世界が注目する日本のウイスキー−1世紀の研さんを経て花開く
http://si.wsj.net/public/resources/images/OB-XC198_mag051_G_20130416182124.jpg 映画「ロスト・イン・トランスレーション」のビル・マーレイはサントリーのCM撮影のために来日する設定
[image] Focus Features/The Kobal Collection/Yoshio Sato
日本人ほどバーという繊細な技術をマスターした国民はおそらく他にいない。大手飲料メーカー、サントリーの
山崎蒸留所からほど近い京都には、洗練さを見事に極めたバーがある。ここでふと物思いにふけるときには、
地元のウイスキーが合うようだ。西欧では、日本のバーテンダーの技術が取り入れられつつある。その独自性を
支えるテクニックや器具に驚いたバーテンダーがまねているのだ。今では西洋の多くのバーテンが日本でしか作ら
れていない優雅な柄の長いスプーンを使って、飲み物を混ぜる。日本式に氷を丸く削るバーテンもいる。こうした
細やかな気配りは控えめに客をもてなす12席しかないこの小さなバーにこの上なくふさわしい。
日本の上質なバーの最大の特徴はウイスキーにある(日本で「ウイスキー」を英語で書くときは、スコットランドと
同様に、whiskeyではなくwhiskyのつづりが好まれる)。ウイスキーは日本のバーの形成に大きな役割を果たした。
バーに行くと、さまざまな日本酒の瓶のほかに、図書館にあるような棚が目に入る。そこに並んでいるのは羊皮紙で
できた本の背表紙ではなく、白州やラフロイグ、ボウモア、山崎といった濃い金色のウイスキーボトルだ。黙りこくった
客がグレンケアン・クリスタル社製のグラス(一流のブレンダーが香りをかぐために使用する、わずかに先が細くなった
グラス)からニッカのシングルモルトをゆっくりと楽しむ。静かで控えめな喜びが凝縮されているようだ。このようにウイ
スキーを楽しむことができるのは、日本のウイスキー自体の質が驚くほど向上したから、ともいえる。日本のウイス
キーが本家のスコットランド以上に国際的に評価されることも今では珍しくない。
例えば、2012年のワールド・ウイスキー・アワードでは、サントリーの山崎25年が世界最高のシングルモルトウイス
キーに選ばれ、ニッカはブレンデッドモルト部門で優勝した。サントリーは現在、米国向けだけで年間1万ケースを
優に超えるウイスキーを輸出しており、フランスや英国への輸出も好調だ。バランス、口当たりのよさ、繊細さに
優れたこれらのウイスキーの出現によって、ウイスキーは変わりつつある。なぜ日本のウイスキーが世界で人気を
博しているのだろう。サントリーの山崎蒸留所で工場長を務めた宮本博義氏に尋ねると、「質」だという簡潔な
答えが返ってきた。毎年質が上がるようにウイスキーを作っているのだと宮本氏は言う。
京都のバーは懐石料理を出す小さな木造建築の料亭に似たところがある。静かな住宅街にある閑臥庵は
17世紀初めに建造された小さな寺だ。かつて天皇家に引き立てられたこの寺の中にバーがある。盆栽と石彫りの
動物を配した優雅な庭は後水尾天皇が作らせた。庭には今でも、後水尾天皇の和歌を刻んだ石が置かれて
いる。ある晩、この庭の中央にあるバーでシングルモルトウイスキーの白州を味わった。東京の西の山間部にある、
世界で最も標高が高い蒸留所の1つで白州は生産されている。この地で、白州はここにしかないと言われる水で
作られているのだ。
バーテンダーは白州や山崎に使われている水の特徴について一家言を持っていた(日本人は水にこだわる。水に
神秘的な性質があると考えている)。バーテンダーいわく、山崎に使われている水は何世紀もの間、茶道に使われ
てきた。水質が素晴らしいが、科学的に解き明かすことはできないという。茶道を完成させた16世紀の茶の大家で
ある千利休はお茶を点てるのに山崎の水を選んだ。それでも、日本のモルトウイスキーの独特の質は水だけで作り
出すことはできない。
>>2あたりに続く
LAWRENCE OSBORNE/The Wall Street Journal 2013年 4月 29日 17:07 JST
http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887323343804578452192329312344.html