シンガポールの政府系投資会社、テマセク・ホールディングスが、インド企業への投資を
加速している。国内企業向けを中心としていた投資戦略を転換。インドとの経済的な関係強化
を狙ったものとみられる。テマセクは今月6日、子会社を通じインド・チェンナイに拠点を
置くノンバンク、ドーブ・ファイナンスの最大株主になったと発表した。取得株数、金額は
明らかではないが、現地有力紙によると、テマセクはドーブの発行済み株式の80%取得を
目指していた。
テマセクはこれまでにインドの民間銀行最大手、ICICI銀行の株式10%を取得。
IT(情報技術)、製薬など多くの分野にわたりインド企業に出資している。今月に入り、
インドのタタ財閥系通信会社への出資を検討していると報じられたほか、昨年には映画館
運営会社、シュリンガー・シネマに出資。さらにインド国内向けの投資ファンドをインド企業
と合弁で立ち上げた。
テマセクのインド向け投資が急増しているのは、高い配当だけでなく、インド経済との
結びつき強化を狙いとしたものだ。アジア経済圏でインドが急速に存在感を高めていること
で、アジアの貿易、金融の中心地だったシンガポールの影響力は徐々に低下しつつある。
このため、インド企業への出資を通しインド経済に一定の影響力を保持する狙いとみられる。
一方のインド政府も海外資本による産業育成を狙っている。昨年6月には、シンガポール
との包括的経済連携協定(CECA)で、20%を上限にシンガポール国営投資会社による
インド企業への出資を認めていた。
昨年末行われた東アジアサミットの場で、インドは東南アジア諸国連合(ASEAN)との
間で07年には自由貿易協定(FTA)発効を目指すことで合意。今後シンガポールだけで
なく、東南アジア全域との貿易を強化する方針で、シンガポールにとっては、インド市場進出
を狙う競争相手が増えることになる。
テマセクをはじめとするシンガポールの投資会社は今後、インドだけでなく、中国企業への
投資も加速させるものとみられる。
テマセクは1974年にシンガポール財務省の100%出資で設立。シンガポール国内の
金融、航空、通信など主力企業に出資し、傘下に収めてきた。ブルームバーグによれば、
2005年3月までに年間投資総額は77億ドル(約8855億円)に上っている。
http://www.business-i.jp/news/world-page/news/200601090001a.nwc