【勝手に】仮面ライダー龍騎EPSODEFONAL【補完】

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347雪を見ず (1/2)
「ただいま戻りました」
令子が戻ったのは、その日の夕暮れ時だった。
「おぅ、お疲れ。今日は事件起こりすぎだよ。…まーったく、
どーなってんのかねー」
「編集長、私、この後もう一度警察に取材に出ますから。
島田さん、残りの画像、落としとくから、あと頼むわね」
令子はデジカメをパソコンに接続しながら言った。
「ただいまー。あ、令子さん、お疲れ様です〜」
めぐみがコンビニの袋を下げて戻ってきた。
「あ、浅野さん、島田さん、もう二度と北岡さんからの誘いを
受けろなんて勧めないでね。私、とても不愉快な思いをしたわ」
「え…どうかしたんですか?」
「誘っておいて人を待たせるなんて、失礼でしょ?携帯にかけても
事務所にかけても誰も出ないし。いったいどうなってるのよ」
「北岡さん…来なかったんですか…?」
令子の剣幕を前に、島田は表情を凍りつかせた。
「来なかったわよ。あの雪の中、取材後回しにして行ったって
いうのに」
「浅野さん…電話…電話!病院!!」
「は、はい!」
「なに?」
戸惑う令子をよそに、二人はそれぞれ電話をかけた。
「病院には来てないって」
「吾郎さんも出ない」
めぐみと島田は泣き出しそうな顔を見合わせた。
島田が令子の腕をひっぱった。
「令子さん、事務所、北岡さんの事務所に」
「私、取材が…」
「取材なんて編集長にまかせとけばいいんです!早く!」
348雪を見ず (2/2):03/01/24 17:24 ID:50TjnQjQ
北岡の事務所のドアに鍵はかかっていなかった。
「秀一!」
「北岡さん?!」
ソファに横たわる北岡に、二人が駈け寄った。
呼んでもゆすっても北岡は目を覚まさなかった。
ソファと窓の間に、メモが落ちているのをめぐみが見つけた。

『めぐみさん、島田さん
 後のことはお願いします。
 勝手言ってごめんなさい。

          吾郎 』

「もう!こんなときに吾郎さんどこいっちゃったのよ!」
ソファの前に座り込んで盛大に泣き始めた二人を、令子は
階段の上から動けないまま、見ていた。
「なに?なんなの?」

                                ende
349348:03/01/24 17:29 ID:50TjnQjQ
先生があのままほっとかれるのが嫌だったもんで
…書いちゃいました…お目汚し失敬
350名無しより愛をこめて:03/01/24 19:00 ID:62r8RFxQ
防止!
351名無しより愛をこめて:03/01/25 01:42 ID:fkQYxOnE
>>337-343
面白かったです。(最初の文、カコイイので特に好きです)
読んでると、リュウガの悲しみが突き刺さってくるようでした。
タイトルも内容も前作と見事に対になってるんですね…

>>347-348
物言わぬ北岡、凍りつく令子さん、書き置き(たった3行なのに
ゴロちゃんの人柄が十分感じられるところがいいです)。
どれも涙出ますが、島田とめぐみが一番泣けました。すごく健気で。
352名無しより愛をこめて:03/01/25 22:26 ID:PVgXu4Hc
age
353名無しより愛をこめて:03/01/25 22:39 ID:Ll6JfPBB
33話で吾郎チャンが吹いてる口笛ってなんの曲でつか?
354名無しより愛をこめて:03/01/26 01:37 ID:QnsoBIue
>>353
スレ違いでは?
355343:03/01/26 22:41 ID:E/THvGGT
>>332
ありがとうございます。逆にあのリクエストから話が広がりました。
リュウガと優衣との関わりをもっと深く掘り下げれば良かったと思ってます。

>>351
どうもありがとうございます。
前のと合わせて、リュウガは真司のもう一つだったって解釈で書きました。

映画の最後のあのシーンで真司が一人残ってたのは
倒したというより逆に吸収したんじゃないかと
(ドリーム入ってるかもしれませんが)考えてます。

リュウガはMWの怪物かもしれないけど、
倒すって事は真司が人殺しをしてしまう事なので
それはちょっと嫌かなって感じで。
356名無しより愛をこめて:03/01/27 23:13 ID:kPTOojww
 ごめん、もしエピソードファイナルDC版が出たとしたら、
無理だとわかっていても、「俺はこのようなクライマックスが見たい!」
とか、「このようなタイミングにあいつが来て欲しい!」というアイ
デアがあると思います。そういうネタでの小説も見てみたいのですが、
駄目ですか?

 >>332
 リュウガの小説良かったです!リュウガにとって優衣が大切な人
という風に設定されていたのも俺的に「サンクス!グッドジョブ!」
という感じでした!
357348:03/01/30 22:36 ID:2659L0Kk
>>351 遅くなりましたが。感想、ありがとうございました。

48話の病院での島田とめぐみを見て、彼女等は
こういう役割だったんじゃないかと思いつつ書いたっす。
358名無しより愛をこめて:03/01/31 23:15 ID:NE/QeVkA
 もうそろそろ小説のリストを作ったほうがええんじゃないでしょうか?
359名無しより愛をこめて:03/02/01 07:35 ID:2RuSAGfm
>>358
ベノの走馬灯 >>19->>22

てなカンジでするの?
360リスト作ってみました:03/02/01 15:08 ID:7yMWJEWH
>>19-22  ベノの走馬灯   :FE/ベノスネーカーの回想
>>24-26  無題       :FE/リュウガ戦の真司の感情
>>28    北岡偏エピロローグ:FE/北岡の最後の思考
>>29-32  がんばれオムロン   :FE/アギトの尾室とG5部隊
>>34-35,>>38 おまるじゃない!:FE/美穂とブランウイング
>>41    無題       :FE/真司、トロマヴィルに行く
>>44-45  無題       :FE/「リターナー」ミヤモト
>>48-51  欠けているもの  :FE/リュウガvs真司
>>53-54  無題       :FE/48-51の続き
>>58  アマゾンの不思議な下駄:FE/沙奈子おばさんとケーキ
>>65-69  夜の翼      :FE/ダークウイング…恵里
>>84-90  王蛇誕生     :FE/浅倉が王蛇になるまで
>>110-118 (SP)シザース誕生 :SP/須藤がシザースになるまで
>>123   無題       :??/ガイと王蛇でコント
361リスト2:03/02/01 15:16 ID:7yMWJEWH
>>132-141 最後の願い    :FP/美穂とノワールウイング
>>155 浅倉が最後のライダーだった場合の最終回:??/コント
>>160   Warrior's Vision :SC/ソングコレクションのライアの歌補完
>>172 北岡が最後のライダーだった場合の最終回:??/コント
>>175,>>177-179,>>209,>>211-214,>>226-232,>>237-243
      出会い      :TV/蓮と優衣の出会い編
>>185-197 オマエハ…マチガ…:TV/仲村の回想
>>217-222 無題       :FE/モンスター戦に助太刀する本郷猛
>>252,>>256,>>258-261,>>264-265,>>267,>>280-284
      Swan Song     :TV/美穂とファムとライア
362リスト3:03/02/01 15:18 ID:7yMWJEWH
>>294  秋山蓮のお見舞い日記:TV/蓮と花束
>>306,>>308-310,>>313,>>318-322,>>324
      砕けた鏡     :TV/北岡の最後の回想
>>337-343 欠けていたもの  :FE/リュウガの回想
>>347-348 雪を見ず     :TV/令子と島田とめぐみ
363名無しより愛をこめて:03/02/01 15:20 ID:7yMWJEWH
ううむ。
ブラウザで見るとガタガタになってしまった…。
本当は1つに収めるのが理想でしたが、字数制限で分割に。
364改めてリスト1:03/02/01 15:49 ID:7yMWJEWH
>>19-22
 ベノの走馬灯:FE/ベノスネーカーの回想
>>24-26
 無題:FE/リュウガ戦の真司の感情
>>28
 北岡偏エピロローグ:FE/北岡の最後の思考
>>29-32
 がんばれオムロン:FE/アギトの尾室とG5部隊
>>34-35,>>38
 おまるじゃない!:FE/美穂とブランウイング
>>41
 無題:FE/真司、トロマヴィルに行く
>>44-45
 無題:FE/「リターナー」ミヤモト
>>48-51
 欠けているもの:FE/リュウガvs真司
>>53-54
 無題:FE/48-51の続き
>>58
 アマゾンの不思議な下駄:FE/沙奈子おばさんとケーキ
>>65-69
 夜の翼:FE/ダークウイング…恵里
>>84-90
 王蛇誕生:FE/浅倉が王蛇になるまで
>>110-118
 (SP)シザース誕生:SP/須藤がシザースになるまで
>>123
 無題:??/ガイと王蛇でコント
>>132-141
 最後の願い:FP/美穂とノワールウイング
>>155
 浅倉が最後のライダーだった場合の最終回:??/コント
365改めてリスト2:03/02/01 15:50 ID:7yMWJEWH
>>160
 Warrior's Vision:SC/ソングコレクションのライアの歌補完
>>172
 北岡が最後のライダーだった場合の最終回:??/コント
>>175,>>177-179,>>209,>>211-214,>>226-232,>>237-243
 出会い:TV/蓮と優衣の出会い編
>>185-197
 オマエハ…マチガ…:TV/仲村の回想
>>217-222
 無題:FE/モンスター戦に助太刀する本郷猛
>>252,>>256,>>258-261,>>264-265,>>267,>>280-284
 Swan Song:TV/美穂とファムとライア
>>294
 秋山蓮のお見舞い日記:TV/蓮と花束
>>306,>>308-310,>>313,>>318-322,>>324
 砕けた鏡:TV/北岡の最後の回想
>>337-343
 欠けていたもの:FE/リュウガの回想
366改めてリスト3:03/02/01 15:51 ID:7yMWJEWH
>>347-348
 雪を見ず:TV/令子と島田とめぐみ
367名無しより愛をこめて:03/02/01 15:56 ID:7yMWJEWH
あとは、また何話か溜まったら
「改リスト3」に足していけば良いかと思います。
368名無しより愛をこめて:03/02/01 17:35 ID:uqe+Zwsu
>>367

各話が見やすくなりましたね。乙&ありがとー!
369358:03/02/02 01:08 ID:usXQH/Qz
>>360
すいません。お手数かけました。お疲れ様です。
370名無しより愛をこめて:03/02/02 14:26 ID:ac5pbV4w
>>360
おつかれ様です。SSごとに内容説明もつけていただいたんですね…
ありがとうございました。
371370:03/02/02 14:27 ID:ac5pbV4w
王蛇との戦いに向かうゴロちゃん(と、その後の
ゴロちゃん)を書いてみたので、次からupします。
(今更ですみませぬ>>329さん)
372消えた紋章(1):03/02/02 14:29 ID:ac5pbV4w
「・・・デッキ、出してくれる?」


鏡の中の世界に入ったことは一度だけある。
正確にいうと、引きずり込まれたのだが。
あの男の飼っている蛇の化け物に。
いずれにしても、もう一度体験したいと思うような
出来事じゃなかったのは確かだ。
それでも俺はカードデッキをかざした。
先生がいつもしていたように。

先生と同じ緑の姿になった自分を確認すると、
鏡の中へ踏み出した。
浅倉に捕まった時同様、目も眩むような銀色の世界を
抜けると、元の部屋だった。
朝の光が突き当たりの大窓から降り注いでいるのも、
白大理石の床が天井を映しているのも、
いつもと何も変わらない風景だ。
ただ先生だけがいなかった。

カードデッキを持って戻ったとき、もう先生は眠っていた。
わずかに微笑んでいるように見えた。

執務机の脇のソファに先生を横たえ、胸の上で手を組ませた。
緑のデッキをその手と身体の間に置く。だがすぐに
また取り出した。代わりに先生の好きな白い花を置いて。
すいません。少しの間借ります。
あまり遅くはならないと思うんで、待っててください。
373消えた紋章(2):03/02/02 14:32 ID:ac5pbV4w
生身でなら、どこまでも先生を守ってみせる自信があった。
たとえ浅倉が相手だろうと。
だがとうとうあの男から先生を守り切ったと思った
まさにそのとき、病魔が先生に追いついた。
俺は何もできないまま、見ているしかなかった。

もう俺のすべきことはなくなった。
たったひとつを除いて。

浅倉がいつまでも先生をつけ狙うなら、
いつかは俺の手で始末しなければと思っていた。
どんな手段を使ってでも。
先生と俺の乗った車の前に突然奴が現れたときも、
退かなければ本当に轢き殺すつもりだった。
「ゴロちゃんのすることじゃないよ」
結局、先生にそう言って止められたが。

だがやはり殺しておくべきだったのだ。
あいつさえいなければ、先生だって残りの人生を
ずっと穏やかに過ごせたろう。

いや。先生は浅倉の死を望んでいなかった。
先生が望んだのは、残った命をあの男との
最後の戦いに使うことだった。
令子さんとの約束を犠牲にしてまでも。

「行かせてよ、ゴロちゃん。
このままじゃ俺、何かひとつシミを残していくようで、
嫌なんだよね」
374消えた紋章(3):03/02/02 14:34 ID:ac5pbV4w
「・・・北岡。
・・・・・・北岡あっ!」
何かを蹴りつける鈍い音と、忌々しげに息を吐き出す音。
その間にも重い痺れが俺の全身を覆っていく。

ライダーとして戦った経験がなくても分かる。
紫色のあいつは俺に、というより先生に対して手心を加えた。
本気なら、たった今かけた技で俺を葬り去っていたはずだ。
先生の契約モンスターと一緒に。

いずれにしても仮面ライダーゾルダは敗れた。俺も死ぬ。
あの男にはそれが気に入らないらしい。

浅倉もまた、先生の死を望んではいなかった。
いつまでも「遊び」の相手をして欲しかったのかもしれない。
いや。どっちみち先生を殺そうとしたことに変わりはない。
限られた命しかない先生をずっとつけ狙い、
悩ませてきたのだから・・・
だが不思議と憎しみは湧いてこなかった。
手のつけられないだだっ子と一緒だな。
そう思うとなんだかおかしくなった。

俺の微かな笑いを、浅倉は聞き逃さなかった。
動揺する気配が伝わってくる。
「お前・・・!」
その時、俺の変身が解けるのがわかった。

短い沈黙の後、怒りと絶望の咆哮が響き渡った。
少しだけ浅倉が気の毒になった。
375消えた紋章(4):03/02/02 14:37 ID:ac5pbV4w
よく考えると、あの時と似たような状況だった。
浅倉が俺を捕まえて人質に取り、
先生を戦いに引きずり出そうとした時のことだ。

「無駄だ。先生は俺を助けになんか来ない」
言ったところで奴が聞く耳など持たないのは
分かっていたが、それでも一応言ってみた。
案の定、俺に向かって不気味な笑いを見せただけで
奴は嬉々として携帯を取り出した。

だがあの時も奴の望みはついに叶えられなかった。
「だから言ったんだ。俺を人質にしても先生は来ない」
返事の代わりに破砕音と衝撃と、ガラスの破片が飛んできた。
俺の監禁されている車の窓を片っ端から叩き割りながら、
奴は言った。ますます人間離れした笑いを浮かべて。
「戦いたいんだよ。おれは」

この手枷を外したら、真っ先にこいつを始末して
そばの海に放り棄てて行こう。そうしなければ
この先、先生がどれだけ悩まされるかわからない。
隠していた針金を指先にたぐり寄せながらそう思った。

だが手枷が外れると、俺はさっさとその場を離れた。
勢い余って車の屋根から滑り落ち、そのまま大の字になって
眠りこけてしまった奴をそのままにして。
なぜ殺しておかなかったのだろう。
・・・やはり少しだけ気の毒になったからかもしれない。
手枷を外そうとしてる間中、俺の頭の上で派手な音を
たてて屋根を蹴りつけていたあいつがやはり
だだっ子のように思えて、殺意が失せたからかもしれない。
376消えた紋章(5):03/02/02 14:39 ID:ac5pbV4w
なんにせよ、これで俺の役目もすべて終わった。
そろそろ帰らなくては。

そう思った時、頭上に気配を感じて目を開けた。
背の高い男が立っていた。

すいません、結局待たせちゃって。
これから戻ろうと思ってたんです−−
何かうまいものでも探しながら。

それから、これ・・・ありがとうございました。
もう紋章は付いてませんが。

男は微笑んで、首を横に振った。

そうですか。よかった。じゃ、帰りましょう。

ただの緑の板になったデッキを地面に置くと、
俺は差し出された手につかまって立ち上がった。


END
377370:03/02/02 14:46 ID:ac5pbV4w
372-376を読んでくださった方、いたらありがとうございます。
生身では常に対浅倉最前線に立っていたゴロちゃんの
心意気のようなものが、少しでも出せていればいいのですが…

個人的にファイズも面白くなってきましたが、
やはり龍騎の世界は魅力ありますね。
378名無しより愛をこめて:03/02/04 00:26 ID:hk2VKKiX
>>377
泣けました。
やっぱこのコンビは良いなぁ…。
379ななし:03/02/04 00:42 ID:GvgDeFp9
>370
すごく(・∀・)イイ!!
またちょっとほろりときました。

380名無しより愛をこめて:03/02/04 01:18 ID:taf/vF95
>雪を見ず

事情を知ってた島田とめぐみの動揺が、
何も知らずにあっけらかんとしてる令子と対称でもの哀しいですね。
この話のようにあの2人のおかげですぐに先生が見つかったと思えば
少しは気分が楽になりました。(死後**日経過なんて嫌過ぎ)


>消えた紋章

ゴロちゃんの先生への思いと覚悟と、浅倉への憐憫が描かれていて良かったです。
心底憎んでいても、浅倉にはどこか奇妙なシンパシーを感じてたんでしょうね。
381370=377:03/02/04 01:27 ID:2StM9Pfp
>>378
ありがとうございます。北岡先生とゴロちゃんの信頼関係が
少しでも再現できたらいいなと思ってたので、嬉しいです。

>>379
ありがとうございます。私も書きながら最終回を何度か
ビデオで見直しましたが、やっぱりその度に涙出ますよね・・・
382370=377:03/02/04 02:00 ID:RSYjJEQ4
>>380
ありがとうございます。確かに、先生という存在がいるゴロちゃんなら
孤独しか知らない浅倉に憐憫の類を感じるのでは・・・いくらひどい目に
あわされても(汗)と思ってあのような話にしてみました。
383名無しより愛をこめて:03/02/06 12:58 ID:xSUpkokk
3841000ゲット!:03/02/07 00:59 ID:nrUrWR20
一応、空ageさせていただきます。
385名無しより愛をこめて:03/02/08 22:25 ID:rG89+qKP
保守
386名無しより愛をこめて:03/02/08 22:43 ID:7atzrpOX
久しぶりにこのスレを除かせて貰いました。
消えた紋章イイです。
前に北岡の最後の話でゴロちゃんゾルダをリクしたのは俺です。
満足しました。ありがとうです。
387370=377:03/02/09 00:29 ID:9pQeFMST
>>386
ありがとうございます。ゴロちゃんゾルダは難しそうな
テーマに思えて少し迷ってましたが、満足して
いただけたのなら本当に良かったです…
388名無しより愛をこめて:03/02/10 02:57 ID:eAZAga+i
#49後半・#50当日正午前後からのOREジャーナル事務所は大変な事態
になっていたと思われ。
(1)真司銀座で事故死の連絡が入る。
→編集長、死亡を隠し「真司のやつが怪我したらしい。病院に行って来る」と
外出しようとする。(この段階で、「収容先の病院に行けば、親戚が来るまで
は帰れない、事務所の留守番体制はどうしようか」と考えている。)
(2)玲子から「北岡が来ない、電話もつながらない」と連絡が入る。
→編集長、ライダーバトルに関係ありと考え、玲子に北岡事務所へ回るように指示。
(3)さらに浅倉威射殺の速報が入る。
→編集長、これもライダーバトルに関係ありと察し、島田に現場へ行くように指示。
(4)北岡事務所で北岡の死亡、浅倉威射殺現場で由良吾郎の遺体発見等の報告。
→編集長、「最後のライダーは秋山蓮か?」と気づき、恵里の入院先を確認しよう
と思うが、人がいない。
(誰かうまく文章化してほしい〜。)
389名無しより愛をこめて:03/02/11 23:55 ID:TkFwAKYe
保全
390名無しより愛をこめて:03/02/12 00:30 ID:A/yn6Jiz
>>388
ゴロちゃんはミラーワールドの中で死んだから、遺体は見つからないんじゃ
ないかな。北岡弁護士の秘書は消息不明。編集長だけはそこに何かを感じる、と。
391名無しより愛をこめて:03/02/12 08:49 ID:TdR8TRvJ
>>388
蓮に士郎が言った「最後のライダー」という言葉からすると、
浅倉射殺後に真司は死んだと思われ。
392名無しより愛をこめて:03/02/12 12:07 ID:gw5cQ6FI
>>388
つーか、編集長は真司以外のライダーが誰かなんて聞いてないと思うんだが。
393名無しより愛をこめて:03/02/12 17:22 ID:t9TSu/V7
>>392
少なくとも浅倉がライダーであることは話しそう。脱獄や逃走時の種明かしとして。
後は令子絡みで北岡や須藤とか、新聞にどでかく失踪事件として扱われた佐野とか。
蓮は...話すとすれば、一番説明しやすい「闘う動機」の一例として、ですかね。
一応編集長とは「面識」ある相手だし。
394名無しより愛をこめて:03/02/13 02:42 ID:zjtDZ4wR
以上が、原因不明の失踪事件の真相であり、
仮面ライダーと名乗る人間たちの、戦いの真実である。
この戦いに正義はない。
そこにあるのは、純粋な願いだけである。
395名無しより愛をこめて:03/02/14 23:14 ID:+AO/SPQm
 そういえばSPのみでの登場だった榊原幸一(初代龍騎)
が世界平和のために戦うきっかけは何なんでしょうかね・・。

 そこのあたりの裏設定も見てみたいです。
396名無しより愛をこめて:03/02/14 23:25 ID:+AO/SPQm
>そういえばSPのみでの登場だった榊原幸一(初代龍騎)
>が世界平和のために戦うきっかけは何なんでしょうかね・・。

 きっかは何だったんでしょうかねえでした・・。スイマセン。
397名無しより愛をこめて:03/02/14 23:28 ID:uKWSmmYo
ライダーバトルで最後まで勝ち残った奴だけはやり直し前の世界の記憶が
残っていて、SPの前の世界のライダーバトルの勝者が榊原・龍騎。
で、彼はライダーバトルの記憶があるからミラーワールドを壊してライダ
ーバトルを止めようと思っていたとか・・・そんな設定はどう?
398名無しより愛をこめて:03/02/14 23:30 ID:uKWSmmYo
だからこそ、榊原は、お前はライダーの戦いに巻き込まれるな、と
真司に忠告した、と。
399396:03/02/14 23:35 ID:+AO/SPQm
  

 レスサンクスです。その案、面白いですね。
400名無しより愛をこめて:03/02/14 23:35 ID:yVWu5HQS
榊原の奥さんが北朝鮮に拉致されて、それで世界平和のために秘密結社とたたかうようになったんだよ
401398:03/02/14 23:44 ID:uKWSmmYo
で、そんな榊原がウザイので、TV本編の世界では神崎士郎は早々に
榊原をドラグレッダーに食わせてしまった、とか。
402364-366:03/02/17 18:01 ID:ta9wuPpm
>>368-370
ちょっと遅れましたが、ありがとうございます。

題と一緒に説明もあった方が検索しやすいかも?と思ったので
リストに付け加えてみました。
403名無しより愛をこめて:03/02/17 23:10 ID:w/QC3DYO
サノマンのないのかなぁ?
404名無しより愛をこめて:03/02/20 02:19 ID:g/C0MMHr
 初代龍騎の小説がものすごく見たい!
405名無しより愛をこめて:03/02/24 01:55 ID:leXwcXGS
>>403
自分はEND後に普通にほんわか生きてるサノマンが見てみたいけど、
ここより「仮面ライダーじゃない龍騎」スレ向けなリクエストって気がするな。
406名無しより愛をこめて:03/02/24 17:28 ID:mjBXVDRg
>>405
アァン、俺も見たいよ…END後サノマンのほんわか生活…。
百合絵さんと幸せに暮らしているとか、東條とは
いい友人関係を築いているだろうとか妄想が止まらない(ぉ

仮面ライダーじゃない龍騎スレだろうがこのスレだろうが、もし書きたい人が
書き込んでくれ〜。俺は文章作るのとか話をまとめるのが苦手だからムリぽ…
きぼんぬ厨っぽくてスマソ。
407ドラマじゃないスレの馬鹿:03/02/25 02:52 ID:+4LRjyIW
サノマン話書いては見たが
サノマンっぽくないなあ・・・
捏造設定いぱーいだし・・・
408名無しより愛をこめて:03/02/25 13:14 ID:DD8i51Rh
>>407
http://tv3.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1044256109/234-239n
これですね。
感想あっちに書きました。

リクエストに応えて頂いてありがとうございます。
409名無しより愛をこめて:03/02/26 03:49 ID:tytk7j0U
>408
いえいえこちらこそ素敵な感想ありがとうございます。

・・・どうも私が書くとブラックになりすぎるらしいです。
  反省、反省・・・
410名無しより愛をこめて:03/02/26 03:49 ID:tytk7j0U
ってsage忘れた・・・
討つだ氏のう・・・
411名無しより愛をこめて:03/02/28 21:26 ID:Ja3og6s1
>>410
ちょ、ちょっと遅いかもしれないけど… 生`!!

(2日も吊りっぱなしにしてすまぬ)
412妙なノリ1/5:03/03/03 08:02 ID:mLZQG83q
あいつとオレが戦うのは何度目だろう。
オレは老朽化した廃工場であいつと対峙した。
「来たか…待ちくたびれたぞ、龍騎…いや榊原耕介!」
あいつ…仮面ライダーオーディンが言う。
「勝負…最後の勝負だ!!オーディン、神崎!」
幾度目の『最後の勝負』かは忘れた。ライダー同士の戦い。
勝ったものが願いを叶えることができるという。
残ったライダーはオレとオーディンの二人。
つまりは、最後の勝負だ。
「剣闘札!来い!ドラァァグセェイバァァァー!」
オレはソードベントのカードをバイザーに通し、ドラグセイバーを召喚する。
「剣奥義!龍・舞・斬!覇っ!」
オレはドラグセイバーを用いて神崎に切りかかる。
「甘い甘い甘いぞ!!榊原ァ!」
オーディンは自分の体を転移させてオレの攻撃をかわす。
「剣闘札!ゴォルトセイバァァー!」
オーディンがゴルドセイバーを召喚する。
「死ぬがいいいい!榊原!」
オーディンの斬撃を
「盾闘札!ドラァグシィルド!竜巻防御!」
オレはドラグシールドで受け止める。
413妙なノリ2/5:03/03/03 08:03 ID:mLZQG83q
重い!
その一撃でドラグシールドとゴルドセイバーは朽ち果て異空間へと消える。
「攻撃闘札!来い!ドラァグクゥロォォーー!」
オレはドラグクローを召喚。
「はあああああああああああああああああ!」
氣を溜め、
「やあああああああああああああああああ!」
今解き放つ、
「闘奥義!
昇・竜・突・破ぁぁぁぁ!!」
迸る氣弾がオーディンに襲い掛かる。
「ふははははははは
盾闘札!ゴォルトシールドォォ!
ふははははははは。」
オーディンは軽々とシールドで氣弾をいなす。
ちぃ!!
オレは舌打ちした。
すでにかなり体力を消耗している。
次の一撃が最後になるだろう。
いや次の一撃すら放てるかどうか…
ふっ
オレは笑った。
414名無しより愛をこめて:03/03/03 08:03 ID:mLZQG83q

「この身体、ここで朽ち果てようともオレはお前を倒す!!
覚悟しろ!仮面ライダーオーディン!」
オレはデッキからカードを一枚引き抜いた。
「その心地や良し!!勝負をつけようぞ!仮面ライダー龍騎!」
オーディンもカードを引く。
そして二人同時にバイザーにカードをセットする。
『最・終・闘・札』
オレはドラグレッダーの引き起こす熱風の気流に乗って上空100メートルまで上昇。
対するオーディンもゴルドフェニックスの力で大空へと羽ばたく。
大空が二人の戦いを包む。
「はああああああああああああああ!
氣!氣!燃えろおおおおおおおお!」
「かああああああああああああああ!
永遠の混沌を味わうがいいいいい!」
「龍・仁・脚、つまりは」
「永・混・闘、すなわち」
「ドラゴォォォォォン
ライダァァァァァー
キッィィィィィィク!!」
「エタァァァァァァナァァァァァル
クァァァァァオォォォォォォスゥ!!」
二人のファイナルベントが空中で激突する。
結果は―
415変なノリ4/5:03/03/03 08:04 ID:mLZQG83q
「ふっ…やるな、榊原…」
オーディンが呟く。
オレの身体は動かない。
「しかし、私は負けん。負けんのだよ!」
来たか…今まで幾度となく繰り返してきたことだ。
「さらばだ!榊原!」
オレは悔しさのあまり絶叫した。
また、止められなかった。あいつを…
オレは泣いた。
「時は再び繰り返す!」
オーディンは声高に叫ぶとカードをバイザーへとセットした。
「時・間・闘・札!!」
そしてまた時間は繰り返す。
416変なノリ5/5:03/03/03 08:05 ID:mLZQG83q
そしてオレは自分の部屋で目覚める。
時間が戻ったのだろう。
また、あの日の朝だ。記憶はある。氣の力のせいだろうか…
机の上には神崎士郎から渡されたデッキが無造作に放ってある。
オレはそれを取らない。
何回か戦ううちに感じたことだ。
神崎士郎から渡された力で神崎士郎を倒すことはできない。
信じられるのは自分の力のみ。
つまりはそういうことだ。
オレは窓枠の一箇所を除いて部屋中の鏡を新聞紙で覆った。
生身で戦う以上少しのハンデはもらわなければならない。
そしてオレは鏡の立ち、武の構えをとる。
オレは叫ぶ。
「来い!ドラグレッダー!
オレは榊原耕介
仮面ライダー龍騎だ!」
417名無しより愛をこめて:03/03/03 23:14 ID:qwoHebuI
>>412-416
新作キター 
乙です。龍騎とオーディンの闘いって、
さすがにハデで見ごたえありますね。。。

418395:03/03/04 00:40 ID:Wx1BB9xK
小説読ませてもらいました!
なんかGガンダム風で燃えました!
419名無しより愛をこめて:03/03/05 10:15 ID:okWG8dgu
>>412-416
ダイレンジャーみたいで熱いですな!
420名無しより愛をこめて:03/03/08 00:28 ID:LYT8ae9l
>412-416
この榊原氏はダイレンのリュウレンジャー風の熱い漢ですね。
生きざま(死にざま?)が格好良くて好きです。

あの部屋の異様な様子は榊原氏が宿命から逃げたからああなったんじゃなくて
あえて運命に挑んだって解釈なんですね。
421冬の夜:03/03/11 22:42 ID:f9k7imX0

バイクから降りた男の背後に立つビルのガラス窓に、
長身の影が浮かび上がる。

「おまえが優衣を守るとはな」
鏡の中からの呼びかけにも、男は振り向かない。
「あいつはお前の被害者だ。恵里と同じようにな。だから守る」
「優衣のことは俺がいつも見ている・・・
だが、まあいい。優衣はおまえといることを望んでいる。
あいつを心配させるようなことだけはするな」
「ずいぶん勝手な言いぐさだな。
あいつが心配する原因の大元はお前だろう」
「優衣の心配は、いずれ俺がすべて取り除く。
おまえは自分の望みを叶えるために戦い続ければいい」
「優衣に近づくな、とは言わないのか」
「その必要はない。
おまえが優衣に危害を加えるつもりがないのはわかっているからな」
「笑わせるな。なにしろお前の妹だ。カードデッキを渡したからといって、
虫の居所が悪ければ自分でも何をするかわからない。
当てにならないお前の約束のために
ライダーバトルを続ける保証はどこにもないからな」

ガラスの表面の暗く蔭った顔が、見えない笑いに歪んだ。
「おまえがその程度の人間なら、最初からカードデッキを渡したりはしない」
「貴様・・・!」

激情に駆られ、拳を固めて振り向いた先の窓にもう影はなかった。
422421:03/03/11 22:58 ID:f9k7imX0
取りあえずageます。見るからに暗いネタしかなくてすみませんが…

蓮がカードデッキを受け取った後、真司に会うまでの間に
神崎士郎に会ってたとしたらこんな感じか?と想像して、
テレビ第1話直前の補完のつもりで書きました。
読んでくださった方いたら、ありがとうございます。
423名無しより愛をこめて:03/03/14 01:04 ID:ndwQmUmK
>>421
もし、神崎が蓮の性格を把握した上で
わざと恵里を昏睡させてライダーになるよう仕向けたなら、
かなり凶悪な男だと言えますね。
424421:03/03/14 02:23 ID:TmfVT50b
>>423
読んでくださって、ありがとうございます。

実はそこまで神崎が凶悪とは思っていなかったのですが、
(蓮の性格を見抜いてるだろうという気はしてましたが)
よく考えるとテレビで恵里の病状をわざと悪化させていたし、
やっぱりやりかねない気もしますね・・・

謎のままになっている401号室での実験は、何となく
「ミラーワールドと現実をつなぐ」ためのものと思ってましたが、
実は最初から恵里を犠牲にしてナイトを誕生させる目的も
あったのだとすれば・・・あな恐ろしや
425名無しより愛をこめて:03/03/15 12:32 ID:vReF/HHk
仲村クンを実験台に使わず恵里タンを実験台に使ったのは、蓮タンを釣る目的が
あったのかもよ。
426帰還(1):03/03/17 03:20 ID:ME7DJeki
アメリカ、某州アクレイ大学近隣の小さな墓地の一角に
ひとつの墓石がある。
まだ比較的新しいが、花の供えられた形跡もない。
その前に一人の女が立った。2002年夏の終わりのことだ。

SHIROH TAKAMI
1976 - 2001

埋葬されている者の名を確認すると、
女は墓碑銘を声に出して追いはじめた。
「彼の生涯は……捧げられた…ことのみに…救う…
妹………」

          *

優衣に翼を与えてやりたかった。
飛べるのは、鏡の中の大空だけだとしても。

だが与えることができたのは黒い羽根だけだった。
そして黒い羽根を持つ優衣は、もはや本当の優衣ではなかった。

本当の優衣を取り戻して見せる。
どんなことをしてでも。誰を犠牲にしても。
427帰還(2):03/03/17 03:22 ID:ME7DJeki
凄まじい爆発とともに、実験用の鏡も実験室の窓もすべて吹き飛んだ。
ガラスの破片で埋め尽くされた床に伏した白衣の男の周りで、
パニックに陥ったアメリカ人たちが口々に喚き、実験室から逃げて行く。

血まみれの顔を上げた男が見たのは、予想した通りのものだった。
自分をじっと見下ろしている少年。
くる日もくる日も妹と一緒に絵を描いて過ごしていた頃の自分。
たった今、砕け散った鏡の中から抜け出してきたのだ。
大人になった自分の喚び出しに応じて。

これでいい。仮の優衣を取り戻したあの時と同じだ。
実験は成功した。この国でずっと探してきた甲斐があったというものだ。
自分と優衣が幼い頃に作り出した、鏡の世界を支配する方法を。

「本当にいいの?1年たったら、消えちゃうんだよ・・・こっちの世界からは」
少年が男に念を押す。
「1年あれば十分だ・・・早く、俺に鏡の命を・・・」
うなずいて、少年は歩み出した。瀕死の男の身体に向かって。

避難していた人々が男を救出するために戻ってきたとき、
すでに白衣の身体に息はなかった。
ポトラッツという長老格の教授が悲し気な溜息をつき、頭を垂れた。

その場の誰も知らなかった。
同時刻、遠く離れた日本−−東京にある空家となった邸宅内に、
たった今アメリカで死んだはずの男が姿を現したことを。
覆いのかけられた、大きな鏡の中から。
428426:03/03/17 04:06 ID:GKkEC6j7
超全集最終巻が出て、物語の謎に関わる公式設定も参照可能になったし、
「神崎士郎はアメリカでどんなことやってたんだろ」という疑問が
前からあったので426-427を書いてみましたが、

龍騎の中核となる上に一番謎の多い部分を補完しようという
恐ろしく無謀な試みになってしまいました(汗)
たぶん色々矛盾のある話になってしまうと思います・・・スマソ
(続きは来週末か、それ以降になると思います)

>>425
そうすると神崎は、恵里と蓮の絆の強さをどこかで知ったんでしょうね・・・
429名無しより愛をこめて:03/03/17 10:08 ID:KRxb4h46
>帰還
詩的でいいですね

>>428
ピーピング士郎w
430名無しより愛をこめて:03/03/21 12:49 ID:4qjBAjYK
「帰還」
神崎の行動の結果を知っていると、
身を捨てても何をしても優衣が救いたかった神崎の決意が悲しいですね。

超全集のネタバレを読んで「ここまで酷い事をしてたのか」と唖然となりましたが、
逆に妹の為ならそこまでやってのける哀しい人だった事も判ってしまったし…。

その士郎の内側を描いてくこの話、続きが楽しみです。
 白い十字架が並び建つ、海の見える丘の上。そこには手塚海之が眠っていた。
 海のほうから吹きつける風は、この前此処を訪れた時よりも幾分冷たく、
月日の流れを否応なく感じさせられる。
 手塚が亡くなってから、いつの間にか季節は移ろい、3ヶ月という長いような、
短いような月日が流れていた。彼が亡くなった直後は、ひどく塞ぎ込んでいた真司だが、
優衣や蓮を始めとする周囲の人々の助力もあって、次第に笑顔を取り戻しつつあった。
勿論、仮面ライダー龍騎として、ミラーワールドから次々と現れ出るモンスターたちから
人々を守る為に戦う、という当初の目的も忘れてはいない。そして。
『止めてくれ。俺と一緒に』
 あの時差し出された、手塚の手の熱さを思い出す。自分は確かに、その手を強く握り返した。
ライダー同士の不毛なバトル・ロワイヤルを止める、そのために仮面ライダーライアと化し、
望まぬ戦いに身を投じて散っていった手塚の願いをも、叶えなくてはならない。
 仮面ライダーゾルダ=北岡秀一や、仮面ライダー王蛇=浅倉威といった、己が欲望を満たす為だけに
ライダーと成った者たちが居る限り、それはひどく困難なことのようにも思われたが、
その孤独な状況の中で、真司は、一筋の光明を見出してもいた。
 このライダーバトルを仕組んだ張本人・神崎士郎がかつて在籍していた清明院大学401号
江島研究室―――中心人物である神崎の失踪と、江島教授の死により凍結されていた
この教室と研究を、継承している者が居た。真司はその人物・香川英行の口から、
『ミラーワールドを閉じる方法がある』という言葉を聞き出していたのだ。
 ミラーワールドが無くなれば、何の関係もない市井の人々がモンスターに襲われることもなくなる。
また、ライダーに変身することも出来なくなるのだから、ライダー同士が戦って傷つけあうこともない。
 部外者である、ということを理由に、その時はそれ以上のことを教えては貰えなかったが、
目的が同じである以上、話し合えば必ず理解(わか)って貰える、と、真司は意気込んでいた。
今日も、手塚の墓参りを済ませた後、3人で香川の元へと赴く予定になっているのだ。
尤も、ライダーバトルに勝ち残って、望みを叶える力を手に入れ、意識不明の恋人を救う、
という目的を持つ蓮は、余り乗り気ではないようではあったが。
(手塚…俺、絶対に止めてみせるよ、この馬鹿馬鹿しい戦いを……)
「何だ、未だこんなトコに居たのか、お前ら」
 不意に背後から声を掛けられて、真司は、びくり、と肩を震わせた。振り返ると、いつの間にか、
遅れて来た筈の蓮が、2人に追いついていた。蓮は呆れたような表情で、ふう、と溜め息を吐くと、
優衣の手から花束を取り上げ、それを肩に担ぐようにして歩き出した。
「行こ、真司くん」
 優衣に促され、真司は頷いて、蓮の後を追った。
↑スマソ、上は(2)です。

 丘の上の墓地には、彼ら以外に人の姿は無かった。
出入り口のところで、黒い服を着た茶髪の女性と擦れ違ったのみだ。
静かな墓地の一番奥、他のものと比べると一回り小さい十字架の下が、手塚の眠る場所だった。
「手塚くん…」
 その場にしゃがみ込んで、十字架の台座に填め込まれた墓碑の真鍮板を、優衣はそっと撫で擦った。
「…あれ?」
 優衣の隣に並んで跪き、瞑目しようとした真司は、持ってきた花束を捧げている蓮の手許を見て、首を傾げた。
―――花が供えられている。それも、つい今しがた供えられたかのような、真新しい花束だ。
大輪の深紅の薔薇と、可憐な白いカスミソウとを組み合わせ、白いレースのリボンで束ねてある。
「まただ……」
 小さく呟いた真司の言葉を聞き咎めて、蓮は怪訝そうな表情を見せた。
「どうした?城戸」
「ああ…ここんトコ、いつもなんだ…俺たちの他に誰かが、こんなふうに、手塚の墓に花を置いてくんだよ」
 1ヶ月ほど前に訪れた時もそうだった。かなり朝早い時間だったにも拘らず、
真司が来た時にはもう、辺りは綺麗に掃除され、花が捧げられていた。
やはり、深紅の薔薇とカスミソウとを白いリボンで束ねたものだった。
その時には、余り気にも留めていなかった真司だったが、つい10日ほど前に
取材の帰途に立ち寄った際にも、同じことがあったのだ。
「あ、ねえ、もしかして、手塚くんのお墓参りに来てるのッて、さっきの女性じゃない?」
「入口のトコで擦れ違った女か?」
 不意に優衣が発した言葉に、蓮が言葉を続ける。
「だって、ここへ来る途中で、あの人以外には誰にも逢わなかったでしょ?このお花、
凄く新しいみたいだし、少なくとも、1時間より前ッてコトはないと思うわ」
「……俺、ちょっと行ってくるッ!」
 言うなり、真司は踵を返して、脱兎の如く駆け出した。あっけにとられて、その背中を
見送った優衣と蓮だったが、ふ、と我に返り、慌てて真司の後を追う。
「ね…ねぇ、真司くんッ…!あの人に逢ってッ…どうするつもりなのッ……!?」
「どうもしないッ!!」
 立ち止まりも、振り返りもせずに、真司は答えた。
―――彼女が手塚にとってどんな存在であったのか、気にならない、と言えば、勿論そんなことはない。
もしかしたら、彼の昔の恋人であったのかも知れない。手塚の話をすることで、彼女を傷つけてしまうかも知
れない、とも思う。
 だが、それでも、真司は彼女に逢いたかった。手塚のことをよく知る誰かと、
彼のことを語り合いたかった。そして、手塚がどんなふうに生き、逝ったのか、
彼の最期に立ち合った者として、伝えなければならない、と思った。
手塚は決して運命に敗北して死んでいったのではない、ということを、知って貰いたかった。
「……いない……」
 丘の下の駐車場まで一気に走り抜き、息を弾ませながら、真司は忙しく周囲を見回した。
彼岸も過ぎ、平日の昼間だということも相まって、ここにも人影はなかった。
今しがた到着して、これから墓参しようかというような風情の老夫婦が1組、突然走り込んできた真司を訝しげに凝視めているだけだ。
「…何処行っちゃったんだろ……」
 がっくりと肩を落として、真司は項垂れた。ちょうどその時、後から追いかけてきた2人が、駐車場に姿を見せた。
「し…真司くん…あの人は……?」
「いない…いないんだよ、何処にも……」
「も…もう帰ったんじゃ…ねえのか……?」
 ぜいぜいと息を切らしながら、蓮は駐車場のフェンスに凭れかかり、ずるずるとしゃがみ込んだ。
そして、革のパンツのポケットからエビアンのペットボトルを取り出すと、蓋を開けてから、優衣に手渡した。
「俺…あの人に、手塚のコト話したかったのに……」
「けど、お前、あの女がホントに手塚の墓参りに来てたッて確証はないだろう。もしかしたら、全く違う奴の墓参りに来てたのかも知れないし」
 優衣から返されたペットボトルの中身を貪るように飲み干し、幾分落ち着きを取り戻しながら、蓮が言う。
 そう言われてみれば、そうかも知れないな、と、真司は更に項垂れた。その肩に手を置きながら、優衣は申し訳なさそうに謝罪の言葉を発する。
「ごめんね、真司くん…私が考えなしなコト言ったばっかりに……」
「…いや…優衣ちゃんの所為じゃないよ……」
「その通りだ、気にするな、優衣。考えなしなのは、そっちの馬鹿だ」
「蓮ッ!」
 情け容赦なく言い放つ蓮に、優衣はキツい眼差しを向ける。真司は力なく苦笑って、顔を上げた。
 その時。
 耳障りな、だが、聞き慣れた金属音が、3人の鼓膜を揺るがせた。そして、悲鳴。
「蓮ッ!」
「あっちだッ!」
 3人は、悲鳴の上がった方向へと再び駆け出した。駐車場の出入り口、
そこに停められていた漆黒のベンツの車体から、モンスターが3体飛び出し、鋭い鉤爪を振り上げている。
 襲われていたのは、先刻の老夫婦だった。老婆のほうは、腰を抜かしてしまったのか、
その場に座り込んで動けない。男性のほうは、妻を守るかの様にその前に立ちはだかり、
及び腰になりながらも、モンスターに向かって杖を振り回していた。
「はあッ!」
 気合いと共に、真司は、老人に向かって今まさに爪を振り下ろそうとしていたモンスターを蹴り飛ばした。
振り向き様、今度は標的を真司に切り替えて飛び掛ってきた1体の腹に、固めた拳を叩き込む。
残るもう1体は、蓮と渡り合っている。そして、優衣は老夫婦に駆け寄ると、老人と共に老婆を助け起こし、駐車場から退避させた。
 モンスターたちは、じりじりと後退しながら、今しがた自分たちが飛び出してきた車体から、彼らの世界―ミラーワールドへと逃げ込んでいった。
その鏡面の様に磨き上げられたウィンドウに己が姿を映し、真司と蓮はカードデッキをかざして叫ぶ。
「変身ッ!」
 現れたベルトにデッキを装着すると、強化スーツが2人の体を包み込んだ。
仮面ライダー龍騎とナイト、姿の異なる2人のライダーは一瞬顔を見合わせ、力強く頷き合うと、
ウィンドウを通じ、モンスターの後を追って、ミラーワールドへと進入する。
「大丈夫ですかッ!?」
「な…な…なんじゃい、今のは……」
 目を丸くして絶句する老夫婦に、どう説明したものか、と思案している優衣の視界に、こちらに向かって駆け寄ってくる人影が飛び込んできた。
黒い衣服に身を包み、長い茶髪を潮風に靡かせたその人物は、老夫婦に何ごとか声を掛け、更に安全だと思われる場所に誘導していく。
そして、優衣のほうに向き直ると、呆然としている彼女を優しく押し退け、
先刻2人が消えたクルマを凝視めた。その左手を見て、優衣は驚愕の声を上げる。
「あッ…貴方はッ……!?」
 そこは、先刻の駐車場をそっくりそのまま反転させた場所だった。
 モンスターの姿はないが、何処かに隠れ潜んでいるらしく、異様な気配をひしひしと感じる。
「油断するなよ、城戸……」
「分かってる」
 それぞれの武器―――ドラグセイバーとウイングランサーを構えながら、ゆっくりと周囲を睥睨する。その時。
 ケケケケーッ!!
 奇声を上げて飛び出してきた影に、真司=龍騎は慌てて剣を振るう。だが、手応えはなく、影は再び嘲笑うかの様な声を上げて、姿を消した。
「馬鹿野郎ッ、油断するなと言っただろうッ!」
「悪かったよッ!」
 蓮の罵声に怒声を返して、真司はドラグセイバーを構え直した。
「ちッくしょー…何処行きやがったんだ…」
 呟きながら、横目でチラリと蓮を見遣る。不意に、その蓮の背後の何もない筈の空間が、一瞬、陽炎のように揺らめいた。
「蓮ッ、後ろだッ!」
「何ッ?!」
 慌てて振り向いた蓮の鼻先を、鋭い鉤爪が風を切って掠めていく。
すんでのところでそれをかわした蓮は、ウイングランサーを突き出すが、やはり手応えはなかった。
「あーあー、何やってんだか」
「うるさい」
 先刻怒鳴られた意趣返しだと言わんばかりの真司の嫌味を蓮は鋭く遮り、舌打ちをした。
「ちッ…厄介なヤツに当たっちまったな……」
 再び背後を取られるのを避ける為に、背中合わせになりながら、モンスターの気配を探る。
どんよりと澱んだ虚空の下、響き渡る奇声は次第に大きくなり、やがて、その数を増していった。
現実世界に現れたのは3体だったが、その声が聞こえる方向から推察するに、少なくとも5、6体は居るだろうと思われた。
(こりゃ、ちょっと…ヤバイ…かな……)
 嫌な汗が、強化スーツに覆われた2人の背中を冷たく濡らす。数自体はどうということではないが、自在に姿を消し、思いも寄らぬところから襲いかかってくるのが厄介なのだ。
「そう言えばさあ、昔、そんな映画あったよなあ。あれはモンスターじゃなくて、宇宙人だったッけ?」
「そんなコト言ってる場合かあッ!!」
 戦いの最中だというのに、のんびりした口調で場違いなことを言う真司を、蓮は怒鳴りつける。
その時、不意に足下の空間が再び蠢いて、そこから出現した手が、真司の足首を掴んだ。
「うわッ!」
「城戸ッ?!」
 無様に引っくり返った真司の足を掴んだまま、モンスターが全身を現す。
それは蛙と蜥蜴を掛け合わせて直立させた様な姿をしており、濃い緑色の皮膚をぬらぬらと光らせた、全く気味の悪い奴だった。
不格好に節くれ立った長い指の先には、吸盤ではなく、鈍い銀色に光る大きな鉤爪がついており、
一杯に開かれた口の中には、鋭く尖った細かい歯が無数に生えている。
「あ、あんまりお近づきにはなりたくねえなあ…なーんて、言ってる場合じゃねえけどッ」
 転んだ拍子に投げ出されていたドラグセイバーを掴み、真司は、生臭い瘴気を吐き出すモンスターの口の中に、その剣先を突き出す。
「ッしゃあーッ!」
 今度は、肉を切り裂く鈍い感覚がしっかりと伝わってきて、真司は思わず拳を握り締めた。
だが、しかし。
「うああーッ!!」
「蓮ッ?!」
 苦痛に溢れた蓮の声に、彼のほうを振り向いた真司は、愕然となった。血の筋を引きながら、
右肩を押さえて転がった蓮の直ぐ側の、何もない筈の空間から、確かにモンスターの口の中を貫いた
ドラグセイバーの刃先だけが突き出していたのだから。
 ケケケケーッ!!
 更に口を大きく開けて、モンスターが真司に迫る。
 その時だった。
『ソードベント』
 無機質な女声が響き、刹那、白銀の閃光が真司の視界を横切る。
その目映いばかりの光が収まった時、今まさに真司を喰らおうとしていたモンスターの巨体が、地響きを立てて、ゆっくりと横倒しになった。
「ふん…獲物に気を取られて、油断したな」
 倒れたモンスターの後頭部から、閃光の正体―――刃を引き抜きながら、“それ”は笑った―――
笑った様に見えた。その姿に、真司は目を見張る。
「て…手塚ッ……?!」
 ドラグセイバーに引き裂かれた右腕を庇いながら、よろめきつつ立ち上がった蓮も、茫然とその姿を凝視める。
 それはまさしく、二度と現れる筈のない、仮面ライダーライア=手塚海之だった。
 ―――否。
(違う…何だ、コイツは……?!)
 ライアではなかった。そこに居たのは、ライアと同じ色の強化スーツを纏った、見慣れぬ姿の戦士だった。
優美な曲線を描く頭部の前面には、昆虫の触角を連想させるアンテナが2本突き出している。
そして、その右腕には、先刻モンスターを貫いた鋭い刃が煌めいていた。
これもまた、2人が見たこともない様な形状をしており、剣、というよりは、寧ろ槍に近い。
「…来るよ」
 戦士の言葉に、2人は、ふ、と我に返る。気がつけば、3人の周囲を、5体のモンスターたちが取り囲んでいた。
「はッ!」
 短い気合いの声と共に、振り向き様、戦士は右腕の武器を真司の背後に向かって突き出す。
すると、蓮の真正面に居たモンスターが、その腹部から青黒い体液をしぶかせて仰け反った。
「なッ…何だ、今のはッ?!」
「コイツらの特殊能力さ!コイツらは空間を歪ませて、自由に操るコトが出来る!」
 目を丸くして絶句する真司に、戦士はそう答えた。
「実に厄介な力だけど、それにも一定のパターンがあってね!
そいつを読み取ってしまえば、実に簡単なコトなのさ!」
 解説している間にも、戦士は澱みなく刃を繰り出し、恐るべき正確さで、
モンスターたちを薙ぎ倒していく。その動きには一切の無駄がなく、実に優雅で、華麗なものだった。
真司だけでなく、蓮ですらも、放心した様になって見とれている。
(…綺麗な…音楽みたいだ……)
 ふと、真司の頭の中を、そんな思いが過ぎった。
「…さて…と。残るは1匹だけか」
 刃に纏いついたモンスターの体液と脂を振り払いながら、戦士は真司の右隣で立ち竦んでいるモンスターに向き直る。
だが、そいつはひと際大きな声を上げると、高く跳躍した。
戦士の頭上を飛び越え、周囲の景色に体を同化させながら、消えてしまう。
その気配は消え失せ、辺りにはただ静寂と、荒涼とした風景が広がるばかりだ。
「逃がしたか……」
 忌々しそうに舌を打つと、戦士は刃を収め、未だその場に座り込んで呆けている真司に向かって、左手を差し出した。
その手を借りて、真司は漸く立ち上がる。
「あ…あんたは……?」
「話は後だ。君ら、そろそろ時間切れじゃないのか?」
「えッ」
 戦士の言葉に、真司は慌てて己が体を見下ろした。
彼の言う通り、強化スーツに覆われた全身から、細かな粒子が音を立てて溶け出す様に流れ出している。
戦士は蓮に歩み寄ると、失血の為に意識が飛びかけてふらついている彼の体を肩に担ぎ、徐に、目の前のクルマのボディを通り抜けて、現実世界へと戻っていく。
「あッ、おいッ、待てよッ」
 真司も慌ててその後を追った。
441オルタナ02作者代理人:03/03/23 23:17 ID:PbEJh1ad
友人がネタ倉庫で見たオルタナ02の設定に触発され、この話を書いてくれました。
ただ友人は携帯も自分のPCもなく、週に1回のネットカフェでしか書き込めない環境なので、
続きが出来次第私が代わりに載せますのでしばらくよろしくお願いします。
442名無しより愛をこめて:03/03/24 08:52 ID:eajrzRk/
441氏&作者さん
いいね
うーん、正体が気になる・・・

>携帯も自分のPCもなく
ひょっとして紙に書いたものを441氏が打ち込んでいるんだろうか・・・
だとしたらとても乙です。



443名無しより愛をこめて:03/03/27 04:35 ID:8iD2xLnt
保全あげ
444名無しより愛をこめて:03/03/28 21:59 ID:6iqTZ1Q7
>オルタナ02
素晴らしいです。
以前どこかで語られていたあのイラストの物語が、ついに動き出しましたか。
441氏さんも作者さんも頑張ってください。
続きが待ち遠しいですね。
「蓮ッ!蓮ッ、しっかりしてよおッ!!」
現実世界に戻ると、優衣が半分泣き出しそうな表情で、蓮に取り縋っていた。
蓮はきつく目を閉じてクルマのバックシートに横たわり、荒い呼吸を繰り返していたが、
震える手を伸ばすと、優衣の細い背中を優しく叩いた。
「大丈夫だ…泣くな、優衣……」
それから薄らと目を開け、その場に立ち尽くしている真司に気づくと、
口許を歪めて、皮肉っぽく呟いた。
「まさか、お前に殺られるとは、思ってもみなかったぜ、城戸……」
「ヤなコト言うなよッ、不可抗力だろッ」
唇を尖らせながらも、真司は蓮に駆け寄り、心配そうにその顔を覗き込んだ。
「蓮…」
「何だよ…お前までそんなカオするコトないだろうが……」
「だッ…だってッ……」
涙声で言葉を詰まらせる真司の顔を見上げて、蓮は淡く微笑む。
「斬られたのは腕だぜ…?大丈夫だ、大したコトはない、安心しろ」
「でも、出血が酷いからね。病院に行って、ちゃんと診て貰ったほうがいいよ」
不意に背後から掛けられた声に、真司は弾かれた様に振り返り、蓮は繭を寄せる。
そこには、ほっそりと華奢な体躯を黒い衣服で包み、明るい茶色に染めた長い髪を風に揺らめかせた青年が立っていた。
その声が、先刻ミラーワールドで自分たちの危機を救ってくれた謎の戦士のものであること、
そして、その姿が、墓地で擦れ違った女性のものであることに、真司は驚愕の色を隠せない。
(男…だったのか……)
だが、女性と思い込んでしまったのも無理はない、と思えるほどに、青年は甘く整った顔立ちをしていた。
大きな瞳を縁取る睫は長く、透ける様に白い頬に、蒼い翳を落としている。
その所為か、幼いともいえる容貌の割に、何処か寂しげな雰囲気が漂っていた。
「君、悪いけど、これで彼の傷口を縛ってくれないかな」
その形の良い唇に穏やかな微笑を浮かべながら、青年は手にした数枚のタオルを真司に向かって差し出した。
手渡されたそれの柔らかな感触に、真司は我に返り、慌てて蓮に向き直る。
「蓮くん、だっけ?服、自分で脱げる?無理だったら、そのままでいい」
顔を顰めながらTシャツの裾を捲り上げ、袖から抜き出された蓮の右腕には、
ドラグセイバーの鋭い刃に切り裂かれ、鮮血を噴き出す傷が、ぱっくりと口を開けていた。
それを見て、優衣は顔を引き攣らせ、真司は思わず目を伏せて、唇を噛み締めながら俯く。
「ごめん…蓮…」
「謝るのは後にして。そのタオルで傷口の少し上…腕の付け根を縛って。少しキツいくらいでいい」
青年に促され、真司は震える手で、彼の指示通りに蓮の右腕にタオルを巻きつけ、その両端を強く結んだ。
「取り敢えず、これで出血は治まる筈だから。後は病院で処置して貰ってね」
「あッ、有り難うございましたッ」
滲んだ涙の雫を指先で拭いながら、優衣は深々と頭を下げた。だが、蓮はゆらゆらと首を横に振った。
「病院には行かねえ」
「蓮ッ?!」
「嫌いなんだ、病院。どうしてこんな怪我をしたのか、説明すんのも面倒臭いし。……それより、お前」
顔を上げて、蓮は青年を睨みつける。
「一体、何者だ?神崎が選んだ、新しいライダーか?だったら…やろうぜ」
「なッ、何言ってんだよ、蓮ッ?!この人は、俺たちを助けてくれたんだぞッ?!」
「助けてくれと頼んだ覚えはない。お前は黙ってろ、城戸」
「蓮ッ!」
 カードデッキを取り出そうとする蓮の左手を優衣と2人で必死に抑えながら、真司は青年を振り返る。
今の蓮の状態では、あの見事な剣技を誇る青年に勝てる筈もない。
どうか、蓮の挑発に乗らないで欲しい、と、真司は祈る様な思いで青年を見遣った。
「…悪いけど…僕は君と…いや、君たちと戦うつもりはないよ。それに」
青年は困った様に細い肩を竦めて苦笑いながら、ゆっくりと蓮に歩み寄った。
そして、その優しげな風貌と口調とを厳しいものに変えながら、徐に、蓮の目前に己が右腕を突き出す。
「病院には、必ず行って。僕みたいになりたくないなら、ね」
蓮だけでなく、真司と優衣も、思わず息を呑む。左手でシャツの右袖のボタンを外し、
袖口を口に咥えて捲り上げた青年の右腕には、あるべき筈の肘から先の部分が無かった。
言葉もなく自分の右腕を凝視する3人に、青年はシャツの袖と口調を元に戻しながら、柔らかく微笑む。
「解かったら、早く行って。さあ」
「あッ、あのッ」
踵を返しかけた青年の背に、いち早く動揺から立ち直った真司の声が飛ぶ。
眉を潜めて怪訝そうに振り返った青年は、その大きな瞳を瞬かせて、真司を見た。
「あんた…先刻、墓地で会った…よな?」
「…それがどうかした?」
妙に固い声と表情で、青年は答える。
「手塚の墓に花を供えてくれたのは…あんた、なのか?手塚とは…その…どういう……」
「昔の知り合いさ」
真司の問いを、冷たいとも思える態度で素っ気なく遮ると、青年は再び背を向けた。
だが、真司にはその背中がやけに小さく、寂しそうに見えた。
緩やかなカーヴを描く坂道を、青年はゆっくりと歩いて下っていた。
利かん気の強そうな、蓮、と呼ばれていた彼を病院に行かせる為だったとはいえ、
この右腕を見せてしまったのは、少々悪趣味が過ぎたかな、と、
3人の驚愕の表情を思い返し、青年は苦笑する。
いつもは義手を着けているのだが、今日ばかりは、在りのままの姿の自分でいたかったのだ。
大好きだった“彼”に逢いにいく、この日だけは。
(海之……)
自分の代わりに望まぬ戦いの中に身を置き、逝ってしまった親友のことを思う。
本当なら、戦って死ぬのは手塚ではなく、自分だった筈だった。
あの時、神崎士郎の誘いに応じていたなら、カードデッキを受け取っていたら、
こんなにも早く手塚が逝くこともなかった。今でも、生きて、幸せに暮らしている筈だった。
手塚から未来を奪ってしまった、という苦い後悔が、青年の胸を衝く。
(僕は…馬鹿だ……自分のことしか考えずに…きみを……)
その時、1台のクルマが青年の目の前で停まった。助手席側のウィンドウが開き、
メタルフレームの眼鏡を掛けた、神経質そうな細面の中年男性が顔を覗かせる。
「やはりここでしたか」
「…教授(せんせい)…」
その男性は清明院大学教授・香川英行であった。
運転席では、香川の研究室で助手を務めている学生・東條悟が、いつもの仏頂面でハンドルを握っている。
香川は後部座席のドアロックを外すと、青年に、クルマに乗るように促した。
「先刻の戦闘の映像データ、届きましたよ。いや、実に見事な戦い振りでした」
「いえ……」
 シートに凭れ掛かりながら、青年は睫を伏せる。
「すみません、黙って出掛けたりして……」
「構いませんよ、今日は彼の…仮面ライダーライアの月命日でしょう?
君と彼は親友同士だったと聞いていますから」
「僕の親友は、手塚海之です。ライアじゃない」
香川の言葉を、らしからぬ強い口調で遮ると、青年はふい、と横を向いた。
失敬、と呟いて、香川は肩を竦め、東條は眉を潜めて、バックミラー越しに青年を睨みつける。
「教授に向かって、その口の利き方はないんじゃないかな。教授が居なければ、
君なんか、とっくの昔にモンスターに食われて死んでるところだったんだよ?もう少し…」
「東條くん」
香川に窘められて、東條は不満そうな表情ながらも、口を噤んだ。
「そんなことは、殊更言わなくても、彼だって解かってますよ。
だからこそ、彼は進んで私たちの崇高な目的の為に、危険を冒してまで協力してくれているんです。
感謝するのは私たちのほうですよ」
(違うな。僕が戦うのは、貴方たちの為なんかじゃない)
胸の内で呟いて、青年は嘲笑う。
戦うのは、ただ、手塚の為。
自分の身代わりに戦って死んでいった、何よりも大切な親友の為だ。他の誰の為でもない。
「―――どうしました?」
怪訝そうな香川の声に、青年は掠れた声で答える。
「すみません、少し疲れました…眠ってもいいですか?」
「どうぞ。着いたら起こして差し上げますよ」
「有り難うございます」
心地良い震動に身を任せて、青年は瞼を閉じる。その目から、涙の雫が零れ落ちた。

きみのため  僕が戦うのは  ただ  きみのため―――
450オルタナ02作者代理人:03/03/30 00:14 ID:1xal7eco
とりあえず、第1部終了です。

>>442さん
>ひょっとして紙に書いたものを打ち込んでいるんだろうか・・・
いや、コレの作者はフリーメールを持っているので
ネットカフェで一気に打ち込んで私の方に送ってるんです。
私は流すだけ〜♪

>>444さん
ありがとうございます。この話を作者に話したら
「反響があると頑張れる」、と言ってました。
まだまだ続くので今後もおつき合いよろしくお願いします。
451名無しより愛をこめて:03/03/31 03:28 ID:dzsQX2e5
「帰還」を書いてる者です。
読んでくださった方々、ありがとうございます。
長い間止めてすみません。

(1)(2)を修正したものと、新規分の(3)(4)を
これからupします(最初からやりなおしになって、申し訳ありません)

次からレスです。これも遅くなってすみません。

>>429
ありがとうございます、嬉しいです。
士郎が蓮と恵里の関係を知るいきさつもたぶんこれから書くと思いますが…
やっぱりピーピング士郎にするしかないのか?と少し悩んでます(w

>>430
ありがとうございます。私も超全集でショックを受けましたが、
それでも神崎兄さんが好きというのもあって、この話を書いて見ました。
神崎士郎の恐ろしさ、非情さも魅力ありますが、やはりおっしゃる通り
「妹のためにここまで・・・」という哀しさが一番出せればと思ってます。
(楽しんでもらえるように、うまく書ければいいのですが)

>>450
乙です。
面白かったです。オルタナ02の設定は知らなかったのですが、
びっくりしました。斎藤雄一君が中の人(wだったとは…
雄一君が好きなら「宇宙船」で紹介されてた、すんなりガルドサンダーと
契約してライダーになった彼も、ぜひ書いていただきたいですね。
452帰還(1)2002年12月:03/03/31 03:33 ID:dzsQX2e5
アメリカ、某州アクレイ大学近隣の小さな墓地の一角に、
ひとつの墓石がある。
まだ比較的新しいが、花の供えられた形跡もない。
その前に一人の女が立った。

SHIRO TAKAMI
1977.9.29 - 2001.4.15

埋葬されている者の名を確認すると、
女は墓碑銘を声に出して追いはじめた。
「彼の生涯は……捧げられた…ことのみに…救う…
妹………」
          *

優衣に翼を与えてやりたかった。
飛べるのは、鏡の中の大空だけだとしても。

だが与えることができたのは黒い羽根だけだった。
そして黒い羽根を持つ優衣は、もはや本当の優衣ではなかった。

本当の優衣を取り戻して見せる。
どんなことをしてでも。誰を犠牲にしても。
今度こそ。
453帰還(2)2001年4月15日:03/03/31 03:35 ID:dzsQX2e5
凄まじい爆発とともに、実験用の鏡も実験室の窓もすべて吹き飛んだ。
ガラスの破片で埋め尽くされた床に伏した白衣の男の周りで、
パニックに陥ったアメリカ人たちが口々に喚き、実験室から逃げて行く。

血まみれの顔を上げた男が見たのは、予想した通りのものだった。
自分をじっと見下ろしている少年。
くる日もくる日も妹と一緒に絵を描いて過ごしていた頃の自分。
たった今、砕け散った鏡の中から抜け出してきたのだ。
大人になった自分の喚び出しに応じて。

これでいい。仮の優衣を取り戻したあの時と同じだ。
実験は成功した。この国でずっと探してきた甲斐があったというものだ。
自分と優衣が幼い頃に作り出した、鏡の世界を支配する方法を。

「本当にいいの?1年たったら、消えちゃうんだよ・・・こっちの世界からは」
少年が男に念を押す。
「1年あれば十分だ・・・早く、俺に鏡の命を・・・」
うなずいて、少年は歩み出した。瀕死の男の身体に向かって。

避難していた人々が男を救出するために戻ってきたとき、
すでに白衣の身体に息はなかった。
ポトラッツという長老格の教授が悲し気な溜息をつき、頭を垂れた。

その場の誰も知らなかった。
同時刻、遠く離れた日本−−東京にある空家となった邸宅内に、
たった今アメリカで死んだはずの男が姿を現したことを。
覆いのかけられた、大きな鏡の中から。
454帰還(3)2002年12月:03/03/31 03:42 ID:dzsQX2e5
がらんとした花鶏の店内。
渡す相手のいなくなったクリスマスプレゼントを見つめながら、
去年のことを思い出す沙奈子。

あれは桜が散ってまもない頃だった。
アメリカから突然来た訃報を聞いて電話口で立ちすくむあたしの後ろで、
不思議な音がしたんだ。
振りかえると、士郎がいた。たった今その死を知らされたばかりの。
イタリアで見つけて買ってきたアンティークの壁掛け鏡の中に。
だけど、あたしはたいして驚かなかった。怖くもなかった。
ただ、胸を締めつけられるような気がした。
あの子の眼の中に渦巻く、黒い炎を見てしまったからなんだよ。

士郎は何も言わなかった。でも分かった。
自分が死んだことは、優衣には知らせないでくれ。
そう言いに来たんだってことが。
わかったよ・・・何か、考えがあるんだね。そうだろ?
お前が優衣を残してそう簡単に死ぬはずがない。
あのとき、あんなに優衣と別れるのを嫌がったお前が。

お前なら、優衣が消えなくてもいいようにしてくれる…そんな気がした。
たとえこの世の者でなくなっても。
死んだはずのお前が日本の大学にいるらしいことも、その後本当に
消えてしまったことも、しばらく店を留守にして帰国したら
見知らぬ若者たちが次々と優衣の周りに現れ始めたことも、
きっとお前が優衣を守るためにしていることと何か関係が
あるんだろうって気がした。それもあって、真ちゃんと蓮ちゃん、
それにもういないけど手塚くんをこの家に置くことにしたんだ。
でも、だめだったんだね・・・   
455帰還(4)2001年8月:03/03/31 03:54 ID:dzsQX2e5
401号室の実験前日。
海に向かうバイクの後部で、蓮の背中を見つめながら思いにふける恵里。

あの人は、この世の者ではない。
新学期が始まって、初めて研究室で会ったときからそんな気がしていた。
「今度一緒の研究室になった先輩で、ちょっと怖い人がいるの」
「怖い?」
「うん・・・今年清明院に来るまでずっとアメリカの大学で研究してて、
ただ者でなく優秀らしいんだけど、そういうのとはまた違った意味で
普通じゃない感じなんだ。なんか、幽霊みたいで」
その日迎えにきた蓮にそういったら、やっぱり鼻先で笑われてしまった。
「学者には変わり者が多い。前にそう言ったのはお前だろう。
それに、仮に本当に死んでる奴だったとして何か問題があるか?
本当に怖いのは死人じゃない。生きてる奴だ。
くだらんこと考えてて、単位を落とさないように気をつけるんだな」
「もう。茶化さないでよ」
「生きてる奴でお前に妙なことを仕掛けてくるのがいたら、
いつでも言え。俺が適当に片付ける」
「また!こないだケンカした時の傷もふさがってないのに・・・」

蓮には分かってもらえなかったけど、私には分かる。
父さんと母さんがいなくなる前、嫌な予感がしたように、
分かりたくないけど分かってしまう。神崎先輩はただの人間じゃない。

海に着いたら、蓮に頼もう。明日はいつもより早く迎えにきてって。
神崎先輩が計画した実験というだけでも憂鬱なのに、被験者の中でも
メインの役割を任されることになってしまった。どんな実験か知りたくても、
神崎先輩は理論物理学の応用だとか適当なこと言うだけだし、
明らかに神崎先輩を恐れている江島先生は何も答えずに逃げ出しちゃった。
本当は実験自体参加したくないんだけどな。せっかくの誕生日なんだし・・・
456451:03/04/01 00:04 ID:JTqkTpqm
(帰還(1)(2)の主な修正内容)

士郎の生年月日と没年月日を、TV33話の令子の台詞(「高見士郎は4月に死亡」)
と、47話で令子が持っていた死亡診断書に基づいて追加・変更しました。
あと、(1)の季節を夏から12月に変えました。

読んでくださった方いたら、ありがとうございます。
457名無しより愛をこめて:03/04/03 22:38 ID:Fbx4uJBa
「きみのため」
手塚を悼む雄一の哀しみが切なく伝わってきますね。
あのイラストと添付のストーリーが好きだったので
オルタナ02が格好良く優雅に描写されているのにも感動しました。
続きがとても楽しみです。


「帰還」
破滅の始まりが徐々に静かに語られていく様が良いですね。
これからの神崎の暗躍と暴走とを期待しています。
こちらも続きが楽しみですね。
458名無しより愛をこめて:03/04/06 12:27 ID:U1/Bm+yb
しばらく覗いていなかったらこんな展開になっていましたか。
こういうのも良いですね。
459451:03/04/06 16:50 ID:xW4BXPmx
とりあえず「帰還」の続きをupします。
(まだ1コしかできてないのですが、随分下がってきたので)

>>457
読んでくださってありがとうございます。
だんだん神崎を取り巻く人々の語り物になってきましたが(汗)、
私自身も兄さんの暗躍と暴走が楽しみなので頑張ります。

>>458
カキコどうもです。最近ここでも他のSSスレでも色々な方が色々な話を
書いてるので、読むのが楽しいですね。
460帰還(5)2002年4月:03/04/06 16:56 ID:xW4BXPmx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (1)

誰だ・・・
例の研究ファイルにはさんであった写真の中で、
あいつと一緒に映っていた若い娘に似ている。
そうか。おまえが、神崎士郎の妹か。

1年近く前、魔が差してあの研究ファイルを盗み見たのが
すべての災いの始まりだった。
魔が差した・・・?  違う。すべて神崎が仕組んだことだ。
わざと私の机のそばに自分の全研究記録を収めたファイルを置き、
手に取るように仕向けたんだ。
それを一度見てみたいという、私の気持ちを見抜いた上で。

その少し前、私が「偶然」目撃してしまったことだって
奴が自ら仕組んだに決まっている。
講義の準備で401号室に入ろうとした時、奥にある実験用の
鏡の中から、神崎が歩み出してくるのが見えた。
まるで垂直な水面から浮かび上がるように・・・

自分の目が信じられず、かといって見たものを否定することも
できず、扉の蔭に隠れるように立ち尽くすしかなかった。
そんな私の脇をさっさと通り過ぎ、神崎は401号室から出ていった。
こちらの存在には全く気づかず−−気づかないふりをして。

奴が去った後も、しばらくは扉の蔭から出る気になれなかった。
いったい何者なんだ、あの男は。
そもそも何故この研究室に来た?
研究者として、明らかに私など足元にも及ばないレベルに
達しているというのに・・・たった25歳という若さで。
461帰還(6)2002年4月:03/04/07 00:11 ID:cyrocx/p
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (2)

そうだ。確かに私は、あの男に嫉妬していた。
だが私が神崎の研究ファイルに手を伸ばしたのは
嫉妬からというよりも、学者としての好奇心からだった。
奴の研究してきたことと、奴が見せた信じ難い現象の間には
必ず関係があるに違いない。
ファイルを見れば、奴が本当に鏡から出てきたのか、もしそうなら
どうやってそんな芸をやってのけたのかを解く鍵が見つかるだろう。
そう思ってのことだった。嘘じゃない。
だがいずれにせよ、すべては奴の計算通りだったのだ。
私の嫉妬も好奇心も。
どちらもまもなく恐怖一色に塗り潰されたが。

翌日再び401号室に行くと、私のいつも使っている机のそばに
神崎の研究ファイルが置いてあった。見てくれといわんばかりに。
一瞬ためらった後、手に取って開き、次々にページをめくってみる。
…「MIRROR WORLD」? モンスター? 仮面…ライダー?
何についての研究なのか、私には全く理解できなかった。
いや、それが科学的根拠に基づいた「研究」と言えるのかどうかさえも。
見ようによっては、狂人のたわごとの連なりとしか思えない。
そもそも鏡に出入りするなどという現象こそ、狂人の妄想の
産物と思われて当然ではないか。私がこの目で見ていなければ――
それともあの神崎を見たとき、私はすでに狂ってしまっていたのか?
ファイルの内容を追う思考が、次第に耐えがたいほど混乱してくる。

だがそれは、突然響き始めた耳障りな音によって断ち切られた。
はっとして顔を上げた私の目に、実験用の細長い鏡が映った。
そしてその奥から私を睨みつける、顔と胸から長い触手を垂らした
真っ赤な化け物も。
462名無しより愛をこめて:03/04/10 23:05 ID:xNql89kI
今度は江島先生の視点で神崎が語れらますか。
この回想の果てにあるものも楽しみです。

…物語の流れを中断してしまったかも。
でも、もうやっちゃたから…。
463帰還(7)2002年4月:03/04/13 21:08 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (3)

床にファイルを落とし、そのまま401号室を飛び出したことだけは
覚えている。恥も外聞もなく悲鳴を上げながら。

気がつくと、教職員棟の自室の前まで来ていた。数回失敗した後、
やっとドアの鍵を開けて転げるように中へ入り、すぐまた施錠する。
そこで気力が尽きた。喉をぜいぜい言わせながら座り込む。
激しい動悸。滝のような冷や汗。それは徐々におさまってきた。
だが恐怖は逆に増すばかりだった。
いったいあれはなんだったのだ。あの音は。あの化け物は。
ファイルを盗み見たという後ろめたさが作り出した幻覚か?
トゲに覆われた頭と肩。硬く盛り上がった節の刻まれた腕。
顎から突き出た一対の巨大な牙。
いや。幻覚ならあんな細部まではっきり覚えているはずはない。
一度見たものはすべて頭の中に入ると常々言っている、
香川教授のような記憶力があるわけでもないのに・・・
頭部に通常の生物の目らしいものはなかった。だが分かる。
あいつは、私をじっと見ていたのだ。鏡の中から。
鏡! そういえばこの部屋にもひとつあったじゃないか・・・
振り向きたくない気持ちを無理やり押さえつけ、
部屋の奥の壁に取り付けてある鏡に目を向ける。

あの化け物は映っていなかった。
だが考えようによってはもっと恐ろしいものが鏡の前に立っていた。
神崎士郎が。
464帰還(8)2002年4月:03/04/13 21:10 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (4)

白衣を着て立っているのに、うずくまる大鴉のように見える神崎が
こちらを見つめている。黒すぎる眼で。
あの日以来今日まで、一度も私の脳裏を去らなかった映像だ。
あの赤い化け物が、今日まで私を追い続けて離れなかったように・・・

ご心配なく、先生。あいつは鏡の中からは出てこられません。
再び絶叫しそうになる私に向かって、神崎が口を開いた。
ではやはり、すべてはこいつが仕組んだことだったのか。
鏡から出てくるところを見せたのも、ファイルを401号室に置いたのも、
そしてあの化け物を差し向けたのも。
「い、いったいどこから入ってきたんだ、神崎君」
何とか気を取り直して聞いてはみたが、とっくに答えは分かっていた。
神崎もわざわざ答えようとはしなかった。代りに、こんな風に語り始めた。

知りたいのでしょう。私が鏡を出入りできる理由を。あの怪物の正体を。
私がここに来るまで研究していた事を。そしてこの研究室に来た理由を。
そのすべてをお話しするために、ここへ来ました。
もうお分かりとは思いますが、先生がさっき見た私のファイル、あれを
401号室に置いたのも先生にお見せしようと思ってのことでした。
あの中に、ミラーワールドという言葉がありましたね。
そう、鏡の中にある世界のことです。幼い頃、私と妹が作りだしました。
あなたがさっき見たような怪物と一緒に。
あいつの名はテラバイター。ここから生まれました。

そういうと神崎は白衣の懐から畳んだ一束の紙を取り出し、床に放った。
明らかに子供が描いたと分かる絵ばかりが、十数枚散らばる。
465帰還(9)2002年4月:03/04/13 21:12 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (5)

子供の絵にしては、いや子供の絵だからだろうか、
クレヨンの線に不思議な力強さが感じられた。
だが私が恐さも忘れて驚いたのは、線が表現するものを見たためだ。
画用紙からはみださんばかりに身をくねらせる、龍に似た生き物。
長い角を持つ、野牛ともロボットともつかぬ二本足の生き物。
両手に巨大な爪を生やした、青い縞のある生き物。
三角形の体に長い尾のついた生き物。
直立二足歩行のシマウマのような生き物。
そして顔から長い触角の生えた、あの赤い化け物らしき生き物。
…………
いかに子供の想像力が自由奔放とはいえ、
よくもこれだけ奇怪な化け物ばかり描いたものだ。
待て。神崎はさっきの化け物が「ここから生まれた」と言ったのか。
自分と妹が作り出した、とも。どういうことだ?
私の心を読み取ったように神崎が右腕を上げ、肩越しに鏡を指差す。
同時にあの耳を刺すような音が部屋の中に響き始める。
今度こそ私は再び絶叫した。
神崎の背後の鏡面に無数の化け物が出現し、奇怪な吠え声や
唸り声をあげながらこちら側へなだれ込もうとしているのが見えたのだ。
床の上の絵に描かれた化け物と似たのもいくつかいた。
赤い胴をくねらせる巨大な龍。鉄のサイのように無骨な生き物…

大丈夫、こちらへはこられないと言ったでしょう。今のところは。
相変わらず瞬きもしないで私を見つめながら、神崎が言う。
すべて私と妹が幼い頃に描いてミラーワールドに放し、
動き回れるようにしたものです。私たち兄妹を守らせるために。
命を吹き込んだ、というのとは少し違いますが。
ミラーワールドに、こちら側でいう命のあるものは存在できません。
466帰還(10)2002年4月:03/04/13 21:13 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (6)

「なら、鏡に出入りする君はいったい何だ。幽霊だとでもいうのか?」
半ばヤケ気味に嘲笑しながら言った私に、神崎はあっさり答えた。

そうです。この世の命と引き換えに、ミラーワールドでの命と支配権を
手に入れました。といってもまだしばらく実体は残っていますから、
今のところは幽霊ともいえないでしょう。私にはどちらでもいいことですが。

凍りつく私にかまわず、神崎はなおも言葉を続けた。
江島先生。私があなたの研究室に来たのは、
ミラーワールドを開くために協力していただきたいと思ったからです。
なぜ数ある清明院の研究室の中でここを選んだか、ですか?
江島研究室にいる、ある人間が必要だからです。
ご存知でしょう、学部生の小川恵里を。
アメリカでミラーワールドの研究と調査を重ね、様々な情報を集めるうちに、
私は日本在住のある一家の者たちに特殊な性質があることを知りました。
彼ら自身はミラーワールドを見ることができないにもかかわらず、
ある条件の下でミラーワールドとこの世の接点になる性質が・・・
それが、小川恵里の一家だったのです。
その性質を持っていたばかりに、彼女の両親は今から十数年前に
ミラーワールドに吸い込まれて消滅しました。ミラーワールドが一瞬だけ開き、
私が仮の優衣を取り戻したあの時、条件が揃ってしまったのでしょう。
そう。私が殺したようなものです。知らなかったこととはいえ。
そして、残った娘まで犠牲にすることになるかもしれません。今度は意図的に。
ミラーワールドを開いたままにするには、この世にたった一人残った
その特殊な性質の持ち主、小川恵里がどうしても必要だからです。
もちろん可能な限り、彼女に対するダメージを少なくするようにはします。
だがミラーワールドが開く際の衝撃がどれほどのものになるかを
予測することは、私にもできないのです・・・・・・
467帰還(11)2002年4月:03/04/13 21:14 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (7)

小川恵里はいわば、ミラーワールドの鍵です。
妹の優衣同様今ではこの世とミラーワールドの間の存在である私の力と、
ミラーワールドの接点となりうる彼女の性質を使えば、
今までのように一瞬ではなく、常にミラーワールドを開いておくように
することができる。私はそのことも、アメリカでの研究で突き止めました。
そうすれば、契約モンスターたちがいつでもこちらの世界に
来られるようになります。彼らの主人が契約に背き、勝手に
ライダーバトルから降りたりすることのないよう、監視するために。
もちろん、それ以外の雑魚モンスターも来ることになるでしょうが。

嫌だとおっしゃっても協力していただくことになります。
でなければ、あなたはテラバイターに食い殺されることになる。
モンスターは一度狙った獲物をあきらめません。
まだこちらと自由に行き来することはできませんが、
私が手を貸してやれば話は別ですから・・・

「小川恵里が鍵だと?それに契約モンスター? ライダーバトル?
いったい、何をわけのわからないことを言っているんだ。
いやそんなことより、君の言うたわごとがすべて本当なら、
ミラーワールドとやらを開けば、どのみちいつかはあの赤い化け物か、
それ以外のやつらに狙われた挙句食われることになるんだろう。
それが分かっていて協力するほど、私が馬鹿だと思っているのか」
精一杯の勇気を動員してそう言い返す私に、奴は無造作に言った。

ご明察です、先生。だからこそ先生にはお礼を用意しました。
私が作った封印のカードです。これを持っている限り、
たとえミラーワールドが開いた後でもモンスターは近づけません。
ですから、協力していただけますね?
468帰還(12)2002年4月:03/04/13 21:18 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (8)

神崎はすべてを私に話すようなことを言ったが、でたらめだ。
奴がミラーワールドについて私に明かしたことは、氷山の一角に過ぎない。
そのくらいは私にだってわかる。
なぜ奴は子供の頃、ミラーワールドなどを作ったのか。
なぜあれだけたくさんの人食いモンスターなどを描いて、
自分と妹を守らねばならなかったのか。
そもそも、やつがことあるごとに言及する妹とは、何者なのか。
何故奴は今になってミラーワールドを開こうなどとしているのか。
そしていったい、何をしようとしているのか。
奴の言うことを信じるなら、自分の命を犠牲にしてまで…

最後の2つの疑問については、解けるかもしれないと思った。
「小川恵里の両親ばかりか、彼女自身まで犠牲にする可能性がある。
そしてモンスターがこの世に来るようになれば、
罪もない大勢の人が食われることになる。
それを承知の上でミラーワールドを開こうというのか、君は。
なぜだ。なんのためにそこまで酷いことをするんだ!」
やっとの思いで問う私に、奴は不気味な笑みを浮かべてこう答えたからだ。
それは、ミラーワールドが開いたときにお答えしましょう。

そしてあの実験の後。
神崎は実験用の鏡の中へと消えていった。
神崎に関わるようになってから体験した恐怖すべてを軽く越える恐怖と
後悔の念で呆けたようになっている私に、こう言い残して。

ご協力を感謝します、先生。実験は成功しました。
これでライダーたちを戦わせて、妹を――優衣を助けることができます。
さあ、お約束した封印のカードです。くれぐれも紛失などされぬよう…
469帰還(13)2002年4月:03/04/13 21:19 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (9)

「ライダー」を戦わせて、「妹」を助ける。
それがミラーワールドを開いた理由なのか。
それが奴のしようとしていることなのか。
だがそれに、いったいどういう意味があるというのだ?
結局、神崎は何一つ肝心なことは私に明かさなかった。
私を脅し、利用し、捨てただけだったのだ。

神崎に手渡された封印のカードをぼんやり見つめる
私の目の端に、若い男が映った。
ああ。時々学内で見かけたことがある。小川恵里の恋人とかいう青年だ。
今は床に倒れたまま、身動きひとつしない小川恵里の。
やはり神崎に渡されたらしい、黒い板のようなものを持って立ち尽くしている。
彼と、神崎の間に何があったのかは分からない。
コウモリに似た巨大なモンスターが鏡の中から出現してから、
神崎が封印のカードを差し出すまでの記憶が、完全に飛んでいた。
だが青年の黒い板と、消えた神崎がこれからやろうとしていることには
何かつながりがあるような気がしてならなかった。
「ライダー」。「契約モンスター」。
奴の言った、あの謎の言葉に関わることかもしれない。
だが、もうどうでもいいことだ。じきに私は死ぬのだから。

許してくれ、田宮君、西本君、仲村君。そして、小川君・・・
私はただ、死にたくなかった。
とにかく、神崎のいうことを聞いて封印のカードを手に入れなければ。
ただその一心で、悪魔に魂を売った神崎の計画の片棒をかついだのだ。
470帰還(14)2002年4月:03/04/13 21:22 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (10)

だが待っていた結果は、あのまま赤いモンスターに食われていた方が
まだましだったと思えるようなものだった。
恐怖と罪の意識に耐えられず、大学を辞してあてどない放浪を始めたが、
あいつはどこまでも私を追ってきた。封印のカードを持っていても。
カードをかざせば一瞬は怯んで消えるが、すぐにまた現れる。
普通の鏡でなくとも、窓ガラス、水たまり、車やバイクのボディ等、
あらゆるところからあの耳障りな音を響かせて。
教え子ばかりか、世の人々すべての命を神崎に売り渡したも同然の私を
さいなみ続ける、凄まじい後悔の念と道連れになって…
私のせいじゃない。
あんなことになるとは思わなかったんだ。
そう呟くごとに、罪の意識は逆に重くなっていった。
そして今、封印のカードもなくなり、いるはずのない神崎の助けを求めて
清明院へ戻ってきたところで、ついに赤いモンスターに襲われた。

なぜ、こんなことになった。
なぜ私はこんなところで死ななければならない。
「これで妹を…優衣を助けることができます」
神崎はそう言った。
そうだ。あいつの妹こそ、すべての理不尽な運命の根源なのだ。
今私を見下ろしている娘が。

「そうだ、神崎優衣。あんたさえいなければ・・・・・・」
471463:03/04/13 21:45 ID:QAOe1rlx
帰還の続きができたので、upします。

一応自分の考えだけを使って書いているつもりでいますが、
他スレでもいろいろな説が議論されてきた部分の補完なので、
もしかしたら過去に誰かが言った説と同じになっている所も
あるかもしれません。その時はご容赦くださいませ・・・

>>462
いえいえ、全然大丈夫です。先週はあとひとつくらい
upしたかったのですが、結局中途半端になってしまい失礼しました。
今回も読んでくださって、ありがとうございます。
江島先生の回想は一応これで完了ですが、まだ神崎の被害者や追っかけ(wが
残っているので、次はそちらの人たちの番になると思います。
たぶん、また来週末以降upします。
472名無しより愛をこめて:03/04/15 07:13 ID:Adk3BJw5
続き期待age
473名無しより愛をこめて:03/04/16 17:31 ID:fNwx5EY3
オルタナ話も帰還も(・∀・)イイ!!
続き楽しみにしています。
474名無しより愛をこめて:03/04/19 18:39 ID:xgpOkdz1
続き読みたいんで保守します
475山崎渉:03/04/19 23:33 ID:Sbhbk2zA
   ∧_∧
  (  ^^ )< ぬるぽ(^^)
476帰還(15)2002年11月:03/04/20 23:47 ID:kBbIbLRl
ミラーワールドで、東條に運ばれて行く香川教授の回想 (1)

なぜあの日、401号室の床に神崎士郎の研究ファイルが
落ちていたのかはわからない。
その少し前に教職員棟を出ようとした時、血相を変えて
駆け込んできた江島教授とぶつかりそうになった。
「江島先生。どうされました?」
あまりに凄い表情だったので振り返って声をかけたが、
階段を駆け上がり始めた彼の耳には届かないようだった。
そのまま401号室へ行き、ファイルを見つけて
拾い上げ、見てしまった。つまり頭に入れてしまった。
不意に現れた神崎が無言でそれを取り上げるまで。
そして運命は変わった。見ていなければ、今、
妻と子供を残してこんな所で死ぬこともなかったろう。
自分の教え子の手にかかって・・・

東條か。
いったい私は、この青年の何を知っていたというのだろう。
少し偏ったところはあるが、優秀な上に素直で真面目で、
自己犠牲の精神に溢れる青年としか見ていなかった。
その心の中にどんな闇が潜んでいるかなどとは考えもしなかったのだ。
仲村を殺したのも、若者故の血気と未熟さによる暴走だと思っていた。
その「欠点」に何度も苛立ちはした。だが、私の訓戒で徐々に
矯正していくことができるだろう――そう考えていた。

私にミラーワールドの研究ファイルを見られた。
それ自体は神崎の誤算だったかもしれない。
だが今私の身に起こっている事は、あの男の巧妙な策略の
結果ではないだろうか。
そして同時に、私の自業自得に他ならないのでは……
477帰還(16)2002年11月:03/04/20 23:48 ID:kBbIbLRl
ミラーワールドで、東條に運ばれて行く香川教授の回想 (2)

あの時まだ神崎は、私の特殊能力を知らなかったはずだ。
だがその後知った可能性はある。江島教授を通して。
江島教授には、何度か私の能力について話したことがある。
そしてあの日以来、妙におどおどした江島教授と神崎が
共に何かの研究に没頭しているのを、何人もが見ているのだ。
いずれにせよ、ファイルを見た私が奴の計画を察知して
止めようと決心するのは時間の問題だということを、
神崎はすぐに悟ったに違いない。
だから、東條悟にカードデッキを渡したのかもしれない。
彼の性格に潜む闇を見ぬいた上で。
そして、彼が私に心酔していることを知った上で。
でなければ、自分を裏切った者をそのままにしておくはずはない。
デッキを受け取った後、私に協力してミラーワールドを閉じると
申し出てきた東條を…

東條がいなかったら、オルタナティブの開発は当初から
頓挫していたに違いない。仲村の協力があったとはいえ。
研究ファイルの内容はすべて頭に入っていたが、
カードデッキ、それにミラーワールドとモンスターについての
詳細な情報を彼から入手し、またタイガとなった彼の助けを得て
ミラーワールドに出入りしながら実験と訓練を繰り返したからこそ、
あの短期間で私のオルタナティブ・ゼロ、そして仲村の
オルタナティブの実戦投入が可能になったのだ。

これで、神崎優衣を亡き者にし、ミラーワールドを閉じることができる。
私はそう確信した。
神崎に妻子を人質に取られても、その確信は変わらなかった。
478帰還(17)2002年11月:03/04/20 23:52 ID:kBbIbLRl
ミラーワールドで、東條に運ばれて行く香川教授の回想 (3)

家族を失いたくない。
オルタナティブのデッキを渡して、すべてを諦めよう。
一瞬たりともそう思わなかったと言えば嘘になる。

だがしばらくして神崎にこう言ったとき、私は勝ったと思った。
「答えは出ているんですよ。最初からね」

私はお前や秋山蓮とは違う。
大切な人間への愛情も、度を越せば妄執と変わりない。
妹ひとりのために多くを犠牲にしようとしているお前ではなく、
多くの人々のためにお前の妹ひとりと、自分の家族を
犠牲にしようとしている私の勝ちだと。

もちろん、典子と裕太だけを死なせるつもりなどなかった。
実際にミラーワールドを閉じる時がきたら後の処理を東條に任せ、
自分はミラーワールドに残ってそのまま死ぬ。そう決めていた。

だが本当は逆だったのかもしれない。
最初から私の負けは決まっていたのかもしれない。
多くを助けるために、ひとつを犠牲にできる勇気を持つ者こそ
真の英雄である――その信念が間違っていたと思うからではない。
そのような「英雄的行為」を肯定する私の考え方が、
結局は東條のような人間をひきつけることに
なってしまったのではないか・・・
今初めて、その可能性に思い至ったからだ。
「何よりも自分の妻や子をモンスターから守りたい。だから
オルタナティブを開発し、神崎優衣を殺してミラーワールドを閉じる」
そう言ったならば、東條も私に協力しようとはしなかっただろう。
479帰還(18)2002年11月:03/04/20 23:53 ID:kBbIbLRl
ミラーワールドで、東條に運ばれて行く香川教授の回想 (4)

勝った。神崎の方こそ、そう思ったのかもしれない。
「答えは出ているんですよ」という私の言葉を聞いた時に。
バトルで見せる、家族さえ犠牲にすることをいとわない非情な戦士の顔。
そして日常生活で見せる、家族を何よりも大切にする父親の顔。
そのギャップが広がれば広がるほど、私を英雄視する東條の
尊敬の念がぐらつき、やがては崩れていくと知っていたのならば…
そう。
神崎が、家族を人質に取られた私の反応を見せることで、東條を
私から離反させようとしたのなら、恐るべき早さで成功したと言っていい。
「先生もやっぱり、家族が大事なんですね」
その後、携帯で典子と裕太の安否を確かめる私を見つめながら
そう東條はつぶやいたからだ。失望を隠さない表情で。
「いいですか東條君。英雄になるということは、人の命に
鈍感になるということではありません」
さすがにたまりかねた私がこう諭しても、彼の不満そうな
表情はさして変わらなかった。言葉の上では私に同意したが…

今なら想像がつく。東條に人として一番大切なことを教えるつもりで
私の家族に引き合わせ、一緒に食事をしたあの時。
私欲を捨てた英雄でなく、ごく当たり前の父親として妻子と
接する私が、彼には裏切り者に見えたに違いない。
そして、改めてこう確信したのだろう。
「先生だって、結局は家族を守りたいだけなんだ」
本当に家族を犠牲にしてまでミラーワールドを閉じようとする、
つまり「英雄」になろうと思うのなら、普段から家族や
暖かい家庭生活に執着すべきではない。
東條の持つ、若者というより子供特有の潔癖さを考えれば、
そう思ったであろうことは想像に難くない。
480帰還(19)2002年11月:03/04/20 23:54 ID:kBbIbLRl
ミラーワールドで、東條に運ばれて行く香川教授の回想 (5)

おそらくあの時だ。東條の胸に、神崎の仕組んだバトルに
勝ち残って「真の英雄」になろうという野望が芽生えたのは。
そして彼の眼に映る私が理想の英雄でなく、殺戮の対象に
転落したのは――ライダーバトルを邪魔する者であるが故に。
「先生、ぼく、ミラーワールドを閉じるの、いやになっちゃって。
ライダーの戦いに勝ち残るのが真の英雄かなって…」
ここまでのすべてが、神崎の思惑通りだったのかもしれない。
神崎優衣を手にかけようとしたまさにその瞬間、
私は仮面ライダータイガの爪にかけられたのだから。
神崎から渡されたカードデッキで変身した東條の爪に。

人間の心に巣食う闇――憎しみ、恐怖、劣等感、嫉妬、不満、孤独。
ありとあらゆる欲望。愛情という名の妄執。
そういったものを、私は過小評価していたのかもしれない。
自分には縁のないものだと思っていたから。
だから神崎に負けることになったのかもしれない。
神崎は自分の中の闇を否定しようとはしなかった。
それどころか自ら闇そのものになってまで、妹を救おうとしている。
他人の心の闇をも自在に操りながら…

城戸といったか。あの若者は、本気でライダー同士の戦いを
止めようとしているらしい。
神崎優衣を亡きものにしようとする私達に立ち向かいながら。
それなのに、神崎の放ったモンスターに襲われた私の家族を救った。
「無駄だよ。先生はとっくにそんなこと超越して…」
東條のしたり顔の台詞をさえぎり、
「俺は、助けたいから助けただけだ!」
そう叫んだきり、何の見返りを求めるでもなく。
481帰還(20)2002年11月:03/04/20 23:55 ID:kBbIbLRl
ミラーワールドで、東條に運ばれて行く香川教授の回想 (6)

ただの甘い若者と思っていた。だが今更ながら思う。
彼は、私の考えるような真の英雄ではないかもしれない。
だがライダーバトルという神崎の呪縛を断ち切るために
本当に必要なのは私でもなく、東條でもなく、
もしかしたら彼のような人間なのかもしれない。
他のライダー達のようにただ心の闇のままに動くのでもなく、
私のように心の闇を無視しようとするのでもない。
神崎に自分の心の闇を支配されまいとしているばかりか、
他のライダーたちさえも心の闇から解放しようとしているのだ。
何度、自分や他人の心の闇に呑み込まれそうになっても、
何度傷ついても。

塵となって消え行く私の耳に、東條のつぶやきが聞こえてくる。
あろうことか、泣いているらしい。
「先生は、ぼくにとって一番大事なひとでした。
だから、犠牲になってもらわないと。ぼくが、英雄になるために。
ごめんなさい、先生。ごめんなさい…」
城戸。神崎の不毛な企みを止めてくれ。私の代りに。
神崎優衣の命、ライダー達の命、多くの人々の命。
お前の望み通り、そのすべてを救うことなど
できるかどうかは分からないが……
そして、神崎の思惑通りライダーバトルの鬼と化した東條を
心の闇から救ってやってくれ。誰を救うよりも前に。
私は、師でありながら彼を救ってやることができなかった。
私と仲村が彼に殺されることになったのも、結局はそのためだ。
いや、救いが必要だと気づくことすらできなかった。今の今まで。
こんなことを言う権利など私にないことは分かっている。
だがそれでも、心残りでならないのだ――
482476:03/04/21 00:21 ID:rviTyh9F
帰還の続きです。
「なんでもかんでも神崎士郎のせいにするSS」
と化してきましたが(汗)

香川チームにも色々なスレで色々な議論や話が
ありますが、もし今回upした話の中に
他スレでの話やネタと似た部分があったら
ご容赦くださいませ…

>>472,473,474
読んでくださって嬉しいです。ありがとうございます。
香川教授の語りは難しそうなので最初はやめようと
思いましたが、やっぱり神崎の最大のライバルなので
避けて通れない気がして、書いて見ました。
483名無しより愛をこめて:03/04/23 02:27 ID:AJiC5QgY
「帰還」の続きと新作が上がっていたのでまとめて感想を。

「帰還・江島教授編」
悲運な割に陰の薄かった江島先生にスポットが当っていて面白く読めました。
知らずに破滅に巻き込まれたんじゃなくて、
そうなると知っていて大勢の犠牲者を出した小心者って解釈の江島先生は、
死んで行く時まで身の不幸を他人のせいにしたがる所がまた憐れで。

恵里さん自身にMWを開く能力があったって説は本スレでも時々出ていましたが、
401号室の実験が、その能力の利用の他にも更に蓮まで巻き込む事を予定してたなら、
神崎はとんでもなく狡猾なゲームマスターだった訳ですね。

「帰還・香川教授編」
人として優れていた為に東條の心が読めなかった香川先生の誤算が、皮肉めいてて良かったです。
自分を殺した東條を最後まで気に掛けて、救ってやって欲しいと願う先生が哀しいですね。
東條は結局このあと香川先生を追い求めて死んで行く事になるわけで、
師弟としての絆が深かったろう分、行き違った心がやるせない感じで。
484名無しより愛をこめて:03/04/23 21:52 ID:3GBnlXmW
熱いなぁ・・・
485_:03/04/23 21:53 ID:25VGyBM4
486483:03/04/24 00:39 ID:w/UNPUih
http://tv3.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1044256109/272-337n
こちらのスレに、エンディングの後の世界での、東條の話を書きました。
現実と夢とが区別できなくなりかけた孤独な東條の前に「デストワイルダー」が再び現れ…。

実は >>185-197 の「オマエハ…」の世界の延長だったりしますが、
内容が「ライダーじゃない龍騎」スレ向けだと思ったのであちらに。
487482:03/04/26 09:12 ID:JOr9aIj1
>>483,484,486
感想ありがとうございます。読んでくださって、とても嬉しいです。
すみませんが、また後で詳しいレスを書かせていただきますので
少しお待ちください・・・

次から、帰還の番外編をupします。(まだ完成していない上に
面白いかどうかわからないのですが)
488帰還番外編/湖(1):03/04/26 09:14 ID:JOr9aIj1
観光地でありながら不思議と俗化を免れている、
ある山の中の小さな湖。
霧のたちこめる無風の朝、一人の娘がその水に飛び込んだ。
やっと日が昇ったばかりで、湖岸にも周囲の木立にも
人影ひとつ見当たらない。娘はそのまま溺死するはずだった。
望み通り、誰にも見られずに。
そういう死を望むならば、実は飛び込む必要などなかった。
入水する直前、娘の周りでは耳を刺すような音がしていた。
そして猪のような怪物が、湖の中から彼女をじっと見据えていたのだ。
絶望に麻痺した娘の耳には何も聞こえなかったが。

だが娘は溺死もせず、怪物に食われもしなかった。
湖の中から突然飛び出した何かが、長い尾羽を伸ばして
溺れかかる細い体を受け止めた。
正確には湖面そのものの中から飛び出したのだが。
鏡のように澄んだ湖面から。

水を飲んで咳込む娘を抱えて湖の上を飛び、
もとの桟橋に降ろしたのは、鳥と人の中間のような
赤い怪物だった。先に娘を狙っていた怪物ではない。

濡れて顔や背中に張りついた髪や服にもかまわず
桟橋に手をついて座り込み、
予想だにしなかった事態に茫然とする娘。
そのそばの水面から音ひとつたてずに、
今度は猪の怪物が躍り出た。まだ娘を狙っていたのだ。
自分の前に降り立ち、奇声をあげる怪物を見ても、
娘の表情には何の動きもなかった。逃げようともしない。
むしろ、今度こそ食われて死にたがっているように見えた。
489帰還番外編/湖(2):03/04/26 09:16 ID:JOr9aIj1
だが娘は再び救われた。
最初に彼女を助けた赤い怪物が鋭い鳴き声と共に
猪の怪物に襲いかかったのだ。
実力において明らかに格の違う相手に刃向かわず、
また音もなく湖面に飛び込んで消える猪の怪物。
いつのまにか娘の前方に、コートを着た長身の男が立っていた。
怪物に命じて自分を助けさせたのはこいつだ。
娘には何故か分かった。そして抑揚のない声でつぶやく。
「・・・死神だろ、あんた」
「たいした違いはない」
「ならはやく連れてってよ、あたしも。
死神のくせに人助けの真似なんかして、どういうつもりだよ」
毒舌に取り合わず、「死神」は逆に聞き返した。
「わたしも、とは?」
「先にお姉ちゃんを連れてっただろ」
「・・・」
「この世でたったひとりのあたしの家族だった。
あたしを高校に行かせるために夜遅くまで働いてた。毎日毎日・・・
父さんと母さんが事故で突然死んでから大学も中退して、
仕事をかけ持ちして。その挙句、ある夜の帰り道で、
人を傷つけるのが生きがいみたいな男に行き会った。
そしてそいつに待伏せされて殺された」
「姉が殺されたのは自分のせいだ。そう言いたいのか」
「ああ、そうだよ!だから死んで謝りに行くんだ。
許してもらえるかなんてわからないけど…
でもどっちみちお姉ちゃんがいないなら、
これ以上生きていたって意味なんかないんだよ!
今にあたしも働くようになって、少しでも楽をさせてあげたいと
思ってたのに、もう何もしてあげられないんなら…」
490帰還番外編/湖(3):03/04/26 09:18 ID:JOr9aIj1
コートの男が、暗く、少し哀しい笑みを浮かべたように見えた。
「死ぬ可能性の高さは似たようなものだが、
身投げよりはましな選択もある。
お前の姉を生き返らせたいとは思わないか?
興味があればその手だてを教えてやってもいい」
男を睨みつける少女の目に、初めて絶望以外の
感情が浮かんできた。
「・・・・・・なんだよそれ。本当なのかよ」
返事の代りに男はコートのポケットに入れていた
右手を抜き出し、持っていたものを娘に向かって差し出した。
一瞬ためらった後、手を伸ばしてそれを受け取る娘。

軽い材質でできた白い板だった。表のスリットに何か挟んである。
裏返したトランプの札に似ていた。
「そいつを水面にかざしてみろ」
渡されたものの正体を考える暇もなく、男の声に反射的に従い、
湖の面に白い板を突き出す娘。
その瞬間。湖に映った娘のウエストの周りにベルト状の物体が現れ、
ひとりでに巻きついた。間髪を入れずまばゆい光が迸る。
次の瞬間、娘の姿は消えていた。
代りに、自分の手や身体を見てうろたえる姿があった。
「なによ、これ……あたし?」

桟橋の端から身をのり出し、水鏡に映る我が身をのぞき込んで
立ちすくむ、明らかに人間とは違う灰色の姿。
そしてその後に佇むコートの男。
静かな湖面にゆらめく2つの細長い影が、突然乱れた。
先ほど娘を襲おうとした猪の怪物が再び湖面から現れ、
襲い掛かってきたのだ。
491名無しより愛をこめて:03/04/27 08:57 ID:aEGlZ2gT
ほほう・・・
492名無しより愛をこめて:03/04/27 08:59 ID:mvjs9PZ6
へへぇ・・・
493名無しより愛をこめて:03/04/27 13:03 ID:V2G9Ua++
「帰還番外編/湖」
またも神崎の手で踊らされ、新たなライダーバトルの生贄が…。
美穂の覚醒がどう描かれていくのか、続きを楽しみにしています。
494名無しより愛をこめて:03/04/28 03:01 ID:P131E80D
神崎が美穂のことを助けたのは、
瞬時に妹属性を見抜いたからだと言ってみる。
495名無しより愛をこめて:03/04/28 05:22 ID:QAfjBxcR
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     ┃ /⌒ヽ 三三 ..:|ウワァァ┃
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  ヽ
  つわぁぁああぁああぁ!!!!!
496488:03/04/30 03:13 ID:vzOHJLi6
遅くなってすみません。感想へのレスです。

>>483
詳しい感想嬉しいです、ありがとうございます。

>死んで行く時まで身の不幸を他人のせいにしたがる所がまた憐れで
何も知らない優衣に罪を着せて死ななくてもなあ、と本放送の時に
私も思いました。それで、そこまで江島先生を追い詰めた出来事は
何だったんだろうと思って、この話で少し詳しく補完(妄想)してみました。
神崎兄の凶悪さと江島先生の心の弱さが五分五分で
401号室の悲劇の発端になるようにしたかったのですが、
思い通りにいったかどうか・・・

>恵里さん自身にMWを開く能力があったって説は本スレでも時々出ていましたが、
やはり出ていたんですね。たぶん、私も見ていて
記憶に残っていたのだろうと思います。

>人として優れていた為に東條の心が読めなかった香川先生の誤算が、皮肉めいてて良かったです。
>自分を殺した東條を最後まで気に掛けて、救ってやって欲しいと願う先生が哀しいですね。
ありがとうございます。香川教授の心理を書くのは難しそうな上に
神崎兄が好きで「帰還」を書き始めたこともあって、
香川先生の弱点を必要以上に書いてしまったのではないかと
少々気が引けてました。なので、そういっていただけるとやっぱり嬉しいです。

東條に「何故・・・」と言った後の香川先生の気持を知る手がかりに
なるものは何も本編で示されていないのですが、あの時初めて
先生が彼の心の闇の深さを知ったのは間違いないと思われるので、
先生の性格なら、自分を手にかけたとはいえ、教え子のことをそれこそ
家族より先に心配したんじゃないかと思ってあのように書いてみました。
497488:03/04/30 03:17 ID:vzOHJLi6
(感想へのレス続き)

>>484
>熱いなぁ・・・
もしも帰還のことでしたら、ありがとうございます。

>>486
>http://tv3.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1044256109/272-337n
>こちらのスレに、エンディングの後の世界での、東條の話を書きました。

読ませていただきました。実は、私はそのスレの292と317と
344だったりします(汗)。もしかしたらと思っていましたが、
やはり「オマエハ…マチガ…」の方だったんですね。
ぜひ補完スレでも、あちらでも、また面白いSSをお願いします!

>>493
>またも神崎の手で踊らされ、新たなライダーバトルの生贄が…。

ありがとうございます。続きもがんばります。
だんだん帰還での悪辣さが増してきたので、たまには
兄さんに人助けでもさせようと思って書き始めたのですが(マジ)
結局あんな風になりました(鬱)

>>494
>神崎が美穂のことを助けたのは、
>瞬時に妹属性を見抜いたからだと言ってみる。

それもある・・・んでしょうねきっと・・・
498帰還番外編/湖(4):03/04/30 03:20 ID:vzOHJLi6
姿こそ変わったが、霧島美穂という名の娘であることに変わりはない。
目の前の水から飛び上がり、自分めがけて
襲いかかってくる怪物を目の当たりにしながら、
何ひとつ身を守るすべを持たないただの娘であることに…
他に変わったのは意志だけだ。
姉を取り戻す方法があると知った以上、もう簡単には死ねない。
だがまだ何もわからなかった。姉を復活させる方法どころか、
今この場で自分が死なないための方法さえ。

身動きのとれないでいる灰色の背をコートの手がぐいと押し、
湖に向かって突き飛ばした。
ほんの少し前、同じ湖から救い上げたばかりだというのに。
声をあげる間もなく落ちていく娘を、男の声が追った。
「お前の戦場はミラーワールドだ」

落ちた先が湖でなく、銀色に輝く世界だったことよりも、
その後気がつくとやはり水中で必死にもがいていたことよりも、
頭を水から上げるたびに見える湖岸の風景の方が美穂には気になった。
最初に飛び込む前、この世の見納めにしようと
振り返って眺めたときの風景とどこか違う。
桟橋の後ろにある緑の林にも、そのさらに背後の高台にある
リゾートホテルにも、確かに見覚えがあるのに。
いや。あの林はホテルの右側でなく左側に見えていたはずだ。
それに、ホテル外壁に英語で書かれたホテル名が逆になっている。
まるで鏡に映したように…
その時、何かが自分に近づいてくる気配を感じた。
湖の上に目を戻し、溺れかけていたことも忘れて思わず息を呑む。

少し離れた水面に巨大な水鳥が浮かんで、
氷のように透き通った眼でじっとこちらを見つめていた。
499帰還番外編/湖(5):03/04/30 03:23 ID:vzOHJLi6
唐突に、男の声が響いてきた。自分を突き落とした男の声だ。
「その鳥がお前に力を与える。早く契約のカードを出せ」
「け、契約ってなんだよ!」
「ぐずぐずしていると食われることになる。
姉を生き返らせたければ、モンスターと契約して戦え。
それとも最初の望み通り今死ぬか。好きな方を選べ」
鳥が威嚇するように甲高く鳴いた。白と金に輝く翼を広げ、
長い首を低く伸ばし、水の上を滑るように向かってくる。

「誰が死ぬかよ!」
そう叫ぶと美穂は、水中で腰のカードデッキに手を伸ばした。
一枚のカードを引き抜き、迫る白鳥に向かってかざす。
……………

ミラーワールドの湖岸に、あの猪モンスターが姿を見せた。
逃げ回る獲物を執拗に追っているのだ。
ほどなくその獲物が湖に浮かんでいるのを見つけると、
上半身に生えた2対4本の角を即座に振り向けた。
各々の角の間から2つの蒼い光が放たれ、
湖の上の小さな姿に向かって弾丸のように飛んでいく。
直後、巨大な水柱が獲物のいた位置から噴き上がった。
だがそれは蒼い光が獲物を粉砕したからではなかった。

蒼い光が到達する寸前、湖面から空中に飛び立った霧島美穂は
もう灰色ではなかった。ただの無力な娘でもなかった。
翼のように広げたマントも、水柱の中から現れつつある身体も、
左手に下げた細身の剣も、純白に輝いている。
白鳥のモンスター、ブランウイングと契約したばかりの
仮面ライダーファムだった。
500名無しより愛をこめて:03/05/01 01:04 ID:XMFyM9xA
555
501名無しより愛をこめて:03/05/05 00:41 ID:KWCZXmLl
話しの途中かもしれませんが保守を兼ねて。

>>388で示された「ライダーが居なくなってしまった後」の世界、
残された人たちのその後の話を考えてみたんですが、
なんだか暗い話になりそうで中断しています。
502名無しより愛をこめて:03/05/07 21:43 ID:+ZPjFqJH
え?
503帰還番外編/湖(6):03/05/08 23:44 ID:NKpSs65/
一瞬とまどったものの、ごつい図体に似合わぬ素早さで
上半身を起こし、空中のライダーに狙いをつける猪の怪物。
再び両方の角から蒼い光が放たれた。
だがすでにファムはバイザーにカードを差し込んでいた。
「ガードベント」
空中に現れた盾の中心から白い羽根が次々と湧き出し、
湖の上を舞いはじめる。
同時に、蒼い光が白い盾に吸い込まれるように消えた。
ライダーには何のダメージも与えずに。
羽根吹雪に幻惑され、方向感覚を失った猪モンスターが
湖岸でうろたえたように立ち尽くす。
「ソードベント」
その背の真中に、突然金色の刃が振り下ろされた。
いつのまにか怪物の背後に降り立っていたファムの一撃だった。

「甘いな」
現実世界の桟橋に立ち、魚を狙う鷺のように水面を見つめていた
コートの男がつぶやく。
「ワイルドボーダーにわざわざ接近戦を挑むとは…
不意をついたつもりだろうが」

その通りだった。
渾身の一撃のはずが、盛り上がった鋼鉄の塊のような
猪モンスターの背にかすり傷ひとつ付けられなかったと知って、
今度はファムがうろたえる。いや、そんな間もなかった。
怒り狂った怪物が瞬時に向き直り、至近距離から恐るべき瞬発力で
ライダーに向かって突進をかけた。耳障りな鳴き声とともに。

怪物の装甲と重量の生み出す衝撃をまともに食らった身体が、
湖岸の奥へ向かって吹っ飛ばされていく。白い羽毛のように。
504503:03/05/09 00:00 ID:nS35+onT
1コしかできてなくてすみませんが、帰還番外編の続きです。

>>501
保守どうもです。その後、残された人たちの話はどうですか?
もしできてたら、どうぞupしてくださいませ。
帰還はまだ終わるまでにちょっとかかりますし(汗)、
そのお話見てみたいです・・・
505名無しより愛をこめて:03/05/11 07:26 ID:iCJGgRN5
ぜひ!
506帰還番外編/湖(7):03/05/12 02:43 ID:p4nk8OS0
岸から少し離れた林の手前に倒れたまま、
身動きひとつしないライダー。
そこへ今度こそとどめをさそうと、猪のモンスター・
ワイルドボーダーの巨体が突進していく。
だが尖った蹄に踏み潰される直前、ファムは跳ね起きた。
翼のようにマントが広がり、白い身体がふわりと宙に舞う。
迫る猪モンスターと真正面から向き合いながら。

空中で右脚を引いて勢いをつけ、
目にも止まらぬ速さで蹴りを飛ばすファム。
ワイルドボーダーの、身体に比して小さな頭部に。
続いて短い首の根元に、至近から細い剣先が突き刺さる。

攻撃のパワーよりも意外さが猪モンスターを動揺させた。
一瞬動きを止めた後、林を目指して再び突進を始める。
自分の背後に舞い降りたライダーに背を向けて。
振り返ってそれを見たファムがブランバイザーを構え直し、
後を追って駆け出す。

「契約したばかりにしては、いい闘い方をする。
だが問題はこれからだ」
桟橋の上で戦いを見守り続けるコートの男の横顔に、
湖面を照らす太陽の輝きが映ってちらちらと動く。
そのせいか微かに笑っているように見えた。

林の中に入ると、急に暗くなった。
針葉樹の葉が重なり合って空を覆い隠し、
無数の幹が周囲の視界をさえぎっている。
細身の剣を構えて林の奥へ踏み込んで行くファムを、
下草の間から邪悪な小さい眼がじっと見つめていた。
507帰還番外編/湖(8):03/05/12 02:46 ID:p4nk8OS0
ほどなく、行く手に小さな空地があらわれた。
「そんなに遠くへは行っていないはずなのに…」
空地の中央まで歩いてゆき、明るい空を見上げながら
ファムがつぶやく。
つぶやきが終わらないうちに、すさまじい衝撃に襲われた。
正面の林の暗い下草を突き破っていきなり現れ、
突進してきた猪モンスターの体当たりを食らったのだ。
「…っく!」
再び地に倒れながら、ファムは悟った。
ワイルドボーダーがわざと林の中に逃げ込んだことを。
つまり、自分が罠に誘い込まれたことを。
それでもすぐに身体を起こし、モンスターが消えた背後の林に
剣を突き出して身構えた。そのまま十数秒が流れる。
モンスターの出現が嘘のように、林は暗く静まりかえったままだ。
前か、後ろか、右か、左か。
猪の怪物が次にどこから出てくるのか、全く予想できない。
全神経を研ぎ澄ましているつもりだったが、
その実ファムは冷静さを失いつつあった。
それを見透かしたように、攻撃はまたもだしぬけにやってきた。
左後ろの藪でバキバキと小枝の折れる音がしたと思うと、
もう跳ね飛ばされていた。マントを広げて飛び立つ間もないうちに。
そして今度は、立ち上がる間さえ与えられなかった。
白い身体が起きかけるたびに、林のどこかから鉄の獣が
巨大な弾丸のように飛びだし、重く鋭い当て身を食らわせ、
また反対側の林に飛び込んでいく。ぎいぎいと鳴きながら。
そのたびに空地の地面に思い切り叩きつけられるライダー。
……
ついにファムが起き上がろうとするのをやめた。
何度目かに倒れ伏すと、そのまま今度こそぴくりとも動かなくなる。
泥にまみれた身体は、元の白さをほとんど失っていた。
508506:03/05/12 02:53 ID:p4nk8OS0
帰還番外編の続きです。今日中に終わらせたかったのですが、
結局できませんでした…残念。
他にSSを作った方がいたら、どうぞ先にupお願いします。
509名無しより愛をこめて:03/05/14 13:20 ID:vEDXNU4l
途中で書き込むと寸断になりそうなので感想を控えてましたが保守を兼ねて。

番外編、戦闘シーンの盛りあげ方が素晴らしいです。
なんだか、画面が止まってアドベントカードが出てきて次回へ続くのようなヒキなので、
この続きがさらに楽しみです。
510名無しより愛をこめて:03/05/15 23:05 ID:CZsmYE9W
ならあげてくれ
511帰還番外編/湖(9):03/05/19 02:36 ID:VW2XoiBZ
泥に汚された白いマントが、林の風にわずかになびく。
だがその下の身体はうつ伏したまま、何の動きも見せない。
数十秒が経過した。
小鳥の声ひとつしないミラーワールドの林の中から
倒れたライダーの様子をうかがっていた猪の怪物が、
笑い声のようにも聞こえる唸りを洩らした。
次の瞬間、空地に向かって猛烈に突進し始める。
モンスターと白い獲物との距離がみるまに狭まっていく。

桟橋に立つコートの男の表情がにわかに険しくなった。
眼下の水鏡を食い入るように見つめながら叫ぶ。
「何をしている。お前の願いの強さはその程度か。
ワイルドボーダーごときにやられるようなライダーに用はない。
本当に姉を生き返らせたいのなら、戦え!」

その声は、たちまち現実の水面の上で散って消えていった。
だがミラーワールドの林間の空地では、
丸い空全体から響き渡る大音声に聞こえた。

「……言いたいこと、言いや、がって………」
ファムが肘を突いて上半身を起こす。
声が聞こえるまでは、二度と起きあがれないと思っていたのだが。
真横からワイルドボーダーが迫ってくる。
「戦ってやるよ、言われなくたって!」
バイザーにカードを差し込むと同時に、すぐ手前まで突進してきた
猪モンスターがぎいっと鳴いて跳躍した。

鋼鉄の蹄と巨体が白い身体を直撃した。
そして跳ね飛ばされ、空地のぬかるみに叩きつけられた。
重い地響きとともに。
512511:03/05/19 02:48 ID:VW2XoiBZ
また1コだけですみませんが、番外編の続きです。

>>509
感想ありがとうございます&保守どうもです。テレビ本編のパリーン&
アドベントカードの引きの時は、私もいつも次週が待ち遠しくなったので、
そう言っていただけるとすごく嬉しいです。(寸断はお気になさらず。私も
自分でやってますし)

>>510
ageありがとうございます。
513名無しより愛をこめて:03/05/23 00:02 ID:7L3PnGsc
さらにあげよう
514名無しより愛をこめて:03/05/23 00:15 ID:owqwnILH
ほう、いつの間にかこんなものが。

江島教授編と香川教授編読みました。
両教授とも平板な作者の妄想暴走キャラに陥ってないのが良いですね。
515名無しより愛をこめて:03/05/25 09:06 ID:xd1Sl5xX
hosyu
516帰還番外編/湖(10):03/05/26 01:36 ID:kMwUzdtU
鋭い蹄がライダーに届く直前、
傍らの地面から突然水飛沫が上がった。
飛沫を追って泥の中から白く輝く鳥が飛び立つ。
ファムの上に飛び降りてきた猪モンスターが必殺の蹴りもろとも、
白鳥の巨大な身体と翼に当たって弾き返された。紙屑のように。
地に横たわっていたファムが、その隙を逃さず素早く身体を起こす。
アドベントカードを入れたばかりのバイザーを拾いあげながら。

だがワイルドボーダーもそう簡単にやられはしなかった。
ぬかるみから起き上がると同時に上半身の角をファムに向け、
蒼い光を撃ち込む。とても避けられない距離だった。
ファム以外には。
「はっ!」
立ちかけた姿勢のまま瞬時にマントを広げ、垂直に飛び上がる。
泥まみれの姿にもかかわらず自信に満ちた気合と共に。
標的を失った蒼い光が、ライダーのいた場所の後ろに立っていた
カラマツを2、3本吹っとばして樹皮を飛び散らせる。
同時にワイルドボーダーがまたも軽々と跳ね飛ばされ、
ぬかるみに叩きつけられた。
翼を畳んで、主人とは逆に空から垂直に急降下してきた白鳥に。

再び起き上がった猪モンスターは、もう戦おうとはしなかった。
そのまま巨体を揺らして林の奥へ逃走し始める。
巨大な翼を持つ白鳥では、密生する木々の間を
飛んで追ってくるのは無理と踏んだのだろう。
だがやはりファムに迷いはなかった。空に向かって叫ぶ。
「行け!」
空地の上空で大きく旋回したブランウイングが、
林に向かって凄まじい高速で降下していく。
今度は翼をいっぱいに広げたまま。
517帰還番外編/湖(11):03/05/26 01:38 ID:kMwUzdtU
葉に覆われた空の向こうから甲高い鳴き声が響き渡り、
暗い樹間に何重にもこだましていく。
猛スピードで林の中を逃げていたワイルドボーダーが
それに気づいて振り向いた瞬間、目の前の樹が全て炸裂した。
松葉と樹皮と細かい木片が大量に宙を舞う。
林の斜め上から高速のまま突っ込み、水平に広げた翼で
行く手をふさぐ樹々を片端から斬り飛ばしながら、
巨大な白鳥が襲いかかってきた。
完全に意表を衝かれ、それでもなお猪モンスターは
狡猾さを失わなかった。
風を切る刃のような翼とボディを辛うじてかわすと、
白鳥とは反対方向へ進路を変えて再び走り出す。
木から木へ、目にも止まらぬ速さでジグザグに伝いながら。
だがしばらく走ると、また行く手の林の一部が吹き飛んだ。
戻ってきた白鳥が猪の前に回り込み、再度突っ込んできたのだ。
またも鋭い翼をかわし、舞い上がる鳥の反対へと走る猪。

巧みに空からの攻撃を避けながら逃げているように見えた
ワイルドボーダーは、実は次第に追い詰められつつあった。
攻撃のタイミングを見計らいながら、白鳥モンスターは
猪モンスターの進路を少しずつ狂わせ続けていたのだ。
林の奥ではなく、湖の方角へと。
行く手がだんだん明るくなっていくことに、猪は気づかない。
すでに白鳥の前から逃げることに精一杯になっている。
そして唐突に林が切れた。
目の前に開けた湖の輝きを見て一瞬立ち止まった後、
猪モンスターは今度こそ全速力で疾走しはじめた。
鏡のように澄んだ水に向かって。
現実世界へ逃げようとしている。
ファムの意図した通りに。
518帰還番外編/湖(12):03/05/26 01:42 ID:kMwUzdtU
ワイルドボーダーにブランウイングを差し向けた後、
空地から出て林の入り口まで戻ったファム。
そのまま湖に顔を向け、何かをじっと待つように立つ。
静かな風景とは裏腹に、後方から不穏な騒ぎが近づいてくる。
何本もの木の梢が一度に断たれ、葉を擦り合わせながら
落ちていくガサガサという音。
下草を踏み荒らしながら何度も方向を変える蹄の音と振動。
そして、ついに待っていたものが来た。
左手前方の林を突き破るように飛び出した猪モンスターが
一瞬立ち止まった後、湖に向かって走り出すのが見えたのだ。
その時ファムはもうバイザーにカードを入れていた。
「ファイナルベント」
最後の追い込みをかけた後に林の上空を舞っていた白鳥が、
走る猪モンスターの上をあっという間に越えて湖へ飛び、
岸から少し離れた水の上に降り立った。
屏風のように広げられた左右の翼から轟音とともに
二つの水竜巻が生まれ、岸に向かって来るワイルドボーダーに
真正面から襲いかかる。
白鳥の翼が起こす猛烈な風に、湖水が巻き上げられたのだ。
いかに俊敏な猪モンスターでも逃げ切れず、たちまち
片方の水竜巻に呑み込まれて姿が見えなくなる。
二つの水流はそのままうねりながら林に向かっていき、
途中で合流して一本の巨大な水竜巻になった。
湖の一部が生き物と化したように。
そしてその生き物の向かう先に、ウイングスラッシャーを
両手で構えたファムが待ち構えていた。
数秒後、逆巻く大量の水と共にライダーの前に飛んできた
ワイルドボーダーの巨体が、金色の刃にざっくりと両断された。
横殴りの滝のような水に打たれながらも構えを崩さないファム。
その背後で猪モンスターの残骸が断末魔の叫びと共に爆発した。
519帰還番外編/湖(13):03/05/26 01:44 ID:kMwUzdtU
湖の上に昇っていく光球を追ってブランウイングが飛び、
自分の身体に取り込むのを、ファムは不思議そうに見上げた。
水竜巻の中に入ったために身体からもマントからも
すっかり泥が落ち、朝の太陽に白く輝いている。
「あれはモンスターのエネルギーだ」
ぎょっとして振り向くと、コートの男がすぐ後ろに立っていた。
「な、何だよ今さら!人が死にそうになってる時に
勝手なことばかりいいやがって…」
「またあんな思いをしたくなければ、これから先もっと多くの
モンスターを倒して、お前のモンスターにエネルギーをやれ。
そうすればお前自身も際限なく強くなっていける」
「で、強くなってどうすんだよ?どうやったらお姉ちゃんを
生き返らせられるのか、早く教えろよ!」
コートの男が、太陽の下で夜のような笑いを見せた。
「これから言う。まずは元の世界に戻れ」

神崎士郎の話すライダーバトルのルールを聞きながら、
人間に戻った美穂は桟橋の杭に打ち寄せる波を見ていた。
正確には、波の上に映る歪んだ自分の影を。
神崎が話の最後にこう言うのが聞こえた。
「いずれまたお前の所に現れる。
それまでにせいぜい多くのモンスターを倒して、
他のライダーと遜色ない実力をつけておくことだな」
それから、全く別のことを聞いた。
「お前が死ぬ場所にこの湖を選んだのは何故だ?」
520帰還番外編/湖(14):03/05/26 01:46 ID:kMwUzdtU
意外すぎる言葉にとまどったが、ややあって美穂は答えた。
「お姉ちゃんと一緒に来たことがあるからだよ。
うちには余裕がなかったし、一緒に旅行できたのはあと
数えるくらいしかないけど、お姉ちゃんもあたしも
ここが一番思い出に残ってて、もう一度行きたいねって
よく言ってたんだ……それがなんだよ?」
「理由はない。その望みを叶えたければ、戦うことだ」
それだけ言うと、神崎の姿はもう美穂の前から消えていた。
「なんだよ、聞くだけ聞いておいて、キモ男!」
誰もいなくなった桟橋の上で罵詈雑言を放ってから、ふと思う。
…もしかしてあいつ、少し、悲しそうだった?
あんな格好だから暗〜く見えて当たり前なんだけどさ。
前にお姉ちゃんのことを思い出してやりきれなくなった時、偶然
鏡を見て気づいた自分の表情に似ていた気がする。ちょっとだけ。
**********
神崎邸の一室に座り、ある写真を手に取ってじっと眺める士郎。
海の上に大きな船が浮かんでいる。
優衣が描いた「海岸への家族旅行」の絵の元になったものだ。
今、現実にいる優衣の中では楽しい思い出として残っているが、
実際には自分が作って与えた偽物の記憶に過ぎない。
「お姉ちゃんと一緒に来たことがあるからだよ」
湖の傍らで聞いた、ファムとなった娘の言葉が、
今も昔も空虚だった大きな家の中に響き渡る。
理不尽な死に方をした姉との、本物の思い出を持つ妹。
その彼女の命を削り取ることで、理不尽な死に方をした
自分の妹を生き返らせ、そして今度こそ本物の思い出を
作ってやろうとする兄。
あの娘の言うとおり、俺は死神だろう。いや。やはり悪魔というべきか。
どちらだろうと構わない。
今度こそ、優衣に本当の命を与えられるのなら。
521520:03/05/26 02:15 ID:pvLPkpT/
帰還番外編がやっと完成したのでupします。
読んでくださった方々、ありがとうございます。


>>513
ageありがとうございます。

>>514
読んでくださってありがとうございます。
2人の行動には龍騎でも重要な謎に関わる部分が多いので、
TV本編の部分と合わせてもできるだけ違和感がないように
描けてればいいなと思っています(難しそうですが・・・)

>>515
保守ありがとうございます。
522山崎渉:03/05/28 09:18 ID:fQBycOfL
     ∧_∧
ピュ.ー (  ^^ ) <これからも僕を応援して下さいね(^^)。
  =〔~∪ ̄ ̄〕
  = ◎――◎                      山崎渉
523名無しより愛をこめて:03/05/31 07:56 ID:xx3N3lG/
花鶏を追い出され、街の中を歩いている大久保と令子の会話 (1)

「やれやれ。今度はどこ行きゃいいんだ…
しっかし驚いたな、なにもあんな剣幕で怒るこたぁねえだろうに」
「高見士郎が死んだっていう話は、あの店ではタブーみたいです」
「ん?どういうことだ」
「関東拘置所のビデオに映っていた人影を見たとき、
以前あの店で見た写真の中の男性と似ているような気がして、
夏に渡米する前にもう一度確かめに行ったんです。
そうしたらやっぱりよく似ていたんで、ちょうど店にいた優衣ちゃんに
「アメリカで死んだ高見士郎よね」って言ったらすごく怒って…
その時初めて、あの子が高見士郎の妹だって知ったんですけど」
「優衣ってのは5月にバイトに来た子か。俺が入院してる間に。
神崎優衣ね。そういや高見士郎は、清明院大学では神崎って
名乗ってたんだったな。なんだか複雑な事情がありそうだが」
「ええ。でもそれより編集長、あの優衣ちゃんのおばさんっていう人が
死亡診断書を見た時の反応で、やっとわかりました。
優衣ちゃんには兄さんが死んだことが、わざと知らされていないんです」
「そこがわからねえなあ。いつまでも隠しとけるもんでもねえだろうに。
何故だと思う、令子?」
「わかりません。ただ、今回アメリカで高見士郎のお墓に行ったら、
墓碑銘に”彼の生涯は妹を救うことのみに捧げられた”って
書いてあったんです。兄さんと仲が良かったから、知らせたくないのかも」
「救う、か。妙だな。病気とか抱えてるわけでもないんだろ、神崎優衣は」
「ええ、うちにバイトに来るくらいですし、ごく普通の女の子です。
そういえば、いなくなったポトラッツ教授も「高見士郎はいつも
日本の妹の話をしていた」と言ってました。でもよく考えると、
おばさんから聞かないうちは死んだことさえ知らない位ですから、
優衣ちゃんはずっと兄さんと音信不通だったはずですけど――
編集長?どうしたんですか、急に立ち止まって」
524523:03/05/31 07:59 ID:xx3N3lG/
上の話のタイトルは「帰還(21)2002年12月末」です。失礼しました。
525帰還(22)2002年12月末:03/05/31 08:01 ID:xx3N3lG/
花鶏を追い出され、街の中を歩いている大久保と令子の会話 (2)

「……なぜ遠く離れたところにいる、長年連絡も取っていない兄貴が、
そこまで妹のことを気にかけていたのか。
しかもその兄貴はそれから一度死んで、さらに行方不明になっている。
アメリカの大学での事故、そして清明院大学での事故で。
しかもさらに後になって、浅倉威が何らかの手段で脱獄した日に
兄貴が関東拘置所の中の鏡面に映り込んでいた…
しかも彼のアメリカ時代を知る恩師は、鏡のある場所で突然失踪した。
日本で消えた大勢の人間たちと同じように…
そして島田が撮った、鏡の中にいるとしか思えない怪物の写真。
とどめに、兄が「死んだ」ことを必死で妹に隠そうとする叔母――
令子!」
「は、はい!」
「決めた。たった今から金をつくるぞ」
「…はい?」
「取り戻すんだよ、OREジャーナルの事務所を!
今言った断片的な情報がつながって、あの行方不明事件が
大化けしそうな予感がするんだ。お前の取材のおかげでな。
化けさせるには、どうしても定まった活動場所が必要だ。
見ろ、この黄色い看板やあの赤い看板を。金なら町中に転がってるぜ」
「まさか、借金するんですか!?」
「あったりまえだのなんとかよ。そうと決まったらお前は取りあえず
家に戻って、アメリカから持ってきた資料を詳しく調べておけ。
たしか、鏡の中の怪物についての情報もあったんだろ?
あ、もちろん旅の疲れを取ってからでいいぞ。御苦労だったな。
まてよ、すぐに金をつくるならそこの銀行にでも押し入った方が…」
「編集長っ!」
「へへ、冗談に決まってらぁな冗談。じゃそういうことで」
「あ、編集長!……もう、大丈夫かなぁ」
526525:03/05/31 08:14 ID:xx3N3lG/
帰還本編の続きができたのでupしました。

今更ですみませんが・・・
>>454
の「帰還(3)2002年12月」の訂正です。

優衣の誕生日が1月19日なので、タイトルは「2002年12月」
でなくて「2003年1月」にすべきでした。
また沙奈子おばさんが持っているプレゼントは
「クリスマスプレゼント」でなく「誕生日のプレゼント」です。
どうも失礼しました。
527525:03/05/31 08:20 ID:xx3N3lG/
たびたびすみません。だいぶ下がったので取りあえずageます。
523、525を読んでくださった方、いたらありがとうございます。
528帰還(23)2001年8月:03/06/02 03:45 ID:BQKN740w
401号室の実験当日(1)

耳を刺すような音が次第に高くなってくる。
そして信じ難いことに実験室中の鏡から吹き出す風も、
次第に強さを増してくる。
不安気に室内を見回す学生たちをよそに、先刻から
ある鏡の前に立ったままじっと動かずにいる白衣の男。
その奥に黒いものがうごめき始めたのに気づいたからだ。
まだ点にしか見えないうちから、男には分かった。
羽ばたきながら近づいてくる。ダークウイングが。
まだ少年だった彼が最初に描いたモンスターだ。
夕方、暗くなっていく部屋の中で泣いている妹を元気づけるために。

「ほら優衣、見ろ。こいつをやる」
「・・・これ、コウモリ?」
「ああ。こいつが夜の間、お前を守ってくれる。コウモリだからな。
だから、もう暗くなっても怖がることなんか何もないんだ。な?」

巨大なコウモリの翼が鏡を内側から突き破った瞬間、
ミラーワールドが開いた。

爆風。飛び散るガラス。狂ったように舞い散る書類の束。
悲鳴とともに倒れる娘。
そして、ドアを体当たりで破るようにして401号室に入ってきた若者。

「無駄だ」
返事をしない娘を抱き起こし、虚しく呼びかけ続ける若者に向かって、
氷のような台詞が投げつけられる。
「その女が目覚めることはない…たったひとつの方法以外ではな」
529帰還(24)2001年8月:03/06/03 00:26 ID:OgUN6/to
401号室の実験当日(2)

振り向いて白衣の男を一目みた瞬間、若者は悟った。
こいつだ。恵里が怖がっていたのは。
「貴様か…生きてる奴以上にタチの悪い死人というのは…!」

目の前の男より自分に対する憎しみに灼かれながら立ちあがり、
落ちていたガラスの破片を手にふらふらと相手に向かっていく若者。
なぜ、もう少し早く来れなかった。
なぜ怯えるあいつのいうことをまともに聞いてやらなかった。

「今俺を殺して、お前もこの場で死ぬというわけか」
顔の前に突きつけられた鋭い破片を避けようともせず、男が言う。
「それもいい。だが今言ったように、
この女を目覚めさせる方法がたったひとつある」

若者に向かってぐいと突き出される、ブルーブラックの板。
「これをあのコウモリに向かってかざせ。
その瞬間からお前の戦いが始まる。
戦え。強くなれ。そして他のライダーを倒せ。
すべてのライダーを倒したとき、
お前が今一番望んでいることが叶うだろう。
俺を殺すか、戦い続けるか。好きな方を選べ」

鏡の破片が床に落ちると同時に、カシャリと音がした。
若者が、男の手から掴み取ったのだ。カードデッキを。
巨大な皮膜の翼で401号室を占拠したコウモリが鋭く鳴いた。
530名無しより愛をこめて:03/06/04 09:38 ID:9+9roXb+
age
531名無しより愛をこめて:03/06/07 21:18 ID:aAPZ8YFg
保守
532名無しより愛をこめて:03/06/07 23:59 ID:mWN/ZD2s
そうか
533帰還(25)2002年4月:03/06/08 02:49 ID:qnrUHni7
失った記憶をたどり、彷徨を重ねた末にすべてを
思い出した日の夜。蓮は、恋人の病室を訪れていた。
眠り続けるその顔を見つめるうちに、耳障りな音が響き始める。
病室の鏡に、恵里を狙い続ける怪物の影が忍び寄ってきていた。
・・・あの日の神崎の声が、改めて耳の奥で響く。
「デッキを受け取ったからには、戦いを降りることは許されない。
降りようとすればダークウイングはお前よりまずこの女を食らう。
モンスターは一度狙った獲物をあきらめない。覚えておけ」
無言で鏡に歩み寄り、思いきり拳を叩きつける蓮。
砕け散り、床に落ちるガラスの破片。
そのひとつが拾い上げられた。
本来この病室にいるはずのない男の手で。

「憎いか、俺が・・・やはりお前自身の手で殺したいか。
ならばチャンスは今しかない。
どうする?」
いつのまにか割れた鏡のそばに立っていた神崎士郎が、
瞬きもせずに蓮を見つめている。自らの右手を眼の前にかざし、
拾った鏡の破片を押し当て、赤い血を滴らせながら。
その手から、いや神崎の全身から、細かい粒子が立ち上っている。
アメリカ・アクレイ大学での実験で「高見士郎」が
命を落としてから、1年が経とうとしていた。
あの時鏡の中から出てきた少年の言葉が、現実になりつつある。
「1年たったら、消えちゃうんだよ・・・こっちの世界からは」

火を噴くような眼差しで神崎を見据えながら、蓮は動かなかった。
ただ、これだけ言った。
「今すぐ恵里の前から失せろ」
神崎が声をたてずに笑った。
「それでいい」
534帰還(26)2002年4月:03/06/08 02:57 ID:qnrUHni7
言葉と同時に無数の黄金の羽がコート姿の足元から噴き出し、
背の高い男を包みはじめた。

「戦い続けろ・・・
この女を助けたいのなら・・・戦え・・・・・・」

最後の台詞が消えないうちに、金色の光が病室に輝き渡った。
思わず左腕を上げ、目の前を覆う蓮。
再び目を開けたとき、神崎士郎の姿はどこにもなかった。

************
神崎邸の窓辺に立ち、金色の鳥の紋章がついた板を
手に取って見つめる士郎。

あの実験の日。
昏倒はしたものの、鍵となった小川恵里の命に別状はなかった。
俺もそれ以上彼女に危害を加えるつもりはなかった。
目覚めたら江島教授同様に封印のカードを渡し、
実験のことは一切口外しないよう因果を含めてから、
無事に帰してやるつもりだった。
あの男が401号室に入ってくるまでは。

俺にはすぐ分かった。
目の前に飛び込んできた男が、小川恵里を取り戻すためなら
どんなことでもするだろうということが。
あの男が恋人の名を狂ったように呼びながら
駆け寄るのを見た瞬間、決まったのだ。最初のライダーが。
535帰還(27)2002年4月:03/06/08 03:06 ID:qnrUHni7
そして。
「貴様か・・・生きた人間以上にタチの悪い死人というのは・・・!」
そう言って俺を見たあの男と視線が合った時、
俺は自分の考えが間違っていなかったことを悟った。

この男は、俺に限りなく近い人間だ。
かけがえのない誰かのために命を賭けることのできる人間。
自分だけでなく、他人の命さえも・・・
そうだ。おまえなら、俺が望む通りのライダーになるだろう。

小川恵里は、このまま眠らせておく。
この男の戦う理由そのものである以上、
目覚めさせるわけにはいかない。

仮面ライダーナイト。お前とは是非とも戦わねばならない。
たとえもう実体はなくとも、このカードデッキがあれば
俺はいくらでも戦える。
だからそれまで、他のどんなライダーと戦っても勝ち続けろ。
少しでもお前に迷いが生じたら、何度でも醒ましてやる。
どんな手段を使っても。
お前を最高の新しい命にするためなら――優衣に与える命に。

早く、最後の戦士となってオーディンの前まで来い。
今までだって、お前は何度もそうしてきたはずだ・・・
536535:03/06/08 03:20 ID:ghfTXCxo
帰還の続きができたのでupします。
(「すこしペースが」早くなったかな・・・)
たぶん、あと少しで完成すると思います。
読んでくださった方、いたらありがとうございます。

>>530
ageありがとうございます。

>>531
保守ありがとうございます。

>>532
「そうだ」
・・・別スレの手土家さんをちょっと真似て
神崎士郎の台詞をレスにつけてみました。失礼をば
537名無しより愛をこめて:03/06/08 10:47 ID:JTW4+tPM
(・∀・)イイ!
538535:03/06/09 01:36 ID:WGSHZstC
>>537
読んでくださってありがとうございます。完成までがんばります。
539名無しより愛をこめて:03/06/12 10:12 ID:OAlrCdug
任せてください
540名無しより愛をこめて:03/06/16 01:23 ID:vPNrDkXw
帰還の続きができたので、次からupします。
(結局まだ終りませんでした、スマソ)

>>539
ageありがとうございます。
541帰還(28)2003年1月19日:03/06/16 01:25 ID:vPNrDkXw
息絶えた真司のもたれかかる白い車の表面が波立ち、
数枚の黒い羽根がこぼれ落ちる。
そして現れる、20歳になった優衣。
血まみれの亡骸を見下ろし、声もなく泣きはじめる。

真司君…ごめんね真司君………またこんなことになってしまって。
いつも、20歳の誕生日が来たあとでないと思い出せないんだ。
もう何度もこんな風に世界と時間が繰り返されたっていうことが。
そして、そのたびに思ってた。次の世界でなら、真司君が
ライダーバトルに終止符を打ってくれるんじゃないかって。
何回目の世界でも、真司君は一生懸命戦いを止めようとしてくれたから。
でもやっぱり駄目だった。今度もいきなりあたしと蓮の前に現れて、
あたしや蓮や、モンスターに狙われた人たちを助けるためだけに
戦って、いっぱい悩んで苦しんで…
また、最後まで他の誰かのために戦いながら死んでしまった。

お兄ちゃん。もう絶対できないよ。
真司くんに、あんな辛い戦いをやり直させるなんて。
もう一度こんな死に方をさせるなんて。

涙に濡れた顔を上げ、空を見る優衣。
2人のライダーがあれほど大量に焼き払ったにもかかわらず、
レイドラグーンの群れは増殖を止めていなかった。
それをドラグレッダーが片端から殺戮している。
赤い身体を空いっぱいにくねらせ、
怒り狂ってでもいるように凄まじい咆哮をあげながら。
巨大な口から吐き出される炎を浴び、鋭い牙の列で噛み裂かれ、
長い尾で弾き飛ばされるたびに、青いモンスターの残骸が
束になって地上に落ちてくる。
542帰還(29)2003年1月19日:03/06/16 01:27 ID:vPNrDkXw
ドラグレッダー。それにエビルダイバー。
この2匹を描いたときは、特別な願いを込めた。
お兄ちゃんを守ってくれますようにって。
お兄ちゃんがあたしを守るモンスターをいっぱい描いてくれたから、
あたしもお兄ちゃんを守るモンスターを描いた。
だからなんだ、きっと。ライダーバトルのたびに
この2匹と契約した人が戦いを止めようとしたのは。
真司くんも。手塚くんも。榊原さんも…
お兄ちゃんの思惑どおり戦って勝ち残ろうとする他のライダーたちと
対立したり、狙われたりしながらも。
龍騎とライアのカードデッキが、戦いを止めたい人を選んだんだと思う。
お兄ちゃんの意図とは逆に。

お兄ちゃんも、たぶんそのことに気づいてた。
だから2人を戦う気にさせようと、サバイブのカードを渡した。
それでも2人を変えることはできなかったけれど。

お兄ちゃんにライダーバトルをやめてほしかった。
誰かの命をもらってまで生きたくなかった。
お兄ちゃんは、あたしを守るためだけに生きてるって言ったけど、
あたしもお兄ちゃんを守りたかった。
お兄ちゃんを、あたしという名の呪いから解き放ってあげたかった。

でも呪いはなかなか解けなかった。
お前を失いたくない。
戦いをやめてって頼むたびに、そう言って
お兄ちゃんは悲痛な叫びをあげた。
何度新しい命を拒んでも、お兄ちゃんはあきらめなかった。
あたしが死を選んだ時でさえも。
543帰還(30)2003年1月19日:03/06/16 01:31 ID:vPNrDkXw
何度も何度も、お兄ちゃんは新しい世界を作った。
波に崩れた砂の城を一から作り直すように。
その度に、みんな死んだ。
戦いたい人も、戦いを止めたい人も。
それぞれの願いを叶えようと必死に生きて、
ついに叶えられずに死んでいった。
すべてがお兄ちゃんの嘘だとも知らないで。
そしてまた次の世界でカードデッキを受け取り、
戦いに駆り出されていった……

お兄ちゃん。
帰ろうよ、もう。
あの子たちだってきっと待ってるよ、あたしたちを…
ドラグレッダー。お前もそろそろ帰ろう。

真司くん。
今度こそ、ジャーナリストの仕事に専念できる世界で
目覚めさせてあげる。
そこではね、今までライダーだった人たちも、
もう戦う必要なんかないんだよ。
もちろん真司くんと蓮もね。
たぶん、ケンカはいっぱいするだろうけど。

だから、もう少しだけ待ってて……
544帰還(31)0000. 00. 00:03/06/16 01:35 ID:vPNrDkXw

雪が降りはじめた。
がらんとした大きな家の、寒々とした部屋の窓辺に立ち、
白いものの渦巻く天を見上げる少年と少女。
「まだかえってこないね、2人とも」
「うん。はやくかえってくればいいのに」

切れ切れの凄まじい叫びが、
部屋の隅に置かれた鏡の中から聞こえてきた。
「今度もだめだったみたいだ」
「やっぱり、かえってきたほうがいいよね……」

雪が積もりはじめる。
車に寄りかかったまま動かない青年の上に。
冷たいコンクリートにうつ伏せに倒れた男の上に。
白い花を抱いて横たわる男の上に。
長い眠りから覚めた恋人と入れ替るように、
永遠の眠りについた青年の上に。
雪ではなく、きらきらと輝く極小の鏡のかけらかもしれなかった。
そのひとつひとつが彼らの命であり、
彼らが生き、死んでいった世界の一部だった。

ミラーワールドの少年と少女が何かを感じて振り返った。
二つの顔が、ぱっと明るくなる。
「おかえり!」

雪は少しの間も止むことなく降り続け、
世界と時間は少しずつ消滅していった。
大きな家の中では、床に座った4つの人影が
いつまでも楽しそうに絵を描き続けていた。
545名無しより愛をこめて:03/06/16 18:04 ID:ygC6EWKO
感動。
感涙。
(・∀・)イイ!スゲーイイ!!
546名無しより愛をこめて:03/06/17 01:14 ID:6JO4dbkx
読み応えがあって(・∀・)イイ!
完成までがんばってください。
547?n?c?m:03/06/20 00:54 ID:3zjyOk6k
 劇場版龍騎の最終決戦で「天雷旋風神」で
ライダーを助けに来てくれるハリケンジャーの小説を書ける
人は英雄だろうな・・・。
548名無しより愛をこめて:03/06/21 00:55 ID:GD2+frjF

>>545
読んでくださってありがとうございます。
楽しんでもらえたのでしたら、とても嬉しいです。

>>546
読んでくださって嬉しいです、ありがとうございます。
今続きを書いてますので、また日曜の夜くらいにupします
(今度も楽しんでもらえるものになればいいのですが・・・)

>>547
王蛇亡きあと野良化したジェノサイダーが暴走した結果
同じブラックホールのアレとつながり、ハリケンジャー達を
龍騎世界に呼び込んでしまった、ということにしたら
どうだろう・・・とか考えかけて、ジェノは王蛇より前に
あぼーんされていたことに気がつきました(鬱)
(というわけで、どなたかもっといいアイデアあったらお願いします)
549548:03/06/21 00:58 ID:GD2+frjF

毎度書き込み不備失礼します、548のタイトル忘れてました。
帰還の作者のレスです。
遅くなってすみません>読んでくださった方々
550帰還(32)エピローグ:03/06/23 01:13 ID:ljL0y4zH
妙な客だよ、まったく。
あの男が初めて店に来たときは驚いた。
やたら丈の長い真っ黒なレザーコートなんか着てるし、
それになんたってあの仏頂面だから、どっかのワルが
因縁でもつけにきたのかと思った。
もちろん、因縁つけられる覚えなんぞなかったけどね。
「いらっしゃ…」
気を取り直してそう言ったあたしの方を見ようともせず、
足早にカウンターのところまで行くと、いきなり隅の方をのぞき込んだ。
あの子たちの写真が飾ってある所だ。

「ちょっとお客さん、ご注文は?」
あんまり長い間そこばかり見てるんで、あからさまに
嫌味ったらしく言ったら、大胆にもタメ口で聞き返してきた。
「この写真の子供たちは、今どうしてる」
「…なんでそんなこと知りたいんです?」
「どうしてる?」

わざとらしく舌打ちしてから、答えてやった。もちろんタメ口で。
客だろうがなんだろうが構うもんか。
「残念だけど、もう2人ともこの世にはいない。
甥っ子と姪っ子だよ。家は裕福だったけど、
親がひどくてね。父親があたしの兄なんだが。
あたしがもう少し早く気がついて、姪の方だけでも
引き取ってやればよかった…」
不覚にも涙が出そうになったので、あわてて横を向く。
551帰還(33)エピローグ:03/06/23 01:14 ID:ljL0y4zH
「…甥の士郎の方は、妹が死んだ後自分で家を飛び出して、
母方の親戚の家に助けを求めたんだ。
さいわいその高見家の主人ってのがいい人でね。
士郎の言うことを全面的に信用して保護してくれた上に、
ちょうど仕事の関係で一家そろってアメリカへ移るところで、
一緒に連れて行ってくれることになった。
あの子の両親も反対しなかったし。もっとも、
したくてもできなかったろうね。あんな精神状態じゃあ…

罪にこそ問われなかったものの、自分たちのせいも同然で
娘が死んでから、だんだんおかしくなっちまった。
「優衣が夜な夜な鏡の中から出てくる」って怯えだして。
おまけに息子が出ていってから、怯え方がさらにひどくなった。
「士郎まで鏡の中から睨みつけるようになった」からって、
家中の鏡やガラス窓に新聞紙を貼り付ける始末さ。
挙句に今じゃ2人とも精神病院の中ってわけ。
まったく、天罰てきめんっていうのはこのことだね。

ともかく、士郎はアメリカに行った。
あたしも事情を知ってから士郎を引き取ろうと申し出たんだけど、
あの子は自分であたしにこう言った。
「おばさんの気持ちは嬉しいけど、俺、アメリカに行きたいんだ」
妹が――優衣が可哀想な死に方をした日本にいたくなかったのかもね。

でも、その後時々もらった手紙や葉書を見て、安心した。
士郎が幸せに暮らしてることがわかったからね。
絵を描くのが好きなこととか、高見の養父母も自分の絵を
上手いと言ってくれるから、将来画家になりたいと思ってることとか、
ほんとに楽しそうに書いてあったからねえ…
552帰還(34)エピローグ:03/06/23 01:16 ID:ljL0y4zH
だから思ってもみなかった、あの子まで若くして世を去ってしまうなんて。
あたしもお葬式に呼ばれて、アメリカまで行った。
地元の美術大学に通っていた士郎の遺した絵を
見せてもらった時は、泣けてきてどうしようもなかったよ…
風景画や静物画や、人に頼まれて描いた肖像画。
どれも見事な完成度の上に独特な魅力があったから、
そのまま勉強を続けていれば間違いなく画家として
成功しただろうってことは、誰が見ても分かった。
だけど、そんな理由で泣けてきたわけじゃない。

日本人の女の子を描いた絵が何点もあってね。
モデルも写真も使わずに、自分の記憶だけを頼りに描いてたらしい。
家族といっしょに海辺で遊んでたり、たくさんの友達と一緒にいたり、
士郎自身らしい男の子と並んでたり…
シチュエーションはいろいろだけど、みんな同じ女の子。
そう。優衣だったんだよ、全部。
どんなに時がたっても、どんなに離れても、忘れてなかったんだね。
というより、士郎はたぶん、あの絵を描きたいがために
画家を志したんじゃないかね――それくらい、優衣を
モデルにした作品はどれも美しく生き生きとしていたんだよ。
他のどの絵よりも」

ここまで話してから、はっと我に返った。
あたしとしたことが。なんで見ず知らずの若造に
こんな内輪のことまで喋っちゃったんだろう。
後悔しながら、こっそり例の客の顔を見る。

驚いたよ。どこへいったのかね、さっきまでの仏頂面は。
まるで自分の身内が今死んだみたいな顔してるじゃないか……
553帰還(35)エピローグ:03/06/23 01:18 ID:ljL0y4zH
なんでこの男がそんな悲しそうな顔しなきゃいけないのか、
さっぱりわからなかった。
だいいち、初めてこの店に来て、迷わず写真のところへ
向かったこと自体が不可解だった。
まるで前からこの店と、あの子たちを知ってたみたいに。
もちろんそんなはずあるわけないけど。
「あの、ご注文…」
あんた、いったい何者?そう聞くつもりだったのに、
結局口から出てきたのはそんな言葉だけだった。

無愛想な若者は、その後も時々花鶏に顔を出すようになった。
住宅街という場所のせいか、客足がいまひとつ伸びないことに
頭を痛めているあたしにとっては、なかなかありがたいことだった。
ほどなく、別の客まで連れてきてくれたし。それも、女の子。
「あら。もしかして彼女?隅におけないねえ、あんたも」
二人で店に入ってきたとき、驚いたんでついそう言ったら
案の定じろりと睨まれた。もうあの可愛げの無さにも
慣れたから、なんてこたなかったけどね。

だけど本当に驚いたのはそのあとだった。
その彼女っていうのが、実に気立てのいい子だったんだ。
陽気でよく笑う上に、笑顔が最高に魅力的ときた。
つまり相方とは正反対の性格ってわけ。
まったくうまくできてるよ、世の中ってのは。
「すてきですね、ここ。インテリアもだけど、外のフェンスが可愛くて好き」
「どうも。若い頃イギリスへ行った時、古い屋敷がよくああいう
洒落た柵で囲われてるのを見て、いいなと思ったんですよ」
そんな会話がきっかけで、あたしとその彼女――
恵里ちゃんは、その日から仲良くなった。
554帰還(36)エピローグ:03/06/23 01:20 ID:ljL0y4zH
優衣が生きてれば、もうすぐ二十歳になる頃だ。
いったい、どんな娘になってたんだろう…
最近よくそう思うようになった。
あたしが恵里ちゃんに親近感を持ったのは、
そのこととも関係があるのかもしれない。
優衣も、恵里ちゃんみたいに明るい子になってただろうか。
やっぱり大学へ行ったりしていたんだろうか…

ともかく。
「来年、蓮と結婚する予定なんです。あたしが卒業したら」
恵里ちゃんが恋人以上に足繁く店に来て、お茶を飲んだり
レポート書いたりしながら色々おしゃべりしていくようにならなければ、
彼の方の名前もずっと知らないままだったかもしれない。
一人で来た時は黙って紅茶飲んで帰っていくだけだしね、あの男。
座るのは、必ずカウンターの隅。テーブル席が空いてる時でも。
たぶんあの写真が見えるからなんだろう。

「ねえ、蓮ちゃん。前から聞こうと思ってたんだけど――
あんた、その写真のどこがそんなに気に入ってるわけ?
初めてここへ来たときも、あれが目当てだったみたいだけど。
この店に通いはじめたのも写真を見るため?」
店に他の客がいなかったある日の午後、ついにそう聞いてみた。

あの子は長いこと返事をしなかった。
ただ、白無地のカップを見つめていた。

もしかして、ちゃん付けで呼んだのが気に入らなかったのかね。
そんなことまで考え始めたとき、やっと口を開いた。
「待っている」
555帰還(37)エピローグ:03/06/23 01:22 ID:ljL0y4zH
待っている?
答えが質問と噛み合ってないじゃないか。
最初はそう思ったけど、すぐに気づいた。
この店に通いはじめた理由だけを答えたんだってことが。
「待ってるって、誰をよ?」
「馬鹿男」

蓮ちゃんは、それ以上何も言わずに帰っていった。
あたしもそれ以上聞こうとはしなかった。
なぜあの子が士郎と優衣の写真に興味を持つのか、
なぜこの店に写真があると知っていたのか、
なぜあたしの話を聞いて悲しそうな顔をしたのか。
「馬鹿男」ってのは誰なのか。
結局肝心なことはほとんど何も分からなかったけど、
もう何も聞く必要はないっていう気がしたんだ。
あたしの勘に間違いはない。大事なことに関してはね。

それ以来、店に蓮ちゃんが来ると、あたしはお会計のときに
決まってこう言うようになった。
「今日も来なかったみたいだね、馬鹿男は」
「ああ」
蓮ちゃんの答えも決まってこうだった。

そしてその日も、同じ会話が繰り返された。
だけど、そこから先がいつもと違っていた。
支払いを済ませて、ガラス張りのドアを開けようとした
蓮ちゃんの動きが、突然止まった。
ガラスの向こうを見つめたまま。
556帰還(38)エピローグ:03/06/23 01:25 ID:ljL0y4zH
一瞬だけためらった後、蓮ちゃんはドアを開けて出ていった。
何ごともなかったみたいに。

こっそりドアのガラスに近寄って、外の様子をうかがってみる。
店の階段を降り切ったところで、
蓮ちゃんと見知らぬ若者がにらみ合っていた。
すれ違いざまに、肩でもぶつかったのかね?
いや。もしかしてあれが…
蓮ちゃんがずっと待っていた、馬鹿男?

そう思ったとき、不思議なことが起こった。
あたしのすぐ目の前に、若い娘の幻影が浮かび上がったんだ。
まるであたしと並んで立っていて、
ドアガラスに映り込んだみたいに。
「!?」
あわてて横を向いたけど、もちろん誰もいない。
もう一度ガラスの表面を見たけど、もう何も映ってなかった。
……突然涙が溢れ出してきた。
一瞬しか見えなかったけど、分かった。あれは優衣だ。
ちゃんと、成長してたんだねえ――どこか別の世界で。
よかったよ。恵里ちゃんと同じくらい、素敵な笑顔の子で。

もうひとつ分かった。
優衣も、あの「馬鹿男」を待っていたんだってことが。

カウンターの内側に戻ってお茶の仕度をしてると、
ドアがバタンと開いて、さっきの若者がよたよたと入ってきた。
「コーヒーください。コーヒー」
そう言いながら。
557帰還(39)エピローグ:03/06/23 01:28 ID:ljL0y4zH
やれやれ。そそっかしい男だよ。
落ちついて座ってメニューさえ見りゃ、コーヒーが置いてないことくらい
すぐ分かるだろうし、看板に「TEA」花鶏って書いてあるだろ。
「コーヒーはない。紅茶だけ」
我ながら素っ気なく答えたけど、実のところ興味津々だった。
この男も、あの子たちの写真を見に来たんだろうか。

「へ?……あ、あの、じゃそれを、ください」
そう言って、新顔の若者はカウンターの隅に座った。
蓮ちゃんのいつもの席だ。
だけど、すぐそばにある写真立ての方は見ようともしない。
「……いい店っすね…はは」
あたしの視線を居心地悪そうに避けながら、
店の中を見まわしてお世辞など飛ばしてみせるけど、
やっぱり写真には全然気づかない。
ということはこの子、優衣のことも士郎のことも知らないのかね?
それとも……忘れてる?優衣の方は覚えてるのに。
いやだ、あたしったら。
常識で考えれば、蓮ちゃんが二人を知ってるらしいことの方が
異常に決まってるのに、この長髪の若者が何も知らないことの方が
おかしく思えるなんてね。

「お姉さん……紅茶を………お紅茶を」
いたたまれなくなったらしく、そんなことを口走りだしたので、
カウンターの下からメニューを取って差し出した。
悪かったね。苛めるつもりじゃなかったんだよ。
「お客さん、ここは紅茶専門店なの。色々な種類を用意してます。
だからまずは、これを見てちょうだい。
あともう少しでクッキーも焼けるから、良かったらどうぞ。
味には結構自信があるんですよ…」
558帰還(40)エピローグ:03/06/23 01:30 ID:ljL0y4zH
その後も、花鶏には奇妙な客が絶えなかった。
まあ、あたし自身変わりものだって自覚してるから、
客が妙でも別に構わないけど。

だけど、願わくばあいつだけはもう御免こうむりたいね。
あの蛇ガラのジャケットを着た、ぼさぼさ髪の男。
街の方じゃ有名なチンピラらしいけど、なんだってそんな奴が
この店に来ようなんて気を起こしたのかは永遠の謎だ。
ま、紅茶一杯飲んで、ちゃんと代金払って帰ってくれたから
いいけどね。幸い、他に客がいない時だったし。

別の意味で迷惑だったのが、どっかの大会社の社長さん。
この人がどこで花鶏の噂を聞いたのか、なんで来る気に
なったのかも、いまだにさっぱりわからない。
「俺ぁ、振られちまったんだよ……
金も権力もすべて手に入れたのに、女の心だけはままならねえ」
カウンターに突っ伏して、延々愚痴り続けたからうんざりした。
まったく、ここをバーと勘違いしてるとしか思えなかったよ。
こんな狭い住宅街にばかでかいリムジンで乗りつけて
店の前に止めてあるもんだから、しょっちゅう宅急便や清掃車の
クラクションが店の前で鳴って、うるさかったしね。

「わかるわかる。俺だって、顔もスタイルも金も地位も完璧なのに、
本命をデートに誘って成功したこと、まだ一度もないからさ」
ちょうどその時店にいた、自称「スーパー弁護士」が、社長さんの
相手をしてくれたんでずいぶん助かった。
たまに男の秘書と一緒にお茶を飲んで行くんだけど、
この人が来るようになった理由も謎なんだ、実のところ…
559帰還(41)エピローグ:03/06/23 01:33 ID:ljL0y4zH
ありがたいことに、普通のお客も順調に増えていった。
恵里ちゃんの所属する研究室の江島先生と、
その学生ご一行様は、打ち上げの2次会でよく来てくれる。
江島先生の勧めで、別の研究室の香川先生と
そこの学生の東條くん、仲村くんも来るようになった。
ある日曜には、香川先生が奥さんと子供を連れてきたっけね。

そうそう。例の、コーヒーを頼んだ子。
城戸真司っていうんだけど、あの子も常連になって
自分の人脈を引っ張ってきてくれたんだ。
OREジャーナルっていう所でジャーナリストになるための
修業をしてるらしいんだけど、そこの編集長と、SEの女の子と、
ベテラン記者の若い女の人と、それに新人の女の子。
この人たちも、取材の打ち合わせやインタビューや
プライベートで、よく花鶏を利用してくれる。
新人ちゃんがよく皿やカップを壊すのには、少々閉口してるけどさ。

そして、ある日。
「ちょっと真ちゃん…もしかして彼女?隅におけないねえ、あんたも」
蓮ちゃんと恵里ちゃんが一緒に来たときも驚いたけど、
今度もびっくりしたね。あの三枚目の真ちゃんが、髪の長い、
すごくきれいな女の子を連れてきたんだから。
名前は美穂ちゃん。じきに恵里ちゃん同様、
一人でも花鶏に来て色々しゃべるようになった。
病気で亡くなったお姉さんとはずいぶん仲が良かったらしく、
色々な思い出を話してくれる。
淋しそうだけど、とても嬉しそうにも見える顔で。

たぶん、これからもいろいろ変わった客や
面白い客が来るんだろうね、この店には…なぜだか知らないけど。
560帰還(42)エピローグ:03/06/23 01:38 ID:ljL0y4zH

アメリカ、某州アクレイ大学近隣の小さな墓地の一角にある、
ひとつの墓石。
最近、新しく取り替えられた形跡がある。
その前に一人の女が立った。

抱えていた花束を、新しい墓碑銘の上にそっと置く。

SHIRO TAKAMI
1977.9.29 - 2001.4.15
YUI KANZAKI
1983.1.19 -1990.*.**

花鶏から持ってきた少年と少女の写真を見ながら、
墓石に向かって語りかける沙奈子。

「よかった。優衣もお前と一緒に眠らせてくれるように
高見家にお願いして…
これでもうずっと一緒だよ、あんたたちは」

                      END