167 :
逆転無罪判決の事例:
要旨第6】結局、ガソリン缶についての件は、虚 偽 自 白 をしてしまった被告人が、
有りもしない出来事について、取調室で イロイロと述べてしまった可能性も 否定できない。
以上によれば、放火態様についての 被告人の自白調書は、裏づけに乏しく、
信用性を減殺する 方向に作用する と言わなくてはならない。
■(9)弁護人の ガソリンの燃焼情況についての所論について
なお、所論は、「当審における事実調べの結果、ガソリンの燃焼情況から、
被告人が<仮に>点火行為をすれば、その際にヤケドをするしないことは明らかである。
しかし、<現実には>被告人はヤケドをしていないのであるから、
これは、被告人の無実を 積 極 的 に 証 明 する事実である。」___などと主張する(控訴趣意補充書や、控訴審最終弁論)
けれども、
・当審証人 X教授の 法廷証言
・X教授の作成し(て 刑事訴訟法321条4項で採用され)た鑑定書 によると、
<現実の>火災情況と、<当該 実験>には ズレが生じている可能性も否定できない。
従って、「この点の」所論は、採用の限りではない。
■(10)自白調書の信用性を「高める」事情の「有」「無」__各論(10)
◇1)自白の「一貫性」について
<原判決は>この点について、「被告人は、京都市内の交番に2000年4月に自首して以来、
一貫して 犯行を認めており、第1回公判でも有罪を認める旨を陳述した」と判示し、
被告人の自白には 一貫性 があるから、信用性も高い、としている。
なるほど、これらは 一見すると、自白の信用性を高める事情
であるし、
<捜査官も> 「生活苦による 刑務所志願であるか?どうか?」を 検討したことが伺える。
168 :
逆転無罪判決の事例:05/01/13 23:14:09 ID:nsB5Lav8
し か し な が ら、
@本件では、被告人の所持金は、自首した時点では0円だったのであり、「メシ食いのための自首」
が成立するだけの 動機 が ある
A自首したときには、既に、事件現場の情況は、大きく変化していたこと
B関係証拠上、自首するまでの 経緯 や自首したときの 動機 に、
メシ食いのための事情 が強く伺えること____これらに点に照らせば、
<原判決の>認定.判断は 失当である。 次に 重罪の認識 について検討する。
◇2)重罪であることの認識
<原判決は>「…殺人未遂という 重罪についても 被告人は その故意を認めており…」
自白には信用性が高い、と指摘している。
た し か に ,殺人未遂罪まで 自白した、というのは、原判決の指摘するように、
<一般的には>自白調書の信用性を高める事情、ということができる。
し か し な が ら,
放火の点についての 自白は 取 調 官 を 納 得 させるだけのものでは<なかった>ことが
原審の公判記録からも伺えるし
● 被告人が<法廷で>述べるように、「取 調 官 に 納 得 して貰うため、殺人未遂も認めた」
というのは、 合理的な説明 であると言えるし、
本 件 で は 死 者 は ゼ ロ であり、なおかつ、被害者と「される」N自身も、
重大なヤケドによる後遺障害などは、まったく、起こしてはいないから、なおさら、
被告人の説明は 不自然とは、言えない。
169 :
逆転無罪判決の事例:05/01/13 23:14:39 ID:nsB5Lav8
結局、「重罪の認識」については、(後にも触れるが)被告人自身の性格の問題や、
その当時は、「重罪の認識」について、あまり深くは考えずに、虚 偽 の 自 白 をしてしまったとも
考えられる。
◇3)放火についての客観的態様
<原判決は> 放火の客観的態様と自白調書の関係につき、
@被告人自身、ガソリンを燃やした過去の経験を述べ、自白における「犯行状況」と一致する点が多いこと
A被告人の左前髪の 焼け具合と、消防署員の事情聴取書面の内容が一致すること
__などを挙げて、自白の信用性を肯定する。
し か し な が ら、
@は、「これまでの」ガソリンの取り扱い経験を述べた程度に過ぎないし、
Aについても、かえって、犯行態様の 不自然さ を基礎付けるデータとさえ、言えるのであり、
<原判決の>認定判断は、失当である。 ついで、原審での 被告人供述について触れる。
■(11)原審での被告人の法廷発言____各論(11)
[ 原判決 ]は、「…被告人の 当公判での供述は ……変遷を重ねており……信用できない」とする。
たしかに、被告人は、被告人供述調書を見る限りにおいては、事件について、供述は 変遷 を重ねている。
し か し な が ら、【当審での】公判供述の態度を 観 察 すると、
被告人は、質問に対して、推 測 によって、その場で 答えているだけではないか、
との疑いが【当裁判所】には払拭できないところである。
しかも、その 供述内容自体は、先に触れたように、合理的でさえある。
170 :
逆転無罪判決の事例:05/01/13 23:15:05 ID:nsB5Lav8
確かに、被告人は、【原審第1回公判】では「起訴事実を認める」発言をし(⇒第1回公判調書)
原審の【審理の途中】から、否認に転じている。
これは、【当審での】公判供述の態度の 観 察 などにより、
@被告人の、あきらめやすい 性 格
A質問に対して、推 測 を 交 え て 適 当 に 述べている可能性 などから
合理的に説明ができる。
しかも、【これらの 法廷での態度】は、かえって、理路整然とした 「自白調書の 記載」とは
決 定 的 な 矛 盾 を生じるとさえ、言わなくてはならない。
■(12)事実認定の総括
以上を総合すると、本件では、自白調書には なんら、信用性はなく、
その他、被告人を犯人と認める証拠は何ら、存在しない。
そうすると、本件公訴事実について 被告人を有罪と認定し、
懲 役 十 年 を宣告した<原判決>には、 「判決に影響 を及ぼすことが 明らかな, 事実誤認」
がある。
論 旨は、理由が「ある」。
171 :
逆転無罪判決の事例:05/01/13 23:15:37 ID:nsB5Lav8
第4.破棄自判
よって、刑事訴訟法397条1項(控訴趣意に「理由がある」とき)、382条(事実誤認)により
原判決を破棄することとし、
同法400条「但し書き」により、本 被告事件 につき、さらに 判決することとする。
本件公訴事実は……(略)……というものであるが、本件では【犯罪の証明】が【ない】から、
刑事訴訟法404条、336条により、被告人に対して 無罪の言い渡しをするほか、ない。
よって、主文のとおり判決する。
2004年11月22日
大阪 高等 裁判所 第6刑事部
裁判長 裁判官 :近江清勝
裁 判 官:森岡 孝介.
裁 判 官:西崎 健児.