「よし、まあ気を悪くしないで聞いてくれ。そうだ、小さい娘さん達はいるか?」
「梓達のことですか?」
「ああ、、、そんな名前だったか、、、まあ、呼んでくれ」
三人がやってくるまで送時間はかからなかった。
もっとも、その僅かな間さえ俺には永遠の沈黙みたいなもんだったが。
千鶴さんも、おっさんも何も口にしない中で俺だけ口を開くわけにもいかないし。
せめて初音ちゃんでもいればひそひそ話の一つも出来たんだが、、、。
「失礼します」
俺は思わず目を見張った。和風が一番よく似合う楓ちゃん、簡略ながら和装で姿を見せた。
後に梓と初音ちゃんが続いてくる。馬子、というわけじゃないけど三人とも別人だ。
「こんにちわ、おじさん」
屈託のない初音ちゃんの笑顔で僅かながら場の空気が緩和されたような気がした。
「何のようです?」
着物を着ても梓は中身に変化はない。当然と言えば当然だが。
「座れ座れ。話はそれからだ」
急に場の空気が和んだような気がしたのだが、
外気が遮断されてしまうとまた徐々に陰鬱が立ちこめていく。
355 :
粛清:2001/04/07(土) 22:38
351も352も、品がねぇよ。
353には賛成するが。救われないやつは、なにやってもダメ。
「それでだ。おまえ達、これからは俺の憶測だから信じるも信じないも勝手だ。
これがたまたまのケースかもしれないし、そうでないかもしれない」
途端にハードな展開に思わず俺の影に隠れる初音ちゃん。
……いい。凄くいい。
「先日、一組のカップルが車の中で惨殺された」
おっさんは、俺達に一度した話をまた繰り返し始めた。
それなりに要点を纏めていて、まあ普通に聞いてる分にはまともな解説なんだが、、、。
「体を引きちぎられ、駆けつけた捜査官が扉を開いた瞬間
血があふれ出してきたというから、どんな具合だか想像がつくだろう」
「それがあたし達に何か関係のある人だったとか?」
「そうでもあるし、そうでもない」
「?」
密やかに滑らかに頭の回転が速い楓ちゃんが口を開いた。
はたとみ判らないかもしれないが、俺は楓ちゃんの瞳の中に
おっさんへの明らかな非難の色を見ることが出来た。
「つまり、叔父さんは私たちの内誰かがその人を殺めたんじゃないかって疑ってるんですね」
「そ、そうなんですか?」
どがぁーんと梓が机をたたきつける。
ひっくり返りかける茶碗をあわてて初音ちゃんが受け止めた。
「てめえっ!表に出るかっ?!」
青筋を立て、きりきりと腕に力を込めているのが判る。
俺は、一瞬でも梓の中に和風美人を見た自分自身の眼力に絶望した。
が、梓の気持ちも分からなくはない。
いや、どちらかと言えば俺も目の前の爺をぶちのめし尽くしても飽き足りないのだが。
「黙れ巨乳」
「な、なななっ?!」
酷い売り言葉に買い言葉だ。これは面白くなりそ、、、
「静かにしてください」
千鶴さんだった。
冷気が辺りに漂い、熱くなりかけた思考はいっぺんに冷却される。
何ともはや、凄まじい……。
「梓、お話を最後まで伺いなさい」
「で、でもよ千鶴姉、、、」
ただの一瞥で梓は完全に沈黙した。
「じゃあ、本題に移ろう」
「俺は最初、おまえ達の犯行だと確信した」
いきり立ち、立ち上がろうとする梓の土踏まずを鉛筆でくすぐりつつ質問を発する楓ちゃん。
かなりシュールな光景だと思うのだが。
「最初って事は、今は違うんですね?」
「焦るな。順々に聞いてくれ」
かち、かち、かちと胸ポケットから取り出したボールペンで机を軽くたたき始める。
ごく安定したリズムの中、おっさんの言葉に俺達は引き込まれていった。
「人間を引き裂き、壊しつくし、巻き散らかされる血に快哉を覚えるもの。
そんなものといったら俺には鬼しか思いつかなかった。
勿論警察の同僚共にはいわないでおいているが」
いつの間にか手元に引き寄せていた鞄から、もそもそと雑誌を取り出す。
「これは……?」
みんなで後ろに回り込み、少し痛んだ雑誌がめくられてゆくのを見守った。
「見ろ」
しおりを挟んだある頁でおっさんは手を止める。題字が目に飛び込んできた瞬間、思わず俺達は息をのんだ。
「な……?!」
「そんな、、、」
「おいっ!これって、、、まさか、、、」
「……」
「鬼って、私たちの、、、」
『驚愕!!現代に生き残る鬼の血!!』
記事を読み進めてゆく内、俺達は驚愕が現実のものであることを知らざるを得なくなっていた。
俺達の事を名指しで出してる訳じゃないし、
古典的な鬼の話も一応引き合いに出されてはいるものの
基本的に俺達隆山の鬼を主眼にしてかかれていることは明らかなもので、
俺の目から見てかなり詳細且つ確信に近い記事が記載されている。
エルクゥ特有の、例えば以心伝心であるとか当事者であるものにしか
知り得ない能力についてはともかく、
圧倒的な力、変貌する姿がご丁寧に三年前の写真を添えて解説されていた。
「見ろこの洞察力。三年前の事件ときちんと絡めてかかれている。
一見『鬼』の住処についてかかれていないようで
きちんと『三年前隆山で発生した未だ未解決、
原因の全くしれない連続猟奇殺人事件は〜』
この件で誰でも『ここ』の事に気がつくだろう」
「気がつかない方がどうかしてるな」
おっさんは威厳を繕うようにゆっくり頷いた。
「大半の読者はこの記事をその場の退屈を紛らわせる
読み物程度にしか考えていないだろう。もう発売されてから2ヶ月が経っている。
かなりの読者が記事の存在自体忘れてしまっているはずだ」
「じゃ、じゃあみんなもう忘れてるかもしれないよ!沢山大きなニュースとかあったし、
ほら、この前だって駅の線路に落ちた犬を
助けにいって轢かれちゃったお兄さんの話とか……」
初音ちゃんのせめてもの発案は、可哀想だけど何の甲斐もなく却下された。
「あくまで忘れてしまうのはかなり、の数であって全部ではない。
さらにそのうちから極一握りの人間はこの記事の中に潜む真実をかぎ出すだろう。
そういう人間が必ず一人や二人居るものだ」
「そして、気がついた人間を軸に、ゆっくりと世界が回転を始める、、、」
千鶴さんの言う通りだろう。
今この瞬間だって誰かが雨月山の伝承に気がつくかもしれないのだ。
小出さんだってそうだ。彼女の知識がこの記事の手助けをするなら
俺達の所まで『誰か』がたどり着くのはそう遠い日の事じゃないだろう。
あるいは、もう……。
「そこで、今度の事件だ」
「鬼の犯行だったんですか?」
楓ちゃん、どうも質問をリプレイする隙を伺っていたようだ。
蒼白な初音ちゃん、不安げな千鶴さん、明らかにいらついてる梓に比べ
飛び抜けて落ち着いているのは相変わらずというか流石というか。
おっさんが茶碗を手に取った。
「それは、違うな」
お茶が、くい、くい、と通ってゆくたび喉の形を変える。
その動作は奇妙に緩慢な上、何処かしら淫靡な趣さえあった。
途方もない沈黙が俺達の意識の中、何処かからささやきかける。
言いようのない不安
形容しがたいなにものかへの戦慄
そして、絶対的な恐怖---。
「殺されたのは、鬼だ」
「!!」
際限なく静止に近づく時間の中、白昼に浮かぶ月がゆっくりと欠けていった。
「どういうことなんだ?あたしたちの他に鬼がいるのか?」
「でも、ここの鬼は私たちだけなんじゃ、、、」
「おまえ達、俺が鬼だったってことも最近まで知らなかっただろ」
おっさんは恨みがましいとも哀しみとつかないような表情を一瞬だけ浮かべ、すぐかき消した。
「俺のように、おまえ達ほど血を忠実に受けついてで居なくても
実際には鬼の血を引いた人間はこの国にそれなりの数がいる。
鬼の血がなにがしらの形で、薄まりながら弱まりながらであっても
広がっていったと考えるのが普通だ」
「でも、私たちの血は長くは外では持たないはず……」
いつも穏やかで、何処か抜けた空気漂う千鶴さんの瞳に
普段の軟らかな光は無かった。
俺に一度だけ見せてくれた、あの日の眼。
くく、、、
くくくくく、、、
机に手をつき、おっさんは奇怪な笑い声を浮かべ始めた。
初音ちゃんがきゅっと抱きついて来ているのが判る。
---寧ろ、俺が初音ちゃんに助けてもらいたくなるような、そんな異様な笑い方だった。
「おっさん、、、?」
梓の声は届いていないらしい。
机を揺らし、さもおかしくてたまらないかのようにおっさんは笑い続ける。
「ひとつだけ、一つだけ有るんだよ方法が!」
それだけ言い放つと、おっさんは狂ったように高笑いを始めた。
広く、閑散とした家の中にその声だけが反響を繰り返し、波紋を生み、消えてゆく。
それは、何かに飢えた、何かが欠落してしまったものの笑いだった。
明日は梓でイこう!sage(意味不明
>>351 つーか、一応
>>148-154、
>>211-215とこれらは
繋がっているのですよおよよよよ(w
>>352 まあそういわないでマターリしよう。初音たんすれなんだし