脂腺(びしせん)があります…………)
尾の付け根の背中側にあるその器官は、脂肪酸、脂肪、蝋などの混合液を分泌する。
鳥はそれに頭や嘴をなすりつけ、全身の羽毛へ塗りたくる。分かりやすくいえば、人間が整
髪料を掌にまぶし髪へと撫でつけるような感じである。
鐶は背中を群衆に押され、ドミノ倒しに巻き込まれつつあった。
防人はまだ動けない。
だから千歳は何からやるか決めた。
再び巻き起こったドミノ倒しに、非力ながらも手を差し伸べた。
きっとドミノ倒しも混乱する人が起こしてしまったコトだと素直に思った。
だからその先頭で倒れる人を受け止めようと優しく手を広げた。
防人はまだ動けない。
(水鳥は特に……尾脂腺が発達しています。撥水のために……)
群衆の足元に白い脂のようなモノをブチ撒け足跡まみれになっているビニール袋があった。
(先ほどカモのそれから、袋いっぱいに出し……さりげなく地面へ落としたから……)
脂肪酸、脂肪、蝋。ビニール袋いっぱいに溜まっていたそれらの混合液。
脂は滑る。蝋もまた滑る。地面に撒かれたそれに誰かが足を取られたからドミノ倒しが起きた。
それが誰か鐶には分からないが、知る必要は特に感じていない。
240 :
永遠の扉:2008/07/19(土) 16:05:26 ID:G9w1hVVI0
ドミノ倒しさえ起きればそれで良かった。一見偶然のそれさえ起きれば、良かった。
(目論見は……叶えられそうです)
『自分で引き起こした』ドミノ倒しの先頭で、鐶は千歳に短剣を差し出した。
次の瞬間、ビル街のガラスを総て叩き割りそうな悲鳴が交差点に轟いた。
「何だ? 戦士長たちのいた方から悲鳴?」
絶命まで執拗に斬り刻んだ肉片を更にもう一度すり潰すと、斗貴子は駆けた。
首が飛んだ。群衆が走る中、四十代前半の人の良さそうなおばさんの首が血煙とともにビル
の挟間を舞い飛んで、殴り合う若者の足元へ鈍い音を立てて転がった。
「見立てておよそ六歳の戦士・千歳だ。吸収する年齢の多寡に関わらず」
空気が凍りついた。前方をひた走る物知らぬ群衆以外はみな瞬きさえせず、殴り合っていた
者たちさえ経緯を忘れひしと抱き合い、ぞくぞくと震えあがった。
「あと一太刀で戦闘不能に陥るのは明白。それに先ほどの金属音はおそらく奇襲を処刑鎌で
防御された証。ならばこれ以上戦士・斗貴子が狙われる道理はない。あちらは調整体が現れ
人影が皆無のため、人混みに乗じての奇襲は不可能。……私ならそう考える」
千歳は我が身に起こったコトを理解すると、頬を赤らめ「ひぃ」と短く叫んだ。
「ならば亜空間に潜めば返り討ちなど容易い。刃を持つ者を斬れば済む話だ」
血の滴る忍者刀をひッ下げた根来がズルズルと千歳の腹の中から現れいでた。
まったく恐ろしいコトに、すっかり縮んだ小学生のような体から、根来はあたかも歪な枝のよ
うに生えているのだ。
「ま、また!? この前の任務の時も私の……体の中にいたのに……」
その異様な感触に、千歳はぶかぶかの服をかき抱くようにして赤い面頬を震わすしかない。
「というか、普通の人を殺しちゃダメだよ根来くん!!」
「落ち着け。奴に攻撃を当てるにはこうするしかなかった」
防人の服にうっすら映る首なしおばさんが、キドニーダガーを握りしめているのに千歳は気付
いた。
「え? 敵なのこの人? ……アレ? でも根来くんは斗貴子ちゃんのところへ行ったんじゃ」
あたふたと首を上下しておばさん──に化けた鐶──と防人を見比べる千歳はまったく状
況がよく分かってないらしい。
241 :
永遠の扉:2008/07/19(土) 16:35:34 ID:G9w1hVVI0
懸命に結論を出そうとしているようだが、曇る表情がその芳しくない結果を雄弁に物語って
おり、防人は生徒を見るような奇妙な感覚に囚われた。
「戦士・斗貴子の元に行くよう命じたのはブラフだ。理解するまで少し時間はかかったが、根来
がお前を切り札にしたがっているのに何とか気づいたからな」
「えーと……。根来くんとアイコンタクトして、命令を敵に聞こえるように叫んでこっちに二人し
かいないと思い込ませて、その、私だけを囮にするための……?」
「ブラボー! その通りだ! キミはそんな重要な役を見事に務めてくれた!」
「わーい」と笑顔でバンザイする少女だけが唯一この路上に日常感を与えていた。
他は違う。突如起こった『殺人事件』に恐慌した群衆が必死に逃げ去っている。
そして根来はそんな騒ぎがないかのごとく、首なき敵の体を冷然と見下ろし破顔一笑した。
「もし仮にただの通り魔だったとしても……この状況で戦士に手を出す方が悪い」
猛禽類のような凄味さえある笑みは、防人にさえ軽く身震いさせた。
(さすが奇兵)
根来は十五歳になっているが、もとより小柄だからあまり身長に変化はない。ただ鋭い三白
眼が若干丸く大きくなり、頬から頸すじまでは若人らしくいよいよ白い。
(コトのあらましは分大体分かったが)
穴から食べたドーナツのように防人たちから遠ざかった群衆の膜をかき分けると、斗貴子は
軽く唸った。
(……動物型ホムンクルスが出血?)
首の無い体も生首も、鮮血を路上にブチ撒けている。両者の間には大小様々の血痕が点々
と続いている。
(おかしい。人間型なら出血もするが)
例えばかつて斗貴子が戦った鷲尾というオオワシのホムンクルスは、頭を刺されても腕を吹
き飛ばされても出血は見られなかった。しかし鐶は血液を流している。
(人間への擬態を徹底するために、わざわざ血液のような物を作り出し……い゛い゛!?)
斗貴子が思考を中断して目を見開くほどの驚愕が起こった。
根来が。
首のない鐶の体を引き起こすと、接合部も剥き出しの首に口を当て、血液(?)をズズーっ
とすすり出したのだ。
(な、何をやってるんだお前は!!)
242 :
永遠の扉:2008/07/19(土) 16:37:12 ID:G9w1hVVI0
群衆も引き始めた。さもあらん。人の首を刎ねるだけでも充分に異常といえるのに、根来は
更に死体(群衆から見て)を弄び始めているのだ。
音を立てて鐶の首筋を吸う根来はあまりに異常過ぎだ。
「血液に似ているが違う。やはり擬態用の液体か。忍び以上に念のいった事だな」
すすり終えた根来は唇の端を手の甲でくいと拭うと事務的に呟いた。
「何か?」
唖然とする千歳たちがどうしてそうしているか分からないという様子だ。
「い、いや」
流石に防人さえ引いたようだ。千歳に至っては「やっぱり奇兵〜」と泣いている。
「ととととにかくだな。お前のおかげで敵を見つけ出すコトができた。後は拘束して──…」
「立ち上がれ……気高く舞え……天命(さだめ)を受けた…………戦士よ」
群衆から息をのむ音がしたのむべなるかな。
根来が揺り起した首なき体が座ったまま跳躍した。
まるでウィスキーボトルを傾けたように足を太陽へ捧ぐ体から、赤く濁った液体が歩道のタ
イルへ次から次へと降り注ぐ。文字通りの血の雨。
「千の覚悟身にまとい……君よ、雄々しく、羽ばたけ…………!」
防人がハッと頭上を見上げる頃には雨中で輝く翠の光があった。それは逆光の中で爆発的
に膨らんで正に防人たちを狙い撃たんとしていた。
(木!?)
(……の種の年齢を操作しました)
信号機の倍ぐらいの高さまで成長を遂げた巨木が緩やかに防人たちへ吸い込まれ、やがて
ビル街全体を揺るがした
(クソ……!!)
木の枝を縫うように飛来してきた羽根の最後の一枚を弾き飛ばした斗貴子に、怒気が登った。
(後ろに誰もいなければ、斜め上からの攻撃さえなければすぐに奴の元へ迎えたものを)
走り出す彼女の背後の群衆たちはただ何も知らず処刑鎌を物珍しそうに見た。
一方、斬られた筈の首を接合しすくりと立った鐶の姿は、まるでモーフィングのように変化を
遂げつつあった。
中年のぱさついた黒髪からハリのある赤い髪へ。
ぶよぶよの体もほっそりとした思春期途中の肢体へ。
243 :
永遠の扉:2008/07/19(土) 16:38:26 ID:G9w1hVVI0
薄っぺらな花柄のワンピースは、水色シャツと迷彩柄ダウンベスト、カットフレアーのミニス
カートへ。
「騙されました……。鳥だけに…………鵜呑みにしてしまうのが私の悪い癖……です」
異様な光景の連続に、群衆はそろそろ自意識を疑い始めた。これは白昼夢か幻覚かと。
しなやかな裸足の少女が、上半身を赤く染める少女が、首だけを群衆へねじ向けてぼーっと
立っていた。
そう、首だけを。鐶の首は百八十度逆についていた。薄く青ばむ瞳は虚ろで生気がなく、あ
たかも不死者のごとき不気味さだ。視線の合った者は頬をぞっと白蝋のようにした。
それでもやっぱり撮影する者もいたし実況する者もいた。
【埼玉】ここだけ時間が進んでいる銀成市オフ30
193 名前:名無しさん 投稿日:[ここ壊れてます]: ID:876543210
,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
(.___,,,... -ァァフ| あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
|i i| }! }} //|
|l、{ j} /,,ィ//| 『おれは目の前でおばさんの首が刎ねられたと
i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ 思ったら木が降って治って美少女になっていた』
|リ u' } ,ノ _,!V,ハ |
/´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人 な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
/' ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ おれも何が起こったのかわからなかった…
,゙ / )ヽ iLレ u' | | ヾlトハ〉
|/_/ ハ !ニ⊇ '/:} V:::::ヽ 頭がどうにかなりそうだった…
// 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
/'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐ \ トリックだとか映画撮影だとか
/ // 广¨´ /' /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
ノ ' / ノ:::::`ー-、___/:::::// ヽ }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::... イ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
つかマジで怖ええええ! 逃げてえええええ!!
244 :
永遠の扉:2008/07/19(土) 16:44:38 ID:G9w1hVVI0
マフラーが宙をはためいた。
「何にせよ、民間人の退避はこれで良し」
木と瓦礫で滅茶苦茶になった歩道へすくりと降り立つと、根来は事もなげに呟いた。
「そしてそれは奴がもう人混みを使えぬ事を意味している」
群衆はすっかり防人たちから遠ざかり身じろぎ一つしていない。近寄るコトはないだろう。
(いや、退避というか)
(私たちに怯えて避けてるだけだよ!! うぅ、私は何もしていないのにぃ〜)
大木を脇にどけた防人とへたりこんだ千歳が内心で交互に突っ込んだ。
以下、あとがき(これでまだ中盤な鐶戦。どうなるコトやら……)
AAのズレは仕様です。ああいう状況で急いでコピペしたら多分ああなるかと。
>>233さん
ご好評につき予定より少し増量してみましたw
>>234さん
やっぱり苛烈でも冷静さがある方が斗貴子さんらしいですね。
あとフルボッコ状態の千歳が描いてて面白いw
掲示板ネタはもうちょい描きたいですね。普通の人目線が気軽に描ける利点もありますので。
>>235さん
ギャップは想像以上なので、千歳自身のみならず周りの反応にも手応えがw
それから物事には常に良し悪しがあるので、幼児退行そのものも実は利点になるかと。
あとはそれが生きる場面を考えるのみですね。
>>236さん
こればかりは人の好みなのですが、三つ編みは一本がいいと思うのです。リボンついてると更に!
ふら〜りさん
自分は「何でもできる大人」として23歳を見てましたが、しかし過ぎてしまうと……フ。
根来は自分の中でも変わりない感じですが、5歳ぐらいまでなら「可愛くないのが可
愛い」かもw そういえば鐶は戦士たち見下してませんね。……なんでだろう。
このシリーズはスターダストさん遊びすぎだなw
そして、時間は流れて日は暮れて――
最後の授業も終わり、ほとんどの生徒が清掃を終えた放課後。
校内をうろつく生徒もまばらだ。
大部分が運動場(グラウンド)や体育館で汗を流しているか、もしくは校門を出て寄り道を楽しんで
いるのだろう。
そんな人気の無い校舎の片隅にある、視聴覚教室のドアが静々と開けられた。
中から姿を現したのは何やら神妙な顔のまひろだった。
後ろ手にドアを閉めると、まひろは鞄を持ったまま腕を上げて「んー!」と大きく伸びをした。
「はぁ、疲れた……。“いんたーねっと”って使い方が難しくてわかんないよぉ」
伸びの後はまるで猫のように背中を丸めて溜息を吐き、太い眉は極端なハの字に垂れ下がり、
口はグニャグニャムニュムニュと波線を描いている。
まさに漫画そのものな落ち込みようだ。
『ネットって便利だから、どっかいいお店を探せないかな?』とは沙織の言葉であり、
『私がやるよ! 何を隠そう私は“ねっとさーふぃん”の達人よ!』とはまひろの言葉であり、
『じゃあ、それはまひろに任せるわ。二手か三手に分かれた方が効率的だし』とは千里の言葉である。
確かに良い案ではあった。
良い案ではあったが、千里がまひろの言葉をうっかり額面通りに受け取ってしまったのは致命的な
ミスだった。
結果、まひろは扱い慣れないPCに長時間悪戦苦闘するばかりで、店探しをするどころかGoogleや
Yahoo等の検索サイトにすら辿り着けなかったのだ。
もっとも、デスクトップに表示されていた“Internet Explorer”というアイコンを、まひろが読めていれば
すべて問題は解決していたのだが。
「う〜ん、“まいこんぴゅーた”ってとこには行けたから、たぶんあとちょっとだと思うんだけどなぁ」
何を以ってして『あとちょっと』なのかは、おそらく常人には理解し得ない思考なのかもしれない。
「よーし! 帰ったら六舛先輩のパソコン使わせてもらってもう一回チャレンジしよう! 負けないもんっ!」
プニプニと柔らかそうな指でグッと青春の握り拳を作るまひろ。そんな彼女の耳へ断続的に響く
微かな水音が忍び込んできた。
窓の外に眼を遣ると、小さな雨粒が校庭の常緑樹を静かに叩いている。
「わっ、雨降ってる! 良かったぁ、傘持ってきといて」
冬の雨というものは空だけではなく人の心まで灰色に染め上げてしまいそうな暗さを感じさせる。
二十四時間三百六十五日沈まぬ太陽が照っていそうなまひろの心にさえ、ややもすると冬の雨の魔力が
冷たく囁きかけてきそうだ。
早く人のいる場所へ。早く明るく暖かい寄宿舎へ。
殊更に意識してはいないのだろうが、玄関に向かう歩調もやや急ぎ足なものとなる。
その時だった――
普段なら見過ごしてしまいそうな誰もいない教室の内のひとつ。
その中で展開されているこの学園にあまり似つかわしくない光景が、偶然にもまひろの眼に飛び込んだ。
見れば四名程の生徒が何やら揉めている。
いや、“揉めている”という表現は正しくない。正確に状況を描写するならば、三人の女子生徒が
一人の女子生徒を一方的に小突き回し、罵声を浴びせ、嘲笑しているのだ。
所謂、“イジメ”というものだろう。
生徒達の誰もがクラスの人気者のおかしな行動を無心に面白がる訳ではない。
生徒達の誰もが化物に襲われる友人を命懸けで助けようとする訳ではない
生徒達の誰もが学校を救う為に戦うヒーローに歓声を上げる訳ではない。
学力レベルの高い私立校であり、“明るく・楽しく・仲良く”という標語がピッタリの銀成学園高校にも
確かに存在する。
他者を傷つけ貶めて喜ぶ事が目的の行為が。本来あってはならない憎むべき事象が。
それを行おうという愚かしい手合いの下に。
そして、今まさにそれを行っている三人の女子生徒はどれも他のクラスの生徒であり、まひろの
見知った顔ではなかった。
しかし、被害者には見覚えがあり過ぎる程に見覚えがある。
昼休みに僅かな言葉を交わした眼鏡と三つ編みの彼女、即ち柴田瑠架だった。
彼女は肩を突き飛ばされ、頬を引っ叩かれ、教科書やプリント類を床に投げ捨てられている。
そんな銀成学園の暗部を、しかも同じクラスの生徒が被害に遭っているのを黙って見過ごすまひろではない。
彼女の反応は実にわかりやすく、かつ爽快なものだった。
「むー!」
滅多に無い怒りの声を上げたまひろは、眉を視聴覚教室から出てきた時とは正反対の逆ハの字にして、
グヮラリという擬音が似合いそうな勢いで力強く教室の戸を開けた。
「ちょっと! やめなよ!」
最大限まで音量が上げられたよく通る声が、趣味の悪い遊びに興じる三人の背中に浴びせられる。
制止の声に振り向いた三人は最初、驚き混じりのビクついた顔をしていたが、すぐに胡散臭げなものに
向ける時の視線でまひろを睨みつけた。
「何? コイツ」
「柴田と同じクラスの、ホラ、兄貴が超有名人な」
「アタシ、知ってるー。天然入ったムカつく女だよ、コイツ」
三人が三人共、面構えも声も話す内容もふてぶてしく、反省の色など欠片も見当たらない。
内心考えているのはせいぜい「先公じゃなくて良かった」くらいなものだろう。
一方のまひろはいからせた腕を振り、大股でズンズンと教室内を進むが、目標は三人の女生徒ではない。
机の間を大きく回り道して瑠架の前に来ると、まひろはまるで彼女を守るかの如く庇護するかの如く、
己の背の向こうに隠した。
そして、三人に向かって両手を広げて立ちはだかり、大音声で唱える。
「私のクラスの仲間をいじめないで!」
「む、武藤さん……」
瑠架は心の底から安心したようにまひろの背中にすがりつき、彼女の制服の端をギュッと握った。
おそらくイジメられているところを助けられた事など無いのではないか。
ずれた眼鏡の奥の瞳から涙を溢れさせながら、すっかりまひろに頼り切っている。
対する三人のふてぶてしい表情は、すぐに怒りのそれへと変わった。
「はぁ? 何それ。マジムカつくんだけど」
「やっちゃう? コイツ」
「アタシ思うんだけどさー。コイツら、もっと髪短い方が似合うと思わなくない?」
リーダー格と思われる少女がポケットからカッターナイフを取り出したのを皮切りに、他の二人も
ニヤニヤしながらまひろと瑠架に詰め寄る。
瑠香はすがりついた背中に顔を伏せてすっかり身を震わせているが、彼女を守ろうという気概に
満ちたまひろはつぶらな瞳を精一杯光らせながら一歩も引く様子は無い。
(そんなの全然怖くないっ!)
しかし、現実はまひろの気概も思惑も関係無く現在進行形だ。
クルクルと回されているカッターナイフの鈍く光る刃が、徐々にまひろに近づけられていく。
「おい」
不意に三人の女子生徒に声が掛けられた。
喉が焼け気味なやや低めの、女性の声。
二度目の闖入者に苛立つリーダー格の少女は振り向きつつ、怒鳴り声を上げた。
「るっせーな!! 今度は誰、だよ……って……――」
三人の顔に浮かぶのはつい先程と同じ“驚き混じりのビクついた顔”。
先程と違う点といえば、自分達の後に立っていた人物を見てからもその表情が続いた事か。
タイを緩めて大きく開けた胸元。膝上20cm以上まで詰めた短いスカート。ルーズソックス。
それらの無理矢理なギャル風アレンジの制服に、プラチナブロンドに近いウルフスタイルのロングヘアと
くれば最早この学園に一人しかいない。
「――たっ、棚橋……」
一年生女子の有名度ではまひろとトップを分け合う、棚橋晶である。
なぜ有名かは、銀製学園の校風と上記の風貌から推して知るべし、だ。
頭を幾分、斜に傾げてズカズカと教室内に入ってくる晶。
彼女の極端にきつく濃いアイメイクに包まれた大きな眼はひどく細められている。
だが、それは授業中に見せる眠たげなものではない。
三人の身を竦ませるには充分過ぎる程の威嚇の眼光である。
「オメーら、アタシのクラスの奴に何してくれてんの?」
三人の目の前に来た晶はそう言うと、手に提げていた学校指定の鞄を肩にかついだ。
『棚橋晶が鞄をかついだら用心せい』
とは誰も言っていないが、その鞄の細部を知れば、やはり誰しもが用心するだろう。
一見、皆が持っている銀成学園指定のものと何ら変わりないが、よくよく見れば鞄の底部、四隅の角が
鉄材で補強されている。
こんなもので頭を殴られたら、洒落では済まない大怪我を負うのは明白である。
つまり、この体勢は晶の『アタシをちょっとでもナメたら即ブッ殺す』という無言の意思表示である。
それが通じたのか、それとも単に晶の迫力に押されたのか。
三人共、オドオドと晶から眼を逸らしている。
「べ、別に、何でもない。遊んでただけだよ」
リーダー格の少女はそれだけ言うと足早に教室から去ろうとし、残りの二人も我先にとそれに続く。
晶は後を追いかけようとはしなかったが、彼女らが完全に見えなくなるまで眼光のロックオンを
決して外さなかった。
三人が逃げ去った後に教室に残ったのは、やはり三人。まひろ、瑠架、晶。
まひろは未だにしゃくり上げるばかりの瑠架にどう声を掛けていいのかわからず、ただ彼女の身体に
優しく手を回して泣き止むのを待っている。
そして、晶はただ蔑みとも憐れみともつかない視線を瑠架へと遣りながら、小声で呟いた。
「アンタ、ホント変わんないよね……」
その呟きが聞こえたのか、まひろはしばらく晶を不思議そうに眺めていたが、やがて内面から
湧き出る嬉しさが表情に表れたかのような満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、助けてくれて」
無論、本心からそう思っている。
自分と瑠架を助けてくれた事も嬉しかったし、校内で行われている悪事を見過ごさずにいる人間が
自分の近くにいたという事実もまた嬉しかったのだ。
まひろには今の晶が漫画やアニメに登場する正義の味方に見えた。弱気を助け強気をくじく、
正義の味方に。
だが、その正義の味方はまひろの心底嬉しそうな笑顔を見ると、心底不愉快そうに顔を歪めた。
「勘違いすんなよ。アタシは前からアイツらにムカついてただけだっつーの。
それにさ、イジメられて文句ひとつ言えねーオタク女も、天然ですって感じでカワイコぶってるバカ女も、
同じくらい大っ嫌いなんだよね。で、ムカつく奴らが勢揃いしてたから全員シメてやろうと思って絡んだだけ」
「でも、助けてくれたよね? 嬉しかったよ、棚橋さん。ありがとう!」
かなり酷い事を言われてる筈なのだが、それでもまひろはニコニコしながら前にも増して強く礼を言う。
ついでに瑠架の身体に回した手にも力が入ってしまう。
とにかく晶の行動が嬉しかったのだろう。
既に脳内には“棚橋さんはいい人”とインプットされてしまっているし(しかもそれは消去不可能だ)、
自分への悪口も晶なりの照れ隠しに聞こえてしまう。
まひろ独特の人を見る眼というのだろうか。相手の悪い面は良い方へ解釈し、良い面は増幅されていく。
晶の方はというと、相手にするのも面倒とばかりに舌打ちをしながらプイと背を向けてしまった。
「うっせーな。知らねーよ」
言い捨てて教室の戸に向かおうとする晶だったが、まひろはふとある事を思い出した。
思い出したが吉日。発想即行動。
まひろは瑠架の肩に手を置いたまま少しだけ身体を離して、晶に声を掛ける。
「あ、お昼に言ってたパーティーなんだけどね? やっぱり棚橋さんも――」
言い終わらないうちに突然、急激かつ乱暴な力に身体が浮き上がるのを感じた。
「わひゃあ!?」
驚愕と混乱が入り混じった情けない悲鳴を上げるまひろ。
晶がまひろの声に素早く振り向き、彼女のタイも制服もまとめて胸倉を引っ掴んだのだ。
まひろは高校一年生女子としては長身の部類に入るが、それを更に上回る長身の持ち主である
晶ならではの芸当と言っていいだろう。
爪先でフラフラと立ち両手をジタバタさせるまひろに、晶はゆっくりと顔を近づけた。
「しつけーな、テメエは。出ねーっつってんだろ……」
語気を荒げず声は静かなままだが、胸倉を掴む手の力から明らかに激しい怒りを感じる。
(こ、怖い! さっきの人達よりよっぽど怖いよぉ!)
流石のまひろもそれ以上、言葉を続ける事は出来なかった。
ども。さいです。遅くなりました。
原作のカズキや日常組のような明るさと爽やかさも若者らしいですが、
十代特有の怒り、反抗・反発、無軌道、遣る瀬無さ、虚無感ってのも若者らしいと思うんです。
>>132さん
なかなかアクションに移れないのではと少々不安になっておりますw
>>133さん
確かにキツいかも。でも原作で描かれない、描かれるワケがないとこまで書くのがこの作品なので
まっぴーは色々な経験をするのでしょう。晶、瑠架との関係は後々に。
>>134さん
そういうクラスメイトがいるだけで素晴らしい教室ですよ! それは!
私のクラスはひどいもんでした。美少女もいなかったし。
>>135さん
エロパロ板だったらそんな展開になったかもw いやもっと強烈な展開かもw
登場人物紹介はストーリーの進行と共にどんどん増えていく予定です。
スターダストさん(P2ってどうやればいいの!? さっぱりわからなーい!)
お褒めの言葉ありがとうございます! この調子で頑張っていきたいです。
スターダストさんは口の悪い子属性までありましたか。恐ろしい子!w
>永遠の扉
鐶が良いですよねー。もう何度でも言っちゃいますがw
回を重ねる毎に鐶のイメージが自分の脳内に組み立てられていくのが楽しいですね。
今回の首が180°捻れてボーッとしてる姿を思い描いたら、たまらなく可愛らしい!
絵心があったら絶対描いてるとこですわ。レイプ眼でw
ふら〜りさん
前回も今回も少しまっぴーに対して意地悪な感じになってるかもしれませんね、私。
自分の文章読んでてそう思いましたw でもちゃんと愛情がありますので。まっぴー愛。
彼女はこの作品の中でいろんな経験をして、いろんな種類の成長をするのでは。たぶん。おそらく。
NBさん
私は好きなバンド、好きなアルバム、好きな曲の名前から取ってるだけなのですよ。
自分で考える力が無いものでw
でも大半は荒木先生に使われちゃってて、なかなか良いものが残ってない……orz
では、御然らば。
棚橋晶、出来ておるのう
しかしまひろって天然なのはいいけど危険すぎるな、人を信じ過ぎて
実際にいたら不良に輪されそうだ。平均よりずっと可愛いだろうし
255 :
作者の都合により名無しです:2008/07/20(日) 18:13:43 ID:4fX7HTzy0
錬金物が2つ続きましたかw
>スターダストさん
トキコみたいな猪武者を部下に持つ防人は気の毒ですな
千歳もああなっちゃったし。その分、根来が有能すぎますが。
>さいさん
兄貴譲りの正義感も確かに危うさを伴いますね。
晶とまひろの性格はある意味同根である意味正反対なんでしょうな。
晶てオリキャラなんだな、さいさんのサイト見たら
オリキャラは難しいと思うけど原作キャラに負けないように
大切に育ててください
まっぴーは人気あるなあw
ダスクは意外とほのぼのした作品になってるな
前作とは全く方向性違うな
259 :
作者の都合により名無しです:2008/07/21(月) 18:23:50 ID:sPTC2ooZ0
サナダムシさんはしばらく来ない?
260 :
鬼平:2008/07/23(水) 12:17:50 ID:M/3Dz48V0
第二話 最終回 ちょっと快感
「ボ、ボスッッ!」
ぴくぴくと動く肉塊と成り果てた自分たちのリーダーを見て、未だ行内に残っている2名の覆面は声を荒げた。
『行動は迅速に、苛烈に』
それが彼らのボス、床に微妙な笑顔で倒れている男の教えである。
目の前の変態が何者かなど問題ではない、敵ならば即座に撃つ。
自動小銃が火を噴いた。
だが、当たらない。
壁を、床を高速で這い回るパンティー男、変態仮面の動きについていけないのだ。
この場は人質達を跳弾がかすめ、パニックにの様相を呈していた。
「に、人間のうごきじゃねぇ」
まるでゴキブリだ。
「人質だ、人質を狙え!」
二人同時に人質に銃口を向け、迫りくる超人に警告する。
その叫びにパニックになりかけていた人質の動き凍りつく。
無論これほどの動きをする相手が人質に心を動かされるとは思っていない。
恐らく任務達成のためには人質の命など虫とも思わぬよう訓練された人間であろうことは想像に難くない。
このいかれた格好もカモフラージュに違いないだろう。
街中で出会ったら、こめかみを押さえて小一時間座り込みたくなるような格好だ。
(だが、一瞬でいい、一瞬の隙が出来れば・・・)
閃光弾(スタングレネード)でどうにかなる。
261 :
鬼平:2008/07/23(水) 12:19:39 ID:M/3Dz48V0
しかしこの乱入者の反応は予想外だった。
立ち止まってしまったのだ。
棒立ちといってよい。
スタングレネードを使う必要すら感じないほどに棒立ちしている。
「ほう、貴様ら罪の無い人々を狙うとは・・・天が許してもこの変態仮面がゆるしはしない!」
だが銃口は完全に彼を捉えていた。
驚いたが、人質を気にして動かないならば補足はたやすい。
「何者だか知らねぇが・・・これだけやってくれたんだ、覚悟しろよ」
じりじりと距離を詰める。
(6m・・・)
この距離なら秒間最大25発の弾を吐き出すこの銃が標的を逃すことは無い。
(チーターだってよけられねぇ)
「チーターは別に回避が速いわけではないぞ」
「モノローグ読むなぁー」
262 :
鬼平:2008/07/23(水) 12:21:00 ID:M/3Dz48V0
周囲の人質達は固唾を呑んで先行きを窺っていた。
どちらが勝ってもすくわれない気がするのは何故だろうか。
「死ね」
彼が引き金にかけた指に意識を集めるのと、銀行のドアがドアが開くのは同時だった。
やけに堂々とした眼鏡の男が堂々と銀行内に入ってくる。
「Cast off.(海老の脱皮)」
男の服がはじけとび、(羞恥心に)中央が立ち上がってくる。
「Change beetle.(伊勢限定) 」
男はさらに続ける。
「Clock up. 」
その瞬間、銀行内の時間が"ただ二人"を除いて全て止まった。
(((・・・(・・・脱皮してねぇじゃん。)・・・)))
そのツッコミとともに。
いや、止まっているのではない、少しずつ動いてはいる、だが中の二人を除いてそれを認識している者はいない。
(というか認識したくない)
男は奥にいる強盗犯に突撃した。
走りながら男は(股間の)カブトホーンを左に動かす。
「Left position(左より)」
カブトのシンボルが振動を開始する。
「Rider beating」
「奈良づくし」
263 :
鬼平:2008/07/23(水) 12:22:27 ID:M/3Dz48V0
一人で電子音声と肉声で同時に呟くという絶技とともに、犯人の顔めがけて中速振動するカブトのシンボルを振り下ろす。
ゆっくりと回転する物体Ch1n90が相手の顔をゆっくりとヒットする。
このとき激突断面積は速度に対して極めて大きく、故に温かみ、義理人情といった有効成分はヒットの衝撃から遅れて相手の脳に伝達される。
それにより相手は実際の回転数に倍する速さで打たれるように感じるのである。
これぞまさしく黄金体験(ゴールドエクスプリエンス)。
脳が強くイメージしたならば実際のダメージとなる。
より数学的に言うならば、可算濃度の攻撃で連続体濃度の攻撃と同等の効果を達成する。
これこそ吉六会奥義、奈良づくしの進化形。
よりコンパクトに相手にダメージを与えることに特化した新たなる技。
「奈良の小(子)尽くし(略して奈良尽くし)」である。
彼はこれを『地上の星』を歌いながら軽々とやってのけた。
ちなみに今の解説には全く意味が無い。
同時に変態仮面もまた動いていた。
一瞬である、強盗犯の時間が止まったのはほんの一瞬であった。
しかし、範馬刃牙クラスの相手にそれは非常にまずい。
刃牙クラスでなくともそれはまずい。
それは致命的な隙だった。
気がつくと体が水平になっており、"ちまき"の皮が口を開けていた。
「ウェルカム」
名前の語られない強盗犯3の記憶はそこで闇へ消えた。
264 :
鬼平:2008/07/23(水) 12:24:25 ID:M/3Dz48V0
強盗犯が倒れるのと同時であった。
「奈良カッター」
フッ っと薄く笑うと頭部のかつら(プラス型)を投げる。
目の前の強盗犯ではなく、変態仮面に銃を向けていた強盗犯に向けてである。
ガシッ
だが、人のATフィールドをたやすく切り裂くはずのカッターはがっしりと受け止められ、投げ返された。
受け止めたのは変態仮面である。
股間からは強盗犯がぶら下がっている。
それを見た奈良ダーは変態仮面を睨み付ける。
「お前・・・また邪魔をするのか?」
「やり過ぎだ、もうその男に戦意は無い」
奈良ダーのカブトに撃たれ続けて強盗犯の顔は既に原型を止めぬほど晴れ上がっていた。*誤字ではありません。
そう、恍惚の表情すら浮かべるほどに。
ちなみに恍惚の表情を浮かべているのは奈良である。
「何を甘いことを、戦場に甘えは禁物だ」
ぽっと頬を赤らめ、少し息を荒げながら反駁する。
さらに腰の前後運動が始まり、心の器の壊れかけた強盗犯はさらに複雑怪奇な衝撃に襲われた。
265 :
作者の都合により名無しです:2008/07/23(水) 12:47:18 ID:xhZMtyr50
支援あげ
266 :
鬼平:2008/07/23(水) 12:54:17 ID:M/3Dz48V0
「それにわしのおかげで助かったとの礼はどおした?あ?」
奈良の問いに、無言で腕を振り上げる。
二人の強盗犯の手にあった小銃にはロープが絡まっている。
否、絡まっているのではない、パンティーの穴にはさまれ、"絡めとられて"いるのだ。
二挺とも変態仮面の股間に収まった。
「変態技 パンティーロープ」
「なるほど、」
返事しながら、腰の動きに"ひねり"を加えるな…
というギャラリーの心の声は、もはやあきらめモードである。
「貴様!よせといっている」
ふがふが、もがと変態仮面の"ちまき"の中でも強盗犯がもがいている。
「嫌だといったら?」
「力ずくでも」
「面白い、今まで散々わしの美少女ライフを邪魔してくれたお前との決着、ここでつけてくれるわ」
「吉六会会長 奈良重雄、いや、仮面奈良ダー、私が貴様を成敗する」
267 :
鬼平:2008/07/23(水) 12:57:39 ID:M/3Dz48V0
こか〜んに、はーめた、暴君はばねロー、てこーきに、飽ーきて、悪を討ーつ
二階の隅から僕らのために、きーたぞ、われらーの仮面奈良ダー
某巨人の歌を歌いながら奈良が足を前に踏み出す。
二人の間(と二人の股間に挟まれた強盗犯達の)間の空間が歪んでいき・・・そして。
「二人とも、私と組まないか、世界の子供達とダンディズムのために」
プロペラマン・寂、ここに降臨。(参考URL
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm3781491)
イ〜ンクレダボーだがゲームオーバーだ。
以下ダイジェスト
268 :
鬼平:2008/07/23(水) 12:59:01 ID:M/3Dz48V0
「変態秘奥義 地獄極楽タイトロープ108式」
「やるな、だが俺は既に幼女(みらい)をもつかんでいる。ハイパーキャストオフ(超脱皮)」
―――
「いかん、このままでは、変態秘奥義 裏108式 即ち・・・801式」
「なにぃ、うぉぉぉぉぉ雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄、これで終わりだぁぁぁ。」
「フォオオオォォォォォォォ」
「こ お る せ か い (ザ・ワールド)、かあさん、ぼくはきょう、かじらせます」
―――
坪内地丹、銀聖闘士ミスティ、ハマー、ローライト(私はLです)
「我ら四天王」
「新たな敵か、再び吉六会(やつら)を呼び出すときかもしれん」
「奈良重雄、今ここに真・ゴールドクロス装着」
―――
「お前達、熟女を呼び出しゴットハンド(右手)の使徒となったこのゲノン総督に勝てると思ったのか」
「奈良、パピヨン、お前達の力を私に貸してくれ」
―――
そして現れる最大の敵
「アドバーグ・エルドル・・・withチエコ・スズキ」
269 :
鬼平:2008/07/23(水) 13:00:28 ID:M/3Dz48V0
___
「この命、もろともに」ニカッ
「カブトpower ちまきpower パピヨンpower サソードpower・・・all hentai convine ・・・」
マ キ シ マ ム ハ イ パ ー サ イ ク ロ ン(四人で囲んでカゴメカゴメ)
―――
「その覚悟、どこから?」
「あの幼女(ほし)から」
―――
「これは唐辛子?」
「成 敗」
「火 事 だ」
青年達(平均年齢25歳以上)の伝説は終わらない。
僕たちは鈴木智恵子の夢を見ました。
彼女って全然赤木キャプテンには似ていないよね。
赤木はちゃんと人間の顔してます。
プリンセス・奈良
完
270 :
鬼平:2008/07/23(水) 13:03:54 ID:M/3Dz48V0
ごめんなさい。いろんな意味で言い訳のしようがない。
271 :
作者の都合により名無しです:2008/07/23(水) 13:07:41 ID:xhZMtyr50
お疲れ様ですw
いや、勢いはすごいけど
最後まで取り留めなさ杉だろw
オチのプリンセスハオネタとか
投げっぱなし感漂い過ぎw
でも、結構好きなのでまた。
奈良尽くし久しぶりに堪能した
本ネタの幕張らしい、といえばらしい締め方だ
274 :
ふら〜り:2008/07/23(水) 21:51:08 ID:I5pC6zlh0
>>スターダストさん
自分の命に関わろうかという状況なのに、それでも尽きぬ野次馬根性。でも多分、実際
こうなるだろうなと思える群集の反応が笑えました。やはりいつもと変わらぬ根来、合理的
というか神経太いというか。そして環はどこまで行く。レイプ眼エクソシスト美少女……深い。
>>さいさん
学園ドラマですねぇ。リアルでシビアな面があり、ファンタジーにピュアな部分(まひろのこと)も
あり。まひろ流の人物観察眼、彼女らしくて実に良い! 今後の展開、まひろの成長ってのも
もちろんあるでしょうが、晶を含めた何人もが、まひろに影響されて変わるってのもありそう。
>>鬼平さん
読み進めていく内に「まあ手段はどうあれ、やってることは凶悪犯罪者から一般市民を救う
正義のヒーロ……」と、感想が立ち消えていきました。確かに何も企んでない、純然たる正義
ですけどですけど。で次はまた響鬼か、それともキバ? 特ヲタとして楽しみに待ってますぞっ。
ふら〜りさんってパート1からずっといらっしゃるんだな
>名前:ふら〜り :03/02/20 22:04 ID:???
5年半もずっと感想を・・凄い
276 :
作者の都合により名無しです:2008/07/24(木) 22:06:44 ID:FLJFFWRT0
いろいろ復活しているね、現スレ
夏くらいにハロイさん復活するといってたんだが
どんだけ暇人なんだw
279 :
作者の都合により名無しです:2008/07/27(日) 11:33:35 ID:EHhoF8EZ0
また止まった?
280 :
作者の都合により名無しです:2008/07/27(日) 11:46:10 ID:q3rTsvoF0
あ
281 :
永遠の扉:2008/07/27(日) 20:14:50 ID:Txq28Or10
第066話 「滅びを招くその刃 其の伍」
194 名前:名無しさん 投稿日:[ここ壊れてます]: ID:kakukoto0
>>193 頑張れスネーク そっちに行けないオレのためにまずは美少女をうpするんだ
195 名前:193 投稿日:[ここ壊れてます]: ID:876543210
http://*******/***/*****.jpg (マジでグロ注意。画面の端にあるのはID書いた紙な)
見ても文句いうなよホント… 俺なんかメートルぐらいの場所にいるんだぜorz
196 名前:名無しさん 投稿日:[ここ壊れてます]: ID:kakukoto0
ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!
こっち見んな!! 首だけこっち見て笑うなあああああああああああああ!!!!
そのグロ画像がリアルで
>>193の頭上を滑空した。
反射的にそれを撮影しようと携帯を構えた頃にはもう遅い。群衆の垣根を弾丸のように乗り
越えたグロ画像は交差点のはるか向こうでくるりと宙返りを打ち、羽根を生やすと恐ろしい速
度で天に昇って行った。それめがけて銀色の全身コートが恐ろしい速度で疾駆してもいる。
一体何が起こっているのか分からない。隣の者に聞こうにも、やっぱり携帯片手に呆気に
取られているだけで分からない。
仕方ないので
>>193は本日二度目のポルナレフAAを使用した。縮小版の。
そして彼(または彼女)のあずかり知らぬ領域で、下記のように状況は推移していた。
「人気のない場所へ奴を誘導する。ついて来い」
ガンマンならば銃口から紫煙がくゆっているだろう。
鐶の居たすぐ前で拳を突き出す防人に斗貴子はそんな錯覚を覚えた。
(私が攻撃するより先に吹き飛ばすとは)
バルキリースカートで斬ろうとした頃にはすでにブラウンのグローブがちりちりと空気を焼き
ながら鐶の腹に迫っていた。一体いつの間に距離を詰めていたのか。傍観者たる斗貴子さえ
考える余裕もなく、鐶は身を丸め、残暑でむせかえる風を吹き散らかしながら望まぬ飛行を
282 :
永遠の扉:2008/07/27(日) 20:21:16 ID:Txq28Or10
遂げていた。
(ホムンクルスといえど子供の姿をした者を殴るのは嫌な気分だが、奴らの本拠地を突き止め
るにはああするしかない)
銀の長い裾をはためかせながら防人もまた群衆を飛び越え追撃に移った。
どこからともなく、引きつった声が漏れた。
「すげえ。アスファルトがまるでゆで卵の殻みたいに砕けた……」
つま先で蹴り割った道路を起点に加速した銀影が、だだっ広い交差点をグンと縦断していく。
「初め……まして。私は鐶光(たまきひかる)といいます。鐶は金偏(かねへん)……です。でも
王偏(たまへん・おうへん)の環でもいいです。どっちもパソコンの変換候補に……あったような」
空を飛びながら、鐶は誰にともなく自己紹介をしていた。
「…………あれ?」
しかし周囲には誰もいない。彼女は腕組みをして考え込んだ。
そして結論。くるりと宙返りを打つと、みぞおちの辺りに白鳥じみた白い手を当てた。
「殴られて吹き飛んだよう……です」
フクロウのように百八十度旋回した虚ろの視線の先には、夏臭い砂ぼこりを足元にうっすら
毛羽立て徐々に間合いを詰める防人しかいない。群衆ははるか彼方だ。
「……搦め手は無理のようなので…………空中から…………攻撃……しますね」
背中から広げた大きな翼が落下と後退の慣性をふわりと相殺する。
「残量は……十分」
そしてちらりと短剣に一瞥をくれると、緩やかに羽ばたき、ホバリングへと移行。
専門用語ではコレを停空飛翔(ていくうひしょう)という。有名なハチドリ以外ではハヤブサ科
のチョウゲンボウがこの習性を持つ。エサのネズミなどを捉える直前に行うのだ。
「……とにかく、相手はまだ六人…………。『切り札』の出番は……後、ですね」
羽ばたきに波打つスカートからポケットを探り当てた鐶は、そこから取り出した純白のバンダ
ナで赤い頭頂部をすっぽり覆い、三つ編みの付け根へリボンのようにくくりつけた。
(まずは俺が先陣を切ろう)
自動車顔負けの速度で周縁視野の景色が流れ行き、停空飛翔中の鐶の姿を防人は捉えた。
バンダナを被った以外変化なし。防人は迷わず足を進める。
(果たしてどこまで戦えるか分からないが)
283 :
永遠の扉:2008/07/27(日) 20:22:13 ID:Txq28Or10
かつて五千百度の炎に身を晒し、「回復しても以前と同様に戦えるかどうか」と明言された
防人である。
攻撃を加えた筈の手に嫌な疼痛が走り、ただの疾走にさえ呼吸は微妙な──傍目からは
一糸も乱れていないが防人にだけは分かる範囲での──乱れを見せている。
「貴殿には私と戦士・斗貴子を敵の元へ運搬してもらう」
「ふぇ!? 無理だよそんなの」
根来に詰め寄られた千歳は、ぶかぶかの再殺部隊の制服の肩やスカートのホックを懸命に
押さえながらぶんぶんと首を振った。
「だってヘルメスドライブが運べる質量は最大百キログラムまでで、大人なら二人分までだよ?
だから三人運ぶのなんて無理。みんなで走った方が早いんじゃ」
「いや、無理ではない」
三人の状況を見た斗貴子は根来に同調した。千歳も「あ」と口に手を当てた。
「そういえば皆、服が……」
「振り向くな……! 希望の空に……飛ばせ……イーグル」
それがまるで呪文だったかのように鐶のバンダナへ何かが浮かんだ。
丸々とした瞳と先端が黒く染まった鉤状の黄色いくちばしと、そして布地の上半分を染める
黒の色。こちらは目の少し下から、涙か頬ひげのようにUの字で垂れ下がっている。
明らかにそれは鳥の顔であった。目の下の黒い模様が「頬ひげ状パッチ」という身体的特徴
を意識しているのであればハヤブサの顔だろう。
奇しくも鐶の背中から生える翼もまたハヤブサよろしくブーメランのように尖っている。
ホムンクルス特有のメカニックな形状とハヤブサの色彩(上面は青灰色、下面も白地に黒の
縦斑)を共有しているのだ
「ちなみに……イーグルはワシで、ハヤブサはファルコンですが……えぇと、その、いいです」
何がどういいのか分からぬが、鐶はともかく太陽に向って垂直に上昇した。
「……カラス?」
途中軽く肩が当たった鳥を不思議そうに眺めながら、鐶はゆっくりと頭を下げ──…
やや影の濃くなった道路の中央で防人は歩みを止めた。
両側にはビル街があり、正面高くには羽根を生やした少女が浮かんでいる。
(敵がまだもう一人残っている以上、これ以上の戦力の減少は食い止めたい。だからまずは
284 :
永遠の扉:2008/07/27(日) 20:23:23 ID:Txq28Or10
俺が奴に攻撃を加え、他の戦士の追撃を促す)
昇りゆく鐶に逃走の気配は見えない。
(倒せずともいい。シルバースキンリバースを当てる隙さえ生まれれば──…)
防人は拳を固めると、低く腰を落として身構えた。
(だがただ撃つだけでは仕損じる恐れがある。まずは隙を作るコトに専念だ)
群衆はそれまでそこにいたセーラー服とぶかぶか服の幼女と陰気臭い殺人少年の姿が消
失しているのに気づくとみな一様に首をひねった。
本当にそんな連中は居たのだろうか。
思い返せば一連の出来事は総て夢の中の物だったような気がしてきた。
「あの。すいません。この辺りでこう、銀色のコートを着た体格のいい人を見ませんでしたか?
おかっぱ頭のセーラー服の女の子でもいいんですけど」
「えぇと。銀色ならあっちの方に飛んで行ったと思うけど、本当に居たのかなぁ、アレは」
「そう。ありがとう」
問われた者は答える最中こそ茫然としていたが、やがて耳に届く声が恐ろしく湿った艶のあ
る声だと気づくと慌てて横を見た。しかしそこではもう長い黒髪が人混みにサっと隠れる瞬間で
声の主がいかなる姿かは分からなかった。
「私の治療のためにちょっと遅れちゃったわね。とにかく急ぎましょう」
「はいはい」
乾いたノド声と同時に二つの影が滑るように交差点を後にした。
ハヤブサは獲物を見つけると、まずはその斜め上まで飛びあがる。
そして獲物めがけて斜めに急降下し、後ろについた鋭い爪(後趾・こうし)によって重傷ない
し致命傷を与える。アオバトなどは無残にも片翼が吹き飛ぶというから威力は推して知るべし。
……そして鐶は防人を獲物と認めたらしい。
翼を揃えバンダナのハヤブサ顔を下向けて、轟然たる滑空を開始した。
群衆はビル街に向って轟然と落下する影を見たが、最早近づこうという者はいなかった。
鳥類最速は急降下時のハヤブサである。
一説では急降下角度が30度なら時速270km。45度ならば実に時速350km。
285 :
永遠の扉:2008/07/27(日) 20:25:29 ID:Txq28Or10
500系新幹線の最高時速が300kmなのを考えるとなかなか恐ろしい。
資料によってはリニアモーターカーをも凌ぐ時速440kmという驚異的数値さえある。
そもハヤブサの語源は「はやとぶさ(素早い翼)」なのだ。
それが居並ぶビルのガラスを水しぶきのように巻き上げつつ、防人へ殺到!
いつしか完全にハヤブサの形状と化した鐶は腰をぐなりと曲げ足を突き出し。
防人はありったけの力でアスファルトを踏みぬきながら、順突きを繰り出した。
転瞬。
蹴りあげる後趾の爪が防護服を貫通し、防人の胸を斬り裂いた。
一方、彼の拳は鐶の服部に深々と突き刺さった。
同時に両者の激突によって行き場をなくした時速300km越えの急降下の衝撃と防人の踏
み込みの衝撃が彼らの接点で拮抗し反駁しあい、やがて爆発のようにあたりを薙いだ。
道路は路側帯も横断歩道も巻き込んで打ち砕け、ガラスの雨もヘキサゴンパネルも吹き飛
んだ。アスファルトの破片が手近なビルの玄関に飛びこみ派手な音を立てた。歩道の隅では
白いガードパイプがいくつも無残にひしゃげ、半ばから折れるイチョウの街路樹さえあった。
もし防人に競り勝った要因を聞けば、「地面に足をついていた」その一点のみ主張するだろう。
奥歯を噛みしめ拳を振り抜いた彼は、かろうじてだが鐶を吹き飛ばした。
彼女は中空に漂っていたため踏ん張りが聞かない。攻撃前はそれでも翼と重力による滑空
によって攻撃に不足はなかったが、しかし攻撃後の支えとするには、防人の攻撃の威力を相
殺するには翼二つではいささか不安定すぎた。
(一撃必殺・ブラボー正拳)
放った技を呼びながら、防人は大腿部に両手を当て痛々しい吐息をついた。
(カウンターならばと思ったが、今の俺ではかつての威力の半分も出せないようだ……)
わずかしか戦っていないのに、疼痛と疲労と虚脱感が一気に襲いかかって胃の中の物を全
て戻したくなるほどの嫌な感覚がある。
「だが」
「み、みんな年齢を吸い取られて小さくなったから、一度に三人を運べるんだよ」
一瞬で五十メートルほど吹き飛んだ鐶は薄く眼を剥いた。
吹き飛ぶ彼女のすぐ傍に六角形の楯が出てきたと見るや、三つの影が出現したのだ。
286 :
永遠の扉:2008/07/27(日) 20:30:56 ID:hFq7jI4d0
「よって追撃をさせてもらうぞホムンクルス!」
「シークレットトレイル必勝の型。真・鶉隠れ」
舞い飛ぶ鐶が態勢を立て直そうとする頃にはもう遅い。
嵐のような処刑鎌と忍者刀が彼女の身を膾のように切り刻んでいた。
どうやら翼が破れたらしい。墜落し路地裏に滑り込んだ鐶は、ゴミ袋やくすんで雨に汚れた
段ボールを吹き飛ばしながらも何とか人間形態へと姿を戻し、ゆっくりと立ち上がった。
「……合流…………しましたか……」
「ええ。絶縁破壊も何とか身動きできる程度までは治してもらったから」
「クソ! 何で俺が元・信奉者なんかを運ぶために遅刻しなきゃならねェんだ!」
上方から迫りくる矢と戦輪を無表情の短剣で弾いた鐶は、「あ」と声を漏らした。
「コイツがブレミュ最後の一人……って、なんか思ったよりちっこいな」
「とにかく、遅れてすみません先輩! 今度こそは力になります!」
「遅刻しちゃったけど、その分は何とか取り戻すから許して頂戴ね」
うっすら蒼いスターサファイアに似た虚ろな瞳が見上げた先では──
エンゼル御前。
早坂桜花。
中村剛太。
一体と二人が建物の屋上から地上を見下ろしていた。
そして路地裏に至る角には、欝蒼とした目つきの根来と彼の影に隠れる千歳。
その横に遅れて着地したのは防人。
「貴様の望むとおり、これで六対一だ」
人混みに潜んで散々奇襲を繰り返したお前だ。文句はいわせない。
歩みを進める斗貴子の眼光は確かにそう告げていた。
今回でたぶん無銘戦越え。文章を書けば書くほど自らの不徳を思い知る今日この頃。
風太郎先生はスゴい。舞台説明とドラマと忍法を描いて40ページ弱とかスゴいなあ。
それからハヤブサもまたなかなか魅力のある鳥です。チョウゲンボウは……馴染みないかも
知れませんが、なんか良い鳥。
>>245さん
サクっと行きたかったのですが、ついw 次回からはばばーっと行きたい物です。
さいさん
ありがとうございますw 次回以降もいろいろやりますよー。瞳の色はやはりヤマセミの瞬膜っ
ぽい色がいいですね。こういう自然物をキャラ造形に馴染ませていくのはなかなか面白い物
があります。あと、彼女の性格の一部はヤドランがモチーフです。(ぼーっとしてるので)
>THE DUSK
IEすら立ち上げられないとは……w それから晶より瑠架のような弱々しいコの方が怖いと思
うんですよ。前作のジュリアンがホムンクルスになったように、「何も持っていない」感じは人
を暴走させますから。その点、晶は自力で意思を押し通そうとする強さがあるので安心、かも?
ふら〜りさん
このパートでの群衆というのは名前も性格付けもないのだけれど、だからこそ色々やれる非
常にいいキャラでした。戦士側からすれば迷惑なんですが、それもまた人間らしいというか。
鐶のあんな調子、無銘との絡みでかなり面白くなりそうです。いずれそんなオリジナルを一編。
288 :
作者の都合により名無しです:2008/07/27(日) 21:12:59 ID:EHhoF8EZ0
六対一はでもかっこ悪いなあ
トキコチームは最強メンツなのに
戦隊物のセオリーといえばセオリーだけど
大決戦ですね。
防人負傷である程度ハンデもあるし、
千歳は数に入らないしw
ブログで書いてた鳥の知識が早くもw
乙です。
敵側不利の陣容ですけど、まだ隠し玉があるんでしょうね。
チビ千歳が意外と活躍してくれるとうれしいですが。
結局ハイデッカ氏の復活はいつも通り口だけかw
292 :
作者の都合により名無しです:2008/07/31(木) 18:57:26 ID:DAVmmjsl0
また止まった
293 :
作者の都合により名無しです:2008/08/01(金) 13:10:07 ID:S51sQk2O0
パタッととまるね
・・・今でも夢に見る光景がある。
「殺られずに殺る」
それこそが"武"だと気付いた、その瞬間に自分は倒れ、墜とされていた。
そこにあったのは絶望的なまでの覚悟の差。
負けて当然だ。
ボクは戦士ですらなかった。
しかしそこにボク、モハメド・アライJr.は考える。
戦士である必要などあるのかと。
地上最強の生物、範馬裕次郎
彼が戦士だと言うものがどこにいる?
誰が言う?
だが彼が最強だ。
ベットの脇で眠る女性を眺める。
ボクはこうしてコズエをゲットした。
今は戦士であることを辞めたボクだが、コズエは素晴らしい戦士のバキよりボクを選んだ。
戦いには敗れたがボクが勝者だ。
コズエのいう強いんだ星人はみんな死にたがりだ。
そう自分に言い聞かせる。
だがどこかで何かが引っかかり続けている。
今日もそんなボクに戦いを挑んできた男がいる。
モーメント・アタッカーの残り香とか自分で言っていた。
ジャパニーズ・マンガを読んで開眼したらしい。
フジタカ・ジュビロというののファンだそうだ。
名乗るだけあって、なかなかパンチが当たらない。
………あ、そうか。
ふと閃く物があった。
「君はボクのパンチを見て思っているだろう?当たらなければどうということはない…とね」
そういってボクは一歩足を踏み出した。
彼の拳がボクの顔を捉える。でも…それは間違いだヨ
「当たっても効かなければどうということはナイ・・・」
ニィィと陸奥のような笑顔を浮かべてみたら、ビックリしていた。
渾身の打ち下ろしの右。
自称モーメント・アタッカーの残滓、今年で36歳らしい。は地に突っ伏した。
これはうまくいくかもしれない。
バキとの戦いのときは、シンプル過ぎたのだ。
「打たせずに打つ、から殺れずに殺る?というのはムリがありすぎたカナ…」
昨日投資のために読んだビジネス啓蒙本にも書いてあったヨ。
発想の転換こそが重要である
そしてこうも書いてあった。
計画は実行してこそ意味を持つ。
こうなるとやっちゃえ男の子である。
元々強い子なボクはリベンジを考えることにしたのサ。
取り敢えずは、ボクの屈辱の端緒、ジャック・ハンマーだ。
この男にやられた怪我がなければその後の屈辱の嵐など存在しなかったヨ。
ジャック・ハンマー許すまじ・・・サ。
というわけで前と同じ工場に彼を呼び出したのさ。
「マタ、ヤルノカイ?」
「モチロンサ、負けっぱなしトイウワケにはイカナイ」
無言のプレッシャーがジャックから伝わってくる。
もう、始まっていル・・・
空気を切り裂いて飛んでくる大振りの拳。まるで重機だ。
一発でも喰らえば前と同じ結果になるよ。
でもね当てようとしなければ当たらないヨ、当たらなければどうという事は無いヨ。
つまり当てなければどうということはない
でも戦わずして勝つ 戦ったら勝つ 笑顔である
昨日読んだ本にも書いてあったヨ、「笑顔こそが成功の証」。
ジャックは怒ってイル、でもボクは笑顔。
工場の中、半径25Mの円を描きながら、ボクは笑顔。
即ち、戦わなければどうということはない
ボクの勝ちさ。彼はいま腹が立って仕方がないはずダヨ、彼は今幸せじゃない。
ボクは幸せ。O.K?
こうして戦士でなくして勝利者となったボクに、みんなは心配なことがあるだろう?
勝利のデビル・メイ・クライ・・・おっとメイク・ラブ・・・
ミンナはこれを忘れることはデキナイネ。
一度アレを見た者が、アレを忘れるなどとてもとても…
心配は要らない。SAGAらなければどうということはナイ。
そうだろう?
ニッコリと読者にスマイルし、それで終わり。
が
その時
空気が
変った
背後?違う、正面!
だめだ、かわせない
「誰に向かって何いってんだよてめぇぇぇぇぇッッッッッ!」
逆立った髪?
範間勇次・・・違、梢、怖
掴まれた、ヤバ、うは、
後ろは・・・
ベッドルーム?! いつの間に・・・
無理、ぐぽぅ
………
………
………
この日、ボクは人生五度目の大敗北を味わいました。昨日の晩も・・・おとといなんか朝まで
バキは彼女に勝っていたらしいネ、ボクに勝てるわけ無いヨ。
敗北しっぱなしネ。
もう心身ともにボロボロよ。
その、つまり、アレです。
ボクは魔界塔士とか、ロマンシングとか、フロンティアとか、そういったものが嫌いになりそうです。
(邪神?さんゴメンナサイ、その名はキャプテンは読み続けるヨ)
299 :
鬼平:2008/08/02(土) 12:23:28 ID:vWfBJd2Y0
前回はいろいろとごめんなさい。
>271さん
でもあの話は最後から書いてたんですw
>ふら〜りさん
今いるところ、キバ見れないんですよ(涙
響鬼の方はつなぎの1話が書けずに止まってます。
3話目と4話目は書いてあるのですが・・・
鬼平さん乙です
アライのヘタレ加減が良かったです
鬼平さんがレギュラー化してくれて嬉しい
でも邪神さんも来ないなあ
301 :
作者の都合により名無しです:2008/08/02(土) 23:40:02 ID:x1yXYG9+0
お疲れ様です
蛸壺にはめられたアライ氏の冥福を祈ります
鉤十字騎士団再来の報はオーストリア政府を震撼させた。
これまでオーストリア国内に存在するネオナチは、民族主義、人種差別、外国人追放などを主張する反社会的な団体でしかなかった。
かつては戦争裁判を逃れたナチ軍人がその活動の中心を担っていたが、現在の主流は社会に不満を持つ若者達が占めている。
しかも思想的にはかつての第三帝国のそれと食い違う部分が多く、その実態は奇形的に発展した国粋主義者の集まりでしかなかった。
ルサンチマン的な感情から他民族排斥活動や暴行・略奪などの犯罪行為を繰り返すただのごろつきでしかなかったのだ。
だが鍵十字騎士団ならば話は別だ。
オーストリア諜報部に残存する資料によれば、重戦車の群れと互角以上に渡り合った鋼鉄の偉丈夫、戦況全体を算出するほどの
演算能力を備えた機械仕掛けの戦乙女などが、鍵十字騎士団に在籍していたという。
それほどの常識外れが集まる組織なのである。
さらに最高レベルの"遺産"であるロンギヌスまでが魔女の手中に収まってしまった。事態は最悪だった。
政府は速やかに対策を講じた。アーカム財団に協力を求めたのだ。
対テロ作戦を専門とする憲兵隊には屈強な猛者が集まっていたが、鉤十字騎士団が相手では少々心もとない。
世界の戦場を渡り歩いているアーカム・エージェントやスプリガンならば、心強い味方となってくれるだろう。
アーカムとしても、この申し出は歓迎すべきものだった。
魔女グルマルキンが目的を達成する前に、何としてもロンギヌスを取り戻しておきたかった。
そしてアーカムとオーストリア政府の間で協議が行われた結果、まずはネオナチから叩くことが決まった。
鉤十字騎士団は一騎当千の超人ぞろいだが、その人数は少なかった。
もし大規模なテロを目論んでいるとすれば、彼らはネオナチを手足として利用するだろう。
逆にネオナチさえ叩いてしまえば、鉤十字騎士団の行動の大部分を削ぐことができる。
かくしてウィーン全土で、ナチス狩りが始まった。
ウィーン郊外にその建物はあった。
それは不況で所有者が権利を放棄して以来、一度も買い手がつかないまま放置されていた旧い屋敷であった。
手入れされていない庭は荒れ放題で、老朽化が進んだ壁には亀裂が走っている。
廃墟同然ではあったが、情報によればここはネオナチの中心人物が一同に会する場所であるという。
屋敷の外には堅牢な包囲網が形成されていた。
完全武装した憲兵隊とアーカム・エージェントが突入前の最終確認をしていた。
銃器などの装備、屋敷の間取り、敵の配置の予想図、部隊の展開。
単純な作業だが、それを繰り返すだけ、命を落とす可能性が減る。
そして全ての確認が終わると、突入開始の合図が出された。
兵士達が音もなく屋敷に入り込み、やがて見えなくなった。
あとは結果を待つだけだ。
同じような作戦が、ウィーン全土で行われていた。
作戦指揮は対テロ作戦を主任務とする憲兵隊がとっていた。
テロが起こった際、それに乗じてネオナチが混乱を助長することを危惧した政府は、
憲兵隊にネオナチのアジトの所在をピックアップさせ、市街戦が発生したケースに基づく訓練をさせていた。
今回の作戦にはそのノウハウが役に立った。
強襲を受けたネオナチは為すすべなく制圧された。
大半が正規の訓練を受けていない素人であったため、目立った抵抗はなかった。
武装していた人間も少なからずいたが、日夜訓練を積んできた憲兵隊やアーカム・エージェントの敵ではなかった。
だが、それはネオナチが相手ならばこそ。
本物の戦鬼は、彼らの予想を遥かに越える戦力を保有していた。
魔女は信頼の置ける部下をウィーンに派遣した。
御伽噺部隊=<メルヒェン・ゲゼルシャフト>
魔女が自分の意のままに動かすために作り上げた特殊部隊だ。
その一騎当千の戦鬼達が、この屋敷の中で、獲物を待ち構えていたのだ。
まずは屋敷の外から、殲滅戦は始まった――
憲兵隊の兵士が、血を流しながら倒れている。すでに息はない。
その身体には、胸の辺りに大きな空洞があった。戦槍にでも貫かれたような傷跡であった。
「劣等どもが」
地に伏した死体を踏み据えながら、その乙女は吐き捨てた。
切れ長の瞳で、長い金髪を後ろにまとめている。歳はおそらく十代の後半ほどだ。
その瞳には抜き身の刀のような剣呑さが宿っていた。
彼女は、武装親衛隊の軍装を、その重厚な印象に負けず、しっかりと着こなしていた。
服に着られるタイプではない。この軍装に秘められている歴史の重みを理解しているに違いない。
乙女が現れたのは、屋敷の中に部隊が突入してから間もなくのことだ。
彼女は音もなく出現し、憲兵隊の一人を殺害した。警戒を怠っていなかったにも関わらずだ。
屋敷の外に待機していた兵士の間に面々に緊張が走った。
認めたくなかったが、この年端もいかない乙女は、鉤十字騎士団の一員なのだろう。
武装親衛隊の漆黒の軍装は、半世紀たった今でもトラウマを残している。
「もう嗅ぎつけてきたのか。ごくろうなことだ。狗風情が忌々しい。だが、それもここまでだ。
我々鉤十字騎士団は、第三帝国のあらゆる敵を蹂躙する。半世紀前、お前達の卑怯なパルチザン
行為で、多くの命が奪われた。彼らの無念、わたしが晴らす。かかってこい」
その言葉が契機になった。憲兵隊は一斉にトリガーを引き、機関銃が鋼鉄の咆哮をあげた。
たとえ乙女のなりをしていても、スプリガンと互角の戦いを演じた鉤十字騎士団の一員だ。
躊躇は死につながる。容赦ない攻撃こそが上策なのだ。
だが鋼鉄の銃弾は、乙女を穿ちはしなかった。それどころか、一発も当たらなかったのだ
乙女は銃弾が身体に届く前に、姿を消していた。銃創の出来た壁が後に残された。
それと同時に、何人もの兵士が血飛沫を撒き散らしながら倒れた。
「な……!?」
兵士の一人は、目の前の光景を信じることが出来なかった。銃弾より速く動くことが出来る?
常識からは考えられないことだった。そんなことが可能なら、もはやそれは、人間ではない。
倒れた兵士は的確に急所を貫かれていた。当然、既に息絶えている。
人間を絶命せしめる箇所を正確に把握していなければ出来ない芸当だった。
彼は銃を乱射しながら後ずさった。その間にも、犠牲者は増えている。
日夜訓練を積んできた憲兵隊が、木偶のように斃されていく――。
恐怖に駆られながら後退していると、どん、と背中に何かがあたった。
背中越しに気配がする。嘲るような声が耳朶に響いた。
「のろまだな、お前達は。そんなことでは、私の″赤い靴″からは逃れられない」
恐怖の叫びを上げる前に、乙女の足が彼の心臓を貫いていた。
灼熱が胸に生じ、ごぶり、と彼は血塊を吐き出した。
彼を貫く靴。それは奇妙な靴だった。
真紅に彩られたその靴は、鋭利な刃のような形状をしていた。
特殊な金属で出来ているのか、仄かな燐光を放っていた。
「贖罪の時だ。あの世でわび続けるがいい」
その言葉とともに、足が引き抜かれた。胸から勢いよく血が噴出した。
朦朧としていた意識が途絶え、彼は絶命した。
――数分後。屋敷を取り囲む部隊の殲滅を終えた彼女は、自分の成し遂げた"成果"を見つめていた。
彼女の目の前には憲兵隊とアーカム・エージェントの死体が転がっていた。それを見つめる顔には、
やり遂げたという達成感などない。ただ嫌悪感だけが滲んでいる。
凄まじい形相で、死体の山を睨み付けている。それはまるで人間すべてを敵視しているような視線だった。
決して消えない憎悪の炎が、彼女の胸で燃え盛っている。
「……ふん」
不快極まりないといった表情で、彼女は屋敷を見上げた。
それと同じ時刻、屋敷の中で圧倒的な暴力による虐殺が行われていた。
屋敷内に侵入した突入班は、外からの連絡が途絶えたことで混乱していた。
何度試みても、一向に通じない。他の班についても同じことだった。
妨害電波が発生しているのか、無線からは耳障りな雑音しか聞こえなかった。
屋敷の中にいる仲間にも、何かが起こったのに間違いない。
敵の襲撃の可能性もある。考えにくいことだが、既に仲間達は、全滅したのかもしれない……。
ネオナチ風情にやられたとは到底思えなかった。
鉤十字騎士団の仕業と考えるのが自然だった。
スプリガンとも対等に渡り合ったとされる彼らなら、いかに精兵である自分達といえど、あっさり虐殺できるだろう。
ともかく、情報が少なすぎた。鉤十字騎士団の襲撃が真実だとしても、焦るのは不味かった。
状況を把握するまでは、へたに動かないことが得策だ。
不安がじわじわと胸に広がる中、辛抱強く連絡を続けていた。
その努力が功を奏したのか、無線が何かの音声をキャッチした。
なじかは知らねど 心わびて
昔のつたえは そぞろ身にしむ
さびしく暮れゆく ラインのながれ
いりひに山々 あかくはゆる
「なんだ、これは」
鈴のように透明で、絹糸をより合わせたような、美しいソプラノが無線から流れ始めていた。
その歌声は、困惑する彼らを嘲るように響き渡った。
うるわしおとめの いわおに立ちて
こがねの櫛とり 髪のみだれを
梳きつつくちずさぶ 歌の声の
くすしき魔力(ちから)に 魂(たま)もまよう
「う、うう……」
「おい、どうした?」
隊員の一人が頭を抱え、うずくまった。他の何人かの兵士達もそれにならった。
「頭が割れそうだ……」
こぎゆく舟びと 歌に憧れ
岩根もみやらず 仰げばやがて
浪間に沈むる ひとも舟も
くすしき魔歌(まがうた)
……うたうローレライ
柘榴のように、男達の頭が破裂した。頭部を失った彼らは、自分が撒き散らした血の海に沈んだ。
唯一頭が爆発せず、仲間の脳漿混じりの返り血を受けた兵士の一人が、へなへなと床に座り込んだ。
あたりの惨状は酷いものだった。頭欠した死体がいたるところに転がり、鮮血で床が真っ赤に彩られていた。
生き残っているのは、彼だけであった。彼は無線機から、つまり、歌声から最も離れた位置にいた。
――これは、攻撃なのか? 襲撃なのか?
あまりにも非現実的な出来事に、彼の理性は半ば崩壊しかけていた。
わずかに残された彼の理性はある答えを出していた。
……もしもこれが攻撃であるのなら、敵は、殺しそこなった自分に止めを刺しにくるに違いない。
そして彼の予想は的中した。
少女だった。ちょうど肩のところで切り揃えられた黒髪。薄い唇。細い顎。憂いをたたえた瞳。
そして、襟章に稲妻のSSが刻まれた、武装親衛隊のブラックスーツ。
うっすらと微笑を浮かべながら、ゆったりとした足取りで近づいてくる。
彼は何の抵抗も示さなかった。恐怖が彼のすべてを拘束していた。
そして少女は、彼の耳元に唇を寄せ、優しく囁いた。
ローレライの魔歌(まがうた)を。
「ああ、もう、退屈」
頬杖しながら、不機嫌そうに少女は呟いた。
少女の目の前にあるテーブルには、豪華なティーセットが乗っている。茶葉のバリエーションも完璧だ。
ダージリン、ウバ、アッサムにセイロンやアールグレイ。少女の嗜好はすべて網羅していた。
だが少女の機嫌は直らない。
「ああ、もう、退屈」
少女が機嫌を損ねているのは、パーティに同席する者たちが、彼女の提案した遊びを上手く出来なかったからだ。
それは、幼年期に誰もがやったことのある、自分に役柄を与え、それを全力で演じきる、ごっこ遊びだ。
「ああ、もう、"東部戦線ごっこ"は失敗ね。
まったく、拍子抜けよ。ボルシェヴィキ(憲兵隊とアーカム・エージェント)の連中には。
弱すぎるから、すぐに勝敗が決まっちゃって。まったくゲームにならないんだもの。
何年もグルマルキン大佐の言いつけを守って、いい子にしてたのに。
久しぶりのお茶会(ホロコースト)だから、とっても楽しみにしてたのに。
どうしてこんなことになっちゃったのかしら」
憮然としながら、足元の"生首"を蹴飛ばす。
凄絶な表情を貼り付けたまま床を転がるそれには、何か尋常ではない力で引きちぎられた跡があった。
少女の周りには――ばらばらにされた憲兵隊とアーカム・エージェントの死体が撒き散らされていた。
彼らを解体したのは、少女ではない。彼女の細腕ではどうやっても無理だ。ならそれを為したのは、一体何か。
少女のお茶会には、まだ参加者がいた。それは人間ではなく、怪物であった。
三月ウサギ。
きちがい帽子屋。
ネムリネズミ。
名高きマッド・ティー・パーティーの参加者。彼らはかつての姿を留めていながら、まったく別の生き物と化していた。
彼らの姿は、童話の残酷さと不条理さを過度に強調したものだった。
子供の頃に誰もが想像する普遍的な悪魔のイメージ。
それが童話のキャラクター像に結びついて、微笑ましく可愛らしい登場人物を、見るものに恐怖と狂気を喚起させずには
いられない悪夢の出演者へと変貌させていた。
この悪夢の怪物たちが、憲兵隊とエージェントを殺戮したのだった。
怪物の殺害方法は凄惨を極め、どの人間も五体をとどめないほどに解体された。
少数対多数の戦いではあったが、結果は、きちがいお茶会の参加者の圧倒的勝利に終わった。
少女はそれに拍子抜けして、自分が提案した"東部戦線"ごっこに興味を失い、不満げに紅茶を飲んでいる。
きちがいお茶会の参加者もまた、午後のお茶を楽しんでいた。
三月ウサギは苦悶の表情が張り付いたままの生首に齧りついていた。
口のまわりを血で汚しながら、素手で貪りつく。
きちがい帽子屋は上機嫌に鼻を鳴らしながら、巨大な鋏でせっせと憲兵隊を解体している。
人間の皮で出来た帽子でも作る気なのだろう。
ネムリネズミは自分の巣に作り変えた頭蓋骨の中で惰眠を貪っていた。
好物である脳味噌の味を思い出しながら、寝返りをうっている。
きちがいお茶会の参加者は遠慮という言葉をママの子宮の中に置いて来た様な奴らだったから、
テーブルマナーを守ることなど、頭の片隅にすら存在しなかった。
清潔だったテーブルクロスは血だらけ。そこらじゅう散らかり放題。せっかくのお茶会が台無し。
少女――アリスの機嫌は、最高に悪かった。
「あーあ、つまらないわ」
不機嫌に鼻を鳴らす少女は、病的なまでに肌が白く、精巧な作り物のような、それでいて今にも壊れそうな危うい雰囲気を放っていた。
年齢は十に届いているかどうか怪しい。瞳の色が蒼く、髪が金色の、典型的なアーリアンだ。
当然のように武装親衛隊の軍装を纏っていたが、それは、全体的にゴシック・ロリータ的な改良が施された改造制服だった。
軍服の重厚な印象を残しながら、全身のそこかしこでフリルが波打ち、漆黒のスカートがはためく。
過剰な装飾が目立つその二つの相反するファッションの融合には、本来の制服に込められた武装親衛隊の理念や歴史を冒涜する
ような、背徳と退廃に満ちた蠱惑的な美しさがあった。
「いいわ。あなたたち、もう消えなさい」
その一声で、きちがいお茶会の参加者は身体の輪郭を失い、泥のように形を崩し不定形の塊になって、少女の影に吸い込まれていった。
テーブルもまたべきべきと騒々しい音を立てながら折り畳まれるように小さくなり、少女の影の中に消えた。
「まあ、落ち込んでいても仕方ないわ。きっとスプリガンとなら、もっと素敵なお茶会が開けるわ。そうよ、きっとそうよ!
じゃあこうしちゃいられないわ。"お掃除"が済んだ後のお茶会を準備をしなくちゃ。
みんなのきっと"お掃除"で喉が渇いてるに決まってるから」
うきうきしながら少女はいった。そうと決まれば話は早い。
こんなところからさっさと抜け出して、新しいお茶会の準備をしなければ。
すっかり機嫌がよくなった少女は立ち上がり、鼻歌を歌いながら血まみれの廻廊を歩いていった。
――そして、最後に残された突入班。
この班は、憲兵隊との混成部隊ではなく、アーカム・エージェントのみで構成されていた。
彼らは世界の特殊部隊に比肩する実力を備えていた。どんな死地からも生還する力量を備えていた。
だが、何事にも絶対に超えることのできない壁というものが存在する。
彼らは屋敷に突入してすぐ、敵と交戦状態に入った。
敵は一人。戦いは数が多い自分たちに有利なはずだった。だが、今は、劣勢に追い込まれている。
それも当然のことだった。
敵は鉤十字騎士団だったのだから。
もしこの敵と接敵していたのがオーストリア憲兵隊なら、即座に全滅していただろう。
彼らがアーカム・エージェントだったから、抵抗らしい抵抗ができて、なんとか全滅を免れているのだ。
だが、その命運も尽きつつある。銃火器は十分にあるが、それが有効な手段になると思えない。
敵は尋常ならざるスピードで、床を、壁を、天井を縦横無尽に駆け巡り、銃撃を回避している。
ただの一発も当たらない。逆にこちらが、ばたばたと倒れていく始末だ。
敵が両手に持つ二挺のMG42機関銃。
それが電動ノコギリじみた咆哮をあげるたび、まるで玩具の兵隊のように、仲間が薙ぎ倒されていく。
――百戦錬磨の我々が、こんなにも容易く。
その班の指揮官は、まだ若いスプリガンの言葉を思い出していた。
鉤十字騎士団と接触した時は、すぐに逃げたほうがいい。奴らの実力はスプリガン級だ。
その忠告は正しかった。
この敵と遭遇した時点で、即座に撤退すべきだったのだ。だが、もう遅い。
他の仲間はすべて殺された。
自分もまた、脇腹にMG42機関銃の洗礼を受けた。血が止まらない。長くはもつまい。
痛みにうめき、歯を食いしばっていると、敵がすぐ傍に来ていることに気づいた。
彼はその敵を見上げた。そして自分の正気を疑った。
敵は、狼の頭をしていた。狼頭に武装親衛隊の軍装。
信じられないことだが、たった今まで、自分達は狼人間を相手にしていたのだ。
「残りはあなただけだ」
狼人間の口から出た言葉は、人間の発声器官から発せられたものとまったく変わらない、十分に聞き取れるものだった。
声音からいって狼人間は女性らしい。女性にしては、しっかりとした体躯を持っていた。特殊部隊の猛者達と比べても
遜色ない見事な身体つきだ。狼人間は、僅かばかりの情けを含めながら、話しかけてきた。
「残念ながら我々は、あなたたちの虐殺を命令されている。捕虜を取ることは許されていない。自決をお勧めする」
「そうかよ」
男は、拳銃を取り出し、躊躇せず狼人間を撃った。
至近距離から銃弾を撃ち込まれた狼人間は、わずかに姿勢を崩した。だが、それだけだった。
銃弾は狼人間の肉体を抉っていたが、致命傷を与えてはいなかった。皮膚の表面を削ったに過ぎない。
からんと乾いた音を立てて地面に銃弾が転がり、うねうねと肉が蠢き、数秒もせずに、傷は完全に塞がった。
何の感情も匂わせずに、狼人間は言った。
「残念だ」
「俺もそう思うよ」
「だが、勇気ある行為だった」
電動ノコギリのような唸りが響き渡った。
屋敷から外に出ると、歌声が聞こえてきた。絹糸をより合わせたような美しいソプラノ。
ゼクスが歌っているのか――そう思いながら、狼人間は眩しい太陽の下に姿を現した。
旗を高く掲げよ 隊伍を固く組め
突撃隊はおごそかに 力強く進む
我が同士よ きみは倒れたが
きみは常に我らとともにある
共産主義者の手で命を落としたホルスト・ヴェッセルを称えた歌だ。
本来は勇壮なマーチなのだが、歌い手によって、こうも印象が変わるものか。
彼女の口から流れ出る歌は、まるで清流に咲く花のようだ。
「あ、ツヴァイ! こっちよ、こっち!」
屋敷から出てきたツヴァイに気がついたのか、ゴスロリ親衛隊服で身を着飾る少女――フュンフがぶんぶんと腕を振っていた。
鮮血の香がまだ生々しい場所で、お茶会が開かれていた。
清潔なテーブルクロス、多くのニーズに応える豊富な茶葉のバリエーション、高級そうなティーセット。
すべて世界に一つだけの、フュンフお手製の品だ。
ツヴァイはその呼びかけに手を上げた。掃討はすべて終わったらしい。
他の仲間も、既に席についていた。
フュンフの席の向いには、屋敷外で待機中の部隊の殲滅を任されたフィーアが、生真面目な表情のままカップに口をつけている。
ゼクスも歌うのをやめて、フュンフからカップを受け取っていた。
どうやら自分が最後だったらしい。
ツヴァイは微笑むと――長年付き合った者でないと、彼女の笑みは分かりづらい、狼面であるから――最後に残された席に腰掛けた。
「ツヴァイはダージリンでよかった?」
「ああ」
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
ツヴァイは仄かに香る紅茶を楽しんだ。そして確認するように言った。
「全員無事だな」
フィーア、フュンフ、ゼクスの三人がうなずく。
聞くまでもなかった。奇襲は成功に終わったようだ。
ツヴァイは密かに胸を撫で下ろした――今日も誰一人欠けることなく、無事に任務を終えれたことを喜んだ。
「ツヴァイ、次の出撃はいつだ?」
フィーアはティーカップを置き、表情を引き締めてツヴァイを見やった。
「すでにスプリガンは大佐の所在を掴んでいると、ネオナチからの連絡があった。これが本当だとしたら、一大事だ。
儀式が奴らに妨害される恐れがある」
ツヴァイら四人の中でも、フィーアの任務にかける情熱は群を抜いている。
その熱心さが、しばしばツヴァイの手にあまることも少なくなかった。
フィーアの言うことには一理ある。
今回鉤十字騎士団が進めている作戦は、ナチ残党にとって乾坤一擲の一手となる。
その成否は自分達にかかっている、といっても過言ではない。
とはいえ――つい先ほど戦闘を終えたばかり。顔には出さないが、さすがに皆疲労しているだろう。
さてどう彼女をなだめようか――そう思案している間に、
「フィーア、あなたの中には、休息という言葉はないのかしら?」
そういったのはフュンフだった。
フィーアの言葉に機嫌を損ねたのか、眉をしかめている。せっかくのお茶会が、台無しになったと思っているのだろう。
「休息ならもう十分だ。早くスプリガンを排除しなければならないのに、こんなところでぐずぐずしていられない」
「フィーア、あなたにぴったりの言葉を贈るわ。ワーカーホリックよ」
「……フュンフ。お前は今回の任務の重要性を、本当に分かっているのか?」
「もう。任務外の時は、アリスと呼んでって言ってるでしょう」
「質問に答えろ」
「もちろん分かってるわ。久しぶりにみんなでお茶会を楽しもうって事でしょ?」
「……話にならない」
フィーアが苛立たしげにテーブルを叩いた。
大きな音に驚いたのか、ゼクスがびくりと身体を震わせた。
「前から言っておきたかった。お前は任務を軽く見すぎている」
フィーアの鋭い眼光が、フュンフに向けられている。対するフュンフも、真っ向からそれを受け止める。
「奇遇ね。わたしもフィーアに一つ言っておきたかったの。お茶会の時くらい、任務のことは口に出さないで欲しいの。
正直、息が詰まるわ」
二人の間の空気が見る見るうちに冷えていった。
フュンフの隣に座っていたゼクスは、そのやりとりをおろおろしながら聞いていた。
ツヴァイは落ち着いて紅茶を楽しんでいた。
二人の衝突は、いつものことだ。慌てることはない。
「フュンフ、お前は、ブリーフィングの時に何も聞いていなかったのか?
スプリガン、奴らをすみやかに始末しなければ、大佐に危険が及ぶ可能性がある。
私たちはそのためにここに来たんじゃないか。もう忘れたのか?」
「馬鹿にしないで。ちゃんと覚えてるわ。でも、そんなに心配することないじゃない。
私たちが全員そろったら、敵なんていないんだから」
「その慢心が敗北に繋がるんだ。なぜ、わからない」
「あーあー、説教なんて聴きたくないわ」
「……」
フィーアのこめかみがぴくぴくと痙攣する。
「……よくわかったよ、フュンフ。そうだ、わたしが愚かだったんだ……。
馬鹿にはつける薬はないと、そんな簡単なことに気がつかなかったなんて……」
「ご愁傷様ね」
「黙れ! いいか、そこでじっとしていろ。わたしの"赤い靴"で修正してやる!」
激昂したフィーアが席を立ち、それに呼応するようにフュンフもまた影をざわつかせた。
そして二人の衝突が決定的なものになる、そのとき――
「そこまで」
ツヴァイの静かな声が、二人の動きをぴたりと止めた。
「二人とも落ち着きなさい。
フィーア。スプリガンの抹殺は急務だが、アリスが言うように、いまは休息すべきだ。座りなさい。
アリス。フィーアのことも筋が通っている。私たちは大佐の障害を取り除きにきたんだ。
たしかにアリスのお茶はおいしいが、それを楽しむだけにここに来たわけじゃない」
「……わかったわ」
「……軽率だった」
爆発寸前だった二人の怒りはすっかり霧散し、どちらともなくあっさりと退いた。かたわらでほっとゼクスが息をついた。
ツヴァイは満足げに微笑んだ。
「それに、そんなに焦る必要もないさ。
――確かに、我々の身辺を嗅ぎまわる活動家によって、スプリガンに大佐の所在は悟られたが、
フュルステンベルク城にスプリガンが攻めようとするなら、それなりの準備をするはずだ。
時間は十分にあるし、アインやドライも大佐の傍についている」
「それは……確かにそうだが……」
「さっすがツヴァイ! どこかの考えなしのお馬鹿さんとは違うわね」
「……」
凄まじい形相で睨みつけるフィーアを、フュンフは知らん顔で無視する。
ゼクスはかわいそうなほど狼狽していた。
ツヴァイはやれやれと嘆息しながら、これからの作戦について述べた。
「まずは、オーストリア憲兵隊の詰所を片端から襲撃する。我々の得意な電撃戦だ。そして、スプリガンをおびき寄せる。
御神苗優は殺してもかまわないが、ティア・フラットだけは生け捕りにしてつれてこいと大佐が仰っていた」
「生け捕り?」
フィーアが怪訝そうに視線をむける。大佐の命令が信じられないようだ。
「そのティアっていう人、大佐と同じくらい強いんでしょ? 殺しちゃうのはまだしも生け捕りって、ちょっと難しすぎない?」
フュンフも同意した。殺すことと生かすのでは、後者のほうが遥かに困難だ。両者の実力が拮抗していれば、尚更のことだ。
「大佐はあの魔女を自分の手で殺したがっている。他は好きにしていいが、奴だけは生きたままで連れて来い、とのことだった」
「……そうか。だが、厳しいな。スプリガンは一人じゃない。御神苗優とかいう東洋人も、油断ならない相手だ」
フィーアの危惧ももっともだった。魔女のみにかかずらっていれば、足元をすくわれるだろう。
必勝を期すなら二対一。魔女を捕獲するのなら、もっとだ。
本来なら困難を極める作戦だ。だが彼女らには、それを達成できる手段があった。
「ゼクス……できるか?」
今まで会話に参加していなかったゼクスに話が振られた。声を出さないだけで、彼女は話の内容をしっかり聞いていた。
ゼクスは表情を引き締めた。ツヴァイは魔女を捕獲できるのかと聞いているのだ。
ゼクスの魔歌(まがうた)は人体に作用する。
先ほどは頭部の破壊に特化していたが、やり方次第では意識を失わせ、身体の自由を奪うことも可能だ。
ティア・フラットにどこまで通用するかは分からないが、現状では、それが最も効果的な手段といえた。
魔性の歌姫であるゼクスは少し考え込んだ後、こくりと頷いた。
「ゼクス、心配しないで!」
フュンフがゼクスに抱きついた。突然の抱擁に、ゼクスはどぎまぎしていた。
「わたしと"悪夢の国"の住人が、あなたを守るわ。だから安心して歌ってね」
任務の困難さに、自分は緊張していたのだろう。フュンフはその緊張を解そうとしているのだ。
少女の心遣いに、ゼクスは花のような笑みで応えた。
「ならば、御神苗優には私達が当たろう。いいな、フィーア」
返答はなかった。フィーアは、別のことに心を奪われていた。
フュンフとゼクスがはしゃいでいるのを、複雑な表情で見つめている。
それは、これまで見せてきた人間への憎悪や、任務への情熱とはまた違う、彼女が持つ極めて人間的な"嫉妬"という感情だった。
「……フィーア?」
「あ、え? あ、ああ。すまん。了解した」
「よし。……ではみんな、お茶会は終了だ」
その言葉で、全員の表情がさっと変わった。目つきが変わる。
厳粛といっていい雰囲気が、あたりに満ちていく。それは軍人の顔だった。
彼女らは殺戮を繰り返す戦鬼でありながらも、決して理性を失わない第三帝国の兵士だった。
立ち上がり、指揮官であるツヴァイの言葉を待つ。
「鉤十字騎士団、特別遊撃擲弾兵――御伽噺部隊=<メルヒェン・ゲゼルシャフト>、これより状況を開始する」
そして一拍置いた後、最後に、鉤十字の亡霊達は揃いの言葉で締め括った。
「我らに勝利を与えたまえ(ジークハイル・ヴィクトーリア)」
って、なんだこりゃ、長――
というわけで、今作のオリジナルキャラです。
二次創作でこんなにオリキャラに力いれたのは初めてですね。
だからこんなに長くなってしまった……
さて、次の投稿はスプリガンのターンです。おそらく。
夏はいろいろ忙しいですが、頑張って書きます。ああ、本当に忙しそうだ……。
***突発的な本の感想(ネタバレあり)***
虚淵版ブラックラグーン、読了。
……至福の一時でした。
すべての登場人物が輝いていました。
あのジェイクにさえ、最高にかっこいい最後が用意されているなんて!
他にも<悪魔の風>とかシャドー・ファルコンとか。
ヘロイン中毒で過去に囚われた狙撃の天才。この設定ですでに神だというのに。
遊撃隊時代の栄光から挫折。
そしてかつての栄光だった"パブロヴナ大尉"との邂逅と"バラライカ"との対決。
ああ、もう、最高でした。彼のすべてがつぼにはまりまくりでした。
出る作品を間違えたとしか思えないシャドー・ファルコンにも、腹抱えて笑ってました。
本編でないかなあ。
挿絵もすばらしいものばかりですよ。特に後半のレヴィのやつはもう逸品です。
>>207 作品の根幹に関わるキャラはおそらく出揃いましたけど、小ネタでちょこちょこいろんなものを混ぜようと画策しております。
>>208 スプリガンの戦闘は、たぶんもう少し先ですねー
翡翠峡奇憚も快男児シリーズもおもしろいので是非。
>>209 もう少しで(きっと)スプリガン活躍しますよ!
>>210 わたしも一緒に狂喜します。
>>211 すいません、ロンギヌスに朧さんを出す予定はありません。
――でも、次の作品なら、可能性があるかも? といった具合です。
かなり先の話ではありますが……
銀杏丸さん
そうそう、ブレイドです。あんまり映画見ないんですが、あのアクションは最高でした。3は怖くて見ていませんが。
>ハルピンの鬼姫
ロンギヌスが打ち切りの危機に!?
スターダストさん
いえ、自分も建物の描写は苦手です。建物に限らず、情景描写は出来るならすっとばしたいですw
ふら〜りさん
シエルは貧乏くじを常に引く運命にあるところが可愛いというか、なんというか。その鬱憤を晴らすように鬼神のごとき戦いを見せてくれる、はずです。
さいさん
初めてPCに触った時は自分もどうすればいいかわかりませんでしたが、さすがにこれほどではありませんでしたw
なんだか呆れを通り越して悲しくなってきました
いまは平穏な日常が続いてますけど、これからどうなるのか……
320 :
作者の都合により名無しです:2008/08/03(日) 11:14:18 ID:jyT9YFjM0
ハシさん乙ですー
ロンギヌス編楽しみにしてます
朧でないのは少し残念ですが
他スプリガンが活躍してるので十分
322 :
永遠の扉:2008/08/03(日) 20:22:49 ID:QLo70hcz0
「見て……ください」
鐶がぼんやりとバンダナを指すと、一体いかなる仕組か、白い生地に黒や黄色や赤の模様
がみるみると浮かび始め、やがてひどく漫画的なニワトリの顔がプリントされた。
. M
(・<>・)← こんな感じの。
「スゴい! どこで売ってるのソレ!?」
沈黙する戦士の中で千歳だけがきらっと瞳を輝かせた。
「さっき……首を回転させたフクロウにも……なります」
いうが早いか、バンダナはまたもこんなんになった。→(`・<>・´)
「わぁ、スゴい!」
(アイツが訳の分からないコトを話してる間に仕掛けますか?)
(待て。様子を見よう。斃すのではなく生け捕りにしなくてはならないからな)
(って話してるようだぜブラ坊たち
(総角クンの所在を聞き出すためね)
(了解)
ヒソヒソと話し出した防人たちに鐶は首を九十度ばかり傾げた。するとバンダナのフクロウ
顔も心持ち不思議そうになったからいやはや何とも不思議な装飾品である。
「あの……。変身した…………鳥さんの顔を浮かべることが……できるのですが」
首を戻し、戦士に手を差し出す鐶はどうやら話を聞いてほしいらしい。そこまで見抜いた斗貴
子だが、しかしホムンクルスには苛烈なのが彼女でもある。
「黙れ化物。仕掛けるならさっさと仕掛けてこい」
「……化物」
相変わらず無表情の鐶だが、バンダナのフクロウは目を丸くしてじんわり泣いた。
「無表情だけど実は傷ついてるんだよね。分かるよ。何か分かるよ!」
「貴殿は少し黙っていろ」
「う」
「あら?」
どうやって登ったのか。二階建ての建物の屋上から地上の戦士へと一瞥をくれた桜花は、
とんでもない異変に気づいた。
323 :
永遠の扉:2008/08/03(日) 20:23:44 ID:QLo70hcz0
そこにいるのは中学生程度まで幼くなった斗貴子と、あまり小さくはなっていないが良く見る
とややあどけなく少し縮んでもいる根来、そして明らかに子供になっている千歳である。
(なんで?)
めくるめく笑気は口を押さえるだけでは抑えようもなく。美しい顔はみるみると紅潮しクスクス
という笑いとともに震えた。
「笑うな! コレは奴の武装錬金のせいでこうなったんだ!」
「気をつけろ。斬りつけられると年齢が吸収される。ちなみに相手は人や鳥ならば自由に姿を
変えられる。例えば河合沙織やハヤブサなどに」
「わ、分かりましたブラボーさん(クス)。津村さんみたいにならないよう(クス)、気をつけます」
「だから笑うか喋るかどっちかにしろ!」
目を三角にして肩をいからす斗貴子を剛太はだらしない顔で見ていた。
(こんな先輩もいいかも)
幼いのに凛然としているギャップがたまらない。セーラー服がややだぶついているのも好印象。
(いいなあ。ちっちゃい先輩もいいなあ)
ほんわかと斗貴子を眺める剛太に檄が飛び、
「キミもしっかりしろ!! というか敵に集中しろ!」
「あ……忘れ物…………」
その集中すべき敵は、何かを思い出したように手を口へ突っ込んだ。
もちろんその隙を見逃す斗貴子ではない。一足飛びに斬りかかり……
やにわに鐶の背後で見慣れぬ緑の扇が勃興するのを認めるや、狭い路地を三角飛びに駆
け上がり、桜花たちと合流した。
「クジャクの羽?」
肩を並べた御前が不思議そうに呟き、つられて下を覗き込んだ剛太が血相を変えて桜花と
斗貴子へ飛びかかった。
「きゃ」
剛太の脇にしっかと抱きとめられた桜花はほのかに顔を赤くしたが……
それはさておき、クジャク。ギリシア神話では嫉妬深いコトで有名なゼウスの妻・ヘラの持ち
物である。
ある時彼女はゼウスの浮気相手たるイオを監禁した。
しかし見張りを命じた百目の巨人・アルゴスはヘルメスの持つ笛に眠らされ寝首をかかれた
ので、死を惜しみ、その百ある目をクジャクに移し替えたという。
(文献によっては眠らされたアルゴスへの罰としてむしり取ったとも)
324 :
永遠の扉:2008/08/03(日) 20:24:49 ID:QLo70hcz0
ちなみに雄のクジャクの持つ立派な扇形の羽根は、一見すると尾羽に見えるが実は違う。
正しくはその一つ上にある「上尾筒(じょうびとう)」なのだ。
さて今、建物同士の狭隘いっぱいに広がったそれから、羽根が嵐のように飛び散った。
剛太が桜花と斗貴子へ飛びかかったのもむべなるかな。鐶から見て前方のみならず上方に
さえ羽根は飛散し、先ほどまでの斗貴子の立ち位置を撫で斬られたケーキのように削った。そ
の威力をいち早く見抜いた剛太は彼女たちを両脇に抱えるように跳躍したのだ。
かくて直撃を免れた三人だが、しかしその背後で飛ぶ羽根からは、黄色と緑と赤に彩られた
目玉がベアリング弾のように爆裂してめたらやったらに建物を破壊していく。
掠ったのは一つや二つでもない。取り残された御前の「何じゃこりゃあー」という叫びを背後
に聞きつつ剛太は踵の戦輪を唸らせ一気に地上へと飛び立った。
途中視界に入った防人が影さえ見せず嵐のような弾丸をことごとく撃墜していたのに舌を巻く
一方、彼の背後で千歳が頭を抱えてしゃがみこんでいるのは呆れる思いだ。その姿にまたも
笑いを噛み殺した桜花には辟易だ。
もちろん、バルキリースカートで着地の衝撃を殺した斗貴子には惚れぼれする。
そんな剛太に桜花がややムっとしたのには気付かない。剛太だから気付かない。
ともかく着地した剛太が「いい判断でしょ今の」と斗貴子に笑いかけようとした瞬間、ドリルの
ように鮮やかにきりもむ飛び蹴りが彼の頭を直撃した。
「やいやいやい! よくもオレ様だけ見捨てやがったなコンチクショー!!」
被弾したらしい。ボロボロの御前が息せききって文句を垂れている。もっとも、蹴りの意味に
はもっと別のニュアンスがあるかも知れないが。
一方剛太は情けない声を立て、まるで千歳を真似たようにしばらく頭を抱えてしゃがみこみ……
鈍痛から立ち直るやいなや立ち上がり、御前と顔を突き合わせて言い争いを始めた。
「るせェ! 武装錬金なら多少ダメージを受けても平気だろうが!」
「平気じゃねーっての! ヤバくなったら自動解除されちまうっての!」
喧々囂々。桜花は満面の笑みでそんな喧嘩を見た。
325 :
永遠の扉:2008/08/03(日) 20:25:26 ID:QLo70hcz0
「ったく。ゴゼンも人格の一部だというのにいけしゃあしゃあと。というかケンカをやめろ!」
一喝によって二人の喧嘩は強制終了した。
剛太はモーターギアを、御前は桜花の手元で矢をそれぞれ羽根に向って撃ち始めた。
並び順でいうと、防人の右に剛太、桜花、斗貴子、後ろに千歳。
左の根来は「忍法天扇弓(てんせんきゅう)。──」と扇を放って羽根を撃墜中。
斗貴子としてはそんな彼らを援護に飛び込んで斬りつけたいところだが、しかし先ほどのクジャ
クの羽根のような予想外の行動もある。うかと単独行動すればキドニーダガーの年齢吸収の
餌食になる可能性もある。
踏みとどまったのはそういう理由もあるし、桜花の状態を知りたくもあったからだ。
「ダメージといえばケガの方はどこまで回復した」
「ようやく動けるぐらいまで。……走ったり飛んだりするのはまだ無理そうね」
斗貴子の問いに、桜花の瞳は憂いに満ちている。
弓を構える腕は微妙だが打ち振るえ、姿勢の継続さえ容易ではなさそうだ。
「隠しても仕方ないから白状するけど、剛太クンに手を引いて貰ってやっとココに来れた位」
硝子が弾け壁が割れ、千歳の悲鳴が一段と甲高くなる戦場で桜花は悲しげに目を細めた。
矢が羽根に当たり、共に消滅。しかし相手の攻撃が途絶える気配はない。
「そういえば。例の小札とかいうホムンクルスに神経を破壊されたというが……まだ」
「ええ。半日も経ってないもの。せいぜい5〜6時間といったところね」
その小札から回復を浴び病院に搬送され治療を受けた桜花だが、斗貴子の見るところ血色
は悪く、立っているのも辛そうだ。
「だったら何でわざわざ」
「秋水クンがたった一人で三人の敵を倒して核鉄を奪還してくれた以上」
流れてきた羽根を処刑鎌で弾こうとした瞬間、疼痛に体が引きつり反応が遅れた。
「私が寝ていられるワケないじゃない」
しかしそれは、御前が勢いよく射出する矢に見事撃墜された。
「それに半病人はお互いさまじゃなくて?」
桜花はくすりと魅惑的な笑みを浮かべた。
「鳩尾無銘から受けた傷、まだ完治してないでしょ」
326 :
永遠の扉:2008/08/03(日) 20:26:14 ID:QLo70hcz0
言葉に詰まる斗貴子の横で、防人が被弾し剛太が果てなき攻防に憔悴を浮かべた。
「だいたい、怪我をいうなら剛太クンだってブラボーさんだって一緒だし」
物腰こそ柔らかいが、言外には有無をいわさぬピシャリとした気品のある桜花だ。
「そう。マトモに戦えそうなのは再殺部隊の出歯亀ニンジャだけだっての。だって聞いた話じゃ
アイツ、今日が退院予定日だしな。で」
もう一人の無傷たる千歳はすっかり年齢が退行し、防人の後ろで空気の読めぬ応援歌を歌っ
たり流れ弾にビビり倒している。斗貴子は見た。桜花がそんな千歳に「ウケて」いるのを。
「数の上じゃこっちが有利だけど、状態を考えたらそれでようやく互角かもね」
それが証拠に誰一人として鐶の羽根の乱射に踏み込めずにいる。
(シルバースキンを持つ戦士長ならこのまま歩いて突入していっても良さそうな物を……)
しかしその場に留まっているのは、接近したところで決め手に欠けているのを自覚している
せいか。もしケガさえなければたちどころに突入し、一撃の元に倒せるかも知れないが。
「……あ、そうそう。私の療養のために借りていた核鉄、返しておくわ」
桜花が差し出したのは。
シリアルナンバーXIII(13)とLXXXIII(83)の核鉄である。
秋水が無銘と貴信から奪い、根来が持ちかえった物である。にも関わらず先ほどの奇襲の
際、防人がこれらを使っていなかった理由が斗貴子にようやく分かった。
きっと桜花は桜花なりに傷を治そうとし、防人もそれを承諾したのだろう。
秋水が奪還した桜花のXXII(22)のみならず無銘や貴信の物を使い、戦線復帰するために。
「まったく。核鉄三つで治療とは無茶をする。いいか。確かに核鉄には治癒効果があるが、そ
れは生命力を強制変換しているだけなんだぞ。使いすぎれば却って死に近づく」
手指を拳銃のようにすぼめて斗貴子は思わず詰め寄った。
「以前、キミが瀕死の重傷を負った時にも三つの核鉄で止血をしたが、それは死の危険が迫
っていたのと、カズキにせがまれたから止むを得ず許可しただけだ。今とはワケが違う」
327 :
永遠の扉:2008/08/03(日) 20:27:34 ID:ArVBLCZz0
いかに絶縁破壊によって神経のカバーたる髄鞘(ずいしょう)を破壊され身動きできなくなっ
たとはいえ、あくまで入院すれば治る見込みのケガなのだ。生命を削ってまで前線に出てくる
必要はない。斗貴子はそれをいいたいらしい。
「あら。気にしてるのはそういうコトなの? 私はてっきり、『核鉄三つも使ったのだからそれに
見合う戦果を上げろ』とでもいわれるかと思ってたけど」
「上げたければ勝手に上げろ。だが戦えなくなったらすぐに離脱しろ。いいな。カズキに感謝し
ているなら無駄に命を捨てるような真似はするな」
皮肉交じりの意見に斗貴子はそっぽを向いた。
「ええ。分かってるわ。それにしても」
「なんだ」
「ずいぶんトゲが抜けたみたいだけど、何かいいコトでもあったの?」
「……確かに最近の私は褒められたものではなかった。すまない」
「あらあら」
桜花から斗貴子へと移った核鉄が。
「戦士長! それから戦士・根来」
核鉄が宙を舞う。シリアルナンバーXIII(13)が防人へ、LXXXIII(83)が根来へ。
頷いた彼らの手へとそれぞれ見事に収まった。
「アレ?」
剛太は首を傾げた。
「キャプテンブラボー、LII(52)の核鉄持ってないんスか?」
「それがだな、火渡から、大戦士長の捜索のために戦士・犬飼にしばらく預けろという要請が
あって」
「戦団に返却したそうだ」
吐き捨てるように言葉を継ぐ斗貴子は苦渋満面だ。
「って。こっちが核鉄ない時に相変わらず不条理な。ていうかまだ見つからないんですか大戦士長」
「ああ。だからキラーレイビーズを更に増やして捜索にあたるらしい」
いったい何者が照星をさらったのか。気になるところではあるが、戦闘中に熟考する余地は
ない。この会話とて片手間なのだ。
「そっちは分かりましたけど、どうして出歯亀ニンジャに核鉄渡したんですか?」
「戦力やケガの状態からいえば私たちより彼がダブル武装錬金を使う方が確実だからだ。流
石に戦闘中に回復をする余裕はないだろうしな」
「なるほど」
328 :
永遠の扉:2008/08/03(日) 20:28:55 ID:ArVBLCZz0
納得がいった。そんな様子の剛太に斗貴子は眉を潜めた。
「ええとだ。一応聞いておくが、ケガは大丈夫なのか?」
「まぁそこそこには」
「そこそこって、……やっぱり桜花のいう通り、完治はしていないのか?」
「まあまあ。俺のコトなんか気にしなくてもいいですよ」
彼は親指を立てて嬉しそうに笑った。
「全ては先輩のためですから」
声と同時に投げた戦輪は羽根を何十枚となく両断し、美しい軌道で剛太に還った。
「先輩に笑顔が戻るなら、多少のケガなんて我慢しますよ俺は」
彼はグっと力瘤をつくるような仕草をすると、柄にもなく真剣な表情をした。もっともそれはすぐにいつもの軽薄な表情になり、わいわいまくし立て始めたが。
「相手が何を仕掛けてこようとしっかり守りますから、先輩は大船に乗った気持で安心して戦っ
てください! それと、ちょっと元気になったようで何よりです」
はぁ、と斗貴子は肩を落とした。この後輩はどうしてこうも気楽なのか。
「ならいい! 戦うというのならちゃんと戦士長か私に従ってもらうからな!」
「了解ッ!」
ノリ良く直立不動で敬礼する剛太をよそに、根来は薄く呟いた。
「もうそろそろか……」
そんな短いやり取りの間、羽根の発信源たる鐶側では。
「……ずぶずぶ」
拳、手首、一の腕、肘……と鐶の手が口にみるみると呑まれていく。細い頸が異様に波打ち
巨大な質量を嚥下している所をみると、彼女はどうやら消化器系へと手を入れているらしい。
「ずぶ、ごふっ……ごふ。げほ…………」
ちょっと苦しかったらしい。鼻が咳きこみ虚ろな瞳から数滴の涙がこぼれた。だがえずきな
がらも鐶は『何か』を掴んで引きずり出した。
それはポシェットだった。唾液などの分泌液にテラテラと濡れ光っているのを除けば、ファン
シーグッズショップの店頭にあっても違和感はないポシェット。
色は白く、大人の拳を縦二つ横二つ並べたような大きさ。
「……これは羽毛じゃないので……しまってました」
誰にいっているのか何を考えているか分からないが、鐶はびたびたのポシェットを大事そうに
肩にかけた。
それぞれの心理描写と同時に攻撃! とかのがテンポいいのですが、そうなると何だか
みんな自己完結しすぎだなあというコトで会話をば。
遅れてやってきた剛太と桜花の話です。でも本当は会話よりバトルに早く入りたい!
>>288さん
投下し終えてそれに気づきましたw こうしてみると、バランとかバーンとか白面とかの敵の数<
味方の数 な戦いにカッコ悪さを感じさせない先生たちはカッコいいですね。それも敵の強さや
脅威を描いてこそ。うーむ。秋水撃破にもう一イベント加えても良かったのかも。>鐶。
>>289さん
もうすぐボス戦なので、みんな活躍させたいですね。特に斗貴子さんを。
で、防人の負傷。これはどうすればいいか悩んでますw ゲームじゃ一線を退いたとかいいつ
つ鬼のように強かったんですが、はてさてその数か月前の段階ならばどうなのか……
>>290さん
ハヤブサ一つとっても奥深いですよ。おすすめは写真集。学術書とはまた違う、肌で接した生
の知識、生の姿が見られます! そして隠し玉は……ちょっとゲーム的かも?
あと、この戦いは「全員を活躍させたい」戦いですので、そちらもお楽しみに。
ハシさん
>きちがいお茶会の参加者は遠慮という言葉をママの子宮の中に置いて来た様な奴らだったから
これがカッコいいw 他のキャラも短いレス数で能力や性格の一端が伺えて、構成の妙技を感
じた次第であります。自分もいつかこんな調子でオリキャラをババーっと紹介したいとさえ!
ちなみに自分的にはアリスの能力が良いです。人を人と見なしていない凶悪さが素晴らしい。
ハシさん、スターダストさんお疲れ様です
>ロンギヌスの槍
スプリガンだけでなく、アームズへのオマージュも盛り込まれてますね。
お茶会の面子はオリキャラですのでハシさんの好きなように動かせる分、
難しいと思いますが、スプリガン達の良いライバルキャラになれば。
>永遠の扉
中学生の斗貴子とかはどうなってるんでしょ?見た目は変わらないのかな
剛太の健気さが斗貴子には届かないけど、なんとかそれを力にして
このピンチを脱する立役者になってほしいですね。
331 :
ふら〜り:2008/08/03(日) 21:58:38 ID:v1k6gqAh0
>>スターダストさん(うわああぁぁすみませんっ、ずっと間違えてました「鐶」!)
能力を逆手に取り逆転、「卑怯とは言うまいね」ばりの意趣返しをカマした戦士側。と思ったら
予想通り、そのままやられはしない鐶、むしろ押し返してて見事。斗貴子・桜花の立ち直りなど
の戦士側フラグ、更に隠し玉がありそうな鐶側フラグと、天秤の揺れで飽きさせないのが流石。
>>鬼平さん(キバは……ん〜……鬼平さん好みかどうか……と思いはしますけどね)
うぅむ。一見メチャクチャなようでいて、言ってることは別に間違っちゃいないような。アライ
は元々、上位陣の中じゃかなり常識的な人(だと思います)し、これはこれで彼らしい。世間
じゃイマイチらしいですが私は結構アライ好きなので、また彼を描いて下さると嬉しいです。
>>ハシさん
狂ってないバーサーカー。上品な血みどろ殺戮。とにかく強烈でした御伽噺部隊。原作知らず
の身ですので、オリキャラ・原作キャラの垣根は私の中には一切ありません。彼女たちの魅力、
原作勢と同じ土俵で楽しませて頂きますぞ。思いがけぬ苦戦、そこから意外な側面が、とか。
>>275 いろんな人がいて、いろんな作品があって、いろんなことがありました。スレ番一ケタの頃に
バキスレを離れた人が、いきなり今のバキスレを見たら、何があったのかと目を疑うでしょね。
ちなみに私が「表舞台」に出て、活躍して、転落したのもその五年半の間のこと。昔、何度か
発言しました「副業」ってのが実はそれだったりします。……励まされてましたよ、あの頃から。
晶はたっぷりと時間をかけて超至近距離のまひろを睨みつけていたが、やがて興味を失ったように
胸倉を掴んでいた手を離した。
急に地面を取り戻したまひろの足。
しかし、バランスまでは取り戻す事が出来ず、ヨロヨロと二、三歩よろけて後ずさる。
ようやく平衡を保ち、制服の乱れを気にする余裕が出てきた頃には、晶は既に二人に背を向けて
教室を後にしようというところだった。
二人の方へは振り向かずに親指で瑠架を指しながら、晶は気だるげに言う。
「アタシにかまってる暇があるんなら、そこのイジメられっ子を何とかしてやんなよ」
「え? あっ……」
瑠架へと眼を遣ると、危難が去って気が緩んだのか、晶の迫力に怯えていたのか、彼女は床へと
しゃがみ込んでいた。
頬を伝った涙の筋はまだ乾いておらず、鼻水をすする音も引っ切り無しに聞こえてくる。
晶とのコミュニケーションを諦めきれないまひろだったが、瑠架を放っておく訳にもいかない。
「大丈夫? 柴田さん。あ、教科書とか拾わなきゃ」
自分を見つめる優しさに満ちた瞳がすぐ傍にしゃがみ込んだ事に、瑠架はまた涙を溢れさせた。
今度の涙は恐怖や悔しさの涙ではない。嬉しさのあまりの涙だ。
「あ、ありが、とう……」
言葉にならない涙声。こぼれる涙の粒が床を濡らしていく。
まひろは慌ててポケットからハンカチを取り出して瑠架に渡すと、また彼女に身体を寄せて背中を
さすり始めた。
母親が我が子をそうするように。
「安心して。もう二度とあんな事させないから。私が柴田さんを守るよ」
その言葉を聞いただけで安堵の滂沱はますますその量を増していく。
だが、瑠架は嬉しい反面、心の片隅で疑問に思う。
何故、ただのクラスメイトというだけでここまで出来るのだろうか、と。
自分が傷つくのも恐れずにイジメっ子三人から自分を守ろうとし、泣いてばかりの自分を気遣い、
挙句はこれからも自分を守るなどと宣言している。
武藤まひろは友達か? ――違う。
武藤まひろと仲良く喋った事があったか? ――無い。
では何故?
それが知らない者同士の不思議というものなのだろう。
まひろが瑠架を知らないように、瑠架もまひろを知らない。
人が「どうして彼女を助けたのか? どうして彼女に優しくするのか?」とまひろに聞いたとする。
返ってくる答えは「イジメられていたから。泣いていたから。どうしてそんな事聞くの?」
といった言葉だろう。
相手がどんな人間かは理由に含まれない。相手との関係性も理由に含まれない。
おそらく苦境に会っている者を目の当たりにすれば、それが例え先程の三人組であっても救いの手を
差し伸べるに違いない。
その行動こそが“武藤まひろ”のすべてを表しているのだ。
まひろは瑠架を慰め、励まし続ける。
「それに、棚橋さんだって柴田さんを守ってくれたよ。だから……あれ……? ん〜と……――あ!」
何を思い出したのか、まひろは素頓狂な声を上げると、急いで教室の入り口へと振り返った。
まだ言うべき言葉が残っていた相手は既にその場にいない。
それに気づいたまひろは、元々豊満な胸を更に膨らませんばかりに大きく大きく息を吸い込む。
そして、その直後には推定量6000mlの空気が肺から一気に押し出され、声帯を瞬時に通過し、
感謝と挨拶の迫撃弾となって口から飛び出した。
「棚橋さぁーん!!! 今日はありがとぉー!!! またねぇー!!!」
校内放送に負けない、窓ガラスをもビリビリと震わせる大音量である。
だいぶ離れた場所から「うるせー!」という怒鳴り声が微かに聞こえてきたという事は、まひろの声は
充分に晶の耳へと届いたのだろう。
まひろは満足そうに頷くと、耳を塞いで眼を白黒させている瑠架に笑顔で向き直り、床に散らばる
教科書やプリントを率先して拾い始めた。
しばし無言で回収作業を続ける二人。
そんな中、まひろの眼にカラフルな色彩をまとった何かが映った。
「?」
床に落ちているのは開かれた状態の小さめのスケッチブック。
カラフルな色彩というのはそこに描かれたイラストだった。
29.5cm×21cmからなる白い世界の中では、黒い和装に身を包んだオレンジ色の髪の少年が
日本刀を構えている。
それは少々特徴的な絵柄と言っても良い。
モチーフが勇ましい割にはひどく耽美なタッチで、女性的な雰囲気を多分に感じさせる。
端的に言えば、まるでレディスコミックのような絵柄だ。
まひろはスケッチブックを拾い上げると、眼を輝かせて感嘆の声を上げた。
「へー、柴田さんってイラスト描くんだー! これ『BLEACH』の一護でしょ? すごく上手いねー!」
『BLEACH』とは週刊少年ジャンプに連載されている人気少年漫画であり、“一護”とはその作品の
主人公“黒崎一護”の事である。
「えっ? あっ! あっ、あ、あの、それは……。か、返して……!」
まひろの言葉を聞き、遅れて彼女の手中にあるものが何なのかを知った瑠架は、顔どころか耳まで
真っ赤にしてアタフタと両手を差し出した。
「あ、勝手に見ちゃってごめん! でもホントに上手いなぁ。憧れちゃう!」
まひろはウキウキとした調子で声を弾ませつつも、素直に瑠架へスケッチブックを手渡した。
尊敬と羨望に溢れた眼差しで彼女を見つめながら。
絵心の無い人間が身近に絵の上手い人間を発見した時の反応は、程度の差こそあれど概して
こういうものなのだろう。
しかも、それが自分の愛好している作品ともなれば嬉しさも加わる。
まひろの興奮はなかなか冷めやらない。
「あたしはねー、剣八が大好き! だってすっごく強くてカッコイイんだもん!」
殺陣のようにも見えるオーバーアクションな身振り手振りでそう言うと、まひろは矢庭に己の髪を
掴んで持ち上げ、しかめ顔を作る。
どうやら作中の登場人物“更木剣八”になりきったつもりらしいが、どう好意的に見ても小学生並みに
レベルの低いにらめっことしか思えない。
まひろの言葉と珍妙な物真似に、スケッチブックを胸に抱えたままの瑠架は僅かに顔を綻ばせる。
「む、武藤さんも、『BLEACH』読んでるの……?」
「うん! お兄ちゃんがジャンプを毎週買ってるから、私も読んでるよ。でも一番好きなのは『ワンピース』!
あとはねー、『アイシールド』とかー、『銀魂』とかー」
はしゃぎながら指折り数えるまひろ。
その様子は小学校高学年男子を思わせるが、彼女の場合は社会人と言っても充分通用するくらいに
大人びた(悪く言えば老け気味な)顔や風貌なのだから結構な違和感である。
瑠架はそんな奇妙極まる同級生から眼をそらすと、弱々しい語調ながらも初めての“自己主張”を呟いた。
「そうなんだ……。もしかしたら、話……合うかも……」
「ねー!」
瑠架の言葉を受けて、まひろが勢い良くズズイッと顔を寄せる。
突然の急接近に驚いたのか、瑠架はビクリと身体を震わせ、まひろから遠ざかるように立ち上がった。
気弱であまり社交的でない彼女には、まひろ流コミュニケーション術は少々刺激が強いのかもしれない。
事実、拾い終えた教科書類の詰まった鞄を抱え、ジリジリ後退りをしている。まるで怯えた草食動物だ。
しかし、瑠架は理解し始めている。目の前にいる女の子は敵ではない、と。
今まで見た事も無いおかしな女の子。自分を守ってくれた女の子。
「きょ、今日は、本当にありがとう。嬉しかった……すごく……」
そう言って深々と頭を下げると、瑠架は教室の戸へ小走りに急いだ。
「あ! 柴田さん、待って!」
去ろうとする背中にまひろの声が飛ぶ。
知らぬ間にいなくなってしまった晶の時とは違い、今度は間に合った。
まひろにはまだ言うべき言葉が残っていたのだ。
既に戸に手を掛けていた瑠架は“振り向く”と表現するにはあまりにも足りない角度で首を捻って
耳だけをまひろに向けた。
そして、次にまひろが発した言葉は、瑠架の生きてきた十六年間の人生で最も鮮烈なものであり、
また忘れられないものとなった。
特に、最後の一言が。
「今度、一緒に遊ぼうよ! お茶飲んだり、お話したりして。柴田さんが他に好きな漫画も教えてほしいし。
友達になろう!?」
嬉しさと同時に嗚咽が込み上げ、またも涙が溢れ出す。
何よりも感謝を伝えたいのに言葉にならない――
「う、うん……」
――瑠架はやっとの思いでそれだけを言うと、再び小走りとなり、廊下へと消えた。
まひろは再び元気な声で別れの挨拶を教室に、廊下に響かせる。今度は常識的な音量で。
「じゃあねー! また明日……じゃなかった、今日金曜日だった、また来週ねー!」
冬は日が落ちるのも早い。雨空ともなれば尚更だ。
瑠架と別れ、帰り支度を整えたまひろが生徒玄関を出る頃には、すっかり周囲は宵の帳と冷たい雨粒に
包まれていた。
まひろは広げた傘をクルクルと回しながら、深い藍色から黒へと染まりつつある空に向かって
楽しそうに囁く。
「柴田さんとは仲良くなれるといいなぁ。面白い漫画の話とかいっぱいしたいし。棚橋さんだって
怒りんぼさんだけど本当はいい人だよねっ」
学校の敷地を出て、通学路へ。
どうも傘を回すだけでは今のハッピーな気分を表すには足りないらしい。
今では己の身体まで回しながらでたらめなステップを踏み、時には大きく時には小さく、足元の水を
跳ね上げる。
『Walking on the moon』と歌われた浮かれ気分の夢心地な足取りとはこのようなものか。
この調子では寝食を営む寄宿舎まで、あとどれ程かかる事やら。
「フンフ〜ンフフンフ〜ンフ〜ン♪」
上機嫌で鼻歌まで歌い出すまひろ。
何の歌かはわからない。おそらく本人もわかってない。
「フンフ〜ンフ……――ん?」
不意に鼻歌が途切れた。
普段の通学路では決して見る事の無かったある光景が、まひろの眼に映し出されたからだ。
それは明らかに不審な人物。
少し先の電柱とブロック塀に挟まれるように寄りかかってしゃがみ込み、膝を抱えて顔を突っ伏している。
どこぞの軍隊か警察機関を思わせる黄土色の制服。
極端に短いミニスカートと白いオーバーニーソックス、それにクセッ毛な金髪のショートヘアから
察するに、女性と見るのが妥当だろう。それもやや大柄だ。
「どうしたんだろ……」
どんな理由があるにせよ、暗くなり始めたこんな時間に傘も差さず地べたに座る人物などと関わり合いに
なるのはあまり利口な行動ではない。
だが彼女は“武藤まひろ”だ。
見つけて数秒の正体不明の人物を本気で心配するのが彼女なのだ。
まひろはしゃがみ込む不審者の前に近づくと、同じようにしゃがみ込んだ。
更に自分が濡れる事も厭わずに傘を差し出し、問いかける。
「あ、あの、風邪引いちゃうよ?」
「What?」
伏せられた顔が上がるなり、まひろは驚愕した。
予想通り女性には違いなかったのだが、それ以外の点が予想を遥かに逸脱している。
彫りが深く、垂れ気味の大きな青い眼。
ツンと高い鼻梁。
透き通る肌は白蝋か雪花石膏か。
目の前の女性は“外国人”だったのだ。
まひろは狼狽しながらも、その場を離れようとはしなかった。
この少女の正義感は国境をも越えるようだ。
「わわっ、ガイジンさん!? え、えーと、こういう時は何て言うんだっけ? あ、そうだ、
まずはご挨拶しなきゃだね!」
目の前の外国人女性としっかり眼を合わせると、まひろはフレンドリーな雰囲気をたっぷりと
湛えた笑顔で話しかけた。
無論、英語で。いや、まひろ語か。
「は、はろー! あー、えーと、まいねーむ、いず、むとうまひろ! あ、英語の時は引っくり
返すんだっけ。まひろむとう!」
元気良く挨拶をしたまひろは、更に顔を近づけて引き続きフレンドリーな笑顔で彼女の返答を待つ。
「embarrassed it...」
彼女はそう呟くと額に手を遣り、溜息を吐いた。
どうやらひどく当惑しているらしい。
釣られたのか口元に笑みらしきものが浮かんではいるが、眉の方はPCを前にした際のまひろ並みに
ハの字に下がっている。
表情から推して『すごくありがたいが英語が喋れないようでは』とでも考えているようだ。
流石である。英語を喋っているのに英語と認識されていないのだから。
彼女は困りきった顔でまひろを見つめるしかない
まひろはめげずにお得意の身振り手振りを交えて、怪しげな英語で何とかコミュニケーションを取ろうと
挨拶を繰り返す。
ややしばらくの間、そんな不毛なやり取りが続いたが、ふと彼女の表情が変わった。
眼を見開き、少し開かれた口に手を当てている。
“何か”を思いついた表情だ。
そこからの行動は素早く、彼女はおもむろにまひろの眼を覗き込んだ。
吸い込まれそうに深い紺碧の瞳。
(わぁ、キレイだなぁ……)
同性だというのに胸に高鳴るものを覚えてしまうまひろ。
やがて、青の瞳が何故か真紅に染まった時――
『私の理解出来る言語を話せ。そして、私の話す言語を理解しろ』
――という声が直接、頭の中に響いた気がした。
気づけば真紅の瞳は再び元の青に塗り変えられている。
「あ、あれ……? 変なの。何だか、今……」
まひろは違和感を覚えていた。
気分や体調が悪くなった訳ではない。ただ奇妙な感覚に囚われた。ほんのひとときの間。
見ているものも聞いているものも何かが違う。
言い表しようの無いおかしな感覚。
その時、彼女が口を開いた。
「……あなた、まひろちゃんっていうの?」
その言葉を聞いた瞬間、まひろの顔にパッと輝きが増した。
「わぁ! すごい! 私の英語、通じたよ! それに何て言ってるかもわかる! へへ〜、これで今度の
英語の試験はバッチリだね!」
「ウソ……成功した……。マスターが前に話してたけど、“私達”の眼って本当に魔力があるんだ……」
双方が双方とも驚き、喜んでいる。
そして、歓喜の世界からいち早く舞い戻ってきたのはまひろの方だった。
再び彼女に向き直り、その身を案ずるように問いかけた。
「あ、ごめんなさい! えっと、どうしたの? こんなに雨が降ってるのに。具合悪いの? それとも
道に迷った?」
彼女も意思の通じる言葉で話しかけられた事で喜びから脱し、我に帰った。
ただしこちらは多分に悲観的だ。
俯いた顔。暗く小さな声。
「ううん……。私、行くとこが無いの。どうして日本に来ちゃったのかわからないし。ぐすっ……。
ここがどこなのかも、どこにいけばいいのかも……。ううっ、もう、どうしたらいいか……」
意思疎通の安心が緊張を崩してしまったせいか、己の境遇を話すうちに感情が込み上げてくる。
白皙の美貌を流れるのは、雨に打たれて濡れた前髪から伝う雫なのか。瞳からこぼれ落ちた涙なのか。
おそらく、どちらも
「大丈夫。泣かないで」
穏やかな声と共に、まひろの掌が彼女の手の甲に重ねられた。
雨に濡れた手袋を通して、彼女の肌に“人”の温かみが伝わってくる。
突然、まひろが一段高い声を上げた。夜の暗さも彼女の心の暗さも払拭するかのように。
その内容はまひろが思いつく限りの最善最良の選択だ。
「……そうだ! 私のとこにおいでよ! ずっと雨に当たってたら身体に悪いし、それにこれから
どうしたらいいかゆっくり考えられるから。私も相談に乗るよ」
彼女は俯いたまま。
誰しも乗り越えられない壁があれば、顔を上げることを忘れてしまう。
国境。宗教。人種。所属。それから、種族――
「でも、私は……あまり他の人と関わる訳にいかないの。ちょっと事情があって……」
「それなら大丈夫! 寄宿舎のみんなには秘密にするよ!」
いつの間にか重ねられた掌は両手のものとなり、ギュッと力が入る。
温かさだけではない。その感触だけでこの日本人の少女が持つ、明るさと強さと優しさが伝わって
くるように感じられた。
まひろの熱意に当てられたのか、彼女は思わず顔を上げる。
それでも少し困惑したようにしばしの間、逡巡していたのだが、やがてまひろの眼を見つめながら
恐る恐る口を開いた。
「――……う、うん。じゃあ、少しの間だけ……」
「よかったぁ!」
まひろは急に彼女に飛びつき、その身体をギュッと抱き締めた。
いくらボディランゲージに慣れている外国人とはいえ、突拍子も無く抱きつかれては驚きが
先に来てしまう。
それに彼女はずっと雨に打たれ続けていたのだ。
「ぬ、濡れちゃうよ! まひろちゃん!」
彼女の制止の言葉も聞かず、まひろは両腕の力を緩めず、離れようとしない。
両手を傘から離してしまっているせいで、せっかくの傘は二人の頭に乗せられている状態である。
終いには彼女も色々と諦めたのか、苦笑混じりにまひろの背中に手を回した。
充分に肌と肌で喜びを伝えると、まひろは彼女から身体を離し、一番に聞いておかなければならない
彼女の事柄について尋ねた。
これからの二人のふれ合いには絶対に必要なものなのだから。
「ねえ、あなたのお名前も教えて?」
彼女は幾分か顔を赤らめると、微笑みながらまひろへ己の名を告げた。
「私は、セラス。セラス・ヴィクトリア……」
さいです。夏です。鬱です。もういや。
>>254 マワされるってw まあ、確かにあんなに扱いやすい少女がいたら私も……
たぶん、そういう危険な面も『THE DUSK』の話作りには重要なんですよね。
>>255 晶も瑠架もまっぴーとの繋がりありきで書いてますね。
色々な面がありますが、ある意味まっぴーへのアンチテーゼみたいなものも。
>>256 サイトの方に遊びに来て頂いてありがとうございます。超嬉しいです。
大切に育てたいとは思うんですが、原作キャラとのバランスも考えながらですね。
>>257 それがね、原作連載時は猫も杓子も「カズトキ、カズトキ」でね、萌えスレとかね。
そんなにすごく人気があるワケじゃなかったんですよ。その頃の鬱憤を今晴らしてるみたいなw
>>258 自分でもびっくりですw しかし、私が書くからにはほのぼのなんぞで終わらしたりはしません。
ハード展開大好き。鬱展開大好き。ケケケ
>ふら〜りさん
学園ドラマなんですよぉ。良くも悪くも。しかし、ここまで力入れちゃうと“学園”と“町”の
バランスが悪くなりそうで怖いです。今回は自分的に綱渡りで書いているようなもんなので。
>スターダストさん
ここにきて勉強量が作品に如実に出てきていますよね。設定や描写に表れるリアリティがすごい。
やはり記憶や感覚だけで書いている私には真似出来ないというか。
鐶や無銘の戦闘を読んでいるとそんな気にさせられます。
>ハシさん
ネオナチ大好きだし、ナチスも大好きです。
皆川作品世界と不思議の国のアリスは相性良いですが、ナチスが入ってもやはり素敵な感じ。
あ、そういやスプリガンでありましたしね。
メルヒェン・ゲゼルシャフトには注目していきます。
申し訳ありませんが、少し失礼して私的な告知をさせて頂きます。すみません。
私のサイトの方では恒例となっているチャットを開きたいと思います。
日時は 8月16日 土曜日 PM9:00〜AM12:00 です。
住人の皆様、職人の皆様、よければご参加下さい。
詳しくはこちらまで
http://hp9.0zero.jp/177/saisaimappy/ 失礼致しました。
では、御然らば。
お疲れさんです
まひろとセラスが名乗りあってようやく第二部の本格スタートですな
まひろのテンションの高さについていけるや否や
週末まとまってきたなあwそれまでさっぱりだったのにw
>ハシさん
敵キャラはオリキャラですか。結構、可愛らしいイメージがありますねw
スプリガン達を追い詰める能力がどんなもんか楽しみです。
>スターダストさん
能力バトルを練ってますな。出演者多いから混乱しがちですが役割分担が
しっかりしてるから案外読みやすくて面白いです。
>さいさん
ようやく片方の主役のセラスが現れましたな。魅力的なおっぱいが2人w
この2人のコンビは想像つかないけど、まひろが足引っ張るんだろうなw
345 :
作者の都合により名無しです:2008/08/04(月) 23:33:07 ID:Ozen19g90
まひろは美人だから可愛いけど
客観的に見るとただの異常者だなあ
府警がようやく出てきましたな
もっと早く出てくるかと思った
ロンギヌスの槍が終わったら朧が活躍する話を書いてほしいな>ハシ氏
347 :
作者の都合により名無しです:2008/08/05(火) 23:12:39 ID:BdM15YAZ0
週末どっときて週中来ないね
さいさんとハシさんもペース上がってきたので
出来れば水曜日とかに投稿してくれると嬉しい
348 :
永遠の扉:2008/08/05(火) 23:44:59 ID:+oNxCGTb0
第068話 「滅びを招くその刃 其の陸」
(羽根が)
(やんだ!)
路上を覆い尽くすミサイルとベアリングの合わせ技。
その静止に戦士一同は身を固くし、一方の鐶はクジャクの羽根を畳んだ。
「……あ」
鐶の無表情の中で、スターサファイアの瞳だけがゆっくりと下を向いた。
「ダメージを……受けています)
腹部には蜘蛛の巣のようなヒビ割れが入り、一の腕やのびやかな足といった部分には無数
の創傷ができている。
(当然だ。戦士長の攻撃を受けて無事でいられるホムンクルスなどまずいない。しかも私たち
が追撃したからな。つまり、考えるまでもないが)
斗貴子の見るところ、少なくても絡め手さえ使われねばダメージを与えられる相手。
そう、傷ついた戦士たちでも一斉に攻撃をしかければ攻略は可能。彼女はそう判断した。
「『命に関わるケガ』…………でしょうか」
すくりと面を上げて虚ろな瞳を投げかける。
ただそれだけの挙措に、斗貴子はいい知れぬ怖気を覚えた。
動揺も怒りも苦しみも、痛みさえも浮かばぬ虚無の瞳だ。
かつて見た自動人形・無銘の方がまだ人間味があるのではないかとさえ思われた
「お腹の中はぐしゃぐしゃ……。歩くのも……飛ぶのも困難…………。あ、でも」
鐶の体表はやにわに半透明になっていく。赤い髪も肩にかかる三つ編みもその先端のリボ
ンも透けていき、「あっ」と斗貴子が呻く頃にはもはや何もかもが見えなくなった。
静寂が訪れた。響くのは彼方のカラスの声のみだ。まるでゴーストタウン。
そんな殺伐とした静寂の中、防人だけがからからにひび割れた声を漏らした。
「まさか、奴の狙いは」
「え? 何?」
八つの視線を向けられた千歳はまるで気付いていない。
赤く細い短剣が後頭部に振りかざされるのを。
まったくその光景は奇妙であった。
ポルターガイストかはたまた透明人間の所有物か。
『まったく誰もいない』空間で、短剣だけが真赤な光を円弧を引いている。
349 :
永遠の扉:2008/08/05(火) 23:45:52 ID:+oNxCGTb0
然るにその光景よりも剛太が唖然としたのは、短剣が千歳に達するよりも早く飛びすさり、彼
女をかばった根来にだ。
かつて同僚たる円山をまるで木偶人形のように囮にした彼が仲間をかばう。
意外といわずして何といおう。しかも彼は負傷した。千歳を横に抱えるその肩から半透明の
血の幕が風にけぶって滴り落ちて、身長は縮み顔つきも幼くなっていく。
いうまでもなく、年齢を吸収された証だ。
鐶の武装錬金の特性を話にこそ聞いていた剛太であるが、目の当たりにするとその畏ろし
さをまじまじと実感せざるを得ない。
掠るだけでも如実に年齢を奪う武装錬金。それは血肉を奪い神経を断つよりおぞましい。
(以下は本来の年齢 → 現在の年齢)
根来 20 → 12
「だ、大丈夫? ごめんね私のせいで」
「心配は無用。筋力こそ落ちているが戦闘に支障はない」
流石に剣呑な目つきが少年らしい丸みを帯びて、生白い肌がますますきめ細かくなってい
る。そんな根来だ。しかし内面にいかなる変化もないらしく、千歳への応対はにべもない。
「貴殿にはまだ利用価値がある。そう判断したからこそ敢えて助けただけの事」
(そーはいうけど、コイツが仲間助けるってのもなあ……)
剛太はかつて刃を交えたこの合理主義者の意外な行動に顔をしかめた。
「くそ。群衆に紛れたり姿を消したり、つくづく厄介なホムンクルスだ」
「でもさぁ、どうやって姿消してるんだアイツ? 武装錬金の特性は年齢のやり取りだし」
唇に可愛らしい手を当てて考え込む御前の頭を桜花は一撫でした。
「それで姿を消すのは無理ね。そして瞬間移動や亜空間の利用じゃなさそう。とくると」
防人が親指と人差し指で作った輪を目に当てた。
「心眼! ブラボーアイ!!」
「何か分かりましたか戦士長。というかそれ、対象に当てなくても分かるものなのですか?」
「見極めた! あれはハチドリの能力の応用だ」
「といいますと?」
「キミはなぜコガネムシやCDが見る角度によって色が変わるか知っているか?」
「確か……、重なり合う薄い膜やCD表面に刻まれた凹凸に光が干渉するからとか」
「そう、その通りだ。奴はそれを使っている。確か前、何かで読んだが……」
350 :
永遠の扉:2008/08/05(火) 23:47:30 ID:+oNxCGTb0
ハチドリなどの金属光沢を持つ鳥の羽毛は、角質層、メラニン層、空気層がほぼ交互に重な
っている。そして光線はこれらの層を透過しながらも各層の境目で反射するのだ。
こんな風に。
http://grandcrossdan.hp.infoseek.co.jp/long/tobira/kouzou.jpg もちろん、同じ方向へ反射する光は重なり合い、光の持つ「波長」によって色が決定される。
例えば455〜492ナノメートルの波長の光は「青」だ。380〜455ナノメートルなら「紫」。
ちなみに波長というのは要するにチーターマンに出てくるミミズみたいな奴だ。
〜 こんなん。で、
〜
〜 こう重なると(一波長またはその整数倍ずれて重なると)、その色は強くなり
〜
. 〜 こう重なると(半波長ずれて重なると)、その色は消滅する。
そうして最終的には無数の光の重なり合い、つまり「薄層構造に基づく干渉色」の中で最も
強い物が外へと現れる。あたかも前述のCDやコガネムシのように。
鳥類学者グールドが金箔に透明なオイルとニスを塗りこめてまで丹念に丹念に再現したとい
うハチドリの美しい緑は、しかし上記の洒脱な資材に寄らずして天然自然の中で当たり前の
ように作成されるのである。これもまた神秘といえよう。
「つまり奴は特異体質によって全身にハチドリのような組織を作り、光を乱反射させ、光学迷
彩によって姿を見えなくしている!」
んな無茶な。論理の飛躍に斗貴子は驚いた。
「いや、相手は動いてるんですよ。その度に色を変えてるんですか? 大体、全身に細胞が
いくつあるか分かったもんじゃないですし、特異体質だとかで細胞を変形させれるにしても限
度というものが……」
「……正解、です」
どこからともなく響く声に斗貴子はげんなりした。いっそ声の出所に処刑鎌を突き刺してやろ
うかと思ったが、しかしどうも声はあちこちに反響し建物の間をたゆたっていて分からない。
351 :
永遠の扉:2008/08/05(火) 23:48:24 ID:+oNxCGTb0
「あ、分かった。きっとハチドリじゃなくてアフリカにいるコウギョクチョウの応用だよ」
千歳はポンと手を打って生き生きと語り出した。
「私も何かのテレビで見たけど、この鳥のオスはね、羽根の細かい部分(小羽枝(しょううし))
にハチドリのような薄層構造があるんだよ。で、向きがそれぞればらばらで光を乱反射させて
色を変えているの。だから、特異体質で……」
ふふんと得意気に指を立てて聞きかじりの知識を披露する千歳に、防人の得心が発動した。
「成程。全身の小羽枝の向きをナノ単位で変え、周囲と同じ色を身にまとっているというワケか。
カメレオンの保護色のように」
「いや、だから戦士長? 緑一色の森とかならいざ知らず、こんな街中で」
斗貴子のジトっとした瞳が微妙な濃淡のあるビル壁を見た。場所によっては突然まったく違う
色の建物に変わっている所だってある。ゴミ袋だって落ちてるし、先ほどの破壊痕だってそこ
かしこにある。
それら全てをひっくるめた背景への対応を勘案すれば果たしてこの光学迷彩の是非はどうか。
もはや斗貴子にいわせれば、不可能というかホラ吹き嘘っぱちの領域だ。
「あ、でも先輩。コレならできそうじゃないスか。アイツ、細胞を操れるんでしょ? だったら」
剛太は以下のような仮説を立てた。
・鐶はフクロウよろしく首を三百六十度フル回転させ周囲の景色を把握。
・そしてリアルタイムで微細な景色の色や光の当たり具合などを算出し、全身へ送信!
・特異体質にて目まぐるしく全身の色彩情報を次から次へと更新し光学迷彩を実行。
「できるかあ!!」
後輩の突拍子もない憶測に斗貴子はキレた。ついでに千歳を狙っていた赤い短剣の周囲を
何度もガキガキと攻撃した。もっとも手ごたえはなかったが。
「フザけるな! コンピュータじゃあるまいしそんなマネがホムンクルスごときに!」
「あら。でも鳥って目がいいらしいからできるかも知れないわよ?」
桜花まで乗ってきた。御前も。
「まあ、手間がかかるから、どうせ化けるなら人混みで一般人にでも化けた方が簡単だろうけど」
352 :
永遠の扉:2008/08/05(火) 23:50:51 ID:+oNxCGTb0
「人間たる私でさえ修練一つで、逆三角のプリズムへと凝結する唾液を吐けるのだ。奴が小羽
枝をどう傾ければどういう色になるかの判断を養えたとしても不思議ではない。あとは景色の
瞬間記憶と自身の立ち位置の把握さえちゃんとさえすれば……あながち不可能ではない」
根来まで乗ってきた。「……正解」という声もした。斗貴子は泣きたくなった。
(というかそんな唾液を吐けるのはお前だけだ! 人間離れするのも大概にしろ!!)
何とも荒唐無稽な話である。しかし現実に行われているのだから仕方ない。
斗貴子は現実から逃げるように声の出所を探した。しかしどこから響いているのか分からない。
「ちなみに……いまの私の全身は……羽毛で、ふわふわもふもふして……ます」
「知るか!!」
とまれ足やポシェット、攻撃前の短剣は羽毛にしまって隠蔽しているようだ。だから見えない。
なお、ハチドリのような色彩を「構造色」といい、これにもある程度の分類があるが余談にな
るため割愛する。
「で、戦士長。肝心の敵の所在は?」
「すまない。奴が消えた瞬間の映像で仕組みを見破るのが精いっぱいだった」
「……記憶から見抜いたのなら。さっきのポーズはいらなかったのでは?」
「何にせよ、かような仕組みで姿を消しているのなら手立てはある。……見ろ」
無造作に天を指す人差し指を斗貴子が目で追うと、ビル群の中にぼかりと開いた青空に黒
い粒がゆるやかに密集しつつあった。
「カラス?」
そういえば先ほど鳴き声が聞こえていたが、こっちに向ってきていたのか? と斗貴子は毅
然とした眉を引き締めた。
「そう。カラスだ」
やがて群れを成した無数のカラスたち、一匹がとある一点に向って急降下をすると残りがそ
れに続き、かぁかぁと泣き叫びながら一見何もない部分を蹴ったりつつき始めた。
「まさか奴はあそこに?」
「ああ。先ほどすすった奴の体液と私の唾液を混ぜ、吹きかけておいた。これはカラスの攻撃
性を誘発する忍法だ。出典は海鳴り忍法帖
「もういい。お前が何をしようと私は驚かない。忍法でも何でも好きに使ってくれ……」
げんなりの極致たる斗貴子を根来は知ったこっちゃないという様子で朗々とやや嬉しそうに話し始めた。
353 :
永遠の扉:2008/08/05(火) 23:53:12 ID:wl2Kcobh0
「先ほど奴が頭上より木を降らせた瞬間、咄嗟にそれへ斬りつけ亜空間を通り抜け、奴の背後
から密かに浴びせておいた。それも奴が貴殿を牽制すべく羽根を撃ち放つ間隙あればこそ──…」
(そういえばさっき根来は着地してたが、アレは木から飛び降りたせいか)
防人の感心を感じたのか、根来はますます喜色を湛えカラスの群れを見た。
「奴の血液じみた汁を吸ったのはこの忍法のため。伊達や酔狂でああしたと思ったか?」
(思ってた!)
防人も千歳も斗貴子も、あと現場を見てない桜花や剛太や御前さえも頷いた。
「無論、奴にカラスの攻撃などは通じないだろう。しかしそれでもカラスは寄ってくる。いかに姿
を消そうと変えようとな」
「あ、ああ……。せっかくのふわふわもふもふが……」
カラスがツツーっと水すましのように横へ移動した。
「無駄だ。もはや姿を消そうと姿を変えようとカラスは貴様を追跡する」
(どうやらカラスが奴の目印らしいな。それにしても何なんだこのニンジャもどきは)
ストレスでキリキリ痛むブラックストマックを押さえながら、斗貴子は見た。
何もない空間へと稲光とともに昇りつめ、透明な空間へ忍者刀を差し貫く根来を。
「我が根来忍法、とくと味わえ」
すると短い呻きとともに羽毛が散り、根来を背に生やす鐶の姿がさあっと現れた。
「モーターギア! ナックルダスターモード!!」
いち早く動いたのは剛太だ。根来の退避と入れ替わりに鐶の懐に飛び込むと、短剣がかす
るよりも早く彼女を中空へ撃ち上げた。
「射って! 御前様!」
遅れて飛び出す斗貴子の左を桜花の矢が通過し、舞いあがった鐶の体へ面白いようにぷす
ぷすと刺さって行く。展開しかけた羽根も突き破り、制空権を見事に封じた。
(人気のない場所へ誘導だったな)
手近な建物を足掛かりに電光のように天へ昇る斗貴子の視界の遥か先にあるのは……。
オバケ工場。
(倒せない場合を考え、まずはあちらに向けて吹き飛ばす!)
太陽の光を浴びて青白く輝く処刑鎌。その稼働肢に淀みはなく、丸いモールドの関節も油差
したての新品の機械を思わせるしなやかな音で駆動した。
(敵は残り二体。この街を脅かすホムンクルスは……残り二体!!)
斗貴子は瞑目した。
354 :
永遠の扉:2008/08/05(火) 23:54:47 ID:wl2Kcobh0
様々な悪感情をもたらしてきた閉塞漂うこの戦いもいよいよ終盤。
(私にできるコトは決して多くないが──…)
一番に思い浮かぶのは励ましてくれたまひろであり。
平和に暮らすその友人たちであり、他の生徒たちであり。
(今はカズキが守ろうとした人たちが平和に暮らせるよう、全力を尽くすだけだ!!)
戛然と瞳を開くと、加速が敵の間近へ斗貴子を運んでいた。
「臓物をブチ撒けろ!!」
青白い稲光の中、鐶の左腕と右足が吹き飛んだ。そしてひび割れた腹部は処刑鎌の腹を
もろに浴び、敵を誘導すべき方向へと吹き飛ばした。
(……? 右腕にも攻撃を当てたのに切断できていない?)
短剣を握る鐶の腕だけがほぼ無傷なのを疑問に思ったのは束の間の事。
「えと、たぶん『今の』私の体重は25kg以下みたい」
無音の楯が現れる
「俺(75kg)と共に瞬間移動できるからな」
銀の直垂が風に舞う。
「顔は変わってないから追跡できるんだよ」
千歳が防人からぱっと手を放し、いずこかへと消え去る。
(私たちと同じく、年齢退行を逆手に──!?)
やや感嘆の色混じる驚愕に目を見開く斗貴子の先で。
「粉砕! ブラボラッシュ!!」
百とも千ともつかぬ拳が機関銃のように鐶へ叩きこまれた。
猛禽類についばまれた小鳥のごとく、彼女は右腕を除くあちこちを拳大に食い破られ、おぞ
ましい加速音とともに銀成市上空を突っ切った。
「やはり全盛期の半分……、いや三分の一の威力もない。ムーンフェイスならもっと大きく破
壊できたんだがなぁ」
「……いや、十分です戦士長」
斗貴子は呆れた。五千百度の炎で焼かれてなおホムンクルスを徒手空拳で突き破れる威
力があれば十分でないか。
鐶の行く手には高層ビルがあった。竣工間もないのだろう。ガラスが鏡のように濡れ光ってい
る。そこに鐶は成す術もなく激突し、薄氷のように(ガラスが)ブチ割れた。
「マズい。ああまでするつもりはなかったんだが」
355 :
永遠の扉:2008/08/05(火) 23:56:16 ID:wl2Kcobh0
防人は拳を突き出したまま「しまった」という気配を漂わせた。
まさかケガをした自分の攻撃力で壊れるとは思ってなかったらしい。
(ったく、根来といい戦士長といい。こういう所のガラスの強度は並じゃないんだが……)
ちなみに数か月先の防人はますます回復し、パピヨンパークという場所で「斗貴子やカズキ
が何度も攻撃せねば死なない牛」でさえほぼ一撃で葬ったりする。
そしてホムンクルス狩りに目が眩み、カズキも斗貴子も容赦なく殴り飛ばすのだ。
さて、ビル。内部はオフィスだ。日付は日曜日か土曜日か分からぬが、とにかく出社してい
た者たちは流石に目を剥いた。
ガラスが割れたと思うと少女が飛び入ってきてびゅーっと部屋を縦断していく。
机上の書類が枯れ葉のように何十枚となく捲りあがった。風圧で青やピンクのバインダーが
飛び、パソコンの薄いディスプレイも写真立てじみた気軽さでバタバタと倒れた。イスに座って
おやつのチョコをかじってたおじさんがいたが、鐶が掠ると猛然とギュラギュラ回転してチョコ
味したビターなバターになった。
最後のはおじさんのジョークだが、女子社員は盆の上の冷えた緑茶を悲鳴とともに取り落と
し、重役のカツラが吹き飛んで禿頭が露になった。笑っていいかどうなのか、新入社員の男は
表情を動揺と抑圧にくしゃくしゃにした。
しかもセーラー服の少女がバインダーや書類の嵐の中を駆け抜けさえもする。
何が何やらと唖然とする社員たちをよそに、鐶のぐなりとした肢体は輝くガラス編に彩られな
がらオフィスを脱出し、また防人の拳打を浴び隣のビルへ。それを突っ切ると斗貴子に弾かれ
そのまた隣と似たような光景を振りまきつつやがて高度を下げ──
ブロック塀に突っ込むと、左官が苦労して積み上げたそれをバラバラの瓦礫と化した。
オバケ工場まで4kmの地点。
「さ、流石にちょっとやりすぎだよ!! 大体、六対一とか卑怯じゃあ……?」
防人と瞬間移動した千歳は、瓦礫の下でぼろクズのようにつっぷす鐶を泣きそうな表情で見た。
「愚問だな。数の利点を行使するのは戦いにおいて至極当然の事」
亜空間から稲光とともに出た根来に、斗貴子は着地がてら首肯した。
「化物へ正々堂々挑む必要などない」
356 :
永遠の扉:2008/08/05(火) 23:56:58 ID:wl2Kcobh0
「先輩がそういうなら賛成」
「同感ね」
「そそ。仕掛けてきたのはコイツだし」
破壊痕を追ってやってきた剛太と桜花と御前も頷いた。
(あー、確かに正論なんだが、人として何か間違っているような)
千歳を除けば、合理主義者、腹黒×3、腹黒一号に絶対服従……とロクなメンツがいない。
しかし防人は強く出れない。何故ならホムンクルス討伐のためとはいえ。
(俺も街を壊してしまっている!)
恐る恐ると防人は背後のビル群を振り返った。ガラスがブチ破られたのが何棟もある。
破壊痕はどう見ても、趣味程度に日曜大工を嗜む彼では手に負えない範疇の物だ。
さすがの防人でも効果的な追撃と街への配慮は両立できなかったらしい。
しかもそれに加えて、鐶との最初の攻防で壊れた物が沢山ある。
(すまない。時間はかかるかも知れないがいつか必ず治す。それまでしばらく耐えてくれ)
迷惑をかけたビルの人たちに誓う防人は、帽子のツバをくいと押えて哀愁が漂っていた。
カズキがいればそれこそ「今にも泣きそうな表情(カオ)してた」と見抜くだろう。
「まあとにかく、コレでこいつを無力化できた。後は総角の所在を吐かすだけ──…」
左官泣かせの瓦礫たちがバラバラと押しのけられた。下からの何かに。
「ありがとう…………ございます」
「!!」
戦士一同は息を呑んだ。
「おかげで……『命に関わるケガ』を負えました」
もうもうたる土埃の中で鐶が立ち上がっている。
肌の血色はいい。衣服(実は羽毛)も新品同様。肩の三つ編みも艶がある。手足は無傷。
それらを見た者は防人も千歳も根来も桜花も剛太も、斗貴子さえも愕然と目を開いた。
「ウ!! ウソー!!」
両手で顔をヒョウタンのようにヘコます御前は戦士一同の代弁者であったろう。
「与えた筈のダメージが」
一筋の汗を垂らす斗貴子の横で、口を覆う桜花が血色をみるみると青くし打ち震えた。
「回復している……!?」
あらゆる攻撃のあらゆる痕が消失した鐶は、虚ろな瞳でゆっくりと踏み出した。
「次は……私の攻撃…………です」
あっさり破られちゃいましたが、鳥の機能の中でもハチドリなどの金属光沢は一段と素晴らしい。
他の構造色は、白(ガラス粉末と同じ原理)、青(青空と同じ原理)などがあるらしいです。
これに色素色が加わるとますます色は多彩。色の豊かさナンバー1の生物種は熱帯魚か鳥類
かというぐらい多彩。哺乳類も模様こそ多彩であれど、毛単体ではけっこう地味。考えてみれば
全身真青だったり緑だったりする哺乳類はいなかったような……
結論としては、アニメとかにいる緑や青やピンクの髪のコは実写で想像すると何かエグいというコトです。
ムックも野生で群れ作ってたら何か怖い。
>>330さん
あ!! もしかすると後ろ髪が出てるかもです。剛太の回想みたいに。
思いは通じず、通じたとしてもやっぱりカズキがいる以上成就はしない彼だからこそ
「らしい」活躍はして欲しいですね。一ファンとして。
ふら〜りさん(お気になさらず。普通はどう考えても「環」ですし。忍法創世記とか)
ズバリ意趣返しのイメージソースはそれですw あのタッグ結成はいいものです。
鐶はもうデンドロビウムみたいに戦闘機能満載でいっちゃえやっちゃえというノリですね。
それに戦士側の意地や矜持がどれだけ喰いつけるか。自分的課題は正にココ。
さいさん
ありがとうございます。資料をいろいろ買い込んだ甲斐がありますw 慣れれば勉強というのも
面白い行為だと思います。こう、学校で強制的に何十分と座らされる勉強ではなく、自分の興
味の赴くままいろいろ読んでいろいろ描く。そんな勉強は、面白いですw
>THE DUSK
ついに婦警との遭遇。言語の壁はこう突破したか! と。常識人で原作ではいろいろ振り回さ
れてる彼女はそれはもうまひろに振り回されるでしょうねw で、瑠架をさりげなく思いやる晶と
まひろに少し心を開いた瑠架。日常組はいい方向に向かうのかも。そしてまさか剣八が好きとは!
>>344さん
ありがとうございます。それにしても多数vs単体がなぜ最近のジャンプで少ないかひしひしと
理解できる項であります。「やりたい描写」と「やるべき描写」の折半、かくも難しいとは……
358 :
作者の都合により名無しです:2008/08/06(水) 00:04:10 ID:/aeMteP50
ダストさん快調ですな
意外とうんちくで千歳が活躍しててよかった
ぬったりしたしゃべり方で緊張感ぶち壊しだけどw
やたら攻撃的なトキコと回復系の鐶は相性悪いかもね
防人は意外と哀愁漂いますな
最強だけどどこか頼りないところもあるし。
ただこのチームでは間違いなくリーダーだから苦労しますな。
鳥に凝ってますな最近
362 :
作者の都合により名無しです:2008/08/08(金) 23:24:36 ID:1I+0G0ov0
しけい荘でかつみんが見たくなった
今週やたらかっこよかったので
かつみん主役でバキSS誰かかいてよ
また日曜にどっとくるのかな
それともお盆休み
ヤムチャの得意技に狼牙風風拳というのがある。ヤムチャが悟空に出会う前から
使っていた技だ。そのあと亀仙人からかめはめ波を教えてもらって、最近になって
操気弾という技を自分で考えた。かめはめ波は他人の技のパクリなので、狼牙風風
拳と操気弾がヤムチャのオリジナル技ということになる。
「名前がダメです!」
ヤムチャの召使いのプーアルは怒っていた。一方のヤムチャはまったく怒ってい
ない。テレビを見ながら何かメモを取っている。
「ダメってなにがよ」
ものすごくつまらなそうな声で、一応プーアルに聞いてみた。
「狼牙風風拳と操気弾はヤムチャ様しか使えない必殺技なのに、どっちもヤムチャ
様の名前が入ってないです! ヒーローの必殺技には、みーんなヒーローの名前が
ついてます!」
要はライダーキックとか猪木ボンバイエとか、そういうヤツだ。ヤムチャはメモ
に少し書き足してプーアルに渡した。
「はいこれ」
ハンバーグという文字に横線を引いて、その上にヤムチャバーグと書いてあった。
料理番組のレシピだった。
「料理の名前はどうでもいいですー!」
プーアルはメモをビリビリに破いてゴミ箱に捨てた。ヤムチャはある事に気がつ
いて、プーアルに質問した。
「自分の名前の技が当たり前って、オレの仲間にそんなヤツいるか?」
「いるじゃないですか! 悟空さんもクリリンさんも天津飯さんもピッコロさんも、
みんな自分の名前の技があります!」
「うそつけ。オレ1個も知らねーもん」
「悟空さーん!」
プーアルが呼んだら悟空がきた。すでにスーパーサイヤ人のなんとか形態になっ
ていて、そばに寄るだけで夢精しそうな迫力がある。
「オラ悟空だ」
「悟空さん、アレやってください!」
「よしアレか。オラわかったぞ」
悟空は窓から顔を出して口を開けた。青空には夏の太陽が燃えていて、遠くの山々
には薄く雲がかかっている。のどかな郊外の風景だった。
「悟空ビーム!」
白色の光線が悟空の口からほとばしった。山も雲も太陽もすべて消失した。
「ほーらヤムチャ様! 悟空さんの必殺技、悟空ビームですよ!」
「そうだ。オラこの技で昨日の天下一武道会も優勝したぞ」
決勝の相手がかわいそう過ぎる。それはともかく、今までヤムチャは悟空ビームな
ど見たこともない。しかし、ベジータ戦やフリーザ戦など重要な局面ではことごとく
死んでいるヤムチャなので、たまたま目にする機会がなかっただけかもしれない。
「悟空はわかった。クリリンは?」
「クリリンフラッシュ!」
実はすでに来ていたクリリンが叫んだ。クリリンのハゲ頭が光って、ヤムチャはま
ぶしくて目がくらんだ。しかしこれはアレだろう。
「太陽拳じゃねーか」
「クリリンフラッシュだ!」
クリリンはそっくり返って誇らしそうに答えた。本人が言い張るのだからそうなん
だろう、というのとクリリンがとても可哀想になってきたので、ヤムチャはそれ以上
追求するのをやめた。
「わかった。もう飽きたから後の2人はどーでもいーや」
「えーヤムチャ様! せっかく天津飯さんとピッコロさんも来てくれたのに!」
「天津飯のは天津飯フラッシュだろ」
図星だったので天津飯は帰った。残りはピッコロだけになった。
「オレの技は何だか分かるか?」
「すみません分からないですけど分からなくても全然大丈夫です」
「ピッコロチョーップ!」
ヤムチャの期待に応えて、ピッコロは必殺技を繰り出した。目の前の皿のハンバー
グが2つに切れた。
「ハンバーグ?」
ピッコロは初めてハンバーグの存在に気がついて、不思議そうにヤムチャを見た。
悟空もクリリンもヤムチャを見ている。プーアルが独り言みたいに言った。
「ヤムチャバーグ?」
「ヤムチャバーグ!」
ヤムチャは元気よくうなづいて、ヤムチャバーグの半分を食べて親指を立てた。
「ヤムチャデリシャス!」
いい雰囲気になってきたので、ブルマやベジータも呼んでみんなで大酒を飲んだ。
ベロベロになったヤムチャは上半身裸になってブルマを抱きしめて、乳首をブルマの
顔に押し付けた。
「食らえ、ヤムチャ乳首ー!」
ブルマはヤムチャをひっぺがして、右の乳首にビールの入ったコップをかぶせた。
「えい! ヤムチャ乳首封じ!」
ビールの炭酸が刺激的だった。ヤムチャはもう一方の乳首をブルマに押し付けた。
「なんの、ヤムチャ乳首・改!」
右がダメでも左がある。ヤムチャ乳首の二段攻撃、脅威!
おしまい。書いた時間は28分20秒くらい。
【ルール】
1:30分以内でオチまで書く
2:どんなに話が途中でも、ムリヤリでもいいから30分以内にオチにもっていく
3:どんなに出来が悪くても、オチまでいってたらアップ
4:30分でオチなかったネタは放棄
5:全5回。たぶんそれぐらいで飽きるので
6:超不定期
369 :
作者の都合により名無しです:2008/08/10(日) 22:41:18 ID:HdrFdzsT0
30分で3レスはたいしたもんだ
全5回というのは全て繋がりがあるのかな
今まで書いていた人?
なんとなくVSさんっぽいけど違うだろうな
久しぶりにヤムチャネタ読めたから満足
続き?を楽しみにしてます
実験作としては面白そうだ
尻切れトンボ感をどう上手く料理するかだな
ピクルという男がいる。とにかく強い。ティラノサウルスと闘って勝ったこともあ
る。腹が減ったら人間と闘って、勝ったらその人間を食べる。このピクルが、愚地克
己と試合をやった。
克己は試合開始10秒で食われた。克己の蹴りもパンチもピクルにはまったく効かず、
逆にピクルは克己の胴着の襟をつまんで口にポイして呑み込んでしまった。
「館長ー!」
試合場に克己の弟子がなだれ込んだ。克己は大きな空手道場の館長なので、試合場
の応援席は道場の門下生で埋まっていた。
「助けてくれー」
ピクルの腹の中から声が聞こえた。克己の声だ。丸呑みだったので死んでいなかっ
た。克己が殴っているのか、ピクルの腹筋が時々不自然な感じで隆起する。
「ぐえーっぷ!」
ピクルが大きなゲップをした。ピクルの口から、克己の足がちょっとだけ出た。
「引っ張れー!」
門下生は束になって克己の足をつかんで、渾身の力で引っ張った。スポンと音がし
て、克己は頭まで完全に出てきた。
「取ったー!」
粘液でべチョベチョになった克己は、片手を突き上げて叫んだ。小さな玉を2個持っ
ている。
「館長、それってまさか……」
「ピクルの睾丸だー!」
「ぐわー!」
猛烈な空腹感で、ピクルは目覚めた。同時に形容しがたい喪失感にも襲われた。そ
う、会員制のピンサロに久々に行ったら警官が現場検証をやっていた時のような。
「うがががー!」
ピクルは股間を押さえて、泣きそうな顔で睾丸を探している。克己の持っている玉
に気がついたと同時に泣き顔が怒りの形相に変わって、狂ったように克己に襲い掛か
った。
「ほーら、玉はあっちだ!」
克己が玉を放り投げると、ピクルも反転して玉を追いかけた。もう少しで捕れると
いうところで、偶然肉まん屋が通りがかった。
「はい、たくさん肉まんあるよー」
肉まん屋は肉まんを床にぶちまけた。小ぶりで睾丸型の肉まんなので、ピクルの睾
丸と混ざって区別がつかない。ところで偶然通りがかった人間がもう一人いる。
「だっしゃー!」
プロレスラーのアントニオ猪狩だった。天井から降ってきた猪狩はボディプレスで
肉まんと睾丸を全部ぺちゃんこにした。
「ははははー! ピクルくんのタマタマがペラペラだぞー!」
猪狩は肉まんだか睾丸だかわからない薄皮で、ピクルの頬っぺたを叩いた。ピクル
に日本語は通じないが、目の前の惨劇と猪狩の小馬鹿にした調子は理解できた。
「ぐぼがー!」
ピクルの怒りが爆発した。猪狩の口に手を突っ込んで、睾丸をつかんで引き抜いた。
「オレのタマもクラッシャー!」
猪狩は股間を押さえて、なぜか嬉しそうに床を転がった。床を転がって克己の足元
にきて、そして立ち上がった。
「克己くん、えい!」
猪狩は克己の睾丸を取った。取られた克己も猪狩もピクルも、もはややる事は一つ
しかなかった。
「てめえら全員の睾丸を取る!」
試合場は睾丸狩りの戦場と化した。雑魚の門下生はもちろん、刃牙も独歩も烈海王
も、阿鼻叫喚の中で成す術もなく睾丸を抜かれた。混乱に終止符を打ったのは郭海皇
だった。
「見てみい」
自分の睾丸を手に乗せてピクルに見せた。七色の光を放つ郭の睾丸は大きくて重く
て、何より生命力があった。もはや睾丸の域を超えて、それは小さな宇宙だった。
「うろろーん!」
ピクルは泣いた。猪狩も克己も首をうなだれて、その他全員も沈黙した。散乱した
睾丸は土に還り、試合場の照明はだんだんと暗くなり、やがて完全な闇となった。ピ
クルの遠い泣き声と郭の宇宙が共鳴して、その瞬間だけ世界は平和だった。
「最終結果」
第1位 郭海皇
大きさ、射出量、ともに文句なし。あと100年は種付けできる。
第2位 アントニオ猪狩
郭には及ばないがかなりデカい。ダチョウが見たら間違えて温めそう。
第3位 ピクル
塩づけの期間が長かったので、少し干からびていた。水で戻せば優勝もあったかも。
おしまい。すんません、30分はムリ。
43分20秒ぐらい。
376 :
作者の都合により名無しです:2008/08/11(月) 23:18:43 ID:CDFaVh4e0
1話1話独立してたんですか
ちょっとお下劣ですけどバキネタ読めてうれしかったです
act2
「で、どうするんです?
いくらなんでも殺されすぎだ」
うすく低く振動音が響く室内には、青年と月顔の魔人、そして巨大な棺があるだけだった。
「むーん。
まぁ、ver.1だ。予想の範囲さ。非聖闘士への対抗戦力としては申し分ない。
さて、どうだね?体調のほうは?」
棺に寄りかかるようにして佇んでいるのは、月顔の魔人だ。
ことさら爽やかに、楽しげに、それでいて途轍もない狂気をひめた彼の言葉に答えたのは、
巨大な棺だった。
「はhaハ、サいKOゥ…、sa。
iたミでヰQisawだ
すマ乃ne、ま、だ少し、ああ、これでいいか?
最高だ、実にいい、実にいい気分だよ、ムーン・フェイス君。
痛覚こそが今の私の最大の喜びさ」
雑音まじりの機会音声が調整され、しわがれた老人の声が響く。
巧妙に偽装されているが、よくみれば男の頭部と胸部が機械部品で覆われているのがわかる。
彼の頭部と胸部は、直接つながっていないのだ。
「痛み以外すべてピンボケしてるだけだろう?
かつての大戦士もこうなっては、ね」
そんなざまの老人に、青年は嘲笑混じりの声色でいう。
僅かばかりの畏怖を隠しながら。
「時の翁というのは残酷で公平さ。
若さを憎み、美を疎み、そして過去と今と未来を嫌う。
凡てが劣化して砂になっていくことを望んでいるのさ。
王権を息子に奪われて以来ずっと」
焦点のあっていない、ガラス玉のような瞳の奥にほの暗い情熱が燈る。
「むーん。
ピット・アーセナル君、君もあと半世紀もすれば立派な老人さ。
老いも病も好ましい伴侶ではないと、わかっているのだろう」
「ふん、当たり前だ。
だが、その結果がその身体か?その化け物か?
それ以外があるのならそれを選ぶだろうさ」
ギリシア・首都アテネはるか上空をゆっくりと円を描いて飛ぶ巨大な爆撃機の中で、
彼らは談笑するかのように物騒な話を続けていた。
青年の皮肉気な調子は、彼らになんの痛痒も生まない。
老いてはいるものの、頑健な肉体をもった男性の肉体は、ほぼ完全に機械の棺の中だった。
右腕がかろうじて自由になっているが、左腕は上腕の中ほどから機械部品に飲まれている。
胸の下、横隔膜のあったあたりから完全に人口部品で代用されているが、
実際には彼本来の肉体はごくわずかだ。
皮膚色のカバーをはがしてしまえば人工肋骨の中に機械的に代用された心臓が、
脳へと血液を送り込むべく脈打っているのがみえるだろう。
回り込んでみれば彼の背骨部分の脊髄に多目的チューブを直接繋げる為のジャックがあるのがわかる。
彼の名は、アルトリウス・ファスケス。
かつてヴィクターと並び双璧と称された戦士だ。
ヴィクター事件の当事者の一人であり、極東へとヴィクターを追い詰めながらも捕縛に失敗し、死んだはずだった。
しかし、当時の錬金戦団はヴィクターに対抗できるほどの戦士はなく。
また同時に、大幅に減少した戦士の確保を理由に、彼をそのまま死なせる事を惜しみ、
錬金戦団の総力を上げた蘇生手術の末に、こうして命をつなげたのである。
以来百年、彼の肉体は常に何らかの形で人の手が加えられ続けている。
結果、彼の肉体で手の入っていない器官は存在せず、脳ですら外科的措置が加えられており、
皮肉にも脳外科学会の進歩に一役買っている。
「錬金術、人が神の摂理に挑んだ無謀の軌跡だ。
その軌跡の中から、科学が生まれ、こうして今の文明の発展がある…。
すばらしいとは思わないのかね?
人間とは、ここまでのことができるのだ。
…ただの老人をここまで生き延びさせる事ができるのだ」
機械的に合成された声の向こうに滲む狂喜、そう、この老人は確かに歓喜していた、に、
ピット・アーセナルは怯んだ。
「…詭弁だろ?」
辛うじてそれだけ吐くと、彼は意識を窓の外にやる。
はるかかなたの地上には、今この老人のクローン体が戦闘を行っているのだ。
ピット・アーセナルの武装錬金は「工廠」。
名称をクリエーション・メイトリクス。
発動状態では最低でも八畳間ほどのスペースをとり、最大稼動状態では東京ドーム5個分にも相当する超ド級武装練金である。
その機能は武器・兵器であるなら何であろうとも完全に模倣複製し、まったく同一のものを大量生産すること。
コピー対象に無機物有機物の違いはなく、完全武装の兵士さえも完全に複製することができるのだ。
戦力不足に嘆く錬金戦団欧州総本部にはまたとない福音と期待された武装錬金であったが、
しかし、その複製体には致命的な欠点が存在した。
複製体が高等生物、つまり人間である場合、クローンとオリジナルが完全に同一の脳をもつがため、共鳴を起こしてしまう。
具体的に言えば、幻覚症状や幻肢痛、フラッシュバック、頭痛や強迫神経症などである。
常に強いストレスに晒されることになるため、被験者の脳は耐え切れず、発狂ないし精神崩壊を起こしてしまうのだ。
これを脳共鳴という。
発狂した兵士しか生み出せないのなら意味はない。
結果、彼の武装錬金はお蔵入りを余儀なくされた。
いくら武器が増えたところで、使う人間がいなければ意味はなく、
そのうえ、彼の武装錬金は未発動の核金そのものを武器として認識しない。
発動状態の武装練金と発現者がセットでなければなぜか量産できなかったことも災いした。
錬金戦団の期待は大きかっただけ、その絶望もおおきかった。
そして、ピット・アーセナルという人間は、錬金戦団から捨てられたに等しかった。
以来十年、彼は有能なバックアップスタッフとして働いてきた、表向きだけは。
その心中に抱えた憎悪は決して消えることなく燃え続けた。
結果、彼がサポートに当たった戦士チームは事故や、チーム間での不和による負傷といった事例が多発する事になる。
事件事態は非常に巧妙に偽装されており、調査は難航したが、調査部によって明かにされた事例の中には、
ちょっとした行き違いが原因であった諍いがピット・アーセナルの介入により設けられた仮初の和解によって
消えることなく燻り、煽り立てられ、その結果としてホムンクルス討伐任務中にも関わらず
チーム同士で武装錬金をもちいた私闘を演じ、5人編成チーム中三名死亡といった痛ましいものも存在した。
その内二名は兄弟同然にして育った仲であったという。
錬金戦団なぞ、ホムンクルスに食われてしまえ。そういった自暴自棄の感情に焼き尽くされた彼が引き起こしていた。
ムーン・フェイスは彼のおぞましい精神に注目した。
戦団にとっては獅子身中の虫であるが、戦団の実権を掌握し、対ヴィクター、
否、最終的な目標として対聖闘士兵器を生み出さんと画策している「彼ら」からしてみれば、
これほど有益な武装錬金術は存在しない。
類は友を呼ぶとでもいおうか。
ピット・アーセナル本人も、EU各国の戦団の連携を絶つという非常に重大かつ遠大な任務を、
「彼ら」自身が手をつける以前から効率よく秘密裏に、かつ効果的に行っていたのだ。
皮肉しか吐かない男だとしても、必要な駒ならば使うのが「彼ら」だ。
錬金術サイボーグ・アルトリウス・ファスケスはそう大っぴらに任務投入できるものでもなく、
かといって戦闘実績のない状態で前哨戦でしかないヴィクター討伐に当てるなどできるはずも無い。
そしてアルトリウスのサイボーグ化したクローン体は、
ただでさえ脳共鳴によって壮絶なフラッシュバックや幻痛をオリジナルの彼に与えている。
もっとも、怪我の功名とでもいうべきか、脳共鳴を利用した完全同一コントロールを彼は成し遂げていたのだが。
アルトリウスのクローン体の量産を考えていた「彼ら」は、クローンのクローンという常軌を逸した行為である。
通常、ここまで負荷を与えられて正気を保つことなど難しい。
しかし、アルトリウスは自分の脳を覆う人工頭蓋に直接核金を設置することにより、
理性と呼ぶべきものをかろうじて保つ事に成功していた。
痛覚以外の触覚を失い、それでもなお打倒ヴィクターの為に肉体を改造し続けることを是とした精神性を
正気とよべるかどうかは、議論の余地が有るところではあるが。
すくなくともアルトリウスは奇跡的に正気を保っている。
ただ、風が皮膚にふれるだけで引き起こされる激痛を引き換えに。
「彼ら」が出した契約条件の不老不死など、ピット・アーセナルにとってはどうでもいい事だ。
ただ、錬金の戦士たちが惨たらしく死んでくれればそれでいい。
捨て鉢になってはや十年、されども、彼の憎悪は彼を燃やし尽くしてはいなかった。
ムーン・フェイスらが乗るこの機体は武装錬金である。
B-2ステルス爆撃機を彷彿とさせる全翼機・ドレッドウィングを駆るのは、新進気鋭の錬金の戦士ハイ・テストだ。
彼もまた、ムーン・フェイスに見出されたおぞましい精神をもった戦士だ。
すべての人間は苦痛を背負って生きるべきだ。苦痛の果てにこそ救いがある。
幼児虐待の被害者であった彼は、いつしかそういった信条をいだくようになった。
ハイテストは歪みを抱えたまま成人し、その歪みに従って力を渇望し、
その歪みをピット・アーセナルに助長された結果、どこに出してもおぞましいサディストへと成り果てた。
ピット・アーセナルも、ハイ・テストも、錬金戦団が決して表ざたにできない闇そのものなのだ。
「むーん。
さて、宴もたけなわといったところだが…。
そろそろ我らの同士を迎えに行かねばならない時間だ。
ブリッツ君に準備を」
ドレッドウィングの腹にあるハッチが静かに開き、聖域にむかって赤い閃光が打ち込まれた。
レーザー照準による超高精度ピンポイント爆撃、その誤差はわずか10oという脅威の精度こそがドレッド・ウィングの特性だ。
そのおそるべき爆撃能力により、いつしかハイテストは空爆参謀と呼ばれるようになっていた。
難攻不落の聖域に突如として現れた量産型アルトリウス、その種がこれだ。
レーザー照準により地上に向かって撃ち出されたカプセルには、五体ないし十体の量産型アルトリウスが格納されており、
地上着弾と同時に量産型アルトリウスをばら撒く。
先ほど、ドイツのシュバルツバルトに量産型アルトリウスを送り込んでみせたのが好例だ。
聖域侵攻に当たっては更に地上のギガースがあらかじめマーカーを仕込んでいるため、誤差はo以下にまで狭められていた。
そして、一人の男がふわりと、自宅の階段でも降りるかのように宙に身を躍らせた。
彼の名はブリッツ・ウィング。
アルトリウス式サイボーグ術によって現役復帰した戦士であり、公式には三十年以上前に死亡している。
ただ大空を翔ることだけを望んだ彼は、悪魔の取引に応じたのだ。
ロケットブースターの武装練金・ジェットファイアが彼の背で起動した際の発光は、
聖域地上からでも確認することは出来たが、
今の聖域住人にそんな余裕のあるものなど一人も存在しなかった。
レーザー照準にと同調したゴーグルには、気流、大気圧変化、湿度、温度、対地距離等の複雑な情報が流れている。
半ばまで機械化したお陰でこうした情報を不足なく読み取ることができ、高高度から地上へとダイブしたところで、
鼓膜がやぶれたり、気圧の変化で気を失ったりしない。
便利なものだ。人間であることなど、大空を翔ることに比べたらなんともくだらない。
そう思うブリッツ・ウィングもまた、いびつなのだ。
戦闘員・非戦闘員の区別も無く、ただ殺戮を目的として送り込まれた量産型アルトリウスは、聖域人口を確実に削っていた。
聖域は、確実にすり潰されていった。
ドラゴン紫龍役の鈴置氏が亡くなられてから8/6でちょうど二年になります。
破嵐万丈、ブライト・ノア、ドラゴン紫龍、伊達臣人、スタースクリーム、パワーグライド
色々なキャラクターに命を吹き込む声優という人をはじめて意識したのが星矢のアニメでした
映像ソフトや映像配信サイト全盛の今、
亡くなられてしまった声優の声を聞けるというのは悲しくも嬉しいものがあります
それに捕らわれることなく前に進んでいけるのが人かもしれませんが、
それでも少しばかり振り返ってみたくもなるのが人情かもしれません
>>221さん
黄金時代書いていた時期には「LC」が連載されていなかったこともあり、
「俺前聖戦」や「俺アフター星矢」、「再構成星矢」を書きたいなと漠然と考えていましたので
実はけっこう伏線じみたものが存在します
具体的にいうと、シオンの遺髪やアドニスや前の回でだしたエウロペなんかは…
まぁ、LC設定と食い違う場所が増えてきてるので似たようなことがあったんだよ的に捉えていただければ幸いです
>>222さん
すみません、いわれたそばから…
いかんせん最低でも月イチで投下していきたいなとおもっております、申し訳ないっす
とはいえ、好不調、ムラッ気のあるのが僕なので、いかんともしがたく情けなく…
まぁ、今月はあと一回くらい投下したいです
>>223 まだ辞めてねぇよ!
スターダストさん
武装錬金といえば変態大行進なんですが、どーも僕が書くと陰湿な方向へ行ってしまうのが困りもの
ちなみに今回登場したオリキャラ、アルトリウス以外の元ネタは全部トランスフォーマーからです
ドレッドウィングはトランスフォーマーG2ないしパワーマスター、ハイテストは海外版TF、
ブリッツウィングは初代TF、日本版ではブラボー役の江原氏が演じていたりします
ジェットファイアはマクロスのスーパーバルキリーをTFとして売ったというdでもないキャラクター
そのおかげで日本ではもちろん未発売なので、マニア垂涎の代物であったり
ま、ヴィクターの武装錬金がシャドウホークのエナジーライデンなのでその繋がりでありますw
どっちかというと模型・トイ系のオタな自分としては、聞かれなくともヤるのがどうしようもねーw
こういう点で遊んでしまうのが僕の欠点のようにも…
孔雀はギリシア神話よりも仏教系のほうが派手なのは実に地域性がでていて面白いです
方や怪物の目玉、方や神様の乗り物…
さいさん(前回は感想わすれて申し訳ないです)
なんというか、こう、好きだからこそイジめてみたいというか、イジりがいがあるというか
そんなサディスティックな気分にさせてしまうキャラクターというのがありますが
ええ、その下品なはなしですが『勃起』してしまいましてね、といった風に
こう、邪な意味での征服欲に駆られそうなキャラクターというのは、ええ、いいもんですね
なんか変態ですね僕orz
婦警、ヘルシング劇中じゃ体格面じゃ目立たないですが、そういやたしかにみんなけっこう背丈大きい
アーカードやアンデルセン神父など2mオーバーな連中が多いだけに目立たないですが
でも、おんなのこが二人で相合傘っていいもんですよね
ハシさん
ブレイドは回を重ねる事に駄目になっていくような気がしますです、ハイ
テレ東で昔やった大塚父子競演バージョンはウィスラの最期のシーンと、
その銃声を聞く哀愁の滲んだブレイドが重厚に演じられていて、円熟した声優の素晴らしさを感じられました
物語後半でフロストによって母までも奪われていたという「家族」というものが背骨にあって実によかった
それだけに回を重ねることに「家族」観がうすれているのがなんともはや…
オリキャラのナンバーズの活躍、期待しております
ふら〜りさん
前作はぶっちゃけていうと、黄金聖闘士という偉大なキャラクターに
おんぶに抱っこといった風が拭えずじまいでした(すくなくとも僕の中では)
星矢が世に出てから20年、その間にファンに愛され育まれたキャラクターイメージに
胸を借りた、とまぁそんな風におもっております
今、エピソードGやロストキャンパスといったまさしく星矢世界の広がりを描く漫画がある以上
軒先から一歩でてみたいと思い今作を書いているわけですが、やっぱり自分の力量不足を実感する日々
週刊であんなすばらしい作品を生み出せるプロ漫画家のなんと素晴らしいこと、と思うことしきり
ふら〜りさんはじめ、皆さんを満足させることの出来るものを書きたいな、と思う毎日です
では、またお会いしましょう
387 :
作者の都合により名無しです:2008/08/12(火) 12:56:11 ID:3GxZKXw90
銀杏丸さんおつ
錬金サイボーグってのがちょっとわからないけど
大決戦ぽくなって着たので期待しております
ムーンフェイスは人気あるな、どのSSでも
>45分の人
話題の克己対ピクルの決着を1早く見られて良かったです
郭がいいとこ取りでしたけど。ヤクバレの人?
でもだんだんタイムがあがってきてますねw
>銀杏丸氏
お久しぶりです。今回はセイント側は出番なかったけど
敵側に強力さを感じますな。
聖域殺戮はグルジアみたいなもんかなー
389 :
ふら〜り:2008/08/12(火) 20:01:46 ID:uKqVK3Y60
>>さいさん
こんな子がいてくれたら私の中学時代も……とか思わせてくれますまひろ。そしてセラスとの
出会いを見て思い出すのは、彼女の兄が斗貴子と出会った時のこと。目の前に傷ついた人、
危難に襲われてる人がいれば、手を伸ばさずにいられない。あの兄にしてこの妹あり、ですね。
>>スターダストさん
>流石に剣呑な目つきが少年らしい丸みを帯びて、生白い肌がますますきめ細かくなって
そりゃあもう流石に小学生まで来たら、いくら根来でも立派に子供ですよ子供。中身どうあれ。
そう、中身は変わらない。剛太は知らねど読者は知ってる、根来だから千歳を助けるのである。
にしてもこの人数相手に、未だ攻勢でいられる鐶は凄い。充分立派に、副長の面目躍如。
>>御名前何卒。VSさんっぽいですけどHPにも変化なく……
>30分!
この試み自体が凄く、実際できたのはもっと凄い。笑えたのはもちろんですが、今思えば
プーアルってあの外見で敬語喋りで時々ちょい怒る、なかなか萌えキャラだったんだなと。
>45分!
普通(?)は「ケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ」でしょうが、上下と前後を両方
逆にしたところが新たな試みというかオリジナリティですな。結果の悲惨さは圧勝してますし。
>>銀杏丸さん(どーでもいいですがいつもいつも「銀杏○」と変換されてから書き直してる私)
原作ではメイン禍の源に戦団あり、でしたが本作もなかなか。ヴィクター然り本作のピット、
つーかクリエーション・メイトリクス然り……こんなとんでもない危険物を野に放つんじゃねえ!
と名もなき一般人なら叫びたくもなりますよこれ。そしてそれだけに、攻略過程が面白そう。
銀ちゃん元ネタわかんねえw
どれだけの原作が元になってるんだ?
あと、30分&45分さんはVSさんじゃないでしょ。
でも短編得意な感じで面白い。
えなりスレはなあ……。
SS専門スレにはさすがに及ばないけどリレー小説としては規格外な質だし大化けする余地は十分にあると思うが、
やっぱり読み手が少ないっぽいのが最大の問題。
まずスレタイがどう考えてもナンセンス系にしか思えないし、それを越えても漫画キャラじゃなく漫画家ってのは結構敷居が高い。
新規参入があんまり期待できないんだよ。
バキスレのふら〜りみたいなやる気を出させる面白い感想が書ける人が一人かできれば二人ぐらいいれば
かつての黄金期レベルも夢じゃないと思うけど、まあ難しいだろうな。
よりによってここに誤爆かよ……。
失礼しました。
393 :
作者の都合により名無しです:2008/08/14(木) 16:32:20 ID:JGh1+1YJ0
まだえなりってやってたのかw
第八話「宴」
ソムリエ五人衆のテレビ出演は驚くほどあっさりと決定してした。
「ソムリエ五人衆!?」
「えぇ、実は我々しけい荘の住人は大家さんから日頃からワインについて教えてもらって
ましてね。資格こそ持ってませんが、ワインの知識には自信がありますよ」
「……面白い。いいでしょう、是非あなた方で特集を組ませて下さい!」
テレビ局のプロデューサーと熱い握手を交わすドイル。
こうしてしけい荘が誇る手品師の野望の第一歩がようやく幕を開けた。
「ここからだ……。ここから私はスターダムに駆け上がるッ!」
テレビ収録はちょうど一週間後。しかも生放送。ドイルの報告を受けた他の四人も闘志
をあらわにする。
「決まりましたか。これでもう引き返せませんな」
「ふむ……面白くなってきたな」
「ウォッカで鍛えた俺の舌を披露する時が来たか」
「ジャア、サッソク特訓ト行コウゼ!」
特訓用に近所の酒屋で安ワインをいくつか購入し、いよいよ特訓開始。が、まずドイル
が改めて皆に語りかける。
「ソムリエというのは、つまるところ“ワインのプロ”だ。ワインの知識などろくに持た
ない我々が、一週間でプロに肉迫するのは難しい。しかし、ワインのプロを演じることは
できる」
ワインの歴史は紀元前に遡るほどに古く、単なる酒というカテゴリーを飛び出して一つ
の文化に数えても差し支えがないほどだ。しかし逆に日本のテレビ番組の視聴者に、この
文化(ワイン)を熟知している者などほとんどいないともいえる。ならばにわか仕込みで
も短時間『ワインのプロになりきる』ことができたならば、少なくとも公衆の面前で大恥
をかくことはない。これがドイルの戦略であった。
「要ハ堂々トシテロッテコトカ」
「演じるということであれば、私に一日の長がある。やらせてもらおうか」
嘘、演技、騙し合いならばしけい荘にも右に出る者なし。ペテン師ドリアンが名乗りを
上げた。
395 :
しけい荘戦記:2008/08/15(金) 00:52:52 ID:GObFymDU0
グラスに半分ほど注がれた赤ワインを品定めするドリアン。
「グラスの中が燃え上がっていると錯覚させるほどの鮮烈な赤。着色料などではない。葡
萄という自然の果実のみで生成された純粋な赤──あまりに原始! あまりに本能的(リ
アル)!」
今の台詞を要約すると「このワインはとても赤い」となる。
ドリアンはそっとグラスに唇をつけ、原始かつ本能的な液体を口に含んだ。数秒間舌で
転がした後、ゆっくりと喉の奥へ旅立たせる。
「味の五種──甘味、酸味、旨味、塩味、苦味。唇から喉までの短距離で全てを感じ取れ
た。この絶妙にコントロールされた味(テイスト)に、私は心に感謝すら覚えてしまった。
ワイン職人の知謀と情熱が体中を駆け巡るかのようだ。
こう飲んだ方が美味かった、あれを飲めば良かった、などという疑問が入る余地は一切
ない。ベストオブベスト。古より脈々と受け継がれてきたワインという名の伝統──その
完成形がまさにここにある! では、これほどのワインと私を引き合わせてくれた神への
感謝の印として歌わせてもらおう。オトワラヴィ──」
すかさず柳が空掌でドリアンを気絶させる。
396 :
しけい荘戦記:2008/08/15(金) 00:53:25 ID:GObFymDU0
「危ないところでしたな」
「でもさすがはドリアンだな。こんな千円もしないワインであそこまでベラベラ喋れるん
だから」
感心するシコルスキー。たしかに実際に通用するかはともかく、雰囲気とオーラは十分
及第点を出せていた。
「この調子で我々も続くぞ。特訓開始だッ!」
ドイルが吼える。皆がワインを飲み、能書きを垂れる。他に方法がないのならば、やる
しかない。
あっという間に五人は当日を迎えた。
浴びるようにワインを飲み続けたその身体は、傷をつければ血ではなくワインが噴き出
すのではないか。こんな冗談も若干の信憑性を持つほどに彼らは本気であった。
「大家さんも明日にはアパートに帰ってくる。あの人に恥をかかせてはならない。ソムリ
エ五人衆、出陣だ!」
ドイルを筆頭にスタジオに向かう面々。交通手段はむろん、足。
彼らは走り出した──栄光に向かって。
第七話
>>121 繋ぎの回です。
間違えて1レス目にコテハン入れてしまいました。
範馬刃牙は克巳の大金星に期待です。
398 :
永遠の扉:2008/08/15(金) 03:31:10 ID:DcbU/dop0
第069話 「滅びを招くその刃 其の漆」
キジ科キジ目ニワトリ。
祖先は諸説あるが、現在ではアジア南部〜東南部に生息する「セキショクヤケイ」が有力視
されている。(秋篠宮文仁他 「ニワトリの起源の分子系統学的解析」など)
紀元前七〜六世紀にはすでに家禽化されたものがメソポタミアに渡来し、紀元前六世紀頃
にはエジプト人の遠征から置き去りにされる形でギリシアへ、日本へはこの島国らしく大陸を
経由し、縄文時代後期〜晩期(紀元前二十〜十世紀)ごろ伝来。
ニワトリといえば「鶏鳴狗盗」の故事で孟嘗(もうしょう)君の食客が真似たような、夜明けに
高く鳴く姿が印象的であるが、その姿は古代、闇を制する光を持たなかった頃の人類によほど
鮮烈であったらしい。古代西洋のほとんどの国で太陽神がらみの「聖鳥」として、また中国にお
ける陰陽説では「陽」の存在として、何かと恭しく扱われている。
ゾロアスター教において雄鳥は「悪党から善を守るシンボル」であり、ローマにおいては戦争
の行方を占う大事な役目を課され……
ライオンさえこの鳥を恐れる。
とまでいわれていた。
さて、そんなニワトリを前漢期の「韓詩外伝」評して曰く……
「鶏に五徳あり」
直撃・ブラボー拳。鐶が攻勢に転ずると見るや防人は一気に踏み込み殴りかかった。
「頭に冠を頂くは文なり」
鐶はその拳に頬をすりつけるようにして飛び込んだ。ちりちりと火花が散り金属の焼ける匂
いが立ち込める中、ふくよかな頬を削ぎ落された少女は正に防人へと密着した。
「足に距(けづめ)を持つは武なり」
伸びきった腕。それを肩口の辺りで掴んだ鐶は無造作に防人を放り上げ、そのまま上段後
ろ回し蹴りを敢行していた。ただの蹴りならばまだいい。しかしの彼女の膝の裏には三十セン
チはあろうかというおぞましい距(けづめ)が生えており、しかもその軌道は如実に防人の目を
狙っていた。絶対防御のシルバースキン。しかしその顔面は視界を確保するためのわずかな
隙間が開いている。よしんばそこに当たらずとも距(けづめ)一点に集中した力はそれなりの
打撃を防人にもたらすであろう。
399 :
永遠の扉:2008/08/15(金) 03:32:24 ID:DcbU/dop0
それを見過ごす防人ではない。投げられた衝撃で悲鳴を立てる肩に脂汗を流しながら無数
の拳打で迎撃に映った。粉砕・ブラボラッシュ。先ほどと違い足一本に集中したせいか、鐶の
くるぶしからアキレス腱、膝裏、大腿部の中ほどまでが粉々に砕け、その音に促されるように、
斗貴子と根来が斬りかかり、剛太と桜花の手元から円や線の光芒がきらきらと放たれた。
「敵前にあって敢えて闘うは勇なり」
防人は覆面の下で愕然と目を剥いた。
鐶は片足の破壊に怯むどころかその衝撃を利して右足による飛び後ろ回し蹴りを放ってい
た。蹴り自体の威力はシルバースキンを突き破るほどではない。だが、防人の脇腹に接触し
た足は鋭い爪も露な猛禽類のそれになり、筋骨隆々の戦士長をまるでウサギ扱いのようにわ
しりと握りしめた。同時に鐶の両手は翼へと変じ、短剣を掴んだまま大きく羽ばたき舞いあが
る。そこへ躍りかかった斗貴子と根来、弾丸のような飛翔の強烈さになすすべなく吹き飛ばさ
れ、地上へと落下した。矢と戦輪に至っては、風圧で地面に叩きつけられたから問題外。遅刻
組二人はただ茫然と鐶の垂直飛翔する見送るばかりである。
「食を見て相呼ぶは伝なり」
周囲にまとい攻撃加えるカラスを「かぁかぁかぁ」と何やら呼びかけながら鐶は垂直に飛び、
二、三度周囲を見渡すと高層ビルに突進。防人を斜め下へ突き出すような格好をしながら、
外壁に押しつけ屋上から地上に向って一気に落下を開始した。防人の自重と鐶の膂力、そし
て重力。遠景は彼を起点にすれば高速エレベーター顔負けの速度で上に流れゆき、金に輝く
硝子とくすんだ灰塵が外壁滑る銀の肌から交互に舞いあがる。 ビルの外壁はダンゴムシの
背筋のような破壊痕と半透明のささくれに彩られ、シルバースキンは墜落途中の飛行機のよ
うに揺れに揺れ。
「夜を守って時を失わぬは信なり」
やがて防人は地面に叩きつけられた。
「私が……裸足の理由。それは変形の……ためです。靴を履いていると……破れます」
突っ伏す銀の防護服を足元に一度人間形態に戻った鐶は、がくりと左へよろけた。見れば
先ほど粉砕された左足はまだ回復しておらず、鳥の彼女としてはやや皮肉だが「カカシ」のよ
うな状態である。
400 :
永遠の扉:2008/08/15(金) 03:33:08 ID:DcbU/dop0
そのカカシから道路一本挟んだ向こうはどうやら色欲絡みの繁華街らしく、色とりどりのビル
袖看板が見えた。毒々しいそれらを邪魔そうに斗貴子が雑居ビルの間隙を飛び交い接近中
なのも見えた。彼女の足元で手を取りあい疾走する剛太と桜花も。昼時というコトもあり、他に
はほとんど人がいない。居ても斗貴子の形相に怯えて逃げ去っていくから、実質的に一般人
は皆無といえた。
少し考えた鐶は左手だけを鳥の足へと変形させ、それで地面を削るように斗貴子たちへ疾駆
した。身が震える思いをしたのは桜花だ。御前に至っては艶やかな黒髪の背後で魂の汗を股
ぐらの付け根からほとばしらせた。
左足欠損による左手右足の疾駆。それは異常過ぎた。たおやかな少女の裸足が泳ぐように
地面をぺとつく一方、機械のような左手の禍々しい爪がアスファルトの破片を後方へ巻き上げ
ながら轟々と運動する。かといって鐶はあくまで人間が走るような姿勢であって四足獣の走行
はしていないのである。左手は直立不動で掌が地面につくほどに伸び、松葉杖の代用品程度
の淡々さでアスファルトに爪痕をつけ、砕き、黒い破片を巻き上げている。
淡々というが証左は何か。少なくても桜花はそれを鐶の無表情に求めた。鐶はあくまで蒼い
スターサファイアを思わせる瞳に一切の感情を浮かべず、バンダナにも「絵に描いたような」ニ
ワトリの顔しかなく、ただ赤い三つ編みを風になびかせながら走っている。いかなる喜怒哀楽
もそこにはない。ないからこそ御前は身震いした。鳥というが鐶の瞳はまるで鮫。表情がない。
人形の目そっくりだ。
「忍法月水面。……」
赤いつぶてが雷光とともにばっと放たれたのは、斗貴子たちと鐶がちょうど道路一つ挟んで
向いあった時の話だ。爆走する鐶が「?」と首を傾げた頃には半紙大の赤紙に展開したつぶ
てが無表情にべちゃりと接着し、目と鼻を塞いだ。
さしもの爆走もなりを潜め、鐶は突如として深黒晦冥に陥った世界への戸惑い赴くまま、顔
に貼りつくその紙を引っ張ったり端をつまんだりして剥がそうと試みた。だが剥がれない。恐る
べきコトにホムンクルスの高出力を以てしても剥がれないほどの粘着力を帯びているらしく、
鐶が短剣を握ったまま手指を動かそうとも剥がれない。
401 :
永遠の扉:2008/08/15(金) 03:33:59 ID:DcbU/dop0
その足元ににゅっと忍者刀が飛び出たのと、鐶が短剣を喉首に運んだのはまったく示し合
わせたのではないかと思えるほど同日同刻の出来事である。
まず鐶は白い顎に短剣を押し当てたとみるや、すぅっと垂直に撫で斬った。
「外れなければ……顔ごと落とせばいいだけ…………です」
地面に落ちた顔の一部は無表情も相まりまさしく能面。やや厚ぼったく、ともすれば外装の
みならずその骨格部さえも切断されているかも知れなかった。
(た、確かに正論だけど……)
桜花が身震いしたのは麗しい女性だからだろう。斗貴子は特に何の恐怖もない。
そして顔面が地に落ちる前にはすでに根来が鐶の残る右足を大腿部の中ほどから断ち切っ
ていた。そして緩やかに前傾しゆくは鐶光──…
「流星・ブラボー脚!!」
自重と加速と重力がたっぷり乗った防人の蹴りが、倒れゆく背中にクリーンヒットした。
哀れ両足なき鐶は先ほどの意趣返しとばかりに成す術なく地に叩きつけられ、蜘蛛の巣の
のヒビをアスファルトを走らせた。
シオマネキのように左右まちまちの両手が異常な角度に折れ、背中にだらりと乗っているの
は半ば少女の容姿を持つ鐶であるからいたましい。防人は疲労とダメージと共にに嘆息した。
ふと剛太が上空を見れば千歳が瞬間移動していた。つまりそこまで彼女が運んだのだろう。
とにもかくにも生じたこの隙、なんとか追撃をと踵の戦輪の回転数を高める剛太だが、その
眼前で鐶は前述の姿勢から背筋と腹筋の力で二メートルばかり跳ね上がり、左手一本で妖怪
のように跳躍しながら道路を横断、一気に眼前に迫ってきたからたまらない。
「びょいん。びょいん。くけーっ」
ホムンクルスには「体の一部だけをホムンクルス化」する者がいるのを剛太は知っている。
斗貴子からかつてそういうオオワシのホムンクルスがいたと聞いているし、剛太自身も栴檀
香美というネコ型ホムンクルスが耳や爪、しっぽを生やしているのを見た。
それ自体はまだ納得できる範疇の話だ。オオワシのホムンクルスは手を翼にしていたが、そ
れも人間の腕と鳥の翼に形態の相同性(指骨の癒合の有無や上腕骨の湾曲の有無以外、実
402 :
永遠の扉:2008/08/15(金) 03:36:13 ID:DcbU/dop0
はほとんど同じ構造)があるのを踏まえればあながち不思議な話ではない。翼の先に爪をあ
しらっているのも二足歩行の都合上、本来癒合すべき鳥の指骨が攻撃のため人間の指骨に
沿う形で爪になったと考えられなくもない。そして鐶。
「ホムンクルスが人間形態から原型へ変身する際の細胞変化」
を意図的に操り、沙織よろしく他人へ化けたり、もしくはあらゆる鳥に変身できるという。
(鳥の能力の行使は、その特異体質と部分変化の合わせ技、か。それならありえ……)
そう思う剛太に、顔を鳥とカエルの相の子みたいにした鐶が大きく口を開き、斜め上方から
飛びかかった。
(ねェよ!! なんなんだコイツは!!)
桜花が一瞬何事かをいいかけたが、剛太はその掌を一段と強く握りしめ、フロスロットルで
疾走。肩を行き過ぎた鐶が手近な建物の壁を大口で削り喰うのを横目で認めた瞬間、嫌な汗
がぶわりと全身を濡らした。
一方、鐶は口からぼろぼろと破片を取りこぼしながら、「ぐべっ? ぐべっ?」と辺りをぶんぶ
か見渡し、たまたま近くにいた斗貴子に飛びかかった。
「つくづく化物だな貴様」
「くけーっ。化物違う。化物違う」
無感情な叫びを漏らす、扁平で横にざっくりと裂けた口と鉤状の嘴は、なまじ肢体のほとん
どがなよついた少女の物であるから不気味極まりない
目はフクロウのように二つちょこりと前を向き、色はバンダナに浮かぶ物と同じく黄色に黒。
嘴の周囲にはヒゲさえ生え、側頭部の羽毛のもじゃもじゃは不気味さを倍加している。
これが「ジャワガマグチヨタカ」という樹上生活を好む夜行性のヨタカだとは流石の剛太にも
分からない。ちなみにガマグチヨタカのラテン語の属名はバトラコストムス。ギリシア語の「カエ
ル」と「口」を合わせた名前である。
主食は甲虫やバッタ、クモなど。樹上から飛びかかり、大きな口で堅い殻を叩き割るように
して食べる。
果たしてその顔は数合撃ち合った後、斗貴子に外科手術のような鮮やかさで切除されたが
「もしも力尽きて……闘志の刃砕けても」
鐶の体がぱあっと光を帯び、傷も欠損した両足も物の見事に回復。人間形態で立った。
「また回復」
「一体なんなんだコイツは……?」
403 :
永遠の扉:2008/08/15(金) 03:37:30 ID:jiCLU9A70
桜花と剛太は口々に唖然を述べながらも顔を合わせて同時に頷き後方支援を開始した。
そして矢と戦輪が雨あられと着弾する中、間合いを詰めた防人が手刀を振りあげ──…
「両断! ブラボ……」
びたりと止まる我が肉体にうすら寒い思いをした。
見れば鐶は軽く伸びをして、指をそっと手刀に当てている。それだけなのに防人は動けない。
「馬鹿な。戦士長の攻撃を指二本で防いだだと……!?」
(コレは俺の攻撃力が落ちているせいか? それとも──…)
「……あ。さっきの話ですけど…………」
指は手刀を少し深く挟むと、そこを起点に防人を投げ捨てた。
行く手には斗貴子。彼女は防人を見捨てるコトも出来ず迎撃するコトも出来ず、しかしすっか
り華奢になった体では受け止めるコトも出来ず。
「く」と、ただ成すすべなく防人ごと手近な建物の壁に叩きつけられた。
「てめェ!! よくも先輩を!!」」
「対拠点殲滅用重戦兵器」
円盤に細いワイヤーがついたような尾羽。それが鐶の周囲を舞い狂い
「私の…………設計思想だそうです。それ……から」
数本の電柱を根元から、手近な建物を斜めから。
それぞれ鐶は寸断。ある一方向に向って倒した。
すなわち、激高して飛び込んできた剛太と、彼に期せずして連れられてきた桜花の方へと。
上方から迫る瓦礫と電柱に二人は身を竦め──…地響きと土煙に飲まれた。
「無銘くん曰く…………『破砕の光』『鳳雛』『言論遅滞』『滅びを招くその刃』とも」
「……恥ずかしくね? そのネーミング」
御前の突っ込みに鐶がさあっと赤面したところを見ると、いちおう恥ずかしいらしい。
「む、無銘くんが……つけてくれたから……いいのです。そして」
瓦礫の上へいつの間にか現れた根来が珍しく微笑を浮かべた。
「奴の誘いにまんまとはまったな」
「くそ。瓦礫は囮かよ。とりあえず助けてくれたのには感謝するけど……さっさと放せって」
根来に猫掴みにされ口をへの字にする剛太はやや幼い。
「やられた。逃走経路は予測済み。真の狙いは年齢吸収。あ、でもこれで先輩とお揃い?」
ちょっと嬉しそうな剛太に、根来は露骨に白けた。
「短剣を巻きつけた長い舌で、瓦礫を縫うように攻撃してくるなんて……」
404 :
永遠の扉:2008/08/15(金) 03:38:42 ID:jiCLU9A70
「うぅ。すぐに瞬間移動で桜花さんをさらったのに、なんで間に合わなかったの〜〜」
泣く千歳に支えられた桜花もまた幼い。
剛太と桜花は瞳がまるまると大きくなり身長が縮み、中学生程度までに退行していた。
(また……! ところで大丈夫ですか戦士長)
(あ、ああ。シルバースキンのおかげで何とか。そうだ。キミに話しておきたいコトがある)
緩やかに立ち上がった斗貴子はその言葉に思わず短髪を揺らめかしながら防人を見た。
「ま、待って下さい戦士長。今の話は本当なんですか……?」
「断言はできないが、千歳の例もある。くれぐれも気をつけてくれ」
一足先に戦士へ向かう防人の後姿を、斗貴子はしばし呆然と眺め、
「……全ての時局を熨(の)せる。それこそがクロムクレイドルトゥグレイヴ……!!」
鐶は真紅の短剣を振りかざし、四人へ斬り込んだ。
(以下は本来の年齢 → 現在の年齢)
防人 27 → 27
根来 20 → 12
千歳 26 → 06
斗貴子 18 → 15
桜花 18 → 14
剛太 17 → 13
「キミが始めて武装錬金を発動し、戦う意思を得たのは10歳の頃」
それまでの斗貴子は故郷の赤銅島で、普通の暮らしを送っていた。
「──つまり、年齢が9歳以下になれば千歳同様精神が退行し」
防人はこう指摘した。
「キミは戦士として最も重要な、『戦う意思』を失くすかも知れない」
そうなれば五体満足であろうとなかろうと戦闘不能。10歳未満は即・戦闘不能。
(まさか……そんなコトが……)
冷たい感覚を脊髄に感じながら、斗貴子も遅れて走った。
余談ながら円盤に細いワイヤーがついたような尾羽はヒヨクドリの物である。
ゴクラクチョウの仲間の中でも最も小さい種類であり、ニューギニアなどの熱帯地方に生息。
漢字で書くと比翼鳥。伝説上の「片翼しかなく雌雄が揃わねば飛べぬ」鳥。
やらねば分からぬコトもある。
ところでメルブラのネロ・カオスみたいに胸からジャワガマグチヨタカの顔がばーっと出てくる!
……ってのも考えたというか描いたんですが、それやると本当に際限がなくなるのでボツ。
それからターミネーターのT−1000はカッコいい。今の鐶のイメージソースはこれとネロ・カオス。
>>358さん
ぬったりw そんな千歳ですが、もうずっと前からこう描いてるようで不思議な感じです。
本当はクールなお姉さんなのに。でも昔の千歳も頭自体は良かったように思います。
潜入捜査を任されてますし、//のP50でも「優等生の学級委員長」ですし。
>>359さん
考えなしにがーっと行くとまずいですね。そもそも斗貴子さん、自分のペースが通じないと考
えるのをやめてますます攻め一辺倒になっちゃう(桜花戦とか)人。スイッチ入らないと冷静なんですが。
>>360さん
原作で一回、ボトムズの「炎のさだめ」の歌詞を言って(ややこしい)ましたが、まさにブラボー
のテーマはこれじゃないかと。あと、指揮能力については真希士の件やら何やらでちょっと……
な部分が。「兄貴」ならすっごい頼りになる人。でも、「上司」には不向きな人なのかも。
>>361さん
調べると面白いので、ついw なるべくサクっと描いて長くならぬようにはしますよ!
ふら〜りさん
根来は生まれた瞬間からあの顔あの目あの性格だったように思いますw そんな彼が千歳に
接する態度、たとえば子供ジョルノを見守るギャングみたいな。踏み込んで行かないけれど見
捨てもしない。……今思いついたんですが。で、鐶は今回ようやく暴れさせれて大満足。
406 :
作者の都合により名無しです:2008/08/15(金) 12:14:43 ID:whkooCOl0
サナダさん、お盆中にダストさんお疲れ様です。
>しけい荘戦記
ドリアンは確かにこういう語りさせたら上手そうだなあw
オリバならもっと上手そうだけど。克己勝つといいっすねw
>永遠の扉
鳥の異能を使い尽くした強さですなあ。しかしえらい知識あるなw
しかし千歳がどんどん若くなっていくw
サナダムシさんとスターダストさん乙です
・しけい荘
こいつらで何故ソムリエなのかわからんですがw
対戦相手と対戦が楽しみです。かつみんはこのSSに出ないの?
・永遠の扉
なんか若返って変わる人大して変わらない人と面白いなあ。
防人は大変だな、元からある意味問題児揃いなのに。
408 :
作者の都合により名無しです:2008/08/15(金) 22:54:18 ID:F0VHNf1b0
意外と面白い今回のオリンピック
サナダムシさん、スターダストさん乙です。
お2人が来ているとバキスレって感じがしますな
江田島平八は男塾の塾長になる前、雀荘の店長をやっていた。高田馬場のノース
ウエストという雀荘だ。ある日の夜、この雀荘で究極の闘牌が行われた。
「わしゃ打たんぞー!」
江田島は最初、対局を嫌がった。他のメンツはのび太、ドラえもん、アカギとい
う顔ぶれで、みんなマナーのマの字も知らない迷惑千万な客だった。江田島も客を
いじめるのが趣味だったのでそこに文句はないのだが、アカギにさんざんカモられ
たのはショックだった。最後にもう半荘やりましょう、と誘われているのだが、も
うアカギとは打ちたくない。始めに10万点もらったとしても絶対に打ちたくない。
「じゃあ100万点あげる」
「そんなもんはいらんわー!」
江田島は雀卓にどっかと座ってサイコロを回した。起家は江田島になった。点箱
にはのび太からもらった100万点分の点棒が山盛りになっている。
「あ、100万点もらったからやる気になったんだ」
「貴様らがピーピーうるさいからしょうがなく混ざってやるんじゃ! 100万点なん
ぞなくったって、ワシが本気で打ったらどいつもこいつも犬のクソじゃい!」
「じゃあ100万点返して」
「それとこれとは話が別じゃー!」
東1局、親の江田島の第1打、西。
「貴様らさんざんワシを侮辱しおって、もう許せん! 本気の本気で実力で勝つ!
そして100万点は絶対に返さん!」
気がついたら対局が始まっていた。東1局にして江田島が100万点のトップという、
圧倒的な展開だった。
「ねえねえドラえもん。江田島さんはトップを取れると思う?」
「思う思う。それロン」
一二二三三四(999)77西西
「ふーんそっか。アカギさんも江田島さんがトップだと思う?」
東2局、江田島の第5打、二筒。
「ああ。ロン」
(1345556789)中中中
アカギとドラえもんは、江田島から暴風のようにアガりまくった。そしてオーラ
スが終了した。
「結果」
江田島 350,100点
アカギ 350,000点
ドラえもん 349,900点
のび太 25,000点
アカギとドラえもんの猛追及ばず、江田島が辛くも勝利した。
「わーい! やっぱり江田島さんの優勝だー! さっすがー!」
のび太は江田島に抱きついて喜んだ。アカギとドラえもんも江田島に拍手を送っ
た。江田島がんばった! 江田島えらい!
「全然嬉しくないわー!」
江田島は全身から怒りの炎を吹き上げて厨房にかけ込んだ。厨房から猫の鳴き声
みたいな絶叫が聞こえてきて、少しして江田島が戻ってきた。体中に茶色と赤の染
みがついている。厨房ではセワシが夜食のカレーを作っているはずだった。
「100万点もらって100点差のトップってなんじゃそれ! わしゃどんだけカモにさ
れとんじゃ!」
「わかったらそこに座りなさい」
のび太は静かな口調で言った。しかし江田島の怒りは収まらない。
「貴様はこの半荘、なーんもできんかっただろうが! 偉そうにすんなボケ!」
「座りなさい!」
のび太はもう一度、少し厳しい口調で言った。アカギとドラえもんも黙って江田
島を見ている。江田島はなんだかいたたまれなくなって、おとなしく席に座った。
「江田島さん、100万点あるから少しぐらいふっても大丈夫とか思ってたでしょ」
「おす」
江田島はしょげかえってうなずいた。蚊の鳴くようなか細い声だった。
「ズルしてこの程度しか勝てないのって、すごく恥ずかしいでしょ」
「おす」
「最初からちゃんとした点数で打ってたら、油断しないから勝ってたかもよ」
「おす」
のび太の説教に、江田島は返す言葉もなかった。アカギが江田島の肩を叩いて優
しく言った。
「正々堂々とやろう」
「おす! わし正々堂々とやる!」
「よし。この半荘はなかったことにして、最初からやり直そう」
「おす! わし正々堂々とやる!」
仕切り直しの東1局、起家はアカギ。点棒はみんなキッチリ25,000点で、のび太だ
け万点棒が500本多い。
「いやいやいやいやのび太さん」
江田島は笑いながらのび太の万点棒をへし追ってゴミ箱に捨てた。ドラえもんは
変なサングラスをかけている。
「いやいやいやいやドラえもんさん」
江田島は笑いながらサングラスをひったくって、自分でかけた。麻雀牌が透けて
見える未来のサングラスだった。アカギの手を見るとすでに国士無双をアガってい
る。
「ククク……」
「いやいやいやいやアカギさん。クククじゃなくて」
江田島は笑いながらサングラスをひねり潰して窓から捨てて、アカギの手牌を頭
突きでこっぱみじんに砕いた。
「さあみんな! 正々堂々と闘おう!」
「いえー!」
答え。ムリです。
60分になりました。しかもその4に続く。
413 :
作者の都合により名無しです:2008/08/16(土) 12:59:22 ID:jCQOJN3A0
少しずつ伸びてる・・
でも麻雀ってことはVSさん?
「わーい」ってのもVSさんっぽい
やっぱりVS氏か?
麻雀の描写とかドラえもんの麻雀教室見たいだ
文体も確かにそっくり。でもHP変化無いからな・・
本当にVSさんなら週間少年漫画板のヤクバレも復活させてください
違ってたらごめんなさい。
次、誰か来たらそれが最後で次スレくらい?
ホームページは画像をあらかた削除されてしまったので
非常にやる気がなくなりました。
あと、これが麻雀教室最終回その5ってことにします。
VSさんか!こりゃ嬉しい。
出来ればウソバレやHPのブログも復活させてほしい
でも麻雀はSSごと消えてるんだよね。マジ残念
あと簿記3級合格おめでとうございます。多分。
ハロイさんも復活せんかな
銃創がまだ真新しい壁に、優は拳を叩きつけた。
「くそ……また間に合わなかったか……!」
硝煙と鮮血の匂いが、優の苛立ちを煽り立てる。
地面にこびりつく血痕、転がる無数の死体、無惨に破壊された建物。
すべて鉤十字騎士団の仕業だ。
奴らは大胆にも憲兵隊の基地を襲撃し、殺戮の限りを尽くしたのである。
「……親衛隊は相変わらずのようね。半世紀の時を経てなお、いまだに血を求め続けている」
ティアもまた優の傍らで基地の惨状を見つめていた。
常に冷静さを失わない彼女も、このときばかりは怒りを隠せずにいた。
憲兵隊の基地が鉤十字騎士団の奇襲を受けている。
待機していた二人に、切迫したその通信が飛び込んできたのは、ほんの数分まえだ。
優とティアは現地に急行したが、時すでに遅し。
親衛隊の姿はなく、後には殺戮の爪痕が虚しく広がっていた。
基地の状態は、惨憺の一言に尽きた。
生存者は皆無。将兵から新兵に到るまで、徹底的に殺しつくされていた。
誰とでも打ち解ける人となりの優は、まだ出会って間もない憲兵隊とも友好を深めていた。
気のいい奴らばかりだった。
一人も死なせることなく、任務を終えることが出来ればいいと思った。
だが、無駄死にをさせてしまった。悔しさに腹が煮えくり返りそうだ。
そんな不甲斐ない自分に腹が立っている優を、さらに逆なでするものが壁に残されていた。
血文字で描かれた「のろま野郎」と「次はお前達だ」というメッセージ。
いうまでもなく鉤十字騎士団が自分らに残したものに違いない。
「これで、何度目だ」
「三度目よ。同時に二箇所で襲撃が起きていることから、どうやら敵は複数でことに当たっているようね」
此処以外のいくつかの基地も、鉤十字騎士団によって、壊滅的な被害を被っていた。
早急に人員の補充が為されているが、すぐに元の態勢に復帰するのは難しい。
これではナチ残党に何か動きがあった時に、まともな対応がとれない。
鉤十字騎士団だけならば、スプリガンで対処できる。
だが、奴らがネオナチを率いて、ウィーン全土で大規模なテロを仕掛けてきたとしたら。
一騎当千の実力を持つスプリガンといえど、広範囲に渡る敵の活動を抑えることは不可能だ。
奇しくもこの戦略は、鉤十字騎士団に対する優達のそれと似通っていた。
武装した憲兵隊を容易に殲滅する戦力。そして機を正確に見極め、撤退する判断力。
あまりの素早さに満足な対応がとれぬまま敗れ去ってしまう。
半世紀前に連合軍を苦しめた電撃戦のやり方だ。
その見事なヒット&アウェイに、優達は翻弄されていた。
優は、苦悶の表情のまま死んでいる憲兵隊の兵士を見た。
機関銃で蜂の巣にされた死体。太い槍のような何かで急所を穿たれた死体。
中には、命乞いの末に嬲り殺されたような死体もあった。
――へどが出る。
優とて、人間が戦場という極限状態の中で、いくらでも非情になれることは知っている。
そして、昨日まで生きていた人間が、次の日に物言わぬ屍と化すことも、痛いほど理解している。
その不条理さを軍人は日常として受け止める。
だが、優は違う。理屈では分かっていても、それを許容することができない。
良くも悪くも彼は若かった。そしてなまじ力を持つが故に、悩む。
他に方法があったのではないか。
もし自分がもっと速く辿り着いていれば、こんな殺戮は起きなかったのではないか。
一人でも多くの人間を助けることが出来たのではないか。
任務で仲間が傷つき死んでしまうたびに――優はそんな葛藤に陥り、自分を苦しめる。
「くそ!」
再び拳を叩きつける。焦燥と苛立ちばかりが募る。
ただ時間だけが浪費されていく。何か対策を立てねばならない。
さらに犠牲者が増える前に――
「落ち着きなさい、優」
穏やかな――怒りで目が曇っている優にとっては憎らしくなるほどの――口調で、ティアが言った。
「そんな調子じゃあ、返り討ちにあっちゃうわよ。冷静になりなさい、冷静に」
何を悠長な、という言葉が喉から飛び出そうになったが、すぐに飲み込んだ。
優は自分を取り巻く状況について頭をめぐらせた。
思い出す。ロンギヌスが奪還された夜、自分と相対した剣士のことを。
まだ刃を交えてすらいなかったが、彼女の実力は痛いほどわかる。
心臓を締めつけられるような殺気。全身から放出される剣気。
背中に冷たいものが流れるのを、優は感じた。自分にこれほどの戦慄を覚えさせる者は、そうはいない。
おそらく、憲兵隊の基地を襲った連中も、同等の実力を備えているだろう。
苦戦は免れない。
だがそうだといって、自分は奴らを好きにさせておけるのか?
答えは否だ。
鉤十字騎士団を野放しにしておけば、いずれ、全世界に騒乱を引き起こすに違いない。
そんなことは絶対にさせない。
どんなに困難なことだろうが、知ったことではない。
自分の無力さ故に死なせてしまった人達のためにも。
日本にたくさんいる、自分の大切な人達のためにも。
必ず鉤十字騎士団を斃し、ロンギヌスを奪い返す。
不意に優は、自分の頬をぱん! とひっぱたいた。
痛みで頭がクリアになり、すっきりとした表情でただ一言、
「すまん」
と、謝った。
「気にしないで」
ティアは満足げに笑った。
――もう、大丈夫ね。
優がいつもの調子を取り戻したのを見て、ティアは安堵した。
確かに鉤十字騎士団は強敵だ。
だが彼は、これまでにも多くの修羅場を潜り抜けてきた。
今回も見事困難に打ち勝ってみせるだろう。
だがウィーンで勝利を収めたとしても、それで戦いが終わるわけではない。
先を見据えねばならない。鉤十字の亡霊を退けた後には、あの魔女が控えている。
グルマルキン・フォン・シュティーベル。
ティアの古代高等魔術とは違う、ルーン魔術を得意とする魔術師。
蛇のように狡猾で、野獣のように獰猛な、強敵だ。
彼女は手段を選ばない。障害があれば、いかなる方策を駆使してでも排除する。
それに、決して浅くない因縁が、自分らにはある。
おそらくグルマルキンは、自分を殺すためにあらゆる策略を巡らしてくるだろう。
万全な状態でなければ、彼女を滅するまえに、不覚をとりかねない。
準備が必要だった。グルマルキンを完全にこの世から抹殺するための準備が。
――そのためにアーカム本部へ、自分の装備の用意を打診しておいた。
地下"遺跡"倉庫に封印してある、スプリガンになる前に彼女が使っていた魔術礼装。
普段のティアは、コーリング・ビーストのための召喚符しか携行していない。
古代高等魔術に精通する彼女ならば、召喚符のみでも十分な戦力を誇るが、今回だけはそうはいくまい。
自分のカードをすべて切る覚悟でなければ、鉤十字の魔女を完全に滅するのは不可能だ。
ウィーンでの戦いには間にあわないだろう。だがグルマルキンとの決戦では、心強い味方となってくれるはずだ。
ともかく、今の翻弄されている状況をどうにか打開しなくてはならない。
まだ襲撃を免れている憲兵隊の基地は複数存在しているが、おそらくそのすべてを同時に襲撃できる
ほどの機動力を、鉤十字騎士団は持っている。
つまり、次にどの基地が標的なるのかまったく予想がつけられないのだ。
憲兵隊が歯が立たない以上、スプリガンが相手をしなければならないのだが、人数が二人しか
いないため限界がある。
だが、敵が憲兵隊を狙っている以上、その対策を取りやすいのもまた事実であった。
「さっき、まだ無事な憲兵隊の基地のすべてに、転移魔法陣を刻んできたわ。
これで親衛隊が次に襲う基地の予想が外れても、奴らが退却する前に辿り着くことが可能よ。
あとは複数の襲撃に備え、二手に別れて敵の出方を待ちましょう」
敵が憲兵隊の基地を襲撃している理由は、血のメッセージからも明らかだ。
奴らはスプリガンを抹殺しようとしている。
自分らをおびき寄せるためだけに、憲兵隊を血祭りに上げたのだろう。
ならば、その考えが変らないうちに――標的を一般市民に変更する前に、鉤十字騎士団を
待ち構え、打ち倒す。
たとえ別の基地に鉤十字騎士団が現れたとしても、一度でも奴らの姿を確認できれば、どんなに
距離が離れていても一瞬で目的地に移動できる転移魔法陣で不意を突くことができる。
だが、この作戦は様々な危険性を孕んでいた。
その一つは戦力の分散だ。敵の人数がはっきりしない上に、相手がどれほどの手合いかわからない
この状況では、二手に分かれるのははっきりいって得策ではなかった。
もう一つはこれが受身的な作戦であることだ。
防衛戦は常に意識の緊張を強いられ、そしてその状態が長期間続けば、確実に心身に悪影響を及ぼす。
何より敵の狙いがその心理的な揺さぶりであるかもしれないのだ。
そういった諸々の要因もあり、欲を言えばこちらから先手を打ちたかった。
だが、状況がそれを許さない。
ウィーンは広大であり、編成の真っ最中である憲兵隊抜きに二人だけで敵を探し出すのは困難であり、
何より探索中に再び奇襲が起こった場合、また同じことの繰り返しになってしまう。
ティアが得意とする古代高等魔術も、鉤十字騎士団を探し出すには決定的な手段とはいえなかった。
神秘の一端に触れたことのない人間の目には、魔術は底無しの深淵のように映るものである。
だが彼女の言葉によれば、魔術は決して万能なものではなく、きちんとした理論体系が存在し、
最適な条件と環境が揃わなければ、数々の奇跡を実現するそれも、無用の長物に成り下がるという。
今から探索のための術式を組み立てるには、あまりに時間が足りなすぎる。魔女はそう結論付けた。
ということで、殆んど苦肉の策に近いものであっても、この方法を取るしかなかった。
しかしこれでいくらかの光明が見えてきたのも、また事実であった。
明確に目標が定まれば、兵の士気はあがる。
士気は戦いにおいて重要な要素だ。戦場の趨勢を決めてしまうほどに。
「やっと、あいつらをぶっ飛ばせるってわけだな」
優は不敵な笑みを浮かべながら、両の拳を突き合わせる。
確かに状況から言えば、こちらが不利だ。
だがたとえほんの僅かな勝機しかない窮地においても、最後に勝利を掴むのが御神苗優という人間であった。
連中に思い知らせてやる――スプリガンを敵に回したことが、どれほど恐ろしいことなのかを。
すっかり覇気が戻った優を見て、ティアは苦笑いを浮かべながら付け加えた。
「予想外の事態が起こらない限り、ね」
「ま、予想外っていったら、初めからそうだけどな。まさかナチ残党が絡んでくるなんてよ」
そもそも、最初にロンギヌスを狙っていたのはナチ残党ではなく、武器商人<トライデント>であった。
鉤十字騎士団に敗れ去って以降、彼らは沈黙を守っている。戦力を建て直し、息を潜めて機会を窺っているのかもしれない。
もしその推測が正しければ、鉤十字騎士団との戦いの最中、背後からの伏兵に討たれる、という可能性が浮上してくる。
だが、もはや<トライデント>にそれだけの力は残されていないだろう。もとより組織としては死に体であった上に、
虎の子であった<COSMOS>の残存部隊を鉤十字騎士団に駆逐されてしまったのだ。
スプリガンと鉤十字騎士団との戦闘に割り込もうとしても、両者の挟撃に合い再び脱落するのが落ちだ。
だから優もティアも、さして危機感を抱いていなかった。
「ま、もう一度動こうって胆力は、もう<トライデント>にはないだろうぜ。きっと今頃、指でもくわえて
地団駄してる最中だろうよ――」
グラウサム・ヴァルキュリエ隊に不意打ちを食らいました。
スタッフは彼女達とテンさんのスピンオフ作品を作るべき。
>>320 ありがとうございます。
戦闘はまだですが、ヴァチカンとトライデントの状況の描写が終われば、
各勢力の衝突が始まります。
スプリガンもたくさん活躍してくれるでしょう。
>>330 実はアリスはアームズのオマージュではなかったり。
オリキャラは好きに動かせる分、さじ加減が難しいです。
>>344 御伽噺部隊はみんな仲良し、でも敵には容赦しない、みたいな感じで考えました。
>>346 予定としては別SSを連載しようと考えていましたが、ロンギヌスが終わったあと、
朧を主役にしたSS書きます。今決めました。
舞台は日本か中国かまだ決まっていませんが、スプリガンを抜けた後の彼を主軸にした、
キョンシーや仙人が出るバトル物です。
>>347 ペースは体調に左右されるので、どうしても不定期になってしまいますね。
SS作家さんには一日20キロバイト書ける人もいるので、その境地まで達したい
と思ってはいるのですが……
ふら〜りさん
御伽噺部隊は自分の好きな要素を詰め込んだので、原作キャラと一緒に
楽しんでもらえれば幸いです。
オリキャラは自由に設定できるのが楽しいのですが、
どこで線を引くべきかが難しいです。
設定段階ではまだまだ他にもメンバーがいたのですが、話の都合上、
お蔵入りにしました。
さいさん
ヒロイン二人がついに出会いましたね。
見ず知らずの人間にここまで優しくできるまひろ。
吸血鬼は強いように見えて弱点だらけ、何より見知らぬ土地で心細かったセラスにとって
心強い味方になるはず。
でも宿舎に連れ込むとなると、なかなか問題が山積みのよう。
ブラボーは彼女の存在を知っているようですが……
銀杏丸さん
ホムンクルスもそれと戦う錬金戦団も、一般人からすればどちらも大差ない
存在じゃないか、と思いました。
錬金術を駆使する魔人達。
数で劣っている聖域が危機を脱するには、一筋縄じゃいかなそうですね。
スターダストさん
年齢退行能力ですらやっかいだったのに、超再生能力まで備えているとは。
これまでのホムンクルスの中でも、最強クラスですね、鐶。
でもどこか抜けたところがあるのも可愛いですw
425 :
ふら〜り:2008/08/16(土) 23:00:32 ID:Y9SnP4yI0
>>サナダムシさん
しけい荘では柳に次ぐ社会適合者(ナンボのもんじゃい、ですが)のドイル、流石に言ってること
はまとも。意外なほどスジが通ってる。ドリアンの舌先もそう、これなら充分視聴者をケムに巻け
そうな。柳もまぁ演技ぐらいはできそうですが、後の二人……対策は用意できてるのかドイル?
>>スターダストさん
鐶、凄すぎる。自分の長所短所を見極めて最善の戦法をとるタイプと思ってたら、それプラス
単純に素で強い! パワー、スピード、耐久(回復)力、我が身まで巻き込んでのスプラッタ
な強さの魅せ方は、さいさんのアンデルセンを思い出しましたよ。外見は対極なのに劣らず!
>>VSさんっ! (お互い、ここで取った歳はゴマかせませんね。でもそれが嬉しくもあり)
変わらぬキレ味が楽しいです。ドラとアカギと男塾のコラボ、そして麻雀勝負、だけど全然勝負
になっちゃいねぇ、なんて作品を描けるのはVSさんだけ。とんでもない長時間の半荘だったはず
なのに、のび太が無傷ってことは延々と江田島へのロン……神域の男とネコ型ロボ、容赦なし。
>>ハシさん
前回→今回の流れが好きです。強力無比な敵の暴れっぷり、犠牲となった人々、そしてそれに
怒りを燃やすヒーロー。萌えヒロインも複雑な超能力戦も好きですが、本業(?)が特撮ヲタの
私としては、やはり上記のような燃え土台があると物語にノれます。活躍を期待してるぞ優!
426 :
テンプレ1:2008/08/17(日) 00:37:53 ID:MlPOy7jF0
427 :
テンプレ2:2008/08/17(日) 00:49:32 ID:MlPOy7jF0
428 :
テンプレ3:2008/08/17(日) 00:50:09 ID:MlPOy7jF0
429 :
ハイデッカ:2008/08/17(日) 00:54:29 ID:MlPOy7jF0
鬼平さんと流花さん現スレで復活して現スレで完結してしまったんだなあ…w
しかしVSさん復活は嬉しいですな。
あと、ハロイさんと邪神さん、次スレ中には復活して下さい…。
人のことは言えんけどなw
ちょっと今回駆け足で作ったんで、もし間違ってたらごめんなさい。
480KB超えるとちょっとまずいので時間を少し置いて
明日の昼あたりに誰か新スレお願いします。
ハシさんスプリガン毎回楽しみにしております。
皆川作品大好きなので。優&ティアも現在進行形で楽しんでますが
朧編も楽しみですな。スプリガン最強は絶対彼だと思う。
430 :
作者の都合により名無しです:2008/08/17(日) 12:32:54 ID:BfPurKuq0
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