「んぁっ、、、あふっ、、、ん、、、」
仄かに差し込む街路灯の灯りは薄紅の幻燈を車内に繰り広げていた。
時折影に包みこまれ、また嬌声と共に静寂の中へと姿を映す。
「あんっ、あう、、、は、、、あ、、、」
柔らかな質感を湛えた乳房がゆっくりと変形させられてゆく。
さらさらとした長髪は、まとわりついてゆくかのように男の腕に絡んでいった。
「柔らかいよな、おまえの胸、、、」
「だ、、、そんなこと、、、あ、、、ふぅ、、、」
大変狭い、否、その目的によっては大変狭くもなる
---この瞬間が将にそうだった---
セダンの後部座席で二つの肢体が絡み合っていた。
だが二人にはその空間的な抑圧は気にならない。
軋む座椅子とひんやりとした硝子が形成する限定された空間さえも
却って彼らの情念をかき立てる材料だった。
「うああぁっ!!ひっ、、、」
股をなぞるようにして男の指が蠢動し、そっと敏感な部分に至るまでなで上げていく。
「相変わらず敏感だな、美耶子は」
くんくんとたれてくる髪の毛の香りを楽しみながら、
指にやや粘りを帯びた液体をからみつかせる。どうも、女の方がペースが速いようだった。
「ね、お願い、、、そろそろ、、、」
「ん」
「ふ、、、」
次に来る快楽に備え、美耶子と呼ばれた女は馬乗りになると唇を重ねた。
強く、求めるように舌を差し込んでいくと冷たい感触が絡み合ってゆく。
「……」
「……」
デジタルの秒針が粒子をまき散らしながら加算される。
4,5,6,7,8,9,0,
1,2,3,4,5,6,7,8,9,0,
1,2,3,4,5,6,7,8,9,0,
1,2,3,4,5,6,7,8,9,0,
1,2,3……
「ねえ?どうしたの?」
かなりの時間が流れてなお、何も起こらない。
楽しみをじっくりと味わいたいにせよ限度というものがある。
「里中君?」
やはり、返事はない。ぷち、と車内灯に手をかけた瞬間だった。
「!!」
美耶子の体を何かが貫通した。
男のものではない。
腹部から脳髄に至るまで貫通するかのようなその痛みは、
加速度的に美耶子の意識を奪っていく。
「あ……ああ……?」
まだ何が起こったか整理がつかない。
ただ、車内に広がる橙の光がにじみ、ぼけ、
視界が崩壊していくのを「眺める」かのように時間が流れるばかり。
体に力を込めようとする。全く何の反応も起きない。
ただ、あやふやな意識だけがコントロールを離れた肉体に付随していた。
美耶子の吐き出した血が男のそれと混ざる。男は、とうに息絶えていた。
何かが男の背から腹部を突き抜け、同じように美耶子の体を貫いている。
吐き出され、噴き出しつつ車内に広がってゆく鮮血に何もかもが塗り替えられてゆく。
カーマットは血溜まりに浮かび、元々薄緑をしていた素地は今や色彩を反転させ、
そして、痙攣に振動する美耶子の体。
丁度乳房の付け根の辺りから姿を現していた
醜い金属質の物質は鮮やかな赤にまみれていった。
とんっ…………かたん、、、
とんっ…………かたん、、、
とんっ…………かたん、、、
とんっ…………かたん、、、、、、
「だがな、決定的な証拠がない」
幽玄の流れる閑静な時間の中、客間。
俺と千鶴さん、それに柳川のおっさんと。
変わった取り合わせだけどおっさん、
不愉快この上もない用事でやってきやがった。
「おじさん、俺達の事頭から疑ってるだろ」
俺の視線を受けてもふふん、とせせら笑う。
眼鏡の奥で何を考えているのか見当もつかない。
「当たり前だ。状況証拠と勘だけでしょっぴけるなら
俺は貴様らを全員この場で連行するぐらいには疑ってる」
「そんな、、、」
千鶴さんは、寧ろ自分のことでなくて
寧ろ梓たちの事を心配しているのだろう。
大事な妹たちにあらぬ疑いをかけられてしまうことが
優しい千鶴さんには耐えられないに違いない。
「私たち、そんなことしたりしません……」
「とりあえず俺達を疑うふりしてあんたがやってんじゃないのか?」
うつむき加減の千鶴さんを見ていて俺は胸が痛くなった。
いったい何なんだこの馬鹿叔父は。
「本当におまえ達は何も知らないんだな?」
と、一発びんたでも食らわせてやろうかと思った刹那、
おっさん急に姿勢を正した。
何やら考えてるのかぼうっと虚空に視線をやる。
かたん、、、とんっ…………
かたん、、、とんっ…………
かたん、、、