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判例解説___逆転無罪判決から:
「事案の概要」
被告人は、京都市内の 交番に、「以前 勤めていた会社の寮に、火をつけた」として「自首」し、
これが契機となり、大阪府警において 本格的な取り調べが実施された。
それに基づき、「借金の清算をするために 会社の寮に放火した」などとする自白調書が作成され、
借金の相手であった 従業員男性に対する「殺意」についても、「自白調書」が作成されたため、
大阪地方検察庁検察官は、関係記録を精査のうえ、「殺人未遂」と
「現住建造物等放火」の訴因で、大阪地方裁判所に 公訴提起した。
「審理経過の骨子」(1)
第1回公判において 被告人は 起訴状記載の公訴事実を 全面的に 認めたものの、
第1審の審理途中から、突然、「自分は、この事件を起こしてはいない。無実だ。」と主張し、
第1回公判における 「被告事件に対する陳述」 を 撤回 した。
しかし、第1審は、2003年春、「自白調書の信用性」と、勤務先の会社役員の証言の
信用性を認め、被告人を 有罪とし、懲役10年を宣告した。
このため、被告人は、弁護人を通じて、即日、控訴の申し立てをした。
「審理経過の骨子」(2)
弁護人は、控訴人から2名態勢となり、控訴趣意補充書 等 において、
「ガソリンを用いた放火行為であれば、自白調書のような 犯行方法だと、
被告人は 全身に重大なヤケド被害を負うことになる。しかし、実際には
そのような 痕跡はなかったのであり、これは、積極的に、被告人の無実を証明する」
などとして、火災状況についての 「鑑定意見書」を証拠採用するように請求し、
控訴審裁判所は、大学教授(火災燃焼学者)の証人尋問を実施した。
300 :
判例解説___逆転無罪判決から:05/01/20 16:15:43 ID:EKSGL+8J
301 :
判例解説___逆転無罪判決から:05/01/20 16:16:22 ID:EKSGL+8J
「解説」
近年、<心理学者>の一部からは、「無実の被告が ウソの自白をしたような場合、
事件によっては、自白調書の内容から、逆に、無実の証明へと つながるケースがある」
(cf 浜田寿美男『自白の心理学』
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/43/X/4307210.html)
という指摘がされるようになった。
本判決は、同書の内容こそ明示しないものの、「被告人の心理的葛藤の 有無」
「被告人の 控訴審の法廷での態度」などを つぶさに検討し、
「理路整然と記載された 自白調書の内容と、これらは決定的な矛盾 が生じる」
と 判示 した。
大学の法律系研究者からは、とりわけここ数年の間に、「合理的な疑いを超える証明」
についても さまざまな 分析・検討 が多く発表されるようになっており、
http://www.hanmoto.com/bd/ISBN4-87798-117-9.html 本判決は、これらの 最新の「研究成果」にも、一部において 重なる部分もあろう。
なお、本判決につき、検察官は 上告申し立てはせず、無罪判決結果は 確定 した。