1 :
本当にあった怖い名無し:
【スレのお約束】
1 基本的にsage進行でお願いします。
2 作品投稿のage・sageは、作者の判断にお任せします。
3 作品には感想をお願いします。感想についての批判は作者・読者ともに控えましょう。
「感想・意見・批評」と「誹謗中傷」は異なります。
よけいな争いごとを持ち込まぬよう、表現にはくれぐれも気をつけましょう。
4 煽り・荒らしは放置、反応なしでお願いします。
【マナー。その他】
1 連続投稿数は5〜10レスを目安にしましょう。
2 作品投稿は間隔に気をつけてください。場合に応じて間隔をあけましょう。
投稿前と投稿後に宣言すると、スレの流れがスムーズになります。
3 自分の意見に返事を期待する作者は、トリップを付けたほうがいいでしょう。
4 個人攻撃、的外れな批難の類は流したほうが無難です。
5 496KBで警告メッセージが出力されます。
512KBでスレッドが終了なので、950からか450KBを過ぎた時点で新スレッドへの
移行を話し合いしましょう。
5 :
本当にあった怖い名無し:2008/09/11(木) 00:23:25 ID:pA/gDv1t0
>>3 (21)【小説】ZOMBIE ゾンビ その22【創作】
↓差換え
(21)【小説】ZOMBIE ゾンビ その21【創作】
前スレがdat落ちしたようなので立てました。
6 :
かおりん祭り8 ◆KaORiNSqz6 :2008/09/11(木) 00:43:43 ID:gydlAaFc0
∋oノハヽo∈ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
( ^▽^) < 新スレおめでとうございま−す♪
= ⊂ ) \_______
= (__/"(__) トテテテ
7 :
本当にあった怖い名無し:2008/09/11(木) 07:34:48 ID:v8hLFdpL0
>>1 乙
昨日HIGHSCOOL OF THE DEADの5巻買ってきた。
舞台がショッピングモールってのはやはり王道だな〜と思ったりw
8 :
本当にあった怖い名無し:2008/09/11(木) 13:12:19 ID:XVC0keEQ0
9 :
本当にあった怖い名無し:2008/09/11(木) 13:18:34 ID:Kvl2uWUjO
ゾムビエって何?ソムリエっぽいけど
>>1 乙です! 良かった新スレ立ったよ。
まだ書いてないのでアップはできませんが、これからも頑張って書いていくので待っててください!
11 :
empty ◆M21AkfQGck :2008/09/11(木) 23:44:49 ID:41zBXGik0
乙です〜
気がついたら沈んでましたね…
金曜日か土曜日にまた上げます
オーマーターセーシーマーシーターー!!!
本日は4つほどアップしまーす!
まぁ話は全然進んでないんやけどねぇ〜〜・・・。
ゴースト・アンド・ザ・デッド その20
随分と素敵な奴だな。
「んで?その後は何があったんだ?」
「まず、高宮さんが『大丈夫か!?』って声を掛けたよ。そ、そしたら、そいつ叫び声を上げて手に持ってたモップを振り回して襲ってきたんだよ。」
「・・・イカレてるな。」
「僕もそのときそう思ったよ。・・・高宮さんはそいつが錯乱してると思ったらしくて、すぐに説得しようとしたんだけど・・・・。」
「無駄だった・・・か?」
俺が福沢が言おうとしたことを先に言うと、福沢は険しい表情のまま頷く。くそ、こんな状況だからそんな奴が出てもおかしくないが、よりにもよってこんなときにかよ・・・。
『やれやれ、吾の相棒はとことん運が無いな。』
ようやく思念攻撃から復帰した三郎が他人事のように呟く。もっかい黙らせるべきか・・・・。
しかし、福沢が話を再開したので、仕方なくそちらに集中することにする。
「そいつは高宮さんの言葉に一切耳を貸さないで、モップを振り回してきたんだ。頭とかを狙ってくるから、高宮さんがそいつの足を払って床に転ばさしてから3人とも仕方なくそいつから逃げたよ。」
『賢明だな。』
三郎がすぐに逃走を選択した3人に賞賛の言葉を送っている。俺以外には聞こえないけどな。
けど、確かにこの3人は凄い。普通ならつねに神経を張ってなければならないこの状況では人間は興奮している。
そんなときに敵と出会った場合、戦闘を選択することが多い。
しかし、高宮達はしっかりと冷静に考えて逃げることを選択している。きちんと冷静に動ける証拠だ。
・・・案外俺がいなくても生き残れるかもな・・・。
俺は心中で3人の評価を少し上げておくことにして、話を聞いてる間に疑問に思っていたことを尋ねた。
「しっかし、何で錯乱野郎と上野が関係あるんだ?」
そう、福沢の話は中には、上野と錯乱野郎との接点が全く無かったのだ。
上野が危険な奴だというのは福沢の様子から薄々感づいてるが、上野が何をしたのかは何も言われていない。何でだ?
「・・・僕らは錯乱してた奴から逃げようとしたんだ。けど、校舎から出てすぐに別の連中が待ち伏せしてたんだよ。」
校舎内で襲ってきた奴は3人を外におびき寄せるための囮だったのか・・・。
『単純だが中々上手い手だ。まさかこのような状況で同じ人間に襲撃されるとは思わないしな。』
おいおい、感心すんなよ。こんなときにんなことやられたら洒落にならんぞ。
『む、護よ・・・思考が漏れているぞ。』
オウシット! 何てこった! でもまぁこれならお前と話すのが楽でいいか。
『ポジティブだな。・・・ふむ、どうやら長めに<憑依>を行っていた所為で吾とお前の魂に変調が起きているようだ。』
変調て・・・・。これ以上変な特技身に着けんのはごめんだぜ。自慢すらできないじゃんこれ。
『文句を言うな。』
そのまま三郎と心の中で言い争いを繰り広げようとすると・・・。
「あ、あの・・・・聞いてるかな?」
福沢が話しを聞いていない俺に向かって物凄く情けない表情を向けてくる。うん、正直聞いてなかったわ。
「・・・すまん。きちんと聞くから。」『すまぬ。』
ここはきちんと謝っておく。三郎も邪魔になっていたことを自覚したらしく、俺にしか聞こえないにも関わらず福沢へ謝っている。
「わ、分かってくれればいいよ・・・・。それじゃ、続けるね?」
「おう、よろしく。」
手を上げてにこやかに返事をすると、福沢の表情が和らいでいく。そして、福沢は口を開く。
「校舎を出てすぐ、6人ぐらいに囲まれたんだよ。高宮さんが頑張って、2人ぐらい倒したんだけど・・・・・僕が捕まってしまって・・・・。」
そのとこを未だに気にしてるようだ。語尾が段々と小さい声になっていっている。
こういうことは引きずるもんじゃないんだけどなぁ・・・・。しゃーない、励ましとくか。
「・・・終わっちまったことを一々気にすんな。次を頑張れよ。な?」
「・・・そうだね。」
俺からの励ましに、福沢は弱々しく頷く。それ以上は何を言っても意味は無いだろ。後は自分次第だ。
俺は無言で続きを促す。
「僕が捕まって、人質にされた後は高宮さんと彼女は抵抗しようとはしなかったよ。それで、3人とも捕まっちゃって・・・。」
高宮は他人を犠牲にするようには見えないし、今部屋の隅でずっと黙ったままの彼女も、少なくとも一緒に行動していた奴を見捨てるようなことをするようには見えない。
・・・俺の考えが甘いだけかもしれないけどな。
「その後はどうなったんだ?」
「皆手を捕まれて逃げ出せないようにされてから、ここに連れて来られたんだ。その途中で、あの人が現れたんだよ。」
「・・・上野・・・か・・・・。」
『ようやく、問題の人物が出てきたな。』
ああ。上野が何をやってたのかが気になって仕方なかったんだよな俺。
『吾もだ。』
やっぱこいつとは妙に気が合うんだよなぁ・・・。
すいません、3つでした。
来週は就職試験の本番なんで、火曜日過ぎるまでは書き込めないかも。
ゾ
19 :
本当にあった怖い名無し:2008/09/16(火) 09:16:45 ID:VVrw+EPd0
ン
ブ
ロ
|
ゾ
9 名前:名無しさん@九周年[] 投稿日:2008/09/17(水) 16:26:16 ID:SlUMwh6+0
お前ら飛び降り死体見た事ある?
俺は小学生の時見た・・・体が衝撃でめちゃくちゃになってて、
腕とか脚とか落下時にぶつかるところはありえない向きに曲がってた。
だけどさ、その死体笑ってた。なんでかわかんなんけど笑ってた。すげぇ怖かったよ…。
でさ、俺泣きながら目を離せないでいたんだよ。
そしたらその飛び降りたおじいさんが震える腕を壊れたぜんまい人形みたいにぎこちなく動かしてポケットから飴を出して俺にくれたんだよ…美味しかった。
こんな美味しい飴をくれるなんてきっと俺は特別な存在なんだと思った。
その時なめてたキャンディーはもちろんヴェルタースオリジナル。
今では俺がおじいさん。孫にあげるのももちろんヴェルタースオリジナル。
何故なら彼もまた、特別な存在だからです。
保
奈
27 :
本当にあった怖い名無し:2008/09/20(土) 23:50:22 ID:lXUqSYsK0
てすと
ホ
リ
チ
エ
ミ
チ
ゾ
うわーここに書き込むの凄い久しぶり!
一体どれほどの時間を空けてたのか・・・・・。
今日は久しぶりにアップします。一個だけですけど。
ゴースト・アンド・ザ・デッド その21
「上野先生は、捕らえた僕らにこんなことを言ってきたよ。」
「どんなことだ?」
もったいぶるなよ。俺はそういうのはあんまし好きじゃないんだ。
俺の心中を察したのか察してないのか、福沢はすぐに内容を話してくれる。これ以上もったいぶるなら殴ろうかと思ってたのは秘密だ。
「『この世の滅びが始まりましたよ。生きたいのなら、この私に従いなさい。』って。」
「うわぁ・・・・。聞いてるこっちが恥ずかしいぜソレ。」
『まともな神経では絶対に言えんな。うわ、見ろ護。鳥肌が立っている。』
・・・幽霊も鳥肌が立つのかよ・・・。
『吾も初めて知ったぞ。流石に触ることはできぬがな。』
まぁ・・・どうでもいいか。
俺は変なことが判明して上機嫌の相棒は放っておくことにする。だって相手すんのメンドイし。
「それに何て答えたんだ?」
「えっと・・・・、僕は答える前に、高宮さんが答えちゃって・・・。」
あ、何か凄い予想できるよオチが。
「高宮の奴、何て言ったんだ?」
「・・・『はぁ? 何言ってるんですか? 先生キ○○イ何ですか?』って・・・・。」
「・・・・。」『・・・。』
予想以上でしたよ! 怖いなこいつ!! 三郎も絶句しちゃってるよオイ!!
「いやまぁ・・・・正直者だな高宮は・・・。」
未だに体を丸めて眠っている高宮を横目に見つつ、俺は(多分)無難なことを言ってその場を凌ぐ。本人横で寝てるから下手なこと言えないし。
「僕は正直・・・ちょっと・・・。」
そのとき、俺は見逃さなかった。福沢が変に言葉を濁したとき、高宮の肩が僅かに動いたのを・・・!
ズ
wktk
続きはまだか。wktk
テストテスト。
やっと復帰できました…。
ですがデータがトんでしまっているので、書き直しになりました。
早ければ日曜に投下します。
wktk
続きマダーチンチン(AAry
保守wktk
移転wktk
この間、久保田さんが言っていてなるほどと思ったことがある。
――あの日にどこで何をしていたか誰もが覚えているよね
ということだ。もちろん私も覚えている。
私はあの日あれが起こったとき自宅のマンションのテーブルでテレビを見ていた。
時刻はお昼のバラエティが始まる少し前で
ちょうどニュースをやっていた。テーブルには朝の残りの
ソーセージとサラダと茹でたばかりのうどんがあってキャスターは
ニュースを読み上げていた。
「株価は今日少し値を上げました」「東京でまた通り魔がありました」
いつものことだ。右から左へ流れる意味のない言葉。
いやこんなことを考えるのも私自身が病んでしまっているからなのだろうか?
私はテーブルに目を落とし、そこに置かれている本の題名を読む。
「女性のための離婚の仕方」
夫の母親が私に言ったことがある。
「賢一は長男なのよね」
それは遠まわしに私の不妊を非難するもので離婚してくれと
暗に言っているのだった。
ずいぶんと夫と通院し夜には二人で協力して赤ちゃんが
出来るようにと努力してきたつもりだ。「あせらないことです」
医者は言う。二人の体どちらにも異常は無く時が来れば
妊娠するという話だった。しかし五年もの時間がたってしまった。
長い時間だ。私はもうすぐ三十五歳になって夫も四十近くなる。
夫も私のことを慰めてくれ子供が欲しくて結婚したわけじゃないのだと言う。
ありがたかった。それでも夫の家に行くと私は味方がいない
居心地が悪い気分にさせられる。重い空気、新聞を読んだまま
私のほうを向こうとしない夫の父親。私は自分に問いかける。
このままやっていけるのかと? このままの人生でいいのかと?
その時だった。あのニュースを聞いたのは。
「今入ってきたニュースです。大阪の路上で殺人事件が発生しました。
犯人は不可解な色に肌をペイントし次々に通行人を襲っている模様。
少なくとも死者は2名にのぼります」
私が今まで風景の一部でしかなかったテレビに目を向けると
アナウンサーが奇妙に動揺している顔と普段は写ること無い局のスタッフらしき
人間が写りスタッフはアナウンサーの耳元で何かささやき原稿が書かれているのであろう
用紙を手渡した。アナウンサーは原稿に目を落とすと目を大きくし原稿に
書かれている言葉が信じられないと言った様子でスタッフと原稿を
何度も見返した。そして私が要領を得ぬままCMに変わった。
私はボリュームを大きくし他のチャンネルにうつる。
動悸が大きくなり、かなり非日常的なことが起こったのだと直感したが
あるいはテレビ局のありがちな大げさな演出かもしれなかった。
日本テレビが写していたのは視聴者からの映像だろうか、携帯電話で
撮ったと思われる粒子が粗い映像で見にくい画面だったがそこに写って
いたのは想像を超えたものだった。東京と同じようにアスファルトには
容赦なく夏の太陽が照り付けてい大阪の路上でその中で肌の色が緑色の痴呆か
精神異常か薬物中毒であろう人間が血のたまりの中で死者の
そばに座り肉のようなものを食べていた。画面が揺れ撮影者が異常者に近づき
少し画面が鮮明になる。異常者は一心不乱に何か食べている。
一生のトラウマになるであろう想像をしたくないことが
間違いないという嫌な、でも目をそむけることが出来ない
瞬間が刻一刻と近づいてる気がする。
私の思い違いであってくれ。そう思う。あれが人間の肉であろうはずが無い。
しかしその思いは無残に砕け散った。
異常者がその内臓に手をかけたとき痙攣を起こし始めた。
死者であったと思った人間はまだ生きていた。
死者であったと思った人間は路上を背泳ぎするかのように片手を動かし始めた。
着ていたシャツは真っ赤に染まっている。彼は異常者に抵抗しようとしているのだろうか?
私は見ていられなくなったが目が離せなかった。彼は自分がどのような
姿をしているかまだ知らないのだろうか? 異常者は紐のような長い内臓を
取り出した。腸だった。そこで撮影が終わりスタジオに戻った。
私はくたくたの気分でテレビをまだ見続けている。わが目が信じられなかった。
あるいはこれはある種の実験だろうか? 全局が一斉に訓練をする。
それはいつか来るべきものに備えるための心理的シュミレーションだ。
そのように予防しておき来るべき時に冷静に行動できるようにする。
スタジオには内心は私と同じだが顔だけは冷静なアナウンサーが
ただ自分の仕事を果たすべく口を動かしていた。
「今の映像は投稿映像ですがいたずらで無いことが
確認されております。大阪で今、緊急事態が発生している模様。
詳しいことは分かっておりませんが大阪で通り魔が発生いたしました」
私は束の間、目を閉じてあの日のことを思い出す。
この生き延びた人間が作った張子のような避難場所で。
小学校にバリケードを巡らし何百人の人間が共同で
暮らすこの東京の都下の小学校の校庭で夕日を眺めながら。
あれから一度だけ夫と電話で話した。
必ず家に帰る。そう言って電話を切ったが夫はしばらくの間
戻ることを諦めていることはその声色から明らかだった。
なぜなら夫はネットのニュースサイトの運営をする仕事をしていたので
こんなときに帰ることは夫の性格からもありえないことだったし
勤務先から、マンションの吉祥寺まで帰ってくるのは
あまりにも危険すぎた。
夕方までの間に東京の新宿で立川で江戸川で成田、岐阜
そう数えきらないほど同じような事件が発生し数え切れないほどの
人間が死んだ。年齢によってグロテスクな表現や残酷な表現を
規制していたのが嘘のようにテレビには生々しい死にいく人間の
流す夥しい血と呻きと絶叫が画面を休み無く流れ続けた。
私は時々、遊びに行っていた下の階の知子さんの部屋で一緒に
テレビを見ていた。夫の実家は隣の市だったので歩いていけない
ことも無かったが行く気は無かったし、向こうも来て欲しくはなかったろう。
あるいは私のことを心配してるのだろうか? そんな気分になったことさえ
驚きだったが携帯はもうサーバーがダウンして繋がりません。
パニックにならないでくださいとキャスターが言っていた。
「皆さんこんばんは浅生です」
夏の夕方が終わり夜が始まるころ総理官邸からの
総理大臣の会見が始まった。
その会見で総理大臣がしゃべってる間中、私が思ったのは結局
この人も何も分からないしそのことで国民の気力が無くなるのを
恐れているのだということで知子さんも同意見だった。
知子さんが、総理に同情すると言うとキッチンに行った。
「由美子さん何か食べる?」
知子さんが聞く。私は何も食べたくは無かったが何か
食べたほうが良い様な気がした。これは遊びではないのだ。
小さいころ風邪を引いたとき母が私に「由美子、一口でもいいから
きちんと食べなさい」と言った。私が喉がガラガラしダンボールのような
味しか感じられないおかゆを一口すすると喉が焼けるように熱かった。
あれは本当に意味のあることだったんだろうか?
大人になって思えば、あまり意味のあることだとは
思えなかったが母の愛情は感じることが出来た。
でも今は本当の意味でご飯をきちんと食べておかなければ
いけないという気がする。理由は分からないし知るのが怖かった。
「そんなの簡単よ! 食べるものが無くなるからじゃない!」
私の内なる声が無邪気に言う。なぜ食べるものが無くなるか
内なる声が言うか私は耳を済ませたが何も言わなかった。
その自民党の第26代総裁であるところの総理大臣の会見が終わると
防衛大臣と陸上自衛隊幕僚長の会見が始まり陸海空の隊員と機動隊が事態の
殲滅に向けて力をあわせているので皆様は建物の外へは出ないよう、
やむをえず外に出る場合は十分に注意してください。
というものでこちらも私たちが知りたいようなことは何も言ってくれなかった。
閉めた窓からは戦闘機か私の知らない兵器を積んでるのであろう飛行機が
夜空を行く音がひっきりなしに聞こえる。戦争中もきっとこんなんだったんだろう。
私は思う。野党に苛められた自衛隊員も今こそは出番が回ってきたとばかり
張り切っているだろうか? あるいは怖気づいているのだろうか?
私は分からなかったが、その音は私たちを勇気付けてくれた。
ニートである剛司は何年かぶりに感じる胸の高鳴りに
生きている実感を感じていた。それは悪い感覚ではなかったが
人が死んでいくのを見て良い気持ちはしなかったし
可哀想だとも思った。
そのまだ人間らしい気持ちが自分に残っていることに
自分でほっとしていたし安堵もしていたが好奇心は止まることが無かった。
今、自分が見ているものが何なのか理解できなかったが人類の歴史上、
起こったことが無いことが目の前で行われていると考えていたし
それは事実であることに間違いなかった。
どう考えても普通じゃない。
人間が人間を食べるなんて。学者はウイルスによる異常反応で
死者が歩き人を襲うことも一過性のことだから、私たちが出来ることは
落ち着いて行動することでパニックになったり自暴自棄の行動を
とったりすることが一番危ないんです。と言っていたがその学者は
明らかにカツラを被っていてそれがずれているを直そうとしないので
「あんたが一番、冷静じゃないよ」と呟いた。
カツラがおでこの半分を覆っても司会者や同席するアナウンサーの
誰もが真面目に学者の話を聞いていてその顔が可笑しくて
笑ってしまった。「僕は今、ハイになってるのだろうか?」
無性に誰かとこの気持ちを分かち合いたかった。
何年か前まで一緒に遊んでいたニートの薫に電話したかったが
大喧嘩をして絶交したのでそれも出来なかった。
薫がこの場にいてくれたら一緒に笑ってくれるだろう。
そう思うと剛司は悲しくて、あの喧嘩を後悔した。
でもきっとあのまま一緒にいたら二人とも駄目になっていただろう。
剛司は思う。今はバイトをしてなかったがあれからバイトも出来たし
少しばかり自分でお金を稼ぐことも出来た。自分が27歳であることを
考えると情けなかったがそれでも進歩だった。
――普通の見てる人はカツラのことなど気にしないんだろうか?
剛司は自分の感覚に自信が無く自分がちょっと変わってると思ったが
どの程度変わってるかは分からなかった。カウンセリングを受けた。
自助グループにいって薫に会った。あれから自分が良くなった気もするし
何も変わってない気もする。
剛司が一番、度肝を抜かれたのが中継している女のレポーターが
逃げてきた群衆に巻き込まれカメラから消えて何十秒かしたあとに
ゾンビに食われている映像を至近距離でうつしている映像だった。
レポーターは気の強い女でゾンビに腕をつかまれた後も必死に抵抗していて
持っていたマイクをゾンビの口元に押し込もうとしていたが
ゾンビが自分の腕を噛んだのを見た瞬間、自分が感染したことを知ったのか
力が抜け体がぐんにゃりした。剛司はその映像を撮りつづけるカメラマンを残酷だと
思いながらも大したプロ意識だと感心していた。映画だったらここでカメラマンも
襲われ視聴者に最大限の恐怖を与えるべく効果的な演出がされるんだが
そうはならなかった。そのレポーターが死んでいく様子を淡々と撮りつづけていた。
見ようによってはゾンビの食事風景を伝えている映像のようにも見える。
「こちらがゾンビさんの昼食の風景です。ゾンビさんは肉食で
野菜を食べません。体に悪くなんでしょうか?」
カメラマンも自分も感覚が麻痺してもう自分が何をとってるのか見てるか
さえ分からないのかもしれない。
「剛司。窓きちんと閉めた?」
ドアの向こうで母親の声がする。剛司は確認のため
もう一度、窓のそばに歩いて閉まっているのを確かめたが
夜の向こうから突然、ゾンビが現れるような感じがして
剛司は嫌な気分になった。
――妄想だか現実だか分かんない
剛司は妄想や幻聴などの症状がなかったが、その
不気味な感じは妄想に似ていて少し怖かった。
しかしこれは妄想なんかではなく、現実なんだ。
剛司は強く思おうとしたが自分の心から嫌な感覚は
抜けてくれなかった。
「だいじょうぶだよ」
閉まっていることを告げると母親が階段を下りる音がする。
リビングでは父と母と姉が
一緒にテレビを見ているはずだった。
――俺も下に行こうか?
そう思ったとき、お腹が空いているのに気がついた。
秋の空に夕日が沈んでいく。
これだけ世界が変わってしまっても夕日は美しいんだわ。
由美子は思う。教壇の上では松田さんが今日、起きたことの連絡事項を
話している。どこどこのスーパーに行ってどれだけの食料を確保しました。
ガソリンはどれだけ、どこどこにゾンビの群れを発見したのでどこどこに
行く方は注意してください。いつもの連絡事項だ。
今日は私たちの中から死んだ人はいなかったがカップルがやってきて
受け入れを希望してきた。
若いカップルで心身ともにくたくたなのが見て取れたが
受け入れることは出来なかった。私たちは今でも三百人近い人間が
共同生活をしていて余裕は無いのだ。それどころかここの実態を知ったら
きっとがっかりして受け入れを希望したことさえ撤回するだろう。
ここはパラダイスでも安全地でもなかった。ただの柵で囲った小学校で
毎日、いざこざが絶えず、陰口が絶えなかった。不平不満、私も
機会があればここを出て行きたかったが、他にどこに行き場があるだろう?
いくらゾンビの数が少なくなったとはいえ、一人で生きていくのは
無理だった。我慢してここに居続けるしかない。
私は自分の世界に入り込んでいたことを反省し松田さんの声を
良く聞こうと顔を上げたとき北村さんがこっちを見ているのに気づいた。
彼は私のマンションのすぐそばに住んでいたひとで北村剛司と言ったはずだ。
正直、少し暗い人でグループでも話しことは多くなかったが
松田さんによると人が気がつかないミスにあの人は気づくということだった。
私たちは外に出るときチームで行動する。見張りと行動する人で
見張りは常にゾンビや略奪者とまで無い得ない無法者が来ないか監視して
無くてはならない。小学校から遠いところだがコンビニがあった。
そこは今までに一回しか行った事が無く学校の他のグループも行った事が
無い場所で食料の確保が期待できる場所だった。松田さんが車を降りてすぐだった。
車を降りる場合には何度も確認して安全を確かめるが、そのゾンビは
倒された陳列棚の下に居て気がつかなかったのだ。松田さんが危ないと思った瞬間
空を切るようにバットが振り下ろされる音がしたそうだ。それが北村さん。
「彼はねえ。俺とは感覚が違う。野生の勘がある」
口下手な北村さんを気遣うように松田さんは言った。
「最後に気になることがあったので知らせておきます
今日、久我山方面にガソリンの調達をしに行った前田さんのグループの
話ですが武装したグループにここのことを聞かれたそうです。
チンピラ達で心配をすることは無いと思いますが銃を持っていたそうです」
銃、という言葉が出たときその場に居た人々からざわめきが起こった。
私たちの小学校には銃は無い。一ヶ月前まではあったが、車の
出し入れのときの不注意でゾンビが進入してしまったとき
弾を使い果たしてしまったのだ。だから銃はまだあるが使える銃は
無いと言うことだ。銃があると言うことはそのまま力関係が
生まれると言うことだ。もちろん私たちはマンモスを追っていたような
時代に戻ってしまったわけじゃないし、協力をしようとする
力をあわせようとするその心こそが何よりも強いんだと経験していくうち
わかったが銃は圧倒的だった。弾があって銃があると言うのは
それだけで頼れるものなのだ。
それから何日かして私たちのグループが休みの日に校庭の塀に登り
外の道路に向かって何かしている北村さんを見かけた。
私はちょっと変わってる人がまた何かしていると思ったが
朝から昼になっても相変わらず塀に登っておかしな行動をしている北村さんを
心配になりちょっと声をかけてみようと近づいた。
「北村さん? どうかしました?」
私が声をかけると北村さんは塀の上から振り返り笑顔を見せた。
それがまるで子供のようだったので私は少しうれしくなった。
「ほら、前にラジオで言ってたでしょう? 超能力のこと
ゾンビを倒せる超能力を持った人が生まれつつあるって。
あの時、みんなで確かめてみようとゾンビに向かってやってみたけど
効果は無かったですよね? それで私たちにその能力がある人間はいないか
デマなのかっていう話になって、そのままあの事を話す人は居なくなったけど
僕と沢木さん…前田さんのグループの中学生。二人で暇なときに
超能力の練習してたんですよ。遊びですけど…ちょっと塀に上がれます?」
北村さんが塀の上から手を出したが私は北村さんがこんなに
はきはきしゃべれるのかとびっくりしていた。
私は地上から2メートルほどの高さの塀に座るとお尻がむずむずした。
目の前には住宅が並んでいて間の抜けたおもちゃのようなゾンビが
一人私たちを見上げているがおじいさんゾンビなのか手が頭より上に上がらない。
「見ててくださいね」
北村さんが私に言う。北村さんは両腕を曲げ右手の指で右手の手のひらを
左手の手のひらで左手の手のひらを掻くような仕草をして集中し始めた。
目を閉じ顔を上に向ける。私は男の人の顔をこんなに近くで
見たのは久しぶりと考えつつも徐々に緊張し始める北村さんの
顔を見てその行動に意識を向けた。
塀の下ではおじいさんゾンビが私たちを餌としようか
それとも食べる好みには合わないのかと考えているように
ふらふらとしたまま北村さんを見つめている。
私は突然、ラジオで聞いたニュースを思い出す。
それは取ってつけたな科学的な理由を説明していたが
ゾンビが発生したのがわからないと同じく超能力者が何故現れたか
分からないが確実に存在していて、そのものたちが世界を救うかもしれないという
私たちが白けながらもひょっとしてと希望を抱いたあのニュースだ。
62 :
ken ◆r7Y88Tobf2 :2008/10/09(木) 04:58:25 ID:QekNppjY0
私はゾンビが倒れて欲しいような欲しくないような
極端な感覚になる。もしゾンビを倒せるとしたら…それはそれで
喜ばしいことだがせっかく安定し始めた、この小学校の生活が
またバラバラになってしまうかもしれない。そんなことを考えた。
風の音と北村さんが集中する頭脳の音だけが聞こえるような気がした。
私はゾンビを見つめる。何か変わった様子が無いかと。倒れる
ようなそぶりが無いかと。しかしどこにも変わった様子は無い。
それどころか道路の向こうから別のゾンビが現れてきた。
「北村さん。新しいゾンビが来たわ。降りましょう」
北村さんは諦めたように目を開けると照れ隠しに笑った。
私たちが塀を降り北村さんを慰めているとき見えない塀の向こうで
おじいさんゾンビが倒れたのを私は知らなかった。
「今日の午後にマイクロバスで共同生活者希望者が
やってきたのは皆さん御承知かと思います。
彼らは私が以前、銃を持ったチンピラと称した人々で
正直言ってあまり愛想が良い人たちではありません。
しかし彼らの中に病気を患った人が居るようなのです。
骨を折った後の処置が悪く化膿している状態で意識がはっきりしません。
ここには医師の原田さんがいらっしゃいますし薬もあります。
私たちの規則では重病患者は保護し治療をし回復した場合、決を採り
ここで暮らすことを受け入れるか受け入れないか決定する。
というものです。しかしながら今回の場合、例外的に
彼らの受け入れを拒否するかそれとも受け入れるか
相談の上、決めたいと思うのですがいかがでしょう?もちろん彼ら…
男十人女二人の若い者たちですが、これまでとおり
新たな生活希望者はゾンビウイルス罹患の可能性を考慮し
要一週間隔離の上での生活となります」
十一月になった。彼らが来てから四週間ばかりの間に
学校での雰囲気、生活はずいぶん変わってしまった。
良い方向へ? 悪い方向へ? もちろん私にとっては
悪い方向だ。彼らのリーダー格の関口には超能力があった。
そう念力によってゾンビを殺すことが出来るラジオで耳にし
そして北村さんが私に見せてくれ失敗してしまったあの超能力だ。
あれから北村さんに超能力のことについて聞いてみたことがあったが
彼は笑みを浮かべながら「僕には無いみたいです。ごめんなさい」
というばかりだった。でも私が案じているのは超能力そのものではなかった。
その力のせいで以前まで失敗しながらも何とか軌道に乗り始めた
私たちの生活が関口をリーダーとし超能力を崇める関口派と
穏健派の松田さんを中心とする派閥に分かれたしまったことだ。
例えば食料の問題ひとつを取ってもそうだ。貯蔵庫が
暗黙のうちに二つになった。こういう重大なことを決めるには
必ず決をとらなくてはならなかった筈だが松田さんは苦渋の顔を浮かべ
「分かってます。どう考えてもおかしいです」と言うばかりで
問題を先送りするばかりだった。
私は始めて関口が超能力を使った日の衝撃をまだ覚えている。
彼らは私たちに見せたいものがあると言うと校庭に呼んだ。
学校で生活している半分以上の人数が集まったと思う。
秋晴れの日曜日で基本的に日曜日は、みんな休みだったから暇をもてあまし
関口が何かやらかすと、みんな興味しんしんで出てきたのだ。
校舎を振り返っても窓から見物していた人はいたから
余程変わり者か関口のグループを嫌ってる人
以外、その光景は見たはずだ。
関口は輪の中心でグループのメンバー(あるいは崇拝者と言ったほうが
適切か?)を従え、これから当選確実の選挙の開票を待つ
候補者のような余裕の顔を浮かべ私たちを見ている。
うわさはあった。関口が超能力を使うと言ううわさだ。
私はどうせ嘘だろうと話していたが内心は関口が冗談を
言うタイプでは無いと、こういう冗談は言わないだろうと
いう気がしていたのでついにこの日が来たかと思った。
「みなさん、こんにちは。うわさで知ってる方も多いと思いますが
今日はみなさんに私の持っている不思議な力をお見せしたいと
思っています。何ヶ月か前のことです。ラジオで超能力者が
出現しつつあると言う放送を聴きました。私はその話を聞いたとき
それを聞いた誰もがやるように超能力を発揮する仕方のテクニックや
コツなどを聞きマネしてみました。もちろん私にそんな能力は
あるまいと思ってましたが、ひょっとしたらという気持ちも
どこかにあったということを付け加えておきます。
私が窓から外を見ますと一匹の、ゾンビがいました。
「おい関口。あれでやってみようぜ」その頃、一緒に住んでいた
友人が私にそう言いました。私はうなずくと、仮面ライダーか
ウルトラマンみたいなヒーローになったつもりで力を
放射しました。うまくいくわけがない、そう思った一瞬後の
ことです」
そこで関口は話を遮ると意味ありげに私たちに微笑んだ。
神のような悪魔のような、あるいは新興宗教の教祖と言ったほうが
近いのだろうか? 胡散臭くも魅力的な笑顔で人を引き付ける
力を持っている。私たちは静まり返り関口の一挙手 一投足に
目を配った。これからどう続くのだろう。魅力的な会話術だ。
私も残念ながら引き込まれてしまった。北村さんの時は
あんなに半信半疑でそれで超能力を失敗する現場を
見てるのでさえだ。私は北村君の姿を探したが確認できなかったが
どこかにいるのだろう。彼も無関心ではないはずだから。
「ゾンビは私を食いつこうとする動きを止めました。
…まるで何か忘れ物でもしてコンビニに行く途中、
財布を忘たのに気づいたような感じだと
私は思いました。あるいは急に何かを思い出したサラリーマンのように。
そしてそのまま忘れ物を諦めた人間のようにそのまま崩れ落ちました」
彼らのマイクロバスに登って試しにゾンビを倒すのを
見せてくれてる時に私は塀の向こうに発見したおじいさんのゾンビを見て息を呑んだ。
あれは…そう、北村君が超能力で倒してみせると言って
私に見せてくれたゾンビでは無いか? もうあれからずいぶん時間が
経ってしまって泥や落ち葉で汚れてしまっているので
正確には違うかもしれないが、あの場所の上の塀で私たちは座っていたのだ。
歓声が上がり関口が、お手並みの説明をしている時も私は
耳に入らなかった。北村さんも超能力者なのでは? その思いが
胸に膨らんだ。関口以外にも超能力者はいるんだ。
私は興奮したが同時に危険な匂いを感じ取っていた。
二人が対決するなんて可能性は? あるいは致命的な行動を
私たちにもたらすのでは? 私がマイクロバスから校庭を
振り返ると北村さんは腕を組んで私を見つめている。
その顔にあるものを見つけようとしたが北村さんは何も
言ってくれない。「あなたあれ見た?」
私はそう叫びたかった。
「あなたも超能力者なんじゃないの?」
私は北村さんに何度も超能力を持っているのではないかと
聞いたが返事はいつも「ノー」だった。しかし私はそこに事実が
あるとは思えなかった。何故隠すのか? 答えは彼にしか
分からなかったし、おじいちゃんゾンビも偶然そこにいただけで本当に
超能力は無いのかもしれないが彼が争いを避けているんではないかと
いう感じがした。学校の雰囲気は変わった。人々は自然と関口派と
松田派で話すことも変えたし情報の伝達も別々になることがあった。
「関口は超能力は誰にでもあるかもしれないと言う」「私はその力をうまく
引き出せただかで、みんなにもあるかもしれないから
私がその力の出し方を教えてあげてもいい」仲の良かった
人が私に関口派に来るよう説得した時そう言った。嘘だ。
私は思う。超能力が誰にでもあるなんてそれは宗教家が信者を
引き止めていくための説教に近いものだ。私は思ったが
それは口に出してはいえなかった。私は怖かったのだ。
超能力をみんなが使い出すということが。
いや違う、それは人間では無くなるということに近くないか?
私には分からない。塞ぎこんで憂鬱な毎日が多かった。
学校を出て誰かと暮らそうと真剣に考えた。
何度も安全そうな場所をピックアップし食糧確保をどうするかなど
考えていた。その頃にまた厄介なことが起こった。
チンピラは所詮チンピラでルールを守り無いものたちなのか?
ゾンビに噛まれた人間を学校に入れることは禁止されているし
もし共同生活者の中でゾンビに噛まれたものがあった場合
それは永久追放するということにほかならない。チンピラはそれを破った。
マイクロバスでやってきた人間の男女のカップルで
男が食料探しに外に出たとき、ゾンビに噛まれた。
女が何と言ったか男が何と言ったか今となっては分からないし
知りたくも無い。そこにメロドラマか愛情のようなものがあったのだろう。
しかし、ゾンビに噛まれたということは諦めるということで
死を意味する。彼らもそれは十分にわかっていたはずなのに。
あの日、女はシャツで男の傷口を止血すると何食わぬ振りして学校に戻ってきた。
腕を打撲したと言っていたが、その時点で疑うべきだったのかもしれない。
私たちの中で誰も感染に気づいたものは居なかったのだろうか?
いくら関口と言えどもゾンビになるであろう人間まで
保護するほど馬鹿ではあるまい。彼らは倉庫代わりになっている
教室で発病するまでそこに隠れていた。そして三日後の真夜中
みんなが寝静まったころ惨劇が始まった。
月の明るさを知っていますか? 星の美しさを知っていますか?
私は知っている。いや私たちは知っている。
電気の無い世界がどれだけ暗く
そして月が驚くほど明るいかを。
その夜は月が見えなかった。月が無いということは闇が支配しているということだ。
絶叫と駆け足、逃げる音、何かが何かにぶつかる音。
何が起こった!! ゾンビだ!! ゾンビ?
どこから来た? 分からない。 逃げろ逃げろ逃げろ
ゾンビは何人も居た。後からあのカップルが感染源だという結論に
達した時、二人以上は居ないはずなのにどうして?
ということになったが、門が開いていたのだ。逃げる人間が
無責任に開けたままにしたのか? あるいは騒ぎにのって
学校を地獄にしてやろうという異常者が私たちの中に
いたのだろうか? それは今となっては、すべては文字どおり闇の中だ。
私は学校を諦めることを決意し北村さんを含め8人で車に乗り
エンジンをかけた時教室の一部から火が出たのに気づいた。
「もうお終いだ」
誰かがつぶやいた。パンクした車は唸りを上げガードレールに
突っ込むとエンジンの動きを止めた。影の中の影のように
窓の外を懐中電灯を照らすとゾンビが集まってくるのが見えた。
ここからゾンビの間をくぐって逃げるか、しばらく待って
救援を待つか私は急いで思考を巡らせた。逃げれる場所。
階段があるゾンビが上るのに時間がかかる階段があって
障害物が経路に無い場所。私は暗闇の中で避難する場所を
見つけようとしたが車のライトの筋が照らしている場所以外
何も見えなかった。探すのよ、生きたかったら探すの!
探しなさい、由美子! 私は泣きたい気持ちのまま
目は探していたが死を受け入れる気分になりつつあるのを
ぞっとした気持ちで発見していた。
ゾンビが窓を割ったと聞いたことがある。もしゾンビが
車の窓を割る力があったら…
「由美子さん。むかしゾンビが発生する前
あなたは私を助けてくれました。コンビニの前で自転車を
倒し見っともなく籠の中から買ったばかりの商品を
駐車場にぶちまけた時、あなたは見ず知らずの私のために
一緒に拾ってくれました。うれしかったです。さようなら。
そしてありがとう」
北村さんは、みんなが唖然とする中、車のドアに手をかけると
最後にこう言った。
「私の超能力でゾンビを倒すので皆さんは、車のライトに
沿って歩きあのマンションに逃げてください。
もしゾンビの数が私の想像するぐらいだったら
時間は十分あります。その後、私も行きますので
よろしくお願いします」
何度も泣いたがそれでも足りないような気がしてまた涙が
あふれてきた。空が明るくなっても北村さんは
戻ってこなかった。悔しくて悲しくて気持ちのやり場が無かった。
どうして止めなかったのだろう? もちろん私に
そんなことを考える余裕は無かったし北村さんも私たちが
止めるのを分かっていたからこそ、返事を待たずに
出て行ったのだろう。朝が来て空が染まっていく。
私は堪らなくなって外へ行こうとするのを誰かが止めた。
「北村さんの死を無駄にするんじゃない」
死んだの? 北村さんは死んだの?
私は聞きたかった。誰に聞く? 誰が知っているの?
彼は超能力を使えるのよ。なぜ彼が死ぬの?
ドアを開けた時、思い切り引っ張られてチェーンは伸びた。
ゾンビは私たちがここにいるのを知っているのだ。
私は情けない気持ちで座り込むと誰かが駆け寄ってきてドアの間から
手を突っ込むゾンビと格闘する声が聞こえた。
――しっかりするのよ。由美子。
誰かがそう言っている。私の胸の中で聞こえるのか
それとも後ろで誰かが言っているのか私には
分からない。
一年後
由美子は目が覚めたとき自分にも
超能力が使えると分かったし関口にもう一度
会わなければ行けないと確信した。
あれは悪の王国なのだろうか?
きっとなにが正しくて何が間違ってるかなんて
誰にも分からない。
――北村君。正しい方向に私を導いてね。
由美子は北村のことを思い出した。
涙は溢れなかったが窓を開けると冬の風が肌を刺激した。
終わり
76 :
ken ◆r7Y88Tobf2 :
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