機動新戦記WEEDGUNDAM3

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1通常の名無しさんの3倍
AG(アフターグリード)という共通の世界観に基づいたオリジナルのガンダムを創作するスレです。

現在ある作品

AG.0065 ウィード外伝ガンダムL(ライトニング)

AG.0078 機動新戦記WEEDGUNDAM(本編)

AG.0078 機動新戦記外伝ガンダムS(ストレングス)

AG.0080 新機動戦記外伝ガンダムA(アヴェンジャー)

AG.0199 異説機動新戦記ガンダムウィード

AG.???? ブラックエンペラーガンダム

共通の世界観といっても、設定に関してはそれほど窮屈というわけではないので、書きたい人は気軽に書いて気軽に投下して下さい。

本編
続・機動新戦記WEEDGUNDAM
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1221986601/

前スレ
機動新戦記ウィードガンダム2
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1221902478/

2七四三:2008/12/07(日) 22:05:40 ID:???
>>1
乙です

前スレで調子に乗って投下したら、容量の限界に到達しました
尻切れになった最後を投下しときます
3七四三:2008/12/07(日) 22:06:49 ID:???
前スレ>>549の続き

通信を切ったアルトリオは周囲を見回す。
周囲には自分が率いていた、遊撃隊の面々がいる。
「さてと、作戦開始だ」
気負った様子も無く言い放つと、アルトリオは自らの目的の為に、歩き出した。その背を遊撃隊の面々が周囲を警戒しながらついていく。
――さあ、祭りはこれからだ。
ニヤリと、口許に愉悦の笑みを浮かべると、アルトリオは本体を率いる、カンプ曹長に連絡を取った。

後編に続く
4通常の名無しさんの3倍:2008/12/08(月) 19:01:39 ID:???
七四三投下乙!

後は本スレ(重複なんだがw)と合流するだけだね
5通常の名無しさんの3倍:2008/12/08(月) 20:07:32 ID:???
重複スレ?

機動新戦記ウィードガンダム「俗俗するわぁ・・・」
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1228730441/
6東西 ◆1eW7huNls2 :2008/12/08(月) 21:41:14 ID:???
>>4-5
このスレが外伝スレ(外伝だけど実質本スレ)で、サクシャインの建てたスレに合流する必要はないと思われます
7通常の名無しさんの3倍:2008/12/08(月) 23:15:20 ID:???
ダルタイルと連邦とかの各種設定をちゃんと固めた方がいいんじゃないかと思った
8通常の名無しさんの3倍:2008/12/09(火) 07:59:04 ID:???
>>1&七四三乙
9エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/09(火) 23:02:58 ID:???
新スレ立ってたのか…
>>1と七四三乙!
俺もそのうち投下します
10七四三:2008/12/10(水) 22:22:53 ID:???
後編

アルトリオと別れたセレアは、ただひたすらに走っていた。脇目を降ることなど一度もなく、ただ真っ直ぐに走るセレア。
だが、ここは地平線の彼方まで続く無限の平野などではなく、光輝宮という建物の中、真っ直ぐ走るというのにも限界はあり、いずれは曲がらなければならない。
現に、セレアの眼前にも壁が迫りつつある。
セレアの体よりも一回りは大きな窓が備えられている壁だ。
走りながら、その壁を見つめるセレアの表情は、アルトリオと話していた時のうじうじとした様子からは一変し、凛々しいものへと変わっている。
それは思考回路が平常時から戦闘状態に完全に切り替わったためだった。
セレアは凛々しい表情を崩すことなく、豹のような身のこなしで、足を速めると、壁に向かって加速、備え付けられた窓へと恐れることなく、飛び込んだ。
窓をぶち破る感触。それに続いて浮遊する感覚、そして落下していく感覚。

セレアが飛び出た窓の先は、地上から数十mの高さの空だった。
物理法則に従い、セレアは地面へと真っ逆様に落ちて行く。
いくらセレアの体が頑強でも、数十mの高さから落ちて無事で済む訳はない。勿論それはセレア本人も理解している。
だが、落ちて行くセレアの表情は危機的状況とは裏腹に余裕に満ち溢れたものだった。
そんな落ち着き払った様子のセレアは、その表情の裏に確信を持っていた。自分は決して死なないという確信が。
そして、その確信はすぐにセレアの前に実体を伴って現れた。
「いいタイミングだ」
セレアは口許に笑みを浮かべる。
落ちていく、セレアの目に映るのは自分に近づいてくる一機のMSだ。
二つ目に角を持った珍しい頭部と必要以上に鋭角的なシルエットの機体。黒と赤のカラーリングがセレアの趣味に合わないが、その程度のことで目くじらを立てるほど、セレアは狭量ではない。
セレアの器量の大きさなどは知らないMSは、落ちていくセレアに近づくとセレアの落下速度に機体を合わせ、手のひらで慎重にセレアを受け止めた。
「出迎えご苦労」
まるで何ともないふうに、MSの手のひらの上に立ちながら、セレアは尊大な態度で口を開いた。
現在、セレアが手のひらの上に乗っているMSは滞空中な為、かなり高度があるのだがセレアは全く気にならないようだ。

――馬鹿と煙は高いところが好きって言うしな……
口には出さず、内心でうんざりと辛辣な言葉を吐くミカド。
11七四三:2008/12/10(水) 22:24:16 ID:???
そんなミカドの内心など知る由もないセレアは、全くもって能天気な様子で、ガンダムアレスの手のひらの上から、下界に広がる風景を眺めている。
一見すると、その姿は気品ある令嬢そのものだが、その実、発するのは容姿からは想像もできない猛獣の気配だ。
ミカドはそのギャップにうんざりしながら、外部スピーカーを通してセレアに呼びかける。
「遊んでないで、中に入れ」
中とは、コックピットのことだ。
いくらなんでも、手のひらに乗せたまま空中移動をしようという気になれない。
だが、セレアはミカドの思惑に反して首を横に振る。つまりは、嫌だということだ。
拒否する理由がわからないミカドは訝しげに首を傾げる。
その時、ミカドの耳に集音マイクを通して、セレアの声が届いた。
「そんな事をしていたら、撃ち落とされるぞ」
セレアは極めて冷静な口調で言い放つと、アレスの背後を指差した。
セレアのその動作から、ミカドは背後に機体を振り向かせようとするが、遅い。
アレスが振り向く間もなく、背後からのビームが機体の真横を駆け抜けた。
「敵かよ!?」
声をあげ、同時に背中を冷たいものが流れ落ちる。
セレアを手に乗せている以上、マトモな戦闘機動は取れない。
もしも、通常時の戦闘機動を取ろうものなら、セレアは一瞬で振り落とされて、地面に真っ逆様だ。
コックピットに乗せようにも、その時には間違い無く隙ができる。そこを狙われたらアウト。
「よりにもよって、こんなタイミングかよ…!」
吐き捨てるようにつぶやくと、ミカドはセレアを振り落とさないように慎重に自機を操りながら、敵機を視界に捉える。
「用意が良すぎだろう…!!」
苛立ちの混ざった声を漏らすミカドの眼に映るのは2機のシビレー。
しかも、2機とも空戦用の装備を装着している。
“空が飛べる”程度の機体が戦うには些か厳しい相手だ。

どう戦うべきか…
考え込むミカド。そこにセレアの声が届く。
「動きを止めるなっ!!」
そんな事は言われなくてもわかっている。
ミカドはやはり、慎重に機体を動かすと、シビレーの持つライフルから放たれたビームを回避する。
だが、セレアを振り落とさないように最小限の動きを心掛けているせいか、完全に回避できているというわけでもなく、どうしてもビームが機体をかすめる。
「誘導兵器なんか使われたら、一発でアウトだな」
ビームを十発ほど避けた時点でミカドはつぶやいた。
12七四三:2008/12/10(水) 22:25:33 ID:???
機体に致命的なダメージは無いものの、かすめたビームがアレスの角の先端を折っている。
反撃をしようにも、射撃武装が無いため、どうにもならない。当然、セレアを振り落とす危険性のある接近戦なんて、論外だ。
かと言って、攻撃を避け続けることも難しい。
避けたと思ったビームがかすめて、角が折られた時点でこちらの限界は見えている。避け続けていられるのも時間の問題だということも、ミカドは既に理解している。
いくら相手の攻撃が予測できた所で、それを避けるための動き自体が制限されていては、手も足も出ない。
唯一の救いは敵が機体に装備されているハズのミサイル等の誘導兵器をどういうわけか、一切使用してこないことだ。
「今の状態じゃ、ミサイルなんて防げねえから、ありがたいが、それでも――」
危機的状況には変わりがない。
打開策を考えるも、一向に思いつかず、敵機から放たれたビームがアレスをかすめるだけだ。
ミカドはコックピットの中で険しい表情を浮かべる。
その時、集音マイクを通して、セレアの声がコックピットの中に響いた。
「城が敵の射線に入るように動け!」
有無を言わせぬ口調でセレアは言葉を続ける。
「敵の動きを観察してわかったが、奴らは城に攻撃が当たることを、ひどく恐れている。
機体の背後に城がある限り奴らは射撃兵器を使えない。
奴らがミサイルを使わないのも同じ理由だろう。敵の追尾に失敗した弾頭が流れ弾で城に当たることを危惧してに違いない」
普段こそ大分アレだが、戦闘に関してのセレアの分析と判断は並ではないことをミカドは拳で語り合った仲ゆえに、身をもって知っている。
「なんでまた、そんなに気を使ってんだよ。奴らは」
セレアと会話しながら、ミカドは機体を操り、敵の攻撃を回避する。
その時、チラリと自機の手のひらを見るが、セレアは全く何ともないといった様子で平然と立っていた。
――アレ? これなら、もっと思い切って動いてもいいんじゃねえ?
ふと思ったが、その考えはセレアの言葉によって遮られた。
「恐らく、奴らは戦闘員でないもの達に被害を出したくないんだろう」
「こんだけ派手なことやっといてなんだそりゃ」
そうミカドは言葉を返した瞬間、思い出した。
――確か、この連中は行方不明になった筈の連邦軍人。その中には、非戦闘員に被害を出すことを忌避するような、人道的思想を持っているような奴らがいてもおかしくはない。
13七四三:2008/12/10(水) 22:27:11 ID:???
どの道、このままでは間違い無くやられる。そう考えれば、セレアの言うことを試す価値は充分にあるとミカドは思った。

ミカドの操るガンダムアレスは、手のひらにセレアを乗せたまま、光輝宮に接近を始める。
その瞬間、アレスを狙うシビレーの攻撃が明らかに散漫になった。
「人を盾にしてるようで気が引けるが…」
そう言いながら、ミカドのガンダムアレスは光輝宮に対して、接触しかねない程に近づいた。
こうなると、どう攻撃しても城に被害がでる。
シビレーのパイロット達はセレアの言った通り、非戦闘員に被害を出したくないのか、攻撃の手を止めた。
「連邦軍にも、いろんな奴らがいるもんだな」
ミカドは人道的思想を持つパイロットが乗った二機のシビレーを見ながら、感心したように言った。

光輝宮を背にしながら、アレスとシビレー二機は睨み合い膠着状態が続く。
ライフルでもあれば、アレスはシビレーに対して、攻撃を加えていただろうが、あいにくアレスの手元には遠距離を攻撃できる武器はなく、攻撃のしようがない。
もっとも、ミカド達の目的はシビレー二機を倒す事ではないのだから、攻撃出来なくても別に構わない。
「おい、わかっているか」
セレアの念を押すような声が、集音マイクを通して、コックピットにいるミカドに届いた。
ミカドは声を出さず、ただうなずくだけ、その瞬間、ガンダムアレスは突然動き出した。
向かう先は真上、アレスは光輝宮の壁面を這うようにして、城の上層部へと登っていく。
その急な動きにも、とっさにシビレー二機は反応し、アレスにライフルを向ける。が、撃てない。
光輝宮の壁面を這うように移動しているため、どう攻撃しようとも城に被害が出るのは間違いないからだ。
他者から讃えられるべき彼らの人道的思想はこの時においては彼らを縛る鎖に他ならなかった。
それでも、彼らは敵を倒すため行動する。
射撃が無理だと判断したシビレー二機はビームサーベルを抜き、城の上層目掛けて、上昇するアレスを追いかける。
セレアを手のひらに乗せているため、速度を出すことのできないガンダムアレスに対して、速度を出す妨げとなるものを何一つ持たないシビレー二機は、先に動き出したアレスとの距離を徐々に詰めていく。
「やっぱり、そう簡単にはいかないか…」
ミカドはつぶやいた。
14七四三:2008/12/10(水) 22:28:30 ID:???
別に、逃げ切ることを目的としているわけではないので、追われても構わないのだが、それでも追ってこられない方が有り難いのは確かだ。
「右、来るぞ」
セレアの声がした。
気づくと、二機のうちの一機がアレスの右手側を併走している。
追いつかれた。
ミカドは苛立たしげに舌打ちをし、ちょうど、そのタイミングに合わせるように併走するシビレーがビームサーベルでアレスのコックピットに向けて突きを放った。
城に被害を出さないための接近戦なのだろうが、ミカドにとって、それは有り難いことこの上なかった。
接近戦ならば、何とか戦える。アレスはセレアを乗せていない右手にフィールドナックルを展開すると、シビレーの突きをビームサーベルごと掴んだ。
青白い燐光を放つ、アレスの右手はシビレーのビームサーベルに干渉し、がっちりと掴んだまま放さない。
その状況のまま両者の動きは止まり、膠着するかと思われた、その瞬間、アレスが動いた。
掴んだビームサーベルを、それを持つシビレーごと強く引っ張った。抵抗はするものの、機体のパワーに圧倒的な差があるため、シビレーは呆気なく体勢を崩された。
そこにすかさず、アレスの蹴りが飛ぶ。
体勢を崩していた為、シビレーはその一撃を防ぎきれずに直撃を受けて、大きく弾き飛ばされた。
間合いが開いた、その隙にアレスは再び城の上層部に向けて移動する。

「ああいう動きはよせ」
機体が上へ上へと向かっていく中、手のひらの上のセレアは憮然とした表情で言い放った。
見ると、流石に格闘戦の動きには堪えられなかったのだろう、身をかがめている。
しかし、今のミカドの意識はまったく別の方に向いているため、セレアには見向きもしない。
――もう一機はどこだ…?
機体を上昇させながらミカドは考え込む。
いつの間にか、アレスを追いかけるシビレーは一機になっている。
いつから居なくなっていた?
ミカドが記憶の糸を手繰り寄せようとした、その時、直感が声となって聞こえた。
――上だ。
ただ一言、だが、それだけでミカドは自分がどう動くべきかわかった。
ミカドの操縦により、アレスは上昇しながら、僅かに機体を横にずらす。
その直後、真上から飛来したビームが、ほんの一瞬前までアレスが存在した空間を貫いた。
「先回りされたようだな」
セレアが冷静に言うと、ミカドは「ああ」と答え、上を見た。
15七四三:2008/12/10(水) 22:30:09 ID:???
そこには、シビレー二機の片割れがライフルを構え、光輝宮の壁面に垂直に立つようにして、佇んでいた。
銃口の向く先は光輝宮の壁面に対して平行。それならば、城を傷つけずに撃てる。
「徹底してるなぁ…」
ミカドは敵の城に対する配慮に感心したようにつぶやいた。

上方のシビレーがライフルを撃つ。
それを慎重な動きで避けるアレスは、同時に下から迫り来るシビレーの存在も察知した。
「挟まれたぞ」
セレアが極めて冷静な態度で言い放つ。
ミカドは答えない。答えず、どうすればいいかを考える。
ミカドとセレアにとっての目標を射程圏内に収めるまで、あと少し。
だが、そのあと少しの距離をどうやって縮めるのかが問題だった。
――突破するしかないよな…
上方からのビームを避けながら、結局、思いついたのはその程度の考えだった。
「突破しろ」
セレアが手のひらの上から言い放つ。
至った結論はミカドとセレア、どちらも同じ。
他に良い手が有るのかもしれないが、この場では思いつかないのだから仕方がない。
ミカドは覚悟を決めて、機体を操る。
アレスは躊躇うような動きなど、毛ほども見せずに上方へと向かう。
シビレーはそれを迎え撃つようにビームを放った。
ビームは上昇を続けるアレスに向かって、一直線に飛んでいく。が、アレスは必要最小限の、セレアを振り落とさないような機動で、何とか回避する。
前方一方向からで、なおかつ足を止めた状態での射撃ならば、そこまで恐ろしくはない。
ミカドの操るアレスは敵の攻撃を回避しつつ、ぐんぐんと上昇し、目標とする地点へと近づいていく。
それはすなわち、上方にてライフルを構えているシビレーに近づくという事なのだが、敵の射撃を見切れるミカドは全くもって、危機感などは感じていない。
その余裕のせいか、ミカドは完璧に失念していた。
下方からアレスを追いかけていた、シビレーの存在を――
「左だっ!!」
不意にセレアが叫んだ。
いつのまに移動していたのか、アレスを追いかけていた筈のシビレーが横合いからビームサーベルを構え、猛然とアレスに襲いかかってきた。
「クソっ!!」
悪態をつきながら、ミカドは機体を操り、シビレーの突撃をひらりとかわす。
だが、それは致命的な失敗だった。
避けた拍子に、ミカドのアレスは光輝宮の壁面から離れてしまった。
アレスの背には何もない、壁面から離れたアレスの周りにあるのは空だけだ。
16七四三:2008/12/10(水) 22:31:53 ID:???
つまりは、シビレーのパイロット達は何にも気を使う必要が無くなったというわけだ。
ヤバいっ!!
それに気づいたときにミカドは心の中で叫んだ。
見ると、上方からライフルを撃っていたシビレーのミサイル発射管が開いている。
ミカドの肌が粟立つ、その時、セレアが叫んだ。
「投げろっ!!」
そのセレアの声に、ミカドはハッと我に返り、気づいた。
既に目標は射程圏内に入っている。
それを理解した瞬間、ミカドは即座に機体を動かす。
ミカドの操るアレスは、手のひらの上にいるセレアを目標と定めていたポイントに向かって、投げつけた。
目標とするのは、窓と呼ぶには余りにも大きなガラスが張られた壁面だ。
かなり、ヒドいことをしてるようにも見えるが、あらかじめ作戦として決めたこと、セレアに不満はない。
投げられたセレアは空中で体勢を微調整すると、寸分違わずガラスに命中、そして、ガラスを叩き割りながら、城内へと突入していった。

ミカドはそれを見届ける間もなく、アレスを操縦している。
セレアという枷がなくなったことにより、ミカドの操るアレスはその能力を遺憾なく発揮できる。
シビレーがアレスに向けて、ミサイルを放った。
先程までならば防ぐ術は無かった。だが、今は違う。
アレスはそれまでの慎重て繊細な動きから一変、変則的な動きでミサイルの追尾から逃れてみせ、更には、追いすがるミサイルを自らのビームサーベルで切り払うという芸当までやって見せた。
その急な動きの変化に、事情を知らないシビレーのパイロット達は、ただ目を丸くするしかない。
驚愕するシビレー二機に対して、ガンダムアレスは悠然とした動作でビームサーベルをしまうと、腰の刀に手をかけた。
「さっきまでのようにはいかねえよ」
ミカドは淡々と言い放ち、そして、ガンダムアレスは敵に向かって猛然と突き進んでいった。

十話に続く
17通常の名無しさんの3倍:2008/12/10(水) 23:11:00 ID:???
投下乙
18通常の名無しさんの3倍:2008/12/11(木) 18:50:13 ID:2nrpZDae
七四三乙!
19通常の名無しさんの3倍:2008/12/12(金) 17:58:27 ID:???
投下乙
でも人少ないねw
20通常の名無しさんの3倍:2008/12/12(金) 22:20:11 ID:???
ぼちぼちやって行こうぜ

七四三投下乙!

そして>>1スレ立て乙
21七四三:2008/12/14(日) 00:48:28 ID:???
投下します
ぶっちゃけ、もうヤケクソです
22七四三:2008/12/14(日) 00:49:57 ID:???
異説機動新戦記ガンダムウィード

第十話 二人のゴッドウィン


セレア・ゴッドウィンには兄がいる。
兄の名はラザーク・ゴッドウィン。セレアにとってはたった一人の肉親だ。
唯一の家族である兄に対するセレアの感情は一言で表せるほど単純だ。
『死ね』
それが、セレアが持つ兄に対する唯一の感情。
また、同様に兄であるラザークがセレアに持つ感情も単純。だが、こちらは二言で表すことが必要な程度には複雑だ。
『死ね。殺すぞ』
それが、ラザークが持つ妹に対しての唯一の感情。
セレアとラザーク、両者の関係は非常に険悪であり、お互いを蛇蠍のごとく忌み嫌っている。
世間一般でいう妹を守る兄などという光景は決して見られない兄妹だ。
結局、二人を一緒にしておくと何が起きるかわからない。
そう結論が出た後、周囲の人々はセレアに家を出るように勧め、皇城に住み込みで勤めるメイドという立場に落ち着いた。
だが、それでもラザークとの縁が断ち切れたというわけでもなかった。


この日、ラザーク・ゴッドウィンは戦場へと変貌した帝都に帰ってきた。
〈帝国最強〉の名を欲しいままにし〈魔王〉の異名を取るラザーク・ゴッドウィンはリゾート帰りと一目でわかるアロハシャツに身をつつみ、生身でシビレーを撃破していた。
「必殺!ゴッドウィンショット!!」
技名を叫びながら、そこいらに転がっていた石ころを、シビレーに向かって投げつけるラザーク。
投げつけられた石ころは音速の数倍を軽く突破しながら、シビレーのコックピットを貫通し、その中のパイロットを文字通り粉砕する。
「わははははは!!、ゴッドウィンショット!!ゴッドウィンショット!!ゴッドウィンショット!!ゴッドウィィィンンショォォォォッッッット!!!!!」
叫びながら、そこら中に転がっている石ころを拾っては狙いもつけずに投げまくるラザーク。
やはり、投げる石ころは全て音速の数倍を軽く突破している。
空気との摩擦で燃え尽きても良いはずなのだが、なぜか石ころは燃え尽きずにシビレーのコックピットを貫いている。
その威力はまさしく必殺技と呼ぶに相応しい。その技をくらったシビレーのパイロットは皆、必殺されている。
数秒の内にシビレー十数機が撃破された。
だが、それでも敵の数は殆ど変わらない。
ラザークの周囲にいるシビレーは軽く見積もって百機以上、それだけ敵はラザークという存在を危険視していた。
23七四三:2008/12/14(日) 00:51:31 ID:???
ラザークは周囲のシビレーをぐるりと見回し、不敵な笑みを浮かべる。
その容姿は例えようもなく美しい。
どこに居ようとも、何をしていようとも、人々の目を奪い見惚れさせずにはいられない、そんな美しさだ。
その魅力の前では、男だとか女だとかの性別の問題など塵にも等しい。
無造作に肩の辺りまで伸ばした艶めかしい光沢を放つ黒髪を風に揺らし、ラザークは不敵な笑みを浮かべながら、周囲のシビレーに向けて言い放つ。
「俺を倒すには百機程度じゃあ足りねえなぁ」
集音マイクでその声を拾い上げたシビレーの一機がいきり立ってラザークに向けてビームを放つ。
悠然と佇む生身のラザークに迫るビーム。
だが、ラザークは
「一刀両断!!ゴッドウィンセイバー」
そう叫ぶと、その言葉通りビームを手刀で一刀両断にした。
その光景を眼にした瞬間にシビレーのパイロット達はラザークが〈帝国最強〉と呼ばれ、その上〈魔王〉などという異名を与えられたのか、その理由を全てを理解した。
人間じゃない……
ラザーク・ゴッドウィン本人以外の、その場にいた全員がそう思った。
「当然だ」
ラザークが周囲のシビレーのパイロット達の心を読んだように言葉を発した。
「何故なら、俺はゴッドウィン!! ゴッド(God=神)ウィン(Win=勝つ)!!つまりは俺は神に勝つ男!! おまえらみたいな一般的な人間と一緒にするな!!」
世迷い言にしか聞こえない言葉を大声で叫ぶと、ラザークは百機を超える数のシビレーに対して、敢然と向かい合い、そして戦いの火蓋が切って落とされた。

そこから先はまさに地獄絵図だった。
全長十数mの金属の塊であるMSを身長180cm超の若者がパンチ一発で戦闘不能に追い込んだり、
手刀でコックピットハッチを切り裂き、内部のパイロットを引きずり出して殴り殺したり、
場合によっては、貫手でコックピットハッチの装甲を貫き通して、パイロットがコックピットの中にいる状態のまま殺害したり、
兎にも角にも一方的な戦いだった。
いや、戦いと呼ぶのもおこがましいほどの、まさに蹂躙という言葉が相応しい暴力の嵐だった。
一機また一機とシビレーは次々に破壊、撃破、粉砕されていく。
ラザーク・ゴッドウィンの絶対的な力の前では数の優位など全く意味をなさない。

そして、戦闘開始から数分、たったそれだけの時間で既にシビレーの数は残り一機となってしまった。
「わはははははは!!俺、最強!!」
24七四三:2008/12/14(日) 00:53:21 ID:???
ラザークは哄笑を辺りに響かせながら跳躍し、最後のシビレーの頭に飛び乗った。
「一撃必殺!!ゴッドウィンパンチ!!」
シビレーの頭頂部に立つラザークは大声で叫ぶと、自らの拳をシビレーの頭に向かって振り下ろした。
ラザークの拳は凄まじい破砕音を轟かせながら、シビレーの頭の上半分を完全に破壊した。
人間で言えば鼻から上の頭が粉々になるというスプラッタな惨状。
しかし、シビレーはMS、人間とは違い頭部が破壊されようとも動くことはできる。
ラザークとてそんな事は百も承知。だからこその、ゴッドウィンパンチだ。
頭に乗ったラザークを振り落とそうとシビレーはもがき、暴れようとするが、その瞬間、シビレーは崩れ落ちた。
何が起きたか解らず、パイロットは慌てて機体の状態を調べ、そして驚愕した。
シビレーの関節の全てが内部から破壊されていたのだ。
「わはははははは!!見たか!! ゴッドウィンパンチは内部破壊の必殺技!!一発当たればMSの関節など、バッキバッキだ!!」
異様なテンションでご丁寧にも技を説明するラザーク。
しかし、聞いている者など誰一人としていない。ラザークの周りにあるのはシビレーのスクラップだけであった。
「萎えるなぁ…観客とか誰かいねえのかよ…」
誰も自分の活躍を見ていないとわかると、ラザークは肩を落として、溜め息をついた。

「ああ、やめだやめだ。やる気なくなった。もうおまえらだけで勝手にやってろ。どうせ、俺の活躍なんて誰も見てねえんだろうさ」
ラザークはふてくされた表情で、帝都から出て行こうと皇城に背を向けて歩き出した。
「まったく、いつもいつも俺がやって来て何とかしてくれると思ってんじゃねーよ」
ブツブツと独り言を漏らしながら、歩くラザーク。
「そういう甘えが世の中を駄目にするんだ、馬鹿野郎共め。休暇中に大事件だからって呼び戻されてみたら何だ?
帝都が襲撃されて、皇帝が人質になってる?
アホか、そんな事で俺を呼ぶんじゃねーよ、ホントどいつもこいつも気が利かねえよな。この程度の事件なんてオマエ等だけで解決しろっての。
なぁ、あんたもそう思うだろ?」
ラザークは立ち止まり、振り向いた。そこには必死の思いでシビレーのコックピットから這い出したパイロットが銃を構えていた。
銃口の先に居るのは自分だというのに、ラザークは他人事のような余裕で肩を竦めてみせる。
「見逃してやるから、さっさと何処か行け」
25七四三:2008/12/14(日) 00:56:15 ID:???
ラザークはしっしっと手を振り、追い払おうとするが、シビレーのパイロットは動かない。
「あのなぁ、命を無駄にすんなよ。死ぬときは女の腹の上か、ベッドの上で自分のガキとか孫に囲まれて死にたいだろ?」
銃を構えるパイロットを呆れたように見ながら、ラザークは言葉を放つが、それでもなおパイロットはそこから逃げずに、銃を構え続ける。
「頑張るねぇ…」
そう呟くと、ラザークは呆れたように溜め息を漏らし、パイロットの銃を取り上げた。
一瞬の出来事だった。
パイロットはいつの間にラザークが自分の側に来たのか、どうやって自分の手から銃を取り上げたのか全くわからず、それどころか銃を取り上げられたことすら気づかずに、ただ呆然とするしかなかった。
「じゃあな、命は大事にしろよ」
ラザークは呆然とするパイロットに背を向けて歩き出した。
パイロットは何もできずにただその背を見送るしか出来ない。

「さてと、これからどうすっかなぁ」
歩きながら、ラザークは呑気な調子で言葉を続ける。
「このまま帝都から出て、南の島で休暇の続きもいいなぁ」
現在の帝都の状況を考えれば、不謹慎この上ない言葉を吐くラザーク。
口に出したもののラザークとて、それが無理なことだとは承知している。
「まぁ、それなりに真面目にやるさ…」
誰に聞かせるでもなく、つぶやくとラザークは足を止め、空を見上げる。
帝都の空では、MAとMSの一騎打ちが繰り広げられていた。
ラザークはその光景をくだらないもののように感じながら、肩を竦める。
「もっと気楽に行こうぜ、皆さんよ」
そう言うと、ラザークは鼻歌を交えながら帝都の街中へと消えていった。
26七四三:2008/12/14(日) 00:58:07 ID:???
――光輝宮

「うるぅああぁぁぁあ!!」
ミカドの雄叫びと共に、ガンダムアレスは鞘からの抜き打ちで空戦型のシビレーの腕を切り飛ばした。
切断能力を極限まで追求したアレスの刀はMSの装甲をも容易く切り裂く。
その威力に改めて頼もしさを感じながらミカドは機体を操り、返す刀でシビレーのコックピットに刀を突き立てようとする。
だが、それをさせまいと横合いから、もう一機のシビレーがアレスに向けてライフルを撃つ。
ミカドはとどめを刺すことを諦め、手負いのシビレーから距離をとり、もう一機へと向き直る。
ガンダムアレスに射撃武装が無いことを察したのか、シビレーは決して距離を詰めようとはせずに、中・遠距離からライフルでビームを連射する。
「その手は悪くはねえよ、悪くはねえけどさ……甘いんだよ!!」
アレスは刀を鞘に収めると、ビームサーベルを二本抜き放つと、二刀流に構えながら、ライフルを撃つシビレーに向かって突進する。
獲物に襲いかかる時の猛獣のような俊敏さでビームの驟雨の中を駆け抜ける。
避けきれないものは両手のサーベルで切り払いながら、アレスは瞬く間に間合いを詰める。
ライフルを撃ちながら、距離を取ろうと後退するシビレーだったが、直線加速ではアレスの方が上だった。
後退するシビレーを追いかけ、アレスとシビレーの距離は一挙手一投足の間合いまで迫る。
この距離ならば、ライフルよりサーベルの方が戦いやすい。シビレーのパイロットもそれを承知しているのか、すぐさま自機の武装をライフルからビームサーベルに持ち替えた。
そして、シビレーはビームサーベルを上段に構えると突進してくるアレスに対して、真っ向から振り下ろす。が、その刃はアレスが左手に持つサーベルに容易く受け止められる。

二刀流とは攻めの構えではなく守りの構え。
ミカドが学んだ剣術はそうだった。
片方の剣で敵の刃を受け止め、もう片方の剣で必殺の反撃を打ち込む。
それがミカドが学んだ二刀流の戦い方。
そして、ミカドはそれを実践した。
ガンダムアレスの左手はサーベルを受け止めながら、その右手のサーベルは既に、シビレーのコックピットを突き刺している。
コントロールを失い、機能を停止したシビレーの四肢が力無く、ダラリと垂れ下がる。
アレスがビームサーベルの刃を消すと、その機体は重力に従い、地上へと落下していった。
落ちていくシビレーの姿を眺めながら、ミカドはアレスのビームサーベルを収納する。
27七四三:2008/12/14(日) 00:59:17 ID:???
――後ろから来るぞ
直感が声となって聞こえた。
ミカドはその声が意味するものを一瞬で理解した。
アレスは腰の刀に手をかけると、居合い抜きの要領で振り向きざまに真後ろから迫る敵を切り捨てた。
敵はとどめを刺し損ねていた手負いのシビレー。
シビレーは真っ二つに機体を裂かれ、上半身と下半身が別々に地上へと落ちていった。

嫌な手応えだった。
そんな手応えの時は間違いなく刀が傷んでいる。MSに乗っていたとしても、そういうことはハッキリと分かる。
「もっと巧く斬れるようにならないとな…」
ミカドは反省するように呟く。
アレスの持つ刀は試作段階というのもあるが、その威力の代償に恐ろしく脆い。
剣身に少しでも余計な負荷がかかれば折れる、もしくは使用不可能になるという極端ぶりだ。
先ほどの居合い抜きのような無茶な使い方を続ければ、早々に使い物にならなくなると、ミカドは肝に銘じながら刀を鞘に収めた。

「何はともあれ、こっちは終わったぞ」
ミカドはそう言うと、セレアが突入した窓へと目を向ける。
「後は、おまえ次第だ。セレア」
そして、アレスはセレアを見守るようにその場に留まった。

後編に続く
28七四三:2008/12/14(日) 01:02:21 ID:???
ラザーク・ゴッドウィン
性別:男
年齢:24
所属:ダルタイル帝国
職業:インペリアルガード
役職:インペリアルガード隊長
搭乗機:ガンダムゼウス
備考:チートキャラ

〈帝国最強〉であり〈魔王〉の異名を持つ男。
生身でMSを圧倒する有り得ない身体能力と戦闘能力を持つミュータントの中でも特異な存在。その戦力はMSに搭乗することで更に高まる。

人間性はお世辞にも誉められたものではないが、悪人と断定するのも難しい性格。が、好んで付き合うには勇気が必要な人種でもある。

インペリアルガードの隊長という地位はラザークが16歳の折に、自分以外の全てのインペリアルガードを打ち倒し、手に入れた。
それ故に殆どのインペリアルガードに良い印象を持たれていない。

唯一の家族であるセレア・ゴッドウィンとの関係は最悪。

容姿はセレア以上の美貌を持つ絶世の美男子。
バイセクシャルであり、女性は10〜40、男性は10代の美少年が守備範囲という微妙に倒錯した性的嗜好を持つ。

29鵜殿長氏 ◆NHKo7pKwow :2008/12/15(月) 18:18:16 ID:???
そちらも頑張ってくださいね。
30通常の名無しさんの3倍:2008/12/15(月) 20:47:33 ID:???
>>29
「そちら"も"」なんてまず自分が頑張ってからつけろよ糞ライト。
ってか外伝に来るなカス。
お前の両親死ね。
31通常の名無しさんの3倍:2008/12/16(火) 03:27:21 ID:???
親にまで悪口言ってやるな。ただでさえ大変なんだから
32通常の名無しさんの3倍:2008/12/16(火) 07:42:50 ID:???
まぁ親にまで迷惑かけるクズライトは以後スルーで
33エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/17(水) 21:26:27 ID:???
どうも、お久しぶりです。今から投下します
もうぶっちゃけヤケクソなのは俺も一緒w
七四三今までよく一人で頑張った!乙です。
そんじゃいきます
34エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/17(水) 21:29:24 ID:???
ガンダムL 第九話 焔の向こう

「本作戦における最重要拠点を突破。ダンデス各機は速やかに市街の殲滅に移行、任務を続行されたし」
感情の籠らない声でエルトは言い、ティエル達の駆るダンデスと合流する。
「…」
交わす言葉の見つからないまま、エルトとティエルは炎上の町を見つめていた。
燃え盛る炎がすべてを焼き尽くし、奪ってゆく様を…
ダンデスのビームに蒸発した者、炎にその身を焼かれた者、逃げ遅れ戦闘に巻き込まれた者、崩壊した建造物に押しつぶされた者…
そんな人々のことをなるべく鮮明に思い浮かべないようにしながら、ティエルが言う。
「…エルト、私達も、行こ?」
二人とも思っていることは異なるけれども、考えていることは同じだった。
ここまで来たら、引き返すことなど出来ない。
少し遅れて、エルトから通信を受けたダンデスパイロット達から賛辞の声が聞こえる。
やったなぁ!よし、あとは楽になるぞ!さすが中尉!…
(やめてくれ、頼むから、俺を放っておいてくれ…!)
目の前が再び真っ黒になるのを感じながら、エルトは前に進む。
耳を塞ぎたい衝動に駆られながらも、MSの操縦をやめることは出来ない。
かといって、通信機のスイッチを切ることも許されない。
いつ何時、重要な連絡が来るかわからないからだ。
現状はダルタイル側が遥かに有利であるといえど、ここは戦場だ。いつ敵の急襲があっても対応できる状態にしておかなければならない。
戦場に出たのならば呼吸一つで斬られると思え…エルトは経験からそれを学んでいた。
エルトの心中を察したのか、ティエルが無駄に明るく言う。
「クロス少佐が心配ね…ホラ、エルト!ボサッとしない!少佐のとこ、行くわよ!」
「…ああ」
二機のダンデスは、目の前に突きつけられた現実から目を背けるようにして、クロスの元へ向かった。
35エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/17(水) 21:30:31 ID:???
一方、キールはかろうじて生きていた通信機器から、仲間達によるエルトへの称賛を耳にしていた。
(良かった…)
自らの友人が無事に責務を果たし、英雄として仲間達から称賛されている…
喜ばしいことだ。キールはまず、「良かった」と思い自らも心の中で友を称えた。
けれど…
けれど、思慮深くも臆病なこの男は、再び思う。
エルトはきっと今頃、自らのしたことで思い悩んでいるのだろう。
しかし、キールにはエルトのジレンマがまったくといっていいほど理解できなかった。
むしろ腹立たしくさえあった。
(何故だよ…中尉、あなたはやり遂げたんだ…!)
与えられた任務を忠実にこなすことが出来たのだ。自分と違って。
二機のエースを退けたのだ。自分と違って。
困難な状況を突破し、皆から称えられているのだ。自分と違って!
(けれど、それなのに、あなたは…!)
キールは暗い顔をして震え、涙を流しているであろう友人の顔を思い浮かべ、嘲るように口元を歪め、それから憤る。
(もっと喜べよ!嬉しそうな顔をしていろ!そうじゃなきゃ、そうじゃなきゃ…)
力を抜き、俯くキール。
(あなたのようになりたいと願うこの僕が、この上もなくみじめじゃないか…!)
歪んだ己の無力さを嘆き、キール・ニールは何度も何度も乗機のコクピットを叩き続けた。

「モナークとレンザは何をしているというのだ!この町に合流する手筈ではなかったのか!」
ディフェンスロッドをくーるくるくーるくる(笑)回転させつつ、ビームライフルを撃ったタケルが言う。
「レンザは別件。モナークはエリオットと何かあるみたい」
タケルを救出した少女、フウラ・レジスターが、クロスのサーベルを避けながら言う。
「なんと!して、モナークとエリオットは何を…ま、まさか!」
ビーム刀をかまえながら、タケルは顔を赤らめる。
「断固辞退したいというような仲なのか、あの二人は…いやしかし彼らがその道理を彼らの無理でこじ開けるというのなら…」
アッー!な展開を想像しているのだろう。もうコイツダメかもしれない。
「やっぱ頭打った?病院行く?」
「断固辞退する!私はあの男を倒さねばならんのだよ!」
「そうそう、なんだか新型のMSにモナークが乗るかもなんだって。その打ち合わせがあるとか言ってたなぁ」
「なんと!そんな重要なことをよくぞさらっと言ってくれたものだ!」
「一応、ここには来たかったみたいだけどね」
「フッ…まあ、モナークがいようがいまいが関係ないな!私は私の道を示すだけだ!気合で居合い!」
タケルが放つ二振りのビーム刀を同じく二振りのビームサーベルで受け止める。
36エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/17(水) 21:31:26 ID:???
「クソッ…!さすがに二つは二つだな…」
舌打ちをするクロス。一本で受け止め、空いた方の手でフウラを牽制しようと考えたのだが、パワーのことを考えるとそうもいかないようだ。
「後ろ、もーらい♪」
正面切ってタケルと仕合っているクロスの背後に、フウラがビームサーベルを構え、コクピットを切り裂こうと突進してくる。
「クソッ!」
なす術のないクロスは咄嗟に、タケル機への廻し蹴りを入れる。
「おおう!なんと!」
わずかにバランスを崩したタケル機の方を一瞥して、フウラ機の攻撃をかわすべく転身する。
「!」
フウラ機のサーベルが空を捉える。
「へぇー…やっぱタケルが手こずるだけのことはあるか」
「そりゃどうも。ところでまだ続けんのかい?」
「んー…一応。任務だしね」
「私を忘れてもらっては困るな!」
間に入るKY。
「変に正義の使者ぶってねえところは気に入ったぜ、嬢ちゃん」
「まあね。この町には特に思い入れもないし」
「ハッ!だったら大人しく帰んなよ。ミトラは死んだんだ、俺達ももうじき離脱する」
「私を忘れてもらっては困るな!」
「そうしたいのはヤマヤマなんだけど、そうもいかないみたい。連邦のお偉いさん、もうカンカン」
「心配すんなよ。いずれソイツらもぶっつぶしてやるさ、この俺がな」
「なに?お兄さんも過去に色々あった系?」
「…関係ねぇよ」
「ウッ…わ、私をッ、わ、忘れてもらっては、困る、な…?」
若干涙目になりながらも自らの存在を主張し続けるKY。さみしがり屋なのだろう。
「あー、ごめん。気づいてなかったよ…ごめんってば!ほら、泣かない!」
慌てるフウラ。
「お前」
このタイプのKYはなんかいろいろ面倒だ。クスッと笑ったクロスが言う。
「友達、いねぇだろ」
「!」
今度は怒りに震えるタケル。
「き、貴様は何度私を愚弄すれば気がすむのだ!わ、私なんか端末の登録人数50人だもんねー!」
もうなんだコイツ。どんどんフリーダムなことになってくわ。
「俺はその三倍だ。さっさと退くかとっととくたばれ。そうすりゃしがらみからも逃れられるってもんだ」
「否!断ッじて否!私の道を阻むなッ!」
再び二刀流のビーム刀を振りかぶる。
その太刀筋を紙一重で避けていくクロス。が、しかし…
「ハッハッハハッハ!忘れたか!私の真の力を!」
不意に現れ、存分にしなるビームロッド。
前回の戦闘では直接手に持って使用されていたが、今回はヴィルザードの左手首から直接射出されたのだった。
「んなもんあるなら最初から使えってんだ!」
避けようと必死のクロス。ダンデスの体勢が崩れるも、背に腹はかえられない。
37エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/17(水) 21:32:05 ID:???
「奥の手はとっておくものなのだよ、そうら!当たるぞ!」
「太刀筋が見えねえ!」
「今日の私はァッ!」
ダンデスに巻きつくようにして、ビームロッドがしなる。
「魔王すら凌駕する存在だッ!」
…あれ?まあいいか。その話題にはさわら、ぬ。
そのままクロス機を地面に叩きつける。
「ぐああっ!」
「引導を渡す!」
「今度こそ、ね」
二機のヴィルザードがクロスに迫りくる。
その時…
投擲されたビームダガーが、正確にビームロッドを切り裂いた。
「「!」」
覚悟を決めたクロスが見上げると、そこにはエルトとティエルの駆るダンデスの姿があった。
「少佐!」
駆け寄るエルト。
「ご無事ですか」
「ふぅ、ヒヤヒヤもんだぜ、ったく」
安心するクロスとビームサーベルを構えるエルト。
「貸し一つ、追加ですね」
言いながらティエルがスナイパーライフルを構え、タケルとフウラを狙い撃つ。
「おのれ、増援か…!」
「まったく。邪魔してくれちゃって」
巧みにビームライフルをかわすタケルとフウラ。
「!避けた!タダ者じゃないってことか…」
ティエルが再びライフルを撃つ。
「当たらなければ、どうということはない!」
「あー、もう!しつこいっての!」
放たれたライフルの閃光をすべて紙一重で避けていく。
「二度も避けた…!なんだっての、アイツら…」
呟くティエルと、タケルに通信を入れるフウラ。
「これはちょっとキツイかなー。そろそろ潮時ってやつ?」
「またもや撤退か…!フウラ、サムソンに連絡を!」
「りょーかい」
「この私の顔に、何度泥を塗れば気が済むのだ…!」
撤退する二機のヴィルザード。
「ダンデス…!」
苦虫を噛み潰したような表情のタケル。どうでもいいけどガンダムとダンデスって響き似てるよね。
ちなみに彼らは撤退する途中で、ハーバード・オックスの乗ったヴィルザードを救出している。
が、それはまた別の話だ。
38エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/17(水) 21:32:47 ID:???
「撤退したか…」
呟くエルト。
「あのヴィルザード…あたしの射撃を避けるなんて…」
「デルタ隊だよ、アイツらは」
驚くティエルと、それに答えるクロス。
「さてと、大方片付いただろ?俺達も、そろそろ撤退しますかね」
溜息をつくクロス。
「エルト、パク中佐に報告!セカンドフェイズ、終了!」
「了解」
炎上の町の中で、三機のダンデスは静寂の時を迎えた…

その後、パク中佐と交戦していたサムソン・ランガードも、フウラ・レジスターからの通信を受け、離脱した。
撤退するダンデス部隊。
一人も、あるいは一つの生命も残すことなく、炎上の街を振りかえることもせず、ダルタイル帝国輸送艦「レオパルド」との合流地点へと向かって行ったのだった。
「お疲れちょり〜っす☆」
パイロットスーツを脱ぎ、シャワーを浴び終えたエルトの元へ、もう一人のKYがやって来た。
「…ああ」
軽く手を上げ、答えるエルト。薄くはにかんで見せるも、どこか寂しそうな表情をしていた。
「聞いたぜ。お前さん随分活躍したそうじゃねえか!ロウ中尉への勲章授与もそう遠くはない、って皆噂してる」
「そういうの、じゃないよ。僕は」
頼りなく笑う。
「シケたツラしてんなよ」
おーい、とアレンが言うと、数人のダンデスパイロットが入ってきた。
「君達は…!?」
「あなたの小隊の者ですよ、中尉」
「ああ、ハワード、ダリル…それから…」
「ダリルは撃墜されました」
「…済まない。自分のことで精一杯で…」
元から人の名前と顔を覚えるのが苦手なエルトだが、精神状態がアレなんで許してやってください。
突然敬礼をするダンデスパイロット達。
「中尉、ありがとうございました!中尉の作戦指揮のおかげで、自分はテンプレス部隊との交戦を無事に戦い抜くことが出来ました!」
自分は〜…他にも数名の者達が、戦場でエルトに助けられたことなどについての礼を述べていく。
突然のことに、戸惑うエルトにアレンが言う。
「あんまりしょげてんなよ。お前さんの活躍で救われたヤツがいる。それでいいじゃないか」
「…」
「…よし!今夜は飲むぜ!中尉の凱旋祝いと洒落込もうじゃねえか!」
アレンが言い、その場の全員が盛り上がる。
エルトは、今度は少し楽しそうに薄く笑って、皆の輪の中に入って行った。
39エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/17(水) 21:33:48 ID:???
同刻
モニターを眺め静かに座る男があった。
ダルタイル帝国を影で操る男、漆黒大帝ノワール・カーメンである。
「…ガモウよ。どうだ、首尾の方は?閃光の遺産は、忠実に動いてくれたか?」
モニター越しにウジサトが答える。
「はっ!それはもう見事なまでの腕前でございました。多少、精神面に問題があると考えられますが…」
「構わぬ。それと、例の計画はどのようになっておる…?」
「はっ!こちらの画像をご覧になってください」
ウジサトが何やら指を動かすと、ノワールが見ている画面に新たな画像が表示された。
どこかの基地だろうか…?闇の中に佇む二機のMS。
ただ、大きな特徴としてダンデスやヴィルザードと異なるのは、そのMSの頭部の形状であった。
二つの目にV字のアンテナ…不可思議なデザインにノワールの眉がわずかに動く。
「変わった様態だな。これがガンダムか…」
ガンダム。そう呼ばれた二機のMS。
一機は白を基調とし、深く、そして美しい碧蒼に金の縁取りが為された、スマートな姿の物だ。
もう一機は黒を基調とした奇抜とも言える形状を持つ。どこか滑稽さの中に潜む恐怖というものをそのまま目に見える形に仕立て上げたといった感じだ。
「えーてりうむ、とかいったな。あの鉱物は」
「はっ!エーテリウム対応型MS、ガンダムでございます。頭部の形状は、エーテリウムに対応する為の…」
「そんなことはいい。して、名は?」
「…上皇から向かって左側が、DNG-002L ライトニングガンダムでございます。そして右側が、DNG-001B ブラックエンペラーガンダムでございます」
ウジサトは普段から、ノワールのことを当たり障りのない上皇、と呼ぶことにしていた。
陛下とでも呼んでしまったならば、幼きギグルスタンをないがしろにすることになってしまうからだ。
っていうかまあそんなことはどうでもよくて七四三と東西とブラックエンペラー考えた人サーセン。
「開発は無事終了致しました。ただ、問題のエーテリウムの方の捜索を、現在急がせております」
「…使えんな」
「申し訳ありません!」
「よい。それより、黒い方は私の計画に使うことにする。実戦投入は白と碧の方のみだ」
「!承知いたしました」
「ガモウよ。ブレイズへの次なる指令を下せ。宇宙に上がり、金属製小惑星からえーてりうむを探し出して来い、とな」
「はっ!では、失礼致します!」
そう言うと、ウジサトからの通信は途絶え、闇の中にはノワール・カーメンと二機のガンダムの映像が静かに向かい合う。
「漆黒大帝…闇を横切る閃光…再び、ダルタイルの夜明けの時が訪れたようだな…!」
大帝が静かに笑うと、闇が応えるように、その笑いをこだまさせた。

九話 終 十話に続く
40エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/17(水) 21:36:23 ID:???
今ササッとほんとに二時間くらいで書いたやつなんで色々めちゃくちゃだけど悪しからず…
テーマがテーマだけにどうしてもハガ○ンっぽくなっちゃったのに反省
それじゃあサヨウナラ
41七四三:2008/12/18(木) 00:20:17 ID:???
>>エルト
お久しぶり&乙です〜


俺は今日はどうでもいい設定だけ投下です。


ゴッドウィン家

ダルタイル帝国が誇る武門の名家。
血筋ではなく強さを重んじる一族であり、戦闘能力さえ高ければ身分を問わずに一族に引き入れ、強さによっては一族の頭首に据えるという帝国貴族社会では異端の存在。
求めるのは強さだけであり、人間性には頓着しないため奇矯な性格の持ち主が多い。

AG.199現在、一族はラザークとセレアの二人だけであり、そのふたりともが幼少期に戦闘センスを認められ引き取られた養子。
現頭首はラザーク・ゴッドウィン。
42エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/18(木) 01:15:41 ID:???
時間をおいてこんばんは
七四三に続いて俺も設定投下します

機体名称:ライトニングガンダム
型式番号:DNG-002L
パイロット:エルト・ロウ

武装:
ビームハルバード×1
ビームサーベル×2(出力調整によりダガーとしても使える)
ツインビームライフル ×1
シールド×1(シールド部にビームサーベルを固定出来る)
脚部ビームブレイド×4(脛に二つ、爪先に二つ)
マシンキャノン×2

戦闘機形態での武装:
ツインビームライフル×1
ホーミングミサイル(戦闘機形態でのみ使用が可能)

詳細:
ダルタイルの新型(AG0065当時)MS。AG世紀における初のエーテリウム対応型機。装備がライトのと変わらない気がしてきた。反省はしている。
可変機。コンセプトは高速で接近→可変→格闘→離脱。
高速戦闘によるデータ収集の為に開発された機体。
ダルタイルの英雄、ゴディアス・ロウ中将の戦闘データを元に作成されており、戦い方が非常に近いエルトに譲渡されることとなる。
格闘機とはいえ、機体の機動性を損なわない為、全身に搭載されたビーム兵器の使用を主流としており、実体剣等は装備されていない。
開発コード(エクシアで言うセブンソード)は「闇を横切る閃光」
後に地球連邦はこの機体を参考にライサーガンダムを開発することとなる。
43通常の名無しさんの3倍:2008/12/20(土) 16:21:27 ID:???
七四三とエルト投下乙
44ジョー・グレイグ:2008/12/20(土) 19:51:57 ID:???
訳あって暫くの間、こっちに来れなかった。
続きを楽しみにしていたみんなゴメン、続きをかけそうにない。
他の書き手、絵師には申し訳ないと思っている。
本当に済まない。

もしも、物好きな奴が続きを書きたいと思うなら、その時は、好きにやってくれて構わない。

さようなら
45七四三:2008/12/21(日) 00:05:57 ID:???
後編

ガラスが割れる音が盛大に鳴り響き、外部からの衝撃によって砕け散ったガラスが光を反射して煌めきながら室内に降り注いだ。
ガラス片が光の粒となって舞い散る、幻想的なその光景に人々が目を奪われる中、そこに少女は降り立った。

美しい少女だった。

この世の物とは思えぬ程に黒く艶やかな髪と、雪のように白い肌に強い意志を秘めた鳶色の瞳を持つ、余りにも美しい少女だった。
舞い散る光の粒と相まって、その姿はまさに地上に降り立った女神。
その美貌に周囲の人々は息を呑み、一枚の絵画のように荘厳なその光景に、その場にいる者達、全員の動きが止まる。
それは、少女にとっての敵味方関係なく、そこがパーティー会場――皇帝が捕らえられ、更には事件の首謀者らしき人物がいる場所だとしてもだ。
誰もが少女に魅入り、動きを止める中で、少女が頭の後ろに一つにまとめていた黒髪がほどけ、背中にかかる。ガラスで切れたのか、少女の足元にちぎれた髪紐が落ちた。
髪を下ろした少女の姿に周囲は再び息を呑む。
その姿は艶やかさを増し、人々は息をする事も忘れ、敵も味方もなく、ただ見蕩れるばかり。

そんな隙を少女――セレア・ゴッドウィンが見逃す訳がない。
セレアは豹のような俊敏さをもって動き出した。
向かう先はリーダー格らしき仮面の男。
そこまでの距離は十数m、セレアはその距離を一瞬で駆け抜けた。
その場にいた者の殆どが反応できない速度、例え反応できたとしても対処することは不可能。それほどの速さだった。
一瞬で間合いを詰めたセレアはそれでも歩みを止めず、更に一歩踏み込むと仮面の男の懐に潜り込み、そして、セレアの肘が男の鳩尾にねじ込まれた。

その一撃だけで全てが終わった。
セレアのたおやかな腕から繰り出された一撃は、恐るべき威力をもって、たったの一発で男の意識を奈落の底の暗い闇へと叩き落とした。
声をあげることもできずに男は崩れ落ち、その場に倒れ込む。
その光景に周囲の人々はただ目を見開くだけだ。

『アタマを潰せば全てが終わる』
アルトリオは自らの作戦を説明する際、ミカドとセレアにそう言った。
そして、そうした思考に基づいた作戦がこれまでの一連の行動であり、セレアによる敵リーダーへの電光石火の奇襲である。
ゴッドウィンの名を持つセレア個人の武力に頼った作戦ではあったが、セレアはその家名に恥じぬ働きを見せつけ、その役目を完璧に果たした。
46七四三:2008/12/21(日) 00:07:20 ID:???
「終わったぞ」
未だ、驚愕から立ち直れない人々を尻目にセレアは生体端末を起動させ、ミカドとアルトリオに一言告げる。
そこにきて、ようやく状況の変化を理解した者達が現れだした。
セレアにとっての味方側――人質になっていた貴族の中の数人が、人質という立場から解放されるに違いないという喜びに声をあげ、敵側の兵士達はこの状況に慌て、人質達をセレアに対する盾にしようと急ぎ動き出す。
が、そんな事はセレアがさせない。
〈ゴッドウィンショット〉
セレアの兄であるラザーク・ゴッドウィンが恥ずかしげもなつけた名前の技がセレアの手から放たれる。
放たれる弾は銀に輝くパチンコ玉。
兄とは違い、周囲に転がっている物では技が放てないセレアは弾丸にする物を常備するしかなく、それがパチンコ玉だった。
セレアは無言で銀の弾を放ち続ける。
技名などは恥ずかしすぎて口が裂けても言えない。その程度の羞恥心はセレアとて有る。
しかし、技名を叫ばないせいなのか、セレアの放つ弾の威力はラザークのそれに遥かに及ばない。
だが、それでもセレアの放つ弾は充分すぎる威力を持ち、目標とした敵の骨を砕き、ことごとく戦闘不能に追い込む。

そうして、2・3分後。
たったそれだけの時間でパーティー会場を制圧していた兵士のほぼ全てが腕や足の骨を砕かれ、うずくまり。砕かれずに済んだ者はセレアの鉄拳でもって意識を刈り取られていた。
セレアは倒した敵に近寄ると、武器となりそうな物を剥ぎ取り、縛り上げる。
その手際の良さに人質となっていた貴族達はただ目を丸くするばかり、ほどなく、セレアが全ての敵兵を縛り上げた。
それは無論、敵の首謀者らしき仮面の男も同じようにだ。
人質にとっては救世主のような存在のセレアだったが、どういうわけか、縛り上げられた状態でいる人質達を解放する様子は全くない。
敵兵を縛り上げるという作業を終えても、セレアは人質の方には見向きもせず、手近な椅子に座りながら、目をつぶり、じっと時が過ぎるのを待っている。

その姿に困惑したのは人質達だ。
自分たちの事を助けに来たと思った人物が自分たちを解放せず、ともすれば見張っているのかとさえ思うような態度でいることに、多くの者たちが不安を覚え、人質達の中に動揺が芽生え始める。
そうして、人質達の間にざわざわと、どよめきが生じ始めた時、その場所に数人の人影が現れた。
47七四三:2008/12/21(日) 00:08:35 ID:???
それは、アルトリオ・カーメンとそれに従う、紅玉宮警護隊の兵士達三名だ。
アルトリオ達はセレアと同じように、ガンダムアレスの手のひらの上に乗って、パーティー会場まで運ばれてきた。
城内は未だに戦闘状態が続いているため、安全に自由に移動する場合は、こういう手段を取るほか無かった。
アレスの手のひらの上から、セレアが叩き割ったガラスを通り抜け、ひょいとパーティー会場へと飛び移ったアルトリオは、自分の父である皇帝が含まれた人質達には一瞥をくれただけで、すぐさま、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、座っているセレアに向けて歩き出した。
「随分と、美人になったもんだな」
開口一番、アルトリオは髪を下ろしたセレアに対して、そう言った。
だが、どうやらその言葉はセレアのお気に召さなかったらしく、セレアはアルトリオをじろりと睨む。
しかし、アルトリオはそんな視線もどこ吹く風、平然とした様子で、ニヤニヤと変わらず笑みを浮かべている。
端から見れば、微笑ましい光景なのかもしれないが、縄で縛り上げられた状態のまま放置されている人質達にはたまったものではない。

『そんな小娘と話すよりも先に我々の縄を解け』人質となっている貴族達は、日頃、アルトリオを軽んじ、嘲笑していたことなど忘れて、アルトリオに対して声をあげたかった。

「おい、君。この縄をほどいてくれないか?」
とうとう、堪えかねた貴族の一人が、アルトリオが連れてきた兵士の一人に頼み込んだ。
だが、警護隊の兵士は決して貴族の言うことには耳を貸さず、無視し続ける。
それにより、いよいよ事態の異常さを理解した人質達。
そこで、皇帝――ギグルスタン三世は人質達を代表して、世間的には息子であるアルトリオに対して、尋ねる。
「アルトリオよ、何ゆえに我々の拘束を解かぬ?」
威厳に満ちた、人を屈服させずにはおかない声。
だが、アルトリオは平然とした態度で、視線をセレアからギグルスタン三世へと向ける。
「内通者がいるからです。陛下」
あまりにも軽く放たれた言葉。
ギグルスタン三世はとっさにその言葉が理解できず、オウム返しに口を開く。
「内通者…だと…?」
「ええ、内通者です。人質となっていた者たちの中に内通者がいる。だから解放する訳にはいかないのです」
相手の立場のほうが明らかに上なため、表面上は礼儀正しい振る舞いを心掛けるアルトリオ。
48七四三:2008/12/21(日) 00:10:15 ID:???
しかし、現在その場にて、そんなアルトリオの振る舞いを気にする者はいない。みな、アルトリオの放った言葉に呆気にとられているからだ。
その中で一際速く、我に返った者がいる。
「お戯れもいい加減になされよ!!このような時に、このような場でなさる発言ではありませぬ!!悪ふざけも大概にしていただきたい!!」
顔を紅潮させ、怒鳴り声をあげたのは、人質と同様に拘束されていたインペリアルガードの一人、ガルヴァ・ガウンズ。
禿頭の巨漢は大声でアルトリオを非難し、老いてもなお、健在であることを人々に示している。

(黙れ、ハゲ)
アルトリオは、ぼそりと呟く。
アルトリオにとって、嫌いという訳ではないが、鬱陶しいことこの上ない、ガルヴァ・ガウンズ。
聴こえないように放ったつもりの暴言だったのだが、そこは流石インペリアルガード、しっかりと聞き取っていた。
「ハゲ!? 今、ハゲと仰いましたな!!なんたる暴言!!いくら殿下とて許してはおけませぬ!!」
激昂するガルヴァ。
だが、その場は傍らにいた、ガルヴァと同様に拘束されていたインペリアルガード、マグナス・クラーバがたしなめて、事なきを得た。
「ガウンズ卿の申すところも、もっともな事です」
ガルヴァの後を引き継いで、マグナス・クラーバが言葉を続ける。
「そもそも、殿下はどのような根拠をもって、我々の中に内通者がいると仰るのか」
決して声を荒げず、冷静に放たれた言葉だったが、それはアルトリオをひどく意外だという表情にさせた。
「クラーバ卿、貴公はこの度の警備の責任者であったのに何も思わないのか?」
アルトリオは呆れたような調子で言葉を続ける。
「警備の盲点を突いての奇襲と制圧。少なくともこれは、事前に警備情報を漏洩させるか、もしくは、リアルタイムで内部から警備体制を報告でもしていなければ、不可能な程の手際の良さだ」

「ですが、それだけではこの場にいる者たちの中に内通者がいるとは限らないはずです。他のどこかに捕らえられている者たちの中に内通者がいるかもしれないではないですか。
それにもかかわらず、我々の中に内通者がいると、殿下が断言するその理由を教えて頂きたい」

鬱陶しい奴だ…
アルトリオはマグナスと目を合わせながら、ため息をつき、マグナスの問いに答える。
49七四三:2008/12/21(日) 00:11:46 ID:???
「それは、貴方がたが無事だからだ。他の捕らえられた者たちは大なり小なり傷を負っているのに、貴方がたは無傷。
そこに、内通者による作為的な何かがあっても、おかしくはないはずだ」

「それは、結果的にそうなっただけではないですか」

「では、その結果から逆算して調べてみるとしようか? 何かわかるかもしれんぞ」

「内通者がカモフラージュの為に、故意に負傷したという可能性は考えないのですか?」

「内通なんて、姑息なマネをする輩が、自分の身を切るものか、そんな輩は大抵が、自分の身に危険が及ばないように相手方と打ち合わせをしているものだ」

アルトリオとマグナスはお互いに決して声を荒げず、ただ言葉をぶつけ合う。
いつ終わるとも知れぬ舌戦が続けられる中、それを遮る、一人の声が響いた。
それは皇帝――ギグルスタン三世の声。
「アルトリオよ…。そこまで言うのならば、おまえは既に内通者の目星がついておるのだろうな?」
威厳に満ちた声に、辺りが神妙な雰囲気になる中、アルトリオは、やはり平然とした態度を崩さない。
「当然です、陛下。ですが、それの確証を得るためには、今しばらく時間がかかります」
「ならば、待とう」
アルトリオのその言葉に、ギグルスタン三世はそう言って、鷹揚に頷いてみせる。

程なくして、再びガンダムアレスが窓の外に現れた。
その手の上には、やはり今までと同じ様に人を乗せている。
『俺はエレベーターじゃねえぞ』
「後で、メシを奢ってやるから我慢しろ」
不満げなミカドを普段の言葉使いでなだめると、アルトリオはアレスの手に乗った人物を出迎える。
「バーリンガー伍長。頼んだ物は見つかったか?」
声をかけられたのは、異様に目つきの鋭い、褐色の肌の男だ。
殺人鬼だと聞かされても違和感を覚えない、凶悪な人相のバーリンガー伍長は、その顔から想像できるように極めて無愛想な態度で、アルトリオにデータディスクを渡した。
礼もそこそこに、アルトリオは受け取ったディスクを閲覧する。
すると、何を見つけたのか、アルトリオの口許が一瞬、ニヤリと歪んだ。
だが、次の瞬間にはすぐに表情を戻し、マグナス・クラーバに目を向ける。

「時に、クラーバ卿。知っていたかな? 敵兵は皇城の警備兵に成りすまして、城内に潜入していたそうだ」
アルトリオは問い掛けるような視線を送るが、マグナスはきっぱりと首を横に振る。
50七四三:2008/12/21(日) 00:13:24 ID:???
アルトリオはその動作を、さして気にする様子もなく、言葉を続ける。
「こんなことは、城内に手引きする者がいなければ不可能だ。そして、その手引きをした者は、兵の運用に関してはかなりの権限を持っている事がわかる。
なにせ、自分の息のかかった兵を大量増員できるのだからな」
アルトリオの言葉にマグナスは一瞬、顔を険しくする。
「何が言いたいのですか?」
表情を普段に戻し、穏やかな口調でマグナスは口を開いたが、ミカドは答えず、データディスクを目の前に掲げた。
「これにある通りだと、貴公は会場及び城内警備の強化のため、警備兵の増員を申請しているな」
「それに何か問題が?」
「別に、人員増加に関しては問題は無い。正規の手続きに従ってやっているのだからな。
が、それとは別に、貴公が手配した人員が問題なのだ。これにある通りでは、貴公が警備の強化の為と称して、呼び集めた兵はみな、貴公の私兵とあるが?」
「確かにその通りでございます、殿下。呼び集めた兵は、全て私の領地の兵。
ですが、これは先程、殿下が仰ったように、正規の手続きを経て集められた者たち。それこそ、何の問題も無いように思われますが?」その言葉にアルトリオは首を横に振る。
「大きな問題があるのだよ、クラーバ卿」
アルトリオはじっと相手を見据えながら、言葉を続ける。
「貴公は今、確かに自らの領地の兵だと口にした。だが、不思議だな、クラーバ卿。
だとしたら、なぜ貴公の領地からの兵員輸送船が帝都に到着していないのだろうな。
不思議なことこの上ないな、クラーバ卿。
貴公が呼び集めたという兵というのは何処から、現れた者たちなのだろうな」
その場いる人々の視線が、マグナスに集まる。が、マグナスはそれでも平素の態度を崩さない。
「これでは、まるで取り調べですな」
困ったような表情を浮かべながら、言う。
「それは、後で本格的にやるさ」
アルトリオの返答にマグナスはため息をつく。
「私が犯人に違いない。そう言うような口振りですな、殿下。では、仮に私が内通者だとしましょう。でしたら、その動機は一体なんですか?」
「それこそ、後でゆっくりと調べればいい。だが、貴公の場合はそれも必要ないだろうがな。なぜなら、貴公は――」

「“人形”だからな」

十一話に続く
51七四三:2008/12/21(日) 00:14:53 ID:???
異説機動新戦記ガンダムウィード

第十一話 人形のアルゴス

「人形? それはどういう意味ですかな?」
アルトリオの言葉を侮辱的なものと解釈したのか、マグナスは僅かに眉を吊り上げる。
「洗脳されているって意味だよ。そこの奴らと同じ様にな」
アルトリオは哀れむような目でマグナスを見ながら、拘束された敵兵を指差す。
「そんな事は有り得ない。今も私は自分の意思をはっきりと持っております」
マグナスは冷静に否定するが、アルトリオは首を横に振る。
「そういう洗脳なんだよ、これは。相手の持つ思想なんかを利用して、本人が自分の意思でやっているかのように思い込ませ、洗脳したという事実を無かったことにする」
そこまで言って、アルトリオはマグナスの反応を見るが、マグナスはアルトリオの言うことを全く信用していないようだった。
アルトリオはため息をつきながら、話しを続ける。
「貴公が、今回の事件に関わった理由を当てようか? 貴公は学生時代に、平民の公職からの追放を掲げる貴族至上主義に傾倒していた。
その時には、貴公は随分と物騒なことを言っていたそうじゃないか?
確か…『平民に媚びへつらう皇帝を抹殺し、高貴なる血統を持つ貴族によって統治される、真に秩序ある世界を取り戻す』だったか?」
アルトリオはチラリとマグナスの表情を見る、動揺を面に出さぬように努めているようだが、アルトリオの目には、それは肯定しているようにしか見えない。
「まぁ、そんな貴公も大人になって、紆余曲折を経てインペリアルガードにまでなった。
しかし、ここ最近、何があったかは知らないが、昔の情熱が再燃。学生時代の思想が蘇り、その昔、貴公がその胸に抱いていた思想に従い、皇帝陛下の抹殺を強く願うようになった。
そして、それを見計らったように何者からか、今回の計画を持ち込まれたと、こんなところだろう」
アルトリオはマグナスの表情を伺うが、マグナスは何も言わずに必死で感情を隠そうとしている。
「知らぬ存ぜぬは通らんぞ。少し調べれば解ること。それに俺は何でも知っている。俺に隠し事などは意味をなさない」
アルトリオは、そう言うとマグナスの瞳をじっと覗き込む。
「お待ちくだされ、殿下っ!!そのように性急に話しを進められては、我々には何がなにやら、わかりませぬ!!」
ガルヴァが周囲の声を代弁するように叫ぶが、アルトリオはそれを冷徹にも聞こえる言葉で切り返す。
52七四三:2008/12/21(日) 00:16:37 ID:???
「解らない奴は、解らなくていい。俺の言葉はクラーバ卿さえ理解していれば良いのだからな」
そして、アルトリオはマグナスの瞳を覗き込みながら尋ねる。
「何がきっかけとなって貴公は若き日の想いを取り戻した?」
どちらかと言えば、優しげな口調だったが、そのアルトリオの問いはマグナスを愕然とした表情にさせる。
その表情からアルトリオは答えを得た。
「何もなかったんだろう?」
哀れむようにマグナスを見ながら、アルトリオは言葉を続ける。
「ある日、突然に皇帝陛下を殺さなければならないと思い立った。だが、よくよく考えてみれば、自分が何故そんな事を思ったのかわからない」
アルトリオはマグナスから視線を外し、天を仰ぎ見る。
「貴公は利用されたのだ。過去に抱いた想いを歪んだ形で甦らせ、それをまるで自分の意思のように思い込まされているだけだ」
「違う!私は確かに自分の意思で行動した!!」
マグナスはそれまでの冷静な表情をかなぐり捨てて叫んだ。
アルトリオはその叫びに対して、酷薄に目を細める。
「認めたな? 今、自分がやったって事を認めたな? 自白だけでは確実な証拠にはならないが、拘束する名目は立つ」
淡々と言い放つアルトリオ。
その時、マグナスは自らの軽率さを心の底から悔いた。
「陛下、よろしいでしょうか?」
アルトリオは事の成り行きを黙って見つめていた、ギグルスタン三世の方を振り向く。
皇帝は目をつぶると、重々しく頷いた。
アルトリオは我が意を得たりといった表情で頷き返すと、自らが連れてきた兵士達にマグナスを拘束し、連行するように促す。
屈強な紅玉宮の警護隊員はアルトリオの命令に従順に従い、マグナスに手を伸ばそうとする。
その時――
「やめろヨ、カワイソウだロ」
あまりにも場違いな、イントネーションの狂った言葉が響いた。
誰もが、一斉に声のほうを振り向く。
その部屋の人々の視線が一点に集まる場所。そこにいたのは、セレアに倒され、意識を失っている筈の仮面の男だった。
「オオゼイでヨってたかっテ、ヨワいモノいじめはカンシンできないナ」
仮面の男は聞きとりづらい言葉で話す。
仮面の男は周囲の視線など、一向に気にせず、縄で拘束された状態から、もぞもぞと動き出した。
何をする気なのかと、周囲が見つめる中、突然、男の体から鈍い音が鳴り出した。
その瞬間、セレアが駆け出した。その先には仮面の男。
53七四三:2008/12/21(日) 00:17:56 ID:???
まばたき程の一瞬で距離を詰めた、セレアは再び、必殺の一撃を男に放つ。
が、その結果は先程とは、全く逆のものとなった。
弾き飛ばされ、倒れ伏したのはセレア。
そして、仮面の男は何をしたのか、拘束が解けた状態で悠然と佇んでいる。
「ホトンどケモノだナ、そのジョウちゃン。クビにクサリでもやったほうがイいんじゃないカ?」
こちらの方が素なのだろう。仮面の男は皇帝と話していた時よりも、遥かに自然な態度で言葉を放ちながら、体のあちこちから再び鈍い音を鳴らす。
それは、関節をはめる音。
関節を自らの意思で外し、仮面の男は拘束から脱出したのだった。

「さてト」
完全に平素の状態に立ち直った、仮面の男はそう言って、懐に手を入れる。
「させんっ!!」
倒れていたセレアが飛び起きて、背後から仮面の男に襲いかかる。
だが、男は空いている方の手で軽々とセレアを払いのける。
「スコしはおとなしくしてロ…ヨっ!」
仮面の男は言葉の終わりに、懐から取り出した何かを投げつけた。
スローイングダガーの一種に見えるそれは、一直線にマグナスのもとへ向かうと、その体を拘束する縄を断ち切った。

「ニげなヨ」
仮面の男は言った。マグナスはありったけの感謝の念をこめ、
「恩に着る!!」
そう言い残すと、パーティー会場の窓――セレアが叩き割ったガラスへ向けて走り出した。
「セレアっ!! バーリンガーっ!!」
周囲の人々が事態の急な変化に戸惑う中、アルトリオは声をあげた。
その声が響く前に、セレアとバーリンガーの両名は動き出していた。
生身での戦闘に限るならば、殆どのインペリアルガードを凌駕する実力を持つであろう、この二名に追撃されて逃げ切れる訳はない。
が、その場には、その二人すら凌駕する化け物がいた。

「させないヨ」
そう言い放つ仮面の男は、逃げるマグナスと追うセレアとバーリンガーの間に割って入った。
仮面の男はまず、バーリンガーに目を付けると、いきなり、その頭部に目掛けて蹴りを叩き込む。
直撃すれば、人間の頭などは軽く吹き飛びに違いない、凄まじい勢いで放たれた一撃を、バーリンガーはかろうじて腕で受け止める。が、その衝撃までは殺す事が出来ずに、大きく弾き飛ばされる。
その戦いの隙をついて、セレアは仮面の男の横を駆け抜け、マグナスに迫る。
54七四三:2008/12/21(日) 00:19:22 ID:???
だが、仮面の男はその動きを完全に把握している。
男は懐に手を入れると、マグナスを追うセレアの背中に目掛けて、振り向きざまに懐から取り出した刃を投げつけた。
刃は恐るべき速度で飛翔し、セレアに突き刺さり、セレアはその場に倒れ込んだ。
セレアの脇腹に突き刺さった刃は長さ30cmほどの針のような形状の凶器。
〈針〉は的確に人体の急所を貫いており、その急所は死ぬことは無いものの、激痛を絶え間なく与え、それによりセレアは動く事ができない。

「何してる、撃て!!」
アルトリオは兵たちに命令するが、兵士達は現在位置が悪すぎて撃てない。
射線上には人質となっていた貴族達が縛り上げられた状態のまま居るため、発砲すれば、ほぼ確実に貴族達に当たる。
「チッ」
舌打ちすると、アルトリオはこの場でマグナスを確保することは諦め、すぐさま、ミカドに連絡を取る。
「ミカド、男が一人落ちる。そいつを捕まえろ」
話している間も、アルトリオは視界の中にマグナスを捉えている。
「任せとけ!」
ミカドからの返事が返ってきた。
その瞬間に、マグナスは窓から飛び降りた。

ガンダムアレスに乗り、空中に待機していたミカドは直ぐに、飛び降りた男を発見した。
「やっぱり、あんたは怪しいと思ってたんだ。マグナス・クラーバ」
自分に対して、嫌悪感まる出しの応対をしてきた相手の名を口にしながら、ミカドの操るアレスは地面へと真っ逆様に落ちていく、マグナスに向かって、その体を確保すべく手を伸ばした。
だが、その時、マグナスの左目の前にスクリーンが展開された。
まずい!!
そう思った瞬間に、アレスは大きく弾き飛ばされ、そのコックピットの中のミカドも衝撃に襲われた。
「クソッ!」
吐き捨てるように言って、ミカドはモニターを見る。
コックピットのモニターには、見たことのない、一目でワンオフ機だとわかるMSの姿があった。

アレスよりは一回りは大きい機体だ。
手にはハルバード、背中には二門のキャノン、目を引くのは両肩、両腰、両膝に装備された同型のパーツと、機体のありとあらゆる場所にあるモノアイ。
全身に瞳を持ち、異様な雰囲気を放つ機体に目を奪われるミカド。
だが、その時、ミカドの直感が声をあげた。
来るぞ
その声の通り、目の前の機体が背負った砲からビームが放たれた。

後編に続く
55通常の名無しさんの3倍:2008/12/21(日) 21:43:54 ID:???
 
56通常の名無しさんの3倍:2008/12/22(月) 07:20:12 ID:???
このスレも、もう終わりだな。人いねえし
57通常の名無しさんの3倍:2008/12/22(月) 13:28:50 ID:???
残念、ここには俺がいる。

投下乙
58通常の名無しさんの3倍:2008/12/22(月) 19:59:11 ID:???
俺もいるぞ

投下乙
59エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/23(火) 00:04:32 ID:???
俺もいるぜ!
七四三投下乙!予測のつかない物語展開やゴロのいい言葉(人形のアルゴス)とかマジであやかりたい。

そんなわけで俺も投下します。駄文のくせに三時間もかかってしまった…
60エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/23(火) 00:05:52 ID:???
ガンダムL  第十話 宇宙へ

「はぁ…なんだってまた宇宙になんか上がらなくちゃいけねえんだよ」
ぼやくのはクロスキー・クロス。
「仕方ないですよ、任務ですから…」
それに薄く笑いながら答えるエルト。
ダルタイル帝国独立遊撃部隊「ブレイズ」の隊員達は、ダルタイル帝国軍宇宙艦「グリム」によって、金属製小惑星「リズエッサ」星圏までやって来ていた。
「ちょり〜っす☆調子はどうだい?あの頃のように、夢に向かって生きることが出来ているかい?」
「………」
誰も答える者はなかった。
「…そろそろ到着よね?少尉?」
つまらなさそうな顔で言うのはティエル。
「あー…うん、まあな」
さすがの彼もそろそろへこんできたのかもしれない。
「…そんなわけで、もう一度お兄さんと一緒に本作戦のおさらいをしてみよう☆」
「いや☆じゃねえから」
今日は珍しく冷たいクロスにペースを乱されるアレン。
「えぇー…あー、うん」
「早く頼むぜ、アレン。俺はとっとと終わらせて地球に帰りてえんだ」
「ウッ…りょ、了解…」
若干涙目になりながら、アレンがリズエッサ星圏の大まかな地図をウィンドウに表示させる。
「今回の任務は、まだそのメカニズムもろくに解明されてない『えーてりうむ』とかいうわけわかんねえ鉱物を、連邦のフニャ○ン共から黙って拝借するって感じだ」
白けたからって下ネタに走るヤツ最低だよね。
「で、『えーてりうむ』に関しては今のところまったく何もわからんので、目印がない。最悪探すのに星じゅうを駆け巡ることになるかもしれねえ」
「おいおい、話が違うじゃねえか…やってくれるぜ、ウジサトさんよ」
クロスがあきれ顔で溜息をつくのを皮切りに、他のパイロット達も露骨に嫌そうな顔をする。
それを厳しく叱責するサカザキとパクだが、内心彼らも未開の地にいつまでいなければならないのかということを憂鬱に思っていた。
「ところがぎっちょん!そんな迷える子羊共に朗報だ!先程司令部より届いた伝令によるとだな…」
「伝令によると…?」
ティエルが固唾を飲む。
「なんでも連邦の宇宙輸送艦隊が先に『えーてりうむ』を確保しているかもしれんらしいぜ、ブラザー!」
「何よそれ、無駄足ってことじゃない!」
がっかりするティエル。
「おいおい嬢ちゃん。落ち込むのはまだ早えよ。これより俺達は二手に分かれて任務を遂行することになる」
焦らし続けるアレン。
「連邦軍輸送艦襲撃と、リズエッサにおける『えーてりうむ』捜索部隊、ってワケね」
「そういうわけだ!いいね、冴えてるぜ、嬢ちゃん!そうでなくちゃ!」
ガッツポーズのアレン。
「捜索は御免被りたいところだな」
「私も…」
「ちょ、ちょっと待てよ、まだ話は終わっちゃいねえ!あー、とりあえず今10人のパイロットがいるわけだ。敵輸送艦には護衛のMSがいるだろう、戦闘はガチだぜ」
全部で13人の隊員を抱えていたブレイズだが、先の戦闘で早速、2名の負傷者と、1名の死亡者を出していたのだった。
61エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/23(火) 00:06:49 ID:???
「しかし捜索の方も色々メンドくさそうだ、3:7がいいかって司令部から伝令来てたが、とりま5:5ってのが、パク中佐の提案っすよね?」
「ああ、そうだ。輸送艦を撃墜した後に合流すれば済む話なのだからな」
静かに言うパク中佐。
いまいましそうにしているサカザキ中佐が割って入る。
「早く続きを。少尉」
「了解☆とりま輸送艦撃墜部隊は、パク中佐、サカザキ中佐、嬢ちゃんを中心に頼むぜ。捜索隊の方はクロス少佐、ロウ中尉とニール曹長を中心に頼んだ、との伝令だ」
「了解した」
一斉に言う全員に対して、不満を漏らす者がちらほら。
(いぃっ!?俺かよ!?これじゃまだドンパチの方がマシってもんだ)
(エルト、別動隊かぁ…なーんか最近連携取れないってゆーか…いやいや、何考えてるんだ、アタシ)
めんどくさがり屋とスイーツ(笑)なクロスとティエルであった。
対して、キールなどは戦闘に遭遇する可能性が低いであろうことに、心の底から安心していた。
エルトもまた、未開の星へ降り立つということに若干の恐怖を感じていたが、捜索隊の方に選ばれて良かった、と思っていた。
「さぁ、そろそろ指定ポイントだ!デブリに気をつけろよ、ブラザー。いくぜ、ハッチオープンだ!」
グリムのハッチが開き、中から逆さづりの状態になった宇宙仕様のダンデスが10機、現れる。
「エルト・ロウ!ダンデスカスタム、出る!」
「ティエル・レナード!ダンデスカスタム、いきまーす!」
一斉に射出されたダンデス達は即座に編隊を組み、二手に分かれて行った。

「ふぅーん、アレね…」
リズエッサ星成層圏から現れる、輸送艦。
地球連邦軍旗のマークが高々と掲げられたそれが、およそ三隻。
「まったく、連邦の奴らの勝手なやり口は変わらんな」
サカザキ中佐が半ば呆れながら、輸送艦を睨みつける。
「何、それでこそ我々も大いに動けるということさ」
パク中佐がそれに応えるように、口元をニヤリと歪める。
「敵MS隊を視認!テンプレス十五機、ヴィルザード三機です!」
名無しパイロットの一人が報告する。
「ふむ。まずは…レナード中尉、存分に狙い撃ってくれ」
ニヤリと笑うパク。敵部隊の中心に攻撃することで、まずは混乱に陥れようとしているのだった。
「了解!スナイパーライフル、撃ちます!」
ドン!
放たれるビームライフルの雨は正確に敵部隊の元へ降り注ぐ。
「!」
「て、敵襲―!」
「うわああああ!」
「各機、編隊を崩すなー!」
「輸送艦動力部、破壊されましたー!」
正確で精密なティエルの射撃によって、テンプレス五機を撃墜、そして輸送艦のうち一隻の動力部のみを破壊することに成功した。
「案外脆いものだ…連携がまったく取れておらんな」
サカザキが呟く。自身の経験と目の前の敵軍の慌てようを比べ、あきれながらも優越感に浸っていた。
「さあ、皆、ゆくぞ!」
パク中佐の号令と共に、五機のダンデスは一斉に襲撃を開始した。
62エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/23(火) 00:08:19 ID:???
「ったく…なーんで俺がわけわかんねえ鉱物なんかの為にわけわかんねえとこをうろつかなきゃならんのだ」
ぶつくさと文句を言いつつ、地層や周囲の状況等を、ダンデスのセンサーで詳細に探っていくクロス。
なんだかんだで無駄のない捌けた作業をしていた。
「仕方ないですよ、少佐。この任務が、軍や祖国の為に役立つのならば」
キールがたどたどしく周辺機器を操りながら言う。
「へっ、言うようになったじゃねーかよ、曹長クン」
「い、いや、そんな…」
言った後に顔を赤くするキール。
「この辺一帯はだいたい調べ終えたな。ここから少し、移動しよう」
エルトがそう言うと、五機のダンデスは調査をやめ、スラスター類を稼働させ、場所を移す。
二手に分かれて調査しろよって感じだが、ダルタイルにとっても、リズエッサという星の所有権を徒に主張し続けるばかりで、実際の所星自体の現地での調査は今回が初めてといっても過言ではなかった。
何が起こるかわからない中で、一応隊列を乱さないように行動しよう、というのがエルトの意見だった。
(不思議な場所だな…)
そもそもが、金属製小惑星なんてぶっ飛んだ場所にいるのだ。
不思議な感覚と情景に、エルトは目を丸くするばかりだった。
(ドラゴンとか出てきたりして…)
訳のわからないこと考えてんなよってツッコミはご法度だ。
実際竜がいても違和感ないような、そんな不思議な空間だった。
実際、130数年後にはいそうなものだが。
テラ・フォーミングも何も為されていないこの星の、不気味とも言える情景に、エルトはわずかな寒気を覚え始めていた。
しかし、未開の土地を直に自分の五感で体感出来るという、子供のような好奇心も同時に持ち始めていた。
(帰ったら、ティエルに話してやろう)
友人の顔を思い浮かべながら、エルトはセンサー類を使い、調査を続けた。

「うおおおおおお!」
パク中佐の雄叫びと共に、切り裂かれたテンプレスが爆散する。
「ぬわははは!ヌルイ、ヌルイぞぉー!」
いかにも悪役っぽいセリフを吐きながら、続けて向かってくるヴィルザードに蹴りを入れ、ビームサーベルで袈裟斬りにする。
MSとの戦闘は、パク中佐とティエルの二人だけで担当し、サカザキ中佐を始めとする三機のダンデスは、器用に動力部のみを破壊された輸送艦を直に引きはがし、エーテリウムの捜索を行っていた。
(気合い、暑苦しいっての…!)
ティエルはパク中佐の方をチラリと見て、ふぅ、と一息つくと、再び照準に目を合わせ、引き金を引く。
高い機動姓を誇るヴィルザードが必死に回避しようとするが、あえなく撃墜される。
「歯ごたえないわね…ま、歯ごたえってのはないのに越したことないんだけどね」
言いながら再び引き金を引き、向ってきたテンプレスを撃墜する。
「これで、ラストォー!」
勢いよく、かつしなやかに、最後に残ったヴィルザードをサーベルで切り捨てると、パクは豪快に笑う。
「ぬわはははは!私、最強!」
…このオッサン、意外と痛い人だった。
「聞かなかったことにしようっと…」
ティエルは微妙な表情をしつつ、パクに聞こえないように小さく呟く。
そんな折、輸送艦を直に調べていた名無しパイロットから通信が入る。
「こちら01。エーテリウム確認出来ず」
「02。右に同じ」
「私だ。こちらにも、確認出来ず」
最後にサカザキが締める。
63エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/23(火) 00:09:29 ID:???
「これは…もしや…」
パクが気を取り直し、忌々しそうな表情をする。
「こちらはおとり。まんまと一杯食わされましたね、中佐」
ティエルが言う。
「うぬぬぬぬぬ!おのれ、連邦共め、小賢しい真似をしおって!周囲に熱源反応がないか、ダンデス各機、直ちに調査せよ!」
パクの顔が怒りに歪む。
やれやれ、ティエルは再び聞こえないように呟くと、ダンデスのセンサー類で、周囲の状況を探り始めた。

リズエッサの黒鉄の大地を、五機のダンデスが進む。
「なあ、だいぶ探したが今んとこ何もないぜ。やっぱエーテなんとかってガセなんじゃねえの」
ぶっきらぼうに言うクロス。
「そうですね…この辺で二手に分かれてみましょうか」
エルトが提案する。
「それもそうだな、あー、やってらんねえ!…お?」
エルトの提案に同意を示したクロスが、上空に何かを見る。
「…そうも言ってられねえみたいだぜ。あーあー、仕事熱心ですこと。各機、散開!」
クロスが言うと同時にその場を一斉に離れる五機のダンデス。
ダンデス達が先程まで固まっていた場所に降り注ぐのはビームライフルだった。
(速い!しかも、それでいてこの威力…!)
エルトが上空を見るのと同時に、全身を赤く塗装した、一目でカスタマイズ機と判るヴィルザードが大型のビームソードを振り下ろす。
(何だ、この機動性…!)
エルトは瞬時に抜いたビームサーベルで、敵機のビームソードを受けとめる。
「おーおー。舐めてくれちゃって。1対5で勝てるとでも思ってんのかねえ?」
クロスが言う。
すると、ヴィルザードはいきなり力を抜き、そのまま宙返り、エルトにかかと落としを放つ。
「くっ…!あああ!」
ダンデスの左肩を強く打ち、エルト機を踏み台にしたまま、名無しパイロットに向けて飛びかかる。
「うわああああ!」
為す術も無く、構えたビームソードにより両断される名無しパイロット。
「貴っ様ー!」
エルトがビームライフルを撃ち、牽制しつつ、ビームダガーを投擲する。
が、赤いヴィルザードはライフルをわずかな動きで避け、ダガーをビームソードで打ち払った。
「…接近戦用のダンデスに、専用のビームダガー。お前か、モナークが言っていたのは」
赤いヴィルザードに乗った男が静かに呟く。
「何者だ!」
「地球連邦軍、デルタ隊所属。それだけ言えば、通じる筈だ。ブレイズの諸君」
長い茶髪をヘルメットの中で一つに束ねた、鋭い眼光の男が言う。
デルタ隊所属のエースパイロット、レンザ・スロウン大尉であった。
「やれやれ、またお前らかよ…いい加減ストーカー行為はやめてくれませんかね」
軽口を叩きながらビームサーベルを抜き放つクロス。
「黒いダンデスに、ぶっきらぼうな口調…貴様には、タケルが世話になったようだな」
「アイツの性格はどうにかなんねえのかい?兄さんよ」
クロスが言い終わると同時に、今度はビームスマートガンのトリガーを連続して引く。
「!ぅおい!無視かよ!」
回避するクロス・エルト・キール。
「こいつ、相当の手練れ…キール、ハワードは離脱、調査を続行!ここは俺と少佐で引き受ける!」
エルトが叫ぶと同時に、キールと名無しパイロットは現場より離脱する。
64エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/23(火) 00:10:27 ID:???
「おいおいエルト、張り切ってるねぇ。俺達でコイツさっさと片して、つまらん調査に戻るとしようぜ」
クロスのダンデスが放つホーミングミサイルの一つ一つを、正確に撃ち落とし、または薙いでゆくレンザ。
(なんだこのパイロット!)
クロスの目が見開かれる。
機体を軽やかに回転させつつ、レンザ機はクロス機の前に躍り出て、ディフェンスロッドによる突きを繰り出す。
「速ええ!」
よろめくクロス機に追撃を放とうと、ビームソードを繰り出す。
「させるか!」
不意に踊り出たエルトが、両手持ちで構えたサーベルでビームソードを受けとめる。
「野郎!」
クロスもビームサーベルで、エルトとは反対側から斬りつける、が…
目にもとまらぬ速さで、ビームスマートガンを振り上げ、ダンデスの頭部を銃身で打つ。
「ク、ソッ!」
よろめくクロスに、片手でエルトを抑えたまま、蹴りを入れる。
「コイツ…!」
エルトはサーベルをソードから離し、今度は二刀流に構える。
片手で襲い来るビームソードを受け、もう片方で、必殺の一撃を放とうとする、が…
バチッ!
ビームサーベルは弾かれてしまう。
「それでも!」
エルトは今度は二本のサーベルで、ビームソードを上から抑え込む。
「見苦しい!」
言い放ち、エルトに向けてビームスマートガンを構えるレンザ。
しかし、左方より向かってくるクロスに向けて、ライフルを放った。
通常のビームライフルより高い破壊力を持つビームスマートガンが地面を抉りとる様を見て、クロスは息を飲む。
「かすりでもしたらお陀仏だな…」
唇を舐め、それでもレンザ機に向かう。
レンザの気が自分に向いているうちに…
「今だ、エルト!」
クロスが叫ぶのと同時に、二本のサーベルを軸としてエルトはそのまま機体を宙返りさせる。
「はああぁぁ!」
「何!?」
エルトの蹴りと、クロスのビームライフル・ビームサーベルが同時にレンザを襲う。
エルトの蹴りを避けることには成功したが、クロスの放ったビームライフルのうちの一発が機体に直撃する。
「……!」
機体越しにエルトとクロスを睨みつけるレンザ。
「へっ、お宅もエースか知らんが、俺らもそれなりに名は通ってるんでね。そう簡単に墜ちやしないぜ」
黙ったままビームスマートガンを構えるレンザ。
しかし、上空より一閃のビームライフルが放たれたことを確認し、避け、離脱して行った。
65エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/23(火) 00:11:36 ID:???
「エルト!少佐!」
案の定いっつもいいタイミングで現れるティエルだった。
「ティエル!」
「無事みたいね、二人とも」
はにかむティエル。
「輸送艦の方は?どうだって?」
クロスが尋ねる。
「エーテリウムは確認出来ませんでした、おとりだったみたいですね。一応、パク中佐達が他の輸送艦がいないか探してましたけど。ダメみたいで」
ティエルが肩を竦める。
「チッ!それじゃあまだこんなとこにいなきゃなんねえのかよ」
しょげるクロス。
と、そこに…
「通信…!?キールか!」
エルトの下に、キールからの通信が入る。
「中尉、ご無事ですか!?こちらニール、エーテリウムと思われる鉱物を発見しました!」
「マジか!でかしたぜキー坊!」
急に変なテンションになるクロス。
「キール、ご苦労様!じゃあ俺の方から皆に伝えておくよ」
通信を切る。
やがて、独立遊撃部隊ブレイズは、その第二の任務を無事に終え、地球へと帰還したのだった。

その日、今度はキール・ニールの出した成果を称え、内輪で宴会が開かれたのは言うまでもない。
キールは生まれて初めて得た達成感と充実感に酔いしれながら、この夜を過ごしたのだった。

十話 終 十一話に続く
66エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/23(火) 00:13:17 ID:???
レンザ・スロウン(27)
所属:地球連邦軍 デルタ隊
階級:大尉
詳細:
デルタ隊所属のエースパイロット。長い茶髪を一つにまとめ、鋭い眼光を持つ。
大型のビームソードと、高い威力を持つビームスマートガンを装備したヴィルザードを駆る正統派敵キャラ。
一応、デルタ隊ではモナークと肩を並べるほどの強さ。

機体名称:ヴィルザード(レンザ専用機)
基本武装:ディフェンスロッド、バルカン×2
追加武装:大型ビームソード×1、ビームスマートガン×1

詳細:
レンザ用にカスタマイズされた機体。武装はいたってシンプル。
これはレンザ自身の、自らに予備武装など要らない、という信念を体現・尊重したことによる。

そんなわけでサヨウナラ
67通常の名無しさんの3倍:2008/12/26(金) 09:13:25 ID:???
後編

とっさに、アレスは眼前の空間を刀で切り払った。
その刃は絶妙のタイミングで、飛来してくるビームを捉え、切り裂いた。
次が来るぞ
再び、直感が声となって聴こえた。
だが、ミカドの反応は〈声〉についていけない。
刀を振った、無防備な姿勢のまま、アレスはビームの直撃を受けた。
「くっ!」
衝撃に襲われ、呻くミカド。
だが、それは幸いな事に、敵機が起動直後だった為、充分にビームの出力が上がっておらず、そのおかげで、装甲が焦げる程度の損傷だけで、破壊されずには済んだ。
それでも、その攻撃は隙を作り、マグナスの機体がアレスから逃げるチャンスを作るには充分過ぎる程、効果があった。

ミカドが態勢を立て直した、その時には、マグナスの乗る機体は、アレスに背を向け、飛び去っていた。
「逃げんなっ!!」
ミカドは叫び、その背を追う。
機体の速度自体はアレスが勝っている筈なのだが、その距離はどうしても縮まらない。
マグナスの乗る機体はビームキャノンの砲塔を真後ろに向け、追いかけてくるアレスに背を向けた状態でありながらビームを撃ち掛ける。
その射撃はまるで後ろに眼があるのかと思う程に正確であり、放たれるビームの殆どが寸分違わずアレスに襲いかかる。
勿論、ミカドのアレスとて、当たらないように複雑な機動を取っているが、それでもマグナスの射撃はその上を行き、ミカドは避けきれずに刀や拳でビームを防がざる負えない。
その際にどうしても足を止めなければならない為、アレスとマグナスの機体の距離はどうしても縮まらない。
「クソッ、ケツ向けてんのにどうしてこうまで!」
的確な狙いで飛来するビームを刀で切り裂きながら、ミカドは苛立ちの声をあげる。

マグナスの乗る機体は既に城壁のすぐ側まで近づいている。

逃げられる
そうミカドが思った瞬間、マグナスの機体の行く手を光の壁が遮った。
「ビームバリアか!!」
突如、城壁から発生した光の壁にマグナスは声をあげる。
「管制室は制圧している筈。何が起きた…」
確認の為、マグナスは皇城の各種防衛装置の制御を行う管制室に連絡をとる。
が、返ってきた声はマグナスの思いも寄らない人物のもの。
『どうも』
聞き覚えのある、その声の主は同僚だった男のもの。
「カガミ…!!」
『ご名答。そうです、カガミです』
ふざけた口調に対して、マグナスは怒りを押し殺しながら口を開く。
「そうか、管制室はおまえが奪還したか」
68通常の名無しさんの3倍:2008/12/26(金) 09:15:05 ID:???
『ええ、そうです。貴方に逃げ場はありません。諦めなさい』
「殺し屋風情が偉そうなことを!」
いきり立つマグナス。
それに比べてカガミは冷静だった。
『偉そうもなにも、私は事実を言っているだけです。今、貴方の行く手を遮るビームバリア。貴方の機体程度の火力では突破するのにどれだけの時間が必要になるでしょうね?』
「カガミ…貴様…!」
呻くような声を出す、マグナス。
その声に嗜虐心を満足させたのか、カガミはどこか愉しげな口調で言葉を放つ。
『いいんですか? 私のことばかり気にしていて…ほら、来ますよ』
コックピットの中に敵機接近の警報が鳴り響く。
「上か」
マグナスは冷静に反応し、太陽を背にして真上から襲いかかる、ガンダムアレスの刀による一撃を乗機が手に持つハルバードで受け止めた。
「その程度の腕でガンダムに乗るのか」
マグナスはその一撃だけで、自分とガンダムのパイロットの実力差を把握した。
「いくらガンダムであろうと、その程度の腕前であるのならば、私と我が機体、アルゴスの敵ではない」
途端に、ガンダムアレスはアルゴスのパワーに競り負け、後ろに弾かれた。
「貴様に恨みは無い。だが、その命を奪うことに躊躇いは無い!我が理想の為、ここに果てろ!!」
アルゴスはハルバードを構え、声と共にガンダムアレスに襲いかかる。

「ぬぁっ!!」
ミカドは思わず声をあげながら、機体の上半身を反らし、アレスの首をはねるように振るわれたハルバードを紙一重で避ける。
斧と槍を組み合わせたような武器であるハルバードは斬る、払う、突く等の様々な攻撃のバリエーションがあり、それはサイズがMSの物になっても変わらない。
アルゴスは武器のリーチを活かし、得意とする間合いから一方的にアレスに攻撃を加える。
「うぜえ…」
ミカドは苛立ちの籠もった声を吐き出し、アレスはフィールドナックルと刀でアルゴスの繰り出す怒涛の突きを受け流す。
「懐に入れれば…」
苛立ちが焦りに変わり、ミカドはつぶやきを漏らす。

槍などに類する長柄の武器は懐に入られると弱い。
その定石通りに、ミカドのアレスはアルゴスの懐に入り込もうとするが、歴戦のマグナスにとってはそんな相手の戦い方など慣れたもの。
マグナスの操るアルゴスは、アレスが踏み込もうとする、その瞬間にピタリとハルバードを突きつけ、決して内には飛び込ませない。
69通常の名無しさんの3倍:2008/12/26(金) 09:16:44 ID:???
アルゴスの動きは決して派手なものではない。
しかし、その動きは地味に見えるものの、動作の一つ一つが確かな技術に裏打ちされた熟練の技であり。そして、それは派手で見栄えのするアレスの動きを圧倒している。
機体サイズでは、アルゴスがアレスよりも一回り大きいはずなのだが、コンパクトにまとめられた動作と機敏な動きにより、そのサイズはアレスよりも一回り小さく見えさえする。

「クソッ、戦いづらい…!!」
ミカドは苛立ちを言葉にして吐き捨てる。
アレスは防戦一方。
ミカドはアルゴスの攻撃を防ぐことに力を費やす。
アルゴスは決して武器を振り回すということをせず、最も隙の少ない突きでの攻撃を続ける。
近づこうとするアレスのを突き放すように繰り出される、その突きは恐ろしく速く、一瞬でも反応が遅れれば串刺しになることは確実。
だが、それをくぐり抜けなければ、アレスに攻撃の手段は無い。
刀と拳が武器のアレスはどうしてもリーチに劣るため、距離を詰めなければ攻撃が届くことはない。
ミカドは、とにかく策を講じようと一旦、距離をとる。
バックステップの要領で後ろに下がるアレスに対して、アルゴスはそれを追うことなく、ただ、ハルバードを構え直す。

つくづく、嫌な敵だ……
ミカドは内心で苦々しく思う。
優勢でありながらも、常に慎重で深追いはせず、手堅く弱らせてから、確実に仕留める腹づもりなのだろう。
「獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすってところか」
ミカドが納得したように呟くと、ガンダムアレスは片手で構えていた刀を両手で握り直す。

(思ったよりも手強いな…)
空中にて相対するガンダムを見つめながら、アルゴスのパイロット、マグナス・クラーバは内心では舌をまく思いだった。
最初こそ、ガンダムのパイロットが機体性能頼りと思っていたが、なかなかどうして、そういうわけでもないと、刃を交えて思い直した。
戦闘全体の動きから見れば、中の上のまだまだといった腕前だが、時折見せる動きは、インペリアルガードであるマグナスでさえ、ハッとさせる程だ。
「磨けば光る原石。だが――」
マグナスはガンダムのパイロットを評し、言葉を続ける。
「悲しきかな、ダイヤにも金にもなれぬ、せいぜいが、翡翠や銀の底の浅き者だ」
マグナスは哀れむように言葉を締めくくる。
直後、アレスが動き出した。
刀を振りかぶりながら、アレスはアルゴスに突進する。
70通常の名無しさんの3倍:2008/12/26(金) 09:18:25 ID:???
速度による突破力で、こちらの守りを破るつもりなのだろうと、マグナスは推測する。
「思い切りの良さは認めてやるが、いかんせん軽率にすぎるな…」
馬鹿にするふうでもなく、ただ事実のみを口にするような口調で言うと、マグナスはアルゴスに、アレスを迎え撃つように武器を構えさせる。
ビームキャノンで撃ち落とすことも可能だったが、マグナスはあえて、接近戦を選んだ。
それは、意を決して向かってくる相手に対しての礼儀であり、また未熟な者に胸を貸してやるという余裕からの行動でもあった。

命までは奪わないでおいてやろう。
刃を交えて、マグナスはガンダムのパイロットが少年だという確信を抱いている。
なればこそ、命だけは見逃してやるのが当然だ。
裏切り者の内通者と呼ばれようとも、その程度の騎士道精神はマグナスとて持ち合わせている。
それに、相手は今でこそ未熟だが、いずれは天才とは呼ばれずとも、ひとかどの武人になることは間違いない才能を持っている。
今ここで、その命を奪うことは、決して帝国の為にはならないと、マグナスは強く思った。

マグナス・クラーバはダルタイル帝国皇帝に対する忠誠心こそ失ってはいるものの、ダルタイル帝国自体に対する忠誠心までは失ってはいない。
その忠誠心は歪んではいるものの、マグナスは間違いなく愛国者であり、帝国を思う心も、帝国のために尽くそうという心も、その形は歪んではいるが本物だった。

アルゴスは武器の切っ先を僅かに下げる。
コックピットではなく、その下の腹部を突くためだ。
帝国の益となる者の命は奪わない。
その志しに基づいて、マグナスは突進するアレスを見据える。
「やはり、まだ未熟か…」
マグナスはつぶやく。
槍などの長柄の武器を相手にして、前に出るというのは悪い戦い方ではない。
懐に入れさえすれば、槍などは長さ故に、近間では取り回しに劣るからだ。
その点から見れば、アレスの動きはセオリー通りに見えるが、どうにも、その動きはぎこちない。
理屈では解っていても、実際に試したことはないのだろう。
見る者によってはその動きは先程までと全く変わらないように見えたかもしれない。
だが、MSの操縦に関しては最高クラスの能力を持つマグナスには、アレスの動きがキレを失っているのがはっきりと見て取れた。
「それでは届かんぞ」
忠告するような言葉を漏らしながら、マグナスは間合いに侵入したアレスに向けて、迎撃の突きを放つ。
71通常の名無しさんの3倍:2008/12/26(金) 09:20:09 ID:???
その速度は電光石火、放たれた突きは目視すら不可能。
それは、機体性能とパイロットの技量が究極的な高みで一致してはじめて、放つことが可能な神速の一撃だった。
ミカドの目には、その突きは銀の閃光としか認識できず、突進するアレスは、アルゴスの放った閃光の一撃に為す術もない。
殺られるっ!?
絶望を象徴するような銀の閃光にミカドの背が凍りつく中、直感が声となり、ミカドの脳裏に響いた。

腹だ!
コンマ一秒の刹那の世界。
それにもかかわらず、ミカドは〈声〉の言う意味を理解し、それを実行した。
ミカドは機体を僅かに横方向にずらす。
それは、ほんの僅かな動きであり、アルゴスの突きを避けられる動きではない。

アルゴスの放った神速の突きが容赦なく、アレスの腹に突き刺さる。
誰が見ても仕留めたと思う程に、見事に刃はアレスの腹を貫いている。
しかし、それでもアレスは動く。
その機体は腹部を貫かれても、未だ機能を停止してはいなかった。
「ほう…」
マグナスはガンダムのパイロットの判断に純粋な感嘆の意を示した。
必殺の意志を込めて放った一撃。
だが、その狙いはアレスのほんの僅かな動きによって逸らされ、マグナスが狙っていた機体の動力部の僅かに横を貫いていた。

「肉を斬らせて骨を守ると言ったところか…」
避け損ねて直撃を食らうくらいならば、いっそのこと、避けようとはせず、最小限のダメージになるように自ら当たりにいく。
言うのは簡単だが、実際にやるのは難しいことをマグナスは知っている。
一歩間違えれば、その先は死。
そんな一か八かの賭けを躊躇いもなくできる者は、そうはいない。
「やはり、失うには惜しい人材だ」
マグナスは改めて口を開くと、通信回線を開く。
『聞こえているか、ガンダムのパイロット』
通信を通じて、ミカドの耳にマグナスの声が届いた。
『命までは奪うつもりはない。おとなしく剣を引き、下がれ』
唐突に発せられた、マグナスの言葉にミカドは怒りを露わにする。
馬鹿にしてんのか…?
そう思い、ミカドはモニターに映るマグナスの機体を睨みつけるが、今の自機の状態を思い出すと、その怒りは冷めていく。
「馬鹿にされても仕方ねえよな…」
ミカドの機体、アレスは動力部こそ無事ではあったが、その腹部には今もまだ、アルゴスのハルバードが突き刺さったままだった。
72通常の名無しさんの3倍:2008/12/26(金) 09:22:51 ID:???
『ここまでの戦いで、実力差はわかっている筈、それでも戦うというのならば、私も本気を出すことになるが、それでも良いか?』
マグナスは駄目押しのように語りかける。

あんだけ強くて、本気じゃないってどういうことだよ…
ミカドは一瞬、心底うんざりしたような表情を浮かべたが、次の瞬間にはフッと口許に笑みを浮かべ、マグナスに言葉を返す。
「悪いが、あんたの提案は却下だ」
『何故だ?』
「他の奴らは今もまだ、命を懸けて戦っている。それなのに、俺だけ情けをかけられて生き延びたなんて、カッコ悪くて、他の奴らに顔向けできねえよ」
『それは見栄だ。その程度の理由で命を捨てるのか?』
「あいにく、男の見栄は命を賭けて守る物って、ガキの頃から教わってるんでね」
その言葉にマグナスもまた、口許にフッと笑みを浮かべる。
『それならば仕方がない。では、もう少し痛い目にあってもらうとしよう』
そう言うと、アルゴスはアレスの腹部に突き刺さったハルバードを引き抜こうとする。
が、アレスはそれをさせじと、その柄を掴み、押さえつける。
単純な機体のパワーでは、アルゴスの上を行くアレスは、アルゴスの引き戻そうとする力を押さえつけながら、自らの腹部に刺さった刃を引き抜く。
「なるほど、単純な力比べでは勝てないか」
別段、驚く様子もなくマグナスはつぶやく。
アルゴスの持つハルバードは、アレスに掴まれたまま、ピクリとも動かせずにいる。
「もらったぁ!!」
ミカドが声をあげると、アレスはハルバードを持つ手を離し、アルゴスの懐に飛び込む。
懐にさえ入り込めれば、ハルバードのような長物では、反撃も防御も難しく、アレスの方が有利。

「くらえっ!!」
アレスは刀の間合いにアルゴスを捉えると、両手で持った刀を上段から一気に振り下ろした。
遠慮も躊躇も容赦も無い、必殺の太刀筋。
マグナスの見立てでは、それは人を殺すために練り上げられた技。
「若者が使う剣ではないな」
マグナスは呟くが、アルゴスには回避する様子も防御しようとする様子も見えない。

いけるか?
あまりにも無防備なアルゴスを不審に思いながらも、アレスの振り下ろした刃は、既にアルゴスに触れようしており、ミカドにも、最早その刃を止めることはできない。
だが、その瞬間、それまで以上にはっきりと直感が声をあげた。

下がれ!!

しかし、その〈声〉は遅かった。
ミカドにはアレスの刃を止めることはできない。
73通常の名無しさんの3倍:2008/12/26(金) 09:24:36 ID:???
刃が激烈な勢いで打ち込まれようとする、その瞬間、アルゴスが動く。
アルゴスの両肩のパーツが展開し、長く細い、歪な形状の腕へと変形を遂げた。
アルゴスが両肩から生やした歪な腕はその手にビームサーベルを持ち、アレスの刀をサーベルで受け止める。
「隠し腕っ!?」
ミカドは、その長さにもかかわらず器用に関節を折り曲げて、サーベルを受け止める歪な腕を見て目を見開く。
と同時に〈声〉が再び叫ぶ。

下がれ!!
ミカドは慌てて刀を引き、バックステップの要領で後ろに飛びずさる。
直後、アレスが一瞬前までいた空間をビームサーベルが真下から上に向けて切り上げた。
それは、アルゴスが膝から生やした隠し腕からの攻撃。
そこで、ミカドはようやく気づいた。
アルゴスが肩、腰、膝に装備している同型のパーツが全て隠し腕だということ。

下がれ!!
再び〈声〉がしてミカドはそれに従う。
今度の攻撃は腰の隠し腕が放った、ビームサーベルによる突き。
アレスはもう一度、バックステップの要領で、攻撃から逃れる。
下がれ!!
息つく間もなく、すぐさま〈声〉がする。
ミカドはそれに応えて、動き出そうとする。だが、それよりも速く、アルゴスの一撃がアレスに襲いかかる。
後ろに下がった為に、再びハルバードの間合いに入ってしまったアレスに対して、アルゴスは首をはねるようにハルバードを横一文字に振るった。
アレスはそれを受けようと刀を盾にするが、それを止めるように〈声〉が叫ぶ。
刀で受けるな!!
だが、ミカドにとっては、それこそ無理な相談だ。
現状ではアレスには、これ以外にアルゴスの一撃から身を守るすべは無い。
ミカドは〈声〉の言うことを無視し、刀でアルゴスの一撃を防ぐ。
金属と金属のぶつかり合う音が響き、ハルバードの一撃の重さを、刀がその刀身を軋ませながら受け止め、そして折れた。
それは、小枝を折るかのように容易く、呆気ない幕切れだった。

「嘘だろ…」
設計時に想定されていた衝撃を遥かに上回る負荷を受けて、あまりにも呆気なく折れた刀をミカドは呆然と見る。
そこに、再びアルゴスの一撃が放たれた。
それはハルバードの斧刃を振り下ろす、一撃必殺の攻撃。
それをアレスはミカドの動揺を表すようなぎこちない動きで、かろうじて避け、距離をとる。
「最悪だな…」
ミカドが吐き捨てるように言うと、アレスは折れた刀を鞘に収める。
74通常の名無しさんの3倍:2008/12/26(金) 09:25:53 ID:???
ミカドはなんとか気持ちを切り替えると、アルゴスに向き直り、その姿を確認する。
ミカドの視界に入った、アルゴスの姿は完全な異形へと変貌を遂げていた。
両肩、両腰、両膝から、計六本の昆虫の脚のように長細く、複数の関節を持つ腕が生え、それは機体の全身に配置されたモノアイと相まって、ひどく不気味な印象を与えてくる。
「ここからが私の本気だ。剣を引くならば、今のうちだぞ」
アルゴスが手に持ってハルバードの柄が縮み、片手で取り回せるサイズになる。
「八本の腕を持つMS。これが我が機体、アルゴスの真の姿だ」
その言葉と同時にアルゴスは六本の隠し腕全てが一斉にビームサーベルを抜き放ち、アレスに突きつけ、そしてマグナスは問う。
「あくまでも戦うつもりか?」
「当然だ」
ミカドはためらいなく答え、アレスはビームサーベルを抜く。
「ならば、もう何も言うまい。敗北を知ることもまた、良い経験となるだろう」
アルゴスは構え、アレスに向かい合う。
その構えは、守備ではなく攻めを意識した、前傾の構え、それはミカドに獲物に飛びかかる獣を連想させ、否が応でも緊張感が高めさせる。

時刻はすでに夕方、黄昏の陽光が空中にて睨み合う二機を照らしていた。
続く
75通常の名無しさんの3倍:2008/12/26(金) 09:49:43 ID:???
文章の劣化が止まんねぇ…
orz
76七四三:2008/12/26(金) 09:50:56 ID:???
名前欄も入れ忘れてた…orz
77通常の名無しさんの3倍:2008/12/27(土) 10:10:51 ID:???
投下乙
78通常の名無しさんの3倍:2008/12/27(土) 17:44:49 ID:???
七四三とエルト投下乙
結局ジョーもライトと同じ道を辿ったか。
そしてミィルは・・・
79通常の名無しさんの3倍:2008/12/27(土) 19:45:52 ID:???
そういえば今週の月曜はサクシャインが来なかったな
80通常の名無しさんの3倍:2008/12/28(日) 05:42:56 ID:???
サクシャイン弄りももう飽きたしあいつもう来なくていいよ。
81通常の名無しさんの3倍:2008/12/29(月) 11:44:01 ID:???
今日は来るかなサクシャイン
82通常の名無しさんの3倍:2008/12/29(月) 15:31:02 ID:???
何気にサクシャインが暴れてた頃が一番盛り上がってたよなw
83通常の名無しさんの3倍:2008/12/29(月) 19:08:57 ID:???
サクシャインの人気に嫉妬
外伝スレなのに
84通常の名無しさんの3倍:2008/12/29(月) 22:59:32 ID:???
今度こそ消えたようだなサクシャイン
85通常の名無しさんの3倍:2009/01/03(土) 00:50:55 ID:???
一応あげとく
86通常の名無しさんの3倍:2009/01/03(土) 05:23:18 ID:???
まだ人がいたか。
もう俺だけかと思ってたw
87七四三:2009/01/05(月) 08:47:47 ID:???
異説機動新戦記ガンダムウィード

第十二話 刃の奏でる歌

「行くぞっ!」
睨み合いから先に動いたのはアルゴス。
八本の腕を持つ異形のMSに相対するガンダムアレスはビームサーベルを両手に迎え撃つ構えを取る。

――脚を止めるな。
〈声〉がした。
これが何なのかミカドには解らないが、これのおかげでここまで戦えている以上、従わない理由はない。
アレスは後方に飛び退き、すんでのところで、アルゴスの右膝の隠し腕の脚部をなぎ払う一撃を避ける。
そこにすぐさま左膝の隠し腕が逃げるアレスを追いかけるように伸びて、ビームサーベルによる突きを放つ。

攻撃が低い!
突きの軌道を見切ったアレスは機体を上昇、ビームサーベルの上を飛び越える。
だが、その先には両肩から生えた隠し腕のビームサーベルが待ち構えており、アレスに向けてサーベルを振り下ろす。
二本の腕が同時に放った斬撃を自らも同様に両手のサーベルで受け止めたアレスだったが、そこに両腰と両膝の隠し腕の持つ刃が一斉に襲いかかる。

避けきれないっ!?
驚愕と絶望が混じった思考が脳を一瞬にして駆け巡るが、ミカドはそれを全力で振り払い、ミカドは必死で機体を操る。
パワーで勝るガンダムアレスは自らをその場に押さえつけている肩の隠し腕を力任せに振り払い、下方から襲いかかる隠し腕から逃れるため、アルゴスを飛び越えるように上昇する。
が、マグナスはその動きを予測していた。
アルゴスの頭をアレスが飛び越えようとした、その時、アルゴスのハルバードがアレスの腹部に突き刺さった。

片手で使える長さから、両手で使う長さまで、その形態を戻したハルバードをアルゴスはアレスが突き刺さったまま、振り回し、反動で刃を引き抜く。
「もう限界か?」
「まだだ!!」
その叫びと共にアレスは刀を構えアルゴスに斬りかかる。
実際、腹部を二度貫かれてもなおガンダムアレスはまだまだ動く。
かなりの無茶が効くと言われた通りの機体性能だ。

向かってくるアレスに合わせて、アルゴスも動き出し、二機は刃を振るいながら交錯する。
脚を止めては斬り合えない――
ミカドはアルゴスの六本の隠し腕が接近戦でどれほどの優位性を持つのか、身をもって理解した。
次も先程のように脚を止めて斬り合うならば、今度こそアルゴスの刃がアレスに致命的なダメージを与えるに違いない。
そう考えた上でミカドがとったのが、一撃離脱の戦法だった。
88七四三:2009/01/05(月) 08:49:12 ID:???
空を駆け抜けながらガンダムアレスはアルゴスにビームサーベルを振るい、アルゴスもまたアレスと同様に脚を止めずに、全身の刃を振るう。
二機はお互いの位置を目まぐるしく変えながら互いに一歩も引かずに斬り結ぶ。
しかし、お互いに決定的な一撃は打ち込めずに時間ばかりが過ぎていく。
アルゴスの隠し腕は、やはり接近戦において圧倒的な能力を持ち、ことごとくアレスのサーベルを防いでいた。

「背後から行けば何とかなるか…?」
ガンダムアレスがすれ違いざまにビームサーベルの一撃を打ち込むが、アルゴスの隠し腕がやはり防ぐ。
柔軟に縦横無尽に動く隠し腕のせいで、正面からの攻撃は通じる気配が無い。
ミカドは死角である背後からの攻撃を試みる。
運動性ならばアレスの方が上、充分に可能な筈だ。

ガンダムアレスは最高速度でアルゴスに突進、すれ違いざまにビームサーベルで斬りつけるも、やはり防がれアレスは何もできないままアルゴスの脇を通り抜ける。
だが、この時のアレスの動きはそこで止まらなかった。
アレスは通り過ぎた瞬間に急速反転。ミカドの体を強烈なGが襲うものの、ガンダムアレスは一瞬で180度のターンを果たし、アルゴスに襲いかかった。
アルゴスに背後から全力をもって迫るアレスは、両手に持ったビームサーベルを連結、ビームの刃を延長させつつ威力を上昇させる。
通常時の二倍の長さを得たビームサーベルをアレスは両手で握り、アルゴスの背中に目掛けて、上段から振り下ろす。

いけるかっ!?
その瞬間のミカドの抱いた思いはあまりに無邪気で儚かった。
アレスの振り下ろした刃は届かず、ミカドの手には勝利は訪れずに遠ざかる。
届かぬ刃は受け止められていた。
受け止めるのもまた刃、それはアルゴスの歪な腕が持つ刃。
アルゴスの両肩と両腰より生えた歪な腕は、まるで背中にに眼があるかのように背後からの攻撃に対して完璧な防御を見せていた。

そして、その時コックピットの中のミカドはそれと目が合った。
それはアルゴスの持つ百の眼。
アルゴスの全身に配置されたモノアイが一斉にアレスを見つめている。

「神話にて語られるアルゴスとは百の眼を持つ戦士」
不意に通信機からマグナスの声が届く。
「百の眼はありとあらゆる方向を見通し、それ故にアルゴスに死角はない」
ミカドは鍔迫り合い状態からアレスの持つサーベルを押し込もうと機体の出力を上げる。
89七四三:2009/01/05(月) 08:50:40 ID:???
だが、どうしても押し込めない。
アルゴス本体は背中を向けてはいるが、アルゴスの両肩と両腰の隠し腕が持つビームサーベルは背後からの攻撃に対しても、どうということはなくガッチリと受け止めている。

「アルゴス――その名を冠する我が機体もまた、神話に語られると同様に死角を持たんっ!」
マグナスが言い放った直後、均衡が崩れた。
四本の隠し腕全てが一斉に動き、その手に持った刃が受け止めていたアレスのサーベルを跳ね上げる。
そして、アルゴスはすぐさま背後のガンダムアレスに向き直り、片手で扱えるサイズまで縮めたハルバードをアレスに突きつけた。

「頑張ったようだが此処までだ…」
それは終わりの宣告。
「少年よ、此処から先に君の居場所は無い――」
アルゴスはハルバードを掲げる。
「立ち去れっ!!」
アルゴスは振り向きざまに背後を一閃、手に持った武器を横一文字に振り払った。
振るわれたハルバードはアルゴスの背中を狙い投擲された刃を叩き落とす。
その刃はビームナイフ。
アルゴスはそれが飛来してきた方へと反撃のビームキャノンを撃つ。

光弾が向かう先、そこに居たのは全身を灰色に染めた極端に細身のMS。突如として現れた灰色の機体は襲いかかるビームを軽々と避けながら接近、腰から実体刃のナイフを抜き放ち、アルゴス目掛けて切りかかる。

「カガミっ!!」
マグナスは叫ぶ。
通信を通してミカドのもとにまで届いた声は、今までとは打って変わって、怒り、敵意、憎悪の激情に満ち溢れていた。
その主の激情に応えるようにアルゴスの六本の隠し腕が一斉に灰色の機体に襲いかかる。
その瞬間、ミカドはマグナス・クラーバもマグナスが操るアルゴスも自分に対して、全く本気など出していなかったことを理解した。

六本の腕がまるで違う。
それぞれの腕が自らの意志を持っているかのように変則的でありながらもコンビネーションのとれた動きで灰色の機体に襲いかかる。
しかし、灰色の機体の動きはそれ以上に凄まじかった。

灰色の機体は六本の腕を前にしても全く躊躇せず前進、そして何事も無かったかのようにアルゴスの懐に入っていた。
何をどうやって避けたのか、ミカドには全く理解できない。
まるでその機体自体が実体の無い影になってしまったと、そう言うしか無いような動きだった。
灰色の機体はナイフを片手にアルゴスを斬りつける。
90七四三:2009/01/05(月) 08:52:17 ID:???
アルゴスは片手持ちのハルバードでかろうじてその一撃を防ぐ。
『聞こえていますか、ミカド君?』
通信から聞こえてきたのはカガミの声。
『選手交代です。ここは私が引き受けるのでキミは帝都に行きなさい』
カガミの乗る灰色の機体がナイフを引いてアルゴスから飛び退く。
『ウィリアム君が些かピンチのようですから、キミが助けに行ってあげてください』
アルゴスはアレスには目もくれずに、灰色の機体に向き合っている。
灰色の機体も同じようにアレスに目もくれず、アルゴスと相対している。

「あんた一人で大丈夫なのかよ…?」
マグナス・クラーバとアルゴスの強さを身を持って知ったミカドはそう言わずにはいられなかった。
カガミの生身での強さならば知っているが、MSパイロットとしての実力をミカドは知らない。
『心配ありませんよ。私の方が遥かに強いですから』
その根拠はどっから来るんだよ……
ミカドは頭を抱えたくなる。
『まぁ、もしも手助けが必要だとしても、そんな腹に風穴の空いた機体の手助けなんて願い下げです』
割とキツめの言葉にミカドは唸る。
『さっさと行かないと、ウィリアム君が死んでしまうかもしれませんよ?と言うか、キミが此処にいると戦いが始められないのでさっさと消えて下さい』

ここまで言われては残る気がしない。
ミカドはカガミの事など放っておき、この場から速やかに立ち去る事にした。
「後で助けが欲しかったとか抜かしても、俺は知らねえからな!」
ミカドは捨て台詞を残すとガンダムアレスをその場から、立ち去るように移動させる。
カガミはビームバリアを解除し、アレスが帝都へと行く道を作ってやる。
ミカドはその事に対して、感謝の言葉も述べず、ガンダムアレスにバリアが消えた城壁を乗り越えさせ、帝都へと向かっていった。

アレスの姿を見送りながらカガミはぼそりと呟く。
「後で礼儀の一つでも教えてあげなければいけませんね」
礼の一つも言わずに立ち去ったミカドに対し、僅かに腹を立てながらカガミはアルゴスに目を向ける。
「逃げないんですか?」
ビームバリアが消えた今こそ、皇城から脱出する絶好の機会。
その筈なのにマグナスの乗るアルゴスはその場に佇み、カガミの乗る灰色の機体を見据えている。
「貴様を前にして逃げることなど出来るわけがないだろう」
マグナスの言葉の端には敵意、憎悪、殺意、複数の明白な負の感情が絡み合って宿っている。
91七四三:2009/01/05(月) 08:53:51 ID:???
カガミは言葉と共に届くマグナスの負の感情を何の想いも抱くことなく受け流す。
「忘れたとは言わさん、カガミ――いや、レオナルド・ミラー!」
アルゴスがハルバードの切っ先を向けて威嚇する。
「ミラーだから鏡(カガミ)。ふざけた言葉遊びだな、ダルタイル帝国軍情報局特務三課所属、レオナルド・ミラー特務大尉。
名前は違えども、その顔だけは忘れはしない! 12年前のあの日、私の父と母、そして兄を殺した仇の顔を忘れられるものかっ!!」
マグナスは機体に憎しみを込め突進する。
父と母と兄の仇、復讐の想いを刃に込め、アルゴスはカガミの操る灰色の機体に襲いかかった。



「これは良くないな…」
アルトリオ・カーメンはパーティー会場の床に倒れている味方の姿を眺め、眉間に皺を寄せて呟いた。
パーティー会場の中で無事に立っているのはたった二人。
アルトリオ・カーメンと仮面の男だけだった。

人質となっていた者達は既に解放し、速やかにこの場から退避させている。
そのため、流れ弾の行く先など気にせずに銃器が使えたのだが、それでも仮面の男にはかすり傷一つ負わせることができなかった。

「ケイセイはオレのホウがユウリだとオモうけド、どうかナ?」
仮面の男は最後に残ったアルトリオに対して、ぬけぬけと言い放つ。
「アキラめてコウサンするのもヒトつのテだとオモうけどなァ」
余裕に満ちた傲慢とも取れる言葉。だが、アルトリオは気分を害した様子もなく、仕方ないといった様子で肩を竦める。

「わかった、降参だ」
アルトリオは両手を上げて降参のポーズを見せる。
「モノワかりがヨくてタスかるヨ」
仮面の男はそう言うと、アルトリオに背を向けて歩き出した。
「結局逃げるんだから、こういう事をしても意味は無いだろうに」
アルトリオは頭の高さまで両手を上げたまま仮面の男を見る。
「カちマけだけはハッキリとさせておかないとキブンがワルいんでネ」
仮面の男は振り返りもしない。
「帰るんだったら、何者かぐらいもハッキリさせておけ」
手を上げてはいるがアルトリオの態度は普段と変わらない。
仮面の男はアルトリオのその言葉を受けて、不意に足を止め、何気ない様子で口を開く。

「マレブランケ」
「ダンテの〈神曲〉に出てくる悪魔のことだな」
アルトリオの言葉に仮面の男は背を向けたまま頷く。
「キョウ、オシえられるのはそれぐらいだナ」
92七四三:2009/01/05(月) 08:54:34 ID:???
そして、仮面の男は肩を竦めて歩き出した。
「それではミナさん、またアうそのヒまデ、おゲンキデ、サヨウナラ」
別れの言葉を残すと仮面の男は先程、マグナスが飛び降りたように自身も窓から身を投げた。

ただ一人、パーティー会場にて、無傷のまま立ち尽くすアルトリオはその光景を見て、心底ウンザリしたような表情を浮かべて肩を竦めるだけだった。

十三話に続く
93七四三:2009/01/05(月) 09:41:02 ID:???
異説機動新戦記ガンダムウィード

第十三話 影走者

「覚えているだろう!!十二年前に貴様が殺したクラーバ伯爵家の者たちを!!」
アルゴスが背中のビームキャノンをカガミの操るMS、ヘルメスに向けて連射する。
「申し訳ないですが覚えてませんね」
射撃武装の無いヘルメスは回避に専念。アルゴスから距離を取り滑るように地上を駆け抜け、上空から降り注ぐ光の雨を逃れる。
「覚えておく理由もないですし、第一に覚えていられる程に数が少ないわけでもないですしね」
過度の連射でビームキャノンの出力が落ち、光の雨が止む。
その隙を突いて、ヘルメスは地上から上空のアルゴス目掛けて飛翔する。
「言い逃れるつもりかっ!?」
接近するヘルメスにアルゴスはハルバードの一撃を放つ。
なぎ払うように水平に振るわれた斧刃。それに対して、ヘルメスは飛び越えるように上昇。

「言い逃れをするつもりは無いですよ。貴方の家族を殺したのはきっと私でしょう」
平然と言い放つカガミ。
アルゴスの攻撃を受けたはずのヘルメスは全くの無事。
ヘルメスは曲芸師のような離れ業をもって、アルゴスの振るったハルバードの上に飛び乗っていた。
「確か十二年前に伯爵位を持つ貴族を殺したのは特務三課の中では私だけでした。記録にも残ってますし、きっと私が貴方の仇でしょう」
「貴様…っ!!」
まるで他人事のように話すカガミの言葉がマグナスの怒りに触れる。
チャージを終えて、出力が回復したアルゴスのビームキャノンが、刃の上に乗るヘルメスに向けて放たれた。
ヘルメスはそれを予期していたかのように、宙に舞い上がり難なく回避、アルゴスの頭を飛び越え、背後を取る。

しかし、アルゴスに死角はない。
全身に配置されたモノアイが背後を取ったヘルメスの姿を捉え、同時に肩の隠し腕が襲いかかる。
隠し腕の持つビームサーベルの一撃をヘルメスは飛び退くことで逃れる。
そこに追い討ちをかけるように、アルゴスの背中のビームキャノンが真後ろに砲塔を向け、ヘルメスに対してビームが放たれる。

ヘルメスは一射目を横方向に飛び込むようにして避け、次いで二射目が放たれようとしたその時、腕を横に振った。
たったそれだけの動作で、アルゴスのビームキャノンの砲身が半ばから切り落とされる。
「ブレードワイヤーか」
マグナスはヘルメスが使ったであろう武装の名を口にする。
94七四三:2009/01/05(月) 09:42:30 ID:???
高い切断力を持つブレードワイヤーはその細さ故にMS戦の最中に目視するのは困難。
MS本体の装甲までは切断する事が唯一の救いだった。

兎に角これでアルゴスとヘルメスは共に銃器を装備していないことになる。
「インペリアルガード同士の戦いというのはなかなかにキツいものがありますね」
ヘルメスがナイフを片手に宙を駆け、アルゴスに迫る。
アルゴスの隠し腕が迎撃の為に一斉に襲いかかる。
「私はそうは思わん」
襲いかかる六本のビームサーベルを前にして、ヘルメスは直前で前進を止める。
「私も実はそうです」
急な停止によって、タイミングを乱された六本のビームサーベルはヘルメスの眼前の空を切る。

直後、ヘルメスは実体刃のナイフを振るい、膝から生えた隠し腕を左右まとめて切り落とす。
「一つ聞いておきたいのですが」
アルゴスがヘルメスを遠ざけようとハルバードを突き出す。
ヘルメスは攻撃にタイミングを合わせて後ろに下がる。
「最初から仇を討つためにインペリアルガードになったんですか?」
下がるヘルメスを追ってアルゴスが前進、ハルバードを両手持ちの長さに伸ばし、突きを繰り出す。
「貴様のことはついでだ。戦う機会があれば仇を討つ。そのつもりであり、今がその時だ!!」
ヘルメスは神速の一撃を容易くかいくぐり、アルゴスの懐に飛び込んだ。

「情熱が足りないですね。仇を討つのに人生の全てを捧げるくらいしてもいいでしょうに」
懐に飛び込んだヘルメスだったが、アルゴスはその動きを予測しており、両肩の隠し腕が持つビームサーベルが真上からヘルメスに襲いかかる。
「何とでも言え。私が心から望むのは仇を討つこと自体よりも、私の家族のような犠牲者が出ない世界だ」
「私にはどうしてそれが皇帝陛下殺害につながるのか理解できないんですがね」
ヘルメスは重力制御を軽減から増加に変更し、急降下。ビームサーベルから逃れる。
「皇帝陛下だってそうならないように努力していると思いますよ?」
降下途中で重力制御を軽減に戻し、ヘルメスは空中に留まる。
「実際に暗殺を専門とする特務三課は皇帝陛下の命令で壊滅させられたわけですし」
「だが、暗殺が無くなったわけではあるまい」
アルゴスがヘルメスと同じ高さまで降下し、両者は向かい合う。

「だから私は帝国を変えたいと願った」
95七四三:2009/01/05(月) 09:44:19 ID:???
「それで、陛下を暗殺しようと? 随分と極端すぎはしませんか?」
ヘルメスが動き、それに合わせてアルゴスも動く。
「貴方がどんな風に帝国を変えようと考えているのか私は知らない。だけど、それが確実に上手くいくとは限らないでしょう」
「だが、やってみなければそれは解らない」
ヘルメスは腰に手を伸ばすと、投擲専用のビームナイフを取り出し、アルゴスに投げつける。
「それを言ったら、今の世の中だって良くなる可能性は残っていますよ」
アルゴスは残っている四本の隠し腕でビームナイフを叩き落とす。

「結局、可能性の話になったらどうしようもないんですよね。誰にも未来がどうなるかなんて分かるワケが無いですし」
アルゴスがハルバードを前に突き出し突撃。ヘルメスはそれをひらりとかわす。
「決着の着かない話し合いをダラダラと続けるのは意味もないですし、私の趣味でもありません。いい加減に終わりにしましょう」
アルゴスはヘルメスに接近、横薙ぎにハルバードを振るう。
「私の勝利でな」
ヘルメスは上体を反らし、端から見ればギリギリの体でアルゴスの一撃を避ける。
「随分と大口を叩くものですね」
ヘルメスは飛びずさりながら、腰から抜いたビームナイフを投げつける。
しかし、アルゴスの腕は難なくそれを叩き落とす。
「ですが、私の勝利は揺らぎません」
直後、ナイフの投擲と同時に動き出し、既に間合いを詰めていたヘルメスがアルゴスの腰の隠し腕をまとめて切り落とす。
接近したヘルメスを払いのけるように肩の隠し腕がビームサーベルを振るが、ヘルメスはすぐさま飛び退き、それを回避する。

距離を取ったヘルメスはナイフを片手に持ったまま、ゆっくりと腕を広げる。
その動きの意図が掴めずにアルゴスが警戒の様子でヘルメスを見据える中、マグナスにカガミの言葉が届く。

「私の二つ名である『影走者』。その名の意味を貴方に教えて差し上げましょう」

そして、ヘルメスはその言葉と共にアルゴスの眼前から消え去った。

「光学迷彩か!?」
アルゴスのパイロットであるマグナスは思わず声をあげる。
そして、すぐさまアルゴスを地上に降ろし、攻撃を受ける可能性がある方向を少しでも減らす。
光学迷彩を装備した敵とは何度か戦い、勝利した経験のあるマグナスは光学迷彩に対しての対処法をそれなり以上に心得ている。
96七四三:2009/01/05(月) 09:46:33 ID:???
今も過去の経験に基づいて、マグナスはヘルメスを待ちかまえているのだが、どうにも不安感が拭えない。
その上、何やら感じた事の無い息苦しさが付きまとってくる。
マグナスはそれを強敵と相対した時に生じる緊張感の延長線上に在るものだと思い、ゆっくりと息を吐き気持ちを落ち着かせて、ヘルメスの動きを待つ。
だが、どうしても息苦しさは消えてはくれない。
現実に酸素が減っているとしか思えない息苦しさだった。
マグナスは不審に思い、コックピット内の酸素を調べようと計器に手を伸ばそうとしたその時――ヘルメスが現れアルゴスを蹴り飛ばした。

地響きをたてながら地面に倒れ込んだアルゴス。
パイロットのマグナスはすぐさま立ち直り、機体を起き上がらせようとするが――機体が動かない。
ヘルメスの蹴りは一撃で機体のシステムがダウンするような威力では決して無かった。
なのに機体は動かない。
アルゴスは立ち上がることはおろか、指一本動かすことすら出来なくなってしまった。
何が起きたか懸命に考えようとするマグナスだったが、それを阻むように息苦しさは尚も付きまとい、それがマグナスの意識を朦朧とさせる。

コックピットの中の状態などは確認するまでもない。コックピット内の酸素量が減少していることは明らかだ。
コックピットのエアクリーナーのトラブルだろうかと、マグナスは朦朧とした頭で考える。
宇宙空間で行動するMSのコックピットは当然、密閉性が高い。
パイロットスーツを着てさえいれば空気に関する問題は減るが、そうでない場合はコックピット内の人間が呼吸する為の酸素を供給し、呼吸した後の空気を選別し排出しなければいけない。
そのために通常のMSのコックピットには供給用と排出用の二つの通気孔が備えられており、今のアルゴスはその二つの通気孔が閉じている状態だった。

もはや、状況は予断を許さない。
パイロットスーツを着ていないマグナスは窒息死の危険を感じ、戦闘中であるのにも関わらず、コックピットハッチを開けようとするが――開かない。
アルゴスは手足どころかコックピットの制御すらきかなくなっていた。 マグナスの酸欠により朦朧とした思考では推測はおろか、状況の理解すら出来ない。
かろうじて、今のマグナスが理解できるとすれば、コックピットのモニターに映る敵機、ヘルメスの姿だけだったが、やがて、その敵機も陽炎のように姿を消す。
97七四三:2009/01/05(月) 09:48:09 ID:???
代わりに聞こえてきたのはカガミの声。
「『影走者』という二つ名の意味を教えてあげようとも思ったんですがね、やっぱり面倒なんで楽な方法を使わせてもらいました」
それはマグナスに対する嘲笑が露わになった言葉だった。
「きさま…なにを…し…た」
「喋らない方が良いですよ。酸素が無くなります」
力を振り絞り、息切れしながら問うマグナス。
カガミはそれに対して、たしなめながら、ヘルメスの足がアルゴスのコックピットを踏みつけた。

「別に私は大した事はやってませんよ。ただヘルメスに搭載されてる武装を使わせてもらっただけ」
直後、アルゴスのコックピットのモニターが死んだ。
「貴方の機体のコントロールは今は私の物です」
コックピットの中で唯一生き残っている通信からカガミの声が届く。
「本当は自爆装置を起動させたり、コントロールを奪った隠し腕で、コックピットにビームサーベルを突き刺したりなんかも出来たんですけどね」
いよいよ、マグナスは限界に近づいてきた。
カガミも何となくその様子を察しながら言葉を続ける。

「苦しいでしょうね。殺されるんだったら、さっき私が言ったようなやり方で殺られる方が楽だったでしょうね。
でも、死体にする時には死んだと確実に分かる証拠を持って帰らなければいけないので、さっき言ったような死体が消し飛ぶようなやり方じゃあ駄目なんですよ」
おそらく聞こえてはいないだろうと思いながらも、それでもカガミは語る。

「神話におけるアルゴスはヘルメスによって眠らされたところを剣によって首を切られて死んだ――」
ヘルメスはアルゴスのコックピットを踏みつける足を離し、地面に倒れているアルゴスの傍らに屈み込んだ。
その手に持つのは実体刃のナイフ、ヘルメスはナイフの刃をアルゴスの首筋にピタリと当てている。
「――ですが、現実ではそこまでする必要はありませんでしたね」
カガミは完全に無力化したアルゴスを見つめながらヘルメスの手にあるナイフを収め、ゆっくりとアルゴスのコックピットに手を伸ばした。
98七四三:2009/01/05(月) 09:49:35 ID:???
帝都―市街地―

「はぁ、何だって俺ってこんなに苦労をしなくちゃいけないんだろう」
ウィリアムは愚痴っぽく呟きながら、自機を追いかけてくるミサイルの群れを撃ち落とす。
ゼピュロス改をMA形態からMS形態に変形させ、腕部に内蔵されたビームガンの連射でミサイルを一つ残らず撃ち落としたウィリアムは、ゼピュロス改を再びMA形態に変形させ、ミサイルを撃った敵機に向かって飛翔する。
ウィリアムの視線の先には先程、突如として現れたMAの姿が有った。

ヴリトラという名のMAはゼピュロス改の姿を捉えると背中のビームキャノンを発射した。
砲口から放たれた鮮やかな極太の光の奔流は触れるもの全てを焼き尽くす死の閃光。
ウィリアムはそれを機体をローリングさせて回避。
ゼピュロス改のすぐ脇を閃光が駆け抜けていく。
「これじゃあ、避けるよりも当たる方が難しいよなぁ」
敵の射撃精度を揶揄するような言葉を洩らすと同時に、MA形態のゼピュロス改が背負ったビームカノンから閃光が撃ち放たれる。
ゼピュロス改の武装の中で最大の威力を持つ、それはシビレーの装甲を容易く貫く。
しかし、それでもヴリトラの装甲には傷一つ付けられず、その結果にウィリアムは肩を落とす。
「ビームカノンが効かないとすれば、後はビームサーベルくらいかな効きそうなのは…」
ゼピュロス改がヴリトラに向けて空中を突き進む。
学習したのか、ヴリトラは突っ込んでくるゼピュロス改に対して、当たりづらい大口径砲は使わずに、代わりに弾幕を形成するような拡散砲を撃つ。
ヴリトラの全身の砲塔と装甲の隙間に隠されていた発射口の全てから一斉にビームが連射された。
まるでハリネズミのように全身から光の矢を放つ敵機の姿にウィリアムは
「あ、これは危ない」
と言って、ゼピュロス改旋回させヴリトラから離れる。

いくら威力が低いとはいえ、ビームはビームであるため装甲の薄いゼピュロス改では手に負えない。
他のインペリアルガードであれば何とか出来る者もいるかもしれないが、ウィリアムには全身から隙間なく放たれるビームの弾幕を突破して近付くようなことはできない。
「正直、こればっかりはどうしようもないよなぁ」
ヴリトラは離れていったゼピュロス改に右腕の砲を撃つ。
ゼピュロス改はそれを危なげなくかわすと機体を変形。MS形態になると、反撃としてビームガンをヴリトラに撃ち込む。
99七四三:2009/01/05(月) 09:51:31 ID:???
だが、やはりその攻撃はヴリトラの重装甲の前には通用しない。
「まさに、撃つ手なしって感じだね」
他人事のようにウィリアムが言った直後、ヴリトラからゼピュロス改に向けてミサイルが放たれた。
ゼピュロス改は変形、MA形態になるとミサイルに背を向けて逃げる。
「俺の機体じゃあ墜とせないし、ああ…誰でもいいから早く援軍が来てくれないかなぁ」



ウィリアムが助けを求めていたその頃、ミカドは皇城を抜けて帝都にたどり着いていた。
マグナスの操るアルゴスとの戦闘で、ミカドの乗るガンダムアレスは機体の腹部に風穴が二つ空くという、決して軽くない損傷を負っていたが、それによる問題は今のところは見られない。

「だけど、鹵獲するなら今が絶好のチャンスだな」
帝都にある建物の屋上、血のような真紅のコートを着た少年が視界の中に皇城のある方角からやって来るガンダムアレスの姿を見つめながら言った。
「〈人形〉に任せておけば良いと言ってなかったかしら?」
傍らに立つ真紅のドレスを着た女が少年の言葉を思い出したように口にする。
「その〈人形〉が役に立たなかったんだから仕方ないだろう?」
そうねぇ、と同意の受け答えをしながら女は微笑み首を竦める。
「もっと頑張ってくれると思ったんだけど、なかなか上手くいかないものね」
「〈人形〉にあまり期待するのは酷というものだ」
少年は女と話しながら生態端末を起動させる。
帝都にはMSを直接転送出来ないようにプロテクトが掛けられているのだが、少年の属する組織の技術ならば、それを突破する事などは容易い。
「私も手伝ってあげましょうか?」
女が妖艶な笑みを浮かべるが、少年は首を横に振る。
「ボク一人で充分だ。奴と一緒に帰還していろ」
「そう? じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ」
女は最後にニコリと笑みを浮かべながら一礼し、立ち去った。
少年は女の方を気にする様子もなく、眼前を見上げる。
そこには転送を終えて出現した少年の機体があった。

それは血のような真紅のMS。
その頭部は連邦の物とも帝国の物とも違うツインアイの上部に更にモノアイを備えた三つ眼に血のような真紅の装甲の表面を時折、脈打つように光の線が走っている。
腰にある五つのホルスターらしきパーツとコンテナのようなパーツが特徴的な機体だった。
「さぁ、行こうか」
少年の言葉に応えるように真紅の機体のコックピットハッチが開く。
100七四三:2009/01/05(月) 09:52:32 ID:???
少年は機体に乗り込むと速やかに機体を起動させる。
「せっかく戦うんだ、少しは楽しませてもらわないとな」
そう呟く少年の口許には酷薄な微笑が浮かんでいる。
「せめて一分は保たせて貰おうか、ガンダム」
真紅の機体はその身に悪意を乗せて飛び立った。


――所属不明の機体が接近――

ゼピュロス改の援護に向かうガンダムアレスのコックピットに警報が鳴り響いた。
「なんだ…?」
ミカドはアレスを接近してくる機体の方に向けようとするが――遅い。
真紅の機体はアレス振り向いた時に既にアレスの眼前に迫り、アレスを強かに蹴り飛ばした。
「マレブランケのレアード・ヴォルケイン。対応するのは『悪意に満ち溢れた者』。はじめまして、そして――」
通信を通じて届く声。
直感が『逃げろ!!』と叫ぶが、理性が『無理だ』と結論を出す。

「――さようなら」

そして、アレスは手足を失い大地に叩きつけられた。

十四話に続く。
101通常の名無しさんの3倍:2009/01/05(月) 17:07:39 ID:???
七四三乙

エルトはどうやらネタ切れらしい
102通常の名無しさんの3倍:2009/01/05(月) 17:14:35 ID:???
weedって雑草なんだが・・・
103エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 17:18:48 ID:???
あけおめ&七四三乙

ネタ切れだけどそのうち投下する予定w
104通常の名無しさんの3倍:2009/01/05(月) 19:22:06 ID:???
そういや今頃ライト何してんのかな
105通常の名無しさんの3倍:2009/01/05(月) 20:36:39 ID:???
またとんでもない妄想引っさげて帰ってくるのを期待
106通常の名無しさんの3倍:2009/01/06(火) 15:01:41 ID:???
>>七四三
ガンダムが弱すぎやしないかい?
107七四三:2009/01/07(水) 21:42:38 ID:???
機体が弱いんやない、乗ってる奴がしょぼいんや!
108通常の名無しさんの3倍:2009/01/08(木) 12:34:59 ID:H3SWJCyR
109通常の名無しさんの3倍:2009/01/08(木) 19:42:46 ID:???
スレタイだけ見ると犬がガンダムにのる話に見えなくもない
110通常の名無しさんの3倍:2009/01/11(日) 18:58:01 ID:FXTMtgKd
おれさ。
しばらく自分一人でストーリーそのものを修繕しておく事にしたんだ。
大人になって漫画家になって。
そして、WEEDを書く事にしたんだ。
だから。20年後くらいにもう一回君たちの言い方で言う「暴走」するとおもうよ。
ばーい。
だが安東としてはちょろちょろ顔出すよ。
111通常の名無しさんの3倍:2009/01/11(日) 19:15:09 ID:???
とにかく胸糞悪くなる逃亡宣言だな
112通常の名無しさんの3倍:2009/01/11(日) 20:41:52 ID:FXTMtgKd
弱虫だからね

113通常の名無しさんの3倍:2009/01/12(月) 11:14:52 ID:???
弱虫なら素直に「ごめんなさい」って言えよ
114通常の名無しさんの3倍:2009/01/15(木) 20:28:00 ID:???
保守
115通常の名無しさんの3倍:2009/01/16(金) 09:26:27 ID:???
やったもん勝ちのアニメ業界で、
2chでネタ晒して20年も無事で居られるかよ
河森のデビューは中学生の時だぞ
さっさと書いて日登持ち込め
116東西 ◆1eW7huNls2 :2009/01/16(金) 20:05:06 ID:???
続きを期待してみるテスト
117通常の名無しさんの3倍:2009/01/17(土) 19:26:35 ID:???
人がいなくなってしまいました
118通常の名無しさんの3倍:2009/01/17(土) 20:04:05 ID:???
まだだ、まだ終らんよ!
119七四三:2009/01/18(日) 10:48:21 ID:???
異説機動新戦記ガンダムウィード

第十四話 WEED発動

――何が起きたんだ?

帝都の街中に墜落したガンダムアレス。
そのコックピットにいるミカドは、墜落の際に受けた衝撃に苦悶の表情を浮かべながら、懸命に状況の把握を試みる。

――頭部破損により頭部機能の70%が機能停止。メインカメラが使用不可の為、以後サブカメラをメインカメラの代用とする。
左腕大破、肘より下を消失。左腕の使用は完全に不可。
両脚部大破、膝より下を消失。自立不能――

次々とモニターに表示される機体の損傷を伝える文字。
「ありえねえだろ…これはよ……」
呻くように声を漏らしながら、ミカドはモニターに映る真紅の機体を見る。
真紅の機体は空中から悠然とアレスを見下ろし、右手に持った拳銃のような武器の銃口を向けている。
恐らくは、それがアレスの頭、肘、膝を撃ち抜き、アレスから行動の自由を奪ったのだろう。
そうだとしたら、凄まじい早撃ちだと言うしかない。
ミカドには全くその動きが見えなかった。
奇襲を受けたからというのを差し引いても、真紅の機体の動きは格が違う。
「機体の性能で負けている…?」
勿論、パイロットとしての実力差があることも分かってはいるが、それでもミカドにはガンダムアレスの性能が真紅の機体に比べて明らかに劣っていることが瞬時に理解できた。

「だとしても、むざむざとやられる訳にはいかねえだろ」
ミカドは何とかして闘志を持ち直そうと、意気を整える。
二度三度の深呼吸をして、心を落ち着かせるミカド。
スラスターと重力制御は生きているので、戦えない事はない。
最後に深く息を吐き、ミカドがアレスを動かそうとした、その瞬間、真紅の機体の銃から閃光がほとばしった。
一息に撃ち放たれた、二筋の閃光は動き出したアレスをかすめて、その場につなぎ止める。

「動くな」
次は当てるという意味の警告だ。
真紅の機体の放った攻撃はアレスにダメージこそ与えなかったものの、その動きを止めさせるには充分すぎる脅しとなった。
「何もしないのであれば、ボクだって悪いようにはしない」
通信を通じて届く声。
真紅の機体はアレスを見下ろしながら、おもむろに右手の銃を変形させる。
――いや、それは変形ではない。
ミカドは自身の記憶から、その形状の変化の意味を探り当てる。
それは以前にアルトリオが自らのコレクションと言い、自慢気に見せてきた骨董品の銃。
120七四三:2009/01/18(日) 10:50:22 ID:???
AG.199の現在では殆ど見られなくなった、回転式弾倉を有する、一般的にはリボルバーと呼ばれる銃の弾薬装填時の形状だった。
真紅の機体が引き出した弾倉から円筒形の物体を六つ捨てる。
恐らくはそれが弾丸なのだろう。
間違いなくビーム兵器である銃に、どうして弾薬が必要になるのか、ミカドには理解できなかったが、それでもリロードの最中に隙があることだけは理解できる。
真紅の機体は右手に銃を持ったまま、左手を腰背部のコンテナのような装備に伸ばし、そこから円筒形の弾薬らしき物体を取り出し、右手の銃へと装填する。
その動作は緩慢であり、今ならば動いたとしても、攻撃を受ける可能性は無いのではないかと、ミカドに思い込ませるに至った。
直後、ガンダムアレスが動く。
それは攻めるのではなく逃げる動き。
アレスは失った手足の代わりにスラスターを懸命に動かし、真紅の機体から逃れようとするが――
「ボクは『動くな』と言った筈だ」
その声と共に、空からアレスの行く手を遮るように光の雨が降り注ぐ。

地を這うようにして移動していたアレスは、その攻撃によって、動きを止めざるを得ず、そこに真紅の機体が急降下、アレスを踏みつけ、地面に抑えつける。
「帝国の人間は言葉が理解できないのか? それとも、一瞬前に聞いた言葉も記憶できないほどに記憶力に問題が有るのか? それとも、単純にお前という生物の特質として愚かしさという物が備わっているのか?」
アレスは唯一残っている右腕だけで抵抗を試みるが、それも真紅の機体に踏みつけられ、抵抗を封じられる。
「ボクは何もしなければ悪いようにはしないと言った。なのに、それをお前という愚かな存在は無にした。つまり、これは悪いようにしても構わないのだとボクは解釈する」
真紅の機体の左手には、いつの間にか銃が握られている。
恐らくは右手の銃の代わりに、それでアレスを足止めしたのだろう。
そして、その銃口は現在アレスのコックピットに向けられている。

「悪いようにする。それはどうすることかと言えば、つまり――」
真紅の機体のパイロット、レアード・ヴォルケインに躊躇いはない。
彼が欲しているのは、ガンダムアレスという機体ではなく、それに組み込まれているWEED。
そして、それはコックピットをビームで貫いたとしても問題無い位置にあることを、とある人物からの情報で把握している。
だから、レアードはそれを躊躇いなく口にできる。
121七四三:2009/01/18(日) 10:52:19 ID:???
「――お前を殺すということだ」

純然たる殺意がミカドを捉える。
真紅の機体とそのパイロットから放たれるそれは、ミカドが初めて感じる剥き出しの殺意だった。

任務だから、仕事だから、命令だから、守るため、理想のため、誰かのため……
星の数ほどあるごまかしを取り払った、ありのままの殺すのという意志。
ただ殺したいから殺す。
恐ろしく歪んだ純粋な感情。

勝てるわけがない…
そもそも、生きている世界、見えている世界が違うのだから勝てるわけがない。
自分は餌であり、相手はそれを喰らう獣だ。
躊躇いなど無いのだから速いに決まっている。
揺らぐ余地など無いのだから堅いに決まっている。
容赦など無いのだから強いに決まっている。
勝てるわけがないのだ。

今、真紅の機体のパイロットは笑みを浮かべていることだろう。
いくら隠しても、ミカドにはこのパイロットが持つ悪意がはっきりとわかった。

「死にたくない」
口をついて出たのは、そんな言葉。
純然たる殺意に抗うようにしてミカドの口から出たのは、生物が持つ根源的欲求。
一度、口をついて出てしまった言葉は津波のようにミカドの心を飲み込み、心を覆う全てを押し流し、そして残ったのは欲。
そして、それを認識した時、ミカドの中の戦いにおける輪郭がハッキリとした形を手に入れた。

結局の所、全てが欲望だったのだ。

ガンダムに乗ったことにしても、名誉や賞賛が欲しかったのであり、人質を救出するのに協力した時だってそうだ。
シエラの事を心配していた時だって、シエラという女と、シエラの持つ愛が欲しかったからだ。
ウィリアムを助けに行くのだって変わらぬ友情が欲しいという理由がある。
ミカドは改めて自分の行動原理を分析、そして、それらを理解した時、ミカドの中に生まれたのも、また新たな欲望。

生きていたい。
俺にはまだ欲しいものがある。
思えば思うほど、生まれてくるのは欲望。
そして、生への渇望。
ミカドは衝動的にガンダムアレスを動かす。
「死にたくない! 生きていたい!!」
みっともなくも声に出すのは、そんな言葉。
死という終わりの現実が形をもって突きつけられても尚、ミカドは生への渇望を叫び続ける。
「死ね…!!」
真紅の機体から届く、渇望を断ち切る悪意の声。
アレスのコックピットに突きつけられた銃の引き金に真紅の機体がゆっくりと力を込める。
122七四三:2009/01/18(日) 10:53:30 ID:???
(結局の所、おまえという人間は大義も理念も理解できない獣ということだ)
終わりが近づく中で頭の中に声が響く。それは、直感として響くのとは別の声。
その声はどこか懐かしく、そして抗い難く、惹きつけられる響きを持っていた。
(自分の欲するものの為にしか戦えない。おまえの戦う理由は何処まで行っても個人的なものに過ぎないだろう)
〈声〉は語る。
(だが、俺はそれこそが好ましい。欲するものの為に戦うという単純明快さ…
正義も悪も無く、どこぞの誰かの受け売りのような大義や理念に毒される事も無い。おまえもまた歪でありながら純粋)
ミカドの見ている世界がスローモーションに変わっていく。
(俺はその純粋を評価し、力を貸してやろう)
全てが緩慢になっていく中で、その声だけ淀みなく聴こえ、そしてコックピットの中に声が響き渡る。
『WEEDシステム――起動』


「お膳立てはしてやったんだ。そうでなくてはな」
皇城のアルトリオ。その瞳は帝都を見据えている。
手に握られているのは小さなリモコンのようなスイッチ。
アルトリオは僅かな笑みを浮かべると、それを手放し、床へと落ちた所を踏み潰す。
「帝国も連邦もインペリアルガードもマレブランケも皆、俺の手のひらの上で踊って貰おう――」
肩を竦めるアルトリオ。
その仕草は普段と変わらぬものの、その瞳は心の底より湧き上がる炎に照らされ、爛々と輝きながら背筋も凍るような気配を放つ。
「――そうすれば、少しは面白い世界になるだろうさ」
口許に笑みを浮かべたアルトリオは、戦い続く帝都に背を向け、混乱続く皇城の内へと舞い戻った。
123七四三:2009/01/18(日) 11:15:27 ID:???
唐突に抵抗が無くなった。
踏みつけていた筈のガンダムの腕の抵抗が消え、感触が消え、そして存在が消えた。
真紅の機体が左手に持つ銃の引き金は既に引かれている。だが、その銃口から放たれた一筋の光は貫くべきものを貫けずに、ただ大地を灼くだけだった。
本来ならば、そんな光景は見えるはずが無い。
銃口と地面の間にはガンダムが壁となっているからだ。
では、なぜ見えるのか。それは詰まるところガンダムの存在が消失しているに他ならない。
ガンダムアレスは真紅の機体の前から、忽然と姿を消していた。

「WEEDか…」
レアードはスッと目を細め、機体を振り向かせる。
レアードはガンダムの姿こそ見失ったが、その存在までは見失ってはいない。
自身に向けられる殺気を感知するということに関しては、絶対的な能力を持つレアードは、ガンダムから発せられる殺気を感知し、その存在を正確に把握。
真紅の機体が振り向いた先に確かにガンダムの姿はあった。
ガンダムアレスは空中より、レアードの乗る真紅の機体を見下ろしている。
悠然とした態度とは裏腹に、その姿はあまりに痛々しい。
頭部は破壊され、左腕は肘から下を失い。両足に至っては左右共に膝から下を失っており、更には腹部に二つも風穴が空いている。
一見すれば、どう見ても大破した機体。
だが、レアードはガンダムの姿を視認すると同時に警戒の色を強める。

WEEDシステムが、もしも聞いたとおりの力を持っているのだとしたら、それが発動したガンダムアレスは大破寸前であったとしても決して油断できない相手ということになる。
レアードはガンダムの動きを窺い、剣呑な気配を発する。
レアードの操る真紅の機体は右手に持つリボルバー式の銃を腰のホルスターに収め、代わりに左手に持つのと同じ型の銃を手にし、銃口をガンダムアレスに向ける。
WEEDを手に入れる為には、全力をもって攻撃することができないことが、レアードには煩わしい。
僅かな苛立ちを胸にしながら、レアードはモニターに映るガンダムの姿を見据える。
黒いカラーリングの機体が、今は赤い燐光を身に纏っていた。
それはエーテリウムジェネレーターが稼働している際に発生させる粒子。
通常ならば、目に見える程に大量に発生する筈はないのだが、現在はWEEDの発動によってジェネレーターの稼働率が爆発的に上昇しているため、それに伴って粒子の生産量も上昇しているのだろうと、レアードは分析する。
124七四三:2009/01/18(日) 11:35:53 ID:???
「粒子色は赤か…」
レアードはさして意味の無い事を呟く。
粒子色が赤であろうと青であろうと、その性質には違いなど無いのだから気にする必要はない。
そう頭では理解してはいるのだが、どうしてもレアードはガンダムが発する赤い粒子を気にせずにはいられない。
そうして、ガンダムを見据えるレアードの前で、尚もガンダムが纏う赤い粒子の量は増加していく。

「ただ眺めているのも芸がないか…」
レアード自身、些か軽率とは思いながらも先程から照準を合わせている右手の銃の引き金を引く。
銃口からビームが放たれ、同時に銃から円筒形の弾薬が排莢される。
放たれたビームは一筋の閃光となって、空中より見下ろすガンダムに向かって突き進むが、そのビームは途中で不自然にかき消された。
「粒子が盾になっているのか」
状況と結果から確信をもってレアードは口にする。
粒子が盾となるのは同じような理論の装備を知っている為、不思議ではないが、それでもレアードは違和感を感じずにはいられない。
レアードは、その違和感に答えを出すため、再び引き金を引く。
放たれたビームはやはり赤い粒子が盾となって防ぐ。
それは先程と全く変わらない光景。
だが、レアードはそこに違和感の答えを見つける。
「粒子が意思を持っているのか…?」
レアードが感じた違和感とはガンダムが纏う粒子の不自然な動き。
放出している赤い粒子は確かに向かってくるビームに対して、壁を作るように動いている。
それはレアードが知る同じ理論の装備とは全く違う。
「これでは、オカルトやファンタジーの類だ」

真紅の機体が両手に持つ銃を乱射する。
二つの銃口から撃ち出される光の驟雨。
だが、それはガンダムの纏う赤い粒子に阻まれてガンダム本体までは届かない。
しかし、それでもレアードは射撃を続ける。
激しい銃撃の末に二丁の銃の弾が尽きる。
真紅の機体はすぐさま装填されていた弾倉を捨て、腰背部のコンテナから新たな弾倉を装填。
所謂オートマチックタイプの二丁の銃口から再び絶え間なくビームが繰り出される。
真紅の機体が放つビームはガンダムの本体には届かないものの、纏う赤い粒子の壁を確実に削っている。
それに対してガンダムは動かない。
いや、動けないのだろうとレアードは思う。
そもそも起動しているだけでも驚愕する程に今のガンダムの損傷は凄まじいのだ。
125七四三:2009/01/18(日) 11:37:27 ID:???
恐らくは宙に浮いてこちらを見下ろす位が今のガンダムにできる精一杯の行動なのだろう。
「悪あがきも程々にしてもらおうか」
飛び回る虫を払い落とす時のような鬱陶しさを込めて、レアードは吐き捨てる。
真紅の機体が右手の銃をホルスターに収める。
そして抜いたのが、それまで右手に持っていたものよりも大型の銃。
真紅の機体は新たに握った銃をガンダムに向けると、一瞬の躊躇も無く引き金を引く。
銃口から放たれたのはビーム。
新たな銃から撃ち出された光の矢は、それまでよりも遥かに攻撃的な輝きを迸らせ、ガンダムに向かう。

ガンダムの纏う赤く輝く壁がそれを防ごうとするが、攻撃によって削られていた壁には防ぐことはできなかった。
真紅の機体の放ったビームは、赤い粒子の壁を貫き、その内にあるガンダムアレスに襲いかかる。
――が、攻撃を仕掛けた当人であるレアードは、その攻撃が届かないものと確信していた。
そして、レアードの確信は現実のものとなり、ビームが空を貫く。
粒子の盾を貫いた先にガンダムの姿は無く、真紅の機体が放ったビームは大気を灼いただけだった。
「エーテリウムを用いた短距離ワープか」
最初の消失も、今の消失も理屈的にはそれしか思い当たらない。
だが、それは常識から鑑みれば不可能。
短距離、長距離を問わず、ワープには莫大なエネルギーを必要とする大型の装置が必要となり、それは艦船などにしか搭載できない。
MSの転送にしたところで、転送を行うにあたって専用の装置に機体を接続してはじめて可能となる。
常識的に考えれば、MS程度の大きさで自由にワープすることなどは不可能。
だが、レアードは敢えて常識を否定する。
WEEDというものが聞いた通りの物だとすれば、それは既存の科学の限界を超えた魔法と言うしかないような力ということになる。
そんなものを相手にするには常識などというものは枷にしかならない。
「少し嘗めすぎていたようだ」
真紅の機体が左手の銃口だけを背後に向け、振り向かずに引き金を引く。

何気ない動作で撃たれたビームが向かう先には消失した筈のガンダムの姿があった。
ビームは過たずガンダムに向かうものの、赤い粒子の壁が行く手を遮り、それをガンダムにまでは届かせない。
ダメージこそ受けなかったものの、その動きを捉えられてしまったガンダムは、再び逃げるように消失する。
だが、レアードは動じない。
126七四三:2009/01/18(日) 11:38:48 ID:???
「何処へ現れようとも、お前が今のままである限りボクの認識からは逃げられん」
真紅の機体は右手に持っていた大型の銃をホルスターに収め、リボルバー型の銃を抜くと、それを真上に向け、何気ない動作で引き金を引く。
銃口からビームが放たれ、真紅の機体から垂直に光の柱が伸びる。
その先には、やはりガンダムの姿があった。
向かってくるビームを防ごうと赤い粒子が壁を造るが、左手に持つ銃とは威力が違う。
右手のリボルバー型の銃から放たれたビーム高出力をもって粒子の壁を貫き、ガンダムに襲いかかる。
ガンダムは避けようもなく直撃を受けるが、粒子の壁によって減衰されたビームは傷付いたガンダムの装甲にさえ傷一つ残せなかった。
結果的にダメージこそ無かったが、完全に動きを捉えられてしまったガンダムは、またもや逃げるように消失。
直後、アレスが真紅の機体の眼前に出現した。

「出現の速度が上がっているな」
事も無げに言った直後、アレスの拳が突き出される。
両脚を失っているため、宙に浮いた状態で繰り出された拳はお世辞にも綺麗なフォームとは言えないが、その腕は赤い粒子を纏っており、レアードに危険と判断させるには充分過ぎるものだった。
真紅の機体は半身になって拳を回避、それと同時に右手の銃を構える。
残弾数は五発。
真紅の機体は一気にそれを撃ち尽くす。
一息に撃ち出された5条のビームは赤い粒子の壁を貫き、ガンダムの本体に直撃――が、至近距離で放たれた攻撃にも関わらず、アレスの装甲には毛ほどの傷もない。
「装甲の強度まで上昇しているのか」
真紅の機体が距離を取ろうと飛び退く。同時にガンダムがその姿を消失。
次の瞬間、ガンダムが出現したのは真紅の機体の背後、飛び退いた先に出現していた。
ガンダムは唯一残った右腕を伸ばし、真紅の機体の右腕を掴んだ。
「どうやら、ボクは軽率だったようだな」
レアードが反省するように呟いた直後、真紅の機体の右腕が赤く溶け出した。

127七四三:2009/01/18(日) 11:40:36 ID:???
「天才だな…」
全ての後始末を他の者に任せ、自室に引きこもったアルトリオはモニターに映るガンダムアレスと真紅の機体の戦闘を観察しながら呟いた。
その呟きはミカドに向けられたものではなく、ましてやレアードに向けられたものでもない。
アルトリオはモニターから視線を外すと、傍らにある本へと目をやる。
表紙にタイトルは無く、ただ『アイザック・レヴィン』という著者の名前だけが記されている。

アイザック・レヴィン――
その名が記された本であれば、書いてある内容はただ一つ――
エーテリウムについての物だと少しでも科学をかじっていれば推測できる。
エーテリウムの発見者であり、たった一人でエーテリウムを用いた重力制御、慣性制御、ワープ装置の基礎理論を完成させた天才。
アイザック・レヴィン博士。
百年も昔の人物であり、既に他界しているが、現代の科学技術は全て彼が遺した遺産で成り立っていると言っても過言ではない。
アルトリオは、そんな偉大な先人の著書を手に取る。
「見えるか…?」
語りかけるように言葉を漏らしながら、アルトリオは、再びモニターに目をやる。
「これが全てを知る天才のアンタが望みながらも手が届かなかったエーテリウムの本質。そう、それこそが――」

「WEED」

エーテリウムの本質――
今の世界でどれだけの者がそれを理解しているのか、アルトリオには知る由もない。
エーテリウムという物質の本来の性質。
それは簡潔に言えば『空間制御』
重力制御も慣性制御もワープも特定の空間のパラメータをエーテリウム本来の空間制御で都合の良いように変えているだけであり、エーテリウムの本質を理解してしまえば、陳腐としか思えなくなる。
だが、それでも――
「そこまでしか届かなかった」
本質を認識ではなく、理解していたアイザックですらエーテリウムの物質としての本来の力を引き出すことはできず、結局は陳腐な技術の実用化に人生の全てを捧げるだけで終わってしまった。
それは何故か?

問うまでもなく、既にアルトリオは答えを持っている。
結論もまた陳腐、単に技術力が足りなかったのだ。
その事についてはアイザックを責めることはできない。
――だが、アイザックに関して責めるべき部分が皆無という訳ではない。
アイザックが責められるべきは自身が作り上げたエーテリウムに関する基礎理論の論文と著書にある。
128七四三:2009/01/18(日) 11:42:02 ID:???
内容だけで言えば全く問題は無い。
エーテリウムに関する理論自体は完璧。
だが、その理論は完璧すぎた。
あまりにも完成されすぎた理論は発展性を根こそぎに否定するようであり、その上どのような意図を持っていたかは定かではないが、アイザックの書く論文は常にエーテリウムに本質を隠蔽しようとする作為が隠されていた。
世紀の大発見となりうるエーテリウムの本質を理解しながらも、ひた隠しにしようとする理由。
アルトリオはその事に些かの心当たりがあるが、それは未だ想像の域を出ないため胸の内にしまっておく。

「まぁ、どんな理由が有ろうとも、今となってはどうでも良いことだがな」
アルトリオは本を置きモニターに改めて目をやる。
そこには、赤い粒子を纏ったガンダムアレスが真紅の機体の右腕を掴む映像があった。
――アイザックが生きていた時代の技術ではエーテリウムの本質に到達するのは不可能だった。
では、百年以上が過ぎた現在ではどうか?
それは当然可能だ。
そうして産み出されたのがWEEDであり、今のガンダムアレスの姿なのだ。

WEEDシステム――
Wはwill(意志)
EはEtherium(エーテリウム)
EはExcess(超過)
DはDrive(駆動)
意味を繋げるとすれば、
『意志によるエーテリウムの超過駆動システム』
シエラ・レオーナの父が理論を構築し、シエラ自身が完成にこぎ着けたこのシステムはパイロットの意志をエーテリウムと感応させる事により発動。
パイロットの意志を最適化、直接エーテリウムに信号を送ることで、特定の範囲内の空間制御を思いのままに行うことができる。
特定の範囲とは粒子に覆われた空間。
その中であれば、WEEDを発動させたガンダムは絶対の存在となる。

「WEEDシステムNo.U/Ver.Ares」
アルトリオは絶対の存在となったガンダムアレスを期待のこもった眼差しで見つめながら呟く。
「その力、見せもらおうか」

――十五話に続く
129七四三:2009/01/18(日) 11:51:31 ID:???
「これでは、オカルトやファンタジーの類だ」

まさに、この台詞通りの展開になってしまいました。
WEEDに関してはもっと説明的に書こうと思ったんだけど、端折りました。

勢い任せで推敲もしなかったので全体的にぐちゃぐちゃなノリになってしまいました。
130通常の名無しさんの3倍:2009/01/18(日) 22:21:38 ID:???
投下乙
131安東愛季 ◆4sZBoZG4UI :2009/01/21(水) 20:48:26 ID:???
作り掛けだけ残ると目障りなので吐き出しちゃいますね。
ばぁい


「やる気か?」とフェイドは囁いた。
「やる気か?ったって・・・そんなん弁償代払えねぇだろうがよ。」モケは格好をつけたような感覚で言い放った。
僕はそれ挟むように「あんな所ってセコム付けられてるんでしょ?・・・なら偲び込めた所でどうにもなりませんよ・・・。」と言い放つ。
刹那にモケは、言葉を振り切って「さぁ行こう。」と言った。今日のモケは一味違ったと言えばよいのだろうか。
僕はみんなが玄関に向かっていくのを振り切れずにみんなと一緒にわざとセコムに掛かりに行くことを決意した。
アジトとその豪邸は、よほど遠くなく、目と鼻の先だ。
昨日や先日は、豪邸の男が喧嘩吹っ掛けて来て、フェイドがキレて危うく殺し合いになるところだった。
だが、最近になって豪邸の男は来ない。
刹那、誰かの悲鳴のようなものが聞こえ、淫らに「やめてぇ!」と叫ぶ音が脳にねじ込まれた。
僕はそれをもろに聴いてしまい、頭が変になった。もちろん叫んだんじゃない。豪邸から来る…なんか…電波のようなものだ。
これは普通の人や仲間達と違って、僕だけがそういう音を感知すると、頭が痛くなったりする。僕にしか聞こえない。
ヘイド・モケ・ペジオ達は、豪邸のドアに迫った。
132通常の名無しさんの3倍:2009/01/22(木) 19:19:53 ID:???
実際の所このスレって今どれくらい人いるの?
133通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 00:05:17 ID:???
>>132
ノシ
134東西 ◆1eW7huNls2 :2009/01/23(金) 21:47:22 ID:???
七四三乙です
益々面白くなってきた!
135七四三:2009/01/25(日) 01:20:04 ID:???
自分一人だけ延々投下してんのも、何だか気が引けるんだけども投下します。

例によって、またもや>>129の台詞を言いたくなるような展開です。
136通常の名無しさんの3倍:2009/01/25(日) 01:21:47 ID:???
異説機動新戦記ガンダムウィード

第十五話 魔王

「粒子による熱化現象」
ガンダムアレスの粒子を纏う腕に掴まれた途端に溶け出した右腕を見て、レアードが呟く。
その視界の中でアレスの腕が纏う粒子が形状を変える。
それは、蛇のようにアレスが掴んだ部分から伝わって、真紅の機体の腕を這い上がっていく。
それをレアードはすぐさま危険と判断。
即座に真紅の機体は左手に持つ銃で、自らの右腕を肩の付け根から吹き飛ばし、飛び退く。
自らの機体を傷付ける苦肉の策。
だが、そうでもしなければ殺られていた。
真紅の機体が自ら切り離した右腕。
アレスの放つ粒子に呑み込まれたそれは、いまや原型を留めぬ程に溶け崩れ、素材として使われている耐熱合金が溶岩のように地面に零れ落ちていく。
少しでも躊躇っていたのなら、レアードもまた切り離した右腕と同じ末路を辿っていたことは間違いない。

「チッ…」
レアードが舌打ちをすると同時に真紅の機体が左手の銃の引き金を引く。
所謂オートマチック型のそれは、リボルバー型の物に比べると連射性能では勝るものの、威力の面では劣り、アレスの纏う粒子の盾の前では牽制の役割さえ覚束ない。
本体に届かないのだから傷など付くわけがない。
地面より僅かに浮き上がるガンダムアレスは無意味な攻撃を続ける真紅の機体を破損した頭部で見据える。
そこから発せられる気配は優位に立つ者が持つ余裕に似ており、それがレアードの自尊心を僅かに傷付ける。

――殺してやろうか…
レアードの意識が変化を遂げる。
『WEEDの確保のついでに殺す』から『殺すついでにWEEDの確保』へと優先順位が入れ替わる。
時を同じくして、アレスにも変化が生じる。
それはレアードのように目に見えぬ変化ではなく、現象としてハッキリと認識できる変化。
アレスの纏う粒子が爆発的の増加を始めた。
それは決して幻想的とは言えない、おぞましい光景。
ガンダムアレスが放つ、赤の粒子が血の色の津波となって周囲を呑み込んだ。
とっさに空へと逃れた真紅の機体の中より、レアードは粒子に呑まれた地上を見下ろす。

そこはまさに地獄さながらの世界。
アレスの放った赤い粒子は呑み込む物全てを灼熱により溶かし尽くし、周囲を形あるものが存在することを許されぬ死の世界へと変貌させた。
「ただ在るだけで破壊をまき散らすか」
レアードは見たままを呟く。
そこに感情の加わる余地はない。
137通常の名無しさんの3倍:2009/01/25(日) 01:23:09 ID:???
今のレアードにとってはガンダムのパイロットの殺害こそが第一の目的であり、それ以外は真実どうでもよかった。
唯一つ思うことがあるとすれば、大量の粒子のせいで、その中心にいるアレスに攻撃が届かないのではないかという懸念だけだった。
レアードは試しにアレスに向けて左手の銃を撃つ。
が、既に十数mの厚さを獲得した粒子の盾の前では何の意味もなさない。
それどころか、逆に手痛い反撃が待ち受けていた。
地上のアレスを中心とし、ドーム状に広がる赤い粒子。
その外壁部から一斉にビームが放たれた。
拡散している粒子を空間制御で集束、加速させて撃ち出した粒子ビームは圧倒的な量の火線で真紅の機体に迫る。
点ではなく面と言うべき射撃が真紅の機体を呑み込むが、最高の性能を持つ耐ビーム装甲がそれを無傷で防ぎきる。
だが、アレスの攻撃はそこで止まらない。
ドームを形成する赤い粒子が形状を変化。空中の敵に目掛けて、蛇のように伸び上がり襲いかかる。
ビームを防ぎきる装甲であっても赤い粒子に直接触れてしまえば、ただでは済まないと失った右腕が実証している。
レアードは逃げることに決め、機体を翻らせる。
赤い粒子の蛇が真紅の機体の背を追うが、速度の差ゆえに追いつくことは出来ない。
すると、粒子の蛇は攻撃方法を変更。真紅の機体を追う粒子の蛇がビームを放つ。
追尾しながらビームを撃つ、いわゆる有線式ビーム砲のような攻撃が真紅の機体を捉え、ダメージは与えられないものの、絶え間ない連射により真紅の機体の足を止めることに成功する。
同時にアレスを中心とする粒子のドームが再び形状を変化。
新たに作り出された粒子の蛇が、ビームの連射に足止めを受けている真紅の機体に襲いかかり、その左足に食らいつく。
アレスの放つ赤い粒子、それに触れたが最後、その行く末は決まっている。
粒子の蛇が絡みつく真紅の機体の左足がバターのように溶け出し、膝から下を消失させる。
――何だこれは…?
左手の銃で左足を付け根から吹き飛ばし、粒子の蛇が這い上がるのを防ぐ真紅の機体。
――何故、ボクがいいようにやられている…?
逃げる真紅の機体。
粒子の蛇は追わず、役目は果たしたと言うように大気へと散り、形を失っていく。
――遊ばれている…?
真実がどうであれレアードには、そうとしか思えなかった。
それは屈辱であり、自らを『殺す者』と自負するレアードのプライドを大きく傷つける。
138七四三:2009/01/25(日) 01:24:52 ID:???
『殺される者』が『殺す者』に反逆するなど許されることではない。
それは例えるなら、捕食者である肉食動物が被捕食者である草食動物に喰われるような、自然の摂理に反することだ。
「許されない……! これは許されざる行いだ…!!」
『殺される者』であった存在に反逆の力を与えるWEED。
それは自然の摂理に反する在ってはならない力。
「そんな力は永久に喪失されるべきだ…!!」
レアードの瞳に危険な光が宿る。
WEEDはレアードにとって、もはや確保すべき存在ではなくなった。
それは、レアードの世界の摂理を破壊する、この世から抹消しなければならない物へとその意味を変えた。
命令などはもうどうでも良い。これは自身のアイデンティティに関わる問題。決して看過することは出来ない。
手加減などはするつもりは無い。
全力をもってガンダムとWEEDを破壊する。

「……現在の武装を破棄……」
レアードが底冷えのするような声で呟き、同時に真紅の機体の腰に装備された五つのホルスターとコンテナが切り離され、地上へと落下する。
「……続いて現在の機体形態の破棄を開始――」
コックピットの中、レアードの手が一つのスイッチへと伸びる。
「――機体形態を戦闘形態へと移行する……!!」
レアードの指がスイッチにかかり、力が込められた瞬間――
『ダメだヨ』
独特なイントネーションの言葉が聴こえた。
『ナニやってんノ、キミ?』
レアードにとっては同じ組織のメンバーの声。
「ボクの邪魔をするな…!!」
『それはムリ。キミ、イマWEEDをぶっコワそうとしてたよナ? それはダメ、スゴくダメだナ。WEEDはコワすモノじゃなくてモってカエるモノ。メイレイをワスれてはいけないナ』
通信の向こうから聞こえてくる声は正論であり、今のレアードには返す言葉がない。
『キョウはもういいからハヤくモドってコい。どうセ、WEEDがハツドウしちまってるキタイなんてコワさなきゃモってカエれないんだかラ、ハツドウしてないベツのキカイをネラうことにしようヤ』
「クッ……」
聞こえてくる声が正論とは解っているものの、感情的になっているレアードには、その言葉を鵜呑みにすることは出来ない。
「ボクに指図するなっ!」
レアードは感情を露わに声をあげる。
――解ってはいる、これから幾らでも機会はあるという事を、ここは引くべきだということも…
139七四三:2009/01/25(日) 01:26:18 ID:???
レアードは深く息を吸い、ゆっくりと吐きながら、動かずこちらを見据えているガンダムアレスを睨みつける。
――機会はある、機会はあるのだ。ガンダムを…WEEDを破壊する機会など幾らでもある。いつか必ず、ボクがこの手で破壊してやる、その存在を…

「……帰還する…」
感情的な声から一変、押し殺したような声を放ち、レアードは機体を操作。
転送の準備をする。
自分の目的がマレブランケの目的から乖離しつつあることをレアードは理解しているが、その事に対しては何も思わない。
レアードの心には自身の世界の摂理を守ろうとする強い義務感だけがあった。
「次に会う時がお前の最後だ…!」
去り際にレアードは言葉を残し、真紅の機体が転送、帝都からその存在が消え去った。

後に残されたのはガンダムアレス、ただ一機。
それは結果的には勝利と言えるかもしれないが、アレスの放つ赤い粒子に呑み込まれた街並みの惨状を一目見れば、そのような事は決して言えないだろう。
そして、絶望的な状況から起死回生の一手を掴み、勝利を手に入れたミカドにしても、勝利の余韻に浸る余裕などは与えられなかった。
敵である真紅の機体が消え去ったにも関わらず、アレスの放つ粒子は増大を続け、帝都の街並みを呑み込みながら死の世界を広げている。
ミカド自身には、その事に対する自覚はない――というか、自覚を抱く余裕などは今のミカドには無い。
ミカド自身もまた、ある種の極限状態にその身を置かれていた。

――頭がいてぇ……
コックピットの中のミカドは青ざめた顔で、頭痛と共に襲いくる吐き気、そして頭に流れ込む莫大な量の情報に苦しんでいた。
ミカドに流れ込む情報とは粒子の内にある全て。
赤い粒子によって覆われた空間内のありとあらゆる情報がWEEDを通し、余すところ無くミカドの脳へと一気呵成に流れ込んでいた。
尋常ではない情報量はミカドの脳の処理能力を軽々と上回り、脳に悲鳴を上げさせる。
マトモに意識が在ったのは、WEED発動の直後まで、そこから先の戦いはミカドの本能が成した事であり、ミカド自身は処理限界を迎えた脳が放つ苦痛に苛まれていただけだった。
そして、それは今のミカドにしても変わりはなく、出来ることは苦痛に耐えることだけであり、他のことに手を回す余裕はない。
自覚的に制御されていないWEEDは、粒子の量を更に増大させ、全てを呑み込もうと、その範囲を広げ続ける。
140七四三:2009/01/25(日) 01:28:35 ID:???
粒子を撒き散らすガンダムアレス、その姿を物陰より見つめる影。
「……これって、いわゆる暴走ってヤツじゃねーの?」
ガンダムアレスの戦闘を誰にも気付かれずに見物していた男がいた。
「ああ、その通りだな」
「それって、めっちゃヤベーんじゃねーの? そこんとこ、どーなのよ。ラザーク?」
「ヤバいに決まっているだろう。恐らく、後三十分程度であの赤い粒子は帝都を呑み込み、溶鉱炉に変えてしまうだろう。そういう訳で、お前はこれからどうするんだ、ラザークよ?」
「どうするっつってもなー。まぁ、とりあえずはツッコミ待ち?」
……その場にいるのは、ラザーク・ゴッドウィン、ただ一人だった……
「って一人芝居かよっ!!」

ビシッ!!
――という音が聞こえてきそうな程に見事なフォームのツッコミが誰も存在しない空間に繰り出された。
とりあえず、自分に自分でツッコミを入れてみたラザークだったが、それは却って、いたたまれない思いを強くし、独りの寂しさに傷ついたラザークは力尽きたように、その場にしゃがみ込む。

「ワイは兎や…!兎さんなんや!!寂しいと死んでしまうバニーさんなんやっ!!
それなのに、ガッデム!!なんでどいつもこいつも俺にhelpを求めない!? Why!? はっ!もしかして、俺って嫌われてる!?っていうかシカトされてる!? うわぁぁぁぁぁぁき〜ず〜つ〜く〜〜〜、かと思ったけど、but実は全然傷ついたりしなかったぜ!!」
悪いクスリでもやってるんじゃないかと思うようなテンションだが、これが平素の状態。
気を取り直したラザークは打って変わって、朗らかな様子で立ち上がる。
だが、そこに丁度、アレスが放出した赤い粒子が津波となって迫る。
しかし、ラザークは動じない。
ラザークは粒子の津波へと向き直ると、片腕を手刀の形で天に掲げ――
「ゴッドウィンセイバ―!!」
一閃。
叫びながら手刀を粒子の津波に向けて振り下ろした。
直後に生じたのは信じがたい光景。
ラザークの手刀が粒子の津波を切り裂いた。
それはまるで、モーセが海を割ったような光景。
ラザークの手刀は粒子の津波どころか、その後ろに広がる粒子の海をも切り裂いていた。
しかし、そんな凄まじい光景を生み出した当人であるラザークは、至って涼しい顔で佇んでいた。
(いや、涼しい顔してるけども、実はやせ我慢だから! 本当は火傷しちゃって、手が赤くなっちゃってるから!!)
141七四三:2009/01/25(日) 01:30:26 ID:???
その姿を見れば、誰もが息をのむような美青年が傍目には平然と見えながらも、心の内で声にならない声を叫ぶ。
だが、そうしている間にも、赤い粒子は蠢きを続けている。
切り裂かれた部分を補った赤い粒子の海が、再び津波となってラザークに迫る。
「今朝の俺の糞みてえに、ダバタバと出てくるなぁ」
感心したように言うと、ラザークは跳躍して、津波から逃れる。
ラザークの跳躍はMSがスラスターを使ってジャンプするのに匹敵する高さを見せ、粒子の津波を飛び越える。
流石に自由に空を飛ぶことまでは不可能な為、重力に従い落下していくが、ラザークは動じる様子もなく、真下に広がる赤い粒子の海を見つめ、ガンダムアレスに向けて叫ぶ。

「Hey! cherryboy!! チェリー色なのはナニだけにしとけ!!」
赤い粒子を揶揄して、ラザークが品のない言葉を吐く。
それに対するガンダムアレスの返答は粒子の蛇。
落下中のラザークに向けて、粒子が蛇のように襲いかかる。
「触手!? 触手っすか!? エロい! エロいなぁ!! このマセ餓鬼がっ!! エロいゲームばっかりやってんじゃねぇ!!」
ラザークは落下中の体を巧みに操り、粒子の蛇を蹴りの一撃で掻き消す。
「独り寂しくゲームしながら汚い手で触ってっから、そんな赤いのが出てくんだ!! 病院行け、病院!!」
品性のアウトとセーフ。不確かな二つの境界をラザーク・ゴッドウィンは突っ走る。
その言動からは、地面に向けて落下している最中だという危機感は感じられない。
「こんな街中で汚ねぇもん撒き散らしやがってよぉ。 これはあれだ、あれ。お仕置きだ、お仕置き。お仕置きすんぞ、この野郎!!」
叫び――不意にラザークの表情が真剣なもの変わる。
「まぁ、お仕置きってのは冗談にしても、流石にそのままにはしておけねえよ。ミカちゃん」
ラザークはミカドの名を親しげに口にする。
その口調は表情と同じように、それまでとは打って変わって、真剣な響きを帯びている。
「ミカちゃんにゃあ悪いが、相当に痛い思いをしてもらうぜ」
ラザークの右目の前にスクリーンが投影される。
それは、MSを転送するという合図。
瞬時に各種の設定を完了し、ラザークが口を開く。

「使うぜ…俺の――ガンダムッ!!」

直後――現れたのは青と白でカラーリングされた、ガンダムアレスの鋭角的なフォルムとは対照的な曲線的フォルムを持ったMS。
142七四三:2009/01/25(日) 01:32:30 ID:???
ラザークにより転送された青と白の機体が、落下中のラザークに向けて手を差し伸べる。
ラザークは差し出された手のひらの上に危なげなく着地。そして、堂々とした態度でガンダムアレスを見据えながら、口を開く。
「ガンダムジュピター。諸事情により、現在は名前を変更している」
それだけ紹介すると、ラザークはすぐさま機体に乗り込む。
地上にある粒子の海から、大量のビームが撃ち出されたからだ。
「礼儀がなってねぇな、名乗る時間くらいゆっくりよこせや」
ガンダムジュピターと名乗った機体が、手を手刀に腕を天に掲げ、振り下ろす。
たったそれだけの動作で、大量のビームが一瞬で掻き消える。

「WEEDシステムNo.T/Ver.Zeus」
ラザークの呟きと同時に、ジュピターから鮮やかな青の粒子が爆発的な勢いで放出される。
「暴走した理由ってのは、大体わかるぜ」
ラザークは聞こえてないとは理解しながらも、ガンダムアレスひいては、その内にあるミカドに語りかける。
その表情には、ミカドのようにWEEDの発動によって苦しむ様子は全く見られない。
「まぁ、気にすんなや。初めてのことに失敗なんてつきもの。かく言う俺も、初体験の時には大失敗をしちまってなぁ…すげー恥をかいたもんだ」
アレスが放った赤い粒子の蛇が数十という数でジュピターに迫る。
「え? 話が違うって? 堅いことを言うなよ」
だが、蛇が食らいつこうとした瞬間。ジュピターの姿が消失。

直後――アレスの眼前にジュピターが出現。
全てを溶かす赤い粒子。その内に入りながらも、青い粒子を纏うガンダムジュピターは形を保っている。
「今度、力の使い方ってヤツを教えてやるよ」
ジュピターが拳を放つ。
WEEDにより、拳が威力を発揮するための障害となる要素を排除。
ジュピターの拳は、それが望みうる最大限の威力を獲得した。
だが、アレスは自らを転送することによって、それを回避する。
しかし、それはラザークにとっては狙い通り。
ラザークがジュピターの拳に込めた本来の意図。
それは、ガンダムアレスへの攻撃ではない。
「まぁ、今度って言っても今の状況を何とかしてからだな」
アレスの消失によりジュピターの拳が空を切った、その時――爆発音に似た破裂音が鳴り響き、ドーム形成した赤い粒子の海が弾け飛ぶ。
WEEDに扱いに関しては一日の長があるラザークにとっては、この程度のことなどは容易い。
143七四三:2009/01/25(日) 01:34:04 ID:???
雲散霧消していくアレスの赤い粒子。それに代わり、ジュピターから青い粒子が放出される。
放出される粒子の量はアレスの比ではなく、ガンダムジュピターは一瞬にして、アレスが作り上げた以上の大きさの粒子のドームを形成する。
転送により、ジュピターの拳から逃れたアレスも、その巨大なドームのからは逃れられず、粒子の充満する空間に捕らえられる。
「まぁ、とりあえず今は――」
ラザークの言葉。それは、絶対の宣告。
「――眠ってろ」

その瞬間――全てが堕ちた。

青い粒子のドーム。その内に在る、ガンダムジュピター以外の全てが、抗うことの許されぬ力を受け、垂直方向に圧し潰される。
空中に浮いていたガンダムアレスも、その力からは逃れられず、大地に叩き付けられ、その身を軋ませながら、身じろぎ一つ許されない。
ラザークは、そんなアレスの姿を確認しながら語る。
「WEEDを止めるには、発動時間が終了するのを待つか、乗ってる奴を戦闘不能――この場合は気絶か? まぁ、兎に角そうすりゃあ良い。
だけど、暴走中は基本的に時間切れっつうのがねーから、ミカちゃんにはワリぃけど、荒っぽい方法でいくぜ」

ガンダムジュピターを中心として形成されていた粒子のドームが拡散し、消滅。
しかし、ガンダムアレスの周囲の粒子はそのままで、ガンダムアレスをその場に押さえつける。
「あんまり、広い範囲で使うと、停電になって苦情が来っから、地味にいくぜ」
聞こえていない事は理解しながらも、ラザークは気安い口調でアレスのコックピットにいるミカドに声をかける。
誰もが息を呑む美貌の青年。ラザークが、コックピットの中でニコリと笑う。

「じゃ、そーいうわけで、Let's Thunder!!」

その言葉が放たれた瞬間。雷光が閃いた。
それは、アレスの周囲を覆う青い粒子から放たれ、電撃が走る。
赤い粒子が盾となり、アレスを守ろうとするが、帯電した青い粒子が容赦なく引き裂き、アレスは防ぐ術も無く電撃に身を灼かれる。
「死なない程度には、威力を抑えてるから、どんとウォーリー」
雷光が音を立てながら、辺りに散っていく中で、アレスにも変化が生じる。
元々、凄まじい損傷を受けていた機体ゆえに、電撃によって生じた新たな損傷は目立たないが、アレスが放出する粒子の量が明らかに減っていく。
「お、もう終わりか?」
WEEDとは意志の力で使うもの。意識を失えば使うことはできない。
144七四三:2009/01/25(日) 01:34:55 ID:???
電撃はコックピットの中にいるミカドのもとにまで届いており、その意識を無理矢理に奈落の底に叩き落とそうとしていた。

ヤバい…これは死ぬ……
電撃の威力は凄まじく、ミカドがそれまで受けていた頭痛を遥かに上回り、確実な命の危機をミカドに認識させる。
絶え間ない責め苦。程なくして、ミカドの意識と肉体に限界が訪れる。
……もう…ム…り……
薄れゆく意識、闇へと変わっていく世界の中で、ミカドの脳裏に浮かんだのはこんがりと焼けたステーキだった。


「あー、マッズイなー。失敗した……」
コックピットの中、モニターに映るガンダムアレスの機能を停止した姿を見てラザークが呟く。

「加減間違えちゃった☆」

後編に続く
145通常の名無しさんの3倍:2009/01/27(火) 20:34:56 ID:???
保守
146通常の名無しさんの3倍:2009/01/29(木) 14:12:41 ID:???
ガンダムジュピターの名前に吹いたw
147七四三:2009/01/29(木) 23:11:01 ID:???
俺も失敗したと後悔してるから、言わんといて。

最初はガンダムゼウスにしようとしたんだが書く直前で名前がかぶってることに気がついて、意味が同じになる神様の名前を付けたというわけで

ゼウス(ギリシャ神話)

ユピテル(ゼウスのローマ神話版)

ジュピター(ユピテルの英語読み)

こういう経緯を経てるという事だけは理解して欲しい。

その名残で
「WEEDシステムNo.T/Ver.Zeus」というセリフでZeus(ゼウス)というのを残してるというわけで、とにかくそんな感じ
148エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/30(金) 08:43:45 ID:???
久々に投下してみる
149エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/30(金) 08:45:01 ID:???
ガンダムL
第十一話 反撃の狼煙

「手ひどくやられてしまったな」
地球連邦軍所属、デルタ隊所属のサムソン・ランガード上級大尉が言う。
「……」
長い茶髪を一つに束ね、鋭い眼光を持つ男…レンザ・スロウン大尉は、腕を組み壁に寄り掛かったまま不機嫌そうに顔を動かして見せる。
ただ、それだけで返事はない。
「まさかレンザ、お前が退けられるなど…いくら相手が複数だったとはいえ、これは思った以上に事態は深刻だ」
最早サムソンの顔に戦いを楽しむといった表情は微塵も感じられない。
いや、元々生真面目であるこの男は、戦いといった浅ましい衝動に何の感情も持ち合わせてはいない。
必要だから戦う、戦いが起きるから戦う。
隊長であるモナーク・ホプキンドはまだ若い。
いくら22歳という若さで信じられないような冒険譚を、それこそ数えられないほど子供達に聞かせてやれるほどの武勲を立て続け立たとはいえ、彼には経験というものが不足している。
それ故、時折戦いを楽しむ素振りを見せる。
いや、困難というものを知らない人種とは、あるいは初めて目の前に立ちはだかる壁を前に一種の興奮状態に陥ってしまうのかもしれない。
サムソンは戦いが、いかに恐ろしく、浅ましく、そして愚かであるかを、長年の経験というものから嫌というほど知っている。
だからそれを一種の娯楽とするような人種のことなど、逆立ちしたまま地球を一周することが出来たとしても分かり合えはしないだろう。
もし、もし…モナークが…自らの隊長が、若さ故の過ちによって、討たれたなら…あるいは、道を誤ったなら…
その時は、副隊長である自分が、彼の仇を取るなり、彼を討つなりしなければならない、とサムソン・ランガードは考える。
「フッ、興が乗らんな。レンザ一人に全てを持って行かれたのでは、私の活躍する場所が無くなってしまうではないか!」
間に割って入るKYを前に、サムソンは静かに溜息をつく。
「…お前は一回死んだ方がいいかもしれないな…」
「ん?何か言ったかね?」
「何も」
しかし実際、死なれても困るのだが。
整備士のエリオット・アビス少尉を除いて、七名のトップエリートで構成されるデルタ隊。
その中で更に三名、飛び抜けた操縦技術を持つ者が、モナーク・ホプキンド少佐を始めとして、このレンザ・スロウン大尉とタケル・クロード中尉なのであった。
この三名は、AG0065における、地球連邦軍最強のパイロットであるといっても過言ではない。
150エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/30(金) 08:46:07 ID:???
“明星”モナーク・ホプキンド。“鷹狩り”レンザ・スロウン。“益荒男”タケル・クロード。
…まあ、ぶっちゃけこんな二つ名に意味なんてあるの?と言われればそれまでなんだが…
そんなエリート達が雁首揃えて、何やら話している一場面。
そこに割り込む人物が一人。
「皆、朗報だ」
隊長らしからぬ登場の仕方をしたのは、モナーク。
「もう一度、彼らに会える」
その顔は何処か嬉々としている。
ああ…サムソンは目を細め、目の前の若者を見ることしかしない。
「ミトラ・ミトラの件に、リズエッサの件。ここまでされて流石に連邦政府も黙っているつもりはないらしい」
「それでこそ私の連邦!」
「いつタケルの物になったのよ」
もっともな突っ込みを入れる少女、フウラ・レジスター少尉。デルタ隊の紅一点にして最年少だ。
「フッ、知っているぞ、フウラ。今の君の指摘のことを、流行り言葉でけーわいというのだろう!」
「…他の皆はKの字にならないでね」
「ん?何か言ったかね?」
「何も」
「おいおい、続けていいかい?」
「無論だ!」
やや困ったようなモナーク。
「先の二件に関わっていたのがあの部隊だということはわかってる。で、いよいよ俺達を筆頭に、本格的に旧アラスカ領のダルタイル基地に侵攻をかけるらしい」
「バカな!」
いきり立つサムソン。
「戦争でも始めるつもりか!」
「報復だよ」
サムソンを制止した男が言う。
ひどく澄んだ瞳を持つ、金髪の男だ。
よろよろと立ち上がり、フラフラとサムソンの前に立ちはだかる。
そしてサムソンの肩に手を置くと、いやに済んだ瞳で語りかける。
「おいおい、副隊長殿。アンタこそわかってんの?あの宇宙人共にあれほどまでにコケにされたんだぜ?」
「ハンス」
男はもう一人の危険因子、“不協和音”ハンス・オルドロッソ少尉であった。
「なぁ?丁度良い機会だよ。地球に住まう汚らわしい宇宙人共を消毒する、な。連邦は十分な戦力を蓄えてる」
徹底的な反ダルタイル思想を掲げ、ダルタイル人を人と思わないこの男は、軍規以上の虐殺を行ったことで二階級降格、幽閉された過去を持っていた。
しかし、その腕を買われて死罪だけは免れ、変わり者の集まりと揶揄されるこのデルタ隊にやってきたのだった。
「そういうことではない!今ダルタイルと争えば、どういうことになるか貴様とて判らんはずもあるまい!」
151エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/30(金) 08:46:58 ID:???
「どういうことになるか、だと?決まってるさ、農家は大助かりだろうよ。それとも烏が餌を探しに飛びまわらなくてよくなる、と言った方がいいかな?」
「貴様!」
サムソンがハンスの胸倉を掴む。
「止せ、サムソン!」
サムソンを制止するモナーク。
「これは残念ながら決定事項だ。…ただ、俺達にはライセンスがある。拒否権がある。サムソン、あなたは残っても構わない」
便利なワード、ライセンス。
「……ッ!」
「十個師団を投入するそうだ。俺達の任務は奴らをおびき寄せ、あわよくば撃墜すること」
ひゅう、口笛が鳴る。ハンスのものだ。
「なお、それぞれに新型機が与えられることとなっている」
「へぇ、最高だね。大義名分だけじゃなく道具までくれるんだ、お偉いさん」
「興は乗らんが…いささか楽しみでもある」
「いつもどーりのお仕事がちょっとメンドーになる程度でしょ?」
「まあそういうことだ。皆、頑張っていこう」
軽い、部活のようなノリでフランクにまとめるモナーク。
それぞれがそれぞれの反応を示す中、サムソンは一人、その拳を強く握り締めたのだった。

「天才だな…」
ウジサト・ガモウはモニターから視線を外すと、傍らにある本へと目をやる。
表紙にタイトルはなく、ただ『アイザック・レヴィン』という著者の名前だけが記されている。
「エーテリウム、か。これがあれば、連邦を…」

アイザック・レヴィン。この時代ではダルタイル帝国最高学府で教鞭を取る学者の一人に過ぎない。
エーテリウムの発見者であり、その基礎理論、もっともAG0065においてはごくごくわずかな部分だけだが…を解き、MSに応用させることに成功した人物。
エーテリウムをMSの動力部として作用させることで、従来の何倍もの機体性能を引き出せる、ということを解明した人物であった。
もっとも彼がこの時点において、エーテリウムに隠された特性を既に解き明かしていたかどうかは不明であるが…
とにかくこの時代におけるエーテリウムは、機体性能上昇機関にしか過ぎなかった。
しかし、MS工学界においては世紀の大発見だ。
彼は自身が持ち得る全ての知識を世に出すことなく、天才と称されることとなった。
が、それはまた、別の物語だ。

「見えるか…?」
語りかけるように言葉を洩らしながら、ウジサトは再びモニターに目をやる。
「貴殿がもたらした叡智により、永久に栄える祖国の未来が」
ウジサトの視線…モニターが映す先には、白と翠を基調とした一機のMS。
ガンダム、と呼ばれるタイプのMSであった。
DNG-002 ライトニングガンダム…
エーテリウムを動力基部とし、従来のMSを遥かに凌駕する機動性、精密性を備えることを可能とした機体。
その速度を活かし、更にはMS史上初となる可変機構を備え、全身に搭載されたビーム兵器で敵陣を切り開くことをコンセプトとしている。
技術者にとっても、パイロットにとっても、そして戦果のみを期待する上層部の人間にとっても、夢のような機体だ。
その開発コード、「闇を横切る閃光」…ダルタイル帝国軍一の英雄の二つ名を授けられたその機体は、静寂の中に佇んでいる。
ウジサトはダルタイル帝国に属する一人の軍人として、その心に寄せては返す大きな感動に、すべてを委ねた。
152エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/30(金) 08:47:53 ID:???
「失礼します」
同時刻、ティエル・レナードは自らの父、ドレーク・レナード准将のいる司令室を訪れていた。
規律正しく歩み、敬礼する。
いかな相手が、普段は娘に頭の上がらない父であるとはいえ、彼女の今の表情は娘のものではなく、部下のものだ。
「おお」
父は席を立ち、以前に会った時と変わらない表情で、娘を迎える。
「久し振りだ、ティエル。どうだ、元気にしていたか?」
「…まあまあというところですね」
「ああ、もう。お前は変な所で固いな。今はお前と私しかしないのだから敬語はやめろ」
「…まあまあってところかしらね」
ティエルが答える。
「…ブレイズ、とかいったな。あの部隊は。うまくやれているか?」
「…うん。相変わらず私、スコアトップだし。それなりにやってるから大丈夫よ。エルトも一緒だし」
「そうか、なら良かった。私は心配で心配で…どうだ?ガモウの野郎に何かされてないか?」
…この男、完全な親バカだった。
「大丈夫だってば、父さん。…ガモウのオヤジは、ちょっとムカつくけど…」
ティエルはポリポリと人差し指で頬を軽く掻く。
それから父娘は、しばし団欒の時を過ごした。
ティエルは得意気に、先日あった学科試験の成績が同期の中でまたトップだったこと。
迫りくる敵MSを相手に、自分がいかに華麗に狙い撃てたかということ。
先日エルトと買い物に出かけた際に、荷物持ちの全てをエルトにやらせ、彼が大変慌てていたこと。
流行の服や欲しいバッグがあるが高価な為なかなか手を出せないこと。
それに、日ごろの仲間達との会話で特に面白おかしかったことなどを話して聞かせた。
父は、黙って、しかしこの上もなく優しい微笑みを浮かべ、時に相槌を打ったり、時に驚き慌てふためいてみせたりと、娘の話に耳を傾けた。
(私は、大丈夫だから…)
ティエルは、父に心配をかけまいと、先日ウジサトに与えられた二件の任務のことは話さなかった。
話の途中で、少し思い出さなくもなかったが、父と話しているうちは幾分気が紛れた。
三十分ほどが経過し、話題も途切れ途切れになった時、ふと父が言う。
「ティエル、何か辛いことがあるのなら遠慮なく言いなさい」
いつになく真剣な眼差しだった。
「別に、私は…」
今にも泣き出しそうな己の弱さを、軍人として卑しいものだと片付けることで、プライドの高い彼女は立場を守ろうとしていたのだった。
が、その時…
153エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/30(金) 08:48:42 ID:???
「失礼致します、司令。宇宙のダルタイル本軍による緊急暗号通信です」
司令室に、壁掛けになっているモニターに、一人の男が映る。
「…開いてくれ」
ピッ、男が無言で頷くと、暗号通信回線を開き、モニターに映した。
「…これって…!」
ティエルの目が大きく見開く。
「これは…!やはり、そうか…」
レナード准将は肩を落とす。
「地球連邦軍本部による、当基地への宣戦布告か…だから言ったのだ、あれほど過激なやり方で、連邦との共存は図れないと…」
拳を握り締める。
…レナード准将はダルタイル帝国地球方面軍に栄転されたのではなく、左遷されてきたのだった。
軍上層部の面々や貴族達が参加する帝国議会において、影の支配者であるノワール・カーメンの意見と真向に対立し、穏健派としての立場を取った為である。
議会としては、いや、ノワールとしては、地球連邦による報復の責務を全てレナード准将に負わせることで一石二鳥というわけだ。
表向きは一階級昇進、将官待遇を受けていたのだが、彼にも自分が左遷されたことなど分かっている。
「共存は為し得ますよ、司令。ダルタイルが連邦を支配する、という形でね」
「!」
音もなく司令室に現れたのは、副司令であるウジサト・ガモウであった。
「ガモウ…貴様…!」
「失礼。私もライセンサーとして、ご息女の方に所用がありますので、真に勝手だと承知しておりますが入室させていただきました」
鋭くウジサトを睨みつけるレナード。
ウジサトの方はというと、意にも介さずティエルの方を向く。
「中尉、知っての通り真に遺憾な事態が発生している。私としては、この事態の収拾に君達の力を借りたいと考えている…」
にやりといやな笑みを浮かべるウジサト。
「貴様…!」
静かな怒りを顕すレナードを、ウジサトはかすかに鼻で笑う。
「司令、あなたも軍人であるならおわかりのはずだ」
なだめすかすように、静かにウジサトは言う。
次にティエルの方を向き、かすかに笑いながらねっとりと微笑みかける。
「やってくれるな、中尉」
「……はい」
ビシッと敬礼をするティエル。覚悟ならとうに出来ている。
「助かるよ。司令、ご息女は実に聡明であらせられますな。中尉、副司令室に来たまえ。直ぐに他の者達にも召集をかける」
コツコツと、今度は皮靴の音を響かせながら立ち去るウジサト。
敬礼するティエルと、静かな怒りを覚えるレナード。
目の前を歩く、小狡い男の後姿を目にして、父娘はそれぞれの想いを抱きつつも、見送ったのだった。
154エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/30(金) 08:49:42 ID:???
「緊急招集…?何かあったのかな」
いささか呑気に構えていたエルト・ロウは自室の席を立つと、軽くいつもの寝グセを整え、靴をトントン、と二回鳴らしてから、上着を引っ掴み部屋を出る。
…もっともウジウジ答えのない問答に悩む自分自身に若干嫌気が差し、平時はなるべく呑気に小難しいことは考えないでいようと心掛けていたのだったが。
元が穏やかである、ということもあるが。
急ぎ足で廊下を歩いていると、前方に良く見知った姿を確認する。
「少佐!」
「んあ?」
駆け足で男の元へ向かうと、男はゆっくりと振り向く。
彼の所属する隊の上司、クロスキー・クロス少佐であった。
「よう」
「ええ。緊急招集、受けましたよね?」
「まーな。しかし何だ、俺のシックスセンスが最高にハイってやつだ」
「は?」
「…やな予感がするってことだよ、いつも以上にな」
二人は黙々と足を進め、副司令室に向かう。
「「失礼します」」
ドアが開くと、既に彼ら二人以外の全員が集合していた。
「クロスキー・クロス少佐以下二名、只今到着いたしました」
…んなもん見りゃわかるだろってことを幾分投げやりに告げ、敬礼する。
「うむ」
ウジサトが頷く。
「全員揃ったようだな」
満足気に隊員達を見まわす。
ウジサトは自分の私兵を見るようにして、彼らを見まわす。
「さて、此度は真に遺憾な事態が発生する運びとなった。まずはこれを」
ウジサトが指を鳴らすと、副司令室のモニターに先程の暗号文が浮かび上がる。
「連邦本軍による、この基地への報復宣言…」
エルトは自らの目を疑う。
(そうして、また戦いが起こるのか)
「ダルタイル帝国の威信にかけて、なんとしてもこれを退けなければならんことは一目瞭然であるな。加えてこの戦いが、今後の勢力情勢に大きく関わってくることも否めん」
ダルタイル帝国軍の地球における砦とも言えるこの基地に、連邦軍が宣戦布告したという事実。
その意味がわからないほど、愚かな者はこの場にはいない。
正式な開戦宣言は為されていないが、紛れもなくこれは世界大戦規模の紛争となるだろう。
そして勝者が、新たに発見された金属製小惑星の所有権を取得することになる…
155エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/30(金) 08:50:37 ID:???
「君達には当然、遊撃部隊としての責務を果たしてもらうこととなる」
「………」
騒然となる一同。遠まわしに死ねと言っているようなものだ。
「だが安心したまえ。我が軍には極秘裏に開発が進められてきた新型MSが存在する」
「!」
再び騒然となる一同。誰もが二の句を告げないでいる。
「ロウ中尉」
見下すように全体を見渡し、エルトを指差す。
「…はっ!」
「君に授けたい。DNG-002“ライトニングガンダム”。開発コードは、“闇を横切る閃光”だ」
「……」
「不満かね?」
「!い、いえ、光栄であります!」
「君の祖父、ゴディアス・ロウ元中将の戦闘データを基に開発されたエーテリウム対応型のMSだ」
「!」
「大事に使いたまえよ。忘れ形見だ」
ウジサトは再びニヤリと笑う。
次々と信じられないような事実を突き付けられ、居心地悪そうにする面々。
各人は、各々の困惑に捉われていた。
(何故だ、何故隊長である私に与えんのだッ…!ロウだと…?あの青二才めに何が出来るというのだ、ウジサト!)
怒るパク中佐。
(ううむ、私はあの若造にも劣るというのか…!)
プライドを砕かれたサカザキ中佐。
(エルト…ドンマイ☆)
幾らか楽観的なクロス。ただやはり、その心中は穏やかではない。
(エルトが…新型に…?)
親友を心配する想いと、男女的な意味でのエルトへの複雑な感情、やはり自分の方がパイロットとしては上だと感じずにはいられない心情…
(私って…イヤな娘だな)
…そしてそれらによる自己嫌悪とが瞬時に混ざりあったティエル。
(え…?)
キール・ニールは信じられなかった。
唯一事前にウジサトからこのライトニングガンダムの存在を聞かされており、影でウジサトからも大いに期待を寄せられていた彼としては、青天の霹靂であった。
(何で…ガモウ大佐、僕は…?)
確かにエルトの腕は認める。自分以上だ。
しかしここ最近、しきりにウジサトから個人的に呼び出され、お誉めに与っていた者としては、いささか気分が悪い。
(何でだよ…エーテリウムは…アレは、僕が見つけたんだぞ…)
目の前が霞む。
156エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/30(金) 08:51:42 ID:???
ウジサトは、各人の想いなど知ってか知らずか、どちらにせよどうでもいいと考えたのか、続ける。
「もちろん他の者にも最高の技術を駆使した新型のダンデスを与える予定だ。祖国の誇りを賭けて、存分に戦ってくれたまえ。解散」
ばらばらと、退出していく面々に、続こうとするエルトを、呼び止めるウジサト。
「機体性能実験は明朝だ。君には期待しているよ、中尉」
「…ありがとうございます」
エルトは寂しく笑い敬礼すると、皆に続いて行った。

「なんと!これが私の新しい機体か…」
再び地球連邦軍、デルタ隊基地。整備士のエリオット・アビスによって新型機体の初お披露目がなされていた。
「少数量産機、“メフィスト”だ。コイツはやべえぞ。どのくらいヤバイかって言うとこのくらいヤバイ」
「な、なんだってー!!すっげェェェェ」
アホのような問答を繰り返すエリオットとタケルの二人。もはやキャラが崩壊している。
「メフィスト、ね。コイツでどこまでいけるか見物ではある」
落ち着き払ったモナークと、黙ったままのレンザ。
この三名に、後の“ヘビーデーモン”と、現在の“ヴィルザード”との架け橋になる機体…いずれは闇の歴史に消えることになるのだが…メフィストが与えられていた。
真紅と黒、白銀の三色を基調とした、スマートで流麗なフォルムには、何処か妖艶な美しさが漂っている。
三機しか存在しておらず、その全てにパイロット特性による調整を加えてある為、いわば別物の新型が三機揃ったと言っても過言ではない。
ちなみに、残りのパイロット達には更なる改造が施されたヴィルザードが与えられているのだった。
ニヤリと笑うタケルが高らかに宣言する。
「待っていろ、ダルタイルの諸君。キミの視線を釘付けにする…!あ、それとエリオット、私は蒼が好きだから紅い部分を蒼くしてくれ」
「…やりゃいいんだろ、やりゃ。オマエの我儘にはもう慣れたよ」
「そうか!ありがとう!私はこの機体にヤシャブシ(夜叉武士)と名付けよう!どうだ、カッコ良いだろう!」
「…それは野草の名前だぞ」
ボソッと呟くレンザ。
「構わんよ。何せウィードなのだからな、このお話は」
「…言い得て妙だな」
「とにかく」
無理やりモナークがまとめる。
「待っていてくれ、俺は必ず、君を討つ…!」
窓から差し込む日の光を受け、輝く機体を前に、モナークはその拳を高く掲げた。

十一話 終 十二話に続く
157エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/30(金) 08:55:00 ID:???
ハンス・オルドロッソ(31)
所属:地球連邦軍
階級:少尉
詳細:
デルタ隊のパイロット。行き過ぎた反ダルタイル思想により軍規以上の虐殺を繰り返し、二階級降格した過去を持つ。
パイロットとしての腕は確か。戦闘狂枠。

間空いたんで、次回予告(仮)
遂に切って落とされる決戦の火蓋。
炎の裁きが下される大地に、天空高く駆ける雷鳴の剣が振り下ろされる時、世界は…?

次回「雷鳴の剣」

迫りくる争いの声を、闇ごと斬り裂け!ライトニング!
(CV:セーラーム○ンなAA艦長)

今回は以上です
七四三いつも乙です。楽しく読まさせてもらってます
東西、ぼくははやくブラックエンペラーのつづきがよみたいです!

ミィルのSSも続き読みてぇなー…
ではサヨウナラ
158七四三:2009/01/30(金) 18:47:33 ID:N/Z3VOok
>>エルト
お久しぶりの乙です。
まさか、俺の設定を使ってくれるなんて、ありがたい限りです。
続きも楽しみに待ってます
159通常の名無しさんの3倍:2009/02/01(日) 14:50:43 ID:???
>>エルト
気長に待ってて下さいw
そのうち投下するかもしれません
160通常の名無しさんの3倍:2009/02/05(木) 11:32:20 ID:???
保守
161七四三:2009/02/06(金) 20:28:30 ID:???
後編

粒子の放出が止まり、WEEDが停止。更には、機体の機能まで停止している、ガンダムアレスを見つめながら、ラザークはいつになく真剣な表情を浮かべ、考え込んでいた。
だが、それを遮るようにラザークの元に通信が届く。
「ちょっと、隊長。いるんだったら、俺の方を手伝って下さいよ! 俺、今スゴくピンチなんスから!」
声の主はウィリアム・ケインズ。
インペリアルガードの隊長であるラザークからすれば、部下ということになる。

「黙ってろ、パシリ」
ラザークは部下に対して、にべもなく言葉を返す。
「俺が今、過失によってヒト一人をウェルダンステーキにしてしまったのではないかという罪悪感を一生背負って生きていかねばならないのかと、恐怖に打ち震えるキャラというのはどうだろうかと考え込み。
いや、それよりも、この事がトラウマとなり、肉が食べられなくなってしまった美青年というのもキャラ立ちとしては悪くないなぁ…
と思ったけれど、俺って基本的に肉食だから、それはやっぱり嫌だなぁ…
と考え込んでいる所に何だ、このパシリがっ!!
おまえは何時から、俺様にお願い☆――が出来るようなった!!
この世の摂理として、おまえと俺の関係は俺→おまえ、の一方通行型命令関係!!
Not おまえ→俺!! 俺=おまえ、No!!俺>おまえ!! Understand!?」
「ノ、No…」
「Fuck you!!!!」
ぶちっ、という音が聞こえ、ラザークが一方的に通信を切る。
「ちょっ!? え!? ちょっと…!? え、ええぇぇぇぇ!?」
妹を遥かに凌駕する、身も蓋もない言動にウィリアムは驚愕の声をあげる。
ゼピュロス改のコックピットの中。援軍は絶望的だと、ウィリアムの表情が暗くなった、その時。

『流石に俺とて鬼ではない。おまえが心掛けを改め、それ相応の誠意を見せるというのであれば、手を貸してやらないでもないが?』
恩着せがましく唐突に切り出されたラザークの言葉に、そこはかとなく嫌な予感を覚えるウィリアム。
そこへ、先程から戦闘を継続中の敵MAがゼピュロス改にビームを撃つ。
ウィリアムの操るゼピュロス改は、それを容易に避けるが、敵MAの重装甲の前では反撃の手がない。
――このままではジリ貧。もはや、背に腹は代えられない。
「えーと、何をすればいいんでしょうか?」
ウィリアムは屈してしまった。〈魔王〉の異名を持つ、帝国最強の男に――
162七四三:2009/02/06(金) 20:30:12 ID:???
『そうだな。とりあえず、パン買ってこい。パン』
ラザークの口から放たれたのは傍若無人を通り越して、理解不能の言葉。
「は? ……あの…俺、戦闘中なんスけど…」
『イヤなら手は貸さねえ。ていうか、貸せねえ。だって、お腹が空いて力が出ないって状態なんだもん☆』
「(☆つけんな!キモいんじゃ、ボケぇ!)
いや、でも、動けないって訳じゃないッスよね? 後で必ず用意するんで、今だけはなんとか助けてもらえないっスか?」
『え〜無理〜。だって〜お腹鳴っちゃってるし〜、こんな状態で戦うとか、マジでアリエナイんですけど〜』
(…なんで、この人はこんなにウザいんだろうか?)
そう思いながら、ウィリアムは機体を操り、敵MAからの攻撃を回避する。
「そこを何とか。俺、このままだと死にそうッス…」
今のところ、完璧に避けてはいるが、それも何時までも続くわけではない。
『ん〜、しょうがねぇなぁ。じゃあ、秘策を伝授してやっから、それで何とかしろや』
「秘策って……、あの、俺がどんな敵と戦ってるかわかってますか?」
攻撃が効かない装甲を持つ敵を相手にして、どんな秘策があるのだ。
と、ウィリアムは頭を抱えたくなった。「大丈夫、大丈夫。無問題。No problem。どんとうぉーりー。俺に任せておけって」
そこはかとなく不安だが、戦闘に関しては、ラザークの右に出る者がいない事も事実。
この上なく不安ではあったが、それでもウィリアムは一応、信じてみることにした。
「えーと…じゃあ、秘策ってのを教えてもらえますか?」
なんだか、とてつもなくこの上なく非常に大変ヤバい予感を、そこはかとなくというか、ほぼ確信に近いレベルで感じたが、言ってしまったが最後。もう、後には引けない。
『よし! じゃあ、俺が合図したら、その通りに動け!! それまでは普通に戦ってろ。ちなみに、俺の位置からは戦いの様子が丸見えなので、そこら辺は心配するな!!』
一瞬、死んだはずの祖父が「来るな、来るな」と、必死で手を振る姿が見えたが、ウィリアムは、それが何を意味するか理解できず、ラザークに言われた通り、普通に戦ってしまう。

MAがゼピュロス改に向けて、背中にマウントされたビーム砲を撃つ。
威力が有ることは間違いないが、当たりさえしなければ、さして恐ろしいものでもない。
ウィリアムは緩慢な動作を経て、放たれた砲撃を見切り、機体を操縦。
163七四三:2009/02/06(金) 20:31:46 ID:???
ゼピュロス改は舞うように軽やかな動きで、ビームをかわしつつ、反撃を行う。
ゼピュロス改は腕に内蔵されたビームガンをMAに向けて連射するが、敵の重装甲の前では、やはり効果が無い。

(秘策ってのは、何だ…?)
攻撃が通じない相手をどうやって倒すのか、ウィリアムはラザークの秘策に一縷の望みを託し、合図を待つ。
MAが大量のミサイルを発射。
ゼピュロス改は変形、MA形態の機動性をもって、多数のミサイルから逃れる。
しかし、尚も追いすがる少数のミサイル。それに対し、ゼピュロス改は再度変形。MS形態となり、ビームガンで残りのミサイルを撃ち落とす。
そして、その直後。待ち望んだ合図が、遂にかかる。

『右だ!!』
たったそれだけの指示。ウィリアムはそれを現状を打破する、唯一の希望と信じ、機体を右に動かす。
しかし、その瞬間。ウィリアムの中の冷静な部分が「あ、死んだ…」と呟いた。
直後、それに一瞬遅れで、ウィリアムの瞳に映ったのは、コックピットのモニター全面に広がる閃光――ビームが放つ輝きだった。
「え…?」
驚愕し、呆然とするウィリアムをよそに、敵であるMAが放ったビームが、ゼピュロス改の腰から下にある全てを飲み込み、一瞬で蒸発させる。
致命的なダメージを受けたゼピュロス改が為す術もなく墜落していく。

――なんで、こんな事になったんだ…?
地面へと落下していく機体のコックピットの中で、ウィリアムが漠然とした疑問を抱く。
丁度その時、ラザークからウィリアムに向けて、通信が届く。
『あ、ごめん。俺から見て右だったわ。アハハwwwチョーウケルwwwこんな時にボケかますなよってなぁ、アハハハハwww』
――この人を殺したら罪になるのだろうか?
ラザークへの殺意を抱くウィリアム。
だが、その間もゼピュロス改は地上に向けて墜ちていき、ウィリアムにはそれをどうすることもできない。
そして遂にはゼピュロス改が地面に叩きつけらる。
その衝撃によりウィリアムの意識を暗闇へと墜ちていく。
「………」
断末魔の叫びもなくウィリアムの意識は静かに閉ざされていった。

腰から下を失い、大破したゼピュロス改は、その上で更に、パイロットの気絶も加わり、完全に戦闘不能へと追い込まれた。
動くことも出来ず、大地に横たわるゼピュロス改。
そこに、敵であるMA――ヴリトラの砲が向けられる。
164七四三:2009/02/06(金) 20:33:40 ID:???
通常ならば捨て置いても構わないような状態のゼピュロス改。しかし、ヴリトラのパイロットは、そうはしない。
敵対者は消滅させる――それが、パイロットに与えられた命令であり、そこに容赦や良心の呵責などが入る余地は無い。
ヴリトラの砲にゼピュロス改を消滅させる為のエネルギーが充填され始める。
充填自体は瞬時に完了。後はトリガーを引くだけ。
パイロットが一瞬の躊躇いもなく、トリガーに指をかけた、その時――
横合いから疾風のような影が、ゼピュロス改と砲身の間に割り込む。

その機体はガンダムジュピター。ラザークの駆る機体。
青い粒子を身に纏ったガンダムジュピターは、疾風のように現れ、ヴリトラの前に立ちふさがる。
ヴリトラのパイロットは、突然の闖入者の存在を認識しながらも、構わずトリガーを引く。
敵対者を消滅させる為に貯えられたエネルギーが砲口より、破壊の光となって迸る。
二機のMSを飲み込むように放たれた光。それに対するジュピターは動かず、ただ構える。

「シールドぉぉぉぉ!!」
裂帛の気合いを込めて放たれたラザークの言葉。
それと同時にジュピターから爆発的な勢いで青の粒子が放出。ガンダムジュピターと、その後ろにあるゼピュロス改を守るように、粒子の壁が形成。
ヴリトラの放った、破壊の光とぶつかり合う。
艦砲クラスと言っても差し支えの無いヴリトラのビーム。だが、それ程の威力をもってしても、青い粒子の壁を貫くことはできない。
超高濃度で圧縮形成された粒子の壁は、超高出力のビームを防ぎきり、遂には互いを打ち消し合い、消滅させる。
しかし、その瞬間。ガンダムジュピターが纏う青い粒子もまた、拡散、消滅していく。

「タイムリミットだ」
ラザークが言う。
WEED発動時間の限界。これで、しばらくの間はWEEDを使うことはできない。
しかし、ラザークの表情に危機感は無く。それどころか、余裕さえ伺える。
「俺のパシリに何してくれてんだよ?」
ラザークは不遜の態度で言葉を放つ。
敵の無傷を確認したヴリトラが、すぐさま二発目のビームを撃つ。だが、その時には既にガンダムジュピターの姿もゼピュロス改の姿もない。
ガンダムジュピターは上半身だけになったゼピュロス改を抱えながら、跳躍。ヴリトラの砲撃から逃れていた。

「こんなパシリに勝ったからって、いい気になってんじゃねーぞ」
165七四三:2009/02/06(金) 20:36:11 ID:???
空中に逃れたガンダムジュピターが、そのまま宙に浮いた状態で、抱えていたゼピュロス改の頭を掴み、ヴリトラに突きつける。
「こいつは、インペリアルガードの中でも下っ端の中の下っ端。最弱であり、底辺に位置するパシリ。俺を頂点とする他のインペリアルガードと比べたら、月とスッポンだ!! こいつに勝ったからって、インペリアルガードに勝ったと思うんじゃねえ!!」
そう叫び終えた時、頭だけ掴まれて宙吊り状態のゼピュロス改の首から下が重力に従って千切れ落ちていった。
ゼピュロス改の細い首では、腰から下を失っているとはいえ、機体の重量を支えることなど不可能であり、自重によって首から下が千切れ落ちるのも自明の理と言えた。
落ちていった胴体部には、ウィリアムが乗ったままだったのだが、ラザークは気にしない。ラザークは一瞥しただけで、ジュピターの手に残った、ゼピュロス改の頭部を放り捨てる。
既にラザークの意識はゼピュロス改ではなく、敵であるヴリトラに向かっていた。

負ける可能性など0%。
何があっても自分が負けることなどは有り得ないとラザークは確信しているが、一応の礼儀として、相手と向き合う。

「我が名はラザーク・ゴッドウィン。皇帝の盾にして帝国の剣。今代の〈帝国最強〉にして〈魔王〉の二つ名を持つ者なり。 我は問う…汝の名を!」
仰々しい名乗りと、それに続く問い。
ヴリトラのパイロットはそれに答えることなく、砲口を向ける。
「答える舌は持ち合わせてないか…それとも、答えられない状態なのか……哀れなもんだなぁ、〈人形〉ってのは」
ガンダムジュピターが左半身を前に出し、半身の姿勢を取る。
「〈人形〉相手だ。情けはかけてやるよ」
ジュピターがスッと左手を前に出し、ヴリトラに向ける。
直後、不意打ち同然のタイミングでヴリトラがビームを撃つ。
鮮やかな光を放つ熱線が大気を灼きながら直進。ガンダムジュピターを目指す。
だが、ガンダムジュピターの動きはそれよりも速かった。
「遅ぇんだよ!!」
ビームの弾速を明らかに上回る速度でヴリトラの懐に入り込んだジュピターの拳が唸りをあげて放たれる。
何の変哲もないMSの拳。だが、それは神速をもって放たれ、ゼピュロス改のビームすら無効化したヴリトラの重装甲を貫き破り、突き刺さる。
「いや、早い…か?この場合は…そこらへんはどう思うよ? 早漏野郎」
答えるように、ヴリトラの全身の砲口が開いた。
166七四三:2009/02/06(金) 20:37:47 ID:???
ヴリトラの全身に配置されたビーム砲が一斉に熱線を吐き出す。
自身に損傷を与えたガンダムジュピターを破壊するための攻撃。だが、それは届かなかった。
「おいおい、早漏野郎。我慢できずに漏らしちまって逝かせられなかったから、今度は数撃ちゃ当たるって、絶倫戦法か? いけねぇなぁwwwそういう独りよがりなのは嫌われるぜ?」
ヴリトラの攻撃から何事もなく逃れた、ガンダムジュピターの中、ラザークはヴリトラが全身から絶え間なく放つビームを揶揄しながら、下卑た言葉を語りかける。
ラザークの声を聞いて、ようやく、ガンダムジュピターの存在が自身の側から消えている事に気づいたヴリトラが、慌ててガンダムジュピターに腕部の砲を向ける。
――が、その時には既に姿はなく。直後、ヴリトラの頭部をMS一機分の重量が踏みつける。それは、勿論ガンダムジュピター。

「黒くてカタくてぶっといのを持ってるわりには、テクがいまいちだなぁwww」
ヴリトラの頭部を踏みつけ、その上に立っているガンダムジュピターの中、ラザークがやはり下卑た口調でヴリトラを揶揄する。
「怒った? ねぇ、怒った? ははははははは俺スゴすぎねぇ? ってか、おまえが弱すぎんのか? ……って、〈人形〉にはどうでもいいことか……つまんねえなぁ…」
ヴリトラが全身のビーム砲を撃つ。だが、ガンダムジュピターの動きが速すぎる。
ヴリトラの全身から針鼠が針を逆立てた時のように放たれたビームは大気を灼くだけで、ガンダムジュピターは既にヴリトラから距離を取っていた。
「当たらねえよ」
ラザークは、子供に物事の道理を諭すような口調で語りかける。
「ビームに当たらないようにするには、ビームより速く動けばいい。ただそれだけ。そして、俺はビームより速い。つまり、ビームは当たらねえ――そういうことだ。わかったか?」
ラザークの言葉を無視し、ヴリトラがビームを放つ。
だが、それはやはり、ラザークの言うとおり、ガンダムジュピターにはかすりもせず、ヴリトラは逆に懐に入られる。

「だから、当たらねえって言ってるだろ」
ガンダムジュピターがヴリトラを片手で、トンと押す。
攻撃とは到底呼べない軽い接触。だが、その程度の接触にも関わらず、ヴリトラの体勢が大きく崩される。
しかし、ガンダムジュピターはその隙を狙って攻撃するようなことはせず、あえて距離を取り、ヴリトラが体勢を立て直すのを待つ。
167七四三:2009/02/06(金) 20:39:35 ID:???
「なんだかなぁ、これじゃあイジメみたいだよなぁ」
ラザークの操るガンダムジュピターが、まるで人間そのもののような動きで肩を落とす。
「なぁ、雑魚野郎。これじゃあ俺が悪者みたいじゃねえか。もっとしっかりやってくんねえと俺がなぶり殺しにしてるみたいで印象悪くなるだろ…」
相手の不甲斐なさに、呆れるのを通り越して、うなだれるガンダムジュピター。そこにようやく体勢を立て直したヴリトラの砲撃が迫る。

「おまえは本当にそればっかりだなぁ…」
心底呆れたような呟きを漏らすラザークは機体を操り、ヴリトラの放ったビームを避けながら瞬時にガンダムジュピターを接近させる。
瞬きよりも速く距離を詰めたガンダムジュピターの脚がヴリトラに叩き込まれる。
自らの三倍近い大きさの巨体を持つMAをものともせず、ジュピターの蹴りはヴリトラを大きく弾き飛ばす。
「学習しようぜ、学習。学ばない奴は糞だ糞。反省しない奴はカスだカス。努力しない奴は死ねっつうか死ぬしかねえぞ」
弾き飛ばされながらも、ヴリトラは砲をジュピターに向け、ビームを放つ。
「だーかーら! ビームは当たらねえって言ってんだろ!」
すでにガンダムジュピターは弾き飛ばされたヴリトラの背後にいた。
ジュピターの手が伸び、ヴリトラを背後から掴み、そして三倍以上の機体サイズ差が有るにも関わらず、ガンダムジュピターはヴリトラを軽々と投げ飛ばす。
投げられたヴリトラは弾丸のような速度で大地に一直線に叩きつけられた。
並みの機体ならば大破するような衝撃。だが、ヴリトラの重装甲は無傷でそれを耐えきり、すぐさま上空のガンダムジュピターに砲を向け、ビームを放つ。

「人の話しを聞けよ」
ガンダムジュピターは神速の機動性で、大地から天へと立ち上る光の柱を回避する。
すでに何度も繰り返された、同じようなシチュエーションにコックピットの中のラザークが心底、ウンザリしたような表情を浮かべる。
「こういう断定ってのは良くないんだろうけどよ、おまえは絶対に俺に勝てないぜ」
直後、ヴリトラのビームがガンダムジュピターを捉える。――が、次の瞬間にはガンダムジュピターが全く無傷で、空に浮いていた。
「残像だ」
きっぱりと言い切ったラザークは言葉を続ける。
「俺はゴッドウィンだぜ? こちとら女も知らないガキの頃から戦闘に関しちゃ知らねえ事はねぇってぐらい鍛えられてんだ。そう簡単に負けるわけはねえっつうの」
168七四三:2009/02/06(金) 20:41:51 ID:???
ヴリトラはラザークの言葉を無視し、砲撃を続ける。
それは〈人形〉であるがゆえの愚直さ。
「本当に仕様のない奴だなぁ、おい」
絶え間ないビームの砲撃を避けながら、コックピットの中のラザークは半ば呆れたように苦笑する。
「コイツは教えてやるしかねえな――」
不意にラザークの口許が引き締まり、瞳に刃のような光が生まれる。
「――ゴッドウィンってヤツをな!」
空中のガンダムジュピターが、地上のヴリトラを見据え、踏み込む。

ゴッドウィン家――その本領はMS戦闘。
血統に囚われず、天賦の才を持つ者達によって受け継がれ、研ぎ澄まされた機体操縦術。
ミリ単位の動作を可能とする超精密な機体操作はMSを機械から生物へと、その動きを昇華させる。
ゴッドウィンの名を持つ者にとってMSとは、人を模した乗り物ではなく、巨大な自分自身を具現する鎧。彼らにとってMSを操るということは、自らの手足を操ることとなんら変わりない。
その動きはまさに人間そのもの。
ラザーク・ゴッドウィンの手によって操られるガンダムジュピターは生身のラザークの動きを完全に再現、その技の数々をMSの巨体で存分に振るう。

空中で踏み込んだガンダムジュピターの脚が音速に達し、空気の壁を踏む。
その瞬間、ラザークと人機一体のガンダムジュピターは空気の壁を足場に、ゴッドウィンの技の一つである移動術を行う。
それは、残像すら生み出す神速移動。
本来の性能から見れば、決して最速とは言えないガンダムジュピターが、ラザークの技により最速の機体へと変貌を遂げる。
その速度には瞬きすら間に合わない。
空中から動き出したガンダムジュピターは一瞬よりも速く、ヴリトラの前に辿り着く。
当然、反応など間に合うわけがない。
ヴリトラはガンダムジュピターが眼前に居るのにも関わらず、未だに空を見上げていた。
ガンダムジュピターはそれをよそに、拳を握る。
武器は使わない。使う必要がないと言っても良いが、それ以前に一般的なMSの武器はラザークには使いづらい。
ビームサーベルにしても、正統な剣術を体得しているラザークには柄が短すぎ、そのうえ軽すぎて、却って扱いづらい。
普通ならば、そのように感じることはないのだが、そこはゴッドウィンの操縦術。パイロットの習得している技能がそのまま機体に反映される以上、武器などに関する不得手が生じるのは仕方のないことだった。
169七四三:2009/02/06(金) 20:43:33 ID:???
だが、武器を使わない不利を補って余りある程、ラザークの操る機体の拳は凄まじい威力を持つ。
それは、MSを一撃で戦闘不能にする体術。ラザークは生身の時に使う、それをMSの巨体で完全に再現する。

ガンダムジュピターが右の拳を腰だめに構え、踏み込みと同時に放つ。
その動きは、完全にラザークの技を再現。
大地を踏み込んだ力が腰へと伝わり、更に腰の回転を加えることで、力は増大しながら肩へと伝わる。

ゴッドウィン――その体術の要は、運動エネルギーのコントロール。
人機一体となったガンダムジュピターは機械の身で、それを成す。

肩へと伝わった力は僅かのロスも無く、それどころか肩の動きも加わることにより、更に力を増し、肘へ、そして拳へと伝わる。

「これがゴッドウィンだ」
放たれた拳は閃光。
誰にも捉えることのできない一撃がヴリトラに触れ、その装甲を貫く。
「冥土のみやげに覚えとけ」
ガンダムジュピターが拳を引く。
ヴリトラは健在。閃光の如き拳は、文字通り触れただけで、ヴリトラの装甲には傷一つ付けていない。
だが、ガンダムジュピターの拳は、確かにヴリトラの装甲を貫いていた。
健在に見えたヴリトラの機体が微かによろめく。
通したのは衝撃。ガンダムジュピターの拳が生み出した衝撃がヴリトラの装甲を貫き通していた。
それは“装甲抜き”と呼ばれるゴッドウィンの技。
拳の衝撃を装甲内部にダイレクトに叩き込む内部破壊の技。
本来は戦艦の動力を外部からピンポイント破壊する対艦格闘術であり、その威力は絶大。
ヴリトラの内部は原型を留めないほどに粉砕されていた。

「THE END」
ガンダムジュピターが背を向け、親指を真下に向ける。
直後、ヴリトラが崩れ落ち、大地に倒れ伏して、轟音が鳴り響く。
それは戦いの終わりを告げる音。

ガンダムジュピターがヴリトラを撃破した、この瞬間。後日「帝都襲撃事件」と呼ばれる事件における最後の戦闘が終結迎えた。

十六話に続く。
170七四三:2009/02/06(金) 20:54:37 ID:???
戦闘はこれで一応決着。当分の間、戦闘無し。
事件の顛末を語らせて、新章に移れそうです
171通常の名無しさんの3倍:2009/02/07(土) 19:57:38 ID:???
 
172通常の名無しさんの3倍:2009/02/10(火) 20:26:18 ID:???
保守
173通常の名無しさんの3倍:2009/02/12(木) 03:03:37 ID:???
絵師さんもう来ないのかな
174通常の名無しさんの3倍:2009/02/15(日) 18:20:23 ID:???
保守
175エルト ◆hy2QfErrtc :2009/02/16(月) 22:17:58 ID:???
なんつーかもうアレなんですけど、投下します
176エルト ◆hy2QfErrtc :2009/02/16(月) 22:19:00 ID:???
ガンダムL
第十二話 雷鳴の剣

「やっぱり、凄いな…」
エルト・ロウは空を飛んでいた。
勿論、そのままの意味でではない。MSに搭乗してからという意味である。
「ダンデスとは比べ物にならない、何もかも」
DNG-002L ライトニングガンダムを受領してから三日の時が過ぎていた。
正式に地球連邦軍からダルタイル帝国地球方面軍に対する攻撃宣言が為されたのは今朝。
迫りくる艦隊と敵MS群を前に、機体性能運用テストが正式に終了した閃光が空を飛んだ。
何もかもがゆっくりに見える。
人間の動体視力に直接影響を及ぼすとかいう高尚なシステムなど搭載されてはいない。
しかし今のエルトには、これまで幾度となく対峙してきたヴィルザードやテンプレスなどといった敵MSの動きそのものが、ひどく滑稽に、そして遅いものに感じられた。
迫りくるヴィルザードの小隊を瞬く間にサーベルで袈裟斬りにし、後方から襲い来るヴィルザードをツインビームライフルが鮮やかに撃ち落とす。
「いつもと、何かが違う」
エルトは思わず声に出して呟く。自らに問いかけるように。
これまでダンデスに搭乗して戦場を駆け抜けてきた時と、明らかに何かが違う。
何時自らを襲うともしれない死の恐怖。それが今のエルトには微塵も感じられない。
「模擬戦みたいだ」
誰よりも戦いを恐れ、そして誰よりも戦いを嫌っているはずの男が、その戦いに関して何の感情も抱くことなく、淡々と敵機を撃墜してゆく。
…あるいはそれが、真っ当に戦争をしている者の、正しい感覚なのかもしれない。
時々敵機のパイロットの断末魔を聞いた。
これまではそれを聞くと心が痛み、夜も眠ることが出来ない日もあった。
戦闘後にひどい吐き気を催して、寝込んでしまうこともあった。
貰った勲章を一人壁や床に叩きつけ、我を忘れたようにして泣き出してしまうこともあった。
けれど、今はそれが微塵にも感じられない。
まるで自分が別の人間になってしまったかのような感覚に捉われ、そしてそれをどこか達観した視線で見下すもう一人の自分がいるように感じられた。
「これで、十五機…」
開戦してわずか三分。その人物は、他のどのダンデスパイロットが誇る撃墜数を遥かに上回るそれを記録していた。
今のエルトはその撃墜数を、模擬戦やシミュレーションでのスコアが上がった程度にしか捉えていない。
「…!三時の方角より熱源。ヴィルザードか」
エルトはビームサーベルを抜き放つと、新たに出現した的(まと)に目掛けてそれを振るうべく、再び空を飛んだ。
177エルト ◆hy2QfErrtc :2009/02/16(月) 22:20:11 ID:???

「ブレイズの皆さん、お久しちょり〜す☆状況はどうだい?自分という名の道標を見失わないでいられてるかい?」
ダルタイル帝国、ブレイズ専属のオペレーター、アレン・コーリー少尉の通信が入る。
ティエル・レナードは、飛行用バックパックを装着したテンプレスを二機、撃墜した後、しかめっ面で回線を開く。
「…何?」
「何?って嬢ちゃん、そりゃねーよ冷た過ぎるよ。こっちはオールウェイズハラハラドキドキなんだぜ?今も心臓がきゅんってなってる」
「恋してるのね」
「違うよー!もしそうならバーニハーだよー!心臓メラメラだよー!…これでも心配してるんだぜ?」
「無駄口は結構。それより何か作戦変更でもあったの?」
「つれねえな。ポイントA64の守りが手薄だ。一番近い嬢ちゃん、頼んだぜ」
「了解」
ティエルはモニターに映るアレンを一瞥すると、回線を切ろうとする。
しかし何かまだ物言いたげなアレンの表情を見て、思いとどまってしまう。
「…何?」
「気がかりなのかい?エルトが」
「!」
「顔を見ればわかる。今日の嬢ちゃんはいつもと違うってな」
「…だって、胡散臭い」
「何が」
「あの新型機。それにウジサトも」
素っ気なく答え、再びテンプレスに向けて照準を合わせる。
「…恋してるんだなっ」
「はあ!?」
素っ頓狂な声を上げると同時に引き金を引く。破壊されるテンプレス。
「漂うスイーツ(笑)な恋の香り☆この俺にもっとかがせてくれよ☆」
「ちょっ、な」
分かる人には分かるし、分からない人には分からない。
「…というのはまあ軽いジョークだが…信じてやれよ」
アレンが眼鏡をクイ、と上げる。
「お前さんが仲間を心配する気持ちは分かる。けどな、ヤツならきっと大丈夫だ。ガモウ司令が何考えてるかなんて、確かにわからん。
けど、それでもエルトなら、そんな思惑も吹っ飛ばすくらいやってくれるって、少なくとも俺はそう信じてる。
…覚えとけよ、今日は俺の誕生日だ。プレゼントには、とびっきりの…」
「勝利を頼むぜ、でしょ?」
そこまで言いかけて、ティエルが言う。
「…ああ、そうだ。ビリービンユアフレンドな感じで、頼んだぜ」
「ぷっ…それ英語、なんかヘンだよ」
「英語は及第するのに精一杯だったんでね」
「…はいはい、それじゃね」
回線を切ったティエルの顔は、戦場でのいつもの彼女の表情だった。
178エルト ◆hy2QfErrtc :2009/02/16(月) 22:20:54 ID:???

「クソッ!いくらなんでも、数が多すぎるぜ…!」
クロスキー・クロス少佐は、十機ほどのテンプレスに包囲されたまま、反撃の糸口を掴めずにいた。
「開戦直後にこの状況って…ツイてないというか、アホというか」
シールドを翳し、浴びせられる実弾ライフルの雨にひたすら耐えていた。
「どーすんの俺?もとい准尉さんよ。オメー先走り過ぎだっての。早漏は女に嫌われるぜ」
背中合わせの状態となった、キール・ニール准尉に問いかける。
エーテリウムを発見(理論上、また、存在の認識という意味においてそれを成したのはアイザック・レヴィンであることは言うまでもない)し、持ち帰ることに成功したキールは、准尉に昇進していた。
事前にウジサトからライトニングガンダムの存在を聞かされていた。
そしてそのパイロットとなるやもしれないということを仄めかされた。
そんな中でのまさかのウジサトの裏切り(少なくともキールはそう捉えている)などからくる高揚感やら焦りやらの感情で開戦直後、突っ走ってしまった。
キールは敵隊を見かけると何の策も講じないまま特攻し、そのフォローに回ったクロス共々、瞬く間に包囲されて今に至る。
「くっ…!そんなこと…」
「そろそろテンプレスのライフルのマガジンが交換されるな。そん時を見計らって俺がミサイルを放つ。乱れた所を俺とお前で縦列になってライフル連射。これでOK?」
「り、了解…」
シールドの限界を感じつつ、キールは己の愚かさを恥じ、唇を噛んだ。
「まあそう落ち込みなさんなって。俺がいる。それでお前さんは助かるんだからな」
「……」
そうこう言っているうちに、二機を包囲しているテンプレスが、一斉にライフルのマガジンを交換し始めた。
「そうら、隙が出来た!当たんなよ!キー坊!」
クロスのダンデスが一斉にホーミングミサイルを放つ。
「ハッハァ、だ」
戸惑い仰け反るテンプレス。うち三機がそのまま爆散する。
「素人だな。素直に当たってんじゃねえよ!」
ビームライフルを構え、左手でビームサーベルを抜き放つクロス機とキール機。
「このまま突っ切るぜぇ!」
ビームライフルを撃ち、左手のサーベルでテンプレスを薙ぎ払う。
そうして、二機のダンデスは瞬く間に十機のテンプレスを破壊することに成功したのだった。
「一丁あがりですね」
「どの口が言ってんだよ、ったく」
クロスは薄く笑うと、こちらに向かいつつあるヴィルザード・テンプレスの混成部隊を見据え、再びライフルを構えた。
179エルト ◆hy2QfErrtc :2009/02/16(月) 22:21:48 ID:???

「司令、現在我が軍が押されています。このままでは…」
地球連邦軍艦隊。司令と呼ばれた男がニヤリと笑う。
「何、先遣隊が少々の損害を被った程度であろう。こちらにはデルタ隊が付いている。直に戦局は変わる」
「し、しかし…」
「そろそろだな」
司令は時計を一瞥すると、静かに呟く。
「は?」
「そろそろだ。デルタ隊メフィスト一機をポイントG97へ」
司令の命令を聞いたオペレーターが、その旨を伝令する。
「し、司令!何故メフィストをポイントG97などに?あそこには何も…」
「何、念には念を、だ。G97には我が方の極秘ミサイル基地が存在する。その防衛というわけだ。メフィストの機動性なら発射前に離脱が可能だからな」
フフン、と得意気に笑う司令。
「すべては今日この日の為だ。ミサイル基地もメフィスト開発も。これは裁きなのだよ、奢れるダルタイル人へのな」
司令は深く椅子に座り直し、帽子を整える。
「あと五分でミサイルが発射される。地球にのさばった宇宙人共を一掃できる規模のミサイルがな。そうなるとデルタ隊の出る幕がなく、この戦いは我々の勝利だな」
勝ち誇った表情の司令を余所に、司令と問答していた男は密かに、隠し持っている端末へと情報を送信したのだった。

「何だと!」
ダルタイル帝国軍地球方面軍の司令室。
大袈裟に驚いて見せたのは、司令のドレーク・レナード准将であった。
「ええ、確かに。たった今間諜からの報告が入りました」
答えるのは副司令のウジサト・ガモウ大佐。
こちらも冷静さを装ってはいるが、そのこめかみはピクピクと震え、どうやらその心中は穏やかではないようだ。
「愚かな連邦の考えそうなことですな、まったく」
「あと五分…」
頭を抱えるレナード准将。
「司令、私は今こそアレを使うべきだとおもいますがね」
「……」
「それとも、ご息女の友人であるロウ中尉の命が惜しいと?」
ウジサトは苛立っていた。ミサイル基地等の存在が予測範囲外であったわけではないのだが、どうにも苛立っていた。
ダルタイル帝国に誇りを抱く根っからの軍人であるウジサトは、一刻も早く連邦軍を根絶やしにしたいという気持ちが湧き起こり、焦りを止められなかった。
その焦りと苛立ちが、レナード准将に嫌味を言うことで発散されていたのだった。
レナードは少し逡巡したが、それ以外に打つ手はないと考えたのか、首を縦に振った。
「いいだろう。貴官の言う新たな閃光、その実力をこの目で確かめさせてもらう」
「さすが司令。存じておりますとも。…ロウ中尉に指令を下せ」
ウジサトは慇懃無礼な態度でレナードに礼をすると、打って変った態度で、傍に控えていた者に指令を下した。
180エルト ◆hy2QfErrtc :2009/02/16(月) 22:22:45 ID:???

「おい、なんだありゃ…?」
「あんな頭部の形状をしたMSは友軍には存在しない」
「ダンデスともゴウラとも違う…ダルタイルの新型か!?」
エルトが自機の三時の方角にヴィルザードの存在を確認したと同時に、向こうもこちらに気づいたようだ。
向かってきたヴィルザード五機のパイロット達は、ライトニングガンダムを目の前にして困惑していた。
とりあえずビームライフルを構えた五機のヴィルザードの下に、新たに一機ヴィルザードがやって来る。
「おお…」
感嘆の声を洩らすヴィルザードパイロット達。
増援のヴィルザードは両肩にビームランチャーを掲げ、それでいて尚、機体の機動性を損なわずにいる。
肩のダブルランチャーと背中の飛空用バックパックとが相俟って、通常のヴィルザードよりも一回り大きく見える。
「フフフ、君達、安心したまえヨ!この“ダブルランチャー”ピエール・スケキヨが推参したからにはあんな変ナノイチコロだヨ!」
誇らしげに宣言する増援のヴィルザード。連邦軍のエース、“ダブルランチャー”の異名を持つピエール・スケキヨ少尉であった。
「デルタ隊の出る幕ナド無いヨ!どれ程の性能かは知らナイが、ミーがけちょんけちょんにしてやるヨ!」
「おおー、さすが少尉!俺達の言えないようなことを平然と言ってのける!そこに痺れる、憧れるゥ!」
…どうやらピエール・スケキヨは変人かつエースだがデルタ隊ではないらしい。そして部下から信頼されている、ということが見てとれる。
「サ、ダルタイルの青二才(サニー)。ユー、死んじゃいなヨ!」
言い終わらないうちに、チャージを終えたダブルランチャーが、ライトニングガンダムに向けて紅い閃光を放つ。
「ファイヤー!」
二筋の紅い閃光を目の前にしながらも、エルトは妙に冴えた頭で、ああ、今自分がダンデスに乗っていたら避けきれていないだろうな、としか感じなかった。
しかし、わりと近い距離で放たれた極大のビームを避けることは、このライトニングガンダムの性能を以てすればそれほど難しいことではない。
エルトは落ち着いたまま、回避の動作をとる。
一瞬のうちに戦闘機に似たMA形態へと可変し、天空高く駆けあがる。
エルト自身、その速度をうまく調節しきれないまま。
(やべ、いきすぎた)
本人が呑気にそんなことを思った時には既に、機体は旋回すると同時に天空に放物線を描き、再びヴィルザード六機に向かい合う形となる。
「わっはっはっは。ミーの勝ちなのだヨ!一瞬のうちに蒸発したのだヨ…って、なぬゥゥ!?」
ピエールが気づいた時には既に、MS形態に可変したライトニングガンダムの二刀流が、味方のヴィルザード二機を切り裂いた後だった。
「うわあああああ!」
爆散した二機のヴィルザードを前に、ピエールには目の前の状況が理解出来なかった。
あの距離で、あの速度でのあの大きさのビームを二撃放った。
そして、それを回避することができるほどの性能を持ちうるMSは、彼の知識の全てを総動員させても、現在存在しない。
文字通り目が点になるも、そこはエースと呼ばれた男だ。
おまけに二つ名までついている。ならば、ここで退くわけにはいかない。
181エルト ◆hy2QfErrtc :2009/02/16(月) 22:23:39 ID:???
「…そ、そんナノ全然すげくねーヨ!ミ、ミーなんて朝飯前だヨ!」
負け惜しみと同時に、第二射のチャージを始める。
後ろに控えていた残り三機のヴィルザードも、相手のただならぬ実力を実感したのか、ライトニングガンダムに向けてがむしゃらにビームライフルを撃ち続ける。
「今度こそ終わりだヨ!地獄の雷、食らウがいいヨ!」
放たれる二回目のビーム。チャージ時間が短い。
エルトはわずかに目を薄めると、機体をわずかにビームから逸らす。
この間も降り注ぐ他のヴィルザードによる援護射撃との間隙を縫って、確実に敵機との距離を縮めていく。
「な、なんだアイツの機動性!あ、当たらん!」
「バカな…これだけのビームを掻い潜るだと!?」
一瞬のうちに近づく真の閃光を前に、恐れ慄くヴィルザードパイロット達。
エルトは先程使用したビームサーベルの出力を切り替え、アサルトビームダガーにする。
そして放たれるビームの雨から機体をわずかに逸らし続ける中で、確実に狙いを定める。
「そこっ!」
グンと機体が転身し、ライトニングガンダムがビームダガー投擲体勢に入る。
「!!」
敵機がその動作に気づいた時には、二機のヴィルザードは投擲されたダガーに、その身を串刺しにされていた。
「ぐあああああ!」
爆散する二機を振り返ることなく、そのまま残る一機に向けて、エルトは向かう勢いで右脚による廻し蹴りを放った。
「貰った!」
(ただの蹴り…ん?いや、これは!?)
微妙に安心していたヴィルザードを、無慈悲な一閃の蹴りが両断する。
「あ、脚にビームサーベルだとォォ!?」
ライトニングガンダムの脛の部分には、ビームブレイドが発生し、そのままヴィルザードを冥府へと誘った。
「んなぁぁぁぁ!?」
あっという間に味方の全員を失ったピエールは、二の句が継げずにいた。
ピエールが呆然としかかったところを、今度は廻し蹴りを放った勢いから飛び、ピエール機に向けて、エルトは左脚での後ろ廻し飛び蹴りを放つ。
「はあぁぁぁぁぁぁ!」
「う、うそーん!!」
弧を描いたライトニングガンダムの左脚は、ビーム刃を纏ったまま、両肩のビームランチャーと機体の頭部を削いでいく。
「マ、マンマミ〜アだヨ!」
肩より上を失ったピエールのヴィルザードは、よろよろとその場にへたる。
しかし、脚部ビームブレイドによって切り裂かれた二つのビームランチャーが暴発を起こし、爆発してしまった。
「うそーん!!」
ドォン!爆散するピエールのヴィルザード。
エルトは黙ったまま肩で息をしながらそれを見ていた。
ダンデスに乗っていた頃抱いていた、敵を撃ち倒したことからくる罪悪感。
その感覚を、少しだけ思い出しながら。
182エルト ◆hy2QfErrtc :2009/02/16(月) 22:24:31 ID:???

「キー坊!援護頼むぜ!」
「了解!」
クロスとキールはツーマンセルで、時に背中合わせになりながら、時には並んで、多数の敵を相手にしていた。
キールのビームライフルを避けたヴィルザードを、袈裟斬りにするクロス。
続いて向かってきたテンプレス隊を、クロスが翻弄し、キールが狙い撃つ。
「ふぅ…これで四機撃破か」
「上等上等」
他の友軍の状況を調べると、あまり芳しくないようであった。
地球を本土とする連邦と、あくまで拠点の一つにしか過ぎないこの基地との戦力差は明らかだ。
ダルタイルは、数の差で僅かに負けていた。
しかしその差を僅かに留めているのは、ブレイズの実力におけるところが大きい。
未だ投入されないでいるデルタ隊の存在や、ブレイズの面々の疲労等を、クロスを始めとしたブレイズ全員が気にかけている。
「持久戦はマズイな…かといって俺達だけで捌ききる数にも限界ってモンがある…」
舌打ちをしながら、クロスはキールと背中合わせになり、再びテンプレスの増援部隊と向き合った。

「ふぅ…」
エルトのライトニングガンダムは、その圧倒的な性能で、敵MS隊を次々と撃破し、確実に本陣を切り開いていた。
「これでひとまずファーストフェイズは終了だな。次は…」
一段落着き、落ち着いたエルトの下に、アレンからの通信が入る。
「ちょり〜す!!」
「俺だ」
「お、おう中尉。なんだか大変なことになったみたいだぜ。セカンドフェイズは中止、今すぐ別行動に移行してもらう」
「一体、何が?」
「なんでも連邦のビッチ共、極秘裏にとんでもない規模のミサイル基地を開発してやがったらしい。あと五分程でドカーンだそうだ、基地全部」
「嘘だろ!?」
始めて焦りの表情を見せるエルト。
「そこで、お前さんに特命が下った。今すぐポイントG97に存在するミサイル基地に向かい、その命令伝達ケーブルを破壊せよ、だとよ」
「…わかった!」
頷くと同時に、エルトはライトニングガンダムをMA形態に可変させる。
「エルト・ロウ、ライトニング!これより指定座標ポイントへと向かう」
風を切って、一閃の雷鳴の剣が飛び立った。
183エルト ◆hy2QfErrtc :2009/02/16(月) 22:25:38 ID:???

ポイントG97。そこに一機のMSが佇んでいた。
ヴィルザードでもダンデスでもなく、どの機体よりも流麗なフォルムを持つMS。
名を、メフィストと言った。
地球連邦軍の現在の主力MS、ヴィルザードと、後の主力MSとなるヘビーデーモン。
この二機の架け橋となる、少数量産機である。
後に歴史の闇に消えることとなる機体ではあるが、ライトニングガンダムの性能にもひけをとらないであろうその戦闘データは次世代MSの開発に大きく貢献したと言う。
そのパイロット…タケル・クロード中尉は、自らの眼前に現れた敵機を捉えると、薄く笑う。
「はじめましてだな、新型機。ミサイル基地のことを聞けば、君に会えると思っていた」
蒼と黒のフォルムを持つMSは、静かにビーム刀を抜き放つと、二刀流の構えをとる。
「!」
エルトも同様に、メフィストを視認すると、ライトニングガンダムをMS形態に可変させる。
「誰だ…君は…!?」
あの感覚ではない。以前対峙した、あの時のデルタ隊パイロットの感覚ではない…
けれど、この機体のパイロットもまた、とてつもない実力を備えていることだけは分かる。
「どけ」
エルトが静かに言う。相手は答えない。
「どけ!」
今度は語気鋭く言い放つ。味方の命がかかっているのだ。今この場所で、このような敵と相対している暇はない。
エルトは、ある種のうすら寒さを覚える。
ライトニングガンダムの機体性能に酔いしれ、全てを委ねていた先程までの感覚はもうない。
紛うことなき戦場の空気を、その肌で感じて取れた。
メフィストはゆらり、とビーム刀を降ろす。
「どういうことだね、君は腰ぬけなのか。そもそも退けと言われて退く阿呆はこの場には居ない」
タケルは静かに問いかける。
「…アンタに構っている暇はない」
「君の方に用は無くとも、私の方にはあるのだよ」
「後にしてくれないか」
「ハハッ、これは傑作だ!何を言い出すかと思えば!」
嘲笑が沈黙を彩る。
エルトはツインビームライフルとビームサーベルを構える。
「お願いだから」
「随分とコケにされたものだな。名すら尋ねず退けと言うか…いいだろう、キミの視線を釘付けにする!」
戦闘態勢に入るメフィスト。
「メフィスト・ヤシャブシ。デルタ隊所属、タケル・クロード!推して参る!」
今、悪魔の名を冠する連邦の正義と、閃光の名を冠するダルタイルの大義が、ぶつかり合おうとしていた…

十二話 終 十三話に続く
184エルト ◆hy2QfErrtc :2009/02/16(月) 22:29:38 ID:???
ピエール・スケキヨ(28)
所属:地球連邦軍
階級:少尉
詳細:
地球連邦軍のパイロット。“ダブルランチャー”の異名を持ち、ビームランチャーを使った戦術を得意とする。
独特の口癖が特徴。実家は金持ち。

七四三乙です。事件の顛末にwktk
あと>>159の人はどっちかわからないけど楽しみにしてます
しかし今度はど○だがネタ切れ…というか執筆意欲が湧かん…

次またいつ投下出来るかわからないんで、次回予告(仮)

対峙した蒼き悪魔と碧き閃光。互いの剣がぶつかり合う時、戦場に新たな声が響く…

次回 「メフィスト」

その眼差しの先は、何を捉えているのか

CV:リ○ンズ・アルマーク

それじゃ今回は以上です
185通常の名無しさんの3倍:2009/02/17(火) 00:41:23 ID:b9Wlj6Sf
投下乙
保守age
186通常の名無しさんの3倍:2009/02/17(火) 08:49:26 ID:???
なんて行ったらいいか分からないけれど、投下乙なんだぜ。
187七四三:2009/02/17(火) 21:52:01 ID:???
>>エルト
投下乙
188通常の名無しさんの3倍:2009/02/20(金) 01:12:06 ID:???
保守
189通常の名無しさんの3倍:2009/02/23(月) 22:19:57 ID:???
保守あげ
190通常の名無しさんの3倍:2009/02/26(木) 00:30:06 ID:???
今更だが投下乙保守
191七四三:2009/02/26(木) 20:37:24 ID:???
色々あったせいで遅れたけど、投下します。
なんか久しぶりになってしまったので、どう書けばいいか要領が思い出せませんで、微妙な感じになりました。
192七四三:2009/02/26(木) 20:39:24 ID:???
異説機動新戦記ガンダムウィード

第十六話 策謀の獣達

前編

「面倒なことだ…」
紅玉宮の自室。アルトリオ・カーメンは17歳という年齢には不釣り合いな大人びた仕草で手元の書類を眺めていた。
書類に記されているのは今回の事件で帝国が被った被害と、それによってアルトリオが株主を務める各企業が受けた経済的損失。
更には、アルトリオが自身の領地として所有しているコロニーに対しての帝都からの支援物資の要請。
どれもこれもアルトリオには有り難い話ではない。
「ふん…」
煩わしげに書類を放り捨てるアルトリオ。
その時、不意に部屋の外から工事の音が届く。
「そう言えば、復旧作業が始まったんだったな」

洗脳された連邦軍兵士による帝都襲撃事件から一夜明けたばかりにもかかわらず、帝都の至る所では、もう復旧作業が始められていた。
それは、紅玉宮も例外ではなく、戦闘による爪痕を癒やすため、人々は奔走している。
この有事の際のフットワークの軽さは賞賛に値する。

――が、それも、復旧作業の費用諸々を全額負担すればの話だ。
大抵は帝国内の大貴族に援助を要請する。
大貴族と言っても、名門だとかの基準ではない。金を持っているか否かだ。
そして、アルトリオは持っている側。
当然、援助の要請はやって来た。
慈善事業などと言うものを反吐が出る程に嫌悪しているアルトリオとしては避けたい要請。だが、断ったとしたら、ロクな事にならないのは過去の出来事を鑑みれば明らかだ。

ぶっちゃけてしまえば、実際の所は要請などではなく恐喝だ。
援助の要請を断れば、皇帝は躊躇わずに自らの私兵であるインペリアルガードを派遣する。
これは金に困った皇族が取る手段として、何十年も前から続いている伝統的な資金調達法。
貴族の領地に乗り込んで、金を出してくれるように『お願い』する、最近ではヤクザもやらないような暴力的な所行。
皇子であるとか関係なしに奴らは取り立てに来るだろう。

「ちっ……」
苛立たしげに舌打ちするとアルトリオは、自室のソファーに体を預ける。
「いいさ…。所詮、はした金だ。くれてやる」
負け惜しみのように言うと、アルトリオは諦めたように天井を仰ぎ見る。
「……ガンダムアレスの修理、改造費用も捻出しなければな…。まったく、出費がかさむ事この上ない」
アルトリオのポケットマネーで製造されたガンダムアレス。その修理も当然、ポケットマネー。
193七四三:2009/02/26(木) 20:41:08 ID:???
だが、ガンダムアレスに関しては出費を惜しむわけにはいかない。
ガンダムアレスはアルトリオにとっての切り札となる存在。それ故に大事にするに越したことはない。
ガンダムアレスのWEEDはアルトリオにとっては他の誰も持ちえない強力な武器。
WEEDを使うことの出来るパイロットも同様、切り札となる存在である故、確実に手元に置いておきたい。

「まぁ、それに関してはラザークと相談する必要があるか…」
独り言を漏らすと、アルトリオは天井に向けていた頭を正面に向ける。
視線の先に有るのは一台のモニター。
そこに映っているのは真紅のMS。
それはマレブランケという名の謎の組織が有する機体であり、昨日、ガンダムアレスと交戦し、ガンダムアレスを大破させた機体。
「当面の問題はこちらだな…」
アルトリオは腕を組みながら考える。
「マレブランケ――思ったよりも厄介な相手かもしれないな……」
低い声で呟くアルトリオ。

――しかし、その口許には微笑が浮かんでいる。

アルトリオの心には歓喜があった。アルトリオは、自身の心のままに言葉を放つ。
「面白くなってきたぞ。本当に面白くなってきた」
微笑は既に哄笑に変わっている。

「マレブランケ。その存在、利用させてもらう。俺の望む世界のために!」
狂喜に満ちた哄笑が部屋の中に響き渡る。それは人の声ではなく、まるで獣の遠吠えのようだった。



「で? 要するに逃げられたってわけか?なぁ、蝙蝠野郎。逃げられたってわけだよなぁ、これは。
…俺、キレちゃうよ? お前の無能に俺、キレちゃうよ? 俺、キレちゃったら、お前の首、切れちゃうよ?どーすんのマジで?」
光輝宮の一室、そこに居たのはラザーク・ゴッドウィン。
「面目次第もありません」
そう言って頭を下げるのはインペリアルガードのカガミ。
部屋の中には二人だけだった。
ラザークは美貌に心底、呆れたような表情を浮かべると、カガミをなじり始める。
「謝るだけなら猿でも出来るっつーの。いい加減にしろっつーの。死んどけっつーの。俺が詳しく聞きたいのは………えーと…えーと…」
「マグナス・クラーバです」
すかさずカガミはフォローを入れる。
「あー、そんな名前だっけ? つーか、そんな名前の奴、マジでインペリアルガードにいたか? つーか、俺、嫌いな奴の名前とか覚えられーねタチだし。あれ? よくよく考えたら、そいつ嫌いじゃん、俺。あー、なんかどうでも良くなってきたわ」
194七四三:2009/02/26(木) 20:44:01 ID:???
ラザークのまとう気配がだらけたものに変わり、やる気の無い仕草でカガミに命令を下す。
「なんか、マジメに話すもアホらしくなってきたし、とりあえず適当にスイーツ持って来い。話はそれからだ」
その命令自体、慣れたものなのか、カガミは従順に従い、何も言わずに部屋を出ていった。



「――で? 何の話しだっけか?」
それからしばらくして、ラザークはカガミの持ってきたケーキなどの菓子類を貪るように口に入れながら、口を開く。
大の甘党であるラザークは既に十数個のケーキを腹の中に収めているが、そのペースは一向に落ちる様子が無い。
カガミは、それを内心でウンザリしながらも表情には出さずにラザークの問いに答える。
「マグナス・クラーバの事についてです」
「ああ、それな。うん、思い出した思い出した」
そう言いながらも、ラザークは口に物を運ぶ手を休めるそぶりはなく、その姿からは全く真剣味が感じられない。
「つまりは、おまえが失態を犯して、マグ何たらって奴を取り逃がした。
機体もパイロットも無力化して生け捕りにしようとコックピットのハッチをこじ開けようとしたら、横から仮面を被った変な喋り方の変態にマグ何たらをかっさらわれたって話だろ。
はっ、無能能なし愚図間抜け、つーかアホか!って俺は言いたいね。つーか、言うぞ、俺、言っちゃうぞぉ。
この、無能能なし愚図間抜けがぁ!!なにやっとんじゃボケが!!死ね死ね、生まれて来てアイムソーリーと神に謝罪しろや、アホ、カス!!
とは言ってみたものの、ぶっちゃけ、本当はどうでもいいから、別に何てこともないんだけどな。いやぁ、大声出すとストレス発散になっていいわぁ」
好き放題言われているわけだが、カガミは何も言わず、無言でラザークの言葉を受け止めている。
ラザークの方は、そんなカガミの心情など、全く想像できないまま、言葉を続ける。
「――さて、一通り言いたい事も言ったので、ここで唐突に話しをReturn。とりあえず、仮面の変態の詳しい情報をPlease。つーか、聞かれなくても先に言えよ。ボケー」
そう言われ、カガミは若干考え込むような仕草を見せながら、おもむろに口を開く。
「……私見であり、確証は無いのですが、些か気になることが…」
そこまで言って、カガミは一旦言葉を切り、ラザークの様子を伺う。
ラザークは何も言わずに続き促す。

「その仮面の男。もしかしたら、私の知っている人物かもしれません」
195七四三:2009/02/26(木) 20:47:26 ID:???
「知っているって、あれか? 特務三課繋がりか?」
ラザークの表情に緊張は見られず、まるで他人事のような口調。
だが、カガミの表情は明らかに険しさを増していた。
「今さっき、言ったように確証は無いですが、恐らくはそうかと」

ダルタイル帝国軍情報局特務三課。
暗殺を主任務とする、ダルタイル帝国の暗部。過去にはカガミも所属していた組織。
既に数年前に壊滅しており、その生き残りもカガミを除いていないはずだった。

「もし、仮面の変態が特務三課の生き残りだとしたら、狙われるのはおまえか俺か。どっちだろうな?」
ラザークはくつろいだ姿勢でケーキに手を伸ばしながら言葉を続ける。
「特務三課の奴らを皆殺しにした俺か? それとも、特務三課の奴らを裏切った、蝙蝠野郎のおまえか? 近い将来、仮面の変態野郎は間違いなく、俺らの前に現れるだろうが、そん時はどうするんだ、蝙蝠野郎。いや、レオナルド・ミラー君よ」
ラザークは敢えて特務三課時代のカガミの名を呼ぶ。
だが、カガミの表情は僅かの揺らぎもなく、平然とした態度のまま答える。
「そんなもの、当然、殺すに決まっています。今の私はインペリアルガードですからね」
その答えに我が意を得たりという表情を浮かべたラザークは感心するように頷く。
「そんだけはっきり言えるんだったら、てめーは大丈夫だろうさ」
そう言うとラザークは立ち上がった。
「どちらへ?」
「ちょっと用事を思い出した。後の事は適当にやっとけ。俺はマグナスの代わりを勧誘してくる」
ラザークが唐突に行動を起こすのは珍しくはないが、それでもカガミは訝しげな表情を浮かべる。
「新しいインペリアルガードの勧誘ですか?」
「YES 前から目を付けてたガキをこの機会にインペリアルガードに入れようと思ってな。そういう点なら、マグナスとかいう俺の記憶に無いヤツに感謝してもいいかもしれねぇな」
割と不謹慎な発言を平気で吐くラザーク。
カガミは、その発言を淡々と受け流し質問する。
「即戦力になる人材ですか? いい加減に将来性で勧誘するのはやめて下さいよ」
「わかってるわかってる、Understandしてますよっと。じゃあ、とりあえず、後のことは任せっからよ。適当にやっとけや」
言いながら、ラザークは手を振りながら、部屋の入り口に向かう。
そのまま、ラザークは振り返ることもなく部屋を退出。
一人残されたカガミは疲れきったようにため息をついた。

後編に続く
196七四三:2009/02/26(木) 20:50:20 ID:???
獅子公の乱

AG.191にダルタイル帝国を二つに分けた内乱。
ダルタイル帝国皇帝ギグルスタン三世と実の弟であるレオニール・カーメン(通称:獅子公)の間で起きた争い。

レオニール・カーメンは圧倒的なカリスマ性により、多くの諸侯を味方に付け、更には帝国軍の2/3、そして情報局特務三課までも自らの陣営に加え、実の兄であるギグルスタン三世に反旗を翻した。
その後もレオニールの陣営には、当時のゴッドウィン家の頭首、アルファ・ゴッドウィンと、その実の息子アダム・ゴッドウィンも加わり、果ては当時の〈帝国最強〉ジーン・グラムを含むインペリアルガードの殆どがレオニールの側についた。
ギグルスタン三世の側に残ったインペリアルガードは、たったの二人。ゴッドウィン家の養子ラザーク・ゴッドウィンとガルヴァ・ガウンズだけだった。

だが、結果としてその内の一人であるラザーク・ゴッドウィンが、最終的にはギグルスタン三世を勝利に導くこととなった。
ラザークは手始めに自らの養父であるアルファ・ゴッドウィンを暗殺。
その後、内通者の協力を得て特務三課を単独で壊滅させる。
そして、戦場ではレオニールの側についたインペリアルガードと戦闘、全員を撃破し抹殺。
内乱の最終局面では〈帝国最強〉ジーン・グラムと交戦。辛うじて撃破し〈帝国最強〉の称号を得る。
だが、直後にアダム・ゴッドウィンの乗る史上初のWEEDシステム(試作品)を搭載したガンダムと交戦、これを撃破するものの、自機を大破。尚、アダム・ゴッドウィンの死亡は確認されておらず、現在は行方不明という扱い。

その後、奇跡的に無傷だったラザークは、そのまま生身でレオニールのもとまで辿り着き、殺害。この時の活躍により、ラザークは一躍英雄と呼ばれる存在になった。

レオニールというリーダーを失った組織は呆気なく瓦解、獅子公の乱は鎮圧された。
しかし、一部の者達はレオニールの息子であるレオンハルト(当時10歳)と共に宇宙の闇に消え、今も復讐の時を虎視眈々と狙っているという噂がAG.199においても、根強く残っている。

197七四三:2009/02/26(木) 20:52:05 ID:???
とりあえずここまでです。
相も変わらず、どうしようもなくてスミマセン。
198通常の名無しさんの3倍:2009/02/28(土) 17:39:33 ID:???
投下乙!

支援ageしとくよん
199通常の名無しさんの3倍:2009/02/28(土) 22:59:26 ID:???
>>743
投下乙でーす。
200通常の名無しさんの3倍:2009/03/05(木) 00:12:25 ID:???
保守あげ
201通常の名無しさんの3倍:2009/03/09(月) 22:30:37 ID:???
保守☆
202通常の名無しさんの3倍:2009/03/12(木) 21:01:10 ID:???
保守
203通常の名無しさんの3倍:2009/03/14(土) 18:02:46 ID:???
保守
204七四三:2009/03/17(火) 23:57:26 ID:???
十六話 続き

ミカドは扉の前に居た。
辺りからは昨日の戦闘によって、城が受けた傷を癒そうとする作業の音が聴こえてくる。
規則的なリズムを刻みながら音楽のように聴こえてくる作業の音を耳にしながら、ミカドの心は憂鬱に充たされていた。

(嫌な予感がするんだよなぁ…)
予感というよりも確信という方が近いかもしれない。
『お約束』というべきか、こういう場合は大抵、碌なことにならないのが世の常。
不穏な気配を察したミカドは扉の先へ進むことを躊躇している。

「帰っっちまおうかな…」
呼び出されてここにいる訳なのだが、正直な所、ミカドは自身の主観的判断では満身創痍。客観的診断はさておき、とにかく昨日の戦闘で負傷したのは事実。
ガンダムジュピターの放った電撃のせいで意識を失い、感電死一歩手前の状態まで追い込まれた。
それでも、一晩経ったら平気で歩けるようになり、医者のジェイソン・オーラムは「どうやったら死ぬんだろうね。君は」などと言ってきたが、決して無事とは言い難い。
とミカドは訴えたかった。

まず、電撃の後遺症のせいか、まだ全身が痺れているような気がするし、更には、やはり電撃のせいで右目に入れてある生体端末が使い物にならなくなり、摘出。右の目蓋の下は空洞であり、それを隠すために眼帯つけている。
右目に関しては新しい生体端末を入れれば、また見えるようになるので気にしていないと言えば気にしてないが、生体端末とてタダで入れることが出来るわけはなく。
そのためにかかる費用を思うと気が重くなり、そのような精神的なダメージが肉体にも影響を及ぼすわけで――
ついでに言えば、ミカドは絶世の美男子ではないと自覚しているが、それなりに美形だという自負を持っている自分の顔が眼帯で微妙な感じになっていることにも、精神的苦痛を感じており、身心のダメージを増している。
「うん。やっぱり、帰った方がいいな。体調が悪すぎるし」

何故、長々と体調の話題を続けていたかと言うと、つまりはそういうこと。
体調が悪いし、扉の中から不吉な気配が漂っているので、呼び出しを無視しようということだ。
「別に明日でも大丈夫だろ。いや、明後日でも大丈夫なはず。もしかしたら、来なくてもいいんじゃないのか?っていうか、来ない方がいいんじゃないのか?つーか、本当は来るなってことだろ。だったら、帰った方がいいな。よし、帰ろ――」
と、その瞬間、扉が勝手に開いた。
205七四三:2009/03/17(火) 23:58:37 ID:???
「良く来たな。まぁ、とりあえず座れ。茶でも出してやろう」
扉の中、部屋の住人は入り口に立ったミカドに開口一番、そう言うと、座ったままテーブルの上にあるティーポットを手に取り、優雅な手つきでカップに紅茶を注ぐ。
「帝都の水は茶には向かないからな。お前のために最高の水を取り寄せてやった」
「…血税の味がしそうだ」
茶を煎れる作業を眺めながら、ミカドは辛辣な言葉を漏らすが、それは部屋の住人を苦笑させるだけ。
カップに茶を煎れると住人はミカドに座るように促す。が、ミカドは部屋の入り口から動かない。
ミカドはここまで来ても尚、この場から逃げることを考えている。
しかし、その思いも虚しく、ミカドは強制的に座らされることとなる。
「Hello ミカちゃん」
聞き覚えのある声が背後から聴こえ、ミカドは振り向こうとするが間に合わない。
何が起きたか分からず、気付いた時には、ミカドは部屋のソファーに座らせられていた。
「飲め」
すぐさま茶の入ったカップを目の前に差し出される。
流石にこうなってしまったら、もう逃げることは出来ない。
いよいよとなれば、ミカドとて度胸が据わる。
覚悟を決めるとカップを手に取り、一気に中身を飲み干す。
「血税の味だぞ。もっと味わって飲め」
部屋の住人は呆れたように肩を竦める。
「じゃあ、次は味わって飲むから、もう一杯くれよ」
既に度胸は戦闘モード。恐いものなど無いミカドは悪びれずもせずに言う。
「悪いが、お前のために国民の財産を無駄に使うわけにはいかないんでね。次の一杯からは、俺の血と汗と涙の結晶の味がする茶になるが、それでも良いなら煎れてやるぞ」
「良いねぇ、男のエキス。これが、腹黒坊っちゃんじゃなくて、男の娘のエキスだったら言うこと無いんだがねぇ」
唐突に会話に割って入ったのはミカドをソファーに座らせた男。
その男が、とても正気とは思えないことを口走る。
「オイオイ、俺にもティーを出せよteaをさぁ、この童てぃー野郎」
男は、やはり正気とは思えない言葉遣いで喋りながら、部屋の扉を閉め、更に扉に鍵まで掛けると、ミカドの座っているソファーに腰掛け、ミカドと肩を組む。
「Welcome ミカちゃん。ようこそ、陰謀渦巻く悪の巣窟へ〜お一人様ごあんな〜い」
絶世の美貌を持った男の顔がミカドに近づき、僅かに息がかかる。
ミカドは決して、そちらのケは持ち合わせてはいない。
206七四三:2009/03/18(水) 00:01:23 ID:???
確信を持って、自分をノンケと言い張れるぐらいには、自らを理解している。
だから、男の顔がいくら綺麗でも払いのけることぐらいは出来る。
「キモいんだよ。離れろ」
ミカドは乱暴に、良く言えば遠慮なく腕を振り回し、肩を組む男を払いのけようとする。
――が、ミカドの腕は空を切るだけ。

「残像だ」
声のした方に目をやると、そこには居たのは一瞬前まで、隣に座っていた男。
男はくつろいだ姿勢で別のソファー座り、ニヤニヤとミカドを眺めている。
「ウブだねぇ、お触り禁止かよ?いやだねぇ、ガードが堅くてさぁ。若いうちは少しくらいガードが弛い方が可愛げがあっていいぜ。つっても、弛すぎてガバガバってのもアレだけどな」
気品ある美貌に反して、品性を欠片も感じさせない言葉を吐く男。自らの言葉にケタケタと笑う姿はひどく上機嫌。
そこにスッとカップが男の前に差し出される。
「気が利くねぇ、坊っちゃん」
そう言うと男はカップを掴み、その中身を一気に飲み干す。
ゴクリと喉を鳴らし、液体を嚥下。
「美味い!もう一杯……って水じゃねーかっ!!ネタをありがとうございます!って言ってやりてーが、俺は客だ!ゲストだ!Guestなんだよ!プリーズPlease精一杯の持て成しPlease!つーか、礼儀ってものを考えろや、糞ガキ! ぶち殺すぞ、コラ!!」
「一人で喋り過ぎなんだよ、アンタは。そもそも、他人に礼を求めるのならば、自らも礼を尽くすのが道理。
それなのにアンタときたらどうだ、人の部屋で品性を欠片も感じさせない下劣な振る舞い。こんなことで礼を尽くしてもらえると思っているのならば、見当違いも甚だしい。
それ以前にアンタはその言葉づかいを直すべきだとは思わないのか?
俺は皇族、アンタはインペリアルガード。立場の違いは歴然。その事に関して何か思うことは無いのか?」
「んなもんあるかぁぁぁぁ!!つーか、テメーだってセリフなげーんだよ!!グダグダなんだよ!うぜーんだよ、バーカ!気取ってんじゃねぇよ、糞ガキ、うぜーんだよ、バーカ!
何が立場の差だ、コノヤロー。勘違いすんな!俺は皇子に喧嘩売ってんじゃねぇ! テメー個人に喧嘩売ってんだバカヤロー。男と男の喧嘩に立場を持ち出すんじゃねぇ、チキンヤロー! 表に出ろや、テメーの性根を鍛え直してやる!!」
一瞬にして場の雰囲気が剣呑なものに変わり、一触即発の気配が漂い始める。
――が、すぐさま、その気配を掻き消すように声が届く
207七四三:2009/03/18(水) 00:01:55 ID:???
「いや、別に喧嘩すんのは構わねえんだけどさ。放って置かれてる俺の身にもなってみようぜ」
声を発したのはミカド。
呼び出されたのにも関わらず、丁重だが、微妙に適当な扱いに困惑こそしていなかったものの、内心ではウンザリしていた。
「あのさ、俺は客じゃないのか? 呼び出されて、茶を一杯だけ貰って。その後、放置って、正直、酷くないか?」
若干、非難するような口調だったが、それを聞いても二人は何ともない様子だったのは流石というしかない。
しかし、結局は水を差された形になった二人は睨みあうことを止め、椅子に座る。

椅子に座る者は、ミカドも含めて三人。これが部屋の中に居る全員。
閉じられた密室の中、ミカドは改めて二人の男――ラザーク・ゴッドウィンとアルトリオ・カーメンを見据えた。
輝くような美貌のインペリアルガード、ラザーク・ゴッドウィンはミカドと向かい合うように座り、この部屋の主であるダルタイル帝国第三皇子アルトリオ・カーメンは、自らの位置が丁度、ミカドとラザークを頂点にした正三角形になるような場所に座っている。
三角形の中心にあるのは円形のテーブル。

「円卓というものは、会議などの際に上座や下座などの席順に序列に関係無く対等な立場で議論を行うために用いられるものだ」
円形のテーブル――つまりは円卓。
その上にアルトリオは手を置き、唐突に話題を切り出す。
「……何が言いたいんだかわからねえ」
アルトリオの言葉の意図が分からないミカドは率直に言葉を述べるが、それに対してアルトリオは肩を竦めるだけ。
「気にするな。別に意味はない」
そう言うと、空になったミカドのカップを手に取り、そこに再び茶を注ぎ、ミカドの前に出す。
「おい、俺にもくれよ。坊っちゃん」
脇からラザークが要求。
「行儀良くしていると誓約するならばな」
すげなく言うアルトリオ。ラザークが行儀良く出来るわけがないと見越しての発言。
ラザーク本人も、それを自覚しているらしく「ケッ」と吐き捨てると、拗ねたように黙りこくった。
ちなみに、ラザーク・ゴッドウィンの年齢は今年で24歳。
年齢に比べて、その言動はあまりにも幼いというしかない。
「行儀良くしなくても、水くらいならくれてやるが?」
相手が年長者であるのにも関わらず、今年で17歳になるアルトリオは同年代の友人と話すような口調で問う。
が、ラザークは年甲斐もなく、不機嫌な顔でだんまりを決め込んでいた。
208七四三:2009/03/18(水) 00:03:21 ID:???
アルトリオは、そんなラザークの態度に仕様がないと言わんばかりの様子で肩を竦める。
それらは、一見すると和やかな日常の風景。だが、そんな穏やかな光景を目にしながらも、ミカドは内心、限界だった。

ミカドはこの場所に呼ばれた理由が全くもって見当がつかない。
アルトリオとラザークの両名との関係は良好だと断言できる。
そのため、恐らくは悪いことではないと思っているのだが、それにした所で、希望的観測に過ぎず、ましてや、アルトリオとラザークからすれば良いことが自分にとっては悪いことという場合も無いとは言えない。
そもそも、アルトリオとラザークが貴族であるのに対して自分は平民。その価値観には大きな隔たりがあることをミカドは忘れてはいない。

考えれば考える程にミカドの思考はマイナスへと傾いていく。
そうなってくると不思議なもので、ミカドは自分の気持ちが逆に高ぶってくるのを感じた。
自分は逆境に強いタイプなのだろうと納得したミカド。
こうなってくると、もうヤケクソ。
どんな悪い結末が待ち構えていようと構わないという覚悟を決めて、単刀直入に切り出すことを決めて、口を開く。

「何の用で俺を呼んだんだ?」
場の空気を読まずに唐突に切り出した言葉は、微妙な緊張もあってか、ミカド自身も思いもよらず低く響き、ドスを利かせたような口調になってしまった。
「そんなに緊張するな。悪い話しじゃあない」
唐突に切り出された言葉にも面食らうことなく、肩を竦めながらアルトリオは答え、それにミカドは食って掛かるように言葉を返す。
「そうとは思えないから俺は警戒してるんだよ」
「疑り深いのは悪いことではないが、あまりそれが過ぎると人間関係に齟齬をきたすぞ」
呆れたようにアルトリオは言うと、そのまま言葉を続ける。
「別に警戒する程のことじゃあない。ただ単にお前に頼みごとがあるだけだ」
「ほら来た! 頼みがあるとか、やっぱりろくなことじゃねえじゃねえか!」
経験上、頼み事とは大抵の場合で厄介ごと。
決して良い話しではなく、間違いなく悪い話である。

「安心しろ、見返りはあるぞ」そう言われてもミカドは安心などできない。
「見返りって何だよ…?」
警戒心をMAXに質問する。
「頼みごと自体がお前にとっての見返りだ」
「はぁ?」
訝しむミカド。それをよそに、アルトリオ何気ない様子で告げる。

「ミカド。お前にはインペリアルガードになってもらう」
209七四三:2009/03/18(水) 00:03:53 ID:???
「は?」
予想もしていなかったアルトリオの言葉にミカドは間の抜けた声を出す。
「いや、待て。ちょっと待て!どういうことだか訳が解らねえ。俺が何になるって言った?インペリアルガード?何で俺が!?」
「不服か?」
「不服とかそういうんじゃねぇ。何で俺がインペリアルガードになんてなれるのか、その理由が解らねえんだよ」
インペリアルガードはダルタイル帝国における最強クラスの戦闘集団。
そんな集団に自分程度の実力で入れると思える程、ミカドは自惚れが強くない。
「第一、インペリアルガードになってもらうとか、オマエの権限じゃあ到底、不可能だろうが」
「それはそうだ。が、これはインペリアルガードの任命権を持つ者の決定――」
そう言うとアルトリオは、未だに拗ねたまま黙りこくっているラザークを指差す。
「――そこにいるインペリアルガードの隊長、ラザーク・ゴッドウィンの決定だ」
インペリアルガードの任命権を一任されているのはラザークだということはミカドも知っているが、まさか、ここまで手早く人事を決定できるとは思いもよらなかった。

「喜べよ、ミカちゃん。今日から高給取りだぜ」
状況の変化に困惑するミカドをよそに、若干、機嫌を直したラザークが口を開く。
「後で制服の採寸とかするから予定空けとけよ。後、パイロットスーツも特注のヤツを作ることになるけど、それに家紋とかいれっから、自分の家に伝わる家紋とか調べとけ。無かったり、わかんなかったりした場合は、新しく考えなきゃならねえから早くしろよ。
他にも住むところはどうするか決めとけよ。
インペリアルガードは軍隊ってわけじゃなく、基本的にゃあサラリーマンだからよ。寮も有るにゃあ有るが、自宅からの通勤が原則だ。
せっかくの高給取りなんだから、皇城の近くで高級物件を買うなり借りるなりしたした方が良いかもしれねえな。
ああ、なんだったらマグナスの屋敷を接収して使っても良いかもな。
どうせ反逆者だし、誰も文句を言わねえだろ」
一人で喋りまくるラザーク。
「おい、ちょっと待……」
まくし立てるような勢いにミカドは口を挟むタイミングが取れずにいる。
そうしている内に
「就任式典はどうする?皇帝はしぶるぞ。奴はアンタが独断でインペリアルガードを任命するのを内心では快く思っていない」
ミカドをよそに、話し合いを始めるラザークとアルトリオ。
210七四三:2009/03/18(水) 00:04:28 ID:???
「知ったことじゃねえっつうの。アレの皇帝としての権威なんざ、内乱の時に無くなってる。それなのに今も皇帝やってられんのは俺のおかげ。
義理堅いギグルスタンは何だかんだ言っても、俺のお願いは聞くだろうよ。それでも、もし金を出さねえって言うのなら、ゴッドウィン家が式典の費用を工面してやるさ」
ラザークの言葉は本心。
ラザークの中には皇帝に対する忠誠心など毛ほども無い。
「ゴッドウィン家がそんなことをすれば、お前とミカドの関係を疑う奴らが出るぞ」
「別にいいじゃねえか。やましい関係ってわけでも無し。却ってミカちゃんにゃあ良いかもしれねえよ。俺がバックにいるとわかりゃあ、城ん中でミカちゃんにちょっかい出す奴なんざいなくなるだろうしな」

「オマエら、ちょっと待て。俺の話しも……」

「しかし、そのせいで巻き込まれであろうトラブルというものもあると思う――が、それを補うメリットは充分にあるな。
だったら、ついでにウィリアムの家からも金を出させるようにしろ。アイツの家は大財閥である名門のケインズ家。関係があることを匂わせておくのも良いだろう」
「テメーは金出さねえのかよ?」
「俺が出したら、俺とミカドの関係が疑われる。
俺は兄上達と違って、インペリアルガードを味方につけていないという事になっている。
ここで下手にインペリアルガードと交友があるみたいな噂が流れてみろ。
噂は尾ひれがついて『アルトリオ・カーメンは兄達と同じようにインペリアルガードを味方に付け、皇帝の座を狙うつもりだ』なんてことに成りかねない。
そうなったら最期、俺は権力争いに巻き込まれる。
別に権力争いを好まないというわけじゃあないが、いかんせん時期が早すぎる。態勢の整って無い今の内にそんなことをすれば、厄介な状況に追い込まれるのは間違いない以上、俺は下手をうつようなことは避けたい」
独演会のように長々と続けられたアルトリオの言葉。
ラザークも途中から聞いてなかったらしく、適当な態度で頷いている。

その会話をすぐ横で聞きながらも、割り込むタイミングを掴めずにいたミカドは、ここに来て、ようやく自らの置かれた危機的状況を理解した。
このままでは自分の将来が自分の意思とは関係無く決まってしまう。
そう気づくと、ミカドは背筋を嫌な汗が伝わるのを感じた。
これ以上、話しが進むとマズイ。そう予感したミカドは後先考えず、大声をあげる。
211七四三:2009/03/18(水) 00:06:04 ID:???
「オマエらちょっと待て!少しは俺の話しも聞け!!」
突然の大声。ラザークもアルトリオも驚いたような顔を見せるが、それはどこか白々しく演技のようにも見え、それがミカドの神経を逆撫でする。
「そうは言うが、それは俺達のセリフだ。お前こそ、俺達の話しを聞いているのか? お前のこれからについて話し合ってやっているん――
「何を勝手に人の将来決めてんだテメーら!! テメーらは何だ!? 俺の親父か?お袋か? 俺の意見も聞かずに勝手に話を進めんじゃねぇぇぇえぇ!!」
声を荒げるミカド。
それを見てラザークが怯えるように身を竦める。
「キレる十代。コワい!コワいわ!バイオレンスよ!violence! 暴力を振るわれるぅぅぅ!」
その態度は明らかにふざけてるとわかる。

「そいつは放っておくとして、急に何だ? お前は自分の意見を聞けと言うが、何か不満なのか、はっきりと言ってもらわんとこちらも対処できん」
「はっきりも何も俺は最初からインペリアルガードになるなんて了承してねえ!勝手に決めんな!」
ミカドの言葉を聞き、ラザークはこの場において、初めて心底、驚いた表情を浮かべた。
「え、ナニ? もしかして、ミカちゃんって、インペリアルガードになりたくなかったり?」
「そうじゃねえ。なりたいとか、なりたくないっていう俺の気持ちは別にして、オマエら何か悪巧みしてんだろ?」
そう言うと、ミカドはアルトリオに疑うような視線を送る。が、アルトリオはしれっとした態度を維持したまま、口を開く。
「当たり前だろう。お前は俺達を聖人君子だと思っているのか?」
テーブルに頬杖をつき、アルトリオは呆れたような態度を見せながら言葉を続ける。
「善意だけで、お前をインペリアルガードにするような酔狂な真似を俺達がするわけないだろう。当然、俺達に見返りがあるに決まっているだろう」
あっさりとミカドの懸念を認めるアルトリオ。しかしながら、悪びれる様子などは全く無い、その姿にミカドは怒りを通りこして、脱力するしかなかった。
「……だから嫌なんだよ…」
脱力した様子のままミカドは力なく呟き、
「俺達の思い通りになることがか?」
アルトリオが推量し、ミカドの言葉を補い、自らの言葉として続ける。
「別に悪巧みが気に入らないという訳ではない。単純に自分が誰かの意図によって動かされていることが気にくわない。つまりは、そういうことだろう?」
訊ねられるがミカドは答えず、沈黙を保つ。
212七四三:2009/03/18(水) 00:07:55 ID:???
「沈黙は肯定と受け取るしかないぞ」
アルトリオは苦笑を浮かべながら、そう言うと、椅子の背もたれに体を預け、リラックスした姿勢を取りながら言葉を続ける。
「俺はお前と竹馬の友という訳ではなく、せいぜいが2ヶ月程度の付き合いだ。が、それでも不思議と相手がどんな人間か理解できる――」
と、そこでアルトリオは意図的に言葉を区切り、ミカドと目を合わせる。
「お前は本質的に独立独歩であり、反骨の気質に溢れた人間だということは理解しているつもりだ」
「知ったような口をきくなよ」
吐き捨てるようにミカドは言うが、アルトリオは気にしない。

「貶しているつもりはない。そう攻撃的になるな」
落ち着き払った態度で言い放ちながら、アルトリオは同席している、もう一人の人物に目をやる。
「アンタは何か言わないのか?」
水を向けられたのはラザーク。
ラザークは腕を組みながら、ミカドとアルトリオの会話をニヤニヤしながら眺めている。
その態度から、積極的に会話に加わる気がないと見たアルトリオは再びミカドと向き合う。


「現実的な側面から話しを進めることにしようか」
口火を切ったアルトリオ。
「急に何だ?」
「話しを変えるということだ」
いぶかしむような視線を送るミカドにアルトリオは肩を竦めて答えてみせる。
「お前は独立独歩であり、反骨の気質に溢れているが、潔癖な人間じゃあない。お前は愚鈍でも愚直でもなく、ましてや誠実さなどとは縁遠い。
そして、夢想家でもなければ理想主義的思考に囚われることもない、極めて現実的な人間――」
「ヒドイ言いぐさだな」
そう言うミカドだったが、その口許には不機嫌さは薄れ、微笑が浮かんでいる。
「貶しているわけではなく、誉めているつもりなんだがな」
アルトリオはまたもや肩を竦め、言葉を続ける。
「極めて現実的な思考、ともすれば狡猾とも言えるような気質も持ち合わせているお前は、それ故に現実と折り合いをつけることの出来る人間だと俺は確信を抱いている」
そこまで言うと、アルトリオはミカドを見据える。
「折り合いをつけるというが、この場合はどうするべきか? その答えは単純だ――」

「見返りを与えてやればいい」
「相手の主義を曲げさせるのだから、それ相応の対価は払ってやるべき。――そう、つまりは取り引きだということだ」
そして、アルトリオは肩を竦める。
213七四三:2009/03/18(水) 00:09:04 ID:???
「お前は、この取り引きにおいて、どんな見返りを求める?」
アルトリオはミカドの目を見つめ、真剣な眼差しで問う。
しばしの無言の時を経て、やがてミカドの方が逃げるように目を逸らす。
「世間一般じゃあ、友人同士はこんな腹の探り合いはしないらしいぜ」
ミカドはアルトリオの真似をするように肩を竦めながら口を開く。
「だが、ただ助け合うばかりが友情というのも安易な話だと思うがな」
こちらは本家、既に癖となってしまった仕草でアルトリオは肩を竦めながら言葉を続ける。
「こういう緊張感のある友情というのも乙なものだろう?」
「時と場合によるけどな」
そう言って、ミカドはウンザリとしたように肩を落とす。が、それはどこか白々しく見える。
「いい加減に猫をかぶらず、素で話しをしないか?」
見かねたアルトリオが口にするが、ミカドは答えず視線だけをアルトリオに向けている。が、そんな沈黙の時間も長くは続かない。
「まいった。降参だ」
沈黙から一転。口を開いたミカドは飄々とした仕草で両手を挙げ、降参のポーズを取って見せる。
「わかったわかった、ここから先は俺も素だ」
「最初から、そうしておくべきだったな」
アルトリオは無駄な時間を食ったと言いたげな咎めるような視線をミカドに送る。
「そんな目で見るなよ。素の自分で喋るってのは、結構な勇気がいるんだよ」
視線を受けたミカドは、吹っ切れたようなさっぱりとした態度で口を開く。
「こちとら好き勝手に生きれるわけじゃないんだ。素の自分で生きてくには、ありのままの俺はエロいわ、若干サディスト気味だわ、下品だわで、周囲と折り合いがつかねえんだよ。
周りの奴らと上手くやっていくためには、猫かぶるようにでもしなけりゃ、やってられねえの。
まかり間違っても、そこの人のように好き勝手に生きられねーんだよ、俺はさ」
言いながらミカドはラザークを指差す。
長々と続く会話に退屈の限界を迎えたラザークは机に突っ伏し、居眠り。夢の世界へと旅立っていた。
全てを吐き出すように、まくし立てるように言葉を吐いたミカドは、一息つくようにソファーの背もたれに、ゆっくりと体を預ける。
「話しを戻そうぜ」
リラックスした姿勢でミカドが、同じくリラックスした体勢のアルトリオに向けて言う。
「最初から、その調子で話しを進めてもらいたかったんだがな」
肩を竦めながら、言葉を返すアルトリオ。
214七四三:2009/03/18(水) 01:24:52 ID:???
「蒸し返すんじゃねぇよ」
返ってきたのはトゲのある言葉。
アルトリオは仕方ないという様子で肩を竦めると、それまでの話題は打ち切り。
会話を本題へと戻す。

「――で、結局、お前はどうすればインペリアルガードになってくれるんだ?」
訊ねるアルトリオの言葉。
それを聞くミカドだったが、すぐには答えない。
ミカドは手の平をアルトリオに向けると、少し待てという合図を出しながら言う。
「ちょっと待て。これから、大事な話しをする筈なのに、その人を放っておいて良いのか?」
その人とは、夢の世界に旅立っているラザーク・ゴッドウィン。
「放っておけ。どうせ寝たフリだ」
アルトリオは一瞥をくれただけで、ミカドの目を見ながら言う。
「…ホントに自由だなぁ、この人は……」
呆れを通り越して、感動に近い思いでミカドは呟く。
寝たフリというのに、些か引っかかるものがあったが、ラザークの奇矯な振る舞いは、今に始まったことではないと、ミカドはアルトリオの言う通り放って置くことにした。

「――さて、先程の続きだ。いい加減に面倒なので、単刀直入に聞くが、お前は何が欲しい? 何を与えればインペリアルガードになってくれるんだ?」
215七四三:2009/03/18(水) 01:25:54 ID:???
鋭い眼差しでミカドを見据えるアルトリオ。
その視線に僅かにたじろぎながらも、ミカドは自らの望みをその指にて示す。
それは眼帯に覆われた自らの右目。ミカドの指は、そこを指し示していた。
「とりあえず、新しい目玉をくれ」
その言葉を聞かされ、アルトリオは初めて気付いたように目を丸くする。
「何だ、それはファッションではないのか?」
ミカドの眼帯をファッションと思い、さして気にも止めていなかったアルトリオは心底、驚いた様子だった。
「アホなこと言ってんじゃねーよ。とりあえず、俺の望みの一つはこれだから、よろしく頼むぜ」
「ああ、任せておけ。最新最高級の物を用意してやろう」
驚きから立ち直ったアルトリオは了解し、容易いことだと言わんばかりの様子で頷きながら、更に訊ねる。
「他には何かあるか」
相手は貴重な人材、その心を掴むためには便宜をはかるに越したことはない。その為に出費が必要ならば、アルトリオはそれを厭うつもりは無かった。
ミカドの方も、そんなアルトリオの意図を多少は察しているため、普段ならば不審に思うこと間違いない、今のアルトリオの気前の良さにも気後れするようなことはない。
216七四三:2009/03/18(水) 01:26:32 ID:???
「他に欲しいものか…」
ミカドは顎に手をあて考え込む。
思考の間、室内が沈黙につつまれる。が、それも長くは続かなかった。
ほんの僅かの時間が過ぎ、ミカドはおもむろに口を開いた。
「…そうだな…俺が欲しいものは――」
一端の区切り、そして続けられる言葉は望み。ミカドは自らの望みを言葉にして伝える。

「信頼だ」

伝えられた言葉はひどく抽象的なもの。だが、アルトリオは疑問も何もなく、むしろ想定していた通りだという様子で「ほう…」と呟き、自らの言葉を続ける。
「なるほどな。確かに、それは欲しいものだ」
アルトリオの言葉は半ば感心するような様子。
「――しかし、信頼が欲しいと言われても、具体的にどうして欲しいのかを伝えてもらわなければ、俺にはどうすることもできないな」
アルトリオはわざとらしく困った表情を浮かべると、肩を竦める。
「別に難しいことを言うつもりは無いさ。子供でも出来るような簡単なことだ」
ミカドが言うが、その言葉にアルトリオは一層、白々しい演技で肩を竦める。
「それは有り難いことだ。では、その簡単なことというものを教えて貰おうか?」
先を促すアルトリオにミカドは頷き、口を開く。
「俺がオマエに望むことは、そうさな…要はオマエが何を考えてるかを包み隠さずに教えろ。それが俺の望む信頼の証だ」
伝えられた望み、アルトリオはそれを確かに聞き届けながらも頬杖を突きながら悠然とした態度で訊ねる。
「それはつまり、対等な関係を望むということか?」
考えてることを包み隠さず伝えるなどは、余程に相手を信頼しなければ出来ることではない。
相当の不利益が生じるのは間違いないし、自らを陰謀家であろうと望むアルトリオにとっては、自らの策謀を晒すのは好ましくない。
――だが、人間の心を読むことなど出来るわけは無いのだから、適当な事を言っておけば、それで済む。
(これは却って良かったかもしれんな)
金も何も使わずに貴重な味方を手に入れることが出来るのだから。
知らず知らずの内にアルトリオの口許に笑みが浮かぶ。
「何を笑ってんだよ?」
「なに、友人とはいいものだなと思ってな」
「?」
疑問符を浮かべるミカドをよそにアルトリオは立ち上がり、右手を差し出す。
217七四三:2009/03/18(水) 01:27:08 ID:???
「良いだろう。取り引き成立だ。俺はお前を信頼し、常にお前に対して全てを明かすことを約束しよう」
それは握手の合図、アルトリオの真意を知らぬミカドは、それを信頼の証しと受け取り、その手を握りしめた。



「腹黒いガキだなぁ、おい」
一通りの結論が出た後、ミカドのいなくなったアルトリオの自室。ラザークが呟く。
「何もかも解っている癖に黙っていたアンタが言えた義理ではないな」
寝たフリをして、話しに加わらなかった事を揶揄して、アルトリオが言うが、人に何か言われて反省するような殊勝な性格ではないラザークは平然とした様子で指で鼻をほじっている。
「しかたねえだろ? オメーらの会話って、まだるっこしくてウゼーんだもん。会話に入るのだって面倒だっつーの」
どんな美貌でも台無しになる姿の今のラザーク。
ほじった鼻くそを丸めて、どこかに弾く。それはとても24歳の社会的地位も、それなりにある青年の姿とは思えない。
当然、アルトリオもいい顔はしない。だが、こちらも17歳とは思えぬ程に落ち着いた性格。
肩を竦めると、どうしようもないという諦めに似た気持ちで溜め息をつく。
「アンタは本当に自由だな」
「まあな」
皮肉のつもりで言ったのだが、そこはやはりラザーク。
アルトリオの意図に気づく様子はなく、純粋に誉められたと思い、ケタケタと笑っている
「頭が痛くなってくる…」
ラザークという存在に対して、ウンザリな気分になったアルトリオ、こめかみを抑えながら呟く。
「おいおい、自分の体調管理もできねぇたぁ、情けねーガキだなぁ、おい」
「自分のせいだという考えに、全く及ばないところに敬意すら感じるが……まぁいい、今は言うべきことが他にある」
気を取り直し、アルトリオは言葉を続ける。
「それで、結局どうするんだ。約束通り、当面のミカドの扱いはアンタに任せるが、何をさせるかはハッキリさせておいてくれ」
「とりあえず、強くする」
端的な言葉。ラザークは続ける。
「今のミカちゃんの実力じゃあ、どうにもなりゃあしねえ。とにかく、当面は能力アップを目標とするしかねえよ」
「……殺すなよ…?」
「はっ、心配してんじゃねえよ。ミカちゃんは俺にとっても、テメーにとっても、貴重な味方だ。悪いようにするわけねーだろ」
(そうしてもらわなければ困る…)
アルトリオは口には出さず、呟く。
218七四三:2009/03/18(水) 01:29:31 ID:???
アルトリオとラザーク。
この二人の共通の欠点を挙げるとすれば、人望というものが無いという、その点に尽きる。
二人にとっては、信頼に足る味方というものは貴重な存在。
失うことは可能な限り避けたい。
「俺とアンタは今はまだ味方同士。勝手なことはするなよ?」
アルトリオは釘を刺しておきながら、さらに牽制を加える。
それは、ミカドを自分“だけ”の味方に引き込むような真似はするなという意味。
今のところは向き合い、談笑している仲だが、この関係が何時までも続くということは有り得ない。
いずれは笑いながら銃を突き付け合う仲になるのは間違いないのだ。
そんなことになる相手に、貴重な味方を奪われることだけは避けなければいけない。

「俺とアンタの“夢”は同じ方向にあるが、その行きつく先は全く違う――」
ラザークとアルトリオ、二人の“夢”は決して同時に叶うことは無い。
“夢”を叶えることが出来るのは、どちらか一人。
お互いを潰し合うことになるのは必然。だが、それでも――
「今はまだ道を違える必要はない」
その言葉を受け、ラザークが不敵な笑みを浮かべる。
「ぶっ潰さなきゃならねえ奴等が山ほどいるからな。俺達が殺り合うのは、そいつ等の数を減らしてからだ」
そう、ラザークの言う通りに倒さなければいけない相手は山ほどいる。

マレブランケ

あの目障りとなり得る組織を叩き潰すまでは、お互いを利用するのが最も効率的。
そして、マレブランケを潰した、その後は――

「――戦いは…」
脳裏にて策謀を巡らすアルトリオの口許が不意に弛み、呟きが漏れる。

「――これからだ」



十七話に続く
219七四三:2009/03/18(水) 01:38:10 ID:???
とりあえず、ここまで。
キャラはブレてくるわ、会話は噛み合ってないような気がするしで、ダメダメな雰囲気が漂ってくるようになりました。
文章の拙さのせいで、読んでくれている人などは既に存在しないかもしれませんが、それでも自己満足の為に続きは書いていこうかなと思います。
220通常の名無しさんの3倍:2009/03/18(水) 14:29:59 ID:???
わははは、元よりこのスレと、
そこにいる書き手に付いて行くと決めた身よ、いくらでも投下してこーい!!


投下乙
221通常の名無しさんの3倍:2009/03/18(水) 20:26:33 ID:???
乙あげ
222通常の名無しさんの3倍:2009/03/23(月) 18:20:01 ID:???
保守
223通常の名無しさんの3倍:2009/03/27(金) 12:03:02 ID:???
エルト期待保守
224通常の名無しさんの3倍:2009/03/30(月) 22:44:37 ID:???
>>223
俺も期待
今は保守
225通常の名無しさんの3倍:2009/04/02(木) 07:46:20 ID:???
保守
226通常の名無しさんの3倍:2009/04/02(木) 17:00:46 ID:GdtTRs3L
もうみんな俺の事忘れてんな。
HAHAHA
227通常の名無しさんの3倍:2009/04/02(木) 23:05:45 ID:???
>>226
アンタ誰よ?
228通常の名無しさんの3倍:2009/04/03(金) 15:26:03 ID:???
ライトさ。
もうすぐ中学生になるぞ。
229通常の名無しさんの3倍:2009/04/04(土) 09:41:15 ID:???
いちいち報告に来なくていいよ。
うざいからさ…
230通常の名無しさんの3倍:2009/04/07(火) 22:08:13 ID:???
続きマダー?
231通常の名無しさんの3倍:2009/04/10(金) 00:21:54 ID:???
保守
232通常の名無しさんの3倍:2009/04/12(日) 19:07:16 ID:???
諦めず保守
233七四三:2009/04/16(木) 00:42:28 ID:???
異説機動新戦記ガンダムウィード

第二章 プロローグ


何時までも、学生という立場であることは不可能だ。
学生であるのならば、いずれは卒業し、社会に出なければならない。
それは、街が戦火に見舞われたとしても、先延ばしにできるものではなく、学生は否応なしに、進路の決定という課題に立ち向かわざるおえなかった。


――セント・エリシオン学園。
総合戦術研究科を有する学校の一つであり、多くの騎士や軍人の母校でもある学園。
その一室にも、また、自らの将来に悩む、一人の学生の姿があった。
学生の名前は、ルーク・ワイアット。
総合戦術研究科の三年。
成績は下から数えた方が早い。
放課後の教室の片隅、自分の席に座りながら、ルークは自嘲するような笑みを浮かべ、手元にある一枚の紙を見つめていた。

「これじゃあ、進学は無理だよな…」
手元の紙は模擬試験の成績表。
そこに書かれた判定は紛れもないE。
ルークが一応、目指している士官学校の入学試験は、実技の試験科目もあるとはいえ、学科がこれでは、到底、合格する筈もない。
「ま、いいや。そんなに入りたいわけでもねぇしな」
虚勢を張ってる訳でもなく、
ごく自然な態度で、ルークは諦めを口にする。
今は、まだ6月。
士官学校の入学試験までは、半年以上の時間があり、努力さえすれば、どうとでもなりそうなものだが、ルークにとっては、士官学校が努力をしてまで入りたいと思えるほど、魅力的な場所には思えなかった。

「――となると、後は普通の大学にでも行くか、就職か…」
とりあえず、口には出してみたものの、それらに関しても、イマイチ気乗りがしない。
大学進学とは言ったものの、大学に行って、何をしたいという訳でもなく、そもそも大学という場所に全く興味が無いのだ。
それはまさに“とりあえず”と言った感じで口に出しただけ。就職に関しても同様で、何になりたい、何をしたいという望みも無く、ただ口にしただけという有り様だった。
戦術科を卒業するのであれば、どこかのコロニーで、騎士になるという選択肢もあるのだが、それにさえ、ルークは興味を持つことは出来ない。

いずれは必ず、何かを選択しなければいけない。だが、ルークは何を選択すればいいかが解らずにいる。
自分が何をしたいのかも解らなければ、何をしなければいけないのかも解らない。
ルークは自分が進むべき道を完全に見失っていた。
234七四三:2009/04/16(木) 00:44:48 ID:???
「俺には、夢がない……」
ルークは自分の席に座ったまま、教室の窓の外を眺めながら、呟く。
“夢”という名の未来へと進むため灯火を持たないルークは、その場に立ち止まるしかなかった。
未来へと続く道は暗く、灯りが無ければ、進むことは出来ない。
「俺は、どう生きてきゃいいんだよ…」
疲れたように呟くルークの未来は、未だ暗闇に包まれたままだった。





――もう、あの場所には居られない…
少女は走っていた。逃げるように走っていた。
――もう、あの場所には居られない…
その言葉が正確では無いことは少女にも解っていた。
――もう、あの場所には居たくない…
我が侭だということは少女にも解っていた。
だが、それでも、少女はあの場所から逃げたかった。
自分の責任は理解している。自分は、あの場所に居なければいけないことも。
だが、怖かった。ただ怖かった。怖いのはイヤだった。
――もう、あの場所には居たくない…
逃げたところで、どうにもならないことは解っている。解ってはいるが、それでも――
――もう、あの場所には居たくない……
あてどなく逃げ惑う少女、その未来は暗闇に包まれていた。


十七話に続く
235七四三:2009/04/16(木) 00:48:08 ID:???
第二章の設定


騎士

貴族に仕える兵士のこと。
正式な軍人ではなく、名前が与えるイメージとは裏腹に基本的には傭兵と同じ存在。
小規模で組織される場合を騎士隊。大規模で組織される場合は騎士団と呼ばれる。

その任務は雇い主である貴族が保有するコロニーと、その周囲の宙域の治安維持。コロニー同士の抗争の際の兵力としての役目など多岐に渡る。
また、MSを含む傭兵の装備は雇い主である貴族が負担する。

雇い主の貴族が軍属である場合、それに付き従って戦場へ出ることもある。
その場合、騎士は雇い主の貴族以外の命令を受ける必要がない。
その権限の強さは仕える貴族の地位に影響される。

皇帝の私兵であるインペリアルガードも軍属ではないため、分類上は騎士という扱い。
仕えるのが皇帝という最上位の存在の為、与えられる権限は非常に強力。



自由旗同盟(通称フリーダム・フラッグス)

正式名称――自由の旗の下に集いし解放者達の同盟。
貴族支配の打倒と共和制の樹立を掲げるテロ組織。
しかし、その背後には皇家に対して反感を抱く大貴族の影がちらつく。
強力な支援者がいるためか、装備や資金は潤沢で、装備だけならば正規軍にもひけをとらない
236七四三:2009/04/16(木) 00:49:25 ID:???
セント・エリシオン学園

ミカドが在籍する学校。
生徒の自主性を尊重する校風。
普通科、工学科、体育科、芸能科、総合戦術研究科などの多数の学科が存在する。
軍や政府との関わりが強く、特に工学科と総合戦術研究科は、その傾向が強い。

普通科・体育科・芸能科など
一般的な学校と同じ

工学科
MSの技術者を育成するのを主眼としたカリキュラムが組まれている。
基本的に卒業した生徒は企業や軍に就職する。


総合戦術研究科
通称は戦術科。
MSパイロットとしての教育を主としながら、初歩的なMSの整備技能の習得、生徒の能力に応じての指揮官としての教育などの総合的な軍事教育を行う。
卒業した生徒は士官学校への入学資格を満たすため、士官学校を受験する生徒が多い。
また、実家のあるコロニーを治める貴族の騎士になる生徒もいる。


士官学校
入学資格は三年間戦術科に在籍し、高等学校を卒業すること。
軍人の子弟が通う帝国軍幼年学校からはエスカレーター式で入学が可能。
十代で士官としての能力を完成させることを目的とした特別士官学校という教育機関も存在する。
237七四三:2009/04/16(木) 00:50:39 ID:???
AG.199におけるダルタイル帝国の主なMSメーカー


アルカディア・インダストリー

ガンダムタイプを含む高性能ワンオフ機の開発に優れるが、その反面、量産機に関しては他社に遅れを取っている。

開発する機体は基本的に量産、ワンオフを問わず高性能だが、とにかく操縦性が劣悪。
企業としてはエーテリウムに関する技術を得意としている。


村正重工

元々は連邦の中小企業であり、パイロットの負担を考慮しない超高性能機を開発を行っていたが、AG.100年代初頭にダルタイル帝国に本社を移転。
それと同時に事業を拡大、以後ダルタイル帝国軍用のMSの開発を行うようになる。
連邦時代は基本的にオーダーメイドのワンオフ機を開発していたが、ダルタイル帝国軍に機体を納入するようになってからは、ワンオフ機は勿論、特殊部隊用の高性能量産機や一般量産機なども手広く手がけるようになった。

日本系企業らしく、人型ロボットに対する造詣が深く、MS開発に関しての技術は業界一。
また、機体のデザインに関しても評価が高い。
得意分野としてMS用の刀剣や装甲材の開発がある。


イグサール

ダルタイル帝国のMSメーカー最古参。
量産機の開発に優れており、帝国軍にて配備されているMSの殆どが同社の機体。
最近では量産機に留まらず、高性能機の開発にも着手するなどの意欲的な活動が目立つ。

開発する機体は扱い易い物が殆ど。
さまざまな任務に対応した多様な機体の開発を行っているのも一つ。

得意分野は射撃兵器と優れた火器管制システム。



MSのネーミングに関しては
アルカディア→神話・歴史・人物系統
村正→漢字オンリー
イグサール→適当
238七四三:2009/04/16(木) 00:56:31 ID:???
第二章、登場予定の人物

ルーク・ワイアット
性別:男
年齢:18歳
所属:セント・エリシオン学園、総合戦術研究科三年

二章における中心人物。
これといった夢も、未来への展望も無く、流されるままに生きる青年。
自らをガンマンと称し、学園の制服にウェスタンハットとウェスタンブーツを組み合わせるといった、およそ常人には理解しがたいファッションセンスを持つ。
近距離での銃撃戦に特化した、高い戦闘能力を持つが、戦術科の成績には反映されず、学園では落ちこぼれのレッテルを貼られている。


マリア・カーメン
性別:女
年齢:17歳
所属:ダルタイル帝国

ダルタイル帝国第一皇女。
穏やかで夢見がちな少女。現在の自分の境遇に不満を持っており、それが原因となり、事件を引き起こすこととなる。
兄達に比べ、秀でた能力の無いことがコンプレックスであり、自分が皇族に相応しくないと思い詰めてもいる。

ベアトリス・ルーガー
性別:女
年齢:25歳
所属:インペリアルガード

皇女の護衛。
マリアに対して、性別や任務を遥かに超越した想いを抱き、必要以上に過保護に扱っている。
れっきとした貴族であり、常に三名の騎士(三名とも女性)を従えている。
能力的にはオールラウンダー。苦手な状況は無いが、得意な状況も無い器用貧乏。
239七四三:2009/04/16(木) 00:57:46 ID:???

シロウ・ムラマサ

性別:男
年齢:18歳
所属
セント・エリシオン学園、工学科三年
ガンダムアレス開発チーム

ルークの友人である優秀な技術者。
ガンダムアレスの基礎設計者。現在は学園に通っていない。


ラヴィエンヌ・マルター
性別:女
年齢:17歳
所属:インペリアルガード

愛称は「ラヴィ」
特別士官学校出身のエリートであり、十代でインペリアルガードとなった才女。
インペリアルガードの中では比較的常識的な人物。
人当たりも良いため交遊関係も広く、セレア・ゴッドウィンとは親友の間柄。
能力は、スナイパー寄りのオールラウンダー。搭乗する機体も、狙撃能力を強化している。


リゼル・アーリマン
性別:男
年齢:21歳
所属:無し

セント・エリシオン学園のOB。
学園を卒業後、士官学校に首席で入学を果たすが、三ヶ月で退学。
以降、定職にも就かず、無為な日々を過ごしている。
240七四三:2009/04/16(木) 01:01:57 ID:???
第一章からの登場人物

インペリアルガード

ミカド・アーサー・セイソウイン(♂)
→主人公。学生。本名が長すぎるので、ラザークに縮めさせられた

ラザーク・ゴッドウィン(♂)
→インペリアルガードの団長。帝国最強。武門の頂点であるゴッドウィン家の当主

ガルヴァ・ガウンズ(♂)
→インペリアルガード最古参。ハゲ。ギグルスタン三世の忠臣

カガミ(♂)
→ラザークの犬。年齢不詳。諜報任務担当

ウィリアム・ケインズ(♂)
→ラザークのパシり。ミカドと同じ学校の先輩で友人。実家が大貴族で資産家

ダルタイル皇家

ギグルスタン三世(♂)
→ダルタイル帝国皇帝。実務能力に関しては凡庸

アルトリオ・カーメン(♂)
→ダルタイル帝国第三皇子。陰謀家。
ミカドの友人でありクラスメイト

その他

セレア・ゴッドウィン(♀)
→ラザークの妹。美少女。ミカドのクラスメイト

シエラ・レオーネ(♀)
→エーテリウム技術の権威である技術者。ミカドと同年代

ガジール・ヘイド(♂)
→ガンダムアレスの開発に携わる技術者。離婚歴あり

ジェイソン・オーラム(♂)
→医者。ラザークとは長い付き合い
241七四三:2009/04/16(木) 01:04:41 ID:???
機体名:ゼクサスSWS(Solid Weapons Special)

開発:イグサール
所属:ダルタイル帝国
武装
140mmリニアリボルバー
90mmリニアライフル(銃剣付き)


エースパイロット用の少数生産機として、イグサールからダルタイル帝国軍に試験的に供与されたMS、ゼクサスの実体弾仕様。
開発者曰く、西部劇に出てくる“ガンマン”をイメージした仕様であり、ひどく趣味的。
ブラウン系統の機体カラーリングも、西部劇のようなイメージを持って塗装されている。

武装解説

・140mmリニアリボルバー
装弾数は六発。
使用弾薬は、140mm徹甲弾“アーマーブレイカー”
開発者の趣味丸出しの武装。
リロードと装弾数に問題はあるものの、それを補って余りある威力を持ち、大抵のMSを一発で大破させる。

・90mmリニアライフル
スタンダードな実体弾武装だが、デザインに関しては、やはり開発者の趣味丸出し。
見た目はウィンチェスターライフルそのもの。
242七四三:2009/04/16(木) 01:05:55 ID:???
機体名:ゼクサス(ラヴィエンヌ仕様)

開発:イグサール
所属:インペリアルガード
武装
スナイパーライフル
ビームサブマシンガン
ビームサーベル×2
シールド

ラヴィエンヌ専用機としてカスタマイズされたゼクサス。
狙撃能力の向上のために頭部センサーを強化している以外は、スタンダードな仕様であり、格闘戦も問題なくこなせる汎用機。
スペックだけで見れば、ガンダムアレスを凌駕する機体。
ゼクサス量産化の際は、ラヴィエンヌ機の仕様がベースになる可能性が現状では最も高い。
機体のカラーリングであるピンクはラヴィエンヌの趣味。

武装解説
・スナイパーライフル
本体のジェネレータから直接、エネルギーを供給することで、高威力を実現した長射程ビームライフル。

・ビームサブマシンガン
スナイパーライフルの使用に影響が出ないように、エネルギーカートリッジが採用されたモデル。

・ビームサーベル
サブマシンガンと同様にカートリッジ式の為、従来型より若干、威力が劣るうえ、大型化されている。

・シールド
スナイパーライフルの使用に影響を与えないための実体盾。
小型で取り回し易い。
243七四三:2009/04/16(木) 01:07:05 ID:???
機体名:白鳥(シラトリ)

パイロット:ベアトリス・ルーガー
開発:村正重工
所属:インペリアルガード
武装
多用途ブレードアーム
“フェアリー”無線機動砲塔
“バイパー”有線機動砲塔
ビームショットガン
ビームサーベル
ビームシールド
ミサイルランチャー
グレネードランチャー
胸部ビーム砲

ベアトリス・ルーガーの愛機。
細身で純白の白鳥と呼ぶに相応しい優雅な姿とは裏腹に大量の武装を有し、大火力と高機動を両立させた、非常に強力な機体。
背中に“フェアリー”をマウントした巨大な羽根を持つ。

本来の白鳥は、シンプルで特徴の無い機体だったのだが、ベアトリス主導の改造により現在の姿となった。
ブレードアーム、“フェアリー”、“バイパー”、胸部ビーム砲はその際に増設された。

武装解説
・多用途ブレードアーム
右腕の肘から下の部分に腕の代わりに取り付けられた武装。
実体剣、ビームブレード、シザークロー、ビームキャノン、有線アーム等の様々な使用方法がある。

・“フェアリー”無線機動砲塔パイロットの脳波によって操るオールレンジ兵器。

・“バイパー”有線機動砲塔
パイロットの脳波によって操るオールレンジ兵器。
有線部分は電撃兵器としての使い方の他、ヒートワイヤーとしての性質も持つ。

・ビームショットガン
収束モードと拡散モードを持ち、状況によって使い分けが可能。

・胸部ビーム砲
通常時は胸の装甲の下に隠れており、使用時にのみ展開される。
244通常の名無しさんの3倍:2009/04/16(木) 18:46:14 ID:???
帰ってきて見たら更新されてた…だと…

二章冒頭からワクワクしちまったぜ、乙
245通常の名無しさんの3倍:2009/04/19(日) 08:32:55 ID:???
おぉー投下乙
246通常の名無しさんの3倍:2009/04/19(日) 19:17:24 ID:???
覚えているでしょうか、ミィルです。
なんだかんだ言ってもう4月ですね。
躍起になって醜いSSを晒してたのも今ではいい思い出です。
ってんなこたぁどうでもいいんですよ、えぇ。
実はまとめwiki的なものを作りまして(ほとんどまとめれてませんが)
その事を報告しに来ました。
ちなみに自分のSSについては、我ながら こ れ は ひ ど い www
とまとめ中に思い、現在リメイク版を執筆中でございます。
身勝手な内容かと思いますが、これからもよろしくお願い致します。

まとめwikiはこちら
http://mywiki.jp/gundamuweed/ウィードガンダムまとめwiki/
247通常の名無しさんの3倍:2009/04/19(日) 19:18:48 ID:???
って何をやってるんだ俺は…早速ミスをやってしまったじゃないか…
もうね、アホかと。

それではさようなら
248七四三:2009/04/19(日) 23:37:09 ID:???
>>246

まとめwiki作製、お疲れ様です。
今までに書いた物のデータが全て消えてしまった俺にとっても、まとめwikiは助かります。
お願いしてしまうのも図々しいかと思いますが、これからもまとめをしてくれると、非常にありがたいです。
249通常の名無しさんの3倍:2009/04/20(月) 21:07:45 ID:???
>>248
と、言っても更新はチマチマとやっていきますのでそんなに早くありませんけどねorz
250通常の名無しさんの3倍:2009/04/21(火) 00:46:37 ID:???
お久しぶりです、エルトです。
約二ヶ月ぶりに2ちゃんにやってきました…
七四三いつも乙です。第二章、じっくり読ませてもらいます
ミィルも乙です。リメイク版楽しみにしてます
とうとうまとめサイトが出来たんですねぇ…
僕の方も、地味に続きは書いていますので、見苦しい文章を投下することになるかもですが、そのうちまた投下させてもらうつもりです。
今たまたま覗いてみたら色々と更新されてて嬉しい限りですね
皆さん本当に乙でした
251通常の名無しさんの3倍:2009/04/26(日) 23:31:31 ID:???
保守
252通常の名無しさんの3倍:2009/05/03(日) 12:40:28 ID:???
保守
253七四三:2009/05/10(日) 16:10:21 ID:???
異説機動新戦記ガンダムウィード

第十七話 Blue Day

ルーク・ワイアットは天涯孤独の身である。
物心ついた頃には既に両親はおらず、ルークは唯一の肉親である祖父に育てられた。が、その祖父もルークが十五歳を迎えた、その年に世を去った。
牧場を経営していた祖父は旧世紀の西部劇に傾倒しており、その姿は正に劇中に登場するカウボーイそのもの。物心ついたばかりの子供に銃を教えるなど、お世辞にも良い保護者だったとは言えないが、それでも祖父の逞しい姿と生き方はルークにとっての理想だった。
祖父が他界した後、ルークは祖父の遺言通り、祖父の牧場と祖父と共に暮らした家を売り払った。
遺言とはいえ、最終的には自らの意思で帰る家を捨てたルークは家と牧場を売り払って得た金を学費に充て、帝都へ上京。セント・エリシオン学園へと入学を果たし、三年の月日を経て、今に至る。
死に際に祖父が遺してくれた、いくばくかの遺産も食い潰し、唯一残ったのは、祖父の形見の一丁の銃。旧世紀の骨董品のそれを常に腰に収めながら、ルークは日々を気儘に楽しく過ごしていた。

だが、そんなルークもその日は違った。
結局、将来に対する展望を何も見出せずに学園の校舎から出たルークの表情は暗い。その欝屈とした思いは足取りにも表れ、ルークは陰鬱な雰囲気を纏いながら街へと歩みを進める。
(ああもう、楽しくねぇなぁ)
ウンザリとした気分で下を向きながらルークは進む。
「ああ、遊びてぇ・・・」
今の欝屈とした気分を発散させるためには、それしかない。
根が陽気で物事を深く考えない性分のルークは、眼前に苦難があると、それから逃げ、楽なほうに流されやすい傾向があった。
「先の事なんて、どうなるかわかりゃしねぇんだ。明日のことは、明日決めりゃいい」
そう言って、今まで何度失敗してきたのか。ルークは自らの過去の過ちから学習するようなことは決してなかった。
「そうと決まれば・・・」
遊ぶことを決心したルークは、言いかけて空を見る。目を細めて見上げる空に、太陽はまだ高い位置にあった。
帝都で起きた先日の戦闘の影響により、学園は短縮授業。時間はいくらでもあった。
「いいね、楽しい気分になってくるぜ」
先ほどまでの重い足取りはどこへ行ったのか、遊ぶと決めたルークの足取りは、やけに軽やか。異様な切り替えの早さで、ルークは意気揚々と街に向かって足を速めた。
その表情には、さっきまでの陰鬱な雰囲気は欠片も残っていなかった。

制服から着替えもせず、その足でルークが向かうのは帝都でも屈指の治安の悪さを誇る歓楽街。
まかり間違っても普通の高校生が遊びに来るような場所ではない。
試しに大通りを見渡せば、明らかに娼婦とわかるような服装をした女が、まだ日が高いような時間にも関わらず客引きをしている。
通りから少し横道を覗いてみたら、国籍不明の男が怪しげな薬物を売りさばき、更に横道の奥に入ろうものなら、死体を発見するか、自分が死体になるかの二択が待ち受けているような、そんな場所。
だが、ルークには何ものも恐れる様子は見られない。
254七四三:2009/05/10(日) 16:19:28 ID:???
決して褒められた話ではないが、学園に入学したときから、この街に入り浸っているルークにとっては今更恐れるような物事は存在せず、肩で風を切るように悠然と進んでいく。
制服にウェスタンハットという人目を引く、その姿を見つける度にすれ違う強面の男達が目を背け、そそくさと逃げ出す。
道端で客引きする娼婦たちは関わり合いになるのは御免だと隠れながら、ルークが通り過ぎるのを待ち。
通りに面した店では、ルークの姿を確認するやいなや、すぐさま店を閉め、臨時休業という徹底ぶり。
まさに蛇蝎の如き嫌われよう。しかし、ルークは少しもこたえた様子は見せず、それどころか、心から愉快そうに高笑いを辺りに響かせる。
「ははははははっ、こうでなくちゃ、つまらねぇぜ」
若干ひねくれた気質も持っているルークには、人々が自分を恐れ、避けて通るような、今の状況は快感でさえある。
だが、一つだけ言っておけば、ルークは一般人に迷惑をかけたことは殆ど無い。
ルークが噛みつくのは、権威を笠に着る輩や、権力を振りかざし非道を行う者、そして暴力により他者を虐げる者。
アウトローを気取りながらも常にルークの心には正義感が大きなウェイトを占めていた。
自らの正義感に従い、悪党と見れば誰かれ構わず、マフィアだろうが、軍だろうが、企業だろうが、政治家だろうが、貴族だろうが、喧嘩を売らずにはいられないのがルーク・ワイアットという人間。
こんな危険な人間に近寄る者などいる訳がない。人々が恐れて逃げるのは当然だった。とはいえ、そのことに対して、人々に憤るような気持ちはルークには毛頭ない。
結局、自分の正義感などというものが自己満足に過ぎない事を自覚している以上、他人に理解を強要できるほどルークは傲慢ではなかった。
(好きでやってるわけだしな、他人にどう思われようが構やしねぇってこった)
そんな風にかっこつけて言うのも建前で、実のところ、多少のストレス発散も兼ねている訳で、そういう大きな声で言えない事情があると尚更、自分の行いを理解しろとは他人に言えない。
正義感に従いながら、ストレス発散の為に、悪党(独断と偏見により判別)を叩き潰すルークは、少なくとも上等の人間でないことは確かだ。
ルーク本人もそれ自覚しているが、自らの意思で行状を改めるつもりはなく、ルークは自分が周囲にどう見られているかなど、気にする様子はなく、今日もまた、溜まったストレスを発散させるための手ごろな悪党(遊び相手)を探していた。
普通に考えれば、そうそう悪党など居そうもないものだが、そこは帝都屈指の治安の悪さを誇る歓楽街。路地裏を覗けば、手ごろな悪党がいくらでも居る。
悪党を探して大通りから路地裏に入ったルークも、すぐに丁度良いカモを見つけることができた。カモは典型的なチンピラ、小遣い稼ぎにも丁度良い相手だ。
チンピラは、これまた典型的な好奇心に駆られて路地裏に迷い込んだ普通の学生を壁に押し付け、金を脅し取ろうしていた。
「なぁ、いいだろ?金貸してくれよ」
チンピラが馴れ馴れしい口調で学生に言うが、刃物をチラつかせながら言うセリフでないことは間違いない。
(これは間違いなく悪党だ)
チンピラの言動に確信を得たルークは自らの正義感に従い、チンピラに向かって歩き出す。
恐喝行為に夢中になっているチンピラは背後から近づくルークの気配に気付かない。
ルークはチンピラに気付かれぬように物音をたてず、背後に忍び寄り、そして手を伸ばせば触れられる距離になって、ようやく口を開いた。

255七四三:2009/05/10(日) 16:22:43 ID:???
「なぁ、金貸してくれよ」
突然、聞こえてきた背後からの声に「ああん?」と声を出しながらチンピラが振り向こうとするが、それよりも速くルークがチンピラとガッチリ肩を組む。
「なぁ、金貸してくれよ」
肩を組んだ状態でルークが再び言うが、チンピラは答えることができない。
突然の乱入者に、チンピラに絡まれていた学生は呆然としながら成り行きを見守り。チンピラはいきなり肩を組まれたことに目を白黒させている。が、この時点では、まだチンピラは幸せだったと断言できる。
チンピラの不幸は平静を取り戻した瞬間に始まる。
それなりに場数を踏んでいるのだろう、チンピラは驚き、目を白黒させている状態から、すぐに冷静さを取り戻した。
そうなれば、いきなり自分にこんな真似をし、あまつさえ金を貸せなどと抜かす相手を許す訳がない。
チンピラは怒鳴り声をあげ、ルークを突き飛ばそうとするが――失敗した。
「てめぇ、なにをしやが…」
放とうとした怒鳴り声は尻すぼみに消えていき、突き飛ばそうと振り上げた拳は慌てて引き戻された。
チンピラにとっての最も大きな失敗は、相手の顔を見てしまったこと。相手が誰なのかを理解した瞬間、チンピラの顔色は蒼白に変わり、抵抗する力のすべてを失った。
「ル…ルル、ルーク・ワイアット…!?」
怯え、震えながら声を出し、チンピラは慌てて逃げ出そうとするが、肩を組まれた状況では逃げようがなかった。
「家族が危篤でさぁ、今すぐ病院に行かなきゃならんのだけど、タクシーに乗る金が無くてさ、わりぃんだけど金貸してくんないか?」
明らかに嘘とわかる口調でルークが言うが、チンピラは抵抗などできず、その頼みを聞き届けるより他にない。
チンピラとて刃物を持ってはいるが、それで何とかなる相手だとは到底、思えない。
相手は悪名高いルーク・ワイアット。逆らえば何をされるかわからない。下手をすれば、命だって失う可能性がある。
「い、いくらでしょうか?」
逆らえない相手である以上は従うほかない。
ルークの機嫌を損ねないように、チンピラは恐る恐る財布を取り出し、そこから紙幣を抜き出そうとする。
――が、ルークは容赦なく財布ごともぎ取った。
そうまでされても、チンピラの頭の中に逆らうという選択肢は存在しない。
「まだ持ってるだろ?」
肩を組んだ姿勢のまま、ルークはチンピラの顔を覗きこみ、言い放つ。
逆らう気など完全に失せているチンピラは従順に、もう一つ財布を取り出した。
「あ…!」
呆然と成り行きを見守っていた学生が思わず声を漏らす。チンピラが取りだしたのは学生の財布だった。
「どうもありがとう」
そう言って財布を受け取るとルークはチンピラを解放する。自由になった途端、チンピラは慌てふためいた様子で逃げ出そうとするが、ルークはそれを許さない。
「誰が行って良いなんて言った?」
ルークはチンピラをその場に押しとどめると、続けて一言。
「ジャンプしろ」
チンピラはそれがどういう意図なのか理解できなったが、大人しく従い、その場でジャンプする。ポケットの中の小銭がチャリンと音をたてる。
「出せ」
そう言われて、ようやく意図を理解したチンピラはポケットの中から小銭を取り出し、ルークに差し出した。
256七四三:2009/05/10(日) 16:23:42 ID:???
「…あの、もう行ってもいいでしょうか…」
有り金すべてを差し出したチンピラが怯えた様子で聞く。すると、ルークはチンピラに紙きれ一枚を手渡した。
「俺の家の住所。そのうち取り立てにでも来てくれ」
紙切れに書かれているのは間違いなくルークの住所。だが、こんなものを渡されたところで、恐ろしくて取り立てになど行ける筈がない。
「行って良いぞ」
ルークがそう言い放つと同時に、チンピラは脱兎のごとく、振り返りもせず逃げ出す。
その情けない有様を眺めたルークは痛快な気分になり、高笑いする。
「はははははは、これに懲りたら、もう悪さなんかすんじゃねぇぞ」
その言葉が聞こえたかどうか定かではないが、チンピラが充分に懲らしめられたのは間違いない。
正義を行使し、満足感を覚えたルークは、次にチンピラに絡まれていた学生に向き直る。
呆然と成り行きを見守っていた学生は、急に自分に向き直ったルークの動作に驚き、ビクリと体を震わせる。
「な、なんですか?」
ルークがどのような人物かを知らない学生は警戒し身構える。
そんな学生の様子に、ルークは呆れたように溜息をつくと、無造作に手に持っていた物を放り渡す。
「次からは気をつけるんだな」
言葉と共に投げ渡したのはチンピラから奪い取った学生の財布。
慌てて学生がキャッチするのを見届けると、ルークは呆気にとられた学生を尻目に、路地裏の更に奥へと消えていった。

続く
257通常の名無しさんの3倍:2009/05/14(木) 01:01:41 ID:???
保守
258通常の名無しさんの3倍:2009/05/17(日) 11:47:37 ID:???
あげ
259通常の名無しさんの3倍:2009/05/19(火) 11:49:17 ID:???
七四三やエルトがいない間の暇潰し程度にお楽しみください。

機動新戦記外伝ガンダムS(ストレングス)

AG.0078……
地球連邦に多大な憎しみを持っていたダルタイル帝国はついに地球連邦と戦争を始める。
最も大きくて醜い争いの時代に運悪く生まれ落ちた青年、ミィル・ライズは連邦軍に入隊。
ミィルはその時大きな渦に片足を突っ込んでいたのに気付かなかった…

第1話 英雄 ─ミィル─

「うおらっしゃぁぁぁぁああああああ!!!!」
気合の入った大声を張り上げながら青年はMS格納庫へと続く道を全力疾走する。
当然周りのに声は響き、皆は驚き騒ぎ立てるだろう───が、
思いのほかこれといったリアクションもなく、青年は通路にいる人達を追い抜いていく。
ここ、地球のブラジルに位置するヴィトリア基地では、青年ミィル・ライズの大声など日常茶飯事だった。
「ミィル・ライズ准尉ただいままいりましたぁぁぁぁーっ!!」
ミィルは時々無駄にテンションが高い。いや、高すぎる。
普段はお前だけ別次元にいるみたいだなと称されるほどテンションが低く、影が薄い。
そのギャップのおかげでミィルはヴィトリア基地では有名人である。もちろん悪い意味で。
そして、ミィルが何か行動を起こすたび何故か通り名がついていく。
『寝たきりミィル』、『失恋ミィル』、『透明人間ミィル』、『イノベーターのミィル』、『良い人ミィル』…等。
ミィルには自分でも把握できないほどの通り名を持っており、更に噂が一人歩きして
地球連邦中にはもちろん、ダルタイル星圏に住む一部の人にまで知れ渡っている。もちろん悪い意味で。
しかし今回はテンションを高くせずにはいられなかった。他の同僚や上司にはなく、自分にはあるもの…
それはMSの新型機である。ミィルのテンションはただ今気力限界突破、気力170、オラは怒ったぞフリーザである。
ミィルはMSパイロットとしては普通だった。ド普通だった。下手をしたらかなりの雑魚である。
だが、ミィルには誇れるものが一つだけあった。それが操縦の丁寧さである。
ミィルは操縦がかなり丁寧で、操縦桿などにつく独特のクセが残ったりするが、ミィルは残らない。
MSでは普通出来ない細かい作業もミィルならいとも簡単に行える(多分)。
その操縦の丁寧さをかわれてミィルは見事テストパイロットに選ばれたのだった。
しかしそんなものは当然戦闘には役に立たず、足を引っ張ってばかりだった。『ヘボミィル』の誕生である。

260通常の名無しさんの3倍:2009/05/19(火) 11:50:39 ID:???
で、今に至る訳である。
「ミィル・ライズ准尉、話は聞いているだろうが、君は晴れてこの新型機、ガンダムストレングスの
テストパイロットとなった。今回は簡単な動作確認をしておいてくれ。マニュアルは渡しておいたはずだ。
明日からは本格的な模擬戦などもあるから覚悟しておいてくれよ、では頼んだぞ期待している」
この人はミィルの上官で、名をハーバード・オックス中佐と言う。ミィルに何かとよくしてくれる。
孤児院で生まれ育ったミィルには親父のような存在である。
「了解!まっかせてくださいよ中佐!」
ウザいぐらいのテンション。この男はかなり極端である。
「整備員さーん、新型機にはもう乗っちゃっていいのー?」
整備員Aに質問するミィル。ミィルは大概の奴と面識がなくても仲がいい。
「おう、いいぞー頑張れよ〜『熱血漢ミィル』さんよ」
「もう通り名あきあきだよ!」
ミィルは苦笑いを浮かべると、早速新型機ガンダムストレングスに乗り込む。
テスト機故かどうかは不明だが、コクピットハッチやV字型アンテナ等を除いて、ガンダムストレングスはすべて白で統一されてあった。
コクピットはヘビーデーモンやヴィルザードとは違い、ガンダムタイプ独特(?)の形状をしていた。
「これがガンダムストレングス…すげぇな…確か連邦は新型のガンダムタイプを一機造ってたって言うけど、まさか
俺がガンダムに乗る事になるなんてな…人生どうなるかわからないもんだなぁ」
ミィルの話している新型のガンダムタイプとは、ウィードガンダムの事を指す。詳しく知らない人は初代スレや前スレをどうぞ。
とりあえずマニュアルを見る事にしたミィル。
動かし方は量産機等とほとんど一緒だと思うが、一応見ていた方がいいと思ったからである。
次々とページをめくるミィル。ほとんど動かし方はほぼ一緒で把握できるからか、ほとんど流し読みですませている。
更にペーシをめくった瞬間、ピタリとミィルの手が止まった。武装詳細の欄である。
「うぉー何か面白そうな機能や武器があるな…早く使ってみたいよなぁ…」
わくわく感が止まらないミィル。新型機を目にして気力は既に200オーバー。もはや気力はあがり過ぎて病気の域だ。
突如、警報音がなる。ダルタイル帝国のMS、デスフォーンとダンデスが攻めてきたのである。
ミィルのわくわく感は一瞬にして消え去ってしまった。
「何やってる!パイロットは全員出撃しろ!早く!」
その場に居合わせたハーバード・オックス中佐は大声で指示を出した。
261通常の名無しさんの3倍:2009/05/19(火) 11:51:25 ID:???
と言っても、主力部隊はダルタイル帝国が補給目的で設置した大規模な補給基地を攻めにいっており、
ここには数名のパイロットしかいなかった。ミィルも当然その一人である。
が、ミィルのヘビーデーモンは現在大破しており、使用できない。
新型で戦う訳にもいかず、ミィルは指を咥えて見ている事しかできなかった。
ここから確認しただけでもMSは数十機はいる。
対してこちらは3〜4機。圧倒的にこちらは不利と言える。
「あぁぁぁぁくっそ俺はこんな時にも何も出来ないのか!」
コクピットから頭を抱え大声で絶句するミィル。コクピットハッチは閉じていなかった為、格納庫中に響き渡る。
一機、また一機と撃墜されていく。自分の敵MS、『デスフォーン』はまだ13機程度残っている。
「もう我慢の限界だね、俺はこいつで出る!」
コクピットハッチを閉じ、操縦桿を強く握る。
「馬鹿言え!壊さず帰ってきても減俸、壊して帰ってきたら銃殺刑だぞ!」
コクピットハッチを閉じる寸前に聴こえてきたさっきの整備士Aの声。
「へっ…前も後ろも地獄なら、俺は前を選ぶね……!」
小声でそう呟くと、エネルギー補給の為などのケーブルを無理矢理引きちぎり、カタパルトへと歩みだす。
「カタパルトを開けろォ!!さもねーとぶっ壊すぞ!」
通信機を介して司令室へと大声で怒鳴る。
いつのまにか司令室に移動したオックス中佐は溜息を一つつくと、隣に居た異様に体のデカいおっさんに指示を促す。
「出撃させてもいいですよね、指令代理」
「もちろんだ。この状況でうだうだ言っている暇はないからな。それに私は彼に期待している」
「(本当に期待してんのかねぇ…)と、いうことだ。開けてやってくれ」
オックスはオペ子さんに指示を出すと、たちまちカタパルトが展開され、ストレングスはカタパルトに乗る。
「サンキュー、帰ってきたら何か奢ってやるよ!」
口だけの約束を言い、ミィルは敵のいる外へと出撃した。
262通常の名無しさんの3倍:2009/05/19(火) 11:52:42 ID:???
「テメェらは一体なにしくさってんだよクソッタレ!」
地面に着地すると、即座にビームライフルを撃ち出す。
撃ち出したビームは光の筋となり、デスフォーンを撃ち落とす。
「さっすが新型機だ、使い易さがエミールと全然違うね!」
妙にハイテンションなミィルは斬りかかってきたデスフォーン二機の攻撃を回避、ビームライフルを2発撃つ。
見事命中、爆発する2機のデスフォーン。流石主人公補正である、モブとは偉い違いだ。
「弾幕薄いぞ、何やってんのー!!」
後ろからビームライフルを撃ちつけてくるデスフォーン3機が攻撃してくる。
ミィルはジャンプして飛び上り、回避し、ビームサーベルを背中のバックパック部から2本抜き放ち構える。
重力に従って落下していくストレングスをデスフォーンはここぞとばかりに狙い撃ちにする。
が、両手に持っていたビームサーベルの手首が突如高速で回転する。
回転した手首は持っていたビームサーベルも回転させ、超簡易的なビームの盾となったのだ。
敵がビームライフルから放ったビームは、回転したビームサーベルに弾かれていく。
「わははははあああゴヘゲホ、グフッ、これぞ秘儀回転斬!そのまんまだろう!!」
あまりのテンションにむせているアホ主人公。一応言っておくが別にそういう技名とかはない。
先程ビームライフルでストレングスを狙ってきたデスフォーン3機のいるド真ん中に着地する。
回転させたまま2機に斬りかかる。回転したビームサーベルはまるでノコギリのように連続でデスフォーンを斬り続けた。
「残り8機ってトコか?さっさとかかってこいよ!」
が、ここでミィルはヘマをする。調子に乗って油断している隙に敵はビームサーベルで斬るつけてくる。
なんとか回避したものの、ビームライフルは真っ二つに切り裂かれ、四散した。
「………減俸と始末書だな」
司令室のモニターからオックスが淡々と呟く。
眼鏡越しから写る瞳はストレングスだけを見つめていた。
「くっそぉぉおおおおおおっぉっぉおおっぉ!!」
半分涙目でミィルはビームサーベルを構え、デスフォーンを攻撃する。
「てめぇら邪魔だぁぁぁぁああああ!!」
ビームサーベルとビームサーベルの柄が連結、一本の巨大なビームソードとなる。
デスフォーン達のビームライフルを巧みにかわし、デスフォーン達の頭上に跳び上がる。
「チェェェェエェ─────ストォォォッ!!」
巧みにビームサードをくるくると回すストレングス。
ビームソードは横にデスフォーンを切り裂いていく。デスフォーンは爆発、四散。
263通常の名無しさんの3倍:2009/05/19(火) 11:53:35 ID:???
「へっ、後はたった2機じゃねーか、この調子だと余裕……んっ?」
突如謎の音が鳴る。ミィルにとってこの音は聞き覚えのあるものだった。
「も、もしかしてエネルギー切れ…ですか…」
エネルギーゲージを見ると、ほとんど臨界に近い。
後数分で切れるほど少なかった。
「くそっ、他に何かないのかよ、何かよぉっ!」
頭を抱えて死を覚悟した、ミィル。デスフォーンがビームライフルを撃とうとしたその時、
MS格納庫のカタパルトから、突如灰色の棒状のものが射出された。
先程ビームライフルを撃とうとしたデスフォーンにコクピットに見事突き刺さり、
棒状の物体は縦に開き何かがストレングスに飛んできた。
先程のデスフォーンが爆発、ストレングスはそれをキャッチする。
「なんだコリャ?銃っぽいが…」
「それはレールガンだ、ミィル准尉。君のストレングスの武装の一つでもある。頼んで射出してもらったんだ、早く撃て!」
通信回線が開き、見えた顔はオックス中佐と話していたゴツいおっさん、ガントリィ・ノア中佐である。
「サンキly…ありがとうございます、ガントリィ中佐!」
あまりのテンションにサンキューと言おうとしたミィル。別にしょうがない事はない。
ストレングスの持っていたレールガンは先端が延長しその銃身を露にする。銃口は小さく、リニアライフルより少し大きい程度だった。
「(エネルギーは臨界に近い、100%当てれるように限界まで近づく…!)」
レールガンのエネルギーの消費量はビーム系兵装の約1/3以下。だが、現在のこのエネルギーでは1発が限度だった。
デスフォーンのビームの雨を掻い潜り、懐にまで接近する。敵のコクピットに押し付けるようにレールガンを構えたストレングス。
「こいつでも食らいやがれ!」
レールガンを零距離で放つ。蒼い電気が銃口で走り、デスフォーンに直撃。爆発した。
発射した直後、エネルギー切れ、ストレングスは動かなくなってしまった。
「OK、俺決めたわ。俺はこの相棒と一緒に戦争を終らせる為のヒーロー(英雄)になる!」
ヴィトリア基地にいた全員の失笑を買ったミィルの戦いは唐突に始まった。
264通常の名無しさんの3倍:2009/05/19(火) 11:54:43 ID:???
ミィル・ライズ

性別:男
年齢:22歳
所属:地球連邦軍
階級:准尉

主人公。
普段はびっくりするほど影が薄いが突然無駄にテンションが高くなる。
通り名を本人も把握できないほど多く持っており、代表的なものは『絶叫のミィル』
赤ん坊の時に捨てられた所を孤児院に拾われたため、本来の戸籍も名前も知らない。

ハーバード・オックス

性別:男
年齢:42
所属:地球連邦軍
階級:中佐

ヴィトリア基地の副指令。
ミィルに何かとよくしてくれる中年オヤジ。
13年前のダルタイルとの紛争ではMSパイロットとしても戦っていた。

ガントリィ・ノア

性別:男
年齢:48
所属:地球連邦軍
階級:中佐

ヴィトリア基地の指令代理。かなりゴツい。
不在(厳密にはいるのだが)の指令の代理を務めている。
ニュータイプである噂があるが、定かではない。
265通常の名無しさんの3倍:2009/05/19(火) 11:55:27 ID:???
機体名:ガンダムストレングス(マークエルフ)
パイロット:ミィル・ライズ

武装
・ビームライフル

ガンダムストレングスの主武装。
威力はデスフォーンなどと一緒。

・ビームサーベル

ガンダムストレングスの主武装。
通常はバックパック部に装備されている。
連結する事により、『ビームソード』にする事が可能。
尚、ビームソード時はかなりのエネルギーを消費する。

・レールガン

エネルギーの消費量を減らす為に装備されているエコ武装。
威力はビームライフル等よりは低いが、エネルギーは約1/3以下の消費で済む。
しかし低いと言ってもMSを大破させるのには十分な威力を持つ。

・頭部バルカン砲

威力は低いが、ミサイル等の誘導兵器の撃ち落としに重宝される。

詳細:
正式名称GUP-01E凡用型ガンダムストレングス通称『マークエルフ』
地球連邦軍の新型量産MS開発の土台となるMS。
高級なワンオフ機等よりも性能は低いが、量産機よりも性能は高い。
3機ある試作機のうちの一機で、マークエルフは凡用型。
他には接近戦型のマークフィアーと、遠距離支援型のマークゼクスが存在する。
テスト運用が終了次第、少数量産され、エースパイロットやデルタ隊等に実践配備される予定。
手首を高速回転させるという変な機能を持つ。
シールドは装備されているが、ミィル曰く2刀流の邪魔らしくあまり装備されない。
266通常の名無しさんの3倍:2009/05/19(火) 11:56:16 ID:???
機体名:デスフォーン

武装
・ビームライフル

デスフォーンの主武装。

・ビームサーベル

デスフォーンの主武装。
柄のカラーが黒になっている点以外普通のものと変わらない。

・頭部バルカン砲

威力は低いがミサイル等の誘導兵器の撃ち落としに重宝される。

・シールド

左腕に装備されているシールド。
ビームコーティングを施しているのでビームライフルの攻撃にも耐えられる。

詳細:
ダルタイル帝国が開発した量産型MS。
ダンデスの時に装備されていたマイクロミサイル等は
デスフォーンでは指揮官機のみに装備されている。
267通常の名無しさんの3倍:2009/05/19(火) 11:58:30 ID:???
しかしよくよく考えると、
ストレングスのビームソードはガンダムアレスのパクリみたいじゃーんと思う自分。
ちなみにサブタイトルは適当なので気にしないで下さい。
リメイク版のいいところはヘビーデーモンを抹消できた事ですかねはい。
268通常の名無しさんの3倍:2009/05/19(火) 19:42:24 ID:???
乙です
269通常の名無しさんの3倍:2009/05/23(土) 09:03:33 ID:???
あのすみません、新しく来たものですがこのスレでは本編にオリジナルMS&キャラを加えた作品
は投下していいんですか?
270通常の名無しさんの3倍:2009/05/23(土) 10:58:58 ID:???
本編てのがどれを指すのかは分からないけど大丈夫だと思う
そんなに人が多いわけでもないし感想とかは貰えないだろうけど、
そのぶん何か言う人も少ないだろうから気にせず投下してみたらいいと思います
271通常の名無しさんの3倍:2009/05/23(土) 21:09:36 ID:???
>>270さん、分かりました。俺のはダブルオーのキャラを使って新しい話を
作るものです(本編とは別次元のため、敵キャラや味方の設定はオリジナル。つまりAGの世界で起こったもう一つのCBの戦い)
オリジナルキャラ&MS
フェザー・トリニティ
ガンダムレイブンのマイスター。無邪気で明るく、動物好き。特技はダンス。正し、戦闘を楽しむ
残虐な一面も持つ。相棒のハロ(黒)とペットの九官鳥ノワールをつれている。

ガンダムレイブン
高速戦闘に特化したブルーグレーの機体。嘴のようなチンガードと大型アンテナ、
大型ウイング特徴。リミッター解除でさらに速くなった「ライジングレイブン」になる。
あまりのGのため、この機体用に作られたデザインベイビーのフェザーにしかあつかえない。
武装
ビームライフル/GNグレネード‐連射方。
ビームショットガン
ビームピストル/ビームサーベル‐膝に装備
GNソード‐日本刀方、切れ味が鋭い
GNクローファン‐鉄扇、シールドとしても機能する
GNニードルミサイル‐肩口から発射。20連発
GNプラズマシュート‐両足にプラズマをためて放つ必殺の蹴り。
GNバスターフィールド‐相手のビームを反射するフィールド。自身のビームも曲げれる。
GNリングフィールド‐攻撃力を有するリング状のフィールド
272通常の名無しさんの3倍:2009/05/23(土) 22:11:56 ID:???
機動戦士ガンダムOOAG
序章
イノベイターを倒してから半年後、CBは各地のアロウズ残党と戦っていた。
「よ〜し!敵全滅確認!帰艦し・・・!」
紫色の付け髪がバイザー越しに除く少年が言いかけたとき愛機のレーダーが敵を捉えた。
接近してきた機体はアヘッドでもジンクスでもない、初めて見る機体だった。
背中の大型GNバーニアをふかし、ドーバーガンで攻撃してくる。
「へへ、速さ比べなら僕負けないよ!」
レイブンが鉄扇と刀を手に加速する。
ザンッ!ザンッ!
次々と敵機が切り倒させれいく。すると敵の一機がサーベルを手に接近してきた。
鉄扇がそれを止める。後ろに回った残りの敵がビームライフルを放つ。
「ハロ!バスターフィールド!」
「リョウカイ!リョウカイ!」
鏡のようなフィールドがビームを跳ね返し、同時に膝のビームピストルが組み付いた敵を爆煙に変える。
「さてと!何だか分かんないけど殺るか!」
集結する敵部隊に対し少年‐フェザーが意気込んだときだった。
ビシュッ!ビシュッ!
どこからか放たれたビームが敵を散会させた。
「このビーム・・・テントか。」
援護をした機体‐ガンダムラドンから通信が入った。
「大丈夫ですか?フェザー。」
ほうに控えめのそばかすがある黒髪の少女、テント・マク・ミーナが話す。
「大丈夫、大丈夫!さっ、やるよテント!」
「はいっ!」
幼さを残した二人のデザインベイビーが言うと同時に敵機には二機が消えたように見えた。
最大戦速モード。この二機には人間の反射神経を超えたスピードが出せる。
しかしそのためこの二人にしか仕えない能力。
ラドンのロングライフルとレイブンのライフル&ショットガン攻撃で5機が破壊され、
残る二機にレイブンとラドンが接近する。
「「プラズマシュート!!」」
青く輝く右脚が敵機にヒットし爆散させる。
「任務。」
「完了。」

帰艦後、フェザーはブリッジに呼ばれた。そこにはCB最強の男ジャン・ブラウと
その友人、イリッシャー・クロー、フォース・ウェーバーら古い仲間達と、最近合流した
刹那はじめプトレマイオスのメンバー、その中には姉のネーナの姿もあった。
事のいきさつを話すとジャンは思ったより深刻そうな顔で
「もしかしたら新たな敵が現れたのかもしれん。」
と言った。19歳の最年少マイスターたちの戦いはまだ始まったばかりだった。
273通常の名無しさんの3倍:2009/05/24(日) 16:51:35 ID:???


まさかのクロスで斜め上。とりあえず続きをプリーズ
274通常の名無しさんの3倍:2009/05/24(日) 19:59:01 ID:???
>>273了解。まずレイブン以外の機体説明から。
ガンダムラドン‐レイブンの兄弟機。竜を模した機体で色は紫。近接格闘を得意とするレイブンと違い射撃特化型。
        両肩とウイングにエネルギーを増幅する玉がある。また竜の顔のようなシールドが肩、背中、胸についている。
        リミット解除で「ライジングラドン」にパワーアップする。
武装
GNロングライフル‐メインウェポン。内部にリボルバー型のコンデンサーを持ち、6発まで高威力ビームを連射可能。
                  さらに砲身を上下に開けば大出力ビームを打てる。
GNマグナム‐竜の顔を模したデザインの銃剣。接近されたときのための装備で両腰に2丁装備。GNソードを展開するほか、バーストモード
       も持つ。腰につけたままの発砲も可能。
GNビームサーベル‐膝に収納。
GNキャノン‐肩と背中のドラゴンシールド口部に備えたビーム砲
GNクラッシュテイル‐刃を連ねた鞭状の尾。先端にクローとビーム砲を持ち、サーベル化も可能。
GNクロー‐二連格闘クロー。両腕に装備。
GNプラズマシュート‐レイブンと同じもの。

ガンダムレギオン‐フォースの機体。胸にCBのマークがついている。万能型で色は白とグレー。足が大型バーニアになっている。
武装
GNビームナイフ‐腕、腿、後ろ腰、膝に収納。
GNへビィマシンガン‐携帯武器。
GNロケットランチャー‐両腰に6発備える簡易型ロケットランチャー。
GNハンドバズーカ‐小型バズーカ。ライフルサイズだが威力は絶大。
GNチェンジソード‐諸刃の実体剣。ビームボウガンやガトリングに変形する。ビームも纏える。
GNビームウイング‐背中の大型ウイングから発するビームウイング。
GNリフレクター‐実体剣も防げるビームバリア。
275通常の名無しさんの3倍:2009/05/24(日) 20:38:34 ID:???
ガンダムジェネラル‐ジャンの機体、白銀の装甲を持つ。
武装
エクスカリバー‐特殊な黒い実態剣。相手の装甲を冷気で凍らせ砕く。
クラレント‐エクスカリバーと対照的に壮絶な熱で焼ききる剣。
GNビームライフル‐後ろ越しのホルスターに収納。モードチェンジでロングライフルになる他、
          連結でバスターモード、ランチャーモードになる。
GNビームサーベル/ビームウィップ‐膝に入れたビームサーベル、鞭にもなる。
GNバスターウイング‐羽から分離する機動兵ウイング高周波ソードとビームで攻撃する。
GNビームセイバー‐両肩に装備。サーベルより大出力で柄はユニコーンを象っている。
GNバスターシールド‐ビーム砲とガトリング砲、ミサイルを備えた円形の盾。
GNドリルランス‐メーサー砲、ミサイルランチャーを備えたドリルランス。普段は背中に装備。

ガンダムグリフォン‐イリッシャーの機体。黒い装甲。胸に鷲、肩に獅子を象ったGNフィールド発生器を持つ。
武装
斬艦刀‐メインウェポン。普段は日本刀として腰に装着。液体金属の刀身は瞬時に巨大化する。また、ビームや重力波も纏える。
GNビームサーベル‐大型で、腕に着剣している。
GNクラッシュテイル‐ラドンと同じもの。
GNドリル‐膝のドリル。
GNオクスタンバズーカ‐実弾とビームを選択して撃てるバズーカ。ライフルサイズ。
276通常の名無しさんの3倍:2009/05/24(日) 21:25:43 ID:???
ガブリエルガンダム‐ネーナの機体。ドライのフル改造機で、胸の装甲がアルケー風。全身武器。
武装
GNブレイドライフル‐ビームブレイドのみね部分にライフルを備えた武器。変形時間はGNソードUより短い
           グリップを倒すだけになっている。普段は両腰のスラスター部に収納。
GNツインビームスピア‐柄の部分にアンカーを備えるツインビームスピア。
GNシールドガトリング‐アルケー風のビームシールド。真ん中が開いて砲身が現れる。両腕に装備。
GNツインガトリングシールド‐ドライの左肩のシールドにガトリングを二問つけたもの。ブースターにもなる。
GN5連キャノン‐肩アーマーに装備した5連重ビームキャノン。
GNハルバートランチャー‐胸の装甲が展開して放たれる。細いビーム4本と、太いビーム1本を同時に放つ。
GNショートキャノン‐四本角の頭部に隠されたものと、腰部フロンアーマーから放つ物がある。連射方。
GNビームサーベル‐膝に装備。
GN背部ガトリングキャノン‐背中のブースターにつけたガトリング。
GNグラビトンヒール‐重力波を纏った必殺の蹴り。

ちなみにこちらでのネーナは四年前のVSサーシェス戦のあと刹那に連れられ仲間になった。
民間人への発砲は無し。アレハンドロも彼女が倒したことになっています。現在は刹那のパートナーと本編とは
まるで別の存在になっています。
ジャージーデビル‐序章で出てきた謎の機体。文中ではGN粒子とありますが、本当はALドライブと言うGNドライブを反転させた
         謎の動力器で動いています。色は黒。
武装
ALドーバーガン‐圧縮粒子で弾を撃つもの。連射不可。
ALビームライフル‐連射可能。
ALビームサーベル‐腕に収納。
ALミサイルポット‐背中の大型ブースターについている。
277通常の名無しさんの3倍:2009/05/24(日) 22:09:51 ID:???
これは…
278通常の名無しさんの3倍:2009/05/24(日) 23:22:05 ID:???
第二話
謎の機体との戦闘から二週間後
フォースが艦内放送で食事ができたと伝えた。
フェザーがつくとすでにフォースがニコニコしながら食事を盛り付けていた。
この男、元人革連特殊部隊エースの癖に私生活では徹底的にオカンなのだ。
少し遅れてトレミーの連中が入ってきた。おそらくまだこのミリオンの艦内に慣れていないのだろう。
しかし、連中なぜこうも皆そろって目を丸くしてるんだ?
「たぶん皆さん食事は合成食だと思ってたんですよ。」
フェザーの隣に座ったテントが言った。
「ああ、そうか、まあここもフォースの物好きでこうなったんだけど。」
「いいじゃないですか、フォースさんの料理はおいしいですし。」
「同感。」
メニューこそハンバーグにご飯、味噌汁と家庭的だが現にトレミーの連中は
「うまい」「すごい」と感嘆をあげていた。
少し離れたところでジャンがイリッシャーと話している(高貴な印象のジャンにこのメニューは合わない気もしたが)
「イリッシャー、お前はどう思う?」
「データの機体は青い光を出していた。おそらくアレはGNドライブではない。」
「やはりか、では・・・。」
「新たな敵・・・と考えるのが妥当だろう。」
フェザーにはよく聞こえなかったが、イリッシャーのいつも以上に渋い顔と、
ジャンの28とは思えない(18ぐらいにしか見えない)顔が深刻そうに沈んでいるのが見えた。
せっかく平和になったのに、これからどうなるんだろう?

ここは火星と地球の間にある資源衛星帯。その中に中部が基地になっているものがあった。
そこに5つの人影がたたずむ。
「導師様、準備整いました。」
一人が話し、また一人がそれに答える。
「うむ、ターゲットの捕獲を最優先にな。」
「はっ!」
話し始めた人影が残りの人影に向かって言った。
「ベヒモス、リバイアサン、ジズで待機!各員渡されたミッションを遂行せよ!僕もディバインで出る!」
三つの人影が合図と共に機体に向かっていく。話し始めた人影の持ち主はにやりと笑っていった。
「さあ・・・今こそ僕達が世界を混沌に引きずり戻す番だ!」
この組織のメンバーが刹那、ネーナ、そしてフェザーとテントに大きくかかわる存在だとはこのとき誰も知らなかった。
279通常の名無しさんの3倍:2009/05/24(日) 23:44:29 ID:???
280通常の名無しさんの3倍:2009/05/25(月) 22:48:23 ID:???
なんか空気が凍った気が・・・まあ機体に装備をつけすぎたかとも思いますが
あくまでパラレルワールドでのCBですので・・・
ご理解いただければありがたいです。
281エルト ◆hy2QfErrtc :2009/05/27(水) 01:59:57 ID:???
久々に投下してみる
282エルト ◆hy2QfErrtc :2009/05/27(水) 02:01:09 ID:???
ガンダムL
第十三話 メフィスト

「ハッハハハッハ!モナークの悔しがるカオが目に浮かぶようだよ!光栄だぞ、ダルタイルの新型、彼より先に君と戦り合えるとはな!」
蒼い残像が、手にしたビーム刀を振るう。
「そうだな、まずは…」
瞬時に近接戦の間合いに移動すると、逆手に構えた二振りのビーム刀で、ライトニングガンダムを薙ぐ動作に移る。
「お手並み拝見ッッ!!」
「!」
目を見開いたエルトがとった動作は、その機動力を活かした回避動作でも、相手のわずかな動きを予想しカウンターを繰り出すことでもなかった。
ただ、自らも二振りのビームサーベルを抜き放ち、敵の太刀を受け止めるという動作。
今まで何回も何回も行ってきた筈のその動作そのものに、これまでにない恐怖感が付きまとう。
今一瞬、エルトは仲間を死に追いやるであろうミサイル基地のことを完全に忘れ去るに至った。
人間の悲しい性だろうか、守ると決めたものを忘れてしまうほどに、自らの身が、彼にとっては一番可愛かった。
たった一撃の斬撃による攻防の間に錯綜する背信の意志。
(コイツ…!)
だが、ライトニングガンダムとて伊達ではない。
折れかけた闘争心を再びその瞳に滾らせると、エルトは反撃に出る。
歯を食いしばり、操縦桿を握る手にも自然と不必要な余剰の力が生じてしまう。
「俺は…負けない!」
火花を散らすビーム刀を弾き、ビームブレイドを纏った脚部での蹴り上げがメフィストを襲う。
「なんとッ!?」
タケルは蹴りがわずかに届かない距離へと機体を後退させる。
近接戦においての間合いというものを熟知しているタケルにとっては、ライトニングガンダムの蹴りを避けることはさほど難しくはない。
右腕に装備されたビームハンドガンを撃ちつつ、更に後退して距離を取る。
対してエルトは、機体を回転させつつ手に持ったサーベル二本と脚部のビームブレイドを使い、放たれるビームを弾きながら距離を詰める。
「素晴らしい!それでこそ私のライバルだ!」
いつお前のライバルになったんだよってツッコミは置いといて、タケルの方も反撃を行う。
「だがこれはどうかな?そら!」
不意にメフィストの左手首部から、捕縛用と思しきクローを取り付けたワイヤーが射出される。
「こんなもの!」
ライトニングガンダムの右肩部を狙って射出されたそれの刀身を、機体を転身させることで避け、サーベルの柄を使い弾き落とす。
「まだ終わりではないぞ!!」
手際良くワイヤークローを収納すると、今度はメフィストの方から間合いを詰める。
先手を取るつもりなのだろう。
283エルト ◆hy2QfErrtc :2009/05/27(水) 02:02:30 ID:???
(来る…!)
その動作を目にする前に、エルトも迎え討つ為にサーベルを構え直す。
「気合いでッ…居合いィ!」
互いの機体が擦れ違う。
溢れ出す光が全身を包む感覚。
かつてない衝撃を受けてなお、決着はつかない。
これがもし、かつてお互いがそれぞれ駆っていた機体…
ダンデスとヴィルザードによるものであったなら、互いの機体は確実にその衝撃に耐えきれず、爆散していただろう。
機体性能は恐らく同等。パイロットの技量によって、雌雄が決される。
…あるいは、心の強さか。
エルトとタケルは、再び互いを見据え、強く睨みつけると、再びそれぞれの剣を構えたのだった。

「嘘だ」
まるで吐息のように自然に発せられたその一言と共に放たれる銃弾。
響き渡る銃声に倒れるは、地球連邦軍の制服を着込んだ男。
脳天を綺麗に撃ち抜かれ、何が起こったのか理解しないまま絶命している。
銃弾を放ったのもまた、連邦の制服に身を纏った男。
たった今、人一人の命を奪ったというのにその表情は少しも揺るいではいない。
その頭に被った帽子を軽く整えると、まるで駆除された害虫に向けるような視線を撃たれた男に向ける。
「貴様等宇宙人の浅はかな脳による小汚い計算に踊らされるほど、連邦は烏合の衆ではない」
地球連邦軍艦隊、ダルタイル帝国軍地球方面軍攻略作戦本部司令室。
周りの者達の戸惑いからくるざわめきに対して、露骨に邪険そうな顔をしつつ男は椅子に深く腰をかける。
耐え切れず、一人の軍人が歩み出る。
「し、少将殿…?」
少将、もとい司令は、目の前の現状に対して疑問を投げかけたそうにしている部下に対して先に答えを述べる。
「何、あれは間諜だ。そうとわかっていながらここに置いた、私の副官にしておいた。
今回のような事態に備えて宇宙の小汚い豚共が送りつけてきたのだろうな。フン、浅はかなことよ」
「で、ではミサイル基地というのは…?」
「嘘だ。ダルタイルの新型機を特定ポイントにおびき出す為のな。
さて、機は熟した…デルタ隊全機に発進指示を出せ!プラン通り、浄化作戦を行うようにとな!」
司令の高らかな宣言と共に、連邦軍による反撃の狼煙が挙げられた。
284エルト ◆hy2QfErrtc :2009/05/27(水) 02:03:32 ID:???
「応!」
気合一閃、メフィストのビーム刀が存分に振るわれる。
「くッ!」
エルトはかろうじてそれを避けると、ツインビームライフルのトリガーを引く。
「小賢しい!」
放たれたビームライフルを小刻みに左右に動くことで避けつつも、二振りのビーム刀を振り回すタケル。
「…戦術が好きなのならば、私もそれにお応えしよう!」
続けて、タケルはビーム刀を素早く腰に下げると、手にしたビームブーメランを、ライトニングガンダムに向けて思いきり放る。
「当たるか!」
エルトは、右脚部のビームブレイドを発生させ、放たれたビームブーメランを思い切り弾いた。
「なんと!君は無茶苦茶な奴だな…だが!」
タケルは、今の蹴りで僅かに体勢が崩れたライトニングガンダムを見逃さなかった。
「それは若さだ!」
言いながら、今度はビーム脇差を、ライトニングガンダムの胸部目掛けて投擲する。
「!」
エルトは咄嗟に、機体を可変させ、放物線を描きながら逃げてゆく。
「そうきたか、腰ぬけめ!」
右腕部に固定されたビームハンドガンを乱射しつつ、再びビーム刀を二振り抜き放ち、エルトを追う。
無論、タケルは乱射されたビームハンドガンを、ライトニングガンダムに当てられるとは思っていない。
「ハッハッハハッハ、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、だ!なんたって私もまだ若いから無茶をしたくなる男なのだ!」
…思っていた。
一方のエルトは戦闘機形態のまま風を切り、メフィストと距離を取ろうとする。
(迂闊には近づけないな、ここは距離を取って…)
カシャン!一瞬の内に可変、再びメフィストに向き直ると、ツインビームライフルを撃つ。
「一気に攻める!」
「効かない、と言った筈だ!」
言ってねぇよ。
…が、無情にもメフィストは無駄のない動きで避ける。
接近戦を得意とするタケルの弱点。それは、言うまでもなく射撃。
しかし、彼は日々の鍛練とその恵まれた才能により、通常のパイロットとは比べ物にならないほどの回避能力を会得していたのだった。
さらに、徐々に距離を詰めつつ機体を転身させながら回避している。
…実はとんでもない奴だ。
何せ、向ってくる物体に向かって咄嗟に斜め前に出てそれを避けることなど、並大抵では不可能なことだ。
普通は横に避ける、あるいは後退してしまう。
しかもそれをMSに乗ってやってのけている。それなんてチート?と言わざるを得ない。
「さしずめ、瞬身の術と言ったところか」
どこがだ。
「…ッ!」
エルトは再び、機体を戦闘機形態に可変させる。
「ハッハッハハッハ!いいだろう、鬼ごっこか!」
ライトニングガンダムは弧を描き、メフィストから離れていったのだった。
285エルト ◆hy2QfErrtc :2009/05/27(水) 02:04:40 ID:???
「なんだか不機嫌そうね」
発進指示が下される少し前、エルトとタケルが戦闘を開始した直後での、控室。
フウラ・レジスターは椅子に腰かけるモナーク・ホプキンドの顔を覗き込む。
「当たり前だろ」
モナークも決して愛想笑いなどしようとせず、今の気持ちをありのままにフウラに返してみせる。
「あなたも、なんだか子供みたい」
「否定はしない…けど、納得はいかないな」
「しょうがないじゃない。上の判断なんだから」
「彼はタケルじゃ手に余る」
「隊長殿は言うことがさすがに違うわね」
「だって、事実だ」
「あたしはむしろ、モナークが出るほどの相手じゃないと思うけど。それに、あんなんでもタケルはエリートの上に超が何個かつけられる実力者だし」
控室の中でなされる他愛もない会話。まったくもって呑気なものだ。
「でも、アホの上にドはつけられる」
「ハンス」
急に話に入ってきた相手の名を呼ぶフウラ。
現れたのは、ひどく澄んだ瞳を持つ、金髪の男。
「…ま、それは置いといてだよ、お二人さん。くだらねえこと話してんなよ。今日は記念日さ、インデペンデンス・デイ。
あれだね、ようやっと小汚いグレイ共が天に召される日だ。盛大に祝わなきゃなぁ。今日はきっと肉屋が大繁盛だ」
「あんたのダルタイル嫌いも大概ね」
「ハハンッ、そりゃこの上もない褒め言葉だね」
ハンスは綺麗に切りそろえられた金髪を指でいじりながら、カラカラと笑ってみせる。
と、そこに、控室の扉が開き、デルタ隊副隊長のサムソン・ランガードが入ってくる。
「おや、副隊長殿」
ハンスの慇懃無礼な呼びかけを無視して、男は口を開く。
「タケルが戦闘を開始した。相手はダルタイルの新型だ」
「知ってる」
モナークが答える。
「聞いていたのか」
「いや、なんとなく頃合いだろうと思っただけさ」
モナークは椅子に腰かけたまま前屈みになって指を組む。
「たった今、我々にも出撃命令が下された。詳細は…」
「そりゃあ初耳だ」
飄々としたまま、茶化すのはハンス。
「何でモナークじゃなくて副隊長殿に命令の詳細が?」
「ま、年齢的に考えて信用されてないんだろう。それよりサムソン、詳細を頼むよ」
軽い欠伸をして、勢いよく立ちあがったモナーク。
サムソンは、その一連の動作を一通り見守った後、口を開く。
「レンザ・スロウン大尉、ハンス・オルドロッソ少尉、フウラ・レジスター少尉。以上の三名でダルタイル帝国軍基地本部への襲撃、だそうだ」
「新型一機とその補佐二機ね。ま、バランスが取れてる」
いちいち相槌を打ってくれるハンス。この男、意外と聞き上手に属する方なのかもしれない。
「続けるぞ。モナーク・ホプキンド少佐、サムソン・ランガード上級大尉の二名で、連邦艦隊の防衛、だそうだ」
286エルト ◆hy2QfErrtc :2009/05/27(水) 02:05:21 ID:???
「ハンッ、奴さん、自分が一番可愛いと見える。いい根性してんね、少将殿」
シニカルに笑うハンスと、より憂鬱そうな表情をするモナーク。
と、モナークのわずかな表情の変化に気づいた男が、モナークを一喝する。
「モナーク、油断するな。戦場に赴く者全て、等しく戦士であるということを忘れるなよ」
今まで沈黙を維持していた茶髪の男、レンザ・スロウンであった。
「…分かっているさ」
モナークはレンザに向かって軽く手を挙げると、控室を出るべく歩きだしたのだった。
「皆、武運を祈るよ」

何度目だろうか、お互いの太刀がぶつかり合った時、エルトはひどい既視感に襲われていた。
MS戦ではなく、自らが自らの体で直接剣を取って、同様に剣を持った達人と、殺陣を演じるというものであった。
勿論彼とて軍人である以上、士官学校で武器の扱い方は一通り学んできている。
しかし、しかし流石に、これほどまでに切迫した感覚を、彼は知らなかった。
ある意味でのデジャヴ、いや、ジャメヴか。
(三回は、死んでるな)
冷や汗をかきながら、エルトは操縦桿を握る。
同時にライトニングガンダムはMS形態に可変し、その後ろを追ってきていた機体、メフィストに対して振り向きざまにサーベルを放つ。
「簡単には逃さんぞ!そうとも、私は部隊一しつこい男だ!」
タケルはまるでその動きを始めから予知していたかのように、容易くサーベルを受ける。
「あくまで、接近戦にこだわるわけか」
「君を私のテリトリーから逃しはせんよ、逃しはせんと言った!」
距離を取ろうとしても、タケルのメフィストは同じ分だけ距離を詰めて来る。
(なんて鮮やかな動きだ…!)
空気抵抗の少ない戦闘機形態に可変して距離を取るも、そのスピード差を、地形の把握と経験により、最短で距離を詰めてくる。
AG0065時点において、最速の名を冠する機体は、同時代における二番目に速い機体を駆る近接戦のエキスパートを相手どることで、未だその真の力を発揮出来ずにいた。
「俺の、バカヤロウ…!」
エルトは自分自身を恥じた。
なんだ。今までの戦いは。なんだったのだ、今までの自分の実力は。
これは、守る為の力だ。
もう二度と、自分のような者を増やさないようにする為の。
あるいは、早くこの紛争を終結させる為の。
理由やら手段やら躊躇やら、そんなものは一切心の隅に追いやった(つもり)で、少なくとも自分はこの戦いに身を投じ、新たな力を手にすることを決意したのだ。
そして、ミサイル基地の存在。
仲間達の命は、自らの双肩にかかっている。
ならば、このような処で、このような相手にかかずらってる暇はないのだ!
「相手に不足なし、とはよく言ったもんだな」
呟いた後で一瞬、エルトは自分で今の発言が適切であるかについて、すこし首を傾げたものの、気を抜くことだけは、決してしなかった。
287エルト ◆hy2QfErrtc :2009/05/27(水) 02:06:53 ID:???
「これは多分、逃げきれないな」
ライトニングガンダムは本来、敵部隊に接近し、全身に装備された格闘用ビーム兵器で一騎当千の実力を遺憾なく発揮した後、高速で離脱するというコンセプトを持つ。
しかし。
ライトニングガンダムは近接格闘用の機体ではない。
あくまで、汎用機なのだ。
これは、万能という名の、遍く人類の願望を追及し続けた強欲な開発者達の研究の賜物だ。
ならば、中・遠距離での撃ち合いにおいても無類の強さを誇る筈と考えたエルト。
その為にひたすらメフィストと距離を取ることばかりに専念していた。
相手は接近戦こそ自分より上だが、射撃戦においてはどうか。
と。高を括ったばかりに生じてしまった幾ばくかのタイムロス。
敵はエルトの予想を遥かに超えたしつこさを有していた。
それなら。
「…考えるのは、もうヤメだ」
メフィストから離れようとしていたライトニングガンダムは、一瞬、ほんの一瞬だけ、その動きを停止させる。
静と動の刹那の狭間で、戸惑ったタケルの虚をつく作戦…ていうかぶっちゃけ、フェイントだ。
そのままメフィストを横切ろうとする動きを予感させた後、逆手に持ったサーベルでの一撃を放つ。
「いけよ!」
「ななな、なんとッ!?」
咄嗟にシールドを翳すメフィスト。
いくらタケルといえど、それ以上の最適な動きを実行することは出来なかった。
「これで…!」
今度は、サーベルを持った手と逆の足で、ビームブレイドによる廻し蹴りを放つ。
「おおう!?」
機体を転身させ、蹴りを避けるも、胸部の装甲を僅かに掠めた。
「終わりだァ!」
蹴りを放った方の手に構えたツインビームラーフルの雨が、メフィストに降り注ぐ。
一連の動作をほぼ同時に行うことで、完璧とも言える連撃がなされた。
「わ、私はッ…!!」
驚愕に顔を歪めたタケルは、それでもなお最善の手を打ってくる。
ライフルの連撃を、避けつつ(幾つかは被弾した)左手首部に収納された捕縛用クローを射出する。
放たれたワイヤークローがしっかりと、閃光を捕縛した。
「はぁっ、捕らえたぞ、これで、君は、私の…!」
タケルは急激な機体の移動により己の体にかかったGに、血を吐く。
メフィストの胸部装甲からは幾らか火花が散っている。
「もう、ヤメにしないか」
本来のエルトの性分なら、この状況において真っ先に口に出るのはこの言葉だろう。
そして、どうすればお互いが剣を向けずに済むか、その方法を二人で真剣に議論するよう語りかけるのだ。
しかし今、エルトはそれをしない。
このようになるまで追い詰められながらも、尚自分を離すまいとする敵パイロットの執念に失礼だと思ったから。
そしてそれをしたなら、自分は心の強さで彼に負けると思ったから。
(次で、終わるな…)
エルトは目を細めながら、目の前の敵の事を、考えた。

288エルト ◆hy2QfErrtc :2009/05/27(水) 02:07:53 ID:???

「ちょ、マジありえねぇ、なんだよこの弱さ。やっぱ地球の空気は君達にゃ合わんのよ!」
ブレードライフルがダンデスを嬲り、爆散させる。
次々と防衛網を突破し、ダルタイル領内に侵入した白いヴィルザード。
雪上戦ではないので、その白さは一際目立つ。
「とっとと終わらせようぜ。そして祝賀会といこうじゃないか。ハッピバースディ、トゥ、ユウ」
渇いた嘲笑をあげるのは、デルタ隊のハンス・オルドロッソ。
「さっきはインデペンデンス・デイとか言ってたじゃない」
淡々と突っ込みを入れるのは、同じくフウラ・レジスター。
「おいおいフウラたん。そういうのはヤメようぜ。お前は突っ込む方じゃなくて突っ込まれる方な。但しベッドの上で」
「冗談」
フウラは意にも介していない。
どうやらこの二人の間では、この程度の会話は日常的になされるものらしい。
「…下衆め」
低く呟いたのは、レンザ・スロウン。
同じくデルタ隊だが、彼のみ、搭乗している機体が異なっていた。
そう、流麗なフォルムを持つ機体、メフィストだった。
「二人共、私語は慎め。ここからは暫く通信を絶つ」
ザッ、通信を切ると、レンザ・スロウンの駆るメフィストは、瞬く間にダルタイル領内の奥へと消えた。
「言うね。さすが鷹狩りのダンナ」
澄んだ瞳で、いやらしく笑うハンス。
「いーから、さっさといくわよ」
圧倒的な戦力を有した二機のヴィルザードは、所々で殺戮を行いつつ、進行していった。

「…付近に異常無し。モナーク・ホプキンド、そのまま待機行動を続行する」
分不相応にも近づいてきたダルタイルの蠅は全て叩き落とした。
モナークは事務的な口調でそう告げる。
「油断するなよ、モナーク。まだ何かいるかもしれん」
サムソンはスナイパーライフルを構えながら、言う。
「…分かっているって。別に俺はそこまで子供じゃない」
「…ならいいが」
「まあ、油断した処でこのメフィストに怖いものはないさ」
彼以外ね、と、聴こえるか聴こえないか程の声で呟く。
「モナーク!」
サムソンが何か叫んでいる。
申し訳ないが、今のモナークの耳に、サムソンの忠告はすんなりとは受け入れられなかった。
「メフィスト…メフィスト・ネクサス。この機体は、やはり凄い…!」
新たな力を手にしたモナークは、先程のエルトのようにその性能に酔いしれている。
そして、逆にサムソンに語りかけたのだった。
「これで戦場に三機の悪魔が揃った。閃光は、どう出るのかな、サムソン。もっとも俺は、負ける気はしないけどね」
双方が手にした、新たな力は、果たしてどのように戦場を変えてゆくのだろうか。

十三話 終
289エルト ◆hy2QfErrtc :2009/05/27(水) 02:12:10 ID:???
機体名称:メフィスト・ヤシャブシ(タケル・クロード中尉機)
型式番号:MSV-091S
所属:地球連邦軍 デルタ隊
パイロット:タケル・クロード
武装:
ビームハンドガン×1
ビーム刀×2
ビームブーメラン×2(出力調整により、脇差としても使用可)
対ビームシールド×1
捕縛用ワイヤー付きクロー×1

詳細:
地球連邦軍の新型機。
現在のヴィルザードと、後のヘビーデーモンとの架け橋になる機体だが、三機しか生産されておらず、後に歴史の表舞台から姿を消すこととなる。
タケル機の特徴として、白兵戦に特化した仕様となっている。
カラーリングは、本人の希望で蒼、黒、金の三色。

機体名称:ヴィルザード(ハンス専用機)
武装:
ブレードライフル×1
ビームサブマシンガン×1
ビームサイズ×1
バルカン×2
火炎放射器
詳細:
ハンス専用のヴィルザード。殲滅戦用。白い。

今回は以上です。てか、だいぶ間を開けてしまって申し訳ない。
まあ読んでる人いるのか?って感じですが…w
色々暇がなくて、今回も投下しに来ただけなんで、他の人のやつもまだ読めてません。
とりあえず、投下された皆さん乙です。
感想等は次回の投下の際に。それでは
290通常の名無しさんの3倍:2009/05/31(日) 00:54:15 ID:???
ほしゅ
291通常の名無しさんの3倍:2009/05/31(日) 19:30:18 ID:???
投下乙
292通常の名無しさんの3倍:2009/05/31(日) 21:05:44 ID:???
ooAG第三話
一向は今、王留美との合流ポイントに向かっている。情報をつかんだとの連絡が入ったのだ。
だがそのポイントに着く少し前に敵が現れた。
その機体は赤い装甲にランチャー砲、二本のバスターソードを持つ機体。
ヤークトアルケーガンダム。
「アイツはロックオンが殺したのになんで?」
警戒としてガブリエルに乗っていたネーナが言う。
「ははは!アルやつに拾われてな、新しく俺という存在を作り直してもらったのさ!」
その声は間違いなくあの狂った傭兵のものだった。
「ガブリエルを発進!残りの機体も出撃準備!」
スメラギが指示を出す。
「ネーナ・トリニティ、ガブリエル、行きます!」
二機のスローネ系が激突する。
「行けよ!ファング!!」
敵が8つの槍頭を飛ばしてくる。
「そんなもの!」
ネーナはすぐさまガトリングで応戦した。
牙を爆煙に変え、スピアで切りかかる。敵も二刀流で応戦するが、ガブリエルが優勢だった。
「ぐっ!何だ?戦いずれぇ!」
「いい事を教えてあげるよ!このライオンヒゲ!あんたの強さは戦場で磨いた経験と腕と感覚!」
「だけどいまのあんたは経験は頭に入ってても体に感覚がしみてないんだよ!」
「なっ!?」
「にぃにぃずの仇、今こそ討たせてもらおうじゃない・・・グラビトンヒール!」
黒く染まった右脚が敵の胴部を捕らえ、蹴り潰す。
「この・・・おれがぁぁぁぁ!」
こうして敵を倒したわけだが、このとき皆はきずかなかった。真の敵がガブリエルを艦から離し、
真の目的を達成しようとしていることに・・・。
293通常の名無しさんの3倍:2009/06/01(月) 11:14:01 ID:???
で、どの辺がAGなんだ?
294通常の名無しさんの3倍:2009/06/01(月) 21:46:22 ID:???
>>293今の段階ではつかみにくいでしょうが、今後登場する敵が使う機体のなかにAGで登場した機体の
発展型が登場します。また、ストーリーの時代設定はだいぶ未来ですが、ところどころAGとのストーリー
リンクをまぶす予定です。
295通常の名無しさんの3倍:2009/06/04(木) 19:06:14 ID:???
新手はすぐに現れた。空間をガラスのように割り、中から現れたのは例の黒い機体。
「新手か!残りの機体を発進させろ!」
ジャンの呼びかけと共に待機中の機体が発進する。
しかしそのときだ。新たな反応と共に4機のガンダムが現れた。青、紫、赤、灰色の機体だ。
「指揮官機?ならば!」
エクシアR2がライフルを構えると、紫の機体がそれに応じた。
離れた位置では、ガブリエルに青い機体が迫る。
レイブンには赤い機体が突進してきた。
「こいつ!!」
敵の振り下ろしたブラスターソードを刀で受け止める。
灰色の機体は他の機体をまとめて相手取っていた。
敵から射出された、大量の大型ファングがこちらの機体の動きを止めている。
「こいつ、この動きは・・・!?」
刹那は言った。敵の動きに見覚えがあったのだ。しかし、刹那がその名を口にするより早く通信が入った。
「ハハッ!相変わらず動きに悪い癖があるぜ!ソラン!」
この声!!
「やはりお前か・・・デュオン!」
刹那は敵パイロットを知っていた。デュオン・セイロン。元KPSAの少年兵で、刹那の親友だった。
しかし・・・、デュオンは死んだはずだった。クルジスの最終決戦時に。だがなぜここに・・・!?
「オラァ!!」
考えているうちにも敵機は迫ってきた。両肩のハッチが開き、大量のビームがエクシアを襲う。
それを避けると、今度はエクシアの右頭部に釘を打ち込まれた。敵が持っていたマシンガンから放たれたものである。
「ぐっ!!」
「こいつで終わりだ!」
敵機が両腰のチェーンソーを手に取った。2対の刃が回り始める。
「くっ!」
エクシアがGNソードで受け止めるも、刀身を削られ、両腕を肩口から失った。
「終わりだな!」
敵機の刃がギラリと光った。
296通常の名無しさんの3倍:2009/06/04(木) 19:53:10 ID:???
ガブリエルに対して攻撃してきた青い機体にネーナは圧倒されていた。
敵は右手のバスターソードと左手のマシンガン、クラッシュテイルを使いこなして巧みに攻める。
「このっ!」
ネーナが頭部のビーム砲を放つと、敵機の顔がフェイスオープンしてビームを放ち相殺する。
強い・・・!!
苦虫を噛み潰した面持ちのネーナがスピアを構えなおすと、爆煙を破って現れた敵機が蹴りを入れてきた。
何とか防いだが今度はクラッシュテイルで近くと衛星帯に叩きつけられ、衝撃でネーナは気を失った。
「任務完了。」
敵のパイロットの声は女のものだ。その声と共にガブリエルが敵機の影に覆われた。

レイブンと赤の機体の勝負は互角のように見えて紙一重で敵機が勝っていた。
「くぅ・・・!」
フェザーはヤバイと思った。レイブンは軽量化のため、装甲は薄く、パワーもない。
しかし、敵機レイブン級のスピードにパワーあわせ持っていた。
ニードルミサイルを至近距離から放つも、敵は左手のガトリング砲で迎撃する。
「こうなったら・・・ハロ!最大戦速モード!」
レイブンの最大戦速モードは確かに発動した。しかし敵はそれにも追いついてきたのだ!
「そっ・・・そんな!」
ありえない!最大戦速モードに耐えられるのは僕とテントだけだ。まさか・・・この敵もあの施設の披検体・・・?
その考えがよぎったとたんフェザーはわれに返った。敵機がソードを振り上げていた。
しかしそれが振り下ろさせるより先に光が走った。何者かが放ったビームだ。
フェザーがそちらを見ると、また見知らぬ機体がいた。重武装を施した量産型の真ん中に黒と白銀の騎士のような指揮官機だ。
指揮官機胸に紋章があった。あれは・・・。

「まさかここで出てくるとはね・・・。」
レイブンと戦っていた機体、ガンダムジズのパイロット、アリア・ヤハウェは言った。
応戦しようとすると、通信が入った。灰色の機体、ディバインガンダムのパイロット、
アクセス・エホヴァだ。
「撤退するよ、ルシファーから連絡も入った。」
「了解。」
通信を切り、レイブンを少し見てからアリアは空間転移をした。

敵の撤退に合わせて、騎士型の機体も撤退していく。
それを見ながらジァンは言った。
「あの紋章は・・・ダルタロス帝国の物・・・。」
297通常の名無しさんの3倍:2009/06/04(木) 20:47:41 ID:???
ちょっと修正。
ダルタロスではなく、ダルタイル。
298通常の名無しさんの3倍:2009/06/04(木) 21:19:22 ID:???
登場した機体
AL‐001ガンダムベヒモス‐近接パワー型。ALドライブを5機積んでいて、空間転移が可能。
武装
ALクラッシャー‐右腕のハンマー状の武器  
ハンドキャノン‐左腕の大型砲
ガンレイビア/レイビアニードル‐ビームマシンガン。対フィールド用の釘方実体弾も備える。
ハイパービームサーベル          
ALミサイル‐大型バックパックに内蔵
チェーンプラズマサイズ‐両腕に内蔵
ダブルチェーンソー‐2本の刃を備えたチェーンソー
クレイモア‐両肩に備えた散弾ビーム砲
胸部反物質砲    
クラッシュテイル
スラッシュリッパー‐膝に収納した4枚の手裏剣
グラビトンハンマー‐状況に応じて装備
AL002ガンダムリバイアサン‐格闘戦用
超巨大ビーム斬艦刀‐普段は両肩に分割している
ガンレイビア/レイビアニードル
胸部反物質砲    
クラッシュテイル
口部隠しビーム砲   
ビームブレイド‐二本腰に装備
膝部スパイク
脚部隠しナイフ
両腕部三連格闘クロー
299通常の名無しさんの3倍:2009/06/04(木) 22:01:22 ID:???
AL‐003ガンダムジズ‐高起動型
武装
ブラスターソード
ビームガトリング
ビームウイング
ビームサーベル
ガンレイビア/レイビアニードル‐二丁装備
ミサイルコンテナ
反物質砲
AL‐004ディバインガンダム‐遠距離攻撃型。ALドライブを7機備える。
大型ファング‐全身に22基搭載。砲身を開いたハルバートモードや高周波ブレイドモードも持つ。
オクスタンランチャー‐実弾とビームの打ち分け可能なランチャー。メインウェポン。
ガンレイビア/レイビアニードル‐二丁装備
ALキャノン‐両肩、両膝、つま先のビーム砲、隠し腕もある。
ビームサーベル‐8本装備
ALソード‐GNソードUのAL版
反物質砲‐肩、胸から放つ
ジェノサイド‐連邦にやぶれたダルタイル帝国残党が量より質を優先して開発した機体。
       ガンダムタイプの機体のデータも使っているがダンデス系
バスターソード‐右肩に装備
スナイパーライフル‐ケルディムの物と似ている。
マトリクスファイアダガー‐左肩に装備された多弾頭ミサイル。そのままでも大型ミサイルとして機能する。
ビームサーベル
大型バックパック
ガラドール‐騎士方。指揮官機用として開発していたが、ジェノサイドとの競争に負けた。フェイスオープンでガンダムヘッドが出現する。
ブレイドレイビア‐実体剣。左腰に装備
ロングライフル‐ビームサーベルを備えた銃剣。
マトリクスファイアダガー
10連ビームクロー‐指一本一本がビームクローになっている。バルカンとしても使用可能。
ハイガードウォール‐専用の黒いマント。ビームを弾き、剣もとうさない。伸縮自在の特殊素材でできている。
300通常の名無しさんの3倍:2009/06/07(日) 15:09:50 ID:???
エルト投下乙
絵師さんはもう来ないのだろうか…
301通常の名無しさんの3倍:2009/06/10(水) 19:38:18 ID:???
保守
302通常の名無しさんの3倍:2009/06/13(土) 20:14:29 ID:???
そして誰もいなくなった…
303通常の名無しさんの3倍:2009/06/14(日) 16:28:10 ID:???
まだだ!まだ終らんよ!

第2話帰還 ─ぎもん─

あの日から遂に3日が過ぎた。
補給基地を叩きに行ったパイロットや戦艦も帰還し、
ミィルの事が噂になり更に減俸になり始末書を書かされた3日後の話である。
「なぁ、どうすればヒーローになれると思う?」
「いきなり何を言い出すかと思えば…戦争中に何を言ってるんだ?」
食堂で朝食をしながら会話する二人。
一番人が多い時間を外している為、現在はこの二人を除き3〜4人しかいない。
「人が折角補給基地潰して帰ってきたって言うのに会った第一発声もそれだったよな」
「うるせー、お前は一生俺の質問回答機でいいんだよ」
今現在めぼしい人が食堂のおばちゃんしかいないここで話している2人とは、
1人はミィル、そして2人目はミィルの親友のスチュワート・ミックである。
「大体生きるか死ぬかの戦争中に俺ァヒーローになる!って馬鹿ですかあなたは、ルフィですかそうですか」
カレーを口に運びつつ毒の混じった言葉を吐くミック。
ミィルの相手は大体このぐらいが丁度良いと彼は長年のどうでもいい経験から知っていた。
「ヒーローいいじゃん、この戦争中にそうなれたらマジかっけーと思うんよ、俺。
てかお前こんなクソ暑いなか朝からよくそんなヘビーなモン食えるな」
「大体正義のヒーロー目指す奴がドンパチやってる方がおかしいっての」
ちなみに今は9月17日。もう真夏はすぎたと言うのにこれでもかというぐらいに暑かった。
「へっ、なら俺は俺で自分が正しいと思う事をこの戦争でやるだけさ!いくぜ俺の心にほとばしるジャスティス!」
椅子の上に立ち上がり箸をにぎりしめて大声で叫ぶミィル。どうやら今回はハズレの無駄にテンションが高い日のようである。
「はぁ…それでいいんじゃないのか…そうやって一度決めた事を貫こうとする姿勢だけは評価しとくけどな」
椅子から立ち上がると、呆れ顔でミックは自分の部屋へと帰っていった。
「んじゃ、俺も今日はガンダムの性能テストの模擬戦があるからとっととMS格納庫に行くか」
もうおばちゃんしかいない食堂で1人呟くとミィルは急ぎ足で食堂から出て行った。

MS格納庫に続く道を歩いていると、誰かと通り過ぎるたびヒソヒソ言われているのが聴こえた。
おそらく理由は2つ。1つはミィルが新型機のテストパイロットに選ばれた事、もう1つは
その新型機でここヴィトリア基地を攻めに来たデスフォーンを退けた事である。
ミィルは良くも悪くも色々な奴から人気者になれる素質を持っているようである。
「おっ、ミィルじゃねーか、噂は聞いてるぞ!ったく羨ましいねぇ俺を差し置いてコノヤロッ」
突然ミィルに話しかけてきたのはミィルの隊の隊長であるファーム・トリントンである。
ちなみに水族館に行くと妙にイライラしだすのがこの男。特にイルカショー。
「ところでトリントン大尉、こんなトコで何やってるんですか?」
とりあえず質問してみるミィル。とくに理由はなかったが話題作りの為に無理矢理聞いただけである。
「あぁ、何か壊れてるのかしらねーが、俺の部屋のロックが開かないんだ。IDカードが認識できないとかフザけんな」
「ってか大尉、それポイントカードですよ」
ミィルが指をさして言う。確かによく見るとポイントカード、部屋のIDカードではない。
ちなみにカードのデザインはまったく違う為間違える事はないと思うのだが。
「あっ…本当だ…何やってるんだろう…俺」
「ははは、ドジだなぁ、大尉は。……おっと、俺はそろそろ用事があるんでここで」
少し会釈のそぶりを見せるとミィルはまたもや急ぎ足でMS格納庫へと向かっていった。
304通常の名無しさんの3倍:2009/06/14(日) 16:28:52 ID:???
MS格納庫に着くと、ところせましと並んでいる連邦の量産MSであるエミールが見えた。
整備士達が道を素早くいききしているのを入り口からみつめていると、一機のMSの存在に気付いた。
ガンダム特有のV字アンテナの1/4程度の長さのアンテナを頭部に抱え、
ツインアイの左眼に据え付けられているスカウターに似た照準機のような物を装備した特徴的なMS。
ところどころ装備が違ったりしているが、それはミィルの搭乗したガンダムと似ている。
「それはGUP-01Z遠距離支援型ガンダムストレングス…通称『マークゼクス』君のマークエルフの遠距離型だ、准尉」
不意にミィルの右から声がした。ミィルが振り向くと、そこにはハーバード・オックス中佐とオレンジ色の髪をした女性が居た。
「中佐…………と、誰?」
ミィルがとぼけた声で喋る。はっきり言ってマヌケ面。この一言に尽きる。
「集合時間より15分遅刻ですね、准尉。もっとしっかりしてください」
携帯端末の時計で時間を確認しながらミィルに言い放った女性。ミィルはマヌケ面のまま静止している。
「あー…彼女はセシル・グレイシア少尉だ。これからやる事については知っているだろう?」
「確か模擬戦でしたよね…ストレングスの性能実験の一環で……」
ピタリとミィルは喋るのをやめると同時に、光速で脳がフル回転した。

つまり、模擬戦の相手がこのほとんど面識のない女性って訳で…
「えぇ?女性パイロットとやるんスかっ?大丈夫ですか?それ…」
「ははは、安心したまえ、少尉は君より100%完璧完全絶対君より強いからな。まず自分の心配をしたまえ」
かなりの否定のされよう。ミィルの心に5センチ程えぐるようなダメージだが、気にせず続けた。
「と、ところであのマークゼクス?だったっけ。それには誰が乗るんですか?」
マークゼクスを指差しながらミィルはオックスに質問する。
「アレにはスチュワート・ミック少尉が乗る予定だが?
いやーそれにしても2人も新型機のテストパイロットに抜擢されるなんて私も感d」
「な、なんだってーーーーーー!?」
オックスの声を遮るかのようにミィルは大声で叫ぶ。
「チクショー、ミックの野郎め!俺だけだと思ってたのによー…」
落胆するミィル。そこまで落ち込む事はないが、
無駄にテンションの高い状態のミィルは大したことのない事でもすぐおおげさに落ち込む。
しかし本心はほとんどショックを受けていない。フェイクである、幻である。
正味アホである。
「……とりあえず話を戻させてもらうが、これからやる模擬戦の場所はA-08地点で行う」
話を戻すオックス。やはり中佐は伊達ではないのだろうかミィルの奇行にも動じず話している。
「接近戦ではビームサーベルの代わりに電磁警棒、ライフルには模擬弾を使う。開始時間は20分後だ、分かったな?」
「あいあーい…了解了解……と」
ミィルはゆっくりとストレングスのコクピットへ歩き出した。
305通常の名無しさんの3倍:2009/06/14(日) 16:29:33 ID:???
そしてヴィトリア基地からは遠く離れた高原地帯。ミィル達はここで模擬戦を行う事になっている。
「いまいちやる気が出ないなぁ…まぁやるしかねーけど…」
ストレングスのコクピット内で頭をボリボリと掻きながら呟くミィル。
「んじゃ、とっととやりますか…で、相手方はどこにいる…」
と言い終わらない内に模擬弾の雨がミィルを襲う。
背中に装備していたシールドで間一髪ガードするミィル。
「あっぶねー!不意打ちとは卑怯だな!くそっ」
ビームライフルを構えるマークエルフ。当然模擬戦仕様で模擬弾が入っている。
「卑怯も何ももう模擬戦はじまってますから」
淡々と呟くと背後から赤いカラーが目立つ連邦の最新鋭機、『エミール』が現れる。
「んなっ!いつの間に後ろにいやがった!」
「あなたが鈍感なだけです」
エミールは電磁警棒を抜き放つと、マークエルフに斬りかかる。
マークエルフはそれをシールドでガードし、距離を取った。
ビームライフルをエミールに撃つマークエルフ。模擬弾はエミールを完璧に捉えている。
「ビンゴ!確か一発でも模擬弾が当たれば勝ちだよな!」
ミィルは歓喜の声をあげたが、すぐにぬか喜びに変わった。
「な、なんだってー!」
エミールは模擬弾の弾を電磁警棒でガードしていたのだ。
「んな細い棒切れにどうやったら当たるんだよ…」
「技術の差ですね」
フフン、と笑うセシル。というかお前(ミィル)の丁寧云々はどこにいったんだ。
「模擬弾を一発でもくらえば負けですが、電磁警棒を頭部に当てられても負けですよ!」
背中のバーニアを噴かし、突進してくるエミール。
セシルの乗っているエミールは接近戦使用であり、いくらマークエルフといえど所詮は器用貧乏。
パイロットのミィルがポンコツなのも相まってピンチである。
「お、おい!ここまでで俺まともに反撃できてねーじゃん!」
どうするアイフル、どうするミィル。次週に続かず続行しますします。
306通常の名無しさんの3倍:2009/06/14(日) 16:30:16 ID:???
「ふ…終った…かな」
ミィルは目を閉じた。そして…
「なーんつってな!なーんつってな!」
操縦桿を思い切り前に倒すミィル。
マークエルフはエミール目掛けて全速力で突進する。
「玉砕覚悟ですか」
「そう思いたければそう思え!」
エミールが電磁警棒を振ろうとした瞬間、マークエルフは急停止する。
「なっ!?」
虚を突かれたセシルは一瞬、動きが止まる。
「お手がお留守のようだぜ、美人さんっ!」
エミールの電磁警棒を弾くマークエルフ。
「(しまった!電磁警棒が…)」
心の中で呟くと同時に電磁警棒を取ろうとするセシル。が、時既に遅し。
手の届かないところへ飛んでいってしまった。
マークエルフはエミールのコクピットに一発蹴りを入れ、距離を置く。
「しまった!いつものノリでやっちまった!」
「…馬鹿ですか」
そうこう言ってる内にサブマシンガンを構えるエミール。模擬弾が雨の如く襲い掛かる。
「ちっくしょぉう!またふりだしかよ!」
シールドで防御しつつ、ライフルで牽制するマークエルフ。
マークエルフはそのまま遠くへと距離を置こうとする。
が、当然エミールはそのまま距離を詰めていく。
「(いつまでも逃げてちゃ平行線だ…でもさっきみたいなのは通用しないだろうし…)」
マークエルフを動かしながら約3分脳みそをフル回転させていたミィル。
そして、ある結論に至った。
「俺の脳みそで何考えたってしょうがねぇ!玉砕覚悟だ、接近戦で一気に決める!」
そう言い放つと同時にライフルで牽制しつつエミールに向かって突撃した。
「あら?鬼ごっこはもう終りですか?」
模擬弾を巧みに回避しつつマークエルフに近づいていく。
「終りの始まりってなぁぁああ!!」
そうミィルが叫ぶと、マークエルフはエミールの頭上へとジャンプした。
307通常の名無しさんの3倍:2009/06/14(日) 16:30:57 ID:???
電磁警棒を構え、迎え撃つエミール。
マークエルフは背中に装備していたシールドをエミールに投げ付ける。
「(目暗ましのつもりですか…今更小細工ですね!)」
ヤケになった敵パイロット、いや、ミィルに失望の念を抱くと、シールドを電磁警棒で薙ぎ払う。
「さて…これで終わりにしましょうか!」
重力に従い落下してくるマークエルフに狙いを定め、電磁警棒を降りかかる。
「まだだ!まだ終ってねぇ!」
操縦桿を思い切り引くミィル。勢いがつき過ぎたのかミシッという音を立てる。
エミールの方向へスラスターを思い切り噴射させる。結果、空中で一瞬、ほんの一瞬停止する。
電磁警棒は空を切っただけに終った。
「今だぁっ!」
電磁警棒を抜き放ち、エミールの頭部を思い切り殴りかかった。
が、エミールはとっさに手にもっていたサブマシンガンを間に滑り込ませガードに成功する。
マークエルフはサブマシンガンを弾き飛ばす。

勝った。セシルは心で勝ち誇った。
マシンガンを弾き飛ばした瞬間、マークエルフには一瞬の隙が生まれたのだ。
その隙を逃すはずもなく攻撃を仕掛けた。
「途中まではよかったですが、結局は私の勝ちでしたね!」
マークエルフの頭部を完全に捉えた。そう思ったセシル。その慢心が僅かな隙を生む。
その隙はマークエルフ、いやミィルに最後の逆転のチャンスを与えるには十分だった。
「アンタ、俺をザコだってなめてるのかしらねーがよ!ちょっと油断しすぎだぜ!」
マークエルフは体を反らす。結果、電磁警棒が当たったのは頭部ではなくコクピット。
「しまっ…」
「へんちくりんなルールで助かったぜ!」
手に持っていた電磁警棒を勢いよくエミールに叩き付ける。
勢いがよすぎたせいかそのままエミールに倒れこむマークエルフ。
「俺の勝ちだな。また性能のおかげで勝っちまった、情けねぇ」

この模擬戦、もしエミールなら自分は負けていたと痛感するミィル。
だが、自分はまだ強くなれる。そうも感じていた。
308通常の名無しさんの3倍:2009/06/14(日) 16:31:39 ID:???
スチュワート・ミック

性別:男
年齢:21
所属:地球連邦軍
階級:少尉

ミィルと同じ小隊に所属。
同期だが、ミィルとは比べ物にならない実力をもつ。
狙撃手。

セシル・グレイシア

性別:女
年齢:22
所属:地球連邦軍
階級:少尉

ヴィトリア基地所属のパイロット。
ミィルとは別の小隊に所属している。

ファーム・トリントン

性別:男
年齢:37
所属:地球連邦軍
階級:大尉

ミィルの隊の小隊長。
実戦経験豊富なベテラン。
309通常の名無しさんの3倍:2009/06/14(日) 16:32:26 ID:???
機体名:エミール(近接戦闘特化型)
パイロット:セシル・グレイシア等


武装
・サブマシンガン

近接タイプのエミール唯一の遠距離武装。
MSを破壊するには十分な威力をもっている。

・ビームサーベル

通常は腰にマウントされている普通のビームサーベル。

・ロングソード

発生器の棒を中心としてビームを形成するビームソード。
ビームを纏っているように見えなくも無いビームソードである。

ヘビーデーモンの後継機として開発された量産型MS。
他に遠距離支援型も存在し、特殊武装の換装が容易にできる。
このエミールの延長にあたるのがガンダムストレングスの各機である。


っつーかこの程度の駄文になに時間かけてんだって話ですなすんません。
310通常の名無しさんの3倍:2009/06/14(日) 21:19:28 ID:???
ミィル投下乙
311通常の名無しさんの3倍:2009/06/16(火) 22:22:47 ID:???
保守
312通常の名無しさんの3倍:2009/06/20(土) 18:13:39 ID:???
マジで人いないの?
313通常の名無しさんの3倍:2009/06/21(日) 00:10:41 ID:???
居ないよ。
314七四三:2009/06/23(火) 00:25:55 ID:???
異説機動新戦記ガンダムウィード 

第十八話  死刃(シーヴァ)

それはチンピラだった。ルークの前からほうほうの体で逃げ出したチンピラだった。
チンピラの心中には怒りが渦巻いていた。
自らの行いを棚に上げ、チンピラはルークに対する怒りの言葉を辺り構わず叫び散らしていた。もっとも、薄暗い路地裏にはチンピラ以外の人影は見当たらなかったが。
辺りを気にせずに大声を出すというのは気分のいいもので、周囲に誰も注意する者がいないことも幸いし、興が乗ってきたチンピラは叫び続ける。
夢中である。
注意力散漫だ。
――だから気付かなかった。背後に人が立っていることにも――

「ちょっト、いいカ?」
声をかけたのは男だ。
異様に青白い顔色の男。夏場の炎天下にも関わらず、真っ黒のロングコートを羽織っている男。手には棒状の何かが入っていると判る細長い布の袋を持っている。
「キきたいことがアるんだガ・・・」
聞き取りづらい発音で男はチンピラに声をかける。しかし、罵詈雑言を吐き散らすこと熱中し周囲の音が耳に入らないチンピラには届かない。
仕方なく、男は背後からチンピラの肩を叩く。
「あん?」
男の存在に気付き、振り向くチンピラ。
「スコシ、キきたいコトがアるんだガ」
男はチンピラが何か言うよりも速く、そう言うとチンピラの目の前に懐から一枚の写真を取り出した。
写真には一人の少女の顔が写っている。
十代半ばから後半ぐらいの少女だ。栗色の髪に整った顔立ち。きれいというよりは可愛いという表現がしっくりくる少女だ。
「このムスメをシらないカ?」
青白い顔に淀んだ瞳で男は問う。
男の不気味な風貌を前にたじろぐチンピラ。しかし、ここで怯んでは男がすたる。
チンピラは虚勢を張り、答える。
「知ってるぜ」
――本当の事を言えば知らない。しかし、さも知っているかのように答える。
「ただし、タダで教える訳にはいかねぇなあ。それなりの誠意ってヤツを見せてもらわねぇと」
誠意とは要するに金だ。
ルーク・ワイアットと関わったことで失った金を少しでも取り戻そうという浅ましい考え。
写真の娘の事など、「さっき、そこを通り過ぎた」とでも言って、適当に誤魔化しでもすれば、どうとでもなる。
口の巧さに関してはチンピラも、それなりに自信があった。
チンピラは尊大な態度で右手を差し出し、男に“誠意”を要求する。

――ストン
地面に何かが落ちたような音がしたのは、その直後だった。
315七四三:2009/06/23(火) 00:27:16 ID:???
「は?」
音が聞こえた直後、チンピラは違和感を覚える。その違和感は右手からのもの、それに気付いたチンピラは右手に目をやる。
男に差し出していた筈の右手。その手首から先がチンピラの視界から消えている。
「あれ? 俺の手・・・?」
訳が分からず、チンピラは呆然と男の方を見る。
男は天を仰ぎ見ていた。
左手に握られた細長い袋からは、真紅の鞘が覗き、右手には反りのない刀が握られている。
「あア、メンドウダ。なんてメンドウなんダ」
天を仰ぎ見る男は嘆くようにつぶやく。
「こういうメンドウはキラいなんだがなァ」
呆然とし、まったく状況を理解できていないチンピラに対し、男は右手に持った刀の切っ先を地面に向けて指し示す。
男の示す先はチンピラの足元、そこにあったのは切り離された右手。チンピラの右手だった。
「俺の、俺の手がぁぁあぁっぁあっぁ!?」
状況を理解したチンピラは狼狽し、混乱の極みといった様子で切り離された右手を拾い上げようとする。だが、男はそんなチンピラを容赦なく蹴り倒した。
「オレはさァ、メンドウクサいのがキラいなんだヨ。タトえばクダらないトりヒきとかナ。そんなフウに、つまらないうえにメンドウなコトをイいダすヤツをミるとナ――殺意が沸く・・・!」
男は這いつくばるチンピラを見下ろし、言い放つ。しかし、混乱しているチンピラに男の言葉は届かない。
チンピラは這いつくばったまま、恐怖を顔に出し、切り離された右手に対し、必死で残っている左腕を伸ばす。
「ヒトのハナしくらいキけヨ」
男は無表情で言うと、刀を垂直に突き刺さした。
刃は左手を刺し貫くと、そのままコンクリートの地面に突き刺さり、チンピラが伸ばしていた左腕をその場に縫い止める。
チンピラは呆然と目を見開き、状況を理解するための一瞬の間を置いて絶叫する。
激痛により声にならぬ叫びを上げ、左手を地面に縫い止められたまま這いつくばり、のた打ち回るチンピラ。
「コザカしいコトをカンガえるからこうなるんダ。ヨケイなことはイわズ、キかズ、カンガえズ、スナオにアイテのヨウキュウにオウじる。それガ、キケンをサけるサイゼンのホウホウだとナラわなかったのカ?」
男が言う。だが、今のチンピラには男の声は聞こえていない。ただひたすらに叫び続けるだけだ。
しかし、男は別段それを気にする様子は見せない。それどころか微笑を浮かべながら、チンピラの傍にしゃがみ込み語りかける。
316七四三:2009/06/23(火) 00:28:12 ID:???
「チャンスをやろウ」
男は言う。だが、やはりチンピラには聞こえていない。
男は、おもむろに手を伸ばすと叫び声を上げ続けるチンピラの髪を掴み、微笑を浮かべながら、チンピラの顔を地面に叩きつけた。
「オレだっテ、オニじゃなイ。チャンスをやル。ココロをイれかエ、ちゃんとコタえルならバ、このワびのブンもフクめテ、それなりのレイをしてやル」
男はチンピラの頭を持ち上げ、その眼前に懐から取り出した札束をちらつかせる。
「オレをダマそうなんてカンガえるなヨ? ウソはすぐにわかル。ウソとわかったラ、オマエを殺ス。ギャクに、ショウジキにコタえるならバ、このカネはやル。カンタンなハナシだろウ?」
半ば虫の息といった様子のチンピラは男の言葉に、すぐに反応することはできず、混濁した意識の中、虚ろな視線を男に向ける。
「ホントウはこんなコトはしたくなかったんだがナ。スナオにオシえてくれさえすれバ、サイショかラ、それなりのレイはするつもりだったんだゾ? 
それなのにオマエがつまらないコトをイいダすかラ、オレもオモわずこんなことをしてしまったんだ。
――っテ、まァ、そんなことはどうでもいいカ。とにかク、オマエはオレにさっきのシャシンのムスメのコトをオシえてくれればいイ。
――ただシ、くれぐれもイっておくガ、ウソはつくなヨ? おタガいのタメにな」

・・・嘘はつけない・・・
多少、意識を回復させたチンピラは理解した。
嘘をつけば、間違いなく殺される。
(だったら、本当の事を言うしかない・・・)
決意するチンピラ。
しかし、本当は写真の娘の事など、まったく知らないわけで、もし、それを男に知られたら、男がどんな行動にでるのか? それを想像出来るまでには、チンピラの意識は回復していなかった。

「・・・知らない・・・・」
ロクに頭も働かない状態のまま、チンピラは口を開く。
「ハ? もうイチドイってくれないカ?」
目を細め、男は尋ねる。
「知らないんだ! 本当はそんな女のことなんて知らないんだよぉ」
恐怖からか、涙を流しながら答えるチンピラ。
直後、男は立ち上がり、左手に持っていた刀の鞘で、チンピラの顔を殴りつけた。鞘を包む袋にチンピラの血が付着するが、男は気にしない。
蒼白だった筈の男の顔色に僅かに血の気が戻り始めていた。
「おいおイ、おか死いだロ? オマエ、サイ死ョにイった死゛ゃないカ? 死っているっト。それなの二、これはなんダ? つまリ、オマエはオレにウソをついたト? ソ・ウ・イ・ウ・コ・ト・カ!?」
明らかな狂気を孕んだ男の口調。男は言葉に合わせながら、死なない程度、けれども決して無事では済まない絶妙の力加減で、チンピラを何度も何度も刀の鞘で殴り続ける。
317七四三:2009/06/23(火) 00:29:05 ID:???
「―これハ、もうアレだナ――」
殴打を止めると男は、チンピラの左手に突き刺していた刀を引き抜く。しかし、解放されても、もはや、チンピラには逃げる体力など残されていなかった。
「オレはイったよナ? ウソはつくなト。それなの二、オマエはウソついていた。オレはイっていたよナ? ウソをついていたら殺すト。もウ、オマエはダメダ。死ななければならなイ」
男は這いつくばるチンピラに対し、刀を振りあげる。
男の顔色は常人のそれと変わらないくらいまで回復し、淀んでいた筈の瞳には光が宿っている。そして、その口から放たれる言葉も、
「据え物切りは余りスきじゃないんだがナ。とりあえず、オマエを殺すくらいはガマンするとしよう。だかラ、心おきなく死んでくれ――」
おかしかった筈の発音が若干ながらも回復する。しかし、言葉の端々から感じられる狂気は収まるどころか増している。
「じゃあな」
何の感情も込めず、最後にそれだけ言い残すと右手に持った刀を振り下ろし――


――止めた。

刀はチンピラの体から、僅か数cmの場所で、その勢いを完全に停止している。
チンピラは恐怖から失神し、意識を失っている。
男は面倒臭げに刀を引くと、邪魔くさそうにチンピラを端の方へと蹴り飛ばし、背後を振り向いた。
日中にも関わらず、薄暗い闇の中にある路地裏。振り向いた先に感じる何者かの気配。
「ダレダ?」
闇に向けて問う男。
その声に答えるように一人の男が薄闇の中から姿を現す。

「どーも」
場にそぐわぬ第一声を放ち、へらへらとした表情で現れたのは二十代前半の刷れた雰囲気の男。
「ナニモノダ?」
「リゼル・アーリマン。ただのゴロツキさ」
答えた瞬間、黒衣の男が表情を変えず、リゼルと名乗る男に斬りかかった。
神速と言うべき、恐るべき速度で放たれた刀の一撃。
しかし、リゼルと名乗った男はそれを軽々とかわし、男から距離をとる。
「凶暴だねぇ、にーさん」
不意打ちも何事なかったかのような様子のリゼル。
「なかなカ、やるナ」
あの距離まで、こちらに気付かれず近づいたこともそうだが、何より完全に不意を突いたタイミングの一撃でさえ、軽々とかわす技量。
何者かはわからないが、このリゼルという男、少なくとも素人でないことは確かだと男は確信する。
おそらく、どこかで訓練を受けた経験があるに違いない。
そう考えながら、男がリゼルを観察していると、男はリゼルの手にある一枚の写真の存在に気がついた。
318七四三:2009/06/23(火) 00:30:34 ID:???
「にーさん、同業かい?」
リゼルは男が注視する写真をヒラヒラとかざして見せる。
その写真に写っているのは一人の少女。それは間違いなく、男が持っていた筈の写真だった。
先程の攻撃の際に、こちらの懐からかすめ取ったのだろうと男は推測する。
「にーさん、名前は?」
最初にした質問に男が答えるよりも早く、リゼルは新たな質問を投げかける。
別に隠す必要があるわけでもない。だから、男は答える。
「シーヴァ」
それが、男の名だった。
「名字は?」
「ナイ」
「あら、そう」
自分から振った話にも関わらず、リゼルは興味なさげに言うと、シーヴァから奪った写真に眺め始めた。

「俺っちも、この娘を探してんだけどさ。にーさん、何か知らないかい?」
「シらないナ」
「俺っち、この娘を誘拐してくれって依頼を受けててさ。にーさんも目的は同じだろ?」
「オシえられないナ」
「やっぱりさ、にーさん、俺っちと同業だろ?」
「さあナ」
「もう一度聞くけどさ、にーさん、この娘について何か知らないかい?」
「シらないナ」
「あら、そう。じゃあ、もう用は無いわ。さいなら」

直後、リゼルがシーヴァの眼前から消え去り、一陣の風が路地裏を駆け抜けた。
「邪魔されるとウザいんで、同業者は始末することにしてんだ。それじゃ、改めて、さようなら」
背後から聴こえる声。しかし、振り返ることもできず崩れ落ちるシーヴァ。その喉元には一本のナイフが突き立っていた。

「ああ、もしもし、俺だけど」
倒れるシーヴァなど気にも留めずに、リゼルは依頼主に連絡を取る。
「悪いんだけどさ、死体を一つ、いや二つ処理してくんねぇ?」
言いながら、リゼルは路地裏の隅に転がっているチンピラに目をやる。
「あとさぁ、金の事なんだけど。やっぱり、前払いで今すぐ半分くれねぇ? 
――駄目? 何で? テロリストのクセに人攫いもマトモにできねぇ奴らの尻拭いをやってんだぞ、俺っちは。 
もうちょっと感謝を形にしても罰は当たらねぇだろ。
――何? テロリストじゃなくて革命家? そんなん、どうでもいいって。
――とにかく、今すぐ報酬の半分をよこせ。でなきゃ、俺っちは、この仕事を降り――」
会話の途中。しかし、背後に気配を感じたリゼルは言葉を区切り、振り返る。
そして目に映る光景に対し、呆然とつぶやいた。
「おいおい、にーさん、マジかよ・・・」
319七四三:2009/06/23(火) 00:31:23 ID:???
信じられないといった表情を浮かべるリゼルの視線の先、そこには倒れた筈のシーヴァが、何事もなく立ち上がっていた。
喉元には未だにナイフが突き刺さっている。それはどう見ても致命傷。だが、当のシーヴァはいたって平然とした様子だ。
立ち上がったシーヴァはリゼルを見据え、口を開く。が、音は出ない。刺さったナイフが声帯を潰しているからだ。
その事に気がついたシーヴァは自らの手で、喉に突き刺さったナイフを引き抜く。どうしたことか、血は一滴も出ない。
「にーさん、すごいな。不死身なのかい?」
「そういうわけでもなイ」
二度三度、首元をさするシーヴァ。すると、傷口は何の痕も残さず消えてしまった。
「さテ、ツヅけようカ?」
「いや、正直、やめときたいなと、俺っちは・・・」
「そうイうナ。オレに殺されておケ」
シーヴァが動き出し、斬りかかる。
その速度は先程の攻撃よりも明らかに速く。その凶刃からはリゼルも逃げられない。
横一文字に振るわれた刃がリゼルの胸元に触れる。
「いてっ! いてててて!」
シーヴァの刀が与えたのは、胸の皮一枚を斬り裂くような浅いもの。殊更に痛がってみせながら、リゼルは距離をとる。
「わりとホンキのつもりだったんだガ、なかなかだナ」
その程度の傷で済んだことに対し、シーヴァは言葉に感嘆の響きを含ませる。
「こっちは全力で避けたつもりなんだけどな・・・」
「ならバ、ツギにゼンリョクでイけば、シトめられるということだナ」
「それは・・・俺っちとしてはやめてほしいなぁ・・・」
会話しながらもリゼルとシーヴァは、互いに相手の動きを油断なく探っている。
お互い相手の事は知らない。ただ、目的が同じことしか分からない。しかし、それだけで両者にとって、相手の存在は自らの目的を達成させる上で邪魔なことこの上ない排除するべき対象。
だが――

「5000万ってところだな」
不意にリゼルが口走る。
「ナニがダ?」
シーヴァが問うが、視線は警戒を崩さない。
「にーさんの命の値段さ。それぐらい貰わなきゃ、殺るにしても割に合わないってこと」
「カネさえモラえるのならバ、オレを殺せるト?」
「勿論さ。――でも、今は金を払ってくれる奴がいないし、何より先に片付ける依頼があるしな」
そう別に倒す必要はない、最終的に写真の少女さえ手に入ればいいのだ。
いくら厄介な相手でも、現状では排除“すべき”相手に過ぎず、排除“しければいけない”相手ではないのだ。
「だから、ここは――」

「退かせてもらう――!」
320七四三:2009/06/23(火) 00:32:18 ID:???
瞬時にリゼルが後ろに飛び退く。
シーヴァは追い、斬りかかるが、刃は届かない。
逃れたリゼルは、シーヴァに背を向け、近くにあった路地裏を形成する壁面を駆け上がる。
壁の高さは10m前後、リゼルはその高さを人間離れした身体能力でもって、ほぼ一息で上りきり、頂上からシーヴァを見下ろす。
シーヴァもまた、リゼルを追って壁面を駆け上がっている。

――殺す必要もなければ、追う理由もない。だが――
「イかしておくリユウもなけれバ、オわないリユウもなイ」
いずれ、排除しなければいけなくなるのなら、今のうちに始末しておく方が面倒は少ない。

シーヴァの凶刃がリゼルを襲う。
だが、リゼルはそれまでのように回避行動をとる様子もなく、壁の上に立ち、駆け上りながら刀を構えるシーヴァを見下ろしながら、口を開く。
「スプラッタは好きかい? 俺は――」

「大好きだ――」

パチンッ
リゼルが突然に指を鳴らす。
ただそれだけ。
そんなことをしても、状況は変わる筈がない。変わる筈はないのだが―
しかし、リゼルが指を鳴らした瞬間、状況は劇的な変化を遂げた。
リゼルに向かう筈だった、シーヴァの刃がリゼルから離れていく。いや、正確には落ちていくというべきか。
刀を持っていたシーヴァの右手が音も無く切断されて、落下していく。
そして、同じようにシーヴァの体も重力に従い落下していく。共に落ちていくのは、壁を駆け上がった足。膝から下が切断されて落下していく。

シーヴァが落ちていくのは地面。だが、そこには刃が待ち構えている。
刃はシーヴァが持っていた刀。それが支えも無しに地面に垂直に立ち、刃を天に向けながら、シーヴァを串刺しにせんと待ち構えていた。
落ちるシーヴァは避けることができない。
約10mの高さからの落下の勢いと自らの重さにより刀はシーヴァの肌にめり込み。沈み込むような音を立て、心臓を貫いた。

「つっても、この程度じゃ死なないんだろうけどさ、あんたは――」
どう見ても死んでいるとしか思えない、串刺しのシーヴァを壁の上から見下ろし、呟くリゼル。
リゼルはシーヴァに背を向け、
「だから、こう言うぜ――」

「またな」
そして、リゼルは壁の向こうに消え去った。
321七四三:2009/06/23(火) 00:34:56 ID:???

リゼルが去り、残されたのは心臓を貫かれて串刺しの、死んでいるとしか思えないシーヴァ。
しかし、シーヴァは死んではいない。
右手を切り落とされ、足を切り落とされ、心臓を貫かれてもなお、リゼルの想像通り、シーヴァは生きていた。
傍から見れば、どう見ても瀕死の重傷の筈だが、当人にはどうという事も無い。
シーヴァの気持ちとしては今すぐリゼルを追いかけ、殺してやりたかったが、さすがに今の状態では決して追いつけない。
仕方なくシーヴァは諦め、今の状態をなんとかすることを最優先することにする。
まずは心臓を貫く刀だ。
足が無いので立ち上がらず寝たまま、背中から入り胸へ突き出た刃を、残った左手で掴み、押し出す。
だが、想像以上に深く入った刀は、そう簡単に抜けない。
しょうがないので、シーヴァは刃を掴んだ左手を上下動させることで傷口を広げ、抜けやすくする。
多少、痛かったが、その甲斐もあって刀は見事に体から抜けた。後は放っておけば自然に治る。
次は足だ。
左手の力だけで地面を這って、切り落とされた足のもとに行き、切断された足と傷口をくっつける。
それだけでシーヴァの足は元通り立ち上がり、動き回れるようになった。
歩けるようになったシーヴァは右手を拾い上げると、足の時と同じく傷口にくっつけ、元通りにする。
そして最後に刀と鞘を拾い、刀を鞘に収めると、それを更に袋に入れる。
「キにイらんガ、こんなところカ」
体の方は何の問題も無くなったが、一つ気に入らないことがあった。
それは、体を切断された時に一緒に切断された服のことだ。
着ている服はシーヴァも体のように直すことは出来ないため、今のシーヴァの格好は珍妙なものだった。
できることなら新しい服が欲しい所だ。
娘を探すことも、リゼルを追いかけ殺すのも、新しい服に着替えた後でいい。
物事の優先順位は人それぞれだ。
しかし、新しい服を手に入れるにしても、大きな問題がある。
シーヴァは帝都のどこに服屋があるか知らないのだ。
今までに通った道を思い返すが、それらしき物はなかったような気がする。
より真剣に気持ちを入れて、思い出してみるがやはりない。
「どうしたものカ・・・」
途方に暮れたように呟くシーヴァ。その時、不意に、あるものがシーヴァの目に留まった。
それは、物陰に隠れるチンピラ。
いつの間に失神から回復したのだろうか、シーヴァもその存在を完全に失念していた。
「これは、チョウドイイ」
思わず、シーヴァは笑みを漏らす。

「スコシ、キきたいコトがアるんだガ」
そう言いながら、シーヴァは怯えるチンピラにゆっくりと近づいていった――

第十九話に続く
322七四三:2009/06/23(火) 00:35:59 ID:???
異説機動新戦記ガンダムウィード

第十九話  剣友 前編


――道場を思い浮かべてほしい。
板張りの床、壁に掛けられた木剣と隅のほうに置かれた防具。そして、汗が染み込んだような独特の臭いの室内。
そんな場所に二つの人影があった。
一つは道着姿の学生、もう一つは制服を着た、女性と見まがうような小柄な体格の学生という組み合わせだ。
道着姿の学生の名は、ミカド・アーサー・セイソウイン。
ミカドは汗だくになりながら、息を荒げ、道場の床に膝を突いている。
それに対し、制服姿の学生は息一つ乱しておらず、汗すらかいていない。
「ま、こんなもんだろ」
制服の学生が手に持った木刀をミカドに突きつけ、言う。
制服姿の学生の名は、アルフレッド・ソーンダース。
身長は160cmに届くか届かないかというところ。
顔は童顔、女性と言われても全く疑問を感じないような可愛らしい顔立ち。
とてもミカドと同年代とは思えない。見た目だけで判断するなら、ミカドより3~5歳下でも違和感は覚えない。
しかし、そんな容姿でもアルフレッドはミカドと同年代の学生。それどころか、れっきとした学園の先輩であった。
セント・エリシオン学園、総合戦術研究科三年、アルフレッド・ソーンダース。
それが制服姿の学生の身分。

アルフレッドは突き付けた木刀を収めて問う。
「どうする? もう一勝負するか?」
既に十回以上、試合を行っているのだが、全く疲れた様子を見せないアルフレッドは平気でそんなこと言う。
だが、体力の限界を迎えつつあるミカドは、その言葉に頷くことはできず、首を横に振り、
「いや、もう限界っす・・・」
弱音を漏らすと、木刀を床に置き、正座で頭を下げる。
「参りました」
完敗だった。
十回以上、試合をしたのにミカドの木刀はアルフレッドにかすりもしていない。
圧倒的な実力差があることは明らかだった。
「まぁ、まだまだ、僕には勝てねぇってこった」
言いながら、アルフレッドはミカドの使っていた木刀を拾い上げ、片付ける。
「とりあえず、水でも飲んでこい。反省はその後にしよう」
喉の渇きを覚えていたミカドは、アルフレッドのその言葉に、ありがたく道場を出て、近水飲み場に向かった。
323七四三:2009/06/23(火) 00:36:47 ID:???
インペリアルガードになってもミカドの生活に大きな変化は無い。
学生であることから便宜を図ってくれているのか、何か任務を言い渡されることもない。
インペリアルガードになって給料を貰えるようになり、バイトをする必要が無くなったことと、週に何度かラザーク直々の訓練が有る以外、取り立てて変化と言えるようなものは無い。
学園に登校し、武術研究会なる一般人なら首を傾げる同好会に顔を出し、会長のアルフレッド・ソーンダースに稽古をつけてもらうのも、インペリアルガードになる前となんら変わりない日常。
インペリアルガードになったところで急に強くなる筈もなく、アルフレッドにしこたまやられるのもいつも通りだ。

水を飲み、一息ついたミカドは、ぼんやりと空を見上げる。
夏の日差しはきつく、うだるような暑さ。
学園のグラウンドからは、部活動を行う生徒の声が聞こえてくる。
先日に起きた戦闘の傷痕など、ここでは微塵も感じられず、誰もが思い思い、好き勝手に過ごしている。
生徒の中には戦闘の被害を受けた地区で復旧作業のボランティアに従事している者もいるらしいが、そんなのはごく一部。大抵の生徒は、それまでと変わらぬ日常を過ごしている。
「人間なんて、そう簡単に変わるわけないってことだよなぁ・・・」
ミカドはしみじみと呟きながら、水飲み場から離れる。
思ったより、長居をしてしまった。
その事を気にするほど、アルフレッドは狭量ではないが、さすがに気がとがめる。
小さい体とは裏腹に懐が大きいのがアルフレッドという人物ではあるが、それに甘えるのも良くないだろう。
とりあえず、ミカドは小走りで道場に戻る。
セント・エリシオン学園には、いくつか道場の施設が建てられているが、武術研究会の道場は学園の敷地の最も端にあるので、水飲み場から戻るのも一苦労だ。
「やっぱり、改築してもらうべきだよなぁ」
ミカドが走りながら呟き、横に目をやると、どこの部の物だったかは忘れたが、道場が目に入った。
324七四三:2009/06/23(火) 01:06:29 ID:???
扉を開けっ放しにしているため、練習風景が外からでも覗ける。
何となく足が止まり、ミカドはボンヤリと道場の中を眺める。
道場の中は、どういうわけか女子ばかり、道着を着て素振りを行っている。
なんというか、こう、その光景はなかなかにくるものがある。
汗ばみ、うっすらと湿り気を帯び、上気した肌に貼り付く道着。

――グッとくる!!

フェチと言われようが何だろうが、そんなことは関係ない。
ミカドは鼻の下が伸びてくるのも気にせず、道場に接近、より近い位置での覗きを敢行する。
(俺は変態じゃない、変態じゃないぞ。裸を覗く訳でもないんだし、盗撮しているわけでもないんだし、セーフだろ? セーフだよ!)
しかし、もしもの時のことを考えて、言い訳できるような準備も忘れない。
ミカドは道端に落ちていた石ころを拾い、それを道場の近くに投げつける。
もしもの時は、その石ころを「母の形見の石なんです」とでも言って、それを探していたふりをすればいい。
勿論、ミカドの両親は健在である。
二・三日前に家族が増えましたなんて、メールが送られてくるくらい元気だ。
つーか、息子が16歳にもなるのに、ガキなんか作ってんじゃねーよ。それも、双子とかなんだそりゃ? この年になってから弟、妹ができて、どうしろってんだよ?
唐突に両親から報告のメールを受け取った時の情景がフラッシュバックし、ミカドが思わず身悶えした、その時――

不意に、ミカドと道場の中の女子生徒と目が合った――

後編に続くよ
325七四三:2009/06/23(火) 01:09:52 ID:???
いつも通りの七四三クオリティ
自重しない方向性で行こうかなと・・・


PCから投下し始めました
326通常の名無しさんの3倍:2009/06/23(火) 01:22:29 ID:???
シーヴァ
性別:男
年齢:不詳
所属:マレブランケ

ダルタイル帝国を担当するマレブランケの実質的リーダーにして、実働担当。
凶悪な戦闘能力を持ち、ミカドやルークの前に立ち塞がる。
帝都襲撃編時には仮面を被った状態で現れ、セレア・ゴッドウィンを圧倒した。
ラザークやカガミなどと面識がある他、帝国の内部事情にも詳しく、その出自には謎が多い。


アルフレッド・ソーンダース
性別:男
年齢:18歳
所属:セント・エリシオン学園

インペリアルガードの〈剣聖〉ジークフリード・ソーンダースの弟。
性格アニキのショタ剣豪。
327通常の名無しさんの3倍:2009/06/26(金) 01:25:09 ID:???
投下乙
328通常の名無しさんの3倍:2009/06/27(土) 14:56:14 ID:af5ncZ6g
人がいませんよっと
329通常の名無しさんの3倍:2009/06/27(土) 16:47:08 ID:???
投カ乙
330通常の名無しさんの3倍:2009/06/27(土) 19:51:22 ID:???
最近、妄想力が落ちてる気がしてならない
331通常の名無しさんの3倍:2009/06/29(月) 00:39:37 ID:???
まあ、否定はしない
332通常の名無しさんの3倍:2009/07/02(木) 00:10:28 ID:???
俺が保守
333七四三:2009/07/04(土) 18:15:35 ID:???
続き

からくも、覗きと疑われかねない状況か逃げ延びたミカド。
息を切らしながら、逃げるように道場に戻ったミカドは、先程の出来事は無かったことにし、アルフレッドから稽古の続きを受ける。
稽古の中で、アルフレッドはミカドに言う。
「これまでの戦い方を根本から見直す必要がある」
「これからも戦いの中で生きていくには、自分の特性に合わせた戦い方が必要になるだろう」
そして、アルフレッドはミカドに戦いの術を示す。
アルフレッドが示した、その技をある程度まで理解し、稽古を終えたミカド。
道着から制服に着替え、放課後のこれからの時間に何をするかと悩んでいた、その時。
ミカドの友人のハルト・エイガーが道場を訪れる。
「何も用がないなら、どっか遊びに行こうぜ」
そんなハルトの誘いをミカドは二つ返事で受け、更にアルフレッドも加わると、三人でメシでも食いに行こうという話になった。
そして、三人が連れ立って道場を出ようとした、その矢先のことだった。
ミカドの許にインペリアルガードのラヴィエンヌ・マルターから連絡が入ったのだ。

「ちょっと頼みたいことがあるんだけど、今は大丈夫かな?」

そのラヴィエンヌの言葉の裏に、何か事件の気配を察したミカドは、「用事が出来た」と謝り、ハルトとアルフレッドから別れると、ラヴィエンヌが、そこで合流しようと伝えてきた喫茶店へと向かった。

セント・エリシオン学園からほど近い位置にある、ラヴィエンヌが指定した喫茶店。
ミカドが辿り着くと、そこには既に一人女性が待っていた。
その女性こそが、ラヴィエンヌ・マルター。ミカドと同じインペリアルガードの一人だった。
ミカドより二つ三つ上の年頃、栗色のショートカットにパッチリとした瞳が印象的なラヴィエンヌ――愛称ラヴィは、ラフな服装にスーツケースに片手で、何の変哲もない学生服姿のミカドを見ると小首を傾げ、開口一番、尋ねる。

「武器は持ってる?」

持っていないとミカドが答えると、ラヴィは急に慌ただしげに何処かと連絡を取り始めた。
「キミの分の武器も用意して貰うから、ちょっと待ってて」
いきなり、武器を用意するからと言われても、ミカドには何がなんだかわからない。
ミカドは何が起きているのかをラヴィに尋ねる。
ラヴィは簡潔に一言で答える。

「皇女殿下が行方不明になったの」



334七四三:2009/07/04(土) 18:18:29 ID:???
異説機動新戦記ガンダムウィード

第十九話  突入

ミカドとラヴィが喫茶店で合流したその頃。

ラザーク・ゴッドウィンは航宙輸送艦「アマデウス」の中からコロニーを見つめていた。
ラザークは部下のインペリアルガード、シリウス・ロウと共に任務に従事していたのだった。
任務の内容は「自由旗同盟」なるテロリストを支援していると思しき、貴族の身柄を拘束すること。
しかし、当の貴族は自らの領地であるコロニーに引き籠り、出てこようとはしない。
その貴族の名は、ミトラ・ノール。
反帝国を掲げた女性運動家にあやかって付けられたという、その名。
貴族であるのにも関わらず、娘にそんな名前を平気で付けられるくらいに、ミトラ・ノールの父は貴族でありながら反貴族主義に傾倒しており、そしてそれは現当主の娘にも受け継がれている。
つまりは親子二代、筋金入りの反貴族主義者という訳だ。

「おら―、出てこ~い。出てこね―とぶっ殺すぞ〜」
コロニーの外、輸送艦「アマデウス」の中のラザークが通信で呼びかけるが、ミトラの側は沈黙を保っている。
「オラ、一時間待ってやるから、さっさと出てこいや!! 出てこね―なら、コロニーごと潰すぞ、コラ!!」
最後通牒のつもりで言って、ラザークは一時間待つ。
待っている間、ラザークはシリウス・ロウと、ウィリアムから借りパクした格ゲーで対戦するなどして緊張感なく過ごした。
そうこうしている内に一時間が過ぎた。
しかし、コロニー側からは、何の反応も見られない。
「攻撃してもいいんじゃないっすかね?」
シリウス・ロウガ言う。
コロニー側は既に、一般市民は退去させているようなので気にする事は無かった。
ラザークは突入を決断し、シリウスと共にMSに乗り込むと「アマデウス」から出撃する。
ラザークの機体はガンダムジュピター。
シリウスの機体はカウンティリア。
出撃した二機は一直線に宇宙を駆け、コロニーに向かう。
だが、コロニーに近づく二機の行く手を、コロニー側が展開したビームバリアが阻む。
「これじゃ、要塞っすね」
「随分、気合の入った引きこもりじゃねぇか。だがな――」
しかし、ラザーク達は、それに対する手段も持ち合わせている。
「他人の家に土足で上がりこむのは俺らの得意分野なんだよ!!」
シリウス・ロウの乗機、カウンティリアがビームランチャーを手元に転送させると、それをガンダムジュピターに投げ渡す。
「俺らって表現は勘弁してくださいよ。俺の人間性まで疑われるじゃないですか」
ランチャーを受け取ると同時にガンダムジュピターはW.E.E.D.システムを起動。瞬時に機体の出力が数十倍に跳ね上がる。
ラザークは爆発的に上昇したエネルギーを躊躇せずランチャーに直結、想定されている以上のエネルギーが与えられたことによりランチャーが悲鳴を上げるが、ラザークは気にせずトリガーを引く。
「名付けて、オーバードライブランチャー!! ぶち抜けよ!!」
335七四三:2009/07/04(土) 18:19:33 ID:???
銃口から巨大なビームが放たれ、ビームバリアーに着弾。それと同時に過剰な負荷により、ランチャーが自壊する。
だが、それでもビームバリアーは貫けない。
「次ぃ!!」
「はいはい」
ラザークの要求に、カウンティリアが再び、ビームランチャーを投げ渡す。
見ると、カウンティリアの周囲には、いつの間にか十数本のランチャーが漂っていた。
「二発目っ!! 次ぃ!!」
「はいはい、三本目」
ガンダムジュピターはランチャーに莫大なエネルギーを流し込み、一発撃つごとに使い潰し、ラザークはシリウスに次のランチャーを要求する。
シリウスのカウンティリアは要求を受けると、周囲に漂うランチャーを掴みガンダムジュピターに投げ渡す。
“武器庫”
それが、カウンティリアというMSの持つ役割の一つ。
高性能の量子転送システムを搭載し、武器をほぼ無制限に自機の周囲に転送させる。
武器の損失など全く気にする必要がない。
それが、カウンティリアというMSの持つ能力の一つ。

カウンティリアの存在により、武器の破損など気にせず撃ちまくるラザーク。
使い潰したランチャーの数が十を超えたその時、とうとう、ビームバリアーがこじ開けられた。
しかし、こじ開けられた穴は小さく、既に修復が始まっている。
ガンダムジュピターはカウンティリアを掴むと、穴に向けて加速する。
W.E.E.D.システム発動中のガンダムジュピターに加速は凄まじく、MSを一機抱えているのにも関わらず、一瞬で穴を通り抜け、バリアーの内側に辿り着いた。
だが、そこでガンダムジュピターは時間切れ。W.E.E.D.システムが切れる。
「俺は休憩だ、休憩。テメ―は先に行って、雑魚を掃除しとけ」
ラザークにそう言われ、シリウスはため息をついた。
要は敵を殲滅させておけということだ。
おそらく、この任務にすでに飽きているのだろう。こうなっては何を言っても無駄だと、シリウスは理解していた。
仕方なくシリウスはカウンティリア一機で突入することにした。

336七四三:2009/07/04(土) 18:20:46 ID:???
「責任感とか、義務感とかが全く無いんだもんなぁ。よく、あれで一集団のリーダーができるもんだよ」
ぼやきながら、シリウスのカウンティリアは転送した構造物切断用のカッターを手に、コロニーの外壁を切断し突入路を作る。
普通の入り口もあるのだろうが、そういう場所には罠が仕掛けられている可能性もあるので、新しく入り口を作ることをシリウスは選択した。
コロニー側からの妨害が全く入らないことを多少疑問に思いながらも、カウンティリアはコロニー内に突入する。
突入した先は居住区。数多くの建物が立ち並ぶ市街地に突入したシリウスのカウンティリアを待ち受けていたのは集中砲火という熱烈な歓迎。
外壁を切り裂き、内部に突入してくることを見越して、ミトラ・ノールに仕える騎士たちは待ち伏せをしていたのだった。
「やったか!?」
騎士たちは爆煙にカウンティリアに歓声をあげるが、次の瞬間にはそれは途絶えた。
煙の中から無傷のカウンティリアが現れたからである。
「結構な数がいるなぁ」
コックピットのモニターに映る敵の姿を見てシリウスは呟いた。
騎士たちのMSはダルタイル帝国の主力量産機であるイグサール製の「グリモア」と村正重工製の「駆狼」(クロウ)の混成。
個々の能力ならば、カウンティリアの敵ではないが、数だけならば現状では圧倒的に不利。シリウスの目算だと騎士たちの機体は五十機以上ある。
「どう考えても、このコロニーの騎士だけじゃないよな」
だとすれば、自由旗同盟のテロリストたちだろうと、シリウスは確信する。
『我々は、貴族たちの横暴には屈しないぞ!!』
通信からはそんな叫びが聞こえてくるが、シリウスは無視し、ガトリングを転送。
カウンティリアの両手に装備させ、騎士たちの機体に向けて乱射する。
市街地ではあるが、市民の退去は済んでいるらしいので、シリウスは気にせず撃ちまくる。
弾薬に関しても気にしていないので、すぐにガトリングの弾が切れるが、カウンティリアにとってはそんな事はさしたる問題ではない。
弾が切れたら、弾が入った新しいガトリングを転送すれば、それで済むのだから手間がない。
カウンティリアはガトリングを交換しながら、十数分間、一方的に撃ち続ける。
騎士たちは抵抗しようにも、あまりにも激しい弾幕の前に手を出せない。
不意にシリウスは銃撃の手を止めた。
レーダーに映る敵影は全く減っていない。だが、それでもシリウスは構わなかった。
ガトリングの乱射の目的は敵のフォーメーションを崩すことであり、それは充分に達成していたからだ。
カウンティリアがガトリングを捨て、新たに転送されたミサイルランチャーに持ち替えて撃つ。
出し惜しみはしない。
とにかく大火力で押していくのがシリウス・ロウのスタイルだ。
弾切れ上等、破損上等の心意気で武器を使い潰しながら、シリウスのカウンティリアは騎士たちの機体を蹂躙していく。
337七四三:2009/07/04(土) 18:21:41 ID:???
その光景を安全な場所からモニターを通して見つめていた、ミトラ・ノールは言葉を漏らす。
「なんてことを・・・」
カウンティリアの攻撃はさらに激しさを増していた。
既に市街地は壊滅状態。これでは、一般市民が帰ってきたところで人が住むことなどできる筈がない。
このコロニーは死んだのだ。
「ここも危険です! お嬢様も早くお逃げください!」
ミトラ・ノールが最も信頼する騎士、シエロ・クリフが言う。
だが、ミトラ・ノールは首を横に振る。
「この事態は私の浅はかな考えが招いたもの、私には最後まで見届ける責任があります」
「ならば、私は貴女を守りましょう。私は騎士。貴女に忠誠を誓い、貴女と共に歩むことを望む者。そして、貴女に襲いかかる邪悪な刃から貴女を守るために在る者。その使命を果たす為に、命を捨てることを厭わぬ者」
言葉を交わし、ミトラとシエロはお互いの体を抱きしめ合う。
「苦労をかけます」
「苦労などと・・・これが私の望みなのです」
そして、シエロは部屋を出る。自らもMSに乗って、カウンティリアと戦うためだ。
「気を付けて」
最後のミトラの言葉、シエロは一度頷いたきり、振り返ることはなかった。

「この状況でロマンスかよ。アホくせー」
密かに生身で潜入し、それを覗き見ていたラザークは吐き捨てる。
ラザークはシリウスに連絡をとり、尋ねた。
「この状況でロマンスやる奴って、どう思うよ?」
そう言って、ラザークは今さっき覗き見た光景を録画したデータをシリウスのカウンティリアに送った。

338七四三:2009/07/04(土) 18:22:56 ID:???
「グリモア」

ダルタイル帝国の主力量産機。
イグサール製。
装甲が厚く、信頼性も高い優秀な機体。
どちらかと言えば、防御寄りの機体で、標準装備として大型シールドがある。
大型シールドは実体盾としての能力と、高出力のビームシールド発生機としての能力を合わせ持つ。
複数機で隊列を組み、一斉にビームシールドを展開することで堅固な壁を作り、相手の侵攻を押しとどめる戦法をとる場合が多い機体。

「駆狼」(クロウ)
ダルタイル帝国の主力量産機
村正重工製
速度と運動性に優れた攻撃寄りの機体。
標準装備としてランスを持ち、突撃を主体として前衛で戦う。

339通常の名無しさんの3倍:2009/07/05(日) 12:08:12 ID:???
投下乙
340エルト:2009/07/06(月) 01:21:46 ID:???
七四三&ミィル投下乙!

>>七四三
俺の設定(?)をさりげなく取り入れて下さってて有難いです。続きも楽しみにしてます

さて、今日はいるかいらないか微妙な設定集を投下します
341エルト:2009/07/06(月) 01:24:42 ID:???
どうでもいい設定集

随分前ですが、以前誰かが、「AGのMSは飛べるの?」とか、「連邦とダルタイルの設定をちゃんとせい」と言ってたりしたので、なんか投下。

飛べるの?に対して
まず、AG.0065における主要MSでは、ライトニングガンダムとメフィストだけは自由に飛べちゃう感じで。
ダンデスやヴィルザード、テンプレスやらゴウラあたりは自由に飛べず、基本地上戦オンリーなつもりで、自分はやってます。
ダンデス、ヴィルザードは跳躍力自体は優れているので、数秒間なら滞空可能。
が、基本的に空飛ぶ時は飛行用のバックパックや、ドダイYS的なものを使用しちゃってるよーって感じです。

連邦とダルタイル
当然ですが他の書き手の方はこれに合わせる必要はまったくないです。とりあえず年表を考えてみた。

AG.0000 スペースコロニーの完成。一部の人類は宇宙へ

AG.0013 スペースコロニー群に住まう人々が、「ダルタイル共和国」を名乗る国家を形成。
     初代の国家元首は、ノワール・カーメンの祖父、ルージェス・カーメン
     当初、元々宇宙移民自体に良い感情を持たない地球連邦政府と、ダルタイル共和国の仲は芳しいものではなかった。

AG.0020 この頃から各地の宇宙ステーション等で、連邦とダルタイルとの間で小競り合いが起こる。

AG.0024 ルージェスの暗殺。大規模な紛争の発生。が、実際の所犯人はコロニー内部の者だったっぽい、とかいうオチ。
     ノワールの父、ブラン・カーメンが二代目の国家元首に

AG.0027 和解。以後暫く安定。人々のコロニーでの生活や社会経済が軌道に乗る。

AG.0050 ノワール・カーメン即位。国号を「ダルタイル帝国」へ
     連邦政府に対して強硬姿勢を取る。
     中立を維持していたコロニー小国家群に対しての武力介入。わずか数年で強大な勢力を誇るようになる。
     この頃から、MSの開発が開始される。
342エルト:2009/07/06(月) 01:27:46 ID:???
AG.0054 連邦政府と、再び険悪に。
     初のダルタイル製MS、「ノズルフラッシュ」が、イグサールにより開発される。
     パイロットのゴディアス・ロウが搭乗し、多大な戦果を挙げる。
     
AG.0055 連邦も初の量産型MS「ジーク」を開発。(テンプレスの前身)
     ダルタイル帝国の帝都を襲撃。エルト・ロウの両親が死亡。
     この時、黒く塗装されたジーク20機を相手に、多大な損害を出しながらも勝利したゴディアスを、人々は「闇を横切る閃光」と呼び称えた。
     同時に地球にも結構な損害が。ダルタイル、地球へ侵攻、基地を構える。

AG.0056 遅れてダルタイルも初の量産型MS、「ゴウラ」を開発。
     初のプラズマエネルギー対応型。

AG.0058 連邦もプラズマソード装備のMS「テンプレス」を開発。
     以降、冷戦状態が続く。

AG.0063 とうとう金属製小惑星(笑)「リズエッサ」が発見される
     その所有権を巡る争いが本格化。

AG.0064 「ヴィルザード」が連邦に、「ダンデス」がダルタイルのイグサールによって開発される。
     初のビーム兵器対応型。但し稼働時間が「テンプレス」や「ゴウラ」に比べると短いという欠点を持つ。
     この時の二つの機体は、後のMS開発史の歴史から見て、「ダンデス初期型」「ヴィルザード初期型」等と呼ばれる。

AG.0065 開戦。連邦側が水中戦用MS「ガイドス」を開発。
     ギグルスタン・カーメン即位。
     初のエーテリウム対応型MS「ガンダム」がアルカディア・インダストリー(或いはその前身となる企業)により開発。
     連邦側も、エーテリウムの技術を使用した(対応型とまでは言えない)機体、「メフィスト」を開発。

以降、再び争いが膠着。本格的な争いが無くなった為、MS開発に特に発展は見られず。

AG.0073 ダンデス、ヴィルザード(中期型)開発。

AG.0078 ガンダムS及び本編の時期。
     ダンデス、ヴィルザード(後期型)の出現。ダルタイルは「デス・フォーン」をイグサールが開発。
     エミールやガンダムストレングスなどが活躍。でも主役はなんかウィードガンダムらしい。

まあこんな感じです…
重ねて言いますが、他の書き手の方はお気になさらず。
なんかあったら言って下さい。ではサヨウナラ
343通常の名無しさんの3倍:2009/07/09(木) 12:01:43 ID:???
俺が保守
344通常の名無しさんの3倍:2009/07/09(木) 13:12:11 ID:???
俺が!俺たちが!保守。
345通常の名無しさんの3倍:2009/07/12(日) 15:20:02 ID:???
俺も保守
346七四三:2009/07/12(日) 21:48:47 ID:???
異説機動新戦記ガンダムウィード

第二十一話  マリオネット・バタリオン


「で? これを見て、俺にどうしろと?」
ミトラ・ノールとシエロ・クリフの逢瀬の映像を見せられたシリウス・ロウはラザークに尋ねる。
『むかつかねぇ? こういう奴ら見るとさ』
「いや、それほどでも。実際、俺も恋人がいるんで、“こういう奴ら”の気持ちもわからなくはないっすけど」
「テメ―はそうでも、俺はムカつくの!! スッゲーむかつくんだよ!! こういう奴らはさぁ! おまえら、今ピンチじゃん! 対策立てなきゃ全滅すんじゃん!! 
それなのに、何遊んでんの? 相手を抱きしめてる暇があったら、その間に出来ることやれよ!! 努力しろよ!! 自分に酔ってんじゃねぇよ!! カスがっ!!」
激昂してみせるラザークにシリウスは、なおざりに対応する。
「ああ、はいはい、そうですね。あなたの言う通りですね。それで、結局、俺にどうしろってんですかね?」
「ぶっ潰せ」
「それだったら、今、やってますよ。数十分とか、それぐらいかかると思いますがね」
数機の「グリモア」が盾を構え、防御陣を形成し始めていた。
防御重視の「グリモア」を殲滅するのは、カウンティリアには中々に骨が折れる仕事だ。
「二十分で終わらせろ」
「いや、それはなかなか難しいかと・・・」
「俺が許可する。“本気”で戦って、ぶっ潰せ!!」
ラザークはそれだけ言うと、一方的に通信を切った。

「“本気”ねぇ・・・まぁ、やってみせましょう」

カウンティリアが両手に持った武器を捨てる。
「カウンティリア、全機能解放(フルスペック・オープン)。――認証コード『マリオネット・バタリオン』」
シリウスの宣言。
直後、カウンティリアの前方にMSが転送された。
大量の「グリモア」と「駆狼」、二種類の機体により構成された大部隊。それが突然、カウンティリアを守る盾のように出現した。
「弱い者いじめにしかならないかもしれないけどさ、許してくれよな?」
カウンティリアが右手を頭の高さまで上げる。
「――シールド」
シリウスの言葉が放たれた瞬間、「グリモア」全ての手に巨大なシールドが転送された。
「――ガトリング」
カウンティリアが左手を上げた時、全ての「駆狼」の手にガトリングガンが握られた。
「――アクション」
シリウスの宣言。カウンティリアが両手を振り下ろすと、ほぼ同時にガトリングを装備した駆狼が一斉に攻撃を開始した。
一機でも凄まじい弾幕を形成する、ガトリングの砲火。
それが、数十機の機体により繰り出され、銃弾の嵐が騎士たちの機体を飲み込む。
一機、また一機と粉砕されていく、騎士たちの機体。だが、それでも騎士たちは果敢に反撃を行う。
「――盾は前へ」
駆狼が後退。入れ違いにグリモアが前進、巨大な盾を構え、壁になる。
「――ライフル」
騎士たちの機体からの攻撃を防ぐグリモアの盾の後ろ、約三分の一の数の駆狼の手にライフルが装備される。
「――撃て」
グリモアが作り上げる盾の壁の隙間からライフルの銃身が突き出され、騎士たちに向けての銃撃が行われる。
その行動に対応して、騎士たちの側もグリモアを前に出すと、壁を形成し、銃撃から身を守る。
347七四三:2009/07/12(日) 21:50:45 ID:???
お互いが壁に隠れるという一種の膠着状態。だが、そんなものをシリウスは許さない。
「――ランス」
ライフルを装備していない残りの三分の二の駆狼の手にランスが装備される。
「――セット」
グリモアの盾が造る壁の後ろで、シリウスの側の駆狼が突撃体勢を取る。
「――突撃(チャージ)」
最も後方に位置するカウンティリアが腕を振り下ろし、シリウスが号令を出す。
直後、グリモアが造る壁が割れた。
それは道を造るための動き、駆狼が突撃するための道を作る動き。
壁を割って造られた通路を、突撃体勢を取った駆狼が一気呵成に、一糸乱れず駆け抜け、騎士たちが造る壁に迫る。
欠片も臆することなく、徹底的に統率された動きで敵陣に突撃する姿は、あまりにも機械的。
それも当然だ。なぜなら、転送されたMSに人など乗っていないのだから。
シリウスの側のMSは全て無人機。
数十の機体全てがシリウスの指示で動く操り人形。
故に、人形大隊(マリオネット・バタリオン)。
機体の持つ情報処理能力を駆使し、数十の機体をコントロールする。これこそがカウンティリアのもう一つの能力。
マリオネット・バタリオンによって操られる機体は、一般的な無人操縦などとは違いプログラムに従って動くわけではない。
その動きは、カウンティリアのパイロットの意思に従う。よって、操られる機体の動きは生身のパイロットが乗っているそれと遜色なく動く。
その分、パイロットにかかる負担は大きくなるのだが、それもシリウスというインペリアルガードにはどうという事も無い。
それは同時に操る機体が百を超えれば、多少はきついが、それ以下ならば何の問題も無い、生まれついての才能と言うしか言葉がない貴重な適性。
適性に恵まれたシリウスは、操る機体が数十までならば、一般的なパイロットがMSを操縦するのを遥かに上回るレベルで、無人機を遠隔操縦できる。

実際、チートくさい能力だよなぁ、これ、とシリウスは常々思う。
カウンティリアのコックピットのモニターには、突撃した駆狼のランスと騎士側のグリモアのシールドが激突する様子を中央に、シリウスが操る全ての無人機のメインカメラから見た映像が表示されている。
シリウスは、その映像すべてを眼で追う。そして、見つける。敵の穴を――
ランスの激突に耐える盾と、耐えられぬ盾。盾は破壊されず、突破もされていないが、騎士側のグリモアの中に数機、僅かに体勢を崩した機体があった。
シリウスはそれを狙い、人形たちを操る。
たった一人による遠隔操縦は、部隊全体の意思の疎通を必要とせず、全ての機体に目的を達成させるための動きを、寸分の狂いなく行わせる。
僅かに体勢を崩した機体を複数の駆狼が攻める。それも、ただ単調に攻めるのではなく、一機一機が役割を分担し、確実に守りを崩していく。
単純な突撃でさえ堪え切れなかったのに、そんな複雑な攻撃を耐えられる筈もなく、騎士側の一機のグリモアが盾を跳ね飛ばされ、剥き出しとなった胴体を幾本ものランスで串刺しにされた。
348七四三:2009/07/12(日) 21:51:57 ID:???
それが意味するのは一人の騎士の死だけではない。それが意味するのは壁の崩壊。
一機のグリモアが欠けたことにより生じた穴から複数の駆狼が、騎士たちの形作る盾の壁を突破する。
なだれ込むように壁の内側へと侵入した複数の駆狼は、ランスを捨て、ビームサーベルを抜くと、未だ壁を維持しようと前方に対して盾を構えたグリモアを背後や横から切りつける。
前方からは、ランスを装備した駆狼の攻撃が続いているため、壁を造る騎士側のグリモアは動くことが出来ず、横や背後からの攻撃には全くの無力。容易く、その身を切り刻まれる。
壁の内側に控えていた騎士側の駆狼が迎撃に動くが、味方に接近されているため銃器を使えば同士討ちになる。そのため、騎士側の駆狼もビームサーベルを抜き、敵に迫る。
だが、それよりも早くグリモアが造る壁が完全に崩壊した。
「――セット」
すかさず放たれたシリウスの号令。それは、シリウス側のグリモアへの命令。
シリウスが操る数十のグリモアはシールドを捨て、その身にカウンティリアの能力によって転送された大量の重火器を装備していた。
「――ファイア」
カウンティリアが腕を振り下ろす。
それに従い開始されるグリモアの砲撃。
目標は壁を失い、剥き出しとなった騎士側の駆狼。
接近戦を仕掛けてきているため、今打てば、前衛で敵と相対している味方側の駆狼も同時に撃つことになるが、その事に対する躊躇いは無い。
所詮は無人機、問題になるのは修理費くらいのもの。そして、そんな金のことを心配するのは自分の仕事ではない。
シリウスの命令により、放たれた砲撃が味方の駆狼ごと敵を破壊する。
ミサイル、バズーカ、ビーム、転送されたありとあらゆる重火器を手にシリウスの操るグリモアは乱射する。弾が切れれば、カウンティリアが新たな武器を転送し、弾切れによって攻撃が途絶えることは無い。
一方的な攻撃。紅蓮の砲火に敵が包まれる。
その光景を後方の最も安全な位置から眺めるシリウスは思う。
やっぱり、チートくさい能力だよな、と。
349七四三:2009/07/12(日) 21:56:26 ID:???

「いつまでこのようなことを続けるのですか」
紅蓮の砲火に包まれ、蹂躙される味方の姿が映るモニターを背に、ミトラ・ノールは問う。
視線の先に居るのは、ラザーク・ゴッドウィン。MSを置き、たった一人で敵の本拠に潜入し、ミトラ・ノールの眼前に辿り着いていた。
「平和になるまでじゃないか?」
頭を掻きながら、ラザークは答える。
口での勝負は苦手だが、とりあえず乗ってやることにした。
余興だ。何を言われても最後は拘束、連行のコンボで締めることになるのだから、好きに喋らせておいてもいいだろう。
たまには、世間一般で善人と呼ばれている者の話を聞いておくのも、悪くないだろうと思ったラザークは、普段だったら速攻で殺しにかかる衝動を抑えて、極めて冷静な風を装うことにした。
「人々を暴力で押さえつけて、それで平和になると、貴方は本当に思っているのですか」
ミトラ・ノールの背後のモニターには、圧倒的な暴力によって殲滅されようとする味方の姿が映っている。
「思ってるよ」
答えるラザーク。
「他者を虐げて、平和になると?」
「なるんじゃねーの」
なんの躊躇いも無く答えるラザークに対し、ミトラ・ノールは一瞬言葉を無くす。が、それでも何とか言葉を吐き出す。
「しゅ、主人公側としては、こういうシチュエーションでは、もっと悩むものでしょう!?」
「なに急にメタ的な物言いしてんだ、テメーはよ。正直引くぞ、俺」
いいか? と、前置き、ラザークは続ける。
「ぶっちゃけ、俺はなんも考えてねーの。
給料貰って、良い暮らしができて、人に威張れる地位とか権力があって、適当に闘争本能を満足させる仕事があれば、それでいいの。平和とか、そんなもんマトモに考えたこともねぇ。
つーか、平和の定義ってなによ? 戦いがない? それとも平等? だれもが自由に未来を決められる? は、わっかんねぇな!! 平和、平和言うが、そんな定義付けが曖昧なもんを掲げてんじゃねぇ!! 
具体性を好む俺は、テメーらのように形のねぇ物を崇め奉る奴らが、心底、むっっっかつくんだよ!! 
それと、なんだテメーのさっきの『人々を暴力で押さえつけて、それで平和になると、貴方は本当に思っているのですか?』や『他者を虐げて、平和になると?』、ざっけんな、なんだそのセリフはこの野郎!!
俺に聞いてんじゃねぇよ!! テメーの中でもう答えは出てるんだろうが! それなのに俺に聞いてんじゃねぇよ!! 
聞くんじゃねぇよ、答えが出てるんだったら、その答えを語れよ。
相手の言葉を聞いて、その上で否定して言いくるめようとするんじゃねぇ、答えが出てるんだったら、それをひたすらに貫けよ。
ひたすらに自分の答えを語って、相手の言い分を粉砕しろ、言いくるめるんじゃねぇ、屈服させてみろや!!」
350七四三:2009/07/12(日) 21:57:13 ID:???
――かかってこいよ。
ラザークは挑発するような仕草をする。
ミトラ・ノールにはラザークの言葉をすべて理解する事は出来なかった。だが、それでも、これだけは言える。
「貴方は間違っています」
「いいや、間違ってねぇよ」
不遜な態度で言葉を返すラザーク。その姿を見て、ミトラは思わず口走った。
「世界は変わらなければいけません」
全く脈絡がないことはわかっている。だが、それでも言わずにはいられなかった。
「変われば平和になるとでも?」
「なります」
「ならねぇよ」
そう言ったラザークは、近くにあった適当な椅子に腰かける。
「変わったって、世界は絶対に平和になることなんかねぇよ。なにせ、変わることを望むやつらが自分たちの側でしか物を見ねぇからな。」
どういう意味かと問うような視線を送るミトラ・ノール。
「例えば、テメーら」
ラザークはミトラ・ノールを指さし、言葉を続ける。
「テメーらが言うように貴族による支配体制を打倒し、民主的な社会を築けたとする。つまり世界は変わったというわけだ。貴族はいなくなり、それまで虐げられていたとか言う奴らにとって喜ばしい時代が来るわけだ。つまり、幸せだ。
しかし、貴族だった奴らはどうする? いや、貴族だけじゃなくても体制に関わったり、それまでの社会体制でのみ生きていくことができた奴は? 
社会の体制が変われば、そんな奴らは追い落とされていく。大抵の場合、旧体制の奴らは迫害の対象だ。貴族なんかは、きっとヒデー目に遭うんだろうな。
おまえはそれをどうするんだ?」
急に水を向けられ、ミトラは口ごもる。
「それまで、充分に良い思いをしたんだから、いいじゃないかってか? まぁ、そういう考え方もありだろうけどよ。でも、ひどくねぇ?
きっと、貴族の家に生まれた子供とか、親が貴族だからって理由で、何も悪い事してねぇのにヒデー目に遭うだろうなぁ」
『きっと』、『だろう』、ラザークの言う言葉は全て憶測。しかし、それでもラザークの語りは止まらない。
「もしかしたら、反乱も起こるかもしれんよなぁ。支配階級から追放された貴族が自分たちの復権を求めて、反乱を起こす。それを支配者になった奴らはどうする? ――武力をもって鎮圧するよなぁ、きっと。
お題目は民主主義を守れ、貴族による支配の時代を復活させるな、とかだろう。
でも、これアレじゃね? 俺達がやってることと変わらねーじゃん。
おいおい、世界変わってねーじゃん。つか、平和にすらなってねーじゃん」
351七四三:2009/07/12(日) 21:58:16 ID:???
全ては憶測だ。
ミトラ・ノールはそんな事にはならないと信じている。
だが、確信をもって、そうならないと言うには根拠がない。
所詮、ラザークの言葉は憶測。「それは、貴方の憶測です」と言えば済むだろうとも思うが、ミトラはそれではいけないと思った。しかし、ミトラは適当な言葉が見つからない。
「それでも、今の世界で苦しんでいる人や傷ついている人を救うためには世界は変わらなければ・・・」
「今の世界で幸せに生きている奴らを不幸にする可能性があってもか?」
ミトラ・ノールは言い返す言葉を探すが、思いつかない。口を突いて出たのは、こんな言葉。
「それでは・・・今、苦しんでいる人々はどうすればいいのですか!?」

「我慢しろよ」

ラザークは冷徹に切って捨てる。
「我慢しろよ。幸福に生きている奴らが、そのまま幸せに生きていけるように、苦痛、苦しみ、全ての負はお前らが背負え」
「なんてことを言うの・・・!?」
「誰もが口に出さないことを代わりに言ってるだけだ。俺は、俺が間違っているとは欠片も思わねぇ」
「だけど、それでも・・・」
「俺が正しい。 ――考えてもみろよ? 俺は今の世界を笑顔で過ごす奴らの平和を守っているんだぜ? つまりは『世界の守護者』ってわけだ。字面だけ見りゃあ、俺の方が正義の味方だろ?」
「だけど、それは犠牲の上に成り立って――」
「またそれかよ。そんなの俺は知らねぇ。つーか、本当に苦しんでる平民なんているのかよ? 俺は見たことねぇ。
俺が知ってる平民の奴らは苦しんでるとか、そんな様子は全然ねーし、むしろウゼーほど能天気で幸せそうだ。テメーよりも、明らかに交友関係、人間関係豊富な俺がそうなんだから、テメーはホントに見たことあんのかよ?」
まくしたてるようなラザークの言葉はミトラ・ノールに喋る間を与えない。
「もしかしたら、テメーはアレなんじゃねーの? ほら、テメーの親父、なんか妄想入っちゃってる人らしいじゃん、テメーもなんか洗脳されてんじゃね? 
ミトラの名に恥じないように、お前もなんちゃら〜ってな具合にさ。いったい何時の時代だと思ってんだよ。今時、百年も前の奴を崇めてんじゃねーっての、時代遅れに気付けよな」
352七四三:2009/07/12(日) 22:00:58 ID:???
好き放題に言い散らす、ラザークに対し、ミトラ・ノールは思う。
(会話する気がない!?)
事実、まったくもってその通りだった。
何か言わなければと思うが、うまく言葉にできない。これはマズイとミトラ・ノールは思う。
沈黙は敗北。何故か、そんな雰囲気ができている気がする。
何か、何か言い返さなければ、強制的に自分の側が間違っていると認定される。
そんな強迫観念にミトラ・ノールが囚われかけた、その時。ラザークはミトラが背にする、モニターを指差した。
「あっちは一区切りついたみてぇだな」
その言葉に、ミトラ・ノールがはっとして振り返ると、モニターに映る光景に味方の機体は無かった。全滅したのだと、考えるまでも無くわかった。
「こっちも、そろそろ終わりにしようか? 楽しかったよ、テメーとの会話はそれなりに」
再び聴こえた言葉にミトラは視線をラザークの方に戻す。
振り返った先、ラザークは椅子から立っていた。しかし――
「じゃあね」
しかし、ラザークはミトラ・ノールに背を向け部屋の出口に向かっていく。
「何処へ行くのですか!?」
問い。ラザークは振り返らず答える。
「家捜し。色々と有るかもしれんしな」
「私の事は、どうするつもりですか!?」
「そのうち、もう一人来るだろうから、そいつに任せるよ。どうせ逃げねーだろ、アンタはさ」
「なぜ、そんな事を」
「俺は良い上司なんでね、部下に功績を譲ってやろうって優しい気持ちを持ち合わせているのさ」
テロリストの支援者を拘束する。それなりの手柄になるのは間違いない。
「それじゃあ、お嬢様、ワタシの部下が来るまでお行儀良くお待ちになっていてくださいね」
最後に振り返ると、ラザークはミトラに・ノールに対して二コリと笑いかけ、部屋から退出していった。
一人、呆然と部屋に残されるミトラ・ノール。
ミトラ・ノールは気付いていなかった、背後のモニターの映像が新たな戦いの場面を映していることに

続く
353通常の名無しさんの3倍:2009/07/13(月) 18:22:42 ID:???
投下乙
354通常の名無しさんの3倍:2009/07/16(木) 02:18:57 ID:???
保守…だ
355通常の名無しさんの3倍:2009/07/20(月) 02:37:29 ID:???
保守
356作者:2009/07/23(木) 17:16:10 ID:???
あ゙〜
規制から放たれた〜
357作者:2009/07/23(木) 17:29:07 ID:???
僕の考えた設定は上書きしてくれませんか?
代償にここには来ませんから。
はっきり言って、これ以上元をパクられるのは,不快です。
だって貴方達は「外伝作っていい?」と言ってないんですよ?
そう言っていたら、私も暴走しなくて済んだんです。
ですが駄作を作ったのは僕ですし、侮られてもしょうがないとは思います。
ごめんなさい。ええ、反省しています。ケツァルコアトル神に誓って。
358通常の名無しさんの3倍:2009/07/23(木) 18:37:39 ID:???
暴走の原因を他人のせいにする時点でアウト。
じゃぁもうくんなよ
359通常の名無しさんの3倍:2009/07/26(日) 00:42:38 ID:???
保守
360通常の名無しさんの3倍:2009/07/30(木) 15:18:31 ID:???
保守だ!
361通常の名無しさんの3倍:2009/08/02(日) 16:49:08 ID:???
俺が保守
362通常の名無しさんの3倍:2009/08/05(水) 14:41:01 ID:???
保守してる人は何を待ってるん?
363通常の名無しさんの3倍:2009/08/05(水) 15:08:18 ID:???
オリオンガンダム
 WEEDガンダムの息子。雑種。
364通常の名無しさんの3倍:2009/08/07(金) 18:05:36 ID:???
>>362
今いる外伝作者
365通常の名無しさんの3倍:2009/08/09(日) 19:57:43 ID:???
保守
366通常の名無しさんの3倍:2009/08/15(土) 18:27:35 ID:???
保守。

とりあえず七四三氏、エルト氏の過去スレに投下したのまでは保管し終わりました。

自分のはもう少しで投下できるかもしれません。
367七四三:2009/08/16(日) 02:16:37 ID:???
>>乙です

昨日書いたぶんを投下します
続きは今日書いて投下します
368七四三:2009/08/16(日) 02:18:04 ID:???
異説機動新戦記ガンダムウィード

第二十二話 決闘


それは突然の襲撃だった。
眼前の敵を殲滅させたシリウス・ロウの操るカウンティリアの背後。
コロニーの大地を割り、地面から飛び出したMSが襲いかかる。
「覚悟っ!!」
通信を通してシリウスの耳にも届いた叫びに合わせ、その機体はカウンティリアに対して水平にビームサーベルを振り払う。
が、しかし、サーベルの一撃は宙を切り、コロニー内の大気を焼くだけ。
咄嗟に反応していたシリウスはカウンティリアをしゃがませ、ビームの刃の真下へと機体を逃れさせていた。
「危ないじゃない…かっ!」
しゃがんだ体勢のまま、カウンティリアは足払いを放つ。
低い軌道を描く蹴りに対し、襲撃者の機体は真上へと逃れる。
それは跳び跳ねるというより浮き上がる動き。
(エーテリウムジェネレータ搭載機か)
推力を用いずに重力下で浮遊するのはエーテリウムジェネレーターの副次的効果によるもの、
既にカウンティリアの遥か上の高所に浮遊し、こちらを見下ろしている敵機をシリウスは凝視する。
改めて見た敵機の姿は両肩と脚部にスラスターが増設された高機動タイプの機体。
指揮官機を示す角に、頭部のメインカメラは逆三角形に配置された三眼式。
明らかに従来の機体ではない。
だがシリウスは、その機体に思い当たる節があった。
「ゼクサスの高機動型か?」
あり得ないとも思う。
ゼクサスはMSメーカーのイグサール社の最新鋭機。
現状では未だテスト段階の筈で、現にテスト用としてインペリアルガードに二機が供与されたばかり。
そんな機体を一介のテロ組織が所有しているのは、どう考えてもおかしい。
だが、一度そう思い込んでしまうと、そうとしか思えない。
シリウスは敵機がゼクサスであると認識した。
「イグサールとテロ組織が繋がっている可能性があるってことかな。だとしたら後で探りを入れる必要があるか…」
後でラザークに提出する報告書の下書きを頭の中で考えながら、シリウスは敵のゼクサスから視線を移す。
シリウスが目を向けたのはコロニーの大地に空いたゼクサスが飛び出してきた穴。
しかし、改めて見るとそれは穴ではなくMS搬出口。
369七四三:2009/08/16(日) 02:19:57 ID:???
「なるほど、地の利は向こうに有利か」
MSの搬出口はコロニー内のありとあらゆる場所に隠されているに違いない。
搬出口に入れば身を隠せる上、おそらくは繋がっているであろう搬出口の内部を通って気付かれずに背後を取ることも可能。
攻めるにしても、守るにしてもその有効性はかなりのものだ。
「さて、どうしたものか」
地の利は向こうに有利。しかし、数と装備は明らかにこちらが有利。
正攻法で戦えば、多少は手こずるかもしれないが、汚い手段を使えば倒す方法などいくらでもある。それこそ、秒殺を決める手だって考え付く。
だが、戦う以前にまずはやるべき事がある。
シリウスはゼクサスのパイロットに向けて、通信で呼びかける。
「降伏しろ! 降伏するなら命まで取るような事はしない」
降服勧告。
シリウスは戦闘狂ではない。
戦う事を楽しむ趣味が無い以上、少し面倒な相手が出れば、戦わずに済ませたいと思うのが常だった。
突然の降服勧告に対して、ゼクサスのパイロットは戸惑ったのか、抵抗の意志が弱まったようにシリウスは感じた。
チャンスだった。
シリウスは自分の操る駆狼の一機にスナイパーライフルを装備させ、ゼクサスのコックピットに狙いを付けさせた。
ゼクサスのパイロットはそれに気付いてはいない。
今なら確実に仕止められる。
そう確信したシリウスは、操る駆狼に射撃を行わせるための命令を下そうとする。だが、
『撃つなよ』
突然のラザークの通信がシリウスが命令を下すのを遮った。
『流石に今撃つのは汚なすぎんだろ。撃ったら、俺がテメーを殺すかんな?クリーンにやれよ?クリーンにさ』
どの口でそれを言うかと思ったが口答えはしない。
逆らっても殺される事はないと、それなりの付き合いの長さから理解はしているが、それでも面倒なことになるのは間違いない。
だったら言うことは聞いておくべきだとシリウスは経験から理解していた。
そうこうしている内に、ゼクサスのパイロットは戸惑いから解放されていた。
抵抗の気配は、今は感じない。だが、何かを決意したような、そんな気配をシリウスは感じた。
(降服はしないかな…?)
何と無くそんな気がした。
ゼクサスのパイロットが戸惑ったのは、降服すれば自らの主が助かる可能性があるかもしれないと思ったからだろう。
370七四三:2009/08/16(日) 02:22:51 ID:???
だが、少し考えれば、そんなことは無理だとわかる。
最悪の場合では、主だけ死に自分だけが生き残るという場合もある。
そんな結果は騎士には耐えられない。
ならば、いっそ主を守り討ち死にする方がマシだと考えたのだろう。
それで良いとシリウスは思った。
その方が騎士という立場であるなら幸せだろう。
シリウスが見つめる中、高所に浮遊するゼクサスがビームサーベルをコロニーの大地に立つカウンティリアに向けた。
『私の名はシエロ・クリフ。騎士として主君を守るために貴公に決闘を申し込む』
敢然とした決闘の申し出が通信を通してシリウスの耳に届く。

(決闘ね…)
聞こえた相手の申し出にシリウスは何とも言えない表情を浮かべていた。
(受けるのが道理なんだろうけど、どうにもね)
決闘と言えば一騎討ちが当然だ。
死を覚悟した相手の気持ちに応えてやるというのが、人としては正しいのだろうが、シリウスとしては、その展開は遠慮したい。
複数の機体を操り、手堅く攻めれば100%勝てるのに、わざわざ一騎討ちなど馬鹿らしくて過ぎる。
そもそも、一騎討ちを望むのは相手の都合であって、こちらは全く望んでいないわけで、
そんなものの為に、自分の側の数的有利を無くすというのは余りにも勿体無い。
(受けなくてもいいか)
そう結論を出したシリウスは、自身の制御下にあるグリモアと駆狼に、ゼクサスを排除する命令を下そうとする。だが、

『受けろよ』
再び、ラザークが通信で口を挟んできた。
『漢が命を賭けて戦いを挑んでんだ受けて立つってのが筋だろうが』
勝手な事を言うなとは思うが、口答えをする勇気は無い。
(何処かで見ているのか?)
ふと、そんな事を思い、辺りを探すが姿は見当たらない。
『いいな? 命令だかんな。一騎討しろよ。これは命令だからな? ちゃんと言うこと聞けよ』
「ちゃんと言うこと聞けって…俺が言うことを聞かなかったって時が思い出せないんですがね…」
こうなってきては、どうしようもない。
ラザークの言うことを聞かないと後が怖い、一騎討ちをするしかないだろう。
従順な自分を情けなく思いながら、シリウスはコックピットの中で、一つの操作を行う。
次の瞬間には、カウンティリアの周囲に存在したグリモアと駆狼が姿を消した。
371七四三:2009/08/16(日) 02:24:00 ID:???
「これで場は整った。後は…」
シリウスの呟きと共にカウンティリアの手にビームサーベルが握られ、それをゼクサスに向けて突きつける。
「インペリアルガードのシリウス・ロウ。その決闘の申し出、受けて立つ」
決闘の始まりを告げるシリウスの言葉。
『感謝を!』
そして、シエロ・クリフの言葉と共にゼクサスがビームサーベルを構え直す。
それに合わせてカウンティリアもサーベルを構え直し、二機は睨み合う。
どちらが先に動くか、探り合うようにして、カウンティリアとゼクサスは地上と空中で距離を保つ。
停滞する状況、コックピットの中のシリウスはモニターに映る敵の姿を険しい表情で睨む。
時間にして十数秒、そうして睨み続けていたシリウス。だが、十数秒が過ぎた直後だった。シリウスは不意に肩の力を抜き、大きく息を吐いた。
決闘は始まったばかりだというのに、もう全てが終わったかのように、コックピットの中で楽な姿勢になり、そしてシリウスは口を開く。
「――ステルスマイン」
直後、カウンティリアのモニターに映る空中のゼクサスが爆発に包まれた――


続く
372七四三:2009/08/17(月) 01:48:14 ID:???
>>371の続き

ステルスマイン
対MS・MA用の浮遊機雷の一種。
レーダーに映らず、光学迷彩により目視ですら発見は不可能。その他にも様々な機能により、その存在を探知させない特殊な機雷。
非常に高性能な兵器であるが、その性能に比例して非常に高価。そのため、よほどの重要性を持った任務ぐらいでしか使うことを許されないという。
シリウスがゼクサスに対して使ったのは、そんな兵器だった。
ゼクサスが突然、爆発に飲み込まれたのも種明かしをすれば、単純にステルスマインを転送し、ゼクサスの周囲に配置しただけのこと。

「まぁ、こんなもんか」
爆発に飲み込まれたゼクサスの姿が映るコックピットのモニターを眺めながら、シリウスは不意打ち同然の攻撃を行ったのにも関わらず、悪びれる様子も無く呟いた。
実際のところ、決闘を受けて立つと宣言した、その時にはステルスマインを設置し終えていた。
険しい表情を浮かべていたのは、設置したステルスマインを遠隔操作し、より効果的にゼクサスを爆発に巻き込み、一発で仕留めるために設置場所を微調整していたからだった。
正直、決闘自体に対する緊張などシリウスは持っていなかった。
戦う前から罠を張り、決闘が始まる瞬間には、ほぼ勝負がついているのだから緊張感など持ちようがない。
「終わったかな?」
若干の警戒心から、敵機の姿を改めて確認しようとするシリウス。
懸念があるとすれば、ステルスマインの威力。爆発こそ派手だが実際の威力は、それほどでもないステルスマインは通常、複数個を同時に使う物なのだが、シリウスが使ったのは一個だけであり、火力に関しては若干の不安があった。
コックピットのモニターには爆発により生じた煙しか映っておらず、ゼクサス自体の姿は確認できない。
「これは、改良の必要性ありだな。爆発すると敵の姿が見えなくなるとか、使いづらくてしかたないな」
シリウスがぼやく。直後、爆煙の中から一条のビームが放たれた。
カウンティリアから大きく狙いが逸れたビームは当然、ゼクサスが撃ったもの。
煙の中から、ゼクサスが飛び出し、地上のカウンティリアに向かって突進する。
「やっぱり、仕留め切れてないか……」
だが、無傷と言う訳でもなかった。ゼクサスの特徴的な三眼式のメインカメラは爆発の衝撃により損傷し、また比較的、装甲の薄い関節部分にも確実に爆発のダメージは響いている。
(性能は二割減といったところかな)
シリウスが冷静に分析する中、上空から急降下し襲いかかるゼクサスのパイロット、シエロ・クリフは穏やかではいられない。激昂し、叫ぶ。
373七四三:2009/08/17(月) 01:50:07 ID:???
「卑怯者めっ!!」
「人のことは言えないだろ?」
突進し、斬りかかるゼクサスのビームサーベルをカウンティリアも同じくビームサーベルで受け止める。
「不意打ちは、そっちだってやったんだし、おあいこじゃないか」
「なにを言う、最初の攻撃は挨拶代わり、私に当てるつもりは無かった!」
「あれは、俺が避けたのさ。普通だったら当たってるって」
カウンティリアとゼクサスがお互い一歩も譲らず鍔迫り合いを繰り広げる中、二機のパイロットもまた、言い争いをしている。
「違う! 貴公が避けたのではなく、私が自らの意思で外したのだ!」
「いいや、あれは俺が避けたの。避けなかったら当たってたんだから、実際は命中したのと同じ。俺が君を騙し打ちしたのも、不意打ちに対する反撃としては正統なものだろ?」
「ふ、語るに落ちたな! 貴公は今、自分の口で騙し打ちをしたと認めたではないか!!」
パイロットの気迫が乗り移ったかのように、機体の出力で上回るゼクサスが段々とカウンティリアを押し始める。
「正統な反撃を謳うのならば騙し打ちなどと言うべきではないな!」
「おいおい、さっきのは言葉のあやってヤツで・・・」
「問答無用」
「いやいや、さっきのなんて騙し打ちに入らないから。本当の騙し打ちってのはさ……」
鍔迫り合いの状態を維持する二機。だが、その時、突然にゼクサスの頭部のすぐそばに長方形の物体が出現した。
「こういうの言うんだぜ」
突然に現れた長方形の物体が突如、爆発した。
爆発に巻き込まれるゼクサスの頭部。それによって機体全体の動きに乱れが生じる。
「指向性爆雷ってヤツだ。覚えとくんだな」
シリウスは、その隙を見逃さず、カウンティリアを操る。
カウンティリアは鍔迫り合いの状態からビームサーベルを引き、機体を横にずらす。
スラスターを噴射していたゼクサスは、その動きに対応する事ができず、盛大に地面に機体を突っ込ませる。
「こんなことで!!」
地面に突っ込んだ衝撃はかなりのもの。だが、ゼクサスのパイロット、シエロ・クリフは苦悶の声を上げながらも、衝撃をこらえて機体を立て直す。
シエロの必死の操縦によりゼクサスは、すぐさま立ち上がり、追撃してくるであろうカウンティリアの姿を探す。
が、ゼクサスのコックピットのモニターには何も映らない。
敵が映らないのではない。映像そのものが映らないのだ。コックピットのモニターは黒く塗りつぶされ、完全に死んでいる。
「爆発でメインカメラがやられたのか!?」
すぐさま、シエロはサブカメラに切り替える。
しかし、サブカメラに切り替えてもカウンティリアの存在を見つけることはできない。
「何処だ、何処にいる!?」
焦り、策敵を行うシエロ。だが、一向に見つからない。
(何処だ、何処から来る……?)
消えた敵に対し、極限の緊張を余儀なくされるシエロは何処に仕掛けられているか分からない爆弾に備え、自分の周囲に対して徹底の警戒を行う。が、それこそがシリウスの狙いだった。
ステルスマインと指向性爆雷により、至近距離で突然に生じる爆発というもの意識させ、必要以上に警戒させる。
それにより至近距離にばかり注意が向き、遠距離に対する警戒が弱まる。
そして、シリウスのカウンティリアはゼクサスの遥か遠くに在り、その手にライフルを構えていた。
374七四三:2009/08/17(月) 01:51:25 ID:???
自機の周囲に対し、シエロが警戒を行う最中、不意にゼクサスのコックピット内にアラートが鳴り響く。それは敵機にロックオンされた時に響く音であり、パイロットに危険を知らせるもの。
直後、ゼクサスの右肩をビームが貫いた。
「なん――」
シエロが口を開いた瞬間には、新たなビームがゼクサスの左足を貫いていた。
脚部を損傷したゼクサスは自立できなくなり、倒れこむ。
そこに再び、コックピット内のアラート。そして、また新たなビームが倒れたゼクサスを狙い、襲いかかる。
「ぬぅう!!」
ゼクサスはスラスターを噴射し、緊急上昇。空中へと逃れる。
「何処からの攻撃だ!?」
ゼクサスは空中に浮遊し、辺りを見回す。
近距離にばかり気を取られ、遠距離を警戒しなかった自分の失態だと、シエロは素直に認めるしかなかった。
策敵を行うゼクサスだったが、コックピットの中にまたもや、アラートが鳴る。
「そう何度もくらうものか!!」
空中のゼクサスを狙ったビーム。それを巧みにかわすと、シエロはビームの発射地点を計測、そこにサブカメラを向ける。
サブカメラを通してモニターに映ったのは、狙撃用のビームライフルを構えたカウンティリア。手に持った大型のライフルの銃口は当然ゼクサスに向けられている。
「意外に気付くのが遅かったな」
そう言葉を漏らし、シリウスはトリガーを引く。
カウンティリアが持つ狙撃用ライフルの銃口からビームが放たれ、空中のゼクサスに向かう。
「当たらん!」
気迫の叫びを放ち、シエロの操るゼクサスはビームを回避しながら、カウンティリアに目がけて突進する。
ビームに貫かれた右肩だったが、まだ動く。ゼクサスは右手にビームサーベルを構えながら、左の前腕部に内蔵されたビームガンを撃ち掛けながら、カウンティリアに迫る。
「人間なんだからさ、もっと頭を使って戦おうって」
ビームガンの射撃は牽制であり、当たる気配は無い。仮に当たったとしてもダメージを受けるような火力ではない。そのため、シリウスは狙撃に専念する事にした。
狙いをつけて、トリガーを引く。だが、ロックオンしている敵機はことごとくビームをかわし、こちらに迫ってくる。
「手負いの獣は厄介ってことかな」
モニターに映る損傷したゼクサスの姿に感嘆したかのようにシリウスは呟いた。
既にゼクサスとの距離は、相当に縮まっており、もはや狙撃を行う距離ではない。
カウンティリアは狙撃用のライフルを下げると、苦し紛れのようにライフルをゼクサス目がけて投げつけた。
「そんなもの、どうするつもりだ!」
「こうするのさ」
シリウスの返答の瞬間、シエロは気付いた。ライフルの側面に円形の物体が接着されていることに。
(指向性爆雷か!? ワンパターンな!)
爆発に備え、足を止めて身を守るゼクサス。だが、次の瞬間、ゼクサスを襲ったのは爆発ではなく煙。
炸裂した円形の物体から発せられた大量の煙がゼクサスを飲み込み、その視界を閉ざした。

続く
375七四三:2009/08/17(月) 19:42:20 ID:???
誰も乙してくれないので自分で自分に乙して、ついでにage


取り柄が投下し続けられるぐらいしかないってのも情けない話だよなぁって感じに自己嫌悪に陥りました
376通常の名無しさんの3倍:2009/08/17(月) 19:47:21 ID:???
乙であります!
377通常の名無しさんの3倍:2009/08/17(月) 22:06:46 ID:???
久々に作品投下。個人的には大失敗の予感。

三行で言うと…

・なんちゃって水中戦をやろうとして失敗。
・結局やっつけ作業。
・モチベーションがあがらなかったのも原因

そして、七四三氏の高機動型のゼクサスがカコイイ。なんかやられ役っぽいのがいい。
GJでっす!

第3話 『調査』

ミィルの眼前に広がったのは海辺と白い飾り気の無い建物。
しかし眼前といってもMSのコクピット内からモニターで見ているのだが。
「で、あの白い建物が調査対象の製薬会社か?」
マークエルフの隣を歩く狙撃MS、マークゼクスに通信を交わすミィル。
パイロットはスチュワート・ミックである。
「表向きは、な。裏はダルタイルの研究施設だ」
今日、ミィルとミックの任務はダルタイルの研究施設の調査だった。
この戦争が始まる三ヶ月前ほどに建設されている。表向きは某製薬会社の支部なのだが、
実際はダルタイル帝国の新型兵器の開発やエーテリウムの研究施設と戦争開始直後に判明した。
当然、ダルタイル側はデータを全て本国に移してこちらのはすべて破棄しているだろうし、
表向きの製薬会社も事実上倒産していて今はただの廃墟と化している。
一度ヴィトリア基地の調査部隊が調査していた。もはやあの建物は無用の長物な筈だった。
しかし、近頃その施設が稼動しているとの情報が入ってきており、その真偽を確かめる為にやってきた次第であった。べんべん。
「しっかし、飾り気の無い建物だな。ハゲたおっさんの頭みたいだ」
「そんな事入ってる場合じゃないだろう。早く行こう」

と、その時だった。
マークエルフとマークゼクスの目の前を巨大なビーム砲が走り去った。
「敵か!?」
マークゼクスをビーム砲が発射された向きに方向転換する。
「なんなんだ?あの珍妙なMAは」
カニのようなハサミ、二門のビームキャノン、そしてザリガニと形容するのに相応しい頭部に脚。
「あれはグルスター…ダルタイルの水陸両用MAじゃないか!」
「とてもそんな感じには見えねーけどな!」
「そういう問題じゃないだろう」
「やっぱり、ダルタイルの機体があるという事はここには何かあるみたいだな…迎撃するぞ、ミィル!」
ミックがそういうと、マークゼクスは肩にマウントされていたビームスナイパーライフルを持つ。
すると、グルスターは再び背のビームキャノンをマークゼクスに照準を合わせる。
ビームスナイパーライフルとビームキャノンが同時に発射される。
「いきなり戦闘開始っすか!」
ミィルは軽い調子でシールドを手に持ち、ミックのガードに入ろうとする。
爆発により同時に三機を隠すかのように煙が上がった。
378みぃる:2009/08/17(月) 22:07:55 ID:???
「さっすがデカい大砲添えてるだけあって、威力は十分だな。ちょっとばかし左腕が動作不良だ」
煙から現れたのは爆散したシールドにマークエルフとマークゼクス。
「損害はそれだけか?」
「あと少しカメラの調子も悪いな。ったく、また始末書だな、こりゃ
大体お前が無茶するからこうなったんだ。慣れて無いくせにタイマンなんざはるなよな」
マークエルフの動作確認をしつつ、ミックに話しかける。
「すまない、ミィル。まだ機体に慣れてないから…エミールのときならギリギリ行けたんだが」
「あんまり無茶すんな、特攻して自滅は俺の仕事だからな。で、敵さんは…」
ミィルがモニターを拡大し、グルスターを確認する。
グルスターは光の盾のような物を前方に展開し、事無きを得ていたのだった。
「あれは…ビームの盾…?ビームシールドか!」
ビームシールドの展開をやめると、グルスターは海に後退していく。
後ろ歩きで後退する様は少し滑稽である。
「ミィル!後退させるな!奴は海中から攻撃する気だ!」
ビーム兵器は水中では減退する。そして、グルスターは水陸両用のMAで、
ガンダムストレングスは陸での戦闘だけを想定している。
水中戦のオプションも装備していないミィル達が不利になることは明白であった。
「承知してますよ優等生殿!」
ビームライフルを構え、グルスターを狙う。銃声と共に走る光の筋がグルスター目掛けて飛んでいく。
が、ビームシールドを展開することでビームは弾かれる。
ミックもビームスナイパーライフルでグルスターを攻撃するが、やはりビームシールドに阻まれてしまう。
「あぁ〜もう潜られちまったぞ!」
ミィルが通信ごしに叫ぶ。
「断然不利になったな…さて、どうする?」
「俺に聞くなよ!」
のんきなものである。この2人にとってはこの程度のピンチはどこ吹く風なのだろうか。
いやいや、焦ってますがそれを誤魔化しているだけです。べんべん。
379みぃる:2009/08/17(月) 22:08:43 ID:???

グルスターに搭乗していたダルタイルのパイロット、ベイン・ピクルスは落ち着いていた。
廃棄された研究施設の破壊にきたベイン。
そこに居合わせた連邦のMS──…恐らく目的は調査だろうと大方予想はついている。
「グズッてる暇はないな…」
ベインには、先の一撃であのMSのパイロット達の経験が少ない事は分かっていた。
ビームシールドは無敵の盾とも言えるが、いかんせんエネルギーを食う。例えMAであってもそれは同じ。
幸い、ここはグルスターにとって地の利がある。水中から撃っていればそれで済む。
「さて、お前らに俺を倒すことができるかな?」
尾の部分に装備されてあるミサイルをガンダムに向けて発射する。
「ミサイルか。迎撃ができない訳じゃない」
マークゼクスはバックパック部に接続されていたハンドガンをマウントする。グリップが90度曲がり、ハンドガンと呼べる形となった。
ハンドガンからは発射される弾と共にミサイルが撃ち落とされていく。
完全にミサイルを迎撃したところでミックは口をあけた。
「で、どうやって反撃する?」
「あっちから来てくれる気配はねーしな…俺が海中から引きずり出す。んで、お前がとどめ。これでOKだろ」
「異議ありだが、それしか方法はなさそうだな。無理するなよ、ミィル」
「任せとけ、始末書書かされない程度に無茶してきてやる」
そういうとマークエルフは海中へと潜っていく。
「あっちから俺のテリトリーに入ってきた訳か、俺を引きずりだすつもりか?」
このことをベインも想定していなかった訳ではない。グルスターはミサイルを発射し続ける。
マークエルフはレールガンを展開し、ミサイルに構える。
「こっちだってまったく対抗する武器がない訳じゃないんだよ!」
レールガンから蒼い電光が走り、ミサイルを撃ち落としていく。
水中用の装備に比べれば威力はかなり減衰するレールガンだが、ミサイルを撃ち落とせないほど減衰はしない。
「くそっ、何発か落としそこねたな…!」
ミサイルがミィルを襲う。マークエルフは腰にマウントしていたビームライフルを投げ付けた。
ビームライフルに着弾したミサイルは、ビームライフルと共に爆発する。
水中戦では無用の長物と判断したミィルのとっさの判断。始末書が怖いが、今はそれどころではない。
「その程度で調子に乗るなよ、新兵さん!」
グルスターのシザーアームがマークエルフを襲う。
マークエルフはスラスターを噴射し、難を逃れた。接近戦の武器がビームサーベルしかない以上、接近戦は不可能といえる。
「ほんと、水中での戦闘じゃお荷物だよなぁ、ビーム兵器ってさ…」
380みぃる:2009/08/17(月) 22:10:07 ID:???

刹那、背後に移動していたグルスターがマークエルフを襲う。
シザーアームでマークエルフはがっちりと挟まれてしまった。
「このまま寸断してやるよ!!」
鈍い音をたてるシザーアーム。ミィルも脱出しようと試みるが、抜け出せない。
「こんなところでやられてたまるかっー!」
ビームサーベルを抜き放つ。が、減衰したビームではシザーアームを切り裂けない。
するともう一本ビームサーベルを抜き放ち、連結させビームソードにする。
シザーアームにビームソードの柄を思い切り押し付ける。
「出力をあげても意味がなかったな?じゃあ死ね」
と、ベインがそう喋った途端、シザーアームが爆発した。
「なっ、なんだとぉおお!?」
「思った通り、零距離ならなんとか使えたみたいだな。おかげでこっちのエネルギーはそろそろキツいけどな」
とミィルが喋り終ったと同時にグルスターは浮上しだした。
「ちっ、ならビームキャノンで一気に仕留めてやる!」
海中から浮上しようとするマークエルフに照準を定めるベイン。
「こっちの事を忘れてないか?」
ベインは後方に目を向けると、そこにはビームスナイパーライフルを構えたマークゼクス。銃口から光の筋が放たれる。
「こっちにはビームシールドがあるのを忘れたのかよ!」
グルスターは即座にビームシールドを展開し、ビームを弾くと同時に即座にビームキャノンを放つ。
マークゼクスは回避行動を取ろうとするが避けきれず左脚を破壊される。
「結局おまえらじゃ、水中だろうが地上だろうが俺には勝てないってこった!」
勝利を核心したベイン。自然と笑いがこみあげてくる。
「ありがとうよ、ミック!」
海中から水飛沫をあげ派手に登場したのはマークエルフ。
ビームソードを器用にマニュピュレーターでくるくると回転させ、構える。
「俺達の常套手段は俺がひきつけてミックがとどめ。あるいは、その逆…
あんたみたいに簡単にひっかかってくれると楽だな!」
グルスターの腹部向けて、真一文字に斬りつける。
「じゃあな!」
ミィルの声と共に、グルスターは音をあげ爆発した。
381みぃる:2009/08/17(月) 22:11:09 ID:???
ベイン・レイルスター

性別:男
年齢:29
所属:ダルタイル帝国
階級:少尉

研究データの回収に来たグルスターのパイロット。
頭に血が上りやすく、意外とあっけなく死んだ。
382みぃる:2009/08/17(月) 22:12:03 ID:???

機体名:ガンダムストレングス(マークゼクス)
パイロット:スチュワート・ミック

武装
・ビームスナイパーライフル

狙撃に特化したビームライフル。マークゼクスの主武装。
通常時は左肩にマウントされている。

・リニアハンドガン×2

レールガンのハンドガンタイプ。
威力はレールガンより劣るが、速射性は高い。
通常時は背中のバックパック部にマウントされる。

・ショルダーシールド×2

円盤状のシールド。手持ちでは狙撃時に
支障をきたす恐れがあったため、右肩に装備される事になった。


正式名称GUP-01ZX後方支援型ガンダムストレングス。通称『マークゼクス』
特徴は短いV字アンテナと頭部に装備されたスカウターのような小型フォロスクリーン。
頭部のセンサー機能を強化させておらず、かわりに胴体部にセンサー類を増設している。
カラーリングは濃い緑色。接近戦はほとんど想定されていない為、完全な後方支援機といえる。
383みぃる:2009/08/17(月) 22:13:53 ID:???
機体名:グルスター
パイロット:ベイン・レイルスター他

武装
・シザーアーム×2

水中戦での使用を想定とした武装。
敵を挟み込んで切断する。

・二連装ビームキャノン

グルスター最大の火力を誇る武装。
地上での使用を想定しているが、
海中から急速浮上→戦艦を強襲という戦闘方法も可能。

・マルチスーパーミサイル

あらゆる場所で使用可能。水中でも例外ではなく、その汎用性は高い。

・ビームシールド

試作武装。ビーム兵器をも完全に防ぐ事が出来る。
ただし、燃費とコスト面の悪さも半端ではなく一部の大型MAや
拠点防衛用にしか採用されていない。


紛争時代から連邦の水中戦用MS『ガイドス』に散々煮え湯を飲まされてきたダルタイル。
今戦争において水中戦でもひけを取らない機体を開発した結果、このMAが完成した。
ザリガニの格好をしてふざけているがその性能は確かなものである。
現在4機しか製造されていない試作の水陸両用MAでイグサール製。



何!話が短いだと!wikiちょっとだけ更新したんでそれで勘弁してください!
384七四三:2009/08/18(火) 11:47:14 ID:???
>>みぃる
乙でござる

385みぃる:2009/08/18(火) 14:41:09 ID:???
>>384
後はエルトが来れば投下祭りの悪寒。

3話がこれはひどい出来だったのでマシにしようと4話でも投下。


第4話『来訪者』

「で、あの研究施設の調査結果がこれか」
ハーバード・オックスは悩んでいた。正直のところ、調査結果は杞憂におわったといえる。
稼動していたと思われた研究所は調査した結果完全にその機能を停止していたのが確認できた。
研究データとおぼしきものもひとつもなかった。これといって成果はなかったし、
何よりそこに居合わせた敵MAグルスターにより新型が2機も破損。
結果、百害あって一理もなかった。
「あのMAは連邦でも危険視されているからな……とりあえず無事生き残ってくれた事を喜ぶとするか」
「では、自分の報告はこれで終ります」
自動ドアが開き、ミックは司令室から立ち去った。
「おまえと一緒に出撃すると報告が楽で済むよ」
司令室の前で待っていたミィルが顔を現す。
「いつもお前が俺に押し付けるだけだろう?今回だけだからな」
「毎回それ言ってるけど今回だけだったことなんか一度もなかったけどな」
廊下を歩きながらミィルは続ける。
「そういや、整備士の人に怒鳴られたよ。
14メートルの巨人を傷つけられりゃ大変だろうしな。当然だろうけど」
「MSが完成して実戦に投入されたときはもっと大変だったそうだけどな…」
二人がくだらない会話を続けていると、廊下が二手に分かれているのが見えた。
「じゃあ、俺は自室に戻らせてもらうよ」
「ああ。またな」
自室の鍵がわりであるIDカードを認証用の端末に通すと自動ドアが開く。
「はあ、疲れたな…」
ベッドに倒れこみ、目を瞑る。昨日の戦闘を鮮明に思いだす。
「昨日もまた1人殺した、か…ヒーロー(笑)になるとか言った奴にあるまじき行動だよな…」
そもそも、ヒーローを英雄と読むとなんか雰囲気が違うというくだらない事を考える。
てかヒーローってなんだろう、誰かの役に、世界のみんなを救うのがヒーローなのだろうか。
大切な仲間を助け第三者を『ついでに』助けるのがヒーローといえるのだろうか。
つーか、戦争して殺し合いしてる奴にヒーロー、なんて称号がつくはずがないと思った。
「あれ?おかしいな…俺の夢っていばらの道だな…」
その場のノリでは敵をばんばんやっつけてればなんとなると思っていたミィル。
冷静に考えたら別にそんなことはなかったぜ!
何をするにも理由はいる。理由がなければこんな危ないことをする理由もない。
そもそも何故自分が軍人になったのかさえよく覚えていない。気付いたらここにいた、それだけだ。
「どこにもいないのにここにいる。俺の心はここにいないのに、何で俺の体はここにいるんだ……」
ふと、そんなことを考えていると敵が接近したことを知らせるアラートが鳴り響いた。

敵襲だ。
386みぃる:2009/08/18(火) 14:41:54 ID:???
「敵、戦艦一隻!デスフォーン3機、ダンデス7機を確認しました!」
オペレーターが叫ぶ。間髪いれずにガントリィが叫ぶ。
「MS隊全機発進、ヴァンガードも発進させろ」
「艦長は誰にします?中佐」
オペレーターがガントリィに問う。
「オックス中佐を副艦長に、ドレイク大佐を艦長にさせろ」
「まってください」
オックスが割ってはいった。ガントリィはオックスを鋭い眼光で睨みつける。
「副艦長はガントリィ中佐が。私がここに残ります。なんだか嫌な予感がしましてね、お願いします」
オックスの矛盾している発言。前線にでている方が危険性がより高まってくるのは当然のこと。
だが、ガントリィはそれに応じた。
「……。いいでしょう。他の非パイロットは輸送艦に乗って脱出の用意をしておいてくれ。無論、司令室の皆もだ」
ガントリィが椅子から立ち上がり、歩き出す。
「後は頼みました……オックス中佐」
司令室の自動ドアが開き、ガントリィは立ち去っていった。


一方、格納庫。


「くそっ、こっちは連戦続きだっての!」
マークエルフのコクピットにパイロットスーツを着たミィルが乗り込む。
コクピットハッチが閉じると、メインカメラが起動する。
「ミィル・ライズ、ガンダムストレングス出る!」
カタパルトからマークエルフが射出される。
「第7小隊揃いぶみだな!」
先に出撃していたトリントンがミィルに対して喋る。
トリントンの搭乗していたエミールはセシルの使っていたエミールとは違い後方支援型。
カラーリングは青色でやはり派手なカラーだ。
「マーチは前に死にましたけどね」
ミックが口を挟む。
「あいつはいい奴だったな……っと、やっこさんともう少しでご対面だぜ!覚悟しとけよ!」
トリントンのエミールがアサルトライフルを構える。
「わかってますって!」
「こっちにはこの新型が2機もいるんです。フォーメーションを崩さない限り負けませんよ」
ミィルとミックがくちぐちに答える。
387みぃる:2009/08/18(火) 14:42:52 ID:???

「きやがったな!」
トリントンが口に出した途端、ミィルのマークエルフが動き出す。
前方にいるダンデスがビームサーベルを構えた。
それに応対するかのようにマークエルフもビームサーベルを構える。
マークエルフが斬りかかる。ダンデスはシールドでガードしようとしたが、
ビームサーベルはシールドには当たらず空を切った。
マークエルフがダンデスに方に振り向くと同時に、
ダンデスはエミールのアサルトライフルが見事命中、蜂の巣にされ、爆散した。
「さっきのはフェイントだぜ?単機で突っ込んでくるからそうなるんだ。アカデミーからやり直せ!来世でな!」
トリントンが軽い口調で叫ぶと、マークゼクスはビームスナイパーライフルを構える。
「口だけじゃなくて手も動かしてくださいよ」
淡々と喋るミック。するとダンデス3機とデスフォーン1機の混成部隊がつっこんで来た。
「3対4ねぇ…キツイなー…」
ミィルは目の前にいるダンデスに集中する。
「俺、お前1人でデスフォーンとダンデス数機を撃墜したの知ってるんだが」
「あれは敵の連携がとけてなかっただけですって」
と他愛のない会話を交わしながらも、既にエミールとマークエルフはダンデスと切り結んでいた。
残りのダンデスとデスフォーンが切り結んでいるエミールとマークエルフに攻撃しようとする。
が、マークゼクスの狙撃が2機のコクピットを正確に貫く。
音をあげ爆発するデスフォーンとダンデス。
「やりやがるなこいつっ…」
苦戦するミィル。敵も中々の手練である。が、そこには何処か嬉しさが見える。
戦闘の時だけは自分がここにいる理由を忘れさせてくれる。自分がここにいることを実感させてくれる。
本人は気付いていないが、ここ最近のミィルはヒーローなどとは程遠い、戦闘にある種の快感を見出していた。
「なめんじゃねぇぞ!」
ミィルがそう叫ぶと、もう片方のビームサーベルを抜き放つと左手に持ち、ダンデスに斬りかかった。
敵のダンデスはシールドでガードする。が、同時にマークエルフの蹴りが不意に放たれる。
不意打ちの蹴りは敵を動揺させた。崩れた体勢を直そうと、下がる。
マークエルフはビームサーベルを連結、後退していくダンデスに思い切り投げ付けた。
やはりシールドでガードしようとするが今回は威力が違った。シールドを貫き、コクピットを直撃する。
爆発すると同時にビームソードを回収、ビームサーベルに切り替え背中のバックパックにマウントする。
「そっちは中々の手練だったみたいだな」
ミィルに喋りかけながらビームサーベルをマウントするエミール。
「まあ、俺の支援がなかったら死んでましたけどね」
自慢げにいうミック。ミィルは心の中で支援しなくても勝てたのにと呟いた。
「いまんところ俺が2機、ミィルが1機でミックが2機か。いい感じじゃねーか」
「ちょっ俺だけ1機ですかよ!」
388通常の名無しさんの3倍:2009/08/18(火) 14:43:38 ID:???
「こちら第6小隊。敵の全機撃墜を確認した。尚、先の戦闘で一名が死亡」
司令室に報告する小隊長。
「了解した。増援の可能性もあるのでくれぐれも注意してくれ」
ふと、小隊長は疑問におもった。いつものオペレーターの声ではない。
「オックス中佐……ですか?、何故あなたがこんなことをしているんです?」
中佐がオペレーターをするなんてことは今までやったこともないし聞いたこともない。
「何、いろいろあってね。心配性なだけだ」
「………?」
また疑問がふくらむ。が、それどころではなかった。
「敵の増援です!隊長!」
小隊長に通信機で語りかけたのはセシル・グレイシア少尉。
「何機だ?」
「確認できただけでは5機…」
セシルが質問に答える。3対4では分が悪いのは小隊長も理解していた。
「第7小隊に応援を要請する。各機、それまでの間持ちこたえてくれ」
「了解!」

「ルツィア大佐、また増援を送りますか?」
喋ったのは褐色でみるからにゴツイ男。いや、漢。
顔には後頭部から顎まで届きそうな切り傷の後が残っている。
「あそこがベインをやった奴らか……そうだな。増援ついでに私も出ようじゃないか」
ゴツイ漢に返事をしたのは金髪の男。いかにもやり手そうな顔立ちと風貌。
そして殺したくなるぐらいのリア充感が漂っている。作者なら殺しにかかっているだろう。
「大佐はインペリアルガードへの入隊が決まってるんです。本国へのより道にこんな事をしなくても良いでしょう?」
ブリッジを出るルツィアに顔を向けながら喋りかける。万一の事があったらと心配しているのだ。
「何、手土産に敵の新型を潰してやろうと思ってな…後は任せたぞ」
そう言い放つとルツィアはブリッジを出た。
「新型…どれほどの機体だろうか…楽しみだな。
死んでいった部下の分もこいつで晴らしてやろう……この『アルディート』でな」
ルツィアの眼前には白銀の美しい機体。内部フレームからは時々蒼い光の筋が脈うっている。
ガンダムタイプを彷彿とさせるその機体にルツィアは乗り込む。
アルディートはダンデスとデスフォーンと共に眼前に広がる空を翔けた。
389通常の名無しさんの3倍:2009/08/18(火) 14:45:15 ID:???
「ああぁぁああぁっ!」

エミールはロングソードを構え、敵のデスフォーンのコクピットを串刺しにする。
バチバチと火花が散り、爆発に巻き込まれないように後ろに跳躍、敵は四散した。
地面に着地した瞬間背後にいたダンデスがビームサーベルで斬りかかろうとする。
「しまったっ…」
死を覚悟し、目を瞑るセシル。コクピット直撃コース確定。
その時、ダンデスの隣から高速で現れた機体が。
「危ねぇだろうがコラァアアァァ!!」
その見事な跳躍とキックはその場にいたもの全てを魅了させたと後にダルタイルの一般兵士は語っている。
この軌跡が後の仮面ライダーシリーズとなり、戦隊ヒーローや
様々なヒーロー物の特撮番組へと発展していくが、それはまた別のお話。
地面に倒れこんだダンデスは体勢を立て直す為牽制にビームライフルを撃つ。
マークエルフは持っていた右手の手首を高速で回転させ、ビームサーベルを簡易シールドし、ビームを弾いた。
「その機体は模擬戦のときの人か!」
「セシルです。名前ぐらい覚えといてもいいんじゃ…」
「お前らそれどころじゃないだろ!」
トリントンがアサルトライフルでデスフォーンと撃ち合いながら喋る。
「ですよねー」
レールガンを構え、マークエルフはビームライフルを狙って撃つ。蒼い電光が走ると共に敵の手首に被弾、
誘爆して敵のビームライフルは破壊される。マイクロミサイルを構え、迎撃しようとするが
セシルのエミールが側面からダンデスに接近、ロングソードで袈裟切りにする。
「やりましたね」
ハイタッチの要領でエミールの手を動かすセシル。
「俺の見せ場を削らないで欲しいんだけどなー…」
ぶつくさいいつつもミィルはエミールの手を軽くタッチして、それに応えた。

「オラオラオラオラーーッ!」
トリントンのエミールが敵のビームライフルを巧みに回避しつつ、アサルトライフルで迎撃していく。
デスフォーンのシールドはついに衝撃に耐え切れずに破壊されアサルトライフルが襲う。
何発も銃弾を叩き込まれたデスフォーンは爆発、四散する。
「増援はこれで全員のようです、トリントン大尉」
ミックが通信機ごしにトリントンに話しかける。ヘルメットの下は汗だくだった。
後方支援機は一見地味だがその必要性は高く、他の機体と同じかそれ以上の集中力や技量も必要とされる。
「待て!また増援がきやがったぞ!……なんだあのMSは!?」
なもなきモブ小隊長が叫ぶ。

「さあ…第二幕といこうじゃないか。腐った連邦の犬達よ」


後編に続く
390通常の名無しさんの3倍:2009/08/18(火) 14:45:58 ID:???

エミール(遠距離支援型)
パイロット:ファーム・トリントン他

武装:
・アサルトライフル
本機の主武装。使い勝手がよくヴィルザードやヘビーデーモンでも
この武装を愛用して使用するパイロットも多い。

・エナジービームライフル
ビームスマートガンとビームスナイパーライフルを足して2で割った武装。
コストも上記の武装より低く使いやすいが、結果中途半端な武装となってしまった。

・ビームサーベル×2
通常時は腰にマウントされる。
遠距離支援型のエミールのはビームガンとしても使用可能。


遠距離武器に特化したタイプ。特殊武装の換装が容易に出来る。
単機の性能だけを考えるなら微妙だが、
本来は他の機体と同時に運用する事でその性能を発揮するタイプ。
391七四三:2009/08/19(水) 01:06:59 ID:???
>>みぃる
乙です

ちょっと愚痴っぽいものをば、書き込んでみる。ちなみに酔ってます
個人的な悩みとしては、作品間にどうやって繋がりを持たせるかってのが悩み
百年後とはいえ、一応は世界観も繋がっているから、同じ名字を出すのが繋がりをだすには、手っ取り早いんだけど
あんまり勝手に使うのも、他の作者さんの迷惑になりそうだから、なかなか踏み切れんのよね。


帝国って名前が付くから貴族制にしたのも、世界観の繋がりを考えると、正直よくなかったかなって今更ながら思ったり
自分は好きだから構わないだろうけど、他の人は使いづらい設定だろうなぁって思う。
それを考えると迷惑な設定ばかりを作っているなぁ、自分って今更ながら思う。
392通常の名無しさんの3倍:2009/08/22(土) 22:47:41 ID:???
主人公サイド無双なの?
カッコイイ悪役が欲しいところ
393通常の名無しさんの3倍:2009/08/25(火) 20:15:00 ID:???
途中から読んでるんだけど、
前スレが見たいんだが、何かに登録したりしないといけないの?
まとめWikiとか無い?
394通常の名無しさんの3倍:2009/08/25(火) 20:28:34 ID:???
>>741
一番右の奴が凄く滑稽なんだが・・・
395通常の名無しさんの3倍:2009/08/26(水) 08:11:32 ID:???
>>394
また凄いロングパスだな
396通常の名無しさんの3倍:2009/08/26(水) 15:42:24 ID:???
>>741に期待
397通常の名無しさんの3倍:2009/08/26(水) 15:43:47 ID:???
398七四三:2009/08/27(木) 01:53:06 ID:???
>>392
ならば、俺は前倒しをして強敵を乱入させるです。


ジーン・ゴッドウィン

ラザークに良く似た容姿の謎の少女。異説の物語の中で最強の戦闘能力を持つ。


レアード・ヴォルケン

マレブランケ。
ジーン・ゴッドウィンの命令に従い躊躇いなく、任務をこなす。


ゼクシオス

レアードの乗機。
何処で製造されたかは不明だが、ゼクサスと共通する部分が見受けられる。
399えると:2009/08/28(金) 00:33:46 ID:???
七四三とみぃる、いつも乙です。ちなみに俺もトリキー忘れたorz
近々俺も投下する予定。

ちょっと独り言を
>>391
俺は全然大丈夫です。むしろそういう遊び心大好きというか、もう好きにやっちゃってって感じ。
シナリオに直接影響するわけじゃなしwまあプロットって俺の場合あってないようなもんなんでw

貴族制に関しても多分七四三がやらなかったら俺やる予定だったんでw
自分で世界観を考えるのが苦手な俺にとってはまぁ有難い感じ
なんというか、一つの軸があってその外伝ってスタンスが大きなくくりになってるからそれはそれで良さがあるというか。
みぃるもwiki更新乙です。
そんじゃまた後日
400えると:2009/08/28(金) 00:37:21 ID:???
もっかいスマソ
>>392
自分の場合しばらく主人公無双が続きますが、敵TUEEE鬱エンド的なものを今考えとります
まあ変わるかもしれないんだけど
401七四三:2009/08/29(土) 01:23:51 ID:???
異説機動新戦記ガンダムウィード

第二十三話  乱入者


「よろしいのですか?」
真紅のコートをまとった童顔の少年が尋ねた。
尋ねた相手は少女。黒髪を腰の上辺りまで伸ばした少女は、少年の前を歩き、少年に背を向けている。
「何が?」
少女は振り返りもしなかった。
そして、少年――レアード・ヴォルケンに対し、質問を質問で返した。
こんな対応をされれば、いつもはキレてもおかしくないレアード。だが、今回は相手が悪かった。
目の前を歩く少女はレアードよりも遥かに上位の存在。マレブランケという集団のリーダーであり、逆らえる相手ではなかった。
「ミトラ・ノールに対する救援のことです」
レアードは最初の質問を補足し、言葉を選びながら続ける。
「僕には、ミトラ・ノールが助けるに値する相手だとは思えませんが、それでも行くのですか?」
「私だって、そんなことは思ってないけど、それでも行くの」
簡潔な少女の答えだった。少女は未だ振り返りもしない。
「救援に行くという事は、ラザーク・ゴッドウィン。あの帝国最強と呼ばれる男と戦うということで――」
不意にレアードの言葉が止まった。
「あのね、アイツが帝国最強なら、私は世界最強。ダルタイルって言う一つの国で一番強いより、この世で一番強い私が勝つのは道理。恐れる必要なんてないの。分かる?」
少女は振り返っていた。その顔立ちは美しく、異様なまでに整っている。
自分なりに真っ当なこと口にしたと思ったが、墓穴を掘ったとレアードは確信し、内心で冷や汗を掻く。
「ですが、しかし貴方の『アレス』が使えない現状では、ラザーク・ゴッドウィンの相手は……」
「くどいなぁ、君は……」
言いかけたレアードに対し、少女はうんざりした様子で首を振ると、レアードの胸に指を突き付ける。
「あのねぇ、はっきり言っとくけど、私はミトラ・ノールなんかはどうでもいいの。私が行くのはラザークに会いに行くためなんだから、そこの所を勘違いしないように」
突き付けた少女の細い指が、段々とレアードの胸に近づき、そっと触れる。外見ではレアードよりも年下の少女。背が低いため、レアードは見下ろす形になる。
「レアード君はさぁ、ラザークに会う可能性があるから行くのはやめた方が良いって言いたいんだろうけどねぇ。私としては、それは望むところ。だから行くのよ、分かる?」
レアードは頷き、理解したということを示したのだが、それに対し少女は首を横に振る。
胸に触れる少女の指に僅かに力がこもっていく様にレアードは感じた。
「――って、あんなこと言ってたんだから分かってるわけないよね。ああ、ホントに人の気持ちってのが、分からないんだなぁ、レアード君は」
少女の口調は優しい。しかし、それがレアードには恐怖だった。
少女はにこやかに笑い、そして言う。
402七四三:2009/08/29(土) 01:25:44 ID:???

「君って、本当にどうしようもないな」
直後、レアードの胸に激痛が走った。
胸を見なくても、レアードは経験で何をされたか分かる。
少女の指が胸に刺さっているのだ。
豆腐に指を突っ込むような気軽さで、少女はレアードの胸に自分の人差し指を突き刺していた。
「今日は2cmで許してやるけど。あんまり、アタシをイラつかせんなよ」
ちょうど指先が胸に2cm入ったところで少女は指を止めていた。
痛みに耐えるレアード。その表情を眺めながら少女は言葉を続ける。
「上司が何を考えてるのか察して、先回りして色々やるのが部下ってもんじゃない? いちいち喋らせんなよ、ホントさぁ」
「申し訳……ありま…せん」
ようやく、それだけ口にするレアード。
少女は胸から指を抜いてやる。
苦痛から解放されたレアードは、体を傾けかけるが、それよりも速く少女は言う。
「アタシに無様な姿は見せるなよ?」
その言葉が聞こえた瞬間、レアードは倒れかける体を必死に立て直し、直立不動の姿勢を取った。
「辛そうな顔をするのも駄目だ。笑えよ、レアード。痛くても、『僕は全然、平気です』ってね」
「…はい……」
ぎこちなく微笑むレアード。
その表情に、少女はにこやかな笑みを浮かべて頷く。
「うんうん。それでこそ、マレブランケの一員。ご褒美に頭を撫でてあげよう」
少女がレアードの頭に手を伸ばす、レアードより背が低いため少女はつま先立ちだった。
「しっかり反省して、次からは気を付けようね。レアード君?」
年下の少女が優しげな口調、穏やかな手つきで頭を撫でるが、当のレアードは猛獣に頭を鷲掴みにされているようにしか感じられなかった。
「以後、気をつけます……」
胸の痛みに顔をしかめることさえ許されぬ状況で、ようやくそれだけ口にする。
「よろしい。それじゃあ、準備をしなさい、レアード君」
それを言うと、少女はレアードに背を向けて歩き出す。
少女から解放されたレアードは、ホッと息をつきながら、少女が向かう方とは反対側に歩き出した。
言わずとも、何を思っているのか察して動けと、たった今、体に教え込まれたレアードは痛む胸を押さえながら、命令が無くても動きだす。
今、やるべきことはミトラ・ノールのコロニーに向かうためのMSの用意だ。
レアード達の現在の所在地はマレブランケの支援者が所有する航宙艦の中。既にミトラ・ノールのコロニーは目と鼻の先。この距離ならば、MSで向かう方が面倒は無い。
そう考えながら、MSハンガーに辿り着いたレアード。

403七四三:2009/08/29(土) 01:27:19 ID:???

ハンガー内には一機のMSが鎮座していた。
ゼクシオス――レアードの専用機だ。
血のような真紅のカラーリングに三眼式のメインカメラの機体。
先日の帝都の戦闘でガンダムアレスの攻撃によって受けた損傷は完全に修復されている。
「コックピットシートを今すぐ複座にしろ」
レアードはゼクシオスの整備をしているメカニックをつかまえるなり、そう命令する。
何のために、と言いたげな目で見るメカニック。
この艦にはゼクシオスしかMSがなく、少女は自分の気に入った機体しか操縦しない。
そうなると、必然的にレアードが操縦して、それに同乗するという形でしかMSでコロニーに向かう手段は無いのだ。しかし、それを一々説明している暇はレアードには無い。
その視線に対し、レアードは簡潔に説明を行う。
「僕の命令じゃない。“あの人”の命令だ」
“あの人”、そう言うだけで、メカニックは細かい事情を問う事も無く、すぐさま作業に取り掛かった。
マレブランケという組織に関わる者にとって、少女は恐怖の対象だった。少女の名前が出れば、従わないものなどいない。
レアードは慌ただしげに作業するメカニック達を眺めながら、胸の傷を手当てしつつ、呼び掛ける。
「あと、どれくらい掛かる?」
「三十分で仕上げます」
「急げよ。あの人が出撃すると言った時に仕上がっていなかったら、どうなるか分からないぞ」
そう言うと、メカニックの作業ペースが上がる。
「操縦するのはどちらが?」
不意にメカニックの一人が、レアードに尋ねた。
「僕が操縦する。シートは後部座席を上等の物にしてくれ」
気を使っても、使いすぎることはない。それが、“あの人”に対しては尚更だ。
メカニック達も、理解したようで、“あの人”が座るのであろう後部座席のコックピットシートは可能な限り上等な物を設置すると決めたようだった。
順調に進んでいく作業。あとは、速やかに作業が完了する事を祈るだけ。レアードにできるのは、その程度のことだけだった。


404七四三:2009/08/29(土) 01:32:31 ID:???
「ねぇ、艦長さん。お願いがあるんだけど良いかしら?」
一方、その頃、少女は航宙艦のブリッジに居た。
十代半ばの外見の少女には不釣り合いな場所。しかし、そのことに対して、何かを言うような者など一人として居ない。その場所は既に少女の支配下だった。
少女はブリッジの最上段に位置する艦長席に腰掛け、傲然とブリッジ内を見下ろしている。
その傍らには脂汗を垂らし、少女に対して恐れの表情を浮かべる航宙艦の艦長の姿が在った。
「は、はい、何でしょうか? 私に出来ることでしたら、き、協力を惜しみませんが……」
媚びへつらい少女の顔色を窺う艦長だったが、少女の方は艦長のことなど一瞥もせずに、外部の様子が映るスクリーンを指差した。
「アレ、撃ち墜としてくれない?」
少女が指差した先、ブリッジのスクリーンに映るのは輸送艦だった。
「あれは……?」
「ラザーク達が乗ってきた輸送船。アレを沈めたとしたら、帰りの足が無くてラザーク達は困ると思わない?」
確かにそうだろうが、そういう問題ではない。あの輸送艦は帝国軍の物、それを撃てば反逆者の汚名は避けられない。
「アレを撃てと言うのですか……?」
「そうよ。言っておくけど、これは命令だから、拒否権は無いってことを忘れないでね。もしも、命令に従わなかったら、どうなるかは艦長さんも知っていると思うから、説明しないけど、そこんところ心の隅に留めといてね」
紛れもない脅迫だった。断るということは死を意味する。
「了解しました……」
自分の命を天秤に掛けたうえで、艦長は少女に従うことを選んだ。
「よろしい。それじゃあ、さっさと沈めてちょうだい」
少女の言葉に艦長は頷く。従うことに躊躇いはあるが、従わなければ自分の命が無い。仕方ないのだと、心の中で言い訳をしながら、艦長はクルーに命令を下す。
「主砲、発射用意。目標、前方の帝国軍所属輸送艦」
下した命令に従い、クルー達は行動し、ほどなく主砲の発射用意が完了する。
「艦長、主砲発射用意、整いました」
オペレーターの声を聞き、最後に艦長は本来自分の席である艦長席に座る少女に窺いを立てる。
少女の様子は変わらない。主砲の発射と輸送艦の撃沈を今か今かと心待ちにしている。
どうしようもない。艦長は前を向き、スクリーンに映る輸送艦に目を向ける。明らかに、こちらの存在には気付いていない。
それを確認し、艦長は叫ぶ。
「よし、撃てぇいっ!!」
航宙艦からビームが発射された。
宇宙空間を駆け抜ける一筋の光は一直線に輸送艦を貫いた。
「よっし、命中!」
少女が歓声を上げた。
耐久性に劣る輸送艦では、艦載砲クラスのビームを耐えきることはできない。たった一発のビームにより限界を迎えた輸送艦は、徐々に船体が崩れ始め、そして爆砕する。
それを見届け、少女はすぐさまレアードに艦内通信で呼びかける。
「レアード君、ゼクシオスでコロニーに入るわ。用意はできてるわよね?」
「勿論です」
「よろしい。今すぐ行くから待ってなさい」
通信を切り、少女は艦長席から立ち上がる。
「それじゃ、艦長さん。ちょっと行ってくるわ。またね」
艦長が応える間もなく、少女はブリッジから出ていく。
艦内を走り、MSハンガーに向かう少女。その顔には隠しきれない喜びが見える。
(やっと、やっと会えるわ、ラザーク。私がどんなにどんなに、この日を待っていたか。
私はキミを傷つけたくて堪らない。私はキミに傷つけられたくて堪らない。血を流させたい、血を流したい。
ああ、戦いたいわ、ラザーク。キミと戦いたくて堪らない、殺し合いたくて堪らない。ああ、早く会いたいわ、ラザーク。あなたの苦しむ顔が早く見たいの)

続く
405七四三:2009/08/29(土) 01:43:21 ID:???
最後の台詞は、もう少し練ったほうが良かったなと投下した後で思う。
まぁ、それを言えば、全体的に練りが足りないんですけどね・・・

とりあえず、頭のオカシイ女がジーン・ゴッドウィンです。
普段の一人称は「私」、ちょっと地が出ると「アタシ」
>>398に書いてある設定だと、ラザークに顔が似てるとありますけど、クローンじゃないです。あしからず
406七四三:2009/08/30(日) 01:00:48 ID:???
設定群(異説ウィード版)

基本的に勝手に考えただけのヤツなので無視して良いです。

エーテリウム関係追記(ぶっちゃけ後付け)

・エーテリウムジェネレーターの等級
エーテリウムジェネレーターは、一度に取り出せるエネルギーの量で等級分けがされる。
等級と用途
A級:一般的にコロニーや大都市の電力供給に用いられる。
B級:戦艦等に搭載されるランク。一部のMSやMAにも搭載されている。
C級:MSに搭載されるランク。

エーテリウムジェネレーターは小型化が容易であり、A級もC級も大きさは変わらない。
そのため、MSにA級を搭載する事も可能。


・EP(エーテル粒子)
エーテリウムジェネレーター駆動時に発生する粒子。ジェネレーターのランクが高いほど発生量は増大する。
当初は利用価値が無いものという認識であったが、近年、様々な利用法が発見され、その価値は見直され始めている。


・EPの排出問題
EPは排出しないかぎり機体内部に蓄積され続け、機体内部のEPの濃度が一定値(融解濃度)を超えると高温を発し、機体内部を融解させる。
初期のエーテリウムジェネレーター実験機は、EP排出機構が完成されておらず、機体の自壊事故が相次いだ。
当初、EP排出機構は機体内部のEP濃度が一定量蓄積された際に排出されるという方式だったが、次第に常時排出することでEP濃度が低い状態を維持する方式が主流となっていった。
しかし、機体内部のEP濃度が高い方がエーテリウムジェネレーターの駆動効率が高まり、出力が上昇するという研究結果が発表されたため、
一部のパイロットはマニュアル操作で排出制御を行い、EP濃度が高い状態を維持するという手法を採っている。
だが、その結果としてEPが融解濃度に達し、機体を自壊させるパイロットも存在する。


・EP兵装
EPを粒子ビームとして用いた武装。
ガンダムアレスのフィールドナックルも、このタイプの武装。
EPがエーテリウムジェネレーターから無限に供給されるため、基本的に無尽蔵に使用可能。
また、機体内部のEPを使用するため、EP兵装を使用した機体はEP濃度が低下する。
逆に着弾した機体はEP濃度が急上昇し、場合によっては融解濃度に達して自壊する。
威力を上昇させることが難しく、供給されるエネルギーが同量ならば、既存のビーム兵器の方が単純な威力では優れる。


・EP-Bst(EPブースト)
機体内に蓄積されたEPを放出することで行う加速機能。
瞬間的にだが、爆発的な速度を得ることが可能。
使用時は機体内部のEPを放出するため、EPの排出と機体の加速を兼ねた運用が可能。
中盤でウィリアム・ケインズの機体に搭載され、マレブランケ所属のEP-Bst搭載機と戦いを繰り広げる。
407七四三:2009/08/30(日) 01:10:23 ID:???
マレブランケ搭乗MS(予定)

全ての機体が『狂攻態』という、攻撃に特化した形態への変形(実際には量子転送を用いた、各部パーツの交換もしくは追加)機構を有する。


機体名:ガンダムアレス・オーバーロード
パイロット:ジーン・ゴッドウィン

真のガンダムアレス。
最高、最強の機体性能を持ち、W.E.E.Dシステムを有する。
強力なEP制御能力を持ち、ライフル等を使わずとも、EPをビームとして撃ちだすことが可能。

機体名:ゼクシオス
パイロット:レアード・ヴォルケン

ゼクサスのベースとして開発された機体。
数種類のビームガンを使い分けた、近接射撃戦闘に優れる。


機体名:キャリヴノス
パイロット:シーヴァ

近接戦闘特化機体。
不可視の実体剣を操る他、光学迷彩機能も持つ。


機体名:アルシウス
パイロット:リゼル・アーリマン

広域殲滅と単体撃破能力を高いレベルで併せ持つ機体。
エーテリウム合金製のブレードストリング(刃糸)『エクスカリバー』を持つ。


機体名:斬空
パイロット:クロセ・トウセツ

EP-Bstが搭載された最初の機体。
後に改造が施され、『斬光』と名が改められる。

機体名:轟天
パイロット:ジークフリード・ソーンダース

機体の全長を上回る大剣を持った剣戦特化型機体。
大剣を操るための補助機構が機体の各所に施されている。
408七四三:2009/08/30(日) 01:11:32 ID:???
続き

機体名:テュポーン
パイロット:アダム・ゴッドウィン

竜を模した姿のMA。内部にMSを格納している。
内部のMSが本体。

機体名:アモレオナグ
パイロット:アンゼラ・ウーズ

単体での戦闘能力は高くないが、敵機のコントロールを奪う特殊機能を持つ。

機体名:ウォーゼウン
パイロット:ソフィー・カルマン

太陽系連邦製のMSをマレブランケが改修した機体。
全身に暗器のように内蔵されたビーム砲と、オールレンジ兵器『フェアリー』を装備している。

機体名:グラバウド
パイロット:ガウンデット・ハーレス

太陽系連邦のMSを改修した機体。
重装型であり、MSの常識を超えた火力を有する。


機体名:アービトレイター
パイロット:ヴィルジール・デュトロン

太陽系連邦から強奪された最新鋭機。
太陽系連邦の技術の結晶であり、機体性能はガンダムアレス・オーバーロードに匹敵する。

409えると:2009/08/31(月) 00:12:28 ID:???
久々に投下してみる。
なんか出来が微妙な感じかもしれぬ
410えると:2009/08/31(月) 00:13:32 ID:???
ガンダムL
第十四話 それぞれの戦い

「何を、やっているんだ…!」
静かな怒りに身を震わせるのはウジサト・ガモウ。
場所はダルタイル帝国地球駐留軍での、司令室。
モニターには、エルト・ロウ中尉の駆る新型MS“ライトニングガンダム”と、敵新型機との戦いの様子が映し出されていた。
まさに互角。
お互い一歩も譲ろうとはしない激しい攻防。
それは、生物としての闘争本能。
そしてウジサトという男は、その闘争の様子を安全な場所から見つめている。
連邦の新型機、メフィストの実戦データと、ライトニングガンダムの実戦データは一通り計測し終えている今、ウジサトにとってこの戦いがもたらすものは苛立ち以外の何者でもない。
追い詰められた閃光を見つつも、ウジサトは横目でドレーク・レナード准将の様子を窺う。
指を組みながら、鋭い眼差しでその戦いの様子を見据えている。
ウジサトとは対照的に、少しの苛立ちも見せてはいない。
(呑気な男だ)
ウジサトは、レナード准将のその様子を見て更に苛立ちを募らせてゆく。
本当にこの男は「閃光の右腕」と呼ばれたほどの智将なのか?自分の方が断然優れているのではないのか!などといった少々ズレた感情まで湧きあがってくる。
チッ、聴こえないように舌打ちをした後、ウジサトは強引にアレンのマイクを奪いエルトに向けて叫んだ。
「エルト・ロウ――『ネビュラ』!」
「!!」
その瞬間、レナード准将は立ち上がりウジサトを睨みつける。
「何をしている大佐!敵は目の前の一機だけではない!他にも大勢いるのだぞ!それにパイロットの負担を考えても今アレを使うことは得策では…」
ウジサトも、今度は毅然とした態度でレナードを睨みつける。
「品性の欠片もありませんな、准将殿!そもそもが今ここで使わなければどうするのだ!三分と十五秒ッ!三分と十五秒も過ぎているんだぞッ!戦闘開始からッ!!」
辺りに唾をまき散らしながら躍起になるウジサト。
「失敗はない、失敗はないのだッ!断じてッ!!それが大帝ノワール・カーメンの意思なのだからッ!!」
411えると:2009/08/31(月) 00:14:18 ID:???
取り乱すウジサトと不穏な空気に包まれる司令室。
レナード准将は、ウジサトを一瞥して言う。
「…貴官の発言にはいささかの問題があるが、今はそのようなことを言う暇もない。いいだろう、『ネビュラ』の使用を許可する」
そして今度はウジサトから視線を外し、先程までのやり取りを微塵も感じさせないほど威厳のある声を張り上げて、指令を下す。
「守備隊の守りを固めろ!各隊へ伝達、『ブレイズ』に頼り過ぎるな!焦らず、着実に確実に各個撃破するように!持久戦では分が悪いが、機動性と連携ではこちらの方が上だ!」
ウジサトの焦りがもたらした不穏な空気を、その一喝で一切取り払った後、レナードは再び席に着いた。
(急いでくれ、エルト)
そしてその鋭い眼差しで再び、自らの息子同然のパイロットを見守るのだった。

「人間っつーのはさ」
ゴウラのプラズマソードを躱し、その頭部に裏拳打ちを放ったハンスが言う。
「ある種、運命が決まってるんだな」
うわぁ!メインカメラがぁ!?と叫ぶゴウラの名無しパイロットの悲鳴を気にも留めず、事務的にサーベルで斬り裂く。
「いきなり何?」
答えるフウラも、ビームライフルを撃ち、ゴウラ二機を撃墜する。
「いや、別に。ただコイツらかわいそーだなって」
「ダルタイル人は人権を持たないんじゃなかったの?テオドアみたいなこと言って」
「テオドアかー、アイツは可哀想な奴だよまったく。なんせこの清掃活動に参加出来ないんだものな」
なんて日常会話をしながら淡々とゴウラ部隊を撃墜していく二人。
「俺らだけじゃなくて海の連中もそろそろ来る頃だな。あーあ、終わったな、誇り高き帝国軍の諸君」
ひるむなァ!撃て撃てェ!落ちろぉぉぉぉ!
月並みな台詞だが、全身全霊を賭けて、二機のヴィルザードに果敢に挑むゴウラ部隊。
と、そこに救援が現れる。
「無事か!?あとは我々に任せろ!」
通信を入れたのは、ブレイズの一人、オルト・サカザキ中佐率いるダンデス・ゴウラの混成部隊であった。
「おお、サカザキ中佐の部隊か、なんと心強い!」
壮年の名無しパイロットが言う。
「敵はたかだか二機だ!コルド隊とバーンズ隊は敵機を包囲!スミス隊は私に続け!」
ダルタイルの英雄「ブレイズ」の一人が現れたことで、友軍の士気は一気に高まる。
「おおおおおおぉぉ!」
湧き上がる鬨の声に、渇いた笑みを浮かべるハンス。
412えると:2009/08/31(月) 00:16:36 ID:???
「こりゃちょっとヤバめだな」
「なによ、シニカルに笑ってるから余裕とか言いだすと思ったら」
「フウラたん、だからそーいうのはヤメてくれよ。今すぐベッドインしたくなっちまう」
「はいはい」
「こーいう時はアレだね」
「アレって何よ」
「おいおい、そこは―――」
目を見張るほどの跳躍力でサカザキ機へと特攻するハンス。
「阿吽の呼吸だろ!」
ビームサーベル同士がぶつかり合う。
「うおっ!」
驚くサカザキ中佐。
しかしそこはベテラン、鋭い瞳で敵機を見据える。
その様子を見たフウラが、ああ、と納得する。
「…まずは頭を叩くってことね」
そしてビームライフルを放つ。
サカザキ中佐の援護をしているダンデス・ゴウラを牽制する為だ。
「そゆこと♪さぁ――」
肩まで伸ばした金髪を綺麗に切りそろえた、ひどく澄んだ瞳を持つ狂気の男が言う。
「生きて帰れると、思うなよ?」

「ちっ、残り燃料があと67%かよ!やっぱダンデスは燃費が悪りぃぜ!」
クロスキー・クロスは焦っていた。
既にその息は荒く、尋常じゃないほどの疲労に襲われていた。
「一体何だったんだ、さっきのは…?」
飛んできたミサイルを躱しつつぼやくクロス。
「水中からのホーミングミサイル…連邦の新型機でしょうか?」
おずおずと答えるのは、キール・ニール准尉。
無数とも言える量のヴィルザード・テンプレスを破壊した二人は今、基地海岸部での戦闘を終え、水中からの見えない敵による攻撃を受けていたのだった。
「タチが悪りぃぜ、ったく」
ぼやくクロスと、どうしていいかわからないキール。
そこに、ダンデスに搭乗した友軍が現れた。
「フン、『ブレイズ』ともあろう者が情けないことだな」
イヤミったらしいリア充オーラを持った男、トーマ・ドニ少佐率いる部隊だった。
「あれは連邦の新型『ガイドス』だ。まぁ見てろクロスキー。私が海上戦ってヤツをやってやるさ」
さり気なく新型機の情報を教えてくれるコイツはまさかのツンデレだった。
「…お手並み拝見させて頂きますよ、ドニ少佐」
クロスがやれやれといった感じで答える。
固唾を呑むキール。
呑気なことだが、そんな二人に話しかける名無しパイロットがいた。
「『ブレイズ』の坊ちゃん共、見てろよ、これがドニ隊の戦い方だ」
「ヘヘ、見せつけてやるぜ」
二機のダンデスが海岸部に近づき、海底に向かってビームライフルを乱射する。
413えると:2009/08/31(月) 00:17:24 ID:???
「ハッハァー!食らえ連邦のお魚さんよォ!」
なんかハイになってる二人の名無しパイロット。
そんな二人をドニが一喝する。
「馬鹿者!不用意に水に近づくな!」
「!えっ、でも隊長、この通りヤツらは確かに沈…メッ!?」
言い終わらないうちに、水中から現れたガイドスのクローがダンデスの頭を鷲掴みにし、海へと放り込んだのだった。
「!!」
思いもよらぬ急襲と、敵新型機のその速さにクロスとキール、そしてドニが驚愕する。
名無しパイロットが海に放り込まれ、爆散した。
おそらくまだ海底に控えたガイドス達の餌食となったのだろう。
それを合図に、数多のホーミングミサイルを撃ちながら、一斉に十機程のガイドスが飛び出してきた。
パニックに陥るドニ隊のダンデスとゴウラは、統制がまったく取れておらず、次々とガイドス達の餌食となってゆく。
「うわぁああ!!」
クロスはビームサーベルを抜くと、静かに言った。
「…お見逸れしましたよ、ドニ少佐。んじゃ、協力してさっさとヤツらを叩きましょうや!」

「最強だ…」
別地区では、レンザ・スロウンの搭乗したメフィストが、ブレイズ隊長、ジェノベ・パク中佐とその部下、ティエル・レナード中尉が戦闘を繰り広げていた。
「私が、最強だッッ!!」
パク中佐は己を鼓舞し、レンザのビームソードを受け止める。
(コイツ…出来るな)
レンザは冷静にパクの実力を判断し、後方でパクを支援しているティエルの実力も見抜いていた。
(それに射撃型のダンデス…油断したらメフィストともいえど、タダでは済むまい)
レンザは急に力を抜き、パクとのつばぜり合いを放棄したかと思うと、後方に跳躍した。
後方からのティエルのビームライフルを避ける為だ。
「また避けた!?」
ティエルはらしくなく焦っていた。
見たこともない新型機がいる、応援を頼むとの伝令を受け、駆け付けた先には既にブレイズ所属のダンデスが二機も、この新型にやられていたのだった。
(どんなチカラを持ってるかは分からない…パク中佐との連携がカギになってくるわね)
ティエルは右手にスナイパーライフルを、左手にビームサブマシンガンを持ってメフィストを追い詰める。
414えると:2009/08/31(月) 00:18:51 ID:???
(この狙撃手…やはり出来るな…!)
ビームサブマシンガンのいくらかがメフィストの機体を掠める。
レンザは両腕を翳し、コクピットと頭部を庇いつつも、狙いをティエルの方に切り替えた。
(まずはこちらを叩いておこうか)
メフィストのビームスマートガンのレドームが回転を始める。
(…来る!)
ティエルは機体を後退、転身させてビームスマートガンの閃光を避けると、射撃体勢のメフィストに向かってビームサブマシンガンの雨を叩きこむ。
(あれを避けただと!?)
レンザはビームサブマシンガンをシールドで防ぎつつ、舌を巻く。
と、そこに。
「そうら!隙が出来たァ!」
暑苦しいオッサンが渾身の力を込めてサーベルで斬りかかってきたのだった。
「…チッ!」
メフィストはビームスマートガンを振り上げ、ダンデスのサーベルを弾く。
「まだまだァ!」
そう言ったパク中佐は脚部のマイクロミサイルと隊長機にのみ搭載された小型ホーミングミサイルを放つ。
「今だ中尉!撃てぇぇぇ!」
叫ぶパク中佐と目を見開くレンザ。
「言われなくても!」
ティエルのスナイパーライフルが、正確にレンザのメフィストを捉えた。
(一発食らったか…已む無し!)
メフィストは空高く飛びあがると、宙に浮かんだまま腕部に搭載されたサブマシンガンを乱射する。
「アイツ…空飛べんの!?」
反則じゃない!と言いながらも、ティエルは牽制用のビームサブマシンガンを撃つ。
対するレンザは上空からサブマシンガンの連射を続ける。
パク中佐とティエルは、シールドでそれを防ぎつつ、攻撃の機会を窺う形となった。 
「調子に乗るなよ!」
パク中佐はビームライフルを撃つと、跳躍し、ビームサーベルで突き上げる。
「!」
ビームソードでそれを受け、蹴りを放つメフィスト。
体勢を崩したダンデスにビームスマートガンを放つ。
415えると:2009/08/31(月) 00:19:52 ID:???
「ぬわあああ!」
「中佐!」
パク機は避けようとするが、右腕を失ってしまった。
「お、のれ…!」
「つくづく悪運の強い奴らだ…!次は右腕だけでは済まさんぞ!この…メフィスト・デュナミスの全性能を以てな」
うずくまるパク機を庇うようにして、ティエル機が前に出る。
「望むところよ!こちとらいつも命賭けてお仕事してんの!」
ビームサーベルを抜いたティエルが、不敵に言った。

迫り来るガイドスを相手に、巧く立ち回るクロス。既に二機のガイドスを破壊していた。
「ヘッ、地上じゃ大したことねェな、新型さんよ!」
「このダンデス…強えェ!!」
60mm機銃とホーミングミサイルを駆使し、ドニ隊を半壊させたガイドス部隊は、クロスの強さに基地内部へと踏み込めずにいた。
「私は貝になりたいとは、よく言ったもんだぜ。そのまま大人しくしてりゃ良かったのによ」
言いながら、近くのガイドスを袈裟斬りにする。
「ウンウン、キミハヤレバデキルンダナァ、ボクハカンシンシチャッタヨ…」
半ば放心状態でその様子を眺めるドニ。
「この…ダンデス風情がァ!」
不意に、二機のガイドスが後ろからクロス機の右腕と左腕を引っ掴む。
「食らえ!」
そして前方から一機のガイドスが60mm機銃を乱射し、ミサイルをクロス機に向けて放つ。
「クソッ!」
60mm機銃を食らっているクロスを助けようと、キールがクロスを掴むガイドスに斬りかかる。
「僕だって!」
しかし、他のガイドスの放ったホーミングミサイルがキール機の背部に直撃してしまった。
「うわ!」
キールが仰け反ると同時に、クロス機もミサイルの直撃を受けてしまう。
「私もいるぞ!」
キールが倒れる瞬間に、今度はドニが俊敏な動きで、クロスを羽咬締めにしているガイドスの両足を薙いだ。
「よっしゃ!」
その隙に両足を失ったガイドスを、前方のガイドスに向けてそのまま放り投げる。
「ヘイ、パース!」
続けて自由になった腕で残り一機の頭部を打ち引き離した。
416えると:2009/08/31(月) 00:21:07 ID:???
「ボサッとしてんなよ、キー坊。敵はまだいるんだぜ?」
何事もなかったかのように、クロスがキールに声をかける。
「私にお礼の言葉は無いのか貴様ー!」
「いやいや、感謝してますって」
「!そ、そうか、いやしかし、体が勝手に動いてなぁ〜ま、まあ死なれても困るしな」
こうもあからさまだと書いてる方が難しい。
「おのれ…!」
残ったガイドス五機は、ガッチリとフォーメーションを固め、ジリジリとクロス達を追い詰める。 
五機のうち、左端と右端にいるものが、ホーミングミサイルを放ち、離脱する。
と同時に、今度は真ん中の一機を除いた残りがクローを翳し体当たりしてくる。
そして残りの一機が60mm機銃を放ち、弾幕を生じさせた。
「この僕が、こんなところで死ぬ筈がないんだ!」
誰よりも速く、キールが神懸った動きで体当たりしてきたガイドスにサーベルを突き立て、そのガイドスを盾とし、ミサイルの爆撃を凌ぐ。
「…考えたな!」
ドニがマイクロミサイルでガイドスのミサイル群を牽制しつつ、クロスが体当たりしてきたもう一機のガイドスにビームライフルを放つ。
「残り三機!」
「わああああああ!」
キールの変則的なデタラメな動きに翻弄されたガイドス達はフォーメーションを崩され、足元を掬われたのだった。
それを、クロスとドニがサーベルで、ライフルで、撃破していく。
「ふぅ…ヒヤヒヤもんだぜ、ったく」
撃破されたガイドスが爆散する様を見つつも、三人は溜息を着いたのだった。
(とはいえ残り燃料が約半分、被弾率も40%越えか…これからはちとキツくなるな)

「運命とは今まさに、この瞬間の為にある言葉だ」
エルトのライトニングガンダムを捕縛したタケルが息も絶え絶えに言うと、右手のビーム刀を突き立てるように翳す。
「くっ…!」
エルトが死を覚悟したその時、通信が入る。
「エルト・ロウ――『ネビュラ』!」
「!」
エルトは目を見開いた。
(そうか!『ネビュラシステム』…ここで使わないと、多分コイツには勝てない…!)
今まさに自らの命を奪おうとしている敵の方を真っ直ぐ見据え、エルトは口を開く。
「――ネビュラ」

十四話終 十五話に続く
417えると:2009/08/31(月) 00:24:09 ID:???
トーマ・ドニ(39)
所属:ダルタイル帝国
階級:少佐
詳細:
ダルタイル帝国のエースパイロット。三等勲章を授与している筋金入りの男。
貴族の出でリア充オーラを持つツンデレさん。

機体名称:メフィスト・デュナミス(レンザ・スロウン大尉機)
型式番号:MSV-092P
所属:地球連邦軍 デルタ隊
パイロット:レンザ・スロウン
武装:
ビームスマートガン×1
大型ビームソード×1
対ビームシールド×2
ビームピストル×2
腕部サブマシンガン×2

詳細:
地球連邦軍の新型機。
現在のヴィルザードと、後のヘビーデーモンとの架け橋になる機体だが、三機しか生産されておらず、後に歴史の表舞台から姿を消すこととなる。
レンザ機の特徴として、モナークが射撃、タケルが白兵戦に特化しているが、その折衷型として開発が進められた、最も素体に近い機体と言える。
カラーリングは、本人の希望で赤と黒。

機体名称:ガイドス
型式番号:MOC-010
所属:地球連邦軍
武装:
60mm機銃
魚雷
腕部ホーミングミサイルポッド
ハンドグレネード
クロー×2

詳細:
ダルタイル帝国地球駐留軍基地襲撃の為に開発された、初の水中戦用MS。
地球を主なグラウンドとする連邦軍に対し、ダルタイル帝国軍は水中用MSの技術で大幅に後れを取っている。
また、開発が急がれた為と、海の底からの軍艦・基地襲撃を目的としている為、プラズマ兵器及びビーム兵器の使用は一切為されておらず、実弾兵装のみである。
ある意味原点回帰した機体。
両手がクローになっており、船底を切り裂いたり、想定されていない接近戦にはこれを使用する。
418えると:2009/08/31(月) 00:24:57 ID:???
MS設定集その1x
AG0065におけるものです。ちなみにすげーやっつけです。

エーテリウム対応型MS「ガンダム」
この時代においては、エーテリウムジェネレーターの開発どころか、そもそもがエーテリウムに関する殆どの事実についての解明がなされていない。
エーテリウムなる未知なる鉱物が、MSの機体性能を大幅に上げるということのみが明らかになっているだけである。
故に、機体の中枢にエーテリウムジェネレーターの原型となる機関を置き、全身にコードを巡らせることで、エーテリウムをそのエネルギーとしている。
アイザック・レヴィンの見出した微量のエーテリウムを使って、そのエネルギー出力に耐えうる機体を開発するのは極めて困難なことであり、ダルタイルはその開発に多大なコストと時間を費やすこととなった。
始めはダンデスをベースとし、その開発を進めていたものの、アイザック・レヴィンの導きだした計算により、一からベースとなる機体を設計した方が良いこと、
そして今の技術でエーテリウムをベストな状態で使用する為には、全てのコードの司令塔となるツインアンテナを頭部に配置すべきであることが解明された。
それに伴い、頭部の形状から新たに図面が引かれ、エーテリウム搭載機はいわゆる「ガンダムヘッド」を有するに至った。
頭部に弱点となるアンテナを設置した経緯としては、最強のパイロットとされたゴディアス・ロウ元中将の戦闘データをベースとしており、その結果、最も被弾率の少ない頭部に設置される運びとなった。
 無限とも言えるエネルギーを生み出すエーテリウムと、アイザック・レヴィンの設計した機体性能上昇機関により、ガンダムはエネルギー切れを起こすことなく稼働することが出来、また、これまでのMSが為すことの出来なかった「空を飛ぶ」ということを可能にしたのだった。
419えると:2009/08/31(月) 00:31:59 ID:???
ライトニングガンダム
本機は、敵部隊に接近し、全身に装備された格闘用ビーム兵器で一騎当千の実力を遺憾なく発揮した後、高速で離脱するというコンセプトのもと開発が進められた。
これは、後述の「ブラックエンペラーガンダム」との兼ね合いによるところが大きいのだが、エーテリウムにより、通常よりも遥かに優れた運動性を得られること、そして空を飛べる、というこの二点を徹底的に突き詰めた結果である。
 本機がAGにおける最初の可変機となったのも、多様なミッションに対応することをその機動性によって可能とする為であった。
また、連邦に後れを取るまいとして、以前から可変機の構想自体はあったものの、今の技術でそれを実現することは出来ず、エーテリウムのエネルギーならば出来るのではないかという実験的な発想によるところも大きい。
 本機の開発・設計はアイザック・レヴィンが中心となって行われている。

ブラックエンペラーガンダム
もう一つの「ガンダム」。本機はライトニングガンダムとは対照的に、殲滅戦に重点を置いた重武装機である。
エーテリウムの生み出すエネルギーを、攻撃に特化させた機体であると言える。が、実戦投入されることはなかった。
420えると:2009/08/31(月) 00:32:55 ID:???
今回は以上です。
出来が微妙なのは…まあいつものことか
421通常の名無しさんの3倍:2009/08/31(月) 19:31:47 ID:lRXQpho5
容量が490KBなんだけど、次スレはどうすんの
422通常の名無しさんの3倍:2009/09/01(火) 00:05:02 ID:???
えると乙
そりゃ立てるだろ
423通常の名無しさんの3倍:2009/09/03(木) 19:22:40 ID:???
投下乙
424通常の名無しさんの3倍:2009/09/06(日) 18:29:08 ID:???
次スレ立てようと思ったが無理だったorz誰か頼む
425通常の名無しさんの3倍:2009/09/09(水) 12:34:41 ID:???
そして誰もいなくなった・・・
426通常の名無しさんの3倍:2009/09/10(木) 17:02:11 ID:???
いないわけじゃないけど、チキンレースみたいな状況だし、何かやろうにもどうしようもない
427通常の名無しさんの3倍:2009/09/10(木) 23:33:27 ID:???
確かに
428通常の名無しさんの3倍:2009/09/11(金) 23:06:53 ID:???
まあせめて投下乙
429通常の名無しさんの3倍:2009/09/14(月) 17:18:26 ID:???
ゴマたん乙
430通常の名無しさんの3倍:2009/09/16(水) 18:35:28 ID:???
保守
431七四三:2009/09/16(水) 22:51:14 ID:???
最も早く、その以上に気付いたのはシリウス・ロウだった。
(輸送艦の反応が消えた?)
コロニーの外に待機させていた輸送艦。その存在を示す光点がレーダーから消えていた。
機械の故障かと思い確かめるが、その様子はない。
ならば何故?
自問しながら、シリウスは輸送艦に対して、通信で応答を求めて見るが声は返ってこない。
通信機からは、ひたすらにノイズが聞こえてくるだけだった。
(何が起きたんだ?)
そう思いながら、ラザークへと通信をつなぐ。
「輸送艦に何かあったみたいです。ちょっと見てきてくれませんか?」
単刀直入に頼むが、にべもなく断られる。
「やだよ。俺は忙しいんだから、テメーが行って来い」
「いや、忙しいとか、そんなこと言ってる場合じゃないですって!」
懇願するシリウス。その視界の端、コックピットのモニターに何かが、ちらりと映る。
『戦闘中にぼんやりとは……私を舐めるなっ!!』
シエロ・クリフのゼクサスだった。
煙幕の中から脱出したゼクサスが、再びカウンティリアに襲いかかる。
「ああ、もう! うるさいっ!」
ゼクサスが距離を詰める。だが、カウンティリアは逃げず、地面に立ったままだった。
「もらったぁぁあぁぁっ!!」
それを見たシエロ・クリフは勝利を確信したかのような雄叫びをあげ、更にゼクサスを加速させる。
ゼクサスの右手のビームサーベルが前方へと向けられ、敵を刺し貫く構えを取り、そして、ゼクサスは地面のカウンティリア目がけて、急降下する。
そこまで来ても、シリウスのカウンティリアは動かない。いや、動けないのだとシエロ・クリフは思い込む。
そして、そう思い込んだその時には、既にカウンティリアとの距離はビームサーベルが触れる寸前まで来ていた。
(勝った!)
確信を抱くシエロ・クリフ。だが――
「弱いんだから、静かにしていてくれよ……」
不意に聴こえた呟き。
直後、動かなかったカウンティリアが動き出す。
急降下しながら迫りくるゼクサスのビームサーベルに対し、シリウスが予め決めておいた動きは前進。
サーベルの突きを避けるのではなく、ゼクサスの懐に飛び込んで回避する。
そして、ゼクサスの懐に飛び込む瞬間、カウンティリアはゼクサスの右腕を掴んでいた。
「こういう泥臭いのは苦手だけどね」
シリウスの声が聞こえた直後、ゼクサスの体勢が大きく崩れた。
急降下による突進の力を利用して、カウンティリアがゼクサスを投げ飛ばしたのだ。
右腕を掴んで投げられた拍子に、狙撃を受けて損傷した右肩がちぎれる。
投げられたゼクサスの本体は、うつぶせにコロニーの地面に倒れ込んだ。
「この程度!」
シエロが機体を起こそうとするが、それよりも速くカウンティリアがゼクサスを背中から組み伏せる。
「どんな程度だい?」
カウンティアの手にはビームガンが握られていた。その銃口の先は背中からゼクサスのコックピットに向かっていた。
ゼクサスが起き上がろうとするも、機体の全重量をかけるようにして、のしかかっているカウンティリアを払いのける術は無かった。
もはや勝敗は決した。カウンティリアがビームガンの引き金に指をかける。
「じゃあ、終わりだ――」
432七四三:2009/09/16(水) 22:54:38 ID:???

レアード・ヴォルケンと少女が乗った、ゼクシオスがコロニーの中に到着したのは丁度、その時だった。
「カウンティリア……。シリウス・ロウは相も変わらず、ラザークの金魚のフンをやっているようね」
ゼクシオスのコックピット、後部座席に座った少女があからさまに侮蔑するような表情で言った。
「どうします? 助けておきますか?」
この言葉は、レアード・ヴォルケン。前部座席で機体を操縦している。
「レアード君の好きにしていいよ。私はもう行くから」
少女はそう言うなり、前の座席に座るレアードを押しのけ、コックピットハッチを開けると、そこから飛び降りてしまった。
レアードには、あっと言う間も無かった。
地面までの高さは、数十メートルは有るのだが、あの少女にとっては何の問題もない高さ。心配する必要はなかった。
「それでは、僕も動くとするか」
ゼクサスのパイロットを助けようという気持ちは毛頭なかった。
レアードの目的はカウンティリアの撃破。
これからのことを考えれば、少しでもインペリアルガードの数を減らしておくに越したことは無い。
――殺しの時間だ……
先日、ガンダムアレスを仕留められなかったことから、極限まで溜まったフラストレーションを発散させるための絶好の機会だった。
自然とレアードの口許に笑みが浮かび、乗機のゼクシオスが腰のホルスターからビームガンを構え、銃口をカウンティリアに向ける。
「さぁ、死んでくれ――」
そして銃口から一筋の光が放たれた――
433通常の名無しさんの3倍:2009/09/19(土) 20:38:03 ID:???
 
434通常の名無しさんの3倍:2009/09/21(月) 21:19:52 ID:???

435通常の名無しさんの3倍:2009/09/24(木) 19:47:36 ID:???
保守
436通常の名無しさんの3倍:2009/09/25(金) 15:50:55 ID:???
誰か次スレ立ててくれ
437通常の名無しさんの3倍:2009/09/27(日) 23:22:58 ID:???
たしかにー
438通常の名無しさんの3倍:2009/09/30(水) 19:58:22 ID:???
いっそのこと依頼するか?
439通常の名無しさんの3倍:2009/10/06(火) 10:14:10 ID:???
保守
440通常の名無しさんの3倍:2009/10/09(金) 23:25:31 ID:???
ここまでか…
441通常の名無しさんの3倍:2009/10/14(水) 22:23:05 ID:???
保守
442通常の名無しさんの3倍:2009/10/20(火) 10:23:27 ID:???
落ちるなよ、絶対に落ちるなよ!
443通常の名無しさんの3倍:2009/10/23(金) 23:01:59 ID:???
保守
444通常の名無しさんの3倍
おわたな