■創作怪談三題噺■■第弐部復旧版■

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あれ?
消えてしまったの?
>554
寸善尺魔さん得意のミステリ寄りの作品ですね。
後家さんが聾唖者で筆談で証言したことにすればよかったのでは?
余談ですが、前スレで寸善尺魔さんが初めてカキコしたときに、せっかくだから
何か書いてってよ、ってレスした前スレ765は僕だったりします。
ちょっと昔を思い出してみました。

>559
そのようです。新しい作品書き込んでいたのかな?
元が手元に残ってなかったら、もいちど書き直すか、どなたかログをもってる
人が貼ってくれるのを待つしかないのでは。
ハッキリ言ってアメリカなどの多民族国家では黒人の方がアジア人よりもずっと立場は上だよ。
貧弱で弱弱しく、アグレッシブさに欠け、醜いアジア人は黒人のストレス解消のいい的。
黒人は有名スポーツ選手、ミュージシャンを多数輩出してるし、アジア人はかなり彼らに見下されている。
(黒人は白人には頭があがらないため日系料理天などの日本人店員相手に威張り散らしてストレス解消する。
また、日本女はすぐヤラせてくれる肉便器としてとおっている。
「○ドルでどうだ?(俺を買え)」と逆売春を持ちかける黒人男性も多い。)
彼らの見ていないところでこそこそ陰口しか叩けない日本人は滑稽。
>>561
次のお題は?
 どれくらい歩いたのか。足が棒のようになり、静かな町並みを引きずるように歩いていた。
 私はへとへとに疲れて、しかもずっとお腹がぐうぐう鳴っている。喉は渇いていなかったけど、空腹感でくるくると目が回る。時折めまいがして、ふうっと景色が暗くなってしまう。空はどんよりと曇っていて、何時なのかもわからない。
もう1-2時間は歩いたと思うけれど、腕時計は5時ちょっと過ぎで止まっていた。電池を換えなくちゃいけないのか。
 でも、駅前の商店街には全然人影が無かったし。そもそも、こんなに歩くことになったのは電車が止まって全然動く気配が無かったから、しょうがなくて歩き出したんだっけ。
 いつしか家に帰ることよりも、食べ物を探すためにうろうろし始めるようになってしまった。お店の自動ドアは、閉まりっぱなしのもあれば、開きっぱなしのもある。並んでいる食べ物に手を出してみたけれど、腐っているのか、
どれもニオイは無く味は消しゴムを食べているような気がして吐き出してしまった。空腹は満たされず、時おり貧血のように意識が飛ぶ。一瞬視界が真っ白になる。
 でも、腐っていると言うことは、もしかして人が居なくなってから相当時間がたっているのかもしれない。
 永遠に続く迷宮ような町並み。道路にはバスもタクシーも・・・それどころか人影が全然見えない。時どき、曲がり角を曲がった瞬間に、道路の遠くでネコか犬のような影が素早く視界から消えていく。
 “戦争がはじまったのかな?”
 私は唐突にそう思ってした。だけど、そんな様子もないし、町並みはひっそりと静まり返っている。
 歩きすぎて足が痛い・・・。気を抜くと貧血して視界が真っ白になってしまう。私がへたりこみそうになった時、遠くからの人の声が聞こえた。
 男の人が誰かを叱り飛ばしているようだった。声は辺り一帯に木霊するようで、声の主は思いの外遠いところにいた。人の気配のしない街角で、男が私と同い年ぐらいのセーラー服の女の子を組み伏せていた。
男は女の子の頸を両手で締め、腰を激しく動かしていた。私はあまりの事に大きな悲鳴を上げてしまった。
 男が私を振り返り、空中を辷るようなスピードで私に迫ってくる。男の瞳は半熟の卵白のように濁っていて、生臭い吐息が顔にかかった。私は金縛りにあったように動けなかった。
もうダメだ、と目をつぶった瞬間にまた視界が病院の天井のように白くなった。私が予想した事態では無く、
突然男は頭を抱えて叫び声を上げて仰け反り、裸のまま道路に転がった。男は立ち上がって、濁った瞳で私を睨みつけた。眼からはハチミツのような粘液質の涙を出していた。
 男はふいに涙でベトベトになった顔に笑顔を浮かべると「探しているんだよね、待っているんだよね」と言って“ジゴクモン・ジゴクモン”とブツブツいいながらどこかへ歩いていってしまった。 
 ジゴクモン・・・地獄門?・・・何のことだろう?

 「探しているんでしょ?あなたも・・・ずっと待ってるのよね?」
 私は小さく悲鳴を上げてしまった。
 さっき、男に乱暴されていた女の子だった。
 「あの、大丈夫ですか」と素っ頓狂な質問をしてしまった。
 「別に」女の子はセーラー服とはうらはらに、20代後半のような顔立ちだった。そこまで観察して、彼女に足が無いことに気が付いた。空中にセーラー服のスカートがそのまま浮いている。
 「歩いてたら、足が痛くなったのよ」だから、足は要らなくなったんだと言う。
 「ねえ?」と女の子---風の女が問い掛けてきた。「あなたは何の為に復活を望んだの?私は“その瞬間”に、ついつい“ああ、楽しかったあの頃に戻りたかったなぁ”って思ってしまったの。あなたはどうなの?さっきの男の様に“性欲”かしら?それとも“食欲”?」
 あ。
 遠い夢を思い出してしまいそうなった。
 女は続けて言った。
 「まさか“死にたくない”だったりしてね?」
 その言葉で、全てを思い出してしまった。
 一気に貧血を起こしたように、視界が白くなってゆく・・・。
時間がものすごくゆっくり流れてゆく。
 重力から開放されて、全身の筋肉がゆるんだ。
 ゆるんだせいか、私はおしっこを漏らしてしまったようだ。
 さらに時間の流れはゆっくりとなって、私は辺りの景色を楽しむ余裕があった。
 失禁は不快などころかもの凄い快感に感じてしまった。
 地面が私の額にめり込んでゆく。
 時間は全く止まってしまったかのように、ぜんぜん身動きが取れない。まるで宙吊りにされて、氷河の中を移動しているような感じ・・・
 そう、これでウザイ学校とも人生ともお別れ。
 歓喜と絶頂が私を包んでいた。
 “復活なんて、願ってないよ” 

 「シュークーリームが食べたい」・・・自分の脳漿の匂いを嗅いだ時に、そう思っただけ・・・。

 
次のお題は「割れた鏡」「時計」「子供」でお願いします。
「割れた鏡」「時計」「子供」1/1

恵子さんは妊娠5ヶ月でした。
妊婦が集まるインターネットサイトを毎日訪れ、情報交換をしていました。
ある日、その掲示板でこんな噂を聞きました。
―午前0時ちょうどにひび割れた鏡をのぞきこむと、産まれてくる子供の
顔が映るらしい。
恵子さんはそんなことあるはずがないと、鼻で笑いました。
だけど恵子さんは、自分の子供はどんな顔をしてるんだろう、早くに会いたい、
日に日にそういう気持ちが強くなり、ついに割れた鏡をのぞいてみようと思いました。
その夜、恵子さんはひび割れた手鏡を両手で持ち、午前0時になるのを待ちました。
そして時計の針が午前0時を指した瞬間、手鏡を顔の前にかざしました。
そこに映っていたのは……恵子さんの顔でした。
なんだ何にも映らない。やっぱりただの噂話か。
恵子さんはちょっと期待していた自分を恥ずかしく思いました。
翌日恵子さんは流産しました。
産まれない子供は映りません。


■次は「コンビニ」「防犯カメラ」「花束」で。
567寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/07/24 17:56
「コンビニ」「防犯カメラ」「花束」<1>

 夜中のコンビニというのは、接客よりも商品の陳列や在庫処分、店内の清
掃などといった作業が中心となる。特に、ここのような片田舎の店舗で、し
かも今夜のように土砂降りの雨が降る日はなおさら客足が鈍る。
 午前一時ごろ、俺がいつものように陳列と在庫の廃棄作業を黙々と続けて
いたところへ、ひとりの客が飛び込んできた。
「いらっしゃいませ、こんば……」
 マニュアル通りの挨拶をしようとして顔を上げた途端、一瞬からだが固まっ
てしまった。その客のいでたちが異様だったからである。
 真っ黒なレインコートを着込み、顔は大きなフードですっぽりと覆われて
いた。裾から雫をぽたぽたと落としながら、真っ赤な薔薇の花束を大事そう
に抱いていた。そして、うつむき加減で店内を見渡している。駐車場に車が
止まる気配がなかったので、徒歩でやってきたのだろうか。それもこんな時
間に。
 もしやコンビニ強盗?
 緊張が走る。
 俺は、作業を続けながらもそいつの様子を絶えず横目で窺っていた。しば
らくすると、そいつは商品を手に持ってレジへやってきた。そいつが持って
きたものは、黒のゴミ袋とガムテープだった。相変わらず顔はフードで覆わ
れ、その表情を読みとることはできない。
「百五十円が一点、百三十円が一点、お会計二百九十四円になります」
 俺が震え気味の声でいうと、そいつはレインコートの中から腕をのばして
きた。ナイフでも飛び出してくるのではないかと一瞬身構えたが、百円硬貨
が三枚握られているだけで、少々拍子抜けしてしまった。しかし、そいつの
手の甲に、赤いインクをぬぐったような跡がついていたので、不審の念はま
すます募った。
 そいつはお釣りを受け取ると、一言も口をきくことなく逃げるようにして
出ていった。恐怖心は好奇心へと変わり、よっぽど後をつけてやろうかと思っ
たが、店を空けることもできないので、そいつの後ろ姿をただ見送るしかな
かった。そのうち、黒いレインコートは漆黒の闇に溶け込み、二度と現れる
ことはなかった。
568寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/07/24 17:57
「コンビニ」「防犯カメラ」「花束」<2>

 それから二日後、バイトから帰宅し夜勤明けのねむい目を擦りながら朝刊
に目を通していると、ある三面記事に目が止まった。「ゴミ収集作業員が女
性のバラバラ死体を発見」という見出しだった。
 ゴミの収集作業中に、破れた黒いゴミ袋から人間の足のようなものを目に
した作業員が、中を覗いてみると身元不明の女性のバラバラ死体が出てきた。
しかも、その死体には芸術作品の装飾のように薔薇の花びらが散りばめられ
ていたということだ。
 この記事を目にした直後、あの夜の恐怖心が甦り、ぶるぶると震えだした
のはいうまでもない。
 その時、玄関をノックする音が聞こえた。心臓が止まるかというぐらいの
驚愕で、金縛りにあったように俺はしばらく動けなかった。
 誰だこんな朝早くに? 
 まさか、あいつがやってきて、今度は俺をバラバラにするつもりなのか!
 そして再びノックの音が。より強く乱暴に響く。
 ドンドンドン……ドンドンドンドン……!
「北村さーん、いないんですかー。警察です。北村さーん」
 警察という言葉が俺の金縛りを解いてくれた。それでも警戒心を崩さずド
アチェーンを掛けたまま、薄目に扉を開いた。するとそこには、目つきの鋭
い屈強な男が警察手帳を掲げながら立っていた。どうやら本物の刑事らしい。
俺はチェーンを外し彼を迎え入れた。
「実は先日起こったバラバラ殺人の件で伺ったんですが」「はあ……」
「事件のあった日の深夜にですね、不審な人物がコンビニに入ったという目
撃情報がありましてね、それで少しお話を伺いたいんですよ」
 そこで俺は、あの夜に店へやってきた怪しい客のことを話すと、その刑事
はどうやらその話に興味をもったらしく、今度は店の防犯カメラで録画され
たビデオを見せて欲しいと言ってきた。俺は店長宅に電話をしてその旨を伝
えると、そういうことなら全面的に警察に協力してくれ、との指示を受けた。
569寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/07/24 17:59
「コンビニ」「防犯カメラ」「花束」<3>

 刑事を伴ってコンビニに向かい、俺も参考人として刑事と一緒にその防犯
ビデオを見ることになった。モニターには例のレインコートの客が写っている。
 その客がゴミ袋とガムテープを持ってレジにやってきたシーンになった。
俺がレジ打ちをしているとき、そいつが防犯カメラの方を見上げた。そして、
フードの中から現れたそいつの顔を見たとき、俺と刑事は同時に声を上げた! 
 刑事が興奮気味に怒鳴る。
「こ、こいつは被害者じゃないか! 一体どういうことだ!」
 そのとおりだ。
 確かにそいつは、その日の夕暮れ時に俺がバラバラに切り刻んだ女だった。

(了)

次のお題は「後悔」「正当防衛」「輪ゴム」で


>>560
>後家さんが聾唖者で筆談で証言したことにすればよかったのでは?
まさにおっしゃるとおり。投稿してから気がつきましたが、後の祭りですた。
相変わらず詰めが甘いなぁ俺は……
「で、お前は被害者を殺した、てわけか。まったく……」
「だから、正当防衛だって言ってるじゃないですか」
「問題はそこじゃねえんだよ。いいか。被害者は頭を柘榴のように割られて死んだんだ。お前の手によってな。
 目撃者もちゃんといる。お前が、被害者に『何か』を放った瞬間の、な。
 けどお前は駆けつけた警官に何て言った?
『輪ゴムで殺した』だと? ふざけるんじゃねえよ。輪ゴムにそこまで殺傷能力があるかよ。
 誰がどう見ても、大口径の銃をぶっ放したような傷跡じゃねえか。
 正当防衛どころか過剰防衛だぜ」
「でも、僕は本当に輪ゴムで……」
「おお、そこまで言うなら証明してもらおうじゃねぇか。
 輪ゴムに人を殺せるだけの威力があるかどうかを、な。
 ほれ、輪ゴムだ。これで俺を殺せたなら釈放してやらあ。大手を振って、署から出てもかまわねえぜ。
 ただし、殺せなかったら……どうなっても」
「いいんですね? 後悔しませんね?」
「出来るもんなら、やってみやがれ」


「あーあ、だから言ったのに。ねぇ、記録係のお巡りさん、これからどうしたらいいんでしょうかね?」
 声を掛けられた新米の警官は部屋の隅で震え上がってしまい、
声も出せずに荒い息を間断なく吐き続けているだけである。
 彼の足下には、頭頂から臍下の辺りまで真っ二つに裂かれ絶命している刑事の死体が転がっている。
 その傍らに、血に染まった輪ゴムが一つ。

■「駿足」「ウォッカ」「雷鳴」でよろしく。
571&lro;:03/07/26 19:58
 
572右目:03/07/29 00:55
>563-565
混沌の世界の描写いいねー。読んでて奇妙な感覚になる。
この世界を体験したいようなしたくないような……。

>567-569
オチにやられた。かなりお気に入り。
フードは不気味演出かと思いきやオチにつながっててナイス。

>570
センスある映像作家に映像化してもらいたいって思った。
なんでか知らんが。最後のシーンはげしく見てみたい。
573&lro;:03/07/30 01:17
 
574&lro;:03/07/30 20:12
 
575e-e 563-565:03/07/31 04:50
>572
私なりの「中有」をイメージ化した世界でした。
甘い誘惑のような、抜け出せない迷路のような・・・感じで〜す。
576&lro;:03/08/01 05:14
 
「駿足」「ウォッカ」「雷鳴」1/1

窓の外を見ると、雷雨にもかかわらず外を走っている人の姿があった。
雷鳴が轟くなかをしなやかに疾走する駿足のランナー……。
俺は中川のことを思い出していた。大学時代に一緒にたすきをつないだ盟友。
最後のレースの時、雨の中を疾走するアンカー中川の姿には神々しささえ感じた。
中川が死んだのは、その一週間後だった。
通り魔に刺されたらしいということだったが、詳しいことは分からない。
俺と中川は性格はまるで違っていたが、なぜか馬が合った。
トラックではライバル同士切磋琢磨し、練習が終われば、一緒に遊び回った。
周りの奴に「おまえらホモじゃねえのか」と笑われるほど、いつも一緒にいた。
よく二人で酒も飲んだ。ウォッカをラッパ飲みして二人して吐いたこともあった。
二人で女の子をナンパして、同じ娘を好きになって、二人ともフラれた。
みんないい思い出だ。中川が生きていれば、今もいろんな話ができただろうに……。
ふとカレンダーが目に入り、俺はハッとした。今日は中川の命日だった。
三年前のまさに今日、中川は死んだのだ。
今日中川のことを思い出したのも偶然じゃなかったということか。
窓の外を見ると、先ほどのランナーが再び俺の視界に入ってきた。
突然そいつは走るのを止め、その場に立ち尽くした。
フードに隠れて顔は見えない。しかしその赤いウィンドブレーカーには
見覚えがあった。それは俺達が大学で使っていたものだった。
そいつがゆっくりとこちらを振り返り、フードをめくりあげた。
その顔を見て俺は息が止まるほど驚いた。
そいつは俺だった。憎しみにゆがんだ顔をした俺。
そいつの右手にナイフが握られているのを見て、俺は思い出した。
なぜ今まで忘れていたんだろう。中川を殺したのは俺だった。


■オチ考えないで書き始めたら>567-569の影響受けまくり。スマン。
次は「往復ハガキ」「首吊り」「おさげ」でどうぞ。
578:03/08/01 18:59
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581あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/08/04 23:19
保守しとこう。
582寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/08/06 04:17
「往復ハガキ」「首吊り」「おさげ」〈1〉

――お元気ですか?
3年前の約束にしたがって、このハガキを送ります。
もちろん卒業式の日に私たち5人で交わしたあの約束はおぼえているよね。
みんなと会えるのを楽しみにしています。
1人でも欠けるとつまらないので、ぜひ参加してください。

日時:8月20日から2泊3日
場所:奈良県T村 ペンション憩い
現地集合・現地解散

幹事 北村美千代


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

(あの約束をおぼえていてくれたんだ……)
 旧友から届いた往復ハガキを手にして、吉井美里は顔をほころばせながら女子高時代の懐かしい記憶に思いをはせた。
 美里たち五人組は、全寮制の私立Y高時代の仲好しグループで、卒業式の日、三年後の夏に再会することを誓い合って別れたのだった。
 その後、ある者は地元に残り、またある者は地元を離れ上京したりと、別々の道を歩んでいったが、美里は彼女たちのことを忘れたことはなかった。
 美里は迷うことなく参加する旨の返事を美千代に送った。
583寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/08/06 04:18
「往復ハガキ」「首吊り」「おさげ」〈2〉

 T村は、近鉄Y駅からさらにバスに揺られること三時間あまり、吉野の山深く分け入ったところに位置する秘境である。Kというバス停で降りて歩くこと三十分、ロッジ風のこじんまりとした佇まいの「ペンション憩い」は、美里の前にようやくその姿を現した。
(仲間たちはもう着いているかな……)
 美里はいそいそとペンションの扉を開いた。

 フロントでは五十代とおぼしきひとりの女性が人懐こい笑顔で美里を迎えた。
「いらっしゃいませ。ペンション憩いへようこそ」
「あの、北村美千代を通して予約しておりました吉井美里ですが」
「はい、うかがっております。お友達の皆様もお着きになってらっしゃいますよ。私はオーナーの田村昭江と申します。どうぞよろしく」

 美里がルームキーを受け取り、部屋へ向かおうとしたときだった。「みさと!」と、聞き覚えのある声がしたので振り向いてみると、大川花梨の懐かしい笑顔がそこにあった。
「久しぶり! 元気だった?」
「うん、元気だよ。花梨も元気そうだね」
「ああ、そうそう。美千代は急用で今晩は来られないんだって。来るのは明日の朝早くになるって、さっきオーナーのおばさんから聞いたよ」
 と、花梨は推し量ったように言葉をつないだ。美里は美千代とは一番仲が良かったからだ。
 美里と花梨が肩を並べながらラウンジに入ってゆくと、そこにまた懐かしい顔が待っていた。進藤祐子と中江葉子だった。四人はお互いの近況を報告しあい、旧交を温め合った。
584寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/08/06 04:19
「往復ハガキ」「首吊り」「おさげ」〈3〉

 そうこうするうち、日もとっぷりと暮れて夕食の時間となった。今晩のメニューは、ガーデンでのバーベキュー料理だ。テーブルには食べきれないほどの肉や野菜、オーナー自慢の特製ソース、それに山菜や茸などの山の幸がところ狭しと並ぶ。
「今日のお客は皆さん方だけですから、遠慮せずにじゃんじゃん食べて飲んで盛り上がってくださいね」
 そんなオーナーの嬉しい言葉に、はしゃぐ彼女たち。
「それじゃ、オーナーさんのお言葉に甘えて、今日は美千代の分まで大いに食べて飲んで盛り上がろー!」
 花梨の音頭で晩餐が始まり、舌鼓をうつ彼女たち。だが、それが最後の晩餐になろうとは、そのときは誰も知る由がなかった。

 夕食が終わり、食後のひとときをラウンジでくつろいでいた彼女たちだったが、十一時も回りそろそろお開きにしようかと、そんな雰囲気になっていたところに突然悲鳴が響きわたった。
 美里たちが驚いて駆けつけてみると、トイレの前で祐子が泣きながらぶるぶると震えていた。
「どうしたのよ、祐子?」
「あ、う、あ……」
 祐子はなんとか口を開こうとするのだが、すっかり怖じ気づいた様子で声が出せないでいた。それでも祐子が震えながらトイレの中を指を差すと、三人の視線は一斉にその指のむこうに向けられた。と同時にその異様な光景に彼女たちの視線は釘付けになってしまった。
 そこには、壁一面に赤い文字で……

 お前らが殺した お前らが殺した お前らが殺した お前らが殺した お前らが殺した
 お前らが殺した お前らが殺した お前らが殺した お前らが殺した お前らが殺した
 お前らが殺した お前らが殺した お前らが殺した お前らが殺した お前らが殺した
 お前らが殺した お前らが殺した お前らが殺した お前らが殺した お前らが殺した
 お前らが殺した お前らが殺した お前らが殺した お前らが殺した お前らが殺した
585寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/08/06 04:19
「往復ハガキ」「首吊り」「おさげ」〈4〉

 壁一面の文字の中に、一枚の写真が貼られていた。最初に気づいたのは花梨だった。被写体の主は、おさげ髪でいかにも影の薄そうな少女だ。
「あっ、これは市川茜!」
 花梨が思わず口走った名前――市川茜。その名前は彼女たちにとってタブーであった。

 高校時代、彼女たち五人組のグループは市川茜を苛めのターゲットにしていた。最初の頃はシカト程度の軽いものであったのが、そのうち肉体に対する加害、金銭の要求と、徐々にエスカレートしていった。
 さすがに耐えきれなくなったのか、市川茜は卒業を前にして首吊り自殺によって自らその生涯を閉じた。
 美千代は直ぐさま三年B組の生徒全員に箝口令を敷いた。学年一の優等生で生徒会長でもあった美千代の影響力は絶大で、誰もが茜の自殺の原因については貝のように口を閉ざし、事実を語る者はいなかった。
 結局、遺書も発見されず、茜の死は原因不明の突発的な自殺として処理された。

「なによこれ、せっかくの楽しい集まりが台無しじゃないの! オーナーに文句言ってくる!」
 憤懣やるかたないといった表情を顕わにしながら、オーナーのプライベートルームへ乗り込もうとする花梨を美里が押しとどめた。
「ちょっと待ちなよ花梨。オーナーさんの仕業とは限らないでしょ?」
「どうしてよ? このペンションには私たちの他にはオーナーしかいないじゃないの! 彼女じゃなかったらいったい誰の仕業っていうのよ!」
 一度言い出したら聞かない花梨をおさえられるのは美千代だけなのだが、彼女はここにはいない。それに、花梨の言うことにもそれなりの説得力があった。これ以上花梨をとどめるのは無駄のようだ。
 その傍らで、葉子は、どうしたらいいのか分からないといった面持ちで、おろおろしながら美里と花梨の顔を交互にきょろきょろと窺うだけだし、祐子は相変わらずしくしく泣いてるだけだった。
586寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/08/06 04:20
「往復ハガキ」「首吊り」「おさげ」〈5〉

 数分して花梨がラウンジに戻ってきた。
「ねえ、なんか変よ。オーナーがどこにもいないのよ。外出でもしてるのかな」
「こんな時間にまさか……とりあえず、手分けして捜す?」
「そうね。じゃあ、美里は一階と外回りをお願い。わたしは二階を捜すから。葉子は……そうね、葉子は祐子のそばにいてあげて」
 てきぱきと役割を決めると、花梨は二階へ駆け上がっていった。

 二階はすべて客室になっている。ツインルームが六室あり、花梨は、いちばん奥の部屋の前まで行き、ノブに手を掛けた。部屋は施錠されておらず、ノブをまわすと簡単にドアが開いた。部屋の灯りをつけ室内を見渡すが、誰もいる気配はない。
 そして花梨が部屋を出ようとしたとき、急に室内の灯りが消えた。一瞬何が起きたのかわからなかった。停電だろうか。室内灯のスイッチを手探りで探してみたが、暗闇の中でたちまち方向感覚を失ってしまった。
 
 ギイッ……ギイッ……ギイッ……
 廊下の軋む音。花梨は暗闇の中で思わず耳をそばだてた。
 ギイッ……ギイッ……ギイッ……
 誰かが廊下を歩いている。それは徐々に近づいてきた。
 「だれ……美里なの?」 返事はない。
 足音は花梨のいる部屋の前で止まり、そしてドアがゆっくりと開いた。
587寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/08/06 04:21
「往復ハガキ」「首吊り」「おさげ」〈6〉

 『憩い』の外へオーナーを捜しに出た美里だったが、いつの間にか、先程まで晩餐が催されていたガーデンに佇んで物思いに耽っていた。
 
 茜の死体を最初に発見したのは美里だった。
 放課後の教室に忘れ物をとりに戻ったとき、美里は、茜が首を吊っていたのを偶然見つけた。死体の傍らに白い封筒が置いてあった。茜の遺書だった。
 そこには、美里たち五人から受けた仕打ちがつらつらと書かれていた。こんなことが明るみになれば、停学、いやへたすれば退学だ。美里は、その遺書を密かに持ち帰って焼き捨てた。
 しかし、なぜ今頃になって苛めが発覚したのだろうか……

 美里はふと我にかえった。悲鳴のような声が聞こえたからだ。。
 知らない間に『憩い』の灯りが消えていて、二十三夜の頼りない月明かりだけが弱々しく辺りを照らしている。胸騒ぎをおぼえた美里は、急ぎ足で暗がりの『憩い』へ駆け戻った。

 中に戻ると、室内灯のスイッチを探しあてた。このとき、非常用の懐中電灯を携えて外に出ていたのが役に立った。だが、いくらスイッチをひねっても再び『憩い』に光は戻らなかった。
(停電か……ああ、それで葉子か祐子あたりが悲鳴をあげたんだな)
 そう思うと、美里の不安は幾分和らいだ。だが、それが見当違いであることを間もなく思い知らされるのだった。
588寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/08/06 04:22
「往復ハガキ」「首吊り」「おさげ」〈7〉

「葉子……いるんでしょ葉子! いるんなら返事してよ!」 
 ラウンジに戻った美里は、そこにいるはずの旧友に呼びかけた。
「…………」
(二階かなぁ?)
 二階に向かおうとして、階段の方へきびすを返そうとしたとき、急に足を取られ背中から倒れ落ちた。床がつるつると滑る。オイルでも撒かれているのだろうか……いや、これはオイルではない。この色……この臭い……この温かさ……これは血だ!

 美里が慌てて飛び起き、床に拡がる赤黒い液体の痕を目で追うと、ついにその「源」を懐中電灯の光のほさきが探り当てた。
 そこには、葉子と祐子が胡座(あぐら)をかきながら抱き合うようにして事切れていた。
 鋭利な刃物で裂かれたのか、喉元がぱっくりと口を開いていた。そして、まさに首の皮一枚でつながった状態でその首(こうべ)は背中のほうへ百八十度垂れていた。
 そのぱっくりと開いた喉頸から、赤い体液が止めどなく吹き出る様は、さながら無限に湧き出る間欠泉を彷彿させた。

 思いもよらない惨状を目の当たりにした美里は、慄然としてしばらくの間、その場で立ちすくんでいた。
(大変なことが起きた! とにかく警察を呼ばなきゃ)
 美里はフロントに駆け寄り、百十番のダイヤルをプッシュした。
「――――」受話器からは何の反応もない。携帯電話も圏外だった。
 ああ、肝心なところで文明の利器が役に立たないとは……。
589寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/08/06 04:23
「往復ハガキ」「首吊り」「おさげ」〈8〉

(このことを二階にいる花梨に知らせなきゃ)
 犯人がまだ近くに潜んでいるかもしれなかったので、美里は、息を殺しながら忍び足で階段を昇らなければならなかった。一歩踏み出すごとに廊下が軋む。犯人がその音を聞きつけて、今にも闇の中から刃を突き立ててくるのではないかと思うと、生きた心地がしなかった。
 階段を昇ったいちばん奥の部屋。そっとドアを開ける。
「花梨……花梨……いないの?」
 犯人に気づかれぬよう、ひそひそ声で呼びかけた。そして、部屋の中程まで入ったとき、突然入口のドアが不気味な音をたてて閉まった。驚いて振り返る美里。

「なあんだ、いたんなら返事してよ花梨」
 ドアの前に花梨が立っていた。だが、美里が安心したのも束の間、花梨の身体は糸が切れたマリオネットのように、ぐしゃりと床に崩れ落ちた。そしてその背後から「犯人」が姿を現した。その右手には、刃渡り三十センチはあろう柳刃包丁が握られている。
「あ、あなたは田村さん」
「…………」
「どうして?」
「……うちは田村やない。市村昭江」
「市村って……まさか」
「そのとおり。うちはお前らに殺された市村茜の母親じゃ!」
 そう言うと、昭江は柳刃包丁を振りかざして美里ににじり寄った。窓から洩れる月光が、三人の血をたっぷりと吸ったその切っ先に反射して妖しい光沢を放っている。
 美里は完全に退路を断たれた。
590寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/08/06 04:24
「往復ハガキ」「首吊り」「おさげ」〈9〉

 まわりを見渡したが武器になるような物は見当たらない。
「どうして、私たちが茜を苛めていたってわかったのよ?」
 美里は少しでも時間をかせごうと、苦し紛れに問い質した。
「うちは茜が自殺した理由が知りとうて、警察にもっと詳しく調べてくれるように頼んだ。でも警察ちゅうとこは事件性がないとわかると、手のひら返したように消極的になりよる。もう警察なんぞ頼りにできんから、こんどは自分で調べるしかなかったんや。
 B組の生徒たちにも聞いて回ったが、誰も知らぬ存ぜぬの一点張りやった。これはたぶん、誰かに口止めされとるんやと思うた。そうこうするうち、時間だけが虚しく過ぎていきよる。せやけどこのまま茜の死を風化させるわけにはいかんかった。
 そこでふと思うた。クラス全員の口を封じることができるほどやから、相当影響力を持った人間に違いないとね。そこで、北村美千代がその張本人やないかと見当付けてみたんや。
 そんで、うちは北村美千代にカマをかけてやった。『何もかもわかってるんや、茜を苛めていた事実を白状しろ』とね。
 はじめの内はしらばっくれとったようやが、『遺書を持ってる。お前らが茜を苛めてたことも書いてある。それを公にするよ』と脅してやったら、のこのことこのペンションまでやってきよったわ。
 北村美千代のようなインテリは、世間体を気にするさかいね。この手の脅し文句は効果覿面やったよ。案の定、お前たち五人のグループが茜を苛めていたことをすらすら告白しよったわ!
 それで、うちはお前らに復讐するために『約束』を利用してこの場所におびき出したんや」
「そ、それで美千代はどうしたのよ。まさか美千代まで殺したの!」
「ふふふふ……北村美千代なら、お前の胃袋の中に入っているじゃないの! けけけけっ!」
591寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/08/06 04:27
「往復ハガキ」「首吊り」「おさげ」〈10〉

「……胃袋って……まさか、さっき食べた肉……うっ」
 熱いものが腹の底から食道を通って逆流してくる。美里は胃の内容物を床にぶちまけた。
「うふふふ……それにあの特製ソースはね、ボイルした北村美千代の脳味噌を裏ごししてデミグラスソースに搦めて煮つめたものやの。さぞや美味しかったでしょうね、優等生の脳味噌は。けけけけっ!」
 美里にはもうなにも聞こえなかった。激しい嘔吐は治まらず、吐いて吐いて吐き尽くして、黄色い胃液までも吐き続けた。
 涙が止めどなく流れ落ちる。それは親友を一度に失った哀しさからくるものなのか、それとも忌わしき物を吐き続ける苦しさからくるものなのか。
 もはや正気の沙汰とは思えなかった。
(この女、狂っている!)

「茜は素直でええ子やった。お父ちゃんが事故で死んでからは、うちが一人で育てたんやで。あの子の成長を見守ることがだけがうちの生き甲斐やったんや。
 それやのに、ある日突然死んでしまいよった……お前らのせいや、お前らが殺したんや! だからお前にも死んでもらう。死んで罪を贖え!」
 凄まじい憤怒の形相で昭江が躍りかかってきた。
 美里はとっさに懐中電灯を昭江に向けた。突如向けられた光に怯んだのか、昭江に一瞬の隙ができた。そのため、美里はその刃を間一髪でかわすことができた。
 勢いあまった昭江は、美里の背中側にもんどり打って倒れ込んだ。
 美里の視界が開けた。目の前にドアがある。
(今だ、逃げろ!)
592寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/08/06 04:28
「往復ハガキ」「首吊り」「おさげ」〈11〉

 美里は廊下へ飛び出した。だが、昭江も素早く体勢を立て直して追撃してきた。
「うううぅーーーーまてぇーーーー!」
 昭江の目は完全に据わっていた。もはや尋常の精神状態ではないのだろう、奇声を上げながら追いかけてくる。
 美里は、『憩い』を飛び出し、鬱蒼と繁る山の道なき道を夢中で駆けおりた。すぐ後ろからは般若のような形相で昭江が追いかけてきていた。その脚は意外に速く、ぐんぐん美里に近づいてくる。
 こんなに走ったのはいつ以来だろう。息があがり、心拍数はもはや限界に達しようとしていた。しかし脚を止めることはできない。止まることは死を意味するからだ。

(誰かたすけて! 私はまだ死にたくない。まだ二十一歳なのに。これからいっぱいやりたいことがあるの。素敵な男性に巡り合ってドラマのような恋愛もしてみたい。仕事もバリバリやりたい。
 そして結婚して子供も生みたい! もう苛めなんて二度としません。いい子になります。だから私をたすけて! ああ、神様……)
 無神論者の美里が神に祈るほどのっぴきならない状況に追い込まれていた。そのとき、美里は見た。前方に月明かりに浮かぶ民家の連なりを。
(たすかった。あそこに逃げ込めばなんとかなる)

「あっ!」
 前にばかり気を取られて脚もとへの注意が疎かになっていた。地面から伸びていた木の根っこに躓き、美里は頭からひっくりかえった。
 懸命に立ち上がろうとするが、右足に激痛がはしり力が入らない。どうやら捻挫らしい。疲労と痛みでもう一歩も動けなかった。ふと見上げると目の前に、柳刃包丁を持った昭江が立っていた。万事休す。
 このとき、美里は死を覚悟した。
 喉元に刃が振り下ろされる。同時に遠くの鶏舎で一番鶏の鳴く声が聞こえた。それを最後に美里の意識は途絶えた。
593寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/08/06 04:29
「往復ハガキ」「首吊り」「おさげ」〈12〉

 それから二日後、美里は病院のベッドの上で意識を取り戻した。
「ここはどこ?」
「K病院ですよ。あなたが山の中で倒れているところを、山菜採りに来ていた村の住人が見つけて担ぎ込んでくれたのよ」と、担当の女性看護師が優しく答えた。
 美里は『憩い』で体験したことを看護師に話し、警察に知らせてくれるよう頼み込んだ。すると、信じられないような言葉が返ってきた。
「『憩い』? たしか、あのペンションは三年ほど前に廃業したはずだけど」
 そして、その看護師が『憩い』にまつわる話を美里に聞かせてくれた。その話とは以下のようなものであった。

――ペンション『憩い』は、ひとりの女性オーナーによって切り盛りされていたが、三年前、その一人娘が首を吊って自殺した。それ以来、オーナーは心労がもとで体をこわして入退院をくり返すようになり、ペンションもその時期に廃業してしまった。
 二年ほど前、「娘の自殺の原因が分かりそうだ」と近所の知人に漏らしていたが、もうその時には不治の病がオーナーの身体を蝕んでいたらしい。
 しかもペンション廃業後、収入の無かったオーナーは医療費が払えず、ひっそりとあのペンションで息を引き取った。そして一週間後、腐乱死体で発見された。
 そんな曰く付きの建物に買い手はつかず、荒れるに任せたままの廃屋となって、今では心霊スポットとして無軌道な若者たちの興味の対象に成り下がっていた、と。
594寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/08/06 04:30
「往復ハガキ」「首吊り」「おさげ」〈13〉

 美里にはそんな話はにわかに信じられなかった。そこで退院後、もう一度『憩い』へ行ってみることにした。
 山の中を歩くこと三十分。『憩い』は、変わり果てた姿を美里の前に現した。
 朽ち果てた廃屋がそこにあった。周囲を名も知らぬ雑草に蹂躙され、窓という窓はすべて割れていた。玄関の扉がはずれ、ポーチは雨ざらしにされていて、床はじめじめと腐っていた。
 美里は床を踏み抜かぬように、ゆっくりと慎重に歩きながらあのラウンジに足を向けた。そこには葉子と祐子のあの凄惨な死体はどこにもなかった。それどころか血痕さえみあたらなかった。
 二階の部屋にも花梨の死体はなかった。信じがたい光景に、美里はただ茫然と立ち尽くすしかなかった。
(ここで体験したことは一体何だったんだろうか。私は幻を見たのだろうか。それならそれで良い。私だけの幻想なら、美千代たちも生きていることになるんだから)
 しかし、その期待は打ち砕かれた。

 しばらくして東京に戻った美里は、四人に連絡を取ろうとしたが、四人とも『憩い』へ行くという言葉を残して家を出たきりまだ戻っていなかった。美里は何度も警察に事情を話したが、荒唐無稽な世迷い言として相手にされなかった。
 その後、美千代らの両親から捜索願が出されたが、彼女たちの行方は杳として知れなかった。

(了)


初めての試みとして、登場人物を全員女性にしてみました。
いろんなことを盛り込みすぎて長くなってしまいました。最後まで読んでくださった方、感謝!

次のお題は「呪文」「憑依」「お中元」で
595pen:03/08/09 22:54
「呪文」「憑依」「お中元」

Kさんは教師をしている.毎年夏になるとお中元が届く.
その年の夏もお中元が届いた.いつもいつもありがたいことだと思っていたが,
その中に一つ,どうにも見覚えの無い名前の差出人の包みがあった.
「これ,誰から来たか分かるか?」
Kさんは奥さんにそう尋ねたが,奥さんも
「さぁ.あなたの昔の生徒さんじゃないですか?」
と首をひねった.それではということで,開けてみることにした.
外側の包みを開けると,白い紙で二重に包まれた紙箱だった.
紙箱を振ると,カサカサと音がする.
「何だろう?」
蓋を開けてみると,中には紙の人型がびっしり詰まっていた.
「なんだこれはっ!」
びっくりして手を離す.ばさばさと人型が床に散らばった.
Kさんの目が止まった.先程まで包みをくるんでいた紙の裏側に,
びっしりと薄墨で呪文のような文句が書かれていた.
「箱を開けた時に憑依されたようでして」
Kさんはこれからお払いに行くのだといって,塩の入った包みをくれた.

次は「トマト」「コピー機」「電話」でお願いします.
596寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/08/11 09:46
「トマトはどこだ」
 道を歩いていると、いきなり知らない男が声をかけてきた。髪を七三にきちっと分けたビジネスマン風の男だ。
「はあ……?」
「トマトはどこだ」
「…………」
「トマトはどこだ」
「知らねぇよ、そんなもん!」
 俺は薄気味悪くなって駆け出した。 しばらくして振り向くと、その男の姿は消えていた。
(なんだ、あいつ……) 

 家に戻ってしばらくすると、電話が鳴った。
「トマトはどこだ」 あの男の声だ。
「知らねぇって言ってんだろ!」 俺は受話器を叩きつけた。
(どうして、俺んちの電話番号知ってるんだ?)

――ピンポーン。またしばらくして呼び鈴が鳴った。
「はい。どちらさん?」
「トマトはどこだ」 
 またあの男だ。とうとう家にまで来やがった。
 ピンポーン、ピンポーン、ドンドンドンドン!
「トマトはどこだー!」
 ピンポーン、ピンポーン、ドンドンドンドン!
「トマトはどこだぁー!」
 まるでコピー機にかけたように、同じ言葉を延々とくり返している。
 俺は薄気味悪さを通りこして、恐怖心さえ感じ始めていた。
 男はしばらく同じことをくり返していたが、そのうち諦めたのか声がしなくなった。
 次の朝、俺はニュースを見て思わず息を呑んだ。あの男が東京湾で水死体となって発見されたからだ。

(了)
597寸善尺魔 ◆Rb2BYpTc1w :03/08/11 09:47
オチ弱っ!
ただ、途中までは俺の友人が実際に体験した実話です。もっともそのときは「トマト」じゃなくて「タマネギ」だったらしいですが(笑)。未だにあれは一体なんだったのかは謎のままらしいです。
察するに、誰かと人違いされ、暗号文のような言葉で話しかけられたのではと思うのですが。ひょっとすると、某国の工作員だったりして……。

次のお題は「反動」「ジェラシー」「広告」で
598夏厨:03/08/14 05:05
ひさびさにオカ板にきましたが、
まだこのスレが続いていたとは感無量です・・・

また何か書きます。
では。
599「反動」「ジェラシー」「広告」:03/08/14 09:51
600山崎 渉:03/08/15 10:02
    (⌒V⌒)
   │ ^ ^ │<これからも僕を応援して下さいね(^^)。
  ⊂|    |つ
   (_)(_)                      山崎パン
602あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/08/19 23:54
 
603あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/08/24 09:28
「ジェラシーあります」
私はスポーツ新聞の広告に目を通すのを日課にしている。まぁ通勤の暇つぶしだ。
広告のうち一見意味不明なものから想像をめぐらせて楽しむのだ。
すると片道2時間の通勤も苦にならない。もう、これを始めて5年になる。

上記のコピーは、私の知る限り、意味の不明さでは上位一割に入る。
しかし、改めてここに述べようと思ったのは、初めてその実体を確かめた広告だからだ。

さて、その実体がいかなるものであったかを述べる前に、もう少しこの広告について述べておこう。
まず、私がこの広告に惹かれたのは、「みなさんの不用なジェラシー買います」とも書かれていたからだ。
これがなければ、媚薬か何かなのだろうと思えるのだが、
「みなさんの」とある以上、多くの人が持っているものなのだろう。
しかし、いわゆるジェラシーは売買するようなものではない。それは『世にも奇妙な〜』の世界である。
まぁ、それが現実にあったなら、それはまさにオカルトなのだが、私には少々つまらない。
不可解な広告をいかに現実的な商売に結び付けるか、それが私の楽しみ方だからだ。

広告には「6000円〜応相談」ともあった。リーズナブルである。これが私を迷わせた。
少ない顧客で成り立つ額ではない。
もちろん、実際に6000円で買える「ジェラシー」はなく、もっと高くつくのかもしれない。
あるいはサイドビジネスなのかもしれない。しかしそれでは面白くない。
やはり客単価6000円で十分な利益の出る商売として考え続けた。
正直に告白すると、私には答えが見つからなかった。
だからこそ、その実体を確かめずにはいられなかったのだが。
少々遠回りしたが、その実体について述べよう。
「毎度ありがとうございます。○○興産です。初めての方ですか?」
応対したのは若い声の女性だった。
「はい」
「それでは私どもから少々ご説明させていただきます。まずジェラシーとは、
いわゆるジェラシー、嫉妬心ではございません。言葉では説明の難しいものなのでございますが、
適切なジェラシーを持つことで、お客さまの生活はより充実したものになろうかと存じます」
「はぁ。それは6000円から買えるのですか」
「はい。私どもといたしましては、初めてのお客さまには6000円のものからお試しいただくことに
させていただいております。こちらは反動、いわゆる効果の方も控えめですが、
どなたさまにもお使いいただけるものとなっておりますので」
「売ることもできるのですか」
「はい。お客さまにもご自分に不用なジェラシーがお分かりになるようになられるかと存じます」

何か新興宗教的な胡散臭さも感じたが、何より私は、広告主が実際に存在し、
そこに勤めている人がいるということにすっかり興奮してしまっていた。
その人はどんな経緯でそこに勤めるようになり、どのような人生を送っているのだろう。
もうこの目で確かめずにはいられなかった。

件の業者は繁華街の一角に居を構えていた。多くの善男善女が手をつないで歩く街の一角にそんな店があり、私はそこに行く。
これが性的興奮であったなら、すでに射精もしていようかというほどであった。
「いらっしゃいませ。◎◎様でいらっしゃいますか」
電話の声の女性だろうか。上品な和風美人だ。色が白く顔が小さい。
細身の体にパンツスーツが映えている。24、5というところか。
「はい」
私は偽名を使うべきことにすら思い至らずにいた。
「それではこちらへどうぞ」
受付脇の開け放たれたドアをくぐると、6畳ほどの部屋に、歯医者にあるようなソファが置かれていた。
初めての場合は、念のためジェラシーの反動が収まるまでここにいなければならないらしい。
「ZEALOUSY」と書かれた箱を開けると、クリアブルーの球体が入っていた。
似たようなのを娘が風呂に入れていたのを見覚えがある。体が甘い臭いになってしまって会社で気まずい思いをした。
それを水に溶く。不思議なもので、水面に吸い込まれるように溶けた。水の色も変わらない。
手術を受ける際に切るようなローブを全裸で着ると、それを飲んで横になる。とくに変化はない。
「いかがですか?今のところ反動はないようにお見受けしますが」
「ええ。なんともありません」
「おそらくお客さまはジェラシーと相性の良い体質をされているかと存じますが、念のため30分ほどそうしていていただけますか」
「はい」
しばらくすると私はいろいろなことを思い出し始めた。忘れて久しい、子供の頃の記憶。それも、苦い、痛いほどに苦いものばかり。
私としても辛いところではあるが、その一つをみなさんに告白しようと思う。

夕暮れの小学校のグランド。ランドセルを背負った私は同級生とともに遊具の前にいる。
遊具には下級生の女の子が縄跳びで縛り付けられている。私たちがやったのだ。
泣いて許しを請うている。その子は貧乏な家の子で、兄弟が多く、その誰もが小学校でいじめの対象になっていた。
私たちはその子の膝を遊具に括り、パンツを脱がせた。
「やめろ!やめろ!!」私は何度も叫んだ。しかし私たちはやめようとはしない。私の声は聞こえていないようだ。
それは虐待だった。性的な目覚めの前の少年たちのやることではあったが、彼女の様子を見る限り、それは虐待だった。
彼女の一家はそれから間もなく引っ越した。経済的に苦しい家庭に転居を余儀なくさせた私。
少女をひどく傷つけた私。それを忘れていた私。
人は望むように産まれられるわけではない。私が彼女であったかもしれないし、彼女が私であったかもしれない。
奪う側であったかもしれないし、奪われる側であったかもしれない。幸運な者は幸運に生き、
不運な者は不運な者として生きるのか。幸運な者は不運な者をより不運にするのか。
私は幸せでありたい。幸せでありたい。
…それから私は彼女のその後の人生を見た。その話はどうかご容赦願いたい。ただ一つ、彼女がもうこの世にない、
とだけ述べるにとどめることをお赦しいただきたい。

私は、過去に私が無自覚に奪った命を目の当たりにした。涙も汗も出尽くしたかのようだった。
ローブが透けるほどに濡れていた。
先ほどの女性がバケツを持って現れた。その意味はすぐに分かった。私は激しい吐き気を催した。
出てきたのはジェラシー。黄色のジェラシーだった。
「良いジェラシーですね。よろしければ4000円でお譲りいただきたいと存じますが」
「あ…はい、お願いします。…あの…もっと高いジェラシーもあるんですよね…」
「はい」
「それだとどのような…」
「今◎◎様がご覧になったものと同傾向のものになるかと。ただ、効果は絶大ですので……。
人は、潜在的な記憶の悪影響を受けています。それは人によって様々で、
都合の悪いことを悉く忘れている自信家の人もいれば、その逆もあります。
いずれにせよ、より確かな自己認識は自信をもたらします。
きっと今は辛い思いをしたとお思いでしょうが、数日のうちに効果は自覚していただけるはずです。」

ZEALOUSYという綴りに違和感を覚えた私は辞書を引いた。「熱中」というような意味だった。
確かに今、私は何事にも熱中している。思えば子供の頃は何をしていても楽しかった。
今の私は、遊ぶようにキーボードを叩き、仕事をしている。
607あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/08/24 09:57
「手術を受ける際に切るようなローブを全裸で着ると」は
「手術を受ける際に着るようなローブを全裸で着ると」の間違いです。

 三題噺って、もっと短くないとダメですよね…。3つの言葉を効果的に
絡ませないといけないとも思うし。未熟でした。

 次のお題は、ピザ、ギャラリー、テレビガイドでお願いします。
そろそろスレが容量オーバーになりそうだな……新スレでも立てとこうか

と思ったら、ホストエラーで立てられず。ぬぅ。
というわけで、どなたか親切な方、新スレヨロシクなのです。
↓テンプレ。

■創作怪談三題噺■■第弐部復旧版■


提示された三つの語句を使用して、怖い噺を創ってみませんか?

★ルール
 ・提示された三つのキーワードを全て使用して怪談を創る
 ・噺を書いた人は、次のキーワードを指定する
 ・次の人は、そのキーワードを使用してまた別の怪談を創る
 以後繰り返し。

★過去スレ
 第壱部
 http://hobby2.2ch.net/test/read.cgi/occult/1027067834/l50
 第弐部(前スレ)
 http://hobby4.2ch.net/test/read.cgi/occult/1053512678/l50