>589の続きです。
明け方、俺がマンションに帰り着いてメールボックスを開けると、一枚のシンプルな葉書が
つまらないチラシの山の上にそっと乗っかっていた。
見覚えのある、綺麗な字。
野梨子はどうやら、今日の昼間に引っ越してきたらしい。
まあ、何かと律儀な性格だから、引っ越しの挨拶とやらなのかもしれない。
俺は葉書だけを手にしてポケットに入れ、チラシには見向きもしないでボックスを閉めた。
そのまま、2階の俺の部屋まで階段を上る。
いつもの癖でポケットに手を突っ込もうとして、葉書に触れた。
ここんところ、請求書以外の郵便物を受け取ったためしがなかったのを思い出して、
ちょっとうれしくなる。
何てことない、挨拶の葉書なのにな。
俺は胸ポケットを探って鍵を取り出し、ドアを開けた。
中はカーテンが締めっぱなしだけど、その隙間から僅かな光が差し込んでいる。
ここに越してきてから、もう何度もこんな光景を見てるはずなのに、今日はちょっと
違って見える。
俺は靴を脱ぐ手を止めて、しばらく光をじっと見つめていた。
これで、暗闇から抜け出せそうだ。
その先に何があるのか、わかんないけどな。
家を出てからちょうど1週間後、清四郎が私の所に訪ねてきた。
役所から離婚届を取ってきたからということであった。
「どうそ、お入りになって」
インターホンの音を聞いて、玄関のドアを開ける。
その服装を見ると、どうも今日は休みの日らしい。
「お邪魔します」
私は清四郎をダイニングに招き入れ、椅子に座ってもらう。
清四郎は早速離婚届を広げ、ポケットからペンを取り出した。
「書いてから来ようかとも思ったんですが、野梨子の前で書いた方がいいような気がしたので……」
私はお茶を用意する手を止め、清四郎の向かい側に座った。
目は、清四郎の書く1字1字を追っている。
ひとつひとつが均等な大きさで、読みやすいすっきりとした字。
この字を見ることも、もうなくなるのだろう。
「野梨子、では、お願いします」
紙を受け取り、テーブルに用意したペンを取って反対側の空欄を埋め始めた。
心の中は、波風ひとつたたない。
全てが終わった後、清四郎はすぐに立ち上がって離婚届と共に去っていった。
鍵を差し込む。
いつも通り右に回す。
回らない。
反対に回す。
今度は回った。
扉を引いて開けようとするが、開かない。
もう一度鍵を差し込む。
いつも通り右に回す。
今度は回った。
扉を引くと、開いた。
「あーら、何だか音がすると思ったら、帰ってきたのね」
聞き覚えのある、声。
まさかと思って顔を上げると、やっぱり思っていた通りの人がいた。
「……千秋さん、何しに来たんだ?」
『どうやって入ったんだ?』とは聞かなかった。
ダチが、お袋を知ってることを思い出したからだ。
「あんたに、言うことがあったからよ」
お袋は、椅子に座ってやおら煙草を吸い始めた。
俺はとりあえずジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩める。
お袋の真向かいに座る気になれず、奥のソファに腰を下ろす。
「悠理ちゃんにね、女の子が生まれたって」
白い煙を吐き出した後で、お袋がポツリと呟いた。
別れた時から計算すると、生まれていてもおかしくないな。
恐らくお袋は、悠理の母親とどこかで偶然に会ったのだろう。
悠理の居場所は、俺も含めて誰も知らない。
俺は煙草に火を点けた。
「清四郎さんが、他所へ行かれるそうですよ」
母さまから、久しく耳にしなかった名前を聞かされた。
清四郎とは、あの離婚届の日を最後に連絡を取っていない。
「お父様の病院を辞められて、東京を離れるんですって」
ちらりと、母さまの視線を感じた。
だが、私が読みかけの本から顔を上げた時には、既に私から視線を逸らしていた。
ごめんなさい、母さま。
心配ばかりかけてしまって。
「それはそうと野梨子さん、ひとり暮らしってどんな感じかしら?」
何も言わない私を気遣ってか、母さまは話題を変えた。
また本から顔を上げると、今度はニコリと微笑む母さまがいる。
「いろいろと、勉強になりますわ」
これが、正直な感想だった。
私の周りには常に誰かいて、今までどれだけ人に頼っていたか思い知らされている。
家に帰ってスイッチをつけたのに電気がつかなかった時、いきなり水が出なくなった時、
備え付けのエアコンが壊れてしまった時。
その度に私は時間も考えずに電話に飛びつき、迷惑をかけてしまった。
魅録のお友達は、予め私が世間知らずと聞かされているのか、嫌な顔ひとつしないで
駆けつけてくださった。
「母さまは、もちろん父さまもですけど、野梨子さんが幸せならそれでいいのよ」
私が離婚したせいで、母さまにそれとなく嫌味を言う人がいるのを知っている。
そしてそういう人は大抵、私に面と向かっては言わないのだ。
「母さま……」
涙が、勝手に、瞳から溢れ出てくる。
今日は、スケッチ旅行に出られた父さまの留守をひとりで預かっている母さまのことを
考えて実家に泊まりに来たのに。
【続く】
>サヨナラ
うおう、待っとりました。
前作のときは、ものすごく間が飛んでしまっていたので、(清四郎と悠理の目線だったし)
どうやって魅録と野梨子がそんな風になったのかわからず、とても気になっていたので(w
とても嬉しい。
続き楽しみにしてまーす。
>>338 しかし可憐の心配はまったく不必要であった。
清四郎は平然としていた。それどころか、一段高いところから魅録を見下す
ような雰囲気である。しばらくは様子見しましょうか…とでもいうような。
「おはよう、魅録。」「ああ。」魅録はそんな清四郎に目を合わさず答えた。
一方、野梨子は恋に輝いていた。二人の微妙な雰囲気にはまったく気づかず、
はにかみつつも視線はまっすぐ魅録に向かっている。彼しか目に入らないようだ。
一途な性質なのである。美しいわ…。可憐は驚嘆した。清楚な彼女に恋が匂い
たつような艶やかさを添えている。周りの男子たちも思わず見とれている。清四郎
だけが表情を歪めてそんな野梨子をみていることに気づき、可憐は複雑な思いだった。
野梨子は授業中もうわのそらであった。
本当にあの人に思いが通じたのかしら。夢のよう。でも学校は今までと何も
変わらない気がしてしまう。でも肩を抱かれた実感はまだ残っているわ。
その上、唇が…。まあ、わたくしったら、なんてことを…!
「では白鹿さん、この文に適するbe動詞はなんですか。」
(え?わたくし?)起立したが、先生の言うことなど全然聞いていなかった。
「あ・・・、あの・・・。」
「優秀なあなたが分からないなんて、どうかしたの。顔が赤いようね。
まだ熱でもあるの。」
野梨子は気恥ずかしさのあまりその場でうつむいてしまった。
その時、清四郎が立ち上がった。
「そうですね。まだ体調が芳しくないようなので保健室に連れて行きます。」
読みにくくなってしまってごめんなさい。
清四郎をbitter味にしてほろ苦くさせてみました。
続きをよろしくお願いしまつ。
>サヨナラ
電気がつかない時、野梨子は魅録……の友達に電話したんですねW
魅録に電話すればいいのにー。てか、してくれ!W
>>602の続きです。
綺麗だな――いつもそう感じる。
艶やかな黒い髪、大きな瞳、そして紅い唇――。
そんな外見もさる事ながら、やはり彼女の美しさを際立たせているのは
聡明で実直な、その内面にあると言えるだろう。
普通、人より優れている人間は、狡賢く、そして要領良く生きようとする傾向にある。
御多分に漏れず、自分や清四郎もその中の一員だと思う。
だけど彼女は、そう生きようとはしない。
怠惰、卑怯を良しとせず、常に心の中に正義を維持し、確固たる自分というものを持っていた。
そうする事によって、自分自身が周囲から弾き出され、浮いたとしても
彼女は己の信念を曲げる事無く、生きる――。
そんな自分の中には無い、彼女の真っ直ぐな生き方に――惹かれた。
だから小夜子は、野梨子を愛おしいと感じる清四郎の気持ちが、少しだけ判るような気がする。
「何か、顔に付いていまして?」
とりとめも無く、色々考えている内に、野梨子の顔を見詰めていたらしい。
野梨子は緩やかに微笑み、プリンターから出てきた用紙をこちらに手渡す。
唇の紅さに、目が留まる――。
紅い、紅い、野梨子の唇――。
「あ、いえ、何も・・・・・・チェック、しますね」
手渡された用紙に、目を移す。
B5の用紙には、来月行われる学園祭についての事柄が書かれていた。
野梨子がパソコンで作ったものだ。
表の作成、書式の設定――上手くまとめてある、漢字変換などは言うまでも無く完璧だ。
「言う事無し、ですね」
小夜子が微笑むと、それに呼応する様に、野梨子も微笑む。
今日、小夜子は野梨子と悠理にパソコンを教えている。
生徒会の運営の八割方を仕切っていた清四郎が居なくなれば、八方塞になるのは目に見えている。
野梨子はそれに逸早く対応し、自分がそれを引き継ぐ事を決意した。
今まで清四郎に頼っていたパソコンによるデータ管理なども、これからは自分がやらなければいけないと
自分専用のパソコンを買いに、悠理と共にパソコンショップに赴いた。
その際、頼まれたので小夜子も同行し、本体や周辺機器など買い揃え、今日に至る。
「流石に、上達が早いですね」
とにかく自分は機械の類に音痴だから――と、野梨子は必要以上に肩に力を入れていたので
教えるのは長丁場になるのだろうと踏んでいたが、何の事は無い――。
蓋を開ければ、野梨子は教える事を端からスポンジの様に吸収し、普通の人間より上達は早かった。
要するに今までは、食わず嫌いというだけの事だったのだろう。
「先生の教え方が上手いからですわ」
ほっそりとした手を口に当て、小首を傾げながら微笑む。
又――。
又、唇に目がいってしまう――。
野梨子は可憐の様に、普段化粧をする事は無い。
だから口紅は塗っていないのに、唇がやけに紅く見え、それが矢鱈と目に付く。
小夜子は何故か気恥ずかしくなり、わざと大きく目線を逸らし、誤魔化す様に言葉を発した。
「皆さん、遅いですね」
部室に来て一時間近く経つが、美童と可憐、魅録の三人は一向に来る気配が無い。
「美童は今日はセントポーリア女学園の可愛い1年生とデートらしいですわ。
可憐は二日酔い・・・・・・どうしたんでしょうね。魅録は――正真正銘、わかりませんわ」
「魅録は、あたいがちょっと頼みごとしたんだ」
野梨子はそうですの、と返事をした後、思い出したように、ああそう言えば、と続けた。
「美童が悠理に伝言があると言っていましたわ。『間一髪で危機は逃れた、大丈夫だったよ』と。
言ってくれればわかるから、と言っていましたけど・・・・・・、美童、何かありましたの?」
悠理はへぇ、あいつ大丈夫だったんだなぁと、間延びした調子で話し
不審がる野梨子に、いや、おまえは気にしなくていーんだ、と言った。
「歌を歌うぞ」
パソコンで遊ぶのに飽きたのか、悠理は先程からマンガを読んでいた。
ちなみに、野梨子とパソコンショップに行った日、悠理も勢いでパソコンを買っている。
その用途はもちろん野梨子の様な高尚な理由ではなく、只単にインターネットで遊びたい
という至極単純な理由だった。
「かまいませんけど、両隣の教室から苦情が出ない程度に押さえて下さいな」
真顔で言う野梨子に、悠理は口を尖らせて反論した。
「今じゃねーよ、結婚式で」
ああ、と野梨子は納得し、結婚式なら『てんとう虫のサンバ』でしょうね-―などと、時代錯誤な事を言った。
「いつの時代の人間だよ、おまえ。まー実際、何歌うかは迷ってんだけどな」
そして、やっぱモー娘かな、と言い、でも5人だけのモー娘なんて迫力ねーよなぁと考えあぐねいていた。
小夜子はその5人の中に、野梨子と魅録も入っているのかが気になったが
とりあえずそれは訊かずに遣り過ごした。
「あたいと美童で、タッキー&翼ってのはどーかな」
あーでも、ジャニーズ位じゃ清四郎、嫌がんないかもなぁと、腕を組んだ。
どうやら選曲の基準は、嫌がらせの意味も込めて、清四郎が如何に嫌がるか、という点にあるらしい。
悠理は暫くの間、考え込んでいたが
野梨子の、清四郎はアイドルなら男女問わず不得手ですわ――の一言で
あっさりと、タッキー&翼に決めたようだった。
「どっちがタッキーやった方がいーのかなぁ」
悠理は、新たな問題で悩み始めた――。
柔らかい時間が、流れる――。
9月の心地良い風が窓から流れ込み、新鮮な空気が肌に絡みつく。
野梨子のパチパチというキーボードを叩く音だけが、部屋に響く。
悠理は2人から少し離れた席で、再び大人しくパソコンを始めたようだ。
小夜子は2人が行き詰まった時だけの指南役なので、それ以外は何もやる事が無い。
隣の野梨子の手元を見ながら、小夜子は暫しこの心地よい空間に、身を委ねていた。
「――ジュリエットは、愚かでしょうか?」
ふっ、と野梨子がキーボードを打つ手を止め、顔を半分だけこちらに向け、質問してきた。
「ジュリエットって――『ロミオとジュリエット』の、あのジュリエットですか?」
ジュリエットと言えば、当然そのジュリエットしかいないのだが
唐突な上に、何の前触れも無かったので、つい訊き返してしまった。
野梨子は、ええそのジュリエットですわ――と言い、愛する人の為に死んだ、と付け加えた。
難しい質問だった――。
本音を言うと、小夜子にはあの物語の良さが少しも理解出来ない。
小夜子的にあの物語を要約すると
『恋に溺れた二人の若者が早く結ばれようと先を急ぎ、ジュリエットが後先考えず
仮死状態に陥り、それを死んだと勘違いしたロミオが後を追い死に
最後はそのロミオを追ってジュリエットが死んだというちょっと間抜けな恋物語――』
そういう解釈になる。
だけどそんな考えに至るのは、小夜子という人間が生まれてこの方、本気で人を好きになった事が無いからだ。
恋をした事の無い人間に、恋物語を理解出来る訳が無い――。
そうも思う。
だからジュリエットは愚かですか、という質問も同様だった。
愛を知らない小夜子が、愛を貫いたジュリエットの行動を愚行かどうか判断するなど
それこそ正しく、愚の骨頂だと言えるだろう。
そう思ったから、その考えを素直に野梨子に言った。
「愚かとは思いませんが、軽率だったとは思います」
軽率、と野梨子はその言葉だけ取り出し、繰り返した。
「相手に事後承諾で、仮死状態に陥るなんて危険過ぎますよ。
ジュリエットの使者が、その計画をロミオに伝えるという手筈だったらしいですけど
今の時代の様に、確実な通信手段がある訳でも無いのに、早計だと思いますね。
ロミオが勘違いしてジュリエットの後を追う事くらい、十分考えられたでしょう」
事実、ジュリエットの使者はその計画をロミオに伝える事は無いまま
ロミオはその後ジュリエットが死んだと早とちりして、後追い自殺をしている。
野梨子はその小夜子の講釈を聞くと、両手を口に当て、可笑しくて堪らないといった風に笑った。
「小夜子さん、清四郎に似ていますわ」
「よしっ、決めたぞっ!!」
小夜子と野梨子のジュリエット論議に耳を傾けることも無く、
パソコンに見入っていた悠理が、すくっと立ち上がった。
「やっぱりあたいがタッキーやるよ。
一番かっこいい奴が、一番かっこいい役をやる! ま、当然だな!」
まだ、その事を考えていたらしい――。
「偶には美童に良い役をやらせてあげないと、その内爆発しますわよ」
野梨子がそう言うと、悠理はう〜ん、そーかぁと唸って再び考え始めた――。
「ジュリエットは、愛の証を立てたかったのかも知れませんわね」
「愛の証・・・・・・ですか?」
「ええ、愛の証――。
自分がロミオを愛し貫くという・・・・・・誓いみたいなものを
死を以って証明したのかも知れませんわ」
野梨子はそう言うと、勿論、ロミオが死んでしまったという絶望と
ロミオがいない人生など意味が無いという嘆きも、死の理由だとは思いますけど、と付け加えた。
死を以って立てる愛の証――。
人を愛する事を経験した事の無い小夜子にとって
それはロマンティックというより――寧ろ恐怖に近かった。
「怖いですね」
小夜子が独り言の様にそう呟くと
野梨子は、やっぱり小夜子さんって面白い人ですわね、と子供の様に笑った――。
「ジュリエットは、幸せだったんでしょうか?」
今度は、小夜子が野梨子に問うた。
「ええ、幸せでしたわ――」
野梨子は『幸せでしたのでしょうね』とも『幸せだったと思いますわ』とも言わず
まるで自分の目で、見てきた様な台詞を言った。
「それは、ロミオと一緒に死ぬ事が出来たからですか?
それとも、僅かな一時でも、ロミオと結ばれる事が出来たからですか?」
僅か捲し立てる小夜子に、野梨子は少し目を丸くしたが
矢張り、いつものように優しく微笑んだ――。
「ロミオと――想いが通じ合っていたからですわ」
刹那。
小夜子は初めて誰かを愛しいと思った――。
淡雪のような儚い、恋とも呼べぬ拙い想いが
発露したその日――。
苦しくもそれが
小夜子が交わした、野梨子との最後の会話となった――。
9月18日 水曜日 友引
結婚式まで――あと3日
本日はここまでです。
ありがとうございました。
>檻
気がつけば清四郎の結婚式まであと3日に迫っているんですね。
前半の野梨子の表現とロミオとジュリエットに対する彼女の考え方から、
野梨子のまっすぐさと心の強さが窺えていいです。
それから、悠理と美童のジャニーズデュエット、このお話を読んでたら
ちょっと見てみたいかも…と思いました。w
それにしても、なんで最後の会話なんでしょう。続きが気になります。
>檻
何だか、物悲しい雰囲気なのは、気のせいでしょうか?
物事が粛々と進んでいくのに対して、どうにもやるせない思いにとらわれてしまいます。
>檻
う〜〜ん。なんか切ない感じ。小夜子タンは野梨子のこと
すきなのかしら…って思いました。
結婚式の日が最終回なのかな。続きが読みたいけど終わるのは
イヤですー
>檻
なんだか不吉な予感がします。
ああ・・・どうなってしまうのでしょう・・・。
>>636さんの続きです。
女性教師は清四郎を見てうなずいた。
「お願いしていいかしら、菊正宗くん」
「ええ」
清四郎は野梨子に優しく目でうながす。
ほっとしたように野梨子も立ち上がり、清四郎に付き添われて
教室から出て行った。
(──清四郎ったら何考えてるのよ)
可憐のイライラがつのる。
ぎゅっと握りしめた華奢なシャープペンシルがノートに円を
描き始めている。
(あれだけショック受けておきながら、まだ野梨子のナイトを
続けるつもり?今のあんたに必要なのは別のお姫様なんだから。
そうよ、今のあんたには──)
ひたすら円を量産していた可憐のシャープペンシルの芯が
ぽきんと折れた。
「……先生」
「どうしたの、黄桜さん」
「私も気分がすぐれないんです。保健室へ行っても?」
可憐は目をうるませて、上目がちに教師を見上げた。
「今日は病人の多い日ね。一人で大丈夫?」
数人の男子の手がすぐに上がる。
「僕が保健室まで一緒に!」
「いいえ、黄桜さんには僕が!」
可憐は各申し出を丁重に断り、弱々しく微笑みながら教室の
出入り口へ向かった。
そして扉を閉めた瞬間、猛烈な速さで保健室へと駆け出した。
どなたか続きよろしくお願いします〜。
さっそく続きいっちゃいます。
一方、保健室は二人きりであった。
野梨子、もう熱は下がっているでしょう。なのにあんな簡単な問題も
答えられないとは野梨子らしくありませんね。」
静かな声で清四郎は話す。野梨子はだまってしまう。
「魅録のことでも考えていたんですか…?」
野梨子は目を見開いた。どうして分かってしまうんですの…。
「魅録と付き合うことになったんですね。」
しばらく間をおき野梨子はこくんと小さく頷いた。
清四郎はにっこり微笑んで言う。
「祝福しますよ。きっとうまく行くでしょうね。」
その言葉を聴き、野梨子の頬は喜びで紅潮した。
「本当ですの?うれしいですわ。清四郎にそう言っていただけて。」
「・・・まあ、しかし、そうなっては当然これから一緒に登下校するのはやめたほうがいいでしょうね。」
野梨子の顔が少し曇り。訝しげに尋ねる。「なぜ…ですの?」
「当然じゃないですか。恋人が違う男と二人でいたら魅録だって嫌ですよ。
野梨子も男と付き合うならそういうことも考慮するべきですよ。」
「でも私たちは友達として今まで通りでいいんじゃ…」
「いいわけありませんよ!。僕たちのあり方は変わらなくてはいけません。
きっと魅録と悠理も影響を受けるでしょうね。」
突然語気が荒くなった清四郎に野梨子はたじろいだ。「魅録と悠里も…?」
「おや、そんなことも考えず、魅録と付き合うと?倶楽部内で恋愛すると
いうことは必然的に今の六人の関係を変えてしまうということですよ。
これ以上はないというくらいうまくいっている今のぼくたちをね。」
倶楽部内の人間関係を変えてしまう…?そんなこと微塵も思わなかった。
魅録はどう考えているのかしら。悠里にも迷惑なのかしら。
「祝福する」と言いながらも、正論を装いつつ暗に二人の付き合いを非難する
清四郎の矛盾に、恋に夢中の野梨子は気がつかない。
以上です。続きお願いデス。
うう、652の4行目文頭清四郎のセリフに
「 をつけていなかった…。
補ってお読みください。
連載を開始します。
タイトルは「横恋慕」
カップリングは魅×悠×清です。中編くらいの予定です。
悠理は最後のチョコレートを口に放り込んだ。
「あー、今年はいっぱい貰ったと思ったけど・・・。
もう食べ終わっちゃったぁ」
悠理の大好きなバレンタインデーから数日が経過した。
人気者の彼女は、小山ほどのチョコをその数日で平らげたのだ。
そして、名残惜しそうに箱を引っくり返し、本当にもうないのか
確かめている。
そこへ、彼女の親友がひょい、と紙袋を置いた。
「俺、甘いモン苦手だからかわりに食ってくれよ」
「やった!魅録ちゃん、愛してるぅ〜」
ゴロゴロと喉を鳴らしながら彼に抱きつき、悠理はそれに手を
伸ばそうとした。が、すんでのところでつかみそびれた。
「・・・なんでお前が取るんだよぉ、清四郎」
「いい加減にしたらどうです。そんなにチョコレートばかり
食べたら病気になりますよ」
なぜか不機嫌な声で言い、清四郎は傍らの男にそれを突き返す。
「魅録も魅録ですよ。食べる気がないなら、最初から受け取る
べきではないと思いますがね」
少しばかり棘を含んだその口調に、魅録も喧嘩腰になる。
「お前だって全部食わねーんじゃねえのか?」
「ええ。だから、今年は全て断りましたよ」
男二人の間に火花が散った。
「へ!?なんで?くれるっていうのに貰わなかったのか?清四郎」
悠理は間抜けな声を出すが、その腕を魅録が掴む。
「帰るぞ、悠理。飯でも食おうぜ」
二人が出て行った生徒会室で、清四郎は小さくため息をついた。
甘やかされて育った悠理は、小言の類いを嫌う。彼も、なぜ悠理に厳しい事ばかり言ってしまうのか、よくわからないでいた。だが、最近になってやっと自覚した。彼女を甘やかす魅録に腹を立ている自分に。それが、おそらく嫉妬であるということに。
「僕も莫迦だな。これでは逆効果だ・・・」
バイクを降りると、そこは誰もいない海だった。
「・・・魅録、ごはんはぁ??」
不服そうに口を尖らす悠理だったが、その抗議の声は魅録に無理矢理塞がれた。
初めての口付けは、煙草の香りがした。
「俺、お前に惚れてるんだ。つき合ってくれよ」
悠理は不意打ちにあって立ち眩みがしそうだった。魅録のことは大好きだ。
別に不自然だとも思わなかった。だから、つい頷いていた。
おなかがぺこぺこだったけれど、魅録が何度もキスをするので言い出せなくなった。
「えー、あんたたち、つき合い始めたって・・・・いつから?」
可憐が声を張り上げ、美童と野梨子も驚いた表情をしている。
悠理はちょっぴり気まずそうに頷いて、昨日自分たちに小言を言った男の方を見た。
が、彼は口を開こうともしない。
「何か言いたいんじゃないのか?生徒会長」
テーブルに腰掛け、魅録は彼の手から新聞を取り上げる。
「・・・おめでとう、と言って欲しいんですか?」
「本心じゃねえだろ」
「別に・・・めでたいことですから、祝福しますよ」
そう言い残し、彼は出て行った。
そして、なぜかその背中を目で追う女がいた。
「おい、聞いてんのか?」
魅録の苛立ちを含んだ声に、悠理は我に帰った。二人の共通の友人が開いたライブハウスを
訪れていたのだが、悠理は心ここにあらずといった感じだ。
「あ・・・ごめん。何だっけ?」
「何だよ、さっきからぼーっとして」
「ああ・・・なあ、魅録。さっきあいつと何話してたんだ?」
「あいつって?」
「・・・清四郎」
言いにくそうにその名を出した悠理に、魅録は嫌な感じがした。まさか、な。
「気になんのか?」
「ん?いや、別に・・・」
悠理にしては歯切れが悪い。それから、居心地悪そうにもじもじし始め、立ち上がろうとした。帰る、と言いかけた悠理を、魅録は後ろから抱きすくめた。
華奢な体を膝の上に抱えると、悠理の顔を強引に自分に向ける魅録。
アルコールが入っているせいか、口づけは激しさを増していく。
シャツの下から手が滑り込み、悠理は必死で身をよじった。
「やだ・・・やめろよ・・・」
薄暗い照明の店内では、カップルが思い思いにイチャついている。
誰も、二人のことを気にも留めていないようだ。
「嫌だってば!」
やっと彼の腕から逃げ出し、悠理はそのまま背を向けた。
その瞳に光る涙を見て、魅録はさすがに焦り過ぎた自分を悔やんだ。
風呂から上がった清四郎は、自分の部屋に人の気配を感じて訝った。
姉も両親も、勝手に入ることはしないはずだ。さて、こんな時間に一体誰が・・・?
そっとドアを押し開けると、緊張感のない声が彼を迎えた。
「あ、おじゃましてま〜す」
「美童?何をやってるんですか・・・」
「まあまあ、ちょっと聞きたいことがあったんだ」
いやー、しかし和子さんって美人だね〜、などと当たり障りのないことを言いながら、
美童は彼の様子を伺っていた。
「それで、聞きたいこととは?」
面倒くさそうに真向かいに座った清四郎に、急に真顔になって美童は言った。
「うん。単刀直入に言うよ。悠理のことさ」
続く
>ホロ苦
う〜ん、なんか個人的に好きな展開だなぁ。
続き楽しみに待ってます!
>横恋慕
おお新連載だぁ!嬉しいです。
何がなんだかわかんないうちに流される悠理ってすごく「らしい」ですよね。
自分的には強引な魅録に萌え…
>652さんの続きです。
清四郎が出て行き、野梨子はベッドに横になった。今朝は舞い上がっていた心が、急速に沈んでいく。
(私、とんでもないことをしているのかしら)
魅録と付き合うことで6人の関係を変えてしまう。清四郎に指摘されるまでまるで気づかなかった。
(どうしたらいいんですの……)
鼻の奥がツンとして、野梨子は慌てて窓の外に目を向ける。
皆に迷惑をかける立場の自分が泣くのは、筋ちがいというもの。涙を流すなんて許されない。
淡い水色の空に1つ2つ綿雲が浮かんでいる。
ゆっくりとしたスピードで流れていく雲を見つめていると、少しずつ心に落ち着きが戻ってきた。。
こんな風にぼんやりと時を過ごすのは久しぶりだった。
魅録を好きになってからは、心の中は彼で占められていて、何も考えない時間などなかったから。
『これから、何があっても。今日の事は絶対忘れない』――ふと彼の言葉が脳裏に蘇る。
想いが通じ合った夜のこと。あの時の喜び、そして彼を愛しく思う気持ちを忘れられるわけがない。
(――これから、何があっても。……そうですわね。魅録への想いが消えることなんてないですわ)
今悩んでいることを素直に彼に相談しよう、と野梨子は思った。
皆を大切に思う気持ちは彼だって同じなのだから。
誰か好きになることで、他の大事な人達との関係が壊れるなど嫌だ。
(……大丈夫。きっと。大丈夫ですわ)野梨子は懸命に自らに言い聞かせる。
「どういうつもり? 野梨子にあんなこと言うなんて」
廊下の壁に寄りかかったまま、可憐は清四郎が出てくると待ち構えていたように口を開いた。
「立ち聞きしていたんですか。あまり感心できませんね」
そのまま側をすり抜けようとする彼の腕を、ぐっと掴む。
「逃げるの? あたしは、あんたに聞きたいことが沢山あるわよ」
「……授業に戻らなくてはなりませんから」
「そんなものどうでもいいじゃない」言い返すと、彼はわざとらしく深いため息をついた。
「放課後にでもしてもらえませんかね。どのみち今日から野梨子と一緒に帰るのはやめますし。
その時だったら可憐の質問にたっぷりと答えますよ」
可憐の腕を払うと、足早に立ち去っていく。
「清四郎!」大声で呼びかけたが、彼は振り向こうとはしなかった。
どなたか続きお願いします。
暴走愛うpします。
清×可ですが、今回は清×野です。
>>572 見事な紅葉が庭を散策する客を楽しませている。
野梨子とその両親、仲立ちの清四郎の父母、それに見合い相手の冨士原親子揃っての
会食の後、野梨子は冨士原の息子に誘われて、ホテル内の庭園を散歩していた。
冨士原の息子は会食の間中、ほとんど喋ることもなく、野梨子と視線を合わそうともしなかった。
その癖、野梨子の顔が向こうを向いている隙にチラチラと彼女の様子を伺っている。
修平と自分の父親の話が盛り上がると、いかにもつまらなさそうに人差し指でテーブルの端を
叩くのが野梨子には不快でたまらなかった。
不惑の年を過ぎた社会人がすることではないように思える。
野梨子の両親も笑顔さえ絶やさぬものの、冨士原の息子の態度は気にかかるようだった。
この方はあまり私をお気に召さなかったようですわね。
冨士原の背中に従いながら、野梨子は安堵のため息を漏らす。第一印象だけで他人を判断するのは
いいとは言えないが、この男のことは余り好きになれそうもない。
しかし清四郎の父の面子もある、できれば相手側から断ってきてほしかった。
そう一人ごちていた野梨子はいつの間にか冨士原が足を止め、彼女に向き直っていることに気づき
ぎょっとした。冨士原は辺りをそそくさと見回すと、毛深い手を伸ばし、野梨子の白く小さな手を
握ってくる。汗ばんだその手の感触に、野梨子は悲鳴を上げたくなる程嫌な気持ちになる。
すぐさま振り払いたかったが、清四郎の父の知り合いと思うと無下にもできない。
何気なく擦り寄ってくる男から体を離すのが精一杯だ。
不意に野梨子の耳に生温かい息が吹きかかり、野梨子は背筋がぞおっとした。
冨士原が息を弾ませながら野梨子の耳元に囁く。
「あ、あんた、男とやったことある? それとも、しょ、処女?」
野梨子の引きつった顔を見ると、なぜか男は嬉しそうにニヤニヤ笑った。
戻った二人を両親達は笑顔で迎える。
冨士原の息子は自分の父親に歩み寄ると、悔しいことにこんなことを言っている。
「の、野梨子ちゃんに誘惑されちゃったよ。早く僕と結婚したいんだって。
待ちきれないんだよね、野梨子ちゃん。近頃の子は進んでて、おじさん困っちゃうなあ」
うひひと笑う。本人はどうやら冗談のつもりだが、野梨子の両親始め、清四郎の両親、そして
冨士原の父親までも凍らせている。白髪の小柄で上品な老人が似ても似つかない己の馬鹿息子を
睨みつけた。息子の方はわかってないのか相変わらずニヤニヤしている。
白鹿青洲が驚いたように野梨子に視線を向けたので、野梨子は羞恥で顔が真っ赤になった。
悔しさの余り、視界が涙でぼやける。
それと察した野梨子の母と清四郎の母が、さりげなく野梨子を体でかばう。
清四郎の母が口元は微笑を浮かべたまま、鬼のような瞳で夫に目配せする。
その意味に気づいた菊正宗修平はあわてて場をお開きにしようとし、その時初めてこちらに
我が息子が歩み寄ってくるのに近づいた。
「……なんじゃ、清四郎じゃないか」
必死で堪えていた野梨子は顔を上げた。
その拍子に瞳から涙が何本もの筋を作って零れ落ちた。
視界が開けた野梨子の前に、聖プレジデント学園の制服に身を包んだ清四郎が立っている。
「――清四郎」
これは夢か幻か。そう思う間にも野梨子の足は勝手に清四郎に向かって踏み出している。
次の瞬間、清四郎がわずかに背を屈め両手を広げた中に、野梨子はすっぽりと収まって行った。
自ら腕を伸ばし清四郎の体躯を抱きしめる。
彼が来てくれたという事実に喜びが胸を震わせる。
「清四郎、清四郎……」
修平はあんぐりと口を開けて立っていたが、やがて恐る恐る息子に切り出す。
「清四郎、お前一体……」
清四郎は父の問いには答えず、やさしく自分の体に回された野梨子の手をはずすと
甚だしく不愉快な表情の冨士原正光・神奈川県医師会会長におもむろに向き直った。
「突然申し訳ありません。私、菊正宗清四郎と申します。修平の長男です」
正光はじろっと清四郎を見た。
「清四郎君かね。君が小さい時に会ったきりだが、ずいぶんと立派になったじゃないか。
お父さんもさぞご自慢のことだろうね」
言葉に込められた皮肉に修平の顔が青くなっている。
清四郎は皮肉にも臆することなく、やおら正光の前に膝を折る。
「突然のご無礼、誠に申し訳なく存じ上げます。ですが冨士原様には是非お聞き願いたく。
ここにいる白鹿野梨子、私とは縁あって幼馴染、そして将来を誓い合った仲でございます。
この度は私の父を通して彼女にお話があったと伺っておりますが、何卒撤回していただきたく
お願いに参りました」
冨士原正光は憮然とした表情で自分に頭を下げる高校生を見やった。
哀れ菊正宗修平は卒倒寸前だった。
余りに突然の出来事にぼおっとしていた野梨子は、ふとある事に気づき、不安そうな顔で清四郎を見つめた。
「聞いたわよ。やってくれるわよね、あんたも。このエセ優等生が」
清四郎の部屋に入るなり和子は大声を出して言った。
弟はすでにパジャマに着替えベッドに潜り込んでいた。
「何よ、あんた。もう寝るの、まだ九時よ」
「疲れたんですよ、寝るんですから出てってくださいよ」
「――なに、あんた。落ち込んでるの?」
姉の言葉にうつぶせていた清四郎は枕の下から小さな声を出した。
「そんなとこですよ」
和子は弟のベッドの端にドスンと腰かけると言った。
「気にすることないわよ。親父の奴、怒ったって言っても形だけよ。
本当はすごく喜んでると思うわ。だって、あいつ野梨子ファンだもん。
もっと昔はあんたと野梨子ちゃんが結婚すればいいなって口癖のように
言ってたもんよ」
清四郎はベッドの上に起き上がった。乱れた髪を手で押さえる。
「それは知ってましたが、ね」
どことなく冴えない弟の顔を和子やじっと見ていたが、やがて手を伸ばし
弟の頭を――いい子、いい子と撫でた。
「良かったじゃない、清四郎。あんた、割と変なところで遠慮する奴だから。
欲しいものをじっと我慢する癖があるから心配してたのよ。
この子は本当に大事なものを取られそうになった時、ちゃんと欲しいって言えるのかなって。
言えたんだね。よかった、よかった」
弟は煩わしそうに姉の手をどけると眉間に皺を寄せてため息をつく。
「赤ん坊扱いしないでくださいよ。もう子供じゃないんですから」
「子供よ、あんたは、まだ」
和子は立ち上がる。黒髪が揺れた。
「もう立派な大人になった気でいるんだろうけど、子供なのよ。私もあんたくらいの時は
そうだった。本当に大人になった時、やっとわかるもんなのよ――ああ、あの頃は
子供だったんだなあって」
清四郎は黙って目で姉を見送った。
ああ、あの頃は子供だったと思う時、僕は笑顔なんだろうか。
それとも悲しい顔をしているんだろうか。
大人になれば胸は痛まなくなるのだろうか。
考えれば考えるほど、清四郎の胸を風が通り抜けた。
目を閉じると浮かんでくる女性の幻影を振り払うように、清四郎は布団に潜り込んだ。
続く
>暴走愛
首を長くしてお待ちしてました!
でも、可憐への想いを断ち切れない清四郎が辛いです。
彼を切り捨てられない野梨子が辛いです。
これから野梨子はまた裏切られてしまうんですよね?
ああ、どんな展開でもいいから、続きをお待ちしてます!!
>660の続き
「今日、なんで何も言わなかったんだよ?悠理に惚れてるんだろ?」
邪気のない笑顔で問われ、僕は曖昧にごまかそうとする。
「そんなはずないでしょう。まったく、どこに目を付けてるんですか?」
だが、その返答が気にくわなかったらしく、美童はきゅっと形のいい眉を上げた。
「清四郎ってさ、自分では嘘つくの上手だと思ってるみたいだけど・・・下手だよ、バレバレだよ。
少なくとも恋愛に関してはね。僕には通用しないって」
自分の感情を他人に見透かされるというのは、どうやらあまり気分のいいものではないらしい。
今まで、そんなことに気付かず過ごしてきたのだが。
「いつ、気付いたんですか?」
「だいぶ前。多分、お前がその感情を自覚した頃かな」
僕達の間に静かな時間が流れた。
「悠理には言わないの?いいの?それで」
「・・・勝てない勝負はしない主義なのでね」
「本気で言ってんのか?」
ちょっと呆れ顔の友人に、僕はまた苦笑する。期せずして、二人の友人から同じような問いを受けるとは。
どうやら僕の言う事は、あまり信用がないらしい。
「残念ながら、本心ですよ」
魅録に言ったのも本心だ。どうせ手に入らないものなら、欲しがるだけ無駄だ。
子供の頃から、何でも手に入れてきた。望んで得られないものなどないと信じていた。
一つだけ、思い通りにならなかったもの。
それが悠理だった。
自分との結婚をあれほど嫌がられるなど、考えてもみなかった。
教養やマナーを強要したのも自分の体面のためだったし、今になればあいつが僕を拒絶した
のも当然と思えるが。
そう。僕があいつに執着してしまうのは、きっと思い通りにならなかったからだ。
あいつに厳しくしてしまうのも、知らず知らず、その時の仕返しをしていただけなのかもしれない。
愛だの恋だのという甘い感情では、あり得ない。
「まあ、お前がそう言い張るならいいけどぉ」
美童はよっこいしょ、と立ち上がり、ヒラヒラと優雅に手を振った。
「ただし、恋心ってものを甘く見ない方がいいよ。手遅れになる前に相談しろよ〜」
ドアの手前で振り返り、手で電話の真似をしてから彼は帰って行った。
続く
乙
美童は清四郎の事、お前って呼ぶかなぁ?
清四郎って言いそうだ
個人的には清四郎をお前って呼ぶ美童に違和感は感じなかったですよ。
逆に親友っぽくて私は好きですが。
「横恋慕」私は楽しんでます。
続き待ってますよ〜
私も「横恋慕」お気に入りです。
続き、頑張ってくださいね!
492KB、そろそろヤバくないですか?
>676
気が付かなかったが、とってもヤバイと思う。
まゆこスレで、次スレ用のテンプレの意見交換しようよ。>ALL
作家さんたちには、ウプをしばらく待ってもらって。
>暴走愛
清×可で幸せになってほしいけど野梨子が切ない〜。
清四郎が来てくれたとき私までほっとしてしまいました…
>あいつ野梨子ファンだもん
笑えました。
乙