ここは一条ゆかり先生の「有閑倶楽部」が好きな人のためのスレッドです。
お約束
■sage推奨 〜メール欄に半角文字で「sage」と入力〜
■妄想意欲に水を差すような発言は控えましょう
*作品への感想は大歓迎です。作家さんたちの原動力になり、
スレも華やぎます。
前スレ、関連サイト、お約束詳細などは>2-10のあたりにありますので、
ご覧ください。特に初心者さんは熟読のこと!
◆作品UPについてのお約束詳細(よく読んだ上で参加のこと!)
<原作者及び出版元とは全く関係ありません>
・初めから判ってる場合は、初回UPの時に長編/短編の区分を書いてください。
・名前欄には「タイトル」「通しナンバー」「カップリング(ネタばれになる
場合を除く)」をお願いします。
・性的内容を含むものは「18禁」又は「R」と明記してください。
・連載ものの場合は、二回目以降、最初のレスに「>○○(全て半角文字)」
という形で前作へのリンクを貼ってください。
・リレー小説で次の人に連載をバトンタッチしたい場合は、その旨明記を。
・作品UPする時は、直前に更新ボタンを押して、他の作品がUP中でないか
確かめましょう。重なってしまった場合は、先の書き込みを優先で。
・作品の大量UPは大歓迎です!
◆その他のお約束詳細
・無用な議論を避けるため、萌えないカップリング話であっても、
それを批判するなどの妄想意欲に水を差す発言は控えましょう。
・作家さんが他の作品の感想を書く時は、名無しの人たちも参加
しやすいように、なるべく名無しで(作家であることが分からない
ような書き方で)お願いします。
・あとは常識的マナーの範囲で、萌え話・小ネタ発表・雑談など
自由にお使いください。
・950を踏んだ人は新スレを立ててください(450KBを越えそうな場合は
950より前に)。
他スレに迷惑にならないよう、新スレの1は10行以内でお願いします。
テンプレは以上です。
このスレでもマターリ楽しめますように。
乙でした。スレたてありがd!
さて、マタ〜リ待ちましょ。
>1
スレ立て乙です!
今日は嵐さんの妄想同好会が2周年ですね。
嵐さんのところがあるから、過去の名作も旧ログも読めるわけで……
感謝感謝です〜
秋が深くなった証拠に、窓の外から虫の声が間断なく聞こえてくる。
菊正宗邸にもその隣家にもたっぷり広い庭があるので、秋の虫たちも
気持ちよく声を出せるのだろう。あれは愛を語っているんだったな。
夜が長いから、お互いをどれだけ愛しているか、充分囁き合えるだろう。
……なんで、こんな感傷めいたことを。
自分らしくないセンチメンタリズムに、清四郎は驚いた。
あれから、野梨子の朝帰りを目撃してから、半月ほど経つが、
野梨子と魅録は表面上は何も変わりない。
必要以上に一緒にいるわけでも、また不自然に避け合ったりもしていない。
ただ、清四郎に対してだけ、何か少し、ほんの少し態度が不自然な気がする。
付き合ってるならそれでいいじゃないか、なんで隠すんだ。
自分が野梨子のことをどうこう、ということよりも、
関係を清四郎に隠さなきゃいけないと二人に思われている、ということが
清四郎の気分を激しく害していた(と、清四郎は思っていた)。
が、そんな心の揺れを他人に悟られるのが何より嫌な清四郎は、
この半月、なんにも知りませんよ、なんにも気付いてませんよ、
という表情を顔の表面に貼り付けて生活していた。
しかし、野梨子の顔を見ると、声を聞くと、「のりこ」という言葉が
耳に入ると、あの朝に感じたようなどうにも居心地の悪い気分になるのだった。
どうして、こんなに苛々するんだろう。
「郎。清四郎!」
可憐の声が聞こえたな、と感じると同時に、可憐の柔らかい手が
清四郎の頬にぱしっと当たった。
「痛…」
「うっわ、ごめん清四郎、よけると思って」
可憐は慌てて、今度は撫でようと清四郎の顔に再び手を伸ばした。
清四郎は今度はその手をよけて、手のひらを可憐に向けながら言った。
「本当に痛かったわけじゃないですから。何ですか可憐」
「いや、だから問10まで出来た、って」
「ああ」
気が入ってない返事である。
「……ねえ、どうしたの? なんかヘンよ、清四郎」
「別になんでもありませんよ」
人は、本当になんでもない時は、こんな声色で『なんでもない』を言わない。
可憐はさぼりたいの半分で、親切な声を出してみた。
「悩みでもあんの? 心配事とかさ」
清四郎は可憐を見る。怠け心半分・好奇心半分といった顔だ。
可憐は知っているのだろうか。清四郎を悩ませている事項について。
色恋に関しては勘の鋭い彼女のことだ。
直接聞いていなくても感じ取っているかもしれない。
笑い飛ばされるなら、それもいい。むしろその方が楽だろう。
清四郎はもう一度可憐を見て、おもむろに言った。
「知ってますか、野梨子のこと」
いきなり出てきた野梨子の名前に可憐は飛び上がりそうになった。
いけない、落ち着いて可憐。平常心平常心。
清四郎はまだぜっったい気付いてないんだから。大丈夫。
可憐は自分に言い聞かせつつ、不思議そうな顔で応じた。
勿論、得意の小首傾げもプラスして。
「野梨子? なんのこと?」
しかし清四郎は可憐の表情の変化を見逃さなかった。
可憐は何か知っている。どうしてとぼけるんだ、なんのつもりだこいつらみんな。
「とぼけないでください。野梨子と、魅録のことです」
「魅録?」
「その、二人の関係性の話です」
清四郎はもう可憐を見てはおらず、語尾も何となく濁している。
と、ここで色恋に関しては勘の鋭い可憐の本領が発揮された。
なるほど。
ここのところのあたしたちの何か隠してる雰囲気、多分、特に嘘の得意じゃない
魅録の態度が、なんか、どうなったのか知らないけど清四郎に
『野梨子と魅録が付き合ってる』っていう勘違いをさせたわけね。
……おもしろいじゃないの!
やっと清四郎、野梨子に惚れてるって自覚するのかしら。
うーん、誤解解いてやってもいいけど、せっかくの清四郎の弱みだもんね。
それにこんな風に我を忘れててくれた方が、こっちはやりやすいってモンよ。
可憐はちょっと困ったような顔をして、言ってやった。
「あー…、ね、でもほらなんか、隠してるみたいだし、さ…」
「…やっぱりそうですか…」
可憐の予想以上に弱い声での返答だ。…おもしろいじゃないの。
ちょっと可哀相だけど、ふふ、別の楽しみも出来ちゃったわ。
タクシーがあと2回ウインカーを出せば剣菱に到着する頃、野梨子が
抱きしめていないとシートから落ちてしまいそうなほどがたがた震えながら、
悠理はやっと口を開いた。
「……でた」
悠理の顔色は今や白とか青を通り越して透明になっていた。
天寿のビルで拾ったときから(まさに『拾った』という感じだった)、
そうじゃないかと思っていたのだが、やっぱりだ。
いかにも出そうなビルだとは思っていたけれど、また何を見たのかしら。
でた、と一言だけ言ったあと、悠理はすっかり黙り込み、
野梨子の声も聞こえていないのではないかと思うほど放心していた。
これでは話を聞くこともできない。
とりあえず、家に帰って落ち着かせなければ。
野梨子は魅録と美童に『剣菱に集合』と連絡し、冷たい悠理の指を握った。
本日は以上です。お邪魔いたしました。
>貞操
おお、お久しぶり!
意地悪可憐がナンカいい感じです! しょぼくれ清四郎もカワエエ〜
悠理が霊感を発揮したみたいだし又物語が回っていきそうですね。
続き楽しみだ。
スレ立て乙〜
>貞操
おー!待ってました!
意地悪な可憐、イイ!
可憐に意地悪される清四郎が新鮮で面白いです
この有閑らしいノリ、テンポの良さが大好きです。
本当、物語がまた新たな展開を見せそうなので、続きが楽しみです。
>1
乙です!
>貞操
待ってました〜〜!読むとわくわく、元気になれます。
この元気をもらって明日の受験もがんばるぞ!
>17
清四郎「受験ですか。がんばってくださいね」
野梨子「無事合格されますよう皆でお祈りしておりますわ」
魅録「終わったら盛大に騒ごうぜ」
美童「そうだね、僕らと一緒にパアッと遊ぼうよ」
可憐「それがいいわ。ねぇ、この間できた店に行きましょうよ」
悠理「九江にカツ丼作らせるし喰ってきなよー」
>18
さりげに成績順なのが凝ってますね♪
17さんも受験頑張って下さい。
「貞操を狙え!」続き楽しみにしてます。
清×野になるのかしら?うふ。
可憐さんもいい感じです〜
スレ立て乙かれ様です。
「檻」いきます。
>>
http://etc.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1070463572/644の続きです。
「悠理は魅録の事、好きなんでしょうね」
あの日清四郎は、確かにそう言ったと思う。
あれは確か――そう、夏休みの終わりの辺りで
魅録の部屋で清四郎と二人、何をするとも無く過ごしていた時の事だ。
清四郎は人の家に来てまで新聞を読んでいた。
魅録はモデルガンの手入れをしながら、あぁ? と、間抜けな返事をした記憶がある。
「んなこたねーだろ、あいつとはよく遊んだりするから、そー見えんじゃねーの?」
清四郎は、そうか、やっぱり気が付いて無かったんですね、とニ、三度軽く頷いた。
「違うって」
清四郎があんまり自信たっぷりに言い張るので、魅録も少し意地になった。
「じゃあ、もしそうだったらどうします?」
珍しく清四郎は、しつこく食い下がった。
魅録は、あ〜そーだなぁ・・・・・・と、顎に手を当てながら色々と考えた。
「友達――かなぁ、悠理とは。悪りぃけどあいつは女には見えねーな」
そうでしょうね、僕もそうですよ――清四郎はそう言うだろうと魅録は思っていた。
だが、予想に反して意外な答えが返ってきた。
「悠理とチチは、似ていませんからね」
――その時の奇妙な感覚を、魅録は今でも忘れられない。
何故、チチがここで出てくるのだろう?
魅録が悠理を恋愛対象として捉えないのは、悠理とチチが似てないからではない。
似ていようが似ていまいが、悠理は悠理、チチはチチだ。
魅録は暫し黙り込んだ――。
どう返事をしていいものかわからなかった。
清四郎はそんな魅録の戸惑いをよそに、少し虚ろな目で、その気持ちは判ります、と言い
更に魅録を困惑させるような事を言った。
「魅録は野梨子と恋愛観が似ていますからね、悠理を好きにはなれませんよ」
――魅録は未だに清四郎が言ったセリフの意味がわからない。
ただその時感じた強烈な違和感とずれを、後々まで引きずっていたのをよく覚えている。
「おっす」
魅録は片手を革ジャンに入れたまま、悠理に軽く挨拶をした――。
魅録を案内してくれた剣菱家のメイドが
それでは失礼致します、御用がございましたら御申しつけ下さいませ、と
丁寧に御辞儀をし、部屋を後にした。
魅録は、あ、ども、と小学生のようなよくわからない受け答えをし、メイドが
出て行った後、ふぃ〜っと息を吐いた。
何回来てもメイドというのはどうも慣れない。
自分の家にもお手伝いさんはいるが、いつも割烹着を着ていて親しみやすいおばあちゃん
という感じの人で、ここにいるメイドとは大分、様相が違う。
「お〜、来たか」
クッキーを口に咥えたままの悠理はTVゲームをしていたらしく、座ったまま顔だけをこちらに向けた。
傍らにはタマとフクが腹を丸出しにして寝ており、何故かアケミとサユリもいた。
「あれ? 珍しいな、アケミとサユリがここにいるの。今日はおじさんと一緒じゃないんだな」
「父ちゃんと母ちゃん、おとついからドイツに行ってんだ」
珍客に興奮しているのか、アケミとサユリは魅録の周りを甲高い雄叫びを上げながら走り回っている。
「ドイツって・・・・・・仕事か?」
「ん〜、遊びに行くとか言ってたけどな・・・・・・よくわかんないや」
悠理はあまり関心が無さそうに、クッキーをわしづかみにして口に放り込んだ。
「それより、アレ、出来たか?」
魅録は、おー、忘れるとこだった、と言いながら手に持っていたバックから銃を取り出した。
悠理は銃を手に取り、いー感じじゃん、と言いクルクル回しながら眺めた。
「使い方は普通のエアガンと一緒だ、弾の代わりに、かにかまを詰めて撃てばいい」
悠理は、じゃあ名前は『かにかま銃』だな、とセンスの無いネーミングを提案をした。
『かにかま銃』――魅録は昨日、必死にこれを作っていた。
タマとフクが部屋でゴロゴロしてばかりいるから、何か運動不足を解消する物を作ってくれ――。
悠理にそう言われたので、手持ちのエアガンを改造してこれを作った。
下らない。
実に下らない――そう思う。
頼む悠理もバカだなと思うが、引き受けて作る自分は輪をかけてバカだと思う。
だがどんなに下らなくても、バカらしくても、何かを作ったり改造したりという事になると
首を突っ込まずにはいられない――それが自分、松竹梅魅録だと思う。
「よし、じゃ行くぞ」
魅録は.持参してきたかにかまを銃に詰め、パン――と勢い良く撃つ。
タマとフクは我先に――と猛ダッシュをかましながら走って行った。
日頃のだらけた態度からは、考えられないほどの俊敏さだ。
「あたいにもやらせろ」
悠理は魅録から銃を奪い取り、ヤンキ−座りでかにかまを詰め始めた。
「明日、あたいの家でいいか?」
明日――清四郎の結婚式前日で、野梨子が自宅にいては精神的に落ち着かないだろうという
可憐の提案で、皆で一ヶ所に集まりそこで夜を過ごし、次の日そのまま結婚式へ行こうという事になった。
「ああ、ここでいーよ、ここが一番集まりやすそうだしな」
魅録がそう言うと悠理は、これで野梨子淋しくないな、と少し得意げに言った。
魅録は心の中でで苦笑する――。。
清四郎がいなくて、淋しいのはお前だろ――そう言いかけて止めた。それは自分も同じだ。
「なぁ、魅録」
魅録が、何だよ、と聞き返すと、悠理にしては珍しく神妙な面持ちでこちらを見た。
「もし――さぁ、あたいと可憐が崖で落ちそうになってたら、おまえ、どっちを先に助ける?」
「可憐」
魅録は即答した。
当たり前だ。悠理と可憐――。どう考えても悠理の方が体力がある。
同じ様な状況でピンチに陥っているのなら、体力が無さそうな方を先に助けるのはごく当たり前の事だ。
だが、悠理は顔を真っ赤にして立ち上がり、烈火のごとく怒りながら魅録をビシッと指差した。
「おまえーーーーっっ!! 今、即答しただろっ!! 0.1秒も間が無かったぞっ!!」
そんな訳は無い――。1秒くらいは間があったように思う。
だけど、そんな幼稚園レベルの指摘をするのはさすがに馬鹿らしい感じがしたので
魅録は素っ気無く、当然だろ――とだけ言った。
「じゃあ――あたいと小夜子」
悠理は懲りずに次の質問を投げかけてきた。
これは――少し考える。
魅録は目の当たりにした事は無いが、小夜子は運動神経がかなり良いと聞いている。
「状況によるな、その時危ない方を助ける」
悠理は、そうか――と言い、魅録の目の前にストンと胡座をかいて座った。
「じゃあ、おまえが一番好きなのは可憐なんだな」
――呆れて物も言えない。
どこをどう考えれば、そういう結論に辿り着くんだろう。
「あのなぁ――」
言いかけて止めた。言ってもわかるまい。
目には目を――その戦法でわからせる事にした。
「それじゃ聞くけどな、お前が言ったのと全く同じ状況で
美童と清四郎が崖っぷちで、助けを求めてる――。お前はどっちを先に助ける?」
逆に聞き返されるとは予想してなかったらしく、悠理は少々面食らっていたが
しばらくすると頭を抱え、考え始めた。
多分今、悠理は頭の中で必死にシミュレートしている――。
崖っぷちで、怖いだの死にたくないだのとぎゃあぎゃあと喚き、今にも落ちそうな美童と
危ないながらも、自力で何とかなりそうな清四郎――。
「あ〜、美童・・・・・・かなぁ・・・・・・」
首をひねりながら、搾り出すような声で答える。
「ふ〜ん、じゃあお前、清四郎より美童が好きなんだな」
魅録が意地悪そうにニヤニヤしながら詰め寄ると
悠理は人を見下したような顔で、バカだなぁ魅録――そんなわけないじゃん、と答えた。
女じゃなかったら――友達じゃなかったら――きっと魅録は悠理を
遥か彼方、成層圏まで蹴り飛ばしていただろう。
「まぁいいよ――とにかくそーいうのは、好きとか嫌いとかいう感情で
判断するわけじゃねーんだよ」
魅録がそう言うと、なぁんだ、心配して損したな、などと言いながら
何事も無かったかのように、かにかま銃で遊び始めた――。
「魅録」
悠理が、再び名前を呼んだ。
魅録は悠理のやりかけのTVゲームの続きをやりながら、画面を注視したまま
今度は何だよ――と答えた。
「お前は――どこにも行かないよな」
魅録が手を止め振り向くと、悠理はタマの頭を撫でながら少し淋しそうにうつむいていた。
「清四郎みたいに、突然いなくなったりしないよな」
魅録はそっと、口許で微笑む――。
「どこにも行かねーよ」
「ホントに?」
「本当に」
「じゃあ――」
なら、約束してくれよ――悠理はタマを抱きかかえたまま、悲しそうな目でそう言った。
不安なんだな――そう思う。
それは魅録にもよくわかる。
清四郎がいない――ただそれだけの事が、魅録を酷く不安にさせている。
「ああ――いいよ、約束するよ」
そう言うと、魅録は再び画面に向かってTVゲームをやり始めた。
ホントにホントだな、と悠理は疑り深く何度も聞いてくる。
「心配なら、何か証拠残してやるよ――。
指切りでもしようか? 何なら一筆書いてやるよ」
魅録が笑いながらそう言うと悠理は、いや、口約束でいいよ――と言った。
フッと目の前が陰り、画面が見えなくなった――。
目の前に、綺麗な悠理の顔がある。
唇が――触れた。
「約束――な」
キスを知らない悠理の、小さな小さな――触れるだけの、キス。
御嬢様、御夕食の御時間です、と部屋の専用電話がスピーカーに切り替わり、メイドの声が聞こえた。
おー今行く、と悠理は返事をし、じゃああたい行くから――と立ち上がった。
悠理は大きなドアをゆっくり開き、閉める直前に魅録の方を振り返り
唇に指を当て、勝ち誇ったように――笑った。
「もらったよ――『口約束』」
鼻歌を歌いながら、部屋を出て行く悠理を見ながら
魅録は、『口約束』を美童にもするんだろうか――。
それが気に懸かって仕方なかった――。
9月19日 木曜日 先負
結婚式まで――あと2日
本日はここまでです。
ありがとうございました。
>檻
魅録と悠理のやり取り、爆笑しました。
清四郎は何を考えているのか皆目わかりませんがw
続き楽しみにしてます。
>檻
口約束、イイ!
ちょっと積極的な悠理がかわいらしくていいです。
魅録と悠理の今後の展開もちょっと楽しみです。
それにしても清四郎は本当に何を考えてるか分からないですね(w
その辺は最後に明らかになってくるのかな。
>『口約束』を美童にもするんだろうか――。
魅録、アンタなに心配してんの?w
んなわきゃないでしょうが!
あ、でも悠理だもんな〜・・・。
深い考えなしに美童にも「口約束」してたら笑える。
天然の魔性の女?w
「こないだはちょっと酔っちまって・・・悪かったよ」
電話の声が元気なくて、魅録のそんな声を聞きたくなくて、あたいたちは仲直りした。
魅録は男なんだ、って、今更みたいに気付いて、ちょっと怖くなったんだ。
だけど、嫌いになんかなれるわけないし、一緒にいて楽しいし、だからこれでいいんだ、って思う。
キスをされる度に、なんだか落ち着かない気持ちになる。
そう言うと、可憐は笑った。
「あたり前じゃない。だって恋しい人に触れられたら、ドキドキして、苦しくて・・・」
うっとりと遠い目をして、一人で語り始めた。
なんだかピンとこなかったけど、適当に頷いておいた。
そーゆーんじゃない気がする、なんて言ったら問いつめられそうだけど、どうせうまく説明できっこないし、
そんなの面倒が増えるだけだ。
そうして、平穏な日々が過ぎて行く。卒業まで、もう遠くない。
「以上、会計報告でした〜」
ストンと椅子に座る美童の隣では、有能な書記がサラサラとペンを走らせている。
「では、最後に今年度の部活動についての総括を報告して下さい。まず、文化部部長からお願いします」
生徒会長の淀みない声に、はい、と野梨子は立ち上がり、きれいに清書された報告書を読み上げ始めた。
「今年度の概要としましては、14のうち12の部で部員数の増加が見られるなど、昨年度よりも・・・」
ポケットを探っていた悠理が、落ち着かなげに、キョロキョロし始めた。
「特に、茶道部・・・と華道部におきましては・・・」
野梨子も、さすがにその様子が気になるようだ。そうこうするうちに、悠理がテーブルの下に潜り込んだ。
「きゃっ!?悠理?」
「おい、何やってんだよお前?」
皆、何を始めたのかと訝る中、どうにか話し終え、野梨子が着席する。
「・・・報告は以上です」
テーブルの下で、ゴン、という音が響き、頭をさすりながら悠理は慌てて顔を出した。
「運動部部長、続けて報告できますか?」
清四郎の感情のない声に、悠理は俯いた。
「あの・・・昨日2年生からメモもらったんだけど、どっかいっちゃって・・・」
「つまり、報告書にまとめていないんですね?」
「・・・ごめんなさいぃ」
「メモの内容に目を通してもいないんですか?」
呆れたような生徒会長の言葉に、さらに俯きながら首を振る。
「読んだ・・・けど、覚えられなくって・・・・・・えっと、確か、陸上部の誰だったかがインハイに出て・・・そんで、
剣道部は・・・」
必死で思い出そうとする悠理に、魅録が笑いかける。
「無理するなよ、どうせまともに読んでないんだろ?見つかったら、まとめて出しますって言っとけよ」
「違う!ちゃんと読んだんだもん!思い出せないだけで・・・」
「どっちだっていーじゃねえか」
下らない口げんかが勃発し始めた時、有無を言わせぬ咳払いが響いた。
「あなたの言い分は判りました。ただ、この場での報告は無理なようですから、今日中に文書にして、僕に提出して
下さい。いいですか?」
悠理はこくん、と頷き、なんだか魅録は面白くなさそうな顔をする。
「では、以上ですが・・・副会長、何かありますか?」
「・・・別に、何もありませんよ。生徒会長様」
清四郎がちら、と隣へ視線を送るが、魅録はじっと悠理を見たまま答える。
はす向かいの美童は、細い指でくるくるとペンを回しながら、可憐がノートを閉じるのを見ていた。
生徒会長はおもむろに立ち上がり、よく通る声で締めの言葉を述べた。
「これで今年度最後の生徒会役員会を閉会します。皆さん、長い間お疲れさまでした。解散」
続く
>前スレ662さんの続きです。
放課後いつもの場所に6人は集っていた。清四郎は普段通り新聞を読んでいる。
可憐はみんなのいる場では、清四郎に深いことは尋ねることもできない。
悠理がケーキを口に入れながら言った。
「そういえば野梨子、保健室に行ったらしいじゃん。もう大丈夫なのか」
魅録も驚いて、雑誌から目を離し野梨子を見た。清四郎が静かに口を開く。
「心配する必要はないようですよ。つける薬もない病ですから」
「うわおー、それって恋の病ってこと―?」
美童が間髪入れず応じる。「で、そのラッキーな男って?」
野梨子は真っ赤になりうつむいてしまった。清四郎ったら…いきなり皆の前で言うなんて…。
その時、魅録がゆっくりと立ち上がった。「俺だよ。野梨子と付き合うことになったからよろしく」
一瞬シーンとなった。可憐が静寂を破り明るく言う。
「驚いたわ〜。お似合いの二人じゃないの〜。美男美女、しかも恋愛初級者どうしで」
「そうだったのか。全然知らなかったぞ。魅録ちゃんも教えてくれればいいのによ。
みずくせえよな。でも良かったな」
「しかし野梨子は、本当に不良系好きなんだな。目の前にこの世界の王子がいるというのに。」
そして清四郎が言う。「というわけで、ようやく野梨子のナイト役から降りることができます。
これから野梨子と一緒に登下校するのはやめにします。よろしく魅録」
魅録は訝しげな視線を彼に投げかけたが無言のままでいた。
「あらあ、魅録と野梨子じゃ方向ちがうでしょ。魅録はバイクで
来ることも多いし、野梨子が一人で歩くのは危険だし、今まで通りで
いいんじゃないの」そういう可憐に清四郎は何も答えない。
その時悠理が魅録に言った。「今日は新しいバイクの店に行くって前からの約束だっただろ。
あたい今日バイクで学校来ちゃったよ」
野梨子はハッとした。 ―きっと魅録と悠理も影響を受けるでしょうね。
清四郎の言葉が思い出された。
続きお願いします。野梨子や魅録はどう出るんだろ〜。たのしみ。
>横恋慕
悠理が今日中に清四郎に書類提出、ということは二人っきりなんでしょうか。
ちょっとドキドキしますね。続きお願いします。
>ホロ苦
新局面に入ってきましたね。かなり清四郎が魅×野にからんできて
いい感じw
暴走愛うpします。魅×野です。
>>
http://etc.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1070463572/669 ぎこちなく足を滑らせながら魅録が野梨子をリードしている。
対する野梨子はただ静かに魅録に従ってステップを踏んでいた。
自分の手の中に彼女の手があるというだけでも舞上がっているというのに、
この音楽ときたら。
魅録は教室に鏡が無いのを感謝した。
野梨子が俺に手を取られて踊るなんざ、不釣合いの極みだろう。
笑いやがるんだろうな、あいつら。くそ。
それにしてもこの音楽ときたら、畜生。
どうしてこんなに俺はダンスがど下手なんだ、まったく。
「魅録」
突然野梨子が魅録に従うのを止めた。魅録は息を切らすとその場にへたり込む。
額に汗している彼に野梨子が微笑んで白いタオルを手渡した。
「そんなに躍起になってがんばらなくても構いませんのよ、魅録。
頭でステップを考えてるから体が遅れるんですわ。こんなに練習したんですもの、
もう体は覚えているはずですから、ただ自然に足を動かせばいいじゃありません?」
「自然に……か。そうしてるつもりなんだぜ、これでも」
苦笑して魅録はタオルを顔の上に乗せると床に大の字になった。
野梨子も彼の隣に座ると水筒に入れた茶を飲みながら、魅録の胸が荒く上下しているのを
見ていた。タオルの下から何気なく魅録が声をかける。
「よかったな、清四郎と又、元通りになって」
「……ええ」
野梨子の返事を聞くと、魅録は顔のタオルを持ち上げ彼女の顔を見た。
それから、なんだ、やっぱりそうか、ちっくしょうと呟きゴロンと転がって腹ばいになった。
「……なぜ、ちくしょう、なんですの?」
笑って野梨子が問うと、魅録は唸った。
再び体を転がすと横になり、肘を立てて鮮やかな色の頭をその上に乗せ、野梨子に視線を
合わせた。諦めたような微笑を浮かべている。
「お前らが仲直りしたのが畜生っての。横から掻っ攫っちまえばよかったな、
あ〜〜、畜生」
野梨子は戸惑った。あまりに意表を突かれた言葉だったので、視線をそらすこともせず
きょとんと魅録を見る。彼の方は照れたように視線をそらすと、気づいてなかったか、やっぱりな、と呟いた。
魅録の手が指鉄砲を作った。
「好きだったんだぜ、野梨子のこと、ずっと。知らなかっただろ」
指の先が真直ぐに自分に向かっているのを息を飲んで見つめながら、野梨子はええ、と答えた。
胡坐をかいて座りなおすと魅録は続ける。
「知らないのも無理はないんだ。気づかれないようにしてたからさ。野梨子が清四郎のこと
好きなの知ってたから、正面切ってお前に告白してもきっと振られるだろうなって。
俺ってけっこう姑息な奴だからさ、告ってニッチもサッチもいかなくなるより、
野梨子の周りでうろうろしてさ、チャンスさえあったら取っちゃおうかな、とか考えてたり」
どんな顔をしてよいのかわからずに野梨子は両手の指を組んだ。
魅録は淡々と話し続ける。
「清四郎とうまくいってないんじゃないかって知った時、内心やったって思ったね。
チャンスだ!ってさ。でも野梨子があんまり悲壮な顔してたからさ、結局言えなかったんだけど」
野梨子は魅録を見た。魅録は真直ぐに野梨子を見ている。
真直ぐな視線が野梨子を貫き、胸に痛みが走った。
彼の、魅録の熱く何かをねだる瞳。
その視線を受け止めらることもできず、野梨子は泣きたくなった。
この瞳の色を私は知っている。清四郎を請い願う私の瞳と同じだ。
そして、清四郎の瞳の色。私ではない誰かを想う、彼の瞳の色。
ゆっくりと視線を逸らし、魅録は床を見ながら話していた。
「お前らが元の鞘に戻ったって薄々は感じてたんだけど、なんだか俺の気持ちがおさまんなく
なっちゃってさ。前みたいに遠くから見てたり、とか、苦しくてできないんだ。何でだろうな」
ごつごつした両手で拳骨を作り、額に当てた。静かに息を吐いている。
「野梨子に知ってほしかったんだ。俺がここにいて、お前のこと思ってて、お前の……」
耐え切れず野梨子は窓辺に向かった。すでに外は暗く、グラウンドの灯りが淋しく灯り始めている。
動揺を抑えきれず野梨子は細く息を吐く。顔を上げてギクリとした。
窓ガラスに二人が映っている。
怯えて青い顔をした自分と、静かで且つ激しい炎を瞳に燃やす魅録。
魅録はゆっくりと近づいてくる。
「野梨子の目とか声とか、すごく好きでさ。お前から電話来ると心臓がばくばく言って、
緊張して喋りすぎて後悔したりさ。何やってんだ、俺って」
おどけた口調だが目は真直ぐに野梨子に向かっている。
体が硬直して動けなかった野梨子の側まで来ると、彼女の細い肩をつかみ軽々と自分の方に向かせた。
「怖がるなよ」
なぜか魅録の声は擦れていた。野梨子は横を向いている。
緩慢な拒否のつもりだった。これ以上野梨子にどうしようがあっただろう。
魅録の方は彼女の肩をつかんだまま、ためらっていた。
早くも後悔の念に駆られているようだった。
野梨子はぎゅっと瞳をつぶると、早く魅録が引き返してくれればいい、と思っていた。
その時野梨子の頬に魅録の右手が触れた。
思わず目を開けると、悲しげな魅録の顔がそこにあった。
愛おしそうに、親指で野梨子の頬に触れ、唇に触れた。
野梨子の唇から震える息が漏れる。
魅録は瞳を細めると、親指を野梨子の唇に割り入れた。
どうしようもなく野梨子が怯えているのを感じながら、彼女の白い歯をこじあけ彼女の舌に触れる。
黒い円らな瞳が歪んだ。野梨子の口腔は熱かった。魅録の侵入を阻止しようとする野梨子の歯を
気にも止めずに、残りの指で彼女の顎を支えながら魅録はもっと親指を奥に進めた。
熱い唾液が彼の指を濡らす。野梨子の唇が親指をくわえ込んでいた。
魅録は指を引き抜くと、指についた唾液を野梨子の唇になすりつけ、濡らした。
野梨子の息が指にかかる。
顔を背けようとする彼女を許さずに顎をつかんでこちらを向かせた。
再び親指が唇をなぞる。野梨子の緊張は極限に達していた。
「み……ろ、く」
哀しげな瞳を携えたまま、魅録は野梨子の上に屈みこんだ。
そして野梨子の、夢にまで見た唇に口づけようとして。
――止めた。
くっと握りこぶしで壁を叩くと野梨子に背を向けた。
「ごめんな、野梨子。今の忘れて……」
魅録が立ち去った後の教室には放心して座り込む野梨子が残されていた。
続く
遅ればせながら新スレ立て乙でした!
またよろしくお願いします。
>暴走愛
すばらしいです!ちょっとエロティックでどきどきでした。
この章の全体的な主役は野梨子ですね。
叙情的な部分でなくても、彼女のせつなさが伝わってきて
胸が痛いです。野梨子はあんな清四郎でも許して愛せるんでしょうか。
可憐との友人関係はどうなるんでしょうか。
魅録に心揺れたりしないんでしょうか。続きが気になります。
>暴走愛
魅×野、この時を待ってました。
最高に萌えました。
ずっと楽しみにしていて期待が膨れ上がっていましたが、予想を遥かに上回る萌えです。
作者様ブラボー!
>暴走愛
切ない…
>この瞳の色を私は知っている。清四郎を請い願う私の瞳と同じだ。
胸がきゅんとしてしまいました。続きを楽しみにしています。
>暴走愛
困惑する野梨子にめちゃ萌えました・・・。
毎回切ないけれどすごく面白いです。
続きを楽しみにしています。
すいません。
あげてしまいました・・・。
>>35の続きです
「悠理ったら・・・読んでないって言ったら叱られると思って、あんな見苦しい嘘ついちゃって。どーせ
今日、最後の役員会があることも忘れてたんでしょ?」
「仕方ありませんわ。きちんとしている悠理なんて想像もつきませんもの」
笑い合う二人の女の前で、清四郎は首を振った。
「嘘はついていなかったと思いますよ。悠理が嘘をつく時は、必ず目が泳ぎますからね」
可憐からノートを受け取り、鞄へと仕舞い込む。本来なら書記の役目なのだが、完璧主義者の彼は、
提出書面を必ず自分で作成するのだ。
生徒会の解散を告げると同時に、悠理は飛び出して行った。そして、それを追う魅録も。
「ふーん、あいつのことは全てお見通しだとでも言うつもり?」
美童は楽しげに彼をからかう。
「悠理に限った事じゃありませんよ。嘘をつく時、人は必ずボディサインを出しますから」
「そう言う清四郎ちゃんもだけどね〜」
ニヤニヤと頬杖をついて自分を見上げる友人を無視し、生徒会長は幼なじみと共に帰って行った。
「もう遅いですから、明日でいいですよ」
電話の向こうで、あいつはそう言った。
昨日、魅録の部屋に寄った時に落としたのかも、と思って急いで取りに行った。やっぱりメモは
そこに落ちてて、あたいはレポート用紙を引っぱり出して、必死でそれをまとめ始めた。
出かける約束だろ?って言う魅録に、ごめん、ちょっと待って!って10回くらい言った。
「ふーん・・・マジで読んでたんだな、お前」
あたいの肩ごしに覗き込みながら、魅録はメモの最初の方をちらっと読んだ。
「だから、そー言ったろ?」
「なあ、お前、そういうの苦手だろ?俺がやってやるから貸せよ」
「・・・」
「メールで送った方が、清四郎もラクなんじゃねーか?」
「だけど、あたいが自分でやんないと、あいつ怒るから・・・」
「じゃ、文章だけ作ってやるから、それを書き写せよ」
いいってば!って言うと、魅録はつまんなそうに煙草を吸い始めた。
言われた通り、やってもらえばよかったのに・・・焦るばっかで全然進まない。何枚も失敗して、
修正液でどうにかごまかして、時計を見上げる。ウソ・・・もう11時!?
携帯を3回鳴らしたところであいつが出た。
『もしもし?』
「清四郎?あたいだけど、遅くなってごめん!今からバイクで行くから!」
『雨だから危ないですよ、悠理』
「え?あ、ホントだ!どーしよ、車帰らせちゃった」
『どこに・・・いるんですか?』
「魅録のトコ!」
『・・・魅録の部屋にいるんですか』
「うん。車出してもらうから、もうちょっと待っ・・・」
焦るあたいに、呆れたようにあいつは言って電話を切った。明日でいい、って。
宿題を忘れてもケロッとしてる悠理が、あいつの言いつけだけは絶対に守るのはなぜなのか、
いつも不思議に思ってた。
「だって、先公なんかより、清四郎の方がずっとおっかないじゃんか。またさんざん嫌み
言われちゃうよ。どうせ悠理に期待なんかしてませんでしたけど・・・とか何とか」
そう言った後、悠理は机を占領し、口を尖らせて何やらブツブツ呟いている。
俺との約束なんか、すっかりどこかにいっちまったみたいだ。
以前だったら、代わりにやってやるなんて言ったら、二つ返事で頷いたはずなのにな。
それは、ただ大人になった、ってことなんだろうか。
飯も食わずに頑張っている背中を眺め続けるうちに、ふと考えていた。
悠理がいつも顔色を窺っている男の事を。
悠理を、ほんの少し変えたのはあいつなのかもしれない、と。
今まで、よっぽどあいつにバカにされるのが嫌なのか、叱られるのが怖いんだろうと思ってた。
だが、悠理が清四郎の言いなりになるのは、そんな理由だけじゃないのかもしれない。
[続く]
生徒会室の扉を開けると、甘ったるい匂いが溢れ出してきた。
中には、可憐以外の4人が揃ってる。さすがに今日はデートだろ。
部屋の空気はとろりとしていて、体中、自慢の金髪にもべたべたまとわりついてくるみたい。
僕はすうっと息を吸い込んだ。僕の腕の中からも、甘い匂いが立ち上ってくる。
幸せに顔を近づけたら、きっとこの匂いがするんだと思う。
日本に来て良かったっていちばん思うのは、今日だな。
だって世界中どこ行っても、男が女からこんなにプレゼントもらえる日なんてないでしょ。
机の上にはそれぞれがもらったチョコレートが、3つの山を作っていた。
僕は空いたスペースに4つめの山を作り、空いた椅子に座る。
で、オーバー気味のため息をついてみる。
「あーあ、もう参っちゃうよね、愛されすぎるってのもさ。
実際食べきれないんだよねえ、美しさは罪、ってよくいったもんだよ」
毎年の決まり文句だと思っているのか、みんな特に反応はしない。
はいはい、と軽く受け流す魅録。完全無視の野梨子。清四郎は半笑いだ。
悠理に至っては、もらったチョコレートを頬張るのに精一杯で、
もしかしたら僕が部屋に入ってきたことにも気付いてないのかもしれない。
ああ、女の子に好かれるって幸せ。なのにこの気分が分からないなんて、
こいつら、清四郎も魅録も、ぜったい人生損してるよね。
このチョコレートの山も、もったいないなあ。あげた女の子も可哀相に。
僕にくれたら、こいつらの1000倍喜んであげるのに。
「でもさ、こんなにもらってもね。ありがたみ薄れちゃうよね。
何かホントに本気の本命って感じがしないんだよな」
誰も何も言わないから軽く続けてみたけど、自分の発言にちょっとドキッとした。
女の子に好かれるのは嬉しいし、それはそれで確かに幸せを感じる。
けど、僕をルックスとかアイドル的な憧れ抜きで、ホントの意味で好きだっていう気持ちが、
このチョコの山の中にはきっとないんだろうなってことを、僕は知ってる。
可憐は、あんたのは恋愛じゃない、ただの火遊びだ、って言うけど、僕だってそんなことくらい分かってるんだ。
でもこの山にさ、もしかしたら本当の恋が紛れ込んでいるかもしれない。
僕はただ、最後の恋を、探しているだけなんだ。そう、だからそれに出会うまでは、この状況を楽しまなきゃね。
「なんだよ、いらないんならあたいにちょうだい!」
僕より大きなチョコの山を作ってるくせに、悠理は僕の山に手を伸ばす。
僕が口を開く前に、小さな白い手が悠理の意地汚い手をぱしっと打った。
「だめですわよ、悠理。くれた女の子の気持ちがこもってるんですから」
「僕も正直、悠理に少し引き取ってもらいたい気もしますけど」
思わず言ってしまった清四郎が野梨子に睨まれている。僕は大げさにあきれた顔をしてみせた。
「なんで僕が悠理にあげなきゃならないんだよ。本来さ、悠理が僕にくれるべきじゃないの?」
「なんであたいが美童に食いもんやらなきゃなんないんだよ! これでも足りないのにさ」
これだからなあ、悠理は。「あのさあ」って僕が言う前に、可愛い声が悠理の膨れっ面をたしなめた。
「悠理、今日のチョコレートは『食いもん』じゃありませんわ。
大事な人を大事に思ってる、っていう気持ちを形にしたものですのよ」
「そんなのさ、口で言う方が簡単じゃん、なんでわざわざチョコなんだよ」
野梨子は机の上をちらりと見わたしながら、言った。
「そんな風に簡単に言えない女性もいますわ」
悠理はふーん、と呟いた。
「わかんないなー、あたいには。大体、そんな大人しい女が美童なんかに惚れるかよ」
「なんだよ、僕はオールタイプの女の子に愛される魅力に満ち溢れてるんだよ!」
「あたいは美童のこと愛してないぞ」
「悠理は女の子じゃないだろ」
5、6個の甘い匂いの残る空き箱が僕に投げつけられた。
視界の端に、野梨子が黙ってチョコの山を見てるのが映ったけど、僕はあまり気にしてなかった。
合計4人の女の子に会って僕が家に帰ってきたのは、とっくに日付が変わったころだった。
部屋のドアを開けると、世界各地から届けられた品物が山と積み上げられていた。
日本に住むようになってから、日本の習慣に合わせてチョコを贈ってくれる海外の女の子も多い。
僕は手に持っていたデートの相手たちからのプレゼントをその上に無造作に加えた。
「ふう」と、わざとはっきり声を出してベッドに寝転がる。
今日のデートはどれもこれも気合いが入らなかった。
4人中3人に、「誰か他の子のこと考えてるでしょ?」と言われたし、
あとの1人は、気がついた時には怒った背中をみせて帰っていくところだった。
原因は、何となく分かってる。
今日(正確には昨日)は一旦、悠理がチョコと僕を剣菱の2t車で送ってくれた。
「それにしてもさ、」チョコの山を支えながら僕は悠理に話しかけた。
「さっきの野梨子の言い方、ちょっとびっくりしたよね。
自分は毎日、ラブレター山ほど読まずに捨ててるくせに」
「あれ、知らないのか。野梨子、最近ラブレター捨ててないんだぜ。
さすがに返事までは出しちゃいないみたいだけど、鞄には入れてるよ」
「へえ、どういう心境の変化なのかな。あの男嫌いが」
「さあな、好きなやつでも出来たんじゃないの」
悠理はきっと、深い意味もなく、何も考えずに僕と話してたんだろう。
なんせ口中チョコだらけだったからね。
でも僕はその会話が、なんか引っ掛かっていたんだ。
野梨子に好きな男、か。僕としたことがなんで気付かなかったんだ。
誰のことも対象外なんだから、って、僕も野梨子を対象外だと思ってた。
でももしホントに野梨子に好きな男が出来たのなら、僕の割り込む隙だってあるんじゃないの?
それが清四郎とか魅録だったとしても、いい勝負できると思うんだけどな。
って、なに考えてんの、僕。別に野梨子のこと好きなわけじゃないのに。
ああ、また。夕方から今に至るまでずっと、似たようなことをぐるぐる考えてた。
僕は考えることを無理矢理やめるために、頭から毛布を被って目を瞑った。
が、ふと思い当たって、部屋中のチョコの山をひっくり返す。
――やっぱりない、野梨子からのチョコレート。野梨子は義理堅いから毎年必ずくれるのに。
今日は顔を合わせなかった可憐からのチョコレートは何故か鞄の中にあったのに。
今年は誰だか知らないが、その『好きな男』にだけ、渡したんだろうか。
あの、可愛らしい胸の中に秘めた気持ちを。
なんだかなつかしい夢を見て目が覚めると、いつもよりずっと早い時間だった。
そのままいつもと同じように支度をし、家を出ると、いつもよりずっと早く学校についた。
たかだか一時間くらい早いだけなのに、学校はとても静かで、新鮮に明るかった。
ロッカーの前に、誰かいる。
いや、逆光で輪郭しか見えないけど、誰かは分かる。
あの小さい影は、
「野梨子、なにしてんの」
僕は静かに声をかけた。でも朝の学校はもっと静かで、その声はよく響いた。
影は僕を振り向いて、「なんでも」と言い、その後に続く『ありませんわ』を首を振って打ち消した。
そして顔を上げて僕を見て(こっちからは見えないけど)、こっちに手を伸ばした。
両手の上にちょんと載った、ベージュの小箱。
「昨日、渡そうと思ってて……でも」
天気がよくて、窓から入る光で埃がきらきらしている。
「昨日じゃなきゃ、ただのチョコレートですわね」
伊達に世界の恋人を名乗ってるわけじゃない。
僕は、その言葉の裏にある意味が分かったんだけど、でも信じられなかった。
「もう沢山かもしれませんけど」
何も言わない僕に野梨子はちょっと早口で付け加えた。
後光が射している野梨子の表情は伺えない。
でも、逆に野梨子からはよく見えてると思う。僕の白い肌がみるみる赤くなってるのが。
ああ、女の子に告白されて、赤面したのも、体温が上がったのも、初めてかもしれない。
僕はやっとその箱に手を伸ばし、受け取った。嘘だ、震えてるよ、僕。
「これって『食いもん』じゃないよね」
信じられないことに、声も震えてる。野梨子は小さく、だけどはっきり頷いた。
「……野梨子、僕、これがあったら他のチョコレートなんていらない」
僕の口は自然とそう言っていた。野梨子がちょっと横を向いたので、その顔が花のように綻んでいるのが見えた。
ふいに、今朝見た夢を思い出した。あれはイソップ童話だっけ。
手が届かない高いところにあるぶどうを、酸っぱいと決めつける狐の話。
ホントは甘いことを知っているのに、努力もしないで負け惜しみばっかりの狐の話。
きっと僕はずっと、野梨子に憧れていて、野梨子が欲しかったんだ。
「もう、他のチョコレートなんていらない」
僕は胸にその小箱を抱きしめて、もう一回言った。
「昨日もらったチョコレートは、ちゃんと全部食べなきゃ駄目ですわよ」
野梨子はそう言って、僕に背中を向けて歩き出しながら続けた。
「でも、来年は他の方からは受け取らないでくださいな」
僕はその小さな背中に三歩で追いついた。それで、抱きしめて……しまいたかったけど、
そうするのはまだ早い気がして、いや、そうしてしまうのはもったいない気がして、
後ろからそっと、野梨子の手を取った。
慌ててたのか焦ってたのか、薬指と小指しか握れなかったけど。
それでも初めてキスした時よりもドキドキしたし、誰かと抱きあって眠る時よりも
1000倍満ち足りた気分になったんだ。
こうやって不器用な感じで手をつないで、ちょっとずつ味わうのが本当の恋愛なのかもしれないな。
僕と二本の指で繋がって歩く、意外に早く見つかっちゃった最後の恋の相手の顔は、
ああ、まだ眩しくてよく見えないよ。
以上です。失礼いたしました。
バレンタインから一週間も遅れた上、いきなり本文から書き込んじゃうわ、
タイトル文字化けさせちゃうわ、改行失敗しちゃうわ、・・・もう、逝ってきます、、、
見辛くてスマソ
>チョコレイトto美童
バレンタイン過ぎて、もう読めないかと残念に思っていたので、
3人目が読めて嬉しいです。
世界の恋人を名乗っているくせに、自分の本当の気持ちに
気付いてなかった不器用さが、とても美童らしいと思いました。
震えてたりして可愛かったしw
最後にしっかり釘を刺す野梨子も、彼女らしくて良かったです。
>チョコレイトto美童
野梨子編ごちそうさまでした。
美童へのチョコの渡し方が三者三様で面白かったです。
個人的には可憐編が好きですが、悠理編、野梨子編そろって読むのが
やっぱりいいですね。乙です〜
遅ればせながら、野梨子視点のバレンタインネタアップします。
4スレ程お邪魔いたします。
あなたのことを想うと胸がいっぱいになる。
私には今まで縁のない事だと思っていたのに・・・。
今日は2月14日
生徒会室は、毎年恒例の光景を垣間見ることが出来る。
デートの約束をしているのか念入りに化粧をする可憐。
大量のチョコレートを眺めながらその数を数えている美童。
貰ったチョコレートを一生懸命平らげる悠理。
一方、そんな姿とは対称的に、大量のチョコレートを抱えながら
それらの処理に困って苦笑している清四郎と魅録の姿。
そして私は・・・。
ふぅ。野梨子は思わずため息をついた。
手の中には1人分のチョコレートが覗かせていた。
赤い包装紙に、鮮やかなエメラルドのリボン。
決して渡せる筈のないチョコレート・・・。
「あっ、野梨子〜そのチョコどうしたんだ?」
悠理が目ざとく見つけて、それを指さした。
と同時に、全員の視線がそこへと向けられる。
「それ・・・うまそうだよなぁ。手作りか?じゅる」
「ついに野梨子も本気になったのね、あたしは嬉しい」
「僕もついに野梨子の保護者卒業ですか・・・」
「もらえるヤツが羨ましいなぁ」
「ふふ、野梨子ってば今日はいつもより綺麗だよ」
5人は野梨子が大切そうに抱えるチョコレートを見ながら
それぞれの感想を述べていた。
「こっ・・・これは自分で食べるために買ったんですわ。
それ以外の何ものでもありません」
少し怒ったように言って、5つの興味深そうな視線から目を反らした。
(それ、手作りか?うまそうだな。じゅる)
彼女の言葉に一瞬、胸が躍っている自分に気付いたが
それを抑えるように立ち上がった。
「すみません、わたくしちょっと用事がありますので失礼しますわ・・・」
そうして、唖然としている様子の一同を残して、生徒会室を後にした。
-夜
野梨子は自室で、ひとり俯いていた。
机の上には赤い箱がその姿を覗かせていた。
行き場を無くしたチョコレート。
まるで自分の気持ちと同じだ。
強がりで、そのくせ臆病で・・・。
こんなにも人を好きになったのは
たった一度だけ。そう思っていたのに。
行き場を無くしたこの想いは
一体どこに行こうとしているのだろう?
想いを伝えるのは怖い。しかし、このままではいたくない。
戸惑いを抱えながらも、野梨子の透き通った美しい瞳は
決心の色で染まっていた。
それから数分後。
野梨子の目の前には大きな門がそびえ立っていた。
胸の高鳴りを必死に抑えながら、インターホンの返事を待った。
「の〜りこ。どうしたんだ?こんな時間に」
「悠理・・・あの・・・これ・・・」
野梨子は恥ずかしそうに赤い箱を取りだした。
白く綺麗な肌が朱色に染まっている。
「これ・・・あたいにくれるのか?」
「本当は自分で食べようと思って
買ったんですけど、悠理が食べたそうにしていましたし
どうせわたくしにはあげる方なんていませんから」
そう言って、恥ずかしそうに俯く。
「他のヤツにやるんじゃなかったのか?」
悠理の思いがけない言葉に固まった。
気が付くと、いつもの彼女とは
想像も出来ないほど真剣な瞳がそこにあった。
「てっきり清四郎か魅録にやるんだと思ってたし・・・」
「悠理・・・あの・・・」
「嬉しいよ。サンキュ。いつも、ありがとな。
それと気付いてやれなくてごめんな・・・お前は大事な友達だから
何よりも大切な親友だから・・・」
それだけで、もう十分だった。
あなたがそう言ってくれるだけで
心の奥底が満たされるように感じていた。
「今日はもう遅いから泊まっていけよ」
「はい」
「あの・・・ありがとう」
「あたしの方こそ・・・な」
もう大丈夫。これで、前を向いて歩いていける。
あなたとの新しい未来に向かって・・・心からそう思う。
THE END
4スレと書きましたが、5レスの間違いでした。
どうもお邪魔いたしました(ぺこり)。
じゅる、って台詞じゃないじゃん?
地の文で表現すればいいのに
私は「じゅる」って台詞だと思って普通に読んでた。
ふざけて擬音を語尾につけて言ったりするじゃん?
それよりもsage忘れないでね。
>68
「あなたに愛を〜」さんではないですが、いいんじゃない?
じゅるって台詞に入ってても。
ふざけて「じゅる」って言う人いるじゃない〜
>あなたに愛を込めて・・・
わ〜い!野×悠、結構好きなんだよね。
誰か書いてくれないかなぁと思ってました。
ありがとう!楽しませてもらいました。
また書いてくださいね。
可憐さんのバレンタイン短編をうpします。
ちょっと思い付いてしまったので(笑)。
5スレ程になります。
-朝
あぁ・・・今年はどうしよう。
あいにくデートの予定も入ってないのよね。
可憐は鏡の前で髪を整えながら、そんなことを考えていた。
(あいつは・・・どうするんだろ?)
今日は女にとって、特別な日。
毎年そう言い聞かせながら過ごしてきたはずなのに
今年はどうもそんな気がしなかった。
もうっ。あいつのことが気になって
義理チョコさえも準備出来なかったじゃないの。
この可憐さんともあろうものが。
もう長い間、探していた筈だった。あたしにとって理想の王子様。
お金持ちで、ハンサムで、私だけを愛してくれて
私だけを見てくれて、それでいて優しくて。
しかし、そんな王子様、探す方が無理だったのかもしれない。
(あたしにとって、出会うべくして出会った本当の相手は
あいつなのかもしれない)
最近、そう思い始めてもいた。ふと思い浮かんだのは
まだ恋もしらないであろう、女友達の無邪気な笑顔。
(・・・そんなはずないわ。だってあいつは・・・)
可憐は自分の心にそう言い聞かせた。
「いやだ・・・もう遅刻しちゃうじゃない」
可憐はふと我に返って、素早く鞄を手に取ると
自室を後にした。
その日は一日中、授業が頭に入らなかった。
思い浮かぶのはあいつのことばかり。
あたしが告白したら、あいつはどう思うだろう?
そんなことばかり考えてしまう。
あいつの心を束縛する権利なんて自分にはないのに。
そんなこと分かってる筈なのに。
それに、いつだってあいつの心は・・・
(あたし、少しおかしくなったのかしら?)
何だか頭が重い・・・。そう思っているうちに
意識が少しずつ薄れていった。
『黄桜さん!』『可憐!』
周りで自分を呼ぶ声だけが、やけに強く響いていた。
気が付いたら、あたしは保健室のベットに寝かされていた。
保健委員の誰かが運んでくれたのだろう。
そう思っていると、ガラリとドアの開く音がした。
そして入ってきたのは・・・。
「よっ、可憐」
悠理はそう言ってにっこり笑った。
今の可憐にとっては、思いがけない訪問者だった。
「悠理・・・あんた、授業どうしたのよ?」
「へへっ、サボり」
「そう・・・なんだ」
「お前が倒れたって聞いたからさ」
「ふ〜ん」
思わず、心が弾んだ。
今、一番逢いたかったあいつに会えた。
それだけで、こんなにも胸が熱くなる。
何気ない時間が、大切になる。
「大丈夫か?」
気が付くと、悠理が心配そうに自分の顔を覗き込んでいる。
正直、無邪気にも程があると思う。
彼女にしたら、そんな行動一つ一つに
自分がどれだけ心を揺れ動かされているか
ちっとも分かってもいないのだろう。
「まぁ、軽い貧血みたいだし、何とか大丈夫よ。ありがと」
「何も無くてよかった・・・。あたい、すげー心配したんだぞ」
自分を心配そうに見つめる悠理。
いつもの元気な彼女とは違って、妙に儚く見えた。
「触れたいな・・・」
そう思えてくる。同時に体が動き出していた。
「か・・・可憐」
目の前では、悠理が口を押さえて
真っ赤な顔で立ち尽くしている。
「どう?可憐さんのキスの味は?」
「///ど・・・どうもこうも・・・」
ふふ。可愛い。こんな可愛い存在に
いままで何故気付かなかったのだろう?
もしかしたら玉の輿という壁が、
理想の王子様という壁が、邪魔をしていたのかもしれない。
こんなすぐ近くに、自分の心を
こんなにも夢中にする少女がいたのだから。
想いを伝えるなら、今しかない。
そう思った。
「悠理、あんたが好きよ。さっきのキスはチョコレートの代わり」
何度も口に出せなかった一言が、この日はすんなり出てきた。
もう、自分の気持ちに嘘をつくことは出来ない。
『悠理が好き・・・』この気持ちだけは。
「か・・・可憐・・・あたい」
「どうしたの?」
「あ・・・あたいも・・・そ・・・その」
「悠理?」
「可憐のこと・・・す・・きみたいだ・・・」
そう言って、ぎこちない様子で私の唇に軽く触れた。
思いがけない悠理の一言。
嬉しくて・・・また触れたくなった。
「ふふ。これから教えてあげるわ。
本当の恋ってやつをね。覚悟しなさい」
そう言って、再び唇に触れた。
今日二度目のキスは、チョコレートよりも甘かった。
(オワリ)
これでオワリです。ありがとうございました。
これは・・・(汗)
思いがけないカプーでしたわ。
と、とにかく作者タン、乙!(←動揺中)
>美衝撃
少女期にありがちな同性に恋してしまうパターン…
と、思いきや
教えてあげるんですね!?これからなんですね!?
本気なんですね!?
すげー
>美衝撃
可憐×悠理とは…かなり意外でした。
でもなかなか危険な感じで面白かったです。
可憐は、悠理に一体どんなことを教えてしまうんだろう…。ドキドキ
可憐×野梨子なんかも見て見たいかも。
てすと
悠理からの電話を、本当はずっと待っていた。
報告書の穴が埋まらないから、それが届くのを待っていた・・・というのは自分への言い訳だ。
何度も時計に目をやっては、ため息ばかりついた。読みかけの本も、書きかけの論文も、何に手を
つける気にもなれなかった。
僕はただ、彼女の声を聞きたかっただけなのかもしれない。
いつの間にか降り出した雨に、なぜか思い出していた。
もう少しで、僕の「妻」になるはずだった人のことを。僅かばかりの胸の痛みと共に。
それは、剣菱の会長代理として、あの屋敷で暮らしていた頃のことだ。
注文していた指輪が届いたのは、悠理との婚約が調って間もないこんな雨の夜。飛行場へと向かう
車に乗り込もうとした時だった。すぐ戻ると秘書に告げ、僕は悠理の部屋へ向かった。悠理が
そんなものを喜ぶはずもない事は承知の上だったが、やはり贈らないわけにはいかないだろうと思い、
シンプルなデザインを選んでイニシャルの刻印を頼んでおいた。
来訪者が僕とわかって、ドア越しに悠理は怒鳴った。
「こ、こんな時間に何の用だよ!?」
「開けてくれないなら、蹴破りますよ」
脅しの言葉に渋々とドアを開けた悠理だったが、僕が無言で箱から指輪を取り出すのを見て、
口をぱくぱくとさせる。
「婚約指輪です。左手を出して下さい」
僕の声に、じりじりと後退る。僕はそれに合わせて中へと踏み込むが、悠理は口を引き結んだまま
上目遣いに僕を睨みつけていた。
「・・・そんなに嫌がらなくてもいいじゃないですか。すぐに結婚するわけじゃないんですし、形式上、
受け取っておいてくれればいいんですから」
だが、僕が掌を差し出しても、悠理は首を振るばかりだった。僕との結婚に納得していないのでは、
それは無理もなかったし、力づくで手を取る事はしたくなかった。
指輪を渡す時に、人並みに約束の言葉を言うつもりでいたが、頑なな悠理の態度に気をそがれた。
いつか、日を改めてやり直せばいいと思っていた。
僕は指輪を箱に戻すと、机の上に置いて部屋を出た。
もし、あの時・・・と、過去を振り返ってばかりいる人間を、僕は好まない。後悔など愚か者のする
ことだと知っているからだ。人生は選択の連続であり、僕はその度に最高の選択肢を選び取って
きた、と信じていた。
だが、時折考えずにはいられない。あの日、なぜ悠理の手を無理にでも取らなかったのか、と。
いくら悔やんでも、戻れない道であることを知っていながら。
幾度も手に取っては確かめるが、携帯が着信を告げる事はなかった。
時計の針が11時を指した頃、諦めようとした。また魅録と出かけて、自分との約束など忘れて
しまったのだろう、と。こちらから電話をかけて、楽しいデートに水を差してやるのも悪くない。
出来もしないくせに、つらつらとそんな事を考えながら、諦めようとした。
ベッドにごろりと寝転がった瞬間、待ち侘びていた音が響く。
起き上がって携帯をつかむと、画面に『悠理』の文字が踊っていた。
はやる気持ちを抑え、コールを3回数えてから、ボタンを押した。
どうやら、清四郎の所には行かなくてもよくなったらしい、とわかっていながら、悠理に声をかける。
「どうすんだ?今から行くのか?」
「ううん・・・明日でいいってさ。あいつ、今日中に渡せって言ったくせに・・・」
立ち上がり、きゅっと下唇を噛む悠理の肩にそっと手をかけた。
「なあ、悠理」
呼びかける俺を、悠理は強い瞳で見上げる。
「俺のこと、好きか?」
見つめ合い、言葉を区切りながら発音する。
「ああ、大好きだぞ。もちろん」
淀みない返事に、安堵する自分がいた。
「・・・清四郎よりも、か?」
悠理は2回瞬きをした。
「あたりまえじゃないか!」
言い終わると同時に、悠理は目を伏せた。
ほんの一瞬、瞳が揺れた理由を、俺はどう受け止めればいいのだろう。
「・・・ごめんな、魅録。こんなんだったら出かけちゃえばよかったな・・・」
俯き加減の愛しい女の肩を抱き、覗き込むように顔を近付けた。
酔って無茶をした俺を思い出したのか、悠理はぴくりと体を揺らし、ほんの少しだけ顎を引いた。
それを追いかけると、唇をつかまえる寸前、諦めたように睫毛を伏せた。
時々、悠理はぞくっとするほど女を感じさせる。口づけを深めながら、いつからこんな表情をする
ようになったかな、なんて考えてみるが、思い出せなかった。
折れそうな体を抱きしめ、その頭を胸へと抱え込む。
「悠理、ずっと俺の側にいてくれよな」
不安を掻き消そうとする俺の腕の中で、お腹すいた、と悠理は呟いた。
翌朝、登校すると、約束通り机の上にレポート用紙が置かれていた。そっとつまみ上げ、
立ったまま目を通す。文章の苦手な悠理のことだ、これでも必死の思いで書き上げたのだろう。
修正液だらけで、相変わらず汚い文字ではあったが。
くすっと笑みが洩れ、隣の席の女子が不思議そうに僕を見る。
そう言えば、僕はいつもいつも叱るばかりだったな。
誤字が一つもないことを、褒めてやったらあいつはどんな顔をするだろうか。
着席してそれを鞄にしまい、代わりに1時間目の現代文の教科書とノート、辞書を出す。
ふと、それをぱらぱらとめくり、手を止めた。
=横恋慕・配偶者や恋人のある人を、第三者が横合いから恋い慕うこと=
また自分を嘲るように喉を鳴らした僕へ、不審な視線が注がれる。
机に肘をつき、両手でゆっくりと髪を撫で上げながら、僕はただ笑い続けた。
親友の恋人を想うことの不毛さを、ゆうべ、改めて思い知らされた。
悠理の隣には、いつだって魅録がいると知っていた筈なのに。なんて愚かなんだ、僕は。
口うるさく文句を言うばかりで、あいつを包み込んでやることも出来なかったくせに。
あいつに惹かれていた自分に気付いてもいなかったくせに。
愛していると告げることも出来ないくせに。奪い取る勇気など、ないくせに。
それなのに、諦めることすら適わないなんて。
この手につかめないものを欲するほど、愚かではないと信じていたのに。
今さらのように、美童の警告が胸を刺した。
僕はこの想いを、少々見くびりすぎていたようだ。
[続く]
>>27の続きです。
「全く、どうして僕がこんな事を・・・・・・」
ねじりはちまきに『すし』とバックプリントがされてあるはっぴを着た豊作は
意気消沈しながら、シャリを握っていた。
「我慢でございますぞ、ぼっちゃま。
本日は、清四郎様の御結婚によって元気の無い野梨子様を
励まそうと皆様が企画された『回転寿司の夕べ』でございます」
こちらも豊作同様、ねじりはちまきにはっぴ姿の五代が、必死にシャリを握っている。
「そんな変な名前がついてるのか」
「いえ、それは五代が勝手に命名させていただいた名前でございます」
豊作は溜息をつき、諦めたようにシャリを握り続ける。
「だけど昨日は驚いたよ、あんな所で清四郎君を見るなんて」
昨日――。
旅行で不在の父、万作の代わりに豊作は五代と共に入札会場に出向いていた。
今回も最大の宿敵と思われる兼六財閥の入札者の後ろに、秘書らしき人物が立っていて
それは清四郎にとてもよく似ていた。
清四郎が兼六財閥の娘と結婚する事は知っていたが、まさかこんな所にいるとは思わない2人は
『やあ見てごらんよ五代、世の中にはよく似た人間がいるもんだね。あの人は清四郎君そっくりだよ』
『本当でございますな、何と髪型まで清四郎様にそっくりですぞ。これは珍しい』
――そんなのんきな会話を交わしていた。
だから入札が終わり、帰ろうとした時に
『豊作さん、お久しぶりです』
と声を掛けられ、それが清四郎本人とわかった時には口から心臓が飛び出すほど驚いた。
「それにしても――」
今度は握ったシャリの上に、ネタを乗せていく。
だんだんと手際が良くなっていく自分が、ちょっと怖い。
ひょっとしたら実業家より、寿司職人の方が向いているのではないかとさえ思えてくる。
「悠理の次は年上の美人か――。
清四郎君は見かけによらず、女性の守備範囲が広いんだなぁ」
シャリが切れたのか、五代は米を研いで次のシャリの準備に取り掛かっている。
「わかりませんぞ、ぼっちゃま。多趣味な清四郎様の事でございます故に
ひょっとしたら目的は女性ではなく、兼六財閥という資産かもしれませぬ。
最初の結婚がうちの嬢ちゃまとしようとした事を考えると
もしかしたら『財閥マニア』という事も考えられますぞ」
五代は探偵よろしく、鋭い目つきを豊作に送る。
「嫌なマニアだなぁ・・・・・・」
豊作はしかめっ面をしながら再び清四郎の事を考える――。
目的云々はともかく、清四郎は本当に兼六財閥の娘と結婚するのだろうか。
あの清四郎が敵に回る――。それが本当だとしたら一大事だ。
こんな所で悠長に寿司など握っている場合ではない。
「ぼっちゃま、早速注文が来ましたぞ!」
寿司が回るベルトコンベアから、メモらしきものが流れてくる。
「来たな――ええっと最初は……」
一番最初に流れてきたメモを取る。そこには流れるような達筆で、こう書かれてあった。
『御疲れ様です。平目の縁側と烏賊を、御願い致します。
山葵の有無は問いません。御手数ですが、宜しく御願い致します。』
「綺麗な字だなぁ……。これは野梨子ちゃんだな。
わさびはどっちでもいいのか、じゃあちょっと少なめに入れておくかな。
それにしても山葵なんて漢字、よく知ってるなぁ……」
豊作は手際良くエンガワとイカを作り、コンベアに載せる。
野梨子のネタは、メモと共にカタカタと表へ流れて行った――。
次は続けて二つ一緒にメモが流れて来た。
最初のメモには
『に〜ちゃんおつかれ! あまったネタぜんぶにぎって!! まってるからな!!』と、書いてある。
全てがひらがなとカタカナで構成されているにもかかわらず、非常に読みにくい。
「悠理か……、あいかわらず汚い字だな。身内じゃなきゃ判別不能だよ、全く……」
豊作は悠理のメモを端に置く。これは後回しにする事にした。
今あるネタを全部握ってしまったら、他の子の分が無くなってしまう。
悠理のメモと一緒に流れてきたメモは、少し荒々しく大きめの字で書かれてある。
『大トロとカツオと穴子お願いします! ワサビは多めで。頼みます!!』
横からメモを覗き込んだ五代が
流石は生粋の日本男児の魅録様、男らしい逞しい字でございますな――と、頻りに感心している。
「元気だなぁ・・・・・・」
豊作は育ち盛りという事を考慮に入れながら、少し大きめにシャリを握る。
魅録の書いたメモをネタと一緒にコンベアに載せると、豊作の手に次のメモが当たった。
『こんにちは! うにとフカヒレとキャビアをおねがいしま〜す』
女の子らしい少し丸めの字が書いてあり、文の末尾には可愛くハートが書かれている。
「この字の雰囲気は、可憐ちゃんだろうな。キャビア? キャビアなんてあったかなあ、五代」
豊作の後ろで、出来上がったシャリの具合を慎重に確かめている五代に話し掛ける。
「確か貯蔵庫で見かけたような気が致しますが・・・・・・」
只今見て参ります、少々御待ち下さいませ――と、五代は貯蔵庫に向かって走って行った。
段々と闇鍋状態になってきた――。
うにとフカヒレはともかく、キャビアというのは寿司ネタには向いていないような気がする。
世間では高級食材を寿司ネタにするのが流行っているのだろうか。
「ありましたぞ、ぼっちゃま!!」
五代がぜいぜいと息を切らせながらキャビアを持って来た。
「走らなくてもいいよ」
走った拍子に心不全でも起こされたら大変だ。
五代は、流石は可憐様、寿司ネタまで高級志向でございますなぁ、などと
妙なところで納得し、意を得たと言わんばかりに何度も頷きながらキャビアを取り出した。
「何だか疲れてきたよ・・・・・・、明日も早いのになぁ・・・・・・」
豊作はくたびれたサラリーマンの呟きに似た愚痴を発しながら、可憐の注文を握った。
「後は美童様の御注文だけでございますな」
五代がそう言った丁度その時、美童のネタと思われるメモが彼方から流れて来た。
豊作は面倒臭そうに、やれやれ、これで終わりだな、と言いながらメモを開いた。
「・・・・・・」
「いかがなされました、ぼっちゃま」
呆然と立ち尽くす豊作に、五代は心配そうに声を掛けた。
「疲れたからもう寝るよ・・・・・・、五代、後は頼むよ・・・・・・」
五代にメモを渡し、豊作はよろよろとふらつきながら出て行った――。
一体、何が書いてあるのだろう。
五代はメモを開いた――。
『アンチョビとスモークサーモンに、ドレッシングはブルーチーズで。
トッピングは、僕の愛と美貌を散りばめて――。
世界のプリンス 美童グランマニエ』
本日はここまでです。
ありがとうございました。
お疲れ様でした>檻作者様
財閥マニアにワロタ!!
久々にリアルタイムに遭遇♪ワーイ
>>アンチョビとスモークサーモンに、ドレッシングはブルーチーズで。
>>トッピングは、僕の愛と美貌を散りばめて
家族と同居の深夜だというのに声を上げて笑ってしまった
作者タン、ありまとー!
>横恋慕
最初と雰囲気変わってきましたね。
じっくり読めるようになってイイ!
清四郎の心の動きが気になります。
>檻
美童のメモにぶぼっと噴いてしまいました。
こういうのお上手ですね〜。
いよいよ結婚式でしょうか。続きお待ちしております。
>横恋慕
悩める清四郎ちゃんがツボです〜
続きが楽しみ♪ふふ、どうなっていくのかしら?
>檻
美童ちゃんに笑いました・・・(爆)。
豊作さんと五代のやりとりが可笑しくて。ふふ。
続き楽しみにしてます〜
>13の続きです。3レス頂きます。
野梨子が天寿と一緒に『碁ビル(天寿のビルを5人はそう呼んでいる)』に
入っていくのを確認するとすぐ、魅録は美童と合流した。
美童は窓際の席でひとり、つまらなそうになんだかの水割りを飲んでいる。
魅録はついさっきまで人がいた気配が残っている美童の隣に目をやった。
「なんだよ、今日くらい女引っ掛けんの我慢しろよな」
「……あのさあ魅録、僕だって真面目にやってんだよ。男だよ、いやな男」
「お前の『いやな男』は、『いい男』だろ?」
図星だったのか、美童はちょっと顔をしかめた。
「せっかく情報仕入れたんだけど、言うのやめるよ?」
久しぶりに耳にする『情報』という言葉に魅録は身を乗り出した。
「けどな美童くん、この辺縄張りにするんはやめといた方がエエで」
月丸は美童の顔を覗き込みながら、バーボンのグラスに口を付けた。
「なんで? 君の縄張りだから?」
美童は隣の男を横目で睨む。ホンマに嫌われとんなあ、と月丸はそんな美童を見返して笑った。
「キミの為に言うとんねん。この辺であんまり目立つことしたら面倒なことになるかもしれん。
キレイな顔がキレイなまま、おうちに帰りたいやろ?」
月丸はおどけた調子で言ったが、言外には真剣な雰囲気が感じられた。
「どういうこと?」
美童は今度はちゃんと月丸に向き合って聞いた。
美童は声をひそめ、20分前に『いい男』から仕入れた情報を別のいい男、魅録に聞かせていた。
「この辺りの土地持ち、っていうか昔からの実力者っていうのが、大七グループの大株主なんだって」
『大七グループ』は剣菱や兼六には及ばないが、それでも日本で5本の指に入る大財閥だ。
しかし最近は、暴力団との関係や政治献金絡みの悪い評判が取り沙汰され、
内部では取締役のリコール騒ぎも起きており、あまり穏やかな状態ではない。
「その大株主も、そいつに対立する一派も、まあ、いわゆる『頭にヤのつく自由業』の方々と
やっぱり浅からぬ関係があるみたいでね。ほら、最近ごたごたしてんじゃん、だから
お互いに今がチャンス、って感じで潰し合いしようとしてるんだ」
魅録は腕を組んで聞いている。テーブルの二つのグラスの中で、氷がからん、と鳴った。
大株主自身には力があるが、逆に力がありすぎるせいで本人さえいなければ大株主派は崩壊する。
だから対立派は、手っ取り早い決着方法としてその大株主を消そうとしている。
だが、命を狙われてると悟った大株主は、表舞台から姿を消し、
自分の縄張りであるこの辺に潜んでいる、と予想されている。
「で、最近、両派のあまりガラの良くない輩が大勢、この辺りをうろうろしてるんだって」
美童は言葉を切り、水割りをひとくち飲む。魅録はなるほど、と呟いた。
「その大株主っていうのが、おそらく天寿ってわけだ」
美童はうん、と頷いた。
「僕もそう思う。はっきり名前までは教えてもらえなかったけど」
月丸は美童に話して聞かせたあと、喋りすぎたな、でもキミはええとこの子やから
できたら怖い目に合うて欲しないんや、と言って笑った。
美童はなんだこいつ、そんなに嫌な奴でもないじゃん、と一瞬思ったが、
彼は去り際に、俺のことちょっとええ奴やと思たやろ?と、見透かしたように言ったので、
美童はすぐにその考えを取り消したのだった。
剣菱邸でベッドに潜り込んでもう1時間、悠理はまだ震えていた。
野梨子、美童、魅録の三人は、そんな悠理を心配しつつ、今日の報告をし合った。
「やっぱりさ、もう関わらない方がいいんじゃない?」
美童が悠理にもう一枚毛布を掛けてやりながら言う。
「でも……」
野梨子は言葉を濁す。
「俺も、もうあんまり深入りするのは危ないと思う、が」
魅録も美童に賛成したが、その一瞬あと、野梨子に視線を移して、にやりと笑った。
「お前は退きたくないんだろ?」
野梨子は頷いた。
「雪子さんも簡単には見つかりそうもないし、止めておいた方がいいっていうのは分かりますわ。
でも、私は天寿さんがそんなに悪い人物だとは思えませんし……」
「命狙われてるって聞いてんのに、今更見捨てるわけにはいかない」
魅録が野梨子の言葉を継ぐ。不安げな美童に一瞥をくれると、もう一度野梨子に向き直った。
「奇遇だな、野梨子。俺も同じ意見だ。俺もあのおっさん、結構好きだしな」
「ちょっと魅録……」
形勢不利になった美童には、この2人を論破する根性はなかった。
そもそも始めからこの2人が『もうやめる』などと言う訳がないとは分かっていたのだが。
本日は以上です。お邪魔いたしました。
>白鹿野梨子の貞操を狙え
今日はうpがたくさんあってうれしいな〜
天寿さんの正体が朧げに見えてきたわけですが
悠理が見たものは一体なんでしょう。
続きよろしくです。
>檻
私もパソコンの前で吹いてしまいました。
財閥マニアと美童のメモがかなりツボでした。
前回と前々回のうpの時のしっとりとした展開も、こういうギャグもどちらも
楽しめますね。
結婚式、一体どうなるのか、続きを楽しみにしています。
>白鹿野梨子の貞操を狙え
天寿の周囲が見えてきましたねー。
謎はかなり残っていますが、それらが今後どのように繋がって
いくのかが楽しみです。
それから、可憐に騙されたままの清四郎(wも気になります。
暴走愛うpします。清×可、清×野です。
>>42 肩を揺さぶられて可憐は目を覚ました。
自分を母が心配そうな顔で覘き込んでいるのに気がつく。
ベッドから身体を起こすと制服を着たままであった。
学校から帰って着替えもせず横になっているうちに、眠ってしまったらしい。
窓の外はすでに日が落ちて真っ暗である。
ぼんやりと窓を見ると、ガラスに生気のない自分の顔が映っている。
これが学校一の美人と言われたあたしの顔だろうか。
ひどい顔だった。目は窪み頬はこけ、髪が乱れている。
ここ何日か普段の身体の手入れにも身が入らず、何もケアをしていなかったせいだろう。
そして、もちろん精神的なストレスのせいもあるに違いなかった。
窓に映る自分をじっと見つめる。
ガラスの中の彼女は呆れたように微笑んだ。
一体そこで何をしているの?
彼女は驚いたような顔をし、次に困った顔を作った。
そして何かを堪えるように顔を歪めた。
歪んだ瞳の端から水滴が零れ落ちた。
ふっと息を吐き、自分の頬に狙いをつける。
びしっと音を立てて頬を張った。
「いい加減にしなさい、よっと」
カーテンを勢いよく閉めると、可憐はやっと声をかけて制服を脱ぎ捨てた。
ダイニングから良い匂いが漂ってくる。
「驚いた? いつも可憐に任せてるからたまには作ってみようと思って」
けして料理が好きではない母がエプロンをしめて、台所に立っていた。
席についた可憐の前にハンバーグとつけ合わせの人参が載った皿が置かれる。
ハンバーグは少々硬かったが懐かしい味がした。
席に着いた母を黙って見つめた。母は照れたようにフォークを手に取る。
「ちょっと元気が無かったでしょ、ここんとこ。気になってたの。
ママの料理でも食べて元気出してもらおうと思って」
「ママにはかなわないな。何でもお見通しなんだから」
微笑む娘に母は快活に笑った。
「そりゃそうよ。伊達に小皺は増えてないんだから。相談に乗ろうか?」
「……ありがと。でも、いいの。もう終わったから」
黙々と食べる可憐をあき子はじっと見つめる。
「……失恋した?」
「……そうね」
心配そうな母の顔を見て可憐は噴き出す。
「大丈夫よ。二、三日したら元に戻るから。ちょっと感傷的になってるだけだから」
「それならいいけど」
食後、後片付けをしながら可憐はふと母親に質問する。
「パパが死んだ時ってママ辛かったよね?」
「当たり前でしょ」
「どうやってその辛さを乗り越えたの? パパを失ったショックから立ち直るのにどれ位かかったの?」
あき子は娘の問いに答えず、テーブルの上を拭き清めた。
やがて全部拭き終わると、椅子に座りテーブルに肘をつき、祈るように手を組み合わせた。
「――実を言うとね、可憐。パパを失った痛手から立ち直ってるかどうか、ママにもまだ
わからないの。ずっと考えないようにしてきたから。考えて、気持ちの整理がついたら
その瞬間に自分の中のパパが本当に死んでしまうような気がして。考えないように、
考えないようにしてたわ。だから、パパとの思い出の品とか、見ると思い出すから
全部捨てちゃって……」
「ぜ、全部?」
初めて聞く事実だった。物心ついた時から家の中にパパの遺品と呼べるものが、極端に少ないのに
気づいてはいたのだが。パパのことに触れることは長らく黄桜家のタブーだったのだ。
なぜなら、パパの話が出ると母が荒れることに幼い可憐は気づいていたから。
「そうでもしないと、とても生きていられなかったのよ、あの時は。
今みたいに狡賢く図太くなかったからね」
そう言うと、あき子はおもむろに可憐を抱き寄せた。自分と同じくらい身の丈がある娘を
力任せにぎゅうと抱きしめる。
「可憐。あなたが全てだったの、私は。あなたがいなかったら、ずっと昔に死んでたわ。
あなたがいたから生きてこられた」
「――ママ」
ずっと母を尊敬していた。父のいない穴を埋めて余りあるそのエネルギーを、仕事以上に
自分に注いでくれた。頼もしい彼女は可憐にとって母であり、父でもあった。
母が今、自分のことを全てだと言った、その同じ言葉を彼女に返したかった。
大切に育ててくれた母にいつかその感謝の気持ちを倍にしてプレゼントしたい。
大切な、大切な母だった。
可憐の頭が母の胸から引き離された。
「さてと、寝るわ」
「……うん、って、ええっ。台所の片付けは?」
「可憐ちゃん、お願いします〜。明日早いの。お友達と京都で懐石食べてくるから」
さっきまでの神妙な様子はどこへやら、調子よく出て行く母を見送った可憐は
台所に入って絶句する。
材料の残りは出しっぱなし、調理器具は使ったそのまま、あたりにソースやら油やら飛び散り
床には野菜の皮が落ちている。
しばらく呆然としていた可憐はやがて笑い出すと、鼻歌を歌いながら片付けに取り掛かった。
手がかかるママだわ。これじゃあ結婚したくても心配でできやしないじゃない。
可憐は自分の手の中の幸せに感謝し、腕まくりをした。
「また考え事をしてますのね。――一体、どなたのことを考えてらっしゃいますの?」
清四郎は隣で共に帰り道を歩く野梨子に目をやると、微笑んだ。
「いや、別に……」
「可憐のことですの?」
心臓が弾き飛ばされたような思いをする。思わず歩みを止めて、野梨子を見る。
野梨子は薄く微笑んだ。
「あまりダンスの練習に身が入ってないみたいですものね、可憐。気になりますわね」
やや安堵した清四郎は話を合わせる。
「そうなんですよ。もうすぐ学園祭だというのに、これでは……」
「私たちが元通りお付き合いしているのがショックだったんじゃありません?」
漆黒の瞳が清四郎を見ている。
真剣な眼差しが清四郎に向かっている。
清四郎は何か考えているようだったが、やがて野梨子に静かなところに行きましょうか、と言った。
公園にはグラウンドで小学生の男の子が二人、キャッチボールをしている他は誰もいなかった。
清四郎はベンチに座るよう野梨子に進めたが、彼女は断ったので
二人で藤棚の柱に寄りかかるようにして立つ。
「……可憐とのことを話してくださいな」
野梨子は清四郎に勝負を仕掛けていた。
今はただ全てをはっきりさせたい、その気持ちでいっぱいだった。
白黒つけて終わるなら終わらせてしまおう。どの道、この不安定な精神状態が持ちはするまい。
清四郎が可憐の元へ行きたいのならそれでいい。
だがその決心は清四郎を前にして、もろくも崩れ去る。
心の内をけして覗かせない顔がこちらを向いている。
いつの間にか自分よりはるかに高くなってしまった幼馴染は、一体いつから
ポーカーフェイスになったのか、思い出せない。
読めない瞳が野梨子を見ている
「いや……わざわざ話すまでもないですよ、野梨子のお察しの通りです。……すみませんでした」
一瞬の間の後、野梨子の全身を小さなナイフの群れが襲う。
ひどい痛みに野梨子の口元がわなないた。
予想していたはずなのに、本人の口から直接真実を告げられるとダメージが大きかった。
次の言葉が全く見つからない。苦労して呟く。
「いつから……いえ、どちらから……ですの?」
「……野梨子。正直、僕がこんなことを言うのは筋ではないし、その資格もありません。
野梨子が聞きたいというのなら、全部話すべきだとも考えました。ですが」
野梨子は自分の腕が優しく掴まれたのを感じた。
「こんなことは、本当に僕が言うべきことではないんですが、聞かない方がお互いのためです。
もし、今後も付き合いを続けていくのであれば。……もう終わりにしたいというのなら話は別ですが。
それにしたって、たぶん腹が立つだけだと思います」
清四郎は野梨子の顔を覘きこんだ。
「もう終わりにしたいですか?」
はっと清四郎の顔を見返した野梨子の瞳にみるみる内に涙が盛り上がってくる。
無言のまま首を振った。野梨子は清四郎の制服の上着に頭を預けて涙を零した。
「清四郎は……狡いですわ。私からさよならなんて言えるはずないのに……」
「……すみません、野梨子」
本当に申し訳なく、悲しく思って清四郎は野梨子の細い体躯を抱きしめた。
野梨子はか細く擦れた声で呟いた。
「可憐のことがお好きなら、あの人のところへ行ってください。私、恨みませんから……」
「……野梨子、可憐のことはもう終わったことです」
本当に?と大粒の涙を流しながら呻く。
「信じてよろしいんですの? 本当に? だってまだ可憐のことが忘れられないんでしょう?
いつも彼女のことばかり考えているじゃありませんの!」
清四郎は言葉につまった。
さらに涙を流すと野梨子は悲しげに訴えた。
「清四郎はひどいですわ…… 私に期待させないで。でなければ可憐のことを忘れて、お願い……」
「野梨子」
「私、私もう我慢できな……」
ふいに清四郎は野梨子を愛おしいと思った。この人は、なんと純粋に真直ぐに人を恋うるのだろう。
例えその相手が僕だとしても。
清々しいライン上をただの一度も揺らぐことなく、真直ぐに僕に向かって歩いてくる。
それに比べて僕たちは、いやこの僕は、何と不純で邪なことだろう。
僕がした過ちはつぐなわなければならない。
そして彼女の期待に応えなければいけない。いや応えたい。
野梨子の頭上に清四郎の真面目な声が降ってきた。
「野梨子。約束します。僕は可憐のことを忘れます。だから、野梨子も、できれば聞かなかった
ことにしてください。これからあなただけを真直ぐに見たいんです」
不安そうな面持ちで野梨子が清四郎に問う。
「本当に? 清四郎。 本当に忘れられますの、可憐のこと?」
「本当です。野梨子」
「本当に? 私、信じてもいいんですの?」
清四郎の答えにも野梨子の不安は拭われない。
彼女の心に広がった靄は、すでに野梨子から視界を奪っている。
続く
>暴走愛
泣き出す野梨子のところで一緒に泣きそうになりました。切ないなあ。
でも、このお話の野梨子は切ないのになんだか可愛くて萌えます。
ここから、あの1章にどうやって繋がっていくんでしょうか。
続き、お待ちしてます。
>暴走愛
お待ちしてました。
野梨子は再び清四郎を信じるのか?
そうするとまた裏切られるわけですよね?
切ないですね。本当に・・・。
短編うpします。
8スレです。
放課後それぞれのクラスから生徒会室に集まった6人。
生徒会役員としての仕事を済ませた後、誰かの提供した話題で一頻り盛り上がる。
そして、静寂が訪れた・・・。
携帯電話を操作しながらぶつぶつ言ったりニヤニヤする美童をみて可憐は溜息をついた。
全く・・・。また女の子のチェックかしら。まめよね本当に!
こんな女たらしのどこがいいのか・・・。ナイト気取りだけど、危ない所ではすぐに逃げ出すし、役立たずなのよねー。
だけどミュスカの時は体を張ったわよね。あの軟弱者がって感心したわよ。
本当に好きになった女性にはあんな態度とるのかしら?
プレイボーイを本気にさせるっていうのもちょっと面白そうよね!
軟弱でなければ美童も良いセンいってるし。まあ、一昔前の男かもしれないけど。
何気に玉の輿かもね。ヨーロッパで社交界デビューっていうのも良いじゃない!
「KAREN」って香水作ってもらったりして・・・。素敵!!
近くに居過ぎて気づかなかったけど、私の白馬の王子様って・・・。
私が本気でせまったらどうなるかしら?
私だけに振り向いてくれるかしら?
あっ、スウェーデン料理ってどんなあったかしら?検索して出てくるかなー?
可憐は携帯電話で、グルメサイトの検索を始めたのだった。
携帯電話を操作しながら、美童は溜息をつく。
写真つきの携帯って便利だけど、浮気対策に使われるとは思わなかったな。
昨日だって「今どこにいるのか写真送って」なんて・・・。
別の彼女と会ってる時に送れないよ。
僕、あんまり束縛されるの好きじゃないんだよね。
メモリも一杯になってきたし少し整理しようかな。女の子も・・・。
もて過ぎるのもほんとに罪だな。
女の子泣かすのは好きじゃないけど、仕方ないよね。これじゃ、体持たないもん。
僕になびかない女の子なんていないよね。どんな子でも、落とせる自信あるよ。
どんな、どん・・・な・・・?
あ〜!こいつはどうかな?恋なんてしたことないんだろうなー。
次のお菓子に手をのばす彼女が目に入った。
結構好きな奴には一途だったりして。甘えん坊だし、かわいいとこもあるんだよな。
こいつ落としたら本当の男だな。僕だけに見せる姿って・・・。
フフッ・・・。やりがいありそー。
でも、ストレートにアプローチすると暴力で抵抗されそうだ。力じゃ適わないしな。
やっぱり、基本的欲求の“食”の欲求を満たすところから始めるべきかな〜?
決めた!これからは僕も一途な恋ってやつをしてみるか。
みんなバイバイ。美童は携帯電話の女の子のメモリを消去した。
「これ父ちゃんから預かったんだ」 自分の渡した葉書を読む魅録を見て悠理は溜息をついた。
英語だったから読めなかったな。なんて書いてるんだろな?
魅録って今でもチチのこと好きなのか?
何か気になるな・・・。
あれっ?あたいって魅録のこと好きなのか?
いやっ!違うよ!
あたいは、自分より強い男がすきなんだ!でも魅録とは喧嘩したことないんだよなー。
真剣にやったらどっちが強いんだろー?でも魅録と喧嘩する理由なんてないもんな。
どうやったら、どっちが強いか分かるんだー?
清四郎の時みたいに決闘するわけにいかないだろうし。
魅録に喧嘩ふっかけてもまともに相手してくれないだろうし・・・。
うーん困った・・・。どうしたら良い・・・?
強いか弱いか分からないと決められないよ・・・!
悠理は次のお菓子に手をのばしながら悩み続けるのだった。
悠理に渡された、あの夏恋した南国の王女チチからの葉書を読んで、魅録は溜息をついた。
「・・・私は神に御仕えすることになりました。神以外に愛したのは魅録だけです。
お元気で。・・・・・」
神に仕えるってことは一生独身ってことだよな。
もう会うこともないって思ってはいたけど、なんか寂しいな。
だけど、最近気付いたんだ・・・。
チチと彼女が似ていることを。
瞳の強さだったり、気の強さだったり。 守ってあげたくなる儚さだったり。
俺って気の強いお嬢様に弱いのか?
だけど、彼女は一人の男以外に興味ないんだよな。
その男は俺の友達だったりするわけで・・・。
二人は両思いだけど、付き合ってはないと思うんだ。
あれ以来会ってもないんだろう。
友達を裏切るなんて俺には出来ない。でもこのまま気持ちを抑えておく自信もないな。
あ〜。2回目の失恋か?情けないな、俺って・・・。
再び溜息をついて魅録は葉書を破った。
お気に入りの作家の本を読みながら野梨子は溜息をついた。
駄目ですわ。全然文章が頭に入らない。
父さまも母さまも「金沢、金沢」って。父さまは展覧会、母さまはお茶会で金沢に
お出掛けですって。「一緒に行きませんか?」って誘われましたけど・・・。
私にとって、金沢は大切な想い出の方がいる場所なんですのよ。
行くのも勇気が要りますのよ!
せっかく行くのならやっぱりお会いしなければ気が済みませんわ。
でも今更お会いしても迷惑かしら?もう別にお付き合いしている方がいらしたら・・・。
どうしたら良いのかしら?
でもどうして裕也さんのことを好きになったのかしら?万引きはするし、父さまの
画も盗んだし。絶対に許せない行為のはずなのに。
私を酔っ払いの大学生から助けてくれたから?清四郎にはいつも助けてもらってますわね。でも触れられてもドキドキなんてしませんわね。
ルックス?魅録に似てますけど、魅録を見てもドキドキしませんわ。
「美童みたいに女たらしだった」って悠理が言ってましたわね。その頃お会いしていたらきっと好きになっていませんわね。
このまま悩んでいても仕方ないですわね。決めましたわ!
でも皆には内緒で行った方が良いですわね。特に清四郎には・・・。
野理子は本を閉じて一人微笑んだ。
新聞を読みながら皆が溜息をついていることに気がついた。
どうしたんでしょうね、皆。
美童と可憐はまた恋の悩みですか?全く毎回懲りませんね。
珍しく悠理も悩み事ですか?でも食欲はあるようですね。
おや?魅録もですか?チチからの葉書って悠理が言ってましたね。
何が書いてるのか知りませんがあの様子じゃ良いニュースではなさそうですね。
野梨子もですか?
他の皆は気付かないけどあの日から時々遠い目をするんですよね。
きっと今も彼のことを思っているんでしょう。
それにしても野梨子の初恋の相手は僕だと思っていたのに・・・。
ショックでしたよ。
僕の初恋は。あれっ?いつでしたっけ?まだ・・・?
可憐の言うように高校生で色恋に興味ないのは変ですかね?
まあ、もてないわけじゃないから心配は要りませんね。いざとなれば・・・。
あっ、でも男からも何故かもてるんだった。誤解されないようにしないと。
変な噂立てられかねませんからね。でもどうして、男からもてるんでしょうねー?
そんな風に見えてるんですかね?・・・・。
読んでいた新聞を置き「うーん」と唸り声を出していた。
静寂が清四郎の唸り声で破られた。
5分前の騒々しさが再び生徒会室に訪れた。
清四郎以外の五人には新たな恋心も訪れた。
それぞれの恋の成就は・・・。
早朝一気うp失礼しました
>6stories
おもしろい!!!
途中まで完全に、有閑内でループする恋の独り語りかと思ってましたが…
オチの清四郎がイイ!
いい意味で期待を裏切られましたw
短編うpします。4スレ程になります。
野梨子がブラックなので、苦手な方はスルーお願いします。
ある冬の夜。マンションの一室。
白鹿野梨子はベットの上にいた。
横ではソバージュの女・可憐が
まっすぐな表情で自分を見つめている。
恋とは不思議なものだ。そう思う。
昨日まで、悠理に抱かれたくて
愛おしくて、たまらなかった自分が、
今はもう1人の女性に抱かれている。
「野梨子、今日はずいぶんと積極的じゃない?
悠理に振られたからってやけになることないわよ
今は私がいるんだから」
そう呟きながら、野梨子の雪のように白い肌に
細いしなやかな腕を滑らせる。
「そう言う可憐こそ、美童はどうしたんですの?
付き合っていたって聞きましたけど」
子供じみた嫉妬・・・
そんなことは分かっている。
しかし、問わずにはいられなかった。
「あんな男、とっくに別れたわ。久しぶりに
本気な恋愛したつもりだったけど
もう疲れちゃった。今はあんたがいい」
そう、可憐にとって自分は美童の代わりなんだ。
そんなことは抱かれたときから分かっていた。
それでもいい。この瞬間、
彼女に抱かれているのは
彼女に触れられているのは
美童ではなく、自分なのだから。
野梨子の心はすでに可憐への
強い独占欲で満ちていた。
私を愛していると言ったくせに
他の男と寝た悠理。
私を愛していると言ったくせに
可憐と寝た美童。
許せなかった。愛には悲しみは切なさの他に
強い欲望や嫉妬が付きまとう。
私を抱かなかったことを後悔させてやる。
そう思った。
最初はそれだけだった。
しかし、抱かれるにつれて
可憐の美しい体、声に夢中になった。
自分を裏切った美童から奪ってやろう・・・。
新しい恋は私に強い決心をさせた。
「ねえ、可憐。話があるんですがよろしいかしら?」
「なあに?」
「私と本気の恋、してみませんか?」
そう囁いた野梨子の表情は、まるで小悪魔のような
不敵な笑みを浮かべている。
「ふふふ。あんたも言うようになったのね。だけど
その表情、ゾクゾクするわ」
そうしてふたつの唇が、白いシーツの中で溶け合った。
二人が行方不明になったのはそれから数日後のこと。
愛という名の復讐。
私とあなたが奏でる愛と復讐の輪舞曲
(オワリ)
オワリです。どうもありがとうございました。
>6stories
ワラタ。オモロイです。
なんだかレズ花盛りですな。春の陽気のせいかしら…
それより悠理が寝た他の男ってのは誰だったのだろう。
この話に限らず描かれなかった部分が気になる今日この頃w
4スレとは長いお話ですな。とか茶々いれてみるw
>暴走愛
うーん、読んでいてじりじりしてしまいます(涙)。
確か、一章で「可憐は医者を目指していた清四郎ではなく、豊作を選んだ」
という設定でしたよね?
ということは、やっぱり二人はよりを戻すんでしょうか。
その時の魅録や美童の出方は!?とかいろいろ考えちゃいますね。
とにもかくにも、続きが気になるお話です。
>6stories
爆笑。野梨子はまだ裕也なんですね。で、清四郎がオチですか。
ヤツはいまだ恋知らずですか...。
いや、予想外の展開で面白かったです。
>133
その上に8スレっていうのもあるんだぜw
今回なーんかレス消費早いねえ
>暴走愛
本当に野梨子がせつないです。
野梨子のような潔癖で誇り高い人は、可憐に心が向いている
清四郎なんかからは、触れられたくもないと思うんじゃないかと
考えたり、一方、深く愛してしまったらそんなことどうでもいいから
側にいたいと思うのだろうかと想像したり。
どちらが正しいという問題でもないから、すごく考えさせられます。
深い話だあ。作者様すごいなあ。
暴走愛うpします。清×野です。
>>111 抱き寄せれば抗いもせず、しんなりと添ってくる。
見つめればじっと見つめ返してくる。
絹のように艶のある黒髪が誘うようにさらさらと音を立て揺れ、
しっとりと肌理(きめ)細かな皮膚が吸い付いてくるようだ。
彼の腕の中の野梨子は、だが余りに小さく弱々しい。
恋人に抱きしめられてもどこか冷めた表情をしている。
初めて清四郎から、その桜のように淡く小さな唇に接吻された時も
微笑んだのは一瞬だけで、すぐに不機嫌になった。
「可憐にもこうやってキスなさったの?」
彼女がこんなふうにすぐに可憐を持ち出すのは今に始まったことではない。
何かにつけて、野梨子は清四郎が可憐と共にした様々なことを想像し、
悲しい気持ちになって塞ぎこんだ。
そして清四郎に涙ながらに愚痴を言う。
「可憐みたいに明るい女でなくてがっかりでしょう?」
それに対し清四郎は大概微笑むだけだ。弁明すらしようとはせず、ひたすら黙っている。
野梨子の持って行き場所のない憤りを、ただひたすら吐き出させようとしているらしい。
彼女が怒りをぶつけてくるのを、むしろ望んでいるかのようだった。
そうやって彼女が気持ちを洗いざらいぶちまければ、そこから何か新しい関係が
生まれ出てくるだろうと思っている。
あるいは贖罪のつもりだったのかもしれない。
しかし清四郎の思惑とは裏腹に、野梨子はどんどん塞ぎこむようになってきた。
そこに至ってやっと清四郎は、自分と野梨子との間の信頼関係が全く修復されていないのだと
気がついたのだった。
清四郎が助手席のドアを開け、少し気取って野梨子に乗るように即すと、
彼女は本当に嬉しそうに笑った。
久方ぶりに見た彼女の笑顔に自然清四郎も気分が明るくなる。
菊正宗家は仮にも主人が大病院の院長というのに、その彼と彼の家族の無頓着さで
長らく古い国産車を愛用していた。その愛車がついにガタが来たので
新車――と言っても前任者と同じメーカーの、いかにも若者が嫌がりそうなデザインのもの――
の登場となったわけである。
新しいだけあってアクセルを踏み込むと滑るように加速する。
これ以上はないという位、踏まなければいけなかった前の車とはえらく違うな、と思いながら
清四郎は助手席の野梨子に目をやった。
野梨子は窓を開け、心地よさそうに風に吹かれている。
やがて赤信号になり停まると、清四郎は微笑んで野梨子に話しかけた。
「良かったですよ、車で出かけることにして。とても気に入ってくれたみたいですね」
野梨子は心から嬉しいという笑顔で答える。
「ええ。気に入りましたわ。とっても。嬉しいですわ、この車に乗って。だって」
歩行者用の信号が点滅し始める。清四郎はアクセルを踏む用意をした。
「だって、この車には可憐は乗ったことがないでしょう?」
気がつくと後ろで何台もの車がクラクションを鳴らしていた。
しびれを切らした後続車が次々と、清四郎たちの車を追い越して行く。
「清四郎?」
クラクションの音に脅えたように野梨子が清四郎の腕を掴んだ。
交差点を前にして立ち往生していた車がよろよろと走り出し、左折すると路肩に停まった。
停車させると清四郎は疲れたように運転席のシートに凭れ、
右手で両目を覆った。
「もう、やめませんか。可憐の話をするのは」
野梨子は向こうを向いている。
「そんなに許せませんか、僕のことが」
やけにひんやりとした声が返ってきた。
「許せませんわ」
清四郎は両手で顔を覆うと大きくため息をついた。
「……どうしたらいいですか。どうしたら許してもらえるんですか、野梨子」
「そんなことわかりません」
歩道を少年が自転車に乗って走り去っていく。
清四郎は野梨子に向かって身を乗り出す。
「僕が悪かったですよ。本当に。ですがこうやって昔のことを蒸し返してどうなるって
いうんです? それとも駄目にしたいんですか?」
野梨子は無言だった。
清四郎は一瞬ためらった後、ゆっくりと切り出す。
「僕のことがどうしても許せない、僕といるのが辛いというなら野梨子、ぼくらは……」
「そうやって」
語気も荒く、野梨子が振り返った。怒りで肩を震わせている。
「そうやって清四郎は何も私にしてくれないんですのね。
私だって好きでこんな思いをしているわけじゃありません。可憐のことだって拘りたくない。忘れたいですわ。
……でも、何をしても可憐のことを考えてしまう。
清四郎はどんなふうに可憐と話をしたの。どんなふうに可憐とキスをしたの。どんなふうに、どんなふうに……!」
野梨子の言葉に清四郎ははっとする。
「野梨子」
「……なのに辛い気持ちを私にだけ押しつけて、あなたは知らない顔。
私が聞きたいですわ。どうしたら? どうしたら?」
野梨子は泣きじゃくりながら、清四郎を叩いた。
「どうしたら忘れられますの? あなたに裏切られたことを。信じてたのに、とても信じてたのに!」
清四郎は黙って野梨子に叩かれ続けた。
「どうしたら、一体どうしたらいいんですの? ……お願い、清四郎。私に可憐のことを忘れさせて……」
清四郎はひどく沈んだ瞳で野梨子を見た。
彼女の涙を手で拭うと、そっと顔を寄せ長いキスをする。
やがて前を見ると、キーを回した。
「行きましょう」
二人を乗せた車は何処かへと去って行った。
続く
野梨子かわいそう。一度裏切りを認めた男と一緒に
過ごすのは女にとって苦痛だよ。精神的にまいって
鬱病とかになっちゃうんだよ。
だから関係を続けたいなら男はどんな嘘ついてでも認めちゃ
いけないんだよね。認めて謝るなんて清四郎、最低男だよ。
野梨子、魅録の方へ行っちゃえ!
>暴走愛
うわあー……これは本当に野梨子がかわいそうですね。
心に相当傷が残りそうですよ。
気持ちが残ってたとしても、最終的に清四郎とくっつかなくて
彼女にとっては良かったのかも、と思ってしまいました。
そんな風に野梨子にものすごく肩入れしてしまうくらい、お話
としてははまって読んでいます。
かわいそうな野梨子、と思う半面 嫌な女だな清四郎早く別れてしまえと思っちゃう
作者タンの思う壺なんだろうな、私等w
暴走愛 >ふいに清四郎は野梨子を愛おしいと思った。
ようやく清四郎は野梨子への愛に気づいたのかな。
でも、もう遅いかも。野梨子の心には冷めたものがありますね。
倶楽部などで、清四郎と可憐と同時に会ったり話したりすることも
あるんだろうから、野梨子にとっては苦しみの日々ですね。
野梨子のどう処理していいか分からない怒りや悲しみの心理描写が
本当に素敵です。
謝って優しくしていれば、関係が修復すると思ってる清四郎って甘いですよね。
>144
確かに作者タンの思う壺だ。w
私は野梨子を嫌な女だとは思わなかったけど。
私も野梨子を嫌な女だとは思わないけど。
どういう点で野梨子を嫌な女だと思うのかしら。
漏れは144タンじゃないけど、やっぱりイヤな女だと思ったよw
自分が清四郎と一緒にいたいと望みそれを選んだ以上、清四郎を責めるのは違うだろ。
自分で選んだ人生の責任は自分で取れ。誰かのせいにするのはおかしい。
それに思ったこと全てを口にすることが正しいことだとは思わないし。
つらいのはわかるし、浮気に関しては清四郎が全面的に悪いんだけど、押したら男は引くぞ、野梨子よw
おお、読みに来てみたらなんだか熱い展開が。
それだけ皆はまってるのねー。作者タンすごいなあ。
漏れは>148タンの言いたいことも分かるが、友達と恋人に裏切られてぐちゃぐちゃに
なってる野梨子の気持ちもよく分かるなー。
てか、そこまではっきり嫌な女とまでは言い切れないや。
野梨子自身もどうしようもできなくなってるんだろうなーというのが読んでて受けた印象かな。
あれだけのショックを受けて、いきなりそう簡単に気持ちをまとめることって人間難しいだろうし。
言葉で言い切ることは簡単だけどね。
ま、でも、原作のままの野梨子だったら、もっと毅然とした態度に出るんじゃないかな、とオモタ。
それこそ>148タンみたいなことを言って、つらくても自分で行動を起こしそう。w
野梨子がどうこうというよりも、私には単にこの話の清四郎がどっちつかずで
思わせぶりなだけにしか思えないんだけど……。流されすぎというか…。
「死の棘」思い出した。やりきれない・・・
まあここは野梨子スキーが多いからね
その点で野梨子に肩入れする人も多かろう
漏れはどの人物の感情もわかる
簡単に気持ちを切り替えられるなら誰だってそうするし
それが出来ないから清四郎も可憐も野梨子も辛いわけで
漏れはとりたてて野梨子スキーという訳じゃないけど
この清四郎と可憐はちょっと感情移入できないな。
これに巻き込まれてる悠理や豊作さんがかわいそうで。
他メンバーは皆幸せにね、と思うけど、清四郎と可憐は
二人でどこまでもいっちゃってくださいという感じ。
もしそれが作者タンの狙いならまんまとはめられてる訳だが〜。w
こういう展開が好きな人にはたまらないのかもしれんが、
あたしにゃ暴走愛はちょっと重いや。
6storiesはクスクス笑いながら楽しく読めたよ。
作家様ありがとう。
暴走愛うpします。
昼ドラ泥沼系なのでダークが苦手な方は申し訳ありませんが、
どうかスルーお願いします。
清×可×野、魅×野です。
>>141 朝だというのにヘリコプターが爆音を鳴らして聖プレジデント学園の上空を
飛び回っている。
事件でもあったのかな。
空に気を取られていた魅録は「おはよう」という声に何気なく振返り、
そしてどきりとした。
野梨子が清四郎を伴って彼の後ろに立っている。
「お、おはよう」
悲しいかな心臓が走り始める。あの一件があって以来、魅録は野梨子に微妙に
避けられていると感じていたので、余計緊張する。
しかし今は清四郎も一緒なのでこの緊張を気取られるわけにはいかない。
それとも今頃は野梨子に迫ったことを、清四郎にも知られているのだろうか。
歩きながら野梨子の横顔を盗み見た魅録は、彼女の雰囲気がいつもと違うことに
気がついた。
もともと細い彼女だったが、さらに顎のラインがすっきりとしたような気がする。
ぬけるように白い肌が今朝は真珠のように輝いている。
他愛もない会話を清四郎と交わす様は、いつもと変わりなくも見えた。
だが魅録は首を捻る。
なんだ、この違和感は?
「野梨子、何かあった?」
校舎に入り、それぞれのクラスの別れる段になって魅録は何気なく野梨子に話しかける。
一瞬野梨子の視線が泳いだのを魅録は見逃さなかった。
「えっ、それどういう意味ですの?」
「……なんか雰囲気変わったからさ」
野梨子が困ったような恥じるような笑みを浮かべた。
「それは、髪型のせいじゃありません? 前髪が長くなったのでピンでおでこを出してる
からですわ。変ですかしら?」
彼女の言う通り、珍しく前髪が黒いピンで留められ額が顔を出している。
ああ、そうか。野梨子はだいぶ髪が伸びたんだ。いつの間にか後ろの髪も肩にかかる程に
なっている。だが、彼女の変化の理由はそれだけだろうか。
いや、変じゃないよ、と言いかける魅録にかぶって、清四郎が野梨子に声をかけた。
「お先に」
あっと声を出して清四郎を振返る野梨子を、魅録は目を見張って見つめた。
彼女の瞳に初めて見る艶を感じ、たじろぐ。
清四郎に半ば身体を向けた野梨子の瞳から、唇から、いや彼女の躯体全てから
目に見えない霧が立ち昇り、清四郎に向かって流れて行く。
去りかけた清四郎は野梨子の瞳に意味に気がつくと、うなずいて戻ってくる。
野梨子の身体から立ち昇る芳香にも似たそれは、たちまち魅録を酩酊させた。
濃い霧が野梨子を包んでいる。
霧の向こうに見え隠れする彼女は異国の女のように、神秘的で幻惑させられる。
野梨子は魅録の知らない言葉で知らない国の歌を歌っている。
魅録は離れた場所で知った。
ああ、そうか。
清四郎に肩を抱かれて魅録を後にする彼女が少し振返った気がした。
吊り下げられた色とりどりのドレスの海を可憐と野梨子は泳ぎまわった。
海のように深いブルーのドレスを手に取って見る可憐に野梨子が声をかける。
「やっぱりレンタルはやめませんこと、可憐? イメージに合うのが見つかりませんもの」
「ん……そうね」
そう言いつつ可憐はドレスを見るのをやめない。
やや怪訝な顔をした野梨子に気がついて照れたように言い訳した。
「あ、ほら、さ。オーダーってけっこう高いじゃない?」
軽くため息をつくとドレスを離した。シャラと音を立ててドレスが戻る。
「あんまりこういう話したくなかったんだけど、うちって最近経営が苦しいみたいなのよ」
野梨子の顔を見て、焦ったように続ける。
「やめてよね、そういう顔するの。別に同情してほしくて言ったわけじゃないわ。
ただ、そういうことだから、無駄な贅沢は控えようと思ったってこと。
ほら私って理想のスタイルだから、オーダーしなくてもサイズは結構合うのよね。
あんたはチビだし、悠理はがりがりだからオーダーにしなさいよ。合うの探すの大変だから」
「……わかりました。私の母の友人に洋裁が得意な方がおりますの。その方に三人分
お願いしてみますわ」
思いがけない野梨子の提案に可憐は少し考えたが、ぷいっと横を向いた。
「いいわよ。学園祭まで一ヶ月切ってるのに無理よ」
「駄目元でお願いしてみますわ」
「いいって!」
強い語調に野梨子も自然ムッとする。
「なぜ頑なに否定なさいますの……私がお世話するのはどうでも嫌なんですか」
野梨子の靴の踵が床に当たってコツンと音を立てた。
可憐は黙っている。
「同じ男性を愛した。ただそれだけのことですわ、可憐」
独り言のように野梨子は呟く。
可憐は身動き一つしない。
髪のウェーブまで凍ってしまったかのようだ。
一頃に比べ、明らかに可憐は輝きを失っている。
肌艶は無くなり、唇は乾いている。髪は元気を失い、頬はこけ、瞳はすえている。
かつて飛ぶ鳥を落とす勢いだった友人の美貌を思い、野梨子は胸がつまる。
不思議と可憐を憎む気持ちは湧いてこない。
恋の嵐は彼女から全てを奪い去ったのだろうか。
それ程までにこの人の清四郎への想いは激しいものだったのか。
空恐ろしい気持ちになると同時に野梨子は可憐を憐れんだ。
「清四郎に聞いたの?」
可憐の問いに野梨子はうなずく。
「そう……全部?」
野梨子は答えなかった。
しばらく間を置いた後、「私が悪いのよ」と野梨子に背を向けて話し出した。
「……私があいつに夢中になっちゃって、無理矢理連れ出したの。
すごく迷惑がってたのを無理矢理。だから、あいつは全然悪くないの。
悪いのは全部あたしだから。……許してあげて」
静かな店内に微かにクラッシックが流れている。
野梨子は可憐から目を離さずに問いかけた。
「何回二人で会ったんですか?」
「……二、三回」
息を吸い込むと更に問う。
「……清四郎と寝ました?」
一瞬の間の後、可憐は首を振った。
「ううん」
野梨子が可憐の瞳をのぞきこむ。
「本当に? 一度も?」
「ない。一回も」
「……わかりました」
にっこりと野梨子が微笑むのを、可憐は困惑した顔で見つめる。
「よかったですわ。私、てっきり二人がそういう関係なのかと思ってあれこれ悩んでたんですの。
ほっとしましたわ、本当に」
うつむく友人に野梨子は陽気に喋り続ける。
「ねえ、可憐。傍から見たら私たち、浮気された女と浮気相手の女ですけど
私、なんだか私と可憐って同志のような気持ちですのよ」
「……同志?」
酔ったように野梨子は話し続ける。
「清四郎という同じ男性を愛し、彼の為に悩み苦しんでいる同志ですわ」
そう言うと野梨子は可憐に近づき、可憐を抱きしめた。
うろたえる可憐を野梨子にしては強い力で抱擁する。
「一遍にいろいろなものを失うのは辛いですわ、可憐。もしも、私にほんの少しでも
すまないと思う気持ちがあるのでしたら―――今まで通りに」
もしも、野梨子がさっと顔を上げて可憐の顔を見たら、彼女の表情がひどく辛く歪んでいたのに
気がついただろう。可憐の声は震えていた。
「それって、何も無かったことにしようってこと?」
「そう取ってもらってかまいません」
この世に無かったことにできるものがあるのだろうか。
可憐と野梨子は同時にそう考えていた。
不可解。
妙に色めいて見える野梨子を前にして、可憐の頭にそんな言葉が浮かぶ。
野梨子の表情が微妙に強張って見えるのは、彼女もそうは言ったものの果たして
これでよかったのか煩悶しているらしい。
今まで通りになんてできるのだろうか。
果たしてそんなことが?
清四郎と浮気していたことを野梨子に知られながら、知らぬ顔で彼女の悩みに乗るとか?
考えただけでぞっとする。
しかも自分の中の清四郎への想いは未だ未消化だというのに。
これ以上はない、そう、これは、
これは―――拷問だ。
野梨子は可憐が意を決したように顔を上げるのを見つめた。
「いいわ。今まで通りで……よろしくお願いします」
深々と頭を下げる友人を淋しそうに野梨子は見つめ、微かに微笑んだ。
可憐の疲弊した瞳の中に、嘘と懺悔と、隠しきれない艶が見え隠れする。
その瞳の意味が今の野梨子には痛いほどわかる。
そう今の野梨子には。
可憐。
まだ私に嘘をつくんですのね。
清四郎のために。そしてきっと私のために。
中途半端な思いやりは、私を除け者にして何も教えないことは
余計に私を苦しませることをあなた達は知らないでしょう。
どうか教えてくださいな。
あなたが清四郎をかばう意味を。
清四郎の瞳の色の理由を。
そして、どうか私にとどめを刺して。
私が彼の肌の温もりを忘れられる内に―――。
大好きな可憐。大好きな清四郎。
私は
あなた達の嘘を憎みます。
続く
あら、この重さがいいのよ。さっぱり友情の原作では味わえない恋愛ドロドロ劇。
文章力・構成力とも申し分無い作者さまの手で味わえるなんて幸せ。
最近は原作よりもこっちにはまってます。
あたしゃ、やはり可憐と清四郎は酷いと思うな。野梨子はひとつも
いけないことしてないんだから。
一番ムカツクのは野梨子とやっていこうと決めてからも清四郎が
別れを切り出そうとするところ。野梨子が別れられないことを
わかった上での脅しだよ。狡猾な男ってこういう手に出るよ。(作者タンお見事です)
ところであんなことがあったあと、魅録と野梨子は普通にダンスできたのかな。
おお、書いている間にUPが。
163は154へのレスのつもりでした。
>暴走愛
魅録が不憫。
幸せになれるの?
それにしてドロドロした高校生だ・・・。
>暴走愛
ほんとだ…
魅録、野梨子を救ってあげてくれ!強引でもいいから!
うお、自分の発言からディベートみたいになっててなんだか楽しそうだ!
野梨子が嫌な女に見えたっていうのは、あれじゃぁ男は引くだけだろうなぁと思ったからなんだよね
別れたくないけど文句ってかそういうのも言いたい、って野梨子と清四郎両方に言える事じゃん?
だったら大元の加害者である清四郎を責める権利のあった時に責めるべきだったと思うのね
許して認めて別れませんて言っちゃった後じゃ野梨子にもそんな事いう権利はないじゃん
浮気した男にあんな風に言うのって自分の首を絞めてるだけなのにな、と
きっと作者タンはあえてそういう女に書いてるんだろうな、と思ったから純粋にすごいなぁと思ったのね
作者タンこれからもガンガッテー!
自分の恋愛論を語るのはもういいので、萌える妄想を下さい。
>167
うーん、でもそうすると浮気された側はやられっぱなしじゃん?
文句の一つや二つや三つ…言ってもいいんじゃヨクネ?
てか言われて当然ー。>清四郎
でも結婚してるわけじゃないしなー。恋愛でどこまで相手を縛れるかってとこかな。
恋愛論スマソ
なんか、変な粘着さんが入り込んだね。
野梨子マンセーうざいよ。
ってか、作品論を語り出すの止めようよ。
野梨子スキーの私には暴走愛は途中から涙で霞んで読めません。
作者様が書いてくださっているようにスルーしてまつ。
平和に行きましょ…
>暴走愛
野梨子が印象変わったのって、やっぱ清四郎と
寝たからだよね?
それに魅録は気づいた…んでしょうか?
もう切なすぎ!!魅録に涙。
>170
いや、私、野梨子擁護みたいな意見書いたけど、別に野梨子スキーじゃないんだけど。w
でも恋愛論はそろそろこの辺にした方がいいよね。
この状況だと他の作家タンもうpしにくそうだし。
暴走愛も勿論だけど、他の話の続きも待ってるよ〜
清四郎と悠理のRを、うpさせて下さい。
悠理にベタ惚れの清四郎が強引に迫り、押し切る(?)という設定です。
カップリング等、苦手な方はスルーをお願いします。
前後編で2日に分けます。今日は前編で5レスいただきます。
>でも恋愛論はそろそろこの辺にした方がいいよね
禿同。
わたくしはホロ苦の続きが読みたい〜
いいところで区切れてる〜
「っつ!」
時計の針が深夜0時を指した頃、床に手をついた悠理が小さな悲鳴を上げた。
清四郎が目をやると、薬指の先から血が滲み出している。ガラスの破片で切ったようだ。
「止血しましょう」
彼は言いながらその手を引き寄せると、口に含んだ。
それは6人で訪れた常夏の国での出来事。
豪華な水上コテージはハネムーナー用のダブルタイプしかなく、三室取った部屋割りの
決着がつかないまま、彼らは一室のリビングルームで飲み続けていた。
「スイスん時みたいに、僕と悠理が同室でも構わないけど?リビングにソファもあるし...」
と言う美童に、当の悠理は頷いたものの、なぜか清四郎がOKを出さなかった。
「男3人は同室でいいでしょう?僕がソファで寝ますから」
「え〜...ダブルベッドにヤローと二人で寝んのかよ。いくら美童でも嫌だぜ」
清四郎の代替案に、あからさまに嫌な顔をする魅録。美童は困ったように首を傾げている。
「まあまあ、とりあえず飲みましょ」なんて可憐の軽い口調に始まった飲み会は、意外にも
ヘビーな展開となり、野梨子、可憐、美童の順で脱落した。野梨子と可憐は「とりあえず私達、
同じベッドルームを使わせていただきますわね」と引き上げ、美童は「じゃ、僕、この部屋ね」
と言い、寝室に姿を消した。
そして、とうとう酔いの回った魅録がグラスを落とし、片づけもそこそこにソファで寝入って
しまったのだった。
動物好きな悠理は、床にぺたりと座り込み、ガラステーブルの下を泳ぐ魚たちを覗き込んでいた。
本当は、自分の横顔へと注がれる熱い視線を、どう受け止めてよいものかわからなかったので、
見ているふりをし続けていた、というのが正しいかもしれない。
少し前に、清四郎から愛を告げられていたものの、冗談半分に受け止めていた彼女は、
まともに返事もしないまま、ここへ来てしまったのだった。
マズった、気まずい。先に寝ちゃえばよかったな。起きてるの、二人っきりじゃんか...。
そう思いながら、床に手をついた時にアクシデントが起きたのだった。
また叫びを上げそうになり、悠理は慌ててもう一方の手で口を押さえた。
清四郎はゆっくりと彼女の指をしゃぶり続けている。
「も、もう、だいじょうぶだから...」
手を引こうとする悠理の声が震える。指を這う熱い感触が、悠理を落ち着かなくさせるのだ。
その言葉に構わず、彼は上目遣いに悠理を見つめ、舌をゆっくりと動かし続ける。
じりじりと身体の奥が痺れ始め、悠理はとうとう声を上げた。
「あ......やめ...」
「...漸く止まりましたよ、悠理」
耳に触れそうで触れない位置に唇を寄せ、彼は囁いた。
吐息に刺激され、悠理の身体がびくりと震える。
清四郎のこんな甘い声を、一度だって聞いたことがあっただろうか?
そんなこと、いくら考えたって、思い当たるわけがなかった。
厳しい声、冷ややかな声、呆れた声。悠理の知る彼は、そういうもので構成されていたはずだ。
好きだ、といきなり告白された時でさえ、いつもと大差ない口調だった...はず。
気がつくと、その男の端正な顔が、焦点も合わないほど眼前に迫っていた。ぞくりとするほど
不思議な熱を帯びた瞳で、真直ぐに自分を見据えている。
普段は着もしないTシャツを身に纏い、洗いざらしの髪が額にかかる彼は、見知らぬ人のようだ。
清四郎に見つめられただけでドキドキするなんて、なんかヘンだ。酔っぱらってるからなのかな。
だけど...お尻のあたりがむずむずして、どうしたらいいのかわかんない。目を、逸らせない。
ぐっ、と力強く頭を引き寄せられ、気付いた時には唇が重なり合っていた。初めての感触に
まごついているうちにそれが離れ、ほっと息をついた瞬間、今度は薄く開いた唇が接近してくる。
「え?あ...ちょっ......」
戸惑いを口にする間もなく、ぴったりと吸い付かれる。
熱く、ねっとりとした物体が、歯の間にぐいぐいと割り込んでくる。ほんの少し鉄の味がするそれが
清四郎の舌である事に気付いた悠理は、懸命に胸を押し返そうとするが、彼は右腕で背中を、
もう一方で頭を抱き、思うまま、悠理の口の中を蹂躙してゆく。
頭では、やめろ、と言っているのに、悠理の身体からは次第に力が抜けてゆく。
ふわりと身体が宙に浮いたような気がして、慌てて彼の首にしがみついた。
気が遠くなるほどの長い口づけの途中で、悠理は心地よい風に気付いた。恐る恐る薄目を
開けると、目に飛び込んで来たのは満天の星空。慌てて視線を巡らすと、そこはなんと
コテージとコテージを繋ぐウッドデッキの上だった。浮いている気がしただけではなく、実際に
抱き上げられて運ばれていたのだった。
腕の中で突然もがき始めた女を意にも介さず、清四郎は目的のドアに辿り着くと、
迷わず鍵を開け、寝室へと入ってゆく。
「だ...ちょっ...ちょっと待て!」
今さらながら抗議の声を上げようとする悠理をベッドに放り投げ、ミニバーからシャンパンを
取り出した清四郎は涼しい顔で振り返る。同時に手の中で、ポンと小さな破裂音が響く。
月明かりの中、流れるような仕草で二つのグラスに注がれる淡い琥珀色の液体を、
なす術もなく悠理は見つめた。
「酒の席でそんな格好をされては、もう我慢できませんよ。でも、あそこじゃ、キス以上のことが
できませんからね」
言いながら、清四郎は嬉しそうにグラスを差し出した。
ホールターネックのキャミソールにショートパンツという服装で、ぶんぶんと首を振る悠理。
「べ、別にこんなカッコ、いつもじゃんか!?それに、キス以上って...何する気だよ、この変態...!
あたい、お前とつき合うなんて言ってないぞ!?」
ちょっぴり哀しげな瞳で悠理を見つめたまま、彼はシャンパングラスに口をつけた。
二口目を口に含むとそれをテーブルに置き、ベッドに片膝をつく。後退ろうとする悠理の頬を
両手でつかまえ、上を向かせる。
「...ん......」
その喉がごくり、と鳴るのを確認して顔を離し、彼は自分の口元を無造作に手の甲で拭う。
「言ったはずですよ。嫌ならはっきり断ってくれ、と」
それから、瞳を潤ませている悠理の顎に手を添え、親指の腹で濡れた唇をなぞった。
「僕を拒絶するつもりなら、そんな瞳で見ないでくれ...」
囁きながら、またやさしく口づけた。
「抱いてもいいか?悠理」
シャンパンの泡のせいだろうか。彼の囁きのせいだろうか。身体が蕩けてしまいそうだ。
悠理は瞳を閉じ、力なく頷いた。
もう、悠理には抗う力は残されていなかった。ひとかけらも。
唇が瞼に落とされる。それから、前髪を梳き上げられ、額に、つむじに、頬に、顎に。
「愛してる」の囁きと共に、清四郎は耳たぶを甘噛みし、舌で弄ぶ。悠理の頭を抱いて軽く横へ
倒し、彼は唇を首筋へと滑らせる。喉を吸われ、悠理は顎を仰け反らせた。
「はぁっ!......ダメ...やだ...」
「あいつらには届きませんからね、思う存分声を出して構いませんよ」
吐息が洩れ、自分の声に戸惑う女に、男は悪魔のような声で囁きながら笑う。
「い、いじわる...やめろったら......」
「そんなに感じてるくせに、やめてほしいんですか?ん?」
「...っあ...ん........」
彼は自分のシャツを掴む頼りない手を外し、指と指を絡める。剥き出しの細い肩に口づけてから、
愛しい女の首筋に顔を埋め、そっと紐をくわえて引っ張った。
「ひゃっ!?」
悠理が慌ててもあとの祭り。両手は拘束されており、滑り落ちる布切れを押さえる手立てもない。
そこからは灼けていない素肌と、チューブトップのブラが顔を覗かせた。
彼は片手で悠理の両手を束ね、頭の上に持ち上げると、それをするりと取り去った。
一瞬、彼の腕が離れたので、悠理は背を向け、ベッドから逃げ出そうとした。
だが、そんなことは許されようはずもなく、ウエストに巻き付いた腕が、簡単にその華奢な肢体を
再び引き寄せる。
「こらこら、どこへ行くんです?中途半端でやめたら身体に悪いですよ」
清四郎は彼女をひょい、と膝の上に座らせるとあっけなくブラを外し、後ろから抱きすくめた。
露になった二つの小さな膨らみを両手で包んで、それを肩越しに覗き込む。
くすくす笑い出した清四郎に、悠理は真っ赤になった。
「な、なんだよバカにしてんのかっ!!放せったら!」
「胸が小さいことをどうしてそんなに気にするんです?」
急に真面目な声音になる。その手を必死で上から掴んでいた悠理は、情けない顔で振り返った。
「なんでって...だって......お前だって今、笑ったじゃんか...」
「かわいいな、と思っただけですよ。すごく...かわいいです」
首筋に吸いつきながら、彼は掌全体を押しつけるようにゆっくりと動かし始めた。やさしく揉み
しだいた後、ぐっと鷲掴みにし、横から覗き込むようにして桜色の先端を口に含んだ。
生まれて初めて体験する愛撫に、悠理の身体を電流が駆け抜ける。
もう、自分の口から洩れる吐息を、ごまかそうとすることさえ適わない。胸を揉まれたり
吸われたりする度に悲鳴を上げる自分が嫌だった。あたい、一体どうしちゃったんだよ!?
突き上げるように身体の中が疼き始め、膝を摺り合わせる。嘘だろ、なんか...なんだ、これ?
はっ、と目を開け、悠理はまたじたばたともがき始めた。
も...も...もしかして、いきなりアレが来ちゃったのかも!?まずい、こんなことしてる場合じゃ...。
だが、あろうことか、清四郎の指がウエストから下腹部を滑り、そこへのびてゆく。
「すごいな...服の上からでもわかるほど濡れてますよ」
触っちゃダメ、と言おうとする悠理に、彼はそう囁いた。
あっという間にまた抱き上げられ、気付くとベッドに仰向けに転がされていた。
月明かりの中、馬乗りになった清四郎が乱暴にTシャツを脱ぎ捨てるのをぼんやり眺めていた。
次の瞬間、彼は顔の横に両手をついてじっと自分を見つめている。
月と星の光が作り出す水面の煌めきが、壁に、天井に、反射して揺らめいている。
ほんのりと蒼い輝きに包まれて、海の底にいるみたいだった。
すごくきれいだ、と思った。
その明かりに照らされている清四郎のカラダも。その甘い眼差しも。
悠理がぼぅっとする頭でそう思った時、夢の中にいるような表情で、清四郎が呟いた。
「きれいですよ、悠理。滅茶苦茶にしてしまいたいほど...」
<to be continued...>
>LOVE AFFAIR
凄くいいですね!清四郎が“らしくて”…。
続き、楽しみにしてます(*´∀`)
>LOVE AFFAIR
181さんの言うように確かに清四郎が“らしくて”イイ!
流されたり迷ったりという姿も意外な一面ぽくていいが
やはり清四郎は自分のペースでがんがん突き進んでく方が魅力的だと思う。
それと…
>いきなりアレが来ちゃったのかも!?
自分の体の変化を把握しきれていない 初体験 悠理に萌えw
>LOVE AFFAIR
やっぱり自分のペースの清四郎、ってかっこいいですよね。
原作ではよくわからないキャラになってきてるし。
悠理かわええw
>LOVE AFFAIR
おお、ええのうええのう。
エロオヤジのようにニヤニヤしながらPC見つめちゃったよw
マイペースな清四郎に萌え〜
>>180の続き(後編)です 6レスいただきます
悠理、と囁く低い声が身体に沁み込んでくる。
それから、やさしく深い口づけが訪れた。
だが、悠理の全身から力が抜けた次の瞬間、さっきまでの行為はほんのお遊びだとでも
言わんばかりに、その唇は激しく首の付け根へと吸いついた。つい、あっ...と声を上げた
悠理に構わず、清四郎の頭はどんどん下降し始めた。
唇を動かしながら、鎖骨をなぞり、胸の先端を吸い上げ、平らな腹に舌を這わす。
必死で上半身を起こし、悠理は自分の上で蠢く男の頭を引き上げようとする。
「よせっ、スケベ!!変態!そ、その下は...」
「全く...往生際が悪いですねぇ」
顔が近くへ戻ってきた、と、ホッとしたのもつかの間、キスを交わしながらも、彼の手は休む
ことがなかった。ショートパンツのボタンを外され、軽々と浮かされた腰から抜き取られた。
下着一枚になったその部分を長い指がそっと撫で上げる。身体の中心を上下に往復する
その感触に、悠理はびくりと腰を浮かした。声を上げそうになり、必死で唇を噛み締める。
とうとう下着も脱がされ、露になったその部分に指が滑り込んだ。
「や......あっ...ん」
反射的に脚を閉じようとするが、清四郎の身体が入り込んでいるので、不可能だった。
浅い刺激を受けただけで、熱い液体がまた溢れ出すのを自分でも感じ、もうどうしていい
のかわからない。自分の口から出ているらしい、甘ったるい響きが信じられない。
それなのに、身体の奥の疼きはますます高まるばかりで、その未知の感覚を何と呼べば
いいのか、悠理にはやっぱりわからない。
彼の指がその中へと侵入した時も、ただ声にならない叫びを上げる事しかできなかった。
「あぁ...ん......やめて、お願いだから...あ...はァ...」
少し慣れてくると、悠理は淫らな声を上げ始めた。
その声を合図に、清四郎はそっと指を抜いて一旦身体を起こした。それから、うつろな
表情を浮かべた悠理の唇に、小さな音を立ててキスすると、満足げに笑った。その表情と
指先の感触から、彼女が随分感じているらしい、と知ったからだ。
「あ...せ...しろぉ...あたい、何かヘンだ.....」
ゆるゆると目を開けると、清四郎もすっかり裸になっているようだった。
腿の内側に、何だか硬いものが当たるのを感じた悠理は、布団の中を覗き込もうとする。
「せ、清四郎ちゃん.....それ、何...?」
「もうすぐわかりますよ」
顔を引き攣らせる悠理にニヤリと笑い、彼はまたシーツの海に消えた。
「ひゃぁっっ!?」
両脚を下から抱え上げられた、と思った直後、全身を衝撃が駆け抜け、悠理の身体が跳ねた。
「お前、何やっ......あ...やぁああ...」
ぴちゃぴちゃと、猫がミルクを舐めるような音が耳についた。
さっきまで指で触れられていたのとは較べ物にならない、生々しい感触から生み出される
快楽に、もはや声を殺すことなどできそうにない。だが同時に、何をされているのかを理解し、
悠理の中に今まで感じたことのない羞恥心がわき起こった。
「やめ...はずかし...やだってば......あ...ん...っくぅ...」
どうにか押しとどめようと彼の頭に伸ばしていた手を外し、悠理は口に腕を押し当てた。
嗚咽が込み上げてきてしまったのだ。
「どうした、悠理...」
泣き声を出した愛しい女の顔を、清四郎は不安げな表情で覗き込んだ。
「だって...だって...どしていいか、わかんない......」
その瞳から、ぼろぼろと大粒の涙が溢れている。
清四郎は俯き、はぁー...と大きなため息をついた。それから気を取り直し、汗で顔に
貼りついた悠理の髪を、ゆっくりと取ってやりながら囁く。
「誰でもしている事なんだから、そんなに恥ずかしがらなくていい」
「ほんとにこんなことすんのかよ、あたい...やだよぉ......」
「気持ちよくなかったですか?」
「......わかんない、なんかヘンな感じ...」
口を尖らせる悠理。清四郎はふっと笑うと、その涙を指で拭い、睫毛へとキスを落とす。
「じゃ、舐めるのはもうやめますから...そろそろ...いいですか?」
悠理にだって、それが何を指すかくらいわかっていた。だけど、こういう時って、ちゃんと返事する
もんなんだろうか...それがよくわからず、思わず瞳が泳いでしまう。
「...あ、あの......その...」
「いいんですね?」
黙って頷く。
できるだけ痛くないように、ゆっくり入れますから、と清四郎は耳元で言った。
膝の裏側に腕が入り、腰をぐいと持ち上げられた。それとほぼ同時に、さっきまで彼が顔を
埋めていた部分に異物が当たる。それだけで悠理の背が弓なりに反った。
ゆっくりと、だが、確実に、それは彼女の中へと侵入してくる。
「......っはァ...」
メリメリと、悠理の身体の中で、音がしたような気がした。
痛い、痛い、痛いよぅ!!痛くしないって言ったくせに!?
その痛みから逃れようとする悠理だったが、その肩を清四郎がしっかりと押さえつけている。
また悠理の頬を、涙が伝い落ちた。
「あ...ず...ずる...い......痛い!...痛いよっ...」
「悠理、我慢しろ...あと少しだ...」
そう言いつつ、清四郎も少しばかり顔を歪めている。
「清四郎も...痛いのか?」
涙目になりながら自分を気遣う悠理に、清四郎は辛そうな表情のままかぶりを振った。
「いや、ただキツくてなかなか入らない...んだ...少し力を抜いてくれ」
「無理だよぉ......あ...」
ぐっと子宮の内部に当たる初めての感触に、悠理はまた顎を仰け反らせた。
「入った...」
大きく息をつき、清四郎は自分の下にいる女の様子を窺う。
それは、つい最近まで男同然だと思っていたこの生き物が、確かに女であることを身体で
確かめた瞬間だった。
キラキラとほの蒼い光を受けて輝く人魚姫。今日も一日中、魚同然に泳ぎ回っていたっけ。
その表情を確かめながら、ゆっくりと腰を前後させ始める。
しばらく同じリズムを刻むうちに、痛みのせいで縦に刻まれていた眉間の皺が緩んでくる。
「悠理、痛くないか?」
返事はなく、小さく首を左右に振りながら、彼女は自分の名を呼び続けている。
その内部は、ただきついだけではなく、やわやわと柔らかく、情熱的に彼を包み込んでいた。
こういった行為は初めての筈なのに、悠理はもう、その快楽に目覚め始めたようだ。
「いい...いいぞ、悠理」
両手の指を組ませてベッドの上に腕を伸ばしながら、少しずつ、動きを大きくしてゆく。
「はぁ、ああ......ん...あ、あ、ん...あぅっ......や...ん...」
その声が一層甲高くなり、酸素を求めるように口を大きく開け始めたのを見て、律動を速める。
両手を自由にすると、しがみつくように、悠理は腕を首へと回してくる。
悠理が初めて見せた女の表情に見とれそうになりながら、必死で自分に応えようとしている
その人に深く口づけ、舌を探して吸い上げる。
真剣に惚れた女を初めて抱く緊張のせいか、予想よりも早く限界が近付いてきたようだった。
身体の中を掻き回されて、悠理はもう、自分の上で激しく身体を揺らし続ける男に
縋りつくしかなかった。
初めて知る耐え難い痛みも、戸惑いも、快感も、どう受け止めていいのか、まだわからない。
ただ、その荒い息づかいと、時折洩れる小さな呻きに安堵する。必死で目を開け、
苦しげにひそめられる眉を見て確かめる。苦しいのは、あたいだけじゃないんだ、って。
耳元で囁かれる呪文のような言葉。愛してる、悠理、と彼は繰り返す。
清四郎、清四郎、清四郎。何が愛かもわからないまま、ただ、何度もその名を呼んだ。
リズミカルに、何かが軋む音がする。揺れている...ここは小舟の上みたいだ。
ゆらゆらと二人は揺れている。二人だけで海をたゆたっている。
痛みは、もうなかった。
ぐいぐいと突き上げてくる熱い塊に、自分の身体がねっとりと絡みつく。
もっと、もっと、もっと...言葉にはならないけど、身体がただその男を欲しがっている。
その首に腕を巻きつけて、あたいはそいつを引き寄せようとする。ただ、一つになりたいと願う。
お願い、もっと...とうとう、そう言いかけた時、あたいの言葉は奪われた。
意地悪でやさしい舌が、下半身と同じように、容赦なくあたいを犯す。
その熱さに、我を忘れる。
どうしよう、どうしよう、蕩けてしまいそうだ。
激しく収縮を始めた自分自身に耐えきれず、悠理はついに悲鳴を上げた。
それに合わせるように、清四郎は彼女の中に全てを注ぎ込んだ。
それは、初めての夜。
そして、始まりの夜。
眠りに落ちようとする恋人の耳元で、「ハネムーンはここにしましょうか」と男がそっと囁いた。
* * * * * * * * * *
「おい、起きてくれよ美童!あいつらどこ行ったんだ!?」
楽しいデートの夢を見ていた美童は、悲しいかな、不粋な男の声で起こされた。
目をこすりつつ身体を起こすと、まだ朝日も昇りきらない中、困惑顔の魅録が立っている。
「おふぁよ〜、早起きだねぇ、魅録。で...あいつらって?」
「だから、清四郎と悠理だよ!!俺、いつの間にかソファで酔いつぶれててさ...。
悪い事しちまったよな、悠理がこっちで寝る筈だったんだっけ...?」
本気で気まずそうに頭を掻く魅録を見て、美童の中でゆうべの疑問が一気に解消した。
「なるほど...なるほどね。そりゃ、大事件だ!」
「清四郎がソファで寝てんのかな?しゃーねーな、起こしついでに謝ってくるわ...」
出て行こうとする男の首根っこをつかまえつつ、世界の恋人は受話器を取った。
『二人分のカヌーブレックファストとシャンパンと花束...じゃなくて、フルーツを山盛り』
と、彼らの部屋にプレゼントし、ぽかんと口を開ける親友には、ウィンクをプレゼントした。
<fin>
「LOVE AFFAIR」は以上です。稚拙なもので...お目汚しすみません。
最近、清×悠のラブ話に餓えており、妄想の膨らむまま、書かせていただきました。
読んで下さった方、スルーして下さった方、ご感想下さった方、ありがとうございました。
>「LOVE AFFAIR」
あ〜、もう、萌えたよ!萌えまくったよ!!
作者タンありがとう!
清四郎ステキ!
悠理かわいい!
美童、粋でカッコイイ!
魅録!・・・君はそのままの君でいてw
>LOVE AFFAIR
押せ押せの清四郎と、可愛い悠理がとても楽しかったです!
最後の美童も効いてますね。
作者さま、お疲れ様でした!
良い作品を読ませて頂き、ありがとうございました。
次回作も清×悠だと嬉しいな…と言ってみたりして(*´∀`)
>LOVE AFFAIR
うおう、リアルタイムで見ちゃったん♪
なんか綺麗な表現で逃げがちの(w)このスレのRには珍しく、リアルででも激しすぎなくて
とても漏れ好みでございました。ご馳走様です。
最初から言いなりの悠理じゃない(抗う様子を見せるところが可愛かった)のと、
ちょいS気味の清四郎が個人的に大変萌えでした(w
>LOVE AFFAIR
やっぱり初めての・・・・って、いいですねぇ!(萌)
特に男の子みたいな悠理のって余計になんかこう・・・w
ごめ、、、完全にエロオヤジだわー
このふたり、その後どんな顔して4人の前に出てきたのかしらw
そのへんの想像だけで、ご飯3杯食べれそうだわ。
>>192タソの
>魅録!・・・君はそのままの君でいてw
コレに激しく同意でなおかつ禿ワラタ
>LOVE AFFAIR
すごいよかったです!
作者様ありがとうございました〜
清×悠好きなもので
こんなお話大好きです〜
戸惑って泣いてしまう悠理に激しく萌えました。
ぜひ、また書いてください!
>LOVE AFFAIR
うんうん泣いちゃう悠理がスッゴク可愛かったです!
細かいところまでしっかり描写があって、かといって
エチーすぎることもなく、すごく好みでした。
悠理が恋愛、っていうのは個人的にあんまり…なんですが
清×悠ならアリかなーなんて思ってしまいます。
ぜひまた読ませてくださいね!
最近ここのスレってリア中高生増えたの?
増えてるでしょww
休みでもないのにね〜W
>200
突然どうしたんだ?なんか気になる事あった?
>200
増えたとしたら、多分…。
ほら、入学試験とかもう始まってるし、受験生は2月から学校行かなくても
いいとこって結構あるから、それで昼間とかでもネット出来てるんじゃないかなぁ?
違うかもだけど。
まぁ、増えてはいるよね。
>>200-202 気に入らない話で盛り上がってても大人ならスルーしてね。
そのうちあなた方好みのSSも投下されるから。
ここは住民のことを語るスレではなく妄想を語るスレですよ。
正直、どっちもどっち。
>>206 あぁ、そういう意味か!w
いきなりリア云々言い出した意味がわからなくて悩んだよ
それなら私達がスルー汁べきだね
>>LOVE AFFAIR
いつも鉄仮面の分、欲望に忠実な清四郎ってカワイイよね
清×可で2レスお借りします
短期連載の予定です
今回はありませんが、若干のRを含む予定
カップリング及びそういった描写が苦手な方は黙ってスルーして下さると幸いです
それではお借りします
「ちょっと!待ってよ、ねぇ!」
背後からそう慌てた声を上げる可憐を振り向きもせずに、清四郎はホテルのフロントへと歩を進めた。
少し強めの秋風が街路樹の葉を落としてゆく夜半、一流ホテルの静かなロビーに可憐の諦めたような溜息が落ちた。
生徒代表として近隣の学校の交流会へ出た帰りは、いつもなら清四郎は最寄りの駅からタクシーで帰る。
それが今日は気の向くまま繁華街を通り抜け、明らかに自分と大差無いであろう若者達でごった返す通りを歩いていた。
魅禄や悠理がどこかにいそうですね、などと少し笑みながらふと向けた視線の先に、見慣れたウェーブヘアが揺れていた。
その気配がいつもと違う事に、清四郎は首を傾げた。
いつもの通り男を侍らせた女王様という風情ではなく、むしろ逆にこれから捧げられる生け贄といった風に両脇から抱えられたその姿。
一瞬眉を顰めた清四郎は、つかつかと遠慮無くそちらに向けて歩き出した。
「可憐、何をしているんですか」
両脇から抱え込むように可憐に寄り添う男達の間から可憐の腕を掴み、清四郎は可憐を自分に向き直らせた。
振り向いた女性は幸か不幸か、やっぱり可憐だった。
現れた仲間に一瞬目を見開いた可憐は、強かに酔った風を取り繕ってその手を邪魔くさそうに振り払う仕草を見せた。
その風を見て、清四郎は可憐が見かけほど酔っていない事を悟る。
そして、突然の邪魔者に色めき立った男達に向かって清四郎は薄らと冷酷な笑みを見せた。
「こんな形は不本意ですけど、やりますか? すみませんね、譲れない仲間なもので。」
そう言って構えを見せた清四郎の気迫に、じりっと尻込みをすると男達は我先にと逃げ出した。
「なによ、情けない男達」
逃げ出した方を見遣って、不貞腐れたように呟いた可憐は長い髪を掻き上げた。
「一体何をしするつもりだったのですか、あなたらしくも無い」
深夜、クラブから出てきた酔った女と好色そうな男が二人。
なにをするつもりと問うまでもなく、行き着く先など分かり切っている。
それが分からない可憐では無かろうに、そしてそれを好む可憐でも無いであろうに。
「たまにはあたしだって欲しい時があるのよ」
はっ、と嘲笑するように挑戦的な瞳を投げかけて、可憐は薄く笑う。
無言の返答でその嘲笑に対応した清四郎は、ぐっと可憐の腕を引くとそのまま歩き出した。
「たまにはあたしだって欲しい時があるのよ」
はっ、と嘲笑するように挑戦的な瞳を投げかけて、可憐は薄く笑う。
無言の返答でその嘲笑に対応した清四郎は、ぐっと可憐の腕を引くとそのまま歩き出した。
黙ったまま可憐の手を引く清四郎に連れて行かれた場所。
それがここ、この界隈有数の一流ホテルだった。
「行きますよ、可憐」
フロントでなにやら話す清四郎を、手持ち無沙汰な面持ちで見ていた可憐は、戻ってきたの手にカードキーがあるのを見て一歩退いた。
「清四郎…あんた…」
「良いから来て下さい。話はそれからです。」
手を引かれて乗ったエレベーターは半面硝子張り。
こんな所で、セレブな男に手を引かれ、肩を抱かれて部屋に導かれる。幸せの象徴。
夢にまで見たその瞬間を、こんな形で実現させてしまう事になろうとは。
そんな事を思いながら、可憐は苦渋に満ちた面持ちでハイヒールの爪先を見つめていた。
それから何も言葉を発しないまま、二人は絨毯の上を音もなく歩き、ひとつの部屋に灯りを点けた。
カチャリと錠を下ろす音が不自然な位に部屋に響く。
「男が欲しいのでしょう。だったら僕がお相手して差し上げます。」
片手をサイドボードに突き、めずらしく締めたネクタイを片手で緩めながら清四郎は笑みもせずにそう言った。
「ちょっ なに言ってんのよ!」
慌てたような可憐は自分の体を抱き締めるようにして、後ずさる。
その姿を追うように、清四郎が一歩前へ出る。
可憐がまた下がる。
清四郎が追う。
背中で感じたドアの気配に可憐が目の端で後ろを見遣った瞬間、清四郎は素早く可憐に詰め寄ると抱き寄せた。
一瞬の隙を突かれて抱き込まれ、目を見開いた可憐の唇が清四郎のそれで塞がれる。
呼吸さえ遮るような激しい口付けに可憐は両手でドンドンと清四郎の胸を叩いた。
すいません、2レスの予定が長すぎて弾かれたので3レスになりました。
お邪魔致しました。
前スレ609より
悠理と今井昇一は人々の輪から抜け出して、会場の隅の方へと移った。
「これでゆっくり話せますね」
にっこり笑った昇一に、どうしても生理的に受け付けぬものを感じて悠理は鳥肌を立たせた。
客観的に見て、ただ軟弱であるだけの男だ。別にそこまで嫌悪するほどのことはないのか
もしれない。しかし、先ほど重ねた手の生暖かい温度は忘れられそうにない。
(うー、いつまでこんなことしてなくちゃいけないんだよー、魅録)
まだふたりっきりになって五分も立たぬというのに、早速悠理は音を上げそうになっていた。
「それにしても……つれない人ですね、あなたは」
本人にしては最高に格好いい表情のつもりだろうにやけた笑いに、悠理はどう対処していい
のか困ってしまった。
気障というよりも、もはや滑稽であるが、まさか正直に笑い飛ばすわけにもいくまい。
可憐や野梨子と違って、そういう場面への対処方法など欠片も知らない悠理は、思わず
壁の方へ後ずさった。
これがいけなかった。
どうやら嫌がられているらしいということに気づいた昇一は、身を引くどころか的の外れた
脅迫を始めたのだ。
「悠理さん。僕たちがこうやって合わされた意味を、君だって気づいているでしょう?」
(お前こそ、落ち目のグループの会長令息なんかをわざわざ招待した理由に気づけよ!)
悠理の心の叫びに気づくことなく(気づかれても困るが)、返事がなかったことに昇一は
ますます図に乗った。
「剣菱の令嬢が見合いの類を全くしないことは有名ですよ。浮いた話といえば、同級生との
婚約が一回破談になった件だけですね。今日僕と見合いを君が了承したのは、壮年の男
より若い僕の方がマシってことでしょう」
勘違いも甚だしい。いや、上手く騙されてくれていると言うべきか。
剣菱夫妻は本気で娘を今井に嫁がせるつもりはない。しかし今回の悠理と昇一に
「そういう話」が持ち上がったことは、確実に今井メディカルの動きを躊躇させるだろう。
剣菱精機の内部抗争の件に、今井グループの上層部がどれほど関わっているのかは明
らかではない。しかし今井メディカルはほぼ黒なのである。
今井グループの上層部から末端までに、今は剣菱と争ってはいけないと思わせるためのデモ
ンストレーションである。
これ以上の被害を防ぐために、「とりあえず応急処置」として魅録が悠理に振った訳の意味が
これだった。
「い、いやでも」
演技ではなく、あたふたとした悠理に昇一はますます詰め寄った。両親から、必ず悠理を
モノにして帰れと厳命されているのだ。彼もまた必死だ。
「おっさんの嫁になるくらいなら、僕の妻になりませんか。大事にして、贅沢三昧させてあげ
ますよ」
男に慣れてなさそうな悠理を堪忍させるつもりだったのだろう。昇一は悠理を壁際に追い詰
めると、むき出しの首に息を吹きかけるようにして囁いた。
が、逆効果だった。
ついに悠理の我慢のリミッターがフルゲージ。魔人光臨である。
「うわあああああ」
意味の分からないことを喚きちらし、アッパー+フック+右カウンターの三コンボ。
堪らず床に這い蹲った愉快な会長令息に、荒い息で肩を上下させながら、悠理が宣言した。
「贅沢ならうちで思う存分出来るやいっ!」
もっともである。
昇一は女性を財産で釣るような口説き文句しか言ったことがないのだろうが、剣菱令嬢を
財産で釣ることのできる富豪は世界を探しても少ないだろう。
やっと嫌なことから逃れられた爽快感に悠理が浸っていると、すっかり存在を忘れていた
ピアス式の無線から、魅録の非情な声が聞えてきた。
『――絶対堪えきれないと思ったけど、とうとうやったな』
「あ」
ようやく我に返った悠理に、魅録の声は続く。
『後でペナルティ。忘れんなよ』
「み、魅録ちゃぁぁん」
あわてて声を上げた、そのときだった。
「それでは、会長からのお言葉を頂戴したいと思います。――さあ、前へ」
突然パーティータレントの声が会場に響き渡り、遅れて盛大な拍手が重なる。
はっとして前の方を見ると、父親と母親が揃って舞台に上がるところだった。
魅録は剣菱会長とその妻にも役を振っているのだった。そう、それは会場の視線を釘付けに
するという重大な役だ。
(とうちゃん、ノッてるなぁ)
意外と彼が演技派であることを知っている悠理は、彼の熱弁を関心して聞いていた。
そうしているうちに、同じように関心していただろう魅録から、最期の無線が届いた。
『さあ――俺たちも戦闘開始、だな』
恐らくマイクの向こうで、ウインクしてるだろう魅録に、悠理はエールを送った。
ツヅク
おおお
怒涛のうぷラッシュ
イイヨイイヨー(AA略
嵐さんとこのアンケートおもろい。
みなさん参加しましたか?
>秋の手触り
わーい!続きお待ちしてました。
暴れる悠理、すごくいいですね。
前回の流麗な文章で表現された野梨子もすごく良かったですが、軽快なテンポ
の今回もすごく良いです。
戦闘開始、なんですね。続きが楽しみです。
>秋の手触り
やっぱりやってしまいましたね、悠理w
俺たちの戦闘が期待大!です。続きお待ちしてます。
すんません、あらし&釣りに見立てられた200ですw
ここのところの感想の書き方が若く(良い意味で)なっているなあ、と
思ったので、純粋に聞いてみたかったのですが・・・
1行突き放し系のレスだったのであらし&釣りと推測してくださった方も
いましたが、まあ、結果的にはそうなってしまいますたなw
いずれにせよ、お騒がせでした。
いちいち出てこなくていいよ
>100の続きです。5レスいただきます。
部屋の中まで響き渡る涼しい虫の声を聞きながら、可憐は一点を見つめていた。
清四郎の持つ赤いペンの先は、さっきから全く動いていない。
「あのさ、あんたが素直になるっていうなら、協力してやらなくもないわよ」
所在なげな様子の清四郎に、可憐は笑いをこらえる。
「素直って?」
清四郎は上目遣い(可憐の特技の色つき目線とは違う)で可憐を睨む。
そんな目したって今のあんたなんか全っ然怖くないわよ。
可憐は珍しく自分が優位な状況にいる喜びを噛み締めつつ、言った。
「だーかーらぁ、野梨子と魅録、っていうのが気に食わないんだったら、
なんて言うの? あんたの気に食う状態になるように……」
「『気に食う』なんて日本語はありませんよ。
現国の問題集も持ってきた方がよかったんじゃありませんか」
皮肉を言い出すと清四郎は俄然生き生きする。清四郎はその自分の一言で、
さっきのしょぼくれた様子から表面的にはすっかり立ち直ってしまった。
……つまんないの。
「もう、本当にあんたって、可愛くないわね」
「別に可憐に可愛いなんて思ってもらわなくたって結構です」
そう言って微妙に唇を尖らせながら可憐の解いた数式に目を戻す清四郎を、
可憐はちょっとだけ、可愛いと思った。
あとが怖いから本人には言わなかったけれど。
それにしても、と美童は思う。こうやって見てると魅録と野梨子はよく似ている。
見た目も言葉遣いも家庭環境も全く違うのに、付き合ってみると考え方は勿論、
雰囲気までがはっとするほどそっくりな時がある。
並んでベッドの脇にしゃがみ、悠理の顔を覗き込む2人は、悔しいけど
もしかしたら清四郎と野梨子の組み合わせよりもしっくりくるかもしれない。
――悔しいけど?
自然に浮かんできたフレーズを美童は頭を振って吹き飛ばした。
自分にはなんていうか、そういう面倒臭そうな恋愛は不向きだ。
「俺は何もおっさんの命守ってやろうって思ってる訳じゃねえけど」
魅録は悠理の様子を見ながら隣の野梨子に話しかけた。
「雪子さんには会わせてやりたいし、……まあ、正直に言うとさ
あいつの正体っていうか、過去にも興味あんだよな。
『八重垣』の芳しくない評判と、あのおっさんのイメージがどうも重ならない」
野梨子は魅録の横顔にうんうん、と強く頷く。
魅録は真面目な顔の野梨子に向き合うと、その肩をぽん、と叩いて笑顔をみせた。
「それに、気のいいおっさんのふりして野梨子騙してんなら、
それはそれで俺はあのおっさんに一発かましてやらないといけねえからな」
野梨子が何か言おうとしたその時、悠理の唇が微かに動いた。
「…………、……た………」
美童も急いで2人の隣にしゃがみ、長い髪をしゃらっと鳴らして悠理を覗き込む。
「なに、悠理? なにが言いたいの?」
「……ら……た…」
顔色はさっきよりもマシだが、まだ青白い。虚ろに開いた目は三人の誰も見ていない。
「……バケラッタ?」
「何言ってんの魅録」
真剣に問い返した魅録と呆れて突っ込む美童をよそに、野梨子は痛々しい様子に涙ぐんでいる。
「悠理、辛いなら無理に話さなくていいですわ!」
しかし、悠理は弱々しく再度口を開いた。
「……はら、へった……」
「――そろそろ言ってくんねえかな、なにがあったか」
魅録は悠理を睨んだ。悠理の「腹減った」の第一声に思わず殴りつけそうになったのを、
野梨子と美童に止められてストレスが溜まっているのだ。
野梨子が剣菱家の厨房から見つくろってきたサンドイッチとホットミルクを胃に納め、
悠理の顔色はほとんど元に戻っていた。今は、デザートだと言って、
自室に常備のバケツのようなクッキーの缶を抱きかかえている。
野梨子は魅録のいらいらと机を叩く指を自らの白い手でそっと止め、優しく言った。
「もう大丈夫ですの?」
「うん、嘘みたいに。サンキューな、野梨子」
悠理はミルクのカップを軽く持ち上げてみせた。
「ホント? またなんかに取り憑かれたりとかしてんじゃないの?」
美童は別人のように元気になった悠理を不審がっている。
「いや、そんな感じはしないんだよな」
「ホントにホント?」
「あのな美童、あたいが今まで何回取り憑かれてると思ってんだよ。今回は平気」
霊体験のプロならではの力強い返答だ。美童はちょっとほっとした。
ちょっと待って、腹一杯になったら喋るから、と缶に両手を埋めて5分。
「あたいが見たのがホントなら、あんまりいい話じゃない」
新しくクッキーのバケツ缶を開けながら、悠理はいつになく神妙に語り出した。
悠理が六本木に着いたのは、まだ約束より大分早い時間だった。
暇つぶしにウロウロしていると、通りの向こうに見覚えのある後ろ姿があった。
野梨子だ。悠理は急いで道を渡った。が、その雑踏の中に野梨子の姿はない。
なんだ、珍しくすばしっこいなあ、と、仕方なく悠理はひとりで碁ビルに向かった。
最後の角を曲がったところで、野梨子がビルに入っていくのが見えた。
「野梨子!」悠理はかなりの大声で彼女に呼びかけた。
しかし、野梨子は聞こえなかったようで、そのまま中に姿を消した。
悠理は野梨子が一人なのを不審に思いながら、彼女に続いて急いで扉を開けた。
と、嫌な空気―悠理がよく知っていて、悠理がもっとも嫌いな―が悠理を包んだ。
ざわっ、と悠理の耳には自らの全身の毛が逆立つ音が聞こえた。
逃げ出したい! と思ったが、しかし、悠理の足はその意志に反して先に進んで行く。
階段を一段降りるごとに冷たくなる風が、悠理の体を包みこむ。
悠理の足は、階段を降りきったところで唐突に止まった。
木のドアの前に、つまり悠理の目の前に、誰かの後ろ姿があった。
もう、それが野梨子でないことは明らかである。
悠理の体は、今度は動かそうと思ってもぴくりともしない。
目を逸らすことも瞑ることもできず、悠理はその小柄な女の黒髪を見ているしかなかった。
もう一度、悠理の体をいっそう冷たい風が駆け抜けたとき、女は悠理を振り向いた。
青く悲しげな顔は、やはり野梨子ではない。が、見たことがあった。
いつか、この扉の向こうで、天寿が見せてくれた写真。
菊正宗雪子。
悠理と目を合わせると、彼女は表情を少し動かした。
泣きそうになったのか笑ったのか、その微妙な変化を悠理は確かめようとしたが、
その間に雪子の姿は風に吹かれた砂の城のように、さらりと崩れて、消えた。
野梨子にも美童にも魅録にももう分かっていたが、悠理は確認するようにゆっくり言った。
「……雪子は、死んでる」
翌日の休み時間、音楽室から帰ってきた美童の腕を、可憐は教室の前で捕まえた。
「美童、ちょっといい?」
「なに? 愛の告白だったら聞くよ〜」
「ある意味、愛の告白かも」
美童は青い眼を見開いたまま、可憐に引っ張られて人気のない踊り場にやってきた。
「ね、おもしろいと思うでしょ? あの清四郎が、すごい取り乱しちゃってんの!
雪子さんの件ももうお終いだしさ、あの2人、うまく盛り上げてくっつけてやらない?」
可憐は昨晩の清四郎の様子を愉快でたまらない、といった表情でに美童に報告した。
おそらく雪子はもうこの世の人間ではない、と分かった今、
彼女の興味は、弱点をさらした清四郎にもうすっかり移っているらしい。
「ごめん可憐、それさ、悪いけどひとりでやってくれる?」
予想外の返答に可憐は真顔に戻った。面白がってソッコー乗ってくると思ったのに。
「え? なんでよ?」
「清四郎も、そういうメンタルな面で苦労とか努力とかしたほうがいいと思う。
ちょっとくらいはね。それに」
美童は可憐の不思議そうな顔を見つめ返して続けた。
「他人の恋愛にどうのこうの言って首突っ込んでるほど暇じゃないよ」
可憐は金髪をなびかせて階段を上がっていく美童を得心のいかない顔で見送った。
美童は階段を上がりながら、なんで協力してやるって言わなかったんだろう、と
自らの発言を反芻して首をひねっていた。
本日は以上です。お邪魔いたしました。
>白鹿野梨子の貞操を狙え!
>バケラッタ?
笑いました。テンポが良くていい感じですね。
美童は野梨子狙いなんでしょうか?
続きが早く読みたい!
暴走愛うpします。今回は清×野です。
昼ドラ泥沼系なので苦手な方はご注意お願いします。
Rありです。
>>162 気だるい身体が望むままにうつらうつらと眠りに落ちていた清四郎は、突然、
野梨子が何かに襲われたような悲鳴を上げたのに驚いて飛び起きた。
隣で半ば身を起こした野梨子がびっしょりと汗をかいて瞳を見開いている。
ぜいぜいと肩で息を切らしている野梨子に清四郎はそっと声をかける。
「何か怖い夢でも見ましたか?」
弱々しく首を振ると野梨子は清四郎の裸の背中にそっと腕を回す。
清四郎の腕の中で、だがしかし野梨子は震え続けている。
その黒く艶やかな髪を撫でながら、清四郎は野梨子が痩せたことを案じていた。
心労のせいだろう。つまりは自分のせいだということだ。
そっと野梨子をベッドに横たえる。
彼女の瞳から零れ落ちる涙にキスをした。
どうしたら、野梨子を苦しめているものから解き放ってやれるだろう。
清四郎は思い悩んで額に手を当てる。
僕が側にいることが返っていけないのか。しかし、今彼女を置いていくことはとてもできない。
せめて今までのことが全て忘れられる場所にいけたら……。
何のしがらみもない場所に。
そうすれば彼女の苦痛も少しは和らぐのではないだろうか。
彼女の唇に唇を落とす。
耳に口付ければ赤くなり、首筋に口付ければため息をつく。
硬く強張っていた野梨子の身体も清四郎の愛撫にわずかに応え始める。
「清四郎……」
差し伸べた手も又、白く細く清四郎は思わず涙を零しそうになる。
その指に唇をつけ、続けて彼女の身体のあちこちに優しく唇をつける。
野梨子の頬がわずかに赤みを増し、瞳が潤う。
拒絶するように固く閉じられた脚を軽くこじあけて清四郎が進んでくると
野梨子の瞳に瞬く間に色がついた。小刻みに動けば動くほど良い色になる。
唇がかすかに微笑んでいるように見える。
ほんの一時でいい、喜んでくれたら。
快楽に耐え切れなくなった野梨子が身をよじって逃げようとした。
「やめて……嫌ですわ、そんなところ」
「大丈夫ですよ、力を抜いてください」
横向きになると赤く熟れて濡れそぼった果実に舌をはわせた。
野梨子は目をつぶり快感に震えていたが、やがて瞳を開くと自分の顔の前にある
清四郎のものに手を伸ばした。清四郎が愛撫を休めていう。
「野梨子、そんなことしなくていいですよ」
「いえ……大丈夫ですわ」
彼女が自分のものに舌をはわすのを驚いて見守った清四郎だが、やがて自分も彼女の
感じる部分を高めに走る。清四郎が野梨子を高めれば、野梨子も呼応し清四郎を激しく愛撫する。
ため息はあえぎ声に変わり、彼らは等しく濡れていった。
我慢できずに清四郎が身体の向きを変える。
野梨子を抱き起こすと後ろ向きにし、ベッドの上に膝を立たせ背後から羽交い絞めにする。
清四郎を受け入れた野梨子はふ、うん、と言った。
二人が接続された部分をさらに清四郎が弄ぶ。再び野梨子はう、う、と呻った。
万歳するような格好で上に伸ばした両腕を清四郎の首に回す。
二人の息づかいは交わり二人の身体はダンスをするように同時に揺れる。
吐息が絡み合い熱を増した。
熱く長い口づけに野梨子はふと考える。
これは愛だろうか。欺瞞だろうか。同情だろうか。憐れみだろうか。
清四郎は可憐もこんな風に抱いたのだろうか
「……何を考えているんです?」
彼の言葉に黙って微笑むとふいに戻ってきた快楽に野梨子は身体を震わし声を上げた。
ふたたび口付けると清四郎は彼女を抱きしめ、彼女から溢れ出す液をすくい上げ
ただ彼女を啼かせようと腰を動かした。
野梨子は清四郎の願い通り小さく熱く啼いた。
再びぐったりと横になる野梨子を優しく見つめながら、清四郎は言った。
「……野梨子。二人でどこかに行きましょうか」
「……えっ?」
二人でどこかへ?
驚いて目を見張る野梨子に清四郎は微笑んだ。
続く
>暴走愛
エチィーの途中でも酔いきれずにふと醒めてしまう野梨子が、
以前の野梨子とはどうしようもなく違ってしまっていて悲しいですね。
これからどうなってしまうのか凄く気になります。
悠理との通信を断ったあと、魅録はふうと溜め息をついて喉元を締め付けるブラックタイ
を緩めた。
空調はきちんと作動している筈であったが、会場の熱気にあてられてしまったらしい。
剣菱夫妻に今回の作戦のカモフラージュのために政財界の大物を呼んでパーティを
開いてくれと頼んだときは、急だったこともあり、まさかこれほどまでの規模のものを開いて
くれるとは思いもしなかった。
表立って協力できないかわりに、こうした形でせめてでも協力しようと意気込んだ結果
が、この常識外れの規模にあるのだろう。
それでも最後の一線は守って、彼らは剣菱精機の内部で行われている不正を調べる
ことには手を貸しても、剣菱精機社長の戸村和正と豊作の間にある後継者争いに
対してはあくまで中立的な立場をとるのだという。
(えらいよなぁ、オジさんもオバさんも)
豊作が何もかもを投げ出さずにいるのは、両親のそういった姿勢にあるのだろう。
魅録は目の前で演説を続ける万作を見た。
万作はいつもの鷹揚な調子で幹部や社員たちを労う。大企業の会長らしくなく貧乏
くさいだの、下品だのいわれつつも、やはり万作には大きな物を背負う人間特有の貫禄
がある。万作が話している間、気もそぞろな人間は少ない。殆どの人間は知らず知らず
のうちに、万作の言葉に耳を傾けているのだ。
いつもは簡潔に話を終わらせる万作にしては、少々話が長いということに社員や来賓
たちが気がつき始めた頃。
「今日はみんなに感謝の気持ちを込めて、ゲームを用意しただ。景品は豪華だがや」
万作の一言に、会場全体の人間が色めきたった。
誰もが、剣菱万作のありえないぐらいの気前のよさを知っているのだ。
さてそろそろである。
魅録は清四郎が上手くやるかどうかを気にした。
本来ならばここから行われることは、自分がするはずのことだった。今は自分が司令
の立場にあるため全ての行動を仲間たちに任せているが、やはりすることがないと
いろいろ気に揉んでしまう。
「さあ、受け取るだ!」
万作が宣言した瞬間、ぱぁんと大きな破裂音がしたかと思うと、天井から数え切れな
いほどの紙吹雪が舞った。いや、空中に散布されたのは紙吹雪というのは大きすぎる
手のひらほどの紙である。
「この中に、プレゼントが書かれた紙が混じってます。全部で十枚。どれも必ずや皆様に
ご満足いただける品だと自負してますわ」
ふふふと微笑む百合子の言葉にも会場の期待は膨らむ。
招待客たちはわぁっと歓声を上げると、紙という紙に群がり、会場は突如大混乱となっ
た。積極的にゲームに参加しようとしていなかった一部の来賓たちも、そういう周囲の
状況に苦笑して、仕方なく自分も紙を拾い上げ始める。
タキシードに紋付はかま、カクテルドレスに留袖、振袖。そういった盛装の貴賓たちが、
床に這い蹲って紙を探す姿は、滑稽ではあるが楽しい。
そういう光景を見守っていた魅録は、ふとこの混乱の中、美童の姿が目に入った。
彼は美童はターゲットのひとりである剣菱精機戸村社長の秘書と和やかに話をして
いたが、魅録の視線に気がつくと彼女に別れをつげ、こちらに向かってきた。
「やあ魅録。順調かい」
「わざわざ来なくても良かったのに」
「いや、もう彼女から聞けるだけの話は聞いたからね。――次の夜の約束もしたし」
「あ、そ」
そうして男ふたり、壁の花になりながら腕を組んで会場の様子を観察する。
「野梨子がね、さっき八代儀一と話をしていたよ」
「!」
「……というよりも、なんかめちゃくちゃ気に入られてて、一方的に追いかけられてるって
感じだったけど。あいつ、ちょっとオカシイ奴なわけ?」
美童が言うには、八代は衆目の中「君は僕の運命だ」とかなんとか言いながら、一回
りは年下の野梨子の背中を追い掛け回し、野梨子は「しつこいですわね!」と珍しく取り
乱して逃げ回っているらしい。
「めちゃくちゃ目立ってたよ」
「そ、そおか……」
魅録は脱力した。
(そういえば、悠理を口説いて殴られたとかなんとか言ってたな……)
懲りるということを知らない人間らしい。得体の知れない存在であることには変わりな
かったが、真剣に彼の真意を探ろうとするのは馬鹿馬鹿しいことのような気がしてきた。
「可憐は?」
「ターゲットがヤニ下がった顔してたから、成功してるんじゃない?」
「そうであることを願うね」
あとは悠理と清四郎であるわけだが……悠理は会場で今井昇一とツーショットになる
こと自体が役割だったので、半ば使命を完遂したと言ってよい。その息子を殴ったのは
ほめられたことではないが。
あとは清四郎に、この混乱の中スリの真似事をしてもらうだけである。
「清四郎が成功したこと見届けたら、俺と悠理は予めの予定通り、ばっくれるからな。
まだやらなくてはいけないことがある。――お前たちはどうする」
「そうだなぁ」
美童は少し考えた。
目の前では相変わらず人々がお尻を突き出して紙を捲っている。
「君と悠理のランデブーをこれ以上邪魔しても悪いしね。遠慮するよ」
「なっ!」
美童は壁に預けていた背中をひらりと返して、魅録と向き合った。
「見てごらんよ、魅録。悠理だって女なんだよ。気づいてないわけじゃあないだろ?」
美童が指し示した方向には、いろいろな人間に声をかけられて困り果てている悠理
の姿があった。
「おい、美童、それどういう――」
「自分で考えなよ」
白金の髪を掻き揚げ、美童は微笑む。そしてじゃあね、といって背を翻すと、人々の
中に消えていった。残された魅録は、妙に早い胸の鼓動を持て余して、拳を握る。
「ちくしょう…」
力のない罵倒は、誰に向けたものか自分でも分からなかった。 ツヅク
アンカー入れ忘れました。すいません。
>>217 です
>貞操
雪子さんが亡くなってる…もう会えないのでしょうか。
>暴走愛
とにかく野梨子が切ないです。皆様もおっしゃってますけど
ここからどう初めにつながって行くのかとても気になります。
>秋
最近頻繁にうpされていて嬉しい限りです。
夏と比べてこの軽快な感じ。逃げ回る野梨子を見たいですw
>秋
相変わらず美童はかっこいいですね。
秋も勿論大好きですが、冬を心待ちにしていたりします。
読み応えのある作品がたくさん読めてうれしい。
>貞操
>清四郎は上目遣い(可憐の特技の色つき目線とは違う)
こういう細かく、笑えるところ大好きです。幽霊ネタもあって、すごく
原作っぽい!たまには微妙な立場の美童も見たいぞ。
>暴走愛
冷静な自分を認識しながらも熱く男に抱かれる野梨子に萌え…
初キスもHも清四郎と可憐の裏切りを影に感じながらのものに
なってしまったなんて女の人生として不憫だ…
一条先生も野梨子は主役にしたらぴったりはまるキャラだって書いてた
けど、こんな複雑で悲しい恋愛にもはまるとは。
>秋
万作さんのせりふ「ゲームを用意しただ」に笑ってしまいました。
会場の様子とかが絵に描かれたようによくわかる巧みな文章にうっとり。
魅録、がんばれ!
わあー、暴走愛の中での清×野のRを待っておりました。
魅×野のRも読みたいっす・・・。無理矢理系でもいいから・・・。
>245
わ…私も(コソーリ
もろRじゃなくても、R風味とかでも。
本当に読み応えのある作品のうpが続けてあって嬉しい!
>貞操
雪子さんは亡くなってたんですか。あんなに一生懸命探していたのに。
それにしても、真剣に「バケラッタ?」と聞く魅録、なんだかかわいいですね。
お話の感じにあったさくさく読める文章で好きです。
>暴走愛
冒頭の、うなされて起きる野梨子がかわいそうでいきなり泣きそうになってしまいました。つらいなあ。
>244タンも言ってますが、初めてがこんな状況なんてすごく不憫…。
今後どうなってしまうんでしょう。気になります。
>秋の手触り
復活が本当に嬉しいです!
秋に入ってからのこの有閑らしい展開、毎回ドキドキしながら読んでます。
八代に追いかけられてる野梨子には、かわいそうですが笑ってしまいました。私も見たいw
それから、美童に指摘されて悠理を意識しだした?魅録の気持ちの行方も何げに気になります。
もうだらだら続く話は飽き飽きだよ
もしかしたら、「煽りにマジレス」かもしれませんが・・・
>>248 好みではない話のうpが続くと嫌気が差す気持ちはわかりますが、
ここでとげとげしたレスをつけるよりも、過去ログを読むことで
何か新しい発見があるかもしれません。
過去にも随分スレが荒れたことがあり、その時住人はどう対処したか、
その結果どういう風に現在の住人が気持ちを抑えているか。
嵐さんのところにあるお話だけではなく、スレの過去ログを一度じっくり
読んでみることをお勧めします。よけいなお世話だったら申し訳ない。
>249どの
今、ここを見て同じ様なことを書こうと思ったとこだよ。
でも貴方のように上手くまとめられずやめてしまったw
>248
過去ログは嵐さんのとこで読めるよ。
色々な出来事がつまってまつ。是非、読んできてください。
そして今度は一緒にマターリしようよ。
暴走愛うpします。
清×可、魅×野です。
>>236 美童が生徒会室のドアを開けると美しい色のグラデーションが目に入った。
「やあ綺麗な花だね、可憐。心が和むよ、さすがだね」
「ありがとう。ちょうど今コーヒーを入れようと思ってたところよ。飲む?」
微笑むと、可憐はたっぷり花を生けた花瓶をテーブルに据えた。
新しいコーヒーを開封すると、部屋の中に鼻腔をくすぐる香りが広がる。
手際よく二人分のコーヒーをコーヒーメーカーにセットする可憐をどこかふわふわとした
美童が目を細めて見つめる。手を伸ばし可憐の髪を一房弄んだ。
「綺麗になったね、可憐」
そういう美童の仕草や言葉に慣れっこになっている可憐は苦笑する。
「そう? ひどいもんよ、最近。お手入れサボってるからお肌ボロボロ」
「あれ、嘘じゃないんだけどな。本当に綺麗になったよ。一皮剥けたって言うかさ」
「ありがとう。褒めても何にも出ないわよ」
「残念! 何か出てくるかと思ったのに」
おとぎ話の王子様そのままのうっとりするような微笑を浮かべる美童に
可憐は苦笑しつつ白い箱を取り出した。
出てきたチーズケーキに美童は歓声を上げた。彼は甘いものに目が無いのだ。
ケーキを口に運びながら美童は今日仕入れた話題を口にする。
「知ってる? 清四郎、京都の大学受験するらしいよ」
さっと可憐の顔色が変わった。彼女は何も知らない。
京都の大学? なぜそんな遠いところに?
可憐の蒼白な顔をじっと美童が見つめている。
それに気づいた可憐はあわてて「へえ」と答える。だが、美童が続けた言葉に更に衝撃を受け
フォークを取り落としそうになる。
「それに野梨子も同じ大学を受験するみたい」
カップが受け皿に当たってカチャカチャと音を立てている。
「ほ、ほんとに……」
身体の震えが止まらない。可憐はぐっと自分の腕を押さえた。
するりと立ち上がると美童は可憐の横の椅子に座った。
震える彼女の手を取って優しく握り締める。
「清四郎のことが好きなんだよね?」
「……全然」
機械的にコーヒーを口に運びながら可憐は固い表情で答えた。
悪戯小僧のような瞳をさせて美童が彼女の顔をのぞき込む。
「言わなくていいの? 後で後悔するよ」
「大きなお世話だわ」
言ってしまってから可憐はハッと口を押さえた。
美童はテーブルに肘をついてニヤニヤ笑っている。
「京都のことですか? ええ、本当ですわ、魅録」
魅録の胸の中で大事なものが崩れ落ちる音がする。
ぐっと堪えている魅録の様子に気づかぬように野梨子は嬉々として話し出した。
「清四郎から提案されましたの。二人で同じ大学に行こうって。
……もちろんまだ受かるかどうかわかりませんけど。二人で猛勉強始めましたのよ。
一人が受かって一人が落ちてしまったら意味がありませんから」
そう言いながらも野梨子は本当に嬉しそうだ。
舞い上がっているようにも見える彼女の様子に魅録は拳を握り締めた。
「でも、もし合格したら私も清四郎も一人暮らしになりますでしょ。初めてのことですし
二人で何だかはしゃいでしまって。おかしいですわね、まだ合格してもいませんのに。
それに、京都にはたくさんの神社や仏閣があって見て回るのにも飽きませんわ、きっと」
「……よかったな」
感情のこもらない言葉が返ってきて野梨子は口をつぐんだ。
険しい顔をしていた魅録が口元をゆがめる。
「楽しい、野梨子? そういう話、俺にして」
野梨子は黙している。
「もしかしてわざとしてんのか?」
秋風が冷たさを増して二人の間を通り抜けた。
うつむいていた野梨子はやがて重い口を開く。
「魅録、まだ私のこと見てますわよね」
「……ああ」
渋々認める魅録に野梨子はきっぱりと言った。
「迷惑ですわ」
魅録は両手をポケットにつっこみ、首を振ると背中を向けて呟いた。
「わかったよ」
歩き出す魅録の背中に野梨子が声をかける。
「……魅録、報われない思いを抱えていても辛いだけですわ。お願い、もう私のことは
忘れてくださいな」
魅録は足を止めて頭をかく。そして呟いた。
「まあ、俺の思いだし、俺の好きなようにするよ」
野梨子はどきりとした。振り向いた魅録と視線が絡み合う。
唇を引き締めると野梨子は魅録を睨んだ。
続く
>暴走愛
野梨子にしちゃ配慮のないことやってるよなぁ〜。
ってワザとかな。壊れてんのかな。
壊れる気持ちもわからんじゃないけど、魅録も気の毒だ。
このお話、みんな辛そうで見ちゃいられないんだけど気になって仕方ないよw
暗〜い未来のそのまた未来が明るければいいな…と願わずにはいられません。
ともあれ続き楽しみにしてます。>作者タン
>暴走愛
うう、魅録。しあわせになってくれぃ
>暴走愛
魅録、可哀想だね。
作者さん、がんがってくださいね。
>256タン
自分は、変に期待させずきっぱり断る野梨子に、
すがすがしさを感じたけど。
生殺し状態でつきあう清四郎と対照的だぁって…。
魅録が可哀想なことには変わりないけど。
>暴走愛
やっと美童が絡んできましたね。
清×可がよりを戻しそうな予感?
悠理はまだ蚊帳の外かな〜。と、催促してみる。
>暴走愛
>報われない思いを抱えていても辛いだけですわ
って野梨子の台詞、自分のこと言ってると思う。
魅録を自分と同じつらい目にあわせたくないから「迷惑ですわ」
なんて野梨子らしくもないこと言ったっていうか。
清四郎に同じ大学行こうって誘われて、しかも可憐のいない
京都の大学で、表面上は嬉しいけどまだ信じきれてなくて
水面下で苦しんでるんじゃないかなあ>野梨子
なんか軽〜いお話が読みたい今日この頃。
どなたか膨らませてくれないかなぁ、と期待しつつ、小ネタ振ってみたりして。
3レスいただいちゃいます。
=その1=
「あ〜あ、あたしの王子様ってどこにいんのかしら...」(また男に振られ、不貞腐れる女)
「玉の輿ばっか狙ってないで、もう少し近くを見直してみたらどうなんだよ!?
案外、いい男がいるかもしれねーだろ」(ニヤニヤと笑いながら歩み寄る男)
「近くぅ?例えば...美童とか?」(鼻先で笑う)
「そうそう」(ちょっと落ち着かなくなり始める)
「清四郎...とか?」(上目遣いに見る)
「そ、そうだな...」(頭を掻きつつそっぽを向く)
「きゃっははは......ありえな〜い!もー、面白かったァ、じゃ、帰るわ」(爆笑の後、手を振る)
「...おい、もう一人いるだろ!?」(背中に向かって...)
絶句して振り返り、真っ赤になった魅録に気付く可憐姐さんであった。
=その2=
窓から外に向かって溜め息をつく女に、男が近付き、隣に並ぶ。
「はぁーー」
「淋しいんですか?」
「......淋しくなんかないやい!ダチくらい、いっぱいいんだからな」
「魅録と可憐がつき合い出したからって、そんなに落ち込まないで下さいよ」
「落ち込んでないってば!!...だけど......」
「だけど?」
「あたい、恋したことないなぁ、って思って...」(ちょっと斜め下に視線が泳ぐ)
「...言われてみれば、僕も...ですよ。フム......これは奇遇ですな」(ちょっと考え込む)
「......」(何か企んでそうな男を、じとっと睨み付ける)
「せっかくなので、試しにしてみませんか?」(横目で見下ろす)
「は?」(きょとんとする)
「初恋。僕と」(満面の笑み)
「.........」(ぽかんと口を開ける)
返事も聞かずに彼女の手を取り、すたすたと歩き出す清四郎。
引きずられながら、「まあいっか、ヒマ...だし...?」と自分に言い訳する悠理だった。
=その3=
「はっ!?」
はしたない声を上げ、慌てて口を押さえる女。
可憐と魅録が交際するなんて、晴天の霹靂ですわねぇ、と呟いた彼女に、
見事な金髪を梳き上げながら、流し目でその男はこう言ったのだった。
もう一組カップルが成立したみたいだけど、知ってる?
「...って、君の幼なじみ二人なんだけどねー」
思わず立ち眩みを起こしそうになる彼女を支え、彼は顔を近付ける。
「どう?僕達も...」
彼の左頬に、もみじのような真っ赤な痕が刻まれたことは言うまでもない。
その日から彼のリベンジ大作戦が始まった。頑張れ美童!!
失礼しました...。
>>262-264 おもしろかったよ、私はこういう小ネタも好きだ。
>>265 最初に小ネタと断っているんだから違うと思うじょ。
これが小説と言うなら、その可能性もなくはないが
それにしたって箱の考えた話にしては上出来だと思われw
(ありゃ文才以前の問題だったしなぁ、ある意味笑えたが)
262タンに続けてみます…『徹底的に気づいてもらえない魅録』
校門で可憐の帰りを待つ魅録
急ぎ足で可憐が校舎から出てくる
「あら魅録、誰か待ってるの? お先〜」
可憐あっさり魅録を通過
あわてて呼び止める魅録
「か、可憐!」
怒りマークで振り返る可憐
「何!? デートに遅れそうで急いでるんだけど?重要な用事!?」
魅録
「いや別に大したことじゃ… またな〜(涙)」
ああああ。普通だ。お目汚しスマソ
気にしてもらいたくて毎日髪の色が変わってるとか?
他メンバーは皆気づいているのに、なぜか可憐だけ気づかない(ンナワケナイカ)
>>267 ワラタ
可憐って自分が仕掛けた時と他人の恋愛には敏感そうだけど、
自分に向けられてる本気ラブコールには以外に疎そう!!
そんなところがすごく可憐らしいと思ってしまう。
しかも今まで友達付き合いしてた相手に恋愛モードで接するのは
実はすごく苦手そうだし。
この二人がカップル成立するまでってかなりラブコメになりそうな気が・・・(w
あ、「以外」じゃなくて「意外」でした。誤字スマソ
魅×可っていいよねー。ここくるまでは考えた事もなかった
けど。「大変じゃない、悠理が危ないわ!」でも
萌えるようになりましたw
私も便乗してコネタ。
ホワイトデーまであと二週間。
有閑倶楽部の3月14日を妄想してみた。
清×野……アカデミックに博物館とかのデート。真珠のネックレスをプレゼントし、清四郎がつけてあげる。
清×可……ホテルでディナー、そして濃厚なエッチ(このカップリングって、すごく淫蕩なイメージある)
清×悠……生徒会室でふたり居残って、制服デート。銘菓をプレゼントかな。
魅×野……バイクで冬の海までデート。タンデムには抱っこで乗せてあげてほしい。野梨子は白ワンピ
魅×可……南の島でデート。情熱的に愛を確かめ合ってほしい。
魅×悠……コンサートでデート。いつものように変わりなく。早く女になるのを見守っている感じで。
美×野……ピアスをプレゼント。「僕のためにピアス穴をあけてよ」と口説き、穴があいた後はいっつもそこにキスする美童
美×可……自宅でのんびり過ごす。お風呂に一緒に入って髪の洗いっこだとか、髭を剃ってあげたりとか。
美×悠……ドレスをプレゼントして、着せてから脱がす。砂吐きそうな台詞連発して陥落し、とうとう初エッチ。
>271
美可にえらい萌えてしまった…。
すっかり出来上がっちゃってるふたりって感じで。
>271
美童カプ、すべてツボだ。全部読みたい…
あと野梨子の白ワンピでバイクってのも絵と文でみたいな
私的には、清野には旅館デートがいいなぁと思うのだけど。
野梨子の浴衣姿にそそられる清四郎
>271
それぞれのカップリングにそれぞれ全く違う過ごし方があってイイ!
私も美童カプ全てツボだった。ど、どなたかに書いてほしいです。
特に美×悠は悠理にドレスを着せて脱がすまでに美童がどうもっていくかが見たい。
>271
作家さんor絵師さんの登場をまたーりと待ってみたい。
可憐がらみがエチー度が高いなって思うのは、漏れだけだろうか……
私も魅×野の白ワンピにバイクは絵と文で見たいなぁ。
でも白ワンピでバイクは3月はまだ寒そうなので、バイクに乗ってる時は
魅録のジャケットでも着せてあげてほしい。
清×野のネックレスをつけてあげるのもかわいい。美術館の中庭とかで
一休みしつつやってほしいな。
>274
温泉もいいね。二人で浴衣で庭を散策とか。
あと、清×可の濃厚エッチも気になった。完全Rで大人な二人の話を
読んでみたいです。
清四郎×可憐のカップリングが一番エッチぃと思うのは私もはげしく同意。
久しぶりに有閑キャッツの続きをいってみたいと思います。
>>
http://freehost.kakiko.com/loveyuukan/long/l-40-3.html の491の続き
「…おい、お前しっかりしろ! クソ、どいつもこいつも、だらしなく眠りやがって!」
「…美童、美童、応答してください。どこにいるんだ、美童!」
応答は無い。清四郎と魅録は顔を見合わせた。
彼らの足元には前後不覚に眠りこけた警官たちがごろごろと転がっている。
時計の針はすでに12時を回っていた。屋敷は不気味に静まり返っている。
「行きましょう、魅録。琴子の部屋です」
「おう!」
あちこちで眠り込んだメイドや警官達を飛び越えながら、二階北側の琴子の部屋へ向かう。
驚いたことに、立ち入り禁止のはずの部屋のドアが開き、中から暗い廊下に灯りが漏れている。
魅録は清四郎に目配せすると拳銃を手にそっと忍び寄った。
清四郎もゆっくりとジャケットの内側から拳銃を取り出し用心深く進む。
やがてドアに近づくと、中からガチャンガチャンと重い金属用のものを叩く音がする。
魅録はごくりと唾を飲み込むと、片手でそっとドアを押した。
キィと音がしてドアが開く。中には誰もいないようだ。
強くドアを押して中に飛び込むと魅録は拳銃を構えた。誰もいない。
魅録は廊下から中を伺う清四郎に中へ入れと合図する。
と、その時またガチャンガチャンという音がし、魅録は慌てて拳銃を構えなおした。
ドアの横にいくつかのスイッチと、金属製の小さな扉がある。
音はその扉の中から聞こえてくる。中に誰かいるみたいだ。
魅録は拳銃を構え直すとスイッチを押した。
扉が音と共に開くと同時に中から白いかたまりが飛び出して来た。
「うぁぁぁぁっ!」
あまりのことに魅録は一瞬呆気に取られる。清四郎がすかさず白いかたまりを組み伏せた。
「誰だ! そこで何をしてた?」
「……へっ?……なにを……してたかって……」
白いかたまりと思ったのはコックの服を着た少年だった。
狭いところに閉じ込められていたせいかぜいぜいと荒く息を切らしている。
「君! こっちを向きたまえ…ん?」
清四郎は肩で息をしながら振り向いたその顔に一瞬目を見張った。
「……君、どこかで……」
その途端、照明が落ち、辺りは真っ暗になった。
*************
ほんの少しだけ進めてみました。
どなたか続きよろしくお願いします!
>有閑キャッツアイ
うわ、待ってました!!
続きを書いてみたいけど無理そう...。
どなたか、さらに進めて下さい(懇願)。
すいませんが箱って誰(何?)ですか?
>ホワイトデー
清四郎に萌えたw清×可はエチーて禿同!
だれかかいてくれぇ
>キャッツ
作者さんありがd!遭遇しちゃったのねw
普通のリレー小説より書くの難しいですよね。
清四郎のエチーは、いちいちフムッ!フムッ!って言いそうで
萌えないよ〜・゚・(ノД`)・゚・
私だけ?
ホワイトデー話、盛り上がってるねえ。漏れもカナリ萌えた。
久しぶりに競作するのどう?
5レスくらいで271タン以下の小ネタを使ってもよし、使わずともよし。
今日からホワイトデーまでの間にうp、てな感じで。
良いですね、競作。
賛成で〜す。
このスレの大半のヒトは結局箱って知らないんでしょうか?
もしや触れてはならない事項だったのですか?ただ単に住人の
性格がゆがんでるせいですかね。。。
>有閑キャッツ
わ〜い!久々の復活、嬉しいです。
書いてくれた方ありがd!
>競作
私も賛成!
個人的にはバレンタインのお話の続編も読みたいです。
バレンタインの作者様方、よろしくお願いします。
>>287 嵐さんのところで過去ログ読めばわかりますよ。
ヒントは迷宮w
それとできれば書き込みの際はsageでお願いしますね。
>288
あなたものすごーくいい人だねw
>285
あのなあ・・・ 今までの競作を知らないヤシは仕切るのヤメレ
>>36さんの続きいきます。
あからさまに頬をふくらませる悠理と、困惑する野梨子。
二人を眺める清四郎の唇には薄い笑みが浮かんでいた。
魅録はそれを見逃さなかった。
「わりィ、悠理。バイク見に行くのは今度にしてくれ」
魅録が急に声を上げた。
「えぇ〜、ずっと前から約束してたじゃないか!」
「今度埋め合わせするから。な」
「なんだよぉ」
ぶーたれる悠理の頭をくしゃくしゃとなで、黒髪の恋人に微笑みかけると
緊張がほぐれたように野梨子も優しく微笑み返す。
しかし悠理の不機嫌な様子に気づかないふりはできない。
「まあ機嫌直しなよ。僕がいいものあげるからさ」
横から白い手が伸びて、悠理の肩を抱いた。
「ほら、2年の菊ノ井さんのチェリーパイ。このまえ美味い美味いって
食べてたろ。また作ってもらったんだ」
魔法のように美童が取り出したチェリーパイを前に、悠理の目が
らんらんと輝き出す。
「全部食べていいのか!?」
「いいよ」
悠理の頭越しに投げかけられたウインクに、野梨子は真っ赤になった。
どなたか続きよろしくです。
>ホロ苦
美童、ナイスフォロー! あとで清四郎にいぢめられたら可哀想w
>ホロ苦
わたしも美童がフォローしてくれるといいなって思ってた!
清四郎の薄い笑みもGOODです。ちょっと意地悪な彼、好きなんですよ。
美童よくやった!!
悠理の扱い素晴らしく手慣れてるw
>>285 5レスくらいっていうのは少なくないかな?
酒は6レス、手紙は10レス以下だったので・・・。
>288さんが書いていたみたいに、
バレンタインの続編を考えておられる作者さんがいたら、
レス数を制限することによって書きづらくなったりしないかなあ、とちょっと心配になったのですが。
ところで、競作はすることになったんでしょうか?
個人的には、ホワイトデー話が読めたらどっちでもいいなあというのが本音なんですが、
他の住人の方はどうなんでしょう?
うpが全然無いときに、スレ活性化のために
競作するならいいと思うけど、
今、楽しみにしてる連載がいくつかあるのに、
競作のために連載が止まるのは嫌だなぁ〜。
作家さんの中には、競作の間は連載のうpを
控える人もいるだろうし。
お題もホワイトデーだとあんまりバリエーション広がらなそう。
競作に関する意見は、まゆこスレに書いておきました。
話し合いで本スレが埋まってしまうのもどうかと思うので、
続きはまゆこスレでやった方がいいのでは?
>297
乙!
>>240 魅録と分かれた後、美童は人ごみの中を歩きながら思惟に耽った。
酷く狼狽していた魅録。あの様子では、全く自分の気持ちに気づいていなかった
というわけでもないらしい。
「きゃっ」
「失礼」
運悪く、当たりが書かれた紙を探してしゃがみこんでいた女性とぶつかってしまった
為、手を差し伸べて立たせてあげる。美童の美貌に見蕩れた女性の手の甲に口吻け
し、「幸運を」と微笑みかける。それ以上は彼女に関わることなく、美童はパーティー
会場の中を歩き回った。悠理を探しているのだ。
黒のシンプルなドレスを着た悠理は、殊の外よく似合っていた。あの性格に誤魔化
されがちだが、もともと顔の造作は良く、また腐っても剣菱の令嬢だ。おそらく会場内
でも目立っている筈だったから、大した苦もなく探し出せるだろう。
この会場に潜入して、自分たちがまず驚いたのは、着飾った悠理の姿だった。いつ
もは奇天烈な格好しかしない悠理が、まるで普通のお嬢様のように会場に花を添えて
いたのだ。驚きもする。
魅録は離れたところから、ちらちらと彼女の様子を伺っていた。単純に考えれば、
それは悠理が上手くやるかどうかを心配しているかのようであったし、本人に聞いて
もそう答えるだろう。しかしちょっと穿った方向で考えてみれば――あれは彼女に
見蕩れていたのではないか。
美童はさきほどぶつかった女性の眼差しを思い出した。
会場内の光り輝くグラスに邪魔されて分かりづらかったが、美童はまるで眩しいよう
なものを見る目で、悠理を見ていた。
それでいて、魅録は頑なに悠理の変化を認めようとしないのだ。
あれは春の終わり頃だったか――美童は、自分が悠理の変化に気づいたときの
ことを反芻する。
悠理が少し、線が細くなったような気がしたのだ。
お嬢様らしかぬ言動はいつものことだったが、黙っているときに無意識に浮かべる
表情がどきりとするほど憂いを秘めて、美童を落ち着かない気持ちにさせた。
何かがひどくアンバランスのような、見ていて痛々しいような、そういうものを感じた
のだ。
もっともそのような不安定さは数日のうちに消失した。あれは、子供が大人へと成長
する過渡期に見られる精神的な揺れだったのかもしれないし、あるいはその短い期間
のうちに悠理の身に何かあったのかもしれない。
真相は定かではなかったが、今の悠理にどこもおかしいところはない。あれは自分の
気のせいだったのだと言われると、納得しかねないほどに。
ただ、確かに悠理の身になんらかの変化はあったのだろう。このところ、ときおり酷く
大人びた眼差しをする。雰囲気が円やかになり、仕草の中に女の兆しを認めたとき、
やっと美童は彼女が女になりはじめていることを知った。
夏に入ったあたりから、倶楽部の他の面々もまた、同じように悠理の変化に気づきは
じめたようだった。
以降、倶楽部には静かな動揺があったのだと今になって美童は思う。それはさながら
水面の表面に波紋が広がるような、そういう静かな動揺であった。
――野梨子が悠理に向けていた眼差しに、男性陣の中で唯一美童だけは気づいて
いたけれど、それを理解することは今でもできない。美童は少女ではなく、かつてそう
であった者でもなく、男性性を持つ人間だ。それは全く、彼の範疇にない感情だった。
あるかなしかの幽けし緊張
あるかなしかの幽けし緊張の中で、野梨子は悠理を追いかけるようにして羽化し、
清四郎は恋を失ったのだ。
(の一文を入れ忘れたので、入れてください。すいません。
ちなみに通し番号も間違ってます)
そういう変化を見守ってきた美童には信じがたいことに、魅録は本気で「あいつは
男友達だから」ということを言う。もちろん美童にしたところで、ほんの少し悠理が女
らしくなったところで焼け石に水という気がしないでもないし、そういうところが悠理の
魅力なのだとも思う。デリカシーに欠けるし、相変わらず食い物のことばっかり考えて
いるし。
それでも悠理は女なのだ。
『やっぱり僕たちは男で、彼女たちは女なんだよ。僕は彼女たちに恋愛感情は持って
ないけど、やっぱり悠理や野梨子や可憐のちょっとした姿に女を感じること、あるよ。
ぶっちゃけて言っちゃうけどさ、男だからね、性欲を感じることだってあるさ』
これは、一昨日前に自分がバーで魅録に対して言った言葉だ。
(ほんとに世話が焼けるなぁ)
悠理に対する魅録の想いは、恋ではないのかもしれない。ずっと馬鹿やってきた
友人が異性であったことに気づいてしまって、戸惑っているだけなのかもしれない。
どちらにしろ、自分が口出しなど余計なお世話かもしれない。
――分かっている。これは、魅録のためではない。
どう考えても、自己満足だろう。せめてでも何かをすることが出来た、と後で自分を
納得させるための自己欺瞞でさえあるかもしれない。
それでも動かずにはいられなかった。
美童は静かに溜息をついた。
ツヅク
>秋の手触り
ここのところうpが続いてうれしい限りです。
秋さんの文章を読むとほっとします。
美童の動きが気になりますね。彼は誰かを想っているのでしょうか。
更なるうpをお待ちしております。
>秋の手触り
秋さんの美童がとても大人で、彼らしくて大好きでつ。
悠理や野梨子の変化に、いち早く気付いていながら、
とりたてて何も言わず、見守っているような
優しい彼のまなざしが感じられてイイです。
夏の匂いで、可憐が美童への思いを秘めていたし、
私も美童の動向がきになりまつw
美童って軟弱で、ワーワー喚くキャラにされがちだけど、
人の機微によく気がつく、大人な美童萌え〜w
>秋の手触り
暴走愛に続いて、こちらも100レス突破ですね。
ところで
>>299 >会場内の光り輝くグラスに邪魔されて分かりづらかったが、美童はまるで眩しいよう
これは美童じゃなくて、魅録の間違い?
>305
そのとおりです。ご指摘ありがとうございました。
どうにもそそっかしくていけませんね。
有閑キャッツ、ちょっとだけ続けます。2レスいただきます。
>>280、
http://freehost.kakiko.com/loveyuukan/long/l-40-3.html の491の続き/野梨子サイド
ドアに吸い込まれるように消えた金髪男を追い、野梨子は慎重に歩を進めた。
時計を確かめると、午前0時を回ったところだ。逸る気持ちを抑え、通信機を取り出す。
思慮深い彼女が可憐への連絡を怠ることはない。
反対側で鍵を盗む算段になっている悠理とは大違いだ。
彼女が予定を勝手に変更し、身体をエレベーターにねじ込んでいる最中であることなど、
二人は全く知らなかった。
「鍵が開いていて、金髪の刑事が入室しましたわ。あとをつけます」
「了解。何かあったらすぐに通信機のボタンを押すのよ、助けに行くから」
知らず速くなる鼓動を落ち着けようと、野梨子はポケットを探った。
吹き矢の他に、発煙筒、目つぶし用の照明弾、緊急脱出用のロープなどの存在を
確認し、ほっと息をつく。
大丈夫…落ち着くのよ、野梨子。
あの刑事が中に入っても物音ひとつしないし、罠なんて、きっとでたらめだわ…。
細心の注意を払いつつ、彼女は重厚な樫のドアを押し開けた。
悠理サイド
突如訪れた暗闇の中で、清四郎は呻くような呟きを洩らした。
「まさか…」
彼の腕の下では、少年と呼ぶにはあまりに華奢な不審者が、肩で息をしている。
瞬きをする間もなく明かりが落ち、その容貌をはっきりとは確認できなかった。
だが…その長い睫毛は、柔らかな後れ毛は、振り返ろうとした頬のラインは、
魅了され、指で触れ、口づけた、愛しい人のものではなかったか?
見紛うことなどあるだろうか?僕の目は、節穴か?
「チクショウ!停電か?キャッツの仕業か?おい、清四郎、そいつはキャッツか!?」
相棒の葛藤に気付かず、魅録は舌打ちをしながらポケットのライターを探る。
悠理の腕をまとめて後ろ手にひねり上げ、清四郎はその身を引き起こして帽子を取る。
闇の中で、もう一方の手を彼女の顎へと回す。
指先が触れた瞬間、清四郎は息を呑んだ。
清四郎の躊躇いに気付いた「少年」は、渾身の力で彼の腕を振りほどいた。
カチッと音がし、魅録の手の中に小さな光が灯る。だが、それは白衣の後ろ姿を
ぼんやりと映し出すだけだった。
「待て!待ってくれ、悠理!?」
清四郎の呼びかけを無視し、悠理はドアと反対方向へと駆け出した。
部屋の、奥へ向かって。
**********
可憐は、野梨子からの連絡を受けた時点では女中部屋にいた設定です。
どなたか続けて下さい…。
>有閑キャッツ
やた!続いてるぞ〜。
野梨子の用意周到ぶりがらしくていいですね。
彼女の向かうドアの先には美童が… 大変なことになってるとうれしいw
清四郎は悠理って見破ってしまいましたか!
彼らのバトル見たいです。
だ、だんだん見せ場に近づいてきてますよね? 続きよろしくお願いします!
今日は雛祭りでつね。
悠理や野梨子は豪華な雛人形飾ってそうだw
甘酒でほんのり酔った女性陣の、少し乱れた着物萌えw
どなたか書いて下され m(__)m
>308から、続けます
次の間に続くドアへと滑り込んで錠を下ろした瞬間、ドンドンと振動が響いて来た。
清四郎だ。ドアを蹴ってるんだな…じきに破られそうだ。
激しい動悸のせいか、身体がガタガタと震え続ける。
くそっ!顔なんかろくに見えてないはずなのに、なんであたいだってわかるんだよ!?
悠理の脳裏に、見合いの日の記憶がフラッシュバックする。
不意に後ろから抱きすくめられ、強引に顔の向きを変えられた時のことだ。
力強い腕、真剣な眼差し。そして、その後にもたらされた、あまりに情熱的なキス。
かなわない、と思う男に初めて出会った日の、甘く、辛い記憶。
気付くと、震える口元を必死で押さえていた。
ドアから一歩離れて強く頭を振り、悠理は自分の中から彼の気配を追い出す。
目を上げ、飛び込んだこの部屋も闇に包まれていたことに気付く。
電源を落とすなんて聞いてないけど、可憐か野梨子がやったんだろうか?
っつーか…あたい、こっちに来るって連絡入れてない…。
まあいっか。とにかく絵を見つけて盗み出しゃいいんだからな。
ほーら、あたいの言った通りだろ。人の気配なんてしないじゃないか。
取り出したゴーグルをかけながら、悠理は3人での会話を思い出していた。
「琴子の姿を見た人が一人もいない、ってどう考えても妙な話よね」
「部屋付きのメイドはどこにいるんですの?」
「彼女の部屋の中に住み込んでいるらしいんだけど、そのメイドの姿を見た人も
いないんですって…」
「じゃあ、ホントはそんな奴ら、いないんじゃないのか?」
他のメイドが出払っている間に、こっそりリネン室で打ち合わせをした。
今夜、どうあってもミッションを完了せねばならなかったからだ。
悠理の発言に、二人は微妙な表情を返した。
「は…?いないって…」
「なるほど…その可能性は考えていませんでしたわね」
失笑する可憐の隣で、野梨子の瞳が光った。
「あの金髪の刑事さんが言ってましたでしょ。ベランダに黒髪の美少女を見た、って。
それが誰かはわかりませんけれど…例えば、琴子はとうに他界していて、
あの部屋には親戚か何かの少女が住んでいる、とか?」
「だけど、その子を見た従業員もいないんだろ?あのばーさん達には訊いたのか?」
「訊けませんわよ。どうせ彼女達は『琴子ちゃん』はいると言い張りますでしょうし」
「相手が子供なら、チョロいもんだ!さっそくあたいが…」
飛び出そうとする悠理の首根っこを、野梨子が捕まえた。
「胸騒ぎがしますわ。私がもう少し探りを入れますから、悠理は鍵を盗んで下さいな」
野梨子が発明した2WAYゴーグルがさっそく役に立ったな…。
ラバーバンドを頭に回し、悠理は右側のボタンを押す。
可憐が入手した見取り図によれば、ここは南側の老婆二人の部屋と同じ広さが
あるはずだった。ここから、一歩も外に出ずに生活ができる間取り。
イコール、寝室とバスルームとリビングルーム、それに+α。
ベランダがあるのは一番端の寝室で、おそらくそこに『三姉妹』がある。
最初に入ったのは廊下の続きのような狭い部屋で、エレベーターの真向かいに
女中部屋に続くらしい、質素なドアが見えた。
あそこに、メイドはいたんだろうか。
特製ジュースでおねんねしてたのか、それともやっぱり誰もいないのかな…?
このゴーグルは、左を押すと超強力サングラスになる。
瞬きすらせず、閃光を見つめる事ができるのだ。そして今は、その逆。
闇の中でも赤外線カメラのような映像を目にすることが可能になる。
「ちっ、ゴムがちょっときついや…」
ゆっくりと辺りを見回しながら、悠理はぼやいた。
かなり広いリビングだ。豪華なテーブルに立派な花瓶、むせ返る程のバラの香り。
しかし…なんだか冷や汗が出て来たじょ。身体の震えも一向に止まんない。
その時ぼんやりと、さらに奥へと続くドアが悠理の目に入った。
後方からは、刑事達の怒鳴り声が微かに聞こえてくる。
蝶番を狙え!と清四郎の声。撃つ気だ。もうすぐあいつらが入ってくる。
逃げ切るにも、絵を見つけるためにも、前に進むしかなかった。
踏み出そうとした時、ゴーグルがずり上がり、悠理は慌てて手をやろうとする。
それより早く、誰かがそれをひょいと引き下げた。
「あ?サン…キュ…………」
礼を言いかけたまま、悠理はフリーズした。
氷のような冷たい指が彼女の耳に触れ、離れた。
「有閑キャッツアイ」、久々うpの勢いがなくならないうちに、
少し進めてみました。
どなたか続きをお願いします。
>有閑キャッツ
いい感じで続いてますね。ヒヤリとした手は琴子でしょうか??
美童クンは一体どこへ…w どきどきします
続きどなたかお願いします!
暴走愛うpします。
昼ドラ泥沼系ですので苦手な方はスルーお願いします。
清×野×α です。
>>255 菊正宗修平はひどく疲れていた。
昨晩息子と激しく言い争った後、眠れぬまま自室に引き篭っている。
清四郎が親に向かって声を荒げるなど、ついぞ無かったことだ。
これも恋の病とやらが成せる業なのか。
煙草に火をつけ深く吸い込む。今晩何本目の煙草だろう。
吸殻が灰皿に山を成している。
目の奥から睡魔が修平を取り込もうとしている。
それに身を委ねてしまいたいと思っているにもかかわらず、
後頭部の辺りが明らかに冴え冴えとしていて
柔らかな布団に潜り込んでも睡眠を手に入れることはできそうもない。
「京都か……」
行かせてやればよかっただろうか。
今更のような考えが頭をもたげる。
苦笑いをして修平はその考えを頭から振り払った。
これはウチだけの問題ではないのだ。
いや、むしろ清四郎だけの問題ならば最終的には許したかもしれぬ。
だがやはり―――白鹿家ではそうはいかないだろう。
野梨子は白鹿夫妻の一人娘、しかも白鹿青洲という日本画の大家と
茶道白鹿流家元との間に生まれた由緒正しい娘なのである。
そんな彼女が実家から遠く離れた土地で暮らす、
しかも男と一緒になど――いくら住まいを同じくしないと言っても――
考えられない、という我々親は現代において古い人種なのだろうか。
それにしても。
一人息子の姿が脳裏に浮かぶ。
彼は本当に野梨子を連れていくつもりだったのだろうか、京都へ。
互いの両親に知られぬまま?
修平には清四郎が京都の大学を受験しようとしていることさえ知らなかった。
いや、彼の妻も娘も知らなかった。
清四郎と野梨子の計画は昨日、唐突に露見したのだ、しかも最悪の形で。
比較的自由にさせているとはいえ、生活の根幹に関わる大事なことを
息子が自分たちに黙っていたことがショックだった。
いや、それよりも何よりも清四郎が「愛の逃避行」というべき、あまりにも
思慮を欠いた、感情に流されているような行動を取ることが気にかかる。
おかしい。あいつはそんな男じゃなかったはずだ。何故、そんな馬鹿なことをする。
感情に流された?
そうだ、あいつは何かをきっと恐れている。
態度には見せないがきっとそうだ。
だが、何を?
何を?
ふいに清四郎が自分の親と言い争うのを前に
小さくなっていた野梨子の姿を思い出す。
気の毒になって見つめているとふと目が合った。
どきりとする程、艶がある瞳だった。
いつの間にあんなに香るような女になったのか。
熱いような冷たいような、望むような諦観しているような瞳。
修平は彼女から視線をそらせないでいる自分に驚き、汗した。
野梨子はそんな彼に気づいてか知らずしてか、申し訳なさそうに微笑むと
す、と瞳を逸らす。
年甲斐もなく修平の心臓が動悸している。
魔性の者に魅入られた気がした。
前日、菊正宗家を白鹿流の家元が訪れた。
隣近所とはいえ、忙しい野梨子の母がやってくるのは久しぶりで清四郎の母は
色んな話ができると喜んで待っていた。
しかし期待に反し野梨子の母は何か大きな悩み事を抱えてきたようだった。
初めこそ他愛のない話をしたものの、やがて言葉が途切れる。
野梨子の母はため息をついて切り出した。
「京都のこと、よろしいんですの? お宅では」
「はあ……」
京都? 何だったろうか。そういえば来年の春には京都に桜を観に行きたいと思っていたが
そのことを彼女に話しただろうか。それとも、ああ修平が来月京都で講演をするという
話のことか。
「はっきり申し上げて、私どもまだそういうことは早いと思ってますの。その、
清四郎さんはご立派な方だと存じてはおりますが、それが娘のこととなると
どうしても色々と考えてしまって……。だって、ねぇ、色々とありますでしょ?」
「ええ……そうですわね」
清四郎と野梨子の交際のことを言っているのだろうか。
「どうして東京の大学じゃいけないんでしょう。いえ、京都もよろしゅうございますけど
余りに遠すぎますわ。野梨子がそんな遠くへ行くなんて、とても考えられなくて……」
「えっ、野梨子ちゃん、京都の大学に行くんですの?」
予想外の答えに野梨子の母は驚いて問い返した。
「えっ、清四郎さんもご一緒に、というお話ですわね」
ぽかんとした顔の相手にバッグから持参した小さな細長い箱を取り出した。
「あの……こんなものお見せするのどうかという気もするんですけど」
訳がわからないといった顔を見せる相手に続けて説明した。
「判定薬、とありますの。その、つまりお腹にね、いるかどうか調べる……
まだ使ってはいないようですけど」
清四郎の母は朝からの陽気な気分とはうって変わって、不安が自分を包み込むのを感じた。
野梨子の母の声がする。
「本当に申し上げにくいんですけど、野梨子は清四郎さんとそういう……。
私も主人も清四郎さんのことは小さい時からよく存じておりますし、お付き合い自体には
何の異存も、いえむしろ喜んでおりますわ。でも、本当にあの私たち、最近の子供達を甘く見ていた
と言いますか、高校生なのにそんなことになっているなんて、本当に心臓が口から飛び出すかと
思う程驚いてしまって。まだまだ子供だと思っていたものですから。それに加えて、京都の大学を
受験して合格した暁には向こうに住むと申しますでしょう。しかも清四郎さんと一緒に。
もう、これはもう、私共許すわけには……もっと節度を持ったお付き合いをしてほしくて……
今更なんでしょうけど」
断って席を立ち、電話に向かった。
呼び出し音が鳴る間も、清四郎の母は夫に何を話すべきか考えがまとまらなかった。
清四郎が野梨子ちゃんと。
もうそんな齢になっていたのか。
男の子だったら当然なのだろうか。あの清四郎だからと思って甘く見ていた。
でも、なぜ京都へ? 二人きりになりたかったのか。
その時電話の向こうに不機嫌そうな夫の声が聞こえた。
何を、何を話したらいいだろう。
「あなた、すぐ帰ってきてくださいな。お願い……大変なの」
その後は文字通り修羅場だった。
清四郎と野梨子は学校から呼び戻され、急遽病院から駆けつけた修平と白鹿家からも青洲が
加わり、夕刻から話し合いが持たれた。
親たちを前に子供達は少々深刻そうな顔をしていたが、別段臆することもなく
堂々と並んで座った。
まるで何も悪いことはしていませんと居直っているようにも見えたが
こちらとしてはそうはいかない。
修平は記憶を辿りながら再び煙草に火をつけた。
明け方が近い。
清四郎は京都行きを決意したわけを訥々と説明したが、この男にしては妙に歯切れが悪く
場所を変えて新しい世界に身をゆだねたいのだという理想論に終始した。
野梨子の母や修平の妻がやんわりと結婚前の男女が親元離れたところで二人きりになることは
親としては容認できないと説明したが、清四郎は一緒に住むわけではありません、
自分たちの子供が信用できませんか、と言うので女親は黙り込んだ。
修平が頭ごなしに怒鳴ろうとするのを制して、青洲が静かに語りだした。
清四郎君、僕らは君たち二人を祝福しているし、信用もしている。
だが世間の目というものがあってね、特に僕らのような家では、好きになったらいいじゃないか
どうぞ一緒に行ってらっしゃいという訳にはいかないのだよ。
清四郎は黙って青洲を見た。野梨子は俯いている。
物事には順序があるだろう。
僕らだって恋をしたことがある。恋をした男女がどういう付き合い方をするかよくわかる。
どんなに節度を持っていても縛るものが無ければ、雪崩を打ったように生活は乱れるものなのだよ。
恋情が絡めば特にそうなる。
古い考え方だろうが娘には祝福されて結婚してほしい。
変なつまらない噂などで身辺を汚してほしくないのだよ。
聡明な君ならば、わかるだろう、清四郎くん?
修平は軽く身震いした。
穏やかに話してはいるが青洲の体から厳しい気が放たれていた。
青洲は明らかに、腹を立てていた。修平の息子に対して。
可愛くあどけなかった一人娘を薫り立つ女に変化させた、清四郎に。
お父様、と呟いて野梨子は父を見つめた。
黒く濃い睫毛に縁取られた漆黒の瞳から涙が一筋零れ落ちるのに修平は見とれた。
そして、その涙に一瞬自分の姿が映るのを、修平は見た。
続く
>暴走愛作者様
乙です。
野梨子の薫り立ち方素敵ですね。
しかしなんと不安定な、雌(おんな)への変化の仕方だろう。
不安でたまりませんわ。
修平父さんの心理描写も気になるところです。
すみません。
青洲→清州です。さんずいのつく場所が違いました。
>青洲→清州です。さんずいのつく場所が違いました。
笑うところじゃないけどワラタ。
グッジョブ!
作者サマ、これからも楽しみにしてます。
それにしても今回の野梨子はイイ。
おそらく二人の成績からして京都の大学って
京大の医学部と文学部あたりかな・・・。
京大生って同棲率高いし、リアルだなあ。
修平パパが野梨子を見る目が怪しい感じ。
>京大生って同棲率高いし、リアルだなあ。
そうなんだ… 京都がエチー臭い街に思えてきたw
>327
ワロタ
けど、自宅外生が多いし、院進学する人も多いので、
お金の節約という正当?な理由もあるからね。とりあえずフォロー。
漏れ学生時代京都だったんですが。
当時のカレが住んでたワンルームマンションの住人数、何故か
部屋数の2倍だと聞いて笑いました。ワンルームのはずなのに。
まあ学生用マンションだったしな。
マンションを縦にスパッと割ってみたらさぞ面白かろうと思った。
雑談スマソ。
京大かあ…近所に住んでるけどアパートとかマンション
ばっかだし、カップルで暮らしたら愛欲の世界に
のめりこんじゃうかも…。
>326
まさか修平パパ、野梨子に…ギャー!
>青洲は明らかに、腹を立てていた。修平の息子に対して。
>可愛くあどけなかった一人娘を薫り立つ女に変化させた、清四郎に。
このくだり萌え〜
確かに大事な一人娘があんな目にあってるって事実を知ったら
清州さんマジギレしそうだ〜!
芸術家の勘でなんとなく気づいていたりして。
>暴走愛
清四郎が...清四郎がっ...。
ていうか、修平パパまで絡むとは思いもよらず...脱帽です。
このお話は、読んでて泣きそうになります。
昼メロのプロデューサーが目にしたら、マジで飛びつきそう(藁
>キャッツアイ
ずっと中断していたけど、いつの間にか動き出したんですね。
やっぱり野梨子と美童サイドが気になります。
それから、可憐の登場にも期待!
(45)以外は新しくないじゃん。もっと書けよ〜!!!!
>>313に続けます。3レスです。
悠理サイド
魅録が目をしばたたいている間に、コック服の少年は姿を消していた。
ほぼ同時に清四郎がドアに飛びつくのが見えたが、コンマ1秒遅かったらしい。
「ここを開けろ、開けるんだ!」
彼は、怒鳴りながら必死で拳を叩き付けている。
「おい、清四郎。お前さっき...」
ライターを灯したまま背後に回ろうとし、後ずさってきた清四郎を慌ててよける。
ためらわず、清四郎はドアの鍵めがけて幾度も蹴りを入れた。
だが、ごく普通のドアに見えるそれは、彼の力を持ってしてもビクともしないようだった。
「くそっ...なぜ開かないんだ!?」
悪態をつきながら、清四郎は振り返った。かすかな明かりに、彼の焦燥が浮かび上がる。
「お前、あいつの名前を...呼んだよな?」
「え?あぁ.......彼はコック見習いの...確か、悠介くんと言いましたよね」
清四郎は魅録の問いをはぐらかし、ドアに向かってつぶやく。
「この中には、危険な罠があるかもしれないのに...なんて無茶を」
彼の相方は無言で撃鉄を起こす。ジャキッという音に、清四郎はまた振り返った。
「撃つ気ですか?すぐそこに、かの...彼がいる気配がするのに...」
「別にヤツを撃つわけじゃねーよ。鍵を壊すぜ、どけよ」
銃口をそちらへ向けた魅録に、清四郎は叫んだ。
「だめだ、そっちに立ってる。蝶番を狙え!」
OK、と魅録が銃を構え直した瞬間、
んぎぁああああ〜〜〜〜〜〜
開かずのドアの向こうで、耳を劈くような悲鳴が上がった。
可憐サイド
午前0時10分。メイド部屋で待機中の可憐は苛立ちを募らせていた。
先刻、問題の部屋に侵入を試みる、と野梨子からつなぎが入ったのだが、
悠理は一向に戻らないばかりか、とんと音沙汰もないのだ。
「なにやってんのよ、悠理のアホは!?一体どこにいるのよぉ」
予定通りあの老嬢たちが薬で眠っているとしたら、鍵を盗み出して戻って来てもいい頃だ。
野梨子の情報によれば、その労力が無駄になるかも知れないのだから、と、
悠理のベルを鳴らすと、なぜか部屋の中から振動が響いて来た。
あいつったら...
こんな大事な時に、なんで通信機を忘れてんのよっっ!!
へなちょこ金髪刑事くらい、野梨子が片付けてくれるに違いないんだから、
とっとと絵を頂いてずらかるチャンスだってのに。あーもう、仕方ない!
「ほんっとに、手のかかる妹よねぇ...探しに行きますか」
可憐はメイドの制服を脱ぎ捨て、身体のラインを強調するボディスーツ姿になった。
瞬時に髪をアップにまとめ上げ、再び顔を上げた時、その瞳が光を放つ。
本番の顔。普段は誰にも見せる事のない、仕事の顔だ。
顔見知りの刑事もいることだし、と、一応目元を隠すマスクをつける。
何でも見た目から入る可憐にとって、「盗賊のコスチューム」と言えばやはりこれなのだ。
しかし、ふと2WAYゴーグルに変更した。正直なところ見た目はイマイチなのだが、
こっちの方が役に立つかもしれない、と思い直したのだ。
果たして、彼女の勘は当たった。
野梨子サイド
あら?ドアの向こうにまたドアが...。
野梨子は抜き足差し足で小部屋を通り抜け、そのドアにそっと耳を当てた。
いくら広い屋敷とは言え、あの刑事がここに入ったのはつい先刻のことだ。
おそらく、隣の部屋にいるはず。とにかく様子を...。
「きゃぁ…!」
いきなりドアを引かれ、運動オンチの野梨子はそちら側へ転がり込んだ。
口をぱくぱくさせながらどうにか身体を起こす。きっと、彼だわ!
メイドとしての言い訳を、彼女は必死で探していた。
そうそう、実はものすごい方向オンチで、紅子と鈴蘭の部屋と間違えたことに...。
ひらめいた野梨子だったが、四つん這いのままの目に入ったのは、エナメルの小さな靴だった。
ゆっくりと野梨子が顔を上げると、ぞっとするほど美しい少女が自分を見下ろしていた。
感情を持たない漆黒の瞳が、品定めをするように自分に注がれている。
「...あなたも、きれいね」
そう言い放った少女の赤い唇は、嘲りとも取れるような冷たい笑みを浮かべている。
この子だわ、あの美童という刑事が探していたのは!
用意した言い訳を唇に乗せようとするが、喉に舌が貼り付いたようで声も出ない。
「お立ちなさい」
命じられるまま、野梨子は立ち上がる。おかしい、身体が勝手に...どうにかしなくちゃ...。
頭を働かそうとするが、フィルターがかかったようで、何も考える事ができない。
「あなた、あの金髪のお人形さんと並べたら似合いそうね」
急速に薄れゆく意識の中で、野梨子はその声を聞いていた。
少女は野梨子を部屋の奥へと導きながら、ククッと喉を鳴らした。
「嬉しいわ。アタシのコレクションが久々に増えて...」
**続きをお願いします**
>キャッツ
すごい!!リレーだというのにすごく緻密でドキドキします。
作家さん方ありがd!可憐はどうなってしまうのかなー
>有閑キャッツ
続きがどんどんうpされてうれすぅい〜〜
悠理サイド、可憐サイド、そして野梨子サイドもとっても読み応えがあります。
そして可憐コスプレキターーッ!
コソーリ「いきなり次回予告」こんなの出ました。
ttp://ikinari.pinky.ne.jp/ ある夜のこと。野梨子は82歳で農場を買い取り、83歳でミステリーサークルを発見、
翌年、突如現れた清四郎星人を撃退する夢を見た。
ところで、清四郎星人は何が目的だったのか。
そんな野梨子の切実な疑問に恋人可憐は謎を解決すべく立ち上がる。
次回「え?!清四郎星人は隣人・清四郎…?!」
衝撃の結果、須く見よ!
>338
>可憐コスプレ
確かにw頭の中で可憐の身体のラインがくっきり浮かんだわ。
>いきなり〜
やりはじめるととまらないよねw
>>339 私もやってみた …ら、こんな結果w↓
魅録「ヘイ、あんたは人を殺したことがあるかい?」
無敵の裏格闘チャンピオン・清四郎の前にまたも現れた、最強の死刑囚・魅録。
愛する悠理をめぐっての戦いに清四郎は全身骨折、ついに初の敗北を喫するか!?
だがその時清四郎の脳裏に、悠理の言葉が蘇る!
「考えるんじゃ無い。感じるんだ…」
次回「格闘鬼 清四郎」第25話「殺人鬼魅録の意外な弱点」にトルネード・キーーーック!
>339,341
同ネタですみません、もう一つだけ...!
ハムスターの美童グランマニエは飼い主菊正宗清四郎の部屋の中で大冒険!!
飼い主さんの10点のテストや、飼い主さんのラブレターとか、いっぱい見つけちゃうよ!!
んで、最近気になったものはね「剣菱悠理」と書いてあるリコーダーなんだ!!
もしかして、飼い主さんって…!?
>いきなり
3つともワラタ。リコーダーがツボw
「清四郎星人」&「格闘鬼 清四郎」&「ハムスター美童の大冒険」
それぞれ誰かマジで書いてくれ!www
清四郎大活躍ですなw
悠理のリコーダーを舐める清四郎…いやぁぁ
「いきなり次回予告」やってみたら
清四郎「吸い付くようなこの肌に…この縄を…」
野梨子「ああっ御無体な!」
清四郎「ふふ、ぎゅーっとな」
野梨子「オレっち、もう…もお!」
次号…乞う御期待。
番組最後の着付け教室、講師は裕也をお迎えしてお送りします。
見たいかも〜ww
野梨子が「オレっち」かい!w
・・・チョットミタイカモ(コソーリ
私も見てみたいw
野梨子って縄が似あいそう。
誰かイラスト描いてくれぃ
悠理サイド進めてみます。
>>334 悠理サイド
触れられた耳から冷気が全身を駆け抜けた。
ぶぁっと冷や汗が噴出す。悠理は思わず悲鳴を上げた。
「んぎぁああああ〜〜〜〜〜〜 !」
悲鳴を後に響かせたまま、無茶苦茶に走り出す。
怖かった。ただひたすら怖かった。
これは、この嫌な感じは、もしかして……っ
嫌だ、ここから逃げ出したい……!
入ってきたのとは逆側にある扉に飛びつくとノブを回し、中に転げ込んだ。
悠理はしばらく息を切らしてへたり込む。
暗視ゴーグルが顎までずれていた。
あわててゴーグルに手をかけた時、またあのぞわりとした嫌な空気が背中に忍び込む。
はっと息を飲むと悠理はゴーグルをかけ、恐る恐る部屋の中を見回した。
(うわっ。気色わりぃーー)
二十畳は悠にありそうな、その部屋の中はさながら人形の館であった。
それも趣味の悪いことに等身大の人形ばかりが数十体、部屋の中に鎮座していたのである。
どの人形も生きているかのように生々しい。あるものはソファに座らされ、
あるものは両手いっぱいの造花を持たされ、じっと虚空を眺めている。
どれもこれも毒々しい程の化粧を施されていた。
悠理は一体の人形に近寄る。その人形は悠理と同じ年くらいの女の子で、背中まで伸びた髪は
きちんとカールされ、フランス人形のような衣装を着せられていた。
けばけばしいメイクの顔をじっと見るうちに、悠理はどこかでこの人形を見た気がしてくる。
(……! そうだ、厨房にあった写真。行方不明になったメイドにそっくりなんだ!)
ぐるりと部屋を見回す。大きな天蓋付のベッドが目に入った。
歩み寄ると思い切って天蓋のカーテンを開けた。
ベッドの中には金髪碧眼の王子様と黒髪もゆかしいお姫様の人形が仲良く寄り添っていた。
悠理は目を凝らして人形を見つめる内、衝撃を受ける。
「野梨子!!」
野梨子と呼ばれたお姫様の眼は、だが虚しく空を見つめているばかりだ。
駆け寄ろうとして自分の体が動かないことに気がついた悠理は、背後に誰かが立っていることに
気づく。
くくく、くく。笑い声が聞こえる。ぞわりと下半身から忍び寄る寒気。
(あ、あ……。 助けてくれ、誰か……。可憐……っ!)
その時、銃が蝶番を吹き飛ばす音がした。
*******
どなたか続きをお願いします!
>キャッツ
わ〜どんどん進んでる!スリル満点ですな。
『悠理と清四郎』ホワイトデー編です。
今でも思う。
一体あたし達はどこか、どこでもいい、端っこだけでもつながってたんだろうかと。
想いが通じれば、もう苦しくないと思ってた。
「並んでねー。押しちゃ駄目だよ。皆の分、ちゃんとあるからね」
ホワイトデイ。黄色い声を上げて押し寄せる女の子を優雅にさばく美童を尻目に、清四郎は廊下を
急いでいる。と、足を止めて美童に声をかけた。
「悠理、見ませんでしたか?」
美童は一瞬きょとん、とした顔をする。一体、悠理のことを何故僕に聞くのだろうと
いう顔にも見える。
「いや、見なかったよ」
礼もそこそこに清四郎は廊下を急いだ。
バレンタインデーのお返しに沸き立つ校内をよそに、悠理を探し続けている。
やっとのことで屋上に彼女を見つけた。
いつの間にか降り出した雪に向かい、口を開けている。
「おいしいですか」
清四郎の声に悠理はぎくっとする。振り返ろうとして、やめた。
横を向いたまま答える。眼をこちらに向けようとせず赤くなった頬が少しだけ見える。
「うん、うまいよ」
「もっとおいしいもの、いりませんか?」
眉をひそめて振り返った彼女に差し出される薄いブルーの包みには青いリボンが飾られていた。
悠理はじっと見つめていたが、やがてふいっと横を向く。
「いらねーや。だって、ホワイトデーのクッキーだろ、それ。あたし、お前にチョコレートあげてないし」
「そんなのいいんですよ。僕からの気持ちですから」
悠理は黙っている。
天から舞い落ちる雪に眼を細めていた清四郎は微笑んで悠理を見つめている。
やがて静かに切り出した。
「悠理、なんだか僕たち変だと思いませんか」
「……なんだよ」
「僕はね悠理。悠理の笑顔が大好きでした」
「……」
凍てつく風に悠理は身を屈めた。彼女の首には赤いざっくりとしたマフラーが巻かれている。
「ですが、僕と付き合うようになってから悠理は笑わなくなってしまいましたね。
それから校内で僕と会っても目も合わせないで無視する。生徒会室にも全然顔を出さない。
これって何か変じゃないですか?」
悠理は天を仰いだ。清四郎に背を向け転落防止の金網を昇り始める。
下から清四郎の声がする。
「悠理、前みたいに僕と笑って馬鹿言ったり、ふざけたりしたくありませんか?」
後ろ向きのまま、黙って悠理が縦に首を振ると清四郎も軽くうなずいた。
「前みたいに何のわずらわしいことも考えずにうまいもん喰いに行きたいですか?」
柔らかな髪を雪が飾り付けていく。
悠理の吐く白い息が震えた。
再び悠理の頭が縦に揺れた。
清四郎は微笑んで灰色の空を見上げた。
悠理の頭の上から白い雪がひらひらと舞い落ちてくる。
手を伸ばしたら彼女まで降ってきそうだ。
「友達に戻りましょう、悠理」
雪が。
後から後から落ちてくる雪を悠理が数えている間に清四郎は消えた。
金網から降りてきた悠理は黙ってマフラーを巻きなおすと考える。
なあ、清四郎。
世界中でお前のことが、お前だけが一番大好きだってことを
一言で言える単語を、知らないか?
頭がいいお前だったら、すぐわかるだろ?
すごい大事だったってことを、
すごい大好きだったってことを、
だけどお前の顔を見るのが恥ずかしかったんだってことを、
どうすればいいかわかんなかったんだってことを、
あたしはまだ子供なんだってことを、
思い切り甘えたくって、
だけどできなかったんだってことを、
一言で言える単語があればよかったのにな。
お前がしてくれたキスも
お前が組んでくれた肩も
あたしのことをのぞきこんだお前の優しい瞳も
全部大好きだったよ
ごめんな。
大好き過ぎて、お前に嫌われるのが怖かったんだよ
これ以上近づかれるのが怖かったんだよ。
あたしを見切られるのが怖かったんだよ。
ごめん、清四郎。
こんなふうに終わっちゃうのか、だったら聞いておけばよかった。
あたしとお前ってどこか端っこだけでもつながってたんだろうか。
指の先とか、髪の毛の先でもいい。
どこかほんの少しだけ、一瞬でもつながりあうことがあったんだろうか。
「悠理はどう思うんです?」
振り返るとどこから出てきたのか目の前に清四郎がいた。
ずっと屋上のどこか悠理の近くにいたんだろう。鼻の頭が赤い。
さきほどの優しげな様子はどこへやら、不機嫌な顔で悠理を見ている。
悠理は視線をそらすと呟いた。
「……なんだよ、いたのか。なに、怒った顔してるんだよ」
「怒ってるんですよ。……どうして別れたくないなら飛びついて来ないんです?
どうしてもっと必死になってくれないんですか、悠理。本当にいつも僕ばかりが……」
涙をためた猫のような瞳が清四郎を見ている。
清四郎は言葉をつまらすと、むっとした顔を崩さず悠理を抱きしめた。
「本当に、甘ったれですね、悠理は」
景色が凍りつくような気温の中で清四郎の存在だけが温かい。
清四郎は悠理の髪をかきあげると、額に、まぶたに、唇に順々に口付ける。
「あったかいな、お前」
「悠理が冷たいんですよ」
冷え切った悠理の手を清四郎の温かい手が握り締めた。
「さっきの……どっかつながってるとかって」
「……うん、」
「今こうやって悠理を抱きしめてる。つながってると思いませんか」
「……そうだな」
今でも思う。
一体あたし達はどこか、どこでもいい、端っこだけでもつながってたんだろうかと。
想いが通じれば、もう苦しくないと思ってた。
一瞬でも想いが通じれば、痛いほど幸せだった。
<おわり>
『悠理と清四郎』ホワイトデー編終わりです。
ありがとうございました。
>悠理と清四郎
お久しぶり!待っていましたよ。
恋がはじめての悠理が故のとまどいや、うまく言葉を紡げないもどかしさ
がよく伝わってきました。それにしても毎回かわいいw
またコメディ風なのもみたいな。のんびりお待ちしています。
>>291さまのツヅキです
「じゃ、清四郎。わたしに付き合ってよ。数学、わかんないところあるのよ」
可憐が呼びかけると、清四郎は覚悟を決めたように目を閉じて頷いた。
二人で歩きしばらくたった。
「聞きたいのは数学のことではないんでしょう?可憐」
「その通りよ。なんなのよ、保健室の会話は。野梨子を脅迫するようなこと言って。倶楽部内に影響を与えるだの、悠理にも迷惑だの…」
「脅迫とは 心外ですね。正しい忠告をしたまでです。現に早速悠理は約束を反故されたわけですし」
現実をもって例証されて、可憐は詰まってしまった。
「…と、とにかく、あの二人がうまく行くように見守ってやるのが、私たちの役目じゃないの。野梨子のこと、今だって大切でしょ」
「…大切だからこそ、心配なんですよ。可憐は、あの二人がうまく行くと思ってるんですか?」
「…?」
「あの二人は合わないと思います。今の時点では分からないが、付き合いが続けば壁にぶちあたるでしょう」
「どうして?二人はお似合いだと思うけど。」
「確かにそういう気もしました。しかし、よく、考えてみてください。魅録の趣味・行動や交友関係は、
野梨子とは別世界です。まったく相容れない。二人は合わない。魅録との恋愛で…、野梨子は思い悩むことになるでしょう」
魅録はおよそ聖プレジデントのおぼっちゃまらしくはない。暴走族や風俗関係の女まで、その交友関係は豊富で多様だ。
一方、野梨子はお嬢様中のお嬢様である。友人といえば倶楽部の5人以外あまりいないといっても過言ではない。趣味も全く違う。
…清四郎の指摘は的を射ている。二人を取り巻く世界は正反対だ。
「で、清四郎は、野梨子が魅録とはうまく行かないことに気づいて、自分の元に戻ってきてくれるのを待っているわけ?」
喉まで出掛かったセリフを可憐はやっとの思いで飲み込んだ。
この男はそんなにもあの幼馴染を想っているのだ。そしてその事実は可憐自身の胸をも締めつける。つらい思いを再確認して何になろう。
「というわけで、しばらくは二人がどんなつき合いをするのか静観させていただきますよ。
可憐も他人のことを心配しているヒマがあったら新しい玉の輿恋愛でも見つけたらどうですか」
儚く笑う清四郎は寂しそうで、この男は狡猾なのか純粋なのか、可憐はわからなくなった。
ツヅキお願いデス。
> 悠理と清四郎
悠理がかわええ…切なくてかわええ。
それと、美童のホワイトデーの光景がツボでした。
黄色い声が飛び交う中、嬉しそうに配ってそうだもんな。
>キャッツ
すごーい。中断してたのがウソのような進み方。
可憐姐さんは颯爽と登場するのかな...。
>悠理と清四郎
このシリーズめっちゃ好きです。
今回はいつにも増して切なくて、途中、胸がぎゅうっとなっちゃいました。
えっ?友達に戻っちゃうの?いいの、清四郎!?って。
ハッピーエンドでほんとによかったです。
>ホロ苦い青春編
清四郎の指摘が尤もなだけに、これからどうなっていくのか気になります。
可憐も含め、みんなホロ苦くなっていきそうな持っていきかたがイイ!
>359
>お久しぶり!待っていましたよ。
なんだか同じ人が書いたと知っているかのようなカキコですなw
作家さまご本人ですか?w
>>364 いや…「悠理と清四郎」って、シリーズですよね?
普通は同じ人が書いていらっしゃると考えるのではないでしょうか。
> お久しぶり!待っていましたよ。
というわけで、私も同じ気持ちです。
イベントや場面の使い方の上手さと、そろそろかなあと思っている頃に
アップしてくださるそのタイミングのはかり方の上手さに惹かれます。
とても好きなシリーズです。素敵な作品をありがとうございます。>作者さん
読んでいない作品については 余計なツッコミはしない方が
いらん恥をかかなくてすむと思われ…。
恥ずかしいヤシだなw
>>360さまのつづき。
夜。
唇に指を当て可憐は考えた。瞳はどこか遠くを見つめている。
自分の言動を思い返してみるとなんだか矛盾するようなことばかりの気がした。
清四郎が傷つくのが見ていられなくて『あたしがいるじゃない』と言ってみた。
そのあとすぐに、その言葉を彼を奮い立たせる言葉に摩り替えた。
そして今日、2人の邪魔をするのはどうかと思う、と言った。
魅録と野梨子は想いあっている。確かに清四郎の言うとおりきっとこれからの
2人には沢山乗り越えなければいけない壁が立ちはだかってくるだろう。
だけど、と可憐は思った。
あの2人なら、きっと大丈夫だろう、と。だって、2人ともあんなに純粋に相手を
相手を想っている。少しでも傍にいたいと思っているのがこちら側にも伝わってくる。
それは付き合い始め、という事だけではないはずだ。
それをきっと清四郎もわかっているから、回りの細かな事を持ち出してきたりするのだろう。
傷つきたくない。後悔はしたくない。
正反対に揺れる清四郎の気持ちと彼の行動は、そのまま可憐が清四郎に望むことにシンクロしている。
傷ついてほしくない。後悔はして欲しくない。
だけど。(行かないで────)
野梨子のところへ行かないで。あたしがいる、って言っているじゃない。
あたしの傍へ来たら傷つかないで済む。魅録と野梨子の2人を笑って見ることの出来る
その日まで、ううんその先もずっと隣にいるから。もう、やめたら───?
カタン、となんのことはない物音がして可憐は我に返った。
まだ気持ちが高ぶっている。(落ち着いて…恋をするって事は、気持ちが揺れるって事なのよ)
そんな事を思いついて、心臓がひとつドクン、と鳴った。
(恋───)「…やめてよ」今夜もきっと眠れない。
魅録も、野梨子も、清四郎もきっとそうだろう。
それぞれの想いを乗せて、静かに夜が更けていく。
続きお願い致します。
>364は僻み?
清×悠もっと読ませてください!!
やっぱりこの二人はいいですよね〜!
>370
>364は恥ずかしいヤシだが、そういう発言もどうかと思われ
分からんかったら過去ログ読んでね
368タン 可憐の気持ち整理してくれてありがとう!
リレーで心理描写って難しいですよね。続き行きます。2レスすみません。
夜ー。野梨子はベッドの中で眠れないでいた。
帰り、魅録は野梨子を家まで送ってくれ、楽しい会話で野梨子を
楽しませてくれた。しかし野梨子の心は晴れないでいた。
「悠理に悪かったですわ…。先の約束でしたのに」
「ま、いいんじゃないの。美童のナイスなフォローもあったし。
あいつも気にするようなタチじゃないだろ。」
「でも、私たちのために皆に嫌な思いしてほしくありませんわ。
清四郎だって…」
「清四郎?」魅録は「清四郎」という言葉に反応した。
「あ…いえ…、なんでも無いですわ…」
消え入るような声の野梨子に、それ以上問い詰めるのをやめ、
魅録はいたずらっぽく笑いかけた。
「じゃあ、野梨子は俺と一緒に帰らないほうが良かった?」
野梨子は思いも掛けない言葉を返され真っ赤になって抗議する。
「そんなこと、ないですわ!うれしいですのに…。こうして側に
いられるだけで…信じられないくらい幸せですのに…」
野梨子の目が潤んでいるのが黄昏の淡い光の中でもわかる。
愛しさが込み上げ、魅録は恋人の額にキスをした。
「だったら、余計な心配するなよ」
肩にまわされた手は大きくて温かい…。ほんとに全ての心配事が消えて
行きそう…。野梨子は体中が優しさと幸福感で溢れるのを感じた。
幸せな心地よさは野梨子を勇気付けた。門の前まで来たとき、
野梨子の方から弾んだ声で魅録を誘ってみた。
「今週の土曜日、見たい映画がありますの。ご一緒にいかがかしら」
ところが魅録はチッと軽く舌打ちした。
「悪ィ。土曜はバイク仲間とツーリングなんだ。俺、リーダーでさ、
宿もとってるから、ちょっとムリだな」
一瞬のうちに野梨子の顔に落胆が走る。そうだわ…。魅録はお友達が多い。
週末はいつも仲間とバイクに乗っているわ…。
私と付き合いだしたからっていきなりやめるわけない。
バイクに乗れない私が一緒に行けるわけもない。
「ムリ…ですわね…」
寂しさに耐えて微笑む野梨子に魅録は言う。
「日曜の朝にはこっち帰るから、昼から一緒に行こうぜ」
ベッドの中で野梨子は後悔する。魅録に気を使わせてしまったのでは
ないか。朝帰ってきて昼からデートなんてきついに決まってる。
でも魅録と一緒にいたくて約束を成立させてしまった。
それにしても、悠理との約束を破らせてしまったそばから、ツーリングの
約束にも不満気な顔をしてしまう自分はひどく我侭なのではないだろうか。
本当は、あの時だって悠理に申し訳なく思いながらも、自分を選んでと、
心の奥で叫んでいる自分がいた。
「こんなに私って利己的な人間だったのかしら…」
自分自身を制御できず混乱したまま、野梨子は夜を明かした。
どなたか続きお願いします。
>ほろにが
それぞれの心理描写がいいですねー。
野梨子のとまどいがすごくよい!!
引いてほしくないなぁ。でも、引いたらもっと
こんがらがって清四郎のオイシイ展開に…w
>>373さんの続きいっちゃいます。私も2レスすみません。
翌日の昼休み。
いつものメンバーが木陰でくつろいでいる──ように見えた。
が、可憐は雑誌を読むふりをしながら清四郎の様子を盗み見しているし、
清四郎はさりげなく野梨子の隣に座ろうとはしない。
そして野梨子は付き合い始めたばかりの男と仲良く話しながらも、
常に周りの様子をうかがっているようだ。
平和なのは自慢の金髪の手入れに余念のない美童と、腹ごしらえのあと
芝生に寝転がって眠ってしまった悠理だけである。
「──何か面白い記事でもありますか?」
ふいに清四郎が、可憐の方を向いた。
可憐はあせって雑誌のページをめくった。
「今月の『絶対に見ておきたい映画』……かしら」
適当に開いたページの文章を読むと、美童が身を乗り出す。
「どれどれ? 未完の文芸大作を映画化、かあ」
美童が映画のタイトルを口に出すと魅録も会話に加わった。
「それ、日曜に野梨子と見に行こうって言ってるんだ」
「へえ。ごちそうさま」
軽口を叩く美童の声。平和なひととき。
しかし黙ってその光景を眺めていた清四郎が口を開いた。
「その映画は魅録の趣味じゃないと思いますがね」
かすかに含まれた刺に、野梨子はハッとした。
魅録も鋭い目で清四郎を見つめる。
「だから何だよ」
「どうせ野梨子が見たいって言ったんでしょう。無理をしてまで
趣味の合わないことに付き合う必要が──」
「清四郎ッ!」
可憐が思わず声を上げると、清四郎は口を閉じた。
魅録は清四郎をにらんだまま立ち上がり、野梨子をうながした。
「行こうぜ」
「でも……魅録」
「いいから」
野梨子の華奢な腕をつかんで強引に魅録は歩き出した。
どなたか続きよろしくお願いします。
>ホロ苦い
面白くなってきました!
付き合いだしてからもスムーズにいかない不器用な魅と野、
昔の少女漫画ティストでイイ!なんか懐かしい感じ。
野梨子と可憐がそれぞれにせつなくて・・・可哀想。
タイトルがホロ苦だからしかたないですねw。
>376さんの続きです。
「清四郎、ふたりを傷つけて楽しい?」
魅録と野梨子が去ってから、可憐は清四郎に向き直って言った。
「確かに、あの映画は魅録の趣味じゃないわよ。そんなことわかりきってることじゃない。
…野梨子とだから、なのよ」
そこまで言ってから清四郎の顔を見ると、明らかに動揺しているのがわかった。
無理もない、自分をさらけ出さないことを常としている男が、魅録への嫉妬の余り思わず
本音を言ってしまったのだ。
「ごめん、あたし、言い過ぎたわ」
清四郎を見ているのが辛くて、可憐は身体の向きを変えた。
目の前にはすやすやと寝ている悠理がいる。
もしかしたら途中で目覚めて狸寝入りを決め込んでいるのかもしれないが、悠理の安らかな
寝顔を見ているといっそのこと自分も寝ていればよかったと思った。
自分が好きな男が他の女のことでこんなに動揺するのなんて、見ずにすむのならそれが一番
いいと思っているから。
「あたし、次、移動だから早めに行くわ。じゃあ」
可憐は荷物をまとめ、立ち上がった。
美童はわかったような表情で微笑んで見送ってくれたが、清四郎は虚ろな表情のままだった。
中途半端ですが、続きお願いします。
>ホロ苦い青春編
見事にリレーになってて、素晴らしい。
それぞれの切なさやホロ苦さが、じわじわっと利いてきます。
作家さんたち、いい物語を読ませてくれてありがとう。
>ホロ苦い
リレー面白い!
うっかり本音を言ってしまう清四郎もまた幼くてヨイ
>ホロ苦い
どんどん進んでいておもしろい!
魅録、野梨子、清四郎もそれぞれ切ないけど
可憐のほろ苦さが胸に迫ります。
>377
タイトルがホロ苦だからしかたないですねw。
その通りw
>「あたし、次、移動だから早めに行くわ。じゃあ」
そうだ、こいつら高校生だったんだ!
なんか懐かしい響きだわ>移動
>382
高校生っての忘れそうになるよねw
てか、ほとんど忘れてた。
暴走愛うpします。
ダークなので苦手な方はスルーお願いします。
>>322 す、と襖が開いた。妻が顔を出し、清四郎が到着した旨を夫に伝える。
「どうなさいます? 客間にお通ししましょうか」
「いや、ここへ連れてきておくれ」
清州は頷く妻の姿に野梨子を重ね合わせる。
あれからもう二十年近くも経つ。過ぎ去った日々に思いを馳せても浮かんでくるのは
あの日のことばかりだ。
反古紙と蔵書と絵筆に溢れかえった清州の部屋の片隅に、清四郎は座した。
聖プレジデント学園の制服をきっちりと着込んだ青年に目もくれず
清州は絵筆を走らせている。清四郎も心得たように黙って座っていた。
桃の華の下に女人が一人立っている。
艶な微笑みを浮かべたその女はどこか淋しげだ。
その唇に紅を乗せると清州はふっと息を吐いた。
「なぜ野梨子を京都へ連れていくんだね」
背筋をまっすぐに伸ばし正座をした清四郎に目をやる。
彼は黙っている。
「悪いがゆうべ野梨子から大体のいきさつは聞いた。君が野梨子とやり直すために
選んだ場所が京都だということも」
静かに清州を見つめた男が答える。
「……はい」
和服の袖をたすき掛けにした紐をほどきながら、畳み掛ける。
「本当にやり直せると思っているのかね」
「はい」
「……本当に? どうやって?」
「誠意を尽くします」
「やり直すことが野梨子の幸せだと思うかね」
「……はい」
どこまでも真直ぐに視線を返してくる清四郎に、温厚な清州が珍しく
心底腹ただしいといった風情を見せる。
「君には無理だ、清四郎くん」
「……どうしてでしょうか」
「わかっているだろう。君自身が野梨子の病だからだ」
「……はい」
「君自身が野梨子の傷」
「……」
清四郎は厳しい言葉にもひるむことなく、唇を引き結び清州を見つめ続ける。
「君自身が野梨子の災厄、野梨子の苦しみなのだ」
「わかっております」
「いや、わかっておらん。君は他人を傷つけ苦しみ苛むということが、どういうことか
わかっておらぬ。だから君には野梨子を任せられない」
「――野梨子を僕が傷つけ、今も苦しめていることは、よく、わかっているつもりです。
ですが今、野梨子を癒せるのも又僕しかいないのです」
「不遜だね、君は。君はいわば強盗だ。殺人者だ。野梨子を傷つけ、大事なものを奪った。
その加害者の君がどの面下げて野梨子を癒すと言えるんだね」
「……全力を尽くします」
「無理だよ」
「なぜですか」
清州は部屋を横切ると縁側に続く障子を激しく開け放った。
その勢いに清四郎は言葉を呑む。
画家の、障子の桟を持つ手が白くなっていた。清四郎に向けた背中が小刻みに震えている。
目の前に秋に彩られた日本庭園が見えた。
長い沈黙の後、清州はぽつりと呟いた。
「私も加害者だからだ」
清四郎ははっとした。
「昔、私が美術学校の教師をしていた頃、教え子にとても才能のある男がおってね。
特別に指導し、息子のように可愛がっていた。ある日、奴が恋人を連れてきた。
いや恋人ではないな、奴の片思いで、何しろとんでもない美人で由緒正しい家のお嬢さん
だったから。憧れているといった感じで、身も心も彼女に入れ込んでいた。それが……」
清州は言葉を切る。
「あれの、野梨子の母親だ。私が奪ったのだ。息子のように思っていた教え子から横取りした」
清四郎は沈黙した。
「恥ずかしいことだが、初めての恋だった。初恋に目がくらんでいた。それ程までに、あれの母親は眩しかった。
情熱の赴くまま、教え子にこれっぽっちも悪いと思わずに、私は彼女に求婚した。そして……」
苦しげに息を吐く。
「清四郎くん。君は人間が壊れる様を見たことがあるかね」
「私はある。一度壊れた人間は注意深くつなぎあわせたとしても、ばらばらなのだ。
どんなに言葉を尽くしても、どんなに詫びて、なけなしの誠意をはたいたとしても
決して元には戻らない。彼は絵を描けなくなった。素晴らしい腕を持った男だったのに。
それ以来一枚も、一つの点さえ打てなくなったのだ。
私にとってせめてもの償いはその人間の前から姿を消すことだった」
赤い眼をした清州はやっと振り返る。娘の恋人は固く拳を握り締め、肩を震わせていた。
「わかったろう。自分の罪を棚に上げて何を言うと思うかもしれんが、親としての
たった一つの願いだ、清四郎くん。野梨子の前から消えてくれ」
清四郎の固く握り締めた拳の上にぽたりと一粒水滴が落ちた。
続く
>暴走愛
なんだかどうしようもないくらいドロ沼ですね…
まさか清洲さんまで絡んでくるとは。
イカンイカンと思いつつ
鼻水たらした清四郎を思い浮かべてしまった・・・w
でもステキ!ステキよ清州オジサマ・・・(はぁと)
原作でも清州オジサマが男性陣の中では1番好きなので嬉しいです。
あ〜野梨子のおっかさんになりて〜
>389
渋いですなぁw
>暴走愛
清州さんの心情がよく理解出来るお話でした。
彼は自分の通り過ぎたつらく苦しい道をよく知っているから
娘にも(そして清四郎にも)二の轍を踏んで欲しくないんですよね。
果たして清四郎に、彼の唯一の願いを叶えることが出来るのか。
>暴走愛
清洲さんの過去話、漱石先生の「こころ」を思い出したよ。
清四郎君、これ以上みんなを不幸にしないでくれ…。
>二の轍を踏んで欲しくない
ハゲワラ!やっと覚えた言葉でつかw
>>393 ああ、「二の足を踏む」「轍を踏む」を混同していました。失礼。
>>389 ワラタ!
>>394 気にすんな!w
怪しい日本語を使ってしまうことは誰にだってあるさ。
ちなみに自分、このあいだ「至れり尽れり」と言ってしまった。
どうだ、恥ずかしいだろう!
ゴメン、バカスギ?イッテクルゥ・・・・
>>394 アリガd!
ことわざ慣用句辞典を買いたくなる今日この頃だよ。
ゴメソ。
>>395さんだったよ・・・_| ̄|○
私もわだちに踏まれて逝ってくるさ・・・
違う違う、踏まれて逝ってくる・・・
しつこくてスマソ。
日本語間違ったって
悠理キャラになりきれば、どうってことはないかとw
なりきりと言えば、白鹿野梨子さん、また降臨しないかなぁ。
なにげに好きだったんだよなぁ、彼女。
あ、私も好きだった。
いつも丁寧に質問に答える姿勢に好感。
時々登場してた他キャラも好きだったなあ。
久々に読みたくなっちゃったので、読み返して来よう〜っと。
私も好きだった〜。可憐さんも好きだったなー優しくて。
最後の荒らしにキレたよ。
白鹿野梨子さん、なんだか懐かしい。
あれ、妙に癒された。
そだね、癒されたよね。
ドロドロ系も面白いけれど
そろそろ癒し系SSも読みたいなぁ〜
作家さま方、よろしくお願いします。
「魅録ってさ、最近、清四郎に会ったりなんかしてるの?」
今朝、それもかなり早い時間に携帯に電話を寄越してきて、数時間後バーボンを手土産に
やって来た美童の最初の一言目がこれだった。
「なんだ、いきなり」
俺は、美童の意図が全く読めなかった。
大体、美童と普段会う時は、どこか酒の飲めるところで適当な時間だけ決めといて、相手が
来る前から少しずつ飲み始め、来たら来たで続けて飲みながらたわいのない話をするのが
ほとんどだ。
なのに、今日はどうしたわけか平日の昼間、しかも俺のマンションだ。
「いや、さ、この前久し振りに会ったら、『近いうちに東京離れる』って聞かされたから」
勝手に冷蔵庫から缶ビールを取り出した美童は、ベランダ近くの床に腰を下ろした。
俺は手近にあったマルボロの箱の中から一本取り出し、火を点ける。
窓は、さっき美童がベランダに出た時から開けたままになっていた。
「どっかに留学ってことか?」
最初の一服を済ませてから、俺は美童に訊いてみた。
「僕も、最初聞いた時同じ質問した。でもね、違うよ。他所の病院へ移るんだって」
プルトップを引っ張って、一口まず飲んでから、美童が答えてくれた。
その答え方は、やけにあっさりしている。
まるで、清四郎のことじゃなくて、俺らのただの共通の知人について話してるみたいに。
「初耳だな」
灰皿の縁で煙草を軽く叩き、灰を落としながら俺は呟いた。
俺は少し前のめりに身を起こし、もう一度煙草を口に咥え、目は何故か外の景色に釘付けの
ままゆっくりとニコチンを吸い込んだ。
不意に、あの病院での日を最後に、清四郎に会ってないことに気付く。
それだけでなく、電話やメールのやりとりも絶えて久しい。
美童とはこんな感じで気軽に会ったり連絡とったりするのに、いつから清四郎とそんなに
疎遠になったんだろう。
これといった原因が思い当たらない。
「ねえ、魅録、僕ずっと気になってたんだけど、清四郎は、野梨子が住んでるマンションに
魅録も住んでるって知ってるのかな」
声につられて視線を美童に向けると、美童は右手で缶を持って俺の方を見上げていた。
その目は、何か探るように俺の目を覗き込んでくる。
美童としては、俺が何か知ってると思ってるんだろうが、生憎俺は何も知らない。
俺はあの時、野梨子からそういった話を聞かされなかったし聞き出しもしなかった。
大体、別居のために部屋を探している女性に、その旦那の話をあえて出すなんてことは
非常識じゃないのだろうか。
この頃になってようやく、この部屋に馴染んできたと思えるようになった。
振り返ってみると、最初に足を踏み入れた時は漂ってくるあまりの無機質な雰囲気に
思わずたじろいでしまったことが思い浮かんでくる。
あれほど『家を出る』と決意を固めていたのに、その決意がもろくも崩れそうになって
しまったほどだった。
そんな私の内心を見抜いたのか、魅録のお友達は『荷物さえいれてしまえば感じは変わり
ますよ』と言ってくださった。
私は迷いを振り切りたくてその言葉を信じこんだが、実際に運んでみると、確かに感じは
変わりはしたもののそれは必ずしも温かみを感じるものではなかった。
居心地の悪い、だが妙にバランスのとれた三角関係。
家を出るにあたって私は多くのものを新たに買い込んだため、部屋と私の関係だけでは
なく荷物と私の関係も近しくなかったのだ。
それが今は、玄関を開けて中に入り、ドアを閉めて鍵をかけるとホッとする。
人の目を気にせず、人に気を使う必要もない私だけの空間。
靴を脱いで両足を開放すると、まずはリビングまで行って疲れきった身体をソファに投げ
出すのがたまらなく心地良い。
ジャケットや鞄は、着たまま持ったままの時もあるし、床に放り投げてしまうときもある。
さすがに着物の場合はそうはいかないが、この5分10分のささやかなだらしなさが何物にも
変えがたいなどと思っている自分がいるのが何だかおかしい。
それから、家事の手を抜くことも覚えてしまったような気がする。
清四郎という人は、全くと言ってよいほど家事に関しては細かいことを言わなかったが、
私自身が何を考えていたのか、むきになって几帳面にやっていた。
しかも、清四郎に手伝ってもらうという発想がはなからなかったから、暇さえあれば
何かしていたように思う。
でも今は、食事こそ健康のことを考えてなるべく毎日作るようにしているが、その他の
ことは溜めてしまうこともしばしばだ。
ちょっとした埃が目に付いて、慌てて掃除し始めたことだってある。
そして何よりも違うのが、5階に住んでいるということ。
実家は平屋建てで、前の家は2階建て。
お天気の良い日に、何ということなくベランダに出て風にあたり景色を見ていると心穏やかに
なってくる。
特に何が見えるというわけではないが、すぐ下の通りに目線を移したりするとつい人が
行き交うのを夢中になって見ている。
1度など、金髪が目に飛び込んできたから気になってよく見てみると、どうも美童らしき人に
見えてきてあと少しで声をかけてしまうところだった。
もちろん向こうは私に気付きもしなかったけど。
【続く】
378さまの続きです。
人気の無い所まで野梨子を連れてきて魅録は手を離した。
「ごめん、強く握って。痛かった?」
うっすらと赤くなった野梨子の細い腕に目をやり気遣う。
「気にすんなよ。清四郎の言ったこと。…ったくあいつ、何考えてんだ」
魅録はやさしい…。でもこのやさしさに甘えてはいけない…。
あの清四郎の言葉はきっとわがままな自分に対する忠告だ。
「でも清四郎の言うとおりですわ。あれは魅録の好きな映画ではありませ
んわ。それに朝東京に帰ってきて、すぐお出かけなんて大変ですわ。
わたくし、自分のことしか考えてなくて…、ごめんなさい」
「なんで謝るんだよ」
魅録は野梨子の両肩に手を置いてかがみ、野梨子の顔を覗き込んだ。
「清四郎にいやなことでも言われた?」
目の前に迫る魅録の瞳から視線をそらし野梨子は否定する。
「…いえ、清四郎は祝福してくださるって。一緒に行き帰りするのをやめ
るっていう提案も魅録の気持ちを思ってのことですし…」
果たしてそれは真実だろうか。魅録は疑わしく思う。しかし、今、
野梨子にこれ以上問うても余計困惑させてしまうだけだろう。
「わかった。じゃあ、日曜はこうしよう。俺は絶対一緒に映画に行く。代
わりにその後、俺のダチの溜まり場の居酒屋につきあってくれ。野梨子が
行った事ないような汚い安いとこで、バカで喧嘩ばかりの奴等だけど、
悪いやつらじゃないから」
野梨子はようやく魅録と目を合わせた。
「俺は野梨子の見たい映画につきあう、野梨子は俺のダチとの集まりに
つきあう。これでオアイコだろ?」
優しく微笑みかける魅録にそれ以上逆らえず野梨子はうなづいた。
続きお願いです。
短編をうpさせていただきます。
主役は清四郎で、ほんのり悠理絡み+魅録ですが、ややオカルト入ります。
(大して怖くはないと思いますが...)
「魅録がかっこよくなきゃイヤ!」という方にはあまりおすすめできない
設定ですので、そういう方はスルーして下さるようお願いします。
3〜4回でうp完了の予定です。
とある昼下がりの生徒会室でのことだった。
悠理がじゃじゃーんと自分で効果音をつけながら、一枚の写真を目の前に掲げた。
「わ、豪華なリゾートだねぇ」「水上コテージ?どこよ、モルディヴ?」
皆が興味を持って覗き込む中、にんまりと笑った悠理が右手を上げる。
「『剣菱アイランドリゾート沖縄』オープン記念、2泊3日の旅ご招待!今週末ヒマな人〜!?」
五本の手が一斉に上がった。
* * * * *
それは初秋の連休のこと。
六人は剣菱の自家用ジェットで離島の飛行場に降り立ち、ボートでリゾートに乗り付ける。
目の前に現れたのは、ひときわ立派な水上コテージだった。
「うわあ、素敵!ハネムーンはここにしようかしらぁ!!」
「それ、いつの話だよ!?」
目がハートになっている可憐に、美童がすかさず突っ込みを入れる。
「しかし...随分広いですねぇ。一体誰が借りるんですか、こんな豪華な部屋」
清四郎は最後に室内に入り、ゆっくりと見回した。寝室が二部屋あり、それぞれに
三台のセミダブルベッドが入っている。広大なリビングとは別に予備の部屋が
一室とバスルームが三つもある。カップル向けでないのはもちろんだが、
ファミリー用にしても広すぎる。
「だって、あたい専用コテージだもん。皆でいつでも使っていいってさ」
悠理の言葉に、清四郎は耳を疑った。
「皆、って僕達ですか?」
「お前らの他に誰がいるんだよ!?とーちゃんとかーちゃんが、どうせずっと六人で
つるんでるんだろって。大学生になっても一緒に来ようぜ!」
なるほど。ありがたいといえばありがたい話だ。
だが、いつまで今まで通りの関係でいられるだろう?
もう子供とはいえない時期に差し掛かっているというのに。
小さくため息をつく清四郎に、魅録が気付いた。
「どうした?」
「いえ、別に...。さっそく泳ぐとしますか」
「清四郎、魅録!お前らもこっち来いよお!」
彼の問いかけを軽く受け流し、清四郎は手招きする悠理の方へ歩いていく。
魅録はポリポリと頭を掻いた。
ざっぶん、という派手な音と共に水飛沫が上がる。一回転しながら悠理が飛び込んだのだ。
続いて魅録も飛び込んだ。
「元気ねえ、もう夏も終わりだってのに」
サンドレス姿の可憐はうんざり、といったジェスチャーでそれを眺める。
「まあ、さすがに沖縄だから、日中はまだまだ暑いけどね」
美童は泳ごうかどうしようか逡巡している。
「泳がないんですか?」
「意地悪ですわね、清四郎ったら。浮き輪もないのに...」
水着に着替えた清四郎が野梨子に声をかけると、彼女ははツンとそっぽを向いた。
「泳ごうぜ、悠理!」
魅録が悠理に声をかけるが、悠理はじっとデッキを見上げている。
そこでは清四郎が楽しそうに野梨子をからかっていた。
「おい、清四郎!何やってんだァ、早く来いよ!」
悠理が叫ぶ。
清四郎はゆっくりと下を覗き込み、冷たく言う。「魅録に遊んでもらえ」
「やだ!早く来いってば!」
悠理は口を尖らせるとプクンと水に潜った。
「やれやれ、困ったもんだな」
なんだか憂いを含んだ口調に、美童が顔を上げる。
「どうしたの?清四郎」
彼はそれには答えず、ひらりと飛び込んだ。
「相変わらずきれいなフォームで」
「体育のテキストに載れそうですわね」
可憐と野梨子はそう言い捨て、リビングへ戻った。
デッキの手すりで頬杖をつき、美童は泳ぐ三人を見つめる。
なーんか、引っ掛かるなァ。胸騒ぎ、って言うのかな、妙な感じがするんだけど...。
だが、彼の思考はあっさりと中断される。
「ウェルカムドリンクをお持ちいたしましたぁ」
女の子の声が聞こえ、美童はいそいそと部屋へ戻って行った。
悠理はすっかりはしゃいでいる。
「魅録、清四郎、競争しようぜっ。あの岩まで先に泳いだもん勝ちな!」
「いいぜ」
「はいはい。わかりましたよ」
「よーおい、すたーとぉ!」
三人は一斉に泳ぎ始めた。
魅録はかなり真剣に泳いでいる。悠理はもちろん全力だ。魅録が悠理より少し先に
岩に着きそうだ、と思ったその時、ぴったりついていた清四郎がぐんぐんと前に出た。
その時、魅録の中で何か不思議な感情が渦巻き始めた。
こいつに負けたくない、そう思ったのだ。
だが、結局清四郎が一番に岩に着いた。余裕の表情を浮かべる彼を見て、
魅録はカッとなる。あいつ、なんだって自分が一番だと思っていやがる。
「くそっ。もう一回勝負だ。次はあのブイにしねえか」
魅録は遥か遠くに浮かぶ目印を指差す。それは清四郎との勝負のつもりだった。
いくら規格外とはいえ、距離が長くなればなるほど女の悠理には不利だからだ。
だが、挑発に乗ったのは彼ではなかった。
「よっしゃ、次はあたいの勝ちだ!行くぞ魅録!!」
「おい、いい加減にしないか悠理。魅録も...遠すぎますよ」
清四郎は後ろを振り返り、距離を計算する。
思ったよりも水が冷たく、潮の引きが強いようだ。復路を泳ぐ体力が残るだろうか?と。
だが、二人はそのまま泳ぎ始め、諦めた清四郎も追い掛ける。
最初に一番乗りしたのは失敗だったな。悠理だけならいつものことだ。
だが、魅録が熱くなっていることは、清四郎の予想外だった。
ゴールの手前で、果たして悠理がバシャバシャともがき始めた。
先頭を泳いでいた魅録がそれに気付いた時、清四郎が悠理を後ろから抱きかかえて
いるところだった。
「いって〜、足、足つったあぁ!」
「だから言ったでしょう、遠すぎるって」
「おい大丈夫か?」
振り返った魅録に、清四郎は顎で前方を指し示す。
「とても戻れませんよ、とにかくあの小島まで連れて行きましょう」
その指示に、魅録がやっと気付く。
コテージからはあまりにも遠い場所にいることに。
三人の先に、小さな島が見えた。
「へえ、おじいちゃんと二人暮らしなの?千春ちゃんって」
美童はドリンクを持ってきてくれた女の子と話し込んでいる。目鼻立ちのくっきりとした
沖縄美人だ。
彼女はハンサムで話し上手な外人さんを目の前にして、頬をピンクに染めている。
かーわいいなあ。16、7ってとこか。
彼が頬を緩ませた時、立ち上がって海を見に行った野梨子の不安そうな声が聞こえた。
「ねえ、清四郎達の姿が見えませんわ」
皆は一斉に立ち上がり、デッキへ出る。きょろきょろと辺りを見渡しながら呼び掛けるが、
反応はなかった。
「案外、いたずらしてたりして」
そう言いながら、可憐はトロピカルフィッシュを見るためのガラスの床を覗き込むが、
そこには小さな魚がいるだけだ。
野梨子が伸び上がって遥か遠くを指差す。
「さっき、あの岩の所にいたのは見えたんですのよ」
「うっそだろ。まさか、あれより遠くまで行ったんじゃ....」
「風も冷たくなってきたし、もう日が暮れるわ。いくら河童のあいつらでもまずいわよ」
可憐と美童もさすがに不安になる。
その時、千春と呼ばれた女の子が、ハッと驚いたような顔をして、デッキの先へと
腕をのばした。
「まさか、あの島へ....!?」と言って青ざめる。
「じいちゃんからきつく言われてるんです。あの島には絶対に近付くな、って」
遥か彼方に小さな島影が見える。
三人は顔を見合わせた。
−続く−
素晴らしい作品がたくさん!
>暴走愛
原作でも絶対野梨子の父さま母さまって、昔何かあったっぽい。
そこを上手に使っててウマイです。清州さんのいうように、
清四郎は人間というものが分かっていない不遜な若造だw
>サヨナラ
詳細の描写が丁寧で落ち着ける文章がいいです。
魅録と野梨子になにか起こらないかなと、期待してしまう。。
>ホロ苦
魅録の優しさに萌えますた。二人のデートシーンが見たい〜。
>孤島の月
原作っぽくてイイ!女の子の登場であっさり思考を中断する
美童にウケた。
作家さんたち今宵もありがとう。
夜になって次々にUPされてて嬉しいです。
>サヨナラの代わりに
真相が分かってくるのが興味深いです。
今回は野梨子の描写が特に良かった。彼女が「自分」というものを
少しずつ確立していくのが、よく分かります。
清四郎との結婚生活では、頑張り過ぎていたんですね。
そういう野梨子が魅録とどう関わっていくのか、続きが楽しみです。
>ホロ苦い青春編
魅録がうまくまとめましたね。
でも、映画の途中で寝ちゃうんじゃないかとか、魅録の友達と
野梨子はうまく馴染めるんだろうかなど、気になることも一杯w
>孤島の月
新連載、待ってました。
清四郎・悠理・魅録の微妙な関係が面白そうです。
続きが楽しみ。
>サヨナラの代わりに
魅録、美童、野梨子のさりげない動作がいいです。
彼らは真相を知ってしまうんでしょうか。
続きお願いします。
>ホロ苦い
ぐずぐずした野梨子とさっぱりした魅録がどういうふうに
展開していくのか、魅録に一つきっぱりと決めてほしいですね
>孤島の月
おおっ、三人の関係が……な雰囲気w
わくわくさせられます。続き待ってます!
御大がインターネットを最近始めたそうだ。
有閑オフィシャルサイトのクイズに答えたら副生徒会長を間違えたのだそうだ…
御大……魅録一押しって噂はガセですかw
>>421 ここの絵板に降臨してほすぃ〜。まさにネ申w
あはは〜そりゃ確かにネ申だけどさぁ
でもある意味、怖いよぉ〜
絵板だけならともかく、御大が妄想作品読んだら…と思うと
ドキがムネムネしちゃうよwww
そっか、御大…ネットはじめたのか…
私も怖いよ〜。
私は作家さんではないけれど、できればひっそり楽しみたいもんな。
御大はそんなことないかもだけど、こういうの嫌う原作者さんもいるし。
ネットで公開してる以上隠すのは不可能なんだろうけどねえ。
でも副会長間違えたのにはワラタ。
万が一ここを見つけたとして、これまでのネタを
今までの絵で書いてくれるってことなら是非見てみろ!といいたいw
どうせ有閑ネタきれてんだろ〜オラオラ>御大
しかし、ありえないかも・・・
原作で部内恋愛することだけは勘弁してほしい。
「孤島の月」、
>>417の続きをうpします。
ちょっと言い訳します。
沖縄が舞台とか言いつつ、方言がわかりません。ご了承下さいませ。
その島に引き寄せられるかのように、三人は冷たい海流の中を泳いだ。
やっとの思いで波打ち際に辿り着くと、清四郎は悠理を抱き上げて歩き始める。
真っ白な星砂の浜が広がり、深い緑の樹々が生い茂る美しい島だった。
「お、降ろせよ、自分で歩くからァ」
「この状態で歩いたら、余計ひどくなりますよ。こら悠理、暴れるな!」
悠理と清四郎はいつものように言い合っている。
魅録は自分が子供っぽい競争心を起こした事を後悔しながらその後をついていくが、
清四郎は一言も彼を責めない。
身体が冷え切ったせいか、悠理が急にガタガタ震え始めた。
「どうした、寒いのか?悠理」
清四郎のやさしい声に、弱々しく頷く。
「どこかで暖を取らないとまずいですね...」
「あそこに洞穴があるぜ!」
島の中央は黒い大きな岩山だったが、そこに洞穴のような亀裂が見える。
二人が足をそちらへ向けようとすると、悠理が清四郎の首にしがみついた。
「や、やだ、あそこ...なんかやだ!」
まさか、またお化け探知機か?と男二人は顔を見合わせるが、濡れた身体に当たる
風はますます冷たくなってくる。
陽もぐんぐんと傾き始め、他の選択肢はとても見つかりそうになかった。
「僕達がついてますから大丈夫ですよ。いくら悠理でも、裸同然で抱きつかれるのは
落ち着きませんからね。早く身体を温めましょう」
清四郎がつとめて軽い口調で言うと、悠理は渋々頷いた。
洞窟内は思ったより広かった。
奥に三つの大きな石が並べられており、その近くで悠理を降ろすと、清四郎は無言で
彼女の細い脚をマッサージし始めた。悠理は落ち着かない様子で辺りを見渡すが、
それほど嫌なものは感じないらしく、どうにか大人しくしている。
外で枯れ枝を集めてきた魅録は、二人を横目で見ながら火を起こす。
泳ぎ疲れてなかなか力が入らず、あきらめかけた頃にやっと煙が上がった。
清四郎も悠理を抱えてかなりの距離を泳いだはずなのだが、疲れをおくびにも出さない。
魅録は石の一つに腰を下ろし、大きく息をついた。
そうなんだ、いつだってこいつの方が俺より上だ。清四郎は泣く子も黙る生徒会長で、
俺は副会長なんて言っても名ばかりだ。聖プレジデント学園の中にも、野梨子が
副会長だと思ってる奴がいるくらいだしな。悠理も遊ぶ時は俺と一緒にいたがるが、
何か困ったことが起きると、頼るのはいつだって清四郎なんだよな。
魅録は悶々とした思いに囚われる。
そして、俺って意外にも卑屈な人間だったんだな、と自嘲する。
「魅録、どうかしましたか」
呼び掛けられ、いつの間にか両手で顔を被っていた自分に気付き、慌てて顔を上げる。
「い、いや。別に...」
「暗くなる前にもっと燃えるものを集めてきましょう。野梨子たちが探しに来たとしても、
入り口で松明を焚かないと、見つけてもらえそうにありませんしね」
すっくと立ち上がる清四郎に合わせて魅録も腰を浮かすが、悠理が泣き出しそうになる。
「せ、清四郎!やだァ、一人にするなよ!こわいよぅ!」
「あー、わかったわかった」
清四郎は一旦かかんで、涙目になっている悠理の頬をぴたぴたと叩いた。
「...俺が行くよ」
魅録が申し出るが、清四郎はおだやかに首を振る。
「疲れてるんでしょう?魅録。悠理についててやって下さい」
腕にすがりつく悠理の手をそっとほどき、彼は外へ出て行った。
夕陽が沈む頃、コテージに血相を変えた千春の祖父が飛び込んできた。
「お友達があの島へ行ったと?そりゃ、まずい。何人だ?」
「男二人と女一人の三人ですけど。」
可憐が答えると、老人は弱々しく首を振った。
「最悪じゃな、三人とは...。まさかとは思うが、三角関係ということはないじゃろうな?」
「とんでもない!そんな関係じゃ...」
否定しようとする野梨子の言葉を、美童が右手を上げて遮る。
「もしそうだったら、何か問題が?」
老人は大きく頷き、立ち上がった。
「とにかく船を出そう。一刻を争うんじゃ」
悠理は膝を抱えて座り込んでいる。
火の側にいても、彼女の震えは一向に止まる気配がなかった。
所在なく歩き回っていた魅録は、青ざめたその横顔を見てどきりとする。ああ、悠理は
自分でも気付かないうちに恋をしている。こいつは清四郎が戻ってくるのを待ってるんだ。
俺のことなんか眼中にもないってとこだな。
何故だか苛ついてまた腰掛けようとしたが、バランスを崩して後ろに転がる。
その拍子に、石がぐらりと揺れた。
「わ!ってぇ〜」
「大丈夫か、魅録?」
その声に驚いて顔を上げた悠理は、魅録の表情を見て愕然とする。
そして自分の身体を両手で強く抱くが、震えはますますひどくなったようだ。カチカチと
歯を鳴らしている。
魅録の瞳の中で、炎が揺らめいた。
枯れ枝が燃え盛るパチパチという音が、身体の中で谺する。
彼はぼんやりとした頭で考える。この女に惚れたのは俺が先だ。あんな男に渡すものか。
石についていた手に力を入れ、膝を立てる。
「ど、した?魅録。なんか怖いぞ、お前...」
彼はゆっくりと立ち上がり、じりじりと悠理に近付き始めた。
悠理は射すくめられたように身動きができなくなる。恐怖に搦め取られ、声を出すことも
できなかった。
怖い。助けて、清四郎!!
−続く−
ええ?魅録、副会長なの?
私も野梨子だと思ってたよ〜
>432
ちなみに 清四郎=生徒会長、魅録=副会長、書記=可憐、
会計=美童、文化部部長=野梨子、運動部部長=悠理 です。
清四郎以外は忘れがちだけど、よく考えるとすごく妥当。
野梨子が副会長だと、魅録が文化部部長になっちゃうし(それも斬新か?)。
>>432 御大でさえ間違ったんだからしゃーないわなw
>「孤島の月」
っていうか、さっそくそのネタが盛り込まれていたので笑いました。
作家タン、ナイス!!(って、ただの偶然?w)
そして、なんだか微妙な関係の3人がイイ!
続きを楽しみにしていますよ〜
>「孤島の月」
いったい島にはどんな秘密が…。
なんか原作のオカルト話っぽくていい感じ。
早く続き読みたい〜。
>孤高の月
私もタイムリーで笑ったw
>副会長なんて言っても名ばかり
題名が好き。続きを楽しみにしています。
>孤島の月
何者かに憑依された?魅録にも〜え〜
続きキボンヌ
409タンのツヅキです。
「ほんと君、綺麗だよね。モデルとか芸能界に興味ない?事務所そこだから」
「俺達大学生だけどさ、一日付き合ってよ」
・・・渋谷は苦手だ。魅録は待ち合わせ時間に遅れている。その間、幾度
スカウトやらナンパやらに声を掛けられたことか。
その時聞きなれた声が届いた。「ごめん、野梨子。遅れちまって」
野梨子は安心する。「いえ、来て下さっただけで・・・」
「でも悪かったよ。さっきナンパされてたろ?」
「渋谷ではよくあることですわ。しつこくなかったですから大丈夫ですわ」
改めて魅録は野梨子を見る。上質なカーディガンに、短めのフレアスカート。
細く形のいい脚が眩しい。普段よりカジュアルな着こなしだが、周りの安っ
ぽい流行に毒された女の子の中で明らかに異彩を放っている。仄かにローズを
のせただけのメイクでもその美貌は際立ち過ぎ行く人の視線を集めずにはいら
れない。特に男達の視線は、魅録を誇らしく思わせる。
(こんな子が俺の彼女なんて・・・信じ難いよな、我ながら)
同時に庇護欲をかき立てられ、思わず野梨子の手を取り、引き寄せる。
「あ、いや、すごい人ごみだから・・・。はぐれんなよ」
野梨子も魅録を見上げる。アーミーキャップにデニム。やはり聖プレジデント
の制服よりもクールで似合っている。学園では目だつ染めた髪もこの自由な街
には似つかわしい。今まで嫌いだったというのに、魅録が自然に呼吸するこの
空間さえ好ましく思えてくる。ただ、野梨子は事実を再認識させられる。
「よお、魅録。デート?超かわいい子じゃん」
「ちょっと魅録じゃない?久しぶり〜。最近うちの店、来ないじゃない?」
映画館までに男女問わず年下から年上の社会人まで少なからぬ人数の人が
魅録に話しかけてくるのだ。野梨子は複雑な気分になる。
(こんなに友達の多い人だなんて。女性のお友達も多いんですのね・・・)
そうしているうちに映画館に着いた。
あまり話は進まなかったですが、ツヅキお願いします。
暴走愛うpします。
昼ドラ泥沼系ですので、ダークがお嫌いな方はスルーお願いします。
清×可×野 です。
>>387 玄関の前に誰か立っている。
可憐の足音を聞いて振り向いた男は初老に足を踏み入れたところ、と言った齢だろうか。
一目見ただけで上質とわかるセンスのいいスーツに身を包んでいる。
見覚えがない――いや、どこかで会ったような気もする。
ジュエリーアキのお得意様だろうか、そう思って可憐は微笑んだ。
紳士はしばし可憐を驚いたように見つめ、そして彼も微笑み返してきた。
だが、彼が返してきた微笑はあまりにも奇妙で、場にそぐわない感じがしたので
可憐は半分笑顔を引っ込めた。
ひょっとしてお得意様というのは思い違いで、何かよからぬ問題を持ち込もうとしている輩かも
しれない。とんでもなく高い洗剤のセールスマンか、明日暴落する株の購入を勧めに来た
怪しい株屋か。
表に出した微笑を全て奥へ引っ込めた可憐が男を問いただそうとした時、
玄関のドアが開き、母の「入って」という声がする。
可憐が現れる数秒前に男は玄関のベルを鳴らしていたのだろう。
少々早く帰りすぎたことを後悔した可憐は、男の背後に娘の姿を発見した母の慌てた顔を見ると、
「あたし、遊んでくるから」と踵を返す。
「可憐ちゃん」という声にウィンクを返した。「邪魔者は消えるわ、どうぞごゆっくり」
深夜、家に戻るとすでに居間の灯りは落ちている。
まさか昼の男とベッドにいることもあるまいと、母親の部屋をそっとのぞくと
彼女はすでに布団に潜り込んで寝入っているようだった。
シャワーを浴びて寝る前にコーヒーでも入れようかとキッチンへ向かうと
流しの中にグラスが粉々に割れてブランデーが飛び散っていた。
何とはなしに嫌な気持ちで居間を見て回ると、屑籠にくしゃくしゃにつっこまれた
紙が目に入る。
母が捨てたものをほじくり返すことに後ろめたさを感じつつ広げてみると
何やら署名と印が押してある。
離婚届だった。
左の夫の氏名を書く欄に「黄桜政二」の署名と黄桜の印が押してあった。
右の母の氏名を書く欄には、「黄桜あき子」の署名の上に何本も線を引いて消してある。
一度、署名したものの後から思い直し、拒否の気持ちの数だけ線を引いたものらしい。
「黄桜政二」とは可憐の父の名前だった。
可憐はため息をついた。
そうだったのか。
父と母とは別れたのだ。
死んだと聞かされたのは母の嘘だったのだ。
この線の引き方からすれば、母の方から別れたかったのではないことは明白だ。
父に原因があったのだろうか。
でも何故今、ここにそんな古いものがあるのだろう。
私が小学校に入学する時にはすでに母親だけが入学式に出席するのが当たり前だったから
10年以上前のものが、ここに?
その時、可憐はあることに気がついて体中から血の気が引いていくのを感じた。
薄い用紙の左上に「平成 年 月 日」と届けを提出した日時を書く場所がある。
そこに記入された年と月が、日こそ書かれてないものの、
まさに今、可憐が自分の両親の離婚届を手に取って眺めているこの日が
属する、今年、この月であった。
もしかしたら、これが書かれたのは今日であったのか。いやそうに違いない。
だからこそ、今日これがここにあったに違いない。
だとしたら、まさか昼間のあの人は父だったのだろうか。
わからなかった。何も感じなかった。
父かもしれない相手を前にして、ただ不審な男としか感じなかった。
いや、違う。父ではないかも知れない。
二人の間に入った弁護士なのかもしれない。それとも……。
可憐は思い余って真相を聞くために、母を起こすことにした。
酔っているかもしれない母を起こしても何も収穫は得られないかもしれないが
それではこちらが今晩眠れそうにない。
ベッドサイドの小さな灯りの中、母は何度揺り動かしても目覚めなかった。
鏡台の上に薬袋がいくつも載っている。――たくさんある。
ずいぶん前の日付の袋もある。可憐は急に心臓が苦しくなってきた。
薬袋に何か書いてある。
暗くてよく見えない。部屋の入り口にあるスイッチを押して部屋全体の灯りをつけ、字を読んだ。
「 可憐 ごめんね
ママ」
可憐は袋を取り落とし、母のベッドに駆け寄り掛け布団を剥いだ。
そして。
あき子の部屋から若い娘の悲鳴が上がった。
「ママーーーッ あーーーーっ いやーーーっ!」
その日の夕刻、玄関を出ようとした野梨子は父、清州に呼び止められた。
「野梨子、どこへ行くんだね。清四郎くんとは会わないように
ゆうべあれほどきつく言ったはずだよ」
悲しげな瞳で野梨子は父を振り返ると懇願した。
「お父様。清四郎はもう間違いは起こさないと私に約束してくれましたわ。
だから……どうか、清四郎を許してください」
「ならん」
清州は玄関に降りると音を立てて、戸を閉め鍵を締めた。
「お父様!」
抗議する野梨子の肩をつかみ、じっと瞳を覗き込む。
「野梨子。私は決して私だけの思い込みでお前たちの間を裂こうというのではない。
あの日、お前が涙ながらに京都行きを二人で決意した理由を私に話した時、
お前の眼に苦しみを見たからなのだよ。お前の眼には苦しみが、
そして彼の眼にはお前にすまないと強く思う気持ちと相まって、
お前を幸せにしなければならないという意地が見えた。
片方は尚、苦しみ、片方は意地になり、どうやって二人で幸せを築こうというのかね」
野梨子は父の言葉にもただ首を振る。
「よく考えなさい、野梨子。お前たちはまだ若い。これから先の長い人生を
二人して、傷を舐めあいながら生きていくのかね? それとも傷から目を背けながら
生きていくのかね? 決して過去の亡霊に苦しめられることはないと、言い切れるのかね?」
言葉を切る。
「そもそも、お前は――野梨子、清四郎くんを許し、その上で愛しているのか」
哀しみに歪んだ娘の顔から清州は目をそらした。
野梨子は涙を抑えることもできず、嗚咽しながら訴える。
「いいえ、いいえ、まだ、許せませんわ。でも、でも、愛しているんです。
清四郎を、愛しているんです――」
玄関に打ち伏して泣く我が愛娘にもらい泣きしそうになりながらも、
清州はここは譲れないと冷たく娘を後にした。
「考えなさい、野梨子。そして勇気を出しなさい。私は、お前に悲しみに沈んだ人生ではなく
明るい未来を歩んでほしいのだ」
涙に暮れながら野梨子は考えた。
どうして私は許せないのだろう、彼を。こんなに愛しているのに。
そして、どうして私は愛しているのだろう、彼を。こんなにも、彼の罪が許せないのに。
本当に私たちは別れた方がいいのだろうか、父の言うように?
私たちは沈み行く舟に乗り込んでしまったのだろうか。
だが清四郎は粘り強く父を説得すると約束してくれた。
彼を信じたい。いや、何よりも、誰に何と言われようと彼と一緒にいたいのだ。
泣いて泣いて気がつくと、もう真夜中だった。
清四郎はまだ起きているだろうか。
野梨子は携帯電話を取り出すと躊躇いつつ、震える指で清四郎の番号を押す。
何コール鳴らしただろう。
ふいに彼が出た。彼は何も言わない。
「……清四郎?」
「……どうしたんですか」
そっけない言葉が返ってくる。
こちらが返事をしないと焦れたように言った。
「用がないんなら切りますよ」
「切らないで……」
「……」
「お願い、切らないで……」
泣き過ぎで声が嗄れていた。彼は幾分穏やかに話す。
「もう、こんなふうに電話をかけてくるのはやめましょう」
清四郎は言葉を切って耳を澄ました。
電話の向こうから泣き声が聞こえてくる。
一体、どうしたというのか。
少し、心配になって声をかける。
「もしもし……? 一体、どうしたんですか?
……可憐?」
野梨子が、いくら掛けなおしても清四郎の電話はつながらなかった。
話中の音を何回聞いただろう。
突然、野梨子は携帯電話を置くと、自分で自分をかき抱いた。
たった一本の電話がつながらないだけで、心の中に暗雲が広がっていく。
(………………清四郎!)
続く
>暴走愛
あああああぁぁぁ
もう何を言っていいのかわかりません…
だんだん現在に近づいていっているのでしょうか。
>408の続きです。
「松竹梅君見た時、ほんとびっくりしたわ。まさか、こんなとこでってね」
「そうだろうな」
俺は、グラスに3分の1ほど残っていた液体を飲み干した。
もう1杯同じものを頼む。
今日はなんとなく、酔いつぶれる気がしない。
「そんなに飲んで大丈夫?」
「ああ、まだ足りないくらいだな」
隣に座る女は見かけによらず、最初に頼んだ1杯の半分で止まっている。
しかも、ごくごく薄めに作られたブラディ・メアリー。
飲めないのか、飲まないのか。
その答えを探そうと大学時代の記憶を手繰り寄せてみるが、思い浮かべた情景の中に隣に
座る女が見当たらない。
同じゼミなら一緒に酒を飲んだことがあるはずだが、あの頃の俺には悠理がいたから
あんまり周囲の女に関心を持たなかった。
自然と、大学で友達づきあいをしたのは野郎ばかりだった。
俺は無駄な努力を諦め、グラス片手に女の顔をチラリと盗み見た。
「で、今はフリーなの?」
俺の視線に気付いたのか、女は僅かに俺の顔を覗き込む。
ここで『そうだ』と言ってしまえば、後の成り行きは決まったも同然だ。
離婚してからこれまで、こんな経験がなかったとは言わない。
「……さあな」
俺は、少しもったいぶって答えた。
ニヤリと笑みを浮かべ、女を見据える。
「何よ、それ」
「そんなこと、わざわざ気にするんだな」
俺は、とにかく女を挑発したくてそんなことを言った。
女はキッと俺を睨んだ。
そして俺から顔を逸らして正面を向き、傍らにあったシガレットケースから煙草を取り出す。
ここに来る前に見た品の良さげな吸い方は陰を潜め、自分を落ち着かせるかのように一気に
吸い込んで一気に煙を吐き出す。
それでも物足りなかったのか残っていたブラディ・メアリーをあおり、眉を顰めて俺に
捨て台詞を吐きつけた。
「あたしは、誰とでも寝るような人間じゃないの! 誰かの埋め合わせとか冗談じゃないわ!」
「ああ、そうなのか?」
俺はわざとらしくとぼけてみせる。
「そうよ、バカにしないでちょうだい!」
女は煙草を灰皿に押し付け、バッグを引っつかみ、ストールから立ち上がって去っていった。
「どう、ちょっとは気分が晴れてきた?」
吹き付けてくる突風に、可憐のウェービーヘアが舞っている。
私達の側では、可憐の娘がひとり遊びに興じていた。
「ええ。ありがとう、可憐」
私は、離婚して1年が過ぎた頃から勧められるようになったお見合い話にうんざりしていた。
再婚なんて当分考えられない私は叔母に会うたびに気が滅入り、そんな私を心配した可憐が
今日、海へと連れ出してくれたのだ。
目の前には大海原が広がり、霞みがかった空からは柔らかな光が辺りを包んでいる。
「野梨子、でもね、時々淋しいとか思ったりしない?」
可憐は娘から視線を外さないまま、バレッタで素早く髪をまとめながら言った。
「あたし、『ああ、美童がいる』って思うとホッとするの、そんな時」
私は可憐の横顔を見た。
それは知り合った頃から比べると随分大人のものになったが、老けた感じは全くない。
むしろ、今朝見た自分の疲れきった表情の方が、よっぽど老けてしまった気がする。
「だからね、あたし、野梨子にもそんな相手を見つけてほしいと思うの、お節介な話だけどね」
可憐は、私の方を向いてニコリと微笑んだ。
「でも……。その気もないのに会うなんて、殿方に失礼ではないかと、思いますの」
「会ってみなければ、そんなことわかんないわ。それに、嫌なら断ってもいいんだし」
「……」
その通りだ、可憐の言ってることは正しいと思う。
けど、私の中にある説明のつかないもどかしい何かが、私に言葉を失わせた。
少し下を向いてしまう。
そんな私を見て、可憐はため息をついた。
「野梨子、まさかあんたまだ清四郎のこと……」
私は顔を上げずに頭を振った。
「それは、ありませんわ」
「だったら、とりあえず会ってみたら。で、違うなって思ったら、断る。出会いなんて、
どこに転がってるかわかんないしね。もしかしたら、見合いしていくうちに、野梨子なりに
『こんな人がいい』っていうのがわかるかもよ」
「可憐……」
海からの風が、私を優しく撫ぜていく。
目を閉じてその感覚に浸っていると、胸につかえていたものがスーッと霧散していった。
私は深呼吸をして新鮮な空気を肺に入れ、ゆっくりと目を開ける。
可憐はいたずらっぽく微笑みながら、私の顔を覗き込んでいた。
「あんた、少し吹っ切れたでしょ。すごくいい顔してるわよ」
確かに、私を縛り付けていたような重苦しさが、今は感じられない。
「お世辞でも、そう言ってくださったらうれしいですわ」
「野梨子、あたしのいうこと信じなさい。今のあんた、すごくいい顔してる。そのまま、
いい顔で居続けるの。わかった?」
【続く】
>サヨナラの代わりに
私も可憐みたいな友達が欲しい・・・。
切実にそう思いました。
ギャー、クッキー残ってた!ごめんなさい。
魅×野大好きな私にとって ホロ苦とサヨナラが読める
日はとても幸せです。
>暴走愛
清州さんがかっこいいです。
あんな完璧な父親のいる野梨子がうらやますぃ
父親に恵まれない可憐とは対照的なんですね・・・
季節物の短編が出来たので勇気をもってうpさせて頂きます。あまり萌え所はないかも…。ほんのり清×野テイストの名も無き一男子生徒の純情告白(?)物語です。野梨子スキーでない方はスルーお願いします。
突然、不躾な手紙をお送りすることをお許しください。
僕があなたの姿を初めてお見かけしましたのは丁度この季節、
聖プレジデント学園高等部の入学式のことでした。
生徒会役員でいらっしゃるあなたは、講堂に続く中庭に立って、
地理に不案内な新入生達(つまり僕達のことですが)を
入学式会場に優しく導いていらっしゃいました。
その日、空はよく晴れて、学園のあちこちに植えられた桜は満開で、
薄桃色の花びらがひらひらと風に舞い散る様はとてもきれいなものでした。
でもその中で、舞い散る桜よりなおいっそう艶やかで、それでいてはかない趣を漂わせた、
香り立つように美しいあなたが、そこに立っておられたのです。
その日から僕の目は、気付けばあなたの姿を追いかけるようになりました。
あなたの姿をお見かけするたび、
あなたが移動教室で知らず僕の横を通り過ぎるたび、
廊下でお友達とお話されているのを見るたび、
図書室で心静かに自習されているのを見るたび、
僕はまともに息をすることも出来なくなり、
胸が苦しくて、どうしようもなく切なくなるのです。
特に有閑倶楽部の皆さんと一緒にいるときの白鹿さんは、本当にとても楽しそうで、
はしゃいだ様子も愛らしく、まるで万華鏡のようにくるくる変わる表情が
僕にはあまりに眩しかった。いつもにもまして華やかに屈託なくお笑いになる様子は
僕の心を甘酸っぱい幸せでいっぱいにしてくれました。
僕は白鹿さんの姿を遠くから見つめるだけで幸せでした。
僕にとってあなたは決して近づくことの叶わない、遠く咲き誇る花でした。
だから僕が三年生に進級したときに白鹿さんと同じクラスになったことは絶筆に尽くしがたい衝撃でした。
憧れの白鹿さんと同じクラス!
僕はクラス割表を前にして気が遠くなったことを覚えています。
白鹿さんと同じクラスで過ごした高校最後の一年間のことを僕は言葉にすることが出来ません。
ただ、本当に心を揺さぶられる日々でありました。
胸躍る楽しい日もありました。
心の沈む苦しい日もありましたが、
白鹿さんは僕の毎日を鮮やかな色彩で染め上げてくださいました。
一年の間に僕は白鹿さんの新しい面をたくさん知りました。
体育が苦手で授業の度の悪戦苦闘のご様子だとか、
誰もが眠気を誘われるけだるい午後の授業では、
白鹿さんもまた小さく欠伸をかみ殺して、チャイムの鳴るのも待ち遠しく、
物憂く窓の外をご覧になっておられました。
学園祭のクラスの模擬店準備では不器用とも思える生真面目さで
一所懸命に飾りを作っておられました。
一緒に夜遅くまで頑張ったあの日は僕の大切な思い出です。
憧れの白鹿さんと間近で接して、幾度かたわいない会話を交わす機会を得て、
白鹿さんもまた完璧ではなく、僕達と同じひとりの人間であるということを
(当然といえば当然ですが)知りました。
けれどもそれは白鹿さんの魅力を、少しも損なうことなく、
むしろ僕はあなたの人となりに触れて、その優しさや清潔さ、
内在する強さと弱さを知るにつけて本当に、本当に惹かれていったのです。
僕は、あなたが大好きでした。
先程、僕は白鹿さんを見ているだけで幸せだったと書きましたが、
やはりそれは強がりの嘘だと言わざるをえません。
その凛とした美しさゆえに僕達が一種近寄りがたく思ってしまう白鹿さんと
気安くファーストネームで呼び合い、
何処に行くのも一緒な有閑倶楽部の皆さんを僕は心底羨ましいと思いました。
そしてなにより菊正宗君の存在。
黄昏時、オレンジ色に染まったグランドを横切って、白鹿さんと菊正宗君は並んで帰られます。
菊正宗君は白鹿さんの歩調に合わせてゆっくりと歩き、
風の強い日などは小さな白鹿さんを庇うように、決まってさりげなく風上を歩いていかれます。
誰といるときよりも饒舌に、白鹿さんは背の高い幼馴染を見上げて何かを語り、
そんな白鹿さんの笑顔を独占して優しく微笑み返す菊正宗君。
誰もが知っている聖プレジデント学園の名物的光景ですが、
僕には辛すぎる光景でもあったのです。
お二人は交際が取り沙汰されるたびに、二人の関係はただの幼なじみであると、
噂を否定しておられるようですが、例えその言葉が本当であったとしても、
「交際」なんていう言葉自体が安っぽいまがい物に聞こえるほどに、
その姿は「真実」です。
並んで歩く二人の姿がその絆を何よりも雄弁に物語っています。
白鹿さんと菊正宗君の間には、誰も付け入ることなど出来ないことを
僕は痛いほどに感じました。
僕は二人の後姿を見送るたびに、なんだか泣きたくなるのです。
二人の姿があまりにも自然に見えるから。
菊正宗君を見上げる白鹿さんの笑顔がいつもあんまり綺麗だから…。
勝手なことを書き散らした非礼をお許しください。
あなたのことを恋い慕う馬鹿な男の愚かな愚痴とお笑いください。
この手紙もそろそろ終りにしたいと思います。
白鹿さんは友人ではない異性から送られた手紙は読まないと聞いております。
とすれば、この手紙はあなたに読まれることなく消えゆく運命だということですが、
それでも僕は構いません。
あなたがこの手紙を読まずとも、僕はどうしても書かずにはいられなかったのです。
聖プレジデント学園を卒業し、新たな道へと踏み出すため。
そして、あなたから卒業するため。
最後に。
僕の想いを形に残しておきたくて、作った栞を同封します。
最初の日、桜の化身のように美しかったあなたの姿をなぞらえて、
川原で見つけた早咲きの桜から、花びらを摘んで作った栞です。
この栞は僕の父の会社で開発中の特殊な樹脂を用いて加工してあり、
瑞々しいまま永遠に色褪せることはありません。
この桜と同じように、あなたの優しい笑顔がいつまでも絶えることなく、
聡明な瞳は輝きつづけ、決して曇ることのないように、
祈りを込めてあなたに贈りたいと思います。
素晴らしい三年間をありがとうございました。 お元気で。
敬具
-おわり- ありがとうございました。
>読まれることなき手紙
いやぁ、よかったですよぉ。胸にじんとくるものがありました。
有閑倶楽部の部外者のお話だけれども
密かに野梨子を見つめる同級生君がいじらしい。
『読まれることなき〜』とあったので
最後に野梨子が何気なく破って捨ててるオチかと思った私は
逝ってくるでよ……
>読まれることなき手紙
卒業シーズンのお話ですね〜。いいですね。
なんだか心が洗われました。
さすがにおぼっちゃん学校は手紙の文面も違うなあ。
でも、これだけ一生懸命書いた手紙も読まれないのね・・・w
>>438さんの続きです。
魅録が手際よく2人分のチケットを買い、野梨子に手渡す。
背の高くない野梨子に気を使って前方の席をとってくれた。
「何か飲み物でも買って来ましょうか?」
「いいよ、座ってろよ。俺行ってくるから。何がいい?コーヒーでいいか?」
「ええ、ありがとう」魅録は何かにつけよく気を使ってくれる。それにとても優しい。
―――理想の彼氏っていうのかしら・・・。野梨子は自分の呟きに真っ赤になってしまった。
いやだわ。私ったら。
「はい、コーヒー。あれ、野梨子なんか顔赤いぞ。大丈夫か?」
カップを渡しながら魅録が野梨子の顔を覗き込んだ。
と同時に魅録の大きな手のひらが野梨子の額に触れる。
「な、何でもありませんわ!」びっくりするくらい大きな声で
そう答える野梨子は耳まで赤くなっている。
―――ほんっと、こいつ可愛いよな。らしくねえけど俺完全に参っちまってるな。
魅録は心の中でそう苦笑した。
こんな風になるなんて思ってなかった。野梨子にはいつも清四郎がいたから。
確かに清四郎は凄いやつだ。それは認める。けど野梨子だけは譲れない。
ったく何だよ!こんなときに。くだらねえこと考えてる場合じゃないな。
ええい!次回予告が終わり映画が始まると魅録は思い切って野梨子の手を取り
自分の指を滑り込ませた。
お互いの心臓の音がそこに集中する。二人とも映画どころではなかったが、
中盤から昨日からの疲れが出たのか魅録は眠ってしまったようだ。
その邪心のない安らかな寝顔と握られた手から伝わるぬくもりに
野梨子は心の中がふんわりと温かくなるのを感じた。
―――この人を好きになってよかった。
どなたか続きお願いします。
>>431の続き (*ちょっと怖いです)
時折戻る道すじを確認しながら、清四郎は木の枝を集めていく。
彼らの前では虚勢を張ったが、本当は身体が砂袋のように重かった。
足を止め、片方の手を膝について大きく息を吐く。
自覚していた以上に体力が消耗しているようだ。上体を屈めるのさえ辛い。
その時、ふっ、と妙な感覚がまとわりついた。
やれやれ、悠理の霊感が移ったか、と苦笑しそうになり、うまく笑えない自分に気付く。
そっと振り返ると、彼女の待つ岩山を、薄い闇が包み始めていた。
ずっと、考えないようにしていた。
悠理の中に、そして自分の中に芽生え始めたらしい、曖昧な感情について。
野梨子とは違う、可憐とも違う何かが確かにそこに存在する、と気付いていながら。
それが何なのか、わからないままでもいいと思っていた。
確かめることが恐くもあった。これまでの心地良い関係を壊してしまうかもしれない、と。
だが、本当にそれでいいのだろうか。
じっと自分を見上げていた不安げな瞳が、眼前にちらついた。
もし今幽霊が現れたら、あいつは魅録に抱きつくのだろうか。僕にすがりついたように?
それとも...いや、何故そんなことで胸が騒ぐんだ?
何も心配することなど、ありはしないじゃないか。あいつらは親友同士だ。
いずれにしろ、彼が悠理についていてくれれば安心だ。
小さく頭を振り、彼はまた前へ踏み出そうとした。
だが、目を閉じてもう一度深呼吸すると、踵を返した。
船の上で、老人が訥々と話し出した。
「昔...50年も前の話じゃ。この島で生まれ育った三人の男女がおった。何をするのもいつも
一緒でな、二人の男のうち一人は、人望が篤い優秀な男で宗一郎。もう一人の男は少し不良
じゃったが、一本気な青年で、昌吉という名じゃった...」
なんだか、あの二人みたい...野梨子と可憐は神妙な面持ちで聞いている。
「千春は快活で、お転婆で、そこにいるだけで周りを明るくするような、かわいい娘じゃった」
「え?千春さんって...お孫さんと同じ名前?」
「わしの妹じゃ。死んだがな」
水を打ったように船上がしんと静まり返った。
「まさか...三角関係だったんですか?」
「...月の美しい静かな晩じゃった。今日は、あの夜に似ておる。恐ろしいほどにな」
美童の声に、老人は目を閉じ、ゆっくりと頷いた。
男達は親友であり、ライバルでもあった。
昌吉も優秀な男だったが、何をやっても宗一郎にだけはかなわない、と、いつも諦めた
ように笑っていた。『あいつはあいつ、俺は俺さ』それが、昌吉の口癖だった。
昌吉が宗一郎に決して譲れないと思っていたのは、ただ一つだけだった。
それは、千春のこと。
幼い時に彼女と交わした約束を、彼はずっと信じていた。
『千春の20歳の誕生日に結婚しよう』と昌吉は言い、千春は『うん』と無邪気に頷いた。
その日から15年が経っても、彼はその約束を信じていた。
彼女と自分とは相思相愛だと信じ続けていた。
それも無理からぬことだった。千春は何かにつけ『昌吉ちゃん、大好きよ』と言っていた
し、宗一郎のことを『あたしをいじめてばっかりで、ほんとに嫌な人』と言っては、頬を
膨らませていたのだから。
それが恋の始まりであるかもしれない、と、昌吉が疑うことはなかった。
だが、彼の愛しい女は、いつの間にか彼の親友と想い合うようになっていたのだ。
小さな島の中で人目を忍ぶように逢瀬を重ねていた二人の噂は、とうとう昌吉の
耳に届いた。それはちょうど50年前の、満月の夜だった。
かつて事件など起きたことのない平和な島が、その晩、修羅場と化した。
二人の裏切りを知った昌吉が、千春の家へと乗り込んだのだ。
自分との結婚を迫る彼に、彼女は辛そうに、だがきっぱりと首を横に振った。
『ごめん、昌吉ちゃんには言い出せなくて...あたし、宗ちゃんが好き』
逆上した昌吉はナイフを振りかざし、千春をあの島へと拉致した。
追って来たら彼女を殺す、と言い残して。
変を知らされた宗一郎は、島人達の制止を振り切り、一人で島へ向かった。
老人達がどうにか彼らを探し出せたのは、千春の悲鳴によってだった。
洞窟に足を踏み入れた時、揉み合って刺されたらしい恋人の胸にすがりつく妹の
姿があった。
『すまない...悪いのは僕だ。君の想いを誰よりも知りながら...』
苦しい息の下で、宗一郎は立ち尽くす親友に笑顔を見せた。
『千春、愛してる』
一言そう呟いて、彼は息を引き取った。
その瞬間の出来事だった。千春がナイフを抜き、迷わず自分の胸に突き立てたのだ。
あまりの惨劇になす術もない一同の前で、倒れた女から血まみれのナイフを取り上げ
たのは昌吉だった。
追っ手達は腰を抜かし、必死で殺人者から逃げ出そうとした。だが、昌吉の空ろな
瞳が彼らを映し出すことはなかった。
彼はいきなり大声で笑い出した。それは、本当に楽しげな笑い声だった。
そして、立ったまま彼は自分の喉笛を掻き切った。
老人は悲痛な表情で言葉を紡いだ。
昨日の事のように、その声が耳にこびりついて離れない、と。
「三人は、まだ19になったばかりじゃった」
悲劇の起きた洞穴には魔除けの石を三つ並べて供養し、その後は誰も近付かないという。
「わしゃぁ、宗一郎と千春はあの世で結ばれたと信じとるんじゃが、昌吉はまだ彷徨って
おるかもしれん...」
「そーぜつ...」
おぞましい話のせいか、船酔いのせいか、真っ青になった美童は口を押さえる。
「大変だわ。年の頃も同じだし、また悠理が霊を呼び寄せちゃったら...?!」
可憐も頭を抱える。
「あの三人はそんな関係じゃありませんもの。大丈夫ですわよ...」
自分に言い聞かせるように、野梨子は掠れた声を絞り出す。
「でもさ、もし取り憑かれるとしたら、やっぱ魅録...だよな」
美童は先ほどの胸騒ぎを思い出し、陰鬱な口調で呟いた。
重苦しい沈黙は同意の証しだろうか。
先刻まで島を照らしていた太陽は、いつの間にかその役目を月に譲っていた。
夕闇の中、船はもうすぐ島に着こうとしていた。
−続く−
>孤島の月
ひぃぃいいいい!
伝説が生々しくてかなり怖いです。
でも、怖いけどリアルタイムで読めたのがうれしい。
ふるえながら続きをお待ちしております。
>読まれることなき手紙
ぜ、絶筆に尽くしがたい…?
>孤島の月
さあ現代の3人はどうなるのか。続き、楽しみにしてます。
>471
清四郎に読まれでもしたら赤で添削されて
かえされそうですなw>絶筆
「フム、言葉の使い方も知らないようでは野梨子に
読まれる資格などありませんな」て感じ?
…筆舌に尽くしがたい、の打ち間違いor野梨子を慕う一学生
としての演出家は分かりませぬが。
うわああ、まちごーた。
×演出家
○演出か
でした(恥
>>91の続きです。
「ふぅ〜、おいしかったぁ!」
可憐はお腹を撫でながら、悠理の部屋の柔らかいベットに深々と座り込んだ。
「それにしても家の中に回転寿司の設備を作るなんて、さすが剣菱財閥――っていうか普通じゃないわよねぇ」
散々食うだけ食って、恩恵を受けておきながらその言い草とは、可憐も中々に神経が図太い。
「小夜子さんも呼んで差し上げれば良かったですわね」
野梨子が寝間着の帯を丁寧に締めながら、残念そうに呟いた。
「あ〜、何か色々と忙しいみたいよ。一応、声は掛けたんだけど」
もちろんそれは真っ赤な嘘で、小夜子は明日の結婚式のスタッフとして参加する為
今日の夜から、兼六財閥の結婚式スタッフ用宿泊所に泊り込んでいる。
「でも美童の味覚ってどーなってんのかしらねぇ、醤油を嫌がるのはともかく
握り寿司にチーズかけるなんて、ちょっと異常よね」
結局美童は、醤油は辛過ぎて繊細なスウェーデンの貴公子の口には合わない、などと抜かし
握り寿司にチーズをかけるという偉業を成し遂げた。
「スウェーデンでは色々な料理にブルーチーズをかける習慣があると聞いた事がありますわ」
癖になっているのかも知れませんわね――と、野梨子は微笑んだ。
「今日は、楽しい一日でしたわ」
「そーお? あたしはある意味最悪だったけど――」
寿司を食べた後は、カラオケで大いに盛り上がった。
悠理と美童は、明日のリハーサルだから、と頼まれもしないのにタッキー&翼をメドレーで熱唱し
いつの間にかゴールドとシルバーの、宝塚の様な派手な衣装まで用意していた。
本当に、こういう事には二人とも感心するほど労を厭わない――。
更にその後、襟回りが淋しいだの袖回りが物足りないだのと言い出して
可憐と野梨子に衣装の補正までさせた。
可憐はもちろん文句を垂れ流しながら縫っていたが、野梨子は――笑っていた。
歌を聴いても、衣装を縫えと言われても、一つ一つの事をそれは楽しそうにこなしていた。
「ここで三人で一緒に寝よーぜ」
悠理が枕を一つずつ、可憐と野梨子に投げて寄越した。
「野梨子、真ん中な」
傍から見ても分かるぐらい急速に、野梨子の顔から血の気が引いた。
『悠理の隣で就寝する』――それは紐が無いバンジ−ジャンプと同じ位、危険だと思う。
「気を使ってんのよ」
可憐が小さな声で、野梨子を肘で突く。
野梨子は少しの間呆けていたが、やがて諦めたように枕を真ん中に置いた。
「悠理、蹴飛ばさないで下さいね」
「灯り消すぞ」
いいわよ、と可憐が言うと、悠理は手元のリモコンで音も無く静かに灯りを消した。
灯りが消え、30秒と経たないうちに悠理はのび太のように即行で眠りに落ちたようで、健やかな寝息が聞こえてきた。
可憐は、眠れなかった――。
明日はどうなるのだろう。清四郎は無事に戻って来るのだろうか。
野梨子がまだ起きているのかが気になったが、話し掛けるのも何となくためらわれた。
「健やかなる時も、病める時も――」
突然、真っ暗な暗闇に向けて野梨子が呟いた。
「誓いの言葉?」
「ええ、素敵な言葉ですわ。清四郎は明日――誓うのでしょうね」
――それは違う、可憐は心の中で異議を唱える。
それを誓うのは綾香と清四郎ではなく、野梨子と清四郎だ。
そうさせなければいけない――。可憐自身の手で。
「あたし、約束したの――悠理に」
「約束――ですの?」
「そ、あたしが皆を、幸せにするって。
悠理も、魅録も、野梨子も、もちろん――清四郎も」
野梨子は、美童がいませんわね、と悠理と同じ事を言い、小さな声で笑った。
「小さい頃――」
野梨子は悠理が起きないように、囁くように話し始めた。
「どうやって友達を作ったらいいのか、解りませんでしたわ」
暗闇の中に、野梨子の鈴のような声だけが響く。
「父様、母様、清四郎、御弟子さん達――人は沢山いて、淋しくは無かったけれど
矢っ張り何かが足りなかった――」
悠理が寝言を言いながら布団を蹴っ飛ばし、野梨子は少し起き上がりそれを直してやっていた。
「小学校に上がって、自分に足りないものは同性の友達だという事がやっと解りましたの」
可憐の脳裏に光景が浮かぶ。
休み時間、教室で独りで本を読んでいる野梨子――。
何故か容易に想像が出来た。
「でも、解っても何も出来ませんでしたわ。友達の作り方なんて知らなかった。
――いいえ、違いますわね、知っていたけど実行する勇気が無かった」
友達のいない生活――可憐には想像出来ない。
同性の友人など、物心ついた頃にはたくさんいた。
友達になりたいと思えば積極的に自分から話し掛けたし、また、話し掛けるのをためらった事も一度も無かった。
「中学校に入った頃には、もう諦めていましたわ。
わたくしには清四郎がいる、清四郎さえいれば、もう誰も要らない――」
何もかも諦めた――そういう事なのだろう。
「諦めたつもりでも、人の感情と云う物は理屈では割り切れない物なのですわね」
「それでも、同級生の少女達が仲良く連れ立っているのを見ると、矢っ張り羨ましかった。
放課後、一緒にアイスを食べに行ったり、週末、御互いの家を行き来したり――」
そんな時、と野梨子は言い、ふふっと楽しそうに笑った。
「そんな時――可憐と悠理に出逢いましたの」
何もかもが変わりましたわ、と野梨子は言った。
「嬉しかった。休み時間が楽しくて、放課後が待ち遠しくて――毎日が幸せで仕方なかった」
朝に夕に――あんまり野梨子がはしゃぐので清四郎が
『まるで恋でもしているようですね』と、苦笑混じりに皮肉を言っていた。
その実、野梨子に友達が出来た事を一番喜んでいるのは清四郎に見えた。
――可憐はそう記憶している。
「だから――」
もう充分ですわ――と、野梨子は詠うように囁く。
「可憐には、もう充分幸せにして頂きましたわ」
胸が、痛い。
嬉しさと照れ臭さと切なさとが入り混じり、可憐の心の中で渦を巻く。
そして、考える。
どうして――。
どうして、清四郎は野梨子から離れようとするのだろうか?
可憐は見合いの日からずっと、それこそ牛のようにそればかり反芻して考えている。
何も無かったように振舞う野梨子を見ると、余計考えずにはいられない。
『自分に自信が無いから』
『野梨子には自分よりもっと相応しい男がいるから』
『野梨子とは上手くやって行けそうにないから』
・・・・・・色々考えるが、どれもしっくり当てはまらない。
それはどれも、普通の男が付ける普通の理屈だ。
『菊正宗清四郎』という全てを兼ね備えた男が、野梨子から離れる理由にはならない。
「・・・・・・憐、可憐」
どれぐらいの間、それを考えていたのだろう。
野梨子の声で、考えを巡らせていた可憐は現実に引き戻された。
「うん、起きてる」
「・・・・・・人は死後、何処へ逝くのでしょう」
「――え?」
突然話が飛び、一瞬、何について話をしているのかまるで理解出来なかった。
「『死後』って死んだ後って事よね・・・・・・やっぱり天国とか地獄とかじゃないの?」
悲しいかな、この程度の回答しか思い浮かばない。
清四郎や小夜子からなら、うんちくバリバリの返答が聞けるかもしれないが。
「地獄・・・・・・仏教なら『八大地獄』、キリスト教なら『ダンテの地獄』・・・・・・。
自害したのなら『自殺者の森』に堕とされてしまいますわね」
「『自殺者の森』?」
「ダンテの地獄の一つの『暴虐地獄』の中にある森の事で
自殺者の魂はこの森に送られ、醜く折れ曲がった木の中に封じ込められますの。
そしてその木々を、その森にいる怪鳥や猟犬達が啄ばみ、永遠に苦辛の悲鳴を上げ続けると伝えられていますわ」
「あたしの家、仏教で良かったわ・・・・・・」
無論、可憐にこの先自殺の予定など無いが、そんな話を聞かされれば良い気持ちはしない。
「でも前から疑問に思ってたんだけど、自殺した人って、どうして地獄に行くのかしら?
自殺って、生きてる時にすごく辛くて苦しい思いをして、それに耐えられなくなったから死んじゃうのよね。
別に、悪い事をして死ぬとは限らないでしょ?」
「・・・・・・」
不自然な間が、開いた。
「野梨子?」
「・・・・・・自害と云うのはその行為自体が、尊い命を自ら葬ると云う冒?的な行いだからですわ。
『罪無き罪』と置き換えても、間違いではありませんわね」
ふうん、と可憐は軽く鼻を鳴らす。解ったような、解らないような。
それにしても自殺だの地獄だのと、すっかり暗い話題になってしまった。
可憐は重苦しい雰囲気を払拭させるかのように、自ら話題を変えた。
「ねぇ、ちょっと気が早いけど、冬休みに旅行に行かない?」
「旅行?」
「そう! 豪華客船で行く、『世界一周 玉の輿ツアー』!!」
旅行会社のパンフレットの歌い文句のような煽りを言いながら、可憐は布団から手を出して、勢いよく振り翳した。
「た・・・・・・玉の輿ツアー?」
『世界一周 玉の輿ツアー』――それはその名の通り、世界中を周りながら
好い男を探し、玉の輿に乗るという、可憐の一世一代の大計画である。
「そ。世界中を旅をして楽しみながら、好い男を探す! どぉ、一石二鳥でしょ?」
「でも可憐・・・・・・『豪華客船で世界一周』って、もの凄くお金が掛りそうですわね・・・・・・」
可憐は、やーねぇ野梨子ってば頭が良い癖に意外と考えが回らないのねぇ、と呆れた声を出した。
「何のために悠理っていう友達がいるのよ、スポンサーは剣菱財閥に決まってるじゃない」
「・・・・・・」
問題は、当の悠理がそんな鬼のように下らない企画に乗ってくるかという点にあるだろう。
「野梨子には特別に二番目に好い男をあげるわ。ま、一番カッコイイ男はもちろんあたしのだけど」
野梨子は笑いながら、世界一周、楽しそうですわね、と柔らかい声で囁いた。
「・・・・・・野梨子」
「はい?」
「『白鹿野梨子の恋物語』の主役はね、あんたなのよ、野梨子」
可憐は布団の上に置かれている野梨子のしなやかな手を取り、自分の手と絡めて弄んだ。
.「相手役は、清四郎」
「・・・・・・」
「清四郎が明日財閥のお嬢様と結婚したって、それは他の女の、他の恋物語よ」
返事は無かった。代わりに野梨子は黙したまま、繋がれた指を弄び返している。
「清四郎が野梨子を好きで、野梨子も清四郎を好き――それが真実なら、あんたの恋物語は明日で終わりじゃないわ」
あ、でも不倫しろって言ってるんじゃないのよ、と可憐は慌てて言葉を補う。
言葉というものは、難しい。
伝えたい事の半分も伝わっていないような気がしたが
気持ちの全てを上手く表現できるだけの術を、今の可憐は持ち合わせていない。
「・・・・・・結末はどうであれ、終演の日は近いかもしれませんわね」
「ちょっと勝手に決めないでよね、監督、演出、脚本はこのあたしなんだから!」
野梨子の悟ったような言い回しに、可憐は布団から上半身を起こし、口を尖らせた。
「もちろん、あたしが演出するからには最高にロマンティックなラストよ?」
布団の上で両手を組み、あっちの世界に浸りきっている可憐に、野梨子は笑いを噛み殺す。
そして、ふ、と真顔に戻ると、声のトーンを僅かに落とした。
「誰も予想出来ない位、壮絶な結末かもしれませんわよ」
「・・・・・・?」
「一寸先は闇――。未来に何が起こるかなんて、誰にも分かりませんもの」
『誰にも分からない』――そう言いながらも、野梨子の物言いは
推理小説の犯人を最初から分かっている唯一の書き手のように
自分だけは結末を知っている――、そんな言い方のように可憐には聞こえた。
可憐はそのまま、すやすやと寝息を立て始めた。
話しながら寝てしまったせいか、幼子の様に野梨子と手を繋いだまま寝入っている。
反対側で寝ている悠理が寝ぼけてタマとフクと、後、何故か魅録の名前を呼びながら腕にしがみついてきた。
可憐も悠理も、温かかった。
聖堂に差し込む陽射しにも似た二人の温かさは、自らの生を穢そうとする野梨子には眩し過ぎた。
もう、この温かさに触れる事は無いだろう。
野梨子は心に染み込ませる様に、その温かさに静かに身を委ねる。
大好きな悠理を――。
愛おしい可憐を――。
最後の瞬間まで、忘れない様に。
可哀相なジュリエット。
愚か者のジュリエット。
恋に生き、愛に身を投じ、生に背を向け、死を迎え入れた
不器用で憐れな少女。
自ら命を絶った罪深きジュリエットの魂が
黄泉で野梨子を待っている。
『健やかなる時も――、病める時も――』
鐘は鳴る――。永遠の愛を誓う、独りぼっちの花嫁、野梨子の為に。
『死が二人を、分かつまで――』
9月20日 金曜日 仏滅
結婚式――前日
本日はここまでです。
ありがとうございました。
>檻
えっ、ええーーーーっ!?ええっ!?
まさか…、まさかですよおねぇえええ??
うそ、うそ、どうか神様檻様、かわいそうなラストにだけはしないでぇ!
すごく笑えるお話を書ける作家さまですもの、お願いします!
(あ。こういうの書くのいけないのかな)
>檻
今回の読んで、ああ、やっぱりなって感じ。
伏線ありましたものね、これまでも。
たまには悲劇的な結末も読んでみたいし、続きが楽しみ。
死を美化する気はないけれど、野梨子の決意は美しいなと感じてしまった。
>孤島の月
水面下で密やかに育ってきたそれぞれの想いがどんなふうに表面化するのか楽しみ。
他のメンバーには「三角関係ではない」と思われている(?)のが、妙に萌え。
>檻
もしかして野梨子〜?
清四郎は何を考えているんだ〜?
いつものように野梨子を助けてよ〜
絶筆→筆舌は作者のマジ間違いでした…。
書きながら違和感あったのに、
そのまま突っ走ったのが命取りでした(汗
大変失礼しましたー!(大汗
>487
いいってことよ。よくあること。
清涼剤のような爽やかな読み物アリガd
また書いてくだされ
春なので(?)軽〜い短編を書かせてもらいます。
前・後の2回に分けてうpします。今日は7レスいただきます。
よくモチーフになるネタですが、お許しを...(ちなみに、年齢制限はありませんw)。
聖プレジデント学園の名物三人娘は、今日も時間を持て余していた。
「ヒマ、ですわねぇ」
夕暮れの近付いた生徒会室で、野梨子は上品にお茶を啜る。
「ほーんと。最近刺激がなくって...」
ケーキをつつきながら、一向に食べ終わる気配のない可憐も、隣でため息をつく。
「なんか面白い事でも起っこんないかな〜〜っ」
自分のおやつを平らげた悠理は、久々にギターを取り出した。
錆びたギターが、ギョイーーン...と、間の抜けた唸り声を上げる。
「ちぇー。魅録の奴、全然チューニングしてな...っってぇ!!!」
口を尖らせながら悠理がペグを巻き始めた瞬間、嫌な音を立てて錆びた弦が切れた。
「きゃ、血が出てるわよ!?もう、バカねぇ」
「救急箱を出しますわ。とりあえず消毒しないと...」
二人に手当てをされながら、ふと悠理は空いている手を箱の隅へと伸ばした。
小さな紙包みをつまみ出すと、その頬がにんまりと緩む。
「悠理、それって...あの時の薬じゃありませんの?」
彼女の行動に気付いた野梨子が眉根を寄せる。
「あ〜、もしかして富貴のオヤジに飲ませた催淫剤?まだあったのォ!?」
三人は顔を見合わせた。
微妙な表情を浮かべる二人の親友をよそに、悠理はやる気まんまんだ。
「...よした方がいいと思いますわ」
「そーよ。あとが怖いわよ...」
もちろん、興味をそそられてはいるのだが、野梨子と可憐は一応嗜めるポーズを
見せる。
「だって...ねえ、あんた誰に飲ませる気?」
可憐は眉を上げながら悠理へと視線を送る。
「決まってるじゃん。美童じゃいつもと変わんなそーだし、魅録も何となく想像つくし、
それじゃつまんないよなぁ?」
口に手を当ててクシシっと笑う悠理に、野梨子がため息をついた。
「やっぱり、やめておいた方が賢明だと思いますけど...」
瞳にハートを浮かべてワクワクする悪魔の耳に、そんな忠告が入る訳もない。
ぴょん、と立ち上がり、悠理は迷わず彼のマグカップにそれを入れた。
放課後の部室に全員が揃った。
今日は誰も用事がないらしく、欠伸などしながらまったりと過ごしている。
ふと美童が携帯から目を上げると、女共の目が揃いも揃って清四郎に注がれている。
勿論、気付かれないようにしているつもりなのだろう、ちらちらとではあったが。
なーにがあったのかなぁ...。
まさか三人でコイツを取り合おうってんじゃないだろうしな...。
そんなことを全く気にも留めない様子の魅録は、だるそうに鞄から雑誌を取り出す。
さて、本人は...と、様子を窺うが、彼はエヴァン・ウィリアムズの新作に夢中だった。
本を読みながら部室に入ってくるほど没頭しており、平常時の鋭さは微塵も感じ
られない。
ドアを開けながら、ほんの一瞬悠理の手元に目をやり、「またケガをしたんですか?」
と呆れ声を出した以外は、まだ一言も発していない。
ひょっとすると、この不審な視線にも気付いていないのかもしれないな。
今日は可憐がコーヒーを淹れてくれたようだが、配って回るのは野梨子だった。
清四郎が野梨子に礼を言いながら、うさぎのマグカップを手に取った。
はす向かいに座った悠理は息を詰めて、彼の一挙手一投足を見守っている。
彼はそれをゆっくりと口元に運んだが、口をつける寸前で一瞬手を止めた。
面白いところに差し掛かったらしく、暫くその姿勢のまま本を読み進めている。
なぜか、可憐と野梨子がそわそわと目で会話を交わす。
それから、マグがようやく清四郎の唇に向かう。
本に目を落としたままの彼の喉が、ごくりと鳴った。
その瞬間、悠理の瞳がきらーんと光った。
清四郎がふう、と大きく息をつき、首から指を入れて襟を手前に引っ張った。
「なんだか、暑くなってきましたねぇ」
魅録はダラダラと雑誌をくる手を止め、きょとんとして声の主を見た。
「全然暑くねえぞ?何言ってんだ?清四郎」
その声に、清四郎は本を下ろすとちょっと眉を顰めた。
どうやら暑いのは自分だけらしい、ということに気付いたようだ。
口に拳を当て、悠理が下を向いてくくくと笑う。
可憐と野梨子はそんな悠理を小さな声で叱っている。
まさか...。
美童が訝しげに女たちの方へ目をやった時、少々乱暴に椅子を蹴り、清四郎が
立ち上がった。
珍しくも、仄かにその頬を上気させ、不機嫌に口の端を下げている。
「可憐」
いきなりの名指しで、正面に座っていた可憐はびくぅっっと飛び上がる。
「は...ハイ?」
清四郎は、シャーッと音をさせながら、上着のファスナーを下ろす。
女三人が一斉に腰を浮かした。
コツ、コツ、と足音を立て、清四郎はゆっくりと彼女達の方へと回り込む。
「...僕のコーヒーに、何か...入れませんでしたか?」
低い声でゆっくりと彼女に問いかけながら、詰め襟を脱ぎ、清四郎はそれを
椅子の背へと放り投げた。
「あ、あたしじゃないわよ!?」
椅子から転げ落ちそうな格好で、可憐は顔面蒼白になっている。
魅録は一人、首を傾げている。
「なるほど。じゃあ...野梨子ですか?」
ちら、と幼なじみに冷ややかな視線を落とし、彼は左の袖口へと手をやる。
「い...いえ...私はその....止めたんですのよ?やめた方がいいと...」
しどろもどろになる野梨子。
腕時計を外しながら清四郎は小さく頷き、残る一人に顔を向けた。
「何を入れたんだ?悠理」
悠理はへらへらと笑ってごまかそうとした。
しかし、笑ってごまかせる相手では勿論ない。
「や...何って...ちょっとした冗談...?......っていうか...ヒマだったし...」
コトン、という音と共に時計をテーブルに置き、清四郎はまた一歩踏み出した。
「ほう、冗談...ですか。で、どんな冗談です?」
黒いオーラを纏った声が降り注ぎ、悠理はごくんと唾を飲み込んだ。
じりじりと確実に近付いてくる清四郎に、腰も抜けんばかりだ。
「言います言います!ごめんなさい!!あ、あの...いつかの......サイインザイ?...です!」
「はァ!?何やってんだよ、お前ら」
「あーあ...やっぱり...」
呆れ果てる魅録の隣で、美童は大げさに肩をすくめてみせる。
「で、その素敵な冗談を思いついたお嬢さんは?」
清四郎は三人をゆっくりと見回しながら、首を探り、不機嫌に蝶ネクタイを外した。
「ごっごごごごごごごめんなさいっ!!」
悠理は頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
恐怖のあまり、逃走を試みることもかなわない様子だ。
可憐と野梨子は、抱き合って二人を見守る。
清四郎は悠理の椅子の真後ろで、ぴたりと足を止めた。
額に浮かぶ汗を手の甲で軽く拭い、椅子の背に手をかける。
「主犯、実行犯共に悠理ということで間違いないですか?」
彼の尋問に、二人の女はこっくりと頷くしかなかった。
悠理には言い訳の言葉もない。
「つまり、あの薬で僕がどういう状態になるか見てみたかったと...?」
言いながら、清四郎は悠理の腰に腕を回し、片手で軽々と持ち上げた。
「それじゃ、効果の程をお見せしましょうか」
「うわあーーーーー、ごめんなさい!許して!ほんの冗談だってばぁ!?」
ぎょええええと絶叫する悠理を横抱きにし、あっという間に仮眠室へと入って行く。
「きゃーっ、清四郎!?あんた何する気よぉ!」
「清四郎!やめて下さいな!!」
「お、おい!?早まるな、よせ!そいつは悠理だぞ!?」
「....」
青くなる四人に目もくれず、彼は無情にも内鍵をかけた。
後ろ手に鍵を閉めると、清四郎は躊躇いなくカーテンを引いた。
ベッドに放り投げられた悠理は、四つん這いになってじたばたと壁際に逃げよう
とした。が、ひょいと首根っこをつかまれて引き倒される。
視界が一回転し、悠理は一瞬目を回した。
恐る恐る片目を開けると、目の前に見慣れた男の顔があった。
「やめろ!近付くな!お願いだから...ごめんなさいってばぁあ!!」
「いいから大人しくしろ!」
「ヤダッ!!!」
「うるさい!」
「ぎゃーーーーーーーー」
死にもの狂いで抵抗する悠理に馬乗りになり、清四郎は手首を掴んだ。
悠理はどうにか逃げ出そうと必死だが、押さえつける腕はびくともしない。
ドアの向こうで魅録たちが騒いでいるが、助けは望めそうになかった。
ああ、あたいって、なんてバカなんだ!?
こうなるかもしれないって、なんで考えなかったんだろ!?
もうだめだ。力じゃコイツにかないっこない。もー...ダメだぁぁぁ。
視界いっぱいに大きな影が迫って来て、悠理はぎゅっと目を瞑った。
〜続く〜
>イタズラ
原作っぽくていいですね〜。情景が目に浮かぶ。
それに、さり気なくうさぎのマグカップが登場しててワロタ。
あのカップはやっぱり清四郎用なのか?
>>469の続き
「よせ、近付くな!お....お前、魅録じゃないだろ!?」
悠理は声にならない声を上げ、必死で後ずさろうとする。
だが、後ろ手についた腕は震え、身体を支えるのが精一杯だった。腰が抜け、足は
同じ場所でただ砂を蹴るばかりだ。
彼は口の端に笑みを湛え、悠然と歩み寄る。
「せ、せーしろ...どこ......助け...」
叫ぶつもりなのに、タイヤから空気が抜けるような音しか出ない。
とうとう悠理の前に男が立ちはだかった。彼は膝をつき、薄い笑いを浮かべながら
目の前の女へ腕をのばすと、その震える身体を愛おしげに抱き締めた。
悠理の身体が凍り付いた。
うああああ、やだああ、怖い、怖い、怖い!!こいつ何モンだぁ!?
『お前は俺の女だ。あいつになんか渡すもんか』
耳元でそう囁かれた瞬間、悠理はビクッと痙攣し、意識を失った。
『そうだ。いい子だ。お前は俺と一緒にいるのが一番なんだ。だってそうだろ?
俺はずっとお前だけを見つめていたんだからな』
枝が落ちるカラカラという音で、男は顔を上げる。
顔面蒼白になった清四郎がそこに立ち尽くしていた。
「何を...してるんです?」
『愛の告白さ。こいつは俺の女だ』
清四郎は目を細めてじっとその男を凝視した。
彼にはほとんど霊感はないが、先刻の妙な感覚が蘇るのを感じていた。
魅録の腕の中の悠理は気絶しているようだ。
彼女がこの洞穴に入るのをとても怖がっていたことから推測して、やはり何かの
霊が現れたと考えるのが妥当だろう。
だが、なぜ魅録に憑依したんだ?彼は僕にも増して霊感が弱いはずなのに。
>イタズラ
喋りながらどんどん脱いでいく清四郎に爆笑!
こういうの大好き〜。
オチは…かもしれませんがけっこう期待w
「あなたは、誰です?」
清四郎が言葉を噛みしめるように問うと、彼は薄く笑った。
『ご挨拶だな、宗一郎。俺のことを忘れやがったのか?』
その男はやおら悠理を放して立ち上がり、火のついた大きな枝を掴む。
「何を...?」
『そうだよな、お前はそういう奴だ。何が親友だ、笑わせやがって。お前のせいで俺は
いつだって損な役回りさ。お前さえいなけりゃ、千春は俺のもんになるんだ!』
男の瞳は赤く濁っていた。
それはただ炎を映しているせいばかりではないだろう。
そのセリフで清四郎は漸く合点がいった。
おそらく、この洞穴には霊が彷徨っていたのだろう、ソウイチロウという男を怨む霊が。
そして、チハルという女に拒絶されたことが、その怨みの大きな要因であったに違いない。
だが...洞穴に残ったのが僕だったとしても、同じように取り憑かれたのだろうか?
いつもは悠理が霊を呼び寄せてしまうが、もしかしてこの霊は魅録自身が呼んだのか?
今日の魅録の態度を思い出すうちに、脳裏をそんな考えがよぎる。
清四郎は後ずさる。とにかく悠理から少しでも離れなければ。
ゆっくりと後退しながら、その男をおびき寄せる。
「僕を殺すつもりですか?」
男はそれに答えず、ニヤリと笑った。
『俺は千春を愛してるんだ。誰がお前なんかに...』
「残念ですが、僕を殺しても、彼女はあなたのものにはなりませんよ」
『何だと...?』
「彼女はあなたを愛してはいない。例え僕が死んでも、彼女はきっとあなたを愛さない。
あなただって...本当はそのことに気付いているんじゃないんですか?」
清四郎は諭すように言った。無論、幽霊相手に通じる話だと思った訳ではない。
だが清四郎は、目の前にいる親友であるはずの男に対して、他に言うべき言葉を
思い付かなかったのだ。
一息つくと、清四郎は真直ぐにその男を見据えたまま、足を止めた。
「...僕は悠理を愛してます。彼女は僕が守る」
男の顔が歪む。
清四郎の瞳には、それは憎しみではなく哀しみに映った。
その表情は、ひどく哀しげに見えた。
次の瞬間、奇声と共に、棍棒が振り上げられた。
−続く−
>孤島の月
作品に割り入ってカキコしてしまいスミマセン
清四郎はうまく霊をかわすことができるんでしょうか。
そういえばこの二人って霊感なかったですねw
>孤島の月
あわわ!どうなっちゃうんでしょうかっ
続きが気になります。
>>
http://freehost.kakiko.com/loveyuukan/long/l-34-2.html (前回アップ分スレがdat落ちのため嵐さまのサイトへリンクします)
卑しい物云いに内心忸怩たる思いに駆られ乍らも、しかし魅録は悔やん
ではいなかった。
この男には、どうしても一矢報いてやらねば気が済まぬ。自分だけならば
ともかく愛する女性までをも貶められて、どうして引き下がれようか。そんな
聞き分けの良い、否、腰の抜けた男になど魅録は到底成れぬ。
恐らく矢の如き反論で報いられるに違いない、魅録は我知らず身構える。
だが意に反し、清四郎は深く静かに息を吐き、そのまま黙り込んだ。
部屋の沈黙を強調するかの如く戸外はやけに騒がしい。
強い風が鬱蒼と屋敷を囲む木立を揺らし、胸を掻く不快な鳴き声がばらば
らと散る。
今夜は酷く、鳥が騒ぐ。
沈黙に耐え切れず魅録が口を開こうとした瞬間、清四郎が窓の外を見遣り、
云った。
「―――きみの、云うとおりです」
その声音に思わずぞくりと肌が粟立った。まじまじと彼の横顔を見る。
普段の彼からは想像もつかぬ、否、魅録には確かに見覚えのある陰鬱な
表情で清四郎は続けた。
「ぼくは―――いや、教授とぼくは、悠理に手術を施す積りです。確かに、
きみの云うとおりだ―――彼女を実験体として使おうとしている。
この、鼠のように」
再び沈黙が訪れ風が鳴った。
と、清四郎はやおら魅録に向き直り、きっぱりと言い放った。
「だったら、どうだと云うんです」
魅録は微かに目を見開いた。
「きみも研究者のはしくれでしょう、いずれ人体実験をする事くらい分って
いた筈だ―――違いますか」
最前の、歯切れの悪い口調とは一変し、まるで責めたてるように彼は云う。
「ならばきみも、同罪だ。きみに責める資格など無い」
「違う。まだ次期尚早だと云ってるんだ。さっき自分でも云ったろう、それを
何故―――」
「―――だから!」
突然の怒声に魅録はびくりと身を震わせた。
「危険は承知の上ですよ。きみも知ってのとおり、現状で手術を施したとして
成功する確率は一割にも満たない」
「―――なら」
「だが、何もせずに手をこまねいていれば―――悠理は確実に、死ぬ」
言葉を失い魅録は黙り込んだ。
暗い窓の外に目を遣り、独り言めいた口調で清四郎は呟く。
「長かった。きみが想像できない位長い間、教授とぼくは慎重に、この計画を
進めてきたんです―――ようやく、ここまでこぎつけたんだ。誰にも、邪魔など
させはしない」
瞳に、薄い狂気の色が在る。
「違う―――邪魔する積りじゃない、ただ、早過ぎると云ってるんだ。危険が
大き過ぎる。せめて俺の研究がもっと確実な形になる迄でも―――」
「待てませんね。もう、計画は動き出したんです」
にべも無く清四郎は突き放す。血の通わぬ冷酷な物云いに、魅録は思わず
声を荒げた。
「そこまでして名誉が欲しいのか?自分の研究以外の事は、どうだっていいと
でも云うのか!剣菱のお嬢さんはあんたを信じ、頼り切ってるって云うのに
―――」
「―――下らない」
侮蔑の表情を浮かべ、吐き捨てるように清四郎は云った。
「話はここ迄だ。きみには失望しましたよ、魅録くん。もっと冷静な男だと思っ
ていた」
「貴様って奴は―――ッ!」
魅録の怒声を遮るように、突如研究室の扉が開き長身痩躯の男が姿を現した。
秀でた額と猛禽類を思わせる鋭い瞳。蓬髪には白いものが目立ち、年齢と
知性を偲ばせる。
「…何の騒ぎだね」
白鹿教授はゆっくりと室内を見回した。
小さく息を吐き、何事も無かったかの如き静かな声音で清四郎が云った。
「すみません、教授。魅録くんがどうやら……勘付いたようでしてね、手術の
事を」
悪びれるでも無くあっさりと云った清四郎へ、魅録がまだ怒りの抜け切らぬ
瞳を向ける。それと同時に、教授の視線は魅録の上で止まった。
「ぼくの実家から死体を調達して来るのだろうと……そこまで彼に読まれてい
ましたよ」
「…ほう」 白髪の男の瞳はどこか楽しそうに輝いた。
「そこまで推察したとなれば仕方無い―――まあ見切り発車ではあるが、私
は確かに剣菱のご令嬢に対して手術を施す積りでこの計画を進めて来た」
教授に向き直り、憤りを隠そうともせず魅録は云った。
「あの薬は、まだ完全なものじゃありません」
「ああ、分っている。だがそんな事も云ってはおれん。時間が無いのでな」
悠理の余命を指しているのだろう、彼らが手術を急ぐ理由を漸く察し、魅録は
口を噤んだ。
「魅録くん、きみの助力はもう必要無いようだ―――明日から大学へ戻ってく
れたまえ。後は私と清四郎くんが引き継ぐよ」
有無を云わせぬ口調で教授はそう命じた。
「これまでの、きみの尽力には感謝する」
「待って下さい、俺は―――」
「そうそう、これからも大学内で仕事を続けたいと思うならば―――余計な事は
喋らぬ方が良い。もしこれが上手く行けば、きみも医学史の片隅に名を残す事
になる。楽しみにして居たまえ」
教授はふたりに背を向け研究室を後にした。清四郎がその後を追うように扉へ
向かう。
部屋を出る寸前、彼ははちらと横目で魅録を伺い、ふ、と微かに、あの邪悪な
笑みを浮かべた。
何時の間にか強く握り締めていた両の拳を、遣り場の無いままだらりと下げる。
鳥が、ひときわ高い声で鳴いた。
昨夜の風が嘘のようだと野梨子は思った。嵐のような強風は一晩中窓を叩き、
鳥たちの騒ぐ声にまんじりともせぬ夜を過ごしたのである。そのせいか、朝の
空気はひんやりと澄んでいた。いつか、魅録と出遭った朝のようである。
同じような状況が二度あるとも思えぬが、澄んだ空気は魅力的であった。寒さ
を覚悟しつつ野梨子は中庭へと赴いた。吐く息は白い。
深夜に雨でもぱらついたのか、草木は露を含んで辺りに陽光を跳ね返し、踊る
ようにきらめいていた。
自然、顔が綻ぶ。
鳥の鳴き声にふと顔を上げると、清四郎の姿が見えた。反射的に踵を返そうとし、
思い留まった。避けてみても始まらぬ。
婚約者はいつもと変わらぬ風である。しかし朝の挨拶を交わす時、その表情に
何処かしら暗い翳りのようなものを見出した野梨子は思わず声を掛けた。
「疲れてますの?」
振り返るその顔に蔭は無い。
「大丈夫ですよ。ありがとう」
その場を立ち去ろうとした清四郎が、ふと思い出したかのように立ち止まった。
「そうそう、野梨子。今日から午後のお茶は、二人分で結構です」
訝しげに首を傾げた野梨子に向かって清四郎は続けた。
「魅録くんは、今日から大学の研究室に戻ってもらうことになりました。
ゆうべのうちに荷物も引き払ってもらいましたから、もうここへ来ることは無いで
しょう」
何事も無かったようににっこり微笑むと清四郎はその場を去った。
明るい筈の中庭が、不意に印画紙に焼きつけられたかのようにその色を失った。
(続きます)
やったああーーーー!病院坂!待ってました!!
今からじっくり読みます!
病院坂作家さま帰ってきてくれて感動です!
でも魅録と野梨子はどうなっちゃうの?
早く続きが読みたいです。
>病院坂
続きを待ち焦がれていました。読めて嬉しいです。
>でも魅録と野梨子はどうなっちゃうの?
私も気になっています。そして、この先美童が出て来るかも気になっています。
>>496 の続きです
もはや、ヒマ、どころの騒ぎではなくなってしまった。
魅録達が団子になって叩くが、頑丈なドアはびくともしない。
「お前ら、何バカなことやってんだよっ!」
「だってぇ...ほ、ほんの出来心で...」
魅録に怒鳴られて、消え入りそうな声で言い訳する可憐。
「悪いのは悠理なんだろ?自分で責任取らせればいいんじゃな〜い」
焦る彼らの隣で、美童は妙に悠長に構えている。
共犯の可憐と野梨子は、青いのを通り越して真っ白になっている。
「美童!?そんなこと言ってないで、どうにかしてここ開けてよ!」
「ねえ、清四郎!後生ですから悠理を放して下さいな!!」
開かずの扉の向こうから、悠理の絶叫と、時折清四郎の荒い声が聞こえてくる。
その時、ふと騒動が止み、ギャラリーは固唾を呑んでドアに耳をつけた。
次の瞬間、信じ難いことに、悠理が洩らしているらしい甘い声が微かに伝わってきた。
うひゃっっ!?...やめ......おねが...い...
聞いている場合ではない、と思いながらも、魅録はドアに貼りついたまま動けない。
ひゃぁっ....やだぁ...ん
可憐はうそぉ、と呟きながら指をくわえる。
何す...ん......あっっ!!
なぜか美童は、うわー、楽しそう〜と呟く。
...いやあ.....ん...あぁ...
赤面した野梨子は、清四郎のバカぁ!!と叫ぶ。
その時初めて、美童が「ん?」と、小首をかしげた。
チッと舌打ちをし、魅録が椅子へ手を伸ばした。
「あ〜、もう!!しょーがねー、どけよ!ドア叩き壊すぜ」
美童はそれを見て、ぼそりと呟く。
「え〜...今開ける気?ヤバいかもよー?」
「あ!?やっぱヤバいかな...」
あられもない姿の二人を想像してしまったらしく、魅録は妙におたおたする。
「二人とも、何を言ってるんですのっ!?魅録、早く開けて...」
「そうよ、きっとまだ途中だもの!」
「だからァ、清四郎を途中で止めるのはマズいと思うけどな〜」
「いい加減にして下さいな、美童!」
四人がすったもんだする中、いつしかドアの向こうの嬌声が消えていた。
「......何だ?やけに静かだな...」
首を捻りながらも魅録が椅子を振り上げようとした時、カチリと音がした。
音もなくドアが開き、呆然と立ち尽くす四人の前に、涙目の悠理が現れた。
リボンがほどけた胸元を右手でぎゅうっと握りしめ、唇を噛みしめている。
「お、遅かったか...」
魅録は目をしばたたき、力なく椅子を下ろす。
うっ、と声を詰まらせ、悠理は駆け出した。
そして、激しくドアを叩き付け、わああーんと泣きながら廊下へ飛び出してしまった。
「おい!何をされたんだ、悠理!?」
「待って!だ、大丈夫よ!!」
「悠理!?泣かないで下さいな!」
悠理を追おうとした彼らだったが、背後から声をかけられて飛び上がる。
「...大丈夫って、何がですか?」
「せ、清四郎!?お前...」
「きゃあ!出たぁあ!!」
「いやあっ」
化け物を見るような三人に苦笑しながら、彼は仮眠室のドアを閉めた。
歯をくいしばって硬直する悠理の上で、その影はなぜか小刻みに震え始めた。
恐る恐る薄目を開けた悠理は、我が目を疑う。
襲いかかってくると思われた清四郎が、なんと、笑いを噛み殺しているではないか。
「...な...んで......?」
「驚きましたか?」
小声でそう言って、悠理の腕を片手で束ねると、もう一方の手でしーっと合図する。
「せっかくですから、あいつらにはもう少し気を揉ませてやるとしましょう」
涙を浮かべた目で、悠理は自分の上にいる男を見上げた。
「お...お前......クスリは??」
情けない表情で、悠理は小首を傾げる。
「あんな古い薬、大して効くものじゃありませんよ。何か企んでるのはわかってました
から、一口しか飲んでませんしね。ま、ちょっと身体が火照ってはいますけど」
しれっと清四郎は言い放ち、意地悪く眉を上げる。
「僕をからかおうなんて100年早いですよ、悠理。大方、その絆創膏を出す時にでも
見つけて、僕に飲ませようと思いついたんでしょ?女性陣の熱い視線に、僕が気付いて
いないとでも思ってたんですか?」
「なっ....!?くっそーー!!放せってば!」
怒りで真っ赤になった悠理の耳元に口を寄せながら、清四郎はわざとらしく胸元の
リボンの端をつまむと、するりとほどいた。
「さてと、じゃあ...いたずらのお仕置きを始めますか。もう二度と飼い主の手を噛まない
ように、きちんとお灸を据えなくちゃいけませんからね」
「だ...誰が飼い主......」
抗議の声を、清四郎の大きな手が塞いだ。
「こら。あまり大きな声を出すと、口で塞ぎますよ?」
くすくすと笑いながら、その指先を顎から喉へと滑らすと、悠理は激しく仰け反った。
「うひゃっっ!?...やめ......おねが...い...」
「フム。ここが弱点ですか。案外、可愛い声を出すんですねぇ、悠理も...」
悠理がじたばたと抵抗するので、また両手でしっかりと押さえつけた。
「ほらほら、大人しくしろ。ヒマだったんでしょ?遊んであげますから」
手が使えなくなったので、耳にフーッと息を吹きかけてみる。
「ひゃぁっ....やだぁ...ん」
今度は悠理が身を縮こまらせる。
「...ほほう。耳もかなり弱いみたいですな、じゃあもう少し...」
囁きながらさらに唇を寄せると、かすかに耳に触れた。
「何す...ん......あっっ!!」
悠理の甲高い声に誘われ、清四郎は我を忘れつつあった。
ついヒートアップし、悠理の耳たぶをちろり、と舐める。
「いやあ.....ん...あぁ...」
頬を上気させた悠理が、甘い悲鳴を洩らした。
気付くと、唇が重なっていた。
からかうだけのつもりだったのに。
自分の行動に驚いた清四郎が身を起こすと、ぽかんと口を開ける悠理と目が合った。
みるみるうちに、またその瞳に涙が溜まっていく。
さすがに彼は、しまった...という表情をした。
「悪い...」
手を離すと、悠理はよろよろとベッドから這い出し、ドアを出て行った。
「参ったな。薬のせい...か......?」
強く頭を振り、彼も立ち上がった。
遠巻きに見守る四人を無視し、清四郎は上着を取って袖を通した。
「出てっちゃったよぉ?」
ドアを指差す美童をちらっと振り返り、口を引き結んだまま飛び出して行く。
「服...着てたわよね...?」
取り残されて呆然とする可憐に、代わりに美童が答えた。
「当たり前だろ。からかってたんじゃないのか?いたずらの仕返しに」
「「は!?」」
野梨子と魅録が口を揃えて間抜けな声を上げた。
「あんな声、ただくすぐったがってただけだよ」
「「へ?そ、そうなの??」」
美童のしたり顔での解説に、可憐と野梨子が顔を見合わせる。
「あ...そう言やぁ、あれってアルコールと一緒に摂取しないと、大した効果がない
んだったっけか?」
すっかり忘れてたよな〜、と、魅録がぽりぽりと頭を掻く。
「なあ〜んだ」
どよめきが起こり、あたりは安堵の空気に包まれる。
「じゃあ、泣く事ないじゃないねえ。悠理ったら大げさなんだからぁ〜」
「清四郎も人の悪い...すっかり騙されましたわ」
自分達のやったことを棚に上げ、女二人はブーイングし始めた。
「やだやだ、もう。あいつらはほっといて、飲みにでも行かない?」
可憐がパタパタと手を振ると、魅録はビシッと親指を立てて片目を瞑る。
「おう、いい店があるぜ」
「いいですわね、じゃあ気分直しに早速出かけませんこと?」
野梨子は小さく拍手する。
それを横目に、美童はやれやれ、と一人ごちる。
「もしかすると、からかうだけじゃ済まなかったかも...だけどねぇ〜」
ほんとにこいつらときたら、なーんにも判ってないんだからな。
だって、ちょっと考えてみろよ。
それだけなら、あいつが泣いてる悠理を追いかけてく必要なんてないだろ?
まあ...二人が戻ってきたらこっそり問いつめるとするかな。
邪魔者たちは消えてくれるみたいだし。
いい、ヒマつぶしになりそうだ。
ーFinー
わーい、リアル遭遇だぁ〜
おもしろかったですよ〜!
も〜かわいいなぁ。
ちょうどいい匙加減とでも申しましょうか、w
ほほえましいお話でした。
>イタズラ
うわー面白かったです!
よくあるシチュなのに新鮮でした。
美童がおいしかったv
そしてこっそり続編希望・・・。
>病院坂
続きをずーーーっと待っていたので嬉しい。
魅録と清四郎の火花散るやり取りが良かったです。
初めて登場(だったと思う)した教授は清州さんなんでしょうか。
魅録が今後どう出るのか、黙って見過ごすのかなど、続きも楽しみ。
>イタズラ
悠理が可愛いし、思わずキスしてしまった清四郎にも萌えましたw
美童はこういうことになると本領を発揮しますね。
最後の一行が、有閑倶楽部らしくて良かったです。
>病院坂
読めて嬉しいです。
清四郎のどこまでが本音で、どこからが演技なのか。それとも全部本音?
魅録もこのまま退場する…わけはないですよね。
というわけで今後の展開がますます気になる今日この頃、
病院坂のアップ分読了後はいつもこんな気持です^^;
首を長ーくして次回を待ってます。>作者さま
>イタズラ
とてもいい塩梅でした。私も続編希望。
美童はこういう場面では他の面子と同学年には見えませんね。
有閑キャラは得手不得手がはっきりしていて、面白いです。
そして作者さまはそれを上手に作品に取り込んでいらっしゃる。うまいです。
>病院坂
きゃーーっ、きゃーーーっ。病院坂ぁぁぁ!
読めてうれしいです。
清四郎と悠理の関係が気になります。
熱く続き希望!
>イタズラ
余裕たっぷりの清四郎がいい感じでした!
ほんとに続編も読みたいです。
短編うpします。
魅×野です。
イメージに合わない方、スルーお願いします。
2回くらいの予定です。
朝の冷え込みも和らぎ、麗かな日が続く。
天気予報では桜の開花予想が聞かれ始める。
白鹿邸の桜の木も、蕾が濃いピンク色に染まり綻びようとしていた。
野梨子は、春の訪れを知らせるこの花が幼い頃から好きだった。
“精神美”という花言葉を知ってから、自分の目指す人間像と重なり
猶のこと桜の花が好きになった。
昨年の春、大好きな桜の花のイメージで作られた香水があることを知って、
密かにそれを愛用していた。
和服の時でも、洋服の時でも、その香りは周囲に浮き立つことがなく
仄かに自分にだけ香っていた。
ある朝、野梨子は庭の桜の木に、一厘の気が早い花を見つけた。
「もうそんな季節…。そろそろこの香りが作られる頃ですわね…」と
残りが僅かになった小瓶の蓋で、そっと手首に香りをのせた。
「早くこの香りに相応しい女性になれますように…」野梨子は香りを
吸い込みながら、心の中で呟いた。
ある日魅録は、野梨子から優しくほんのりと甘い香りがすることに気がついた。
それは美童や可憐のように自分をアピールするわけではなく、さりげなく香って
いた。肩が触れ合う程に傍に寄らなければ、気がつかない。
可憐のように、自分を飾りたてることに関心がないように見えた野梨子から
漂ってくる香りに何故かとても心惹かれた。
いつしか、その香りにではなく、それを身に纏う野梨子に心惹かれていることに
魅録は気がついた。
何気なくかけたCDから流れる曲。
『桜のような少女』というタイトルの曲は、たった一言が告げられない自分を
歌っているようだった。
「突然告白されて、野梨子はどう思うんだろう…?
断られるなら、大切な仲間のままの方が…。
でもあの香りが漂う距離をずっと保っていたい」
恋愛に関しては、全く度胸のない自分を恨めしく思いながら溜息をついた。
「魅録いる?」と突然部屋のドアが開いた。
数日前にパリから帰国した千秋が部屋に入ってきた。
手には魅録の髪の色に似た小さな紙袋を持っていた。
「何だよ突然。ノックくらいしろよな!」
文句を言いながら魅録は起き上がり、千秋へ歩み寄った。
「これ野梨子ちゃんにあげてくれない?
貰ったんだけど、私には似合わないのよね…」
と千秋は手に持っていた紙袋を魅録に渡した。
「何これ?」と魅録は袋の中を覗いた。
ピンク色の丸い箱が入っていた。
「桜の花のイメージで調香師が作った香水よ。
今までは限定品でね、すぐ売り切れたの。
今年は限定ではないけど1年に1回だけの生産なんだって。
なんかワインみたいよね…」
千秋が説明をしている間、魅録は袋の中の桜の花型をしたムエットを取り出した。
そこからは、野梨子と同じ香りがした。
「これは…」魅録は、はっとして千秋へ向き返った。
すみません「続きます」書き忘れました。今日はここまでです。
>Cherry blossom
今の季節に合う素敵なお話ですね。
桜のイメージの香水というのが、野梨子にとても似合うと思いました。
読んでいると、香りを嗅いだような気になるのが不思議。
続きを楽しみにしています。頑張れ、魅録!w
>病院坂
なぜか食わず嫌いでスルーしていたのですが、
つい読んでしまい、その世界に引きずり込まれました。
清四郎を畏れながらも、彼を否定しきれない野梨子がいい!
彼の、悠理への本当の想いが解き明かされる日を、お待ちしております。
p.s.美童も登場してほしいなぁ...。
短いお話を書かせていただきます。
カプは野→美に挑戦。ほんのりです。+αもあるかな?という感じです。
小春日和の、ある秋の日のことだった。
昼休みの終わり頃、講堂へと続く渡り廊下を、野梨子は小走りで抜けようとしていた。
その時、中庭から風に乗って流麗なフランス語が流れてきた。
『悪いけど、僕は君を愛してない』と、聞き取れた。
確かに、聞き覚えのある声。でも、野梨子のよく知る彼にしては、甘さのない強い口調。
それが気になり、つい足を止めてしまう。
『ノン』
その声の主は、またきっぱりと否定の言葉を口にする。
やっぱり、そうだわ。
相手の声は聞こえないから、電話かしら...。でも、あんな喋り方、美童らしくありませんわね。
立ち聞きなんてしてはいけない、と思いながら、つい耳をすませる。
『もう会えないよ...そういう約束だったろ?』
お相手はやっぱり女性みたい。そう思った時、カサッと落ち葉を踏む音がした。
どうしよう、こっちに来る。いやだわ、盗み聞きしていたと思われたら...。
急いで講堂に行かなくちゃいけないのに、と思い出すが、とりあえずしゃがみ込んで
手すりの影に身を潜めた。
『幸せに...さようなら』
冷ややかな声でそう告げ、ピッと通話を終了する音が鳴る。
その男は、彼女には気付かずに教室へと戻って行った。
放課後、文化祭の準備に忙しくしていた野梨子が、やっと生徒会室に顔を出した時、
件の彼は友人達と談笑していた。目が合わないよう、そっと中へ入る。
「ねえ、美童。あたしの友達があんたを紹介してくれってうるさいんだけど...」
野梨子が席についた時、少し面倒くさそうに、可憐が切り出す。
「へえ、かわいい子なら大歓迎だよ。写真ないの?可憐」
身を乗り出す彼に、魅録はあきれ顔だ。
「ったくよ...次から次へと、よく飽きねーなぁ」
「だ〜って、向こうから寄ってくるんだもん。仕方ないだろ?」
オーバーなアクションで答える彼に、さっきのヒリヒリとした雰囲気は感じられない。
それは全くいつも通りの彼。フェミニストでナルシストで、軟弱な男。
隣では、さらにあきれ顔の幼なじみが、会話に入ろうとした悠理の頭を叩いている。
「こら、喋る暇があったら、早く宿題を済ませろ!」
「......」
その時、かすかな電子音が聞こえ、自分の所有物からかと、一斉に耳をすます。
「美童のケータイ!!」
0.2秒後、口を尖らせてノートに向かったまま悠理が言い放った。
だが、普段なら、いそいそとそれに応答するはずの美童が、出ようとはしない。
鞄の中で空しく鳴り響いた携帯が音を潜め、しばらく後、諦めきれない様子でまた
彼を呼び始める。
「...出ないんですか?」
清四郎がいつもの表情のまま、彼に問う。
美童は微笑み、皆の注視の中やっとそれを取り出した。だが、手の中で鳴り続ける
携帯をただじっと見つめるだけだ。そして、音が途絶えてから、何故か彼はおもむろに
ボタンを押した。2秒、3秒。電源を切ったらしい。
「今日は帰るねぇ〜」と間延びした声で別れを告げ、彼は立ち去った。
Adieu.
先刻の別れの言葉が、悲しく耳に蘇る。
アビヤントーでもオールヴォワールでもなく、アデュー。それは、決別の言葉。
一体、その女性(ひと)との間に、何があったというのだろう。
「めっずらしい〜、あの年中発情男が電源切ったわよ!?」
「もっと珍しく、男からの電話だったんじゃないのか?借金の取り立てとか」
はぁー、と溜め息をつきながら、可憐は首を振った。信じがたいらしい。
魅録も女からの電話のはずがない、と決めつけているようだ。
それに異を唱えたのは、意外にも清四郎だった。
「いや、女性からだと思いますけどね、あの顔は」
「あたしも絶対そう思う!!絶対そうだ!」
「...宿題は済んだんですか?悠理」
「......」
最後は、またでこぼこコンビが締めくくった。
つい、帰り道で疑問を口にしてしまった野梨子を、清四郎はちょっと眉を上げつつ見下ろした。
「アデュー、ですか?」
「ええ、清四郎は別れの挨拶に使うことあります?」
「ありませんね。でも...」
彼はちょっと考え込んでから、また傍らの幼なじみをじっと見る。
「フランス語の微妙なニュアンスなら、美童の方が詳しいんじゃないですか?」
野梨子は慌てて手を顔の前で振った。
「ああ、そんなに大した事じゃありませんの。映画で耳にしたものですから...。
普通はどういうシチュエーションで使うのか、ちょっと気になっただけで...」
我ながらベタなごまかし方だ、と急に恥ずかしくなり、俯く。勘の鋭い清四郎のことだ。
様子がおかしい、と気付いたのではないかしら。どうしよう、頬が熱い。
だが、彼は何事もなかったかのように話を逸らしてくれた。
「文化祭の準備は滞りないですか?いろいろ大変でしょう」と。
ほっとして、野梨子は「ええ、おかげさまで」と答える。
こういう時、清四郎は決して私に恥をかかせたり、追いつめたりしない。
だから、彼と一緒にいると、とても安心する。
野梨子は自分の中の変化に戸惑っていた。
授業中も、頭の中は彼のことばかりだ。
あの日から、確かに何かが変わってしまったような気がする。
今まで、男性として意識したことさえなかった存在だというのに。
だって...美童ときたら、幽霊が出れば泣きわめくし、ピンチの時はとっとと逃げ出すし、
男らしくて頼りになる清四郎や魅録とは、全然比較にならないんですもの。
初めて好きになった裕也さんも、すごく女性にモテたみたいだったけれど、
美童とはまるで正反対の、硬派な方でしたわ。
外見がおそろしく美しいことと、「女性に優しい」ことくらいしか、彼に美点は
見当たらないような気がする。それなのに...なぜこんなに気にかかるのかしら。
彼が、女性に対してあんな冷淡になれることを、知ってしまったからなのだろうか。
今まで、その美しさ故に、軟弱な印象だった人。だけど、よく見れば仲間の中でも
一番背が高く、その身体つきは決して女性的なものではない。
ふと、昔のことに思いを巡らせる。
プリンセスミュスカを命懸けで守ろうとした時のこと。
それに、悠理と一緒に澤乃井杯で優勝した時の美童、結構格好よかったですわね...。
野梨子の唇に、笑みが浮かぶ。最初に逢った時は、ほんとに驚きましたわ。
私の手を取ってキスするなんて、キザな人。
そうそう、シラノ・ド・ベルジュラックの舞台の時なんて...。
間近に見たその端正な顔立ちを思い出し、熱くなってしまった頬を教科書で顔を隠す。
それから、長いため息を一つついた。
もしかしたら、私は彼のことを何も知らないのかもしれない。
「この間の人ですか?」
電話を切った瞬間声をかけられ、美童はぎょっとした顔で振り返った。
ドアの前に立つ、複数の外国語を習得している友人の姿を認め、彼は諦め顔で肩を竦める。
その男の後ろから、硬い表情の野梨子と、きょとんとする悠理が顔を出した。
「...誰もいないと思ってた...。あーあ、全部聞かれちゃったみたいだねぇ」
清四郎はちらりと幼なじみに視線を落とす。
会話の内容を理解しているらしい彼女は、気まずそうにしていた。
「何?どーしたんだよ、何の話だ?」
悠理は清四郎の詰め襟の裾を引き、仲間に入りたそうにしている。
だが、清四郎はなぜか回れ右をすると、悠理に片目を瞑って見せた。
「図書室で勉強しましょう、悠理」
やさしく促し、二人を残して彼らは部室を出て行った。
「座りなよ」
立ち尽くしたままの野梨子にやさしく言い、美童は彼女の斜め向かいに座る。
彼はテーブルの上で肘をつくと、両手を組んでその上に軽く顎をのせた。
いたたまれない気持ちのまま、野梨子は椅子を引いた。
「別れ話、ですの?」
自分には関係のないこと、と知っていながら、彼女は口を開かずにいられなかった。
「まあね。ココとは、最初からそういう約束だったから」
「去年、知り合ったんだ。知人のデザイナーのところでね」
じっと彼の話を聞いていた野梨子だったが、そこでハッと口を押さえた。
流行には疎い彼女だが、ココ、という名のトップモデルを知っていた。
パリコレやミラノコレクションの常連だ。
「結構遊んでるみたいだったし、本気になられるなんて思ってもいなかった」
美童は困ったな、という表情で苦笑する。
その言い方が軽薄に聞こえ、野梨子の頭にカーッと血が上った。
「だけど、おつき合いしてたのでしょ?愛してない、って言うなんて可愛そうですわ...」
言い捨てた野梨子に、美童はちょっと眉を上げた。
「...愛してない...?」
野梨子はハッと口を押さえた。そのセリフを聞いたのは、今日ではない。
真っ赤になった顔を両手で覆う。嫌だ、この間の盗み聞きを自分でバラすなんて!
「なるほど、こないだから様子が変だと思ってたんだよな...野梨子に聞かれてたなんて
気付かなかったよ。そっか、参ったなぁ...」
美童はちょっと考え込み、謝ろうとした野梨子を手で制す。
「一つ、言い訳させてくれる?野梨子」
なぜか真面目な瞳で、彼はそう言った。
図書室の隅に陣取り、悠理はキョロキョロと周囲を見渡した。
隣で平然と教科書を広げる清四郎の耳元に口を寄せ、珍しくも小声で尋ねる。
「なあ、あいつら何かあるのか?さっきの宇宙語は?相手はやっぱ女なのか?」
畳み掛けると、清四郎はどこか淋しそうに笑う。
「...野梨子は、もう僕の側にはいてくれないみたいですねぇ」
「なんだよそれ。美童とつき合ってんのか、野梨子?」
「さあ...。でも、いずれそうなるかもしれません」
彼は、自分の横顔を凝視する悠理に曖昧に答えた。
「さっきのはフランス語です。彼の...友人が結婚するみたいですよ」
「ふーん。ほんとに?ほんとに友達か?」
食い下がる悠理に構わず、清四郎は頬杖をついて何かを考え込んでいる。
「Adieu.か...なるほど......」
それから、視線を遠くへやったまま、ぽつりと言った。
「悠理、悠理は僕から離れて行かないで下さいね。淋しく...なりますから」
悠理はちょっと考えてから手をのばし、清四郎の頭を乱暴に撫でた。
それから、驚いているその男の顔を心配そうに覗き込んだ。
「淋しいんなら、泣いてもいいんだぞ?」
清四郎はほどけたように笑い、お返しに悠理の頭を抱き寄せるとくしゃくしゃにした。
美童は、ゆっくりと話し出した。出会った時から、ココにはフィアンセがいて、お互いに
それを承知の上でのつき合いだったことを。
二人は最初に約束した。
本気にならないこと。『愛してる』と口にしないこと。彼女の結婚式の前に別れること。
彼はそこまで言い、溜め息をついた。
「僕は、約束を守った。彼女は、約束を全部破った。いや、破ろうとした、って言うのかな。
3つめは一応守ることになったから」
野梨子は、俯き加減でぼんやりと話を聞いていた。
「Adieu.」
彼の声に、ふと顔を上げる。
「さっきね、ココが最後に言ってた。だから、もう電話はないよ」
美童は、そのセリフも聞かれていたことを知っている。
そして、目の前の利発な少女が、正確にその意味を捉えていることも。
「だからって...美童は他の方たちとも、そういうおつき合いを...」
しどろもどろになりながら、野梨子は抗議した。
「僕さ、ほんとはすごく好きな人がいるんだ。とっても、とっても好きな人」
美童はいきなりそう切り出した。どこか楽しげで、ひどく切ない瞳をして。
「ずっと片想いしてるんだけど、彼女にはいい加減な男だと思われてるから、相手にして
もらえなくてね。ぶつかって玉砕するくらいなら、僕をアクセサリーにしたいお姉さん
とか、僕を王子様だと思ってるかわいい女の子と遊んでる方がラクだなぁ、って...」
その告白は野梨子の胸を激しく刺した。彼には意中の人がいるのだ、と悟った。
感情が昂り、もつれそうになった言葉が溢れ出した。
「だって、美童がいけないんですのよ。女性と見たら口説いてばかりで、来るものは
拒まずでしょ!?その方にだって、いい加減な人だと思われても自業自得ですわ!」
美童はばつの悪そうな顔をして、髪を掻き上げた。
細い指の間からさらさらと零れたブロンドが、背後から射し込む陽光を受けて煌めいた。
叱られた子供が浮かべるような表情と、ひどく大人なその仕草がアンバランスで、
野梨子は思わず目を細めた。彼が、あんまり綺麗だったから。
「...わかったよ。もうやめる」
彼は、ちょっと唇を尖らせた。拗ねているみたいだった。
上手に言葉をつなげない野梨子の前で、美童は命の次に大切にしていたはずの携帯を
取り出し、片手で頬杖をついたまま、それを操作する。
何を?と問おうとした野梨子の前に、彼はいきなり画面を突き出した。
『アドレスブック 全消去 YES/NO』
まじまじと覗き込んだ野梨子の瞳が、その文字を追いきった瞬間、美童はためらわず
YESのボタンを押した。
「あっ!?」
思わず声を上げてしまったのは野梨子だった。彼はすっきりした顔で立ち上がり、狐に
つままれたような表情の彼女を振り返った。
「サンキュー、野梨子。ほんとはだいぶ前から気付いてたんだ。いつまでも本当の恋から
逃げてちゃいけないって。君のおかげで吹っ切れたよ」
ドアへ向かう美童の背中が、いつもよりたくましく見えた。
彼はずっと想い続けていた人にぶつかる決意をしたのだ、と、野梨子は知った。
「美童...」
呼びかける声が、情けなく震えた。でも野梨子は精いっぱい微笑んだ。
「あなたの恋が成就すること、祈ってますわ」
美童はまた振り返り、小さなウインクを返してドアを出て行った。
一人残された野梨子は、くすくす笑い出した。
それなのに、なぜかテーブルの上に雫が落ちる。ぽたん、ぽたん、とそれはいくつも落ちた。
美童が気になって仕方がないくせに、あんな偉そうな事を言うなんて、駄目ね。
告白もできずに諦めるなんて、私ったら本当に臆病者だわ。
うまくいけばいいなんて、本当はこれっぽっちも思ってないくせに。
彼の想い人に嫉妬しているくせに...。
ああ、そうだ。今日のことを清四郎に尋ねられたら、何と答えればいいのかしら。
その時、鞄の中で何かが振動し始め、野梨子は驚いて顔を上げた。
彼女の携帯はあまり活躍する方ではないから。
そうか、きっと清四郎だわ、心配してかけてきてくれたのね...。
涙を拭いながら取り出し、野梨子は固まった。
「嫌だ...どうして...?」
震える指先で、漸く通話のボタンを押す。
もしもし、と答えようとするのに、声にならない。
『もしもし、野梨子?僕だけど』
電話を通して、やさしい声が聞こえた。
『悪いんだけど、清四郎の番号教えてくれる?』
掠れる声でその数字を並べると、彼は復唱しながらメモを取る。
『あとさ、魅録と悠理のも』
「...覚えてないんですの?」
『うん。可憐のはぎりぎり着信履歴が残ってたんだけど、他の奴らのは全滅。電話番号
覚えるのって苦手なんだよな』
電話の向こうで、美童はちょっと照れくさそうに笑った。
勢いで全部消しちゃったんだよね、僕ったらちょっとおバカかも、と。
だけど、と野梨子は首を傾げた。
彼から電話を貰った記憶も、かけた記憶もほとんどなかった。
「...どうして...」
どうして私の番号を?口に出しかけて、鼓動が速くなるのを感じた。
向こう側の美童は、なぜか沈黙した。
どれくらいの時間がたったのだろう。
ねえ、野梨子。呼びかけてくる声がいつもと違う。
何度もかけようとして、何度もやめたんだ。いつの間にか覚えちゃったよ。
彼は言い、少し上ずった声で笑う。
ねえ、野梨子。
もう一度その名を呼んだ。今度はちょっと低い声で。
ずうっとずうっと君のことが好きだったんだ。
彼は言った。そして、その返事を知っていながら、彼は尋ねた。
君の番号、1番に登録してもいいかな?
++Fin++
びぎにんぐ
うわ〜ベタベタだわ。何のひねりもないけど
良かったと思う。
最後の台詞は美童以外はトリハダたつね、きっとw
美→野はともかく
野→美かぁ〜…と思いながら読んだら
意外にハマっててヨカッタよ。
野梨子が離れてゆくことを寂しがる清四郎が
ほんのり悠理に甘えているのがなんだか可愛かった。
こんな清×悠なら私にもOKだ。
545だけど、なんだかエラソーな書き方してしまった。
気を悪くした人スマソ
>Beginning
意外な一面を見せた美童に惹かれる野梨子がよかったです。
ちょっと淋しがりな清四郎も。
作者さん乙です!
一日来なかったら、うpたくさんあって賑やかですね〜。
すみませんが、とりあえずこれだけ書かせてください。
>病院坂
お帰りなさいませ!今か今かと待ってましたよ。感涙。
>明るい筈の中庭が、不意に印画紙に焼きつけられたかのようにその色を失った。
美しいです…。何のセリフもないのに、この短い一文で野梨子の心情が
手にとるように伝わってきます。はー、切ない。
作者様、次のお越しはいつでしょう。
まるで光源氏の来訪を待つ末摘花のような気分です…。
いや、有閑的に言うと、千秋の帰りを待つ時宗ちゃん?ってワケワカランですね、スマソ
>いや、有閑的に言うと、千秋の帰りを待つ時宗ちゃん?ってワケワカランですね、スマソ
ワロタ!
>Cherry blossom
>肩が触れ合う程に傍に寄らなければ、気がつかない
がいい。肩に触れ合うくらいの距離でどきどきしている
魅録を想像したら萌え〜
>Beginning
美童と野梨子で恋が始まるとしたらこんな感じだと思う!
>548
末摘花や時宗ちゃんにたとえるところが謙虚だ…。
一日来ぬうちに沢山のうpが!嬉しい。
>病院坂
キ…(-_-)キ(_- )キ!(- )キッ!( )キタ(. ゚)キタ!( ゚∀)キタ!!( ゚∀゚ )キタ━━━!!!!
本気でお待ちしておりました。
清→悠は私はどうしても信じてしまいます。
冷徹なところが彼の魅力でもあると思うけれど、
やはり人間的な部分があってほしいと願っています。
そして魅録と野梨子が今一度出会えますよう…
>イタズラ
可愛い!実は何もしませんでした、だけのオチじゃない
ところがお洒落で素敵。
>Cherry blossom
野梨子と桜ってすごくしっくりくる組み合わせだと思います。
香ってくるような言葉の紡ぎ方とても感心しました。
>Beginning
すっ……ごく、好きです。ツボでした。最後うるうるしてしまった。
美×野大好きな私には美童、野梨子はもちろんすごく綺麗に感じられ
ましたが、清四郎が本当に素敵。
>こういう時、清四郎は決して私に恥をかかせたり、追いつめたりしない。
どなたかもいつかこういう表現をつかっていたと思いますが
本当にその通り。心温まるお話でした。
長文スマソ
野梨子独白の短編うpします。7レスいただきます。
味噌汁に入れる葱を、さくさくと気持ちよく刻んでいると、
視界の隅をちらりと白いものが横切った。
手を止めて目を上げる。
台所にしては大きい窓は、この家を建てる時に私が是非にと希望したもので、
自分で手入れした中庭がよく見えて、とても気に入っていた。
雪。
ふわふわと、それは落ちてくる。
木に、石に、土に、そっと触れては溶ける。
その粒の数を数えられるほど、ゆっくりと、やさしく舞う。
そして、朝の透明な太陽の光を受けて、ゆるく光る。
――お天気雨は、狐の嫁入りって言いますけど、雪のときは何て言うのかしら――
『知らないけど、……すごく、きれいだ』
あの時の、眩しげに空を見上げた横顔。
風に吹かれる雪の一片が、その髪に止まっていて、
(あなたの方が、きれいですわ)
口には出さなかったけれど。
それから、もうひとつ別のことも、言葉には残せなかった。
あの日のことを思い出すのは何度目だろう。
蘇ってくる映像は、つい昨日のことのように鮮やかでも、
それがすべて夢だったかのように朧げでもあった。
ちょうど、高校最後の年の今頃。卒業まであと一月足らずだった。
銀婚式の記念にと、両親が夫婦水入らずで旅行に出掛けたのを
いいことに、6人が久しぶりにうちに集まって、夜通し騒いだ。
何の集まりだったか。いや、名目なんてなんでも良かったんだと思う。
ただ卒業したら、こんな風に、今までと同じように
無茶をしたり騒いだりできなくなると分かっていたから、
みんな、残り少ない時間を惜しんでいたのだ。
誰も口には出さないが、誰もがその気持ちを共有していた。
とはいえ、寂しい思いはその場の空気を沈ませることなく、
みんな気持ちがいいほどによく食べ、飲み、喋り、笑った。
用意されたあらゆる種類の酒や料理や話題が消費し尽くされた。
日付が変わって、5時間。
いつもなら徹夜で騒ぐことなどものともしない面々だったが、
さすがにはしゃぎすぎたのかもしれない、
5人ともそれぞれの姿勢で宴の残骸の上で寝息を立てている。
私もすこし、うとうとしかけていた。
このまま寝たら皆風邪を引いてしまう、と私は無理矢理目を開けた。
ひとりひとりの穏やかな寝顔を見ながら順番に毛布を掛けると、
彼らの母親になったような気がして、私は自然と笑顔になった。
清四郎。悠理。美童。魅録。可憐。
自分は本当に幸運だと思う。
こんな私に親友と呼べる他人が出来るなんて思わなかった。
彼らが、人は変わることが出来るって教えてくれた。
私を変えてくれた。
感慨に耽っていると、可憐が寒そうな様子を見せたので、
もう一枚彼女に毛布を被せ、開けっ放しにしていた押し入れから
自分の分の毛布を引っ張りだした。
片手で毛布を持ちかえ、押し入れの戸に手を掛けようとしたとき、
肩越しに腕が一本伸びてきて、私より先にすっ、と戸を閉めた。
振り向かなくてもそれが誰か分かる。
最近気がついた落ち着かない感じが、私を包んだから。
彼は押し入れの戸に手をついたまま、私の後頭部に話しかけた。
まだ皆が眠っているからか、声を潜めて。
「……野梨子、今、眠い?」
さっきまで眠くてたまらないと思っていたのに、私は無意識に首を横に振っていた。
時刻はもう朝だったが、太陽はやっと昇る気配を見せ始めたところだった。
今年は暖冬だといわれていたが、昨夜から急に気温が下がり、
今朝は本来のこの時期にふさわしい、空気をはじくと音がしそうな寒さだ。
魅録が私を連れてきたのは、海を眼下に見下ろす岬だった。
間に合ったな、と呟いて、彼は私をバイクのシートから抱き降ろした。
並んで岬の先端に立つと、目に映る範囲にはひとつの建造物も船も人影もなく、
視界は見事に、夜明けをただ待つ海と空でいっぱいになった。
かなり飛ばしていたとは思うが、それでも都心から1時間半ほどで
こんな景色を見ることが出来るなんて。
「すごい……」
思わず口から出た私の言葉に、魅録は得意げな口調で応える。
「これからだぜ、野梨子」
その通りだった。
見ているうちに薄い薄い明かりが水平線をなぞり、
遥か遠い穏やかな波が、ひとつひとつ順番に形を現してゆく。
そしてその明かりが、東の一部分の波の形をすっかり光で塗りつぶした瞬間、
静かに、ゆっくりと待ちかねた天体が海に浮かんだ。
すべてのものへの新しい一日を抱えた、その目映い姿は
陳腐な言い方かもしれないが、神々しい、と形容するよりほかなかった。
声が出ない。
どうしたって眩しくてよく見えないに決まってるのに、
私はさらに数歩、海に近付いた。
魅録は私の少し後ろに立っている。
「お前に、いつか見せようと思ってて」
私は、朝の始まりの方向を見たまま、頷く。
「気に入っただろ?」
頷く。もういちど。
それから私たちは黙って太陽が昇っていくのを見ていた。
朝が闇を舐め取り、太陽が眩しすぎる光を脱いで
その丸さを判別できるようになる頃、私はやっと口をきくことが出来た。
「……私、ずっと、ここに来たかったような気がしますわ……」
私の言葉の答えにはなっていないが、
魅録は、ああ、と応じ、続けて私の名前を呼んだ。
振り向くと、私たちの距離はごく近かった。
お互いに半歩ずつ動けば同じ位置に立てるくらいの距離。
私が彼と眼を合わせるためには、かなり見上げなければならなかった。
私の名前を呼んだものの、魅録はそれから一向に言葉を続けなかった。
なにかを言うために開けかけた口を、次にどう動かすべきか
忘れてしまったように、彼は逡巡していた。
私は、魅録の唇が何を言いたがっているのか、もう少しで分かると思った。
彼が双眸の中で発する言葉が、もう少しで読めると思った。
その時、私たちの間を白い破片がひとつ、上から下へ通り過ぎて
お互いに繋げあっていた視線を一瞬途切れさせた。
雪。
私たちは思わず同時に空を見上げた。
真上は青空だった。ちらりちらりと、ゆるい風に吹かれ
朝一番の光を反射させて、雪が降っている。
雪まじりの空気を吸うと、しばらく自分が息をしていなかった事に気付いた。
それと同時に、掴めそうだと思った魅録の声にする前の言葉は、
肺に入り込んだ冷たい外気と入れ替わるように、するりと逃げていった。
改めて魅録を見ると、彼は既に唇を閉ざし、私に語りかけた眼は
もう言葉を発するのを止め、まだ空を向いていた。
両手をジャケットのポケットに突っ込んで、諦観したようにうすく微笑んでいた。
私は、なにかものすごく大事な瞬間が永遠に失われたことを悟った。
そんなことを言うつもりではなかったけれど、
今は何でもいいから言うべきだという気がして、私は問うともなく言った。
「……お天気雨は、狐の嫁入りって言いますけど、雪のときは何て言うのかしら」
―― しゅん。
傍らで鍋を温めていたガスの火が切られた。
せっかく丁寧に作った味噌汁はすっかり煮立ってしまっていた。
余程ぼんやりしていたのだろう、夫が近付いて来ていたことに気付かなかった。
「どうも冷えると思ったら雪ですか」
そう言って夫は私に並んで窓から中庭を覗き、
私の肩を一瞬軽く抱いてから台所から出ていった。
私は今、とても幸せだ。
夫を愛しているし、この生活を愛している。
だからこそ分かる。今になってやっと分かる。
私は恋をしていたのだ、と。
息苦しく、居心地が悪く、話すこと思うことの総てがもどかしく、
それなのにもっとその感じを味わいたくなる、最上の恋を。
何年経っても思い出す度に心の底がざわめく、本当の恋を。
雪はもう、やんでいる。
熱くなった味噌汁の鍋が、小さく音を立てている。
以上です。お邪魔いたしました。
野梨子のSSが続いてしまう感じになって申し訳ないです。
>天気雪
すごくイイ!
情景描写がとても綺麗で、短い話なのに引き込まれてしまいました。
話の雰囲気も野梨子と魅録のイメージに合ってる。
切なくなりました。
>天気雪
すーごくいい…
切なさで胸がいっぱいになりました。
>天気雪
うわー、いいですねえ…。
情景が浮かんできます。
切ないながらも心の温まるお話で、すごく良かったです。
全体に流れる優しい雰囲気も好き。
>天気雪
素敵すぎ・・・構成がイイ・・・
野梨子と魅録ってなんてせつない恋が似合うんでしょう・・・
嵐様のところの「fade in the rain 」とか・・・
お嬢様と不良系だから?清四郎という壁が魅録に立ちはだかるから?
>天気雪
優しい野梨子の語り口調に、短い話だったけれど思わずひきこまれました。
岬へ野梨子を連れて行って嬉しそうな魅録にも萌え。
旦那様は清四郎でしょうか?
本当に、切ないけど素敵なお話で良かったです。
>>501 の続き
「悠理、悠理...」
やさしく揺り起こす声で悠理は飛び起きた。
「わ!」
目の前に、待ち焦がれた男の顔があった。慌ててその胸にしがみつく。
「せ、清四郎!?魅録が、魅録がっっっ!!!」
「ああ、もう大丈夫ですよ。魅録も無事です」
清四郎はゆっくりと悠理を抱き締め、背中をさすってやる。
「あっれー、皆の前でラブシーン?だいたーん!」
「ま〜ほんと!隅に置けないわね、清四郎ったら」
ハッ、と悠理が彼のシャツから顔を離して見回すと、そこはコテージのベッドの上だった。
いつの間にか自分も服を着ており、魅録以外の仲間達が顔を揃えていた。
「へ???なに?なんで...!?」
「...また霊を呼び出してしまったんですのよ、悠理」
目をぱちくりする彼女に、気の毒そうに野梨子がいきさつを説明する。
「はー。それでいきなり抱きついてきたのかァ、魅録の奴...」
悠理の呟きに、皆が異常に大きな反応を示した。
「ええっ?!抱きつかれたの?うわ、そりゃ初耳だァ」
「いやだ、そんなこと知ったらショック受けるわよぉ、魅録の方が」
「魅録には言わない方がよろしいんじゃありませんの?霊に憑依された時の記憶って
残らないものなのでしょ?清四郎」
「ええ、多分...」
清四郎は曖昧に頷く。
一行が船から降りると、老人は迷わず洞穴に向かった。
大声で三人の名を呼びながら駆け込んだ美童たちは、息を呑んで立ちすくむ。
燃え尽きかけた燠火の前に倒れる、男の影が見えたからだ。
老人から聞かされた悲劇が、彼らの中で現実になろうとしていた。
「...ま、まさか清四郎...?」
泣き声を絞り出した野梨子の肩を抱きながら、可憐も震えていた。
「嘘でしょ...ゆ、ゆうりは...魅録は...?どこ......」
その時、黒い壁の一部がゆらり、と揺れた。
「「ぎゃあ!出たぁ!?」」
座り込んだ女達の向こうへ老人が懐中電灯を向け、彼らはやっとその状況を理解した。
倒れているのは魅録だった。
そして、清四郎が洞窟の奥の壁に凭れ、ぐったりとした悠理の肩を抱いていた。
仲間に気付いた彼は、目を閉じたまま火傷を負った腕をちょっと上げた。
清四郎は宗一郎ではない。彼は昌吉の霊に負けなかった。
渾身の力で振り下ろされた棍棒でしたたかに打ち付けられ、清四郎の顔が苦痛に
歪んだ。とっさに自分の左腕を押さえるが、痺れて指先の感覚がない。
疲労しきった自分の身体を、清四郎はコントロールしきれないと知った。
普段なら簡単に掴み取れるはずのスピードなのに、頭をかばうのがやっとだった。
動きが鈍っている。こんなものを避けきれないようじゃ、迷っていたら負けるな。
そう判断すると、相手と睨み合ったまま清四郎は呼吸を整える。
もう一度殴り掛かろう、と、男が右腕を振りかざした瞬間、清四郎の身体が沈む。
それと同時に、男のみぞおちに拳が吸い込まれ、彼はくずおれた。
その手から力が失われ、赤く燃えた枝が音を立てて落ちた。
「悪い、魅録。手加減は無理だ...」
ずるずると滑り落ちる親友の身体を支えながら、清四郎は呻くように呟いた。
彼らの無事を知り、老人は涙を流した。
50年前の悲劇をくり返さずに済んだことに。
「ああ、ああ...石を動かしてしまったんじゃな。また除霊をしてもらわにゃあ」
だが、話を聞いた清四郎は静かに首を振った。
行き場のない思いを封じ込めても、解決にはならない。
あの男は彷徨うことに疲れ、僕達を呼んだのだ。
本当は、彼もとうに気付いていたのだろう。彼自身の犯した誤ちに。
得られない事を知ってなお諦められぬほど、深く愛し過ぎてしまった哀しみにも。
きっと今頃は、また三人で仲良く暮らしているはずだ。
だって、彼らは親友同士だったのだから。
翌日の夜、清四郎は漸くベッドから起き上がった魅録と二人でデッキにいた。
「で、一体何したんだ?俺」
すまなさそうに、魅録は清四郎の腕の包帯に目を落とす。
やはり、彼は全てを忘れていた。
洞穴に入ってからボーッとしてきて、悠理の「大丈夫か、魅録?」という声を聞いたのが
あの島での最後の記憶だったと言う。やっと意識が回復した時、美童から島の話の
あらましを聞かされて彼は絶句した。
清四郎は、ちょっと困ったように眉を上げて見せる。
「悠理を抱き締めて、俺の女だ、って言ってました」
「うっわ...マジかよぉ...........」
「それについての弁明は?ただ霊に操られていただけですか」
「その前に、お前の気持ちを聞かせてくれねーか?」
魅録は頭を抱えたまま、不明瞭に呟いた。
「...今回のことではっきりと気付きましたよ。僕は悠理を...誰よりも大切に思っています。
何が起きてもあいつを守ろうと、昨日決心しました」
彼の親友はよどみなく言葉を連ね、にっこりと微笑んだ。
まるで、それを訊かれることを待っていたかのように。
不意に、魅録はげらげらと笑い出した。
バカみたいだな、俺。こんな奴と張り合えない、ってさっさと諦めた美童は賢いぜ。
「安心しろよ。俺にとってあいつはダチだ。悠理がお前に惚れてるんじゃないか、って
思い始めて、何となく対抗意識を持っちまったのは事実だけどさ」
そこで隣の男を見遣ると、彼は暗い海を見つめたまま、魅録の言葉に耳を傾けている。
「...悠理に限らず、俺達はお前のことをいつも頼るけど、お前の方はあんまり相談とか
してくれないしな。最近、何をやってもお前にかなわない、って考えるようになって、
ちょっとばかり卑屈になってたんだ。そこんところを幽霊につけこまれた、って訳だな」
魅録は一息ついてから、このところ自分の中に渦巻いていた、得体の知れない感情を
どうにか言葉にした。
多分、それが本当のところなのだろう。
清四郎はしばらく思いを巡らせた後、自分の考えも正直に言うべきだと思った。
「なるほど、よく分かりました。でも、この際だから言わせてもらうと、僕も魅録のことを
いつも頼りにしているし、自己嫌悪に陥るほど対抗意識も持ってますよ」
「清四郎が?俺に!?」
魅録が不審そうに横目で見上げると、清四郎は口をへの字に結んで暗い海を指差した。
「あの岩まで、どうしても魅録より先に着きたかったんですよ。だから、つい渾身の力を
込めて泳いじゃいました」
「...余裕綽々って感じだったぜ?」
「ポーカーフェイスは得意なんでね。実際のところは心臓が口から飛び出しそう
でしたよ。まあ、こんなことを白状する気は更々なかったんですが...」
照れくさそうにそう言ったかと思うと、彼はくっくと笑い出す。とても楽しそうに。
「なんたって、魅録は僕が認める唯一のライバルなんですからね。手ごたえのない
相手になんか、僕が本気出す訳ないでしょう?」
「......ほんっとにヤな奴だよな...お前って」
「いくらでも言って下さい。ああ、それから、さっき自分で言ったセリフを忘れないように。
気が変わったなんて言っても、悠理は絶対に渡しませんからね」
ムッとした表情の魅録を尻目に、清四郎は臆面もなく言い放った。
一瞬の沈黙の後、二人は声を上げて笑い合い、肩を組んだ。
「...散々な目に遭いましたね」
「全くだ。悪かったな、怪我させちまって」
「いつかまた、皆でここへ来ましょう。今度はもっと楽しく過ごしにね」
「そうだな、相棒。」
彼らの様子をそっと美童が覗く。
僕の嫌な予感は半分当たったけど、どうにか元のさやに収まったみたいだな。
やれやれ、野暮な口出しはしないでおこう、っと。
小さな島の真上に、ぽっかりと大きな月が浮かぶ。
黒い水面に煌めく月明かりが、ひとすじの道のようにそこへと延びていた。
自分たちの関係がこれからどう変化していくのかはまだ分からないが、いつまでも
大切な仲間であることだけは揺らがないだろう。
あの島のことを思い出せば、痛みが伴うことは間違いない。
だが、それは絆を深めるための儀式だったのかもしれない、と男達は思った。
−終−
「孤島の月」は以上です。
お付き合い下さった方、ご感想下さった方、ありがとうございました。
スルーして下さった方、短編と言いつつ微妙に長くなってしまい、すみませんでした。
>孤島の月
魅録は悠理を好き、というよりも清四郎をライバル視してたんですね。
なるほどなあ。
だから霊にもひどく取り付かれないですんだのかな。
面白かったです。ただオカルト部分が少し物足りなかったので
短編にこだわらず、もう少し書いてもらえたらよかったなー。
次回作も楽しみにしてますよ!
>564
>野梨子と魅録ってなんてせつない恋が似合うんでしょう・・・
原作でも切ない恋をしたのは二人だったですね。(相手は倶楽部外ですが)
確かに魅録と野梨子は切ない恋があってるし、病院坂、ホロ苦等々
大好きだけど、嵐さんトコの短編「ネヤ問答」のようなのも好きなんです。
付き合いだしてから、野梨子に触れたくても、深窓の令嬢・奥手・清四郎
と三拍子揃った野梨子になかなかキスやそれ以上のことをできずに悶々と
するミロク君をコメディタッチで読みたいです…。
二人が付き合い始めたらきっとそういう展開になると思うんで…。
やっと部屋に辿り着いた清四郎と美童は、ぜいぜい言いながら「お荷物」をベッドの上に放り出した。
へべれけに酔った「お荷物」魅録は頭だけ起こし、友人の顔を見るとふて腐れて言う。
「なんだ、結局野郎同志で相部屋になったのか」
汗を拭うと美童はさすがに疲れた顔で苦笑した。
「そういうこと。一部女子から猛烈なブーイングが起きたからね」
大きな客用のベッドルームにクイーンサイズのベッドが1台とセミダブルのベッドが
1台、白い絹のベッドカバーをかけられて置かれている。
真っ赤な顔の魅録はベッドの上で胎児のように丸まりながら、何やらぶつぶつ言っている。
心配そうな顔の清四郎に美童は怪しく微笑むと、ワインクーラーからシャンパンを取り出した。
「清四郎、ほとんど飲んでないでしょ。乾杯しようよ。あ、魅録はもう飲んだら駄目だからね」
妙に嬉しそうな様子の美童に清四郎は訝しげな顔をする。
「乾杯って何に?」
美童がウィンクを返してきたので清四郎は全身に寒イボが立った。
「恋人たちのスペシャル・イリュージョン・ナイトに」
その途端、美童は悲鳴をあげた。
寝ている魅録が美童の長髪をつかみ、思い切り引っ張ったからだ。
「あいたたたたたた。いたたたた、やめて、魅録。髪は男の命!」
「……わりぃ。この手が。うん。つい」
恨めしそうな目で美童は魅録を見る。
「ま、まあ、いいよ。今晩は男同士膝突き合わせて、深い話をしようじゃないかぁ!」
清四郎が黙ってスーツのジャケットを脱ぎ、シャツのボタンをはずしだす。
あわてたように美童が清四郎に話しかける。
「ちょっと、待ってよ。何、パジャマに着替えてんのー? 夜はまだこれからだよ、
おにーさん。もしもーし……あう!?」
ポン!という音がして美童の後頭部に魅録の手元から発射されたシャンパンの栓が命中した。
「あ、わりぃ。この手が。なんでだろな。まじ、ごめん。うん」
「わざとだ。絶対いまのわざとだ。わざとに決まってるぅ!」
泣きながら魅録につかみかかる美童を、まあまあと清四郎がなだめにかかる。
「まあまあ、美童。魅録も今夜は虫の居所が悪いようですし。皆、疲れてますし、ね」
「だって、引っ張ったし! ぶつけたし!」
「ほらほら、子供みたいなこと言わないで」
その時、清四郎の背後で声がする。
「ったく、子供は誰なんだって話だよ。元はと言えば清四郎が俺の意見に従わないから
こんなことになったんだよ。んとによー、どうすんだよー」
冷たい表情で振り返る清四郎の前で、すっかり目が据わった魅録がシャンパンをラッパ飲みしていた。
酔っ払いに大人気ないと思ったのかこめかみに浮き上がる血管を手で押さえ、
つとめてにこやかに清四郎は語った。
「でも結局魅録の指示に従っても間違いでしたよね」
清四郎の横で美童が顔を引きつらせながら注意する。
「せ、清四郎。顔がこわいよ、こわいよぉ。魅録はもう寝なよー」
魅録はロレツの回らない口で清四郎に喰ってかかる。
「るせー、このスダレ頭。可憐の一人や二人見分けられないでどうするんだよ」
「可憐は一人だと思うけど……」
喧嘩にならないように間に割って入った美童に双方から罵声が飛ぶ。
「「う・る・さ・い!!」」
美童は二人が声をそろえて喰ってかかってきたので、(ハモらなくても……)
とぶちぶち言いながらビデオをセットした。
テレビから女優の声が響きだすと、魅録と清四郎はぴたりと言い争いをやめ、
テレビの前に集まってきた。しばし三人でじっと眺める。
「美童、これは……」
ごくりと唾を飲み込み清四郎は美童をつつく。美童はうれしそうに語った。
「うん。最近出たばっかりのなんだ。三人で見よう」
酔いが一遍で醒めたのか、魅録も真面目にビデオを鑑賞する。
「この女優はお前の好みか」
「そう。僕の一押しの娘だよ」
素直に頷く美童に魅録は呆れた眼差しを送った。
「お前……、あれだけ女と付き合ってて、更にビデオも観るのか。元気な奴だな」
「な、何だよ、その目は。いいだろぉ、ビデオ観たって! たまには気分を変えたい時も
あるんだよ! ……清四郎、何してんの?」
いつの間にか清四郎はベッドに腰掛けて、必死にノートを取っている。
「いや、こういうことも勉強しておかないとですね。あっ、魅録、魅録! 今のは何て
いうんですか、その、業界用語で!」
「業界用語……か? ○射だよ、○射」
「○射ですか、なるほど。○はカオで、○射……と」
「もぉ、汚い言葉連発しないでよ。しかも真顔で……って、ちょっと清四郎、このノート見せて!」
清四郎の膝の上から奪い取ったノートの内容を見て美童はぎょっとする。
「性交の順序
キス→フ○ラチオ→69→ア○ル→素○→本番→(3P?)→○射」
美童はノートの角を清四郎の頭の上に振り下ろした。清四郎が思わず悲鳴をあげる。
「痛いっ! 何するんですか、美童。か、角で……」
「せっ、清四郎〜〜〜っ、君ねぇーーー…………」
怒りのあまり美童は白くなり、金色の髪が逆立っている。
清四郎は美童の怒りの意味がとんとわかっていない様子だ。
その隙に美童からノートを奪い取った魅録がゲラゲラ笑い出した。
「こりゃすごい! さすがだ、清四郎。お前、この通りやれたらネ申だな」
「もぉっ! 信じられないよっ、清四郎ったら!! そんな奴だったなんて、そんな奴だった
なんて。女の子を何だと思ってるの? 友達やめるよっ?」
まくし立てる美童の唾を手でガードしながら清四郎はきょとんとしている。
「……そんなにおかしかったですか? きちんとビデオの通りに書いたつもりですけど」
魅録は酔いも手伝ってかヒーヒー涙を流して受けまくっている。
美童は唖然を通り越して呆然とした。
(ちょっと待ってよー。こんなアホにとても野梨子は任せられないよ。まいったな)
美童はキッとなって振り向き、その迫力にさしもの清四郎もたじろいだ。
「ちょっと! いい、清四郎。女の子っていうのはガラス細工のように繊細なんだ。
AVビデオは初心者には参考になりません。あれは上級者向き。
清四郎には僕が今から教えてあげるから、しっかりと頭に刻み付けてねっ」
「い、いや、別に今から教えてくれなくても……又の機会にしません?」
「絶対だめ。今から! ……ちょっと魅録、ノートに何、書き加えてんの?」
美童は魅録からノートを奪い取った。
「……○射 →前立腺プレ○→スカト 」
美童はすんでのところでワインクーラーで魅録の頭をかち割るところだった。
以上です。下品な上、伏字ばかりですみません。
続きます。
すみません(112)が二つありますが、後の方が(113)の間違いです。
…すみません、笑いましたw
下品だけどギャグだしね。
これだけバカバカしいとある意味清々しいw
い、いかん。朝から禿ワロタ。 ネ申 に吹いた。
>可憐さん
キテタ──!!!!(AA略
>可憐の一人や二人
をはじめわらかして頂きましたwそんな中で
>こんなアホにとても野梨子は任せられないよ
イイ!!可憐さんの美×野大好き。
清四郎…○射は知らなかったけど他の技(?)の名前は知ってたんだねw
(注目するところはソコかよ自分)
つか、イタズラ坊主のような魅録に萌え〜。
「可憐さん」に登場する魅録ってなんか好きなんだよなw
今回、美童が唯一のまともな人に見えた(爆)
続きを楽しみにしています。
>天気雪
…ヤバい、すごくイイ。切なくて泣きそうだ。
>可憐さん
待ってたよー。↑のあとにこの下品さ、かなりワロタ。
色んなテイストの話が読めて嬉すぃ。
作家さま方感謝(○射ではなく)です。
盛り上がってますな〜。
偶然だけど天気雨⇒孤島の月⇒可憐さんっていう順序で読めて良かったです。
>天気雨
物凄い好きです。切ないなー。
ほのぼの系だと思いながら読んでたから最後の夫にやられました。
>孤島の月
恋愛物、オカルト物というよりも友情話だったんですねー。
清四郎と魅録の関係は原作でも好きなので最後の二人の会話良かったです。
ラストで美童が出てきたのも良かった。
>可憐さん
待ってましたー!!!大爆笑。
清四郎と魅録はこの順序で可憐と悠理に臨むつもりなんですかね。
悠理・・・・・・かわいそすぎ
小ネタですみません。
とある日の清四郎君の部屋。
「あらっ、この聴診器」
「覚えてましたか?」
「ええ、清四郎が子供の頃、よくこれでお父様の真似をしてましたもの」
「部屋の整理をしてたら出てきたんですよ」
「...これって本当に体の音が聞こえますの?」
「ええ、勿論です。試してみますか」
「えっ!」
続かないんです・・・
>可憐さん
初めて、泣きながら笑ってしまった。とにかく、笑いを堪えるのに必死で。
帰ってきてくれて、ありがとさん。
>可憐さん
面白い!ノートをとる清四郎、一編に醒めて真面目にビデオを
鑑賞する魅録。本当にあほだ。
でもわたし伏字がよくわからないなあ。彼に聞いてみたいけど
「どこでそんなの見たの?」って言われたら困るな・・。
>可憐さん
ワロタ! 笑いすぎてお腹痛いよー。
この順序のままプレイするつもりだったのか、清四郎…!
しかも、フムフム言いながら…
美童がすごーーーくまともに見えるよー!
>可憐さん
久々で嬉しい。最近色々な人が復活してくれて楽しいなあー。
ノートをとる清四郎に爆笑しました。
読みながら、こんなんに囲まれて美童も大変だなあと思ってしまったw
本当に美童がまともに見える…。
なんか男の会話って感じで面白かったです。
>588
これ、試されちゃったらお医者さんごっこですなw
お医者さんごっこって響きに妙にドキドキ
この二人って子供の頃は普通にやっててもおかしくないしな。
>574に便乗して小ネタを
思いが通じ合って半年経つ。しかし、そっち方面には
まったく疎い野梨子に対して、キス以上には進めず、
悶々としていた健全な男の子ミロク君。
ある日野梨子の両親が二人で旅行へ。チャンス到来!
部屋の壁に貼った「大願成就」のお札に祈りを捧げるミロク。
しかし当日…
「…というわけで野梨子を心配するご両親に頼まれて
今日は野梨子の家に泊まることになりましたよ」と清四郎。
(当然、遠慮してくれるよな…、清四郎)
目で必死に合図を送るミロク。しかし清四郎は涼しい顔で無視。
「魅録ったら、どこ見てらっしゃるの。
魅録も一緒にお泊りになる?3人のほうが楽しいですわ」
(勘弁してくれよ〜。清四郎と野梨子と3人で川の字かよ〜)
「それなら6人のほうが楽しいだろ。みんなで飲もうぜ」と悠理。
美童と可憐も、魅録に同情しつつも、楽しければイイか、と同意。
(結局いつもと同じかよ…)
へなへなと力が抜けるミロク君でした…。
数時間後、白鹿邸にて…。皆が酒で盛り上がる中、ヤケ酒状態の
魅録に「?」の野梨子。慰める美童。
(まだまだ甘いですね…。魅録。そう簡単に野梨子を手に入れら
れるとでも思ってるんですかね。この僕がいるというのに)
酒を飲んでも涼しい顔のままの清四郎。
次こそ Get a chance! ミロク君!
>清四郎と野梨子と3人で川の字かよ〜
魅録には気の毒だけど、この姿が見てみたいw
>>482の続きです。
真っ赤な紅はべにの色――。
綺麗な野梨子のべにの色。
可笑しい。
起爆装置の導線の赤い色を見ながら、小夜子は知らず知らずの内に微笑っていた。
『紅』と『赤』は、違うのに。
昨日は満開の珠簾の花を見て、その白い色から野梨子の名字を連想した。
だけどそれは言い訳だ。
『野梨子の唇が紅いから』『名字に白が付くから』――。
所詮、それは逃げ口上に過ぎない。
結局、青い色を見ようが、緑色を見ようが、心の中でこじつけて想いは野梨子に繋がるのだ。
そんな自分が、可笑しかった。
不思議と、後ろめたい思いは感じない。
多分それは、小夜子に今以上を望む気持ちが無いからだろう。
小夜子の想いが露見すれば、野梨子や、共すれば小夜子のささやかな想いさえ
穢れてしまうのではないかという怖さがあった。
野梨子に想いを告げる事は、恐らく永遠に無い。
側に居られれば良い――。
もしそれが出来なくても、遠くからでも野梨子を見る事が出来れば、それで良かった。
見守るだけの想いがあっても、きっと良い。
スタッフジャンバーの袖を捲り、腕時計で時間を確認する。
午前九時――披露宴開始まで、あとニ時間。
今、小夜子はオニオンドームの電気設備管理室の裏手に位置していた。
外壁をランダムに数ヶ所叩き、壁の調子をみて、擦れ擦れに地面に近い部分に狙いを定めた。
黒い小さな爆薬と、起爆装置をものの一分と経たない内に取り付ける。
取り付け易いように、爆弾は強力な両面テープの様なものを貼り付ければ良いだけになっていた。
小夜子の手間をなるべく省かせようと、魅録が試行錯誤した事がうかがえる。
魅録の細やかな配慮に、小夜子は素直に感心した。
作業は怖い位呆気なく終わった。立ち上がって埃を払い、何気なく横を見た。
彼岸花が、咲いていた。
ここ『兼六ブリリアントビレッジ』は、植物を題材にしたテーマパークだけあって
園内の至る所に豊富な種類の花々が咲いている。
小夜子はしゃがみ込み、花の美しさをより間近で堪能した。
九月の花、彼岸花――。
その艶やかさとは裏腹に、小夜子が今一つのめり込めないのは
『死人花』『幽霊花』と別名を取っている様に、その御世辞にも爽やかとは言い難い名前からだろう。
無性に、野梨子に見せたくなった。
九月のしっとりとした風に揺らめいている赤い天上の花の群れを一人で眺めるのは、勿体無い気がしたからだ。
全部は無理でも、一本だけでも――。
茎に手をかけ、思い止まる。
花は土に根付いていてこそ、存在価値があるのだ。
人の手に摘み取られてしまえば、その瞬間から美しさは半減してしまう。
「『悲しき思い出』――」
聞き覚えのある、善く通った低い声に、小夜子は反射的に顔を上げた。
「曼珠沙華――彼岸花の花言葉ですよ」
清四郎が、立っていた。
本日はここまでです。
ありがとうございました。
>檻
いいところで終りに!
>593
>部屋の壁に貼った「大願成就」のお札に祈りを捧げるミロク。
わたしゃこっちもツボだったyo!
神棚のようなところに祭っていたのかと小一時間・・・
おまけに君の「大願」ってそれだけかよ、と小一時間・・・
素敵なコネタ、ありがd>593
お医者さんごっこネタを書いた者です。
続きが浮かびました。
(冗談ですよ。あんな耳まで赤くして...野梨子は本当にからかい甲斐があります)
「私、前から聴いてみたかったんですの。」
(えっ!本気ですか?)
「清四郎、上着を脱いでそこに座ってくださる?」
「え、ええ...」
(僕が思ってた以上にまだ子供だったんですね。可愛いもんです)
「あっ、聞こえますわ。ええと、ここが心臓かしら。
あらっ、鼓動がだんだん速くなってるような...」
(えっ!そんな...)
「清四郎、もしかして私のこと...」
(!!!)
(ますます速くなってますわ。清四郎って本当にからかい甲斐がありますわ)
終
>600
続きというので、清四郎が野梨子を診察!?と思ったけど、逆だったのねw
でも、これはこれでなんかいやらしいかも。
野梨子のなすがままの清四郎w
>600
清→野で「からかい甲斐がある」はありがちなんだけど、
野→清でも、というのが新鮮で面白かった。
こういう野梨子もいいねw
>527の続きです。
「野梨子ちゃんそれ使ってるわよね?」と千秋は魅録に尋ねた。
「毎日ではないけどな…。でも千秋さん良く分かったな。
近くに寄らないと分からないのに…」
魅録は千秋と野梨子がどこで会っただろうか、と考えた。
「この前来た時、着けてたじゃない。
野梨子ちゃんが香水なんて珍しいわねと思ったの。
でもこの香りならイメージにピッタリだと納得したの。
私のイメージとは合わないでしょ?」千秋は答えた。
そういえば、まだ幼い頃、周りの友達を真似て“母の日”に千秋愛用の香水を
贈ったことがあった。この1回きりで松竹梅家から“母の日”は無くなったが。
後にその香水は、時宗が贈ってから愛用していると知った。
「あの親父がね…」と意外に思ったものだ。その香りを使い続ける千秋にも…。
「チャンスを作ってやるんだから、うまくやるのよ。」
千秋はフッと微笑み、意味深な言葉を残し魅録の部屋を去った。
数日が過ぎたが、魅録はまだ野梨子に想いを告げられずにいた。
毎日顔は会わせるが、二人きりになれない。
皆の前で、「千秋さんから」と渡してもおかしくはないのだろうけれど。
その時に自分が平静でいられるか自信がなかった。
それにこの香りのことは二人だけで共有したかった。
清四郎の用事で、野梨子が独りで帰る日。
魅録は悠理に「先に帰るから」と伝え、生徒会室には顔を出さずに帰った。
気付けば日が長くなった街の中を野梨子は独り帰路につく。
そして自宅の門前に、先に帰ったと聞いた人物を見つけた。
「魅録、先に帰ったはずじゃありませんの?
清四郎でしたら、御用があるらしいですわよ?」
魅録の待ち人が自分であるとは露知らず、野梨子は魅録に声を掛ける。
「清四郎じゃなくて、野梨子に用があるんだけど」
魅録はピンク色の紙袋を取り出した。
「……?あらこれは」
野梨子はそれを見ただけで、中に何が入っているか分かった。
「千秋さんに渡すように頼まれて」と魅録はそれを野梨子に渡した。
「わざわざ家まで届けてくださらなくても、学校で渡してくだされば
よろしいのに」野梨子は恐縮しながら受け取った。
「野梨子にだけだから、皆の前で渡すのもな。
それに…。話もあったんだけど」
魅録は自分を見上げる野梨子の瞳を見ると、その続きを言い出せなくなった。
「まぁ話は今度でいいや。じゃあな」と魅録はその場を去った。
魅録を見送って野梨子は自室に入った。
「千秋さんからって…。どうしたのかしら?
受け取ってしまいましたけど、何だか悪いですわね。
ちょうど今のが無くなる頃で助かりますけど…。
それにしても千秋さん、よくご存知ですわね…」
袋の中のピンクの丸い箱には、自分が求めていた物が入っていた。
桜の花がプリントされた小瓶。
丁寧にカードまで添えられていた。
カードを開くと、そこには意外と几帳面な見慣れた文字が並んでいた。
―――野梨子へ―――
突然こんな手紙を書いてごめん。
多分、面と向かって話せないと思うから。
野梨子がこれを使い始めた頃から、野梨子のことが気になっている。
つまり「好きだ」ということ。
ずっとこのまま大切な仲間の一人でいても良かったけど、
悶々とした気持ちを引きずるのが嫌になった。
野梨子が男に興味ないことも分かっているけど、俺にも興味ないかな?
迷惑だというなら、桜の花のように潔く散ってしまうつもりだ。
出来ることならこれからずっと、野梨子の傍でこの香りを感じていたい。
野梨子にとても似合っていると思うから。
もし応えてくれるなら、明日これを着けて来てくれないか?
それで分かるから。
言葉や文字で断られるのも辛いしさ。
ここまで読んでくれたなら、サンキュ。
もう捨ててもいいよ。
魅録
手紙を読む野梨子の頬が「好きだ」という文字で紅くなる。
鼓動が高まるのを感じながら、更に読み進める。
そして最後の文面に、くすっと微笑んだ。
翌日魅録はいつもより早く登校した。
「魅録、今日は早いですね?」と清四郎が後ろから声を掛けた。
覚悟を決めて魅録は振り返る。
その隣にはいつものように野梨子が並んでいた。
緊張の一瞬。
野梨子が横に並ぶと、穏やかな朝の風にのって、
あの香りがふわりとなびいてきた。
「千秋さんに渡してくださいます?先日のお礼ですわ」
野梨子は魅録へ手紙を渡した。
すぐにでも野梨子を抱きしめたい衝動を抑え、魅録は手紙を受け取る。
野梨子は少し頬を染め、視線を魅録に合わせたままコクリと頷いた。
授業が始まり魅録はこっそりと手紙を開いた。
―――魅録へ―――
お返事はお分かりになりましたか?
突然のことで驚きましたけど、お断りする理由がありません。
少しずつお互いの距離を近づけていけたらと思います。
ひとつだけお願いがあります。
私が魅録のことを嫌いになるようなことは、なさらないで下さいね。
この香りは私にとって、とても大切な物です。
この香りのことも嫌いになるのは辛いから。
桜時にはいつも幸せな気持ちでいたいから…。
野梨子
授業中でなければ、魅録はこの喜びを隠し切れなかっただろう。
頬が自然に緩んでしまう。
桜並木が街を隠す頃。
「何だかお前ら、やらしーぞ!」悠理にからかわれながら、
肩を寄せ合い並んで歩く魅録と野梨子の姿が見られるようになったのだった。
以上です。お邪魔しました。
>cherry blossom
うわー、萌えましたw
魅録の手紙が、いかにも彼らしくって良かった。
並んで歩く魅録と野梨子の姿が眼に浮かぶようです。
>cherry blossom
>迷惑だというなら、桜の花のように潔く散ってしまうつもりだ。
男ですなぁ、魅録。
散らずに済んでよかった。
こんな美しいお話の後、申し訳ないんですが、小ネタです。
「そうですか...3ヶ月前から生理痛がひどくなったんですね。
生理の10日くらい前から気分が悪くなったりしませんか?」
「わかりました。それでは念のため診てみましょう」
「白鹿さん、3番の診察室へどうぞ」
「下着をそこのかごに入れて、椅子に座ってください。
足はここに置いてください」
「白鹿さん、もう少し膝を開いてもらえますか?
そうです。このままで少しお待ちください」
&%$#$$$#%&&&
「ん?何だ。今の音は!!」
「先生、大変ですっ。研修生の菊正宗君が、鼻血を出して倒れてます!」
END
うーん、イマイチだな。
チラリズムこそ野梨子の美しさが引き立つというもので
ガバチョで鼻血は出づらいぞ。
確かにいくら清四郎が野梨子好きでも
股だけ見て鼻血は出さんだろ。
産婦人科ってカーテンで完全に上半身隠れるしさ。
それで鼻血だす奴いたら笑うよりもひく。
じゃ、こんな小ネタで乱入。
問い
いつものように、後ろから飛びついてくる悠理。
「魅録ちゃ〜ん、バイクでどっか行こー」
いつもとは違う柔らかな感触が背にあたり、鼻血が出そうになった魅録であった。
さあ、それは一体―――?
答え 四択です。お好みで選択して下さい。
1=魅録にアプローチしたいが女と思われていない、と悩んでいた悠理。
可憐ねえさんのアドバイスで、触ってもバレないパッド入りブラを装着中。
2=素敵な薬を発明してしまった清四郎がこっそり餌に混ぜたため、いつの間にかCカップに。
本人はまったく気にしていない。清四郎の真意も未だ不明。
3=意外や意外、隠れて美童とつき合っていた悠理。彼のおかげで成長してしまった。
4=実は、悠理が隠し持っていたおやつの桃まん・・・。
(2’=同時進行で野梨子の胸も成長中?)
餌って…。
2がイイ!!
でも実際のところは4が1番可能性高いんだろうなw
個人的には2!餌付けしてる清四郎と餌付けされてる悠理に萌え萌え。
(バレて「このむっつりスケベ!」と言われる清四郎も見たいw)
でも・・・3も妄想しがいがあるかも〜
最近ちょっと美×悠お気に入りなので3かな。
2も気になるが…。
同時進行で野梨子の胸もって…気がついたら女性陣、皆巨乳に?
乳閑倶楽部
>618
な・・・なんかアダルトビデオのタイトルみたいだ・・・。
このスレって男の人も見てるのかな?
>620
男の人、過去に何度か登場してたじゃん。
AVネタくらいで男の人とは思わないが。
618は18歳の女の子です。
>618
のってる場合じゃないかもですが、
いけない妄想膨らませました(注・私も、男でもレズでもないですよー)
『乳閑倶楽部・乱交パーティへようこそ』
〜6人が入り乱れる3日3晩の乱痴気騒ぎ!〜
*出演*
谷間を武器にする巨乳美女/金桜カレン
ささやかながら美乳の大和撫子/百鹿のりこ
微乳でロリコンを悩殺!?/剣持ユーリ
絶倫むっつりスケベ/桜正宗清士郎
爽やかに見えて女好き!?/松竹ミロク
1000人斬りのテクニシャン/美堂コアントロー
ああ、安っぽくてすみません。AVよくわからんし…逝ってきます……
それすごく見たいです。
>623
微妙に名前を違えてるあたりがAVっぽい。(私も女だが)
コアントローにワロタ
>623
金桜ワロタ。きんざくら〜ドン♪
レズ云々の話はちょっと差別的だぞ。気をつけてね。
>451の続きです。
あの日あの女と寝ずに別れてから、俺はその場限りの情事をピタリと止めてしまった。
止めようとして止めたわけではなく、たまたまあの後大きな事件が2件立て続けに起こって、
そんなことをする余裕がなくなってしまっただけだ。
だが、その忙しさも今日で終わりだ。
事件はふたつとも片がつき、俺が属していた捜査本部は解散となった。
ありがたいことに、久方ぶりに休暇らしい休暇ももらえる。
1週間後に、1週間、7日間の休み。
そのことを考えるだけで、俺の頭の中にはやりたいことがいくつもいくつも浮かんでくる。
間近に迫った久方ぶりの長期休暇に、俺はどうしようもなく浮かれていた。
「竹鶴さん、明日から休みですよね。何するんですか?」
俺は、休暇前の残務処理に追われている竹鶴さんに話し掛けた。
竹鶴さんは俺と同じくバツ一で子供もなく、特定の彼女がいるという話も聞かない。
「俺? まず最初に見合い。で、その後はぶらりとどっかツーリングかな」
パソコンの画面と睨めっこしていたはずが、いつの間にかくるりと180度回転している。
立ってる俺を見上げるその表情には、不敵な笑みを浮かべている。
「お前も行っただろう、アイツの結婚式。そこですごくいい女見つけちまってさ、アイツに
誰かって聞いたら嫁さんのお茶の先生だって言う。でも結婚してるって聞いたから諦めたんだな、
その時は。でもな、1ヶ月ほど前にアイツと話してたら、そのひとがあの後旦那と別れて、
嫁さんの話だとしかも花婿募集中ってことらしい。それならってんでアイツに頼んでみたら、
律儀にもお膳立てしてくれたわけさ」
竹鶴さんは俺に、『あっちを見ろ』言わんばかりに俺の席のふたつ右隣に座る男を指差した。
俺は先輩の手前素直にその方向を見たが、見なくても話は理解できていた。
野梨子のことだ。
全く、頭が痛くなってくる。
竹鶴さんという人は、先輩としては実にいい人だし警察官僚としても実に優秀な人だが
女に目がない。
別れた奥さんは割にいいとこのお嬢さんで、10人中8〜9人はまず『美人』と判断する
女性なのにその結婚は1年と持たなかった。
本当のところはわからないが、自分が結婚を迫ったにもかかわらず、奥さん以外の女性の
尻を追いかけたくなって強引に離婚に持ち込んだとまことしやかに噂されている。
そして実際、その女性関係の派手なことは課内の公然の秘密である。
「で、いつなんですか、見合い?」
俺はさりげなく聞いてみた。
心の中では、竹鶴さんの悪評を聞いていながらお膳立てした後輩に怒りすら覚えていたが。
「明後日。で、お前、何か気になるのか?」
竹鶴さんは不思議そうに訪ねてきた。
俺は心の中を探られないように、勤めて冷静に答えた。
「いや、アイツの結婚式にそんないい女いたかなと思っただけです」
初めてのお見合い。
私は結局、叔母の勢いに流されてここまで来てしまった。
剣菱インの1階ロビー。
長方形の硝子のテーブルに、大き目のソファが4脚。
私と叔母が手前に座り、叔母の知り合いの方とお見合い相手が奥に座っている。
一通り自己紹介をする。
「竹鶴さん、本当に今日でよろしかったんですか?」
最後に叔母が、お見合い相手に心配そうに問い掛けた。
今日は日曜だというのに、何をそんなに気遣うのだろうか?
「ええ、全然大丈夫です。今は大きな事件はありませんから」
事件?
この殿方は、何をなさっている方だったかしら?
私は、叔母から渡されていた釣書やら何やらをろくに見ていなかったことに今更ながら
気が付いた。
「白鹿さん、今日は無理を言ってすいませんでした。……もう、帰りましょうか?」
聞こえてくる声に俯き加減だった顔を上げると、お見合い相手―竹鶴さん―が、苦笑いして
私を見ていた。
叔母達が席を外して大分たったが、全くと言ってもいいほど会話が弾まなかった。
「いえ、こちらこそ、お忙しいのに叔母が無理を申し上げたみたいで……」
そう、決して竹鶴さんが悪いのではない。
あらゆるつてを当たれるだけ当たっている叔母に捕まってしまっただけなのだから。
しかもおあつらえ向きにバツ1で、可憐などが『いい男』と呼ぶに違いない外見である。
何も私みたいな女と見合いをする必要性はどこにもなさそうである。
私が何もしなくても、明日には断ってくるだろう……。
「……もう、2年も前になりますか。ある結婚式であなたを見かけました。ずっと、また
お会いできればと思っていたんです」
竹鶴さんは、唐突に話し始めた。
「あの時、あなたはとても優しい色の着物を着ていて、私は一瞬であなたに目を奪われた。
『こんなひとが、実際にいるんだな』と……」
結婚式で、私を見かけた?
不意に、叔母がこの話を最初に持ち込んだ時の記憶がおぼろげながら蘇ってくる。
『野梨子さん、覚えてらっしゃるかしら、松尾さんの結婚式。お相手の竹鶴さんはね、
そこで野梨子さんのことを見かけたっておっしゃってるのよ』と。
魅録と偶然会ったのは、あの結婚式の帰りだった。
その次に魅録と偶然に会ったのは、住む所を探している時だった。
そして今、魅録は私の住んでいるマンションの2階にいる……
「竹鶴さん、ごめんなさい。あの結婚式で、私、高校生の時の同級生を偶然見かけましたの。
……ですから、本当に申し訳ありません」
私は嘘であって嘘でない言葉を紡ぎだしながら、ただただ目の前のひとに頭を下げた。
だがその人は、私を穏やかな表情で見つめたまま、軽く首を横に振って言った。
「白鹿さん、謝らないでください」
【続き】
>サヨナラ
どちらが先惚れなのか気になってました。
そろそろ分かるのかしらん…。
続きお待ちしてます!
サヨナラの二人はどちらが先惚れとかじゃなく
気がついたらお互いの存在が自分の支えになってたっぽい。
いや、なんとなくだけど。
たまには惚れたはれたという次元じゃない愛の形もいいなと。
うーん。わかるかも。
いつかきっとの時から魅×野の方を気にして
いた私は先がとってもきになる。
>632
わかる。
熱く燃え上がってるとかじゃないけど、ふと気付いたら
すごく大切な人だった・・・みたいな。
短編をうpさせていただきます。
3レス、おじゃまします。
19歳の春の日。
咲いては散る桜のように、あたしはひとつ、恋を失くした。
卒業式から1ヶ月、あたしと魅録は桜並木を見にツーリングに来ていた。
「キレイな染井吉野だな」
バイクを降りると、薄紅色の花びらがたくさん降り積もっている木をわざと選んで
あたしたちは並んで座った。
春のあたたかい風が吹くたびに
綿菓子みたいにふわふわと、桜がゆれる。
「清四郎に、告白されんだって?」
「・・・・・・うん」
「やったじゃん」
自分のことみたいにうれしそうに、あたしの肩に手をまわす。
「可憐から聞いた?」
「あいつ、耳年増だからな」
魅録は頭の後ろで手を組んで寝そべりながら、笑った。
「指輪――」
「ん?」
「迷ってたじゃん、可憐にあげる指輪・・・・・・決めた?」
桜の花びらが、ひらひらと雪みたいに降ってくる。
「まだ。あいつは何でもいいって言ってんだけど」
手の中に降ってきた花びらを、あたしは魅録の手の上にのせた。
「ダイヤがいいよ、桜色のピンクダイヤ。きっと可憐に似合う」
「桜色か・・・・・・いいかもな」
「帰ろっか」
あたしはメットをかぶって、魅録の背中に手をまわした
「しっかりつかまってろよ」
たくさんの桜の花びらが、風にのって散っていく。
落ちていく花びらが、春の終わりを告げるみたいで
あたしは涙がでた。
大人になっても、恋をしても。
きっとあたしはこの背中を忘れない。
「じゃあな」
家に着いて、あたしは魅録にメットを渡した。
「うん、じゃあな」
さよならは言わなかった。
またな、も言わなかった。
魅録が小さくなっていく。
バイバイ、魅録。
好きだなんて、言ってやんないよ。
背を向けて、携帯を取りだした。
「もしもし、清四郎?」
春が終わったら
あたしの大好きな、夏。
以上です。
失礼いたしました。
>桜
せ、せつない・・・。
悠理以外バージョンもぜひ!
まだ執筆中なんですが、連載してもいいですか?
次のレスから少しづつUPしていきます。
「そういえば最近、清四郎の悠理に対する嫌味を言わないわよねえ。」
「言われてみればそうですわよね。朝は一緒に登校しますのに、帰りはいつも急いでますのよ。」
放課後、可憐と野梨子はガランとした生徒会室で何をすることも無く、ボヤッとしていた。
「ちーっす!」
ガチャっと扉が開き、魅録が入ってきた。
「あれ?野梨子、清四郎は帰ったのか?」
「・・・ええ。最近、知らないうちに帰ってしまってるみたいですの。」
「ねえ野梨子、前から思ってたんだけど、清四郎の事好きなの?」
「え?そんな事ありませんわ・・・。」
野梨子は困った顔をしてうつむいてしまった。
(おやおや、前だったらムキになって否定するかだったのにな・・・)
魅録は黙って二人を見ていた。
「ま、それぞれ人には言えないこともあるだろ。何かあったら言ってくるだろ。」
「あらー、清四郎が人に相談なんてしてくるのかしら?」
「そう言う魅録は悩みでもあるんですの?私でよければ、相談にのりますわよ?」
「おーい!大ニュース!!」
バタバタと慌てて美童が飛びこんできた。
「なんだよ、うるせーな。」
「あんたの大ニュースっていったって、大げさな時が多いのよね。」
「あー、バカにしたな!いいよ、教えてやらないからな。」
「私は知りたいですわ。美童、教えてくださらない?」
「んもー、野梨子はやっぱり優しいな。可憐も見習って欲しいよ。」
美童は野梨子を抱きしめた。
「もう、離して下さいな。美童ったら。」
(ん?野梨子がホントに嫌がらない。やっぱり最近の野梨子は変わった?)
魅録は野梨子の微かな変化に気づき始めた。
「あのねあのね、清四郎のことなんだけどさ。女の子と歩いてるのを見た人がいるんだってさ!しかも、ただ歩いてるのならよくあることかもしれないけど、なんだか親密そうなんだって!!」
「ふえーっ、あの清四郎がね。」
「ウチの学校の生徒なの?」
「イヤ、それがヒラヒラしたかわいらしい服に、つばの大きな帽子で顔が見えないらしいんだけどさ。背が低めで小柄なんだって。」
「清四郎が女性の方とお付き合いなさるなんて・・・。」
本日はココまで。
>桜
お!なんとも季節感の溢れる感じ。
ムダのない文章で、ちょっと切ない女の子悠理がかわいい。
悲しいのにほんのりあったかくって、すごく好きでした。
清四郎とか可憐目線のお話も、ちょっと読みたいかも。
>サヨナラ
なんだかわくわくしてきました。
このお見合いがキッカケで、ふたりがいかにお互いの存在が
自分の中で大きくなっているかに気づくのでしょうか?
続きを楽しみにしています。
>桜
イイ!こういうの好きです。
自分の気持ちをかくして好きな男に他の女へのプレゼントのアドバイス!
泣けるなぁ。
悠理がこのさき忘れることはないだろう魅録の背中を想像して
萌え死にしそうでした。
他のキャラバージョンも楽しみにしています。
>大人の階段昇る・・・
えっと、初心者さんですよね?
今からでも遅くないのでお約束を充分読んで頑張ってくださいね。
会話だけで話を進めないように気をつけると
読み応えのある話になるかもしれませんよ〜。
>大人の階段
マジレスすると登場人物の話の切り出し方が唐突な気がする。
魅録が悩んでる描写が一個もないのに「悩みがあるんですの?」は変じゃない?
あと最初の二文なんだかおかしいよ。
それからタイトルに使っている○で囲んだ数字は機種依存文字なので
使わないのが良いと思う。
いろいろ書いてゴメンネ。
>>桜
耳年増の意味取り違えて無い?
>648
あたしもちょっと思った。
多分、地獄耳とか、そういうつもりで使ってますよね?
って勝手に解釈。
桜を書かせて頂いている者です。
耳年増の意味を、取り違えておりました。
648さん、649さん御指摘ありがとうございました。
>大人の階段昇る・・・
まず
>>3を読み直してください。
>・初めから判ってる場合は、初回UPの時に長編/短編の区分を書いてください。
嵐さんの負担をなくすためにも、これはやったほうがいいと思います。
>・名前欄には「タイトル」「通しナンバー」「カップリング(ネタばれになる
> 場合を除く)」をお願いします。
カップリングがネタばれになるから書かないのなら、それを記して欲しいです。
通しナンバーについては647さんが書いている通りなので、○囲みの数字
ではなくて( )囲みの数字や、そのまま数字を記すことを推奨。
それから、嵐さんのサイトで最近紹介された「モノ書き一里塚」を見ることを
お勧めします。
>桜
無駄のない文章というのすごく共感。
それでいてきゅんとくる甘酸っぱい感じイイ!!
>大人になっても、恋をしても。
きっとあたしはこの背中を忘れない。
ここにじんとしました。
続きがあるのもいいけど、悠理だけがこういう想いを
した、っていうのもいいな〜。
<連載作品(完結)>
【いつか、きっと… 清×悠】イツカキット
03/10/26〜03/11/15
清四郎と悠理はお互い野梨子と魅録というパートナーがありながら、逢瀬を重ねる。
悠理に別れを告げられた清四郎は魅録から悠理と離婚したことを聞かされ……。
◆切なくて悲しいストーリー。不倫・不妊というテーマは賛否両論ありつつも
シンプル且つ透き通るような文体で完結。初めからこのラストにするつもりだったのか
作者に聞いてみたいところ。
<連載作品(未完)>
【白鹿野梨子の貞操を狙え!】ハクシカノリコノテイソウヲネラエ 清×野×美(?)
03/10/16〜現在進行中
野梨子が中年男の愛人に…?噂を確かめるべく野梨子の秘密に首をつっこんだメンバーを
意外な事実が待っていた。清四郎は様子がおかしい野梨子が気にかかり…。
◆コメディ仕立ての一品。冒頭グッと引き込まれる。オカルト風味も加わって
話がどう続いていくか楽しみである。
【檻】オリ 清×野
03/10/24〜現在進行中
野梨子は清四郎と後輩の小夜子の仲に嫉妬し、思い余って大胆な行動に出る。
次の日、清四郎は兼六財閥の令嬢・綾香との縁談をあっさり承諾、友人たちを唖然とさせる。
結婚式が迫る中、あの手この手で妨害工作を練る魅録たち。そんな中、野梨子は……。
◆連載しながら進化を遂げてきた作品。登場人物が生き生きと動き笑わせてくれる。
アイデアも斬新で面白い。肝心の清×野の心理が少し特殊で今は計り知れないが
物語は終盤目前と思われ、どんな結末を迎えるのか期待される。
【サヨナラの代わりに】サヨナラノカワリニ 魅×野
03/12/23〜現在進行中
「いつか、きっと…」の続編で裏切られた側の物語。魅録と野梨子はそれぞれパートナーと
幸せな結婚生活を送っているつもりでいたが、ある日突然離婚を切り出され、
深い傷を負ったまま新生活に入る。
◆魅録と野梨子には何の落ち度もないだけに胸が痛い。だが清×悠の関係を二人は知らないので
泥沼にはなっていない。魅録と野梨子は淡々と独りの生活を送っているが物語は二人が
ようやくつながりそうなところへ。
【暴走愛】ボウソウアイ 清×可×豊、清×悠、清×野、魅×野 (R)
03/11/27〜現在進行中
悠理と偽装結婚した清四郎はかつての恋人・可憐とその夫豊作を追い詰めていく(第一部)
高校時代。野梨子とのつきあいに物足りない清四郎は可憐との関係にのめり込んで行き……(第二部)
◆「大人向け昼ドラ泥沼系」と銘打たれている通りの内容。清四郎が、可憐が、悠理が、
そして第二部では野梨子が、魅録が愛憎の渦に巻き込まれていく。第二部は現在清×野の
関係がメイン。野梨子が清四郎の裏切りを知って苦しんでいる。
【これ、いただくわ】コレイタダクワ
03/12/11
盗まれた古文書(豊作の私物)を取り返すべく、魅録作の秘密兵器に身を包んだ悠理が
兼六に潜り込んだ!
◆とぼけた作風がいい味を出しているアクション?物。タイトルのセンスもいい感じ。
連載物なのにまだ一回しかうpがないのはどうしたことか。
【横恋慕】ヨコレンボ 魅×悠×清
04/02/15〜現在進行中
魅録と悠理がつきあいだしたことに清四郎は苛立ちを隠せない。
◆悠理を挟んでにらみ合いの魅録と清四郎。回を重ねるごとに読みやすくなっている。
今後どういう展開を見せるか期待。
<短い連載または短編集>(嵐様のサイトでは短編に収録)
【野×悠?編】ノユウヘン
02/06/25〜02/07/30
最近の野梨子さんの願いは悠理と一緒にお風呂に入ること。邪魔をするものは、
たとえ清四郎だって許しませんわよ!私だって本気でしてよ!
◆妄想スレ初の野×悠。どんどん悠理に本気になっていく野梨子さんに大笑い。
気分が落ち込んだ時の一本に。笑いすぎて涙が出ます。
【イギリス大旅行大作戦 】イギリスダイリョコウダイサクセン
2002/09/20〜2002/09/25
「!」衝撃の爆笑珍道中。
◆まずは読もう。話はそれから。
【不器用な果実たち】ブキヨウナカジツタチ
03/04/04〜03/04/11
悠理は可憐と美童の話についていけず、つい虚勢を張ってしまい、
渦中の人物魅録に喰ってかかる。
◆ナニは何だったのか!?やたらに情感溢れる文章は難読文に指定済み。
たぶん魅×野で、もしかしたら魅×悠で、ひょっとしたら清→野。大穴で魅×清。
【Back to the drawing board ! 】バックトゥザドローイングボード 清×野
03/06/09〜03/07/08
清四郎は最近野梨子が行動を共にしないことに一抹の寂しさを抱えている。
そんな時事故にあった清四郎はタイムスリップして……
◆「タイムスリップコンビナート」からヒントを得た作品。萌え死にそうな展開、
台詞まわしで一部読者を熱狂させる。毎日のようにうpがあったが「次のうpでおわります!」
の後、半月姿を消し、放置プレイで読者を悶死させた。
【New Arrival】ニュー アライヴァル 魅×野
03/09/07〜03/10/03
魅録と野梨子夫婦の間に念願の子供が。出産までのほのぼのな話。
◆個人的には彼らが双子につけた名前が気になる。
【悠理と清四郎】ユウリトセイシロウ 清×悠
03/10/07〜04/03/08
悠理は清四郎の部屋でキスされて…(悠理と清四郎)悠理は相合傘の下に清四郎の名前と…?
(落書き編)悠理はバイト代で清四郎にプレゼントを(クリスマス編)清四郎と付き合いだした
悠理だが素直になれず(ホワイトデー編)
◆清×悠の短編集。清四郎が大好きで、でも素直になれない悠理がいじらしい。
【孤島の月】コトウノツキ 清×悠×魅
04/03/12〜02/07/30
清四郎、魅録、悠理が泳ぎ着いたのはかつて惨劇が起こった島だった。そして
彷徨う魂が魅録に乗り移り…。
◆悠理に想いを寄せる魅録が憑依される展開にドキドキ。
【イタズラ】イタズラ 清×悠
04/03/15〜04/03/17
ほんの出来心で清四郎のカップに悠理は催淫剤を垂らす。ところが薬が効いた清四郎は
悠理を仮眠室に引きずり込み…!
◆あたふたする悠理とうっかり…な清四郎が見もの。
いつものことですが解説はメチャクチャ偏っています。作者さん達、お気に障ったらスマソ汁。
おおっ、いつも楽しみに読んでる辞典屋さん(私はこう読んで
いますw)が来ていて嬉しい。
いつもながらの、コンパクトで無駄のない紹介文に読み入って
しまいました。
時々ワサビの利いた解説もあるけどw、愛を感じるので
個人的には無問題です。GJでした!
短編をうpさせていただきます。
3レス、おじゃまします。
美×可です。
19歳の春の日。
流水に流される花びらのように、あたしの恋は、流されていった。
「可憐、乗っていきなよ」
卒業式から1ヶ月とちょっと。
雑踏の中の交差点で、赤いオープンカーに乗っている美童に、あたしは呼び止められた。
「どこかへ行くんじゃなかったの?」
「ううん、暇だったから適当に走ってただけ」
信号が赤になって、美童はサイドブレーキを引いた。
「野梨子に怒られちゃうわね」
美童の車の助手席――。
あたしが夢にまでみたこの席は、少し前から野梨子の指定席になっていた。
「怒らないよ、可憐なら」
「指輪」
「え?」
「魅録からもらったんだね」
美童はあたしの左手を取って、指輪を見た。
「うん・・・・・・昨日」
この指輪は昨日、ゆでだこみたいに顔を真っ赤にした魅録からもらった。
「桜色のピンクダイヤ・・・・・・キレイだね、可憐によく似合ってる」
信号が、青になった。
「本当はね」
街中を抜けて、車は桜並木への道のりを走って行く。
「ちょっとだけ、惜しいと思ったんだ」
「・・・・・・何が?」
「魅録が可憐に告白したって聞いた時」
オープンカーの中に、桜の花びらが舞い落ちる。
「あたしのこと、好きだったのね」
あたしはからかうように、笑った。
「かもね」
「ここでいいわ」
桜並木の真ん中で、あたしは車を降りた。
「元気で」
美童が微笑んだ。
「美童も」
美童が見えなくなるまで、あたしはそこにいた。
桜吹雪が舞い、幾千もの桜の花びらが舞った。
桜色の指輪に、涙が落ちた。
すれ違った、あたしの恋。
ひとつだけ、ボタンを掛けまちがった恋。
降りつもった桜の花びらが無くなる頃――。
あたしはまた恋をする。
桜色の指輪をくれた、あの人と。
一番最初のナンバリングを間違えました。
以上です。
ありがとうございました。
>桜 〜可憐〜
卒業の季節にふさわしい切ないお話ですね。
ひょっとして野梨子編も見られるのかな。
>桜
すごく、イイ!!いいですよー。
じんとしました。
>桜
切ないけど良いお話ですね。
これって六角関係っていうのかなぁ。
>桜
(・∀・)イイ!!!!
切なさを桜に絡めてすごく綺麗です。
なんか全員分読みたなぁ・・・
>654
辞典屋様、おつかれさまです。ほんとに無駄なくわかりやすい!
>Back to the drawing board ! の放置プレイで読者を悶死させた。
が、個人的にはツボでした。
>桜
そ、そっか、可憐は魅録とラブラブなだけじゃなかったのか。
…ってことは……野梨子編も?ちょっとだけ期待しちゃおうw
>桜
魅録贔屓の私にとって、イヤンな気持ちになってしまいそうな
設定(すみません)なのに、良いお話だと感動しました。
可憐の前向きさが、良かったのだと思います。
青春の1ページとして、あってもおかしくないエピソードだと
頷けました。
野梨子編もあるのでしょうか。とても楽しみです。
すみません、【孤島の月】の連載期間間違えてました。
正しくは、
04/03/12〜04/03/17
です。
599の突っ込みから思いついた
>>593の後日談のようなコネタです。
ある日皆で魅録の部屋に遊びに来ていた。すると…
「魅録。あの『大願成就』ってなあに?何か大きな目標でもあるの?」
可憐の問いにギョッとする魅録。(やっべえ。しまっとくの忘れてた)
「あ…、いや…、何でもな…」
「ほんとに。何かしら。わたくしにも思い当たりませんわ」
「大学受験も無いしねぇ。なんかうろたえているところが変よねぇ」
可憐の目が光る。そして突然、悠理が得意げに大声を上げた。
「わかったぞ!魅録は生徒会長になりたいんじゃないか?」
「!」一同目をむいて驚く。
(うわ〜。いったいどこまでコイツはばかなんだ〜)
否定しようとした瞬間、女性陣が意外な展開を繰り広げる。
「すごいわ。悠理。あんたもたまには鋭いこと言うじゃない?
魅録ほど影の薄い副会長はいないもんね。魅録だって男だもの。
そういう気になったって不思議は無いわ」
「確かに…。わたくしのこと副会長と思っている人も多いですわ」
「ミロクちゃん、つらい思いしてたんだな、うるうる」
(どうせ、そうさ。だれも俺が副会長ってことなんか知らないんだ。
原作者だって忘れてたくらいだもんな。コアなファンしか知らない
有閑トリビアみたいなようなもんだよな、ったく。でも…)
「おいおい、押しも押されぬ清四郎会長を前にして、ありえねえよ」
すると野梨子が魅録を見上げて目を潤ませて言う。
「でしたら、何なんですの。大願って。わたくし恥ずかしいですわ。
魅録のそんな大事なこと存じ上げないなんて…」
野梨子の純真無垢な瞳に見つめられ、魅録はうっとつまってしまった。
(こんな純粋な子に、ほんとのことが知られたら…、叩かれるかも。いや
それより軽蔑されて嫌われてしまうぞ。これ以上の追究を回避できるなら、
くだらないけど、こいつらの話に乗ってしまったほうが…ましかも…)
「お、おう、実はそうなんだ。俺は生徒会長になりたかったんだよ!」
ヤケになって叫ぶ魅録。盛り上がる女性陣。「きゃあ、言ったわ!」
「あたいの言うとおりだったろ!」「魅録、そんな野心がありましたのね!」
「そうさ!打倒、清四郎だぜ…。はは…は。ま、ムリだけどな」
これまでのやり取りを冷めた目で見つめていた清四郎が静かに口をひらく。
「なるほど…。そうだったんですか。なんなら下半期会長選を行いますか。
現在は形骸化していて選挙は年に一度ですが、元々半期ごとに行うのが
原則だったようですよ。魅録がそのつもりなら、受けて立ちますよ」
(うぅ〜。こいつ、本当のことわかってるくせに。鬼、悪魔!)
「きゃあ、清四郎対魅録で会長選よ!ビッグニュースだわ!」
「あたいのファン倶楽部、魅録に入れさせるぞ!面白そうだからな!」
「魅録、わたくしも応援しますわ。そのチャレンジ精神、尊敬ですわ」
成り行きに呆然とする魅録。怒涛の展開にフォローもできない美童であった…。
そして数日後・・・学園の掲示板には・・・
『下半期生徒会長選挙告示 候補者 1菊正宗清四郎 2松竹梅魅録』
「悪夢だ…。これは悪夢だ。なんで美童、助けてくれなかったんだ〜。頼りは
お前だけだったのに…」
いまさら言ってもしょうがない愚痴を美童に言い、落ち込む魅録。
「でも、悠理と可憐のファンクラブは魅録へ組織票投じるらしいよ。だから
いい線いくかもよ〜。野梨子も尊敬するって褒めてくれたじゃないかあ」
なんの励ましにもならない美童の励まし。突っ込む気も起こらない魅録…。
バタン。戸が開き、野梨子が入ってきた。
「魅録。京都のお土産ですわ。霊験あらたかな神社で買いましたの」
と言ってさし出したのはお守り。そこに書かれているのは『大願成就』…。
「会長選、がんばってくださいな、魅録。では用がありますから」
天使のように微笑みながら去っていく野梨子。
美童の胸にオイオイ泣きつく魅録であった。
ガンガレ、ミロク!君の大願はいつか成就する!のか?
>670
あー、私も。
野梨子がすごく好きなので、美童が野梨子とつきあってるのに
可憐に淡い恋愛感情を持ってるって設定は本来は嫌なの。
でも、まさに青春の1ページって感じで切なく甘酸っぱく
読まされてしまう…いい話>桜
>672
ワロタ
魅録と清四郎で生徒会長争うのって面白い!
有閑倶楽部結成の時も実は熾烈な争いがあったりして……w
内部の子の清四郎と、外部からの子の魅録。
二人は仲良し、でも周りは……みたいなw
672と673を書いたものですが、コネタなのに長くなって
すみませんでした。また、429〜434のネタを使わせて
いただきました。私もここを読むときまで魅録が副会長だと
知らなかった…w
>676
そうなの? 魅録=副会長を忘れてたのって御大だけだとオモテタ。w
けっこう知らない人多いんだなー
>小ネタ
ワロタ。続き読みたいかも!
もちろんいつかは魅録くんの想いが通じる事が前提でw
ホロ苦が読みたいなぁ〜。
キャッツも、想い出も!!
短編をうpさせていただきます。
3レスおじゃまいたします。
清×野です。
話の都合上、悠理の誕生日を五月とさせていただいています。
御了承ください。
19歳の春の日。
散り急いだ桜の花のように、私の恋は、消えていった。
「少し、遠まわりしませんか?」
五月に生まれた悠理のちょっと早い誕生日プレゼントを買った帰り道
私たちは、桜の木がある公園に寄り道をした。
「もっと、鮮明な色の方が良かったかもしれませんね」
清四郎は、不安そうにプレゼントの箱を見る。
初めての恋人の誕生日プレゼントを決めかねていた清四郎に
私はほんのり甘い桜色のイヤリングを、薦めた。
「女の子なら誰だって、桜色は似合いますわ」
私は清四郎の隣に、座った。
次の桜が咲く頃
こうして清四郎の隣に座っているのは、きっと私じゃない。
「美童がいてくれて、良かった」
清四郎は、安心したように私を見る。
「心配してくれますのね」
私は、おどけるように、笑った。
「野梨子を独りにするのは、不安です」
困った仕草が愛しくて、私は不意に切なくなった。
時期を過ぎた桜は、ほとんど散っていた。
木々に連なった、花が無い淋しい枝とは対照的に
役目を終えた花びらが、たくさん地に降りつもっていた。
「野梨子」
清四郎が、私を見つめた。
「幸せですか?」
私は、用意していた言葉で答えた。
「ええ、幸せですわ」
「そろそろ、帰りませんか?」
夕闇が、そこまで来ていた。
「もう少し、ここにいますわ」
じゃあ、と清四郎は立ち上がった。
「さよなら」
清四郎が、少しずつ遠くなっていく。
「さようなら」
私はいつまでも、そこにたたずんでいた。。
私のそばを、一陣の風が吹き抜ける。
降りつもった桜の花びらが
涙と一緒に、高く、高く、舞い上がる。
桜色のイヤリングを
欲しかったのは、私。
季節が変わっても
そばにいたかったのは、私。
来年の桜を並んで見るのは
清四郎とは、違う誰か――。
きっと、私だけを想ってくれる人。
以上です。
ありがとうございました。
>桜
野梨子バージョン、待ってました!
>「野梨子を独りにするのは、不安です」
>桜色のイヤリングを
>欲しかったのは、私。
この二箇所が切なくて、うるうるしてしまいました。
ラストが他の二人と違っていて、美童のことを指すのかどうか、
微妙なところも良かったです。
美童には気の毒だけどw
>桜
待ってました〜…すごく好き。
あっという間に終わってしまって悲しいです。
短い文章に無駄なく切ない気持ちがしっとり入っていますね。
>役目を終えた花びら
ここの表現とても気に入っています。
>桜色のイヤリングを〜
>季節が変わっても〜
ここの言葉の運びがまるで歌のようで感心しました。
>桜
個人的には、悠理が一番のお気に入りキャラなのですが、
感情移入してしまうのは、なぜかいつも野梨子です。
切ない、というかやるせない気持ちで、今ほんとうに涙が出てきました。
お互いのことを想い合っているのに、ほんの少しその形が違う、という
清四郎との関係が辛くて、痛い。
素敵なお話、ありがとうございました。
>桜シリーズ
単独でもとても面白いけれど、3部作を読み比べると更に面白い。
そしてタイトルでもある桜を使った描写が美しくも切ない。
ステキな作品をありがとうございました!
>689
テンプレ作成乙です!
次スレ移行が近付いたせいでしょうか。
怒濤のうpラッシュが、ちょっと一段落しちゃったみたいですね。
最近はバレンタインにホワイトデー、桜にまつわるお話など、
季節感あふれるものが多く、毎日ここを覗くのが楽しみでした。
この流れで卒業とか入学ネタも読みたい・・・。
奇特な作家さん、いないでしょうかねー。
もちろん諸連載の続きも楽しみに待ってます!
作品ウプが止まってしまって寂しい。
もしかして、容量を気にしている作者さんが多いのかな?
あと20KB以上あるから、1レスの分量にもよるけど
10〜20レスは大丈夫だと思う。
万が一容量オーバーしちゃったら、一時まゆこスレに
避難すればいいしね(前にもそうしたことあり)。
いずれにしても、今の容量では引越しには足りないから、
このままだといつまでも新スレが立てられないことに。
勇気ある作者さん、カモーン(AA略
入学式か〜
かな〜り不思議なんだが、魅録の髪の色は私立の坊ちゃん学校的にはOK
なんだろうか。思い切り校則に引っかかってそうだw
それとも入学時だけ黒く染めたり、カツラ着用したのかな。
「地毛です!」と言い張ったり、カツラを悠理に大笑いされたりして。
数少ない聖プレジデントの柄悪い先輩ににらまれる魅録とか、
先輩たちに洗礼を受ける六人が見たいなぁ。
お、↑のレスで2kしか増えなかったw
メモ帳とかシンプルテキストとか単純なやつだと
ファイルサイズ=文字数かな。そっから判断できない?
日本語文字は全角で2バイトだから、512文字で1024B=1KB。
1024B = 1KB = 512文字 = 400字詰原稿用紙約1枚
5120B = 5KB = 2560文字 = 400字詰原稿用紙約6枚
10240B = 10KB = 5120文字 = 400字詰原稿用紙約12枚
20480B = 20KB = 10240文字 = 400字詰原稿用紙約25枚
102400B = 100KB = 51200文字 = 400字詰原稿用紙128枚
1024KB = 1MB = 524288文字 = 400字詰原稿用紙約1310枚
一行の文字数を決めておけば手動でも計算しやすいらしい。他スレから引用してきた。
>630の続きです。
あの日あの女と寝ずに別れてから、俺はその場限りの情事をピタリと止めてしまった。
止めようとして止めたわけではなく、たまたまあの後大きな事件が2件立て続けに起こって、
そんなことをする余裕がなくなってしまっただけだ。
だが、その忙しさも今日で終わりだ。
事件はふたつとも片がつき、俺が属していた捜査本部は解散となった。
ありがたいことに、久方ぶりに休暇らしい休暇ももらえる。
1週間後に、1週間、7日間の休み。
そのことを考えるだけで、俺の頭の中にはやりたいことがいくつもいくつも浮かんでくる。
間近に迫った久方ぶりの長期休暇に、俺はどうしようもなく浮かれていた。
695=627です。間違えてすみません。これからが本当の(46)です。
休みの最終日、俺は竹鶴さんに呼び出されて兼六コンチネンタルホテルのバーにいた。
土曜日のバーは人も少なく、ひとりで人を待っていても取りあえずは肩身が狭くない。
だが、約束の時間から1時間以上たっているのに、竹鶴さんはまだ姿を表さない。
いい加減ひとりで飲むのにも飽きてきたので、電話1本入れて帰ろうかとポケットの中の
携帯を手にした。
「待たせたな」
竹鶴さんはゆっくりとこちらに近づいて、ひょいと身軽にスツールに座った。
バーテンダーは何も言わず、奥の棚からボトルを取り出す。
一通り揃えてトレイをこちら側に差し出すと、竹鶴さんはそれを受け取って手酌でバーボンを
グラスに注いだ。
「別に、あてつけって訳じゃない」
俺は確かに、兼六系列をほとんど利用しない。
だが、剣菱系列にも同じくらい足を踏み入れなくなっている。
「気にしてませんから」
俺は何か物足りなくて煙草を吸いたくなったが、ぐっと堪えて手元のグラスを呷った。
「本題だが」
竹鶴さんは一旦そこで言葉を切って、くしゃくしゃの紙箱から煙草を1本取り出し、
ジッポで火を点けた。
顔を正面で固定したまま、俺の方を見もしない。
ただ煙草の煙だけが、白くゆらゆらと漂っている。
「お前は、わかっていたから、あの時しつこく訊いてきたんだな」
「はあ、何のことですか?」
竹鶴さんは左手でグラスを弄びながら、右肘をテーブルについて煙草を咥えている。
俺はただただ話の筋が見えなくて、竹鶴さんの横顔を見るが何も読み取れない。
「お前はわかりやすい奴だな、松竹梅。俺の頭がおかしくなったとでも言いたそうな顔してる」
竹鶴さんは力なく微笑み、グラスの中身をゆっくりと飲み干した。
そして空のグラスをテーブルの上に置き、氷をふたつみっつ放り込む。
カタンと小さな音を鳴らしてアイスクリップを氷がまだ残るアイスバスケットに戻してから、
竹鶴さんは再び口を開いた。
「白鹿、野梨子」
……野梨子?
ああ、野梨子が俺のこと、何か話したんだろうな。
俺は、竹鶴さんの次の言葉を待った。
竹鶴さんは氷だけ入ったグラスをしばらく見つめてから、ボトルを掴んでバーボンを
ゆるゆると注ぎ始めた。
「俺だって、自分が何て噂されてるかぐらい知ってるさ。……安心しろ、俺は何もしちゃ
いない。あのひとにはそんなこと、できなかった」
それから程なく、俺と竹鶴さんはバーから出た。
竹鶴さんは俺に背を向けて無言のまま、最後に右腕だけサッと軽く上げてから夜の
雑踏の中へ踏み出していった。
ひとり残された俺は、無性に野梨子に会いたくなってきた。
わかっている、常識で考えたら、相手が女性でなくても訪ねていっていい時間じゃない。
しかも俺は、野梨子が引っ越してきてから、ただの一度も足を向けたことがない。
止めよう、とりあえず今でなくていい。
別に明日だって明後日だって、1週間後だっていいはずだ。
俺は家路を急ぎながら、何度も何度も『今日は行かない』と繰り返し自分に言い聞かせた。
だが。
マンションの玄関を通り抜けた瞬間、俺の足は独りでにエレベーターへと向かい、
上向きの矢印のボタンを押していた。
【続く】
>サヨナラ〜
きゃーっ、こんな・・・こんなところでやめちゃうんですか?
寝れない・・・
続きを待ってます。切に。
>692
魅録って、高校入学組だから、6人の中で一番「聖プレジデント歴」が短いんですよね?
個人的な妄想では、入学式にバイクで乗り付けて校長先生が卒倒…とか、考えちゃいますが、
15歳じゃ無免だからさすがにまずいですかね。
それをうまいこと清四郎が取りなしちゃって、満足気に目配せしてるシーンとか浮かんでしまう。
清四郎マンセーなもので、すみません。
いずれにしても、彼を見て女生徒が黄色い声を上げたのは間違いなし。
うーん、読みたい…。
>>700 キャー、それすごく読みたい!
どなたかSSで書いてくださ〜い(ハァト)
小ネタをちょろっと書き逃げます。
美童の留年が決定したグランマニエ家。
「何やってんだよ兄貴、だっせーな!」
杏樹のバカにしきった罵声が響く。
「俺の兄貴は留年しましたなんて、カッコ悪くて誰にも言えねえぜっ」
グランマニエ家においてイケてないという事は
何にも勝る大罪であり屈辱である。
「わかってるよっ!これ以上僕の傷口を広げるようなこと言うなよ!」
美童は必死に言い返す。
「――お前、もう女にもてないぜ」
「うっ!!」
冷たーい目でとどめを刺されて、へなへなと崩れ折れる美童。
「どーすんだよ!これ」
杏樹の指し示す先には世界中から届けられた
「美童、卒業おめでとう」のカードと花束が…。
「ホントだ、どうしよぉ」花束を前に美童は呆然と座り込む。
「これが彼女達から受け取る最後の花束、なんて事、ないよね…」
「わかんねーぜ。女心は少しの事で移ろいやすいんだ」
ませた口を利く杏樹。
がっくりと力を落とす美童の肩は小刻みに震えていた。
「まぁ、待ちなさい美童、杏樹。そんな事で諦めてはいけないね」
そこにヴィヨンパパ登場。
「よくお聞き、息子達。
男の真の力量とは、窮地に陥った時にこそ試されるのですよ。
美童、留年は確かに大きなマイナス要因になるかもしれません。
しかし、決して挽回できないものでもありません。
誇りを捨てずに、苦難を乗り越えるのです。君が努力を怠らず、
名誉を取り戻せた時、彼女達の心はきっと君のもとへと帰ってくるでしょう。
――それにね、逆境に耐える孤独な男の後姿に、女性は案外、弱いんですよ」
パパは息子達に語って聞かせた。
「パパ…あ、ありがとうっ!わかったよ。僕、頑張る!
きっと彼女達の心を取り戻してみせるよ!」
「さすが親父。そうだ、兄貴、頑張れよ」
パパの優しい助言に感動する美童と杏樹。
尊敬の眼差しを一身に浴びて、父ヴィヨン・グランマニエは力強く頷くのだった。
ここまで論点が外れてるとは…。
父と子の会話を聞きながら、美童のみならずグランマニエ家の男性陣3名に対して
そこはかとない哀しみを覚える真理子ママであった…。
以上美童編です。
どなたか他5名の話、書いて欲しいです!
有閑留年短編集なんてどうでしょう?(W
↑ 面白い!!
彼らにとっては「女性にどう見られるか」が人生における最大のテーマな訳ですな。
可憐のママは、一瞬にして授業料の計算。立ち眩みしながら「どうにかなるわ」。
野梨子の両親はしばらく絶句。
剣菱夫妻は動じなくて、豊作さんと五代が嘆いてそう。
千秋さんは一言。「べガスくらいで留年なんてバッカみたい」
一番こっぴどくあきれられたのはやっぱり清四郎氏ですよね。
修平さんは意外と豪傑そうなので、
「なんだ、菊正宗家始まって以来の快挙だな」くらい言いそう。
ママも「あらまあ、清四郎ちゃんったら困った子ねぇ」とか。
・・・問題は和子さんだ。
想像するだけで、清四郎が気の毒になってきた・・・。
留年報告ネタ、笑える!!
百合子さんあたりは「よかったわねぇ、またみんな一緒で♪」とか
背景に花でも飛ばしながら微笑んでいそうw←動じなさすぎ?
じゃ、スレ埋め立てに私も美×悠の小ネタ書き逃げ。
どっかの国の成金美少年コレクターが美童を気に入り誘拐。
その拉致現場を偶然目撃した悠理が助けにはいる。
ところが例の如くギャーギャー喚くばかりでやることなすこと
すべて裏目に出てしまう美童の本領発揮で結局は悠理までが捕まり、
悠理の方が変態金持ちオジサンの毒牙にかかりそうになる。
脂ぎったオッサンにいいように撫でまわされる悠理を見て
腰抜けの美童にしては珍しく「僕が助けなくちゃ!」と奮起!
しかしいつもがいつもなだけに悠理にとって美童は完全にアウトオブ眼中。
我知らず悠理の口から迸る悲鳴は「清四郎!魅録〜!!」
そのセリフに思わずじぇらしーを感じちゃった美童は怒る。
「なんで目の前に僕がいるのに他の奴らの名前を呼ぶんだよ!」
「バカヤロー!お前なんかあてになるか!!」
「言ったな? あてになるかどうかはその目でよく見ていろよっ」
そう叫ぶと、やおら部屋の片隅に飾られていた中世騎士の甲冑から剣を抜き取り
見事な腕前でその場にいた悪者の手下をバッタバッタと倒してゆく美童!!
すべての敵を倒し悠理の手首の戒めを解きながら
「自慢じゃないけどフェンシングは大得意なんだよね」と片目を瞑って見せる美童に
「すっげーじゃねぇか、美童!! 今度あたいにも教えろよ!」と目をキラキラさせる悠理。
そんな悠理に美童は少し考えてからニヤリと笑う。
「やだね」
「なんでだよ!」
「だって教えたらすぐ悠理の方が強くなっちゃうじゃないか。」
「だからなんだよ!」
「だから、 ―――自分より強い男じゃなきゃダメなんだろ?」
その言葉の意味を理解できず一瞬ポカンとした表情を見せた悠理から
騎士は姫を助けたご褒美にその可愛い唇を頂いちゃったのであった。
めでたしめでたし――――ボカァッ!!
「バカヤロー!舌いれんな!!」
「そ、そんな、ひどいよ悠理ぃ〜」
強烈な一撃を浴びせて去ってゆく悠理に美童は泣きながら追いかけるのであった。
ヲワリ
あ、最後の1行、文がおかしい(汗)
「悠理に」じゃなく「悠理を」だな。
失礼しました。
ああ、文才がほすぃ(泣)
わ━━━━━━ヽ(´∀`ヽ)━━━━━━い! 美×悠だぁ。
そういえば美童ってフェンシングが得意だって
テニスの話のときに自慢してましたね。
種目限定だけど、悠理より強い男かw
甘々で終わらないところがらしくて(゚∀゚)イイ!!
>美童と野獣
さらりとお洒落でかわいかった!タイトルもいいw
フェンシングする美童ちょっと見てみたいなあ。
またみつあみがみられるかな?
>美女と野獣
面白かった!
美童ちゃん、美女から野獣に大変身?
っていうか・・・舌入れなきゃOKだったのか、悠理。
>712
パゲドウ! 私も見たいよ
絵師さんプリーズ!
髪型はぜひ 『 み つ あ み 』 で!w
>714
>っていうか・・・舌入れなきゃOKだったのか、悠理。
私もオモタw
美童のみつあみ私も好きだw
ヴィヨンパパの話も読みたいな〜
悠理も可憐も野梨子もパパの手練手管に
コロッとまいりそうだ。
>>718 悠理が1番簡単に落とされちゃいそうだなぁ。食べ物とかでw
「わ〜い♪おじちゃん大好き〜」みたいなノリでいつのまにか…。
他の二人と違って悠理は男の人をそういう対象として意識していないぶん
警戒心もないからね。
ところで、前スレはなんだかんだで492KBまで書き込みできたわけですし
450KBをちょっとくらい超えたって即死するわけじゃないので
作家様、よかったら作品投下してくださいませ。
少々間があいてしまいましたが、「横恋慕」を少しだけ続けます。
魅×悠×清の三角関係です。だんだん暗い展開になってきてしまいました。
苦手な方はスルーして下さいませ。
>87の続きです
僕が部室に足を向けたのは陽も傾いた頃だった。
昼休みは、報告書を出しに行った所で担当の教諭につかまり食堂へと拉致された。
彼にはずいぶん目をかけて貰ったから、無下に断ることもできなかった。
僕達の卒業をひどく残念がる彼に、にこやかに応対しながら、悠理に会ったら何を言おうかと
そればかり考えていた。
一息ついてドアを開けた僕を出迎えたのは、意味深な笑顔を浮かべた可憐だった。
「あ、清四郎!やっと来たわね」
僕を認めるなり、大げさに手招きして見せた。
そのはしゃいだ口調に胸が騒いだが、無言でドアを後ろ手に閉める。
悠理はそこにいなかった。魅録も一緒のようだ。
「あの二人、今朝は同伴登校したらしいわよぉ〜」
にんまりと目を細め、ゴシップ好きの彼女はそう言った。
平気な顔で椅子を引き、腰かける。
「というと?魅録と悠理のことですかね」
「ええ。可憐ったら、昼休み中ずっと二人のことをからかってばかりで・・・。悠理がつい魅録の
ベッドで寝てしまっただけみたいですけど」
野梨子は僕にお茶を淹れてくれながら、ちょっと困ったように笑っている。
「そんな訳ないじゃない!もうとっくにキスはしたって言うし、あんなに真っ赤になって『何もして
ない』って言い張るなんて、却ってあやし・・・」
「いい加減にしたら、可憐」
貼り付いたような笑顔を浮かべていた僕に、救いの手が差し伸べられた。
携帯に夢中だったように見えた美童が、柔らかな声で彼女を嗜めた。
可憐の肩をそっと二回叩き、彼は立ち上がって腕時計を見る。
「あっれー?もう5時過ぎてる。ヤバい、ミモザちゃんとの待ち合わせに遅刻しちゃうよ・・・」
その時には、彼はいつもの軽薄そうな表情を浮かべていた。
「ホワイトデーまで毎日デートの予定が入っちゃってさ。モテるって辛いよなぁ。じゃ、帰るね〜」
拗ねた表情の可憐に構わず出て行く美童と入れ替わりに、駆け込んでくる足音が聞こえた。
背後で足を止めたのは多分、悠理。後から追って来た足音の主が、先に部屋に入ってくる。
「おう、ご多忙な生徒会長。やっとお出ましか」
「・・・おかげさまで、書類もどうにか提出できましたからね」
斜め向こうに座った魅録の隣の椅子に、ワンテンポ遅れて悠理が滑り込んだ。上機嫌に
見える魅録とは対照的に、少々ふてくされた様子で僕と目を合わそうともしない。
からかわれるか、嫌みを言われることを警戒しているのだろうか。
だが、可憐の軽口を確かめる勇気を、僕は持ち合わせてはいなかった。
不意に訪れた気まずい空気。可憐が不思議そうに僕らの顔を交互に見る。
「そろそろ来る頃だと思ってましたわ」
沈黙を軽く破ったのは、野梨子だった。
二人に湯呑みを差し出すと、その手で盆に急須をのせ、軽やかに給湯室へ入って行く。
「悠・・・」「なあ・・・」
同時に口を開きかけ、僕はちょっと首を傾け、魅録に譲る。
そうするべきだと思ったのだ。
「悠理の汚い字を判読するのは面倒だったろ。テキストで送ろうかと思ったんだが・・・」
相手を思いやるような、出方を窺うようなよそよそしい声で魅録は言った。
知らない男に話しかけるような声音だった。
その言葉に、口調に、少なからず驚いた。
悠理の文字には慣れている。飽きるほど、くり返し見て来たから。
そんなことは、魅録だって知っているはずだった。
「・・・ああ、そうしてもらえた方がありがたかったですね。手間が省けて」
自分の口から出た言葉にもっと驚いた。
その声の冷ややかさに、笑い出しそうになった。
今朝からずっと考えていたのは、こんな事じゃなかったはずなのに。
告げたかったのは、こんな言葉ではないのに。
「ほら、だから俺の言った通りだろ?」
軽いが愛情のこもった声で、その男は傍らの恋人に呼びかける。
悠理は小さく頷き、僕の目を見ようとはしなかった。
僕にはもう、彼女にかけるべき言葉が見つからない。
[続く]
やった!待ってました「横恋慕」
このお話にでてくる不器用な清四郎が愛しいです。
今後、3人の関係はどうなっちゃうのでしょうか。
そしてお節介になりすぎない程度の美童の心遣いがさすがでした。
あ〜好きだ美童、わしも恋人の一人にしてくれw
>724
>あ〜好きだ美童、わしも恋人の一人にしてくれw
切実ですなwワロタよ。
>横恋慕
お待ちしてました。
悠理への気持ちを恋と認識できない清四郎がもどかしいですねw
だんだん描写が丁寧になってきて、イイ感じ!です。
続き楽しみにしています。
短編をうpさせていただきます。
3レスおじゃまいたします。
魅×野です。
15歳の春の日。
冬を越え、春を芽吹く木々のすきまに、俺は光を見つけた。
「参った・・・・・・」
入学式が終わったその日、俺は早くも後悔し始めていた。
何なんだ、この学校は。
意気投合した5人と一緒にいたくて受験した、この学校。
だけど入学式の日からして、校風の格調の高さに、正直うんざりしていた。
こういうのは、性に合わない。
「ちぇっ」
人気の無い校舎の裏手で、俺は一人でくさっていた。
寝転がった俺の頭の上には、満開の桜が花を咲かせている。
「帰ろっかなぁ・・・・・・」
ひらひらと落ちてくる桜の花びらを、指でつまむ。
ここには大きな声で笑う生徒も、けたたましいバイクの音も無い。
怒鳴り散らす教師の声さえ、その時の俺には懐かしかった。
俺は転校したての小学生みたいに、前の学校に戻りたくなった。
「どちらに帰られますの?」
「うわぁっっ」
突然の声に、俺はバネ仕掛けの人形みたいに飛び起きた。
「ごきげんよう、魅録」
舞い落ちる桜の花びらを背に、野梨子が立っていた。
「びっくりさせんなって・・・・・・合図くらいしろよ」
「あら、友達なのに。他人行儀ですわね」
野梨子はゆっくりとした仕草で、隣に座る。
6人でつるむようになって随分たつが、俺は未だに野梨子にだけは深くなじめない。
この学校と同じで、ほんの少し近寄りがたい。
すうっと、柔らかい風が吹いて、木々が揺らめく。
野梨子の切り揃えられた髪が風になびき
桜の花びらと一緒に、流れる。
透きとおるような白い肌と、薄く色をつけた桜の花びらの融合が一枚の絵のようで
俺は長い間、見入ってしまった。
「ここは、いい場所でしょう?」
野梨子はそっと手のひらを前に差し出して、落ちてくる花びらを受け止める。
「・・・・・・そうだな、野梨子はよく来るの?」
「ええ・・・・・・でもここで誰かと会ったのは、初めてですわ」
ここは学校の裏手のまた裏手。確かに人1人通らない。
「嫌なことがあったり、悲しいことがあったり・・・・・・。
気持ちが沈んでいるときに、ここへ来て心を落ち着けますの」
清四郎にも教えていないこの場所は、野梨子にとって秘密の場所なのだと、そう言った。
「バレちゃったな、俺に」
俺は決まりが悪くなって、苦笑した。
「・・・・・・かまいませんわ、魅録なら」
野梨子はそれから、何も言わなくなった。
俺もそのまま、黙ってそばにいた。
ここには何もない。
あるのは俺と野梨子と桜の木だけ。
膝をかかえ、目を閉じる。
俺は刹那、永遠を願う。
このまま時が、止まってしまえばいい。
もう少し、ここへいよう。
きっと、好きになる。
この場所も。
野梨子も――。
以上です。
ありがとうございました。
大好きな桜シリーズで男性版も読めるなんて嬉しい。
女性陣と違って、桜は出会いの花なんですね。
(1)のスネッ子みたいな魅録が可愛くて良かったですw
>桜 〜魅録〜
おお、男版が!
女版とはつながっているんでしょうか。
だとしたら魅録→野梨子が魅録→可憐になっていくのか!?
短いレスの中にもストーリーが詰まってて
いろいろ想像してしまいます。残り二人も読みたいです。
暴走愛うpします。
昼ドラ泥沼系ですので、苦手な方はスルーお願いします。
清四郎×可憐です。
>>446 自らの乗るタクシーが菊正宗病院の夜間入り口に横付けされた時も尚、清四郎は自問していた。
来てよかったのか、来るべきではなかったのではないか。
昼間は大勢の患者で賑わっている院内も、今は一部を除いてほとんど灯りを落とされ
残った一部分に救急外来に訪れた人々が集っている。
発熱したわが子を抱く母親、左手に包帯を巻きぼんやりと座る日雇い風の若者。
診察の順番や薬が出されるのを待つ人々が、お互いの距離を空け思い思いの場所に座っている。
清四郎の視線の先に目指す人物は見つからない。
廊下の角を曲がると、薄暗い一角が広がっていた。
三台並んだ自動販売機だけが煌々と灯りを照らしている。
その白っぽい灯りを浴びて彼女は立っていた。
販売機にじっと目をやりながら、その瞳はずっとその奥を見ているようで虚ろである。
声をかけると、驚いたように可憐は清四郎の方をぱっと見た。
「お母さんは」
清四郎の問いに、ため息をつくとまだわからない、と首を微かに振った。
ゆるく微笑むと販売機を指し「何か、飲む?」と聞く。
飲み物を口にするような心境ではないので断ると、彼女はそうね、と軽くうなずく。
それから何も話す気は無くなったようで、再び販売機の光をじっと見ている。
「座りましょう」と清四郎は可憐を促したが、彼女はその言葉が耳に入らないように呟いた。
「ここに連れてきてよかったのかな、ママ」
清四郎が黙っていると、可憐は更に言葉を継ぐ。
「……よかったのかな」
大きく息を吐き出すと、続きを言いたくないとばかりに唇をきゅっと引き締める。
だが胸から込み上げてくる感情が唇を震わし、どうしても彼女に続きを言わせようとする。
「あのまま……眠らせてあげた方が……よかったのかな」
途端、言葉とは裏腹に、母を失いたくない気持ちが可憐の瞳から熱い涙となって零れ落ちた。
涙を零す可憐に駆け寄りたくなる衝動を清四郎は堪えていた。
清四郎の体には自ら巻きつけた自戒の念が重く圧し掛かっている。
だが、それを引きずっていっても尚、彼女を抱きしめたいという気持ちと必死で清四郎は闘っている。
「そんなことはないですよ」
やっとのことで自分を抑えた清四郎は、そっと彼女の肩に両手を置き、相手を落ち着かせるように微笑んだ。
「そのままお母さんを死なせたら、絶対後悔する。でしょう?」
ゆっくりと可憐は顔を上げ、清四郎を見た。
昂ぶった感情を封じ込めようとし、唇を震わせながら彼の言葉に頷く。
「……そうよね」
だが再び涙は零れた。
彼女の両肩に置いた自分の手が震えている。
清四郎は息を細く吐いて乱れた呼吸を整えようとした。手が麻痺していた。
小刻みに揺れる手に感覚を取り戻そうとして、清四郎は可憐の肩から手をすべらせ彼女の両腕を掴んだ。
柔らかい感触を手が感じると、安心すると同時に果たしてこの感触は確かであろうかと彼の胸が疑った。
彼女の柔らかさを胸で感じたいと思った。
「ありがとう」
可憐の声で我に返る。彼女は涙を拭うと、照れたように力なく微笑んでいる。
「来てくれてありがとう。さっき電話で『行けない』って言ったじゃない。来てくれないと思ってたわ」
「そう言わないと、可憐がいつまでも救急車を呼ばないと思ったからですよ」
「……そうね。パニックになってたから。清四郎に怒鳴られて、目が覚めたわ」
彼の手の温かさを嬉しく思いながら、その温かさから体を離そうとした。
そうするべきだと思えた。いつまでも彼を恋しがっていてはいけない。
次の瞬間、清四郎の胸に自分の頬が押しつけられるのを可憐は感じ、瞳を見開いた。
逃れる鳥を捕縛する網のように清四郎の腕が彼女を捕らえていた。
自分の腕が可憐を絡みとっているのに気づき、清四郎は動揺した。
動揺する思いを余所に、彼の腕は喜びに震え戦慄(わなな)いている。
戒めを引き解こうとする彼に逆らい、腕は益々彼女を強く抱きしめる。
清四郎の瞳を可憐が窺っていた。
うろたえながら彼は一層彼女を抱きしめ、言い訳のように呟いた。
「大丈夫ですよ、可憐。大丈夫」
その言葉に彼女は、彼の抱擁を納得したようだった。
安心したように体から力が抜け、そっと清四郎に身を委ねてくる。
「うん……大丈夫だよね」
可憐は母の無事を願い、瞳を閉じた。
優しい友人の胸は温かくて、ほっとして新たな涙が湧き上がってくる。
仄かに感じる清四郎の息づかいに恋情が呼び起こされそうになる。
だが、これは同情なのだ、勘違いしてはいけない、彼の優しさなのだ。
一抹の寂しさを感じながら、それでも彼の温かさを愛しく思い胸に頬を寄せた。
柔らかく豊かな可憐の髪が清四郎を夢幻の境地に誘う。
何をやっているんだ、僕は。切り落としてしまえ、この罪深い腕を。
これ以上罪を重ねるのか、愚かなこの自分よ。
どこか遠いところから、彼女は今助けを求めている。僕はただ友人を慰めているだけだ、という声が聞こえる。
彼女の髪が香り、清四郎は瞳を閉じた。違う、慰められているのはこの僕だ。
いつかあの薔薇園で見た、朱の花が目の前に次々と華開いていく。
薄暗い病院の中で、堂々と咲き誇る軽やかで艶やかなあの花を、確かに清四郎は見た。
フリュイテ。
闇の中に咲き乱れる朱の薔薇に囲まれ清四郎はうっすらと悟る。
そうだ、僕は。
彼女に恋をしている。
なぜ今まで認めようとしなかったのだろう。
ただ一時の気紛れだと、ただ仮染めの逢瀬だと、ただ若さの過ちだと、自分で自分に思い込ませようとした。
認めてしまえば、こんなにも嬉しく、
――こんなにも辛い。
僕らはすでに滅んでしまった。
育むこともせず、慈しむこともせず、互いに互いを貪り合ってすでに根っこを失ってしまった。
だからこの腕の中にある彼女はほんの一時で、瞬きをすればもう僕のものではないのだ。
そう思うと清四郎は再び可憐を強く抱きしめた。
清四郎の抱擁が友人のそれではないことに可憐は漸く気がつく。
彼の唇が自分の額に触れ、頬に触れたので気が遠くなりそうになった。
可憐はゆっくりと顔を上げた。清四郎の瞳にいつか見たあの色が、あの時は混沌として判別でき
なかったあの色が、あでやかに艶やかに色づいているのを悲しい気持ちで見つめる。
嘘。その瞳の色は嘘よ。もう私を惑わさないで。
彼の手がそっと可憐の髪をかきあげ頬に触れる。
ゆっくりと彼の唇が近づく。
彼の息がかかりそうだ。
「同情ならやめて」
彼の唇の表面が可憐の唇の表面に触れて止まり、彼女の身体に電流が流れ出す。
「野梨子が……」
ほんの少し抗うように首を振る。だがそうすることで唇は唇と触れ合い、熱を生む。
互いに視線をそらし、ただ唇だけが話をするかのようにわずかに触れている。
やがて深く唇が重なると、可憐は唇から全身が溶けていく錯覚に陥った。
何も始まりはしない。
終わりもしない。
あまりにも刹那的な触れ合いは俗悪で、愚かな自分に可憐は泣いた。
だが彼の舌は熱く、耳朶の後ろから首筋をぞくりとした快感が走る。
清四郎は可憐の唇を惜しむように、全て持っていこうかとするように、何度も唇を重ねた。
神様。
神様、と同時に二人は願った。
どうか、私たちを罰してください。
誰かを傷つけ苛んで、それでもまだ互いを欲する愚かな私たちを。
彼女に触れて喜ぶ指を。彼に触れて喜ぶ唇を。
お互いに触れて喜ぶ心をどうか罰してください。
どうか。 神様。
神様。
続く
>横恋慕
どなたかも書いてましたけど不器用な清四郎がよいですね。
もどかしいけれど、こういうタイミングのズレからくる
いき違いって、なかなかやり直しが難しいんですよね。
迷ってるうちにどんどん別の方向に走り出しちゃったりして。
続きを楽しみに待ってます!
>桜
まさか男の子バージョンまで拝めるとは!
ありがたや〜ありがたや〜
大好きなシリーズなので男性陣の視点でも読みたいなぁと
思っていたので嬉しいです。
でも女の子バージョンの別視点ではないところが心憎いw
そこから女の子バージョンへと進む過程に想像力がかきたてられます。
美童や清四郎バージョンも楽しみ!
このパターンでいくと、美童は悠理、清四郎は可憐なのかな?ワクワク
>暴走愛
きたよ きたよ きましたよ〜!
リアルで昼ドラ見ながらの遭遇でした。
いつもながら情熱的で昼どら好きの主婦にはたまらんです。
この調子でがんばってドロドロしてください。
さぁ今後の展開は!野梨子の登場待ってます。
おお、土壇場にきて「暴走愛」の続きが!
いつもながら、まるで詩のような作品ですなぁ。熱いわ〜。
実は清×可は趣味じゃないんだけど、この文体に惹かれて読んでまつ。
スレの残り容量が微妙なところではありますが清→悠 がベースな短編をうpします。
嫌な方はスルーお願いします。
その男の顔はどこかで見覚えがあった。
それはうちの病院であったか、それとも僕がおじさんの代理で剣菱を動かしたときのことであったか……、
ここは剣菱主催のパーティー会場。たぶん後者であろう。
「今、悠理を助けた方……わたくし、どこかでお会いしたことがあるような気がするのですけど」
僕の隣で、ほどけた帯締めを手早く結びなおしながら野梨子が言う。――野梨子も?
僕が何かを言うよりも早く、頬を高潮させた可憐は野梨子に迫っていた。
「ええっ? ちょっと野梨子!知り合いなら私に紹介してよ!」
やれやれ、相変わらずなお嬢さんだ。
だがその気持ちもわからなくはない。と、僕は悠理のそばで微笑むその男に視線を走らせた。
スラリと背が高く、顔もかなりの美形だ。それだけでも可憐のハートを掴むには充分だが、
何よりも周りにいる剣菱のお偉方がこぞって彼を取り囲み媚びた笑みを浮かべている。
その意味するところは――
おそらく、その外見の若さからは想像もつかないが、かなりの有力者なのであろう。
玉の輿に乗るには格好のターゲットだ。……まぁ、彼が独身ならばの話だが。
「それにしてもたいした腕だったなぁ、一瞬のうちに5人を倒しやがった。何者だよ?あいつ」
つい今しがた威勢良く放り投げた上着を、今度はうって変わった緩慢な動作で拾いあげながら
魅録は嘆いた。
「魅録も清四郎も出る幕なしだったもんなぁ」
美童は僕らに向かって揶揄するように言いながら さりげなくテーブルの上に蜀台を戻した。
――そういえばあの時、視界の片隅で蜀台を掴んで走り出た金髪を見た気がする。
いつもなら喚くだけの美童が? いやまさか、そんなはずはないだろう。
ふと脳裏をよぎった想像を打ち消して、僕はにこやかに彼のセリフをかわす。
「まぁ彼がいなくても魅録の活躍で僕の出番はなかったでしょうがね」
「ごめんなさいね、清四郎」
「謝るのは僕の方ですよ、こんな公の場所で野梨子に恥をかかせてしまいましたね」
「あら、大丈夫ですわ。みんな今の騒ぎで誰も私のことなど見ていませんでしたもの」
確かにそうだ。
野梨子の言う「今の騒ぎ」とは、ほんの5分ほど前にこの会場で狼藉者たちがおこした事件だ。
彼らはごく控えめに会場に入り込み、そして万作おじさんが重大な発表をしようとしたまさにそのとき、
奇声をあげて刃物を振り回し、悠理を人質にとった。
さすがのじゃじゃ馬娘も不意を突かれての格好となった。
だがそこで大人しくしている悠理ではない。余計な抵抗を試みた為に極度の興奮状態にある犯人を
逆上させてしまい、悠理の頭上高くに鈍く光る刃物が振り上げられた。
その瞬間、魅録は上着を脱ぎ捨てて駆け出し、僕も同時に駆け出そうと腕を振った、ところが
なんとも間の悪いことに僕のカフスボタンが野梨子の帯締めにひっかかり、その結びを解いてしまった。
腕にからんだ帯締めと形は留めながらも緩んだ丸帯、そして野梨子の小さな悲鳴が僕を足止めした。
魅録!!
僕はもっとも信頼する親友に望みを託して視線を騒ぎの中心に移した。すると――、
そこではどこかで見た覚えのある男が見事なまわし蹴りと右ストレートで犯人達をアッという間に倒し、
威勢良くダッシュしたはずの魅録は所在なさげに立ち尽くしていたのであった。
「で? 誰なのよ〜あの人! 早く思い出しなさいよ!!」
「そう急かされましても……」
野梨子が眉をしかめて遠い目をする。
その視線の先に、例の男の首に抱きつく悠理の姿が見えた。
自分でも抑えがたい怒りが喉元にこみあげ、こめかみに鈍い痛みが走った気がした。
「そんなに気になるなら自分で尋ねたらどうです? ほら、行きましょう」
「え? ちょ、ちょっと清四郎!」
僕はなかば強引に可憐の腕をとり悠理と彼に向かって歩き出していた。
「もしも彼が独身ならば、僕が応援しますよ」
「どういう風の吹き回し? なんだか気持ち悪いわねぇ」
……いつも思うが自称恋愛の達人の割には案外ニブイ女だ。
まぁ、そこがこの女の可愛いところなのだが。
「人の厚意は素直に受け取っておけよ、可憐。オレだって応援するぜ?」
いつのまにか隣には魅録が並んで歩いていた。
「……どういう風の吹き回しですか?」
「それは私が聞いてるのよ!」
上目遣いで僕を睨む可憐に笑いながら、魅録は僕の問いには答えなかった。
―ツヅキマス―
>桜
男の子Ver.本当に嬉しいです。
目の前に桜が見えるような表現が大好き。
740タンの言うように女の子の方の別視点じゃないことに
センスを感じます。
>暴走愛
私は清×可大好きなので(というより趣味じゃないCP
が一組しかないw)胸焦がしながら読んでます。
このままくっついて欲しい、と思ってしまう…。
>思わぬ伏兵
>……いつも思うが自称恋愛の達人の割には案外ニブイ女だ。
ここに爆笑しました。確かに、可憐ってそういうところがありますよねw
ストーリーの方は、男性3人とも悠理に・・・なのでしょうか。
続きが楽しみです。
>思わぬ伏兵
テンポがよくて、なんかスキ!
続きがたのしみ♪
>698の続きです。
ピーンポーン。
インターフォンの音にドキッとする。
思わず、壁の時計に目を遣る。
宅配便が来るとしても、遅すぎる。
女のひとり暮らしと知ってのいたずらだろうか。
とりあえず、何も聞こえなかったかのように無視すればいい。
ピーンポーン。
まだ、いるのだろうか?
……どうしよう。
警察に電話するべきかしら?
でも、どんなひとがいるのか見てみたい気もする。
ええ、ドアさえ開けなければ、大丈夫。
私は恐る恐る玄関へと近づいていき、ドアスコープを覗いた。
「ごめんな、こんな遅くに……」
私がドアを開けると、魅録は廊下の壁に凭れて視線を下に向け、済まなさそうに言った。
いったい何の帰りかはっきりしない服装をしている。
ネクタイは締めてなくて、でも白っぽいシンプルなシャツと黒っぽいスラックスに上着。
そして仄かに、アルコールの匂いがする。
私は何と声をかけてよいのやらわからず、ただ魅録を見ている。
「やっぱ、非常識だよな。……俺、帰るわ」
私の無言を非難と受け取ったのか、魅録はおもむろに壁から身体を離してエレベーターの
方に歩き始めた。
魅録が背中を向ける寸前、魅録と目が合う。
私の心の奥底から、何かが湧き上がってくる。
「……待って! 待ってくださいな!」
私は玄関から廊下に出て、魅録を呼び止めた。
魅録の後ろ姿が一瞬ビクリと震え、靴音が止まる。
私の心臓は鼓動が速まっている。
言葉を継ごうにも、苦しくてどうにもならない。
じっと魅録の背中を見つめることしか出来ない。
「野梨子……」
魅録が、振り向いた。
少し前かがみの姿勢で、ゆっくりと私の方に近づいてくる。
熱を帯びた眼差しが、私を緊張させる。
魅録の息遣いが感じられるほどになった時、私はドアを開けた。
「……どうぞ」
「いいのか?」
魅録が躊躇いがちに訊いてくる。
「ええ……」
【続く】
>サヨナラ
またまたいいところで【続く】
作家さんのイケズ〜w
>サヨナラ
イケズ〜wその2
>サヨナラ
イケズ〜(w その3
>サヨナ(ry
イケ(ry その4
>サヨナラ
仄かに、アルコールの匂いがする魅録萌え〜
続きが気になって眠れないよ〜
>サヨナラ〜
イケズコールに爆笑w
こっそり、も一回イケズ〜〜〜
>桜
やった!う、うれしい。でも魅録、なんで野梨子?
清四郎は?美童ちゃんは?
ああ、もしかして作者さんの頭には、続きの続きがあったりするのでしょうか・・・
>思わぬ伏兵
好きだ。こういう展開。しかも清四郎目線だし。
続きを待ってますね〜。
>753
>サヨナ(ry
に禿ワロタよ。
>サヨナ(ry ←気に入ったらしいw
なんてオイシイところで終わってるんだぁ!
そりゃみんな悶死しますわw
続きを一刻も早くプリーズ!!
>思わぬ伏兵
清四郎が野梨子の帯で足止めをくった後の
魅録に望みを託すあたりの描写が好きv
清四郎が魅録を信頼している感じがイイ!
あと20K位いけそうだね
遅ればせながら、暴走愛待望の続きが読めて嬉しい。
清×可好きにはたまらん展開!ああ、本当にこのまま
素直にくっ付いちまえオマイラ!!って感じです。
もどかしさにドキドキしつつ、続きお待ちしてます。
>>759 素直にくっついたら面白くないよ>暴走愛
確かに暴走愛の魅力はドロドロ展開。
これからどんなふうに清×可が壊れてゆくのか楽しみでつ(鬼)
「受難の日」「ついてない日」は確実にある。ということを、
今日の美童は実感していた。
まずは、傘を忘れたこと。
出張先からそのまま向かった旅行先で、ものの見事に雨に降られた。
『今日の午後からは雨が降るっていうわよ!気をつけてね。』
昨日電話で可憐にいわれていたのに、わかったわかった、と聞き流していたために、
今の状態=濡れ鼠になってしまっている。彼自身で評するなら、
「水もしたたるいい男」という状態。これだけならまあ「ついていない」程度。
2つ目は、それとはまた趣向が異なる。
仕事から予定よりはやく帰れたためそのまま剣菱家の別荘へ向かえることになり、
一日はやく可憐の顔も見れるかと思っていたのに。なのに。
何故か愛妻可憐さんの「忘れ物をしたから今からもどらなきゃならないの。
悪いけどやっぱり一日遅れるわ。」の台詞で見事ささやかな望みが
しぼんでしまったこと。
可憐の言葉に、自分もじゃあそっちに帰るよ・・・というと。
「いいから、先に行ってて。大事なものなの!!!」
と全力で押し留められる。
こうなったらもう「わかったよぉ・・・」と引き下がるしかない。
・・・・完全に尻にしかれている。
仕方なく、ひとりで向かった親友の別邸。
雨は、ますますひどくなってくる。さっきまでは白糸のような小降りだったのに。
びしょびしょになりながら、歩みをすすめる。
―寒い・・・。 やっぱり先に家に帰るべきだったなぁ・・・。
でかけていた先が暑いところだったため、薄着なのがまた痛かった。
―・・まいったなあ。ほんとに。
はああ。もうずぶぬれだよ。 ついてないなあ〜。ついたらはやくシャワーあびて、お風呂であったまろ。
剣菱家の別荘にしては品の良い建物の中に入ると、真っ先に目指したのはバスルームだった。
前にきたことがあったため、記憶をたどってなんとか目的の場所にたどりついたものの、何故か扉がしまっている。
―あれ・・・?誰かいる・・・?
先客がいるなら、はやく出てもらおうと思い、ノックをしようと近づいた瞬間。
耳に入ってきたのは美童のこれからの受難の原因だった。
中から聞こえる音、そして・・聞き覚えのある声。
―ひとり言・・・いや・・・違うこれは・・
「お前、前髪少し伸びたか・・・?」
―・・・悠理・・・?
「そうかもしれませんね」
―こ、この声、清四郎!!
「下ろしてるとこ、割と好きだぞ。」
「それならこれからはずっと下ろしていましょうか」
笑いあう雰囲気。
キュ、という栓をひねる音がして、ほどなくシャワーの水音が聞こえはじめる。
どええええええええ?
ちょ、ちょっと待てよお!!
清四郎に悠理? なんで二人が!
ま、まあ結婚してるんだから・・・ 悪いとはいわないけどさあ・・・
・・・とはいえ何もこんな状況で仲良くしてなくてもいいじゃないかア〜。
季節はもう秋。この時期の雨は残酷なまでに冷たい。
もうすでに震えてきているので、美童としては一刻もはやくあたたまりたい
気持ちで一杯である。
しかし、こういった場合どういう行動をとるか、は人によって異なる。
ここでもし、彼の愛する可憐ならどうするか。
『あんたたちぃ〜、いつまでらぶらぶしてんのよぉ?!
冗談じゃないわよ、こっちは寒いのよ?!はやく出てきなさいよぉ!』
などと言って、ドンドンと扉をたたくといったところだろうか・・・。
ここにいる彼の場合はかなり違った。だいぶ違った。
いや、180度違ったかもしれない。
もともと心優しいだけでなく、恋愛の機微・タイミング・雰囲気を
誰よりも心得ている?美童である。
ましてや友人である二人の邪魔など、できる訳がなかった。
こういった性格の違いも、二人をうまくいかせている要因かもしれない。
とはいえ、美童のこの性格は今日の場合非常につらかった。
ふるえながら、その場にしゃがむ。
はやく出て欲しい、あたたまりたい、と願いながら・・・。
中の声が聞きたくなくても聞こえてくる。
甘い時間を過ごす二人には、外に凍えそうな人間がいることなど
考えにも及ばなかった。
特に清四郎のほうは、悠理に甘えられてこの時すこぶる機嫌が良かった。
白いはりのある体を抱き締め、見つめていた。
そんな男の視線に、悠理は不思議そうに相手を見やる。
「どうしたんだよ・・・?」
その一瞬で、彼は何かを決めた。
「身体、変わってきましたね・・・」
「も、もう洗うとこは・・・」
「もう大丈夫ですよ・・・それよりもう少し、足を開いてください・・・」
「は? あし・・・ /////////オイ!変なこと考えてないだろうな!!!」
「おや? なんですか」
「とぼけたってダメだかんな。開くわけねーだろ!!///////////」
「どうでしょうねぇ。何に関しても今までそういって何度違うことを
してきたことか。ねぇ?それこそ付き合っている当初から数えればゆうに
20000回は越すでしょうね。悠理の言葉も当てにならないもんです」
「お、お前なぁ・・・」
「どちらにせよ、この状況で我慢できるわけないでしょ」
―?! やめてくれよぉ〜!! それは出てからゆっくりして!!
お願いだぁ・・・風邪ひいちゃうよぉ・・・(ブルブルブル)
にっこり笑って、「では僕は悠理の様子をみてきます」と部屋を出ていく。
―誰のせいだと思ってるんだよぉ。
お前らが甘いあまあいシャワーの雨を浴びてる間、ホンモノの
雨に打たれた僕はもう凍えるような思いをしたんだぞ!!
心なしか、いつもより爽やかに見える清四郎がにくい・・・。
「悠理はお風呂でのぼせて今ぐったりしてますのよ。」
「あいつもしょうがねえよなあ〜。じゃあ食堂で食べられるのは
俺たちだけかあ。せっかく野梨子が腕をふるったのにな。」
「仕方ありませんわ、魅録。」
「まあ、今日は残念だけど、まだ日にちはあるしな。二人の食事を楽しむか、な 」
「///// ええ・・・・そうですわね」
この二人もさりげない会話の中で交わされる視線が熱い・・・。 (最後の台詞は耳元で囁いてるな。)
聞こえてるよ、ばっちり。
ああ、でももうからかう力も目を開ける筋力も残ってない・・・
「へーーーくし!!!」
誰もいなくなった部屋に、盛大なくしゃみの音が響いた。
鞄の中から、綺麗な色の包みがのぞいている。
結婚して半年の記念品。どうしても、可憐にぴったりなものを見つけたくて、
市内を走りまわった。
こんな姿見たら、また怒るのかな?
情にもろくて、誰よりも優しくて、すごくたくましい。
無敵で、最高の女の子。
―これからも、傍にいて欲しい。
不意に、あたたかな気持ちにつつまれた。
―あぁぁ、可憐に会いたいなあ。
いったいどうしたんだろ、忘れ物って・・・・。
はやく会って渡したいのになぁ・・・・。
どんな顔をするだろ。ずっと欲しがってたもんな。
たまには、こんな豪華なプレゼントも良いよね。
きっと可憐に似合うは・・・・・・・ず・・・・
清四郎の薬は、とても良く効く。
翌朝には、彼の具合も大分よくなっていることだろう。
うとうとと眠りこけた受難者の携帯が、スウィートな着信音を立てて鳴り響いた。
画面に映し出されたのは勿論、愛しい彼女の名前。
どうもでした♪
◇◆◇◆有閑倶楽部を妄想で語ろう19◇◆◇◆
1
ここは一条ゆかり先生の「有閑倶楽部」が好きな人のためのスレッドです。
お約束
■sage推奨 〜メール欄に半角文字で「sage」と入力〜
■妄想意欲に水を差すような発言は控えましょう
*作品への感想は大歓迎です。作家さんたちの原動力になり、
スレも華やぎます。
前スレ、関連サイト、お約束詳細などは>2-10のあたりにありますので、
ご覧ください。特に初心者さんは熟読のこと!
◆作品UPについてのお約束詳細(よく読んだ上で参加のこと!)
<原作者及び出版元とは全く関係ありません>
・初めから判ってる場合は、初回UPの時に長編/短編の区分を書いてください。
・名前欄には「タイトル」「通しナンバー」「カップリング(ネタばれになる
場合を除く)」をお願いします。
・性的内容を含むものは「18禁」又は「R」と明記してください。
・連載ものの場合は、二回目以降、最初のレスに「>○○(全て半角文字)」
という形で前作へのリンクを貼ってください。
・リレー小説で次の人に連載をバトンタッチしたい場合は、その旨明記を。
・作品UPする時は、直前に更新ボタンを押して、他の作品がUP中でないか
確かめましょう。重なってしまった場合は、先の書き込みを優先で。
・作品の大量UPは大歓迎です!
◆その他のお約束詳細
・無用な議論を避けるため、萌えないカップリング話であっても、
それを批判するなどの妄想意欲に水を差す発言は控えましょう。
・作家さんが他の作品の感想を書く時は、名無しの人たちも参加
しやすいように、なるべく名無しで(作家であることが分からない
ような書き方で)お願いします。
・あとは常識的マナーの範囲で、萌え話・小ネタ発表・雑談など
自由にお使いください。
・950を踏んだ人は新スレを立ててください(450KBを越えそうな場合は
950より前に)。
他スレに迷惑にならないよう、新スレの1は10行以内でお願いします。
…これ、某ファンサイトですでに発表されてる話だよね。
勝手にコピペはよくないよ。
<職人さんと住人、ROMの良い関係を築く為の鉄則>
・職人さんが現れたらまずはとりあえず誉める。
・その職人が凄腕、もしくはあなたの気に入ったなら「神」「ネ申」と呼んでみよう。
・「神キタ━━(゜∀゜)━━!!!」には時折AAも織り混ぜつつどこが良かったとかの感想も付け加えてみよう。
・上手くいけば職人さんも次回気分良くウp、住人も作品を見れて双方ハッピー。
それを見て漏れも、と思う新米職人が現れたらスレ繁栄の良循環。
・新米やいまいちな職人さんには出来るだけ具体的かつ簡潔に扇りだと思われないように注意しつつその理由をカキコ。
・それを踏まえての作品がウpされたら「良くなった」等の言葉を添えて感想をカキコ。
・それだけやっても投稿がしばらく途絶えた時は「神降臨期待」等と書いて保守。
・住民同士の争いは職人さんの意欲を減退させるのでマターリを大切に。
<これから職人になろうと思う人達へ>
・いきなりスレを立てたりせずにまずはスレタイ一覧をチェック、気になるスレは最低限>1を見ておこう。
>1とは違う流れのときも多いから自分が投稿しようと思うスレは一通り読んでおくのは基本中の基本。
・下手に慣れ合いを求めずにある程度のネタを用意してから継続してウpしてみよう。
・レスが無いと継続意欲が沸かないかもしれないが宣伝、構って臭を嫌う人も多いのであくまでも控え目に。
・職人なら作品で勝負。下手な言い訳や言い逃れを書く暇があれば自分の腕を磨こう。
・扇りはあまり気にしない。ただし自分の振る舞いに無頓着になるのは厳禁。レスする時は一語一句まで気を配ろう。
・あくまでも謙虚に。叩かれ難いし、叩かれた時の擁護も多くなる。
・煽られたりしても興奮してカキコ、自演する前にお茶でも飲んで頭を冷やしてスレを読み返してみよう。
扇りだと思っていたのが実は粗く書かれた感想だったりするかもしれない。
・そして自分の過ちだと思ったら素直に謝ろう。それで何を損する事がある?
喪前が目指すのは神職人、神スレであって議論厨、糞スレでは無いのだろう?
もう一つコピペ。
こちらは賛否両論あったので、参考になるかどうかは微妙かもしれません。
元ネタの傾向や住人層が全く違うスレを幾つか見てるけど、
大量投下していても殆ど叩かれないコテというのも確かにいる。
大雑把に見て、叩かれるコテとそうでないコテの差って↓みたいな印象だった。
【叩かれにくいコテ】
・基本的にコテ名乗るのは投下前後のみ
・読者の感想に対するレス→ひと通り感想がついた辺りで、全レスではなくまとめてお礼
・(今後の展開、執筆状況等)質問への回答
→「それはお楽しみという事で」「ご想像におまかせします」「考えてるんですが書くのが遅くて(ニガワラ」系のさっと流したレス
・萌え話や雑談に参加するときは名無し
・(版権ものの場合)他の板の作品スレや、エロパロ板内の同系統スレにおいて
「実はエロ板(or●●スレ)でSS書いてる」等の正体ばらし等、自スレの事を他に持ち込むような行動をしない
【叩かれやすいコテ】
・感想に全レス(しかも一人あたり数行の、やや長めのレス)
・コテのままで、他のコテとはっちゃけた萌えトーク
・長文になりやすい質問に対して「今度は△△と××に※※させてみようと思ってます〜」
「××みたいなシチュエーションもいいですねー」と次回予告モードや語りに入る
これに「〜な話も書きたいんですが(思いついたんですが)読みたい方います?ていうか
こんな特殊なシチュ見たい人いるんだろうか」系の誘いうけが入ると最強
・でつまつや2ch語、一行AAの多用など、普段使わない言葉を多用
・「続きマダー?」系の、執筆状況についての軽い質問に対して
「書いてる途中にフリーズしますた。バックアップ取ってなかったのにー・゚・(ノД`)・゚・
USBケーブルで吊ってきます…_| ̄|○テイウカハヤクネロジブン」等、1に対して10の勢いで答えが返ってくる。
<作家さんと読者の良い関係を築く為の、読者サイドの鉄則>
・作家さんが現れたら、まずはとりあえず誉める。 どこが良かったとかの感想も付け加えてみよう。
・上手くいけば作家さんは次回も気分良くウプ、住人も作品が読めて双方ハッピー。
・それを見て自分も、と思う新米作家さんが現れたら、スレ繁栄の良循環。
・投稿がしばらく途絶えた時は、妄想雑談などをして気長に保守。
・住民同士の争いは作家さんの意欲を減退させるので、マターリを大切に。
<これから作家(職人)になろうと思う人達へ>
・まずは過去ログをチェック、現行スレを一通り読んでおくのは基本中の基本。
・最低限、スレ冒頭の「作品UPについてのお約束詳細」は押さえておこう。
・下手に慣れ合いを求めず、ある程度のネタを用意してからウプしてみよう。
・感想レスが無いと継続意欲が沸かないかもしれないが、宣伝や構って臭を嫌う人も多いのであくまでも控え目に。
・作家なら作品で勝負。下手な言い訳や言い逃れを書く暇があれば、自分の腕を磨こう。
・扇りはあまり気にしない。ただし自分の振る舞いに無頓着になるのは厳禁。レスする時は一語一句まで気を配ろう。
・あくまでも謙虚に。叩かれ難いし、叩かれた時の擁護も多くなる。
・煽られても、興奮してレスしたり自演したりwする前に、お茶でも飲んで頭を冷やしてスレを読み返してみよう。
扇りだと思っていたのが、実は粗く書かれた感想だったりするかもしれない。
・そして自分の過ちだと思ったら、素直に謝ろう。それで何を損する事がある?
目指すのは神職人・神スレであって、議論厨・糞スレでは無いのだろう?
誘導ついでに、鯖移転の時のかちゅ〜しゃのことを書いておきまつ
(知ってる人も多いでしょうが)。
下記のやり方をすれば、今までのログなどをそのまま持っていけます。
1.かちゅを一旦終了させ、かちゅのフォルダに行く
2.「2channel.brd」をメモ帳・EmEditorなどを使って開き、「ネット関係」の項目にある
「難民」の「corn.2ch.net」を「choco.2ch.net」に置き換える
※難民板のスレを「お気に入り」に入れている場合:「favorite.idx」で同様の作業
※難民板のスレを「スレッド倉庫」に入れている場合:該当倉庫名のidxで同様の作業
3.かちゅフォルダの中の「log」フォルダに行く
4.「corn.2ch.net」フォルダ内の「nanmin」フォルダを、「choco.2ch.net」フォルダに移す
(「log」フォルダ内に「choco.2ch.net」フォルダが無い場合は、新しく作って移す)
5.「nanmin」フォルダの中にあるidxで2.と同様の作業をする
6.かちゅを起動させて動作確認する
◎ここで出た話をまとめてくださっている「有閑倶楽部 妄想同好会」が
もうすぐ10万ヒットです。
そこで10万ヒット記念として、リクエスト大会を開催します。
嵐さんに感謝をこめて、作家も読者も普段はROMラーもこぞってご参加ください
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○リクエスト
・今日から妄想同好会が10万ヒットに達するまでの間、誰でも作品リクができる
例)「○○を書いてた作家さんに、その後日談話をきぼん」
「○○の作者さんに、□□×▽▽のSSをリクエストしまつ」
「誰でもいいので、△△なシチュを書いて欲しい」
・リクエストは、本スレではなく「まゆこ」スレへ書く
・ただし、現在連載が続いている作品の作家さん(※)とサイト持ちの作家さん
への名指しのリクエストは不可(作家さんが断り難いかもしれないから)
・リレー小説の作家さんへのリクエストは可(書いた作品のレス番を指定のこと)
※妄想同好会の目次でハートマークがついてる作品
○リクエスト作品のウプ&感想
・リクエストの中で書けそうなものがあった作家さんは、10万ヒットした日から
2週間くらいを目安に、本スレに作品をウプ
・感想も本スレへ
○パス権
・リクエストされた作家さんにはパス権あり(レスせずスルーしてもいいし、断り
レスしてもいい)
・断りレスは「まゆこ」スレへ
・パスしたことでとやかく言うヤシがいたら、他の住人がたしなめること
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では今からリクスタートでお願いします。
776です。
テンプレに割り込んだ形になってスマソ…
っていうか、何故ここにテンプレをコピペ?
まゆこスレが何のためにあると思ってるの?
しかもまゆこスレで相談された個所、修正されてないし。
>781
いつのコピペだよ
次スレへの移行が迫ってきたら、不思議なことになってますね・・・。
早く埋め立ててしまいたい、ってことなのでしょうか??
とりあえず次スレどうする?
いつdat落ちしちゃうのかなあ?
誘導間に合うだろーか・・・汗
いつのまにか全身にじわっと汗がしみ出している。魅録の手の動きは止まるどころか
どんどん大胆になってきた。山から谷へ。低いところから高いところへ。感じるところ、
そうじゃないところ。男の手は悠理のほっそりとした身体の秘密を全て明らかにしようと
言うかのように動き続けていた。悠理は規則正しく息をするだけで精一杯だった。
その唇を魅録の唇がさらう。悠理の口の中に彼の舌が滑り込んできた。
(魅録……)
「汗いっぱいかいてるな。脱がせてやるよ」
大きな手が彼女のTシャツを脱がせにかかっている。
「……!」
あせった悠理は寝ながら抵抗しているふりをして彼の手を振りほどきにかかる。
ごす。うっかりアッパーカットが魅録の顎に入ってしまった。
軽くとはいえ、魅録はしばらく立ち直れない。
「……う。」
魅録は悠理から手を離し顎を押さえている。かなり痛そうだ。しかし、気を取り直して
再び悠理を脱がせにかかる。再び悠理は暴れた。
どす。つい、蹴りが魅録の腹に入ってしまい、魅録は仰向けに倒れた。
(や、やべー。ばれたかも……)
それでも寝たフリを続ける悠理。暴れたためミニスカートが腰までめくれあがっている。
そのまま待ったがシンとしている。薄目を開けようとした時、荒々しく唇が奪われるのを
悠理は感じた。
魅録の手が悠理の腕を強い力で押さえつけている。悠理が試しに体を動かそうとしたが
ビクともしなかった。そのまま強引に悠理にキスを続けている。苦しくなって顔を背け
ようとしたが魅録は許さなかった。舌をからめ、唇を噛む。
(く、苦しい)
さすがに我慢できなくなって、渾身の力を込めて魅録の腕から自分の腕を取り戻し
彼の顔を押しやる。やっと息が出来た。と、目の前にムッツリとした魅録の顔がある。
(あり?)
悠理は自分が目をパッチリ開けているのに気がついた。
「あ、あははは。何か苦しくってさ、目が覚めちゃった……」
弁解する悠理を魅録は引き寄せ再びキスを始めた。
柔らかい髪の中に手を差し入れ、小さな頭を支える。もう一方の手がTシャツをめくり
あげ、「Cacth Me」の文字は読めなくなった。ブラジャーの下に手を潜り込ませ
親指で先端を転がす。
「……あっ……。み、みろく……約束……」
「忘れた。」
魅録はきっぱり言うと悠理の体からTシャツとブラを剥ぎ取った。胸の頂きを口に含んで
舌でもて遊ぶ。悠理の体がピクンと跳ねた。白い肌が薄赤く染まっていく。それでも
悠理は魅録の腕の中から脱走を試みる。体を捻って胸を魅録の口から解放すると、
四つん這いで逃げる。しかし後ろからあっさり魅録につかまって憎まれ口を叩いた。
「何だよ。ツーリングに行かないでほしいっていうのは口だけか」
「口だけじゃないよ。悠理が他の男の側で寝たりするの嫌だよ」
「一緒に寝るわけじゃないよ」
「変なことしないか?」
「へ、変なことって……」
魅録は悠理の温かい部分に手を差し込む。溢れる蜜の中をかき回す。悠理の体がビクッと
した。彼女の瞳が濡れてくるのを見て魅録は再び口づけながら言った。
「こんなこと他の男とはするな」
「し、しないよ。魅録とだけだよ……」
指が敏感な部分をなぞると悠理がかぶりを振る。裸の胸の上を汗が一筋滑って行った。
彼女が衣服を身につけているのは下の部分だけだ。しかし魅録によってそれも奪い取られた。
「それから」
悠理の臍の下に魅録の頭がもぐり込む。密やかな場所に舌を這わせながら、魅録は言った。
「こんなこともするな」
「あ……あっ、あ、あー、んん、ぅん、しっ、しないっよっ。魅録と、だ……け」
散々彼女に身をよじらせた後で、魅録は自分も全て脱ぎ去ると期待で瞳を輝かせる悠理に
言った。彼女の脚を開かせ、意欲満々の自分自身をあてがう。
「それから、悠理!」
「うっ、うん、魅録!どんなことしないの!?」
「こんな、」
「あっ、ちょ、ちょっと待って。別の向きがいいな……」
「ん。」
体勢を変える二人。
「ゆ、悠理。いいか?あのな、」
「うんっ」
「こんなことしたら駄目だぞっ」
「うんっ!!」
トントントン。
「魅録。清四郎です。夜分すみませんが……」
「だっ誰もいねぇーーーーっっ!留守だーーーーーっっっ!!」
「帰れ!帰れーーーーーっっ!」
相手を求める本能が、野梨子を支配していた。
布ごしに触れる手がもどかしい。直接、自分の肌に触れてほしい。
欲望が、わずかに残った理性の声をねじ伏せていく。
「服を・・・脱がせてくださいな・・・」
濡れた目を向け、囁く。自分の発する淫らな台詞を、まるで映画の中の出来事のように受け止めながら。
その瞳に魅入られたかのように、魅録は制服のボタンに手をかけた。
次第に露わになってゆく白い肌は、今はほんのりと上気し、桜の色を帯びていた。
再び魅録の手を自らの胸へと導く。
すでに固く尖った部分に掌が当たり、野梨子はピクンと腰を浮かせた。そこから、痺れるような甘い刺激が体を駆け抜けてゆく。
それは決して不快ではなく、むしろ・・・次の段階へと、野梨子を駆り立てる。
無意識に、手を強く押し当てる。それに促がされ、魅録の手が野梨子のそこを優しく揉みしだく。
野梨子が、熱い息をひとつ吐いた。
体の中心が、切ない。
密やかな部分が、触れられるのを待っている。
魅録のもう片方の手をとる。
「ここが・・・熱いんですの・・・」
スカートの下へと導く。火照りを静めてもらうために。
頭の中に靄がかかっている。閉じ込められた想いが、出口を求めてさまよっている。
ずっと、長い間夢みてきたものが、目の前にあった。
手に入ることなどないとあきらめていた。住む世界が違うのだと思っていた。
何より、彼女には――――あいつがいる。
産まれたときから野梨子と完全な一対をなす男。
自分が認める唯一の男。無二の親友。
彼から野梨子を奪うことなど、できるはずもなかった。
だから、閉じ込めた。気づかないふりをして、その想いに蓋をした。
・・・はずだった。
「ん・・・っ、はぁ・・」
布ごしの優しい指の動きに反応して、野梨子の唇から、かすかに甘い声が漏れる。
魔性を含んだ瞳が魅録を捉えた。
「魅録・・・お願いですわ・・・。私を、抱いて・・」
魅録の中の、最後の箍が外れた。封印したはずの想いが歯止めを無くして一度に溢れる。
その感情の大きさに戸惑う暇もなく、魅録は荒々しく野梨子を抱きしめていた。
腹を空かせた獣のようにその唇をむさぼり、味わう。
顔を離し、鋭い目で野梨子を貫いた。
「野梨子、好きだ。ずっと好きだった」
もう一度強く抱きしめる。野梨子の手が、ぎこちなく魅録の背に回される。
その瞳には、涙が光っていた。
唇を、そっと野梨子の首筋に這わせる。悦びの源を、魅録の舌が辿ってゆく。
野梨子が眉をひそめ、唇を噛んだ。普段は機械をいじっている指先が、今は羽毛のように繊細に野梨子の体をなぞっている。指の動きに合わせ、野梨子の息遣いが次第に早くなる。
胸の頂きを口に含み、軽く転がすように嬲る。野梨子が身を固くし、息を止めた。
「ん・・・んっ・・・」舌の動きに敏感に反応し、時折、堪えきれずに押さえた声が漏れる。
指先はゆっくりと、さっき一度訪れた場所へと向かう。薄い布は、野梨子の温もりと潤みを指先に伝えてきた。軽く、ゆっくりとなぞる。
魅録は野梨子を見つめる。軽く目を閉じ、頬を紅潮させて、甘い息を吐いている。普段の取り澄ました表情からは想像のできない淫らな女の顔をそこに見出し、それが魅録を加速させた。
下着を取り去り、片足を自分の肩にかける。野梨子が、抗議するように身じろぎした。
「・・何を・・・」かまわず、指先でそっとそこを押し広げ、潤んだ花弁にそっと舌を這わせる。野梨子の腰がビクンと跳ねた。
「やっ・・・は、ぁ・・っ!」
細い指先が、支えるものを求めてシーツの上を這いまわる。子供がだだをこねるように腰をくねらせ、しかしそれはますます深い快感の渦へと野梨子を巻き込む。
やがて、小さな波が野梨子に押し寄せた。昂ぶりはそのまませわしない呼吸へと変わり、声にならない声と共に野梨子は体を弓なりに逸らせた。
荒い息をつく野梨子を眺め、魅録はそっと自分の中心を野梨子にあてがった。そこは魅録自身の昂ぶりを素直に示している。
恥ずかしさに顔を背ける野梨子の頬にそっと手を当て、こちらを向ける。
「野梨子、俺を見て」視線を絡ませる。先ほどの自分の痴態を恥じるように、野梨子はまた目を反らせた。
「駄目だ、俺を見るんだ」無理やり、自分の顔を見つめさせる。その眼光は鋭い。乱れた自分の表情を見つめられる恥ずかしさに、野梨子の瞳が潤んだ。
魅録は、これまでによく知る友人のそれではない、知らない男の表情で野梨子を見ている。視線を外さないまま、魅録はゆっくりと、野梨子の中へと分け入った。
お互いの瞳の奥に映る自分自身の姿を見つめながら、二人は次第に溶け合ってゆく鼓動を感じていた。
放課後。菊正宗邸。
夕方のほのかに橙色に染まった光が部屋の中を照らし出している。
野梨子は、コートを脱ぐと清四郎にうながされるままベッドに腰掛けた。
彼は、野梨子の足元の床に片膝を立てて座り込む。
傍らには救急箱が開かれている。
「傷を診ましょうかね。こんなところに怪我をするなんて子供みたいですよ」
たしかにこの年にもなって帰り道に道端で転び膝をすりむくなど、子ども扱いされても仕方がない。
野梨子は黙ったまま、足を前に出した。。
清四郎が傷口に目を走らせる。タイツに穴が開き、そこから血がにじんでいる。
「邪魔ですね。もう履けませんし、構わないでしょう?」
「え?」
彼が何を言わんとしているのか、一瞬計りかねた。
次の瞬間、肌に冷たい金属が当てられる。
しゃきん。
続いて、布が悲鳴をあげた。
その音に、心臓がどくんと音を立てる。タイツが裂かれたのだと、一瞬の驚きの後に理解した。
切れ目から軽く裂かれたタイツは、なるほど治療がしやすいよう穴が広げられている。
スカートを太ももの半ばあたりまで捲り上げると、清四郎は手際よく患部を消毒し始めた。
消毒薬にひたした綿球が何度も野梨子の膝をなぞる。
「いた……」
「我慢してください。すぐに済みますから」
顔をそむけ、まだ終わらないのだろうかと横目で確認する。
彼に破られたせいで、露出した素肌が目についた。
黒いタイツとの対比でやけに白く見え、落ち着かない気分に襲われる。
正方形の大きな絆創膏を貼られ、彼が救急箱に道具を納めだすと、急いでスカートの裾を下ろした。
タイツがひどく伝染しているほかは、落ち着いた姿に戻り、胸を撫で下ろす。
まだ心臓の鼓動は早い。
礼を言って早々に帰ろうと、野梨子は鞄に手をかけた。が、その腕に清四郎の手がからみついた。
「まだ終わってませんよ」
肩を掴まれ、再びベッドの上に座らされる。
「あれだけ派手に転んだんですから。他に怪我をしていないはずがないでしょう」
清四郎の指が野梨子の制服のリボンをするりとほどいた。ボタンが1つまた1つ外されていく。
「どこにも怪我をしていないか、確認させて下さい。少し気になることもありますし」」
「えっ……他は…大丈夫ですわ」
状況がつかめない。戸惑っている間に、上着の前が開かれ、胸元が空気に晒される。
彼の視線が肌の上をなぞっていく。と、腕から制服を抜かれ、キャミソールをたくしあげられる。
軽い開放感は、もしかしたら下着のホックを外されたのかもしれない。
「止めてくださいな、清四郎!」
ここまでされて、野梨子が彼の意図に気づかないわけがなかった。
「……おかしなことをなさらないで」
体を隠すようにして腕を巻きつけ、顔を背ける。その腕に彼の手のひらが重なる。
「……そういう気になるなって方が無理な相談だと思いますよ」
予想通り、耳元で囁かれる言葉は、すでにいつもの睦言の甘さを含んでいた。
「……でも」
心臓が動きが早める。
頭よりも素直な反応だ。野梨子は頬が赤らむのを感じた。
「僕達の他に誰もいないんですから。いいでしょう?」
清四郎は野梨子の腕をゆっくりとほどく。
そのまま彼に口づけられると、野梨子の体からは、自然と力が抜けていた。。
「とりますよ」
ピリッと音がして、右足が軽くなる。タイツがさらに裂かれたにちがいない。
その音に自らの姿を思い描いて、野梨子は妙にぞくりとした。
これから行うであろう行為をするのなら、ただ単にタイツを脱がせばいいだけのこと。
切り裂く必要などどこにもない。
だから、彼がわざとしていることは明白で……そのことを奇妙だと思わないわけではなかった。
しかし不思議なことに体の奥がじんじんと熱くなっていく。
悠理と清四郎がつきあいはじめて、1ヶ月が過ぎようとしていた頃、
ふたりにとって初めての記念日が訪れようとしていた。悠理の誕生日である。
清四郎は、さて、どうしたものかと頭をひねっていた。
例年通りならば、みんなで誕生パーティーへと繰り出し、
そこでプレゼントを渡すはずであった。しかし今年は違う。
他のメンバーと一緒じゃ何か違うし、恋人としての立場が無い。
かと言って、あいつらが僕と悠理を放っておくか・・・清四郎は、
それとなく探りを入れてみたが・・・結果はやはり、予想していた通りだった。
「私達だって、悠理に誕生日プレゼント渡したいわよ。
あんた達が何処にいたって、プレゼント渡しにいくわよお〜〜♪
もう〜二人っきりになんかさせないから!」
逆に可憐にからかわれてしまった。
結局清四郎は、じゃあ僕の家で悠理の誕生会をしませんか、と提案し、
僕からのプレゼントとして、悠理にご馳走を作ってあげるから、
みんな一緒に僕の家に来てください、と言った。
「えーっ、清四郎が一人で全部料理作るのー?」
「僕の、隠れた趣味をお見せしますよ。」
「本当に、手伝わなくてもいいんですの?」
「ええ、僕が作ってる間、みんなで悠理の誕生日プレゼントを買いに行ってて下さい。
それに、一人で作った方がやりやすいんですよ。」
日曜日の朝、悠理は清四郎の家の前に立っていた。
ベルを鳴らし、しばらくすると、清四郎の母が出てきた。
「あら、悠理ちゃん、おはよう。今日誕生会するんですってね。
お誕生日、おめでとう。
さあ、遠慮なく上がって頂戴。」
「うん、ありがとう、おばちゃん。」
「何かね、清四郎ったらはりきっちゃって、昨日から買出しに行ったり、
仕込みをしたり、もう大変。朝食も、まともに作らせてもらえなかったんだから。」
「へえ〜そうなんだぁ。」
悠理は、清四郎がそんなにはりきってるなんて、よっぽどすごいご馳走が
出てくるのに違いないと、期待に胸が膨らむ。
「清四郎、悠理ちゃんが来てくれたわよ。」
「えっ?!」
「おはよー清四郎♪」(うわっ、エプロンなんかしてるよ、おい)
「ゆ、悠理!約束の時間は、1時だったはずでしょう?こんなに早く、
何しに来たんですか?!」
「だってー暇なんだもん。可憐たちはプレゼント買いに行くから、
ついてくるなって言うし。」
「だからって、ここに来ることはないでしょう。悠理、誰の誕生日か
わかってるのか?!」
「うん・・・でも、あたいに何か出来る事あったら、何でもするからさ。
ね、清四郎ちゃん♪」
「ちなみに悠理、確か、料理の経験なんてゼロだったな。」
「料理はできないかもしれないけどさー、ほら、何か洗ったりさ、皿並べたりとか、
そんくらいだったら出来るだろー?」
(お前の場合、それすらもあやしい・・・!)
「じゃあ・・・とりあえず、手を洗って、それからエプロンつけて下さい。」
「へーい。」
「ちゃんと、念入りに洗うんですよ。」
「わーってるって。(まったく、いちいちうるさいなー)ねえ、清四郎、エプロンどこにあんの?」
「ほら、これでいいでしょう。」と言って、赤いエプロンを渡した。
「ねー清四郎、結んでー。」
「え?今何て言った?」
「だからさー、後ろの紐結んでよ。」
清四郎、思わず片手で顔を覆ってしまった。
「まったく・・・お前はエプロンの紐も結べないのか!」
清四郎は、これがまだまだ序の口であることを、後で嫌と言うほど思い知らされる。
「悠理、出番が来たら言いますから、とりあえずどっか、座っててください。」
悠理はきょろきょろと、清四郎の家の台所を見回していたが、出窓のところに、確かどこかで見たような・・・抹茶碗を発見。
「あれー?この茶碗、割れたんじゃなかったの?」
「いくら割れた茶碗とはいえ、国宝級ですからね。そのまま不燃ごみに出してしまうのは、気がひけますよ。」
さすが清四郎、陶器用接着剤で、継ぎ目がわからないくらいにくっつけてあった。
「でもこの中の、苔の生えた石ころはなんだー?!」
「ああ、それ。僕が育ててるんですよ。」
「育ててるって、何を?」
「もちろん苔ですよ。」
「こけー?!」
「岩石に付いた苔がね、徐々に徐々に繁殖してるんですよ。
小宇宙の中にそびえる岩山のようで、
なかなか趣きがあると思いませんか。」
「そーかなあ?!」(やっぱり清四郎っておやじくせー。
そのうち盆栽でも始めたら、あたいどうしよう・・・)
「悠理、悪いが、冷蔵庫の中にある、仔羊のもも肉を取ってきてくれませんか。」
「OK」
悠理は、冷蔵庫の中から肉の塊を取り出すと、清四郎のところへ持って行った。
「じゃあラップをはずして、そこに置いといて下さい。」
悠理、言われた通りラップをはずすまでは良かったが、水道の蛇口をひねり、
肉を洗い始めた。
「悠理、何してる?!」
「ん?肉洗ってんの。」
清四郎、思わず片手で・・・本日二度目である。
「わかった×××悠理、お前の料理のレベルがよ〜〜〜くわかった!」
「な、なんだよ。」
「あのですね、肉は洗わなくていいんです!そのまま切って使うもんなんです!」
「え、そ、そーなの?」
「今まで、そんな事も知らなかったのか?!」
清四郎は、何だか気が遠くなりそうだった。予定の1時までに、無事終わればいいが、と嫌な予感がした。
そして・・・その嫌な予感は、みごと的中したのである。