司馬遼太郎著「コロニーを行く」(六)

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1前スレの1
 宇宙世紀史というものを見るについて、さまざまな奇談奇説とい
うものがおこなわれます。その宇宙世紀史を見るさいに、何よりも
まず、奇談奇説を考えようとする自分、それにまどおうとする自分
をおさえることが大事ではないでしょうか。ウッソ・エヴィンがシ
ャアの孫だとか、アムロ・レイが生きて余生を送ったとか、そうい
う類の奇談奇説を信じない、という姿勢が大切だと思います(手堀り日本史より)

司馬遼太郎著「コロニーを行く」
http://ebi.2ch.net/shar/kako/1003/10037/1003725924.html
司馬遼太郎著「コロニーを行く」(二)
http://comic.2ch.net/shar/kako/1036/10362/1036247225.html
司馬遼太郎著「コロニーを行く」(三)
http://comic3.2ch.net/test/read.cgi/x3/1044112950/l50
司馬遼太郎著「コロニーを行く」(四)
http://comic3.2ch.net/test/read.cgi/x3/1052323872/l50
司馬遼太郎著「コロニーを行く」(五)
http://comic3.2ch.net/test/read.cgi/x3/1062558050/l50

司馬遼太郎風にガンダムを記述・語るスレです。
2(^^)エヘヘ:04/01/25 21:54 ID:???
うっさいハゲ
3:04/01/25 21:57 ID:???
ついにスレッドも(六)に突入です。
4通常の名無しさんの3倍:04/01/25 22:08 ID:tXH3ivhm
シネマティックアドベンチャー 「ポリスノーツ」
http://www.konamijpn.com/products/psonebooks/policenauts/message01.html

公式サイト
http://www.konamijpn.com/products/policenauts/index.html

しょーとれびゅー
http://dooooooo.hp.infoseek.co.jp/MusicReview17.html

前に「スターオーシャン・セカンドストーリー」のところでも取り上げたと思うが、
プレイヤーが受動的になるゲームというのは、それ自体はあってもよいと思うのだ。

問題は、プレイヤーを受動的にする…そうすることを強いるからには、それなりの
切り口と趣向でプレイヤーを納得させなければならないのではないか、という事だ。

http://ha2.seikyou.ne.jp/home/Bloodpool/NFS/amz/policenauts.htm
「アムロ・レイの生涯の意味は白いMS・ガンダムで地球圏最強のジオ
ンMS集団をやぶるというただ一点に尽きている」
 と、戦後、ナイメーへン士官学校を参観にきたあるリーア軍人がいっ
た。
 が、数えて15歳の当時この若者には軍人になろうという意識はまっ
たくなく、もしあったところで機械マニアの少年がそういう世界へゆこ
うなどとは、本人としても一応も二応もむりであったであろう。
 この当時のアムロにすれば、
「ぼくは、ただ成りゆきで乗っただけです」
 それだけであった。 
6:04/01/25 22:16 ID:???
もう一つ
――ミシマユキオの場合――

キーン「シバさんは、ミシマユキオさんは絶対的なものを求めていたと
おっしゃいましたが、私も確かにそうだと思います。つまり、ミシマさ
んは女王不謬(ふびゅう)説を唱えていましたが、それはマリア・ピァ・
アーモニアやシーラ・ラパーナではなく、抽象的な女王についてでした」
シバ「ええ」
キーン「ミシマさんは抽象的な、絶対的な女王に誤りはありえないと信
じていました。そうでなければ、世界に何も意味がないと思ったのでは
ないかと思います。もし何でも相対的なものだとすれば、ザンスカール
の女王がアクシズの摂政と同じようなものだということであれば、世界
に何の意味もないと思っていたのでしょう」
キーン「世界は何もない、虚無的なものだ、何かあるとすれば、抽象的
な観念の女王だと思っていた(略)
 「英霊の声」という中編小説があり、そのなかでザンスカール帝国兵
士たちが、女王はナマ身の人間であったということに非常に強く反撥し
ています。もし女王がただの人間にすぎないとすれば、われわれはどう
して死んだのかわからない。ミシマさんにとっては、絶対的なことでな
ければ、英雄たちの行為にも何の意味もないと思っていたようです。し
かし、最終的に信じられなくなったかもしれません。それがミシマさん
の悲劇でしょう」(中略)
シバ「キーンさんがおっしゃったように、ミシマさんは仏教徒・回教徒
でなかったから、ほかに絶対的なものを求めるとしたら、目の前にある
女王です。しかしながら、それは具体的な女王ではなくて、彼がつかん
だと思っている絶対的な女王だったのでしょうね。でなければ、小説は
書けないと……」
シバ「思想よりもむしろ文学として女王を考えたのではないかと思いま
すが、それはよくわかりません。もうミシマユキオさんがここに来てく
れないとわかりませんが、キーンさんはよくわかっているでしょう、感
じとしては。やはり「絶対」への憧れというのは、あったんでしょうね」
キーン「あったでしょう」
10:04/01/25 22:45 ID:???
さらに投下
 私の中のガンダム女性キャラというのは、テレビシリーズと映画がなかだち
になって出来あがっている。
「ガンダムXの女性キャラクターは、大きいですよ」
 あるとき、Jは、列車のなかで、そういった。
 そう言われてみれば、機動新世紀ガンダムXの女性キャラクターは、メイン
キャラクターのサラ、トニヤ、シリーズ中もっとも大きいと思われるエニル、
パーラのほかに、ほとんど出番のないローザという脇役キャラにいたるまでい
ままでのシリーズ中もっとも胸が大きいキャラクターが多い。
 男性ガノタの趣向は大きく分けて年上・年下に分けることができる。巨乳・
貧乳を偏好する男性についての心理的分析について、以前心理学者の本を読ん
だことがある(中略)
 女性キャラの基準は、移ろうものである。1stガンダムにおけるセイラ・
マスは監督の金髪好みから安彦良和によって描き出され、当時のアニメファン
やキャラクター造形に多くの影響をあたえた。その沸騰と過熱ぶりは月刊OU
T(80年3月号)における「悩ましのアルテイシア」の掲載と監督自身「な
ぜもっと美しく描いてくれなかったの!」を生んだ。
 しかしながら、Zまでの女性キャラクターはセイラ以上にスレンダーなもの
とするように方向が決められていたらしい。
 むしろZガンダムで、しっかりとした身体つきのいい女性キャラが登場した。
日本社会における女性の社会進出を踏まえてエマやベルトーチカといったキャリ
ア・ウーマンが出されたといわれている。ファのような女性キャラ型が影響して、
肢体すぐれた美人が出現した。直接の続編ZZのメインキャラ「ルー・ルカ」
を想像すればよい。
 0080は、独自な基準を生んだ。ひたすらに一定の型の女性キャラクター
を描き続けることに執着した美樹本晴彦が原案の「クリスチーナ・マッケンジ
ー」が美人の基準として出た。そのキャラクター造形の系譜は「超時空要塞マ
クロス」のリン・ミンメイと早瀬未沙にさかのぼることができる。輝く瞳、小
さな鼻、点に近い唇、それに長い髪。かれの好みの美少女がそうであったとし
ても、現代ではむしろ一つの型に入れられてしまう。
 0083の川元の女性キャラたちも、いまとなれば心をひきにくい。
 G・Wには美人がいる、などとことさらに評判になるのは、余計な心理的部
分や監督の違い・キャラクターデザイナーの美へのこだわりだと私は思ってい
る。90年代に入って、時代の少女化と世代交代によって、ファンの女性キャ
ラの基準が変わりはじめた。同時に、男性キャラよりも女性キャラのほうが凛
々しい、と思いはじめたのが女性キャラクターの存在価値のレベルアップに貢
献し、ファンもまたそう好むようになっていったのではないかと思うのである。
 しかしなお美人の要素は肢体にとどまり、少数の女性キャラをのぞいては胸
までにはおよばなかった。肢体をふくめての胸が圧倒的条件となったのは、V
ガンダム・Gガンダムのキャラクターデザイン逢坂浩司よりは、ガンダムXの
西村誠芳の影響といっていい。その具現化ぶりの熱心さは、PS版機動戦士Z
ガンダムの女性キャラクターデザインの一部が巨乳(フォウの大きさはほとん
ど反則である)であるということが証拠になるだろう。多くのガノタやファン
たちがそういう型を熱望してきたのです、という言い方は正しくない。なにが
美しいかという、本来不確定なものに、確定性をあたえ、ファンたちに信じこ
ませ、アニメーションで表現する職業集団が、さまざまなキャラクターを送り
つづけてきたのである。
16:04/01/26 00:27 ID:???
なおも投下
17クローン(妖怪より):04/01/26 00:34 ID:???
 この時代にはこんなやつがいた、というはなしである。
 この時代とは、
 際限のない戦争と放射能汚染
 慢性化した食糧不足
 連邦政府における無秩序、頽廃
 少年・少女ニュータイプの擡頭(たいとう)
 アナハイム・エレクトロニクスのひとり栄華
 といったふうの時代で、宇宙世紀の混乱期といっていい。有名なシャアの乱
よりややさかのぼって数年前といったところが、この「グレミー」の青春期だ
った。
18クローン(妖怪より):04/01/26 00:49 ID:???
「ばかげている」
 と、ある日、グレミー・トトはにわかにおもった。このときから、行動がは
じまった。
「ネオジオンに仕官し、覇権を握ろう」
 むろん、正気である(略)
 母は、身分がひくかった。
 もとは公王デギン・ソド・ザビの愛人だったというが、このデギン庶子説に
は異説があり、ギレン・ザビの試験管ベビーであったという説もある。
19割り込んでたらスマソ:04/01/26 01:06 ID:???
 シャアは、いつになく上機嫌だった。ライデンを下の間に
すわらせ、かれの骨柄、履歴の表などみて、
「なかなかなお腕と見うける。これほどならば、どの戦艦に
配属されても苦しゅうはござるまい」
 ライデンはよろこんで辞しかけたが、ふとシャアは、ライ
デンが赤いアンテナをつけたザクをもっているのを見とが
めた。
「その赤いモノはなにかな」
「いやこれは。−−戦場をまわるうち、戦闘などを望まれた
ときに用いておりまする」
「戦闘を」
 シャアは血相を変じて立ちあがり、
「虚仮にもほどがある。赤ペイントがいかなるものかを
見せてくれよう」
 あるじの旧ザクを借り、その旧ザクの頭上にファンネル
一粒をつけ、するするとシャア専用ザクに乗り込んだ。
 一座の者は、動揺した。
「見よ」
 叫ぶなり上段から風を巻いて打ち込み、頭上のファンネ
ルを真二つにして、ライデンにみせた。
「われにはこれができるか」
「で、できませぬ」
「これほどの業があっても、敵には勝ちがたいものである。
赤ペイントなどは容易にせぬものぞ。戦闘をのぞむ者が
あれば、早々にその所を立ち去るのが、真に赤ペイントの
真髄を知ったる者と思え」
20クローン(妖怪より):04/01/26 01:14 ID:???
 グレミーは、
「公国軍総帥ギレン・ザビの落胤」
 ということになっていた。それを若いころから騒がしく唱えているのは母親
だったが、むろん確固とした証拠もない(略)
「たしかにそうよ」
 と、母はグレミーの幼児のころからそのように教えてそだてた。
 それだけが、母親の遺産である。
 その母親が死に、グレミーはモウサの中にある墓場まで背負って行った。穴
を掘り、そのなかへ母親のからだを落としこんだ瞬間、グレミーはひと声、鳥
がとびたつほどの声で泣いたが、しかし土をかぶせたときにはもう目がすわっ
ていた。
「ネオジオンに仕官し、覇権を握ろう」
 とつぶやいたのは、このときである。
21:04/01/26 01:23 ID:???
>>19
お、面白い・・・
確かに元ネタの武蔵は赤色っぽいよなあ。
22ジュピトリスの剣客:04/01/26 03:40 ID:???
 ヤザンも、モビルスーツに乗ればガトーにも劣るまい。しかし芸を売る
ジュピトリスの研究施設でそれに専心しているサラとニュータイプ能力の
優劣をきそう愚はわかっているし、ニュータイプ能力と戦場の槍働きとは
別のものだ、ということを知っている。取り合わなかった。そういうヤザン
の『大人』な態度をながめながら、シロッコは別のことを考えていた。
(いったい、ニュータイプとはなにか)
 ながい間もちつづけてきた疑問である。
(敵を戦場で刺突するだけの術なら、なまなかニュータイプよりも戦さ
馴れしたヤザンのような男のほうがきっとまさっている。またヤザンの
いうごとくいくらニュータイプ能力を磨いたところで、コロニー取りは出
来まい。いったいニュータイプとは何のためにあるのか)
 その疑問を口に出してヤザンにただした。が、かれは迷惑そうに、
「わしにはわからぬ。しかし、ちかごろエゥーゴのアーガマでは禅家の
心術をとり入れて、ニュータイプはついにわかりあうべきものというて
いるそうじゃが、それならばあえてモビルスーツに乗らずとも仲良くし
ていればよさそうなものじゃと思うている」
(かもしれぬ)
 とシロッコは心中でうなずき、
(所詮、ティターンズのニュータイプは、エゥーゴのごときわかりあう道の
ためでも、ジオンのごとき人間革新のためでもなく、大義をまもるために
だけある)
 そのことのおろかさをシロッコは考えつづけてきた。かれがジャミトフに
消極的になりはじめたのは、このことが胸中にわだかまっていたからで
あったらしい。
23通常の名無しさんの3倍:04/01/27 10:43 ID:9CwWUd/P
sage
24巧妙が辻:04/01/27 10:44 ID:9CwWUd/P
 ドズルは諸将の反対を押し切って、強引に決戦にふみきり、諸隊を編成し、ルウム
に向かって会戦の陣形をとった。
時に宇宙暦0079年1月14日である。
 15日、正午、ギレンは全軍に突撃を命じた。
 ドズルは、艦橋にいる。
 ジオン軍では、別命があるまでぜったいに隊列を乱すことを禁じていた。
 ギレンの意中では、すべて戦闘をモビルスーツにまかせるつもりであった。
 だから、デラーズら戦艦隊は、牧場の柵のなかで飼われている家畜のように手持ち
ぶさたであった。
 「カリウス、われわれは能無しにみえるな」
 と冗談をいっていたが、ひとつには冗談でもいっていなければこの慄えがとまらな
かった。
 前方をみよ。
 ジオン軍のモビルスーツ隊が、ミノフスキー粒子を撒き散らしながら寄せていくのである。
 多くは、
 ザクの緑
 と称せられる緑の色である。
 緑の津波が、連邦軍の陣形にひたひたと寄せていく。
(あれがシャア・アズナブルか)
 見事な動きである。
 シャアの操縦技術と部隊指揮の見事さは、ジオン軍の手本としたところだ。
150機のジオン機が、あたかも一匹の緑の怪獣に化したように、じりじりと押し進んでいく。
「みごとなものでございますな」
 と、カリウスも思わず声を放った。
「さすが赤い彗星といわれるだけある」
 デラーズもうならざるをえない。モビルスーツ隊創設数年にして、ほとんど芸術的といわ
れる傑作がうまれた。それがシャアの操縦技術であるといえる。このシャアの機動・戦法は、
のちにモビルスーツ全盛期を通じて、戦闘の基礎となったものである。
「射つな、射つな」
 と、ドズルは、三段にかまえているモビルスーツ隊の隊列を見まわりながら
言った。
 ギレンの命令であった。
25巧妙が辻:04/01/27 10:46 ID:9CwWUd/P
 ミノフスキー粒子下の有効射程は400mである。その射程内に十分に敵が入ってからで
ないと、弾を放つな、といわれている。
(ギレン様は果たして大丈夫か)
 デラーズも内心疑惑が消えない。
 軍の主戦力はあくまで大艦巨砲の戦艦隊であり、艦載兵器は補助部隊であるという古い考
え方が、デラーズのあたまを去らない。
 いや、デラーズだけではない。敵将のレビルもそう思っているし、連邦中、いや、ジオン軍
でも、いまギレンがとろうとしている戦法は十年後でなければ出なかったであろう。
 ジオン軍は、ついに射程近くまで迫った。
 シャアらの部隊正面の敵艦隊はティアンムのマゼラン隊、それにトリアエーズの隊である。
 ジオンの発光信号が、活発になった。
 どっとモビルスーツ隊が速度を増した。
 ついに、ザクから敵艦橋内の人物までがみえるようになったとき、各中隊長が、
「射て」
 第一列が一斉に火ぶたを切った。
 弾は雨のように飛び、艦を守ろうとしてつぎつぎと突撃してくるトリアエーズをばたばたと
墜としはじめた。

 いやもう、凄惨というか。
 連邦軍が、各隊において散開し、退却し距離をとり、砲撃戦に持ち込もうとした。
 が、ジオンのザクは間断なく食いつき、5隻、6隻と次々に沈めた。
「ほう、ほう」
デラーズは、馬鹿のように声を放った。当然なことだ。
 モビルスーツというのは、もともと、機動し、距離を詰めるのに、時間がかかる兵器だ。
 その接近の間に対空砲火が襲ってくるのが常法だが、ミノフスキー粒子の散布がそれを許さ
ないのである。
 ジッコがミノフスキー粒子を散布すると、すぐに引いて交代し、その次に、モビルスーツ隊が
突入して攻撃する。さらにガトルが。
 というふうに、この方法をもってすれば第二次世界大戦以降の海戦と同様、砲撃戦にもちこ
まれることなく連邦の大艦隊に対抗できた。
26塔下:04/01/27 11:32 ID:9CwWUd/P
 一方、戦場では少人数のジオン勢がほとんど決定的な敗北を喫しつつあった。この方面のジ
オン勢の兵力は大隊にして4個にすぎず、それも絹糸を引いたように細く長く、この長大なド
ニエプル河中流に沿って配置されていたため、小隊、中隊ずつといった小部隊が各個に撃破さ
れてしまっていた。渡河してきた連邦軍は、15個大隊を越えるであろう。それが2個兵団に分
かれ、二箇所で絹糸のようなドニエプロペトロフスクの防衛線を苦もなく断ち切ったのである。
「ザポロジェ」
 というドニエプル河の要衝がある。そこに大規模な水力発電所がある。
 −ザポロジェのダムまでさがれ。そこで集結して防げ。
 というのがジオン軍の敗走兵たちの合言葉になった。当然であった。いかに少人数とはいえ
こうばらばらになっていては力を発揮することができず、とにかくもまとまらなければならな
い。
 
 オデッサ方面は、ウクライナの平野であり、攻撃を受けるとなればこれほどもろい地形はな
いであろう。わずかに東方のドニエプル河が天然の要害になっている。そこを突破されたとな
れば、どこを支えに戦線を守るという場所もない。
ただ一箇所、ドニエプル河における最後の拠点としてザポロジェのダムがあった。が、ここと
て要塞化されているわけでもなく、むき出しの塹壕にマゼラトップがいくつか配備されている
だけである。ジオン兵はこの野戦築城に篭り、塹壕から砲身をだして撃った。
 連邦軍もこの水力発電所を目標にした。連邦軍がもっている全ての予備のフライマンタが、
このダムに向けられた。それらの部隊が到着するごとにダムが爆撃され、前線が吹き飛び、す
さまじい戦況になった。
 ノイエン・ビッターとそのひきいるドダイYSグフ隊が駆けつけたのは、その攻防戦のまっ
ただなかであった。たまたまそのあたりを駆け回っていたザク部隊長のハインツが、
「ビッター隊長」
 と叫びつつ近づいてきて、このダムでは守りは不利です、とわめいた。なるほどダムのまわ
りの土地が広く、敵の包囲をうけやすい。しかもすでに敵は包囲態勢をとろうとしていた。ハ
インツの意見では、ここを退却して別な場所で防戦するにしかず、というのである。ノイエン・
ビッターは、
 −もっともである。
 とハインツのザクに触れ、すぐさま自軍にむかって叫んだ。
「よいか。退ってドネツ河でふせぐ」
 と、手を大きくのばし、東へおしやるような手つきをさせ退却させようとした。やがて各個
に退却し始めた。
 退却には、殿になって敵を食いとめる部隊がいる。それにはこのドダイYSグフ隊こそ打っ
てつけであり、ノイエン・ビッターはみずからそれを引き受けた。ジオンの将官というのは、
田舎芝居の座頭のようにどういう役でもやってのけねばならなかった。
27巧妙が辻:04/01/27 11:33 ID:9CwWUd/P
 バスクのコロニーレーザー防衛網は年来強化しつづけてきた計画であったが、
この宇宙暦0088年のメイルシュトルーム作戦には、戦術的に成功し、戦略的に
は大失敗を演じている。
 ジャミトフは、ネオジオン摂政ハマーンとの同盟関係を重く計算しすぎたのだ。
 グリプスの指導者ハマーンに、ジャミトフの部下シロッコが出向き、膝まづ
いてまでいる。
 当然、ネオジオンだけは裏切らぬとみた。
 みたからこそ、ネオジオンの増援を認め、予備として配置したのである。
 ところがハマーンはにわかに裏切り、コロニーレーザーを撃ったのである。
 正面の敵はエゥーゴの正規軍、背面から地球圏随一のニュータイプ、ハマー
ンの裏切りにあっては、バスクは腹背に敵を抱えることになる。
「女狐め」
 とみた瞬間、バスクはセダンの門に向かって単艦で脱出し、戦艦隊がそれに
続き、モビルスーツ部隊があわてて退却し始めた。
 ヤザン・ゲーブルのごときは、最前線で戦闘をしていたため本隊の退却を知
らず、やっとしったのは随分たってからであった。
 このためヤザン隊はほとんど孤軍の運命におち、追いすがるZガンダムを撃ち
払いのけヤザンみずからビームサーベルでもって戦い、かろうじて戦線を離脱した。
28巧妙が辻:04/01/27 11:36 ID:9CwWUd/P
 ブリーティング、といっても、クワトロの場合は命令ではない。攻撃部署を提
案するということである。
 ただ、ブリーティングの直前にニュータイプのカミーユにだけは、その意中を
もらしていた。
「お前は帰還早々であるから、機体も無理が利かないだろう。直掩(守備隊)に
まわるように」
 カミーユ、17歳。
 直掩と聞いて憤慨した。
「聞きません」
 というのである。
「僕は機体の整備もちゃんとこなしています。その僕に、戦力外扱いの直掩とは
どういうことですか」
「いや、機体の整備を考えたまでのことだ」
「迷惑です。せっかく宇宙に戻ってきた以上は攻撃隊こそ望みです。直掩となれ
ばZガンダムの機動性をいかせません。とにかく、攻撃隊に任命してください。
さもなければ今すぐ、Zガンダムで地球へ帰ります」
 といった。
 攻撃隊といいのは、損害が大きい。エースパイロットの戦死も珍しくない。
 が、カミーユはそれを望んだ。この人物は決して無謀な突撃をやるというたち
ではなかったが、理性をつねに遠くへ置いていた。理性を遠くへ置き、目の前の
感情で考える。そういう思考方法のおとこである。
 クワトロはクワトロで、カミーユのそういう思考方向をよく知っている。
「お前は直援に」
 といえば、当然色をなして、
「攻撃隊を」
というだろう。そこを待っていたのである。相手に自ら望ませて攻撃隊を許す以上、
相手はいい加減な戦闘はできない。クワトロにはその辺の機微がわかっている。
 第一、カミーユの機体は、Zガンダムで、リックディアスが主力のアポリー隊
よりもはるかに強いのである。この強力な機体に先陣をやってもらいたいのは、
クワトロの当然望むところであった。
291:04/01/27 11:59 ID:???
お見事でつ
特に26が(・∀・)イイ!
スターリングラード戦みたいな情景が浮かびますた。
ビッターはさしずめ第二次大戦の独・パウルス将軍かな。

そうですね、やっぱりMSはカラーリングも重要ですよね。参考にします。
(ホテルへよろしくね)
 と、ロザミア・バダム(通称ロザミィ)は、先ほど荷物を預けた男にサング
ラスを外しながら言った。
 山と湖の国というだけあって住民どもの顔はたれもが生き生きしている。
 そのサイド2・13バンチ(モルガルテン)へアーガマが入港してきた、と
いうだけのことであった。戦争とは無縁のはずのこのコロニーに入港してくる
こと自体あやしい。
(民間企業を装ったエゥーゴの補給工場があるということか)
 といって確証があるわけではない(中略)
 ロザミィは、リニア・カーに乗っている。
 快晴で、空気がとてもおいしかった。この日、宇宙世紀0087・11月2
4日である。
 ロザミア・バダムは、その美しい身体をスーツとコートでつつんでいた。
 階級は少尉。オーガスタ研究所で育成された強化人間であるが、それでも今
回の任務にあたっては、再調整をうけてきている。
32仇取り物語(シャア・アズナブル編):04/01/27 12:14 ID:9CwWUd/P
「すまぬ。こうして詫びる」
 と、シャアは頭を下げた。セーラはおどろいた。この優しい兄が、復讐に身を投じるあまりとうとう気がくる
ったのではないかとおもった。
「元には、もどれそうにない」
「えっ」
「仇はやっと一人討ったが、時間が思ったよりかかりすぎた。この分ではデギン、ギレンと復讐して仇を打ち、
父の意思に報いるなどは夢であろう。
「兄さん」
 セーラはあやまられてぼう然としている。なじるべきか、それとも、昔の兄に戻って、といってなきつくべきか。セーラはとっさに迷い、銃をしまった。
「地球を出てサイド3へ向かうとき、仇を討って帰ってくる。そのときはお前とまた一緒に暮らす、といった。
・・・お前は」
「馬鹿だから待ちました」
 とセーラは銃をがちゃがちゃさぐりながらいった。いまさらそう言われても、怒りもできず、悲しみもできず、
ひどく現実感のない話になっている。
 ただセーラは、シャアの突拍子のない復讐のために、ここ十年、兄妹でありながら孤児同然の境遇におかれて
きたことは、これだけは手ざわりのたしかな実感であった。
「では兄さん、復讐をお捨てになって」
 と、セーラはいった。
「捨てて、地球にもどっていただきます。まさか、復讐ができなかったからこのまま地球へかえらずジオン軍に
居すわる、などとおっしゃらないでしょうね’
「ふむ。・・・。’
 にがい顔で、シャアは目の前の妹を見つめている。セーラのいうことが、理屈として正しい、とおもった。
セーラをさんざんに待たせ、一人きりにし、連邦軍から身を引けとまでいった。いまさらジオン軍から帰らぬ、
というのはどうも言いづらいことであった。
 ロザミィは、技量は立つ。
 徹底したMS操縦技術と認識力をもって、MA・ORX−005ギャプラン
をあたえられてブラン・ブルターク少佐のもと地球で戦いを経験した。二度目
の戦いでギャプランを失い、さらに研究所にもどされてさらなる強化もされた。
 トラウマをかかえてもいた。いや、平和な世にうまれておれば、悪質なすり
こみや強化をされることなく無事に世を送れた女性だろう。たまたま乱世にぶ
つかったために、「宇宙(そら)が落ちてくる」というトラウマを利用されて
精神強化されてしまった。
(うん!?……ああ、気のせいか)
 ロザミィはふと何かを感じた。その相手は、まだはっきりとは彼女にはわか
らない。
 彼女と「お兄ちゃんたち」との出会いはこのときからはじまっている。
 リニア・カーが目的地に到着した。目の前を、子供がはしゃぎながら降りて
いく。
 ロザミィは、席を立った。
 窓の外をみたとたん、はっとした。見おぼえのある男性がそこにいたのであ
る。
「お兄ちゃん?」
 つい、口に出してしまっていた。まちがいない、あれはたしかにロザミィの
兄であった。この感じがそのことを証明してくれている。
 彼女はいてもたってもいられずに、お兄ちゃんらしき男を追った。本人かど
うか確かめなければならない。
 コロニー内部、美しい景観が広がっている。地球のアルプスの光景をそっく
りそのまま移したかのような風景であったが、ロザミィの目にはまったく映っ
てはいない。
 眼中、お兄ちゃんだけがいる。
 そのお兄ちゃんとロザミィが呼ぶ少年は、子供たちにせかされて、馬車を動
かしている。筋はいいようだった。
「お兄ちゃん」
 と、本人に近づきながら、ロザミィは不審がる少年にかまわずに馬車に乗り
こみ強引にとなりにすわった。
 この少年の名は、カミーユ・ビダンである。ロザミィは感激した。この少年
とは、おさないころ弟と一緒に撮った写真がある。ただそれだけの縁だったが、
カミーユはまったく思いあたる節がない。
 いや、節がないどころではない。カミーユは困惑して、
「知らないよ、あんたなんか」
 といった。ロザミィの顔や名ですら、いままで聞いたことも見たこと
もないのに、はいそうですかと、反応できるはずがなかった(ただしこ
のことについては正しいとはいえない。ロザミィとカミーユは先に二度
接点をもっているのである。二人が単におぼえていないだけだ)
「変わらないのねえ、お兄ちゃんは。いつもそういってわたしをいじめ
たわ」
「あなたね、気安くカミーユの腕をとらないでよ」
「あなた、お兄ちゃんの恋人?」
 ロザミィ、人の話などまったく気にしない。
 彼女は目のくらむような思いがした。自分が知らないまに、お兄ちゃ
んにこのようにいい恋人ができていたのである。
「そっかあ、カミーユの妹かあ……姉ちゃんにみえるけど、齢(とし)のわり
にふけてんだね」
「でも美人よ」
 すわっている男の子と女の子がいう。
「そうなの。ふけてみえるけど、トクなときもあるわ」
 ロザミィは、うれしかった。 
 おかしい。こんなおかしいことがいままであったろうか。
 いきなりお兄ちゃんといってくっつき、こちらのことなどおかまいなしに振
るまう人がいるものだろうか。
 お似合いと祝福されてしまった「カミーユの恋人」――ファ・ユイリィ――
は疑惑を抱いたままですわっている。ムッとした表情でロザミィを説得しよう
とするが、効果はない。
 癪(しゃく)にさわることはもう一つある。カミーユの態度である。どうみ
ても、うれしそうにしている。そんなふうにしか、ファにはみえない。男の性
というものなど、この少女にはわからない。美人だからってデレデレする必要
などどこにもないではないか。
「女好き」
「いけないかよ」
「おかしいと思わない?」
「わかってるから、どういう子か観察してるんじゃないか」
 カミーユとしては、つまらぬ嫉妬心をおこすよりも事態を冷静に分析し、状
況を把握するほうがよっぽど建設的だと考えたのだ。まずはこの自分をお兄ち
ゃんとよぶ女性を知らねば、とおもっている。
39仇取り物語(シャア・アズナブル編):04/01/27 12:47 ID:9CwWUd/P
 話は、はるかな宇宙(地球圏)に移る。
 移らざるをえまい。なぜならば、ジオンきってのエースといわれたシャア・アズナブルが、連邦のガンダムに
完敗し、命からがら、大気圏突入間際にコムサイに一機で戻り、地上のガルマ・ザビ軍に向かって合流しつつあ
るからだ。
(おそるべきは、連邦の新型よ)
 シャアはおもいだしおもいだししながら、北米大陸をめざしてコムサイを突入させた。
 機体全体、灼熱している。機体の内部まで温度がはねあがり、部下の半分は乱戦の中で失われてて、いまはな
い。
 操縦技術が、卓越していればこそ逃げられた。腕の悪い、反応のおそいパイロットなら、シャアはとっくに地
球に落ちる流れ星になっていらろう。
 シャアは二十。
 栄光に満ちた前歴をもっている。いままで幾十回となく敵と戦ってきたが、対ホワイトベース戦のほかは敗れ
たことがなかった。
 とくにこの男が、敵味方に知られたのは、開戦二週間目の1月15日、連邦の宇宙艦隊司令長官レビル将軍が
再度のコロニー落しを阻止しようとし、各サイド、フォン・ブラウン、ルナツーの大艦隊250隻をひきいてル
ウムに向かって作戦行動を開始したときである。この会戦でシャアはわずか9機の中隊をひきいて出撃し、防衛
線を越えて戦艦隊に討ち入り、ルウム(サイド5の別称)付近で敵をむかえてたくみに戦闘し、ついに単機よく
5隻の戦艦を沈めた。
 この勝利によって、ザビ家からすれば中隊長にすぎぬシャアが一躍小艦隊の司令官となり、ジオン軍で、
 −赤い彗星(シャア)ほどのエースはない。
 と囃され、雷名は遠く地球圏の一般大衆の耳にまで入った。
 この不敗のシャアが、どういうわけか、ホワイトベースのガンダムだけがにが手で、さきには、サイド7の襲
撃でやぶれ、今度は部下を見捨てて逃げるというほどの惨敗を喫している。
(連邦の新型は、ばけものか)
 と、敗けながらもなぜ敗けたかどうも解せない。
 たとえば今日の戦闘ではホワイトベースはガンダムだけを出撃させてきた。少勢ぞ掛かれ、とシャアが突撃を
命じ、ガンダムを追いかけていると、いつのまにか味方は3機になっている。ふとガンダムの機体が白熱するの
を見て、
 −おお、道ずれ(ザク)にしたか。
 と犬死ではないというと、なんとガンダムは突入機能があって無事であった。
「敵にはおもえないな」
 そんなふうに思った。
 カミーユ・ビダンは、サイド7・グリーンノア出身の学生で、としは17。
ファとは同い年である。
 早くからエゥーゴにおいて「アムロ・レイの再来」とよばれ、アーガマのク
ルーとして、トップエース・ニュータイプとして名が売れている。
「まってよ、お兄ちゃん」
 ロザミィは、むこうのボートに乗っているカミーユに向かってさけんだ。競
争をしている。
 お兄ちゃんと一緒に乗れなかったのは、ファが阻んだからだった。
 必死にこいでいる男の子と女の子――シンタとクム――をカミーユはながめ
ていたが、突然衝撃がはしった。岩にボートがぶつかったのである。怒るシン
タをなだめながら引き離そうとすると、ふいにバレーボールがとんできて近く
におちた。
 カミーユはそれを拾い、シンタとクムに持ってってやんなとボールを渡した。
42:04/01/27 12:54 ID:???
>新規投入の方
乱入スマソ

ちょっと外しますね。
43誇張の夢:04/01/27 13:21 ID:9CwWUd/P
 ゼナ・ザビの死亡を、結果としてハマーン・カーンほど利用したものはいない。
 かのじょは、善悪ともに本来の統率者で、父親のマハラジャをあっという間に摂政にしてしまっただけでなく、
さらに子飼いをよんだ。
「新型機というのは、操縦の仕方、戦闘についての考え方、装備など、いっさいがザクと異なります」
 と、かのじょは、ミネバが寂しさにたえかねた夜、ミネバが部屋からでてきたのをつかまえ、別室でさとすよう
にいったのである。
 たしかにザクとガザとは、同じモビルスーツという名称を冠しがたいほどに、設計思想も戦術もちがう。ミネバ
は子供で、簡単な思想をよろこぶほうだが、深窓の令嬢にはめずらしい素直な心の持ち主だけに、その程度のこと
はハマーンにいわれればわかる。
「とてもシャアと私とでは、操縦方法一つを教えますだけでも手がまわりませず、それによってもしジオン再興に
対し奉り粗相があっては恐れ入る次第でございます」
「それほどに新型の操縦の習得はむずかしいか」
 ミネバは引っかかってしまった。このあたり、ミネバも結局は幼少の純真さがあったといっていい。ハマーンは
そのあたり、いつの時代の野心家もそうであるように、幼少の当主をあやつることにかけては海千山千というべき
凄腕があった。かれの魂胆は、この機会にアクシズ中のこれはと思われる若者をずらりと選抜して直属部隊にして
しまい、ジオンの守旧派を一掃してしまおうという肝であった。それには仲間が要る。それも、多数のほうがいい。
 −ジオンの再興に粗相があっては。
 つまり、父上様の敵がうてなくてもいいのか、というおどしは、なによりも有効であった。ハマーンはこの一点
を梃子の支店にして守旧派を崖からころげおとそうという肝づもりだった。
(こいつはすごい娘だ)
 と、マハラジャもおもったにちがいない。
 ミネバも、ハマーンがいいかげんな人物ならばその発言にこうも耳を傾けなかったであろう。ミネバがハマーン
をモビルスーツ隊長にえらんだということが即刻軍につたわったとき、歓声があがるようなぐあいだったといわれ
る。よくきてみると、ハマーン名将説の謳い手はラカン・ダカランだけではなかった。じつは、ハマーンがテスト
パイロットをつとめる開発部の責任者の息子の一人は、後の部隊長の一人で、マシュマー・セロという。このマシ
ュマーがハマーン崇拝で、かのじょが稀代の名将であるということを、かねてアクシズの軍のひとびとに吹聴して
いたため、ハマーンの名を知らぬものがなかったのである。
44塔下 :04/01/27 13:57 ID:9CwWUd/P
 一方、ジオン軍側は、ホワイトベースの状況とは全く無関係な発想から、大きく戦略を変え、
戦線をいっぺんさせようとしていた。
 突撃艦隊司令部ではいらだっている。
「シャアもよほど苦戦のよし。はなはだ心配している」
 と、ドズル艦隊のエースのひとりであるシン・マツナガは、ドズル・ザビの参謀宛て、通信
をおくっている。その文意によれば、
「シャアのこと、じつに大事。なにはともかくこんにち最大の急務は大いに勝つことであり
ます。大いに勝てば、そのあとのこまかいことはなんとでも取り戻せます。もし大敗におよ
びますれば、自軍の士気がくずれるだけでなく、いま進行しつつある地球圏の大戦略が大瓦解
してしまいます。かつまた中立コロニーにも大侮りをうける結果になりましょう」
 と送っている。
 とにかく、戦闘がふるわず、司令部には敗報のみがきこえている。木馬追跡における指揮
官のシャア・アズナブルは、
「ムサイ隊は奮戦につぐ奮戦をしてきたが、敵はいよいよ手ごわく、ザクはほとんど落とさ
れるか使用不能になり、ザクの中で無事なのは1機だけになった’
 と、司令部に通信を送り、兵力増援を願い続けている。
 これに対し、突撃艦隊の司令官である前記ドズルやその部下は突撃艦隊の手持ち兵力のゆ
るすかぎり増援しようと奔走していた。
 が、それに対し、突撃艦隊でも戦略の専門家であるコンスコンは、
 −シャアはさわぎすぎる。
 と冷静に見ている。「たかが戦艦1隻の小兵力を相手になにをやっているのであろう」と
いう批評が胸中にあった。
 シャアは戦場に居る。ゆらい、戦場にいる者は大局がわからず、苦戦はわが持ち場のみと
みる傾きがあるが、がシャアにおいてはそれがはなはだしい、とコンスコンはひそかにおも
った。
45元ネタ:04/01/27 14:13 ID:9CwWUd/P
>>24-25 功名が辻
武田勝頼は諸将の反対を押し切って世にいう長篠の合戦を行うが、織田信長は鉄砲をつかってこれをしとめようとしていた。

>>26 峠
河合継之助率いる長岡藩を中心とする北越同盟は、官軍によって長岡城、
信濃川の線を失い、ようやく中島の藩の兵学所に集結しようとしていた。

>>27 功名が辻
信長は朝倉への戦略的奇襲を年来暖めていたが、浅井の裏切りによって
単騎退却をよぎなくされ、徳川軍は置き捨てにされた。

>>28 功名が辻
姉川の合戦前に、信長は家康の性格を頭に居れ、三河兵に後詰に回れと
いうが、血気盛んな家康は先鋒を願い出る。


>>32 国盗り物語(斎藤道三編)

久々に京の山崎屋のもとにいる妻を訪れたが、将軍になるのは無理であ
るが美濃を捨てて京に戻る気持ちにはなれない。

>>39 国盗り物語(斎藤道三編)

尾張の織田信秀は、度々今川軍を打ち破ったが、なぜか斎藤軍には勝て
なかった。

>>43 胡蝶の夢

13代将軍家定の死病を蘭方医伊東玄朴は利用し、井伊直弼を説得して、
漢方医を蹴落とし、蘭方医を多数奥医師に使用と試みる。

>>44 峠
北越戦線の敗報続きに、前線の山県は増援を求め、後方の木戸などは勝
利が政治的に必要と重要視し、それに苦心するが、大村益次郎は大局的
にみてさほど重要ではないとみている。
46通常の名無しさんの3倍:04/01/27 17:26 ID:???
仇取り物語ワロタ
良スレだな。
47仇取り物語(シャア・アズナブル編) :04/01/28 01:19 ID:zdgEPRXq
 歴史が、英傑を要求するときがある、ときに。−
 時に、でしかない。なぜならば、英雄豪傑といった変格人は、安定した社会
が必要としないからだ。むしろ、安定した秩序のなかでは百世にひとりという
異常児は毒物でしかない。
 が、秩序はつねに古びる。
 秩序がふるび、ほころびて、旧来の支配組織が担当能力をうしなったとき、
その毒物が救世の薬物として仰望される。
 シャアは、その毒物としてサイド数個に頭角をあらわしつつある。時に地球
圏はエゥーゴとティターンズの先年の対立と抗争、アクシズなどのために戦争
が続き、僻地では軍隊でさえ食うに困るほどであった。それに連邦の高官、役
人がたえず袖の下を要求し、法律を悪用しては分け前を刈り取って懐にもって
いってしまう。
「私が地球圏を変えてみせる」
 とシャアはつねにいっている。その声は、地球圏に浸みこみつつある。
 コロニー、特にサイド3のスウィートウォーターではかれを尊崇すること神
を見るようで、たれも、
 シャア様
 とはよばない。かれが昔、議会で演説をしたときにあかした名をこのみ、
「キャスバル様」
 とよんでいる。なにやらそのほうが、救世主にふさわしい、ややなぞめいた
響きをもっているからであろう。
48巧妙が辻:04/01/28 01:51 ID:zdgEPRXq
 これだけの戦闘だから、アムロ・レイの身辺だけに筆をついやすのは惜しい。
 こんどは、敵の司令官であるガルマ・ザビの側にすこし触れよう。
 ガルマは20歳。
 決して凡将ではない。
 おそらくザビ家という名家にうまれずに平民の出身でも、少将ぐらいまでは十分駆けあがれるほどの男だ。
 が、少将以上の器量ではない。そこがガルマの不幸の第一である。
 第二の不幸は、敵味方の将兵から軍神の権化かとまでおそれられたシャア・アズナブルの上官になったということだ。
 −シャアはすごかった。それにひきくらべ。
 というぐあいに、ジオン歴戦の将兵たちは、比較するような眼でこの二世を見る。ガルマはたれを相手にするよりも、その眼を相手にしなければならない。
 だが、シャアを越えることは不可能である。せめてザビ家の優等生になろうとした。
 −おれが士官学校では首席だった。
 という自負心もある。
 シャアは全ての点で独創的な男であったが、ただ、気分としては現実的な色彩のすきな男で、兵力という要素をさほど小さくはみなかった。
 ガルマは、この親友の兵力に対する消極性を親友の欠点として解釈した。ガルマは、シャアが思いもしなかった新解釈をくだしている。
「増援を待つのは戦いを逃げることだから卑怯である」
 シャアは密かに苦笑しているにちがいない。ホワイトベース追撃戦の直前、ジオン軍はゲリラを掃討していたが、ホワイトベース到来ときき、
「戦闘はおもうところだ」
 と勇んだ。もともとゲリラをいためつけていたのは、連邦が本拠のジャブローから出てくるのを待つためでもあった。連邦軍の主力をおびきだしてテキサスで決戦し、一挙に勝敗を決しようとしたのである。
 が、連邦はジオン軍をおそれて容易にでてこなかった。
 いよいよ敵がきた。
 が、ホワイトベースだけではない。追撃中のシャア、という親友がついてくる。
 ガルマは大いに勇み、
「望むところである。木馬・ガンダムを一挙に生け捕りにしてみせよう」
 といった。
 が、ホワイトベースは3機の新型をもっている。兵力が不足と見た親友のシャア・アズナブルはわざとガルマをいさめ、
「兵をまとめてニューヤークに戻り、部隊を集結しよう」
 といった。
 ガルマはシャアの無言の蔑笑に堪えきれなくなった。
「戦う」
 その理由は、およそジオン軍司令官らしくもない非合理なものである」
「退却はならぬ。ジオン軍はいまだかつて戦わずして敵を避けたことはない。それは卑怯というものだ」
 一騎駆けのパイロットの美意識で、一国の後輩をになう司令官の物の考え方ではない。
49塔下:04/01/28 02:16 ID:zdgEPRXq
 ひとくちにサイド7個という。7つのサイドがあるが、それぞれ歴史が違う。
サイド3ジオンは、連邦のおかげで生存してきたコロニーではなく、一年戦争前
からすでに自給していた。サイドとしてはサイド1よりも歴史が古い。
 巨大でもあった地球圏5個コロニーの覇者として栄え、一年戦争末期にもその
サイド群はジオンのものであった。ところが一年戦争のとき戦略にしっぱいした
ため、ここに一発の銃弾も飛来しなかったのに、敗北とともにその勢力圏を四分
の一に削られ、サイド3二十個バンチに押し込められた。その首府も、ことさら
に不便なスイートウォーターに移された。サイド3の人民は、市民のはしばしに
いたるまで窮迫し、ひそかに連邦をうらんだ。
 このうらみは、地球連邦でも、当然感づいていた。ティアンムは退役するとき、
 −わが艦隊を月に向かって送れ。
 と命じた。ジオン残党−サイド3ジオン共和国とグリプス−に対して地球をま
もらん、という意味であった。連邦の脳裏にあった仮想敵国はこの2つであり、
そのためにこそ、かれらが将来反乱をおこすであろう経路にいくつかの巨大な要
塞をおいた。ルナツー、ゼダンの門、ソロモンである。ルナツー、ゼダンの門、
ソロモンも陥ちれば最後はグリプス1のコロニーレーザーで敵をふせぐ、という
のが、連邦のジオンに対する防衛体制であった。
 ともあれ。
 サイド3ジオン共和国とは、そういうコロニーである。
 8年間、サイド3は地球連邦に対し、犬のように忠実に、驢馬のような臆病さ
でつかえてきた。この点、アクシズとはちがった。が、いまは事情が違う。
 連邦は、アクシズのハマーンに翻弄され、かのじょの言いなりになり、現実逃
避をし、その弱体を暴露した。これをみてサイド3の国民は、本来の自主性にも
どった。
50通常の名無しさんの3倍:04/01/28 05:11 ID:???
しばらく板見てなかったけどまだ職人がいたのか。
51巧妙が辻:04/01/28 09:52 ID:zdgEPRXq
 ハマーンという女が名機キュベレイをつくったわけだが、それはまったく一から開発した、といえば
いえるほどの開発作業であった。
 なにしろ原型にしているエルメスは全長50mで、ビットシステムを運用するにはなるほど手ごろで
あったが、機動性能は、狙えば無誘導兵器でも命中するほどの鈍重さであった。
 宿命的な仕様なのである。脳内から流れてきている微弱なサイコミュが、この増幅装置によって一つ
は機体制御、一つはビッド操作となってそれぞれ意思のままに動く。その2つのサイコミュの流れをつ
くるサイコフレームがキュベレイの特徴になるはずであった。そのサイコミュがくせものであった。
サイコミュといってもデータがなく、理論が発達するごとに変更し設計がかわり、全設計が一斉変更の

うになり、やがて目処がつくとあらたな理論と変更が開発される。
「はたしてできるであろうか」
 とラカンもうたがわしくなっていた。
 赤い彗星といわれた旧隊長シャア・アズナブルもここで開発することにきめたことがあるが、中途で
断念せざるを得なくなった。それほどの作業をハマーンがやろうというのである。
「シャア・アズナブルほどの人でもここでの開発はあきらめたそうでございますな」
 というと、ハマーンは意外にいいことをいった。
「シャアならばできまい。利口者はえてして気がはやいものだ。私は小利口ものではないから、この開
発はできる」
 なるほどハマーンにはシャアにはないねばりがあった。
 モビルスーツ開発の経験者である技術者の意見を入れて、まずメインエンジンとメインコンピューター
のシステムを開発することからハマーンは手をつけた。さらに増幅装置を小型化し、その分を機体の軽
量化にあてた。
 さらに武装のほうの問題がある。これを具現化するのも大変だった。エルメスはもともと白兵戦の武
装がまるでなく、そのためビームサーベルがない。ビームサーベルひとつでも新たに設計していかなけ
ればならなかった。
 ビッドもそうである。エルメスのビッドはほとんど巨大なエンジンにビームをつけた程度のもので、
このためキュベレイに搭載できる大きさではなかった。ハマーンは軽量化のためだけにジオンの最高の
技術者を多数あつめてファンネルの開発を指導指揮させた。
 そういう総指揮をしているハマーンの姿をみて、ラカンは、
(ほんとうにえらいひとというのは、こういう人のことをいうのではないだろうか)
 とあらためてハマーンを見なおす思いがした。
 ある日、
「感心いたしました」
 と、正直にいうと、何がだ、とハマーンは不審そうな顔をした。このところ毎日試験飛行をおこなっ
ているために、兵卒のようにノーマルスーツを着込んでいる。
「ハマーン様がおえらいということに」
「ふん」
 ハマーンはわざと鼻でわらった。
「いまごろ気づいたか」
「はっ」
 ラカンも笑っている。
「どういうところがえらいと思った」
「そうですな」
 ラカンは言葉をさがした」
「頑固なところで。−」
「なに?頑固な?」
 とハマーンは妙な顔をしたが、ラカンにすればそうとしかいいようがない。利口者ならば困難さをし
っただけで、ちゃんと理論的にこれはだめだという。ところがハマーンはそういうとこがわからないか
ら、ひとに「なんとかせよ」とききまわって案を一つずつこしらえては一つずつ実現していくのである。大げさに言えば、頑固一徹というものであろう。
52塔下:04/01/28 10:17 ID:zdgEPRXq
 ソロモンは騒然となった。
 非戦闘員にとっては、ソロモンの陥落はあまりに突如でありすぎた。その唐突さは、太陽風に
似ていた。
 家族を一緒の艦にのせて逃げる物はよほど運のよいほうで、あとは命からがら手じかの艦に乗
り、家族を互いに呼び合い、探しあう声が爆発音よりもけたたましかった。
 ドズルの責任であるであろう。
「ソロモンは、敵手にゆだねぬ。その法もある。安堵せよ」
 と、ドズルはかねて非戦闘員たちにいいきかせてきた。非戦闘員たちは「まさかこのジオンが
連邦に負けようはずがない」という、ごく希望的な観測もあり、さらにドズルに「安堵しろ」と
いわれたので、半信半疑であったが、それでも、
「ドズルさまがああおっしゃるのだ」
 というところで不安を沈めようとしていた。ところがここ30分前の連邦軍のソーラー・レイ
のすさまじさに大いに動揺し、気の利いたものは家族や貴重品をあらかじめ脱出船に避難させて
いた。
 そのころ、ジオンの将兵のあいだで、こういうことがいわれた。
「ドズル様のお顔の色がかわらぬうちはソロモンは大丈夫である」
 ということであった。ところが、意外にもこのざまである。
 −わるかった。
 と、ドズルがこの場におよんでも思ったのは、将兵に対する責任であったろう。その証拠にこ
の男は、この修羅場の中で脱出することを捨てたのである。ビグサムにとびのるなり、連邦の艦
列を飛びまわり、
「ビグザムが量産の暁には」
 と大音声で歯噛みしてまわり、
「しかしやられはせぬぞ。ジオンの栄光、この私のプライド。たとえこの身一つになってもやら
れはせぬ」
 と、いう。
「やらせはせぬ、やらせはせぬ、やらせはせぬぞ」
 と、わめいてまわった。かれは戦闘司令官であるとともに一人の戦士であり、この期におよん
でも戦士である姿勢をとり続けねばならなかった。
 同時にかれは、ザビ家の一員でもあった。このためかれはゼナとその娘を要塞からおとさねば
ならなかった。
 −とりあえずグラナダの姉貴のもとへ。グラナダからサイド3へ。
 と、落ちゆくさきは侍女のラミアにあらかじめ指示してあった。
53塔下:04/01/28 10:35 ID:zdgEPRXq
 −勝てる。
 という自信が、ギレンにはあった。連邦軍の艦列をみればわかるであろう。
 その艦列は、しんじられないほどの長さにのびきっていた。連邦軍の癖であった。
 正攻法しか知らない。碁石でもならばるように目という目に艦隊を配置し、兵力を配分
しておく。自然飴をのばしたようにのびきってしまう。
 その長大さは、
最先鋒から最後部まで距離を測れば60キロもあった。さらにア・バオア・クーの南方の
いわゆるティアンム艦隊は、最先鋒の第13独立艦隊から最後尾の補給艦までのあいだが
20キロ、あわせて連邦軍艦列というのはなんと80キロにおよぶというほどに伸びきっ
ている。
「連邦には将というものがいないらしい」
 と、ギレンはア・バオア・クーの司令部でこれを知ったとき、おもわず微笑がわいた。
連邦の兵力を2100隻とすれば、1キロに1隻を配するという愚劣さであった。
「無能で臆病という証拠が、この陣形にあらわれている」
 と、ギレンはその幕僚にいった。コロニーレーザーに備えて分散せねば不安でたまらぬ
という心理のあらわれが、この陣形であった。
「しかもかれらが無能であるというのは」
 と、ギレンはいう。作戦というものをほとんど連邦軍はもたぬことであった。戦況図や
基地へ帰還したパイロットの報告でそれがあきらかになっている。連邦軍本隊には幕僚が
少ない。とすれば、広大な戦線のどこかを重点において、突破して戦果を拡大するという
ことをしていないのである。
(勝つ、たしかに勝つ)
 と、ギレンは戦況図をみてしきりに命令を下した。
 ジオンには兵力が少ない。
 自然、機動防御しかなかった。その防御とは、全てを守ると見せかけて一箇所に兵力を
集中し、一挙に敵主力を叩くという戦法であった。
 主力軍は、リックドムを用いる。軍といっても、機数はわずか50機である。それに学
徒動員のゲルググを加えても機数はわずか100機そこそこであろう。
54塔下:04/01/28 10:50 ID:zdgEPRXq
(安全な道などない。あるのは賭博だけだ。しかし艦を民間人ごと賭博に投じていいのかといわ
れれば一言もない)
 これがブライトの本音であった。それだけにアムロの正論は痛かったし、反論のことばがなか
った。
 ブライトはもてあました。
「アムロくん」
 と、声をやさしくしてアムロを呼んだ。
「やるしかない。われわれには、選択肢がないのだ」
 ブライトはわれながら愚劣なことを言ってしまった気がしたが、もう言葉が出てしまっている。
「選択肢?」
「そう。民間人を生かす道だ」
 ブライトの声に、アムロに対する媚びがある。この男自身、
(ちっ)
 と自分を叱ったが、しかしこの場はなんとかこのアムロを説得してしまいたかった。
「民間人を生かす道を考えているといわれるのですか?」
 アムロは反論し、さらに切りかえした。
「民間人の安全を守る道をお考えになるのが軍人さんのおしごとのすべてでしょう?それが当然
です。まことにもっともです。しかしながらひるがえって現在の状況を考えると、民間人を生か
す道は艦ぐるみ武装解除する以外ございません」
「降伏か」
「いいえ、停戦です」
「まあ聞け。ほかにあるのだ。アムロ君、他言はしないでくれ」
 ブライトはあかした。
「連邦のモビルスーツ量産計画は、完成に近づいている」
 と、まずいった。このガンダムを持ち帰り、連邦司令部にデーターをわたさねば反撃の態勢が
できあがらない。反撃の態勢はモビルスーツの量産からうまれるものだ、モビルスーツがなけれ
ば地球におけるジオンの駆逐も得られぬ、といった。これはブライトのききかじりであった。
「だから、必ず連邦軍と合流する。そのためにいま反撃の準備をしている」
 これは本心であった。
55:04/01/28 13:56 ID:???
面白いでつ
47-48 51が興味深いでつ
>>50
深く静かに進行してました
 この時期のネオジオン軍・ニュータイプは、ギュネイ・ガスである。
「強化人間」
 というのが、かれに対する陰口であった。
 スペースノイドである。
 ギュネイは、かつてシャアがスウィート・ウォーターの中からひろいあげて
いきなり専用機MSN−03ヤクト・ドーガをあたえてネオジオン軍の要に仕
立てた男で、それ以前はまったく知られていないし、またことごとしい事歴も
ない(中略)
 シャアがネオジオン軍の指揮官・エースパイロットをえらぶについては、ア
クシズやエゥーゴの場合とやや異なった。アクシズはラカン・ダカランやマシ
ュマー・セロのように技量に練達し、さらに忠誠心あつい型の者をえらび、エ
ゥーゴは技量以上に反ティターンズの意志をもっている者をえらんだ。シャア
がスウィート・ウォーターの中からえらんだのは、ジオン公国の下士官のよう
な軍人たちであった。
 シャアは元来、ネオジオン軍兵士というものを反抗の気が荒くて粗暴な連中
というふうに規定していたのか、その連中をよく統御しよく威令を行きとどか
せる者は、無言でいても自然の威を感じさせる者でなければならず、その点で
は、レズン、ライル、ギュネイが好適といっていい。
 ライルは性格が謹直でおよそ無口な男であったが、レズン・シュナイダー、
ギュネイ・ガスは、ドラマや映画に出てきそうな典型的軍人型であり、ギュネ
イなどはにわかに認められると、クラブなどで豪遊した。レズンもさんざん遊
んだが、ギュネイの遊びにはおよばなかったであろう。キャバクラでは、
「ニタ研の士官さま」
 などど異名(あだな)されたことをみても、かれの遊びぶりがほぼ想像でき
る。
 ルナリアンは金を欲しがり、低階層スペースノイドは女を欲しがる、という
のはホルスト・ハーネスがこの当時の状況を見て洩らした評語だが、ギュネイ
はその方面では典型のようであった。
 第一次ネオジオン抗争のあとの外郭新興部隊ロンド・ベル隊にあらたに赴任
したメランは、スペースノイドがいかにロンド・ベル隊員をばかにしていたか
について回顧している。
「連邦政府の手先が入隊しているものであるから、スペースノイドの目からみ
れば、こんな搾取と抑圧の連中に何の情報もやらん、教えてやるものかという
観念をもっている。余などが宿泊先からリニア・ガイド付き(注・無重力帯で
は普通の車は走れないために付けられている)ジープで宇宙港にむかう途中な
ど、街のこどもがはしってきて、鉄の棒などでジープをバンバン叩きながら、
「ティターンズ、地球の犬どもめ」と囃(はや)したものだ。ティターンズと
はロンド・ベルを指し、地球の犬とはわれわれのことを指している。またロン
ド・ベルの隊員が、夜間、連邦軍の制服を着て外出すると、若者らがさかんに
いたずらした」
 ロンド・ベル隊員たちもエグムの叛乱のあと、恐怖心がつよくなった。夜、
警戒に立った者が、遠吠えがきこえると、反政府組織の人間が近くにいると
思い、狂ったように発砲した。
 メランは、
「ロンド・ベルの実情は戦々恐々としていて、じつに歯がゆきことであった」
 と、語っている。
59:04/01/28 14:58 ID:???
続いて投下
 宇宙世紀0079、アムロの乗るRX−78ー2・ガンダムは強襲揚陸艦ホ
ワイトベースとともに多大な戦果をあげて進撃しつつあった。
 ホワイトベース隊といえば、たった数機のMSと支援機そしてそれを収容す
る一隻の艦艇のみであり、この宇宙世紀はじまって以来の奇蹟といえるであろ
う。しかも襲来してくる相手は赤い彗星――シャア・アズナブル――や青い巨
星――ランバ・ラル――、黒い三連星といった名うてのエースやガルマ・ザビ
のジオン地上軍の猛攻をくぐりぬけてなお勝ちゆくということは、戦史上まっ
たく例がない。
 手品のたねは、ガンダムである。このルナ・チタニウム製の装甲材質とMS
史上初の携帯式ビーム兵器を装備したこの連邦軍MSが、アムロ・レイという
これまた稀有にちかいパイロットを得てその性能を飛躍させた。しかもガンダ
ムは現在でこそゲリラ的使い方をされているが、本来民間人程度が扱える代物
ではない。正規軍の重要機密である。もっともその機密を運用する正規将校は、
サイド7におけるジオン軍の奇襲攻撃でほとんどやられてしまっていたのであ
るが(略)
 そのRX−78ガンダム(厳密にはアムロの乗る機体は二番機)の四番目に
あたる機体――連邦軍初のニュータイプ専用MSにして、最新のマグネット・
コーティング技術とアポジモーター増設、全天周囲モニターとチョバム・アー
マー(複合装甲。簡単に言うと、重鎧をまとっている状態ととればよい)をそ
なえた――がサイド6・リボーコロニーに搬入される光景は、地球からテスト
パイロットとしてあがってきたクリスチーナ・マッケンジー少尉(通称クリス)
が上から見おろしていると、身ぶるいするほどの威容であった。
(こんなMSを操縦するアムロ・レイという少年は、英雄かもしれない)
 と、クリスはふとおもった。クリスの思う英雄とは、旧世紀のフランスのジ
ャンヌ・ダルクや彼女のみた映画「大脱走」の主演男優スティーヴ・マックィ
ーン、第二次世界大戦のソビエト連邦のジューコフ、ドイツ第三帝国のエルウ
ィン・ロンメル、アメリカ合衆国のドワイト・アイゼンハワーといった者たち
であった。しかしそういう伝説的な英雄のにおいからみると、なまのアムロ・
レイはだいぶにおいがちがうようにもおもえる。物事を執拗に考えるおくてな
少年にすぎぬとも思えたりする。
 このサイド6駐留軍のMSのおもしろさはMSが小型なことであった。
 リーア35ドラケンE
 という。
 正確にはMMSに分類される。MMSとはミドル・モビルスーツのことであ
る。通常のMSよりもかなりちいさく、マニュピュレーターでも限界でぎりぎ
りまで小型化しなければビームサーベルをあつかうこともできず、クリスが最
初みたときは、
――これがMS?
 とおどろいたほどであった(略)
 いずれにしても小さい。そのわりに乗り手のパイロットは大柄な男が多いた
めに、その搭乗姿は粗蛮ながらもどことなく愛嬌がある。いうならば、地球圏
でもっとも小さな戦闘可能MSのひとつである。
63:04/01/28 15:49 ID:???
さらにさらに投下
補足して。「仇取り物語」続きキボンヌでつ
 新時代の開幕というのは、かつて共産主義的体制による連邦政府の支配をう
けていたスペースノイドが、自分が拓いて自分のものになったらしいコロニー
の大地に立ち、しみじみと内部空間をみつめたところからはじまったと私はお
もっている。
 たとえば、巨大企業ブッホ・コンツェルンを興したロナ家などは、当初、ス
ペース・ジャンク屋からスタートしたが、むろん当時の多くの企業家と同様、
その氏素性は公称どおりにはうけとれない。シャルンホルスト・ブッホ以前は
さだかでなく、おそらく各地から(ときに遠くスウィート・ウォーターやその
ウォーター・アイランドから)連邦体制をきらってきたひとびとをかきあつめ、
その保護者となり、かれらを組織化しさらに自分たちを権威づけるために地球・
欧州の名家ロナ家の家名を買ったかと思える。
 地球圏でしばしばひき起こされた戦闘は、地球の人工衛星軌道上や各ラグラ
ンジュ・ポイント周辺に戦艦、MSの残骸をつくり、ゴミをため、航行するス
ペース・シップにとって厄介な場所が多かった。諸地域からきたひとびとは、
ロナ家のようなジャンク屋企業に雇われることによって、力をあわせ、回収し、
仕事を請け負い、膨大な利益を生む資源となりうる隕石を捕獲したのにちがい
ない。
 連邦体制時代、コロニー開発、回収――大掃除ともよばれた――宇宙事業は、
コロニー公社によるあつかいがさまざまに変遷した。しかし法的な原則では植
民地体制であり、政府の国有であり、そうではありつつも、便宜的には政府に
対し「公務外」というあつかいにされた。スペースノイドは、つまらぬもので
あった。かれらはせっかく働こうにも、その利益をうるためには公社のもとで
仕事をせねばならず、自分たちの取りぶんはいくらもなかった。
66誇張の夢:04/01/28 21:06 ID:zdgEPRXq
 反撃にあたって、レビルは軍の技術者に、新兵器のいわゆるモビルスーツをつくらせた。
「潜水服のような格好」
 と、かつてルウム戦役の頃のジオン軍のザクを評していったのはティアンムである。
「あれに負けたのだ」
 とさえティアンムは極言した。当時、連邦の多くは前世代のままの戦術を想定していた。
作戦参謀の多くは戦術の柔軟さを失っており、前時代の戦闘から戦訓を求めたりしたために、
当時の連邦軍はとほうもなく戦法が固定されていたという。
 その大艦巨砲主義たちが、ミノフスキー粒子下を軽快に進退するモビルスーツたちに負け
たのである。
 その後、連邦はサイド7に技術者などを集めてモビルスーツの研究所を作った。
 ジオンのモビルスーツは移動手段を二足歩行とし、固定武装を特に簡素にしたものだった
が、連邦のモビルスーツもそれに似ていた。
 7月頃になると、連邦試作機は遠距離用、近距離用ともに現在の形に近くなり、遠距離用
のなかにはキャタピラを使用しているものもあった。
 母艦の方は、初期のころ、参謀本部が、連邦の艦艇の中で新型の強襲揚陸艦が一番改造も
しやすく、運用に適している、といったりしたが、サイド7はそれを送り、他艦は簡単に改
造した。
 10月、ミディアがホワイトベースからデータをもちかえると、すぐさまアムロの運用デ
ーターを活かしてみずから率先し、大動員による量産にしたから、この星一号作戦のころに
なるほどジムがそろっていた。
67巧妙が辻:04/01/28 21:08 ID:zdgEPRXq
 運がいい。
 ということに、カイはなるであろう。
 かれは一年戦争のうちで数え切れぬほどの戦闘を経験し、損害も負い、あやういときもあ
ったが、ともかく命一つは無事にきょうまで持ってくることができた。
 抜群の功もない。
 きわだった能力も持ちあわせず、巧妙な作戦を編みだすような才能もない。
 それでもふしぎなことに、つねに中くらいの戦果はかならずあげた。
 このサイド6脱出のときも、とまれかれは愛用のガンキャノン、長距離支援モビルスーツ
を操縦してアムロたちとともに奮戦し、ひきつづき攻略されたソロモンの寄せのときもカイ
のガンキャノンは大いに奮戦し、他機に負けぬ戦果を得ている。
 カイ達が攻め入ったのは、ソロモンの中央である。
 ソロモンの守将はドズル・ザビであった。
 防戦3時間ほどで艦艇はほぼ撃沈され、守将ドズル・ザビは新型モビルアーマー・ビグザ
ムに乗り込み、その子とともにゼナは、脱出した。
 カイが踏みこんだときは、すでにドズルのビグザムは、跡形もなかった。
「無残だな」
 とカイはおもった。
(人の世は運だな)
 と思った。
68仇取り物語(シャア・アズナブル編):04/01/28 21:09 ID:zdgEPRXq
 シャアは、呼び鈴をならし、
「頼みます」
 とよばわって、しばらく返事を待った。
 陽は真上からやや傾いている。
 コロニーの空は透き通るように美しく、頭の上の部分の大地の街の美しさが、ひさしぶり
でサイド3に帰ってきたシャアの眼を楽しませた。
 サイド3には密閉型が多い。
 開放型があっても、他サイドのような質のいい、新型ではないようである。
(サイド3は、建物一つでもなつかしい)
 とシャアは思った。生まれ育った地というのは、樹木でさえ美しくなるのか。それとも、
こういう整備された山河なればこそ、思い出の美しさは保たれるのか。
(すくなくとも、関係のない地球のどこかに生まれていたならば、建物やひとびとの服装ひ
とつでも今と違ってみえるに相違いない)
 シャアは、緊張しつつ、あたりの風景を楽しんでいる。
(いつかはこのズム・シティーにもどってくる)
 この革命の地に、自分の父の名をつけた国を取り戻すのは、スペースノイドにうまれた男
子の本懐であることであった。
(仇をうつ)
 夢想ではない。地球に逃れてわずか七年目に、いまの姿なっているではないか。
 脇に守衛所が立っている。
 そこにもザビ家の紋章がついていた。陽に輝いている。車が来た。それが過ぎさったとき、
戸があいて、兵士が顔を出した。
「何のようだ?」
「入学の」
 シャアは言ってから紙入れを取り出し、手紙を一枚選び出して取り出し、その裏には「ジ
オン公国突撃艦隊司令ドズル・ザビ」と宛名が書いてあって兵士にみせた。
69元ネタ:04/01/28 21:39 ID:zdgEPRXq
>>47 国盗り物語(斎藤道三編)
斎藤道三は英雄であり、領民からは慕われている。

>>48 功名が辻
武田勝頼は足軽出身でも侍大将になれるくらいの器量はあったが、大将たるほどの器ではなく、
さらに偉大な父の家臣の比較の眼に悩まされた。

>>49 峠
毛利藩は江戸期は従順にしていたが、この幕末に幕府の弱体化と共に本来の野性に戻った。

>>51 功名が辻
山内一豊は、長宗我部元親でさえ放棄した湿地帯を粘り強い作業で高知という城下町に作り上げた。
妻の千代はそんな一豊に馬鹿なところがえらい、と感心する。

>>52 峠
河井継之助は長岡の町は守りきるといってはいたが、同盟軍のあっけない敗走により長岡は奇襲され、
町民はあわてて戦火をさけようと逃げ出した。継之助はあわてて前線から戻り、
領民の保護と領主の脱出の手配をする。

>>53 峠
官軍の延びきった戦線を知り、河井継之助は戦勝を確信する。

>>54 峠
官軍の進撃を前に、恭順か抗戦かで藩論が割れ、河井継之助は藩の安全を第一に恭順すべきとの
若い安田正秀の正論にたじたじとなる。

>>66 胡蝶の夢
カミクズ拾いのような格好の長州のダンブクロ兵にやられたと勝海舟は回想したが、
幕府歩兵も榎本武明などの建策でこのころには西洋式に服装がそろっていた。

>>67 功名が辻
山内一豊は数多くの戦闘で生き残り、抜群の功はないものの中程度の功はつねにたててきた。
小田原攻めでは支城群の攻略にあたった。

>>68 国盗り物語(斎藤道三編)
庄九郎(斎藤道三)は京へ戻ったときに垣間見た内親王香子を愛人にしようと彼女の元へ行き、
用人に取次ぎを頼む。
70仇取り物語(シャア・アズナブル編):04/01/29 08:13 ID:IsXzEUVz
 第二の目標は、シャアという惑星をさらに濃厚にマハラジャの手中のものにせねばならぬ、
ということであった。
 あのような思想の者など、いつ気が変わるか知れたものではない。
(シャアをいよいよわたしの掌中にかたくにぎりしめるには)
 女である。
 現にシャアは、安寧と役職を得たとたん、ひどく好色になってきた。
「摂政どのよ」
 とマハラジャをあたらしい役職でよび、ちょっと気はずかしそうな顔をしていった。
「なんでございましょう」
「無理でしょうな」
「なにが、でございます」
「わたしの願望(ねがい)は」
「あははは、ジオンのモビルスーツ隊司令官にさえさしあげましたるこのマハラジャ・カーン、
わが力でできぬことはござりませぬ。ことに赤い彗星のおんためとあれば、76年に一度とい
うハレー彗星さえも獲ってまいりましょう」
「まことか」
 とシャアは少年のように眼を輝かせた。が、その鼻のしたは、荒淫でだらしなくのびきって
いる。
「さ、もされませ」
 といいながらマハラジャ、この英雄がえがく夢とはどういうものか興味があった。シャアの
今の精神の状態を知るには、必要なことでだったのである。
(この英雄が、何を望むか)
 マハラジャは微笑しながらさりげなく、
「ネオジオンでもほしいのでござりますか」
「いやいや、そのようなものは私には興味はありません」
(そのとおりだ)
 マハラジャは内心あぶなくて仕方がない。しかし、ひと安堵しもした。軍事を握った以上望
めるのは当然アクシズ支配であるべきだが、シャアにはそういう方面の野望はないとみえた。
 さらに、マハラジャはそれとなくきいた。シャアにどれほどの政治的野心があるかを。
「ならば、サイド3の奪還でありますか。いやさ、地球圏といえばア・バオア・クーもあるし、
月面にはグラナダもある。
「地球圏侵攻は時季尚早でありましょう」
 とシャアの反応はとりとめもない。
「ジオン再興は無理でございますか」
「私は勝ち目のない戦いほどきらいなものはないのを、あなたもご存知でしょう」
「あ、左様でありましたな。されば木星圏ははいかがでしょう。木星のメタンは地球圏のエネ
ルギー事情の望んでやまぬところでございまする」
「木星にはよい女がおらぬ」
「ははあ」
 美女は、英雄としてのシャアが好んでやまぬ主題である。いや、美女しか愛せない男なのだ、
現在でも旧ジオンの名家なのでシャアのお手つきによる「シャアの落胤」がいくらも残ってい
るところからみて、月に何度となくとりかえていたのであろう。
「戦闘が望みでないとおおせならば、シャアどのにぴったりした新型のモビルスーツでも持っ
て参れというおおせでございますかな」
「そのようなものがあるのか」
71仇取り物語(シャア・アズナブル編):04/01/29 08:14 ID:IsXzEUVz
「ない、とは申せませぬ。現に開発中でございます」
 とマハラジャは、暗に自分が開発中のモビルスーツであるキュベレイの姿を思い浮かべなが
ら、いった。
「あははは、そのような望みはないな」
 と、これだけはシャアは断言した。そうであろう。難航中の原型もできてもいないようなモ
ビルスーツがほしいはずがない。
「摂政殿、女だよ」
「なるほど。左様なことなら、いとやすうございまする。人間の人数の半分は女でございます
るからな」
「マハラジャは、いよいよ上機嫌だった。その安気そうなマハラジャの顔をみて、シャアはこ
まったような表情をした。
「摂政殿、女は女でもチトちがうのだ」
「むろん、美人でありましょうな。赤い彗星どののお好みはよく存じております」
「それはありがたいが、美人というほかに願望(のぞみ)がある」
「のぞみがあればこそ、人間でございまする。シテ、どのような?」
「摂政殿の息女(おんむすめ)がほしい」
 あっ、この阿呆は。とマハラジャは一瞬がくぜんとしたが、驚きは顔に出さず、
「よううちあけてくださりました。では早速ながら調えてまいりましょう」
 物でも運ぶような調子である。
「せ、摂政殿、たしかなあなたは請け負ってくださいますか」
「もちろん」
「易請け合いをして、私を期待(たのし)ませておき、あとであの話は成りませんでした、と
おっしゃって私を悲しませるのではないでしょうな」
「このマハラジャ」
 といいかけてあわてて、摂政、といいなおし、
「左様なことをしたためしがありますか」
「まあ、それほどの難事だというのだ」
「難事でも、ミネバ様をアクシズに脱したて奉ったほどの難事ではございますまい」
「まさか、何もいいふくめずにハマーンをつれて参って、このあとは勝手に口説けと申すので
はあるまいな」
「自慢ではございませぬが、このマハラジャ、ジオン共和国といっていました昔から、娘の躾
はジオン第一でござりました。しつけだけは確かなおとこでございます。現にドズル様はまや
かしでもなく、歴としたゼナの婿殿におなりあそばした。
 マハラジャのいいつけには娘は従うという意味であろう。
「頼む」
 とシャアは、手を合わせた。
72巧妙が辻:04/01/29 08:14 ID:IsXzEUVz
 世にはおもしろいことがある。このくだりは雑談だが。−
 この稿のくだりを書いているとき、筆者はちょうどサイド1のシャングリラにいた。
 シャングリラの酒亭で飲んでいると、私の相手をしてくださったかたのなかに、ムッチャー・
オーレグという中年の紳士がいた。
 コロニーの観光課長さんである。私はなにげなく、
「オーレグさんはビーチャ・オーレグのなにかですか」
ときくと、「はい、子孫でございます」と私のあてずっぽうがあたってしまって、こちらのほ
うがおどろいた。
 先日、ビーチャ・オーレグが出てきたばかりではないか。
 その当の子孫に、そのくだりを書いてかから数日後に酒席を共にしようとは、おもわざるこ
とである。
(まったく、世にいきていると味なことがあるものだ)
 と、オーレグさんの顔をみた。どこかの磯で釣り糸でも垂れていると似合いそうな風格のあ
るお顔である。
「実はリーナたんの」
 とオーレグ観光課長はさらに意外なことをいった。
「銅像をたてようという計画がすすんでおりましてね」
「おやおや」
 リーナも銅像になるのか、とおもい、なんとなく彼女をからかってやりたいような思いがし
た。
 このシャングリラには、一年戦争前はジオン・ズム・ダイクンの銅像があったと思う。いま
シャングリラにある銅像といえば、ZZでハイパー化をして戦っているジュドー・アーシタ、
これはどうやらかれがグリプス戦役中、ネオジオンのハマーン・カーンに襲われ、
「どうしてその力をもっと別な方向に使えなかったんだよ」
 といったあのときの昂然たる姿勢を表徴しているようである。
 いまひとつは、ドッキングベイの入り口で大宇宙の虚空をみながら立っているブライト・ノ
アである。
 ふたりとも、リーナがまとめあげたアーガマに乗組んで戦った男どもである。
「なににしてもリーナたんの銅像がないというのは片手落ちでしょう」
 と、オーレグさんが、一種の感慨をこめていった。
「華奢で萌え萌えで」
 私は注文をつけた。
「穢れを知らないぷにぷにの美幼女、といった感じの銅像にしていただきたいですね」
 と、このくだりよりもだいぶ前のエンドラ艦内のときの彼女のパンチラの話をした。
 あれが美幼女萌えのはじめだと思いますし、考えてみればリーナはガンダム美幼女化のはじ
めだったようでもあります」
 というと、かたわらにいらっしゃった旧葉鍵妖精史編纂員で、日本の二次元キャラ史研究の
宿老でもある見屋咲速雄氏が、
「ああ、そういえば、そのとおりですね」
 と、リーナを思うような遠い目をされた。
 同席されていたサイド3中央公民館館長の御化陀俊夫氏は、
 私の先祖は、エンドラに乗組んでいたといいます。給仕だったと申しますから、リーナさん
がお行儀見習いをなされていた時には、パンチラをみることができたののかもしれません」
 と、同席のお一人が、杯をあげられた。
「われわれの永遠の萌えキャラのために」
 ひとりがいうと、他のひとりは、
「彼女がためにお尻に敷かれっぱなしだったイーノ・アッバーブ君のために」
 と、おおまじめにいい、杯をほした。
73仇取り物語(シャア・アズナブル編):04/01/29 08:19 ID:IsXzEUVz
 ジオンの主力は、デブリが軌道中の物体につきささりこなごなにしてしまうように攻めに攻
めている。
 オデッサの連邦軍は小勢ながらもよくふせぎ、この激しい攻防戦でウクライナの野は、砲声、
エンジンの咆哮、炸裂音、爆音などで割れ返るようなさわぎだった。
 攻撃三日目に、ジオンの軍から5機のガウ攻撃空母が、それぞれ薄緑色の大きな人型の物体
を抱いて飛来してきた。
 塹壕にへばりついている連邦軍は、
 −あれは何ぞ。
 と不審な目で見た。
 5機のモビルスーツは、丘陵地帯を駆け、河を飛び越えて防衛線近くまで接近すると、横隊
になって散開した。
「なんぞなんぞ」
 連邦軍はさわいでいる。
 そのうち5機の人型の手もとから5つの爆音が響き、
「だだだーん」
 と大地に響くような轟音が轟いたかとおもうと、前線に居た5個の戦車小隊が同時に壊滅し、
ばーんと爆発した。
 モラビアからウクライナ、クリミア半島にかけてのこの攻防の地に、はじめてモビルスーツ
が出現したのである。
「連邦軍ははじめ」
「ジオンめ、新兵器(げどう)を使うか」
 とあきれたらしい。なぜなら400m向こうに白煙と轟音があがったかと思うと、味方の前
線がうそのように壊滅しているのである。
 −いや、あれは噂に聞くザクというものかもしれぬ。
 という物知りもあったが、多くはただ恐怖した。
 ジオン軍は日没までのあいだ5回、この5機のモビルスーツを繰り出し、そのつど一騎当千
の効果をみせた。
 連邦軍の士気はにわかに衰弱した。もう塹壕から身を乗り出して銃を撃ったり、大砲を射撃
したりするものもいなくなった。 
 心なしか、猛攻撃の中で反撃している砲撃までがにわかに勢いをうしなったようである。
(うむ、験(げん)がある)
 マ・クベは、司令部で腰を下ろしながら、つめたい、白磁の壷をみてうなずいた。
 わずか5機しかない。
 それが、これほどの効果をおさめようとはおもわなかった。将来、モビルスーツさえそろえ
ば、もはや落ちぬ陣地というのはなくなるであろう。
741:04/01/29 15:08 ID:???
シマッタ!HP貼るの忘れた!
HP(管理人335氏)
ttp://f12.aaacafe.ne.jp/~ryotaro/

仇取り物語面白いでつ
72の変え方にチョトワロタ
 ロナ家など、宇宙の新興有勢者は――体制権力からみればごろつきのような
ものであったろうが――国有ですらないヤミの支配地を持つ者ではなかったろ
うか。このたぐいの者は、ジオン独立戦争後の混乱期に未空域を開拓したり、
荒廃地や暗礁空域に社員を入れて私有化し、それを大目にみてもらえるように
公社人にさまざま工作したように察せられる。
――自分が拓いた大地は、これだ。
 という労働と欲望と所有の直結は、スペースノイドのリアリズムを成立させ
た。そのコロニーの面積や良否についてひと粒の土やコンクリートまでこまか
く見る認識力ができた。
 連邦政府の役人からみれば、スウィート・ウォーターを追い出されてジオン・
ダイクンの思想のもとに走るジオン残党などは、一分子にすぎない(略)
 その一面において、すぎし連邦体制の世の利権生活の駘蕩(たいとう)たる
よさをなつかしむ美学も、その世が過ぎてから、あらためて登場する。
 マンデラ・スーンの秘書ジョアンナ・ナビルの成立がそれであるとはすぐに
は言えないが、かのじょは時勢のにがみを十分に知りぬきつつも、すぎた世の
美をあらたな目で再編成し、実作と美学をもってつぎの世に相続させてゆこう
とする運動者であったと考えていい。 
 連邦政府体制は、スペースノイドにとって常世(とこよ)のように永かった。
しかしその世が変わりゆくとき、ジョアンナのような者が出なかったとしたら、
前時代は泡のように消えただけになったところである。むろん、ジョアンナは、
生活者としてはともかく、仕事の上で決して固陋な保守家でなく、むしろその
逆であったことが、人間の世というものを考えるうえで、かぎりなく興趣があ
る。
79:04/01/29 22:57 ID:???
ザブングルグラフティ面白かった
「シナプスが指揮しているアルビオンなどなんの役にも立たない」
 というのが、ジャブローの参謀本部にいるころからの連邦軍大将グリーン・
ワイアットの考え方であり、むしろ地球連邦軍の最新鋭大型宇宙戦艦バーミン
ガムをもって宇宙の雑魚どもを一掃してゆく場合、屑鉄同然のエイパー・シナ
プスのペガサス級強襲揚陸艦アルビオンとその搭載MSは邪魔になるばかりで
あった。
 この連邦宇宙軍の大艦巨砲主義をみごとに具現化した宇宙艦艇がソロモン海
宙域に達した日にはじめて連邦宇宙軍の戦艦が一隻接触してきた。コンペイト
ウ鎮守府第六外周艦隊旗艦で、きたるべき大観艦式においては連邦艦隊の総旗
艦となるべきバーミンガムとのあいだにたがいに信号を交換した。
 マゼラン改級宇宙戦艦「ツーロン」を旗艦とする連邦宇宙軍の提督はステフ
ァン・ヘボンという少将であった。かれはバーミンガムにやってきて観閲官た
るグリーン・ワイアットに敬意を表し、ワイアットもダージリンティーをふる
まって歓迎した。ヘボン提督はジオン残党の話題にこそ触れなかったがたえず
上品な話題を用意し、終止友好的な態度と微笑を絶やさなかった。
「碇泊している」
 というこの表現は、この宇宙艦艇の実状からいえば厳密ではない(中略)
 単艦でソロモン海にいる。
 宇宙の大海で加速、停止したり、ときには微速でもって移動したり、さらに
は大いに動きだしてソロモンの大海からでようともしたが、待ち合わせの時間
に遅れまいと、さらに反転し、停止、微速でうごきまわるという動作をくりか
えして文字どおり謎の行動をとった。
 目的も不明確なまま、連邦宇宙軍の象徴たる総旗艦がぐるぐる動き回ってい
るのである。軍艦をうごかしている兵員たちにとってこれほど倦怠とやるせな
さを誘う艦艇行動はなかった。
「いったい観閲官はなにをしているのだ」
 と、口々にののしった。
 この宇宙艦隊再建計画についてはジョン・コーウェンの一派が強硬に反対し
た。素人でもわかることだった。艦隊がMS部隊をそろえて戦闘をおこなう場
合、当然MS搭載機能を宇宙艦艇はそろえていなければならない。つまり大艦
巨砲主義にすることとは全艦艇が一年戦争以前の状態にもどるということであ
り、単にシナプスのアルビオンといった強襲揚陸艦が不必要というだけでなく、
全連邦宇宙軍が巨大なマイナスを背負い込むということになる。
 ところがジャブローの参謀本部ではまったく見解を異にしていた。
「宇宙艦隊戦の中核は戦艦・巡洋艦である。そのメガ粒子砲の主砲は大いに威
力を発揮するであろう」
 と、砲力のみを重視した(中略)
 たしかにジャブローの幕僚も参謀本部も、宇宙戦略というものがまるきりわ
かっていないとしか思えなかった。まだ旧世紀の頭脳でいるのか、戦闘とは艦
艇同士の艦砲射撃的展開で勝敗がきまるとおもっていた。
 エイパー・シナプスのアルビオンはグリーン・ワイアット観閲官を中心とす
るコンペイトウ大観艦式挙行までの約一ヶ月間、その艦艇内部の統制はよくと
れてほとんど事故らしい事故をおこさずにすんでいた。
 ただかれには重大な悩みがある。
――このアルビオンとMS部隊がはたしてジオン残党の暴挙をふせぎ、さらに
奪われたサイサリス(RX−78GP02A・ガンダム試作二号機)を奪還す
ることができるのか。
 ということであった。その点についてかれは絶望的な気持ちをもっていたが、
しかしクルーにさえその悩みをもらしたことがなく、「ただ捜索と戦闘あるの
みだ。その結果については神のみが知りたもうことである」といっていただけ
であった。
 ただシナプス大佐にとってこまったことに、上層部たる幕僚会議の現実認識
のなさとその意図がまったくわからないということである。
 試作ガンダムを奪われるまではわかっていた。
 それ以後がわからない。
 いや、わからないというより、もともと第三機軌道艦隊自体が厄介者扱いで
あり、さらにはそれを統率するシナプスの上官ジョン・コーウェン中将が少数
派の雄であることが大きかったといえよう(中略)
 連邦政府の官僚機構は運営能力を欠き、計画を遂行しようとしてもほかっぱ
なしで、進行中の現場に対して指示をしてやったり、情報を提供してやったり
することはほとんどなかった(中略)
 シナプスの航海は孤独の航海というべきものであった。国際法違反の事件も
おこさず、アルビオンにあってはかれは罵声ひとつ出したことがなかった。
 この日(11月8日)、ミノフスキー干渉波の逆探に戦艦らしき敵艦艇がひ
っかかった。バーミンガムの近辺であり、アルビオンとしては戦いにくかった
が、しかしシナプスはなにごとかを直感した。かれはめずらしく手際のわるい
サウス・バニング大尉(MS部隊指揮官)を叱責しながら、全MS部隊に発進
を命じた。
 アルビオンよりバーミンガムへ緊急電が打たれた。
 アルビオンのMS部隊は一直線に戦闘がおこなわれているであろう空域にむ
かった。やがて艦砲射撃を放っている総旗艦バーミンガムに近づきその戦闘相
手に群がった。敵の艦艇も対空砲火を巻きあげている(中略)
 が、両艦艇は戦闘をするために接触したのではなかった。
 この両艦(バーミンガムとリリー・マルレーン)は――信じられないことだ
が――お互いが敵同士でありながら通じあっていたのである。
861:04/01/31 10:08 ID:???
書き込めるうちに投下
 深夜0時を過ぎゆくころを、ウッソは臥床(ふしど)のなかで、ひとつふた
つと数えていた。艦内がしずまったとき、そっと眼をあけた。部屋を出て、扉
をあけた。
 いつものように、シュラク隊のまとめ役であるジュンコ・ジェンコが、ウッ
ソの視界に暗闇のなかであざやかにとびこんできたのである。まだ季節は春だ
というのに、お姉さんのすらりとした身体が汗ばんで、近くでほのかに匂うよ
うだった。
「ジュンコさん――」
「しずかに」
「え?」
「でないと、このままの状態がたもてなくなる。あたしは、わが身がおそろし
くなる。……」
「いいえ、それはぼくのいうことです」
 ウッソは、ジュンコのゆたかな胸に手をのばした。ジュンコの感触が、ノー
マルスーツごしながらつよく感じられた。まるで女神のように端正なこのひと
の、いったいどの部分から、こうしたなまなましいいのちの香りがただようの
か。いつもながら、ふしぎにおもうのである。
「ジュンコさんを罪に誘(いざな)ったのは、ぼくのほうじゃありませんか。
はじめてお会いしてからしばらくたつ。ウッソ・エヴィンは、この楽しい罪を
かさねて思いのこすことはない。たとえ、天国へ飛ばされてもいい。奈落へ堕
とされてもかまいません。ウッソはこの罪をひとりで背負っていこう。ジュン
コさんに罪はないのだ。恋は、ぼくだけのものです。いえ、そうしておいてく
ださい。――だいたい、オリファーさんがよくないんだ。このような美しいお
姉さんをすてて、マーベットさんに傾きっぱなしとは、どういう料簡なのでし
ょう」
「そんなこというもんじゃないよ。――あたしには、坊やのその心だけが、い
きがい」
 ジュンコの昼間は、リガ・ミリティアのMS部隊隊長のオリファー・イノエ
の準リーダーとして、女性パイロット集団シュラク隊の実際の指揮をしている。
その普段は隊員たちやクルーたちからも姉御肌で猛々しく面倒見のいいこの大
人の女が、いま、ウッソの愛撫をまって、まつげをこまかくふるわせているの
だ。やがて歓喜のなかで、妖しいけもののような変身をみせるだろう。オリフ
ァーといろいろ複雑な関係にあるこの女が、愛撫に狂気すればするほど、ウッ
ソにすれば哀れが深むのである。
 戦闘のあと、Vから降りてから、隊長のオリファー・イノエがウッソをジュ
ンコとシュラク隊の前につれてゆき、「これからリガ・ミリティアのあたらし
い戦力になる。よく教えてもらうんだぞ」と挨拶させた。ウッソは、頭をあげ
てから、あっと顔をあかくした。
 それほどノーマルスーツをまとったジュンコの容姿は美しかったのである。
ふるい記憶のなにかに似ていた。すぐ、おもいだせた。カサレリアにいたころ
いつもインターネットでしらべていた女神さまの顔にそっくりだったのだ。ウ
ッソは思わず、「ジュンコさんは、そっくりですね」と言った。
「へえ。何がそっくりだってのさ」
「女神さま」
 ウッソは、言うなり真赤になって、制止するオリファーの手をするりとくぐ
りぬけ、ばたばたとむこうへ逃げた。
 鬱屈しはじめていた。ときに、身のうちのものを抑えかねる日があった。あ
のとき、お姉さんの美しさを憧憬した彼の眼に、ジュンコの立居振舞をみてふ
とケモノの光が宿ることがある。そうした彼の毛虫のようになまなましい季節
に、もうひとつの不幸な条件が加わった。
 隊長のオリファー・イノエが、ジュンコに興味を喪(うしな)いはじめたこ
とだった。ジュンコとのくわしいいきさつはくわしい理由はわからないが、本
命らしきマーベット・フィンガーハットとより仲をふかめ彼女に気をつかった(中略)
 こうしたある夜、その夜はやけに暑かった。オリファーとジュンコ、そして
マーベットのことを思うと、妙に寝ぐるしかった。臥床の上布団に巻きつけた
身体が、何かに抑えられねば狂いだしそうに思えた。気がつくと、ウッソは、
布団のふちを噛んで泣くように叫んでいる自分を発見した。
「……!」
 自分が叫んでいるのがお姉さんの名であることに気付いたときには、ウッソ
はさすがに汗が一時に身体を濡らした。女が欲しかったのだ。たしかに今まで
シャクティやカテジナといった女性は知ってはいた。
「ウッソ?ドウシタ?スイブンフソク!ミネラルウォーター、ノメ」
 ハロの声がした。どうやら自分の叫び声で起動したらしい。
 ウッソは立ち上がって、気分を落ち着かせるためにミネラルウォーターをの
んだ。のんでいる最中、ふとジュンコの姿が浮かんだ。艶かしい口紅のついた
ジュンコの口が、ストローを通じてシェイクをはげしく飲んでいる姿をありあ
りと思い浮かべたが、そのうち正確なジュンコの姿がみたくなった。
「ハロ。ジュンコさんの絵はないの?」
「ジュンコ?ジュンコ」
 ハロは口もとからシャボン玉を出して、二つの目をあかく光らせながら幻影
を映しだした。
 昼間、ジュンコが格納庫にかがんで、タンクトップ一枚のノーブラで不思議
な顔でいる姿が映った。さらにリップスティックを手に持ち、ルージュを手鏡
で確認しようとする姿も映った。ペギーやコニーとの雑談に興じるジュンコの
姿もみえた。少しだけひらいた胸元から黒いタンクトップが露出し、ノーマル
スーツの下腹部で、ジュンコの細い腰が豊かに存在していたが、その肢体のみ
が、深夜のウッソの脳裏にあやしくくねった。
「だれだい」
 はっと我にかえると、ウッソはお姉さんの寝所の扉の外に立っていたのだ。
お姉さんの声に、ウッソは狼狽した。しばらく息をひそめていたが、ついに堰
(せき)が切れた。ウッソは、扉をあけて、
「ジュンコさん。ぼくです」
 ジュンコは、無言で抵抗した。ウッソは、右腕でお姉さんのほそい咽喉(の
ど)を締めた。ジュンコは失神した。いや、失神のふりを装ったのだろう。
 抵抗は簡単にできたが、どうもその気がおきないし抗う気もない。失神すれ
ば、営みはウッソの一方的なものになり、罪の意識からのがれることができる。
ジュンコのかなしい知恵であった。ウッソにはそれがわかった。むしろそれだ
からこそ愛(いと)おしくおもった。
 抱き終えてから、ウッソはそっとジュンコの寝所を出た。廊下の曲がり角ま
できたとき、むこう側で、なにか音がした。
「誰だ。そこにいるのは」
「ウッソ。オツカレオツカレ」
「おかしいなあ。ハロはたしか機能を停止しておいたはずなのに」
「ああ、香水の匂いが、部屋の中でにおってる。あの夜も、くるしいばかりの
香水のかおりの強い夜でしたよね、憶(おも)いだすなあ。ねえ、ジュンコさ
ん。おぼえていますか」
 その夜、ジュンコの身体を離してから、ウッソは言った。一体にウッソは口
数が多かったが、ジュンコは普段とちがって極端に口数がすくなくなっていた。
すこし疲れたらしく、大儀そうに、
「そうね」
 と言った。声が空(うつ)ろだった。いつものことだが、ウッソとジュンコ
では、情熱の琴線がどこか合わないものがある。ウッソはそれをもどかしく思
った。もどかしさが、再び情熱をかきたてた。ウッソは、もう一度ジュンコを
抱こうとした。床を脱け出そうとする女の細い腕をとった。
「もう、厭なの。帰るわ」
「そんな冷たい言い方しなくてもいいじゃないですか。ジュンコさん、お姉さ
んはぼくのことがきらいになったのですか」
「なにか、うまく説明できないけど……予感がするのよ」
「明日出撃だから?」
「ときどき、そんなことがあるの。大人には、いろいろあるのよ」
 ジュンコは背中のジッパーをウッソに上げさせると、もとの女神のような表
情にもどった。そして、しずかに仲間たちが寝ている場所にもどっていった。
その影が、扉の向こうを通っていくのを、ウッソは床の中から見送った。ジュ
ンコが死んだのは、その翌日である。
94仇取り物語(シャア・アズナブル編):04/01/31 14:54 ID:dn1f0c8x
「革命主義者」
 と、連邦の政治家からおそれられた初代ジオンことズム・ダイクンが、その、
史上で名をたからしめたニュータイプ論を発表するようになったのは、宇宙歴
0066年のことである。余談だが、このこにはのちのち彼の意思を継ぐことにな
るシャア・アズナブルがすでにサイド3でうまれていて、当時6歳。
 そのシャアの宿敵となって才色比類なしといわれたマハラジャの次女「ハマ
ーン」は当時生後数ヶ月。
 まだ赤ん坊でしかない。
 ところで、ジオンがニュータイプ論を発表したこの宇宙歴0066年の総選挙に、
同じくサイド3出身の議員で一人の初当選者がうまれている。のちのデギン・
ザビ公王である。
 ダイクン、デギン、ハマーンとつづくジオンの系譜は、この年の前後に誕生
したわけである。
 さて、さらに余談を。
 ニュータイプについてである。このスペースノイドのエースパイロットのな
かで最も多いニュータイプパイロットがあらあれたのは、一年戦争の後期であ
るらしい。
 一年戦争初期、モビルスーツ開発技師長になったテム・レイという人物があ
る。この子でアムロという人物があり、どんな男であったかはよくわからない
が、このアムロ・レイがニュータイプパイロットの祖である。
 アムロ・レイが、正規軍に組み込まれて連邦の新開発のモビルスーツの試作
品(ガンダム)のパイロットをすることになった。少尉。
 ガンダムのパイロットのなかでニュータイプが多い。名前を呼ぶとまぎらわ
しいため、名前の前にア記号をつけて呼んだり(たとえばZ、V、F91)、
その後継機で直系にあたる機はたとえば初代ガンダムならばマークUと呼んだ
りした。
95巧妙が辻:04/01/31 14:54 ID:dn1f0c8x
 雨。
 なお降りやまない。
 小競り合いが続いた。オルテガらの属する三連星が、バイコヌールの宇宙基
地に着任した時も、なお小競り合いが続いていた。宇宙歴0079年の11月のはじ
めのことである。
 (俺達の相手は、噂の木馬たちだな)
 オルテガらは、はっきりとは聞かされていなかったが、そう推察することは
できた。
 やがて連邦の宇宙への道を大きくひらいたオデッサの戦いがはじまるのだが、
オルテガ程度の将校には、マ・クベの意中が知らされていなかった。
 すでにホワイトベースは、主力機ガンダムにまもられてジオンの勢力地であ
る中央アジアに進入し、いくつかの採掘基地を叩いていた。
 当時、ホワイトベースは艦載機2機、モビルスーツ3機。
 大気圏降下後もその戦闘力のすごさは、記録的とされ、いたるところでジオ
ン軍を破った。この時ランバ・ラルは38歳、ガンダム以下のためにグフを失
い、モビルスーツ1機、ギャロップ1機。
 山岳地帯ではげしく防戦しつつあるが、とても手にあう敵ではなかった。
 ランバ・ラルは、マ・クベに急を報じ、何度も援軍を頼んだ。
 が、マ・クベはドムを渡さない。
 ドムが3機到着したものの、いっこうに増援を命じないのである。
96仇取り物語(シャア・アズナブル編):04/01/31 14:55 ID:dn1f0c8x
 ジオンの拠点は、こんにちでもサイド1内で「コンペイトウ」という名前で
残っている、とは前に述べた。コンペイトウ、というのは、連邦では正式名称
ではない。
 突起がするどく、複数突き出ていた形状から広まっている。
 こんにち、サイド1のシャングリラからラグランジュポイントにさしかかる
連絡航路に面し、途中食物栽培工場があり、やがて、いびつな小惑星がある。
核攻撃を受けたことがある。
 それがジオンの前線基地ソロモンであった。
 ドズルは、夜が長い。
 ワイングラスをかたむけ、地球からとりよせたワインを上機嫌でなめている。
「来月六日が、待ちどおしいわ」
 と、愛人のハマーンという113歳の少女に酌をさせながらいった。
 ドズルにはそういう癖があり、初潮をみたかどうかの小娘を口説いては、夜
の伽をさせる。
 ほかにとりたてて欠点は表さない男だが、この一事のことは、ジオンでの評
判はひどく悪い。
「来月六日にはなにかおうれしいことがあるのでございますか」
 と、ハマーンがきいた。
 シャアはそれには答えず、
「おまえは、あの男をどう思うか」
 と、シャアの名をあげて、きいた。
 ハマーンの答えは意外だった。
「好もしいお方と存じまする」
 さらにつづけた。
「ジオンの女性兵士たちは、みなあの方は謎めいていてよい、と申しておりま
する」
 小娘だけに、正直である。
 ドズルは、いやな顔をした。
97通常の名無しさんの3倍:04/01/31 18:23 ID:???
愛人のハマーンという113歳の少女  (( ;゜Д゜))ガクガクブルブル
98:04/02/01 09:24 ID:???
仇取り物語(・∀・)イイ!細かいことはキニシナイ!
99L5を考える(対談集):04/02/01 09:42 ID:???
――L5の激情家の系譜――

チン「竜紫鈴の話がでたので思い出しましたが、竜紫鈴のL5における一つの
系譜があると思うんですよ。地球住民がL5の人を見ると、中華的とかなんと
か言うんですけど、そうじゃなくて、やっぱり激烈な感情の起伏のある人間が
L5にもいるわけですよ。そしてこの連中を見ていると、最後は求道家の道に
行ってしまうのね」
シバ「自分の激烈さをしずめるためには、そこにいかざるを得んでしょう」
チン「竜紫鈴は、AC争乱中にコロニーごと自殺しているんですね(略)いま
までに自決を強要したりする例は何べんもあるんです。
 それから、もう一人L5の戦士で、張五飛。華人たちに育てられた少年です
けど、これも求道家になってしまうんですね。これは壮烈死を望んでいるわけ
じゃないけれども、ほとんどなりふりかまわぬ激烈さをしめす生き方をしてい
るんです。彼も最後はやっぱり中華思想ですね(略)
 まあこんなふうに、大恋愛をしたり、なんやかんややっていながら、中華的
求道精神に入って、しまいに何かおかしな死に方をするという一連の系譜があ
ると思うんです。この連中は歴史をけっして動かしてはいないんですよ」
100L5を考える(対談集):04/02/01 09:51 ID:???
――裸に対する拒絶反応――

チン「それでね、L5を旅行してまして、一番感じましたのは、他のコロニー
群ではふつう人間の生活の隠さねばならないとされている部分を隠さないんで
す。道のまん中にテーブルを出して飯を食う。飯を食うのは人に見られてもぜ
んぜんおかしいことじゃないわけ。寝台車にもカーテンがない。見られて恥ず
かしいかっていう感じ」
シバ「盛大に路上で飯食ってたな」(中略)
チン「食べること、寝ること、そんなことは見られても恥ずかしくはない。だ
いたい公衆便所にドアがない」
シバ「これは地球・東南アジア地区とかもある時期まではそうだったらしい」
101L5を考える(対談集):04/02/01 10:07 ID:???
チン「こういうことは恥ずかしがらない。それでハンヨウでだったですかね、
方々を案内してもらって、最後にご意見はありますかって聞かれたときに、だ
れかが洗濯物を隠したらどうかって言ってね。フトンはいいけど、下着はせめ
て表通りではなく、裏通りにでも干したらどうかって。けど、むこうの人はわ
からないわけですよ、なんで隠さんならんて。これは人間が着ているものでし
ょうって言う。でも肌着じゃないですか、かっこ悪いでしょうって言うと、そ
うですか、考えてみましょう、って言ってる。そういうものを隠すという感覚
は生活の中にないんです。
 で、こういうことが全部通用するかというとそれがそうじゃない。オフロ屋
ね、セントウで「浴池」というのはどこへいっても個室式になってるんだ。ど
んな下町でも他人といっしょに入るフロ屋はない。他人に裸を見られるという
のは恥ずかしいことなんですね(略)
 人間というのは肉体じゃない、という考え方があったという気がしますね」
シバ「そうでしょうな」
チン「仏像やマリア像なんかでも、他の地域から豊満な物がくるでしょう。L
5ではだんだん細くなって、洗濯板みたいに平面的になるんですよ。あれは気
候のせいもあるでしょうけど、L5は豊かな広い服を分厚く着て、なるべく肉
体が外に出てこないようにする、ぴったりするものも嫌うんですよ」
シバ「裸になるというのは、異様なぐらい嫌うらしい。裸の人間を見るという
のはショックなんだね。男の裸ですよ(笑)。まして女の裸は大変だろうけれど
も、つまり裸になっているやつというのは、L5の伝統的文化意識からすると、
これは野蛮人なんだ」
チン「靴下も、絶対はかんといかん」
シバ「肌を見せない」
102:04/02/01 10:10 ID:???
投下しまつ
〜偉大なドクター

シバ「クルーたちに対して、テクス・ファーゼンバーグ先生という人は、叱っ
たことがないそうですが、叱ったことがないというのはまた、不思議な先生で
すね。
 その当時は、クルーというのは、あちらこちらで渡り歩いて、バルチャー稼
業から含めると、キャプテンのジャミル・ニートをふくめてたいてい数十人は
いる。第七次宇宙戦争や戦後の混沌期をいやがおうにも経験してますから、か
なり精神的にもすさんでいるんです。
 ところが、そうした連中が、アルプス級陸上戦艦フリーデンへ来ると、ドク
ター・テクスを恩師として仰ぐんですね。当時としては不思議なことです。そ
ういう影響力、人格的影響力から考えても、その人柄の優しさというのは、非
常に珍しいですね」
オガタ「私は、テクス先生がよくまああんなにクルーをほうっておくことがで
きたなという気がしますよ。私ならやっぱり、何かとうるさく干渉するんじゃ
ないかと思う。もっとぐんぐん引っぱっていくほうが教育者らしいという気が
するんですがね」
オガタ「クルーをそのままほうっておいて、クルーのほうから「ドクター、こ
れはどういうことでしょう。教えてください」とやって来るというような関係
が成立している教育者というのは、私にはちょっと考えにくいのですが、テク
スは、そういうやり方だったようですね。自分から教えるということは、ほと
んどしていない。クルーが教えてもらいに来ると親切に教えている。それでい
て、いちいちのクルーのことはよく見抜いていて、心の悩みを聞いたり、詩集
の一節をひいてうまく例えながら説明したり、そういうことは実にまめにやっ
ている記録があります」
シバ「つまり人の師匠になる人というのは、異常なくらいの親切心がなかった
らだめだとは思いますが、その行き届きかげんというのは、やっぱりちょっと
例がないのではありませんか。
 平成ガンダム史の中で、有能な軍医であるサリィ・ポォと並べて、甲乙どち
らかという時、テクスのことを調べていると、私は、時に、ドクター・テクス
の方が甲じゃないか、サリィのほうが乙じゃないかと思ったりします。もっと
もサリィ・ポォ軍医少佐のことを調べていると、サリィの方が甲のように思っ
たりしますが」
オガタ「私は、そのまあテクスという人の存在の歴史的意義は認めますが、他
の学者の場合と違って、カウンセリングを受けたクルーたちがテクスの功績に
大きな役目を働いていると思うんですよ。カリス・ノーティラスにしても、ガ
ロード・ランにしても、ジャミル・ニートにしても、ティファ・アディールに
しても、こういう多士済々(たしせいせい)のクルーたちが、先生をもりたて、
先生のカウンセリング効果をうけて、結果として、先生をいっそう大きい存在
にする役目をずいぶんやっていると思うんですよ。これは他にないんじゃない
かと思うんです。
 サリィ・ポゥの場合は、軍医が偉い、一人とびぬけて偉いっていう感じがす
るんですよ。ところがテクスの場合、先生の偉さもさることながら、クルーた
ちの偉さも無視できない。何だかこう先生とクルーとがいっしょになっている
感じがするんです」(略)
シバ「エニル・エルが、彼女はクルーたちの中で、いいクルーとはいえないと
いえばいちばん外れたクルーだったかもしれませんが、そのエニルもセインズ
アイランドで出会ったトニヤ・マームと、しだいにうちとけて、重要な契機と
なってますね。そののちの可愛らしさと、その実はとても素直ないい子だった
という雰囲気は、私は、それまでのキャラクターになかったと思うんです。つ
まり、革命軍高官ナーダ・エルのむすめで戦後の荒波をくぐりぬけてきたエニ
ル・エルは、クルーの一員として加わることによって、女性とは、人間とは何
であるかということを知ったんじゃないかと思います。
 ですから、それはエニルの偉さというよりも、やっぱりテクス・ファーゼン
バーグの雰囲気という方に置きかえて見てみなきゃいけないのじゃないでしょ
うか」
オガタ「ただ、教育ということからいって、テクスがどういうことをしたか、
自分に教育理念があったかというと、私は、そういうはっきりしたものはなか
ったと思うんですよ」
シバ「それは、一言でいえば、やっぱり親切ということでございましょうね。
それも極端なる親切(略)
 カリス・ノーティラスがテクスに相談しに行ったら、もう自分の教えること
はないんだ、こういう有能な人が来ているから、そこの所へ行きなさい、と推
薦状を書いています。
 私は、これは、あたりまえといえばあたりまえのことでしょうが、学者とし
ても、教育者としても、なかなか容易に言いえないことだと思うのです(略)
 もう、おれの時代は過ぎたんだ(略)
 そういうことを、テクスという人は、冷静に、自分自身と、自分自身の学問
の、極端に言えば、歴史的使命みたいなものを、知っていたんじゃあないか。
まあこれは思い過ぎかもしれませんが、あのカリスのエピソードの中にそれを
感じます」
オガタ「そりゃそういう面があったかもしれませんね」
シバ「テクスという人は、いうなれば、広い、大きなフロシキだったんでしょ
うね。あの環境を見ますと、教育のできるような所じゃないんですが、やはり
教育というのは設備や環境じゃないですね。環境からいえば、フリーデンはほ
んとにおそまつですからね」
オガタ「そういうことでしょうね」
シバ「サリィ・ポォを、いわばガンダムパイロットたちをまとめ一つの目的に
向かわせることに成功した人とすれば、心・育成を主体としたフリーデンは、
教育の艦ともいえましょうか。
 だから、人材の幅が非常に広いんです。学者あり、政治家あり、実業家あり。
ですからテクスにはイデオロギーの色がない。もっとフロシキが大きいわけで
す。イデオロギーというのは非常に狭いものですからね」

 巷に雨の降る如く わが心にも雨ぞ降る……

シバ「なかなか詩人がお好きなんですね。よい詩ですね」
オガタ「フランスの詩人の作なんですね。フランス風のセンスがテクスの性格
にぴったりだったのかもしれないですね」 
1101:04/02/02 13:37 ID:???
ポータルの「ページを表示できないとはな」ワロタ

このごろ「エースをねらえ!」にはまり中。出崎ネタも書いてみたいこの頃。
 この年、正暦2345年、地球・アメリア大陸に姿をあらわしたディアナ・
カウンターは、アルマイヤー級宇宙戦艦と全高40メートルにもおよぶ大型M
Sウォドム(型式番号JMA 0530)が主力となっている。
 むろんこの大戦力については、
「蛮族に要求するには、口頭や文書はむだである。大いなる戦力をみせて、大
いなる衝撃をあたえるしかない」
 という少佐フィル・アッカマンの対アメリア外交理論による示威(じい)行
動のつもりで、そろえたものであった。
 イングレッサ・ミリシャ指揮官・大佐ミハエル・ゲルンも駆けまわった。か
れの主張は、同僚の他のミリシャ軍人たちと同様、
――断乎、屈するなかれ。
 という、いわゆる強硬論であった。そのくせかれは過激派ではなく、要する
に強要されて屈服するというのは、一国一民族の愧(は)ずべき敗北であり、
ここで屈服すればついにこの民族は自立の生気をうしなうであろうというもの
であった。この異常に強烈な民族的自尊心をもりあげたかれの理論は、やがて
まわりのミリシャ隊員たちの思想に重大な影響をあたえてゆくのだが、このミ
ハエル理論ができあがる醗酵(はっこう)のたねに、ミハエル個人としての自
尊心のつよさがあるであろう。
 かれの性格について、同僚たちがみな驚嘆するところは、かれがつねに赤裸
々で自分についてすこしの誇張もせず、しかも非常な謙遜家であることであっ
たが、しかし一個人のなかにも人間は矛盾にみちている。謙遜家であると同比
重でかれは強烈な自尊心のもちぬしであった(略)
 が、主であるグエンの不拡大方針に逆らえば、このディアナ・カウンターと
の戦いになるであろう。
「そのときは、勝てる」
 と、ミハエルは言い、ディアナ・カウンター旗艦「ソレイユ」を中心とした
敵駐屯地を戦術偵察させることによって、その必勝の理論をつくりあげた。
「ブリッツクリーク」
 と、名づけた。
 グエン卿の賛同を得ぬままかれは公案し、いわば統帥独立の理論をもって、
ミリシャ軍曹ヤーニ・オビュスらと作戦を練った。
「ディアナ・カウンターとの戦いについては、まず攻撃目標を敵旗艦ソレイユ
にさだめる。まず、ビシニティ方面にいるホワイトドールをもって陽動となし
ブルワン軽戦闘機・ヒップヘビー戦闘爆撃機の航空部隊による空襲をやって、
ついで機械人形部隊がこれに加わり、破砕しておわる」
 というもので、まず空戦は、戦闘爆撃機による一撃離脱主義をとる。それぞ
れ編隊をくんで、戦闘機は護衛を第一、機銃掃射による対地・対艦攻撃を第二
とする。
 ビシニティ方面にいるホワイトドールに敵部隊が分散するのに乗じ、相手に
暇をあたえずに、ひたすらに敵旗艦めがけて爆撃・空襲を敢行する。機械人形
部隊は攻撃をしかけつつ快速にすすみ、ディアナ・カウンターの駐屯地に近づ
くや、航空部隊をからめ取る対空機銃座、ウォドムの火砲を最優先に叩く。マ
トは大きく、はずれはない。やがて敵艦やMS・駐屯施設に火災がおこりディ
アナ・カウンターの兵士どもがさわぎ立てれば、ミリシャの砲兵部隊がすかさ
ず兵士たちを狙撃し、敵旗艦が撃破できなければ歩兵部隊が敵旗艦にのぼって
白兵戦を演じ、敵旗艦を女王ぐるみうばってしまう。
 ディアナ・カウンターがこの勢いにおどろいて撤退すればそれでよし、逃げ
ずに抗戦するならば、当方の幸いである。
 敵は月にかえって態勢をたてなおし、ほぼ一年をへて大挙襲来するであろう。
そのあいだに、機械人形を発掘し兵器をととのえ、アメリア大陸中の部隊を結
集し、訓練をほどこして敵を待つ、というものであった。
 戦略家としてのミハエルはまだ35歳でしかなかったが、しかしこの程度の
戦術論ですら、それを立てた者は、この当時だれもいなかった。かれはこれを
理論だけでなく、予定戦場の現地の地形を視察して同僚たちとさまざまに検討
することによって、いよいよそれが正しいと信ずるようになった。
 ついでながら、ミハエル以後のミリシャの軍人・隊員たちは、ミハエルの前
近代的戦術理論を信じ、ディアナ・カウンターとギンガナム艦隊に対しすさま
じい行動を展開するにいたるのだが、この理論が、現実の戦争について空論に
すぎないことが実証されるのは、ノックス崩壊の引き金、かれらが直接やった
戦闘においてであった。ミリシャはこの戦術論を愛国心的自信の根拠として戦
い、むざんなばかりにやぶれ、ここに大規模なミハエル戦術はやぶれ、時勢は
混沌の争乱期へむかうにいたる。
「私は強硬論でこのように反対云々といっているのではなく、この戦術でやれ
ば、かならず勝てるのです。であるのに、グエン・サード・ラインフォード閣
下は穏便云々と仰っています。穏便云々でいけば、アメリアの人心は土のごと
く崩れ去るでありましょう」
 と、作戦前、ミハエルは主であるグエン卿に認可をもとめている。
 ところが、戦術的敗北どころか戦略的基盤もうしなってしまった(略)
 ミハエルの情念からいえばさんたんたる敗北におわった。
 そのくせ、このミハエル・ゲルンという奇妙な妻子持ちの大佐は、失望しな
い。
118:04/02/02 15:10 ID:???
も一つ投下
 アニメーションというのは、じつに表現がむずかしく、二次元世界であるた
めにじつにテーマが重い。ひとびとのながい創作の歴史からいえば虫プロの系
譜としての「機動戦士ガンダム」はリアルロボット物というとほうもない巨像
の出現時代であり、その巨人に出くわした以上はもはやファンは逃げようはな
かった。「よりリアルに近いアニメーションをやっているんだ」というガンダ
ムの活動として駆りだされ、その巨大な巨像をファンの一人々々が背負わされ
た。押しつぶされて続編を見ることを任務とし、ときにシビアな眼をもって真
価を見定め、関連グッズを買うのである。もっとも良きファン(ガノタ)は、
新しく作り出される新作ガンダムを恐怖するよりも旧ガンダムの真価がうしな
われ、アニメーションそのもののレベルダウンを恐怖するファンであった。そ
れでも機動戦士ガンダムは、社会に出す作品と自己に同一性を実感しているス
タッフをもったことによって、平成期の種ガンダムにくらべてはるかにましで
あり、ファンはそういう点であかるく自己を放棄してしまえるという救いがあ
った。
 その点、玄人きどりの801閥・種スタッフにアニメーションを占領されて
しまっていた平成14年以後のガンダムというのは、あれがガンダムだったか
とおもわれるほどにインチキくさい。
 たとえば主役ガンダムである。
 ガンダムというMSは1stのRX−78−2・ガンダムがすべての原点に
なっており、そのままのデザインというのではなく、発展用のノーマルタイプ
ロボットとしてデザインされ、歴代ガンダムシリーズに継承されてきた。どの
作品でもそうであったように前作とはちがう特徴・表現をもってデザインされ
画面に演出されている(中略)
 パクリというのは元来が不可能として位置づけられており、さらには複数の
ガンダムタイプMSを出すにしてもよっぽどの区別と武装・カラーや特徴を表
現できなければ傑作とよべる機体はできあがらなかった。
「なぜ一番のウリとなるはずのガンダムを、一般層やガノタ・ファンたちにも
単純明快にイイといえるデザインにせず、すごい表現になるようにしなかったの
でしょう」
 と、私は、製作中種の製作にかかわっていたひとにきいたことがある。
「じつは」
 と、そのひとは、じつは私にもその点が不思議でした、と正直に答えられた。
R氏としておこう(中略)
 Rさんがある演出家に、
「それで、つまり、この程度ですか」
 と、質問した。
「この程度だ」
 と、演出家はいう。ところで素人がもつ疑問は、シリーズ途中の主役機交代
という戦闘メカ・ザブングル以来の見せ場に出てくるガンダムもあるはずであ
る。「主役ガンダムもノーマルタイプ、敵ガンダムもノーマルタイプ。その程
度だ」ということだけで現実のアニメーションはドラマにならないであろう。
 が、演出家はくりかえし、
「この程度なんだ」
 というのみで、あとは察してくれ、というぐあいだったという。要するに種
のガンダムはガンダムシリーズがそうであったような、ZではRX−178ガ
ンダムマークU・MSZ−006ZガンダムからZZはMSZ−010ZZガ
ンダム、0080・83のRX−78シリーズ、F91からV、∀まで玩具箱
をひらいたような面白い展開のようには、むしろ金輪際(こんりんざい)面白
くできないようにデザインされていたのである。
「じつはこれが種ガンダムの実態だ」
 ということを、もし新作ガンダムを企画する前に良識あるスタッフやデザイ
ナーがサンライズの経営陣にうちあければ、すでに製作を命令されている種ス
タッフたちが、製作者である前にマニア的発狂者になっていたとはいえ、あの
常識で考えられない大殲滅戦をやるガンダム群――ひたすら欲望のおもむくま
まに殺し合い、エゴをぶつけあい、大人をコケにし、堕落させまくるような、
いわばアニメーション史に類のない作品的愚行――を思いとどまらせ、路線修
正やデザイン変更などが可能となったであろう。
 スタッフはスタッフで、その路線・内容をファンに理解させることを一度も
しなかった。1stガンダムのころの作品はアニメーションの一流で、Zガン
ダム以後の作品のそれは二流であり、種のころには信じられないことのほどだ
が、1stガンダム時代のデザインにほんの毛のはえた程度のものでしかなか
った。そのデザインはファンダムの同人誌程度に掲載されているのが似合いで、
よくいわれる「21世紀のファーストガンダム」などといったようなデザイン
のものではなかった。このことは平成14年の種ガンダムでのプラモ展開と一
向にのびない視聴率によって骨身に沁(し)みてわかったはずであるのにその
惨烈な事実を本当のファンとなりえるひとびとにも製作サイドは伝えずアニメ
ーション誌にも真実を掲載しなかった。その種スタッフは強引にも、テレビ版
種ガンダムの劇場版を企画していると知ったときには、正直唖然とした(実現
はしなかったが)こういう愚行ができるのは集団的マニア発狂者以外にありう
るだろうか。
 結局は「カラに閉じこもる」のである。
「成長しなくても、自立しなくてもいいのよ。みにくくて汚い大人の世界や女
性との恋愛なんかする必要なんてないの。あなたはいつまでも可愛いまんまで
いてくれればね」
 と、801好きの女に説教されるのみである。この過保護すぎる一手しかな
かった。
 種ガンダムにはすぐれたアニメーションといえるような部分はなかった。白
鳥哲氏のような中の人を「イラナイ」レッテルを強引に貼り付けた役に据え、
従来のガンダムにあるかぎりの設定やパターンをマクロスもびっくりするほど
無我夢中でパクリまくり、パクるについては商業重視の経営層が黙認をし、ま
るでゴミのように大量に設定を積み上げたあとは、下村敬治(設定製作)とい
う集団的マニア発狂のリーダーのような人が、アマチュア・同人根性丸出しで
「ガンダム教」というお題目をひたすらに唱えつづけただけの作品であった。
 
125:04/02/02 16:46 ID:???
一区切りつけて
「えらいもんだよ、求道精神というのは」
 と、隣の偉人は、出崎統の「エースをねらえ!」がいかにすばらしい作品で
あるかを説いた。隣の偉人とはコントウコウ氏のことである(略)
 コン氏はこの時期よりほんの数年前にあしたのジョーについでこの出崎統監
督作品であるエースをねらえ!をみた。エースをねらえ!とは山本鈴美香原作
の少女漫画で、現在テレビドラマ化もされた伝説的スポ根物語である。監督の
出崎統はあの富野由悠季も嫉妬したというほどのクリエーターで、その人間の
あつさ・生きざまを映像に叩きつけるように表現できる男であるから、好みが
共通しているというのはおそらくコン氏に特別な由緒があり、惹かれる要素が
あるのであろう。
 
 エースをねらえ!もよく似た求道物語だとなればひょっとすると出崎統はコ
ン氏が熱烈に支持する人かもしれず、
「だからみてやったんだよ、お前」
 と、氏は私にいうのである(中略)
「最初のシリーズから見ると、いい作品だなァ」
 と氏は画面に映っている主人公の岡ひろみと竜崎麗華について詳しすぎるほ
どに説明しつつ賛嘆し、ついでに主人公がコーチの宗方仁によって呼び覚まさ
れる求道精神についても話をしかけた。
「それでもお前、岡は宗方が死んだという事実を知らないまま飛行機でメリケ
ン国まで飛んでいくんだよ」
 と、話をかわしながら、氏は師と弟子というものは師匠がたとえ不治の病で
あってもその苦境に耐えて道をあゆんでいくという過酷な無限への挑戦につい
て私にるる教えた。
「美学の貫徹は難しいことですね」
 と、私がテレビを見ながらいった感想を、コン氏はいまでも記憶してくれて
いるだろうか。現在放映中のアイドル然としたテレビドラマを見ながら、感想
をいうとすればそれしかないと思ったのだが、うれしいことに横にいたサトウ
画伯も同意してくれた。サトウ氏は手塚漫画のファンで、しかもジャンピング
といった手塚自身の実験アニメも観賞したこともある人で、いわば漫画的リア
リティの通だった(略)
 その原作からちょうど30年ぐらいたったエースをねらえ!ドラマはスタッ
フの意気込み並々ならず、視聴率もわるくはなく、落ち込み気味なテニスブー
ムに火をつける目的でほぼ第一作の展開のようにつくられている(略)
「おい、お前もまんざらではないなぁ」
 と、私にエースをえらえ!を中心とした求道精神を解説してくれたコン氏は、
しかしちょっといかがわしそうな表情で私の少女漫画知識を誉めてくれた。私
が少女漫画知識でひとにほめられた唯一の瞬間である。
 私の母親は、宇宙皇子(うつのみこ)という漫画をもっていた。ところが母
親は漫画というジャンルにはあまり興味のない人であったために、少年期の私
はこの少女漫画なのかどうかわからない作品に興味をもつことはまったくなか
った。
 私事になるが、私は父親がバリバリの団塊世代で公人だったためにSDガン
ダムシリーズやミニ四駆の世代に属しながらもあまりそれをやったことがなく、
漫画やアニメーションにおいても、友達の家で見たりすることはあっても自分
の家で見たことはほとんどといっていいほどなかった。
 筆者がおぼえているのは7時代でやっていたドラゴンボールや名作劇場ぐら
いのものである。だから名作劇場こそがアニメーションの基本なのであると当
時から思い込んでいたし、いまでもその名残りがのこっている。
 70年代以後、とくにバブル期以後のアニメーションは無理にむりをかさね
ている。
 70年代、それ以前は――機動戦士ガンダムのころまで――は、スポ根を軸
とした道をきわめ、己を鍛錬してゆくという求道があたり前のテーマとして受
け入れられる素地があったし、げんに数え切れないほどの作品が世に出た。今
にしておもえばあの絵柄のレベルでよく実写を越えるほどの表現ができたと感
心するほかないが、バブル期以後(とくに80年代という一種軽い空気があっ
た時代)を経てからは単純な求道精神はむずかしかった。とくに一つの目的に
むかって鍛錬し心身ともにレベルアップしていくという泥臭い下積みや、娯楽
性や面白さをもとめるギャグや価値観の多様化が、美学を貫いていくという路
線には合いにくかった。
「あしたのジョーやタッチはある種バイブルの扱いがされている」
 ということになっている。たしかに一般層をもまきこんだブームを巻き起こ
した。力石徹の血がにじむような極限状態の減量とジョーとのラストバトル、
明青学園期待のエースだった上杉和也が事故で亡くなったあと、その意志をつ
いで兄の達也が甲子園にまで明青学園をもってゆき、ライバル・新田と決戦し
た。ところがこのタッチというのは従来のスポ根を極力排除し、泥臭さと男ら
しさをやらなかったから、この作品は厳密にいえばスポ根作品であるといえる
かどうか(むしろそのテーマは「純愛」であったともいえる)微妙であった。
80年代は、70年代というヒューマニズムと堅苦しい社会構造に対してある
種の反撥と目新しさをバブルという成金の中で体現しえた時代で、その時代に
作り上げられた価値観やカネ儲けの論理とお気楽、貪欲な娯楽志向というもの
が、いま思えば正気ではないと思えるほどの軽い路線・貪欲・金権的な価値を
共有する集団をつくりだした。
 このバブル時代を経験したひとびとはいまだその時代をわすれることができ
ない者が多いのが実状だが、このバブル期に形成された空気が、アニメーショ
ンにおいても重大な影響をあたえたことはいうまでもないが、さてその後の求
道精神である。この価値観は多様化してしだいに他者をふまえた自分、それぞ
れの正義や、そもそも道とはどういった道であるのかという根本的アイデンテ
ィティを問う姿勢が、とくにエヴァによってより顕著になったかと思える。こ
の禁じ手たるエヴァによって、
――求道求道というが、それをやかましく言ってきたのは古い大人たちであり、
それこそ価値観の多様化をみとめない、いわばおしつけによる飼いならしでは
ないのか。
 という疑問と、そもそも個が自立してこそ道というものは定まる、では個と
はいったいどういうものなのかという考えとともに、エヴァという世間に出さ
れたアニメーションによって提起されたことが、旧世代や常識を共有していた
ひとびとをおどろかした。信じかねることかもしれないが、あのエヴァブーム
のとき「かつてのヤマト・ガンダムのファンたちが、エヴァによって帰ってき
た」という見出しが出されたほどだったし、エヴァファン自体も当時中学生だ
った私の世代だけではなく、20代や30代の方もいたほどである。
 エヴァブームがおこった要因は、提起の爆弾を庵野らが投げつけ、それがオ
ウム事件や阪神大震災といった社会不安をかかえていたひとびと――とくに庵
野が意識したのは自分と同世代かまたはやや下の「かつてのアニメファン」だ
ったであろう――にうまく弾けたからおこったのではないかと勝手におもって
いた。謎というのは、意外と惹かれるものである。どんな結果が待ち受けてい
るのか、そこに至るまでのプロセスはどうなのかという「期待・ワクワクする
気持ち」ほど楽しいことはないからである。
 そういう意味では、エヴァという作品は、後半のカルト宗教の映像に使えそ
うな部分はさておき、表現技術にしても中の人の演技にしても見るべき価値を
有していたとは思う。
 私と同世代の中学・高校のときのファンは賛否両論で現在交友関係がある人
でもよかった・悪かったというように分かれるのだが、その当時一応は一般層
を巻き込んだとおもわれるエヴァブームにおいてついにメインキャラたちはひ
とつの美学・道を完成させた者はいないという意見が多かった。求道精神とい
うかつて日本人があれほど求めぬき、人生の教訓としようとしたこの価値観も
アニメーションにおける娯楽化・多様化といった要素のためにうすれてしまっ
た。しかし私が気になったのは庵野秀明が60年代生まれのクリエーターで、
かつて熱狂的なアニメファンであり、劇場版「エースをねらえ!」にも相当の
思いいれがあったということであった(この思い入れは同時に幾原邦彦も充分
もっていたものらしい)70年代というあつい、団塊世代やそれ以前よりつづ
くレールの上をはしるスポ根という美学が表現されていた作品を、かれら60
年代生まれのクリエーターは多感な時期に見て影響をうけたのである。アニメ
ファンたちに対し、いわば同じファンダムの空気を熟知して作品を制作すると
いう精神をかれらは充分にそなえていたが、よくよく考えてみればだからこそ
一種の「諦め」が表現できるのかもしれない。
 幾原邦彦(注・少女漫画を原作とした作品・少女革命ウテナの監督。セーラ
ームーンの演出を手がけていた。寺山修司に多大な影響を受け、「その舞台を
見たことが人生を変えた」とまで言っている)は庵野との対談で、自分たちが
作っている現場は、すべて団塊世代(50代〜60代)の作り上げた現場であ
るといっている。
 幾原はまったくこの世界には縁のなかった人で、東映動画に入社するまえは、
「単にマニアの世界としかおもっていなかった」人である。
 かれは壁をぶちやぶり、先達たちのつくったものを壊すことによってオリジ
ナル、つまり新しいことをしようとした。ところが、それができにくいほどに
堅牢にこの現場は作られていて、ある種の息苦しささえ感じるということを対
談で述べて、庵野はこれに完全に同意しているのである。おもえば50代、6
0代といった世代は仕事に全生涯をかける意気込みでことにあたり、そのこと
がのちの世代すら驚嘆させるほどの哲学やロマンティシズムを生み出したとも
いえる(富野・宮崎・出崎・高橋らを想起されたい)
 ところがその男性的(父性的というべきなのか)な堅牢ぶりは、あまりにも
ガッチリとしすぎたものであったために、それにつづく世代はその才能や仕事
ぶりの前に、ある者は実写世界へゆき、ある者は批評家に終止し、ある者はイ
ンドに旅行してなにごとかを悟るといったような行動をしてしまうのである。
 これは「逃げ」ではないと筆者はおもう。なぜなら、げんに「こち亀」の監
督をつとめている高松信司のようなスタッフも存在するし、人間というのは所
属をかえようが制作のやり方を変えようが、それがむしろレベルアップにつな
がる例もたくさんあるからである。それによって気づくこともあるはずだし、
挫折は決して無駄ではない。
 思想や哲学、美学や求道精神といったものは、書籍に書いてあっても映像で
みてみても、自ら実践を心がけてもそれをより「悟りきるように」経験し、み
ることは困難である。
 それぞれの監督のカラーは、かならず作品に出ているものである。押井守の
立ち食いソバ屋でのやりとり、手塚治虫の両性具有のようなキャラクターと動
物、宮崎駿のナウシカに代表される聖女のイメージと自然、幾原のアングラ・
舞台的な雰囲気と演出。たかが二次元というが、実写映像とちがって現場の空
気や感触がつかみにくいジャンルであるアニメーションは、とても表現の難し
いものである。ただ喋り、キャラを出し、メカニックを動かすだけでは傑作と
はなりえないのである。
 そういえば、種の監督も60年代生まれであった。一概にこの世代は技術や
作画・演出といった手腕には長けていると筆者は思い込んでいたが、すべてが
そうではないということを種でいやというほど教えられた。
 アニメーション制作を担当しているスタッフとか、そのスタッフを信用する
ファンの常識というものほどあやうくもろいものはないということを、ファン
たちやガノタはガンダムというジャンルと思想とすらいえないほどの「私(わ
たくし)の道」を実現した作品を叩きつけられたことによって体験した。求道
精神においても、美学においても、他者との理解においても、日本アニメーシ
ョン史のなかで、種のスタッフや種ファンほど愚劣なものはなかった。日本ア
ニメーションは成熟した作品や有能なクリエーターを生んだが、ファンダムの
中で影のようにひそめ、平成年代に出現する種スタッフや経営層は飛躍的にひ
らかれなければならないはずのアニメーションの真価や認識がまるで出来ず、
幼児のようであった。歴史のふしぎさである。
139:04/02/02 19:32 ID:???
長々と書いてしまいますた。これくらいにします。
 チョキからの電話がかれにゆさぶりをかけたのか、喜幸の内面に変化がおき
はじめていた。
 以下、1965年(昭和40年)11月5日、喜幸24歳の誕生日に書かれ
たメモを引用してみる。このときのかれの心境である。

 僕はいま仕事に行き詰っている。二週間前の拡大AP(アシスタント・プロ
デューサー)会議があって、その後、制作としての自分か、演出としての自分
かということを考えるに至ったからだろう(と、完全に二股かけて仕事をして
いたらしい)
 それを出発点にして、なぜ、アニメに本気になれぬかという設問を、広川氏
あたりからつきつけられたことによろう。
 さらに、卒業して一年有余、一生の仕事への足がかりとしてのこの時期とい
う、そんな意識が仕事をつまらせる。
 問題は簡単だ。アニメをやるべきか否か?(中略)
 なぜ、惚れられぬのか?
 その答えも簡単だ。アニメで真実が語り得るのか?
 それへの疑問があるから僕を躊躇(ちゅうちょ)させる。語り得るという論
理も展開し得よう。しかし、いまはそれを僕自身がやれば自己欺瞞になる。
 おやじはいった。「そりゃ、初めは漫画をやるって聞いてガッカリした。し
かし、いまは違うぜ」と。そこにこそ自己欺瞞をみるように思えてならないの
だ。
 現実問題として、他に就職口はない。東映テレビのケン坊(喜幸の友人)だ
って、月に二万なにがしだ。いまの私の収入は月々四万以上の出費を支えてる。
ここにも、僕自身のためらいがある。
 しかし、それが本当の理由でもない。
 一番あこがれるのは、ケン坊のいう「本当の人間を動かしていると、アニメ
には移れないなあ」という感慨だ。やはり、実写に憧れてしまう。
 アニメだけをとれば、僕みたいな人間が必要なときとも、うぬぼれる。しか
し、僕はアニメーションの資質ではない。

 このほかにも多くのメモを喜幸は残しているが、もっとも重要な点は、実写
への羨望(せんぼう)とこだわりであろう。
 喜幸は写真と映画を通じて現実の人間をフィルムにおさめ、作品を作りあげ
るという夢と理想をもっていた。この時期、かれはポートレート(写真)をや
り、心の底から楽しかったということをメモに残しているが、相当思い悩んだ
時期だったのであろう。
(ぼくはそれほど才能がないのか)
 喜幸はどなりたくなることがあったが、それを言わずに耐えている。
――なぜぼくをチーフ・ディレクターにひきあげてくれないのか。
 それを、虫プロ・新シリーズである「リボンの騎士」のスタッフになる前か
ら、喜幸はずっと考えつづけてきた。ひとつは単純に才能がないと判断されて
いるということであろう。この一スタッフたる喜幸の実感からいえば、「人事」
は言うにおよばず、虫プロの制作体制がかなりギクシャクしているということ
なのである。
 その体制のなかでも、どこでなにが決定され、どうチーフやスタッフが代わ
るのかということすらわからず、印象はわるい。 
 あじさいの花咲く6月23日であった。
 喜幸はまえに電話をかけてきた相手――チョキ――に会うため、あるいてい
る。
「一度会いたいね」
 その言葉にうなづいて、かつて振られた女のもとへゆく喜幸。われながら滑
稽(こっけい)だという思いがある。
 しかし、彼女と視線が合ったとき、心臓の音がはげしく鳴ってしまうのであ
る。
 二人は、喫茶店に入った。席にすわるや、チョキは一言、
「まだ、惚れているね」
 まったく変わっていないチョキに喜幸は言葉をかえした。悲しい男の性なの
かどうか。
「ああ、惚れている」
(この女の誘いにのるのも、運命だ)
 と思い、虫プロへの未練を断ち切ると、喜幸はからりとした表情になって、
「チョキ、君のプロダクションに行くよ」
 と、大声でいった。
 この二人の関係は、喜幸がどう努力しても長く続きそうになかった。
 ちいさなCM会社・オオタキプロダクションは、喜幸の想像をはるかにこえ
る会社であった。社長は優良サラリーマンタイプの中年男で、喜幸が尊敬して
いた故・穴見薫(虫プロの敏腕常務で、かれの企業手腕に喜幸はかなりの期待
をかけていた)とは似てもにつかない人物であったし、16ミリフィルム用の
プロジェクター一台すらないというおそまつさであったが、仕事は虫プロを辞
めたとはいえこれ一本だけではない。ほかに、東京デザイナー学院の講師の仕
事もある。
 チョキは25歳。なぜチョキなのかは、「他人のことに口を出すイヤな女」
だから、チョキなのだという。おせっかいな性格のようだった。
 日大の後輩で、九州・熊本出身。色は白く下唇が厚い。
 喜幸はかなり入れ込んでいて、チョキとのあいだに婚約まで交わそうかと話
を持ち出すほどであった。両親からも、女がらみという理由で辞めたという不
純な動機は許せん、という手紙も届いていたが、喜幸はこの点頑固だった。
 しかし、それも一時でしかない。
 現場を知る必要がある。
「オトミさんのこられない日は、私がカバーします」
 そう、出資者のひとりであるチョキはいってくれたが、現実はそうはいかな
い。社員きわめて少なく、虫プロ演出の経験は生かせず、収入は一万円にすら
とどかない。それでも、喜幸はしのぐ覚悟でいた。実写の仕事が手がけられる。
好きな女のために日々働く。それは人間にとって、男として価値のあることな
のではないのか。
 代理店との営業でも、虫プロ時代とはわけがちがう。プロダクションの代表
として、電話のかけ方から応対、ファッションセンスまでが問われた。
 喜幸はこのときまで、ファッション雑誌にはからっきしうとかった。そのツ
ケがここにきた。 
 制作現場では下っ端として動きまわるのに、もう一つの仕事である学院講師
では先生づらして教える側となる。
 多忙な日々がつづく。
 しかも仕事はこれだけではなく、プレゼン用のコンテを描くこともある。
 おどろくべきことに、喜幸の一日はあちこちを飛びまわり、駆けまわってい
るといっても過言ではない。
 銀座のオオタキ・プロから、デザイナー学院はお茶の水、かれの住んでいる
アパートは西武池袋線の桜台、あたらしく受けたコンテの仕事「冒険少年シャ
ダー」の仕事場所が山手線の大塚、チョキのアパートが大塚。
 ふつう、イヤになるであろう。
 それでも、この男の不思議さはそれをやってのけてしまうところにある。ス
ケジュール的に学院に出席できないとき、喜幸は虫プロに頭を下げて数本のフ
ィルムを借りて流してもらい、なんとか手段を講じた。
 かれのCM制作は時間と予算を通常の3倍気にしながらやるのである。正確
には実写+アニメの仕事であるが、これが喜幸のいう「地獄に落ちる思いがし
た」のだ。
 この仕事は喜幸にはむいていなかった。学生時代のアルバイトで、半年ほど
大手代理店のアイデア候補生としてCMのコンテをきっていたこともあったが
このときにいたって喜幸は自分がいかにこの仕事が嫌いであるかということを
認識した。
 喜幸にとって、CMとはかれの考えている映像概念とはまったくかけはなれ
ているものなのであろう。CMはまず、商品を宣伝する媒体なのであって、C
Mそのものにはそれほどの価値はない。CMに求められる価値とは――その商
品の付加価値を高めたということ(だから僕は…P189)――であって、そ
こには創造的な部分や手法は余計なのである。
「こんなの……映像の仕事ではない。ぼくはこんな仕事に価値を見出すことは
できない」
 ドラマのある映像世界を創ることこそ、喜幸が本心から念願していることで
あったのだ。喜幸はようやく、それに気がつくことができた。
 この時期のことを、喜幸はほとんどといっていいほど余人に語らず、また積
極的に語ろうとする姿勢をみせていない。
「やめます。結局、いつまでもこうでしょう。学校もやめる気もありませんし、
アニメのコンテ描きもやめるわけにいきません。結局、オオタキ・プロに迷惑
をかけるだけです。今日みたいなことがつづくだけですから……」
 喜幸はやめる決意を、社長にのべた。
 そうかの一言のあと、すぐに部屋を出ればいいのに喜幸は無言でそこに坐り
つづけていた。社長もまた同じである。
 この仕事はつらかったが、喜幸もそこはシビアにはなりきれない。生真面目
さが災いして、社長の引きとめる言葉を熱心に聞いてしまっていた。ここのと
ころ、かれはやはり複雑なのである。
 夕陽が落ちようとするころ、
「それじゃ、社長……」
「そうか……。これからも、企画で手伝ってもらうことがあるかもしれないけ
ど、それは、やってくれるか?」
「はい……どのみち、フリーですから……」
「ン……、もう、こんなことやるなよ」
 社長の最後の一言は、喜幸をグラリとさせた。二度と女ぐるみで仕事はやる
な、ということであろう。
 喜幸はいろいろと反論したかったが、一方的に辞める立場、物言う権利など
ないと諦めて、共同トイレのドアが正面に見える廊下を階段にむかって歩いて
いった。 
「好き嫌いは男女の道のことだから、ぼくはなんとも言わない。しかし、我慢
できる程度なら、いたほうがいい」
「なぜ?」
 チョキは、ふだんとは違う声調子できいた。
「ぼくはこのとおりの男だ」
「このとおりって?」
「業界きっての働き者だと思っている。このぶんならゆくゆく、おまえとも暮
らしてゆけそうだ」
(こんなひとの働き程度で、行く末大丈夫とは決していえないだろう)
 チョキは、肚(はら)の底でふかぶかと計算した。目の前の男の決断がそれ
を証明していた。オオタキ・プロを辞めるのも相談すらなかったし、喜幸のコ
ンテの赤字補填をしてみても感謝の一言すらないのである。喜幸のゆくすえな
ど知れている。
 それに、チョキの性格は将来亭主になりえる男に尽くしていくという女にな
りきることができないという点にあった(略)
 チョキは喜幸との関係にたまりかね、より年上の、喜幸がみたところ中年ら
しいパートナーをみつけてはなれてしまった。喜幸はすべてにおいてフリーに
なった。 
「俺がでてきたら、オトミも復帰してくれるんだろ?」
 入院していた大滝社長の言葉にさらにグラリとくる喜幸。
 辞めたとはいえ、細々とオオタキ・プロとの関係はつづいていた。フリーの
アニメ演出家としてふたたび地歩を固めていた時期だったから、この一言はか
れにこたえた。
 大滝社長は、喜幸にとって゛親分にしてもいいと思えた人物゛の二人目であ
る。そんな男だったのだが、突然ガンで急逝した。
 喜幸は、アニメ業界に出戻った。
154:04/02/05 00:15 ID:???
もう一つ
 ここで多少、アムロ・レイ――のちのロンド・ベル隊・連邦軍大尉――とい
う人物について触れておかねばならない。
 アムロは第二次ネオジオン紛争まで生き残り、ジオンのシャア、連邦の名艦
長ブライトとともにこの時期の三大英雄とされた。ニュータイプであるには非
常に神経質すぎる性格で、その意味からは生き残るべくして生き残ったといえ
るかもしれない。
 シャアより五つとし下である(略)
「アムロ・レイは、どうも自分とは違うようだ」
 というような意味のことを、シャアは思いつづけていた形跡がある。
――たいして素質のある男ではあるまい。
 と、おもっていたのかもしれない。思想的体質者であるシャア・アズナブル
は、その人物評価の基準をつねに革新の質、濃度を中心においた。それからみ
ればアムロは志の堅固な男ではあったが、ニュータイプ的体質者(もちろん、
シャアから見てのことだが)ではなく、天性のエースパイロットであった(中略)
「あれはエースにすぎん」
 と、おもっていたであろう(中略)
 アムロは現実家で狂人にはならない。そのことをシャアはひそかにアムロに
おいて感じていたにちがいなかった。アムロは、一年戦争ではララァとの邂逅
でニュータイプとしての革新を――刻をみることによって――経たのに、第一
次ネオジオン抗争後、
「ひとびとが互いに解(わか)りあうためには現実路線でいかねばならない」
 ということを言いだした時期がある。
 ニュータイプ主義ともいうべき思想を確立したライバルのシャア・アズナブ
ルからみれば、目を剥いておどろくであろう。しかし軍人アムロ・レイの目標
は革新政策の遂行ではなく、あくまでも現実路線にあり、オールドタイプとの
摩擦を極力おさえつつ刻をまつということならなんでもよかった。パイロット
と思想を掲げた指導者のちがいは、アムロとシャアのあいだに天地のひらきに
なってよこたわっている。
158通常の名無しさんの3倍:04/02/05 16:01 ID:IXHClNRL
>>155-157
うまいですね。
159巧妙が辻:04/02/05 16:01 ID:IXHClNRL
 シャアとその二人の部下は、小惑星アクシズに入ったが、ここで余談をかきたい。
 このロムレスとハリーという二人の部下についてである。
 話はとぶが、グリプス戦役のエゥーゴの構成人員の項に、パイロットとして「ロベルト中尉」
という名が載っている。
 これがロムレスの変名である。
 ロベルトというのは、下士官ながら並はずれた武勇のもちぬしで、しかも機転がきく。戦闘と
なれば、戦場を我が家のように駆けまわった。
 例のア・バオア・クーのときも、シャアがキシリアを討ったあと、重症と疲労で気を失いかけた。
 ロベルトはそれを背負い、要塞内をくだっていくと、某士官(名不詳)というジオンの将官の
副官タムラが脱出用ポッドを確保している。
「おお、これはタムラ、なにをしている、お前の上官はたったいまお前を探していたぞ」
 とあざむき、その脱出ポッドを奪ってシャアをのせて戦場を脱出した。
 あてずっぽうながらもジオンは停戦したからよいものの、戦争が続いておれば、戦場で味方の
脱出ポッドを奪った、というので問題になったにちがいない。
 アポリーの名前も、グリプス戦役中盤までエゥーゴの重要人物として残っている。
「エゥーゴ軍記」という本に、アポリーが、朋輩のロベルトについて語っている項がある。
「自分とロベルトのむつまじさは、兄弟以上である。かれの人柄は、まず怒らない。それに淡白
で隠しだてをしない。非常な武辺で、たがいに一つ戦場に臨んで励んできたが、自分は常にロベ
ルトに劣った」
 劣った、などといえるのは、アポリーにロベルトを惜しむ気持ちがあったからであろう。
 この物語のこの項よりもやや後年、グリプスのガンダムマークU奪還作戦に参加したとき、二
人はアーガマ艦中夜もすがら雑談をしていた。
「そのとき、いままでの武功談になった。そこで一年戦争以来、たがいにおとした数をかぞえは
じめた。
 とアポリーは語る。
「ロベルトは26機、自分は24機、ふたつ負けている」
 さらに、
「撃破モビルスーツの数を数えると、ロベルトはなんと15機、自分は11機、やはりかれのほ
うが多い」
「されば撃沈艦艇はいかに」
 とかぞえてみた。するとこれは同数の六隻。
 地上目標はどうか、と指折ると、ロベルトが7台でアポリーが9台。「これだけやっとロベル
トより多い」と語っている。
 どちらも酒が好きで、しかも飲むときはきまって二人で飲んだ。酒を飲み、やがて酔うと、き
まり文句のように、
「キャスバル・ダイクンを世に出さねば」
 というところに話が落ちた。シャアは得がたい部下にめぐまれていたというべきであろう。
160仇取り物語(シャア・アズナブル編):04/02/05 16:02 ID:IXHClNRL
 ところでシャアは、そのグレミーという男に会う用件は、二つあった。
 地球圏潜伏について万一の場合は、ザビ家の資金をかりること。
 ついでハマーンが摂政になったあと、若年さを利用されぬようにミネバの保護を頼むことであった。
「おなじコロニーの出だ、やってくれるだろう」
 と、シャアはモウサへの連絡口から右へ折れた
 やがて、軍の宿舎についた。
 どこかの宮殿かとおもわれるほどの壮大な門があり、鉄製の扉がおもおもしくとざされている。
 左右は人が乗り越えにくいほどの高塀になっており、ところどころに、監視用の楼がたっていた。
 シャアは、変名のクワトロ大尉でなく、赤い彗星のシャア大佐としての名を記帳に書きしたしめ、
「グレミーにあいたいのだが」
 と門番に少し微笑んだ。
 門内に入れられた。
 入ってすぐ左へ行くと、士官宿舎に毛のはえた程度の特別舎が建っている。そこがグレミーの住まい
らしかった。キッチンなどはなく、寝に帰るだけのような部屋である。
 シャアが、スーツケースをアポリーにあずけ、部屋の扉を叩こうとしたとき、背後の大きな共同宿舎
のかげから、若い将校があらわれた。
「アズナブル様」
 と、将校は、シャアを性でよびいんぎんに敬礼をした。
「そちらはむそうございます。司令部の客間にご案内つかまつります」
(これがグレミーか)
 と、シャアは一瞬で相手の人物をよみとろうとした。
 年はおどろくほど若い。顔に童臭をのこしていて、十六かせいぜい十七ぐらいにしかみえないのである。
 中背であった。が、腰がきりりと締まり、手足がいかにも機敏そうな男である。育ちのよさが顔中
に出ているという感じだった。
 これが、後年の反乱軍総帥である。
 正しくはグレミー・トト。のちネオジオンで頭角を現し、地球降下作戦に参加したり、青の軍団と
連携してアフリカを勢力化におさめたり、さらにはアーガマのダブルゼータと地球で戦い、ミンドラ
の司令官となり、ついで強化人間軍団を育成し、のちハマーンにそむき、ついには地球圏の孤児のよ
うになって根拠地アクシズを奪い、ガンダムチームの攻撃をうけプルツーにそむかれルーに撃たれて
殺される男である。
 後年、地球圏の英雄豪傑からさそりのようにおもわれたグレミー・トトも、このころはまだ、よく
はたらく若い副官でしかなかった。
161仇取り物語(シャア・アズナブル編):04/02/05 16:04 ID:IXHClNRL
 グレミー・トトは若年ころは
「シャア」
 という名前にあこがれていた。サイド3の人々は、シャアが出たことを誇りにしている。一年戦争
においては赤い彗星と呼ばれ、アクシズへくだっては、モビルスーツ隊をまとめあげている。往くと
して可ならざるなき超人のような姿で、シャアとという名は若年のころのグレミーに強く印象した。
(自分もシャア・アズナブルのような軍人になってやろう)
 と思いこがれ、その思いのあまり静止をふりきって軍に入り、つてをたよって士官入りし、重宝が
られていまはハマーンの副官になっている。
(その伝説の人物が)
 とグレミーは、シャアをまじまじと見た。
(意外に若い)
「アズナブル様、されば客間へ」
「いや、当日は、クワトロ・バジーナとして参っております。食堂のはしなりとも拝借して、用件を
きいていただきたい」
 シャアは、首を振り、そのまま食堂の方へむかってしまった。
 100畳ほどの大広間である。机といすが整然とならべられていた。
 やがてあいさつがはじまった。グレミーはジオン風の簡単な敬礼を遂げてから、
「御高名は、早くから聞き及んでおりました。いや、それだけでは言葉が足りませぬ。はるかに許さ
れざる弟子として私淑しておりました、ともうすべきでございましょう」
「痛みいる」
 シャアは微笑した。
 そのあと、アポリーにもたせてきた菓子折りを、
「ほんのてみやげに」
 と、進めた。
 そのあと、サイド3の話などをした。
「ところで」
 と、グレミーはさぐるような眼をして、
「どういうご用件なので」
「いや、用件というほどのことではありませんが、それがしここに後顧をのこしております」
「ミネバ様」
 グレミーは、よくわかっている。
162:04/02/06 11:07 ID:???
仇取り物語キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
サソリって表現はイイね!
>>158
幕末はやりやすいですね。

触発されて、大河の国盗り物語総集編を見てしまいましたよ。
 アムロは、宇宙世紀0064・11月4日地球で技術士官の家にうまれた。
父は連邦軍大尉テム・レイ、母はカマリアである。かれの出身地は二つの説が
あり、北米・プリンスルバート、日本・山陰地方のどちらかの出身であるとい
われている(略)
 アムロは比較的裕福な環境にうまれた。物心つかないうちに、父のテム・レ
イに連れられて建設途上のサイド7に上がることとなったが、母のカマリアは
宇宙へ上がることを固辞したために、父と二人だけでゆくことになり、さらに
父のテムは仕事の関係上家にいることがほとんどなかったために、お隣のフラ
ウ・ボゥ一家に世話になることが多かった。レイの一家はサイド7においては
もっとも待遇のよい環境にあったが、少年のかれはその環境にあって機械いじ
りと開発に没頭した。
 かれがうまれつきネクラじみたところがあったのは、幼少期に母と別れ、さ
らに身のまわりの世話をお隣のフラウ・ボゥに任せっきりで自分の好き勝手に
しつづけていたことにもよる。
「アムロさんは、あれはもともと軍人向きの人ではないんだ。世間はまちがっ
ている」
 と、第二次ネオジオン紛争後、フラウ・コバヤシの養子であるレツ・コバヤ
シがひとに語ったそうだが、たしかにアムロはそうではない。シャア・アズナ
ブルがサイド3で公国軍士官学校に入学した宇宙世紀0075には、アムロは
すでにサイド7にあり、ペットロボット・ハロの原型をつくりだし、機械マニ
アとしても、大人うちでも勇名どころでとおっていた。
「しかしアムロは篤実な人で、赤い彗星シャア・アズナブルに対し、ライバル
として、尊敬の念をもっていたと思います。しかし実際にはアムロの世話にな
ったのはシャアであったでしょう」
 と、戦後未亡人となったフラウ・コバヤシは語っているが、そうかもしれな
い。のちクワトロ・バジーナ(四番目という意味をもつ)と名を変えたシャア
はエゥーゴの中心人物となると、監禁生活を脱してカラバに参加したアムロと
再会をはたし、お互い会話や手助けなどをしている。シャアのほうがはるかに
理想主義者で他者の責任を背負うのを嫌がる男だったし、逆にアムロは執念ぶ
かく現実的であったから、両者は本当の意味ではパートナーとなれる関係であ
ったのであろう。
 アムロは晩年――といっても二十代だが、――連邦政府のうるさい連中と話
をしたりするとき、自分の経歴を語るときは口ぐせのように、
「一年戦争以来」
 という言葉から語った。一年戦争とは連邦・ジオン両国家が総力をあげて激
突した宇宙世紀0079のことである。この一年戦争(ジオン側では独立戦争)
からMSが戦争の主役となり、ニュータイプ思想が出現し、さまざまな経歴の
ひとびとが出てくるのだが、要するに革新を経たニュータイプとそれを理解し
えるひとびととしてはこの「一年戦争以来」の連中がいちばん古いことになる。
 第一次ネオジオン抗争後のアムロ・レイは、ロンド・ベルの巨頭でありなが
ら、かれの思春期からの傾向である憂鬱症(メランコリヤ)が高じ、現状のな
にもかにもが気に入らず、ときには連邦政府そのものが気に入らなくなり、死
にたい、と口ぐせのようにいった。そのように心が鬱してきたとき、
「一年戦争以来」
 が出るのである(略)
 アムロ・レイにいわせれば、
――一年戦争以来の活動者でいま生き残っているのは、シャアとブライト、フ
ラウやミライ、セイラさんくらいのものだ。古い同志はみな騒乱でたおれ、い
まの現状にときめいている大官などはみな一年戦争・グリプス動乱前後のどさ
くさに時流に乗った者ばかりだ。かれらには刻などみえず、理想などがわから
ず、利権だけがある。
 ということになり、そのあと、いかにも憂鬱症患者らしく、
「死にたい」
 が出てくるのである。
 一大企業アナハイム・エレクトロニクス幹部のウォン・リーなどは一年戦争
前は親ジオンに傾き、グリプス動乱時、エゥーゴの出資者として株をあげた。
このウォンに、
――先日、アムロさんを誘いましたよ。
 と、アストナージ・メドッソ曹長(職人気質のメカニックマン。エゥーゴ・
ロンド・ベルのメンバー。サラダ好きであるといわれる)がいうと、ウォンは、
「また例の一年戦争以来が出たろう」
 といったということが、アストナージ・メドッソの「技術屋日誌」に出てく
る。アムロはエゥーゴ時代はライバルのシャアとは異質の現実家であったにし
ても、戦後まで生き残ってみれば他の連邦政府のひとびとにくらべて、いかに
も「一年戦争以来」の革新を経た理想主義的気分があり、
「こんな現実をつくるためにおれたちは一年戦争以来粉骨したわけじゃない。
死んだ仲間や同志たちがあの世で泣いているに相違ない」
 と言い、それが憂鬱症の原因のひとつになっていた。
169通常の名無しさんの3倍:04/02/06 13:44 ID:0szHIYBi
>>162

サソリはオリジナルのままです。
170誇張の夢:04/02/06 14:40 ID:0szHIYBi
 ヤザン・ゲーブルが去ったあと、それまで凍りついていたようなジュピトリスの空気が
一時にゆるやかになった。サラは、まだ血の気のもどらない顔で、艦橋に入ってきた。
「いい男だったよ」
 シロッコがいったが、サラはうなずかない。フェミニストのシロッコを盲目的に崇拝し
ているだけに、ヤザンのように動物的に好んで人を殺す型の男を好まない。
 さらにいえば、この若者は天成の理想主義ともいうべき性格をもっていて、最後にいた
るまでシロッコの苦しみを思うと涙をこぼすところがあり、シロッコが理想を実現するた
めに戦っているのに、一方で「快楽」で人を殺すという人物がいることがよくわからない。
 サラはシロッコがすきであった。
 孤児の境遇の自分の苦労と、シロッコによって人になったと自分でも思っていたほどで、
その証拠に、思想までシロッコのまねをした。シロッコは今後の宇宙圏をつくる人は自分
にちがいないと思っていて、近年はすぐれた行動家やニュータイプをひいきにしたが、サ
ラもそのまねをした。サラのように嫉妬深い女が、当人は決しておもしろくなかったはず
のシロッコの人材集めを手伝ったというのも、シロッコの影響であった。
 しかしヤザンについての好悪ばかりはどう仕様もない。
「パプテマス様、ああいう人物を信頼するというのは、いかがでございましょう」
 と、めずらしく顔をこわばらせていった。
 シロッコはサラの性格や物のかんがえ方がわかっているだけに、奇異には思わない。
「軍曹(サラ)、あれは大豪傑だよ」
 と、いった。
 シロッコというのは内懐のおおきすぎるほどの男だが、その内景は雑としていて、人を
ありもしない純粋な尺度で測るところもなく、あるいは人を皮肉と冷笑でみるという性癖
や能力がない。
 サラは人殺しのことをいった。
 シロッコは、あの男がやっているのは相手と対等の立場で斬り結んでいる。人をわなに
かけて殺したり、無力な人間を斬ったりせず、自分も殺される条件のもとで闘い、辛うじ
て生き残っている。つまりは勇というものだ。勇とは結局は自分が死ぬという覚悟の上に
あるもので、その精神がいま俗人どものティターンズや連邦にあるか、というのである。
171仇取り物語(シャア・アズナブル編):04/02/06 15:03 ID:0szHIYBi
 ドズルは、火の出るように攻めたてた。
 勝ち戦というのは、あっというまに仕遂げなければ、水の入るものだ。
「ふみつぶせ、ふみつぶせ」
 と、最前方を駆け回って指揮をした。
 そのうち、トリアエーズの名で知られる30機ほどの艦載機が、ルウムの第5バンチ
(ルウムの根拠地)の付近の空間に終結し、その直後、どっとジオンの後方を突いて出た。
「来たか」
 とドズルはまず10機のモビルスーツを撃破艦のそばに埋伏させ、他のすべてを持って
レビル将軍の本隊に当たらせた。
 マゼランの艦橋からこれをみていた連邦軍は手を打ってよろこび、
「ジオンはあれに気づいておらぬぞ、いまのうちに前砲門を開いて反撃し、トリアエーズ
と前後から挟み撃ちにせねば」
 と、隊形を横に開き、艦を横に向けて反撃に出た。
 ジオンは偽装退却する。
 それに引き込まれて、敵艦隊が十分に危険地帯に出たと思うとき、合図の発光弾を彗星
のように撃たせ、伏兵を一時におどり出させた。そのあたりの残骸はことごとくジオンの
兵に化したかのように動きはじめ、このため連邦は半数撃破され、半数が後方へ退却しよ
うとしたところを、ガイアは部下の二人を連れて巧みに追尾し、そのままするすると旗艦
に忍び寄ってしまった。この部下はガイアが手塩にかけたものだから、呼吸はよくつうじ
ている。
 ガイアは、艦橋をのぞき、
「降伏せよ」
 と命じた。
172仇取り物語(シャア・アズナブル編):04/02/07 14:20 ID:PDEWxWGj
そうしたある日、ジュピトリス艦長ことシロッコは、ジュピトリスの艦橋にサラを呼んだ。
「なにかわたくしにご相談ごとで?」
 とサラは神妙かしこまった。
「相談などサラたちにするものか。わたしの思案を口にだしてまとめるために、話し相手と
して呼んだのだ」
「して、どのような」
「じつは総帥殿に退場ねがおうかとおもっている」
「いよいよ、来ましたか」
 サラは、その一事が、シロッコに身も心も預けたときからの計画だから、
(もはや、仕上げか)
 とおもい、感慨無量な顔をしたのである。
 そうは思いつつ、ふと、ある一事が気になって、シロッコに質問してみた。
「パプテマスさま。なにしろジャミトフ閣下とパプテマスさま摂政閣下とは、血判をさしあ
げております関係ですが、いざとなった今日、うしろめたくはござりませぬか」
 そんな弱気が出れば、事は必ず失敗する、とサラなりに思ったのである。
「うしろめた・・・?考えたこともない」
 と、シロッコはいった。
「わたしはもともと、人に革新をもたらすためにこの地球圏へまいもどってきた。人に仕え
て忠義をつくすために来たのではない。俗物どもとは人生の目的がちがっている。目的がち
がっている以上、尋常(ただ)のオールドタイプの感傷などは、ジャミトフ閣下に対しては
ない」
「は、はい」
 やはりすばらしいお方だ、とサラはシロッコをあらためて仰ぐ思いであった。
「ティターンズとは」
 とシロッコはいった。
「このティターンズという組織は、わたしにとって一個の道具にすぎない。ちょうど指揮者
における指揮棒であり、画家における絵筆であり、文学者におけるタイプライターであり、
パイロットにおけるモビルスーツのようなものだ。わたしは家来の道具になったのではない
から、道具に対する義理だてはいらぬ。ティターンズは道具にすぎぬ。わたしはその使用者
であった。わたしはその道具によってあたらしい世の中をつくろうとしてきた」
「はい」
 サラはいつのまにか、偉大な教祖に接するように感動していた。
「サラはコロニーの作り方を知っているか?あれは最初は資材を輸送船の後ろにどんとひっ
ぱてきて、資材を溶接して、部品をくみたて、まるい部品をつくりあげていく。さて、コロ
ニーの材料はそろった。それが現在(いま)だ。いまの段階がそれだ。しかし輸送船の後ろ
の部品はまだ、破片でしかない。このコロニーの部品である破片を一つのコロニーにするに
は、輸送船から離し、宇宙空間に放ち、作業によってくっつけ、さらには外装をほどこし、
ふたたび作業によって内装をととのえ、それでできる。要するに、ティターンズという輸送
船はもう不要なのだ。捨てねばならぬ。あと必要なのは作業である。
 作業とは、権謀術数のことであろう。
「その作業に掛かるまでに、まず輸送船を捨てねばならぬ」
 シロッコはすこしだまり、やがて、
「この捨てぎわが難しい。そっと部品から外して資材から離さねば、コロニーまで崩れてし
まう。
 コロニーとは、シロッコの考えている新ティターンズのことであろう。
「この場合、敵味方に対する詐略がいろいろと必要だな」
 シロッコはその詐略を一つづつ順序だててサラに語り始めた。
173誇張の夢:04/02/08 20:09 ID:vylYJFh7
 この時期、部隊長たちは政争の渦中にまきこまれていた。
 総帥ギレンがア・バオア・クーで戦死し子をなしていないために、後継者をきめねばならない。
「後継者は、マハラジャ・カーン様に」
 というのは、当時部隊長格であった艦隊司令官のカルノー・セロ、モビルスーツ隊のシャア・
アズナブル(のちクワトロ)、ボーリッグ・スーン(のち近衛隊司令)などを中心に、末端の一
兵卒までふくめての希望であり、このためにさまざまな運動が行われた。
 かれらは、このジオンの危急存亡のときにあたって総帥が英明であることを欲した。秘書の出
身であるマハラジャ・カーンは齢四十八で、その聡明さはジオンに知られている。ジオンが国家
としての力を持たない以上、マハラジャが後継者になって一種の摂政のような位置につけば、ア
クシズの混乱を十分に鎮めることができるのである。
 このマハラジャ・カーン擁立派は、いわば理性派もしくは憂国派といっていい。
 これに対し、感情派というべきものが、遺児のミネバ・ザビという宇宙歴0079年うまれ(満2才)
の幼女を擁立しようとし、その勢力の中心は地球圏の残党たちだった。グリプス戦役後長命した
時のジオン残党のリョウ・マツナガも連邦大史談会の質問に答え、「それはまず、十人が十人ま
でミネバ様をのぞみました」
 と、語っている。
174元ネタ:04/02/08 20:11 ID:vylYJFh7
>>70-71 国盗り物語(斎藤道三編)
庄九郎(道三)の手腕で美濃の守護になった土岐頼芸であったが、こともあろうに天皇の娘(内親王)を抱きたいといいだした。

>>72 功名が辻
たまたま後の家老乾彦作の子孫と知り合い、その分家分の板垣退助と坂本竜馬の銅像が土佐にあるが、
山内一豊の妻の銅像も作る計画があると、その県の観光課長はいった。

>>73 国取り物語(斎藤道三編)
斎藤道三は、手に入れた鉄砲5丁を足軽に持たせて城攻めに使ってみたが、その威力に敵の士気はとみに衰えた。

>>94 国取り物語(斎藤道三編)
道三が国主となったころ、その系譜をつぐ信長、その正室濃姫、秀吉が誕生している。
斎藤というせいのいわれは斎宮の長官の藤原から来ている

>>95 功名が辻
信長にとって重要な決戦だった長篠の戦いが始まろうとしているが、家康の増援要請に、信長はなかなか腰を上げない。

>>96 国取り物語(斎藤道三編)
反長井庄九郎(道三)の有力な旗頭であった、一族にあたる長井藤左衛門の居城跡は地名としては残っている。
彼のとりたてて欠点がないが、初潮前の娘に伽をさせるので、評判が悪い。12歳の小筈に道三をどう思うかと聞くと、
好ましいと答えた。

>>159 功名が辻
一豊の父の代からの郎党祖父江と五藤は非常に仲がよく、五藤は機転がきき、
金ヶ崎崩れのときに他の将の郎党をだまして負傷した一豊に馬を手に入れた。
祖父江は後に五藤に常に自分は劣ったと昔語りをした。

>>160-161
楽市楽座により旧勢力からにらまれた庄九郎は京の山崎屋にいる妻万阿がさらわれたため、
その助けと今後の保護を頼むために、同村の出身の、三次氏で頭角をあらわしはじめた後の松永久秀に会った。

>>170 胡蝶の夢
松本良順を新撰組の近藤勇が尋ねて来て、攘夷のために良順が殺されるかとみなが心配するが良順は会い、
互いに気に入ってしまった。しかし弟子の、橋本左内の弟である橋本綱常は気に入らない。

>>171 国取り物語(斎藤道三編)
反対勢力を攻城中に、揖斐五郎らの増援がくるが、伏兵で持って反撃に転じた城兵を壊滅させ、城を落としてしまった。

>>172 国取り物語(斎藤道三編)
道三は赤兵衛をよび、とうとう土岐頼芸を追放する腹だと告げた。そして頼芸は道具に過ぎず、感傷などはないといった。

>>173 誇張の夢
13代将軍家定が三十を過ぎても子供がないために、次期将軍として家康以来ともいわれる一橋慶喜派と紀州の慶福派があり、
前者は列侯や憂国派、後者は大奥などが支持者であった。
1751:04/02/09 10:00 ID:???
>>172-173
読みごたえありまつ。
176軍医の夢(胡蝶の夢(一)):04/02/09 10:21 ID:???
(なにかある)
 と思ったが、養父の性格として、ハサンが言って来ないかぎりは、よびつけ
て問いただせない。
(正規軍軍医をやめる気だな)
 という想像はつく。
 連邦宇宙軍所属たるものが、勝手に任地を離れるということはできないので
ある。
177軍医の夢(胡蝶の夢(一)):04/02/09 10:30 ID:???
 言いかえれば連邦軍直属の身分はそれほど重いのだが、ハサンがそれを無視
して、取りようによってはエゥーゴ行きの運動とも思われる行動をしていると
すれば、容易ならざる結果をまねくと思わざるをえない。
(ハサンは、それくらいのことは知っている)
 とすれば、ハサンは養家を辞し、妻とも夫婦別れし、浪人身分になってエゥ
ーゴへゆくというのであろうか。
 養父が心配したのは、そのことだった。ところが娘をよんでその気配の有無
をきくと、愛情の点ではその心配はなさそうに思える。が、ハサンは妻に、
――四、五年、おれは消えるかもしれんぞ。
 などと、正体不明のことを言ったらしい。
178軍医の夢(胡蝶の夢(一)):04/02/09 10:53 ID:???
 ハサンは、才子ぶった男ではない(中略)
 同僚のうけとり方も、切れ者というぐあいではなかった。当のハサンの内心
は、
(こんな愚劣な仲間が、世の中にあるか)
 と、ときに黒煙りが出るほどにいらだつが、しかし外観は、大柄の据(すわ)
りのいい体を銅像のようにイスの上にすえ、太い息を吐いたり吸ったりしてい
るだけの存在であった(中略)
 こういう男が、自分の身のふり方について、みずから運動じみたことをして
いるということ自体、ハサンの才覚を大きく評価しきっているつもりの養父で
さえ、意外な思いがしている。
179軍医の夢(胡蝶の夢(一)):04/02/09 11:08 ID:???
 ある日、妻が、父親に告げたところによると、おどろくべきことがあった。
「なんでも、アーガマとやらに乗艦したい、と申されておりますが」
 ということだった。
(仏教でいう阿含のことか?)
 養父は、それだけの材料で、あれこれと想像をめぐらさざるを得なかった。
 阿含という経典から付けられたエゥーゴの新造艦は、まだ一般に公開するに
は至っていない。妻も、ハサンから、
「わしは、養子だ」
 という言葉からはじまるみじかい述懐をきいたときも、アーガマとは何のこ
とか、よくわからなかった。ついでながら、わしは養子だ、といった言葉は意
味以外のどういう味付けも添加されておらず、たとえばトレイはプラスチック
でできている、というたぐいのことを言う調子と変らない。
「だから養家に面倒をかけてはならぬ。家に迷惑をかけずにエゥーゴへ行くと
すれば、アーガマへ乗艦する以外にない」
 妻は、その言葉ぐるみ父に伝えた。
「アーガマとは、新造の宇宙戦艦と申しておったか」
「そこまでは、うかがいませぬ」 
180:04/02/09 11:12 ID:???
も一つ投下
181クローン(妖怪より):04/02/09 11:26 ID:???
 グレミーは、その夜は自分がどこにどうなっているとも知らず、寝た。
 熟睡したわけではない。
 かれはベッドの上にこそ寝たが、寝てからのほうが多忙だった。
 夢のなかにずかずかと隻眼の侍らしき男が入りこんできて、
「おれが仙台少将伊達政宗だ」
 と、大あぐらをかいたのである。
182クローン(妖怪より):04/02/09 11:45 ID:???
(本当にこやつが、二ホンの武将伊達政宗か)
 と、グレミーはおもった。
 これが伊達政宗だとすると、そのなまな姿をはじめて見たことになる。その
隻眼がするどいがかぶっている三日月状の飾りのついた兜がそれ以上のつり合
いでのっており、その重々しい甲冑姿が異様な存在感をあたえている。
「サムライだな」
 と、グレミーはおもわず正直な声をあげたほどに感に打たれた。隻眼の人間
というものは、それだけでもう他人を圧迫するものだが、仙台少将伊達政宗は
そういう相であるうえに全身に血がたえず駆けめぐっているような迫力があり、
こういう隻眼、二ホンの猛将にひたひたと見つめられると相手はもう立っても
居てもたまらなくなり、逃げるか、五郎入道正宗(注・日本刀)のさびにされ
るか、どちらかしかない。
183クローン(妖怪より):04/02/09 11:49 ID:???
 しかしグレミーは堪えた。伊達政宗のそのするどい隻眼を見ず、その頑丈そ
うな甲冑のあたりを見ることにつとめた。そうであろう。正宗の隻眼はときに
動く。横へ眼がゆくとそれだけ部屋全体がななめにゆがんだような錯覚をもち、
その視線が下へ落ちてまぶたがさがると、とたんに部屋の光りが薄ぐらくなる
ような錯覚を感じた。
184クローン(妖怪より):04/02/09 12:01 ID:???
 グレミーは、だまっている。
 ものをいうと、自分が崩れそうで、頭上にオイルを入れた缶をのせているよ
うにみずからの心の鎮まりを懸命にまもっている。
 ただ、
(この男は、宇宙世紀にいきる人間ではないな)
 とおもった。宇宙世紀時代の人間でないとすれば、旧世紀の近代人か。それ
とも中世の二ホンのサムライといわれた階級の者がここにたち現れでもしたの
か。
「案ずるな、おびえずともよい」
 と、正宗はいった。
「グレミー。おぬしをたぶらかそうとおもってここにあらわれたのではないわ。
話をしようと思い、おぬしをここへまねいた」
 黒塗りの甲冑が、音をたてている。その激しい戦場(いくさば)で奏でられた
であろうその音がきこえているあたり、まさしく地球・二ホンに存在したサムラ
イである。
(べつにまねかれたわけではない)
 
185クローン(妖怪より):04/02/09 12:16 ID:???
 と、グレミーは胸中でつぶやくと、おどろいたことに正宗はひびきに応ずる
ように、
「そう、おぬしにすればべつに招かれたわけではなかろう。万海上人のうまれ
かわりたるわしの呪術に魅かれひかれてここへきただけだ」
(おれは酔っていたのか)(中略)
 ふと思いつき、正宗の甲冑から視線をはずし、すわっている床几に移した。
「あっはははは」
 正宗の声が、頭上で鳴った。
「もうわからぬ。おぬしの目が下に落ちた。もう思いのことばがわからぬゆえ、
素直になれ」
「わしも素直になろう」と、正宗はことばを継いだ。
「なんでもよい。わしに物をきいてくれればわしは正直に答える。わしの気持
ちは簡単である。いま、いかようにしても、おぬしと昵懇(じっこん)になり
たい。それだけのことだ」
「だまされんぞ」
 グレミーは用心した。
186クローン(妖怪より):04/02/09 12:23 ID:???
 しかし正宗は独眼龍がじゃれるような顔をして、
「いや、おぬしがだまされるような男ではなかろう。わしはだまされるような
人間にはだます。しかしおぬしは、醒めた男になった。醒めた男をだますよう
なむだはせぬ」
「だましてここまで連れてきたではないか」
「あれは、おぬしがひどく酔っていたからだ。その酔いに、少々わしはつけ入
ってみた。戯言ぞ。許してもらわねばならぬ」
「あんたは、宇宙世紀時代のひとともおもえんが、どこからきた」
「因果地平よ」
 と、指を天にむけたが、そう答えてすぐ正宗はわらいだし、これはいつわり
だ、といった。
「そのようにひとには言う。しかしおぬしにそれを言っても仕方がない」 
187クローン(妖怪より):04/02/09 12:38 ID:???
 正宗はいう。
「わしは陸奥(みちのく)のうまれだ。二ホンでもっとも人の尊ぶ霊域と信仰
のある地域がみちのくであることはおぬしも存じておろう」
「多少はきいたことがあるが」
「その地域は夏はどこよりもあつく、冬はどこよりもさむい。さらに霊験あら
たかなることふさわしき大地といわれている。古代いらい中央との戦多く、そ
の数ははかり知れぬ」
「こんにちの宇宙におけるアステロイド・ベルトのようなものか」
「宇宙のアステロイド・ベルトを大なる地域とすれば、わがみちのくはそれよ
りも規模ははるかに小さい。山中の山伏有り。山伏のみならず、古来多くの蝦
夷たちが群雄割拠し、この時代とおなじく骨肉合い争い、多くの人間がたおれ
た。そういう英霊たちの墓も荼毘(だび)に付した場所も無数にある」
188クローン(妖怪より):04/02/09 12:46 ID:???
「そのみちのくのなんだ、おまえは。どういう軍人だ」
「軍人ではない。そんな呼称でよばれる下々の者たちよりもはるかに身分のた
かい者だが、大名である。しかし惜しいかな、うまれた世にすでに太閤と東照
大権現がおわしたために俗世のときの境遇は仙台62万石、最終的な官位は従
二位であった」
「…………」
 グレミーは、だまった。
1891:04/02/09 22:13 ID:???
書き込めるうちに書いておきます
ヒグチ「デラーズ紛争のしばらく後の連邦議会のときはジャミトフ・ハイマン
が主導権を握っていました。そのジャミトフを、スペースノイドの実質上の代
表だったブレックス・フォーラが厳しく叱責しているんですね。記念すべき戦
後計画(プロジェクト)をきめるための議会なのに、おまえたちのやっている
ことは何だと。
 面白いのは、政府の重要人物であるはずのブレックスが「連邦議員の言動は
しばらくこれを問わず」といっていることです。つまり、政府議員のほうが立
憲政治をわかっていないということを非常に強くとがめているわけです。
 何しろ「アースノイド系」が圧倒的多数を占めるので、スペースノイド側は
押されっぱなしです。そこでジャミトフは勢力拡大の布石として恩を売ってお
くことを考え、副官かだれかを使いに出してブレックスに打診した。それにブ
レックスが「いやしくも軍閥政治をやろうとしている男がスペースノイドに恩
を売りつけるなど浅ましいことだ。それをティターンズという私(し)集団の
副官ごときに聞きに来させるとは何事だ」と非常に怒ったわけです。
 連邦政府体制の再設計を目ざしているブレックス自身が、その体制の一歩一
歩を決定する連邦議会にそれだけ堅実な見方を、連邦議員に対してしている(略)
 いち早くそれを気にとめたブレックスの、それなりの眼力にもひかれます」
シバ「私もジャミトフとの対比において、圧倒的にブレックスにひかれますね。
 ジャミトフの思想は、当時の言葉で言うと地球至上主義。旧世紀でいうとフ
ランスのド=ゴールもそうでしょうし、フリーメーソンにも通じるものでした(略)
 彼は本来の民主政治、議会政治というものに対してアンチの立場をとるがた
めに、官僚を手なづけ、正規軍を手なづけ、連邦政府というものに重みをつけ
るためにあらゆることをしました。
 宇宙世紀0088に死んだときにはおよそ評判が悪くて、ティターンズの組
織も崩壊していることから大権力者とはおもえないほどさびれた葬儀であった
といいます」
191:04/02/09 22:48 ID:???
もう一つ
192敗者の精神(対談集):04/02/09 23:06 ID:???
シバ「しかしサイド4、イブセマスジさんのフロンティア・サイドなんかに行
きますと、イブセさんという人間の出来上がった匂いが嗅(か)げる感じはあ
りますね。イブセさんの小説を読んで感ずるのは、フロンティア・サイドの資
本家っていう感じです。資本家たちの思想です。何代も何代も資本家で来た家
の人間が、しまいには労働者はかわいそうだ、ということになってくる。そこ
らへんに作られた人工的な木もかわいそうだ、虫たちもいたわってやりたい、
という気持ちになるでしょう」(中略)
ツナブチ「その入くんだ感じというのは、ぼくはよくわからないけれども、何
となくこわいですね」
シバ「そうなんです。煮ても焼いても食えんという感じ(略)
 話がまたとぶんですけれども、サイド2のことを調べるために、しばしばア
メリアに行ったのですが、一度、コロニーのスペースノイドとお酒を飲んだこ
とがあるんです。アメリアの代表的インテリという人たちとです。そのとき一
つびっくりしたことがあった。Iさんと学校が同じでIさんを非常に好きだと
いう人がいまして、それが多分好きの余りでしょうが、はじめからしまいまで
悪口なんです。それも理論的な悪口じゃなくて、かわいさあまって憎さ百倍と
いう形での愛情表現なんです。Iさんとはただ学校が同じというだけで、一、
二回しか会ってないのにすごい感じでした。だんだん酒を飲んで話が進むうち
に、おおやっぱりサイド2だな、サイド2の愛情表現はすごいな、と思って、
ちょっと逃げだしたくなるような雰囲気だったですね。敗者の精神というのは、
ここにもあるんだなと、わたしは浅はかに思ったもんです」
193敗者の精神(対談集):04/02/09 23:24 ID:???
――怨念をいま晴らす――

ツナブチ「アメリアに講演に行ったんです。二十歳の、それも女性の多いとこ
ろで話をさせられたんですが、おわったすぐあとで市の教育委員会かなんかの
人が、その若い人たちにインタビューをするのです。「あなたはいまツナブチ
さんの話を聞いて、アメリアに生まれたことを幸福だと思いますか」と聞く。
いまの世の中で、自分のコミュニティの歴史あるがゆえに幸福だといわせるの
は、めずらしい光景じゃないでしょうか。いまの若者たちはもっと脱コミュニ
ティをしているはずです。ところが「幸福だと思います」と若い女の人が即座
に答えているのですね。やはりアメリアだなと、ちょっと感激しました」
シバ「アメリアの市役所に、一人抜きんでたインテリがいまして、実に明晰な
思考力をもっていらっしゃるんですけれども、ことザンスカール戦争になると、
やっぱりサイド2・スペースノイドですね。そりゃみごとなものです。一年戦
争から、サイド2はことごとく殲滅の目をみた、残された少数のコロニーはジ
オンに召集されて強引に赴(おもむ)かされた。グリプス動乱のときは無意味
に黒い閃光で串刺しにされ、見せしめにされた。それと同じくらいにザンスカ
ール戦争はほんとうにすごかった。サイド2をいじめた集団、サイド2をいじ
めたところの宇宙世紀史というものに対する怨念をやっぱり洩らされる。ああ、
こういう人でもそうか、と感動したんです」 
194通常の名無しさんの3倍:04/02/10 21:13 ID:???
>>1さんの製作者側の話は正直おもしろくない。
あと、短すぎるのは、司馬の雰囲気がでないとおもうぞ。
会話ばかりなのも、作りやすいのだろうけど、司馬遼太郎風になっていない。
でも、それ以外には良作がある。続編期待。
195敗者の精神(対談集):04/02/10 21:28 ID:???
――サイド2とサイド1の怨念のちがい――

ツナブチ「そういう意味では、西のサイド1はどうですか」
シバ「あれもひどいです。一年戦争・ティターンズからの恨みは忘れない、地
球とサイド3の方に足を向けて寝たといわれますが、証拠がありません。かと
いって、怨念は怨念です。経済的な怨念としては、サイド2よりも痛烈です。
ジオン公国のサイド殲滅で、ほとんどのスペースノイドが宇宙に消え、残され
たひとびとも労働力として駆りだされた(略)
 この間まで一定の給付を受けていた者は信じられないくらいの糧しか与えら
れないし、下層階級はもっと悲惨でしょう。だから、どこか宙域を開拓して、
何とか食っていかなきゃならない。そういう家族あげての生活の痛みが恨みに
なっていくわけですけれども、しかし、ドロドロした怨念はない。いつかは仕
返ししてやるぞ、というぐあいはあるけれども、ドロドロした怨念はないです
ね」
ツナブチ「どうもマリア主義とドロドロした怨念をつなぎすぎたような気もす
るんですが……」
シバ「いやいや、スペースノイドがマリア主義を受容したのは、まさしくその
部分かもしれません。これはもう明快にいってもいいんじゃないかと思います」
1961:04/02/10 21:46 ID:???
>>194
ご意見ありがとうございます。
それでは、極力ネタを絞っていこうかと思います。
ただ引用するだけではだめですね。
 ア・バオア・クー会戦において連邦宇宙軍がはたして勝ったかということに
ついては、地球・各サイドの専門家たちのあいだでも相当議論された。

 一年戦争の結末について、もっともこれを不満とし、前途の危機を感じたの
は、盟友レビルになり代わって連邦宇宙艦隊の総指揮を執った中将ダグラス・
ベーダーと元ホワイトベース艦長にして大尉ブライト・ノアであった。この二
人はこの勝利ですべてがおわったとは思っていなかった。
「これからが、正念場だ」
 と、ダグラスは人類史上未曾有の犠牲をはらった戦争が優勢裏(り)におわ
った日、自らの第六艦隊参謀長の顔をのぞきこむようにしてささやいた。かれ
は地球・ジャブローへ帰るという。ジャブローで政府高官や軍上層部の尻をた
たいて戦後体制をすすめさせるという。
 かれがおそれたのは、ジャブローの要人たちが「大勝」の気分によってうっ
かり戦後政策を怠りはしないかということであり、このさい彼等に連邦軍の現
状とジオンの潜在能力を耳打ちして気持ちをひきしめておかねばならない。
 戦史上の定義がどうであれ、ア・バオア・クー会戦が連邦軍の大勝のもとに
終結し、さらに終戦協定締結によって一年戦争が事実上終結したということを、
地球圏のあらゆるジャーナリズムがみとめた(略)
 さらにはジオン共和国となったサイド3の世論も、ジオン公国軍の戦敗をみ
とめた。
「勝った」
 ということについて、さらにふれる。
 ア・バオア・クー会戦について連邦軍は十分に勝つところまでゆかなかった
かもしれないが、しかし一方、サイド3に残ったジオン本国軍の軍隊的内実を
みると、おおうべくもない敗残の色があり、個々の兵士の心情における敗北感
はすさまじいほどのものがあった。
 もし、個々の兵士たちが、
「われわれは負けた」
 と実感して戦意を喪失し、軍隊秩序への服従心をうしなうまでにいたること
をもって戦敗であることの定義とすれば(これが定義としてもっとも堅牢であ
るかもしれない)ジオン軍はあきらかに敗れた。
 どころか、大敗し降伏した。この定義が、勝利としてはもっとも妥当である
ように思える。
 ア・バオア・クー要塞を脱出した公国軍残存艦隊は、マハラジャ・カーンを
はじめとしたアクシズ行きを選択する艦隊のほかに、エギーユ・デラーズのよ
うに地球圏に潜伏して刻を待つ者たちや、シーマ・ガラハウ海兵部隊のように
ヤミ稼業で日々の糧を得る者などさまざまに分化した。共和国本国に残ったジ
オン部隊も終戦協定は偽りであり、まだ独立戦争は続いているとしてこれら公
国軍残党に合流したりする者たちも多々あった(略)
 軍隊秩序が喪失することは、端的にいえば公国軍将校の権威が失墜すること
であった。その現象は、無数の事件になってあらわれた。 
 たとえばある兵卒は、司令部用の宇宙艦艇に押し入ろうとして旧公国軍の一
准将から注意された。准将といえば師団長職の階級で、四個大隊(204機)
を指揮することができる身分であり、兵卒からみれば雲の上の存在であったが、
この兵卒は目を三角にして食ってかかり、
「将官がどうしたというんだ。戦争に負けりゃ平等じゃねえか」
 といった(中略)
 敗兵が無秩序にズム・シティの町をうろつき、銀行の車輌を強奪しようとし
て味方同士が銃撃しあうという事件もあり、さらには軍用倉庫を襲って物品を
うばう者や、作業用MSを他の部隊の兵に売りつける者もいた。 
「よくやったほうですね」
 と、若い参謀がブライト・ノアにいったとき、ブライトは不機嫌そうに沈黙
していた。なるほど、一部の公国軍艦隊を逃してしまったし、ギレン・ザビを
戦争裁判にかけることもできなかった。せめて連邦軍大将レビルの第一連合艦
隊の戦力があったなら、ブライトにいわせればサイド3、グラナダ、ア・バオ
ア・クー要塞におけるジオン公国軍は一兵たりとも生きて余生を送ることすら
かなわなかったであろう。
 しかし若い参謀のいうことも一理はあった。要塞に拠る敵を攻撃する場合、
攻撃側は敵よりも三倍の戦力を必要とするというのが戦術上の常識であった。
ところが逆に敵よりも多少うわまわる戦力と火力をもって大胆にも敵要塞を
陥落させようとし、しかしながら偶然がかさなることによる好機に乗じたが
全公国軍艦隊を包みきれず、一部を逃した。それでもなお世界戦史上まれな
大成功というべきではないか、と若い参謀はいうのだが、ブライトは苦い表
情のままひとこともそれに対して答えなかった。
 ある朝、ダグラス・ベーダーはいつものように未明に起きて部屋を出、足を
格納庫へとむけた。
 そこに傷ついたMSがあった。
 公国軍マークの刻まれた戦利品MS・MS−14JG・ゲルググJ(イェー
ガー)で、いっぴきのけもののようにうずくまっていたが、ダグラスがその濃
い赤色の機体を撫でているうちに作業員があちこちで仕事をしはじめて、戦利
品MSは騒音につつまれた。ほどなく機体が光り、隣にならべられているRG
M−79SP・ジムスナイパーUの青いカラーとかさなった。
「ジャブローへ帰ろう」
 とこの闘将が決意したのは、このときであった。帰るべきであった。
「ジオン公国に対する勝ち目は、ふつうにやって四分六分というところである。
よくやって五分々々、よほど作戦とMS運用をうまくやれば六分四分」
 ということを盟友レビルと協議をかさねたすえに徹底抗戦を決意したあと、
他の者に洩らしたのはこのダグラス自身であった。
 いまそれがようやく成就した。連邦軍が全部分において圧倒的優位に立ち、
戦局の不利をおぎなってようやく戦争終結に漕ぎつけたいま、この好機をとら
えて戦後政策を進行しなければ、ダグラスとしては今後もなお過去のように連
邦軍とその政府が秩序安定をつづけることができるか保証することができなか
った。
「ジャブローは、いったい何をしているのか」
 ダグラスはいてもたってもいられない気持ちになった。

(帰ろう、ジャブローの連中に今後の深刻さを説き、鞭をふりあげてでも連中
を平和のための下準備へ走らせねばならぬ)
 ダグラスは、思い立ったら即実行せねば気のすまぬ性質(たち)の男で、あ
すにでもこの空域からすぐに――全速力で――地球にむけて発進してやれ、と
決心した。
 洩らされた参謀長はおどろき、
「なぜそんなことを」
 と、いった。
「サイド3の戦後処置と共和国の安定をはからねばならぬ閣下が、なぜそんな
政略に関することでわざわざジャブローまでいらっしゃらねばならないんです」
 と、不満そうであった。戦後政策を促進させるために政府の尻をたたきにゆ
くなどは連邦宇宙軍に参加している軍人のしごとではない。政略の部類に属す
ることではないか。しかも敵はまだ片付いたわけではない。目下、ジオン共和
国はダルシア・バハロのもと新国家を整頓しつつあり、この政情不安定な新サ
イド国家を見すてて総司令官たる者が現場を去るなど、そういう馬鹿げたこと
があっていいことではない。第六艦隊参謀長は、そういった。
「参謀長」
 と、いった。
「貴様は軍人としてはおもしろいところのあるやつだが、しかしただの軍人だ」
「自分はただの軍人で結構ですが」
 と、参謀長はふくれっ面でいった。
「閣下はつまりただの軍人じゃないとおっしゃるんですか」
「ちがうな」
 ダグラスは、亡きレビルもそうだが、連邦軍成立以来の大惨事である一年戦
争の初期・一週間戦争からルウム戦役をくぐって連邦政府があやうい状況のな
かでやっと勝ちを得たのを体験のなかで見てしまった軍人であるという。連邦
軍の足もとがいかにもろいものであるかを知っているし、そのもろい旧態然と
していた軍隊が、MSを開発運用して反攻戦という大冒険をついやってしまっ
た。これ以上冒険をつづければ連邦軍はくずれ去るだろうという危機感がレビ
ルにもダグラスにもあり、それにひきかえ単なる軍事官僚として後方におり、
星一号作戦の段階で参謀職になった参謀長にはその実感がうすかった。ダグラ
スはそのことをいったのである。
 
「ア・バオア・クー会戦の結果と共和国処置を報告するためにジャブローへゆ
く」
 と、そういう名目をつくってゆくことにした(中略)
 艦内のダグラスは、たいていは寝台の上に寝ころんでいた。寝ころんで軍歌
を歌っているか、起きあがって煙草を吸うか、どちらかしかなかった。ダグラ
スは度はずれたほどの喫煙家で、ニッポンの煙管(キセル)に並々ならぬこだ
わりがあることで知られたほどだが、このときは盟友レビルが愛用していた葉
巻をふかしていた。レビルは異常なほどに葉巻に執着していたのを、ダグラス
は吸いながら思いおこしていた。
 ダグラスが閉口しきっていることは、連邦側のジャーナリズムや地球・サイ
ド6の新聞が戦争終結と大勝利をたたえ、民衆が一年戦争の大勝に酔い、実状
は連邦側も国力の限界にきていたにもかかわらず、
「かくして連邦政府の絶対民主主義は全宇宙に確立された」
 と調子のいいことをいっていることであり、さらにダグラスがにがにがしく
思っていることは政治家や軍上層部までがそういう民衆の気分に雷同している
ことであった。
 帰還途上のダグラスの脳裏を占めつづけていることは、
「しばらくすれば地球圏に潜伏しているであろう公国軍残存部隊は活動をしは
じめる」
 ということであった。ダグラスは、その「テロリズム的活動」は正規の公国
軍相手よりもきびしいとみており、そうなればいかに巧妙な作戦をたて、いか
に連邦軍兵士が勇敢に戦っても今後の安定は期しがたい。まして地球連邦軍の
戦闘能力は、開戦早々のころを頂点とし、しだいにくだり坂になっている。そ
の理由の最大のものは、士官学校出身の正規将校がすでに大量に戦死傷してい
るために、各戦闘単位における戦闘指揮官の能力がいちじるしく低下してしま
っていることであった。
 その戦艦ヒペリオンのカプセルがジャブローについたのは、終戦条約が発効
した二月の末の朝である。
 ダグラスの帰還が極秘にされていたために、出迎えにきていたのは一人しか
いなかった。中将ジーン・コリニーであった。
 コリニーの保守気質は以前よりも濃厚になったようであり、そのほそい眼か
ら出る視線も排他的気分が漂(ただよ)っていた。かれはカプセルから降りて
きたダグラスに敬礼した。
 ダグラスは答礼もせず、コリニーの顔をみるなり、
「貴様ァ」
 と、どなった。コリニーはこのどなり声を終生わすれず、ダグラスの話題が
出るたびにそのことを語った。馬鹿かァ、お前は、とダグラスはいった。
「一旦つけられた火種は揉み消さにゃならんぞ。根源を消すことがかんじんと
いうのに、ぼやぼや火に油をそそぐようなことをするっちゅうのは馬鹿の証拠
じゃないか」
 ダグラスはよほど腹が立ったらしく、さっさと連邦軍総司令部にむかって歩
きだした。コリニーはそれを追った。
 ダグラスはその足で統合参謀本部へゆき、地球連邦軍提督の大将ゴップに会
って単刀直入にその一件をきりだした。
 連邦軍中将グリーン・ワイアットも同席していた。ゴップはもともと対ジオ
ン戦については慎重というより臆病にちかい考え方をもっていたし、ワイアッ
トもむろんダグラスに反対するほどの異論はもっていなかった。ただ目の前の
現状があまりにもあざやかに進みすぎているために、戦後政策推進を内閣(連
邦最高行政会議)に要請すべき差配振り(亡きレビルの表現)をつい怠ってい
た、というより、機会をとらえぞこねていたのである。
 ついで、連邦軍首脳の統合幕僚会議をひらいた。メンバーはダグラスのほか
に、ゴップ、中将グリーン・ワイアット、中将ジーン・コリニー、少将ジョン・
コーウェンのほか多数の連邦軍将官たちで、さらに大佐の身でありながらゴッ
プのはからいでジャミトフ・ハイマンも参画することをゆるされた。これには
ダグラスと地球で前線勤務を経験していたコーウェンは不審をもった。ただの
財政部門通の軍政家が最高決定権のメンバーの一員としていていいのかどうか。
「かれの手腕はなかなかのものです。この自分が保証しますよ」
 この発言をダグラスにいったコリニーは、たとえアースノイドでなくてもか
れ自身の能力でその地位を獲得できたであろう。かれはいい意味の夢想家で、
しかも現実把握力をもち、構想力を兼ねていた。
 コリニーは、「宇宙一」と自称する中華思想的絶対思考――旧世紀のフラン
ス的思想――の信仰とフリーメーソン信者という妙な人物で、その点ではいか
にもいかがわしい祭祀者的煽り屋を想像させた。
「煽り屋である」
 と、蔭口をいう者もあり、そういうところも多少はあったが、根は自分の利
口と豪快さを誇示したいだけの子供っぽい性格の人物で、かつてふれたように、
現状維持に必要な元締めとしてもっとも必要な天性の能力はもっていた。ただ
その想像力はときに夢想化することもあったが、かれが将来、ティターンズカ
ラーを黒に指定したり、ジオン系MSの運用性・低コスト性に目をつけ、ティ
ターンズ部内を啓蒙させたことなどは、かれの想像力のたくましさを証拠だて
るものであった。
 ジーン・コリニーのお気に入りは、猫だけであり、少年期から家で飼ってい
たペットが猫のみであったこともあって、もし猫でなかったとしたら、コリニ
ーは異常なほど猫にカネをかけることも執心をしめすこともなかったであろう。
それも天性、黒猫にしか興味をしめさなかった(略)
「これも自分の愛護精神のあらわれである」
 と、コリニーは大まじめで解説するのがつねであったから、その猫への愛着
が即動物愛護に変わるというおかしさをあたまから信じこんでいる人物であっ
た。
「いったいコリニー提督はできる人物なのか、それとも単なる三流人物がハッ
タリであそこまで行ったのか」
 ということは、連邦軍内でも後年まで疑問とされた。かれの死後も、この疑
問はとけていない。しかし世界でもっとも愛すべき黒猫を毎日手入れして面前
にその顔を堂々と押し通していたということで、この人物の一部分をとくかぎ
があるのかもしれない。
 会議では、ダグラスの腹案が承認された。
「残党と化した旧公国軍部隊とジオン共和国に内側を見すかされてはたまらん」
 ということで、むしろサイド6・ジオン共和国との安保条約に基づいて積極
的な姿勢だけはとる、というのが基本方針であった。
 その第一は、
「以後、連邦軍は政略と一致して公国軍残党部隊の掃討をはかり、さらにアナ
ハイム社・ヴィック・ウェリントン社と提携して連邦軍再建計画を推進する」
 というものであったが、内実の問題としてすぐその行動に出ることはできな
い。全地球圏規模で残党殲滅をやるには連邦軍はまずMSの数もそろえねばな
らず、さらには再建計画も議会での可決を必要とした。しかし政府をあげてこ
れをやらねばザビ家の怨念は払拭されないであろう。
 その第二は、
「連邦軍はなしうるかぎり共和国・サイド6の防衛をまもり、安保条約にもと
づき必要以上の戦力をこれら政体に持たせることを禁ず」
 ということであり、その第三は、
「すみやかに旧ソロモン、現コンペイトウを宇宙軍の鎮守府として整備すべし」
 というものであった。
 さらに安保条約に基づいて進駐している連邦艦隊の一部をルナツーに移動す
ることによって、ジオン共和国をして占領政策が緩和されたという印象をもた
せるようにする。
 ダグラスは、ジャブロー滞在中、あちこちを走りまわった。その説くところ
は一つである。
「戦後政策をきちっとしろ」
 ということであり、あとは強固な連邦体制と政戦両略で片付けるほかない、
これからのジオン残党のテロリズムこそもっとも危惧すべきである、というこ
とであった。
 この意見は、星一号作戦前にジャブローを出征した亡きレビルの意見とすこ
しもかわらない。レビルはもともと宇宙へ上がるにあたって、
「かならずジオン公国軍を宇宙から駆逐してみせる。しかしながらあとのこと
こそもっともかんじんなことにて、そのあたりをどうか了解しておいていただ
きたい」
 と、いった人物である。
219通常の名無しさんの3倍:04/02/11 15:41 ID:???
誰でも知っているようなメジャーなガンダムのエピソードを司馬遼太郎風に語ってくれている
ものは読みやすくていい。
逆に知らない人物や創造で補った部分が多い話は、ちょっと。
裏話とかでなく、正史を司馬に語らせてほしい。
多作で質が悪いのが混ざると、読む気がうせる。
でも、よい作品もあるので、がんばってください。
まあある程度の数を作らないと傑作は生まれないんだろうけどね。
だけど読者にしてみれば、数が少なくても傑作ぞろいのほうがいい。

あと、10行とかの細かいものは、単にちょっと当てはまるからそこを変えたというだけだろうから、
芸がないんじゃないかな。長文で読みづらくはあるが、ある程度の文量はほしい。
あと、次にまたがっているのか、話が飛んでいるのか、同じタイトルだとわからない場合があるので、
工夫してほしい。
がんがれ。
 ダグラスの報告をきいた地球連邦軍提督ゴップはことごとくダグラスの意見
に賛成し、大統領レイニー・ゴールドマンに対し長文のメールを送っている。
そのメールは戦勝側の連邦軍提督の手紙ともおもえぬほどに苦渋にみちたもの
であった。
「……座して守勢を取るも、進んで攻勢を取るも、いずれにしても前途悠遠(
ゆうえん)にして、容易に平和を快復し得るの望みなく……」
 というもので、今後平和回復のために大いに考慮してもらわねばならない、
と説く。
221:04/02/11 21:35 ID:???
>>219
>裏話とかでなく、正史を司馬に語らせてほしい
となると、テレビ版で描かれている人物や場面をメインにしたほうがいいとい
うことですね。となると、本編の描写をSSにするという形式になるのかな。
>逆に知らない人物や創造で補った部分が多い話
基本的にテレビシリーズはほとんどカバーするつもりでいるんです。こういう
論調だと、Vは知らないからちょっと……という意見にも受け取れますけど。
(二)からそうなんですけど、バウアーやコーウェンの部分はカナーリ創作が入っ
てますけどね。Zにしか出ていないキャラクターや、富野のノベライズでその
後が触れられていないキャラクターなんかは、創造で補ってこそ面白みも増す
と思いますけど。
 まあ、自分がマイナーや違う分野を発掘するのが個人的に好きだっていうの
もありますけど。
>多作で質が悪いのが混ざると、読む気がうせる
ここは(二)からつねにあったことですね。意識します。前スレでも言われた
ことでしたが、ネタにする数が多すぎる点は反省してます。
222:04/02/11 21:47 ID:???
>>219
>メジャーなガンダムのエピソード
単純にテレビ版の回を記述していればそれでSSは成立させられるんですけど、
そうなると連続性が弱くなるんです。
1st〜CCAまでなら、メインキャラは連続して出演しているのもいますか
ら当然アムロやフラウはメジャーになりますけど、VやXといった単発の作品
はそれしか出ていませんから、当然キャラクターの深みも浅くなってしまう。
 SSって、そんなに幅の狭いものなんでしょうか?
司馬氏の作品でも、マイナーな評価を受けていた人物や思わぬ人物の掘り下げ
があったりしますけど、これら一連の小説(翔ぶが如くとか、坂の上の雲とか)
でもマイナーな人物は出てきます。メインが光るのは、マイナーなキャラや脇
役がそこに描かれているから光るのではないでしょうか。
 あまりにも「俺のガンダム」要素が強すぎたり、解釈が強引すぎたり、時代
設定がおかしいのならわかりますけど、メジャーという意見にはちょっとひっ
かかります。
223:04/02/11 21:58 ID:???
>>219
>10行とかの細かいもの
読みにくいかなとおもってわけてみたんですけど、そういうことなら長文の方
向でいきます。
>次にまたがっているのか、話が飛んでいるのか
確かにわかりにくいですよね……。これについてはタイトルの後ろに番号をつ
けることで解決したいと思います。

ご意見ありがとうございます。少々勘違いしてまして、本気ですべての司馬作
品を元ネタにするつもりでいたんです(汗)
 よくよく考えたら、司馬氏の作品でもすべてが面白い・スゴイわけではない
んですよね。大量に書いてみてわかりました。
 エッセイ、対談については100レス中一回くらいの割合で、興味深い題材
だったら書こうかと思います。
 率直な意見が聞けてうれしいです。
224通常の名無しさんの3倍:04/02/12 04:29 ID:???
>>222
まあ、たとえていえば、2個の傑作と2個駄作のスレは良スレだけど、3個の傑作と7個駄作のスレは
クソスレなので。
ここは一種のネタスレなので、読者がわかりやすいかどうかが第一で、ネタ師が
何個投稿できたというのは自己満足にすぎんからね。
折角傑作良作もあるのに、ただ変えてみました、というだけの作品があまりに多いから、
印象として密度が薄い感じがする。良作をよりぬいていれば、もっと多くの人が見ると思うけど。
初代スレなんかはかなり密度が濃かったと思う。

あと、掘り下げたいのはわかるけど、それはひねりすぎで読者不在になりがち。
司馬がガンダム世界を語る段階でひとひねり。それとは別に俺ガンを組み立てるのもひとひねり。
司馬風に俺ガンを語るのは二つ捻っているので、読者にはひねりすぎ。
特にファーストでもなくZでもないF91とかでひねられると、3つくらいひねられていて、
読者不在の感じがする。逆にZとか1stの有名な部分を語っているのは、
ほぼ例外なく水準作品以上だと思う。
司馬が俺たちの好きで知っているガンダムを語るから面白いので、
司馬がなんかよくわからないのを語っていても、それが司馬本人なら別だけど、
そうでないなら、興味がわきにくい。

それと、名前を置き換えただけみたいな作品はやめたほうがいい。
別に司馬風なら完全オリジナルでもかまわないわけだから。
225:04/02/12 11:18 ID:???
>>224
>何個投稿できたというのは自己満足
ここらへんは当たってます。数にこだわってました。
初代スレはほんとに個数が少なかったですよね。

226:04/02/12 11:29 ID:???
>>224
>まあ、たとえていえば、2個の傑作と2個駄作のスレは良スレだけど、3個の傑作と7個駄作のスレは
クソスレなので。
 選り抜いて投稿しる!というわけですね。これには同意です。
>ひねりすぎで読者不在になりがち
読者不在ってのは当たってる気がしますけどね、反応のレスの少なさをみれば。
元々司馬氏の作品は歴史小説なので、当然宇宙世紀史に沿って記述するという
ことを心がけていましたので。それが「司馬遼太郎風にガンダムを記述・語る
スレです」となる。
 まずは整合性とかどこどこでこういうことがあった、以前よりもエンターテ
イメント性を求めろということでしょうか。要はガッチリしすぎっていう感じ
かな。
 読者のわかる範囲で書けとなると、これはカナーリ幅が狭くなっちゃいますね。
そもそも、知識の補完の役割を果たしてもいいんじゃないかなということで、
自分なりに調べつくして書いてるんですけど。ここんとこ自己満足なだけな
んでしょうか?
227:04/02/12 11:42 ID:???
>>224
>特にファーストでもなくZでもないF91とかでひねられると
あの、それってF91やVを1stやZよりも各下で見たうえでそういってま
せんか?どれも同じガンダム作品でしょう?そんなに1stやZのみが「SS
の題材となりえる」わけですか?
 マイナーは書くなということでしょうか?それこそレッテルを貼りつけてる
だけなような気がしますけど。
 こういう論調だと「人気があって認知されてるから、SSとして書かれてい
て面白い」という論調になりません?これこそ、枠を狭く見積もってることだ
と思いますけど。
 偏見にみえるかもしれませんけど、あなたのレスを見てるとほんとにレッテ
ルを貼っているような気がするんですよ。全作品をカバーすることは悪いこと
じゃないし、悪いと決めつけることもできないはずです。
 僕がF91やV、∀ネタなどを書いたのは「SSとして数が少なく、まして
や歴史小説として書かれているものが少ない」から、掘り起こせる題材だなと
思って書いてるんです。架空キャラはほとんど出さないし、今書いてるダグラ
スだって、架空キャラじゃないですよ。それは実在しているんです、宇宙世紀
に。
 マイナー扱いだけど、こういうキャラがいたのか、こういう場面がこうなっ
ているのか、そういう総合性がSSの醍醐味だと思いますけど、ネタスレにそ
んなに意気込むなということでしょうか?
 これらのネタや書かれ方が「あまりにもつまらないのに投稿しやがって!」
なら、わかるご意見ですけど、1st・Zファンを対象としたものを最優先に、
それ以外は二の次の姿勢は僕としてはちょっとひっかかるんです。
228:04/02/12 11:53 ID:???
>逆にZとか1stの有名な部分を語っているのは、
ほぼ例外なく水準作品以上だと思う。
F91やV、CCAにも有名な部分はあるし、∀にだって名場面はあります。
この論調は「有名な部分を語ったり記述したりしないと、即駄作」という論調
じゃないんですか?これでは、テレビ版に制約されてしまって、そこで描かれ
ていないキャラクターや背景は書けないですよ。
 結局、マイナー作品を書くのが気にいらないわけですか。そりゃ、僕の書き
方はほんとバラバラで、読みにくいことこのうえないかもしれませんよ。引用
もエッセイ・対談・小説と多様ですし。
 しかし、テレビ版のみ、映画版のみで描かれているシーンを記述するという
ことは、これはやはり戦闘が当然メインになるわけです。テレビ版だけでなく、
公式設定でも、作られた年表でもいくらでもSSは発展しえるわけです。
 それとも、ネタスレなんだからそこまで発展させなくてもいいよ、面白けれ
ば、ということですか?
 既に知っている知識範囲で楽しんだり遊ぶということは、とても狭いことだ
と思うのは僕だけでしょうか?
229:04/02/12 12:01 ID:???
>>224
>司馬が俺たちの好きで知っているガンダムを語るから面白いので
あなたを対象にすればそうでしょうね。あなたはどうやら1st〜Zがまず一
番だと思ってる方でしょうから。
 だけど、数はどうあれ他の作品が好きな人も必ずいると思うんです。レスの
数は少ないですけど、∀ネタやあまり評判の芳しくないWネタを書いたときに
はいいレスを頂いたこともあります。それこそ脇役を書いたときにもいい反応
をもらったことがあります。
 できるかぎりのテレビシリーズを対象としてとりあげ、補足させられればい
いなということで、今までスレを立て書いてきました。自分が満足したいとい
うのも当然あります。だけど、VのクロノクルやF91の鉄仮面なんかは、ほ
とんど対象にもならないでしょう、SSの。だから書いたんですよ、ひねった
SSがないから僕が書こうと。
 一ジャンルで凝り固まっているのは、マンネリ化を招きますし、他の作品が
好きな人たちもガッカリさせることだと思います。
230:04/02/12 12:15 ID:???
>>224
>司馬がなんかよくわからないのを語っていても、それが司馬本人なら別だけど、
そうでないなら、興味がわきにくい。
その「なんかよくわからない」のというのは、当然テレビ版で出演していない
キャラとか、年表見ないとわからない出来事だとか事柄ですよね。
 よくわからないといいますけど、そのよくわからないのを「わかるように」
語って、小説として世に送り出したのが司馬氏です。僕としても、司馬氏本人
がガンダムを語ってくれたらなと思うこともありますけど、もう故人ですし……・゚・(つД`)・゚・ 
>興味がわきにくい
あなたのような方の意見がすべてなら、仰ることもわかりますが、書く側の論
理としては、「知っているから書く」「興味があるから書く」「題材として斬
新そうだから書く」ものだと思うんです。
 ここらへんはいろんな意見があると思いますが、それがあまりにも強引だと
か、ここはおかしいということならわかりますけど、そんなに興味がわかない
んならスルーする手もあると思いますよ。
 司馬氏だって、すべてが傑作で面白いわけではないですし、「ひとびとの跫
音」という作品だって、それほどメジャーではないでしょう。
 そもそも、メジャー・マイナーと分けること事態どうだろと思うのですが。 
231:04/02/12 12:29 ID:???
>>224
>それと、名前を置き換えただけみたいな作品はやめたほうがいい。
別に司馬風なら完全オリジナルでもかまわないわけだから。
オリジナルになってる悪寒もないではないですが。

>極力数を絞り、単純な置き換えではなく、「メジャーな作品」を題材にレベ
ルアップする
>雰囲気が出るようにするために、メジャーな場面を短すぎずに語り、その分
野で補足する
>タイトルの後ろに番号を付け、つながりをわかりやすくする。
>主に小説を引用の題材とし、エッセイを用いた「自分の考えを語る」対談の
安易な手法をやめる

こんなとこでしょうか。となると、1st・Zが中核になってしまうけど、こ
れでもいいのかな。
232通常の名無しさんの3倍:04/02/12 16:56 ID:???
要は面白くないと思われる作品を分析したらそうなったというだけで、
ならば面白いと読者が感じるような傾向はこうじゃないかな、と書いただけ。
面白ければ問題はない。
ただ、いくら力説されても、面白いものは面白いし、
面白くないものが面白くなくなるわけじゃない。
だから、面白い物が書けると思えば、どうでもいい。

メジャーというのは、場面としてメジャーという意味で、
ロナ家のことをかかれても、よくわからないけど、F91での画像で実際に描写されているところを
司馬風に語るのであれば、わかるという意味です。
1年戦争などはかなり掘り下げられているけど、F91はロナ家についてえんえんと掘り下げられても
元情報がないからわからない。

水準以上というのは、投稿されたネタがみんな水準以上ということ。というか、マイナーテーマで
傑作良作投稿ってないと思うけど。傑作と思うのはみんなメジャーな場面の描写だと思うよ。

オリジナルというのは、内容を、という意味でなく、
元ネタを改変するのでなく、文章自体を一から自分で司馬風につくってもよい、ということ。
確か過去スレにも1〜2あります。

まあとにかく、いい作品を書いてください。
傑作良作好作のなかに駄作がまじるのはかまいません。
でも駄作の中にたまに傑作があっても、読者は増えませんよ。
233:04/02/14 13:20 ID:???
>>232
ああ、なるほど。そういうことですか。
ようやくわかったような気がします。
ここしばらく考えてみたんですが、自分はひょっとして増長してるんじゃない
かなと思いまして、チョト反省しておりましたm(_ _)m
いいご意見、ありがとうございました。

 ということで、一本づつ長編を書いていくことにしますた。オリジナル部分
を中心として、手書きで書いていきますので、時間がかかるかと思いますが。
234:04/02/14 13:26 ID:???
以下のSSは41からの続きになりまつ
「今度はいっしょよ。お兄ちゃん」
 ロザミィはカミーユの肩を引き寄せた。べつにわるい気はしないので、され
るがままにまかせていたが、ファにボートをぶつけられた。だがロザミィは気
にせず、すぐに陸にあがった。面白がってクムのあとを追う。
「ほっときなさい」
「でもさあ」
「いいのよ」
 カミーユは、不満げにしてファのボートに移った。
 クムがバレーボールをかえしにゆくと、ボールの持ち主は意外にも同年代の
女の子であった。
 ボートに乗らない?とクムについてきたロザミィが誘いをかけると、その子
は乗ったことはない、しかし興味はあると答えた。
 ロザミィは女の子をボートに乗せてあげることにした。
 ボートに乗りこんで、女の子はクムと一緒に水面をみた。まったく平気だっ
た。うまれてはじめての経験に、女の子は新鮮なおどろきと楽しさを感じた。
同世代の友達がいなかったこの女の子にすれば、シンタの反応ですら意外にお
もったことだろう。
(ミネバ様が笑っていらっしゃる)
 そう思ったのは、館からでてきたハマーン・カーンである。ちょうどこのモ
ルガルテンに滞在していたのだ。その姿は生きいきとしていて、とても子供ら
しかった。いずれにせよこのままにはしてはおけない。
 そのハマーンの姿をロザミィはじっとみていたが、女の子の一声を聞き、考
えていたことを口にした。まるで人変わりしたかのような表情で、
「あの人、キライなの?」と。
 そのロザミィの一言に女の子は、
「いや。よくつくしてくれる」
 といった。ザビ家一門として生をうけて以来、ずっとかしずかれながら日々
を送ってきたこの子にとっては当然の返答だったろう。
 しかしそれは、庶民の感覚ではない。封建時代などとっくの昔に消え去り、
物語となりつつあるこの時代では、皇帝・公女といわれようがそれほどの尊貴
さと目新しさをともなうものではないのである。ましてや同世代のシンタのよ
うな子供にはとうてい理解しがたい。
「そういう口のききかたが生意気なんだよ」
 シンタの言葉に女の子は即座に反応した。
「お前は同じことしかいえないのか」
 この女の子とシンタのやりとりには、ある種の滑稽感がつきまとう。お互い
のギャップの差が大きければ大きいほど、ユーモアにうつったり、子供らしか
らぬいかがわしさを過大に感じたりもする。後世の目からみれば、それは喜劇
にも映ろう。しかし、歴史の皮肉というのは、このような喜劇のごとき光景が
あたり前の現実としてそこに存在しているということなのである。その悲劇的
現実を簡単に笑いとばしたり、スルーしたりすることはげんにつつしまねばな
らない。それこそが、その時代の人間を正確に把握するということであるのだ
から。
 だが、人間を正確につかみ、理解するという作業はじつに困難をともなう。
このときのロザミィの思考がそうである。
 彼女は対岸にいるハマーンを敵と認識した。強化人間独特のカンとにおいが
そう判断させたのだが、よくわからない点が一つある。
(エゥーゴのにおいがする)という点である。
 この点からわかることは、ロザミィにインプットされている思考はお兄ちゃ
んのほかに、エゥーゴは敵であるということがすりこまれているということと、
強化人間の限界である。
 ハマーンそしてネオジオンに対する思考がうえつけられていないための判断
なのだろうが、それにしても彼女はどれくらいの強化をオーガスタ研究所でさ
れたのであろう。
 戻してくださいと要求するハマーンにロザミィは、
「あんたのところには帰りたくないってよ」
 といった。その反応に女の子はムッとした顔でいう。
「女、それは違うぞ」
 汚れた大人から純粋な子供を守るという防衛本能がロザミィにあったかどう
かはさておき、女の子のその言葉にロザミィはうなづきながら、ボートをかえ
し、女の子を戻そうとした。
 その光景を、もう一つのボートからカミーユはみた。あいかわらずのファと
の口論である。どちらもまったくゆずらないところが、いかにも年頃の少年・
少女らしい。
 かれの鋭敏な感覚は、ロザミィがかかえている女の子よりも、対岸にいる女
性が何者であるかをとらえていた。あれはハマーン・カーンだ、だとすればあ
の女の子はミネバ・ラオ・ザビにちがいない。
 ファもカミーユの一言で気がつき、対岸をみつめた。その方向をみると同時
に二人はハイザック(注・正確にはハイザックカスタムという。型式番号はR
MS−106CS。大型のシールドと高出力の狙撃用ビームランチャーを携行
し、バックパックも従来型よりも大型に換装されている。通称゛隠れハイザッ
ク゛。ただし、型式番号については資料によって若干の違いがある)がコロニ
ー内部にいることをとらえた。二人の反応がいい。
 ロザミィに退避を叫ぶカミーユ。彼の姿をみたハマーンはエゥーゴの意図が
ミネバ拉致にあると読んだ。部下にミネバをかかえさせて館にはしるハマーン。
239通常の名無しさんの3倍:04/02/15 18:11 ID:dTlx8tA7
240:04/02/15 21:55 ID:???

何かと思ったら……
激しく( ゚д゚)ホスィけど、金がない。
 突如として風がつよくなった。コロニーのどこかに穴があいて、空気が急激
に宇宙へ漏れているのだ。
 あのクワトロの百式とハイザック、ガザCとの戦闘でこんな目にあったのだ
ろうとは思うのだが、コロニー内部でライフルをつかうなど正気の沙汰ではな
い。
「だいじょうぶよ。もうこわくないったら」
 避難場所であるシェルターにたどりつき、一息いれると同時に、子供たちの
甘えとおびえる声がきこえる。
 まるで母親だな、とカミーユはおもうのだが、よくよく考えればファはまだ
自分とおなじ17歳ではないか。それなのにどうして「おかあさん」の雰囲気
が出ているのであろう。
 かれは左隣にいるロザミィと、右隣でシンタとクムをあやしているファとを
見比べてみた。
 ハイスクール時代に読んだことのある心理学者の本に、男はなぜ大きな胸に
あこがれ、良き肢体に情熱をかたむけるのか、というのがあった。その理論か
らいくと、ファよりもロザミィのほうがすぐれているようにもおもえる。声さ
えきかなければ、女優なみのプロポーションをもっている分、ロザミィのほう
になびく男は多いだろう。
 ところがロザミィといっしょにいたシンタとクムは、最終的にはファのそば
にいる。もちろん、今までのいきさつや関係というのもあるだろう。だがそれ
以上のなにかが、ファにはあるのではないだろうか。
 カミーユはシェルター内ですわっているファを見てみた。東洋系の黒い髪、
細い腕、ゆたかな胸のふくらみ、長い脚。もちろん、ロザミィとは齢がはなれ
ているから一緒くたにはできないが、あきらかにちがうようだ。
 西洋系と東洋系のちがいといってしまえば簡単だが、だとするとシンタとク
ムがなついているのは単に文明圏のちがいからなのか。
「この子たちは、インドで見つけたのだ。ブレックス准将の身代わりのように
思えてな」
 そんなことをカミーユはクワトロから聞いたことがあるが、とすればシンタ
は日系、クムはインド系であろうか。
 ああ、そうするとこれはグローバルだな。
 カミーユはおもう。おなじ東洋系ならファの慈愛も、シンタとクムがなつく
理由もわかろうというものだからだ。
「どこ見てるの?」
「えっ」
 ファの一言に、カミーユは我にかえった。
「いや、ファの瞳とってもキレイだなって」
「うそ」
「うそじゃないさ。見とれていたんだよ」
「ほんとかしら」
 疑いの目でファはみた。カミーユがうそのつけない性格だということはよく
知っている。
 その二人のやりとりをロザミィはニコニコしながらみていた。屈託のない笑
顔だった。
 嵐がおさまったあと、カミーユはクワトロを呼びにいった。
「13バンチの警官が待っています」
 百式から降りてくるクワトロにそういったあと、ブライト艦長がカンカンで
すとつけ加えた。
「国際法無視だからな」
 平然とかれはいうが、モルガルテンに穴があいたのはかれが作為的にやった
わけではないし、その意志もなかった。
 ただ、正しさを示すためには一定の法理論や道理に従わなくては正しいとい
うことを実証できない。なるほど、非は中立空域でありながら戦闘活動をして
いたティターンズ兵の側にあるだろう。それは否定できないが、
(むこうが不法行為をしていたから、むこうが全て悪い)
 という論理はどうであろう。これでは、正しさや公平さを社会にはかったと
しても受け入れてはもらえないだろう。
 クワトロは世の道理がよくわかっている男だった。
 ちなみに、道理の意味を述べておくと、
――世間で正しいとみとめた、おこないの筋道――である。
 それに、かれには今度のことも証明できる自信があったから、カミーユに心
配されても平気でいた。しかし、
「ハマーン・カーンがいました」
 とカミーユに言われたとき、心が動揺した。もちろん表情にはおくびにも出
さない。
 余談だが、筆者がつねづね疑問におもっていたのは「クワトロの感情の変化
をまわりのひとびとはどれくらい感じ、どれくらい気づいていたか」というこ
とであった。
 のちにかれはアクシズ落としの際にライバルのアムロに対し自分の本音を赤
裸々に語っているが、このときにいたるまでかれの真実の部分に触れえた人物
はすくないと思われる。
 すくなくともカミーユは気がついていたと思われるが、かれを一見し多少な
りとも話をかわした程度では、かれの微妙な心の変化はわかりにくい。
 オールドタイプを「しがらみに魂をしばられたひとびと」であるとすれば、
クワトロはまさしくこの部類に入る。のちのちまでスペースノイド全体を覆う
シャア・アズナブルの虚像部分は、多分にかれの演技力が大きくものをいって
いる。高度な演技は人を高め、その価値を大きくする。ましてその人物が革新
者の遺児であり、悲運の貴公子であるならばなおさらであろう。
 エレベーター内でクワトロは、敵にひきこまれてしまったという言葉をカミ
ーユに述べている。こういう「感覚」や「ひっぱられる」といった一種観念的
な感じ方が当然のごとく振りまわされ、物語の進行に重要な部分をなしていく
のが「Zガンダム」という作品であり、その鋭敏な感覚と空気を熟知し理解す
るという作業あってこそこのZは光る。
 一般に富野作品は難解であるといわれるが、「鋭敏な感性と現実の人間にち
かい行動と考え方をするひとびと」といった要素で見てやればそれほどの困難
さはないようにも思われる。現実への対処や行動は困難をともなうことがある
が、セルで描かれた世界もまた、同じようなひとびとの住む世界である。むし
ろ、西洋でいう「絶対神」のように神はすべてを知りたもうということ(つま
りはすべてを把握している)はむしろいかがわしく、異常でさえあるのだから。
 余談がすぎた。
「のどがかわいた」
 ロザミィは自販機のスイッチを押した。シンタとクムにも買ってあげるつも
りだったが、ファが阻止したため自分の分だけを購入する。
 彼女は炭酸飲料が大好きだったが、自然にえらんだのは゛ダイエットコカコ
ーラレモン゛だった。やっぱりカロリーは気になるものらしい。
 そばに二人の警官がいるにもかかわらずしきりにファたちに話しかけてくる。
警官の視線がそそがれたが、ロザミィはいっこうに気にしなかった。
 ファが居心地の悪い空気を感じていると、ドアがひらき、赤いヘルメットを
もったクワトロがあらわれた。
「クワトロ大尉。百式のパイロットですね」
 めがねをかけた警官に応じるクワトロ。
「警察署までご同行願おう。艦長の許可はとってある」
 承知している、とかえしたあと、クワトロはジュースを飲んでいる見知らぬ
女性に気がついた。すぐに全身をながめる。
(ハマーンよりいい身体をしている)
 そんなことを考えたが、すぐに思考をかえて、
「あの娘(こ)は?」
 とカミーユに問うた。 
「カミーユの妹ですって」
 エマが答えた。事情あって……と、カミーユの言葉がつづく。
 どうみても妹には見えない。姉といったほうが正確ではないのかと思うほど
だったが、
「お兄ちゃんも飲む?」
 とロザミィがカミーユにいったとき、クワトロはなにごとかを感じとったよ
うだった。
「ひっかかるんですか?大尉」
 エマも察しているようだったが、まだ漠然としていたためか、
「そうだな……」
 と答えただけだった。
 当のロザミィ、その場の空気などおかまいなしにお兄ちゃんにひっつき、カ
ミーユに飲ませようとする。猫のような二人のじゃれあいに、さすがのファも
イライラがおさえきれなくなった。ガマンにもほどがある。
「理想の恋人はそういうことを許さないの」
 割って入った。ところがロザミィ、なおもマイペースをくずさず、
「あたしはいいのよ、ほら」
 とさらにカミーユの飲ませようとするのだった。
 いつの間にか、居ついている。
 いや、居ついているというよりも、それを自覚するだけの自我すらもたされ
ていないということか。
「あたしのよー」
 シンタ・クムと一緒になってロザミィはハロを追いかけまわしている。大人
気ないとはおもっていないらしく、シンタとクム以上の熱心さでハロを追う。
ペットロボット・ハロの魅力はここで語るのは本筋からはなれてしまうので述
べないが、問題はハロにあるわけではない。
「ヘンよ、やはり」
 エマがカミーユにいった。どうみても不自然だ。一つ一つの行動が、まるで
誰かにつくられそれがインプットされて動いているような……。
「あっ、お兄ちゃん」
 ついにハロを独り占めすることに成功したロザミィは、シンタの一言に即座
に反応して今度は゛お兄ちゃん゛をターゲットにすべくとんでゆき、エマとフ
ァの目の前でカミーユに抱きついた。猫が飼い主にじゃれるようにカミーユの
頬に自分の顔をくっつけ、ナデナデする。となりにいたファはムッとしたが、
どう手をつけたらいいのか。
「エマ注意を紹介するよ」
 と、ロザミィにいった。その瞬間、ロザミィの内部に微妙な変化がおきた。 
250:04/02/19 10:26 ID:???

エマ注意→中尉に訂正しまつ
 それはまるで、痛めつけられている子供や動物が加害者に哀願するような感
じだ。
「……」
 おびえるような目でロザミィはエマをみつめる。エマもえたいのしれないも
のを感じ、心が動揺した。
(いったい、なんだっていうの)
 ロザミィはすぐに目をそむけたが、エマの中にはまだモヤモヤとしたものが
のこっている。彼女からすれば、初対面なのにそういう不可解な態度をとられ
ること自体、常識からはずれている気がするのである。こちらがなにか失礼な
言葉や態度をとったのならともかく、一言のあいさつもなしに顔をそむけるな
ど、正気ではない。
「大丈夫、エマさんはやさしい人だ」
 優しくカミーユは諭した。その言い方はちょっと゛お兄ちゃん゛である。
 しかしロザミィは、なおもエマへの警戒をとかず、強くカミーユの胸の中に
顔をうずめた。
(なにに、おびえているの?)
 ファには、よくわからない。というより、この場にいる誰もがその異常さに
気づいているといったほうが正直なところだろう。
 ロザミィは、イヤイヤしながら、
「ちがうわ」
 なにが、ちがうというのか。
「この人は」
 必死になって言葉をしぼりだしたが、こわいといってその場に倒れこんだ。
失神したわけではなく、単にしゃがみこんだといったほうが適切ではあるが。
 それでもガマンしきれず、身体じゅうをガクガクふるわせながら、「この人
イヤ」「さわらないで」と悲痛な叫びをあげつづけた。
 らちがあかないと思ったエマは、カミーユに自習室で休ませてと言い、その
場をあとにした。落ち着かなければ話もできはしない。
 カミーユは解(げ)しかねている。いったいロザミィは、なににおびえてい
るのか。かれなりに思考をめぐらしたが、すぐに答えが出るほど簡単な課題で
はなさそうだ。
「ファ。自習室へ連れてってやって」
「えっ」
「ファの言うこと聞くんだよ。いいね」
 ロザミィをファに推しつけて、カミーユはエマのあとを追った。
 後年、ファはK社刊行「グリプス夜語」で、

 こういうことはほとんどが私の仕事のようなものでした。つまり子守りとか
家庭的なこととか。
 ロザミィの件についても、つれていくくらいならカミーユにだってできると
思うし、げんにそう言おうともしたんですけど、やりこめられてしまって。
 私はパイロットとしては能力不足でしたし、レコアさんのように強くなかっ
たから、仕方ないなとも思っていたんですけど、どうしても背伸びをしたいと
きってありますでしょう。男だから恥ずかしいとか、女だからこれをやらなく
ちゃいけないなんて、どうしても納得できなかったし不満だったんです。
 ゛いつでも、どんなときでも男らしくありたい゛と思いこんでカミーユは行
動していましたから、このときの発言もかれからすれば゛普通゛の感覚なんで
す。ほら、男性を社会的・心理的側面からみると「ドライ」「独自路線をとる」
「自立心がつよい」というのがありますでしょう。だからカワイイって思えた
んです、かれのことが。とても子供っぽいから。
 ロザミィも、そういう子供っぽさをカミーユに感じたから、ああいう接し方
をしたのでしょうか。あの大人への嫌悪は、ちょっと異常だと思いましたけど
も。

 彼女はこのグリプス動乱を通じて男女間の性差について強い関心をもち、後
に看護婦長として後進の育成にあたるときもこのジェンダーの問題と本当の意
味の男女参画社会をつくるべく貢献をしている。
 ファの場合は、゛物事を従来の枠組みやあたり前とされている常識でくくる
のではなく、あくまで自己の考えと決断で行動をし、決定していくこと゛こそ
最大の美徳としているむきがある。ゆえに公(おおやけ)の判断よりも、いい
意味での私(し)を重視している部分が強い。彼女の夜語(よがたり)の中で
カミーユについで出てくる女性として、レコア・ロンドがあり、さらにそのレ
コアと対になって比較される女性としてエマ・シーンがある。
 彼女のエマの印象は、しっかりとした人であっても共感できうる人物ではな
かったようで、この「グリプス夜語」のなかでもエマ・シーンの話題について
はさらりと流されていたり、賞賛もされていない。
 一般的な二人のイメージは(特にスペースノイド社会では)当然のごとくエ
マのほうに人気や同情が多く、反対にレコアは印象がわるい。このことは、レ
コアが単に卑劣きわまりないティターンズに鞍替えしたというだけでなく、イ
イ男に乗りかえ都合によっては自分の身体さえも捧げてしまうという節操のな
さからきているともいえる。
 普通ならばエマのほうに支持がかたむくだろうし、その理解がもっともひと
びとに通じやすいとも思えるのだが、のちに同僚の看護婦から両人について訪
ねられたときファは、
「レコアさんのほうが、女性らしい人でした」
 と答え、不審がる同僚に対しレコアがいかに自立した女性で、よくできた人
であるかを熱心に説いているのである。そのいれこみ具合は尋常ではない。
 自習室に向かう途中、頭が痛くなった。だがその直後にファが聞いた言葉の
ほうがきわめて不明瞭だ。
「お願い!お兄ちゃんのことあなたのことなんでもいいわ。私に教えて」
 とっさのことゆえ、ファには理解できない。どうしたの?と聞いてみると、
「独りではこわいの。それだけのことよ」
 ロザミィの顔にうっすらと冷や汗がうかんでいる。
 自習室で待機していたが、すぐに戦闘がはじまった。あわただしくなる艦内。
ティターンズのコロニーレーザー偵察につぎつぎとMSが発進していく。ファ
も出撃準備にむかった。
 ロザミィの中に、なにかが胎動しはじめていた。つき動かされるような衝動
がロザミィ自身をアーガマの格納庫へと急がせた。ようやく視線の先にRMS
ー099リック・ディアスがみえたとき、ロザミィはもだえながらその場にす
わりこみ、ふるえる身体を両手でおさえつけながら、
「私……戦わなくては」と独り言をいった。
 MSがほしかった。自分の、自分が存分に腕をふるえるMSがどうしてもほ
しい。
 ファがそばに寄ってきた。ノーマルスーツを着用している。
「身体のぐあいでもわるいの?」
 さらにロザミィによびかける。すると、
「お兄ちゃんよ」
 とロザミィは返答して、ファの胸のなかに顔をうずめた。ふるえはとまって
いない。
 ファはやさしく抱きしめたが、ロザミィの心中、さきの一点にのみ集約され
ている。
(だれか私に、MSを)
(大人のやり口だな)
 反撥があった。レコアの裏切りを、大人の事情だけで安易に片づけ、だれも
彼女のことをわかってやれる人などどこにもいなかったではないか。
 理念と感情は合致していてこそ良識ある人間だと、エマさんはおもっている
のだろう。しかし、そんなに都合よく合致できたり、主義だけで渡っていける
のならなんと社会は単純なことだろうか。アーガマの空気は息苦しかったから、
肌に合わなかったから、レコアさんは鞍替えしたのではなかったか。
 クワトロとてそうだろう。あれではエマさんよりひどいじゃないか。自分に
はまったく関係ないかのような態度を決めこんでいる。少しはいたわりの一言
くらいあってもいいはずなのに。
(いくら修正しても、大人は大人だな)
 裏切りはよくない。ティターンズもよくない。だがレコアには、他にどうい
う選択がありえただろうか。戦争しか知らない彼女が、ほんとうに幸せを実感
できるのは市民レベルの仕事ではない。彼女は戦争でしか、それにかかわるこ
としか「私らしさ」を発揮できないのだ。それをわかってやれば、今ごろはエ
ゥーゴの一員として、作戦室で打ち合わせをしていたはずだ。
 イライラをかくしきれず、部屋を出た。そこにファがいた。カミーユのする
どいまなざしがファの全身にそそぎこまれる。
 少し威圧を感じた。ファは後ずさりしながら、
「どうするの?」
 といった。
「僕はレコアさんには会っていないんだって」
 刃物のような鋭い言葉だ。ファは意味を解しかねてさらに聞いた。
「どういうこと?」
「都合のわるいことは忘れろってさ」
 いいつつ、カミーユは両腕でファを抱きしめ顔と身体を密着させて壁に押し
つけた。
 流れてゆくあいだ、ファの胸がカミーユの身体に触れた。
「みんながそういうの?」
 緘口令(かんこうれい)をうすうす察したファ。壁にぶつかり、二人は視線
を合わせたまま立ちつくした。
 カミーユの手が、ファの背中の部分から肩の部分にシフトする。やわらかい
感触がつたわってきた。
 しばらく無言でいた。
「なによ」
 ファがいった。
「ファだけは、子供の顔してるな」
 ばかにしているのか、どうか。
「ちがうよ。ほめてるんだよ」
 ファの反撥に言いかえすカミーユ。かれはファの目線が自分と同じ位置にあ
るかどうか、確認したかったのだろうか。
「お兄ちゃん」
 おびえながらカミーユのもとへとびこんでくるロザミィ。すぐにカミーユの
うしろに隠れる。
 その原因はハサンにあった。ハサンはカミーユに説明した。
「君からも言ってくれよ。こわくない、すぐ済むって」
「?」
「イヤ。私どこもわるくない!」
 どうやら、ロザミィは診察を拒否しているらしい。
「艦長命令なんだ。この娘(こ)の身体を調べろって」
 その次の言葉がカミーユにはひっかかった。ロザミィが強化人間かもしれな
いというのである。
 ここでハサンについて多少述べておかねばならない。
 ハサンは、強襲用宇宙巡洋艦アーガマの軍医。
 月面都市フォン・ブラウンの出である。
 かれは養子だが、養父が医師だったために医師のみちをえらんでいる。それ
も武侠肌な性格だったためか、軍医の方向へすすみ一年戦争では前線に勤務、
多くの兵士たちのサポートやメンタル面でのケアをした。ルナリアン出身のれ
っきとした正規軍軍医として定評があった。
 酒は多少たしなむが、社交的なわけではなく、また一年戦争後台頭してきた
新保守派の流れに乗ることも加わることもしなかった。
 ハサンはあくまで一介の医師の立場に固執した。
 宗教・歴史にも造詣が深く、また極論的宗教の本質を見抜いていたという点
で当時稀有な存在であった。
 連邦正規軍医であったかれがエゥーゴと接点をもったのは宇宙世紀0085、
襲撃された連邦軍准将ブレックス・フォーラを診察、介抱したことがきっかけ
だった。当時反ティターンズの急先鋒であったブレックスは軍拡批判やネット
ワークを駆使して現状を刷新しようとしていたが、いかんせん少数派で地球至
上主義に凝り固まっていた連邦政府を変えることはきわめて困難だった。
 正規軍でもブレックスへの協力を控える者たちがほとんどであった。ティタ
ーンズへの配慮からである。
 ところがハサンは動いた。独断でブレックスへ処置をし、手配をした。この
一件は同僚や連邦正規軍からすさまじい非難をあびた。大々的に新聞やマスメ
ディアからも、
「反政府活動を助長させる軍医の行動」
 と広く喧伝された。
(本当に間違ってるのは、どっちだろうな)
 とかれは強くおもった。絶対民主制を謳(うた)っているはずの連邦政府が、
このような旧世紀のファシズムのごとき統制と異分子排除をしているのである。
自由や議会制民主主義などうそっぱちではないか。
 ジオン残党のコロニー落としの挙は、ハサンにはいささかも同情できなかっ
たが、その反動たるティターンズにもまったく同意できなかった。
 地球至上主義・アースノイド絶対という理念で縛ることは、歴史を逆行させ、
ひさんな未来をつくるだけだ。
 創設者であるジャミトフがフリーメーソン信者であるということはハサンも
知ってはいた。となれば当然、理想郷建設のためにあらゆることをやるだろう。
絶対的価値の成就のためにはあらゆる悪が肯定される。よりによって民主制を
バックにした強大な暴力装置が政府内にできあがってしまうとは。
「君の判断は素晴らしいよ、ハサン先生」
 命をとりとめたブレックスはハサンにいった。妙にブレックスとはウマがあ
う。なぜだろうか。
「手当てがなければ、私の一生は終わっていただろう」
「私からも感謝します、先生」
 傍らのヘンケン・ベッケナーがいった。
「いや、最善をつくしたまでです」
「どうだろう、私たちに協力してはもらえんかね」
 そのブレックスの一言がハサンの運命をきめた。
 そして現在、アーガマの軍医となっている。
 手当ては正規軍よりもすくない。だがハサンには充実感があった。この空気、
宇宙の感覚こそ、ほんとうに居心地のよい場所なのではないか。
(それに禁煙も徹底している)
 エゥーゴの良さのひとつに、禁煙がすみずみにまでゆきわたっていたことが
あげられる。アーガマもアイリッシュ級宇宙戦艦ラーディッシュもじつにきれ
いで清潔だった。
 連邦正規軍においては喫煙はとやかくいわれなかった。名将として名高いレ
ビルはヘビースモーカーとして知られているが、それ以上の双璧とうたわれる
のがダグラス・ベーダーとジャマイカンの父で連邦軍士官学校最年少卒業の記
録をもつロドニー・カニンガン准将がいる。特にハバナ産の葉巻を好んで吸い、
その喫煙量はレビルの比ではなかったともいわれる。
 ティターンズもこの点あまり変わらない。
 ハサンは煙草が大嫌いであった。こういう点も、かれのティターンズ嫌いを
助長させたとも思える。
 エゥーゴのメンバーのなかでは、クワトロとロベルトが少量だが喫煙家だっ
た。だがブレックスの意向で、できうるかぎり喫煙を控え、喫煙室の使用もす
くなくするようにとの布告が出て、エゥーゴの出資者たちを困惑させた。ウォ
ンなどはヘビースモーカーの部類に入るが、艦内ではブレックスなどの目があ
ったため極力控えていたという。
 煙草は旧世紀、アメリカインディアンが吸っていたものを新大陸を発見した
コロンブスがヨーロッパに持ちこんだことで、あっという間に全世界に拡がっ
た。
 なぜ拡がったかについては、煙草の麻薬的な効果にその原因がある。
 大脳の中心近くには直径約2ミリという非常にちいさい゛側坐核゛という部
分がある。この部分は人間の意欲をつかさどる重要な場所であり、これが活性
化すると「やる気」が出てくる。幾多の実験から煙草を吸うと、その瞬間、側
坐核が興奮をする。煙草の煙の中に含まれているニコチンは、脳の側坐核とい
う部分に刺激を与える働きがあるのだ。
「本来は、脳のいろいろな部分のさまざまな精神活動の結果、それが刺激とし
て側坐核に伝えられ、やろうという意欲がうまれる」
 ハサンはアーガマ乗艦後、喫煙量の増えていたクワトロにこう諭す。
「それがまた脳全体に伝えられ、人は学ぼうとしたり仕事をしたりといった行
動に邁進してゆく」
 ところが、
「煙草のニコチンは、こういう精神活動をいっさい跳躍して、直接的に側坐核
を刺激してしまうんだ」
 つまりはインスタントな方法で、やる気も持続しないし健康も損なわれる。
ことに精神状態が悪くなり不安が増大すると、必ず喫煙量が増える。
「一瞬のためだけに喫煙しても大事は成せない。わざわざ発ガン性物質をとり
こむことをするよりも、やるべきことはたくさんあるはずだ」
「先生はよく患者をみておられる。感服した」
 これ以降、クワトロはほとんど喫煙することはなかったといわれる。
 酒については「百薬の長」ということで許可されていたが、当然未成年には
禁止していた。ちなみに酒豪として有名だったのはヘンケンとウォン、サエグ
サあたりだが、レコア・ファも飲める方だったらしい(これについては諸説あ
る)逆にアストナージ、シーサー(アーガマの通信士)は下戸だったらしく、
カミーユ・トーレスはあまり飲める体質ではなかったようだ。
「カミーユ。レコアさんのこと」
 語尾がきられているが、ファはこうつけ加えたかったにちがいない。まだ気
になってるの?と。
 カミーユはエレベーター内の壁に頭をぶつけて、
「心配すんなよ。落ちこんじゃいないよ」
 とは言ったものの、ファからみれば十分すぎるほどに落ちこんでいる。かれ
はウソがつけないのである。
 一般に蠍(さそり)座の人は用心深く内面的に強烈な激しさをもち、恋愛に
関しても一途でまた思い込みの激しさから嫉妬心も強い。しかもその本音の部
分を態度や表情にあらわすことはない。かれは11月11日生まれなので、星
座は蠍座なのである(偶然にもアムロ、筆者も蠍座であったりする)
 突然、大声がして重い空気がやぶられた。クムの声がエレベーターの中にい
る二人にひびく。ロザミィが解剖されちゃうというのである。
 その「診察の対象」たるロザミィは、ムリヤリ診察台の上におさえつけられ
ているが、シンタとクムの誤解同様、ロザミィも解剖されまいとジタバタジタ
バタしている。まことに滑稽なことだが、この場面を一見してみると単なるヤ
ブ医者の嫌がらせか諧謔にしかみえない。しかしおさえつけるハサンの側は必
死だった。適切な精密検査をおこなうためには、患者にじっとしておいてもら
わねばならない。
「シンタ、クム!脚をおさえてくれ」
 なおもロザミィ、白く長い脚をバタつかせもがく。しまいにはおさえつけて
いるハサンの腕を噛んでシンタとクムのうしろに隠れた。
 タイミングよく、カミーユとファが入ってきた。
「ハサン先生」
 まさかと思いながらも、きいてみる。
「ロザミィを解剖するんですか?」
「ばかをいいなさい」
 噛まれた腕が、痛い。
「この子たちはさわぐだけで何も手伝わん」
 そのハサン先生に対し、シンタが主張する。
「先生はロザミィ姉ちゃんを人体解剖するって言ったんだぜ!」
 大きな勘違いに、ハサンは大声でただの精密検査だ!と叫んだ。まったく、
ロザミィには手を焼かせられる。
 事情をきいたカミーユはロザミィに手をさしのべたが、
「イヤ!」
 と、ロザミィは拒絶の態度をしめした。手をはらいのけ、まばたきをくりか
えす。
 カミーユは優しく諭すことにした。
「ロザミィ、君はずっとアーガマにいたいんだろ。だったら、ハサン先生に一
度調べてもらわなくっちゃ」
 まっすぐにロザミィの目をみつめながらいう。ロザミィはちょっとさびしそ
うにカミーユの視線をそらしたあと、どうしてさ、と返す。
 カミーユは少し言葉につまったが、
「お兄ちゃんとずっといたいんなら、そうしなくっちゃ」
 そばにいるファ、やっぱりそうなるだろうと予想していたが、案の定最後は
抱いて落ち着かせる手をカミーユはとった。
(いくらなんでも、こんな露骨にやらなくても……)
 腹が立ったが、ロザミィを検査させなければしょうがないのでだまっていた。
 ロザミィをその気にさせたカミーユ、ハサンのいう「トントンするだけ」の
一言とクムをあやす方法でついにロザミィに火をつけることに成功した。
 ハサンに呼ばれ、素直にハーイと返事をしてクムとロザミィは診察台に仲良
くすわった。それをみたカミーユとファは出ていこうとした。
 ロザミィ、クムが上着をあげたのを見、勢いよく自分の服を両手であげ、胸
元と腹部を露出させた。ふとロザミィは゛お兄ちゃんがいなくなってしまうよ
うな゛気配を感じて胸元を露出させながらうしろを振り向き、カミーユにどこ
にいくの?と問いかけた。
 ロザミィの乳房が、遠くながらカミーユにみえた。パッと脳裏にうかんだの
は、地球・キリマンジャロのときのフォウ・ムラサメの肢体だった。フォウの
乳房は大きくはなかったが、かたちのいい゛おわん型゛で美乳であったのを今
でも鮮明におぼえている。
 しかしそんなことはこの場ではいえない。カミーユはロザミィに対し、
「ロザミィがよく診てもらうまで、僕は仕事しないと怒られるんだよ」
「あとで迎えにきてね」
 ロザミィの言葉にカミーユ、ちょっと鼻の下がのびる。これは筆者の推測で
しかないが、かれは尻よりも胸のほうが好きだったのだろうか。
 そのいやらしい態度にファ、怒りをあらわにしてカミーユの髪をひっぱり強
引に外に出た。その態度、いかにもファらしい。
 このあと、カミーユは格納庫へむかいZガンダムのもとへ降りた。どうだ、
とクワトロ大尉が話しかけてくる。
「あの娘の精密検査の結果は?」
 クワトロが気にかけていることだ。カミーユが始まったばかりですからと答
えると、クワトロはそうかと言ってZのコクピットで整備作業をしているアス
トナージの背中を見た。クワトロは口数自体は少ないがじつのところかなり気
になっている。カミーユもうすうす察してはいるが、結果が出ていない以上と
やかくいえないため、しばらくだまっていた。
 クワトロはこういう状態のときは必ず華麗で意味深な台詞をいう。それも一
言で象徴しえる言葉を。
「いい娘でも、味方とは限らんのだぞ」
 そのまま、クワトロは百式に流れていった。このときのカミーユにはその言
葉の意味が理解できなかった。こういうとき、クワトロはほとんどといってい
いほど意味を説明しない。
 整備がおわると、カミーユは待機中にもかかわらずZガンダムをとび出した。
すぐにでも精密検査の結果を知りたい。
 扉をあけると、ロザミィが一番に口火をきった。
「あたし、なんともないってさ」
 ロザミィをみたカミーユは、彼女が上半身裸であることにおどろいた。なる
べく、胸はみないようにする。ロザミィ、カミーユの肩をつかみ、一人ウキウ
キする。
「どうでした?」
 ハサンにきくカミーユ。
「まあな」
 なにか、ありそうだ。
「ねっ!なめる?」
「えっ?なにを」
 どこをなめるというのか。
「これ」といって、ロザミィは舌先に乗せている赤い飴玉をカミーユにみせた。
ちょっとホッとした。この一言に近いような言葉を、かれはかつてフォウから
聞いたことがあったからだ。もっとも、そのなめる対象はまったくべつの部分
だったが。
 そんなことよりも、早く結果の詳細が知りたかった。確認するように「いい
んでしょ」とハサンに問いかけるが、ハサン自身はむずかしい顔をしている。
ここでは言いにくいのであろう。
 ロザミィ、いらないとカミーユに言われたのにもかかわらず、上半身裸のま
ま動きまわり、ついに目標の飴玉を発見し、手にとった。  
270通常の名無しさんの3倍:04/02/25 21:57 ID:???
保守
 飴玉を見せながら、
「あったよ!お兄ちゃん」
 と、強引にカミーユになめさせようとするロザミィ。単純にみればワガママ
だが……
「いいよ」
 こんなときに、甘いものなどなめたくはない。ロザミィ、うつむいて、
「キライなの?飴」
 と、かなしそうな表情をした。
(やっぱり、マズかったかな)
 そう思ったカミーユは不本意ながら飴をなめることにした。
 アーンと、カミーユの口に飴玉が入った。なめてみるがあまりおいしくない。
「僕は出撃があるから」
 おとなしく待ってるんだよと言うカミーユ。
「出撃?」
 なにか、ひびくものがある。カミーユの一言がロザミィのある部分を刺激し
た。頭の中にうかんでくるものは漠然としていてよくわからないが、なにか、
なにかをやらなければ、急いでしなければならないことがあるはずだ。
 ロザミィは服を着ながら考えこんでいる。上着をはおろうとしたとき、ふと
思った。
(さっき、パイロットスーツって言ったよね、あたし)
 どうしてあんなことを口に出したんだろう。それがどう自分に関係するとい
うのか。
 深く考えようとするが、考えれば考えるほど頭が痛い。強く手で頭をおさえ
つけるが、痛みはいっこうにひかなかった。
 艦全体に流れている警戒音が、頭の中にイヤというほどひびいてくる。ロザ
ミィにとっては不協和音としかいいようのない音だった。
 机の上には、購入したハンバーガーとドリンクが置かれている。となりにす
わっているシンタとクムはおいしそうに食べているが、ロザミィは食欲すらわ
かない。
「お姉ちゃん食べないの?」
 クムがきいた。食べかすが口のまわりについている。ロザミィは食の話題に
はふれたくなかったため、イヤな音だ、と思っていたことをつぶやいた。クム
はすぐにロザミィにいう。あれ、MSが出る合図よ。
「ああ……そうか」
「カミーユのZガンダムが出るの、カッコイイんだから!」
 シンタが無邪気にいう。男の子はたれでもマシンが好きなものだ。
「カミーユ!?Z……」
 ロザミィは、なにかを思いだしたようだった。そのなにかをやるために、ま
ずしなければならないことがある。
「あたしだって、MS乗れるよ」
「うそー」
「うそじゃない。いつもみんなに上手って言われてたもん」
 みんなとは、北米・オーガスタ研究所のひとびとを指すのだろうか。
 このときのロザミィは、ほぼ強化人間としての任務を思いだせていたと考え
られる。彼女はMSを手に入れ、Zを落とすためにシンタとクムを煽った。そ
うして格納庫へとむかったのだが、このあたりは断定はできにくい。単にお兄
ちゃんの手助けをしたいがために向かったといってもおかしくはなさそうだか
らだ。  
 当のカミーユ、このことをまったく知らないままサイド2・21バンチにむ
けZガンダムで出撃した。武装はハイパーメガランチャーである。
 クワトロも百式で出撃しようとしたが、ブリッジ・クルーのトーレスから、
ハサン先生が用があると聞き、回線をつないでもらった。
「ハサン先生。クワトロだ」
「おお、大尉」
 内容は、クワトロが予想していたとおりだった。細胞から薬物反応が出たと
いう。すぐに収容したいのだが、肝心のロザミィが見あたらないという。
「クムとシンタはいっしょじゃないのか?」
「たぶん、いっしょのはずだ」
「わかった。すぐ行く」
 クワトロは百式のコクピットを出て、ブライト艦長に事情を話したうえで、
ハサンとともにロザミィたちを探すことにした。
 ブライトの命が、マークUのエマに伝えられた。MS隊の指揮をクワトロに
代わってエマが執るのだ。
「大尉はいったいどうしたんだ?」
 カミーユは不審におもった。 
 ロザミィたちは格納庫についたが、ハサンとクワトロがあちこちを調べまわ
っている。
「どうしよう」
 悩むロザミィに、シンタが妙案を出した。クムと自分がオトリになる、その
間にロザミィがMSA−003ネモに乗りこむのである。子供らしい頭の良さ
だった。
「ほら」
「何やんのさ」
 クムがシンタにいう。
「お前逃げんの。おれおっかける」
 それを聞いたクム、ふくれた顔で、いっつもあたしが悪役だと不満をいった。
さらにあたしがおっかけるとシンタにいうと、
「遊びじゃないんだぞ」
 と返された。
「そうよ。お兄ちゃんを助けるんだから」
 ロザミィもシンタに同調したため不満ながらもクムは立ちあがり、゛ワルモ
ノ゛になった。そのワルモノを追いかける゛イイモノ゛のシンタ。そのまま、
ハサンの気をひくことに成功した。
 ロザミィはヘルメットをかぶり、ハサンが気をとられているうちに乗りこむ
べく、ネモへと跳んだ。むかうロザミィをクワトロはとらえた。叫ぶクワトロ。
銃をとりだして撃つが間に合わず、ロザミィはネモのコクピットに入りこむこ
とができた。
 ロックをかけ、操縦席にすわってレバーをにぎってみる。自分が知っている
のとはずいぶん違うようだ。
「だけどこんなもの」
 パネルを外して配線をチェックするロザミィ。ひとさし指で赤・青・オレン
ジの配線をなぞり、しばらく確認していたが、この機体がシンプルなMSであ
ることが理解できた。
 ネモの手が動いた。エレベーターが動き、ロザミィのネモが上昇する。とこ
ろが、クワトロの命令でエレベーターが途中で停止させられてしまった。あれ!?
ヘンだなぁ、どうしてとまっちゃったんだろう。
「しょうがない」
 ロザミィはネモの全身をあげて上の階へと移し、手動で扉をあけてアーガマ
の外へ出た。むろん、ハサンの声はとどいていない。クワトロは宇宙で事をお
さめるため、百式で出撃することにした。つくづく手を焼かされる。
 ネモで宇宙に出たロザミィは尋常ならざる安定さを保ちつつ21バンチの空
域にむかっている。百式で追うクワトロはロザミィによびかけた。
「戻れロザミィ!戻らなければ撃つぞ」
「撃つだと」
 撃てるものなら撃ってみろという気持ちでいたのか、どうか。
 クワトロは撃墜してはまずいために、ネモの脚部を狙うため照準を合わせ、
ビームライフルを撃った。ところが、ロザミィのネモは背後から撃たれたにも
かかわらず、二発ともまるで予知したようにさらりと回避したのである。まぎ
れもなく、強化人間でなければあのようなMS操縦はできない。
(あれだ!あれが、お兄ちゃんのMS!)
 毒ガスの風がふいた21バンチ付近で、PMX−000メッサーラと戦うZ
ガンダムをロザミィはついに確認した。ライフルを撃ちこみ、メッサーラを追
いかけようとするZガンダムの脚にしがみつくロザミィのネモ。
「まっすぐにこれちゃった。お兄ちゃん」
 カミーユにはわけがわからない。どうしてロザミィがここまでネモで出撃し
てくるのか。
 隙をついて、ティターンズのハイザックがビームライフルで攻撃してくる。
ロザミィはおもしろがりながらネモの照準を合わせ、ビームライフルをハイザ
ックに向けて撃った。カミーユがおどろいたことに、ビームはすべて一機のハ
イザックに命中し、瞬時に撃墜された。こんなことが、ロザミィにできたのか。
 さらにおどろいたことは、こちらの呼吸に合わせた動きをしていることだっ
た。絶妙な間隔で、ピッタリとうしろについている。初めて乗る人間にはでき
ない芸だ。
 だが、カミーユはロザミィが強化人間だとは思いたくなかった。信じたくも
ない。ハサン先生は可能性があると言っていただけで、確定したわけではない
はずだ。
 住民が死にたえた21バンチ・コロニーに入ったZガンダムとネモ。そこに
降下し、Zガンダムから降りたカミーユはロザミィに、ここでじっとしている
こと・動いてはいけないこと・バイザーも開いてはいけないと三つ、約束事を
させた。
「なんで?ここのコロニーヘンよ」
 もう、人が住めなくなってしまった。そこに住んでいたひとびとも、二度と
よみがえらない。口もきけない。
 すぐそばに、男の子らしき死体が横たわっていた。ロザミィはそばに駆け寄
って、ねっ、どうしたのとその死体を抱きかかえた。顔を見るとシンタではな
かった。しかしロザミィには、この子の身になにが起こったのかよくわからず
はげしくゆさぶりながら、
「あなた、起きてよ。ねぇ」
 としきりに話しかけた。反応はない。
「ロザミィ、死んでいるんだ。もうよしなさい」
 カミーユはいうが、ロザミィは゛死んでいる゛状態がまだわかっていないの
か、ほら、起きてってばと、男の子の死体をゆさぶりつづけた。そこへ、ハイ
ザックがまたもや襲撃してくる。
「お兄ちゃん……」
 カミーユのZガンダムが上空に翔(と)び、ロザミィの目の前で戦闘が展開
される。このハイザックとZの戦闘は、ロザミィを真に目覚めさせることとな
った。ついにロザミィは、悪しき記憶――宇宙(そら)が落ちる――と使命を
思いだしたのである。
 もう一機のハイザックを撃墜し、カミーユがZガンダムをロザミィのほうへ
向けると、ネモのビームライフルの銃口がこちらへ向けられていた。異変を感
じた。いったいなにがあったというのだ。
「Zガンダムは宇宙を落とす」
 低いロザミィの声がきこえた。
「お前は敵だ!」
 すぐにビームの攻撃がきた。カミーユはZガンダムのシールドで攻撃を防い
だが、彼女の豹変がまったく理解できずにいる。
「私はロザミア・バダム中尉だ。私の使命はZガンダムの破壊と、その抹殺!」
 言い放ち、ネモのビームサーベルを形成してZに斬りかかった。回避したZ
ガンダムは翔ぶが、反撃することはできない。
「やめろ、ロザミィ!」
 だがネモの攻撃はやむことはない。21バンチを飛びだしたZを、エマのマ
ークUが発見し、追撃してくるロザミィのネモに向けてビームライフルを放っ
た。やめてください、と叫ぶカミーユ。
「わかっています。ティターンズの強化人間、アーガマから情報が入ったわ」
 とはいうが、彼女の論理からすれば撃墜しようとしていることは明白だった。
かれはなおもロザミィを信じている。あれは、あれはロザミィなんだ!たとえ
強化人間だったとしても、エゥーゴでならロザミィを治せるんだ。
 ロザミィはZとマークUどちらを先に撃つべきか悩んだが、ティターンズか
らの通信がきこえてきたため、そっちに帰還することにした。もう、エゥーゴ
の白い艦(ふね)には用はない。
 カミーユはZを加速させてあとを追おうとした。そのZをマークUでさえぎ
るエマ。
「やめなさい!追ってどうなるの」
 悲しみと苛立ちがカミーユに充満した。叫び声をあげて前面のパネルを叩き、
グッと拳に力をこめ嗚咽(おえつ)をもらす。なぜだ、なぜこうなってしまう
んだ。
 カミーユの慟哭をメタスのファも感じていた。バイザーをあけてみるが、詰
まったような苦しさはいっこうにきえない。
 ドック艦ラビアンローズにて補給を受けたアーガマは、戦艦ラーディッシュ
とともにサイド2へ向かっている。
 カミーユはハサンの部屋へ向かっている。軍医の部屋の扉をあけようとした
とき、うしろからエマに呼びかけられた。お互い、強化人間のことが気になっ
ているようだ。
 ハサンの部屋には、クワトロとファがいた。
 ちょっと腹立たしい気持ちがカミーユにある。ロザミィをとめていてくれさ
えすれば……という気持ちだが、これは言っても詮無きことだ。結果をみてな
じるのは誰にでもできる。
「ロザミィが強化人間だというのは、たしかなのですか?」
 エマの質問に、ハサンは説明をしはじめた。
「一般的な筋力強化剤は検出したし、チタメトロチメイン漬けになっているこ
とも発見した」
 チタメトロチメインとは、対放射能剤のことである。それも異常すぎるほど
の量だという。
 カミーユはまわりくどいことは嫌いだ。
「先生。強化人間なんて作って、いったいなんになるんです?」
 かれらしく正面から斬りこんだ。答える側としては少々やっかいな相手であ
る。
 のちに復活後、カミーユの全般的な師の立場となり、医師として月都市の病
院経営のノウハウを伝えることになるハサンも、カミーユの直情的な言動・行
為には内心閉口したらしい。
 ハサンはしばらく考えてからカミーユに言った。慎重に言葉をえらんで話さ
なければならない。
「医師というのは、可能性にチャレンジするチャンスを待っている人種でね」
 吟味して喋ったつもりだが、カミーユは声を大きくしてくらいついてきた。
かれからすれば、大人の都合など論外とかおもえない。
「他人の身体なら、どういじりまわしてもいいっていうんですか」
 ところが、クワトロがハサンより先にカミーユに説こうとしたのである。ま
るで強化人間育成を一つの手段として認めているかのように。
 強化人間育成を頭から認めないカミーユは席を立ち部屋を出ていってしまっ
た。
 世代ごとの壁がそこには存在している。むしろ、大人と子供(正確には大人
未満・子供以上というべきか)という単純な二極化がこのシーンにはみえるの
だ(カミーユを追いかけて出ていったファも、カミーユと同類の゛大人未満・
子供以上゛なのであろう)
 自然の革新を待つのが本道だとはハサンにもわかる。わかるのだが、
「それを待っていたら、地球は人類の手で汚れきって死に絶えます」
 クワトロのいうとおりになるのである。ことは人間のみならず、生命すべて
の源たる地球の存亡にかかわる問題なのである。
 クワトロも部屋を出た。表情は硬かった。あとはハサンとエマが残っている。
「中尉。顔色が悪いな」
 はっとしてエマはハサンの方をみた。そんなに表情にだしているつもりはエ
マにはなかったのだが、ハサンは聴診器を゛装備゛して、
「どれ。ひさしぶりに健康診断してやろう」
 と、聴診器の先をエマに向けた。
「は?」
「胸をあけて」
 ヘンケンがみたらどう思うだろうか。俺が代わりにやってやろうかとでも言
うのだろうか。
「けっ、結構です」
 両手で胸をおさえつつ、エマはその場をあとにした。
 目標がビームを放ち、四方に飛びまわっている。その目標に照準が合わさっ
たとき、
「そこ!」
 メガ拡散粒子砲が一瞬にして目標を宇宙の塵にした。
 ロザミィ、強化人間ロザミア・バダム中尉の新しい可変MA・NRX−05
5バウンド・ドッグである。
「これならアーガマを落とせる。お兄ちゃんを救うことができる」
 お兄ちゃん?と首をかしげたのは、ニタ研・北米オーガスタ研究所所属のイ
ンストラクター、ローレン・ナカモトである。ロザミア・バダムの再調整と゛
新しいロザミアのお兄ちゃん゛をコントロールしている人物で、眼鏡をかけた
痩せ型の中年男だ。最近、脱毛症の進行が早いのが気になっている。
「これがロザミアの精神波動か」
 ゛新しいお兄ちゃん゛が画面を見ながらいった。妙に気負っているようだ。
「この装置、実戦で使えるのか?」
 ナカモトは説明することにした。新しいお兄ちゃんは外見に反して物覚えが
よくないためだ。
「強化人間とサイコミュ・システムをつないでいるのは、強化人間の発する脳
波そのものです」
 眼鏡をあげて、
「電磁波類とはちがって、ミノフスキー粒子に干渉される心配はありません」
 細かく説明したのだが、新しいお兄ちゃんはただ一点、おれはバウンド・ド
ッグのサイコミュの性能を心配しているんだ、といってのけた。
 かれはロザミアのそれほど強化はされていない。そのためだろうか、精神的
にはかなり安定しているが能力、特に学習能力に関しては著しく劣っており、
戦闘能力もめだって高くはない。
「ロザミア中尉。訓練終了だ。ゲーツ大尉と交代してくれ」
 命をうけたロザミィ(ややこしいので、ティターンズ所属時期もこの呼び方
で通そう)がコクピットから出ようと扉をあけると、そこに新しいお兄ちゃん
――ゲーツ・キャパ大尉――がいた。
 厳密には、ゲーツ・キャパが新しいお兄ちゃんとなるのはずっとのちのこと
になるのだが、この呼称がかれにもっとも似合うと思えるし、カミーユがお兄
ちゃんと呼ばれるよりもはるかに本物らしい。
 この段階では、ロザミィにはゲーツが兄であるというすりこみはなされてい
ない。
 ティターンズ総指揮官大佐バスク・オムにバウンド・ドッグの能力査定を一
任されたナカモトはゲーツ・キャパの搭乗する専用バウンド・ドッグ(灰色カ
ラー)に同乗、ロザミィのバウンド・ドッグ(こちらのカラーはピンク)を伴
って大型戦艦ドゴス・ギアより発進、サイド2へ出撃した。
 NRXー055バウンド・ドッグは、変り種のMAである。性能データをあ
げると、
 頭頂高/27.3メートル・本体重量/82・7t・全備重量/129・4
t・武装/ビームライフル、ビームサーベル、メガ拡散粒子砲
 であり、MA形態時には脚部は巨大なクローアームとして機能する。あえて
この形態を生物で表すとすれば、カブトガニのようなものであろうか。
 
 意外と大型である。以下の機体と比較をしてみると、
 RX−178ガンダムマークU
(頭頂高/18.5メートル・本体重量/33.4t・全備重量/54.1t)
 PMX−000メッサーラ
(頭頂高/23.0メートル・本体重量/37.3t・全備重量/89.1t)
 ORX−005ギャプラン
(頭頂高/19.8メートル・本体重量/50.7t・全備重量/94.2t)
 PMX−001パラス・アテネ
(頭頂高/21.6メートル・本体重量/65.0t・全備重量/80.0t)
 MSZ−006Zガンダム
(頭頂高/19.8メートル・本体重量/28.7t・全備重量/62.3t)
 PMX−003ジ・オ
(頭頂高/24.8メートル・本体重量/57.3t・全備重量/86.3t)
 その重量はMRX−009サイコガンダムとのちに出てくるサイコマークU
を除けば上位にはいる。
 MS形態はキツネのような頭部とスカートが目につきやすい。  
 MA形態時の甲羅のような部分が、MS形態時には巨大なスカート部分にな
る。機体のイメージはやはり人を化かすキツネなのであろうか。
 旧世紀の日本に「ごんぎつね」という童話がある。作者の新見南吉は筆者と
同じ愛知県生まれで、童話作家。主な作品に「おじいさんのランプ」「てぶく
ろを買いに」があるが、知名度の点では東北出身の宮沢賢治よりも低いかもし
れない。
 この「ごんぎつね」は、「てぶくろを買いに」と同じく小狐を主人公として
いる。舞台は江戸時代。ひとりぼっち・いたずら好きの゛ごん゛はある日、村
の小川で魚を取る百姓・兵十に近づき、いたずら心で漁籠の魚をとりだして川
に逃してしまう。しばらくして彼岸花が咲く田舎道で葬列に出くわすごん。ご
んはこのとき、兵十に老母がいて、その老母が亡くなったことを知った。
「あのときの魚、ウナギは病気の母親に食べさせるためだったんだ」
 ごんはいたずらを後悔するのである。
 ごんはいたずらを償うため、栗と松茸を集めて兵十のもとへ届けにゆく。だ
が人間の兵十はそんな償いをされていることなどまったく知るよしもなく、土
間に置かれている山の幸をみて何度も疑問をもつ。誰がもってきてくれるのか。
 ある日のこと、兵十は家の物置で子狐を見てしまう。
「すわ、盗っ人ぎつねめ」
 と、兵十は火縄銃をとり出し、狙いを子狐に向ける。ごんは自分が狙われて
いることなど予想だにしない。
 銃声とともに倒れる子狐。ふと、狐のしばにたくさんの栗があった。兵十は
はっとした。まさか、いつももってきてくれていたのは……。
「そうか。おまえが山の幸をもってきてくれていたのか。いつも、土間に置い
てあったのも」
 兵十は倒れた子狐――ごん――に話しかけると、ごんは目を閉じたまま小さ
くうなずき、こときれた。「てぶくろを買いに」の子狐は街まで一人で手袋を
買いにゆき、そのつめたい両手に購入したあたたかい手袋をはめて母狐のもと
へ戻ってゆくという話なのに対し、この「ごんぎつね」はきわめて悲しい話と
なっている。それは作者の体験と゛こどもの目線で大人の文学を書いている゛
ことと無縁ではない。
 畳屋の次男として生まれた南吉はわずか四歳で母を亡くした。南吉を産んで
からの母は病気がちで、かれはぬくもりを知らないままに育った。小学二年の
とき、突然母の実家に養子縁組することとなる。村のはずれ、がらんとした農
家で継祖母と二人きりの生活。南吉は自らの不幸者であるとしていたようだ。
その屈折した思いが下敷きとなって「ごんぎつね」は書かれた。郷里・知多半
島半田の稲田・雑木林は小高いごんげん山といった豊かな農村・自然風景が作
中にも投影されている。
 登場人物の兵十は南吉自身なのであろうか。彼は二十九歳という若さで世を
去るが、この「ごんぎつね」は筆者が幼少のころ見て読んだ童話のなかでもと
りわけ印象がつよい。
 キツネは美女に化け、人を化かすという。また病人についたり、神の使いで
あるともいわれる。ロザミィの乗機がこのバウンド・ドッグなのも、またジェ
リド・メサの最終乗機がこの機体(皮肉か何なのかカラーは黄色)なのもなに
かの因縁を感じさせる。
 サイド2では、すでに両軍の戦端がひらかれている。
 ティターンズの目標は、サイド2・13バンチ(モルガルテン)ここにハイ
ザックの集団がG3を取りつけるべく向かっていた。21バンチで吹かせた死
神の風をまた巻き起こすつもりだ。
 ロザミィのバウンド・ドッグは猛烈なスピードでサイド2に到着、またたく
間にエゥーゴの量産型MSネモを撃墜した。機体をぐるぐる回転させながら、
エゥーゴの可変MS・MSA−005メタスを撃墜しようとする。MA形態の
クローアームでメタスを背後からつかみ、スカート部分にくっついているビー
ムライフルでしとめようとしたが、上からのビームの閃光がバウンド・ドッグ
の機体をかすめた。カミーユのZガンダムである。
「ファ。逃げろ」
 メタスに乗るファに呼びかけるカミーユ。ロザミィはメタスから離れ、一直
線に13バンチへととぶ。ウェーブライダー形態のZガンダムが追いかけ、背
後よりビームライフルを連射する。
 Zの気迫をみたロザミィ、本気でZを落とすべくバウンド・ドッグを正面に
向け突撃させた。すれちがう両機。そのとき、Zのカミーユは敵のMAらしき
機体からロザミィを感じとった。
 Zに搭載されているバイオセンサーも影響したのであろう。ロザミィにもわ
かったようだ。MS形態に変形したZガンダムのビームライフルの銃口が、ロ
ザミィのバウンド・ドッグに向けられる。しばし静止したが、バウンド・ドッ
グは攻撃してこない。
 お兄ちゃん、敵のZガンダムにつかまってるのね。このあたり、ロザミィの
思考はじつにややこしい。カミーユは額に汗をかきつつ、
「い、いや、ロザミィ。そのMSを操縦しているのがロザミィなら、シンタや
クムが待っている白い艦(注・アーガマを指す)に帰ろう。ロザミィ」
 あの子たちとの約束は果たさなければならない。
 ロザミィはその言葉を聞き、そうだねと同意したが、同意したとき、バウン
ド・ドッグに変化が生じ、苦痛がロザミィをおそいはじめた。
 カミーユが異変に気づいたのは、静止しているバウンド・ドッグを妖しい波
動が包み込んだときだ。何度も呼びかけるが返事がない。
 奇妙な機械音がロザミィの耳にひびいてくる。異常な精神波動が彼女をコン
トロールすべく放出されているのだ。ロザミィは顔をあげ生気のない目で宇宙
に浮かんでいるZガンダムを見つめる。ロザミィと連動してバウンド・ドッグ
のモノアイがひかったとき、ビームライフルの一撃が放たれ、その攻撃はZを
かすめて13バンチの外壁に命中、コロニーに穴があいた。
(ロザミィはいったいどうなっているんだ)
 カミーユにはわからない。
 ロザミィの脳裏に、悪しきすりこみが再生される。宇宙の落ちてくる光景、
家族はすべてZによって潰されて死んだ。
 宇宙が落ちるとはコロニー落としを指し、コロニー落としを遂行するMSが
Zということなのであろう。
 再び発射されたビームを避け、カミーユはバウンド・ドッグに接近しロザミ
ィを説得しようとする。
「カミーユは君のお兄ちゃんだったんだぞ。戦いをするために、お兄ちゃんは
Zに乗ってきたんじゃない。ロザミィ。白い艦に帰るんだ。新しい弟や、妹が
待っている艦に」
 ロザミィは全身をふるわせながら、離れろ!くるなもう!と叫ぶ。しかしカ
ミーユはさらにZを近づけ、バウンド・ドッグと密着させた。ちょっといやら
しい感じだ。
 ロザミィのあけた穴から、空気の流出がつづいている。さらにマークUのエ
マから通信も入ってきた。
「少し時間をください」
 エマに返答したカミーユ、コロニーにあいた穴が気になって何度も13バン
チの方をふり向く。
 カミーユはロザミィのバウンド・ドッグを13バンチ内の大地に降ろした。
コクピットをひらき、ふるえながらうずくまるロザミィに手を伸ばす。ロザミ
ィは立ち上がりかれの手をとった。二人は外でしばし抱擁した。
「このマシーンが、君を戦いに引き込む」
 拳銃でバウンド・ドッグの操縦席を撃つカミーユ。すぐにロザミィは反応し
た。
「バウンド・ドッグを傷つけないで!」
 違うよと言いつつも拳銃を撃つカミーユ。ロザミィは両手で耳をふさぎこみ、
その場にうずくまりながらイヤ!そんな音、怖い!と何度も叫び、さらにカミ
ーユの両足にしがみついて哀願した。とまどいをおぼえるカミーユ。
 かれはロザミィを落ちつかせるため、湖畔の前にロザミィと一緒にすわり語
りはじめた。
「こうやって抱きしめていたかった。そういう女の子がいたんだ」
「ファのこと?」
「ちがう。戦いの中で、僕をかばって……」
 さりげなくロザミィの肩に手をのせ、頭をすり寄せている。お兄ちゃんの態
度なのかどうか。
「死んじゃったんだ」
 恋人?とロザミィが聞く。ちがうな、僕とロザミィみたいな関係さと言うカ
ミーユ。それに対しロザミィ、目を見開いて、
「カミーユのお姉さん」
 といった。
 抱きしめていたかった女の子――フォウ・ムラサメ――はカミーユより一つ
年下の16歳であるし、かれもちょっとちがうなとは思ったのだが、
「そうだよ。よくわかるな」
 とロザミィに言った。彼女への配慮もあった。
 ロザミィはお兄ちゃんの反応を好意的に受けとめると、笑いながら立ち上が
りむこうへ駆けていった。
 このあとのやりとりは、明らかにお兄ちゃんの枠をこえているような気がす
る。ロザミィとキスをする必要がどこにも認められないからだ。
 鳥の群れがはばたく音に気づいたとき、MAらしき機体がむこうから来て、
上空を駆けぬけてゆく姿がみえた。ロザミィとおなじ機体である。
「あれがあたしの仲間……」
 コロニー上空をジグザグに動きまわったその灰色カラーの機体はしばらくし
てロザミィとカミーユの前にとまり、空に浮かびつつ妖しげな波動を放出した。
たしかにロザミィの言うとおり、ニタ研の仲間らしき行為ではある。
「な、なんだ!?この感覚は」
 カミーユには効力のない波動も、ロザミィには充分すぎるほど効果がある。
全身に波動をあびたロザミィは頭をかかえながら、その場にうずくまった。
 灰色の機体(バウンド・ドッグ)に同乗するナカモトは、
「できれば殺さないでください」
 と、ゲーツに釘をさす。強化人間ゲーツ・キャパの能力は一般的な強化人間
にくらべると極端に学習能力がひくい。二流の強化人間にはくどいほど言い聞
かせなければどんな結果になるかわかったものではない。
 灰色のバウンド・ドッグは13バンチの大地に着地、ゲーツは拳銃をもち機
体の外に出た。カミーユはロザミィをいたわりつつ、目の前のゲーツにいう。
「貴様たち!ロザミィになにをした!」
「所詮、オールドタイプには感じることのできない痛みだ」
 こういう言い方をするやつがカミーユは一番嫌いなのだ。つっかかろうとす
るとクワトロの百式が翔(と)んできて上空を駆けぬけた。すかさずカミーユ
はゲーツに飛びかかる。押し倒されたゲーツに蹴り飛ばされ、拳銃を撃たれる
が持ち前の反射神経で回避する。さすがカミーユといったところか。
 拳銃を取り出し、引き金をしぼる。絶妙の距離だが、なかなか命中しない。
そのうちに百式の攻撃が灰色のバウンド・ドッグのそばにくるにおよんで、ゲ
ーツはナカモトの指示でバウンド・ドッグへ戻り、カミーユはロザミィを連れ
てその場を離れようとした。
 だがこのゲーツとナカモトのバウンド・ドッグ、ロザミィの監視が目的だと
いうことで少しもクワトロの百式と戦おうとしない。このため百式のビームラ
イフルでバウンド・ドッグの左部分(正確にはスカートと左のクローアームの
一部分)をやられ、いとも簡単に墜落してしまう。
 おとされたゲーツとナカモトのバウンド・ドッグ。再びロザミィに異変がお
こったのは、このバウンド・ドッグからくどいように精神波動が大量に放出さ
れたときである。ロザミィは頭をかかえ、大声で叫び声を発しつづけた。ふる
えは当然とまらない。
 そして、自分の機体である専用バウンド・ドッグを目をカッと見開いて凝視
した。
 不可思議なことに、ロザミィのバウンド・ドッグが音をたてて動きはじめ、
ついにはその場に立ちあがってしまったのである。なぜ誰も乗っていないのに
動くのか。
 とっさの事態に混乱するカミーユの目の前で、バウンド・ドッグは不気味に
緑色のモノアイを光らせ、上半身をスカート部分より出し異様なその姿をカミ
ーユの前に示したのである。
(なんだこいつ……変形もするのか)
 MA形態しか知らないかれにとっては驚きの連続だ。
 クワトロはビームライフルを構えた格好で百式を着地させた。撃破しなけれ
ばあぶない。
(やはり、自分のカンは正しかった)
 こうなるだろうとは思っていたのだ。だがカミーユはなおもロザミィを止め
ようとする。このままではキリマンジャロの二の舞になる。
「乗るんじゃない!ロザミィ」
 ロザミィに訴えるカミーユ。しかしロザミィは強化人間ロザミア・バダム中
尉にもどっている。
「私を指図するとは、お前は私の上官か」
 口調がちがっている。カミーユはなおもあきらめない。
「ロザミィ。おれはカミーユだ。君のお兄ちゃんだよ」
「戯言(たわごと)をいう」
 ジャンプしてバウンド・ドッグの手に乗り、コクピットへとあがってゆくロ
ザミィ。もう、お兄ちゃんの声はとどかない。
 起動したバウンド・ドッグがカミーユをふみつぶそうとする。さらに左腕に
ついているメガ拡散粒子砲がひらかれ、数本のビームが13バンチ・モルガル
テン内にひかった。
 カミーユが駆ける。ロザミィのバウンド・ドッグ、ビームサーベルを形成し
カミーユめがけて勢いよく振り下ろす。よもやビームサーベルのサビになって
しまうかと思いきやカミーユ、後ろも振りむかず走る方向を変えてサーベル攻
撃を回避してしまう。白いノーマルスーツには焦げ痕さえついていない。
 ロザミィ、なおもバウンド・ドッグで攻撃をしようとするが、不意に背後か
らビームを受けた。クワトロの百式が放ったものだが、ビームコーティングで
守られているのかバウンド・ドッグにはダメージ一つない。
 起動したZガンダムのビームライフルがバウンド・ドッグに向けられる。だ
が撃てない。目標の機体にはロザミィが搭乗している。もし撃破してしまえば、
彼女は永遠に還らなくなってしまう。
 じりじりとZに迫ってゆくロザミィのバウンド・ドッグ。見かねたクワトロ
はカミーユに催促する。撃て、さもなければお前は死ぬぞ、と。
 しかしカミーユには撃てなかった。かれの脳裏にロザミィのうれしそうな表
情と姿がうかんでくる。そう、キリマンジャロのときもカミーユはサイコガン
ダムに搭乗するフォウに対して幾度となくおもったのだ。絶対に、彼女を救い
うる手段がある。きっとあるはずだと。
 バウンド・ドッグの鉄拳がZを直撃した。大地に倒れるZを悠然と見おろし、
ロザミィはバウンド・ドッグのビームサーベルでカミーユのZガンダムにとど
めをさそうとした。
 ほんの一瞬だろうか、サーベルがZにとどこうとしたとき、クワトロの百式
のビームライフルがかろうじてZを助けた。
「離脱する」
 クワトロに躊躇するカミーユだったが、
「ここで死んでなんになる」
 意を決したカミーユ、クワトロの百式が飛び上がるについで、Zガンダムを
飛翔させた。
「ロザミア中尉、とどめをさすんだ」
 ゲーツの指令が、戦闘人形と化したロザミィにとぶ。ロザミィのバウンド・
ドッグはMA形態に変形し、ゲーツのバウンド・ドッグとともにZと金色のM
S(百式)を追った。
 13バンチにあいた穴のそばに、Zと百式は待機していた。味方の増援を待
っている。敵を撃墜するためには火力と戦力がすこしでも多いほうがいい。
 目論見どおり大量のビームエネルギーが13バンチを出てきたロザミィとゲ
ーツのバウンド・ドッグを襲う。さすがに抗すること難しいと判断したゲーツ、
ロザミィに撤退を命令、両機は現空域を離脱していった。
「やめてください!撃たないでください!」
 カミーユの声がひびく。どうして、どうしてこうなってしまうのだろう、な
ぜこんなふうになるのであろう。カミーユはコクピット内でバイザーをあけ嘆
いた。涙が、頬をつたった。もう、ロザミィはアーガマには戻ってはこないだ
ろう。それがわかるからこその涙であった。
 ティターンズの事実上の旗艦ともいえる大型戦艦ドゴス・ギア。その前方に
凶暴な面構えと紫色の特異なカラーリングの巨大可変MAが浮かんでいる。ロ
ザミィの新しい機体、日本・ムラサメ研究所で開発されたサイコガンダムシリ
ーズ、MRX−010・サイコガンダムマークUである。
「ロザミア。聞こえているか」
「ええ。お兄ちゃん」
 そばに、ゲーツ・キャパ大尉のバウンド・ドッグがついている。お互いの状
態は良好のようだ。
「よし、ロザミアはアクシズへ。キャパはどこまでロザミアを感じられるか、
そのまま待機だ」
 ドゴス・ギア艦橋より、ローレン・ナカモトの指示がゆく。
「ロザミアはいいのだな」
 ナカモトに言うのは、ティターンズ総指揮官・大佐バスク・オムである。倣
岸(ごうがん)な作戦指導はますます磨きあげられ、さらに自己肥大化がすす
んでいるといった感じをうける。ナカモトはバスクに、ロザミアにはゲーツ・
キャパを兄と思わせることで安定させたと説明した。新しいお兄ちゃんができ
あがったのである。しかし、何度も言うようだがどうみても妹にはみえない。
 アクシズへとサイコガンダムマークUで出撃したロザミィ。執拗に敵を探し
もとめる。あちこちをモニターに映してみるが敵はみえない。
「たしかにいる。だがどこだ」
 みえない敵をあぶり出すためなのか、サイコマークUのメガビーム砲が小惑
星アクシズに放たれ命中する。
 その鼓動らしきものを、アーガマにいるカミーユも感じとっていた。最初に
きこえてきたのはフォウらしきうめき声――彼女はこの感覚を゛蛇がのたうち
まわるような゛と表現していたのだが――だったが、どうやらフォウとはちが
うものらしい。月面都市グラナダに落ちるであろうアクシズの軌道を変えるた
めに潜入したファの助けをもとめる声でもない。だとすれば、この声はもしや
……。
 このときのロザミィはひたすらに撃破すべき対象を探しもとめて動いている。
あきらかにコントロールがきいていない。彼女の耳にはゲーツの声はとどいて
いない。新しいお兄ちゃんの効果は、カミーユほどではなかったのだろうか。
 悔しがるゲーツ。だがそれ以上の「失敗」が待ちうけていようとは、よもや
バスク・ナカモト以下おもうことなどなかったであろう。
 なお、このドゴス・ギア撃沈とバスク戦死については筆者の「奇妙なりバス
ク」(注・コロニーを行く(二)524)を参照していただきたい。
300 :04/03/10 21:06 ID:???
保守
 ノーマルスーツをまとい格納庫に向かうカミーユ。かれの感じているものは
まぎれもなくフォウのそれであった。その感覚はロザミィのサイコマークUが
アーガマを発見し接近してくることでいよいよ本物のものとなってくる。乗っ
ていた機体がムラサメ研究所の機体であったがために、かれはフォウと同じ感
じをうけたのだろう。
 カミーユはサイコマークUの接近に唯一対応しZで出撃した。もしカミーユ
がおらねばまったくの不意討ちとしてアーガマは沈んでいたかもしれない。
 アーガマから翔(と)んだZを、ロザミィのサイコマークUがとらえた。目
標を発見したロザミィの身体にパワーがみなぎる。このMRX−010・サイ
コマークUの相性もさきのバウンド・ドッグとおなじく相当いいらしい。
 カミーユは敵の姿を確認してはいたが、相手がロザミィであることを認識す
るまでに多少時間がかかった。フォウだという最初の感覚も弊害になったので
はないかと思われる。それに、相手はロザミィといえどもまったくちがう「ロ
ザミィ」なのだ。
「Zは倒すべき敵!」
 サイコマークUの最初の一撃はメガ拡散ビーム砲。次の攻撃が回避したZへ
と向けられる。第二撃は両腕からのメガビーム砲。これも回避されるがなんと
もすさまじい火力だ。バウンド・ドッグの比ではない。
 敵の強烈な意志をカミーユが感じとったとき、膨大なビームの嵐がZを襲っ
た。ようやく敵のパイロットがロザミィであることがわかったのだ。強い、強
化人間ロザミア・バダムとしての意志を有したかのじょを。
 アクシズに、まばゆいばかりの閃光がはしる。
 カミーユにとってはホンコン・シティにおけるMRX−009・サイコガン
ダムとの戦闘以来の大型機との戦闘だ。だがこのサイコシリーズ、地上におい
ての動きは鈍かったが宇宙ではどうであろう。機動性はむしろノーマルタイプ
とくらべて遜色ないような気もする。アクシズに沿いながら翔ぶZガンダムに
膨大なビームが叩きつけられる。すぐに距離をつめてくるサイコマークUに、
かれはフォウの叫び声をきいた。
 相手がサイコガンダムマークUであることと、強化人間の共通項がかれにフ
ォウのことを想起させるのだ。
 ロザミィはひたすらに執念をもやし、カミーユのZを追いかける。ちょうど
アクシズ内部に入りかけたとき、Zがしかけたワナにひっかかって身動きがと
れなくなった。大型の機体はこの点、せまい場所では不便である。
 コクピットを出たカミーユとロザミィ。双方、拳銃をもっている。片や殺そ
うとする意志を有しているがもう片方はそうではない。
 戦いには、多分に運というのもからんでくるものらしい。射撃の腕前につい
ては、ロザミィの方が長じていたと思われるからだ。
 銃弾を命中させたカミーユ、すぐに跳んで彼女にしがみつき腕をおさえる。
ヘルメットをかぶった頭をくっつけ、ロザミィと密着させる。いわゆる゛お肌
のふれ合い回線゛というものだ。
「やっぱり、ロザミィじゃないか」
 確認できたのだが、おかしいことにロザミィ、コントロールがとけたのか、
ふるいお兄ちゃんであるはずのカミーユに、
「お兄ちゃん!?」
 と、つぶやいたのである。新しいお兄ちゃんはどこに消えたのか。
 さらに妖しいことに、フォウの声がカミーユに聞こえてきたのである。おそ
るべきことに、永遠に還らなくなったはずのフォウが、自らの意志でカミーユ
にふれてきている。もう放さないよという彼女の言葉から推測するに、その魂
は今まで落ち着く場所を得ずにさまよっていたものであるらしい。
 強化人間ロザミア・バダムの身体を通してフォウ・ムラサメがカミーユに語
りかけてきたのか、どうか。
 地下につうじている穴から、強風が巻き起こり、カミーユとロザミィはひき
離され、さらにロザミィ、穴の中へ吸い込まれてしまった。
 彼女はアクシズの内部にいた。身体がふらついている。とにかく頭の中を整
理しなくてははじまらない。暑くるしいヘルメットをぬいで考えようとするロ
ザミィ。だがまた例の「頭痛」がきた。定期的におこるこの痛みは、強化人間
ロザミア・バダムとして彼女をしばっておく鎖であるともいえる。
 無人の街中を歩くロザミィ。人影も物音もしない。
 ふと、ショーウィンドーに人らしき姿がうつった。ロザミィは拳銃をとり出
し、すばやく店内に駆けこんであやしい人物に狙いをさだめる。よくみると黄
色いノーマルスーツを着ていた。黒い髪の女性兵士だ。
「!ロ、ロザミィ!」
 ロザミィはおどろいた。なぜ自分の名を知っているのか。
「あなた、ロザミィならどうしてここへきたの?」
 黒髪の女性兵士が問う。彼女はロザミィと関係があった。充分すぎるほどに。
 しかしロザミィには、目の前の女性兵士(少女といったほうが適切か)が何
者で、自分とどういう係わりあいをもっていたのか、まったく記憶にない。思
いだすこともできない。精神強化と調整をうけた彼女にはむりな相談だ。
 その彼女に対し少女兵士――ファ・ユイリィ――は自分の名を名乗ってロザ
ミィの記憶をよみがえらせようとしたが、
「なんで、お前がファなのだ?」
 的外れな返答が返ってきただけであった。
(うん!?)
 予感がしたが、正確ではない。カミーユとて万能ではないからだ。
 かれがファとロザミィのいる場所を発見したのは、しばらく街中を歩いてか
らのことであった。ふと気づいて見たものは二人のいる場所とは正反対のショ
ーウィンドーのマネキンである。目標の場所をみつけたのは、とある感じをう
けてからのことだ。
 最初、かれの目にうつったのはファに銃をむけているロザミィの姿であった
はずである。あったはずであるというのは、実際にかれの目にうつっていたの
はロザミィではなく、まったくべつの女性パイロットであったからだ。
 その女性パイロットは、水色の髪と青色のノーマルスーツをまとってそこに
存在していた。ロザミィではない。ロザミィよりもやや年下といった印象をう
ける少女であった。
「フォウ!」
 店の中にいるファは、たれかが近くにいることに感づいたのだろう。カミー
ユのほうへ視線をむける。そのとき、ロザミィの拳銃が炸裂した。ファは運よ
く銃撃をかわし、うしろに置かれていたピエロの目に弾痕が刻まれた。
「フォウ!」
 カミーユがさらに叫ぶ。ふりむいた目の前の女性の視線がカミーユに向けら
れる。しかしフォウにみえていた目の前の女性はロザミィであった。カミーユ
の精神にひずみが入りはじめている。これはその兆候であるのかもしれない。
 ロザミィに、頭痛がはしる。
 ファがロザミィに話しかけた。ロザミィの記憶をよびさまさなければならな
い。
「あなたとあたしは知り合いだったのよ。アーガマにもしばらくいっしょにい
た」
「それを捨てろ!」
 ファの言葉を遮ってロザミィがいう。それとは、ファのもっているヨーヨー
のことである。
 おもちゃのことすらおぼえていないロザミィ。ファは悲しくなった。普通で
はなかった。いや、普通でないから、ロザミィのような強化人間が作られてし
まうのであるが。
「ほら」
 と、ファはヨーヨーをしはじめる。音をたてて下へ、そして上へうごくヨー
ヨー。ロザミィはヨーヨーをみつめた。瞳がヨーヨーに合わせ上下にうごく。
 ファは思いのたけをヨーヨーをしつつはき出す。強化人間のこと、ニュータ
イプは幻想でしかないこと、戦争のせいでどれだけひどい目にあってきたか、
などを。
 ロザミィが反応したのは、ファの「家族と暮らしたことのないあなたにはわ
からないでしょうけど」という一言だ。
「家族はいた。父と母と、お兄ちゃんと」
 その一言を聞いたファは、溢れんとする感情をおさえながら、
「そのあなたの記憶はニセモノなのよ」
 ロザミィにいった。だがロザミィ、真剣な顔でちがう!あたしにはお兄ちゃ
んがいる!と抗う。
 
 カミーユの言葉でも、彼女の記憶は思いおこされなかった。
「私はロザミアだ!ロザミィじゃない!」
 そしてくどいように頭痛がロザミィをおそったとき、彼女の錯乱劇が幕をあ
ける。
 サイコマークUに乗りこんだロザミィは荒っぽい方法で強引に機体を動かし
た。異常状態に陥った彼女の影響は遠くドゴス・ギアの空域で戦闘をおこなっ
ているゲーツ・キャパにもとどいている。新しいお兄ちゃんは「妹」にひきず
られっぱなしだ。
 宇宙にとび出るサイコマークU。泣き叫びながらロザミィ、レバーのスイッ
チを押す。片方だけでもサイコマークUの火力はハンパではないのに両方のス
イッチを押したからたまらない。サイコマークUの全身から拡散ビームが放出
される。やむことのないビームのシャワーがカミーユのZガンダムにもとどく。
やめろと叫ぶカミーユ。
 ロザミィの思念らしきものが、カミーユにはみえる。助けをもとめる彼女の
ほかに、フォウ、そしてサラ・ザビアロフの姿もみえた。どうして彼女たちが
でてくるのか。
 サイコマークUが動きだした。登頂高39.98メートル、本体重量187.
8tの巨大MAがゆくのは、なかなかの迫力である。
 全身のバーニアを噴かせて翔んでゆく。いぜんビームのシャワーはやむこと
がない。だが狙いをつけていないのかZには直撃はない。
 なお、サイコマークUのこのときの攻撃に、ミサイルらしきものを撃ってい
る描写があるがこれはどういうことか。メディアワークス発行・機動戦士Zガ
ンダム上巻・データコレクションCにはサイコガンダムマークUの武装はビー
ム兵器ばかりでミサイル装備であるとは書かれていない。描写をみるかぎりバ
ルカンでもなさそうである。単なるミスであろうか。
 本題にもどろう。
 すさまじいビームを無限大に放出してアクシズのまわりを動きまわるロザミ
ィ。彼女は゛お兄ちゃん゛を探しもとめている。それは、ゲーツでもカミーユ
でもない、架空の存在であることは自明だ。もっとも彼女は錯乱しているので
断定はしにくいのだが。
 なんという「最悪のタイミング」か。
 錯乱状態のロザミィもだが、Zガンダムのカミーユとてわからなかったろう。
なんとアクシズから離れようと出港したアーガマに、ロザミィのサイコマーク
Uがエネルギーを放出しつつすぐそばまで近づいてきたのである。今現在は拡
散ビームの状態で放出されているが、もし本格的なメガビーム砲の一撃がアー
ガマに加えられたらどうなるかわからない。
 さらにZガンダムの放ったビームライフルがサイコマークUの左肩に命中し
てしまったため、その衝撃で勢いよくサイコマークUはアーガマのいる方向へ
流れていってしまった。カミーユはなんとかくいとめるためZガンダムをサイ
コマークUに抱きつかせた。かつてフォウ・ムラサメのサイコガンダムにやっ
たように、錯乱状態のロザミィに必死でよびかける。
「ロザミィ!もう一度、もう一度だけあのときのロザミィにもどれ!」
「お兄ちゃん!?」
 反応があった。
「そうだ、お兄ちゃんだよ。もう一度、いっしょにボートに乗ろう」
 だが、もう限界のようであった。
「ちがう!」
 ロザミィのサイコマークUが、バーニアを噴かしてカミーユのZガンダムか
らはなれたとき、召天へのカウントダウンがはじまった。
 一直線に膨大なビームを放出しながらサイコマークUがアーガマに迫る。一
つ、二つとアーガマに拡散ビームが命中する。一刻の猶予も許されない。
 Zガンダムのビームライフルの銃口がサイコマークUに向けられる。直撃さ
せるつもりだが手のふるえがとまらない。ロザミィの魂の叫びが、フォウの声
がきこえる。かれはなおとまどう。これで、これでもうおわってしまうのだ。
 カミーユの叫び声とともにビームライフルの閃光がサイコマークUの頭部を
撃ち抜いたとき、ロザミィの肉体はほんのつかの間を置いて宇宙に消えた。
 このとき彼女はついに、捜し求めていた「お兄ちゃん」を発見しえたようで
あるが、くわしいことはわからない。

 このあとほどなくしてコロニーレーザーは発射され、予定どおりアクシズに
命中、アクシズのグラナダ落下は阻止された。

 ロザミア・バダム――北米・オーガスタ研究所で育成された強化人間。当初
 の階級は少尉、のちに中尉に昇進。始めから終りまで人工的に植え付けられ
 た偽りの記憶と命令によって全ての行動を強制され、およそ自由意志という
 ものが存在しなかった不幸な人物。宇宙世紀0088・2月2日、MRX−
 010・サイコガンダムマークUの実験運用中に戦死。なお、サイコガンダ
 ムマークUはその後ネオジオンの手にわたり改修・運用されることとなる。

 カミーユ・ビダン――ロザミア・バダムの件がより深く精神に刻みこまれる
 要因となる。宇宙世紀0088・2月22日、ティターンズ崩壊のこの日に
 精神崩壊。その後、ファ・ユイリィの看護のもと病院で治療をうけていたが
 第一次ネオジオン抗争終結後不完全ながらも復活、ハサンに誘われて月都市
 に移住、医師としての道を選択し、月面で病院を経営、看護婦長ファととも
 にその名を残し、宇宙戦国時代まで存命。

 ファ・ユイリィ――グリプス動乱後もメタスなどで奮戦、ほどなくしてアー
 ガマを降りて看護婦となることを決意。地球・グラスゴーの病院で学び、順
 調に実績をつむ。のちにハサンに誘われてカミーユとおなじ病院に勤務、そ
 の名を月にとどろかせた。ジェンダーの問題や子育て・宗教・教育問題に造
 詣が深く多くの著書を出しているが、戦争体験などについての著書は一切な
 く、わずかに彼女の口から語られたことがこんにち記録として残るのみであ
 る。宇宙世紀0167年8月、97歳で死去。
312:04/03/13 00:49 ID:???
ようやく書き上げますた。いかがでしたでしょうか


そうそう、もう一度HP張っておきますね
ttp://cgi.f12.aaacafe.ne.jp/~ryotaro/index.php
どうやら335さんが戻られたご様子・・・
313通常の名無しさんの3倍:04/03/16 14:45 ID:???
ファ.・・・97歳か・・・・大往生だなぁ・・
314:04/03/17 22:35 ID:???
ファのSSは(四)にも書いてありますので、それも合わせて読んでください
(惜しむらくはまだhtml化されてないとこか)

以下の作品はまだ途中かけですが、キッズでのエヴァ放映記念ということで書
いてみますた
 Vガンダムのあとの富野との対談で庵野秀明は富野の姿勢と考え、そして重
要な要点を得ている。以下、1994年7月・アニメージュ対談を引用する。

 庵野:Vガンダムのようなドロドロした作品は今の子供には受け付けないん
    じゃないかな。20歳くらいでもクリーンなものばかり好んで、汚い
    部分がみえるものは嫌悪されるようになってきていると思います。

 富野:今のマーケットの性癖は、更に極端な方向へ突き進むとは思うけど、
    それを病的な現象として反省する時代も近々くると思うので、そのと
    きにアニメの世界にもこういう作品があった、という部分はあってい
    いんじゃないかな。
 庵野:僕も強くそう思いますね。

 AM:5月号で庵野さんに話をうかがったときにも、多様化しかないんじゃ
    ないかとおっしゃっていましたが。
 庵野:逆にいうと今のアニメ界は特殊化が進みすぎていて、もうダメになる
    んじゃないか、と思うんですけどね。
 富野:これはアニメに限らないんですけど、一時期、特殊化、多様化をやっ
    たの。個性が大事ってね。それから日本語になってしまった゛アイデ
    ンティティを大事にする゛ということがある。でもそれも結局は、や
    はりごく狭い幅のものでしかない。もう少しみんな、外へ出て行って
    違う人間が寄り集まっているところを知ってほしいな。  
 庵野:女に比べて、「Vガンダム」では、いい男が出てきませんでしたね(笑)
 富野:だから今回は女を描くことにすごく集中しちゃって、男に対する興味
    をほとんど持っていなかった。
 庵野:なかったですね。初めてじゃないですか、全編を通してなにか一つの
    ことにこだわりつづけたのは。
 富野:今、こうやって話していてわかったことなんだけど、13歳のウッソ
    を描くために男を描くことへの興味を全部ウッソに吸い取られちゃっ
    たんだよね。他の男にふり向けられなかった。あの年齢の男の子を本
    気で描こうというのは、ぼくの年齢ではものすごく大変だった。そう
    したら他の男に全然手が回らない。
 庵野:かろうじて老人くらいですね。若いのは全然ダメでしたね。

 庵野:本来、クロノクルに集中すべきキャラクターが分散しすぎて、結局若
    い男はどれも立ちませんでしたね。クロノクルには期待していたので
    残念です。でもクロノクルがああいう男だったからカテジナさんもあ
    あなってしまったのかな、とも思いますけど。

 富野:カテジナのあのラストシーンというのは、かなり早い段階で構想があ
    ったんです。スタッフにも1話のオンエアが始まる前に、キャンセル
    するかもしれないけども、といいながら話している。ところが、みん
    なかなりそのラストを気にいってしまったのね。ちょっと映画っぽす
    ぎて、嫌かなとも思ったんだけれども……。それがずーとスタッフの
    間に残っていて、クロノクルはあれでいいという風になってしまった
    部分が、どうもあるみたい。
 庵野:カテジナの、あのラストシーンのために犠牲になってしまったわけで
    すね。 
 庵野:盲目にする必要はあまり感じなかったんです。逆にそちらの方が目立
    ってしまって。むしろ手がないとか足がないとか……。
 富野:それらのことについては、すべてテレビコードに引っかかるから却下
    したんです。だからカテジナも見えないかもしれない、という異常表
    現は一切してない。もう少し言えば、ウッソたちの側にもペナルティ
    はあるわけだから、話としては当然そうだったけども、どうせやるん
    だったらきちんとした絵を作りたい。でもそれは許されないだろう。
    他にも幾つかあったんだけど、どれをやっても今の視聴者には生理的
    に受け入れられないだろう。
 庵野:引っかかるでしょうね。

 庵野:小説ではカテジナが火傷を負いますよね。あれが好きなんです。
 富野:本当はそうしたいんだけれども、でもテレビでは絶対にタブーだから。
    それにクリーンなことが好きな観客に対して、そういう表現が何処ま
    で許されるのかといったときに、ちょっとね……。
 AM:マスコミにおける表現のタブーとして問題になる以前に、視聴者側が
    生理的に、それを受け入れるかどうかということですね。
 富野:まったくそういうことですね。そういう意味では、確かに折衷案であ
    りすぎたということは事実です。
 庵野:やはりそうでしたか。

 AM:受け手もある種、予定調和的なものの方を、受け入れていくところが
    ありますね。
 富野:それは本当に気持ちの悪い部分とか、いちばん自分が見たくないもの
    を、何もビデオとかアニメのレベルで突きつけられたくないもの。
 庵野:代償行為ですから、金を払ってまで気持ちの悪いものを見せつけられ
    たくないでしょうね。「Vガンダム」でもやはり、ウッソのお母さん
    が死んだときに゛もう見るのやめる゛とか、言ってた子がいましたか
    らね。゛こんなアニメは見たくない゛とか。人の死に予想外に反応し
    ているんですよ。
 富野:そういう子はいるでしょうね。

 富野:最近、お米がなかったりするでしょ。とてもいいことだなぁと思って
    るのね。食うものが本当になかったら、どうなるか、ということをち
    ょっと真剣に想像させてくれることができたからね。そういったとき
    に、ソフトを作ってる人間の強いところは、そのようなシビアな部分
    も、申し訳ないけど、皆さん方が楽しみにしているアニメの中でもや
    っておくよ、と言えることですね。10年後、20年後に効くように(笑)
 庵野:やはり作品には毒を混ぜておかないと(笑)特に子供には毒を見せるべ
    きだと思いますね。
 富野:絶対そうです。  

 この対談内容は、富野を語る以上に庵野秀明という人物がどういう作品を作
るのがよいのかというヒント(キー)を得たということをくわしく語っている。
 秀明の忠実なリアリティ姿勢、方法は徹底していた。かれは富野がやろうと
して果たせなかったVガンダムの「人類浄化」をよりリアルにした作品をつく
りだすことを決めている。と同時に、まるで富野の精神がのりうつったかのよ
うに同種のアニメファンを露骨に毛嫌いしはじめたのもこの頃からだ。表現や
解釈は多様性があってしかるべしなのに、アニメファンというのはそこがかな
り極端な人々で、まるで母親に甘えるかのように物語を欲しがり、ロボットを
欲しがり、キャラに熱をあげ、オチすらもきちんと要求してくるという都合の
いい存在であることは、秀明は自分がそうであったからよくわかるのである。
 かれは従来のアニメ界の構造に反逆した。それもエヴァという一見すごそう
な代物にワナをしかけるというやり方で、である。
 秀明の執拗さは、その軽蔑の感情を抱きつつも、ついに平成7年10月4日、
富野由悠季から学んだことのかれなりの集大成として新世紀エヴァンゲリオン
放映を開始したのである。
 しかし制作当事者のガイナックスの不安は、第一話からのこだわりぬいたク
オリティの維持とスタッフのコンディションが維持できるかということで、秀
明がいかに意気込んでも難しいところであった。放映局はあの休止期間を入れ
ないことで有名なテレビ東京であり、さらには当の庵野秀明もアニメで食って
いる以上、ある程度当たってくれなければたちまち食うにこまるのである(エ
ヴァの事情については「エヴァンゲリオンの怪文書」(web)が詳しい。後期の
軌道修正の理由などがのっている)
 秀明は、このことも当然承知していた。
「自分がしあげます」
 と、スタッフに言い実際にやった。あれほど葛城ミサトの中の人の「サービス!
サービス!」と何度も連呼していた予告の台詞をなくして、せっぱつまった後
半、回想と心理描写、カットの使いまわしとまったく動かない風景・文字と線
で表現してみせた。子供のころから無機質な空間が大好きだったというかれに
とってはむしろ得意とすべき分野ではあったのだろう。 
 だがそれはあまりにも制作者側の都合と時間のなさが露呈しすぎていた。ま
さしく富野のいう「カルテ」「電脳的」なオチのつけ方であった。この主人公
(碇シンジ)の一人内心劇とおめでとう・拍手というラストは、庵野自身の話
の広げすぎと創作の破綻を意味するものだったし、このことは庵野も自覚して
いたであろう。ゆえにかれはエヴァを肯定したくなかったとも考えられる。
 しかし同志山賀博之は「庵野はこれをヒットさせるのは嫌がるだろうが、う
まくやればなんとかヒットさせることができるかもしれない」といって友であ
り仲間である秀明の制作をたすけた。
 ヒットさせることは商業媒体たるアニメーションの至上命題であったし、ま
た批評がなく、売り上げしか評価基準のないアニメーションの宿命でもあった
からだ。今まで大作を送りつづけてきたと自負しているガイナックスのプライ
ドもそこにからんでいた。
 放映後しばらくしてからエヴァブームが過熱しはじめたが、一部のジャーナ
リズムがこれを知って何人かが来た。アニメ雑誌の記者とはちがう人が多かっ
た(中略)
 秀明はそれらにていねいに応対した。むろん富野と同様肯定するそぶりはま
ったくみせなかった。宮崎もそうだったが、堂々と胸をはって自分の作品を誇
ってみせる態度を示すことは彼のプライドがゆるさなかったのである(筆者の
記憶の中では、NHK特集のときでさえも肯定していたところを見たことがな
い)秀明はつねに否定した。
 半年たつと、コミケをはじめとしたファン層が拡がる一方で、さらにたつと
帰ってきたアニメファンという題で、かつてヤマト・ガンダムにはまっていた
ファンがエヴァファンになったということがアニメ雑誌を通してつたえられた。
角川系を中心とした2クール(26話)構成の作品や、エヴァにならった手法・
演出、メディアミックス的展開をする作品が乱造されるように出るようになっ
た。
 このころ、富野は「闇夜の時代劇」を演出、エヴァブーム沸騰のこの頃OV
A「ガーゼィの翼」を世に送り出している。
 唐突だが、筆者の「ガーゼィの翼」の最大の収穫は、富野由悠季のインタビ
ューのみである。そして富野本人を映像で見ることができたのもこれが初めて
であった。
 闇夜の時代劇はレンタルで見たため、リリースの順番どおりではなく、また
極端に富野本人に入れこんでいたため、本編よりも本人の語りに注目していた
記憶がある(これはうろ憶えだが、七人の侍から影響をうけたという話を「闇
夜の時代劇」映像特典のインタビューで富野はしていたはずだ)
 元々バイストン・ウェル・サーガに造詣が深くなく、ファンタジーもFF・
ドラクエが最初だった筆者はこの「ガーゼィ」の面白みのなさにおどろいたの
である。あいかわらずの説明のなさと、裸といったナマ身の肉体へのこだわり
はとても富野らしいのだが、RPGのゲームをやりこんでいた筆者からすれば
ファンタジーものをわざわざアニメーションでやる必要があるのかと正直に思
ったりもした。
 ロボットが出てこないから面白くなかったわけではないし、筆者は富野が初
めて監督をつとめた「海のトリトン」も個人的に好きだから、理由はそれでは
ない。しいてあげるなら、面白い・躍動感のある作品を富野は作れなくなって
いるのではないだろうかという部分が垣間(かいま)見れたとこだろうか。は
っきりいえば、富野でなくともこういう作品を作れる人はいるだろう、富野は
自分に向いている仕事をしていないという勝手きわまりない邪推が自分にあっ
た。
 それと、「ガーゼィ」の音楽を担当している男が、エヴァの鷲巣詩郎(ふし
ぎの海のナディアのほかに゛笑っていいとも゛のオープニング曲も担当してい
る)なのである。これが筆者にはひっかかった。富野はつとにエヴァを否定し、
そのエヴァを評価する世間やガイナックスというスタッフを批判しているのに、
なぜエヴァの音楽担当者を使うのだろうかと疑問におもったのだ(もっともこ
れは、監督自身気にいらなかったかもしれないし、諸々の事情ということもあ
ったかもしれないが)
「身体が、精神が萎えている」
 と、ガーゼィの頃の富野は例の症状と絶望感で急激に体調をくずし、何度も
妻の亜々子に助けられながら病院へかよった。目がまわり、意識が何度もなく
なりそうになった。もはや限界だと周りの者たちはおもった。そのくせハイな
ときは、頭からきらっているプロデューサー富永をきつくなじり、殺意を抱き
かねないくらいに追いつめてしまうのだった(中略)
「せっかく世間に発表したのにナマ身を表現していないようでは甲斐がない、
リアルな演出は人の志を高くし、心情に訴えて糧にするものだ。庵野はナマの
セックスに興味がもてないためにいつまでも駄目なのだ」といった(中略)
 富野にすれば、当然のことであった。
「松本零士も宮崎さんも、責任をとろうとしていない」
 と、この銀河鉄道999・ヤマトの原作者であり、自分がかつて西崎と険悪
になり一回だけコンテをきって降りたヤマトの生みの親を呼び捨てにし、
「だから往年の大家もオウムが出たことに対してくさいものにはフタをすれば
いいという態度でいる。宮崎さんにしてもそうで、かれらデジタル世代への影
響を与えた我々の世代はこのオウム問題をとおしてよく認識し、考えなくては
ならない」
 といったりして、センズリとしかおもえないものでありがたがっている庵野
秀明に対してなにがしらのことをしてみせなくてはならない、それが自分の彼
らをまちがわせてしまった自らの責任であるとかれは考えていた。
 この富野の考え方は、多分に父性的な側面が強い。この点まさに富野は団塊
世代らしい部分を濃厚にもっているのであろう。 
 富野由悠季は復活へのリハビリをはじめた。かれはたれの前でも、
「庵野」
 と呼び捨てであった。彼がそうよんでいることを知ると、秀明は素直にそう
ですねとうなずいた。本来、年齢が親子ほどもはなれているだけに呼び捨てに
することは不自然ではなかったが、しかしまがりなりにも今川泰宏にすら表面
上ていねいに言ってきた手前、ふつうなら世間的にも敬称をつけ、じつの父親
が息子を呼ぶような言い方はつつしむべきであった(中略)
「小生は、必ずエヴァをぶっ潰すつもりです」
 と、由悠季は北海道ローカルで放送されていたサンライズラジオという番組
に出演した際、「全員ブン殴ってやる!!」と数々の暴言を吐きまくったあと
言ったことがある。由悠季は庵野秀明の例のエヴァ現象と商業主義に乗った活
動を知っていたし、秀明が否定しつつもそのエヴァの「実」を取っていること
もすこしは知っていた。
 さらに富野の不満は、
「地上波ではやれぬのか」
 ということであった。
 こまったことに、地上波では制約が大きく、オリジナル作品として企画した
「ブレンパワード」の放映も、こうも制約が大きく局側の理解が貧困ではとう
てい思うがままに作ろうという意欲もそがれる(中略)
 このときまでペイテレビ(有料テレビ放映局の総称)制作の経験というもの
がなく、その将来性もまだ未知数だったが、しばらくして由悠季のもとに「ブ
レンパワード」の放映がWOWOWに決定したという朗報が届いた。地上波と
はちがう可能性が、ペイテレビだからこそやれるかもしれない。かれはこれを、
(めぐり合わせの良さ)
 と正直に受けとめることにした。今までとはちがうやり方をするためには、
新しい環境や理解が必要になる。
 おもえば自分はいままでつねに新しい場とやり方で挑戦してきたのではない
か。よきスタッフとキャストを最大源に生かすことこそ、自分にとって重要な
エネルギーになる。
 この報が届いた日、かれは一日中゛三倍速歩き゛で動きまわった。三倍速歩
きとは元アニメック編集長小牧雅伸の「富野語録」によれば、
――昔からの編集仲間が呼称している富野歩きのこと。元気なときは手足がち
ょっと普通の人とタイミングの違う動きで、道幅いっぱいに揺れ動いて見える
様子で歩いている。パッ、パッとコマ落としで、はっと気がつくと目の前に迫
られているのだ――とあり、「これがMS戦だったら、撃墜されていたなぁっ
て歩き方」と結ばれている。よほど特徴のある歩き方らしい。
 村田秋乃という劇団ひまわりの女優がいた。
 かのじょはブレンパワードにつづく作品である「∀ガンダム」においてもソ
シエ・ハイム役を演じ、その「アニメ的ではない」CV(注・キャラクターボ
イスのこと)で評価を得たが、ブレンパワードに参加していたころのことを書
いた記録を残している。
「私にとっては大冒険ともいうべき経験ができたのは、富野総監督と音響監督
の浦上靖夫さんのおかげであった。宇都宮比瑪の役をやれたことはとても幸福
でした」
 ブレンパワードのヒロイン、宇都宮比瑪がかのじょに決まるまではかなり吟
味されたらしい。
 由悠季の方針では、一言一句口からはっきりと思い切りよく発せられる――
滑舌のできる――役者を使いたい。基本となるのはあくまでも劇中に大きく反
映される声の演技である。
 この当時(といっても中の人ブームは80年代から盛り上がりをみせてはい
たが)声優のアイドル化、ブランド化がエヴァのキャラクターの中の人を中心
にはびこっており、かんじんの演技を無視したかのようなキャスティングと、
とくに女性声優の演技のパターン化・固定化されたファン層など、中の人のた
れが出るかで作品の評価が決定されてしまうような流れもありあまるほどあっ
たのである。
 しかしながらこのことをもって由悠季が中の人を無視したとか、使わなくな
ったということでは決してない。というのも、宮崎駿が声優を使わなくなった
理由の一つに、「あれは娼婦の声だ」というのがあるが、かれはそこまで露骨
に毛嫌いはしていない。由悠季の評価基準はきちんとした演技ができるならば、
たれでもいいではないか。なにも声優だから、プロダクションの意向や有名だ
から使うのではない、本物の物語を作るための手段だというところにあったろ
う(このあたり、有名人・芸能人好きのプロデューサー鈴木敏夫にキャスティ
ングを左右される宮崎とはちがう。宮崎の場合は演技力云々よりも、多分にマ
ニア逃れの方便が濃いのである)
 ブレンパワードにおいても、Vガンダムのカテジナ・ルース役であった渡辺
久美子や、以前富野作品の出演経験をもつ人たち――マイナーだが伊佐美研作
役の堀部隆一(エルガイム後期のアマンダラ・カマンダラ)ヒギンズ役の川村
万梨阿(永野護の妻にして、富野が引きあげた女性声優)モハマド役の塩屋翼
(イデオンのユウキ・コスモ)カント役の佐々木るん(ダンバインのエレ)ナ
ッキィ役の冬馬由美(F91のセシリーほか多くの富野作品に出演)――が多
くいる。
 よくよく考えれば、この多種多様さこそ他にはない富野作品の個性なのでは
ないだろうか。現実の世界にさまざまな人たちがいるように、二次元の世界と
いえどもそこには個性ある人間がいて、相互に関係しあい、生活を営んでいる。
それはまさしく、独自の富野らしさが復活した証でもあった。
 スケジュールの都合のついた朴路美がオーディションにゆくと、由悠季がい
た。
「その容貌言動、果して人に異り……」
 と、かのじょにとっても目を洗われるほどに印象が鮮やかだったらしい。
「ぜひともその魅惑的な声でカナンを演じてみてください」
 というのが、由悠季が朴路美にいった言葉だった。朴は終生このときの由悠
季の表情と彼女のいう――強烈なハイテンションぶり――をわすれなかった(略)
 かのじょはさがってさきに富野からあたえられたカナン・ギモスのキャラク
ター画と説明、台詞の書かれたものを読んだ。路美がおどろいたことに、いつ
のまにか由悠季が路美のそばにきてとなりにすわり、カナンのキャラクターを
解説してくれた。そのうえ、初対面の朴路美に異常なまでの熱意を示して、
「この娘(こ)は、美人だけど孤独感を抱えていて、自分の居場所と愛を求め
ている娘なんだ」
 といったあと、カナンと主人公勇との関係をくわしく話し、「彼女は勇とは
恋愛関係ではない。姉のような存在、弟のような存在という関係で簡単に割り
切れるわけでもない」「カナンはこう、着物をこう、初めて着てみて」とその
カナンの喜びを全身で演技しながら語った。朴路美が内心大いに「驚き、よろ
こび、並々ならぬテンションだった」というのは、富野由悠季がすこしも偽ら
ず、本気で彼女に伝えよう、わかってもらおうというだけの態度だったからで
ある。
331:04/03/23 18:14 ID:???

上記のSSはまだ完結させることはできません。というのもまだ富野・庵野は
人生が完結していませんので

ということで、書き込めるうちに投下しまつ
 中立国の資源衛星ヘリオポリスにて秘密兵器ガンダムが強奪されるとともに、
強奪したGAT−X303・イージスガンダムをあやつって強襲機動特装艦ア
ークエンジェル部隊と戦っていたアスラン・ザラというザフトのコーディネイ
ターが、種の放映中にわかに親友キラ・ヤマトの側に移り「801神」として
強烈に印象づけられ定着した。鞍替えの状況はくわしくあとで述べるが、この
少年はGAT−X105・ストライク、ザフト製最新鋭ガンダム・ZGMF−
X10Aフリーダムに搭乗するキラ・ヤマトとぶつかりあい、許婚であるラク
ス・クラインやカガリ・ユラ・アスハとの縁で中立都市オーブにてキラと和解、
その後ザフト製MS・ZGMF−X09Aジャスティスガンダムごとラクス陣
営に移った、というだけのことである。
 ところが、種スタッフはなにをおもったのか、この少年をガンダムシリーズ
の801神第一号として公式に認定し、その鞍替えは、アニメ誌やweb上に
喧伝され、その存在とキラとのカップリングは当時のファンダムをにぎわせた。
さらに女性ファンにもっとも人気のあった゛新世紀エヴァンゲリオン・渚カヲ
ル役゛石田彰が中の人になって演じるにおよんで、一種のアスランブームがわ
いた。
 しかしそれも作られたブームで、多くのガノタはこの少年がなぜ801神と
して奉られるほどの存在だったのかよくわからなかった。ただ、17番目の使
徒・渚カヲル役で一世を風靡(ふうび)した石田彰が中の人になるほどの人物
であり、当時の代表的作家であるキクチカンが伝記を書くほどの人物だから当
然奉られてもおかしくないとおもった程度であろう。数多くのガンダムシリー
ズを見てきた筆者も、ロラン・セアックやカトル・ラバーバ・ウィナーのよさ
はわかっても、アスラン・ザラのよさがわからなかった。
 そのまえに、801神とはなにか、ということにふれておきたい。映像に登
場する少年が、その攻め・受けにおける功績によって神になりうるというのは、
女性ファンが考えだした異能の発明のひとつである。
 もともと、衆道といったかたちのものは古来幾らでも、どこの国にもあった。
旧世紀の日本でも、女人禁制の陸軍幼年学校・士官学校において「同性愛的風
潮」が存在していた。ちなみに陸軍の陰語に゛ショウネン゛というのがある。
みめ美しき少年の意だが、その美少年をたたえる歌すらも存在したというから
相当なものだ。
 したがって、種スタッフ独自の発明ではない(中略)
 1stガンダムがはじまってこのかたは、新作がつくられるたびに、スタッ
フは美形やカップリングをつくって、そのキャラクターとMSを陣頭にかかげ、
ガノタの意欲をあおるのが例になった。最初の801はだれの考えだしたもの
かはわからないが、ガルマ・ザビとシャア・アズナブルのカップリングである
といわれている。
 ガンダムシリーズでは、Zガンダムのカミーユ・ビダン曹長、ガンダムWで
は驚異のテロリスト、ヒイロ・ユイなどが801神に祭りあげられている。
 ∀ガンダムにもそれを匂わす人物がいた。
 21世紀に入って、サンライズは種をおこし、さらにその人気を拡大しよう
としたために、女性ファンにかざす801神が必要になった。
 ザフトのコーディネイター、アスラン・ザラがえらばれたのはそういう理由
があったからである。つづいてザフトの象徴的エースとしてガンダムタイプM
S強奪のいわゆる「少年神」がえらばれ、コーディネイターの象徴として、イ
ザーク・ジュールがえらばれた。
 いずれもこの801の神々は、それをうんだ種の影響力が放映終了と同時に
ほろびるとともに、その神の座もほろんだ(略)
 かれを801神に祭りあげて賞賛しまくった当時の種の実力者たちもライタ
ーも、おそらくいまは感謝すらしていないであろう。
 アスラン・ザラは、プラント国防委員長をつとめた最高評議会議員の家に生
まれた。わずかな戦争経験しかない少年に、語るほどの人生があるはずはない
から、そういう少年神の像をうみあげた環境から書きおこさねばならない。
 父は、パトリック・ザラといった(略)
 父パトリックは、はやくから右派系に所属し、戦争推進派「タカ派ザラ」と
してじょじょに頭角をあらわしたらしい。いまでいえば過激・強硬論者といっ
た、極右議員というべきであったろう。
 父パトリックは、コズミック・イラ23年、大西洋連邦において極秘裏にコ
ーディネイターとして誕生した。この前年にかれの政敵・ライバルといってい
いシーゲル・クラインがスカンジナビア王国で誕生し(おなじく極秘)ている。
ちょうどこの時期はコーディネイターの是非論が過熱していたころでもあり、
現にコズミック・イラ16年には「人類の遺伝子改変に関する議定書」も採択
され公的には一切禁止されていた。パトリックはそういう事情のなかで優良種
を期待する親の意志で生みだされたのだろう。
 さて、アスランの父パトリックは、コズミック・イラ43年L5の新型コロ
ニー建設に従事した際にシーゲル・クラインと出会い同志の契りをむすび、さ
らにプラント内のコーディネイターたちの不満とナショナリズムの高まりをう
けて、自治権・貿易自主権の獲得を目的とする政治結社「黄道同盟」をシーゲ
ルらとともに発足させた。発足から7年後にパトリック、シーゲルはプラント
評議会議員に選出され、黄道同盟のシンパをじょじょに増やしていった。一介
のコーディネイターとしては、当時稀有の立身であり、かれは自身の「天運」
に感激したであろう。パトリックは「われらコーディネイターこそが人類を唯
一救いうるのだ」と家人にさとしている。
 アスランは、パトリックの長男(一人っ子)としてうまれた。母はレノール・
ザラ(資料によってはレノアと表記されることもある)といった。従順な女で、
教育ずきなパトリックはこの農業研究にたずさわる仕事をしている女性を新婚
のときから徹底的に武人の妻として教育した。ザラ家の家風は、徹底した前時
代的な封建秩序が支配し、どんなときでも妻は夫を立てなくてはならないとい
うことをレノールは強烈に叩きこまれた(略)
 レノールは、従順にこの風習をまもった。この夫婦にもし従順な男児がうま
れれば、その子は機械的に武人になってゆかねばウソのような家庭であった。
アスラン・ザラがザフト入隊を決意した出来事のとき――血のバレンタイン事
件(ユニウス・セブンの悲劇)――も、母レノールは核攻撃によって消滅する
直前に「お前は誇り高きザラ家の血をひく者。最後まで誇りを失わず私の無念
をひきついで戦え」といったといわれる。信憑性をうたがわれる話だが、武人
の家というものは、庶民の考えているものとはえてしてちがうものである。
 アスランはエリート軍人となるべく、月面都市コペルニクスの幼年学校に入
った。ここに入った理由は当時の政治情勢(プラント内で反コーディネイター
組織のテロに遭ったパトリックが、息子をテロの危険から守るため)の要因が
大きい。このとき親友となったのがヘリオポリス襲撃の際偶然出会ったキラ・
ヤマトである。
 体はどちらかといえばきゃしゃなほうで、成績も幼年学校では中程度であっ
た。性格は反骨的なものがなく、とりたてた才能もなかった。パトリックとコ
ーディネイター教育の思うままになる従順そのものの少年であった。それだけ
にこの「801神」はあわれである。Zガンダムのカミーユ・ビダンはその外
攻的な性格で強烈なイメージを当時のファンにあたえ、Wの801神のヒイロ・
ユイはテロリスト教育をうけなくても一ぱしのヒーローになったかもしれない
少年だったが、種の801神のアスラン・ザラは、プラントの書記になっても
律儀につとめてゆく型であった。むしろそのほうが似あっていたかもしれない。
ガンダムシリーズと「種」とのちがいである。
 この秀麗な面持の少年は痛ましいばかりに素直であった。父によって軍隊式
礼儀作法をおしえこまれたため、幼年学校のときも、父にあうと、直属上官に
対するように停止敬礼を行なった。また旅行に行ったこともあったそうだが、
月都市でキラを含む友人数人とホテルに入ったとき入口に制服のボーイがいる
のをみて、アスランは直立不動の姿勢で敬礼した。級友はキラをのぞいて、ど
っと笑った。人間というものが他の人間をここまで教育していいものだろうか。
この挿話は、私にやりきれない気持をもたせる。
 最近、比較文学者のシマダキンジ氏の「戦後におけるヒイロ・ユイ」という
本を読んで、この驚異的なA・C(アフターコロニー)のテロリストがすぐれ
た職人技と幾多の職業経験をしたということを知ったが、種の801神はそう
ではなかった。学校と父親がつくった鋳型から一歩もはみ出ていなかった。
 アスランの唯一の趣味(?)は日記をつけること(注・日記をつける習慣は
幼年学校のころの風習から)と生来の潔癖症からシャワーを長い時間浴びるこ
とであった。たとえば幼年学校のとき、20種類にもおよぶ石鹸と洗顔料を使
用していたといわれるし、つねに清潔にしていなければ気がすまなかった。
「桜の木の下で微笑んでいる君は、この世の誰でさえも敵うものなどいないだ
ろう。ぼくは心からそう思った。今日のこの日は、永遠に忘れえぬものとなる
であろう」と幼年学校から父によび戻される日の日記にはあるが、むろん芸と
いえるようなものではない。これを、ホモアビス大会優勝、ジュニア・モビル
スーツ大会優勝と哲学・ヒューマニズムの分野にまで長じていたカミーユ・ビ
ダンのそれとくらべれば、両801神の差よりもわれわれは21世紀の種とい
う人間の時代が、今までのガンダムシリーズよりもいかに貧弱な時代であった
かがわかるような気がする。これは「801神」アスラン・ザラの罪ではない。
種のキャラクターは、「801神」にいたるまで人間が小さくなってしまって
いるのである。
 さて、アスラン・ザラが、ザフト(黄道同盟の発展型組織、自由条約黄道同
盟)に入隊したのはコズミック・イラ70年2月21日であり、士官学校卒業
と同時に配属されたクルーゼ隊がL3出撃の帰路に入手した情報をもって資源
衛星へリオポリスを襲撃するのは翌年1月25日である。
 このときから鞍替えまでの数ヶ月のあいだにアスラン・ザラはエースパイロ
ットとして数十回の勇敢で巧妙な戦闘を行ない、キクチカンの「コズミック・
イラの英雄・アスラン伝」によれば、「剛胆不?(ふとう)、常に第一線に立
ちつつ奮戦又奮戦、真に軍神マルスを泣かしむる行動を敢行して、よく難局を
打開し、赫々(かくかく)たる戦捷(せんしょう)の素因を作為したもので、
実に軍の華、コーディネイターの亀鑑(きかん)と称すべきである」となって
いる。事実、そのとおりであろう。アスラン・ザラが篤実で有能なコーディネ
イターであったことはまちがいない。
 しかしこれだけでは、アスラン・ザラが、801神として、英雄としてプラ
ントにも女性ファンの精神の上にも君臨することはできない。なぜならば、こ
の程度に有能で篤実なコーディネイターは、その当時も、それ以後にも、いく
らでもいたからだ。
 それにもかかわらずこの少年がぬきんでられて「801神」になりえた理由
のひとつは、かれがガンダムに乗っていたからである。
 ガンダムは当時、コズミック・イラにおけるあたらしい兵器であった。ザフ
トの一部では、小学生がはじめてケータイをもったような無邪気な興奮があり、
――ザフトも最新鋭MSを運用できるんだぞ。
 という宣伝を内外にしたかった。プラント側にガンダムタイプの強力なMS
が豊富にあったならばザフトもこういう宣伝をする必要がなかったが、あいに
く、申しわけ程度も強力なMSがなかった。少年神を作って壮大なエース部隊
があるかのごとき宣伝をする必要があったのだ。
343通常の名無しさんの3倍:04/03/27 01:53 ID:???
保守
3441:04/03/27 22:46 ID:???
4月からついに社会人になります。書き込みは極端に減るかと思いますが、
よろしくおながいします


「由悠季は禿頭にて」一段落つけるために追加しまつ
「庵野には監督に必要な本気が足りない」
 とも、富野は言いまわった。
 富野は本気をもって取りくんでいるつもりであった。むろん富野の復活にお
ける本気というのは他のアニメファンや宮崎信者たちの目にも浅ましくおもえ
るのであったが、当の秀明は富野が往年のパワーを取り戻したことをよろこん
でいた。
――あれでなければ富野さんではない。
 と、庵野秀明が思っていたのは、富野がみずからの原動力となる本気をもっ
て活力・エネルギーを再びもつであろうと期待していたのである。秀明は内心、
富野を煽りその力を復活させるためにエヴァという爆弾を投げたのだろうか。 
 普通、自分や自分の作った作品に対して賞賛したり喜んでくれる者を嫌がっ
たり、邪険にするようなことはまずない。好意は当然のごとくプラスであり、
評価をしてくれるということはその作品に価値があると認められている証でも
あるからだ。
 筆者はいわゆるエヴァ信者ではなかったため、それほどエヴァが映画化され
るということに関しては狂喜しなかった。゛予兆゛にとめておく選択も一つの
策(て)であるとおもっていたということもあったが、なによりも作り手の側
がひたすらファンサービスをしまくる方向もなんとなく見苦しく、やってほし
くはなかったのだ。
 サービスといえば、秀明はべつの意味で90年代という時代そのものにサー
ビスしていたといえなくもない。
 筑紫哲也のニュース23にゲスト出演したときだったとおもうが、かれの格
好はまことに庵野秀明らしさに満ちていた。
 Tシャツに短パン、さらに首からタオルをかけ、サンダルをはいたその姿は
゛個性゛そのものであったといえる。
 この庵野秀明がもしスーツ姿で出てこようものなら、それこそ庵野秀明とい
う個性は強烈に印象づけられたか、どうか。
 さきに爆弾という言葉をつかった。
 この爆弾の意味は二つある。一つは爆薬を中につめ、投げつけて爆発させる
もの。もう一つは突然発言して、人をおどろかせること(いわゆる爆弾発言)
 筆者は先行編というべき春の劇場版・シト新生(平成9年3月15日より公
開)を中学卒業の日に友人と見にいったとき、巨大な次元爆弾が観客のほうへ
放り投げられたような印象をうけた。もちろんただ放りこまれただけで起爆は
していないから、こちらにはダメージはない。庵野の本音と怨念がこもったよ
うなその爆弾にいったいどれだけのひとびとが気がついたのか。
 リバース編のアスカの復活は庵野のテクニックが冴えていた。爆発のエフェ
クト(小さな爆発からつかの間の時間をおいて大爆発をおこすネルフ艦艇など)
とシーンを飾る鷺巣詩郎の音楽は見事だったし、ギリギリの緊迫感と弐号機の
異様さを見せつける部分、上空からエヴァ量産型が白い翼を広げて降下すると
ころ、魂のルフランがタイミングよくかかるのも素直に上手いと思った。もし、
このレベルで締めくくっていたのなら庵野の狂気もそれほどにはならなかった
だろう。
 富野はエヴァについては否定意見ぐらいしかコメントを残していないが、お
そらく自分のやった手法をもっとも露骨に庵野がやったからこそ憤りを感じた
のだとも考えられる。
 完結編である夏劇場版(Air/まごころを、君に)でついに庵野の狂気の爆弾
は炸裂した。かれの、同種のアニメファン・観客へ向けた嘲笑と凄まじさ、生
々しさは、イデオン劇場版以上の露骨さでしめされる。
 おもえばイデオンは「ひとびと」がイデ発現によって救済されるという禁じ
手で、その禁じ手という措置が劇中のキャラクターをたすけた。だが赤木リツ
コも、葛城ミサトも救われたのかどうか。科学者、女という業を持ちえていた
点でリツコとイデオンのフォルモッサ・シェリルはかぶるところがある。だが
シェリルには無限力発現をみることができたギジェがいたが彼女はどうであろ
う。ミサトも加持に会えたかどうかもわからない。
 Vガンダム、そして富野からうけた庵野の強烈な部分――それはイデオロギ
ーと簡単にくくってしまっていいのかはわからないが――は、徹底したアスカ
(カテジナ)陵辱とそのままの姿を貫くシンジ(ウッソ)と母体回帰のごとき
LCLの海へとシンジを導くレイ(シャクティ)を中心として展開される。劇
中にはほかに弱い大人ゲンドウと悲願を成就したであろうゼーレの老人キール・
ローレンツ、そしてシンジをつつみこむ母・ユイの姿と光の翼とともに柱とな
るエヴァ初号機……。
「人類補完計画」の真髄はみんなと一つになることですべての業・心をすくう
というところにあったといえる。その対象はなにも劇中のキャラクターだけで
はない。この劇場に足を運んできたファン・観客たちもその対象であった。
「庵野死ね」(これが映しだされるとはおもわなかった)
 スクリーンに映る現実世界を、虚構の世界の住人が問う。
「ほんとに、気持ちイイの?」
 アニメーションにおいて、鮮血の描写とセックスはタブーとされてきた。そ
の壁を庵野は爆弾を投げつけることで破り、禁断の快楽を提示した。
「みんなぐったりした顔してるなあ」
 筆者の友人が映画のあとそう言ったのをいまでもおぼえている。
 すべてが一つになればそれはそれで一つの゛オチ゛になるのだろう。だがシ
ンジはなにもないこの場(LCLの海)からの脱却を望み、現実世界へと帰っ
てくる。
 ラスト直前、シンジがアスカの首を両手で絞めるシーンがある。当時観終わ
った筆者には、かれがなぜアスカの首を絞めるのかがわからなかった。アスカ
に依存していたシンジなら、むしろ彼女がいたことは喜ぶべきことではないか。
 疑問を解いてくれた本がある。北野太乙氏の「日本アニメ史学研究序説」と
いう本だが、その中に゛死んでくれなかったデビルマンのようなアスカ゛とい
うのがある。
 デビルマンの王道パターンは意味を喪失したデビルマンの、そのデビルマン
――不動明――のアイデンティティを失わせしめた敵に対する戦い、いわば「
救いのある」ものであったはずだが、元々のアイデンティティをもっていない
シンジと、恋人を殺され信じていた人間たちに裏切られたデビルマンを同列に
することはできない。
 死んでくれというあの首を絞める行為は現実へのせめてもの抵抗とみること
ができる。帰れ帰れとはいうものの、やはり現実世界には不安がいっぱいだか
らだ。
 しかし゛現実゛であるアスカが死んでしまってはひとびと(ここにはファン
たちもふくまれる)は補完されない。ゆえにかれは絞めきれずに泣きくずれる。
そのシンジをギロリとした眼でみるアスカ。
「気持ちわるい」
 終劇の題字とともに閉まっていく幕がいまでも印象にのこっている。
 シンジがなぜミサトやレイを選ばずにアスカを選び依存していたその理由が
庵野の意図にあることは明白だ。年上のミサトは優しいときもあるがシンジか
らすれば把握できず、また少年ゆえに大人の考えや論理などわからないために
゛こわい゛、レイはつくられたもの。アスカこそ、庵野がもっとも強調したか
ったキャラなのではないだろうか。堕天使として堕とされたカテジナ・ルース
の作劇法とウッソのカテジナへの執着をかれは日本アニメーション史上たれも
やったことがないくらいの方法でやってのけたのである。
「庵野も虫がいい。おのれがそうであるのに都合よくファンたちにだけ現実に
帰れというのか」
 とかれはひとにいった。富野にすればそんな恥をさらすことより彼自身のい
う゛本物の物語゛をやったほうがはるかにアニメーション文化のためになるの
である。「庵野秀明というのはああいうやつだ」と、ひとに言いふらした(中略)
 Vガンダムによって庵野秀明に影響をあたえたはずの富野はエヴァ劇場版以
後一度も庵野と接しようとはしなかった。
 周りの者たち、そして自らのもっとも強烈な部分を忠実に継承してしまった
庵野を認めることがおそろしく、またこれこそが富野イズムであるということ
を知られるのがおそろしかったのである。
(かつて定着させられていた自分の立場にもどされてしまうのではないか)
 という、サンライズもかれを知るスタッフたちもおよそ思いもよらない痛点
を富野だけが持ち、富野ひとりが恐怖し、戦慄していた。
 この心事はかつてガンダム・イデオンによってカリスマとして持ち上げられ、
異常すぎるファンエネルギーによって大ヒットを経験した者でないとわからな
い機微かもしれず、あるいは尊大な者が往々もっているけたはずれの臆病さに
よるものかもしれなかった。とにかく富野にすればもう二度と゛ガンダムの゛
゛イデオンの゛とレッテルをはられた評価の立場に戻るのは御免であった。富
野は自らの作りだした映像・小説で庵野秀明に影響を与えた。当然、世間も周
りの者もエヴァのルーツは富野由悠季にあると思うであろう(略)
 かれは秀明とリンクして同じ者同士(同類の思想的体質)とおもわれないた
めに、ひたすらエヴァ批判を通じて庵野との関連性を断ちきろうとした。この
ことは富野の悪徳というより極端な臆病さによるものであり、極端な臆病とい
うのはそれ自体が悪でありうる場合が、あるいはあるのかもしれない。
「庵野はリアリティを放棄し、アマチュアに逆戻りした」
 と、富野は自分をまもるために、あちこちに言いふらしはじめたのである(中略)
「小生は庵野のエヴァなどとはなんの関係もない」
 とも富野はいった。富野にとってこれが重要な点であった。 
「映画だ」
 と、由悠季はいった。さらにいう。「エヴァ劇場版」は悪魔の映画である。
なぜならばナマの感覚のないセンズリ体質の代物だからだ、秀明はあたかも自
分はコピー世代であるといい自分にはなんらの才能もないとして「オマージュ」
を奉じていた、小生はこれに反対であった、と富野はいうのである(中略)
「悪人というのは、いるのです」
 と、庵野秀明に言ったのは、のちに秀明と結婚することになる――漫画家・
代表作としてドラマ化もされた「ハッピーマニア」などがある――安野モヨコ
だった。彼女は秀明が富野のような男に入れあげていたのが最初から不満で、
秀明を尊敬しつつも、
(えらく成功した人でも、やはり少年のような未熟さはどうにもならない)
 とおもっていた(中略)
 秀明はエヴァのつぎに手がけた「彼氏彼女の事情」で自分のアニメ作家とし
ての経歴はおわりになるかもしれないとも思っていた。自分が実写の方向へ行
った後、富野のような、自分にとって偉大で尊敬すべき男に「庵野君はまこと
に惜しかった」を言い散らされるのはじつにつらい、と秀明はこぼしている。 
 このあたりをくりかえし、
「自分は、自分の作品・言動について世間の口舌に遇う(批判される)ことは
敢て辞さない。しかし富野さんが意見をしてくれるのは畏(おそ)れおおくて
かなわない」
 という。自分の作品が過大に持ち上げられすぎてより凄い印象を世間にあた
えてしまうような気がしたのである。
 安野モヨコはつづけて、
「よろしくございませんでした。ああいう人に影響をうけられたことは。――」
 といったが、秀明はそうは思いません、と強くいった。この期(ご)になっ
てあわただしくそのことを後悔すれば自分の半生を自分で否定するようなもの
であった。
356通常の名無しさんの3倍:04/04/03 11:31 ID:???
保守
357:04/04/03 23:00 ID:???
多忙なためネタが書けませぬ。しばらくお待ちください。
358通常の名無しさんの3倍:04/04/08 22:32 ID:???
保守
359:04/04/14 13:53 ID:???
少しですが書いてみますた。
以下、85からの続きになりまつ。
 とにかく、この場はさかりおるアルビオンの者どもに一芝居うたなければな
らない。
 ワイアットはシーマ・ガラハウのザンジバル級機動巡洋艦リリー・マルレー
ンとの接触をあきらめバーミンガム反転を下令、さらにメガ粒子連装砲5基の
砲門をひらかせて演技を徹底した。記念すべき初の艦砲射撃はリリー・マルレ
ーンの僚艦ニーベルング(ムサイ級後期型軽巡洋艦)を沈黙させた。
 むろんアルビオンのMS部隊はこの戦闘が芝居であることに気がついていな
い。
 アルビオンのMS部隊指揮官サウス・バニング大尉のRGM79−Nジム・
カスタムが、シーマ海兵隊用MSゲルググ・マリーネを墜(お)とした。
 ジム・ライフルで撃墜する前にバニングは妙な、いかがわしい空気を感じて
いた。悪い予感がしたのである。
 さらにかれはさきにバーミンガムが沈黙させた軽巡ニーベルングの残骸残る
空域でもう一機のゲルググ・マリーネを撃墜した。一息ついてニーベルングの
残骸をみたとき、あるジオン将校の死体と、手錠でつながれている一個のトラ
ンクを発見したのである。
 トランクを自機に持ち帰り、ハッチを閉じたとき、モニターにMS−14F
sシーマ専用ゲルググ・マリーネの姿が映った。突然のジオンMSの出現に、
バニングはおどろき、死を覚悟した。
 げんにかれの機体は必死でシーマに反撃しながらもシールドを破壊され、ジ
ム・カスタムの腹部に銃弾をうけたがなんとかシーマ海兵隊を撤退させること
ができた。
 アルビオンへの帰還中、かれは上官のエイパー・シナプス大佐に報告した。
――もう一つ、戦果があるのです。帰還後、すぐにお届けします。
 と、いった(略)
 シナプスは好意的に返答をかえした。通信回線がとぎれたあと傷ついたバニ
ングのジム・カスタムをまもるようにコウのガンダム試作一号機(宇宙仕様)、
キースのジム・キャノンUが並んで進んだ。
(もう、こいつらも一人前だな)
 バニングはおもっている。もう、おれの指導なくしても充分渡り合っていけ
るだろう。
 別居中の妻シルビアの写真をとりだし、コウに教訓めいたことをさとして写
真をしまったあと、ふと、先ほど手に入れたトランクの中身が気になった。
 バニングはトランクの中に入っていた書類を読みながら驚愕した。
「これはすごい。敵の配置が一目瞭然だ」
 と声をあげた。そこに書かれていたものは星の屑作戦の詳細である。敵の目
的はなんなんです?と聞くコウに答えようとしたバニングを不幸がおそった。
銃弾によってかすめられていたジム・カスタムの腹部が破裂しコクピット内が
血で彩(いろど)られ、さらに誘爆を起こして宇宙に流れていった。回線の音
が完全に聞こえなくなったとき、一つの閃光が宇宙の彼方で光るのをコウとキ
ースはみた。
 不意の出来事であった。
 もし機密書類が無事にシナプスのもとへ届けられていたらその後の惨禍は防
げたかもしれなかったが、このことは連邦側のみならずシーマ自身の誤算にも
つながった。なぜならばシーマはワイアットに接触し機密を提供することによ
って自己の安泰をはかろうとしていたからである。
 バニングの戦死によって星の屑作戦の詳細は永久に葬られ、結果としてデラ
ーズ・フリートを利することとなった。
 この日(宇宙世紀0083・11月8日)のシナプスの航海日記。

 本日、本艦は戦艦バーミンガム救援において、優秀なる戦闘指揮官サウス・
バニング大尉を失った。彼の冥福を祈りつつ、私は作戦行動中の艦長特権とし
て、アルファ・A・ベイトとコウ・ウラキに、戦時階級を与え一階級進ませる
ことにした。

 さらにかれは亡きバニングに代わってバニングの妻シルビアに入れ違いで届
いた彼女からの手紙の返事を書いている。
364通常の名無しさんの3倍:04/04/16 22:53 ID:???
保守
365通常の名無しさんの3倍:04/04/20 03:40 ID:ddBD2bYm
ほっしゅ
366通常の名無しさんの3倍:04/04/22 22:35 ID:???
ホシュ
3671:04/04/26 15:59 ID:???
皆様、保守ありがとうございます。ここのところ実に多忙でして、ろくに週一
休みも取れない状態でつ。


なんとか書く時間を取らねば。
 21世紀の種スタッフはにわか作りの801神をつくるぐらいが能で、その
本業である少年の自立や成長、創作文化の向上を怠ったといわれてもしかたが
なかった。そのために種で無意味なパクリをやったばかりか、かれらの無能の
ためにアニメーションの価値という判定のばあいも、なに一つ名場面などなく、
少年たちの乗るガンダム群は圧倒的火力と能力のために殲滅戦という悲惨な戦
いをし、ほとんど最終局面で戦死してしまった。アスラン・ザラはまだしも「
801神」としてうかばれたが、子供だまし同然のガンダムと機体にのせられ
てろくな活躍もできぬまにビームライフルやサーベル、エネルギーの閃光に串
刺しにされた多くの兵士やキャラクターたちが、怨念晴らされぬままいまもね
むっているのである。
 はなしが、ついわきみちにそれてしまったが、アスラン・ザラのことにもど
そう(中略)
 いまでもよくわからないが、コーディネイター・アスランは、両澤のつくっ
た対女性ファン用の801神であっても、ガノタ用の神さまではなかったので
はないか。
 たとえば、コーディネイター・アスランの鞍替えの状況は、連合と中立陣営
オーブとのあいだで戦端がひらかれていた。その両軍の戦闘の渦中にアークエ
ンジェル部隊があり、ラクス・クラインの手びきで新型ガンダム・フリーダム
に搭乗するキラ・ヤマトと3機の特異な個性をもつガンダム群が激闘をくりひ
ろげているのが単独できたアスランにもみえた。
 アスランは、キラ・ヤマトのフリーダムガンダムを確認するや、課せられて
いたフリーダム破壊命令の特務もわすれて、ためらうことなくジャスティスガ
ンダムのシールドでキラのフリーダムをかばった。
 敵機が、ビームエネルギーが間断(かんだん)なくふりそそいでいる。アス
ランはひるまず、ビームナギナタをふるい、今までのいきさつを忘却しきった
かのようにキラのフリーダムと巧妙な連携プレーをした。
 信号弾がうちあげられ、敵軍が一時撤退したあと、二人は相対(あいたい)
してたがいの心を探りあった。このときの「話がしたい」といったアスランと
キラ、そしてさきに無人島で知り合いになっていたカガリの強引な和解の場面
が、種における801神伝のクライマックスとして印象づけられた。
 しかし、終結へむかうために劇中のキャラクターたちが一つの勢力に結集す
るのはアニメーションの定番であり、また協調といったこともアスラン・ザラ
だけがやったことではなく、ガンダムシリーズでは当然のごとくやっていた(中略)
 アスラン・ザラはこのときを境にキラ、そしてラクス陣営に移り、文字どお
りのお約束的活躍をしていくことになるのだが、この都合よすぎる変節が、旧
世代ガノタや他のMSパイロットの気に入らなかったのであろう。だからその
鞍替え後、801神の印象がますます高まるにつれて、種ファン・801ファ
ン以外のひとびとは口をとざしてしまったのである。
 アスラン・ザラはライバルから盟友になってしまったが、エリート部隊長の
ラウ・ル・クルーゼは本来アスランが背負うべき役割を゛担当゛することとな
った。クルーゼはその後ほどなく最新鋭機プロヴィデンスガンダムをパトリッ
クより与えられたが、ことあるごとにキラ、アスラン、そして複雑な関係にあ
るムウ・ラ・フラガの敵として立ちふさがった。それでも単なる狂人としかみ
えず、大物となりえないところがクルーゼのぶざまさであろう(略)
 しかし種スタッフにはスタッフの都合があった。801の宣伝をあくまで徹
底したかったのである。
 ついでにいうと、鞍替え直前のアスラン・ザラのガンダムタイプMSはほど
なくZGMF−X09Aジャスティスガンダムに一変した。この新型ガンダム
の性能は、出来あがった当座からMSのなかでも傑出したものとされた。ザフ
ト側が奪取したGATシリーズのデータを元に作られたこの機体は、キラの搭
乗するフリーダムガンダムとは兄弟機にあたり、動力のニュートロンジャマー
キャンセラー(長ったらしい名前だが単に核エンジンのこと)装備による無限
のエネルギー供給とハリネズミのごとき火器、さらにミーティアという強化武
装までついている反則きわまりないガンダムで、これが終盤の戦争において絶
対無敵といえるほど活躍するが、不幸なことにそのデザインは過去にあったガ
ンダムをあらいざらいパクリまくってなんのオリジナリティもなかったために
たちどころに矮小化した。その点、ガンダムタイプMSしかウリのない種では、
ガンダムは唯一のブランド的な兵器だったといえる(中略)
 このきちがいじみた種のおかげでアニメーションの価値が落とされ、ガノタ
があまりにも迫害されすぎた。「801神」と主人公だけが特別な栄誉をあた
えられるのは、他の無名の死者、ファンたちへの冒涜であろう。もともと平凡
な少年にすぎなかったアスラン・ザラは、いま悪夢のような種の放映が終了し
て、世間から忘れられてしまったことに安堵しているにちがいない。
372通常の名無しさんの3倍:04/05/02 22:02 ID:???
保守
3731:04/05/06 00:49 ID:???
保守に感謝しつつ
 シナプスのアルビオンが孤独な捜索をおこなっているときも、ソロモン海・
コンペイトウ鎮守府に浮かぶ連邦艦隊は、相変わらずの事なかれ主義で、観閲
官グリーン・ワイアットの姿勢を体現するかのように、散漫な索敵とMS部隊
の小規模投入という行動をくりかえしていた。
 戦闘という局面からみて、これほど愚劣な行動はなく、げんにアルビオンの
シナプスはそうみていた。
「コーウェン揮下のアルビオンが信用に価する艦なのかどうか」
 ということについても、当然のように連邦上層部は否定的であった。
 グリーン・ワイアットが自分の置かれた状況を理解する上でいかなる情報も
もっていなかった証拠に、
「デラーズは我が光栄ある連邦宇宙軍によってコンペイトウ近海で即座に殲滅
されるだろう」
 と確信しきっていたことである。
 それとともにアルビオンの連中も大海の藻屑として消えるべきだともワイア
ットは望んでいるふうでもあった。デラーズら驕慢の徒をここまでのさばらせ
たアルビオンがものの見事に宇宙に沈んでしまえば、今後コーウェンを支える
柱がきえて、軍内の実権を連邦軍提督ジーン・コリニーのもとに一元化するこ
とができ、これが最良の手段であるかもしれなかった。たとえ金のかかってい
るペガサス級やアナハイム製の試作ガンダムが撃破されたとしても、わるい損
害ではない。むしろこの核武装された試作ガンダム二号機をデラーズら残党ど
もに強奪された汚名艦をこの後も生かしておけばどういう存在に今後なってゆ
くかわからず、ジョン・コーウェンの第三艦隊の中核戦力として重きをなすこ
とも考えられる。となれば提督の気が変わって、
――このままにしておけ。
 と、現状を黙認するかもしれない。
「エイパー・シナプスのアルビオンをどう処置するか。もしこのまま二号機奪
還を成功させたら、アルビオンを管轄するコーウェンの影響力が変化していく
かどうか。この課題をめぐっての談論はコンペイトウ鎮守府司令部でもっとも
さかんであった」
 と、コンペイトウ鎮守府司令であるステファン・ヘボン少将が、11月8日
付で書いているのである。 
 11月10日・02:23になって、アクシズからデラーズ・フリート支援
におもむいた先遣艦隊がついに地球圏に到着した。グワジン級大型戦艦グワン
ザンを旗艦とし艦隊指令はデラーズとは旧知であるユーリ・ハスラー、搭載し
ている試作MAが無事にデラーズ・フリートの手に渡れば今後の対連邦戦の要
となる可能性が大きかった。
 しかしこの先遣艦隊は、デラーズ・フリートと共闘するためにおもむいてき
たわけではない。アクシズにはまだ戦える力はなく、このような状態でデラー
ズの一挙に参加するのは無謀である。
 かれら先遣艦隊の任務はあくまで゛後方支援゛というべきものであり、それ
以上のことはどうしてもできないのだ。
 同じく11月10日・00:00、〈茨の園〉出港後暗礁宙域で作戦活動中
のデラーズは、かれにとってもっとも頼れる盟友が指揮統率をしているアクシ
ズ先遣艦隊に宛て、祝電を打ったところ、うまく旗艦グワンザンに届いた。
「どうやら同志たちはぶじに到着したらしい」
 と、デラーズは、かれの旗艦グワデンでその先遣艦隊からの返信報告をうけ
とると、3年ぶりの盟友との再会に、感慨のこもった微笑をうかべ、
「はるばる来援してくれた同志たちをあたたかく迎えるのだ」
 と、命じた。
 同日、はるか遠方の星々が浮かぶ宇宙に一つの青き地球をみつけたときの先
遣艦隊の将兵のよろこびようは大きかった。今まで太陽の光すらろくにあたら
ない寒い小惑星に居ざるをえなかったジオン残党たちにとっては、アースノイ
ドが感ずる以上の感動があったであろう。
 兵卒にいたるまでアクシズ先遣艦隊のことを、
「傍観部隊」
 とか、
「見殺し船団」
 などと自嘲する者もいたが、いまは先遣艦隊の将兵はそのことは忘れてしま
ったかのようであった。かれらの歓喜はデラーズ・フリートを支援するという
義理がたいものと、地球圏へ帰ってきたというよろこびが入りくんでいるもの
のようであった。3年にもおよぶ小惑星アクシズでの生活はそれほどかれらを
空しくさせていた。デラーズ・フリートとの接触はかれら公国軍人精神を、泣
きだしたくなるような思いで満たしてくれた。
378通常の名無しさんの3倍:04/05/16 11:31 ID:???
保守
「整然たる一大ページェントにせねばならんな」
 と、グリーン・ワイアットは、コンペイトウ鎮守府司令部から連邦宇宙軍の
大艦隊を見つつ、そういった。
 どういう理由かワイアットはデラーズ・フリートに対する哨戒・索敵、それ
ぞれの海域における部隊に徹底した指令を発せず、またヘボンにも指示させな
かった。この対処の不徹底ほど、デラーズ・フリートの作戦行動にとってプラ
スになったものはなく、残党たちとしてはこのおかげで連邦MS部隊の防壁を
やぶる苦労はほとんどなかった。
 かれは側近たちに、
「紳士として失礼のないようにしておきたまえ」
 と、命じた。グリーン・ワイアットが、これは信じがたいことであったがジ
オン残党鎮圧についてステファン・ヘボン少将に命じた事項は、ただこれだけ
だったのである(中略)
 やがてワイアットは、ヘボンとその幕僚を長官室に同席させ、ダージリンテ
ィーと英国伝統の菓子ジンジャーブレッドをふるまった。揮下の艦隊司令たち
も招待されている。ティータイムのあと、食事になった。
 食事中、
――ジャブローからの航海はいかがでした。
 というコンペイトウ司令部幕僚からの質問に答え、ワイアットは簡潔かつ流
暢な言葉で答えた。かれの新鋭艦ばかりの大艦隊の航海は、ペガサス級7番艦
アルビオンとはまったく対称的な気楽さであったといってよく、敵の襲撃もほ
とんどなく、どの量産型MSもきれいに磨きあげられており、いますぐにでも
大観艦式を挙行することが可能であった。
 しかもワイアットは、マニュアルどおりの艦隊運用をもってソロモン海まで
来たのである。かつてのマクファティ・ティアンムの艦隊行動のばあいは、慎
重に慎重をかさねた宇宙への打ち上げと徹底した臨戦態勢をとって作戦に挑ん
だのだが、ワイアットはその点においても未熟であった。
「ところで、今後の残党どもへの対処のことだが」
 という言葉が当然グリーン・ワイアットから出なければならなかったが、か
れはついに出さなかった。ただ一部の対処担当についてだけはバーミンガム付
きの参謀長を通して指示された。エイパー・シナプスがひきいている強襲揚陸
艦アルビオンをもって海域に侵入してくるジオンMS殲滅をやらせるというこ
とであった。価値はないが性能のやたら高い試作ガンダム一号機をもつアルビ
オン隊は二号機奪還と同時にコンペイトウ海域の治安維持の任務を押しつけら
れ、しかも他の連邦軍部隊は積極支援はしないという通達も送られた。
 会食は一時間半ほどで終わった。
 命令を受けたシナプスはクルーに対し、苦渋に満ちた表情(かお)でMS部
隊出撃の命を下した。
――機影――

 ソロモン海は、旧サイド1の空域にあるジオン・連邦双方にとって因縁の地である。
 連邦の大艦隊が、絶対民主制と政府の意思をもって盛りおる宇宙の者たちをこらしめるべ
くこの大海に出現したのは、宇宙世紀0083・11月8日のことである。
 このかつてのジオン公国海域だった場所に出現した史上最大の艦隊(アルマダ)の規模は
アルビオンを含めずとも数百隻、排水量はジオン残党の有する艦艇の数千倍という巨大さで
あった。
 艦隊戦闘において勝敗を決定するMSは残党勢力がごく一部のカスタムMSと改修機しか
もっていないのに対し、この大艦隊はかなりのMSをそろえていた。しかしこの大艦隊の主力
をなすべき戦艦・巡洋艦・補給艦・MS群は一年戦争のころとさして変わらぬ性能しかなく、マ
ゼラン改・サラミス改級巡洋艦にいたってはMS搭載能力すらなく、単に物量という面だけで
強弱をはかる考え方からいえば、デラーズ・フリートの微弱な艦隊戦力よりも十分優位に立
っていた。
 観艦式参加を許されず奪還任務をつづけているエイパー・シナプス大佐のアルビオンはな
るほど連邦宇宙艦艇随一の新鋭艦であり、ワイアットは当初から計算外においていたが、そ
れでもなおそのアナハイム製・RX−78GP−01Fb試作ガンダム一号機を有するコーウェン
の第三軌道艦隊所属の戦力はコンペイトウ・制限海域において二号機奪還と残党鎮圧の役
目をはたすべく、事実この威力を冷静に計算した幕僚も多かった。後年グリプス戦役後、匿
名で感想を発表した人物は、以下のように書いている。
「アルビオンが失態をおかしたとはいえなおその存在が無視できなかったのは、そのアナハ
イム・エレクトロニクス製のMSと最新鋭揚陸艦があったためである。戦場にあってはアルビ
オンはそのMSと艦の性能をフルに発揮するであろう。さらにはかれらは奪われた二号機を
もなんとかするにちがない。この潜在能力すぐれたジオン残党戦においてアルビオン隊の
戦力は十分意義あるものになるであろう」 
 活発な作戦行動が開始された。
 この星の屑作戦はかねてよりエギーユ・デラーズが考案し、海兵隊指揮官シーマ・ガラハウとアナベル・ガトー
が直接実行するというもので、かつてギレンのやったブリティッシュ作戦の後継をになうものであろう。核弾頭装備
の試作ガンダム二号機を奪取し、それを用いて連邦軍に大損害をあたえる。第一段階が終わったあと、シーマ海
兵部隊によるコロニージャックでうばったスペースコロニーを一旦月面落下コース(月軌道)へ乗せる。その月面
にむかうスペースコロニーへ連邦の目をくぎ付けにし、土壇場で地球落下コースへコロニーを変更させるのであ
る。その作戦の第一段階には強奪したガトーのRX−78・GP−02A試作ガンダム二号機が運用された。その戦
略核並の核弾頭を守るジオン残党将兵はわずかながらもみな必死の思いであった。 
 要するにグリーン・ワイアットにすれば、連邦宇宙艦隊をもって宇宙の抑止力となればよい。
それでかれの作戦目的は達するわけであり、途中の戦闘はなければ無いほうがよかった。
 戦略的見地からみても、コンペイトウ鎮守府に連邦軍の大宇宙艦隊がびっしり詰まっているというだ
けで、ジオン残党にとって宇宙は安全な大海でなくなり、茨の園をはじめとした潜伏拠点をおびやかさ
れることになるのである。
 が、二号機をもつデラーズ・フリートが跳梁している。これを殲滅し改めて連邦政府の強大さをスペ
ースノイドどもに示せればいいのだが、なんといっても最上の方法は残党どもに゛切り札゛を使わせる
ことなく目的を達することであった。二号機奪還が不可能とすれば、より大々的なやり方で威信を示す
方法を考えることである。
「デラーズ・フリートをコンペイトウ付近に到達させる」
 という方法があった。
 あえてコンペイトウに二号機を到達させ、撃破するのである。ジオン残党の標的たる大観艦式の挙行
場をオトリにし、やってくるジオン残党を随所にたたき、二号機のみは撃破せず、コンペイトウ付近で連
邦宇宙艦隊の一斉砲火で見せしめように華麗に消す。なにしろソロモン海はジオン残党たちにとって因
縁の場所であり、いけにえとするには試作ガンダム二号機はうってつけのMSであったが、しかしこの方
法の難点は相手がこちらにとってガンというべき戦術核搭載のMSな上に、途中で連邦軍MS部隊によ
って簡単に殲滅してしまう可能性のあることだった。
384通常の名無しさんの3倍:04/06/26 11:08 ID:???
保守
385通常の名無しさんの3倍:04/06/26 16:46 ID:???
保守
386:04/06/26 17:30 ID:???
書き込みが遅くなりまして申しわけありませぬ。書く時間がなくて、困り気味
なこの頃です。
保守ありがとうございまつ。
「ぞっとするほどナルシズムの人」
 という、潜伏期間中、かれと一夜をともにした一少女の印象談がのこ
っているが、シャアの態度や言動は、ときにそういう不思議さをひとに
あたえるらしい。
 シャア好きの公女ミネバ・ラオ・ザビでさえ、シャアについてそうい
う意味の冗談をいった。ミネバがスウィート・ウォーターでネオジオン
軍の演習を見られたとき、旗艦レウルーラで宿営をされた(略)
 宿営の夜、どこからともなく流暢(りゅうちょう)な美声がきこえた。
ミネバはねむれず、起き上がって部屋を出て声のする方向へむかい、そ
っと部屋をのぞいたのだが、そのときバスローブ姿でえんえんと鏡の前
で熱弁を振るう一人の男の背がみえた。シャア・アズナブルであった。
かれは翌日の演習における演説の練習をしていたのだが、後日、この夜
の話題が出たとき、公女ミネバは、
「あの日の演説は見事であった。それよりもすさまじかりしは、あの真
夜中の寝所にあって、バスローブ姿で熱弁をふるった赤い彗星のシャア
であったよ」
 と、笑った。その場にシャアがいた。ミネバはシャアをからかってそ
ういったのである。シャアは苦笑し、たれがみても流暢としかおもえな
い姿勢で頭を下げた。その様子がなんともいえぬ気品があったためにミ
ネバは微笑し、一座も感心した。
――シャアは叛乱を起こすのではないか。
 という疑惑が、第一次ネオジオン抗争終結以前から存在した(中略)
 この時期、連邦政界にあらわれた開明家があった。民間企業家の出身
で、連邦議員として着実に実績をあげ、ついでティターンズ寄りの大政
治家として暗躍した経歴をもつジョン・バウアー(補給部門にもっとも
強い影響力をもつ)である(略)
 時代は開明家を必要としていた。こののちに外郭新興部隊――ロンド・
ベル隊――を創設する才能のもちぬしがもしアムロとブライトを起用せ
ずまた戦備を整えることがなければ、第二次ネオジオン抗争の情勢推移
はよほどちがったものになっていたにちがいない。第一次ネオジオン抗
争も、かれのRGM−86R・ジムV量産化提言によって、幸運の女神
がほほえんでくれたかのようにうまくいった。ネオジオン最高指導者ハ
マーン・カーンを相手とした第一次ネオジオン抗争は新兵といっていい
ジュドー・アーシタらネェル・アーガマ隊をおもな主力としておこなわ
れたものだが、この男はダカールで他の連邦高官が安穏としているなか
ひそかに反攻準備を整え、指導した。ジムV量産化と資金調達も、「今、
ジオンを駆逐しなければ政府そのものはおろか地球があぶない」という
困難な事態でたくみに支援勢力の形成とMS部隊の集中運用を適確にや
らせる環境をつくり、一年もたたずに決着させた。
 バウアーは数すくない民間企業家あがりだけに、思想がかったニュー
タイプ主義者や、共産主義的官僚気質を多くもっている他の連邦議員た
ちとはちがっていた。フリーメーソンといった連邦政界に影ながら存在
する宗教系へのつながりも一切なかった(略)
 そのバウアーの旧米国系的な合理性をみて他の連邦政界の一部は歯が
ゆがり、アデナウアーの系列議員はバウアーと衝突した。
 そのバウアーが、
「ジオンの世は終わりました」
 といわんばかりの態度で、第一次ネオジオン抗争がおわるとすぐ外郭
新興部隊――ロンド・ベル隊――創設の準備をはじめたのである。たれ
もが、第二のティターンズをバウアーはつくろうとしているととらえた。
 そのバウアーが、創設とともにサイド1・ロンデニオンに外郭新興部
隊の本拠を置き、さらに旧エゥーゴ系の人材を積極的に集めた。理由は、
「いずれ宇宙から、ヨシフ・スターリンのごとき者が興ってくる。その
備えのためである」
 ということであった。バウアーはハマーンに次いで必ず台頭するであ
ろう革命家ジオン・ズム・ダイクンの遺児シャア・アズナブルを先天的
な反逆者とみていた。
 ジョン・バウアーが、
「ヨシフ・スターリンのごとき者」
 と、明快にシャアを規定し、アムロ・ブライトの助言のもとに「どんな手段
をつかってでもνガンダムは完成させねばならん」と公金流用という非合法措
置をしてまで準備したのは、それだけ赤い彗星の怖ろしさを知りぬいていたか
らである。スターリン(本名はヨシフ・ビサリオノビチ・ジュガシヴィリ。ス
ターリンはペンネームで「鋼鉄の人」の意)というのは説明するまでもなくロ
シア革命の指導者ウラジミール・レーニンのあとソ連共産党書記長として絶大
な独裁権力を振るった人物で、ほどなくレーニンが死去するとトロツキーをは
じめとした共産党内のライバルたちをしりぞけ、実質的に党・政府を掌握した。
かれは赤旗をシンボルとするソ連赤軍をも掌中におさめ、やがてレーニンに次
ぐ指導者として期待されていたトロツキーを暗殺し、あろうことか赤軍参謀長
であったトハチェフスキー元帥ほか数多くの赤軍幹部を粛清し、スターリニズ
ムと呼ばれる悪業的独裁の典型をしめした。
「シャアはヨシフ・スターリンである」
 と見ぬいたバウアーの直観は、シャアの一側面を痛烈なほどに道破し
ている。
 スターリンというのは強固な肉体と思想、カリスマ・指導力があった。
頭脳も優秀で、ある種の天才性を備えているだけでなく、強靭な精神力
もあった。極寒の地シベリアに二度も流刑になったのだが、革命成就の
必須条件は才能だけではなく、挫折しても挫折してもなおあきらめず執
念深く目標へ邁進するという存在でなければならなかった。スターリン
はそうであった。
 ロシア革命というのはウラジミール・レーニンが指導し、専制体制の
帝政ロシア政府をたおすことによって成立したのだが、現実にそれによ
って成立したソビエト連邦がより血なまぐさい恐怖の政権となったのは、
スターリンがレーニンの死後全政権を掌握したからであった。このため
ロシア人民はかれの道具として「五ヵ年計画」「赤軍大粛清」の犠牲と
なり、ノモンハンの対日戦功労者ジューコフでさえその生命をにぎられ、
英国のウィンストン・チャーチルは第二次大戦後、ソ連共産化の波がひ
ろがってゆく現実をみて「バルト海のステテティンからアドリア海のト
リエステまでヨーロッパ大陸を横切る鉄のカーテンが降ろされた」と演
説した。
 スターリンは、第二次大戦において戦勝国の指導者としての名声を高
め、米国のルーズベルトは現実的判断をして、極東密約をチャーチルに
内密でかわすほどにこの人物に気をつかった。
 が、かれのつくりあげたスターリニズム独裁政権というのは密告の奨
励と秘密警察の監視によるおよそ平和・平等主義とかけ離れた政権であ
ったため、成立と同時にマイナス面をいやがおうにも経験させられた人
民たちを失望させ、スターリンの死後フルシチョフの行った「スターリ
ン批判」によってより顕著となった。ところがその悪しきスターリニズ
ムはあちこちの国家に伝染した。当のソ連が共産主義体制を切り替えよ
うとしているときでも、そのスターリニズムは形をかえて生きつづけた。
「シャアはそれだ」
 とバウアーがひそやかにアムロ・レイや外郭新興部隊実戦指揮官・大
佐ブライト・ノアらにもらし、とくにブライトにはアムロ同様シャアの
叛乱に対処する戦力と権限を与えた。このバウアーの予測はのちに的中
した。バウアーが建造を急がせた外郭新興部隊旗艦ラー・カイラムとR
X−93・νガンダムが、連邦側にとって大いに役立った。
 シャアとは生涯のライバルである地球連邦軍大尉アムロ・レイの表現
では、
「シャアは本気でニュータイプの理想郷をつくるつもりだろう」
 ということになるが、見方は多少複雑とはいえバウアーとかわらない。
アムロだけでなく外郭新興部隊に参加した人材のほとんどが暗黙のうち
にそうみていたようであり、そうみられても仕方がないものが、シャア
という巨大な像が時代の光を浴びて投じている影の中にふくまれていた
ようである。
 要するにシャア・アズナブルという、この宇宙世紀0089以後の反
連邦政府運動のすべてを象徴する人物の数奇な運命は、この宇宙世紀0
089・1月の「ハマーン・カーン戦死」に決定し、そこから堂々と出
発したといっていい。
「シャアはスウィート・ウォーターで決起してニュータイプの理想郷を
つくるつもりでいるのではないか」
 と、アムロがますます疑念を濃厚にしたというのも、この時期からで
あった。アムロはシャアと同じくアクシズの光の渦の中で行方不明にな
る人物だが、エゥーゴ時代を通してシャアへの解釈は一定の角度からし
か見ようとはしなかった。アムロはシャアの思想は個人的でジオン・ズ
ム・ダイクンの提唱したニュータイプ主義への憧憬(しょうけい)をも
ち、その本質は愛していたララァ・スンを殺されたというはらいきれな
い怨念と復讐心からきているとみていた(略)
 この見方は強烈すぎるにしても、真は穿(うが)っていた。シャアは
天成の革命主義者であると同時に天成の反革命家であり、父のジオン・
ズム・ダイクンとはまったく体質の違う人物であった。シャアがもし旧
世紀に出てイデオロギー濃厚な時代にうまれていたとすれば、ヨシフ・
スターリン以上に個人的な判断と行動をしたであろう。
 スターリンには、稀有のカリスマ的魅力と指導力があった。ケレン好
みとその子供っぽさと精神力のつよさと、そして人にかつがれた場合の
すわりのよさと大きさは、体型の部分を別とすればシャアに似ていた。
ただ責任感がちがっていた。
 スターリンの人間が社会的欲望と行動が一致していたのに対し、シャ
アは貴人として生まれ教育された゛貴公子゛だけに、人間(ここでは社
会的な意味を含む)としての責任と義務(たとえば人のためにやってや
ろう、あげようという意志)が同時代のひとびとと比べて少量しか持ち
あわせていなかったし、シャア自身も自分の人格とその独特の性格をみ
ずからつくってゆくうえにおいて、自己の公的な部分をほとんど蒸発し
つくしてしまい、その実体は多分の組織の指導者というよりも一個の個
人的思想家になってしまっていたところがある。
 が、アムロはシャアにおけるそのような少量の部分などは見ようとは
しなかった。
「嫌気」
 という一角度からアムロはシャアを見ていた。グリプス戦役において
はエゥーゴの指導者ブレックス・フォーラ准将の後継者であったシャア
(当時はクワトロ・バジーナ)のためにエゥーゴはカラバ同様何度も組
織崩壊の危機にあった。そのエゥーゴの現場に中途参加ながらもアムロ
がいた。アムロのシャアというものへの愛憎とララァ絡みの深刻さは、
アムロ自身になってみないとわからない。
395通常の名無しさんの3倍:04/07/03 12:17 ID:hEXaXiUf
保守
396通常の名無しさんの3倍:04/07/09 22:58 ID:???
保守
3971:04/07/13 21:09 ID:???
仕事が忙しくなかなか来れません。ネタが拡散する傾向が出てきましたが、
書けた分だけ。
――ネオジオンは大変なことになる。
 という予感が、連邦情報部将校アリス・ミラーの胸奥をはげしく波立たせて
いる。
(赤い彗星がいるからか)
 と自問してみたが、
(シャア・アズナブルなどはたかが知れている)
 と、アリス・ミラーはちかごろどういうわけかそう思うようになってきた。
アリスのシャア観に変化がおこったのではなく、問題はもっと他にある、とお
もいはじめたのである(中略)
 一年戦争以前の状態よりもはるかに巨大な連邦政府体制が地球圏をつつんで
いる。ダイクンの思想に共鳴した連中はたとえばソロモンの悪夢(アナベル・
ガトー)のように依然として狂気のテロリスト集団であるにすぎない。
(依然として、どころか)
 いよいよ革新の気分をつよくしてゆく、とアリスは見ていた。ジオン公国の
ブリティッシュ作戦より大規模な惨禍を見てしまったアースノイドのグループ
は争いからくる恐怖の行為に戦慄して連邦政府をもっていちはやく秩序安定を
はからねばならないという逼迫感をもち、一種保守的とみえるような落ちつい
た気分の人間になってしまうが、ダイクンのニュータイプ思想に共鳴している
連中はそれをみて反感をもち、ジオン建国からつづいている独立精神的イデオ
ロギーがその反感を増幅させ、よりいっそうにニュータイプになろうとする悲
痛な思いをもつのである。
(いずれ、エライことになるわね)
 と、アリスはおもっていた。 
――クェス――

 ラサの家屋で、十軒に二軒は風化し、修理する費用もない住民が多いために
急速に朽ちはじめている。
 地球連邦政府・中枢のあるラサにはそういう家が多い。
「官僚の家」
 と、グリプス戦役時代からよばれていた豪奢な宮殿のごとき家が、チベット
のラサにあった。アデナウアー・パラヤという現在連邦政府参謀次官の別荘の
一つで、ティターンズに密着して利権をむさぼっていたアデナウアーへの皮肉
としてそう呼ばれたのか、それとも単なる一官僚にしては浮き名多き男への陰
口でそのように呼ばれていたのか、理由はわからない。
 家の作りが、高官の家としてはひどくめずらしいことにビクトリア朝風と中
華風をミックスしたかたちであった(略)
 ジャミトフ・ハイマンのティターンズ全盛のときに引き立てられてラサに着
任したアデナウアーがこのあたりの土地を強制的に接収しホンコン・シティか
ら資材を搬入して別荘をつくった。家は当然のように庶民とは比べものになら
ぬくらいの豪華さだが、しかし旧英国・ビクトリア朝風と中華風をミックスし
たこの別荘は他の高官からはセンスが悪いといわれた。門の柱にはなぜか龍を
かたどった彫刻がほられ、使用人には最も人件費がひくいということで多数の
中華系アースノイドをつかったところ、ジャミトフが立ち寄り、その官僚的な
ケチぶりを揶揄した。
 そういうことは、どうでもよい。
(あの娘はたしかに高官の一人娘に違いない)
 実践主義グループのリーダー・クリスチーナはくりかえし自分の記憶と相談
しつつ、自分に対して確かめようとしていた。
 名前は、クェス・パラヤといった。
 ニュータイプ概念を実行しようとしているクリスチーナの記憶では、ジオン・
ズム・ダイクンがコントリズムを提唱したときクェスはまだこの世に生まれて
いなかった。
 クェスの家の場合、ニュータイプ思想などにたずさわることなく父のアデナ
ウアーは順調に出世し、母は父アデナウアーの愛人キャサリンに追い出されて
いなくなった。ただいとこが連邦正規軍人となっていたが、さきの第一次ネオ
ジオン抗争から生死がさだかでない(略)
 ともかくもクェスは母との思い出を作ることなく仮の母たるキャサリンと同
居することになった(略)
 この同居生活のひどさほど、クェスのニュータイプ開花の源をつくりあげた
ものはない。口を開けば口論とひっかきあい、模範的な官僚一家とは到底いえ
ない生活をおくりつづけ、主のアデナウアーも留守にすることが多かったため
家庭環境はどんどん悪化した。
 この同居生活は、まったくひどかった。かのじょはアダルトチルドレンと呼
ばれる存在にならざるをえなかった。親子の愛など知ることすらかなわなかっ
た(略)
 クェスも、最初から家に戻らぬことを覚悟してプチ家出をしようとおもった
わけではなかったが、キャサリンとのケンカ後、とてもここで生活してゆけな
い、とつぶやきつづけている自分にしばしば気づいた。この家にはクェスと同
世代の娘などいなかったために、クェスのつぶやきに気づく者もいなかったし、
たとえ気づいても耳を傾けてくれる者などいなかったにちがいない。
 クェスがこのプチ家出で偶然知り合ったグループというのは、ニュータイプ
概念をインドで修行をすることによって会得しようという実践主義集団であっ
た。リーダーのクリスチーナは面倒見のいい女性であったし、年齢は離れてい
たが仲間たちもわるい人ではなかった。かれらは貧民層出身でラサに住む家も
なかったし、どのようにして毎日を食べてゆくかというあてもなかった。その
ような新概念を体現しなければいけないときに、連邦政府高官のじつの娘クェ
ス・パラヤの存在はあきらかに場違いだったし、リーダーも困惑しなければお
かしいはずであった。しかしクリスチーナは、
「人類がニュータイプへ進化することができれば、心のわだかまりや不幸なん
てなくなるのよ」
 と、いわばいいとこの娘であるクェスにいうのである。今のままではいけな
い、ここから進化しなければ悲しみはなくならない、けれども本当にニュータ
イプとなれば幸福になりうるのか。なれると本気でかのじょに説くクリスチー
ナはどうであろう。また「心のわだかまり」を持ちだすということは、「あな
たを救ってあげるわ」という意味を示唆しているとも考えられるし、さらにま
だ生理があったばかりの小娘にニュータイプ概念を勧めるというのは、明らか
に求道者になれということにひとしかった。
 インドでの修行生活がはじまってからしばらく経ったある夜半、かのじょは
菩提樹の木の下で精神統一をしていた。
 日々の修行カリキュラムの一つだが、クェスは集中できず姿勢を崩してその
場で立ちあがった。用を足すためであった。仲間たちの多くは眠りについてお
り、生理のこともあってかのじょは一人困惑した。小屋に戻ればいいのだが、
デリケートなこともあったので小屋で用を足す気にはなれなかった。
 月の光がかのじょをあたたかくつつんだ。歩きだそうとした。そのとき、ク
ェスの脳裏に昼間クリスチーナたちと聞いたあるニュータイプ主義者の演説と、
不完全ながらもその新しい道をひらかんとする英雄の姿がうつった。
 クェスはあたたかい光のなかでしばし恍惚にひたった。が、この一瞬の間に
起きた不可思議な体験のために下腹部の緊張が消え、温かい液体がトレーニン
グウェアから脚を流れた。クェスは脳内に現れた英雄の姿にさまざまな思いが
こみあげてきて、やがて意識が朦朧(もうろう)となった。クェスはその場に
倒れこんだ。失神したという意志の記憶はない。
404通常の名無しさんの3倍:04/07/18 20:44 ID:???
保守
 ハサウェイは、初めての宇宙に緊張している。
 母のミライ・ノアがセンターの出国カウンターで手続きを済ませるまでのあ
いだ、しばしの時間がある(略)
 空港に入ってきたアデナウアー・パラヤは、ひどく口の上手そうな男にみえ
た。今度の宇宙行きも、正式の航空券と推薦状が連邦政府高官ジョン・バウア
ーよりミライ一家に渡され、順調に母、妹のチェーミンの3人でロンデニオン
に行けるはずであった。ところが先に予約をしてあったはずのミライがカウン
ターの係員と口論をしているとき、
「君、2枚でいい」
 とアデナウアーが言って、強引に割り込み係員にチケットを出させた。
(いくら政府関係者とはいえ都合良すぎはしないか)
 と、ミライとハサウェイは腹が立ったが、しかしハサウェイの関心はそのこ
とよりも、アデナウアーと一緒にいて2台のトランクを引きずっている水色の
髪の少女に向いていた。もう一人の、怒って帰ってしまった女性と少女とのや
りとりをみて、なにやら訳ありのようであるということはうすうすハサウェイ
にも感じられた。
 その水色の髪の少女もハサウェイに視線をむけていたが、ハサウェイがミラ
イに視線を移したときは、すでにアデナウアーに続いて中に入ってしまってい
た。
(どういう子なんだろう)
 と、カウンターをはなれると、少女の後ろ姿がみえていて、自分はあきらか
にあの水色の髪の少女に関心があることがわかった。
 係員との話がついたらしく、自分を呼ぶ母の声がした。
(ひとりで宇宙に行くのか)
 とミライからロンデニオン行きのチケットを渡されたとき、ハサウェイはす
こし心細くなった。初の体験であり、無事に到着できるかという不安もさるこ
とながら、母のミライと妹のチェーミン2人を残して旅立たねばならないので
ある。平時ならともかく、この危急時に、次のシャトルを長時間待たねばなら
ないし、いつ危険がおよぶかわからない。
 が、ミライは毅然として言った。
「大丈夫、今度の戦争は長くはないわ。すぐに追いかけられるって、ここの人
も言っているでしょ」
 ハサウェイは笑みを浮かべた。
「本当だね」
「ええ」
406通常の名無しさんの3倍:04/07/28 19:57 ID:???
保守
407通常の名無しさんの3倍:04/08/05 20:50 ID:???
保守
408通常の名無しさんの3倍:04/08/12 20:10 ID:???
保守
409:04/08/14 00:49 ID:???
時間が取れなくて書けませぬ。しばらくお待ちください。
410通常の名無しさんの3倍:04/08/14 06:10 ID:???
わたしいつまでもまつわ保守
4111:04/08/20 23:41 ID:???
週一休みも怪しいこの頃です。
>>410
お待たせいたしました。
「各艦の主砲で撃破するのはどうか」
 という案も出た。新鋭戦艦であるマゼラン改級戦艦の主砲でもってダメージ
を与える。そのほかの艦艇は対空砲火を巻きあげつつコンペイトウ付近で二号
機を撃破する――という案で、この連邦宇宙軍伝統の艦隊砲撃戦はたしかに大
出力の火力を集中して使えるという利点はあったが、同時にもし二号機――デ
ラーズ・フリート――に主砲攻撃が命中しない場合、コンペイトウに浮かぶ大
連邦艦隊は核によって消滅させられてしまうという危険が十分にあった(略)
 いまひとつの案は、デラーズ・フリート側の目をくらますため、小隊ごとに
厳重な管制区警備をさせたり、大規模MS部隊を拡散してすきまなきコンペイ
トウの防壁をつくり、観艦式というエサにつられてやってくるジオン残党と手
あたり次第に遭遇戦を演じつつ殲滅する方法であったが、これは連邦MSの性
能を考えればみずからデラーズ・フリートにいけにえを差し出すようなもので、
光栄ある連邦政府の宇宙艦隊としてはとるべきでないかもしれない。
 要するに、決定案はなかった。
 地球連邦の運命を決するこの対残党戦につき、グリーン・ワイアットは11
月9日にただ一回だけ幕僚会議をひらいたきりで、ついに再開しなかったので
ある。
 11月10日は、観艦式挙行前の連邦艦隊にとってはつかの間ではあったが
平穏であった。ただし、ベララベラ管制区をおもな担当としているアルビオン
のクルーはこのコンペイトウ大観艦式挙行までの間焦燥の極に達し、
――まだ二号機の所在をつかめないということは、かれらデラーズ・フリート
の目的がやはり幕僚会議のお偉方の目論見と一致している証拠ではないだろう
か。
 と、思いつづけた。コウ・ウラキはこの間、不眠不休で試作ガンダム一号機
を駆りつづけた。かれはキースたちと同じく極限に達してしまっており、もは
や神頼み以外にないんじゃないかとこぼしたりもしたが、しかしかれの一言の
神自身が、
――ガトーの二号機はコンペイトウ上空でアトミックバズーカの照準を連邦艦
隊に合わせたよ。
 などと絶えまなくかれの大脳へ声をかけ、かれの不安をいっそう大きくさせ
つづけた。
 一方、シナプスの様子にはこれといった変化はみられなかった(略)
 この数日間かれはほとんど口をひらかなかった。昨夜は仮眠をとったが、ウ
イスキーの効果あってのことである。エイパー・シナプスは連邦軍の提督のな
かで、艦(ふな)乗りの経験という点ではもっとも充実した履歴書をもってい
た(中略)
 かれは若い頃、軍人よりもコロニー公社職員になることを希望していたとい
われているが、しかしその半生は粒子砲火と砲煙のなかでつくられたといって
よく、しかもほんの一時期ジョン・コーウェンの司令部幕僚をしていたことを
のぞいてはつねに宇宙にあり、宇宙艦隊勤務者として終止したというめずらし
いほどの経歴であった。そういうかれの半生の経験が、かれ自身に対し、「や
れることが制限されてしまっている以上、むやみにばたばたしても仕方あるま
い」という玄人だけがもちうる心境――第三軌道艦隊所属のマーネリー准将(
故人)はシナプスのそういう人柄を男性的信仰家ということばで表していた―
―に達していたのかもしれない。
「うちの提督はどうやら大丈夫ではなさそうだよ」
 というささやきは、古参の下士官などのあいだで囁(ささや)かれていた。
この地球連邦軍第一等といっていい優秀なペーパー記録をたたき出した提督は、
その秀才としてのすばらしい履歴とゴップ派の巨魁である現連邦軍ジャブロー
提督の信任ほどには、どうやら出来る人物でもなさそうだということが、かれ
のもとで長期間働いてきた下士官兵にはなんとなくわかってきている。
 かれはあらゆる艦長を紳士風に罵倒してきたが、ただひとりサラミス改級巡
洋艦モンテレイの艦長メジナウム・グッゲンハイム中佐だけを例外とした。こ
ののちにブライト・ノア一家にとっての最大の不幸要因となるこの宇宙軍将校
はまだ20代の艦乗りであった。ワイアットはグッゲンハイム中佐をサラミス
改級の艦長の模範だとほめ、「グッゲンハイム君に見習いたまえ」という信号
までかかげて別な艦長を叱ったことさえあったが、しかし実際のグッゲンハイ
ム中佐がいかに狡猾な男であるかは、全艦隊が知っていた。グッゲンハイムは
噂の点で偏執的に他人に敏感で、そのうえ女性士官を頭から道具のようにあつ
かい、そのけたはずれに優れた演技力と口先をもって優良軍人という評価を上
からあたえられている人物であった。艦隊の兵員たちはグッゲンハイムを模範
艦長であるとしているグリーン・ワイアットを憎み、その眼力のなさを軽蔑し
た。
「あの提督でデラーズを鎮圧できるのだろうか」
 という兵員大衆の提督の能力の嗅(か)ぎわけについての基準としてそうい
う材料もあった。
415通常の名無しさんの3倍:04/08/24 22:08 ID:???
保守
416通常の名無しさんの3倍:04/09/01 19:25 ID:???
保守
417通常の名無しさんの3倍:04/09/11 01:02:25 ID:???
保守
418燃えろ剣玉:04/09/11 03:21:14 ID:???
デラーズはのんきな爺さんでした。
好きな食べ物は冷やしマンダリンライスで。
4191:04/09/12 20:28:16 ID:???
保守ありがとうございまつ
(もし自分がデラーズなら、観艦式前日からはじめて終夜コンペイトウを寝か
せないほどに攻撃をくりかえすだろう)
 と、かれはおもった。あるだけの改修MSやMAを翔ばして駐留艦隊をゲリ
ラ活動でもって大混乱させるということは決してわるいことではなかった。う
まくゆけばマゼラン艦の何隻、ジムタイプMSを撃破することもでき、そうな
ればあすの観艦式参加戦力は減殺(げんさい)されるのである。
(なぜやつらはそうしないのか)
 と、グリーン・ワイアットはそう思うにつれて、デラーズたちの反抗能力は
さほどではなさそうだというふうに楽観したくなった。あすの大きな一大ペー
ジェントのためには、これほど甘美な観測はなかった。
(ジオンのクズなど大したことはない)
 ということである。
 が、デラーズのプランである実際の星の屑作戦を遂行するアナベル・ガトー
は、そのようではなかった。かれらは真の目的を連邦側に察知されない手段と
して、奪取した核武装ガンダムを、幕僚会議のお偉方が目論んでいるジャブロ
ー攻撃に用いず、向かいくる連邦量産型MSに対してはあくまでもMS−09
Rリックドム、ザク、MS−21Cドラッツェによる戦闘で打撃をあたえ、敵
がやがてお誂(あつら)えむきに集中しているであろうコンペイトウ上空にお
いてそれを消滅させるべく温存していたのである。
――二号機見ゆ――

 アルビオン型のほかに、
「ホワイトベース準同型」「グレイファントム型」
 というペガサス級のタイプがあった。
 史上最も有名なホワイトベースはペガサス級ホワイトベース型一番艦(これ
については異説があり、二番艦とする説もある)で他にも同型艦が六隻就役し
ている。全てのバリエーションを含めると十一隻(諸説あり)で、そのうち現
時点でアルビオンと並ぶ実戦経験をもつ艦がグレイファントムである。一年戦
争ではガンキャノン量産型を主体とするスカーレット隊を配備されていたが、
実際のサイド6におけるアレックス防衛戦ではジオンのサイクロプス隊によっ
て壊滅的ダメージをうけた。スカーレット隊のMSはほとんどが最新鋭機であ
った。
 このグレイファントムの語源は旧世紀の米国の歴史的名馬、ネイティヴダン
サー(灰色の亡霊)からとられている。試作運用艦であるペガサス級らしく同
型艦同士でも形状の多くは異なっており、他に僚艦も従え、コンペイトウ大観
艦式の名誉ある戦歴艦として参加予定であり、ワイアットの連邦大艦隊の一隻
の一つとしてソロモン海にいた(略)
 話がいきなり後のことになるが、宇宙世紀史上グレイファントムほど活躍で
きなかった強襲揚陸艦はなかった。この艦は一年戦争ののちたびたび改修され
たが、その後宇宙での大規模戦闘がなかったために第二線のしごとにまわって
運用されていた(略)
 オオオカショウヘイ氏の名作「虜囚記」の主人公を東南アジア戦線まで迎え
にやってくるのはこの「グレイファントム」であった。宇宙世紀0083つい
に核の炎につつまれ塵になってしまうが、その稼動生涯は、わずか4年に満た
ない。
 ソロモン海の残党対処艦・アルビオンは「ジオン残党集団は総司令部ジャブ
ローを核攻撃の標的にしている」という情報を得て、デラーズ・フリートがコ
ンペイトウを襲うという確信を得ることができなかったが、試作ガンダム一号
機のパイロット・コウ・ウラキは信じていた。かれはコンペイトウ観艦式を狙
ってくるガトーの二号機を探し出せばよく、それ以外の目標を考える必要もな
かった。
 かれは不眠不休のなか着実な任務遂行をRGC−83ジム・キャノンUに乗
る親友チャック・キース少尉とともにつづけていた(略)
 11月10日12時21分、一つの信号弾が彼方で浮かびあがった。
 アルビオン艦橋には、重苦しい空気が溢れていた。たれもが叫びだしそうな
衝動をこらえつつ、先ほど宇宙の闇の中にポツンとうかびあがった信号弾を確
認していた。
(ガトーの二号機ではないか。――)
 と、たれもが一様にその疑念をもった。しかしたれもが息をつめ、本音をも
らさず、なにかに懸命に堪えていた。
 この前時代的なムサイ級後期型軽巡洋艦ペール・ギュントの打ち上げた青三
号信号弾が二号機と突入部隊の出撃合図であることは、この瞬間のアルビオン
クルーにはむろんわからなかった。デラーズ・フリートにおいてはこの星の屑
作戦第一段階遂行にあたって全艦隊に無信号を命じた。ところがRX−78G
P−02A・試作ガンダム二号機を搭載する巡洋艦ペール・ギュントのみは、
ガトーの強い意志によるものか、それとも艦長ヴィリィ・グラードル少佐の独
自判断なのか、無信号の命令に従わなかった。
 理由があってのこととすれば、おそらく、
「連邦は絶対民主制を謳いつつも実体は正々堂々とは言い難い。だから我々は
どんなときでも正々堂々としなければならない」
 ということであったであろう。もしそうなら、この巡洋艦はデラーズ・フリ
ートの目的を連邦側に知らせるために出撃しているようなものであった。なぜ
なら巡洋艦から信号弾が上げられるということは、そこから大MS部隊が発進
するということであり、そういう判断は子供でもくだせることであった。
423通常の名無しさんの3倍:04/09/23 01:38:50 ID:???
保守
424通常の名無しさんの3倍:04/10/04 21:07:46 ID:???
保守
425通常の名無しさんの3倍:04/10/18 00:14:11 ID:???
保守
4261:04/10/22 21:57:55 ID:???
現在、仕事上の大きな壁にぶち当たっており、書き込みが進んでおりませぬ。
しばらくお待ち下さい。
427通常の名無しさんの3倍:04/11/01 23:53:24 ID:???
保守
428通常の名無しさんの3倍:04/11/18 22:18:37 ID:???
保守
429通常の名無しさんの3倍:04/11/30 15:40:08 ID:???
「あほらし」
クワトロの腹が、このとき煮えくり返ってしまったのはむりもない
430通常の名無しさんの3倍:04/12/04 09:11:56 ID:???
保守
431通常の名無しさんの3倍:04/12/23 22:58:25 ID:???
保守
432アメリア素描:04/12/30 04:18:09 ID:???
単に固有名詞をいれかえるだけじゃなくて、司馬遼の文体模写とかもアリかね?
前に戯れで書いてみたのが見つかったんで、一応貼る。



 奇妙なひとびとにのことについて触れたい。
 ムーンレィスのことである。
 かれらが月に棲むようになってから、かれこれ二千年がたつ。その間には、大きな戦争などあろうはずもなく、細々と月の地下ふかくで繁栄をつづけてきたに相違ない。
 その二千年の間には(ひとくちに二千年というが、その時間はかれらにとっては長大なものであり、また永久に続くかとさえおもわれた)『黒歴史』とわれわれがよぶ古代の宇宙文明の遺産は、あるいはその古代より退化し、また発展させようともおもわず、
またその過去の文明を幾度となく滅ぼしたミノフスキー物理学などの技術もまた、意図的に停滞させていた。かれらがその気になれば木星圏なり外宇宙なりへともゆけたはずである。
 が、かれらはそうしなかった。
 なぜか? と訊かれればこれは筆者にも想像しがたく、こればかりはムーンレィスになってみなければわかるまい。
 しかし、推測はできる。
 それはひとつに、過去の文明(便宜的に『黒歴史』とよぶ)を繰り返さないためだったのではあるまいか。
 マニューピチュの神話の例を持ちだすまでもなく、各地には地球と宇宙とのかかわりの説話は数多くのこされており、また月の側にも「記録」としてのこされている。ひとびとがそういうかたちで過去をのこしたということは、ひとえにその恐怖心からであろう。
地球と月の歴史を照らし合わせてみた結果、幾度となく地球と月のあいだには戦争が起こっており、その度に地球の歴史はすべて無に帰したというのである。
 そのおそろしさはいかばかりか。

 その戦禍は、先のノックス崩壊の比などではなく、地球全体が焦土化するという、想像を絶するほどのものであった。
 こういうことを数回とつづけるうち、ひとびとに恐怖心がおこらないほうがおかしい。じっさい、一部の宇宙移民者(ムーンレィスとは別種)は、みずから外宇宙へ旅立っていった。
 余談だが、先の月とのあらそいに現れたというホワイトドールに似た機会人形は、この外宇宙へと旅立った者が造ったという。ホワイトドールをして窮地に立たしめたというのだから、もしそれが本当なら、外宇宙の文明というのも興味の対象である。
 話がそれた。宇宙戦争のことである。
 
433通常の名無しさんの3倍:04/12/31 02:09:39 ID:???
保守
434通常の名無しさんの3倍:05/01/03 01:59:40 ID:???
国盗り物語思ったよりおもろかった。
光秀が過労と心労で鬱病の様相を呈していた。
信長殺しは遠回しの自殺のようだ。
435通常の名無しさんの3倍:05/01/07 22:42:36 ID:???
「坂の上の雲」読んでるんだけど、あっけなく死んだ上に
すぐに気付いてもらえなかった広瀬はミハルのようだ…。
436通常の名無しさんの3倍:05/01/15 01:55:25 ID:???
保守
437通常の名無しさんの3倍:05/02/03 18:52:07 ID:???
文庫で出た司馬遼太郎の考えたこと買わなきゃだし
438通常の名無しさんの3倍:05/02/03 22:41:11 ID:???
なんか新短編文庫集もでたもなもし
439通常の名無しさんの3倍:05/02/06 11:43:58 ID:???
朝、TBSのサンデーモーニングを見ました。
番組最後の「風をよむ」のコーナーで「映画産業(特に邦画)の好調ぶり」を紹介。
そのVTRそれ自体は可もなく不可もなく普通。
しかし、その後、あの法政大学田中優子教授から気になるコメントが。

「 今 は 司 馬 遼 太 郎 で は な く 藤 沢 周 平 の 時 代 で す か ら ね 」

これはデジャブーなのか?
どこかで聞いたことのあるような発言・・・・・

なにやらモヤモヤ感が漂う日曜日の私の朝。
440通常の名無しさんの3倍:05/02/06 13:05:37 ID:???
こういっちゃなんだが、山本周五郎への回帰だろう。藤沢周平のほうがシリアスだけれども。
ループだよ
441“プラモ屋”の商業主義:05/02/17 16:22:04 ID:???
 以下が、夢だったのかどうかは、わからない。ともかくも電車に
乗りつづけていて、秋葉原に出てしまった。
こういう場所を昔のヲタは好んだ。
 そこに、巨大な青みどろの不定形なモノが横たわっている。
 その粘液質にぬめったモノだけは、色がある。ただし、ときにグレーになったり、
ミラージュコロイドを帯びたり、三色になったりもする。自爆しても大丈夫な
セーフティシャッターもそなえている。両目が金色に光り、頭に角もある。
角は折れている。形はたえず変化し、とらえようがない。わずかにバランスを取って
いるが、言えそうなことは、みずからの力ではもはや立てそうにないということである。
 君はなにかね、ときいてみると、驚いたことにその異胎は、声を発した。
「最近のバンダイだ」というのである。

「おれをコズミック・イラとよんでくれ」
と、そのモノはいった。
「君は生きているのか」
「おれ自信は死んだと思っている。しかし、ガノタによっては、
生きていると言うだろう」
 アニメもまた一個の人格として見られなくもない。ガンダムはその
肉体も精神も十分に美しい。ただ、途中、なにかの異変がおこって、
遺伝学的な連続性をうしなうことがあるとすれば、
「それがおれだ」
とこの鬼胎はいうのである。

442“プラモ屋”の商業主義:05/02/17 16:35:30 ID:???
アニオタに対して売ったのは売ったのは、食玩(それも中国製)とか、
CDとか、その他の日用雑貨品が主なものであった。食玩やガンプラを
売るために登録商標を冒涜する商業主義がどこにあるだろうか。

“アニメショップ”が儲かるようになったというのは、詐欺の合法化
とも言うべき右のからくりのことをこのモノは言うのである。
その商品たるや――2005年の段階で――なおトレカとDVDと雑貨がおもだった。
このちゃちな“商業主義”のために企業そのものがほろぶことになる。
一人の御大も出ずに、大勢でこんなばかなアニメをつくった会社があるだろうか。
443“監督権”の無限性:05/02/18 11:07:56 ID:???
 たとえば最近、“メカデザイン”的な用語としてつかわれる「カトキデザイン」
などというえぐいことばも、多分にこの非連続的なイメージの核になっている。
――あんなアニメはガンダムではない。
と、理不尽なことを、ガンプラでも叩きつけるようにして叫びたい衝動が私にある。
サンライズのいかなるガンダムともちがうのである。
 さきに“異胎の時代”ということばをつかった。
 その二、三年をのけて、たとえば、ファーストやゼータが放送された時代と
こんにちとは、十分にアニメ史的な連続性がある。また0080や0083が
発売されたガンダム中期とこんにちとは文化意識の点でつなぐことができる。
つなぐとは単純接着という意味でもあり、また電流が通じうるという意味でもある。
「司馬さんにはコズミック・イラが書けませんね」
 と、いつだったか、丸谷才一氏にいわれたことがある。
 なさけないが、うなずくしか仕様がない。
444実地的なコロニーの教育:05/02/20 10:24:20 ID:jMe8y1Fx
オオェ 僕は月のフォン・ブラウンの生まれ、育ちですが、そこで子供のときは、
自分は月と、低重力の文化圏にいると思っていました。宇宙、そしてコロニーと
いうものは、自分の生きている月面とはすっかり違うと思っていたように感じます。
 最初にコロニーを見たのは、学校の遠足で行ったときです。帰りに先生が一人一人に
コロニーを見た感想を述べろと言った。僕は変なニュータイプで、いや、たいていの
ニュータイプにそういうところがありますが、先生の喜ぶような答えは何となく
わかっているわけですね。

シバ ニュータイプというのはどうしてあんなにかしこいのかなあ。

オオェ そのとき僕は、宇宙で生活する人たちはみんな不安じゃないだろうかと思う、
と言ったんです。宇宙はあんなに動いている、あんなに動いている大きいひろがりが
そばにっては、生活するのに安定感がないんじゃないかということを、僕は言った
わけです。

シバ ああ、しかしそれは基本的なことですね。

オオェ その先生は、とくに僕が怖がっていた先生の一人だったですが、
「コロニーの中に住んでいる人に失礼じゃないか」と言って、僕は修正
されました。


445:05/02/20 22:55:06 ID:???
お久しぶりです。
数ヶ月スレを放置プレイしておくのもどうかと思うのですが、仕事が忙しく新作
を書く余裕がありませぬ。
よって、過去に自分が書きましたSSを少しづつ出していこうかと考えています。
(過去ログがいつまでたってもHtml化されませんので)

怠慢で申しわけありませぬ。
>>439
なにやらサタカっぽい感じがしますが・・・
>>443
これいいですね。
446:05/02/20 22:59:08 ID:???
文修文庫刊
「グリプス」

「宇宙はときに、血を欲した。このましくないが、パイロットも、そのパイロットの搭
乗するMSの一撃に斃れた死骸も、ともにわれわれの歴史的遺産である。そういう眼で、
グリプス動乱とそのすぐあとにおこった戦闘を見なおしてみた」(あとがきより)
真夏の夜を血で染めたエゥーゴの指導者ブレックス・フォーラ暗殺を沸騰点とする狂瀾
の時代を、十二の戦闘で描く連作小説。
447:05/02/20 23:02:44 ID:???
文修文庫刊
「昇天」

クロノクル・アシャー ――ザンスカール戦争で苦闘したこのモトラッド艦隊司令官、
帝国軍大尉は、輝ける女王の軍人として登場した。開戦当初はカスタムMSシャッコー
をあたえられ、イエロージャケット所属、リガ・ミリティアの要人オイ・ニュング拘束、
姫様救出、有線式MS操縦など、母系社会樹立の任を負っていた彼が女王マリアの崩御
に殉じて、その愛すべきカテジナ・ルースを残したままみずからの命を絶ったのはなぜ
か。゛青年将校゛の内面に迫って、人間像を浮き彫りにした問題作。

目次
T べスパの青年将校 U 天に召されること
448:05/02/20 23:09:23 ID:???
文修文庫刊
「ア・バオア・クー」

各地の戦闘できわどい勝利を得はしたものの、連邦軍の戦闘能力は目にみえて衰えはじめていた。
補充すべき兵、MS、艦船は底をついている。そのとぼしい戦力をかき集めて、ジオン公国軍が腰
をすえる最後の防衛ライン、宇宙要塞ア・バオア・クーを陥落させようと、老将レビル亡き連邦軍
は捨て身の大攻勢に転じた。だが、果然、逆襲されて連邦軍はS、Nフィールド上で寸断され、時
には敗走するという苦境に陥った。

449:05/02/20 23:12:11 ID:???
慎重文庫刊
「ジュピトリス」(上)

戦後の混沌冷めやらぬ頃、地球から資源採取のため木星圏へ輸送船団が発進した。その
船団に所属する若きエリート将校でもあったこの男、パプティマス・シロッコは、多く
のことを学びながら、文学、軍人カリキュラムなど単なる司令官になるための勉学は一
切せず、歴史や地球圏の動きなど、ものごとの原理を知ろうと努めるのであった。近代
のフェミニズム思想にも通じ、卓抜した感性とセンスを持つ天才ともいうべき彼は、や
がて一士官の身の上ながら時の実力者ジャミトフ・ハイマンによって地球圏に召還され
る。
450:05/02/20 23:13:58 ID:???
慎重文庫刊
「ジュピトリス」(下)

フェミニズム論者であり、ニュータイプの新しき流れが起こりはじめていることを見通
しながら、シロッコがティターンズを掌握してエゥーゴと戦ったという矛盾した行動は、
真実のニュータイプとして生きなければならないという強烈な自己規律によってニュー
タイプ主義に生きたからであった。シャア・アズナブル、アムロ・レイやブライト・ノ
アのような大衆の英雄の蔭にあって、一般にはあまり知られていない天才ニュータイプ、
グリプス動乱史上最も壮烈なコロニーレーザー争奪戦に散った最後のフェミニストの生
涯を描く力作長編。
451:05/02/20 23:30:21 ID:???
慎重文庫刊
「ギンガナムとロラン」(上)

月世界の重鎮アグリッパ・メンテナーは黒歴史とよばれるものを過去の遺物とし、長くつづいて
いたガンダムの世界から争乱の一字が消えた。しかし彼の事実上の主である、女王ディアナ・ソ
レルによって黒歴史の扉は徐々にひらかれ、かのじょによる地球帰還作戦が開始されると、地球
圏・月世界は再び争乱の時代に入る。――これは、はずれムーンレイス上がりのロラン・セアッ
クが、サムライ・戦闘神ギム・ギンガナムと抗争して、敗北しつつもついにターンXを破り泰平
を樹立するまでをとおし、世を制する゛母権゛とは何かをきわめつくした物語である。



452:05/02/20 23:39:57 ID:???
慎重文庫刊
「ギンガナムとロラン」(中)

女王ディアナ・ソレルの地球降下後、月世界でアグリッパと提携しつつ軍権を
握ったギム・ギンガナムは、月面より黒歴史最強のMSとされるターンX発掘
に成功した。一方、箱舟ウィルゲムに∀と乗船するロラン・セアックは、宇宙
にあがり月へと還ってくる。この一行を出迎えたギンガナムは、挑発的な態度
で一行に接し、メリーベルを焚きつけて女王権力を骨抜きにしようとするが・・・。
日本刀と武士道で行く所敵なしのギンガナム。温和だがその仁徳で仲間に恵ま
れたロラン。いずれが乱世を終わらせるか?
453:05/02/20 23:50:36 ID:???
慎重文庫刊
「ギンガナムとロラン」(下)

ミリシャ・ギンガナム隊の争乱は勝負がつかない。圧倒的なターンXの性能の前に、エース・ロラン
がついに∀にて出撃しこれに対峙する。長き問答の末、両機から発せられる月光蝶発動の危機を乗り
こえついに両機は地上に落着する。地球の大地に立ったこの夜、ディアナによる包囲軍の圧倒さと月
光蝶発動が未発におわったことを悟ったギンガナムは、愛用の日本刀をもってロランに一騎打ちをい
どみ、サムライとしての最期を飾ろうと決意する。あらゆる人物の典型を描出しながら、絢爛たる「文
明の相克」の世界を甦らせた歴史大作。
454:05/02/20 23:56:37 ID:???
とりあえず↑まで。タイトルのみ考えてみますた。
上記の中で要望の多いものを挙げていこうかと思いまつ。
455通常の名無しさんの3倍:05/02/21 00:17:37 ID:???
乙でござる。
456通常の名無しさんの3倍:05/02/21 00:57:35 ID:???
1さんの時代小説風ガンダムがまた見られるなんて。
こんなに嬉しいことはない。
457通常の名無しさんの3倍:05/02/23 06:36:02 ID:???
ターンは見てないから、446「グリプス」 と449、450「ジュピトリス」がいいな。
458:05/02/24 22:06:23 ID:???
長々とお待たせ致しました。
それでは446から始めたいと思いまつ。
459グリプス(幕末より):05/02/24 22:34:57 ID:???
 目次

 ダカールの変
 奇妙なりバスク
 キリマンジャロの襲撃(加筆修正予定)
 マラサイ突入
 フランクリン撃墜(加筆修正予定)
 反感
 アレキサンドリアの閃光
 シャイアンの日々(加筆修正予定)
 死んでも死ねぬ(加筆修正予定)
 オーガスタ研の強化人間(本スレに掲載済み)
 メールシュトローム
 シャングリラのニュータイプ(未執筆)

 あとがき
 このダカールの変からティターンズの事実上の崩壊とそれを加速するエゥー
ゴの反撃が開始されるのだが、その史的意義を説くのが本篇の目的ではない。
ただ、暗殺という政治行為は、史上進歩的な結局を生んだことは絶無といって
いいが、この変だけは、例外といえる。シャアの叛乱にいたるまでの、一連の
(エゥーゴをふくめた)スペースノイド側の武力蜂起を肯定するとすれば、そ
の機運が一気に加速したのはダカールの変からである。撃たれたブレックス・
フォーラは、その史上稀有といってもいい清廉な革命家の歴史的役割を、不運
ではあるが撃たれたことによって果たした。スペースノイド側の希望の星であ
ったエゥーゴは、数人の暗殺者にブレックスを撃たれその偉大な指導者を失っ
たことによって、反ティターンズの推進者を躍動させ、そのエネルギーがティ
ターンズ崩壊を早めたといえる(中略)
 歴史はブレックスに犬死をさせていない。
(おれには天運がついている)
 バスクはまじめにそう思った。そういう男であった。自分の器量が万人より
すぐれていることは、かれはたれよりもよく知っていた。その上、公式には戦
争は終結してはいるものの、各地でジオン残党が跳梁跋扈し、アースノイドの
気分のなかに反スペースノイド感情が沸騰して、世はすでに乱れのきざしをみ
せはじめている。
(まさか、旧世紀の戦国の世ではないから、覇者などは望めぬが、とにかくお
れほどの男だ、世に驥足(きそく)をのばしてみよう)
 それには一介の士官では、いざ風雲が到来しても、飛び立つ足がかりがない。
権門に近づく必要がある。

 ゴーグル鋭しという当のバスクはその後、連邦軍内の各部署をまわったあと、
准将ジャミトフの部屋に入った。
 これまでジャブローで、ゴップ(今はコリニーが継承している)派の策士と
して連邦軍財政部門に幅をきかしている主従同然の関係であるジャミトフ・ハ
イマンと数夜語りつづけているうちに、たがいが抱いている正義という名の陰
謀を実践してみようとの結論に到達した。
「この賊徒どもの叛乱を利用しよう」
 というのだ。(中略)
 この二人が考えた密謀とは、この叛乱を利用して連邦軍の威信を失墜させ、
かつ敵対派閥に属するコーウェンの一派を功名に追い落とし、それによって生
じるであろう「強い連邦政府」を実現するための軍事組織をつくりだし、多数
の力あるアースノイドのパイロットや将校をスペースノイド憎しの気分でまと
めあげ、一挙に気運とともにコロニーサイドと残党どもを根絶やしにし、つづ
いて連邦政府、ひいては地球圏そのものを乗っ取るというのである。
 宇宙世紀史上、最も壮大な想像力に富んだ陰謀がここにはじまった。
「おもしろいですな」
 バスクはいきなりゴーグルをはずした。
「む、その醜態を私にさらすことに意味があるのか?」
「見てくだされ。この憎しみの傷跡があるかぎり、閣下、ひいては私の意志は
必ず実現します。いや、むしろこの傷こそが、自分の決意をゆるぎないものに
してくれたのです」
「うむ……なるほどな……」
 このとき、バスクが放屁をした、というはなしがある。
 いくら特務部隊指揮官とはいえあまりの非礼に連邦正規軍の士官がとがめる
と、部屋を出て行こうとしたバスクは正規軍士官に一瞥もくれず、
「屁ではない。糞が咆えたのじゃ」
 といった。
(なるほど、バスク大佐の糞が叫(おら)びなさったか)
 と、後日、この話をきいてカクリコン・カクーラー中尉は、さすがはバスク
大佐らしいと思った。
 ちかごろ下っ端たるべき正規軍将校どもが増長しすぎる。あれらは、糞のよ
うなものだ。バスク大佐は、連中に口で一喝するよりも、胎中の糞をして一喝せ
しめたのだろう。
 よもや自分を撃とうとするものが背後にしのび寄っているなどとはバスクは
予想だにしない。
 このとき、シロッコのジュピトリスから飛び立つ数十機のMSの編隊があった(中略)
 そのなかで指揮をしているのがパラス・アテネに搭乗する元エゥーゴパイロ
ット、レコア・ロンドである。シロッコがついにティターンズ掌握のために動
き出した。
 ドゴス・ギア艦橋で、バスクは強化人間のロザミア・バダムを出撃させるよ
う、指示した。バスクは帽子を脱いで、ゲーツとローレン・ナカモトのコント
ロールするロザミア・バダムの戦果報告を待っていた。
 かれの神経は、アクシズの進路を変えようとしているエゥーゴに集中してい
る。そのとき、
「た、大佐!!う、うしろから、MSの編隊が!!!」
 と、目の前に座っていたローレン・ナカモトが悲痛な叫びをあげた。
「なんだと!?」
「シロッコの部隊です!!!」
 シロッコの罠にまんまとはまった格好になった。バスクはヤザンに出撃を命
じた。
 こうなっては藁をもつかむ思いである。ローレンの制止もきかず、ロザミア・
バダムをコントロールしていたゲーツのバウンド・ドッグを強引にMS部隊阻
止にむかわせた。
 とたん、レコアのパラス・アテネが腕のビーム砲をかまえながらドゴス・ギ
アの前に躍り出た。
 一撃一撃、徐々に艦橋へとビームを撃ちこんでゆく。そして、バスクが叫び
をあげるのと同時に閃光が走り、ドゴス・ギアの艦橋は四散した。
「へん、バスクの野郎、みたか」
 致命的だったのはヤザンの存在だったろう。シロッコにバスクの情報を流し
つづけ、出撃命令の際にも襲いかかるMS編隊を防ごうともせず、傍観し、あ
ろうことかバスクの阻止命令を伝えず、わざとドゴス・ギアのMS部隊の出撃
をさせなかったのである。
 戦場には、大型戦艦ドゴス・ギアの残骸が無残に残るのみであった。
 レコア・ロンドはシロッコの野望達成の手段として利用され、ヤザンもシロ
ッコに帰服し、ティターンズの実権はシロッコに移行することとなった。
 バスクは、素朴すぎるほどのわなにかかったことになる。自信家だっただけ
にかえって油断した。
 おそらくかれ自身が不審だったろう。ひとが自分をだますなどとは、夢にも
おもっていなかったにちがいない。
465:05/02/24 23:23:58 ID:???
今日はここまで。
「なにぶん、地球にいた期間が長かったからな。宇宙にはまだ馴れん」
 それだけ言って、カクリコンは、大きなからだを音が鳴るように折った。
 宇宙に馴れぬ、といえば、ちかじか、ジャブローを発(た)ってティターン
ズ総帥として要塞グリプスを視察されるカクリコン・カクーラー中尉の主人ジ
ャミトフ・ハイマンもそうだし、ティターンズ将兵のほとんどはそうである。
 地球出身者ばかりで構成される軍隊であり、連邦正規軍以上に、ティターン
ズほど武骨な集団もない。
 そのティターンズが、この年、大規模な戦力強化を図ろうとしている。
 カクリコンとジェリドがひきいるMS部隊は、エゥーゴの降下部隊をとらえ
た。予定通りである。
 地球が青く美しくひかっている。
 マラサイの赤色が宇宙にめだつ。
――いいか。
 と、カクリコンはいった。
――MS部隊はそれぞれ降下するエゥーゴを叩け。俺とジェリドはマークUを
やる。
(来たな……)
 と、カクリコンは気負うジェリドとともに大気圏上空に機体をむかわせる。
 宇宙のむこうに数十機、いや、それ以上のエゥーゴの降下部隊が大気圏へ突
入しようとしている。そのなかに、ウェーブライダーに乗るガンダムマークU
の姿を発見した(中略)
 見出してよりジェリドのマラサイが執拗に攻撃をかける。
 (ええい、なぜ当たらんのだ)
 地球の重力に引っ張られてゆくなかで、カクリコンはジェリドと歩調をあわ
せ、マラサイを突入させてゆく。 
 その間、マークUへの射撃と斬りこみをおこなったが、今ひとつ一撃をあた
えられない。そのうち、大気圏上の限界に達し、舌打ちしながらもジェリドは
マラサイのバリュートを展開した。この時点でカクリコンもバリュートを展開
していればたすかっていたろう。が、功をあせったカクリコンはさらなるチャ
ンスをもとめて、バリュートを展開せぬままなおもマラサイそのままの状態で
マークUに突撃してきた。カクリコンは獲物にくらいつきすぎていた。ライフ
ルを撃ち、目標をマークUにさだめながら、
――落ちろ!
 と、気合を入れ、マークUにとりつこうとした。
 だが大気圏の熱はマラサイをそのままにはしなかった。結局、とりつくこと
ができなかったカクリコンはマラサイのバリュートをひらいたものの、刻すで
に遅く、摩擦熱に機体が耐え切れなくなっていた。
 マラサイの燃えゆくなかで、
「ア……アメリアァァァァァーー!」
 と、地球にのこっている女の名を叫んだ。ジェリドの叫びもむなしく、カク
リコンのマラサイは、大気圏にて燃え尽きた。
4691:05/03/05 15:59:31 ID:???
チョト小休止
470反感(祇園囃子より)壱:05/03/05 16:06:19 ID:???
 地球連邦軍大尉で、ライラ・ミラ・ライラ。
――といえば、一年戦争からグリプス戦役初期にかけて連邦軍・ティターンズ
のあいだで高名なパイロットである。
「ライラの技量、粗剛なれども気品あり」
 といわれた女性軍人である。
 搭乗MSは、ガルバルディβといい、旧ジオン公国軍MS・ガルバルディα
を改修、外装を全面的に再設計し軽量化を図ったため、運動性がたかい。
 彼女はこれに乗り、巡洋艦ボスニアにてMS部隊・ガルバルディ隊を指揮す
る。
「ボスニアのライラ大尉」
 といえば、ジオン残党やエゥーゴでさえおそれた。
471反感(祇園囃子より)弐:05/03/05 16:15:15 ID:???
 そのライラが、エゥーゴとおもわれる部隊を臨検した際、しくじった。
 グリーンノア襲撃事件のあとのことである。4機のガルバルディ隊をひきい
て、アーガマと接触、停戦信号を出し、所属をあきらかにするよう要求したが、
「好きなことを!」
 かけ声とともにクワトロのリック・ディアスがクレイバズーカで応戦、ライ
ラは持ち前のテクニックでガルバルディβをあやつり射撃をかわした。
 ライラは飛び出してきたMSが赤いMSであることに衝撃をおぼえた。相手
はあの赤い彗星ではないのか、まさか………。
 はっとしたときには、ガルバルディ隊のうちの一機が落とされていた。その
こととタイミングを合わせるかのようにボスニアから撤退命令の信号が出た。
(のせられてしまった。あの赤いMSに)
 母艦の支援がなければ勝てないのかと思いつつ撤退した。一機とはいえ、部
下の乗るガルバルディβを落とされてしまったことがなによりも衝撃的だった。
事実、赤い彗星でなければ立つ瀬がなかった。
472反感(祇園囃子より)参:05/03/05 16:31:58 ID:???
 ジェリドは、ブリーフィングルームのドアを開けた。
 不愉快なことに、なかにいる連邦軍士官たちが大勢でせせら笑っている。
 ジェリドは、だまって身を入れて、ライラの隣の席にすわった。ライラは軽
蔑するかのような台詞をはき、「出戻りのジェリド中尉といったらもう有名だ」
と、ライラはわざとらしく、となりにすわっているジェリドに聞こえるように
皆にいった。出戻り、といわれた言葉が、ジェリドのかんにさわった。
 決定された作戦で、ライラの小隊はジェリドの指揮下におかれることとなっ
たが、納得がいかなかった。
(あんな甘ちゃんでも、ティターンズだからあんな風に厚遇されるのか)
 ライラはいらいらした。さっさと作戦を済ませてボスニアに帰りたかった(中略)
 と、いきなりである。後ろからかけ声とともにジェリドが拳を突き入れてき
た。ライラはそれを軽々とかわし、逆にジェリドのあごに強烈な蹴りをいれた。
 ジェリドはなおも諦めきれないのか、ライラに対してまるで子供のように理
由を問うた。ライラはかれの雑すぎる行動が馬鹿馬鹿しいと思えたのか、
「あたらしい環境、相手、事態にあえば違うやり方をしなくちゃならないんだよ」
 と、対応の仕方を諭した。
 ジェリドにとって、おそらく初めての経験であったのだろう。今まで自分が
付き合ってきた女のなかで、このようなことを言い、行動する女がいただろう
か。
「お願いだ。教えてくれ。俺はティターンズをこの手にしたいんだ」
 本気であると悟ったライラはボスニアから作戦を始動させることを約束させ、
承諾した。可愛らしいと思った。けなげな奴もいるものだ。
473通常の名無しさんの3倍:05/03/09 10:06:42 ID:???
反感 (゚∀゚) イイッ!
早く続きをキボンヌ!
474反感(祇園囃子より)四:05/03/13 02:21:21 ID:???
 ジャマイカンへの戦闘報告後、ジェリドはライラの部屋へ行った。
 扉が開けられ入ってみると、ライラはバスタオル一枚の姿でいた。
「いや、すまない」
 と、あやまった。ライラがジャマイカンがどうしたって?と問いかけると、
「俺はいつか、ティターンズをこの手にするって言っただろ。手にするために
は、ジャマイカンとだって一人で対応したい。それを庇うそぶりを見せるなん
て、あんたらしくないじゃないか」
 濡れた髪をタオルでふきながら、ライラはまだまだ甘いと思った。
「まったくわかってないようだね。アーガマの事実を説明したまでだよ。あん
たのことなんて、考えちゃいなかったさ」
「ニュータイプのことはすでに聞いていた!」
 こっちを向くんじゃない!ライラの言葉にジェリドは顔をそむけた。
475反感(祇園囃子より)五:05/03/13 02:29:07 ID:???
「ですから、艦隊を三つに分けて・・・」
 ライラは発言した。
「大尉!作戦参謀は私だ!軽々しい口の聞き方はやめたまえ」
「ガルバルディ隊をアレキサンドリアで修理していただいた分だけ、我々は働
かねばなりません。我々はティターンズではありませんから、ボスニアに帰還
し、別ルートでアーガマを追います」
「いい覚悟だ。だが敵を捕捉したときに戦い急ぐなよ。大尉は戦争を好む性質(タイプ)
であると聞いている。戦争屋は焦りがちになるからな」
「それは少佐の偏見です!」
 ライラの表情に怒りが表れた。
「よかろう。もしアーガマとの接触ができたときの判断は君に一任する。我々
との合流を原則にな」
「はっ」
 出撃しようとするライラにジェリドが話しかけた。これがライラとジェリド
の最期のふれあいとなった。
 ゆっくりと酒でも飲まないかというジェリドに対しライラはOKを出した。
「いい男になってくれれば、もたれかかって酒が飲める。それはいいものさ」
 ライラはジェリドに素質を見出したのだろう。愛情というものかどうかは筆
者にはわからない。
 ジェリドのほうは気があったであろうが。
 ライラのガルバルディβはボスニアに帰還した。
476反感(祇園囃子より)六:05/03/13 02:35:55 ID:???
 これが、宇宙世紀0087・3月18日のことである。ライラのガルバルデ
ィ隊を載せた巡洋艦ボスニアは、サイド1の空域へむかった。
 焦るライラを艦長のチャン・ヤーがなだめた。ライラとは気のあう上官であ
る。
 サイド1・30バンチにアーガマが入港したとの報がはいった。ライラは偵
察したいとチャンに言い、迂回して工業用ハッチにボスニアをつけるように要
求した。戦況報告ができたほうが土産になると言うライラをチャンはとめるべ
きであったかもしれない。だがライラの強気の発言にチャンは折れ、あくまで
エゥーゴの拠点があるかどうか確認するだけだぞと言い渡し、ライラは出撃し
た。
477反感(祇園囃子より)七:05/03/15 01:25:17 ID:???
 ライラは30バンチに入った。30バンチはかつて連邦政府に対するデモ運
動が華々しく展開されたコロニーであったが、いまは毒ガス注入により住民は
全滅、電気は生きているが、無残にも荒れ果ててしまっている。強風がやまな
い。
「ここに、エゥーゴの拠点が?」
 人がいる。ライラは銃をかまえた。だが、その人らしき物体は強風にあおら
れて飛ばされた。死体のようだ。
「このコロニーは死んだままだ。ということは拠点の一つとしては格好の場所
になるわけだな」
 ライラはこの当時の連邦軍将校の例にもれず、30バンチ事件の張本人がテ
ィターンズ、つまりバスクの手によるものであることを知らない。
478反感(祇園囃子より)八:05/03/15 01:38:56 ID:???
 不意に、人がいることに気づいた。ライラは、物陰にかくれた。見えたのは
白いパイロットスーツをまとった男である。ちらっとライラの方をみた様子だ
ったが、気がつかぬようであった。町の住民は全員死亡している。だとすれば
エゥーゴの兵士だろうか。と、そこへ死骸が飛んでいったため、つい声をあげ
てしまった。男は反応を示した。ライラは拳銃をかまえながら言い放った。
「そこのパイロットスーツ!」
 と、相手がふりむくと同時に「エゥーゴの者か」と付け加えた。相手の男は
両手をあげた。よく見ると、少年である。こんな歳の子が戦争をやっているこ
とに、ライラは衝撃をおぼえた。
(まだ子供じゃないか。こんな子供が……)
 やはり、予測したとおりだ。ライラは先のジャマイカンへの報告で、あの戦
艦はかつてのホワイトベースのように感じられると報告した。そのホワイトべ
ースのエースパイロットがわずか15歳という年齢でありながら、正規軍をう
わまわる功績を打ちたて、連邦軍の勝利に貢献したことを当然ライラは知って
いる。そのアムロ・レイというパイロットも、成り行き上戦争に参加せざるを
えなかったということも。この少年があの戦艦のパイロットであるなら……
 そのとき、むこうから人の話し声がきこえた。ライラは少年に拳銃を突きつ
けながら建物に連れ込み、様子をうかがった。
「ティターンズの方ですか」
 少年は拳銃を突きつけられながら言った。
「ティターンズなものか」
 警戒しながら、さらに拳銃を頬にくいこませ、いった。不快な一言であった。
ライラは憤った。なぜこうもティターンズと聞くと嫌な気持ちになるのか。
479反感(祇園囃子より)九:05/03/15 01:50:44 ID:???
「あれは、エマ・シーン……」
 知ってるんですかと、少年は問うた。ライラはまあなと返した。それにして
も、拳銃を突きつけられながらも少年は肝がふとい。ライラは聞き耳を立てて
様子をうかがっている。
「なぜここまでする必要があったんです?納得できません」
 エマと、赤いパイロットスーツの男が話しはじめた。
「連邦の人々は、宇宙というあたらしい環境を手に入れてそこに適応していこ
うとする人間を恐れたのだ」
「ニュータイプのようになるからですか?」
「そうだ。ニュータイプをエスパーのように考えているから、いつかそのニュ
ータイプに主権を侵害されることを恐れているのさ」
「たった、それだけのために、これだけの人たちを殺せると」
「殺せるさ。ちょっとした借金のために人を殺すよりもよっぽど理性的な行為
といえる」
 ライラは隠れながら、会話をきいている。ライラには納得できなかった。偽
りを言っているとしか、おもえない。
 ライラは飛び出し、「偽りを言うんじゃない!」と叫んだ。
「たったそれだけのために、バスクがこれだけの人を殺したりはしない」
 赤いパイロットスーツの男はしごく冷静な態度で、
「見てわからないのか」それにライラがザビ家の残党連中にだまされているだ
けだと反論すると、
「地球連邦、ひいてはティターンズが第二のザビ家になろうとしているのだぞ」
「なんだと!?」
 我慢できなくなり、少年をつきとばしてライラは走り去った。今まで自分が
聞かされてきたことと、まったく違うことを彼らは言っている。やはり彼らは
敵だ。
 自然に気持ちが反感へとつながっていることに、この時点ではまだライラは
気がついていなかった。
480反感(祇園囃子より)十:05/03/15 02:06:36 ID:???
 ガルバルディβを発進させたライラは、感情の高ぶりがおさえられないまま
30バンチの空域に飛んできたガンダムマークUを発見した。えらそうな声が
きこえている。
「生意気な口をきいた士官が乗っているとでもいうのか」
 と、ライラはマークUのバズーカの一撃をかわしながら言った(中略)
 そのマークUが、眼の前に接触してきた。正確には抱きついてきたというほ
うが正しいが、接触したマークUのパイロットは激しい口調で、「あなたも先
ほどのクワトロ大尉のことを聞いたでしょう」と、説教するかのようにライラ
に言った。
 その一言が癪にさわった。
「なにゴタクをならべて!!」
 ライラのガルバルディβは、少年のマークUを突き飛ばした。突き飛ばされ
たマークUは「抵抗するんなら、撃ちますよ」と、ハイパー・バズーカをガル
バルディβにむけて放った。
 ライラはかろうじてガルバルディβを回避させたが、内心焦りを感じている。
妙な力を、圧迫を感じている。この圧迫感、マークUの動き、やはりニュータ
イプなのか。
「あんな子供に!あんな子供なのに!!」
 と、ライラの前に躍り出たガルバルディ隊の一機が偶然にもマークUに落と
された。
「私は正規軍のパイロットだ!あんな子供に負けてなるものか」
 正規の軍人であるという彼女の執着が、彼女自身気がつかぬかたちで反感を
育てていた。嫉妬とでもいいかえられるかどうか。
「大尉。あなたは逆上しすぎている」
 少年の一言とともに、マークUはコロニーのミラーよりみずからの機体をか
くした。ライラはまたもや動揺した。
481反感(祇園囃子より)十一:05/03/15 02:16:17 ID:???
 コロニーの穴にかくれたマークUは、少年の息遣いとともにしずかにライラ
のガルバルディβを待ち構えていた。
 その宇宙の鼓動を感じた瞬間、少年はビームライフルの引き金をひいた。
 ビームのエネルギーが、ライラのガルバルディβに命中した。
「うわぁぁぁぁ」
 ライラは不意をつかれた。たちまちガルバルディβは衝撃でとんでゆく。マ
ークUはそれを撃つべくコロニーの穴から飛び出し、ライラはガルバルディβ
の体勢を姿勢制御によって整えたが、いち早くマークUが飛び出してきて、ラ
イラの隙をつくかのように頭部のバルカンをあびせかけた。
「負けるものか!あんな子供に!!」
 背中からビームサーベルを抜いて振りおろしたが、瞬時にマークUにかわさ
れ、空振りとなった。それをみて少年は、マークUのビームライフルを撃ちこ
んだ。
 そのビームがとどく前に、
「私がジャマイカンに言ったとおりだ。ジェリド!油断するな。こいつはただ
者じゃない!!」
482反感(祇園囃子より)十二:05/03/15 02:22:37 ID:???
 ビームの一撃が、コクピットに命中したとき、ライラはオールドタイプのあ
りようがどういうものであるかを瞬時に悟った。
「そうか……私が今あの子のことをただ者じゃないと言った。このわかり方が
無意識のうちに反感になる……これが……オールドタイプということなのか」
 覚醒したといえるかもしれない。ライラはビームの閃光に貫かれ、散った。
ほとんど意識していなかったことを、彼女は死の瞬間に意識し、理解したので
ある。
 その感じ方こそ、本来のニュータイプたるべき素質であったといえるのかも
しれなかった。 
483反感(祇園囃子より)終:05/03/15 02:26:12 ID:???
 その戦闘を、遠くアレキサンドリアの艦橋で見ていたジェリドは、悲痛な声
をあげながら泣いた。自分を呼ぶライラの声が聞こえた。何を言おうとしたか
ったのか……ジェリドにはわからなかった。
 ライラは唐突に、足早に駆け去って、宇宙に散った。
 ジェリドの復讐も、この日を境に、ますます強烈なものとなってゆく。
4841:05/03/18 11:19:31 ID:???
書き込めるうちに
 独断でアーガマヘ奇襲をしかけたとき、アーガマから、可変MSの出来損な
いの機体がとびだして、ヤザンのギャプランの前にふさがった。見るからに中
途半端なMSである。足蹴りをかまして突き飛ばし、執拗に追いかける。
「同じ変形MSでも、こっちの能力はちがう」
ピッタリと背後にくっついてビームを放つ。相手が不慣れであることは、動き
をみればわかる(中略)
 ヤザンは知るよしもないが、追いかける可変MSメタスのパイロットの名は
「ファ」軍曹という。この少女がのちに模範的看護婦長として月都市でその名
を不動のものとしたファ・ユイリィである。当時17歳であった。
(自分の失敗を棚にあげて・・・・)
 ジャマイカンは、エリート参謀を自負しすぎているからこそ、自分よりも才
能の溢れる人間に複雑な苛立ちを覚えるのだろう。
(あの野郎が優秀なら、この俺を冷遇はすまいし、グラナダへのコロニー落と
しも見事にやってのけただろう。ジャマイカンはいままで、甘い汁を吸いすぎ
た)
 しかも今は優遇の極にある。バスク大佐も総帥ジャミトフ・ハイマン大将も
ジャマイカンだけは特別扱いし、作戦参謀としては特権をあたえ、好きなよう
にさせすぎている。上層部からこれほどの優遇をうけているジャマイカンが、
これ以後討伐を続行したところでうまくやれるはずはない。
(殺(や)るか)
 と、ヤザン・ゲーブル大尉が決意したのは、この日の出撃前のことである。
 漂流していたグワジン級大型戦艦の艦内で、ヤザンのギャプランは不覚にも
不意討ちをくらい、片腕をZガンダムのビームサーベルで斬られた。
 艦内から離脱したヤザンのギャプランはまっすぐにジャマイカンのアレキサ
ンドリアへとむかう。
 背後から追撃してくるのは、カミーユのZガンダムである。もう一機はGデ
ィフェンサーに乗るカツ、これはエマ中尉のマークUと合体している状態であ
る。
(このままで終わらせるつもりはないんだよ)
 不敵な笑みをもらしながら、モニターに映っている敵MSの姿をみる。いい
子だ、ちゃんとついてきてくれている。
(来た)
 ヤザンは自らのギャプランを、アレキサンドリア艦橋のブリッジのまえに静
止させ、敵MSの出方をうかがった。
 ギャプランへむけて、エマはスーパーガンダム(Gディフェンサーとマーク
Uとの合体時のMS名)のロングレンジライフルをかまえる。
 撃てよ、ガンダム。ヤザンの役回りは、敵がビームを放てばそれでしまいで
ある。この近距離なら素人ですら外すことはない。
「エマさん」
 とカミーユがZガンダムごしに声をかけたとき、照準が合い、合うと同時に
スーパーガンダムのロングレンジライフルの閃光がはなたれた。
 ジャマイカンは、まだおのれの運命がヤザンごときに弄ばれていることすら
知らずにいる。
 閃光を確認したヤザンはすばやくギャプランを回避させた(略)
 ついに栄光むなしく、この瞬間が驕りたかぶっていた作戦参謀の最後の姿と
なった。
「うおぉぉぉぉー!ぎゃあぁぁぁぁ!」
 声が沸きあがると同時に、必死に逃げ出そうと閃光に背をむけたジャマイカ
ンを、閃光がつつんだ。
 ブリッジのガラスが、宇宙にはじけとんだ。
 ヤザンはギャプランのコクピット内で、ジャマイカンが消えゆくのを満足げ
にみた。ここは戦場だからな、と思い、不慮の事態は起こりうるものだ、それ
に対処しておくのが本当に優秀な参謀というものだと、あちこちにむなしくビ
ームを放出しつづけている重巡洋艦アレキサンドリアをみてあらためて思った。
490通常の名無しさんの3倍:2005/03/26(土) 11:06:01 ID:???
保守
(いったい、何のようかしら)
 レコアの部屋へ少女は入室した。まだ実戦経験がとぼしく、アーガマのクル
ーから、
「ファ軍曹」
 と呼ばれていた。
 黒髪で、母性がにじみでている顔に、東洋系の黒い瞳孔がくまなく動いてい
る。体はやせがたであるが、どちらかといえばふくよかな印象があった。この
少女らしい肉体が、97歳まで寿命を保とうとは、むろん、レコアなどは想像
もおよばなかったであろう(中略)
 入ってくるなり、
「ジャブローに行ったあと、今度はジュピトリスですか?」
 と、強い口調で問うた。無駄足だったけどね、返答を聞きさらに話を聞くべ
く椅子にすわる。
「エゥーゴのクルーだということが・・・・わかってしまったんですか」
「当然でしょ。相手はプロよ、甘くはないわ」
「よくご無事で」
 ファは正直に感心した。大人だと思えた。未熟な自分とくらべて、なんとい
う高い意識をもっていることか。
「カミーユには、強く言い過ぎたかしら?」
「そんなことありません。カミーユって無神経なんです。少尉がジャブローで
受けた屈辱をそそごうなんて」
 ファは心の底からレコアに同情し、カミーユのいかにも男らしい態度をなじ
り、レコアをなぐさめようとした。この相手をなじってかばおうとするところ
が、いかにも少女っぽいのである。レコアは少し気が楽になった。
「ありがとう、ファ。でも、それは言わないで。メタスはあなたに任せますか
ら」
「レコアさん……」
 やっぱり、相当の辱めを・・・。古傷が痛むのだろうか。
「あたしにはこういう任務が適任なの。だから選ばれるのよ」