「ではミュウツー達は、そのコガネシティという所に居るのか?」
「でも、百貨店やラジオ塔やリニア線路……って、どう考えても人間の多い街ですよ?
地下通路にしたって、恐らくは人間が通行する為に作られたものでしょう?」
俺の言葉に、ロズレイドが異を唱える。
確かに、カントーで言えばタマムシやヤマブキ、シンオウで言えばコトブキやトバリのような、
人間が言うところの、都会的で拓けた場所には違いない。
「ミュウツーだけならともかく、そんな所に人質も含め、大勢のポケモンが隠れていられるでしょうか?
エレキブルさん達がギンガ団の跡地を利用しているのとは訳が違うんですから」
「ふむ……ならば、お前はこれをどう捉える?」
「そうですね……」
暫し沈黙した後、おもむろにロズレイドは考えを述べた。
「時間的に見て……例えテレポートを使ったとしても、そんな即座に移動できるとは思えません。
もしかしたら、我々が見た風景は……ミュウツーの記憶の中の景色かもしれません」
「奴の記憶?」
「飽くまで僕の推測ですが、ミュウツーは……過去にジョウトへ行った事があるのではないでしょうか。
いくら強者とは言え、自分が全く知らない場所では、戦闘において優位に立つ事は難しい筈です。
既に奴らは何らかの策を講じた上で、我々を誘き寄せようとしているのだと思います」
「ならば、コガネシティの風景を見せたのも、奴の罠だというのか」
「そこまでは分かりませんが、僕達にとって厄介な場所である事は、まず間違いないでしょう」
「ヒューヒュー! ちったあ戦略家らしくなってきたじゃねーか。ロゼちゃんてば冴えてるぅ〜!」
マニューラに囃し立てられ、ロズレイドは急に照れたように頭を掻く。
「まあ、それはいいとしてだニャ……」
ゴホン、と咳払いをし、今度はペルシアンが二匹の間にどっかりと割って入る。
一体こいつらは、いちいち何をしておるのだ?
552 名前: 名無しさん、君に決めた! [sage] 投稿日: 2010/09/30(木) 01:25:44 ID:???0
「そのジョウトまで、一体どうやって行くつもりニャ? アンタなら何か知ってるかニャ?」
ペルシアンがそう言って向き直ると、フン、と鼻を鳴らし、小馬鹿にした様にデルビルは答える。
「ああ、当たり前だろ。大まかに言や、手段は三つだ。まず、例のリニアだが……」
「待て。そんなものにポケモンが乗れる訳なかろう」
「せっかちな野郎だな! 最後まで聞けよ!」
俺が口を挟むと、デルビルはムッとしたように吠え立てた。そう言う貴様こそ、実に短気な野郎だ。
「ポケモンどころか、今は人間だって乗れやしねえよ。仲――いや、誰かが発電所に忍びこんで
何やらやらかしたせいで、リニアへの送電が止まっちまってる。ま、当分は運行できねえだろうな」
「……やけに詳しいな」
ドスを効かせつつジロリと睨むと、デルビルはギョッとしたように身を竦ませた。
まあ、これまでの態度や言動からして、こやつの正体について薄々感付いてはいるが……
今は配下の手前、黙っていてやる事にする。
「……次に陸路だが……こいつは容易な事じゃねえ。あの山のおかげで、人間様だって立ち往生だ」
気を取り直したように言葉を続け、デルビルは首を西の方へ向けた。
その遥か彼方に、雲を突くような高峰が霞んで見える。
「あれはシロガネ山だニャ。この国で一番高い山、と言われているニャー。
あの辺は強いポケモンが多いし、伝説の火の鳥が住んでいる、とも言われているニャ」
だからこそ、迂闊に鳥達も近付けられない、とペルシアンは言う。
「それを越えて行くんだ、余程のツワモノか、丸っきりの馬鹿じゃなきゃ無理ってもんだぜ。
となると、残るのは海路だ。クチバシティからアサギシティまで、定期便の船が出ている筈だ」
無論、俺達がその船に乗れる訳はないが、シンオウに使いを出せば船足は確保できる。
だがフローゼル達は、ジョウトの海……いや、そこに住む海の神とやらを、異常なまでに恐れていた。
553 名前: 名無しさん、君に決めた! [sage] 投稿日: 2010/09/30(木) 01:28:29 ID:???0
海に暮らす者達は、特に迷信にはうるさいという。
たとえ脅しを掛けたところで、奴らが首を縦に振らなければどうにも仕様がない。
「まあ、他はともかく……海なら、ボクにもちょっと当てがあるのニャ」
俺が考えあぐねていると、ペルシアンが文字通り、助け舟を出してきた。
「当てだと? 海にまでお前の仲間がいるのか?」
「そうニャ。昔、セキチクシティにサファリパークがあった事は知ってるかニャ?」
「何とはなく聞いた事はあるが……それがどうした?」
「今は別の施設に改装したとかで、住処を追われて逃げ出したポケモンが大勢いるニャ。
その連中の主格だったストライクから聞いた話ニャんだが……」
話をまとめると……
その剣豪として名高いストライクは、或るポケモンと勝負する為、遥々シンオウに使いを出したらしい。
だが、待てど暮らせどそのポケモンも使いも一向に現れず、その間にサファリも閉鎖されてしまった為、
他のサファリのポケモンと共にペルシアン達の世話を受け、セキチクシティの周辺を根城にしていた。
そんな折、付近の海岸線を回遊していた水ポケモンの中に、そいつらを乗せてシンオウから来た、と言う
若いホエルオーが見つかり、現在は彼の庇護下にあるという。
「奴らは今頃、セキチク近くの海岸に居る筈だから、詳しく話してみるといいニャ。
それにしても……オスとオスの約束を反故にするニャんて、無礼なポケモンもいたもんだニャー。
シンオウって事は、ひょっとしてアンタらにも関わりがある奴だったりするのかニャ?」
そう言われても、俺達にはとんと心当たりが……
……いや、何か……
すっきりキレイさっぱり、スカッと爽快に忘れている事があるような気もするが……
朝方か昼頃くらいまでに続き投下するよ
>>1乙
落ちてたのか。この時期、まだ油断できないなあw
>>5 楽しみにしています。
これだけ思い出そうと頭を捻っても搾り粕程も記憶の一片が出てこないということは、
俺にとってどうでもいい事だったのだろう。頭に入る記憶の容量というのは、
目に見えずとも限りが有る貴重ものだと俺は思う。今まで食べたパンの数や、
踏み付けた雑草の数を一々記憶していたらあっと言う間にごちゃごちゃになって、
必要なものが引き出しにくくなってしまう。俺達ポケモンが何か良い技を閃いた時、
トレーナー共は必要ない技を一、二のポカン――あの衝撃は今でも身震いする――と
忘れさせてから覚えさせるだろう。誰だってそうする。俺だってそうする。
「ボーッとして、どうしたニャ? やっぱり知ってるヤツなのかニャ」
ペルシアンに声を掛けられ、はっとして俺は引き戻される。
「いや、まったく知らぬな」
「ふぅん、その様子じゃ、ホントに知らないみたいだニャ。ま、ボクも関係ない、しかもオスのポケモンなんて
正直どうでもいいんだけれど、ストライクのヤツ未だに根に持ってて、会うたびに探せ探せうるさいんだニャー。
ミュウツーのことで大変で、あまり鳥も割けないから困っててニャ」
何よりタダ働きさせようってのが一番気が乗らない所ニャ、ぼそりとペルシアンは呟く。
今、こいつの魂胆がちらりと尻尾を覗かせた気がする。助け舟だと思っていたものが、
実は何か曰く付きの船では無いかつついて確認した方が良さそうだ。
「それで、俺達に押し付けようというのか」
「その通りだニャ。シンオウから来たと知ればストライクもアンタらに船足の条件として捜索を頼んで、
ボクは面倒からオサラ――」ペルシアンはしまったと口を塞いだ。
……思った通りだ。セキチク行きもどうやらおいそれと乗っていい話じゃないらしい。
余計な厄介事を背負わされるのは好ましくない。もう一度考える余地がありそうだ。
陸も空も行けない、残るは海。とはいえ、その海だって安全だという保証は無い。
海の神というのがやはりどうも引っ掛かる。火の無い所には煙は立たぬ。
地方間を繋ぐ定期船があるくらいなのだから、カントーの南の海路は人間の往来が活発だというのは事実だろう。
「でも他にどうするんだニャ? 鳥は出せないし、人間の船は乗れないし、リニアだって止まってるニャ」
無理矢理鳥を出させても、ロズレイドがロゼリアだった時と違いムウマージだけで運べなくなった以上、
運ぶ鳥の数も増やさねばならず、以前より人目に付きやすくなる。船は乗れない、止まったリニアなど問題外……
いや、まて――
「リニアの線路というのは、カントーまでどのように繋がっているのだ?」
俺はデルビルに尋ねてみる。
「コガネの中央から東へ向かってほぼ真っ直ぐ、ヤマブキにある駅まで直通なハズだが。それがどうした?」
「うむ。ロズレイド、ジョウト地方とカントー地方の地図を繋げて並べてみてくれないか」
「あ、はい」
ロズレイドは自身の道具袋から二枚の地図を取り出し、広げて並べる。
俺はコガネの位置をデルビルから聞き、その中心からヤマブキまで指で真っ直ぐなぞってみた。
「真直ぐ通っているなら線路はトキワの付近にも通っている筈だが、それらしきものを見かけたことは無いぞ」
再びデルビルに目をやる。
「そりゃそうだ、その辺りの線路は地下を通っているからな。人間様の力をナメんなよ」
「どこまで地下が続くのだ?」
「あー、確かシロガネ山脈の内部を通り抜けて、ジョウトの三十番道路と三十二番道路の間くらいからまた地上に――」
そこまで言って、デルビルは合点がいったという顔をする。
「へへ、なるほどなぁ。リニアが止まっていることを逆に利用するってか。嫌いじゃねえぜ、そういうの」
ニヤリとデルビルはほくそ笑んだ。不法侵入、人間にとって犯罪であろう行為にまったく躊躇の無い反応からして、
真っ当に生きてきた人間ではあるまい。こいつの正体をより一層確信する。が、今はその過去を存分に利用させてもらおう。
「発電所のトラブルはいつまで続きそうな気がする? あくまで予想でいい。お前は感が良さそうだからな」
「そうだな、大事なパーツを盗まれたらしいから、犯人が見つかって隠し場所が分かるまでどうしようもねえだろ。
あの辺の管轄の警察は結構無能らしくてな。昔、ハナダで泥棒に入っ、入られた家のすぐ裏に犯人が隠れていても、
変なガキの邪魔が入るまでは見つからなかったって聞いたことがある。犯人が自首でもしねえ限り、
どんなに早くても一週間以上は見つからねえよ」
――途中、休み休み歩いたとしても送電再開まで十分な猶予がありそうだな。
「見込んだ通り、良い見立てだ。では駅と線路の警備や管理体制はどうなっていると思う?」
「ああ、前に忍び込んだことがあるイタズラ好きな友人がいたが、ザルもいいとこだったらしいぜ。
止まっちまって誰も利用しない今、夜なんてがらがらだろうさ。原因が発電所にあるって分かりきっている以上、
整備の連中もすることが無くて暇こいてるだろうぜ。送電が解決しだいすぐにでも運転を再開したいだろうから、
内部を厳重に閉鎖してるなんてこともないだろう。もしあっても破ろうと思えば破れる程度のものだろうさ」
煽てにまんまとのり、べらべらと得意げにデルビルは喋りだす。
「ふむ。どうやら船足はもう必要なさそうだな。まさか人間に近年掘られて出来た人工の地下トンネルに伝説の何やらが
住み着いているなどあるまい。ストライクの件は引き続きお前の方でよろしく取り計らってもらおうか、ペルシアン」
ちぇっ、とペルシアンが諦めるように舌打ちするのが聞こえた。ミミロップ達にも特に異論は無さそうだ。
「決行は夜。ヤマブキの駅から線路内へと忍び込み、地下からジョウトを目指す。
空、海、陸は十分に経験している。今度は地下を味わってみるのも中々におつな物ではないか」
10 :
κ,κ:2010/10/03(日) 12:41:40 ID:???O
乙
その考えは無かった…。
念のため保守しとく
明日明後日にでも続き書く
保守
一応、保守
うごメモ三話目まで公開されてたね
先の展開が分かっても漫画で見るのって新鮮で良いw
保守
朝ぐらいまでには続き投下する
空はまだ明るく、日が沈むまで少し時間がありそうだ。出発の準備をするがてら、
今のうちに日の光を堪能しておこう。これからしばらくの間、太陽を拝めないのだから。
「何も出来ないのが、くやしい……。どうか、レッド君を……」
洞穴を立とうとする俺達に、エーフィは懇願する。
「受けた恩には報いる。必ずやお前の主を救い出そう。それまで養生せよ、エーフィ」マントを翻し、俺は言った。
「まっかせて! あんな奴らすぐにぶっ飛ばして、取り返してくるわ」ミミロップは力強くぐっと指を立てる。
「あの人には僕達も何度も助けられました。今度は僕達の番ですね」ロズレイドが確と頷く。
「もしものことがあっても、マージのおともだちにして、つれもどしてきてあげるよー」くすくすとムウマージは笑う。
「ピカチュウ達がいれば、大丈夫。ボクの時みたいに助けてくれるから、ね?」にこりとアブソルは微笑んでみせた。
「ありがとう、君達……」
目を潤ませ、エーフィは震える声で言った。
「ジョウトには俺も連れて行け。俺もあの化物共を、その傍にいるであろうフーディンの野郎を追わなきゃならねえ」
洞穴を出た所で、デルビルは俺に告げる。俺は何も答えず、じろりと訝しむ視線をデルビルに向けた。
「俺を連れて行けばきっと役に立つぞ。お前ら、ジョウトのことはほとんど何も知らねえんだろ?
だが、俺は何度も行った事があるからお前らよりは確実に詳しい。人目につかない裏道も色々知ってる」
「お前とあのフーディンは仲間だったのだろう。また手を結ばんとも限らん」
「冗談じゃねえ、あんなイカれた奴のところにほいほいついて行ったら、これ以上体に何をされるか分かったもんじゃない。
奴に会ったら思い切り締め上げて、人間に戻る方法を吐き出させるんだ」
デルビルは自分の体を見回し、脇腹に向けてすんすんと鼻を鳴らして身震いする。
「うえっ、今でも自分の置かれている状況が信じられねえよ。こんな獣臭い体で、一生過ごすなんて耐え切れねえ。
クソ不味い砂利みてえな餌を盗み食うのももうごめんだ。人間だった時に食ってた“餌”もたかが知れてたが――
毎日のように食ってた安弁当、人間だった時は飽き飽きしてたが、今じゃあんなもんでも恋しく思えるぜ……」
はあ、とデルビルは深々と息を吐く。
「あんたが臭うのはどうせ不潔にしてるせいだし、今も昔もろくなもの食べられないのはうだつが上がらないせいでしょ」
軽蔑の視線を向けながらミミロップは辛辣に言い放つ。
「う、うるせえ! ちくしょう、俺の手持ちだったポケモン共もこんな生意気なこと言ってやがったのかな……」
ぶつくさとデルビルは呟く。
「構っていられん。行くぞ、お前達」はーい、とミミロップ達は応えた。
「おい! 俺は無理やりでもついて行くからな!」
「勝手にしろ。足手纏いとなれば即刻見捨てて置いて行く」
「意地でも喰らい付いて行ってやるさ……! 失うものなんざ何もねえんだ、なりふりかまわねえぞ」
ぐるぐると唸るようにしながらデルビルは言った。
利用できるところまで利用して、妙な素振りを見せたら容赦なく討てばいい。どうせ元はポケモンにとって、
いや、人間にとっても害悪でしかなかった部類の輩だ。情けをかける余地は無い。
「頼れる愉快なお仲間が出来たみてぇで良かったじゃねーか。怪我しないように精々気をつけて行ってきな」
皮肉めいた様子でマニューラは手をひらひらさせる。
「ええ! そんな、マニューラさんも一緒に来てくれるんじゃないんですか?」
ロズレイドが驚いたように言う。
「いつそんなこと言ったよ。成り行きでツルんだまま話を聞いてはいたが、オレはただコイツに会うために来ただけだからな」
爪でペルシアンを示し、マニューラはつれなく答えた。ペルシアンは暫しきょとんとしていたが、
ロズレイドの落胆した顔を見て、にんまりと笑う。
「カントーの事は今まで通りボクに任せておくニャー。後、マニュちゃんの面倒もニャ、ロズレイドくぅん。にゃははは!」
勝ち誇ったように高笑いを上げながら、ペルシアンはマニューラの肩を抱き寄せた。
瞬間、マニューラの眉間にぴしりと皺が寄るが、堪える様にぴくぴくと引き攣った笑顔を浮かべる。
ぶるぶると今にも振り上げそうに震わせている拳からは、薄っすらと白い冷気が漂っている。
当のロズレイドはまるで心に思い切り破壊光線でも打ち込まれた様な表情を浮かべて固まっており、
もう何も聞こえていないし見えていないようだ。心なしかやつれている様にさえ見える。
ミミロップは「あちゃー」と頭を抱え、蚊帳の外の俺とアブソルとムウマージ、ついでにデルビルは呆気に取られていた。
本当に何なのだ、こいつらは。まあ、これからは余計な心労の一匹がついてこなくなってくれるのだ。
一応、俺にとってはめでたしとしよう。――一度出来てしまった腐れた縁は、中々途切れぬという。
嫌な予感は尽きぬが……やめておこう。
すっかりと日も落ちた暗い町外れ、街灯の明かりを避けながら俺達は駆け抜けていった。
「あ、あれが、ヤマブキ駅、だ」ぜえぜえと息を切らして走りながら、デルビルは言った。
示された先には、アーチ状の屋根をした大きな建物が見える。肝心のリニアが停止している為か、
最低限の明かりしか灯されておらず、駅の周囲だけ町から切り離されてしまっているかのように暗く寂しい。
俺達は駅の裏手から近づき、適当な窓を見つけてそっと中の様子を窺った。広い内部は非常灯以外の電気が
落とされていて薄暗く、人間は見当たらない。いや、たった一人、奥に一箇所だけ明かりの点いた部屋――
事務所というものだろうか――に、駅員らしき制服を着た人間の姿を見つけた。どうせ誰も来やしないと思っているのだろう、
駅員は席にだらしなく腰掛け、暇そうに煙草を吹かしながら手元の雑誌らしきものをぱらぱらと捲っている。
保守
保守
ピカチュウ一向がNと対立する理由がみつかんねぇw
23 :
κ,κ:2010/10/09(土) 22:17:07 ID:???O
むしろ半分プラズマ団に支配されかかった世界観にして、Nがピカチュウの支配に反対するくらいかな?
支配に反対なポケモンもいるはずだし。
プラズマ団はともかく、Nはシリーズ中でも異色の存在だからなあw
まあ、いずれはイッシュに行くとしてもかなり先の話になりそうだし、おいおい考えていけばいいんじゃね?
何か良い案があれば、避難所&議論所のスレに上げとけばいいし。
明日か明後日にでも続き書くぜ
いっそ最初の内ピカチュウ達はNとプラズマ団に加担してしまってもいいんじゃないかw
最終的には例の城でゲーチスの本性見てN同様離れると
まあ、レッドやゴールド(HGSSだとヒビキ?)辺り見てポケモンと人間の関係についてのピカチュウの考えも
今よりもっと変わっていくことになるかもしれないし、まだあまりに先過ぎて決めようも無いなw
保守しとく
ほしゅ
保守
半日に一回くらい保守レスしておけばスレの位置が下層でも大丈夫かね?
スレ立てが活発になるであろう週末や祝日は注意しないとな
一応レスしてれば大丈夫のはず……とは言いつつも、あんまり最下層近くだと不安になってくるなw
ヤバいようなら深夜にでも一旦上げといた方がいいかもしれん。
この時期は下手に上げるのも怖いw
もう少し様子見ておくか
保守
「宿直かね、ご苦労さんだな」
窓を覗き込みながら、デルビルは嘲笑うように呟いた。
地下の線路に下りるには、まずあの大きな窓口付きの事務所に隣接して設置されている、
妙なゲートのような機械――改札機というらしい――の間を通り抜けて行かなければならないようだ。
俺一人ならば軽々と掻い潜っていけるだろうが、人間の子ども程の図体を持つ奴数名が
何度もぞろぞろ行ったら、幾らあの不精そうな駅員とはいえ気配に気付くだろう。
どうにかして、しばらくの間あの場から駅員をどかしたい。
「やっちまうのか」
声を潜めてデルビルが尋ねる。
「いらぬ騒ぎが起こる。人間といえど敵意の無い者に大きな危害を加えるつもりは無い」
「甘ちゃんだな。そんなんで悪の組織のボスやってんのか」
デルビルが鼻で笑うが、無視した。俺は貴様らのような見境の無い悪とは違う。
さて、どうしたものか。一旦、窓から身を隠し、ミミロップ達にも意見を募ってみる。
「誘き寄せて後ろから、こうガツーンと」
チョップする真似をしながらミミロップが言った。
「普通の人間は我らよりずっと脆い。力加減を間違えたらどうするのだ」
「マージの、あやしいひかりはー?」
ムウマージが異次元の色彩ともいうべき人魂のようなものをふよふよと浮かばせる。
「悪くはないが、いざ正気づかれてしまった後に光の正体がポケモンの仕業と思われかねん。
ただのいたずらと片付けられればよいが、発電所でいざこざが起きたばかりだ。
その犯人と関連付けられて、線路内まで捜査の手が伸ばされるかもしれん」
もっと目にも耳にも感知されないような、それでいてなるべく穏便に事を済ます方法は……。
考えあぐねながら、俺はちらりとロズレイドを見やった。いつもこういった話し合いの時は決まって
積極的に参加してくるというのに、どこか上の空でぼうっとしている。
マニューラと離れてからずっとこの有様だ。握られた弱みをばらされやしないか、
気が気じゃないといったところなのだろうか。まったく、離れていても厄介な黒猫だ。
あの不敵な笑みと口から覗く鋭い牙を思い出す度、俺も苛立ちか、何かのトラウマなのか、
はたまた猫を嫌う鼠の血の性か、頭がずんと重くなり、耳の特に左耳の先がずきずき疼くようになった。
ギラティナの領域からシンオウに帰還してからだろうか。ああ、もう、考えるのはやめだ。
とにかく、ロズレイドにずっとこんな調子でいられるわけにはいかん。そういえば、
草ポケモンの中には眠りを引き起こす花粉を作りだせる者がいると聞いたことがある。
粉ならばそっと漂わせるに限れば目に殆ど映らんし、音もないだろう。
泊り込みの勤務に疲れてついうたた寝……よくありそうな話ではないか。
「おい、ロズレイド、眠り粉を作ることは出来ぬのか?」
聞こえなかったのか、ロズレイドの返答は無い。
「ロズレイド、眠り粉だ、ね、む、り、ご、な」
声の調子を少し強めてもう一度俺は言った。ようやく声が届いたのか、ロズレイドはぴくと反応する。
「あ……はい、粉ですね、粉……」
ぼんやりした様子で、ロズレイドは葉っぱを一枚取り出し、その上に手の薔薇から花粉をさらさらと出した。
手渡された葉っぱに包まれた花粉を、俺は訝しんで見る。……色が見るからに毒々しい。
念のため少量を近くの雑草にかけてみると、たちまち雑草は茶色く枯れ果てた。見守っていたミミロップ達も、
ひっ、と驚いて飛び退く。俺は慌てて小さな穴を掘り、慎重に葉っぱごと花粉を埋め立てた。
「毒の粉ではないか、馬鹿者!しっかりしてくれ……どうにかならぬか、ミミロップ」
ミミロップだけはロズレイドとペルシアンとマニューラの妙なやり取りに理解を示しているようだった。
何か立ち直らせるきっかけを得てくれるやもしれぬ。
「うーん、そうね……。皆はちょっと待ってて。ロゼちゃんは、こっち」
そう言うと、ミミロップはロズレイドの手を引いて俺達から少し離れ、何やらごにょごにょと話し出した。
内容は聞き取れぬが、ミミロップの話に相槌を打つ度、ロズレイドの顔には活力が戻っていっているようだった。
少ししてミミロップはこちらにOKサインを出し、しっかりとした足取りのロズレイドと共に戻ってくる。
「もう大丈夫なのか?」
「はい。ご迷惑をかけてすみませんでした。僕はもう平気です」
きりっと表情を引き締めて、ロズレイドは応えた。
「ならば早速……」
「眠り粉でしたね。必ずや作り上げて見せます、少々お待ちを……!」
随分と気合の入った様子で、ロズレイドは目を閉じて手に力を込めて花の中身を混ぜ合わせるように震わせる。
しばらくして、「出来た!」とロズレイドは声を上げ、くわっと目を見開いた。
「さあ、どうぞ。今宵の僕の眠り粉は、インドぞうをも二秒かからずころりと眠らせられると自負できる出来栄えです」
ロズレイドは自信満々で葉っぱに包んだ花粉を手渡してきた。
「そ、そうか、ご苦労……」
少し気圧されながら俺は受け取る。
「参りましょう!ミュウツー達を打ち倒し、ジョウトにも僕達の名を轟かせるんです!」
意気揚々とロズレイドは宣言する。『ばっちり活躍して、見返してやるんだ』微かに呟くのも聞こえた。
やる気を出してくれたのはいいが、あまりの変わり様に不気味とすら感じざるを得ない。
「……一体何を吹き込んだ」
俺はそっとミミロップに聞いてみる。
「別にー。似たような茨の道を行こうとしている仲間に、先輩としてちょっとアドバイスしただけ」
「茨の道……? 何だ、どういう意味だ?」
「いーの!早くいってよ、もう」
急に不機嫌になって、ミミロップは俺の背中をどんと押した。……分けが分からぬ。
・
俺は一足先に単独で駅内部へと忍び込むと、息と足音を潜めて駅員のいる部屋まで近寄り、
窓口の下に潜り込んだ。物音を立てぬように気を払いながら、ゆっくりと道具袋から眠り粉の包みを取り出し、
そっと封を開ける。細かい粒子が立ち昇る包みを開け放しの窓の方へと掲げ、フッと息を吹きかけて送り込んだ。
素早くマントで口と鼻を覆い、待つこと数秒。部屋の中からくしゃみの音が一度響き、すぐに大きないびきへと変わった。
なるほど、インドぞうもいちころと自負するだけある。感心しながら、余った粉を大事に包み直して道具袋にしまった。
もう一度くらいなら使えそうだ。いざという時に使わせてもらおう。
俺は部屋を覗き込み、机に突っ伏して眠り込んでいる駅員の姿を確認してから、外から様子を見守っている仲間達に
『来い』と手で指示を出した。
「中々の手際だな。なあ、アンタ、俺が人間に戻ったら組まねえか?いい生活ができると思うぜ、へへへ」
駆け寄ってきたデルビルが愉快そうに声をかけてくる。
「お断りだ」
すげなく一蹴し、俺は見張る者がいなくなった改札機を堂々と乗り越えた。さあ、地下に降りる階段を探して向かおう。
保守
保守
hosyu
GJ保守
明日明後日にでも続き書く
ほしゅ
保守
保守
保守しておく
保守
最下層だったんだなw危ない危ない
保守
保守
保守
ほしゅ
さほど探すまでもなく、改札から少し左奥に歩いた先に幅の広い階段の下り口を見つけ、
俺達は下りていった。
「クソ、今まで生きてきて、階段がこんなにも不便だと思ったことはなかったぜ……」
少し離れた最後尾、よたよたと段を下りながらデルビルはぼやく。
まったく、一々うるさい奴め。
「置いていかれたくなければ、つべこべ言わずにさっさと来い」
一足先に下り切った俺は苛々と段上を見上げながら言った。
「う、うるせ、こんな慣れない四足で早く下りるなんて無――」
言葉の途中で足を踏み外し、デルビルはごろごろと階段を転げ落ちてきた。
「う、ぐぐ……ちきしょう。こんな体、もう嫌……」
やれやれ、先が思いやられる。俺は鼻で溜め息をついた。
普段であれば人間がわらわらと騒がしく群れているであろうリニアのホームも、
今は俺達の他には虫一匹の気配も無い。地上に比べ地下の空気はどんよりと淀んで重く感じられ、
元より心許無かった非常灯の光が殊更に弱々しくなって見えた。俺達は線路伝いにホームを歩いていき、
最端まで来た所で落下防止に設けられた柵を乗り越えて線路へと降り立った。
延々と続く地下トンネルのような線路の奥は色濃い闇に沈んでおり、遠い間隔で点々と針先でつついて
出来たようなか細い光がぼんやりと浮かんでいるのが辛うじて見えるだけだ。
「……何だか、嫌な感じ」
近くの壁にそっと触れ、ミミロップが呟く。
「同じ真っ暗でも、イワヤマトンネルとはちょっと違うね」
興味深そうにしながらも、少し不安そうにアブソルは言った。
確かに、自然に開いた洞穴と違い、寸分の狂いも無く均整がとれた人工の通路は無機質でどこか冷たく、
より一層不気味に思えた。だが、こんなところで怖気づいて立ち止まってはいられない。
ミュウツーの目論見を止められなければ、この闇より暗く冷徹な未来が待っているのだから。
「暗闇とはいえ一本道、迷うことは無いと思うが、全員なるべく離れないように行くぞ」
意を決し、俺達は暗闇へと踏み込んでいった。
時は少し遡り、六番道路。
「やれやれだニャー」
ピカチュウ達を体よく送り出して、ペルシアンは大きな欠伸をしてぐいっと体を伸ばした。
「さてさて、余計な邪魔者もいなくなったことだし……早速二匹でお話しようかニャー、マニュちゃん」
浮き浮きした様子でペルシアンはマニューラの方を振り向く。
「そーだな……」
気だるく答えてマニューラは寄りかかっていた木からゆらりと身を起こし、頭の後ろに組んでいた手を解く。
瞬間、爪を剥き出し、間髪入れずペルシアンの喉元目掛け突き出す。
しかし、既にそこにペルシアンの姿は無く、爪先はぴたりと宙で止まった。
「……危ないニャ、いきなり何するニャ」
頭上の木からの声に、マニューラはフンと鼻を鳴らして爪を収めてから顔を上げる。
「また気配も無く……やっぱ何か妙な力を持ってやがんな。なーに、本当に突き刺すつもりは無かったさ。
違和感の正体を確かめたくなってな。ついでにオレに気安くべたべた触ったら危ねーぞって忠告だ」
「手厳しいニャー」
あっけらかんと答えるマニューラに、ペルシアンはしょんぼりと溜め息をついた。
「――んで、ボクに何を聞きたいんだニャ? こんなじゃれ合いの為に残ったんじゃないってのは、
分かりきってるニャ。ボウヤ達の前じゃしにくいような、血生臭い部類の話ってとこかニャ」
飄々とした態度を一変させ、ペルシアンは鋭い眼差しでマニューラを見下ろす。
「話が早いじゃねーか」
マニューラは口端に冷たく歪んだ笑みを浮かべ、睨み返した。
「いい目だニャ。アンタからは同じ臭いを感じていたニャ。何か大切なものを奪われて、
憎くて憎くて地の果てまで追い詰めてでも始末してやりたい奴がいる……余計な恩は三日で忘れられても、
恨みだけは決して忘れないのニャ。猫ってのはまったく因果なもんだニャ」
「ヘッ、全くだね」
「その焦がれる相手の身形を言うニャ。敵と手段は違えど、同じ道を行く同志への手向けニャ。
まったくのロハで知ってることを洗いざらい話してやるニャ」
「……隻眼、真鍮色のバンギラス」
腹の底から煮えくり返るものを堪えるように表情を強張らせ、マニューラは答えた。
それを聞き、ペルシアンは少し意外そうな顔をする。
「知ってんだな……?」
「ああ、うん、同じ奴の行方を捜しに来たのが前にもいたから驚いてニャ。他のお客の事はあまり話せないけど」
「その奴らの中に、青っぽい毛並みをした年増の猫がいなかったか?」
「年増って言うほどでもなかったと思うけど……知り合いかニャ?」
「まーな。腐れ縁とすら言いたくもねえ、昔からの厄介さ。何を企んでやがるのか知らねーが、
バンギラスが生き延びてやがるとオレに告げ口に来やがったのも、あの年増だからな」
hosyu
保守
保守
乙
明日か明後日にでも続き書くよ
ほしゅ
保守
まだまだ保守るよ
金銀主人公の名前はゴールドかヒビキどっちにするんだ?
ライバルはシルバー以外に公式名無いよな?
シンオウ編みたいに、最後まで主人公の名前(コウキ)が出てこない可能性もあるがw
個人的にはヒビキの方が好きだが、取り敢えず……「金帽子」は確定だと思うw
ピカチュウからの帽子呼ばわりは確定かw
どうしても名前が出る場面では、本名はヒビキだけど、チャンピオンのレッドに憧れて、
色に因んだニックネームのゴールドを名乗ってるってのもいいかな
DPt(コウキ)→(シンオウの)赤帽子
赤緑・LGFR(レッド)→赤帽子・レッド
金銀・HGSS(ヒビキorゴールド)→金帽子
RSE(ユウキ)→白頭巾
BW(トウヤ)→紅白帽
って感じかw
ユウキのは頭巾というかニット帽的を少しずり下げてる感じじゃないか?
頭巾と書くとどうも忍者や坊さんが被る奴や、防災頭巾辺りを連想してしまうw
ピカチュウがニット帽を知ってるかは分からんが
苦々しげな語り口からして、何だか二匹の仲は宜しくない様だ。ペルシアンは察し、
板挟みにされては厄介だとそれ以上の言及は避けることにした。
「他のお客の話はこれくらいにして、アンタが追ってる本命の事だけどニャ」
ペルシアンがそう切り出すと、マニューラは一言一句聞き逃すまいと食い入るようにして、
注意深くその口の動きを見張る。
「奴を初めて見たのは今から二年前、そろそろ三年になるのかニャ。ヤマブキにあるシルフビルが
ロケット団って悪党共に占拠された日、あの化物はボクの居た地下道の天井を突き破って落ちて来たのニャ」
幾多もの鮮血を浴びてきたのだと想起させる赤錆びた真鍮色の山のごとく巨大な体躯。
片方の目は縦に大きく抉られていながらも目蓋の下からは只ならぬ殺気が滲み出、
開いている方の目からはほんの一瞥程度に視線が掠っただけだというのに心臓が握り潰されそうな程の
威圧を感じた、当時の記憶を話しながらペルシアンはぶるりと身を震わせた。
「そんな一度見たら忘れられないようなキョーレツにアブなそーな奴だったから、ボクも気になっててニャ。
それとなく行き先を調べていたのニャ。また偶然にでも鉢合わせたら嫌だからニャ。
アンタ、奴に相当な恨みがありそうなのは分かるけれど、ちょっと相手が悪すぎるんじゃないかニャ。
……もしもボクがアンタや、特に例のお客と同じ立場だったとしたら、直接挑むような真似はしないニャ。
やるなら、まず代わりの捨て駒を見繕ってから――」
「御託はいい。さっさと行き先を言え」
鋭い氷片が体すれすれを過ぎ去って木に突き立ったのを横目で見、ペルシアンは仕方なさそうに息を吐く。
「……残念ながらもうカントーにはいないようニャ。カントーとジョウトの間に立塞がるのは、
高く険しいシロガネの山脈だけじゃあないニャ。生息する強力なポケモン達、その中でも特に厄介な鋼の怪鳥
エアームド共が多く住み着く鋭い茨の森が、長城のように広く張り巡らされていたのニャ。
余程のツワモノ且つイカれてる奴でなきゃ近づきもしない堅牢な茨の城塞に、何者かが真っ向から
馬鹿でかい穴を開け、ひしゃげた鉄屑の山を築いて越えて行ったのが丁度ニ、三年ばかり前……」
間違いねぇ、マニューラは小さく呟いて、目を鋭く細めた。
「世話になったな」
礼を言って、マニューラは背を向け歩み出した。
「あっちに行ってからの当てはあるのかニャ?」
「ジョウトの事なら多少は知ってる。心配しねーでもすぐに見つけ出して、始末してやるさ」
マニューラはひらひらと後ろ手に手を振り、去って行こうとする。
「あー、そうだ」
その間際、何か不意に思い出したように声を上げ、マニューラが立ち止まる。
「どうしたニャ」
「もし、まず無いとは思うが、シンオウから来る奴が居ても、余計な事は言うんじゃねーぞ。
特にクソ――ドンカラスの野郎にはな」
保守
GJ!
明日か明後日にでも続きを書きたいです。
保守
hosyu
保守
保守
・
再び、ハクタイの森の洋館――
ちびちびと酒杯を嘗めていたドンカラスの目が、ふと壁の一画に留まる。
いつかマニューラが刻み込んだ、稲妻の形――ピカチュウの紋章。
――いつの日か、俺より強いピカチュウが現れたなら、この紋章を贈って欲しい――
ドンカラスの脳裏に、未だ忘れ得ぬ恩人の最期の言葉が蘇る。
『約束は果たしやしたぜ……ボスのような男が掲げるんなら、何も文句はねえでやんしょ』
それが引き金のように、次々と過去の記憶が走馬灯のように思い起こされていく。
『でもよう、時々思うんだが……いや、馬鹿げた空想かもしれねえが、全く有り得ねえ話じゃねえ。
ひよっとしたら……ボスは、あの……』
その時、食堂のドアが大きく開き、ドンカラスはハッと我に返った。
「ん? 糞ネコ共はどうしたんでやんすか? あっしの奢りだって伝えたんでやしょ?」
エンペルトが一匹だけで戻ってきたのを見て、ドンカラスは訝しんだ。
「うん、それが……早々にキッサキに帰るって、みんな出て行ってしまったポ……んだ」
「…………そうでやすか……」
ドンカラスは深く溜息を吐いた。
「こんな事は初めてじゃないかな。ドン……一体、カントーにどんな因縁があるんだ?」
エンペルトは傍に腰掛け、空になったドンカラスの杯に酒を注ぐ。
「あっ……い、いや、別にいいんだ。こ、これは、単なる僕の好奇心だポチャ!」
ドンカラスが黙然としているのを見て、エンペルトは慌てて取り成した。
だが、ドンカラスは何かを決したように一気に盃を空け、重い口を開き始める。
「なあ、あっしが……いや、あっしとあの糞ネコが、シンオウの生まれじゃねえ流れ者だった、
って、おめえさんに話した事ぁありやしたかねえ?」
「え……?」
「……これは、単なる酔っ払いの、単なる過去の戯言だと思って聞いてくれりゃ結構でやす。
もうどのくれえ昔になるか……あの頃、あっしはまだ、一介のケチなヤミカラスでやんした――」
・
テンガン山へと向かう、ハクタイシティの外れ――
辺りに誰も居ない事を確かめ、三匹のニューラは揃って大きく息を吐いた。
「はあ〜……ヒヤヒヤしたっつーの……」
「いつバレるかと気が気じゃなかったぜ、ギャハハハ!」
「まあ、何とか誤魔化せたみたいだし……もういいんじゃない?」
「ひゃはは〜! ……にゅ〜ん」
途端にマニューラの形がグニョグニョと崩れ、紫色の軟体に姿を変えた。
「しっかしよぉ、何だって俺らがしなくていい苦労をしなきゃなんねーんだっつーの!」
「マニューラの奴、言い出したら聞かねえからな、ギャハハ!」
「まったく、急にカントーに行くなんて、一体どういうつもりなのよ……あ、もしかして……
ああ見えて、やっぱり薔薇の王子様に惹かれるお年頃だったりするのかしら?」
「……何言ってんのか全っ然訳わっかんねーっつーの」
「ないない、奴に限ってそれは絶対ない! ギャハハハハハ!!」
笑いながら彼らが再び歩き出そうとした時、メタモンがメスニューラの尻尾を引っ張る。
「にゅにゅ〜ん」
「ちょっと! 何すんのよエッチ! ……あら? 何それ?」
メタモンはニューラ達に、何やらボロ布に包まれた物を差し出した。
結び目の間に、マニューラが書いたと思われる、手紙らしき紙切れが挟まっている。
「何だこりゃ……相変わらず汚ねー字だっつーの」
ブツクサ言いながら、オスニューラは手紙を開いた。
『いつもテメーらには世話掛けて済まねえな。こいつはちょっとした礼ってやつだ。
万が一、オレが戻ってこれねえ時にゃ、テメーらのうちの誰かが使いやがれ。
くれぐれも、糞カラスやピザデブ共とケンカなんかすんじゃねーぞ。
こわいこわ〜いピカチュウさま〜にカミナリ落とされっからな。
そんじゃ、あばよテメーら。達者でな。
強くて優しくて美しくて可愛くて格好よくて理知的なマニューラちゃんより』
「ったく、ざーけやがって。しかしまあ、あいつが礼なんて、珍しい事もあるっつーの」
「何が入ってんだ? 食いもんか? ギャハハ!」
「ちょ……ちょっと……そんなんじゃないわよ……こ、これ……!」
包みを開けていたメスニューラの声が震え、心成しか顔が蒼ざめている。
覗き込んだオスニューラ達の表情も、みるみるうちに強張っていく。
それは、滑らかに研ぎ澄まされ、尖った切先が銀色に光る――
するどいツメ――本来なら、相手の急所を狙い易くする戦闘道具の類いである。
だが、彼らニューラ族にとっては、進化に関わる重要な代物でもあった。
おいそれと入手できる物ではない故に、そこには特別な意味が伴っていた。
「ど、どーゆー事だっつーの?!」
「そんなの決まってんじゃない! あたし達のうちの誰かが、マニューラの後を継げってワケ!」
「じゃあ何か?! あいつは……最初からそんなつもりで……ギャ…ハ……」
「ち……畜生ぉ!!!」
オスニューラは怒り立ったように、包みを引っ掴んで地面へ投げ付けた。
「あいつはいっつもそうだっつーの!! 肝心な事は何一つ言いやがらねえ!!
はん! 俺ぁゴメンだね! こんなもん、おめーらの勝手にしやがれっつーの!!」
「ギャヒー! 冗談じゃねえ! 俺だって勘弁して欲しいぜ!!」
「あたしだってお断りよ! こんな他人のお情けで強くなったって意味ないじゃない!!」
一頻り憤り、喚いた後――三匹の間に、長い長い沈黙が続く。
――
「……とにかく、だ……このツメの事だけは、仲間連中にも内緒だっつーの……」
やがて、漸く落ち着きを取り戻したニューラ達は、ボツボツと当面の事を話し始める。
「まだ、帰ってこねー、と決まったワケじゃないかんな。ギャハ」
「ノコノコ戻ってきたら、そん時にでも突っ返してやればいいわ。でも……
どんなロクデナシが嗅ぎ付けるとも限らないから、巣には持って帰れないわね」
「じゃあ、どっかに隠しとくかっつーの」
「ヘタな場所じゃあ、すぐ見つかっちまうぜ、ギャハハ!」
その時、ふとメスニューラの目に、街外れに佇む、古びた竜の石像が映った。
その巨大な姿は、まるで月に向かって咆哮するかのように見える。
「あ、そうだ!」
何かを思い付いたかのように、メスニューラは包みを拾い上げ、石像へと走り出した。
「おいおい、どこ行くんだっつーの?」
「ボーマンダ……ディアルガ様に預かって貰うのよ!」
メスニューラは軽々と台座に飛び乗った。
「ああ〜ん、元の神々しいお姿も、ス・テ・キ」
暫しウットリと眺めた後……
石像の上へ駆け上がり、その大きく開いた口の中に、奥深く包みを押し込んだ。
「ディアルガ様、しばらくお願いね。早く帰ってくるよう……あのバカを守ってやって頂戴」
メスニューラは石像の耳元に囁くと、一気に下へ飛び降りた。
黒い三匹の影と、それを追い掛ける一匹の影が、テンガン山の山中へと消えていく。
それを見たのか見なかったのか、月の明かりか雲の加減か……
一瞬、石像の目に、白い光が宿ったように見えた。
GJ!
明日明後日にでも続き書く
保守
hosyu
保守
保守っとく
保守
ほしゅ
保守
濃厚な闇が包む地下を、俺達は黙々と歩を進めていった。代わり映えの無い一寸先も不明瞭な
暗闇を延々と歩いていると、耳に届いてくる周りの者達の足音も何だかくぐもって聞こえてきて、
足裏に感じる冷たいコンクリートの感触もどこか曖昧になり、手足がどこにあるのかすら茫漠としてきて、
本当に今この場に俺の体はあるのか、実は意識だけが本体を置いてけぼりにして歩いてきてしまった
のではないか等と妙な錯覚と妄想に捉われてしまう。
いよいよもって変になってしまいそうな寸での所で正気を繋ぎ止めてくれる唯一の救いは、
トンネルの壁に定期的に備え付けられている非常灯だ。例えその光が風前の灯火の如く弱々しく、
一つ一つが離れた間隔でしか用意されいないとしても、まだ辛うじて自分の体がここに存在していて、
着実に前へと進んでいるのだと知らせてくれる。
どのくらいの間、そうやって歩き続けたのだろう。地上はそろそろ空が白み始めた頃だろうか。
こんな地下トンネルの中ではまったく窺い知る事は出来ない。
「ねー、ちょっと休まない? ちょっと疲れてきたんだけど」
気だるげなミミロップの声が暗闇に響く。それを皮切りに、他の者達も口々に疲労を訴え出した。
ペルシアンの所から殆ど休まず歩き通しだ、無理もないか。俺も少々疲れた。
「そうだな。次の電灯の下で少し休憩するとしよう」
前方の電灯を示し、俺は言った。
ようやく電灯の下まで辿り着き、俺は立ち止まって全員の点呼を取る。ミミロップ、ロズレイド、
ムウマージ、アブソル、デルビル、俺を含めて計六匹、ちゃんと揃っているようだ。
無いよりはまし程度の薄暗い明かりながら、自分自身や他の者達の姿をぼんやりとでも目で
確認できるというのは、大分気分的に楽になる。俺は安堵の息をつき、近場の壁に背を預けて座ろうと
したところで、急にミミロップがぴくりと耳を反応させて動きを止めた。
「誰か、後ろから来てる」
「なに?」
ミミロップはその場にしゃがみ、床に手を触れた。
「えーと、数は一人、いや、一匹……?」
集中した様子で目を閉じ、ミミロップは呟く。
不可解な行動ながら、冗談や何かでやっているようには思えない。
「一体、何をやっているのだ?」
直接声をかけるのも何か躊躇い、俺はロズレイドに小さく尋ねてみる。
「しっ。波動を読んでいるんですよ」
そういえば、俺がいない間に何やら修行をして来たといっていた。その成果がこれか。
「何だかちょっと、黒くて冷たい嫌なものも少し感じる……殺気、恨みの類かな? 気をつけた方がいいかも」
ミミロップはすくと立ち上がり、俺達が今まで来た暗闇の方に向かって構えを取った。
「……アブソル、下がっていろ」
「う、うん」
俺はアブソルを後方にやり、頬に電気を集める。ロズレイドも手の花から毒針を伸ばし、
ムウマージも目を吊り上げてローブの裾を揺らめかせ始めた。その横でこっそり自分も安全な背後に
逃れようとしているデルビルをとっ捕まえて前線に引き戻し、俺達は暗闇を注意深く見張る。
じっくりと耳を澄ましてみれば、確かに微かな何かの足音が聞こえてきた。足音はどんどんと強まり、
闇の中に浮かぶ光る二つの眼がすぐそこまで近づいてきているのが確認できる。俺達は息を呑み、
姿が薄明かりに晒されるのを待った。暗がりの奥から現れたのは――。
「何だ、オメーら。まだこんな所でチンタラしてやがったのか」
その正体に、俺達は気が抜けたように息を吐き、構えを解く。
「ま、マニューラさんっ! どうして!」
素っ頓狂な声を上げ、ロズレイドは飛び付きそうな程に喜び勇んだ様子でマニューラに駆け寄っていった。
「いよう、ロゼ。なんだ、行く時は捨てられた犬みてーな面してたくせに、もう元気じゃねーかよ」
マニューラは飼い犬を撫でる様にぐしゃぐしゃとロズレイドの頭を撫でる。
……最早、師弟というより主人とペットだな。
「おっかしーなー、嫌なものを感じ取ったような気がするんだけど……修行不足?」
ミミロップは首を捻り、ぼそりと呟く。
俺は心の底から溜め息が漏れた。やはり、またマニューラが付き纏ってきた。どうしてこう予感というものは
ろくでもない物に限って当たってしまうのだろうか。
「今度はどういうつもりだ」
聞いてもろくな答えが返ってこないとはわかりつつ、半ば形式的に俺は尋ねる。
「オレもジョウトに用事が出来た、それだけだ」
予想の範疇にぴたりと収まる、おざなりな答えが返ってきた。
「勝手にするがいい。俺達はここでしばらく休んでから行く」
俺は投げ遣りに言い、壁際に座った。
「そーそー、敵に備えて体力は大事に温存しなきゃーな。オレも飛ばしてきて疲れたし、ご一緒させてもらおうか」
くく、と挑発的に笑い、マニューラはどかりと座り込んだ。
「……もう好きにしろ」
ほしゅ
保守るよ
保守
放送日時が異なるので、今日ベストウィッシュを見ました。そして色々と衝撃を受けました。
当たり前だけど、人生のピカチュウとアニメのピカチュウはだいぶ違うなぁ…と、感じました。
そら違うわなw
アニメピカに近いのは、やはりレッド手持ちのピカチュウだろうな
アニメピカも初代アニメ最初期の頃は結構意地の悪い性格をしていた気がするw
明日か明後日にでも続き書くよ
hosyu
保守
激保沖
隣欄鶴 絹牌響臍
勲堤墓 杏虐炎留菓家
豊脈箋 腓冥柳縁剣味鋳仮美鈴
溺暴朗 趣奔申畑球尿周塚裕踵正超頬鋭顎
流皸矢 弟誕埼砂愛怪野鉄稀唇車瀬写雷尻栗谷余嫌黒
倅要礁 脈射揖楽督脂暑堺駐鞆冷麺絆舎卵所岡情若億非歌貌
印眉担髟胱島森崩膏首婆丸股誠紫強逆実寂幽鮫
轟踝史膨仁樹塀越拡曇雨取膜悟勝市伸
鏡皆間板忍薫幻弦恋呂映久駄
差最腋使鼠心退瑠俺
法草線皺喰船
南埃六語助闇
知勇第飛肘岳
拇摘酎隣鼓浜平
痛応臑疣羽念絵形
鬚息麟品道銅歩簡
保守
保守しておく
ほっしゅ
保守
hosyu
さて、休憩をとるにしても、全員で一斉に寝入るわけにはいかない。今は一時的に停止しているとはいえ、
仮にもここは人間の縄張り内だ。常に最悪の状況を想定しておくに越したことはない、
数匹ずつ交代で仮眠をとるのがいいだろう。……信用のならないデルビルとマニューラに対して、
見張りを立てるという意味も有る。
組み合わせは、そうだな――デルビルには、正体を察している俺が直接目を光らせた方がいいだろう。
マニューラの方は、ロズレイドが適任そうだが、一匹だけだと何か悪い口車に乗せられかねない。
二匹に何かしらの理解のあるらしきミミロップを付ければいいのではないだろうか。
俺は、交代で仮眠をとる事と、その組み合わせを提案する。
「ねえ、ボクとマージは? 名前が呼ばれなかったんだけど」
少し不安そうにアブソルが尋ねる。
「お前達は気にせず、ゆっくり休むがいい。寝る子は育つというし、子どもにあまり無理はさせん」
「……ボクばっかり――」
むっとした様子で、アブソルは俯き加減に何やら呟いた。
「どうした? 具合でも悪くなったのか?」
予期せぬ態度に、戸惑いながら俺は顔を覗き込むようにして問い返す。
「違うよ、もういい」
しかし、アブソルはますます不機嫌そうに、ぷいと顔を背けてしまう。
「ボクもピカチュウと一緒に起きてる。……子どもみたいに心配されなくても大丈夫だから」
「じゃあ、マージもー」
突っ撥ねる様に言うと、アブソルはムウマージを連れていつもより俺から少し離れた位置に座った。
どうしたというのだ、今までこんな聞き分けのないことは殆ど無かったというのに。
俗に言う反抗期という奴だろうか、子どもは分からぬ。自然と機嫌が直るまで待つしかないか、やれやれ。
・
そろそろ交代の時間だ。俺はデルビルと共に――結局、あれだけ張っていた強情より眠気の方が勝り、
アブソルとムウマージは眠ってしまっていた――ロズレイド達を起こしにかかる。
まだ眠いとぶつくさ文句を言いながら起き上がる三匹を尻目に、俺はごろりと横になってさっさと目を瞑った。
途端に、腹を減らした睡魔がごちそうが来たとばかりに大喜びで触手を伸ばし、あっと言う間に意識を絡みとって、
俺を深い深い深遠へと飲み込んで――
茶色の横縞が二本入った黄色い大きい背と、その背に安心しきっておぶわれている小さな俺。
これは、いつかにも見た夢だ。だが、以前見た時と大きく違うのは、俺はその背の偉大さを知っている、
感じる温もりの意味を分かっている。
……そのせいだろうか。濃い霞に包まれたように見えなかった、背と俺を取り巻く周りの情景にも、
少しばかり目をやることが出来るようになっていた。ここはどこの林の中なのだろう。
葉を紅く綺麗に色づかせた木々が並ぶ、見たこともない景色だ。少なくともカントーではないように思う。
横に並ぶようにして飛んでいる柄が悪そうなヤミカラス――何だか、見覚えのある仏頂面な気がする――
は仲間だろうか。そして、もう一匹、まだ誰かこの場にいる、いや、いたような気がする。
“それ”を思い出そうとすると、急に背にぞわぞわと怖じ気が走り、体がずんと重くなり、左耳がひりひりした。
確か、この感覚は――答えが出掛かった時、急に俺は何かに捕まれて黄色い背中から引っぺがされ、
後ろから押さえ込まれ、成すすべなく――そうだ、“これ”は、や、やめ、やめてくれー!……――
『ガブッ!』
左耳の先を襲う、尖った何かで挟み込まれたような激痛。
「むぎゃぁーッ!」
取り巻いていた眠気など微塵もなく砕け散り、喉から叫び声と共に吹っ飛んでいった。
俺は痛みと黒い手の内から逃れようとじたじたと暴れ、放電しようと頬に電気を集める。
「おおっと」
充電しきる前に手の主は俺を放り、ひょいと身を離した。
俺はぜえぜえと息を切らしながら、左耳の先が食いちぎられていやしないか恐る恐る確認する。
まだちゃんと付いている、ほっと息を整えてから、俺は痛みの元凶を睨みつけた。
「何のつもりだ、貴様ァ!」
「何って、もうテメーで決めてた出発の時間を過ぎそうだってのに、どんなに声掛けても揺すっても、
起きやがりゃしねーお寝坊さんに、熱ーい目覚めのキッス代わりをくれてやっただけさ」
鋭い牙を見せ付けるように、マニューラはにやりと笑う。先に起きていた他の者達も、くすくすと笑った。
「う、む……」
俺はそれ以上何も言えなくなり、ばつの悪さを誤魔化すようにしてマントの埃を払って立ち上がる。
「それにしても、どんないい夢見てたんだよ? 随分締まりなくへらへらしてやがったぜ、ヒャハハ」
「うるさい、そんなこと覚えておらぬわ」
目覚めの衝撃に掻っ攫われ、夢の内容なんて殆ど何も覚えちゃいない。残っているのは、
この左耳の先のろくでもない痛みだけ。まったく、最悪の寝起きだ。
こうして、一時の休憩を終えた俺達は、再び暗いトンネルをジョウトに向かって歩き出した。
騒がしい同行者が増えた以外に、まったく代わり映えのしない地下道を進むこと数時間。
一体、今どの辺りまで来ているのだろうか。太陽の光が、いい加減恋しくてたまらない。
そんな風に考えながら緩やかなカーブを抜けた矢先の事、暗雲のように立ち込める闇の先に、
一番星の如く輝く一点の光を見つける。こんなに離れていても、人工の弱々しい光とは力強さがまるで
違って感じる――間違いない、あれは外の光だ!
保守
hosyu
保守
110 :
名無しさん、君に決めた!:2010/11/04(木) 04:05:14 ID:NkLZBnEu0
ピカチュウは校門って付いてるの?
明日明後日にでも続き書く
保守
ほしゅ
保守
保守しておく
暗闇彷徨うこと苦心十数時間を経て、ようやくようやっと日の目を見ることが出来る。
あの光の強さを見るにきっと外は雲一つない晴天に違いない。暖かい陽光を頭に
思い浮かべるだけで心は浮き立ち、重かった足取りも枷が外されたように軽やかになっていった。
よもや、普段気にとめることもない、あって当たり前だと思っていた日の光をこれ程までに
欲し求めることになるとは。無くしてみて初めて分かる大切さ、というやつか。
さあ、もう出口はすぐそこだ。染みる目を手で庇って少しずつ慣らしながら、俺達はトンネルを抜け、
外への一歩を踏み出した。
途端に身の横を吹き抜ける壮快なそよ風。ゆっくりと目を覆う手を取り払い、
眼前にひらけた景色――真直ぐ伸びる銀色の鉄橋、その脇に広がる森と大きな入り江――に
仲間達は沸き立ち、俺も思わず感嘆の溜め息が自然と漏れた。
予想していたよりずっと肉体より精神的に厄介な道のりであったが、何とか無事にジョウトへの
一歩を踏み出せたわけだ。
「いやー、長かったですね。えーと、出発前の話によれば、トンネルを抜ければ三十番道路と
三十二番道路の間くらいに出るんでしたっけ」
ロズレイドが地図を開きながらデルビルに確認する。
「ああ、そうだ。このまま真直ぐレールを渡って西に行けばコガネシティに着くし、レールを下りて
北に行けばキキョウシティ、南にはヨシノシティが有るな」
地図を前足で示しながらデルビルは答えた。
「何はともあれ長旅ご苦労様、ご一行さん。ジョウトへようこそ」
そう言ってミミロップはくすくすと笑った。
「うむ?」
何だか唐突なまるで人事のような口振りに、怪訝に思って俺はミミロップに振り返る。
「え? え?」
私じゃない、と言いたげに戸惑ってミミロップは首を横に振るった。
「ふふん、油断しきっちゃって、まるで成長していないようね。上よ、上、上」
目の前のミミロップは口を動かしていないというのに、再び同じ声色が響く。
その声は俺達の後方、少し頭上から届いてきた。これは――ぞわりと、全身に嫌な感覚が走る。
「やっほー、数ヶ月、半年ちょっとぶりくらいかなぁ?」
その方、トンネルの入り口の上を見上げると、ミミロップとまるで瓜二つの“もの”が一匹、
石垣に腰掛けて足をぱたぱたさせながら、にこにことこちらに手を振るっていた。
俺達は一斉に身構え、戦闘体勢を取る。
「やーね、そんなに身構えないでよ。今日はご挨拶に着ただけだから別に戦うつもりは無いし」
やれやれとミミロップのコピーは座ったまま手をひらひらさせた。
「……レッドは無事なのか?」
油断無く見張りながら俺は尋ねる。
「無事にミュウツー様の残していったメッセージを受け取ったみたいね。さーて、どうなのかなー、
無事といえば無事なんじゃないのー? 大事な人質でもあるし、利用価値のある内はね」
「貴様……」
「あはは、あんたみたいなチビに凄まれたって、全然怖くなーい。ま、私は当然この通り、
今日はいないけど他のコピー共もばっちり復活、立て直しってワケで、今後ともよろしくねー」
そう告げるとコピーは余裕綽々で立ち上がり、去って行こうとする。その足元すれすれに、
群青色をした直径三センチほどの小さな波紋状の光が放たれ、ぱしゃと水音を立てて弾けた。
「待ちなさい。私達の前に一匹でのこのこ姿を現して、ただで逃げられると思ってんの?」
本物のミミロップがびしりとコピーを指差して言う。コピーは足を止め、ちらりと横目で本物を見やる。
「なぁに、今の。新しい手品か何か?」
「み、水の……波動よ」
少しばつが悪そうにして答える本物に、コピーは吹き出すように笑った。
「い、今のが? きゃはは、その辺の子ニョロモの方がまだ強力なのが撃てるんじゃない?」
「う、うるさい、とにかく逃がさない!」
やる気満々な本物に対し、面倒くさそうにコピーは耳をかきあげる。
「私は忙しいからこれ以上あんたと遊んでる暇なんて無いの。伝説の何ちゃらの手がかりを
探さなきゃいけないし――っと、ちょっと喋りすぎちゃった。どうしても遊びたいのなら、
私の可愛いペット達の一部を紹介してあげるわ」
辺りに急に不可思議な甘ったるい匂いが立ち込め、それに引き寄せられる様に、
周りの森から耳につく独特な羽音が沸き起こり、こちらへ向かってくる。
その内の一匹が、先陣を切って橋の上まで飛び上がり、一対の鋭い針を構えて俺に突きかかった。
寸での所で俺はレール上に伏せてかわし、すれ違いざまにすかさず電撃を見舞う。
直撃にたまらず襲撃者の一匹は墜落していく。しかし、所詮一匹を倒したところで、
もう既に俺達は羽音の群れに取り囲まれていた。両手と、黄色と黒の縞模様の尾から
伸びる鋭い針で今にも再び突きかからんとして、殆ど感情を感じない赤い両眼で睨みを利かせながら
俺達の周りを飛び回っている。
「スピアーちゃん達よ、可愛いでしょ。蜂って従順で好きよ。それじゃあ私は帰るから、精々頑張ってねー」
悠々とコピーは去っていく。後を追おうにもスピアー達に阻まれ、追う事が出来ない。
「ま、待て! クソッ」
119 :
名無しさん、君に決めた!:2010/11/07(日) 21:39:42 ID:fgjlzkh7O
するとブラックジャックこと間黒男が血相をかえて窓から飛び込んできた。
120 :
名無しさん、君に決めた!:2010/11/08(月) 04:31:06 ID:hHETSCxIO
保守
保守
hosyu
明日か明後日にでも続き書くよ
保守しておく
保守
保守
ほしゅ
hosyu
保守
ごめん、ちょっと書くのが遅くなりそうだ
深夜か遅くても明日の明け方ぐらいには続き投下する
ほしゅ
制止など聞くはずも無く、ミミロップ・コピーは橋を飛び降りて森の奥へと消えていった。
スピアーの数は今確認できる限りでも十数匹。一匹一匹は然して強力な存在でもないが、
ひとたび集団となれば下手な猛獣よりも脅威となりうる。まるで群れ全体で一つの脳みそを
共有しているかのような統制と連携の取れた動きに加え、数匹を倒したところで怯むことなく、
それどころか次々と仲間を呼び寄せ襲い掛かってくるのだ。怒り狂ったオコリザルでさえ、
スピアーの軍勢を見たら途端に顔を真っ青にして逃げていく程だという。
「や、やばいんじゃないか。どうすんだ」
どんどん包囲網を狭めてくるスピアー達に、デルビルは焦りの声を上げる。
「虫、それも大群か……」
マニューラが苦々しそうに呟く。心なしかその表情はほんの少し引き攣っているように見えた。
数では圧倒的に不利。この場で闇雲に抵抗を続けていても、その内押し切られて一斉に群がられ、
全身を穴ぼこチーズのようにされて終わりだ。
「一旦トンネルの奥まで逃げて立て篭もり、態勢を整えるというのはどうでしょう」
針を振り回してスピアーを追い払いつつじりじり後退りしながら、ロズレイドが打開策を一つ提言する。
「いや、時間を掛ければ掛ける程、それだけまた奴らの数は増えてくるだろう。
出口に強固な防衛線を築かれてしまってはより突破はし辛くなる。状況は不利になる一方だ」
「それに、すぐにあいつの後を追わなきゃ! ほっといたら私の姿でどんな悪事を
しでかされるかわからないし、ミュウツー達のもとに辿り着くための貴重な手がかりでしょ!」
迫るスピアーを拳に燃え上がる炎を振りかざして牽制しながら、ミミロップが叫ぶ。
「うむ。では一点集中で包囲を突破し、追撃を振り切るぞ。最も危険な最後尾、しんがりは俺が務めよう」
「テメーだけじゃおちおち安心して背中を任せて走れねーよ。その役目、オレもやってやる」
両手にナイフのように鋭い氷の塊を構え、マニューラは言った。
「信用できるのだろうな」
俺が懐疑の視線を向けると、マニューラは俺の頭上を過ぎ去るように氷の一片を投げ放つ。
直後、背後で小さな呻き声と、めきりと乾いた音が響く。振り向くと眉間辺りに氷を
突き立てられたスピアーが一匹、俺のすぐ近くで倒れこんだ。ふん、とマニューラが鼻を鳴らす。
「この通りだ。余計な気を回してる余裕なんてねーだろ」
「……いいどろう、お前にも協力してもらう」
「それならば、僕も共に!」
すかさず申し出るロズレイドに、マニューラは首を横に振るう。
「いーよ。オメーの葉っぱと毒針なんて、毒を持った虫には殆ど効かないだろうが。
ちんたら集中して念力を引き出す暇もねえ、オメーは気にせず前を走っていきな」
「そうですか……。分かりました、気をつけてくださいね」
しゅんとしてロズレイドは同意した。
「ヘッ、オレを誰だと思ってやがる。天下無敵のマニューラ様だぜ? オメーに心配なんかされねーでも
大丈夫だっての、ヒャハハ。――んじゃ、そろそろ行くかよ。周りのぶんぶんウルセー羽音が更に増えてきてるぜ」
「ああ。ミミロップは先頭、奴らの苦手な炎で道を切り開いていってくれ。ロズレイドとムウマージは両端、
中央のアブソルと、ついでにデルビルを守りながら行くのだ」
それぞれ『了解!』と、ミミロップ達は力強く答えた。デルビルは戦いに駆り出されず心底ほっとした表情をした。
その横で、アブソルは申し訳なさそうな、どこか悲しそうな表情を浮かべたような気がしたが、
今は気にとめている余裕は無い。
「突破の糸口を開く」
俺はスピアーの一群に向けて電撃を放った。スピアー達は一斉に電撃を避け、包囲に一寸の隙間が開く。
「行くぞッ!」
その隙を目掛け、俺達は駆け出した。
ほしゅー
保守
hosyu
明日明後日にでも続き書く
保守るよ
hosyu
保守
保守っとく
保守
保守
ポケ板全体の流れも少し落ち着いただろうし、少し保守レスの頻度も減らしていいかもね
深夜くらいには続き投下する
一応保守
スピアー達の包囲を潜り抜け、鉄橋を飛び降りて森へと降り立ち、俺達はコピーの向かった先に向かう。
背後からは無数の薄羽が空気をけたたましく揺らす音が怒涛の如く迫ってきていた。
だが、奴らの動きは森の不規則に並ぶ木々の枝と葉に視界と飛行を阻害され、何も障害物の
無かった鉄橋の上に比べずっと鈍っている。時折、木々の合間を巧みにすり抜けて群れを先行して
襲ってくる奴らは、マニューラと俺とで着実に各個撃破し、行く手に回り込まれぬように食い止めた。
やがて、聞こえてくる羽の音と数は遠のいて減っていき、木々の密度が徐々に疎らになって、
辺りにごつごつとした岩肌が目立ち始めたところで、どうにかスピアー達を振り切ることはできたようだ。
しかし、ここまでの道中で、コピーの姿は微塵も見ることはかなわなかった。
おそろしく逃げ足が速いのか、あるいはどこかに隠れていたのを見逃したのか――
「一応、地面に微かに残るあいつの波動の痕跡を辿って来たから、途中で潜んでいたとしても見逃すことは
無いけれど……それもここまでみたい。まるで跡形も無く消えたか、空でも飛んで行っちゃったみたいに、
ここでぱったりと途切れてるわ」
急いでいた足を緩めて止まり、口惜しそうにミミロップは足元の石ころを蹴飛ばした。
大方、飛ぶことが出来る仲間と合流し、共に空に逃れたというところだろう。何にせよ、
まんまと逃げおおせられてしまったわけだ。気抜けと疲労感が合わさり、深い溜め息が体の底から漏れ出した。
「それにしても、どうして奴は僕達を待ち伏せることができたのでしょうか。カントーからジョウトへ来る手段は
数少なく限られているようですから、どこから現れるか場所の目星は大体付けられるでしょうけど、
少なくとも近い内に必ず僕達がジョウトに来るという確証がないとあんな風に待ってなんていられませんよね。
何か他の用事もつまっているようでしたし」
ロズレイドの言う通り、確かに偶然にしては出来すぎている。奴の口ぶりも、俺達が来ることを完全に
把握していたかのようだった。
――俺達、またはカントー配下達の中に誰か、内通者がいるというのか。あまり考えたくは無いことだが、
疑念を拭い去ることも出来ない。思い当たる疑わしい節を頭の中で巡らせて、俺はマニューラを見やった。
最も疑わしいのはこいつだ。未だ目的をはっきりとせず濁し続けたまま、俺達の後を付き纏うような行動など、
逐一怪しい動きが目立つ。
「なんだ、その目。まさかオレが奴らにチクッたとでも言いてーのかよ?」
視線に気付いたのか、不機嫌そうにマニューラは睨み返してくる。俺は頷きも答えもせず、マニューラと睨み合う。
「へっ、バーカ。オレが、んなまどろっこしい真似をするわけねーだろ。オメーみてーな油断の固まり、
始末したきゃとっくに直接手を下してるっての」
マニューラは鼻で笑って言った。
「そ、そうですよ。それに、マニューラさんがミュウツー達のことを知ったのはつい最近なんですから、
通じるような暇も理由もないじゃありませんか」
当の本人よりも必死な様子でロズレイドが弁明に加わる。
ほしゅ
保守
保守
hosyu
保守
明日か明後日にでも続き書くよ
ほしゅー
保守
補修
保守するよ
保守
スピアーってよく考えると恐ろしいよな
ポケモン世界の年間の被害者数とか考えたくも無い
>>160 ゲーム中だと一匹一匹しか襲ってこないけど、図鑑によれば集団で群れなして襲ってくるのが基本らしいからな
ポケモン世界は森や林が多いから割と身近にいるだろうし怖い
「いいだろう、では今一度聞く。お前のジョウトへの用事とは一体何だ?」
ロズレイドに構わず、俺はマニューラに言葉を突きつける。チッ、とマニューラは舌打った。
「なんだよ、今更。どーせテメーにゃ関係のねえことだ」
「そんなことではお前を信用などできぬ。何か俺達に隠さねばならぬ後ろ暗い理由でもなければ、
答えられるはずだろう」
はぐらかそうとするマニューラを逃がさぬよう食い下がった。再びの睨み合い。
周りの者達は気が気でない様子で俺とマニューラを見やる。暫しの緊迫の後、
マニューラは気だるそうに息をつき、赤い鬣をぐしぐしと掻いた。
「……あー、もういーやメンドクセー。探しものついでに雑魚の露払いくらいなら手伝ってやろうと
思っていたが、これじゃやってらんねえな。やっぱ一匹のがいーや」
言い捨てるようにするとマニューラは踵を返し、どこぞへと去って行こうとする。
「まだ話は終わってはおらんぞ! 止まれ、さもなくば裏切り者と見做す」
威圧に電流を迸らせて鳴らし、俺は叫びつける。
「そりゃいーや。あばよ」
しかし、マニューラは小馬鹿にするように後ろ手に手を振り、立ち止まることなく歩いていった。
「――おのれ……ッ」
俺は行き場の無い憤りを近くの岩にぶつける。青い閃光が黄土色の表面に弾け広がり、
真っ黒な焦げ跡を残した。
また、ずしりと頭が重くなる。奴と顔を突合せて言葉をまじわす度に頭がずきずきと、
締め付けられる様な、あるいは内側から何かが出てこようと暴れているような、痛みに苛まれる。
ジョウトに近づくにつれ、頻度と強さが増しているような気さえする。
「ねえ、ちょっとピカチュウも言い方が悪かったんじゃない? 確かにマニューラにも怪しい面はあったけれど、
何か別の事情が有るのかもしれないしさ。裏切りだなんて決め付けるのは良くないよ。
今からでも後を追わない?」
少し非難めいた口調でミミロップは言う。
「うるさい……もう奴に構うな……」
俺は重い頭を片手で抱えながら、突っぱねた。
「なら、僕が行ってきます」
決心した様子でロズレイドが言い放つ。
「状況を弁えよ、ロズレイド……。今は奴になどかまけている暇などないだろう」
「本当にマニューラさんが裏切り者ならば、このまま行かせる方が不味いでしょう――そんなこと、
ありえないと断言しますが。僕が監視についていれば、下手な動きは出来ないはずです」
「そうね、それがいいわ。」
熱弁を振るうロズレイドに、うんうん、とミミロップが同意する。
「お前達、勝手に決め――むぐ」
俺は異議を唱えようとするも、ミミロップの手に口を塞がれ、そのまま抱え押さえ込まれる。
「こっちは何とかしておくから、行ってらっしゃい、ロゼちゃん」
「はい……!」
貴様ら――! もがき暴れる俺を尻目に、ロズレイドは駆けていった。
保守
保守
ほしゅ
明日明後日にでも続き書く
保守
保守
保守っとく
ほしゅ
保守
深夜か明日の朝方くらいまでには投下する
そういえばうごメモ版の新作来てたね
ミミロル(ミミロップ)は昔に比べて今は随分性格が丸くなったなあと思ったw
いろんな意味で、ミミロップが一番成長してるよな。
しかし、人生のポケモンは全体的に♀の方が精神的にタフな感じがするw
逆の発想をすると、♂にヘタレ要素のある奴が多いんだなw
そこが好きですけど
・
後ろで小煩くがなりたてる音を気にも留めていないとでも言う風に背で受け流しながら、
マニューラは一行のもとを離れていく。寧ろ良い追い風になって良かったぐらいだ。
心の中で言い聞かせ、マニューラは自虐めいて一匹せせら笑う。
短い間ながらも奴との旅は、いつかあった日々を想わせる奇妙な懐かしさと、
それに伴なって微かな温かみを覚えさせられた。切っ掛けがなければ、
危うくいつまでもそのぬるま湯にぐずぐずと漬かり込んでいてしまったかもしれない。
だが、己が追う仇敵はそんな生半可な覚悟で挑めるような相手ではない。
いざ対峙した時、向ける刃に一点でも錆びや曇りがあってはならないのだ。
マニューラは不意に立ち止まって、腰に下げた簡素な革の巾着袋から
ぼろぼろな布の切れ端をそっと取り出し、両手で包み込むようにぎゅっと握り締める。
いくら想ったところで、もうあの日々は戻らない。
ぎり、と歯を噛み鳴らし、決意を込めるように、何かを押し込めるように、
マニューラは切れ端を左腕に縛り付けた。
そして、オレも――。
再びマニューラは歩みだす。その足取りから微かな迷いは消え失せ、
一歩一歩地を踏みしめる度、心身が暗く冷徹に研ぎ澄まされていくようだった。
・
話に一旦の一区切りをつけて酒を呷るドンカラスを前にして、
エンペルトはその内容に少し動揺しながらも何とか整理して理解しようと頭を捻る。
「――ええと、つまり、ドンとマニューラはジョウトの出身なんだな?」
「……ああ」
盃を飲み干し、ドンカラスは答える。
「聞いていて正直驚くことばかりだポチャ……。ドンも昔、人間のもとに、それもよりによって、
あの悪名高いロケット団の所に居たなんて」
「あいつら、あっしの種族やズバットみたいな柄の悪い奴ばかり決まってコキ使いやがるでしょ?
その殆どが薄汚い裏の経路で秘密裏に養殖され、“道具”として仕入れられて、
団員共に支給された哀れな奴らなんでさあ。その実、あっしもそのクチでやして……」
ドンカラスは力無く苦笑して言った。
「……合法と非合法の違いはあれど、僕達は似たような境遇に生まれていたんだな」
「そういやおめえさんも人間の研究所生まれだったな。だからあっしら、
気の合うところがあるのかもしれやせんね、クハハ。――話を戻しやしょうか。
あっしが行かされたのは、ジョウト支部。碌な仕事も任されねえ雑用ばかりの下っ端も下っ端な
団員のもとでやした。ま、そのおかげで、堅気の罪のねえポケモン達を痛めつけるようなひでえ仕事に、
あっしが駆り出されることは殆ど無かったってのが不幸中の幸いってやつでしょうかね」
「マニューラもそうだったのか?」
「いんや、アイツぁあっしらみてえな養殖と違って、根っからの野生生まれ野生育ちでさぁ」
「そんな接点の無さそうな二匹がどうして出会った?」
「その辺は順を追って話しやしょう。事の発端は、商品として捕らえられ、カントーから密輸されてきた
ピカチュウ族達の一匹でやした。その日、あっしは下っ端のヤローに倉庫番を言い付けられていたんでさぁ――」
ドンカラスとエンペルトのコンビ好きだわ
GJ!明日か明後日にでも続きを書きたいです。
絶対ケンカしなさそうだよな、ドンとエンペルト。
まあ、エンペルトがフォロー体質なせいもあるんだろうがw
ほしゅ
hosyu
保守
保守
・
「マニューラさん! 待って下さい! マニューラさん!」
遥か彼方に遠ざかっていく赤い鬣を、ロズレイドは必死で追った。
「お願いです……戻ってきて下さい! 話を聞いて下さい! ……マニューラさーん!!」
ぜいぜいと息を切らしながらも、有りったけの大声で呼び掛ける。
だが、聞こえないのか、聞こえない振りをしているのか――マニューラは決して振り返らない。
いくらロゼリアだった頃よりマシとは言え、足の速さではとても敵うものではない。
二匹の距離は一向に縮まらず、逆に開いていくばかりである。
そしてとうとう、その後姿すら完全に見失ってしまう。
「マニューラさん……」
鬱蒼と茂る森の中で、ロズレイドはひとり途方に暮れた。
右も左も分からない見知らぬ土地。何処かに敵の目が光っているかもしれない危険。
しかし、それ以上に彼を打ち拉いだのは、マニューラが呼び掛けに応えてくれなかった事だ。
『僕なら大丈夫、僕になら応えてくれる……と思っていたのは、ただの思い上がりだったんだろうか……』
様々な不安と絶望に駆られ、いっそ、元来た道を戻ろうか……とも考えていた時――
「よいのか? このままでは、二度とあの者に逢えぬ事になってしまうやもしれぬぞ」
――突然、後方から、誰かが語り掛けてきた。
まるで心を見透かされているような言葉に、ロズレイドは恐る恐る振り返る。
「あ、あなたは……?! ディア――」
「ボーマンダだ」
何時の間にかロズレイドの背後に、何の気配も物音もなく――青い竜が佇んでいた。
「何故、あなたがここに……」
「質問は後だ。あの者を追う気があるならば、お前に我が背を貸そう」
驚愕するロズレイドに対し、ボーマンダは前足を折り、身を屈めた。
「で、でも……」
余りにも恐れ多い行為、と躊躇するロズレイドに、ボーマンダは更に促する。
「お前の足では、到底あの者に追いつけまい。暗くなれば余計に見つけ難くなるぞ」
「あっ……はい! では……失礼します」
理由も分からぬまま、ロズレイドは恐縮しながら、おずおずとボーマンダの背に跨った。
「ちゃんと掴まっておれ。振り落とされても知らぬぞ」
ボーマンダは赤い翼を羽ばたかせ、木々の間を縫うように宙へと舞い上がった。
森を抜けると高度は急速に上昇し、周囲の全容が眼下に広がる。
思わず目が眩みそうになり、ロズレイドは必死でボーマンダの首にしがみ付く。
「目を回している暇などない。しっかり探すがよい」
「は、はい……あの……ディ……いえ、ボーマンダさん」
「何だ?」
「どうして、あなたのような方が……このような事を?」
「あの者を守ってくれ、と頼まれたのだ」
当然の疑問に対するボーマンダの回答は、実に簡潔で明瞭だった。
「誰にです? ドンカラスさんですか? まさか……ひょっとしてペルシ……」
「いや、あのしなやかな肢体がなかなかに魅力的な娘……ゴ、ゴホンッ……もとい、あの者の配下からだ」
「じゃあ、ニューラさん達が……」
普段は悪態をつきながらも、やはり彼らもマニューラを慕っているのだ、とロズレイドは安堵する。
「でも、それなら……何故僕を……」
「前にも話した通り、お前達の世界の行末に、我らが力を用いて関与する事はできぬ。
だが、一介のポケモンとして、これくらいの協力はしてもよかろう。
何しろ、真にあの者を守れるのは……今のところ、お前だけのようだからな」
「僕が……マニューラさんを?」
ボーマンダの意を図りかね、ロズレイドは思わず溜め息を吐く。
「そんな……無理です……マニューラさんは僕よりずっと強いんです。僕なんか、足元にも及ばない。
むしろ、僕の方が守られてばかりで……僕の力程度じゃ何の役にも……」
「何者かを守るのに必要なのは力だけとは限らん。事によれば、目に見える力を遥かに凌駕したものだ。
それを我々や、我が主に示したのは、他ならぬ……お前の主、そして、この世界に生れしお前達……
……そうではなかったか?」
その言葉に、ロズレイドはハッと胸を突かれる思いがした。
『……僕が、僕だけが、マニューラさんにできる事……誰にも負けない事……それは……』
閊えが取れ、頭から不安や迷いが引いていく、その時――
木々の合間を進んでいくマニューラの姿が、ロズレイドの視界に入った。
「あっ! あれです! あそこにマニューラさんが!」
「よし、では下りるぞ」
ボーマンダはロズレイドの指差す方向に大きく旋回し、徐々に高度を下げていった。
二匹は先回りするように、マニューラが向かっていると思われる方向の僅か前方に着地した。
「後はお前に任せよう。あの者を救えるかどうかは、全てお前の裁量次第だ」
「すみません……あなたには、何とお礼を言ったらいいのか……」
「礼などいらぬ。ただ、ひとつだけ約束して貰おう。ここで私に会った事は誰にも話すな。
只の通りすがりのポケモンが、ほんの気まぐれで手を貸した、それだけの事だ」
「は、はい! お約束します! 本当に……有難うございました!」
ロズレイドは深々と頭を下げた。
そして、再び顔を上げた時――竜の姿は忽然と消えていた。
・
「あら、まあ……面倒臭がりの不精者が自ら出張るとは、珍しい事もあるものですわ」
周囲の木々がグニャリと曲がり、歪んだ空間の隙間から、煌びやかな乳白色の蛇が姿を現す。
「貴様か。異空間から覗き見とは、余り良い趣味ではないな」
その声に振り向きもせず、ボーマンダは呟く。
「……役を退いたとはいえ、我が神体に願を掛けられれば無下にもできまい」
「そう言えば宴の時、あの小娘に言い寄られ、随分と鼻の下をお伸ばしになられておりましたわね」
「だっ……だ、誰がいつ、そのようなものを伸ばしておった?!」
「ほほほほほ、大いに結構ですわ。役目ではなく、あなた自身の感情に従った行いなのですから」
艶然と嘲笑するミロカロスに舌打ちしながら、ボーマンダは誤魔化すように話の矛先を変える。
「……時に、あやつはどうした」
「さあ……大方、何処かであの方を見守っておりますでしょう。文字通り、陰ながらに」
「だろうな。口では反発しながらも、なかなか親離れができぬ奴よ」
「それは、我々とて同じではありませんか。されど、ここは古より存在する悠久の地……
土地神とも言うべき者も数多くおりましょう。彼らを刺激せぬよう気を付けねば」
ミロカロスはふと、遠くに高くそびえる、古い木造の塔に目を向けた。
その屋根の先端に、虹色の光が微かに瞬き、薄いベールのように靡いている。
「もっとも……我々が関わるまでもなく、悠に一波乱ありそうですが」
GJ!
明日明後日にでも続き書くよ
保守
保守しておく
ほっしゅ
保守
そういやいまだにムウマージって性別がわからんな
アブソルが加わった頃からどんどん性格が無邪気な子どもっぽくなっていってるからますますわからんw
続きは深夜か明日の朝型に投下するよ
また大規模規制か……みんな乙
・
森を進む最中、前方十数メートル先の木の陰に自分を待ち構えるように潜む気配を、
マニューラは鋭敏に察知する。気付いている事を気取らねない程度に僅かに歩を緩め、
手の内にいつでも投げ突き立てられるよう氷の刃を忍ばせながら、その正体を思案する。
コピーの軍勢の者だろうか。ピカチュウ達と行動を共にし、スピアーを迎撃してしまったことで、
奴らには既に敵として顔が売れてしまっている可能性が高い。あるいは、
腹を空かせた地元の野生ポケモンが、舌なめずりをしながら狙っているのかもしれない。
この辺りに棲んでいそうな比較的危険なポケモンというと、オオタチやアーボックぐらいであろうか。
――後は、アリアドス。オオタチはコラッタのような小型の獲物しか狙わないし、
アーボックの長い巨体はあんな細い木陰に隠すことなど出来ないだろう。アリアドスは……。
毒々しい赤と黒の縞模様の体と、蠢く黄色と紫の六本足を頭に思い浮かべてしまい、
マニューラは思わず顔を少し強張らせる。
――平気だ、もうあんなガキの頃のようなヘマなんてしない。一匹でも簡単にやれる。
既にばれている事に気付かず続けている待ち伏せ程、間抜けなものはない。
あんなばればれの気配を発している輩など、いずれにせよ大した相手ではないだろう。
こちらから強襲を仕掛け、一瞬で確実に仕留める。
マニューラは意を決し、余計な考えも振り払うように、目にも留まらぬほど素早く音も無く地を蹴った。
何者かが潜む木に至る前にマニューラは跳躍し、木と木を飛び移るように蹴りつけて裏側へ回り込む。
その勢いのまま爪で斬りかかろうとした寸前、潜んでいた者の正体――ロズレイドの姿を目の当たりにし、
マニューラは咄嗟に狙いを外す。首元に触れるぎりぎりの所に鋭い刃のような爪が深々と突き立ち、
びくりと息を呑んでロズレイドは身を竦めた。
「オメー、なんで――」
呟きかけたところでマニューラはハッとしてロズレイドの首根っこを押さえ、
「“ピカチュウの”?」と、合言葉を確認する。
「じ、“人生”……」
返ってきた応えに少し気抜けしたような息をつき、マニューラはロズレイドから手を離した。
「一匹で先回りしてやがったのか……? こそこそ隠れて何のつもりだ、テメー。
ネズミちゃんに言われて連れ戻しにでも来たか?」
咳き込むロズレイドに、冷ややかな視線を向けながらマニューラは言い放つ。
「す、すみません……まずはあなたに謝りたくて……」
「謝る?」マニューラは思い当たらずに怪訝に首を傾げた。
「あの状況で内通者を疑うようなことを言えば、あなたが一番に怪しまれてしまうのは十分に予想できたのに、
軽率でした。こんなことになってしまったのは、僕のせいです」
体を震わせて深刻に謝るロズレイドとは対照的に、マニューラは「そんなことか」と呆れたように鼻を鳴らす。
「別に、オメーが何も言わねーでも、遅かれ早かれオレは追い出されるか、自分から出て行っただろうよ。
元々、オメーららとオレとじゃ追う相手が違うんだからよ。寧ろ出て行く良い切っ掛けになったぜ」
「追う相手……? 誰かを探していらっしゃるのですか?」
うっかり零してしまった言葉に耳聡く食いつかれてしまい、マニューラは面倒くさそうに頭を掻いた。
「あー、とにかくそういうことだ。用はそんだけか? 気が済んだならさっさと帰りな。オレに戻る気はねえ」
「それならば、僕もお供します!」
「こっちはテメーがついてこられるような甘っちょろい道じゃねーの。帰った帰った」
しっ、しっ、と半ば追い払うような仕草で手を振って、マニューラはロズレイドに背を向けた。
「あなたを放って戻れなんてしません、そんな危険な道なのであれば尚更です」
強情に言い張るロズレイドを、マニューラは無視して歩き出す。いくら振り切ろうと足を速めようと、
それでも背後からは、懸命に足音がついてくる。その内に、やれやれとマニューラは溜め息をつき、
諦めたように歩を止めた。
「――忘れてたぜ、ロゼ。オメーの諦めの悪さを。このままじゃこっちが先に参っちまいそうだ。
もういい、好きにしてろ。だが、テメーの身はテメーで勝手に守れよな。いざとなったら、
オメーになんて気を回している余裕はねーぞ」
保守
hosyu
ほしゅ
保守
保守
203 :
名無しさん、君に決めた!:2010/12/14(火) 20:39:30 ID:a2NzH9Zk0
明日か明後日にでも続き書く
保守っとく
ほしゅ
保守
保守
ほしゅ
保守
振り向きざま、ぶっきらぼうに怒鳴るようにしてマニューラは言う。
「はい……! 決してご迷惑は、お掛けしないよう、頑張り……ます」
ぜえぜえと肩で息をしながら、ロズレイドは応えた。途端、ほぼ気力だけで保っていた体力が、
緊張の糸が途切れたとともに尽きてしまったのか、ぺたりとロズレイドは膝をついた。
言っている傍からのこの体たらく。見ていて何だか自分の方まで情けなくなって、
再びの溜め息がマニューラの口から漏れる。同時に毒気まで抜け出てしまったような気がして、
マニューラは決まりが悪そうにくしゃくしゃと頭を撫で掻いた。
――相変わらず、こいつを見ていると調子を狂わせられる。
「台無しじゃねーかよ。色々と」
自嘲気味にマニューラは呟いた。
「す、すみません、もう行けますので……お気になさらず先をお急ぎください」
ふらふらと起き上がり、ロズレイドは歩き出そうとする。
「いーよ。オレも余計な体力使わされちまったし、適当な所を見つけて少し休んでくぞ」
世の中は広いようで狭いものだ。それも同じ地方を、互いに探しものを求めながら歩いてなどいれば、
その内またピカチュウ達とは出くわすことになるだろう。面倒だがこいつのことはその時にでも、
丁重に熨斗を付けて送り返してやればいい。そんな風に軽く考えながら、
マニューラはロズレイドに歩調を合わせてのろのろと歩を進めていった。
・
「この辺ならいいだろ」
ほどなく身を潜めて休むに丁度良さそうな大きな木々に囲まれた空間を見つけ、
マニューラとロズレイドはその木陰に落ち着く。早々にマニューラは頭の後ろで手を組んで、
木の幹を背もたれ代わりに寄りかかって座り、ロズレイドは少し離れた位置の太い根へと腰掛ける。
しん、と静まり返った森の空気の中、マニューラはどこかぼんやりと虚空を見つめて黙り込み、
ロズレイドもいざ二匹となったらどうにも話す言葉を見つけられず、内心でどぎまぎとしながら口を開けずにいた。
気まずい沈黙に耐え切れなくなり、とにかく何でもいいから声を掛けようと意を決してロズレイドはマニューラを見やる。
そこでふと、その黒い左の上腕辺りに、見覚えのないくすんだ色の襤褸切れが巻き付けられているのが目に留まる。
元々が何色で何の切れ端であったのか定かではないが、ぼろぼろにほつれている端側の糸先まで汚れきっていて、
破れて本来の役割を失ってからもう何年も経っているのが容易に想像できる、随分と古めかしい布だ。
追いつくことに必死で今まで気付かなかったが、いつから、何故あんな汚れた布切れを巻き付けているのだろう。
ロズレイドは頭を捻る。
――そういえば、左腕は以前イノムーから僕を庇ってくれた時に大怪我をしたんだ……!
もしかしたら、その古傷が急に痛みだして、堪らずにその辺で拾った襤褸切れを包帯代わりにしているのかもしれない。
そうだとしたら、大変だ。あんな不衛生な布を巻きつけていたら、余計に悪くなってしまうだろう。すぐに替えてあげなければ。
「マニューラさん、左腕の傷が痛むんですか? 見せてください、そんな襤褸切れより新しい包帯を――」
ロズレイドはそっと近寄って、自分の道具袋から真新しい包帯を取り出し、マニューラの腕に巻き付いた襤褸切れへ手を伸ばす。
その瞬間、うとうとしていたマニューラは急にびくりとして目を開いた。
「触んな!」
半ば悲鳴のように怒鳴ってマニューラはロズレイドの手を払いのけ、飛び退いて後ずさった。
血相を変えて左腕に巻かれた布を庇うように右手で握り締め、息を荒くしてロズレイドを睨みつける。
「あ、あの、僕は――」
いつにない、今までにないマニューラの取り乱した態度に、ロズレイドは声が震えてまともに謝ることさえできず、
茫然としていた。立ち尽くすロズレイドの姿を見て、マニューラははっと我に返った表情をする。
「――わりぃ、ちょっと嫌な夢を見て寝ぼけていたみてーだ、悪かった。別に傷が痛むわけじゃない、大丈夫さ。
この布切れは……大切なもんなんだ。だから……今は、少し放っておいてくれ」
マニューラはロズレイドから顔を背け、ふらふらと木に寄りかかり直して目を閉じた。
急に疲れきった様子になって寝入るマニューラの姿を、悲痛にロズレイドは見つめた。
キッサキでしばらくの間一緒に過ごして、色々とマニューラの事を知っているかのような気になっていたが、
よく考えてみれば自分が見てきたのは上っ面の部分だけで、少し深い部分になればまったく知らないことばかりなんだ。
どこで生まれたのかも、どんな風に育ってきたのかも、過去のことはまったく分からない。
今回のことで、より明確にその事実を突きつけられてしまった。あの布切れが他人に触られたくない、
大切なものだと察することも出来ない。それどころか、汚い襤褸切れだと無下に取り去って捨ててしまおうとしてしまった。
ロズレイドは一匹、己の無力さに震える。
でも、ここで諦めたら――黙っていたけれど、シンオウを発ってから、マニューラさんから微かに感じる仄暗い危うげな雰囲気、
先のボーマンダさんの”二度とあの者に会えなくなるかもしれない”という言葉――悪い予感が止まらない。
ここで挫けたら、きっとよくないことになる。
ロズレイドはぐっと足に力を込めて震えを抑え、確とその場に座り留まった。
ほしゅ
hosyu
保守
保守
保守
明日明後日にでも続き書くよ
保守
hosyu
保守
ほしゅ
保守るよ
保守
保守
ムウマージってオス?それともメス?どっち?
保守
>>227 たぶんメス?
今まで明記はされていなかったはず
・
「ピカチュウ族――僕らのボスと同じ種族だな」
片眉を上げてエンペルトは訝しげに呟く。
「ああ、あっしはどうも昔からあの種族にゃ縁があるようで。……話を続けやすぜ」
――カビ臭くて薄暗い倉庫にひっそりと保管された商品の見張りは、殆どあっしの日課だった。
毎日毎日、得体の知れない危なそうな薬や、どこか安っぽくて胡散臭い道具、
小汚い檻にぶち込まれたポケモン共の辛気臭い顔を眺めて回るのさ、
想像しただけで心が淀み腐りそうな素敵な見学ツアーだ。
そんなクソッタレた日々の中で唯一の楽しみと辛うじて言えるのは、
檻の中の哀れなポケモン共に声を掛けて回ることぐらいだった。
どいつもこいつも、あっしを恨み辛み口汚く罵るか、怯えきって震えているか、
あるいはもうぴくりとも動かなくなっているか、のどれかだったな。
救いようのねえ掃き溜めに、とある日から二日、三日に渡って、
合計で十匹近くの黄色いネズミ達が仕入れられてきた。何でも、カントーのトキワの森で密漁してきた奴らで、
ジョウトでは非常に珍しく、人間達の間では結構な高値で取引されているそうだ。
そんな風に珍しいポケモンが捕らえられてくるのはいつものことで、別に珍しいことじゃあ無かった。
あっしはいつものように見張りの暇つぶしがてら、そのピカチュウだかぺカチュウだかいう奴らに
接触してみることにした。檻の格子の隙間から見えるのは、つまらねえいつもの反応だ。
皆一様にくたばった魚みてえな目をして、ただただ絶望に暮れている。
その中でただの一匹、様子の違う奴が目に付いた。首に煤けたスカーフだかマフラーだかを巻いた、
優男風の奴だ。だが、その眼に宿る光は研ぎ澄まされたように鋭く、注意深く倉庫内を見回してやがった。
そいつはあっしに気付くと、わざとらしくきょとんとした表情を見せて鋭い眼光を押し隠した後、
人懐っこくにこやかに微笑んでこう言い放った。
「やぁ、いいところに来てくれた。恐縮だけど、何も言わず大人しくここから出してくれないかな?」
突然、何を言ってやがるんだ、こいつは。今日初めて会った、それも自分を捕らえた憎い奴らの仲間である奴に対して、
まるで友人に簡単な頼みごとをするみてえな気軽な物言いだ。
そいつのあまりに己の立場を理解していないような言葉にあっしは心底呆れ返った。
「出来るわけねぇだろ、そんなこと」小馬鹿にして鼻で笑い飛ばしてやると、「だろうなぁ」とそいつも気さくに笑い返した。
「……おめえ、今、自分がどんな立場で、どんな状況にいるのか分かってんのか?」
絶望的な状況だというのに、そいつのその飄々とした気楽な態度に、日頃の鬱憤が溜まっていたのもあって、
あっしはどんどん腹が立っていった。
「分かっているさ。君が看守で、俺が囚人。このまま大人しくここに居たら、どこかに売り飛ばされるか、
あるいは殺されるか、だろうね。だから出してくれって君に頼んでいるんだけど」
「そんな頼み、はいそうですかと聞くはずがねえだろうが」
「どうして?」
「てめえみたいなのを見張って逃がさないようにするのが、俺様の言いつけられている仕事だ」
「へえ、好きでこんなかび臭くてみすぼらしい場所で、言われるままひどい仕事をやっているのか。
ま、自身がそれで満足しているなら、俺から他に言うことは無いけれど」
そいつのその言葉は、あっしの心に深く突き刺さった気がした。
「そんな分けねえだろうが! 俺様だってこんな掃き溜めみてえな場所で、いけ好かない事を続けるなんてごめんだ。
だがよ、選択肢なんて、俺様には最初からありゃしねえ。俺様はここを仕切る黒ずくめのクソッタレ人間共に、
都合のいい道具として使われるためだけに生まれてきたのさ。逆らえば、始末されるだけだ」
気付けば、溜め込んでいたものを全て吐き出すようにあっそはそいつに叫んでた。
「だったら、君も逃げればいい」
「……出来るわけねぇだろ、そんなこと。奴らは自分達の悪事の尻尾を掴まれねえよう、ポケモンの脱走をゆるさねえ。
例え運良くここから出ることが出来ても、追っ手を放って確実に始末しにくる」
俯いて力なく言い返し、悔しさにひびが入りそうな程に嘴を噛み締めていると、
「絶対に逃げ切れる。俺と協力さえすれば」
そいつは、確固たる自信を持って言い切りやがった。見上げると、その目には力強い光が戻っていた。
保守
保守
GJ!
明日明後日にでも続き書くぜ
保守っとく
マサキって何のポケモンだっけ?
>>237 何のポケモンと合体事故起こしていたかってことかな?
それなら確かFR・LGだとピッピの姿になっていたと思う
保守
保守
ほしゅ
保守
その自信が何を根拠としているのか、全くもって分からなかった。何せそいつの姿といったら、
ヤミカラスのあっしよりも小さく、鋭い爪も牙も無ければ、短い黄色い毛に覆われた丸っこい体と、
饅頭みたいに赤くて丸い頬はちょいと嘴の先で突いてやっただけで簡単に穴が開いてしまいそうだ。
お世辞にも強そうになんて見えやしない。
――「おっと、ボスにはあっしがこんなこと言ってたなんてチクらねえでおくんなせえよ。
一応別の奴の事とはいえ、同じ種族でさぁ。機嫌損ねられたら厄介だ」
ドンカラスは急に思い立ったように取り繕う。
「へぇ。さて、どうしようかな。ああ、そういえばドン、書庫の一番隅にある本棚の裏に羊羹を隠しているな?
見つけた時は黙ってそっとしておいたけれど、高級そうな箱に入っていて美味しそうだったなぁ、いいなぁ」
エンペルトは悪戯っぽくニヤついた。
「うっ……勘弁してくだせえよ……」
「はは、冗談だ。僕だってボスの不機嫌のとばっちりは受けたくないからな。続けてくれ」――
ただ自分が檻から出たいが為だけの妄言だ。そう切って捨てるのは簡単だ。だが、そうできない、
そうさせない何かがあった。
「……おい、マフラー野郎」
威圧するように、あっしは眉間に皺を寄せそいつの顔を睨み込んだ。
「ん、協力してくれる気になってくれたのかい? あと、俺の名前はマフラー野郎じゃなくて、ピカ――」
「てめえの名前なんざどうでもいいんだよ。そこまで自信満々に言い張れるなら、
何か明確な脱出プランがありやがるんだろうな、んん?」
ここで少しでも怯んだり言いあぐねる様なら、もう話はお仕舞いだ。あっしはここで踵を返し、
いつもの見回りに戻り、それを終えたらまた明日も同じだ。その内このスカしたマフラー野郎は売っ払われるかして、
変わらない毎日があっしがくたばるまで続く。
……嫌だ。思えば思うほど、嫌で嫌でしょうがなくなっていた。今までは、言い切れないほどに不満はありながらも、
生きているだけでもありがてぇ事なんだと思って、目を背けるようにしてきた。
だが、こいつのせいでまざまざと向き合わされちまった。自分の生きてきた日々、いや、生かされてきた日々は、
どれだけ最低でクソッタレか。一度気付いてしまったら、もう戻ろうとしても戻れやしない。
このまま後悔と心の呵責に耐えることなんて出来ず、体より先に頭がイカれ果てちまうだろう。
どうか、違う明日をくれ。生かされる、じゃあなく、生きているんだと思える日々をくれ。そいつを覗くあっしの顔は、
脅しかけるものから縋るような表情に変わっていたかもしれねえ。
そんなあっしを見て、そいつは当然だろうと言いたげに薄く微笑んだ、気がした。
「ああ。この場所は地下にあるんだよね? どこかじめじめしてて窓がどこにも見つからないし、何よりあの大きな換気口」
そいつは天井近くの壁に開けられた網格子付きの四角い換気口を示す。
「あの中を潜って外まで行こうってのか? 確かに俺様とてめえの体格なら潜り込むのは容易だろうが、
残念だったな。中にゃしっかりとセンサーが取り付けられてんのさ。すぐにバレて出口で待ち構えられて、
とっ捕まるだけだ」
「うん、そのくらいの警備はあって当然と覚悟しているよ。まあ、最後まで落ち着いて聞いてくれ。
ここに運ばれてくる途中、檻に被せられた覆いの僅かな隙間から外を窺っていたんだけど、
どうやらここは元々アジトとして作られた場所じゃあなくて、組織とは関係ない倉庫の一画を
間借りしているだけに過ぎないように見えるんだけど、どうかな?
途中で見た山積みのダンボール箱群に、どれも人間の文字でたぶん『コガネ百貨店』って書かれているのが見えた。
その百貨店と手を組んでいるとも考えたんだけれど、すれ違った普通の従業員らしき人達は怪訝な顔をして
俺達の入っている積荷を見ていたから、それにしては変だと思ってね」
「確かにおめえの見立て通り、このアジトは組織とは関係がねえ堅気がやってる百貨店の地下の一部を、
騙くらかして借りているそうだ。汚い悪事に使われているなんて当事者以外は知りゃしねえよ。だが、それがどうした。
換気口から上の百貨店の方に抜け出て、大勢いる人間共に助けてくれって言いにでも行くのか? クハッ、笑えるぜ」
あっしは呆れたように羽をひらひらと横に振るう。やっぱりこんな奴に少しでも期待したのが間違いだったのかと、
落胆しかけていた。
「ああ、その通りだ。人間達に助けになってもらう、という点では違いない」
「イカれてんのか? 俺様達の言葉なんて人間共には通じねぇ。取り合われないどころか、大騒ぎになっちまうのがオチだ」
「大騒ぎ、今に限っては好都合じゃないか。こんな所にこそこそと隠れてアジトを構えているような奴らが、
真っ当な買い物客や店員達が騒ぎ立っている中に表立って出てくるのを好むと思うかい? もし仮に現れたとしても、
人ごみを素早く潜り抜けて行くことに小さな俺達と大きな人間、どちらが向いている? このままここで何もせず腐っているよりも、
賭けてみる価値はあると思うけれどな」
挑戦的な表情を浮かべるそいつ。
示された目の前の道は、見るからに危ういとても細くて険しい最低にクソッタレなものだった。
だが、きっと先には違う明日がある。がむしゃらに危険を切り抜けていく日々は、誰かに生かされているのではなく、
己の力で確と生きているのだという実感を嫌というほど味わわせてくれるだろう。
「――その話、乗ってやる。マフラー野郎」
「おお、ありがとう! でも、俺の名前はマフラー野郎じゃあない。ピカ――」
「知ってるよ、確かぺカチュウだろ? 待ってろ、とりあえずまずは鍵をくすねてきてやる」
「ちょっと間違ってるんだが……まあ、いいか」
積荷を枕に大いびきをかいている元飼い主の下っ端団員に、あっしは慎重に忍び寄ってベルトに付いた鍵束をそっと盗み取り、
檻の前まで戻って鍵を開けてやった。
檻から出ると、そいつは体を解す様に呑気にぐっと伸びをする。
「いやー、助かったよ。やっぱり君は根はいい奴そうだな、ヤミカラス」
マフラーに付いた埃をぱんぱんと手で叩いて払い落としながら、そいつは爽やかに笑いかけてきた。
「いい奴だなんて、虫唾が走るからやめやがれ。さあ、さっさとてめえの危なっかしいプランを実行しに行くぞ」
「ちょっと待ってくれ、騒ぎを起こしてしまう前にここで調べておきたい事があるんだが」
不意に、そいつは言った。更なる面倒が舞い込んできそうな嫌な予感はしながらも、
あっしは「なんだ?」と聞き返しちまった。
「うん、少し前にここにうちのチビ助――もとい、ピチューの子が捕まえられて来なかったかな?
見た目は俺を一、二周りか小さくした感じで、耳の形がもっと三角形で幅広なんだ」
「そんな感じの奴らなら、確か隣のフロアに捕まっているが。まさか……お前のガキか?」
「まあ、そんなもんだよ。普通のピチューより、無口で、無愛想で、生意気で、ジト目気味で、
全然懐かなくて、他人から見たらちょっと可愛くない奴だから、見さえすればすぐに分かると思うんだけど。
俺はその子を助けに来たんだ」
――「へえ、そのピカチュウ、子どもを助けるためにわざと捕まって潜り込んだのか。勇気があるというか、
無鉄砲というか……。同じ種族でも、慎重派に見えるうちのボスとはまるで似てないな」
エンペルトは感心とも呆れともつかない口調でエンペルトは言う。
「ああ、あいつとの逃亡劇は今考えても無茶なことばかりで、休まる暇なんて殆どありゃしやせんでした。
だがよぉ、あいつがいればいつでもどんなことでもどうにか乗り越えられた。何でも出来るって気にさせられた――」
GJ
保守
保守るよ
あけおめ保守
あけましておめでとう
明日明後日にでも続き書く
ほしゅ
保守
保守
保守
hosyu
保守
・
「もー、いい加減機嫌直してよ、ピカチュウ」
宥めようとするミミロップの声を無視し、俺は口を硬く結んで押し黙り続ける。
裏切り者かもしれないマニューラを単独で追うなどというロズレイドの危険な独断を助長したあげく、
あろうことか止めに入ろうとした王たる俺を羽交い絞めにして妨害するなど、到底許せるものではない。
普通の悪を掲げる組織であれば即追放もの、いや、処刑されてしまってもおかしくはないだろう。
そうしない俺のなんと温情溢れることか。シンオウのリッシ湖とエイチ湖とシンジ湖を合わせて満たしても、
まだ溢れてくるに違いない。
現に危惧した通り、いくら待ってもマニューラどころかロズレイドさえ戻ってくる気配は無い。
俺はじろりと横目でミミロップを睨む。
「ロゼちゃんなら絶対大丈夫。あんたがいない間に、ただ進化して体が大きくなっていただけじゃあない。
心身共にばっちり鍛えられて強くなったんだから。中々戻ってこないのは、きっとちゃんとマニューラに
追いつくことが出来たからよ」
「ちゃんと追いつけたのであれば何故すぐに連れ戻してこない。追っ手として返り討ちにされてしまったか、
あるいは言いくるめられて何か良からぬことを結託したか、最悪の結果しか想像できんな」
苛立つままに言い返すと、ミミロップは呆れたように溜め息をつく。
「あの強情そうなマニューラを早々簡単に説得できると思う? 口にも顔にも殆ど出さなかったけど、
マニューラも何か悩んでたみたいだった。私の波動読みの実力じゃその理由まではっきりとは分からないけれど、
結構根深そうだったわ」
「ふん、あれが何かに思い悩むようなタマか?」
奴のお得意な皮肉めいた不敵な笑みを思い返し、ありえないと俺はせせら笑う。
「あのねー、なんでそんなにマニューラを邪険にするようになったわけ? シンオウからの仲間じゃない」
「状況が状況だ。目的も告げずに付き纏おうとしてくるような相手を信用できるはずがあるまい。
それに、ひとの耳に急に齧りついてくる様な輩に好感を持てというのが無理な話だ」
後は、奴と関わるたびに引き起こされるようになった妙な頭痛――。
「だから、その目的を聞き出すためにもロゼちゃんは一番適任だったでしょ。
耳を噛むくらいほんの些細なイタズラじゃない。私だって隙あらばしたいくらい――って、違う違う。
とにかく! もっと仲間を信用しなさい。こんな状況だからこそ、疑うよりもまず信じることが必要だと思うの」
「ええい、そう簡単に信じていてはその内足元をすくわれる!」
「疑ってばかりいたら何でもかんでも怪しく見えて、それこそ敵の思う壺だってば!」
いつもであればそろそろこの辺りで引止めに入る役も、今は不在。アブソルやムウマージ、
ましてやデルビルでは務まるはずもなく、互いに譲らない平行線の言い争いは延々と続いてしまった。
俺も最早引っ込みはつかず、ミミロップも同様だろう。双方意見は言い尽くし、果てには日頃溜まった互いへの
些細な鬱憤にまで言及しそうになっていた時、上空から鳥でも獣のものでもない高く鋭い声が響く。
「うおーい! 電気ネズミの旦那ァー!」
見上げれば、俺達の頭上で翼を広げ旋回する灰色の翼竜、プテラの姿があった。
十分に高度を下げると、プテラは広げた翼を大きくバタつかせながら、ゆっくりと俺達の前に降り立つ。
「また会えてよかったぜぇ、電気ネズミの旦那ァ。おおっと、ピカチュウの人生っと。
いやー、またあちこち飛び回されてくたくたでェ。まったく旦那はポケ使いの荒い――んん?」
言葉の途中でプテラは俺とミミロップを交互に見やり、ばつが悪そうに翼に生えた爪でぽりぽりと頬を掻く。
「んー、どうも痴話喧嘩ってやつのお邪魔をしちまったみてぇで。わりぃなァ、おれっちどうもそういうのにゃ鈍感でよォ」
俺は口を歪め、ぶんぶんと首を横に振るった。
「断じて違う。我らに痴話などありえぬ、ただの意見の相違による口論だ!」
声高に俺は否定する。横でミミロップはムスッと表情を顰めた。
「ありゃりゃ、そうだったのかい。そいつァ重ね重ね失礼しやした」
「……まあ、いい。ところで、一体何故お前がここに? ペルシアンはシロガネ山を越えるのは危険だと、
鳥達を送るのには難色を示していたはずだが」
「おう、怪しい情報を見つけたらすぐさま届けて、さぽぉとするようにと旦那方にゃ仰せ付かっててよ。
鈍り切った最近の軟弱な鳥共ならいざ知らず、おれっちは白亜の韋駄天……いや、ジュラの韋駄天だったっけなあ?
それとも、三畳……? まぁいいや、とにかくそんな感じの韋駄天の異名で、大昔は大空をぶいぶい言わせてたんでぇ。
今でも鋼に包まれたウスノロ共の翼なんざすいすい擦り抜けて、ぶっちぎりよォ!」
鼻高々と言った様子でプテラは答える。韋駄天だのジュラだの何だかよくわからないが、
とにかく速さを象徴するらしい異名を自信満々に名乗れるだけの相応の実力は確かに兼ね備えているようだ。
「ふむ。それで、その怪しい情報とやらは見つけてきたのか?」
「おうおう、それなんだがよォ……んん? ところで、薔薇のにぃちゃんと黒猫さんはどこに行っちまったんだ?」
俺達をぐるりと見回し、プテラは首を傾げた。
「ああ、奴らなら――」
俺はプテラに事情を話す。
「ははあ、あの黒猫さん、中々のとらぶるめぇかぁってやつのようで。こりゃ好都合――ってな感じでしょうなぁ、
敵さんにとっちゃ」
「まったく、その通りだよ。困ったものだ」
ふん、と俺は鼻を鳴らす。
「まるで人事みたいに言ってるけど、ピカチュウ、あんたにも責任があるんだからね」
「……して、プテラ。本題へと戻ろう。何か手がかりになりそうな情報を見つけたのではないのか?」
釘がたっぷり付いた横槍をかわし、俺はプテラに尋ねる。
「敵さんへの手がかりになるかわかんねえが、こっから南西辺りにあるヒワダタウンってチンケな町が、
何やら妙な事になってるらしくてよォ」
「妙な事?」
「電気ネズミの旦那は、ヤドンってぇポケモンは知ってるかい?」
俺は、全身ピンク色をしたマヌケ面の四足獣を思い起こす。
「知っている。締まりのない顔をして、年中ボーっとしている奴らだろう」
カントーで暮らしていた頃に見かけたことがあるが――一度、奴らの性分を知らずに会話を試みようとして、
随分と苛立たされたものだ――こちらにも生息しているのか。
「奴らがどうしたというのだ? 事件や荒事とはまったくもって無縁な、能天気の極みに座している奴らだぞ?」
「おう。ヒワダタウンは、そんな奴らにピッタリな何にもねえ穏やかな町でよォ。普段はヤドン共も町のそこら中で
一日中ボーっとしてやがるらしいんでぇ。だが、ある日、そのヤドン共が急に町中からすっかり姿を消した……」
「なるほど、確かにそれは尋常では無いな。奴らは敵を目の前にしても、ぼんやりとしているような奴らだぞ。
それが一斉に姿を消すなど……何か裏があるとしか思えん」
ほしゅ
保守
明日明後日にでも続き書くよ
保守
保守
なんか2chの一部の板が大変なことになってるみたいだな
ポケ板は無事なようで幸いだ
保守
保守
保守
「誰かに攫われたり始末されたのかもしれない、ってこと? だけどそのヤドンってポケモンが
ピカチュウの言ってるように人畜無害なのなら、わざわざそんなひどいことする理由がわからないけど」
ミミロップは顎に手をやり小さく首を傾げる。
「へっ、無知だねえ。奴らの尻尾は珍味で、そこそこの値段で売れるのさ。切ってもまたその内
トカゲみてえに生えてきやがるから、大量に捕らえておけば大儲けってワケだ」
得意げにデルビルは答えた。
「ほお、やけに事細かではないか。まるで目の前で見ていたかのようだな」
俺はじとりとデルビルに視線をやり、わざとらしくトゲを持たせた調子で言った。
案の定、デルビルはぎくりとしたようにびくつき、顔を強張らせる。
「い、いや、一時期そんな風な密漁が問題になって、ニュース番組で取り上げられてるのを見たんだよ」
誤魔化すようにデルビルは苦笑いした。
「今回のヤドンの失踪もそれが原因だと思うか?」
あまりにあからさまな態度と嘘に、思わず鼻で笑い飛ばしそうになるのを内心に留めて、俺は訊いてみる。
「その可能性は高いだろうなあ。奴らの使い道なんて、思いつく限りじゃそれぐらいだ」
「ひどいや、そんなの……」
アブソルは悲しそうに俯き、足を微かに震わせて呟いた。
「ねえ、ピカチュウ、ヤドン達がいなくなったのが本当に悪い奴らに捕まっているせいなら、
助けに行ってあげることはできないかな? ずっと尻尾を切られ続けるなんて、あんまりにかわいそうだよ」
顔を上げ、アブソルは潤む目で俺を見つめて言った。
「けっ、俺達にゃ今、フーディンと化物共の行方を追うっていう、ピンクのマヌケ顔の救出なんかよりも
優先しなきゃいけないことがあんだろうが。ガキの偽善になんて付き合ってる暇はねえ、だろ?」
デルビルは嘲笑し、同意を求めるように俺を見やった。
「……確かに、最も優先するべきはミュウツー達の追跡だ――」
「ピカチュウ……?」
ショックを受けた様子で、アブソルは今にも泣き出しそうに表情を歪める。
「しかし、だ。ヤドン達への非道な行いが事実なのであれば、それはあまりに目に余るというもの。
種族は違えどポケモン同士として、見過ごすことは出来ぬ」
「そ、それじゃあ!」
「いずれにせよ、ミュウツー達に直接繋がるような足がかりは現状無いに等しいのだ。
我らの存在は既に奴らに知られてしまっている以上、不用意にコガネシティに近づくのも尚危険になったのだろう。
城を攻めるならばまずは外堀からと云う。ジョウトにも信頼できる新たな仲間を置き、地盤を固めるのが得策と考える。
まずは――あまり頼りにならないこと必至であろうが――ヤドン達の安否を調べ、可能であれば配下としよう」
「ありがとう、それでこそピカチュウだよ!」
アブソルはパッと表情を晴らし、歓喜の声を上げて飛び付いてきた。
「ぶわっ、お、大げさだッ! 離れよ!」
分厚い毛並みに埋めこまれ、俺は抜け出ようともがく。
「そーよ、これくらい当然なんだから」
言ってミミロップは俺をひょいと持ち上げ、アブソルから引き離した。
「うー、こっちはさっさとフーディンとっ捕まえて人間の体を取り戻したいってのによ……!」
デルビルはチッ、と悪態をつき、そっぽを向いた。
「んで、旦那方はこれからヒワダタウンに向かうってんでいいんだな。バラのにぃちゃんと黒猫さんはどうすんでぇ?
もしおれっちがジョウトを巡ってる途中で出会うことがありやがったら、ついでに行き先を伝えておこうかい?」
翼を広げながら、プテラは訊ねる。
「ふん、別にそんな必要は――」
「いえ、よろしく頼むわ、プテラ。戻れるようになったら、いつでも戻ってきてって二匹には伝えておいて」
俺の口を再び強引に塞ぎ、ミミロップが割り込んでくる。
「合点承知でぇ。んじゃ、お達者で旦那方。また無事に会えることを期待してまさぁ」
プテラは翼で一、二回空を叩いて思い切り上空に飛び立ち、翼を大きく広げると空を滑るようにして飛んでいった。
「……余計なことを」
眉間にシワを寄せ、俺はぼそりと言う。
「はいはい。早くヒワダタウンに行きましょ。確か、ここから南西ってプテラは言ってたっけ。じゃー、ゴーゴー」
意に介せぬといった様子で、ミミロップは歩き出した。
「ねえ、アブソルちゃん。ヤドンのしっぽ、そんなにおいしいならマージもちょっとだけたべてみたいかもー。
たのんだら、かじらせてくれないかなー?」
背後でじゅるり、とムウマージがよだれをすすり鳴らす。
「や、やめたげてよぉ」
……会って早々、噛み付いたりしなければいいが。
hosyu
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保守っとく
明日明後日にでも次書く
保守
保守
保守
hosyu
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保守
・
「――おい、起きな」
まどろみをたゆたう意識に出し抜けに声が触れ、ロズレイドはハッとして目を開ける。
「なんだ、意外とあっさり起きたな。こっちはどうやって叩き起こしてやろうか、色々考えてたってのによ」
その眼前には、にっと笑うマニューラの顔があった。
「あ……すみません、ついうとうとしていたようで」
謝りながらロズレイドは慌てて起き上がる。どうやら座り込んだままいつの間にか寝てしまっていたようだ。
もしかしたらそのまま置いていかれてしまう可能性もあったというのに、なんと迂闊だったのだろうか。
ロズレイドは自責と、安堵の念が籠もった小さな息をそっと漏らす。
「しっかりしろよな。そろそろ出るぞ。この森にゃアブねー奴だって棲んでんだ。オレならまだしも、
オメーみてえなのがいつまでもグースカのんきに寝てたら、あっと言う間にとっ捕まってサラダにされちまうぞ、ヒャハハ」
冗談めいてマニューラは陽気に笑ってみせる。
「はは、そうですね。くれぐれも気をつけますよ」
ロズレイドは何気なく笑い返しながら、そっとマニューラの様子を窺った。
一見すると、すっかりいつものマニューラへと戻り、眠りにつく前の不穏な態度などまるで嘘か、
あるいは寝際に寝ぼけて見た幻だったのかと思ってしまいそうなほどだった。
しかし、その黒い左腕には依然として煤けた布切れがしっかりと大切そうに巻かれている。
誰かとの思い出の品なのだろうか。ただの布への執着にしては、ただならぬものを感じさせた。
いずれにせよ、他者がずけずけと立ち入っていいような事ではないとは、容易に想像できる。
いつか自分から話してくれる気になる時が来るまで、今はただ静かに見守ろう。
ロズレイドは問い詰めたい気持ちをぐっと堪え、胸の奥底に押し込めた。
「なにいつまでもボーっとしてんだ。置いてくぞ」
ぼんやり考え込むように佇むロズレイドにマニューラは言い残し、さっさと先を歩いていく。
「っと、待ってください」
我に返ってロズレイドはマニューラの後を追った。
「――待った」
しばらく歩いていると、マニューラは不意に赤い両耳をぴくりと反応させて立ち止まり、ロズレイドを手で制する。
「どうしたんですか?」
怪訝に尋ねる声を「シッ」と止めさせ、マニューラは爪を構えて視線を周囲に走らせる。
ただならぬ気配に、ロズレイドも両手の花から毒針を伸ばして辺りをきょろきょろと見回した。
程なくして、前方の深い茂みががさがさと揺れる。二匹が固唾を呑んで様子を見張る中、飛び出してきたのは――
つぶらな瞳の可愛らしい顔つきをした、胴長の茶色い鼬だった。余程大急ぎで駆けてきたのか、
少し息を切らしている。
力抜けしたようにマニューラは鼻を鳴らしてから、まごつく胴長鼬に向けて爪を振りかざし「シャー!」と鋭い威嚇の声を上げた。
胴長鼬はぎょっとして飛び上がり、元来た茂みに飛びこんで逃げて行く。
「今のは?」
「オオタチだ。大方、ネズミの残り香でも嗅ぎ付けてきたのかもな。少し前まで黄色いネズミちゃんと一緒に居たしよ」
「ええ? だとしても、なんのために?」
「聞きたいのか? 奴らがネズミを捕まえた後に、一体どんな“お持て成し”をするのか……」
言って、マニューラは黒く笑う。
「い、いえ、やっぱりやめておきます……」
何となく察し、ロズレイドはそれ以上の言及を避けた。
しかし、本当に“それ”が目的だったんだろうか。ロズレイドは先程のオオタチの様子を思い返す。
どこか焦った様子で息を切らしていて、何かを追っているというよりは逆に追われているような、
何かから逃げてきたかのようだったけれど――今更気にしても、仕方ないか。
二匹はオオタチが飛び出してきた深い茂みへと向かい、背の高い草を手で掻き分けて踏み込んだ。
途中、草を押す手に何か粘々としたものが触れたのを感じ、ロズレイドは手元を見やる。
すると、透明でとても細い、それでいて振り解こうとしても一向に切れない、妙な糸状のものがくっ付いていた。
これは、虫の糸――?
保守
保守
ほしゅ
保守
保守
保守
保守
明日明後日にでも続き書くよ
保守
ほしゅ
保守るよ
保守
いつのまにか携帯版保管所のヒット数が13000人になっててびびったw
管理人さんいつも乙です
ホントだw
うごメモで漫画化もされたし、ピカ生凄いな…
うごメモも6まで来てたな
初期ピカの黒さが懐かしいわw
それは、芋虫型のポケモン等が吐き出す糸のように思われた。ハクタイの森に生息するケムッソという
赤い芋虫ポケモンが、蛹へと成長する時や天敵に襲われた際、よく似た粘着質の糸を吐き出していた姿を、
ロズレイドも昔見たことがあった。
粘り具合からして比較的新しいものと思われるが、辺りを見てもそれらしきポケモンの気配は無い。
じっと目を凝らして糸の先を追ってみれば、先程のオオタチが通り抜けて行ったと思われる低い位置で
掻き分けられた草の隙間へと続いている。どうやらこの糸はオオタチがどこからかくっ付けてきたもののようだ。
大方、芋虫ポケモンに何かちょっかいを出して、吹き付けられたりでもしたのだろうかとロズレイドは思い至った。
それならば、慌てて見えたオオタチの様子も、芋虫ポケモンの思わぬ反撃に驚いて逃げてきたから、
とも考えられる。何せ、マニューラに少し驚かされただけで、逃げ帰って行く程にオオタチは臆病なようだった。
――何か危険な奴に追われていたのかもしれないと思ったけれど……何だか、心配して損したな。
ロズレイドは、先を行くマニューラを見やる。その背からは何やらまた少し張り詰めた雰囲気が感じられ、
わざわざこんな些細な糸如きの事で呼び止めたら、怒られてしまいそうだ。ロズレイドは黙って手から
糸を振り払おうとし、しばらく苛々と悪戦苦闘した後、もう諦めてその内自然と切れるまで放っておくことにした。
それにしても、マニューラはどこに向かっているのか。邪魔な背の高い草に覆われた地帯をようやく抜けて、
ロズレイドは方位磁石と地図を取り出し大まかな足取りを調べてみることにした。
今マニューラが向かっているのは北東方向。このまま森を抜ければ、キキョウシティの東にある三十一番道路
辺りに出るのではないだろうか。もしもそこから更に北東に行くのであれば、その先にあるのはチョウジタウン
という集落、その東にある四十四番道路、そのまた東にはシロガネ山から連なる山脈があり、中腹辺りに
フスベシティという山里があるようだ。
理由までは無理でも行き先を聞く程度なら大丈夫だろうと、ロズレイドは思い立って地図から顔を上げ、
口を開きかけた時、視界の右隅で何かが微かに動く姿がちらついた気がした。ロズレイドは気になって
そちらに首を向けてみる。すると、その視線少し先にある木、その根元に開いた穴の中で茶色い影が、
何かを守るように体を丸めて震えているのが見えた。少し前にマニューラに追い払われたオオタチだ。
木の周りを毒々しい緑色をした子蜘蛛達に取り囲まれてしまい、もうどうにも身動きが取れない様子だ。
――あの糸は、芋虫なんかではなくあの蜘蛛達の……!? オオタチは奴らから逃げていたのか、大変だ――!
「マニューラさん、あれを!」
いてもたってもいられず、ロズレイドはマニューラを呼び止める。
「あぁ?」
マニューラは小うるさそうに振り返り、ロズレイドの指し示す方向を見やった。
「あー、ありゃさっきの。周りのはイトマル共か――相変わらず、気味がわりー奴らだ――」
ぼそりと呟いて、マニューラは不愉快そうに顔を顰めた。
「見つからねー内にオレ達もさっさとこの場を離れるぞ。きっと直に、名前を口に出したくもねー”ヤツ”が来ちまう」
陰でぶるりと身を震わせ、マニューラはそそくさと先を急ごうとする。
「助けないんですか?」
ロズレイドは唖然とした。てっきりマニューラならばすぐにでも助けに入ろうとすると思っていたからだ。
マニューラは、「はぁ?」と片眉を吊り上げる。
「なんでそんなことをする必要があんだよ?」
「だ、だって、あんな集団で襲われたら、きっとあのオオタチと――」
「おいおい、このオレが無償で誰かを助ける正義の味方や博愛主義者にでも見えんのか? だったら、
目に効くいい薬草を教えてやるぜ」
「そんなこと言って、マニューラさんは前に僕のことも危険を冒してまで助けてくれたじゃないですか!」
マニューラは面倒くさそうにばりばりと頭を掻く。
「勘違いしてやがんな。テメーは一応群れの仲間と認めていたから助けた。だが、あのオオタチは仲間でも何でもねー。
大体、あのオオタチだって、あんな無害そうな面してるが、同じようにコラッタやらネズミを襲って生きてるんだぜ?」
う、とロズレイドは言葉に詰まる。
「襲いもすれば、襲われもする。水と光さえあれば満足なテメーにゃわかんねーかもしれねーが、
生きていくには相応の覚悟ってやつがいる」
言って、マニューラはオオタチの方を一瞥した。
「あいつはクソ蜘蛛共の縄張りにうっかり入ったどころか、逃げ切れずに巣穴まで突き止められるようなヘマまでした。
だから、終わりだ。誰のせいでもねえ、全て自分が引き起こしたことだぜ」
「……でも、何もまだそんな覚悟もなさそうな、あんな小さな子どもまで――」
「子ども? 何言ってんだ、ありゃもういい大人じゃねーか」
「よく見てください……」
怪訝に思い、マニューラは改めてオオタチを見やった。そして、オオタチの丸めた体の隙間から、
長い耳をした丸っこい体の小さなポケモン――子どものオタチがひょこりと顔を覗かせたのを見て、目の色を変える。
「親と、子か……」
「……はい」
マニューラはかたかたと微かに体を震わせて言った。
「だから……どうしたってんだ……」
振り絞るように声を上げ、マニューラは左腕に巻きつけた布切れをぐしゃりと握り締める。
――分かったよ、助けりゃいいんだろ、クソッタレ――!
「マニューラさん?」
ロズレイドは様子のおかしいマニューラに心配そうに声をかける。と、マニューラは唐突に己の両頬をばしんと叩き、
体の震えを強引に押さえ込んだ。
「メンドーばかり呼び込みやがって――! 気が変わった。あのイタチ共を助けてやる。あの子蜘蛛共が、
”ヤツ”まで呼び寄せる前に手早くな」
ほしゅ
保守
保守
保守る
保守
保守
保守
保守
明日明後日にでも続き書くよ
保守
保守
保守っと
保守
そういやBWって冬のセッカでのイベントを見るに、カントーの発電所のパーツ盗んで逃げたロケット団員が、
結婚して5〜10歳くらいの子供ができているくらい金銀から年月が経ってるんだよな?
仮にいつかイッシュに行くとして、ポケモンの寿命がどのくらいかわからんけど、所詮ネズミの現ピカチュウが続投するのは年齢的にきつくないか?w
まあ、団員がバツイチ子持ちと結婚した可能性も無くはないけど
子連れの人と再婚したってことでいい気がする。
BWのシロナもダイパからあまり変化がないし。
・
「初めは後悔と文句ばっかりだったあっしも、ジョウトを駆け巡り続けている内に、
あいつとあいつらとならどこまでも逃げていける、逃げていきてえ……
いつからだったか、そんな風に変わってやした。だが、だがよぉ――」
ふっ、とドンカラスは力なく笑む。空いたグラスの中でカラコロと揺れる氷を見つめる目はどこか遠く、愁いを帯びていた。
エンペルトは何も言わず、そっとグラスに酒を注ぐ。
「ん、何だ。いつもだったら、そろそろ飲み過ぎだとうるせえ頃だろうに」
「今日ぐらい、いいさ」
「……へっ、ありがとよ。――どこまで話したんだっけな。ああ、そうだ、あいつを檻から解放した後だ――」
――「聞いてねえぜ、んなこと!」
ただでさえ危なっかしい計画だというのに、更に小さいガキなんて不安定すぎる要素まで加わるなんて、無茶にも程がある。
「当然だよ、言ってないんだから」
文句を言うあっしに、マフラー野郎は何の悪気も無さそうににこやかに返した。
はめられた。瞬時にそう思った。だが、あっしの羽には既に盗みとった鍵束が握られ、檻は開け放たれている。
後戻りなんて出来そうにない。
「……あー、分かったよ! そのガキ共が捕まってやがるフロアまで案内すりゃいいんだろ」
頭を抱えたい気持ちをどうにか堪えながら、あっしは言った。
「助かるよ。それと――」
言って、そいつは檻の中で固まっている同族達を見やった。目が合った一匹が、びくりとして視線を逸らす。
「僕らはいい……。また捕まって、ひどい目に遭わされるのは嫌だ、怖いよ……」
ぶるぶると震え、涙を滲ませながら別の一匹が言った。
「そうか……」
「端から諦めちまってる奴は放っとけ。足手纏いにしかならねえし、構っている余裕なんざねえ。行くぞ、マフラー野郎」
自ら発した言葉の後味の悪さを吹っ切るように、あっしは檻を離れさっさと歩きだした。
「すまない、俺達は先に逃げる。鍵は開けたままにしていくよ。
君達はもう十分に大人だ。立ち向かうか、諦めるか。その覚悟は自分で決めるんだ」
あっしは誰もいないことを慎重に確認してから、一足先に通路に踏み出た。
まだあっしの裏切りはバレてはいないだろうが、持ち場を離れてうろついているところを見つかって怪しまれたら面倒だ。
物陰に潜み、疎らに行き交う団員やそのポケモン達を避けながら、あっしは目的のフロアに向かう。
背後を見ると、あいつも少し後ろの方を同じようについてきていた。
隙を窺い影から影へ俊敏に渡るその動きに一切の躊躇も、もたつきもなく、随分こなれた様子だ。
やはりあいつは、森でのんきに暮らしていたであろう他のネズミ達とは違う。
初対面からずっとあいつには底知れない何かを感じていたが、それがより強まった。
目的の部屋の前まで辿り着き、あっしは一旦立ち止まった。
「ここがうちのチビ助――ピチューが捕まっている場所かい? どれどれ……」
すぐにあいつも追い付き、あっしの横からそっと部屋を覗き込む。
内部には小さめの檻が何列もずらりと積み並んでいる。今いる位置から目につく檻の中身は、全て既に空っぽだった。
「ここから見る限り、どうやら完売御礼みてえだな。ここはガキのポケモン専用の部屋なんだが、
大抵入ってきた傍からすぐに捌けていく。ガキの方が騙くらかして懐かせやすいし、
見た目も可愛らしいから人気なんだとよ。こちらとしても無理矢理攫うのが大人より容易いから、
最高の商品だと聞いてる。残念だが、お前のガキも既に――」
話ながらあっしは横を見やる。その途端に、言い掛けた言葉が喉の奥に引っ込んじまった。
「子どもを、いつもこんなに……?」
薄汚れた不衛生な檻の列を睨みつけ、表情険しくあいつは呟いた。
「諦めるには早い。奥から奥、隅から隅まで探してからだ。チビ助以外にまだ捕まっていたら、その子も助けていく」
あいつは言うと、あっしが有無を言う間もなく中に踏み込んでいった。
どちらにせよ、その時のあいつの鬼気迫る様子に、あっしは何も言えやしなかったよ。
ようやく規制解除だ。長かった……
>>320-321 GJ!
明日か明後日にでも続きを書きたいです。
保守
保守
保守
保守
こうなっちゃ、もう諦めて腹を括るしかねえ。
半ばそいつに引き摺られるように、あっしらは片っ端から檻という檻を見て回った。
だが、どれもこれも中は空っぽで、薄汚れた床に藁クズや食べ残しのエサが転がってるだけだった。
――もし、このまんまガキが見つかんねえ、なんて事になったら……こいつはあっしを置いて……
いや、最悪、あっしをバラして自分だけで逃げやがるかもしれねえ――
そいつの苛立つような雰囲気に呑まれ、あっしはそんな疑念と不安に掛られ始めた。
だが幸いにも、それは杞憂のままで終わってくれた。
ようやく辿り着いた一番奥の檻に、そいつが言った通りの三角耳の黄色いチビがちょこんと座っていた。
「良かった……まだ、残っていてくれたようだ」
そいつが件のピチューとやらだったようだ。あいつは途端に緊張を解き、ホッとしたように呟いた。
その声が聞こえたのか、チビは振り向き、一瞬、驚いたような――嬉しそうな顔をした。だが、
「……何だ、また貴様か」
すぐにプイッとソッポを向き、事もあろうにあいつに向かって毒づきやがった。
「ああ、君を助けに来た」
「ふん、お節介め。助けてくれ、などと頼んだ覚えはない」
「俺も頼まれた覚えはない。俺が好き好んで勝手に潜入してきたんだ」
「余計な事を……どうせ来るならば、捕まる前に来れば良かろう」
「うん、出来ればそうしたかったんだけどね……ああ、早いとこ開けてくれないか?」
いってえ何なんだこいつらは? 傍で聞いてても、とても再会した親と子の会話とは思えねえ。
どうも釈然としねえもんはあったが、とにかくあっしは、即されるままに鍵を開けた。
「そやつは誰だ?」
檻からトコトコ出てきたそのガキは、警戒心丸出しのジト目であっしの方を睨んだ。
「彼はヤミカラス、協力者さ。俺達と一緒に、ここから逃げるんだ」
ガキは一頻りこっちを見た後、フン、と鼻を鳴らして腕組みなんかしやがる。
「そうか。こやつに与するとは物好きな。まあ、せいぜいカラスの勝手にするがいい」
……あっしは額に青筋が浮き、嘴の端がヒクつくのを必死で堪えた。
姿に似合わず、全く可愛げのカケラもねえガキんちょだ。これじゃあ、売れ残るのも無理はねえ。
だが、あいつはてんで気に留める様子もなく、その糞ガキをひょいっと抱き上げ、背中に背負った。
「さ、これで気が済んだだろ? さっさとしねえと夜が明けちまうぜ」
あっしは急かすようにそう言ったが、あいつは、しっ、と口に指を当て、耳をピクリと動かした。
「ちょっと待ってくれ……今、話し声が聞こえた。あっちの方からだな」
あいつが指差した先にあったのは、「家電製品」と書かれた輸送用の小型コンテナだった。
勿論、そりゃただのカモフラージュで、実際はポケモン密輸の為に使われてんのは言うまでもねえ。
「ああ、そういや団員共が、ナントカってとこから珍しいポケモンが届く、とか言ってたなあ」
まだ到着したばかりなのか、その側面には船便のステッカーがベタベタと貼ってある。
「ふうん、シンオウ地方からか……随分と遠くまで商売の手を広げているようだね」
ステッカーを読みながら、そいつは皮肉めいた口調で呟いた。
「どこだそりゃ? てめえの知ってるとこか?」
恥ずかしながら、あっしは、そん時までシンオウという土地がある事すら知らなかった。
まさか、後々になって自分自身が行く羽目になるたあ、夢にだって思わねえ。
「いや、俺も行った事はないけど……軍隊にいた頃、仲間からそんな話を聞いた事があってね」
「ぐ、軍隊だぁ?!」
さすがのあっしも、これにゃあブッたまげた。と同時に、そいつに対する幾つかの疑問が晴れる気がした。
腹立たしい事だが、人間共のドンパチにポケモンが文字通り「生物兵器」として使われんのは良くある話だ。
人間共が争う限り、いくらでも需要はあったんで、当然、ロケット団もそんな戦争ビジネスに関わっていた。
軍隊で使役されるポケモンの状況は恐ろしく過酷で、たとえ訓練中でも死傷者が後を断たねえというからな。
……成程、そんな境遇を生き抜いてきた奴なら、その行動や目配りに抜かりがねえのも合点がいく。
「するってえと、てめえは……ひょっとして、脱走兵って奴か?」
「うーん、そんなところかな……まあ、その話は後だ。取り敢えず、これを開けないと」
あいつはしまった、とでも言いたげに顔をしかめたが、すぐに気を取り直してコンテナの正面に向かった。
でけえ南京錠を外し、コンテナの重い扉を開けると、真っ暗闇の中に四つの目が光っていた。
よくよく目を凝らして見ると――中にいたのは、今までに見た事もねえポケモンのガキ共だった。
「何だお前ら?! もしかして……あいつらの手先か?!」
二匹いたうちの一匹が立ち上がり、あっしらに向かってそう叫んだ。
そいつは上半身が水色、下半身が黒い毛で覆われた、耳の丸い山猫の子どもみてえな奴だった。
その背後で、長え尻尾をグルグル巻きにした青い子猫が、蹲ってブルブル震えている。
「く、来るなら来い! 彼女にはツメ一本触らせないからな!」
山猫のガキは体毛をバチバチと光らせ、いっちょ前にもこちらを威嚇してきやがった。
だが、ガキの足元はガクガク震え、それが単なる虚勢に過ぎねえのは明らかだ。
あっしは思わず吹き出しそうになったが、あいつの横顔を見て、慌てて嘴を押さえた。
「可哀想に……こんな光も入らない、息苦しい所に何日も……」
あいつはコンテナの中を厳しい表情で眺めた後、真顔でガキ共に話し掛けた。
「安心していい。俺達は敵じゃない。君達をここから助け出したいんだ」
「そ……そんなの信じられない! 騙されるもんか!」
山猫は震えながらも体勢を崩さず、あっしらを光る眼で睨みつけた。
「ホント? ここから出してくれるの? アタシ達シンオウに帰れる?」
だが、子猫の方はあいつの言葉に興味を持ったようで、山猫の足の間から、恐る恐るこちらを窺った。
「ダメだニャルマー、そんな簡単に信用しちゃ……」
「でも……あのおじさん、悪いポケモンには見えないよ? それにアタシ、早く外に出たいよ」
「心配ない。こやつは救いようのないお調子者だが、少なくとも嘘だけは吐かん」
あいつの背中から、自分達よりずっと小せえガキがそう言うのを聞いて、山猫はようやく警戒を解いた。
「お願いだから、俺の言う事を信じてくれないかな。このままじゃ、君達は別々に売り飛ばされ、
離れ離れになってしまうかもしれない……いや、そうなる可能性の方が高いんだよ」
「そんなの嫌! アタシ、コリンクと一緒じゃなきゃ絶対嫌だもん!」
「……僕とニャルマーは、ずっとふたりで生きてきたんだ……離れるなんて……」
子猫は山猫に縋り付き、山猫の方は急に情けねえ顔付きになった。
山猫は子猫とあいつを交互に見ながら、しばらく黙りこくっていた。
だが、やがて何かを決意したように、あいつにまっすぐ顔を向けた。
「分かった……信じるよ。たとえ騙されても、ここで何もしないよりはずっとマシだ」
「ありがとう。君は強い子だな。さあ、早くお嬢さんを連れてそこから出るんだ」
ガキ共は頷き合い、寄り添うように連れだってコンテナから出てきた。
「おいおいペカチュウよぉ、まさかこいつらも……」
「当然だ、さっきも言ったじゃないか。一緒に連れていくよ」
あっしは呆れ返り、大きく溜め息を吐いた。
ああ、やれやれだ。生意気で小難しい糞ガキに加え、とんだオマケまで付いちまった。
「本当にこんなんで大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、問題ない」
そう言って奴はニヤリと笑いながら片目を瞑り、ビッと親指を立てた。
全く……変なフラグじゃねえだろうなぁ――
GJ
明日明後日辺りにでも続き書く
保守
保守る
保守
保守
保守
hosyu
ごめん、ちょっと書くのが遅くなりそうだ
深夜か遅くても明日の昼ごろまでには投下する
保守
保守
――
「な、なあ、ちょっと待つポ……ごほん、すまない、取り乱した。その助け出したピチューの物言いは、
まるっきり僕達のボスそのものじゃあないか。まさかボスはその時のピチューだったっていうのか?」
身を乗り出すようにして問うエンペルトに、ドンカラスは帽子のつばを下げフッと息をつく。
「……本当にそうだったら、どんなにいいか。あっしも幾らか救われた気になれたかもしれねえ。
すまねえ、今話したあのチビ――ピチューの言動は、あっしの願望が混じった脚色だ。
今のボスがあの時のピチューであってくれたなら、こんな風に言っていたんじゃあねえか、ってな。」
「ええ?」
「あんな高圧的な喋り方をするピカチュウ族なんて、ボス以外にゃ見たことも聞いたこともねえ。
あのピチューがそんな強烈な喋り方をしちまってたら、この洋館に初めてボスが攻めてきた時点で、
あっしもすぐにボスがあの時のピチューじゃあねえかって気付けまさぁ。だが、こうしておめえに過去を話して、
顛末をあっし自身も明確に思い出していく内、やっぱり、ありえねえって思い知らされる……」
沸き上がるものを喉の奥底へと飲み込むように、ドンカラスは嘴に勢いよくグラスを傾けた。
再びグラスを机に置きなおした拍子に、中の溶けかけた氷塊から小さな氷の粒が剥がれ、底へと滑り落ちていく。
「実際はその子、どんな感じだったんだ?」
「態度自体はさっき話した通りと然程変わらねえ。愛想の欠片もねえジト目のガキよ。
ただ違うのは、ひたすら無口だったことだ。マフラー野郎の背中で、あのチビは蛹みてえに大事にマフラーに
くるまれて引っ付いたまま、口元はいつもムスッと不機嫌に結んでた印象しかねえ。
自ら何か言うことなんてまず無かったし、こっちが呼びかけてもぷいと顔を背けるか、たまに頷くかくらいだった」
「どちらにせよ、ピチューにしてはちょっと変わった子には違いなかったんだな」
「まあ、そうだな。だが、そんなヤツでも一緒にいる内に何ともいえねえ愛着が沸いていやした。
何も言わねえでも、何となく身振りで言いてえことは少し分かるくらいにはな。
……他に今の内に聞いておきてえことはありやすかい?」
「ああ。コンテナから助けた二匹の片方のニャルマーって……もしかしてこの洋館の近くでも時々見かけた、
ムクホーク達と連るんでる女性だったりするのか?」
エンペルトの言葉に、ドンカラスはぴくりと眉を動かす。
「いつ奴を見かけやがった? まさか洋館に入れたりしてねえだろうな?」
「あ、ああ、言いつけられていた通り、いつも中に通すことはせずに、やんわりと帰ってもらってはいたが……」
何気なく聞いたつもりが思わぬ剣幕で返され、エンペルトは少し困惑しながら答えた。
「それでいいんでさあ。奴の呼び込む厄介は冗談にならねえ。もし何か吹き込まれそうになっても、
取り合わずにすぐに追い払いなせえ。大きな群れの有力者に様々な手段で擦り寄っては内部に徐々に入り込み、
骨と皮になるまで食い潰すのを生業として生きてきた強かな奴だ。それこそ、ガキの頃からな」
「……まさか、そんなポケモンだなんて、少し話しただけじゃ思いもよらなかったけれど」
「それだけ奴の猫被りの演技と催眠術が巧みだってことでぇ。おめえさんの読み通り、あっしの言った青い子猫――
こりゃ言い直すべきだな。子猫の皮を被った化け猫は、おめえさんが時々見かけた奴と同一さ。
奴とはこれからジョウトを旅する途中で運悪くはぐれちまうんだが、まさか生き残っていて、それもビッパが友達として
連れてきて、シンオウのあっしの前に再び現れるなんざ、本当に腰を抜かしそうにぶったまげたよ」――
――
「もう勝手にしやがれ。これで目的は果たしたんだろ。嫌な奴に見つかる前にさっさと行くぞ」
半ばやけくそになって、あっしは言った。とりあえずまだ少しでも逃げおおせる可能性がある内に、
早く脱出してしまいたい。このフロアの見張りをしている、あのゲス野郎に見つかってしまえばお終いだ。
「“嫌な奴”とは、何のことかね? そして、どこに行こうというんだヤミカラス」
聞き覚えのある、二度と聞きたくもなかった虫唾の走る嫌味ったらしい声が、部屋の一角に響いた。
その方に振り返る間もなく、焼け付くような熱があっしの横擦れ擦れを過ぎ去り、マフラー野郎達の方に
向かって赤々とした火炎の帯が襲い掛かる。
「危ない!」
咄嗟にあいつはニャルマーとコリンクを炎が及ぶ外へ突き飛ばし、自身も素早く逃れた。
「おおっと、つい手が滑ってしまったよ。危ないところだったなぁ、ガキ共。さて、ヤミカラス。
商品をこんなに沢山檻から出して、一体どういうつもりだ?」
見つかっちまった――! 嘴を噛み締め、あっしはゆっくりと振り返った。視線の先では、
群青色の毛並みをした二本角の犬がにたにたと嘲笑を浮かべていた。
群青のヘルガー。こいつには後々まで苦しめられることになる。幹部を親に持つエリートのぼんぼん団員に
飼われてた陰湿で執拗で残忍なゲス野郎さ。色違いのポケモンなんてのはとても珍しい存在だが、
糞ぼんぼん野郎が、親のコネでどこぞから自分のために仕入れさせて以来、そりゃもう大事に大事に育てられたらしい。
その結果か、飼い主共々その地位を鼻に掛けて好き勝手やり放題だった。気にいらねえ奴がいりゃすぐに殴る、噛み付く。
下っ端の手柄は平気で横取り、失敗は擦り付ける。横領なんざ息するようにやってたぜ。
その癖、自分の飼い主――ぼんぼん野郎は幹部の親、ゲス犬はぼんぼん野郎――には、
プライドなんて無いように尻尾を振りやがる。悪の美学の欠片もねえ、ヘドロより淀んだ奴だ。
「こ、こりゃ、旦那……。い、いや、ちょっと在庫調査をするようにと仰せ付かっておりやしてね、へへ。
旦那の手を煩わせるまでも無い、すぐにあっしの方で片付けておきやすんで、気にせず見回りに戻って下せえ」
媚び諂う様に低姿勢に、あっしは言った。こんなゲスにまた諂うなんて、自分で自分に反吐が出そうだったが、
少しでも言いくるめられる可能性があるなら賭けておきたかった。ぼんぼん野郎の方は完全に親の七光りってヤツだが、
ゲス犬の方は相応の実力を持っている。あっしは味方の戦力を一応、頭の中で再確認してみた。
ガキ共は当然論外、軍隊にいたなんて漏らしてはいたがマフラー野郎も所詮はネズミだ。きっと偵察だとか、
軽めの物資の輸送だとか、その程度の役割だったに決まっている。そして、あっしはしがない元倉庫番――無理にも程がある。
祈るように卑屈な笑みを浮かべ、あっしは奴の出方を待つ。奴は、くつくつと堪えきれぬように嘲った。
「やはり鳥頭に思いつく言い訳など、その程度か。お前が商品共と逃げる相談をしていたのは影で聞いていた。
そこからどんな弁明をしてくれるのか楽しみにしていたんだがね。もういい、遊びは終わりだ。こい、お前達」
ヘルガーが声をかけると、物陰から少し前まで同僚だった三匹のポケモンが姿を現した。一匹目は、
丸い体系をした二足歩行の黄色いブタかカバみてえな姿をしたポケモン、スリープ。二匹目は、
全身筋肉質な人型のポケモン、ワンリキー。三匹目は、腹側以外の全身を硬そうな甲殻に覆われた
ネズミに似たポケモン、サンドだ。
「クソッタレ……!」
――もう、お終いだ。あっしはもうその時点で全て諦めていた。
「商品を外まで逃がしたなんて失態を、主人達に報告するわけにはいかない。手早く片付けるぞ。
その前に、スリープ!」
ヘルガーの号令と共に、スリープが両手を突き出して念じる。
「うわ、わ……?」
悲鳴に振り向くと、コリンクが何か見えない力に持ち上げられ、あっと言う間に奴ら側に引き寄せられていった。
「こいつは既に売約済みなんでね。トラックの発送も間近だ。丁重に主人達のところへ連れて行け、サンド」
こくり、とサンドは頷き、爪でがしりとコリンクを押さえつけて背負う。
「や、やめろー!」
コリンクはもがきながら必死の放電をするが、サンドはものともせずあっと言う間に走っていった。
「コリンク!」
「待った、一匹で飛び出すな!」
脇目も振らずに後を追おうとするニャルマーを、マフラー野郎が止める。
「邪魔するんじゃないよ! アイツに死なれたら、今まで守ってきたアタシの苦労は――」
「あの子から見えなくなったら、急に口が荒くなったな、お嬢さん。だが、落ち着くんだ。必ず後で助けるチャンスは来る。
今は協力してこの状況をどうにか全員無事に切り抜けるのが先さ」
あんな状況だってのに、目が点になりそうなほどにあっしは呆気にとられた。取り乱したニャルマーから発せられた声は、
コンテナの中でコリンクと共に震えていた姿とはまるで想像できねえ純粋な子どもとは程遠い、擦れっ枯らした声だった。
「さて……後はどうとでも替えのきく売れ残りと、手違いでこっちに紛れていたらしき欠陥品、それと、裏切り者だけだ。
処分してしまっても、問題ないだろう。やってしまえ」
ヘルガーは亀裂のような邪悪な笑みを浮かべ、スリープとワンリキーに命じる。二匹は身構え、今にも向かってきそうだ。
「協力っつったって、何をどうするってんだよ!?」
こんな状況で、あっしらが協力して立ち向かったところで、奴らに勝てるはずが無い。
あっしは、マフラー野郎に半ば掴みかかるように言った。
「相手は三匹。こちらも三匹。一斉にかかれば、どうにかなるさ。ピチューは数に入れられないけど、俺と君は戦える。
お嬢さん、コリンクを守ってきたのなら、あなたも少しはやれるよね?」
「フン、少しはね。だけど、あんまり過度な期待はしないでおくれよ。あのワンリキーみたいな奴は苦手だし」
「じゃあ、あっちのスリープって奴をしばらくでいい、気を逸らしていられるか?」
「そのくらいならやってやるさ。コリンクをまんまと奪ってくれたあのアホ面を思い切り引っ掻いてやりたいしね」
まさか、この流れで、あっしにヘルガーの野郎を押し付けて逃げやがるんじゃないのか――嫌な予感がひしひしとしていた。
「うん、気合十分だ。ヤミカラス、君はあっちのワンリキーを頼んだ。格闘技を使う奴は、頭上からの攻撃が苦手らしいから、
君ならうまく攻められるだろう? 残ったあの青いヘルガーは、俺がやる」
保守
保守
ほしゅ
保守
明日明後日ぐらいにでも続き書くよ
保守
保守
保守
保守
保守
保守
「んなッ!?」
あまりにも身の程を知らないマフラー野郎の言葉に、あっしは声を上げて動揺する。
「大丈夫だって。確かにあいつは全身筋肉まみれで一見強そうに見えるけれど、動きはそんなに速くない。
君ならうまくやれるさ。自信を持つんだ、ヤミカラス」
「そっちじゃねえよ! いや、まあ、そっちも不安にゃ違いねえが――。おめえ、自分が巨大なドラゴンや
猛獣ポケモンだとでも勘違いしてんのか? そんなものとは月より程遠いちっぽけなネズミだぞ、ネ・ズ・ミ!
あんな倍以上も体が大きな、それも火を吹く猛犬、俺様達三匹がかりで挑んでも勝てるかわかんねえのに、
無謀だ無謀!」
首元のマフラーを掴みあげてぶんぶんと揺さぶりながら、あっしは捲くし立てた。背中のチビが
小うるさそうに目をこすりながら、おんぶ紐代わりに身を包むマフラーの中から顔を覗かせる。
どうしようもない危機だってのに、呑気に居眠りなんてしていやがったたようだ。
「なんだ、俺の心配をしてくれていたのか。それなら尚更心配ご無用。あのくらいどうってことないよ。
火を吹くなんて珍しいことじゃないし、体格だって世界にはもっとずっと大きくて頑強な奴らがいる」
ちっちっちっ、と指を振り、マフラー野郎は不敵に笑った。背中のチビはジトりとヘルガー達を見回してから、
慌てふためくあっしを見やって呆れた様に鼻で息をし、またマフラーに潜り込んで夢の続きを見始めた。
『この程度で騒ぐな、うるさいカラスめ』心の中で、そんな風に小馬鹿にしてやがったに違いねえ。
こいつら、親子揃って途方もない大馬鹿か、針金のように図太い神経をしていやがる。
あっしは絶句して、わなわなと嘴を震わせた。
「あんなチビ助が泣きも喚きもしないでいるんだ、アンタもぎゃーすか喚いてないで腹を括るんだね、ヤミカラス」
毛を逆立て姿勢を低く構えながらニャルマーが横目を向けて言った。
「チッ、うるせえな、何も知らねえガキのくせに偉そうに――」
「……もう隠してもしょうがないから忠告しておくよ、チンピラガラス。そのムサいツラをずたずたに
引っ掻かれたく無きゃ、アタシをガキ呼ばわりするのはやめときな――コリンクの前以外じゃね。
こんなナリをしちゃいるが、アンタとアタシの歳は然程差はないはずさね」
……再びの絶句。もう嘴は開いたままで、震える余力も無かった。
「いつまでも固まったまま何をごちゃごちゃと……もう抵抗を諦めて、誰から先に始末されるかの相談かね?
ならば悩む必要はない。全員仲良く一思いに黒焦げにしてやろう」
言って、ヘルガーは首をもたげ大きく息を吸い込み始めた。青い胸元が徐々に膨れながら、
煌々と赤い輝きを帯びていく。
「いい具合に、こちらを舐めてかかってくれている。いいかい。あいつが炎を吹いた瞬間に、
散開して各々の標的に一気に取り付くんだ。その後は、撃破までは望まない。俺がヘルガーの動きを止めるまで、
何とか持ちこたえていてくれ」
声を潜め、真剣な面持ちでマフラー野郎は言った。
「了解だよ。あんたのその奇妙な自信に一つ賭けてみようじゃないか」
「だああ、もう、ちきしょう、やりゃいんだろ、やりゃ! どうせくたばるなら、一匹でも多く道連れにしてやらあ!」
もう抱えるための頭が足りなすぎて、三つ首鳥のドードリオにでもなっちまいたい気分だった。
ヘルガーの喉元を赤い閃光が駆け昇り、こちらに向けて口を開け放つ。
「散開!」
マフラー野郎が叫んだ。直後、鉄砲水の如く迫り来る紅蓮の熱波をあっしは死に物狂いで飛んで避け、
一心にワンリキーへと飛び掛った。
「くのッ! このッ! 倒れろ、このやろッ!」
追い払おうと幾度も振るわれるごつごつとした灰色の拳を、あっしは寸でのところで飛んで避け逃れながら、
奴の頭に纏わり付いて足の爪で何度も何度も蹴りかかった。ぎりぎりの攻防を繰り返す内に、
やがてあっしの爪は奴の瞼を掠る。脳味噌まで硬い筋肉で出来ていそうな奴だったが、
瞼までは鍛えきれていなかったようだ。堪らず奴は少し裂けた瞼を手で覆って怯む。
「――ッ! トドメだ、クソッタレ!」
ここぞとばかりに、あっしは奴の隙だらけの脳天を嘴で思い切り突く。奴は目を白黒させながら少しの間
その場でふらつき、膝から崩れ落ちるように倒れこんだ。
「か、勝った、勝てた……!」
あっしは息を荒くしながら、ぴくぴくと気絶しているワンリキーをしばらく茫然と眺めた。
――あいつらは! あいつらはどうなった!?
我に返って、あっしは倉庫を見回し、最初にニャルマーの姿を見つける。何かを睨みつける視線の先、
その足元には、顔面を引っ掻き傷だらけにされたスリープが、どういうわけかイビキをかいてすやすやと寝入っていた。
ニャルマーは安堵した様子で顔を上げて周りを見渡し、あっしと目が合う。
「おや、アンタもそいつ倒したのかい。思っていたよりもやるじゃないか」
その瞬間、あっしは少し頭がぼんやりとして、足下がくらくらとした。まさか、まさか、あっしがこんな奴に見惚れた――!?
――「ああ、頭がいてえ……。今となったら、絶対にありえねえって断言できやす。あの時の目眩の正体は、
単に直前まで奴がスリープにかけていやがった催眠術の残光がまだ目に宿っていた影響だってな。
ただ、あの時ゃあっしも若かったのさ……いやいや、まてまて、今でも十分に若ぇぞ。少なくともまだまだオッサン呼ばわり
されるような歳じゃねえ! なあ、エンペルト!?」
グラスを叩きつけるように置き、ドンカラスはエンペルトに声を荒げて迫る。
また悪い酒癖が始まったよ、エンペルトはドンカラスに聞こえないようにそっと溜め息をつく。
「うんうん、ドンはまだまだ”おじさん”じゃなくて”お兄さん”だよ。大丈夫、分かってるから落ち着け」
「ならいい……今度、あっしをオッサンなんて呼びやがるふてぇ奴を見つけたら、その場で磔刑にしてやる、ったく……」――
――ありえねえ、ありえねえ、あっしはぶんぶんと首を振るう。
「おっと――。何やってんのさ。そいつに頭でも強くぶん殴られたのかい?」
「そ、そんなわけねえだろうが。こんな奴のへなちょこパンチなんざ、華麗に全部かわして余裕でぶっ倒してやったってんだ」
「ふうん……言う割には、さっきまで必死な形相と息遣いだった気がするけどねえ」
にやにやとしてニャルマーは言った。
「う……」
あっしは気恥ずかしくなり、言葉に詰まる。
「い、いいだろうが、勝ったには違いねえんだからよ。それより、あのマフラー野郎とゲス犬はどうなった!」
ニャルマーは何も言わず、くいと首で示した。その先には、じたばたと暴れて走り回るヘルガー――頭の上には、
角を掴んでロデオのように乱暴に乗りこなすマフラー野郎の姿があった。
「ん!? おお! 君達、足止めをするどころかやっつけちゃったか!」
暴れるゲス犬の頭の上で余裕綽々、マフラー野郎は角から片手を離してあっしらに手を振る。
「な、なにやってんだよ!?」
「待っててくれ、こっちももうすぐ片付くッ!」
マフラー野郎は離した手に拳を握り、振り下ろさんと構える。握った拳に、青白い閃光が一瞬走った。
「このネズミぃぃぃ……! いい加減、離、せ……!」
随分体力を消耗させられた様子で息をぜえぜえ吐きながら、ヘルガーは唸り声を上げる。
より大きく身を揺さぶって振り落とそうと、四肢に力を込め直した刹那の隙――
「四足獣は走るのは速くても、こんな時は不便なものだな――!」
マフラー野郎は不敵に笑み、バチバチと青白く唸る拳がヘルガーの眉間の上を捉えた。雷鳴のような轟音。
同時に全身を閃光が流れ伝い、ヘルガーは苦痛に開け広げた口からもうもうと煙を立ち昇らせながら前のめりに地に転げた。
あっしとニャルマーは驚きに同じように口をぽかんとさせて、その光景を見つめていた。
「よし、ちょっと手こずったけどこっちも完了だよ。君達、やっぱりやれば出来るじゃないか。
俺より先に仕留めてしまうだなんて、凄いな」
手をぱんぱんと払いながら、マフラー野郎はにこりと俺達に笑いかけた。
「い、いや、凄いのはアンタ、じゃないか……は、はは」
ニャルマーは乾いた笑いを浮かべる。あっしは声すら出なかった。
「ぐ、ぐ……」
地で呻きながらヘルガーは俺達を睨み上げる。自慢だった群青の毛並みは、電流にあてられ無様に煤けていた。
マフラー野郎はヘルガーの顔面を片手でがしりと掴む。
「動くな。先ほどの電気は少しは加減したつもりだ。幾つか質問に答えてから、このまま大人しく俺達を見逃せ。命までは奪わない」
空いた方の手で電流を弾けさせて見せ付け、マフラー野郎は言い放つ。
押さえつけられながら、ヘルガーはぐるぐると怒りに満ちた唸り声を上げていた。
「一つ、あのコリンクはどこに運ばれた?」
「……サンドが連れて行ったのを見ただろう。もうこのアジトにはいない。今頃はトラックの中で揺られている」
「トラックの行き先は?」
「キキョウシティに買い主がいると、主人は話していた」
「行き先が分かったなら、早く助けに行こうじゃないか!」
焦った様子で、ニャルマーは言った。
「うん、そうだね。俺がこいつをおさえている内に、君達はチビ助も連れて一足先に通気ダクトの中に潜って行ってくれないか
俺はもう少し聞きたいことがあるから少し遅れるかもしれないけど、必ず追いつくよ」
言いながら、マフラー野郎は片手でマフラーを緩め、チビをそっと降ろした。チビは殊更不機嫌そうにムスッとしたが、
マフラー野郎に宥められ、仕方なさそうに頷いた。
「分かったよ。この中じゃ、アンタが一番頼りなんだ。すぐに来てくれないと困るよ」
ニャルマーはピチューをひょいとくわえて背に乗せると、檻の上によじ登って通気ダクトまで辿り着き、格子を外して中に入って行った
あっしもその後を追い、ダクトの入り口を潜った。しかし、あいつの聞きたいこととやらがあっしは妙に気になり、
陰から少し様子を窺ってみることにした。
「まだこのアジトに売れ残っている子どものポケモンはいるか?」
尋問は続いている。
「もういない」
「そうか。最後に一つ――最後まで売れ残っていた子の処遇は、どうしていた?」
帯電で毛並みが逆立つマフラー野郎の問いに、ヘルガーはくつくつと笑い返す。
「……新鮮な焼き立ての餌が俺の大好物なのさ。主人は定期的に、新鮮な餌を与えてくださった。
主人はいつも楽しそうに眺めてくださっていたよ。俺が獲物を――こんな風に焼く様をな!」
顔を大きく跳ね上げ、ヘルガーは口を開く。しかし、その炎は喉を上がりきることなく、断末魔へと変わる。
マフラー野郎は宙へと持ち上げられながらも奴の顔面は掴んだまま、強力な電流を流し込んでいた。
「動くな、と言ったはずだ」
地に降り立ち、マフラー野郎は顔をおさえて蹲るヘルガーを冷徹に見下ろした。
「……あの子との約束がある。『どんな命にも、必ず生きている意味はある』――もう俺は命は奪えない。例えお前のような奴でも」
「ぐううぅぅぅ、俺の顔が、顔が熱い、熱い! 許さん、許さん、許せねえ! この痛み、屈辱、倍以上にして返してやる!
地の果てまでも追い詰めて、どんな手段を使ってでも、必ず殺してやる! 殺してやるぞ、ネズミィィィ!」
地獄の底から響いてくるような憎悪の声を背に受けながら、あいつはこちらへと向かってくる。
あっしは思わず息を呑み、慌ててダクトの奥へ顔を引っ込めた。
ただのネズミが強力で冷徹な兵士に変えられる……軍隊ってのは、どれだけ過酷な環境なのか。
その恐ろしさが垣間見えた気がした。
保守
保守
ほしゅ
保守
保守
明日か明後日にでも続きを書きたいです。
370 :
名無しさん、君に決めた!:2011/02/15(火) 15:45:00 ID:s9bf3sQz0
ほぼ最下層なんで一旦age
保守
保守
保守
考えてみりゃ、生きギャロップの目を抜くような戦場をしたたかに生き延びるのにゃ、
いかにも屈強で厳めしいポケモンなんかより、あいつの様な奴の方がよっぽど相応しいのかもしれねえ。
まさか、あんな見た目は弱っちくて可愛らしげなチビが、あんな強力な電撃を使うたぁ思わねえからな。
誰だって思わず小馬鹿にし、油断しやがる事だろう――あっしだって最初はそう思った。
そうやって、あいつは相手の意表を突き、何匹……いや、何十、何百という敵を葬ってきたに違えねえ……
「どうやら、あのネズミ……かなりとんでもない奴のようだねえ……」
ふとニャルマーも呟くが、この猫被り女だって相当なもんだ。
「てめえだって大概だろうが。あんなガキを誑かしてどうしようってんだ」
どんな魂胆があるのか知らねえが、こいつの場合、相手がいたいけな子どもなだけにタチが悪ぃ。
さっきの様子じゃ、あのコリンクってガキは、自分が騙されてる事にゃ全く気付いていねえだろう。
「うるさいね。アンタにゃ関係ないだろ……とにかく、アタシの目的にゃ、アイツが必要なんだ。
アイツだってアタシがいなきゃ、とっくの昔にくたばってただろうさ。まあ、お互い様ってヤツかねえ」
そう奴はうそぶくが、いってぇ何がお互い様なんだか……
あっしは思わず、こんな奴を守ろうと必死になってたあのガキに、いたく同情してえ気分になった。
年の割にゃ芯の強え、まったく捻くれてなさそうな奴だけに、余計に気の毒ってもんだ――
――「後で知った事だが、あのアマ、てめえじゃせいぜい引っ掻くぐらいで大した攻撃はできねえが、
「ネコのて」とかいうやつを使うと、他人のどんな大技でも繰り出す事ができるらしいんでやす。
きっとあの哀れなコリンクも、そいつの為に利用されてたに違えねえ」
「そう言えば、連れのムクホークやフライゴンって、決して弱いポケモンじゃない筈なのに、
極端に内気だったり、自分に自信がなかったりで、折角の力や技が活かせてない感じの奴らみたいだよね」
「そうそう、それよ、そういう奴を狙って取り込むってぇのが、奴の狡賢いところなんでやんすよ。
同じ欺くんでも、あいつとは全然意味が違いまさあ」――
やがて、マフラー野郎もダクトに登り、あっしらの後に追い付いてきた。
それを見たチビはすぐさまニャルマーの背を降り、マフラー野郎にしがみ付いた。
「やあ、お待たせ」
マフラー野郎はチビの頭を撫で、軽々と肩に抱き上げた。
まるで、ちょっとデートの待ち合わせに遅れた、とでもいった何気ねえ風情だ。
下から響いてくる、あのゲス犬の怨嗟の声がなければ、だが。
「あの騒ぎじゃ、直に団員共が集まってくるぜ。ここが見つかるのも時間の問題じゃねえのか?」
「奴が大事にされてたポケモンなら、まず手当てが先だろうし、しばらくはそれどころじゃないだろうさ。
まあ、あれだけ傷モノになれば、この先もご主人とやらが大事にしてくれるかどうかは疑問だけどね」
そう恐ろしげな事を平気で言いながら、あいつはニコニコと笑いやがる。
最早あっしは、その屈託のねえ笑顔にすら、ゾッと背筋が凍り付くものを感じていた。
――もし、あっしが奴らと同じ立場のまま、あんな電撃を浴びる羽目になってたとしたら……
ただでさえ電気にゃ弱いあっしなんざ、間違いなく一瞬であの世逝きだった……
「大丈夫だって。そんな心配する事ないさ」
あっしの心中を知る由もなく、マフラー野郎は、ぽん、とあっしの背中を軽く叩いた。
途端、あっしは思わずブルっちまい、悲鳴を抑えるのに必死だったなんてこたぁ、奴は思いもしねえだろう。
「でも、そんなにグズグズしてもいられないな。俺が先を調べながら進むから、君達は後を付いてきてくれ」
そう言うとマフラー野郎はチビを背負い直し、先頭に立ってダクトの中を進み始めた。
次いでニャルマーが歩き始め、あっしはしんがりに立って後を追った。
――敵に回しゃあ恐ろしいが、味方にすりゃ、これほど頼もしい奴はいねえ――
暗がりの奥に進んでいく、小柄な黄色い背中を見ながら、こん時のあっしは、まだ……
このマフラー野郎を怖れつつも、次第に惹かれて止まねえ事に、まるで気付きもしねえでいた。
GJ!
明日明後日にでも続き書くよ
保守る
保守
ほしゅ
保守
「おっと、みんな一旦ストップだ」
ダクト内をしばらく進んでいると、先行くマフラー野郎が不意に立ち止まり、あっしらを押し止めた。何事かと思い、
あっしはニャルマーの横から割り込む。
「ちょっと! あんまりくっつくんじゃないよ!」
「うるせえ、せめぇんだから仕方ねえだろうが!」
嫌そうに文句を垂れるニャルマーに、あっしは言い返す。ダクトの中は狭く、人間だったらまるで
犬みてえに四つん這いになってやっと潜り進めるぐらいの大きさしかない。人間よりずっと小さな
あっしらは這いつくばるまでもないが、横並びになるにはちときついものがある。
「はいはい、非常時なんだから喧嘩しない。例のセンサーってのはあれのことかな」
マフラー野郎が指し示した方を目で追うと、穴の無い黒塗りされたコンセントボックスみてえな
小さな機械がダクトの壁面両側に取り付けられているのが確認できた。
「ああ、そうだ。団員共の話によりゃ、あの真っ黒い機械の間には普通の目じゃ見えない光線が流れてるらしい。
それに何かが触れたら知らせる仕組みなんだとよ」
あんなもん、この暗がりでよくもまあ目ざとく見つけたもんだ。だが、今更もうこの程度では驚きもしなかった。
過去の訓練や経験で危ねえもんは存分に頭と体に叩き込まれ、骨身にまで染み付いてやがるんだろう。
「ふうん、よくあるタイプだね。さて、出来れば引っ掛からないに越したことはないけれど、
下手に壊したりしたら異変に気付かれるかもしれないし、どうするかなぁ……」
言いながら、マフラー野郎はセンサー装置の取り付けられている高さを手で測り、あっしらと見比べだす。
その様子からして、あいつの思いついた事はあっしにも大体想像がついた。
「うん、君達もぎりぎりいけそうだ。センサーはあの一セットしか無いみたいだし、どうにか下を這い潜ってみようか」
子どもに簡単な課題を出すような調子でマフラー野郎は言った。
「へいへい、了解だ」
あっしはすんなりと受け入れる。どうせこいつに反論したところで、大丈夫だとか心配ないとか返ってくるだけで、
無駄だって事はもう理解していた。こいつの言うことを聞いていれば、苦労はしても大体どうにかなるであろうことも。
「よし。まずは俺から行くけど、次のお嬢さんはその長い尻尾がうっかり引っ掛からないように気をつけてくれよ」
「分かってるよ。アンタこそガキを背負ったままで大丈夫なのかい?」
長い尾をくるりと自分の胴に巻き付けながら、ニャルマーは問い返した。マフラー野郎は首を捻って背を確認する。
チビ助はまたあいつの背ですやすやと寝入っているようだ。
「大人しくくっ付いて寝ているみたいだし大丈夫さ。無理に起こすと機嫌悪くしてわがままになるから反って大変だよ。
その次はヤミカラスだけど……そのギザギザした帽子みたいな頭の羽毛、もう少し潰すかして低くした方がいいかな」
「はあ!? おいおい、ふざけんじゃねえ。これをビシッとキメるのに、毎朝どれだけかかってると思ってやがんだ。
この髪型は俺様のポリシーだ、絶対に嫌だね!」
あっしは頭の羽毛を庇う様に覆い、首を横に振った。幾らなんでも、これだけは受け入れるわけにはいかねえ。
「ああ、もう、ぐだぐだうるさいね。アンタのムサ苦しい頭なんて、誰も大して気にして見ちゃいないよ!」
苛々した様子でニャルマーはあっしは押さえつける。
「な、何しやがる! や、やめろー! ――」
じたばたと抵抗するもむなしく、あの性悪猫はあっしの頭に前足を押し付けてぐりぐりと踏み躙った。
ようやく放された時には、あわれあっしの自慢の髪型は、使い古したホウキの先みたいにみすぼらしく
ぐしゃぐしゃに潰されていた。
「ハハハ、そっちの方がオトコマエじゃないのさ」
げらげらとニャルマーが笑う。その後ろで、マフラー野郎も堪えきれなさそうにくすくすと笑っていた。
「ち、ちくしょう……てめえら、覚えとけよ……」
こいつら、無事に脱出出来たら、後で絶対に何か仕返ししてやる。あっしは心に深く誓った。
「それじゃ、気を取り直して行こうか。一匹ずつ慎重にだ。まずは俺から」
マフラー野郎はセンサーの少し手前で伏せ、長い耳もしっかり下に折り畳んで、じりじりと匍匐前進していく。
背中のチビも今の所は大人しくマフラーに包まれて寝ているようだし、どうにか上手く抜けられそうだ。
この調子なら、当初の予定よりも穏便に百貨店まで登っていくことができるかもしれない。
その後は人だかりを掻き分けて、外まで逃れるだけだ。ヘルガー共と戦ったことに比べれば、
ただの人間達なんて最早どうってことねえと思えた。
緊張から少し解放されたら、思わず腹がぐうと鳴る。そういえば、あっしがマフラー野郎の話に乗って、
事を起こしたのは丁度昼の少し前だったか。どうせなら最後の昼飯を貰ってからにすりゃ良かった。
団員のポケモンに支給されるのはいつもクソ不味い安物の餌だったが、何も食わないでいるよりはマシだ。
商品――もとい、捕まっているポケモン達に餌が配られるのは、団員のポケモンよりも後回しだったから、
きっとマフラー野郎達もまだ何も食っていないことだろう。もういい大人のマフラー野郎とニャルマーはともかく、
食べ盛りでもっと腹が減りやすいであろうチビの機嫌は大丈夫なのかねえ……。
じわじわと進んでいくマフラー野郎を見ながら、あっしはぼんやりとそんな風に考えていた。
そんな時、まさにセンサーの真下だというのに、マフラー野郎の背が、チビ助が包まれているマフラーの
膨れが、もぞもぞと不穏な動きを見せる。もしもチビが目覚め、何も知らずに顔を上げてしまえば――
あっしらの間に戦慄が走った。マフラー野郎も思わずぴしりと動きを止める。
しかし、動きは直ぐに治まり、あっしらはほっと胸を撫で下ろした。この隙にとばかりに、
マフラー野郎は珍しく少し慌てた様子で這う速度を上げて、まさにネズミの如くかさかさとセンサー下をくぐり、
向こう側へと抜けた。やれやれ、と溜め息をつきながらマフラー野郎はゆっくりと立ち上がる。
「いやはや、チビ助のおかげでちょっとひやひやしたけれど、なんとかなったよ。さあ、次は君達の番だ……」
流石に少し疲れたのか、マフラー野郎は壁面に手をついて寄りかかり、俺達に背を向けたまま言った。
その途端に、マフラーの中からひょこりとピチューが顔を覗かせる。どうやら間一髪だったようだ。
あっしらの気苦労なんてまるで知らず、チビはふてぶてしいジト目でぼんやりとこちらに振り返る。
まったく、のんきな奴だ。それとも、マフラー野郎の背は、絶対的に安全な場所だと確信しているのだろうか。
ガキってのは、そういうのには特に敏感な生き物だからな。
ま、何にせよとりあえずの危機は脱した。後はニャルマーの奴がしくじらねえのを祈るだけだな。
だが、あっしの安堵はまたしても長くは続かなかった。チビ助のやつが、自分の直ぐ目の前にある、
妙な黒くて小さな機械――センサー装置をまるで楽しい玩具でも見つけたかのような目つきで、
興味深そうにしげしげと見つめていた。
「お、おい、まさか、やめ――」
「ちょ、ちょっとアンタ、それは駄――」
あっしとニャルマーが制止するより早く、チビはマフラーから体を乗り出して手を伸ばし、ぺたりとセンサーに触れた。
「あ……」
「う……」
「え?」
凍りついたように固まるあっしらに、怪訝そうにマフラー野郎が肩越しに振り返る。ダクトの外から鳴り響いてくる警報。
チビは悪びれた様子も無くきょとんと首を傾げる。すぐに状況を理解したのか、マフラー野郎は苦笑いを浮かべた。
「は、はは、ウチの子がごめんな。……君達、思い切り走る準備はいいかな?」
「こ、この、馬鹿野郎!」
保守
保守
保守
hosyu
保守
週末にでも続き書きたいです
保守
保守
保守
ほしゅ
他スレの状況を見るに今のポケ板なら二、三日くらいならレスの間隔が空いてもdat落ちはしないっぽいな。
去年BW発売したばかりの時に一日レスが無かっただけでスレが落ちたのが印象に残りすぎてて
ちょっと敏感になってたが保守レスはもう少し控えめにしても大丈夫か。
昼過ぎか遅くても夕方くらいには投下する
駆け出すマフラー野郎の後を追いながら、あっしは怒鳴る。
こいつらのやることなすことが一から十まで平穏無事に済むなんて、一抹でも期待したあっしが馬鹿だった。
「ま、まあまあ。途中で脱走がバレてしまうのは覚悟の上だったんだし、大方最初の予定通りじゃないか。
このままダクトで百貨店まで上がったら、人混みに紛れて脱出だ」
これじゃ完全に踏まれただけ損じゃねえか、ちきしょう。ボサボサに掻き乱された頭をあっしは恨みがましく撫で触った。
何人もの慌ただしい靴音が外から聞こえてくる。あっしらは無我夢中でダクトを上に横にと駆け抜けていった。
そんな中、チビ助は何やら思い出したようにマフラー野郎にごにょごにょと耳打ちする。
「え、お腹が空いたって? 今は忙しいからちょっと待っててくれ、な!」
少しは反省しているのかと思いきや、マフラー野郎の代弁にあっしとニャルマーは思わずずっこけそうになる。
「だ、誰のせいでこんなことになってると思ってやがんだ、ちきしょう!」
チビ助は不機嫌そうに頬をむくれさせ、ぷいと顔を背けた。
どこまでジコチュウなクソガキだ。あっしはぎりぎりと嘴を噛み締める。絶対に無事に逃げ延びて、
その根性叩きなおしてやる。あっしの心にまた一つ誓いが刻まれた。
走り続ける内、ダクトの奥の方から、大勢の雑多な奴らががやがやと騒いでやがるような音が僅かに聞こえ始め、
徐々に近づいて大きくなってくる。地上の百貨店はもう近い。
「あそこから出られるかもしれない。ちょっと確認してみよう」
下側から明るい光の差し込んでくる箇所を見つけ、あっしらは忍び寄って格子の隙間からそっと様子を窺った。
外には大小老若男女様々な人間共が買い物袋らしきものを手に行き交っているのが見える。
「よし、ここから外に出る。覚悟はいいね?」
「ああ、もう好きにしやがれ」
有無を言わさず心構えだけを確認するマフラー野郎に、あっしは溜め息混じりに答えた。
「あんな大勢の人間の前に出て、本当に大丈夫なんだろうね?」
少し不安げにニャルマーが言う。
「大丈夫、普通の人間は急な異常事態には案外何も出来ないものさ。大勢になればなるほど余計にね。じゃあ、いくよ――」
真下に人間がいないタイミングを見計らい、マフラー野郎は格子を蹴り落としてそのまま飛び降りる。
あっしとニャルマーもすぐさまその後を追って降り立った。直後、周囲から人間達のどよめき声が上がり、
視線が一斉にあっしらの方に集まる。
「ど、どっちに逃げりゃあいい?」
マフラー野郎を横目で見やり、あっしはぎこちなく問う。
「シッ、まだ下手に動かない。じっとしていれば、普通の人達の方はしばらくは大丈夫さ。逃げ出すのは、
出口へのルートと、待ち構えている団員がいないかをしっかり確認してからだ」
マフラー野郎は冷静に周囲に視線を走らせながら言った。確かにこいつの言うとおり、
殆どの人間達はあっしらを遠巻きにしてざわめくばかりで、今のところ何かしてくるような気配は無い。
しかし、その後ろから数人、人垣を強引に押し退けながらこっちに向かってこようとする奴らの姿があった。
全員共通して、目立たない地味な色の長いコートに身を包んでいる。
「あからさまな格好だね。それにしても思っていたよりも、奴らの動きが早いな。この分だと、既に正面の出入り口はあんな風に
変装してる奴らが待ち構えて封鎖しているかもしれない。そうなるとその横を全員無事にすり抜けていくってのは難しいな……」
「じゃあ、どうすんのさ。あの青いゲス野郎の時みたいに、戦って倒していくっていうのかい?」
焦った様子でニャルマーは言った。
「それはちょっと厳しいかな。一般の人達を巻き込みたくはないしね。うーん、仕方ない。ここはプランBで行こうか、ヤミカラス?」
「あ?」
マフラー野郎が唐突にあっしに話を振る。まったくの寝耳に水だ。そんなもん、あっしはまったく知らねえ。
「プランB? 初耳だね。何か他にも事前に立てた作戦があったのかい?」
ニャルマーがあっしに期待の目を向ける。しかし、あっしはぶんぶんと首を横に振るうしかなかった。
「ねぇよ、んなもん! 俺様だってまるで何も聞いちゃいねぇぞ、どういうつもりだ!」
あっしはマフラー野郎に詰め寄る。
「当然だよ。言ってなかったんだから。この作戦は君の存在が重要だ、ヤミカラス。まずは団員達から逃げつつ、
とりあえず最上階を目指そうか」
悪気無くにこやかに答えながら、マフラー野郎は階段を指し示した。
こいつという奴は……いつも重要なことを直前まで黙ってやがって……!
だが、文句を言うのは無事に逃げ切れた後だ。今は団員共が迫ってきている。あっしは怒りをぐっと飲み込み、渋々頷く。
「ま、アタシは無事に脱出さえ出来りゃなんでもいいけど……。苦労してるねえ、アンタ」
ニャルマーは呆れ、同情するようにあっしに囁いた。
「それじゃあ、一気に駆け抜ける。立ち止まるなよ!」
マフラー野郎の号令であっしらは一斉に階段を目指して駆け出した。団員達の怒号と一般人達の驚きの悲鳴を背に浴びながら、
マフラー野郎達は人間と人間の合間を縫うように駆け抜け、あっしはその頭上を飛んで越えていく。
それにしても、奴が言っていた、あっしが重要で、最上階を目指す必要がある作戦――何だかとても嫌な予感がする。
保守
明日明後日にでも続き書く
保守っとく
夕方ごろに投下するよ
「おい、上まで行ったら、俺様に何をさせようってんだ!」
あっしは階段に沿って飛び続けながら、マフラー野郎の横に並んで問いただす。
「なあに、着けばわかるさ。今は話すより走る!」
マフラー野郎ははぐらかすように言うと、途中の踊り場を滑り込むように勢いよく体を切り返して、
一足先にひょいひょいと段を駆け上って行った。あっしは壁に激突しそうになりながらも
どうにか寸前で向きを変え、その後を追っていった。
また絶対ろくでもないことを企んでやがるのは間違いねえ。あっしは確信していた。
このままほいほいとついて行って、本当に大丈夫なんだろうか。だが、下からはあっしらを追う
団員達の足音が着実に迫ってきている。百貨店内には、どこかから逃げ出してきたポケモン達が
店内を走り回っていると注意喚起するアナウンスも鳴り響いていた。随分な大騒ぎになっている。
こうなってしまっては、もう敵はロケット団員だけではない。きっと百貨店の従業員達も、
あっしらの姿を見つけたら騒ぎを収拾するために捕らえにかかってくることだろう。もし捕まってしまえば、
変装したロケット団員共がぬけぬけと飼い主と名乗り出てきて引き渡されてしまうに違いねえ。
深く考え込むような暇は、あっしには与えられなかった。
「あ、あと、どれくらいだい。流石に、もう、限界、だよ……」
ぜえぜえと息を荒げながら、ニャルマーは尋ねる。
「もう少しでえ。ここまで来たんだ、諦めんな!」
足が遅れがちになり始めたニャルマーを、あっしは叱咤した。百貨店は六階建てだと聞いたことがある。
今上る階段の途中に貼り付けられた階数を示すプレートには、『6F/R』と刻まれていた。
最上階の屋上はもう一踏ん張りだ。
最後の一段を越え、あっしらははほうほうの体で縋りつくように最上階まで辿り着く。
だが、その極狭い空間の先には希望ではなく、関係者以外立ち入り禁止のプレートが掛けられている、
硬く施錠された扉が待ち構えていた。
「ど、どうするんだよ! 結局、行き止まりじゃねーか!」
あっしはマフラー野郎に掴みかかり、叫びつける。
「くたびれ損だって言うのかい……」
ニャルマーは力なくへたり込んだ。
あっしらを追って階段を駆け上ってくる足音は、もう直ぐそこまで来ている。地下の牢屋の鍵束なんて
今更何の役にも立たないし、合う鍵を下から探してくるなんて余裕なんて当然あろうはずもない。
先に進むことも、後戻りも出来ない八方塞がりだ。
「行き止まりって、たかがあんな薄そうな扉がたったの一枚だろ?」
きょとんとした様子でマフラー野郎は答えた。
「ああ? 薄いったって、中々しっかりしてそうな材質の扉じゃねえか。ガキ用の牢屋の鍵すら
壊せなかったお前にゃ――」
あっしが言い終えぬ内に、青い稲光が瞬き、衝撃音と共に黒焦げになった扉が外側に大きく倒れこむ。
「やっぱり大した事ないじゃないか。”出来ない”と、”やらない”じゃ大きく違うんだよ、ヤミカラス。
君は少し試しもしない内に文句を言いすぎるきらいがあるな。さあ、ドアも開いたし屋上に出ようか。
百貨店の人達には申し訳ないことしたけど、非常時だし仕方ないね」
少し恐縮した様子で、マフラー野郎は倒れたドアを踏み越えて外に向かっていく。
「……ここまでやれるなら、牢屋も自力で壊せただろうが。なんでわざわざ、俺様をここまで巻き込みやがった」
「チビを助けるまで派手な事はして騒ぎを起こしたくなかったし、外から開けるにも電撃じゃあ中の子が危ないだろ?
それに、話してみれば君は悪い奴じゃなさそうだったから。誰かの道具として生かされるのではなく、
己の力で生きていく明日が欲しい――その理想、少し手助けしたくなったのさ」
マフラー野郎は横顔だけこちらに向けて、口端を少しだけ上げて笑った。それはこれまであいつが
あっしに対して向けた笑顔の中で最も微かなものだったが、最も含みの無い純粋な温かみを感じた気がした。
あいつの背中越しに差し込む久方ぶりの外の光は、少しばかり目に染みた。
屋上には室外機や貯水タンクらしきもの以外には何も無く、あっしらの他には誰もいなかった。
「さあ、ここが最上階だろ。どうするつもりなのか、いい加減言いやがれ」
敵の足音は近い。だが、あっしは慌てず騒がず、マフラー野郎に問いかけた。前述の言葉で、
この時のあっしは心底マフラー野郎を信用しきっていた。
「ああ」
言って、マフラー野郎はあっしの足をがしりと掴んだ。「ん?」と心の中では違和感と疑問符を浮かべつつも、
あっしはマフラー野郎を信じて黙って行く末を見守ることにした。
「よし、お嬢さんはピチューを背負ったまま俺の背に負ぶさって、離れないようにしっかりとマフラーで体を結び止める」
「ああ……何となく、やろうとしていることが読めたよ。だけど、こんなマフラーだけでちゃんとアタシとガキの二匹を
支えられるんだろうね?」
「大丈夫、このマフラーは決して俺を裏切らないから」
「ふうん。ま、このまま奴らに捕まって最低な目に合わされるよりゃ、いっそ落っこちて一思いに死んじまった方がいいかもね」
言われるままにニャルマーはピチューを背負い、マフラー野郎に負ぶさってマフラーの長い裾で全員を結びつけた。
「お、おい……まさか……」
この辺りでようやく、あっしはマフラー野郎のやろうとしていることが薄々わかり始めた。
あっしはそそくさとその場を離れようとするが、既に片足はしっかりと握られていることを思い出す。
「さて、いよいよ、君の重要な出番さ、ヤミカラス!」
高らかにマフラー野郎は告げる。
「おいおいおい! 待て、無茶苦茶だ、無理に決まってんだろ!」
あっしはじたばたと暴れるが、ネズミとは思えねえような力で引き寄せられ、とうとう両足を掴まれてしまった。
優しい言葉にうっかり丸め込まれたようになっていたが、こいつが無茶苦茶ばかりする野郎だってことは、
何一つ変わっていねえんだ。黙って行く末を見守っているなんて、どんな無茶をさせられるか分かったもんじゃねえ。
完全な自殺行為だ。あっしは前言を心底後悔した。
あっしを掴んだまま、マフラー野郎はフェンスの無い屋上際に向かって走っていく。
「やめろ、やめろぉ! 無理心中だこんなもん!」
翼をがむしゃらにばたつかせ、あっしは振り払おうと暴れ続ける。
「大丈夫大丈夫、君と同じくらいの大きさしかないポッポだって、『そらをとぶ』って秘伝の技術があれば、
十歳くらいの人間の子ども一人くらいなら飛んで運ぶことが出来るんだ」
「あっしはそんなもん知らねえよ!」
「出来ないとやらないは違うって言っただろ、ヤミカラス。俺とニャルマーとピチュー、
三匹合わせても十歳の子どもよりはずっと軽いはずだ。やってやれないことは無い!」
背後からは、とうとう屋上まで追いついて来た団員達と、繰り出されたポケモン達の相当数の怒号と足音が響いてくる。
少しでも立ち止まれば、あっと言う間に囲まれてしまうだろう。
「飛んでいる姿を思い描け。自分の力を信じろ。理想を己の力で掴み取るんだ、ヤミカラス! ユー・キャン・フラァァァイッ!」
「ひ、ひいいいぃぃぃ――」
屋上際ぎりぎりを踏み切って、マフラー野郎はあっしを掴んだまま宙へと飛び出した――。
ああ、ろくでもねえ人生だった……。あっしは今までの生き様が走馬燈のように蘇る。
だが、頭の中に巡るのは、殆どがどれもこれも、代わり映えのねえあの薄暗い倉庫でのクソッタレた日々だけだ。
暗雲のように立ち込める記憶の群の中で、たったの一時間にも満たない程度しか一緒に居ないってのに、
このマフラー野郎達とここまで逃げてこられた一生に比べたら一瞬でしかない記憶は、暗闇を裂く雷の如く青白く輝いて見えた。
ヤミカラス「あ?ねぇよそんなもん」
ギアーズネタかw
明日明後日ぐらいに続き書きたいです
保守
ピカ生の人々は、地震がありましたが大丈夫でしたか?
一応、こっちは無事
被害にあった方々の無事を真摯に祈る……
流石にちょっと続きを書ける状況じゃないから、
無事に落ち着いて書ける様になったら書く…ごめん
気にするな
>>414 直撃…ですか?
あの規模の地震で貴方が無事で良かったです。
静岡の方は被害があまりないですが、東海南海冲地震が怖いです。
>>416 直撃ではないけど、結構大きい揺れが何度か来てて気が気じゃなかった…
心配してくれてありがとう
余震も大分落ち着いてきたし、明日の今ぐらいには続き投下できるようにするよ
こいつのやる事なす事全部が無茶苦茶で、あっしが生きてきた中で最も危ない思いをしてきたはずなのに、
不思議と一番生きている実感がした。それもいよいよここで終わりだってのか。
――いや、まだだ、まだこんな所で終わらねえ!
あっしは諦めて閉じかけていた目と羽をこじ開けて、確と広げる。翼にかつてない程の力が宿り、
空気を大きく巻き込み始めるのを感じた。
背後から迫る耳障りな羽音と甲高い鳴き声。団員が放った蝙蝠ポケモン――ズバット共だ。
だが、あっしは臆せず、漲る翼を力強く宙に叩きつける。解き放たれた力は一陣の突風となって吹き荒れ、
纏わりつくズバット共を吹き飛ばし、あっしらを大空高く押し上げていった。
ずしりと全身に圧し掛かってくる重圧。翼がみしみしとへし折れそうなほどに軋んで痛む。
それでもあっしは嘴を噛み締めて堪え、翼を広げ続けて、上昇していく突風へと喰らい付いた。
やがて突風は緩やかにほどけ、穏やかな流れへと変わっていく。あっしは数回羽ばたいてバランスを取り、
水平に流れていく風の一つへと乗った。
「少し荒っぽいが実に見事なフライトだった、やるじゃないか! かつての友たちの勇姿を思い出すようだよ。
手さえ離せれば、拍手の一つでも送りたいんだけどね」
マフラー野郎が晴れ晴れとして言った。てめえのせいでひとがどれだけ苦労したのか分かっていないような
呑気な口ぶりに、あっしはかちんときて足元を睨む。にこにこと微笑むマフラー野郎の背で、
ニャルマーは放心したように呆然としていた。チビの方は……いつもの調子だ。
「別に離してくれてもいいんだぜ。てめえという奴ぁ、何度も何度も無茶ばっかりさせやがって――」
「まあまあ、そう腐るなって。今は文句を言うより先に自分の力で成し遂げたことを、周りを見てごらんよ!」
「ああん?」
あっしは声を荒げながらも、奴に促されるまま周りの様子に目を向ける。その瞬間、
吐き出そうとしていた文句は全て喉の奥へと引っ込み、代わりに出たのは感嘆の溜め息だった。
目の前一杯に広がっているのは、まるでミニチュア模型みてえにちっぽけになって見える街、森、川、海、山
――空は、世界ってのは、なんてだだっ広いんだ!
思えば、こんなに空高く飛んだのなんて初めての経験だった。鳥の身に生まれておきながら情けねえ話だが、
今までは精々で二階建ての家ぐらいの高さ――確か、元飼い主の下っ端野郎と誰かの家にコソ泥に入った時
だったか――ぐらいまでしか飛んだことはなかった。あっしが眺めることが出来た空は、立ち並ぶ建物の影や、
張り巡らされた電線に切り取られたものばかりで、世界なんてもんはとても狭くて、平坦なもののように感じていた。
「どうだい、これが君の掴み取ったものさ。多少の無茶をする価値はあったろう?」
得意げにマフラー野郎は笑う。あっしは「けっ」と毒づき、ばつの悪さを誤魔化した。
「まったく、生きた心地がしなかったよ……。それより、折角広く周囲を見渡せるんだ。何かコリンクの手がかりに
なりそうなものがないか探してみておくれよ」
「そうだね、景色を楽しんでばかりもいられない、少し地上に目を凝らしてみようか」
既に気を取り直した様子でニャルマーは言い、マフラー野郎もそれに応じた。
マフラー野郎が異質すぎるせいで目立たねえが、この女の肝の据わり方と順応性も相当普通じゃねえ。
一体、どんな生き方をしてきやがったのか知らねえが、きっと相応の修羅場を潜り抜けてきたんだとは想像できる。
こいつらと比らべたら、あっしはなんてまともで普通なことか。度胸も、経験も、体力も――。
「――むむッ!」
早速、何か見つけた様子でマフラー野郎が声を上げる。
「十一時の方向、鉄橋の側を走る怪しい車影を発見だ」
マフラー野郎が指した方を見やると、建造中の鉄橋――完成したらジョウトとカントーを繋ぐリニアのレールになるらしい
――の側を、一台のトラックが走っているのが確認できた。一見、工事用の資材を運ぶトラックのように見えるが、
それにしては荷台は妙に厳重な覆いが施され、どうにも不自然だ。
「ちょっとあのトラック、追ってみようか――って、あれ? 何だか、少しずつ高度が下がってないかい、ヤミカラス?
まだ降りるには早いぞ。お、おい、ヤミカラス……何だか、ちょっと顔色悪い……?」
所詮、正式に伝授されたわけじゃねえ付け焼刃の飛び方。その内ガタが来るのは、必然だった。
GJ
放射能漏れに気をつけてください
放射性ヨウ素が放射性物質の主成分ですから、固形ヨウ素栄養剤や
トトロ昆布などヨウ素を多量に含む食品を摂取される事をお勧めします。
ヨウ素が吸収される甲状腺に、放射性ヨウ素が吸収されることによる甲状腺癌を防げます。
明日明後日にでも続き書くよ
みんなも気をつけてな
まだいつ何が起こるかわからないから、いざという時の備えは万全に…
保守しておくよ
昼過ぎか夕方くらいに投下するよ
そもそも、こいつらを逃がし、ヘルガー共と戦い、アジトからデパートでの逃走劇に至るまで、
危機続きで一度も心身ともに休めるような暇はなかった。とっくに限界が来ていたっておかしくねえ。
「が、頑張れ! 駄目だ駄目だ駄目だ、諦めちゃ。ここまで出来た君ならまだまだやれるって!」
いつになく慌てふためいてマフラー野郎は捲くし立てるようにあっしを励ましてくる。
――いつもどこか自信たっぷりにスカしていたあいつがあんなにも泡を食ってやがったのは、
後にも先にもあの時くらいだったかもな。
「そ……そうだよ! 男だろ、しっかりしな! せめて、もう一踏ん張り、どこかに不時着しとくれ!」
同じくあたふたした様子のニャルマーが続く。チビのやつも周りのただならぬ気配に飛び起きた。
だが、いくらぎゃーぎゃー騒がれたところで、例えガマ口財布のごとくひっくり返されて揺すられたって、
出せないものは出せない、無いものは無い。出るのは精々、オンボロ小屋に吹き込む隙間風みてえな
絶え絶えの息だけだ。みるみる内に高度は下がっていき、徐々に意識も薄らいでいく。
「駄目か、クソッ――」
マフラー野郎が何やらごそごそとマフラーを探りだす。その間にもぐんぐんと地上の森は迫り、
あっしの意識も一気に真っ暗闇へと沈んでいった。
――あっしはどうなっちまったのか。まるで逆吊りにされているみてえに、頭ん中がふらふらと揺れている。
ああ……あの世ってのは地獄も極楽も無く、案外こんなもんなのかもしれねえ。
きっと、抜けちまった魂は干物か洗濯物みてえに前の記憶が乾いて無くなるまで吊るされて、
乾ききったらまた別の新しい体にぶち込まれるのさ。今度生まれる時ゃもうちっとマシな生き方をしてえもんだぜ。
不意に鼻っ面をカサカサとした感触がくすぐる。死神さんが魂の乾き具合ってやつを確かめにきたに違いねえ。
生憎、こっちは吊るされたてのホヤホヤだ。意識もしっかりと残ってるし、生まれ変わるには早すぎるだろう。
今わの際までドタバタさせられてあっしもいささか疲れてんだ、もう少し静かに休ませておくんなせえよ。
それでも尚、カサカサとした感触は執拗に鼻先をさすってくる。しつこい奴だ、さすがのあっしも段々と苛立ってくる。
と同時に、鼻のむずむずが堪え切れない程に一気に押し寄せてきた。
「……ぶぇっくしょいッ!」
大くしゃみと共にあっしは目を覚まし、鼻を羽先でごしごしと拭った。動きに合わせるように、体がぶらぶらと
宙に揺れる。ひやりとして辺りを見回すと、周りは木々も枝葉も全て天地が逆にひっくり返ったような森の中――
ではなく、何かが足に引っ掛かってあっしの体は蝙蝠みてえに逆さに吊られているようだ。
足元を見てみると、太い枝に見覚えのある細長く伸びたマフラーが絡まっていて、あっしの足はそれに
括り付けられている。その根元すぐ傍らに、チビ助の姿もあった。先っぽに葉のついた小枝を片手に、
太い枝の上からこちらを少し心配そうに見下ろしている。
「しつこく突っついてやがったのはおめえか、チビ助。ま、おかげで頭に血が上りきる前に目が覚めたぜ」
あっしは羽ばたいて枝の上までよじ登り、嘴でマフラーの枷を足から外した。それにしても丈夫なマフラーだ。
どう考えても普通の生地じゃねえ。
「マフラー野郎――おめえの親父と、ニャルマーのやつはどうなった? 無事か?」
あっしが尋ねると、チビ助は少しきょとんとした後、無言で下方を指差した。見やると少し下の枝のところで、
ニャルマーがあっしと同じようにマフラーで体を吊られて気を失っていた。ずっと伸びている長いマフラーの先を
更に目で追っていくと途中でそれは宙で途切れ、地べたにまで視線を下ろすと草の中に黄色い姿を見つけた。
やつは草むらに横這いに倒れ込んだまま、ぴくりとも動いていないように見えた。
チビが不安そうにあっしの羽をぐいと引っ張る。
「へ……へっ、あの野郎がこの程度でくたばるわきゃねえだろ。ちょっと待ってろ、先に様子を見てきてやる」
あっしは自身にも言い聞かせるようにチビに言うと、一足先に地面に降り立ち、恐る恐る近づいて確認する。
どうやら息はあるようだ。気を失っているだけらしい。特に目立った怪我も――前面を見渡し、背中側に至った所で、
あっしは絶句した。一体、どうやったら、何があったら、こんな傷を負うというのか。今までマフラーの裾や
背負ったチビに隠れていてわからなかったが、あいつの背にはまるで稲妻のように縦にジグザグに裂けた大きな
古い傷の跡があった。
保守
428 :
名無しさん、君に決めた!:2011/03/23(水) 00:09:01.78 ID:Bj3kURvB0
あぶねえ、最下層だw
念の為ageとく
乙
週末にでも続き書きたいです
保守
ほしゅ
夕方くらいに投下する
「う――」
不意にマフラー野郎が呻き声を上げ、僅かに身を揺らす。ふと、あっしは正気づいて、
助け起こそうとマフラー野郎の肩に羽をかけた。
「おい、大丈夫かよ?」
声をかけながらあっしはマフラー野郎の体を軽く揺り動かす。ヤツは耳をぴくりと反応させ、
まだ意識がおぼろげな様子でおもむろにあっしの羽を握り返すと、うなされる様に何かを微かに呟いた。
はっきりと聞き取れなかったが、それは誰かの名前だったように思えた。
ぎょっとして振り払えずにいると、急にマフラー野郎はぱちりと目覚めて、あっしと目が合う。
そして、握った手とあっしの顔を交互に見て、ぞっと顔を青ざめさせた。
「な、なんのつもりだい。俺にそんな趣味は全く無いぞ」
言いながら、マフラー野郎は素早く起き上がってあっしから後ずさっていった。
「そりゃこっちのセリフだ、バカヤロウ! テメーがいつまでも目を覚まさねえから気を利かせて助け起こして
やろうとしていたら、てめえの方から急に俺様の羽を握ってきたんだろうが。寝ぼけてんじゃねえぞ」
ひとが折角心配してやったのをなんて誤解をしてやがる。あっしにだってそんな趣味はねえ。
言い返すと、思い出したようにマフラー野郎はぽんと手を打つ。
「ん、ああ、そうか。君達を木に引っ掛けた後、俺も気を失って――。いや、それはすまなかった。
そうだ、他のみんなは?」
「まだ上だ」
あっしはニャルマーとチビ助のいる木の上を指し示す。ニャルマーも呻いて目を覚ましそうな兆しを見せ、
チビ助はマフラー野郎が無事とわかった途端、『早く下に下ろせ』と言いたげな様子で図太く構えていた。
さっきまでの不安げな慎ましい態度なんてまるで嘘だったかのようだ。
「良かった、どうにかみんな生きてたみたいだね」
二匹の様子を見上げ、マフラー野郎は安堵の息をついた。
「無茶苦茶させがって。どうにか生きてるなんて不思議なくれえだ。最高の初飛行と初墜落だったぜ」
皮肉をたっぷり込めた口調であっしは言う。
「確かに今回ばかりは俺もちょっと焦ったかな。少し昔を思い出したよ」
「ケッ、背中の傷もその昔とやらからこんな風に無茶ばかりしてきた結果か?」
あっしの言葉を受け、虚を衝かれた様子でマフラー野郎は首元と背中を手で探ってから、木にぶら下がって
脱げているマフラーを見上げ、「あちゃー」と気恥ずかしそうにマフラー野郎は頬をぽりぽりと掻いた。
「はは、見られちゃったか。この傷は――罪と、然るべき罰ってところさ」
呟くようにマフラー野郎は言う。瞬間、その顔には少し暗い影が落ちたように見えた。
「ああ?」
意味を汲めずあっしは首を傾げる。
「ひゃ! ちょ、ちょっと! なんだいこれ!」
木の上から、ニャルマーの悲鳴が響いてくる。どうやら目を覚ましたようだ。
「おっと、それより今は早くお嬢さんとチビ助をおろしてあげないと。手伝ってくれるかい、ヤミカラス」
誤魔化すように話を切り上げ、マフラー野郎は木の下へと急いだ。
「やれやれ、酷い目にあったよ……」
地上に下ろされ、毛についた葉っぱや小枝を払いながらニャルマーはぼやく。
「やあ、悪い悪い。もうちょっと余裕があればもっと安全に降り立つ方法も用意できたんだが、
いかんせんその猶予は無かったからね。どこか痛むところはない?」
チビを背負ってマフラーを巻きなおしながら、マフラー野郎は尋ねた。
「平気さ。すぐにでも行けるよ」
手足をふるふると振るって、ニャルマーは答える。
「それじゃあ全員無事みたいだし、またコリンクの行方を追おう。あまりもたもたもしていられない」
「ああ。確かあの怪しげなトラックが走っていたのは鉄橋の側だったねえ。とりあえず、ここからも見える
あの鉄橋の一部を目指してみようじゃないか」
マフラー野郎とニャルマーが算段を立て始め、早速出発しようとしている。あっしはそんな二匹の背を、
立ち止まったまま眺めた。
「どうした、ヤミカラス?」
あっしの様子に気付いたマフラー野郎が振り返る。
「……ああ、そういえば、元々君の目的は奴らの手から逃れることだけだったものな。
これ以上は無理に付き合う必要もないか。短い間だったが協力してくれてありがとう。達者でな、ヤミカラス」
ふっと仕方なさそうに笑みを浮かべ、マフラー野郎は再び歩き出した。
あっしは少し迷っていた。確かに元々のあっしの目的はロケット団から無事に逃げ出すことで、
ろくに関わりのねえガキがどうなろうと本来ならば知ったこっちゃねえ事だ。 こいつらの後をついて行くよりも、
あっし一羽だけで逃げた方がよっぽど安全無事に逃げ切られる可能性が高いかも知れねえ。だが――
「勝手に決め付けてんじゃねえ。これから追っ手が来ねえとは限らねえんだ。まだ完全にロケット団共の手から
逃れられたとは言えねえ。協力して無事に安全な所まで逃げ切らせるってのが、てめえを檻から出してやる条件
だったはずだ。ちゃんとそれが果たされるまで俺様は意地でも離れねえぞ」
照れ臭え話だが、こいつらはあっしにとって初めてできた仲間と呼んでもいい存在だ。
例え危ない目にあおうとも、まだこいつらと一緒にいきてえ。その思いが勝った。
「そうか。……ありがとな、ヤミカラス」
本心を見透かしたように、そっとマフラー野郎は礼を言う。
「別に何も感謝するところじゃねえだろ。単なる利害の一致だ」
気恥ずかしくなって目を背け、あっしは毒づいた。
保守
結局どうやって降りたんだ?マフラーをパラシュートに……とかじゃ無いよなぁ
落ちた時にマフラーが木に引っ掛かったんじゃないのか。
落ちる途中でわざとマフラーを枝に引っ掛けた感じかな
金、土辺りにでも続き書くぜ
保守
保守
鉄橋沿いのあまり整備の行き届いていない道路へとあっしらは差し掛かり、剥き出しの地面に
残されたまだ新しいタイヤの跡を見つける。きっと例の怪しいトラックが残していったものに違いねえと、
あっしらはその後をつけてみることにした。地面に注意を向けながらしばらく進んでいると、
途中でタイヤ跡はスリップでもしたかのようにグネグネと曲がりくねって、道路を外れた藪の中へと突っ込み、
細い木々を強引に薙ぎ倒しながら進んでいったようだ。
「なんだか随分と焦っていたみたいだね」
苦笑めいてマフラー野郎が言った。
「……妙だな」
その横で、あっしはその痕跡に違和感を覚えて呟く。
「どうしたんだい?」
「ああ、サツ共に追われでもしている時ならともかく、大事な商品を輸送している最中だってのに、
こんな荒っぽい運転をするなんてありえねえと思ってよ。いくら悪の組織だろうと取引に関しちゃあ
最低限の信用ってもんがねえとやっていけねえ。余程の事がねえ限り、届けなきゃなんねえ商品に傷を
つけるような真似は避けるはずなんだが」
「つまり、その余程の事があった可能性が高いってことじゃないか。アイツに何かあったらアタシゃ……」
ニャルマーの顔と言葉に焦慮が滲む。こいつの魂胆の一端を以前に垣間見たあっしにとっては、
この態度もあのコリンクってガキ自体を純粋に心配しているというよりも、アイツに何かあった後で自分自身に
降り掛かってくる不利益を厭んでいるように思えた。
「急ぐぞ」
表情を少し強張らせ、マフラー野郎は先んじて木々が折られタイヤ跡が続く藪の中へと向かっていった。
まるで機械仕掛けのイノムーみてえなパワーでもってトラックは豪快に藪を無理矢理切り開いて
突き進んでいたようだが、その猛進もどうやら長くは続かなかったらしい。タイヤ跡が途切れた先にあったものは、
こちらに腹を向けて無残に横転したトラックの姿だった。あっしらはすぐさま駆け寄って様子を確認する。
だが、既にトラックは運転席も、覆いが剥がれて覗いている積荷の檻の中身も、もぬけの殻だった。
車体には二本の鋭い爪で引っ掻いたような二本傷がそこら中に刻まれ、タイヤの一つに――季節は秋の
中頃ぐらいだったから、雪も降る筈がないって言うのに――どういうわけか溶け掛けた氷の塊が挟まりこんでいた。
「一体、何があったっていうんだい……」
呆然とニャルマーは立ち尽くして、変わり果てたトラックを眺める。
「この無数の二本傷、木々にぶつかって出来たであろうものとは明らかに違うね」
車体の不自然な傷をマフラー野郎は触れて調べる。背のチビ助も目をぱちくりさせてトラックを見回していた。
「こりゃ、奴らの仕業かもしれねえ」
あっしはその犯人に大体の察しがついていた。
「何か心当たりがあるのか?」
真剣な面持ちでマフラー野郎が問う。
「ああ、団員や元同僚のポケモン共づてに聞いた話だが――」
近頃、ジョウトではこうした襲撃が度々起こっていた。襲撃者の正体は、徒党を組んだニューラ達――
二足で歩く黒猫みたいな奴らだ。元々、集団による狩りが得意な奴らではあったが、人間に対しては時々こそ泥を
働くことはあっても、車両を襲うような大それた事はしなかった。だが、ここ数年になって奴らは変わった。
とりあえずここまで
深夜か明け方くらいにもう一回投下するよ
その昔まではニューラはジョウトでは北東の辺境、シロガネ山脈とフスベシティの付近で時折姿が
確認されるくらいだった。しかし、今やその活動範囲をコガネからキキョウシティの付近にまで活発に広げ、
実際に襲撃事件まで起こしている。奴らが襲うのは、殆どが後ろ暗い積荷を載せている車ばかりだった。
義賊気取りなのか、それともワケありの荷物を運んでいるような人間は、例え略奪されても自分達の
やっている薄汚いことまで白日の下に晒される事を恐れ、声高に助けを求めることなんて出来やしないことを
狡猾に見抜いてやがるのかはわからねえが、とにかく団員共は随分とニューラ達には悩まされているようだった。
「シンオウにもあの黒猫共は生息しているから奴らの事は知っているよ。姿形は一見して小奇麗な奴らだけど、
本性はその毛並みの色の如くドス黒く残忍さ。奴らのえげつない鉤爪に比べたら、アタシの爪なんて
紙切りナイフみたいなもんだよ」
ニャルマーの言うように、奴らの鉤爪は非常に鋭く恐ろしい武器だ。少し掠めるように爪先を
引っ掛けられただけで、碌に身を守る体毛も堅い鱗も無い人間では大怪我しちまうだろう。
そんな爪を持つ奴らが何匹も、それも連携の取れた動きで容赦なく襲ってきやがるなんて、
脅威以外の何者でもない。
その中でも特に恐れられていたのが、ニューラ達が活発化し始めたのとほぼ同時期に現れるようになった、
異形のニューラの存在だった。『奴が現れたら積荷か命を諦めろ。もし奴の機嫌が悪けりゃ両方だ』
そんな風に囁かれていた。
普通、ニューラってのは片耳だけが赤色をしていて長いんだが、そいつは両耳が赤くなっていて、
頭には大きな扇状の赤い鬣が広がっているそうだ。鉤爪はより鋭く研ぎ澄まされて、二本爪から三本爪へと変貌し、
体捌きはより敏捷だという話だった。
――「なあドン、もしかして、それが……!」
「今のキッサキのマニューラじゃねえかってかい? 残念ながらハズレだ、エンペルト。まあ、大きく関係しては
いるけどな。そもそも、あっしらが進化したのは、シンオウに来てからさ。あっしも、クソネコのヤツも、
それぞれの群れで一から成り上がって、ドンカラスとマニューラの座を手にしたんでえ。あいつらの為にも、
どんなに辛かろうとあっしらは精一杯に生きてかなきゃならねえって、ひたすら我武者羅な日々だった」――
「それはたぶん、マニューラってポケモンだよ。この地方にはまだあまり知れ渡っていないのかもしれないけど、
ニューラには進化系がいるのさ」
空っぽの檻を何やら探りながらマフラー野郎は答えた。
「アタシも名だけは聞いたことがある。普通のニューラよりも更に輪をかけて狡猾で残忍だってこともね。
もしそんな奴らにコリンクは連れていかれたんだとしたら……。団員共が連れていったって方がまだ救いがあるよ」
「うーん、どうも、コリンクはニューラ達の方が連れて行った可能性の方が高いかもしれないよ、お嬢さん」
言って、マフラー野郎は壊れ落ちていた南京錠を拾い上げて俺達に見せた。その表面には深々とした三本傷が
刻まれている。
「――ッ! なんて、ことだい……」
愕然として、ニャルマーはへたり込む。
「まだ希望を捨てちゃいけないよ、お嬢さん。まだコリンクが死んでしまったと決まったわけじゃないんだ。
それに連れて行かれたところで、殺されてしまうとは限らない」
「そんなこと言ったって、ニューラ共は肉食のハンターだよ。悪い想像をするなって方が無理さ!」
ニャルマーは狼狽して言った。
「……昔、俺にはマニューラ族の友達がいたんだ。確かにがさつで乱暴なところもあったけれど、
根っから悪い奴じゃなかったし、いざって時にはとても頼りになって、何度も助けたり助けられたりしたっけ――。
まあ、つまりは何が言いたいかって、その種族ってだけであまり偏見を持つのは良くないってことだ」
ウンコ
GJ!
GJ
おつかれっす
保守
週末にでも続き書くよ
ウンコ
保守
保守っとく
そう言って、マフラー野郎は宥める様に微笑みかける。ニャルマーは不服そうにしながらも、
うろたえる言葉を呑み込んで押し止めた。
それにしても、このマフラー野郎がぶっ飛んだ奴だってのは十分に分かっていることだが、
ニューラ共よりも更に残忍だというマニューラ……猫と鼠がばったり出くわして無事に済んだ挙句に
友達になるだなんて、一体どうまかり間違ったらそんなことになりやがるのやら。
まさかどこかのトゥーンアニメよろしく――下っ端野郎がぼんやりと何気なく眺めているのを、
あっしも横で見ていた――仲良く喧嘩している内に奇妙な友情が芽生えでもしたんだろうか。
何にしても、またそんな風にコリンクを攫った奴とも打ち解けられるとは限らないし、
もう一つ根本的な問題があった。
「ところでよ。もし、あのガキが生かされたままニューラ共に連れて行かれたとして、
どうやって後を追うってんだ? 奴らの本拠地は団員共だってはっきりとは掴めていねえんだぜ」
あっしは苦言を呈する。団員達もやられっぱなしではいられないと、ニューラ共の巣窟を見つけ出して
一網打尽にしてしまおうと目論んだことがあった。しかし、奴らは神出鬼没の上、逃げ足の速さたるや
まさに電光石火の如しであっと言う間に行方をくらましてしまう為、追跡もままならないのだ。
「それこそ草の根を掻き分けるようにしてでも痕跡を捜し出していくしかないだろうね」
マフラー野郎は伏せるようにして地面を探り出す。そして、雑草が踏まれて微かに倒れている箇所と、
土の上に薄っすらとついた爪の跡を見つけ、それが続いていく先を手で辿って指し示した、
「……テメーのその目ざとさは褒めてやるがよ、一々地面に這いつくばって進んでいたら
日が暮れるどころじゃすまねえぜ。もしも途中で一雨でも来たりしたら、その跡だっておじゃんだ」
あっしが言う傍で、やれやれと言った様子でマフラー野郎は裾を払いながら起き上る。
「大体の向かった方向さえ知れれば十分さ。行動が盛んになる前は、ニューラ達はそのシロガネ山脈の
近辺に現れていたんだろ? きっとその傍に本拠地はある」
「その程度、団員共や俺様だって分かってるっての。だが、シロガネ山脈は広大で険しく、
複雑に入り組んでやがるんだ。そこから手がかりも無く当てずっぽうで探し出すなんて、とても無茶だ」
「幾ら逃げ足の速いニューラ達だって、ゴーストポケモンのようにすっかり姿を消せるわけじゃああるまいし、
必ずどこかで誰かに姿は見られているはずだよ。例え人間なら立ち入らないような場所でも、野生のポケモン達は
至る所に暮らしている。人間にはその言葉は分からず聞き出そうともしないだろうけど、同じポケモンである
俺達には分かる。君はもう野生のポケモンなんだ、ヤミカラス。こういう利点は活かせるようにしていかないとな」
マフラー野郎の言葉に、あっしは思わず目が覚まされたようになってハッとする。そういやそうだ。
人間に長らく飼われていたせいで、考え方も人間寄りに凝り固まっちまっていたが、あっしはポケモン、
それも今日から『野生の』になるんだ。どうにかその世界に順応していかなきゃならねえ。
「分かったよ、そこらの奴に聞き込みしながら行きゃいいんだな。地面に鼻と目を擦り付けるよりは現実的だな」
「どの道、アタシもこのままじゃあシンオウにも帰れず、行く当ても無いんだ。右も左も分からない地方で
また新たな拠り所を一から見つけるのも難儀さね。まだアンタらについてくよ……」
ニャルマーは半ば諦めたような気落ちした様子を見せながらも、その場から腰を上げた。
あっしらは痕跡の続いていた先の方角を真直ぐ目指しながら、近場に見かけたホーホーやメリープ――
丸っこい梟と、黄色い綿毛の羊みてえな奴らだ――といった比較的話の通じそうなポケモン達に、
ニューラ共の集団を見かけなかったかと片っ端に聞き込みながら進んでいった。それでも、しっかりとした
目撃情報は殆ど無く、こんな調子じゃ本拠地を突き止めるまでいつまでかかるか分かったもんじゃない。
もう少し確固とした手がかりとなるものが手に入りでもしないと埒が明かねえ。そんな先の見えない
聞き込みに疲れ、一旦小休止に入ろうとしていた時だった。
「ヒャーンッ!?」――まだ幼い猫ポケモンらしきものの悲鳴が、森の奥から響いてくる。
まさか、コリンクだろうか。あっしらは顔を見合わせて頷き、一斉に悲鳴が聞こえた方へと駆け出した。
悲鳴の先にいたものは毒々しい緑色をした蜘蛛型のポケモン、イトマルの群れ。その中心で、
奴らの吐いた白い糸に捕まっているのは青い山猫の子ども……ではなく、片方だけ耳が赤い、
真っ黒い毛並みの猫――ニューラだった。あっしが話に聞いていたよりもその体はずっと小さく、
端々に幼さが残っている。まだ子どものニューラなのだろう。
「い、イヤだ! くるな、くるなー!」
全身の毛をおぞ気立たせながら、子ニューラはイトマル達から逃れようともがいている。が、その足はすっかり
粘つく糸によって捉えられていた。じわじわとイトマル達は、子ニューラへと群がろうと詰め寄っていく。
群れからはぐれでもしたのか、何でこんな所で子ニューラが一匹で捕まってやがるのかはわからねえが、
とにかくこれはチャンスだ。あいつを無事に助けられれば、巣穴の場所を聞き出せるかも知れねえ。
「なあ、あいつを助けりゃ――」
あっしが言い出して終えるよりずっと早く、マフラー野郎は血相を変えてイトマルの群れに向かって
飛び出して行った。――言うまでも無かったか。あっしは頭をばさばさと掻く。
アジトの時から薄々気付いていたが、あいつはことに子どもの危機に関しては遮二無二になって助けようとする。
きっとイトマルに捕まっていたのが今回の件とはまるで関係の無いそこらのガキだったとしても、
同じように飛び出して行っただろう。その様は、どこか執着や執念めいたものさえ感じた。
GJ!
保守
保守
金・土ぐらいにでも続き書きたいです
あげ
保守
保守
昼ぐらいまでには投下するよ
マフラー野郎は電流を体に纏わせながら大きく飛び上がり、稲妻のような派手な音と光と共に
両者の間へと割って入った。今にも飛び掛らんとしていたイトマル達も突然の轟音と閃光に、
はたと動きを止める。
「大丈夫かい?」
庇うように両手を広げながら、マフラー野郎は背中越しに子ニューラへと問い掛ける。
「う、うん……」
ぽかんと放心しながらその背を見上げて子ニューラは答えた。
「必ず守る。だから安心してくれ」
マフラー野郎は優しく子ニューラに言い、周りのイトマル達をきつく睨め付けた。
「君達も生きるためにしている事だというのは分かる。だけど、何もこんな小さな子どもを相手に
そんなに本気になることはないだろう。悪いがここは退いてくれないだろうか」
マフラー野郎は一応の説得を試みるが、イトマル達は応じる気配もなくぎちぎちと顎を噛み鳴らして
怒りを露にしている。その内の一匹が痺れを切らした様子で額に生えた鋭い毒針を突き出し、
マフラー野郎達に襲い掛かった。
「駄目か、仕方ない――ッ!」
舌打ちし、マフラー野郎は飛び来るイトマルを電撃で撃ち抜く。イトマルは大きく吹き飛ばされて地に転げ、
ぴくぴくと足を痙攣させて気絶した。それが口火となってイトマル達は次々と飛び掛かり出し、
マフラー野郎も強力な電流を振るって応戦する。
「アタシらも加勢しなくていいのかねえ?」
はらはらとニャルマーはあっしに尋ねた。
「あれじゃ手の出しようがねえだろ。下手に近づきゃ俺様達も危ねえ――のわッ!」
電撃の流れ弾をすんでの所で藪に潜ってかわし、あっしは叫ぶ。マフラー野郎を中心に、
まるで稲妻の嵐のように電流は縦横無尽に荒れ狂ってイトマル達を薙ぎ払った。
だが、失神さえすれど、死に至るほどの致命傷を受ける者は一匹もいないようだ。
何匹も同胞を蹴散らされ、これは手に負えないと見るや、イトマル達は一歩退き、
ぎぃぎぃと鳴き声を上げ始める。降参だとでも言うのだろうか、マフラー野郎も一旦電流を収め、
注意深く様子を窺う。
電撃が収まっても、イトマル達は依然として鳴き声を上げ続けた。もしや、これは降参の意などでは無く、
別の意図があるのではないか。そんな風に考えていた矢先、周囲の木々の枝葉が音を立てて揺れ出し、
何か大きな影がイトマルの群れに降り立った。それは、俺達の身の丈二倍はありそうな、
サイケデリックな赤と黒の縞模様をした大蜘蛛――アリアドスだった。
アリアドスは紫と黄色の縞というこれまた不気味な色合いの細長い前足を振り上げ、
金切り声のような甲高く耳障りな威嚇の声をマフラー野郎に向かって上げる。
マフラー野郎は頬から電流を迸らせながら、そっと右手をアリアドスに向けようとした。
しかし、突然その右手はあたかも見えない釣り糸にでも引っ張られたかのようにびんと上に引っ張られ、
そのまま体ごとマフラー野郎は宙へと持ち上げられた。
想定外の事態に驚愕した様子で、マフラー野郎は宙に浮き上がらされながら辺りを見回す。
それから、樹の上にもう一匹潜んでいたアリアドスが自分を妖しく輝く目で凝視している事に気付き、
マフラー野郎は合点がいったように苦く表情を歪めた。サイコキネシス――主にエスパータイプのポケモンが
使う強力な念動力なのだが、虫ポケモンの中にも多くの経験を積む事で習得できる者が存在すると聞く。
その中の一匹が、アリアドスだったというわけだ。
マフラー野郎も抵抗しようとするが、既に完全に術中へと嵌り込み身動き一つ取れなくなっていた。
宙を漂うマフラー野郎に向けて、更にアリアドスとイトマル達は一斉に糸を吹き付け、マフラー野郎の体は
一瞬で虫の繭のように雁字搦めにされてしまう。
「さ、流石にありゃ幾らアイツでも不味そうだよ! 何とかできないのかい!?」
大慌てでニャルマーはあっしに詰め寄る。
「な、何とかったって――!」
イトマルの数は多く、その上進化系のアリアドスが二匹もいる。上手く隙をつけたって、
あっしらの力であの何重もの糸をすぐさま千切ることなんてとても出来そうにない。
あっしらの声に気が付き、アリアドスとイトマル達が一斉にこちらへと目を向ける。
「き、気付かれちまったよ……! そうだ、ほら、アンタがデパートから飛び立つ時に巻き起こした突風、
あれでアイツらも吹き飛ばせないのかい?」
「そ、そうか!」
あっしは翼に渾身の力を込めて懸命に羽ばたく。……しかし、巻き起こせたのは突風などとは程遠い、
風呂上りにでも浴びたら丁度良さそうなそよ風程度のものだった。
「ちょっと、真面目にやってんのかい!?」
「大真面目だってんだ、ちきしょうめ!」
あの時の突風は火事場の馬鹿力によるまぐれだったとでも言うのか、何度羽ばたこうとも、
まるであの時の手応えは感じられなかった。そうこうしている内に、蜘蛛達は容赦なく迫る。
「ああ、もう、風はいいよ! 他に、何か出せるものは無いのかい? 炎とか、水とか、電気とか!」
「出ねえよ、んなもん! オメーこそ、スリープを眠らせた妙な技は使えねえのかよ!?」
「一匹、二匹眠らせられたところで、どうなるってんだい! 男ならやる前からつべこべ言わず、
死に物狂いで何か出そうとしてみな! オラッ!」
「ちょ、やめたげ――ぐぇッ」
ニャルマーは強引にあっしの首根っこを掴み、無理矢理あっしの頭を奴らに向けさせて壊れたテレビを
直すかのごとく乱暴にげしげしと叩き始める。しかし、そんな事で炎も雷も出せるはずも無く、
出るのは乾いた咳だけだ。
「テメ……ゲホッ、いい加減――ゴホッ……ゲホッ――?」
咳き込んでいる内に、その中に徐々に黒い煙のようなものが混じり始めていることに気付く。
「これは、煙? ……ああ、そうか、きっと炎の兆候だよ! どれ、もう一発ガツンとくれてやったら、
景気よく噴き出るかもしれないね」
言って、ニャルマーは強かにあっしの頭を殴りつけた。
その瞬間、あっしの中で何かが決壊し、喉の奥からドス黒い煙がどんどんと溢れ出して来る。
「おおお、いい感じじゃないか。さあ、早くあの蜘蛛共を焼き払っちまいな!」
得意げになってニャルマーはびしりと蜘蛛達を指す。蜘蛛達は怯んだ様子で、あっしらからじりじりと
後退していった。
その間もあっしの嘴からはどんどんどんどんと黒い煙が溢れ、留まる気配が無い。
しかし、肝心の炎はまるで出てくる様子が無く、ただただ煙がもくもくと出続けるだけだ。
「お、おいおい、なんだい、これ……。まさか、煙しか出てこないってんじゃないだろうねえ?
……何だか薄気味が悪くなってきたよ。もういいから、止めておくれよ」
ニャルマーは表情を引き攣らせてあっしから手を離し、不気味なものを見るような目つきで後ずさった。
「こんゲホッ、テメゴホッ! のせ、ゴホゴホ!」――こんなことになったのはテメーのせいだろうが!
思い切り怒鳴りつけてやりたくても煙と咳に阻まれ、止めようとしても止めることが出来ない。
煙は霧のように周囲に立ちこめて濃度を増していき、昼の森はここだけ夜になってしまったかのように
暗闇に包まれてしまった。
「ちょっと! とうとう何も見えなくなっちまったじゃないのさ!」
ニャルマーは叫びたてながらきょろきょろと辺りを見回し始める。蜘蛛達も、視界を奪われた様子で
右往左往し出した。
最初は大げさに驚いてふざけているのかと思っていた。霧の中はあっしの目にはまだぼんやりと辺りの様子が
確認できる程度の暗さにしか見えなかったからだ。だが、奴らが本当に困り果てているのを見て、
あっし以外の奴にはこの霧はほぼ完全な暗闇として映るのであろう事を悟る。
確かに便利な技ではある。だが、あんなにボコスカ殴られた末に発現したのがこんな煙幕モドキじゃあ
割りに合わない気がしてならない。いや、今はそんな愚痴よりも、この隙に乗じてマフラー野郎を
糸から解放するのが先決だ。
あっしは蜘蛛共の間を擦り抜け、がんじがらめのマフラー野郎の下に駆けつける。解いてやろうと、
糸に足を引っ掛けたところで妙なことに気付く。あれだけ頑丈に巻かれていた糸が、
まだ掴んだだけで殆ど力を込めていないというのに、簡単に切れて崩れてしまった。――これも、この霧の力か?
保守
週末にでも続き書きたいです
保守
保守
目眩ましにしかならないと踏んでいた霧の思わぬ効力の片鱗を目の当たりにし、困惑するあっしを余所に、
機会を狙い澄ましたかのように糸の膜の内側で微かに青い光が瞬く。あっしは咄嗟に気付き、
身を離して地面に伏せた。束なった電流が膜を貫いて上方に飛び出し、燻ぶる風穴から青白い残光を
纏った腕がぬっと突き出る。糸の膜は蠢きながらボロボロと剥がれ落ちていき、青い光の筋が迸る体が
次第に露になっていく。薄闇の中、獣の唸りのような帯電音を産声代わりに這い出してくる様は、
悪魔が繭から生まれてくるのだとしたらきっとこんな風なんだろうと想像する程に、畏怖を抱かせた。
「これは、黒い霧……。おかげで少しばかり抜け出るのが楽になった。君がやったのかい、ヤミカラス?」
脱げ落ちた糸の残骸の上で、帯電に反発して浮いているマフラーの裾を翼のように揺らめかせながら、
マフラー野郎はあっしの方を見て言った。この霧の中だというのに、気配でも読んでいるかのような
的確な振り向き方に、あっしは「ああ」と呻くように頷いてから、ごくりと息を呑んだ。と、同時に、
あっしから漏れ続けていた黒い霧もぴたりと治まり、視界が徐々に晴れていく。
「何にせよ、助けられたよ。もう一匹居た事に気付ず不覚を取るなんて、俺も衰えたかな。だが、
もう油断も容赦もしないさ」
言いながら、マフラー野郎は蜘蛛達を見据える。
蜘蛛達も抜け出たマフラー野郎に気付き、再び念力の呪縛にかけようとアリアドスの一匹が目に光を宿す。
しかし、その力が発揮されるよりも早く、アリアドスの体を閃く電光が駆け抜け、身構える間もなく間髪いれず
にもう一匹にも電流が襲い掛かる。電流による痙攣が収まると、アリアドス達は煙を吹きながら仰向けに
引っ繰り返り、足を丸めて気絶した。
頼みのリーダー格をやられてしまったイトマル達は途端にうろたえて騒ぎ出す。
「去れ!」
放電と共にマフラー野郎が一喝すると、イトマル達は飛び上がりそうになるほど慄いて、
慌てて倒れているアリアドスを糸で包むと、数匹がかりで引き摺って逃げていった。
マフラー野郎はふう、と安堵の息をつく。あっしも疲労感に気抜けした息を漏らした。
「まったく、冷や冷やさせるよ」
言って、ニャルマーが駆け寄ってくる。
「カラスの奴が突然不気味な煙を吐き続けて止まらなくなっちまった時はどうなるかと思ったけど、
何とかなったみたいじゃないのさ。結局なんだったんだい、あれ」
まるで自分は関わっていなかったようにニャルマーは白々しく尋ねる。
「うん、あれは黒い霧って技だと思う。俺達ポケモンの技にはあの蜘蛛達みたいに糸で相手の動きを
鈍らせて弱らせたりするものや、自分に気合を込めて更なる力を引き出したりするものがあるんだけれど、
そういった技の効果を全部掻き消してしまう力があの霧にはあるんだ」
マフラーとチビ助にこびり付いている糸を丁寧に取ってやりながら、マフラー野郎は答えた。
「へえ、中々便利そうだねえ……」
何の気なさそうにニャルマーは言いながらも、何か企んだようにそっとほくそ笑んだのをあっしは見逃さなかった。
「っと、そういえば、あのニューラの子はどこに?」
きょろきょろと辺りを探すと、樹の上で顔を覆うように蹲って震えている子ニューラの姿をすぐに見つけることが出来た。
gj
ほしゅ
明日明後日にでも続き書くよ
保守
昼過ぎが夕方くらいに投下するよ
「もう大丈夫だよ」
樹の下からマフラー野郎が優しく声をかけると、子ニューラは赤く尖った左耳をぴくりと揺らす。
「……もうあいつらいないか?」
顔を伏せたまま、子ニューラは小声で囁く様に尋ねる。
「ああ、全員追っ払ったから平気さ。だからそんな所にいないで降りておいで」
マフラー野郎が言うと、子ニューラは恐る恐ると言った様子でゆっくり顔を上げ、きょろきょろと周りを見回す。
蜘蛛達がいないことを確認すると、子ニューラはホッと小さく息をついて、するりと樹から降り立った。
「どこにも怪我はない? 痛むところがあったらすぐに言――」
マフラー野郎が言い終えぬ内に、子ニューラは好奇心に目を爛々と輝かせてマフラー野郎に駆け寄る。
「オメー、スゲーな! ネズミのくせにビリビリーってさー! なんなんだあれ、どうやったんだ、どっから出したー?」
捲くし立てるように言いながら、子ニューラはマフラー野郎に纏わり付き、物珍しそうに耳や頬をつついたり、
引っ張りだした。背中のチビ助はぎょっとしてそそくさとマフラーの奥に身を隠す。
「聞くまれも無く元気そうらね……」
頬を両側に引っ張られながら、マフラー野郎はなされるがまま困ったように苦笑する。
「あいつら追っ払ってくれてありがとな! いつもは絶対に近付かないようにしてるんだけど、
今日はちょっと油断しちゃってさー」
散々弄くり回した末、満足して落ち着いたのか子ニューラはマフラー野郎から手を離し、
思い出したように礼を言った。
「無事で何よりだよ。ところで、なんで一匹でこんなところにいるんだい? 大人達はどこに?」
やれやれ、と仕方なさそうに乱された毛並みとマフラーをそっと直しつつ、マフラー野郎は尋ねる。
「うん、オレ、親父達が狩りする姿が見てみたくってさー。ホントはダメなんだけど、こっそり跡をつけてきたんだ。
親父達、すごかったぞ! 走ってるトラックに飛び乗って、タイヤをカチコチにして、木にドカーンってぶつけてさあ!」
きゃっきゃっと楽しげに親達の勇姿を語りだす子ニューラに、マフラー野郎は「へえ。そうなんだ」と穏やかに
相槌を打ちながら聞いてやっていた。
まだ幼いというのもあるのかもしれないが、ニューラ族の恐ろしげな噂から抱いていた印象とは随分とかけ離れた、
陽気でかしましいガキだ。マフラー野郎の言っていた通り、その種族というだけで偏見を持ってはいけないということか。
「――それから、それから、その紫風船とドロドロしたヤツもババッとやっつけちゃって、とうとう黒服どもは親父の強さに
びびって逃げちゃってさ!」
すっかりと心を許した様子で子ニューラはぺらぺらと喋り続け、マフラー野郎も嫌な顔一つせずににこにこと聞き続けた。
敵対する者には容赦なく接するこいつも、子どもに対してはどうにも甘い。ここらで誰かが止めておかないと、
延々と日が暮れるまで話を続けそうな勢いだ。
「んで、そのご立派なお父様方はどこに行ったのかいい加減聞かせてくれねえか?」
そろそろ本題に入らせようと仕方なくあっしは口を挟む。
「ねえ、トラックにはコリンク――あなたぐらいの青い山猫の子も乗せられていたと思うんだけど、何か知らないかな?」
待ちかねていた様子でニャルマーも猫を被った態度で横から加わった。
「ん、なんだよいい所なのに……なあ、そういえばこいつら何だ?」
子ニューラは話を遮られて少し不機嫌そうにしながら、マフラー野郎に尋ねる。
「ああ、紹介がまだだったな。この二匹は、ヤミカラスとニャルマー。俺の仲間みたいなものかな」
ふーん、とまだ警戒した目つきで子ニューラはあっしとニャルマーをじとりと見やった。
「ま、そういうわけだ。つーわけで、さっさと質問に答えな。こんな所でぼやぼやしている程、俺様達は暇じゃねえんだよ」
ぐい、とあっしは子ニューラを睨み返し、強い調子で言った。ニューラ族とはいえこんな可愛げ残るガキなんて、
少し脅してやりゃちょちょいだろう。だが、子ニューラにまるで怯む気配は無く、尚強情にむっとして視線を尖らせた。
「やだ」
「……おい、ガキ。こちとらオメーを絶体絶命の危機から救ってやったんだ。少しぐらい感謝して、協力しやがれってんだ」
湧き上がる苛立ちを足爪で土を握り穿って堪えながら、あっしは再度凄む。
「なんだよ、おまえなんて、口からモワモワ変なの出してただけで、殆ど役に立ってなかっただろ。なのにエラソーだぞ、オッサン」
「オッサ……!?」
堪忍袋の緒が切れる間もなく散り散りに弾け飛び、びきびきと額に青筋が走っていくのを感じる。兼ねてより老け顔気味だと
同僚だった奴らにもからかわれ、気にしていたあっしにとって、その言葉は決して触れてはいけない、特大の地雷だった。
「こんのクソガキャ、ほぼ終わり掛けとはいえ、まだ青春時代を生きているぴちぴちの俺様をつかまえて、オッサンだと!?」
「ふん、どっからどう見てもむさいオッサンにしか見えないぞ。オレがクソガキなら、おまえはクソガラスだな、オッサン」
言って子ニューラはは、べーっと舌を出した。怒り狂って追おうとするが、子ニューラはひょいとマフラー野郎の陰に隠れて盾にし、
マフラー野郎もまあまあと手であっしを制した。
「馬鹿だね、ガキと本気になった言い争ってどうすんだい……。アタシに任せな」
背後でニャルマーが呆れたようにぼそりと呟く。舌打ちと共にあっしは引き下がり、ニャルマーに任せる。
「あのね、コリンクも私達の大事な仲間なの。だから、教えてくれないかな……?」
少女のような声色で少し誘惑するようにしてニャルマーが頼み込む。その様子をマフラー野郎の後ろから子ニューラは
怪訝そうに見やった後、何やら近付いてくんくんと鼻を鳴らしだした。
「おまえ……結構、いい年だろ」
「なっ!?」
子ニューラの言葉に、ニャルマーは仰け反りそうなほどびくりとして飛び退いた。
「獲物の鮮度は匂いでわかるぞ。オレ知ってるもんね、そーいうの年増の若作りっていうんだよな」
ニャルマーの心に被せていた仮面に、ぴしりとヒビが入る音がここまで聞こえてきたような気がした。
「こんのクソガキャ、ほぼ過ぎ去ったとはいえ、まだ青春時代にしがみ付いているぴちぴちのアタシをつかまえて――」
「結局、俺様と同じ末路じゃねーか……」
あっしらを見兼ねた様にマフラー野郎はやれやれと溜め息をつく。
「オレ、あいつら嫌いだ! 助けて、ネズミー」
駆け寄って再び後ろに隠れようとする子ニューラに、マフラー野郎は真直ぐに視線を合わせて向き合った。
「もう少し君の話を聞いてあげたいのは山々なんだけど、あの二匹が言っていることも大事なんだ。
あまりここに長くいるわけにはいかないし、コリンクを助けに行きたいのは本当だ。それに君もお父さん達の待つ安全な所まで
無事に送り届けてあげたい。だから、分かるところまででいいから、教えてくれないか?」
ゆっくりと言い聞かせるようにマフラー野郎は話す。子ニューラはしばらくの間悩んだ後、こくりと静かに頷いた。
「……うん、分かった」
「いい子だ」
マフラー野郎はにっこりと微笑んで、子ニューラの頭を撫でた。子ニューラは気恥ずかしそうにしおらしく俯く。
自分達の時とはあまりの態度の違いに、あっしとニャルマーは陰で「けっ」と示し合わせたように毒づいた。
「まずはコリンクのことだけど、ニャルマーの言う通り君のお父さん達が襲ったトラックに、
青い毛の色をした君と同い年ぐらいの山猫が載せられていた筈なんだけど、俺達が来た頃にはもう檻が空っぽになっていたんだ。
どこに行ってしまったか知らないかな?」
「そいつなら、親父達が連れてったぞ。親父達は、あの嫌な黒服共から奪い取れたものがポケモンだった時は、
必ず里まで連れて帰って来るんだ。」
「まさか、そのまま食っちまうってわけじゃないだろーねッ!?」
最早、本性を隠す必要も無く、ニャルマーはがなるように問う。子ニューラはムッとして睨んだ。
「そんなことしねーよ! そりゃオレ達は獲物を襲って喰う事もあるけど、黒服共から奪い取って助けた奴らだけは、
ケジメとか何とかいうので絶対殺して喰ったりしない様に皆にも親父は言ってんだ。元居た場所に帰せる奴は帰すし、
帰る場所の無い奴は里で面倒見てる。だから、そのコリンクとか言う奴も絶対無事だ!」
GJ!
GJ
明日か明後日にでも続き書くぜ
保守
「どうだか。アタシの知ってるニューラ共は、けじめなんて厳格なもんとは程遠いごろつき共だったよ。
そんな決め事、ちょいと小腹が鳴ったら最後、コロッと忘れちまいそうなもんだね」
「親父はそんなヤツらとは違うやい!」
顔を真っ赤にしてニャルマーに食って掛かろうとする子ニューラを、マフラー野郎は間に入って抑える。
「まあまあ、落ち着いて。君の言うことはちゃんと信じているから、な」
宥められながらも、子ニューラは低く唸りながらマフラー野郎の隙間からニャルマーに怒った視線を向けていた。
「ごめんよ、大好きなお父さんのことを悪く言われたら、怒るのは当然だ。だけど、ニャルマーも、
大切なコリンクが心配で、少し刺々しくなっているだけなんだ。許してあげてくれないかな」
子ニューラを宥めながら、マフラー野郎は肩越しにちらりとニャルマーを窘める様に見やった。
ふん、とニャルマーは顔を背け、それに負けじと子ニューラもぷいとそっぽを向く。
「ま、仕方ないか。今のところは」
薄く溜め息を漏らし、マフラー野郎は妥協したように呟いた。
「無事に預かってくれているのなら、俺達はコリンクを迎えに行かなきゃな。君のお父さん達が居る、
その里までの道を案内してもらえると助かるんだけれど」
改めてマフラー野郎が頼むと、子ニューラは再び悩む素振りを見せる。
「うーん、里の場所は仲間以外には内緒にしないといけないんだけど……。おまえ、いいヤツだしなー……」
子ニューラはしばらくの間思案しながらマフラー野郎の顔を推し量るようにちらちら見た後、
急に何か思い立ったような表情を浮かべた。
「そーだ! オレのお願い聞いてくれたら、案内してやってもいーぞ」
「お願い?」
急な申し出に、マフラー野郎は首を傾げる。
「うん! 里に行く前に、ちょっと連れて行ってほしいところがあるんだ。エンジュシティってところなんだけどさ」
「ヤミカラス、知ってるかい?」
すかさずマフラー野郎はあっしに振る。
「ああ、このジョウト地方の北側にある、古びた雰囲気のでけえ町だよ。そこに一体何の用があるってんだ?」
「今の時期、エンジュに行くと、すげーキレーなコーヨーってのが見れるって親父達が言ってたんだ。
知ってるか、コーヨー。フツー、木の葉っぱって緑なのに、まるで燃えてるみたいに真っ赤に染まるんだって、
自然の力ってすげー! オレ、それが見てみたくってなー」
子ニューラは目を輝かせて、うきうきと語る。
「あのなあ、俺様達は呑気な観光旅行してるわけじゃねえんだよ。別にそんなもん今じゃなくても、
後で勝手に好きなだけ自分で見に行くなりすりゃいいだろうが」
「今じゃなきゃダメなんだよー! オレ、大事なアトのトリが何とかで、全然里の外には遊びに行かせてもらえないし……。
上手くこっそり抜け出しても、すぐにバレて連れ戻されちゃって、こんなに遠くまで来れるチャンスは滅多にねーもん。
だから、なー、頼むよネズミー」
ほっしゅ
明日明後日にでも続き書く
保守
あっしから顔を背け、子ニューラはマフラー野郎に再び纏わりついて懇願する。
「でも、早く帰ってあげないとお父さん達も心配しているんじゃあないかな。話を聞くに、君は今も
誰にも行き先を告げずに隠れて抜け出してきているってことだろう?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ、少しだけ遠回りになるだけだ。それに、親父達はオレのことを心配しすぎなんだぞ。
もうちょっと自由に外に行かせてくれたっていーのにさ。だからちょっとは子離れしてもらわねーとな」
諭そうとするマフラー野郎に、子ニューラは強情を張って言った。
こいつが里を抜け出たがるのは外への純粋な興味の他に、過保護な――と感じるのは当人だけで、
周りからしてみたらまだまだ妥当な扱いなんだろうが――親達への反発も含まれているように見えた。
こましゃくれたガキにありがちな思い上がりってやつだな。あっしは鼻で笑う。
「ケッ、半人前にも満たねえようなガキンちょが、なーにが子離れだ。ついさっきまで蜘蛛共にビビッて
樹の上でぶるぶる縮こまっていたくせによ」
冷やかすあっしに、子ニューラはムキになった様子で振り返る。
「う、うっさい、クソカラス。オレだって親父に稽古つけてもらってるし、ホントは強いんだぞ!
喧嘩しても、年上のヤツにだって負けないもんね。でも、虫は……特にあの蜘蛛は、その……」
途中までの威勢はどこへやら、蜘蛛の話となると途端に子ニューラはばつが悪そうに言葉を濁した。
弱みの確信を得、あっしはにやりとほくそ笑む。
「いいのか、ぐずぐず寄り道なんてしてると、またあの蜘蛛共が出てくるかもしれねえぞ。うじゃうじゃーってよぉ」
身振り手振りも交え、あっしは子ニューラを存分に脅かす。オッサン呼ばわりへの仕返しも込めていた。
子ニューラは「う……」と言葉を詰まらせ、毛並みをぞわりと振るわせる。
思わぬ反応のよさにあっしの大人げなさにも拍車がかかり、ますます脅かしに熱がこもった。
「一度目をつけた獲物には奴らはとことんしつこいって聞くぜぇ? おや、あの木の陰で今何か、
動いたような気がしたぞ……クカカ」
びくりとして子ニューラは顔を青ざめ、ますます縮こまる。
「さあ、分かったらわがまま言ってねえで、さっさと案――あたッ」
後一押しというところで、ぽかり、と頭に軽い衝撃を受ける。振り向くと、呆れた様子でマフラー野郎が拳を握っていた。
「そこまで。子どもにあまりいじわるするんじゃない」
「な、何しやがんだ。折角、もう少しで余計な手間が省けそうだってのによ。ガキだからって甘やかしすぎだぜ」
子ニューラに聞こえないよう声を潜めてあっしは言った。
「脅迫して無理矢理嫌々案内させたって意味が無いだろう。ちゃんと信頼してもらわなきゃ。
君は、大事な子どもがいなくなって気が立っているであろうニューラ達を敵に回したいのかい?
コリンクだって無事に返してもらわないといけないっていうのに」
ひそひそとマフラー野郎は答える。
「まず子どもから誑かして外堀を埋めにかかるってか」
「……言い方は悪いが、そういうことさ。それに、束の間の自由な冒険に少しぐらい付き合ってあげるのも一興じゃないか。
程度と質の違いはあれ、自分の意思じゃなく一所に押しとどめられている辛さは、君もよく知っているだろう?」
にっとマフラー野郎は微笑んだ。それを言われると、あっしも少々弱い。
「チッ、勝手にしやがれ」
GJ
週末にでも続き書くよ
保守
保守
きょとんとしてあっしらのやり取りを眺めている子ニューラに、マフラー野郎はにこやかに振り返る。
「分かったよ。君をエンジュシティまで連れて行ってあげよう」
「ホントか? でも……」
一瞬、子ニューラは笑顔を浮かべそうになったが、すぐにそれを沈めてあっしに非難じみた目を向けた。
「大丈夫、ヤミカラスも行ってもいいってさ。もしも本当にまた蜘蛛達が出てきても、俺が守るから平気だ。
後は、ニャルマーだけど……」
言いながら、マフラー野郎はニャルマーの方を見やった。ニャルマーは背を向けたまま、
不機嫌そうに尻尾をぱたぱたと左右に振るう。もうどうにでもしろと無言の投げやりな返答に思えた。
「……一応、妥協してくれそうだ。というわけで、出発しようか」
マフラー野郎が手を差し伸べる。子ニューラはパッと表情を晴らしてその手をとった。
「うん! やっぱりおまえって、いいヤツだな! そーだ、じこしょーかいがまだだった。オレ、ニューラ。
おまえはオレのことニューラって呼び捨てにしていーぞ。特別だかんなー」
繋いだ手をぶんぶんと嬉しそうに振るいながら子ニューラは言った。
「はは、それは光栄だ。よろしく、ニューラ。俺の名はピ――」
「ひゃは、よろしくなー、ネズミー!」
マフラー野郎も名乗ろうとするが、そんな事はお構いなしに感極まった様子の子ニューラに
飛びつくように抱きつかれて遮られる。
「……まあ、いいか」
苦笑してマフラー野郎は頬を掻いた。
生意気には違いねえが、ああやって無邪気にはしゃいでる姿を見ていると、あのガキにもちったあ可愛げが
あるじゃねえかと思えてきた。あっしもちょっと意地悪くしすぎていたのかもしれねえと少し省みる。
「ヘッ、精々そいつの優しさに感謝しやがれよ。後、今までのおめえの生意気な態度にも目をつむり、
許してやろうとしている心の広い俺様にもな――ニューラ」
あっしが精一杯の歩み寄りをして声がけると、子ニューラの表情は急に一転してムッとしたものに変わった。
「おまえには呼び捨て許してないぞー。オレはおまえのイジワル絶対に忘れないもんね。
どうしてもオレを呼びたければ、ニューラ様って言えー。いや、やっぱり強くてかっこいーニューラ様がいいかな。
優しくてかわいーニューラ様もいいなー。うーん、賢くてうつくしーニューラ様ってのも捨てがたいなー」
調子付いた様子で、子ニューラはあれこれ言い出す。
「こっちが下手に出りゃ……! 絶対そんな風にゃ呼ばねえよ、クソガキが!」
「あー! またクソガキって言ったな、クソカラス!」
前言撤回だ。やっぱりこいつは可愛げのカケラもねえクソガキだ。子ネズミのチビ助といい、
この一行にはろくなガキが加わりゃしねえ。
・
――「その子ニューラが今のマニューラだな?」
どこか可笑しそうにして、確信したようにエンペルトは言った。
「ああ、その通りでえ。その生意気が寄せ集まって出来たようなクソガキが、今のクソネコのヤツだ」
「あはは、やっぱり。その頃から今の片鱗はあったんだな。生意気だなんて、まだ子どもらしくて可愛らしいもんじゃないか」
「ま、今の奴に比べりゃ幾らかガキらしさが残ってる分マシかもしれねえな。それが、あんなになっちまったのは、
いつからだったか……あれじゃまるで、親父さんの生き写し――。っと、そうそう、それより、あのクソネコにも、
子ニューラの頃と決定的に変わってない所が一つだけありやした」
何か言いかけたところで、ドンカラスは突然話題を強引に変えるように切り出した。
「なんだい?」怪訝に思いながらもエンペルトは聞き返す。
「へへ、奴は今でも虫、特に蜘蛛が大の苦手なんでえ。必死に強がって隠しちゃいるがな。いつかの酒の席で、
酔ったあいつがぽろりと漏らしたんだが、なんでもガキの時にポッポの卵と間違えてイトマル共の卵を
里の食糧庫までこっそり沢山持ち帰ったんだと。そうして次の日、卵の様子を見に食糧庫にいったら、
そこには孵化したイトマル共が壁に天井にうじゃうじゃと……その光景は今でもたまに夢に見るらしいぜ。
親父さん達にも後で大目玉食らって、それ以来トラウマなんだとよ。マヌケだよな、クハハ。今度奴が洋館に来たら、
試しに蜘蛛の玩具でもいいからひょいと投げつけてやりなせえ。飛び上がって悲鳴を上げるかもしれねえぞ」
「後が怖いから遠慮しておくよ……。しかし、トラウマになっているほど苦手となると、今いざ本物のイトマルや
アリアドスに出くわしたら、どうなってしまうんだろうな」
「シンオウには海を挟んだリゾートエリア辺りにまで行かないとあの蜘蛛共はいねえからいいが、もしもバッタリ
本物と出くわしたりなんてしたら、泡吹いてぶっ倒れちまったりしてな。ま、なんにせよ痩せ我慢は長くは持たねえだろうさ」
・
保守
金、土にでも続き書く
ほしゅ
hosyu
昼前ぐらいには投下する
「っ、この――ッ!」
飛び掛ってくるイトマルの短くも鋭い牙を、すんでの所でロズレイドは両腕の毒針を交差させて受け止め、
押し返して斬り飛ばす。三方を無数のイトマルに囲まれる中、ロズレイドとマニューラは二匹並んで懸命に
それを迎え撃ち、背後の木の洞で怯え震えているオオタチの親子を守る。だが、状況はジリ貧になる一方で、
じわじわと二匹は追い詰められていた。
ロズレイドによって深々と斬り付けられた筈のイトマルがむくりと起き上がり、仔細無い様子で包囲網へ復帰する。
毒針も、葉による攻撃も効き目が薄く、ロズレイドにはイトマル達に決定打を与える手段が無かった。
冷や汗を滲ませながらロズレイドは横目でマニューラを見やる。荒く息を漏らす姿にいつもの余裕はまるで無く、
その表情は思いなしか少し青ざめて見えた。
「大丈夫ですか、マニューラさん。まさか、毒を?」
ロズレイドは不安に駆られ、声をかける。マニューラは黙ったまま小さく首を横に振るった。
確かにその体のどこにも咬まれたり刺されたりしたような傷は見当たらず、毒を受けたような形跡は無かったが、
やはりマニューラの様子はどこかおかしかった。襲い来るイトマル達をマニューラは次々と往なし、切り伏せていく。
だが、何故かその両手には普段は投擲にしか使わないナイフ状の氷の礫を握り、
己の爪ではなくわざわざそれでもってイトマル達を斬り付けていた。幾ら鋭利とはいえ所詮は氷製。
数回斬ればすぐに欠けるか折れるかして、その度に新しい刃を作り直さなければならない。それに、
イトマルが飛び掛ってくる度、マニューラは表情を強張らせ、妙に過敏に大げさな動きでそれを避けた。
何だか随分と無駄に体力を消耗しているようにロズレイドには見えた。一体、どうしたというのか。
こんな調子ではとても長く持ち堪えられそうに無い。
何か打開策は無いか、ロズレイドは頭を巡らせる。自分の毒や草の技では、毒蜘蛛達には殆ど効き目が無い。
だが、そういえば、まだスボミーからロゼリアであった時、危機的状況において時折発現していたあの念動の力。
――前にトレーナー用の教本か何かで読んだことがある。毒を持つポケモンには念力などの超能力が有効である、と。
あれを引き出すことが出来れば、イトマル達を退けられるかもしれない。長らく使う機会がなかった上、
上手く制御できるかは分からないが、やってみる価値はある。ロズレイドは集中し、己のどこかに眠っている力を
呼び醒まそうと頭の奥隅々まで意識の根を伸ばした。
――「何が何でも慣れろ、死ぬ気で対処法を編み出せ。オメーにもう後はねえ」
意識の根が触れて引っ張り出したのは、いつかのマニューラの言葉だった。何故だってこんな時に?
不可解に思いながらも、ロズレイドはその時を想起する。
確か、あれは僕が剣の稽古をつけてもらおうと、キッサキのマニューラさん達のアジトにお邪魔させて貰っていた時だったっけ。
あの”つーのつーの”うるさいニューラさんにこっぴどく負けて意気消沈している僕に、マニューラさんは厳しくそう言ったんだ。
あんなまるで冷凍庫のようなアジトの奥深くにまで押し込まれ、何て無茶苦茶ばかり言うんだと思ったけれど、
その言葉達を胸にバネに、歯を食いしばって最後まで諦めなかった。その結果、僕は冷気にもあのニューラさんにも打ち勝ち、
打ち解けることが出来たんだ。出来るだけの力を掴み取ったんだ。
今の僕なら、燃える様に暑い日照りの中だって、体が押し潰されそうな程の豪雨の中だって、耐え切って順応してみせる。
どんなに天気が気まぐれに、時に激しく目まぐるしく移ろおうとも、等しく悠然と受け入れる空のように――。
意識の根が、力の片鱗に触れる。すかさず絡めて捉え、一気に引き上げていくと同時に、ロズレイドは目を見開いて、
目前まで迫ったイトマルに向けてその力を解放した。その瞬間、無意識に突き付けた腕の花から無色透明の泡のような
球体が放たれる。泡のような球体はイトマルが触れると忽ち大きな風船が割れるような音を立てて炸裂した。
爆発の衝撃でイトマルの体はくるくると弾き飛ばされ、樹に叩きつけられて根元にごろりと転げ落ちた。
今のは、一体――? 引き出された力は、本来求めていた念動力とはまるで違うものだった。力の正体は掴めないが、
毒針や葉による攻撃よりは幾らか奴らにも効き目がある。今はそれだけで十分だと、ロズレイドはその無色透明の泡のような球体を
間髪入れずにイトマル達に向けて次々放った。突然の正体不明の反撃と、続け様の炸裂音にイトマル達は驚き、浮き足立つ。
マニューラはハッとした様子で道具袋を探り始め、中から白色の煙が中央に渦巻く不思議な玉を取り出した。
「今の内だ。イタチ共を連れ出して逃げるぞ!」
「あ、はい!」
ロズレイドが応じると同時に、マニューラはその玉を地に投げつける。玉から白煙がもうもうと上がり、辺りに立ち込め始めた。
「テメーら、走れるな!? 立て!」
煙に紛れながら洞に大急ぎで駆け寄り、マニューラは出し抜けにオオタチの親子に声掛ける。
「ひっ、イトマルだけじゃなく、ニューラ族まで……。うう、もうおしまいなの……?」
オオタチは状況を飲み込めない様子で震え上がり、オタチを守るように体を丸めた。
「ああ、もう、テメーらなんざ喰うつもりはねーよ! ロゼ、もうメンドクセーからこいつら縛り上げろ、無理矢理連れてくぞ!」
「はい。あの、ごめんなさい、ちょっと乱暴ですが、それほど悪いひとでもないんです……」
「え、え……?」
蔓でオオタチ達をぐるぐる巻きに縛ると、ロズレイドとマニューラはそれを抱えて一目散に駆け出した。
「キャー――――……!?」
オオタチの悲鳴が遠ざかって聞こえなくなり、煙が晴れる頃、イトマル達の目の前からは獲物達の姿は忽然と消えていた。
後一歩というところまで追い詰めかけていた獲物達をまんまと捕り逃してしまい、イトマル達は集って悲観と落胆にくれ、
それと同時に、何か今後来たる悪い予感に怯えるようにぎちぎちと騒ぎ立ち始めた。直後、イトマル達の集う背後の茂みが、
ガサガサと揺れ動く。びくり、として、イトマル達は一斉に茂みへと目を向けた。茂みの奥からぬっと姿を現したのは、
赤と黒の毒々しい色をした大蜘蛛、アリアドスの番いだ。二匹とも過去に火傷でも負ったのか、それぞれ胴と背中に焼け爛れて
出来たような古傷が残っていた。
狩りの成果を求めるアリアドスに、恐る恐ると言った様子でイトマルの一匹が失敗を報告する。背中の爛れたアリアドスは前脚を
振り上げて怒り、瞳を煌々と輝かせた。あわれイトマルは見えない力に宙高く放られ、森の彼方へと消えていった。容赦ない仕打ちに、
他のイトマル達は震え上がる。
胴の爛れたアリアドスがやりすぎだと窘める様にギィギィと背中の爛れたアリアドスに顎を鳴らしさざめく。
この時期はひどく腹が減る、落ち着いてなどいられるか、と言わんばかりに、背中の爛れたアリアドスは耳障りな金切り声を上げて反論した。
まだ逃げ切られたわけじゃあない、そう優しく宥め囁くようにさざめきながら胴の爛れたアリアドスはそっと前脚で地面を示した。
地面には、よく目を凝らさなければ分からないような、糸が一本。延々とどこかへ伸び続いていた。背中の爛れたアリアドスは
地面に続く糸に触れ、微細な振動を感じ取る。まだ糸は獲物へと繋がっている――アリアドスは顔を見合わせ、
ほくそ笑む様に紫の目をぎらつかせた。
GJ
保守
今週末にでも続き書きたいです
保守
保守
>>519 すごく懐かしい
ライチュウさんが可愛かったな
オオタチ親子を担いだまま、ロズレイドとマニューラは鬱蒼とした森林を駆け続けた。
地形が起伏に富み始め少しずつ森が開け始めた頃、二匹はぜえぜえと息を切らした様子で
徐々に歩を緩める。
「もう充分、撒けただろ。ちょっと休むぞ」
肩で息をしながらマニューラは言った。はい、とかすれて声にならない声でロズレイドは応じる。
オオタチ達を地に降ろすと、二匹は大きく息をつきながら風船が萎み込むようにその場に
ぐったりとしゃがみ込んだ。
「ったく、手間かけさせやがって」
荒く呼吸を整えながら、マニューラは縛られたままのオオタチ達を横目で見やる。
オオタチはびくっと身を強張らせて、怯えた目で見返した。
「うう、私達をどうつもりなの……」
震える声で問うオオタチに、マニューラは面倒そうに立ち上がり、無言で爪を構えて寄っていく。
「ひ……、私はどうなってもいい、でも子どもだけは許して……」
今にも振るわれんと翳された鋭い刃のような爪を前に、オオタチは全てを諦めてぐっと目を閉じた。
数回の風を切るような音の後、痛みも何も感じずオオタチは怪訝に思って恐る恐るゆっくりと目を開く。
すると、自分達には傷一つ無く、縛られていた蔓だけがぱらりと切れ落ちた。
「あ、あら?」
戸惑うオオタチに、ロズレイドは脅かさないよう落ち着いて事情を説明した。
「そ、そうだったのですか。私ったら、ごめんなさい、まさかニューラ族の方に助けていただけるなんて
思わなくて……。もう何とお礼を言っていいか……」
誤解が解かれ、オオタチはまだ少し怯えを見せながらも深々とマニューラに感謝する。
「別にいーよ。礼ならしつこくオレを急かしたこいつらに言いな」
マニューラは気が無さそうにふいと顔を背け、布切れの巻かれた左腕でロズレイドの方を指した。
「は、はい。本当にありがとうございます。ほら、坊やもこの方達にお礼を言いなさい」
オオタチは自分の影に隠れているオタチに促す。オタチはもじもじしながらひょっこりと顔を覗かせた。
「ありがと、バラのおにいちゃんと、クロネコの……えーと、うーん――」
オタチは少し困ったようにしてマニューラを不思議そうに見渡す。マニューラは煩わしそうに頭を掻き撫で、
舌打ちした。
「マニューラ、でいい」
「うん、ありがと、マニューラさん」
礼を言うオタチに、ふん、とマニューラは再び顔を背ける。悪態をつきながらも、
マニューラの横顔はほんの少しだけまんざらでもなさそうにロズレイドには見えた気がした。
「あなた達を無事に助け出せて良かったです。でも、奴らに巣穴の場所を突き止められてしまった以上、
もうあの巣穴には戻れませんね……。どこかに行く当てはあるのですか?」
心配そうにロズレイドはオオタチに尋ねる。
「それなら、あの巣穴は仮住まいでしかなかったので、心配には及びません」
そうオオタチは答えた。
「仮住まい?」
「ええ、私達の本来の住居は二十九番道路沿いにあるのです」
ロズレイドはごそごそとジョウトの地図を広げ、その場所を確認する。二十九番道路は、
ジョウトの南東外れにある道路だ。
「僕達が今いるのは、そこから北西の三十一番道路付近……お子さんを連れた散歩にしては少し遠出ですね」
「はい、私達は三十九番道路に住むというミルタンクさんに会うために旅をしている最中なのです」
三十九番道路――地図でその位置を確認して、ロズレイドは少し驚いた。三十九番道路はジョウトの北西外れ、
二十九番道路からは相当な距離がある。
「一体、どうしてそんな長旅をしてまでそのミルタンクさんに会いに行こうと?」
「彼女達の出すミルクはとても栄養があると聞き及び、そのミルクを分けてもらおうと……」
「あのね、おとうさんがね、げんきないの」
しゅんとしてオタチが答える。
隅でそっけない様子で黙ってやり取りを聞いていたマニューラの耳が、ぴくり、と微かに反応した。
「主人が病に臥せているんです。それで、少しでも滋養をつけてもらいたくて……」
ほしゅ
金・土辺りにでも続き書く
保守
ほ
ごめん、ちょっと遅くなりそうだ。
昼過ぎか夕方ぐらいまでには投下する。
529 :
名無しさん、君に決めた!:2011/06/05(日) 11:19:20.34 ID:3WPGOZd80
わたし待ーつーわ
いつまでも待ーつーわ
沈んだ様子で経緯を話すオオタチを余所に、マニューラは土埃を払いながら腰を上げた。
「そりゃ大変なこったな。ま、精々気をつけて行ってきなよ」
冷たくあしらうようにマニューラは言い、さっさと一匹で逃げるようにその場から立ち去ろうとする。
「ちょっと、待ってください」
その背をロズレイドは慌てて追いかけて引き止めた。マニューラは小うるさそうに眉間を顰め、
肩越しに振り返る。
「なんだよ」
「このままあの親子を置いていってしまうんですか?」
「当たり前だろ。これ以上なにお節介焼こうってんだ」
「乗りかかった船ですし、せめて三十九番道路付近までは送り届けてあげませんか」
真顔で提案するロズレイドの額を、マニューラは爪でこつんと小突いた。
「あのなあ、こちとら人助けのためにジョウトを行脚してるわけじゃねーんだよ。
あの蜘蛛共から逃がしてやっただけでも、ぶっ倒れちまいそうな程の出血大サービスだ」
「でも、またあの蜘蛛達に襲われないとも限りませんし、放って置けませんよ」
ロズレイドは不安げにしているオオタチ親子にそっと振り返る。ふう、とマニューラは溜め息をついた。
「だったら、オメーだけで行ってくりゃいいだろうが。元々、オメーは勝手についてきやがったんだ。
別に引き止めはしねーさ」
「そういうわけにもいきません。マニューラさんのことも心配です」
「オメーに心配されるほど、オレは落ちぶれたってか? 生意気言ってんじゃねーぞ」
マニューラはロズレイドの胸倉を取り、ぐいと睨みつける。
「そうは言っても、先ほどの戦いの時、何だかマニューラさん調子が悪そうだったじゃないですか」
ロズレイドの指摘に、マニューラの目が一瞬だけ泳いだ。
「別に調子なんて、ありゃ、その何ていうか……」
「もしかして蜘蛛が苦手、とか?」
言いあぐねるマニューラに、ぼそりとロズレイドは思い当たる節を口にする。
マニューラは微かに息を呑み、突き放すようにロズレイドから離れた。
「ばっ……バカヤロウ、そんなわけねーだろうが。このオレ様を誰だと思ってやがる。
天駆る竜さえも避けて通る天下無双のマニューラだ。あんなクソッタレ蜘蛛如きを恐れるわけがねえだろ」
どんと胸を張り、マニューラは堂々言い放った。その時、不意に頭上の枝葉が風も無いのにばさばさと音を立てる。
「ん? ぶわっ!?」
不審に思って二匹が仰ぎ見た瞬間、葉の隙間からぽろりと力なく零れる様に落ちてきた影が、
丁度よくマニューラの顔面へと覆い被さった。
「一体、なんら――」
驚いて”それ”を引き剥がそうとしたマニューラの手が、急に怖じけたように寸前でぴたりと止まる。
この節くれだったような、それでいて変に軟らかい感触――。脳裏に鮮明に蘇ってくる、幼い時の悪夢。
マニューラは顔に張り付いている”それ”の正体に気付き始め、みるみる内に顔を青ざめさせ、
全身の毛を突風に煽られた黒い波の様にざわざわと怖気に震わせる。今まで堪えて来たものが
大挙して押し寄せ、次の瞬間、絹を裂くような悲鳴が森に轟いた――。
「うー……」
ばしゃばしゃという水音と、合いの手を入れるようにその間に挟まる甚く機嫌の悪そうな低い唸り声。
近場で見つけた泉で、マニューラは半ば顔を突っ込むようにして入念に顔を洗っていた。
「お連れの方は大丈夫ですか……?」
心配そうにオオタチがロズレイドにそっと声を掛ける。
「はい、どこにも怪我はありませんでしたので大丈夫ですよ」
ロズレイドはにこやかに答えた。突然、空から降ってきてマニューラの顔に張り付いた”それ”――イトマルは、
どういうわけか降って来た時点で既に意識が無かったようで、どこも怪我することなく
――精神的には少し響いたようだが――ロズレイドの手によって簡単に引き剥がすことが出来た。
熱心に顔を洗う後姿を見て、ロズレイドは思わずクスクス、と微笑ましそうに笑う。
剛胆不敵の塊のようなマニューラが、まさか本当に蜘蛛が苦手だったなんて。
何だか、初めて”らしい”ところを垣間見たような気がする。
「なに笑ってやがんだよ」
笑い声を聞きつけたマニューラが、勢いよく顔を上げて殊更不機嫌そうに振り返る。
「いえ、何でも。はい、これどうぞ」
そそくさと表情を取り繕って、ロズレイドは包帯の切れ端をハンカチ代わりに差し出す。
「ケッ」とマニューラは毒づき、包帯を奪うように受け取って顔を拭った。
「……いいか、この事は誰にも言うんじゃねーぞ」
鬣を氷でこしらえた櫛で整えながら、ばつが悪そうにマニューラはぼそりと言った。
「はい、心得ています。……あの、やっぱりマニューラさんも一緒に三十九番道路まで行きませんか。
この先また先程のように蜘蛛が急に現れることがあるかもしれませんし」
ぽつりと最後に弱みを付け加えてロズレイドは提案する。
「ほほう、このオレを脅迫しようってか、ロゼちゃんよォ?」
苛立ちながらも少し愉快そうにしてマニューラは睨み返す。ぎくりとしてロズレイドは首を横に振るった。
「い、いえ、別にそういうわけでは」
「クク、いいさ。オメーもイイ性格してきたじゃねーか。舎弟分の立派な成長として捉えてやるよ。
その成長に免じて、今回はテメーのお節介に乗ってやる。……その代わりまたさっきみたいに奴らが現れたら、
しっかりと追い払えよな!」
「はい! お任せください。あの”クソッタレ”どもが現れても、指一本触れさせないようにお守りいたします」
びしりと構えるロズレイドを、余り調子に乗るなとマニューラは小突いた。
保守
週末にでも続き書きたいです
hosyu
保守
ヤドン達が消息を絶ったという話の真相を突き止めるため、俺達は南西にあるというヒワダタウンを
目指していた。人間の文字が読めるために自ずと地図役を担っていたロズレイドが身勝手にもマニューラの
後を追って離れてしまい、見知らぬ土地に一寸だけ途方に暮れそうになったこともあったが、
こちらには念のために持っていた予備の地図があるし、文字なら元人間だというデルビルだって読める。
ミミロップの奴めは「ほら、やっぱりロゼちゃんがいないと困るでしょ?」などと、
嫌味たらしく釘を刺そうとしてきたが、まったくもってそんなことは無いのだ。
ここ三十二番道路は、キキョウシティから南に真っ直ぐ伸びる自然と変化に富んだ道だ。
森があり、岩山があり、入り江があり、入り江には古めかしい木製の桟橋がかかっており、
それをまるで高みから見下ろして嘲笑うかのように真新しく冷たい銀色の光を反射するリニアの鉄橋が、
交差して横切っている。
地図によれば、この三十二番道路の先にある繋がりの洞窟を抜ければ、岩山や深い森を越えることなく
ヒワダタウンの近辺へと出られるようだ。本来、少しくらい険しい山や森などポケモンである我らには
どうということは無く、寧ろ人間が寄り付かなくて好都合なのだが、未だに体に馴染まぬというデルビルが足を引っ張る。
まったく、利用価値さえ無ければこんな奴、置き去りにでもしてやりたいところなのだが。
俺達は仕方なく、キャンプに来ているトレーナーや、桟橋で糸を垂らす釣り人達の目につかないように
注意しながら進んでいった。
「そろそろ繋がりの洞窟だぜ。あの岩山のそばにポケモンセンターがちらりと見えるだろ?
洞窟の入り口はあそこから目と鼻の先だ」
言いながらデルビルは鼻先で示す。見やると、ポケモンセンターの特徴的な赤い屋根が確認できた。
人間やそれに連れられたポケモン達にとっては洞窟に入る前の良い休憩所になるのであろうが、
野生である俺達にとってはそうはいかない。回復を終えて気力に満ちたポケモンを連れたトレーナーが
いつその中から飛び出してくるかもしれない危険地帯だ。俺達は迂回して裏手の林の中を慎重に歩んだ。
その途中の事。
「だーかーらー、そんなモンいらないって言ってるだろ!」
「まあまあ、坊ちゃん、そんなこといわずに見てってくれよ。これ、とっても栄養満点で美味しいんだから!」
林の外から、人間の言い争う声が聞こえてくる。何をやっているのかは分からんが、
触らぬ神に祟りなしだ。気づかれない内に通り過ぎてしまおう。
「何だろ?」
そう考えている俺をよそに、アブソルが興味深そうに声がする方へと顔を向ける。
「”おいしい”……?」
更に、ぼんやりとしていたムウマージが途端にスイッチが入ったように目を輝かせて呟いた。
「お前達、人間と余計な関わりは無用――」
「いってみよ、アブソルちゃん!」
「うん!」
俺が止めるのも聞かず、二匹は声のした方へとウキウキと駆けていった。
「あ、こら! 待て!」
神は、触らずとも向こうからやってくる。少なくとも俺に憑いているヤツはそうだ……やれやれ。
二匹の後を追い、俺とミミロップ、デルビルも声のした方へと向かった。二匹は林際の草むらの中で
立ち止まり、草の陰から声の主を窺い出した。
「お前達、勝手な行動は慎めと……」
「しっ、気づかれちゃうよ」
追いついて窘めようとする俺の口を遮ってアブソルは言った。むう、と俺は不服に唸りながらも、
仕方なく黙って様子見に加わる。
林の外には、黒に黄色いラインが入った帽子を後ろ前に被っている、赤いジャケットを着た
十歳前後くらいの人間の男児と、小太りでどこか怪しい風貌をした中年の男の姿があった。
中年の男は黄色帽子の行く手を遮り、しきりに何かを売りつけようと勧めているようだ。
「ああ、分かった分かった、もうしつこいな。で、一体、いくらだよ」
とうとう根負けした様子で、黄色帽子は鞄に手を突っ込んで財布を探りながら尋ねる。
「へへ、まいど。なんとこのヤドンの尻尾、なんとたったの百万円! さあ、払った払った!」
その言葉に、黄色帽子は目を白黒させて驚く。俺の耳も思わずピクリと跳ねた。
「そ、そんな大金払えるわけねーだろ、ばっかじゃねーの!」
慌てた様子で黄帽子は吐き捨てるように言い、中年の男の脇を素早く駆け抜けて
ポケモンセンターの中に逃げ込むように入っていった。
「ちっ、最近の子供は金持ちだと思っていたが……」
中年の男は諦めた様に舌打ちする。
「おい、今のを聞いたか?」
俺は声を潜めながらも慌ててミミロップに声をかける。
「うん、高すぎてとてもじゃないけどあんなの買えないわね」
「たわけ、そっちじゃない。あの男はヤドンの尻尾と言っていた。今回のヤドン達の失踪に関わりがあるかもしれん」
ほしゅ
明日明後日にでも続き書く
hosyu
「わ、わかってたわよ、そのくらい。で、どうすんの? あいつ、見張ってみる?」
「いや、奴はまだまだあそこで押し売りを続けるつもりらしい。あんな調子では売り切れるはずもないし、
諦めて動き出すのを待っていたら、日が暮れてしまう。ここは手っ取り早く奴に聞いてみるとしよう」
「えー、でも、私達の言葉なんて人間には通じないでしょ」
「そういう時のために、おあつらえ向きの奴がいるだろう」
言いながら、俺はデルビルを見やった。全員の視線がデルビルに集う。
「おいおい、待てよ。自分で言うのも何だが、俺みたいな人の言葉を話せる珍デルビルが、
あんな明らかに同業――同情の余地もなさそうな悪徳野郎の目の前にのこのこ出て行ったら、
とっ捕まって見世物小屋に売り払われちまうに決まってるぜ」
うろたえながらデルビルは首を横に振るう。
「誰が直に姿を晒せといった。いいか、よく聞け――」
俺は全員を集めて作戦の概要を話した。
「――では、取り掛かる。準備はいいな、ミミロップ」
「まっかせてー。んふふ、人型相手の体術は師匠から粗方習ってはいたけど、実際に人間で試すのは初めてね」
どこかうずうずした様子でミミロップは両拳を組んでぱきぱきと指を鳴らした。
「やる気なのはいいが、ちゃんと加減はしろ。人間は脆い」
呆れ混じりに俺は言う。
「わかってるってば。じゃ、よーい、ドン!」
掛け声とともに、俺とミミロップは茂みを飛び出し、男の背に向かって勢いよく駆け寄る。
男は道の真ん中でぼうっと突っ立って次の被害者を待ち構えているようだ。
「んん?」
足音に気づいた男が不意に振り返り、俺は男の足元すれすれの地面に目くらましの電撃を放つ。
男が一瞬怯んだ隙にミミロップは素早く間合いを詰め、咄嗟にモンスターボールを取り出してポケモンを
繰り出そうとした男の腕を掴んであっという間に背後から締め上げた。男は苦悶の声を上げ、
手からぽろりとボールを転げ落とす。ボールが開いてしまう前に、俺は素早く滑り込んでキャッチし、
スイッチをロックに切り替えた。
ポケモンを使役するトレーナーは厄介な相手ではあるが、ポケモンを繰り出せないようにしてしまえば、
後はどうということはないただの脆弱な人間だ。特異な例としてトレーナーでありながら自身も自力で岩を砕けるほどに、
ポケモンと共に肉体を鍛え上げてているような無茶な輩もいると聞いたことはあるが、少なくともこいつはそうじゃない。
「ぐぐ――なんだ、こいつら! だ、誰か、たす――!」
騒ぎ立てようとする男の口をミミロップは耳で覆う。
『黙ってなさい。大人しくしていれば、すぐに終わるわ。――って、言っても、通じないか』
容赦なく締め上げながら、ミミロップは男を林の奥へと手際よく引き擦り込んでいく。
『よいぞ、デルビル』
予定の位置にまで男を引っ張り込み、俺は木の裏に身を隠しているデルビルに声をかける。
『おうよ――』……あー、ゴホン。よくやったな、お前ら」
デルビルは犬らしい鳴き声で俺に応答した後、少しくぐもった人間の言葉で言った。
「こ、こいつらをけしかけたのはお前か!」
口の覆いだけ外され、男は声の方へと叫びつける。
「その通り、俺が命じてお前をここまで連れてこさせたのさ」
木の裏に隠れたまま得意げな調子でデルビルは答えた。いくら欺くためとはいえ、人間の、とりわけあんな奴の
ポケモンなどという設定はどうにも癪に障るが、ここはぐっと堪える。
「こんなことして、一体どういうつもりだ!」
「くっくっく、なあに、一つ二つ質問に答えて貰いてえだけだ。お前が売っているヤドンの尻尾は一体どこから
仕入れてきたもんだ? 今、ジョウトじゃあヤドンの尻尾の売買は、大っぴらには規制されているはずだよなあ」
デルビルの問いに、男は途端に顔色を変える。叩けば幾らでも埃が出てきそうだ。
「チッ、てめえ、サツか? いや、その口ぶりからして――」
「おっと、やれ、ミミロップ」
『はいはい』
言われるまま、ミミロップは男の腕を締め上げる力を少し強める。「ぎゃっ」と男は短い苦悶の叫びを上げた。
「質問を質問で返すんじゃあねえよ。先生に習わなかったか? 大人しく答えたほうが身のためだぜ。
そのウサギとネズミは一見かわいい顔して、凶暴なのさ」
「こ、こんなことしてただで済むと思ってんのか。俺の仲間が黙っちゃいねえぞ……!」
「それはお前に何かあったのがバレりゃの話だろう? 今ぐらいの時期は、アリアドスやヨルノズクが冬に備えて腹を空かせてる。
こんな所に手ごろな動かない肉の塊が転がってたら、あっという間に片付けてくれるだろうなあ……」
人間の言葉でありながら人間にあらざぬもののように冷徹に響く声。男の顔が、みるみる青ざめていく
「わ、わかった、話す! ヒワダタウンの、ヤドンの井戸だ! あの井戸の奥にヤドン達を閉じ込めて、尻尾を切り集めているんだ!」
GJ
GJ!
明日か明後日にでも続きを書きたいです。
保守
これで話の繋がりが見えてきた。
ヤドン達の失踪には、やはり人間共の薄汚れた思惑が絡んでいたのか。
『何ですってぇ?! 何の罪もないポケモン達に、よくもそんな酷い真似を!』
怒りも露わに、ミミロップが男の腕をぎりぎりと締め上げる。
「んぎゃああああああ!!!!!」
そのままではへし折りかねないところを、俺は慌てて押し止める。
『待て! 気持ちは分かるが、勝手な事をするな!』
『どうなったっていいわよ! こんな奴の一人や二人!』
『腹立たしいのは俺も同じだ! ……だが今は、情報を収集する方が先決、という事を忘れるな。
こんな輩を痛めつける事ぐらい、後で幾らでも出来よう……おい、続けてくれ』
どうにかミミロップを窘め、更に質問を続けるようデルビルに促す。
「……成程、ドン臭いヤドン共から搾取し、お前らは楽して大儲け、って魂胆か」
俺達の様子を見て溜め息を吐きながら、デルビルは尋問を続ける。
「そうだ……もっとも、俺はただの下っ端の下っ端で、切った尻尾を売り捌くよう命じられてるだけで……」
「実行部隊は別にいる、って訳かい。お前ら、どこの組織のモンだ?」
「そ、それは……」
「言え、さもないと……」
口籠るところにミミロップが再び力を込めると、男は「ひっ」と息を詰まらせ、絞り出すように慌てて叫んだ。
「ろ、ロ……ロケット団だ! てめえも名前ぐらい聞いた事あるだろ! あの、悪名高きロケット団だ!」
「な、何ぃ?!」
『何だと?!』
『ええっ?! またあいつら、こんな悪どい事やってんの?!』
「どうだ、ビビったか?! 公にゃ解散させられた事になっちゃいるが、まだまだ組織は健在だ!
仲間もあちこちに大勢潜伏している。近く、このジョウトを乗っ取ってやる計画だってあるんだぜ!」
驚く俺達にやや強気になったものか、男は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
どうやら、一度結び付いてしまった因縁は、容易には消えぬものらしい。
確かに、ポケモンを商品としてしか見ていない奴らなら、このような非道な所業も平気でやり兼ねん。
忌まわしきグレンタウンの屋敷、ハナダの洞窟での一件、不自然なリニアの停止……
道々感じてはきていたが、奴らはしぶとく生き残り、再起を目論んでいたのであろう。
――俺は一抹の不安を感じて振り返り、口を噤んだままのデルビルを窺う。
ここに至っては、もう勿体付ける必要もあるまい。
十中八九、こやつ――デルビルの正体は、この男同様、ロケット団の残党であろう、と俺は睨んでいる。
そんな奴が仲間の所業を聞き、一体どんな反応を示すのか。
急に媚びへつらう態度に出るか、はたまた、現在の姿を恥じて怯えるだけか。
「……き、聞いてねえぞ、そんな計画……何しろ、まだ……――様は……」
だが、俺の予想に反し、奴は驚きと焦りの入り混じったような顔で、何やらブツブツと呟いている。
その様子に不可解なものを感じながら、俺は木の幹を叩いて奴に注意を促す。
ようやくデルビルはハッと我に帰り、気を取り直したように言葉を続けた。
「そ、そうか……だったら道理ってもんだぜ……首謀者は誰だ? 一体、誰がお前らに命令している?」
「ヒワダで指揮を取ってるのは、幹部のランス様だ。まだ若いが、かなりの切れ者だぜ」
「……ランス?」
ふとデルビルは耳をピクリと蠢かし、眉間に皺を寄せた。その表情が、何故か次第に強張っていく。
「奴が……幹部? あの気障ったらしい若造が幹部だとぉ?! てめえ、今そう言ったのか?!」
怜悧な態度から一変、急に噛み付かんばかりに語彙を強めた相手に対し、男はビクッと体を竦めた。
一度は取り戻した自信もみるみる萎んだのか、その体がガタガタと震えだす。
「ご、後生だ、助けてくれ! ここまで喋った事がバレたら……俺は仲間からも狙われちまう!!
何しろ、ランス様は組織で最も冷酷と呼ばれた……」
「もういい!」
男の懇願を遮り、デルビルは爛々と赤く目を光らせ、牙をギリっと噛み鳴らした。
「ご苦労だったな、てめえはもう用済みだ! おい、ピカチュウ! ミミロップ! こいつを始末しろ!」
「そ、そんなあ! 全部正直に話したじゃねえか!! ポケモンの餌だけは勘弁してくれええ!!!」
『おい、そんな事をして、本当にいいのか?』
デルビルの意外な豹変振りに内心驚きつつも、俺は一応の確認を取る。
「構わねえよ! あんな野郎の下に付くなんざ、どうせロクな奴じゃねえ!」
デルビルは一瞥もせず、怒りの表情のまま、吐き捨てるように言い放つ。
まあ、どうせロクな奴じゃない、というのは俺も同感だ。
『と、いう事だそうだ。他ならぬ「マスター」の指示だ。素直に従おうではないか』
『よ〜し! 待ってましたあ〜!!』
ミミロップは不敵に微笑みながらドンと男を突き飛ばし、その拳に真紅の炎を纏わせる。
『まあ、貴重な情報の提供に免じ、餌にする事だけは許してやれ』
「ひいいいい!! や、やめt……ぐぎゃああああああああああ!!!!!!!」
その後、この哀れな男がどうなったのか――それは想像にお任せするとしよう。
GJ!明日明後日にでも続き書くよ
保守
毎回楽しみにしてるよ
保守
人の気配を窺いながら俺達は林を抜け出し、岩壁にぽっかりと開いた繋がりの洞窟の
入り口へと向かう。途中、俺はどこか重苦しげな足取りで歩むデルビルにそっと視線をやる。
男の話を聞いてからというもの、デルビルは思い詰めた顔をして固く口を結んでいる。
首謀者だという”ランス”という名を聞いた際に見せたこやつの動揺ぶりから察するに、
どうやらロケット団の残党も一枚岩では無いようだ。もしも、そのランスとやらに出くわした時、
一体こやつはどのような行動に出るか……今はまだ、首に括ってある縄は後ろ手に隠したまま、
泳がせられるところまで泳がせてみるとしよう。
「なにをそんな、目をとんがらせてワルーい顔してんの?」
不意に横からミミロップが顔を覗き込んでくる。
「別に、どうもしておらんわ。目付きの悪さは昔からだ、放っておけ」
俺はハッとして、不機嫌に顔を背けて言った。「ふうん」とミミロップは不服そうに唸る。
まだ他の者にもデルビルの事は言わぬ方が良いだろう。特にこの短気は、正体を知った途端に
この場でデルビルを締め上げようとしかねん。今、そうしたところで、デルビルとて現状を把握しきれてはおらず、
ろくな情報を引き出せないだろう。言い逃れできぬ程、口に獲物――隠した真実を一杯に溜め込んだ時を見計らい、
一気に喉元を締め上げて吐き出させるのだ。それはさながら、人間のペリッパー飼い漁の如く、な。
「ねえ、さっきからピカチュウが何だか怖い顔してるけど、どうしちゃったの?」
アブソルが心配そうにひそひそとミミロップに尋ねる。
「気にしちゃだめよ、アブソルちゃん。悪い子が移っちゃうわ」
好き勝手言いおって……。
入り口から洞窟内を覗き込むと、松明でも灯されているのかぼんやりとした暖かい光が明暗していた。
道はすぐ左に折れ曲がっており、その先がどうなっているかは、実際に足を踏み入れて見なければ分からない。
この先、それなりの人間の往来はあるだろうが尻込みしてはいられない。もたもたここで立ち止まっていたら、
いつ傍にあるポケモンセンターから人間が出てくるか分かったもんじゃあない。
早々に俺達は先を目指そうと、内部へと足を踏み入れたその時だった。
「いっけねー、やっぱり忘れてきちまったみたいだ。一旦、ポケセンに戻ろーぜ、ヒノアラシ!」
慌てた様子の声と共に、どたばたと左から人影がいきなり俺たちの目の前へと飛び出してきた。
『な……!』
「おっ!?」
あまりの唐突さに避ける間もなく、ばったりと俺達は出くわしてしまう。それは、例の残党の男に
尻尾を売りつけられそうになっていたあの黄色帽子の男児だった。
突然の遭遇に思わず驚き竦む俺達を尻目に、黄色帽子は赤い手帳状の機械を取り出し、
こちらに向けながら呑気にかちゃかちゃと操作し始める。
「なになに、えーと、ピカチュウにデルビル……ありゃ、他の奴らには対応してねーのか。ちぇっ、
だから俺は最新の全国版の奴がいいって言ったのに、『初心者はまだジョウト版の図鑑だけで充分だよ』
だなんてウツギのおっさんもケチだよなあ」
ぶつぶつと文句を言いながら、黄色帽子は図鑑を懐にしまい込んだ。
さて、どうしたものか。このまま何もせずに立ち去るようならば、手出しは無用だが……。
「そーだ! こいつら捕まえれば、ウツギのおっさんも見直して、図鑑を全国版にしてくれるかもな。
へへ、よーし! やるぜ、ヒノアラシ! キキョウのバッジを楽勝で手に入れた俺達に敵はない!」
得意げに笑みを浮かべ、黄色帽子は構えた。
やはり、子供とはいえ、大半のトレーナーは我らに害なす者か。致し方あるまい。
『ミミロップ!』
残党の男の時の様にモンスターボールをはたき落として封じようと、俺はミミロップに声をかける。
『ええ!』
ミミロップも瞬時に応じ、飛び掛ろうとした瞬間、黄色帽子の背後から何かが飛び出してきて、
俺に思い切りぶつかった。不意の一撃に俺は突き飛ばされ、後ろに転げる。すぐに俺は体勢を直し、
襲撃者の姿を確認した。その正体は、背中に炎を燃え滾らせた黒いネズミのようなポケモンだった。
火ネズミは、気力充分な様子で地を掻きながら黄色帽子を守るように立ち塞がっている。
この黄色帽子、ポケモンをボールから出して連れ歩いているだと――!?
GJ!
性格的に
レッド:ゆうかん コウキ:おっとり ヒビキ(ゴールド?):わんぱく
かなw
レッドもコウキもこのスレに出てくる主人公キャラは比較的おとなしめな性格してたから、ゴールドorヒビキの性格は新鮮だなw
次が楽しみでならないね、面白いよw
週末にでも続き書くぜ
hosyu
ほしゅ
ほしゅのカービィ
何故だか知らんが、まとめサイト(?)の章の順番がずれてる。
一章だけが何故か一番下に来てるなw>まとめサイト
『大丈夫、ピカチュウ?』
『ああ、大したことはない』
気遣うミミロップに簡潔に答え、俺は黄色帽子とヒノアラシと呼ばれていた火ネズミを見据える。
我らポケモンは強大な生物だ。俺のように何万ボルトもの電流を放つ者、
鉄をも溶かす業火を吹き出す者、岩石を容易く砕くような剛力を持つ者――
例え体の大きさが一メートルにも満たないような小さな者でさえ、人間よりも大きな力を秘めた者ばかりだ。
それ故、人間どもは我らの力を恐れて普段はあの小さなボールに押し込めて封じ、
都合よく必要になった時にだけ外に出して扱き使うのだろう。
だというのに、この黄色帽子は一体何を考えている。
『今、巷で流行りの”連れ歩き”ってやつだな。ポケモンとの絆をより深めるために、
普段からポケモンをボールから出して触れ合おうって、どこぞの博士だかが提唱した考えだ。
まあ、俺は危なっかしくてそんなこと試そうとも思わなかったが。いつ反抗して逃げ出されたり、
寝首を掻かれるかわかったもんじゃねえしな。――おっと、怒んなよ。人間だった頃には、
お前らの言葉なんてわからなかったんだし、慎重になっても仕方ねえだろ』
最後に付け加えるように取り繕い、デルビルは語った。
なるほど、人間らしい今更で身勝手な流行だ。
非道なロケット団員であったデルビルのポケモンとの関係に対する考えは極端なものであろうが、
他の大半の人間も我らを常にボールの外に出したままにすることは多少の抵抗や不安があるはずだ。
余程の実力あるトレーナーか――例えばレッドのように――長年連れ添ってきた等で強い主従や信頼関係にあるか、
あるいは、我らの持つ力の恐ろしさを知らぬ痴れ者でなければそう易々と真似は出来まい。
この黄色帽子は果たしてどちらか?
「どうしたどうした、早くかかってこいよ。なんなら全員まとめてかかってきてもいいぞ」
自信満々に踏ん反り返り、黄色帽子は挑発する。ヒノアラシも真似をしてどんと胸を張った。
……まず間違いなく、こいつは後者だな。相手の力量も測れないとんだ初心者といえる。
『どうする? お望み通り全員で遊んだげる?』
拳を鳴らしながらミミロップは尋ねる。
『いや、俺だけで充分だ。たかがバッジの一つでチャンピオンにでもなったような気でいる小僧に、
身の程というものを存分に教え込んでやろう』
電流を迸らせながら、俺は一歩踏み出す。
「なんだよ、戦うのは一番弱っちそうなお前だけかー。……ん?」
がっかりしたように言った後、黄帽子は唐突に何かを思い出したようにまじまじと俺の姿を見やった。
「そういえばこのピカチュウってやつ、あのレッドも使っていたポケモンじゃないか?
うん、たぶん前にテレビの試合で見たことある。かっこいいリザードンとかカメックスが活躍する場面しか
しっかり見てなかったからあんまり覚えてないけど、確かこんな小さくて黄色いネズミも時々出てきてたな。
ってことは、こいつに勝てれば、レッドに少し近づけるかも!」
急にやる気を取り戻した様子で、黄帽子は目を輝かせる。
こいつ、レッドのことを知っているのか? 呆気に取られかけて、すぐに思い直す。いや、それも当然か。
レッドはポケモンリーグのチャンピオン、トレーナー達の頂点だ。寧ろ人間達の方がよくその名は知っているだろう。
「となれば先手必勝! 火の粉だ、ヒノアラシ!」
『おうッ!』
黄色帽子の指示にヒノアラシは威勢よく応じ、口から散弾銃のようにはじける炎を吐き出す。
どうやらこいつはレッドに憧れを抱いている様だ。となれば、尚更こいつには思い知らせてやらねばなるまい。
迫る火の弾丸を、俺は帯電させたマントを翻して軽々と弾いた。
『お前達など、強さも、志も、レッドには遠く及ばん!』
GJ
携帯まとめサイトのズレが直ってるな
管理人さん乙です
明日か明後日にでも続き書きたいです
あげ
☆ゅ
保守
煙を振り払い一喝する俺の姿を見て、黄色帽子は目をぱちくりとさせる。
「げ、あんな布切れで防いだってのか!? ……むむ、さすがレッドも使っているポケモン、
ちっちゃいくせに中々やるじゃんか。もう一度だ、気合入れろヒノアラシ!」
力の差を見せ付けてやっても、まだ懲りない様子で黄色帽子は指示を飛ばす。
少し躊躇しながらもヒノアラシは命ぜられるままに再び火の粉を放った。
俺は鼻で笑いながら再度払い除け、素早く奴らに向かって駆け出す。
「うわわ、寄せ付けんな! どんどん撃ち続けるんだ!」
咄嗟に放たれた反撃を俺は即座に横に駆けて避ける。そのまま俺は駆け抜け、
愚直に後を狙って飛び来る火をジグザグに走ってかわし、岩を遮蔽物にして防ぎ、
急に跳んで方向を変え、奴らを翻弄し続けた。
「何やってんだよ、ヒノアラシ! ちゃんと狙えって!」
『やってるよ! でも当たらないんだ!』
最初の余裕はどこへやら、見る見る黄色帽子の表情が焦燥に染まっていく。
闇雲に火の粉を吐き続けたせいでヒノアラシも息を切らし始め、
その火力も密度も油の尽き掛けたランプのように段々と弱まっていった。
ぽふ、と情けない音と煙を出し、火が途切れた一瞬の間隙を縫い、
俺は一気にヒノアラシの懐へと詰め寄る。
ヒノアラシはぎょっとして糸のように細い目を一杯に開き、驚き竦んだ。
「やべ、体当たりで突き飛ばせヒノアラシ!」
慌てて黄色帽子は指示を出し、ハッとした様子でヒノアラシは身構えた。
だが、遅い――俺は尻尾に力を込めてぐるりと一回転、ヒノアラシの足元を払う。
足を取られ体勢を崩した所をもう一撃。二回転し更に勢いの乗った尻尾で、
火に覆われていない無防備な脇腹を殴りぬけるッ!
確かな手応えと共にヒノアラシは大きく吹き飛び、鞠のように地を転げる。
「――ッ! ヒノアラシ!」
叫ぶ黄色帽子を尻目に、俺は背中の火も消え失せて地に蹲っているヒノアラシに詰め寄ると、
手に電流を集めて見せ付けるように掲げた。
『ふん、弱すぎるな。お前も、無鉄砲でマヌケな主人も。レッドに近づく? ふざけるな。
この程度の力では、他のポケモンをただの踏み台としか見ぬ安い考えでは、
あいつには――レッドには何百年経とうが追いつけん!』
見下ろしながら俺は吐きつけるようにヒノアラシに言う。握る拳の中で青白い光が
根っこのように蠢き、今にも抜け出したそうにバチバチと乾いた唸り声を上げる。
『ちょっと、ピカチュウ! さすがにそれはいくらなんでもやりすぎだって!』
俺の行動に、黄色帽子だけで無くミミロップ達も騒ぎ始める。
言われずとも、もとよりとどめを刺すようなつもりはない。ただの脅しだ。
少々やりすぎたような気もするが、ここまで心身ともに叩きのめせばこの思い上がった
黄色帽子と火ネズミの奴も、くだらん幻想は捨て去ることだろう。
きっともう黄帽子の表情は目の前が真っ暗といった様子で絶望に暮れ、
今にも泣き出しそうになっているに違いない。すぐにヒノアラシをボールに戻して、
近くのポケモンセンターに逃げ帰っていくことだろう。確認してやろうと、
俺は黄色帽子の方へと目をやる。だが、その瞳には、一切の諦めも恐れも浮かんではいなかった。
寧ろ、より一層闘志を滾らせた様子でそこに佇んでいた。まったく姿も性格も程遠いというのに、
何故だかレッドの姿が一瞬被って見える。俺は射竦められたようになり、
集めた拳の電流の帯がが空しく虚空に解けた。
「まだだよな、ヒノアラシ……! 俺達はこんな所で諦めたりはしない、そうだろ?」
呼び掛けに呼応するように、ヒノアラシの背に再び火が灯る。いや、そんな生易しいものではない。
火山が噴火するかのごとく、猛火が背中から噴き出した。炎の強さに、俺は仕方なく飛び退く。
ヒノアラシは飛び起きた勢いでぐるぐるとその場で車輪のように回転を始め、
噴き出す炎を巻き込み始める。
「よっし! いいぞ、ヒノアラシ! なんだかわかんないが、”それ”を思いっ切りぶつけてやれ!」
”才能の片鱗”俺の頭に、そんな言葉が過ぎった。この爆発力、こいつ、叩けば叩く程、
成長するタイプだというのか? 俺は振り払うように首を横に振るう。
――認められるか、そんなもの! こんな奴!
回転し押し寄せる業火に向かい合い、対策を図る。あの火力、マントでは防ぎきれんだろう。
もはや、避ける事もできん。ならば、こちらも全力の電撃を真正面からぶつけてやろう。
決死の覚悟を決め、俺はありったけの電流を集める。
しかし、火炎の車輪は突如としてコントロールを失ったように右左にぶれ始め、
俺がいる方から逸れて行った。そして、そのまま誰もいない岩壁へとぶち当たる。
轟音と共に火炎は弾け、中から目を回したヒノアラシが転げ出てきた。
ヒノアラシはしばらく右往左往した後、ばたんと糸が切れたように倒れて完全に気を失う。
俺は思わず気抜けして、ぼんやりとその様を眺めた。
「うわ、大丈夫か! ヒノアラシ」
ヒノアラシのもとに黄色帽子は駆け寄り、抱き上げる。
「くっそー、もう少しだったのになー。……だが、ま、よく頑張ったよな」
黄色帽子はヒノアラシの頭をそっと撫で、ボールへと戻した。
「――他の奴らはポケセンに置いてきちまったし、今回は俺の負けだ。
だけど、次は絶対に負けないからな、覚えとけよ電気ネズミ!」
振り向かずに黄色帽子は言い放ち、洞窟の外へと駆けて行った。
――もしも、あのまま火炎の車輪が剃れることなく向かってきていたら、
果たしてどうなっていたか。……どうせまぐれだ。だが、侮れん。
俺は、岩壁に残された、まるで隕石でもぶつかったかのように焦げて抉れた大穴を見上げた。
保守
明日明後日にでも続き書く
保守
☆
ピカ生のピカチュウが歌っても、音程外れてそう。
歌う姿がまるで想像できんw
ピカの使える技がまた増えるのか……って、一体いくつ技持ってるんだw
何気にロゼとかも多いけどさw
「あーあ、思い知らせるどころか、かえって火を付けちゃったみたい」
呆れた様に言い、ミミロップが傍に寄ってくる。
「ふん、あんな無鉄砲では長持ちはせんさ」
体にこびり付いた煤を払いながら、苛立ちを抑えて素気無く俺は答えた。
「そう? ああいうタイプは一度燃え上がると、諦めが悪いのよー。私は、結構憎めないと思うけどな。
倒れたヒノアラシへの態度を見てても、根はそんなに悪い子じゃなさそうだったし」
黄色帽子の姿に、何かを重ねてでもいるのだろうか。どこか微笑ましそうに、ミミロップは言う。
「悪い子じゃないだと? 奴は自分の力を誇示するためだけに我らを捕らえようとしたのだぞ」
「そこがまだまだ未熟なところ。でも、これから幾らでも変わっていくはずよ。
アンタだって、最初はひどいもんだったじゃない。私との初対面の時も、唐突に”俺の名前を言ってみろ!”
だなんて、どうしようかと思ったわよ。今は少しはマシになったと思うけど。違う?」
ぐい、と俺の鼻先を指で押し、ミミロップはニッと微笑む。
「ぐぬ、別に、俺は何も変わっておらぬわ。そんな昔のことを持ち出すでない」
手を払い除け、俺は不機嫌に顔を背けた。
「ピカチュウ、大丈夫!? どこも火傷してない!?」
顔を背けた先から、割り込むようにアブソルが勢いよく飛び掛り、視界一杯に白い毛が覆い被さる。
「ぶわっ、何だ突然、見ればわかるだろう。どこも怪我などしておらん!」
毛玉から顔を上げ、俺は叫ぶ。全く、こいつら、いつもいつも俺の調子を狂わせおって……。
「おい、いつまでもじゃれてねーで、さっさと先行くぞ。騒ぎを聞きつけて他の奴らが来たらどうすんだ」
苛々したした様子でデルビルが急かす。
「言われずとも、そのつもりだ。というわけで、離せ、アブソル」
「うん」
渋々といった様子でアブソルは腕を離した。
まあ、今後あの黄色帽子と行く道が交わるような機会も、きっともう無いだろう。
余計な苛立ちの種など、いつまでも抱えている必要などあるまい。……そうであってほしいものだ。
「そういえば、ムウマージのやつはどうした? 不気味なほどに静かにしているが」
「マージなら、隅っこでずっと何かをもぐもぐしてるけど……」
怪訝に思いながら俺はアブソルの指した方を見やった。
「んー、あまじょっぱい……」
もぐもぐと何かを咀嚼しながら呟くムウマージの口の端から、ちらりとピンク色の長細い物が覗く。
そういえば、あの団員の男が売っていた”美味しいもの”にあいつは興味を示していたな。
つまり、あの細長い物は――いや、正体を考えるのはよそう。
干す
週末にでも続き書きたいです
hosyu
☆ゅ
書いてる人何人いるんだ?
二、三人くらいかな
どこかで大まかなストーリーの流れを相談してたりするのかね
自分はたまに参加するが、特に相談はしていないなw
一応、過去スレの他に避難所&評論所とか過去の議論スレとか見て、破綻のないようにはしてるつもりだが
また万が一ばったりと人間に鉢合わせるようなことにならぬよう、
今度はミミロップに例の他者の位置を察知することができる波動とやらを
読み取らせながら注意深く進むことにした。波動を読むのは結構疲れるから
あんまり多用はしたくないとミミロップは難色を示すが、つい先程の件もあるし、
出くわした人間と一悶着を起こしながら進むよりは幾らかましであろうと宥め賺す。
その過程で、「じゃあ、代わりにデート一回!」などとろくでもない約束を
取り付けられてしまったが……。まあ、そんな呑気な機会が運悪く巡ってくるようなことも
当分無いだろうし、知らないふりをして黙っていればその内忘れるだろう。
殆ど整備の施されてはいない天然の洞窟は相応に歩きにくくはあるが、
リニアの地下トンネルを彷徨うように進んだ時よりは精神的にはずっと健全だ。
淡いとはいえ明かりが灯されているというのもあるが、そこら中に雑多に転がっている
ごつごつとした岩の輪郭がどこか温かみのようなものを感じさせてくれる。
人間の手により角という角を端から端まで磨きこんで削ったかのように整えられた
地下トンネルとは大違いだ。人間共にはその方が住みよいのかもしれないが、
俺にはあの潔癖なまでに凹凸一つないつるりとした壁面はひどく冷淡で不健全に映る。
物事は出来うる限り寸分の狂いも無く完璧に整えた方が良いと思いがちだが、
中には程々の乱雑さを残しておいた方が良いというものも確かに存在しているのだ。
偶に行き交う人間を避けながら行く途中、一際明かりの強い一角を見つけ、
例のごとくジャリコンビが止める間もなく吸い寄せられるように覗き込みに向かう。
嘆息を噛み殺して後を追い、背後から様子を窺ってみる。
その先では、赤と黄色のド派手な格好をした太った男と、赤茶色の体毛をした
六本の尻尾を持つ狐のようなポケモン、ロコンが互いに競うように火を吹きあっていた。
大道芸人という奴か? なんだってこんな辺鄙な洞窟の一角でパフォーマンスをしているのかは
理解に苦しむが、洞窟を照らす奇妙な明かりの正体は、奴らによるものだったようだ。
納得して、「まだ見ていたい」とぶーたれるアブソルとムウマージを引き摺るようにして
その場を後にした。
その後の道中にも、先程の火吹き男と同じ格好をした同業者らしき者や、
怪獣を模した着ぐるみを着た怪しい輩が居たり、何だか随分と変人達と縁繋がりのある洞窟だった。
よもやこの洞窟の名前の由来はそこから来ているのではあるまいなと勘繰ってしまう。
奴らの同類と化してしまう前に、さっさとこんな洞窟抜け出てしまおう……。
そうして繋がりの洞窟を抜けて三十三番道路に出ると、途端に雨が降り出して俺達を迎えた。
「この辺りは一度降り出したら当分やまねえ。さっさとヒワダの周辺まで走り抜けちまった方がいい」
土地勘のあるデルビルの言葉に従い、俺達は雨の降りしきる木立の中を駆け抜けていった。
ひふきやろうとか、かいじゅうマニアとか、確かに変なトレーナー多かったなw>つながりの洞窟
明日明後日にでも続き書くよ。
hosyu
608 :
ぴかぴか中:2011/07/29(金) 13:14:10.19 ID:RMThzphj0
いやーやっぱりおもしろいなピカ生w
本にしてまとめてほしいくらいだ
しばらくデルビルに続いて走り続けていると、激しく身を打つ雨は徐々に疎らとなっていき、
先の木々の合間に人家らしき陰が見えてきた。あれがヒワダタウンか。
俺達は歩調を緩めて人影を探りながら、用心深く近づいていく。
町の最端へと辿り着く頃には雨はすっかりと上がり、散りゆく雲の間からほんのりと
赤らんだ空が顔を覗かせていた。
「あー、もう。全身、びっしょびしょ!」
ぶるぶると身を震わせてミミロップは水滴を飛ばす。
「うわ、こっちに飛ばすんじゃあない」
「あ、ごめーん。ねえ、ちょっとどこかで体乾かしてかない?」
怒る俺に謝りながら、ミミロップは濡れて少ししぼんだ耳先の毛をタオルのように
丁寧に絞って水を切りつつ言った。
「ここは人間の領域のすぐ傍。そんな悠長なことをしている暇はあるまい。
体など放って置けば直に乾く、我慢しろ」
「まあ、毛が短めの私やアンタやデルビルと、幽霊のマージちゃんはまだいいんだろうけどさ。
問題は……あれは、ちょっと乾かしたげないとかわいそうよ」
そう言ってミミロップが示す方を見て、俺はぎょっとする。そこに居たのは、
ずぶ濡れで白い毛並みをべったりと垂れ下がらせた細身の四足獣だった。
「アブソル……でいいのだよな? だ、大丈夫か?」
「…………うん……」
恐る恐る声をかけると、ショックで放心した様子でアブソルはそっと頷いた。
普段の健康的にふさふさもこもことした面影はまるでない痛ましい姿だ。
「はあ、これでは仕方あるまい……。適当に場を見繕うとしよう」
丁度よさそうな隠れ場所を近場に探す途中、町外れに煙突から煙の昇る小屋を見つけ、
開け放しの窓から中を覗いてみる。家主は出払っているのかひと気は無いが、
奥の窯には火が燃え盛っていた。
「炭焼き小屋みてえだな。そういやヒワダは木炭の名産地でもあったっけか。質が良いらしくて、
結構高値で売れるんだよなあ……へっへ」
部屋の隅に転がる束ねられた木炭を見て、デルビルは舌なめずりする。
「余計な事は考えるな。今のお前に人間の金など何の意味も無いだろう」
「へいへい、分かってんよ」
忠告する俺につまらなそうにデルビルは答えた。
「誰もいないんならさ、ちょっとあの竈の火にあたらせてもらわない? 帰ってくる気配がしたら
すぐに逃げればいいんだし」
「うむ――」
何れにせよ、日がまだ高いうちは町中を派手に捜索するわけにはいかん。周りにひと気の殆ど無い
町外れで、更に都合よく暖かい火まで用意されているこの小屋は休憩場所には誂え向きだろう。
「では、しばらくここで休憩とする。いつ人間が戻ってくるか分からん、気は緩めすぎるなよ」
窓を潜り抜け、俺達は小屋へと上がり込んだ。家主が戻るまでの間、勝手に厄介になるとしよう。
間借りの駄賃は、あの物欲しそうに木炭を眺めている手癖の悪そうな黒犬と、
いたずら好きの紫の幽霊もしっかりと見張って、木炭を守りきることで返すとするか……。
GJ
保守
週末にでも続き書きたいです
ほしゅ
hosyu
個人的な意見だけど、ピカチュウはBURSTハートに対して嫌悪感を抱くんだろな。
初期からだいぶ変わっただろうけど、「ポケモン≧恩人>>一般人」的な価値観が持ってそうだし。
バーストハートってモンスターボール以上にポケモンを拘束するんだろ?
描写的にポケモンの意思とは無関係に力を引き出されている感じ出し、
ピカチュウじゃなくても一般的な良識有るトレーナーならブチ切れるレベルだと思うぞw
ぱちぱちと小さな火の粉が跳ねる暖かな竈を囲むようにして、俺達は一息をついた。
ずぶ濡れで酷い状態だったアブソルも、火の傍らで体を温めて乾かし、ミミロップの手により
丁寧に毛を繕われている内に少しずつ元のツヤのあるふわふわとした毛並みを取り戻していった。
「ごめんね、迷惑かけちゃって……」
しょんぼりとアブソルは呟く。
「いーのいーの、気にしない気にしない」
頭の毛並みを整えてやりながら、ミミロップは微笑んで首を横に振るう。
「でも、いつもボクばかりみんなの足を引っ張っている気がして――」
「ほーら、そんなしょげた顔して、油断してると、こうだっ!」
言葉を押し止めるように、ミミロップは唐突にアブソルの体をくすぐり出す。
「ちょ、やっ、くすぐっ――きゃははは!」
「んー……あ、ずるい! あそぶならマージも!」
うつらうつらとしながら漂っていたムウマージも二匹の様子にぱちりと目を覚まし、意気揚々と加わりにいった。
「ふふふ、いいわ、マージちゃんもかかってきなさいっ」
気を緩めすぎるなと忠告したばかりだというのに、いつもいつも騒々しい奴らだ。
心の中で毒づきながらも、己の口の両端が薄っすらと上がっていることに気付く。
らしくもない、と頬を軽く叩く振りをして俺は無理矢理口端を引きおろした。
最近になって妙に己の頬めが勝手に緩む事が多くなったように感じるが、笑顔など俺には馴染まぬ。
「うるっせーな……これだからガキは……」
三匹がじゃれて転げ合う隅で、小うるさそうに顔をしかめてデルビルは後ろ足で頭をばりばりと掻く。
あれだけ己の姿を嫌がっていたというのに、こいつの方は何だか随分と犬らしい仕草が板についてきたものだ。
そうこうしている内に日は傾き、空が藍色に染まりかかろうとしていた頃、外からこちらへと向かってくる気配を感じ、
俺達は慌てて身支度を整えて窓から小屋を飛び出した。直後、小屋の扉が開かれ、そっと様子を窺うと、
厳つい中年と、メガネをかけたまだ若い男の二人組み、そして二羽のカモネギ――常に植物の茎を一本
まるで刀のように携えている、茶色い羽毛をした変わり者の鳥ポケモンだ――が、少し消沈した様子で帰ってくる。
「やっぱりヤドン、どこにもいませんでしたね」
若い男が、厳つい男にがっかりとして話しかける。
「うーん、森の神様がお怒りなのか……? 何にせよ、よくねえ知らせかもな。こんな時はじっとしているに限る。
しばらく森に薪を取りに行くのはやめだ」
どすんと板間に腰を下ろし、厳つい男は深々と溜め息をついた。
『ぼーっとしてて何考えているかわからない奴らだったけれど、いざいなくなると寂しいものだな、兄弟』
『ああ、決して悪い奴らではなかった……』
心配そうにカモネギ達も言葉を交わす。
どうやら町の一般人達には、ロケット団の存在と所業はまだ公になってはいないようだ。とりあえず町ぐるみで
ロケット団を匿っている風では無さそうで、一先ず安堵する。極小さな規模とは言え、流石に町一つ丸々相手取るのは厳しい。
こんなニャースの額のような小さな町においてもあの黒い社会の病巣めらは、地下や夕闇の狭間に巧みに潜伏し、
腐り果てた根を気付かれぬようひっそりと張り巡らせることができるというのか。何ともおぞましい、唾棄すべき生命力だ。
これは、早々に根元から削ぎ取って根絶してやらねばなるまい。人間のためなどではない。あくまでポケモンの平穏が為。
”そして、志半ばに倒れた彼らの無念を晴らすが為”――いつ、どこぞから降って湧いたかも分からぬが、
何故だかそんな強い思いが俺の心に滾りつつあった。炭が孕む火のようにじわりじわりと。
かつて己を焼いた炎を少しずつ思い起こすかのように。
gj!
明日明後日にでも続き書くよ
ポケスク買ったんだが、ここのスレの主要メンバーを揃えようと思っても
序盤はピカチュウとミミロルくらいしか出てこないなw
まさにここの話の最初みたいじゃないかw
アブソル出てくるの?
>>624 今までのポケモンは全部出てくるらしいよ
深夜か明け方頃に投下するよ
・
「ドンとマニューラ、二匹の出会いは分かった。でも、どうして二匹は、それとニャルマーも、
ジョウトから遠路遥々シンオウまで来る事に? 逃亡者のドンとニャルマーはまだしも、
マニューラにはちゃんと帰るべき里があるんだろう?」
まさかやんちゃが過ぎて勘当されちゃったとか? 冗談っぽくエンペルトはそう言葉を続けようとしたが、
途端にドンカラスの顔に暗い影が差したのを感じ取り、はっとして口を噤む。
「ああ、今となっては”ある”じゃあなく”あった”だがな。あっしに、あっしらにもっと力がありゃ……
悔やんでも悔やみきれねえ、忘れたくても忘れきれねえ、炎の記憶……ま、追々話していくとしやしょう」
――一行に子ニューラを加えたあっしらは、里まで案内させるための交換条件である”紅葉が見たい”
という願いを叶える為、一路エンジュシティを目指した。道中、子ニューラの奴は相変わらず
マフラー野郎にべったりな様子でうきうきとして話し、マフラー野郎もそれに穏やかに応じていた。
あっしとニャルマーは小煩そうにしながらも、仕方なく同行していく。傍から見りゃまるでお気楽な
旅行でもしてるみてえだった。
あっしらは逃亡者の身だってのに、果たしてこんな調子でいて大丈夫なんだろうか。あっしは一羽、
何ともいえない焦りのようなものを抱き始めていた。アジトの一つからはどうにか逃げ出せたとはいえ、
まだまだ安心は出来ねえ。かつてのジョウトには、そこら中の町に表向きはうさんくさい商店や
ひと気のない倉庫に偽装したロケット団の小さな拠点が、害虫の巣の如く蔓延っていた。ジョウト自体から
脱出でもしねえ限りとてもじゃないが安全とは言い難い。
それにあのゲス野郎――群青のヘルガーの『地の果てまで追い詰めて殺してやる』って
怨恨の言葉が頭の隅にこびり付いたまま取れなかった。奴の執念深さは筋金入りだ。底辺の存在だと
完全に見くびっていたネズミにしてやられたことで、山の如く高いプライドもずたずたに傷つけられ、
面目を晴らす為により一層執拗さに拍車がかかることだろう。まさか殆ど何も手がかりも無いまま
あっしらの後など追っては来れまいと思ってはみても、拭い去れきれない胸騒ぎがあった。
「なー、ネズミぃ。オレ、もう歩き疲れたー。おんぶしてよー」
そんな事も露知らず、呑気に子ニューラは駄々をこねだす。余程甘やかされて育ったのか、
それとも逆に普段厳しくされている事による反動なのか、どちらにせよ何てわがままなクソガキだ。
怒鳴りつけてやろうかとあっしが考えている傍で、マフラー野郎は苛立つ風もなくやんわりと首を横に振るった。
「そうしたげたいのは山々だけれど、エンジュまで行きたいって言ったのは君自身だよ。自分の足で
もうちょっとだけ頑張ってみるんだ。その方がエンジュまで行けた時、紅葉はもっと綺麗に見えるはずだよ。
それに、俺の背中にはもう先客がいるからね」
「先客?」きょとんとして子ニューラは首を傾げた。
「ああ、まだ紹介していなかったっけ。――起きてるだろう、出ておいでピチュー」
マフラー野郎は肩越しに自分の背中に声をかける。ぎくり、とした様子で、背を覆うように巻かれたマフラーの
不自然に膨らんだ部分が揺れ動いた。
「ほら、隠れていないで、ちゃんと挨拶するんだ」
マフラー野郎が言うと、観念した様子で渋々とチビ助はマフラーの中から顔を覗かせる。
「おお? ひゃは、なんだこいつ、ネズミよりちっちゃいネズミ! なーなー、おまえもビリビリ出せるの?」
興味津々な様子で子ニューラは目を輝かせ、足の疲れもすっかり忘れたように詰め寄っていく。
チビ助は少しびくつきながらも子ニューラをじとりと無言で暫し見据え、ふんと鼻を鳴らしてぷいと顔を背けた。
「あ! 無視すんなよ! オレはニューラ様だぞ、おまえなんかよりずっと強いんだぞー!」
むっとした様子で子ニューラはチビ助が顔を背けた方へと回り込んだ。ぎょっとしながらもチビ助は再び
鼻を鳴らしてそっぽを向き、子ニューラもむっとして先回りし、負けじとチビ助も背を向け――二匹はそんな応酬を
しばらくの間繰り広げた。
「むー、おまえ、ナマイキだ!」
とうとう業を煮やしきった子ニューラはチビ助の首根っこを掴む。
「おや?」
背の違和感にマフラー野郎が振り返るより早く、子ニューラはマフラーからチビ助を引きずり出す。
チビ助は面食らった様子で慌ててじたじたと逃げようとするが、子ニューラは背後から覆い被さるようにチビ助の
体を押さえつけてしまう。
「にひひ! おら、悔しかったらビリビリ出せッ!」
言って、子ニューラはそのままチビ助の幅広の左耳にがぶりと噛みついた。
「ぴゃー――ッ!?」
いつもは子どもらしからぬ横柄とも思える程の落ち着きを持ったチビ助が、初めて悲鳴を上げた瞬間だった。
hosyu
明日か明後日にでも続き書きたいです。
保守
「ありゃりゃ」
「おいおい、止めなくていいのかよ」
慌てるでもなく呑気に眺めているマフラー野郎に、あっしはそっと声がける。
チビ助は強情に泣くのを堪えながらも、うるうると涙を滲ませた視線でマフラー野郎に助けを求めた。
「はっは、良かったなピチュー。遊んでくれる友達が出来て」
朗らかに笑ってマフラー野郎は言ってのける。すっとぼけた態度に思わずあっしはずっこけそうになり、
チビ助は愕然とした表情をしてぶるぶると首を横に振るう。
「そうだ、折角背中を降りたんだし、いい機会だ。君ももう少し一人歩き出来るようにならないとな」
思い出したようにポンと手を打ってマフラー野郎は言った。ぎくりとした様子でチビ助は目を背ける。
「トキワの同い年くらいの子達は、少しくらいお父さんお母さんと離れてももう平気だったろう? まだまだ
ずぅっと先の話でも、君もいつかは俺の背中から離れなきゃいけない時がくるんだ。今の内から練習だよ」
ビッと指を立ててマフラー野郎はチビ助に言い聞かせる。むー、とチビ助は不服そうに唸って膨れ、
上の子ニューラは興味深そうに耳をぴくんと揺らした。
「えー、オマエ、ずっと親父におぶわれてないとダメなの? ひゃは、ダッセー!
よーし、んじゃ、オレさまがトクベツに鍛えてやるとするか。ついてこーい!」
子ニューラは、ぱっとチビ助の左耳から口を離して言うと、今度はチビ助の腕を掴んで
強引にずるずると引っ張り歩かせる。チビ助はがっくりと脱力した様子で為すがまま連れて行かれた。
「さて、ニューラの方も自分で歩く気になってくれたみたいだし、俺達も行こうか」
けろりとしてマフラー野郎はあっしとニャルマーに振り返る。
「狙って焚き付けたのかい?」
ふう、と呆れたように溜め息をついてニャルマーは尋ねた。
「何のことだい?」
にこにことマフラー野郎は微笑んで聞き返す。
「やれやれ……アンタ、あたしの同業者として充分やっていけそうだねぇ」
「やだなあ、人聞きの悪い。俺のはあくまで躾の一環さ」
……何だかもう、あっしにはこいつら二匹が同じ穴の狢にしか見えなくなってきていた。
「おーおー、おっかねえ。だが、あんな調子で振り回させて、大丈夫なのか?」
「なーに、平気さ。男の子は少しくらいの怪我なら気にせず元気に遊んでくれた方がいいよ。
あいつ、あんな目つきの上に無愛想だから、他の子も臆しちゃって全然友達が出来なくってね。
あの子ニューラみたいに気にせずがつがつ引っ張って行ってくれる子は貴重だよ」
マフラー野郎は微笑ましそうに、どこか懐かしむように、先行く子ニューラとチビ助を見やった。
果たしてあんなまるでぬいぐるみみたいにぶん回されるのが、友達と遊んでいるなんて穏やかな表現をして
いいものか分からないが、親が認めている以上あっしが口を挟むことじゃないんだろう。
そんなこんなありながら歩み続けている内、周りの木々の葉にチラホラと赤茶に染まったものが
散見し始めてきていた。紅葉の前線、エンジュシティはきっともうすぐ近くだ。
ほしゅ
ほしゅ
週末にでも続き書くよ
保守
hosyu
2ちゃん全体が鯖落ちしてたっぽいな
ほっしゅ
あっしらは手近な丘の上に登り、それらしき影を求めた。見回して探すまでも無く、
特徴的な屋根が何重にも重なったような塔の姿――確か、スズの塔とかいったっけか――
が直ぐに見つかり、そのたもとを目で辿ると碁盤状に並んだ古風なエンジュの町並みと、
周囲を飾り立てるまるで紅蓮の炎の如く豪勢に染め上がった木々が視界へと飛び込んできた。
その壮大な景観に、乗り気じゃなかったあっしの喉も思わず『おお』と感嘆に唸る。
写真やテレビ画面を通して見るのとじゃまるで迫力が違う。そこらのみすぼらしく
茶色にしょぼくれた木々とは比べるまでも無い、優美で色鮮やかな着物で着飾った姫さんと、
所々ほつれかけたような地味な服を着た田舎娘ぐらいの別次元の品と格の差だ。
――「ま、あっしゃ後者の方、地味な田舎娘も嫌いじゃねえんだけどな。
自分色に染め甲斐があるっていうかよ」
へっへ、と笑い、ドンカラスは帽子をキザに撫でる。
「……上機嫌になってくれたのはいいが、話が逸れているぞ」
「そういやエンペルト、おめえさんの”いい人”だったあのポッタイシのお嬢さんは、
どちらかといや前者の方だったかねえ。ああいうタイプもあれはあれでまた……」
調子に乗って口を滑らせるドンカラスをエンペルトは無言でじとりと睨め付ける。
「おー、こわ。分かりやしたよ。お堅いねえ。束の間ぐらい先の暗い話は忘れようとさせてくれても
いいじゃねえですかい。――例の幽霊騒ぎん後にトバリでエレキブルの大将達と色んな奴らも
呼び寄せて飲んだ時にゃ、おめえ、酔いと自棄に任せてあんなことしでかしたくせによぉ」
「え?」
不意を打つようなドンカラスの言葉に、何のことか分からずエンペルトは目を丸くする。
「へえ、まったく身に覚えがねえってか。あーあ、何匹泣かすことになるのやら。この色男が」
言って、ドンカラスは意味深に薄ら笑みを浮かべた。
どうせまた悪い冗談に決まっている。エンペルトはそう思いながらも、当時の記憶を懸命に探る内、
どうしても思い出せない空白の期間があることに気づいた。
「う、嘘だ。僕は何もしていない、何もしていない筈だポチャ……」
何だか薄ら怖くなってきて、エンペルトは冷や汗と共に体がカタカタと震え出す。
頭を抱えて取り乱すエンペルトの横で、ドンカラスは何も言わずただニタニタと笑い続けた。
「も、もういい! 早く続きを話してくれ!」
記憶が無い以上、最早自分の知ったことじゃあない。エンペルトは開き直って震えを強引に払い退け、
半ば叫ぶように言った。
「はて、どっちの?」
「ドンの過去の方に決まっているだろう、変な冗談はいい加減にしろ!」
「へいへい。そんな怒んなよ。その件の事についちゃとりあえず冗談ってことにしといてやらぁ、クハハ」――
「ひゃー、親父たちの話していた通り、スッゲーな! なーなー、もちょっと近くに見に行こーよ」
目を輝かせ、興奮冷めやらぬ様子で子ニューラは無邪気にはしゃぐ。
「ばっか、オメー、町には人間どもが沢山いるんだよ。ぞろぞろ俺様達が降りて行ったら大騒ぎだ。
こっからの景色だけでも充分だろうが」
また無茶を言い出そうとするクソガキに、あっしは言って聞かせる。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。人間なんてオレ達よりノロマだし、こっそり進めばバレないって。
それに、あのでっかい塔の近くまで行けば、人間は全然いないってさ。親父達が言ってたんだけど、
あの塔の周りはシンセーだとか何とかで、フツーの人間は近寄らせてさえもらえないんだってよ。
っつーわけで、お先にっ! ひゃは、おまえも来い、チビネズミ!」
子ニューラは再びマフラー野郎の背中からチビ助を素早く引っ張り出し、強引に連れて駆けて行った。
「あ……」
呆気に取られた様子でマフラー野郎は声を漏らす。
「あ、じゃねえよ馬鹿野郎。おめえなあ、大事なガキなんだったら、もうちょっとしっかりと
背中に縛りつけておきやがれよな」
「いやあ、あんまり強く縛り付けると、あいつ嫌がってむずかるからさあ。仕方ない、後を追おうか」
「こんな調子であのガキに振り回され続けるのはごめんだよ……」
うんざりとニャルマーは呟く。
「まあまあ。ちゃんと約束はしたんだから大丈夫さ。強がってはいるけどあの子まだまだ小さいし、
本当の親が恋しくなって里に帰りたくなる時が必ず来るだろうしね」
ほっしゅ
明日明後日にでも続き書きたいです
hosyu
保守
子ニューラと連れ去られたチビ助の後を追って、あっしらは入り組んだ古都の路地を
人目を忍んで進んでいった。まったく、あのクソガキときたら、ガキとは思えねえような
足の速さと身のこなしで、振り切られないようにどうにかついていくのがやっとだ。
まだガキのニューラでもこんな調子なんだから、ロケット団員どもがニューラ達に
苦汁を嘗めさせられ続けているのも無理はねえと身をもって思い知らされていた。
北東の町外れ、スズの塔へと続く道に立ち塞がる様に建つ立派な門構えをした関所が
見えてくると、子ニューラは半ば引き摺るように連れていたチビ助をどっこいしょと担ぎ上げる。
そのまま子ニューラは、関所とそれを見学に来ている観光客らしき人間達の目を避けて
傍にある池の方へと駆けていき、水面から点々と突き出た岩の上をひょいひょいと軽快に
スリルを楽しむように飛び移って対岸に渡っていった。風情を醸し出す彩りとなると共に、
侵入を防ぐ堀の代わりにもなっているであろうあの池も、あのガキの前じゃまるで形無しの、
アスレチック遊具みてえなあしらわれ方だ。何ともいえない哀れみのようなものを感じながら、
あっしはその上を飛んで行き、少し遅れてマフラー野郎とニャルマーは岩を飛び移って渡って来る。
途中、観光客らしき親子連れのガキ――体格からして四、五歳ってところか――に運悪く姿を
見られてしまうが、親へと知らされてしまう前にあっしらは素早く林の中へと入っていった。
林の奥に進んでいると、すぐに石畳が敷かれた小道に突き当たり、子ニューラはその真ん中辺りで
傍らにへとへとになって放心しているチビ助を降ろしてあっしらを待ち構えていた。
「もー、おっせーぞ。オレ、待ちくたびれちゃったよ」
あっしらに気づき、クソガキは悪びれる様子もなく逆に遅刻を責めるようにして声をかけてきた。
体力を使い切ったあっしはもう怒る気も失せ、ただただがっくりと項垂れて荒い吐息を漏らした。
「まー、いいや。それより、周り見てみろよ。やっぱ近くで見るともっとすっげーぞ、ほらほら!」
うるさく急かされ、渋々あっしは顔を上げて見る。――「ほほう……」すれば、成る程、
周りの光景にあっしは再びの感慨の息が漏れた。
道中は子ニューラの後を追うのにとにかく必死で気にして眺めている暇など無かったが、
間近で鮮明に見る紅葉した木々は殊更に圧巻に写った。頭上一杯は当然、地面までもが落ち葉によって
鮮やかな赤や橙や黄色に染め上がっていて、まるで熱くねえ炎の中にいるかのような非現実的な光景だった。
子ニューラはきゃっきゃと喜びながら降り積もった落ち葉を掬い上げ、紙吹雪みたいに撒き散らす。
火の粉のように舞い落ちる葉の中、子ニューラは両手を広げ、紅葉に負けないくらい赤い瞳の目で、
木々の一本一本、葉っぱの一枚一枚まで焼き付けるように辺りを眺め回した。
「その……あの、ありがと、ここまで連れてきてくれて……」
舞い上げた葉が落ちきると、子ニューラはふと我に返ったように、ぽつり、と小さな声で呟く。
あっしは呆気に取られた。まさかこの生意気の塊にのようなガキからこんなしおらしい態度が出てくるとは。
マフラー野郎はフッと薄く微笑み、ニャルマーは少し毒気を抜くように小さくため息を吐いた。
「ああん? なんだってぇ? よく聞こえなかったな、今のもう一度言ってみな」
その場を包むこそばゆい沈黙を払うように、あっしはわざと意地悪く子ニューラに聞き返す。
「な、なんでもねーやい!」
子ニューラはばつが悪そうに顔を赤くして、拾い纏めた葉っぱの塊をあっしの顔にぼふんと投げ付けた。
「さて、俺達はちゃんと約束を守った。今度は君の番じゃないかな、ニューラ」
マフラー野郎は優しく問い掛けるように子ニューラに言った。
「あ、そーだった。よーし、じゃあこのオレさまがジキジキにおまえらを里まで案内してやる。
トクベツなんだからな、感謝しろよ」
どん、と子ニューラは偉そうに胸を張る。
「ああ、実に光栄だよ。ありがとう」
くすっと笑い、マフラー野郎は礼を言った。
「それじゃあ、早速、案内してもらおうか。チビ助もご苦労だったな、さあ、おんぶしてあげるから、
おいで――あれ、どうした、チビ助?」
出発しようとマフラー野郎が声をかけても、チビ助はぼんやりと魅入られたように上を見たまま
一向に動こうとしない。まだまだ紅葉を見ていたくてそうしているのかと思ったが、
チビ助の視線は木々の葉ではなく、その隙間から覗くスズの塔の上空辺りへと向けられているようだった。
「おーい、しっかりしろ、チビ助。戻ってこい」
軽く体を揺すりながらマフラー野郎が声をかけ続けると、チビ助はハッとした表情を浮かべて、
マフラー野郎の顔を見やった。
「一体、どうしたんだ?」
マフラー野郎が尋ねると、チビ助は少し興奮した様子で身振り手振り何かを伝えようとする。
「え? 『七色に光るでっかい鳥がいた』って?」
マフラー野郎が訳すと、こくこくとチビ助は頷いて空を指差した。
あっしらは一斉に差された方を見てみるが、そんな鳥の姿なんて無い。あるとすれば、
雨も降っていないのにいつの間にか空に架かっていた虹くらいだ。
「チビ助、何をどう勘違いしたのか知らないけど、あれは鳥じゃあない。虹って言うんだよ。
いつだったか前にも見た時に教えなかったけ?」
マフラー野郎が諭すように言っても、チビ助は首をぶんぶんと横に振るい、何かを訴え続ける。
ううん、と怪訝そうにマフラー野郎は唸った。
「どーせ、ピジョンかなんかを見間違えたんだろ。そんなのほっといて、早く行こーよ」
待ちくたびれたように子ニューラが急かす。
「ごめんごめん。ほら、皆待ってるから行くよ、チビ助」
宥めながらマフラー野郎はチビ助を有無を言わさず背負い上げる。チビ助は不服そうにぷうと頬を膨れさせた。
気を取り直して出発しようとしていると、かさかさ、がさがさ――と、それぞれ別の方から
微かにあっしら以外の何者かが落ち葉を踏みしめるような音が響く。あっしらは顔を見合わせ、
慌てて小道から手頃な木の陰に隠れ、音の方をそっと確認してみた。
かさかさ、と鳴った先では、どこから入り込んだのか、四、五歳くらいの前髪にクセがある
人間のガキ――あれは確か、関所横の池を渡る時、あっしらの姿に気づいていた奴だ――が一人で、
丁度さっきのチビ助と同じような様子で、塔を見上げてふらふらと歩いていた。
がさがさとなった方を見ると、黒い服に身を包んだ二人組みの男――ありゃ、どう見てもロケット団員だ。
追っ手かと思い一瞬ヒヤリとするが、よくその姿を見ると二人とも大きな袋を背負っている。
きっとスズの塔に金目の物でも狙って忍び込もうとしてやがるんだろう。
両者の目指す方向的に、このままだとあのガキと団員どもはばったりと出くわしてしまうことになる。
例え相手がガキだとしても、団員どもは目撃者をただでは帰しはしないだろう。さて、どうするべきか。
皷
乙
明日明後日にでも続き書く
656 :
ぴかぴか中:2011/09/08(木) 21:59:50.43 ID:???0
乙
ほしゅー
ちょっと名古屋行ってくる
ごめん、ちょっと投下が遅くなりそうだ
今日の夕方以降か、遅くても明日の今頃くらいまでにはできるようにする
このまま身を隠し、あの癖毛のガキに団員どもが気を取られている内に安全に逃げ出すか、
それとも不意打って団員どもをのしちまうか、あっしは頭をめぐらせる。あっしらの脱走は
ジョウトの各地にいる団員どもにもとっくに伝えられているに違いねえ。下手に打って出て、
もしも討ち漏らしでもしたら追っ手にまたとない手がかりを与える羽目になっちまう。
考えてみりゃ見知らぬ、それも人間のガキがどうなったところで、あっしにはどだい関係ねえ話だ。
人間サマなんざにゃ散々道具のように扱き使われた恨みつらみはゴミ山のように積み重なっていても、
わざわざ危険を冒してまで助けてやる義理なんざ塵の一つもありゃしねえ。
この場は大人しく息を潜めて、癖毛のガキが囮になっているうちにさっさと逃げ出すのが得策だろう。
他の奴らはどう出るつもりでいるか探ろうと、まずは隣の木に隠れているニャルマーを見やる。
奴も大体似たような結論に至っているらしく、冷然とした面持ちで事の成り行きをじっと窺っていた。
子ニューラは団員どもを気にいらなそうに影から睨みはしながらも、どう動くかはあっしら次第といった様子だ。
問題は……あっしは一番の不安要素であるマフラー野郎に目を向ける。
例え異種族のポケモンであろうとガキとあればなりふり構わず助けにかかるあいつとはいえ、
よもや人間のガキまでを己の身を省みずに助けに行くような真似はしまいと思いたいが……。
あいつだって、人間のエゴ勝手にはさんざっぱら振り回されてきた筈だ。軍隊に飼われる生活は
きっとあっしよりもっとひでえものだったことだろう。のらりくらりと誤魔化しちゃいるが、
あいつの背中に抉り刻まれていた雷型のでっけえ傷跡が口の代わりに過酷さと凄惨さを物語っていた。
「ん!? なんだこのガキ!?」
「――え!? ……あれ、ここどこだ? オジサン達、誰?」
計りかねている内に、とうとう両者は鉢合わせになったのか、ガキと、団員の一人の声が上がる。
目を向けると癖毛のガキはまるで今しがた眠りから目覚めたように状況が飲み込めない様子で呆然として、
立ちはだかる人相の悪い二人組みを見上げてうろたえている。
団員どもは立ち竦んでいる癖毛のガキを睨み下ろしながらひそひそと話し合いだした。
「しまったな。どうするよ?」
「小さなガキとはいえ、目撃者だ。放っておくわけにはいかないだろう」
団員どもは顔を見合わせて頷き、恐怖に動けずにいる癖毛のガキを引っ捕まえようと腕を伸ばす。
あのガキに団員達の注意が集中している今、あっしらが逃げ出すには絶好の機会だ。
だが、そそくさととんずらしようとしているあっしとニャルマーを余所に、マフラー野郎の奴は今にも
飛び出していきそうな身構えで団員どもを見据えている。
……おいおい、正気かよ。ガキなら人間であろうとお構いなしってか。前々から執念めいたものを
感じてはいたが、こりゃマジもんだ。
何があいつをそこまで駆り立てるのか。ガキの危機に直面した時にあいつが見せる表情は、
単なる子ども好きやお人好しでは片付けられない鬼気迫るものがある。激しい怒りと焦りの中に、
どこか深い憂いや後悔のようなものが垣間見える複雑なものだった。
どうせ止めても無駄だろうとは諦めつつも、一抹の期待をかけてあっしはマフラー野郎を止めようとする。
「ま、待て!」
だが、あっしが口を開く前に、少し躊躇が混じる制止の声が響き渡った。直後、声の方から石ころが
飛んできて、今にも癖毛のガキの襟元を掴もうとしていた団員の腕に命中した。団員は思わず怯み、
癖毛のガキから腕を退いて少し後ずさる。その間隙に、一つの影が素早く踊り込み、癖毛のガキを庇うように
団員達の前に立ち塞がった。
突然の事にマフラー野郎も飛び出すのを思いとどまり、静かに様子を見始める。
影の正体は、癖毛のガキよりも幾らか背の高い、七、八歳くらいのこれまた人間のガキだ。
今後の成長を見越して買い与えられたであろう少し大きめのぶかぶか帽子が特徴的だった。
「大丈夫?」
ぶかぶか帽子のガキが背中越しに声をかけると、癖毛のガキは少し驚きながら「うん」と頷いた。
兄貴か友達が助けに来たのかとでも思ったが、癖毛のガキのきょとんとした様子からして違うようだ。
「君、確か一緒の観光ツアーの子だよな。同じバスにお母さんらしき人と一緒に乗ってたのを覚えてる。
みんなから離れて一人でふらふら林に入っていくのを見かけてさ。気になってついてきてみて良かった」
保管サイトも遂に18000越えか
20000ももうすぐだな
土日辺りにでも続き書く
hosyu
あっしはマフラー野郎に詰め寄り、勝手に飛び出していこうとしねえように
マフラーの裾をしっかりと足で掴む。
「わざわざお前が出向いていくまでもねえ、別の救世主様のご登場だ。もういいだろ?
見つからねえ内にさっさと行こうぜ」
声を潜めて言いながら、あっしはぐいぐいとマフラーを手綱のように引いて連れていこうとする。
だが、幾ら力を込めても奴の体はびくともせず、人間どもの動向を窺ったままてこでも動こうとしない。
「まだだ。幾ら勇気があっても子どもだけでどうにかなる相手じゃないのは君もよく分かっているだろう」
「あのなあ、ポケモンのガキを助けるってんなら百歩も二百歩も譲って俺様もまだ納得してやる。
でもありゃ人間だ、俺様達を散々に扱き使いやがった人間サマだ。服を着た猿ポケモンにでも見えるってのか?
わざわざ危険を冒す価値なんてまるでねえだろ」
耳の穴を直接かっぽじってやる勢いであっしはあいつの長い耳に嘴を寄せて小声で捲くし立てる。
「なら君達は一足先に行っていてくれ。後から必ず追いつくからさ」
「どうかしてるぜ、お前」
まるで聞く耳をもたねえ態度に、分かっていたとはいえあっしは苛立って吐き捨てるように言った。
「かもな。でも、約束したんだ」
ぽつり、とマフラー野郎は意味深に呟く。”約束”。そういえば、ゲス犬の野郎とやりあった時にも、
こいつはそんなことを仄めかしていた気がする。こいつを執着と思えるほどに駆り立てるものの根底には
その約束とやらが深々と焼きついているようだ。
「まぁたガキのお出ましかよ。なあ、この辺は滅多に人が来ないから盗みに入るには穴場じゃなかったのか?」
石をぶつけられた腕を痛そうに擦りながら団員の男は苛立った様子でもう一人に言った。
「その筈なんだがねえ。ガキと綿埃はどこにでも勝手に入り込んで来やがるから困り者だ。騒がれる前に
さっさと掃除しなきゃあな」
乱入に一瞬怯んでいた団員達も、正体がガキと知るやいなや平静を取り戻し、二人まとめて捕まえに
かかろうとする。
「いい大人がこそ泥なんかして、しかも子ども相手に二人がかり。おじさん達、恥ずかしくないの?」
ぶかぶか帽子のガキは団員達をキッと睨みつけ、強気に食って掛かる。握る拳は微かに震えていた。
団員達はにやにやと馬鹿にして笑い合い、意に介せぬ様子だ。
ぶかぶか帽子はスゥ、と覚悟を決めたように息を吸い、素早く何かを取り出すような仕草で
腰の後ろ辺りに片手を回す。それを見た途端、団員達は顔色を変えて再び距離を離した。
「このガキ、トレーナーか。チッ、最近はこんなガキの内からポケモンを買い与えてもらえるのかよ」
「面倒だが、どうせガキの連れているポケモンなんざオタチやコラッタがいいとこだろう。
俺のゴルバットでさっさと叩きのめして――」
ぶつくさと文句を言いながら団員達はモンスターボールを取り出そうと腰を探りだす。
その瞬間を見計らったように、ぶかぶか帽子は踵を返す。
「いまだ、逃げよう!」
ぶかぶか帽子は癖毛のガキの手を握り、そのまま一目散に逃げていった。
「なッ!」
呆気に取られた顔をして、団員達はその背を目で追う。
ぶかぶか帽子のガキの腰には唯の一つも、モンスターボールの影も形も無かった。
「クソ、ハッタリか! あんのガキ、舐めた真似しやがって許さねえ!」
「絶対に逃がすな、追え!」
団員達は顔を真っ赤にして憤慨してガキの後を追いかけながら、モンスターボールを先の方に放る。
中から現れたのは、大きな口をした蝙蝠と茶色の体毛をした大ネズミ、ゴルバットとラッタだ。
人間のガキの足でポケモンから逃げ切れる筈がねえ。すぐに追いつかれ、背中から奴らの鋭い牙を
突き立てられちまうことだろう。
そんなことを許そう筈も無く、”正義の味方様”は長いマフラーを翻しその後を追っていっちまった。
読み返そうと思ったら2スレ目の途中から更新されてなかった…
誰かログ持ってる人いない?
672 :
670:2011/09/19(月) 18:06:56.86 ID:???0
週末にでも続き書きたいです
674 :
名無しさん、君に決めた!:2011/09/21(水) 17:39:48.47 ID:zl2Gc2150
「最早、一種のビョーキだね、ありゃ」
走っていくマフラー野郎を見やり、呆れた様子でニャルマーは呟いた。
「で、あたしらはどうする?」
それから横目をこちらに向け、ニャルマーはわざとらしく尋ねる。
「どうするもこうするもねえだろが。先に行ってろって奴ぁ手前から言ったんだ。
その言葉にありがたく従おうじゃねえか。一々付き合っていたら身がもたねえや」
ぎすぎすとした調子であっしは答え、余計ないざこざから目を背けるように
奴らが走り去っていた方とは正反対に足を向けた。ニャルマーは当然の答えといった具合に
満足げに鼻を鳴らし、あっしに倣う。
「奴なら一匹でもあの程度の奴らどうにでも出来るだろうが、きっとまた約束がどうたらで
トドメを刺すなんてしねえ。すぐに追っ手に居場所が伝わる。里まで急ぐぞ、ニューラ」
あっしは子ニューラへと振り向く。しかし、そこに既に子ニューラの姿は無かった。
嫌な予感がしてマフラー野郎が向かった方を振り向くと、後に続こうとする後姿がすぐに目に入る。
「おい、何やってんだ!」
「あの黒服どもぶっ飛ばすんなら、オレもやる! あいつらは敵だって親父も言ってたし、
オレもあいつらキラいだ!」
そう言い残し、子ニューラはあっという間に駆けていく。
「ああ、どいつもこいつも……」
もう頭を抱えすぎて首までめり込んじまいそうな気分だ。
「……どうすんだい」
表情をひくひくと引き攣らせ、ニャルマーが尋ねる。
「どうするもこうするも、あっしらだけじゃ先に行きようがねえ。追うしかねえだろ、クソッタレ」
ぶつけようのない苛立ちを翼に込め、八つ当たりするように思い切り空気を叩いてあっしは飛び立った。
「ん、なんだ、結局君達も来てくれたのか」
どうにか追いついてきたあっしらに気づき、走り続けながらマフラー野郎は呑気に言う。
「好きで来たわけねえだろ、そのガキが勝手に飛び出していきやがったから仕方なくだ」
ぶっきらぼうにあっしは返し、子ニューラをぎろりと睨んだ。
「オレも手伝うぜ、ネズミ!」
視線なんてまるで気にも留めず、意気揚々と子ニューラは申し出る。
「あんな黒服なんて、お強くて物好きなヒーロー様に全部任せて、あっしらは余計なことせず一足先に
里に向かえばいいんだよ。それに、イトマル如きに震え上がってた奴が何の役に立てるってんだ」
「あ、あいつらだけはちょっとだけ、ほんのちょっとだけニガテなだけだ。オレ、ホントは強いんだからな」
「ヘッ、自分で自分を強いなんていう奴ぁハッタリ野郎ばかりだっての」
「むむ、今に見てろー!」
「シッ」
言い争うあっしと子ニューラを、マフラー野郎が止める。
「チッ……おめえも、やるならさっさと電気でビリビリッとやっちまえよ。何でいつまでも追っかけてんだ」
「下手に放てばあの子達まで巻き込みかねない。機会を窺ってはいるが……」
パリパリと頬から電気を漏らしながらマフラー野郎は答える。
「おいおい、このクソガキ――ニューラを助けるときには躊躇無く派手にドッカンドッカン
ぶちかましてやがっただろうが」
「それはあくまでこの子の傍まで行ってからだったろ? 俺の電撃は無差別に広い範囲を攻撃するにはいいけど、
一点を狙い撃つのには不便だ。当ててはいけない対象が同じ射線上にチラつく中、しかも走りながらじゃあ、ね」
マフラー野郎は歯痒そうに眉をひそめる。それを聞き、子ニューラの耳がピクリと動いた。
「うわ――!」
前方から、ガキの悲鳴が上がる。見ると、走り疲れて足でももつれさせたのか地面に
倒れこんだ癖毛のガキを、ぶかぶか帽子のガキが懸命に助け起こそうとしていた。
その隙に、牙を剥き出したゴルバットとラッタが容赦なく迫る。
「――ッ! イチかバチか、やるしかないか」
ギリ、と歯を噛み鳴らし、マフラー野郎は激しく電流を迸らせる。
「まったぁ! それなら得意だ、オレに任せろ!」
唐突に得意げに子ニューラが叫ぶ。「はぁ?」と怪訝に振り向くあっしの顔の横すれすれを、
微かな風を切る音が二度過ぎ去った。間髪入れず、再び前方から、今度はガキのものじゃない濁声の叫び声が上がる。
見れば、ゴルバットとラッタが頭を痛そうに抱えて悶絶し、近くに野球ボール大の氷塊が二つ転がっている。
「見たか! 親父譲りのゴーソッキュー! 奴らの後頭部ど真ん中にストライクだぜ、ひゃはは!」
保守
明日明後日にでも続き書く
捕手
保守
得意げにガッツポーズを掲げ、子ニューラは飛び跳ねてはしゃぐ。
『なるほど、いい腕だ。益々、旧友を思い出す』
マフラー野郎はしみじみと呟き、口端にじわりと笑みを滲ませる。
「氷の礫――!? 邪魔ばかりしやがって、今度はどこのどいつだ!」
何度も何度も入る邪魔に、耐えかねた様子で団員達は振り返った。
ぶかぶか帽子のガキは急に倒れたラッタとゴルバットとあっしらを驚いた様子で交互に見ていたが、
団員達の注意がうまく逸れているのを察したのか、素早く癖毛のガキを助け起こしてこっそり離れていく。
「ボロきれ巻いたネズミに子ネズミ、ヤミカラスに、青色のネコに、ニューラ……?
野生にしちゃ変な組み合わせだ。どこかにトレーナーが……いや、まて、こいつら、確か報告にあった――」
「コガネの奴らが逃がしちまったってポケモンどもか? だが、報告じゃあニューラなんて無かったぞ」
あっしらを無闇に刺激しないようにしてか、ゆっくりと慎重にラッタとゴルバットの方に後退しながら、
団員達は言葉を交わす。
「こんな弱そうな小型のポケモンどもを逃がすようなマヌケどものことだ、口も目も間違えるさ。
それより、チャンスだ。代わりにこいつらをとっ捕まえりゃ、奴らに大きな貸しが作れる」
「そりゃいいや。うまく行けばサカキ様の目にも止まって、コソ泥なんてチンケな仕事より
もっと大きな仕事を任されるようになるかもしれねえ。へへ、今日は厄日だと思っていたが、
どうやら運が向いてきたかなこりゃ。何のつもりかしらねえが、さっさと逃げときゃいいものを
わざわざ俺達の目の前に出てくるなんて、馬鹿な奴らだ」
全くもってその通りだ。団員の言葉にほとほと同意してあっしはため息を吐く。
「おら、いつまでものびてないで、起きろ」
「あいつらを捕まえる。逃げられないようにさっさと弱らせろ」
団員達は倒れるラッタとゴルバットを叩き起こし、あっしらに襲い掛かるように命ずる。
まるで財宝を前にした盗人みてえに、団員共はすっかりガキ共のことなんざ忘れて、
目の前の手頃な手柄に目を眩ませている。だが、金銀財宝ってのは大抵、屈強な警備員やら、巧妙な罠やら、
恐ろしい化け物がしっかりと守っているもんだ。迂闊に手を出せば最期――。
『おい、ガキどもは十分離れた。もう遠慮する必要なんてねえだろ』
『ああ』
言われるまでもないといったように、電流を獣の如く唸らせマフラー野郎は手を掲げる。
瞬間、青い閃光が駆け抜け、轟音が鳴り響いた。
hosyu
今週末ぐらいに続き書きたいです
保守
ほしゅ
保守
埃が焼けるような乾いた臭いのする白煙がもうもうと立ち籠める。団員共は何が起こったのか
分からないって面をして、痙攣して転がっている自分の手駒達を暫し呆然と眺めた。
「ひ……」
団員共はまるで化け物でも見るみてえに怯えた目でマフラー野郎を一瞥し、何もかも投げ打って
我先にと逃げていこうとする。その無様な背を、ラッタとゴルバットは地に伏せたまま成すすべなく
愕然と見つめ、深い失意と怒りの混じる声で呻いた。
哀れな奴らだ。あっしも、もしも奴らの下に残っていたとしたら、いつかこんな風に使い捨て
られていたのだろうか。敵ながら、少しばかり同情する。
『子分まで見捨てて、あいつらやっぱりサイテーの中のサイテーだ』
子ニューラは憤慨して言い、団員共を逃がすまいと刃物のように鋭い氷片を取り出して狙いを定める。
だが、すぐに横からマフラー野郎が氷片を子ニューラから取り上げた。
『あっ、なにすんだ。返せよぉ』
『ダメだ。人間相手にこれは怪我だけじゃあすまなくなる』
せがむ子ニューラにマフラー野郎は首を横に振るう。
『むー、だからってあんな奴ら見逃すってのか? ちょっとガッカリだぞ』
『いいや、むざむざ逃がしてやるつもりもないさ――』
出し抜けにマフラー野郎はするするとマフラーを解き始める。
『ちょっと預かってて』
マフラー野郎はチビ助をあっしらにひょいと渡し、解いたマフラーを口にくわえて、
逃げる団員共に向かっていった。
マフラー野郎はマフラーを残像の如く引き摺りながら何度か木々の間を迂回し、みるみる団員共に
迫っていく。そのままマフラー野郎は奴らを追い越し、その足元を素早く横切っていった。
「なッ!?」
ほぼ同時、団員どもは何かに足を取られ――ピンとロープのように張られたマフラーだ――
盛大に体勢を崩す。即座にマフラー野郎は奴らの周りをぐるりと数回駆け巡り、仕上げとばかりに
思い切りマフラーを両手で引っ張る。瞬く間にマフラーがまるで蛇の如く意思を持ったように
団員共の体を縛り上げてしまった。
「な、なんだこりゃ、ぐっ、取れねえ!」
じたばたと団員達はもがくが、人間の大人の力でもあの妙な生地はびくともしないようだ。
『無駄だ。良く鍛錬されたガブリアスであろうと、それを引き裂くには少々難儀するだろう』
事もなさげに言って、あいつは『もう大丈夫だ』とあっしらを呼び寄せる。
『おまえ、ビリビリ以外もすっげーな! なんだ今の、どーやった!?』
わくわくしながら子ニューラが問い掛ける。
『ああ、くさむすびって技のちょっとした応用というやつさ』
『で、このクソッタレ共はどうすんだ? まさか大事なマフラーをずっと縛っておくわけにはいかねえだろ』
あっしが言うと、一斉に団員共に視線が集う。
hosyu
明日明後日にでも続き書く。
保守
すまん、ちょっと遅くなりそうだ、明日の今くらいには投下する。
団員共はぞくりと身震いし、顔から血の気が引く。
「畜生の分際で、何をごちゃごちゃ喚いてやがる……?」
「大方、遅い昼食の分配の仕方でも相談してやがるんだろう。こいつらの体格なら
一人分で腹一杯になるかもしれない、お前、先に犠牲になって来い!」
「ふざけんな、てめえが先に食われろ!」
縛り上げられた惨めな体勢で、自分だけでも助かろうと互いに押し退け合う二人を見て、
あっしは心底呆れた。こいつらの小者ぶりに対してもそうだが、少し前までこんな奴らに
びびってへーこら逆らえずにいた己のなんと情けなかったことかと。
『誰がてめえらの骨の髄まで腐り果ててそうな肉なんざ食うかっつの』
ぺっ、とあっしは唾を吐き捨てる。
『見ていられないな。これ以上マフラーを汚されてもたまらない。お嬢さん、後は頼んだ』
ふう、と見るに見かねた様子で息をつき、マフラー野郎はニャルマーに声を掛ける。
『はて、あたしゃアンタほど一思いにやれる強力な攻撃手段は持ち合わせてはいないからねえ。
じわじわと嬲り殺してやりゃいいのかい?』
ニャルマーは爪を見せびらかす様に伸ばして素っ気無く問い返す。
『気持ちは分からないでもないけれど、なるべく穏便に頼むよ。スリープの時みたいにさ』
マフラー野郎はにこやかながら有無を言わせる余地の無い笑みを浮かべる。
『はいはい、分かった分かった。精々、奴らには飛びきりの悪夢を見せてやるさね』
ニャルマーは諦めた様子で応じ、面倒げに尻尾を揺らしながら団員共に歩み寄っていった。
ぐっすりと眠りこける団員共からマフラー野郎はそっとマフラーを解き取り、
ぱたぱたと丹念に汚れを払う。
『ったく、そんな奴らまで手間掛けて生かしてやる義理なんざねえだろうに、どれだけお優しいんだか』
たっぷりとトゲを込めてあっしは言う。
『どんな命にだって生きている意味はある、ってね。こんな奴らでも生きてさえいれば
いつかは変われるしれない。流れる川の水がいつまでも同じじゃないみたいに、
心だって入れ替えられる。借りた言葉だけれど、俺は信じたい』
『ケッ、こんな澱みきったヘドロ沼みてえな奴らがそう簡単に変われるかっつの。生かしてやった恩も
逆恨みに変えて、目覚めたらすぐに俺様達の事を報告するに違いねえや。もういい加減に用は済んだろ、
さっさとこの場を離れようじゃねえか。電撃で大きな音も立てちまったし、他の人間が来るかもしれねえ』
言って、発つ準備をしようとしていると、近場の木の影からカサカサと音が立ち、何かがぬっと顔を出す。
あれは助けてやったぶかぶか帽子のガキだ。ほとぼりが冷めるまで下手に動かず身を隠していたようだ。
きっと裏には癖毛のガキも一緒に隠れているんだろう。
まあ、特に気にしなくても害はねえか。あいつらにあっしらの行動がどんな風に映っていたかは
わからねえが、野生のポケモンに近付くのは危ないと親からちゃんと刷り込まれてやがるだろう。
あっしらが去ったのを見計らって、勝手に逃げていく筈だ。
しかし、どういうわけかぶかぶか帽子のガキ木の裏からそのまま姿を晒し、まるで臆する様子もなく
にこやかにこちらへと向かって来ようとしていた。
「お兄ちゃん、そいつら野生のポケモンじゃないの!? 危ないよ!」
木の裏から癖毛のガキも顔を出し、驚いた様子でぶかぶか帽子のガキを止める。
「この子達は大丈夫さ。危ない所を助けてくれたのを見ただろ? ちゃんとお礼言わなくちゃ」
ほしゅ
おつー
GJ!
明日明後日にでも続きを書きたいです。
保守
そう癖毛のガキを制し、ぶかぶか帽子のガキは、すたすたとこちらへ歩み寄ってきた。
『おい、早く……』
『ちょっと待ってくれ。あの子が、俺達に挨拶したいそうだ』
早えとこずらかりたいあっしらを他所に、マフラー野郎はその場に踏み留まった。
『何言ってやんでえ。これ以上関わるとロクなこたぁねえぞ』
『そんなに時間は掛からないさ。それに……あの子なら大丈夫。眼を見れば分かる……』
マフラー野郎が逃げる様子を見せねえのを悟ったのか、ガキはにっこりと笑いながら近付き、
あっしらの前でぴたりと足を止めた。
「あの……助けてくれて、どうもありがとう」
そう言ってガキは帽子を脱ぎ、あっしらに向かって深々と頭を下げた。
「この事は一生忘れない……俺、大きくなったら、君達……ポケモン達に恩返しするよ!」
『そうか、そりゃあいいや』
マフラー野郎が笑いながら頷くと、ガキも大きく頷いた。
「そうさ、もし、ポケモン達がピンチになったら、今度は俺が助けに行くからさ。
たとえ俺一人でも……絶対に、悪い奴らからポケモン達を守る! 約束するよ!!」
『ああ、その気持ち……いつまでも忘れないでくれ』
無論、人間にポケモンの言葉なんか分かる筈はねえ。
だが、そん時、確かにあいつらは――
あいつとガキとは、言葉を越えた“何か”で通じ合っていた……そんな風に見えた。
「じゃあね、いつかまた会おう!」
ガキは帽子を被り直し、癖毛のガキの方へ走っていった。
「さあ、行こうか。早くしないとみんなが心配するよ」
「う、うん……」
去り際にガキはもう一度こちらを振り向き、大きく手を振った。
それを受けて、マフラー野郎も呑気に手を振り返しやがる。
そんな様子を見て、癖毛のガキもこちらへぺこんと頭を下げ、慌ててガキの後を付いて行った。
そしてようやく、二人のガキの姿は紅葉の中へ消えていった。
――「ふうん、その子達は今頃どうしているんだろうね」
「さてねえ、どうなってる事やら。何せ、もうかなり昔の話でやすからねえ。
ま、一つだけ確かなのは、あのぶかぶかだった赤え帽子も、今ならピッタリなんじゃねえですかい」
「……赤い帽子?」
ふと何かを思い出したように、エンペルトが呟く。
「そう言えば……あの子も赤い帽子だったなあ……でも、まさか……」
「ん? 何か心当たりがあるんでやすか?」
「うん、僕がボス達に初めて会った時、友達のナエトル……いや、今はもうドダイトスだけど……
彼の主人になったのが、赤い帽子の子だったのを思い出してさ」
「ああ、後にたった一人でギンガ団に乗り込んでったっていう、奇特な人間でやしょ?
その辺のこたぁ、トバリの連中の方が詳しいでやしょうが……まあね、あっしもその話を聞いた時、
ちらっと思い出しはしやしたが、そいつぁまったくの別人でさあ」
「え? ドン、彼を知ってるのか?」
「へえ、つい先日、そいつが最年少でシンオウのチャンピオンリーグで優勝したって、
テレビのニュースでさんざん騒いでやしたからねえ。でも、あん時のガキ共はそいつじゃねえや。
もっと年上だろうし、帽子の形も違いまさあ。ましてや、もう一人みてえな癖毛でもねえ」
ドンカラスは杯を置き、フッと苦笑を洩らした。
「でもよ、ひょっとしたら、どこにでもそんな数寄者の一人や二人はいるのかもしれねえ。
だからきっと、あのガキ共も今頃……同じようにポケモンの為に働いてくれてんじゃねえのか……
へへ、そんな風に思うのも、あいつの影響かもしれねえでやすがね」
「そうか……そうだよね……でも、ちょっと意外だな」
「……何がでやすか?」
エンペルトが意味有りげに笑うのを見て、ドンカラスは怪訝な表情をする。
「いや〜、ドンもニュース番組なんか見るんだ〜、と思ってさ〜」
「あ、あったりめえでやしょ?! 仮にもあっしゃあ、ボスからシンオウの管理を任されてるんだ、
人間共の動向も把握してなきゃお話にもなんねえ、ってもんでさあ!」
エンペルトの言い様に少々ムッとしたように、ドンカラスは虚勢を張った。
まあ、実際の所は、楽しみにしていた名画劇場「極道の♀たち・三世代目姐」の録画に失敗し、
代わりに録られていた報道ニュース特集を仕方なく見ていたのだったが……それはさて置き。
「そうそう、それで思い出しやした。あの幽霊騒ぎの時の、髪の長え方の女の子……どうやら、
その新チャンピオンと知り合いらしいですぜ。インタビューの時、隣りに映ってたっけなあ」
やり返そうと、今度はドンカラスがニヤリと笑いながらエンペルトを窺う。
「ヒカリちゃんが?」
「へえ、それにちらっとでやすが……あのお嬢さんも一緒にね」
「……え……」
またしても“急所”を突かれ、エンペルトはギクリと表情を強張らせた。
「それから、チャンピオン手持ちのドダイトス……さっき言ってた、お前さんの友達じゃねえかと
思いやすが……どっしりした面構えで、なかなか良い男振りじゃねえですかい。
お嬢さんと随分仲良さげで、何やらいい雰囲気でやしたっけねえ。へへへ」
「?!」
その途端、ビシィッとエンペルトが凍りついた。明らかに効果は抜群のようだ。
「そ、そそ、そりゃ……彼だって、か、彼女とは研究所からの、お、幼馴染だポチャからして……
た、立ち話ぐらいは、してもおかしくないポチャからして……」
思わずしどろもどろになるエンペルトに、ドンカラスは更に畳み掛ける。
「しかしねえ、遠くのつれねえ、しかも酔った勢いで何しでかすか分からねえ男なんざより、
近くにあんな頼もしそうな男がいりゃ、いくらあの気の強えお嬢さんだって、ついフラフラッと……」
「そっ、そんなの邪推だポチャ! 彼らはそんな軽薄じゃないポチャーーー!!!」
ブチ切れた絶叫と同時に、エンペルトのヒレ状の翼がドンカラスの目前に迫る。
「クアアアアアアッ!!!!!」
どうにか間一髪で避けた途端、座っていた椅子がバキィッと真っ二つに割れた。
エンペルトは嘴の端にヒクついた笑みを浮かべていたが、その眼は全く笑っていない。
「……ねえドン、僕、最近、新しい技を習得したんだけど……試してもいいポチャ……?」
気のせいか、ふしゅるるると息を吐くエンペルトの周囲に、水のようなオーラが渦巻いている。
「ク……クハ…ハハハ……い、いや、じょ、ジョーダン、こりゃマジで冗談でやすってば!
さ、ささ、飲んで飲んで! 続きといきましょうか、ね?」
普段は真面目な堅物がマジギレした時ほど、手に負えないものはない……
からかうのも程々にしないと「あん時」の二の舞だ……と慌てて宥めすかし、ドンカラスは話を続けた――
GJ!
明日か明後日にでも続き書くよ
708 :
703:2011/10/22(土) 19:50:02.70 ID:???0
すまん、ぶかぶか帽子の一人称を間違えてた
「俺」じゃなくて「僕」だな
保管サイト読み直したら確かにそうだったなw
まあ、ドンマイドンマイ
乙!
ほしゅ
――変わったガキだったな。人間の癖にあっしらポケモンに恩返しねえ……。
あっしは寝くたばっている団員共を見やった。なさけねえ、ヤドンよりひどいマヌケ面で
鼻ちょうちんを浮かべてうなされてやがる。奴らのポケモンに対する態度は人間の中でも
特に最底辺なのかもしれねえが、他の大半の人間共だってポケモンはパートナーだ家族だなんて
上辺では綺麗ゴト抜かしていても、内心では薄々あっしらの事なんて何でも言うことを聞く
便利な家畜としか見てねえだろう。表向きじゃあ違法とされてるポケモンの売買なんてのが
ロケット団を馬鹿でけえ組織に急成長させている大きな栄養源だってのが何よりの証拠だ。
需要があるから供給があるってのが奴らが作る”社会”って群れの仕組みだとテレビの良い子の
教育番組――あっしの元主人の下っ端野郎が安アパートでお決まりの安い惣菜弁当を餌みてえに
口に掻き込みながらぼんやりと意味も無く眺めているのをあっしも横で見ていた――でもやっていた。
そのポケモンが団員共にどんなえげつないやり方で仕入れられてきたのかも知らず知ろうともせず、
軽々と奴らに金を出して買い取って、したり顔で大事な家族だなんて言っている輩が居ると思うと、
反吐が出そうになる。
「あのガキ、例え一人でもポケモン達を守るだなんてでけえ約束して、一体どう果たすつもりやら」
あっしは諦めたように苦笑する。
「何事も一つ一つの積み重ねさ。どんなに小さく頼りなく見えても、意味ある一歩だ。
どんな大樹だって、それを支えているのは一本一本は細く頼りない根っこなんだから、ってね」
言って、どこか懐かしそうに、思い出すように、マフラー野郎はふと薄く微笑んだ。
「それも件の借りた言葉、かよ?」
片眉を吊り上げるようにして尋ねる。
「ああ。思えば色んな言葉を与えて貰った……。今の俺があるのも全ては”あの子”のおかげだ」
染み染みとマフラー野郎は呟く。――今思えば、その表情は穏やかながら、まるで煌々と照る炎が
既に去って後は燻ぶるだけの焚き火の跡のような、あるいはたったの一枚だけ枝に遺されて木枯らしに
揺さぶられている木の葉のような、物悲しさを孕んでいたように思う。
”あの子”……こいつを突き動かす”約束”とやらを交わした相手と同一人物だろうか。
口振りからして何となくそんな気がする。
しかし、一体誰のことやら。チビ助はそんな言葉を与えられる程に流暢には話せねえし……
他に、染み染みと、大事そうに思い返すような相手――あっしは、まるで頭の上で電球が灯るようにピンとくる。
「もしかして、コレか?」
あっしは片翼の羽根を小指に見立てて一本だけ立てて見せる。
途端にマフラー野郎は元々赤い頬を更に赤くさせ、「いや、まあ、その」とばつが悪そうに言葉を濁らせた。
「図星か」
ニヤリと、してやったり顔であっしは嘴を歪める。
――「何というか、昔から変わっていないんだな、ドン……」
心底呆れてエンペルトは呟く。
「へっへ、なんだ突然、今も変わらずあっしは若々しいってか?」
エンペルトは額にヒレを当て、やれやれと天を仰いだ――。
――「そうかそうか、お前にもそんな面がねえ、何だか安心したぜ、クハハハハハ」
元よりこの手の浮いた話を冷やかすのは嫌いじゃねえが、どこか浮世離れしたとこのある
マフラー野郎の普段からは考えられねえ人間臭い態度が可笑しくて、からかうのに余計に熱が入った。
まあ、よくよく考えてみりゃ、ガキ連れなんだから過去に浮いた話の一つや二つあって当然なんだが。
「なーなー、”コレ”ってどういう意味だ?」
子ニューラが二本爪の片方を立ててニャルマーに聞く。チビ助も真似して首を傾げた。
「が、ガキは知らなくていい。下品だから真似はやめなッ」
ニャルマーは気恥ずかしそうに言い、二匹の手を慌てて払い除けてやめさせる。
「ゴホン。さあさあ、もう出発しよう。さっきの子達が他の大人達にこの団員達の事を伝えてくれるだろうし、
すぐにでも他の人間達がこいつらを捕らえにやってくるだろう。後は任せよう」
誤魔化すように咳払いして、マフラー野郎は早々の出発を促す。
「へーへー」
内心、笑いを堪えながらあっしは応じた。
週末辺りにでも続き書きたいです。
過去スレ見れないんでちょい質問
携帯版まとめの方で、ピカチュウ達がカントーに上陸するあたりの話(40章の中程)が抜けている気がするんだが
確か、ロゼとマニュの仲(?)をミミロップが察したり、フローゼルがジョウトに海の神がいると話すシーンがあったような
>>717-718 おおおサンクス!そうか、ドンとエンペルトの下りもあったっけか
フローゼルの部分は完全に見落としてたwすまん
,z'='ゝ、__,ィ!
_ __,,.、/ミミミミミミヲ'__
、___,,ィイミミミ>‐'`'‐v':::::::::`:,'´``ヽミミミミミミミニ=-_,,.ィ!
ヽ,、____\ミミミミ>:::::< 'z::::::::;:ィ' ,i゙ミミミミミミミヾ砂炒′
ミッ、__\ミミミミミ`ミミ〉:::::::`:ッ.._,.ノ `ー^゙ `'ーー'ヾミミミミミミ三=ヌ彳ッ、
兮兌來W=ミミミミミミミ>‐-'゙´ ヾミミミミx自慰或゙´
,>安為益ミミミミミミ'! ,.,,.、,ィ i弌冦圦早ゞ''´
;=弌生理域圧ェェェッミ! _ゝォ;ェ、 ,姉欹ヽ、 ̄`゙`
`゙ヾ冬/変>'゙'y !::傚 s ゙恩てノ 1
/゙´ ,゙ 'つ汐′ ;一'l `~´ ,y′
,-'、、 ヽ_ノ ,ィr〈
,, -―==-! `゙ーャ、___、___,,.ィ<‐'´ 丿
/_ ヾ、_ ゙Yjor、o0゙´_/
'"´ ``‐、- _ `> r' ' !、 |
ヽ、 ! ヽ'´ ゝ゚.r'′/
`ー-ヘ ` ゙ー'′ ヽ
゙t'__ l
``ー ..,,__ く
`ー―‐′
ごめん、ちょっと遅れる
明日の今くらいには投下できるようにするよ
さて、余計な厄介事に巻き込まれちまったもんだが、これでやっと心置きなく
出発できるってもんだ。晴々とした気分で再開の一歩を踏み出そうとした矢先、
「お、おい。待て、待て」
耳障りな濁った声があっしらを呼び止める。
「ぐぬぬッ――ああ、今度は何でえ!? もう人でも鬼でも竜でも何でもかかってこいってんだ!」
この期に及んでまたしても入ってこようとする邪魔に、苛々とあっしは羽根を震わせ、
振り返って怒鳴った。声の方にいたのは真っ黒な毛玉と、焦げて壊れた傘みたいな物体だ。
物体はあっしの声に驚いた様子でびくりと体を揺らす。その拍子にぱらぱらと物体から煤が剥げ落ち、
中からラッタとゴルバットが姿を現した。
「おうおう、なんのつもりだテメーら。あれだけのしてやってもまだ懲りねえってのかい」
進化系が二匹とはいえ既に弱りかけ、勢いとマフラー野郎を当てにあっしは強気に打って出る。
「エラそうに……アンタは何もしてないじゃないのさ」
ニャルマーがちくりとぼやく。
「あ、オレ知ってるぞ! こーいうの確かライコウの威を借るロコンって言うんだよな?」
ぽん、と手を打って子ニューラが言った。
「おや、よく知ってるね」
マフラー野郎は感心した様子で子ニューラに頷く。
「えっへへ、親父達に習ったんだもんね」
嬉しそうにはにかんで子ニューラは得意げに胸を張る。
こいつら、言いたい放題言いやがって。ぎりぎりとあっしは嘴を噛み締める。
チビ助さえも普段からジト目気味な目付きを更に険しくして、あっしを軽蔑するように見やる。
だが、あっしが何もしていないのは全くの事実である以上、何も言い返すことは出来ない。
「ぐぐ、クソッタレ、こんな奴ら俺様だけでどうにでもなるってんだ、テメエらはそこでただ黙って見てな!
オラオラ、来るならどこからでもかかってきやがれ!」
ヤケクソになってあっしは翼を広げ、ラッタとゴルバットに啖呵を切る。
「違う、違う、俺もう戦わない、戦えない。こいつも、な? な?」
ラッタはたどたどしく言って首をぶるぶると横に振るい、ゴルバットに同意を求める。
”ギィ”とゴルバットは一鳴きして頷いた。
「ああん? じゃあ、一体何のつもりだってんだ?」
内心ホッとしながら、あっしは強い調子で尋ねる。
「俺も、こいつも、飼い主どうなったか見に来た、な? な?」
”ギィ、ギィ”とゴルバットは二鳴きして頷いた。
「ヘッ、あのゲス共ならとっくに夢ン中さ。強烈な催眠をかけてやったから良くても半日は目覚めねえだろうよ」
存分に脅しかけるようにあっしは言った。
「かけたのはアタシだけどね」
ぼそりとニャルマーがぼやく。黙ってろ、とあっしが睨むと、ニャルマーはツンと顔を背けた。
ラッタとゴルバットは顔を向き合わせて何やら”チューチュー、ギィギィ”とささめく。
暫しの後、話が纏まったのか、くるりと二匹はこちらに向き直った。
「な、な、カラス、お前も、ロケット団のポケモン。でも逆らって逃げ出した、怖くないか?
奴ら追ってくる、もし捕まったら殺される、な? な?」
”ギィ”とゴルバットが頷く。
「そりゃまあ――」
ラッタに尋ねられて、あっしは少し言葉に詰まる。改めて、冷静に考えてみりゃ、あっしは何とも
恐ろしいことをしでかしたもんだ。今回の団員共はとんだ三流の下っ端だったが、幹部やエリート団員の中には
もっと冷酷で頭が切れる奴がいるし、連れているポケモンだってもっと強力だ。
だが――あっしはちらりとマフラー野郎を見やる。うっかり目が合い、マフラー野郎は挑発するように
ニッと微笑んだ。
はあ、とあっしは深々と溜息を吐いた後、改めて覚悟を決めるように、すう、と息を深く吸い込む。
「ケッ、そりゃ、ちっとも怖くねえっつったら嘘になるけどよぉ。一生、奴らの言いなりになったまま、
テメエらみてえにいつ使い捨てられるかも分からない日々をずっとびくびく過ごし続けて、でっけえ大空も、
この燃えるような紅葉も、まだまだ計り知れねえこの世の広さと綺麗さを、自由を一度も味わわねえで
くたばっちまう方が今となってはよっぽど怖ええや」
言ってのけた後、小っ恥ずかしくなってあっしはズッと鼻を啜った。
ラッタとゴルバットは再び顔を突き合わせ、話し合う。
「そか、そか、うん、うん。お前のおかげで決めた、俺も、こいつも、団から逃げだす。俺もこいつも、頑張って飼い主
守れば、飼い主達も俺とこいつ危ない時、守ると思ってた。けど、違った。俺も、こいつも、もう奴らこりごり」
”ギィ!”とゴルバットは強く頷いた。
「俺様達と一緒に来るってのか?」
「いや、俺とこいつは一緒、お前等とは別々。俺とこいつ、裏切ったの、まだ知られてない。
けど、お前等、知られてる。それに、数少ない方が、きっと見つかりにくい。
別々の方が、お互い安全。な? な?」
”ギギィ”とゴルバットは少しすまなそうにして頷いた。
「そうかい。ま、別に無理矢理引き止めてやるような義理もねえし、好きにしやがれ。
精々、すぐに捕まっちまわねえようにな」
「うん、うん、お前等、俺も、こいつも、感謝する、ありがと。お前等も、うまく逃げろ、捕まるな」
”ギィ”ゴルバットは頷き、こちらにバサバサと別れの翼を振るってから、ラッタと共に去っていった。
「彼らの幸運を祈ろう」
ラッタ達の背を見送りながらマフラー野郎はそっと呟き、チビ助を背負い上げた。
「……おう」
――「こっちだ! あそこに倒れているぞ!」――複数の人間達の声と足音が響いてくる。
「チッ、長居しちまった。おい、ニューラ、里に行くにはどっちに行きゃいい?」
「おー、まず目指すのはあのでっかいシロガネ山の方向だ! 途中、スリバチ山と、
チョウジタウンを過ぎてって、えーと、そこまで行ったらまたセツメーするぞ!」
乙〜!
携帯版まとめも補完されてたな。管理人さん乙〜!
明日明後日辺りにでも続き書きたいです
ほしゅー
今度出るポケパーク2にミミロップと踊るミニゲームがあるらしくてワロタ
ここのピカチュウは頑なに嫌がりそうだなw
ポケパーク2公式の動画見てきたがノリノリだなw
ピカチュウとバンギラスが戦ってたのもちと気になるw
バンギラスは旧ポケパークのラスボスだったけどな。ブーバーン→ガブリアス→バンギラスの連戦だったはず。
ミミロップは遺跡の入口。ムウマージは洋館でイベントあり。アブソルはアトラクション持ち。
遅れ気味でごめん。続きは夕方か夜くらいに投下するよ。
てんやわんやのごたごたの末にエンジュを脱したあっしらは、子ニューラの案内に従って
まずはエンジュの東、スリバチ山方面へと向かった。
まったく、紅葉の余韻に浸る暇も無かったぜ。エンジュシティを振り返り、
夕日に染まってより紅く煌々と照る紅葉とスズの塔を見やって、やれやれとあっしは嘆息を漏らす。
――「そういえばチビ助君がそのスズの塔の上に見たって言う七色の大きな鳥って、
結局何だったんだろうな。話を聞いていても変な嘘を言う子だとは思えないし、迷い込んできた
癖毛の子も同じように塔の上をぼんやり見上げて、引き寄せられるかのようにやってきたんだろ?」
エンペルトは首を傾げて、問い掛ける。
「ん、後で知ったことだが――何でもスズの塔の屋上は伝説の霊鳥が舞い降りてくる神聖な場とかって
云われてるそうで。その霊鳥の姿ってのが七色に輝く大きな鳥なんだとか――」
「へえ! ってことは、チビ助君達はもしかしたらその霊鳥を見たのかもしれないってことか?」
少し興奮気味に食いつくエンペルトに、ドンカラスは「いんや、ありえやせんよ」と
苦笑気味に首を横に振るう。
「どうしてだ?」
「霊鳥に纏わる伝説の一つにこんな話があってな。”その姿を見た者は永遠の幸福が約束される”
……だったら、何の罪もねえ筈のチビ助がどうしてまたあんなひでえ運命に巻き込まれなきゃならねえ?
チビ助が本当にその姿を見ていて、その霊鳥が実在してやがんなら、てめえの加護なんて
とんだ嘘っぱちだって、その高飛車に澄ましているであろう面をぶん殴ってやりてぇよ」――
――「なーなー、ちょっと休憩しないか? オレもう疲れちゃったよー、ネズミー」
スリバチ山の山道に差し掛かったところで、子ニューラがくたくたになった様子で愚図る。
「オメエが寄り道させたせいで無駄に疲れてんだろうが。我慢して歩きやがれよ」
本音のところはあっし自身も疲れきっちゃあいたが、これ以上こいつのワガママを通すのは癪だ。
「なあ?」あっしはニャルマーに振り向いて同意を求める。
「今回ばかりはアタシもそのガキに賛成さね。散々走り回らされたし、奥の手だった催眠術を
何回も使わされて、くたくただよ。元々そんなに体力ある方じゃないってのにさ」
気だるくニャルマーはぼやく。
「あんだよ、オメエまで……」
口では不満そうに言いながらも、それ以上反論する気も無く、あっしは判断を仰ぐように
マフラー野郎に目をやった。マフラー野郎は、巣に帰ろうと逸るポッポやオニスズメのどこか寂しげな
鳴き声響く橙色と紫色の入り混じった空を見上げ、暫らく思案する。
「うん、確かにこのペースだと山道の途中で夜遅くになってしまいそうだな。夜の山は危険だ、
疲れきった体じゃあ余計にね。そうだな、適当な場所を見繕って一晩野営しようか」
「やったぁ!」
マフラー野郎の決定に、子ニューラは飛び跳ねてはしゃぐ。
ちぇっ、またクソガキの思い通りか。だが、ま、あの団員共もしっかりお縄になっただろうし、
しばらくは追っ手の方も大丈夫だろうか、あっしは疲れに任せて楽観的に考えることにした。
その日の晩は、空に月が無い不気味な程に闇の濃い夜だった。
週末にでも続き書くよ
hosyu
ポケパーク2をゴージャスダンシングのところまでやったけど、今回ミミロップはアトラクション内だけの登場なのかな?
受付役はシャンデラだった
ノリノリっぷりと、ピカチュウとミミロップの大人と子どもくらいある体格差に吹いたわw
ピカ生でもけっこうミミロップがピカチュウ抱えてるもんなw
今更ながら、エレキブルの「黄色いイナズマ」は旧ポケパークネタだと知ったw
人通りを避けた山林の中に庇のように突き出した岩壁を見つけ、
あっしらはその下で野営を張ることにした。マフラー野郎の指示のもと、
全員で手分けをして周辺から木の実等の食料と、枯れ葉や小枝を拾い集めていく。
「ひゃは、くらえッ、オレ式リーフストーム!」
「ぴゃッ!?」
あっしが面倒ながら地道に小枝を拾い集めている脇で、早々に飽きたのか、
子ニューラが折角集めた葉っぱをチビ助にバサバサと浴びせてじゃれ出す。
「おら、遊んでんじゃねえ! ちゃんと手伝いやがれってんだ」
「ちぇっ、うっさいなー。分かったよ」
あっしが怒鳴ると、渋々と子ニューラは散らかした葉っぱを片し、抱え直した。
そんな様子を横目にニャルマーは溜息をつき、マフラー野郎はクスと微かに笑みをこぼす。
「よし、もう十分集まったかな」
持ち寄った食料と、中央にこんもり積まれた小枝と木の葉を、マフラー野郎は満足げに
見回して言った。
「ちょっと離れていてくれ」
言って、マフラー野郎は指の間に電流を弾けさせ、小枝と木の葉の山に火を灯す。
火は徐々に大きく燃え上がり、あっしらは食料を分け合って火を囲んで座り込んだ。
飯も食い終わり、焚き火の暖かな火と光の傍、あっしは心の底からほっとする。
空は黒一色に染まり、辺りはすっかり闇に沈み込んでいた。子ニューラはチビ助を枕にして
ぐーすかと寝息を立て、チビ助はその下でうんうんとうなされている。
マフラー野郎は仕方なさそうに苦笑して子ニューラを起こさないように慎重にチビ助の上からどけ、
解いたマフラーをそっと二匹に優しくかけてやった。
ニャルマーの奴も顔を伏せ、体を丸めて寝入っているようだ。
「君も今日は色々あって疲れているだろう、ヤミカラス。ゆっくり休むといい。火の管理は俺が
やっておくからさ」
余った小枝を火にくべながらマフラー野郎は言った。
あっしは揺らめく炎を見つめ少し思い悩んだ後、意を決して口を開く。
「オメエってさ、今までどんな生き様をしてきやがったんだ? 軍隊に飼われてただとか、ネズミとは
思えねえ腕っ節とか、肝の据わり方とか、言い方はわりぃがマトモじゃねえ。そろそろ少しくれえ身の上を
話してくれてもいいんじゃねえか。こっちゃ何もわからねえまま散々無茶に付き合わされたんだからよ」
マフラー野郎は枝をくべる手をぴたりと止め、押し黙った。俯いて炎を見下ろす顔に、深い影が落ちる。
暫しの沈黙。焚き火の中の木がぱちりと大きな音を立てて弾けた。
マフラー野郎はゆっくりと顔を上げる。
「そうだな。少しばかり語らおうか」
自嘲めいた笑みを口元に浮かべ、マフラー野郎は呟くように言った。
とりあえずここまで
続きは明日の今くらいにまた投下するよ
乙! 待ってるよ〜
駄目で元々のつもりだったが、まさか本当に話す気になってくれるたぁな。
仄かな期待と、少しばかりの不安を抱いてあっしはマフラー野郎を見やる。
「それじゃあ、まずは君から頼むよ、ヤミカラス。君が今までどんな風に生きてきたのか」
「はあ? 何で俺様が?」
唐突な言い分に困惑するあっしに、マフラー野郎はわざとらしくとぼけた顔をする。
「自己紹介は自分からって言うだろう? 何事においても、何かを得るには何かを
与えなくちゃあならないものだ。俺だけ話すって言うのはフェアじゃあない。
お嬢さんも、そう思わないかい? 盗み聞きのような態度はあまり感心しないな」
言いながら、マフラー野郎は地面に丸まって寝息を立てるニャルマーを見やった。
眠りこけているとばかり思っていたニャルマーの耳が、ぴくりと反応する。
「……お見通しかい」
観念した様子でニャルマーは緩慢に起き上がる。
「本人の意に反して耳や尻尾の動きは正直なものさ。それに警戒心の強そうな君が、出会って日の浅い
奴らの前で堂々と寝るなんて真似をするとは端から思ってないし、鎌を掛けたらズバリってとこ」
ニッとマフラー野郎は笑いかける。
ニャルマーは呆れたように鼻で息をつき、『はいはい、参った、参った』と白い尾先を振るった。
「じゃあ、早速、ヤミカラス君からどうぞ」
まるで学校の先生のようなもったいぶった口調で、マフラー野郎はあっしを指す。
視線が集い、あっしは駄目な落第生徒の如く、「う……」と答えを詰まらせる。
あっしのそれまでの人生なんざ、自慢げに誇ることもない、楽しげに語らうことも出来ない、
無い無い尽くしの素寒貧でスカポンタン――てめえで言ってて涙がちょちょぎれそうな有様だ。
「どんな生き様っつったって、百貨店ん中でオメエらが見てきたもんが、俺様の全てだよ。
物心ついた時からあの黒ずくめのクソッタレ共にびくびくへこへこ生き長らえてきた。
それ以上、語ることなんざ何にもねえ……マジでよ」
吐き出た言葉の苦さに嘴の端が曲に歪み、枯れ枯れとした吐息が漏れた。
「でも、君はこれから幾らでも変えることが出来る。それに誇ることも楽しかったことも何も
無いなんて、本当かい? 例えば、あの筋肉の権化のようなワンリキーを一羽で倒した、
恐ろしい犯罪組織のアジトからまんまと逃げおおせた――十分に誇ることができる武勇伝だろう?
皆で眺めたあの見事な紅葉、やいやいと騒ぎ合いながら野営の準備をしていたあの瞬間、
ちっとも楽しくなかった? 君は気づいていないだけ、気づこうとしていないだけさ」
屈託の無い笑顔を浮かべてマフラー野郎は言った。その顔には何だか奴自身の他にも、
別の誰かが重なって見えた気がした。
「……ケッ、べらべらと恥ずかしげも無く良く口の回る奴だ」
あっしは気恥ずかしさを払うように悪態をつき、そっぽを向く。
「さあ、お次はお嬢さん、君の番さ」
お呼びがかかり、ニャルマーはさながら窓からそろりと抜け出そうとしていた所を見つけられた
泥棒みてえに、ぎくり、と体を揺り動かす。
「ふー……過度な馴れ合いはご免蒙りたいんだけどねえ。アタシの柄じゃあないよ」
「まあまあ、お嬢さん。今の俺達は一種の運命共同体だ。互いに腹積もりを幾らか明かし合って、
一定の信頼を得ておくのはきっと無駄にはならないはずさ」
マフラー野郎はいつものどこか含みのある笑顔をニャルマーに向ける。
「やれやれ、ったく……火を囲んでジブンガタリなんざ、ガキのキャンプファイヤーじゃあるまいし……。
でも、まあ、いっか。少しくらい。このまま寝付けそうも無いし。だけど、聞いて後悔すんじゃあないよ」
ニャルマーは渋々といった具合に口を開く。
「前にも言った通り、アタシの生まれはシンオウさ。もっと小さいガキの頃は、母親と二匹っきりで
どうにか生き繋いでいた。父親がどこの誰かなんてわかりゃあしない。良い母親とは言えなかったが、
種族的としてお世辞にも強いとは言えないアタシらニャルマーが、強かに悠々と生き延びる方法と手段を
色々と学ばせて貰ったよ」
「ってえと?」
あっしはその悠々生き延びる方法とやらを、いずれ来るかもしれない一羽での野生暮らしの参考にさせて
貰おうと興味津々で尋ねる。
「真似しようって? 一つだけ特別に教えてやるが、アンタみたいな雄にゃあ無理さ。……いや、
雄でもやりようによっちゃあいけるのかもしれないが――クク、アンタのムサい面じゃあねえ」
「ど、どういう意味でぇ!」
憤慨するあっしを、ニャルマーは鼻で笑う。
「強い雄、特に大きな群れのリーダーなんかを狙ってね、媚び取り入るのさ。その手段は――
うぶなボウヤじゃああるまいし、詳しく言わなくたって大体、分かるだろう?」
「あ……お、おう……」
あっしは何となく意味を理解し、少し赤面して押し黙る。
「ふん……ま、その生き方にも限界があってねえ。年老いて、誰からも見向きもされなくなっちまったら
仕舞いさ。母親の最期は、それはもう惨めなもんだった。置いていかれた悲しみよりも、人目を忍ぶように
辺境のこれまた隅の穴倉で冷たく転がっていた”それ”に、己の行く末が重なって見えた絶望感の方が勝ったよ。
アタシはあんな最期、ゴメンだ、絶対に。だから、アタシは何としても――」
初めて見るような愁いを帯びた顔でニャルマーは最後に何か言い掛けるが、ハッと取り直して押しとどめる。
「フフン、聞いて後悔したかい? だから他人様の過去なんて気軽に根掘り葉掘り詮索するもんじゃあないのさ」
誤魔化すようにニャルマーは普段の小憎らしい調子でからからと嘲った。
「じゃあ、あの山猫のガキ――コリンクの奴は一体どういうつもりで連れまわしてやがったんだ?
強そうにも、大きな群れのリーダーにも見えねえが」
「あのまんまじゃあ、そうだけどね。あれからルクシオを経て、レントラーにまで成長すりゃあ中々のもんさ。
アイツはシンオウでまあまあの規模の群れを持ったレントラーのご子息様の一匹でねえ。その群れじゃあ、
獅子は我が子を千尋の谷に落とす――自分のガキ共を一匹ずつ武者修行に送り出して、無事に帰ってきた奴を
次代のリーダーとして育てるなんて古臭ーい風習をいまだに引き摺っていてんのさ。人間が大昔より更に
のさばり始めた昨今で、まったく無茶だよねえ。前々からその群れに目星を付けていたアタシゃ、
偶然、アイツが人間のトレーナーに捕まりそうになっているところに出くわして、こっそりと陰から
救ってやったわけさ。群れのリーダー、上手く行けば次期リーダーに近付くためのダシにするつもりでね。
途中までは上手くいってたが、ヘマしちまって人間、それもロケット団なんかに二匹揃って捕まっちまったもんだから、
大番狂わせの台無しさ」
GJ!
週末あたりにでも続きを書きたいと思います。
748 :
746:2011/11/16(水) 00:57:35.36 ID:???Q
>>747 ごめん、
>>743-746の部分書いたものだけど、ちょっとPCの方が一時的な連投規制みたいのに引っ掛かって、
昨日の内に投下できなかった分を、明日の今くらいに先に投下させてもらってもいいかな?
749 :
747:2011/11/16(水) 02:54:16.07 ID:???0
この女、態度や言動からしてカタギじゃねえことは分かりきっていたが、
蓋を開けてみりゃ予想していたよりももっとひでえ黒さだ。あっしは絶句し、
コリンクの何も知らない純朴そうな笑顔がふと暗い夜空に見えた気がして、心の中で涙した。
ああ、きっとこんなこと知ったらアイツ、海より深えトラウマになるのは間違いねえ。
一生モンの雌不信になったっておかしくねえ。傍らから見てるあっしだってなりかけてる。
「おっと、これについちゃ煩わしい細かい事は言いっこなしさ。別に痛め付けたり、
取って食おうって分けじゃあない。寧ろ守り、支えてやっているくらいだ。
行く行くアイツはアタシに安全な暮らしを与えるようになり、アタシもまたアイツが求める
理想のアタシを与える――。持ちつ持たれつさ。誰しもが、アンタみたいに自力で自分の身を
容易く守れるような力を持っている訳じゃあないんだよ、ニイさん」
顔を微かに顰めるマフラー野郎に、せせら笑うようにニャルマーは弁明する。
「ふーむ、思っていた以上に君は厄介そうだな、お嬢さん。コリンクに関して色々言いたいことは
山のようにあるけれど、今はやめておこうか。下手に暴いても彼を傷つけそうだし……難しいな」
やれやれ、とマフラー野郎は溜息をついて嘆く。
「そうそう、今のアタシらは運命共同体。余計な不和は後回しにした方が賢いよ」
くく、とニャルマーは意地悪く笑った。
「それに、アンタだって人のことをいえないんじゃないのかい?」
「え?」
マフラー野郎が首を傾げると、ニャルマーはすやすやと寝入っているチビ助をちらりと横目で見やる。
「アンタとそのガキの間柄だって、何だか一癖二癖ありそうじゃないのさ」
ニャルマーは口端を邪に歪め、マフラー野郎をずいと見下ろす。
「さあて、アタシらの話は終わったんだ。そろそろアンタの話を聞かせてもらおうか。他人様の生き様に
さんざケチ付けてくれたんだ。お礼にアンタのもじっくりと査定してやるよ、ねえ、ヤミカラス」
「おうよ、聞きてえ事は山ほどある」
あっしは同意してマフラー野郎に詰め寄る。
「……はは、お手柔らかに頼むよ」
マフラー野郎は乾いた笑みを浮かべた。それから一拍置いて、マフラー野郎は覚悟を決めるように
息を整えた後、もう一度改めて口を開く。
「俺が産声を上げたのは、某国の軍が所有する施設の一つだった」
あっしはハッとしてマフラー野郎を見上げる。
「そうだ、ヤミカラス。俺もまた、君と同じように、生まれる前から運命を決められた身だったのさ」
マフラー野郎は力なく苦笑する。
「物心がついた時には、濃い硝煙と炎、生臭い臭い漂う戦場に立たされていた。
山のように大きく屈強な重量級達――主にドサイドンや、ボスゴドラ等、怪獣型のポケモン達だ。
奴らの足音と咆哮はいまだに時折、夢にうなされる――が闊歩して大地を揺るがし、
空を飛び交う竜達が雨霰の如く無数の流星や燃え盛る火炎を降り注がせていく。まさにこの世の地獄だ。
だが、俺はその地獄を幾度も生き延びた。淡々と命ぜられるまま、目の前の敵を討ち続け、生き残り続けた。
自軍を勝たせるため、同胞を守るため、国のため、そんな使命感は一切無く、それが生まれてきた意味ならば
果たすまで、と割り切っていた」
あげ
あっしはしばし絶句した。流石のニャルマーも、顔を引き攣らせ俯いている。
同じ人工的に造られた身の上でありながら、あっしのチンケな運命とはまるでケタ違いだ。
いくらロケット団が悪辣な連中とはいえ、命まで落とすような任務はそう滅多にあるもんじゃねえ。
だが、こいつは……常に死と隣り合わせの地獄の縁を、否応なしに歩かされてきたって訳だ……
マフラー野郎の黒い目に映る赤い炎が、まるで燃え盛る戦火のようにも見えた。
「そうやって生き延びていくうちに、いつしか敵軍の間で、俺はかなり名の知れた存在となった。
勿論、良い意味じゃなく、悪い意味で、だけどね。根も葉もない噂が、トサキントの尾ヒレのように
広がっていったもんさ。俺が歩いた後には草木一本残らないだとか、電撃で山を打ち砕いただとか、
たった一匹で重量級ポケモンの大群をなぎ倒し、不利な戦況を覆しただとか、
伝説の雷鳥、サンダーの化身だとか……」
「そ、そうなのか……?」
思わずあっしの声は裏返った。奴の身のこなしや機転、あの強力な電撃……
ホントにそんなモンが乗り移ってたとしても、ちっとも不思議はねえように思われた。
「まさか……そんな高貴なポケモンが、醜い争いになど加担する筈ないだろう?
でもまあ、他の事については、当たらずとも遠からず、って感じかもしれないな。
そのうちに、同胞のポケモン達ですら俺を怖れ、避けて通るようになった。
相手が赤ん坊だろうと年寄りだろうと、小型だろうと同族だろうと一切容赦はしない、
余りにも血も涙もない、冷酷無比、残虐非道な奴だと、散々陰口を叩かれた。
揚句、『黄色い悪魔』なんていう、有難くない渾名まで頂戴したぐらいさ」
そう言って肩を竦めるマフラー野郎の表情は、仏さんとまではいかなくとも、悪魔などとは
程遠いぐれえ穏やかだ。だが、ふとした瞬間に、深い闇のようなモンが滲み出るのだけは隠せねえ。
「けれど俺自身は、そんな噂など別段気にも留めなかった。殺らなければ、自分が殺られる――
ただそれだけの事が理解できないなど、何て愚かな連中なんだろう……そう思っていた」
――それは、長い長い戦争が、ようやく終結し掛けた頃の事だった。
多大な犠牲を出しながらも自国の戦況は優位に傾き、勝利はもう時間の問題とされていた。
戦闘に駆り出される回数も目に見えて少なくなり、平穏な日々が続くようになった。
自軍の兵士やポケモンの表情も明るく穏やかになり、時には笑顔さえこぼれるようになった。
――だが、周囲が和やかになっていくのとは逆に、俺自身は段々と落ち着かなくなっていった。
何か漠然とした不安のようなものが頭を掲げ、重く圧し掛かるようになっていた。
やがて、その重圧の正体が序々に明らかとなっていくと、俺は行き場のない焦燥に陥った。
――俺の人生は、常に戦いの中にあった。それは、俺の唯一の存在意義であった。
だが、その戦いが終わってしまったら、俺は一体どうなる?
利用価値を失い、用済みとなった「兵器」に、どんな未来があるというのだ……?
――そんな或る日、自国に抑留中の敵軍小隊が秘かに撤退を始め、国境付近へと移動している、
という情報が入った。先回りして彼らの行く手を塞ぐ為、俺の所属する部隊はすぐさま出動した。
移動先と予測される場所には、国境線に沿って大きな森が広がっていた。
一旦そこへ紛れ込まれてしまえば彼らの脱出は容易となり、捜索は困難になると思われた。
――自軍は大胆にも、森を全て焼き払い、敵軍が脱出する事も、身を隠す事も封ずる策を講じた。
俺は風上から火を点けるように命じられ、単独で森の奥へと向かった。
度重なる戦火によって半ば枯れ掛けた木々の中に、一際大きな老木があった。
俺は、心に巣食う、言い様のない苛立ちをぶつけるかのように、老木へ向かって雷を落とした。
老木は轟音と共に弾け散り、めらめらと面白いほど簡単に燃え上がった。
次第に燃え広がる炎の渦を背に、俺は風下へと走った。
――折からの強風に煽られて、炎は凄まじい勢いで森全体を呑み込んでいった。
森を抜けた所から程近く、瓦礫の散らばる焦土の上に、黒い影が一塊となって佇んでいるのが見えた。
件の敵軍小隊の兵士達と、そのポケモン達だった。
兵士もポケモンも燃える森を見上げ、一様に嘆き、絶望した面持ちで立ち竦んでいた。
俺は身を隠そうともせず、血に飢えた獣のようにじりじりと彼らに近付いていった。
――俺の姿を見付けると同時に、彼らは驚愕の表情を浮かべ、更に寄り集まった。
走って逃げるだけの気力も体力も、もう既に残っていないのだろう。
数人の敵軍兵士を囲み、そのポケモン達は円陣を組むような形で守りを固めた。
やがて、俺が“誰”か、という事が伝わったのか――彼らの顔は緊張と恐怖の為、奇妙に歪んだ。
しかし彼らは最後の力を振り絞るかのように、玉砕覚悟で俺に襲い掛かってきた。
――だが、どれだけ束になって掛かってこようと、策も何も無く、ただ捨て身で向かってくるだけの、
しかも疲弊し体力も残り僅かな連中をあしらうなど、俺にとっては雑作もない事だった。
俺は易々と彼らの足元を掻い潜り、隙だらけの背中へ向け、勢いよく電撃を放った。
彼らは耳をつんざくような絶叫と共に、糸が切れた操り人形の如くバタバタと倒れた。
余波を受けた敵軍兵士は呻き声を上げながら、苦痛に地面をのたうち回った。
自軍の兵士達が駆け付けた頃には既に、全ての片は付いていた。
――まだ息のある敵軍兵士は捕虜として連行され、その手持ちのポケモンも没収された。
更にその周囲には、攻撃の煽りを受けたものか、野生のポケモン達も少なからず倒れていた。
恐らくは元々その森に住み、火事に追われて逃げ出してきた者達だろう。
自軍の兵士達は役得とばかりに彼らを捕獲し、次々と軍用トラックの荷台へ積み込んだ。
――そして、その薄汚れた荷台の片隅に……「あの子」はいたんだ――
GJ!
明日明後日ぐらいにでも続き書きたいです
このスレから公式に逆輸入されたのって、ポケセンのマントピカチュウとポケパーク2のミミロップダンス以外になんかあったっけ?
たまたまそれっぽい要素を先取りしただけで、このスレから公式に直接逆輸入されたわけじゃあ無いとは思うが…w
アルセウスの攻撃の方法とか先取りしてたな>映画でも石版がアルセウスの周囲を回る
確かにさばきのつぶての描写とか、今読んでもまったく違和感がないw
シンオウ編が書かれた頃って、アルセウスはおろかダークライですら原作(DP)に登場してなかったのに…
波乗りバグ?何ですかそれw
あ、そういやアニメでミミロルがピカチュウに惚れる、とかあったなw
あと、プラチナでは、やりのはしらで本当にディアパル二体が出現した
あー、初期の話が書かれた頃ってアルセウスは存在自体はこっそり広まっていたけど、
まだ公式では発表されてなかったんだっけか。偶然ってすげえなw
調べてみたら、シンオウ(アルセウス)編が完結し、カントー(ダークライ)編が始まったのは2006年の終わり。
公式にダークライが発表されたのは2007年、アルセウスは2009年。
すげえなんてもんじゃないw つか、よく続いたもんだw
シンオウ編からもう五年近くも経ってるのか……何だか実感わかねえw
明日の今くらいには続き投下するよ
――程なくして引き上げの号令がかかり、俺もトラックの荷台へと乗り上げた。
『グッド・ボーイ』どこか嘲弄めいた笑みを浮かべ、頭に伸ばされかけた兵士の手を振り払い、
俺は捕獲ケージの檻が並ぶ荷台の奥へと一匹向かった。途中、両脇からは先程捕らえられた者達の
畏怖、憎悪、侮蔑、怯えの視線が向けられ、まるで暴君の凱旋の如く、皆決して言葉には出せぬが
拒絶に満ち満ちた気配が俺を取り巻いていた。だが、こんなもの、いつものことだ。
まるで気にも留めないようにして、割り切って、鼻で小さく笑い飛ばして、俺は最奥の小汚く錆び付いた
鉄板に背を持たれかけさせて腰を下ろした。
このまま疲労に任せて目を閉じれば、悪魔が寝付くにはふさわしいであろう土石流の最中でシーソーを
しているかのような軍用トラックの破滅的な揺り篭に暫し揺られ、それから叩き起こされて家畜小屋が豪邸に
思えるような宿舎へと押し込められ、起床ラッパより喧しい顔面バッテン傷の黒猫が押し売って来る喧嘩を
うんざりとあしらいながら、次の出動を待つ。繰り返しだ。……いや、それも、もうすぐ終わってしまうのか。
あるいは、寝入った隙を見計らって、檻の中に居る誰か、どいつでもいい、が長い爪や牙や針、
何でもいい、を憎いであろう俺を目掛けて放って、一息に息の根を止めてくれるかもしれない。
このまま用済みとなって、恐らくは人間の手によって廃棄されるよりも、その方が互いに幾らか気が晴れ、
俺も割り切れる。そんな風に思った。
しかし、生憎、檻の中にはそんな手段と度胸がありそうな奴はいなかった。檻の中に入れられていたのは
進化前や小型のポケモン達ばかりだ。見るからに危険と判断された者は皆、簡素な檻ではなくモンスターボールの中に
封じ込められたんだろう。その証拠に幾つかの中身が入っているらしき青いモンスターボールが檻の上の籠の中に
乱雑に放り込まれていた。
「当時は最新鋭だったスーパーボール……。軍属のトレーナーの中にはこういう最新の玩具を
贅沢に使って遊べることを命を賭けるに値する対価の一つとしている輩も少なからずいた。
あの時は結構な高級品だったらしいけど、今もかな?」
「普通のモンスターボールに比べりゃ少しは割高だが、今となってはその辺のガキでもちょっと小遣いを
貯めりゃ余裕綽々買える程度だ。それどころかもっと性能が上のハイパーボールなんてのも流通し始めてやがる」
「へえ、スーパーだって中々抜け出しにくいってのに、『かがくのちからってすげー』ってところか。
人間の進歩は恐ろしいものがあるな。その内、どんなに大きくて強力な奴でも弱らせる必要さえなく、
投げるだけで簡単確実に捕まえてしまうものや、既に親登録してあるポケモンまで無理矢理IDを書き換えて
スナッチ――強奪してしまうものまで開発されたりして」
「へっ、風の噂じゃあ、前者は既にどっかの大企業が開発を始めているって話だぜ? 後者だってあくどい
人間どもが如何にも思いつきそうなことだ。その内、どっかの悪の組織が秘密裏に実用化まで漕ぎつけたりしてな」
「うへえ、くわばらくわばら……。っと、話が脱線してしまったな――。
これからこの捕まった奴らは、過酷な調教や訓練の果てに兵器と変えられてしまうのか、もしくは研究所送りに
されて愛護団体が内容を聞いたら泡を吹いてひっくり返ってしまいそうな実験の材料とされてしまうのか、
はたまた日頃の戦いで心身ともに飢えた軍用ポケモン達への生餌や玩具にされてしまうのか――」
「話を聞いているとよ、何だか軍隊ってのもロケット団と大差ねえんじゃねえかって思えてくるぜ」
眉間を顰めてあっしは言う。
「……長らく凄惨な戦場に身を置いていると、生死、善悪、現実感、様々な感覚が麻痺してモラルが欠如していく。
個人にだけ責任があるわけじゃあない。だからといって、いともたやすく行なわれたえげつない行為の数々が
赦されるわけじゃあないが……。勿論、軍に属する者達全員がそんな風になってしまうわけではないし、
俺が追い遣られた部隊は、とりわけ人間もポケモンも素行の悪い者達ばかりだったというのもある。
誰が呼んだか、最低野郎共の吹き溜まり、蛇蝎が蠢く蠱毒壷、極悪中隊バッド・カンパニー、
――実際は二、三十人程度の小隊規模だったけど――嫌われ者が爪で弾き回され最期に行き着く地獄の三丁目――
そんな散々様々な烙印を押された奴らの手中にいるんだ、檻とボール内の彼らに待つのはろくでもない未来に
違いなかった。だが、俺がその時、彼らに対して向けていた目はきっと、まるで食べられるためだけに
生まれてきた家畜を見るかのように冷ややかな目をしていたように思う。あまりに日常的に繰り返し見てきた光景に、
俺の感覚はすっかりと麻痺していた。
その中で、ふと、無味無感情を保っていた俺の意識に介在するものがあった。俺が座る丁度隣の檻内にぐったりと
転がっている、黒と白二色の布――マントかケープ状で、何も飾りの無い質素で厳かな雰囲気は、どこか聖職者、
シスターの服を思わせた――で身を包んだ物体。そこから突き出ている、まるで自分にも同じものが生えて
いるかのように見覚えがある、ジグザグに曲がった黄色い尻尾。自分の尻尾と見比べてみて違うのは、
先端にハート型を思わせる切れ込みが入っているのと、毛色がまっ黄色の俺よりややオレンジ色がかった色を
していることだった。
何だか無性に気になって、引き寄せられるように俺はそっと檻の隙間から手を伸ばして頭側の布を捲り上げた。
その下にあったのは同族、それも雌らしい顔付き。幌の隙間から差し込む光に照らされ、彼女の顔は薄琥珀色に
てらてらと煌めいて映った。
ポケモンの世界で戦争あったらやばいよな。マチスが実際にあったこと臭わせてるけど
図鑑によればパルシェン(防御種族値180だっけ)?の殻はナパーム弾を防ぐらしいし、拳銃程度なんてへたすればその辺のトランセルにすら効かなそうだw
週末にでも続き書くよ
hosyu
ゲームでもアニメでもマチスは元軍人て設定じゃなかったっけか
クチバジムのトレーナーも少佐って呼んでたし、軍隊でも有名とか何とか言ってたからな
マチスってそんな階級高かったっけ、と思ってFRで確認したらマジでびびったw
精々、容姿や言動のおぼろげなイメージの記憶から軍曹〜少尉ぐらいだと勝手に思ってた
771 :
rotter:2011/11/27(日) 23:06:09.22 ID:???0
っまあ、そんなことで[完]
772 :
767:2011/11/28(月) 01:20:37.34 ID:???Q
明日の今くらいには投下するよ
俺は釘付けにされたように、意識を失ったままの彼女の顔をぼうっと見つめていた。
……茶々を入れられる前に言っておくけれど、その時は色恋じゃあなく、同族をこんな間近で
まじまじと見ることが出来るのは初めてで、物珍しかったという単純な興味に依るものだった。
鏡で長々と自分を見つめるような嗜好も暇もなかったし、戦地となった国・地方には野生の同族は
ほぼ全くと言っていい程見られず、居たとしても図鑑の分布にも載らないほど極少数が隠者のように
ひっそりと誰にも目に付かないように慎ましく暮らしているんだろう。
戦場で兵器として見かけることも極々稀だった。交戦中に落ち着いて観察している暇など無いし、
戦闘が終わった頃には大半が原形など殆ど留めていないかった。元々、俺達は激しい戦いに向くような
種族じゃあない。体格は小さく、脆く、重量級の奴らに踏み潰されただけでほぼ致命傷だ。
一応は電気ポケモンの端くれとして電撃という強力な攻撃手段を持ってはいるが、単なる兵器として扱うならば
もっと気性が荒く攻撃的なエレキブルやライボルト、機械的に従順に命令をこなすジバコイルやマルマインを
採用した方が一、二回りも余計な手間と暇と予算を掛けずとも即戦力として投入できて手っ取り早いだろう。
俺含め同族は僅かな数だけが実験的に投入されただけに留まり、その過半数が碌な成果を残せぬまま
あっという間に戦火の中に消えていった。どこぞの酔狂な少佐殿がどういうわけか俺達を甚く気に入って、
同族とその進化形にあたる種族を重用していたらしいが、会う機会も同じ現場に肩を並べることも無かったな。
檻越しに彼女の姿を見ていて、なんと、か弱く小さいんだろうと思った。ふわふわとした毛皮と赤い頬は小枝に
引っ掛かっただけで破れてしまいそうで、布越しにも見て分かる丸みを帯びた体の線には、身を守るごつごつとした
甲殻も筋肉も感じられない。これが、同族、傍から見た俺の姿なのか。これが本来の姿なのか。衝撃を受けた。
時が経つのも忘れてそうしている内に、宿舎に着いたのか荒いブレーキと共にトラックは停車した。
いつものように俺の持ち主の兵士がボールを片手にやってきて戻るように声を掛けようとするが、
普段とどこか違う俺の様子を悟ったのか、傍らの檻の中を怪訝そうに覗き込んだ。兵士は直ぐに彼女の姿に気づき、
それから俺を見て、何か邪推したようにニヤリと笑った。兵士は慌ただしく荷下ろし作業に当たっている他の兵士達を
盗み見て隙を窺い、そっと空のボールを取り出して彼女を中に入れ、自分の懐へと忍ばせた。
兵士は声を潜め、『安心しろ。こいつは後でお前にくれてやる』と愉快そうに俺に言った。
きっと、命令と最低限の食事以外にはまるで興味を示そうとしなかった俺が急に他者に、それも同族の雌に対して
どうやら関心を示しているらしいことが、たまらなく滑稽で気を良くしたんだろう。
余計な真似をと思いつつも、もしかしたら彼女と少し話をすることが出来るかもしれない、
同族、それも恐らく戦いに縁の無い生活を送ってきたであろう者が一体どんな考えをもっているのか知るいい機会だ
と新たな興味が湧き、甘んじて兵士のそのどこか邪な厚意を受け入れてみることにした。
ボールに戻されて暫く経ってから、俺は自室――と言えば聞こえはいいが、独房のように狭苦しく不衛生なものだ。
元々は収容所だったものを後から宿舎に改築したなんて噂もあるが、本当のところは分からない――に解き放たれた。
目の前で兵士は俺を得意げに見下ろしながら、懐を探って彼女の入ったボールを取り出した。
『精々今夜はゆっくり楽しみな』言って、兵士はボールから彼女を解放し、下卑た笑みを浮かべて部屋を出て行った。
俺は蔑んだ目でその背を見送り、溜息をついた。こっちはただ少し話をしたいだけだ、下劣な真似をする気は無い。
彼女はまだぐったりと横たわったまま身動き一つしない。俺も暫くは黙って起きるのを静かに見守っていたが、
あまりにも死んだように動かないため段々と不安になってきて、一応息を確認して見ることにした。
ゆっくりと耳を彼女の口元に寄せると、すーすーと安らかな寝息が俺の鼓膜を揺らした。
息遣いの様子からして、どこか大きな怪我をしているわけでもなく、衰弱しきって昏睡状態というわけでもなく、
今はただ呑気に寝入っているだけのようだった。何だかいらぬ心配してしまったのが馬鹿らしくなって、
俺は揺さぶってでもすぐさま起こしてみることにした。
起きろと声を掛けながら体を揺すると、ようやく彼女は”ううん”と呻きながら、上体を起こした。
少しばかり緊張が走り、俺は身構えた。もしかしたら急に逃げ出そうと暴れ出す可能性もゼロではない。
それと、心の隅にほんの少しだけ、浮ついて落ち着かないような、奇妙で不思議な何ともいえない期待感のような、
そんなものもあったかもしれない。
彼女は目を眠そうに片手でこすりながら俺を見やり、
〈あら、おはようございます〉
のほほんとした調子で目覚めの挨拶をした。
そのあまりの呑気さに俺は呆気に取られて毒気を抜かれ、思わず言葉を失った。彼女は黙っている俺の顔を
まだ寝ぼけた様子でぼんやりと見つめながら数回まばたきし、突然、何かに気づいて驚いたようにぱちっと目を見開いた。
再び身構える俺をよそに、彼女は嬉しそうに目を輝かせ、
〈まあ、まあ! 耳も、尻尾も、ほっぺも、まるでそっくり! でも、目付きはちょっと私よりツンツンしてるかも?〉
無邪気にはしゃぎながら、自分と俺の姿を比べ出した。
俺はまたしても呆然とし、なされるがまま彼女に体を見回されていた。
しばらくして興奮も収まったのか、彼女はハッとし、
〈ごめんなさい、とんだ失礼を。同族の方を見るのは初めてで、つい興奮しちゃって〉
気恥ずかしそうに謝って手を組んでぺこりと頭を下げた。
終始圧倒され、俺は”ああ”とこくりと頷くことしか出来なかった。
〈ところで、ここはどこなんでしょう? そして、あなたは?〉
落ち着いて自分の置かれた状況の異常に気づいたのか、きょとんと首を傾げて彼女は現状を尋ねた。
ようやくまともに話をすることが出来そうだと、俺は深々と安堵の息を吐く。
〈やだ、私ったらまた……すみません、礼儀知らずで。自己紹介はまず自分から、ですよね〉
だが、それをどうやら礼節を欠いたことで俺が気分を悪くして溜息をついたと解釈したらしく、
――当時の俺は、普段から無意識に仏頂面をしていただろうから、それも勘違いの原因だったろう――
慌てた様子で彼女は謝り、はにかんだ。
〈私の名前はピカ――っと、こっちは同族の方に名乗っても意味無いですね。改めて、私の名前は――〉
そうして、彼女が名乗った名は――」
――言い掛けて、マフラー野郎は口篭る。
「……名前は?」
催促するようにあっしが尋ねても、マフラー野郎はふるふると首を横に振るった。
「今の俺には、あの子の名前を口に出来るような資格は無い。ただ、彼女の親代わりでもある牧師――
人間だけれど、穏やかで笑顔の優しい人だった。彼に賜ったという、電気と琥珀を意味する言葉に因んで
付けられた彼女の名前はとても素敵なものだった、とだけ言っておく――
――名乗り終え、彼女は身の上も少しばかり話しだした。どこかぼうっと、おっとりとしている癖に、
よく物怖じせずにぺらぺら喋り続ける奴だと思いながらも、戦いに縁の無い同族が一体どんな暮らしぶりを
しているのか興味があった俺は、大人しくそれに耳を傾けていた。
何でも、彼女は小さな集落の教会――聖アルセウスを奉るものだ――で牧師をしている人間に
まだ物心つかない頃から飼われていて、いつもその仕事を拙いながらも一生懸命に手伝っているらしかった。
聖職者のようだと思っていた彼女の黒いケープは、本当に”そのもの”だったというわけだ。
きっと、牧師が彼女のために特別に拵えたんだろう。
両親は既におらず、彼女が生まれて間もない頃に戦禍に巻き込まれて亡くなってしまったのだと、
牧師には聞いているそうだ。教会には同じような境遇の子ども達が大勢、人間もポケモンも問わずに居て、
集落の他の人々とも助け合って暮らしているそうだった。
そういえば、俺が火を放った森の付近にそんな集落があるというようなことを作戦前に地図で
説明されていた事を思い出し、心に一抹の影が差した。大分、風上の方だったし、確か川か湖らしき水辺を
挟んでいたから、大丈夫だろう。と俺は推し量った。武装していない民間人が多く住んでいて、
宗教施設があるような所を平気で巻き込むような真似は、幾ら軍部が馬鹿でもさせまい。
無残で無差別な殺し合いに思える戦争にも、最低限度のルールがあるのだ。
〈あの……どうかなさいましたか、怖い顔して?〉
黙りこくって難しい顔をしているであろう俺を、彼女が心配そうに覗き込んだ。
”何でもない、続けろ”と極力怯えさせないようにして応えると、安心したように微笑んで彼女は再び話し出した。
話を聞いている内、あの燃え盛る森に他の野生のポケモンと共に彼女が倒れていたのは、集落から森の方に
大きな雷が落ちるのが見えて、もしも負傷者がいれば救助しなければと牧師や皆の心配を振り切って駆けつけて
きたからだと知った。
自分の身すら省みずに他者を救おうとする神に仕える女と、己が生き残るために他者を害し続け悪魔と
蔑み呼ばれるようになった男――まるで真逆の存在が出会った。
金、土辺りにでも続き書きたいです。
ほしゅー
発売から時間経ったしネタバレになるけど、ポケパーク2のラスボスがダークライでワロタ
このスレの奴みたいに完全に悪党ではなかったけど
バトルの時にしゃりんしゃりんって独特の音鳴らして瞬間移動攻撃してきたり、
一度倒すと巨大化したり、このスレの奴と割と共通する部分があってピカチュウで挑むのが燃えたわw
自分の身を挺して他者を助ける。かつての俺には理解しがたい行動だった。
護衛や救援を命じられたのであれば、俺も割り切って従わざるをえないだろう。
だが、そうでなければ、例え同胞が危機にあろうと止むを得ない犠牲は厭わず、
可能な限りの手を尽くして己は生き残り、敵と定められた存在を全力で排除しなければならない。
それが兵器として、生まれながらに刻み込まれた俺の存在する意味であり、価値だった。
なのに、彼女は命じられたわけでもなく、寧ろ反対を押し切って、縁もゆかりもないであろう
他者のために己が身を投げ打ちに来たというのだ。
〈そうだわ、私と一緒に逃れていた方々は一体どうされましたか? あの時、私と共に、
何かの攻撃の巻き添えを受けてしまったのであれば、傍で同じように倒れていたと思うのですが……〉
更にこの期に及んで――得体の知れない牢獄のように薄汚い部屋の中で、
恐ろしい兵器には一見見えないかもしれないが、少なくとも優しげで親切にも見えないであろう、
同族とはいえ見も知らぬ者を目の前にして――彼女は自分よりも他人の身を案じていた。
俺と殆ど変わらない姿をしているはずなのに、全く未知の生物と出くわしたかのような気分だった。
その時までの俺と言う存在を根底から覆されるようなものだ。
”然程深手を負ったものはいない。彼らなら全員、別の場所に搬送された”俺は簡潔にそれだけ伝えた。
少なくとも嘘ではない。搬送された先で彼らがどうなるかは伏せた。騒がれたり、怯えられても面倒だった。
それと、極微かに、引け目と罪悪感のようなものが芽吹きかけていたのかもしれない。
だが、俺はそんなものとうに割り切ったものとして雑草の如く踏み躙り、心の片隅に押しやって目を背けた。
ずっと、そうやってきたんだ。
〈そうですか、良かった……〉
俺の言葉を良い方へと解釈したのか、彼女はとりあえずホッと胸を撫で下ろした。
ちく、と再び心の片隅が疼いた。一度押しやったのに、ここまでしつこく湧いて来るのは初めてだった。
”お前の事は分かった。では、今お前の置かれている状況を伝える”それを振り切るように、
俺は冷然とした態度で淡々と口を開いた。
〈あら、名前をお伝えしたんですから、お前じゃあなくて名前で呼んでくださいまし。呼びにくければ、
愛称でもいいですよ。村の皆さんはよく――〉
途中、折角教えたんだから、どうせなら『お前』じゃなく名前か因んだ愛称で呼んでくれ、と彼女は言った。
自分の立場も分からず、何と呑気な事か。俺は鼻で溜息をついた。
”生憎だが、俺達は愛称で呼び合えるような和やかな関係ではないのだ、お前で不服であれば、『シスター』”
常日頃、神に敬虔に祈っていようと、それも虚しくこんな悪鬼の巣窟の如き場所に捕らわれ、
救いの手を差し伸べようとしているのは肝心の神などではなく、悪魔と疎まれるこの俺だけ。
そんな境遇を存分に皮肉って、俺は彼女をそう呼んだ。
〈まあ、強情な方ですね。お前、よりは幾らか良いですけれど……〉
彼女は不満そうにしていたが、お前呼ばわりよりはマシだと渋々了承していた。
それから、俺は彼女に現状を伝えた。ここは軍の宿舎の一つであり、気を失っている間に、
俺の持ち主である兵士の気まぐれによって、他の者達とは別に連れて来られた事。
宿舎の中であればポケモンであっても比較的自由に歩きまわれるが、外には出動でもない限り出られない事。
〈外に出られないなんて、それは困りました。いつまでも戻らないと、牧師様達に心配をかけてしまいそうで……〉
あらましを聞き、しゅん、として彼女は村の者達に心配をかけてしまうことを嘆いた。
”すまないな、シスター。だが、同族のよしみだ、今すぐにというわけにはいかないが、必ず無事に村に返してやる。
その内、歩哨任務か何かで、外を兵士から離れて一匹でうろちょろしても怪しまれないような機会が必ずあるだろう。
その時にでも、兵士の目を盗んでお前、いや、君をボールに忍ばせ、隙を見て解き放つ”
〈ありがとう。私なんかのためにわざわざ、すみません〉
俺がそう伝えると、彼女は表情に明るさを少し取り戻し、礼の言葉と共に微笑んだ。
元はと言えば、俺のせいだというのに。また胸がちく、と疼いた。
”それまでの間は、出来る限りこの部屋の中で大人しくしていてくれ。であれば俺は絶対に手出しはしないし、
他の奴らにも手出しはさせない”
痛みを再び片隅に強引に押しやり、俺は忠告した。ろくでなし共が闊歩する宿舎において、
彼女はグラエナの檻に放られたカモネギのようなものだ。何も知らず無防備に部屋の外を出歩けば、
忽ち、襲われかねない。ずっと部屋の中に居てくれれば、俺も彼女を守りやすい。
〈あら、あなたの他にも、ここにはどなたかいらっしゃるんですか? って、ここは宿舎なんですもの、
他にも誰か居て当然ですよね。そうとなれば、その方々にもご挨拶をしませんと。例え少しの間でも、
私のような部外者がご厄介になるんですから、黙ってと言うわけには参りません!〉
だが、そんな俺の思いも虚しく、少しの間とはいえお世話になるんだから、
他の方々にも挨拶をしないわけにはいかない、と奮起した様子で彼女は部屋を飛び出していった。
GJ!
週末ぐらいにでも続き書くよ
携帯版まとめサイト、20000hit越えオメ
ほしゅ
保守
明日の今ぐらいには投下するよ
やっと復帰したかな?
深夜の間、鯖移転?で板が落ちてて投下できなかったorz
遅くなってごめん、出先から戻りしだいに(夕方〜夜ぐらい)投下します…
age
”待て、ここにたむろしているのはまるでケダモノのような輩ばかりなんだ、シスター。
君のようなか弱そうな奴がのこのこと出て行っては危険だ”
廊下を駆けて行こうとする彼女を追いながら、俺は急いで呼び止めた。
〈ケダモノ? 私とあなただってネズミの一種、言わばケダモノの仲間ですよ。
なら、なにも怖がることなんてないじゃないですか。むむ、あっちから騒がしい物音っ!〉
”そういうことではなくてだな。こら、話を聞け!”
だが、彼女は俺の言葉をまるで気に留めることなく、黒いフードからはみ出させている長い耳と、
尻尾をアンテナのように立ててピコピコと揺らしながら誰かの気配と物音のする方へと向かっていった。
その時は丁度、食堂でポケモン達に食事が配給される時間だった。この部隊において、
それはもっぱら第二の戦場と称されていた。野次と食い散らかし、時に皿や拳や技が飛び交い、
見苦しい食料の奪い合いが繰り広げられる。もしも几帳面なテーブルマナーの講師がその場に居合わせたら、
顔を真っ赤にして憤死してしまいそうな、不作法不行儀を掻き集めた掃き溜めだ。
そこに彼女が隙だらけで出て行ったら、あっという間に捕まってスペシャルディナーとして食卓に上げられかねない。
それも知らず、彼女は騒がしい音を聞き付けて、食堂の方へどんどんと進んでいく。
言葉ではもう止められない、とはいえ下手に無理矢理押さえつけて怪我をさせてしまっては本末転倒だ。
いざとなれば、部他のポケモンとの荒事も視野に入れなければならないかもしれない。俺は苦々しく舌打った。
その時まで俺は、部隊のポケモン達といらない揉め事を起こさないよう、極力関わりを避けるように努めていた。
それまで俺がたらい回しにされて渡り歩いてきた部隊では向こうの方から勝手に俺を恐れて避けてくれていたが、
ここの奴らはそうもいかない。俺と同じように各所から爪弾きにされてきた、一癖二癖では収まらない、最低の奴ら。
――今となっては、俺の大切だった仲間達。そんな風にまで思えるようになったのも、あの子のおかげだな。
俺が自分から奴らを避けていたのは単純に面倒だったと言うのもあるが、もしも争いとなれば、
いくら当時の俺だったとしても無傷では済まないかもしれないという懸念もあったからだ。
通常、どこからも爪弾きに会うほどに素行に問題があれば、即刻処分されてしまうのが普通だ。
時に人間すらも捨て駒のように扱うことのある軍にとって、ポケモンなんて所詮は兵器の一つに過ぎないからな。
だが、そうされないのは、多少扱いにくさがあっても処分を躊躇させる程に実力や尖った力を持っていたからだ。
それは単純な戦闘能力であったり、高い生存力であったり、特殊な攻撃手段や能力を持っていたり、
後ろ盾となるものを誑し込んでいたり、様々だ。
そんな奴らをわざわざ一箇所に集めて部隊としたのは、地獄のような最前線や、
他には任せられないような条約違反すれすれの薄汚い作戦を押し付け、程よく活躍してから上手い具合に
くたばってくれれば万々歳なんて上は考えていたんだろう。
結果としては、思惑を外れて多くがしぶとく生き残り、憎まれっ子世にはばかるを体現する存在と化していたが。
とうとう彼女は食堂の前へと辿り着き、
〈うん、皆さんがいらっしゃるのはここみたいですね〉
呑気に扉の隙間から中の様子を覗き込みだした。
その傍で、俺は心に少しばかり緊張を走らせていた。こうなったら、彼女の存在を隠し通そうとするよりも、
いっそ明らかにして、手を出せばただでは済まさないと宣言しまった方がいいのかもしれない、と俺は考えた。
リスクはあるが、聞き分けの無い者が居た場合、全員の前で徹底的に叩きのめすことが出来れば、
良い見せしめとなる。ケダモノにものを教え込むには、力でもって屈服させるしかないのだ。そう思い込んでいた。
”俺が先に行く”
俺は意を決して、今にも扉を開けて食堂に入っていこうとしている彼女を腕で阻んで言った。
〈あら、もしかしてあなたの方から先に私を皆さんに紹介してくださるんですか?
助かります、やっぱり初対面の方々が大勢いる前だと、私もちょっと緊張しちゃいますから〉
俺の覚悟など知る由も無く、もしかして俺の方から自分を紹介してくれるのかと、のほほんと彼女は言った。
俺はがくりと気抜けしそうになってしまうのを堪え、うんうんと適当に相槌を返した。
”後ろから、なるべく俺の傍を離れないように付いて来い”
言って、俺は勢い良く扉を開けた。
乱雑に皿が積まれた長机を囲んでがつがつと食事を貪っていた奴らの手が一瞬固まり、視線が一斉にこちらに集った。
明日明後日辺りに続き書きたいです。
保守
hosyu
すまん、用事が急に立て込んだりPCがトラブったりが立て続いて、滅茶苦茶遅くなったorz
明日の今くらいまでには投下します。
ぴりぴりと張り詰めた空気の中、気にせず踏み込んで行く俺の足元に、カツンと乾いた音が響く。
見下ろすと、つま先ぎりぎりに鋭い氷の刃が突き立っていた。刃の中程に刺されたオレンの実が、
ずるりと果肉を滴らせてずり下がった。
こんなことをするのは一匹しかいない。すぐに犯人の目星をつけ、そちらを冷ややかに見やった。
『テメェの分はもうそんだけだよ。遅刻して来んのが悪いのさ、ノロマ』
視線の先で、黒い毛並みの猫が椅子を蹴り飛ばすように勢い良く立ち上がって悪態を吐く。
周りではほくそ笑んで傍観している奴、取るに足らない様子で鼻息をついて目を背ける奴、
初めから目の前の食べ物にしか注意を向けていない奴、態度は様々だが誰一匹止めたり咎めようとはしない。
黒猫はバツ字傷の刻まれた顔面を憎たらしい笑みで歪め、つかつかと二足で歩み寄ってくる。
『それっぽっちじゃご不満かい? なら、媚びて縋りな。お慈悲をお分けくださいスカー様って、
そのお高く気取った坊ちゃんヅラを地面に擦り付けて、まるで乞食みてえによォ』
スカーフェイス、略してスカー。その黒猫の顔の傷に因んで、持ち主の兵士が戯れに付けた安直なニックネームだ。
持ち主の人間から一方的に決められて押し付けられた種族名以外のニックネームなんて、
ただの己を示す号令・合図以上には思わずにさして愛着を持っていないものもいるけど――俺がそうだった――、
中にはそれを甚く気に入ってコイツやあの子のように自分の名前としてしまうものもいた。
この黒猫、スカーには何かに付けて因縁を付けられ、喧嘩を売られ続けていた。
どうにも彼の目には当時の俺は『黄色い悪魔』なんて恐れ持て囃され、調子付いているように写っていたらしい。
事実、傲慢になっている節は多少あったかもしれない。俺は上からの評判は決して悪いものじゃあなかった。
どんな酷な命令であろうと背くことなく、割り切って、躊躇なく的確にこなしていたからな。
だが、先にも話した様にその冷徹な様が周りを恐れさせ、不和を招いて士気に影響すると、
已む無く神も悪魔も恐れぬこの無法地帯に行き着いた。
他の奴等の経緯と来たら、本当にどうしようもないひどいものばかりだった。
一部を紹介すれば、例えばスカーなら、前の部隊で監察・指導役にあたるポケモンが雌だったのをいいことに、
それを持ち前の手癖の悪さで誑かして、日頃の素行の悪さや命令違反などの不利な報告を揉み消させたり、
自分のいる部隊をあまり危険な任務に駆り出させないよう上手く取り計らわせていた。
だがある時、逢瀬の途中をそのポケモンの持ち主である怖い怖い上官殿に見つかり、
その後すぐに芋づる式に全てが発覚。瞬く間にそのポケモンと引き離されて、ここに叩き込まれたらしい。
他にも、とにかく功を立てることに貪欲で、自分だけで勝手に玉砕しておけばまだしも、
その雄弁な弁舌によって他のポケモン達まで巻き込んで奮い立たせ、無茶な突撃を扇動して多くの犠牲を出した、
蛮勇なピジョット――頭の長い飾り羽が綺麗な大きな鳥だ――とか、
戦闘能力だけは完璧だけど、戦う相手の選り好みが激しく、取るに足らない雑魚しか居ないと見れば、
自軍の危機でも梃子でも動かずサボり呆けるけど、敵方に強者と認める者が居れば待機命令中でも見境無く突っ込み、
重要な作戦を台無しにした、戦闘狂いのバンギラス――刺々しい岩の鎧に身を包んだ二足の怪獣だ――とか、
口に入りさえすれば机でも椅子でも見境無く何でも食らい、とある護衛任務の際に途中で空腹の限界に達して暴走、
あろうことか護衛対象を自分の腹の中へと誤送した、悪食マルノーム――何とも名状しがたいんだが、
膨らんだビニール袋のお化けみたいな奴だ――とか、
普段は紳士ぶっているけど、周りからしたら理解できない些細なことで直ぐに激昂して、
小火じゃすまない騒ぎを起こした、ぷっつんブーバーン――両腕が炎を吹き出す大砲みたいになった、
でっぷりとした体系の怪物だ――とか、まだまだそれはそれは愉快な仲間は色々居たけれど、
話し始めたらきりが無いからこの辺でやめよう。
別に上からの評価に誇りや名誉を感じていたつもりは無いが、対外の事は割り切れる俺でも、
腕っ節だけが取り柄の問題児共と同列に扱われるというのは、少々不満に思うところもあった。
こんな落ちこぼれ共と俺は違う。そんな無意識に片隅に抱いていたものを、
スカーの奴には敏感に嗅ぎ取られていたのかもしれない。
『ハンッ、いつものダンマリかよ、腰抜け野郎』
ぐいと顔を突き合わせて睨み込み、黒猫は更に挑発する。
いつもであれば、歯牙にもかけずに”フン”と鼻を鳴らして俺の方から顔を背けて立ち去る所だが、
今日に限ってはそういうわけにはいかない。ケダモノ共を黙らせる”見せしめ”にしてやるのは、
部隊内で何かと目立っているこいつが一番いい。そう考えていた。
俺は黒猫の赤い瞳の目を確と睨み返し、バチバチと頬に電流を弾けさせた。
『おっ? ようやくやる気になりやがったか、クソネズミィ。いいぜ、かかってこいよ。
その高慢ちきな鼻っ柱へし折って、根性叩きなおしてやる』
黒猫は少し意外そうに驚いた後、愉快そうにニヤリと牙を剥きだした。
睨みあったまま、俺は頬に充電を続け、黒猫は後ろ手でしゃりしゃりと爪と氷の礫を研ぐ。
互いに喉元すれすれに刃が迫っている鍔迫り合いのような張り詰めた緊張感の中、先に飛び出したのは――
〈そんなにずっと見詰め合っちゃって、お二人とも仲がよろしいんですね〉
俺の電撃でも、黒猫の刃でもなく、一体何を見ていたのか、まるで空気を読めていないあの子の呑気な言葉だった。
思わずがくりと脱力して、黒猫は氷の刃を手からすっぽ抜けさせ、俺も溜めていた電気がプスンと散った。
ほしゅー
明日明後日にでも続き書く
hosyu
ほしゅ
あげ
『は、はあ? つーか、なんだこりゃあ、ネズミがもう一匹ぃ? ちぃと色が違うし、
布着れ着てやがるが……』
黒猫は怪訝そうに眉間に皺を寄せ、俺と背後の彼女を交互に見やった。
”危険だ、隠れていろ”
〈もう、いつまでも顔を見せずにいたら、紹介してもらう意味が無いじゃないですか〉
後ろから顔を覗かせる彼女に引っ込んでいるように俺は言うが、顔を見せなきゃ紹介の意味が無いと、
彼女は俺の腕を押し退けて黒猫の前に踏み出た。
『はてさて、どこからこんな奴沸いて来やがった。ネズミは一匹見たら三十匹は居るって言うがよォ。
さすがのこのオンボロ宿だって、こんな馬鹿でけえネズミが勝手に住めるような穴や隙間はねえハズだぜ』
黒猫は殊更表情を険しくして彼女を見下ろす。
俺は黒猫が少しでも手を上げる素振りを見せたら庇える様、隙無く身構えた。
〈はじめまして、この御方のお友達の黒猫さんですね〉
彼女は悪態に一歩も怯むことなくニコニコと笑顔でまっすぐ黒猫を見上げ、
一体どこをどう見たらそうなるのか、黒猫が俺の友達だと判断した様子で和やかに挨拶した。
『おいおい、テメェ、さっきから聞き捨てならねえな。何をどう見ていたら、
この俺様がこんなクソネズミなんかと、友達に見えやがんだ?』
またしても気抜させられそうになるのをぐっと堪えた様子で、黒猫は果敢に悪たれてかかった。
〈違うんですか? あんなに長い間じっと仲良く顔を向き合わせていたので、てっきりそういう仲なのかと〉
それを再び彼女は柔和にトボけた態度で返す。
『アホか! あれは仲良く顔を突き合わせてんじゃ無くて、鼻持ちならねえクソッタレに
睨みを利かせてやってたんだよ。それ以外で野郎なんかと仲良く顔を突き合わせる趣味なんざねえ』
〈でも本当に嫌いあってるのでしたら、顔を少しでも向き合わせるのさえ嫌なはずですっ。
教会の子ども達を見ていても、喧嘩をしている子達は顔を背けあっちゃってお互い見ようともしませんもの。
その内すぐに放っておいても仲直りしちゃうんですけどね、ふふ〉
『あのなあ……ガキと一緒にするんじゃねえよ。やれやれ、どうにも頭がお花畑のようだな、オメェ』
〈お花畑……? 私は一応、電気ポケモンの端くれなので、残念ながらお花を咲す事は出来ませんけれど、
本当にお花畑になっていたら鏡や水面を見るたびに素敵ですね。あなたの頭のその立派な赤い扇状のお花が羨ましいです〉
『俺の頭のこれは、花なんかじゃなくて鬣だ、タ・テ・ガ・ミ! 嫌味で言ってんのがわからねえか。
鼠や猫、獣に本当に花が咲くわきゃねーだろうが』
〈あら、近所の森に住むシキジカちゃんやメブキジカさんは、鹿――れっきとした獣ですけれど、
春になると頭や角にお花が咲くんですよ。あれが本当に可愛くて〉
『テメーのご近所さんなんてしらねーよ!』
懲りずに悪態を振り回し突っかかっていく黒猫を、彼女は天然でやっているのか、狙ってやっているのか、
まるで悪意を蒸留して無害に変えてしまう機械でも頭に埋まり込んでいるかのごとく意に介せずに、
のほほんとした調子で往なして行った。
その間俺はまるで出る幕無く、呆れを超え、ただ圧倒されてその様を眺めていた。
そんな応酬が続き、やがて、『も、いいや……何か、もう疲れた……』とうとう黒猫は根負けし、
精根尽き果てた様子でふらふらと自分の席に戻っていった。
明日明後日あたりに続き書くよ。
ほしゅ
あけおめことよろ保守
あけましておめでとう
昼過ぎ、夕方ぐらいには投下する
あの黒猫が荒事も無く口先で屈した。余興のように傍観していた他の奴らも、
唖然とした様子でざわざわと騒ぎ立っていた。その中央で茶色い羽の大きな鳥が袋を抱え、
何やら悔しがっているポケモン達のもとから食料をてきぱきと徴収していく。
粗方集め終わると鳥ポケモンは悠然と彼女の方に歩み寄り、木の実がたっぷり詰まった袋を
まるで勲章の授与でもするみたいにもったいぶった動作で手渡した。
〈えと、なんですか、これ?〉
一体何のつもりだろうと彼女はきょとんとして首を傾げた。
『スカー殿とネズミ殿、どちらが勝つかという賭け遊びが、よもやこんな結果になるとは。
それは偉大なる武勲への褒章である。あのスカー殿を弁舌のみで降すとは実に見事であった』
鳥ポケモンはビシリと翼で敬礼し、声高々に大げさに称えた。
〈降すって、私はスカーさんと楽しくお喋りさせていただいただけですわ。
それに、この中身は宿舎にいる皆様のために配られたものでしょう? お気持ちは嬉しいのですが、
私のような者がこんなに沢山受け取るわけには参りません〉
スカーとはただ楽しく喋っていただけだし、皆の分であるものをこんな受け取れない。
困惑して返そうとする彼女に、鳥ポケモンは”フッ”とキザたらしく頭の派手な色をした長い羽を撫で、
丁重に押し返した。
『はっはっはっ、謙遜を。その中身は全て賭けの勝者に贈られるべくして集められたものであり、
結果として賭けは君の一人勝ちのようなものだ。気にせず配当として受け取られよ。
我が名はピジョット。今宵の輝かしい勝者の名、是非ともお聞かせ願いたい』
〈あ、はい! 私は――〉
それから結局、俺が懸念していたような事態は起こらず、彼女は全くの無血でもって己の存在を知らしめ、
認めさせてしまった。俺には何をすることも、する必要も無かった。
食堂から帰る途中、面白くて楽しい方々だった、と彼女は食料の詰まった袋を抱えて嬉しそうに笑った。
俺は関心と呆れ、安堵が複雑に入り混じった息を吐き、”大したものだよ、君は”と呟いた。
そんな俺に彼女は袋から木の実を取り出し、そっと手渡して微笑む。
〈別に何も大したことなんてしていません。私はただ普通にいつも通り皆さんと接しただけですもの〉
”奴らを相手に、容易いことじゃあない”
〈それはあなたが偏った見方をしているだけですわ。見た目や評判、勝手な決め付けで壁を張って接されたら、
誰だって身構えちゃいます。それでますます相手が悪い風に見えて……どんどん悪循環。
本当は仲良くなれるかもしれないのに、そんなのって悲しいじゃないですか〉
奴らのことがさも悪そうに見えるのは、俺が偏った目で見すぎているだけだと彼女は諭す。
偏った決めつけなどではなく奴らの普段の蛮行や素行の悪さは事実であるのだが、
彼女の恐れや分け隔ての無い態度が、物事を丸く治めてしまったのもまた事実。
何だか腑に落ちないながらも、俺は言い返すこともできず、やれやれ、と力なく首を振るうしかなかった。
GJ
明日明後日ぐらいにでも続き書きたいです
ほしゅー
部屋へと戻って件の”配当”を分け合って食べ終えると、俺は寝具を彼女に譲り、
自分は壁に寄りかかって眠りに付くことにした。彼女は申し訳なさそうにしていたが、
”硬い床で寝るのは慣れている。寧ろ落ち着くくらいだ”と俺は強がって、どうにか納得させた。
翌朝、パタパタと何かが忙しなく室内を駆けずり回る音で俺は目覚めた。
〈おはようございます。すみません、起こしちゃって〉
俺に気付き、にこやかに彼女は雑巾を手に挨拶した。一体、何のつもりだと尋ねると、
〈はい、何もしないでただボーっと身を置かせて貰うと言うのは申し訳ないので、宿舎のお掃除とか、
洗濯とか、私でも出来る範囲のことをお手伝いさせていただこうかと思いまして〉
何もせずに身を置かせて貰うのは悪いから、せめてその間は掃除や洗濯等、
簡単な身の回りの世話をしたいと彼女は言い出した。
俺は”君が連れてこられたのはこちらの手違いであって、気を使う必要は無い”と、止めた。
それに、もしも彼女が俺の目の届かない場所で何かあっては一大事だ。昨日は何事も無く済んだが、
彼女がまな板の上のコイキングが如く一匹で居るのを見たら、いつ奴らは手の平を返してもおかしくは無い。
大人しく部屋に篭っていてくれるのがこちらとしては一番助かった。
〈いーえ、そういうわけにはいきません。昨日、食堂へ挨拶に伺う途中と帰りに、何気なく廊下や、
他の部屋の様子を拝見させてもらいましたけれど……不躾ですがどこもかしこもあまりに不衛生!
これじゃあその内、皆さん病気になっちゃいます。牧師様も少しだけずぼらな所があるけど、それ以上だわ。
私に是非お任せください。手強い相手ですが、必ずやぴっちりすっきりお部屋も廊下も磨き上げて見せます!〉
だが、彼女はかつてない程に強力な相手、宿舎の汚れを目の前にしてやる気を奮い立たせた様子で、
意思を曲げようとはしなかった。その気迫に、老練したボスゴドラやオノノクスを目の当たりにした時の、
この部隊の戦闘狂いバンギラスの姿が被ってさえ見えた。甲殻や鱗、牙に刻まれた数々の武勇を物語る錆や傷を
睨め回しているバンギラスのように、床や壁や窓の格子に染み付いた錆や汚れを、闘志に滾る目で彼女は見回す。
これは、もうどうにも止まらない。瞬時に判断し、俺は止めるよりもフォローに回ることを考えた。
仕方ない、彼女が雑用に宿舎を巡る間、俺も着いていって見張るしかないだろう。面倒で危険だが、
放っておくことは出来なかった。
”分かった。その際は俺も同行する”
大変な拾い物をしてしまったものだと、内心で毒づきながら俺は申し出た。
〈あら、もしかして手伝ってくれるんですか? 嬉しいです、やっぱり一匹だけより二匹のほうが捗りますから〉
それを聞き、もしかして手伝ってくれるのかと彼女は微笑んだ。
”い、いや――”
そこまではするつもりは無い。俺は言いかけるが、彼女の嬉しそうな笑顔を前に、口が止まった。
”……了解した”
押し負けて、溜息と共に漏らすように俺は言った。
その後、宿舎で過ごしている間、彼女は暇さえあれば宿舎を掃除し、汚れ物を洗濯し、食事の配膳を手伝い等々、
甲斐甲斐しく働いて回った。懸念していた他のポケモン達の動向も、自分達に怯えて媚びているわけではなく、
ただただ誰かの為を想って尽くす彼女の姿を見ていて、悪さをする気など陽の光に当てられたカビのように
しょげてしまうのか、誰も手出ししようとはしなかった。それどころか逆に彼女を手伝おうとするものまで
チラホラと現れる始末だった。細かいことが大嫌いなブーバーンが細々とした窓の隅々までの清掃や、
干した洗濯物の取り込みを紳士的な態度のまま手伝い、腹さえ減れば椅子さえ食らうマルノームが、
小休止している彼女にたったの一つとはいえ、なけなしのオボンの実を分けようとしたのは誰もが目を疑った。
人間達も彼女の存在に気付き、最初は一体誰が何のために、いつの間に連れ込んでいたのかと怪しんでいたが、
――俺の持ち主はずっと口笛交じりに素知らぬ顔を貫き通していた――特に害はなさそうだし、
寧ろおかげで宿舎の衛生状態とポケモン達の態度が良くなっている様だと、彼女がちょろちょろしていても
気にしないようになっていた。
俺も彼女を見守りながら手伝わされている内に、嫌でも他のポケモン達と関わる機会が増え、
時に悪態を交わし合い、殴り合い、半ば殺し合い、それを彼女に窘められて渋々協力し合い、
を繰り返している内に、何だかぎこちないながらも奴らと慣れ親しまされていった。
明日明後日にでも続き書くよ
hosyu
age
遅れてごめん、明日の今くらいには投下する
最低の掃き溜めだと蔑んでいたここでの暮らしも、案外と満更でも無いのかも知れない。
そんな風に思える程に、宿舎は床も壁も空気も住んでいる者共さえ少しずつゆっくりと、
ろ過機装置にかけられた泥水みたいに汚れが落とされていくように感じた。
その一方で、俺達が駆り出される戦いの場は、ぶり返した病のように過酷なものとなっていった。
戦況は依然、自国の圧倒的優位には違いない。だが、前線に配備される者達の死傷率は上がっていた。
そもそもこの戦争の切っ掛けとなるものが何であったか。
確か、反政府的な武装組織の首謀者が敵国に逃げ込み、引渡しを自国が要求したところ、
敵国がそれを拒否したのが発端だったか。いや、敵国が強力な兵器を開発していると断じて、
自国がその廃棄を要求したのが原因だったかもしれない。まあ、どちらであろうと、両方だとしても、
さして違いは無いことだ。所詮、表向きに振り翳すために創られた大義名分でしかない。
真の目的は別にあったんだ。自国だけではない、敵国さえも一介の者達には知る由も無い水面下で、
その”目的”を追い求めていたのさ。もしも”目的”が手中に収まれば、
俺達ポケモン、ことに遺伝子に関する研究は猿が火を得たが如く飛躍的に進む。
そうやって得た成果を歪な形に応用し、存分に悪用するために。
一介の者達以下の兵器の一つでしかなかった俺達はそんな事は露知らず、
占領した地区の治安維持の傍ら、うわべの名目である世界平和の敵たる武装組織の首謀者だったか、
強力兵器の開発者だったかの狩り出しを命じられていた。
『楽しい楽しい延長戦、エクストラゲームの始まりだ。死神の奴はまだまだクズ共を食い足らなくて、
デザートまで要求してるらしいや。嬉しいねえ、クソッタレが』
そんな風にスカーは毒づいて、どこか乾いた笑いを浮かべていた。
治安維持と捜索にあたる中、自軍は幾度と無く敵の攻撃にさらされた。それは大規模なものではなく、
少数による待ち伏せや、民間人に偽装した者達による奇襲と、捨て身に近い特攻だ。
如何に手練であろうと虚を突く攻撃は中々に凌ぎ難く、加えて優勢に浮かれた者達の足はいとも容易く掬われた。
しぶとく図々しくドブに巣食うコラッタの如く今まで生き抜いてきた俺達の部隊からも、
ぽつぽつと犠牲となる者が出だした。まるでふるいにでもかけられるみたいに徐々に徐々に。
殺しても死にそうにないと思っていた奴等が本当にあっけなく、容赦なく。
犠牲が出る度、あの子はもう空き部屋となった宿舎の一室で、何時間もずっと寝食を忘れて祈っていた。
俺も祈りこそしなかったが、胸の片隅に極々微かな虚脱感のようなものを抱きながら、
ぼうっと彼女の後姿を見守っていた。
明日明後日にでも続き書きたいです。
保守
ほしゅ
『なんだよ、なんだよ。まぁた、なぁんにも食わねーでそうやってんのかい、シスターちゃんよぉ』
あれはマルノームがやられた時だったか、ほろ酔い加減のスカーの奴が、
祈る彼女のもとへとやってきた。
『ヘッへ、あの食い意地の張った阿呆のことだ。地獄だか冥府だかに落とされようと、
鬼やら悪魔やら亡者共を片っ端から味見して存分に楽しんでやがるさぁ!
そんなことより一緒に飲もーぜ、シスターちゃん。酌してくれよぉ。ネズ公も来いよ!』
スカーはニンマリと笑い、兵士達からくすねてきた酒瓶を片手にちゃぽちゃぽと揺らして誘った。
彼女は無言で首を横に振るい、黙々と祈り続けた。俺は嘆息を吐き、”後にしろ”と窘めた。
『ちぇっ、ノリわりぃなぁ。そんな奴に……俺達に、ご丁寧に祈りを捧げてくれる必要なんざねぇ。
寧ろ、出来損ないのろくでなしがまた一匹この世から消えて清々したってぇ、祝杯をあげにゃなんねえくらいだ』
瓶をクイッと呷り、酒気にまみれた息と共にスカーは言葉を吐いた。
”やめろ、スカー”
声を荒げる俺を、ヘッとスカーは鼻で笑った。
『気取んなよ、ネズミぃ。俺達ゃ出来損ないはどーせ最初から、無残にくたばる為だけに生まれて来たんだろが。
ついでに何人何匹何羽何頭の老若男女を道連れにしてからな。出来る事は周りに害を振り撒き続けることだけ。
生きている意味も価値もねえのさぁ、ヒャッハッハ……』
嘲るスカーの笑い声は、どこか自棄めいて微かに震えていた。
そこで、急に彼女は聞き捨てならない様子で顔を上げて、スカーの方へと振り向いた。
『おっ、やっとその気になったか、嬉しいねえ。待ってな、もう一瓶マヌケ共の懐からくすねてきてやるよ』
気を良くした様子で酒を取りに行こうとするスカーを、彼女は違うと止めた。
〈……どんな命にだって、必ず生きている意味はあります。価値の無い命なんてありません、絶対に!〉
普段、まるで敷き詰められた羽毛みたいに満遍なく物柔らかな態度を崩さない彼女が、少し語調を強めて、
どんな命にも必ず生きている意味はある、そう言い切った。
スカーは面を食らった様子で目をぱちくりとさせた後、気を取り直すように茶化して手をひらひらとさせた。
『キレー事の慰めはいいんだよ、シスターちゃん。アンタも少しの間だが見てきただろ、
あの紫色の膨れ袋のどうしようもねえ生き様をさぁ。腹が減りゃ暴れ、下手すりゃ仲間でも食いかねない。
それをぶん殴ってでも止めるのが骨なんだ、また。まあ、もうそんな心配もねんだけどな……』
〈確かに、お腹が空いて暴れるマルノームさんにはちょっとびっくりしました。
でも、ちょっと、かなり乱暴な方法だけれど、スカーさんがそうやってマルノームさんを落ち着かせている内に、
段々、少しずつだけれどそんなことも減っていったじゃないですか。マルノームさん言ってました。
自分が暴れて怒られた後、部屋に帰るといつも誰かさんが食べ物を置いていってくれたんですって。
それが嬉しくて、申し訳なくて、もう少し自分を抑えられるようにしなきゃだって〉
『あの野郎、余計なこと吹き込みやがって……さあて、どこの誰だろうな、ンな物好きは』
〈マルノームさんが涙を呑んだ様子ながら私に貴重なオボンの実を分けてくれようとしたのも、
少し疲れて掃除の途中で休憩していた私を誰かに怒られてしょげているのかと勘違いしたらしくて、
それを誰かさんが自分にしてくれたように慰めてくれようとしてのことだったんです。
誰かにされた嬉しいことって、他の誰かにもしてあげたくなるんですよね。
なんだ、害を振り撒き続けることしかできないなんてこと、無いじゃないですか〉
GJ
週末にでも続き書くよ
保守
以前から見てました!
とても面白いと思います!
がんばってください!
いつも、どこかのほほんとしているようでありながら、彼女はしっかりと俺達の事を見て、
聞いて、まるで骸転がる荒涼とした砂漠から砂金の一粒でも見つけるみたいに大変であろうに、
良い面・長所となる部分を把握していた。いや、彼女にとってはそれは灼熱の砂漠などではなく、
暖かい砂浜であり、そこから綺麗な貝殻の一つでも見つける程度に容易い事なのかもしれない。
少しくらいゴミが転がっていてもひょいと拾い上げて取り除いてしまうのだ。
スカーは表情を複雑にくしゃくしゃと歪めてから、『ふぅー……』と長い溜息をついた。
『俺の飲むペースに最後まで着いて来れんのは、あの野郎くらいのモンだったよなぁ。
ジョッキや酒瓶ごと丸呑みしやがってよォ、ヒャハハ、ハ……ちくしょう』
ぎり、とスカーは歯を噛み鳴らして目元を腕で拭い去り、壁を叩き付けた。
時に己の身を危険に晒すことすら強いられる俺にとって命など、それも他者のものなど、
意識すらしないように努めていた。他者の命なんて二の次、三の次、最重視すべきは命令の遂行、
敵の排除だと訓練・調教によって骨の髄まで染み渡るように叩き込まれてきたんだからな。
この部隊にいる者達も重視しているものはそれぞれ各々、単純に己の命であったり、
食欲だったり、功労だったり様々に違っていても、全て自分のためになるものであり、
他者の事を思いやる、命を気にかけている奴なんて皆無に近いだろうと思っていた。
だが、彼女の存在によってそれが少しずつ変わっていった。
いや、本来あるべき姿へと段々と戻っていったと言うべきなのかも知れない。
『あの野郎、無理して俺達なんかを庇う様な真似しやがってよ。馬鹿だぜ……何か、
他にまだ方法はあった筈だ。誰もくたばらねえで済むよう方法がよぉ……』
マルノームは屋内を件の”目的”を探っている時に、潜んでいた敵の手により、
不意を打って手投げ弾のように投げ込まれた自爆寸前のビリリダマの爆発から俺達を庇った。
狭い突き当たり、ビリリダマを爆発する前に始末することも、蹴り返すような間も無く、
少しでも被害を和らげようと、今にも破裂しようと膨張して振るえる丸い体を、
近くにいたマルノームは咄嗟に飲み込んで――……勇敢な最後だった。
無念そうに口元を歪め、拳を振るわせるスカーの姿を見ていて、
『死を悼む』そんな語句が俺の中にふって湧いた。そして、部隊の誰かが先に逝く度に、
己の胸の片隅に抱いていた虚脱感、空虚感のようなもので空いた隙間に、
ぴたりと音を立てて嵌まり込んだような気がした。
何事も割り切って冷徹を努めていた俺が、他者の死を嘆き、悲しんでいた。
それは驚くべき、怖れるべき変化だった。ならば、それなら、今まで俺がやってきた事は……?
俺は途端にぐっと喉を爪で押し込まれたように息が詰まり、血の気が引くような気がして、
その自問の答えが出る前に即座にそんな思いを振り払った。
しかし、心に楔の如く打ち込まれた変化は、今まで割り切ったと思い込んでいたもの達の
”余り”を片隅に寄せ集めて封じていた壁に、小さくだが確実に穴を穿っていた。
どんな頑丈な堤防であろうと少しでも穴が開いてしまえば、そこから決壊は始まるのさ。
――罪を認識した時、罰は、裁きは遠からず訪れる。音も声も無くとも必ずや。
GJ!
金、土曜日ぐらいにでも続き書きたいです
あげ
842 :
名無しさん、君に決めた!:2012/01/25(水) 21:58:32.83 ID:VIa1vpoy0
843 :
名無しさん、君に決めた!:2012/01/26(木) 11:53:17.96 ID:7hULC6UkO
団長 「責任は自分がとります。」
844 :
名無しさん、君に決めた!:2012/01/26(木) 12:54:38.30 ID:2qHeKBDg0
age
sageろ
お前がいくら嘘を吐いてもな、手の甲から硝煙反応が出てんだよ!
どう説明するやわやわやわ
age
848 :
840:2012/01/29(日) 01:22:09.95 ID:???0
明日の今くらいには投下するよ
age
850 :
名無しさん、君に決めた!:2012/01/29(日) 20:46:53.55 ID:20MphVOM0
咢
age
853 :
名無しさん、君に決めた!:2012/01/30(月) 03:31:17.01 ID:OTbrT51U0
OK
,z'='ゝ、__,ィ!
_ __,,.、/ミミミミミミヲ'__
、___,,ィイミミミ>‐'`'‐v':::::::::`:,'´``ヽミミミミミミミニ=-_,,.ィ!
ヽ,、____\ミミミミ>:::::< 'z::::::::;:ィ' ,i゙ミミミミミミミヾ砂炒′
ミッ、__\ミミミミミ`ミミ〉:::::::`:ッ.._,.ノ `ー^゙ `'ーー'ヾミミミミミミ三=ヌ彳ッ、
兮兌來W=ミミミミミミミ>‐-'゙´ ヾミミミミx自慰或゙´
,>安為益ミミミミミミ'! ,.,,.、,ィ i弌冦圦早ゞ''´
;=弌生理域圧ェェェッミ! _ゝォ;ェ、 ,姉欹ヽ、 ̄`゙`
`゙ヾ冬/変>'゙'y !::傚 s ゙恩てノ 1
/゙´ ,゙ 'つ汐′ ;一'l `~´ ,y′
,-'、、 ヽ_ノ ,ィr〈
,, -―==-! `゙ーャ、___、___,,.ィ<‐'´ 丿
/_ ヾ、_ ゙Yjor、o0゙´_/
'"´ ``‐、- _ `> r' ' !、 |
ヽ、 ! ヽ'´ ゝ゚.r'′/
`ー-ヘ ` ゙ー'′ ヽ
゙t'__ l
``ー ..,,__ く
`ー―‐′
age
ageるな糞
857 :
ゴン:2012/01/30(月) 08:36:57.92 ID:q32mTWcY0
・・・
858 :
名無しさん、君に決めた!:2012/01/31(火) 08:28:03.98 ID:gvji+tKe0
クソが
age
ごめんね
sageもできないのか
862 :
名無しさん、君に決めた!:2012/01/31(火) 22:19:54.98 ID:DPL1TuDz0
さげなど出来ぬ!
scrotum
sage
age
age
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_ __| | ,z'='ゝ、__,ィ!
、___,,ィイミミミ>‐'`'‐v'::::| |,,.、/ミミミミミミヲ'__
ヽ,、____\ミミミミ>:::::< 'z:::| |:::::`:,'´``ヽミミミミミミミニ=-_,,.ィ!
ミッ、__\ミミミミミ`ミミ〉:::::::`:ッ.._,.ノ `| |:::::;:ィ' ,i゙ミミミミミミミヾ砂炒′
兮兌來W=ミミミミミミミ>‐-'゙´ | |ー^゙ `'ーー'ヾミミミミミミ三=ヌ彳ッ、
,>安為益ミミミミミミ'! | | ヾミミミミx自慰或゙´
;=弌生理域圧ェェェッミ! _ゝ=;=、 | | ,.,,.、,ィ i弌冦圦早ゞ''´
`゙ヾ冬/変>'゙'y !::三三 | | ,三三Yヽ、 ̄`゙`
/゙´ ,゙ '三三′ ;| |s ゙三三ノ 1
,-'、、 `| |一'l `~´ ,y′ <グォアアアアアアアアアアアアアア!!!
,, -―==-! `゙ーャ、___、_| |_ノ ,ィr〈
/_ ヾ、_ ゙Yjor| |__,,.ィ<‐'´ 丿
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>>720 ヽ、 ! ヽ'´ ゝ| |' !、 |
`ー-ヘ ` ゙ー| |゚.r'′/
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ヽ,、____\ミミミミ>:::::< 'z:::| |:::::;:ィ' ,i゙ミミミミミミミヾ砂炒′
ミッ、__\ミミミミミ`ミミ〉:::::::`:ッ.._,.ノ `| |ー^゙ `'ーー'ヾミミミミミミ三=ヌ彳ッ、
兮兌來W=ミミミミミミミ>‐-'゙´ | | ヾミミミミx自慰或゙´
,>安為益ミミミミミミ'! | | ,.,,.、,ィ i弌冦圦早ゞ''´
;=弌生理域圧ェェェッミ! _ゝ=;=、 | | ,三三Yヽ、 ̄`゙`
`゙ヾ冬/変>'゙'y !::三三 | |s ゙三三ノ 1
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>>854 `ー-ヘ ` ゙ー| |'′ ヽ
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``ー ..,,__ | | く
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869 :
名無しさん、君に決めた!:2012/02/03(金) 00:39:34.08 ID:2I2pbY9S0
メッハァー
まだよ!
どこ行った!
872 :
名無しさん、君に決めた!:2012/02/04(土) 16:43:27.97 ID:nS1vc/LlO
そこに菩提寺関東総代名誉参内右方代理のモハメッド和尚が通りかかった、モハメッドは呟いた「ユーは、罰当たりな羊だな。オマエの手は薄汚れている」
Vィfか
すまん、用事がかなり立て込んで、中々復帰できなかった
じゃあ、
>>838からの続き投下する
”目的”の捜索は一向に進展せず、その範囲はやがて岩窟の奥底や、鬱蒼とした深い森、
乾いた風が吹き渡る荒野にまで広がっていった。
凡そ人の足では容易に入り込めそうも無い過酷な秘境紛いの地を探り回らされ、
部隊の者達は自分達が探させられているものは本当に人間なのかと疑問視する声を上げ始めていた。
だが、そのぐらいの時期に新たに配属されてきた上官――スカー曰く、
『まるで蛇みてぇに冷たい目をした人間の女だ。俺が人間だったとしても、
幾らベッピンだろうとあんなのはやだね。キナくせー臭いがぷんぷんしやがる』
人間として美麗な風貌ながら、この世のものならざる何かを潜めているような、
底知れぬ不気味さを感じさせた――は兵士達の疑念の声を黙殺し、
”目的”の正体を曖昧に暈かしたまま俺達に捜索を続けさせた。
任務の過酷さは日に日に増し、犠牲もまた増えた。
ブーバーンがやられた。敵の潜伏するという隠れ家に攻撃をしかけた時だ。
敵軍のキリキザン――全身が刃物のように鋭い、赤い人型の鋼ポケモンだ――が、
捕虜となっていた俺達の仲間をわざわざ窓際へと連れ出し、見せ付けるように痛め付けた。
あからさまな挑発だ。乗れば確実に罠が待ち構えているのは分かりきっていた。
断腸が更に煮えくり返る思いで堪える俺達の傍らで、ブーバーンは抑え切れぬ程に激昂した。
それまで自分為にしか怒らなかったあいつが、誰かの為に怒り狂っていた。
あいつは俺達の制止もまるで聞かず、炎は鋼に強いと言う相性の優位による驕りも相まって、
全身の炎を激しく滾らせながら、単身でキリキザンの下へと向かっていった。
そして、あいつは周囲に潜んで待ち構えていた岩ポケモン達が放った岩石の集中砲火を浴びて散った。
このまま俺自身もいつまで無事でいられるか分からない。
彼女をちゃんと村に帰してやるという約束を果たすことは本当に出来るのだろうか。
そんな焦燥が募り始めていた時、ひょんな事に国境付近の哨戒なんて命令が舞い込んできた。
そう、彼女と初めて出会ったあの森の程近くだ。
きっと、これが彼女を帰すことが出来る最後のチャンスだと思われた。
俺は前日に部隊のポケモン達に集まってもらい計画を打ち明けると、
彼女との別れを名残惜しそうにしつつも、皆快く協力に応じてくれた。
次の日、出動前に俺は予めくすねておいた空のモンスターボールの中に彼女に入ってもらい、
他のポケモン達と協力して兵士達の目を盗んでトラックの荷台へと持ち込んだ。
とりあえずここまで
明日明後日にでも続き投下する
age
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現場に到着して、俺は自軍のマークが刺繍されたスカーフで彼女のモンスターボールを包んで、
丁度泥棒が風呂敷包みを背中に担ぐように巻きつけて背負い込んだ。
傍から見てあからさまに俺の背は膨らんでいることだろうが、スカーや他のポケモン達が
さりげなく兵士達の視線を遮ってくれた。
頃合を見て上空で偵察するピジョットが虚偽の報告をして、
そちらに注意が向いている間に俺が彼女を連れて抜け出すという算段だ。
それじゃあピジョットが後で大目玉を食らうんじゃないかと彼女は心配していたが、
『なあに、気にする事はない。今の当方には貴女が無事に帰ることが出来たと報告を受けることが、
何ものにも変え難くこの上ない褒賞である』
そんな風にピジョットは敬礼をしてニッと嘴を緩ませていた。
程なくして、上空を旋回するピジョットが警戒を促す甲高い声を上げ、
兵士達の注意が一斉にそちらに集った。
見計らったようにスカーが俺の背をポンと軽く叩いた。
『お別れだな、シスターちゃん。無茶してまたワルーいヤツらに捕まったりするなよな。
それじゃあしっかりエスコートして来いよネズ公』
”ああ。必ず無事に送り届けるさ”
気を引き締めて発とうとする俺に、そっとスカーが意地悪くニヤついて囁いた。
『くれぐれも駆け落ちなんてすんじゃねーぞ』
”す、するか、馬鹿野郎!”
ケラケラとからかうスカーの笑い声を振り切るように、俺は素早くその場を後にした。
彼女と初めて出会った森の焼け跡まで来て、俺はモンスターボールを取り出して彼女を解き放った。
彼女は暫し目をパチパチさせてから、こちらへと振り向いた。
<ううん……ごめんなさい。やっぱり、このモンスターボールには中々慣れないわ。
出入りの時の光にびっくりしちゃって>
”一度慣れてしまえば案外居心地は悪くないものなんだがな。
だが、もうこれからはそんな大変な思いをすることも必要もあるまい”
モンスターボールの光に未だに戸惑うと気恥ずかしそうにする彼女に向かって、
俺はなるべく平静に感情を押し殺して言った。
途端に俺と彼女はしんと黙って、暫し徒然と視線を宙に泳がせた。
別れがもうすぐ其処まで迫っている。それは当然の事なのに。
彼女が村に帰ってしまう。それは喜ぶべきことなのに、何故だか俺は心の底から喜べないでいた。
<……あの、少し一緒に歩きませんか。村まではまだ距離があるので>
村までまだ距離があるから少し一緒に歩かないか、沈黙を破って彼女はそう俺に切り出した。
俺は”ああ”と簡潔に了承し、並んで一歩一歩を惜しむように歩き出した。
道すがら彼女は取り留めのない話を続け、俺はそれにただ耳を傾けて頷いていた。
本当は俺にももっと話したいことがある筈なのに胸中はもやもやとするばかりで上手く纏まらず、
何も喋る事は出来なかった。この時ばかりは、まるで高速スピンするカポエラーみたいに
無駄に口の回るスカーの奴が羨ましく感じた。あいつであればこのもやもやを巧みに凝り固め、
気の利いた意匠の一つでもして取り出せるんだろうか。己の不甲斐無さに、ふうと溜息が一つ出た。
木〜土辺りにでも続き書くよ
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咢
889 :
名無しさん、君に決めた!:2012/02/08(水) 23:16:17.18 ID:SGbglL0H0
age
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ti
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すまん、ちょい遅くなりそうだ
明日の深夜には投下する
焼け跡を歩き続けている内に、先の方に炎を免れ焼け残った森の姿が段々と見えてきた。
もうすぐお別れですね、彼女はぽつりと呟く。俺はただ”ああ”と頷くしかできなかった。
焼け跡と生い茂る木立の境目まで来て、彼女は木立へと一歩踏み込んでから急に立ち止まった。
<……本当にこのまま駆け落ちしちゃいましょうか?>
こちらに背を向けたまま、本当に駆け落ちしましょうか、と彼女はそっと言った。
”えっ?”
まさか彼女の口からそんな言葉が出てくるなんて、びっくりして耳を疑うように俺は聞き返した。
<えへへ、なんちゃって、ジョークですよ、ジョーク。スカーさん流の。引っ掛かりましたか?>
すぐに彼女は振り返り、スカーの真似をした冗談だ、と取り繕うように笑った。
”なんだ、まったく……。あんなヤツの真似をしちゃいけない、バカが移ったら大変だぞ”
はあ、と俺は複雑な嘆息を漏らした。
<ふふ、ごめんなさい>
微笑んで謝る彼女の顔はどこか寂しげだった。
――もしも、あの時、あのまま彼女の手を引いてどこか遠くに逃げてしまっていたら、
運命はどう変わっていたんだろうか。
いや、上手くいく筈がない。一時の迷いのような覚悟で村を捨ててしまったら、
きっと彼女は深い後悔にくれてしまっただろうし、あの時の俺には過酷な逃亡生活の中で
そんな状態の彼女を守りきる事は出来なかっただろう。
再び訪れた幾ばくかの沈黙の後、またいつか会えるでしょうか、と彼女は尋ねた。
俺はそっと首を横に振るった。
”きっと、もう会える事は無いだろう”
俺は焼け跡の上に立ち尽くしたまま、木立の中の彼女に向けて言った。
”俺はこっち側で産まれ、ずっと生きてきた。そして、これからもそういう生き方しかできない、
許されないだろう。だが、君は違う、シスター”
一旦ここまで。
明日か明後日の夜にまた続き投下するよ。
age
GJ!
ついでにsage
age
彼女はぐっとこらえるように口元を歪めてから、無理に引き出した様子の笑みを浮かべた。
<ねえ、最後なんだから、せめて一度くらいは本当の名前で呼んでくれませんか?>
最後の別れの時くらいは本当の名前で呼んでくれないか、と彼女は求めた。
だが、俺はそれを突き放すようにすげなく再び首を横に振るった。
”生憎だが……それは出来ない”
死と灰と悪意しか齎してこなかった俺が彼女の本当の名を口に出してしまっては、
その名を延いては彼女の存在を汚してしまうような気がして、とても呼ぶ事は出来なかった。
これ以上、俺は立ち入る事は出来ない。見守っていく事は許されない。
ならばせめて、神が本当にいるのならば彼女の献身に相応の加護を与えてくれますよう。
”さあ、あるべき場所に帰るんだ。もう二度と俺達の様な者に捕まることのないよう。
生涯、平穏無事に暮らしていけるよう。健闘を祈る、『シスター』”
俺は思いを託して彼女をそう呼び、別れの敬礼をした。
<本当に、強情な方>
彼女は今にも零れ落ちそうな程に目に涙を一杯に溜め、くす、と俺の強情さを笑った。
<送ってくれて、ありがとう。今までお世話になりました。あなたもこの先、どうかご無事で>
今までありがとうと彼女は深々とお辞儀した後、名残を惜しむように木立の奥に足を向けた。
一陣の乾いた風が吹き渡り、俺の毛並みと草葉をさわさわと揺れ動かした。
舞い上がった砂と灰のせいか、彼女の背が陽炎のように少し滲んで見えた。
悪魔と蔑み呼ばれていた男と、そんな者にさえ動じず手を差し伸べて救いを与えてくれた女――
まるで真逆の存在が出会い、そしてまた別々の道を歩んでいこうとしていた。
しかし、本来、決して交わる事が無いような二つの道が交差して生じた歪みは、
捻じくれてしまった因果は、二匹を易々と平穏には離してくれはしなかったんだ。
彼女の背を見送りながら、もう何も思い残すことは無い。そんな風に思っていた。
部隊へと帰ればまた過酷な生き地獄が待ち構えているだろう。いつまで生き残れるのか、
もしかしたら明日にでも俺がくたばる番が来るかもしれない。だけど、もういいんだ。
命を奪い取ることしか出来なかった俺が、初めて誰かを救うことができた。
彼女が無事に生きてくれさえいれば十分だ。死にゆく時が来ても、きっと未練無く逝ける。
――本当にそうかな?
その時、誰かの声が響いた。
”誰だッ!?”
驚いて俺は声を上げ、俺は周りを見回した。しかし、辺りにはそれらしき姿は無かった。
――そんな一切れのパン屑みたいなちっぽけな偽善の一つだけで、
お前のやってきたことが全て許される、俺達が許す、とでも?
暗い暗い深淵の奥底から這い上がってくるような、おぞましく冒涜的な声だった。
それは、俺の心の片隅から、割り切れなかった”余り”達を封じ込めていた壁に入った亀裂から漏れ出していた。
週末にでも続き書きたいです
age
906 :
名無しさん、君に決めた!:2012/02/18(土) 00:00:50.74 ID:kLz2b/NP0
age
ぽたり、ぽたり、と頬に生温かい何かが続けざまに当たった。反射的に拭い去ると、
つんと鉄みたいな臭いのする赤い液体状のものが手にべったりと付いていた。
動揺を抑えながら体を調べてみるがどこも負傷はしていない。
でも確かにそれはまだ真新しい血だった。一体どこから、何が起きているのか、
周囲に視線を巡らす内にも、ぽたりと鮮血は再び俺の頬を打った。
――何を驚いているんだ、散々見慣れたものだろう?
嗅ぎ慣れた臭いはまるで上等なお香みたいに落ち着くだろう?
厭わしく不浄な声が響いた。
ぞくりとして見上げると、快晴だったはずの空には今まで見たこともない程に
不気味な色をした雲が垂れ込め、真っ赤な雨を降り注がせていた。
<どうなさったんですか?>
異変に気付いたのか、彼女が駆け戻ってこようとしていた。
来るな、と必死に止めようとするが、激しい動悸に喉を締め付けられた様になり、
まるで声を出すことが出来なかった。
<大丈夫ですか、どこか具合でも?>
具合でも悪いのかと、心配そうに寄ってこようとする彼女に俺は”違う”と首を振るって、
震える指先で上空を指差した。
<何もありませんけど……?>
それでも、彼女は何でもない様子で不思議そうにきょとんとして俺を見返した。
なぜ、どうして分からない? これだけ降り注いでいるのに。異様な状況に益々俺は錯乱した。
足元の焼け焦げた地面は降り続ける赤い雨がじっとりと染み込み、まるで腐った肉のように
じゅくじゅくとしていた。ぼこぼこと泡立ち、止まりかけた心臓みたいにゆっくり鼓動していた。
――何を躊躇っているんだ、散々足蹴にしてきたものだろう?
踏み慣れたものはまるで使い古したカーペットみたいに足に馴染むだろう?
忌々しく疎ましい声が響いた。
うぐ、と苦く酸っぱいものが喉を込み上げて俺は思わず後ずさった。その足を何かが掴む。
見下ろすと赤黒い地面の中から這い出た黒く焦げ付いた手が俺の足に絡んでいた。
ぼこぼこと煮立っていた地面の泡達が焼け焦げた顔のような形に固まり、
空っぽの眼孔が一斉に俺を見た。人間、ポケモン、老若男女ありとあらゆる者達の顔だったが、
どれもこれも見覚えがある気がした。
――何を怖がっているんだ、俺達は見知った仲だろう? 逃げるなんて酷いじゃあないか。
お前は俺達を逃がしちゃあくれなかったのにな。
それはきっと、今まで俺が殺してきた者達の顔だった。まるで禍々しい合唱のように皆口々に
怨恨の言葉を発し、俺を責め立てていた。
”馬鹿な、馬鹿な、こんなの、どうして……あ、ああ、俺は、俺は――!”
自分の成して来た事の無残さ、おぞましさをまざまざと見せ付けられ、
俺は恐慌状態に陥って叫びながら頭を抱えていた。
心の”余り”達が暴れ狂い、壁の亀裂が瞬く間に広がって、とうとう決壊は始まった。
<――さん、――さん! 気を――に、落ち着いて! これは、まさか――>
狂気に引きずり込まれゆく意識の中で、懸命に俺に声をかける彼女の姿が目に入った。
ああ、そうだ、彼女だけでもここから逃がさなければ。朦朧とする意思に置かれながらも
そう思い立って俺はふらふらと彼女に向かって手を伸ばした。
<……! やめて! ――アーク! この――は、敵なんかじゃ――!>
急にハッとした様子で彼女は悲痛な叫び声を上げて何かを止めようとした。
しかしその声は届かず、後方からの風を切る音と同時に俺の背に深々と鋭い痛みが走った。
一瞬で全身の力が抜けていくのを感じ、俺は前のめりに倒れ込む。その瞬間、
血と腐肉に覆われたおぞましい世界は霧散した。
――俺が見ていた恐ろしい光景は全て幻、作り出された幻影だったんだ。
とあるポケモンの手によってね。
背からだくだくと何かが流れ落ちていく感覚と共に、意識はどんどんと薄れていった。
ぼやける視界の先で、黒い毛並みをした人間程の大きさもある二足歩行の獣が
真紅の長い鬣を靡かせながら、彼女に素早く駆け寄った。
そして、獣は何か気遣うような言葉を掛けながら彼女に手を差し出す。
彼女はそれを悲憤した様子で払い除け、涙をぼろぼろと零しながら俺の傍にへたり込んだ。
その光景を最後に、俺の視界と意識は完全に暗闇へと堕ちていった。
また明日明後日にでも続き投下します
次スレはいつ頃?
保守
ごめん、ちょい遅れます
明日の今くらいには投下できるようにするよ
保守
暗い暗い場所だったよ。よく死の間際には、まさしくこの世のものとは思えないような
花畑とか川原とか、はたまた神や仏なんて呼ばれる者達と対峙するとか、
不可思議で綺麗な光景を目にするって聞いたことがあるけれど、そこには暗闇以外何にも無い。
もしかしたらまだ辛うじて意識の残りカスがあるから暗いと感じるだけで、
そこには暗闇さえも無いのかもしれない。ある種の人間達が信じて説き唱えているような、
天国とも地獄とも食い違う、そこには的確に言い表せる言葉も無い----なぞのばしょ。
そんな場所を俺はぽつねんと漂った。
ああ、俺はあの獣に背から裂かれてそのまま死んだんだな。冷静にそう判断できた。
迷いも恐れも怒りも沸いてはこなかった。これでいいんだとすら思った。
このまま俺はきっとどこにも行くことも何もすることもなくここに留まり続け、
やがて考えることすらもやめて無の一部となるんだろうと淡々と考えた。
しかし、そんな静かに消えていく事は俺には許されなかった。”彼等”は逃がしてはくれなかった。
急に周りに存在を感じた。棒状でゆらゆらとしていて、平たい先の方に何本かの細長い突起がある。
それは何本もの、何十本もの、何百本もの、無数の手、手、手。
認識すると同時、手は俺を捕らえようと一斉に群がってきた。
平静を保っていた俺の意識に、途端に恐れが振って湧いて来た。
”彼等”だ。俺が手にかけてきた者達だ。”彼等”の存在は幻影の中だけでは留まらなかった。
きっと恐らくあの幻影は対象が最も恐れるものを無意識に鏡のように反映して見せただけで、
意図的に”彼等”を写そうとしたわけではない。
”彼等”は最初からこの場所で俺が来るのを待ち侘びていたのだ。そう感じた。
俺は逃げた。ただ我武者羅に闇雲に負ってくる手の気配から離れるように逃げ続けた。
されど無数に追ってくるものをかわし続ける事なんて出来るはずも無く、
やがて尾の辺りをがしりと掴まれた。放電して抗おうとしてもまるで電気袋に力は入らず、
瞬く間に押し寄せてきた”彼等”に俺はずぶずぶと取り込まれていった。
――嫌だ、嫌だ! 必死に声を上げようとしても、喉はうんともすんとも言わなかった。
苦し紛れに俺はまだあるかどうかも分からない自分の手足をばたばたとさせてもがいた。
もがいてもがいて、もがき続けている内に、やがて俺の手はがしりと何かを掴んだ。
途端に差し込んだ光と共に俺の体は引っ張り上げられたように感じ、ぱちりと視界が開いた。
目の前にはとても驚いた様子のシスターが居て、俺は見知らぬ一室のベッドの上に横になったまま、
彼女の手を確と握っていた。
明日明後日にでも続き書く
保守
保守
保守
投下は明日の今ぐらいにするよ
保守
保守
<意識が、戻って……? ああ……よかった、本当によかった……!>
彼女は俺の手を両手で包む様に握り返し、目を一杯に滲ませた。
<ごめんなさい、謝って済むようなことではないとわかっています……。
私が別れを惜しむばかりに、あなたを引き止めたりしなければ、
きっとこんなことにはならなかったのに……本当に、ごめんなさい>
彼女は顔を俯かせてただひたすらに謝り続けた。握り合う手にぽたぽたと涙が滴り、伝った。
対して俺は、長い間寝ていたような感覚と、おぞましい悪夢からひとまず解放された安堵感で
頭がぼうっとしていて、状況も掴めずきょとんとその稀有な光景を見ていた。
彼女があんなにぼろぼろと泣いている姿なんてその時まで見たことが無かった。
”……ここ、は? 恐縮だが、今は謝罪より現状の説明を願う”
溺れ掛けてやっと水際に上がってこられたかのように荒れている息を整え、俺は簡潔に尋ねた。
<は、はい――>
嗚咽を堪えながら彼女は話し始めた。
俺が目覚めたのは、彼女が住まう教会の一室だった。
黒い獣の不意打ちによって重傷を負い意識を失った後、俺はすぐさま村へと運び込まれて治療を受け、
どうにか一命は取り留めたものの、数日間昏睡状態にあったらしい。
ずっと弱弱しく苦しそうにうなされ続ける俺に、彼女はろくに寝食もせずに付きっ切りになって
看病していたようだ。その目元には涙での腫れとは別に、疲れと隈が少し浮かんで見えた。
”あの黒い獣は君の知り合いか?”
<はい、彼は――>
どうも彼女とは顔見知りらしい素振りを見せていた黒い獣の事を俺は尋ね、
彼女がそれに答えようとしていたところで、突如として扉が乱暴に開け放たれ、
何者かがが部屋へと飛び込んできた。それは、件の黒い獣だった。
『目覚めた、な……』
獣は赤い鬣を大きな炎のようにめらめらとざわめかせ、肩を怒らせて今にも爪を振り上げて
飛び掛ってきそうな剣幕で俺の方に向かってこようとしていた。
<やめて、ゾロアーク。このひとは敵じゃないって言ったでしょう>
すぐに彼女はゾロアークと呼んだ獣の前に立ち塞がり、押し留めようと手を広げた。
『駄目だ、信用できない。危ない、どいていろ』
しかし、ゾロアークは数倍近い体格差で持って彼女をひょいと軽がる抱き上げて脇に退かしてしまい、
俺にずいと顔を寄せた。
獣は牙と憎悪を剥き出しに、ぐるると唸りながら俺の目をじっと見据え続けた。
”さて、どうも急に背中から斬り付けた事を詫びる、という態度とつもりではないように見える。
彼女からも伝えられたであろう通り、当方に彼女及び村の者達に危害を加えるような心積もりは無い。
誤解に依る攻撃であるのなら、手痛い損害を受けはしたが水に流すこともやぶさかではない。
まずはその好戦的な対応の解除と釈明を要求する”
睨みあっていても埒が明かないと、俺は淡々と口火を切った。
とりあえずここまで
また明日明後日にでも投下するよ
保守
三五Y
保守
どうやら、うごメモの方は打ち切りになってしまったようですね
ちょっと残念です・・・
保守
>>931 だなあ、楽しみにしてたんだが
しかし、作者は女性らしいし、あの絵で「早漏野郎は〜」とかの台詞は酷だろw
初っ端から早漏云々発言のゲンガーを初め、マニュとドン辺りも下品な台詞多いからなあ…w
だが、せめてキッサキのマニューラの辺りまでは漫画続いて欲しかったぜ
夕方か遅くても深夜になる前には投下できるようにするよ
だが、ゾロアークは態度を崩さず、鋭い爪を堪えるようにわなわなと震わせていた。
”端的に繰り返す。お前と事を荒立てるつもりは無い。村に危害を加えるつもりも無い。全くの誤解だ”
嘆息を堪え、俺はもう一度繰り返した。
それでも、ゾロアークの姿勢はますます強まるばかりだった。
『誤解……? 違う、嘘吐きめ』
そう言うとゾロアークは厚みのある赤い後ろ髪におもむろに手を突っ込み、
中からするりと何かを取り出して俺に突きつけた。俺が巻いていたスカーフだ。
そこに記されている赤黒い染みに汚れた軍の標章をゾロアークは苦々しく爪の先で示した。
『これ、軍の印。奴らの兵器の証拠……!』
息を荒げながらゾロアークは湧き上がってくる感情を堪えきれなそうに震える手を
ゆっくりと俺の喉元へと伸ばしてきた。このままじっとしていれば、
容赦なくこの獣は俺の喉に爪を突き立てて引き裂くだろう。
それ程に明確な敵意と危機感をひしひしと感じた。
だが、頭では分かっていても、俺の体は動かなかった。ただ単純な殺意であったならば、
慣れたもので恐れはしない。俺を射竦めたのはその根深く暗い憎悪に満ちた目と、
恨めしく伸ばされる手。蠢く”彼等”が脳裏を過ぎり、ゾロアークに被って見えたんだ。
赤い爪が今にも俺の喉元を掴まんという時、か細い閃光が弾けて黒い腕をびくりと退かせた。
<いい加減にして、ゾロアーク! 彼は関係ない! それにそんなことしたって、誰も喜ばない!>
強い調子で彼女はゾロアークを諌めた。
悲しそうに目を細めてゾロアークは肩で息する彼女を見やると、数歩退いて口惜しげに俺を再び睨んだ。
『今は見逃す。でも、俺はお前も奴らも許さない……! すぐにここから出てけ!』
ゾロアークは手に持った軍のスカーフを火を吹き出して燃やし、
燃えカスを見せ付けるように踏み躙って消すと部屋を勢いよく飛び出していった。
その背を見送り、彼女は嘆くように小さく項垂れた。
<重ね重ね、ごめんなさい……。普段はこんな乱暴は絶対にしない、寡黙で優しいひとなんです。
でも、ここまで見境が無くなってしまっているなんて――>
燃えカスを片しながら、沈痛な面持ちで彼女は再度謝罪した。
”随分と俺は憎まれているようだ”
未だ残る肺を直接締め付けられるような感覚を堪えて俺は言った。
<以前にもお話しましたが、この教会には戦渦に巻き込まれ身寄りを無くした子達が大勢います。
彼もまたその一匹です……>
彼女の話によれば、ゾロアークもまた戦争で身寄りをなくした者の一匹だったらしい。
小さなゾロアであった頃に一族で暮らしていた住処を、進軍する軍隊にもののついでのように掃討、
焼き討ちされ――恐らく、一族の持つ一片に大勢を化かす事が出来るほどに強い幻影の力が、
いつ任務の障害となるやもしれないと疎まれたのだろう――彼はただ一匹生き残った。
まだ禄に食べ物を得る手段を覚えていない幼い身に野生を生き抜くのは当然に苦しく、
衰弱しきった状態で彷徨っている所を運良く牧師の目に留まって連れてこられたそうだ。
<最初の内は塞ぎ込んでいて中々心を開いてくれなかったけれど、
いざ打ち解けてからは歳が近いこともあって、彼とは兄妹のように育ちました>
やがて成長し立派なゾロアークに進化した彼は、救ってくれた牧師や村の人々の
恩に報いようと村の番人を買って出た。いつかまた己の故郷のように村が理不尽な暴力に
晒されてしまうことを危惧してだ。
<彼の決意に私は乗り気ではありませんでした。彼が危険に晒されるかもしれないという心配も
当然ありましたが、それ以上に彼からひしひしと仄暗い、それでいて激しい感情を感じたんです>
村への報恩とはまた別に、まるで仕込み刀のようにゾロアークはかつて故郷を奪った者、
更に歪んで軍に属する者達全てへの復讐心を抱いていた。
<彼の決意は固く、私の言葉では止められはしませんでした。大切なものを奪われた怒り、
憤り、悲しみは抑えようとも抑えきれず、またいつまでも晴れないものだというのは、
心苦しいながら私にも理解できます。でも彼が怒りに駆られたまま無作為に兵隊さんを
殺めてしまっては、その仲間の方々が彼を許しはしないでしょう。そこでまた彼が殺されれば、
村の方々も私も嘆き、憤慨し――復讐はたちの悪い伝染病のように次々と伝播していってしまう>
番人になることは止められはしなかったものの、彼女はもしも軍隊や悪意ある者が
村に近付いてこようとしていても、決して殺すことや大怪我を負わせることをしないように
ゾロアークを説得した。はずだった。
<分かってくれたものだと思っていたのに……あなたをこんな目に合わせてしまった。
彼の激情への認識が甘かった、全部私のせいです……>
ゾロアークも当初の内は彼女に言われた通りに村に近づく者があっても、
極力傷はつけずに幻影の力だけで追い払っていたのだろう。だが、今回ばかりは事情が違った。
ゾロアークからしてみれば、突然の落雷に燃える森――軍が何かしら関与しているであろう事は
想像に難くなかっただろうし、故郷を追われた時の悪夢がありありと思い起こされたことだろう
――に兄妹同然に育った彼女が駆けつけていってしまったまま、
長い間行方不明になってしまっていたのだ。燻っていた復讐心が吹き起こされ、
更に油を注がれたように燃え上がってしまっても無理はない。
ゾロアークが俺を襲った訳を知り、彼のことも彼女のことも責める気は起こらなかった。
ゾロアークの故郷を直接焼いたのは俺では無かったとしても、俺の今までの行いの中で
彼と同じぐらいに酷い境遇にあった者は沢山いるだろう。背中に受けた傷は当然の罰。
寧ろ軽すぎるくらいだとさえ思った。――そう、この程度では軽すぎた。
”……彼の言う通り、俺はすぐにここを出て行くべきだ。迷惑をかけたな”
俺は立ち上がろうと体に力を込めようとした。
<――! ま、待って、まだ安静にしていなければダメ!>
彼女が叫ぶと同時、体に力を込めた瞬間、背中から全身に向かって熱した有刺鉄線に
ぎりぎりと締め付けられるような激痛が走った。あまりの苦痛にに俺は声さえ上がらず、
ベッドへと転げた。じとじととした汗が全身から滲み出た。
彼女は苦しむ俺の姿に耐え切れないように涙を滲ませ、躊躇う様に重々しく口を開いた。
<……怪我の、後遺症です。以前にお医者様でもなさっていたのかポケモンの身体にもお詳しい
牧師様のお話によれば、根気よく静養とリハビリを続ければ簡単な日常生活を送れる程度には
回復することはあるかもしれませんが、それ以上は難しいかもしれない、と……>
”な……に……?”
怪我の後遺症により、例えリハビリをしても以前ほど動き回る事はできないかもしれない。
――もう戦えるような力は出せない。深い深い底の無い穴に落ちていくような感覚だった。
死ぬよりも残酷で無慈悲な言葉に思えた。戦うことしか能のなかった者が、
唯一の利点、存在している価値さえ失ってしまうかもしれなかったのだ。
<ごめんなさい……! でも、幸い、あなたが軍の者だと言う事は私とゾロアーク以外は知りません。
ゾロアークもあなたの事を言い触らして追い込むような卑劣なひとではない。
あなたの事は、あなたが部隊で私にしてくれたように、私が絶対に守り抜いて見せます>
明日明後日にでも続き書くぜ
保守
保守しておく
保守
今日の夜か遅くても明日の深夜までには投下する
保守
保守
”今度は俺が囚われの身というわけか、くっくっ……”
なすすべなくベッドに這い蹲って俺は自嘲めいた苦い笑いを漏らした。
俺の姿に彼女はやりきれないように深く俯いた。
しばらくして決心した様子で彼女は小さく息を吸い込み、目元をそっと拭って顔を上げた。
〈あなたが目覚められたことを牧師様にお伝えして来ます。それから、軽いお食事の用意を。
あまり食欲はわかないと思うけれど、少しでも栄養を取っていかないと弱るばかりですもの〉
気丈に彼女は微笑んで、牧師に俺が目覚めたことの報告と、
軽い食事の用意をしてくると部屋を出て行った。
少しして、コンコンとドアがノックされ、
『やあ、具合はどうかな?』
黒い独特の装束に身を包んだ人間の男、年齢は三十台半ば頃といった具合だったろうか、
が気さくな様子で俺に声掛けて部屋へと入ってきた。俺は警戒するが、身動き一つ取れない。
男は茶色いバッグを片手に傍まで来ると、くいと丸眼鏡を指で上げ直して俺の顔を覗きこんだ。
『うん、目を覚ましてくれたようでよかったよ。うちの子が大慌てで君を運んできた時は、
本当に危険な状態だったからね』
それから男はまるで子どもにでも語りかけるみたいに穏やかな調子で
ポケモンである俺に語りかけてきた。人間にそんな対応をされるのはそれまで初めてで、
なんとなく呆気に取られた。と同時に、これが彼女の言っていた牧師か、とピンと来た。
一旦、ここまで
また明日か明後日の今くらいに投下する
黄色ブドウ球菌
保守
age
あげていいの?
保守
牧師はバッグから診察道具を取り出し、てきぱきと俺の状態を診ていった。
俺はなすがまま抵抗せずにその様子を見ていた。牧師は冷静に診察しながらも、
時折微かに表情を曇らせているようだった。きっとあまり良い状態ではないのだと直ぐに読み取り、
先程彼女が言っていた、後遺症で以前ほど体の自由は利かなくなるかもしれないという言葉が
更に研ぎ澄まされて再び喉元に突き付けられた。
『じゃあ、ちゃんと安静にしているんだよ。目が覚めたんだから自由に動き回りたいだろうけれど、
それはちょっとしばらく我慢して、少しずつ少しずつ動けるようになっていこう。
なあに、焦る事は無いさ。ここには君のように傷ついて住処を追われた子達が他にもいて、
暮らしている。だから、君もずっとここに居てくれていいんだからね』
包帯を取り替え終えると、牧師はゆっくり丁寧に俺に言い聞かせて、部屋を出て行った――。
「ちょっと待った!」
あっしはとうとう堪らず横槍を入れる。
マフラー野郎は「なんだい?」と片眉を上げた。
「おいおい、その牧師と”シスター”が言ってやがったことがマジってんなら、
今のオメエは一体なんなんでえ? 確かに、その、ひでえ傷跡があるのは見ちまったが、
オメエの振る舞いやら戦いぶりを見てても、とても後遺症があるようには見えやがりゃしねえぞ?
まさか二人にフカシをこかれたってことかよ?」
マフラー野郎は首を横に振るう。
「いいや、俺も二人も誰一人嘘は吐いちゃいないよ。彼らに誓ってね」
「じゃあ今のオメエの状態はどう説明つけるってんだ? オメエの身のこなしは今だって
そこいらの奴よりもよっぽど軽快なくれえじゃねえか。はっきり言って、普通じゃねえよ」
「確かにね。俺が君の言う”普通”であったなら、俺は今もきっと二人が言っていたように
自力で歩くのが精一杯ぐらいにまでしか回復しなかっただろう。だから今の俺の状態は普通じゃない。
普通じゃいられなくなった、と言うべきか」
そこまで言って、マフラー野郎は”ふう”と一呼吸置いた。
「なあ、ヤミカラス。君は所謂幻のポケモンの存在って信じてる?」
「ああん?」
あまりに突拍子も無い質問に、くだらねえ冗談で話を逸らす気かとあっしは声を荒げて睨んだ。
だが、マフラー野郎は真剣な面持ちであっしの答えを待っているようだった。
「……んなもん、テレビのくっだらねえ胡散臭い特別番組とかでユーフォーだのユーレーだのと
一緒に並べ立てられて、本当にいるだのいねえだの人間共が面白おかしく騒ぎ立ててるホラ話だろ?
信じてるわきゃねえだろ。そんな話、今は関係ねえだろうが」
仕方なくあっしが答えると、マフラー野郎は再び一呼吸ついた。
「だろうなあ。だけど、それが関係大有りなんだよ。無理に信じろとは言わないし、言えないけれど。
俺はその幻のポケモンと呼ばれているものの一柱と相見えることになったのさ。後にね――」
保守
回想長くて本編忘れた
ちょっと読み返してくる
明日明後日にでも続き書きたいです
オマンコ
保守
ほす
本編の進行状況って、時間軸的に
ロゼマニュ(31番道路)≧ピカ一行(ヒワダ)>>>ペルシアン(カントー)>>>>>>>ドンペルト(シンオウ)
こんな具合か
乙、たぶんそれであってると思う
保守
夜か深夜ぐらいまでには投下します
保守
部屋に残されて一匹、俺は捨てられた空き缶のように虚しくベッドに転げていた。
彼女らの言葉は事実だと頭では理解してもにわかには受け入れ難く、
無駄な抵抗を試みる度に背中から全身にかけてびりびりと走る激痛に打ち震えた。
俺自身は耐性があるから分からないが、電流を浴びせかけられた者は
きっとこんな苦痛をいつも味わったのだろうかとぼんやりと思った。
無力に倒れ伏す都度、痛みと失意に頭は朦朧とし、部屋の角、机の下、
棚の隅、暗闇という暗闇に”彼等”が見えた。
こんなざまでは二度と部隊に復帰することなど出来はしないだろう。
とても使い物にならないと処分されるだけだ。まるでゴミのように。
体の震えが止まらなかった。何も出来ない、取るに足らない、
無意味で無価値なものとなることが何よりもとても怖かった。
いっそ殺してくれと俺は懇願した。だが、”彼等”は何をしてくるわけでもなく、
ただ俺の無様な姿を嘲笑っているようだった。
最悪の精神状態だったよ。善意でやっている牧師や彼女の看護を、
感謝するどころか、生殺しにされているとさえ思うようになっていった。
あの頃の俺は兵器として戦うことだけが己が存在できる唯一の理由であって、
価値だって摺り込まれていたからね。それに、罪悪感もあったと思う。
村には戦争の煽りを受けて悲惨な境遇にあった者達が大勢いるっていうのに、
自分はその加害者側に属する存在だったんだから。
彼女に対して当り散らすような態度を取ってしまったことも何度もあった。
それでも彼女は献身的に俺なんかに尽くしてくれていた。
その姿に俺はますます罪悪感を煽られ、追い詰められるように感じて、
意固地になっていってしまった。無価値な屑同然の俺のことなんてとっとと見殺しにして、
どこぞなりと打ち捨ててくれればいいのにと、どうすれば彼女は俺を嫌ってくれるのか、
最低のど壷に嵌まり込んでいた俺は頭を捻り、一つ思い当たった。
そうだ、あの事を話してしまおう。今まで、彼女に恐れられては面倒だからと
――嫌われたくなくて――ひた隠しにしてきたあの話。
彼女が軍へと捕まる原因となった森の火災は、俺が故意に放った雷が原因であること、
それからそれから、他にも今まで戦場で行なってきた”黄色い悪魔”の非道の数々を包み隠さず。
俺は全てを彼女へとぶちまけた。
次に彼女の表情に浮かぶのは恐怖か蔑みか怒りか、俺はぜえぜえと息を荒げて待った。
しかし彼女は取り乱すことなく、〈最初から、知っていました〉と、少し曇った微笑みを返した。
”え?”と驚き竦み、俺は硬直した。
〈こんな片田舎ですけれど、森に住む方々や渡り鳥として立ち寄られる方々から、
様々な風の便りを耳にします。その中でも、世にも恐ろしいという『黄色い悪魔』の噂は、
どうやら私の同族らしいということもあって強く印象に残っていました〉
とりあえずここまで
また明日か明後日に続き投下します
保守
保守
保守
”知っていたなら、どうして……君は全く俺を怖がっていなかっただろう”
信じられない、と愕然として俺は問い返した。
〈逃げ遅れ、トラックに積み込まれる寸前まで私にも少し意識はありました。
そこで次々と他の逃げ遅れた方々を運んでいく兵隊さん達と、
一緒にいるあなたの姿がぼんやりと目に入っていました。その時、すぐにピンと来たんです。
あれが噂の『黄色い悪魔』だと。再び目覚めた時、そのあなたが目の前にいてすごく驚いたし、
とても怖かった。でもね、次の瞬間にはそんな気持ち、跡形も無く吹っ飛んじゃいました〉
俺の恐ろしげな噂は兼々聞いてはいたが、実際に目の当たりにしたら恐れは沸いて来なかった、
彼女はそんな風に言って、クスと笑った。
〈時々ね、ここに住むやんちゃな子達が、危ないから行っちゃ駄目っていつも言ってるんだけど、
大人達の目を盗んで近所の森の奥に探検って称して遊びに行っちゃうんです。
普段はちゃんとバレない様に帰ってきているみたいだけれど、その時は奥まで行き過ぎたみたいで、
中々帰ってこないあの子達をみんなで探しました。やっと見つかった時のあの子達いったらもう……
日ごろの強がりで意地っ張りな素振りが嘘みたいに、みんな寂しそうで頼りなげな目をして
わんわん泣きじゃくっちゃって、私までつられちゃいました。
あなたの目を間近で見て、あの時のあの子達の目にとても似ているなって思ったんです。
寂しく儚げで何かに迷っているような目。スカーさん達にも似たものを感じました。
そう思った途端、なんだかまるで怖く無くなったの。そっか、このひと達も同じなんだなって〉
俺や部隊の他の者達も恐れなかったのは、俺達がまるで迷子になった時の子どもと
似たような目をしていたからだと彼女は語った。
”俺がやってきた事は、子どもが言いつけを破ったなんてものとは規模も数も違う。
残虐に冷酷に他者の命を踏み台にして生きてきたんだ。許せるはずが……許されるはずが……!”
また胸が苦しみだし、俺は強く押さえ付けた。爪が食い込み、血が滲んだ。
〈確かに今まであなたは多くのものを奪ってきたのかもしれません。
でも、あなたがその痛みを苦に己の命を投槍にしたところでそれが戻ってくるわけじゃない。
それどころか、あなたの言葉を借りるなら、あなたの代わりに”踏み台”となってきた方々の
命が無駄に終わったことになってしまう……!
前にも話したかもしれませんが、私の両親は私がまだ物心つかない程に幼い頃、
戦禍に巻き込まれて亡くなりました。幼い私だけが生き残っていたという状況からして、
両親はきっと私を庇ったがために亡くなってしまったのでしょう。その事で私も一時期、
思い悩んでいた時期もありました。でも、ある時思ったんです。そして、変わったんです。
両親の分、長く生きた代わりに、誰かの助けになって生きていこう。
それで両親がかえってくるわけじゃないけれど、私だけの力なんてたかが知れているけれど、
同じような悲しみを味わうひとを少しでも減らすことが出来ればそれでいい。
自己満足かもしれないけれど、両親がそれで本当に喜んでくれるか確認しようも無いけれど、
何もしないでずっとうじうじしているよりは絶対いい〉
保守
明日明後日にでも続き書く
保守
保守