親友のよしみでそのバイトを手伝ってあげる伊角子さん。
その夜は売れ残りのケーキをもらって帰り、女二人で食べるのだ。
彼氏がいなくてもほっこり。
萌え(*´Д`)ハァハァ
その二人の女体とケーキを颯爽と持ち帰る俺
ガッ
子供駅での再放送で2話を見て書きたくなった白川子さん。
コソーリ置いていきます。
1
「白川先生って結婚してるの?」
不意にそんな言葉が進藤から飛び出したのは、研究会も終わった夕方の棋院。
俺は思わず飲んでいたコーラを噴出し、冴木さんはお茶の缶を片手に完全に固まっていた。
まじまじと左手の薬指を凝視する進藤を見おろしながら、白川先生はおっとりとした笑みを浮かべた。
「お前さ…そういうのは研修会に来て数度目にする質問じゃねぇ?もう何ヶ月も一緒に研究会してるだろーが」
「だって和谷、白川先生さっきまで指輪してなかったし、ほら!」
見ろよ、と進藤が指差す先には、鈍く銀色に光る細い指輪。
長年着けることによって出てくる独特の風味で自身を艶めかせるそれは、
確かに結婚指輪、或いは婚約指輪以外の何物でもない。
まるで幼稚園児みたいに目を輝かせて返事を待つ進藤の目の前で、
白川先生はその(子供心に見ても大きいと思える)胸の前で、両手をゆっくりと合わせた。
2
「そうですね、進藤くん…私、実は結婚してるんですよ」
「マジ?!俺全然わかんなかった!先生普段指輪しねーんだもん」
「えぇ…実は、結婚したばかりの頃、対局中に抜けたことがあって…その時は、碁笥の中に混じっていたので事無きを得たのですが…それ以来また抜けて無くすのではと怖くて、碁に触れるときは外しているんです」
「ふーん…そうだよなぁ、白川先生美人だもんな。囲碁教室でもジィさん達にハートマーク飛ばされてたし」
そう言ってまじまじと白川先生を眺める進藤につられて、俺まで改めて白川先生のことを眺めてみた。
身内(門下)の欲目を抜いても美人、と思える顔立ち。
おっとりとして優しい口調と笑顔。豊満で形のいい(って昔誰かが言ってた)胸に、ふんわりした腰。
…とてもじゃないけど、30代後半で子供が二人いる(上の子はもうすぐ10歳とか言ってた)ようには見えない。
おまけに性格は気遣い上手で面倒見がいい。自慢の『森下門下のお母さん』だ。
3
「そういえば、あんまり当たり前すぎて進藤に言うの忘れてたなぁ」
冴木さんが、頭をかきながら苦笑いを浮かべた。
確かに、俺が師匠のところで習い始めた頃、白川先生は既に『お母さん』で、
棋院の研究会の後、二週に一度は下の子の幼稚園の迎えがあると言って途中で帰っていた。
今の口ぶりから、冴木さんが師匠についた頃、既にやはり『お母さん』だったのだろう。
今は下の子も小学校に上がって、お迎えがなくなったから研究会を途中で帰ることはなくなったし、
研究会であまり家族のことを話さないし、さっきの進藤の指摘どおり、指輪も外してる。
まぁ、解らなくてもしょうがないかもしれない…にしても、もう少し早く聞いてもいいと思うんだが。
「ねぇ白川先生、幾つの時結婚したの?旦那さんってどんな人?」
「おいこら進藤!あんまり聞くんじゃねぇっての!」
「何だよ和谷、ケチだなお前ー」
「ケチとかそういう問題じゃねぇだろっての…!」
「ふふ…ほら、進藤くんも和谷くんも、おやめなさい?」
4
俺と進藤が向き合って睨み始めたとき、横から白川先生がくすくすと笑う声と、優しい抑止の言葉が聞こえてきた。
ぐっと一息ついて、お互いに言葉を飲み込む。寸分違わぬ動作に、冴木さんが噴出した。
こうやって言い争いになった時、熱くなりやすい俺らは止まらずに、子供じみた口げんかを展開してしまう。
実はその時、師匠の怒鳴り声よりも、白川先生のその優しい抑制の方が俺らには効くのだ。
これが、白川先生が『森下門下のお母さん』な理由のひとつでもあるんだけど。
「こんなところで喧嘩しては駄目ですよ?師匠(センセ)に見つかったら怒られちゃいますからね」
「「はーい…」」
「それにほら、もうそろそろ出ないと、電車に間に合いませんよ」
棋院のロビーで不貞腐れたユニゾンを披露した俺たちは、思わず壁の時計を見上げた。
いつも乗っている電車を逃すと、次に乗り換えなしで帰れる電車は20分も後。
同じ電車で帰っている俺らは、また「げっ!」という言葉を同時に発した。
その様子に、冴木さんが今度こそ堪えきれずに口元を抑えて肩を揺らす。
「って冴木さんも笑ってる場合じゃねぇだろ、ほら行こうぜ!」
「っあ、あぁ…じゃあ、白川先生。また次の研究会で」
「あ、そーだっ」
5
飲み終わったコーラの缶をゴミ箱に放り投げ、冴木さんの腕を取って棋院の外に向かう。
その俺の動きに逆行するように、進藤がいきなり白川先生の方に小走りで寄った。
「白川先生、ひとつだけ聞いていい?」
「いいですよ…何ですか?」
「結婚した人って、初恋の人?」
いきなりまた何を聞くのかと俺は目を見開いた。
白川先生は、少し顔に手を当てて考えていた。が、やがて僅かにしゃがみ、進藤と目線を合わせると、
にっこりと笑って、人差し指を立てながらこう言った。
「それは、内緒です」
「…やっぱり教えてくれないかぁ…うん、ごめん、先生。じゃ、また来週ー!」
6
大きく手を振りながらこっちに走ってきた進藤の頭を小突きながら、三人並んでドアを潜る。
ふと振り返った視線の先に、白川先生の横顔と、師匠の姿が見えた。
やっべぇ、ロビーで騒いだの見られたのかな…。
来週の研究会が怖ぇ、と師匠の雷が頭を過ぎったが、ちらりと見えた横顔に、
俺はふとさっきの進藤の言葉が頭に浮かんだ。
研究会で皆と居るときとは何か違う、白川先生の優しく、嬉しそうな表情。
そして、向き合いながら珍しく険のない笑いをしている、師匠の顔。
ガラス一枚越しに見えた二人の表情に、俺は頭に浮かんだ考えを打ち消すように首を振った。
前に冴木さんが聞いたことがあるって言ってた。
白川先生が女流棋士になったのは、師匠と出会ったからだって。
その当時、まだ師匠も白川先生も結婚してなくて、師匠は20数歳で棋士何年目、
白川先生なんて女子中学生だったって。
まさか、なぁ…でも……。
もう一度振り返ったが、歩を進めたそこからでは、もう二人の表情はおろか
色ガラスに邪魔されて、中を伺い見ることすら出来なかった。
=END=
キタ-------------------!!!!!
憧れの美人先生な白川先生イイ!!
初恋の人というのはやはり…(*´Д`)ハァハァ
白川子さんは原作そのままの口調で違和感ないなぁw GJ!
小説キタワァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆
しっとり包容力を感じさせる白川子さんがステキです。
年末に良い話をごちそう様でした!
さて、新年スレ初書込みの俺が振袖姿の女体ちゃんたちを頂くわけだが
アキラ子たんとか振袖似合いそうだなぁ
皆さんあけおめー
今年もよろしこおながいします。
次スレは970位でいいかな?
越智子たんは七五三とか言われてむっとしそうだw<振袖
正月ネタって何日くらいまでなら投下してOKかな?
次スレは970で、同意。
何日でも読むよ。待ってるよ
岡子タンと庄子タンもまだ七五三姿がはまるお年頃かもナー
庄子たん達は顔に丸とか×とか書いて羽子板持ってるのとか似合いそうだ(*´Д`*)
アキラコたんはじっと座ってたらまんま日本人形だなw
>947
いつまででもいいと思う
どうしても気になる場合は次のイベントまでとかどうかな
基本的に気にしなくていいと思うけども
次のイベントと言えば…
節分か!
正月ネタ、ということで一本書いてみました。
何でも今日は本当に棋院の打ち初めの日だったとか。
楊海×伊角子前提の伊角子と門脇の話。
(一期ひとり女体化の設定でアキラ子・越智子・伊角子にしてます)
1
花が綻ぶような、という彼女の笑顔は、見るもの全てを虜にするようだ。
門脇は、談笑する伊角の顔を見ながらそんなことを考えた。
その視線に気付いたのか、話していた相手にひとつ礼をすると、手を振りながら
小走りに駆け寄ってきた。揺れる桜色の着物の肩が、力が抜けたように下がる。
「初めて出ましたけど、やっぱり、打ち初めって凄いですね…俺、押しつぶされそうでしたよ」
「それは自分の一手に?それとも人に?」
「…両方です」
困ったように苦笑いを浮かべる伊角は、小首を傾げて答える。
疲れたらしいその声に、門脇は思わず笑いを零した。
同期としてプロになって二度目の正月。去年の今頃は、待ち構える新初段シリーズに
三人ともぴりぴりとして、ゆっくりと話すような状況ではなかった。
それに比べれば、プロという世界に一年間馴染み、去年に比べれば余裕が出てきた、と思う。
少なくとも、打ち初め後の親睦会で知り合いや同期と談笑できるほどには。
「押しつぶされそう、って言う割には、そんな着飾っちゃって。楽しんでない?」
「そんな余裕俺にはないですよ…それに、着物はすぐ成人式で着るから、その練習も兼ねてですし」
「成人式?…その着物、これ用に準備したんじゃないんだ?」
2
小声でひっそりと打ち明ける伊角に、思わず一緒にひっそりと小声で門脇は返した。
桜色を基調とした振袖は、梅の枝で鳴く鶯が刺繍され、非常に若々しく美しい印象を与える。
鶯色の帯や紅色の簪、そして淡く施された薄化粧が美しさを後押ししているようで、
門脇は内心(いつもより二割増)などとオヤジっぽいことを考えていた。
少女と女の境目の、清々しくも艶のある、不思議な色気か醸し出されているようで、
思わずつま先から頭までしげしげと眺め、抗議の声を上げられることになる。
「あんまり今のうちに気張らない方がいいと思うぜ?この後、門下なんかで呑みに行くんだろ?」
「そう、ですよね…俺、九星会から一応お呼ばれしてるんですが…」
「辞めたから行きづらい、って?いいじゃん、呼ばれてるんだから行ってこいよ」
「あ、でも会から、というより桜野さんが『慎ちゃんもいらっしゃいよ』って誘ってくださってるだけなんですが」
「じゃあ尚更だろ。女流の繋がりって無碍にすると後が怖いぞー?」
「む、無碍になんてしてないですよっ!ただ…やっぱり九星会の皆さんと会うのがその…」
「だからと言って俺らと呑みに行くわけにはいかないだろ?」
「いいですよー…門脇さんが誘ってくれるなら、桜野さんも納得してくれるでしょうし」
よくない、俺がよくないっていうかソコで頷かない、危ないから!
危機管理の下手な同期に、思わず手を振りながら心の中で門脇はツッコんだ。
仕事上で付き合いがあるとは言え、年上の男に呑みに誘われたからと
成人式間近の女の子がはいそれじゃあとついていくモンじゃあない。
碁以外になると途端に微妙に世間ずれした一面を覗かせる伊角のことを
楽しんでいるのも事実だが、こういうところは真剣に危ないと思って欲しいと、門脇は人知れず溜息をついた。
この伊角という同期の少女は、何というかいっそ芸術的な絶妙なアンバランスの持ち主なのだ。
碁に関してはそれこそ冷静沈着で自分を負かすほどのしっかりした実力とメンタルを持ち、
塔矢アキラから続く一般棋士採用試験の女流快進撃の一端を担うに相応しい棋力を保持している。
新初段になってからも本因坊相手に新初段シリーズで勝利を収めたのを筆頭に、
先を行く女流二人と同じく連勝記録を伸ばし、女流時代到来かと週間碁を賑わせたものだ。
なのに、碁から離れるとまるで別人のごとく、別の意味で『目の離せない存在』になるのだ。
まず何というか、しっかりしている印象なのに、その実は非常に危なっかしい。
どうも元からしっかりしているのではなく、『しっかりしなくちゃ』という思考の上でのようで、
実際に横で見ていると、かなりぽんやりとして天然気味な子なのだ。
その上、男性に対して警戒心を抱かない。しかもこれは、悪い意味で、だ。
男兄弟だけの家庭環境の上に長い間院生という男社会の縮図で過ごしたためか、思考が男性じみている。
それは何も問題ない。問題は、周りが男という環境に小さい頃から慣れすぎたためか、
今の自分が『男性からどういう目で見られているか』に関心を持とうともしないところだ。
門脇の目から見ても、伊角ははっきりとした『美少女』だ。
万人受けする甘いフェイス、すらりとした長身に兼ね備えた女性らしい柔らかさ。
それだけでも十分なのに、そんな美少女が人懐っこい笑顔で話そうものなら、
男としては誰もが持つ下心の部分を、大なり小なり動かされずには居れないだろう。
門脇自身、伊角に出会ったばかりの頃にそういう思いをしてしまったのだ。
その思いは、プロ試験が終わる頃には既に「危なっかしいなぁこの子」という
ある意味の庇護欲に取って代わられてしまったのだが。
4
「門脇さん…ネクタイ、曲がってますよ?」
不意にかけられたその声に、門脇は現実に引き戻された。
「ん?あぁ」と気の抜けた返事を返し、久々に袖を通したしっかりしたスーツの中心に手を伸ばす。
「ネクタイなんて滅多にしないからな…会社勤めしてた頃も、これが面倒でさ」
「駄目ですよ、ちゃんとしたお席なんですから…ちょっとじっとしてて下さい」
面倒と言い放つだけあって、指先で結び目を直すだけで終わった門脇のネクタイに
伊角の手が伸び、しゅるりと軽やかにまず解く。
思いがけない行動に硬直する門脇を前に、少々たどたどしいながらも伊角はネクタイを結びなおして
しっかりと形を取り戻したそれを軽く手でぽん、と叩くと、
自分より背の高い門脇の顔を見上げ、にっこりと笑みを浮かべてみせた。
(だーかーらそういう所が危機感なさすぎって言ってるんだ伊角ーっ!)
肩に手をやり、がっくりとこうべを垂れる目の前の相手に、
振袖の少女は何か気に入らないところでもあったかとおろおろしたが、
そうじゃない、大丈夫、ありがとう、と門脇が力ない声でそれでも応えると、
ほ、と胸をなでおろし、どういたしまして、とまた笑みを浮かべて返事を返した。
5
本当に、この少女は。
本人や周りから嫌というほど伝え聞いてる『中国の恋人』とやらがいなければ、
親睦会がお開きになったと同時にどこぞへ連れ去ってやるものの、と門脇は悪態をついた。
だが、目の前で笑っている少女を見ると湧き上がってくるのは庇護欲。
せめて、自分以外の男が変なことをしないよう、守ってやらなければ、と思うのだ。
ナイトといえば聞こえはいいが、実際は海を越えた恋人のためのお守りである。
それでも放ってはおけない自分に、俺ってこんなにお人よしだったか?と門脇は苦笑いを浮かべた。
「…そうだな。どうせだから、同期で呑みに行くか?」
「え?」
「そうと決まれば、本田にも声かけなくちゃな。今どこに居るのかねぇ」
「あ…あ、はい。本田ならさっき、越智のところへ行くの見かけましたよ」
「じゃ、二人で行くか。『同期の仲を深めにいこうか』ってな」
彼女の整えた髪を乱さぬよう肩をぽん、と叩いて、門脇は踵を返して歩き出した。
それを追うように、桜色の裾が軽く翻り、新春の雰囲気に混じっていった。
=Go Next?=
3に番号つけ損ねました(´・ω・`)ショボーン
伊角子に関してはここまでですが、越智子でネタが上がってきているので
同じく打ち初めでもう一本投下する予定です。
越智子と本田と真柴…という珍妙な取り合わせで…w
>957乙
ついでにその振袖伊角子を軽やかに俺がゲット
正月ネタだーーーーー
しっかりしているようで天然な伊角子さんに(*´Д`)ハァハァでつ
名前だけの登場だけどアキラ子タンも久しぶりだなぁ…嬉しい
越智子タンもお待ちしております!!
お正月SSで華やいだ気分になりますた。ゴチです〜
棋院の打ち初めでは由香里先生も振袖をお召しになったりするんでしょうか。
へーへー
ヒカ碁が連載中だったらほったや小畑も追悼コメント出してたのかな。
正月ネタ、【打ち初めの日】続きです。
越智子・真柴・本田の話。何やら少女漫画の如き展開になりました(´・ω・`)ショボーン
続き話ということで、番号通しにしています。
6
小生意気なガキ。それが、真柴が越智に抱いた第一印象だった。
プロになってすぐの若獅子戦で伊角の他に、院生で一回戦に勝った子が居たという。
名前を聞いてもぴんと来なかったのだが、中学生になったばかりの女の子、と聞いて
そこでやっとあの気の強そうにつんとした姿が思い出され、あぁ、と膝を打ったのはもう二年も前だ。
次に会ったのはその一年後、越智がプロになって初めての大手合だった。
5つも年の離れた相手にこてんぱんにされて、中押しでぐうの音を上げたのを覚えている。
それ以来、ちょこちょこと顔は合わせるものの、特に話したり対局した記憶はない。
出会った頃はまだ小娘、と呼ぶにも幼すぎた少女は、今や新鋭女流の一角を担っている。
相変わらず背は小さいし、小生意気なガキだし、可愛くなったとも思えないが。
親睦会に出されたドリンクを口にしながら、真柴はぼんやりと、越智を眺めていた。
紺色のベルベットのワンピースにブラウスの白い襟と真っ白な付けカフス。
細い足の踝からを覆うショートソックスに、革靴。やっぱりガキだ、と思った。
年寄りうけの良さそうな格好に、子供らしい色のはずのピンクのブローチがやけに不釣合いに見える。
7
プロに入ってから伸び悩みの一途の自分は勿論だが、
越智にとっても去年は辛い一年だったのではないかと真柴は考えた。
真っ先に浮かぶのは、代表枠に一度入りながら、結局は逃した北斗杯の件だ。
詳しいことは人伝いにしか知らないが、馬鹿な真似をしたなアイツ、とは微塵も思っていない。
むしろ、子供らしからぬ潔さに、こっそりと拍手を送りたくなったほどだ。
然し、それは勿論自分の考えで、実際陰では変なプライドを持って、と密やかに言う声も、真柴は知っている。
その頃からだった。いつか、ゆっくり二人きりで話してみたいと思うようになったのは。
辛辣な口をきく小生意気で強気な表情の裏で、本当は寂しかったり無理をしてはいないだろうか、と。
苦しいだろう、と思う。だが、それを決して表に出すような性格ではない、ということは
人伝いに聞き及んでいる内容で推し量れる。
辛い一年だったのでは、と思うもうひとつの理由が、『悪い方として比較されること』だ。
去年、長いこと院生に甘んじていた伊角が、プロ試験全勝と新初段シリーズ白星という
二枚看板を背負って、華々しくプロの世界に飛び込んできた。
あっという間に勝ち星を重ね、今や真柴の同期である塔矢アキラと並ぶ勢いの伊角に、
週刊碁はもとより、一般の週刊誌も伊角と塔矢二人揃えて『将来有望の新星女流棋士』という
見出しで記事にしたほどだ。実際、碁界の外にもファンができ、ちょっとしたアイドル状態になっている。
そんな二人に比べ、同じように一般棋士採用試験でトップ通過をし、
同期三人の中では一番の連勝記録を作った越智は、年のせいもあってかあまり表に出ない。
…というのはあくまで体の良い建前、ということを、真柴はよく知っている。
8
”プロ試験の成績も、連勝記録も、何より一番、その外見が、二人より劣っているから、あの子は”
ある時の手合いの待ち時間で聞こえたそんな声に、思わず殴りかかってやろうかと思ったのを覚えている。
プロ試験の成績は、それこそ本人のせいではないし、連勝記録だってたまたま早く倉田に当たっただけだ。
あの塔矢も倉田に連勝記録を止められたのと同じように、倉田は越智の連勝を止めたに過ぎない。
その時期が僅かに早かったから。プロ試験のときも、本当に接戦で全勝などという状況ではなかったから。
外見に関しては、伊角と塔矢の二人が、取り立てて見目良すぎるだけだと思っている。
二人とも本当に、モデルか何かでもやっていけそうな美人なのだ。それと比べるのは、何か違う。
勝手に好きなことを並べ立てる僅かに年上の棋士に本当に拳を振り上げかかった時、
それをかろうじて押し留めたのは、噂が立てられたその廊下を、本人が涼しい顔で通っていったからだった。
絶対にあれは、聞いてた。寧ろ、聞こえてただろう。
なのに、何も言わず、視線すらやらず、静かに、冷たく、通り過ぎた。
毒舌なことで知れたその口をきゅっと噛み締め、何もなかったかのように。
不意に、守ってやりたくなった。
越智だって、本当は年相応の、中学生の女の子のはずだ。
口調も思考も行動も大人びているが、本当は、周りの大人の半分程度しか生きていないのだ。
別に愛欲を抱いているわけではないし、それは力いっぱい否定する。
では何だと聞かれれば、例えば、先輩が気に入っている後輩の女の子を庇護してあげるように、
守ってあげたいんだよ、としか答えられない。恋心かと聞かれれば、否定できない。
そんな非常に微妙な感情のせいで、今日だって到着から越智の姿を目で探して仕方なかった。
はっきり言えば、さほど面識もないのに。傍迷惑な奴だろうな、とは我が事ながら思っていたのだが。
9
「…よぉ」
世話になったらしい高段者たちとの挨拶が終わって一人になった越智に、真柴は声をかけた。
体の前で行儀よく組まれていた手が解かれ、身体ごとこちらを向き、睨むように見上げてくる。
さっきまでとは偉い違いだな、と皮肉じみた笑いを浮かべながら言ってみせると、
お生憎さま、とつんとした返事が返ってきた。
口が悪い、と言われる人間の八割は、本心からそうなのではなく、己が身を守るために
そうしていて、それが結果として毒舌や、一言多かったり歯に衣着せぬ性格なだけである、と
真柴は師匠によく言われており、自分も、その八割に入ると思っている。
自分の物言いはどちらかと言えば負け惜しみや皮肉と言った薄っぺらいもので、
本当に口の悪い人間は愚か、普通に気の強い相手にすら言い負けるような代物だ。
目の前の少女の毒舌は、自分よりは遥かに芯があって強い。
だが、真柴にはどうも少女が自分と同じ八割の人間という気がしてならなかった。
本当は社交性に長けている性格だろうということは、先ほどの高段者たちとの挨拶で伺える。
礼儀正しく、きっちりとした挨拶も受け答えも、会話を切るタイミングすら心得ている。
同類愛だ。真柴は自分の中の非常に微妙な感情を、そう言うことにした。
「一人か?和谷のヤツやあの…進藤はどうしたんだよ」
「別に同期で居る理由もないと思うけど…和谷は自分の師匠のところ。進藤は塔矢にべったりだよ」
「…あいつ、やっぱ塔矢に惚れてんのか?」
「うん、もう露骨に解るレベルで…塔矢も嫌がってないからタチ悪いんだけどさ」
「はン…天才の考えることなんざ、俺には判んねぇなぁ」
「ふぅん…自分が凡庸ってことは判ってるんだ」
「ってこら、誰が凡庸だこのガキ!」
10
噛み付くように言い返した真柴の目の前で、越智はその細い目をまた僅かに細め、
まるで悪戯が成功した子供のように、くす、と小生意気な笑みを浮かべた。
自分の言葉尻に乗ってきたのが、嬉しかったのだろうか。
確かに、わざわざ喧嘩を売られていて噛み付くなど、自分か越智の同期の二人くらいのものだろう。
真柴は、完全にばらばらな自分の同期や微妙にまだ仲間意識の薄い伊角の同期を思い浮かべた。
それに比べて、ここの同期な何だかんだ言っても、非常に仲がよく、碁でも盤外でも喧嘩仲間のようだ。
…つまり、俺の精神年齢は和谷や進藤と一緒かよ、という結論に行き着き、真柴は溜息をついたのだが。
だが、年齢的に考えれば、もう越智のこういう挑発じみた言動に、
和谷も進藤も乗ってこなくなったのでは、と真柴はふと思った。
さほど面識がないはずの自分に仕掛けてきたのは、本当は寂しいから?そんな考えが一瞬浮かび、
頭の中ですぐにバツをつける。考えすぎだろ俺、と自分を諌めた。この同類愛、相当重症らしい。
「何?進藤か和谷に用事でもあったの?」
「何で俺がわざわざ喧嘩するような相手に会いに来るんだよ」
「ないの?あれば言っておくけど?真柴が用事あったみたいだよ、って」
「…人の話し聞かない上に呼び捨てかっての…俺一応お前の先輩だぞ?」
「あぁ…和谷があなたのこと呼び捨てにしてるから、うつったみたい」
「うつるなよ!せめて最低限の敬意は払わねぇ?」
「…やだ。何か違和感ある、”真柴さん”って」
「じゃあ下の名前でもこの際いいから、せめて”さん”はつけろ、”さん”は!」
11
聞いていた以上に、越智にとって舌戦はお得意らしかった。
だが『碁が打ててへこたれなくて陰口言わなけりゃ性格や口が悪いのは問わない』師匠の元、
自分や目の前の少女以上に一言多く毒舌な門下で育った真柴にとっては、日常茶飯事に近いやりとり。
相手の態度や言葉にへこたれずに手拍子でぽんぽんと受け答えを繰り返していたが、
自分が口走った言葉に、はたと気付くと流石に口を押さえた。
…この辺り、同門の先輩や師匠に言わせれば「まだまだ青い」所以なのだが。
は?とぽかんと口を空けていた越智だったが、口を押さえた真柴を見て、
口が滑った、と見抜いたのか、何食わぬしれっとした顔で、答えてみせた。
「…充さん…って呼べばいいの?」
何言わせてんだ俺はーっ!!と思いつつ、嬉しさで顔が赤くなる。
そうじゃない、そうじゃないだろう、と自己嫌悪に肩を落とし、顔色を悟られぬように顔を伏せる。
だが、不覚にも嬉しかったのだ。誰も知らないだろうと思っていた自分の下の名を
目の前の少女が知っていたことが。こんな、誰の歯牙にもかけられぬ、つまらない男の名を。
この際名前を知ってるのは社交辞令だろうが何だろうがありだ、と思っている現金な自分を隠すために、
顔に当てていた手を額にずらすと、出来るだけいつもの皮肉な笑みを浮かべて顔を上げ、
わざわざ相手が一番触れられたくないだろう話題に触れることにした。
「あぁ、十分だっつの…それにしても、塔矢や伊角さんに比べたら、何ていうか、華がないよなぁ、お前」
目の前の相手の眉が顰められる。むすっとしたその顔に、ようやく真柴は自分のペースを取り戻した。
それにしても、こんな話題で気を逸らそうなど、本当にどうしようもない小物だ。
自分の小物っぷりは今更なので、既に気にすることでもないというのが、些か悲しい事実なのだが。
12
「まぁ、棋力に関しちゃ何ら劣りゃしないところは凄いと思うけど、なぁ」
凄いと思う、それは本当に偽りのない本心である。
その先は、流石に好意を抱いてる相手に言える言葉ではなく、濁して誤魔化したつもりだった。
だが、それを含みと取られてしまったのか、越智はきつく睨みつけると、
少女、というよりは子供の高い声のトーンを僅かに落とすと、強く、されど静かに、言った。
「別に…僕は顔じゃなくてプライドで碁を打ってるし、華になるつもりもないから」
美しい女が言えば、虚言にしか聞こえぬ。実力のないものが言えば、負け惜しみに聞こえる。
だが、この少女が口にすることによって、その言葉からは恐ろしいほどの真剣さが滲み出ていた。
実は自分の外見にコンプレックスを抱いたことがないのだろうか、という疑問すら浮かんだが、
そうではない、ということは、少女自身の次の言葉が図らずとも証明してくれた。
「…大方、『もう少し愛想良く笑えば可愛いだろうに』とか言いたいんでしょ、あなたも」
はぁ、と溜息を吐き、ふいと横を見ながら吐き捨てるような言い方をした少女の様子から、
それが言われ飽きた言葉なのだろう、ということが解る。が、それは別として、
真柴は間髪入れず、思わず、そのとき思ったことを口にしていた。
「は?ってか、別に愛想良く笑わなくてもお前のこと可愛いと思うし、俺…」
13
今度は、お互いに赤面しあい、視線が合ったまま硬直してしまった。
だーっ何言ってんだ俺の馬鹿!と頭をかきたくなったものの、それすら出来ずに硬直したままだ。
言葉が出てこない、というのはこういう状況を言うのだろうか。
何か言おうと口を動かすものの、ただぱくぱくと本当に”動かすだけ”に終わってしまう。
この嫌ーな沈黙を先に破ったのは越智だった。
「…な……ッ、何、その冗談、面白くないよ…」
一度出てくればあとは楽なもので、立て板に水と言わんばかりに、お互いにつらつら言葉が出てくる。
「違ぇ、冗談言う気もねぇし、そもそも冗談じゃねぇっていうか何言ってんだ俺は!」
「じょ、冗談じゃないなら、からかってるの?」
「からかうならもっと相手選ぶっつの、だからそうじゃねぇって」
「冗談でもからかいでもないなら何なんだよっ」
「いやだから愛想良くして似合うヤツと似合わないヤツがいてって別にお前が後者ってわけじゃなくて」
「悪かったね愛想悪くて。しても似合わないって自分でも解ってるから!」
「違うっ!だからそういうことしなくてもそのままでもお前可愛いと思うんだよ、俺は!」
「な、何言ってるのささっきから全くさぁっ」
「あぁもう俺も自分でわけわかんねぇよ文句あるかバーカッ!」
14
「何してるんです」
売り言葉に買い言葉で徐々にヒートアップする二人の間に、足早に本田が入ってきた。
そのまま越智を庇うように真柴の方を向くと、背中越しの少女に大丈夫か?と声をかけた。
先ほどの言葉は、敬語を使っているところを見ると、自分を咎めるための言葉か、と気付き、
真柴は肩を軽く落とし、息を吐いて、憎らしい表情をしてみせた。
「べっつに、何してもいねぇけど。ちょっと言い合いしてただけで、なぁ」
そう憎まれ口を叩く表情に、先ほどまでの焦りは薄れ、顔の赤みも治まっていた。
内心、やっべぇ助かった、などと本田の登場に感謝していたことは、言うまでもない。
「…越智、本当か?何か言われたりしてないか?」
「ん…うん、平気。何もないから、本田さん」
「そうか?…じゃ、ちょっと向こうに行っててくれ。すぐ行くから」
一方こちらはまだ顔の赤さが取れないのだろう。
越智は僅かに頭を下げ、顔を伏せたまま頷き、返事を返した。
その様子を見下ろし、本田は越智の頭をぽん、と撫で、向こうに行くように促す。
子ども扱いを嫌う越智にとって、家族以外でこの行為を許すのは、
院生の頃から自分を気遣い、親しくしてくれた兄のような目の前の相手だけだ。
こくん、と頷くと、適当なテーブルに向かって歩を進める。
その小さな背が大人たちに混じって見えなくなると、本田は真柴を睨み付けた。
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「何言ったんだ、越智に」
今度の言葉は、敬語も何もあったものではなかった。
というより、先ほどの敬語自体が、”棋士としての先輩への”辛うじて最低限の敬意だったようだ。
同じ年の上、院生として何年かは名を連ねていたこともあり、敬意も遠慮も本当は存在しない。
互いの性格をある程度把握してるから、尚のことである。
「だから別にっつってるだろ。何だ、彼氏面かよ本田」
「付き合ってないし、そういうのじゃない。ただ、あの子を苛めるようなことは、許さないだけだ」
「そういうのを普通彼氏気取りっつーんだけどなぁ…違ぇな、兄貴気取りか」
「…とにかく、あの子に変な真似するなよ」
斜に構えた態度で言葉を続ける真柴に、これ以上言うだけ無駄だと思ったのだろう。
きつい口調で釘を差すだけ差して、本田もそこから立ち去ろうとした、が。
「…越智って誰の門下にも入ってねぇんだっけ?」
突然投げつけられた疑問符に、思わず振り返る。
顎に指を当てて考え込む真柴は、ニヤリと笑うと、続けて言った。
「いやぁ…うちの師匠がこないだ、女流の子が欲しいって言ってて、スカウト仰せつかってるんだよなぁ」
「…確かにあの子はどの門下にも入ってないけど、だからと言って入るとは思えない」
「魅力的だと思うんだよなぁ、うち。碁が打ててへこたれなけりゃ、口がきついのは問わねぇし」
「無駄だよ。俺が一度うちの師匠の研究会に誘ったけど、来なかった」
「…そりゃ魅力がなかったんじゃねぇの?」
「……もう一度言っとく。あの子に変な真似するなよ」
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その一言にはむかっと来た。が、ここで乗ってもしょうがない。
本田は、会話を切るように忌々しげに言葉を言い放つと、今度こそ足早に立ち去ってしまった。
「…魅力がないってより、越智が自分のこと分かってるっつーか、な」
二人が去っていった後、真柴はひとりごちた。
あの性格じゃあ、普通の研究会に入っていっても、自分の我の強さが和を乱すことになるだろう。
それが分かっているから、今まで誰の門下にも入らずに来たのではないか。
師匠に報告してみよう。気も我も碁も強くて口も達者な女流の子。
これだけ揃っていれば、まず文句は言われないだろう。そんなことを考えながら、真柴も其処を後にした。
「…何やってるんですか、伊角さん」
「あっ、いや、越智のほっぺがね、凄い柔らかいの…」
真柴のところから踵を返して越智のところに向かった本田は、
伊角の両手で顔を包むように頬に触れられて困っている越智と、後ろで笑いを堪えている門脇と
やわらかいー、と言いながら頬に触れるのをやめようとしない伊角を見て、思わず立ち尽くした。
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「…いや、その前に何でそんなことに…」
「だって、越智がこっちに来たら林檎みたいにほっぺが赤くて、熱あるのかなって心配になって…」
「でもね伊角さん、そういう時って額を触ってくれない?」
越智のふてくされたような言葉に合点がいき、あぁ、と小さく声を上げた。
熱がないのか心配になり、思わずその頬に触れてしまい、そのままその柔らかさに
手を離すことができないまま、こういうことになってしまったのだな、と。
…何年も一緒に院生やってる間に、相手の性格や奇行もある程度把握できるようになるものだ。
「は、は…伊角、お前最高…っと、あぁそうだ本田、探したぜ?」
「門脇さんも止めてやって下さい…あ、何ですか?」
「いやぁこの後さ、呑み行こうかって話しになって、どうせなら同期で、親睦深めようかなっと」
「この後、は…俺、師匠に誘われてるんで、ちょっと…」
「いや、じゃあそれ終わってからでいいから、行こうぜ?俺らもすぐ行けるわけじゃねぇし」
「…まぁ、それでいいなら」
「じゃ、夕方に集合ってことで…おい伊角、いい加減離してやれよ」
門脇の言葉に伊角が渋々手を放すと、越智は自分の頬に触れ、そんなに柔らかいかな?と
首を傾げてみせた。やわらかいよー、と伊角が返事をする声に重なり、隅の方から
「ふざけるな!!」という女の子の声が、講堂中に響き渡った。
それが、進藤が塔矢アキラを怒らせた声だったというのは、また別の話。
=END=
長くなりましたが、お付き合いありがとうございました(´・ω・`)
970を通り過ぎたので、日付が変わるまでに新スレを立てて
また案内しにここに来ますー。
キタワァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆
華やかな伊角子さん達に比べたらちょっと地味でも、
りんごのほっぺな越智子たんがすごく可愛いです!
美人なのにふざけるな!なアキラ子たんも(・∀・)イイ!
日付け変わる頃にまたのぞきにくるので
もし新スレ立てられなかったら言ってください。おつでした!
三人娘がみんなかゎぃぃ…
越智子タンとのやりとりで真柴の株がグンと上がりますたw
職人さんグッジョブ!!
スレタイ張り忘れました(´・ω・`)
『●〇「ヒカ碁」女体化妄想(総合)スレ・第2局〇●』
では再び名無しに戻りますー。
>>977 気遣いありがとうございます。無事立てられましたので案内しますた。
>>978 真柴充、新見解が密かなテーマでしたので、株が上がってウマーですw