Θ Θ 陽の当たる場所へ Part2 Θ Θ

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1のら猫

この板は のほほんダメ板住人が、のほほんダメ板にふさわしい(?)
と思われるお話を、コソーリと描いて行くスレです。

のほダメ板の皆さんのご厚意に支えられて、去年の12月に立てた
スレも、Part2に突入する事になりました。m(__)m
生まれて初めて立てたPart1では、スレのお約束も書かないままに
暴走したまま 開始してしまいましたので、今回はその反省も踏まえ、
マターリと スタートしたいと思います。

 ↓ それでは 取り合えず、2ゲターの方、よろしければドゾ、お取り下さい。
2のほほん名無しさん:03/02/27 12:54 ID:GTeGKYvo
3コナキ:03/02/27 12:55 ID:???
のら猫タンおちかれー。
42ゲタ:03/02/27 12:58 ID:???
他人から与えられる2getなんぞに、興味はねぇんだよ・・・
5は〜ウサウサ♪ ◆TOROtPapR6 :03/02/27 12:58 ID:???
6のら猫:03/02/27 13:41 ID:???
現在描いている話( 第三部 )は、前スレの630番に 第一部と第二部の
レスアンカーを打ってありますので、ご参照下さい。

尚 上記ミラーサイトは、のほダメ板コテの、はろ ◆HARO//48S2 さんの御厚意により、
ログを置いて頂ける事になりました。

※ あくまで 私が御厚意に甘える形で置かせて頂いているので、もし予告無く
   リンク先にログが無くなっていても、決して はろタソに文句は言わないで下さいね。
                       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   はろタソには、ここで改めて “HAROタソ、まんせ〜っ!”
7のら猫:03/02/27 13:43 ID:???
>4さん、なるほろ。失礼しますた。

★ 読んで頂ける皆様へのお願い ★

 1.スレは、基本的に “sage進行” で、おながいします。

 2.自分も 何かお話をうpしたいという方、大歓迎します。このスレに、
   その旨 あらかじめお知らせ頂ければ ありがたいです。
   のほほんダメ板住人向けの、のほほんダメ板にふさわしいと思われる
   お話であれば、あんまり 叩かれないと思います…。( たぶん )

 3.ご批判は 謹んで承りますが、作品についての長期にわたる論議を
   このスレでする事には、お相手致しかねます。m(__)m
   板違いというご指摘が多いようであれば、のら猫としては 速やかに
   他板へ引越しするつもりでおります。

 4.のら猫が作品をうpする時は、HNの後に “@続きです” を、
   また、その日のうpを終わる時は “@今日はここまで” と書きます。
   本物のAA長編スレには、作品うp中には、書きコしないという様な
   細かい規定みたいなものがあるようですが、ここは のほダメ板なので
   (・3・)キニシナーイ で下さい。てか、何か書いてくれると 励みになったりします。

         \________/..; .  『 この階段を降りた所に、もう1つドアが
          . |. ..┌- ... _     .|...::;;     あってね。そこまで行くと、もうどんなに
     .      |. 「 |:〃ノ^ヾ    :|.:::;;;     大きな声を出して叫んでも、外には
      .     |. | .|::ソii´_`ル  ∧∧::::;;    ほとんど何も聞えないのよ。』
.          ∧∧.|:( つO) (ー゚ *):::;;
    .      (゚Д゚ ,,)|::.)--.[[].⊂|  U.:::;;  . 「 さっきみたいな 見晴らしの良い場所も
         ⊂  U|:く__i〉  |  |〜;    素敵だけどな。人間には そういう美しい
      .   |  |〜(/~U   し'ヽ)::;;;     場所ばかりあれば いいって訳じゃない。
       /.=U~U======:::::::::::::::::;;;;;;;;;    時には 誰にも言えない呟きや叫びを
 .     /f─────‐::::::::::::::::::::::;;;;;;     こっそりと 捨てる場所だって必要さ。」
    .   /ト──────‐:::::::::::::::::::::;;;
     /. |  : : : : :.:.:.:.:.:::::::::::::::::::::::::;;;;;;;  . 『 お姉さんも 勇気を出してやってみれば、
 .   /[ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄:::::::::::;;;;;;;;;;;     ここが なかなかどうして素敵な場所だって
.     / | . . : : : : : :.:.:.:.:.:::::::::::::::;;;;;;;;    きっと分かるはずよ、うふふ。』
   /| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄:::::::::::;;;;;;;;;;;  .
  ./  . . ... ..:: ::: ::: ::::::::::::::::::::::::;;;;;;;;;   「 俺も今日は、久しぶりにやってみるかな。」
9のら猫:03/02/27 13:49 ID:???

     l, ‐ '     l   ` 、l      /   ..::::::::::::  「 うわぁぁ〜っ、すごいわねぇ!」
.      l       l.     l     /  ..::::::::::::::
ヽ.    l.      l     l.      /  .:::::::::::::::  . 『 ここは本当は 俺としぃだけの
 ヽ    l.    ._i_    .l     ./   .:::::;__;;.  /.  秘密の場所だったけどね。
  | 、  l_  ‐   l   ‐ _l    ./ ..::::::;;.|::::::L/  .  お姉さんは 特別に招待しました。』
  | 、 . l.     !    ./     / ..::::::/ .|::::::|
  |.  、 /.   /  /    /_.::::/ . _」|::::::|    「 お姉さん? ここで何をするかを、
  |  |:::|⌒○  / _...○⌒|::_「     .|::::::|     今から アタシとギコが実演するわ。」
  |  |:::|  ,.=_, '┌ . ~ | |. -‐'|::|_, -‐ '" !::::::!
  |  |:::| .:ll ||  | !  | |   |:::|:  ‖ ::|::::::|    『 OK! じゃ どっちから行こうか?』
  |  |:::| .:ll ||  | !  | |  .「|:::|:  ‖ ::|::::::|
  |  |:::| ,;ll ..||  | !,.  | |   !.! :|:  ‖ ::|::::::|    「 そうね、じゃあまず アタシから
  |  |;;」 ∧∧ .  `└'  -.L.l、. ‖ ::|::::::|     スッキリさせてもらう事にしようかしら。」
  |/ ‐ (,, ゚Д゚)           ,   `  、」::::::|
  ┘   | つつ   ,'⌒⌒ヽ   .    └‐-  ── ここは 誰にも気兼ねせず 心の中を
     〜   |   ソ    .ル  ∧∧      ぶちまけて、普段の鬱憤を晴らすには
      し`J   (li从从i)  (゚*  )        最高の場所だった。
            []]-- (  と  |   .    お姉さんが 恥じらいを捨てて
            <___〉  |   `〜     勇気を出せるように、俺たちがまず
             (/~U .   U U   .   それぞれに 力一杯 絶叫したんだ。
10のら猫:03/02/27 13:52 ID:???

俺たちの絶叫を、お姉さんは 最初は目を丸くして ただ聞いていた。生まれてこの方、
大声を上げて 自分の言いたい事を叫んだ経験など 一度もなさそうな彼女に、
出来る事なら ほんの少しでも、ここで日頃の鬱憤を 晴らしてもらいたかった。
その気持ちは しぃも同じだったらしく、あいつも いつもより大きな声で、いつもは
あまり口にしない 乱暴な言葉も構わず使って、精一杯の声を張り上げていた。

  __人_人,_从人_.人_从._,人_人_    …俺もこの時だけは、ない知恵を振り絞って
  )                      どうしたら お姉さんが、心に溜まった泥を
  ) ○×△□!                 ここで吐き出す気になるかを 考えて来ていた。
  )  ◇☆◎♪@#※♯!!   .
  )                     俺は まだしぃにさえ話していないような、
  )/⌒Y⌒Y⌒l/⌒Y⌒Y⌒Y⌒     自分の子供の頃の…両親に捨てられた
       。 ∧_∧ っ ゚           寂しさや 一人ぼっちだった寂しさ、
   . {{ ⊂(`Д´;) ゜            いつも誰かと仲良く出来ない辛さや、
        ゝ、 Oヽ             今まで自分が傷つけてきた人への気持ちや、
       (/ ̄ \)            傷つけられた奴への怒りを、大声で叫んだ。
11のら猫:03/02/27 13:53 ID:???

声の限り 必死で叫び続けていた俺には見えなかったが、後で しぃに聞いてみると、
俺の叫びを聞いていた お姉さんの表情が、途中からどんどん変わって来たそうだ。
最初は 驚いたような、引きつったような顔だったのが、だんだんと静かな顔になり、
俺が叫び終わる頃には、穏やかな笑みさえ 浮かべていたらしい。

ハァハァ…               『 …どうかしら? アタシたち、もちろんあなたに強制
     ∧∧               しようとは思ってないのよ。でも、人間は奇麗事
    (;゚Д゚ ) ))  ∧ ∧       だけでは こなし切れない想いだって、時には
    ∪ ∪ヽ   (*゚ー゚)     感じてしまうものだわ。
    (/ ̄ \)  . iヽ)(/   .  大切なのは、そんな風な悪い感情を持ってしまう
           〜|  |     事じゃなくて、それを誰かに 悪意として そのまま
             U U   .    ぶつけたりせずに、上手に吐き出す事だと思う。』

お姉さんは しばらく黙ったまま俯いていた。しぃの言葉を 一言一言噛み締めるように。

『 もし 気乗りしないなら、気にしないで。でも もし、何か叫びたい事があるなら
 思い切って叫んでみても良いと思うのよ。アタシたちが居ては やりづらいなら、
 ギコとアタシは、あのドアの向こうで 待っていても構わないからね。……どう?』
12のら猫:03/02/27 13:55 ID:???

    〃ノ^ヾ      「 …そっ、そうね。せっかくだし、挑戦して見ようかしら?」
   .ソ´。`;ル
   .( つO)  .  お姉さんは、俺たちは ここに居てもらった方がいいと言った。
   .)--.[[]      そして、小さく息を吸うと 何かを言い出そうとした。
   く__i〉    . けれど、なかなか上手く 言葉が出て来ないようだった。
   (/~U   .
            「 …アハッ、まず どうすればいいか、教えてもらえます?」

『 まずねっ、目を閉じるの。あっ、これはアタシのやり方だけど。それから 心の中で
 今 自分が一番心を痛めてる事を 思い浮かべるの。
 そして、最初は誰にも聞えない声で 独り言を言うの。今 自分が考えてる事、
 感じている事を、そのまま言葉にしていくの。』

「 それからは?」

『 そのうちに 自然と言葉に感情が追い付いてくるわ。無理に 悪口を言おうとか、
 叫ぼうとか しない事が、一番の秘訣よ。…じゃあ、頑張って!』
13のら猫:03/02/27 13:57 ID:???

── 3分、いや5分? お姉さんは なかなか声を出そうとはしなかった。
いや、出せる訳もない。そんな事は、今まで決して して来なかった人なのだから。
しぃは 俺の横で、祈るように そして呟くように、“頑張って、頑張って!” と
そう繰り返していた。

やがて お姉さんの口から、静かに小さな声がこぼれ出した。最初は聞えない程の
小さな声で。

            -‐ '" !::::::!       やがて俺たちの耳にも聞え始めた、
 .,'⌒⌒ヽ       ‖ ::|::::::|       お姉さんの声。最初は マサオに対する
 ソ    .ル      .‖ ::|::::::|       両親への訴えの言葉だった。
 (li从从i)     ‖ ::|::::::|
 .[]]-- (                    静かに けれど力の込もった声で、
 <___〉   ガンバレ…  .∧∧    それは暫くの間続いた。
  し'ヽ)        ∧∧ (゚,,   )     やがて 彼女の声は やや大きさを増し、
      .    ('(<*  ) U  |     自分たちの子供の頃の 寂しさや辛さを、
        .   ヽ  ヽ |   `〜 .   両親に訴える言葉へと 変わって行った。
14のら猫:03/02/27 13:58 ID:???

「 あなたたちは、ちっとも自分の子供たちを 誉めようとして来なかったじゃないの…。
 いつも真っ白な壁の上の、小さな黒い染みを粗探しするみたいに、本当は愛すべき
 自分の子供たちに、自信を無くさせるような言葉ばかりを 浴びせ掛けて来たじゃない。」

             . ( おいっ、しぃ。段々と 本気モードに入ってきたな。)
  ∧ ∧  ∧∧
  (,, ゚Д゚) (* ゚ -゚)     ( …しーっ! 黙って。)
   U  |) ノ つO    .

「 …そういう子供はね、大きくなると そのうち親に何か言われなくとも、
 誰かに何か言われなくとも、自分で自分の欠点ばかりを 粗探しするようになるのよ。
 そうやって毎日、そうやって何かある毎に、自分を責めて 自分を嫌いになって、
 自分が世界で一番嫌いになっていくのよ。自分で勝手に 自分自身に自信をなくして、
 そんな自分を背負ったままで、長い人生を 生きてくようになるのよ。」
15のら猫:03/02/27 13:59 ID:???

「 あの坊やのキラキラした目を見て分かったのよ。彼は自分の病気は きっと治るって
 そう信じてる。いつか自分の足が治ったら、毎日サッカーを練習して いつかJリーガーに
 なるんだって 目を輝かせてる。そこには 何の根拠も理由も必要ないの。
 ただ信じてるのよ。それこそが 本当の自信なのよ。
 いつか大きくなって、それが夢のままで終わる事になっても、その自信が あの坊やの
 心を支えて、あの坊やを成長へと導いているのよ。

 私たちは いつから、何かを信じるのに 理由が必要になったの?
 いつから、誰かを信じるのに 根拠が必要だと思い込むようになったの?
 本当は信じる事にも、愛したり愛されたりする事にも、理由なんて必要ないの。

              だけど 私たちはいつも、こんな今の自分じゃ愛されないって、
              そう感じてしまうの。もっと立派に、もっと賢くならないとダメだって…。
  ∧ ∧  ∧∧  .  親の言う事を 良く聞くからじゃなく、期待に応え続けるからじゃなく、
  (; ゚Д゚) (* ゚ _゚)     あるがままの私を、あるがままのマサオを、あなた達が受け入れて
   U  |) ノ つO   . “それでいいんだよ” って、そういう愛を与えてくれていたなら……。」
16のら猫:03/02/27 14:01 ID:???

…そこで お姉さんの言葉は しばしの間 途切れ、小さく震える肩越しに、押し殺した嗚咽が
聞えて来た。もうこれくらいで いいんじゃないか? そう思うほどの切なさが胸に広がった。
けれど、彼女はまだ 喚き泣く声の奥から 懸命に言葉をつむぎ出そうとしていた。

「 …ねぇ 母さん、私の好きだった事って何? 小さい頃、私が目を輝かせていた事って何?
                  私が どうしてもやりたいって、ねだった事って何だったの?
                  …思い出せないのよ! 私は今だって、自分が何をしたいか、
  .∧ ∧ ∧∧    .      何がしたかったのかが 全然分からないのよ!
  (´д`;) (。 。.ili)  .       ただ あなたの言い付けを、疑いもなく守って来たから
   U  |) ノ つO        今になって 自分の本当にしたい事が 探し出せないのよ!」
17のら猫:03/02/27 14:02 ID:???

「 ねぇ父さん、母さん! 楽しいってどういう事? 生きてる事が楽しいって どんな感じがするの!?
 私には そんな当たり前の事が分からないの! やりたい事が山ほどあるって どんな気持ちよっ?
 誰かのそばで、心から安心するって どんな気持ち? お腹の底から笑うって どんな気持ち?
 私には何にも分からないのよ! 私たち、これでも人間っていえるの?!

   〃ノ^ヾ       まるで監獄の看守みたいに 私たちを見張って、何でもかんでも
  ゚。゜ル;´(フノ.゚゜。     自分たちの言う通りにさせようとして!
 .{{ (O ソ.ilO }}    なのに、私たちが本当に助けて欲しい時は 知らん顔するのは何故よ!
   .)---[]      自分が生きてていいって 信じられない人間が、誰かを愛する事なんて出来る?
   く__i〉       生き生きと 人生を楽しめる? そんな自分の子孫を、残そうなんて思えるの?!
   (/~U        答えてよ、どうして、どうして……うぅ。」
18のら猫:03/02/27 14:04 ID:???

  |  |:::| .:ll ||  | !  | |   |:::|:  ‖ ::|::::::|   …その後は もう
  |  |:::| .:ll ||  | !  | |  .「|:::|:  ‖ ::|::::::|   言葉は何も 続かなかった。
  |  |:::| ,;ll ..||  | !,.  | |   !.! :|:  ‖ ::|::::::|
  |  |;;」      .  `└'  -.L.l、. ‖ ::|::::::|   誰にも語られない気持ちは
  |/ ‐     ,'⌒⌒ヽ …グスン  `. 、」::::::|   時として 捨て場所を失い、
  ┘        ソ    .ル          └‐-   心の中で 腐敗を始める。
          {{ (li从从i) }}
     .    []]-- (   .  自分の心と 上手に付き合えない人は、大抵そういうマイナスな
      .   <___〉 .  感情の上手な捨て方や、捨てる相手を知らない。その方法すら
      .    (/~U     教えられぬままに 持つ事は罪だと教えられ、その上 禁止した
                  親からは、一方的に マイナスな感情を押し付けられる子供は多い。
19のら猫:03/02/27 14:06 ID:???

                         //
  .,'⌒⌒ヽ …ふぅ           //    〃ノ^ヾ クルッ
  ソ    .ル               //    .ソii´ーノ)       「 ありがとう、何だか凄く
  (li从从i) ミ                 //     ⊂lj_.ソ ilヽ      スッキリ しちゃったわっ!」
  []]-- (              //    (( .)---[] ))
  <___〉  ∧∧  ∧∧  .  // .      く__i〉    ∧∧  ∧∧
   し'ヽ) . (*  ) (,,  )  //        (/~U     (*  ) (,,  )
         l  ヽ l  ヽ //                l  ヽ l  ヽ
                 //
20のら猫@今日はここまで:03/02/27 14:17 ID:???

  !    ./     / ..::::::/ .|::::::|
     /    /_.::::/ . _」|::::::|
   / _...○⌒        .|::::::|
         .    ‖ " !::::::!
  〃ノ^ヾ …アララ ‖ ::|::::::|
  ソ;´。`ル                   とにかく お姉さんの為に
  ( つO)        号泣…。        自分たちにも 出来る事があって、
  . )--.[[].                     本当に良かった…と、思った。
  く__i〉    ∧∧  ∧∧
   (/~U   (( (ーT*) (д.T ,,) ))
          Oと ヽ Oと ヽ
21のら猫:03/02/28 18:26 ID:???

      |■西 村 製 作 所 梶。 |
        ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    _      ______
     ||   .  i ;;;;;;;;;;;;)     i
           i;;;;;+;;;;-;+;   +:;;;;i    ||[三] □[:!/]|
   …コンコン   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\      |.|=========|
        <   モナーです。   |    . | |[[;;;] [iiii] □|
     ||     \_____/      |. |=========|  .|
     ||                         |.. ||@] [[=] □.|..  |
    _..||             _______|. |=========|_.|
  ii~⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒i        :::::::\.| Pamphlet |  \
   __________________________|               . ̄./ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   \_______________________\       ______  |  うむ、入りたまえ。
::::  \)_________________________)     __[l二l__| \
       |\ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\    (∀・  )   ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
       | | .\______\  (    )
22のら猫:03/02/28 18:28 ID:???

     .∧_∧                  「 …モナー君、こりゃ何だね?
     ( ´∀`)         ______        私は最近 老眼が進んでねぇ。
⌒⌒⌒( ヽ  ノ)⌒i   _ .__[l二l__|       良く読めないんだが、
      L__⌒l⌒l  |   \\(∀・  )     私の読み間違いじゃなければ、
 ̄ ̄ ̄  (_)__) ̄ ̄)   と    )   .   ここには 退職願と書いてあるよ。」
                     | l  |

『 その通りです、リーダー。一身上の都合により…』

「 この前、サラ森君に何を言われたか知らんが、私は君を辞めさせるつもりはないよ。」

『 …は、そうですか。( 困ったモナ )』

「 先日のサラ森君の 君に対する暴言については、昨日 本人を呼んで、厳重注意しておいた。」
23のら猫:03/02/28 18:29 ID:???
   ______
  [__l二l|__              『 でも、リーダー。誰かが辞めないといけないというのは
 ( ・∀・) 彡          事実なんですよね?』
 ( O   )
 ││ │    ∧_∧  .   「 いかにも。ただ、社内にもまだ 若干名だがパート社員
 (__(__)  (     )      が残っている。社としては 非情ではあるが、まずは
      i⌒⌒⌒⌒⌒⌒   その人たちから先に 退職をお願いする方向なんだ。
      |               他の管理職の人間や、サラ森君一派が どう思っている
      ̄               のかは知らんが、少なくとも私は 君の人間性を
                     高く評価しているつもりだ。」

『 はぁ。ありがとうございます。』

「 もちろん、人事に関する最終的な権限は 私にはないから、どうなるかは分からんが、
 不況による業績悪化を理由に、体よく 社内の厄介者を首切りするのが リストラじゃない。
 RESTRUCTURING という言葉は本来、企業の再編成・再構築を意図した言葉だ。
 君の学歴からすれば、それぐらいは分かるだろう?」
24のら猫:03/02/28 18:31 ID:???

「 職務上、私もその “首切り” の候補を挙げろと 上から命令されているものでね。
 悪意はないが、社員全員の履歴書を見直したりしている所なんだよ。」

『 ……。』

「 もちろん、こんな紙切れで 人間を測れるものでもないがね。人事部長から見ろと
 言われれば、見ない訳にも行かん。いや、びっくりしたよ。うちみたいな中小企業に
 ○○大学に入れる程の秀才が居たとはねぇ。」

『 …2年で中退しましたんで。』

「 これは、あくまで噂なんだが…。いや、答えたくないなら 答えなくてもいい。
 君のお兄さんは、あのモナー建設の社長さんだった方かい?」
25のら猫:03/02/28 18:33 ID:???

    ∧_∧      ______.     『 …はい、そうです。もっとも、もう5年以上前の事で、
   ( ´∀`)    __[二l__|    兄も ただ会社設立者の一員だっただけです…。』
⌒⌒( ヽ  ノ)⌒i _(∀・ ) .
     L__⌒l⌒l | \\と )   「 ふむ。サラ森君は、しきりに君が お兄さんの遺産で
 ̄ ̄   (_)__) ̄). | l .|     楽々と生活しているから、仕事にも実が入らないと
                     主張しているようなんだが…?」

『 遺産は確かに 少なからず残してくれました。でも、もう僕の手元には一銭も残ってません。』

「 …そうか。どうもサラ森君は、君の身の上を誤解しているようだね。きっと君を、苦労の一つも
 知らずに ぬくぬくと育った、ボンボンだとでも 思っているのかな?
 いや 彼もね、相当苦労して来た奴なんだよ。学歴こそ工業高校止まりだが、学費は自分で
 稼いでいたらしい。…どうも その辺の不理解が、サラ森君の不機嫌の原因かも知れんな。」
26のら猫@晩飯休憩:03/02/28 18:51 ID:???

     ______       『 …リーダー、いえ モラ山さん。実は お願いがあるんです。』
    [__l二l|__
    ( ・∀・)   . 「 ほぅ、君が私に頼み事かい? 珍しい…というか、初めて
    /  と )       なんじゃないかな。君が頼み事なんて。
   と_(  /~)     まさかとは思うが、サラ森君を辞めさせる事なんて出来ないよ。
 ̄ ̄ ̄ ̄|し'J .     彼だって、わが社の大切な人材だ。」
 ̄ ̄\  |
             『 いいえ、そうではありません。』

「 …だろうね。君は 誰かを辞めさせるくらいなら、自分から犠牲になろうとするような
 人間だからね。君か サラ森君の配置転換ぐらいなら、すぐにでも考えてみるけど…?」

『 はい、いえ、その…。そうではなくて…… 』
27のら猫:03/02/28 21:10 ID:???

「 なぁ しぃ…? あのお母さんたち見て、お前 正直どう思った?」

『 あなたと同じじゃないかしら? お姉さんが いつも言うように、内弁慶なのよね。』

「 最初はさぁ、マサオのメールや この間のお姉さんの絶叫のイメージが強くて、
 頑固じじいと鬼ばばあみたいな姿を想像してたんだよな、俺。』

         ∧∧         『 見た目も 物腰も 言葉遣いも、全然普通よね。
         (゚ー゚*)       いえ、むしろ誰が見ても 立派な父と母っていう
      ∧∧⊂ Uヽ        印象しか 持てないような人達なのよね…。』
     (,, ゚Д) ⊂ ⊂ )〜
    ./ | つつ .   / ̄|   「 最初は あまりにも想像していた印象と違うから、
   |.〜   |.   ̄| . . .::|    面食らっちまったよ。…お母さんが 子供の話を
   |   し`J.  ,,,;;|.....:::::|    始めるまではな。」
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
28のら猫:03/02/28 21:11 ID:???

── お姉さんの絶叫に涙したあの日から、また2週間が過ぎようとしていた。
つい 2日前、俺たち2人は、思いがけず マサオの両親と 顔合わせをする事になった。
それは、お姉さんからの SOSの電話が、突然しぃの携帯に 掛かって来た事から
始まった。

   〃ノ^ヾ               その日も マサオとお姉さんは、ほぼ日課となっている
   ノ´−`ル ((( )))      あの坊やの居る公園へ向かう途中だった。
   (l┴┴l)  (,-_-)      マサオは まだまだ、一人で昼間に出歩く事は
   ) ゚ .゚(  (    )       出来なかった。
   /___|.  | | |   .     ただ、お姉さんと2人で、あの坊やに逢いに行くのを
    し´J  (_._)__)       嫌がるような事は まだ1度も無かった。
29のら猫:03/02/28 21:17 ID:???

にこやかに、お姉さんと談笑しながら歩いていたマサオの顔が、突然強張ったのは
公園まで あと角を1つ曲がれば着く、という場所だった。

 .  〃ノ^ヾ       原因は マサオが通りの向こうを歩いていた、中学時代の
    ソ;´oノ(()))     いじめっ子を 偶然見つけたせいだった。
   . ( _il⊃(д`ill)     その瞬間、マサオの体は硬直し 次にガタガタと震え出した。
     ) ゚ (と  ) }}   事情を知らない人には、その時 マサオに何が起こったのかを
   /__| .(( .(      正確に理解する事は難しいだろう。
  . (/~U ((___)    マサオはその瞬間、心も体も あの頃の中学生に戻っていた。

たぶん お姉さんがそばに居なければ、マサオの反応も違っていたんだろうけど、
マサオは 震えながらお姉さんにしがみ付いて、そのまま一歩も動けなくなったんだ。
30のら猫:03/02/28 21:21 ID:???

お姉さんは 対応を誤らなかった。マサオを叱る事なく 優しく肩を抱き、そして慰めた。
そういう時、トラウマを抱える子供は、瞬間的に 被害を受けた年齢に戻ってしまう。

ヨシヨシ…             …俺は最近 こう思うんだ。
   〃ノ^ヾ       子供は 所構わず大声を出すし、泣き喚いたりする。
   ソ;´ー(()))       それは実に当たり前の事だと思う。だって子供なんだし。
   . ( _il⊃`゚ill )     一方、公共の場所で 子供に騒がれたり泣かれたりして、
     ) ゚ と  ) }} .   周囲からの冷たい目線に晒されるのは、母親の方だ。
   /__ (( .(      そういう場所で、速やかに子供を泣き止ませる事の
  . (/~U.((___)    出来ない母親は、まるで母親失格者のような眼で見られる。

子供を黙らせる為に、子供を泣き止ませる為に、一番手っ取り早い方法は 叱り付ける事だ。
母親だって忙しい。母親だって悩みや疲れもある。せめて5分でも 子供に静かにして欲しい
と思う事だってあるだろう。母親だって、か弱い一人の人間なんだ…。
けれど “叱る”って漢字は、口へんに匕首( あいくち )と書く。あいくちとは 刃物の事なんだ。
叱るという恐怖によって、子供の感情を押さえつける事は あまりに容易く、そして危険な事だ。
31のら猫:03/02/28 21:23 ID:???

俺自身も 少なからず色んな場所で、子供が泣き喚いたり 騒いだりする場面を目にする。
マサオに関わるまでの俺は、正直に言えば その時母親に冷たい目を投げかける人間の一人だった。
俺はまだ若いし、子供だって居ない。引き篭もりも 子育ても、全く無縁の世界で 俺は生きてきた。
マサオの事がなければ、俺だって 一生そういう苦しみを持つ子供たちの事は、
あえて見て見ぬ振りをしていたかも知れない。子供を育てるという事の大変さ・難しさだって、
何一つ考えないまま結婚して、子供を持ったかも知れない。

マサオと関わる事は、時には 確かに気の重い、面倒くさい事に感じる時だってある。
ただ この数ヶ月、マサオたち家族に関わった事は、俺にとって 掛け替えの無い財産になっている
とも 思えるようになった。

…話を マサオの件に戻そう。
いずれにしろ、お姉さんは マサオの母親ではない。本物の母親が感じてしまいがちな、
“自分は常に 立派な母たらねばならない!” という プレッシャーから、お姉さんは無縁で居られた。
32のら猫:03/02/28 21:26 ID:???

お姉さんに肩を抱かれて、なだめられながら 自宅に帰って来たマサオたちが、
運悪く いつにも増して機嫌の悪い母親と出くわした。

                母親は いつものように、2人を無視するかと思いきや、
  \ .〃ノ^ヾ      2階の自室に戻って行く姉弟の背中に向けて、
 ―  ソ ワ´;(()))   痛烈な捨て台詞を吐いた。
    . ( _il⊃(`゚ill )
      ) ゚ と  )     「 あらあら、まるで 小さな子供みたいじゃないの?
    /__ (( .(      アンタも そうやってマサオを甘やかせば、その子がまともに
   . (/~U.((___)    なるって信じてるの? 余計に だらしない人間になるだけだわ。」

この時期のお母さんの心理を推察すれば、恐らくは 自分が娘に、母親の立場を
追われているような感覚だったのかも知れない。今までの自分とは 全く違う接し方で、
マサオの心のケアを始めた 自分の娘。食べる物と寝る場所を提供する以外は、事実上
子供の面倒を見る事を 放棄していた母親からすれば、それは娘の無言の しかも痛烈な
自分に対する批判だと 感じていたのかも知れない。
33のら猫@今日はここまで:03/02/28 21:29 ID:???

…お姉さんは その母親の一言に “キレた” 。壮絶な 母子の口喧嘩が始まった。
母と娘 2人の間に入って止める人も居なかった。マサオが2人の言い合いに耐えかねて、
一人で走って自室に戻り、ドアを思い切り “バタン!” と 閉ざした音を聞いて、
やっとお姉さんは 冷静さを取り戻したそうだ。

…そしてマサオは まる1日、部屋に鍵をしたまま出て来なかった。
うるさいわね、放って置きなさい! という 母親のヒステリックな声にもめげずに、
お姉さんが どんなに呼びかけても、マサオは部屋から出て来ようとしなかった。

マサオも とうとう気付いてしまった。自分という存在が、最愛の姉を苦しめている事に…。
ちょっとした出来事、心無い言葉。家族の争い。たった3つの出来事で、
マサオはまた 深い谷底に転げ落ちようとしていた。
34のら猫@続きです:03/03/01 14:59 ID:???

俺たちは2人で相談して、次の日に あの坊やを連れて、マサオの自宅を訪問する事にした。

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     ○     /;:::':::;:::':::;:::':::;:::':::;:::':::;:::':::;:::':::;:::':::;:::':::/  \ \:::::,,,,,,,,;;;,,,;;;';;:::;;;,,,,,,,,:::::
 ;;ミゞ,   ||  /;:::':::;:::':::;:::':::;:::':::;:::':::;:::':::;:::':::;:::':::;:::':::;/     \ \:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
 ;;;ヽミゞ;,;||;/;:::':::;:::':::;:::':ノヽ;:::'::ミゞ`;;:ノ;ミゞ;:::':::;::::;:::/     ロ   \ \: : : : : : :: :: : : : :
 ";"ミゞ:; ||, ̄| ̄ ̄ ̄ 彡ヽミゞ:ノミゞ;ノ:;ミ;  ̄ ̄ ̄|           | ̄
 ノミミゞ:; ||,  |  |ニlニ彡ヽミゞ:ノミミゞ;彡 ミ lニl  |     lニlニl   |
 ;;ノ彡ミi ,||ゞ, |  |___l;彡;;i;ヽミゞ;ソミ;;彡::ノミゞゞ__|゙ |     |___l___|゙   |    ;":;;:
 ノ;ヽミゞ゙||ミ;;ゝ    ノミヽミゞ;ノミミノノ;;ii;;;ヽミゞ,   |   iニニニニiニニニニi  ;::;;":;;';; ;":;;
 彡|l!:ミゞ||.  |  |ニl'ノ彡ii;ミミヽミゞ;;彡|l::lニlニl  |   i :::┌─||;i:::: i | ||  / ̄ ̄ ̄ ̄
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                                      ∩∩./  つ  と ヽ
35のら猫:03/03/01 15:02 ID:???

俺たちが マサオの家を訪問したのは夕方過ぎだった。父親は 今日は会社を休んだようで、
玄関のチャイムを鳴らすと、そこには 初めて見るマサオの両親が 俺たちを出迎えに立っていた。

 |         ||    |        .     まるで宿題を忘れて、廊下に立たされてる子供
 |     '´ ̄ ヽ  ̄ ̄ ̄  / / .|      のように、所在なげに ご両親は立っていた。
 |    ( ノノ)) )〉彡⌒ ミ. ||/ | ̄       母親の表情は、彼女の戸惑いを隠せてはいなかった。
 |     リイ.゚_ ゚ノil(,,  ;´) .|| | ̄ ̄       マサオが まる2日も自室に閉じ篭もり、食事すら
 |―― ( Y ) (∪   つ | ̄ ̄ ̄ .    食べないというのは、両親にとっても初めての事だ。
 |    /ヽ)(/   ) .) .)   ̄ ̄   .    母親は子供の事で 他人を家庭に招き入れる 不快さと、
/   ∧⊂ヽミ ∧∧ミ )       .   お姉さんが口にした “自殺するかも?” という事態を
| ̄ ̄ ( ⌒ヽノ /⌒ヽ) .∩__∩ ̄ ̄     恐れて戸惑う 両方の気持ちに、どうしていいか分からない
 ̄| ̄ . (|  |  |  /ノ (   ) ̄   .    という眼で、やって来た俺たちを見ていた。

父親も、外見こそは 厳めしい印象だったが、卑屈なほど低頭して、俺たちを足早に招き入れた。
そんな訳で、俺たちは 挨拶もそこそこに、すぐにお姉さんの居る2階へと通された。
マサオとお姉さんの部屋は 共に2階にあって、マサオが引き篭もってからは お姉さん自身も食事を取らず、
昨日も一晩、マサオの部屋の前の寒い廊下で 夜を明かしたという。
36のら猫:03/03/01 15:05 ID:???

…マサオの部屋のドアの前で1時間近く、俺としぃは ドア越しにマサオに語りかけた。
お姉さんは 俺たちが無理やり休ませた。坊やの方は、まだ幼いせいか 事態がよく飲み込めていない。
しきりに、マサオに 昨日来なかった理由を聞いたり、今度遊ぶ日を決めようとか言っていた。

夕方の6時を過ぎた頃、母親が おずおずと階段を登ってきて、俺たちに一息入れるように勧めた。
俺たちは戸惑ったが、退屈していた坊やが 母親の “お菓子とジュースがあるよ” という言葉に飛びついて、
さっさと下へ降りてしまったので、俺たちも ひとまず1階にあるダイニングへと降りる事にした。

      ドウゾ                      お母さんは、気の毒なほど オロオロしていた。
   '´ ̄ ヽ                       お父さんが そんな妻の代わりに、俺たちと何でもない
  ( ノノ)) )〉  ∧∧  ∧∧             雑談のような 自己紹介のような話の相手をしてくれた。
  リイ.゚_ ゚ノil  (゚ー゚*) (゚Д゚ ,,)     ∩__∩  .
   ( Y_ハ 旦ヽ)(/i 旦 ⊂ヽ 旦 (∀` )    . 俺たちがさっき話していた ご両親の最初の印象
   /ヽ)  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|⊂と  )  .   というのは、この時の事を言っている。

…雑談が終わると、重苦しい沈黙が しばらく続いた。お父さんが その重さを振り払うように、
静かに口を開いた。“…それで、マサオは どんな感じでしょうか?” と。
俺としては このピンチというか、チャンスを逃さずに、両親に 敢えて苦言の一つも言ってやりたかった。
37のら猫:03/03/01 15:09 ID:???

ところが、父親は俺たちの答えを待たずに 長々とマサオの子供時代の苦労話を し始めた。
父親としては、これでも精一杯 マサオの事については 心を痛めてきたのだと言った。
そして その後は、その父親の何倍もの長さで、母親が 事細かにマサオのダメさ加減を話し始めた。

       /                     俺は あっけに取られた。この人の頭の中が
   '´ ̄ ヽ ―                    見てみたかった。どうしてこうも 自分の子供の
  ( ノノ)) )〉  ∧∧  ∧∧             欠点ばかりを 長々と、しかも他人に向けて
  リイ`д.ノil  (゚ー゚.ii) (゚Д゚ ;)     ∩_∩     話せるんだろう?
  とil Y_ilつ旦ヽ) iヽ旦 ⊂ヽ 旦  (A` ) .   この人は まるで何も分かっちゃいない。
   / :|_  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|⊂と  )    それとも、分かる事を 拒絶しているのか?

思わず何か言い返したい衝動を、テーブルの下で 俺の手をギュッと握った、しぃの手が抑えてくれた。

…要するに、母親は 自分が誰かから責められる事に、無意識で非常な恐怖を持っているらしい。
どんな場面であれ、誰かが何か 自分の落ち度や至らなさを責めようとしていると 感じるだけで、
この母親は まるで子供みたいに弁解を始めるのだ。自分のせいじゃない、自分は悪くない…と。
38のら猫@続きは今夜(予定):03/03/01 15:19 ID:???

俺の中に、確信にも似た想いが浮かんで来た。この母親もまた、今の自分と同じような母親に
育てられて来たんだろう。親に優しくされた記憶よりも、厳しく 非情に扱われた記憶ばかりが、
この人の心の中には 残ってしまったんだろう。

              ふと気が付くと、坊やが 半分泣きそうな顔をしながら、自分の両耳を押さえていた。
  ./つ_⊂ヽ     しぃもすぐ それに気がついたようで、坊やをなだめるように ダイニングの外へと
  |(´Д`;)|    連れ出そうとした。坊やは 俺たちに背中を向けたままで、しぃに こう叫んだ。

『 モナーさんが言ったの。大人が自分の聞きたくない話をした時は、耳を塞ぎなさいって!
 大人の人には それが分からない時だってあるから。だから、その時は耳を塞いで
 それが僕には辛いんだって、大人に気付かせてあげなさいって!』

母親の言葉が、その坊やの叫び声で 一時停止した。ただそれは 坊やの叫び声に驚いただけで、
坊やの言う事の意味を理解して止めたという訳では なさそうだった。
その坊やの叫び声に反応したのは、それまで妻の言葉をじっと聞いていた お父さんの方だった。
39☆ のら猫 ☆:03/03/01 15:52 ID:???
★ のら猫からのお知らせ ★

以下のサイトにも、陽の当たる場所Part1のログを 置いて頂ける事になりました。
さらんらっぷβ タソ、まんせ〜っ! このサイトには、その他にも のほダメ板の
過去ログが 多数保存されていますので、是非1度ご訪問下さい。

ttp://www.h4.dion.ne.jp/~nohodame/
40のら猫@続きです:03/03/01 21:23 ID:???

「 私たち夫婦も、決して今の家庭の状態が 好ましいとは思っとらんのです。
 ただ 我々なりに一生懸命、男の子は男らしく、女の子は女らしく育てようと
 努力してきた事は 誰に何を言われようが自信があるつもりです。」

              '´ ̄ ヽ     俺は今 この両親に何を言うべきかを
  彡 ⌒ ミ  ∧∧  〈ノノ)) ))    .  一生懸命考えた。
  ( _´Д`)  (,,  ) . リ.д `;ハil   .  モナーの言った、言葉を受け取る準備の
 旦O   つ と  ヽ /(_Y_, ハ       話や 背中を押す話を思い出していた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄(⌒_,, 〜 ̄        慌てちゃダメなんだ。
          し             1つ1つ 進めて行くんだ…。

『 僕も ただマサオ君の友達というだけで、決してカウンサラーではありません。
 だから専門的な事なども 何も分からないんです。
 ただ、今ご両親にお願いしたい事があるとすれば、この2つだけです。』
41のら猫:03/03/01 21:28 ID:???

   '´ ̄ ヽ                     『 マサオ君が今苦しんでいるのは、
  ( ノノ)) )〉      ∧∧        自分という存在が お父さんや
  リイ .゚_ ノil      (゚Д゚ ;)        お母さん、そして お姉さんを
   ( Y_ハ 旦     と旦⊂ヽ旦      不幸にしてしまう人間なんだと、
   /ヽ)  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|    そう考えているからです。

 自分がダメな人間に生まれたせいで、家族みんなが苦しんだり 悲しんだり 泣いたり
 怒ったり 争い合ったりするんだと、そう思っているんです。
 もちろん、マサオ君には 自分でも気付いていない良い所が たくさんあります。
 でも、僕らがいくらそれを言っても マサオ君は何故か 自分で自分を認めようとしないんです。
 あいつ、ダメなんじゃないんです。ただ 迷子になってるだけなんです。上手くできない事が
 他の人とは少し違うだけです。嬉しい事や 楽しい事を探したり、感じたりするのが
 上手くないだけなんですよ。』
42のら猫:03/03/01 21:30 ID:???

               '´ ̄ ヽ    「 仰る事は良く分かります。だが、実際問題として
   彡 ⌒ ミ   ∧∧  〈ノノ)) ))  .   我々夫婦も、マサオには ほとほと手を焼いている
   (_∩д`)  (;  ) . リ´_ `;ハil  .   というのが 偽らざる心境でしてねぇ。
 旦( /と )  と  |っ /(_Y_, ハ      全く、どうして あんな性格の子供に育ったのか。」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄(⌒_,, 〜 ̄
                       『 それが分からないのは、マサオ君も同じです。
 マサオ君も、ご両親と同じ悩みで 今までずっと苦しんで来たんです。一体どうして 自分は
 こんな人間になってしまったんだろうって。けれど、今は それを別々に悩んでますよね?
 つまり同じ悩みを、今はご夫婦2人と マサオ君とお姉さんの、2つのグループで考えておられます。』

「 …つまり?」

『 はい。まず1つ目のお願いは、これからは ご家族一緒になって、マサオ君と一緒になって、
 それを考えて行くようにして頂きたいんです。残念ながら現状は、お父様方の苦しみは
 マサオ君には届かず、マサオ君の苦しみも お二人に届かず、ただ ジレンマから来るイライラだけが
 お互いの間に伝わっているだけだと思います。…本当は親子で 同じ苦しみを味わっているのに、
 それを一緒に解決出来ないのは 悲しい事だと思います。』
43のら猫:03/03/01 21:33 ID:???

「 なるほど。その通りだが、しかし 耳の痛い話だね。本当は同じ苦しみを味わっているのに…か。」

   '´ ̄ ヽ    「 でも ギコさん…でしたかしら? 簡単に仰るけど、あの子は何を言っても
  ( ノノ)) )〉    . まともに返事もしないんですよ。そんな状態では 話し合いなんて、とても…。」
  リイ.`_´ノil
   ( Y iつ   『 …それは、つまり、率直に申し上げて、お母様の言い方にも 多少問題が…。』
   /ヽ) (
   |__:|___|      「 …あの、どういう事でしょうか! 私は学歴こそありませんが、郷里では ちょっとした
   し'.ノ      名家に生まれました。父や母からも、私 しっかりとした教育を受けて来ましたよ。
            どうして先生方や あなた方他人は、そうやって全て 親の教育の仕方が悪いと、
            私たちに全部 責任を押し付けるんでしょう?!」
44のら猫:03/03/01 21:36 ID:???

── しまった、と思った。すぐにお父さんが 間に入ってとりなしてくれたが、俺は このお母さんの
一番触れて欲しくないものに 触れてしまった。
この人は…本当は弱い人なんだ。自分に自信のないのは、この人も同じなんだと
俺はこのお母さんを見て そう感じたんだ。
自分にしっかりした自信を持った人は、他人に何を言われても 簡単には怒り出したりしない。
人間が激しく怒り出すのは、他人から自分の痛い所を突付かれた時なんだ。

それは、世間では誤って “プライド” と呼ばれている。
でも、そうじゃない。それは “コンプレックス( 劣等感 )” なんだ。他人に何を言われようと平気な程の
強い自信を 自分に持つ事が、本当の “プライド( 自尊心 )” なんじゃないだろうか…?

   彡 ⌒ ミ    …黙って自分の考えに耽る俺に、お父さんが また声をかけた。
   ∩∩д`)
 旦.(/ \ )    「 …それで、もう1つのお願いというのは 何でしょうか?」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
45のら猫:03/03/01 21:44 ID:???

『 はい。今回の事で、マサオ君を責めるのは 止めて頂きたいんです。ご両親の心労の程は
 充分にお察し致します。けれど、マサオ君も お父様方を困らせる為に、こんな事をやってる訳では
 ないんです。自分で自分の気持ちを どうしようもなくなった時、マサオ君は 部屋に閉じ篭もる以外に
 何も良い方法を知らないだけなんです。』

                    「 …あらっ、私たち 充分に困ってますけどね。」
  彡 ⌒ ミ  ∧∧
  (_. ´д`) (;  ) .    「 いいから、お前は少し 黙っていなさい。」
  (つ旦と) と  ヽ    .
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄(⌒_,, 〜 .   お父さんの その一言で、お母さんは渋々言葉を止めた。俺は 以前、
                    お姉さんの言っていた事を 瞬間的に思い出した。
母親は 父の言う事には逆らえない。権威や権力者には とことん弱い人で、そういう人には何も
言い返せない人。そして その鬱憤を、家に帰ってから 私たちにぶつけるんだと、そう言っていた…。
46のら猫:03/03/01 21:50 ID:???

残念だけど、まだお母さんの方は 俺たちの言葉を受け取る準備が、出来ていないようだった。
そういう時に、いくら必死になって 言葉を投げかけても、受け取ってはもらえないんだ。

でも どういう訳か、お父さんは とにかく今の何かを変えて行きたい気持ちは、持っているみたいだ。
俺は 彼の父親という立場を崩さぬように、一生懸命 言葉を選びながら、お父さんに向けて話を続けた。

                『 これは本で読んだ言葉の 受け売りなんですけど、いわゆる普通の人から見れば、
       ∧∧    .    マサオ君は 足のつくような浅い水の中で、溺れるって騒いでる人にしか見えません。
     (゚Д゚ ;/) ))  .   普通の人が普通に出来る事が、マサオ君には とても難しいんです。
     と旦 ノ旦     だから、誰にも理解されません。一人ぼっちです。笑い者にされます。けれど
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| .  マサオ君自身も、そういう自分に 深く傷付いています。彼には どうすれば良いかが
                  分からないんです。その気持ちは、今のお父様方の気持ちと 同じだと思います。』
47のら猫:03/03/01 21:53 ID:???

「 …私、最近 つくづく思うんですけど。」

                       ちょうどそこで、しぃが一人 ダイニングに戻ってきた。
    ∧∧          ∧∧
   (,, ゚Д゚/)          (゚ー゚*)  .   「 引き篭もりというのは、目に見えない もう1つの
   と旦 ノ 旦      と  ∪   .    家庭内暴力なのかも知れません。」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|       |  |〜

『 家庭内暴力と 引き篭もりは、同じだと仰るんですか?』

「 えぇ、本質的には 同じなような気がしてなりません。ただ、家庭内暴力は 子供の行き場の無い
 怒りが、家族に向けられます。実際に自分たち自身も その被害に遭う訳ですから、
 親御さんとしても これは問題だと、素直に思える訳です。
 けれど、引き篭もりは違います。引き篭もりの子供は、行き場の無い怒り・悲しみ・イライラ・無力感を、
 全て 自分自身に向けて ぶつけてしまうのです。自分たちが殴られたり、家が目茶目茶になる訳では
 ないので、親御さんの方でも その問題を軽視してしまいがちになるのではないでしょうか?」
48のら猫:03/03/01 21:59 ID:???

しぃの話を聞く 母親の顔は、怒りと恥かしさに歪んでいた。
この期に及んでも、母親は自分の家庭に問題があるなどという事を 他人に指摘されたくないのだろう。

つまりマサオは、この母親にとっては 自分の子育てが失敗だった事を示す、あまりに明確な証拠なんだ。
母親は ただマサオを目にするだけで、心の奥で “お前は 子供一人まともに育てられなかった、
無能な母親なのだ” と、誰かに責められているような そんな恐怖を感じていたんだろう。
そうやって、子育ての責任を 全て自分のせいだと夫から責められて、育児ノイローゼになる妻も多いんだ。

ただ そう考えば、この母親の 必要以上に冷淡なマサオへの態度にも、説明がつく気がした。
今のマサオは、生きて そして動いている、この母親が最も見たくない 自分自身の恥部であり、
母親の劣等感そのものなんだ。

プライド( 正確には劣等感だが ) を重んじる母親の本音から言えば、
できればマサオという存在は、誰の目にも触れぬように 家庭の中に隠して置きたかったのだろう。
だが そこには、自分の子育ての失敗を 責められたり、笑われるという 母親自身の恐怖はあっても、
隠され、放置される子供への愛情は 一つも入っていない。
49のら猫:03/03/01 22:10 ID:???

    ∧∧      \ ∧∧    …しぃの話は、なおも続いていた。相手を傷付けないように
   ( ゚Д゚,,)     ― (゚o ゚*)    刺激しないように話をするなら、俺よりも しぃの方が数段上手い。
   と旦 O 旦   と   つ.   俺は一人、改めてこの問題の抱えるものの奥深さに
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|    |  |〜   ただ愕然としていた。もしかしたら マサオ以前に、この父親や母親の
                        心の傷から、俺たちは まず面倒を見て行かなきゃ
                        ならないんだろうか? さすがにそれは 勘弁願いたいと思った。

第一、しぃの話を聞いている あの母親を見てみろ。まるで 右から左へ聞き流してる。
父親の方が まだ少しは 聞こうという気持ちが見て取れるが、それでも 聞くだけは聞きましょうって、
そういう気持ちなのが、こうして見ていると良く伝わってくる。

結局 この夫婦よりも若くて、子育ての経験もない俺たちが、いかに辛抱強く
この2人を説得しようとしても、自分たちよりも若いとか 子育ての経験がないってだけで、
どうしても 心から真剣に耳を傾けては もらえない。
なら モナーは? いや、モナーでもダメかも知れない…。歯がゆいな。
50のら猫@今日はここまで:03/03/01 22:15 ID:???

「 …ですから、他人と上手くやっていけないというのは、つまりは 自分自身と上手くやっていけていない
 って事なんだと思うんです。」

『 いや、良く分かりました。私たちなんかより、余程よく勉強してらっしゃる。
 実はね、これはまだ 妻にも話してないんだが、つい最近 駅前の飲み屋で知り合った人も、どうやら
 お子さんが 引き篭もりみたいでね。その人にでも相談して、私も自分で しぃさんの言う
 “何か他の方法” ってのを、探してみますよ。
 しかし 実際問題としてね、今は マサオがあの部屋から出てくるには どうしたら良いかが重要なんです。』

     \ えぇ〜っ!! /                「 …あらっ、アタシ 大事な事 言い忘れてました。
                                  マサオ君なら もう部屋を出て、
          '´ ̄ ヽ         ソンナニ         今はお姉さんの部屋に
   彡 ⌒ ミ( ノノ)) )〉  ∧∧     オドロカナクテモ…  あの坊やと一緒に居ますわ。」
   (,; ゚Д゚)_.リイ.゚Д゚ノil  (; ゚Д゚)     ∧∧
   ( つ (_(()、;.o:。 と旦  つ.  (゚ii :::;;)
      ) .) ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|ノ    U:::;;|
                      | :::;;`〜
51☆ のら猫 ☆:03/03/01 22:27 ID:???
明日は 所用により、うpはお休みさせて頂きます。m(__)m
52のら猫@続きです:03/03/03 19:57 ID:???

── 事の顛末は こうだった。しぃと坊やが ダイニングから出ると、2階の廊下に お姉さんが
立っていて、2人をそっと手招きした。2人が階段を登って、お姉さんが マサオの部屋のドアを
コツンと1回 ノックすると、マサオの部屋のドアが すぅっと開いた。そこでお姉さんは、すかさず
しぃ達に “シーッ! 静かに…!” と言ってから、2人を マサオの部屋に招き入れたんだそうだ。

          ∧∧       「 私たちが1階に下りてすぐ、お姉さんがマサオ君に
         (゚ー゚*)      声をかけて、そしたらすぐに マサオ君、部屋の鍵を
      ∧∧ ⊂ Uヽ      自分から開けたんだって。」
     (,, ゚Д) ⊂ ⊂ )〜
    ./ | つつ .   / ̄|.   『 じゃあ あの時お姉さん、ベッドで横になっただけで
   |.〜   |.   ̄| . . .::|.    寝てなかったんだろうか。一体どんな声をかけて、
   |   し`J.  ,,,;;|.....:::::|.    マサオにドアを開けさせたんだろうなぁ?』
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「 さぁ? それはアタシにも話してくれなかったわ。でも、いいじゃない。とにかくそれで、
 アタシは お姉さんとマサオ君が ゆっくり話せる時間を稼ぎに、一人で1階に戻ったの。」

『 んじゃ、しぃは別に マサオが出てきた事を話すの、忘れてた訳じゃなかったのか。』
53のら猫:03/03/03 19:58 ID:???

「 下に降りてみると、アタシがご両親にお願いしたかった事、ギコ君が全部話してくれてて
 びっくりしちゃった。アタシも ご両親には、これ以上マサオ君を責めたりしないで欲しかったから。」

『 ちょうど俺たちの目の前で マサオを叱らないと約束したばかりだったから、さすがのお母さんも、
 何も言えなかったみたいだしな。…まっ、大変だったけど、あの家に行ってみて 良かったな。』

「 そうね。ご両親がどんな方なのか。どんな考えを持ってらしたのかが 分かったものね。」

『 そうだな。…しかし、お願いだけは してみたものの、あの両親 というよりあの母親が、これですぐに
 変わってくれるとは、到底思えねぇなぁ。』

「 そうねぇ。今の季節で言えば、梅の花が 寒風の中の日差しを頼りに、
 少しずつ蕾を膨らませるようにしか、小森一家の機能回復は進まないでしょうねぇ…。」

『 ん…。あっ! 思い出した。』
54のら猫:03/03/03 20:02 ID:???

俺はその時になって、やっと思い出した。ずっと以前、モナーと話した時の事を…。

      ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
 『 双葉が出ずに、本葉が出る植物はないモナ。蕾が膨らまずに花が咲く事もないし、
  花が咲かずに、実を付ける木だってないモナ。
  蝶々だって、必ず さなぎになってから 空へ飛び立つモナ。月曜日の後には 必ず
  火曜日が来るし、ドレミの音階も 虹の七色も、ちゃんと順番に並んでいるモナよ。』

         ∧∧   ∧_∧
         (,, ゚Д゚)  ( ´∀`)
        /  |   (  つ つ       (○)
      〜OUUつ _( ̄__)__)_     ヽ|〃

 『 自然は みんなちゃんと順番を守ってる。だから上手く生きて行ってるモナ。
  なのに、人間だけが 時々その順番を守らないで、余計に苦しんでるよ。』
      ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
55のら猫:03/03/03 20:08 ID:???

          ∧∧          「 …へぇ〜。今のアタシたちには ぴったりな言葉ね。
           (゚ー゚*)      .    ねぇギコ。アタシ思うのよ。お父さんも お母さんも、きっと
      ∧∧ ∪ Uヽ         急ぎ過ぎたんだと思う。早くマサオ君を立派にしよう、
  .   (,, ゚Д゚) ⊂ ⊂ )〜        早くマサオ君を 立ち直らせようって、焦り過ぎたのよ。
    ./と  |)     / ̄|      だけど そうやって焦った分、マサオ君の心の成長は、
   | .〜.   |.    ̄| . . .::|      ご両親の期待と要求に追い付けなかったの。そして
   |  し`J.  ,,,;;|.....:::::|      その辛さを、マサオ君は 一人で背負い込んで…。」
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
『 ふ〜ん、そうなのかも知れないなぁ。』

「 モナーさんが、最近は アタシたちが何を言っても “大丈夫モナ” としか言わないのも、
 何だか そのギコの話で分かった気がする。…つまりね、こういう事よ。もし前に、
 私たちが あの公園に連れて行かなかったら、お姉さんは 母親とケンカしなかったかも
 知れないわ。ケンカがなければ、マサオ君が立て篭もりをする事もなかった。
 だけど それがきっかけで、アタシたちは ご両親がアタシたちの助けを必要としている時に
 上手く彼らに会う事が出来たし、ご両親に 自分たちの願いを伝える事も出来たのよ。」
56のら猫:03/03/03 20:27 ID:???

『 そりゃつまり、怪我の巧妙ってやつだな。』

「 ううん、そうじゃないの。お姉さんのケンカも、マサオ君の立て篭もりも、1つ1つを見れば、
 厄介で面倒で 気が滅入る事かも知れない。でも こうして思い返してみれば、
 それが発端となって また新しい進歩だって、こうして 始まってるのよ。分かる?
 それがつまり、モナーさんがギコに話した事と 同じなんじゃないかって思うの。」

『 あのケンカも 立て篭もりも、全部に意味があるって そういう事か?』

「 きっと そうだと思う。あのケンカも、きっと花が咲く前には 必ず蕾が膨らむように、
 避けてはいけない、大切なステップの1つだったのよ。…違うかしら?」

『 そうなのかなぁ?』
57のら猫:03/03/03 20:28 ID:???

「 アタシたちは いつも、自分のすぐ目の前の 小さな1つ1つの問題ばかりに 気をもんでしまうわ。
 たった1つの問題に直面するだけで、あたかも 人生の一大事が起こったみたいに、
 泣いたり 叫んだり 落ち込んだり ひねくれてみたり…。
 でも モナーさんの言うように、全ては必要なステップで、どんな事も 本当は順番にしか進まなくて、
 辛い事も 悲しい事も 挫折も失敗も、その道を進むには 避けて通れないって覚悟があれば…」

『 目の前の小さな問題に、いちいち 右往左往しなくて いいってか? 』

「 そうよ。焦って、自分をさらに苦境に追い込んだりしないで 済むかも知れないわ。」

『 今回の事が、本当に そうだったのかは分からねぇ。でも、そう考えた方が いいって事は分かる。
 そう考えた方が、上手く行く気もするよ。
 …しかし、モナーがそんな話をしてくれてた事なんて、すっかり忘れてたよ 俺。』
58のら猫:03/03/03 20:37 ID:???

          ∧∧          「 忘れていて 当たり前なのよ。人間は 今の自分には
           (゚ー゚*)   .       関係ないって思う事なんて、忘れてしまうものなんだから。
       ∧∧ .∪ Uヽ   .     今 アタシたちがやっている事も、自分には関係ないって
      (゚Д゚ ,,) ⊂ ⊂ )〜  .     思う人からみれば、何の興味もない事なんだもの。」
    ./(|  ∪     / ̄|
   |  .|   〜 . ̄| . . .::|.      『 同じ火事でも、対岸の火事と 隣の火事じゃあ違うって
   |.. .し`J.  ,,,;;|.....:::::|   .    いう事なんだろうな。自分の家が燃えるかも知れないって
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄      事態にならない限り、人間はいつでも のん気に他人の
 家の火事を見物する 野次馬なのか。…そうだな、俺たちだって そうだったんだからな。』

「 そうよ。こんな話 詰まらないって、聞く気もしないって人は、恵まれているのよ。
 恵まれてるって事 イコール幸せとは言えないかも知れないけれど、恵まれてるって事は確かよ。
 誰だって、自分がその立場に立ってみなければ 本当の気持ちなんて分からない。
 恵まれない状況に立たされてみないと、今までの自分が恵まれていたって 気付けないの。
 分からない人に、分からない事を責めてみても 仕方ない。
 ただ それを分かってあげられる人が助けてあげれば、それでいいのよ…。」
59のら猫:03/03/03 20:45 ID:???
         ________________
       ./ / / / / / / / / / / / / /ヽ
      / / / / / / / / / / / / / /`、 ヽ
     ./ / / / / / / / / / / / / / ===、ヽ
    ../_/ ./ / / / / / / / / / / /
    |=.   酒| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|:|::||  .|
    |=夜 . =:| | ̄ ̄ ̄|| ̄ ̄ ̄|| ̄ ̄ ̄| | ||  .|
    |=勤 処.|ノ     ノ      ノ    ノ | ||  .|
    |=屋 . =:|____ノ_____ノ____ノ .| ||  .|
     ~~~~~~~ (,, ´Д`)――(`  ,,,,.) ┴―┴┴┬┴┐
  . . . ..┌┴ /  つ― ⊂    ) ―――┬┘ . ..:|
        └‐ (,,   ̄)――(._    ) ――┬┴―┬┘
         | | ̄ ̄|ノ   ( | ̄  ̄|  ...:.::::|    |
         | |    |   ..:::::::|     | .. :..::::::::|
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「 …いやぁ〜、そうだったんですか。これはこれは 失礼しました。ハハハ。
 わたしゃてっきり、自分と同じように 今も お子さんの事で悩んでいるのかと…。」

『 いえいえ、そんな事は どうかお気になさらずに。私だって 小森さんと共に
 引き篭もりの子供と戦う、言わば戦友ですよ。』
60のら猫:03/03/03 20:47 ID:???

      | ||  .|       「 いや、実は つい一昨日もね、ちょっとまた ひと悶着
      | 彡 ⌒ ミ       .  ありましてねぇ。娘と嫁が大騒ぎするもんで、仕方なく
     ┌ (,, ´Д`)―     わたしゃ会社を 休む羽目になったんですよ。」
   ┌┴ /  つ――
   └‐ (,,   ̄)――  .  『 ほぅ? そりゃまた どういう経緯ですか?』
     | | ̄ ̄|ノ
                    「 それがもう、しっちゃかめっちゃかで…。子供の友達って
 のが、3人も自宅に乗り込んで来ましてね。説教されてしまいましたよ。」

『 なるほど。私で良ければ お話を伺わせて頂きますよ。どうです、もう一杯?』

「 あっ、こりゃどうも。いやね、実は未だに 何でそうなったのかは、良く分からんのですよ。アハハ。」
61のら猫:03/03/03 20:51 ID:???

『 お姉さんもさ、決して 標準以下の器量って訳じゃないよな。
 だけど、今まで恋人の一人も 出来た事が無いっていう。
 こんな事言うのは 不謹慎なのかも知れないけど、世の中には お姉さんより
 不器量で、お姉さんより性格の悪い女に彼氏が居るって事だって 一杯あるのにな。』

  .∧∧ . ∧ ∧           「 そうよね。結局は お姉さんが前に言ったように、
  (,, ゚Д゚)  (゚ー゚*)            根本的な自信が 自分にあるかないかって所が
 ⊂   つ  |  U              問題なんでしょうね。」
  0  |〜  |  |〜
     J    U ヽ)         『 って、あれか? あの 根拠や理由の要らない
 ̄⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒⌒ ̄⌒.      本当の自信ってやつの事を 言ってるのか?』

「 えぇ、そうよ。アタシも あれから色々と考えてみたの。人間を支えている自信って、
 結局は どんなものなんだろうって。
 人間は誰だって、生きて行く為に 自分への自信を必要とするわ。
 女の子が 一生懸命に綺麗になろうとするのも、本当は男の人に振り向いてもらう
 為って事以前に、自分が綺麗で素敵な女だって そう思える自信が欲しいのかも。」
62のら猫:03/03/03 20:55 ID:???

『 ん〜。それなら、男が高い地位に就きたがるのも、格好良い車を欲しがるのも、
 強くなりたいって思う事も、きっとそうなんだろうな。』

「 みんな 自分が素敵だって思いたいのよ。生きる価値がある人間だと 感じていたいの。
 お金や ハンサムな彼氏や 綺麗なドレス、学歴も 能力も 特技だって、みんなそう。
 でも、そうやって お金や努力を通して手に入れる自信は、アタシたちの心を満たしてくれる
 根本的な自信とは、少し違う種類のものかも知れない。
 却って 終わりの無い競争に、アタシたちを駆り立てるものだと思うわ。常に自分を誰かと
 比べて考える自信だからね。」

『 これを手に入れたら 次はあれが欲しいって感じだな。確かに何も持たずに、
 ただ裸の あるがままの自分に自信を持てる人間なんて、そうは居ないからなぁ。』

「 えぇ。…実はみんな その “自信” に飢えているのかもね。素の自分のちっぽけさや
 弱さを、ホントは誰もが 嫌と言う程知っているの。だから必死になって、弱い自分を
 他人から隠して、自分への自信を確認できる何かを 探し続けるのかも知れないわ。」
63のら猫:03/03/03 20:57 ID:???

『 じゃあさ、結局 お姉さんの言った 根拠や理由の要らない、本当の自信って 何なんだろう?』

「 …たぶん、記憶だと思うの。思い出よ。その1つ1つを 思い出す事は出来ないけれど、
 お父さんやお母さんに、お前はいい子だよって、お前は大切な子なんだよって、そんな風に
 言葉と態度で示してもらった、子供にとって 宝物のような、優しく 暖かい記憶なんだと思う。」

  .∧∧ . ∧ ∧           『 マサオのお父さんやお母さんだって、小さい頃は そうやって
  ( ゚Д゚,,)  (゚ー゚*)           自分の子供に接して来たんじゃないのか?』
 ⊂   つ と  U
  0  |〜  |  |〜           「 えぇ、親御さんが急ぎ過ぎたっていうのは、そこだと思う。
     J    U ヽ)          もう少し、そう せめて小学校の高学年ぐらいまでは、
 ̄⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒⌒ ̄⌒     親に対して 子供なりに口答えの一つもできるくらいの年までは、
 あるがままの自分を受け入れて 愛してもらったっていう 確かな思い出を、マサオ君とお姉さんの
 2人に、作ってあげた方が 良かったんじゃないかしら?」
64のら猫:03/03/03 21:00 ID:???

「 お姉さんの話を聞いても、マサオ君の話を聞いても、あのご両親の マサオ君たちへの
 愛情の与え方は 無条件じゃなかったと思うの。親の言う事を 素直に聞けた時だけ、
 テストで良い成績を取った時だけ 誉められたのね。
 そうじゃない時は、容赦なく責められたの。自分たちが親の期待に添えなかった時には、
 “お前は 何てダメな奴なんだ!” って、なじられたのよ。」

『 だから お姉さんは、いつも 親の顔色を窺うような、“自分のない子供” になってしまった。
 何をするにも、自分の意志や欲求より 親の満足する自分を、お姉さんは無意識に
 演じるようになっていった。それだけが、お姉さんにとっては 親から愛される方法だった…。
 そうか! マサオは それを受け入れる事が出来ずに、といって反抗する事も封じられて、
 唯一自分に出来る “引き篭もる” って形で、それを拒絶していた訳か…。』
65のら猫:03/03/03 21:07 ID:???

「 そうよ。だから今 お姉さんなんかは特に、自分が 何をしたいのかが分からずに 苦しいんだと、
 そう思わない? 自信って、純粋な自分の意志なのよ。親や 誰かの為ではなくて、自分の為に
 自分の欲求に素直に従う事よ。そうやって培った 経験や痛み、喜び、全てが自信なのかも。」

『 親や先生の言う事だけを 素直に守り続けて大きくなった。…そういう子供は 大人になると、
 今度は常に、友達や 先生や 上司・恋人の顔色を窺うような人間になってしまいがちだって、
 本にも そう書いてあったもんなぁ。そういう人って 確か、自分が 常に誰かの期待に応えてる
                  って感じられないと、たちまち 不安になるんだっけな?』
   ∧∧   .∧∧
  . (,, ゚д゚)っ (゚o ゚*)   .  「 うん、そうよ。自分が接する人の向こう側に、いつも無意識に
   と  ,,/  と|  つ   .     親の姿を感じてしまうの。だから 必要以上に、嫌われる事を
  〜|  |    .|  |〜    .  恐れるの。期待に応えないとって、頑張り過ぎてしまうのよ。
   し^J    (/`J       “そうしなければ 愛されない” って、信じ込んでしまってるから。』
 ̄⌒ ̄ ̄ ̄ ̄⌒⌒ ̄⌒
66のら猫:03/03/03 21:11 ID:???

     | ||  .|   ∧,,∧     『 …なるほど。それは大変でしたなぁ。まったく他人というのは
     | ||  .|  ミ゚Д゚   .     事情も知らずに 奇麗事を並べるものですよ。
     | 彡 ⌒ ミ (ミ          引き篭もりといっても、体は元気ですしね。飯も一人前に食う。
    ┌ (,, ´Д`)―――       毎日 学校にも行かずに、TVに ゲームに パソコン三昧。それを
  ┌┴ /  つ―――⊂        こちらが注意しても、ムスッとした顔で睨み返すだけで、
  └‐ (,,   ̄)―――(     .  返事もしない。そんなんじゃあ、優しい言葉なんてものを
    | | ̄ ̄|ノ                かけてやる気も 失せるってもんですよ。』

「 でしょう?! 親だって人間なんですよ。それをまるで 神さまみたいに寛容になれって言うんです。
 冗談じゃないっすよ。俺たちの子供の時代は、親父には ビシビシ叩かれて大きくなったんですよ。
 それを今さら、叱らないで下さい、違う接し方を試して下さいなんて 急に言われても。でしょう?」

『 …と、私も思っていました。そう思っている間は、決して 息子の引き篭もりは 治りませんでしたね。』

「 ……は?」

『 今さっき そのしぃさんってのが、引き篭もりは 家庭内暴力と似ているって言ったと、小森さん そう
 仰ったでしょう? 私も知らなかったんですが、実は 引き篭もりの子供や 重い鬱病の子供は、
 目に見えない末期がん患者と同じですよ。いつ死んでもおかしくないんですよ。』
67のら猫:03/03/03 21:14 ID:???

「 い、いや しかし……。」

『 まさか 自分の子供が、そう簡単に死ぬ訳はないと思われるでしょう? いや、そう思うのが普通です。
 でもね、私が参加した勉強会には、お子さんが自殺未遂をしたり、半年間も失踪したりという親御さんが
 山ほどおられました。1度その勉強会に講演に来られた方なんかは、マサオさんと同じ 18歳の時に、、
 お子さんを 本当に自殺で亡くされた方でした。…それはもう気の毒でしたし、私も背筋が寒くなりました。』

    | ||  .|   ∧,,∧     「 そ、そうなんですか? うちのも、どうも何回か その友達に
    | ||  .|  ミД゚ ミ      死ぬとか死なないとか、そういう事を言ってたらしいんですが…。」
    | 彡 ⌒ ミ (ミ
   ┌ (,,;´Д)―――(`  .   『 さぁ、どうでしょうか。いやね、小森さん。お子様を自殺で亡くされると、
 ┌┴ /  つ―――⊂        それをどう隠しても、どこからか噂が立つんだそうですよ。
 └‐ (,,   ̄)―――(     .  そのお子さんを亡くされた方も、会社や近所で ヒソヒソと陰口や何かを
   | | ̄ ̄|ノ       し .   .    言われたらしくてね。やむなく会社を退職されましたし、
                        奥様は それが原因で、ノイローゼになって入院したそうです。』
68のら猫:03/03/03 21:17 ID:???

   ∧∧ . ∧ ∧           『 とにかく 父親も母親も、自分の教育に間違いはなかったと
  (゚Д゚ ,,) . (゚ー゚*)           自信満々なのが 俺には信じられんよ。』
 ⊂   O.   |  つ
  0  |〜  |  |〜           「 子育てって、もしかしたら ある程度は不安を持ちながらでないと、
     J    U ヽ)           ダメなのかもね。強過ぎる信念は、時として人を縛り付け、
 ̄⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒⌒ ̄⌒       窒息させてしまうのよ。特に 親の、子供に対する信念はね…。
                         . 今 その信念が揺らいで、2人共 自信を喪失してるのは、
 誰が見ても分かるのに、それを認める勇気を、あの お2人はまだ 持てないんでしょうね。」

『 親にとって 子育ての失敗を認める事は、自分の人生の半分を否定される事に等しいって、
 そう 何かの本に書いてあったもん。そう簡単には行かないさ…。
 じゃあ 明日は俺、久しぶりにモナーに会ってくるよ。あいつ昨日も 銭湯に来なかったしな。』

「 うん。アタシは行けないけど、ゆっくり モナーさんと話してきてね。」

『 おうっ、じゃあな!』
69のら猫@今日はここまで:03/03/03 21:43 ID:???

              ______        「 いや、今日もまた 長々とお話につき合わせまして…。」
    彡 ⌒ ミ    . [__l二l|__
   (* ´Д`)     (    ,,) .     『 とんでもない。同じ悩みを持つ者同士が助け合わなくて、
  ( U  つ   . と    ) .    何が世の中 良い事なんてありますか。
  . ) ) )      |.  |  |        私は毎晩、ここで飲んだくれてますからね。困った事や
  (__)_)    . (__)___)   .  お悩みがあれば、いつでもお越し下さい。』

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

…やれやれ。なだめすかして おだてを言って、脅し文句の一つも吐いて。
そうでもしなきゃあ 小森さん、あなた息子さんの為に 本気で変わろうとは思えませんか?

いや、言うまい。自分だって そうだったんだから。            _____
自分だって、息子の人生を狂わせてしまったんだから。        [___l二l|__
俺に小森さんを責める資格はないな…。                (・∀・ ,,)
                                         (    )
モナー君、君のお願いを聞くのは 思ったよりも大変だ。何しろ   .   | | |
昔の自分自身を、こうして見せ付けられるんだからねぇ…。     (__)_)
70のら猫@続きです:03/03/04 21:54 ID:???

翌日、俺は4日ぶりにモナーに会った。

            ∧_∧           ⊂二⊃
      .   ( ´∀` )
            O _  つ
...,,,, ..,,,.....,......,,,,...( (  ∧∧ .....,,.... ..,,,,, ...... .......,,...,,,,... ,,..,,... ..,.
;;::::::,,,::;;;;::: | ̄ ̄.し し.(,,.  /) ̄ ̄ ̄| ̄,,;;:::: ;;;;:::::::: :::::;;; ;;::;
;;:::::::,,,::;;;| ̄ ̄ ̄ ̄ ⊂  ノ ̄ ̄| ̄,,;;:::::::,,,::;; ;;:::::::: :::::::::::;;
;;::::::: | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 〜  つ ̄| ̄,,;;:::: :;;:::::::: :::::;;;;;::::::: ;;:::::;:
;;: | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄し´ ̄| ̄,,:::::::,,,::;;; ;:::::::: :::::;;;::::::: ;;::::; :

「 よぅっ! 元気だったか、モナー。」

『 もちろんだモナ。ギコも元気そうで なによりだモナ。』
71のら猫:03/03/04 22:02 ID:???

本当にコイツは いつも変わらない。穏やかな笑顔が そのまま普段の顔になっていて、
またそれが 一つも厭味じゃないんだ。
モナーの過去については、あの日 モラ山さんに聞いた以上の事は、俺だって知らない。
ただ、あの坊やに モナーが教えたという “柔らかくなる練習” ってやつを極めれば、
もしかしたら人間は、モナーのようになれるのかも知れないとも思う。

俺は モラ山さんから モナーの昔話を聞いてからは、何となく マサオやお姉さんの話を
モナーには 話しづらくなっていた。モナーの方も、俺がマサオの事を言い出さない限りは、
決して自分から それに深く関わって来ようとはしなかった。

…と いっても、俺の最近の関心事は 全てマサオの件から始まり、そこから色々と頭に
浮かんで来る事ばかりだった。結局俺は、それを モナーに聞いてもらい、安心する為に
会いに来ている気がする。モナーに俺の考えを ただ何も言わず聞いてもらうだけで、
俺は “これでいいんだ” って、何故か そう安心する事が出来るんだ。
72のら猫:03/03/04 22:05 ID:???

           ∧_∧  ∧ ∧          『 …ふ〜ん、そうなのかモナ。』
     .    (´∀` ) (゚Д゚ ,,)
          と と )  O ⊂|          「 あぁ、いよいよ俺たちも あの両親たちに
...,,,, ..,,,.....,......,,,,...( ( .  ) ( .(  ノ〜......,,.... ..,,,,  戦いを挑まないといけないのかも知れない。」
;;::::::,,,::;;;;::: | ̄ ̄.し し  ̄ ̄しし'  ̄| ̄,,;;:::: ;;;;::
;;:::::::,,,::;;;| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄,,;;::: :::,,,::;; ;; 『 戦いって表現は、あんまり好きじゃないモナ。』
;;::::::: | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄,,;;:::: :;;:::::::: :::::;
;;: | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄,,:::::::,,,::;;; ;:::::::: ::::: 「 ん? じゃあ 何だと思えばいいんだ、ゴルァ?」

『 ご両親は マサオ君にとっても お姉さんにとっても、決して敵じゃないモナ。話をする相手だよ。
 分かり合わないといけない親子なんだよ、ギコ。
 ギコが ご両親を、自分たちの敵だと思った時から、ご両親が ギコを敵だと思った時から、
 お互いを どこまでも傷付け合う争いが、お姉さんたちまでもを巻き込んで 始まってしまうかも
 知れないよ? それは、今までご両親が マサオ君たちにして来た事と、同じじゃない?』

「 …そうか。」
73のら猫:03/03/04 22:07 ID:???

『 ギコの話を聞けば、お姉さんも最近やっと自分がどうして 今のような人間になってしまったかが
 分かり始めて来ているみたいだモナ。』

「 うん。俺としぃが2人で話して、きっとそうだって思った事は、隠さずにみんな お姉さんにも
 聞いてもらってる。その上で、お姉さんが それが正しいかどうかを判断してもらえばいいと、
 俺も しぃも そう思ってるよ。」

           ∧_∧   ∧∧          『 マサオ君やお姉さんに、ご両親に対する怒りや
     .    ( ´∀`) (д ゚ .,,)     .      復讐心が起きてしまうのは、悲しいけれど
          と と )  O ⊂|           ある程度は仕方の無い事なんだモナ。』
...,,,, ..,,,.....,......,,,,...( ( .  ) ( .(  ノ〜......,,.... ..,,,,
;;::::::,,,::;;;;::: | ̄ ̄.し し  ̄ ̄しし'  ̄| ̄,,;;:::: ;;;;:: 「 …だからって、それをまた いけない事だと
;;:::::::,,,::;;;| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄,,;;::: :::. ::;; ;;  抑え付けるのは、今まで親父さん達が マサオ達に
;;::::::: | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄,,;;:::: :;;:::::::: :::::;  やって来た事と 同じになっちまうぜ?」

『 だからこそ、ギコたちが お姉さんやマサオ君に加勢する事があってはいけないんだモナ。
 今の小森家のご両親と姉弟は、水と油みたいなものだよ。水と油が交じり合わないって時に、
 ギコはそこに さらに水を足したり、油を足したりするかい?』

「 そんな事で、水と油は交じり合わねぇよ。水も油も足さないで、石鹸入れるよ。」
74のら猫:03/03/04 22:09 ID:???

『 じゃあ、ギコは 頑張って しぃちゃんと2人、石鹸役になるんだよ? 無駄な水や油を加えれば、
 その分 石鹸だって たくさん必要になるんだからね?』

「 ……うん、分かった。いつもながら 良く分かったよ。自分たちの役割がさ。」

『 石鹸入れるだけじゃあ、水と油は混ざらないモナ。1つの瓶に入れて、よくシェイクしないとね。』

「 あ、なるほど。」

『 かき混ぜる時には みんなが混乱するだろうし、もしかしたら、みんなが少しずつ
 ぶつかり合って 傷つかなきゃならないかも知れない。
 誰かを責める事では、この問題は決して解決しないって事が分かるまで、時には
 お姉さんたち家族が 争い合う事にだって、ある程度は目を瞑る必要だってあるんだモナ。』

「 そうか。やっぱりそれも、お互いが “体験” して、乗り越えないとダメなんだな…。」

『 ギコたちも、場合によっては 両方から責められるかも知れないよ。耐えられるモナか?』
75のら猫@今日はここまで:03/03/04 22:13 ID:???

「 それは構わねぇ。こういう事は、同じような痛みを知ってる人間にしか出来ない事だって、
  しぃも そう言ってくれてる。一時は しぃも 何か消極的になってたけど、今は 面白いってさ。
 …いや、面白がってるんじゃないんだぜ? ただ 自分の心の事が 色々と分かってきて、
 人間を見る眼も変わってきて、面白いって言ってただけだ。」

『 しぃちゃんも きっと一人悩んで、それで最後には 自分の意志で、ギコと一緒に
 どこまでもやってみようって、そう決心が付いたんだろうね。ただ ギコについて来ただけなら、
 今頃はもう しぃちゃん、きっと嫌になって投げ出してるモナよ。』

           ∧_∧   ∧∧          「 自分の意志か…。大切なんだな、
     .    ( ´∀`) (ー.゚ ,,)          自分で考えて 自分で決めるって事は。」
          O _  つ O ⊂|     .
...,,,, ..,,,.....,......,,,,...( ( .  ) ( .(  ノ〜......,,.... ..,,,, 『 1度決心すると、女は男の何倍も 粘り強いモナ。
;;::::::,,,::;;;;::: | ̄ ̄.し し  ̄ ̄しし'  ̄| ̄,,;;:::: ;;;;::  強い味方が居るんだから、安心して石鹸役を
;;:::::::,,,::;;;| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄,,;;: ::: ,,,::;; ;;  頑張るんだモナよ。あはは。』
;;::::::: | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄,,;;:::: :;;:::::::: :::::;
76のら猫@続きです:03/03/05 21:36 ID:???

     ./ / / / / / / / / / / / / / ===、ヽ
    ../_/ ./ / / / / / / / / / / /
    |=.   酒| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|:|::||  .|
    |=夜 . =:| | ̄ ̄ ̄|| ̄ ̄ ̄|| ̄ ̄ ̄| | ||  .|
    |=勤 処.|ノ     ノ      ノ    ノ | ||  .|
    |=屋 . =:|____ノ_____ノ____ノ .| ||  .|
      ~~~~~~~――――― (,, ・∀) . .― ./⊃⌒ミ
  . . . ..┌┴――――― (   つ―― ヽ(Д` ,, )
        └‐――――――(._    ) .――┬ ヽ.  し ) ))
         | | ̄ ̄|      | ̄  ̄|ノ  ...:.::::| く く く
         | |    |   ..:::::::|     | . :. .::::::::| (_(_)
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「 あ、どうも。また 今夜も、お邪魔してしまいました、あはは…。」

『 何をそんな他人行儀な…。ささっ、どうぞ、私も実は 小森さんとお話するのを
  いつもここで 楽しみに待ってるんですよ、あはは。』

「 いやぁ〜、そう言って頂けると…。」
77のら猫:03/03/05 21:37 ID:???

    | ||  .|   ∧,,∧       『 …如何ですか、あれから奥様の様子は?
    | ||  .|  ミД゚ ミ ____   .    奥様は奥様で、お子様の時分に、色々と
     彡 ⌒ ミ  (ミ  [__l二l|__ .   厳しい教育で ご苦労なされていたのでは?』
   ┌ (,,;´Д)――― (`  ,,,)
 ┌┴(  つ日――⊂ .  ).   「 えぇ! もう、わたしゃ ビックリしましたよ。
 └‐ (,,   ̄)―――.(   . )    モラ山さんの言う通りでしたね! 妻の父親は
   | | ̄ ̄|ノ       し| ̄ ̄     私以上に 厳しく妻を躾たらしいですよ。」

『 やはり そうでしたか…。どうか小森さん、奥様がその話をした時は、そのご苦労を
 心から労わってあげて下さい。』

「 妻は よく泣く人間という訳じゃあないんですがね、子供の頃の話をしてくれた時は
 珍しく 涙ぐんでましたよ。おかげ様で、今朝は 少し気分もスッキリしたようです、えぇ。」
78のら猫:03/03/05 21:39 ID:???

「 ねぇ、見て ギコ。今日の午前中に、お姉さんからの初メールが来たのよ。」

『 そうか、やっと メールの打ち方をマスターしたか。。マサオに パソコンの使い方を教えてもらえば、
 姉弟の会話の機会も増えるし、お姉さんの今のバイトや、これから先の就職にだって きっと
 役立つからな。まさに 一石二鳥ってやつさ。』

      ∧ ∧     ∧ ∧         「 それだけじゃないわ。お姉さん、早速
      (* ゚ー゚)    (゚Д゚⊂ヽ ))    .   アタシたちが探して 教えてあげた、
       / つ || ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  ,)〜  .    引き篭もりの子供を抱える家庭の
    . 〜(, |\||  VAIO  |_(___つ      自助グループのホームページや何かにも
       '\,,|==========|        .   行って見たそうだわ。」

『 うん、そうか。悩みを抱えるのは、何も自分たち一家だけじゃないって判れば、励みになるさ。
 他には? 何かそれ以外の事も 書いてあるのか?』

「 え〜と…。お母さんとの冷戦状態は、残念ながら まだ続いています。今朝は何故か 少しだけ
 元気が戻ったようでしたが、つい2〜3日前までは 体調が優れず、パートも休んでいました。
 ですが、まだ母は あの日以来 私たちを見ると、相変わらずオドオドして目を逸らせます…」
79のら猫:03/03/05 21:40 ID:???

   ||  |       ......| .. .. {=} . ..|     ......|  ||::;;}   『 奥様は、きっと 戸惑ってらっしゃる
   ||  |       ......|____. (ω)  .|     ......|  ||::;;;{     んですよ。人間ってのは、一朝一夕
   ||  |    __[l二l___|     彡 ⌒ ミ  ...|  ||::;;}    に出来上がるものではないです。
   || ノ___ ( ・∀・)___(´Д` ;)  .ノ  ||┘    それはつまり、人間は一朝一夕には
   ||       ( つ  つ    ⊂  し ).    ||      変われないって事でもありますから。』
   ||   ,――――日―――――日―――、 ||
   || ./ ̄ ̄ ̄∬ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'\ .    「 そ、そうなんですかねぇ。」

『 私も結構 頑固な性格でしてね。だからこそ 良く分かるんですが、結局 一番頑固な人間が、
 一番苦しむんですよ。私の家の場合は、私が一番頑固だったんですよ。妻は もう早くから
 子供の為に 自分たちを変えようって、そう私に言い続けてたんです。』

「 えっ? そうなんですか!? 意外ですな。モラ山さんのような方が…。」

『 いわゆる内弁慶ってやつですな。根が我が侭な分、外では社交的に振舞ってます、ははは。』

「 まぁ 私としては、この前みたいに 親子で大喧嘩ってのも困るんですが、といって 妻があぁも
 意気消沈していますと、それはそれで 心配になりまして。」
80のら猫:03/03/05 21:41 ID:???

『 いやいや、小森さん。そこは勘違いなさらんで下さい。別に ケンカのない家庭が、素晴らしい
 家庭という訳ではないと思います。経験者の私が 正直に言うんだから、間違いありませんよ。
 以前の私は、妻の文句も 子供の口答えも、一切許さないような父親でした。
 自分としては、厳格な父親を演じていたつもりでしたが…、子供の眼には 私という父親は
 単なる暴君としか映っていなかったようです。』

「 はぁ…そうなんですか。」

『 表面上は ケンカなどない平和な家庭に見えても、以前の我が家のように、実は 親子ゲンカすらも
 出来ないような家庭では 意味がありません。親子ゲンカの出来ない家庭とは つまり、
 親が一方的に 子供を叱り付けるだけの家庭です。たとえ 子供の方に非があって
 過ちを犯したとしても、子供には子供の言い分があります。それを 全て “甘えだ、言い訳だ!”
 と捉えてしまって 子供を断罪するだけでは、子供の立場がありません。』

「 …うむむ。」
81のら猫:03/03/05 21:51 ID:???

『 親だって 決して万能じゃありません。親の知らない事情だって、子供同士の世界には
 あったりするもんです。小森さんの子供の頃を思い出されてみても、きっとそうだったはずです。
 本当に良い家庭とは、親子が互いの立場を尊重しつつ、きちんと ケンカが出来る家庭ですよ。
 そうでなければ、子供は大きくなると、自分の思ったことも満足に人に言えないような、
 自分の意見や考えに自信の持てない “イエスマン” になってしまいます。』

     | ||  .|   ∧,,∧     「 …なるほど。私も現場で若い者を指導する立場ですがね、
     | ||  .|  ミ゚Д゚   .     とにかくもう 最近は、そういう奴ばかりですわ。
     | 彡 ⌒ ミ (ミ          昔はよく、仕事場で 派手なケンカもあったりしましたがね。
    ┌ (,, ´Д`)―――       きょうびの若い者は、口ではハイとしか言わないで、
  ┌┴ /  つ―――⊂        後で 陰でコソコソと悪口を言いよるんですな。それも、みんなで
  └‐ (,,   ̄)―――(     .  固まって。とにかく、自分たちの気に食わない奴と
    | | ̄ ̄|ノ                戦おうとしないで、徹底的に排除しようとするんですわ。」

『 なるほどねぇ。では 小森さんも、ケンカの出来る家庭の重要性は、良く分かって頂けるでしょう。』

「 えっ? そ、そうですな…確かに、時には本音でぶつからないと 分かり合えないのが 人間だと
 は、私も思いますよね。」
82のら猫:03/03/05 21:52 ID:???

        ∧∧          ∧∧    『 そうか。お父さんは その知り合いの人から教わった、
      (* ゚ー)         (゚Д゚ ,,)     勉強会ってのに参加しようと言ってるんだな?
       / つ || ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  つ    でも お母さんの方が、うんと言わない。』
    . 〜(, |\||  VAIO  |_(___つ
       '\,,|==========|    .  「 そうらしいわ…。困ったわね、このままじゃ 今度は
                           お母さんが 家族の中で孤立し兼ねないわ。」

『 それも、必要なステップなんじゃないのか? 放っておけよ。家族の中で孤立する苦しみってのを、
 あの母親も 1度体験してみれば良いんだよ。』

「 あらっ? ギコは この前モナーさんに教わった事を、もう忘れちゃったの? 私たちは、なるだけ
 これ以上 水も油も増やさないようにこそ、努力しなくちゃ。その上で、それでも起こってくる
 混乱や争いには、それが必要なステップだったんだと、甘んじて その痛みを分け合いながら
 みんなで受け止めていくのよ。そして その痛みをバネにして、じゃあ次は何が出来るのかを、
 みんなで一緒に考えて行くの。」

『 …わあったよ。スマン、謝る。』
83のら猫:03/03/05 21:55 ID:???

    |=勤 処.|ノ     ノ      ノ    ノ | ||  .|   .   「 あれも実は頑固な奴でね、行かんと
    |=屋 . =:|____ノ_____ノ____ノ .| ||  .|   .    言い出したら最後、何だかんだと
     ~~~~~~~ (,, ´Д`)――(`  ,,,,.) ┴―┴┴┬┴┐   .  理由をつけて、簡単には動かんのですよ。
  . . . ..┌┴ /  つ― ⊂    ) ―――┬┘ . ..:| .    ただ 講演を聴くのに、何であそこまで
        └‐ (,,   ̄)――(._    ) ――┬┴―┬┘ .    頑なに拒否するのか…。」
         | | ̄ ̄|ノ    (| ̄  ̄|  ...:.::::|    |
         | |    |   ..:::::::|     | .. :..::::::::|         『 無理強いは 良くないでしょうな。』
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「 何か 嫁を行く気にさせる 良い方法を、モラ山さん ご存知ありませんかねぇ?」

『 奥様は、とてもプライドの高い方だと お見受けしました。と 同時に、恐らくは あまり社交的な
 タイプの方でも なさそうですね?』

「 こりゃ驚いた。全くその通りです。あれにも 良い友達が居れば、もう少し イライラも収まって、
 マサオやたちに当り散らすような事も なかったんでしょうなぁ。パートの同僚も、あれに言わせれば
 もうバカばっかりだと。付き合う気にもならんと、そう言いよるんですわ。
 といって、自分より綺麗だと思う女や、自分より賢いと思う女には 近付かない。
 それがつまり コンプレックスっちゅうやつなんですかねぇ?」
84のら猫:03/03/05 21:56 ID:???

『 まぁ 奥様の心の問題も、マサオ君の問題を考えて行くうちに 必ず良くなります。うちの女房も
 すっかり明るい性格に変わりましたしね。くれぐれも忘れてはいけないのは、
 子供を変えるのではなくて、自分たちが変わるんだという 気持ちと覚悟です。』

「 そうですか。マサオの事が解決すれば、妻も良いように変わりますか?」

『 えぇ、保証しましょう。必ず変わります。今まで自分が どれだけ人生を楽しんで来なかったかも
 よ〜く分かるようになりますから。気持ちにも余裕が出来て、心も体も若返りますよ。
 もう 小森さんも、もう一人子供作っちゃおうかってぐらいに、奥様も素敵になられます。』

「 いやいや、あははっ。本当に そうなるなら、私も是非 妻と頑張って勉強しますよ、あはは。」

『 夢を持ちましょうよ、小森さん。引き篭もりの勉強会って聞くと、何だか暗くて、難しい話や
 耳の痛いお説教を 長々と聴かされるイメージがあるでしょう? 奥様が二の足を踏まれるのも、
 きっと そういう事を心配しておられるんですよ。でも実際は 決してそうじゃありません。』
85のら猫:03/03/05 21:59 ID:???

「 明日はアタシ、久しぶりに マサオ君に逢いに行って来るわ。ギコはまた モナーさんの所ね?」

『 うん。俺も本当は マサオや坊やに逢いに行きたいんだけど、何でも 俺に会わせたい人が居るって
 モナーが言うから。忙しい人らしくて、休みの日しか時間がないんだって。
 俺も モナーに相談したい事があるから丁度いいや。』

                        ∧∧   .  「 …例の件ね?」
      ∧∧             (゚.,,  )
      (* ゚ー)っ            / つ     『 そうだ。どうしても 必要だと思うからな。』
       と _|| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   〜 ,ノつ
    . 〜(, |\||  VAIO  |  (( (/    .  「 分かったわ。じゃあね、ギコ。」
       '\,,|==========|
86のら猫@今日はここまで:03/03/05 22:00 ID:???

『 引き篭もりの問題を解決するなんて、そんな風に考えるから 面倒に思えるんです。
 息子と腹を割って話したい。一緒に酒を飲んで、女の話の1つもしたい。息子から相談事の
 1つでも持ちかけられたい。男親なら、誰だってそう思う。それが夢を持つって事です。』

「 そうですねぇ。私も実際問題、マサオと そういう風に、風通しの良い親子の関係には
 なりたいと思いますよ、モラ山さん。」

『 でしょう? つまりね、奥様にも そういう願望は、きっとあるんです。もし 夢を持つって言い方が
 綺麗過ぎるというならば、目の前に 餌をぶら下げるって事ですよ、小森さん。』

   ||  |       ......| .. .. {=} . ..|     ......|  ||::;;}   「 餌をぶら下げる…ですか?」
   ||  |       ......|____. (ω)  .|     ......|  ||::;;;{
   ||  |    __[l二l___|     彡 ⌒ ミ  ...|  ||::;;}   『 そうです。私に 良い作戦があるんです。
   || ノ___ ( ・∀・)___(´Д` ;)  .ノ  ||┘     どうです、ちょっと聞いてみて
   ||       ( O  つ   日と  し ).   ||       頂けませんか?』
   ||   ,――――日―――――――――、 ||
   || ./ ̄ ̄ ̄∬ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'\ .    「 おぉ、是非 聞かせて下さい!」
87☆ のら猫 ☆:03/03/05 22:05 ID:???
★ 明日は面接ですので、うpはお休みさせて頂きます。
88レキそたん ◆GIKO/.g29E :03/03/05 23:37 ID:???
いつも楽しみにみてます。面接うまくいくとよいですね。
のほほんと頑張ってください(´д`)
89☆ のら猫 ☆:03/03/07 22:06 ID:???
レキそたんタソ、読んで頂いて レスまで頂いて、本当にサンクスです。
面接は無事おわりました。結果待ちしながら、また のほほんと描いて行きます。
諸事情ありまして、このお話は 3月半ばまでには終わりにします。
それまではがんがりまっす!(^ー^)ノシ
90のら猫@続きです:03/03/07 22:07 ID:???

何の事はない。会って見れば、モナーの紹介したい人ってのは モラ山さんだった。
モラ山さんは、あの日 俺が会社に乗り込んだ事については、一切 モナーには
話していなかったようだった。

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        ||                   /  ,l|       |::::| 喫茶.l::::|
        ||                 / .    ||       |::::|(゚ω゚)ノ |::::|
        ||               / ./   l|       |::::|ぃょぅ__|::::|
 ____||   ______           /     ||       |◎ :::::::::::::::::..!
  (⌒;;;)| ̄ ̄[___l二l|__ ..| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| (⌒;;)  ̄∧_∧::::::::::::::::::: |
 (  ;;;⌒;;)| .( ・∀・)  ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄(⌒;; ;; ;.(´∀` ∩ :::/),ヘ∧
  , .,.;;;;( ,.,;;;;,)(    つ ̄| ̄ ̄| ̄(⌒;;`;´;`  ,;;;;.,. ,;し    ,ノ ::((゚Д゚ ,,)
 三三三三 . | | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|三三三三三三三i.( ( | . ̄ヽ、 つ  ̄
        (__)_)                    し(_)  ⊂,,ノ〜
//  /  //  /  //  //  //  //      `J
91のら猫:03/03/07 22:09 ID:???

モラ山さんに会った事で、俺の考えていた モナーへのお願いも、一発で解決した。
俺は マサオの両親たちにも、マサオやお姉さんに対する、俺や しぃのような存在が
どうしても必要だと 感じていたからだ。

その話を モラ山さんに話すと、ビックリする答えが返って来た。

            ______         .   「 モナー君には、もう一ヶ月も前から
    ∧ ∧   __[l二l___|  ∧_∧    .  君と同じ事を頼まれていたんだよ。」
  (; ゚Д゚)    (・∀・ ) (∀`  )
   / ⊃⊃  . ⊂    つ.(つ⊂ )  .  『 えぇっ?! 本当ですか?』
 〜(  (     ( (  (   | .| |
   U~U     (_(_). (__.(_)     「 あぁ。そうだよ。」

モラ山さんは お父さんの心情に配慮し、モナーから頼まれている事は伏せて、
屋台の飲み屋でお父さんに声をかけた。そして 半月以上もの時間をかけて、
雑談から徐々に そして自然に、お父さんと親密になって行ったのだという…。
92のら猫:03/03/07 22:10 ID:???

モナーが今まで俺に その事を伏せていたのは、お父さんとモラ山さんが、本当に親密になれるか
どうかが分からないうちに俺に知らせて、失敗した時には 却って俺をガッカリさせるかも知れない
と考えたからだった。

モラ山さんは 上手く行けば、来週の子育て勉強会の講演会に、小森夫妻が そろって来る事に
なるだろうと言った。その講演には、引き篭もりの問題を解決した 家族の代表の一人として、
モラ山さん自身も 講演台に立つ予定になっていた。

俺は お父さんはともかく、あのお母さんが 本当に来るのだろうかとは思ったが、モラ山さんも
モナーも、その点は心配要らないと 自身満々だった。
とにかくこれで、ご両親の方のサポートの心配はなくなった。自分達より年上で、
子育ての経験どころか、引き篭もりの子供を抱える家庭を 見事に立て直したモラ山さんだ。
小森夫妻も、文句のつけようの無いアドバイザーを迎えられた訳だからな…。
     :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
93のら猫:03/03/07 22:13 ID:???

「 …だからね、しぃちゃん。あの事件以来、マサオが公園に来たのは まだ今日を入れても
 3回だけなのよ。散歩に出る時間を少しずらせて、公園までの散歩のルートも変えて…。
 でもね、今日は 久しぶりにギコさんが来るからって、マサオも 一生懸命勇気を出して、
 以前と同じ時間に 同じルートで、ここまで歩いて来たの。偉いでしょう?」

___〃ノ^ヾ  ∧ ∧ _…ソウナノ
    ソ´−`ル (゚ー゚*)  |      キョウハ ギコニィ
―― ( つO) (⊃ O ―┘、       コナインダッテ     イイヨ、ナニシテ
‐―‐―┐.) )―ヽ ) )――┐    "  ((( ( ))     ∩_∩  アソボウカ?
||  .  (_ノ_ノ    `JJ     ||        (.-_-)    (´∀` )
                           ( つと)    : ( ∪  つ
                   "~"   | | | .:"" (_)_):::   "~""~"
                """   .  ::: (_._)__)         ""

「 あの子も もう18歳だけど、やっぱり誉められる事は嬉しいの。元々、親からちゃんと
 誉めてもらえなかった分、余計に 誉めてもらう事や 励ましてもらう事に飢えていたのね。
 自分の努力を ちゃんと見てくれて、肯定的な評価を与えてくれる ギコさんや しぃさんには、
 マサオだって 自分の頑張りを 2人に見てもらいたいって、素直にそう思えるのよ。」
94のら猫:03/03/07 22:14 ID:???

『 …それで、あなたの方はどうなの? 仕事はもう慣れたの?』

「 うん。でも、こんな事考えるのは 気が早いのかも知れないけれど、やっぱり自分の将来を
 考え始めると、ちょっと憂鬱になっちゃう。今はマサオの事だけを考えていれば それで済むわ。
 でも、私には何の特技も才能もない。やりたい事も何も見つからない。恋人も居ないし…。」

『 ねぇ、聞いて。あなたには人間が持っていなければならない、一番大切な 優しさや思いやり
 の心があるわ。だから、きっと何とかなる。どんな特技や才能があろうとも、それを持たない人
 に、幸せなんて掴めない。お金や地位や名誉は掴めても、本当の幸せは掴めやしないわ。』

「 …ありがとう、しぃちゃん。世の中がもし、あなたやギコさんみたいな人たちばっかりなら、
 私みたいな人間も もうちょっと生き易かったのかもね。」

『 そうじゃないわ。あなたがあなたでなければ、私はあなたを助けたりはしなかった。私はあなた
 自身より、もっともっと あなたの良い所を知っているし、それを認めているのよ。だから、
 あなたも 自分自身の事を、もう少し認めてあげて。』
95のら猫:03/03/07 22:18 ID:???

「 そうね、そうなのよね。でも、それを信じる力が、今の私にはないの。それが悔しい…。」

『 親に あるがままの自分を愛されなかったのなら、マサオ君や私たちが あなたを愛してあげるわ。
 でもね、もっともっと大切で、忘れてはいけない事があるのよ…。
 それは あなたが、あなた自身のあるがままを 精一杯認めて、そして愛してあげる事よ。
 今まで お父様やお母様が あなたに与えてきた、条件つきの愛情を 自分に向けるのは、
 もう止めて。それこそが、お父様やお母様が あなたに犯してしまった過ちなの。その過ちを、
 もうこれ以上は 自分自身に向けないであげて。…ねっ?』

「 …うん。」

___〃ノ^ヾ ∧ ∧ _               ドウシタノ、
    ソli −ル (゚ー゚*)   |        ………。   マサオニイチャン?
―― ( つO) (⊃ O ―┘、
‐―‐―┐.) )―ヽ ) )――┐    "  ((( ( ))     ∩_∩
||  .  (_ノ_ノ    `JJ     ||        (-  ,)    (∀`  )
                           (    )    : ( と   )
                   "~"   | | | .:"" (_(._):::   "~""~"
                   """   . ::: (__.)__)         ""
96のら猫:03/03/07 22:28 ID:???

『 いい? もう 今この瞬間から、そういうマイナスな感情が出てきたら、自分にこう言うの。
 “今 私は自分をちゃんと愛せてない。 私の本当に欲しかった愛は、こんな愛情じゃなかった。
 だからもう、私は 今まで父や母に与えられて来た痛みを、これ以上 自分で自分に向けるのは
 止めよう!” って、そう言い聞かすの。少しずつでいい、でもそれを練習するの!』

「 …うん。」

『 あなたは、今の自分には何もないと思ってる。何もないから、自分には愛される価値がないと
 そう思い込んでる。いえ、そう思い込まされて 今まで生きてきただけなの。
 でも、そうじゃないのよ。こうしてアタシ、今 あなたを愛してるのよ。マサオ君もあなたを愛してるわ。
 何もないあなたを、ほらっ、こうしてみんなが 心から愛してるのよ。』

___〃'⌒丶 ∧ ∧ _         (( ( ))   「 アイシテル、アイシテルゥ〜ッ!
    ソノ^ヾル (゚ー゚*)  |    ∩__∩. (_- il ) .  マサオ兄ちゃんのお姉ちゃん、
―― ( つO) (⊃ O.―┘、   (∀` )と.と ).   僕、大好きーっ!」
‐―‐―┐.) )―ヽ ) )――┐⊂ と  ,) | l .|
||  .  (_ノ_ノ    `JJ     || (__(._)(.(_)   『 …姉ちゃん、お、俺も…好きだから。
                              だから、が、頑張ろうよ…。』
97のら猫:03/03/07 22:30 ID:???

「 …マサオ。」

『 マサオ君…。』

「 しぃちゃん! マサオが、人前で…こんなにハッキリ……頑張ろうって、頑張ろうって…初めて…。」

            \ うえぇぇぇ〜ん!! /
                                  ネエチャンタチ
               〃ノ^ヾ)∧∧           (( ( ))  ドシタノ?
             。゚゜.ソ゚´д.ノーT*)゚゜。. .  ∩__∩ (_- i)
              / _ilつと  ヽ  .   ( ´∀)と.と ) イ、イヤソノ…
              (  )) ( (  _)〜  (つ と ) | l .|
             . ̄|_ノノ ̄ し.ヽ) ̄  (__(._)(.(_)

『 マサオ兄ちゃん、泣いちゃダメって言っちゃダメだよ。お姉ちゃん、イイコイイコしてあげるの。
 ねぇ良かったね、マサオ兄ちゃん。これでもう お姉ちゃんの前で泣いても、恥かしくないね!』
      :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
98のら猫@今日はここまで:03/03/07 22:34 ID:???

ソレジャア      バイバイ
   〃ノ^ヾ
   .ソ ´−ル.) (((( ))                     マタネ〜ッ     ∧∧
   (ヽ┴liノ  (, -_)                         ∩_∩  (゚ー゚*/)
    ヽ)゚ (  (    つ ))                   (´∀` ))と   ノ
   /____.〉  | | |                    (( と    ノ〜|  |
    (/`J   . (_ _)._)                     (_)_) . (/~U


── 人間が愛される為の条件は、本当は 外見や能力や才能じゃないと、どうか信じて。
ただ懸命に、心から誰かを愛する事が出来れば それでいいの。

でも もし、あなたに今 それが出来ないとしたら、
それは あなたがあなた自身を、充分愛せていないから…。

孤独は辛いわ。痛みも悲しみも…。でも、一番人間を辛くさせるのは、自分が自分を愛せない事。
99☆ のら猫 ☆:03/03/07 22:46 ID:???
もう少ししたら、詳しく書こうと思ってますが、当初の予定では、マサオの両親が
子育て講座に通いながら、少しずつ自分たちの思い違いに気付いて行く過程も
描くつもりでした。今回は、その部分はスルーします。
この話は、のほダメの「ダメ」の部分にスポット当てて書いてますが、そこ描くと
完全に育児板的な内容になりますんで。(w
100コナキ:03/03/07 23:41 ID:???
にょ?(嘘w
いつもありがとう&ご苦労様、のら猫タン。

101☆ のら猫 ☆:03/03/08 19:39 ID:???
コナキたそ、書きコ まりがd。

自分の好きな事してるなら、苦労は苦労でも、嫌な苦労じゃないです。
苦労も受け入れながら、楽しく描いていますよ。コナキたそのウイットに富んだ
書きコには、いつもほのぼのさせてもらってます。
102のら猫@続きです:03/03/08 19:40 ID:???

モラ山さんとモナーの予言は 的中した。積極的に参加した風ではないにしても、講演会の日、
マサオのお母さんは、お父さんと一緒に 会場の隅っこに座っていた。

モラ山さんが、お父さんを通して お母さんの目の前にぶら下げた “餌” というのは、実に即物的な
ものだった。当日 会場には、引き篭もりで 高校を中退した息子さんが 見事に学業に復帰し、
大学検定に合格したという親御さんが 多数来るそうだ。つまりお父さんは妻に、その人たちの話を
是非とも聞こうじゃないかと言ったんだ。
この時点での お母さんの夢は、マサオが学業に復帰する事だった。もちろん 問題の根底は、マサオ
が復学するかどうかなどとは 全く無関係だ。ただ この母親にとっては、マサオが再び 大学への道を
歩み始める事が、自分にとっても 子供にとっても、唯一の幸せだと そう信じていたんだ。

さすがに モラ山さんは、海千山千の切れ者だった。俺は いつも正攻法しか思い浮かばないから、
それで苦労する事も多い。モラ山さんは 本音や正論だけではなく、人間の建前や欲までもを
計算に入れた上て行動している。俺自身も それは学ぶべき事だと、素直に感心した。
要するに、動機が多少ピント外れだったとしても、今すべき事は 家族の中で母親を孤立させない事、
そして 家族全員が欠ける事なく、マサオの問題を解決する為に アクションを起こさせる事なんだ。
103のら猫:03/03/08 19:53 ID:???

       .i =i、___.i =i、___i =i、___.i;;|. : . : . : |: |:三三三|. : . : . : |: | | | | | :::::::::::: : :
 ____!|: :|i: : : : |: :|i: : : : |: :|i: : : : | |. : . : . : |: |:. :. :. |. : . : . : |: | | | | ,, ,,"''..;'';.";;.,.,"
 |:.:.:.:.:.; :.:|: :|i l⌒l:|: :|i l⌒l:|: :|i l⌒l:| |. : . : . : |: |:三三三|. : . : . : |: | | | ,;"":;";;;;'`:,:'.. : .:
 |:.:.:.:.:.; :.:|: :|i: : : : |: :|i: : : : |: :|i: : : : | |. : . : . : |: |:. :. :. |. : . : . : |: | | ;;";'':,:'. ;;':,'..''''''' ''''
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 |:.:.:.:.:.; :.|三三三三三三三ミi|i::_:_:_ | |. : . : . : |: |i   i   :|. : . : . : |: |. :|: :'''`',:'';;,;ヽ`',:'';;';;';;'`',:
 |:.:.:.:.:.; ://ll|//ll|//ll|//ll|//!| i::|l!ll| | |. : . : . : |: |i\ i \:|. : . : . : |: |: :|: :|: :|: :|   `y;/ノ
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             |: : |  |"""'''''''''' - ,, : : . :  : ..|: : |i
             |: : |  |,,,,,,,,,- - -'''".  .   .  .   |: : |i
             |:_:_|,, -  .  . . .  .  .   .   . . |:_:_|i
  ̄ ̄ ̄' ̄ ̄ ̄ ̄                    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄' ̄ ̄ ̄ ̄ ̄' ̄ ̄ ̄ ̄
講演会は、この街にある 大きな市民ホールの一室を借り切って執り行われた。

せいぜい 公民館程度の建物で、5人か10人ぐらいの参加者しか集まらないと思っていた
俺には、会場の大きさや参加者の多さは、意外なほどだった。
当日 講演会場に集まった聴講者は、ざっと数えてみても 50人は下らなかった。
104のら猫:03/03/08 19:54 ID:???

   '´ ̄ ヽ             ところで マサオとお姉さんは、この日ご両親には内緒で 俺たちとコッソリ
  ( ノノ)) )〉 彡⌒ ミ   .  裏口から会場入りした。 引き篭もりや、長年に渡って 両親から過干渉・
  リイ.゚_ ゚ノil (,, ´Д`)     あるいは放置を受けてきた子供が、自分が今の境遇に至った原因を
   ( Y )  (∪   つ   知ると、時に子供は 急激に両親への怒りや復讐心に駆り立てられる
                   事があるそうだ。

そういう時 すぐ身近に両親が居るのは、その子供たちの感情を 逆撫でしてしまう危険がある。
それに 講演を聴く両親にとっても、子供たちが身近に居ない方が、親としての変なプライドのせいで
心に鎧を被ったままで講演を聴かずに済む。

幸い、今回の講演は、引き篭もりの子供を抱える家庭が、
子育て勉強会への参加を通して、本来の 暖かで安らかな家庭を
見事に取り戻したという、結果報告会という意味合いが強い。         __∧∧   ∧∧
                                               ( (゚Д゚ ,,) (゚ー゚*)
モラ山さんも、お姉さんが傍に付いているなら、マサオも是非会場に来て     \ //  ヽ)(/i
私たち夫婦の恥を聞いて欲しいと言った。
105のら猫:03/03/08 19:57 ID:???

── 別に地元の偉いさんがしゃしゃり出る訳でもなく、高名な児童心理学者の先生が クソ難しい
前置きを話す訳でもなく、簡単な運営者からの挨拶の後、講演会は粛々と始まった。

今日は、合計3名の人が、自分の体験を話す事になっていた。
一人目は男性( 父親 )、二人目は女性( 母親 )だった。2人共、自分の家庭が長年抱えてきた
問題を、恥じる事なく赤裸々に 勇気を持って話した。それは、誰かを頼る事無く 自分たちの力で
問題を解決できた者だけが持てる 自信と勇気なんだろうと、俺には思えた。

二人目の母親の話の途中からは、もう薄暗い会場のあちこちから、聴講に来た母親たちからと
思われる、すすり泣きが聞えて来た。そんな妻の肩を そっと抱きしめる夫の姿が 印象的だった。
気が付くと、しぃも お姉さんも 目に涙を浮かべて その母親の講演に聞き入っていた。

一人目の父親も、二人目の母親も、講演の最後には 自分の愛する子供を壇上に呼び寄せた。
その時には会場からは 静かな、でも 長く、力のこもった祝福の拍手が湧き起こった。
…そして、いよいよ モラ山さんの講演が始まった。
106のら猫:03/03/08 19:59 ID:???
      _____
      [__l二l|__      モラ山さんの講演の前半部分は、他の2人と全く同じ展開だった。
    ( ・A・)      自分がどのように、今まで子供を扱って来たのかから始まり、
   ⊂ ¶  ⊃    . その結果として、子供がどのように変わって来たかを話した。
  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|\
  |_____|_| .  モラ山さんの考えを変える 決定的な出来事は、引き篭もっていたはずの
    |      |  | .   息子さんが、ある日突然 何の断りも前ぶれもなく、失踪した事だった。

息子さんの部屋には、書き置きすらなかった。
当初は じきに帰ってくるさとタカを括っていたモラ山も、息子さんの消息不明が3日、1週間、3週間
と続くうちに、笑って余裕を見せる事も出来なくなってきた。母親は その心労のあまりに倒れた。

「 …そこまで来て、そこまで事態が切迫して、初めて私は “これは ただ事ではない” と、
 思い始めたのです。こんな恥かしい親は、そうは居ません。」

モラ山さんは 警察に連絡するのと同時に、息子の友人と思われる人たちに、片っ端から電話を
かけた。しかし、息子さんの消息は 1ヶ月経っても分からなかった。
107のら猫:03/03/08 20:00 ID:???

何か1つでもいい、息子さんの消息を得る手掛かりは無いかと、モラ山さんは 悩んだ末に、
息子さんの使っているパソコンを開いて見たのだと言う。

そこでモラ山さんが発見したのは、自分の息子が 自己否定と自己嫌悪に悶え苦しむように
書きなぐった、日記のような手記だった。その所々には “死にたい”、“父や母を憎んでいる。
殺してやりたい” という言葉が並んでいたのだ。

「 …恥ずかしながら、私には どうして息子に殺意を持たれなければならないのかが、
 サッパリ分からなかったのです。妻もそうでした。一体何か、誰が、ここまで息子を
 追い詰めたのかを知りたかったのです。でも、まさかそれが 自分たち夫婦だったとは
 夢にも思っていなかったのです…。」

そこから、モラ山さんの改悛の日々が始まった。息子さんと付き合いのあったと思われる
友人の家を 一軒一軒廻り、自分の息子の 学校での様子を聞いて廻ったモラ山さんは、
息子さんには一人として、親友と呼べる存在が居ない事を 初めて知った。
108のら猫:03/03/08 20:07 ID:???
      ______
     [____|__        .   「 …私はこれでも、教育熱心な父親だと 自分で思ってたんですね。
    (;;;;::: ,,)  _       自分は子供の事は 何だって分かっているつもりで居たのです。
  /(;;;;::::. つ / ̄|     厳しい躾を息子に課して来た事は、自分で自覚しておりました。
  |_.|;;::|;;:: |  ̄|  ...::|     しかし、それも息子には理解してもらっているのだと、勝手に
   |.(_.(__);;|.....:::::|        思い込んで来たのです。
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.     まさか 夫婦揃って、息子から恨みや殺意まで抱かれているなど、
                     全く考えておりませんでした。それは、単なる遅い反抗期だと…。」

── モラ山さんの告白は続いた。モラ山さんは、決して薄情な人間でも 冷酷な人間でもない。
引き篭もりや 鬱病の子供を抱える親は、決してアル中・酒乱親父と、ノイローゼ・基地外母ばかり
という訳ではない。むしろ、そういう親の方がずっと少ないと言われている。

子供を愛するあまりに、子供に対して過干渉になってしまう親の子供たちにこそ、それは多い。
全ては 最初のボタンを掛け違えた事から始まる。子供は叩かれ、褒美に餌を与えられる事で
芸を覚える、サーカスの猛獣ではないんだ。自らの人格と意思を持った、一個の人間なんだ。
109のら猫:03/03/08 20:07 ID:???

…後は 少し長くなるが、モラ山さんの話を そのまま聞いてもらおうと思う。
      _____
      [__l二l|__      「 …息子は こうして、何とか無事に家に戻る事が出来ました。
    (・A・ )       しかし その日以来、私たち夫婦と息子の間には、さらに 深い深い
   ⊂ ¶  O       溝が 出来上がってしまったのです。
  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|\
  |_____|_|    途方に暮れていた私たち夫婦は、幸いにして この子育て勉強会
    |      |  | .   .  を知る、ある人からの紹介を受けて、ここに通い始めたのです。
                  …ここで学んだ事は、私たち夫婦が それまで信じ込んできた教育
という名の虐待の、その真実を教えてくれる事ばかりでした。

今、ここに集まっている皆さんは、間違いなく深く子供を愛し、子供の行く末を案じる立派な
親御さんだと、私は断言できます。でなければ 決して折角の休日に、こんな場所にわざわざ
足を運ぶ事などしなかったでしょう。だからこそ、私は敢えて 皆さんに問い掛けたいのです。
110のら猫@飯&風呂休憩:03/03/08 20:13 ID:???

「 家庭とは、子供にとって どういう場所であるべきなのでしょう?
 父に厳しく叱られ、叩かれる場所でしょうか? 母に毎日小言を言われ、まるで呪文のように
 勉強勉強と言われ続ける場所が、子供にとっての家庭で 果たして良いのでしょうか?
 家庭とは、子供にとって最初の憩いと安らぎの場であり、また 最後の許しと癒しを与えてもらう
 場所ではなかったでしょうか?

 子供は誰よりもまず、自分の親を目標として 自らを成長させるのです。もし 私たちの子供が、
 私たちのような大人には なりたくないと感じたとしたら、その時から子供は 自分の成長の目標を
 見失ってしまいます。
 無論、子供がある程度の年齢になってからは、それも大した心配にはならないかも知れません。
 高校生ぐらいの年齢になれば、今度は逆に 子供が親を反面教師として自分を成長させる事
 だって出来るからです。けれど、あまりに小さい頃から 子供が親を見離すと、子供はそこから
 人生の迷子になってしまうのです。」

        '´ ̄ ヽ.    「 愛する我が子が 痛みや失敗を恐れる事なく、厳しい人生の荒波を
   彡⌒ ミ.( ノノ)) )〉     乗り越え 逞しく生きて行く為には、果たして その強さだけがあれば
   (,,´Д`) リイ.゚_ ゚ノil  .    良いのでしょうか? 人間の幸せの度合いは、果たして その人の
   ( つ つ ( ⊃と    .  強さだけに 比例するものなのでしょうか?

 お父様方、あなたが会社で辛い事があった日に、重い足取りで帰って来た家でまでも
 奥様から “あなたって、何て情けない男でしょう!” と なじられたら、お父様は どんな気持ちに
 なるでしょう? 一生懸命働いて持って帰って来た給料明細を見て、奥様から “あぁ、また今月も
 これっぽっちなの?” と ため息をつかれたら、どんな気持ちになるでしょう?

 お母様方、あなたが毎日頑張っている 掃除・料理・洗濯を、あなたの旦那様が 一言たりとも
 誉めようとせず、“今日は味が塩辛いぞ!” とか “何だ、台所の隅が汚いじゃないか!” などと、
 顔を見る度に言われるとしたら、お母様方は 毎日の家事を頑張ろうと思えるでしょうか?」
112のら猫:03/03/08 23:49 ID:???

「 では何故 私たち親は、それと同じ事を 自分の最も愛すべき子供にするのでしょう?
 辛い事や悲しい事があった時に、“男のくせに メソメソと泣くな!” と 子供に向かって怒鳴るのは、
 先ほど私が話した 会社で失敗した時の、お父さんの気持ちになれば分かるはずです。
 テストの点数が 思うように取れなかった子供に、“どうして こんな点数なの? あんた また勉強
 さぼったんでしょう!” と 問い詰めるのは、お母さんが自分の家事を その頑張りや苦労などを
 無視して、夫から一方的に責められるのと 全く同じではありませんか?

 しかもです。多くの子供には 親に反抗することは許されていないのです。口答えなど
 しようものなら、即座に叩かれたり ご飯を食べさせてもらえなかったり、何時間も正座して
 お母様の小言を聞かされるはめになるのです。つまり、罰の上にさらに罰を与えられる訳です。

 …お察しの通り、実は私の家庭こそが、そういう家庭だったのです。
 子供はすっかり萎縮してしまい、親からの責めをかわす為だけに 勉強をするようになりました。
 その上 少しでも成績が悪いとか、態度が悪いとなると、学校から帰ってから 私や妻に、
 さんざん叱責されたのです。」
113のら猫:03/03/08 23:50 ID:???

   .((( ))) 〃ノ^ヾ .       「 普通の家庭であれば、お父さんが仕事で疲れて帰った時には、
   (,,-_-) ソ´−`ル .      奥様が 優しいねぎらいの言葉をかけてくれます。
   ( ⊃⊂) ( ⊃と .      “パパ、いつもお仕事ご苦労様” と 奥様に一言言ってもらうだけで、
                      お父さんは、どれだけ勇気をもらえるか分かりません。

 奥様も、旦那様から “毎日ありがとう、ご苦労様” と、たった一言言ってもらうだけで、どれほど
 毎日の家事の際 心が軽くなれるでしょう。綺麗にしなければ殴られる、美味しく作らなければ
 旦那様から馬鹿呼ばわりされるような家事を、奥様は果たして 毎日楽しくこなせるでしょうか?

 …大人の私たちでさえ、そうやって 誰かの心の支えがあって初めて、この辛く厳しい世の中を
 何とか生きて行く事が出来るのです。それは子供であっても 何ら変わりません。
 大人たちから見れば、ままごとのような子供の世界でも、子供にとっては そこが自分の生きる
 世界なのです。大人の苦労と子供の苦労とを、比べる事など無意味です。」
114のら猫:03/03/08 23:54 ID:???

「 子供なんだから、自分達大人より楽をしているなどと考えるのは、大学生が小学生に向けて、
 こんな簡単な事も分からないのかと、自分の頭の良さを自慢しているのと変わりません。
 誰が見たって、この大学生はアフォか? と思うでしょう。
 今の子供たちは、私たちが子供だった頃よりも 遥かに強いプレッシャーの中で生きているのです。

 それなのに、学校で先生に怒られ 友達にいじめられ、家に帰れば 今度は父に殴られ 怒鳴られ、
 母には小言ばかり言われ、誰からも 優しい言葉の一つもかけて貰えないで居るような子供が、
 元気で はつらつと毎日を生きて行けるはずもありません。

 自分のお子様に ねぎらいの言葉をかけるのは、誰の仕事でしょうか?
 自分のお子様の頑張りを、精一杯誉めてやるのは、誰の役目でしょうか?
 私たち親の役目とは、果たして我が子に ただただ厳しく接する事だけなのでしょうか?
 それで本当に我が子は、強さと優しさを兼ね備えた、自分の人生を 自分の力で切り開いて
 行ける、バイタリティー溢れた人間に なれるのでしょうか?」
115のら猫:03/03/08 23:57 ID:???

   ∧ ∧ ∧ ∧ .    「 私たち親は日頃、どれだけのねぎらいや慰めや励ましの言葉を、
   (*゚ー゚) (,, ゚Д゚)   .   自分の子供に向けて かけてきたでしょう?
   ノ つO |⊃ O .      みなさんは 最近いつ、子供を誉めてあげましたか? 最近いつ、
                 自分の子供を 抱きしめてあげたでしょう?

 皆さんの子供が 誰に誉められる事もなく、誰に慰められるでもなく、家庭の中で たった一人に
 なっている事が、これでお分かり頂けるでしょうか? しかも、子供はそう簡単には家を捨てる事
 など出来ません。子供には どんなに嫌な家でも、そこでしか生きてゆく事が出来ないのです。

 …先ほど私は、人生の荒波を乗り越えて生きて行く力は、強さだけではないと言いました。
 それは家族の絆です。お父様が 仕事で良い成績をあげておられる家庭は、必ず奥様の
 心の支えがあります。奥様が いつも若々しく、元気で生き生きしている方の旦那様というのは、
 必ず奥様を大切にしているのです。」
116のら猫:03/03/08 23:58 ID:???
      _____
      [__l二l|__      「 では、私たちの子供が 今このような事になってしまっているのは、
    (・A・ )       一体 誰のせいなのでしょう? 本当に 出来の悪いお子様自身のせい
   ⊂ ¶  ⊃    .  なのでしょうか?
  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|\     皆さんは、この世界に 魔法があると思われますか?
  |_____|_|  .  私は たった1つですが、それを発見しました。といっても、別に空を飛ぶ
    |      |  |    .  とか、枯山を 花一面に変えるとかいう種類の魔法ではありません。

 それは、萎縮し 意気消沈し 失敗を恐れ、何をするにも 無気力になってしまった子供を、
 元通りの生き生きとした笑顔と 活力溢れる子供に変える魔法です。
 私たちが皆さんに これから一緒に学びましょうと申し上げているのは、その魔法の呪文の
 唱え方なのです。」

── モラ山さんは、そこで言葉を切った。途中までは、モラ山さんの言葉にうなだれていた親たちが
今はまるで 身を乗り出すように、モラ山さんの次の言葉を待っていた。
しかし、モラ山さんは、その呪文をここで明かす事はしなかった。ただ、それにはお金も要らないし、
難しい本を読む必要も無いし、テストも暗記も必要ありません。ただ 今の自分たちを変えよう、
愛する子供を 苦しみと絶望から救い出そうという熱意だけは、教室に忘れず持ってきて欲しいと
だけ話した。
117のら猫@今日はここまで:03/03/09 00:00 ID:???

「 …お子様の引き篭もりは、これまで私が話したような、私たち “分からず屋の親” に対する、
 子供たちの精一杯の反抗なのです。捨て身の抗議なのです。
 それを全て 子供の弱さの責任にして、さらに子供たちを追い詰め、叱りつけ、あるいは無視して
 ごらんなさい。子供はきっと そんな私たちに対して、これまで以上の そして最後の抗議を始める
 でしょう。

 非行、暴力、無視、失踪、自殺、薬物中毒…。それらは 抗議を通り越した、
 子供たちから親への “復讐” なのです。どうか皆さん! 1分でも1秒でも早く、
 お子様の幸せの為、自分たちの幸せの為に、共に助け合い 学んで行きましょう。」

── そして、聴講者に一礼するモラ山さんの横に、舞台上手から 奥さんと息子さんが歩み出た。
モラ山さんは 見ていて痛い程に、息子さんの肩を抱きしめた。
奥さんの眼からも、モラ山さんの眼からも、熱いものが込み上げていた。その様子に、会場からは
また 静かで力強い拍手が湧き起こった。最後に息子さんは、照れながら自らマイクに向かい、
“随分遠回りしましたが、ようやく自分の進む道を見つけました。これからは 父と母と一緒に、
 頑張って自分の人生に 自分の力で立ち向かって行きたいです。” と、短く語った。

…その日一番の、大きな熱い拍手が、モラ山さんの息子さんの 輝く笑顔に向けて送られた。
118☆ のら猫 ☆:03/03/09 00:42 ID:???
大変失礼しますた。m(__)m

1つ、飛ばして書きコしてしまいました(苦藁
>>110と111の間に、以下の1文が入っておりました。すみませんです。
119のら猫@110.5です(w:03/03/09 00:43 ID:???

「 私の子供は 物心も付くかどうかという時から すでに、自分が最も愛され、最も頼りにすべき
 私たち肉親から、“好きだよ、お前が私たちの宝物だよ” と言われる替わりに、
 “お前は何てダメな子だ!”、“どうしてそんなに馬鹿なんだ!” と、罵られて来ました。
 その時の息子の 心の痛みは、本当に如何ほどだった事でしょう。
 世界中の人間から自分を責められたとしても、最後の最後まで子供を庇う 味方であるべき
 自分の親から、毎日毎日 飽く事なく叱責される 私の子供の辛さは、一体どれほどのものだった
 でしょうか…。

 私たち親は、いつの頃からか 子供には厳しく接しなければ、立派な人間にはなれないという
 思い込みに、心を支配されるようになってしまいました。
 ただただ ひたすら強くなれ と願うのみで、子供との信頼関係や子供の人格さえも無視する
 ようになってしまいました。
 子供に強くなれと思う心は、間違いではありません。しかし、子供に一切の甘えや妥協や失敗を
 許さないという教育で、本当に子供は強くなれるものなのでしょうか?」
120のら猫@続きです:03/03/09 22:33 ID:???

── 講演が終わった直後のマサオ夫妻は、さすがに心中複雑ながらも、引き篭もりの子供を持つ
家庭が ことごとく今の自分たちのような家庭である事に、ショックを受けているようだった。

マサオのお母さんも、直後には “放心状態” と言っていいほどの 呆けた顔をしていた。けれど、
モラ山さんを待っている間に、徐々に普段の 批判精神旺盛で、体裁を重んじる性格が顔を出して
来たようで、モラ山さんが 講演会の後片付けを終えて 自分たちの前に現れると、挨拶もお礼も
そこそこに、早速モラ山さんに 子供が大学検定に合格した母親を紹介しろと言い寄っていた。

モラ山さんは 会場運営者の一人に声をかけた。
程なく案内役の人が戻って来て、その人が 今ちょうど控え室に居るので どうぞ来て下さい、
喜んでご紹介しますと答えた。お母さんは最初、一人では行きづらいと思ったのか、しきりに夫に
声をかけたがっていたが、マサオのお父さんは 今日の講演の感想を モラ山さんに熱く語るのに
夢中で、結局最後は お母さんも諦めて、一人で案内役の人について 控え室に向かって行った。
121のら猫:03/03/09 22:37 ID:???

お母さんが去った後、モラ山さんは お父さんに “…いいのですか? 奥様お一人で行かせて。”
と訊ねた。マサオのお父さんは ちょっと意地悪に笑いながら、“いいんです。まず妻の自主性から
育てんといけませんからな” と言った。

講演後の心地よい興奮が、マサオのお父さんを 俄然やる気にさせていた。
モラ山さんは、その お父さんのやる気を削がぬよう 言葉を選びながら、今のその気持ちを忘れぬ
ように、一緒に参加者の皆さんと助け合って進んで行きましょう。むしろ 大変なのはこれから
ですよと、お父さんに静かに諭して言った。
           ______
  彡⌒ ミ  __[_____|    モラ山さんは この種の興奮や熱狂が、決して長く続くものではない
 (* ´Д`) . ( ..:::;;;;,)    事を、良く知っていた。
 (つ  つ  ( ::::;;;;;;)    彼が講演の最後に話した “魔法の呪文” は、唱えればたちまち
                      効果を発揮するようなものではない。
例えば実際に 魔法使いが居るとしても、彼の呪文が魔法を起こせるのは、その魔法使いの
長い長い 地道な修行の賜物なのだから。
122のら猫:03/03/09 22:42 ID:???

  彡⌒ ミ   .     「 …ただですね、いやっ 決して異議を唱える訳ではないんですが、
 (* ´Д`)         我々のような家庭の中で育っても、一部には 立派に育っているような
 と    つ      お子さん達もいらっしゃるでしょう? わたしゃ それがどうも分からなくて。」

『 その謎を ご家族みんなで 1つ1つ紐解いて行く作業こそが、家庭の機能回復への道ですよ。
 お子様の成長には、実に様々な要素が影響し合っているんです。親御さんが 引き篭もりの
 原因を、全て子供に押し付けるのも間違いなら、お子さんが全てを親のせいにするのも、
 同じように間違っていると、私はそう考えます。』

「 そ、そうですか。まぁしかし 実際問題として…」

『 親御さん以外の問題を 一旦抜きにして考えるとするなら、良くあるのが きゅうりをメロンに
 育てようとする事でしょうかね。』

「 何ですか、それは?」
123のら猫:03/03/09 22:49 ID:???
   _____
  [__l二l|__    彡⌒ ミ    『 お父様は、学生時代武道をやっていらした。今も会社では
 ( ・∀・)   ( ..:::;;;;,).    野球部で活躍してらっしゃる、スポーツマンです。当然、自分の子供も
 ( U  つ . ( ::::;;;;;;) .    スポーツが大好きな子供に違いない、いや そうあって欲しいと
                     願ってしまうんですよね。』

「 …あっ、なるほど。」

『 さすがは小森さん! もうお分かりでしょう。いくら自分の子供でも、それは別の人格・才能・個性
 を持った、親とは違う人間なのですね。しかも、子供が何かを好きになるには、必ずそれを
 親や友人や先生から誉められたという、嬉しい体験と記憶が必要なのです。
 小森さんも、小さい頃何かでヒーローになった記憶が きっとおありでしょう? その嬉しさや誇らしさ
 を足がかりに出来て、初めて子供は 自分の才能に自信を持つ事が出来るようになるのです。』

「 いや、言われてみれば仰る通りですわ。やはり、マサオを誉めてこなかった事が原因ですか…。」

『 まぁ、そう気を落とされずに…。私たちの勉強会が対象にしているのは、家庭が完全に崩壊
 する以前の状態の親御さんだけです。もっと深刻な家庭の方には、専門のカウンセラーを紹介する
 ようにしています。それでもまだ ましな方なんです。話すら聞かない親は 山ほど居ます。』
124のら猫:03/03/09 22:55 ID:???

『 少なくとも、ここに 自分から足を運ばれる親御さんたちは、間違いなく まだ自分たちの家庭も
 子供も 何とかなる、いや 何とかするんだという気持ちがあるのです。』

「 はぁ、しかし…。今になって こんな事を言ってもとは思いますが、もう少し早く 自分たちも マサオに
 対して、キチンと対応していればと…。」

『 小森さん。引き篭もりのお子様の殆どは、親からの愛情を 充分に感じられなかった子供です。
 いいですか? “感じられなかった” という所が味噌ですよ。
 小森さんも奥様も、決して今まで お子様たちに愛情を注いで来られなかった訳ではない。
 いや、どんな家庭にも負けない程、お子さんたちを愛してこられたのです。ただ、小森さんご夫妻
 が 愛情だと思っていた事が、お子様には愛情だと感じられていたのかどうかが問題なのです。』

   ______
  [__l二l|__    彡⌒ ミ          ∧∧ . ∧∧ …ギコ、アタシたちは この辺で。
 ( ・∀・)   ( ..:::;;;;,)         (*゚ー゚) (゚Д゚ ,,)
 と    つ  ( ::::;;;;;;)  .      (( /⊃ ノっと .Oノ  あ、あぁ そうだな。マサオの所へ行こう。
125のら猫:03/03/09 23:05 ID:???

『 …どんなに教育熱心なご家庭でも、どんなにお子様に心を砕かれている家庭でも、
 それだけで 子供が親の思う通りに育つような家庭は、ほとんどありません。私たち親も、
 子供を 完璧な人間に育てようなどと考える必要など、ないのです。』

「 うちは、あれ( 妻 )が、ちょうど そんな感じでして…。」

『 えぇ。つまりは そういう家庭の親御さんに限って、うるさく子供の人格に 土足で立ち入っては、
 子供が自分で何かを考え 行動する前に、アレをしなさい コレをしなさいと、口やかましくして
 しまうのですね。
 親御さんが 何よりも子供に与えてやらねばならないのは、子供に “自分は大切な存在なんだ”
 という確信と、“自分は 自分で人生を切り開いて行けるんだ” という自信を与えてやる事です。』

「 …なるほど。」

『 それさえ充分に与えてやれさえすれば、あとは子供が その自信を頼りに、自分自身で好きな事
 や好きな人、やりたい仕事を見つけて行くのです。親御さんは ただ、そんな子供の背中を
 暖かく見守ってやるだけで 充分なのですよ。』
126のら猫:03/03/09 23:11 ID:???

  .∧∧    ∧∧ .  「 しっかし、モラ山さんは誉め上手だなぁ。あの人が 以前は、どうしようも
  (*゚ー゚)  (,, ゚Д゚)     無い程の不平家で 批判家だったなんて、誰が信じると思う?」
   U  |っ  U  |
 〜|  |  〜|  _,つ.  『 本当よねぇ。人間、本気で変わろうと思えば 変われるものなのね。
  (/~U    U´       モラ山さん曰く、今の役職に就けたのも 自分がポジティヴに変われた、
                  そのお陰だって言ってるし。』

「 人を育てようと思うなら、1つ叱って 3つ誉め、5つ教えて良き人とせよ、ってのは本当なんだな。
 他人に厳しい目を向けるだけでは、部下も子供も育たない。」

『 そうね。それに そういう人は、自分にも その厳しい目を絶えず向けている訳だから、自分だって
 苦しいはずだわ。つまり、自分に対しても 絶えず厳しい目だけしか向けられない人というのは、
 自分で自分を 上手く育てられない人なのかもね。』

「 モナーの、あの “のほほん” が 昔の俺に すごく格好良く思えたのは、そういう事なのかぁ…。」
127のら猫@今日はここまで:03/03/09 23:14 ID:???

── 俺たちはその後、会場の裏口で待っていた マサオとお姉さんに合流した。マサオは特に何も
話さなかったし、俺たちも敢えてマサオに 今日の感想を聞いたりもしなかった。
お姉さんの方は 上機嫌だった。彼女も 今日の講演会で、これから自分の両親たちが通う
であろう その勉強会が、決して さらに今の自分たちを追い詰めるような講座ではないと、
そう確信出来たんだろう。

  〃ノ^ヾ                    お姉さんは、声に出してこう言った。
  .ソ ´ーノ) .((( ))).∧∧ ∧∧
 ⊂lj_.ソ ilヽ (,-_-)(゚Д゚ ,,) (*゚ー゚)  .  「 正直、他のご家庭のお話を聞いてみて、親も それなりに
   .)---( と    っU  | .U  |      子供の事は考えて来てたんだなぁって 思ったわ。
  く__i〉 | | | |  _,つ|  |      だからって、すぐに 自分たちの父さん母さんを許せるか
   (/~U. .(_._)__).U´  .(/~U      って言われると、それもすぐには出来そうもないけど…。
                          でも、あの親たちが 変わろうとしてるんだもの。ねっ!?」

それは それとなくマサオにも聞かせたかった、お姉さんの決意表明だったのだろう。
紛れもなく、お姉さんがこれから辿る 自信回復への道は、そのままマサオが後をついて踏みしめる
道と 同じはずなんだ。お姉さんは マサオがこれから歩むべき道を、その身を挺して しっかりと弟に
教えて行くんだという、新たな決意を胸に宿したように 誇らしく笑った。
128☆ のら猫 ☆:03/03/10 22:21 ID:???
面接を受けた会社から、明日 講習に参加するようにとの連絡がありました。
まだ正式に採用という連絡はありませんが、何とかなりそうです。

てな訳で、これから講習4日と本格的な引越し準備が始まりそうです。
僕がゆっくり パソコンの前に座れる日も、残り僅かになってきました。
>>99にも書きましたが、この先 じっくりと描いて行く予定だった、
小森夫妻の勉強会の様子は、大幅にカットさせて頂かざるを得ません。m(__)m
129☆ のら猫 ☆:03/03/10 22:29 ID:???
ただ、その中で 我々に一番関連のありそうな“自主性欠如”の話だけは、
長い勉強会の部分から抜粋して うpしようとは思っています。そこの話は
大きく板違いな内容ではないと思いますので…。

とにかく 今週いっぱいを目途に、残りの話を 開いた時間を縫って描いて行きます。
ここ2、3日、うpする話に、極端にAAが少なくなっているのは
それだけ 時間と気持ちの余裕が無くなっている証拠でして。(藁
明日は 多分少しうp出来ると思いますが、そういう訳で今日はお休みです。m(__)m
130のら猫@続きです:03/03/12 00:05 ID:???

── あのモラ山さんの講演会から 2ヶ月が過ぎようとしていた。

“子育て勉強会” とは、元々新人お母さんの為の「 伸び伸び子育て講座」という所から派生して
始まっている。ある日、その講座を主催している人のもとに、ある引き篭もりの子供を抱える
親御さんが、藁をも縋る想いで相談に訪れた事が発端だったそうだ。

だから 現在でも、子育て勉強会で使うテキストは 殆どが幼稚園から小学生・中学生の子供を対象に
書かれている。新人お母さんたちが、これから将来の子供と自分の為に学ぶテキストが、
マサオたちのような家庭では、親御さんが 自分たちの過去を振り返る為のテキストになる訳だ。

勉強会は週一回 日曜日に2時間30分程度の時間を割いて行われている。全部で12回。
期間にして3ヶ月だ。といっても、1回目と2回目は、全ての時間が それぞれの親御さんが
自己紹介し、まず お互いに打ち解けあう為の時間に使われる。
会場費は その日集まった参加者で割り勘する事になっていて、マサオ夫妻が参加した時は、
1回で 600円前後だったと聞いている。
131のら猫:03/03/12 00:07 ID:???

それ以外には 資料のコピー代が 毎回数十円と、その日のお茶・お菓子代。これも 割り勘でという
話だったが、実際は 世話好きのお母さんが毎回持ち回りで 何だかんだと持ち込むので、
まぁ無いに等しい。

つまり、基本的にはボランティアである。勉強会の司会( あえて講師とは呼ばないそうだ )は、
モラ山さんのように この勉強会で家庭の機能回復を果した人が、交代で務めている。
講座ではなく 勉強会という名称を使うのも、教える・教わるというのではなく、共に学ぶという
精神を、主催者の人が示したかったからだと モラ山さんは言った。

残念ながら 参加者の家族以外は勉強会には参加できない。しかも 参加者が自分の子供を
勉強会に呼ぶ場合は、司会者・親御さん・本人の 3者の合意が必要になっていた。

マサオのお姉さんが 勉強会に初めて参加したのは、会も中盤に差し掛かった第7回で、司会が
モラ山さん、テーマは「 子供の自立心・自主性を育てる方法 」というものだった。
132のら猫:03/03/12 00:07 ID:???

マサオの両親が 動き出した事で、俺としぃの出番は 近頃めっきり減っていた。嬉しいような ちょっと
寂しいような気分。それでも、お姉さんとマサオからは、ほぼ毎日メールが届いていたし、俺たちも
週に1回ぐらいの割合で、あの坊やと一緒にマサオたちに逢いに行っていた。

驚いたのは、勉強会が始まって1ヶ月ほどした時、マサオ一家が 揃ってあの公園に現れた事だった。
それは その1週間前に起こった、ある事件がきっかけだった。

マサオとお姉さんが、散歩中に また例の中学時代のいじめっ子( 前回とは別の奴だったそうだ )に
遭遇したんだそうだ。今度もマサオは 足がすくんで動けなくなった。前回と違ったのは、その後の
両親の対応だった。

            〃ノ^ヾ..  . 今回は、母親が厭味を言う事も無かったし、父親が 敢然と
    彡⌒ ミ ((( ))) ´−`ル.     我が子の危機に立ち上がった。
   (;´Д`)⊃ii -_) li┴┴lつ.   …といっても、お父さんは やや暴走した感があって、遥か遠くで
   ( ⊃  ) (∪ つ .゚ ゚(   . マサオとお姉さんが手を取り合って見守る中、その元いじめっ子を
   / ノ /  ) ) )/__|    ひっ捕まえて 懇々と説教したらしい。
  .(__/(_) (_._)_) し'ヽ)    最後は 2度と自分の息子をいじめないと、誓約書まで無理やり
                    書かせたそうだ。後になって、その話を聞いた奥さんから
逆にたしなめられて、今度は夫婦2人で その子の家まで、菓子折りを携えて 謝りに行ったらしい。
133のら猫:03/03/12 00:09 ID:???

勉強会では 毎回、会の始めに “今週の○○家” という発表がある。全員強制という訳ではないが
何か 家庭や子供に変化があった時は、それを集まったみんなで対応や原因を考え、良い変化が
あった時には、みんなで祝福しようという目論見なのだ。

もちろんマサオのお父さんは、嬉しそうに それを報告したそうだ。お母さんの方は終始 恥かしそうに
黙って立っていたらしいが、最終的には 息子の為に戦ったお父さんも立派だが、それを的確に
フォローしたお母さんこそが 真のヒロインだという事で、参加者の意見が一致した。

お父さんとしては やや残念な評価だったが、お母さんは 嬉しさを隠せない様子だったと言う。
このお母さん自身、長らく誰かに誉められる事が無かった。自分で自分を誉めてやる事も
忘れていたのだ。そういう人は 誰かを誉める事も、いつの間にか忘れてしまうものだ。
誉められる事が、いかに自分を気分良くさせるか。いかに 自分を誇らしく感じさせてくれるか。
まず その喜びを自分が体験せずには、親が子供に その誉め言葉を向けるのは無理なのだ。
134のら猫:03/03/12 00:10 ID:???

何も難しい事など勉強せずとも、夫が妻に 毎日の家事の感謝を伝える。妻が夫の仕事の苦労を
ねぎらう。それだけで、そんな当たり前の事を 当たり前に出来るようになるだけで、まず家庭が
変わる。ともすれば いくらでも心に湧き上がって来る批判精神を、せめて 家庭の中だけでも
押さえて、敢えて相手の欠点を論うのではなく 家族の良い所を探す目を養う。

そこに家庭の機能回復の原点があると、モラ山さんは言う。夫婦仲の良好な家庭に、お互いを尊重
する事を知っている夫婦の家庭に、引き篭もりの子供など 出来ようはずも無いと。
どんなに愛している相手でも、自分とは違う他人同士。夫婦が互いの個性を認め合えれば、
自然と子供に 自分たちの価値観を押し付ける事の 無意味さや弊害が分かって来る。

お姉さんが参加した モラ山さん司会の勉強会も、実はモラ山さんが 自分の息子を顧みて、一番
今のお姉さんに役立ちそうな内容を 密かに選んでくれていたのだ。
135のら猫:03/03/12 00:14 ID:???
   _____
 __[l二l__| .    「 …と、まぁこんな風に 多くの親御さんは “甘やかして 育てた覚えなどない
  (∀・ ,,)   .   のに、一体どうしてこんな子に…。” と考えます。もう皆さんには お分かり
 (つ¶  つ.      でしょう。原因は まさにその、キチンと子供を甘えさせてあげなかった事です。
  (  | │       それとは逆に、親御さんが全く無意識のうちに 子供の依存心を育てている
  し(__)       場合があります。

 随分以前の話ですが、若い人たちの心に蔓延る “三無主義” という言葉が 流行語になりました。
 無気力・無責任・無関心ですね。私の息子も、まさにそんな感じの子供でした。とにかく何もする
 気が起きない。やりたい事がない。本人も それを心苦しく感じてはいるのですが、親から見ると
 ただダラダラしている風にしか見えない訳です。で、ついつい親も それを叱ってしまうんですね。

 ところで、私たち親が 常日頃、最も子供に向けて言う言葉って 何でしょうか? 恐らくは 1位が
 勉強しなさい! 2位以下は、片付けしなさい とか、起きなさい 寝なさいとか、ご飯食べなさい
 とか まぁそういう、子供に対して 何かを命令する言葉ではないでしょうか?」
136のら猫:03/03/12 00:16 ID:???

「 この親の一方的な命令は、子供の主体性を奪う 最も強力な武器になってしまいます。
 小森さん? …そう、旦那様の方です。小森さんが たまの日曜日、自分から進んで 前から
 壊れたままになっている 家の棚を修理しようと思っています。
 そこへ奥さんが現れて、一言。“あなた! 一体いつになったらあの棚を直してくれるのよ!”
 と命令したとしましょう。どうです? すっかりやる気は失せてしまって、思わず奥様に
 “うるさいなぁ、これからやろうと思ってたんだよ!” と言い返したくなりませんか?」

  /つ⌒ミ .    『 …え、えぇ。最近は 逆らうと怖いもんで 黙ってますが…痛てっ!
  ヽヽ´Д`)   .   つねるなよ。まぁ、はい。そういう気持ちになると思います。』
 . │    つ
            「 それでは奥様? 奥様が 居間で寝転んで遊んでいるお子様に “早く部屋に
 戻って勉強なさいよ!” と言った時、お子様はどういう答えを奥様に返しますか? …そうです!
 その通りです。先ほどのお父様のお気持ちと 全く同じなんです。うるさいなぁ、やるよ。
 やれば良いんでしょう? な〜んて言うのです。そこでまたブチ切れるお母様も多いですね。
 “まぁ! あなた親に向かって、何て反抗的な態度ですか!” なんてね。…アハハ、皆さんも 深く
 頷いていらっしゃいますね。」
137のら猫:03/03/12 00:18 ID:???

  .〃ノ^ヾ     「 ある統計によりますと、日本人ほど 良く子供を叱る親は 世界には居ない
  ソ ´ーノ)  .   という結果が出ています。数年前の調査ですが、小学生の子供を持つ
  (  ソ )       お母様に、1日の子供との平均会話時間を聞いたところ、大体20分前後
             という結果でした。ところが、同じ質問を 今度は子供にしてみると、出てきた
 結果は 僅か3分だったのです。この17分間の違いを調査すると、お母様方は、子供に命令
 したり、小言を言う時間も 子供との会話の時間だと思っておられたと分かりました。

 一方、子供は そんなものは会話だとは思っていません。残念ながら この場合、子供の言い分
 の方が より正しいと言わざるを得ません。現代の子供は 1日に僅か3分間しか、お母様と心の
 通った会話をしていないのです。後は全て、一方的な小言や命令なのです。

 で、先ほど申しました通り、このお母様のガミガミこそが、実は子供の自主性の成長を阻害する、
 一番の大敵なのです。こう言うと、殆どのお母様は こう反論なされます。
 “だって、私が言わないと ちっとも自分から勉強しようとしないんです。だから、私も仕方なく
 そう子供に言うんです。” …そうですよね。そのお気持ち、私もよ〜く分かりますよ。」
138のら猫:03/03/12 00:23 ID:???
    _____
   [__l二l|__       「 多くのお母様は、子供に勉強をさせるには 2つの方法しかないと
  ( ・∀・)      そう思い込んでいる節があります。つまり叱ってやらせるか、さもなくば
  ( つ¶ つ .     目の前に餌をぶら下げるかです。今度のテストで90点以上取ったら、
  | | |     .   欲しがっていたゲームソフトを買ってあげるわよ、ってなもんです。
  (__)_)        …でも、良く考えてみて下さい。これじゃ まるで、サーカスの動物と同じです。

 サーカスの動物は お客さんを喜ばせる為に、芸を覚えなければなりません。調教師は 動物が
 自分の言う通りに芸をすれば、美味しい餌を与えます。また、間違えれば鞭で叩きますよね。
 先ほど私が話した お母さんの子供への接し方を思い出してみましょう。叱るか、餌か です。
 いかがですか? お子さんを動物並みに扱っている事が、これで良くお分かりでしょう。
 飴と鞭を使い分けて 子供に勉強させる事では、子供の自主性など 微塵も成長しません。

 すべては “やる” のではなく、“仕方なく やらされる” というスタンスなのです。これは 勉強だけでは
 ありません。部屋の掃除も、ご飯を食べる事も、ありとあらゆる事を、いちいちお母さんが子供に
 命令するのが、今の日本の家庭の姿です。」
139のら猫:03/03/12 00:24 ID:???

「 ご存知のように 命令されてやる事には、基本的に 本人の意志は入っていません。自主性とは
 自分の意志を持って、自ら行動する能力の事です。全く正反対ですよね。
 では、そういう風に 自分が何かやり始める前に、1から10まで お母さんから命令される子供が
 大きくなると どうなるのかをお話しましょう。子供が居間でゲームをしています。お母さんは 当然
 子供が遊んでいると解釈しますね。ところが違います。子供は待っているのです。何を?

 …その通り! ゲームをして遊んでいれば、自動的にお母さんが “遊んでないで 勉強しなさい” と、
 命令してくれるからです。それで仕方なく 子供は勉強を始めるのです。お母さんが
 何も言わなければ、子供はいつまでもゲームをしながら 何となく落ち着かない気持ちのままで
 遊びながら 命令を待ち続けるのです。

 以前 私が知り合いになった22歳になるお嬢さんが居ます。彼女には彼氏がいます。
 私がどうして彼と付き合ったの? と聞きますと、彼女はこう言いました。“だって、居ないと 親が
 うるさいから。仕方なく無難そうな男を選んで付き合ってるの。” …笑ってしまいますが、決して
 笑い事ではありませんよ。一事が万事、そうなのです。仕方なく勉強し、仕方なく学校に通い、
 仕方なく働き、仕方なく結婚し…。そんな風に人生を捉えている子供は すごく多いんですよ。」
140のら猫:03/03/12 00:31 ID:???

「 さて、そんな風に 親からの過干渉を受けて育って来た子供は、みな自信なげな若者ばかりです。
 当然ですよね? 自分から行動した事などないからです。親の言いつけさえ守っていれば、
 幸せがひとりでにやって来ると、そう洗脳したのは親たちですが、そういう子供たちが 幸せそうに
 自分の人生を切り開いて生きて行く姿を、私は今まで ただの1度も目にした事はありません。

 多くの場合、大人になって 親からの細かな命令から逃れた途端に、みんな不安になるんです。
 命令される事に慣れ過ぎていて、自分から何かをするという経験が少な過ぎて、皆一様に
 自分の考えや判断に 少しも自信を持てないで、何だか不安げに 毎日を生きて居るのです。

 どうも 私たち日本の親は、自主性というのは、成人式を済ませる頃には 勝手に身に付く
 という風に思っている人が多いようです。今まで あれやこれやと 口酸っぱく命令していた親が、
 もう二十歳になったからとか、もう大学生なんだからと、ある日突然、我が子に命令するのを
 止めてしまう。子供にすれば、いきなり暖かなベッドから 荒野に放り出された気分でしょう。
 頑張って大学に入ったものの、その先の人生を 自分で創造する、気力も能力も欠如したままで
 何をしていいか分からないと まごついているのです。いっそ誰かが命令してくれないかなどと
 思っているのです。そういうのはモラトリアムといって、今までは子供ばかりが責められてきました。」
141のら猫:03/03/12 00:34 ID:???

「 自主性とは、育てるものです。親御さんが 小さな頃から気を付けて育んでやらねば、たとえ
 子供が二十歳になったとしても、決して満足に育ちはしません。
 そして、その自主性が成長する機会を 子供から奪ってしまうのが、親御さんからの事細かい
 命令という 過干渉なのです。子供は命令されればされるだけ、命令されるのに慣れてしまい、
 どんどんと 自分の意志より 親の命令を尊重するようになってしまうのです。自分で考えるという
 行為を どんどんとしなくなってしまうのです。
 つまり、お母様の子供へのガミガミは、まさに 悪循環そのものだったのですね。

 自主性のある子供は、自信に満ちています。自分から行動し、その結果得られる喜びも責任も、
 全ては自分が受け取るべきものだという事を、理屈ではなく 肌で学び取っているからです。
 私は責任感というのも、実は この自主性から育まれて育つものだと思います。
 だってそうでしょう? 誰かに命令されて嫌々やった事が失敗しても、その責任を自分から取ろう
 とは、なかなか思えません。いや、自分は ただやらされただけだと 言いたくなるでしょう?

 無気力とは、自分から何かをする気力に乏しいという事です。小さい頃から あれこれと細かく
 何もかもを親の命令通りにこなして来た子供に、自分から何かをやってやろうという気概など
 充分に育つはずもありませんね。我々親もまた、そうやって自分の言う事を聞く子供こそが
 いい子だと、自分の子供に教え込んでしまうのです。」
142のら猫:03/03/12 00:52 ID:???
   _____
  [__l二l|__  .    「 また 我々のような、引き篭もりの子供を抱える親が 是非とも
  (, ・∀・)   .    留意しなくてはならない、もう1つの問題があります。
 .( つ¶ つ        それは 我々親が、子供の失敗に対して これまで決して寛容ではなかった
  人 ヽノ    .     という事です。子供の失敗を許さないでいる事が、どれほど子供の
 (__(__)          心を傷付け、孤独と自信喪失に追い込むかは、これまでもう何度も
               お話して参りました。

 子供を叱らずに育てられる親など、一人も居るものですか。そうでしょう、皆さん?
 私は必要であれば、親が子供を叱り付ける事は 大いに肯定しますよ。
 ただね、たくさんの親御さんが 子供を叱る時、ついつい犯してしまいがちな過ちこそが、
 問題なのだと思いますよ。つまり “叱り方” の問題です。
 多くの親御さんは、子供を叱っておいて、その後に 放ったらかしてしまうのです。
 正当な理由があって叱る事は、子供に対する罪ではないと思います。でも、叱りっぱなしに
 するのは、親御さんの側の 明確な怠慢と言わざるを得ません。」
143のら猫:03/03/12 00:53 ID:???

「 子供は失敗を責められて成長するのではありません。その失敗を許されて、初めて成長できる
 んですよ。失敗をしない子供が いい子供ではありません。そんな眼で子供を育てると、子供は
 自分の失敗を許せなくなってしまいます。いつまでも いつまでも1つの失敗を悔やみ続ける子供
 が居るとすれば、それは親に叱られたままで 放置された子供たちです。失敗する事は 罪で悪で
 許されざる行為なのだと 信じ込まされてしまった子供たちなのです。
 子供は自分で自分を許すなどという事は、なかなか出来ないものなのです。だからこそ、叱った
 親が、そこで助け舟を出してあげなければなりません。

 分かったら もうそれでいいんだよ。これから気を付けようね。そのたった一言が親から貰えない
 ばかりに、自分の子供が クヨクヨと1つの失敗に、いつまでも拘ってしまう人間になるのです。
 子供としては、1つの失敗を キチンと許されないままで、また1つ 何か怒られる事をしてしまうと、
 まるでペナルティーが加算されて、自分のダメさ加減が 累積して行くような気持ちになってしまいます。
 そうやって 子供はどんどんと、自分自身に “自分は怒られてばっかりのダメな奴だ” という
 レッテルを、自分に貼り続けて行くのです。叱った親が その手でそれを剥がしてやらなければ、
 大人になる頃には、その子は体中が “ダメ” のレッテルで埋め尽くされているでしょう。」
144のら猫@今日はここまで:03/03/12 00:54 ID:???

「 自分に自信のない子供は、このようにして生産されて行きます。ここらで 整理しましょうか。
 1つ、親からの絶え間ない命令という過干渉。1つ、サーカスの動物のように、飴と鞭で子供を
 操ろうとする 間違った教育方法。1つ、子供に厳しく接するだけで、誉めたり 甘えさせたり
 しないような親子関係。1つ、子供の失敗を許さないままに放置する、叱りっ放しの無責任な
 叱責。

 このような親に育てられてしまうと、子供はもう 人間らしさなど少しも無くなってしまいます。
 自信も 自主性も 責任感も乏しい、感情すらないような子供です。いつも自信なげに、オドオドと
 周りの眼ばかりを気にして 愛想笑いをしながら、実は心の奥では 自分や他人の小さな失敗を
 許せないで、不平不満が常に渦巻いているような 人間になるでしょう。

 我々の子供は、早くから 私たちのこの重大な過ちに気付いていたのです。子供たちの
 あの寂しそうな目は、悲しげな目は、必死に “お父さん お母さん、それは違う、間違ってる!” と、
 声無き声で 私たち親に訴え続けていたのです。しかし 私たちはその反論を無視してきました。
 だからこそ、子供は 引き篭もるという問題行動を起こす事で、私たち親に もう一度教育という
 ものを考え直すようにと、そう訴えていたのです。」

── この後は 各々の父母間で、自分の家庭に照らし合わせた対応・改善策を話し合い、
発表する時間が取られて、第7回は終了した。
145のほほん名無しさん:03/03/12 15:16 ID:???
のら猫さんいつもありがとう。
就職おめでとうございます。
残り少ないけれど、応援しています
146☆ のら猫 ☆:03/03/12 22:33 ID:???
>145さん、
書きコ まりがd! こちらこそありがとう。
仕事は15日に、体験バイトみたいな感じで1日だけやってくれと
いわれちゃいますた。この話、今週中に終われるだろうか…。(w
正式に始めるのは引っ越し終わった4月1日からの予定です。

自分の知った事や気づけた事は、必ずしも他の人にも役立つとは思いませんが、
これを読んで下さった方が もし“あ〜、なるほど。”と思って下されば嬉しい。
そしてこの話が 今のあなたを知り、明日のあなたを 少しでも良く変えてゆく為の
小さな力添えになれれば 嬉しいです。転んでも泣かないというのが 2chの
掟なら、私の掟は「転んでもただでは起きない」です。これを描き上げられれば、
僕のプー生活も、ほんの少し“転んで得るものがあった”と思えます。(w
147のら猫@続きです:03/03/12 22:35 ID:???

── モラ山さんは 勉強会の後、小森夫妻とお姉さんと4人で 近くの喫茶店に寄り、さらに色々な
話をしたそうだ。その様子は、お姉さんが翌日メールで 俺たちにも詳しく教えてくれた。

     ∧∧           ∧∧     「 …父と母が モラ山さんに何かを頼んだのか、
    (,, ゚Д゚)        (゚ー゚*)  .    それとも モラ山さんご本人の判断なのかは、私にも
      /∪∪|| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| し Uヽ .    良く分かりません。でも この日のモラ山さんは、
  .〜(,  |\||  VAIO  |と −O〜 .  これまで何度かお話したうちで、一番厳しく また一番
  .      '\,,|==========|     .    優しい感じがしました。

 最初は うちの父と母が、色々と その日の勉強会の事や、これからの事について話していました。
 私がメモを取った中で、是非ギコさんや しぃちゃんにも 聞いておいて欲しいと思う部分だけを、
 書いて送らせて頂きます。

 これは、父が 男の子は男らしくあって欲しいと願う分、やはりある程度は 孤独や痛みにも、
 耐性を持てるように 育てるべきではないか。という趣旨の質問をした事への、モラ山さんからの
 回答です。やはり父は 心のどこかで、まだ “スパルタ教育” に 未練というか、あこがれみたいな
 ものを捨て切れないのか、自分が今勉強している接し方をマサオに続けて、あの子が男としての
 強さを持てるかどうかという所が 気に掛かっているようです。」
148のら猫:03/03/12 22:36 ID:???

         '´ ̄ ヽ .    『 妻は大学検定を受けて、マサオを大学へ進学させたいんですわ。
   .彡⌒ ミ ( ノノ)) )〉      私としては もちろん学歴も必要でしょうが、それよりは一人の男
 .  (,,´Д`)  リイ.゚_ ゚ノil       として、それなりに自分の力だけで 生き抜いて行ける力というか、
  と <V>.つ ( ⊃と        そういう自信を持つ事の方が、大事だとは思うんですがね。』

「 なるほど。お気持ちはもっともですね。学歴も あって損はしないでしょうしね。
 お父様が男親として、マサオ君に強くあって欲しいと願う事も 当然でしょう。で、…お姉さん?
 お姉さんは、マサオ君には どうあって欲しいんですか?」

『 私は…、私は あの子の思うままに生きさせてやりたいです。大学の事も、父の言う男としての
 強さも、まだまだ今のマサオには 早すぎる話だと…そう思います。』

「 なるほど。私も お嬢さんの意見に賛成ですよ。でも、だからってお父さんお母さんを 急ぎすぎだ
 と責めないであげて欲しいね。こんな風に思ってしまうのが “親心” ってもんだからね。
 …さて、今のマサオ君には、根本的に足りないものがあります。まずそれを補ってやらねば、
 大学も 男としての強さも、夢のまた夢でしょう。」
149のら猫:03/03/12 22:41 ID:???

『 それは、何でしょうか?』

「 親と子の、基本的信頼の回復です。その回復なしに、マサオ君がもしこのまま社会に出れば、
 それこそ大変なストレスや苦労を背負い込むでしょう。基本的信頼とは、平たく言えば 親子が
 互いに、心がつながっているのを 実感出来ているかどうかです。
 我々は まだその長い道程を歩き始めたばかりです。この勉強会が終わる頃には、マサオ君が
 すっかり生まれ変るような、そんな幻想をお持ちなら、今すぐ捨てて下さい。」

『 あ、あの…マサオが 回復するには、どれぐらい掛かるんでしょうか?』

「 それは、本人次第とも言えますし、ご家族の頑張り次第とも言えるでしょうね。まぁ 早い話が
 誰にも分からないのです。」

『 …そんな。』

「 取りあえずは、勉強会に参加しさえすれば良いとか、私たちの言う通りにしていれば良いとか、
 そういう考えはお捨て下さい。マサオ君としては、ご両親の 今の真剣な気持ちを信じる事さえ、
 まだまだ難しいのです。」
150のら猫:03/03/12 22:43 ID:???

「 人間の感情は、そう単純なものではありません。十数年間に渡って、自分が望むものとは
 全く違う形で 愛情を表現されてきたお二方を、明日からいきなり信頼しろと言われても、それは
 マサオ君でなくとも 誰にだって無理な話です。言葉でなく 真摯な態度で、これからお二方が
 マサオ君の小さい頃からの心の傷を 地道に解きほぐし ケアして行く事以外に、手っ取り早い方法
 などありません。」

『 そうですか……。』

「 ええ。その点だけは はっきり申し上げておかないといけません。ご両親が回復を焦ったばかりに
 全てが元の木阿弥になってしまったご家族も、残念ながら少なくありませんから。何故なら
 マサオ君がお二人に対して 心を閉ざすきっかけになった事さえ、まだ誰も知らないのです。そういう
 1つ1つの出来事を思い出し、謝るべき所は謝り、誤解があるのなら それを解いて行かないと。
 我々が貼りっ放しにしていた “ダメ” のシールを、我々自身が 1枚1枚 優しく剥がしてやるのですよ。

 …今から あまり先の事を心配しても始まりません。それよりも これからの勉強会で、親子の
 信頼回復の為の 細かいノウハウも、他のご家族と一緒に しっかり勉強して行きましょうよ。」
151のら猫:03/03/12 22:44 ID:???

── 私はその時 思い切って、モラ山さんに 例のマサオとギコさん達との メール交換の記録の話を
して見ました。モラ山さんは、それは素晴らしい。でも それをご両親に見せるには、やはりマサオ君
本人の承諾が必要でしょう、と言われました。私は昨日、その事をマサオに説明しました。マサオは
お姉ちゃんが良いと思うなら 別に構わないと承諾してくれましたので、今度モラ山さんに
お会いした時、その内容を見て頂こうと思っています。

その他にも、モラ山さんは マサオの問題に関して、こんなお話も して下さいました。
   _____
  [__l二l|__      「 一人の大人の人間としては、自分の事ぐらいは自分で出来るべきでしょうな。
  ( ・∀・)  .     でも、何でもかんでもを 一人で一人でと言うのも どうかと思います。
  (  つ つ  .     何故なら、私たち人間は 社会生活を営む上で、互いが互いを支え合って
             初めて生きて行けるのですからね。

 小森さん、誰かと助け合う事の出来る能力もまた、人間の養うべき大切な能力ですよ。
 現に お父様とお母様は、お互いに助け合って生きていらっしゃる。お父様も会社では 同僚と
 助け合ってお仕事をなされてますよね。誰も一人では生きて行けないのに、あまりに “一人で”
 という事に拘りすぎるのも、私としてはどうかなぁと そう感じてしまうのです。」
152のら猫:03/03/12 22:48 ID:???

「 人と助け合う能力ってのは つまり協調性です。協調性を学ばなかった子供は、大人になっても
 友人たちや会社の上司たちとも、上手く人間関係を作れません。他人と関係するってのは
 時として煩わしいものですよね。しかし、それでも人は 人と関わっていないと、生きていくのは
 難しい。

 私たちは 社会という大きな人の輪の中で、一人孤立するような人間を育ててはいかんのです。
 小森さんが将来、マサオ君を絶海の孤島で一人、ロビンソンクルーソーのような生活させるおつもりなら、
 私はそれを止めはしません。
 しかし もし将来、マサオ君が 良い友人に囲まれ、妻とも良い関係を保て、会社においても
 周囲の人たちと 良好な人間関係を築いて行ける人間になってもらいたい。そして その人たちと
 共に助け合い、人生の喜び・苦しみを分かち合えるような人生を送って欲しいと願うならば、
 一人ぼっちでも生きて行ける強さより、その協調性の育成こそが、まず何よりも大切なのでは
 ありませんか?

 …過去の私も含めて、今の親御さんたちは あまりにも早い時期から、子供の自立心を育てようと
 し過ぎている気がします。しかも その自立心の育て方さえ間違っている事は、今日の勉強会でも
 お分かりになられたはずです。」
153のら猫:03/03/12 22:49 ID:???

『 …なるほど。仰る通りかも知れません。最近の若い者は ちぃーとも協調性を持っとらんです。』

「 私たちが勇気を持って人生の難関にチャレンジできるのは、ただ強いからではないでしょう?
 失敗した時、傷付いた時、それを支えてくれる家族や友がいる。その安心感があるからこそ、
 私たちは勇敢にもなれるのではありませんか?
 友人や同僚との間に その信頼関係を築ける力こそが、協調性ではないでしょうか?」

『 仰る通りですな。なるほど…何でそんな事に、わたしゃ今まで気がつけなかったんだろう?』

「 ご家族との信頼関係とは、その協調性を養う為の まさに基礎となるものです。
 今の小森さんも、奥様のお力無くしては有り得なかったでしょう? しかし、マサオ君には 今まで
 誰一人、味方になってくれる人が居なかったのです。失敗を慰められるどころか、逆に最愛の
 親から さらに追い討ちをかけられていたんです。家の中も外も敵だらけじゃあ、小さな子供に
 勇気なんて、何処を絞っても出て来はしません。」

『 いや、これは手厳しい…。』

「 あ、いえ。こちらこそ…。つい興奮してしまいました。申し訳ありません。」
154のら猫:03/03/12 22:51 ID:???

『 …いえ、いいんですの。勉強会を始めた頃は、正直申しまして 耳の痛い話や、自分に罪悪感を
 感じさせるお話が多くて…。でも、今はそうやって誰かに怒られていないと、何となく心が苦しい
 ような気さえするんです。』

「 …お気持ちは痛いほど分かります。私自身が まだ息子に対する自分の罪の意識を、完全には
 捨て切れていないものですから、どうしても 言葉がきつくなってしまって…。」

『 なるほど。いや 実際問題、私も大変な借金を背負ったような気分です。』

『 モラ山さん、どうぞお気になさらずに…。私も そして父も母も、モラ山さんのお力が無ければ
 決してここまで来る事は出来ませんでした。』

「 ありがとう、お嬢さん。いや、実に素晴らしい娘さんだ! 私にこんな良い娘が居たら、町じゅうを
 連れ歩いて、“どうだ、うちの娘は!” って、みんなに自慢して歩きたいぐらいですよ! あはは。」
155のら猫@今日はここまで:03/03/12 23:10 ID:???

── その笑いで みんなの気持ちがちょっぴり救われて、何となく話の方は中途半端でしたが、
それで父と母は 先に帰るからと言い出しました。私も一緒に失礼しようと思ったのですが、
モラ山さんが、10分だけ時間を頂けますか? と仰るので、私一人が 喫茶店に残ったのです。

   _____      .  「 …外の世界で何があっても、家に帰れば優しい家族が きっと自分を優しく
  [__l二l|__        慰めてくれる。そう心から信じられるなら、マサオ君だって 失敗などそんなに
 ( ・∀・)      恐れなくて良かったのです。
 ( O   つ  .    そういう強い信頼を、何よりもまず家族の中に回復させなければ、
              今のマサオ君のように、いじめられて対人恐怖になっている子供が、勇気を
 出して 家の外に出ようなんて 思えるはずもありません。
 我々が 敢えていじめっ子の事や、先生の責任を多く語らないのは、そういう理由からなのです。
 マサオ君は今、その隠した表情の奥で、お父様お母様が 本当に自分の味方になってくれるか
 どうかを、じっと観察しているのです。信じたい気持ちはあっても、過去の悲しい記憶が邪魔を
 して、まだ もう1度親御さんの胸に飛び込む勇気を 持てないで居るのですよ。

 …ところで お嬢さんは、今日私が あなたにこの勉強会に参加して頂いた、その理由を分かって
 おいでですか? 私は何も 今までお父様やお母様が、あなた方子供たちに向けて来た、
 間違った愛情表現という罪について、ただ知って欲しくてお呼びしたのではないんですよ?」
156のら猫@続きです:03/03/13 21:59 ID:???

   _____        「マサオ君が まだ小さい頃、夜中に小児喘息の発作を起こしたのを、
  [__l二l|__        お嬢さんは覚えておいででしょうか?
 ( ・∀・)      その時 お父様お母様は、電話帳を丹念に調べて、あちこちの病院に
 ( O   つ .     電話をかけて廻りました。
              それでも 診察してくれるお医者さんは、1つも見つからなかったと言います。」

『 …私自身には 記憶はありません。でも そんな話を昔 母から聞いたような記憶はあります。』

「 そうですか。…お父様お母様は 夜中だったにも関わらず、近くにある 町の小児科医院へ
 マサオ君をおぶって行き、寝静まった医院の勝手口から お医者さんに声をかけ、何とか息子を
 診察してもらえるようにと 頼んだそうです。
 あのお父様が、地面に土下座して お医者さんに頼み込んだんだそうです。…知ってましたか?」

『 いえ、そこまでは母は私に話さなかったと思います。』
157のら猫:03/03/13 22:00 ID:???

「 では もう1つ。お嬢さんは高校3年生の頃、1度だけ プチ家出をされたそうですね?
 原因や何かは 私も詳しくは伺ってませんけど。その時の事、覚えていますか?」

  .〃ノ^ヾ      『 えぇ、それはもう 私自身の事ですので…。確か夏休みに入ってすぐの頃
  ソ;´-ノ)   .     だったと思います。高校3年の時は、私と母が一番対立していた時でした。
  (  ソ )        家出の一番の原因は、私の進学先をめぐっての事だったと思います。』

「 …お嬢さんが家出した日、お母様は 一睡もせずに、あなたの帰りを待っていたんです。
 夏だったそうですが、次の日 夜が明けた頃には玄関に出て、後はずっと あなたがお家へ
 帰られるのを、そのまま玄関で待っていたんです。知ってましたか?」

『 ……母が玄関で待っていたので、私は なかなか家に戻る勇気が持てなかったんです。
 あの日は、お昼前ぐらいに家のすぐ前まで戻っていたんです。…そうなんですか。母は一言も
 そんな事は言わなかったと思います。きっと怒鳴り散らされるだろうと覚悟して戻ってみたら、
 母が何も言わずに居てくれた事、その事だけは 今でもハッキリと覚えています。』
158のら猫:03/03/13 22:03 ID:???

「 さて、私は何も お嬢さんに説教する為に、こんな話を持ち出した訳じゃありません。そんな風に
 親の苦労を引き合いに出されて お説教された事は、今まで数え切れないでしょうしね、あはは。

 私が分かって頂きたいのはね、心というもののシステムについてなんです。
 …ここに 3冊の本があります。それぞれが 人間の記憶だと考えて下さい。ご自身の身に
 置き換えて考えるとすれば、この3冊の本の中に、お嬢さんの今まで生きてきた 全ての記憶が
 入っていると思ってもらえば 分かりやすいでしょう。

        __     人間は 自分が体験して覚えた大切な知識は、その時の感情や感覚と共に
      /  ./( .   この本に覚え込みます。例えば 火傷をした時、その熱かったという感覚、
     ∠___//( .   それにとても嫌な思いをしたという感情。そういうものと共に、火に触ると
    (====(//( .   危険だ という事を 本に書き込み記憶するんです。
    (====(//   お嬢さんがもし コンピューターの事を知っていらしたら…そうだ、帰ってから
    (====(/     マサオ君にでも聞いてみるといい。人間の記憶には2種類あって、1つは
      ̄ ̄        今お話しした、感情や感覚と共に記憶されるもの。また もう1つは、
 感覚や感情とは関係なしに、ただ記憶としてのみ覚え込むものです。パソコンでいえば、電源を
 切ると 全部真っ白に消えてしまう “メモリ” というのが 後に述べた方の単なる記憶の方で、
 感情や感覚と共に 長く深く覚え込む記憶が、“ハードディスク” という、電源を切ってもそのまま残る
 ものに相当する訳です。」
159のら猫:03/03/13 22:04 ID:???

『 つまり…人間がいつまでも忘れない記憶というのは、感情とか感覚と共に覚えこんだものが
 ほとんどだ、という事でしょうか?』

「 素晴らしい! その通りです。学生さんが 受験勉強で必死に覚えたものも、1週間も経てば
 きれいさっぱり忘れられてしまうのは そのせいです。その記憶のほとんどが “ハードディスク”
 ではなく、“メモリ” の方に記憶されてしまうからです。人間は本能で、自分が生きて行く為に
 必要で、大切な方を優先して記憶します。人間本来の生活から見れば、数学の公式よりも、
 火に触ってはいけない という記憶の方が、生きて行く為には より大切です。
 いくら数学が出来ても、火に飛び込むと死んでしまうのを すぐに忘れてしまうような人は、
 長生き出来ませんよね。

 …で、今この本は お嬢さんの “ハードディスク” ですよ。この本の中には 記憶だけじゃなく、今まで
 自分が感じてきた喜び・悲しみ・痛み・笑い・安らぎ・失望、そういうものが それぞれの記憶と
 1つのセットになって 保管されている訳です。ここまでの話は ご理解頂けましたか?」

『 えぇ。とっても良く分かる説明ですわ。』
160のら猫:03/03/13 22:11 ID:???

「 ありがとう。じゃあ いよいよ本題に入りましょう。ポイントは2つあります。まず1つ目は、この記憶
 が、感情や感覚とセットになって保管されている事です。大好きな彼に振られた記憶を遡れば、
 必ず悲しい感情までもが思い出されるでしょう? お父さんと遊園地へ行って 凄く楽しかった事を
 思い出せば、何だか心までもが 温かくなるでしょう? 理由はお分かりですね? そう、全ての
 大切な記憶は、その時に感じた感情・感覚とセットになって保管されているからなんです。

 嫌な事なのに忘れられない、忘れてしまいたいのに、思い出す度に胸が痛くなる想い出。きっと
 誰にだって そういう記憶があると思います。そういう記憶が あまりにも辛い感情と一緒に心に
 書き込まれてしまうと、ここでまた 人間の本能が働きます。つまり思い出すまいとさせるんです。
 辛い事・悲しい事を絶えず心に抱えていては、人間はちっとも幸せな気分にはなれません。
 よってそれは、人間の生存本能を脅かす記憶として、心の奥に押し込められてしまいます。
   _____
  [__l二l|__  .   ここで もう1つのポイント。例えそれが、どんなに忌まわしい記憶であっても、
  ( ・∀・)   .     人間はそれを 自分の手では消せないんです。忘れてしまいたいと 本人が
  (  つつ      思っても、もし本当に忘れてしまえば、また同じ過ちを犯すかも知れません。
              だから、本能がそれをさせないんです。覚えている限りは、もう2度と 同じ
 過ちを繰り返さずに済みます。誰かにいじめられて来た人は、いじめられると思うだけで、
 実際にいじめられなくても 恐怖を感じます。その恐怖によって、その人は危険を事前に察知し、
 災難から逃れなければと感じる事が出来ます。」
161のら猫:03/03/13 22:13 ID:???

『 どんなに嫌な記憶であっても、それが自分の身を守る為に必要だと…そう本能が感じている
 限り、その記憶は捨てられずに残る。しかもそれが、思い出すだけでも 自分を危険にする程の
 記憶であった場合は、自分の精神衛生を守ろうという本能によって、心の奥底に押し込まれる。
 でも やはり消される事はないのですね?』

「 …そうか、お嬢さんは 一時ご自分でも、心理学を勉強されてたんでしたね? なら 話は早い。
 辛い記憶・悲しい記憶を ずっと忘れられないのは もちろん辛い。でも、それを忘れてしまうのは、
 覚えている事よりも より自分にとって危険だと、そう本能が命令する記憶こそが問題なのです。
 …普通の記憶であればね、それを思い出す事によって 少しずつ毒が抜けて来ますよ。」

『 それは 例え思い出したとしても、もう心が辛くなったりしなくなる…という事でしょうか?』

「 そうです。辛いだけだった人間の記憶が、いつか美しい想い出に変わる為には、1つ条件が
 あります。本人がそれを、度々思い出す事です。その時を思い出し、色んな角度から自分自身を
 振り返ってみる事で、人間はある程度まで 自分の心の痛みを癒す事が出来るのですよ。
 でも、記憶の奥底に閉じ込められた、激しい痛み・悲しみの記憶は、ほとんど本人にすら
 思い出される事がありません。先程も言った通り、思い出す事すら危険だと 本能が言うからね。
 だからこそ、いつまで経っても 毒が抜けないのです。」
162のら猫@今日はここまで:03/03/13 22:18 ID:???

『 …あの、本当に その “ハードディスク” の記憶を消すのって、誰にも不可能なんでしょうか?』

「 …と、いいますと?」

『 …マサオは、今でも 昔のいじめっ子を見るだけで、足がすくんでしまうんです。その記憶は本能
 によって 消し去る事を禁止されている。それは分かりました。辛い記憶も 少しずつ思い出す事で
 徐々に痛みが薄らいで行くというのも 分かりました。 残念だけど、マサオのは モラ山さんの言われた
 深刻な方の記憶だと 私自身もそう考えています。
 でも、間違いなく その記憶が、マサオを苦しめ続けているのも事実なんです。
 マサオ、言ってました。ギコさんたちと 自分の記憶を遡っている時は、とても辛い気持ちになったって。

 …もちろん、ギコさんたちを責めるつもりはありません。マサオだって 強制されて、それを思い出した
 訳じゃないですし。でも それがきっかけで、一時期マサオの鬱がひどくなったのも事実です。
 いくら思い出す事で 毒が抜けると分かっていても、またもう1度 繰り返し思い出せなんて、それは
 今のマサオには 過酷過ぎる気がするんです。だけど…でも、それじゃあ あんまりです! だって
 消し去る事も出来ない、思い起こして毒を抜く事も出来ない。…それじゃあマサオは、これからも
 一生 その辛い記憶と一緒に、いじめっ子に怯えながら 生きてくしかないって事になりませんか? 』

「 …落ち着いて、お嬢さん。例え消せなくとも、例え思い出せなくても、我々にはまだ他に
 方法が残されてるじゃないですか?」
163☆ のら猫 ☆:03/03/14 20:06 ID:???
どーやら、ってか、今週中に終了は無理みたいっす。
明日だけじゃなく、日曜まで応援で出勤する羽目に…。ううぅ。
という訳で、今日と明日はお休みです。m(__)m

予定では今日が最終日だったのに。初代宇宙戦艦ヤマトのスケジュール並みに
遅れております。よーし、父さん頑張って20日迄には終わらせるぞ〜っ!(泣
164:03/03/16 06:43 ID:???
あぁーー!
やっと発見できました…( ´∀⊂ヽ 
2月にPCを修理して以来、ここをずっと探していました。

…お話の途中でのレス申し訳ありません。
続き楽しみにしています(´∀` )
165☆ のら猫 ☆:03/03/17 22:14 ID:???
灰タソ、書きコまりがd。
最近、灰タソの好きなモナーの出番が少なくてスマソン(w

僕の中の理想のモナーは、何も話さずただ静かに笑っている…そんな感じなんです。
そこに居るだけで 皆がマターリできるような。あと1回だけモナーが出てきますので、
お楽しみにね。
166のら猫@続きです:03/03/17 22:16 ID:???

  .〃ノ^ヾ      『 方法といっても、勉強会では あまり具体的な方法は お教え頂けないような
  ソ;´。ノ)       事を、父も母も言っておりました。もちろん 一言で引き篭もりと言っても、
  と) ソ.)⊃       その原因も その子を取り巻く環境も 本人の性格も、全て千差万別ですから
              マニュアルのような物を作る事自体、難しいとは思います。
 ただ、もし出来るなら マサオの為に、私にも出来る事を教えて下さいませんか? 思い出さずに
 また消し去らずに、心の奥底に抑え込まれた記憶を どうやって解放して、どうやって癒せば
 いいんですか?』

「 …記憶とは、言わば人生の日記です。例えば ひどい失恋の結果、異性を信じる事が出来なく
 なった人の日記の 恋愛についての記述は、未だにその時人を好きになった為に体験した、
 辛い事・悲しい事・苦しい事だけしか 書き込まれていないのです。
 でも、マサオ君にも お嬢さんにも、若さがあります。それは時間があるという事です。新しい記憶
 新しい経験を書き加える時間があるという事です。」

『 …新しく書き加える時間。』
167のら猫:03/03/17 22:19 ID:???

「 そうです。若いという事は、まだまだハードディスクに書き加える余白が残っているという事ですよ。
 マサオ君に、家族とは 強い信頼で結ばれた、自分の最初で最後の味方なのだと、そう もう1度
 信じてもらえる事さえ出来れば、そして 自分の人格や自由を、最大限尊重してくれる味方なのだ
 と分かってもらえれば、マサオ君は 今までの悲しみと絶望と孤独だけで綴られた人生の日記に、
 “家族って、それだけじゃないんだ” という、新しい価値観を書き込む事が出来ます。」

『 それで 本当にマサオは立ち直れるのでしょうか?』
   _____
  [__l二l|__       「 今のところは それしか方法が無いという方が、より正しい言い方なのかも
 ( ・∀・)      知れませんね。私たちが今 やろうとしている事を、今すぐマサオ君に理解して
 ( U  つ .     もらおうとするのは、まだ少し難しいかも知れない。
              でも、お嬢さんには きっとこれからするべき事は、それしかないというのは
 分かって頂けると 信じています。ただ単に 親のして来た事を恨むだけでは、何も解決しないって
 いうのは、分かってもらえますよね?」

『 …はい。でも正直にいうと、頭では分かっているけれどって、私もまだそんな感じです。』
168のら猫:03/03/17 22:21 ID:???

「 もちろん、今すぐに和解しろなんて言いません。これからの 真剣で正直な、親子の話し合いの
 中で、お互いが感じ切れて来なかった愛情や寂しさを拾い集め、確認して行く作業を通して、
 それは行われなければなりません。時間は 親と子の双方に必要です。それもタップリとね。
 お父様もお母様も、これまで あなたやマサオ君にシッカリと手渡せなかった愛情を、これから
 少しずつでいいから あなたたちに受け取ってもらいたいと、そう心から願っていますからね。」

『 そうですよね。そうなんですよね。私は ちょうど父や母、そしてマサオの、両方の気持ちが分かる
 んです。だから 余計に迷ってしまう事や 悩んでしまう事が多くて…困ってます、アハッ。』

「 これまでのマサオ君とお嬢さんの人生は、その殆どが 苦悩と孤独の中にあったと思います。
 さぞ 辛かった事でしょう。本当に 今まで良く、その寂しさ・辛さに耐えて頑張って来られましたね。
 でも実は、あなたがた姉弟が知らない所で、ご両親だって 色々と苦しんで来られました。
 …そして 今こうして、お父様お母様は その責任を自覚し、自分たちを変えて行こうと努力され
 始めています。
 だとすれば、これからは あなた方にも、子供としての責任が生まれて来るのです。」
169のら猫:03/03/17 22:24 ID:???

『 責任…ですか?』

「 そうですよ。出来る限り、自分を大切にしてあげる事です。自分を愛せない人や 自分なんか
 どうなってもいいと思っている人の多くが、社会で色々と問題を起こしたりするんですからね。」

『 以前 しぃちゃんにも、同じような事を言われました。でも、それもなかなか今の私には…。』

「 自己否定や自己嫌悪を繰り返して来た人は、ある意味訓練されてしまうんでしょうね。パソコンも
 良く使うプログラムは、取り出しやすい場所に記憶させた方が、早く能率的にデータの処理が出来る。
 この3冊の本を例にすれば、お嬢さんやマサオ君は、そういうマイナスな思考を想起させるものを、
 いつの間にか この一番上の本に集めてしまっているんでしょう。」

『 そうですね。そうか、だからすぐに そういうマイナスな思考に陥ってしまいそうになるのかぁ…。』

「 私たちは 勉強会が終わると、まず自分の子供との間に、3つの約束を取り付けられるように
 努力します。1つは いかなる場合でも、親がその子の為にならないと判断する事は、勇気を
 もって叱るという事。自分なんかどうなってもいいとか、自分さえよければいいとか、そういう
 考え方を持った人間は、自分や他人を傷付けてしまいます。」
170のら猫:03/03/17 22:28 ID:???
   ______
  [__l二l|__       「 今まで自分が子供にして来た過ちを知ってしまった親御さんは、今度は
 ( ・∀・)      一転して 子供を叱るのが怖くなってしまったりするのです。でも、そんな風に
 と    つ      子供の為にならない事を 黙って放置するのは、絶対に良くありませんからね。
              2つめは、それ以外の事では 決して子供の判断や考えを無視して、命令や
 押し付けをしないと、親が子供に約束する事です。あくまで子供の判断を優先して、意見の違い
 があれば じっくりと腰を落ち着けて、家族で話し合うようにします。」

『 仰る通りですね。本来、私たち家族…というか親子の関係って、そうあらねばなりませんわ。』

「 3つめは、子供さん自身に 自分の人生に 自分で責任を持つように促す事です。引き篭もりの
 子供は、勇気も自信も自主性も どれもが皆 未発達です。好きで引き篭もった訳ではないにしろ
 怠惰な生活に慣れ切ってしまっています。私の息子もそうでした。だから、子供にも約束させる
 のですね。親や兄弟は 全面的にあなたをバックアップすると約束するから、あなたもあなたの人生
 に、自分の持ち得る限りの責任を持ちなさいと。皆が協力して 家庭を変えようとする中、自分だけ
 は 相変わらず親を責めて 自分を嫌いになって、生きるのが嫌になって…。毎日何もせず 家から
 一歩も出ようとしない、ずっとそんなままでは いつまで経っても本人の人生も変わらない。」

『 私たちが 引き篭もったままで居る 言い訳をさせない程、頑張って支えてやればいいんですね?』
171のら猫:03/03/17 22:30 ID:???

「 えぇ。でも忘れないで下さい。大切なのは、お嬢さん自身が 自分を幸せに導く事ですよ。それに
 よって、マサオ君の胸に希望の灯をともす事です。違いますか? あなたが幸せになる事以上に、
 弟さんを力付けられるものなどないと言ってもいい。
 …誰かを幸せにしたければね、その人のそばで “あぁ自分は今とっても幸せだなぁ” って気持ちを
 めいっぱいに感じる事ですよ。誰かを安心させたければ、その人の横で 自分が安心すればいい。」

『 …私にも、いつかそんな幸せな日や 幸せにしたい人が出来るんでしょうか?』

「 慌てなくていいんです。その為に今から10年掛かっても、あなたはまだその時30歳だ。
 今までの苦労や孤独を肥やしに変えて、人生に幸せの花を咲かせる事は、充分に可能でしょう?
 世の中には まだまだ自覚症状なしで、今のあなたのような苦しみを抱えている人が たくさん
 居ます。…私は思うんですよ。受験に1度失敗したからと自殺するような子供も、自分に厳しい
 目を向け続けたあげくに 心の病を患う人や、職を失って自暴自棄に陥る人。折角の幸せな夫婦
 生活を、お互いの批判と憎しみ合いの場に変えてしまう人たち。
 全ては皆 まだ自覚症状がないだけで、実際は あなたがた姉弟と 同じ苦しみを抱えたままで、
 今を生きている人たちなんじゃないだろうかってねぇ。」
172のら猫@今日はここまで:03/03/17 22:33 ID:???

『 えぇ、確かに。私も最近そんな風に思う事が多いんです。』

「 たとえ今までの20年間は苦しくとも…です。これからの残り60年間、少なくともあなたは
 そういう苦しみとは無縁で生きて行ける。もちろん人生には、他にも色んな苦しみや悲しみが
 やってくるでしょうが、それは人間みんなが等しく抱える苦しみですからね。」

『 はい。少なくとも 言い訳を探して廻るような人生だけは、私も歩きたくはありません。』

  .〃ノ^ヾ      「 ご両親と心が通い、あなたの心の中の苦しみや怒りが和らげば、
  ソ ´-ノ)      自然に許しの気持ちは芽生えて来ますからね。人間の諍いの原因というのは
  (  ソ ) .     往々にして、自分は変わらずに 相手だけを力ずくで変えようとするからです。
             悪い想い出が消えて行けば行くほど、今度は良い想い出が、あなたの心の
 中にも蘇って来るようになります。全ては自然にそうなります。それが心の理( ことわり )です。」

『 はい。ありがとうございます。』

「 今はただ 怒りや恨みや悲しみという雲のせいで、暖かな日差しが あなたの心に届いていない
 だけです。雲が晴れれば、必ず暖かな日差しが あなたの心を照らし出すようになります。
 心がそうなれば、人は自然に 闇や影を求めようとはしなくなる。陽の当たる場所へと向かって、
 自分から歩いて行けるようになれるんですよ。」
173のら猫@続きです:03/03/18 22:12 ID:???

── それからまた 2ヶ月余りの時間が過ぎ去った。

今 俺たちの前には、お姉さんから届いた 一通のメールが、眩しく表示されている。
ここまで、俺たちの話に 一緒に付き合ってくれたみんなに、一刻も早く このメールを読んで欲しいと
思うけれど、物事には順序ってものがある。

                       だから、このメールの内容を みんなに見てもらう前に、
     ∧∧        ∧∧   .  この2ヶ月のうちに起こった、2つの大きな出来事
      (,, ゚Д゚)        (゚ー゚*)  .  について 先に話す事にしよう。
   .   / つ || ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| Uヽ    まず1つめは、例の マサオと俺たちとの間に交わされた
    〜(, |\||  VAIO  | ⊂ )〜   メールの件だ。お姉さんが 初めて両親に、マサオの過去に
   .   '\,,|==========|       関するメールを読ませたのが、今からちょうど2ヶ月前だ。

初めて あのメールを読んだ両親のショックは、相当なものだったらしい。とりわけ、今まで どちらかと
いえば マサオの復学の為に、不承不承に協力してきた感のある、お母さんのショックが大きかった
ようだった。
お姉さん曰く、マサオが引き篭もりになった根本の原因について、お母さん自身は 今まで父親の
厳し過ぎる教育に原因があったと そう考えていたらしかった。
174のら猫:03/03/18 22:13 ID:???

マサオのお母さんが、もし “子育て勉強会” に参加しないままに このマサオの過去についての記述を
読んだとしたら…? 恐らくは 激しい反発心を、お母さん本人に抱かせたに違いないだろうと思う。
マサオがこれまで、自分の心の奥の 苦しみや悲しみを、両親に向けて告げられなかったのも、この
激しい反発と それに伴う、両親からの更なる責め苦を恐れていたからだ。

いや、もっと踏み込んで言えば、マサオが恐れていたのは、この最後の訴えまでもが、両親から無視
されるかも知れない。そうなれば、今度こそ本当に 自分の全ての希望が絶たれてしまうのでは
ないかという 恐れだったのかも知れない。

もちろん、これを読んだ両親としては “いや、それは違う。いや、あの時は…。” と、反論や釈明を
したい気持ちが いっぱいになっただろう。しかし 勉強会も全日程を終了し、両親も自分たちの
思い違いの教育が、子供に与えた影響を深く知る事となった今、もはやマサオの両親も その事実を
あるがままに受け止める心の準備を 十分に整えていた。

大切なのは、マサオの告白の内容が真実なのかどうかではない。その時マサオが そう感じたのだと
いう事実を知る事こそが、一番大切なんだ…。
175のら猫:03/03/18 22:14 ID:???

何より、引き篭もりの子供の 両親への怒りは、“つまり自分は それだけ、父や母に愛され
たかったんだ。” という、子供の心の叫びの裏返しなのだ という、勉強会で告げられた言葉が
マサオの両親の気持ちを支え、奮起させたようだった。
もちろん、この間のお姉さんの奮闘振りは、涙ぐましいものがあった。彼女は 苦しみの中にも、
その向こう側に待っている 希望の光を見失う事は無かった。後に モラ山さんから、世界一の石鹸
だったと評されたお姉さん。その苦労が、この後の彼女の人生を支える自信を生み出したであろう
事も、また誰もが認める事実なんだ。

                       お姉さんは 俺たちに宛てたメールの中で、こう書いている。
         .   '´ ̄ ヽ          “今まで分からなかったけど、本当の努力って 楽しいのね。
   彡 ⌒ ミ   〈ノノ)) ))        努力って 辛くて苦しいものだとばかり思い込んで来たけど、
   (_∩д`) . _ リ´_ `;ハi        今まで誰かにやらされる努力しか、私は知らなかっただけだと
 旦( /  つ///(_Y_, ハ 旦       分かりました。自分から望んでする努力は、その苦労さえも
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  . .  楽しむ事が出来るのね。”
176のら猫:03/03/18 22:21 ID:???

…そんな訳で、両親は マサオの書いた告白については、一切マサオを怒りもしなかったし、また 一切
言い訳もしなかった。家族全員が集まった夕食の時間に、両親それぞれが、まずマサオとお姉さんに
“すまなかった” と謝り、これからの自分たちを見ていて欲しいと 自分たちの子供に誓いを立てた。

マサオのお母さんが 本格的に変わり始めたのは、この告白文を読んだのが契機だった。
あの日、怒りに任せて つい口走ってしまった、“そんなに行きたくないなら、もう 学校なんて
行かなくていい。” という一言。それが最終的に マサオの引き篭もりの引き金になっていた事を、
何と本人は すっかり忘れてしまっていたそうである。

一番頑固な人間が 一番苦しむ とは、モラ山さんが残した名言だ。ただ 付け加えるなら、そういう
人間が変わった時には、その人こそが 最も強力な味方に変わるというのも、本当の事だろう。
この日を境に、お姉さんと母親の冷戦は完全に終結し、見事なまでの母娘二人三脚での協力が
スタートした。
無論、この間の小森家に 波風が一切無かった訳ではないけれど、それについては もう今さら
詳しくは書かない。大切なのは 問題が1つ起こる毎に、家族みんなで協力して解決して行こうと
いう気運が、父・母・娘 それぞれの人の胸の中に 確実に強まって行った事なんだ。
177のら猫:03/03/18 22:22 ID:???

── そして、2つめ。この時に至ってまで 家族の中でただ一人、引き篭もりの問題解決に かなり
非協力的だった人間が居る。それは何を隠そう マサオ本人だ。

両親がマサオの告白文を読み、和解と協力を約束してからも、マサオの心のドアは なかなか開かれる
気配がなかった。マサオ以外の家族3人は、一致協力して マサオを支える決意だったのだから、当然
一人まだ 醒めた態度を貫き続けるマサオは、再び家族の中で孤立感を感じ始めていた。

気長に努力を続けるしかないと分かっていても、当の本人が まるで “暖簾に腕押し” のような態度
なので、ややもすると 家族には焦りやジレンマが襲うようになっていた。
最初に焦れて悲鳴を上げたのは、お母さんだったそうだ。この時期のお母さんは、自分が生まれ
変ろうという気持ちが強く出過ぎていたのか、やや無理をしていたようだった。
そんな母親を見る度に、娘と夫が 無理しないでと、労わりの言葉を掛けては居た。
しかし、頑張ろうという気持ちが強すぎては、人間は却って その努力を長く持続できなくなる。

母親の様子を心配した お父さんとお姉さんは、ある日 モラ山さんに連絡を取って、事態の打開策
について アドバイスを頼んだんだそうだ。
178のら猫:03/03/18 22:28 ID:???
                ______
 〃ノ^ヾ  彡⌒ ミ   __[_____|      ところが、当然 親切にアドバイスをしてくれるかに思えた
 ソ ´−ル (; ´Д`)   (・ .:::;;;;,) .     モラ山さんは、意外にも あっさりと それを断った。
 ( ⊃と . (つ  つ  ( ::::;;;;;;)    “もう勉強会の日程も 全て終了しましたし、どうするかは
                        ご家族で 良く話し合って決めるべきでしょうな。”

この時も、このモラ山さんの言葉の真意を 素早く汲み取ったのは お姉さんだった。愚痴をこぼす
父親をとりなして、自分たちの問題を 自分たちの力で解決するよう、父親を励ました。

お姉さんは まず父親と二人、オーバーヒート気味になっている母親の気持ちを労わり 慰める事に
心を砕いた。そして、1週間近くかけて 母親の焦る気持ちを静めると、今度は 一向に自分の
問題と向き合おうとしないマサオに、どうやって家族の気持ちを伝えれば良いかを 必死に考えた。

それでも、なかなか妙案は浮かばなかった。結局のところ、言葉で何度言っても また何を言っても、
長年に渡って蓄積された マサオの心に巣食う 親への不信感は、簡単には拭い去れないというのが、
家族3人の深く納得する所となった。問題は、ではどうやって その硬く閉ざされたマサオの心に、
風穴を開けるかだった。

長い時間が その方法を考える為に費やされた。そして最後に、半ば 破れかぶれとも言えるような
驚くべきアイデアを打ち出したのは、お母さんだった。
179のら猫@今日はここまで:03/03/18 22:33 ID:???

ある日、お母さんは 決意に燃える表情で、夫と娘にこう切り出したという。

     '´ ̄ ヽ.      「 言葉でダメなら、言葉なんかに頼らなきゃいいんだわ。
    ( ノノ)) )〉      マサオが赤ちゃんの頃は、ただ泣くだけで あの子がミルクが欲しいのか
    リイ;`oノil       おしめを換えて欲しいのか、私には分かったもの。
    と  ソ つ      言葉が分からなくても、マサオは私が笑えば笑ってくれたのよ。」

…お母さんが考え出した マサオの心を開かせる方法は、常識では考えられない方法だった。
あの お姉さんでさえ、最初に その方法を聞いた時には、母親が心労の余りに どうかして
しまったのではないかと心配したという。当然 父親に至っては、一言 “馬鹿な!” と
吐き捨てるように言ったという。
それでも お母さんは真剣だった。それは赤ちゃんである自分の子供と、言葉を介さない会話を
経験して来た母親でなければ、決して思い付かない方法のように 俺には思えた。

お母さんは、随分前に 俺がお姉さんに話した言葉を 娘から伝え聞いて、それをヒントにしたという。
“心に穴の開いた子供に どんなに愛情を注いでも、全ては こぼれ落ちてしまう。マサオに向けて
励ましや慰めの言葉を投げかけ続ける事は それぐらい大変で、時には虚しさすら感じてしまう。”

…そんな俺の嘆きを、お母さんは見事に 閉ざされていたマサオの心を開く “呪文” に変えた。
言葉でなく 文字でもない、奇跡の呪文に ──。
180☆ のら猫 ☆:03/03/19 21:58 ID:???
すいません。今日は本人 既に完全な酔っ払いの為、
お休みさせて頂きます。
181のほほん名無しさん:03/03/20 14:15 ID:???
。・゚・(ノД`)・゚・。 イイ話しだー 涙がでてきました
ありがとう 続きが楽しみです
182のほほん名無しさん:03/03/20 20:05 ID:???
出版してもおかしくないレベルだと思う(・∀・)スバラシイ!!
183☆ のら猫 ☆:03/03/22 21:57 ID:???
>181-182さん

書きコまりがd。このお話は、2chあってこそのお話です。決して自分だけの
力でここまで描けた訳じゃないんですよ。モナーやギコが居てくれての作品ですから。
改めて、モナーやギコを考え出した方々や、色々なAAを開発された方に、
のら猫から感謝させて頂きたいと思います。
184のら猫@続きです:03/03/22 21:57 ID:???

お姉さんから、俺たちに “立会人” として 協力して欲しい旨 連絡があったのは、確か金曜日の
夜の事だったと思う。しぃの携帯に掛けて来た電話で、お姉さんは 出来れば坊やと、そしてモナー
にも手伝ってもらいたいのだと 俺たちに告げた。お姉さんは、これまでも何度か俺を通じて
モナーとは逢いたがっていたんだが、実はまだ1度も 直接逢った事は なかったんだ。

        C〃ノノ^ヾ      「 …ううん、ただ私たちのする事を、マサオの隣で見ていてくれれば
  . ___   ○ソ ´ーノ)      それでいいのよ。ちょっと事情があって、何をどうするのかは 今は
 ./◎\…Cヽ) ソ iつ     詳しくはお話出来ないんだけど…。」

お姉さんは、本当にそれ以上は 何も詳しく語らなかった。とにかく、これまでマサオの為に力を貸して
くれた方々に、私たち家族から 見せたいものがあるだけだと、そう言って電話を切った。

しぃも俺も、小森一家が 日曜日に あのいつもの公園で、一体何をしようとしているのか さっぱり
分からなかった。分からなかったが、きっとそれには意味があるというのも 信じる事が出来た。
185のら猫:03/03/22 22:00 ID:???

           .     |   |           ── 当日は、モラ山さんが急遽 勉強会の司会の
      .   コンニチハ〜ッ |緒 | ̄ ̄ ̄ ̄  .    代役を頼まれたせいで、公園には来れなくなった。
 オッ、キタゾ       .   |煮 |           モナーと坊やは 久しぶりに2人一緒に、約束通り
       ∧∧ ∧∧   |切 |           公園にやって来た。
      (,, ゚Д゚).*゚ー゚/). |公 |   .          もう春爛漫を迎えた公園は、葉桜の隙間を
      (|  つ   ノ .|園 |           柔らかな風が吹き抜けていた。思えば、初めて
     〜   | |  |〜 .|   |           この公園で あの坊やに出逢ってから、もう半年
      ∪∪.U U.    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒⌒ ̄   . の時間が過ぎ去っていた。

俺がマサオに初めてメールを送ったのは、さらに
その1ヶ月前ほどの事だ。
この7ヶ月は 俺の人生の中でも、最も中身の     ギコニイチャンダ    ∧_∧ シィチャン モ
濃い時間を過ごして来た気がする。                  ∩_∩ (´∀` )  イルモナヨ
もし マサオやお姉さんに出逢う事なく、この半年を     .  ( ´∀`) と    つ
過ごしていたなら、俺という人間は きっと何も        と  ∪) ( (  |
変わる事無く 何も成長する事も無く、ただ漫然と    .  (_(_) . し(_) ))
毎日を生きていただろう…。              ⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄⌒⌒ ̄ ̄⌒
186のら猫:03/03/22 22:05 ID:???

俺たちは お姉さんたちとの約束の時間よりも、少し早めに待ち合わせていた。
しぃが坊やと2人で 公園の中を散歩する間、俺はモナーに 改めてそんなこの半年間の感慨を
話したりしていた。それで、ふと思い出した事を モナーに聞いてみたんだ。

  . ∧∧  ∧_∧ .      「 …なぁ、モナー。俺は未だに、自分でも 良く分からない部分があって、
  (,, ゚Д゚) (´∀` )  .    今度お前に逢ったら 聞いてみようと思ってたんだよ。」
  (|  つ (    )
 〜|  |  | | |   .   『 ん、何だモナ?』
   U U  (__)_)
  ̄⌒ ̄ ̄⌒⌒ ̄ ̄     「 俺ってさ、色んな事に興味を持つ方だけど、いつもあんまり その
 興味が長続きしねぇんだよな。お前も言ってたけど、俺自身も こうしてマサオに7ヶ月もの間、
 ずっと関わり続けるなんて 最初の頃は全く考えられなかったよ。
 こんな事言うと マサオにも お姉さんにも失礼だろうけど、最初はホント あまり深入りしたくないって、
 そう思ってたんだ。…それなのに気が付けば 見ての通りだ。」

『 ギコは 自分がどうしてここまで頑張れたのか、自分でも不思議に思ってるんだモナか?』
187のら猫:03/03/22 22:08 ID:???

「 あぁ。マサオの事、最初は可哀想な奴だって思ってた。しぃに頼まれたってのもあるけど、多分
 本当の所は同情心から メールのやり取りを始めただけだったんだ。
 それが だんだんとマサオと話してるうちに、こいつは何て捻くれてる奴だろう、何てマイナス志向な奴
 なんだろうって、腹が立って来たんだよな。普通なら…今までの俺なら、そこでバイバイさ。」

『 それがどんな理由かは、ギコが感じて決めればいいモナ。正解なんて初めからないと思うよ。』

「 そうかぁ。いつかは きっとこうだ! って、分かる時が来るのかなぁ?」

『 そうだね。きっと来ると思うモナよ。』

「 しかし、人間ってのは 面白いもんだ。俺も今回の件では、マサオにだいぶ成長させてもらったよ。」

  ∧_∧     『 そうだね。ギコの言う通り、人間って言うのは 多面的な生き物なんだモナ。
  (´∀` ). .    本当は 一言であなたは大人とか、君は子供とか、言い切れないものなんだね。
 ⊂   C) .     マサオ君も、きっと頭脳は 僕らよりよっぽど優秀なはずだよ。
               ただ 他人に自分の意見を主張したり、自分というものに自信を持つという事
 に関してだけは、未だに上手く成長出来ずに子供のまんまなんだモナ。ホントそれだけだよ。』
188のら猫:03/03/22 22:09 ID:???

「 そうだよな。まず全ての成長の基本になる それがないと、心の成長ってやつは 次のステップには
 進めない。だから今は、何だか大きく 人から遅れを取ってるみたいに見られてしまうけどな。
 根っこさえしっかり伸びさえすれば、茎や葉は 今からだってドンドンと伸びる。マサオだって すぐに
 誰にも見劣りしないくらい 大きな人間になれるはずさ。」

『 凄いねぇ。ギコも すごく良く人間が分かるようになったモナ。葉や茎を伸ばそうとする前に、まずは
 根っこを伸ばさない事には、何も始まらないよね。』

「 マサオはさ、ある部分では ものすごく大人で、ある部分では ものすごく子供なんだよな。
 でも 考えてみれば、俺たち大人だってそうさ。仕事はまじめに働くけれど、こと異性関係だけは
 全くだらしないって人だって居るよな。そういう人は、きっと 異性との関係という部分だけが、
 成長仕切れてない子供のまんまで 止まってしまってるんだ。」

『 どこかでちょっとした何かを 上手く学び損ねたんだろうね。』

「 マサオの両親だって きっとそんな風に、子供の頃に 何かを学び損なったんだろうな。」
189のら猫:03/03/22 22:13 ID:???

「 人生の凄い所はさぁ、間違っている事をすれば、大抵 ちゃんと間違った結果が出て来る所だよ。
 間違った事をすれば、ちゃんと人間は 苦しんだり悲しんだりする。
 …俺も今までは、そういう時には ただ苦しむだけ、ただ悲しむだけだった。例えば誰かに愚痴を
 こぼしたり、何かでストレスを発散させる事しか 考えて来なかったんだよな。でもそうじゃ…あっ!」

                                  『 あらっ? それって 昨日、アタシがギコに
    ∧∧ .∧_∧            ∧∧       話した事じゃなかったかしら? うふふ。』
   (; ゚Д゚) ( ´∀`)   ∩__∩.  (゚ー゚*)
   | つつ.( つ  ) ...  (∀` ). と|  |) .     「 ギコ兄ちゃん、遊ぼぉ〜よぉ〜!」
  〜   | | | |   ⊂ と  ,)   |  |〜 .
   し`J (__)_)   (__(._)  (/`J   .    「 おっ、おおっ! 遊ぼうか、ハハハ…。」
⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄⌒⌒ ̄ ̄⌒⌒ ̄ ̄ ̄ ̄
『 全く、すーぐ何でも 自分が思い付いたみたいに モナーさんに話すんだから…。フフフ。』

( アハハ。まぁ どうせそんな事だろうとは 思ってたモナ…。)

『 でも、モナーさん。アタシたち 昨日2人で話していて、本当にそう思ったのよ。人生って凄いねって。』

「 そうモナか。」
190のら猫:03/03/22 22:15 ID:???

『 えぇ。傷んだ物を食べれば 必ず下痢をするわ。苦しみや悲しみも それと同じなんだねって。
 人間が辛い想いをするのは、そんな風に 悪い物を食べて、お腹が痛くなる事と同じなのね。
 もし アタシたちが 傷んだ物を食べても、お腹を壊して痛い思いをしなかったら…。きっと人間は、
 たくさんの人が 若いうちにその傷んだ食べ物を食べたせいで、命を落としてしまうわ。』

「 うん。とてもいい例えだモナ、しぃちゃん。そうやって 色んな例え話が、自分で思い浮かぶって事
 は、しぃちゃんが それをちゃんと理解して、自分のものに出来ている証拠だモナよ。」

『 ありがとう、モナーさん。ねぇ、痛みや苦しみって、きっとアタシたちに 何か大切な事を教えてくれる
 為にあるのよね? お腹を壊して 痛い思いをするから、人間は傷んだ物は食べなくなるの。
 辛い時 苦しい時、アタシたちは ただそれに耐えるだけじゃダメなの。どうしてなのかを考えないと。
 その為に、アタシたちの人生には 痛みや苦しみや孤独、悲しみが用意されてるんだわ。』

「 そうモナ。痛みや苦しみは、僕たちにどうして自分がそうなったのかを 考えなさいって、そう教えて
 くれる 人生の大切なパートーナーでもあるんだモナ。」

『 闇雲に逃げちゃダメなのね。耐え過ごすだけでも まだ足りないわ。考えるの! 一生懸命に…。
 そうよね、モナーさん?』
191のら猫:03/03/22 22:17 ID:???

「 生きて行く上で どうしても避けられない痛みや悲しみもあるけど、それ以外は 別に耐えたり
 反対に逃げ出したりしない方がいいモナ。逃げたり耐えたりする他にも、自分を省みるっていう、
 もっと素敵で良い方法があるんだもんね。」

『 人間は自分の行いによって、自らを裁くんだわ。情けは人の為ならずとか、人を呪わば穴二つ
 って、つまり そういう事を言ってるのね。だから小森さん一家も、今はもうきっと希望を持って
 進んで行っていいの。気付けたんだもの。悲しみや痛みを通して、大切な事に…。』

                              「 やゃっ、どうも 皆さんお揃いで。待たせてしまった
   '´ ̄ ヽ                        みたいで 申し訳ありませんな。アハハ。」
  ( ノノ)) )〉 .彡⌒ ミ 〃ノ^ヾ .((( ))) .
  リイ.´ーノil (,, ^Д^) ソ ´ーノ) .( -_-)    『 この間は どうもありがとうございました。あらっ、
  .(. Y )  (∪  つ (  ソ ) ( ⊃⊂)     坊やも来てくれたのね。』

── 暫く振りに逢った マサオの両親は、見違えるほどに明るくなっていた。お父さんは 相変わらず
人なつっこい笑顔だったが、以前の あの卑屈に見えるほどの あざとい腰の低さは影をひそめて、
さらに “気のいい おっちゃん” 的な笑顔と態度になっていた。お母さんの眉間の皺も、今では全く
見えなくなっていた。神経質そうな目線も キョロキョロと落ち着かない態度も、今ではもう見えもしない。
192のら猫@今日はここまで:03/03/22 22:19 ID:???

お姉さんも 始めて逢った頃の、どことなく暗い影を引きずったようなイメージは 随分と薄らいだ。
ただ一人 マサオだけが、そんな家族の中で 借りてきた猫のように おとなしく一人黙っていた。

全員が揃った所で、まず俺たちは、今回の陰の功労者である モナーの紹介をした。
お父さんも お母さんも、お姉さんの方から随分と モナーの話は聞いていたらしくて、特にお母さんは
今までに見た事も無いような 謙虚さと丁寧さで、モナーに挨拶と これまでのお礼を述べていた。

…ところでお父さんは 今日の試みに関しては、その時点では まだ懐疑的な目で見ていたのだと、
後からそっと お姉さんが打ち明けてくれた。お父さんの最近の上機嫌には 実は他に訳があって、
例の勉強会で学んだ方法で 自分の会社の若い者たちと接するようになってからというもの、
会社内での人間関係が、実に順調そのものなんだそうだ。

これまでのように、ただ厳しい目だけを部下に向けるのではなく、努力を言葉にして認め、仕事の
出来を誉め、やむなく叱る時は 決して叱り放しにしないように注意して 部下と接し始めると、1ヶ月
も立たないうちに、人間関係にも 仕事の質にも 業績にも、驚くほどの向上が見られたらしい。
お父さんはこうして、言葉は悪いが 部下を実験台にする事で、勉強会で学んだ事の意義を実感
し始めていたし、それがまた自信にもつながってきたのだろうと、お姉さんは嬉しそうに そう俺たち
に話してくれた。
193☆ のら猫 ☆:03/03/22 22:22 ID:???
引越しの関係で、うpが大幅に遅れてスマソ。自分の所だけでなく、親の方も
手伝いに駆り出されてる状態で、満足にパソコンの前にすら座れません(泣

明日も1日忙しいので、この話が終われるのは 来週になりそうです…。
194のほほん名無しさん:03/03/23 11:17 ID:???
>>193
カキコ時間が(・∀・)カコイイ!
無理せずがんがってくだされ〜
195のす:03/03/23 23:04 ID:???
たのしみにしてます。
    ∧∧   ) 
  ⊂(゚ー゚⊂⌒`つ
196のほほん名無しさん:03/03/26 17:04 ID:???
楽しみsage
197☆ のら猫 ☆:03/03/26 22:44 ID:???
>194さん、196さん、それから のすタソ。書きコまりがd!
忙しい合間を縫って、少しずつ描いてまつ。昨日おとといとお休みしちゃった
のは、今からうpする所の展開が どうにも納得行かなくて、少し加筆していた
為です。今日もこれから睡魔に襲われるまで、必死で続きを描きますが、
まずは描けた所までをうpします。
198のら猫@続きです:03/03/26 22:45 ID:???

“…じゃあ、やってみるかな?” そんなお父さんの あまり自信なげな宣言で、それは始まった。
モナーも含めて、俺たちがお姉さんから事前に聞かされていたのは、たった一つの事だけ。
ただ何も言わず マサオの横に立って、マサオがもういいと言うまで 自分たちを見ていて欲しい。
それだけだった。何が始まるのかは、マサオでさえも はっきりとは聞かされていなかったんだ。

   '´ ̄ ヽ                      マサオを除く、小森家の家族3人が、俺たちの前に 一列に
  ( ノノ)) )〉 .彡⌒ ミ 〃ノ^ヾ     .   並んで立った。良く見ると、お父さんとお母さんの足元には
  リイ.´ーノil (,, ^Д^) ソ ´ーノ)       バケツのようなものと、どこかで買って来たばかりの 6個セット
  .(. Y )  (∪  つ (  ソ ) .       の小さなコップが、紙のケースに入ったままで置かれている。

俺たちもまた、そんなお父さんたちの前に
一列に並んで立たされた。                 . ∧∧ ∧∧ ((( )))         ∧_∧
マサオは 何が始まるのかと、さっきから   .        (*゚ー゚) (,, ゚Д゚) (,-_-). ∩_∩ .( ´∀`)
キョロキョロと落ち着かない。俺としぃさえも、         U  |  U  | ( つと)( ´∀`)(    )
期待のような 不安のようなもので、心中は       〜|  |〜|  |  | | | .( ∪  っ.| | |
穏やかとは言えなかった。そんな中で、 .       (/~U  U U (_._)__)(_)_). (__).__)
モナーと坊やだけは 静かに笑って立っていた。  ⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄⌒⌒ ̄ ̄⌒ ̄⌒ ̄ ̄ ̄
199のら猫:03/03/26 22:46 ID:???

“じゃあ、お父さん” お母さんが そう言うと、お父さんは おもむろに、ポリバケツの中に一緒入って
いた金槌を握り締めて、バケツの底をバンバンと 力一杯叩き始めた。
お父さんが4、5回叩いただけで、ポリバケツの底には 大きな穴が開いてしまった。

何だ? 何をおっぱじめようってんだろう? …そんな俺の 怪訝な表情に答えるかのように、
お姉さんは お父さんからそのバケツを受け取ると、マサオの前に歩み出て 優しくこう語りかけた。

    〃ノ^ヾ      「 …マサオ、良く聞いてね。この壊れたバケツはね、今のあなたの心と同じなの。
    ノ´−`ル      私たち3人が、あなたの心に こんな風に、大きな穴を開けてしまったのよ。
 . .( つ┌┐     父さん 母さんたちは、マサオに良い人間になってもらおう、強くて優しい人間に
  .  )  └┘     なってもらおうとして、あなたに必要以上に厳しく接して来てしまったの。
               …だけど そのせいで、あなたの心の痛みや辛さに、お父さんたちは今まで
 気付く事が出来なかった。そして私も そんなあなたを、これまでずっと 見て見ぬ振りをして来て
 しまったわ。…ごめんなさい、そんな言葉を何百回繰り返しても、あなたの心の傷は 癒えないの
 かも知れないけれど。でも、私たちは あなたのこれからの幸せの為に、家族みんなで力を合わ
 せて あなたを支えて行こうと誓いを立てたの。」
200のら猫:03/03/26 22:47 ID:???

  . ∧∧ ∧∧ ((( )))       ∧_∧    「 父さんも母さんもね、あなたが赤ん坊の頃の
   (*゚ー゚) (,, ゚Д゚) (,-_-) ∩_∩. (∀`  ).      自分たちの気持ちを やっと思い出したって。
    U  |  U  | .( つと) (  ´∀) (     )      マサオの為なら、どんな事だって出来るって、
                                   心から そう思えた時の気持ち…。
 マサオの、どんな小さな進歩や成長にも、2人で目を輝かせて喜び合った頃の気持ち。あなたを
 これまでの自分たちよりも もっともっと大きな愛情で、安らかに そして優しく見守っていた頃の、
 純粋な親の気持ちを 思い出してくれたのよ。

 …私も そしてマサオも、その頃の私たちは 自分が自分の人生の主人公だったの。
 いつからかは分からない。でも いつの頃からか、私たちは自分の人生の主人公では居られなく
 なってしまったわ。人に優しくする事だけを教えられて、自分に優しくする事を教えられなかった
 せいかも知れない。誰かに気に入られる為の方法だけを教えられて、自分の事を好きになる術
 を 教わらなかったせいなのかも知れない…。

 父さん母さんたちはね、この4ヶ月 一生懸命に勉強会に通って、ようやっと その間違いに キチンと
 気付いてくれたの。私たちの子供の 良い所や賢い所、立派な所だけを愛するのは間違いだって
 そう分かってくれたのよ。」
201のら猫:03/03/26 22:48 ID:???

「 もうこれからは、私たちのありのままを受け止めて 愛するようにするって、そう言ってくれたのを、
 マサオも覚えてくれているわよね? あれは 確か1ヶ月半ほど前よね。父さん母さんたちが、マサオの
 書いた 子供の頃の記憶を読んで…。私、あの時のお母さんの涙は 嘘じゃないと思ってるのよ。
 あの時、お父さんがあなたの肩を抱いて、頭を撫でながら “すまんかったな” って言った言葉も、
 嘘なんかじゃないって思ってるの。

   '´ ̄ ヽ                 今は あなたの心は、このバケツみたいにボロボロになってしまって
  ( ノノ)) )〃ノ^ヾ .彡⌒ ミ     いるわ。私たちがこれから どんなに一生懸命になって愛情を
  .リ´ー`ノiノ´−`ル (, ´д` ,)  .   注いだとしても、あなたの傷付いた心を癒すのは 容易い事じゃ
  (. Y )( つ┌┐(∪ .∪) .     ないって、私たちも充分覚悟しているつもりなの。
     .  )  └┘            だけど、それでも私たちは 死ぬ気で頑張るつもりよ。でないと、
                       大切なあなたの人生の時間は、これからもずっと悲しみや孤独
 だけで彩られてしまうから。放って置けば、このバケツの穴は あなた自身の手によって、この先も
 どんどんと広げられていってしまうと 分かっているから…。

 一分でも一秒でも早く、私たちは乾き切ったあなたの心に、潤いを与えてあげたいの。安心を
 取り戻して欲しいの。勇気や自分を信じる力を、私たちと一緒に あなたにも育てて欲しいのよ。」
202のら猫:03/03/26 22:50 ID:???

── そう言うと、お姉さんは お父さんとお母さんに そっと目配せをした。お母さんが 買って来た
小ぶりなガラスコップの包みを破って、そのうち3つを手に取った。

   ((( ))) ,'⌒⌒ヽ      「 …さぁ、マサオは このバケツをしっかり持っていて! 私たちの事、
   (,-_-) ソ    ル       あなたに信じてもらえるように、私も 父さん母さんも 一生懸命に
 .. ( つ┌┐と从从i)      頑張って見せるからね。」
 . .| |.└┘ )   (
  (_._)__)  <___〉 .     そして お姉さんは、静かに目を閉じて 大きく1度 深呼吸をした。
          し'ヽ) .      再び目を開いたお姉さんは、まるで あの時の…看護学校を辞めて
                     こっちに戻ってきた時のように、決意に満ちた面持ちになっていた。

「 いい、マサオ? 私たちこれから、このコップで あそこにある水汲み場から みんなで1杯ずつ水を
 汲んで来るから。そして私たちの手で、必ずこのバケツを 水でいっぱいにしてみせるわ。」

“さぁ、頑張りましょう!” まず お姉さんが勢い良く振り返り、ここから20mほどの距離にある
公園の水飲み場へと走り出した。
“…母さん、頑張るからね。見ていてね マサオ。”        )))    〃ノ^ヾ クルッ
次に お母さんが踵を返して走り出した。   .          _-)   .ソ ´ーノ)
“父さんたち、こんな事しか思い付かなかったんだ。”   ┌┐ ⊂l ソ lつ[]       '´ ̄ ヽ
最後に 何だか申し訳なさそうにそう言って、お父さんが  └┘(( .)  ( ))  彡⌒ ミ (  .:::;;;;)
ゆっくりと 2人に続いて走り出した。                  __)   く .  〉 .  ( ..:::;;;;,) .ソ从从
203のら猫:03/03/26 22:52 ID:???

俺は…俺は、この時は 全く事の次第が飲み込めなかった。訳が分からなかった。
いや、お姉さんたちがやろうとしている事は分かる。穴の開いたバケツに 皆でコップで水を汲む。
それは分かったんだけど、それに何の意味があるのかが さっぱり分からなかったんだ。

モナーは 恐らく、もうお姉さんがマサオに向かって 話を始めた最初の段階で、全てを悟っていたんだ
ろうと思う。マサオの向こう側で、坊やの耳元に何かをささやくモナーの姿だけは、俺にも見えていた。
坊やは そのモナーのささやきに答えて、“すごいすごい、偉い偉い!” と はしゃいで笑っていた。
俺がもし モナーのすぐ隣に立っていたなら、やっぱりモナーに何かを問いたくなっただろう。

  . ∧∧ ∧∧ ((( )))  .   事態が飲み込めなくて困っているのは、マサオも同じだったらしく、
   (*゚ー゚) (; ゚Д). (_-;)     .  しきりにキョロキョロしては モナーと坊やの顔ばかり見ていた。
    iヽ)(/ と   つ( つ┌┐     マサオは モナーとは今日が初対面。やはり いきなりは話し掛け辛い
  〜|  |〜|  |  | |.└┘     んだろう。といって 坊やにも聞きにくいらしく、最後には じっと
   (/~U  U U (_._)__)     .  俺の顔を無言で見つめた。俺も ただ無言で 手を広げて首を
⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄⌒⌒   .   振り、俺にもさっぱりという意志を マサオに伝えるしかなかった。
204のら猫@ちょと休憩:03/03/26 22:54 ID:???

そうこうしているうちに、お姉さんが最初の水をコップに汲んで戻ってきた。
お姉さんは それを無言で、マサオの持つバケツに注ぐ。見る間にそれは、バケツの下に開いた大きな
穴からこぼれ、滴り落ちた。お姉さんはそんな事には見向きもせずに、再び走って 新たな水を
汲みに行く。そのお姉さんとすれ違いに、今度はお母さんが水を持ってやって来た。

お母さんが ゆっくりと丁寧にバケツに水を注ぐ。そしてまた 何も言わずに水汲み場へと走り出す。
今度はお父さんだ。やや太り気味の体を、ゆっさゆっさと揺らせながら マサオの元に駆け寄ると、
よしっ! と言って 水をバケツに注ぐ。そして お母さんたちの後を追って走り出す。

俺は思わず、マサオの持ったバケツの中を覗き込んだ。もう既に、バケツの中に 水は少しも残っては
いなかった。お父さんも、バケツに水をいっぱいにするのが分かっているなら、もう少しでも加減して
小さ目の穴を開ければ良かったのに…。思わず そんな風に思うほど、見事に3人の汲んで来た
水は、すっかり全部が 地面へと こぼれ落ちてしまっていた。

  . ∧∧  ∧∧   .  ── 馬鹿げてる。誰がどう見たって馬鹿げてる。こんな事は 小学生に
   (*゚ー゚) (Д゚ ;)   .   だって分かるはずだ。どんなに頑張ったって、この壊れたバケツに 水が
    iヽ)(/ と   つ(  . いっぱいになる訳などない。どうしても いっぱいにしたければ、ホースでも
  〜|  |〜|  |      持って来て 大量に水を汲み入れるしかないじゃないか。
   (/~U  U U ( .  一体、お姉さんたちは 何を考えて、こんな無意味な努力をするんだろう?
⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄
205のら猫:03/03/26 23:39 ID:???

何が何だか分からないまま、多分10分ぐらいの時間が過ぎたと思う。
その間に、もうお姉さんたちは4回ほども マサオと水汲み場を往復していたけれど、相変わらず
バケツの水がいっぱいになる気配すらなかった。物理的に考えても、これは無理な話だ。もしも
どうしても 水汲み場からコップで水を注ぐ方法に拘るなら、あと最低15人は必要だろう。バケツリレー
ならぬ コップリレーでもしない限り、この穴の開いたバケツに水をいっぱいにする事など、出来るはず
もないに違いない。
                                 .    ∧∧ . ∧∧ ((( )))         ∧
…とうとうマサオが 耐えかねたように、俺に向かって    .   (* ゚ー) (; ゚Д). (。- ;)  ∩_⊂(´∀
口を開いた。“ねぇ、何なの? 何の意味なの、コレ?”  .   iヽ)(/ . | つつ(.つ┌┐(  ´∀) \
俺には何も答えられない。事前に お姉さんから、       〜|  |〜|  |  | |└┘( ∪  つ .|
何も言わないでと言われたという以前に、自分にも      (/~U  U U (_._)__) (_)_) (
その意味が さっぱり分からないからだ。           ⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄⌒⌒ ̄ ̄⌒ ̄

そんな俺を見かねたのか、しぃが静かな声で 助け舟を出してくれた。“信じて待ちましょう。きっと
お姉さんたちには 考えがあるはずだもの。ねっ、マサオくん?”
マサオも それで納得はしないものの、もう少し 何かが起こるのを待ってみる気になったようだった。
206のら猫:03/03/26 23:39 ID:???

さらに2回ほど お姉さんたち3人が往復した時、初めてお母さんが マサオのバケツに水を注ぎながら
こう口を開いた。“大丈夫? 長靴を履いて来れば良かったわね。冷たくない?”
マサオは 小さな声で、うんとだけ答えた。けれど、お母さんが去った後で、マサオは一人つぶやくように
“…意味が分かんないよ。それが嫌なんだ。” と愚痴を言った。

水汲みが始まってから、既に15分ほどが過ぎていた。バケツは もちろん空っぽのまま…。
マサオは 少々苛ついてきたようだった。確かに もう春真っ盛りとはいえ、マサオの足元は こぼれた水
で びしょびしょになっている。マサオの靴も、こぼれて跳ねた水を被って 濡れ始めていた。
人間は 自分でしっかりと意味の分かっていない事をさせられるのは、苦痛でしかない。お母さんの
言う、“勉強なさい!” だって 本当はそうなのだ。
良い学校に入って、良い成績を取って、良い会社に就職する…。そんな事が素晴らしいと思える
のは、親だけだろう。小さな子供には、そんな事が 自分の素晴らしい未来だと思えるはずもない。

   ∧∧     …ひょっとして? いや、違うな。誰かにやらされている事を 嫌々やっているのは
  (゚Д゚ ;∩    辛くて苦しいだけの人生だと、マサオにそれを教える為だけなら、何も わざわざ
  (|  ノ    こんな事をしなくても いいはずなんだ。
   |  |〜   . こうやって “やらされている”と感じさせる状況に置かれれば、誰だって 自分の人生
 . .し`J .     は 何かがおかしいと、自分の人生の意味を 自分で考え始めるだろうけど…。
207のら猫:03/03/26 23:40 ID:???

きっとたぶん、それだけじゃないんだろう。こんな無意味な努力を マサオの前でして見せる意味が、
何か他にも 必ずあるはずなんだ。どうせ立ってるだけで暇だし、その意味を考えながら 何かが
起こるのを、俺も待つとするか…。

── 何もかもが五里霧中なまま、さらに10回ほども お姉さんたちは往復を繰り返した。3人の
中で 一番体格の良い(?)お父さんは、さすがに この頃から ゼイゼイと息が上がってきた。
それでも愚痴も文句も一つ言わずに、お父さんは ただひたすら水を運び続けている。

   .彡⌒ ミ      一体何なんだろう? 小森一家は 何をマサオに語りかけようとしているのか?
   (;´Д`)っ    この頃になると、お姉さんも お母さんも、2回に1回は マサオに声をかけるように
   ( つ[] / .     なっていた。でも それはただ単に、じっとバケツを持って立っているだけのマサオ
   |  (⌒)  .  を労わる言葉だけで、お説教めいた言葉などは 一向に誰一人として口にしよう
   し'⌒^ミ .   とはしなかった。ただ額に汗して、黙々と水を運び続けるだけだった。
 ⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
マサオの愚痴の方は、回を増す毎に どんどんと酷くなって来ていた。さすがに 走り回っている家族
に、直接文句や愚痴を言うのは気が引けるのか、それともまだ 心の奥に、父や母を恐れる気持ち
を引きずっているのか、マサオは 自分の前に誰も居なくなると、必ずブツブツと愚痴を言うのだった。
208のら猫:03/03/26 23:41 ID:???

そのうちに、マサオはあからさまに 俺に愚痴をこぼし始めた。何でこんな事を 自分はしなければ
ならないのか。こんな事には何の意味もない。馬鹿みたいだ。無駄な努力で、時間の浪費だ。
ありとあらゆる事を 家族の居ない間に、俺に向かって言うのだった。

俺はずっと そんなマサオの愚痴を、しばらくは聞かぬ振りで通していた。マサオの気持ちも 分からん
でもない。というか、俺だって この馬鹿げた行為の意味を 自分の中で考えていないと、もうただ
ここに立ってる事すら バカバカしくなってしまうのだから。
俺は立ちながら 時々モナーの方を見ていた。モナーたちは気楽なもので、何かしらを しきりに話して
いるだけだ。あの2人は、何でこんな事をしているのかを考えないのか? それとも あの坊やでさえ
もう この行為の意味を悟っているというのだろうか?
しぃは さっきから黙ったままだ。恐らくは しぃもこの行為の意味を、黙って自問自答しているとは
思うんだけど…。

   ∧∧     そんな風に考え始めると、俺も ただここに立っているのが、ひどい苦痛のように
   (´д` ,)   .   思えて来てしまう。
   (|  |) .   もし お姉さんたちの意図が、俺の考える事と同じなら、俺が時間をかけてマサオに
    |  |〜.   諭してやってもいいのに…。マサオに限らず、たくさんの若い奴が 子供の頃からの
   U U.     両親の催眠術の呪縛に遭っているんだ。それは俺も よく分かったんだから。
209のら猫:03/03/26 23:46 ID:???

子供の頃に、運良く自分の突き進む道を 自分で見つけられる子供なんて、ほんの一握りだけしか
居ないんだよな。後はただ漫然と 親の進めるまま、自分の感じるまま生きて 大人になっていくんだ。

自分で決めた道を 納得して歩いて行かない限り、その人の人生には重みも 意味も薄いんだよ。
勉強が嫌なのも、生きることが面倒なのも、“そう誰かに させられている” と、自分の心が叫ぶ
からさ。お姉さんは もうその事に気付けたはずだ。だからきっと、それをマサオにも気付かせてやり
たいと思ってるんだろう…。
マサオ、自分のやりたい事、自分の生きたい人生を見つけて、覚悟さえ決められれば 今のお前
みたいな気持ちは 消えてなくなるんだ。誰かに生きさせられてるような気持ちじゃなくなるんだよ。

たとえ今すぐに その目標が見つからなくてもさ、それでいいんだ、自分の人生の目標は 自分で
決めて歩いて行けばいいんだって そう心からそう思えれば、人生はもっと楽になるぜ。もっと楽しく
なるはずだぜ。苦労だって 逃げ回らずに立ち向かってみようって気になれるさ。
今のお前の気持ち。意味も分からずに 何かをやらされているような その気持ち。それが今までの
お前の人生そのものだったって訳さ。肝心なのは、それに自分で気付けるようになる事さ。だから
敢えて、お姉さんたちは こんな方法を取ったんじゃないのかなぁ…?
210のら猫:03/03/26 23:47 ID:???

自分の人生には 1つしか道がないように感じてしまうのも、親たちがそれ以外の人生を お前に
教えてこなかったせいさ。だから 高校を中退してしまったお前は、もうそれだけで 自分が人生の
敗北者になってしまった気分なのさ。エリートコースに乗っかる以外にも、他にも無限の未来が お前を
待ってくれているはずなのにな。
お前にもきっと分かるさ。こんな事を理解するのに、頭の良さなんて必要ねえ。催眠から醒めれば
それでいいだけさ。お前の父さんも母さんも姉さんも、それでいいって言ってくれてるんだぜ?

…そんな風な事を 一人考えていると、マサオが水を注ぎに来たお母さんに、“もう いいよ。こんなの
止めようよ。” と言う声が聞こえた。その声は どう聞いても、何かを気付けた声ではなかった。
ただこの場所から逃れたいだけの 言い訳に聞えた。
そうか、お前はやっぱり部屋に一人篭もって、世を恨み 人を恨み、この先も ただただ両親を呪って
生きている方がいいのか? そう思うと、俺は何だか無性に 腹が立ってきてしまった。

 .∧∧ . ∧∧ ((( )))    「 ダメだっ! マサオ、お前は ただここから逃げ出そうとしてるだけだ。」
 (* ゚ 。) (; `Д). (o.- ;)
  iヽ)(/ . | つつ(.つ┌┐   自分でも意外なほどの強い調子で、俺は思わずそう叫んでしまった。
〜|  |〜|  |  | |└┘   俺には お姉さんたちの意図は分からない。でも、マサオが今 逃げを
 (/~U  U U (_._)__)     打っている事だけは 明確に分かった。お母さんは ちょっと躊躇して、
⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄⌒    けれどすぐ そっとその場を離れて、再び水を汲みに行った。
211のら猫:03/03/26 23:49 ID:???

マサオは小さく “ちぇっ!” と舌打ちした。最近 お父さんやお母さんのガミガミも鳴りを潜めたせいか、
時々送られてくるメールにも、明らかにマサオが最近 以前には無く増長している素振りが見て取れた。
この時も 俺はそれを感じて、思わずマサオに説教したい気分になってしまった。

( 今のお前のその様子は、まるで小さな小学生が 親に生意気を言うのと同じだぜ。だけど、
 お前はもう18歳なんだ。それを忘れないでくれよな。)

…そう言えば、前にも俺は マサオに同じような事を言ったっけ。その時マサオは、大人は自分の都合
だけで、自分を大人扱いしたり 子ども扱いしたりすると愚痴っていたな。どうだろう、俺が今 お前に
そう言ったら、お前は今でも そんな風に思うのだろうか?

と、またそんな風に考えていると、しぃが気を利かせて マサオを慰めてこう言ってくれた。

「 マサオくん? もし あなたのこれから行く道の先に、危険な熊が待ち構えているとして…。それが
 たまたま あなたの眼には見えないとしてよ? それを 行っちゃダメだって、あなたを止めない人が
 もし居たとしたら、その人は 決してあなたを愛してはいないと思うわ。いつでも何でも 自分の
 好きな事をさせてくれるだけが、本当の愛情という訳ではなくてよ?」

マサオは 静かだが、力と信念の込もった しぃのこの一言に俯き、再び沈黙した。
212のら猫@今日はここまで:03/03/26 23:50 ID:???

── それからまた 何回か何十回か、ひたすら3人の往復は続いた。もうマサオの足元は、まるで
池のように 大きな水溜りが出来ていたし、俺たちの足にも 次第に水が染み込んで来て、冷たい
感触が 足の裏を包んでいた。

普段なら とっくに退屈しているだろう あの坊やも、今日はずっとモナーが 横で話しをしたり聞いたり
してくれているせいか 全然平然としていて、むしろ嬉々として 3人の頑張りを、声に出して応援した
りしている。しぃは さっきマサオを諭してからは、また沈黙を守ったままだ。

マサオは…どうも少し拗ねている様子だった。しぃに諭される前までは、少し心配そうな顔で 家族を
見つめていたんだが、今は だらしなく突っ立って、冷めた目で3人を見ている。当然ながら、バケツ
の中は 空っぽのままだ。どんなに注いでも、水はきれいに全部が 穴からこぼれ落ちてしまう。

 .∧∧ ∧∧ ((( )))         ∧_∧   .     俺も そんな光景を見ながら、さらに色々と
 (*゚ー゚) (,, ゚Д゚) (,-_-) ∩_∩ (´∀` ).        考えてみた。あるいは お姉さんたちは、
  U  |  U  | (.つ┌┐ ´∀`).(    つ   .     マサオが我慢の限界に達するのを待っている
〜|  |〜|  |  | .| └┘∪  っ.| | |        のだろうか? そこで何かを伝えようと思って
 (/~U  U U (_._)__)(_)_) (__).__)         いるのかも知れない。
⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄⌒⌒ ̄ ̄⌒ ̄⌒ ̄ ̄
213のら猫@続きです:03/03/28 21:22 ID:???

色々と推測はしてみるのだが、どうもしっくりした答えが 俺には見つからなかった。

── そんな中、しぃが突然 お姉さんに向かって話し掛けたのは、水汲みが始まってから ちょうど
40分を過ぎた頃だった。その少し前に、お姉さんがこっちへ走ってくる途中 躓いて転んでしまった
のを見て、しぃは きっと堪らない気持ちになってしまったんだろう。
マサオも心配顔で お姉さんを見やっていたが、当のお姉さんの方は 気丈にも俺たちに向かい、
笑って “大丈夫よ、心配しないで。” と そう言って、自分で立ち上がって走って来た。
良く見ると お姉さんの右の膝小僧は、擦りむいて血が出ていた。マサオは申し訳なさそうに その
膝小僧をじっと見ていた。そしてそこで、しぃが初めてお姉さんに話し掛けたんだ。

        ,'⌒⌒ヽ     「 ねぇ、お願い。アタシにも お手伝いさせてちょうだい。」
   ∧∧ ソ    ル
   (*゚ 0゚と从从i)    『 …ありがとう。でも、これは私たち家族が 話し合って決めた事なの。
   /つ つ.)   ( .    だから、私一人じゃ決められないわ。』
 〜'  / <___〉
  (/`J   し'ヽ)     ちょうどしぃが そうお姉さんに話し掛けている時、お姉さんのすぐ後に来て、
                   マサオのバケツに水を注いでいたお母さんが その会話を聞いて、2人にこう
言って取り成してくれた。

「 ありがとう、しぃさん。じゃあ私たち、次に ここに戻って来るまでに、家族みんなで相談する事に
 するわ。ほらっ、もうお父さんも来るから。…ねっ、それで良いでしょう?」
214のら猫:03/03/28 21:23 ID:???

『 ……分かりました。全てお任せします。』

しぃは そう答えて、一旦引き下がった。そうこうしているうちに、お父さんが フラフラになりながらも
こちらに辿り着き、マサオのバケツに水を注ぎ終わった。
それを待っていたお姉さんたち2人は、お父さんと共に 3人肩を寄せ合って歩きながら、水汲み場
へと歩いて行った。その間、しぃは ただ口をきゅっと結んで、3人がこちらに戻って来るのを 黙って
待っていた。ふと見れば、もう手にはコップを持って立っている。

…俺はというと、さて自分はどうしたもんかと悩んでいた。悩んでいるうちに、早 向こうからお姉さん
一人だけが 息を切らせて走って戻って来た。

「 あの、しぃちゃん。一つだけ聞かせて欲しいの。あなたが手伝ってくれるのは、誰のため?
 私のためかしら?」
                              .         〃ノ^ヾ
『 いいえ、違うわ。』                                ソ ´ーノ)  ∧∧
                                         []と.) ソ .つ (ー゚ *)
「 …じゃあ、父さんや母さん 私たち3人を助けたいから?」     )  ./  と   つ[]
                                            く__〉   |  |〜   ∧∧
『 ううん、それも違うわ。アタシ、今までずっと考えてたの。     (/`J    し'ヽ)    (゚ .::;;;;,)
 ついさっき あなたが転ぶのを見て、やっと自分の考えに
 自信が持てる気になったわ。アタシが手伝いたいのは、マサオくんのためよ。…ダメかしら?』
215のら猫:03/03/28 21:23 ID:???

「 …ありがとう! 喜んでお願いするわ。」

『 ちょっ、ちょっと待った! お姉さん、俺…俺、馬鹿だから、お姉さんたちのやってる事の意味が、
 まだ良く分かんないです。でも もし、そのコップで このバケツに水をいっぱいに出来れば、それで
 マサオが 幸せに一歩でも二歩でも近付くんなら、俺も手伝いたいんです。…ダメでしょうか?』

「 おぉ そうかぁ! すまないね、遠慮なく頼むよ。マサオの事を想ってやってくれるというんなら、
 私らに何の異存があるもんか。なぁ、そうだろう?」

俺の言葉に答えてくれたのは、さっき お姉さんの向こうから追い付いてきた、お父さんだった。
お父さんは 横に居るお母さんにも、確認するように声をかけた。
お母さんは涙声で ありがとうございます、お願いしますと言った。
                                           彡⌒ ミ  .∧∧
そして、しぃは お母さんお姉さんと一緒に、そして俺は お父さんと   (; ^Д) (Д゚ .,,)
一緒に、それぞれにコップを握り締めて歩き出した。             ( つ[]つと  U
俺は ふとモナーの事が気になったんで 振り返ってみたが、モナーも  .  )  ) )  |  |〜
どうやら、俺たちが何も言わなくても 自分の役割をちゃんと理解   (__)__) . U ヽ)
してくれているようで、笑って手を振り 俺たちを見送ってくれた。 .
216のら猫:03/03/28 21:25 ID:???

最初の水を汲んで戻って来ると、坊やは さっとマサオの右側、俺たちが もと立っていた所へ移動
していた。モナーと坊やで、ちゃんとマサオの両脇に立っていてくれた訳だ。
そして坊やは、俺たちに手を振って “頑張れ〜っ。” と、一人一人に声を上げて応援してくれた。

当のマサオは、水を注ぐ間にちらっと見ただけだったが かなり戸惑っているように 俺には見えた。
それも当然だろう。それまで水を注いで来たのは 家族だけだったのに、今は その家族以外の
人間までもが、この無意味で 馬鹿げた努力に参加を表明したからだ。

            ((( )))   ∧_∧ .     …俺が 残して行くマサオを気に掛けながら、振り向き
   ∩_∩   (_- ;)  ( ´∀`)     . 振り向き歩いていると、後ろから俺に追い付いて来た
(( (ヽ ´∀`)   (.つ┌┐ (     )        お父さんが 笑顔で声をかけてくれた。
   ヽ    つ  | |└┘ | | |
   .(_)_)  (_._)__)  (__).__)        「 いやぁ〜っ、わしも仲間が増えて嬉しいよ、アハハ。」
⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄⌒⌒ ̄ ̄ ̄⌒
『 …仲間ですか? あっ、そうか。男はお父さん1人でしたね、今まで。』

「 ん? いやいや、そうじゃないんですわ。 …いや 実はね。こりゃ 皆には内緒なんだが、わしも
 この水汲みの意味っちゅーのが、本当はまだ 良く分かっとらんのですよ。ガハハハ。」
217のら猫:03/03/28 21:31 ID:???

お父さんは そう言って、あっけらかんと豪快に笑った。

『 えぇっ、分からないままで 今まで1時間近くも、頑張って走ってたんですか?!』

「 まぁ 何ですなっ。そのぅ…わしにとっては、理由とか意味とかは あんまり重要じゃあなくてねぇ。
 今私らがやっとるのは、妻と娘が マサオの為に、それこそ死ぬ気になって 必死に考えた事です。
 わしには それだけで信じる価値がありますよ。」

『 はぁ、確かに。』

「 あんたがたが、初めてうちに来てくれた日を 思い出しますなぁ。…わしも この半年近くの間に、
 本当に人生っちゅーものを 再勉強させてもらいました。おかげさまでね、モラ山さんの言う通り、
 わしの仕事も順調に変わったし、妻の方も 今じゃすっかり肩の力が抜けて来ました。
 ご近所への人当たりも、そりゃあ良くなって来ましたよ。勉強会で知り合った、何人かの奥さん
 たちとも 妻の友達になってもらいましたしねぇ。
                                          彡⌒ ミ    ∧∧
 …苦労もありましたが、その苦労の甲斐は充分ありました。   .  (   ; ^)   (゚ ,, )
 あとはもう、マサオだけなんですわ。こうして 自分らだけが        (    つ[] (   )
 勉強会の恩恵に預かってる 今の状態ってのは、実際問題     ) )> .〉   |  )〜
 マサオに対しても、本当に申し訳ない気がしてるんですよ。」      (_(⌒)  .  0∪
                                        ̄ ̄⌒⌒ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄
218のら猫:03/03/28 21:32 ID:???

『 そうですか…。いや、ホント そうですよね。』

「 …恐らく、あのバケツに水をいっぱいにするなんて事、初めから2人共 考えておらんと思います。
 でも、それでいいと あの2人が言うんですからね。私にもそれでいいんです。2人が決めた事を、
 わしは全力で 支えてやりたいと思うとりますよ。
 それより ギコくんも しぃさんも、本当にありがとう。こんな馬鹿げた事は、家族以外の者には
 おいそれとは頼めませんしなぁ。こうして 本気で手伝って下さるとは、正直思ってませんでした。
 いや、本当に ありがとう。マサオは優しい子です。あの子もきっと 喜んでくれてると思います。」

   .∧∧          彡⌒ ミ        同じ意味の分からない事を、一方で “やらされている”
   (,, ゚ー゚)         (; ´Д)  .    と感じているマサオと、自らの決断でやっているお父さん。
  と  |っ[]        ⊂     つ[]    この2人が 今この瞬間、考えている事 感じている事、
  〜丶_ つ     ((  ノ  ヽγ.ヽ     そして 受け止めているものの違いこそが、それぞれの
   (/            (__丿\__ノ      人生の重みの違いのような気がした。
⌒ ̄ ̄⌒ ̄⌒ ̄ ̄⌒ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄
…お父さんは照れたように笑うと、俺を追い抜いて ヨタヨタとまた走り始めた。
これまで 1度も感じた事はなかったけれど、この日のお父さんは 最高に格好良い男で、
最高に良い夫のように 俺には思えた。

── 俺たちが水汲みに参加してからも、小さなハプニングは続いた。
たぶん疲れて 足元か手元が狂ったのだろうと思う。水汲み場で、お母さんが水道の蛇口にコップを
ぶつけてしまい、割れたコップの破片で 左手の親指を切ってしまった。
それでもお母さんは めげるどころか、自分でハンカチを 切った手に結わえ付けようとした。
それを見た娘と夫が 駆け寄って声をかける。お父さんが丁寧に、怪我をしたお母さんの指に
ハンカチを巻き付けてやっている。その姿を微笑ましそうに見送りながら、しぃが走って行く。
家族が1つになる機会や時間など、数えるほどしかない現代。こうして 家族みんなで、協力して
何かをする姿を目にするだけでも、心が少しだけ温かくなる気がした。

…それにしても!
マサオは依然として、何の反応も見せなかった。ただ呆けたように 突っ立ているだけだった。
まるで 誰かがやれと言わない限りは、自分は何もしなくていいとさえ 思い込んでいるみたいに…。
そのくせ愚痴と文句だけは、一丁前に 一人頭の中で繰り返しているに違いない。

けれど 恐らくモナーは、そんなマサオに 敢えて何も語らないだろう事は、誰もが予想出来た。
お姉さんが怪我をして、俺たちが参加してからは、マサオの態度も完全に改まった。母親の左手の
怪我を見た時も、マサオの顔は微妙に曇ったように見えた。もうさっきまでのように、拗ねて冷笑を
浮かべるような素振りは見せない。その無表情の下で、マサオが あいつなりに、自分から何かを
考え始めてくれるだろう事を、この時 お姉さんたちは、ただひたすら待っていたんだ。
220のら猫:03/03/28 21:36 ID:???

  俺たちは走った。ただ走った。走った先の未来には、何の保証も 確約もない。
  全てが水泡に帰するかも知れない。馬鹿げた努力は、やっぱりただの馬鹿げた努力
  でしかないのかも知れない。それでも…、
  ただそれぞれが、それぞれに信じるものの為に 闇雲に走った。

                                   '´ ̄ ヽ
                .     〃ノ^ヾ      ( ノノ)) )
    ∧∧     ∧∧       ソ;´дノ)      リイ´дノ     彡⌒ ミ
    (;´Д)     (* ゚ д).     ⊂ ) ソ[]O  .   ( ⊃[]0    ( ; ´Д)
  ⊂   []O  と  つ[]  .    )  ./       /  ノ     と   つ[]
  〜(  /   〜(_ ⊃      く__〉      〈__>   (( 人 ヽノ
(( ⊂\_)     (ノ          ⊂ 'ヽ)      ⊂ 'ヽ)      (__(__)
⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄⌒⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄ ̄

  俺たちの努力では、永遠に満たされる事が無いと、誰もが そう分かっている、
  穴の開いたバケツの中へ、小さなコップ1つで 水を注ぎ続ける。笑われたって仕方がない。
  体中が汗まみれだ。それでも誰一人、ねを上げる者など居ないのは 何故なんだ?
221のら猫:03/03/28 21:37 ID:???

        .   ((( )))  .∧_∧      もしかしたら、俺やお父さんも、心の奥では この努力
    ∩_∩   (;-_-)   (´∀` )       の意味が、分かっているのかな?
   ( ´∀`) (.つ┌┐ (     )      あの小さな坊やが、モナーの ほんの一言ほどの囁きで、
   (⊃  つ  | |└┘  | | |  .     全てを理解出来たように…。
   (_)_)  (_._)__)  .(__).__)    .   それは あまりにも希望的観測に過ぎるのかな。
⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄⌒⌒ ̄ ̄ ̄⌒ .     俺は、みんなを信じてる。モナーを しぃを お姉さんも。
お父さんだって お母さんだって、坊やだって、マサオの為に自分の力を尽くす覚悟があるんだ。

…マサオ。答えてくれるのか? それとも、俺たちをあざ笑うのか? これは お前を傷付けた者たち
全てへの恨みを、全部両親や俺たちに背負わせて お前が復讐をする為の機会だというのか?
きっとお前の心に巣食う 虚無や絶望が、お前の態度を今、そんなにも頑なにさせているんだろう。

自分自身を見てくれ、マサオ。自分の心と 話してみてくれないだろうか、マサオ。
お前の心が 本当に望んでいるのは、孤独だったのか? 絶望だったのか? 悲観だったのか?

それを与えたのは ここに居る家族だったろう。でも今、それを頑なに手放そうとしないのは誰?
…おまえ自身じゃないのかい? その孤独や絶望を 硬く握り締めたお前の手を開かなければ、
新しい何かなんて、その手に掴み取れる訳がないとは思わないかな、マサオ。
222のら猫:03/03/28 21:38 ID:???

── 水汲みを始めてから ちょうど1時間が過ぎた頃だった。
俺の前を ヨタヨタと走っていたお父さんが、急に “アタタタッ!” と叫んで 地面に座り込んだ。
この時だけは、お母さんもお姉さんも 顔面蒼白になって、慌ててお父さんに駆け寄った。
幸い お父さんは足がつってしまっただけで、事無きを得た。ただそれ以降、お父さんはもう走って
水を運ぶのを諦めざるを得なかった。さすがにもう 元気に走っている者など、誰も居ない。

それでも、マサオにはまだ 心強い応援者が残っていた。
さすがにここにきて ややバテて来た感じの しぃの代わりに、            彡⌒ ミ
ついに坊やまでもが 水汲みに参加し始めた。               ∩_∩    (Д^ ;)
                                        ( ´∀`)   と   つ[]
坊やは 足が悪くて、上手くは走れない。それで、         (( ⊂ _  つ[] 人 ヽノ
ちょうど足がつって走れなくなったお父さんと一緒に、        (___)(_)  (__(__)
水汲みを始めてくれた。                       ̄⌒ ̄ ̄⌒⌒ ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄
その微笑ましい様子に、ヘトヘトに疲れたお姉さんたちが また少しだけ元気な顔になる。
俺は もう限界に近かった。どうしても マサオの家族ほどは頑張れないよ。
223のら猫:03/03/28 21:39 ID:???

今 俺のずっと前の方には、お父さんと坊やが歩いている。お父さんも坊やも、その痛む足を
必死に庇いながらマサオへと歩いて行く。2人共 見ていて痛ましいが、あの小さな坊やが、懸命に
足を引きずりながら 水を運ぶ姿を見せ付けられても 心が動かないほど、マサオの心は擦り切れて
しまっているのだろうか。
その痛々しい2人の横を、左手にハンカチを巻き付けたお母さんが、ヨロヨロになって戻って来ている。
さっき見たハンカチには、薄っすらと血が滲んでいた。水に濡れてしまうせいで、血が止まりにくく
なっているのか…。
そして俺の後ろからは、擦りむいた膝小僧の泥さえ払わずに、ひたすら水を運び続けるお姉さん。
見事なほどに、全員がボロボロだ。俺の足も さっきから鉛のように重く感じられて来た。元気なのが
自分だけだと思ったから、俺は遮二無二飛ばして走った。そのツケが どうやらそろそろ廻って来た
ような気がする。…あぁ まただ。油断すると、すぐに同じ疑問が 俺の頭の中で跳ね回る。

        ∧∧       “何だろう。俺たちは 本当に一体何をしてるんだろうか?
      (;´Д)       みんなが こんなにボロボロになってまで やり続ける事は、
      / ⊃[]O    永遠に水がいっぱいになる事のない 穴の開いたバケツの中に、
    〜(  /      ただひたすら コップ1杯づつの水を注ぎ続けるだけ。
  (( ⊂\_)     .   お姉さんたちは、何を待っているのか ──。”
 ⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒
今度こそ 挫けてしまいそうになった、まさにその時、風向きが変わった。マサオに この日初めて、
お姉さんたちが 心から待ち続けていた反応が現れたんだ。
224のら猫:03/03/28 21:40 ID:???

俺はマサオの前に辿り着く。俺のすぐ前では、お父さんに助けられ、坊やがマサオのバケツに 今日最初
の1杯を注ごうとしている。マサオは思わず、まだ背の低い坊やの為に、自分の体を屈めて バケツを
坊やの手元へと差し出す。

その時 マサオに向けた今日初めての、そして今日最後の言葉を、モナーが口にした。

「 マサオ君、ちゃ〜んと出来るじゃない!」             ∧∧
                                         (*゚ー゚)
…それだけ。たったそれだけ。                    O ⊂|  ((( )))
でもその一言に、マサオはハッと モナーの方を振り返った。   .∩_∩  (;- 。-)   ∧∧
本人にも 頭ではよく分からないままだったけど、       (,,   ´) ⊂と ヽ  (`.  )
モナーの言葉にマサオの心が、何かを感じたようだった。    (    つ[]□| l .|  .と  つ
                                     (_(_) . (.(_)  | l .|
そして、坊やが笑顔で コップの水を注ぎ込んだんだ。                   (.(_)
225のら猫:03/03/28 21:46 ID:???

        /⌒ヽ   .     /⌒ヽ
      |   |       |   |
      |   ゝ-──--く   ,|       『 はぁ〜い! マサオにいちゃんのココロォ〜、
      |              l
      /              ヽ       しあわせせで、いっぱい いっぱぁ〜いに
    /  / ヽ,___,/ \   l,
    i' ..::::::..   'l,    /    ...:::...|          なぁれ〜っ!! あははは…。』
    | :::::::::::   'l,  /     .::::::::::|
 .   'i, :::::::  .  ヽ_,/        /
     ヽ              ,/
226のら猫:03/03/28 21:47 ID:???

…まるで、頭をガツーンと 殴られたような気分だった。
物事の表面、目に見える事だけに心を囚われていて、俺には それまで気が付けなかった。

何で こんな簡単な事に気が付けなかったんだ!
お姉さんは ちゃんと最初にこう宣言していたじゃないか。このバケツは マサオの心なんだと。

   .∧∧   .   坊やの言葉のおかげで、俺にもやっと 何もかもがクリアに見え始めた。
   (; ゚Д)     無駄な努力・やっても無意味な事・単なる時間の無駄・馬鹿げた事…。
   ノ つ[]O     それは 自分で自分を見捨ててしまっている、今のマサオの自分に対する
 〜(  /      気持ちそのものだった。
   (/~U .     マサオは メールで俺に言い続けていたじゃないか。
             “自分なんて 生きていても仕方が無い。自分さえ居なくなれば、残された家族の
誰もが幸せになれるのに…。” と 頑なにそう信じ込んで生きて来たんだった。

マサオは穴の開いた ボロボロの自分の心を、自分でも もうどうしようもなくなってしまっていた。
家族から見捨てられたと感じたマサオは、あの日 引き篭もったあの時から、自分自身までもが
完全に自分というものを見捨ててしまっていたんだ。

それでも お姉さんたちは、その穴の開いたボロボロの心に、これからこうやって 精一杯の家族の
愛情を注ぎ続けるからと、そう伝えたかったんだ。
227のら猫:03/03/28 21:48 ID:???

そう…たとえ今みたいに 注いだ愛情の全てがこぼれ落ちようとも、自分たちの命と力の続く限り
決して諦めず、マサオの心に 労わりや理解という愛情を注ぎ続けるんだって気持ちを、
口先だけじゃなく 文字でもなく、言葉を越えた行動で示したかったんだ。
                          . . . . . .
ただその為だけに、本当の自分たちの 血や汗や涙を、彼らはマサオの前で流して見せた。
誰もが馬鹿げていると笑うような努力を。マサオ自身さえ諦めていた努力を やってみせたんだ…。

けれど、マサオの心に開いた穴を塞ぐ事が出来るのは、
マサオ自身以外には 世界に一人として居ない。            ∧∧  ((( )))  ∧_∧
今まで 自分で自分の心に 愛情を注ぎ込む事さえをも      (* ゚ー) (;- д-) .( ´∀`).
拒否していたマサオが、今やっと誰に命じられる事もなく、      U  |っ O┌┐ (     )
坊やの為に 自らそのバケツを差し出した。            〜|  |  | └┘ | | |
                                       (/~U  (_._)__) (__).__)
モナーが言ったのは、マサオにだって その気持ちさえあれば、   ̄ ̄ ̄⌒ ̄ ̄⌒⌒ ̄ ̄⌒ ̄
自分から 誰かの愛情を受け入れる努力は出来るって事だったんだ。
228のら猫:03/03/28 21:49 ID:???

水汲みの始めから、お姉さんやお母さんが ずっと “諦めないからね、やり抜くからね。” と、
マサオに声をかけ続けていた意味も、今やっと分かった。俺の邪推は 見事に外れていたんだ。

…俺も その場で固まっていたが、マサオも モナーと坊やの言葉を聞いた瞬間から固まっていた。
マサオが頭で それを理解出来たのかどうかは分からない。いやむしろ そんな事はどうでもいい。
自分に愛情を傾けてくれる者の為に 自ら動けたのならば、たとえ頭では まだ意味など分かって
いなくとも、心ではきっと何か 大切な事に気付けたに違いない。

         '´ ̄ ヽ              お父さんは 疲れ果てていたのか、そんな息子の様子には
    〃ノ^ヾ( ノノ) )〉             全く気付けぬまま、再び坊やを連れて行ってしまった。
   ソ;.゚Д゚ .リイ.゚д゚ノi   .          でも俺はまだ、その場から一歩も動けないでいた。
   ( _il⊃と .Y . )     ∧∧  彡   マサオもまた、さっきから じっとバケツを見つめまま動かない。
  {{ )  (. ).[](/( }}  (;゚Д゚ )
   /__ 〈__:|_.|     と .ヽ⊃[]  そして俺が ハッと我に返り、まだ固まったままのマサオの持つ
    (/~U  し'ヽ)     )  )〜.  バケツに、これまでよりずっと丁寧に コップの水を注いだ後、
               .         後ろを振り返り 足を一歩踏み出した、その瞬間だった。
俺のすぐ後ろに戻って来ていた お母さんとお姉さんが、2人揃って小さな悲鳴を上げたんだ。
229のら猫:03/03/28 21:50 ID:???

思わず振り返った俺が見たものは、バケツの底の穴を 両手で必死に塞ぎ、今俺に注がれた水を
地面にこぼすまいとする マサオの姿だった。バケツの穴は余りに大きくて、それでも水は容赦なく
マサオの指の間からこぼれ落ちて行く、…だけど間違いない。マサオは気付いたんだ、自分の力で!

再び振り返ると、お母さんはその場に座り込んだまま 泣き崩れていた。お姉さんの方は、
笑っているのか 泣いているのか分からない顔で、立ち尽くしたままマサオを見ている。

── 待ってたんだ。お母さんも お姉さんも、ただひたすらマサオを信じて、この瞬間が来るのを
苦しいのを耐え忍んで 待ち続けていたんだ。マサオが自分の意志で、自分の心の穴を塞ごうとする、
この時を。自分に注がれた愛情を しっかり受け取り、こぼすまいとする気持ちを 再び持てる事を。

『 ギコ兄、大丈夫だから。だから水を運んできて! お願いっ!』      ((( ))) /
                                             (;`Д´) _
── 俺は走った。体は鉛のように重いのに、心が走れと命令した。   . (つ┌┐
足がもつれる。息が上がる。倒れそうになる。なのに俺は走れた。     / └┘     ∧∧
水を汲んで戻って来ると、もうマサオは 自分の着ていた服を脱ぎ、    (__/(__.)    (Д゚ ;.)つ[]
それでバケツの外側を すっぽりと覆っていた。                           (つ、丿
それでもまだ水はポタポタと滴り落ちていたが、でも これなら本当に            (ノ/
穴の開いたバケツを コップの水でいっぱいに出来るかも知れない。             (_/
230のら猫:03/03/28 21:55 ID:???

しぃが モナーに声をかけていた。そこに立っていた坊やから 笑顔ですばやくコップを受け取ると、
まるで弾け飛ぶように、しぃは水汲み場へと走って行く。
お姉さんが、泣いてしまったせいで 化粧がぐじゃぐじゃに落ちてしまった お母さんの肩を抱いて、
そのバケツに 自分と母親、2人分の水を注ぐ。マサオが その時初めて笑った。

『 大丈夫、もう分かったから。もうこぼさないから、ねっ 姉ちゃん?』

俺の頭の 後ろあたりがジーンとして、両目の内側が熱くなって、鼻の奥の方が ツーンと痛くなった。
反射的に俺は 手にしていたコップの水をさっと注ぐと、また走り出した。
疲れていたけど また本気で走った。そうしないと、自分まで泣き出してしまいそうだったから。
途中すれ違ったお父さんまでもが、今にも泣きそうな顔をして 本当に大事そうに水を運んでいた。

                            今はもう お父さんにも、このコップの水が ただ単なる
    .  彡⌒ ミ                     水ではなく 自分の愛情なんだと分かったようだった。
      ( ; ´д)      ∧∧         そんな 真摯で不器用なお父さんの様子を目にして、
      (  つ[]O    (,TдT) 三     ふっと頬が綻んでしまうと、俺は急に それも勝手に
   (( 人 ヽノ      O[]と ヽ 三 .   胸の奥の方が ギュッと詰まって苦しくなった。
     (__(__)          と _ノ〜     そして何故だか、今まで我慢出来ていたはずの涙が
                   ヽ)    .    ぽろぽろとこぼれて、ちっとも止まらなくなったんだ。
231のら猫:03/03/28 21:56 ID:???

── 水飲み場で深呼吸を3回して 高ぶった気持ちを落ち着かせ、いざ水を汲み戻ろうとすると、
マサオが既にもう かなり重くなり始めたバケツを両手に抱えて、ヨロヨロと こっちの方へ歩いて来るのが
見えた。

そうか、そうだったな! お前には 自分で動ける手も足もあるんだったな。全てを分かった今なら、
そのバケツに 水をいっぱいにする事だけ考えればいい。これ以上家族を苦しめないでいい方法を
自分自身で考えて、その心の声に お前は従えばいいんだ。

お母さんが そんなマサオの肩を、そっと抱いている。お姉さんが    ∧∧       ∧∧
そんなお母さんの分のコップも持ちながら、比喩なんかじゃなく    (*゚ヮ゚)     (Д゚ .,,)
本当に “笑い泣き” をしつつ こっちへ歩いて来るのが見える。   (|  つ[]  []と|  U
そんな微笑ましい光景が、まだ少しだけ 俺の眼に残った涙で、   と_.ノ〜   ⊂._  |〜
ちょっとばかり歪んで見えた。                        ヽ)   .    `U
しぃが そんな俺の顔を見て、“あなた目が真っ赤よ。” と笑う。   ̄ ̄⌒ ̄ ̄⌒⌒ ̄ ̄⌒ ̄
…自分だってそうなのに 笑うなよ、しぃ。
232のら猫:03/03/28 21:57 ID:???

最後の一杯を お母さんが注ぐと、満ち満ちたバケツから水が溢れ出た。
お父さんが シッカリとそのバケツをマサオから受け取ると、お母さんは まるで小さな子供を抱き締める
みたいに、駆け寄ってマサオを力一杯に抱き締めた。

さすがにマサオは照れていた。その照れる仕草は 18歳の男の子そのものだった。でも ちゃんと、
そのマサオの顔は 嬉しそうに笑っていた。お母さんがマサオを抱き締めて離さないので、お姉さんが
“母さん、今度は私よぅ。” と、お母さんからマサオを奪い取って 背中からギュと抱き締めた。
その時になって、やや俯いたマサオの目から ぽろっと涙が流れ落ちた。ほんの2、3粒の涙でも、
それはマサオが 実に十数年ぶりに人前で流す、本物の嬉し涙だったんだ。

    :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

── かくして 穴の開いたバケツは、本当に水でいっぱいになった。

言葉は、一旦 俺たちの頭の中を通って、意志や気持ちを伝え合う道具だ。
もし その言葉を越えるコミュニケーションがあるとすれば、それが抱き締めるといった “行為そのもの”
なのだろう。
お姉さんたちの気持ちが マサオに伝わったのも、長い間の自己否定によって 批判精神に満ちた
マサオの頭を通さずに、直接 血や汗や涙を流す行為によって その気持ちを伝えたられたからじゃ
ないだろうか。人間が 誰かに愛してると言った時 言われた時、その後に 思わずその人をギュッと
抱き締めたくなったり 抱き締められたくなるのは、俺たち人間が 本能で、言葉なんかよりも もっと
もっと強くて確かなコミュニケーションの方法を 知っているからなのかも知れない。
233のら猫:03/03/28 22:02 ID:???

そんなこんなで、マサオにとって…というより、小森家にとって 記念すべき日は、最後には誰もが
満面の笑顔で公園を後に出来たという、参加した全ての人にとって 本当に幸せな記憶となった。

もし ただ訳も知らず、俺たちの様子を遠くから見ていただけの人が居たとすれば、それは単に
穴の開いたバケツを、来ていたシャツで覆って 水をいっぱいにしただけ。ただ それだけの事だ。
でも、その場に居て 実際に水汲みに参加した俺たちにとってそれは、間違いなく “奇跡” と呼んで
差し支えないほどの出来事だったんだ。

最初の頃、モナーが言っていた “言葉でなく 知識でもない。体験だけが人を変える。” という意味を、
これほどまでに証明した出来事はなかった。

ところで、実は それ以外にも、俺には 今になってやっと気付けた事があった。1つはモナーの事だ。
マサオの件が一段落して、ふと 今までの経緯を 自分で振り返ってみると、モナーが今まで 俺に対して
接して来てくれた 一貫した態度こそが、本当の愛情・本当の友情なのだと分かった。
モナーは決して 俺に何かを強制する事はなかった。決して自分の意見や考えを押し付けたりせず、
例え間違っていたにせよ、俺が自分で考えた意見を尊重して来てくれた。
234のら猫:03/03/28 22:10 ID:???

それに 俺がモナーからもらったものは、色んな貴重なアドバイスだけではなかったんだ。
決して自分を批判せず、暖かく見守ってくれている。そして いつでも真摯な態度で、自分の相談に
乗ってくれる親友が居る。…そういう安心感こそ、あいつがこの俺に与えてくれた 最大のプレゼント
だったのだと気付いた。

それは そのまま、モナー以外との付き合い…仲間同士の上手な付き合い方や 将来の子育てにも
自然とつながってくれるような気がする。
今までの俺は、事ある毎に人とぶつかり、誰かと争いの火花を散らしてきた。
傷付く事も 傷付ける事も多かった。それは 例えるなら、河の上流の大きな角張った石が、流域の
色んなものにぶつかりながら河を下って行き、ぶつかる度に次第にそのカドが取れ、最後には下流
の川べりで 真ん丸い石に変わるようなものだろう。

モナーの生き方は それとは少し違う。まるで 川面を浮いて流れる木の葉のように軽く、柔らかに
人生の流れを下って行く。どんなものにも 激しくぶつかる事なく、ごく自然に水の流れに乗って
何かにぶつかる寸前に さっと身をかわしてしまう。川面に突き出た石の脇を、流れるように
すり抜けて行く 木の葉そのもののような、そんな柔らかな生き方だ。
235のら猫@休憩します:03/03/28 22:11 ID:???

どちらの生き方が正しいというものではないにしろ、モナーのような生き方も 俺には学んでみる価値
がありそうだと思う。第一、いちいち人とぶつかるような生き方は 結構疲れるものだからね。
“ほんわか のほほん” とは言っても、実際に そんな風に生きるのは、実はけっこう難しいんだ。
きっとモナーのように 心が常に柔らかくしなやかでないと、のほほんと生きるのは 無理なのだろう。

もう1つ気付いた事。俺がどうして マサオの為に、こんなにも頑張れたのかだけど…。
これはまだ結論じゃない。でも 今感じる事は、マサオはもう一人の俺だったんだと思うんだ。俺の心
の中にはまだまだ、親からの充分な愛情という栄養をもらえなかったせいで、成長し切れていない
子供が生きているのだと思うんだ。マサオは、そんな俺の中に居る精神的未熟児の中の一人だった
ような気がする。その未熟児が、俺にマサオを救ってくれと言い続けていたような気がするんだ。
マサオを救う事で、確かに俺の中の子供が ひと回りもふた回りも成長出来たと、俺はそう感じてる。

まぁ、難しい話はこれくらいに。
これからも俺は、ぼちぼちと生きてみるさ。俺のペースでね。
そしていつかは モナーみたいに、何があっても のほほんと生きてゆける人間になりたいと、
最近俺は そう心から思っているんだ。

── あっ、そうそう! 忘れちゃいけない。最後に お姉さんからの、最新のメールを紹介しよう。
236のら猫:03/03/29 00:39 ID:???

しぃちゃん、ギコさん。お元気ですか?

早いもので、あれからもう1ヶ月の月日が流れたのですね。お二人にメールを書くのも
ちょうど半月ぶりぐらいになります。だいぶ間隔が開いてしまいましたが、いつものように
家族それぞれの近況を報告させて頂きますね。

まず、マサオです。最近のマサオは ちょっとばかり生意気になりました。いままで言えなかった事を
少しずつですが言葉に出来るようになってきた証拠です。長い間 自己否定や自己批判ばかりを
繰り返して来たので、理屈っぽいのも その後遺症だと思って笑って聞き流しています。
まだ 予定の段階ですが、この秋か 次の春の通信高校の編入に向けて、1日2時間の勉強の
約束を、マサオは私たちに自分からしてくれました。…時々、その約束は破られたりしてますが、
もう家族の誰一人、そんな事に目くじらを立てて怒るような人間は居なくなりました。
将来の事は 本人もまだ決めかねていますが、今のところはやはり コンピューター関係に進みたい
ような話をしてくれています。

それから父ですけど、父は最近マサオと遊んで欲しくて仕方がないようです。モラ山さんが、息子さん
と “月に一回は、必ず親子2人か家族全員で、誰かが行きたいと言った所に遊びに行く” という
約束をしたのを聞いて、父とマサオも それを真似したようです。最近は父が、せっかく勉強している
マサオをそそのかして、遊びに連れ出してしまうのですから大変です。それを見て お母さんはいつも
苦笑いしていますよ。
237のら猫:03/03/29 00:40 ID:???

そのお母さんですが、本当に変わりました。以前までは 実家の母の教えだと言って、どんな時も
決して店屋物のご飯など頼まずに、必ず自分で食事の用意をしてたのです。これまで家事とパート
一筋で、全くの無趣味だったお母さんは、最近 高校時代にやっていたテニスに 再び夢中のようです。
その付き合いのせいで、時々帰りが遅くなったりしますが、そんな時私は マサオと二人で密かに
大喜びするんです。何故って 私もマサオも、出前のお寿司やピザが 大好きだからです。

お母さんは 本当に肩の力が抜けたようです。つまり それまで母は、常にいい妻を演じようと必死
に無理をしていたのだと思います。昨日も 私がバイトから帰ると、母はリビングでTVを見ていました。
以前は 教育上良くないと言って、子供の前では決して TVの娯楽番組など見ない人だったのです。

父や子供が帰ると 必ず玄関まで出迎える事も、父の “別にいいんじゃない?” 一言で止めてしま
いました。家に居ても、どこかが汚れていないか、何かする事はないかと、落ち着かなかった母。
そんな風だったから、きっとストレスが溜まってしまったのですね。
今は少々部屋が散らかっていても平気です。私たちも、今までのように 何でもかんでも完璧でない
と気がすまなかった 神経質な母よりも、ちょっと散らかった部屋で TVを観ながら “のほほん” と
している母の方が よっぽど好きなんです。( 父は、母が最近サボり過ぎだと愚痴ってますけどね。)
238のら猫:03/03/29 00:40 ID:???

最後に私の事です。前回のメールでも少し書きましたが、やっぱり私はもう1度大学を目指そうと、
自分でそう心に決めました。自分のやりたい事があるって、なんて幸せな事でしょうね。
私、きっと良く勉強して、誰かの “最高の石鹸” を目指します。
まだまだ日本には、今までの私たちのような苦しみを抱えた家庭が たくさんあるんですから。
ギコさん、しぃちゃん、モナーさんに坊や。そしてモラ山さんに教えて頂いた貴重な知識や、マサオの事で
自分が経験した貴重な体験・喜びを生かせる場所が、きっとあるはずだと思います。

しぃちゃんが あの日公園で私に教えてくれた、自分を大切にするって事。今も日々気を付けて
私は生きています。自分を嫌いになったり、自分をダメだと感じる度に、私はこっそり自分の手を
つねるようになりました。今でも一日に2、3度は 必ず手をつねる日が続いていますよ。
でも、これでも随分マシになったのです。最初の頃は つねりすぎて本当に手に痣が出来てしまった
ぐらいなのですから…。でも、そうやって自分の心の痛みを、体の痛みに変えて実感してみれば、
自分がいかに常日頃、自分自身を痛めつけるような考えを繰り返して来たかが 良く分かります。
239のら猫@ありがとう:03/03/29 00:42 ID:???

…あっ それから、マサオがまた坊やと遊びたいと言っていました。
あの坊やが、実は 亡くなられたモナーさんのお兄様の たった一人の忘れ形見だったなんて、とても
驚きです。でも、お父さんお母さんが天国に逝ってしまわれても、坊やにはモナーさんやギコさん、
しぃちゃん、それに 私たちも居るんですものね。きっとあの坊やも、素晴らしい人たちに囲まれて、
素晴らしい人間に成長してくれると思います。

…長くなってしまいました。メールはこれからも 半月に一回は出そうと思ってます。ギコさんたちも
お忙しいとは思いますが、また( ちょっと汚くなった )我が家へ、どうかまた 遊びに来て下さいね。
その時は 私たちの恩人であり、一生の友人である皆さんを、家族全員でお迎えしますから…。

それでは、またお逢いする日まで ごきげんよう!

   '´ ̄ ヽ                                        _____
  ( ノノ)) )〉 .彡⌒ ミ 〃ノ^ヾ . ((( ))) ∧∧  ∧∧   ∩_∩ ∧_∧  [__l二l|__ .∧_∧
  リイ.´ーノil (,, ^Д^) ソ ´ーノ) (,-_-) (*゚ー゚) (,, ゚Д゚) ( ´∀`)( ´∀`) ( ・∀・) ( `皿´)


                     〜〜 お し ま い 〜〜

                 ( ご愛読、ありがとうございました。)
240☆ のら猫 ☆ ◆CkRo9tP5ms :03/03/29 00:54 ID:???
これで、のら猫のAAストーリーは、一応完結です。4月からは新しい職場での日々が
僕を待っています。描きたかったのに描けず仕舞いの話は 山ほどありますが、
もうプーではないので、続けるのはむりぽです。(w

明日(もう今日ですが)からは、パソコンも引越しのダンボールの中です。
この板に戻って来るのかも 今は全然わかりませんので、一応みなさんには
「さようなら」を言っておきますね。でももし 戻って来る時の為に、トリップは
つけておきましょう。

…それでは皆さん、今日まで本当にありがとう。再見! のほほんダメ板!!
241のら猫 ◆CkRo9tP5ms :03/03/29 00:57 ID:???
─ 追伸 ─

このスレの続きは、皆さまでお好きに使って下さいませ。僕の他にも AAストーリーを
描いてる方に使って頂けるのが、一番嬉しいですけどね。それはもう、自然に
任せる事にします。
242サランラップβ ◆SARANvskG. :03/03/29 00:59 ID:???
のら猫さん、お疲れさまです。
お仕事頑張ってくださいね。
また、会える日を楽しみにしています(´・∀・`)ノシ
243のほほん名無しさん:03/03/29 15:02 ID:???
お疲れさまです
ありがとう、泣きました。・゚・(ノД`)・゚・。

のら猫さんからもらったステキな話と暖かさを大切にします
244コナキ:03/03/29 21:11 ID:???
ああ、のら猫タン・・・
今までありとう!色々赴き深い話を聞かせてくれて
ワシはうれしいです。
正直寂しくなるけど今までの話やなんかを
思い出しては、のら猫さんのことを思い出します。
これからもお体に気をつけて過していただきたいのと
のら猫さんのご活躍をこころより願っております。
ついでにたまに顔を出してくれるとうれしいです。
|-_-)ノシ では、がんばってのう!
245のほほん名無しさん:03/03/30 22:48 ID:???
文章だけでも凄いのにAAまでついてて・・・
のら猫さんお疲れ様です、そしてありがとう。
またのほダメ板に帰ってきてくれることを期待してますヽ(´∀`)ノ
246のほほん名無しさん:03/04/01 15:17 ID:???
part2のログも保管なさる予定でしょうか?
オネガイシマス
>保管サイト様
247のほほん名無しさん:03/04/10 15:54 ID:???
ほっしゅー?
248なー:03/04/17 14:50 ID:BhkxDjna
山崎回避。
249山崎渉:03/04/17 14:50 ID:???
(^^)
250のす:03/04/17 20:16 ID:???
ほしゅ
251山崎渉:03/04/20 02:17 ID:???
   ∧_∧
  (  ^^ )< ぬるぽ(^^)
252のす:03/04/20 07:43 ID:???
ホシュ
253のほほん名無しさん:03/05/11 23:26 ID:???
のほほん。
254のほほん名無しさん:03/05/13 18:07 ID:???
まだあったのか・・・ノホホン
255なー:03/05/22 03:22 ID:OejPz4ud
保守や。(汗
256山崎渉
     ∧_∧
ピュ.ー (  ^^ ) <これからも僕を応援して下さいね(^^)。
  =〔~∪ ̄ ̄〕
  = ◎――◎                      山崎渉