973 名前: ◆Pc42BttzIw [sage] 投稿日: 2012/03/18(日) 03:37:33.19 ID:???0
”知っていたなら、どうして……君は全く俺を怖がっていなかっただろう”
信じられない、と愕然として俺は問い返した。
〈逃げ遅れ、トラックに積み込まれる寸前まで私にも少し意識はありました。
そこで次々と他の逃げ遅れた方々を運んでいく兵隊さん達と、
一緒にいるあなたの姿がぼんやりと目に入っていました。その時、すぐにピンと来たんです。
あれが噂の『黄色い悪魔』だと。再び目覚めた時、そのあなたが目の前にいてすごく驚いたし、
とても怖かった。でもね、次の瞬間にはそんな気持ち、跡形も無く吹っ飛んじゃいました〉
俺の恐ろしげな噂は兼々聞いてはいたが、実際に目の当たりにしたら恐れは沸いて来なかった、
彼女はそんな風に言って、クスと笑った。
〈時々ね、ここに住むやんちゃな子達が、危ないから行っちゃ駄目っていつも言ってるんだけど、
大人達の目を盗んで近所の森の奥に探検って称して遊びに行っちゃうんです。
普段はちゃんとバレない様に帰ってきているみたいだけれど、その時は奥まで行き過ぎたみたいで、
中々帰ってこないあの子達をみんなで探しました。やっと見つかった時のあの子達いったらもう……
日ごろの強がりで意地っ張りな素振りが嘘みたいに、みんな寂しそうで頼りなげな目をして
わんわん泣きじゃくっちゃって、私までつられちゃいました。
あなたの目を間近で見て、あの時のあの子達の目にとても似ているなって思ったんです。
寂しく儚げで何かに迷っているような目。スカーさん達にも似たものを感じました。
そう思った途端、なんだかまるで怖く無くなったの。そっか、このひと達も同じなんだなって〉
974 名前: ◆Pc42BttzIw [sage] 投稿日: 2012/03/18(日) 03:38:24.06 ID:???0
俺や部隊の他の者達も恐れなかったのは、俺達がまるで迷子になった時の子どもと
似たような目をしていたからだと彼女は語った。
”俺がやってきた事は、子どもが言いつけを破ったなんてものとは規模も数も違う。
残虐に冷酷に他者の命を踏み台にして生きてきたんだ。許せるはずが……許されるはずが……!”
また胸が苦しみだし、俺は強く押さえ付けた。爪が食い込み、血が滲んだ。
〈確かに今まであなたは多くのものを奪ってきたのかもしれません。
でも、あなたがその痛みを苦に己の命を投槍にしたところでそれが戻ってくるわけじゃない。
それどころか、あなたの言葉を借りるなら、あなたの代わりに”踏み台”となってきた方々の
命が無駄に終わったことになってしまう……!
前にも話したかもしれませんが、私の両親は私がまだ物心つかない程に幼い頃、
戦禍に巻き込まれて亡くなりました。幼い私だけが生き残っていたという状況からして、
両親はきっと私を庇ったがために亡くなってしまったのでしょう。その事で私も一時期、
思い悩んでいた時期もありました。でも、ある時思ったんです。そして、変わったんです。
両親の分、長く生きた代わりに、誰かの助けになって生きていこう。
それで両親がかえってくるわけじゃないけれど、私だけの力なんてたかが知れているけれど、
同じような悲しみを味わうひとを少しでも減らすことが出来ればそれでいい。
自己満足かもしれないけれど、両親がそれで本当に喜んでくれるか確認しようも無いけれど、
何もしないでずっとうじうじしているよりは絶対いい〉
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明日か明後日にでも続き書くよ
くっさ
乙
,z'='ゝ、__,ィ!
_ __,,.、/ミミミミミミヲ'__
、___,,ィイミミミ>‐'`'‐v':::::::::`:,'´``ヽミミミミミミミニ=-_,,.ィ!
ヽ,、____\ミミミミ>:::::< 'z::::::::;:ィ' ,i゙ミミミミミミミヾ砂炒′
ミッ、__\ミミミミミ`ミミ〉:::::::`:ッ.._,.ノ `ー^゙ `'ーー'ヾミミミミミミ三=ヌ彳ッ、
兮兌來W=ミミミミミミミ>‐-'゙´ ヾミミミミx自慰或゙´
,>安為益ミミミミミミ'! ,.,,.、,ィ i弌冦圦早ゞ''´
;=弌生理域圧ェェェッミ! _ゝォ;ェ、 ,姉欹ヽ、 ̄`゙`
`゙ヾ冬/変>'゙'y !::傚 s ゙恩てノ 1
/゙´ ,゙ 'つ汐′ ;一'l `~´ ,y′
,-'、、 ヽ_ノ ,ィr〈
,, -―==-! `゙ーャ、___、___,,.ィ<‐'´ 丿
/_ ヾ、_ ゙Yjor、o0゙´_/
'"´ ``‐、- _ `> r' ' !、 |
ヽ、 ! ヽ'´ ゝ゚.r'′/
`ー-ヘ ` ゙ー'′ ヽ
゙t'__ l
``ー ..,,__ く
`ー―‐′
6スレ目おめでとうございます
変わらず応援してます
ごめん、ちょっと用事が立て込んで書くのが遅くなりそうだ
金曜日の深夜〜土曜日の昼頃には投下できるようにするよ
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、___,,ィイミミミ>‐'`'‐v'::::| |:::::`:,'´``ヽミミミミミミミニ=-_,,.ィ!
ヽ,、____\ミミミミ>:::::< 'z:::| |:::::;:ィ' ,i゙ミミミミミミミヾ砂炒′
ミッ、__\ミミミミミ`ミミ〉:::::::`:ッ.._,.ノ `| |ー^゙ `'ーー'ヾミミミミミミ三=ヌ彳ッ、
兮兌來W=ミミミミミミミ>‐-'゙´ | | ヾミミミミx自慰或゙´
,>安為益ミミミミミミ'! | | ,.,,.、,ィ i弌冦圦早ゞ''´
;=弌生理域圧ェェェッミ! _ゝ=;=、 | | ,三三Yヽ、 ̄`゙`
`゙ヾ冬/変>'゙'y !::三三 | |s ゙三三ノ 1
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'"´ ``‐、- _ `> r' | |' !、 |
ヽ、 ! ヽ'´ ゝ| |゚.r'′/ ←
>>10 `ー-ヘ ` ゙ー| |'′ ヽ
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``ー ..,,__ | | く
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どうして忘れてる?!
13 :
保守派:2012/03/23(金) 23:51:18.86 ID:hcDsaIT4O
挙げておけよ…
己の所業を悔いて死ぬくらいであれば、犠牲になったものの分まで生きて償え。
彼女は己の境遇になぞらえて言外に言った。
その時の俺に彼女の言葉はとても酷なものに響いた。
ただでさえ一生涯背負っていくには押し潰されそうなほど重く、苦しいというのに、
その荷を積まれる我が身は生まれたばかりのシキジカよりも弱弱しく、
ろくに歩みもおぼつか無い無能の身だ。
”無理だ、無茶だ、出来っこない。最早こんな身で生き長らえたって、
誰の助けにもなれはしないだろう。何の意味も価値も無い、寧ろ負担となるだけ。
ならば死んでしまった方がマシだ。いっそ殺せ、殺してくれ……”
俺は頭を抱えて耳を畳み、駄々をこねる様に首を横にふるって叫んだ。
閉じた眼の裏からじわりと情けない熱が滲む。
まるで子どもみたいに泣きじゃくる俺を前に、彼女は毅然と構えて一息吸った。
〈そんなにいらないって言うのなら、その命、私が貰います!〉
びしりと一喝するように彼女は言った。びくりと俺は顔を上げた。
〈何の価値も無くて捨てていいって思っているものだったら、誰かが貰ってもいいでしょ?
それからどんな風に扱われちゃっても文句は言えないはずだわ。
いっそ死んでも構わないぐらいの気構えがあるなら、どんな事だって受け入れられる。
貰った相手がどんな負担を被っていようと、好き勝手に貰っていったんだからあなたには関係ない。
誰の助けにもなれないなんて、そんなの自分一匹だけで測れるもんじゃありません。
やってみなくちゃわからない、出来ないとやらないは違うんです。だから、というわけで――〉
再度、気を入れなおすように彼女は大きく息を吸った。
〈あなたを私にくださいッ!〉
ぴしっと指をさして勢いよく彼女は言い放った。
俺は何だか圧倒されたようになってぽかんとその姿を見ていた。
一拍の沈黙の後、放った言葉の意味が色恋の告白の類にも取れてしまうものと気付いたのか、
彼女はハッとして、黄色い顔がみるみる真っ赤に染まっていった。
〈え、えーと、今のは変な意味じゃあなくって、その……ああ、ダメ、上手く言えない〉
先程までの威勢は途端になりを潜め、しどろもどろになって弁解しようとしていた。
”くく、ははは……なにをやっているんだ”
そんな様子を見ていると、何だか不可思議な笑みが湧いたきた。
良い意味で肩透かしを喰らってしまった様な、奇妙な感覚だった。
”……分かったよ、俺の命をくれてやろう。元々、落としたも同然の所を拾われた身だ。
君の言い分に従おう。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。”
GJです
シスターかわいい
保守
明日明後日にでも続き書く
保守
保守
保守
下げるな!!
本人が下げてるので下げます
根負けして諦めたように俺はそう答えた。
〈お任せください、決して悪いようにはしませんわ〉
彼女は表情を太陽みたいにパッと晴らして嬉しそうに微笑んだ。
それから俺は彼女の言うことをきちんと守って、まずはしっかりと療養に努めた。
ろくに口もつけていなかった食事をしっかりと取り、例の悪夢に苛まれ寝付けない時は
彼女がいつも傍で宥めてくれた。やがて包帯を外していても大丈夫になった頃、
少しずつ歩けるように訓練を始めた。初めは室内だけで壁伝いに、時に彼女に手を引かれ、
ゆっくりゆっくり一歩一歩踏み出した。時折襲ってくる激しい痛みや、
自在に地を駆け跳んでいた体が赤子のように自由が利かなくなっていることへの焦燥と屈辱感、
情けなさに何度も心が折れてしまいそうになったが、牧師の暖かく見守る目や、
彼女の優しい励まし――時々、叱咤――にその都度奮い立たされた。
そうして挫けず地道に続けている内、壁に手をつかなくとも、誰の補助を受けなくとも、
極めて頼りなくはあるが己の二足で数歩歩めるようになった。その時の二人といったら、
まるで自分の事のような喜びようで、彼女はぐすぐすと感極まった様子で涙を滲ませ、
牧師からはやんやと拍手喝采を送られた。当の俺は、それにどう応えたらいいか分からなくて、
何ともいえない表情をしていたかもしれない。
思えば誰かから何の皮肉も嫌味も畏怖も無い称賛を受けたことなんて初めてだった。
今まで俺が成し遂げた事なんて泥やら血やら灰やらに汚れたものばかりで、
それに送られる賛辞なんて悪意や恐れにまみれていて当然かもしれない。
だから、何の混じりけも無く純粋に、それも普通の者なら出来て当然の事なのに褒められて、
暗闇に慣れた目に唐突に陽の光を浴びせかけられたモグリューみたいに驚き竦んでいる自分がいた。
〈本当に、本当におめでとう……! よく頑張ったね〉
ふらつく俺の手を取って支え、彼女は微笑みかけた。細めた目からぽろぽろと涙が零れた。
”あ、ああ……”
何だか胸の中がこそばゆいけれど、やり遂げたのはとても小さな一歩だけれど、
決して悪くない感覚だった。
何もかも失った気でいた俺が、初めて手にした小さくてもかけがえのない栄光。第一歩だった。
〈明日からは少しずつ歩ける距離を増やしていきましょう。それで、十分に歩けるようになったら、
村の中を案内がてら一緒にお散歩しましょ。後それから、村やここに住む子達を紹介するわ。
今まで身体に障るといけないと思って面会謝絶にしていたけれど、みんなあなたの事が気になって、
会えるのを楽しみにしているの〉
とりあえずここまで
また金、土くらいに続き投下する
保守
一からのSSじゃあ、久しぶりに感動した!
GJです
保守
保守
保守
朝方ぐらいまでには投下できるようにする
歩行訓練はその後も順調に進み、足取りも随分と安定して歩めるようになっていた。
そんなある日の午前中、彼女が何だかご機嫌な様子で部屋へとひょっこり顔を覗かせて、
〈おはよう、外は雲ひとつ無い良い天気ですよ! 前にした約束覚えてる?
あなたの足取りも大分しっかりしてきましたし、今日は村を一緒にお散歩しましょ〉
村を案内がてら一緒に散歩をしようと俺を手招いた。
そういえばそんな約束をしていたと思い返し、”ああ”と俺は頷いてまだ寝起きで
気だるい体を奮い起こして、誘われるまま彼女の待つ部屋の外まで出て行った。
俺が出てくるのを見ると、彼女は後ろ手に隠していた編み籠をいそいそと取り出して見せた。
”なんだ?”
〈今日のために用意したお弁当。中身は、いつもとあまり代わり映えしないけれど……
お日様の下で食べればきっといつもより美味しく感じるはずだわ〉
怪訝に籠の中身を尋ねる俺に、彼女は今日の為に用意した弁当だと微笑んだ。
”なるほど。悪くないな”
〈ふふ、でしょ?〉
ところどころギシギシいう古ぼけた木製の廊下を彼女の少し後ろからついて渡り切ると、
少しばかり広まった空間へと出た。整然と一方向に向かって並んだ長椅子や、
質素ながらあちこちに施されている厳かで独特な雰囲気の装飾からして、
ここが所謂、神々というものを祀る聖堂や礼拝堂といった類の場所なのだろうと判断した。
今までまるで縁の無かった光景に、物珍しくて俺はついついきょろきょろと礼拝堂を見回していた。
特に目に付いたのが、ずらりと整列する長椅子達が一斉に正面を向けている最奥、
窓に嵌め込まれた色とりどりのガラスで形作られる絵画――ステンドグラスというのか――だった。
大きな三角形の中心に巨大な円、底辺側の角の両内側に二つの小さな円があり、
左下の円の中には四肢と一対の大きな翼をもつ煌びやかな真珠色をした二足の竜。
――何分、神など信じる性質ではなかったし、懐疑的な目で見ていたせいもあるかもしれないが、
その一つの澱みも許さず磨き抜かれたような流麗な姿は、過ぎた潔癖さと冷酷な印象を抱かせた――
右下の円には屈強な四肢と背に大きな扇状のヒレがある暗い紺色をした四足竜、
――その如何なるものも弾き返してしまえそうな力強い姿は、あまりに無機質で冷淡にも見えた――
そして、中心の最も大きな円には何とも名状し難い、純白のしなやかな体躯に、
後光かはたまた身体の一部か金色の輪を背負った、”何か”が描かれていた。
その”何か”は二頭の竜の特徴を掛け合わせたような、それでいて竜とも獣とも判断しかねる姿だが、
全体のシルエットとしてはメブキジカやギャロップのような蹄のある四足獣に近いだろうか。
こちらを荘厳な面持ちで見下ろす様は、どこか傲慢で独善的に思えた。
〈あのステンドグラスに描かれているのは、この世界を創り出した神様とその御使い様だそうです。
左の円に御座すのが空間を司るというパルキア様。右の円に御座すのが時間を司るというディアルガ様。
そして、中心の一番大きい円に御座すのが、その御二柱を産み出しこの世界を創り出したという、
全知全能のもの、万物の父であり母であるもの、創造神アルセウス様――〉
?々とステンドグラスを見つめる俺に、横から彼女が描かれている者達の意味を教えてくれた。
”ふうむ……”
彼女の説明に耳を傾けつつも、俺はいまだにその全体像に対して何となく収まりの悪さというか
何かが欠如しているような違和感がして、ステンドグラスを眺め続けていた。
〈あの、どうかしましたか?〉
”いや、何というのだろうな、ここに描かれているものには何かが足りないような気がするのさ。
底辺の角二つにはその御使いとかいう者達が描かれているのに、頂角にだけ何も無いというのは
どうにもバランスが悪い気がしてな。あの頂角の部分だけ妙に隙間があるというか。
中心の円も不自然に頂角側がもう一つ円が入り込みそうな具合に欠けている”
心配そうに俺の顔を覗きこむ彼女に、俺はステンドグラスに抱いている違和感について話した。
〈やっぱり気になります? 牧師様に聞いたのですが、あの位置には本来、
ディアルガ様、パルキア様、御二柱と同時期に産み出されたとされる、影または反物質を司り、
この世の裏側から時空を安定させているといわれるギラティナ様という御使いの御姿が描かれ、
大昔はパルキア様やディアルガ様と変わらないぐらいに厚く信仰されていたそうです。
ですが、どこかの偉い誰かがいつからか、私達この世に生きる者達は本来は命尽きない不死の身として
アルセウス様に創造された所を、ギラティナ様に死という概念を植え付けられてしまい
定命となってしまったんだーだなんて唱え出して、この世の裏側に潜んでいるのは、
そうして亡くなった方々の魂を引きずり込んで喰らうためだー、神を裏切って逃げ込んだんだー、
だなんてあれやこれや散々に悪者扱いされて、瞬く間にその座を堕ろされてしまった――。
この話を聞いた時、何だか身勝手で酷い話だわって思ったの。神様達なんて目には見えないから、
本当にそんなことしたかなんて誰にも分からない筈なのに、急に勝手に悪者だと決め付けた上に、
手の平を返すみたいに態度を変えちゃって……〉
〈それに私達がいつか死ぬ事を定めたというのがもしも本当だとしても、
それは仕方の無いことだったんじゃないかなって思うの。だって、新しい命は常にどこかで
産まれ続けている筈なのに、誰もがいつまでもそのままでいたら、世界の広さだって限りは
あるはずだからいつの日かぎゅうぎゅうになってパンクしちゃうわ。
今日のお弁当だって本当はもっと色々一杯詰め込んできたかったけれど籠には限界があるし、
食べるかして減らさないといつか駄目になって、別の新しいものも入れられないでしょ。
いつか終わりがあるって分かるからもっと今を大事に過ごしたくなる。もっと誰かを大切にしたくなる。
これは牧師様の受け売りですけれどね。……あっ、私ったら、ごめんなさい、ついつい長話を〉
”いや、構わない。そのギラティナというのは一体どんな姿を?”
〈はい、ギラティナ様に関する資料はあまり残されていなくてはっきりとしないらしいのですが、
身体の色は淡くぼんやりと輝く白金色で、背から何本もの影の触手を生やした長虫のような、
あるいは三対の足と一対の影の翼をもつ重厚堂々とした竜の姿で描かれていたそうです。
牧師様曰く、他の御二柱よりも何だかおどろおどろしく描かれていて一見怖そうだけれど、
世界をずっと見守っているという話の方が自分は好きだし事実と仮定するならば、
その姿を怖がって目を背けずにじっくり顔をよく見たら、案外優しい眼をしているんじゃあないかなぁ、
ですって。私もそっちの方が素敵だと思います――って、いけないいけない、
このままじゃお散歩できる時間がどんどん減っちゃいます。さあ、早く外に行きましょ〉
早く外に行こうと促す彼女に頷いて外へと向かうすがら、俺はもう一度ステンドグラスを一瞥して、
あそこで踏ん反り返っている者達よりも、そのギラティナとかいう者の方が幾らか共感できそうだと思った。
保守
明日明後日にでも続き書くよ
保守
GJです
たまには上げましょう
保守
保守
遅れてごめん、明日の今くらいには投下するよ
無理せずに
保守
たまに上げないと沈むな…
保守
沈むことの何が問題なのか
別にスレが下に沈んでいてもレスさえあればdat落ちはしないからsageでいい
いざ正面扉を押し開けて差し込んできた日の光に、思わず俺は後ずさってしまった。
窓越しではなく直接全身に浴びる太陽の光は随分と久しぶりで何だか痛烈に感じられた。
日差しに怯んでしまうなんて本当に悪魔か何かみたいだ、やり場の無い苦笑が漏れた。
〈ほらほら、何やってるんですか。早く行きましょ〉
”む……”
彼女はもたつく俺の手を取り、くいと外へと引っ張り出した。目映い光が全身を包み、
穏やかで清涼な空気が頬を撫でた。目蓋をしぱしぱさせている内に徐々に目は光に慣れていき、
古ぼけた石畳の細い道とその両脇に広がる素朴ながら手入れされた芝生の庭が映った。
その庭できゃいきゃいと賑やかにボールを追い掛け回している数人と数匹の子ども達の姿を見付けた。
子ども達もすぐに俺と彼女に気付き、立ち止まって顔を見合わせ……その後は例えるならば、
とある一人の少年が美味しそうな焼き立てのポップコーンが入ったカップを無防備に抱え、
腹を空かせたマメパト達が屯する公園にうっかり足を踏み入れてしまった、そんな状況を想像してくれ。
好奇心に目を輝かせた彼らの波に押し寄せられ、瞬く間に俺は取り囲まれてしまっていた。
あんなに素早く包囲されたのは、鉄の結束と外殻を誇る脅威の軍隊蟻アイアント達と戦って以来だ。
俺はその勢いにただただ気圧され、輪の中心でどうしていいかもわからず唖然と佇んでいた。
――牧師や村の者達、子ども達も彼女の事を”シスター”ではなくちゃんと本当の名前、
あるいはそれに因んだ愛称で実際のところは呼んでいたが、前にも言った通り今の俺には
彼女の名を口にするような資格は無い。だから、仮にシスターとしておく。
すげー、ホントにシスターとそっくりだ! でも、シスターちゃんより、まっ黄色だし、
ちょっと目付きもツンツンね。この子、撫でても大丈夫かな、噛まないかな?
そんな風に人間の子達は俺を見下ろしてわいわいとはしゃぎ声を降り注がせ、
おにいちゃん、おケガはもうだいじょーぶ? なーなー、にぃちゃんどっからきたの?
おでかけいいなー、どこいくの? ポケモンの子達は俺の周りに詰め寄って、
質問の集中砲火を浴びせかけてきた。
上と下からの激しい波状攻撃に堪らず、俺はアーボに見込まれたニョロモのように
ぎこちない動きで彼女の方に振り向いて視線で助けを求めた。彼女は仕方なさそうに微笑んで、
ゆっくりと包囲網に割って入ってきた。
〈はいはい、みんな、ごめんね。お兄ちゃんはね、ただ遊びでお出かけする訳じゃあなくて、
まだ歩く練習の最中なの。紹介はお夕飯の時にでもちゃんとするから、今はジャマしちゃダメよ〉
彼女に優しく窘められ、ちぇっとポケモンの子達は少しぶーたれながらも俺から離れた。
人間の子ども達も彼女の言葉が直接伝わるわけはないが、意図を何となく察して渋々道を開けた。
また後でねー、と子ども達の見送る声を背に受けながら、俺は一時の休戦協定に安堵の息を漏らし、
だが、いずれ直ぐに迫り来る夕飯時という名の開戦合図を思って一匹身震いした。
〈びっくりしちゃいましたか?〉
ああ、と半ば嘆くようなへとへとの返事をして、俺は首を振るった。
〈一人一人、一匹一匹はとってもいい子達なんですよ。でも一度、大勢集まっちゃうと、
その元気さは掛け算みたいに増しちゃって、もう大変〉
ふふ、と彼女は笑って言った。
いつもあの集団に対処出来ているのかと思うと、俺には何だか彼女が歴戦の勇士みたいに映った。
〈子ども達にも言った通り、あなたの事は夕飯時にでもゆっくり落ち着いて紹介するわ。
その時は、あなたももうちょっと笑顔で、愛想よくお願いしますね〉
いきなりの難題に俺は思わず”なに?”と顔を顰めた。その逆の相手を挑発、威圧する方法なら部隊の
悪たれ共との生活で十二分に学ばされ染み付いていたが、愛想を振りまくなんてとても無い経験だ。
〈はい、その怖いお顔。今、私の前では別に構いませんけどみんなの前では絶対に止めてくださいね〉
ぴしっ、と指差して彼女はびしりと指摘した。
”と言われてもだな……”
〈つべこべ言わない、皆に怖がられちゃったら嫌でしょ? いつもムスッとしていたら、素敵なお顔も台無しです。
何事もやってみなければわからない、と言うわけで今から練習、ほら、ニコーって〉
後へと続けと言わんばかりに、彼女は微笑んで見せた。
仕方なしに俺はぎくしゃくと自分なりに笑顔を作ったみた。それを見た彼女は一瞬顔を青ざめさせ、
見てはいけないものを見たかのように顔を逸らした。
〈あ、あの……その……これも、歩くのと一緒に少しずつ練習しましょうか。焦らず、少しずつ、ね?〉
”…………”
あの時の俺が浮かべた笑顔のつもりだった別の何かが一体どんな惨状だったのか自分では確認の
しようがないが、彼女の優しい態度がその時は何だか逆に心に突き刺さった。
保守
明日明後日にでも続き書くよ
GJです
保守
新たに課せられてしまった課題に四苦八苦励みつつ、俺は彼女の後に付いて村を見て回った。
村には特にめぼしい物も無く、素朴な造りのこじんまりした家々が点々と並び、
その隙間を埋めるみたいに野菜畑や色とりどりの木の実が生る小さな木立が広がっていた。
だが、寂れた侘しい寒村というような悪印象は受けず、何と言うかまるで絵画の世界から
そっくりそのまま抜き出してきたかのような、時代に取り残されてしまったと言うよりも、
自らの意思でゆっくり歩んで古き良きものを保っている、そんな純朴で牧歌的な温かみを感じた。
時折道を行く人や、農作業に精を出している人、人々に随伴するポケモン達も皆、
俺と彼女に気付くと気さくで朗らかに声をかけたり手を振ってくれた。
彼女は馴れ親しんだ様子でにこやかに応じつつ、練習の成果を試す良い機会だと彼らに愛想よく
挨拶を返してみるようにそっと俺に促した。俺の何だか不慣れでぎくしゃくとしているであろう笑顔に、
彼らは何だか少しだけ不思議そうな顔をしつつも優しく受け入れてくれているようだった。
〈まだまだぎこちないけれど、やればできるじゃないですか。皆、あなたを気に入ってくれたみたい。
あの頑固の塊みたいなドテッコツお爺さんが誰かを気に入るなんて滅多に無い事なんですよ、ふふ〉
出発した時よりも増えた荷物、村の人々やポケモン達が俺の回復祝いだと分けてくれた野菜や木の実
を愛おしそうに抱えながら、彼女は俺に微笑みかけた。
俺は疲れて凝り固まった感じる頬を揉んでほぐしながら、素っ気無くも内心満更でも無い気で頷いた。
〈さあ、お散歩も笑顔で優しく対応の練習も目的地までもう少し、あとひと踏ん張りですよ〉
”了解だ。より励む”
頬の筋肉を一通りほぐし終え、ふう、と一息入れていつもの調子で俺は応じた。
〈それじゃあ堅いし重ーい。もっとふんわり柔らかくしないと子ども達が身構えちゃいます〉
そこにすかさず、まだ気を抜くには早いとばかりに彼女の指南が飛ぶ。
”むう……分かった、よ。えーと……頑張ろう、ね”
〈グッドです。じゃあ、次は――〉
まだまだ道は険しそうだ、俺は彼女に見咎められないところでそっと”やれやれ”と首を振るった。
一旦ここまで
また明日明後日位に投下するよ
61 :
名無しさん、君に決めた!:2012/04/10(火) 11:58:33.55 ID:NQIMqQNc0
保守
GJです
明日の今くらい、遅れても土曜の朝方までには投下する
保守
☆
〈はい、到着ですっ。ここ、私のお気に入りの場所なの〉
ゆるやかな山道の傾斜を登りきり、ようやく目的地に着いたのか彼女は立ち止まって、
小躍りするようにくるりと軽快にこちらへ振り返った。俺はホッと息つき、その場にふらりと座り込む。
〈あ、あら、久しぶりの外出なのに、ちょっと無理させすぎちゃいました……?〉
俺の様子に気付き気遣う彼女に、平気だと首を振った。
部隊での訓練を思い返せばその程度どうということは無かった。確かにへとへとになりはしたが
意識も五体も失わずに無事だ。
〈ごめんなさい、ついつい私一匹で張り切って振り回しちゃったみたいで。
でも、どうしてもあなたをここまで案内したかったんです〉
”どうしてそんなに?”首を傾げる俺に、〈ほら、見て〉と彼女は指差す。
その方を見やると、ひらけた木々の隙間から村の全体像を見下すことができるようだった。
一望に収めた村は、木々の枝が丁度よく額縁のように景観を縁取っているのも相まって、
ますます絵画の一場面みたいに見えた。
〈ね、結構いい眺めだと思いませんか。なんだか絵に描いたみたいでしょ、ふふ〉
”ああ、悪くない”
俺と彼女は横に並んで座り、ぼんやりとその光景を一緒に眺めた。
〈私、ここから見える村の風景が一番好きなんです。何だか色々鬱憤が溜まってどうしようもなく
『うわー!』って気分になっちゃった時は、よくここにこの風景を見ながら風に当たりに来るの。
あ、今日は別にそんな気分というわけじゃないですよ。ただ、あなたにこの村をもうちょっと
好きになってもらえたらいいなーと思って。そして、出来るなら、このままずっと――〉
何か言い掛けて、彼女は思いとどまるように口を噤んだ。俺も聞き返すことはせず黙っていた。
一陣の風がさわさわと吹き抜け、彼女の耳と黒いフードが靡いた。
〈おっと、いけない、そろそろお弁当にしましょうか。いいかげんお腹空いちゃいましたよね。
今日の献立は色んな木の実を使ったサンドイッチですよ。えーと、これの中身は大人の辛さノワキの実、
あなたは辛いのがお好きでしたよね。それは、とっても甘ーいカイスの実、私も子ども達も大好きです。
こっちは、後味渋いシーヤの実、子ども達にはイマイチ不評ですけれど私は結構好きなんです。
何より美容に良いらしくて、食べた次の日は毛艶が違う……って、べ、別に普段から美容ばかり
気にしているわけじゃありませんからね? それからこっちは――〉
彼女がいそいそとお弁当を広げていく傍ら、俺は風がどこか遥か遠くから極微かに運んできた、
懐かしく忌まわしい臭い、燃え盛る炎、焼ける何か、灰の臭いを敏感に感じ取っていた。
部隊の者達は、スカー達は今も生き残り、小競り合いを続けさせられているのだろうか。
ふと頭を過ぎった。だが、そうだとしても、今の俺の身体の状態では部隊に戻る事は出来ない。
もし身体能力に問題が無かったとしたら、俺はまたあの中に戻りたいと思うのだろうか?
〈どうしました? もしかして食欲無いですか?〉
心配する彼女に俺はハッとして、頭に立ち込める懸念も振り払うように思い切り首を振るった。
”大丈夫だ、問題ない、よ。どれからがいいか迷っていただけだ”
〈そう、良かった〉
安心したように彼女は微笑んだ。
出来るなら、このままずっと――。儚い想いが交差した。
保守
GJです
明日明後日にでも続き書く
保守
保守
投下は明日の夜、遅くなってもあまり深夜にならない内にするよ
日が少し傾きかけた頃、俺と彼女は教会へと帰り着いた。
〈いけない、ちょっと遅くなっちゃったわ〉
”俺に合わせたせいで、すまないな”
〈ううん、元はと言えば私があまり遠くまで連れ出しちゃったせいですもの。
大丈夫、偶の寝坊で大急ぎで用意するのは慣れてますから――自慢できることじゃないけれど……
時間までにパパッと仕上げちゃいます、お任せあれ!〉
はりきった様子で拳を握り尻尾と耳をピンと立てて見せる彼女の傍ら、何の事かと俺は首を傾げた。
〈何って、お夕飯に決まってるでしょ〉
”えっ! まさか、ここの食事はいつも君が作っていたのか?”
家事の手伝いをやっていると以前に聞いてはいたが、まさか料理まで賄っているとは知らず、
俺は驚いて聞き返す。今日の弁当だって、てっきり牧師――それもちょっと意外な気もするが――
が拵えた物だと思っていたのだ。
〈あら、言ってませんでしたっけ? とは言っても、ポケモンの子達の分だけですけれどね。
人間の子達と牧師様の分はいつもお手伝いに来てくれている村の女性が賄ってくれていますわ。
私も衛生面には十二分に気を使ってますが、悲しいかな私だって一応はネズミの端くれ、
もしも万が一があったら大変なので……〉
少ししょんぼりとして彼女は答えた。
なるほど、と俺は頷きながら、そういえばニューラやバリヤードがシェフをやっているレストランが
どこぞにあると風の噂程度に聞いたことがあるのをふと思い出した。スカーのツラを思い浮かべると、
奴が作ったものを食らうぐらいならその辺の雑草でも貪った方がマシなのではないかと思ってしまうが、
努力の方向しだいでポケモンであってもシェフが勤まるとは、戦うだけが俺達の能じゃない、か。
正面扉をくぐると、例のステンドグラスが聖堂の奥で夕日を背負い、より荘厳そうな面持ちで待ち構えていた。
〈じゃあ、私はお夕飯の仕度をしてきます。準備ができたら呼ぶから、あなたは部屋で待ってて。
その間、笑顔の復習はお忘れなく〉
”分かっているよ”と 苦笑い気味に応じて自室に戻ろうとしたところで、俺は反射的に足を止めた。
”そういえば、俺の部屋はどっちだったかな?”
聖堂から他の部屋に続くドアは幾つかあって、俺は出発の時にどこのドアから来たのか
すっかりと忘れてしまっていた。何分、初めて村の中を出歩いたその日まで俺は殆ど部屋に篭りきりで、
教会の内部すらろくに把握していなかった。俺が呼び止めると、彼女はうっかり失念していた様子で振り返った。
〈ここ、正面扉から見て左手、二箇所ある内の手前側のあの扉から、廊下を渡って一番奥が
あなたの部屋ですわ。その隣が私の部屋、更に隣が牧師様のお部屋となっているので、
何か困ったことがあったらすぐに訪ねてくださいね。左手、奥側の扉は子ども達の部屋に続いています。
そのお向かい、正面扉から右手に同じように二箇所、手前側の扉は食堂と台所に通じます。それから――〉
次は奥側の扉と言う所で、何か言いあぐねるように彼女は言葉を一瞬詰まらせた。
〈あの奥は、物置と祭儀等に使うお酒の貯蔵室となっています。ところで、あなたはお酒はお好きでしたっけ?〉
彼女の様子を少し訝しく思いながらも、”嗜む程度には”と俺は答えた。
〈あら。それじゃあどうしても必要な時はこっそりお分けするので言ってくださいな。
だから忍び込むような真似をしちゃダメですよー〉
”スカーの馬鹿じゃあるまいし、そんな心配はいらないよ”
そんな事を心配しての態度だったのかと俺は一匹勝手に納得して、やれやれと呆れて言った。
〈そうですね、ふふ。それじゃ、私は頑張ってお夕飯の用意をしてきますね〉
”ああ、楽しみにしている”俺は彼女の背を見送った。
とりあえずここまで
金、土くらいにまた続き投下するよ
携帯版保管所が投稿サイトのSFファンタジー部門のランキングで3位にまで上がってるな
おめでとう、そしていつも管理お疲れ様です
それは凄い!
作者さま、おめでとうございます!
ランキング3位ですか!
すごいですね・・
思えば、ピカ生もかなり長い時間続いてますよね
これからも応援しています
前に見たときは4、5位くらいだったのに地道に上がっているなー
朝方ぐらいには投下する
夕飯のお呼びがかかるまでの間、一匹俺は自室のベッドに腰掛けてぼんやりと過ごした。
なるべく何も考えないように無意識に努めていたのはきっと、久々の外出の疲れもあったろうが、
無闇に頭を働かせる事で風が運んできたあの忌まわしい臭いと、伴う暗澹たる不安を
思い返してしまうことを恐れていたんだろう。
やがて、静まり返っていた部屋にコンコンとドアをノックする音が出し抜けに飛び込み、
空白に近くなっていた意識は風船を針でつつかれたみたいにびくりと慌てて飛び起きた。
夕飯の準備ができたとドアから顔を覗かせる彼女に、すぐに行くよと俺は平静に応えた。
彼女の後について食堂を訪れると、他の者達は既に席に着いて俺が来るのを待っているようだった。
集まっている面々は、牧師と見知らぬ若い女性――例のいつも教会の手伝いに来てくれているという
村の女性だろう――と、朝に庭で遊んでいた人間とポケモンの子ども達、それとゾロアークの姿もあった。
牧師は俺の姿に気付くと、皆に注目するように声をかけた。
『さあ、今日の主役の到着だよ。静養の為に紹介できるのが遅れてしまったけれど、
少し前からここで一緒に暮らしていた私達の新しい仲間だ。皆、仲良くしてやってくれ』
”ああ、その、どうもよろしく”
紹介にあずかり、俺は精一杯練習の成果を搾り出して挨拶した。
牧師はパチパチと笑顔で拍手し、他の面々もそれに続いた。
その中で唯一ゾロアークだけは不機嫌に腕を組んだまま俺に鋭い視線を向けていたが、
彼女にじろりと睨まれ、渋々周りに合わせて手を打ち鳴らしていた。
あまり書き進められなかった、中途半端なところで途切れてすまんorz
高順位をとるのはいいけど
多く知られることで変な子がスレに来たりしたら嫌だな
>>83 あまり無理しないで、自分のペースで進めてください
>>84 sageるしか無いですかね…
皆様ありがとうございます。
今更だが、URLのピカチュウのスペル間違えてたw
あー、正しくはpikatyuじゃなくてpikachuか
言われるまで気づかなかったw
明日明後日にでも続き書きたいです
GJです
書いてくれるだけでも嬉しいです
保守
全員席へと着き、食事が始まってしばらく経つと、右隣から『なーなー』と声をかけられた。
ぎくり、と俺は黙々と料理を口に運ぶ手を止めた。彼女のそれはそれはもう粋な計らいにより、
俺と彼女の席はポケモンの子達と同じ列のちょうど真ん中に配置されていた。
子どもと接する機会なんて皆無に近かった当時の俺には、
彼らは全く未知の生命体みたいに感じられた。傍から様子を窺っていても、次の瞬間には何を考え、
何を言い、何をしでかすのかまるで予想がつかない。初接触時に強烈な勢いで迫られたことも、
そんな印象を根強くさせていた。
ゆっくりと声の方へと振り向くと、頭でっかちの黄色いトカゲのような子ポケモンが
好奇心に輝く目で俺を見ていた。この後、一体どんな言葉が砲弾の如く飛び出してくるのか
まるで予想がつかなくて、俺はオクタン達――蛸墨のみならず、水流に怪光線、
機関銃のような威力のタネや岩、果てには炎まで口から吹き出す、手品師もびっくりの化け蛸だ――
に十字砲火を浴びせられる寸前のような嫌な汗が微かに滲んだ。
すぐさま席を立って床に伏せ、安全地帯に転がり込んでしまいたい衝動が沸き起こるが、
左隣からそっと促すように彼女に尻尾でつつかれ、仕方なく俺は腹を括った。
”なに、かな?”恐る恐る、でもそれを悟られぬように俺は問い返した。
『にーちゃんって、ここに来るまえはどこで暮らしてたんだー?』
初っ端からヘタに触れたら致命傷になりかねない地雷のような質問だ。
所謂、戦災孤児達の集まる子の場で、よもや軍の下で兵器をやっていたなんて言えよう筈も無い。
例え牧師やあの女性、人間の子達には俺達が何を喋っているかは直接は分からないだろうが、
ポケモンの子達が怯え出すのを見たら何かただならぬものを察してしまうだろう。
『おにいちゃんもセンソーのせいで逃げてきたの……?』
上手い言い逃れを思いつく前に、黄色いトカゲの子の隣に座る、
薄灰色のふさふさとした毛並みをしたネズミかウサギみたいな子が心配そうな目で尋ねてきた。
巻き込まれたどころか、こちらはそのセンソーの加担者側だ。
『そのケガもやっぱりワルい兵隊とそのコワいヘーキ達のせい?』
その更に隣の、ダルマに短い手足を生やしたみたいな姿の子が駄目押しの如く援護射撃を加えた。
重騎兵のような虫ポケモン、シュバルゴ達に密集陣形を組まれ崖際まで追い詰められたような気分だ。
答えを待ち望むその瞳の輝きが、鋭い槍の穂先のように見えた。
〈えっとね、このお兄ちゃんは怪我のショックで色んなことを忘れちゃっているの。ですよね?〉
見兼ねた様子で彼女から助け舟が出され、”あ、ああ。そうなんだよ。名前さえ思い出せない”
と俺はすかさず便乗した。
ええー! そうなんだ? 大変、かわいそう……。記憶そーしつってやつ?
苦し紛れの言い訳だが上手い具合に納得してくれたようで、彼らはがやがやと話し合う。
俺はひとまずホッと胸を撫で下ろした。
金、土くらいにまた続き投下するよ
あげ
GJです
ageる必要は無い
保守
朝方くらいには投下する
安心も束の間、何か言いたげなな視線でこちらを睨むゾロアークに俺は気付いた。
『どしたの? そういや、シスターねーちゃんがこのケガしたにーちゃん慌ててつれてきた時、
ゾロアークにーちゃんも一緒だったんだろ? こんなひどいことしたヤツが誰か、見なかった?』
様子に気付いた黄色いトカゲの子が、急に顎下から殴り上げるようなまたしても手痛い質問を
ゾロアークへとぶつけた。思わぬ飛び火にゾロアークの毛並みがぎょっと逆立つ。
『み、見てない。何も知らない』
どぎまぎとゾロアークはしらばくれた。子ども達の前で、それも”ひどいことしたヤツ”と
非難された上で、よもやそれが自分の仕業とはとても言えなかったのだろう。
『ふーん、そっかー』と一応の理解を得、ゾロアークは安堵したようにそそくさと食事に戻った。
立場は違えど、同じように子どもにいいように追い詰められている姿に、
何だか俺はおかしくなってフッと笑いを零す。ゾロアークはばつが悪そうに俺を横目で睨んだ。
〈それより、みんな。あれこれいろいろ尋ねるよりもまずしなきゃいけないことがあるでしょ?
ちゃんと自己紹介しないと失礼よ〉
彼女に諭され、そうだったと子ども達は顔を見合わせた。
『忘れててごめーん。俺はズルッグ!』
はきはきと元気よく黄色いトカゲの子は名乗った。
『私、チラーミィ。よろしくね、おにいちゃん』
そう言って、薄灰色のネズミみたいな子はひと懐っこい笑顔を浮かべた。
『僕はダルマッカだよ。えと、仲良くしてね』
もじもじと恥ずかしそうにしてダルマみたいに丸っこい子は名前を言った。
改まって自己紹介され、俺は何だか照れくさくなってぽりぽりと頬を掻きながら
”よろしく”とそれに応じた。
――わんぱくでいたずらっ子のズルッグ。おしゃまでお世話好きのチラーミィ。
泣き虫だけど根は案外しっかり者のダルマッカ。
子ども達はみんな俺に良くしてくれていたが、中でもこの三匹が特に俺に懐いてくれていた。
時にイタズラやワガママに彼女と一緒にほとほと困らせられることもあったけれど……。
みんなみんな、良い子だった。本当に――。
保守
GJです
そろそろ父ピカも終わりそう
明日明後日ぐらいにでも続き書くよ
保守
保守!
投下は明け方、遅くても昼前くらいにはするよ
夕食会も終わり、子ども達との交流もほどほどに済ませて俺は彼女と共に自室への帰路についた。
〈途中ひやひやした場面もありましたけれど、バッチリ好感触でしたね〉
えらいえらい、花丸あげちゃいます、なんて冗談ぽく子どもを褒めるみたいに言う彼女に、
”なあに、鬼教官殿のおかげさ”と俺もわざと皮肉めいて返す。
〈あ! その態度、かわいくないですよー!〉
頬をむくれさせる彼女に、俺はくすくすと笑った。
〈もー……。まあ、それはともかくとして、咄嗟の事とは言え記憶喪失だなんて
変な嘘をつかせてしまってすみません〉
”いや、構わないよ。どう答えたらいいものか参っていたし、助かった”
〈後で子ども達にはあまりひとに立ち入ったことを聞いて困らせちゃいけないって、
ちゃんと言って聞かせなきゃ。それともう一つ、ゾロアークのことについても
あなたに謝っておかないといけません〉
”別に、君が謝ることでもないだろう”
気にするなと言う俺に、彼女は首を横に振るった。
〈いえ、こんな事になってしまっているのは私の責任でもありますから。
今日のあなたと他のみんなの様子を見て、あなたに村をおびやかすような危険は無いって
いい加減分かってくれたらいいんですけれど、へそ曲がりだからまだまだ時間がかかりそう……。
困ったお兄ちゃんです、本当に〉
はあ、と彼女は尻尾をしょんぼり垂れ下げた。
――彼女の心配通り、ゾロアークとの不和はそれは長い間続いた。
最も直接取っ組み合う様な事は一度も無く、ばったり鉢合わせても彼の方から俺を避けていき、
仕方なく同じ場に居合わせざるを得ない時に監視するような険しい視線を向けられるぐらいだった。
俺自身は別段、もうゾロアークに対して反感や敵意を抱いてはいなかった。
睨まれるのはあまり気分がいいものじゃないが、番人として俺の経歴は危険視して当然だ。
そして今思えば、ゾロアーク自身としても一生消えない傷と後遺症を負わせてしまった負い目や、
大事な弟分や妹分達との間に急に割り込んできた俺という存在には色々と複雑な思いが入り混じって、
そうそう易々と受け入れるわけにはいかなかったんだろう――。
〈それじゃあ、今日はお疲れ様でした。おやすみなさい〉
”ああ。おやすみ”
彼女と別れて、自室に帰り着くと俺はベッドに転がって己の身の振り方について思案した。
多少なりとも体が動かせるようになった以上、何もせずにだらだらと過ごすわけにはいかない。
だが、自分に出来るような事は一体何があるだろうか。考えてみても何も浮かばなかった。
本当に戦いだけの人生だったんだなと改めて思い知った。だが、今はそれすらも残っていない。
そこでふとまた部隊の事を考えそうになり、俺は慌てて思考を切り上げた。
自分だけで悩んでも悪い方向に思考が傾くばかりで埒が明かない。明日にでも彼女に相談しようと、
その日は逃げるように意識を眠りの奥底へと沈め込んだ。
翌日、俺は彼女に自分にも何か出来る事はないかとそれとなく打ち明けた。
お気兼ねなくゆっくり過ごしてくれていていいんですよ、だなんて彼女は優しく言ってくれたが、
俺としては一刻も早く何か打ち込めるものが欲しかった。歩行訓練に励んでいた時のように
また何か忙しく没頭出来るものがあれば、それに集中している間は他に何も考えずにいられる。
部隊の事を思い返すことも、言い知れない不安や恐れを抱くことも無いだろうってね。
日々を悶々とただ過ごす俺のもとに、ある日、筋骨隆々とした人型のポケモンが訪ねてきた。
前にも一度、確か初めて村内を彼女と共に出歩いた時に会ったドテッコツの爺さんだ。
『おう、あんちゃん。体の具合はどうだい?』
俺の姿を見て、ドテッコツ爺さんはにっかりと豪快な笑みを浮かべた。
おかげさまで順調に回復していると挨拶を返しつつ、急に訪ねてこられるような覚えが無くて
一体俺に何の用だろうと内心首を傾げた。
『悪ガキ共が騒いどったぞ。何でもおめえさん、ひでえ怪我しただけじゃあなく、
記憶まで無くしとるんだと? おめえさんも若いってえのに苦労人だねえ。
きっとその前からも随分とまあ難儀してきたんだろう。そういうヤツぁツラ構えからして違うのよ』
うんうんと頷いて、ドテッコツ爺さんは同情して労うように言った。
”は、はあ”と困惑しながらも、俺はとりあえず話を合わせて頷き返した。
その場限りの嘘だった筈が何だか随分と吹聴されてしまっているようだ。
『おっと、いかんいかん。そんなことだけを言いに来たわけじゃあない。シスター嬢ちゃんに聞いたよ。
何でもおめえさん、働き口を探しとるんだって? 大変な目にあったばかりというのに、殊勝だねえ。
益々気に入った。どうだい、良けりゃうちの木の実園に手伝いに来んか? 楽な仕事じゃあ無いが、
怪我のこともあることだしそんな無理はさせんよ』
とりあえずここまで
また明日か明後日位に続き投下するよ
保守
投下は今日の夕方か夜くらいに
GJです
”それは……! はい、是非お願いします!”
願ってもない絶好のお誘いに俺は二つ返事で快諾した。
『いい返事だの。そんじゃ、早速今日から来てもらおうかい。ついて来な――』
かくして、俺はその日からドテッコツ爺さんのところの木の実園で働く事になったんだ。
俺が任されたのは主に苗木の世話や採れた木の実の選別だった。
後は偶に忍び込んでくる虫ポケモンや、いたずらぼうず達を追っ払ったりだな。
初めは慣れない作業に失敗ばかりで、ドテッコツ爺さんの雷鳴のような叱咤叱責が
しょっちゅう轟いたもんさ。
それから、もう一つ役目ができた。あれは仕事から帰って夕飯の用意が出来るまでの間、
食堂に転がっている人間の子達が置き忘れた物であろう子ども向けの本を、
やれやれ仕方ないなと拾い上げて、何の気なしにぱらぱらと捲り読んでいた時の事だ。
遊びから帰ってきたポケモンの子達がそんな俺の姿に気付き、急に駆け寄ってきた。
何事かと見回して訊ねると、ポケモンの子達はもしかして人間の文字が読めるのかと、
期待に目を輝かせて聞き返してきた。
軍隊で人間に混じって生活していると嫌でも彼らの使う文字と言うものに触れる機会があって、
簡単な単語と文章であればその意味を理解できるようになっていた。
少しだけなら、と俺が答えると、子ども達はうきうきと顔を見合わせた。
その次に、せーのと声を合わせ、その本に書いてあること読んで聞かせて! と、求めた。
ポケモンの子達の姉代わりであるシスターにも多少は文字の心得があって、
たまに彼らに本を読み聞かせることもあるようだが、他の家事雑用で手一杯なことも多く、
彼女も中々そんな暇がとってあげられないと言うのが現状なようだった。
”ああ、いいよ”快く引き受けると、彼らは『やったあ!』と大層喜んで、俺の周りに集った。
そんな姿を見て、俺はクスと自然に笑みが零れた。まさか軍隊生活の副産物で身につけたものが、
あんな形で役に立つなんて思いもよらなかったよ。
それからと言うもの、俺が子ども達に本を読み聞かせるのは毎日の習慣となって、
夕食前と食後に俺の周りにはポケモンの子達の輪ができた。
人間の子達はそんな俺達を微笑ましそうに見て――本当に俺達が文字を理解しているのではなくて、
何かまねごと遊びでもしているんだろうと思われていたのかもしれないが――
色々と自分達の本を貸してくれたよ。
英雄の心躍る冒険譚、摩訶不思議な夢物語、世にも恐ろし怪談話。
色んな本を読み聞かせていると、子ども達だけでなく俺自身も多くを学んだ気がする。
美徳、理想、戒め――子ども向けの本は生きていく中で大切な様々なものが
どんなお話にも根底に流れていて伝えようとしていた。
朝から夕方まで木の実の栽培に励み、夜は子ども達と触れ合って……。
何かを壊して、奪うんじゃあない。何かを育て、与える日々。穏やかで刺激は少ないが、
心はとても充実して満たされていた。余計な心配事なんて介在させぬ程に。
とある日の事だ。
日も昇らぬ早朝、まだベッドでまどろむ俺の部屋に出し抜けにノックの音が転がった。
驚いて飛び起きて、こんな時間に何だろうとぶつくさ文句を垂れながらドアを開けると、
いつもより真剣な面持ちをした彼女が小さな電球片手――懐中電灯の本体が無くても、
俺と彼女なら自前の電気で光らせられる――に立っていた。
”えーと、おはよう、まだこんばんは、かな……。一体、どうしたんだ?
今日も仕事はあるから、もう少し休んでいたいんだけれど”
言葉に少しばかり非難のトゲを生やして俺は言った。
〈事情は後でお話します。今は静かに私の後についてきて〉
声を抑え気味にそれだけ言って、彼女は廊下をそそくさと静かに歩んでいった。
怪訝に思いながらも、仕方なく俺はその後に続いていく。
俺も彼女もまったく言葉を発さず、か弱い電球の明かりだけを頼りに黙々と静寂と闇の中を歩んだ。
真っ暗な教会内は昼間とは打って変わって、神を祀る場所とは思えない程に不気味に感じられた。
光が強いとより影は濃くなって見える。教会に病院、学び舎や商店街など、昼間は活気があったり
安心できる場所である程、夜になってひと気と明かりが失せると殊更に不気味に映るものなんだよな。
少し不安になりながら聖堂まで俺と彼女はやってきた。暗闇に浮かぶ神々のステンドグラスが、
まるで悪魔みたいな様相でもってこちらを見下ろしているように見えた。
そのまま彼女はとことこ、確か先が物置と酒蔵庫になっているという扉の方へと歩いていって、
ゆっくりと押し開いた。成る程、そこは確かに様々な物があれこれと積まれている場所と、
酒がたっぷり入っているんであろう大きな樽が横になって並ぶ場所とがあった。
彼女は酒樽の並ぶ方面へと迷い無く進んでいく。
辛抱堪らずに起こした理由を再度訊ねる俺をシッと彼女は止めた。一番奥の酒樽の前まで来ると、
樽に備え付けられた蛇口へと彼女は手を伸ばして掴んだ。そして、彼女は栓を捻るのではなく、
何故か蛇口自体を手前へと引っ張る。その途端、酒樽の蓋がドアのように開いた。
ぎょっとして俺が中を覗くと、空っぽの樽の奥には地下へと続く階段がぽっかりと口をあけていた。
〈朝早くから不躾に呼び立てて、本当にすみません。ですが、”あの方”があなたにお会いしたいと〉
保守
GJです
あの方って誰だろ・・・?
明日明後日にでも続き書きたいです
>>117 伝説のポケモンの中の誰かかな?
回想前にピカ父が会ったって言ってたし
age
>>113 の先頭二行、「お願いします」なんだから
゙快諾゙ではないだろ。
誰だageてんのは、あ?
>>121 ごめん、確かに違和感あるね
指摘ありがとう
>>113の先頭二行を
×”それは……! はい、是非お願いします!”
願ってもない絶好のお誘いに俺は二つ返事で快諾した。
から
○”それは……! はい、俺にも出来ることがあるのなら、喜んでやらせていただきます!”
願ってもない絶好のお誘いに、俺は是非手伝わせて欲しいと飛び付いた。
に
まとめサイトの管理人さん、保管の時にお手数ですが差し替えをお願いします
明日の今くらいには投下するよ
保守
あの方って? 何故、何の為にこんな仕掛けで隠された地下が? その”あの方”とやらは、
どうして俺なんかをこんな人目のつかない時間と場所に呼び出す?
疑問が後から後から湧き上がって来て喉の途中で我先にとぎゅうぎゅう鬩ぎ合い、
声に出そうとしても俺の口は陸にあがったトサキントみたいにパクパクとするばかりだった。
これはまどろみが見せているただの夢、幻なんじゃあないか。ふと、そう思った。
そういえば昨日くらいに子ども達に読み聞かせていたのは確か寒村が舞台の恐怖物で、
その村の教会にも隠された一室があり、そこに黒幕である怪物は潜んでいた。
周りの環境が少しばかり似ていることもあって、子ども達は随分と怖がっていたっけな。
特にダルマッカなんて手足を丸めて石みたいにカチコチになって震えていた。
俺としては本の内容そのものよりも、その後に子ども達にそんな本を読み聞かせてしまったこと
を彼女に怒られた事の方が余程怖かったが、――どうやら子ども達の本ではなく、
うっかり紛れ込んでいた牧師の私物だったらしい――ともかく、あの本が原因でこんな変な夢を
見ているのかもしれないと、体毛を一本ばかり脇腹からぴんと引き抜いてみた。
だが、脇腹からはチクリと確かな痛みが伝わり、意識がベッドで目覚める気配は無い。
驚き呆けている俺を構わず彼女は樽の中へと引き込み、樽の内側に付いたレバーを引くと
蓋は静かに素早く閉じられた。
〈さあ、足元には十分気をつけて〉
そのまま彼女は俺の手を引き、黒くてドロドロした重油みたいに色濃い暗闇に沈む地下への
階段を一段一段丁寧に照らしながら慎重に下りていく。一段下りる度に闇は濃度を増して、
全身に藻草みたいにひんやり絡み付いてくるような錯覚を抱いた。
〈教会にこんな地下があるなんて、びっくりしちゃいますよね。私も最初は驚きましたもの〉
不安が手から伝わったのか、安心させるように彼女は明るい調子で声をかけてきた。
〈牧師様の見解によれば、『何世代前の牧師様の仕業かは分からないけれど、
ギラティナ様が神々の座から降ろされ崇拝を禁止された後もなおその信仰心が捨てきれず、
密かに奉る為に用意したものじゃないかなあ』ですって。その証拠に、ええと、
確かこの辺にも……ほら、あったあった!〉
彼女は階段の途中で石壁の一部を照らして示す。見るとそこには確かに何かの印らしきもの、
円形の中心から外側に向かって円を丁度三つの扇形に分けるような三本の線が引かれ、
その円と線とが触れる三つの点を結ぶように三角形が描かれている、が刻まれていた。
〈聖堂のステンドグラスにも描かれている世界と神を表す絵画は三角形の中に円形が
入っているような形になっていますが、この印はその逆に円形の中に三角形が描かれている。
即ちこの世の反転、影、裏側、そこに住まうというギラティナ様を表しているそうです〉
俺は神など信じる性質では無かったけれど、神を、それも死神だなんだといわれているものを
表すものだと言われると、何だかその簡素な印が急に畏怖めいたもののように感じられた。
しかし、わざわざこんな、一般的には邪教とされていたのであろうものが密かに崇拝されていた
曰くつきの真っ暗闇の地下に俺をわざわざ呼び出して待ち構えているなんて、
”あの方”とやらに会うのが益々不安になってしまった。
〈そんな身構えなくても、大丈夫ですよ。”あの方”はちょっと変わり者ですけれど、
急に意味無く危害を加えてくるような方じゃありませんわ。鋭い牙も爪もありませんし、
体の大きさだって私たちと殆ど変わらないくらいで可愛らしい方ですもの。
あ、でも――ううん、とにかく会ってみて〉
対面まで行けなかった…
土日くらいにまた続き投下します
GJです
ピカチュウたちと同じくらいかぁ
ミュウと予想
気づいたときに保守!
シェイミかなぁ?
age
あげるなっての
>>134 触らずに、構わない方がいい
BW2の新情報で見たけど新しい施設でメカバンギラスなんてのが出てくるらしいなw
かなり前だけどこのスレでも小ネタか何かでハリボテで合体したダンバルとゴーストが戦ってたっけか
ありましたねw
懐かしいなぁ
BW2がすごく楽しみ
彼女は言葉の最後を濁して何やらくすくすと笑う。意味深な態度に俺は怪訝に首を傾げた。
〈今までこの場所のことを黙っていたのはごめんなさい。あの方も色々と訳ありみたいで、
牧師様の他にこの場所の事を知っている村の者は私とゾロアークだけなの〉
隠し事をしていた事を彼女が謝る横で、そういえば前に教会内の案内をしてもらった時、
物置と酒蔵の方にはあまり触れてほしくはなさそうな態度だったのを俺はふと思い返した。
俺が酒をくすねるなんていらぬ心配をしての事だとその時は勝手に解釈していたが、
真の理由はこれだったのか。
”仕方ないさ。気にする事は無いよ”と俺は答えた。俺の身の上だって言わば”訳あり”、
軍のポケモンだった過去を隠し潜めて暮らしているんだ。彼女やその”あの方”とやらを
咎められるような立場じゃあない。
階段を下りきって古ぼけた木製のドアの前に行き当たると、彼女はコンコンとドアをノックする。
返事こそ無かったがドアは待ち望んでいたように微かに開き、隙間からぼんやりと光の筋が漏れた。
〈この先の部屋で”あの方”はお待ちしておりますわ。私はもしかしたら子どもたちの誰かが
用を足しにでも早く起きてくるかもしれませんし――誰かさんが怖い本を読んでくれたおかげで、
きっと我慢したまま寝ちゃった子がいると思うんですよね――念のために先に上に戻っています。
お話が済んだ頃には迎えに参りますので、すみませんがこの先にはあなただけで行ってくださいな〉
分かったと応じて、か細い電球の光が階段を上がっていくのを見送ると、
俺はドアへと向き直って恐る恐る光が覗く隙間へと手をかけた。
安全だと彼女が言っていたのだから大丈夫だとは思うが、”あの方”について話していた時、
最後に彼女が何やらくすくすと意味深に笑っていたのがどうにも気掛かりだった。
もたもたする俺をじれったく思ったのか、ドアは見えない力に引っ張られるように
急にグイと開かれ、ドアの端を掴んでいた俺はそのままよたよたと部屋の中へと転げ込んだ。
〈もう、何をもたもたしているんですかー。あまり女の子を待たせるもんじゃありませんよ〉
聞き覚えのある、それどころかついさっきまで近くで聞いていた声だった。
驚いて俺はふわふわとしたカラフルな絨毯から顔を上げて、その方を見やった。
色とりどりの玩具やぬいぐるみが飾り付けられたまるでおもちゃ箱みたいな雰囲気の部屋の奥に
ぽつんと立つ、真っ黒なフードとケープを羽織った後姿。黄色よりちょっと濃い、
少し琥珀色がかった耳と尻尾からして間違いなく彼女だった。だが、彼女は上に戻った筈。
一本道だった階段を上がっていく姿を確かにこの目で見届けた。
何が起こっているのかわからず、俺は狼狽してその彼女らしきものと階段の方を交互に見やった。
彼女らしきものは唐突にパチンと手を鳴らし、呼応するようにドアはひとりでに閉まった。
それから彼女らしきものはおもむろにこちらへと振り返った。その優しい笑顔は紛れなく彼女だ。
まさか先回り出来る隠し通路でもあったのか? いや、彼女はそんな意味の無いイタズラを
するような性格じゃあない。彼女は双子の姉妹だったのか? でも、それならこんな地下に
片方だけが逃げ隠れていなければならない理由が無い。わけが分からなくて、
俺の頭と目はぐるぐるとパッチールみたいに回っていたことだろう。
そんな俺の姿を見て彼女らしきものは堪えきれなそうに笑い声を吹き出し、
けらけらと腹を抱えてあどけなく笑い出す。らしくない姿に俺は驚いて目を見張った。
『すっかり騙されてる! ま、ボクにかかれば当然だけれど、フフフン』
彼女らしきものはまるで無邪気な子どもみたいな声色で得意げに言った。
『あー、楽しかった。ではでは、せーので、どろん!』
彼女らしきものは掛け声と共に飛び上がり、くるりと宙返りした。
途端に彼女らしきものの全身は柔らかい光に覆われ、ぐにゃぐにゃと宙でその輪郭を変えていく。
光が収まると”それ”はそのまま地面に着地することなく、小柄で猫に少し似た姿形の
薄桃色の体を翼も無いのにふわりとその場で浮き上らせ、呆然と固まる俺を青い瞳で見下ろした。
『やあやあ、わざわざこんな所まで来てもらってごめんよ。最近やけにあの子から……
ああ、あの子ってシスターちゃんのことね。からよく君の話を聞くようになってね。
ボクとしても君に直接会ってお話してみたいなーって思って呼んだの!』
GJです
ミュウだったかw
明日明後日にでも続き書きたいです
保守
あー、シェイミじゃなかった
明日の今くらいには投下します
シェイミは初期の頃にほんの一瞬だけ出てきてたね
保守
本物の彼女とそれなりに長く接してきたつもりの俺でも全然違いに気付けなかった。
メタモンと呼ばれる紫色をしたゲル状のポケモンも変身能力を有してはいるが、
どこか本物と比べると全体の形状がぶよぶよと歪んでしまっていたり、
全体の形状は安定しても顔つきが点と線で描いたかのような単純で不自然なものだったり、
姿形だけは完璧に整えても声だけは再現できていなかったりとどこかに穴があるものだ。
だが、”それ”が見せたのはまるで落ち度の見当たらない完璧な変身能力だった。
類稀なる能力を持った未知なるものと直に対面して関心と畏怖の狭間で動けずにいる中、
”それ”はそんな反応をされるのが慣れっこなのか、意に介することなくふわりと絨毯に座り込み、
先っぽだけが太い猫じゃらしみたいな細長い尻尾をちょいちょいと振るって俺を招いた。
『まあまあ、立ち話もなんだから君も座りなよ。この絨毯、ふわふわして座り心地抜群さ。
それに色もカラフルで素敵でしょ! 赤に青に緑に黄色。ボク、この四色が特に好きなんだよね、
全ての色の原点って感じでさー』
”それ”は愛おしそうに絨毯の毛を短い指でなぞった。
『ここも元々は祭壇一つだけの殺風景な所だったんだけれど、ボクの趣味に合わせて改装したの。
ぎらちーには少し悪い事しちゃったけれどね。目だけでも分かる程に苦ーい顔してたっけなぁ』
ふふふ、と”それ”は知らない者の名を上げて思い出すように笑う。
『それより早く座って座って。いつまでも突っ立っていられたらボクも落ち着かないからさ』
まだ警戒心と抵抗感を抱きつつも従うままその場に俺が腰を下ろすと、”それ”は満足そうにうんうんと頷く。
じっと観察していても、”それ”の容姿と言動は無邪気な子どもそのものだった。
でも、明らかに普通の子どもとは違う。そんな気配を俺はひしひしと感じ取っていた。
読み聞かせを通じて教会の子ども達と近くで接してきたからこそ分かる、
”それ”が瞳に宿している光の異様さだ。ズルッグもチラーミィもダルマッカも他の子もみんな、
近くで覗き込むとその瞳はまだまだ知らないこと一杯、知りたいこと沢山で、
なりたての木の実みたいな新鮮で澄んだ輝きだった。
だけれど、”それ”の瞳は濁ってこそいない、それどころかうんと澄み渡ってはいるが、
その輝きは長い年月をかけて磨き抜いた水晶玉みたいにあまりに無機質な透明さで、
近くを見ているのにどこか遠くまで見透かしているかのような、とても達観したものに感じられた。
『さてと、まずは何から話そっかなー?』
ご機嫌に足をパタパタさせながら、”それ”は首を傾げて俺に問い掛けてきた。
”では、まず一つ教えてもらいたいんだけれど。君は、いや、あなたは一体何者だ?
メタモン以上の変身能力、そして、感じる気配。明らかに只者じゃあない”
おずおずと俺は”それ”に尋ねた。
『おおっと、確かにまだ言ってなかったけ、ごめんごめん。そう、何を隠そうこのボクこそが!
この世に初めに産み落とされた始祖の者。ありとあらゆるポケモン達の遺伝子、情報をその身に宿し、
全てのポケモンの先祖と語り伝えられてきた幻の存在――その名もズバリ、ミュウちゃんさ!』
とりあえずここまで
土日くらいにまた続き投下します
GJです
保守
保守
天を指差し誇らしそうにポーズを取って”それ”は自信満々そう名乗った。
片や俺は、そんな存在の事は今まで聞いた事が無くて凄さの実感もわかず、
きょとんとしてその様を眺めていた。
『あれれ、なんだか反応薄いね。ボクとしてはもっと、すごーいとか、
わーとか、驚いてくれるのを期待してたんだけれど、おっかしいなー』
うーん、と俺の反応に不満そうにミュウは首を傾げた。それから間もなく、
ああ、そっか、と何やらひとりでに納得がいったように呟いてポンと手を打つ。
どうしたらいいものか分からず、”ええと?”とうかがう俺に、
ミュウは『ううん、気にしないで』とさっぱりとした調子で答えた。
『さーて、他にも何か聞いておきたい事はある? 何でも遠慮せずに言ってごらん。
こんなチャンス滅多に無いぞー。ちゃんと答えてあげるかはボクの気まぐれしだいだけど』
ミュウは絨毯へと再び腰を下ろし、まだ質問はあるかと俺に聞いた。
”そのような貴い身分の方であるなら、どうしてまたこんな地下室に?”
勝手な想像ではあるが、そんな普通の生物の範疇を大きく外れた超越者と
呼ばれるような存在であるならば、こんな片田舎の教会の地下なんかじゃあなくて、
岩窟の奥底だとか、鬱蒼とした深い森だとか、風の吹き荒れる荒野の何処かだとか、
とても人の手が及ばぬ秘境のような地に住んでいるものなのではないかと思っていた。
俺の質問に、ミュウは愉快そうに小さく笑う。
『そうだよね。そんな凄い子だったら、もっとこう雲の上だとか、深い海の底だとか、
溶岩グツグツの地底奥深くだとか、もっとこうアブない場所に暮らしているのが普通さ。
だからあえての灯台下暗しなの、ふふふ。なんだかさぁ、こんなところに居ると、
まるでとある怖いお話を思い出すなぁ。君は読んだことある?
とある片田舎に起きる世にも恐ろしい事件! その原因、黒幕はなんと村の教会の牧師と、
それを陰で操る教会の隠された部屋に潜む邪悪で冒涜的な怪物、悪魔でしたーってヤツ』
”ああ。それならちょうど昨日、子ども達と一緒にね。その化け物も最後は村を偶然訪れていて
事件に巻き込まれてしまった勇気ある主人公の若者によって封じられるんだったかな”
『そうそう。でも、ま、ボクの存在も当たらずといえども遠からず、似たようなものかもしれない』
どういう意味かと俺は少し眉を潜めてミュウを見つめた。ミュウはニコニコと微笑む。
『おっと、焦らないでよ。別にボクはその悪魔みたいに村の人々を食べたりとかはしないもの。
それに、色々と恐ろしい目にあってきたのは、どちらかといえばボクの方だもん。
あ、別に牧師やシスターちゃん達にひどいことされてるってわけじゃないからね。
彼らはボクにとてもよくしてくれているよ。特に牧師には感謝してもしきれないくらいさ。
――そろそろ本題に入っていこうかな。ボクがこんな場所に隠れ潜んでいなけらばならない理由。
それは、ある者達に追われているからなんだ。そして、その一端には君も少なからず関わっていた』
明日明後日位に続き書くよ
GJです
保守
細めた目の間から覗く射抜くような輝きに、俺は心臓がびくりと跳ね上がる思いがした。
『うん、ボクは君の過去と正体を知っているんだよ、黄色い悪魔さん』
そう続けて、ミュウは口元を微かに弧に歪めた。まるで小さな虫を執拗に指の先で小突き
転げさせて遊んでいるかのような黒い笑みだった。
”それは、もしかしてゾロアークの告げ口か……?”
額にじわりと嫌な汗が滲み、俺はゆっくりと後ずさりしながら言った。
『ノンノン、彼は良くも悪くも純粋だもん、そんなことしないよ。もちろん、あの子もね。
ボクは以前に何度か君の姿は見たことがあるの。君の方は気付いて無かったみたいだけれど。
ある時は暗い暗い洞窟の奥底の岩陰から、またある時は木々が所狭し生い茂るじめじめした
ジャングルの葉と葉の隙間から、時にはがさがさ荒野にびゅうびゅう吹き荒れる砂嵐の合間から。
ううーん、あんなポケモンだって普通の子だったら住みたがらない様な荒れた土地を君は、
黒猫さんに、鳥さんに、怪獣さん、色んなお友達と一緒に随分苦労して歩き回されていたね。
……その様子、ボクが何を言いたいかって大体ピンときたかな?
そうさ、君達の飼い主のそのまた飼い主達が血眼になって追い求めさせているのは、
このボクなんだよ。表向きにはどういう風に伝えられていたのか分からないけれど』
”まさか、何故? 兵士達の話では、反政府的な武装組織の首謀者だったか、
強力兵器の開発者だったか、とにかくそういった危険な人物を追わされていると”
俺がそう言うと、ミュウは吹き出すように笑った。
『なるほどなるほど、うーん、あながち丸っきり嘘って言えないのが怖いところだなぁ。
何故って、言ったでしょ、ボクの体にはありとあらゆるポケモン達の遺伝子情報が宿ってるって。
もしもポケモンの研究者が知ったら、まるでナナの実を見せ付けられたエイパムのように
狂ったみたいに喜び飛び付いて、何もかも投げ打って没頭しちゃうくらいの大ごとだよ。
そこから得られる成果を、君達の飼い主の飼い主であるエラーイ人達はお腹の空いた
カビゴンみたいにヨダレをだらだら垂らして待ち望んでいるんだ。当然、皆が平和に暮らす為に
なんかじゃ絶対無いのは、彼らの下に居た君には分かりきってるんじゃないかな?
ボクの遺伝子を応用すれば、それはそれはもう今よりもっと強力な兵器だって生み出せる。
それを使えばもっとずっと簡単に自分の縄張りが増やせて、どんどんぶくぶく肥え太れるって寸法さ。
――まったく、良い餌をチラつかせて上手いこと手懐けたものだよ。この陰湿なやり口はきっと、
でぃあるんじゃなくて、ぱるぱるの仕業だろうなー……。君達が戦わされていた相手国だって、
きっと目的は同じさ。ホント、ボクってばモテモテでやんなっちゃう』
一旦、一区切り。
金、土くらいにまた改めて投下するよ。
保守
GJです
ぱるぱるも絡んでくるんだw
保守
そろそろ繋がるかな?
朝方か昼前くらいには投下するよ。
もしもその時にまたサーバーが落ちて繋がらなくなってたら、夕方くらいに。
保守
なんで繋がらなかったんだろ
足元がぐにゃりと歪んでずるずるととろけ落ちていくような感覚だった。
俺はもう戦争とは無縁に生きていくんだ。この村の一員として暮らしていくんだ。
そう心に決めたのに。争いの火種たるものは、そのすぐ足元に潜んでいた。
……滑稽だよな。平穏への確固たる足場を一段ずつ積み上げて居たつもりが、
実際は海岸の波打ち際に建てられた砂の城の如く脆くて危ういものだったんだから。
波がちょいと指先を動かす程度にその気になれば瞬く間に崩されてしまう。
『それにさー、彼らったら諦めが悪くって困るよ。時々、ここの事がバレないように
抜け出して彼らをかく乱して回るのも結構大変なんだよね。まあ、彼らだけだったら
まだ大した事は無いんだけれど。問題はその更に後ろで手綱を握る者達の存在さ。
そうだ、君にひとつおとぎ話をしてあげる』
そう唐突に言って、ミュウは『あー、ゴホン』ともったいぶった咳払いを一つした。
『昔々、それはそれは数え切れないほど大昔、ひとりの王様が居ました。
王様は生まれた時からひとりぼっちでした。それどころか、王様の周りには王様意外には、
火も、水も、草も、森も、土も、雲も、風も、光も、何一つ存在していなかったのです。
とても寂しくなった王様は、ある時三人の家来を自分の体から創り出しました。
王様には何にも無いところから何かを創り出せる不思議な力があったのです。
嬉しくなった王様は三人の家来に命じて、自分達が住むための庭を創らせました。
でも、その庭は四人だけで暮らすにはあまりにも広すぎるし殺風景過ぎます。
まだまだ寂しい王様は更に次々と家来を創りだしていきました。
家来達は様々な趣向を凝らしてどんどんと庭を彩っていき、ただ広いだけの殺風景な庭は、
いつしかひとつの立派な国となりました。
国には王様と家来だけではなく、少しずつ民達も暮らすようになっていきました。
王様と家来達は民達を手厚く守り助け慈しみ、民達も王様と家来達を敬い愛し、
とても仲良く暮らしていました。しかし、その幸せは永遠に続くものではなかったのです。
民達は王様達の加護もあり、その数をどんどん増していきました。王様はその姿にとても満足し、
家来達と共に民達を静かに見守るようになります。民達はその間もどんどんどんどん増えていき、
やがてその数は国の半分以上を満たす程にまで膨らんでいました。しかし、繁栄の一方で、
民達の間には少しずつ段々とどこかぎくしゃくとした空気が流れるようになっていました。
自分達の数が増えすぎて、ひとりひとりの住む場所や食べるものが減っていったのです。
その内、ぎくしゃくとした空気ははっきりとした敵意になり、争いが起こるようになりました。
王様は慌てて飛び出していって、彼らの間に入って止めに入りました。
しかし、彼らは誰一人としてそれに従うことなく、あろうことか王様を巻き込んで戦い始めました。
王様にとってはほんの少しの間、彼らを陰ながら見守っていただけのつもりでしたが、
民達にとってはそれはそれはもう長い時間、王様がまだ民達と共に暮らしていた頃は
まだ赤ん坊だった子がその時にはもう曾々々々々々……お爺さんになっているくらいの
年月が経っていたのです。民達は王様の事を誰一人として覚えてはいませんでした。
だけど、民達とは違う時空に生き、死ぬことも歳をとることもない王様はそんな事は分かりません。
王様は深く嘆き、とても悲しみ、激しく怒り、可愛さ余って憎さ百倍となって、
国ごと民達を滅ぼしてしまったのです。
家来達は失意に暮れる王様を慰め、また再び国を創りなおしました。
しかし国とその民達が辿る道は結局また同じ。王様が怒って壊してしまいます。
それでも家来達は何度も何度もめげずに試行錯誤して創り直しました。
でもやっぱり最後には王様が気に入らぬと壊してしまいます。さしもの家来達の中にも、
延々と続く繰り返しに心の疲弊を感じ、王様に不満を抱く者も出てきました。
ある時、王様は考えます。いらぬ諍い、争いが起きるのは、民達に余計な感情を
与えてしまっているからだと。ならばそんなものは全て奪い去ってしまえばいい。
王様は家来達に言いました。今再びこの国は壊し、今度は感情の無い者達だけの国を創ると。
家来達の中の不満を抱いていた者達が王様に猛抗議しました。だけれど、狂気に侵された王様は
まるで聞く耳を持ちません。不満を抱いていた家来達は陰ながら集まって話し合いました。
もう王にはついていけない、あの方は完全に狂ってしまわれた。でも、王様の力はとても強くて、
自分達が束になったって正面からじゃあかなわない。そこで家来達は一計を案じました。
無敵に思える王様にも唯一無防備になってしまう瞬間がありました。それは国を破壊する寸前、
破壊する為の力と、同時にまた新たな国を創りだす為の力、相反するものが交わるその一瞬。
危険すぎる賭けでしたが、彼らには最早それしか手段はありませんでした。
そして、遂に訪れる決行の時。空間が卵の殻のようにひび割れ、時が激流の如くうねり狂うその中で、
彼らは王様と側近の初めに生み出された家来三人の隙を付いて飛び掛り、
王様の力の素となるものをバラバラに分けて一斉に持ち去ってしまいました。
かくして、王様は力を失い、その狂気は防がれたのです。めでたしめでたし――で終われれば、
どんなにいいことか……。王様は今も尚、側近の初めに生み出された三人の内の二人と共に、
その狂気を一層深化させて裏切り者達を血眼で追い続けているのでした。めでたくなしめでたくなし』
GJです
アルセウスとミュウはどっちが先なんだろうなぁw
明日明後日にでも続き書くよ
>>167 このスレの設定では一応アルセウスが先じゃないかな?
保守
ミュウもアルセウスの臣下のひとりだったのかなぁ
気になるところです
でもミュウってアルセウスが世界を造り出す前の“無”の中に飄々と浮かんでそうなんだよな…
保守
保守
保守
明日の今ぐらいには投下できるようにするよ
保守
おとぎ話はこれにて閉幕と言わんばかりにミュウはわざとらしく格式ばったお辞儀をし、
顔を上げて、『参っちゃうよね、ホント』とぼそりと漏らした。その一瞬、ミュウの表情に
無邪気な子どもみたいな態度と顔つきには似つかわしくないどこか疲れきったような、
物悲しげな、仄暗い影が差した。
傍らで俺は一体どういうつもりでミュウはこんな話をしたのかいまいち掴めなくて、
怪訝な顔をしていたことだろう。軍に指示する国を更に操る者達が居るという話が
虚偽でないとするならば、その者達の正体と目的を暗に示しているものだとは思うのだが、
ミュウ自らが『おとぎ話』と称したように、話に出てきた”王様”と呼ばれるものは
あまりに現実離れした存在のように思えた。
最も俺達ポケモンだって人間からしてみれば、草むらに一歩踏み出せば程なく出会えるほど
身近に生息していて実際に触れ合えるからこそ確かに存在するものと認められるものの、
話に聞くだけで目にする機会が無かったとしたら、体から何万ボルトもの電気を放ったり、
口から数千度の炎を吹き出したり、腕で岩をクッキーみたいに砕いたりする生物だなんて、
とても現実離れした存在のように思うのかもしれない。
だけれど、それを踏まえたって、件の”王様”とやらは、まったく何も無い状態から
有を創りだしたり、赤ん坊だった子が何十代も前のお爺さんになるくらいの年月が経っていても
健在していたり、国ごと民達を簡単に滅ぼしてしまったりと、あまりに途方も無い。
物というものは必ず何か材料となるものがあってこそ成されるものだ。
キュウコンという九つ尾の狐のようなポケモンは千年は生きるといわれているけれど、
無から有を生み出したり、国一つを滅ぼすような力があるなんて聞いたことが無い。
過去にギャラドスという青い龍型のポケモンが暴れて大きな都市が壊滅的な被害を被ったなんて
記録があるらしいけれど、ただ怒りの向くままに破壊する事しか興味の無い彼らが
もしも無から有を生み出せたとしても、有効に使う機会も考えも無いだろうな。
まったくもって人知もポケモンの力をも超越した規格外、常識外れ、超自然的な存在、
それではまるで――。
『さーて、ボクばっかり喋ってるのもなんだし、そろそろ君にも色々聞いていっちゃおっかな』
溺れ迷う思考がとりあえずの取り付く島に手をかけようとした寸前に、
先程の仄暗い影が見間違いだったかのようにけろりと明るい調子でミュウは俺に言った。
『さっきのはほんのおとぎ話さ。難しく考えずに軽く聞き流しておいてよ、今のところはね。
今、一番大事なのはさ、戦争の原因は国同士がボクを巡って争っているから……つまり、
言い方、見かたを少し変えればボクが原因だ、とも言えるってことじゃないかなー? 』
再びミュウの顔に小さな虫を弄ぶみたいな意地悪い笑みが薄っすら浮かんだ。
『さあさあ、そのものズバリと根掘り葉掘り、歯に衣着せずにずずいと聞いちゃおう!
そんなボクがたった今、目の前にいて、手を伸ばせばすぐに届く位置にいて、君は何を思うの?
そして、どうしたい? だってさー、君が色々延々と辛い思いをしてきたのは、
ああ、君の友達は”今も”だね、ボクがいつまでも逃げ隠れているせいとも言えるんだよ?』
予定よりも遅くなってごめん
また土日くらいに続き投下するよ
GJです
age
保守
保守
ぐっと喉と胸が押し込まれるような感覚がして、俺は何も返す事が出来なかった。
ミュウは煽り急かすようにぐいと俺に顔を寄せる。目の前に迫る澄み切った青い大きな瞳が、
今は深く広い湖にぽつねんと浮かんだボートの上から水の深淵を覗き見るかのように
末恐ろしく感じた。
『どうしたの、そんな顔して黙っちゃってさ。もしかして、友達がまだ戦わされてるって
知って驚いちゃった? まさか、そんな筈無いよね。本当は薄々そんな気がしていても、
知らない振りして、考えないようにして逃げていただけなんでしょ?
そうだよねー、友達が泥と煙と血と汗にまみれながら生死の狭間を掻い潜り続けている横で、
自分は優しいひと達とかわいい子ども達とシスターちゃんに囲まれてぬくぬくと甘々に
暮らしているんだもん、とても顔向けなんてできないか。あーあ、友達もかわいそうに。
見る度に数も減っていって、残った子達もどんどん疲れ切っちゃっていってるみたい。
でも君は、その元凶が目の前にいるのに、何もすることも、言ってやることすらできないわけだ』
ミュウは古傷を切って開きぐりぐりと抉るように更に俺を捲くし立てた。
”今更、こんな俺を責めて何になるっていうんだ。もうやめてくれ、もう沢山だ。
俺はただ村で静かに暮らしていきたいだけなんだ。部隊の者達の事だってどうしようもない。
今や日常生活を送るのが精一杯の身の俺には何も出来やしないだろう”
耐え切れず懇願するように俺は情けなく震える声で言った。
『あ、怪我を盾にしちゃうの? だけどそれってば、ボクには通用しないんだな』
言いながら、ミュウは短い三本指を銃みたいに構えて俺の額にこつんと押し当て、
『バンッ』
その瞬間、額から後頭部にかけて電流みたいな衝撃が駆け抜け、
瞬く間に体を伝い、手足と尾の末端隅々へと根を張るみたいに広がった。
俺は動転してつい反射的に後ろへと飛び退こうと体に力を込めてしまった。
それから自分のその行動をひどく後悔した。今の己の身体でそんな動きをしようとすれば、
忽ち背の傷から全身へと激痛が走るに違いなかったからだ。
しかし、予想に反して俺の足は軽々と地を蹴り、少し後ろへとすんなりと着地した。
ふらつきもせず何の痛みもありはしなかった。俺は信じられない気持ちで己の体を見回した。
そこには何も依然と変わらない筈の黄色い毛並みに覆われた体があったが、
何となく今までの自分の体とは違うような妙な感覚だった。
『ふっふーん、驚いた? ごめんねー、ほんのちょっぴり君にイタズラしたよ。
零から一は無理だけど、一からならば十にも百にもボクにだって出来ちゃうのさっ』
えっへんとミュウは自慢げに胸を張った。それからハッとして居心地悪そうに横に目を逸らし、
『あー……でも、こんなことすると後でぎらちーのいかりのボルテージがぐーんと……
うう、でもほんのちょっとだしいいよね……』
と、何やらぼそぼそと独り言を言った後、ゴホンと咳払いで取り直して俺を再び見やった。
『これで怪我はもう言い訳に出来ないよ。さあ、どうする? そうだなあ、友達をもしかしたら
助けられるかもしれない方法の一つを示してあげようか。君はボクをこの場で捕まえて、
軍へと突き出せばいいのさ。ボクを手に入れれば戦争はエライ人が理由を適当に見繕ってきて
直に終わるだろうし、そうすれば君の友達だって戦わなくてもよくなるかもしれない。それに、
君だって特別なご褒美貰えるかもよー? 英雄として讃えられちゃったりして! かっこいー!』
”どうして、何の為にこんなことを? そんなの、あなたには何のメリットも無いだろう”
『んー、そうだねー。なんだろ、”もう疲れちゃった”ってヤツかな?
ずーっと彼らから逃げて隠れて匿われて、その度に……。同じ事を何度も何回も幾度も幾回も
繰り返してきて、もう心がへっとへとの体もくったくたなの。だから、ここらで終わりに
しちゃおっかなって思ってさ。で、どうする? ボクはおいかけっことかくれんぼは得意だけれど、
戦うのってそんなに好きじゃないし、君の今の力ならか弱いボクなんて簡単に捕まえられるかもよ』
少し項垂れ、伏し目がちにしてミュウは言った。
暫し逡巡した後、俺はゆっくりと首を横へ振るった。
”答えは変わらないよ。俺はこの村で暮らしていきたいんだ。軍での褒美や名声に興味は無いし、
それにもう戦わなくてよくなる保証なんてのも無い。あなたも自分で言っていたろう、
自分の力を応用されれば更に強力な兵器が生み出されると。己の身で今その一端を体験してみて、
その意味がよく分かった。怪我の後遺症なんて嘘だったみたいに体の自由が利くようになった。
底知れない力だ。悪用されればきっととんでもないことになる。スカー達、部隊の者達の事は――”
それ以上、俺の口は言葉を紡げなかった。どんな理由、言い訳を重ねたって、
彼らを見捨てるのとほぼ同義な選択には違いなかった。
『君は賢明なひとみたいで良かったよ』
そう言って、ミュウは心底安堵したように深い息をついた。と同時に、俺の体からも妙な感覚が
根を引き抜くみたいに失せてしまい、糸が切れた操り人形みたい俺はその場にふらりと崩れた。
『君への”イタズラ”はほんの一時的なものさ。ごめんよ、イジワルなことして。
ちょっと君を試してみたんだ』
保守
GJです
明日明後日くらいにでも続き書きたいです
保守
保守
保守
ごめん、ちょっと遅くなりそうだ
明日の今くらいか遅くても土曜日の朝方までには投下するよ
保守
しれっとそう言って、ミュウは手を差し伸べた。
”……ひとが悪いな”
俺は苦く呟いて、その手には触れずに自力でゆっくりと重苦しく感じる体を起こす。
ミュウは宙ぶらりんの手を所在無げに握々とさせてから、仕方なさそうに引っ込めた。
『もー、ごめんってばー。そんなに怒らないでよ。ボクだって悪いとは思ったけれど、
君の意思を確実に見極めたかったのさ。ま、ここまで突っつかれても考えが変わらないなら、
君の思いはホンモノって事だよね』
ミュウは顎に手を当て、今一度の確認めいた視線を俺に送った。
俺は複雑な面持ちでそれを見返して小さく頷く。
『うんうん、良かった良かった。これでボクもぎらちー達もひとまず安心だよ』
ミュウは奥の元々は厳格な祭壇だったらしき飾り台の上に鎮座している、
まるでクリスマスツリーみたいにメルヘンチックに飾り付けられた物体をちらりと見やった。
それから俺の方に向き直り、何だか少し改めた調子でこう切り出した。
『ねえ、もう一つ確かめたいんだけれど』
一体なんだろうと俺は首を傾げた。
『この村で暮らしていきたいって君は言ったね。ということは、君はこの村が好き、
ひいてはこの世界をまだ好きでいてくれているって思ってもいいのかな』
あまり書き進められなかった、また明日の夕方〜夜くらいに投下します
GJです
保守
何故そんなことを聞くのかと疑問に感じたが、ミュウの真剣な様子を見て、
俺は真面目に思いを巡らせてみた。
”戦いの渦中で俺はこの世界の残酷な面をまざまざと目にして味わってきた。
かつての俺が同じ質問をされたとしたら、何の躊躇いも無く嫌いだと答えていただろうね。
だけど、あの子に出会って、この村で沢山の人々やポケモン達の優しさに触れて、
残酷なだけが世界の全てじゃあないって知った。だから、はっきりと好きとは言えないけれど、
まだまだこの世界も捨てたものでは無いんじゃあないかなと今は思う”
俺の答えを噛み締めるようにミュウはうんうんと頷く。
『それだけ言ってもらえればボクには充分。この世界とそこに住むみんなってばさー、
君が見てきた通り、残酷で辛辣でどうしようもなくひどい面もあれば、
ちゃんと優しくて温かい面もあるんだよね。一体、本当の顔はどっちなのか
分からなくなりそうだけど、どっちも本当の顔、真実なのさ。
一人一人一匹一匹にそれぞれの形や思いや感情があって、その多数が無数に触れ合うんだから、
全部が全部隅から隅までうまくいく筈がないよね。でも、だからって、
全てみんなおんなじ形と考えにしちゃったら、誰とも関わる意味も必要も無くなって、
確かに誰も争う事は無くなるかもしれないけれど、そんな世界絶対につまらないし寂しいよ』
明日明後日にでも続き書く
GJです
保守
保守
明日の今くらいには投下する
もう来週の土曜にはBW2発売かー、早いもんだな
発売後しばらくは色々スレが立って板の流れが速くなるだろうから、スレが落ちないように注意しないとね
なるべく保守頑張ります
BW2発売マジ楽しみ
よーし、俺も保守がんばるぞー!
ミュウは猫じゃらしみたいに膨らんだ尻尾の先をきゅっと抱き込んで顔を少しうずめた。
『そうなったら君達はつまらないとか寂しいとかも一切感じることもないのだろうけれど。
もしかしたら、そうなってしまった方が君達にとってはいっそ楽なのかもしれないって、
思い始めていたんだ。今だって、ボクらの争いに大勢の子が訳も分からずに巻き込まれて、
利用されて、苦しんでいてさ。ボクがやってきた事はボクの単なるエゴ、わがままであって、
君達にとっては余計なお世話なんじゃあないかってね。しかーし』
ミュウは唐突にがばりと尻尾から顔を上げ、俺をびしっと指差す。
『そんな風に思い悩んでいた時、君は現れた。この争いの為に生まれ、最前にて育ってきた、
まるで戦禍の申し子みたいな君が。これはもう話を聞いてみるっきゃないよね。
本音を言えば、直接姿を見せるのはドッキドキだったの。
彼らの息のかかった密偵の可能性だってあったわけだしさ。特にぱるぱるってば、
そういう影でこそこそするのが好きだから。村で見せてる普段の様子だって、
もしかしたら猫を被っているだけかもしれない。あ、鼠が猫を被るって何だかおかしいね、ふふ。
ま、結局は杞憂だったわけだけれど。
それで、君は言ってくれたよね。この世界もまだまだ満更じゃあないって。
ホッとしたよ。君のような境遇の子も、良い部分を知ればそう思ってくれるんだって。
中には当然こんな世界嫌いだって子もいるだろうけど好きでいてくれる子だってちゃんといる。
ならボクももう少し頑張ろっかなーって思っちゃうよね、うん』
気合を入れ直すようにミュウはぐっと拳を握って、胸の前に構えた。
明日の今くらい、もう一度投下する
>>204-205 いつも乙です
自分も保守ったり、なるべく書く頻度上げられるように頑張ろう
GJです
保守
『おっと、ごめんよ、おいてけぼりにして。ボクってば気分が乗ってきちゃうと、
ついつい口が余計に回ちゃってさ。ぎらちーにもよく”言葉は重々しく扱うべきだ。
ことに我らのような者は。汝には少々自覚が足りぬ”だなーんて怒られちゃうの。
自分だって案外お喋りでひとの事言えないくせにさー。ボク堅苦しいのって苦手なんだよね。
いかにも気取ってむっつりしてるより、やっぱり色々お喋りした方が楽しいじゃない?
君もあんまり喋る方じゃないみたいだけれど、溜め込むのってよくないよ。
何事も言わなきゃ伝わらないもの。中には言っても伝わらない頑固さんもいるけれどね。
……っとと、また、悪いクセだ。というわけで、今日は長々とボクのお話しに
付き合ってくれてありがとう。朝早くにわざわざ呼び出しちゃってゴメンよ。
何かお詫びもかねたお礼をしたいところだけれど、そうだなー、どうしよ。
あ、その怪我をホントに治してあげるーってのは……いやいや、ダメだ。定命の子に軽々しく
そういうことしちゃダメって、ぎらちーにきつーく言いつけられてるし……うーん、あ、そうだ!』
ぽん、とミュウは手を打って、俺に背を向けて何やら尻尾の先を抱えてごそごそし始めた。
『はい、どうぞ』
程なくしてこちらへと振り向き、ミュウは丁寧に畳まれた黒い布切れを俺に手渡す。
”これは?”
何となく指先で布の手触りを確かめながら俺は訊ねた。表面には綺麗なツヤがあり、
すべすべしていながらも、ふんわりと心地よく体に馴染むような、とても不思議な感触だった。
『うん、メリープの綿毛にアリアドスの糸、モジャンボの蔓とチルタリスの羽毛、
後それから、えーと、何だっけな……まあとにかく、他にも諸々色々様々な
ポケモン達の優れた部分を纏めて混ぜて織り込んだの。凶暴なガブリアスでもこれを力ずくで
引き裂くのは中々苦労するであろう逸品だよ』
”それが本当なら、随分と貴重な代物だろう? 簡単には受け取れない”
『うん、まあ、価値の分かる人間に売れば、一財産築けちゃう位にはね。
でも、いいのいいの、ボクだったらやろうと思えばいつでも幾らでも用意できるし』
”一体、どうやって?”俺は疑わしく首を傾げた。
『んっふふー、知りたい?』わざとらしくミュウはもじもじしてみせる。
『だってそれはボクの一部、け・が・わ、だもん!』
”なっ!?”
ぎょっとして声を上げる俺に、ミュウはいたずらっぽく片目を閉じて微笑んだ。
『ボクの体にはありとあらゆるポケモン達の遺伝子が宿ってるって言ったでしょ。
応用しだいじゃこんな事も出来ちゃうの』
”だ、大丈夫なのか、こんなことして”
恐る恐る俺はミュウと布を交互に見た。正体を聞いた途端、何だか布がとても生々しい物に思えた。
『平気、平気。別に生皮をそのままべりべり剥がし取ったわけじゃないし、
ボクにとったら毛を一本抜く程度の手間だよ。一度に沢山はちょっと辛いけれど。
というわけだから、気軽に使ってちょうだい。何でもいいよ、ランチマットにしたっていいし、
風呂敷にも使えるかもね。あ、でもさすがにぞうきんはやだなあ。もう切り離したものとはいえ、
自分の体がぞうきん臭くなるなんて耐えられないよね』
マントと同じ素材か
保守
明日明後日にでも続き書くよ
GJです
>自分の体がぞうきん臭くなるなんて耐えられない
マリル「そうだね」
保守
保守
マリル=ぞうきん臭を定着させてしまったHGSSのコトネの台詞は罪深いよなあ…w
明日の今ぐらいの時間には投下するよ
最近PCの調子が変で、もしも故障なり何かあって書けない場合には、
携帯では巻き込まれ規制で2chにはレス出来ないから避難所の方に連絡します
保守
”……まあ、使い道は後でシスターにでも相談する”
まだ少し抵抗はありながらも、突き返すのも気が引けて仕方なく俺は布を小脇に抱えた。
『それがいいね。あの子なら少なくともぞうきんよりもマシな使い道をしてくれるよ。
前に同じものを渡した時は、黒いケープになんて仕立ててくれちゃって感心しちゃったもの』
ミュウの口から発せられた意外な事実に俺は少し目を丸くする。
”なんと。てっきりあれは牧師が用意したものだと思っていた”
ミュウはくすくすと笑った。
『まっさかー、牧師じゃ無理無理。優秀な人だったには違いないけれど、
そういうマメな事にはぶきっちょでダメダメだもん』
確かにそうかも、と普段の牧師の姿を思い浮かべてミュウの言葉に納得した。
基本的に穏やかで理知的な人ではあるが、案外自分のことにはずぼらな面もあって
――シスターや手伝いに来てくれている村の女性にぷんぷん怒られながら
私室を掃除されている姿をたまに見かけた――裁縫だとかそういうチマチマした繊細な作業を
するようなタイプには見えない。
『ここにあるぬいぐるみは殆どあの子に頼んで縫ってもらった物なんだよね。
なんでも近所の森に住むハハコモリさんに習ったんだとか。
あのちっちゃい指でよくやるよね。君達の種族の多才さにはホント驚かせられるよ。
サーフボードで波乗りしたり、風船で空飛んじゃう子もいるもんね』
”その、あなたの話を聞いて、俺はこれからどうしていけばいい?”
『別に、何も。自分で言ったじゃないかこの村で暮らして生きたいってさ。
ならその通りにすれば良い。ボクはボクでどうにかこうにか頑張っちゃうからさ。
君は気にせず上に戻っていつものように暮らして、村の皆やシスターちゃん、
それと子ども達に優しくしてあげてよ。ボクの分まで沢山ね』
そう言ってミュウは微笑んだ。一瞬、その笑みに少し済まなそうな色が滲んだ気がした。
トントン、と部屋にノックの音が響く。彼女が迎えに来たのかと思ったが、
その音はドアからではなく部屋の奥、例のクリスマスツリーみたいな物体の方から聞こえていた。
『ミュウ、いるー?』
続けて、聞き慣れない少し間延びしたやる気の無い声が聞こえてきた。
『おっと、来客だ。うん、いるよ』
ミュウが慣れた様子で応じると、クリスマスツリーの上に黒い影の渦みたいなものが広がって、
中から球根に似た形の頭をした緑色の妖精みたいな小さな生き物がひょいと飛び出した。
妖精みたいな生き物はクリスマスツリーに『ありがとね、ぎらちー』と声をかけ、
影の渦は溜息一つするみたいに一回り大きく伸び縮んだ後にふっと消えた。
『どしたの、突然。急用?』
ミュウは妖精みたいな生き物に尋ねた。
『うーん、まあまあ、割とー?』
とても急いでるようには見えない覇気の無い調子で妖精みたいな生き物は答えた。
とりあえずここまで
また金曜日の夜に続き投下するよ
乙〜 保守
GJです
『ふーむ、君がそこまで言うとなると結構大変そうだね。まあ、座ってよ』
理解している様子でミュウは妖精みたいな生き物を招く。それは頷いて、
虫みたいな二枚の薄羽根をぱたつかせながらふよふよと緩慢にこちらに寄って来た。
『なにこれ、新しいぬいぐるみ?』
途中、それは俺の存在に気付き、怪訝そうにじっと顔を覗き込んできた。
ミュウと同じ色をしたその青い瞳は、やはりミュウと同じ”普通”の者とは
どこか違う光を宿していた。
『違うよ。どこにも縫い目なんて無いでしょ。その子はボクの新しい友達さ』
”どうも”
戸惑いながらも俺は挨拶を試みた。
『ホントだ、動いた。ま、ぬいぐるみにしては、これ、あんまりかわいくないしねー』
それは急に興味が失せた様子で素っ気無く俺から目を逸らし、さっさとミュウの傍に座った。
『失礼だなー、君は。確かに目元とかちょっと荒んだ雰囲気はあるけど、そーいうとこも含めて
案外かわいいと思うんだけど』
少し心外な様子でミュウは言った。
『わー、趣味わるー』
お構いなしにそれは否定した。
ダメだこりゃ、とミュウは手をひらひらさせ、溜息をつく。
『いいさ。今さら君と趣味が合わせられるとは思っていないもの。ボクも君のトカゲや
ヘビみたいな鱗でツルツルヌルヌルした子が好きだなんて好み、あんまり理解できないしね。
絶対、この子みたいに毛並みがふわふわの子のがかわいいよ』
ミュウの言葉に、今度はそれの方がムッとした。
”あの……”
俺は間に挟まれてたじたじになりながらも、このままではいられないと恐る恐る声を上げた。
『そうだそうだ、まずは君を上に帰してあげなきゃね。ねえ、セレビィ、今何時くらい?』
ハッとした様子で、ミュウは妖精みたいなのをセレビィと呼んで訊ねた。
セレビィと呼ばれたそれは時計を見るわけでもなく暫し頭の二本の触手をぴくぴくと揺らし、
『大体、七時前くらい』と答えた。
俺とミュウはほぼ同時にギョッとした。
『君、今日も木の実園の仕事はあるんだよね? もしかして、もうとっくに支度を済ませて
出発していないとマズイくらいの時間じゃないの?』
”あ、ああ!”
俺は泡を食ったように顔を青くして答えた。俺の脳裏には遅刻に憤慨して真っ赤になった
ドテッコツ爺さんの顔が鮮明に浮かんでいた。
あちゃー、とミュウは額に手を当てた。
『長々とボクのせいだよね、悪いことしちゃったなー……。あ、そだ!』
何か名案が浮かんだのかミュウはポンと手を打つ。縋るように俺は見つめた。
『ねえ、セレビィ。ちょっと力を貸してよ。ほんのちょちょいと一、二時間戻るくらいなら、
でぃあるんにもバレないでしょ?』
ね、お願いと手を合わせて、ミュウはセレビィに奇妙なことを頼み込んだ。
『えー、めんどくさーい。それに、今さっきだって――』
『お願いだってば、今度、君の好きそうなキモリとかワニノコのぬいぐるみも用意するからさー』
出された条件に、セレビィの触手がぴくりと反応した。
『もー、しっかたないなー』
渋々と、しかし、ぬいぐるみが楽しみなのかどこかわくわくした様子で、
セレビィはそっと手をこちらに向けて目を瞑った。手の平には時計を思わせる三本の針状の光と、
その周りに十二個の点状の光が浮かび上がり、ゆっくりと針が反時計回りに進み出す。
周りの空気ごと体がねじれていく様な奇妙な感覚にとらわれ、不安になって見つめる俺に、
ミュウは『大丈夫』とウインクした。
『じゃ、またね。あ、シスターちゃんにキモリとワニノコのぬいぐるみのこと、
かわりに言っておいて。ボクはまたしばらく忙しくなりそうな予感がするからさ――』
そうミュウが言い終えると同時にセレビィから強い光が放たれ、俺の意識はその彼方へと消えた。
――それから気が付けば俺は自室のベッドで汗びっしょりで飛び起きていて、
慌てて時計を見てみれば時刻は六時前。まだまだ支度には十分な余裕があった。
落ち着いて息を整えながら、奇妙な夢を見ていただけなのだろうかと思いかけた刹那、
しっかりと自分の手に握られた不思議な感触の黒い布に気付いた。
ほ
ほ
GJです
BW2発売きたー!
明日明後日にでも続き書くよ
BW2、ポケウッドが面白いわw
保守
保守
保守
BW2の新要素はいろいろあって面白い
保守
気づいたら保守!
保守
明日の今くらい、遅くてもあまり深夜にならないうちにするよ
保守
保守
俺は何と無しに目の前にそれを広げて眺めた。全て現実、か。どこか途方も無い気持ちで呟く。
布の黒い表面がむなしく水面に小石を放ったみたいに吐息で微かに波打った。
くしゃ、と押し込めるように勢いよく布を畳み込み、俺はいつものように仕事の支度を始めた。
だらしなく乱れた毛並みを直し、汗拭きのタオルをタンスから取り出して首元に巻き、
日よけの麦わら帽子を背中に背負う。染み付いた習慣は何も意識しないように努めていても
操り糸みたいに勝手に体を動かしてくれた。
準備が程よく整った所でノックの音がして、扉を開けると少し息を切らしたシスターの姿があった。
〈よかった、先に部屋に戻ってらしたのですね〉
俺の顔を見て彼女はそうホッと胸を撫で下ろし、もっと早くに迎えに行こうと思っていたが、
やはり俺を残して先に上に戻ったあの後に子ども達が起きてきて、その対応や他の色々な用事に
追われている内にあれよあれよという間に時間が過ぎてしまったのだと語った。
『ねーちゃん、ご飯まだ?』
そうしている間にも容赦なく、彼女を呼ぶ子ども達の声が廊下の方から飛んできていた。
〈もう、ちょっと待っててってば!〉
彼女は慌しく返事をしつつ、はい、と俺に布が被せられた小さなバスケットを手渡した。
〈お弁当ですよ。中身はいつもより多めに包んでおきました。朝ごはんは間に合いそうに無いので、
木の実園に向かいがてらにでも早弁してちょっとだけ摘まんじゃってくださいな。
じゃあ、子ども達を待たせちゃっているから、私はこれで!〉
軽く会釈して、彼女は大慌てで廊下をぱたぱた駆けていった。
何一つ変わらない、いつも通りの朝だ。
玄関をくぐり、迎える朝日が目によく馴染む。教会から木の実園までの緩やかな道のりは、
目をつぶっていてでも辿り着けそうな程に慣れ親しんでいる。
何一つ変わらない、いつも通りの朝だ。
でも、だけれど、その筈なのに、踏み締める土の感触が、足裏と地面の間に薄い空気の層でも
挟み込んであるみたいに浮ついて不確かなものに何だか感じられた。
その日、俺はずっとそんな調子で上の空になってしまっていた。
一旦、ここまで
続きはまた金、土にでも投下するよ
GJです
>麦藁帽子を背中に背負う
可愛いなぁ
それくらいの大きさなんだよなぁw
保守
保守
40cmというと現実の猫くらいのサイズかな?>ピカチュウの大きさ
保守
保守
保守
保守
遅れてごめん、投下は朝方か昼前くらいに
朝一の保守!
木の実園ではうっかり水をやりすぎて貴重な苗を駄目にしてしまって
ドテッコツ爺さんに大目玉を食らい、教会に帰って子ども達に読み聞かせをしようとしても
ぼんやりとして何度も同じ箇所を読み返したりでままならずみんなにいらぬ心配をかけ、
と、大事な日課なのにろくに身が入らずそれはもう散々だった。
地下での出来事は思った以上に俺に深く突き刺さり影響を与えていた。
でも、そんな鬱屈とした状態は長くは続かなかった。そんなもの軽く吹き飛ばしてしまう程に
大きな転機が俺に、それとシスターにも訪れたんだ。
ある日の夜、珍しく確認のノックも無く無言で急に彼女が俺の部屋へと上がり込んできて、
どこかぎくしゃくと緊張したようなおぼつか無い足取りで俺の傍まで来ると、
へたり込むようにふらりと座り込んだ。
”どうした、大丈夫か?”
ただならない様子に、俺は心配になって恐る恐る声をかけた。
その日、彼女は朝から具合が悪そうで、本人は平気だと言い張っていたけれど、
みんなの説得で家事雑用をお休みさせ、大事をとって牧師にも診てもらうことになっていた。
まさか、なにか大きな病気が発覚したのだろうか。そういえば彼女の赤い頬っぺたが、
熱のせいなのだろうか普段より殊更に赤くなっているように見える。
それに、胸でも苦しいのか彼女はケープの襟元をきゅっと抑え、少し俯いて何か言いたげに、
でも言いにくそうに口をぱくぱくとさせていた。
”く、苦しむのか!? すぐに牧師に来てもらう!”
大急ぎで牧師を呼びにいこうとすると、彼女は俺の手を繋ぎ止めて首を横に振るう。
〈ちっ、ちがっ、違います!〉
慌てた様子で彼女が叫んだ。
”えっ?”
呆気にとられる俺を、とりあえず座ってと彼女は促がした。
〈だ、大事なお話しだから、落ち着いて聞いて。わ、私も、ちょっと、心の準備――〉
すーはー、すーはー、と彼女はゆっくりと息を整え出した。
何だかよく分からないがこちらまで緊張してきて、ごくり、と俺は息を呑んで、
じっと食い入るように彼女の次の言葉を待った。
ゆっくりと彼女は口を開く。
〈子どもがね、出来ちゃったみたいなんです。あなたとの……〉
――ゴローニャも月までブッ飛ぶような衝撃を受けた。
あの時は嬉しいとかどうとかよりも、ただただ頭が真っ白になってしまったな。
>く、苦しむのか?!
「苦しいのか?!」の間違いでは?
間違ってたらすいません
シスターおめでとぉぉ!
GJです
>>256 ごめん、確かにそうだorz
毎度毎度推敲が足りなくてすみません
保管の際に
>>255の一行目の
×苦しむのか
を
○苦しいのか
に差し替えをお願いします>保管サイトの管理人さん
保守
保守
シスターおめ!
保守間隔短すぎだ加減しろ
明日明後日位にでも続き書く
保守は一日に一回程有ればもう大丈夫かな?
BW2発売から一週間経って板の流れも少しは落ち着いたしね
保守
保守
保守!
明日の今位には投下する
保守
俺の……? できた……? 子どもが……?
彼女の言葉の意味はいたって簡潔だった筈だけど、頭の中で何度それを繰り返しても
思考は麻痺したみたいになって事態は中々飲み込めず、俺は石像みたいに固まってしまった。
〈あなたには一番最初にお伝えしたくて。まだ他のみんなには言ってないの。
ずっと隠しておける事では無いですし、明日の朝食時にでもみんなにはお話したらどうかと
牧師様は仰られていたのですが、あなたはどう思います……?〉
顔を湯気が出そうなほど真っ赤にして、両手の指をもじもじさせながら彼女は尋ねた。
一方の俺は、依然ろくに意味も解せないでいるままただただ相槌を打っていた。
〈……嬉しくない、ですか?〉
ちら、と不安そうに彼女は頷くばかりで黙りこくる俺の顔を窺った。
そこでようやく俺は思考の回路が繋がり、ハッとして首を振るう向きを素早く横に切り替えた。
”いやいやいやいや、断じてそんなことはない! ただいきなりの事で驚いて、
心の整理がつかなかっただけで、もう大丈夫――”
俺はスッと息を吸い込み、心細げに震える彼女の両手を握る。そして、しっかりとその目を見た。
”俺も出来る限りの事を手伝うよ。これからも二匹で、いや、違うな。
これからは今まで以上に、三匹で協力して生きていこう。お願いできるかな、シスター?”
〈……! はい――!〉
驚いたように目を丸くした後、彼女は大きく頷いて微笑んだ。
とりあえず今はここまで
明日の今くらい〜土曜の明け方にもう一度投下するよ
保守
翌朝、朝食に集まるみんなの前で俺と彼女は子どもの事を報告した。
話を聞いたみんなの反応は特に驚いたり意外に思っていたりするような様子は無く、
寧ろ”やっとか”とすら言われそうな具合だった。
それほどまでに周りには知られた仲だったのだと今更ながら気付かされ、
俺と彼女は揃って赤面し苦笑いを浮かべた。
皆、口々に祝福の言葉をくれる中で、誰が初めに言い出したのか、
折角教会に住んでいるんだから結婚式を挙げたらどうかだなんて提案が飛び出し、
どんどんと勝手に話が膨らみ出した。
人間と違ってポケモンにはそんな仕来たりは無い筈だし、
それにこれ以上大々的に祭り上げられたら照れくさくてかなわない。
みんなからお祝いの言葉を貰えただけで充分だと俺は口を挟んで止めようとした。
しかし、ふと横の彼女の顔を見てみると、その目は期待に満ちた様子できらきらと輝いていて、
乗り気だというのが言わずとも分かる。
〈素敵ね、それ! ねえ、是非そうさせて貰いません?〉
まるで無邪気な子どもみたいな目で真っ直ぐに見つめられてそう言われては、
もう俺には抵抗するすべは一片たりとも無かった。
”ああ。君が望むのなら”
やれやれ、と微笑んで俺は言った。
GJです
明日明後日にでも続き書くよ
保守
保守
明日の今くらいには投下するよ
保守
それから数日の内に式は執り行われた。初めはひっそりとささやかに、の筈だったのだが、
何分、娯楽の少ない小さな村だ。農作業も一段落する時期に入り暇を持て余した村のひと達には、
ポケモン同士の結婚式なんて物珍しい行事を見逃す手は無かったのだろう。
普段はあまり人が来ず、例え来たとしても大抵は祈るためではなく牧師に調子が悪いポケモンを
診てもらうことが目的の人ばかりで閑古鳥鳴く聖堂が、長椅子を全て埋め尽くすほどの盛況だった。
いつもは使い古した穴開き麦藁帽に汗拭きタオルと御世辞にも洗練されているとは言い難い
格好ばかりしている俺も、その日ばかりは真っ黒い外套をスーツ代わりにきっちりと羽織り、
彼女の方も質素な黒い普段着とは対照的な真っ白なドレスを身に纏って式へと臨んだ。
衣装は両方とも、彼女と子ども達が総出で寝る間も惜しんで仕立ててくれたものだ。
それはもう手作り感が一杯だったけれど、袖を通した瞬間に目に付いた裾の綻びに何だか
”くすっ”と顔まで綻んで、予想以上に大ごとになって張り詰めていた緊張が少しほぐれて、
胸がほんのり暖かくなって、どんな上等な衣装よりも素敵に思えた。
正面扉から牧師の待つ祭壇まで真っ直ぐに敷かれている少しくすんだ赤い絨毯の上を、
俺と彼女は二匹並んでゆっくりと歩んだ。両脇から贈られる拍手とお祝いの言葉。
彼女は満面の笑顔で応じ、俺は少し照れ臭く会釈をしながら進む。
その途中、子ども達と同じ列に座らされてぶっきらぼうに腕を組むゾロアークの横を通り過ぎる時、
周囲の音に紛れ込むように微かにだが『頼んだ』と呟くのを、俺の耳は確と捉えた。
俺は振り向かずに”ああ”と尾を振って応じる。それを見届けたように後ろから
指をパチンと鳴らすような音が響き、聖堂中に紙吹雪のように舞い散る色とりどりの幻影の光に
ワッと歓声が上がった。
遅れてごめん、また明日の夜に続き投下するよ
乙
ゾロアーク、けっこう粋な奴だw
GJです
ゾロアークもGJだ!w
保守
朝方くらいには投下する
牧師のもとに辿り着き、俺と彼女が壇の前に並び立つと場内はしんと静まり返った。
牧師はにこやかに俺達を迎えた後、表情を真剣なものへと切り替えて分厚い教典を開き、
粛々と祈祷と祝辞を述べた。次に牧師は彼女を見て問う。
健やかなる時、病める時、喜びの時、悲しみの時、富める時、貧しい時、
いついかなる時も、これを愛し、敬い、慰め、助け、その命ある限り、
真心を尽くすことを誓うか、と。
〈はい、誓います〉
うやうやしく頷いて彼女は応えた。
それを見届け、牧師は今度は俺を見て同じように問うた。
俺は目蓋をぐっと閉じ、息を整え、頭の中で誓約を復唱する。
健やかなる時、病める時、喜びの時、悲しみの時、富める時、貧しい時、
いついかなる時も、これを愛し、敬い、慰め、助け、その命ある限り、
否、例えこの身が朽ち、命果てようとも、真心を尽くし続けることを。
俺は眼を開き、牧師を見上げた。背後の神々の姿が描かれたステンドグラスから
威光の如く差し込む光にも微塵も怯まず、真っ直ぐに。
”誓います”
己の胸にも深々と刻み込むように、俺は誓った。
――永遠を誓い合った者が傍にいて、その間に出来た子が直に産まれる。
あの時が俺の人生の絶頂だったろう。だが、上り切ってしまった後に待つのは……。
明日明後日にでも続き書く
GJです
保守
保守
明け方位には続き投下するよ
式を終えてからというもの、俺と彼女の間に何か大きな変化はあったかというと、
然程これと言ったものは無かったように思う。
今まで通り朝に目を覚まして、普段通りに出掛ける用意をしていれば、
例によって程よい頃合に部屋のドアがノックされて彼女が朝食の用意が出来たと呼びに来る。
それから、いつも通りみんなで朝食をとり、いつもの様に彼女からお弁当を受け取って、
毎日変わらぬ優しい笑顔で彼女は俺を玄関まで送り出してくれるんだ。
そう、一つ変化があったとすれば、
〈いってらっしゃい、あなた〉
彼女が俺を『あなた』と呼ぶ意味合いが少し変わった。
相変わらずちょっと照れ臭く思いながらも”ああ”と手を振り替えして、
俺はまた木の実園まで出掛けていく。
村と住むひと達も何一つ変わらずに穏やかで朗らかだ。
変わったといえば、一匹だけ。これもちょっとした変化だけれど。
慣れ親しんだ道を歩んでいると、向こう側に背の高い黒い影、ゾロアークが束ねた長髪みたいな
赤い鬣をふさふさ揺らしながらのしのしやってくるのが見えた。
きっとまた、森ではろくな物を食べていないのだろうと心配した彼女に呼びつけられたんだろう。
以前までであれば、こんな風に出くわした場合、ゾロアークは俺を見るやいなや
すぐさま道を逸れて、すれ違うまで遠巻きに威嚇するようにこちらを睨んできたものだが、
俺に気付いても意に介する様子もなく彼は真っ直ぐこちらに向かってきていた。
すれ違う時、俺は”おはよう”と声をかける。ゾロアークは片耳を微かに揺り動かして、
無言で仏頂面を浮かべたままだけれど、さっと一回こちらに片手を上げた。
いつも通りの中に加わった、ちょっぴりの変化。程よいスパイスがスープの旨みを増すみたいに
村をより愛おしく感じさせて、俺の心をより強く固く結びつけた。
日々をゆったり噛み締め味わう俺のもとに、いよいよ彼女の出産の予定日がやってきた。
その日、いつも通りに木の実園に働きに来ていた俺のところに――ドテッコツ爺さんからは
大事な日なんだから休んでいい、寧ろ休めと言ってくれていたんだけれど
……非常に情けない話だが、苦しそうな彼女の姿に俺の方がはらはらそわそわと
取り乱してしまって、助産に来ているハハコモリさんに邪魔になると言われて子ども達共々
教会から摘まみ出されてしまったのだよな――大慌てでゾロアークが駆けつけて来て、
『すぐ来い』とろくな説明も無く俺は担ぎ上げられ、教会まで連れ戻されていった。
とりあえずここまで
また明日、明後日にでも続き投下する
GJです
保守
保守
朝ぐらいには投下するよ
彼女の部屋の前まで走りつくとゾロアークはヘトヘトになった様子で俺を降ろし、
『行ってやれ』と息を整えながらかすかに口端を緩ませた。
俺は頷いて礼を言い、期待と仄かな緊張と共に部屋のドアをゆっくりと押し開ける。
部屋へと入ると、ハハコモリさんが『おめでとう』と笑顔で俺を迎え、
そっと道を空ける様にベッドの傍を離れた。
ベッドの上で彼女は半身を起こし、その胸元にはハハコモリさんが用意してくれたのであろう
葉っぱの衣に丸々包まれている子どもと思わしきものが愛おしげに抱かれていた。
〈あなた……〉
俺に気付き、彼女はこちらに顔を向けた。その柔らかな表情は少し疲れも見えたけれど、
それ以上に大事を成し遂げた達成感のようなもので煌いていた。
”よく頑張ったね”
労いの言葉をかけ、俺は胸を高鳴らせながら彼女の傍まで歩み寄った。
〈はい〉
彼女は子どもの包まれた葉っぱの包みを優しく俺に差し出す。
俺は少し恐る恐る慎重に受け取って、その姿を一目見ようとどきどきしながら葉っぱを少し捲った。
隙間から見えた子どもの姿は、真ん丸で、白くて、ぶち模様があって、表面はつるつるで――。
”あ、あれ?”
俺は面食らって、思わず怪訝な声を上げてしまった。
俺と彼女の子なのだから当然、自分達によく似た姿形で生まれてくるものだと
思っていたのだが、葉っぱの中に包まれていたものは、”玉のような”を通り越して、
まるで玉そのもの、硬い殻に覆われたタマゴのような物体だった。
”ええと、これって、タマ、ゴ?”
何が何だか訳が分からず、尋ねる様に俺は彼女の顔を見た。
〈ええ。それがどうかした?〉
彼女は平然と頷き、寧ろ俺の反応が不思議だといった風に首を傾げた。
当時の俺は知らなかったが、人間とは違い、俺達ポケモンと呼ばれる生き物は
鳥や魚やトカゲや竜は勿論、俺と彼女のようなネズミだろうと、犬だろうと、猫だろうと、
はたまた幽霊や、まるで無機物みたいな奴らだって、この世に生を受けて現れる時は一度、
”タマゴ”という形態をとるんだ。人間達に不思議な不思議な生き物、
だなんて言われる由縁の一つだろうな。
最初は戸惑ってばかりだった俺だけど、抱っこしている内にタマゴからじんわりと温かみが伝わり、
試しに耳を当ててみると微かな鼓動が聞こえてきた。
――生きている。確かに、この中で。
途端にたまらなく愛おしく感じ、俺はきゅっとタマゴを改めて抱きしめる。
”ありがとう”
自然とそんな言葉が漏れた。
明日明後日くらいに続き書く
保守
300 :
名無しさん、君に決めた!:2012/07/23(月) 00:36:41.11 ID:0smWDYH90
保守
ごめん、ちょっと遅くなりそう
投下は夜かあまり深夜にならない内にするよ
タマゴへの接し方はハハコモリさんが丁寧に教えてくれた。
なるべくいつも温かくして、あまりじめじめした所や乾燥しすぎた所は避ける。
強い衝撃や刺激は当たり前だが厳禁。それから、元気な状態のポケモンが
なるべくいつも傍にいてあげるようにする事。これが何より重要らしい。
タマゴの面倒は昼の間は彼女が見て、夕方からは俺も木の実園から出来る限り
急いで帰宅して手伝うようにした。タマゴをおんぶ紐で背負いながら家事もこなす
彼女の姿が大変そうだったというのは勿論だけど、俺もなるたけタマゴの傍にいたい、
触れ合っていたいという気持ちも少しばかりあった。
おんぶ紐――件の、ミュウから受け取ったあの布で彼女が拵えた物だ。
タンスの奥に押し込めておいたままにしているのを思い出して、
いい機会だからと使ってもらったんだ。丈夫で、それでいて柔らかく、
保温こうかはばつぐんと、タマゴを包んでおくにはこの上ない素材だったからね――
それで、しっかり背とタマゴを結びつけて背負っているとな、当然、タマゴはずしりと重くて、
段々と足腰は疲れてくる。そうしていると、ふっと感じるんだ。
命っていうやつはたった一つだけだっていうのに、なんて重くて、大変なのかと。
すまん、あまり進まなかった
金の夜〜土の朝方くらいにまた続き投下する
GJです
ピカ父もだいぶ丸くなったなぁ
保守
それを、俺はあまりに多く奪い過ぎた。残る生涯を賭そうとも
まるで埋め合わせる事なんて出来ないだろう。だけれど、ならば、せめて、
まずはこのたった一つだけでも世界に孵そう。精一杯に護ろう。背負ってゆこう。
聖堂の祭壇の前にひとり跪き、夕陽差す神の似姿に向けてタマゴを掲げる。
それまで全く神なんて信じてはいなかった者が、何を今更まったくもって虫がいいと
思われるかもしれない。それでも俺は彼等にこの小さな命の無事を願い、祈り捧げた。
静まり返っていた聖堂に、幾つかの軽快な足音が飛び込んで来て、
パタパタとこちらに駆け寄ってくるのが聞こえた。
『見つけた! なにやってんのさ、にーちゃん』
と、ズルッグの声。
『もうごはんの準備できたってさ』
お次にダルマッカが呼ぶ。
『早くしないと冷めちゃうわ』
更にチラーミィが続けた。
”わかった、すぐに行くよ”
俺は声に応じて、タマゴを丁寧に背負い直して振り返る。
『今日はね、私もご飯作るの手伝ったんだよー。今の内に練習して、
可愛い妹が産まれて来たらおいしい手料理食べさせたげるの!』
俺の手をくいくい引きながら、チラーミィはにこにこして言った。
『やめとけやめとけ、お腹壊しちゃったら大変だぞ。それに、なに勝手に妹って
決め付けてんだよー。弟は新しい子分として俺が色々教えるんだもんね!』
それにズルッグがすかさず突っかかる。
『あー! シツレイだ! あんただって、弟って勝手に決め付けてるじゃん!』
負けじとチラーミィも言い返した。
『やめてよ、二匹とも。タマゴの中に聞こえたら、怖がらせちゃうよ』
むむむ、と睨みあう二匹の間に、おろおろとダルマッカが割って入る。
二匹はハッとして、ごめんごめんと謝った。
彼らのやり取りに俺は思わず口元が緩んで、堪らず三匹を抱き寄せて頭をわしわしと撫でた。
『な、なんだよう』『あう……』『くすぐったいよ』
不思議そうな顔をする三匹に、”何でもないよ”と俺は笑いかけ、手をそっと解き放った。
まるで絵に描いたような、ささやかながら幸せな日々。俺の理想の世界。
しかし、忘れてはならない、それが描かれたキャンバスは荒れた海が間近の砂の上。
波が押し寄せ一撫ですれば、一瞬で泡へと消ゆる。
密かに、着実に、その時は迫っていた。
GJです
明日明後日ぐらいにでも続き書くよ
保守
えっ、まさか津波?
保守
あげ
保守
明日の今くらいには投下するよ
とても空が青い日だ。ゆるやかな斜面を歩む足に一息入れながら、空を見上げ思った。
目指していたのは、彼女と共に初めて村を見て歩いた時に、一番のお気に入りの場所だと
案内してくれた、村を一望できるあの丘の上。あの後もふたりで何度か訪れた事は
あったけれど、自分ひとりだけで行こうとしたのはその時が初めてだった。
丁度、木の実園が休みの日だったんだ。普段であれば休日は子ども達の相手をしているか、
彼女の手伝いをしているのだけれど、一体どうしてだったろうか、
その日はひとりになりたい気分だった。
丘の上へと辿り着き、ゆっくりと定位置に腰を下ろした。
隣に誰もいないのに、なんとなく無意識にもうひとり分のスペースは空ける。
初めて訪れた時に比べたらずっと呼吸は安定していて、随分と体力を取り戻したと感じた。
走り回ったり飛び跳ねたりなんて真似は出来ないけれど、村で暮らすには十分だ。
じっと村を見おろす。木々の額縁から覗く村の全景は、素朴で穏やかで、何一つ変わらない。
手のひらを思いきり広げて村の方へと伸ばし、ぎゅっと拳を握った。
手は空を掴んだだけに過ぎないのだけれど、その握り拳を胸にそっと当てたら
不思議と安堵感を得て、俺は息が抜けたようにその場でころりと寝転んだ。
離しはしない、変わりはしない。これからもずっと。
草の上に落ち着いている内に、徐々に意識がうとうとと遠のき始めた。
その時、澄んだ空の彼方に昼にもかかわらず流れ星のような二つの光の筋が、
まるで意思があるように何度も交差して輝くのが見えた。だが、俺はきっとまどろみが見せる幻に
過ぎないだろうと気にも留めず、少し休んだら教会に帰ろうと意識を眠りに委ねた。
それからどのくらい経ったのだろう。少し遠くで何かが炸裂するような大きな音が響き、
一気に意識が現実に引き戻され俺は眼を見開いて身を起こした。そして、目を疑う。
村から、黒煙が上がっていた。
遅れてごめん、また明日の夜か深夜にでもまた続き投下する
GJです
とうとう平和が・・・
保守
村に何が落ちたんだ…
ごめん、ちょっと急用が入ってしまって書くのが間に合わなかった
今日の夜、あまり遅くならない内には投下できるようにします
心臓は破裂しそうな程に高鳴り、全身からじっとりとした汗が吹き出た。
一体、村に何が起きているのか探ろうにも、立ち昇る煙に視界を阻まれわからない。
俺は言うことを聞かない体に鞭打って、半ば転げ落ちるように斜面を下っていく。
村に近づくにつれ強く感じる、鼻をつくなにかが燃える臭い、肌を刺すような気配。
ただの火災ではないと刻み込まれた本能が、忌まわしい記憶が告げていた。
悪い夢であってくれ、何かの間違いであってくれ、何度も心の中で叫んだ。
だが、枝と葉が頬と体を裂き、手足が軋み、熱したナイフで抉られるような背の痛みが、
再びの轟音と、上空から響く大気を震わせるような咆哮が、現実であることを残酷に突きつける。
坂を下りきると、勢いを支えきれずに俺の体は地に叩きつけられて転げた。
頬を生温かい液体がドロリと伝う。起き上がろうと力を込めると、
手足と背に激しい痛みが走った。叫び声を上げそうになるのを縫い止めるように
歯を食いしばり立ち上がる。村から上がる黒煙は先程より勢いを増し、
赤い炎がまるで生き物のように家を畑を飲み込まんと広がっていった。
絶え絶えの息で彼女とみんなの名を呼びながら、足を引きずるようにして
燃える村の中へと踏み込む。その矢先、家の影から誰かがのそりと緩慢な動作で這い出てきて、
生存者がいたかと少しの希望を抱きながら、そちらへと足を速めて寄って行こうとした。
しかし、その正体を認識するや脳は反射的に足を止めさせ、後ずさりへと行動を切り替える。
物陰から現れたのは村の者ではない、ゴツゴツとした深紅の頭部に青い身体という
異様な配色をしたドラゴンポケモン、クリムガンだった。
そいつは何かを探るようにフゴフゴと鼻を鳴らしながら、歪に長い腕で家の壁を
力任せに軽々と崩し出す。その伸ばされた腕には、敵軍の腕章が巻かれていた。
明日明後日にでも続き書く
GJです
あぁ、悲しい・・・
324 :
名無しさん、君に決めた!:2012/08/06(月) 18:44:54.08 ID:UDZIU1uK0
≫322
クオリティーTAKEEEE!!!!
sage進行で行こう
327 :
名無しさん、君に決めた!:2012/08/07(火) 23:14:10.77 ID:1kpJzTxb0
おまえが死ねよ
村が燃えているのはこいつらの仕業か? だが、なぜ、どうしてこんな小さな村を――。
答えが出るより早く、気配を察知したのか真っ赤な頭部がこちらを向いた。
奴は家を崩す手をひたと止め、しゅるしゅると不気味に喉を唸らせこちらをじっと見据える。
右目に付けられたカメラのような装置がジリジリとピントを合わせる音を鳴らし、
耳穴に差し込まれている小型無線機から兵士の指示らしきノイズ交じりの音が響いた。
クリムガンは背に生えたヒイラギの葉の様なギザギザとした二枚の翼を勢いよく広げて咆哮を上げ、
短い二本足で大地を踏み鳴らしながら向かってくる。
俺はまるで射竦められたように体が痺れ、身動き出来ずにいた。
ドラゴン、一般的には聖なる伝説の生き物として語られ、知られているのだろうか。
だが、戦場で奴らの振る舞いを見てきた俺から言わせれば、
彼奴らは”聖なる”なんて言葉とは程遠い、暴虐な力と破壊の権化だ。
数は少ないが、ひと度投入されればその圧倒的な剛力、敵を粉微塵に吹き飛ばす息吹、
何より恐ろしい天から隕石を呼び寄せ雨か霰の様に降り注がせる異能の力でもって戦場を蹂躙し、
瞬く間に戦況を塗り替える。竜には決して正面からまともに挑むな。
軍では口を酸っぱくして言われたものだ。
クリムガン、竜族の中では下位に位置する種族だ。習性は竜というよりもワニやトカゲに近く、
身のこなしは緩慢で、翼に大空を舞う力は無い。しかし、その牙、爪、鱗には紛れも無く
竜の力を宿している。その牙と爪は触れただけで毛皮なんてボロ切れのように引き裂き、
鱗は衰えた電撃なんて易々と弾くだろう。幾ら動きが鈍いとはいえ、
弱った足では逃げ切ることもかなわない。
奴はもうすぐそこにまで接近し、鋭い爪を構えて今にも飛び掛らんとしていた。
それでも尚、足も手も頬の電気袋も痺れたように動かない。ここまでなのか?
彼女と子どもとみんなの無事を確認できないまま、ともすれば仇も取ってやれないまま、
俺は殺されてしまうのか?
軍で叩き込まれた竜に抗う術は三つ。だが、俺はそのどれも持ち合わせてはいない。
一つは同じ竜の力をぶつけるか。二つ目は、唯一、竜の力を抑えられる、
鋼で出来た身体を持つ者達で猛攻を凌ぎ、疲弊したところ数で押すか。
後もう一つ――そういえば、俺がいたあの部隊にも一匹、その使い手がいた。
あいつのおかげで部隊は竜を仕留めた事がある。本来なら煌びやかな勲章が
贈られるぐらいの大手柄の筈なんだが、何せ鼻つまみ者の最低部隊だ。
普段の悪行で帳消しにされてしまったんだっけ。
ろくでもない走馬灯だ。今更、そんなことを思い出してなんになると言うのか。
諦め、委ねると、周りの動きは随分とゆっくりに見えた。振り下ろされた爪が目前にまで迫る。
すまない、みんな、シスター……。
しかし、寸前で、爪は怯んだように突然退き、クリムガンは己の顔面を覆って苦悶の声を上げた。
見れば、その眼に鋭い刃が突き刺さっていた。それもただの刃ではない、
薄っすらと白い冷気を纏った氷の刃だ。
無線機が、暴れるクリムガンを宥めようとする兵士の声でガーガーとうるさく鳴る。
そうしている間にも氷の刃が次々と鱗の隙間を狙って突き刺さり、その度に奴の動きは
体の熱を奪われて鈍った。五本目の刃が突き立ち、とうとうクリムガンは油切れの
ブリキ人形のようにかすれた声を上げて体を硬直させる。
見計らったように視界の外から黒い影が飛び出し、瞬時にクリムガンの背に取り付き、
長く伸ばした両手の鉤爪をクリムガンの首へと鎌で草を刈り取る時のようにあてがった。
思わず俺は目を逸らす。直後、地面に重い物体が倒れ込む衝撃。
『ざまあみやがれ、羽トカゲ。ヒャッハッハッハッ!』
続いて、聞き慣れた懐かしい高笑い、ばきばきと機械か何かを踏み躙る音が響いた。
とりあえずここまで
また金、土位に続き投下するよ
GJです
スカーきたー!!
なんというグッドタイミング
333 :
名無しさん、君に決めた!:2012/08/08(水) 21:03:48.91 ID:nE1qcsUM0
保守
ここで衝撃の出会いが…!
前みたいに誰か小ネタを書いてくれないかなぁ
そもそも現在のピカ父の話は劇中劇みたいなもんで、
実際に語ってるのはドンだから、小ネタが入れ辛いってのはあるなw
恐らくジョウトに居るんだろうけど行方不明なニャルマー達やザング一行、
ギラティナ(キュウコン)や、その支配下から自由になったはずのゲンガー達とか、
気になってる連中はたくさんいるんだがw
ですよねー
ドンが語り手だからギャグ担当がゲンガー一味くらいしかいないw
現状、本筋の方に注力していて小ネタを書く余裕があまりないw
あくまで予定だけれど、ヤミカラス時代の話が終わったら、洋館に残ったエンペで何か小ネタやるかも
(ドンが言ってたトバリでエンペが泥酔して云々の真偽とか、有力者がごっそりシンオウから離れてどうなるとか)
とりあえずニャルマーはマニューラ一行の方にマニュ父とバンギ関連で根深く関わらせる予定
ザングとスターミーはミュウツー編が終わってから、ホウエン編の幕開けに繋がる布石として使えたら使うかも
あー、そういやザングは元来ホウエンポケだっけw
ハブネークが宿敵云々言ってた気もするから、旅に出た経緯はその辺りかもな
ゲンガー一味のその後は自分も気になるんで、小ネタが思いついたら書きたいですw
マニュとバンギの因縁の対決楽しみです
今の話がだいぶシリアスなのでギャグで一息つきたいかなぁなんて思ったのですよ
ピカチュウを虐待しよう
誤爆
ごめん、ちょっと遅れそうだ
明日の夜か深夜には投下できるようにするよ
ゆっくり俺は顔を上げる。
爪に付いた赤い汚れを振って落とすと黒い背は一段落ついたように
『さあて』と一声漏らし、ゆらりとこちらへ振り向いた。
頭に生え揃った冗談みたいな扇状の赤い鬣、顔面にでかでかと刻まれたバッテン傷。
紛れもない。こんな輩、俺が知る限りでは他に居よう筈もない。
”スカー……!”
吃驚の声の代わりにその名を呼び上げると、その赤い両耳がぴくりと揺れた。
『化けて出てきたってわけじゃあ無さそうだな、ネズミぃ。足、あるもんな』
軽口を吐いて、スカーは口元に不敵に大きな弧を描く。隙間から覗く鋭い歯が、
炎に照らされぎらついた。
もう二度と会える事は無いと思っていた戦友との突然の邂逅。
様々な感情や言いたい言葉や聞きたい疑問が一度に沸いてきてせめぎ合い、
一つしかない俺の小さな喉では捌き切れなかった。
『それ以上動くな』
しかし、スカーは歩み寄ろうとする俺を冷徹に制止する。赤い瞳は油断無く俺を見据え、
片手にはいつでも投げ放てるように氷の刃を構えていた。
『本当なら再会を祝って拳のひとつでもくれてやりてぇところなんだがよ。
残念だが場合が場合だ、そうもいかねぇ。答えな、よりによって何でテメェは
こんな敵地の真っ只中にいやがる?』
明日明後日にでもぐらいにでも続き書きたいです
保守
スカーさん意外と冷静ですね
GJです
敵地の真っ只中だと・・・?
保守
保守
明日の夜か深夜くらいには投下します
保守
”敵地? 一体、何のことだ”
わけもわからず俺は尋ね返す。
スカーの眉間が怪訝そうに一瞬ぴくりと動いた。
『タレコミがあったんだとよ。この村が敵国と結びつきがあるってな』
スカーの言葉に俺は愕然とする。全くの事実無根だ。
”そんな馬鹿な、ありえない――”
ろくに否定する間もなく、地まで揺るがす咆哮と巨大な翼が風を砕く轟音が上空をよぎる。
チッ、とスカーは舌打ち一つ鳴らして俺の首根っこを引っ掴み、
家の残骸の陰へと素早く転がり込むように隠れて伏せた。直後、甲高い風切り音と共に
天空から無数の隕石が降り注ぎ、周囲に爆音と土煙を巻き上げ始める。
『クソッタレ、馬鹿トカゲどもめ。敵味方の区別もねえ』
ぜえぜえ、と息を荒らしながら、残骸の壁にスカーは俺を掴んだまま寄りかかって座る。
俺の首元には依然隙無く鋭利な爪先が突き付けられていた。
『テメーがシスターちゃんを逃がしたあの日、ピジョットの野郎が兵士共の注意を惹く為に
デタラメの報告をした筈だがよ。ありゃマジもんの警報になっちまったのさ。
あの後、敵の襲撃があって、テメーはその騒ぎの中でくたばっちまったと思われてい――ッ!』
身を潜めて座る真横の壁を、裏側から隕石が易々とぶち抜いて地面に突き刺さった。
スカーはぎょっとして息を呑み、慌てて俺を脇に抱え上げて飛び出す。
その瞬間、俺達が直前まで居た場所に幾つも隕石が飛来し、壁は粉微塵に砕かれた。
遅れてごめんなさい、また明日の夜か深夜に続き投下します
乙です
GJです
保守
『危うく合挽き肉になるとこだったな。誤射じゃねえ、今のは確実に狙ってやがった。
マジで俺ごと殺る気か、チクショウが』
ぎり、とスカーは歯を噛み鳴らす。俺を担いだまま少しでも遮蔽物になりそうな場所の
陰から陰を縫って駆け抜ければ、追う様に少し遅れて流星が次々に地面の形を変えた。
燃え盛る小さな木立の中を掻い潜って、傍のひしゃげた小屋の陰にスカーは潜む。
足元に転がる真っ二つに割れた看板にはとても見覚えがあった筈だが、
頭はその正体を理解することを拒んだ。
視界から逃れられたのか爆撃は一時止み、口惜しげな唸り声を残して六枚翼の巨影が
真上を飛び去っていく。
殺していた息を吐き出し、整えて、スカーは口を開く。
『覚えてるか? テメーがいなくなる少し前に俺らの部隊に来た上官の事をよ。
そうだ、あのキナくせえまるでヘビみてぇな目した人間の女だ。今回の件のネタを仕入れ、
俺らに村の調査を命じたのはあのアバズレだ』
話しながらスカーは腰のポーチからスプレー式の傷薬と包帯を取り出し、
クリムガンの鱗で擦り剥けて赤く滲む手に手早く処置を施す。
ついでのようにスカーは俺にもスプレーの口先を向けるが、俺はそれを撥ね退けた。
”これが調査だと!? ふざけるな、問答無用の破壊行為じゃないか!”
『興奮すんじゃねえ、見つかんだろーが。俺だって状況が飲めちゃいねえんだよ。
……決行日の前になって俺らの部隊に突然あのトカゲどもが配備されてきた。
貴重な貴重な戦力の筈の奴らを、俺らみてえないつ使い捨ててもいい掃き溜めの所に十何匹も。
その気になれば都市一つ更地に出来そうな戦力が、例え本当に敵軍が潜んでたとしても
たかが知れてんだろうこんなチンケな村の為にだ。それを手配しやがったのもあの女さ。
どっからどうやってなんてまるで想像もつかねえ。こんな光景、地獄でも滅多に見れねーぞ、きっと』
途方に暮れたようにスカーは上空を見上げた。黒煙の幕の向こうで、
翼を生やした何頭もの巨体が飛び交うのが薄っすらと見える。
『まずは俺を含めた少数で村の偵察を行い、報告しだいで後方に控えているトカゲ共が
出てくる筈だった。だが、俺らが村へ近付くとほぼ同時に、奴らは攻撃を始めやがったんだ。
俺らがいるのも構わず巻き込んでな』
GJです
明日明後日にでも続き書くよ
保守
保守
明日の今くらいには投下するよ
スカーは再びポーチを探り、金属片が一枚繋がれたチェーンをじゃらりと取り出す。
べっとりと赤黒く汚れていて一瞬分からなかったが、それは兵士の認識票のようだった。
『俺の元飼い主のやつさ。その時にくたばった。俺も何人も人間共の手を渡り歩いてきたもんだが、
一番クソッタレでしぶてーヤツだったな。それがまあ何とも呆気ねえもんだぜ』
ククッと喉を鳴らして笑い、スカーは爪先でくるくると認識票を回した。
チェーンが風を切ってひゅんひゅんと虚しく音を立てる。
『わけもわかんねーまま他の奴らも攻撃から逃れて散り散り。追い立てられるように
村に逃げ込んでみりゃ、敵軍に飼い慣らされた赤っ面の羽トカゲ共がそこら中を闊歩してやがった。
奴らも当然俺達を見れば目の色変えて襲い掛かってきやがる。陸から空から攻められ、
生きた心地がしねえまま逃げ潜む内にどうにか追っ手をあの赤っ面一匹まで減らしたとこで、
呑気にテメーが転がり出てきたってわけだ。わざわざ村に向かって誰か知り合いを探すように』
俺の首元に冷たく鋭い感触が触れる。
『あの日の襲撃の時、テメーは殺されずに鹵獲され、すっかりこの敵地の中で
仲良しこよし飼い慣らされていた。傍からぱっと見りゃそう考えるのが妥当ってとこなんだがよ。
どーなんだ、実際? 敵も味方も本拠地で攻防でもするみてーに必死で尋常な様子じゃねーよな。
この村には何があんだ?』
とりあえずここまで
また土曜くらいに続き投下する
GJです
保守
間に合わなかった、ごめん
今日の夕方か夜位には投下できるようにする
”まず、この村は軍などと何も関係は無い”
『言い切る理由と根拠は?』
”俺は村で長らく暮らし、住民達と接してきた。その中で彼らに軍と通じるような
素振りと気配は微塵も感じた事は無い”
『……仮にテメーの言葉を信じるとしよう。じゃあ、なんでそんな何もねえ村をトカゲ共まで
駆り出して本気でぶっ潰さなきゃなんねえ?』
”そんな事、俺にだってわかる筈が――”
言い掛けて、俺は言葉を詰まらせた。脳裏には一匹の白い影がちらついていた。
『やっぱ心当たりがあんだな』
急かす様に、押し当てられた刃に少し力が込められる。
”そうか、そうだ――! 放せ! 俺は今すぐ行かなければならない、教会に!”
『急になんだ、教会? そこに何があるってんだ』
突然もがき出す俺に少し動揺してスカーは尋ねる。
”ゆっくりと立ち止まって説明している暇なんて無い、知りたいのなら行きがけに話してやる!
だから、今は行かせてくれ、頼む!”
懸命に頼み込む俺に、逡巡した様子でスカーは黙り込んだ。
木立に燃え盛る炎は勢いを増し続けてその手を小屋まで伸ばし、
伝わってくる熱がじりじりと皮膚を刺していた。本来であれば寒い地域で暮らす
種族であるスカーにはよりこの状況は過酷であろう。黒い毛並みはぐっしょりと貼り付き、
顎や手から滝のように汗が滴り落ちてきていた。
止むを得ないようにスカーは舌打ち一つして、俺を脇に抱えて立ち上がる。
『テメーの速さに合わせてちんたら並んで走っていたら的もいいとこだろうが。案内しな。
その代わり、きっちり説明はしてもらうぜ。俺もわけもわからねえままくたばんのはご免だからな』
明日明後日にでも続き書く
保守
GJです
保守
無残に変わり果てた道筋に微かに残る面影を辿って俺は行き先を示し、
教会を目指してスカーは走り出した。村中に蔓延るクリムガン達の間を、
無差別に降り注ぐ流星の中を、影のように風のようにスカーは擦り抜ける。
その腕の中、恐れ、怯え、怒り、悲しみ、気が狂いそうな激情の渦中で
辛うじて正気を繋ぎとめていたのは、一種の”慣れた”ような感覚。
死と灰と炎の臭いに触れている内に否応無しに呼び起こされた、数々の戦場での経験、記憶だ。
厭わしく、捨て去りたいとさえ思っていたものに皮肉にもその時は助けられていた。
道を示す合間、約束通り俺はスカーに全て話した。まずは、シスターを送り帰そうとした日、
何があったのか。隊へと戻らなかった理由。それから村で生活を続ける内、
やがて教会の地下で出会ったものと、”それ”が語った事。
『ってーとだ、俺達ゃその幻のミューだかミョーだか言うおかしな野郎をとっ捕まえるために
殺し合わされてるってか?』
”ああ”
話した内容に嘘偽りは一切無い。大真面目に頷く俺にスカーは最早どうにも
反応に困った様子で怪訝そうに唸る。
『伝説だの幻の存在だの、ヤベーもんでもキメて頭がぶっ飛んだ末の妄想だと思うとこだぁな。
だがよ、それ以上に今の状況はイカれてる。フツーなら一、二匹でも渋られるトカゲどもを
ケチらずぶっ込むなんて、ヤツら以上の化け物を、それこそ伝説と呼ばれるような連中でも
相手にする確証でもねえと不可能だ』
また土日くらいに続き投下する
GJです
保守
投下は今日の夕方か夜のあまり遅くならないうちにするよ
スカーは乾いた嘲笑を漏らし、呆れたように吐き捨てる。
『どーかしてやがる。大馬鹿揃いだった俺らの部隊の誰よりも、
よっぽど上のヤツらのが頭がプッツンいってるみてえだな』
進行方向前方にクリムガンが瓦礫を切り崩して突如として躍り出、
スカーは慌てて滑り込むように足爪で急ブレーキをかけて物陰に速やかに潜んだ。
『にしてもよ、俺らがひーひー言わされながらくたばりかけてる間に、
オメーは随分とまあよろしくやってやがったんだなぁ、おい』
氷の礫を片手に構えて、陰からクリムガンの出方を窺いながら、
スカーはひそひそと俺に言った。
”……すまない”
俺はただ一言、謝ることしか出来なかった。安穏と村で暮らす間にも、
スカー達は死線を彷徨い続けているであろう事を俺は薄々と感じていて、
ミュウと対話した後ははっきりと知りながら、それでも尚、
ずっと心の隅に押し込めて逃げるように目を背けてきたのは事実だ。
けたたましい咆哮が空から響き渡り、見上げる間もなく風巻くと共に
一頭の巨竜が地面すれすれを滑空しながら俺達の隠れるすぐ脇を過ぎ去る。
巨竜はその勢いで一瞬の内に腕の爪にクリムガンを引っ掛けて捕らえると、
翼を力強く翻して瞬く間に急上昇し空高くまで掻っ攫って投げ捨てた。
ヒュゥ、とスカーは小気味よく口笛一つ鳴らし、再び進路を駆け出す。
『別に、責めるつもりはねーよ』
罵られる事を覚悟していた俺は、”え?”とスカーの面を見上げる。
『シスターちゃんを帰そうとした時の襲撃で、オメーはくたばったもんだと
判断されたって言ったけどよォ。そりゃ人間共の間の話で、
俺やピジョット、後はもう殆ど既に先に逝っちまったけど他のヤツらだって、
オメーみてえなクソッタレ野郎が、シスターちゃんみてえないい子が、
早々簡単にくたばってる筈がねえって、半分冗談だけど半分マジで言い合ってたのさ』
ヘッとスカーは笑う。
『もしかしたら、二匹はまだ生き延びてて、どっかで幸せに暮らしてんのかもしれねえ。
非常に羨ましくて妬ましくてしかたねえが、だったら俺達はこれから二匹のために、
戦ってやろうじゃねーかって、ピジョットのヤツがある日言いやがったんだよ。
その瞬間よ、ギロチン台に首乗っけられて刃が振ってくるのを待ってる様な
辛気臭えツラして過ごしてやがったヤツらの顔が少しばかりだが明るくなってなぁ』
スカーはこそばゆそうに顔面の古傷を掻く。
『ダセー話だが、俺もそん時は少しノリ気んなってた。いつかその内くたばることになろうと、
代わりにあいつらがどこかで笑っててくれりゃあいい。だからさっさと首謀者だかなんだかを
とっ捕まえて、このくだらねー小競り合いを終わらせてやるってよ。
……それが、今はこのザマだ、クソッ……!』
PCがトラブって復旧に手間取った
遅くなってごめん
明日明後日にでも続き書くよ
保守
GJです
保守
保守
投下は夕方か夜くらいに
唸るように言って、スカーは鼻に皺を寄せた。
『にしても、幻のポケモンなんてわけわかんねえもんの為に、
それも何の罪もねえ村をぶっ潰したなんて世間様にバレちまったらマズいだろうに
上のヤツらはどう後始末をつけるつもりなんだかな。トカゲ共の様子からして、
少なくとも俺達の部隊の事は一人も一匹たりとも無事に逃がしてくれる気は無さそうだ。
大方、俺達の部隊の勝手な暴走とでも無理矢理仕立て上げんのかねえ。
そのために人間共はこの場で一人残らず口封じにして、俺達もそのついでにくたばればよし。
運良く生き残ったとしても野放し放免にしてくれるわけがねえ。捕らえて何か実験にでも使うか、
またどこかで死ぬまで使い潰すってとこか。冗談じゃねえや』
中心を抜けて遮蔽物の無い広い農地に差し掛ると、スカーは足に力を込めて速度を増した。
降り注ぐ隕石に混じり、空中戦に敗れ翼の折れた一頭の竜がきりもみに回転しながら
堕ちてくるのが見える。それはつい先程にクリムガンを襲っていたあの竜だった。
竜は畑へと墜落し、土を大きく抉る程の衝撃を全身に受けてもまだ息がある様子で蠢いていた。
そこに数頭のクリムガンが現れ――あの時、炎と煙に多少視界は阻害されていたとはいえ、
奴らの目立つ配色の図体を全く目に止まらせることなく潜めておけるような場所は無かった筈だ。
奴らはまるで何もない場所から忽然と現れたように見えた――少しきょろきょろとしてから
竜の姿に気付くと一斉に群がっていって鋭い爪を振り上げた。
その様をスカーは忌々しく唾棄するように睨んだ。
『命じられるまま、殺し、殺され……もう飽き飽きだ。こうなりゃ、意地だ。
意地でもこの場を生き残ってやる』
己に言い聞かせるように、スカーは決意を込めてぐっと拳を握る。
『そうだ、必ず生きて逃げて逃げ切って、その後は精々勝手気ままに過ごすのさ。
それはそれは何にも縛られねえで自由に。俺達のようなヤツらにだって生まれてきちまった以上、
その権利はあんだろ。無くても無理矢理ぶんどってやるッ』
農地を過ぎてなだらかな坂を一つ越えれば、もうすぐ教会の様子が見える。
『無事だといーな』
押し黙ったまま震える俺を慰めるようにスカーはそっと言った。
斜面を上りきり、俺は教会の方を確認する。見たところ教会に損壊はなく、
まだ火の手は及んでいない。
『神のご加護ってヤツかねえ? こりゃシスターちゃんや他の住民共も
あの中でまだ生き残ってっかもな』
”ああ……!”
心に一抹の希望を抱き、俺は頷く。
『俺も久しぶりにシスターちゃんのツラを拝むのが楽しみだ』
ヘヘッとスカーは口元を緩め、教会に向かって、より速く駆け出そうとする。
しかし、その足が突然止まった。目の前には複数のクリムガンが立ち塞がっていた。
音も気配も予兆も無く、また何も無かった場所に忽然とだ。
声も出ない程にスカーと俺は驚いて目を見張る。目の前だけじゃない、
俺達は急に群れの真ん中に放り込まれでもしたように周囲を囲まれてしまっていた。
その中にはクリムガンとは発する威圧感の格がまるで違う、斧のような形状の分厚く頑強な牙が
顔の両側から生えた竜の姿もあった。
明日明後日にでも続き書く
保守
GJです
また手強そうなのが・・
保守
朝方くらいまでには投下する
炎を照り返して黄金色に輝く絢爛たるその威容を眼中に収めた瞬間、
波が引くようにスカーの表情から一切の余裕が消え失せる。
俺もまた、心臓が耳元で直接揺れ動いてるのかと思うほどにやかましく脈動し始め、
全身の毛という毛が逆立ちチリチリと痺れるような感覚に捉われた。
慄く俺達を牙斧の竜は歯牙にもかけぬ様子で目も留めずに暫し辺りを見回し、
どこか陶然として歪めた顎の隙間から熱を帯びた吐息を零す。
『……我が主君が御業、まこと御見事』
とともに、しゃがれた低い唸り声が微かに大気を揺らした。
『斧付き……!』
狼狽混じりに呟き、苦々しく表情を歪めてスカーが見上げる、
その竜の真の名はオノノクス。研ぎ澄まされた戦斧のように厳めしい牙は、
頑丈な岩や鋼の肉体を誇る者達すらをも時に一刀のもとに真っ二つに斬り伏せ、
確と揺ぎ無く体を支える剛健な二脚で大地を思い切り踏み締めて揺るがせば、
周囲の者は当然、低空を浮遊する者達にさえ衝撃は伝わり塵芥のように吹き飛ばすという。
荒々しい自然の猛威そのもののような力を持つ竜族の中でも更に飛びぬけた、
まさに型破りな破壊力を身に秘めた種族だ。
しかし、それが”ただの”オノノクスであったならば、
スカーも俺も竦み上がってしまう程の忌避と畏怖の念を抱く事はなかっただろう。
種族として元々備えている脅威を超えた何か異質で特異なものを
眼前のオノノクスからは感じたんだ。それは、教会の地下でミュウとセレビィに感じたもの、
――馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないが、自然の摂理を外れたこの世のものならざる気配――
とどこか近しいものだった。
明日の夜か深夜くらいにまた投下する
GJです
保守
『ヒャ、ハ……今日は変なクスリをブチ込まれた覚えはねーぞ。
催眠術か、超スピードか、そんなチャチなもんじゃ断じてねえもっと
おっそろしいもんの片鱗なのか……オメーにもこれ見えてるか、ネズミ?
俺だけイカれてるわけじゃねえよな』
苦し紛れな様子でぎくしゃくと口角を上げるスカーに、こく、こく、と俺は虚ろに頷く。
束の間、ぼうっと状況を飲めない様子で立ち竦んでいたクリムガン達も
意識を取り直したのか直に俺達の存在に気付き、身構えて唸り声を上げ始める。
騒ぎ立つクリムガン達に、オノノクスは小うるさそうにこちらへと緩慢に首を寄越した。
『たかが下等な獣が一、二。捨て置けど主命の障害にはなるまいが――』
俺達を一睨して、オノノクスはまるで道端に転がる小石でも見たかのように
退屈そうに赤い両目を細め、一笑に付す。
ぴくり、とスカーの眉間が動いた。たじろいでいた瞳に少しばかり鋭さが戻る。
オノノクスはクルル、と喉を鳴らし、クリムガン達に指示を出す。
『ネズミぃ。オメーよォ、ボード出来たっけ? サーフでも、スノーでも、
スケートでも、どれでもいーや』
口端から微かに白い冷気の煙を漏らしながら、スカーはひっそりと俺に尋ねた。
状況にまるでそぐわない突飛な話題に、気でも触れてしまったのかと訝しむ俺に、
『いーから答えろ』とスカーは急かす。
”同族の中にはサーフボード、波乗りを嗜む者もいると聞くが……”
俺の答えに、スカーは『ほほー、そいつぁ良い』と不敵に笑んだ。
『波乗り、いーよなありゃ。大自然様だか何だかしらねーがでけーツラして飲み込もうと
してきやがる波を、板切れ一つで涼しい顔して乗りこなす。サイコーに痛快で爽快だ』
スカーが機嫌よく語る内にも、クリムガン達は迫る。
さーてと、とスカーは一息つき、『わりぃが俺が手伝えんのはここまでだ、ネズミ』
そう言って、スカーはポーチからスプレー缶を一つ取り出し、ぐい、と俺に押し付ける。
渡されたスプレーはすっかり凍て付き、表面には薄い氷が張っていた。
『もってけ、最新型の傷薬だ。少しの間、痛みを誤魔化すぐらいは出来んだろ。
俺がここまでしてやんだ、絶対にシスターちゃんと生き残れよな』
一体、どういうつもりだ? 聞く間もなく、クリムガンの一頭が飛び掛ってきた。
スカーは素早く地に片手の爪を突き立てる。瞬間、爪が刺された周囲の土が凍り付いて
びしびしと音を立てて隆起し、氷の壁によるリフレクターが形成された。
しかし、クリムガンはものともせず、氷の壁は容易く砕かれる。
食らいつきにかかってくる大きく開かれた赤い顎を、スカーは予期していたように
うろたえる事無く紙一重かわし、避けざまにクリムガンの喉元へ爪先を滑らせた。
そのまま躊躇い無く流れるような動作でスカーは砕けた氷壁の一番大きな破片を拾い上げ、
素早く形を長細い楕円に整えると――それはさながら、波乗りに使うサーフボードのようだ――
俺をその上にへばり付かせて頭上に持ち、構える。
”まて、これ、何ッ!?”
『ヒャハハ、死ぬ気で乗って来な、このビッグウェーブ!』
嘘だろ、やめろ、無茶だ、叫ぶ事も出来ずにいるまま、スカーは襲い来るクリムガン達の
頭上に飛び上がり、体を反らせて勢いづけ、しがみ付く俺ごと氷のボードを思い切り投げ放った。
明日明後日にでも続きか期待です
GJです
これが息子にも影響するわけか
保守
投下は明日の今くらいか深夜のあまり遅くならない内に
”――――ッ!!?”
高速で過る景色、全身を揉みくちゃにする風の激流、速度の重圧。
喉から声にならない声が溢れる。氷のボードはクリムガン達の脳天や背中を
何度か豪快にバウンドした後、荒々しく地面に着地した。
伝わってくる衝撃に目が回りそうになる。
緩い下りの傾斜に乗ってボードは滑走を始め、一時落ちた勢いを徐々に取り戻し増していく。
振り落とされぬよう懸命に堪えた。
こちらを捕らえようとクリムガンの一体が覆い被ろうと迫る波のように
前方に立ちはだかって構える。ノロマだが馬鹿力だけは他の竜族に劣らぬ奴らに
真正面から挑まれれば、幾ら速度が付いているとはいえ止められかねない。
止められはせずとも、この速度であの鮫肌のような鱗が生え揃う体に真っ向ぶつかれば、
俺もただじゃあすまないだろう。
咄嗟に俺はスカーから渡されたスプレー缶の口を噛み砕いて外し、原液を背にぶちまけた。
それから、ボードの上に立とうと全身に力を込める。背は麻痺したように痺れ、
痛みは幾らか誤魔化せた。よろめきそうになりながらもボードの上に立つことに成功し、
半ば本能的にボードにかける体重を傾ける。激突の寸前、ボードの進行方向は僅かに逸れ、
クリムガンの脇すれすれを掠めるように過ぎ去った。
のたうつヘビの様に大きく左右に暴れだすボードを、試行錯誤制している内、
体が”コツ”を捉える。その瞬間、ボードは首輪でも付けられたかのように大人しくなって感じた。
遅れてごめん、明日か明後日くらいにまた続き投下します
保守
>大人しくなって感じた
?
んー、確かにイマイチ分かりにくい
>>405の最後の行、
旧 その瞬間、ボードは首輪でも付けられたかのように大人しくなって感じた。
新 その瞬間、ボードは手綱でも付けられたかのように従順に俺の思い通り動くようになった。
に差し替えで
保守
木々に、でっぱり石に、ノロマなトカゲども、並み居る障害物を掻い潜り、
斜面を下りきってもしばらくボードは勢いを残して滑り続ける。
教会に近付くにつれて、薄っすらと煙のようなものが周囲に漂い始めた。
炎による煙とは違い臭いは無く、霧のようではあるが湿り気を感じない。
まるで実体が無いような、奇妙な感覚だ。更に進んでいく内にボードは徐々に減速し、
霧らしきものは濃度を増していく。ボードが完全に勢いを失って止まってしまうと、
辺りは数メートル先もろくに分からない程になっていて、
目の前には一段と分厚い霧の層が行く手を阻む壁の如く渦巻いていた。
こんな濃霧が立ち込めていれば、遠目から見た時にでも気付くだろうに。
不可思議に思いながらボードから降りて足を離すと、途端にボードは粉々に砕け散り、
俺も膝からがくりと崩れる。随分と無茶をした、薬が後どれだけ体を
騙していてくれるか分からない。切れた時にはそれはそれは大層な反動が
待ち構えている事だろう。立ち止まってはいられない。
あいつらしく実に雑で乱暴なものだったが、思いを託してくれたスカーのためにも。
絶対に無事に生き残るんだ。意を決して、俺は濃霧の渦へと足を踏み入れた。
目と鼻の距離も見えない濃霧の中を歩いていると、周りからはクリムガン達のものらしき
ギャーギャー騒がしい咆え声と、ドスドスと忙しなく走り回る足音が聞こえてきた。
視界を失い、右往左往しているのだろうか。しかし、俺の足取りは奴らのように迷うことなく、
一歩も止まらない。目をつぶっていてでも辿りつけそうな程に慣れ親しんでいた道、
村から教会までの帰路。視界になんて頼らなくても、足が、心が、魂が、帰るべき場所を覚えている。
保守
明日明後日にでも続き書くよ
保守
保守
遅れてすまん、今日の夜には投下できるようにするよ
ある程度進むと霧の最も厚い層を抜けたのか、視界は少し先の物であれば
ぼんやり見分けられるぐらいにまで戻っていた。
その中、どういうわけか仲間同士で争うクリムガンの姿を見かける。
敵味方の判別ぐらいは出来るであろう状況下、二頭は眼を血走らせ、
互いに爪や牙を容赦なく突き立てながら取っ組み合っていた。
奇行に及ぶクリムガンはその二頭だけではない。何かを追い払うようにして
虚空に向かって腕を振るい続ける者、地面を転げる者、逃げ惑う者。
異様な光景だった。皆一様にわけのわからないことを呻きながら、
必死の形相を浮かべている。
一体、何が起こっているというのか。傍から見て何も無いというのに、
奴らは見えない何かに抗い、悶え、怯えている。
まるで幻覚でも見ているような――そうか。はたと気付くとほぼ同じくして、
霧の向こうから長髪をたなびかせ駆け寄って来る者の姿があった。
『無事だったか!』
息を切らした様子で、ゾロアークは俺に言った。
”ああ、お前こそ! みんなは、他に無事な者達は?”
少し息を整えて、ゾロアークは口を開く。
『教会住まいの皆は無事だ。村の者達も幾らか逃げ延びて来て、教会の中に避難させている』
また明後日ぐらいに投下する
GJです
明日の今頃には投下するよ
ゾロアークはきょろきょろと俺の傍を見回す。
『ドテッコツじーさんと、木の実園の奴ら、お前一緒じゃなかったか?』
”いや、今日は会っていない。……まさか、まだ逃げて来ていないのか?”
『ああ、姿が無い』
耳に届いた瞬間、喉がぐっと詰まり、胸に刃を突き立てられたような
鋭く冷たい痛みが走った。燃え盛る村と、熱波の波と化した木立の凄惨な光景が
ありありと脳裏に浮かぶ。依然、村の方からは竜達の咆哮と空襲の轟音が
絶え間なく響いてくる。
恐らく、もう――。思っても、口には出せなかった。
気配で察したか、青緑の瞳が動揺したように揺れ動く。
『俺が、もう少し早く異変に気付けば……!』
ゾロアークは堪えるように眉間に深々と皺が寄るほどに瞼を強く閉じて、
口惜しげに赤い爪をわなわな震わせた。
『あのトカゲ共、いきなり村の中に現れた。俺、いつも村の周り、幻の結界張って守ってる。
怪しい奴が近付いたら、すぐに分かる。なのに奴ら、あの時は一匹も引っ掛からなかった。
俺が駆け付けた頃には、もう村中を荒らしまわっていた』
奴らの不可解な現れ方は俺も目の当たりにしている。何の前触れも予兆も無く、
あたかも最初からそこにいたかのようだった。俗に通信ケーブルと呼ばれる有線を介して
ポケモンを転送する技術はあの時代には既に人間達によって研究されていたようだけれど、
ケーブルも使わず無線で送りたい場所に精確に送る技術なんて聞いたことが無い。
ポケモン、特にエスパータイプに属する者の中に多く、テレポート、瞬間移動能力を
持つものがいるけれど、消えたり現れたりする時には何らかの予兆があるものだ。
――例えば、転移してくるその周りの空間が歪んで見えたり、
奇妙な光や音が発せられたり、近くにいると耳鳴りや頭痛がしたりだ。
俺は何かが転移してくる予兆を感じ取る時、何と言うか胃がぐいと押されるような
独特の”胸焼け”みたいな嫌な感覚を覚えるな。
でも、奴らが目の前に現れた時、そういったものが一切、微塵も感じ取れなかった。
科学の力にしろ、何らかのポケモンの力にしろ、尋常ならざるものだ。
ミュウが仄めかしていた、人知もポケモンの力も超えた存在、関与。事実であるならば、
その者達が陰で引く繰り糸の一本を俺は垣間見たとでもいうのだろうか。
『だが、安心しろ。もう、誰一人一匹たりとも失わせない……今度こそ、俺は守る!』
ゾロアークは決意を込めた哮り声を上げ、霧の向こうからがむしゃらに
駆けてくる数頭のクリムガンを鋭く見据えた。
『目、なるべく細めろ。直視するな』
そっと俺に言って、ゾロアークは両手を地に付ける。その瞬間、
地面が赤々と輝き出し、グラグラと煮立ち出した。でも、まるで熱さは感じない。
幻影だ、すぐに俺は理解する。
熱したチーズのようにどろどろの地面から鋭利な爪の生え揃う巨大で太い腕が突き出、
肉厚の赤い甲殻に覆われた頭部と爛々と輝く目が覗き、見る見るうちに、
見上げなければ頭の先まで見えないような大怪獣が這い出てきた。
幻影だと分かっていても、その名も知らぬ化け物の溶岩を滴らせながら
煌々と照る熱せられた岩のような表面、巨木の幹のように野太い手足と尾、
何より圧倒的な巨躯には畏怖を感じられずにはいられない。
クリムガン達も自分達よりずっと大きい怪物の姿を目にし、呆然と立ち止まる。
あのペンキをぶちまけたような赤っ面がどことなく青ざめてさえ見えた。
ゾロアークが咆え真似をするのに合わせ、巨獣が地鳴りのような唸り声を上げる。
呼応するようにそこかしこの地面から溶岩が噴水の如く吹き上がった。
幻だというのに、その鮮明さに脳が錯覚を起こし、熱気を感じる。
溶岩を避けて散り散りになるクリムガン達の一匹に巨獣は狙いを定め、
掲げた腕を思い切り振り下ろす。その様はまるで天から巨大な岩盤が
崩落してきたかのようだった。巨獣の動きに合わせ、ゾロアークは両腕から暗い紫の波動を
迸らせながらそのクリムガンに飛び乗り、鱗の比較的薄い首の付け根辺りを狙って
至近距離で波動を炸裂させる。あたかも本当に巨獣に押しつぶされたかのように
クリムガンは地面に突っ伏して倒れ、残るクリムガンは戦々恐々、尻尾を巻いて逃げ出した。
追い討ちにゾロアークはクリムガン達の背に向かって巨獣と共に火炎放射を吹きかけた。
『ふん、奴ら、力だけ。頭脳はマヌケだ。お前達だけは、俺が必ず守る。
陸のあの赤っ面トカゲ共はこの通り、教会には絶対に近付かせない。
空の羽トカゲ共は奴らよりずっとずっと厄介だが、ミュウがどうにかしてくれている』
なぜかゾロアークが片言に
ゾロアークがカタコトなのは前々からじゃね?
長めの台詞というか台詞自体がかなり少なかったけど
初対面の時の
>>『これ、軍の印。奴らの兵器の証拠……!』
の部分とか
>>『今は見逃す。でも、俺はお前も奴らも許さない……! すぐにここから出てけ!』
とか、微妙にカタコト気味
明日明後日にでも続き書きたいです
GJです
今日の夜〜深夜くらいには投下します
”ミュウが?”俺は首を傾げる。
幾ら並ならぬ存在とはいえ、あんな俺と同じくらいちっぽけな体一つで
――外見でポケモンの戦闘力を判断するのは愚かしい事だというのは
重々承知しているが――大勢の竜達を相手取ることなんて出来るのだろうか。
『信じてないか? あいつは強いぞ。俺の幻影は形だけ、ニセモノ。力は無い。
でもあいつの変身は、ホンモノ。同じだけの力出せる。
あいつ、どんなポケモンにだってなれる。昔、あいつに色んなポケモン教わった。
この超古代ポケモン”グラードン”も、その一つ。こいつは大昔、
暗雲払い、光と熱を呼ぶ力で、大水に苦しむ者達守った』
ゾロアークは俺の肩に手を置く。
『生きてさえいれば、いつか必ず報われる。嫌いな言葉だった。嘘っぱち、
キレイ事だと思っていた。故郷追われ、ずっと一匹、バルジーナが頭の上で飛び交い、
ノクタスに付け狙われながら荒野彷徨うのは、辛かった、苦しかった。
父、母と一緒に、焼け死んだ方がずっとマシだったと思った。
でも、この村の者達の優しさ、嘘じゃないって教えてくれた――』
グラードンの幻影がずしんと尻尾で地面を叩く。霧にトンネルのような穴が開き、
その先に教会が見えた。
『俺、お前に辛く当たった。二度と消えない傷つけて、体の自由も奪って。
それでもお前、諦めなかった。どんなに惨めでも、辛くても、食いしばる。
生きてさえいれば報われる、キレイ事じゃない。乗り越えてきたお前の姿見て、思った』
ゾロアークは俺を送り出すようにそっと肩を押す。
『行け。背後は任せろ。お前の背に、もう傷は二度と付けさせない』
”ありがとう。……無茶はするな”
礼を言い、トンネルに踏み込む俺の背に声がかかる。
『あいつら全部追っ払ったら、俺、この村建て直す。全部一からだろうが、諦めない。
その時は、協力してくれるか?』
”来年の今頃には、出来立ての木の実の採れ立てを振る舞ってやるよ”
『……楽しみにしてるぞ』
淡い未来への展望を抱いて、硬く強張り続けていた口角が微かに上がった。
背中合わせで分からなかったが、きっとゾロアークも同じだったろう。
しかし、それを滅茶苦茶に、容易く打ち砕かんとする者が迫っていた。
クリムガンのそれよりも遥かに機敏に、鋭く地を蹴る音が霧の奥より届く。
『懲りずに来たな!』
ゾロアークは即座に反応し、グラードンの幻影を嗾けて、自身も攻撃に備える。
だが、足音はまるで怯む気配無く、殊更強く地を蹴る音と共に、一寸途切れた。
一転、切迫した様子でゾロアークが上方を見上げる。そして素早くその場から
身をかわした直後、霧とグラードンの頭部を貫いて足跡の主が豪快な音と共に降り立ち、
ゾロアークが寸前まで居た地を赤い刃先が深々と穿った。
『斬った応えが微塵も無い。やはり、まやかし』
ぐるん、と首を大きく振り回して牙に付いた土埃を払い、翼の無い金色の竜は言った。
遅れてすみません
また明日明後日位に続き投下します
GJです
明日の今位には投下します
赤い両の目が霧中にゆらりと残光残し、俺とゾロアークを見据える。
首をもたげて見下ろす姿は、斬首斧振りかざす処刑人の如く。
たちまち首元に鋭利な寒気を感じ、足は凍りついたように固まった。
怖気を撥ね退けるように、即座にゾロアークは両腕に黒紫色の波動を走らせる。
”ゾロアーク、駄目だ――!”
そいつと戦っちゃいけない。ここまで追いついてきたという事は、
きっとスカーも既に……。曲がりなりにも現役の軍用ポケモンであり、
相性の上でも有利だった筈のスカーでも及ばなかった化け物が相手ではかないっこない。
しかし、制止は届くことなく、迸る衝撃波がオノノクスに向かって放たれた。
追従して、グラードンの幻影も腕を振り回す。爪が地面を抉って捲くり上げ、
土埃が雪崩のように迫るさまは例え幻だと分かっていても抗い難い怒涛の勢い、凄みがあった。
それを前にしても、オノノクスは動じずに構え、ぐっと口をへの字に結ぶ。
嘲笑っているようにさえ見えた。オノノクスはまるで余興にでも付き合うように
上半身を大きく後ろに仰け反らせて構える。そして、目前にまで迫るグラードンの爪と
衝撃波に目掛け、溜めた力が一気に解き放たれた。
その瞬間、奴の体が、振り下ろす牙斧が、何倍にも大きくなって見えた。
おぞましい程の気迫、濁り無い純粋なまでの殺気が場を支配し、幻影を、
ゾロアークの精神までをも屈服させていた。
走る一閃。
衝撃波は剣圧の前に軽々と掻き消え、幻影である筈のグラードンの体が真っ二つに
両断されていた。くぐもった呻き声と共にぐずぐずと崩れていくグラードンを呆然と
ゾロアークは眺める。心が折れかけ、ひびの入る音がこちらにまで聞こえてくるようだった。
隙を突き、オノノクスは降ろしたままの牙を地で滑走させながら距離を詰め、
ゾロアークが気付いて飛び退こうとするよりも早く、振り上げる返し刃が黒い胸元を斬り付ける。
『主君に代わり振るう我が刃の前に、まやかしなど通じぬ。例えまやかしではない真の古代獣が
相手であろうとも、我が刃、我が大忠義、我が主君の荘厳美麗剛健たる金剛の身が如く、
一点の曇り無く鈍ること無し!』
蹲るゾロアークの前で、オノノクスは勝ち鬨の如く咆哮を上げる。
”ゾロアーク!”
叫ぶ俺に、ゾロアークはハッと耳を立てた。とどめに振り下ろされた爪を
ゾロアークは紙一重避け、素早くオノノクスと距離を取る。
『来るな、お前は教会に行け……!』
がくりと再び膝をつき、苦しげに胸を押さえながらゾロアークは言った。
”でも……!”
『つべこべ言うな、行け! 俺は平気だ、背後は守る、必ず。
だから、絶対立ち止まったり、振り返ったりするな、いいな……!』
明日明後日にでも続き書く
GJです
ゾロアーク・・・
保守
明日の今頃には投下する
俺が最後に見たゾロアークの表情は優しい笑顔だった。
儚く、今にも消え入りそうなほどに。
前にも一度だけ似た表情を見た事があった。あれはいつの日だったか。
子ども達を周りに集め、あいつは幻影の光をまるで花火のようにして
見せてやっていた時があった。色とりどり踊る火花に目を輝かせ、歓声を上げ、
浮かれる子ども達。それを見つめるゾロアークの顔はとても穏やかで優しいものだった。
(俺が見ていることに気付くと、すぐにばつが悪そうに顔をむくれさせてしまったけれど)
いつも不機嫌そうに顔をしかめている姿しか俺は殆ど見た事が無かったから、
とても意外な面に思えたけれど、あの表情こそが彼の本質だったんだろう。
俺は霧中をがむしゃらに走った。ろくに言うことを効かない手足を半ば引きずるようにして。
背後からは二匹が争う激しい音が未だ響いてくる。それでも俺は振り向かなかった。
実体の無い霧の筈なのに、頬の体毛が少し重たく感じる程に水分を吸って濡れていた。
ズドン――後方から重々しく地を砕く音が一度、轟く。伴って微弱な振動が
伝わって以後、ぱたりと争う音が止んだ。辺りを覆う霧の幻が一瞬大きく乱れて歪み、
消えていく。背中の傷が騒ぎ立つように痛み出す。それでも俺は立ち止まらなかった。
霧の消えた空を大きな翼が大気を荒らす音に促されるように見上げると、
目を疑い、ひいては覆い隠してしまいたくなる様な、終末の光景が広がっていた。
天幕のように広げられた幾つもの翼膜に光を遮られ薄暗い空に舞う、
三つ首振るう六枚翼の黒竜サザンドラと、深紅の翼翻す青竜ボーマンダの群れ。
霧の中にいる間に、より数を増したようにさえ思える。
その中に、一際目立つ翼竜の姿があった。名も知らぬそいつは鱗の代わりに
体に生え揃った一切の穢れが無い純白の毛並みを棚引かせながら、
一斉に迫る黒と青混成の群れを奴らよりも一回りは大きい体躯からは
考えられない機動力で圧倒し、巻き起こす青白い炎は生半可な熱や衝撃など
ものともしない竜の翼さえ焼き焦がし、次々と撃ち落としていた。
また明日明後日に続き投下する
保守
GJです
レシラム?
投下は朝方くらいに
飛び交う竜達の標的は殆どがあの純白の飛竜へと向けられている。
そのまま竜達の注意がこちらに来ない内に、流れ弾と撃墜された竜が
落ちて来ないように祈りながら俺は進んだ。最早この状況で自分に
何が出来るとは思わない。でも、立ち止まるわけにはいかなかった。
せめて一目、彼女を、子ども達を、牧師と村の人達を、そしてまだ孵らぬ
自分の子の姿を見たい。一心だった。
教会の扉までのたったもう十数メートル、それがとてつもなく長く感じられる。
また一頭、空から断末魔の咆哮が上がり、竜が墜ちる。頭上から迫ってくる風切り音と、
俺の足元でどんどんと広がる影。一頭のボーマンダが俺の上へと
墜ちて来ようとしていた。
俺は足に力を込めて懸命にその場から逃れようとした。
しかし、薬も切れ、弱りきった足ではとても間に合わない。
それに気付いたかのように純白の飛竜が素早く旋回し、こちらに急降下を始めた。
尾の先からジェットエンジンのように火を噴出して加速し、墜落するボーマンダに追いつくと、
強引に横から体をぶつける。衝撃で落下の軌道は僅かに逸れ、のたうつ尻尾を俺の目前に
掠めさせボーマンダの巨体は地にめり込んだ。焼け剥がれた翼の鱗が舞い上がり、
火の粉となってちりちりと降り注ぐ。
純白の飛竜は自身も制御を失いかけ、翼をばたつかせてどうにか体勢を立て直す。
竜が俺を守った? 火の粉を払いながら仰ぎ見ると、純白の飛竜もまた俺を一瞥し、
視線が交差する。その瞳は燃え上がる炎とは対照的なまるで静謐な湖のような
澄んだ青色をしていた。
”ミュウなのか?”その瞬間、俺は飛竜の正体を悟り、声をかけた。
>>444 そのつもりで書いたよ
先の話になるけれどジョウト編で大体の風呂敷を畳んで大きな一段落つけて、
ホウエン終えて、更に次でイッシュ編…があるかは正直わからないから、
姿だけとはいえ出させてもらった
10年くらいかかりそうだなwww
明日明後日にでも続き書くよ
毎度楽しみに見させてもらってます、GJ!
明日の今くらいには投下するよ
保守
問いかけに飛竜は透き通った咆哮を一つだけ返し、翼を翻して上空へ向き直る。
一瞬動きを鈍らせた純白の飛竜の隙を竜達は逃さなかった。
竜達は大きく吸い込んだ息に喉と腹を膨らせ、限界まで力を込めると
一斉に次々と大口を開いた。多重層の如く解き放たれた咆哮は荒れ狂う力の奔流となって
大気を、空間そのものをもぐちゃぐちゃに掻き乱し、大地までをも震え上がらせた。
竜達の後方、空の彼方に数え切れないほどの輝きが瞬く。最早、美しくすら見えることが
尚おぞましく恐ろしい、竜の咆哮に召し寄せられた隕石が放つ滅びの光だ。
純白の飛竜は力を呼び起こすように尾に体の節々まで赤熱化するほどの炎を渦巻かせ、
堤防が決壊するかのように爆発的に巻き起こった青い爆炎を帯状に収束させて、
迫る隕石群へと放った。直接浴びずとも溶鉱炉の間際にいるような熱気に俺の毛先は焦げ、
嫌な臭いが鼻をつく。炎に触れた隕石達は瞬く間に真っ赤になってバラバラに砕け散った。
俺の頭の中に、突如、テレビの砂嵐画面に似た”ノイズ”のようなものが走る。
ノイズは周波数を合わせるように少しずつ鮮明になっていき、
――『何をポッポが豆鉄砲を食ったみたいにボーっとしてるのさ。早く行きなよ』
はっきりとそう響いた。聞き覚えのある、まるで無邪気な子どものような、
それでいてどこか長らく生きてきたゆえの深い含みを感じさせる声色。
間違いない、ミュウの声だ。
一陣を退けても尚、続々と空からは二陣、三陣の流星が降り注いでくる。
――『急いで。少しでも安全な教会の中に。いくらとっても強いこの子の姿を借りてたって、
さすがに多勢に無勢だ。正直、いつまで防ぎきれるか分からない』
一旦ここまで
また土曜の夜くらいに投下する
保守
GJです
ごめん、ちょっと遅くなりそうだ
今日の夕方か夜くらいには投下できるようにする
炎が飛竜の前面で盾のように厚く広く燃え上がり、巨大な光の障壁が展開される。
俺は竦みかけた足を叱咤し、前に進んだ。流星が炎の壁を打つ激しい音が立て続けに響く。
――『ごめんよ。もう少しだけ、せめて君の子どもが無事に大きくなるくらいまでは
平穏に見守っていたかったのだけれど。やはりボクとセレビィの二匹分も匿って隠れきるのは、
ボクとぎらちーの力をもってしても無理があったようだ』
衝突音が響く度、テレパシーを通して伝わるミュウの思考に疲弊の色は強まった。
――『当然だよね。ボクはぱるぱるに追われ、セレビィもでぃあるんから逃げてきて、
それが一箇所に集ってしまったら、リスクだけが増すばかりか追っ手の力は倍増さ』
とうとうだ。俺は教会の扉の前へと辿り着き、背伸びしてドアノブに思い切り手を伸ばす。
――『全く、いつもあの子はとんでもない厄介事を持ち込んできてくれる。
なのに”何してるの、君も早く逃げたらどう?”だなんて素知らぬ顔で
荷物まとめ始めちゃってさ。……いや、例えあの子が逃げ込んでこなかったとしても、
いずれはこうなるとボクはわかっていた。ぱるぱるだって無能じゃない。
そして、大局を見るのであれば、ボクもあの子の言うようにさっさと逃げるべきなのだろう。
でも、そうしなかったのは、出来なかったのは――』
一際強い衝撃がびりびりと空気を揺るがし、テレパシーが一瞬乱れ、
飛竜から苦悶の声が漏れる。
俺は急ぎ教会の扉を開く。暗い聖堂内にひと気は無く、唯一一つだけ赤い光差す祭壇の前に
ぽつんと跪く小さな黒い影があった。
”シスター!”半ば絶叫のように呼ぶ俺の声に彼女はハッとして振り返り、
〈あなた!〉負けないくらい大きな声を上げ、俺のところに駆け寄って抱きついた。
明日明後日位に続き書きたいです
保守
投下は明日の夜〜深夜、あまり遅くならない内に
GJです
〈もう、駄目なのかと……良く無事で……!〉
腕の内に感じる温かさと確固たる感触。互いの無事を、
確かにそこに在る事を確認するように、苦しいくらいに強く強く抱き止めた。
”みんなはどこに?”
惜しむように身を離し、尋ねる。
〈一足早く地下室へと避難していただいています。気休め程度かもしれないけれど、
地上よりは安全だろうと。逃げてきたのはあなたで最後?〉
俺は頷き、教会に辿り着くまでの事を彼女に話した。
村の様子、スカーとの邂逅、それから、ゾロアークの事。
彼女はぶるぶると震える口をぐっと噛み締め、フードを引き下げて目元を隠した。
〈……私達も、地下へ急ぎましょう〉
感情をこらえるように彼女はぎこちなく言って、俺を支えて歩み出した。
〈そう、私からもあなたに話しておかなければならない大切なことがあるの〉
地下室のある物置まで歩みながら彼女は切り出す。
”それは?”
〈私達の子どものこと。ごめんなさい。こんな重大なこと、
あなたがいない間に決めてしまって。けれど、もしもこのまま私達の身に
何かがあったとしたら、あの子は……。牧師様や皆さんと相談し、
私は他の子達と共にあの子をミュウさんの御友人の――〉
彼女が言い終えぬ内に、再び強い衝撃が空気を揺らす。
――『もう……ない――……――逃――ッ!』
途切れ途切れで不明瞭なミュウのテレパシーが届いた。
直後――スローモーションのようだった――激しい音と共に聖堂全体が歪み、
窓のガラスというガラスが粉々になって宙に舞い散り、砕け崩れた天井の瓦礫が、
俺と彼女に向かって降り注いできた。
俺は彼女を庇おうと身を乗り出そうとする。しかし、それよりも早く彼女は俺を突き飛ばし、
守るように俺の上に覆いかぶさった。
瓦礫が地を打つ轟音と共に、意識は暗闇へと沈む。
途中で寝落ち……遅れて申し訳ないです
また明日明後日位に投下します
保守
明日の今くらいには投下します
GJです
シスター…?
熱を感じた。それはじりじりと身を焦がし、どんどんと強まっている。
においがした。それはとても馴染み深く懐かしく、だからこそ忌々しく
おぞましい――炎のにおい。
加速度的に意識が引き戻され、朦朧とした頭で仰向けに倒れたまま首を左右に見回す。
目に映るのは煌々と照りながらごうごうと踊り狂う紅蓮の炎と、
炎の依り代とされぶすぶすと黒く焼け爛れていく瓦礫の山。
それらに囲まれた中に俺は居た。
そうだ、シスターは、彼女はどこに? 名を叫ぼうとするが煙で喉がむせ返り、
腹を何か重みに圧迫されているせいで、大きく声が出せない。
その時、俺の腹の上辺りで小さなうめき声がした。
身悶えるような激痛を堪えながら首を起こして確認すると、
腹にはうつ伏せに倒れるシスターと、更にその上に下半身を覆うほど
うずたかく積み上がる瓦礫の山が圧し掛かっていた。
〈あなた、無事……?〉苦しげに息を吐きながら彼女は言う。
その光景は、今まで見てきたどんな凄惨な戦場よりも俺には絶望的に映った。
血の気は一瞬で失せ、顎ががたがたと震え、声にならない声が漏れた。
〈これ以上、崩れる前に逃げて……早く〉
”あなただけでもって……君は……?”
〈私は、駄目。足と尻尾が瓦礫の中で完全に挟まれてる……。あなたは、私の分、
少しは動けるでしょ……?〉
彼女は上体を懸命に起こして少し浮かせる。確かに強引に身を捩れば、
俺だけなら抜け出せそうだ。でもそうしたら、彼女はどうなる?
”駄目だ、駄目だよ。そんなことできない。逃げる時は君と一緒じゃなきゃ、俺は嫌だ”
だけど、俺はぶんぶんと首を横に振りながら言った。まるで子どもが駄々をこねるように。
〈言うことを、聞きなさい!〉
彼女は残る力を振り絞るようにびりびりと体に帯電させ、びしりと俺を叱咤した。
彼女が電気を出してまで怒ることなんて、俺は片手で数えられるほどしか見た事はない。
びくりと俺は萎縮する。
〈早く、このままじゃふたりとも……お願い……〉
ぐ、と俺は目を閉じ、血が滲むほどに口を噛み締め、
彼女の下から体をゆっくりと引き抜いた。俺が抜けた分、瓦礫のバランスが少し崩れ、
ぱらぱらからころと小さなかけらが落ちてくる。
俺は彼女の上の瓦礫をどかそうとした。でも、どんなに力を振り絞ったって、
瓦礫は鈍った俺の力ではびくともしなかった。
〈無理よ……離れて、上、すぐに崩れる……〉
上を見ると、ぐらぐらと今にも支えが燃え尽き、落ちてきそうに揺れる鉄塊――
それはかつて教会の屋根の上で燦然と輝いていた、神に加護を祈る為の十字像だ。
皮肉にもそれが今、俺達に仇なそうとしていた。
”俺を、俺をひとりにしないでくれ……”
諦めずに瓦礫を押し上げようとしながら、縋りつくように彼女に言った。
頬をぼろぼろと雫が伝う。
〈大丈夫。あなたはひとりじゃない……生きてさえいれば、会える。
いつか、また、必ず、あの子に……だから、生きて〉
”わからない、わからないよ、――。君の言っていることが。
駄目だよ、君も助からなきゃ。二匹で、いや、三匹で手を取り合って
生きていくって約束しただろう!?”
〈……不思議、こんな時でも、怖くないの。全然って言ったらウソになるけれど……
でも、あなたが、あの子が、一緒にこれから先も、生きていてくれるなら……
どこかで笑顔で笑い合っている姿を思い浮かべれば……それを直接見れないのは
ちょっぴり悲しいけれど――平気。お父さんとお母さんも……私を庇ってくれた時、
こんな気持ちだったのかな……?〉
我武者羅に瓦礫を支え続ける手に血液が滲み、ぼたぼたと滴った。
〈最後……もう一度言う。あなたは生きて。敵討ちとか、後を追うとか、いらない。
あなたは生きるの、いいわね〉
俺に有無を言わさぬように彼女の頬から精一杯の電流が迸り、バチンとスパークした。
衝撃で俺は弾き飛ばされ、彼女から突き放される。
〈さよなら――〉穏やかに、儚げに彼女は笑んだ。スッと頬に一筋の涙が伝う。
次の瞬間、俺と彼女の間に十字の像が突き立ち、伴って雪崩のように
崩れ落ちてきた瓦礫の一つが俺の眼前ぎりぎりに鋭い破片を突きつけて止まる。
ふら、ふら、と俺はへたり込み、激流の様な叫び声が喉を焼くのも構わず俺の口から溢れた。
明日明後日ぐらいにでも続き書く
保守
投下は明日の今くらいに
――綿の抜けた空っぽの人形が火にくべられている。
散らばる割れたガラスに反射する己の姿はそんなふうに見えた。
嵌め込められているだけの曇ったビー玉のような目で
俺は俺を視界に映していた。
空虚にただ意味も無く『生』にしがみ付いていただけの俺に、
生きる意味を意義を与えてくれた村と村に住む者達。
そこに招き入れ、俺を支え続けてくれていたシスター。
俺にとっての全てであったものと、その中核、礎、
芯となっていたものをことごとく失った。
目の前で、むざむざと。死ぬべきは俺の方だったのに、代わりとなって。
ずる、ぺた……ずる、ぺた……。
ぐちゃぐちゃに湿っている柔らかい何かを引き摺りながら、
ゆっくりと俺に這い寄る気配を感じた。
ずる、ぺた……ずる、ぺた……。
炎が燃え盛りばちばちと爆ぜる中においても、その音は鮮明に届いた。
――『全身真っ黒に煤けて、手足の先はボロボロ……随分とひどい格好を
しているじゃあないか。ボクもひとのこと言えないけれど』
背後で蠢く者は直接俺の頭に声を投げ込み、言った。
一旦ここまで、また明日明後日くらいに投下する
保守
投下は明日の今くらい〜深夜に
すまん、急用が入って書く時間が取れなかった
今日の夕方、夜くらいには投下する
――『おっと、出来ればしばらくそのまま振り向かないで。
自己再生がおっつかなくて。とてもひとさまに見せられる姿じゃないんだ』
俺は何も応じず、虚ろにガラス片に視線を落とし続けた。
――『今更何をしに来た、ってところかな。……だよね。
言い訳はしないよ。ずっと逃げ隠れ続けていたばかりのボクが、
今更なにかを守り抜いて戦おうったって、できっこなかった』
外からはぎゃあぎゃあと死骸に群がる鳥のようにおぞましく酷薄に
騒ぎ立つ竜達の声と羽音が聞こえる。
――『何度も何回も何十回も、こんなことが繰り返されてきたんだ。
ボクが新たな拠り所を見つけて逃げ込めば、彼らもまた手段、手順、
手駒を変えて追い詰め、破壊していく。草の根一つ残らぬよう徹底的に。
彼らは自分達の痕跡を残すことを嫌うからね。見せしめの意図もあるのかな』
無数の鋭い爪が瓦礫の山を掻き分け、探る音が迫る。
――『前にボクは言ったよね。こうして追われることに”もう疲れちゃった”って。
半分冗談みたいに言ったけれど、本心だったのさ。
肉体は限りなく不死に近くあれるボクだけれど、精神まではそうはいかないみたいだ。
いくら今ある世界の維持のためといえ、そこに住んでいる者達を蔑ろに、
何十、何百、何千、数え切れないほど犠牲にしてきて……。
これじゃあまるで彼らとさして変わらないじゃないか。
ある時、ふと気付いた。そして、愕然とした。
そんなことをいつの間にか平然として続けていたことに。
涙の一つも零すことが出来なくなったボクに。
もう限界なの。ボクらは壊れてきている。
あの子、セレビィだってずーっと昔はあんなに薄情な子じゃなかったんだよ。
それが、今はもう……。
だから、もう終わりにしよう。そう思った。
GJです
明日明後日にでも続き書きたいです
保守
明日の今くらいには投下します
どの道、このままじゃあ負け戦なんだ。彼らにとっては後はもう昔の人間の貴族が
娯楽でやっていたロコン狩りみたいな気楽なもんさ。猟犬代わりに直属の竜達を
ふんだんに使って競わせながら、豪勢で優雅なもんだよね、全く。
ボクら側の有力者の殆どは既に敗れている。残るエっちゃん達はどっち付かず、
れじやん達は以前の戦いで力を使いすぎて眠ってて、
ひーくんはすっかり怖気づいちゃっててダメだ……。
もう頼れるのはでぃあるんとぱるぱるに並び立てるぎらちーくらいだもん。
もしもぎらちーが彼らを裏切ってこっちに付いてくれなかったら、とっくにボクらは負けてたかも。
長い間、首の皮一枚ぎりぎりでどうにか凌いでいたような状況だったけど、
それも限界が近いんだよ。ボクらが奪い取っていた力をでぃあるんとぱるぱるが殆ど取り返し、
いよいよ”王”が目覚める。ボクが前におとぎ話として話していたあの王様だよ。
厄介でけったいな事にこの世界には実在しちゃうんだ、何もかも思い通りな滅茶苦茶な存在が。
全盛時のボクら側の有力者全員が、不意を突く事でどうにかようやっと抑え込んだような奴が、
このズタボロの状況で。まさに絶望ってやつさ。王の手にかかれば眠い目をこすりながらでも
今のボク達をどうこうするなんて、ホエルオーがバチュルを押し潰すくらいに容易いことだろう――』
ごぼごぼと後ろから何かが泡立って盛り上がるようなような音が立ち、
続いて『ぷはー』と水中から水際にようやく泳ぎ着いたかのような
大きな息が吹き返るのが聞こえた。
『あーあー、ごほん……でも、それを指をくわえて見ているつもりは無いよ。
追い詰められたコラッタはニャースにだって喰らいつく。もうボクは逃げ切る事は出来ないし
そんなつもりもない。せめて力の続く限り、最後の一、二暴れをしてあげるつもりさ』
また明日明後日にでも続き投下します
保守
投下は明日の今くらいに
大きく息を整え、話すミュウの声が耳に届く。
『おっと、ただ捨て鉢自棄っぱちになったってわけじゃあないよ。
一欠けら、一つまみの希望となるかもしれないもの、
彼らにとっては大いなる嫌がらせをちゃんと幾つか遺していくつもりさ。
君に今こうして接触しているのもその一環だよ。
そう、君に一つ二つ、聞きたい事があるんだ』
めきめき、とより一層大きな音を立ててすぐ上の瓦礫が軋んだ。
竜達の荒い吐息と猛る声をすぐ近くに感じる。
『君、これからどうしたい? このままただ時を待てば、
炎が回りきるよりも早くに彼らの走狗共がこの場所を掘り当て、
ボクらを惨たらしく貪る為に存分にその腕と爪と牙を振るってくれるだろう』
そんな事分かりきっている。既にぐちゃぐちゃに掻き乱されきった精神を
更にひたすら逆撫でるようなミュウの言葉に激憤し、拳が震えた。
――”どうしたいだと? もう、俺にどうしようもないだろう!”
叫びつけてやりたかったが、喉はもう呻き声の一つすらも上がらない。
『どうしようもないって、どうして?』
俺の思考を直接読んでいるのか、更に煽るようにミュウは言った。
――”これ以上、俺をからかって、心をいたぶって、なんになるって言うんだ。
見れば分かるだろう、全身ボロボロでろくに歩くこともままならない”
『なあんだ、ボクがいながら、そんなこと気にしてたのか。忘れちゃったかな、
前に地下でボクが君にしてあげたこと。ほんの戯れにちょっぴりだけだから、
一瞬だったけれど、あの時は随分と体の自由が利く様になったでしょ。
ボクがその気になれば、今の君ぐらいの傷を治すのなんて、ちょちょいのちょいさ。
体だって、自由に動かせるように出来るよ。それどころか、もしかしたら
君が怪我を負う前以上の力を出せるようになるかもしれない。
……それは君の意志しだいだけれど』
炎燃え盛り、恐ろしい唸り声渦巻く地獄の釜の中で、
ミュウの声はまるで悪魔の囁きの様に聞こえた。
明日明後日ぐらいに続き書く
保守
明日の今頃には投下する
――”代わりに俺に何を求める?”
『やだなあ、ひとを悪魔か何かみたいに。今更、ボクは何も求めないさ。
彼らだったら、もっと窮地にもったいぶって神々しく現れでもして
恩着せがましく命を救ったら、有ること無いこと大仰に囃し立てて、
英雄とか勇者とかって耳心地のいい名前の鉄砲玉に仕立て上げちゃうんだろうけれど。
生憎、ボクはそういうのは好きじゃない。
なら、自分よりも先にシスターちゃんや他のみんなを助けろって?
……言い難いんだけれど、それはボクの力の範疇を超えている。
既に0となってしまったものを戻す事はボクには出来ない。
だが、たったの1でもあれば、虫の息でも生きてさえいれば、
”可能性”が一欠けらでも残っているのであればッ! ボクはそれを何倍にもしてあげられる。
……宇宙が生まれる前、そこは混沌のうねりだけがあった。
ある時、うねりから出でたタマゴから最初のものが生まれた。
最初のものは混沌――乱雑無秩序に入り混じった全ての”可能性”に、
形、種類、区別、分類、定義――秩序を与え、次々と世界を成していった。
その中で、僅かにあぶれた混沌の切れ端があった。混沌は全ての”可能性”だ。
だけど、それ故に、既に秩序付けられ安定した空間の中では理解出来ない不条理で
名状し難い予期せぬ事象、不具合を引き起こしてしまう。だから、安定を図るのであれば
極力根絶するべきだ。
しかし、たった切れ端ともいえる一つが見落とされて残っていた。
続きはまた明日明後日ぐらいに
保守
明日の今頃〜深夜には投下する
GJです
急用が出来て全然書く時間が取れなかった、すまん
どうにか今日中には、遅くてもあまり深夜にならない内には投下できるようにする
それに最初のものが気付いたのは、世界の構築が完了する間際に
なってからの事だった。最初のものは切れ端を取り除いて
その形を作り変えると、僅かに空いた世界の隙間へと、
切れ端だったものを放り込んだ。世界に生きる原初の生命として。
ただ、またしかし、だ。余程の急ごしらえだったのだろう。
切れ端の秩序による濾過は不十分であり、原初の生命はその身に
混沌たる性質を色濃く残していたんだ。その身に孕む可能性により
原初の生命は縦横無尽に形態を変えることが出来た。
……ま、ここまで言っちゃえば大体予想が付くと思うけれど、それってばボクのことさ。
目まぐるしく起こる変化の中で、やがてボクの体は株分けするように増殖し、
分かれて生まれたものも徐々に形質を変えながら子株を増やしを繰り返して、
多様化、枝分かれをしながら世界中へと広がっていった。
その中でも最もボクに近いのが君達、ふしぎなふしぎな生き物、
動物図鑑には載っていない、ポケットモンスター、縮めてポケモンだ。
長い時と数多の分化の中でその性質は大分薄れてしまったけれど、
普通の生き物ではありえないような進化と呼ばれる急激な変化――
みすぼらしい鯉から強大な水竜へ、魚から蛸へ、二つ首から三つ首へ、
今挙げたのは君達の中でも結構極端な例だけど――が起こせるのは、
ボクの、”可能性”の片鱗を脈々と受け継いでいるからこそ!
君が首を縦にさえ振れば、ボクは君にボクを分け与えよう。
先に言っておくけれど、これは小さな電池で動いていた玩具に
大きな発電機を増設する様なものだ。当然、苦痛は伴うだろうし、
負荷に耐え切れなければその存在は、不条理で名状し難い予期せぬ事象、
混沌とした不具合の一部と化してしまうだろう。
だが、それに打ち勝ちさえすれば、この場を切り抜け、
生き延びるだけの力は得られる。そこから先は……それも君の自由にすればいい。
復讐に生きるのもいいし、その力を振りかざして威張り散らすお山の大将として、
飽きるまで傍若無人に生きてみるのもいいだろう。
当然、このまま何もせず、死を待つのもまた君の自由さ。
長くなってごめんね、悪いクセだ。それじゃあ、改めてもう一度聞こうか』
すう、とミュウは呼吸を整える。
『君は、これからどうしたい?』
――”ならば、よこせ。その力を”
簡潔に俺は念じた。
明日明後日位に続き書くよ
ミュウって初代赤緑のデバッグ終了後に僅かに空いた容量に無理矢理データ詰め込んだんだっけか
そのせいで赤緑の初期ROMはバグまみれの代物になったとか何とかどこかで見た
保守
GJです
まさにミュウは“混沌”ですね
投下は夕方〜夜位に
遅くなってゴメン
『力を得て、それから君はどうするの?』
――分からない。だが今は生きる、生きたい。そのすべがあるというのなら、
その力がそうだというのなら、欲しい、力が!
力を得てどうしたいのか、その時は思いつきもしなかった。
だが、俺の命を身を挺して紡いでくれた者達の存在が、
彼女が最期に遺した”生きろ”という言葉が、
暗雲切り裂く雷光の如く俺の心で轟いた。
『ふむ、今はただ”生きたい”か。実に単純でシンプル。
だけど、故に、力強くぶれ難い、か。ふふ……いいよ、すごくいい。
絶えず奔放に捻じ曲がり移ろい続けるものと上手くお付き合いするには、
確固たる個、強い意志が必要だ。今はまだその一点だけで十分。
そこから更に先、何がしたいかは後から必要になった時に見出せばいいさ』
分厚いガラスに鋭い鉄の刃が突き立つような音と共に、
空気がびりびりと激しく揺らいだ。
『おおっと、そろそろここも限界だ。”彼ら”の仕立てたとっておきの勇者が
すぐそこまでやってきた。祝福を受けた牙の斧を鍛え抜かれた肉体でもって
振り下ろされれば、たちまちボクの障壁はぶち破られるだろうッ!
その前に、ボクは君に与える』
そっと背に温かい感触が伝わる。
『君とはもっと話したい事、話すべき事もあるけれど――』
次の瞬間、何本もの楔を突き立てられたかのような衝撃が背中に走る。
地下で受けた時の何倍、比べ物にならないほどの苦痛。
衝撃は神経の一本一本に熱せられた鉄線のように絡み付き、
締め付けながら徐々に全身へと広がっていった。
視界が、己の体が様々にぶれて見えた。時に砂嵐のように、真っ黒な汚泥のように、
ひび割れるガラスのように、無意味な文字列のように、不条理に名状し難く。
混沌とした”ぶれ”に思考さえも呑まれ砕かれ、掻き消えそうになる中、
”生きたい、生きる”ただその意志を強く強く抱いた。
リアルタイムktkr
一旦ここまで、続きはまた明日に
GJです
明日の今くらいには投下する
――生きる、生きたい。生物の根源たる意志、理想。想う度に意識の虚空に浮かぶ
一筋の糸の様な光を集めて紡ぎ、砕かれた意識を縫いつけ、重ねて織り込む。
やがてそれは、混沌の渦の中においてもぶれない、一本の光の帯のようになって感じた。
生きる、その為には力、生き残るだけの力が欲しい。
意識の中に、猛々しい竜達の姿とその凄絶たる力のイメージが浮かぶ。
生きて残るには、奴らを打ち倒し、退けるだけの力が必要だ。
奴らが恐れる程の力――強くそう意識すると、意識の中の光の帯がぐねぐねと捩れ、
混沌の渦と交じり合い、螺旋状に絡み合った。
絡み合った二つの帯は伸縮しながら互いに輝きを強めていき、
いつの間にかその光は意識の中だけじゃない、意識の外にまで漏れ出して、
俺の体を包むように広がっていった。
それは、進化の光――俺達ポケモンが種族によって様々な要因により、
大きく姿を変える際に放つ光――にとても良く似ていた。
輝きは最高潮に達し、俺の体を包みきる。進化……駄目だ、ただ単純なライチュウへの進化では。
多少力が増しただけでは、あれだけの竜達には到底及ばない。
ならば、一部とはいえ、ミュウと同質の力が使えるのであれば――!
神に最も近しいもの、生物として最高位と謳われる奴らに並び、追い落とすには――!
俺をの心を奮い立たせた青白い雷光が今再び、解き放たれるのを今や遅しと待ち受けるように、
ゴロゴロと低く唸る。
GJです
明日明後日位に続き書きたいです
保守
明日の今位には投下します
再度の外から受ける強い衝撃を感じた。障壁がバリバリと卵の殻のように
破られる音がし、瓦礫が勢い良く引き剥がされ、光が差し込む。
逸ったクリムガンの一頭が、ぎゃあぎゃあとやかましく喚きながら、
ぬっと顔を覗かせた。
身を包む異形の光が目一杯に瞬き、体の奥底から解き放たれた
青白い光が一斉に噴き出た。
天裂き、地を砕く雷鳴の如き咆哮。
血液全てが煮え立つ油かガソリンか強心剤か起爆剤にでも
入れ替えられたのではないかと思うほどに全身が沸き立つ感覚。
乱気流の中心にでもいるかのようにがくがくと震える視界の中で、
驚き竦むクリムガンの赤ッ面を”何か”の腕が鷲掴みにした。
体から腕へ膨大な電流が伝わり、掴む手の中で弾ける。
――『お見事だね。数ある可能性の中、想像以上にトンでもないのを
君は引き当ててしまったな。今を生き残ろうとするなら、それくらいは必要か。
最後に一つ、そして無理にとは言わない。もしも、ボクが遺していこうとしている
希望たるものが、世界を害するものとなりそうであれば、君の手で止めてくれたら嬉しい。
――君自身がそうならないとも言い切れないけど――。
まあ、なんにせよ、君が無事に生き残れたらの話だ。今はただ……』
背後から紅蓮の炎が吹き出し、頬をそっと撫でるように揺らめく。
――『このとびきりの衣装で踊ろう、ふたりで。暴れよう、存分に――』
甘く、ミュウだったものは耳元で囁いた。
一旦、ここまで
続きはまた明日明後日位に
GJです
保守
明日の今くらいには投下します
ごめんなさい、ちょっと予定より遅れそうです
今日の夕方か夜位までには間に合わせます
囁きに誘われるように全身を巡る力の奔流はより一層激しくなり、
理性を飲み込んだ。
そこから先の記憶は、まるでフィルムがボロボロに劣化しきって
幾つもシーンが欠けている映画のように、ひどく断片的で不明瞭なものだ。
その中で俺は俺のものじゃない剛腕を振るって、自分よりも小さくなって見える
クリムガンを蹴散らした。
大空を舞うボーマンダやサザンドラの所まで体は軽々と空気を切り裂いて飛び、
奴らを叩き落した。
全身を黒く焼き焦がされても尚立ち上がり、オノノクスは言った。
『悪魔め』、と。
空にヒビが走った。窓ガラスに釘を打ち付けたような、そんなヒビだ。
ヒビは瞬く間に大きくなって、ぱらぱらと空の一部が剥がれた。
その中に広がる不気味な極彩色の空間のから、ぬっと一本の腕が伸びた。
磨き抜かれた大理石で出来た彫像のような、美しくもおぞましい、
真珠色をした腕だった。
腕は空にヒビを入れ、強引に引き剥がし極彩色の空間を更に大きく広げた。
広がった空間へと、そこから姿を現そうとした”何か”へと
ミュウが姿を変えた純白の飛竜は向かっていき――それを最後に、記憶は途絶えている。
次に意識が戻った時、目の前には青空が広がっていた。雲一つ穢れ一つ無い
澄み通った平和な空だった。今までは全てが悪い夢だったんじゃあないか。
俺はシスターとピクニックにでも来ていて、そこで不意にうたた寝をしてしまい、
嫌な夢を見ていただけなんじゃあないか。体を起こして横を見たら、
〈やっと起きたの、お寝坊さん〉だなんて彼女が笑いかけてくれて――
そんな淡い期待は、周りに広がる灰と瓦礫の山が打ち壊した。
ゼクロム?
ミュウがレシラムだしそうだと思う
明日明後日にでも続き書くよ
あけおめ
531 :
名無しさん、君に決めた!:2013/01/01(火) 23:04:50.40 ID:ZDw4938+0
新参者です よろしくです あけおめです
532 :
うりゃ:2013/01/01(火) 23:06:57.72 ID:ZDw4938+0
↑のやつです
半年ROMってろ
明日の今くらいには投下する
空と地を埋め尽くしそうな程の竜達の姿は影も形も無く消えていた。
残るは真っ黒に炭化した木片と、大小数も元となる物もわからない燃えがらの山。
それら瓦礫がかつては教会のかたちをしていたと告げる、傍に突き立つ十字の像は、
表面が焼け溶けてまるで邪悪で奇怪な生物の翼のように歪み爛れている。
どこからが幻想でどこまでが真実だったのか。全てが実際にあった事柄だというのなら、
俺は一体何をされて、何になったのか。
両の手を眺める。黄色く短い毛の生え揃った小さな手。足を見る。同じ色の短い足。
尻尾を確認する。ギザギザの平たい尻尾。体を捩じらせて、手を使いながら背中を調べる。
縦に曲がりくねって走る毛の無い箇所、大きな傷跡。他の部位、耳も、頬も、体も全て、
かつての俺となんら変わりない。
下半身に思い切り力を込め、飛び上がるように起き上がる。
体は程々の常識的な高さに跳び上がって、すたんと着地した。
体の自由が利く。それに痛みも無い。その時にわかった違いはそれだけだ。
ミュウの名を叫んだ。頭の中で念じてみた。返答は無い。
吹き抜ける風が巻き上げた灰がさらさらと舞い落ちる音だけが虚しく響いた。
シスターを呼んだ、叫んだ、ゾロアークの名を、牧師の名を、ズルッグの名を、
チラーミィの名を、ダルマッカの名を、村民達の名を、戦友の名を。いずれも返事は無い。
瓦礫の山を掘り返した。手が傷付き裂けそうになるのも忘れ、がむしゃらに。
ひたすらひたすら灰と瓦礫を掻き分け探し続け、とうとう見つけた。
黒い、フード付きのケープ。
ゆっくり、ゆっくりと、一センチ動かすのに何秒もかけながら、
ケープに手を伸ばした。端を掴む。手ががくがくと震え、呼吸が乱れた。
心臓が気が狂いそうなほどに暴れた。
意を決し、勢い良く捲り上げる。
――何も、何もなかった。なくなっていた。
ケープの下には、灰しかなかった。ケープだけを残し、彼女の姿は跡形も無く消えていた。
力なくケープを抱いた。どの位そうしていたかはわからない。
その後に俺はケープを広げ、灰を両手で何度か掬い上げて包んだ。
包みを抱え、歩き出した。でこぼこに穿たれた無数の穴だけが残る荒野を。
俺は知っている。かつてそこに小さな村があったことを。
何度も何度も通った道。目をつぶっていても、形が多少変わっていても、覚えている。
ようやく辿り着いた丘の上。俺はそこに穴を掘り、包みを静かに埋めた。
そこでようやく目から雫が滴った。ボロボロボロボロと止め処なく。
体中の水分を全て出し切りそうなほどに溢れた。
雫も涸れきって呻き一つ出なくなった時。俺は彼女の隣に転がり落ちるように座り、
村の方を眺めた。自然の額縁も燃えて無くなり、何もない荒れた大地を見つめ続けた。
頭の中のキャンバスにかつてあった村の情景を描いて、虚ろな視界に重ねて。
そのままいつまでも、ずっと、延々と。石くれのように動かず。
雨に打たれた。風に吹かれた。昼と夜を何度も繰り返した。
ある時だ。村の方、教会の方に異変を感じた。
遅れてすまん、また明日明後日位に続き投下する
保守
GJです
今更ですが、あけおめです
明日の今くらいには投下する
保守
ちょっと立て込んでた、朝方くらいまでには投下する
夜の帳が下りた静寂な闇の中に揺れる、幾つかの光が見えた。
それは教会のあった場所だ。感覚を研ぎ澄ましてみれば、何かを掘り起こすような
物音も微かに聞こえた。感じる嫌な気配、湧き上がってくる怒りの感情。
血液が沸騰し、石くれのように動かなかった体は稲妻の如く疾く闇を切り裂いた。
吹きさらしにて延々飲まず喰わずでいたにもかかわらず、
肉体は燃え上がるように熱く漲り、まるで疲労も衰えも感じさせなかった。
跡地には、研究員らしき風貌をした人間が数名と、護衛と思わしき
厳つい体格をした人間達とそのポケモン達の姿があった。
丘から見えた光はそいつらが設置した照明器具によるものだった。
光が集まる先は瓦礫がどけられ、大穴が掘り起こされている。
奴らは一斉にこちらに照明を向けて姿を確認した。人間達はどよめき、
威嚇の声を上げるポケモン達の目には僅かに怯えが映る。
一人の研究員が叫ぶように何か命じた。躊躇いがちに護衛達は応じ、
ポケモン達を俺にけしかける。
そいつらの素性、目的はわからない。どうでもよかった。
俺の場所を土足で踏み躙り、穢したことがとにかく許せなかった。
ただただ怒りで思考が満たされ、そのままに突き動かされた。
そいつらを蹴散らし追い遣っても、似たような一団は何度も何度もしつこく、
数と質を増して村にやって来た。その度に辺りは焼け、穿たれ、歪み、
かつての面影を尚更に無くして荒廃していった。その度に俺の精神と肉体もまた、
同じように歪み、荒れ、かつての面影を無くしていっているように感じた。
このまま生きて、生き続けて何があるのだろう。ふと、疑問を抱いた。
何も、生きていても何も無いじゃないか。このままならばこの地と共に俺も荒れ果て、
朽ちていくだけだ。彼女は最期に言った。生きてさえいれば、
いつか必ずあの子に会える、と。一体どういう意味なのか。わからなかった。
少しばかり冷静さと思考力を取り戻した頭で、執拗に村を訪れる一団の
目的について考えた。少なくとも、救助隊というなりではない。
あくまで秘密裏にこそこそと人目を忍ぶように、いつも奴らはやってくる。
必ず傍に数人、研究員らしき人間も連れ立ってだ。
そういえば、奴らは最初に教会の跡地を掘り返そうとしていた。
教会の地下――思い立ち、俺は自身で発掘途中になっていた穴を掘り返してみた。
掘り返し続けるとすぐに固い石の瓦礫に当たった。完全に崩れて埋まってしまっているが、
地下室に続く階段の一部に違いなかった。階段がこの様子では、
地下室も崩れてしまっているだろう。生存している者は確実にいない。わかりきっている。
それでもとり憑かれた様に俺は瓦礫をどかし続けた。
やがて、俺は辿り着く。砕け割れた扉の木片と、崩れきった地下室。
そこから突き出ている黒く煤けた……。その先の方には黒色をした長い布切れ
――在りし日、あの子のタマゴを背負うために使っていたおんぶ紐――が握られていた。
まるで誰かに託し渡すように、懸命にしっかりと。
明日明後日にでも続き書く
そういや今更だけど新作発売だってね
X,Yとタイトルの「ン」の形から遺伝子関係の予感
発売は十月くらいか
新ポケも出てBW2の時以上に板の流れが速くなるだろうから注意しないとね
投下は夜か深夜のあまり遅くならない内に
ぐっと握り返す。託されんとしているものを一つも零さぬようしっかりと。
やりたいこと、やれること、やるべきこと、数え切れぬほどあったろう。
握る手から伝わる彼らの無念。様々な想い。その一つ一つを束ね、紡ぐ。
生きる意義を疑い、捻じ曲がり歪んだ意思が微かな纏まりを見せた。
――俺がやるべき事は、ここでただ怒りのまま暴れ、憎悪をぶつけ、
朽ちゆくのを待つ事じゃあない。
織り上げた意志と共におんぶ紐を受け取り、勢い良く宙に広げる。
掲げられた印旗の如く、ミュウの毛皮で織られた布は力強くはためいた。
いつか、彼女は言った。幼き頃、自分を庇って死んだ両親の分、
長く生きた代わりに、他の者の為になって生きていこうと。
自分の力なんてたかが知れているけれど、同じような悲しみを味わうものを
少しでも減らすことが出来ればそれでいいと。
ならば、俺も、そうしよう。自己満足かもしれない。
それで彼らが、彼女が、あの子が本当に喜んでくれるか確認しようも無いけれど、
何もしないでうじうじしているよりずっといい……!
布を翻して首に巻きつけ、纏った。しかと背負った。彼らの思いを、
彼女の覚悟を、生き様を。誓った。俺は二度と命を奪わない。
そして、無下に奪わせもしないと。
遅れてすまん、また土曜くらいに投下する
保守
すまん、ちょっと急用が入った
明日の今頃には投下できるようにする
ずしりと重みを感じる。だけど、その重みが確固たる重心を生み出し、
しっかと大地をぶれなく捉え、踏み締められた。
思い出の丘の上、掻き集めた教会の残骸で拵えた墓標の前で手を組み、祈る。
大きな戦いが終結したとしても、混乱は今しばらく続く。
戦禍に荒れた大地は住む者の心をも荒らす。隙に乗じて逃げ出し、
野生化した強力な軍用ポケモン達もいるに違いない。略奪、暴力、破壊が横行し、
その魔の手はまだ抵抗する術も覚悟も持たないような
幼い子達にも容赦なく降りかかるだろう。――あの子の時と同じように、
ズルッグと、ダルマッカと、チラーミィと……教会の子達の時と同じように。
生きてさえいればあの子に会える……村の外にも、きっとあの子達のように、
理不尽な脅威に晒されんとしている子達がいる。
そんな子達をひとりでも多く救え。俺は彼女の最後の言葉をそう解釈した。
真意は彼女にしかわからない。最早、誰にも知るよしは無い。
だけど、”生きる”その先に新たに見出した意志は、俺を再び奮い立たせ、繋ぎ止めた。
村の方へ敬礼を掲げ、言った。
”行ってきます”
返事は無い。首巻にした布の裾をそっと踊らすそよ風に背を押され、俺は村を発った。
明日明後日ぐらいに続き書きます
保守
GJです
明日の今くらいには投下します
様々な場所を見て歩いた。前向きに復興に向かう者達を見て励まされる一方、
予見した通りの凄惨な場面にも数多く出くわした。その度に俺は戦った。
彼女の、あの子達の、彼らの、力無き者達の代わりとなって。
誓いの通り、誰の命も奪わぬように。
いつも全て上手くいったわけじゃあない。
力及ばず、既に時遅く、守りきれなかった事もあった。
恐れ、疎まれ、守ったはずの者達に石投げられる事もあった。
当然だったろう。兵器として俺に仕込まれた力と技は、
誰かの命を守るためのものじゃあない。そのまるで反対、
いかに多くの者の命を奪い殺すかの技術だ。
それでも俺は立ち止まらなかった。失敗に直面する度、
傷付いた心身を首巻に包まって癒しながら省み、模索した。
ずっと村を守護してきたゾロアークだったら、どう守っただろうか。
最低にまで落ちぶれていた俺を励まし救ったシスターだったら、どう説得しただろうか。
思い起こして照らし合わせ、ふたりに少しでも追いつこうと練磨した。
――今でも追いつけたなんて思っていないよ。
背中ぐらいは見えてきたかななんて思いたいけれど……まだまだ未熟だ、俺は。
ふたりの名のもと、代わりとなってだなんてとても名乗れはしない。
また明日明後日ぐらいに投下します
保守
投下は明日の今くらいには
すみません、もう少し遅くなりそうです
今日の夕方か夜くらいには投下したいです
旅の間、一所には決して長く留まらなかった。
旅の目的上というのもあるが、村の跡地を探っていたあの奇妙な連中に
俺自身が付け狙われるようになっていたからだ。
奴らの狙いは俺が地下から持ち出したミュウの毛皮か、
ミュウに何かされた俺自体か、その両方なのか、結局ハッキリはしなかった。
言葉の通じない人間を問い詰めることは出来ないし、
使役されているポケモン達もろくに事情も知らないままに従っているだけだ。
一つだけわかったのは軍の関係者だったであろうことだけ。
人間もポケモンも何人何匹か過去にどこかの戦場で見た覚えのある顔があった。
その中にはかつての同胞、同じ部隊の仲間の姿もあった。
極力、戦いは避けるように努めた。逃げ、隠れ、時には説得し……。
どれも効かず避けられない時は出来る限り相手に大きな負傷をさせぬようにした。
だが、ただの一度だけ取り返しのつかない大怪我を負わせてしまったことがある。
それも同じ部隊の仲間だった者にだ。
バンギラス――重い腰を上げさえすれば部隊一の実力であったあいつを相手に
加減をする余裕はまるで無かった。何日にも渡る追跡劇と死闘の末、
俺はあいつの片目を奪ってしまった。強者との戦いを何よりの愉悦とするあいつにとって、
戦士の生命線の一つたる目を奪われ、尚生かされることは耐え難い苦痛と屈辱だったろう。
まだどこかで生きているならば、いまだ俺を深く恨み憎んでいるかもしれない……。
少しトラブルがあって予定より大分遅れてしまってすみません
明日明後日にでも続き書くよ
避難所にジョウト編の予定的な議論があったから俺も書いてきた
保守
明日の今くらいには投下するよ
ごめん、もう少し遅くなる
今日の夜〜深夜くらいに
ある時を境に、急に奴らはぱったりと姿を現さなくなった。
俺を追うのを諦めたのか、はたまたその必要性が無くなったのか……。
あれだけしつこく追ってきた奴らが、早々簡単に諦めるとは思えない。
何か代替えとなるもの、あるいはそれ以上のものを得たのかもしれない。
あくまで推測だ。結局、正体も目的もはっきりと掴めないまま、
奴らはまるで影か幻だったかのように俺の周りから姿を消してしまった。
釈然としない思いを抱えながらも旅は続け、
長い時間を経てかの地にもようやく平穏が訪れようとしていた頃、
気になる風の便りが俺の耳に届いた。
近年になってとある小さな島国のポケモン研究所が急激に目覚ましい研究成果を
あげるようになったのだという。
普段であれば人間の研究なんて――大勢の者達を苦しめるようなもので無ければ――
自分には関係の無い話だと気にもとめない所だけれど、
何故だかその時は無性に胸騒ぎがしたんだ。
俺はとある島国と研究所の話を噂を運んできた鳥ポケモン達に詳しく尋ね、
言い知れない胸騒ぎの原因を確かめる為その島国へ渡る事を決心した。
目指す島国に渡るにはるばる海を越えて行かなければならない。
時に渡りをするポケモン達の力を借り、時に人間達の船に潜り込み……。
長い長い旅路の末、俺はその島国――この国へと辿り着いた。
遅れてすまん
また明日か明後日にでも投下する
保守
島に降り立つと、早々に俺は研究所の手がかりを捜し求めた。
情報を集めるのであれば空からの目、鳥達に聞くか、
あるいは多少リスクはあるけれど、人に飼われているポケモン
――人間と共に暮らす内に人々の噂やテレビ等の音を自然と耳にしている――に、
そっと飼い主の目を盗んで木の実でも手土産に接触するのが効果的だ。
彼らによれば、カントーと呼ばれる地方のグレン島という場所に
それらしき研究所はあるという。早速、俺はカントー地方を目指した。
かつて渡り歩いた国々、大陸に比べればこの島国はずっと狭いけれど……
何ていうのだろう、今までのどこの国よりも大気に精気が満ち足りてるというか、
独特で神秘的な雰囲気を旅の中で感じたな。
いよいよカントー地方へと辿り着き、グレン島を目指す途中、
深い深い森の中を通りがかった。一歩一歩、土を踏み締める度、
森に流れる空気を吸い込む度、胸にとても懐かしい感覚が溢れた。
理由を探り、すぐに思い当たる。あの村の傍にあった森と良く似ているんだ、と。
追憶にうつつを抜かしながら歩く内、俺は道をどこかで違えて迷ってしまい、
仕方なく原住のポケモン達の姿を探し、道を尋ねて回った。
その中で、少し違和感を覚える。俺の種族は生息地が限られた割りと希少種のようで、
大抵のポケモン達は接触すると、この辺じゃ見たこと無い奴だと、俺の種族を珍しがったり
怪しがったりしたものだけど、この森に住むポケモン達はまるでそんな事は無かった。
気になってそれとなく尋ねてみれば、なんとこの森には俺の同族達も暮らしているのだという。
野生で生きる同族達。とても興味が惹かれた。
シスターも、それまでの旅の途中で僅かに見かけた同族達も皆、
人のもとで暮らしていた者ばかりだった。同族達と相見えるのも随分と
ご無沙汰というのもあり、俺はその同族達に会ってみたくなった。
これから森を抜け、改めてグレン島に向かうには少し時間を食いすぎたのもあり、
一晩の宿を貸してもらう事もついでにして、彼らの居場所を尋ね探した。
いざ会った彼らは、長旅で汚れているであろう俺の体と痛んだ首巻を見て
不思議そうな顔を浮かべたけれど、少し話せばすぐに打ち解けて、
今は使われていない巣穴の一つを宿として貸してくれることになった。
暖かい藁に包まれながら、ゆったりと体を横たえられるのは随分と久しぶりの事だった。
その日の晩。俺は夢を見た。彼女の夢だ。俺が見ることができた彼女の夢は、
いつも決まって最期の、瓦礫が振り落ちる寸前の姿ばかりだった。
その度にうなされ、飛び起きて……。
だけど、その日は違った。生まれたばかりのタマゴを抱え、彼女は幸せそうに笑っていた。
既に遠く過ぎ去った、幸せな日々の夢だ。暖かなものが胸と目から溢れ、
俺は駆け寄ろうとする。しかし、どんなに駆け様と一向に傍まで寄れる事は無く、
やがてその情景は水彩画に水を垂らした様に徐々にぼんやりと薄まり、消えゆこうとしていた。
行かないでくれ――懸命に手を伸ばした。消えようとする瞬間、
彼女は大事そうにタマゴをこちらに差し出す。と同時に目が覚め、俺は上半身を飛び起こさせた。
息を整えながら穴の方を見ると、外からは柔らかな朝日が差し込んでいた。
いつもよりはずっと長い間深々と眠っていられたようだ。体をほぐしつつ起き上がろうとすると、
横腹の辺りに妙な感触の物体が触れる。つるりとしていてまん丸な……。
びっくりして見てみれば、それは何かの、ポケモンのタマゴのようだった。
明日明後日にでも続き書く
保守
GJです
明日の今くらいには投下する
もうちょい遅れそう
今日の夜か深夜くらいまでには何とか
俺はしばらくの間、タマゴを呆気に取られて眺めた。
昨日の夜にはこんなものは巣穴の中には無かった。万が一見落としていたとしても、
脇腹にこんなものが触れればすぐにわかるはずだ。
俺が寝ている隙に、誰かが忍び込んできてそっと置いていったのだろうか。
幾ら寝入っていたとはいえ、枕元に何か寄る気配があればすぐに気付いて
起きるくらいには警戒力は身に着けているつもりだ。
ましてや腹の横にこんな大きな物体を仕掛けられるなんて、
不可解で仕方なかった。余程の隠密の手練か、瞬間移動でもさせたのか、
あるいは超スピードか、それとももっと高度な能力か……だったとして、
なぜそんな手段を持つ者が、こんな――自分で言うのもなんだけど――
小汚い格好をした放浪者のもとにタマゴをもたらしたのか。
尽きぬ疑問と思索を妨げたのは、出し抜けにタマゴから発せられた異音。
ぴしりぴしり、と音は立て続き、つるりとしたタマゴの表面にギザギザの亀裂が走った。
まさか、生まれる――?
固唾を呑んでその様を見守った。
亀裂は瞬く間にタマゴ全体へと広がり、柔らかな光が隙間から漏れ出す。
一際大きな亀裂音を鳴り響かせ一拍の間を置いた後、
タマゴは豪快に自身の殻を弾き飛ばした。そして、生まれてきたものは……
黄色い毛並みをした小さなネズミ――ピチューだった。
そいつはピチューにしては少しばかり目付きの悪い眼をパチクリさせ、
幅広の三角耳をぴくぴくさせながら辺りを見回し、やがて俺の姿に気付く。
じとり、とした目で俺の顔を眺め、俺も硬直したままそれを見返していると、
暫くしてそいつは何だか不機嫌そうに顔を顰め、そそくさと傍にあったタマゴの残骸を
ヘルメットを被るようにひっくり返して隠れてしまった。
ピチュー? 何故、どうして同族の子のタマゴが俺のもとに?
益々降って湧く疑問と混乱を再び邪魔をしたのは、
またしても唐突にタマゴの殻の下から発せられた『ぐう』という妙な音だ。
俺ははっと我に返り、”お腹が空いているのか?”と、
タマゴの下に優しく声をかけた。
すると、ぎくりとタマゴの殻は揺れ動く。
やっぱりかと俺はクスと思わず笑い、余っていたオレンの実をタマゴの傍で差し出して、
”これ、食べないかい? よかったら出ておいでよ”と言った。
タマゴの殻は少し思い悩むように動きを止めた後、恐る恐る片側が持ち上がった。
直後、黄色い小さな手が中から伸び、俺の手から素早くオレンの実をひったくると、
忽ちまた殻の中に篭ってしまった。
殻の下から微かに聞こえてくるシャクシャクと齧る音を聞きながら、
俺は仕方なく苦笑いを浮かべた。
――それがその子、ピチューとの出会いさ。
続きはまた明日明後日くらいに
保守
今日の夜か深夜くらいには投下する
どうするべきか、はたと考える。実を食べ終えたのか殻の下はしたと静まり返り、
僅かに持ち上げられた隙間からじとりと視線が覗いていた。
このまま膠着していても埒が明かないと俺は殻を持ち上げて退かし、
わたわたよたよたと這って逃げようとするそいつをひょいと背中に担いで
素早く首巻をおんぶ紐代わりにして縛った。
どういう経緯で俺のところに辿り着くことになったのかはわからないけれど、
手違いで送られてきたのならちゃんと本当の両親のもとへ返してあげないと。
森に住む同族達なら何か知っているだろうと思い至った。
背中でどうにか逃げ出そうとじたじた大暴れしているのを感じる。
”少し大人しくしていてくれよ。すぐに本当のお父さんとお母さんたちの所に
帰してあげるからさ。えーっと――”
俺はそいつをどう呼んだものか思案する。
大事な名前を勝手に名付けてしまったらマズイし、とりあえず……
”チビ助”俺はそいつの事をそう愛称で呼ぶことにした。
どうせすぐに親は見つかるだろうし、短い間だ適当でもいいだろうってね。
しかし、だ。森中の同族達に聞いてみても、このチビ助の所在を知るものは
誰ひとりとしていなかったんだ。森ぐるみで何か隠しているんじゃあないかとも
疑ってみたけれどそんな風にも見えない。
この地方の北東の山奥にある無人発電所と呼ばれる施設にも僅かながら同族達が
生息しているという話を聞いて、ひとしきり悩んだ末、
俺はチビ助を連れてその発電所を訪ねてみようと思い立つ。
森の同族達も子育ての時期、預けようにも他人の子にまで中々手は回らない。
それに本当の両親達も大層心配している事だろう。子どもを失った悲しみというものは……
己の魂まで抉られそうなほどに胸の奥にまで深く、根深く突き刺さる。
そんな思いをもう誰にも味わわせたくは無い。
何か理由があって俺に預けられたのだとしたら、それも確かめなくてはならない。
一体何が差し迫って俺のような見ず知らずの放浪者へ自分の大事な子を預けたのか。
大した理由も無く捨てるようにであったら、説教の一つ、
場合によっては電撃の一つでもくれてやろう。
グレン島への旅は一時中断し、背中のチビ助と共に無人発電所を目指した。
子連れでの旅はひとりの時よりも何倍も、何十倍もそれはそれは大変なものだった。
いつでもチビ助の状態に気を配らなきゃあならないし、
全盛よりは衰えたとはいえまだまだ体力はある方だと自負するが、
常に何かを背負いながら延々と歩くというのは非常にエネルギーを奪われるし、
何よりこのチビ助のヤツがこれがまた全然懐かない!
今でこそまあ多少はマシにはなったけれど、当時のこいつときたら
隙あらば隠れて逃げて、それはまだ簡単に捕まえられるからいいけど、
抱き寄せて背負い直そうとすれば暴れて引っ掻いて睨んできて……
まったくもって可愛くないヤツだったんだ。
それが旅の苦楽を共にする内に段々と少しずつ、ちょっとずつ、
極々僅かにながら打ち解けてきたわけだけれど。
結局、無人発電所でも手がかりは見つからず、カントーの陸地をぐるりと巡りながら
尋ねて回っても結果は同じく、最終的にはチビ助と初めて出会った森、トキワの森へと戻ってきた。
この地にいればその内いつか両親が迎えに来てくれるかもしれない。
その時まで俺がこのチビ助を育て、守り抜くと決心した。本当の親には敵わないだろうけど、
俺なりに実の子のように愛情を注いでさ。
乙です
明日か明後日にでも続きを書きたいです
乙
マフラー野郎の過去話も一段落したしこれからのドンの過去話の予定的なものを避難所に投下してきたよ
保守
避難所より
25 :名無しさん:2013/02/28(木) 14:12:25
すいません、本スレの
>>587ですが、投下予告しようと思ったら、アクセス規制されているw
2、3日で解除されればいいのですが、もし規制が長引くようだったら(何しろ妙に削除人の目の敵にされているプロバイダなもんで)
こちらに書き込むので、どなたか代理で投下してもらえないでしょうか。
申し訳ないですが、よろしくお願いします。
トキワの森での生活は――手の掛かるチビ助の事を除けば――平穏無事に過ぎて行った。
森に住んでいるのはキャタピーやビードルのような大人しい虫達、それに争いを好まない同族達だけだったし、
たまに人間のトレーナーが訪れるぐらいで、特に大きな危険もなかった。
余所者に対し、最初は遠巻きに見ているだけだった森の住民達とも、徐々に仲良くなった。
俺は彼らに、自分は昔、人間に飼われていたが、こき使われるのが嫌になって逃げ出してきた、と説明した。
まあ、あながち嘘ではないからね。俺の様子が皆と何処となく異なっている事も、それで納得してくれたようだった。
『こんな大きな傷まで負って……苦労したんだねえ』と同情してくれる者もいた。
男手ひとつで慣れない子育ては大変だろう、と木の実や寝藁を分けてくれる者もいた。
子ども達は旅の話を聞きたがり、俺は彼らに――勿論、戦争に関わる話は除いて――他の国々やポケモンの事を語って聞かせた。
まあ、それもチビ助が暴れたり逃亡したりで、しばしば中断されたけれど。
一応は受け入れられた俺と違い、チビ助の方は住民達とも全く馴染めなかった。と言うより、馴染もうとしなかった。
大人達が面倒見ようとするのも、同じぐらいの子ども達が遊ぼうと誘うのも振り切り、すぐに木の洞や藪の中に潜り込んでしまう。
何とかとっ捕まえて巣穴に連れ戻し、宥めすかしてようやく寝付かせた頃にはすっかり日も暮れ、辺りは暗くなっている。
俺はもうグッタリと精根尽き果て、これだったら軍隊での地獄のような特訓の方がまだマシじゃないか、とさえ思うぐらいだった。
けれど、傍らで眠るチビ助のあどけない寝顔を見ていると、それだけで一日の疲れも吹き飛ぶ想いがした。
ところが、そんな或る日――
俺はいつものようにチビ助を探し回り、どこかで見掛けなかったかと近所に住む同族達に尋ねた。
すると中の一匹が、凄い勢いで2番道路の方へ走っていくのを見た、と言う。
森の中にいる分にはまだ安心だが、外へ出られてはどんな危険が待っているか分からない。
俺は彼らに礼を言うと、指し示す方へと急いで向かった。
鬱蒼と茂る木々を抜け、草むらをかき分けていくと急に視界が開け、舗装された道路が見えた。
程なく、その道の反対側に、チビ助の小さな背中を見付けた。
“なんだ、そんな所にいたのか”
幸い、辺りに人影はない。俺はホッとしながら道路を横切り、チビ助に近付いた。
チビ助は俺を見ると驚き、道路の北へ向かって一目散で駆け出して行った。
その先にあるのは、人間の住む場所――ニビシティという街――だ。
“駄目だよ、そっちに行っちゃ! 戻るんだ!”
俺は全速力でチビ助を追い掛け、悪戦苦闘の末に何とか尻尾を捕まえ、引き摺りながら戻ろうと即した――
その時だった。
『そこなネズミ殿! 貴殿はもしや……『黄色い悪魔』殿ではあるまいか?!』
突然、久しく呼ばれていなかったその綽名を呼ばれ、俺はギョッとして辺りを見回した。
――まさか……こんな所にまで追手が……?
迂闊だった。長らく追跡の手も途絶えていたので油断した、と歯噛みしてももう遅い。
“大丈夫だ……そこを動かないでくれ”
俺はその場に蹲るチビ助を宥めるように声を掛け、周囲を探るべく身構えた。
道路からも草むらからも物音は聞こえず、気配も感じない。少なくとも、声の主は地上にはいない。
ならば上か。俺は目線だけを動かし、辺りの木々を仰ぎ見た。
微かに感じる、見下ろすよう視線……だが、相手は余程の曲者なのか、その正確な位置までは掴ませて貰えない。
だが、上から来る、という事は、相手は空を飛べる奴だと見てほぼ間違いないだろう。
だとすれば――あの恐ろしい龍族を除けば――そのような奴の大多数に対して、俺の攻撃は有効な筈だ。
“……誰だ? その名を知っている、という事は只者ではないな”
相手からこちらの姿が見えている以上、どこへ逃げ込もうと無駄な事だ。
俺は牽制するように言い放ち、ゆっくりと体に電気を溜め始めた。
『はっはっは! やはり、そうであったか! 道理で、他のネズミ達とは雰囲気が違うと思った次第である。
心配は無用、どうか構えを解除されたし。折角生き永らえたこの身、むざむざと黒焦げにされてはたまらぬゆえ』
ところが、そんな俺の用心を、声の主は陽気な声で笑い飛ばした。
『今は懐かしきネズミ殿よ、よもや貴殿が生きていようとは、たとえ神でも気付きますまい!』
次の瞬間、上空からサアッと風が渦巻き、茶色い影が羽音と共に、俺の目の前へと舞い降りた。
“!! 君は……何故ここに!?”
保守
ピジョットかな?
乙
明日明後日にでも続き書きたいです
保守
明日の今くらい〜深夜には投下します
すみませんもう少し投下が遅れます
今日の夕方か夜くらいには何とか
流麗に光を反射し棚引く冠羽をかき上げ、気取った笑みを投げかけるその姿はまさしく。
”ピジョット!”
驚きに跳ね出されるように俺の口を飛び出した名に、
『如何にも、ご名答』
明々朗々高らかに彼は応え、さっと翼で敬礼を示した。
もう二度と会える事はあるまいと思っていた同輩との再会。
互いに暫し喜びあった後、積もり積もった話を延々立ち話するのも難だと
俺はピジョットを巣穴に招く事と相成った。
『いや全く、諸行無常かな。時の流れというのは移ろい変えるものだ、
物も、ひとの心さえも』
道すがらピジョットは俺とチビ助を見てふっと含み笑う。
”あの黄色い悪魔がこんなチビ助にいいように、って? ”
背中に縛り付けたチビ助が耳をぐいぐい引っ張って抗議するのを堪えながら、
俺は自嘲じみて笑い返す。くっくっとピジョットは耐え切れぬ様子で笑った。
僅かながら、縁や故あって――拝借、くすねて来たとも云う――所蔵していた酒を
酌み交わしながら俺とピジョットは語らった。
忌まわしくも懐かしい部隊での思い出、俺が彼女と共に軍を離れた後の話、
それから、あの”終わりの日”の事。
遅れてすみません、また明日くらいに改めて続き投下します
保守
その話の中でピジョットは幾らか小さな希望となりえるものを示した。
オノノクスから俺を逃がした後、スカーはピジョット共に逃げ出していたという。
あの日、ピジョットは竜達が飛び交う空で自身もまた竜の一頭に
付け狙われる最中、地上に多数のクリムガンの群れと、
彼奴らに取り囲まれひとり奮闘する黒い影、スカーの姿を見つけた。
数少ない生き延びた同胞、どうにか救援に向かいたいが、
後方に迫るボーマンダと、地上に蔓延るクリムガンの存在が邪魔をする。
その時、長引く追跡に業を煮やしたかボーマンダが必殺の流星を
呼び寄せんとけたたましい咆哮をあげた。
まさに絶体絶命、全力で翼に力を込め少しでも飛来する流星群の範囲より
逃れようとするのが定石。だが、この状況を逆手にとり、
ピジョットは乾坤一擲の大勝負に打って出た。
煌々と燃え落つる岩石の間を針穴に糸を通すようにすり抜けながら、
共に地上へと降下していった。流星の一つがまず初めにクリムガン一頭を押し潰し、
蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い出して出来た刹那の隙。
ピジョットは群れの上すれすれを滑空しながらスカーを見つけ、
獲物を掻っ攫うようにその肩に足爪を食い込ませて持ち去り、
次々と飛来する流星により巻き上がる土埃を煙幕代わりにその場を離脱した。
その時のスカーの暴れようはそれはひどい様子だったという。
満身創痍、誰が見てもそれ以上はもう戦える状態では無かろうに、
体力が尽き意識を失うその時まで、決死の形相で自分をあの村に戻せ、
行かなくちゃならないと喚き散らして聞かなかったという。
追い詰められて錯乱していたのだろうとその時は思っていたが、
逃げ込んで隠れ家とした崖上の洞窟にて看病の末に意識を取り戻したスカーの口から
俺とシスターの事を聞いたという。
明日明後日にでも続き書くよ
保守
投下は今日の夕方から夜くらいに
『すまぬ、ネズミ殿。もっと早くに事情を知り私も駆けつけていれば、
せめてシスター殿だけでも救えたやもしれぬというに』
口惜しげに顔を俯かせるピジョットに”いや……”と俺は首を振るう。
『かの御仁は私にとって英雄であった。私にだけでなく、
多くの我らの同輩達、無論、貴殿にも偉大な功績を残したろう。
英雄たる資格を持つ者は優れた武勲を誇る者のみにあらず。
それを身をもってシスター殿は示してくれたのだ。
かつての我らは皆どこか欠け、歪んでいたように思う。
かの御仁はその身振り口振りでもってその隙間を埋め合わせた。
それはなにも特別めいたものではない。シスター殿はただ普通に我らに接した。
普通に話し、普通に笑い、普通に怒り、普通に悲しみ……。
恐れ、忌み嫌われるばかりの我らに何の分け隔てなく。
ただそれのみ、だがそれが大きな救いとなった』
ピジョットは己の翼に刻まれた大小数多の古傷を眺め、しみじみと語る。
『過去の私が強欲なまでに武功を求めたのは何故であったか。
いつの間にか理由など無くし、ただただ楽しんでいた。
己の命を、時には他者の命をも賭け金として、無謀とも言える策に賭博の如く挑む事を。
それを越えた先にある大きな褒賞を得る事を。
だが、思い出した。私は英雄となりたかったのであると。
意味も無く羨望の眼差しや称賛を浴びたかったわけではない。
他の者達の理想・しるべとなり、導き、希望を与えたかったのだ。
そして、思い知らされた。武功なぞ無くとも、ひとは英雄に、
希望の担い手になり得るのだと』
はっと我に返ったようにピジョットは目を丸め、
手持ち無沙汰に揺らいでいた盃をグイと飲み干す。
『ふう、歳を食うごとに口はいらぬ湿り気とくどい苦味を帯びるものだな。
折角の再会を祝う席を汚してすまなんだ、ネズミ殿。はっはっはっ』
冠羽をかき上げ、ピジョットは爽快に笑い飛ばした。
用が立て込んで大分遅れた、すみません
保守
明日明後日にでも続き書く
保守
GJです
明日の今くらいまでには投下する
すまん急用でもうちょっと遅くなりそう
夕方〜夜くらいには
共に生き残ったというならスカーは今どうしているのだろうか。
ピジョットに尋ねる。
『うむ。生き残った私とスカー殿はまず村の様子を見に行く事と相成った。
我々のような脱走兵や村の生き残りがいるやも知れんとな――』
しかし、村は跡形も無く消えていた。確かにそこに村があった筈の場所には
ただ不毛の荒野が広がっていた。
あの下劣なトカゲ共に蹂躙され尽くされたのだろう、
上空から荒野を見下ろしながら忌々しそうにスカーは呟いた。
背にしがみ付く手から伝わる冷気と震えに、並ならぬ無念をピジョットは感じたそうだ。
暫し呆然と当ても無く旋回していると、奇妙な車両の一団が連なって
村の跡地に向かってこようとしているのが見えた。
一団の何が奇妙と言えば、上辺こそ塗装で一般の企業か何かの輸送車両を装ってはいるが、
ゴツゴツとした無骨で頑丈な造りはあからさまに軍用のそれだった。
その中の一台が一団を離れ、少し離れた位置から様子を窺う自分達の方へと
位置を把握しているかのように進路を変えたことにピジョット達は気付く。
また明日にでも投下する
GJです
明日の今位〜深夜には投下する
狙われていると察知し撤退を考えた頃には、既に飛行ポケモンが空に放たれ、
地上には岩ポケモン達が展開されていた。
編隊を組む飛行ポケモン達は的確な連携で二匹を追い詰め、
少し引き離したと思えば今度は地上から岩の対空砲火が雨霰の如く飛んでくる。
やはり素人ではない。ピジョットは確信を得た。
『彼奴らは間違いなく軍属であった者達だ。飛行部隊の中には、
私があの我らが最低部隊送りになる以前に所属していた部隊の顔なじみの姿があった。
微塵の躊躇なく嬉々として私に襲い掛かってきおったよ。心当たりは……省みれば山ほどに。
過去のツケ、因果は必ずや回って来る。痛感した次第である。
スカー殿の機転により自身の氷と我が風の力を組み合わせる術を思いつかねば
あの場は乗り切れなかったろう』
辛くもその場を凌いだ後も、奴らはピジョット達を襲った。
『何ゆえ、立場を欺いてまでに我らを執拗に狙うのか。
恐らくは彼奴らにとって表沙汰にはできない後ろ暗い行為の火消し、
隠蔽を図ろうと躍起になっているのだろうと思っていた。
殊に貴殿も含め我らが部隊にいた者は少々……うむ、”ひと癖”あるゆえ――』
幾度の襲撃の末、さしもの二匹もとうとう追い詰められる時が来た。
三方を敵に囲まれ、後方は崖、底からは激流が轟々と流れる音が響く。
先の戦いでピジョットは片翼を負傷し、対岸まで飛んで逃れる事は出来なかった。
よもやこれまで、覚悟を決めたピジョットは一つの賭けに出る。
GJです
明日明後日にでも続き書くよ
保守
明日の今くらい〜深夜には投下するよ
ピジョットが負傷していない片方の翼を高々と構えると、
内側に猛烈な風が渦となって孕み出した。それを見るや、
敵陣から風や氷など物ともしない屈強な鋼ポケモン達が進み出て並び、
じりじりと前進を始める。
『やけっぱちの悪あがきかよ。いいぜ、どっちが多くあのクソ共を
道連れに出来るか三途の川の渡し賃でも賭けっか』
悪態をつき、スカーは両の爪を研ぎ鳴らす。
『折角であるが、ごめんこうむる。それよりもっと採算ある勝負事の方へと
既に我が目は向いている』
言って、ピジョットはスカーの方へと向き直る。
翼に巻く強風がごうごうと乾いた音を立てていた。
スカーの眉間に皺が寄り、恐らくは『なんのつもりだ、クソ鳥公』
そう言を発せられるよりも早く――翼は力強く振り下ろされ、
解き放たれた風の激流がスカーを飲み込んだ。
大木をもしならせると図鑑にも謳われるピジョットの突風は、
片翼だけであろうと四十キログラムにも満たないスカーの体など
軽々と巻き上げて吹き飛ばす。
それは遠く遠く――崖の対岸に悠々と達するまで。
『幸運を』
ピジョットは敬礼し、呟いた。
『――スカー殿とはそりきりだ。しかしながら、如何なる修羅の場も己だけは生還し、
不滅と忌み恐れられた黒い死神殿のこと。必ずや今もどこかで生きている。
そうさな、今宵の晩餐の我が割り当てを全て賭けてもよい』
自信深げにピジョットは微笑んだ。
部隊時代、彼が同じ文句で賭けを持ち込んで負けた姿を俺は見た事が無い
――シスターというイレギュラーが迷い込んだあの晩を除いて、だけれど。
”確かに、あの黒猫なら百万回殺したとしても足りずに生き返ってきそうだ。
俺も賭けるなら生きている方に、だ”
『うむ困った。まるで賭けにならぬな、はっはっは』
スカーを対岸に送り飛ばした後、ピジョットは再び敵の方へと向いた。
それからとった行動は攻撃、逃走、そのどちらでもない。
風が止んだのを見計らい迫る鋼ポケモン達を見据え、
ピジョットは翼と足をそっと畳んでその場に堂々と座する。
無抵抗。それがピジョットの選んだ手段だった。
『逃走の中、彼奴らは我らを本気で仕留めようと思えば
仕留められた筈の局面が何回かあった。彼奴らは出来うるならば我々を
生け捕りにしたいのではないか、私はそう考えた。
ならばこの場はあえて捕まり、翼の傷をどうにか飛べるまでに癒した後、
内部より逃げ出す隙が生まれる可能性に賭けたのだ』
GJです
明日明後日にでも続き書くよ
保守
明日の今くらいの時間か深夜には投下するよ
ほし
突如、片割れを崖へと吹き飛ばし、己は今まで見せていた抵抗が
嘘のように黙して座り込む。敵にとってピジョットの行動はひどく奇異に映っただろう。
ポケモンなど所詮はろくに知恵も持たない畜生、道具、多少は自律思考のできる兵器としてしか
見ていないであろうあの類の人間達には尚の事。
隊列が止まり、いぶかしむ視線としばらく睨み合った後、
後方の人間が何やらポケモン達に指示を飛ばした。すぐさま鋼ポケモン達は列に隙間を空け、
その間から黄色の体毛が生えた大蜘蛛ポケモンがずんぐりとした六本足を
虫特有のどこか機械めいた規則ある動作で交互に揺らしながら、
獲物を刺激しないようゆっくりと進み出る。
大蜘蛛は巨大な二つの目と四つの小さな目でしっかりと狙いを定めると、
ピジョットに向けて大量の糸を吹き付けた。
糸が身に絡んだ瞬間、ピジョットは全身に雷に打たれたような衝撃を受ける。
激しい痺れと痛みに薄れゆく視界の中、モンスターボールを片手に歩み寄る人間の姿が見えた。
『次に私が目覚めたのは、薄暗い檻の中だった』
まだぼうっとする頭と視界でピジョットは己の置かれた状況を探った。
檻の内部は不気味なまでに清潔に保たれ、漂う消毒液のような臭いがツンと鼻を刺激する。
目が徐々に慣れ格子の隙間から外を窺えば、ずらり並ぶ同型の檻と、
収容されているポケモン達の姿があった。
また明日明後日にでも投下する
保守
明日の今くらいには投下する
捕らわれの者達は大小種別様々であったが、目と顔つきを見れば堅気ではない、
自分と同類の者達であろう事はすぐに察しがついた。
一体ここはどういった場所なのか。もっと手がかりとなるような物は無いか
探ろうと立ち上がると、妙に足元が浮つき、ふらつくような感覚に襲われ、
よたよたと檻の壁へと寄りかかる。
『あらぁん、お隣さんもお目覚めぇ?』
そんな折、物音に気付いたのか、壁越しに声が掛けられた。
姿は確認できないがきっと自分と同じように捕らえられて
いるのであろう声の主の言葉遣いはわざとらしい程に女らしいが、
声質はいやに野太い。
奇妙に思いつつもピジョットはその声に応じ、
自分達が置かれている状況について分かる事は無いか尋ねた。
すれば、ここは船上であり、自分達はどこぞの島国へと
秘密裏に輸送されている最中だと声の主は語った。
どういう目的があってのことか更に追求すると、
声の主は知ったこっちゃ無いと不機嫌に答える。
『まーた扱き使われちゃうか、何かの怪しい実験の材料にでもされるか、
危ないブローカーにでも身売りされちゃうか、どーせろくでもない事は保障するわぁん。
ほんっと、あたしが元居た所も大概だと思っていたけど、
こっちの軍ってもっとサイテーねぇ!』
聞けば、声の主は元々敵軍のポケモンであったが、
とある作戦にて自分の部隊が全滅し、鹵獲されてきたのだという。
『初恋のヒトだった主人の下から引き離されるわ、
わけわかんないものの追跡に無理矢理付き合わせられるわ、
それがやぁーっと済んだと思ったら、今度はこんな狭苦しい場所に
押し込められて島送りよ! もう最悪!』
えらくドスの利いた声でぷんぷんと声の主は憤慨した。
トラブルがあって大分投稿が遅れた…すみません
明日明後日にでも続き書く
保守
保守
夕方か夜くらいには投下する
『わけわからないものの追跡、と?』
ピジョットは首を傾げた。自分達を追っていた集団の目的は軍の暗部の火消し、
多くは脱走した兵器用ポケモン達の捕獲する事にあると踏んでいた。
ならば、幾らこの声の主がただ言いなりになって使役されていたとはいえ、
追跡の標的を”わけのわからないもの”と評するのは少しばかり妙だ。
『わけのわからないものと言ったらわけのわからないものよぉん。
最初は脱走者を捕まえさせられてるだけだと思っていたんだけどぉ、
捕まえる度に白衣来たモヤシ共がしゃしゃり出てきてねぇ。
変な機械みたいなので捕まえた子を調べてはがっかりしてたわぁん。
ギタイしてどうとかテキゴウがどうとか言ってる事が呪文みたいにちんぷんかんぷんだし、
ひょろっちい体に薬の臭いぷんぷんさせて、ホントあいつら嫌いよぉ。
やっぱ男だったらがっちりむっちりとした筋肉とぉ、
身から漂わせるのは香水や薬じゃあなくて男臭い汗でしょ! 汗!
それからそれから肌はちょっぴり浅黒でぇ――……』
沸き起こる胸焼けと悪化した眩暈を堪えつつ、
ピジョットは更なる疑問を口にする。
『あー……して、そのわけのわからないものの追跡は如何なる結果に終わったのだ?
先程、そなたは”それがやっと済んだ”と申していたが』
『もぉー、何なのよさっきから根掘り葉掘りぃー。
そんなにアタシと話したいの、お兄さん? ま、退屈だったから良いけどぉん。
そうそう、アタシが捕まえたわけじゃないしぃ直接は姿も見れて無いんだけどぉ、
とうとうそいつが捕まったらしいのよぉん。ええと、確かどこかの高地で?
分厚くて大きいガラス管みたいな機械を大層丁寧厳重にこの船に積み込まれるのを見たからぁ、
きっとその中にそいつが入れられてるんだと思うわぁん。
それに比べてアタシらの扱いってば、こんなテキトー大雑把に檻に放り込まれるだけ。
ほんと失礼しちゃう!』
再びぷんぷんと声の主は怒り出し、檻がミシミシと揺らいだ。
結局、集団の正体と目的の情報は漠然とした者しか得られなかった。
しかし、ピジョットにとって最早それはさして重要ではなかった。
肝心なのは自分と周囲の状況を把握する事と、そこから脱走の為の最善の一手を紡ぎ出す事。
最大の好機はすぐ手の届く場所にある。そうピジョットは読んだ。
今、警備の目はきっとその船内のどこかでガラス管に封じ込められた何者かに集中している。
仮にも兵器用ポケモン達を収容している檻だのに、監視の目が殆ど無い。
もしも、積み降ろしの際にでも何かしら大きな騒ぎが起きたとしたら、
その大事な何者かを騒動から守る為に大きく人員を割かれる事になるだろう。
騒動に紛れて何匹かポケモンが逃げ出したとしても、追跡にあてるような余裕はあるだろうか。
そんな事よりも”大事な何者か”を騒動で集まってきた他者の目から隠し、
安全な場所へと移送する方がよほど大事に決まっている。
加えて、隣の檻には現状に大きく不満を持った、同志となりえそうな者の存在。
姿は見えないが、声の野太さと一挙一動から伝わってくる振動からして、
かなりの大柄とみえる。有事には随分と頼りになりそうだ。
『話を聞くにそなた、己の置かれた状況が相当に不服とみえる。
しからば、私に協力してみないか?』
ピジョットは声の主の説得を試みた。
溜まりに溜まった鬱憤をつつき、自由の素晴らしさを謳い、雄弁に力強く語る。
『……いいわ、危なっかしいけどアンタに賭けてやろうじゃない』
暫しの説得の後、ぐっと決意を固めた様子で声の主は応じた。
『例え失敗しても、ひとりでも多く道連れに出来れば本望。最後に一花咲かせてやるわ』
『恩に着る。我が名はピジョット。背中を預ける同志の名、お聞かせ願いたい』
『アタシはカイリキー。よろしくねぇん、ピジョットのお兄さん。
ねぇん、声からして、アナタ結構良い男なんじゃあない? お顔を見るのが、楽しみぃ!』
『その……つかぬ事を聞くが、そなたは一応、いや、失礼、女性……でよいのか?』
『うふふ、心はオ・ト・メ』
ピジョットは唖然とし、背中を預ける事への異質・異様な危機感を覚えた。
明日明後日にでも続き書きたいです
GJです
ここで出てきたかw
保守
夕方か夜位には投下します
カイリキーを説得すると、会話が耳に入っていたのだろう他のポケモン達も
次々に協力を申し出てきた。願ってもないと快く受け入れ、
時折訪れる見張りに悟られぬようじっと機会が訪れるのを待った。
やがて、船がガツンと一揺れし、足元が揺れ動くような否な感覚が
少しばかり緩和されたように感じた。ピジョット達は緊張の糸を張り詰め、
五感を研ぎ澄まし、その瞬間に備える。
扉が勢い良く開けられる音が響き渡り、カツカツと近付いてくる人間の足音。
程なく足音はピジョットの隣、カイリキーの前でぴたりと止まった。
大人しくしていろ。恐らくはその様な高圧的な命令がその者の喉元を出来る前に、
格子が激しく揺れ、一瞬の叫び声、締め潰されたホースから漏れるような呻き、
何か大きなものが盛大に叩き付けられる音へと流れるように鮮やかに変わった。
『あーん、スッキリした。コイツは前々からブチのめしておきたかったのォ。
コイツ、アタシの今の飼い主だったんだけどホントクズ野郎でねェ……』
『音を聞きつけた者が駆けつける前に、其れの懐から鍵を見つけ急ぎ脱出を』
焦り、ピジョットは言う。
『鍵ぃ? 今更、そんなの必要ないわァん。ダイジョーブ、ダイジョーブ。
こーんなちゃちな檻で、アタシのハァトを捕らえて置こうなんて――』
めりめり、みしみし、と隣から振動が伝わる。
『笑止ィッ千万ッ! 我が鍛え抜きし肉体はァ、岩や鋼をも凌駕するゥッ!』
豪快な雄たけびと共に、鉄格子の破片が隣の檻から弾け飛んだ。
ずしりずしりと轟音響かせ、灰色の巨体がぬっとピジョットの檻に顔を覗かせ、
ニッと黄色いたらこ唇を歪ませ暑苦しい笑みを浮かべる。
『うふふ、一緒に逃げる子も増えちゃったし、チマチマ合う鍵を探すよりも
もうブッ壊しちゃった方が手っ取り早いでしょう?』
想定していた以上のカイリキーの行動・能力・容姿・全てに圧倒され、
ピジョットは呆然としながらこくこくと頷くしか出来なかった。
『それにしても……』
まじまじとカイリキーはピジョットを見つめる。
『やっぱりアナタ、期待通り、結構良い男ねェ! 頭の洒落た色の長い羽とか、』
伊達男って感じでステキィッ! ねえェん……もしも無事に逃げられたらさァ、
ふたりで――』
『先の話より、今はまずここから出していただきたい』
きっぱりとピジョットは話を遮って言う。
『もう、イケズゥ!』
カイリキーは筋肉で岩山のようにゴツゴツになった四本の腕で鉄格子を掴むと、
あたかも針金細工のように軽々ぐにゃりと曲げて引き千切る。
そうして、次々と他の者達もカイリキーの手によって檻から解き放たれていった。
明日明後日にでも続き書くよ
保守
明日の今位〜深夜には投下する
駆けつける”奴ら”を抵抗の暇も与えぬ怒涛の勢いで蹴散らし、
派手に暴れ回りながらピジョット達は外を目指した。
船の混乱が外へ陸地へ極力大勢の者達にまで伝わるように。
船外へ出ると辺りは薄暗く、夜の帳が落ちていた。
陸地には殺風景造りの倉庫がずらり並び、掛けられたタラップの先には
”奴ら”の他に如何にもな風貌をした黒服の人間達が大勢待ち構えていた。
黙って捕まっていれば恐らくあの黒服の集団に自分達は売り払われたのだろう。
事態を沈静化しようと黒服達も多くのポケモンを展開し、
ピジョット達に睨みを利かせていた。
『チッ、想定よりずっと数が多いじゃなぁい。まぁいい、やるだけやってやる。
ひとりでも沢山、アタシ好みを地獄ツアーに招待しちゃうからッ!』
ぼきぼきと四つの拳を慣らし、カイリキーは防御を捨てた決死の態勢をとる。
呼応して、他の仲間達も鬨の声の如く血気盛んに咆哮をあげた。
『いや、皆の者! 暫し攻撃は待て!』
ピジョットは叫び、戒める。
相手は多勢、下手に打って出れば必ずこちらにも被害は出る。
もしもこのまま起こる戦闘の喧騒に乗じれば、
翼のある己は容易にひとりで逃れる事は出来るだろう。
かつてのピジョットであればそうしていた。他を捨石として焚き付けて陽動し、
その隙に自分はより確実な安全牌を選ぶ。そうやっていつも生き残ってきた。
だが、それはピジョットが元来目指していたものとは程遠い生き様だ。
ピジョットが目指すは英雄。ひとりでも出来うる限り余さず救う道を模索し、
導いてこそ英雄。
一キロ先まで見通すピジョットの目は、
遠方に希望の光が僅かにチラつくのをその目に捉えていた。
『攻撃すんなって、どうすんのよう。ここまで着て今更、
大人しく捕まるのなんてイヤンッ!』
カイリキーと他の者達は戸惑い、文句をいう。
じりじりと敵はタラップを渡り、こちらへと迫っていた。
『私を信じろ。すぐに希望の追い風は吹くッ!』
言って、ピジョットは思い切り高鳴いた。
希望の光”達”へとにより正確な位置を知らせる為に。
ばたばた、ばたばたと遠くから幾つもの微かな足音が響いてくる。
足音はどんどんと大きくなり、何かが近付いてくる。
希望の光。それは警察官達が携えた懐中電灯から伸びる光の筋だ。
倉庫街からの異音を聞きつけた市民からの通報があったのだろう。
何人もの警察官がウインディを筆頭とした屈強な警察犬達を引き連れ、
不審な船の下へと向かってきていた。
黒服達は我先にと早々に撤収を初め、”奴ら”もピジョット達が構える船上には戻れず、
仕方無しに黒服達と共に散り散りに逃げていく。
『追い風来たれりッ! 脱するぞ!』
翼を広げ、ピジョットは高らかに号令を出す。
『おうッ!』カイリキー達は歓声に近い声で、それに応じた。
明日明後日にでも続き書く
保守
今日の夕方〜夜くらいには投下する
ごめんちょっと遅れそう
今日の夜あまり遅くならないうちには投下したいです
『――そうして私と彼らは彼奴らの手から逃れた。誰ひとり欠く事無くである。
人里離れた林の中にて私は彼らと無事を讃えあった。
彼らから向けられる感謝と称賛の言葉と眼差し。我が心は少しばかり酔いしれ、
胸穿つ空虚な隙間が微かにであるが満たされて感じた。
皆の興奮も落ち着いた頃、今後について彼らと協議した。
私についてゆくと申し出てくれる者もいたが、其処は見知らぬ土地。
私や彼らの中にはこの地には見られぬ種も多くいるであろう。
いつまでもぞろぞろと連れ立っておれば目立ち、一目につく。
彼奴らやあの黒服の者共が聞きつければ、追っ手が放たれないとも限らぬ。
私と彼らは別れ、別々の場所で暫らく隠れ潜んだのち、
そこからの生き方はそれぞれ個々の判断に委ねるとした。
何も縛るもの無き自由への解放。殆どの者達が生まれて初めての経験に、
感動、期待、希望、不安、恐れ……様々な色を入り混じらせながらも、
皆その目は一様にどこか輝いて見えた』
”みんな、無事にしているといいな”
『うむ、所在が分からぬものもいるが、今も何匹かとは連絡を取り合えている。
カイリキー殿はこのトキワより東にあるイワヤマトンネルと呼ばれる洞穴にて、
縄張りを勝ち得、ポケモン達を束ねているとのこと。
ふむ、興味があらばネズミ殿にも今度紹介してくれようか?
貴殿であれば、熱烈に迎えてくれるやもしれん』
意地悪くピジョットは嘴をニヤつかせる。
”いや、折角だけれど遠慮しておくよ。話に聞くだけでも何というか少し胸焼けがする”
『はっはっ、其れは残念。』
”君は今どうしているんだ?”
『運良くこの地には我が同族達が暮らしておってな。
木の葉を隠すなら森の中だと、私は群れの一つに接触することにした。
初めは余所者と警戒されていたが、この地の外の事を話す内に徐々に打ち解けてな。
殊に一羽のポッポの子と、それがこっそり連れてくる白い猫のようなポケモンの子――
猫だというに、鳥は食べ物じゃなくて友達だと云う変わった奴だ――が、
私を慕ってくれ、熱心に話を聞きに訪れた。その子らの存在もあって私は
群れに完全に受け入れられ、やがて地位を得、先代の長が天寿を全うし逝去した為に、
今では私がその座を任されている』
明日明後日にでも続き書くよ
保守
明日の今くらい〜深夜には投下する
ピジョットはぐいと盃を煽り、喉に宿る熱を抑え切れんとばかりに大きく息を吐いた。
『折角手にした地位と力を、己が身を守り固める事だけに執着し腐らせる気など毛頭無い。
自他共に実入りある活用をするつもりである。今思案しているのは、
まずはこのカントーゆくゆくは別の地方まで股に掛けて情報を探り集積し、
求める者それを提供するというものだ』
”人間のやる探偵や情報屋のようなものか?”
『如何にも。鳥ポケモンの目と翼により得られる情報は膨大且つ迅速。
何より私が軍で培った斥候の能力を活かせる。血生臭い争い以外でだ。
譚や詩に歌い飾られるような華々しい英雄の姿には程遠い地道な役回りかもしれんが、
他者を導き助けるという点においては変わらんと思うのだよ』
先の希望を見据えるように遠くを見つめながあ熱を込めて語るピジョットの目は、
俺にはとても眩しく感じた。
『うむ、決めた! 帰ったら早速配下達に話すとしよう。
そうだ、こうしてネズミ殿と再会できたのも何かの縁。記念すべき初依頼は貴殿から賜ろう。
どんな些細な事でも構わん、何か知り得たい情報があれば聞かせ願いたい!』
満ち溢れる気力に目を爛々と輝かせ、鼻息荒くピジョットは詰め寄る。
”急にそんなこと言われたってなぁ。それに、恥ずかしい話だが依頼料を
払うような余裕は今の俺にはまるで無いぞ”
『私と貴殿の中だ、初回はロハで構わぬ。何でも良いぞ、さあ早く』
遅くなったすまん
また明日の深夜くらいに投下する
逸るピジョットを落ち着かせながら、俺は思いを巡らす。
急に言われても思いつかないとは一時逃れたが、彼からの話を聞いていて、
ずっと気がかりな事がある。それは”奴ら”が捕獲し、
厳重なガラス管に封じてこの地方にもたらしたという”正体不明”のもの。
厭に頭の中で繋がるのだ。俺がこの地方へ来る目的となった、
近年になって目覚ましい成果をあげるようになったグレン島の研究所の話しと。
胸が疼いた。中を大量の虫が這って回ってでもいるかのようなおぞましいざわめきだ。
『どうなされた?』
心配そうなピジョットの声が掛かる。
”……ああ、悪い。少し酔いが回っただけだ。酒に触れるのは久方ぶりだから”
俺はそう誤魔化して言い、差し出された水をグイと飲み干した。
不穏な空気を感じ取ってしまったのか、寝かしつけておいたチビ助が小さく呻く。
慌ててそっと忍び寄り、優しく撫でてやり宥めた。
研究所の実態を細かに調べ、知ったらきっと俺はここに留まってはいられなくなだろう。
名状しがたい予感がする。今ですら呼び声が聞こえる気がするのだ、身の奥底から。
行けばただ事にはすまない。俺がいなくなれば、誰がこのチビ助の面倒を見れるのだろう。
他の同族にまるで馴染めぬこの子を。
それに、争いから足を洗い、新しい未来を目指そうとしているピジョットを、
再び荒事の渦中へと引き込んでしまうような事は憚られた。
せめてチビ助を本当の両親のもとに返すことが出来るまで、
最低限、チビ助がもう少しものの分別を付けられる様に成長するまで、
俺は俺のまま無事でありたいのだ。
だから、今ピジョットに頼むべきは――。
『ふむ、ではこの稚児の本当のご両親を探して欲しいと?』
俺はピチューと事のあらましをピジョットに話した。
”ああ。俺も自分の足で色々な場所をあたってみたんだけれど、
ろくな手がかりさえ得られなくてね。でも、空からの情報網だったら
また違った結果を得られるかもしれない”
ううむ、と何やらピジョットは少し難しい顔をして唸る。
”難しいかな?”
『少々気がかりな事があってな。件の”奴ら”と取引しようとしていた
黒服達の話はしたな? あの者達がこの地方でポケモン達の密猟を行っている、
実際にその姿を目の当たりにしたという話を度々配下の者達が口にするようになったのだ。
私がニビとトキワの近辺へと訪れていたのも、黒服達の姿をこの辺りで見たという
配下の話を聞いてな。事実にあれば、付近に住む者達へ警告を伝えようと思った次第である。
貴殿の種族はこの地方においても中々に希少故、もしもご両親が既に黒服達の手により――』
言いかけて、ピジョットは口を噤む。
『いや、すまぬ、あくまで最悪の可能性の話。
任されよ。確固たる手がかりが得られる時まで、この不肖ピジョット、
全身全霊をもってチビ助殿のご両親の捜索にあたる』
びしりとピジョットは翼で敬礼し、ハッとして『染み付いた癖は中々に抜けぬな』と苦笑した。
『此度の席、実に有意義な一時であった。招き頂き感謝する』
”ああ、またいつでも来てくれ。ポッポ達の長様をお迎えするには、
少々質素でお粗末かもしれないこんなもてなしで良ければだけど”
『はっは、意地悪を言ってくれるな。我らは共に時には泥水さえ啜って生き延びてきた身。
今更気兼ねすることなど何一つあるまいよ。……では、何か分かり次第、すぐに報告に参る』
”頼む”
『それから、黒服達の存在にはくれぐれも注意されたし』
”うん、明日にでも他の皆に伝えておくよ”
『しからば、御免』
ピジョットは大きな翼を羽ばたかせて勢い良く飛び立ち、あっという間に夜空の闇に溶けていく。
その姿を見送ると、俺は巣穴に戻り、酒の席の後片付けはもう明日にすることにして、
静かに寝息を立てているチビ助に寄り添うようにして目蓋を閉じた。
明日明後日にでも続き書く
保守
夜か深夜くらいには投下する
もう少し遅れそう
今日中には何とか
再び日常に戻り、また暫らく俺はピジョットの報告を待ちながら
チビ助と共に何事も無いを過ごしていた。
とある日の事、同族のこどものひとりが病に倒れた。
おとな達の看病もむなしく、その子は日に日に衰弱していく。
トキワの森だけで採れる木の実や野草だけでは滋養が足りない。
同族のひとりの話によれば、おつきみ山の洞窟内に生息しているパラスという
虫ポケモンの背中に寄生する『とうちゅうかそう』という貴重なキノコには、
長寿の薬と謳われる程の高い滋養効果があるのだという。
しかし、おつきみ山洞窟に至るまでには人が多くいるニビシティ付近を通り過ぎ、
トレーナー達も多く往来する山道を踏破し、麓に住む腹を空かせた毒蛇アーボ達の
目も掻い潜らなくてはならない。トキワの森から殆ど出た事が無く、
戦いの経験も無い同族達にとってはとても大きな試練だ。
苦悩する同族達に、俺は自分が採ってくると名乗り出た。
今までの旅に比べればその程度の道程、散歩のようなものだ。
受け入れてもらった恩もある。
俺はチビ助を同族達に一旦預け、急ぎおつきみ山を目指した。
留守にする間のチビ助の様子が少し気がかりではあったが、
一刻一秒も早くキノコを採って帰ってくるにはチビ助の存在は少しばかり重荷だ。
半日少々ぐらいなら俺が離れていても平気だろう、
一時の平穏の泥濘に浸かった俺の頭はそう高を括った。
保守
明日明後日にでも続き書く
保守
投下は明日の今くらいに
おつきみ山の洞窟へと辿り着き、パラスの集落の一つを突き止めると、
早速俺は接触を試みた。
丸っこい背中から二本の大きなキノコを突き出させた奇妙な虫達は
すぐさま薄暗い洞窟の更に暗がりの中に逃げ込み、
じっとりとした視線を一斉にこちらへ向けた。
俺はトキワの森から採ってきた木の実や山菜をその場に広げ、
敵意は無い、どうか話を聞いて欲しいと彼らに伝える。
彼らはぎちぎちと顎をすり合わせて相談を交わし、
やがてしばらくして、数匹のパラスが物陰から這い出てきた。
その背のキノコを譲って欲しい。衰弱し命の危機に瀕している同族の子がいるのだ。
俺は懸命に彼らに訴える。
パラス達は互いに目配せした後、何も言わず再び暗がりへと引っ込んで行った。
それからまた彼らはぎちぎちと何やら話し合い、程なくしてパラスの一匹が
おおきなキノコを一つ抱えて現れる。
引き渡す寸前、『さよなら』とパラスは別れを惜しむようにキノコへぼそぼそと声を掛けていた。
勝手に寄生されたとはいえ、共に生まれ育った相手。パラスにとって、
キノコは忌々しくも愛おしい隣人、兄弟のようなものなのだろうか。
思考までもキノコに蝕まれ、操られている故の感情なのかもしれないが……。
いずれにせよ身を切られる思いには変わるまい。
俺は丁重にキノコを受け取って包み、深々とパラス達に礼をしておつきみ山を後にした。
トキワの森に帰り着く頃には、空は黄昏に染まりつつあった。
早急に森林内に足を踏み入れた瞬間、異様な雰囲気を察する。
普段まだこのくらいの時間であれば、葉を食み足りぬ虫ポケモン達が
木々と葉の間を這いずる音や、それをもう狙い疲れた鳥ポケモンが
そろそろ帰る相談をしている声など、耳を澄ませば森には生きた音が溢れている。
だけど、その時は森の中が不気味なまでに静まり返っていた。
皆じっと息を殺し、隠れ潜んでいる。そんな気配だった。
胸騒ぎに駆られ、俺は一層足を速めて同族達のもとへ向かった。
明日明後日にでも続き書くよ
保守
投下は明日の今くらい〜明け方までには。
急用でもう少し遅れそう
今日の深夜までには投下したい
同族達は大きな古木の根元にある隠し穴の中に一同に集い、
寄り添って怯え震えていた。
俺に気付いた一匹が駆け寄ってきて、今にも泣きそうな面持ちで俺に告げる。
仲間の何匹かが黒服の人間達に連れ去られてしまった。
その中にはチビ助も含まれている、と。
杭を胸に打ち込まれたように息が詰まり、心臓が激しく動悸した。
俺が出発し暫らく経った後、突然奴らは大勢でやって来て
森中を漁り出したそうだ。奴らは虫達には目もくれず、
同族達を執拗に狙って捕らえてはどこかへ連れ去ってしまったという。
同族達はチビ助も連れて逃げようとしたが、
恐怖と驚きでパニックになったチビ助は何かを捜し求めるように
無我夢中で一匹駆け出していった。そして、同族が追いつくよりも早く、
黒服の一人に見つかってしまい、捕らえられたというのだ。
なんということだ。話を聞く間、呆然と立ち尽くした。
黒服達の存在は既にピジョットから聞いていたはずだ。
だのに、なんと迂闊だったのだろう。
積み木の塔のように、平和は不意の悪意によって容易く瞬く間に
崩れ去ってしまう事を知っている筈なのに。目の当たりにしてきた筈なのに。
きっとこの森であれば大丈夫だ。俺は忠告をどこか別世界の話のように聞いていた。
頭の中で線を引いて、そう思い込んでいた。
チビ助を助けられずに済まない、と涙ながらに自分を責める同族を宥めると、
パラスのキノコを託して、緩んだマフラーを強く締め直した。
”黒服共はまだ近くに居るのか”尋ねる。
同族はびくりとして、多くは去ったがまだ何人か残っていると答えた。
”そうか”頷いて、俺は出口へ踵を返す。
ざわめく同族達を背に俺は隠れ穴を発ち、黒服の姿を探した。
程なく、『大儲けだ』と浅ましく笑い合うそれらしき声を聞きつけ、木の陰からそちらを窺う。
黒い服に身を包んだ人間が二人。護衛のアーボとズバット。
既に他の者達によって運び去られたのだろう、同族達とチビ助が捕らえられていそうな檻や、
大量のモンスターボールは見当たらない。
俺は慎重に出方を思案した。
このまま奴らを見張り、つけるか。しかし、本拠地まで向かう途中で車両等、
高速で移動できる手段を取られてしまえば追い切れず見失いかねない。
アーボとズバットを締め上げ、本拠地を聞き出すか。
だが、用が無い間はボールか檻へと詰め込まれているであろう奴らが
大した情報を持っているだろうか。
ピジョットに協力を仰ぎにいくか。
いや、ピジョットがねぐらとするクチバシティ北東の森まで助けを求めに行っている間に、
こいつらは痕跡をかき消して煙のように行方を眩ましてしまいかねない。
また尻尾を掴むことが出来るようになる間に、チビ助がどうなるか……。
ここで俺は、ピジョットが敵に窮地に追い詰められた時にとった手段を思い出した。
あえて奴らに捕まり、内部から脱出の機会を狙う。
リスクは高いが奴らの内情と実態を懐の内から知ることが出来れば、
その後の対策も立てやすくなる。
決まりだ。
俺は殺気を押し殺し、天敵の存在に気付けなかった間抜けのふりをして
奴らの前へと躍り出た。抵抗する素振りをせず、不意の遭遇に脅えて立ち竦んだ様に振る舞う。
すれば、奴らはカモネギが鍋を背負って現れたかのように卑しく笑みを浮かべ、
アーボとズバットを俺に嗾ける。数発ずつ尾や翼で打ち付けられ、
弱ったように蹲って見せると、黒服の一人が俺に向かって網を投げて被せた。
保守
明日明後日にでも続き書く
投下は明日の今くらいに
薄暗く狭い檻の中で痛む身体を横たえて、錆び付いた鉄同士が擦れ合い軋む音と
心地よい揺り篭とは程遠い雑で荒い揺れを味わう。
ひどく不愉快だがとても懐かしい感覚だった。
タイヤが大きな砂利を踏みつけでもしたのか時折の強い振動で少し体が浮き上がり、
頭が床板に軽く打ち付けられる度に、火打石から弾ける火花のように過去の感覚が
呼び起こされるような気がした。
随分と長い間そうしていた。トキワの森から随分と離れた地まで
俺は運ばれているようだった。やがて揺れが一旦治まると、
俺の入れられた檻は覆いを被せられたまま他の積荷と共に大きな台車へと載せられ、
建物の中に運び込まれていった。
覆いの隙間から外を覗き込んでみると、無数のダンボール箱やコンテナが
整然と積み並べられているのが見え、其処は何かの倉庫らしいということが分かった。
積み上げられた箱やコンテナには『コガネ百貨店』と記されている。
この百貨店とやらがポケモンを密売する黒服達の雇い主、
あるいは組織が世間に向ける表の顔なのだろうか?
しかし、すれ違う百貨店の作業員らしき人間達は皆一様に、
何が運び込まれているのか怪しむようにしてこちらを見ていた。
台車はそんな人間達の間を足早にそそくさと過ぎ去り、奥へ奥へと進んでいった。
遅れてすまん、規制に巻き込まれて書き込むのに色々手間取った
明日明後日辺りにでも続き書きたいです
保守
明日の今くらい〜明け方くらいには投下できるようにします
奥へと進む度に空気はどんよりと重く濁っていくように感じられ、
不衛生で雑多な獣と黴の臭いが段々と強まって鼻をついた。
怪しげな薬品やら模造品らしき道具の収められた棚と、
悲嘆と絶望に暮れた様々なポケモンが捕らえられている檻が並ぶ
それらしい一画まで来ると、俺の檻に掛かった覆いは取り払われる。
とほぼ同時に檻が乱暴に振るわれ、ごろごろと俺は地面に転げ出された。
『大人しくしていろよネズミ共』そう吐き捨てるような人間の声が聞こえ、
金属製の戸が叩き付けるように閉められた音が響き渡った。
ぶつけた箇所をさすりながら起き上がり周囲を見渡す。
そこは俺の他にも多くの同族が捕らえられた檻の中だった。
皆、他の檻のポケモン達と同様に諦め切った表情を浮かべ、嘆き、震えている。
俺はすぐにチビ助を探したが、その姿はどこにも無かった。
同族達に尋ねてみれば、若く幼い者達は選り分けられ連れ去られたそうだ。
それが何処かまではわからなった。
ならば己の足で施設内を探る他ない。その前にまずはこの檻を抜け出ねば。
早速、俺は檻の戸を調べた。幾らか電気への対策は施されているようだけど、
全力で壊そうと思えば壊せそうだ。だが、そうすると随分と派手な音を立てることになる。
せめてチビ助を見つけるまでは大きな騒ぎを起こす事はなるべく避けたい。
黒服達の追跡を交わしながら闇雲にチビ助の居場所を探すのは至難の業だ。
それに思い切り放電したら同じ檻の同族達にも被害が出てしまいかねない。
もっと手際よく円滑に抜け出る手段は無いか思案していると、
何か鳥の羽音らしきものを耳が捉えた。
俺は目立たぬようすぐさま同族達の中に紛れて音の方を窺った。
羽音の正体は一羽の黒い鳥ポケモンだった。鳥ポケモン達は檻から檻へと飛び移って、
檻の中身を確認しているようだった。黒服達の放った見張りだろう。
チビ助の送られた先も知っているかもしれない。
しばらくの間、俺はじっくりその鳥ポケモンの動向を眺めていた。
初めは近づいてきた所を隙を見て掴みかかり、少しばかり強引に協力を得る事も
手段の一つとして考えてはいたんだけれど。
観察を続ける内、それは最後の最後の手にしようと思った。
何となく面構えを見た時、そいつから少しだけ似た臭いを感じたのさ。
自分の置かれた立場に漠然と不満と疑問はあれど、その理由も抜け出す方法も分からずに
雁字搦めになっていた昔の自分と似た臭いをね。
それに、ろくに食事も与えられずに弱っていた他の檻のポケモンを見兼ねて、
主らしき黒服の男の目を盗んでそっと食料を分け与えている所を見かけてね。
根は案外悪い奴じゃあない。そう確信を得た。
だから次にそいつが檻を巡ってきた時、黒服の男が傍に居ない事を慎重に確かめて、
接触を図ってみたのさ。
”やぁ、いいところに来てくれた。恐縮だけど、何も言わず大人しく
ここから出してくれないかな?”ってね。
明日明後日にでも続き書く
保守
明日の今くらい〜深夜には投下する
――その後はは……君も知っての通りだろう、ヤミカラス。
俺と君は協力してチビ助を助け、紆余曲折あってニャルマーの
お嬢さんも加え百貨店を脱出して、連れ去られたコリンクを追う中で
ニューラの子と出会い、コリンクは今はその子の里に保護されていると知って、
案内してもらっている途中、今はこうして焚き火を囲って一休みしている、
というわけだな。ちゃんと覚えていたかい?」
マフラー野郎は余った薪の最後をくべ入れ、
茶化すようにくすくす笑いながらあっしに向けて言った。
「……ひとを鳥だからって馬鹿にするんじゃねえよ」
「はは、それは失敬」
それからしばらく、誰も何も喋れねえでいた。
マフラー野郎の顔をまともに見れなくて、俯きがちに焚き火を
見つめながら石みてえに固まっていた。
励ますのも慰めるのも何だか違うし、茶化しからかう様な気にもなれねえ。
他人様の過去なんて気軽に根掘り葉掘り詮索するもんじゃあない。
ニャルマーの言葉がその時になってまた殊更重く圧し掛かる。
「あーあ、聞いてて損しちまったよ、まったく」
耐えかねた様に、ニャルマーは無理矢理ひり出したような欠伸を混じらせながら
そう口火を切った。
「あ?」あっしが横目で睨むと、ニャルマーはふんと鼻を鳴らした。
「なんだい、カラ公。まさかこんな与太話をマジんなって聞いてたっての?
余程のウブか頭の中がお花畑だね、アンタ。生憎、アタシゃ現実を見てるからね。
ミューだか幻の何だかなんてうさんくさいのが話に出てきて時点で、
もうまともに聞いちゃいられないってのさ」
そう言われればとあっしは少し思い直し、真偽を問うようにマフラー野郎の方を見やった。
マフラー野郎は少し目を丸くした後、一瞬考える素振りを見せ、にやりと笑う。
「まあ、俺が君達と同じ立場だったとしたら、そう考えるのが賢明だと思うね」
「ほらね」
ニャルマーはけらけらと勝ち誇ったようにあっしを嘲る。
「付き合っちゃらんないよ」
ニャルマーはそう言い捨てるとそそくさと逃げるようにあっしらの傍を離れ、
木の根元で体を丸めた。
「な、なんだよ、くそっ。あー、俺様ももう寝るッ!」
取り残されたあっしは、慌ててそれに追従するようにその場にその場に丸まりこんだ。
「ああ、それがいい。火の後始末は俺が責任を持ってしておくよ」
しばらくして、中々寝付く事が出来なかったあっしは、
そっと薄目を開けマフラー野郎の様子を覗き見た。
俯きがちにどこか虚空を見つめるその瞳には、
いつまでも燻り続け消えやらぬ炎が映り込みゆらゆらと揺れていた。
明日明後日にでも続き書く
保守
投下は今日の夜〜深夜くらいに
すまん、もう少し遅れる
出来れば今日中には
「――おい、いつまでのんきしてんだい。さっさと起きな間抜け」
少し潜めたニャルマーの声が耳元で響き、
腹の辺りを強く踏み付けられたような痛みが走る。
あっしは「ぐえっ」と思わず鈍い悲鳴を上げて飛び置き、
「いきなり何を――」怒鳴りかけた嘴を、綿毛みてえな尻尾の先で塞ぎ込まれた。
わけもわからず、抗議の目を向けるしかねえあっしに、
ニャルマーは周りを見てみろと目線で促した。
森の中はまだ真っ暗で、夜は明けてはいない。
マフラー野郎は既に背にチビ助を厳重に結び付けており、
森の深い闇へ向けて火の灯った太い枝を松明の様に掲げていた。
子ニューラのヤツもその方向を見ながら、体勢を低くし毛を逆立てている。
あっしは状況が飲めず、ニャルマーに目配せした。
ニャルマーはまたあっしを小馬鹿にしたように鼻をふんと鳴らし、
「よく耳をすましてみな」とだけ囁いた。
苛立ちながらも言う通りにあっしは闇の奥へと意識を集中する。
すると、何かが草や枯れ枝を踏み抜く音と、
獣の唸り声と息遣いらしきものが微かに耳へ届く。
その何かが発する音は機会を窺うようにあっしらの周りを
遠巻きに少しずつ距離を詰めながらぐるぐると周っていた。
不吉な気配にあっしの心臓はばくばくと高鳴り、全身を嫌な汗が伝った。
闇の帳を挟んだ睨み合いは暫らくの間続いた。
実際はたったの数分だったのかもしれねえが、とてつもなく長く感じられた。
不意に闇の奥で紅い輝きが瞬いた。
「離れろ!」
マフラー野郎が叫ぶ。子ニューラはその場から素早く身を翻し、
ニャルマーも慌ててあっしを突き飛ばすようにして離れ、
あっしは体勢を崩されかけながらも反射的に飛び立った。
刹那、闇の奥から紅色の炎が押し寄せ、元居た場所を瞬く間に飲み込んだ。
炎の輝きに照らされ、闇の奥に潜んでいた四足の獣の姿が浮かび上がる。
獣の蒼い体毛は泥や煤で随分と薄汚れ、頭部は頭陀袋のような覆面で隠されていた。
覆面に開いた二つの穴から覗く目は激しい怒りと憎悪に血走り爛々と輝いていた。
明日明後日にでも続き書く
保守
投下は明日の今くらいに
少しばかり落ちぶれた格好になっちまってはいるが、
あっしはその獣の正体にすぐにピンと来た。
あっしと同じようにロケット団の下で商品となるポケモン達の見張りを
していたヘルガーのゲス野郎だ。
マフラー野郎に叩きのめされた事を相当根に持っていたようだが、
気位が高いあの野郎があんな薄汚れた姿に身を窶してまで
遠路遥々追ってきやがるとは。おぞましいまでの執念に
あっしは薄ら寒くなって身震いした。
追ってきたのはゲス犬の野郎だけじゃない。
すぐにその後に続いて二匹の人型ポケモンが姿を現す。
筋骨隆々とした大柄のポケモン――ゴーリキーと、
奇妙な振り子のような物を片手に持った長っ鼻のポケモン――スリーパーだ。
ゴーリキーはあっしの姿を見るや握る拳と漲る筋肉を震わせ、
スリーパーは振り子を指先で擦り磨きながらニャルマーを
じっと恨みがましく睨め付ける。どちらもその目は雪辱に燃えていた。
脱出の時、あっしとニャルマーがやっとの思いで退けたワンリキーと
スリープが進化して復讐にやってきたものに違いねえ。
一旦ここまで、続きはまた明日位に
ちょっと立て込んでて書けなかった、今日の深夜までには投下する
「あれから反省したようには見えないな」
頬から電気を微かに迸らせながら、確認するようにマフラー野郎は言った。
ヘルガーは牙を剥き出しに殊更唸り声を荒げ、ゴーリキーに首で指示する。
ゴーリキーは少し躊躇してから、ヘルガーの顔から覆面を取り去った。
その下から現れた奴のツラに、思わずあっしは息を呑む。
鼻先から目元、額にかけてその顔は醜く焼け爛れていた。
それはさながら真っ赤な隈取模様みてえに奴の顔面を彩り、
憤怒の表情をより不気味で威圧的に見せた。
「うわ……。すぐに処置をしてもらえれば、そこまでひどく痕にはならない程度には
加減したつもりだけれど。君の敬愛する主人様は何もしてくれなかったのかい?」
マフラー野郎はぎょっとして言い、背から顔を覗かせて見ようとするチビ助に
気付いて慌ててマフラーの中に押し込めた。
「この傷はあえてだ……そうだ、あえて主人は残して下さったのだよッ!
下等なネズミ如きに出し抜かれた屈辱を傷が疼く度に思い出し忘れぬよう、
二度と不覚を取らぬようにな……!」
ヘルガーは強く言い返す。それはどこか自分自身に言い聞かせるようにも聞こえた。
「本当にそうかな。真に大事にしているなら、普通はすぐにでも治して――」
「黙れ! 胡桃より小さいちんけな脳しか詰まってないネズミ如きに、
主人の高尚な考えが理解できるわけがないッ!」
後ろ足で地面を蹴り、大口を開けてヘルガーはマフラー野郎へと
放たれた矢のように真っ直ぐ飛びかかる。
「駄目かッ……!」
マフラー野郎は舌打ちすると、マフラーの裾を闘牛士みたいに翻して迫る牙をかわし、
くるりと宙に飛び退くと同時に青白い閃光を解き放つ。
ヘルガーは即座に地を転げて電流の帯をすり抜け、反撃の炎を吹き出した。
電流と炎がぶつかり合い、生じた衝撃が地面を抉りもうもうと煙が立つ。
あっしには目で追うのがやっとだった。翼がぶるっちまって、
加勢に入ることなんて出切る筈が無く、煙が晴れるのを待って睨みあう二匹を
上空の方から眺めているしか出来なかった。
少しずつ視界が戻ろうとする中、マフラー野郎はあっしらに指示を飛ばす。
「君達、こいつらは俺が引き受ける! 後ですぐに追いつくから、先に――」
「スリーパー! ゴーリキー! このネズミは俺だけで仕留めるッ!
お前達は他の屑共を一匹たりとも逃すんじゃあない。
こいつらの死骸を主人に捧げて見せ、失態を取り戻すのだ! 必ずや!」
遮るようにヘルガーは怒鳴るように二匹へ命じた。
あっしに向けられたゴーリキーの力強く威圧的な目付きが、
ニャルマーを見るスリーパーの怪しげな眼差しが待ちわびたと言わんばかりに輝く。
進化する前だって苦労したってのに、まさか勝てるはずがねえ。
ここはとっとと尻尾を巻いて逃げ出して、マフラー野郎に任せちまおう。
ちらりとニャルマーを見てみれば、奴も同じ考えなのだろうすぐにでも
逃げる姿勢をとっていた。だが、あっしがこの場から飛び去ろうとした瞬間、
大きな風切り音がして翼の先に何かが掠り当たった。
瞬間、翼にびりびりと衝撃が走り、体勢を崩して墜落しそうになる。
どうにか持ち直した所に再び風を切る音と共に物体が飛来し、
顔の横すれすれを過ぎ去っていった。
その一瞬、飛んできた物体が何だったか少しだけ見えた。
あっしを襲ったのは恐らく人間の拳大ぐらいの大きさをした岩石。
地上ではゴーリキーがこちらをじっと見据えながら片足を上げて構え、
両手で掴んでいる何かを振りかぶろうとしている。
あの仕草、テレビか何かで見たことがある。
そうだ、ありゃ人間がやる野球とか言うスポーツで、
投手とか言う役割の奴が馬鹿みてえな速さで球を投げ放つときにやる格好だ。
――下手に空にいたら狙い撃ちにされる!
あっしは危機に感づき、急降下するように高度を下げる。
頭の羽先を岩石の礫が掠り、幾つか抜け飛んだ羽がはらはらと宙を舞った。
「ぃ――ッ!」
声にならない情けねえ悲鳴が嘴の内から微かに漏れ、
涙がちょちょぎれそうになった。
保守
明日明後日にでも続き書く
保守
今日の夜〜深夜くらいには投下する
すまん、もう少し遅れそう
何とか今日中には
半ば墜落のような勢いであっしは命からがら着地する。
みしりと足から嫌な音がして、鈍く不快な痺れと痛みが腰にまで走った。
だが、のた打ち回っていられるような隙も余裕も無い。
あっしは嘴を強く噛み締めて堪え、次の攻撃に備えてあの馬鹿げた
筋肉ダルマの方へと視線をやった。
ゲス犬の噴出す炎が草木に燃え移って広がり、辺りは火の海となりつつある。
熱気にちりちりと羽毛の先が焼けた。
状況は決して良くない。最悪だ。でもこの炎のカーテンに遮られた中なら、
揺らぐ炎や煙に邪魔されて狙いは付け辛いだろうし――奴が手に持っていた
岩石を捨てたのが炎の隙間から微かに見えた――脳みそまで筋肉であろうと
炎の中なんて中々突っ切っちゃ来られねえだろう。
このまま炎に紛れるようにして逃げりゃいい。
だが、そんな考えは瞬く間に砂糖菓子みてえに砕けた。
炎を掻い潜りながら恐る恐る後ろを確認した瞬間、
あっしはあまりの光景に喉の奥から変な声が漏れそうになった。
ゴーリキーはまるで躊躇することなく、炎の中を突っ切りながら追って来ている。
体を蝕む火傷にはまるで目もくれず、寧ろその痛みが闘志をより滾らせる燃料に
なっているかのように全力でだ。
「か……勘弁してくれぇー!」
弱音を喉の奥に留めて置くことなんて最早出来ようはずも無く、
無様に悲鳴と涙をぶちまけながら逃げた。天敵に追われるアチャモの如く、
地べたを駆けずり必死に逃げ回った。
あっしが逃げ回る間も電流と炎が弾け飛び交い、激しく争う音が聞こえる。
マフラー野郎はゲス犬の方にまだまだ掛かりきりだ。
あっしは藁にも縋る思いでニャルマーと子ニューラの姿を探した。
しかし、あっしがようやくその姿を見つけた時には、
あの強かな糞アマもスリーパーの念力に捕らえられて窮地に陥っていた。
子ニューラの方はスリーパーの足元で顔を手で覆ってすっかり震え上がっている。
絶体絶命だ。マフラー野郎がヘルガーをどうにかする前に、
あっしらが先にこいつらにどうにかされちまう。
あっしの息は切れ切れ、すぐ背後にまでゴーリキーが地を踏み抜く音が迫っている。
もうこれまでだと思った時だ。あっしとゴーリキーの接近に気付き、
スリーパーが少しだけこちらに注意を向けた。それを待ち侘びていたかのように、
傍らの子ニューラがそっと顔から手の覆いを外す。
そのツラは微塵も脅えなんかねえ。にやりと不敵な笑みを浮かべている。
次の瞬間には、騙まし討ちの強烈なアッパーがスリーパーの顎の下をとらえていた。
スリーパーは堪らず目を白黒させて体をふらつかせる。
それから、集中した念力により妖しく輝くスリーパーの片手を
子ニューラはすかさず引っ掴み、無理矢理あっしとゴーリキーの方へと向けさせた。
緩やかな向かい風のように微弱な見えない圧力を全身に受ける。
あっしにはその程度にしか感じない。だが、どういう訳だか背後からは
鈍器を叩き付けられたかのような短い苦悶の声が上がり、
あっしの三倍はあろう巨体が跳ね飛ばされて地面を転げる音が響いた。
明日明後日にでも続き書く
保守
投下は明日の今くらいには
――あっしみてえな所謂悪タイプとかって呼ばれる捻くれたポケモンにゃあ、
念力だの何だのの胡散臭いエスパーの技は効果が無いって奴でさぁ。
逆に脳みそまで筋肉で出来てそうな格闘タイプの単純な奴らには効果が抜群なんだと。
いつだったかにテレビでやってたトレーナー講座だか何だかをボーっと見て
かじった程度の知識でやすがね。ま、あのクソ猫のことだからそんな事は露知らず、
あっしごと平気で巻き込むつもりだったろうがな――
ゴーリキーが吹き飛んだのを確認し、
子ニューラは朦朧としているスリーパーの腹を蹴りつけて突き飛ばす。
止めとばかりに子ニューラはテニスボール大の氷塊を投げつけ、
スリーパーの眉間でごつんと鈍い音を響かせた。
「ひゃっはー! 大成功っ!」
片手を突き上げ、飛び跳ねるようにして子ニューラははしゃぐ。
汗やら何やらでぐしゃぐしゃになったあっしの面に気づくと、
むふーと自慢げな鼻息一つして勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
礼を言う気に何てとてもなれず、あっしは決まり悪く舌打ち一つして、
げほげほと咳き込んでいるニャルマーを仕方なく助け起こしに向かう。
「うう……あの変態ヤローめ……。アタシがガキじゃないってわかったら、
まるで容赦しちゃくれないね」
差し出したあっしの羽に乱暴に爪を引っ掛け、
悪態を付きながらニャルマーは起き上がった。
「互いに悪運が強えみてぇーだな。今の内にさっさとずらかるぞ」
「ああ」羽を素気無く振り払ってニャルマーは頷く。
「ネズミ置いて逃げるなんてヤだよ。オレもあの悪そーな犬を
ブッ倒すの手伝って来るもんね」
だが、子ニューラの方は調子付いた様子でまるで言う事を聞こうとしない。
あっしは額にびきびきと幾つも青筋が浮かぶのを感じた。
「騙まし討ちが偶々一回上手く行っただけで、調子に乗ってんじゃねーや。
あのゲス犬にゃんなもん通用しねー。オメーみてえなガキが割って入った所で、
足を引っ張るだけだっつの」
「ふんっ、だっさく逃げまわってただけの奴がエラソーに言うなよなー」
「ぐっ……」率直なガキの反論に、あっしは思わず言葉を詰まらせる。
こんなガキよりも、きっとあっしは弱い。何の役にも立てねえ。
胸に鋭く根深く嫌な現実が突き立った。
明日明後日あたりにでも続き書く
保守
投下は今日の夜にでも
こんな口で言ってもわからねえクソガキを腕ずくで引きとめて
無理矢理引っ張っていく事さえあっしにゃ難しい。
だからってむざむざ行かせりゃマフラー野郎の足を引っ張るのは受けあいだ。
もしもコイツの身に何かありゃ、ニューラの里まで穏便に辿り着くって策が
台無しになっちまう。そもそも何であっしがこんなぐらぐら崩れ掛けてんのが
目に見えてわかるような危ない橋ばっかり渡らされなきゃなんねえのか。
頭を抱えそうになっていると、不意に燃え盛る炎の奥から短い叫び声が聞こえ、
直後ゲス犬が体から電流の青い残光を迸らせながら転げ出てくる。
後を追うようにマフラー野郎はひらりと炎を飛び越えて姿を現し、
あっしらの姿に気付いて駆け寄ってきた。
「遅せえよ、馬鹿野郎!」
緊張の糸が少し緩み、あっしは叫びつけるように言った。
「や、すまない。さすがにもう油断してくれなくて少し手こずってね」
マフラー野郎は地に呻きながら伏すスリーパーとゴーリキーの姿を
見渡して感心した顔をする。
「まあ、慌てて駆けつける必要も無かったみたいじゃないか。
しっかりニューラの事も守ってくれたみたいだしさ」
「ちがう、ちがーう! 逆にオレがこいつら守ってやってくらいだぞ!」
「ええ?」
真偽を求めるようにマフラー野郎はあっしに視線を向けた。
否定する事も出来ずあっしは舌打ちして目を逸らす。
「へへ、聞いてよネズミ! そのナガッパナの変な奴、大人しくしてたら
オレには何もしないって言うからさー。わざと大人しくして様子みてたんだ。
そしたらその糞カラスとムキムキヤローがうわーってやってきて、
ナガッパナがよそ見したから思いっきりアゴをグーでドーンってやったんだ!
そしたらそしたらナガッパナがフラフラーってなったから、
前に親父がやってたこと思い出して、ミヨーミマネでナガッパナの腕をガシッてやって、
グイってムキムキヤローに向けたらドカーンってなって、大成功!」
身振り手振りで興奮しながら子ニューラは己の武勇伝を語る。
「その後、すぐにネズミの手伝いに行こうとしたんだけど、糞カラスに邪魔されてさー」
じとりと子ニューラはこちらを睨む。
ぴしぴしとあっしは自分の口端が強張るのを感じた。
「慌てて駆けつけて正解だったかな」
マフラー野郎は苦笑して呟いた。
「さて……」
マフラー野郎は言って、痺れを振り払い起き上がろうとするヘルガーに目をやる。
「まだ続けるか?」
限界まで溜め込んだ電流を唸らせながら、マフラー野郎は尋ねた。
当然だと言う様にヘルガーは牙を剥き、炎を引き出さんと喉を震わせる。
その時、遠くから幾つもの声と足音が聞こえてきた。
明日明後日くらいに続き書く
保守
投下は明日の今ぐらいに
人間の声だ。それに混じってポケモン達の鳴き声も聞こえた。
大勢の人間がポケモンを引き連れてこちらへ来ようとしている。
まさかゲス犬の援軍だろうかとあっしは肝を冷やした。
しかし、当のゲス犬もやってくる音に警戒するような素振りを見せる。
それから何か察したようにゲス犬は舌打ちし、突然紫色のきたねえ煙を吹き出した。
「君達、口を塞げ! 煙から離れるんだ!」
マフラー野郎に従うまま慌ててあっしらは口元を覆い、
見るからに毒々しい煙から後ずさって逃げる。
その隙に四足の影が煙の中を駆け抜けて地面に転がっている二つの影に
順に素早く噛み付くと、影達は悲鳴と共に次々飛び起きた。
「必ず追い詰める。これで終わりと思うな……!」
忌々しげに捨て台詞一つ残し、煙と共に掻き消えるようにヘルガー達は去った。
「参ったね」
マフラー野郎は呟き、溜息一つ零す。
「オレ、知ってるぞ。あーいうの三流の捨て台詞っていうんだよな」
へへん、と嘲って言う子ニューラに、マフラー野郎は苦笑した。
ほっと胸を撫で下ろしかけたのもつかの間、大勢の声はすぐそこにまで迫ってきていた。
人間達はポケモンに何やら配置を指示し、『放水』『消火』等の言葉が
口々に飛び交うのが聞こえる。
「消防団か何かかな? 仕方ない、火の後始末は彼らに任せることにして俺達も行こうか。
このまま頭から水を被せられたり、放火の濡れ衣を着せられたりしたらたまらない」
あっしらは存在を悟られぬよう、そそくさとその場を離れた。
明日明後日にでも続き書く
保守
投下は明日の今くらいに
すまん、ちょっと色々立て込んで書けなかった
今日の夜くらいには何とか
場を脱したあっしらは、子ニューラに先導されながら
再びスリバチ山の山道を進み始める。
「もー、あんなヤツらに狙われてるんだったらもっと早く言えよなー。
だったらオレもさっさと連れてってやったのにさー」
頭の後ろに手を組み、ふてくされたように子ニューラのやつは言った。
「だから俺様は寄り道なんざしたくねえって言ったじゃねえか」
苛々と言い返すあっしを、「まあまあ」とマフラー野郎が宥める。
「まさかコガネから遠く離れたこんな山奥まで追ってくるなんて、
正直俺も想定外だったよ。見上げた執念深さだ」
奴らが追いついて来てやがるんじゃねえかって胸騒ぎは抱いていたが、
まさかそれが的中しちまうとは思いたくなかった。
「しかし何を手がかりに追ってきたって言うんだい?
まさか誰か発信機でも取り付けられてるんじゃあないだろうね。
特に奴らの飼いポケモンだったアンタとか」
ニャルマーは疑惑の目をあっしに向ける。
「まさか。下っ端の珍しくもねえポケモン如きに、んな上等なモン一々取り付けねーよ」
否定しつつも何となく落ち着かなくなり、
あっしは自分の体中をごそごそと探りながら見回した。
「うーん。アジトから脱出する前に、奴らに何か付けられていやしないか
それとなく皆の体は探らせてもらったから、発信機の類は無いと思うけど」
しれっとマフラー野郎は言う。
「じゃあ奴が犬の端くれだからって、アタシらの微かな匂いを
地面に鼻こすり付ける様にして辿りながら、遠路遥々山奥まで追ってきたってのかい?
幾らなんでも正気じゃあないよ」
あの野郎が蛇みてえに這い蹲って臭いを探りながら進む想像するとひどく無様で滑稽だ。
だがそれだけに末恐ろしかった。あの自尊心の塊が、普通なら下っ端のデルビルにでも
やらせるような醜態を自ら晒し、自慢の毛並みが泥にまみれる事も厭わずに
そんな手段を取ったのであれば。きっと何倍にも逆恨みの炎を燃え滾らせてやがることだろう。
「臭い……あ、それならオレ、いーモン持ってるぞ!」
子ニューラはいそいそと何かを取り出し、「じゃん!」とあっしらに掲げて見せた。
それは、人間の握り拳より一回り小さいくらいの球状の物体だ。
表面には布か何かがぐるぐるに巻かれ、花火の導火線みてえのが一本だけ飛び出している。
「なんだそりゃ?」
あっしが尋ねると、子ニューラは自慢げに鼻を鳴らして導火線を噛んで引き千切り、
玉を地面に叩きつけた。すると玉から湿気を帯びた煙が勢い良く拭き出して、
あっしらの周りに立ち込めた。
「げほっ、ごほっ、おい、何しやがった!」
咳き込みながらあっしは怒鳴る。
「ふふん。キレイハナの花粉とマリルの油、後は何だっけ……を色々混ぜて作った、
オレの親父達特製秘伝の道具だぞ。こいつにかかればどんなネバつき汚れも、
しつこい臭いもバッチリさよならだ。名付けて『せんたくだま』! オレはそー呼んでる」
煙が収まると、なるほどまるで鼻でも急に詰まったのかと思うほどに
辺りからは臭いが消え失せていた。思い切り自分の体に鼻を近づけて嗅いでみても、
汗の臭い一つしねえ。試しに近くのニャルマーに鼻を近づけてみても同じく。
直後に思い切り引っ叩かれ、頬が少し腫れただけだ。
「すげーだろー。里に着いたら他にも色々見せてやるよ」
スリバチ山の山道を抜けて、小さな人間の集落――チョウジタウンらしきものが
段々と近づいて見えてくる。空はもう殆ど明るくなっていた。
早起きの人間ならばとっくに活動を始めてやがる頃だろう。
「あの町をどーにか抜けるか避けて44ばんどーろまで行けば、もーすぐだぞ!」
明日明後日にでも続き書きます
保守
チョウジタウンはコガネやエンジュに比べたら随分と小さな町だ。
建物も人間の数もずっと少ない。時間は早朝。もう目覚めている人間も
少しはいるだろうが、殆どは足も目も衰えた老人連中だろう。
仮に出くわしても簡単に撒けるはずだ。そうあっしらは判断し、
下手に迂回はせずさっさと町中を突っ切る事にした。
途中、土産物屋らしき建物の軒先下に忍び込むと、
ふわりと甘く香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
「お、いかりまんじゅうの良い匂いがするぞ。
人間のばっちゃんが焼いてるんだけど、結構ウマイぞ。
ちぇー、急いでなきゃ一つ貰ってくのになー」
子ニューラは物欲しそうに指をくわえて排気口から立ち昇る煙を見上げた。
「盗みは感心しないな。あまり俺も強くはいえないけれど」
「盗んでないもん。最初はそのつもりだったけど……。
いっつもな、里からこっそり抜け出してきた時に会いに来ると、
ここのばっちゃんはまんじゅうを一つわけてくれるんだ。
人間だし、息が”ひゅーひゅー”ってうるさいちょっぴり
変なばっちゃんだけど、オレは好きだぞ。”ノラ”とか”クロ”とか
勝手な名前で呼ばれるのはちょっとやだけど。
最近さ、変な奴らがこの場所を売ってくれとかしつこくばっちゃんに
言いに来るんだけど、オレあいつら嫌いだ。
もし買いとられて、ばっちゃんがいなくなっちゃったらオレやだなー……」
子ニューラは名残惜しげに視線を送りつつ、土産屋を離れた。
明日明後日にでも続き書く
チョウジを抜けたあっしらは44番道路道路へと踏み込んでいった。
豊富に生い茂る草木の葉には新鮮な朝露が煌めき、そこかしこに湧き出している
泉は柔らかな朝の日差しを湛え揺らめく。豊かな自然、新鮮な空気。
先の襲撃でささくれ立っていたあっしの心は少しばかり和ませた。
「もうすぐ、もうすぐだー」
子ニューラは鼻歌交じりに、その辺で拾った木の枝を陽気に
くるくると振り回しながらずんずん先を行く。
「おい、あんまり浮ついてスッ転ぶんじゃねーぞ」
あっしは何となく苛立ち、その背に野次を飛ばした。
「へーきだってのー、この辺はとっくにオレの庭みてーなもんだしな」
子ニューラは足取り軽やかに緩めることなく44番道路を東、
東へと進んでいく。
だが、そんな温い一時はまたしても崩れ去っちまった。
あっしの前を進んでいたマフラー野郎が一瞬立ち止まり、
片耳をピクリと揺り動かす。
「っと、どうしたんだよ?」
ぶつかりそうになるのを踏み止まって、つんのめりそうになりながらあっしは尋ねる。
「……いや、気のせいかな?」
マフラー野郎は首を傾げ、再び歩み始めた。
「おいおい、やめやがれよ。オメーがそういうこと言いだすと、
絶対ろくなことになんねぇんだからよ……」
あっしは何だか途端に嫌な予感がしてきて、おっかなびっくり後を付いていく。
「なーにびびってんだよ。この辺でアブねーことなんて、
オレと親父達がいる限りなんもねーって――」
子ニューラが言い終える前に、何か球状のものがあっしらの方に投げ込まれ、
ころころと足元へ転がってくる。それが何かと確認しようと下を見た瞬間、
何か包帯状の物がぐるぐるに巻かれた球状の”それ”から大量の煙が噴出した。
「ぶわっ!? げほっごほっ」
煙に巻かれて、たまらずあっしは煙を吐き出す玉から慌てて離れる。
それが失敗だった。視界中が煙だらけの中、首に鈍い痛みが走る。
あっしは何者かに首根っこを締められ、ずるずると引き摺られた。
声を出す事も出来ず、あっしはじたばた暴れて必死に逃れようとする。
「動くな、下郎」
聞き覚えの無い声が耳元で囁き、ひたりと首筋に鋭い感覚が押し当てられた。
保守
XY発売したな
保守
明日明後日くらいにでも続き書く
保守
保守
投下は明日の今くらいに
保守
すまん、もう少し遅れる
明日の深夜〜朝方くらいには間に合わせる
あっしは息を呑み、その場で体を石の様に硬直させた
煙が晴れると周りは黒衣か忍者がするような奇妙な頭巾を
被ったポケモンの集団に取り囲まれ、あっしはその集団の一匹に
背後から捕らわれていた。
「このカラスの命が惜しくば、その者の身柄を引き渡してもらおう」
背後の奴は子ニューラを指し示して冷淡に告げ、
鋭い二本の鉤爪を見せ付けるようにあっしの眼前に付き付ける。
緊迫の時――かと思いきや、子ニューラは守るように
立ち塞がるマフラー野郎の脇をすり抜けて、
まるで無防備に嬉しげに手を振りながらこちらへと駆け寄ってきた。
一拍置いて、背後の奴はあっしを解放し突き飛ばす。
「迎えに来てくれたのか! ただいま!」
入れ替わるように、子ニューラはあっしを捕らえていた奴に
親しげに飛び付いて抱きついた。周囲のポケモン達は少し戸惑ったように、
顔を見合わせる。
「――よもや、恩人ともいえる方々に何たる無礼……。誠に申し訳ございません」
かくかくしかじか事情を聞いて、あっしを人質に取った奴を先陣に
ポケモン達は三つ指ならぬ二つ鉤爪を揃えて跪き、深々と礼をして侘びた。
あっしらを包囲したのは里から抜け出した子ニューラを捜しに来た大人のニューラ達だった。
保守
明日明後日にでも続き書く
保守
おわり
明日の今くらい〜明け方には投下する
保守
「――ったく、禄に確かめもしねえでよォ。
あーあ、無理矢理引っ掴まれた場所がまだ痛みやがるなあ」
嫌味たらしく首元を押さえ、あっしはごねる。
「……返す言葉もございません」
「こりゃむち打ちか何かにでもなったかもしれねーなー。
そのガキを助けてやったことと合わせて、
どう落とし前つけてくれんのか――んギャッ!?」
跪くニューラにぐいと顔を寄せてねちねちとごね続けていると、
背中にバチンと短い痺れが走った。
「もう十分だろう。その辺にしておこうか」
何すんだと抗議の目で振り向くあっしに、マフラー野郎は言った。
「だ、だってよォー」
「むち打ちには電気が効くそうだけど。まだ足りなかったかな」
頬にパリパリと青い光を弾けさせて、マフラー野郎は微笑む。
「あ、いやー、もう治ったかなー。へへ……」
あっしは首をごきごきと動かしてみせ、仕方なくすごすごと引き下がる。
ふう、とマフラー野郎は呆れたように鼻息をつき、
あっしに替わってニューラ達の前に進み出た。
「もう頭を上げてくれ。余所者の俺達が、いなくなってしまった大事な子どもを
引き連れていたら、かどわかそうとしていた様に見えていたとしても仕方無い話だ。
丁度こんな真っ黒で人相と態度の悪いカラス君も一緒にいることだしな――」
じとりと横目でマフラー野郎はあっしを見やる。
「別に何か見返りをたかろうと思って俺達はその子を助けて送り届けたわけじゃあない。
ただ一つ、確かめたいことがあってここまで来たんだ」
「それは?」
あっしをとっ捕まえていたニューラは顔を上げて聞き返す。
「コリンクってポケモンの名に覚えはあるかな?」
ニューラは顎に片手をあて、考える素振りを見せる。
それからすぐに、思い当たった様子で「ああ」と呟いた。
「先日、人間共のトラックを襲撃した際に荷台に捕らえられていた
青い猫の子の事でございましょうか?」
「そう、その子だ――」
「アンタらが連れてったってそのガキに聞いたよ。どこにやったのかさっさと教えな。
まさかもう食っちったなんて言ったら、アンタらタダじゃあおかないよ」
ニャルマーがマフラー野郎の横からずいと踏み出て、
怒ったイノムーのような剣幕でニューラを鼻息荒く捲くし立てる。
「まあまあ、ちょっと落ち着いて、お嬢さん。
……その子はこのニャルマーの大事な連れ合いなんだ。
今どうしているのか教えてくれると助かるんだけれど」
ニャルマーをやんわりと後ろに押し戻し、マフラー野郎は尋ね直した。
「確かに我らが里にて丁重に保護しております。
連れ合いとあれば真偽の確認を取った後、あなた方にお返しいたしましょう。
此度の礼もせねばなりませぬ。我らが里まで是非にお越しくださいませ」
明日か明後日にも続きを書きたいです
携帯保管サイト、ランキング二位に上がったんだな
おめ
今日の夜か深夜あたりに投稿します
「勿論さ! とっとと案内してもらおうじゃないか! アイツの無事な姿を見るまで、アタシャ承知しないからね!」
「まあまあ……でも、お嬢さんはともかく、俺達までそんなご厄介を掛けるつもりは……」
息巻くニャルマーを制しつつ、少々困惑気味のマフラー野郎に対し、子ニューラがドン!と胸を張る。
「いーから来いって。どーせこの先行くアテもねーんだろ? まだあの犬っころ達がウロウロしてっかもしれねーんだしさ。
おい、たいちょー! こいつらはオレの大事なだ〜いじなお客なんだから、くれぐれもていちょーにおもてなしすんだぞ!」
「はい、重々承知しております、若君」
隊長、と呼ばれたニューラ――あっしを捕まえていた奴だ――が子ニューラの前で恭しく膝を折り、頭を下げる。
「わ……わかぎみぃ〜〜〜〜〜??」
この小生意気なクソガキが……そのギャップに思わず嘴を尖らせるあっしを、子ニューラがジロリと睨んだ。
「んだよー、だからオレはアトのトリだっつっただろー! 里じゃあ親父以外はみんなこんなだぞ。
……ま、オレもそう呼ばれんの、あんま好きじゃねーけどな」
言いながら子ニューラは、決まり悪そうに爪でばりばりと頭を掻く。
「一刻も早く、事の次第を頭領にお伝えしろ。そして、お客人を歓待する用意を致せ。よいな?」
隊長が命じると、覆面をしたニューラの中の数匹が一礼し、瞬く間に煙のように消え去った。
「これで良いでしょう。ただし、ここから里に到着するまでの間、我らは若君と客人達の供をさせて頂きます。宜しいですね?」
言うが早いか、隊長以下残りのニューラ達はあっしら――というか、子ニューラを護衛するように、前後左右を取り囲んだ。
「ちぇー! まー、しゃーねーか……おーし! そんじゃーしゅっぱーつ!」
子ニューラが腕を振り上げて号令を掛け、あっしらは更に東へと進んで行った。
目の前に広がる木々や泉の風景は相変わらず美しかったが、この状況はあまり心地のいいモンじゃなかった。
奴らの鋭い視線に一挙一動が見張られているみてえで、どうにも落ち着かねえ。
確かに腕の立ちそうな奴らにゃ違えねえから、万が一あのゲス犬どもが襲ってきたとしても安心ちゃあ安心だが。
もっとも、そんなナーバスになってんのは、殊の外繊細でデリケェトなあっしぐれえなもんで……
「……そんでさー、奴らが向かってきた時、オレはこーやって……」
子ニューラはご機嫌な様子で、横に控える隊長に対し、得意げに武勇伝を語っていやがる。
ニャルマーはむっつりと黙り込んだまま、眼だけを爛々と光らせて奴らを睨み付けていやがるし、
チビ助ときた日にゃ、我関せずとばかりにマフラー野郎の背で眠り呆けていやがる。
で、当のマフラー野郎はと言えば……
「ふうん……見事なものだ。まるで隙がない……このニューラ達は、余程特殊な訓練を受けているようだね」
きょろきょろと奴らの様子を観察し、妙なとこで感心してはひとり頷いている。
「それに、あの子達が使っていた道具……似たようなものは俺も知ってるけど、あれはもっと古い知恵のようだ。
とてもただの野生の群れとは思えないな。君達は、どこかで人間と関わっていたんじゃないかと思うんだけど……違うかい?」
「仰る通りです、お客人」
マフラー野郎が話し掛けると、あっしらの隣にいた幾分年若いニューラが素直に答える。
多少警戒の目が緩んでいるのも、奴の懐っこい性格に加え、子連れだという事実が幸いしているのかもしれねえ。
「詳しくは申せませんが、我らの祖先はとある人間達に仕え、とある秘密裏なお役目に従事していた、と伝えられております。
ですが、それも遠い昔の話。やがて人間達は姿を消し、隠れ里はその後、残された祖先らの手に委ねられました。
その中でも特に優れた者が頭領となり、その子孫も本家と呼ばれ、代々頭領の地位を受け継いで参りました」
「それじゃあ、あの子は……」
「若君は本家の血を引く一粒種。現在の頭領にとっても、我らにとっても宝の如き存在です。ですが……」
年若いニューラは何かを言い掛けたが、突然ハッとしたように口を噤んだ。
乙です
明日明後日にでも続き書きます
保守
投下は明日の今くらい〜深夜に
すみません、もう少し遅れます
今日中には何とか
「近衛たるもの任の最中に私語は慎むよう」
肩越しに振り向き、隊長は凛とした態度で窘める。
「は、はっ!」
年若いニューラは慌ただしく姿勢を正してそそくさとあっしらから少し離れ、
隊長が顔を前に戻したのを確認すると、済まなそうにそっとこちらに会釈した。
あっしとマフラー野郎は顔を見合わせ、怪訝に思って首を傾げる。
なんだか随分と頭がイシツブテみてえに硬そうな隊長サンのようだ。
さっきのニューラが言い掛けていた事も気になるが、
あっしのまだ場数の足りなかった単細胞な頭はそれよりもまず、
エラソーな隊長サマが――初対面で首を絞められたいざこざもあって――
いけ好かねえ気に食わねえって反感反骨の念に満たされて管巻いていた。
豊かな自然を突如遮るように目の前に立ち塞がる高く険しい岩山。
その麓にぽっかりと開いた洞窟の手前で一行は立ち止まり、
隊長はあっしらへと向き直った。
「これより先は氷の抜け道。は凍てつく氷に覆われた自然の迷宮にございます。
脱するまでくれぐれも我らの傍を離れぬよう。それと足元にもお気を付けを。
場所によっては張った氷により滑りやすくなっております。
足を取られ、お怪我でもなされたら大事ゆえ」
業務連絡のように淡々とあっしらに言い終えると、
隊長は横の子ニューラを丁重に横向きに抱き上げた。
「わ、ちょっ! 何すんだよ!」
子ニューラはあわあわと目を白黒、集まるあっしらの視線に
顔を真っ赤にしてじたじたと暴れる。
「何、とは。まだ若君一人の足で氷の道は危のうございますから」
きょとんと隊長は応える。
ははん、そーかそーか。あっしらの前じゃいっちょ前の口聞いておきながら、
普段はこんな風に甘やかされてやがんのか。
このおっかねえ保護者達に囲まれた状況で口に出すことは出来ないが、
脳内で散々に子ニューラをからかう。
それが余程表情に滲み出ていたのであろう、子ニューラはあっしの面を見るや、
ますます顔を噴火しそうなまでに真っ赤にしてわなわなと口を振るわせた。
「い、いいよ! もうとっくに一人で平気だってば!」
隊長の腕をすり抜け、子ニューラは逃げるように洞窟へ駆け込もうとする。
「ああ、お待ちください。せめて御手を」
引き止める隊長に、子ニューラはあっかんべーと舌を出す。
「へんっ、こんな洞窟、前から何度も一人ですいすい抜けてるもんね」
「……そう、その件につきましては、頭領様より若君にお話があるとのこと」
隊長の言葉に子ニューラの足がぎくりと止まった。
「な、なあ、親父やっぱ怒ってた……?」
隊長は無言で子ニューラへと歩み寄って手を差し伸べる。
「な、な? その時になったら、たいちょーはオレの味方してくれるよな? な?」
「頭領様のお怒りも若君の身を案じているがゆえにございます。
若君が反省の念を抱いておられるのか示していただかなければ、
私めも助け舟は出すことは出来ませぬ」
毅然と返す隊長に、子ニューラは小さく溜息をついて渋々隊長の手を取り、繋ぐ。
「では、参りましょう」
一連の様子を傍観していたマフラー野郎はクスと陰で小さく笑った。
「さっきの若い衆が何かを言いかけてやめてしまったのは気がかりだけど、
少なくともあの御目付け役さんと父親とあの子の関係は良好そうだね。
じゃあ、言葉を詰まらせるようなものは一体何で、どこにあるのか……。
ちょっと気になってきたな?」
そっとマフラー野郎はあっしに同意を求めるように言った。
「……知りたがりは早死にするって言うぜ」
「はは、元から長生きできるなんて思ってないよ」
「おい、また余計な厄介事に巻き込まれるなんてあっしはごめんだからな!」
人事みてえに飄々としているマフラー野郎にあっしはつい言葉を荒げる。
「いかがされました?」
振り向くニューラ達にあっしらは何でも無いと首を横に振り、その後に続いた。
明日明後日にでも続き書く
保守
投下は明日の今位に
白々とした霜に覆われた見るからに冷え冷えとした入り口を潜り、
あっしは内部へと踏み入る。床から壁、天井まで分厚い氷に覆われた様は
まさに天然の冷凍庫だ。骨身にまで突き刺ささるような冷気に身を包まれ、
堪らずあっしは絞られた雑巾みてえに身を縮こまらせた。
息をする度に肺はずしりと重くなって感じ、鼻先から滴る汁は
出る度出る度すぐさま乾いて汚い氷柱になってへばり付いた。
だのに、ニューラどもはまるで平然と歩き、
マフラー野郎は少し寒そうにマフラーを鼻まで上げながらも難なく付いていく。
あっしとニャルマーはぜえぜえと白い息を吐きながら遅れまいと
必死に後を追った。
「たいちょー、オレよりあいつらの手ひいてやった方がいいんじゃねーの?」
歩みが遅れるるあっしの姿に気付いた子ニューラの奴が得意げにニヤつきながら言う。
「……介添えが必要でございますか?」
振り向いて隊長は尋ねる。覆面で表情はわからねえが、
子を一人背負いながらも平気で後に続いてこれているマフラー野郎と、
あっしの体たらくを見比べて、呆れている風なのを声色から微かに感じた。
「い、いらねえよ……!」
その態度と自分の不甲斐無さにも腹がたって、あっしは意固地になって突っぱねた。
「左様で。里まで辿り着けばすぐに暖を用意しますゆえ。もう少しの辛抱を」
遅れてすまん
一旦ここまで、また明日にでも続き投下する
一旦あげ保守
一度虚勢を張っちまった以上あっしだって男の端くれ、貫く他はねえ。
油でもぶちまけてあるのかと思うほどに強烈に足を滑らせる氷の床に
何度身を転げそうになろうとも、人間が古くに架けたらしい梯子を降り
洞窟の深部に行くに連れて皮膚を撫でる冷気の鋭さが増そうとも、
湿気たマッチ棒みてえなチンケな意地に火を付けて耐え忍んだ。
馬鹿でかい氷塊がごろごろと積まれた一見何も無さそうな行き止まりまで来て、
ニューラ達はぴたりと立ち止まる。
一体、何をしてやがるのか。まさかあれだけ慣れた面をしておきながら、
道を違えやがったのか? 歩いて身に風を受けるのも辛いが、
ただじっと立ち止まって冷気に晒されているのはもっと辛い。
野次でも飛ばしてやりたいがもう嘴の端が強張って言う事を聞かない。
仕方なくじっと見ていると、隊長が覆面の中から奇妙な尖った物体が
紐で吊るされている首飾りのようなものを探り取り出した。
それから隊長は周囲を注意深く確認し、その首飾りについた尖った物体
――緩やかに湾曲したそれは獣の牙か爪のようだ――
を氷塊の一つの窪みへと差し込む。
すると、氷塊の奥から”かちり”と人工的な音が微かに聞こえ、
隊長がそっと触れてやると音も無くただの氷塊だと思っていたそれは
奥へと押し込まれて開いた。
「この通路を抜ければ我らが里。からくり扉を閉じますと中は暗くなります。
頭など壁にぶつけぬようご注意くださいませ」
最後の方、特にあっしの方を見て発せられたように思う隊長の忠告に、
余計なお世話だと胸の内で毒づいて、あっしは一団に続いた。
全員が中に入ったのを見ると、ニューラの一匹が内部の天井から吊るされた縄を引く。
音も無くからくり扉は閉まり、辺りはたちまち暗闇に包まれた。
通路の向こうに、柔らかな日の光が差し込んでいるのが見える。
あの先がこいつらニューラの里なのだろう。
あっしはようやくこの冷凍庫から解放される喜びで胸が一杯だった。
乙です
明日か明後日にでも続きを書きたいです
保守
明日の夜か深夜には投下します
あっしは今までの寒さや疲れも忘れ、光を目指して闇雲に前へ前へと進んだ。
途中、何度も滑ってマフラー野郎と衝突したり、蹴躓いて不本意にも抱き着いたニャルマーに怒鳴られたりしながらも……
次第に大きくなる白い光に期待を膨らませ、這う這うの体でどうにか出口まで辿り着く。
「じゃじゃーん! 四名さまごあんなーい! ようこそ、オレたちの里へ!」
先に到着していた子ニューラが戸口に立ち、大仰に腕を振り上げながらお辞儀をする。
恐る恐る潜り抜けた先は、さんざん待ち侘びた暖かな光に満ち溢れていた。
普段なら光よりゃ闇、昼よりゃ夜の方が好ましいあっしだが、お天道さんがこんなに在り難かった事ぁねえ。
そして、目の前に現れた想像を絶する風景に、あっしは度肝を抜かれた。
洞窟の長えトンネルを抜けると雪国――いや、雪と氷の世界だった。
そこには『隠れ里』という言葉が連想させるよりも、遥かに大きな空間が広がっていた。
地面にゃ真っ白な粉雪がさらさらと積り、踏み出したあっしらの足跡がくっきりと残った。
雪原のあちらこちらに、人間が暮らしていた頃の名残と思われる、古い茅葺きの廃屋が点々と連なっている。
半ば雪に埋もれ、屋根からは太い氷柱が何本も垂れ下がり、壁や柱も氷の下に閉ざされたそれらは、
どこか奇妙なオブジェにも見えた。
ここは山間の窪地でもあるのか、里の周囲をぐるりと覆うように岩肌が高く切り立ち、頂上付近は内側に傾斜して
容易に上からの侵入を寄せ付けねえ、天然の防壁を形作っている。
更にその表面にゃ幾重にも分厚い氷の層が重なり、上空から差し込む光が乱反射して、キラキラと薄青色に輝いていた。
まるで、金剛石で拵えた、巨大な井戸の底にでもいるみてえな、実に神妙な心持ちだ。
あっしは思わず目を細め、この不思議にも美しい異世界にすっかり魅入っていた。
いや、あっしだけじゃねえ。
マフラー野郎も、ニャルマーでさえも、この見事な光景にゃ言葉を失っているようだった。
「どーだ糞カラス! びっくらこいただろー?」
いつの間にか近付いていた子ニューラが、へん、と得意そうにあっしの顔を覗き込んでニヤニヤしている。
「う……そ、そんなこたあねえよ! いいからさっさと先に行きやがれ!」
ハッと我に返ったあっしは、からかうように飛び跳ねる子ニューラを、翼を振って追っ払った。
そうこうしながらも、あっしらはさくさくと新雪を踏みしめ、ニューラ達に先導されて里の中央を目指し、真っ直ぐに進んだ。
やがて、緩やかな丘の上に建つ、一際大きな屋敷の前で一行は立ち止まった。
こいつは恐らく、昔ここにいた人間達の中でも、最も偉え奴が住んでいた家だったに違えねえ。
「頭領様はこの奥の間におられます。御目通りが済んだ後、匿い者達の住まう集落へと参りましょう」
「なー、たいちょー……せめて、親父の方を後回しにできねーかなー?」
あっしらを中に案内しようとする隊長に、子ニューラが甘ったれたように縋り付く。
「なりませぬ。まずは頭領様のお許しを頂かなくては。もっとも、若君は少々留め置かれるやもしれませぬが」
そう隊長にきっぱりと撥ね付けられると、子ニューラはうへえ、といった感じで渋面を作った。
「はあ〜……オレが直々に案内したかったのによぉ〜……」
正直、こんな由緒有りげな里を束ねる偉え御方にご対面するとなりゃ、少々気後れがしねえでもなかったが、
このクソガキがこってり油を搾られる様を見られるのかと思うと、あっしは踊り出したくなるほど愉快な気分になった。
だが、その時だった。
「おお、若君! ご無事でございましたか!」
皺枯れた大声が横手から響いた。
見ると、腰は曲り、体毛の色もすっかり抜け落ちた、一見しただけで年寄りと分かるニューラが現れた。
そいつは何度も咳き込みながらも、意外にしっかりした足取りで子ニューラ達に近付く。
その後に、やはり黒い毛並みに白髪の混じった、御付の者らしい初老のニューラが二匹、ぴたりと付き従っている。
「げっ、ばっちゃんたち……何だってこんな時に……」
子ニューラはますます困ったような顔で、首と両手をぶんぶんと激しく横に振った。
「べ、別に何ともねーって! それよりばっちゃん、起きてきたりしていーのかよ!」
「何を仰られますやら……若君が行方知れずと聞いては、この婆は大人しゅう寝ている訳には参りませぬ」
一頻り子ニューラの無事を喜んだ後、老ニューラは隊長達の方へキッと向き直った。
「お主らが付いていながら何と言う失態じゃ! もし若君の身に万一の事があらば、亡き姫様に顔向けできぬわ!」
それまでの猫撫で声とは打って変わり、バクオングさながらのドスの効いた怒声で叱責する。
「……面目ございません」
隊長以下ニューラ達は、恐れおののく様にその場に平伏した。
だが、その卑屈な態度とは裏腹に……覆面の下から覗くその眼にゃ、一様にどこか反感を含んでいるように思えた。
「た、たいちょーたちは悪くねーよ! 悪ぃのはオレだって! オレが勝手に抜け出したんだってば!」
子ニューラが慌てて取り成すと、老ニューラは只でさえ皺々の顔を更にくしゃくしゃに綻ばせた。
「おお……下々の者まで思い遣る、そのお優しい心根……やはり姫様によう似ておいでじゃ」
一体何なんだこのババア……?
余りに温度差の激しいその態度に、あっしは浮き立つ気分も忘れ、次第にムカっ腹が立ち始めた。
「……その者達は何じゃ?」
不意に、ようやくこちらに気付いたように、老ニューラは突き刺すような厳しい目をあっしらに向けた。
乙
明日明後日にでも続き書く
保守
明日の今くらい〜明け方には投下する
「ああ、俺達は……」
答えようとしたマフラー野郎を、隊長はそっと手振りで制した。
「はっ、この者達は――」
そして隊長は自ら矢面に立ち、包み隠さず事のあらましを報告する。
話を聞くにつれ、老いぼれたニューラの眉間には
益々深く皺が刻まれていった。
「うぬら、若君の身を危険に晒しただけではなく、
どこの馬の骨とも知らぬ余所者に恩まで着せられというのか……!」
老ニューラはわなわなと拳を震わせ、雷みてえに荒々しく喉を震わせる。
「やはり、近衛の長など到底務まらぬのだ。うぬのような不出来の――」
「ばーちゃん!」
跪く隊長に庇うように抱き付き、子ニューラは叫ぶ。
老ニューラはグッと言を飲み込み、一拍置いて静かに深呼吸した。
それから忌々しげにあっしらに視線を移し、あからさまに作った物とわかる笑みを浮かべる。
「”一応”は感謝いたしますぞ、お客人。しかしながら、ここは我らの秘匿の地。
奔放な外の者には窮屈に感じましょう。長居は双方の為になりますまい……」
げほげほ、と老ニューラは思い出したように咳をしだす。
「些か外の風にあたり過ぎた様じゃ。お先に失礼させていただきましょう」
言いたい放題に胸糞の悪いケチを残して、老いぼれは側近を引き連れて引っ込んでいった。
あっしは火が付くんじゃ無いのかと思うほどに体が怒りに火照って震えた。
浮れ気分はすっかり台無しだ。
「ごめんな、たいちょー……」
心底すまなそうに子ニューラは隊長に謝る。
「いえ」隊長は首を横に振り、子ニューラの潤む目を手で優しく拭った。
「お見苦しいところを、申し訳ございませぬ」
あっしらに向き直って隊長は詫びる。
「俺様達は随分とまあ歓迎されているみてえだなァ」
言葉にうんと棘を混ぜ込んであっしは言う。
「ご老公の言葉は必ずしも里の総意であるとは限りませぬ。……ご理解いただきたい」
屋敷の大きな門を隊のニューラに開けさせ、隊長はあっしらを改めて招いた。
ほしゅ
明日明後日にでも続き書くよ
投下は明日の今くらいにか明け方に
門が開いた先には新雪に染められた趣のある庭園が広がり、
古ぼけた石畳が敷かれた道の先には如何にもな屋敷がでんと待ち構えていた。
まるで時代劇の中にでも放り込まれたような光景に、
普段のあっしでありゃ御上りさんみてえに庭の中を見回して、
子ニューラの野郎は小憎らしく胸を張って自慢してやがったんだろうが、
さっきのババアとの邂逅が胸焼けのように後に引き摺っていて
何もかもすっかり台無しになっていた。一同は一言も口にせず、
ただ黙々と石畳に足音を響かせた。
正面扉の前に立つ門番らしき二匹のニューラはあっしらが近付くと
静かに礼をして両脇に避け、扉に付いた龍の頭部をあしらったらしき
装飾の口から垂れ下がる鎖をぐいと引っ張った。
「ご苦労」
隊長は門番達に声掛けて屋敷へと踏み入る。
あっしとマフラー野郎にちらちらと向けられる門番からの
何となく物珍しげな視線に見送られて、薄暗く雰囲気のある屋敷の中を進んでいった。
襖で仕切られた幾つもの部屋を縫うように入り組んだ廊下はまるで迷宮のようだ。
踏み出す度に年季の入った床板はぎいぎいと金切り声を上げ、
点々と両脇に備え付けられている龍の首の意匠が施された燭台は見慣れぬ来訪者に
火をちらつかせながら睨みを利かせている。
内部の暗みにも段々とあてられて、怒りに膨れていたはずの
あっしの心はじわじわと風船みてえに萎んでいっていた。
途中、出会うニューラ達はあっしらの姿を見かけるとそそくさと道を譲り、
静々と一礼した。そこでもやはり門番と同じように、通りすがり際にニューラ達は
興味深げな目をあっしとマフラー野郎に対して向けた。
「……おい、何なんだろうな、あいつらの視線」
何ともいえないむず痒さに耐えかねて、あっしは隣のニャルマーに声を潜ませて尋ねる。
「さーね。ちょうど鳥とネズミだし美味そうな獲物にでも見えてるんじゃあないのかい?」
人事のようにそっけなくニャルマーは答える。
「縁起でもねえこと言うなよな……」
「ま、精々無事に帰れることを祈ってんだね」
早々に会話を切り上げ、ニャルマーは屋敷の中をじろじろ値踏みするように
見回す行為に戻る。
雄々しい二対の龍の姿が描かれた煌びやかな金箔の襖――扉、燭台と続いてまた龍だ。
本来の屋敷の主だった人間共は龍に余程魅入られていたんだろうか、
そこはかとなく執着めいたものが感じられる――に遮られた部屋の前に来ると、
ニューラ達は襖の前に並んで跪いた。
「無事、お連れいたしました」
隊長が襖の奥に向かって告げる。
「通せ」と、一拍間を置いて奥から声が低く響いた。
一体、どんな野郎が待ち構えてやがんのか。
隊のニューラ達が襖を開くのをあっしは固唾を呑んで見守った。
室内の中央には紗幕が張られ、その奥に片膝を立てて座している
この里の頭領であろう者のシルエットがぼんやりと見える。
隊のニューラ達に促がされて部屋に踏み込んだ瞬間、
幕越しからでもちりちりと皮膚が泡立つ様な緊張感とプレッシャーを感じた。
明日明後日くらいにでも続き書く
保留
投下は明日の今〜明け方くらいに
隊長は先んじて幕の手前で跪き、子ニューラは隠れるように隊長の背に
虫みてえにぴたりと張り付いたままでいた。そのすぐ後ろにマフラー野郎、
マフラー野郎を挟んで両隣にニャルマーとあっしはおずおずと座り込む。
あっしらの背後にはニューラ達がずらりと横に並んでいて退路は完全に塞がれている。
何か狼藉でも働こうもんなら即座に叩っ斬られそうな雰囲気だ。
「あいつの姿が見えないが?」
幕の奥からの声に子ニューラはぎくりと毛を逆立てた。
隊長は「ささ」と子ニューラを自分の背から引き離し、
そっと幕の前へと押し出した。
「うー……」
子ニューラは耳をぺたんと畳んでばつが悪そうにもじもじと体を揺らす。
こっちに来いと幕に映る影に手招きされて、子ニューラは渋々恐々とした様子で
ごそごそ幕を潜り抜けて向こう側へと行く。
いつもはクソ生意気なガキがまるで借りてきた猫のようだ。
あの怖そうな頭領サマから一体、どんな風に雷が落とされるのか。
こんな状況ながら少しわくわくして様子を見ていた。
だが、あっしのそんな邪な期待はすぐに裏切られてしまう。
幕の向こう側で、歩み寄る子ニューラを頭領は叱るでもなく飛びつく様にがばと抱き寄せた。
「の野郎ッ――心配させやがって……このっ、くのっ――」
「ちょ、恥ずかしいだろー! やめっ、くすぐったいー! うわっ、酒くさいー!」
込み上げてきたものを抑えきれないように頭領は子ニューラを抱き上げ、
頬擦りし、べろべろと顔を舐め回すのが音と影の動きで分かった。
呆気に取られてマフラー野郎とニャルマーも目が点になっていた。
隊長は小さく溜息を吐き、ごほんと咳払いする。
「頭領様。お客人をお待たせしておりますが」
隊長の一声でハッと我に返ったのか、頭領は子ニューラからそっと手を離して、
何事も無かったかのように取り繕って再び腰を下ろした。
横で子ニューラは憤慨しながらごしごし顔を拭っている。
「ああ、そうだった。その後ろに控えているのが件の恩人か」
「はっ」隊長は素早く横に退き、あっしらに前に進み出るように手振りする。
流されるまま隊長の見よう見まねで跪くあっしらを頭領は見渡す。
「ほほう、見るほど妙な取り合わせだ。カラスに見知らぬ猫に、黄色い――んん?」
途中、頭領はまた突飛な声を上げる。注意深く覗き込むように
あっしらの方に身を乗り出し、何か興奮か驚きかで昂ぶっているのか
震える手でマフラー野郎を指し示す。
「おい、お前。その黄色いのだ。ちょっと面を上げてしっかり見せてみろ」
言われるままマフラー野郎が顔を上げると、前のめりにばたばたと膝で歩いて
頭領は傍まで確認に寄ってくる。
「おいおいおいおい、いやいやいやいや、飲み過ぎた幻覚かもしれねえ……!」
まだ何かを信じきれないように頭領は首を振るい、
邪魔だと言わんばかりに勢いよく幕を剥ぎ取る。そうして姿を現した頭領の正体、
奥から現れたのは頭に扇みたいな形の真っ赤な鬣を生やした特異なニューラだ。
その顔面には大きなバッテン状の傷跡が刻まれていた。
乙です
なんか「おぼっちゃまくん」のよーしゃなき厳しかお父ちゃまを思い出したw
明日か明後日にでも続きを書きたいです
保守
明日の夜か深夜に投下します
そうか、こいつが……ロケット団を脅かすニューラの進化系、マニューラというポケモンか……
だが、それ以上にあっしの脳裏に閃いたのは、昨夜マフラー野郎の話に聞いた、奴の戦友――
奴と共に死地を戦い抜き、身を挺して奴を助けたという黒猫――スカーの存在だった。
嫌でも目立つ顔のバッテン傷を始め、その姿も言動も、マフラー野郎の話とぴたりと当て嵌まる。
そうでなくとも、体中に刻まれた無数の古傷から、相当な修羅場を掻い潜ってきた歴戦の猛者だろうと察しがついた。
しかし、それなら何故、そんな奴が頭領の地位なんかに納まってやがる?
先程の若えニューラは、この里の頭領は代々世襲制だ、とかいうような事を言っていやがったが……
どうにも分からねえ、やっぱりただの偶然の一致なのか。そう思いながら、あっしは隣のマフラー野郎を見た。
ところが、奴は……両手を床に着け、顔を上げた中途半端な姿勢のまま、大きく目を見開いて硬直していた。
いや、よく見ると、何かを言いたげに口元だけが動いているが、まるで喉にオボンの実でも詰まらせたかのように
言葉がまるで出てこねえ様子だった。
件の頭領は、あっしら一同が生温く見守るのも、ようやく目を覚ましたチビ助がジト目で睨むのも構わず、
マフラー野郎の周りをぐるぐる這い回り、しきりにその体を眺めたり触ったり嗅いだりと忙しなく動き、
仕舞にゃ黒いマフラーを捲り上げ、あの背中のでけえ傷を確かめるに至るや、へたりとその場に座り込んだ。
「なーなー親父、ひょっとしてこのネズミ知り合いか? ……親父? おーい、親父ってば!」
放心したような頭領の肩を、訝しみながら子ニューラがちょいちょいと突く。
「……おい……ちぃーと俺のここをつねってみろ……」
呆けた表情のまま、頭領が子ニューラに自分の頬を指差す。
「え? な……何言ってんだよ?! そんな事していーのか?」
「いーからやれって」
「よーし! じゃーいくぞー! せーの!!」
子ニューラはささっと頭領の背後に回り、左右の頬を両手の爪でわしっと挟み込むと、
顔面が変形する勢いで力一杯ぎりぎり捻り上げる。
「あだだだだっ……だだだだーだーだーっ!! 何しやがんだこのクソ坊主!」
頭領は背負い投げの要領で子ニューラを放り上げ、クソガキは宙に一回転してビタンっと床に尻餅を搗く。
「いってー! 何だよー! テメーでやれっつったんじゃねーか! この酔っ払い親父!」
「誰が全力でやれっつった! 限度ってモンがあんだろーが! チクショー、おー、いってぇー……」
頭領は血の滲む頬をさすりながら蹲る。その姿にゃ、もはや威厳もへったくれもねえ。
「ククク……痛ぇってこたあ夢じゃねえ、夢じゃねえんだよな! ヒャハハハ!」
それでも素早く立ち直ると、その顔に満面の笑みを浮かべ、マフラー野郎と向かい合った。
「……ス、スカー……?」
ようやく絞り出したような震え声で、マフラー野郎が呟いた。
「おうよ……化けて出てきたってわけじゃねえよな、ネズミぃ……足、あるもんな」
「はは……それ、前にも言われたな」
マフラー野郎の驚きの表情が和らぎ、次第に笑顔へと変わっていく。
「君こそ……本当に生きて……生きてるんだな?」
「ったりめーだろ、このクソッタレが! こんな強くて凛々しくてイケメンで格好良くて理知的なナイスガイにゃ、
死神すらビビッて裸足で逃げ出しやがったぜ! ヒャハハハハハ!!」
「あはは……確かに……確かに君だ、スカー……間違いない……はは……ははは……ははははは!」
二匹は顔を見合わせ、互いの腕を叩き合いながら大声で笑った。
あっしらはただただ呆気に取られ、そんな様子を見詰めるしかなかった。
実際、その間に他者が入り込める隙なんざ、どこにもありゃあしなかった。
「ヒャハハハハハ……この糞ネズミ、よく生きてやがったな……」
「良かった……本当に良かった……はははははは……」
何時しか、奴らの高らかなバカ笑いに、どこか湿ったような響きが混じり始めていた。
乙
明日明後日にでも続き書くよ
保守
保守
投下は明日の今くらい〜明け方には
ごめん、少し遅れそう
夕方くらいには投下できるようにする
「……頭領様」
声色に戸惑いを混じらせたまま隊長が控えめに呼びかける。
「おー、そうだったそうだった」
ずび、と鼻を拭い、ごほん、と喉を整えて頭領は入り口に並ぶニューラ達に向き直った。
「おう、オメェら、女中達に伝えろ。客人を持て成す宴の準備だ」
「はっ」
号令を受けニューラ達は水が捌けるようにあっという間に部屋を出て行く。
「山ほど積もる話があるからなぁ。何も肴がねえわけにはいかねぇだろ」
「ああ、俺は喜んでお受けしたいところだが……」
「ちょっと、冗談じゃない。アタシはそんな長居するつもりは――」
少なくとも一晩は里での長居につき合わされそうな事の流れに、
今まで黙って成り行きを見ていたニャルマーもすかさず突っかかる。
「まあま、お嬢さん。こんな風に巡り合えたのも何かの縁。
一晩ぐらい酒の席に付き合っちゃくれないかい」
頭領はそっとニャルマーの手を取り、自然に顔を寄せ涼やかに微笑んむ。
何だか随分と手馴れた様子だとあっしの目でも分かった。
ニャルマーは電撃でも受けたように体をびくりと揺らし、
「はい」と急にしおらしくなって小声で応じた。
「もう、なにやってんだよ!」
頬を膨らませた子ニューラがぴょんと頭領の肩へと飛び乗った。
「どわっ! てめっ、急に飛びのんなって、いつも言ってんだろが! くのっ」
頭領は子ニューラの両足を掴んで肩車したままぐるぐると振り回す。
きゃっきゃけらけらと再び戯れ出す二匹に隊長はごほんと咳払いする。
「頭領様。宴の前に客人方を匿い者達の集落へとご案内したいと思うのですが……」
あけましておめでとう
明日明後日にでも続き書きます
保守
投下は今日の夕方〜深夜くらいに
保守
すみません、立て続けに急用が入って中々書く時間が取れませんでした
今日の夜には間に合わせます
「と、と。それなら、俺様が直々に案内してやるよ」
目を回し、ふらつく足取りを整えながら頭領は言った。
「しかしながら、頭領様にはこの後ご老公方との評定が控えておられるはずでは」
「いいの、いいの。あんなもんどうせ老いぼ――お義母さま方にくだらねえ
嫌味でぐちぐちと突っつかれるだけだからよ。くたばったと思ってた旧友が
生きて現れたってえこの時に水差されたかねえってんだ、ヒャッハッハ」
豪快に笑い飛ばして、頭領は子ニューラを肩車したまま襖を足で勢いよく押し開け、
「付いて来な」ぐいと首であっしら招いた。「ついて来なー」その肩の上で子ニューラが
嬉しそうに真似をする。
小さく嘆息を吐く隊長に、「いつもこんな調子?」とマフラー野郎が小声で尋ねると、
隊長はそっと頷いた。
「変わってないな」
マフラー野郎は呆れたように、しかし少し嬉しそうに苦笑いした。
「何してやがんだ、置いていくぞ」
「なにしてんだ、置いてくぞー!」
急かす二匹に「わかったわかった」とマフラー野郎は続く。
あっしも仕方なく付いていこうとする中で、何かじっくりと考え込んでいる様子で
動かないニャルマーに気付く。
「何してんだ?」
あっしが怪訝に思って声をかけるとニャルマーはじろりと目だけ動かしてあっしを睨み、
「なんでもないよ」と素っ気無く答えて腰を上げた。
庭から門までずらりと両脇に並ぶ女中や門番のニューラ達に大袈裟盛大に見送られながら、
頭領と共にあっしらは屋敷を後にする。途中、あっしには一つ引っかかることがあった。
ニューラという種族の性別は赤い左耳の長さである程度判別できる、
とどこかで聞いたことがあるが、まだガキで判別がつかねえ子ニューラと
すっぽり頭巾を被っていて耳が見えねえ近衛隊は除いて、
この屋敷にいたニューラは女中から門番、果てはあの屋敷に入る前に
突っかかって来た老いぼれとその御付の奴までが左耳がちんまりとみじけえ、
つまりはメスばかりだってことだ。
謁見の時に見せたあのニャルマーへの態度からしても、
きっとあの頭領は随分な好きものなんだろう。あっしは勝手にそう解釈して、
門を出る頃には沸いた疑問をさっさと片付けてしまった。
調子外れに歌いながらご機嫌の子ニューラとそれを背負う頭領を先頭に、
屋敷から丘を降り少し離れた位置で身を寄せ合うように集っている廃屋の群へよ
あっしらは向かう。あれが件の匿われている連中のいる集落なんだろう。
近付くに連れてがやがやと活気ある喧騒が聞こえてくる。