1957〜1987年あたりの本格ミステリ作家達

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1名無しのオプ
清張以降綾辻以前の本格ミステリは、泡坂・島田・笠井・連城・東野・岡嶋などといった一部を除いて絶版が多い。
また、名前は知られていても本格ミステリ作家としての認知度が低い作家も多い(笹沢・西村・森村等)。

この時期に活躍した本格ミステリ作家達のうち専用スレがない作家達の傑作・駄作を紹介して下さい。
(要するに「ミステリーズ」でやってた「本格ミステリフラッシュバック」のようなものです)
2:2006/03/24(金) 04:18:26 ID:CkkE1NKm
最近、俺が読んだもの。

大谷羊太郎『生れ変った男』
主人公が犯人で被害者で探偵役、という都筑道夫がやったパターンを踏襲。
実験精神は好きだが、真相の意外性があまりなかった。
笹沢左保『どんでん返し』
会話だけで構成された短編小説集。キチンと会話形式である必然性があって良い。
石沢英太郎『カーラリー殺人事件』
メタな構成や派手なトリックがなくても、充分楽しい本格になるんだと感心。
井沢元彦『欲の無い犯罪者』
井沢の第一短編集。この人には珍し歴史は絡まない普通のミステリ。
どんでん返しが楽しめたけれど、本格としてみた場合は駄作なのかも。
3名無しのオプ:2006/03/24(金) 10:21:39 ID:FHORqB5c
高木、鮎川、土屋、仁木、都筑、森村、山村美紗、西村、泡坂、連城などの有名どころ、
乱歩賞受賞作などの有名作品を除けば、以下が当時の本格ミステリの傑作・佳作だと思う
(だいたい年代順)。

島田一男「去来氏曰く」
笹沢左保「霧に溶ける」「求婚の密室」他多数
佐野洋「賭の季節」
陳舜臣「方壺園」「長安日記」他多数
蒼社廉三「戦艦金剛」
結城昌治「魚たちと眠れ」
海渡英祐「影の座標」「白夜の密室」他多数
斉藤栄「真夜中の意匠」
大谷羊太郎「殺人航路」「レコーディング殺人」
藤村正太「特命社員殺人事件」
笠原卓「ゼロのある死角」
山村正夫「裂けた背景」
草野唯雄「影の斜坑」「瀬戸内海殺人事件」
日下圭介「鶯を呼ぶ少年」「花の復讐」
小林久三「暗黒告知」
高柳芳夫「『禿鷹城』の惨劇」
伴野朗「香港から来た男」「殺意の複合」
梶龍雄「海を見ないで陸を見よう」「ぼくの好色天使たち」「リア王密室に死す」他多数
本岡類「白い森の幽霊殺人」

上記の中でも、特に海渡と梶は復権してほしい。
4名無しのオプ:2006/03/25(土) 02:30:26 ID:dsGArr7u
>>3
すげー。
相当読み込んでる方みたいですね(ひょっとして日下さん?)
>蒼社廉三「戦艦金剛」
↑これなんか名前すら知らなかったよ。
古本屋行くのが楽しみになりそうです(勿論復刊本も買うけどw)。

とりあえず、積んどく状態だった「瀬戸内海殺人事件」を読んでみます。
5名無しのオプ:2006/03/25(土) 03:14:26 ID:igMSaMfv
中町・辻のトラミスのお薦めない?
6名無しのオプ:2006/03/25(土) 06:27:40 ID:pQ8PwZQ2
これは凄い良スレだ!
しかし海外専門の俺には手が出ないなw

>>3のせいでいきなりハードル上がったwww
7名無しのオプ:2006/03/25(土) 18:12:23 ID:KzG9LN7I
平石貴樹がいいな。作品数は圧倒的に少ないが…
「ポオ」と「笑ってジグソー」だけで十分名を残すに値する。
8名無しのオプ:2006/03/26(日) 14:12:32 ID:nvIdbkCp
良スレage
93:2006/03/27(月) 11:15:44 ID:q/TKy6nH
>日下さん?
いえいえ、そんな偉いヒトではないです。
一時期、「新本格は嫌い、でも国産の本格ミステリを読みたい!」と思い、中島河太郎「ミステリ・ハンドブック」の
「推理小説事典」、九鬼紫郎「推理小説入門(?)」の作家紹介、渡辺剣次「ミステリ・カクテル」などで調べて、
色々読み続けただけです。
そう言えば、
>小林久三「暗黒告知」
これはれっきとした乱歩賞受賞作でしたorz
でもこの作家、これ以外には本格ミステリと言えるものはないようだから・・・。
なお、
>草野唯雄「瀬戸内海殺人事件」
>伴野朗「香港から来た男」
は、俺は「本格ミステリ」と認識していますが、現代の基準では微妙かも。特に前者は、バカミスに近いものが・・・。
でも色々な意味で面白さは保証します。あと、
>蒼社廉三「戦艦金剛」
これは戦記物で、海戦の最中に「砲塔内の密室殺人」が起こるという凄い代物。トリック自体は良くあるパターンですが、
シチュエーションが非常に特異で印象的。探偵役が軍の士官で、古処誠二の自衛隊ミステリの先駆といった感じです。
俺は、掲載の旧「宝石」誌を見つけて読みました。別に徳間書店版の単行本があるらしいですが、良く知りません。
10名無しのオプ:2006/03/27(月) 17:03:49 ID:LZQgo5qU
>>9
神ですね・・・
海外の黄金時代本格は資料も揃ってるし、読んでる人も多いけど、国内ってのは意外と盲点。
今後もどしどし書き込んでください
113:2006/03/27(月) 18:21:31 ID:q/TKy6nH
サンクスです。
でも、>>3で挙げている中でも、「他多数」とある作家の作品は20〜30作ほど
読んでいますが、それ以外は大したことないです。それ1作しか読んでない、
という作家もいますし・・・。orz
因みに、昨日読んだのは、
本岡類「青い森の竜伝説殺人」(角川ノベルス)
先に紹介した「白い森の幽霊殺人」から続くシリーズ物で、信州のペンションの
オーナーが探偵役。
湖に突っ込んだ車が消失した謎、麻雀牌を使ったダイイング・メッセージ、さり気
ない伏線、意外な真犯人など、確かに「本格派」ではありますが、やはり、1980年代
の風俗的な描写が今となってはイタいものだし、細かい矛盾などもあり「白い森・・・」
には劣りました。
因みに昭和62年3月刊で「十角館の殺人」の半年前の作品。「新本格登場直前」の本格
ミステリの状況を知る上では良いかも知れません。

あと、ダークホース的な作品を紹介しておくと、
角田喜久雄「影丸極道帖」(上下巻・春陽文庫)
戦前からの老大家の、確か昭和40年頃の最晩年の作品。
今も春陽文庫で現役だと思います。単なる時代小説と思われているようで、実際、序盤
から中盤まで、とても「本格派」とは言い難いのですが、終盤の謎解きの論理展開、
特に謎の盗賊「影丸」の意外極まる正体、奉行所の書類すり替えトリックなど、十分
「本格派」であると思います。探偵役の与力が、謎を追って東海道の宿場町を捜査して
回る部分など、鮎川哲也の鬼貫警部かと思いましたw
12名無しのオプ:2006/03/28(火) 00:49:18 ID:1wqfW4Zm
スゴい人が降臨したもんですなぁ。
>角田喜久雄「影丸極道帖」(上下巻・春陽文庫)
これなど、ここで紹介されてなかったら絶対に気にもとめなかっただろうなぁ。

ちょっと↓はスレの趣旨からずれますが、枯れ木も山のにぎわいということでw

横田順弥「奇想天外殺人事件」(講談社文庫)
一応事件は起こるけれど、解決はトンデモ。
本格どころかミステリですらなく、ナンセンス小説。
ただ、オチの脱力感が蘇部健一や津島誠司の短編と似た感じがしたのでここにとりあげてみました。
ちなみに84年刊行で、作者唯一のミステリだそうです。

次は深谷忠記の第1・2作を収めた『偏差値・内申書殺人事件』を読んでみます(本格なのかな?コレ)。
13名無しのオプ:2006/03/29(水) 01:33:01 ID:Ixujg9f/
本格ミステリフラッシュバック紹介作品

@笹沢左保(招かれざる客・霧に溶ける・空白の起点・真夜中の詩人・求婚の密室・どん
でん返し)
梶龍雄(龍神池の小さな死体・リア王密室に死す・奥鬼怒密室村の惨劇・紅い蛾は死の予告)
A陳舜臣(枯草の根・三色の家・方壺園・黒いヒマラヤ・炎に絵を・孔雀の道)
多岐川恭(落ちる・静かな教授・異郷の帆・変人島風物誌)
B草野唯雄(瀬戸内海殺人事件・女相続人・山口線“貴婦人号”・蔵王山荘連続殺人事件)
中町信(新人文学賞殺人事件・自動車教習所殺人事件・高校野球殺人事件・散歩する死者)
C大谷羊太郎(死を運ぶギター・真夜中の殺意・複合誘拐・悪人は三度死ぬ)
山村美紗(花の棺・黒の環状線・死体はクーラーが好き・京都の祭に人が死ぬ)
D赤川次郎(マリオネットの罠・幽霊列車・三毛猫ホームズの推理・死者は空中を歩く・
幽霊から愛をこめて・招かれた女)
飛鳥高(犯罪の場・疑惑の夜・死にぞこない)
伴野朗(五十万年の死角・殺意の複合・三十三時間)
E松本清張(点と線・ゼロの焦点・黒い画集・時間の習俗・火神被殺・ガラスの城)
小峰元(アルキメデスは手を汚さない・ピタゴラス豆畑に死す・イソップの首に鈴をつけろ)
長井彬(原子炉の蟹・殺人オンライン・北アルプス殺人組曲)
14名無しのオプ:2006/03/29(水) 01:33:44 ID:Ixujg9f/
F夏樹静子(黒白の旅路・蒸発・77便に何が起きたか・第三の女・Wの悲劇・訃報は午後二時に届く)
佐々木丸美(崖の館・水に描かれた館・罪灯)
G岡島二人(焦茶色のパステル・あした天気にしておくれ・開けっぱなしの密室・チョコレートゲーム・なんでも屋大蔵でございます・そして扉が閉ざされた)
楠田匡介(狙われた顔・脱獄囚・密室殺人)
本岡類(白い森の幽霊殺人・飛び鐘伝説殺人事件・桜島一〇〇〇キロ殺人航路)
H辻真先(仮題中学殺人事件・盗作高校殺人事件・紺碧は殺しの色・アリスの国の殺人・ローカル線に紅い血が散る・天使の殺人)
高柳芳夫(『禿鷹城』の惨劇・「ラインの薔薇城」殺人事件・維納の森殺人事件)
深谷忠記(0・096逆転の殺人・殺人ウイルスを追え・房総武蔵野殺人ライン)
I仁木悦子(猫は知っていた・殺人配線図・二つの陰画・冷えきった街・赤い猫・灯らない窓)
戸板康二(グリーン車の子供・浪子のハンカチ・第三の演出者)
鷲尾三郎(死臭の家・悪魔の函・呪縛の沼)
J西村京太郎(名探偵なんか怖くない・殺しの双曲線・消えたタンカー・おれたちはブルースしか歌わない・七人の証人・終着駅殺人事件)
小泉喜美子(弁護側の証人・またたかない星・死だけが私の贈り物)
笠原卓(ゼロのある死角・詐欺師の饗宴・殺意の葬列)
15名無しのオプ:2006/03/29(水) 01:56:30 ID:9fqDsJ8J
この時代にしてはってのも割とあるからな
今読んで面白いかは微妙
英国の古典本格なんかと違ってあまり伏線貼るの得意じゃないからね
新本格以前の国内本格作家は
16名無しのオプ:2006/03/29(水) 03:38:03 ID:Ixujg9f/
辻真先の『天使の殺人』は今読んでも凄いと思う。
創元推理文庫版には戯曲版も収められていてお得。

ところで、辻真先の戯曲作品をまとめて単行本化してくれる出版社はないかなぁ(あるわけないかorz)
どんでん返しの数が半端じゃない作品があるらしい
173:2006/03/29(水) 11:52:40 ID:bDjzJRvz
では、>>13-14で紹介されていない秀作・傑作・珍作を幾つか紹介しておきますね。

笹沢左保「孤独な彼らの恐ろしさ」「明日に別れの接吻を」「四月の危険な石」
一番目は或るミスディレクションが効いています。現代では見破られやすいかも知れませんが、
初めて読んだときは、すっかり騙されました。但しこれを見破れば、全く面白くないかも。
二番目は、物凄いアリバイトリックが使われています。今ではバカミスの類かも。俺は感心しま
したが。
三番目は・・・。たった200ページに、意外な犯人、密室トリック、隠し場所トリックを詰め込んだ
挙句、国際謀略物に発展し損ねて終了、というメチャクチャな怪作ですが、個人的に大好きなのでw

海渡英祐「突っ込んだ首」(自選傑作短編集)
お得意の歴史ミステリから密室物、アリバイ崩しにクローズド・サークル物、推理作家協会の余興の
犯人当てなど、バラエティに富んだ短編集。最高傑作はCC物の「告発の輪舞」。長編を支えられる
アイディアを思い切って使っています。
他の短編集「閉塞回路」「仮面の告発」「死の国のアリス」もお勧め。

大谷羊太郎「殺人予告状」
1973年頃の長編。芸能界を舞台にした密室物。大谷版「密室講義」が出てくるのが楽しい。
肝心の密室トリックの出来は評価が分かれるかも知れませんが。
183:2006/03/29(水) 11:55:00 ID:bDjzJRvz
連投スマソ

仁木悦子「枯葉色の街で」
彼女のベストはこれだと思います。詩人志望の貧しい青年、彼を慕う本屋の娘、
行き掛かり上預かることになった少女・・・。もはや死語になった「清貧」に
感じ入ります。もちろん謎解きの要素も十分にあり。

陳舜臣「割れる」「杭州菊花園」
本格ミステリとしての出来は「三色の家」がベストですが、名探偵・陶展文の
魅力に迫るなら「割れる」が一番。「杭州菊花園」は知られざる名短編集。但し、
本格ミステリのみではないので、「方壺園」「長安日記」には一歩譲りますが。

多岐川恭「13人の殺人者」
昭和40〜50年代の短編を集めたもの。鮎川ばりのアリバイ崩し「ショット」、
最後の一行でトリッキーな小道具を明かす「過去から来た男」、ドンデン返しが
連続する「逃亡者の宿」がベストか。
上記以外は本格ミステリでなく残念ですが、サスペンス物なども十分面白い。

草野唯雄「まぼろしの凶器」
短編集。若干の作品を除いて、本格物で固めています。密室トリックにアリバイ崩し、
金庫破りにチャスタートン風の大技まで色々。でもどれも通俗的で、昭和40、50年代の
古びた風俗とユーモアの空回りには、引きまくるどころか凍りつきます。

小林信彦「大統領の密使」
これは、作者自身が「ミステリマガジンを読んでいる、すれっからしの読者に一杯
食わせるために書いた」と言っているとおり、本格ミステリのパロディです。
バカミスというか、メタ・ミステリというか、何とも言えないラストが強烈。
SRの会が選んだ1973年のベスト1。
19名無しのオプ:2006/03/29(水) 17:20:03 ID:lT6MKnJH
良スレだね
阿井渉介を読もうと思うんだが、お勧め教えて
20名無しのオプ:2006/03/29(水) 18:18:44 ID:zne05Qdx
先日、高柳芳夫「『禿鷹城』の惨劇」を古本屋で100円で手に入れたんだけど
開いたらサインらしきものあった。

>>18
「密使」良いですよねぇ。「晩餐」も面白いとは思うんだが
密使に比べギャグが高尚すぎる感じで少しついていけなかった。
21名無しのオプ:2006/03/32(土) 00:05:58 ID:U/hzvO/H
3/32日記念
22名無しのオプ:2006/03/32(土) 00:07:19 ID:1/goQN5y
へ?
23名無しのオプ:2006/03/32(土) 00:51:40 ID:HkMFKxx1
ミステリ・プロパーじゃないけど広瀬正の「T型フォード殺人事件」なんかも
このスレでいいのかな?
メイントリックは某有名作のバリエーションです。
24名無しのオプ:2006/03/32(土) 15:50:33 ID:xncx5nTT
小泉喜美子も含まれる?
微妙に本格とは言いがたい部分もあるが(テイスト的にはサスペンスかしら
弁護側、ダイナマイト、血の季節は本格として評価していいと思う
「死だけがわたしの贈り物」はこの前買ったけど未読
25名無しのオプ:2006/03/32(土) 21:31:28 ID:e9BYC3ou
小泉喜美子が本格?
本人はかなり過激なアンチ本格派だぞ
26名無しのオプ:2006/04/02(日) 16:43:22 ID:vKG8FAtH
三つとも本格物じゃないだろ。
「このトリック(アイデア or シチュエーション)を評価する」と
「本格物として評価する」とは別だよ。
27名無しのオプ:2006/04/02(日) 19:53:13 ID:Ezo9PP9t
各人の本格論は横に置くとして、このスレで小泉喜美子が
スレ違いになってしまうのだとしたらそれはそれで納得しかねる。
28名無しのオプ:2006/04/02(日) 20:44:35 ID:jHjNM0Y4
本格論がどうこういうと容疑者Xに噛み付く某先生みたくなるからw
実際このスレは「本格ミステリフラッシュバックみたいなもの」を想定してるんだし
実際あの連載には取り上げられるてるし、いいと思うよ

個人的にはこの間読んだダイナマイト〜にも
何気ない描写の伏線が最後に結びついて解決?を導くところで
本格を感じたけど(作者がどう思って書いてるかは別にしてさ


293:2006/04/03(月) 14:43:10 ID:TWZQOqaX
また、幾つか紹介しておきます。

三好徹「帰らざる夜」
1970年頃の長編。この作者の「本格ミステリ」には、清張の「新本格」に応じた
「閃光の遺産」があるが失敗作。一応、フーダニットに徹し、かなり意外な犯人
(飽くまで、当時としては)を設定した本作がベスト。
その他、社会派と見せかけて実は、という「光と影」もあるが、トリックがショボ
過ぎ。「消えた蜜月」も、現代の感覚では「本格ミステリ」とは言い難い。

山村正夫「落日の墓標」
1977年に出た、表題作ほか「逆行の賭」「負け犬」「孤独な意匠」「災厄への招待」
からなる短編集。八丈島を舞台にしたアリバイ崩しの表題作がベスト、「負け犬」の
新聞社に関する意外というか凄まじい動機も印象的。残りもアリバイ崩しなどトリッ
クに凝ってますが、やはり通俗的で古びてしまっています。

皆川博子「妖かし蔵殺人事件」「知床岬殺人事件」
いずれも1985年前後の長編で、余計な付加価値のないストレートな「本格ミステリ」。
前者では歌舞伎界を舞台にしたユニークなトリックが光り、後者では、機械的ながら
も印象に残るアリバイ工作が使われている。他に「相馬野馬追い殺人事件」も読み
ましたが、これは駄作。

笹沢左保「盗作の風景」「遥かなり、わが愛を」
前者は1960年代、後者は1970年代の長編。いずれも、鮎川哲也とは全く異質な
アリバイ物。どちらも説明し辛いですが、前者は心理的なもの、後者は機械的(?)
なもの。
バカミス好きには、ごく初期の「揺れる視界」「結婚って何さ」もお勧め。
やはり笹沢左保は凄いの一言。個人的には、乱歩、横溝、清張に次ぐ巨匠は、鮎川でも
高木でもなく、この作家だと思います。
303:2006/04/03(月) 14:44:52 ID:TWZQOqaX
連投スマソ
海渡英祐「おかしな死体ども」「ふざけた死体ども」
吉田茂なる「ドーヴァー警部」もどきの無能警部補を主人公にした連作集。
いずれも、ケーキに顔を突っ込んで死んだのは何故か、全裸で死んでるのは何故、
縫いぐるみを被って死んだのは何故、といったパターンで統一されており、恐らく、
都筑道夫の「キリオン・スレイ」「退職刑事」シリーズに呼応して書いたのでしょう
が、全く残念なことに、「ユーモア本格」にしたのが今となっては大失敗。ユーモア
は古び、下品な通俗性は鼻に付くはで、せっかくの素晴らしい謎の設定が、勿体ない
ことになっています。それを気にしなければ楽しめる怪シリーズ。

(番外)
島田一男「黒い花束」
1961年の長編。
登山中に事故死した女性。その呪いなのか、友人たちが次々と謎の消失を遂げる。或る者は
怪しい洋館で足跡だけを残して、また或る者はトンネルから、更には衆人環視のバンガロー
から、最上階のマンションから・・・・。
奇術師一家の古びた洋館、事故死した女性の幽霊、妖しい晩餐会、現場に残される黒い花束・・・、
と来れば、誰だって、J・D・カーかC・ロースンかN・ベロウかというバリバリのオカルト風
本格ミステリと思いますが、実は・・・・。
まあ、島田一男にこんな不可能犯罪物が書けるはずはない、とは最初から思ってましたけど。
バカミスを笑って済ませられる人だけにお勧め。
31名無しのオプ:2006/04/03(月) 16:36:23 ID:8vmJBkqI
>>3には1作しか入ってないけど、結城昌治には「ひげのある男たち」「長い長い眠り」「仲のいい死体」の
本格3部作(というか同じ刑事が出てくるっていうだけなんだけど)があるじゃないですか。
作家の知名度がハードボイルド寄りなので、その手の作品と勘違いされてる節もあるけど。
323:2006/04/03(月) 17:52:31 ID:TWZQOqaX
>>31
はい、その3部作を紹介しないのは、「長い長い眠り」しか読んでないからですorz
俺も、決して広範に読んでる訳ではないのでご容赦を。

・・・では詰まらないので、別の紹介を。

海渡英祐「事件は場所を選ばない」
タイトルどおり、ホテル、トイレ、エレベーターなど、色々な場所で起きた事件を
テーマにした短編集。
巻頭作は「殺しもあるでよ」。・・・・・。
何ちゅうタイトルか。でもイタいタイトルとは裏腹に、広告代理店を舞台にした、
被害者以外に人の出入りがないエレベーター内で起きた密室殺人、伏線も上手いし、
ストーリーはともかく、プロット、トリックに本格派の粋を凝らした一編。
その他「禁断の時」「臭い仲」も不可能犯罪物の佳作。特に後者はアクロバティックな
トリックと意味深長なタイトルが印象に残る。
「悪霊の家」は、J・D・カーばりに、幽霊屋敷で起きる不可解な首吊り事件と殺人事件。
文中でもカーに触れていますが、怪奇的な雰囲気の中での密室トリックが見事。
その他「夏の終わり」「不可解な心中」「甘い罠」で全7編。やや通俗的なストーリーばかり
ですが、全編、最低限は、本格ミステリとしての筋を一本通しています。
33名無しのオプ:2006/04/03(月) 18:01:42 ID:BluqaVZp
>「殺しもあるでよ」
良いタイトルだと思ってしまうおれはイタイのだろうかw
34名無しのオプ:2006/04/04(火) 00:58:33 ID:Qe5cNPOc
和久峻三を読もうと思うのが、「仮面法廷」「雨月荘殺人事件」以外で
これは読んどけって作品ある?
35名無しのオプ:2006/04/17(月) 12:46:24 ID:Qjkf85g6
age
36名無しのオプ:2006/04/18(火) 12:01:02 ID:jmn8r0Rv
あんまり伸びていないなあ。
取りあえず紹介。

斉藤栄「黒部ルート殺人旅行」(徳間文庫)
1972年の長編。
黒部ルートに関する或る意外な事実(今もそうかは知らないが)と、富士山に関する
或る知識がアリバイ工作のミソになっているところが、まあユニーク。
探偵である検事の行動が唐突であったり、根拠も無く推理を広げてゆく点、被害者の
妻の行動がその後説明されない点などが気になるが、まあまあの佳作かと。
感心したのは、小技ながら、車で事故死に見せかける話。どうしたって死体の疑念に
目が行くところ、実は・・・、という点は面白いところ。

笹沢左保「誰もが信じられない」(徳間文庫)
1967年の長編。
現在進行形で起きている事件の犯人は直ぐに割ってしまっているが、過去の事件に
ついては、それなりに手の込んだ真相を用意。でも、これで「本格ミステリ」と
呼ぶのは少々辛いか。まあクリスティ中期から後期にある「回想の殺人」テーマと
考えれば良いかなと。
あと文庫版解説は、あの笠井潔。1981年執筆とのことで、デビューして1、2年頃
か、青臭くて何の変哲もない月並みな評論が笑える。
37名無しのオプ:2006/04/18(火) 12:21:41 ID:Sq7qHvMd
ブクオフにて参考にさせてもらってます
ただランク付けしてもらえるとありがたいかな
38名無しのオプ:2006/04/18(火) 16:03:47 ID:jmn8r0Rv
了解。五つ星満点で星幾つとか、100点満点で何点、とかいうことね。
例えばこんな風?

アンソロジー「ホシは誰だ?」(文春文庫)★★★★
1980年刊。「犯人あて推理アンソロジー」の副題どおり、文春「漫画讀本」掲載の犯人当て短編の集成だが、
収録作家が凄い。このスレのために編集されたような面々。
鮎川哲也、三好徹、飛鳥高、佐野洋、高原弘吉、結城昌治、樹下太郎、島田一男、都筑道夫、笹沢左保、
土屋隆夫、菊村到、陳舜臣、筒井康隆、戸板康二、生島治郎、海渡英祐(全17名、掲載順)。
ああ、壮観。
全編20ページ足らずで、犯人当てのレベルを考えると、はっきり言って玉石混交だが、短い故に、
伏線の張り方やトリックなどに各作家の個性や持ち味が出ていると思う。
トップバッターは鮎川哲也「Nホテル六○六号室」。アリバイ工作とダイイング・メッセージを盛り
込んだ手際、構成など他作家とは違う緊密さがあり頭一つ抜けている。土屋隆夫「動機と機会」は
毒殺トリックに新趣向を示し、島田一男「執念の島」は南郷弁護士が登場。アリバイ工作に笹沢左保の
某初期長編に似た手法が使われている。トリを務める海渡英祐「ウマい発見」は競馬ミステリ。出馬表
に絡めたダイイング・メッセージ物。
歴史物としては、三好徹「王妃の首飾り」。フランス・ルイ王朝時代の殺人事件を扱っているが、捻りが
やや弱いのが難。
本書の最高傑作は、ユーモア物の樹下太郎「怪人ギラギロ現わる!」。女性の鼻毛を狙う怪人ギラギロが
温泉に侵入、5人の女性のうち誰の鼻毛を抜いたか?という当て物(!?)。フザケルな、と思ったら、
これがちゃんと論理的に解明されるから恐れ入る。陳舜臣「新・黄色の部屋」も、「あの陳舜臣が!?」と
驚くギャグ満載で、「猟人日記」の楽屋落ちは爆笑もの。
SF仕立てでは、筒井康隆「ケンタウルスの殺人」。論理構成は推理プロパー作家に負けていない。
また都筑道夫「夢の完全犯罪」も、「ロボット三原則」を逆手にとった密室トリックが冴えている。
その他の作品も、それなりに趣向を凝らしており飽きない。
39名無しのオプ:2006/04/18(火) 16:28:16 ID:Sq7qHvMd
うおおサンクス!
超読みてえ!!

出来ればこれまでのも採点頼みまする
40名無しのオプ:2006/04/18(火) 17:50:16 ID:jmn8r0Rv
では一番最初の>>3から紹介した全作ランク付け。

島田一男
「去来氏曰く」(別題・夜の指揮者)★★★★「黒い花束」(採点不能)
笹沢左保
「霧に溶ける」★★★★★「求婚の密室」★★★★「孤独な彼らの恐ろしさ」★★☆
「明日に別れの接吻を」★★★「四月の危険な石」★「盗作の風景」★★★☆
「遥かなり、わが愛を」★★★「誰もが信じられない」★★
佐野洋
「賭の季節」★★★☆
陳舜臣
「方壺園」★★★★★「長安日記」★★★★「割れる」★★★「杭州菊花園」★★★
蒼社廉三
「戦艦金剛」★★★★
結城昌治
「魚たちと眠れ」★★★☆
海渡英祐
「影の座標」★★★★★「白夜の密室」★★★★「突っ込んだ首」★★★★☆
「閉塞回路」★★★★「仮面の告発」★★★「死の国のアリス」★★☆
「おかしな死体ども」★☆「ふざけた死体ども」★☆
斉藤栄
「真夜中の意匠」★★★☆「黒部ルート殺人旅行」★★☆
大谷羊太郎
「殺人航路」★★★☆「レコーディング殺人」★★☆「殺人予告状」★★★
藤村正太
「特命社員殺人事件」★★★
笠原卓
「ゼロのある死角」★★★☆
山村正夫
「裂けた背景」★★★☆「落日の墓標」★★☆
41名無しのオプ:2006/04/18(火) 17:51:16 ID:jmn8r0Rv
(続き)
草野唯雄
「影の斜坑」★★★☆「瀬戸内海殺人事件」★★★「まぼろしの凶器」★☆
日下圭介
「鶯を呼ぶ少年」★★★★☆「花の復讐」★★★☆
小林久三
「暗黒告知」★★★
高柳芳夫
「『禿鷹城』の惨劇」★★★☆
伴野朗
「香港から来た男」★★★「殺意の複合」★★★☆
梶龍雄
「海を見ないで陸を見よう」★★★★★「ぼくの好色天使たち」★★★★
「リア王密室に死す」★★★★☆
本岡類
「白い森の幽霊殺人」★★★★「青い森の竜伝説殺人」★★☆
角田喜久雄
「影丸極道帖」★★★☆
仁木悦子
「枯葉色の街で」★★★☆
多岐川恭
「13人の殺人者」★★★
小林信彦
「大統領の密使」★★☆
三好徹
「帰らざる夜」★★★☆「光と影」★「消えた蜜月」★
皆川博子
「妖かし蔵殺人事件」★★★★「知床岬殺人事件」★★★「相馬野馬追い殺人事件」★
42名無しのオプ:2006/04/27(木) 14:35:10 ID:V9icm/Fr
笹沢の評価が甘い気がするから他のも不安だが読んでみるよ
43名無しのオプ:2006/04/27(木) 16:31:32 ID:ZFLBC1iM
>本岡類「白い森の幽霊殺人」
って新本格隆盛のころに何かに紹介されてるの見て読んだから、
同じ新本格グループの仲間かと思ってたよ。
それほど古臭さもなかったな。
443:2006/04/27(木) 18:35:56 ID:7uFyh5It
久々にレスが付いたので、また幾つか紹介しときます。

大谷羊太郎「虚妄の残影」(徳間文庫)★★★☆
1972年刊。戦争中、将校から軍資金のダイヤモンドを託され、後年、社長となった
男が密室状態の部屋で毒殺される。その男が過去に犯したらしい強盗事件の被害者
の孫である主人公の芸能プロダクション社長が事件を追うが・・・。
密室トリックに相変わらずアイディアを凝らしており、なかなか秀逸、真犯人の設定
も先ず先ず。難点は複雑な人間関係が手際よく処理されていない点でしょうか。

大谷羊太郎「深夜の訪問者」(光文社文庫)★★★
1975年刊。バンドのボーヤをしている高垣。知り合いのルポライターが、高垣が
席を外した隙に密室状況の部屋から謎の転落死を遂げる。更には、ルポライターの
婚約者も名古屋のホテルから密室状況の中、謎の転落死を遂げた・・・。
芸能界を舞台にした典型的な大谷作品だが、やや冗長。連続3件の密室殺人が起こり、
第二、第三の心理的トリックの出来は悪いが、何気ないエピソードを伏線として、
心理的なトリックと機械的なトリックを組み合わせた第一の殺人が秀逸です。

佐野洋「秘密パーティ」(集英社文庫)★☆
1961年刊。さる料亭で開かれた議員連中の秘密パーティの席上、料亭の女将の妹が
謎の毒殺死を遂げる。議員達は事件をウヤムヤにして、同席していたホステス達にも
固く口止めをするが、やがて謎の脅迫文がメンバーのところへ届き始める・・・。
シンプルな構成と大胆不敵なトリックで、最後の数ページまでネタを割らせないよう
工夫されている点は流石ですが、飽くまで、当時としては「大胆不敵」なだけ。現代の
読者には直ぐに察しが付いてしまうでしょう。
453:2006/04/27(木) 18:37:58 ID:7uFyh5It
連投スマソ

森村誠一「死の軌跡」(集英社文庫)★★☆
鉄道のアリバイ物4編で固めた短編集。
「剥がされた仮面」は甲府近郊で起きた殺人事件、列車の乗降に関するトリックが
意表を突いているが、フェアでないのが残念。
「殺意の接点」は更に意表を突いた大技のトリックというかバカミス。「こんなこと
出来るか!」と思いましたが、伏線は序盤から明示されており、その意味ではフェア
かも。
「浜名湖東方十五キロの地点」は、来日中のアメリカ政府高官の暗殺を企む話。絶対に
近づけない筈の走行中の新幹線に接近するためのトリックがありますが、これは現代で
は予想がつくでしょう。
「歪んだ空白」は長編「新幹線殺人事件」と似たシチュエーションながら、全く別の
真相が用意されており、まあまあの佳作です。

海渡英祐「美女が八人死体が七つ」(トクマノベルズ)★★★
1978年刊、司法試験の受験生を探偵役とした連作集。
第1話「密室のワンちゃん」は、飼い犬が誘拐され殺人事件の現場で発見される。被害
者は大の犬嫌いだったのに何故?・・・という話。先ず先ずの出来。
「ネコかぶりのネコ」は飼い猫の誘拐、毒殺が続いた挙句の殺人事件。クイーンの某短編
を思い出すが、もちろん別の意表を突いた真相を用意。本作がベストか。
「ピンク・パンティ2」「憎らしい絵本」は、いずれも下着泥棒、本の盗難、といった
小事件が、やがて殺人に発展し、最初の事件が意味する真相は?というもの。「その嘘
ほんと?」「ミセス放射能」も同工異曲。ラストの「お熱いのはダメ」は、新婚初夜に
ホテルのバスルームから失踪した花嫁が、別室で殺されていた、という事件。密室から
の失踪という「不可能犯罪」に拘泥せず、心理的な動機解明が面白いです。
全体として、重大犯罪とは無関係に思える珍妙な事件が、やがて殺人事件に発展、さて
冒頭の変な事件が意味していたのは?という流れで統一されています。やはり都筑道夫の
影響が大きいようです。
46名無しのオプ:2006/04/27(木) 22:31:19 ID:OtrLWh2Z
参考になります。感謝。
47名無しのオプ:2006/04/29(土) 13:47:15 ID:KWlkeIHq
>>38
ダメ元で検索したら、「ホシは誰だ?」が近所の図書館にあった。
今から借りてくる。
48名無しのオプ:2006/04/29(土) 14:55:50 ID:8gwZDqiH
『ホシは誰だ?』は島田一男の南郷弁護士シリーズの未収録短編を読むために買ったけど、
作者の個性が出ていて良質の犯人当てアンソロジーだと思う
49名無しのオプ:2006/04/29(土) 16:33:12 ID:2d/Pp/Bt
>>38
筒井康隆のだけ本人の短編集で読んだな。
論理的ではあるんだろうけど、正直解決編は謎の解明というよりもオチっぽかったな。

同じ犯人当てで、最近出たやつだけど収録作の発表時がこのスレに該当するのが、
「あなたが名探偵」(講談社文庫・もっと最近に出た同題の創元クライムクラブのほうじゃない)。
この中の1篇、仁木悦子の作品には実は図版が抜けていて、その内容のままだと解決できなくなっている。
仁木自身の作品集にはちゃんと図版つきで収められているのを確認するまで、
【メール欄】、それが常識で自分が知らないだけなのかとてっきり思い込んでいた。
50名無しのオプ:2006/04/30(日) 02:19:26 ID:FxauXqxm
>>41
梶龍雄だったら、「リア王密室に死す」もいいけど、個人的には
「若きウェルテルの怪死」もオススメ。旧制高校シリーズを復刊してくれないかな。

本岡類は、1980年代前半の赤川次郎ブームの頃、いろんな作家がノベルズでユーモアミステリーを出していた中で、
かなり本格物としても充実した作品を発表していた記憶がある。
その中では光文社から出ていた僧侶を主人公にしたシリーズがイチオシ。
「武蔵野0.82t殺人事件」(タイトルうろ覚え)は、鐘楼にぶら下がっていた巨大な鐘が
ある日突然飛んで人を踏みつぶした謎をから始まる連続殺人事件を追うという物。
個人的な考えだけど、新本格の作家よりも本格ミステリーのセンス、特にトリックのセンスは
はるかに上だと思う。
51名無しのオプ:2006/04/30(日) 12:54:08 ID:U8R8FWz9
>>50の補足。
本岡類の「武蔵野0.82t殺人事件」は、文庫化の際に「飛び鐘伝説殺人事件」に改題された。
僧侶シリーズの2作目(この作品で打ち切りだけど)は「斜め「首つりの木」殺人事件」(ノベルス時は「大雪山 牙と顎の殺人」)。
どちらも面白いので機会があったら読んでみてほしい。
52名無しのオプ:2006/04/30(日) 23:21:24 ID:Sfmo0qdB
本岡類は俺も好き。
ただ、ミステリー絶筆宣言しちゃったね。
53名無しのオプ:2006/04/30(日) 23:51:05 ID:bXOISz24
左右田謙(角田実)のおすすめってありますか?
543:2006/05/01(月) 10:18:26 ID:/CMEK4f+
>>53
左右田謙は・・・・、以下の3長編&1短編しか読んでいませんが、全く評価できません。悪しからず。
「球魂の蹉跌−高校野球殺人事件」(春陽文庫)★
「一本の万年筆−県立D高校殺人事件」(同)☆
「狂人館の惨劇−大立目家の崩壊」(同)(採点不能)
短編「嫉妬」(別冊『宝石』−新鋭二十二人集(昭和27年6月)、角田實名義)★★

最初の3長編は、1980年代に春陽文庫書き下ろしで刊行されたと思います。アリバイ工作やら密室やら
本格ミステリを狙っているのは分かりますが、結局プロットが破綻して、矛盾撞着したまま終了します。
そもそも、どうしようもなく泥臭いストーリーですし。
「狂人館の惨劇」など、その最たるもの。本作はそのキテレツさ故、幾瀬勝彬「推理実験室」などと
並んでカルト的な人気があるようですが、そういう奇を衒ったマニア的な態度は大嫌いなので、評価ゼロ。
むしろ、短編「嫉妬」の、ゴムのチューブを使った奇矯な絞殺トリックが面白かったです。
あと、確か昭和25年頃の短編デビュー作「山荘殺人事件」が、密室トリックの佳作だったのではないかと
思いますが、今、内容を思い出せません。
55名無しのオプ:2006/05/01(月) 10:54:58 ID:/s1BWC0y
>>32
>巻頭作は「殺しもあるでよ」。・・・・・。

これ、「ハヤシもあるでよ」っていうCMのパロディだよね。
563:2006/05/01(月) 12:24:50 ID:/CMEK4f+
>>55
そのとおり、オリエンタルカレーですね。しかし、そのCMを知っているということは、
俺と同世代?w

また幾つか紹介しておきます。

長井彬「奥穂高殺人事件」(光文社カッパノベルス)★★☆
「北アルプス殺人組曲」に続く山岳ミステリの第2弾。1985年の長編。
なかなか巧妙な犯罪計画の真相が明らかになる終盤は面白いのですが、それまでの展開が、
どうももたついているような。真犯人の心理の一部にも納得できないものがあります。
何よりも、登山のシーンが長くなりすぎた感じで、色々な伏線も示された立派な本格ミステリ
ではあるのですが、裏の真相と上手く溶け合っていないようで残念。
因みに、本格ミステリフラッシュバックで紹介済みの「北アルプス殺人組曲」(★★★★)の
方が本格ミステリとしては上出来。終盤で或る真相が暴かれる瞬間は、なかなかにビックリ
しました。「原子炉の蟹」以下の初期社会派風作品よりは山岳物の方が本格ミステリとしての
出来は上だし、森村誠一「密閉山脈」他の山岳物よりも優れていると思う。

(番外)
伴野朗「三十三時間」(講談社文庫)★★★★
1978年の長編。
昭和20年8月の上海。沖合の孤島に駐留し、無線連絡が不能となった日本軍部隊に向け、終戦の
事実を伝えるべく秘密裏に船が出港した。だが、その島にいる中国の要人を狙うスパイが船内に
潜入、船内の密室で殺人事件が発生する。一体、敵のスパイは誰なのか?そして船は無事に島に
到着できるのか・・・?
以上のとおり、本作は冒険小説ですが、実はフーダニット、密室、ダイイングメッセージなど
謎解きの要素も十分に詰まった秀作です。まあ、トリックは大したことないし、ダイイング
メッセージは詰まらない出来ですが、創元文庫で「冒険小説と謎解きの融合した傑作」などと紹介
されている「捕虜収容所の死」や「人魚とビスケット」辺りよりは、遥かに「本格スピリット」に
溢れていると思います。スパイの正体に関する伏線も、それなりに張られていますし。
5753:2006/05/01(月) 14:21:26 ID:7WS4aaEB
3氏、ありがとうございます。
春陽文庫はなかなか見かけないですが、
頑張って見つけてみようと思います。
58名無しのオプ:2006/05/01(月) 16:23:35 ID:GysijZc2
>>54
「一本の万年筆‐県立D高校殺人事件」は、幻影城ノベルスから出た「疑惑の渦」の文庫化だったと思います。
59名無しのオプ:2006/05/01(月) 22:19:00 ID:/s1BWC0y
個人的に好きな作品

井沢元彦「五つの首」
戦国時代の安土を舞台に、連続首無し殺人事件を織田信長が推理する、
当時作者がよく書いていた織田信長シリーズの一作。
時代背景などもしっかり書き込んであり、歴史ミステリーとしてもしっかりしているが、
本格ミステリーとしても完成度が高い。。
これだけの作品を書ける作者が、なぜ今は見るも無惨な姿に……

栗本薫「優しい密室」
ある名門女子校で若い男性の死体が見つかる。
学校に馴染めずに孤独に苛まれていた少女は、この事件に疑問を持ち、
教育実習生としてこの学校に来ていた伊集院大介と共に事件解明に乗り出す。
伊集院大介シリーズの一作で、伊集院大介と初期の語り手森カオルとの出会いを描いている。
あの密室トリックはどうかと思うし、本格物としてはイマイチではあるが、
自意識過剰な若者の苦悩と模索を描いた青春小説としてはそこそこ面白い。
ま、のちのこの作者の姿を予感させるところも見られるが、
これだけの作品を書ける作者が、なぜ(ry


古い記憶を掘り起こして書いているので、間違いや美化してる部分があるかもしれません。
603ではないが・・・・・:2006/05/02(火) 15:54:10 ID:uQeTR+qS
>>3のように親切ではないので題名と点数だけ。
詳しくは3さん、フォローよろしく。

荒巻義雄 
『天女の密室』★★ 『石の結社』★
筑波孔一郎
『殺人は死の正装』★ 『屍衣を着た夜』★☆
狩久
『不必要な犯罪』★★
梶龍雄
『金沢逢魔殺人事件』★★★ 『海を見ないで陸を見よう』★★★★★ 『竜神池の小さな死体』★★★
高柳芳夫
『ライン河の舞姫』★★☆(「『禿鷹城』の惨劇よりは上)
余志宏
『蒔く如く穫りとらん』★★★
草野唯雄
『もう一人の乗客』★★★★ 『女相続人』★★★★(厳密には本格とは言えないが・・・)
海渡英祐
『燃えつきる日々』★★★
日下圭介
『木に登る犬』★★★★★ 
黒木曜之助
『妄執の推理』★★★★(なかなかの拾い物)
新羽精之
『鯨のあとに鯱がくる』 ★★
五代駿介
『酒中死美人の謎』☆
美土里くん
『ドライツェーン』☆半分
61名無しのオプ:2006/05/02(火) 17:53:40 ID:cK2NmlQi
イイヨイイヨー
「本格ミステリフラッシュバック」収録作品にも星つけてくれたら
モットイイヨー
62名無しのオプ:2006/05/03(水) 00:18:09 ID:6qIuqxfY
鮎川哲也「死者を笞打て」

1965年作。鮎川哲也は「死者を笞打て」という小説を発表するが、
それは別人の作品であり鮎川が盗作したとの疑いをかけられてしまう。
いろんな意味で窮地に立たされた鮎川は、身の潔白をはらすため、
「死者を笞打て」の晋の作者といわれる女性を捜そうとするのだが……

鮎川の作品、特に晩年の物にはユーモア溢れる物が数多くあるが、それらの極北にあるのが、この作品。
何と言って当時活躍していたミステリー作家が、名前の一部を一部を改変して登場。
実名でないからいいだろうと作者が思ったかは知らないが、ま、はちゃめちゃの連続。
こういう物を笑って許せる交友関係があったのだろう。
楽屋話や登場する作家の人柄を偲ばせるエピソード満載で、
このスレの住人には必読の書と言ってもいいと思う。
63名無しのオプ:2006/05/03(水) 00:46:52 ID:bch8cxky
>>62
鮎川は専用スレがあるがなあ。
このタイトル、いつ見ても「こけうて」と読んでしまう。
64名無しのオプ:2006/05/03(水) 02:04:04 ID:AWYwgC1/
このスレって、>>1にもあるように「本格ミステリフラッシュバック」系の
ミステリ作家・本格ミステリ・本格マインドのある作品が対象だよね?
65名無しのオプ:2006/05/04(木) 01:19:54 ID:pP5gWeny
>>64
このスレを立てた者ですが、そういう作品を想定していました。
「専用スレがない作家」と言いましたが、このスレ的にどうかという文脈で語るのは有りだと思うし、
87年以降の作品でもいわゆる新本格以外の作家の話(深谷忠記の近作とか)ならOKって感じで、ある程度曖昧で良いと思いますw。

ちなみに今は『魔境殺神事件』を読んでいます。
読了したらレビューをするつもりですが、このスレの住人にとってはメジャーな部類かな?
66名無しのオプ:2006/05/06(土) 12:59:13 ID:QAt/tS2/
>>56
長井彬は「殺人オンライン」「死の轆轤」「函館五稜郭の闇」「連続殺人
マグ二チュード8」などの評価はどうですか?
67名無しのオプ:2006/05/07(日) 17:30:08 ID:4VDQ3/kY
青柳友子、草川隆ってどうなの?

>>66
『函館五稜郭の闇』は持ってるかも。
探してみて見つかったら読んでみる。
68名無しのオプ:2006/05/07(日) 20:44:52 ID:+8f9CKCG
ここで挙がってる作品、ほとんどとは言わないまでも結構既読なのだが
内容をすっかり忘れてしまっているので参加できない・・・orz
69名無しのオプ:2006/05/07(日) 21:22:05 ID:et3zdx8r
笠原卓あたりも是非とも再評価してもらいたい
70名無しのオプ:2006/05/07(日) 22:00:11 ID:L+fDbhh9
>>13-14の評価もよろ
713:2006/05/08(月) 14:14:14 ID:zFKiHzEN
長井彬「槍ヶ岳殺人行」(光文社文庫)★★★★
1985年刊、「北アルプス殺人組曲」「奥穂高殺人事件」に続く山岳物の本格ミステリの第3作。
これは派手なトリックや真相暴露の部分の効果的な演出がない点で、第1作の「北アルプス・・・」に
一歩譲りますが、実に細かい伏線を張り巡らした秀作です。真相が解ったときには、思わず或るペー
ジを読み返し、ちゃんとフェアに描かれていることに感心しました。
惜しむらくは、序盤に登場人物が多数登場し過ぎて、整理が悪くなっている点と、或る人物に関する
情報が後出し的で、ちょっとアンフェアかな、と思った点でしょうか。でも地味なトリックとさり気
ない伏線を細かく積み重ねた、渋い出来の秀作だと思います。

>>66
>長井彬は「殺人オンライン」「死の轆轤」「函館五稜郭の闇」「連続殺人
>マグ二チュード8」などの評価はどうですか?

評価は以下のとおりです。
「殺人オンライン」★★★
「死の轆轤」所持せず未読
「函館五稜郭の闇」所持するも未読
「連続殺人マグ二チュード8」★★☆

「函館・・・」と「萩・殺人迷路」は所持してますが、どうも凡庸なトラミス臭くて食指が動きません。
723:2006/05/08(月) 14:17:34 ID:zFKiHzEN
連投スマソ

高柳芳夫「ベルリンの柩」(新潮文庫)★★☆
1980年頃の短編集。「『黒い森』の宿」は、確か著者の処女作。習作の域を出ない凡作。
「ライン河の二重教会」はスパイ物で本格に非ず。
「木曜日の女」は秀作。結末の意外性に優れ、密室トリックとしても合格点。
表題作も佳作。「ベルリンの壁」で東西に分断されていたベルリンの状況を上手くストーリーに
溶け込ませ、トリックと何気ない伏線が活きている。
本格ミステリは後半の2作のみだが、読む価値はあると思います。

陳舜臣「怒りの菩薩」(集英社文庫)★★☆
1962年の長編。
昭和21年の台湾が舞台。密室状況の山中から犯人が消失したトリックは小粒で凡庸だが、
何気ない描写に含まれた伏線が光ります。

陳舜臣「月をのせた海」(徳間文庫)★★★
1964年の長編。これまた小粒の話で、どこか中途半端に終わった点が残念。
中心となるトリックは写真絡みのアリバイ工作で、伏線や手掛かりの点で不満が残りますが、
ネタとしては実に陳舜臣らしく、この作者以外には描けないもの。ラストのドンデン返しと
劇的な幕切れも先ず先ず。

幾瀬勝彬「幻の魚殺人事件」(春陽文庫)★☆
春陽文庫お抱えのB級作家の短編集。
表題作は小学生のクイズ並みのネタ。でも忘れていたので結末まで見破れず・・・orz
「オパールの女」、「夏風邪をひく女」、「死の時計」、「撃墜作戦」は駄作。
「密封された寝室」も詰まらないが、室内のドアの目張りを、部屋の外部から行う密室トリックが
使われており、それがJ・D・カーの某作品とは違う方法で、しかも現実性がありそうなので、
ちょっとだけ感心。
巻末の「孤独な詭計」がベスト。犯人側でなく、×××がアリバイ工作を行うが○○○になって
しまって・・・・、という点がユニーク。確か鮎川哲也の某短編で先例がありますが、あれとは微妙に
状況をズラしており、独創性があると言えます。
73名無しのオプ:2006/05/08(月) 21:47:30 ID:a2BRfAUx
>72
「幻の魚」は消防の頃、宰太郎にトリックだけばらされて
是非読んでみたかったものだった。

高柳は今上がっているくらいまでは耐えられるんだが……
74名無しのオプ:2006/05/09(火) 00:10:35 ID:cU9xDB9b
>>18で紹介されていた仁木悦子の「枯葉色の街で」を読了。
いや、これはいいわ……。
仁木悦子が描く子供は、本当に魅力的。
紹介,thx!
753:2006/05/10(水) 11:30:37 ID:383Qc+fH
アリバイ物を幾つか紹介。

松本清張「死の発送」(角川文庫)★★☆
1962年の長編を1982年に改題したもの(改稿も?)。
トランクの送り主が、そのトランクから死体で発見されるという謎は面白いし、
アリバイトリックそれ自体も出来の良いもの。××車を使った移動、○○車と
△△車の時間のズレなど面白いです。トランクの件も、まあセーフかな。
でも、やはり何かが足りません。小説としては面白くても、アリバイを崩して
ゆく展開が退屈。鮎川哲也ならば同じ材料でもっと面白い本格ミステリに仕立
てるような気がします。それはきっとセンスというか、真相に至る際の閃きみ
たいなもの(例えば、鮎川「黒いトランク」の風見鶏の件みたいなもの)が決
定的に違うのではないかと思います。

津村秀介「時間の風蝕」★☆「黒い流域」★★(ともに集英社文庫)
どちらも1983年頃の初期長編。鮎川哲也が推していたようなので読みましたが・・・。
「時間の風蝕」など、出だしは快調なのですが、ショボいトリックで腰砕け。
「黒い流域」の方がトリック的には買えますが、これまた何かが決定的に足り
ない。単に時刻表の盲点やら知られざる知識、意外な移動手段を使えばアリバイ
物として面白くなる、という訳ではないことを如実に証明したような作品。題名
からして、鮎川や清張のエピゴーネン臭いし。

小杉健治「東京−岐阜Σ0秒の罠」(光文社文庫)★★☆
1987年刊。本格的なアリバイトリックの秀作、ということで読みました。
確かに、複雑なアリバイ工作は面白く、1960年代頃の作品であれば立派な
アリバイ物の秀作だったでしょうが、現代の視点で見れば、ただ物事を
複雑にし過ぎているだけのようで、犯人はもっと合理的な行動を取るべき
では、との疑問が。もっとも作者自身も、アリバイ崩しだけでなく、後半
の法廷推理との結合を狙ったのでしょうが、どこか力を出し切っておらず、
法廷物・アリバイ崩し物、どちらも中途半端になった気がします。
76名無しのオプ:2006/05/12(金) 22:04:16 ID:WlsDqPYp
仁木は「林の中の家」も傑作。
77名無しのオプ:2006/05/14(日) 09:18:20 ID:1SF0CPZr
>>75
小杉健治は87年前後あたりはそれなりの佳作を量産してたと思う。
だいぶ内容忘れているのでその辺のレビューをキボンヌ。
78名無しのオプ:2006/05/20(土) 00:46:41 ID:8RSg8WRz
藤雪夫・藤桂子「獅子座」(1984年・講談社)
藤雪夫氏が約30年前に書いた作品を、娘さんの桂子さんと合作で改稿したもの。
ちなみに元の作品は、「十三番目の椅子」を鮎川哲也の「黒いトランク」と最後まで争った。
幼い頃に母が失踪に天涯孤独となった姉妹の物語と、殺人事件を追う刑事の話が
微妙に絡み合い、闇に隠れた悲しい真相が明らかになっていく。

暗号やアリバイなど、ミステリーのあらゆる小道具を詰め込んだ力作。
50年代に書かれた小説の改稿版だから、どことなく古くささを感じることもあるけど、
本格物の佳作として今も多くの人に読まれるべき作品だと思う。

なお、作者の藤雪夫氏は第2作の「黒水仙」を執筆中に亡くなった。
もう少し長く活動してくれれば、この「獅子座」ももう少し長く残ったと思う。
79名無しのオプ:2006/05/21(日) 01:52:35 ID:kSMOAD9C
だからフラッシュバックの作品群にも☆を付けてたも
803:2006/05/22(月) 11:24:47 ID:/qM+tbWt
笹沢左保「東へ走れ男と女」(徳間文庫)★★★
1967年刊。かつて強奪したダイヤモンドを山分けするべく、十年ぶりに再会した
強奪犯やその代理人たち。鹿児島の貸金庫から首尾よくダイヤを取り出したは
良いが、東京への帰路、九州で、瀬戸内海で、神戸で、静岡でと、各地を転々と
する間に、分け前を巡って、メンバーが次々と殺されてゆく。メンバーは、強盗
犯という負い目で、警察や外部には助けを求められない。そして最後の一人と
なった時、意外な結末が・・・。
上記から想像できるとおり、クリスティの某有名作品と同趣向ですね。結末も、
クリスティのアレを超える出来栄えではないでしょう。但し、この時代に、孤島や
山荘などの「物理的なクローズド・サークル」ではなく、外部に訴えることのでき
ない、或いは外部の介入を拒否する「心理的なクローズド・サークル」を設定し、
しかも、そのサークルが九州から東京まで日本列島を縦断してゆくなどという
アイディアを思いついたこと自体に感心します。

山村正夫「振飛車殺人事件」(徳間文庫)★★★☆
1977年刊、表題作ほか「詰将棋殺人事件」「棒銀殺人事件」の3中短編からなる、
警視庁警部を夫に持つ女流棋士を探偵役とした連作集。
俺は将棋のルールを殆ど知りませんでしたが、将棋そのものに絡むトリックは
少ないので楽しめました。3作とも、アリバイ工作や密室、人間消失など工夫を
凝らしています。紹介済みの短編集「落日の墓標」よりも出来は良いです。
813:2006/05/22(月) 11:58:44 ID:/qM+tbWt
笹沢左保
「招かれざる客」★★★★☆「空白の起点」★★★☆「真夜中の詩人」★★★
「どんでん返し」★★★
梶龍雄
「龍神池の小さな死体」★★★☆「奥鬼怒密室村の惨劇」★★★☆「紅い蛾は死の予告」★★☆
陳舜臣
「枯草の根」★★★★「三色の家」★★★★☆「黒いヒマラヤ」★★☆「炎に絵を」★★★
「孔雀の道」★★☆
多岐川恭
「落ちる」★★★☆「異郷の帆」★★★★「変人島風物誌」★★★
草野唯雄
「蔵王山荘連続殺人事件」★★☆
中町信
「新人文学賞殺人事件」★★★☆「高校野球殺人事件」★★★★「散歩する死者」★★★
大谷羊太郎
「死を運ぶギター」★★★☆「真夜中の殺意」★★★
山村美紗
「花の棺」★★★★「黒の環状線」★★★☆「死体はクーラーが好き」★★☆
赤川次郎
「マリオネットの罠」★★★☆「幽霊列車」★★★★「三毛猫ホームズの推理」★★★☆
飛鳥高
「犯罪の場」★★★☆
松本清張
「点と線」★★★★☆「ゼロの焦点」★★★☆「時間の習俗」★★★☆「火神被殺」★★
823:2006/05/22(月) 11:59:39 ID:/qM+tbWt
再連投スマソ
小峰元
「アルキメデスは手を汚さない」★★★
夏樹静子
「黒白の旅路」★★★「蒸発」★★★★「77便に何が起きたか」★★
佐々木丸美
「崖の館」★★「水に描かれた館」★☆
岡島二人
「そして扉が閉ざされた」★★★★
辻真先
「仮題中学殺人事件」★★★☆「アリスの国の殺人」★★☆
仁木悦子
「猫は知っていた」★★★★☆「殺人配線図」★★☆「二つの陰画」★★★☆「冷えきった街」★★★★
「赤い猫」★★「灯らない窓」★★★
戸板康二
「グリーン車の子供」★★★「浪子のハンカチ」★★☆
鷲尾三郎
「呪縛の沼」★★★
西村京太郎
「名探偵なんか怖くない」★★★「殺しの双曲線」★★★★☆
小泉喜美子
「弁護側の証人」★★
笠原卓
「詐欺師の饗宴」★★★☆

・・・・佐々木丸美と小泉喜美子の評価が辛いが、個人的に大嫌いな作家なのでご了承下さい。
833:2006/05/22(月) 12:08:04 ID:/qM+tbWt
書き漏らしたスマソ
>>81-82は、>>13-14の作品のうち、未評価で、俺が読んでいるものです。
残りは俺も未読。
84名無しのオプ:2006/05/22(月) 17:02:10 ID:n2YSBAOP
>>81
念のため、中町信の「新人文学賞殺人事件」は「模倣の殺意」、
「高校野球殺人事件」は「空白の殺意」として創元から改稿版が出ている。
85名無しのオプ:2006/05/22(月) 20:09:39 ID:+VSSLV9x
3氏、GJ&乙です
86名無しのオプ:2006/05/22(月) 20:54:18 ID:k58UTNpv
>>84
「散歩する死者」も「天啓の殺意」に改稿改題されてますよ。
87名無しのオプ:2006/05/23(火) 23:12:38 ID:kxyYcabX
>>3
ありがとうございました
88名無しのオプ:2006/05/25(木) 02:13:09 ID:xck/acYE
赤川次郎『死者の学園祭』(1977年)
作者の初長編にして初の単行本。
主人公・結城真知子が転校してきたばかりの学校で、クラスメート3人が次々に死んでいく。
恋ありサスペンスありで、学園ミステリのお手本のような作品だけれども、
テンポの良いストーリーで飽きさせないのはさすがだと思う。
フラッシュバックでは、本格としても評価できるとあったけれど、
意外な真相はあるものの、手がかりがフェアに提示されているわけではないのでさすがに本格とは言えないと思う。
89名無しのオプ:2006/05/25(木) 10:06:42 ID:FOqmk6FN
> フラッシュバックでは、本格としても評価できるとあったけれど、
> 意外な真相はあるものの、手がかりがフェアに提示されているわけではないのでさすがに本格とは言えないと思う。
今の「新本格」は、本格とは言えない作品も屁理屈捏ねて本格に引っ張り込んでるから、読む気がしねえんだよな。
このスレで紹介されてる作品を読んでる方が、楽しい過ごせる。
903:2006/05/25(木) 10:35:33 ID:cWtP9932
斉藤栄「奥の細道殺人事件」(集英社文庫)★★☆
1970年の長編。
いきなり中盤で一番臭い容疑者が自殺してしまい、この先、一体どうなるのだろう?と
思って読み進めたら、なるほど、こういう真相でしたか。
真犯人の意外性という点では白眉、というか、この人物を犯人にした例は、海外の古典に
あったような気もしますが、ちょっと思い出せません。
公害問題、芭蕉「奥の細道」の暗号、「芭蕉=忍者説」など、色々サービス満点ですが、
メイン・トリックと必ずしも直結していないし、暗号はこじ付けだし、意表を突くストー
リー展開も、従来の常道を打破する意気込みがあったのでしょうが、今となっては、犯人
の意外性だけを楽しむ作品かも。ただ、伏線が不足しているので、急転直下の終盤には
不満が残ります。

西村京太郎「伊豆七島殺人事件」(光文社文庫)★★★
1972年の長編。
伊豆諸島の神津島と八丈島を舞台に、海底調査基地内で起こった密室状況の殺人をメイン
に扱ったもの。海面下40メートルにある基地に近づける者が限定されており、容疑者
数名にはアリバイがあることから、そのアリバイ崩しがメインの興味となります。
「濡れていた電話器」という伏線が、なかなか上手いです(でも、鑑識で調べれば一発で
分かることだと思うがw)。テープレコーダーに関する謎は、少々凝り過ぎの感があり
ますが。まあ、当時の作者の秀作群の中では水準作でしょうか。
913:2006/05/29(月) 12:01:23 ID:xt0vxQIh
数日置いたが連投でスマソ

山村正夫「東京−盛岡双影殺人」(徳間文庫)★★★☆
1988年刊の長編。1980年代の作者は伝奇推理物か怪奇物、通俗的なユーモア風ミステリばかり
書いていたのかと思ったら、こんなオーソドックスな本格ミステリも書いていたのですね。
発表年から推測すると、「新本格」の勃興に刺激されたのかも。
東京の殺人事件の容疑者となった新興宗教の教祖、しかし彼は、同日同時刻に岩手県・盛岡で
起きた殺人事件の容疑者でもあった。幽体離脱で東京・盛岡間を自由に行き来できるとウソぶく
教祖。警視庁と岩手県警は、互いのメンツをかけて彼を逮捕したいのだが、もう一方の事件が
アリバイとなってしまう・・・、という展開は面白いと思います。メインのトリックは、まあ
コレしかないな、というものですが、それに或るトリックを組み合わせた点は評価できるし、
小技ながら、ちょっとした地名のトリックなどもあって楽しめます。
1970年代の長編「裂けた背景」よりも出来はやや上、世評高い「ボウリング殺人事件(球形の
殺意)」を未読なので何とも言えませんが、暫定的にはこの作者の長編ベストでしょう。

三好徹「幻の美女」(集英社文庫)★★★
1976年刊の長編。厳密には「本格ミステリ」とするのは辛いですが、この作者には珍しい、
「帰らざる夜」と並ぶ「フーダニット」物の作品なので。
「現代の小野小町」と噂される謎のインテリア・デザイナーの女性。主人公の新聞記者は
彼女に取材を申し込むが、会えないまま、彼女の秘書や関係者が謎の死を遂げてゆく・・・。
トリックには冴えないものが二つほど使われているだけで、真犯人の指摘も、ああそうですか、
というレベル。しかも政界の裏面などに発展して、白けること夥しいのですが、「小野小町
伝説」に絡めた薀蓄が、少々唖然・呆然とするラストのミスリーディングとなっていることが
重要。「小野小町伝説」ばかりに目が行ってしまい、読み終わって暫く経ってから、タイトルや
ストーリーが、全然別の意味だったことに気付きました。作者がどこまで意識していたかは知り
ませんが。
なお巻末の解説は先に読まないこと。この趣向に気付きもしないでネタバレしているので。
92名無しのオプ:2006/06/03(土) 00:54:20 ID:SKqZtb1I
3氏、毎度のことながら乙です。

草川隆がある程度たまったので、読んでみようかと思う今日この頃。
当たりを引けるかどうか、楽しみです。
933:2006/06/05(月) 12:49:15 ID:54PKLPBl
>>92
草川隆、読み終わったら感想お願いしますね、俺は1冊も読んでないので・・・orz

斉藤栄「少年探偵ジャーネ君の冒険」(講談社文庫)★★★
中篇2作からなるジュブナイル。恐らく、作者が少年時代に愛読した、乱歩の
「知恵の一太郎」へのオマージュ、しかし、昨今の作者の大人向き作品に比べれば、
遥かに好感が持てる佳作。昭和50年代後半に書かれたもののようです。
第1話は、瀬戸内海にある地獄島(笑)なる島に遊びに出かけた小学生のジャーネ君
たち一行が大判小判を見つけるが、金庫から盗まれて・・・、という話。学校の授業に
絡めた国語・算数・理科・社会のネタの数々にはウンザリですが、ちゃんとクローズド・
サークルの設定を意識的に取り込んでいるし、メイン・トリックの鍵の掛かった金庫から
の盗難トリックは、前例多数のトリックながら小気味良くまとめています。
第2話は、秘密の設計図を軽飛行機で運ぶ途中、日本アルプス山中に不時着して、という話。
相変わらずの小学生勉強ネタに閉口ですが、ジャーネ君がE・クイーンばりに、一応、
論理的に犯人を一人に絞り込んでゆく推理を披露する本格派の佳作。

長井彬「白馬岳の失踪」(大陸書房)★★★★
この作者お得意の山岳物で固めた短編集。1982年〜1990年の短編6作を収録。
巻頭の表題作は、さしたる出来ではなく、トリック的にも弱い。
続く「遠見二人山行」がベスト。長編群でお馴染みとなった或るトリックを主軸に、
作品の構成にも或る仕掛けを施した労作。登山中の「山日記」の扱いや、何気ない
描写など実に上手い。ただし短編のため、或る仕掛けがバレやすいのが残念。
「悪女の谷」も登山ならではの錯覚トリックだが小粒。
「ある遭難美談」は吹雪の冬山でなくては成立不可能な、物凄いトリックというか
バカミス。「ふつう、気付くだろ?」とは思いますが、まあ、真冬の北海道では、
自分の家の庭で遭難したという実例もあるそうだから・・・。
他に「蝶ケ岳環状彷徨」「未必の遭難」で全6編。長編も含め、この作者の山岳物の
本格ミステリは、恐らく日本の最高レベル(他にこのジャンルを書く人は森村誠一しか
知らず、彼よりは本格ミステリとして上出来、というだけの話ですが)。
94名無しのオプ:2006/06/09(金) 22:16:36 ID:+9I/UVaQ
梓林太郎?や生田直規も山岳ミステリっぽいの書いてませんでしたっけ?
953:2006/06/13(火) 14:39:22 ID:ixocPoKd
飽くまで、「山岳物」の「本格ミステリ」ですから。梓林太郎や太田蘭三あたりも
ごく若干ですが読みましたが、まるで「本格ミステリ」ではありませんでしたので。
探せば、彼らの作品にも本格ミステリはあるのかも知れませんが。

深谷忠記「アリバイ特急+−の交叉」(講談社文庫)★★★
1987年の長編。
タイトルから想像されるような、泥臭いトラミス風ではなく、クセのない端正な
仕上がりで、まあ満足できました。やはり作者の年齢的なものか、女性の描き方が
1980年代にしても古めかしくオヤジ臭さ全開なのと、探偵役に全く魅力がないのが
欠点ですが。
使われているトリックは前例がない訳ではないですが、盲点を突いたユニークな
もの。列車についての或る仕掛けは、オールタイム・ベスト10常連の、或る名作
国産ミステリに近い感触があります。

長井彬「南紀殺人 海の密室」(講談社ノベルス)★★
1987年9月刊の長編。
友人のカメラマンが南紀の海で溺死した事故に不審を抱いたフリーのカメラマンが
主人公。友人は或る人気俳優のスキャンダルを追っていたことのだが、その俳優には
アリバイが。また事故現場と目される岬も、発生当時は密室状況にあった。鍵を握る
俳優の恋人は、南紀の「安珍清姫伝説」の末裔だった。その妹と共に主人公は事件を
追うが、第二、第三の殺人が・・・。
これは危惧していたとおり、典型的な二時間ドラマ風トラミスでした。観光地が舞台で
ご当地の伝説も登場、美人姉妹とカメラマン、芸能界のスキャンダル、良い加減な地元
警察・・・・、辟易しました。
但し、腐っても長井彬、海岸の密室状況の設定と「困難は分割せよ」という鉄則に沿った
その解決法、また余りにも単純な故に見落としてしまった大胆な伏線など、光るところは
残っています。
因みに、本書と同時に講談社ノベルスから出たのが「十角館の殺人」。両方を読み比べれば、
まさに「新旧交代」という言葉がピッタリという感じです。
96名無しのオプ:2006/06/14(水) 01:18:35 ID:ZVNkJatN
辻、中町、阿井辺りもお願いしたい
97名無しのオプ:2006/06/15(木) 16:58:23 ID:Sx0KPNqo
長井彬『函館五稜郭の闇』(講談社ノベルスまたはケイブンシャ文庫)★
 1986年の長編。
 立待岬で撮影中、男が突き落とされるのを目撃したフリーカメラマンが主人公。
 翌日、函館山の麓にある碧血碑でその男が毒殺されているのが発見されます。
 転落死した男が同日同時刻に別の場所で殺されたのか? 警察に岬での目撃
を疑われた主人公は、一ヶ月前に夜の五稜郭で服毒死した父は自殺ではないと
信じる女性と知り合い、彼女と共に事件を追う。
 国鉄・青函連絡船・ジャパ行きさん・フライデー・フラッシュ・三浦義和と、
読んでいて懐かしくなりました(笑)。歴史旅情ミステリーと謳われていますが、
典型的な2時間ドラマ風トラベルミステリーです(歴史を感じさせてくれるのは
箱館戦争のトリビアくらい)。観光名所で事件発生、ご当地の歴史、素人探偵
コンビ、芸能スキャンダル(?)、お粗末&いい加減な警察、追い詰められて
探偵を襲う犯人――この手の作品ではおなじみの道具立てです(笑)。
 探偵の推理した動機にはあまりにも酷すぎて唖然としました(犯人にも「そ
んな理由で殺したのではない」と言われる始末)。意外な犯人ではありますが、
犯人と動機の伏線はないのでアンフェアですが、トリックに関する伏線は単純
過ぎて見落としてしまうものとなっています。
 それぞれの思惑が絡んだアリバイトリックは良かったのですが、それ以外が
どうしようもないので読む価値はないでしょう。
98名無しのオプ:2006/06/19(月) 18:36:23 ID:uxUGgthx
良スレage
99名無しのオプ:2006/06/19(月) 21:15:14 ID:uWMyOs7F
太田蘭三は「脱獄山脈」とか「赤い雪崩」あたりが本格っぽいかもしれない
100名無しのオプ:2006/06/19(月) 22:32:19 ID:DIAxP+e4
いま来たけど、すぐお気に入りに登録しました
レビュー書いてる方、がんばって下さい
1013:2006/06/20(火) 12:05:13 ID:EH0fkmQe
佐野洋「赤い熱い海」(角川文庫)★★★
1967年の長編。
死亡者3名を出した航空機事故。だがこの飛行機に乗っていたと思しき男が行方不明になる。
死亡者の或る者と入れ替わっていたのではないか、或いは、事故のドサクサにまぎれて大金を
持ったまま行方を絶ったのか。依頼を受けた探偵事務所のメンバーたちは手分けをして謎の
真相に迫るが・・・。
これは犯人の意外性という点では特筆すべきものでしょう。この当時にしては思い切った真相を
用意した佳作。しかし、フェアかと言うとそうでもなく、伏線不足の感が否めません。今の作家
なら、もっと紙一重のところまで技巧を凝らして描写を続けるでしょう。

西村京太郎「鬼女面殺人事件」(徳間文庫)★★☆
1973年の長編。これは横溝正史に挑戦した作品。
オープニングからして、「妹を助けてくれ」と言い残して死んだ男の遺言で絶海の孤島に向かう
など、「獄門島」を意識していますね。世間と隔絶した島の様子など、1970年代というのに、
「獄門島」以上にオドロオドロしいですw
真相は、ちょっと意表を突いていますが、でもそれだけ。アリバイトリックも見破られやすい
もので、まあ水準作でしょうか。

深谷忠記「津軽海峡+−の交叉」(講談社ノベルス)★★★★
1988年の長編。
函館に住む女流作家を訪ねるはずだった編集者が行方不明の末、青森で他殺体で発見された。
どうも、青森に住む或る作家志望者の恨みを買っていたらしく、編集者の上司もまた殺さ
れる。作家志望者の男が犯人なのか、だが意外なことに・・・。
青函連絡船を使ったアリバイトリックの秀作。函館・青森間の移動に関する思い切った
トリックが印象に残ります。一箇所だけ、「ちょっとそれは無理では?」と思える部分も
ありますが、そのための伏線も事前に明示しているので、まあ合格でしょう。
102名無しのオプ:2006/06/20(火) 15:11:31 ID:S7u6iI54
>>3
深谷忠記は「逆転シリーズ」や「歴史の謎シリーズ」も面白いですよ。
ぜひお試しを。

>>96
レビューでひゃありませんが・・・。
辻はシリーズ物の初期作品やノン・シリーズ物は面白いです。
中町は「新人文学賞殺人事件」(「模倣の殺意」)から「奥只見温泉郷殺人事件」
までは面白かったはず。
阿井は牛深警部シリーズしか読んでませんが、島荘系の奇想ミステリーです。
シリーズ初期は昔話・御伽噺の見立て殺人、中期からは不可能犯罪や消失と集団誘拐
を組み合わせています。
103名無しのオプ:2006/06/25(日) 20:05:42 ID:L0KSOO+E
>102
中町信は「十和田湖殺人事件」まで(「心の旅路連続殺人事件」「女性編集者殺人事件」以外)面白いよ。
以降は「佐渡金山殺人事件」が佳作だけど、他は好きずきwかな。
「阿寒湖殺人事件」とか面白い仕掛けだけど、無茶と言えば無茶(笑)。
1043:2006/06/26(月) 14:03:47 ID:yh1xKiqc
大谷羊太郎「死の部屋でギターが鳴った」(徳間文庫)★★★☆
1973年の長編。「殺人予告状」にも登場した、芸能プロダクションに勤める主人公が
探偵役を務める第2弾。
コンサートの楽屋で出番を待つ女性歌手が殺される。その直前に部屋で鳴り響いた
ギターの音色。犯人が脱出する時に弦に触れたものと思われるが、楽屋の外には人の
目があり、完全な密室状態に置かれていた。現場近くにいて容疑者とされた主人公は
自ら事件の謎を追い、かつて米軍キャンプで起きた密室での米兵殺人事件に遠因が
あることを突き止めるが・・・。
相変わらず密室トリックに熱意を見せており、本作でも2つの密室トリックを考案して
います。米軍キャンプの密室トリックは大したことはないのですが、楽屋の密室は、
海野十三ばりに少々突飛ながらも楽しめました。殺害動機の鍵となる、或る錯誤も
ユニーク。もとギタリストである作者の面目躍如の一冊。

陳舜臣「白い泥」(徳間文庫)★★★
1964年の長編。
神戸からシンガポールの港に届けられた寒天の積荷から死体が出てくるシーンは、
クロフツ「樽」を思い出すほど印象的でした。アリバイ工作と地味な渋いトリック
を組合わせており、けっこう読ませますが、結末は、やり切れないほど悲惨で、
ハードボイルドの名作、生島治郎「男たちのブルース」の主人公を思い出しました。

斉藤栄「香港殺人旅行」(徳間文庫)★★☆
1971年の長編。
「奥の細道殺人事件」でも扱った公害問題を取り上げつつ、色々トリッキーな趣向も
活かされていますが、メイントリックに、さほど面白みがありません。空港の或る
制度に関するものですが、現代では実行不可能ですし。ただ、レッド・ヘリングの
使い方が上手いのが救いでしょうか。
105102:2006/06/26(月) 15:31:54 ID:nIGgGTzi
>>103
俺、「十和田湖殺人事件」はダメだったんだよねー
「十和田湖」あたりから中町は専業作家になったと記憶してるけど、
専業になってからの中町作品は酷すぎて読むのが辛かった……
106103:2006/06/26(月) 19:27:37 ID:4DrkUSX9
>105
「十和田湖殺人事件」は仕掛けは地味だけど、手堅くまとまってると思うよ。
らしさが薄いとは言える(確か協会賞候補作)ので、欠点ばかり気になったのかな?
107105:2006/06/26(月) 21:24:32 ID:Wf6WxSg6
>>106
「十和田湖」は欠点ばかりが目に付いて、のれなかったんだよね
期待しすぎてたのがいけなかったのかも
1083:2006/06/30(金) 19:24:12 ID:mQiVGz9a
伴野朗「Kファイル38」(徳間文庫)★★★☆
1978年の長編。
朝鮮戦争直前の韓国・ソウル。主人公の日本人・林田は駐留米軍で働く妻を惨殺される。
妻は創設間もないCIAへの協力者で、或る機密に絡んで殺されたらしい。しかし妻を
殺したらしき容疑者には鉄壁のアリバイが・・・。
これは、動乱の朝鮮半島を舞台にした冒険小説ですが、「三十三時間」と同様、本格ミス
テリに近い謎解きの要素も盛り込まれています。
アリバイトリックは、さほど手の込んだものではありませんが、常識の盲点を突いたもの
で、本格ミステリファンをも満足させる出来のものです。むろん冒険小説としても佳作で
しょう。

小林久三「黒衣の映画祭」(講談社文庫)★★☆
1975年の長編。
ニューヨークの映画祭に出席していた映画監督が謎の電話で急遽帰国、密室状態の殺人
現場で昏倒していたところを発見される。殺人の一部始終を目撃していた者まで現れ、
窮地に陥るが・・・・。
目撃者の状況が、いかにもトリックがありますよ、と言わんばかりのものなので萎えて
しまいます。真相も、誰でも予想できるレベル。その他にも、フィルムに関するアリバイ
工作や、心理的トリックなどもあるのですが、本格ミステリとしては殆ど面白みがありま
せん。
しかし、斜陽のどん底にあった日本の映画界の状況を熱気溢れる筆致で描き、登場人物も
魅力的で活き活きとしており、小説自体としては面白いものでした。
1093:2006/07/07(金) 18:43:31 ID:tlBsxO93
またも連投になってしまいスマソ

梶龍雄「灰色の季節−ギョライ先生探偵ノート」(光風社出版)★★★★☆
1983年刊。1977年頃から断続的に発表された、旧制中学校のギョライ先生を探偵役とする連作集。
「ふしぎな声」「おふくろは霊媒」「池の見える家」「イソップとドイルと・・・」「てけつの緑子」
「夜から来た女」の全6編。
太平洋戦争を挟んだ前後の時代を描かせると、梶龍雄は本当に上手いです。本作は真珠湾攻撃直前の
東京の下町の中学生を描いた青春小説として読むだけでも傑作と言える上、そこに本格ミステリの
仕掛けも盛り込み、しかもハズレがない(作品によっては地味な出来栄えもありますが)という、
高レベル。これが現在、手軽に読めないのは残念。創元推理文庫あたりで是非とも復刊してほしいです。

大谷羊太郎「スキャンダル殺人事件」(桃園書房)★★☆
1974年刊の、恐らく作者初の短編集。
まあ出版元が出版元だけに、アレかな、と思って読んでみたところ、確かにエロ風俗小説風の作品も
ありましたが、一応、どの作品にもトリッキーな仕掛けが施されていたので安心しました。
「栄光と陥穽」は脅迫電話を巡って二転三転する犯罪小説、「消えた指紋」は指紋トリックだがヒネり
が弱く駄作、「悪女のプレゼント」は一応アリバイ物だがエロ小説。「消された死体」は、「犯人当て」
と副題が付くだけに堂々たる本格ミステリを予感させる始まりで、山小屋で殺人事件が勃発するが、
突如死体が消えて、山小屋から遥か離れたところで死体が再び現れる・・・、というもの。でも真相は、
ちょっとした矛盾を突くだけのものでガッカリ。死体が消えた真相もアレですし。
表題作は芸能界を舞台にしたものでアリバイ物だが、これも小粒。「盗聴器」はショートショートの
レベル。巻末の「死体はLを描いた」が最も秀作でしょうか。死体を巡る謎の真相には唖然としました。
今までに聞いたことも無い、或るユニークな動機が隠されており、バカミスに近いですが、意外とOK
かも、と思わせるものでした。
1103:2006/07/07(金) 18:47:16 ID:tlBsxO93
更に再連投だがご勘弁を。

梓林太郎「殺人氷壁」(光文社文庫)★★★
この作家に「本格ミステリ」は無いなあ、と以前に書き込みましたが、その後探してみたところ、
解説に「本格ミステリの傑作」とある本作を見つけたので読んでみました。1989年の長編。
ぶっきらぼうな刑事と、その相方の刑事による探偵コンビは面白く感じました。肝心の本格ミス
テリとしての出来は、第一の殺人のアリバイトリックが冬山の或る風物を用いたユニークなもので
合格点ですが、それ以外のトリックには何の新味もなく、ああそう、というレベル。意外な真犯人
も用意されていますが、これも伏線不足で反則。
ただ、二時間ドラマに毛が生えたレベルかと思っていたところ、意外と乾いた文体で独特の雰囲気を
持っている作品で、決して犯罪風俗小説に堕してはいないので、ちょっと考えを改めました。

本岡類「南海航路殺人事件」(講談社ノベルス)★★☆
1985年の長編第3作。
東京・高知間の船上将棋ツアーに参加したプロ棋士で名探偵の神永と新聞記者・高見は、同行した
客の一人が行方不明の末、宮崎県で自殺したことを知る。だがその娘は他殺を主張し、神永に再調査を
依頼した。しかし容疑者二人には高知と大阪にいたというアリバイが・・・。
この作家は「白い森の幽霊殺人」他のペンション物シリーズや、僧・秀円シリーズなどを読み続けて
いて気付いたのですが、最近の東川篤哉と同種のユーモアのセンスがあるように思います。俺は好き
ですが、人によっては嫌うかも。
カーフェリーの特性を活かしたアリバイトリックは、面白くはあるのですが、やはり「そんな大掛かり
なことをしないでも、もっと別の機会に別の方法でやれば?」と思わせるもの。一応説明はしています
けど、説得力に欠けますね。それから失笑するほどのハッピーエンドも、読んでいるこっちが照れ臭く
なります。凡作。
111名無しのオプ:2006/07/09(日) 01:07:07 ID:ZwCIerjC
>>3

このスレのおかげでブッコフ巡りの楽しみが増えました。
ところで梶さんの乱歩賞受賞作「透明な季節」っておもしろいのでしょうか。
読んだことあれば簡単な評価をお聞かせください。
112名無しのオプ:2006/07/09(日) 02:13:53 ID:1AYdCBKe
113名無しのオプ:2006/07/09(日) 17:09:27 ID:ZwCIerjC
>>112
どもです!
1143:2006/07/10(月) 12:14:31 ID:uXa9LI3Z
>>111
俺の「透明な季節」の評価は★★★です。
戦争中の青春小説としては佳作ですが、本格ミステリとしてのしてのトリッキーな仕掛けは
弱いですので。

井沢元彦「殺人ドライブ・ロード」(徳間文庫)★★★★☆
1983年の長編。
資産家の妻を持つ男、仲の冷え切った妻を仲直りのためのドライブ旅行に誘うが、旅行中に
喧嘩別れをした隙に、妻は夫の愛人に殺されてしまう。男には完璧なアリバイがあるのだが、
死んだ妻の妹である女子大生は男に不審を抱き、ボーイフレンドと共に独自の調査に乗り出
した・・・。
或る理由から、このトリックの核となる或る事実を知っていたので、最初の数十ページで全て
のカラクリが読めた、と確信できました。それは殆ど当たっていたのですが、まさかその先に
更なるドンデン返しがあるとは予想できませんでした。読み返してみれば、なるほど納得。
書き出しの或る部分など実に上手い書きぶり。同じく序盤に描写される何気ない事実が、後に
なって大きな意味を持ってくることにも感心しました。
「猿丸幻視行」「義経幻殺録」等の歴史ミステリ風の長編群よりも、「本格ミステリ」としての
構成は上回っていると言えます。傑作。
115名無しのオプ:2006/07/10(月) 18:36:53 ID:NBQJ7pN/
>>114
「殺人ドライブ・ロード」は「二つのトランク」という短篇の長篇化作品。
おそらく貴兄が「読めた」と思った序盤の数十ページは、短篇をそのまま
使用した冒頭部分でしょう。

既発表の短篇を丸ごと捨て石として使って、さらに大きなドンデン返しを
仕掛けるという実に野心的な長篇でした。傑作ですね。
116名無しのオプ:2006/07/11(火) 22:51:16 ID:dr++oHL3
赤川次郎
『マリオネットの罠』★★★☆『幽霊列車』★★★★『三毛猫ホームズの推理』★★★☆
『死者は空中を歩く』『幽霊から愛をこめて』『招かれた女』『死者の学園祭』
飛鳥高
『犯罪の場』★★★☆『疑惑の夜』『死にぞこない』
梓林太郎
『殺人氷壁』★★★
鮎川哲也
『死者を笞打て』
荒巻義雄
『天女の密室』★★『石の結社』★
幾瀬勝彬
推理実験室シリーズ(『声優密室殺人事件(別題:北まくら殺人事件)』『私立医大殺人
事件(別題:死のマークはX)』)『幻の魚殺人事件』★☆
井沢元彦
『欲の無い犯罪者』『五つの首』『殺人ドライブ・ロード』(短編「二つのトランク」を
長編化)★★★★☆『猿丸幻視行』『義経幻殺録』
石沢英太郎
『カーラリー殺人事件』
太田蘭三
『脱獄山脈』『赤い雪崩』
大谷羊太郎
『生れ変った男』『殺人航路』★★★☆『レコーディング殺人』★★☆
『死を運ぶギター』★★★☆『真夜中の殺意』★★★『複合誘拐』
『悪人は三度死ぬ』『殺人予告状』★★★『虚妄の残影』★★★☆
『深夜の訪問者』★★★『死の部屋でギターが鳴った』★★★☆
『スキャンダル殺人事件』★★☆
岡島二人
『焦茶色のパステル』『あした天気にしておくれ』『開けっぱなしの密室』
『チョコレートゲーム』『なんでも屋大蔵でございます』『そして扉が閉ざされた』★★★★
117名無しのオプ:2006/07/11(火) 22:55:20 ID:dr++oHL3
海渡英祐
『影の座標』★★★★★『白夜の密室』★★★★『突っ込んだ首』★★★★☆ 『閉塞回路』★★★★『仮面の告発』★★★『死の国のアリス』★★☆『おかしな死体ども』★☆『ふざけた死体ども』★☆
『事件は場所を選ばない』『美女が八人死体が七つ』★★★『燃えつきる日々』★★★
笠原卓
『ゼロのある死角』★★★☆『詐欺師の饗宴』★★★☆『殺意の葬列』
梶龍雄
『海を見ないで陸を見よう』★★★★★『ぼくの好色天使たち』★★★★
『リア王密室に死す』★★★★☆『龍神池の小さな死体』★★★(>>3の評価は★★★☆)
『奥鬼怒密室村の惨劇』★★★☆『紅い蛾は死の予告』★★☆『若きウェルテルの怪死』
『金沢逢魔殺人事件』★★★『灰色の季節−ギョライ先生探偵ノート』★★★★☆ 『透明な季節』★★★
狩久
『不必要な犯罪』★★
日下圭介
『鶯を呼ぶ少年』★★★★☆『花の復讐』★★★☆『木に登る犬』★★★★★
楠田匡介
『狙われた』『脱獄囚』『密室殺人』
栗本薫
『優しい密室』
黒木曜之助
『妄執の推理』★★★★
小泉喜美子
『弁護側の証人』★★『またたかない星』『死だけが私の贈り物』『ダイナマイト円舞曲』 『血の季節』
小杉健治
『東京−岐阜Σ0秒の罠』★★☆
五代駿介
『酒中死美人の謎』☆
小林久三
『暗黒告知』★★★「黒衣の映画祭」★★☆
小林信彦
『大統領の密使』★★☆『大統領の晩餐』
小峰元
『アルキメデスは手を汚さない』★★★『ピタゴラス豆畑に死す』 『イソップの首に鈴をつけろ』
118名無しのオプ:2006/07/11(火) 23:17:00 ID:dr++oHL3
斎藤栄
『真夜中の意匠』★★★☆「黒部ルート殺人旅行」★★☆「奥の細道殺人事件」★★☆「少年探偵ジャーネ君の冒険」★★★「香港殺人旅行」★★☆
笹沢左保
『どんでん返し』★★★『霧に溶ける』★★★★★『求婚の密室』★★★★『招かれざる客』★★★★☆『空白の起点』★★★☆『真夜中の詩人』★★★「孤独な彼らの恐ろしさ」★★☆「明日に別れの接吻を」★★★
「四月の危険な石」★「盗作の風景」★★★☆「遥かなり、わが愛を」★★★「揺れる視界」「結婚って何さ」「誰もが信じられない」★★「東へ走れ男と女」★★★
佐々木丸美
『崖の館』★★『水に描かれた館』★☆『罪灯』
島田一男
『去来氏曰く(別題・夜の指揮者)』」★★★★『黒い花束』(採点不能)
佐野洋
『賭の季節』★★★☆「秘密パーティ」★☆「赤い熱い海」★★★
蒼社廉三
『戦艦金剛』★★★★
左右田謙
「球魂の蹉跌−高校野球殺人事件」★「一本の万年筆−県立D高校殺人事件(別題:疑惑の渦)」☆「狂人館の惨劇−大立目家の崩壊」(採点不能)
短編「嫉妬」(角田實名義)★★「山荘殺人事件」
草野唯雄
『影の斜坑』★★★☆『瀬戸内海殺人事件』★★★『女相続人』★★★★『山口線“貴婦人号”』『蔵王山荘連続殺人事件』★★☆「まぼろしの凶器」★☆『もう一人の乗客』★★★★
高柳芳夫
「『禿鷹城』の惨劇」★★★☆『「ラインの薔薇城」殺人事件』『維納の森殺人事件』『ライン河の舞姫』★★☆「ベルリンの柩」★★☆
多岐川恭
『落ちる』★★★☆『静かな教授』『異郷の帆』★★★★『変人島風物誌』★★★「13人の殺人者」★★★
陳舜臣
『方壺園』★★★★★『長安日記』★★★★『枯草の根』★★★★『三色の家』★★★★☆『黒いヒマラヤ』★★☆『炎に絵を』★★★『孔雀の道』★★☆「割れる」★★★「杭州菊花園」★★★「怒りの菩薩」★★☆「月をのせた海」★★★「白い泥」★★★
筑波孔一郎
『殺人は死の正装』★『屍衣を着た夜』★☆
119名無しのオプ:2006/07/11(火) 23:40:12 ID:dr++oHL3
辻真先
『仮題・中学殺人事件』★★★☆『盗作・高校殺人事件』『紺碧は殺しの色』『アリスの国の殺人』★★☆『ローカル線に紅い血が散る』『天使の殺人』
角田喜久雄
『影丸極道帖 上・下』★★★☆
津村秀介
「時間の風蝕」★☆「黒い流域」★★
戸板康二
『グリーン車の子供』★★★『浪子のハンカチ』★★☆『第三の演出者』
伴野朗
『香港から来た男』★★★『殺意の複合』★★★☆『五十万年の死角』『三十三時間』★★★★「Kファイル38」★★★☆
長井彬
『原子炉の蟹』『殺人オンライン』★★★『北アルプス殺人組曲』★★★★「奥穂高殺人事件」★★☆「死の轆轤」「函館五稜郭の闇」★「連続殺人マグ二チュード8」★★☆「槍ヶ岳殺人行」★★★★「白馬岳の失踪」★★★★「南紀殺人 海の密室」★★
中町信
『新人文学賞殺人事件(別題:模倣の殺意)』★★★☆『自動車教習所殺人事件』『高校野球殺人事件(別題:空白の殺意)』★★★★『散歩する死者(別題:天啓の殺意)』★★★
「奥只見温泉郷殺人事件」「十和田湖殺人事件」「心の旅路連続殺人事件」「女性編集者殺人事件」「佐渡金山殺人事件」「阿寒湖殺人事件」
夏樹静子
『黒白の旅路』★★★『蒸発』★★★★『77便に何が起きたか』★★『第三の女』『Wの悲劇』『訃報は午後二時に届く』
新羽精之
『鯨のあとに鯱がくる』★★
仁木悦子
『猫は知っていた』★★★★☆『殺人配線図』★★☆『二つの陰画』★★★☆『冷えきった街』★★★★『赤い猫』★★『灯らない窓』★★★「枯葉色の街で」★★★☆「林の中の家」
西村京太郎
『名探偵なんか怖くない』★★★『殺しの双曲線』★★★★☆『消えたタンカー』『おれたちはブルースしか歌わない』『七人の証人』『終着駅殺人事件』「伊豆七島殺人事件」★★★「鬼女面殺人事件」★★☆
120名無しのオプ:2006/07/11(火) 23:42:08 ID:dr++oHL3
林美土里
「美土里くんの『ドライツェーン』」☆半分
半村良
『魔境殺神事件』
平石貴樹
『だれもがポオを愛していた』『笑ってジグソー、殺してパズル』
広瀬正
『T型フォード殺人事件』
深谷忠記
『偏差値・内申書殺人事件』『0・096逆転の殺人』『殺人ウイルスを追え』『房総・武蔵野殺人ライン』「アリバイ特急+−の交叉」★★★「津軽海峡+−の交叉」★★★★
藤雪夫・藤桂子
「獅子座」「黒水仙」
藤村正太
『特命社員殺人事件』★★★
松本清張
『点と線』★★★★☆『ゼロの焦点』★★★☆『黒い画集』『時間の習俗』★★★☆『火神被殺』★★『ガラスの城』「死の発送」★★☆
皆川博子
「妖かし蔵殺人事件」★★★★「知床岬殺人事件」★★★「相馬野馬追い殺人事件」★
三好徹
「帰らざる夜」★★★☆「閃光の遺産」「光と影」★「消えた蜜月」★「幻の美女」★★★
本岡類
『白い森の幽霊殺人』★★★★『青い森の竜伝説殺人』★★☆『飛び鐘伝説殺人事件(別題:武蔵野0.82t殺人事件)』『桜島一〇〇〇キロ殺人航路』『斜め「首つりの木」殺人事件(別題:大雪山 牙と顎の殺人)』「南海航路殺人事件」★★☆
121名無しのオプ:2006/07/11(火) 23:43:59 ID:dr++oHL3
森村誠一
「死の軌跡」★★☆「密閉山脈」
山村正夫
『裂けた背景』★★★☆「落日の墓標」★★☆「振飛車殺人事件」★★★☆「東京−盛岡双影殺人」★★★☆「ボウリング殺人事件(球形の殺意)」
山村美紗
『花の棺』★★★★『黒の環状線』★★★☆『死体はクーラーが好き』★★☆『京都の祭に人が死ぬ』
結城昌治
『魚たちと眠れ』★★★☆「ひげのある男たち」「長い長い眠り」「仲のいい死体」
横田順弥
『奇想天外殺人事件』
余志宏
『蒔く如く穫りとらん』★★★
和久峻三
「仮面法廷」「雨月荘殺人事件」
鷲尾三郎
『死臭の家』『悪魔の函』『呪縛の沼』★★★
アンソロジー「ホシは誰だ?」(文春文庫)★★★★「あなたが名探偵」(講談社文庫)

6連投スマソ。
今まで名前の挙がった作品とレビュー作品を纏めてみた。
122名無しのオプ:2006/07/12(水) 00:44:55 ID:Zvcyn1Am
>>121
乙乙。
せっかくまとめてくれたんで、WIKIにコピペしておいた。
http://f17.aaa.livedoor.jp/~miggypop/pukiwiki/pukiwiki.php?%5B%5B%A3%B1%A3%B9%A3%B5%A3%B7%A1%C1%A3%B1%A3%B9%A3%B8%A3%B7%C7%AF%A4%A2%A4%BF%A4%EA%A4%CE%CB%DC%B3%CA%A5%DF%A5%B9%A5%C6%A5%EA%BA%EE%B2%C8%C3%A3%5D%5D

徐々に体裁整えて、レビュー本文なんかもこのスレからコピペするといいかも。
123名無しのオプ:2006/07/12(水) 03:58:10 ID:ziaGvczH
>俺の「透明な季節」の評価は★★★です。

ども。
最近、笹沢左保『人喰い』読んだけど、正直「え、これで協会賞?」と
思った。ミステリって大進化したんだなあ、って思いました。
1243:2006/07/12(水) 11:58:07 ID:gyAoBuWR
>>115
情報サンクスです。元の短編があるとは知りませんでした。

>>121>>122
お二人とも本当に乙でした。凄いです。こうして綺麗に整理していただけると、俺は
適当に紹介していたというのに、立派になって嬉しいです。

>>123
「人喰い」は俺も余り感心しません。読んでなければ「霧に溶ける」や「求婚の密室」を
一番にお勧めします。

ではまた1作紹介。

藤村正太「コンピューター殺人事件」(講談社文庫)★★★
1971年の長編。
経営コンサルタント会社から出向し、コンピューターシステム導入に携わる主人公・江幡。
システム導入による人員削減で労使が緊張状態にある中、コンピューター・ルームでボヤ
騒ぎが起こり、システムに批判的だった課長の死体が発見される。江幡は殺害時に謎の呼び
出し電話を受けてアリバイを奪われ、警察からマークされる事態に。彼は真相を探るべく
事件を追うが、更に第二の殺人が・・・。
第一の殺人は大したことないですが、人間の先入観を利用した、「孤独なアスファルト」でも
使われた手法。第二の殺人における、日本の地域性における或る錯覚を利用したアリバイ工作
は、伏線は張られているが、出来としては今ひとつ。むしろ、消えたロープの謎とか、被害者が
死亡直前に読んでいた本の謎などの小道具や小技が印象に残りました。やや甘いですが星3つ。
125名無しのオプ:2006/07/18(火) 10:35:19 ID:YVQ1N5aH
hoshu
126名無しのオプ:2006/07/20(木) 02:25:00 ID:QoIVWuQ1
>>124
ども。
探してみますわ。
1273:2006/07/20(木) 14:56:15 ID:yoGRXRnq
深谷忠記「阿蘇・雲仙逆転の殺人」(ケイブンシャ文庫)★★★☆
1986年の長編。
伊良湖崎、伊豆の太平洋岸に相次いで漂着したバラバラ死体。被害者は九州・福岡の女性と
判明、彼女とその息子の通う予備校との間には、裏口入学を巡るトラブルが。しかし、一番の
容疑者である予備校幹部にはアリバイがあり、殺人は無論、死体を処分することも不可能だった。
更には、他の予備校幹部もまた、何者かに殺される・・・。
第二の殺人の真相は尻すぼみですが、最後に明かされる、第一の殺人のキテレツなトリックが
凄い。そんなに上手く行くものか、と苦笑しましたが、漂着した死体に付いていた「焼き切れた
ヒモ」など、伏線は実に入念に張られています。死体をバラバラにした真相も納得。先ず先ずの
佳作でしょう。

梓林太郎「風葬連峰」(廣済堂文庫)★☆
1984年の著者の長編デビュー作。別題「北アルプス冬山殺人事件」。
北アルプスで遭難したパーティ。しかし、うち1名は明らかに殺人で、離れたところで
死んでいた残りの2名の死因にも不審な点が。直前になって参加を取り止めた友人には、
名古屋にいたというアリバイが。また、別に起きた女性の遭難事故の関係者にも不審な
動きが・・・。
デビュー作といえば作者の持ち味とか意気込みみたいなものが感じられる筈ですが、
残念ながら登山の場面を除いては全く感じられず、シリーズ作の第何作目かを唐突に
読んだような印象。
アリバイトリックのうち一つは、山にありがちな或る物を使ったもので、確か草野唯雄の
先行作に同種のものがあったようですが、まあ良しとしましょう。問題はもう一つの方。
最後の謎解きで、今までヒントすら無かった事実を「実はこうでした」と明かすのは、
アンフェアを通り越して卑怯。これではダメでしょう。
128名無しのオプ:2006/07/21(金) 19:20:12 ID:PWxSGbGb
まだ出てない作品でこんなのはどうでしょう?

笹沢左保
「突然の明日」★★★人間消失トリックが印象的
梶 龍雄
「清里高原殺人別荘」★★★★現在の新本格派も真っ青の驚愕トリック
草野唯雄
「北の廃坑」★★★☆同じ炭鉱ものでも「影の斜坑」より面白い。でもサスペンス系か
小峰 元
「ディオゲネスは午前三時に笑う」★★★この辺から作風変わったような。
麗 羅
「桜子は帰ってきたか」★★★★ロマン+本格風味
129名無しのオプ:2006/07/21(金) 19:39:10 ID:cV+Vl1fj
>麗 羅
>「桜子は帰ってきたか」★★★★ロマン

風魔の戦士キタコレ
130名無しのオプ:2006/07/22(土) 02:52:35 ID:gQD0wosn
>>128
小峰氏の作風が変わったのを指摘するとは、さすがここの方々は
渋いですねえ。
確か、「ディオゲネスー」はハードカバーでなくなって
サイズも小さくなったんですよね。
131名無しのオプ:2006/07/22(土) 13:16:40 ID:V82ExBrT
梶龍雄は過大評価されすぎ。
「清里高原」なんて、かなりしょんぼり。
あの作品の真相は苦し紛れに思いついた感じで、
読者が勝手に「クローズドサークルの新パターン!」と
脳内補完してる面が大きいと思う。
132名無しのオプ:2006/07/24(月) 03:41:46 ID:+pVI8Lu0
音楽なんか80年代ミュージックとか、80年代Jポップって言葉あるけど、
ミステリーにも確かに70、80年代それぞれの香りってありますね。
新本格派が出る前で。
歴史ミステリーものとかね。
1333:2006/07/24(月) 11:49:49 ID:xooRt8vm
斉藤栄「死角の時刻表」(集英社文庫)★★★★
1972年の長編。
国鉄100周年の年、新幹線が新大阪から岡山まで延長し、全国のSLが引退した頃を
事件の舞台に選んでますが、なかなかの力作。寝台列車に絡むアリバイトリックは、
今となっては珍しくもないのでしょうが、当時としては意表を突いた新鮮なものだっ
たのかも。
むしろ、もう一つのトリックの方に驚きました。実は地の文に矛盾した箇所があるの
でアンフェアだとは思いますが、こっちの方が読者の意表を突いており面白いです。
やや甘いですが星4つ。

深谷忠記「寝台特急『出雲』+−の交叉」(講談社文庫)★★★★☆
1989年の長編。
こちらも寝台特急を使ったアリバイ物。「死角の時刻表」から十数年を経て、どこ
までアリバイ物が進化したか、読み比べてみました。
難攻不落のアリバイが、ちょっとした発想の転換で崩れ落ちる瞬間が非常に印象的。
これぞ本格ミステリの醍醐味。やや説明が煩雑な部分もありますが、今のところ、
この作者のベスト。
因みに、「死角の時刻表」に使われたトリックは、それを検討しても良い状況なのに、
一切触れていませんね。凡庸な警察が「犯人はこうしたんじゃないか?」などと指摘
するかと思ったのですが、それすらもない。そんなに陳腐化したとも思えないのですが。

大谷羊太郎「旋律の証言」(集英社文庫)★★★
1972年の長編を1983年に文庫化する際に全面改稿したもの。
「暗号ミステリ」と銘打ったとおり、元ミュージシャンである作者ならではの暗号が
二つ出てきますが、どちらも効果を上げているとは思えません。楽譜の暗号は、過去に
あった横溝「蝶々殺人事件」などの「演奏できない楽譜」ではなく、ちゃんと演奏でき
て、かつ暗号となっているのは流石ですが、でもそれ以上、何に感心すれば良いの?と
いう感じ。
むしろ密室トリックの方が、バカミスに近いですが、ちょっと前例のない変な仕掛けで、
バカバカしいですが面白かったです。
134名無しのオプ:2006/07/24(月) 12:40:16 ID:hVkWH4iG
>>133
斉藤栄「死角の時刻表」はノーチェックでした。
てゆうか、斉藤栄は地雷が多すぎて怖いですw

津村秀介「山陰殺人事件」(青樹社文庫)☆
1984年の長編。シリーズ探偵の浦上伸介初登場作品です。
横浜での連続婦女暴行事件の取材をする浦上は第一容疑者と親しくなりますが、容疑者が山陰で死にます。
警察は自殺と判断しますが、これに疑問を持った浦上は独自の調査を始めます。
退屈で退屈で読むのが辛かったです。>>3が以前レビューした「時間の風蝕」「黒い流域」の方がまともに
思えるくらいに酷い小説です。トリックもしょぼく、著者のワースト作品でしょう。
1353:2006/07/24(月) 13:24:59 ID:xooRt8vm
>>134
斉藤栄は、デビューから1973年頃の公務員を辞めるまでの作品ならば、問題ないのではないかと
思います。プロになって以降、現在まで続く地雷原の数々は、ご存知のとおりでしょうけどw

ついでにもう一作。
深谷忠記「『法隆寺の謎』殺人事件」(光文社文庫)★★★
1988年の長編。
法隆寺を巡る古代史の謎は個人的にも好きで、別に色々な本を読みましたが、本書は上っ面を
なぞっただけで肩透かし。でも、本格ミステリとしての構成はしっかりしています。寝台特急
の殺人事件のトリックにはビックリしました。
但し一箇所だけ不満が。「××××であることが、ほぼ確定した」という地の文があるのに、
結局それを全て否定する真相であったのは、「・・・と断定した」と書いた訳ではないですが、
ややアンフェアではないかと。
蛇足ながら、探偵役の壮と美緒、毎度毎度、健康的なのは結構ですが、俺には物足りないです
ね。こういうタイプの探偵の方が、派手なトリックが毎回出てくるシリーズでは、むしろ飽き
られないのかも知れませんが。
136名無しのオプ:2006/07/24(月) 19:31:29 ID:LwTtJWLa
まだ出てない作品でアリバイトリックものだとこんなのはどうでしょう?

土屋隆夫
「影の告発」★★★★ 写真を使ったアリバイトリックはクロフツの「多忙な休暇」を
          嚆矢として清張、鮎川と多数ありますが、これも傑作かと。
斎藤 栄
「海の碑」★★★☆  このあたりの作品までは結構読めると思います。 
         
         

137名無しのオプ:2006/07/24(月) 20:06:38 ID:UmkBaETd
有名すぎるから出てなかったんじゃね
138名無しのオプ:2006/07/24(月) 21:33:06 ID:kPQPqbi3
天藤真とかはどう?短編だと本格っぽいの多いが・・・
139名無しのオプ:2006/07/24(月) 21:40:25 ID:Vdnym456
天藤真は専用スレがあるので、ここではスレ違いかと。
140名無しのオプ:2006/07/24(月) 21:49:02 ID:Sa9FNiQi
>>139
西村京太郎のレビューもあるから、スレ違いにはならないでしょう。
>>1に「専用スレのない作家」とあるけど、レビューをするだけなら無問題じゃないかな。
141名無しのオプ:2006/07/24(月) 23:04:41 ID:UmkBaETd
却下
142名無しのオプ:2006/07/24(月) 23:25:50 ID:SEGi+kOp
レビューするだけなら無問題だと俺も思う。
143名無しのオプ:2006/07/24(月) 23:27:03 ID:mPSoGaaY
144名無しのオプ:2006/07/25(火) 19:11:44 ID:quDZ7W/Z
まだ出てない作品でこんな歴史ミステリはどうでしょう?

多岐川 恭
「姉小路卿暗殺」★★☆
三好 徹
「誰が竜馬を殺したか」★★

どちらも遊び心がなく学術書のような感じですが。
1453:2006/07/26(水) 10:35:51 ID:0YdJg3cP
島田一男「その灯を消すな」(春陽文庫)
1957年発表の南郷弁護士物の長編。
奥鬼怒・蚊太の里。平家の落武者の血を引く一族が隠れ住む秘境で、南郷弁護士の旧友が
自動車事故死を遂げた。旧友は旧家の三姉妹の長女と結婚していたのだが、遺産を巡る争い
に巻き込まれたらしい。現地に駆けつける南郷だが、またも次女の夫が火葬場で殺され、
更には次女の愛人である学生もまた・・・。
「上を見るな」に続く、地方の旧家を舞台にした連続殺人という、横溝正史ばりの設定です
が、例の島田一男調の軽快な文体で、おどろおどろしい感じは希薄です。とは言え、本作は
「獄門島」の影響が濃厚。地方の旧家、三姉妹、隔絶された環境という一種の密室状況、
更には、「獄門島」を連想させるアリバイ工作と、やはり「獄門島」的な或る錯誤などなど。
本格ミステリとしての出来は「上を見るな」「去来氏曰く(夜の指揮者)」の方が勝っている
と思いますが、まあまあの佳作。
146名無しのオプ:2006/07/26(水) 17:05:19 ID:89KujYHP
>>145
★いくつですか?みっつぐらいかな
1473:2006/07/26(水) 17:59:30 ID:0YdJg3cP
忘れてました、失礼。「その灯を消すな」は、そのとおり★★★です。

もう一冊紹介。
アンソロジー「わたしだけが知っている−第1集」(光文社文庫)★★★☆
昭和30年代に放映されたNHKのテレビ番組「わたしだけが知っている」の脚本を収めたもの。
鮎川哲也、土屋隆夫、笹沢左保、夏樹静子、藤村正太、島田一男、渡辺剣次他の作品を収録。
先ずは鮎川哲也。「七人の乗客」は、吹雪で山荘に避難したバスの乗客の間で起きる殺人事件。
アッサリ流した描写が上手く、作者が後に多数書いた倒叙物短編の萌芽があります。「終着駅」
も、これまた吹雪で立ち往生した列車で起こる殺人事件。作者の某短編でも使われた、或る大胆
な心理的錯覚を狙ったものだが、脚本には向かず、効果が上がっていません。
土屋隆夫も2編収録。「死の扉」は学校の宿直室での密室殺人を扱っていますが、作者自身の
既存のトリックの蒸し返し。「地獄の法廷」は駄作。
笹沢左保は1編収録。「見えない道」は、重役令嬢とライバルのBG達(昭和30年代ですから)
の暗闘が描かれ、さすがに笹沢左保、こういう題材は上手いです。足跡トリックの変型ですが、
なかなか奇抜で面白いです。
夏樹静子「ホテルの客」は、映画の撮影で来合わせた俳優、芸能記者、会社社長などの間に起こった
殺人。設定が粗いですが、アイディアは凡手ではありません。
藤村正太「初雪」は病院の一室で起きた一種の密室殺人。足跡トリックと或るトリックの組み合わせ
ですが、テレビドラマで、その或るトリックをどう処理したのか興味深いところ。
島田一男の「暴風雨の宿」は日系移民の帰郷パーティで起こる殺人事件。日系移民二世の、いかにも
昭和30年代風な素っ頓狂なセリフが笑える。「オオ!パパさん!」とか「ミー、プレゼントするヨ」
などなどw
渡辺剣次「割れたコップ」はE・クイーンの某短編と同じでお粗末。「二つの真相」は密室トリック
ですが、これも独創性なし。
なお巻末のエッセイも興味深く、生放送だったため、やり直しが利かず、カメラがクローズアップ
して密室状況を示したところ、部屋のドアが閉まっていなかったとか、シャンパンの栓が抜けなく
なり、生放送の最中に立ち往生したとか、現代では考えられない、のどかな話が紹介されています。
148名無しのオプ:2006/07/27(木) 22:19:16 ID:+b5d0Ykd
まだ出ていない作品でこんな連作短編集はどうでしょう?

戸板 康二
「目黒の狂女」(1982年)「淀君の謎」(1983年)「劇場の迷子」(1985年)
      いずれも講談社版、中村雅楽推理手帖の副題あり。すべて★★★
      歌舞伎界の「日常の謎」系ミステリです。
小林 信彦
「神野推理氏の華麗な冒険」(平凡社 1977年)★★★☆ パロデイ系ですが、          
      結構本格やってます。
佐野 洋
「七色の密室」(実業之日本社 1977年)★★★★ 初期の佐野氏はトリッキィな
      作品が多いですね。いろんな密室トリックが楽しめます。
阿刀田 高
「Aサイズ殺人事件」(文春文庫 1979年)★★★ 和尚さんは安楽椅子探偵。
149名無しのオプ:2006/07/28(金) 18:03:59 ID:w4Qw46gS
>>148
中村雅楽シリーズは今後創元推理文庫で全作品でるらしい
Aサイズ殺人事件も創元で復刊された
150名無しのオプ:2006/07/28(金) 19:39:28 ID:EwSDFBOc
>>148
『七色の密室』はハルキ文庫で復刊されています。
底本にした物よりも収録作が多いそうですよ。
151名無しのオプ:2006/07/30(日) 23:24:41 ID:V0LCO7Om
『七色の密室』のハルキ文庫版はたしか『大密室』。
『七色の密室』の収録作+その他の密室ミステリ数編という
収録内容だったと思う。
1523:2006/07/31(月) 12:26:38 ID:Z2UiB427
西東登「熱砂の渇き」(講談社)★★☆
1971年の長編。
東京都下・T動物公園で起きた殺人事件。死体は上半身を物凄い力で圧迫されていた。
その謎を警察が追う一方で、別に、アフリカから帰国した男が三流新聞社に「ダチョウの
レース」を売り込みに来る話が展開。どうやら、その新聞社に勤める主人公の過去に絡ん
でいるらしいのだが・・・。
本作を「本格ミステリ」とするのは少々苦しく、途中で犯人はほぼ割れてしまうし、謎解き
の興味を盛り上げる展開も中途半端で、結局、最後に残るのは「物凄い力で圧迫された死体」
の真相と、ダチョウを巡る謎だけとなります。前者は、一般的に知られているものではない
のですが、あの乱歩「類別トリック集成」にあり、彼のエッセイでも印象的な紹介のされ方を
しているトリック(原理は多分、逆でしょう)なので、気付いても良かったのですが。
久生十蘭の短編にも似たトリックがあったような・・・。
もう一つのダチョウの件は、まさか1970年代にもなって、こんな・・・(以下略。どう書いて
もバレそうなので)。そのためか、却って気付きませんでしたが。
「蟻の木の下で」(評価は★★★)と同様、「異様な凶器」のアイディアは買いますが、どちら
も「本格ミステリ」としてのプロットに、根本的な問題があるように思います。
153名無しのオプ:2006/07/31(月) 13:03:24 ID:L9UjUUbs
「蟻の木の下で」の結末には悪い意味で驚いたw
それ読んで以降西東登には興味なくしてたんだが
ダチョウの謎が気になるんで「熱砂の渇き」も読んでみるわ
1543:2006/07/31(月) 18:31:56 ID:Z2UiB427
>ダチョウの謎
期待しないで読んでくださいw

海渡英祐「新門辰五郎事件帖」(徳間文庫)★★★☆
1985〜1989年に発表された、幕末の侠客・新門辰五郎を探偵役とした連作集。
新門辰五郎は幕末・江戸の火消し「を組」の頭領で、娘が十五代将軍・慶喜の側室となった
ことで有名な侠客。幕末の動乱を背景にした、いわゆる「捕物帖」ですが、さすがは海渡英祐、
トリッキーな作品が多く楽しめます。「神隠し夢隠し」は暗号トリックと消失トリック、
「戊辰の華」はダイイング・メッセージ物、「望郷三番叟」では密室からの消失トリックに
挑んでおり、この3編がベスト。その他「紅蓮の女」「廓の狐」「手向けの芒」「立志編異聞」
「告別の舞」で全8編。全編を通じてトリッキーな捕物帳として、都筑「なめくじ長屋」シリーズ
に劣らず楽しめます。

深谷忠記「札幌・仙台48秒の逆転」(ケイブンシャ文庫)★★★
1987年の長編。
函館で同日に起きた航空機事故と自動車事故と殺人事件が微妙に絡みつつ、最後に一つに繋がる、
という構成は見事だし、何故、犯人は函館へ・・・・・したのか?という謎の真相も面白いのですが、
どこか小説としての面白みに欠けます。航空機事故に絡んだ或る真相も、見破られやすいもので
すし・・・。まあ水準作でしょうか。
155名無しのオプ:2006/08/02(水) 19:36:02 ID:mlxcTNsN
まだ出ていない作家でこんな作品はどうでしょう?

岩崎 正吾
「探偵の夏あるいは悪魔の子守唄」(創元推理文庫 1987年)★★★☆
  いわゆる本家取りミステリ、「探偵の四季」シリーズ第1作です。
  その後「秋」「冬」がでるも、3作で頓挫していますね。
  この作者のベストは「風よ緑よ故郷よ」(東京創元社 1989年)★★★★☆

鷹見 緋沙子
「わが師はサタン」(徳間書店 1975年)「死体は二度消えた」(立風書房 1975年)
  覆面作家ですから「まだ出ていない・・」は微妙ですが、トリッキィな作風で
  まずまず楽しめます。ともに★★★

田中 光ニ
「爆発の臨界」(角川文庫 1975年)★★★☆
  ポリティカル・サスペンス。最後のオチは本格に通じるのでは?
1563:2006/08/04(金) 10:28:37 ID:jot2Xn6G
海渡英祐「俥に乗った幽霊」(光文社文庫)★★★☆
明治の文明開化の時代を舞台に、新聞記者・有沢を探偵役とした連作集。1987年〜1992年に
発表された短編を収録。
全体として「捕物帖」に近い雰囲気があり、本格ミステリとしては既存のトリックの蒸し返し
に過ぎないのですが、未だ法医学や鑑識が発達していない時代ということで、大技で素っ頓狂
なトリックも違和感を感じませんでした。
表題作は人力車に現れた幽霊騒ぎによるアリバイ工作、「乱菊の庭」は、屋敷の庭で素裸で死んで
いた見知らぬ男を巡る話で、何故、衣服を取られたかの理由に、作者の「吉田警部補物」に共通
するものがあります。「銀座の三度笠」もトリック自体は馬鹿馬鹿しくとも、話の背景が上手い
ので楽しめます。
集中の最高傑作は「吐き出した餌」。豪商の旦那が失踪した事件に絡んで、主人公が元・岡っ引き
の老人に出会い、更にライバル新聞社の記者に岡本某というのがいて・・・、と来れば、捕物帖
ファンなら何の話か分かるはず。が、そう思って読み進めると、まんまと引っ掛かります。某捕物
帖のパロディと見せて、実はその捕物帖の・・・・(以下略)、というユニークさが光ります。

深谷忠記「成田・青梅殺人ライン」(光文社文庫)★★
1984年の、この作者のごく初期の長編。
前半の、大学受験の不正絡みの殺人事件から一転、後半は別の視点から事件を洗い直す、という
構成ですが、残念ながらストーリー展開が「退屈」の一言。メリハリがないというか平板という
か・・・。
でトリックの方はどうかと言うと、あれだけジラされた挙句に、あんな機械的なトリックでは・・・。
脱力しました。あんなにメカニズムを多用すれば、何でも大抵のことは出来ますよ。
同年発表の「甲子園殺人事件」(★★)も、ちょっと小粒すぎるし(ジュブナイルであることを
差し引いても)、この頃の深谷忠記は、未だ実力を出していないですね。
157名無しのオプ:2006/08/04(金) 16:24:07 ID:wBMO4w41
>>155
「わが師はサタン」は天藤真名義で出てるね。
ttp://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=1646
158名無しのオプ:2006/08/04(金) 21:36:16 ID:ycPEgjYg
海渡英祐
「出囃子が死を招く」(光文社文庫)★★★☆
同じく明治時代の新聞記者が主人公のミステリ、こちらは長編。
この作者の軽いユーモアの入った作風が好みです。
吉田茂警部シリーズなどは是非創元ぐらいから復刊してほしい。
159名無しのオプ:2006/08/05(土) 21:43:46 ID:bAUXJWFv
海渡 英祐
「次郎長開花事件簿」(徳間文庫)★★★☆もあるよ。
160名無しのオプ:2006/08/05(土) 21:48:20 ID:9gyAtUeG
海渡英祐ってまだ存命ですよね?
新作でないけど病気かなにかですかね?
161名無しのオプ:2006/08/05(土) 22:15:25 ID:6/nTaPPa
わかる方いますか?そして誰も居なくなった。っていう小説を書いてる先生教えてください。
162名無しのオプ:2006/08/05(土) 22:50:47 ID:pVoKsoWY
クリスティだって。って、釣りか
163名無しのオプ:2006/08/05(土) 23:48:35 ID:6/nTaPPa
クリスティで探せば本屋または古本屋にありますか?最近小説にはまって友人にコレは面白いって聞いたんだけど書いてる人がわからないと言うことだったので。
164名無しのオプ:2006/08/06(日) 02:43:58 ID:hh5QTN/U
>>160
ご存命ですよ。
新作が発表されなくなって7,8年になるので、引退されたのかも知れませんね。
加納一朗のように、文庫書き下ろしの時代小説を刊行して驚かしてくれるといいのですが。
165名無しのオプ:2006/08/06(日) 13:59:18 ID:PGfyfMXh
>>164
単行本としては「札差弥平治事件帖」(文庫にしろ徳間)以来ですからねぇ。
加納一朗の「あやかし同心事件帖」はびっくりして思わず買ってしまいましたw。亡くなったとか書いてるサイトもあったし…。
1663:2006/08/07(月) 10:59:39 ID:lTkXsBns
たまには当時の雑誌の感想でも。

「別冊宝石124号」(1963年12月)
本誌の目玉は、笹沢左保「アリバイ奪取」(★★★★)。ストライキ中の会社を舞台に、組合の暗闘の
中で起きた殺人事件。窮地に立たされた容疑者のアリバイを証明する女性もまた殺される・・・。
タイトルどおりのテーマと見せて、その上を行く着想が際立っています。更に小技のトリックも交えて
おり、看板に恥じない佳作。
斎藤栄「三つの悪い芽」(★★★☆)は、横浜で起きた連続殺人事件。一見関係ない事件を繋ぐミッシ
ング・リンク物で、意外性があり優れてますが、如何せん短編なので、ちょっと唐突な印象。とはいえ
「殺人の棋譜」で乱歩賞を取る前で、駆け出しにしては佳作。
「戦艦金剛」発表直後の蒼社廉三「スターリン・グラード」(★★★)は戦争ミステリ。ソ連軍とドイツ
軍のスターリングラード攻防戦で、行方をくらましたナチス将校を追跡するソ連軍将校が、或るビルの
一室でドイツ軍の残党を見つけるが、という話。同じビルの中で、お互い弾薬の尽きたドイツ軍とソ連軍
が部屋を隔てて睨み合い、そこが最前線だという凄まじいシチュエーションが先ず読ませるし、ナチス
将校が誰なのかを特定する推理など「本格」そのものですが、やはり短編なので物足りないです。たっぷり
枚数を与えて、好きなように書いてほしい作家でしたが、時代が悪かったのか。
時代が悪いと言えば、千葉淳平「13/18・8」(★★☆)。同年の密室もの「或る老後」でデビュー
した、当時としては珍しい密室派の作家らしいですが未詳。本作は機械的な密室トリックですが、この当時、
どれだけ反響があったのか。アマチュアなのか小説として下手なのは目を瞑っても、登場が遅すぎたという
感じです。
日影丈吉「消えた家」(★★☆)はお得意の戦争中の台湾もの。小品ですが、C・ロースン風の消失
トリックを扱っています。
本格ミステリは以上。竹村直伸「裏目の男」、猪股聖吾「シャドー」、新羽精之「素晴らしき老年」は
ブラック・ユーモアというか奇妙な味の佳作。藤村正太「癌」、藤木靖子「学校の階段」はオチが読めて
しまいます。多岐川恭「禁煙法」はちょっとSF風の珍品ですがオチがダメ。川辺豊三「はれもの」も
犯罪小説の傑作ですが「本格ミステリ」とは何の関係もないので割愛。
167名無しのオプ:2006/08/07(月) 11:59:22 ID:++BqdB1b
>>165
私も『あやかし同心事件帖』を買いました。
平積みされてるのを見たときは「これは夢……?」と思いましたよw

>>166
千葉淳平は「幻影城」で特集される予定でしたね。
「宝石」か「別冊宝石」のどちらだったかは忘れましたが、インタビュー記事が掲載されていたと思います。
インタビューを含む現時点で判明している短編のコピーを所有しているのですが、どこかに行ったみたいで見当たりません。
「ユダの窓はどれだ」が一番面白かった記憶があります。
「或る老後」は鮎川哲也・島田荘司編『ミステリーの愉しみ4』、「ユダの窓はどれだ」は鮎川哲也編『紅鱒館の惨劇』、
「静かなる復讐」はミステリー文学資料館編『「エロティック・ミステリー」傑作選』に収録されています。

笹沢左保「アリバイ奪取」は同題の本が東方社から出ていますが、短編集なのでしょうか。
斎藤栄「三つの悪い芽」は『赤富士殺人事件』(双葉文庫)に、日影丈吉「消えた家」は『日影丈吉選集 猫の泉』
(河出書房新社)に収録されているようです。
1683:2006/08/07(月) 12:27:16 ID:lTkXsBns
>>167
追加情報、サンクスです。
書誌的な事情は全く知らずに手当たり次第に読むだけなので、大変助かります。

ついでにもう一作。
深谷忠記「信州・奥多摩殺人ライン」(エイコーノベルス)★★★
1986年の長編。
あの壮・美緒シリーズの第一作。信州・北アルプス山麓の別荘で起きた殺人事件と、
奥多摩で発見された女性の死体を繋ぐ謎が扱われていますが、これは流石にトリック
を殆ど見破ることが出来ました。かと言って出来が悪いとも思えず、伏線などで作者が
正直すぎるというか、今では非常にポピュラーなトリックなので、ということでしょうか。
このシリーズが現在まで長く続いているところからも、この辺りで作者もスランプ脱出、
そろそろ本領発揮という感じでしょうか。
169名無しのオプ:2006/08/08(火) 20:13:21 ID:lKPRJnFD
各作家のナンバー1を決めよう!スレにて、「草野唯雄」作品投票中。

締切りは、平成18年8月11日(金)、〜12:00まで。よろしくご参加を。

http://book3.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1154275629/l50

投票したい作品を<<作品名>>のように<< >>括って投票するのがローカル・ルールになってます。
170名無しのオプ:2006/08/12(土) 01:14:53 ID:nTC0Nnsw
このスレはおそらくミス板の中で今一番資料性が高い重要なスレですね
ところで>>3さんの正体をそろそろ明かしてほしいなw 絶対ry
自分がまさにこの時代の国内作家は未知の世界だから老後の楽しみにログだけ保存しておきます
171名無しのオプ:2006/08/12(土) 02:30:54 ID:MKhX//ht
斎藤栄「花嫁川柳殺人事件」(カッパ・ノベルス)☆の半分
1985年の長編。タロット日美子シリーズの第2作。
旧友から結婚を目前に控えた従兄弟が自殺しそうなので助けて欲しいと頼まれた日美子は新潟へ向かう。
自殺の方法とは、横溝正史の『本陣殺人事件』を再現するというもの。ある朝、予告通りに従兄弟が密室で
死体となって発見される。
地雷と分かっていて、あえて読みました。『本陣殺人事件』へのオマージュなのですが、酷すぎます。
密室トリックの酷さは勿論のこと、琴の代わりに被害者が唄って録音した(苦笑)『雪のふる街を』が流れている
というのはいくらなんでも……。「この作品を横溝の墓前に」というコメントが作者の言葉にあるのですが、
泉下の横溝は激怒するのでは……。
本作の存在価値は(メル欄)の趣向があるということだけ。
(国内作家では笹沢左保や辻真先がこの趣向を多用していますが、斎藤も度々使っていますね)
172171:2006/08/12(土) 02:33:17 ID:MKhX//ht
(メル欄)を書き忘れてました
173名無しのオプ:2006/08/13(日) 20:48:43 ID:Ay93M8uk
jazzの中の人?
174名無しのオプ:2006/08/14(月) 02:32:42 ID:ZVccv/j7
>>172
なってねえよ〜
1753:2006/08/14(月) 11:20:02 ID:uJg9n0LP
>>170
正体も何も、全く無名ですw
スレの初めには、日下さんかと言われたけど、もちろん違うし、有名なネット書評家の人たち
でもないし、ブログもHPも持っていません。
まだ数十作ほどストックがあるので、飽きられるか評判が落ちるまで書き込んでみますので、
どうぞ宜しく。

井沢元彦「陰画の構図」(双葉ノベルス)★★★☆
1984年の長編。
若手弁護士・立花は、かつての恋人がマンションでガス自殺したのを不審に思い、友人の医師・
津村と調査に乗り出した。現場は内側からチェーンが掛かっており、更にはドアの隙間にも
目張りされた完璧な密室だった・・・。
先ず、安っぽい表紙とイラストに辟易し、余りに素人くさい探偵やらおバカな脇役、バブル漂う
ストーリーで、「こりゃ何だ?」と思いつつ読み進めたのですが・・・。
なるほど、ラストまで読んで、納得できました。何故、探偵がベタなのか、わざとらしい展開は
何故なのか、この結末なら、まあ必然的ともいえます。冒頭に繋がるラスト数行も、当時としては
斬新でしょうか。しかし、ここまでベタにしたら、気付かれ易いと思いますね。
なお密室トリックは脱力系。

井沢元彦「修道士の首」(講談社文庫)★★★★
>>59さんが紹介している「五つの首」に先立つ、織田信長を探偵役にした1983年の連作集。
どの作品も技巧を凝らして、戦国時代の風俗とマッチしたトリックを考案しており、楽しめました。
ベストは「不動明王の剣」。密室物だが、トリックよりも何故密室にしたのか?という理由が実に
上手い。
ただ、織田信長は確かに天才的な戦略家で、現代人に近い合理的思考の持ち主だったとは思いますが、
果たしてここまで論理的な考え方をしたのか疑問ですがw
1763:2006/08/14(月) 11:32:14 ID:uJg9n0LP
1回で収まらなかった。連投スマソ

井沢元彦「マダム・ロスタンの伝言」(集英社文庫)★★★
行方不明になった美術品などを探し出す「トレジャー・ハンター」永源寺峻を主人公とした1988年の
連作集。
どの話も、依頼品の捜索とともに事件が起こり、その謎解きまでする羽目に、というパターンで、
依頼品がどこにあるかの謎解きよりも、不明となった事情、依頼人が何故探しているのか、という方の
謎解きに力点が置かれ、「盗む」と「探す」の違いはあっても、E・D・ホック「怪盗ニック」と同じ
ですね。さほどトリッキーな仕掛けがある訳でもないが、意外な隠し場所、暗号、アリバイなど工夫を
凝らしています。ただ、どうも全体を通して薄っぺらいというか、当時のバブルな雰囲気が臭ってくる
感じ。

深谷忠記「南紀・伊豆Sの逆転」(ケイブンシャ文庫)★★★
1987年の長編。
南紀白浜で衆人環視の中で起きた大胆な毒殺事件。容疑者と思しき男は潮岬で服毒自殺を遂げるが、偽装
自殺の疑いが。一方、伊豆半島を旅行中の壮と美緒は、地元の友人がその事件に関わっていることを知る
のだが・・・。
>>102さんから勧められて以来、最近はすっかり深谷忠記作品にハマッていますねw。何の変哲も無いミス
テリとも言えますが、一応、「本格」としての水準は、どれも維持しており安心して読めます。
本作は如何かと言うと、メインのトリックに、やや無理があるような気がしますが、まあ合格点でしょうか。
細かいサブ・トリックに面白みがないのが弱点。タイトルの「S」が意味するものは、何故気付かなかった
のか、とまあまあ感心しましたが。
あと本筋とは関係ないですが、結末で作者が美緒の口を借りて、「死刑廃止論」に正面から反対しているのが
印象に残りました。
177102:2006/08/14(月) 14:16:58 ID:bFv2cEks
>>3
深谷を気に入ってくださったようで、嬉しいですw

私はあなたがレビューされた『仮面の告発』『新門辰五郎事件帖』を読んで
海渡英祐にハマッてしまいました。師匠の高木より好きになりそうですw
1783:2006/08/16(水) 10:36:07 ID:4mNmt/Jg
笹沢左保「暗い傾斜(別題:暗鬼の旅路)」(角川文庫)★★★☆
1962年の長編。
発明家の詐欺に引っかかって窮地に立たされた化学企業の若い女社長が、高知県の室戸岬で
無理心中するが、九死に一生を得て生還。しかし、その同時刻、会社の大株主で、借金を盾に
彼女に結婚を迫る男が東京で殺されていた・・・。彼女の部下である主人公は、真犯人は彼女以外
にいないと確信を持つが、彼女には高知県での心中未遂という鉄壁のアリバイが・・・。
確実性はさておき、このトリックは笹沢左保独自のもので、良く指摘されるように「鮎川、清張
などのアリバイ物とは全く異質のアリバイ物」として評価できます。主人公の葛藤にもリアリティ
があるし、社会への怨念めいた「笹沢節」も絶好調。
なお真相の根幹に、或る女性心理に絡んだものがあり、昭和30年代なら普通でも、現代なら納得
しない読者が多いな、と思われ、普遍的と思われがちな心理的トリックでも、古びてしまうもの
はありますね。

笹沢左保「炎の虚像」(講談社文庫)★★☆
1964年の長編。
「大胆不敵な心理的トリック」(中島河太郎)とのレビューを読み、期待したのですが、幾つか
の点で期待を裏切られてしまいました。
敏腕テレビ・ディレクターが生放送ドラマの収録に遅刻するという不祥事が勃発。そのとき彼は
交通事故に遭い、加害者の新進女優と俳優の家で寝込んでいた、ということで不問に付される。
が、彼を負傷させた加害者が相次いで謎の死を遂げる。その謎をディレクターの友人が追うが・・・。
「大胆不敵な心理的トリック」については、まあ確かにその通りで、恐らくアレをトリックに
使った嚆矢かも。でもかなり確実性に乏しく、当時なら新鮮でも今となっては色褪せて見えます。
例の「笹沢節」も低調、テーマもぼやけ、「動機追及」「犯人探し」「犯行手段如何」の何れに
絞ったのか不明確、破綻とまでは行かないが「あの人物の、あの謎の行動は結局どうなったの?」
と首を傾げる部分も。ラストの捻りが効いているのが救いだが、残念ながら凡作。
179名無しのオプ:2006/08/18(金) 22:53:33 ID:j1hkjivE
「読みました」報告・国内編

梶 龍雄「奥秩父狐火殺人事件」(講談社ノベルス 1986年)★★★☆
映画監督探偵シリーズの本格推理。取材で訪れた奥秩父の寒村で旧家の
縁者が次々と殺されて・・と、いかにも二時間ドラマ風の設定ですが、
全編ミスリードと伏線のオンパレードで、さすが梶龍雄です。
特に、犯行現場の時計を操作しながら、それがアリバイ作りのためでない
という捻った論理にうなりました。
女子大生たちのベタな会話口調等がまんして読めばまずまずの本格編といえる
のではないでしょうか。



180名無しのオプ:2006/08/19(土) 09:15:49 ID:+Iw9Moze
>>133
深谷忠記、読んだよ。
正直、つくづく自分にトラミスは合わないということがよくわかった。
もうこうなってくるとトリックがどうこういう問題じゃないって感じ。
「審判」には心底感心したし、「島崎警部のアリバイ事件簿」なんかも読んで
時刻表トリックにも免疫つけてからw読んだんだが、やっぱぜんぜんダメ。
もともとトラミス自体ほとんど読んでないが、(島崎警部シリーズのような)
短編と違って長編一作を時刻表トリック一本で読み切るのはこんなにも難作業
であったということを思い知らされた。
181名無しのオプ:2006/08/19(土) 23:02:55 ID:M8IP64WH
アリバイ崩しものを時間の密室ものと看破したのは有栖川だったっけ?
ワンアイディアの密室トリックのみで長編立ち上げたの読んでも、へーそーだから何、
みたいに、作者側にトリック発明の高揚感のようなものがあるのはわかるけど、
読者としては何も伝わるものがないというのは、密室・アリバイもの両方ともによくある。
182名無しのオプ:2006/08/20(日) 13:01:05 ID:iInA1dUo
鉄ミスは好みがはっきり分かれるからね。
深谷は鮎川同様ロジックに力を入れてる鉄ミス作家だから好きだけど、
探偵コンビに華がないんだよなぁw

>>181
北村薫じゃなかったっけ?(評論家時代、鮎川哲也の解説にそう書いてた記憶が…)
183名無しのオプ:2006/08/24(木) 22:28:01 ID:ZvnZfV0/
この時代の各作家の代表作を挙げてみた。
新本格からのミステリ読者はぜひこれらの秀作・怪作を読んでほしい。

佐野洋「死んだ時間」、斎藤栄「真夜中の意匠」、海渡英祐「影の座標」
天藤真「遠くに目ありて」、森村誠一「東京国際空港殺人事件」、笹沢左保「真夜中の
詩人」、梶龍雄「海を見ないで陸を見よう」、仁木悦子『粘土の犬』、中町信「散歩
する死者」、土屋隆夫「危険な童話」、多岐川恭「異郷の帆」、山村美紗『殺意のまつ
り』、本岡類「大雪山・牙と顎の殺人」、深谷忠記「阿蘇雲仙・逆転の殺人」
草野唯雄「北の廃坑」、西村京太郎「殺しの双曲線」、戸板康ニ『団十郎切腹事件』

184名無しのオプ:2006/08/25(金) 03:00:54 ID:pdzo/6V4
このスレのおかげで最近ブッコフ巡りが楽しい。
185名無しのオプ:2006/08/26(土) 22:52:50 ID:2UgoL9CU
森村誠一の初奇策では「虚構の空路」がピカイチだとおもう
1863:2006/08/28(月) 13:36:37 ID:szC5PK35
陳舜臣「天の上の天」(徳間文庫)★★☆
1963年の長編。
中堅商社に勤める主人公が、外国為替管理の網の目をくぐった裏金を又貸しするため、指示された
借り手の所へ行くと、相手は何者かに殺されていた。主人公は表沙汰に出来ない金のため、一部を
猫ババし、警察に追及される羽目に陥りながらも、独自に真犯人の追及を始める。一方、サイド
ストーリーとして、戦争中に日本に強制連行され、その時受けた仕打ちに復讐を誓う中国人がいて、
その相手が殺人事件に絡んでいるらしい。だが、疑わしい人間には、鉄壁のアリバイが・・・。
密室物に偏っていた作者がアリバイ物を手がけた異色作。アリバイ工作自体は良くあるパターンで
すが、陳舜臣の筆にかかると何かしら風格があるように思えるのが不思議。でも小説としては面白
くても、アリバイ物はやはり作風に合ってないというか、どこかシックリこない気がしました。

和久峻三「多国籍企業殺人事件」(角川文庫)★★
1973年の、乱歩賞受賞後第一作の長編。
小さな海運会社を経営する海野。愛人の裏切りに遭って、会社は商社に乗っ取られる寸前に。更に
は、商社から派遣されていた重役が殺され、容疑者とされた海野は、彼を助けてくれる黒幕の要請
で、中東の産油国に飛ぶが・・・。
1960〜70年代に流行った、いわゆる「産業推理」だと思いますが、アリバイ崩しとドンデン返しが
あるというので、期待して読みましたが・・・。
先ず主人公の手前勝手な浮気の話に閉口し、必然性があるのか分からない殺人事件に閉口し、主人公
の逃避行の話が、緊張感ゼロの観光案内っぽくて幻滅し、ようやく終盤になって、アリバイ崩しと
意外な真犯人と、更なるドンデン返しがあるのですが、全て想定の範囲。
当時としては、森村誠一あたりを、やや国際的にスケールアップした味を狙ったものでしょうかね?
凡作。
1873:2006/09/04(月) 13:15:09 ID:vsBZ+2eq
一週間置いたが連投となりスマソ

井沢元彦「葬られた遺書」(光文社文庫)★★★
1981〜1987年に発表された作品を収録した短編集。
表題作は、新聞雑誌の記事を羅列する形で、或る天才少女作家のデビューから急死するまでを
描いた作品で、最後に全てを引っくり返す手紙が付いてオチとなる佳作。色々と伏線が張って
あり、楽しめます。「闇夜のカラス」は高校野球が題材。ナイターの練習試合の最中に突然停電
となった瞬間、打球に当たって死んだ選手の謎。トリッキーな仕掛けもあって、ちょっとユニー
クな本格ミステリ。「トライアル・アンド・エラー」は倒叙もの。捻りは効かせていますが、
どこかあり触れた印象。
「盗まれた顔」はストレートな本格ですが、ストーリーが泥臭いのが残念。
「オクタビアヌスの手紙」は暗号解読ものだが今ひとつ。「金の十字架」も、暗号解読までは
興味があっても、その後は凡庸で後味の悪い結末を迎えるだけで惜しい。
「炎の花の女」は駄作、「忠臣蔵内匠絡繰」は小説ではなく、問答形式で忠臣蔵に関する作者の
薀蓄を並べたエッセイ。
以上、まさに「玉石混交」の一冊。

由良三郎「偽装自殺の惨劇」(光文社文庫)★★
1989年の長編。
学園祭に出演予定のロックバンドに脅迫状が届いた。人気を妬む他のバンドのメンバーからの
嫌がらせか?果たして学園祭当日、ステージ上で首吊りの演技をしたバンドのメンバーが本当に
首吊り死体となり、横にいたメンバーもまた、謎の毒殺を遂げる・・・。
まるで愛想のないタイトルはともかくとして、バンドの演奏中に起こった二重殺人事件の謎の
真相が、とにかく面白みに欠けます。首吊りの謎の真相となる、「或るもの」は、恐らく発表
当時に話題となっていたものだったと思いますが、トリックとしては面白くないし、毒殺トリック
の方も「へえ、そうなんだ」とちょっと感心しておしまい。探偵役も印象が薄いし、意外な真犯人
の設定も、最後の最後に別の犯人を用意しましたよ、というだけで、ちっとも「意外」ではありま
せんでした。
188名無しのオプ:2006/09/11(月) 15:53:46 ID:5Bwsm1Sc
追悼・小林久三age
189名無しのオプ:2006/09/11(月) 17:35:57 ID:IHZedoeQ
やっぱりアカかぶの作者死亡か。
190名無しのオプ:2006/09/11(月) 18:34:37 ID:T8LN6Gu2
和久峻三と混同
191名無しのオプ:2006/09/12(火) 10:00:31 ID:+kvluLDJ
キュウゾウは何読んでいいかわからんね
1923:2006/09/12(火) 12:05:39 ID:d4+E/4fi
日下圭介「女怪盗が盗まれた」(光文社文庫)★★★★
1976〜1988年に発表された本格物・倒叙物で固めた短編集。
巻頭の「正直なうそつき」は推理作家協会の余興に使われた犯人当て物。犯人特定のヒントが
犯罪そのものと直結してないし、密室トリックもバカバカしいですが、伏線はしっかりして
います。
「旅の密室」は列車内の二人の人物の会話から過去の密室殺人事件を解明する作品。密室トリック
がちょっとユニークで、伏線も上手いので合格点。その上、ラストには二重のドンデン返しが
仕掛けられていますが、これは無かった方が良いかも。
「犯人は誰だ刑事は誰だ」はCC物。地震で足止めを食らったバスの乗客たちが避難した旅館には、
拳銃強奪犯と休暇中の刑事が混じっている、それは一体誰なのか?という話。凝った構成で楽しめ
ますが、主役コンビが、いかにも1980年代風の軽薄なヤツなので好きになれません。
表題作も同じく犯人当て物。「犯人は誰だ・・・」に登場した主役コンビがまた登場。またも軽薄な
文章だし、後味が悪いのが残念ですが、犯人当てとしては合格点。
「ポケットの中の時間」は写真を使ったアリバイ物。「へえ、そうなんだ」と感心するだけの話、
「午後五時の証言」も、ちょっとヒネッただけのアリバイ物。
巻末の「蜜と毒」は倒叙物。アリバイ崩壊の決め手となる小道具が動植物を使ったユニークなもの
で、作者の名短編集「鶯を呼ぶ少年」「花の復讐」の傑作群を思わせます。本格ミステリとしては
平凡ですが、独特の暗いムードと、何とも言えない哀愁漂うラストが胸に迫る佳作。
評価はちょっと甘いが星4つ。
193名無しのオプ:2006/09/12(火) 19:00:54 ID:wNdLattt
私も日下圭介の初期の短編集を追っかけているところです。
一人称の作品が多くサスペンス作家の印象があったが、
結構楽しめます。
しかし、長編は「蝶たちは今・・」以外に良作はありませんね。
特に「折鶴が知った・・」はひどかった。

194名無しのオプ:2006/09/12(火) 20:17:27 ID:LfnGr/9r
各作家のナンバー1を決めよう!スレにて、「梶龍雄」作品投票中。

締切りは、平成18年9月15日(金)、〜12:00まで。1人1票でよろしくご参加を。

http://book3.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1154275629/l50

投票したい作品を<<作品名>>のように<< >>括って投票するのがローカル・ルールになってます。
1953:2006/09/15(金) 17:51:53 ID:DAXpmDbm
>>193
確かに、日下圭介の長編は見るべきものはないですね。「血の色の花々の伝説」(講談社文庫)
など、ヒドいものでした。

少々、小物を在庫整理。

皆川博子「光源氏殺人事件」(講談社文庫)★★☆
1985年の長編。
まあ、トリック的にどうこういうレベルの作品ではないし、或る女性の登場人物などは一番嫌い
なタイプの人間だし、ということで評価できませんでしたが、これは「源氏物語」ファンであれ
ば、最初の方で明らかにされている或る事実から、真相を見破ることができるのかも知れません。
その点が一番のトリッキーな仕掛け、というか伏線かも。でもそれだけ。

皆川博子「忠臣蔵殺人事件」(徳間文庫)★
1986年の長編。
うーん、これは失敗作でしょう。一部の登場人物の描き方に中途半端なものがあるし、途中で
作者が興味を失ったかのようなヒドい端折り方で終了。ついでに解説者のトンチンカンさも
最悪。

長井彬「殺人路・上高地」(光文社カッパノベルス)★☆
1986年の長編。
長井彬の山岳物ならハズれでないだろうと思ったら。これまた失敗作。錯綜する人間関係も、
ただ複雑なだけで面白くないし、トリック的にも感心しません。「上高地の三箇所に同時に
現れた女性」の謎も、誰でも思いつくとおりの真相で腰砕け。
主役の刑事の性格設定が、やや面白いだけ。これならトラミス風でベタベタの展開を見せる
「南海殺人海の密室」の方が未だ面白いです。
緻密なプロットと伏線に渋いトリックを積み重ね、更に叙述にも工夫を凝らした「山岳物三部作」
(北アルプス殺人組曲、奥穂高殺人事件、槍ヶ岳殺人行)の傑作群とは大違い。ここが作者の
ターニング・ポイントだったのかも。
196名無しのオプ:2006/09/15(金) 18:42:36 ID:QTPrsVZV
3氏のレビューいつも楽しみにしていますが、
できれば「あまり知られていないが意外と秀作」という
ような作品を重点的にお願いしたいですね。
年齢的に読める冊数も限られてきますので。
1973:2006/09/15(金) 18:53:49 ID:DAXpmDbm
>>196
了解。でももう、そんなに優良在庫は残ってなさそうです・・・orz
最近では、>>175の「陰画の構図」、>>192辺りが、その条件に近い感じの
作品でしたが・・・・。
まあ在庫分だけでなくリアルタイムでも探求中ですので、暫くお待ちを。
198名無しのオプ:2006/09/15(金) 20:58:07 ID:euGTjhU5
自分も実際読もうと思うのは★4つ以上の作品だけだな。
ただ、怪作や異色作なども含めて幅広く紹介していくというのは
有用だと思うので、現行のままで問題ないと思うよ。
>>196氏には頑張って長生きしてもらおう。
199名無しのオプ:2006/09/15(金) 22:26:05 ID:p/HIjdxD
俺はこのスレでレビュー・紹介された作品は、可能な限り読むつもりでいる。
(田舎暮らしだから現物を入手するのにてこずってるけど)
このスレを見るまで笹沢・海渡・長井・井沢らにはまったく興味がなかったから、
3氏をはじめとする投稿者の方たちには感謝してる。
玉石混交で構わないんで、今後もいろんな作品を紹介していって欲しいと思う。

余談。
本格じゃないけど、日下の長編「黄金機関車を狙え」は面白く読んだ覚えがあります。
200名無しのオプ:2006/09/16(土) 00:49:54 ID:KHfc7BMp
>>3氏やその他の方々のレビューを読んでいても、
いかに埋もれた佳作、傑作というのが少ないかが分かってくる。
色々と壁(駄作)にぶつかることも多かろうと思うけれど、
その壁にぶつかったことも記録として遺してもらえるので、
後年になっても使える資料になると思う。

なので、駄作にぶつかっても、めげずに読んで、紹介してくれる方々を
本当にありがたく思います。
201名無しのオプ:2006/09/16(土) 02:25:54 ID:3yyeoARP
駄作を壁だと思うようではこんな酔狂な企画やってられないと思うがw
まぁそれを石だと思う人もいれば玉だと思う人もいるだろうし
3氏が駄作認定した作品も今後もどんどん紹介してほしいな。

ミステリー史としての重要ではない作品でも、高度成長からバブルまでの
“昭和”の資料と言えるものがもしかしたらあるんじゃないだろうか。
202名無しのオプ:2006/09/16(土) 05:49:18 ID:YAH059XR
田舎のブッコフは、普通の平成の古本しかないんだよなあ。
昭和の頃の本は年寄りたちは児童館とかに寄付しちゃうし。
(で、汚い本は捨てちゃうんだよね、もったいない)

203名無しのオプ:2006/09/16(土) 08:59:48 ID:T1URIgmM
うちもかなりの田舎だけど
ブクオフの105円コーナーでこのスレで
紹介された作家の本がかなりあったので
大変助かった。
田舎のブクオフ限定企画の3冊105円処分品
の中によくみかけるのでこれも大助かり。

せどりもスルーしてくれるのであわてていく必要もないし
このスレのおかげですごく楽しませてもらっています。
紹介してくれた方々ありがとう。これからもよろしく。
(自分も少しづつ開拓してみます。)
204名無しのオプ:2006/09/16(土) 10:12:04 ID:KJHv39zc
>>121以降に紹介された作品を纏めてみました。(名前の挙がった作品も入れました)
どなたか、WIKIに追加をお願いします。
http://f17.aaa.livedoor.jp/~miggypop/pukiwiki/pukiwiki.php?%5B%5B%A3%B1%A3%B9%A3%B5%A3%B7%A1%C1%A3%B1%A3%B9%A3%B8%A3%B7%C7%AF%A4%A2%A4%BF%A4%EA%A4%CE%CB%DC%B3%CA%A5%DF%A5%B9%A5%C6%A5%EA%BA%EE%B2%C8%C3%A3%5D%5D

梓林太郎
『風葬連峰(別題:北アルプス冬山殺人事件)』★☆
阿刀田高
『Aサイズ殺人事件』★★★
天城一
『島崎警部のアリバイ事件簿』
井沢元彦
『陰画の構図』★★★☆『修道士の首』★★★★『マダム・ロスタンの伝言』★★★
『葬られた遺書』★★★
岩崎正吾
『探偵の夏あるいは悪魔の子守唄』★★★☆『探偵の秋あるいは猥の悲劇』
『探偵の冬あるいはシャーロック・ホームズの絶望』『風よ緑よ故郷よ』★★★★☆
大谷羊太郎
『旋律の証言』★★★
海渡英祐
『新門辰五郎事件帖』★★★☆『俥に乗った幽霊』★★★☆
『出囃子が死を招く』★★★☆『次郎長開花事件簿』★★★☆
梶龍雄
『清里高原殺人別荘』★★★★『奥秩父狐火殺人事件』★★★☆
日下圭介
『女怪盗が盗まれた』★★★★『蝶たちは今…』『折鶴が知った…』『黄金機関車を狙え』
小林信彦
『神野推理氏の華麗な冒険』★★★☆
小峰元
『ディオゲネスは午前三時に笑う』★★★
205名無しのオプ:2006/09/16(土) 10:13:49 ID:KJHv39zc
斉藤栄
『死角の時刻表』★★★★『海の碑』★★★☆『花嫁川柳殺人事件』☆の半分
『真夜中の意匠』
西東登
『熱砂の渇き』★★☆『蟻の木の下で』★★★
笹沢左保
『人喰い』『突然の明日』★★★『暗い傾斜(別題:暗鬼の旅路)』★★★☆
『炎の虚像』★★☆『真夜中の詩人』
佐野洋
『七色の密室』(その後、増補版『大密室』が刊行されている)★★★★
『死んだ時間』
島田一男
『その灯を消すな』★★★
草野唯雄
『北の廃坑』★★★☆
鷹見緋沙子
『死体は二度消えた』★★★
多岐川恭
『姉小路卿暗殺』★★☆
田中光ニ
『爆発の臨界』★★★☆
千葉淳平
「ユダの窓はどれだ」(鮎川哲也編『紅鱒館の惨劇』収録)
「或る老後」(鮎川哲也・島田荘司編『ミステリーの愉しみ4』収録)
「静かなる復讐」(ミステリー文学資料館編『「エロティック・ミステリー」傑作選』収録)
陳舜臣
『天の上の天』★★☆
土屋隆夫
『影の告発』★★★★『危険な童話』
津村秀介
『山陰殺人事件』☆
206名無しのオプ:2006/09/16(土) 10:14:55 ID:KJHv39zc
天藤真
『わが師はサタン』★★★(鷹見緋沙子名義で発表)
『遠くに目ありて』
戸板康二
『目黒の狂女』★★★『淀君の謎』★★★『劇場の迷子』★★★『団十郎切腹事件』
長井彬
『殺人路・上高地』★☆
仁木悦子
『粘土の犬』
深谷忠記
『阿蘇・雲仙逆転の殺人』★★★☆『寝台特急『出雲』+−の交叉』★★★★☆
『『法隆寺の謎』殺人事件』★★★『札幌・仙台48秒の逆転』★★★
『成田・青梅殺人ライン』★★『甲子園殺人事件』★★『信州・奥多摩殺人ライン』★★★
『南紀・伊豆Sの逆転』★★★『審判』
藤村正太
『コンピューター殺人事件』★★★ 『孤独なアスファルト』
皆川博子
『光源氏殺人事件』★★☆『忠臣蔵殺人事件』★
三好徹
『誰が竜馬を殺したか』★★
森村誠一
『東京国際空港殺人事件』『虚構の空路』
山村美紗
『殺意のまつり』
由良三郎
『偽装自殺の惨劇』★★
麗羅
『桜子は帰ってきたか』★★★★
207名無しのオプ:2006/09/16(土) 10:16:11 ID:KJHv39zc
和久峻三
『多国籍企業殺人事件』★★
アンソロジー
『わたしだけが知っている−第1集』(光文社文庫)★★★☆
雑誌
「別冊宝石124号」(1963年12月)
・笹沢左保「アリバイ奪取」★★★★(東方社から同題の本が出ているが……?)
・斎藤栄「三つの悪い芽」★★★☆(『赤富士殺人事件』(双葉文庫)収録)
・蒼社廉三「スターリン・グラード」★★★
・千葉淳平「13/18・8」★★☆
・日影丈吉「消えた家」★★☆(『日影丈吉選集 猫の泉』(河出書房新社)収録)

4連投スマソ
208名無しのオプ:2006/09/16(土) 13:08:43 ID:Mwxq/4oB
小峰元の「ピタゴラス」復刊されたね
209名無しのオプ:2006/09/16(土) 23:18:07 ID:+e4UbWqR
このスレの対象1957年から87年といえば、佐野洋でしょう。
ほぼ全期間で作品を発表していますから。
作品的に軽めでド本格とはいえませんが、初期作は秀作がそろって
います。
長編では、
「一本の鉛」(角川文庫 1958年)★★★☆ 処女作。殺人の動機隠しと皮肉なオチ
「透明受胎」(角川文庫 1974年)★★★ 当時としてな斬新なSFミステリ
「狂った信号」(講談社文庫 1976年)★★★「黒衣の花嫁」を髣髴させるミッシング
                     リンクもの。
短編集では、
『銅婚式』(春陽文庫 1958年)★★★★ 最初期の短編集、表題作と「不運な
                    旅館」がトリッキィな傑作
『折鶴の殺意』(文春文庫 1977年)★★★☆ 佐野版「退職刑事」連作短編集。
『完全犯罪研究』(講談社文庫 1983年)★★★☆本格度が高い短編集。講談社
                     文庫の80年代前半の短編集はどれも
                     秀作ぞろいです。
210名無しのオプ:2006/09/19(火) 03:42:25 ID:f2ZoHQuP
どうしてピタゴラスまた今更出たんだろう?
理由ご存知の方教えてください。
211名無しのオプ:2006/09/19(火) 11:44:27 ID:gVYoxFp9
>>210
超売れっ子になった東野圭吾が「はじめて読んだミステリー」が
小峰の「アルキメデス」(これは合本で入手可能)。

「東野圭吾をミステリーに開眼させた小峰元!」とか
大々的に売り出したいのでは。
212名無しのオプ:2006/09/19(火) 14:02:51 ID:VmKCXP0k
帯は「東野圭吾」の文字が大きかったな。
213名無しのオプ:2006/09/19(火) 15:26:49 ID:4c6AJ/re
>>211
小峰元を売りたいというよりも、これをきっかけに新規読者に
乱歩賞を売りたいのでは。
あの二作品合本した全集、乱歩賞の知名度のわりにぜんぜん売れてないみたいだし。
214名無しのオプ:2006/09/19(火) 16:18:56 ID:tPIu5/Bn
>>213
江戸川乱歩の名前を冠した賞だから鉄板だろう、って乱歩賞ばっかり読み続けてる、
みたいな笑い話もあるくらいだからなあ。
売ることに関してはあまり当てにならないんじゃない乱歩賞は。
2153:2006/09/19(火) 17:37:29 ID:zHG5C/MF
色々ご意見もあったようですが、傑作・駄作いずれにも偏らず紹介してゆきたいと思います。

山村美紗「燃えた花嫁」(光文社文庫)★★★☆
「花の棺」「百人一首殺人事件」に続く、キャサリンを探偵役とする1982年の長編第3作。
南禅寺のモデル殺し、ホテルのファッション・ショーでの毒殺に続き、総理大臣の娘が結婚式の
最中に密室状態の控え室で謎の焼死を遂げ、更には女優も撮影所の楽屋で焼死するなど、とにか
く派手な展開で、出だしからグイグイと読者を引き込む手腕は流石。
密室の焼死トリックは、いささか理化学的な現象に頼り過ぎだと思いますが、「現場に残されて
いた百円ライターと灰皿」という小道具のヒネッた扱いが実に上手い。終盤に出てくる或る毒殺
トリックも、小技ながら渋くまとまっています。
しかし真相の一部は、かなりアンフェアなのでは?「そんなの聞いてなかったよ」と言いたい
です。ついでに、ファッション・ショーでの毒殺も納得できず。この方法では被害者は死なない
のでは?(当時、誰か作家か評論家が指摘した有名な話かも)
良くも悪くも山村美紗らしい、豪華絢爛で力業でねじ伏せたような作品。でも、フェア云々と
一部のトリックの現実性を一切無視して評価すれば、こんなに楽しく読めた作品は久々。
「誰でも分かる、面白くて読み易い話」という、ベストセラー作家の持つ良い一面に溢れた佳作
とも言えそうな・・・。
なお光文社文庫版の解説は鮎川哲也。当時、山村を評した「日本のクリスティ」「日本のチェス
タートン」に対して異議を唱え、「日本の×××」と、考えもつかない海外作家を引き合いに
出しています。理由は説明されていますが、これは一寸・・・。詳しくは同文庫で。
2163:2006/09/19(火) 17:40:45 ID:zHG5C/MF
連投スマソ

由良三郎「裏切りの第二楽章」(文春文庫)★★★☆
1987年の長編。
弦楽四重奏のコンサートの最中に発生した毒殺事件。毒薬は楽屋で発見されるが、そこは被害者が
中に入ることはもとより、犯人が毒薬を取りに行くことも、また戻すことも出来ない完全な密室
だった・・・。
独創的な毒殺トリック、密室、細かい伏線、最後まで二転三転する真犯人などなど、「本格ミステリ」
の王道を行く内容でありながら、何故かスッキリしない印象が残ります。それは謎の解明に係る
展開がバカ正直すぎるというか、もっとハッタリを効かせて終盤で一気に解決すれば良いのに、最後
まで伏せるべきトリックを早めに解明してしまったり、些細な伏線を後々まで引っ張ったりと、真相
究明に手際の悪さがあるように思えるからでしょうか。実に惜しいけど、その点を除けば佳作。

高橋泰邦「黒潮の偽証」(光文社文庫)★★☆
作者の得意な海洋物ミステリに「本格」風味を盛った長編。1963年、かの東都ミステリーの1冊として
発表。
フィリピンから日本に向かう貨物船が小笠原沖で遭難。実は船長と一等航海士の不正による積荷の積載
オーバーの疑惑が。その一等航海士は密室状態の船室から失踪、飛び込み自殺を遂げたかと見られた。
船長は他の乗員を全て救命艇で下船させ、一人、漂流を続ける船に残る。だが船内には謎の密航者が。
更に、行方不明の一等航海士の遺体が発見されるが、傷跡から他殺と断定される。遭難時に一体、何が
起きたのか・・・。
船内での密室トリックは、取り立てて言うほどの出来ではなく、前半の「海洋漂流冒険」物が、後半、
探偵役の海事補佐人・大滝の取って付けたような登場で分断され、その推理にもまた不満が残ったの
ですが、海洋小説に「本格ミステリ」を取り込もうとした努力を買うべきでしょうかね(確か初出の
東都ミステリー版では、犯人の名は伏せられており、読者はハガキで回答する形式になっていたとか?)。
217名無しのオプ:2006/09/23(土) 18:14:01 ID:cNDQv35n
「読みました」報告・国内編2
梶 龍雄「葉山宝石館の惨劇」(1989年 大陸書房)★★★★
専用スレッドで評価が高いので読んでみました。マイナーな出版社とセンスのない
タイトルでほとんど評判にならず、新本格の第三の波に飲み込まれた最後期の本格
ミステリ。
葉山マリーナを臨む洋館で繰り広げられる惨劇、殺された私立探偵が持っていた
藁の十字架は何を意味するのか。
本格に対するこだわりと常に「何か新しい試み」をみせてくれる作者、なるほどこ
れは、まさにそのような作品です。
ほとんどの本格作家が後期の作品になるほどシリーズキャラクターに頼った通俗
ミステリに走るか時代小説など他のジャンルに軸足を移すなか、梶は逆に後期の
作品ほど本格度が高くなっていることは驚きです。

梶龍雄の作品はだいたい次のように分類できると思います。
 @太平洋戦争前後を時代背景とした青春ミステリ(1970年代後半)
   文学性は高いがミステリのトリックに重点が置かれていない作品
   講談社のハードカバーで出版
 A戦前の旧制高校生を主人公とした青春ミステリ(1980年代前半)
   小峰元の影響を受けたと思われる軽めの本格ミステリ作品
   講談社ノベルスで出版
 B現代が舞台のタイトルに「惨劇」「殺人」がつく本格(1980年代後半)
   本格マニア以外の読者を拒絶するようなタイトルの作品群
   講談社ノベルズ以外にマイナーな出版社のノベルス版中心
   Bのなかに「あまり知られていないが意外と秀作」な作品がありそうです。







218名無しのオプ:2006/09/23(土) 20:04:23 ID:wtKcStO/
梶龍のマイナーな出版社のノベルス持ってるけど
(このスレや梶スレで未紹介タイトル)、二時間ドラマぽいんだよな
219名無しのオプ:2006/09/23(土) 21:31:05 ID:y0uYGbwz
講談社ノベルスは後発だから最初からけっこうなんでもありだったけど、
やはり河童とか他のノベルスは基本的に中年男性向きで制約もあったんだろうね。
220名無しのオプ:2006/09/24(日) 02:25:58 ID:sD4JoNtD
>>219
小松左京の『日本沈没』とかも出してたけどね。>カッパ

ところで、個人的に最近、佐賀潜が気になるんだが、わりと早く亡くなっちゃったからな……
221名無しのオプ:2006/09/25(月) 01:04:51 ID:wAnMFFes
この時代の海外本格の代表作家はディヴァインでよろしいでしょうか
2223:2006/09/25(月) 11:26:20 ID:WWmbixDt
赤川次郎「幽霊候補生」(文春文庫)★★★★☆
「幽霊列車」に続く1979年のシリーズ第2弾。
第1話の表題作が大した出来でないのでガッカリしていたら、以降は傑作揃いでビックリ。
第2話「双子の家」は、双生児の実業家と弟が、それぞれ相手に命を狙われていると夕子と
警部のコンビに訴えるが・・・という話。何となく予想は付いたのですが、大掛かりなトリック
と「割れたガラス窓」の伏線の上手さに感心しました。
夕子・警部コンビが豪邸の留守番を頼まれるが、庭には放し飼いのライオンがいて、という
展開で始まるのが第3話「ライオンは寝ている」。別荘に行ったはずの豪邸の主人が何故か
戻ってきて、庭でライオンに噛み殺されたらしいのだが、夕子の慧眼が、ちょっとした手掛か
りからライオンの冤罪と、余りにも大掛かりなトリックと真相を指摘するのが圧巻。間然と
するところのない傑作。
第4話「巷に雨の降るごとく」は、大学生サークルのキャンプ中に起こった謎の首吊り自殺の
謎に迫る話。偽装工作がかなり意表を突いており、バカミスに近いけど楽しめます。トリック
は全く違うけど、何となく有栖川有栖の某作品を思い出しました。
第5話「眠れる棺の美女」も佳作。金持ちの老人が死んだふりをして、遺産を狙う家族の反応
を見ようと酔狂にも自分の葬式を出すが、棺の中で本当に刺殺されてしまう・・・。これも単純な
事実から真犯人を指摘する手際が実に鮮やか。
以上、シリーズ第1作「幽霊列車」以上の傑作揃い。同時期の泡坂「亜愛一郎」シリーズに
決して劣っていません。ストーリーの雰囲気も、この時期にして1970年代の同僚作家よりも、
後の新本格の短編集に近い感覚なのが凄い。赤川次郎、恐るべし。
ショボい表題作は、イントロダクションだったのだろう、ということで不問に付します(笑)。
2233:2006/09/25(月) 11:33:58 ID:WWmbixDt
連投スマソ

山村美紗「京都殺人地図」(徳間文庫)★★★
京都府警の江夏検視官を主人公とする1980年の連作集。
全8話ともトリッキーな仕掛けに満ちており楽しめますが、重要な伏線を後出しにしている
場合が多く、本格ミステリとしては不完全燃焼。
その中で瑕疵の少ない佳作を選べば、密室トリックに挑んだ「少女は密室で死んだ」、生け花
のちょっとした知識で犯人を特定する「水仙の花言葉は死」、指紋で被害者は特定できるのに、
何故か首が見つからないバラバラ殺人が、最後に凄まじい真相に向かう「首のない死体」、意表
を突いた溺死トリックと、作者の新製品好きwが上手く手を結んだ「溺れた女」の4編。残り
4編は凡作。でも決して駄作とは言えないのは流石。

大谷羊太郎「モーニングショー殺人事件」(サンケイノベルス)★★☆
1972年の長編。長らく探しており、ようやく最近入手しましたが・・・。
ワイドショーなどでお馴染みの、人気歌手と昔の知り合いの「ご対面」企画。しかし生放送の
最中に「ご対面」の相手が毒殺される。過去を知られたくない歌手の仕業なのか?だが彼女には
絶対に犯行は不可能だった。更に、秘密を知ったマネージャーもまた密室で殺される・・・。
第一の殺人の毒殺トリックは、単純ながらも常識の裏を突いた、なかなかの出来。でも第二の
殺人の密室トリックは、良くあるパターンで面白味なし。真犯人の設定も伏線不足で満足できず。
最初の毒殺トリックが面白いだけの話。
224名無しのオプ:2006/09/25(月) 13:52:06 ID:X1PTecAr
3氏、いつも乙です。
赤川の幽霊シリーズは「候補生」までは面白いとよく聞きますが、
第3集以降はどうなんでしょうか?
2253:2006/09/25(月) 18:06:55 ID:WWmbixDt
>>224
はい、俺の赤川次郎のストックもこれで終了ですので、第3集含め、他の赤川次郎作品は今後の課題です。
「幽霊候補生」が素晴らしかったので期待してますが、果たして・・・。

オマケ。
深谷忠記「倉敷・博多殺人ライン」(光文社文庫)★★★☆
1992年の壮・美緒ものの長編。
本作は珍しく、派手なトリックを一切使わず、「三重に封印された封筒」の謎だけを手掛かりに、細かい
矛盾や錯綜する人間関係をほぐしてゆくことで解決に導くパターン。それと巧妙なミスリーディングに
よる真犯人の設定がミソ。それに騙されれば読者の負け、見破れば作者の負けでしょう。地味だけど、
隅々まで考え抜かれた佳作。
しかし、ストーリー展開と探偵役その他の人物設定等は、もうマンネリの域を遥かに超えてますね。
俺は飽きが来てないですが、合わない人には、このシリーズを読み続けるのは、かなりの苦痛かも。

辻真先「東海道36殺人事件」(光文社カッパノベルス)★★★
1989年のスーパー・ポテト物の長編。
「アカ・サカ・ノ」というダイイング・メッセージの真相はまあまあ。その他のトリックもストーリー
展開も今ひとつですが、意外と細かい伏線を張ってあるので、その点は楽しめました。或る人物のさり気
ない描き方など上手いもの。
226名無しのオプ:2006/09/30(土) 20:08:38 ID:i4vREc3X
「読みました」報告・国内編3

梶龍雄「蝶々死体にとまれ」(1984年 中央公論社)★★★☆
後に「幻の蝶殺人事件」と改題され廣済堂文庫より出版。

学園祭中の昆虫同好会部室で女子学生が変死し展示されていた幻のアゲハ蝶が
消えた。この蝶にまつわる関係者が連続して密室で襲撃され探偵に乗り出した
シラケ女子大生たちは、ある罠を部室に仕掛け犯人をおびき出そうとするが・・
連続した三つの密室トリックもさることながら、この作品は動機の隠蔽が一番の
読ませどころです。いつもながら伏線の張り方が巧でミスリードも効いています。
一種のミッシングリンクものともいえるでしょう。じっくり読むことをお勧めし
ます。
2273:2006/10/02(月) 13:57:51 ID:ShzWie3D
今回は怪作、駄作を紹介します。

島田一男「黒い事件簿」(春陽文庫)(採点不能)
これは1960年代の南郷弁護士物の短編集。流石に、こちらも最初から本格ミステリなど期待して
いませんでしたが、アクションとテンポだけかと思いきや、どの作品にも、意外と伏線が張られて
おり、一応、フーダニット物として、それなりに読めるのには驚きました。
ショボい、使い古しのトリックながらも、アリバイ工作やら密室トリックまで飛び出して、凄いの
か、メチャクチャなのか良く分かりませんw

大谷羊太郎「青春の仮免許」(祥伝社ノンノベルス)★
1979年の長編。
強盗事件が発生。一味に縛り上げられた被害者はカーテンの隙間から逃げてゆく犯人一味を見届け
ようとするが、次の瞬間、彼らは不可解な消失を遂げてしまった・・・。
それから20年後。東大を目指して受験勉強中の浪人生の主人公は、謎の失踪を遂げた父親を探す
うち、姉の自殺の謎を追う女子高生と知り合いになり、父親の愛用したバイクで事件を追うが、
20年前の強盗事件が深く関わっているのを知る・・・。
これはバイクに託して主人公の成長を描いたビルドゥングス・ロマンですね。しかし、本格ミステリ
として見るべきところは殆どなし。ただ、何が凄いと言って、最初の強盗事件のプロローグの末尾に
「読者への挑戦」が入っているところでしょうか。人間消失の謎は最後にエピローグで解かれるのです
が、余りに古典的なトリックでガッカリ。ともかく、最初の20ページ足らずで「読者への挑戦」が出て
くるミステリは初めて。しかも主な伏線や手掛かりはそれ以降に示されているので、まるで意味なし。
大谷羊太郎、衰えたり。読むなら、これ以前の1970年代前半の作品群でしょうね。
228名無しのオプ:2006/10/02(月) 19:09:17 ID:/3u3jz5h
「大谷羊太郎、衰えたり」に異論。
初期作を2冊読んだが文章トリックともヒドイ出来でした。
3氏の評価に疑問符ですね。ちなみに読んだのは「殺意の演奏」(1975年)
「深夜の訪問者」(1977年)です。
229名無しのオプ:2006/10/02(月) 20:35:31 ID:ruCwPmQ1
大谷羊太郎は短編が案外良い
230名無しのオプ:2006/10/02(月) 21:30:06 ID:YOkKpwcC
「殺意の演奏」は名作でしょう。
231名無しのオプ:2006/10/02(月) 21:47:53 ID:KVSdJ76+
『殺意の演奏』は乱歩賞の中でも面白かったです。
ただ、大谷なら1980年代の作品も面白いですよ。
『大密室殺人事件』などですね。
もうちょっと後で書かれていたら、トリッキーな作者ということで
それなりに受けたかと思われます。
232名無しのオプ:2006/10/02(月) 22:05:15 ID:RG3uaDZk
1980年代前半の大谷作品は駄作が多い
80年代末からの光文社文庫書き下ろしから、また面白くなってきますよ
『大密室殺人事件』はこの時期の大谷作品の代表作の一つですね
233名無しのオプ:2006/10/03(火) 08:12:31 ID:Y4X4Nz8z
大谷の作風の変化は
ttp://www.asahi-net.or.jp/~JB7Y-MRST/YUT/SP/Ootani.html
のインタビューを読めば判る。
出版社の事情のせいで書きたくても書けない作家が結構いるのかもしれない。

俺は大谷はダメです。
先ず『小説』としてぜ〜んぜんおもしろくないもん。
2343:2006/10/03(火) 10:49:23 ID:DXW+G5kB
あっ、珍しく反響が。
「衰えたり」と書いたのは、これ以降の「濡れ衣を着る男」他の「〜の男」シリーズがダメダメで、
更に、力作と聞いた「悪人は三度死ぬ」も、ただ色々なトリックのアイディアを無雑作に投げ出した
だけでストーリーと上手く絡み合っておらず、謎が投げやりに解決されてゆくだけに思え、こりゃ
もうダメだな、と思ったからです。
でも実は、お勧めの「大密室殺人事件」や「複合誘拐」を未読なので、俺の早トチリの失言だった
かも。スミマセン。

あと、「殺意の演奏」も「深夜の訪問者」もダメ、と仰る方は・・・。うーん、目先を変えて、
「殺人航路」は如何?「殺意の演奏」の文章の生硬さもなく、芸能界ネタからも離れているので。

オマケ。

梶龍雄「天才は善人を殺す」(徳間文庫)★★☆
1978年の初期長編。
梶龍雄は別に専用スレがあるけど、そちらにも、またここでも挙がっていない作品ということで
本作を紹介。
この作者の現代物ミステリといえば、例のスゴい言語感覚によるヘンな若者言葉が炸裂するのでは、
と危惧しましたが、心配したほどのことはないようで。但し「シラけ」「セマる」の変な誤用には
辟易しましたが。
密室トリックや、キャッシュ・ディスペンサー犯罪の手口など面白くもあるのですが、やはり当時の
ハイテクに絡めた仕掛けは、三十年近くも経ってみれば、どうしようもなく古びてしまうもので、
今やこの手口は通用せず、梶龍雄風に言えば、「白け(ルビはホワイトキック)で処置なし(ルビは
ショチレス)なのダ」。
ただ、それ以外にも意外な真相が用意されていたりして、色々工夫の跡が見られますけどね。
235名無しのオプ:2006/10/03(火) 19:04:20 ID:w4dGBN/Y
「大谷羊太郎、衰えたり」に異論の人の言いたかったのは、衰えるもなにも最初から
たいした作品を書いてないじゃないか、という意味ですね。

「読みました」報告・国内編4

梶龍雄「真夏の夜の黄金殺人」(1988年 トクマノベルス)★★★☆
千葉県外房海岸にひょんなことから集まった早稲田と慶応の学生各4人組が
黄金で彩られた邸宅の強盗殺人に引き込まれ・・・推理早慶戦の副題あり。
前半は舞台が夏の海岸ということもあり、名作「海を見ないで陸を見よう」を
思わせる郷愁にみちた恋愛ミステリ風、事件発生後は旧制高校シリーズ風と
なかなか凝った構成ですが、トリックが梶にしては平凡。まあ標準作です。

236名無しのオプ:2006/10/03(火) 20:21:03 ID:sZo149rN
各作家のナンバー1を決めよう!スレにて、「宮原龍雄」作品投票中。

締切りは、平成18年10月6日(金)、〜12:00まで。1人1票でよろしくご参加を。

http://book3.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1154275629/l50

投票したい作品を<<作品名>>のように<< >>括って投票するのがローカル・ルールになってます。
2373:2006/10/06(金) 12:20:46 ID:AGgizvsF
>>235
そういう意味だったのですか。・・・決してそんなことは無いと思いますけどね。

井沢元彦「謀略の首」(講談社文庫)★★★★
1992年発表、織田信長シリーズ第3弾の長編。
石山本願寺を制圧しようとする織田信長は、鉄造船を造って、大阪湾を制圧する毛利方の
村上水軍を蹴散らし本願寺を包囲しようと図る。一方、本願寺を助けて織田を牽制しよう
とする毛利方は、あの手この手の謀略を仕掛けてくる。鉄造船の建設現場にも何者かの邪魔
が入り、更には織田信長の身辺にも危機が及んでくる。敵のスパイは一体誰なのか・・・。
このシリーズはどれも秀作揃いですね。グイグイと引っ張り込まれるパワーとスピード感
を持っています。
スパイの正体や暗号解読などは在り来たりですが、謀略を一つ一つ論理的に解明する織田信長
の推理は見事なもの。裏の裏の、そのまた裏をかいた結末も決まっています。

山村美紗「京友禅の秘密」(講談社文庫)★★★
1983年のキャサリン物の中・短編集。
表題作、和服に友禅染めで残されたダイイング・メッセージ、というのは一寸やり過ぎでは、
と思いますが、日本間の密室トリックは、長編「花の棺」同様、襖と障子に関する日本人の
常識の裏を衝く、なかなかの出来栄え。
「哲学の小径の少女」は足跡トリックですがトリック自体は平凡な出来。ただ、悲惨な話で
後味も良くないのに、何故か心に残る佳作ではないかと。
「謎の新聞広告」とは実もフタもないタイトルですが、誘拐物を一捻りした一発アイディア
もの。
「エアロビクスは死の匂い」は電話に関するアリバイ物ですが、この類のトリックはもう飽き
飽きしました。
巻末の「十条家の惨劇」は中編。トリックに見るべきものはないですが、最後に明らかになる
真相に、ちょっと意外性あり。
238名無しのオプ:2006/10/08(日) 18:39:00 ID:zeeUQWkE
「読みました」報告・国内編5

斎藤栄「紅の幻影」(1980年 講談社文庫)★★★☆
犯人が仕掛けるトリックではなく、作者が作品全体に仕掛ける趣向を、斎藤はストリック
(ストーリー+トリック)と称していたが、この作品はその実践第1作。
今でいう叙述トリックとは若干意味合いが異なるが、まあその類の本格ミステリ。
初期の中町や折原を読んだ今の読者には、ものたりない感があるかも。
なお、この作品は春陽文庫では「勝海舟の殺人」として出ていました。
239名無しのオプ:2006/10/09(月) 18:04:20 ID:RKgnqHGg
小峰先生からミステリーにハマッた者ですが、
すごい良スレですねえ。稀有ですよ、こんなスレ。
みなさんのミステリーと
時代と文化に対する愛を感じます。これから勉強させて
いただきます。
2403:2006/10/10(火) 11:54:42 ID:mGaWaH5z
赤川次郎「ミステリ博物館」(角川文庫)★★★★
1982年の、ミステリのトリックや趣向、小道具などの名称でタイトルを統一した短編集。
「密室」は、泊まると謎の死を遂げるという伝説の残る離れの四阿で起こった殺人事件。だが四阿は
密室どころか、屋根も壁も残っておらず、室内が丸見えになっていた・・・。屋根と壁が消えてしま
った真相が見事。タイトルの意味が笑えた。
「人間消失」はホテルで俳優が評論家に殴られ、友人が入ってみると、評論家は消えていた、しかも
クローゼットから女優の他殺体が発見されて、という話。事件の組み合わせ方が上手い。
「脱出」は縄抜けを得意とする奇術師がパーティの余興で、縛られた上に鍵の掛かった室内から脱出
しようとするが失敗、密室内で殺されていたという話。J・D・カーやE・D・ホックを強く意識した
佳作。
「怪談」は新任の幼稚園教師が一年前に死んだはずの園児の幽霊に出会うが、実は・・・。これは
北村薫ふうの佳品ですね。幽霊出現の動機が上手い。
「殺人予告」は一年前に強盗事件で死んだ男の妻のもとに、何故か一年前の事件の予告状が届くが、
という話。ちょっとアッサリし過ぎか。
「幽霊屋敷」はパーティの余興で本当に幽霊が現れて、という話だが、手が込んでいるけど、ちょっと
ゴタゴタしており、スッキリしません。
「汚れなき罪」は、死刑執行の後、真犯人が刑事の前に現れ、人の良い刑事は冤罪の死刑囚の娘に
詫びに行くが、という話。まあまあの出来。
少なくとも前半の4作は傑作。初期の赤川次郎は、やはり凄いです。
2413:2006/10/10(火) 11:57:16 ID:mGaWaH5z
連投スマソ

斉藤栄「方丈記殺人事件」(光文社文庫)★★★★
1979年の長編。
「方丈記」を研究する大学助教授の宇賀神は、研究成果を巡る大学の勢力争いから、命を狙われて
いると友人に告げて消息を絶つ。一方、大阪では寺の三重塔内でサラ金の女社長の他殺体が。なお
三重塔は密室状態にあった。一見無関係にみえた二つの事件の接点は・・・。
権田萬治の解説に「ドンデン返しが見事」とあったけど、まあ大したものでないだろうと思って、
素直に読み続け、「もうページも少ないのに、二つの事件が一向に結びつかないけど、一体どう
なるの?」と思っていたら、まんまと術中にハマってしまいました。お見事。
但し、微妙な伏線や、表現ぶりの周到な部分もあるとは言え、これは現代の基準から言ったら、
ちょっとアンフェアかも。とにかく余り考えずに淡々と読めば、結末の驚きは大きいはず。
なお三重塔の密室トリックはバカバカしい、というか、バカですw

津村秀介「虚空の時差」(祥伝社ノンポシェット)★★★★
1983年の初期長編。
新幹線の車内で勃発した毒殺事件。警察の捜査の結果、容疑者が二人に絞られるが、事件が起きた
とき、一人は大阪から博多に向かう新幹線の中に、もう一人は、羽田から九州に向かう航空機の
機内にいたという鉄壁のアリバイが・・・。
初期の「黒い流域」「時間の風蝕」に比べて、破綻せずに手堅くプロットを練っており、破れそう
でなかなか破れないアリバイへの興味で結末まで読ませます。トリックそのものも、一箇所だけ
危ない部分もあるものの上手く纏めてます。佳作といって良いでしょう。
242名無しのオプ:2006/10/10(火) 20:20:06 ID:1RANRwb5
各作家のナンバー1を決めよう!スレにて、「海渡英祐」作品投票中。

締切りは、平成18年10月13日(金)、〜12:00まで。1人1票でよろしくご参加を。

http://book3.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1154275629/l50

投票したい作品を<<作品名>>のように<< >>括って投票するのがローカル・ルールになってます。
243名無しのオプ:2006/10/11(水) 01:00:21 ID:NHFaaDEk
>>241
方丈記殺人事件は昔手に取ったこと合ったけど、冒頭で方丈記の原本を指して
こんな走り書きなら方丈記そのものは半日から一日で書けるだろうという箇所を読んで
アホかと思い放り投げたことがあったけど、
今から考えたらもったいないことしたのかな?
244名無しのオプ:2006/10/11(水) 01:06:56 ID:cIxOBdY8
ミステリと関係ないじゃんそんなの
2453:2006/10/11(水) 13:13:18 ID:XLAbhATW
>>243
「方丈記」に関する作者の薀蓄やら隠された暗号の件などは、確かにバカバカしいですね。
しかし、それは無視しても、結末は十分に楽しめるので、ぜひ再読を。

草川隆「寝台特急出雲・殺意の山陰路」(青樹社文庫)★★☆
1987年の長編。
歌手のキャンペーンで松江に行った歌手、作曲家、芸能誌記者らの一行。だが帰りの寝台特急の
個室内で作曲家の秘書が刺殺された。第一発見者の芸能誌記者は、死体発見の瞬間、何者かに
殴打されて気を失ってしまう。彼が犯人でないとすると、関係者全員にアリバイが。そして東京に
帰った関係者を巡って第二の殺人が。だが、この時も関係者にはアリバイがあった・・・。
この作者の作品を初めて読みましたが、本作は不発でしたね。車内のアリバイ工作も、第二の殺人
のアリバイも、単純で、しかも独創性が殆どなし。ただ、第一の殺人のアリバイ工作に関して、
実に大胆な手掛かりが、序盤から何度も明記されていたことにだけ感心しました。それだけ。

赤川次郎「幽霊愛好会」(文春文庫)★★☆
1983年の「幽霊」シリーズ第3弾。
起承転結の上手さ、特に意表を突いた真相は相変わらず冴えていますが、残念ながら、そこに
至るまでの伏線不足が目立つし、トリッキーな趣向も衰えてきて、前2作に比べて格段に落ちる
としか判断できません。噂どおり、「幽霊」シリーズは第二作まで、ということでしょうか。
246名無しのオプ:2006/10/13(金) 21:23:04 ID:6GdgBwu7
仁木悦子のノンシリーズ長編を何冊か古本屋で入手しました。
いままで仁木兄妹シリーズの長編や短編集しか読んでませんでしたが、
本格ミステリの秀作ぞろいで驚きました。独特のほのぼの感と哀愁にあふれ
「昭和」の時代を感じさせてくれます。
お奨めはこの3作品。いずれも★★★☆です。
「二つの陰画」(1981年 講談社文庫)
「枯葉色の街で」(1982年 角川文庫)
「陽の翳る街」(1984年 講談社文庫)
247名無しのオプ:2006/10/13(金) 22:12:52 ID:VixOzRn/
>>246
本格かどうかは微妙だが、三影潤シリーズも忘れないであげてね…
むしろミステリ度と物語性のバランスは仁木兄妹シリーズより良いんじゃないか
と個人的には思う。
248名無しのオプ:2006/10/13(金) 23:54:57 ID:6GdgBwu7
三影潤シリーズ?
「冷えきった街」(1980年 講談社文庫・長編)
『緋の記憶』(1983年 講談社文庫・連作短編集)
内容忘れたけどハードボイルド系でしたか?
しかし題名に「街」が多いね。

249名無しのオプ:2006/10/14(土) 00:00:57 ID:a5x04C3u
>>248

三影潤シリーズは出版芸術社から『探偵三影潤全集』として
全3巻に纏められましたね。
長編は『冷えきった街』のみで、あと既存の短篇集に散らばっていた作品を
色のイメージで分けて収録してあります。
250名無しのオプ:2006/10/14(土) 21:40:22 ID:gW/LQxQh
「読みました」報告・国内編6

梶龍雄「青春迷路殺人事件」(1985年 講談社ノベルス)★★★
のちに「我が青春に殺意あり」と改題され徳間文庫より出版
旧制高校シリーズ第4作。旧制一高野球部のエース投手の兄が殺された事件を
なぜか旧制三高生が上京し一高生と共に探偵に乗り出すという話。
アリバイトリックは平凡ですしミステリとしてはあまり評価できません。
銀座のカフェ女給と学生との交情など他の部分で読ませはしますが。

2513:2006/10/16(月) 12:21:44 ID:kuPjYFu0
専用スレもあるし、何を今更という感じですが、一応、この作家の作品にも触れておきます。

内田康夫「後鳥羽伝説殺人事件」(角川文庫)★★★
1982年の、あの浅見光彦のデビュー作。
後鳥羽法皇の隠岐島への流罪を巡る伝説を調べて旅行していた女性が、広島のローカル線の駅で
殺される。地元署の刑事は県警本部から派遣された若手エリート警部と対立しながらも事件を追う
が、迷宮入りの様相を呈してきた。その時、事件の関係者の家族として登場するのが、あの・・・。
ローカル線の事情を利用した巧妙な犯行、浅見の、細かい事実や矛盾点を突く推理、そして意外な
真犯人など、「本格」として佳作になり得るのに、ストーリーの流れというか、文章の些細な表現
などから、「意外な犯人」を容易に予測させてしまっているのが残念。表現に配慮しつつ、もう一寸
伏線とレッドヘリングを増やすなりすれば、フーダニット物の傑作になっただろうに。
ただ2時間ドラマのイメ−ジとは全く違うので、読んでみる価値はあり。

内田康夫「平家伝説殺人事件」(角川文庫)★☆
1982年、浅見光彦物の第2作。
詐欺らしき犯罪計画を画策する三人の男女。やがて起こる客船からの行方不明事件。事故を装った
保険金詐欺なのか?しかし、関係者が密室のマンションから謎の転落死を遂げる。三人の男女に何が
起こったのか?
文庫版あらすじの「密室トリックと想像を絶するドンデン返し」に惹かれて読んでみましたが、この
文章こそ詐欺だよw
マンションの密室トリックは、古典的な手口で萎えるし、「ドンデン返し」に至っては、あの真相
レベルでは噴飯もの。容易に予測できる範囲。
それより気になるのは、第一作では抑えられていたメロドラマ的な要素に、比重が傾きつつあること。
「本格」の皮を被っただけのメロドラマを、「新感覚の本格派」と褒めた、解説の権田萬治を恨み
ますw
2523:2006/10/16(月) 12:23:19 ID:kuPjYFu0
連津スマソ

山村美紗「ヘア・デザイナー殺人事件」(光文社文庫)★★
1985年のキャサリン物の長編。
ニューヨークで活躍した美容師を巡って起こる連続殺人。美容院のガラス張りの個室の密室殺人、
衆人環視のマンションから消えた凶器、日本旅館の密室殺人・・・。
二つの密室トリックは、一つは手品の基本的なトリックでしかないし、もう一つは、はっきり
言ってアンフェア。しかも余りにも有名な古典の海外作品と同趣向とは・・・。
この作品で唯一出来が良い点は、第二(第三かな?忘れた)の殺人の凶器の意外性。まさかアレが
鈍器として使えるとは思いもよりませんでした。どこの家にもある物で、俺もソレを試してみま
した。致命傷を与えられるかは分かりませんが、これは相当なもの。
この作者も、この辺りから、そろそろ衰えが見えてきた感じ。
253名無しのオプ:2006/10/16(月) 14:08:21 ID:zw3s7Fo6
初期の内田康夫は本格ミステリ寄りの作品を書いてますね。
(死者の木霊、後鳥羽伝説殺人事件、パソコン探偵の名推理など)
謎解きがメインのミステリは苦手と言っているので、本格寄りの作品は書かれなくなった
のは仕方ないのでしょうが。
2543:2006/10/17(火) 17:47:08 ID:ii3hwp+I
嵯峨島昭「踊り子殺人事件」(徳間文庫)★★★
1972年の長編。作者の正体は、芥川賞作家にして特異な文体で名を馳せたポルノ小説作家。
セールスマンの久里村は出張中にレズのショーダンサー二人連れと知り合い、意気投合して
京都まで同行するが、ダンサー殺しに巻き込まれる。レズの女性達は或る男から恨まれてい
るらしく、事件現場にもその男の影が・・・。
作者の正体から、猥雑なC調小説かと思ったら(実際、そういうシーンもあるが)、意外に
も淡白な印象で、もの悲しい独特の雰囲気があります。謎の真相には甘い部分もありますが、
実はこの作品の凄いところは、メイントリックが、やや極論ですが、泡坂妻夫の某作品の先駆
であるところ。もちろん、あれほど洗練されてないし、伏線の張り方もヘタだし、「何で気付
かないの?」とも思いますが。プロットも意外なほどしっかりしており、この作家が、これ
ほどのミステリを書けるとは驚きました。

高柳芳夫「摩天楼(ニューヨーク)の弩」(徳間文庫)★★☆
1983年発表の長編。
ニューヨーク郊外にある豪邸で、日本のコンピューターメーカーの現地支社長が、雪の積もる
玄関先で、中世の武器・弩により射殺された。実は彼には産業スパイの容疑がかかっており、
庭で彼を見張っていた会社幹部らの眼前で、姿なき犯人によって殺されるという不可能犯罪
だった。会社の計略でスケープゴートに仕立てられ逮捕された社員の町田は、友人に事件の
調査を依頼、獄中から真犯人を追及してゆく・・・。
産業スパイ合戦のリアルな内幕描写の重厚感で、読み応えのある作品に仕上がったものの、
「雪に覆われた邸宅での弓による不可能犯罪」のトリックが、J・D・カーばりとは言え、彼の
凡作・駄作におけるトリックのパターンに近いのが残念。あと登場人物が少ないのに、二転
三転する謎解きに拘ったことから、結末を待たずに真犯人が一人に絞れてしまうのも欠点。
ニューヨークの街の描写も月並み。他のドイツ物の作品に比べて、やや劣る出来栄え。
2553:2006/10/17(火) 17:49:41 ID:ii3hwp+I
連投スマソ

島田一男「波の墓標」(廣済堂文庫)★☆
1970年の長編。
第二次大戦中に満州で私兵を指揮し、中国軍に処刑された筈の「満州のジャンヌ・ダルク」川浪珊子が
今も生きている!?新聞の論説委員・西島は、来日した中国人・陳青江の依頼を受け、川浪の生死を
調べ始める。どうやら、処刑された川浪は影武者による別の人物で、更に、川浪の秘書だった女性も
整形手術を受け、彼女の影武者になっているらしい。西島は当時の関係者を訪ねて高知へ飛ぶ。だが
先回りする謎の人物により、一人、また一人と、秘密を知る者が殺されてゆく。更に西島は、川浪の
実家がある山形・酒田に赴くが、そこで彼を待ち受けていたものは・・・。
川浪珊子のモデルは、「東洋のマタ・ハリ」「男装の麗人」と呼ばれた川島芳子。高木彬光か松本清張
が扱いそうな雄大なテーマで、タイトルまで松本清張ばり。時刻表のアリバイまで持ち出して、期待大
だったのですが、・・・嗚呼、やっぱり島田一男(笑)
主人公がいつもの通りのキャラクター、威勢の良いチャキチャキの新聞記者では重厚感ゼロ。時刻表
トリックはともかく、第一の殺人で被害者が言い残した言葉の錯誤なども面白く、謎の女性の正体など
も含めて、演出次第で幾らでも「本格」風になる筈なのに残念。しかもラストで突拍子もない人物が
素っ頓狂な行動に出たせいで、余韻もへったくれもあったものではありませんw
256名無しのオプ:2006/10/17(火) 18:43:19 ID:Tidw68sP
嵯峨島昭=捜しましょう、佐賀潜=捜せん!、加田伶太郎=誰だろうか?
宇野鴻一郎でしたか?連作短編集「グルメ殺人事件」(題名うろ覚え)も
面白かった記憶があります。
2573:2006/10/23(月) 12:21:11 ID:CIbFUOp9
池田雄一「出雲3号0713の殺意」(徳間文庫)★★★☆
1987年の長編。
殺人事件の容疑者となった挙句に失踪したカメラマンを追って、その恋人は彼から最後の電話が
あったと思しき出雲地方へ寝台車で向かう。だが車内で女性の絞殺死体が発見される。その前後
には失踪中のカメラマンらしき姿が。更に現地に着いたヒロインを待っていたのは、カメラマン
の妻を名乗る女だった・・・。更に出雲、萩を舞台に連続殺人が・・・。
寝台車内でのキテレツなトリック、或る職業の意外な盲点を利用したアリバイトリック、焼死体
に関するトリックなどなど、大小様々なトリックを盛り込んだ、実に手の込んだ作品であり、なか
なか楽しませていただいたのですが、どうも、正統な「本格」作品とは違うなあ、というのが正直な
感想。女性二人の葛藤が、ベタなドラマに出てくるようなレベルだし、二時間ドラマ丸出しの部分
もあるし、トリックの必然性にも少々難があるし、といったところが居心地の悪さを感じる原因で
しょうか。でもまあ、読んでみる価値はあると思います。

井上ひさし「四捨五入殺人事件」(新潮文庫)★★★
1975年の長編。
田舎町の講演会に招待されたベテランと若手の二人の作家。しかし村の唯一の出入り口に架かる橋が
嵐で流されてしまった。その晩、二人が泊まった旅館の浴室で密室殺人事件が・・・。
これは飽くまで、井上ひさし流の「ミステリのパロディ」なのでしょう。クローズドサークル、密室、
見立て殺人などなど、本格ミステリの色々な趣向が出てきますが、真面目に取り入れているという
より、茶化しているのでしょうね。真相も、まあ現代なら幾らでも実例多数のものですし。
ただ、社会派全盛で、本格ミステリもその影響下にあり、泡坂妻夫なども登場する前のこの時代に、
こうした斜に構えた「本格ミステリのパロディ」を書いたことは尊敬に値しますが。
なお文中に、クリスティ「オリエント急行殺人事件」のネタバレあり注意。
258名無しのオプ:2006/10/23(月) 20:12:06 ID:zIZlYxWR
>>257
池田雄一は「Gメン'75」「女弁護士・高林鮎子」等のメインライター
だったと記憶しています。
Gメンでは鉄道ミステリーを数本書いてたっけ。
(他にも色々なタイプの物を書いてますが)
259名無しのオプ:2006/10/23(月) 22:22:31 ID:IP5R3RHd
>>135
>深谷忠記「『法隆寺の謎』殺人事件」(光文社文庫)★★★

たまたまブッコフで見つけたので購入してみた。
アンフェアだというのは(メール)のことかな?
たしかに真相の通りだといろいろ法医学的に突っ込みドコロがあるような・・・
まあそこは目をつぶるとしても法隆寺の謎がソエモノ程度だったのが残念。

個人的には「なぜあのポイントにトランクを遺棄しなければならなかったのか」
というロジック。シンプルだが盲点をつかれた。

2603:2006/10/24(火) 12:30:15 ID:6AxbxQ4U
>>258
確かに、シナリオライターらしいドラマ向けの小説に仕上がっていますね。「Gメン」のメインライター
とは知りませんでした。

>>259
そう、その点です。アレだけは残念。

アンソロジー「推理教室」(江戸川乱歩・編、河出文庫)★★★
1957年の、犯人&トリックを当てる、推理クイズ形式の短編集。執筆陣は、樹下太郎、鷲尾三郎、多岐川恭、
永瀬三吾、宮原龍雄、楠田匡介、山村正夫、鮎川哲也、仁木悦子、大河内常平、飛鳥高、佐野洋で、一部を
除いて一人当たり2編づつ収録。
1957年の作品で、スレタイの条件にはギリギリ入るし、収録作家の一部に、それ以前に活躍していた作家が
いるので、いつか紹介したいと思ってました。
宮原と楠田には期待したのですが、宮原「湯壷の中の死体」は今イチで、「消えた井原老人」は昭和27年発表
の作者の某短編と同じ設定でトリックも同一とはお粗末。楠田も「影なき射手」で旧作と同一トリックでお茶
を濁していますが、もう一つの「表装」では、同年に亡くなった永井荷風をモデルにした老画家を登場させ、
金の隠し場所のトリックに工夫を凝らしてます。
飛鳥「無口な車掌」は思い切った叙述上のトリックを用いているけど、効果が上がらず。鷲尾「ガラスの眼」は
死体の隠し場所に絡む怪作。鮎川は「不完全犯罪」を収録。
秀作は、意表を突いた毒物投与のトリックを用いた樹下「孤独な朝食」と、乱歩「踊る一寸法師」に似た設定で、
サーカス団で起きた奇想天外な大量首吊り殺人のトリックに唖然とする、大河内「サーカス殺人事件」でしょうか。
特に後者は、伏線も練られており、チェスタートンを思わせるトリックといい、本書のベストだと思います。
261名無しのオプ:2006/10/24(火) 16:14:22 ID:Gu5Uc04m
258です。訂正します。「女弁護士・高林鮎子」のメインライター(初期の作品)は
池田と同じく「Gメン」のメインライターだった高久進でした。

文庫版「推理教室」ってたしか解決編が上下逆になってるんですよね。
鮎川哲也「魚眠荘殺人事件」、樹下太郎「貨車引込線」、佐野洋「土曜日に死んだ女」、
多岐川恭「干潟の小屋」、土屋隆夫「九十九点の犯罪」と「見えない手」が割愛されている
のが残念です。
262名無しのオプ:2006/10/25(水) 00:10:43 ID:bWYu9p7c
>>257
井上ひさし「四捨五入殺人事件」
は20年ほど前にNHKの銀河テレビ小説で映像化されていたっけ。
中村雅俊と大竹まこととか中条静夫が出演していて
原作に忠実だった記憶がある。
263名無しのオプ:2006/10/26(木) 09:50:19 ID:58GnsxI0
>>257
75年は横溝正史復活とかすでに社会派「全盛」ではないのでは?
2643:2006/10/26(木) 12:28:16 ID:5l9GwCE0
>>262
中村雅俊の若手作家の役は原作のイメージぴったりですね。大竹まことは、あの作家とは一寸イメージが
違うなあ・・・

>>263
ゴメン、俺の小学生時代のアヤフヤな記憶で書きました。
1976年に映画「犬神家の一族」封切り→横溝の大ブーム来る→角川文庫版何千万部だか突破→1977年、他の
横溝作品も続々映画化→TBS「横溝正史シリーズ」にハマる→プールでスケキヨ倒立流行る→森村誠一の
「人間の証明」映画化→校舎の窓から帽子投げが流行る
の順で、個人的に記憶していたのでw
「犬神家」映画化前から横溝のブームは来ていたのでしたっけ?その前年や前々年ころは、「砂の器」や
「動脈列島」などの社会派の映画がヒットし、そっちの原作などが広く読まれていたように記憶している
ので・・・。

笹沢左保「夜の目撃者」(光文社文庫)
1971〜72年頃の作品を中心にした短編集。
巻頭の「優雅な告発」は金持ちの御曹司が転落死を遂げ、その未亡人に嫌疑が掛けられ、彼女の義弟も
また謎の死を遂げる・・・。義弟が遺した暗号文に二重の意味を持たせており、日本古典文学の或る
知識が使われている点が面白いところ。「空蝉の身に」も、タイトルから分かる通り「源氏物語」に纏わる
暗号が出てくるが、これも二重の解読による凝った仕掛けが先ず先ずの出来です。
「インコが逝く」は作者には珍しい設定の傑作。インコを飼う大富豪の老人と、屋敷に同居する秘書、看護婦、
ボディガード、情婦ら取り巻きの面々。老人は、取り巻きの一人に裏切り者がいるとして、遺産分配から外す
と宣言した。その直後、インコが何者かに殺され、すっかり衰弱した老人は、裏切り者の名を記した謎の暗号
文を残すが・・・。何通りにも解釈できる暗号と、二転三転する展開が優れており、問題編と解決編に分けた
構成など、珍しく犯人当て物に徹しています。その他全8編。全作が「本格ミステリ」とは言い難いし、駄作も
混じっていますが、読む価値はあると思います。
2653:2006/10/26(木) 12:30:37 ID:5l9GwCE0
スマソ、書き忘れた。
笹沢左保「夜の目撃者」は★★★
です。
266名無しのオプ:2006/10/26(木) 14:02:15 ID:58GnsxI0
>>264
>「犬神家」映画化前から横溝のブームは来ていたのでしたっけ?
すみません。じつは私も生まれる前のことなので詳細にはわからないので
ツッコミを入れる身分ではないかもしれませんが…。

ttp://www.yokomizo.net/guide.html
こちらのページの解説などごらんになってはいかがでしょうか。
>●横溝ブームって、映画の「犬神家の一族」のせいですよね?
>結論から先に言うと、まったく違います。
だそうです。
267名無しのオプ:2006/10/26(木) 18:37:11 ID:tOnSVZie
新谷識って人はどう?
ちょっと気になった
268名無しのオプ:2006/10/26(木) 19:03:28 ID:LOajDpFs
森村誠一「人間の証明」って「砂の器」の換骨奪胎とゆうか、ミステリ的にはどうですか?
この作品以前は本格ミステリとして結構おもしろく読んだが・・・
 ・主人公がまさに栄光をつかもうとする寸前に知られたくない過去を知る人物が現れ
  殺してしまう。(音楽家とデザイナー)
 ・ダイイングメッセージは被害者の出身地に起因するある理由で誤認される。
  (カメダとキスミー)
269名無しのオプ:2006/10/26(木) 21:09:15 ID:THTx+QjT
>>263−264
社会派全盛の定義をどうするかは人によると思いますが、
当時は横溝は別格として、他の純粋な本格の書き手はそれほど多くの読者を獲得できずにいたこと、
「社会派推理小説」というキャッチコピーをつけた作品が多く発行されていたことから、
社会派が主流であったと言っていいと思います。
あくまで印象ですけど、社会問題を入れていれば、出版社は「社会派」と名付けた時代が続いてました)

あと、横溝ブームについてですが、
ミステリ好きの恩師の話では、恩師の高校時代(調べたら1968年のようです)に週刊少年マガジンで
「八つ墓村」の連載が始まり、それが多くの読者の心を掴み、原作を読んでみたいという声が編集部に集中したそうです。
その声を受けてか、1970年には講談社で横溝正史全集(10巻)が発行されています。
横溝ブームの始まりをいつにするかは、諸説分かれると思いますが、
それまで一般には忘れ去られかけていた横溝の名前を認知させたという意味では、
マンガ版「八つ墓村」の連載開始の1968年が一つ重要になるかと思います。
270名無しのオプ:2006/10/26(木) 21:46:19 ID:V0wjzzZX
63年生まれだけど。
漫画版は呼び水にはなったものの、
ブームの中に組み入れられるほどものもでもないと思う。
たしかに、角川文庫版の第一冊目『八つ墓村』の初版の表紙は
有名な杉本一文ではなく、漫画版を担当した影丸譲也のイラストだった。
しかし、これは刊行後すぐ差し替えられ、以降は漫画版とのつながりは切られている。
ブームが拡大した七十二〜三年頃には、漫画版があったことを多くの人が知らなかった。
(自分も含む)
271名無しのオプ:2006/10/26(木) 21:48:15 ID:Mbf09eMO
それ以前は「本陣」とほか1,2作以外は絶版だったんじゃなかったけ。

角川が横溝家を訪問して「百万部売ってみせるから版権ちょーだい」と
いって、先生が「大言壮語を吐く奴だ」と思いつつやらせてみたら、
「ほんとに百万部売りやがった(苦笑)」ってエピソード。
2723:2006/10/27(金) 13:05:59 ID:yrVBZ/nR
横溝ブームの事情、勉強になりました。

石沢英太郎「殺人日記」(集英社文庫)★★★
1963年発表の処女作「つるばあ」を含む短編集。各々の発表年は未詳ですが、文庫版は1979年刊。
表題作は、陳腐なタイトルと思わせて、この作家らしくない(?)大技の仕掛けを施した一編。
「貸借対照表」も、題名通りの仇名を持つ下積みの経理マンに、プロバビリティの犯罪を絡めた
不気味な佳作。
その他、「食い逃げ」や「もとより放蕩無頼の徒」「古九谷乱れ窯」「惜蘭譜」など、作者の造詣が
深い浮世絵、陶芸、植物に関する秀作もあるが、これらは「本格ミステリ」じゃないので省略。
最高傑作は、やはり処女作「つるばあ」。終戦直後の満州・大連を舞台に、ロシア人、中国人、
日本人が一時的に一緒に働いていた電力会社で起きた人間消失事件。消失トリックは割りと単純
ですが、人情に厚いロシア人将校、渋い中国人の守衛など個性豊かな登場人物と、終戦時の満州の
一断面を上手く事件の背景に取り込んでおり、陳舜臣あたりの秀作短編にも匹敵する出来栄え。
本作を読むだけでも買う価値はあると思います。

深谷忠記「房総・武蔵野殺人ライン」(講談社文庫)★★☆
1987年のノンシリーズの長編。
房総半島の海岸でレイプ未遂事件の被害者となった女性が自殺、その娘は犯人グループを執拗に
追及し、ついに居所を掴むが、彼らはガス中毒死していた。だが、その犯人は娘の父親だった。
逮捕され、法廷での審理が続くうち、明らかになった意外な事実とは・・・。
とにかく暗い話。中盤以降に展開する法廷の論戦も、他の法廷物の傑作に比べれば迫力なし。また、
謎の核心は、ただ一点に集約されているので、それに気付いてしまえば全て分かってしまう、それ
だけの話。
273名無しのオプ:2006/11/01(水) 02:20:07 ID:fEbgcc0d
角川が仕掛けた横溝ブーム以前のものはブームとは言わない。
70年代の文庫化に始まる。リアルタイムで体現したが「犬神家ー」の
文庫本カバーが、映画化などでブームが大きくなると、変わったのをおぼえてる、
2743:2006/11/01(水) 17:57:28 ID:+jOovKZp
蒼井雄「灰色の花粉」(『幻影城』1978年新年増刊号)★★
あの「船冨家の惨劇」の作者の遺稿長編。昭和37、38年頃に執筆されたらしきもの。
昭和6年、丹波地方で起きた殺人事件で逮捕された男は、入獄以来、無実を叫び続けていたが、
30年後の昭和37年、出所となった。或る依頼人により、彼の身元を引き受けようとしていた
緒方弁護士だったが、使いの者が行く直前に、その男は何者かに攫われてしまう。その直後、
神戸で起きた殺人事件の現場に、その誘拐された男がいたとの情報が。更にその事件には、
30年前の事件の被害者の長男で、死んだと思われていた男も絡んでいるらしい。更に、弁護士
一派とは別に、出所した男を追う若手推理作家も謎を追い始めるのだが・・・。
硬質な文体は「船冨家」を彷彿とさせ、淋しい丹後地方の海岸風景の描写など、蒼井雄の世界
が満喫でき、その点では満足できるのですが、謎の設定と解き方、それを支える中盤以降の
プロットにかなりの混乱が見られるのが残念。なかなか大胆なトリックが使われているのに、
途中で殆どバレバレになってしまっていたり、犯行方法の一つに、本格派ではタブーである
方法が使われたり、伏線が十分でないのも残念。ただ題名を「灰色の花粉」としたのだけは
意味深長で秀逸。でも、「本格ミステリ」としては、駄作としか言いようがないですね。
275名無しのオプ:2006/11/04(土) 23:44:21 ID:O0s7aXWS
「読みました」報告・国内編7

梶龍雄「裏六甲異人館の惨劇」(講談社ノベルス 1987年)★★☆
「奥秩父」につづく映画監督探偵シリーズ。クリスティの「ゼロ時間へ」に触発された
作品との梶のコメントがあるが、むしろ同じ作者の超有名作品の変形。作者のねらい
は成功しているとはいえません。
もうひとつ。
梶龍雄「金沢逢魔殺人事件」(講談社ノベルス 1984年)★★★
旧制高校シリーズ第3作、旧制四高生を狙った連続猟奇殺人事件を新聞記者と四高生
が推理する。本格度は高いが従来の青春ミステリの味わいが弱い。この辺が前2作と
比べて評価が低い要因でしょうか。

276名無しのオプ:2006/11/05(日) 00:23:50 ID:LIWzgRZm
3さんはどこで本入手してるの?
都会のブッコフとかはゴロゴロしてるのかな?
正直裏山。
277名無しのオプ:2006/11/05(日) 00:32:28 ID:4BNntbKU
んなこたあない

図書館ネットワークで全部読めるけどね
278名無しのオプ:2006/11/05(日) 03:37:21 ID:aO97uHWL
本気出して探すレベルの本じゃないから
きっとブッコフ系じゃないかなーと思う。
そこがまたいいんだが。
279名無しのオプ:2006/11/05(日) 14:55:49 ID:LIWzgRZm
ウチの近くのブッコフは90年代以降の本ばかりなんだよなー
赤川次郎ならたくさん転がってるけど。そんなわけで
>>222 『幽霊候補生』読んだ。

法医学的に「?」な真相もあったが、伏線の張り方が上手いよね。
とくに「割れた窓ガラス」「柩の中で背中を刺された死体」に感服。
280名無しのオプ:2006/11/06(月) 03:00:26 ID:cYsXDcMv
ブッコフでも梶龍雄のノベルスとか探すのはかなりの難易度だよね
2813:2006/11/06(月) 13:30:15 ID:CZ7KaSzX
>>276
もちろん、殆どがブッコフです。流石に旧「宝石」誌と「幻影城」誌は、東京のJR中央線沿線の
それなりの古書店で購入しましたが。古書店が多いこの沿線に住んでいるので、比較的良いものが
入手できるのかも知れません。あとは西武新宿線&池袋線沿線に行くくらいかな。

赤川次郎「死者は空中を歩く」(徳間文庫)★★★
1979年の長編。これは「フラッシュバック」で取り上げられていましたね。
警察に追われる強盗犯、性犯罪者、横領犯、サラ金に追われる男の四名が、或る富豪の元に集め
られた。富豪は「自分を殺してほしい」と提案する。その夜、富豪は自室のある塔の最上階から
飛び降りるのが目撃される。提案どおり誰かに突き落とされたのか?だが死体は見つからず、や
がて屋敷に集まった人々を狙って連続殺人が持ち上がる。やはり屋敷に強制的に連れて来られた
富豪の娘とその夫が謎に挑むのだが・・・。
CC物という訳でもなし、ミッシング・リンク的な趣向もあるけど伏線不足だし、フーダニット
物としてもやはり伏線不足。ただ、ストーリーは実に面白いし、ブラックユーモアと紙一重の
ユーモアも利いています。しかし、真犯人の犯行方法の一部には、かなりの無理があるのでは
ないかと・・・。

高柳芳夫「死を呼ぶ聖女」(祥伝社ノンノベルス)★☆
1985年の長編。
冒頭の日記の叙述など、作者は或る「効果」を狙ったのでしょうが、惜しいことに、結末で殆ど
活きていません。もう一捻りか二捻りすれば、読者に驚きを与えられるのに残念。ダイイング・
メッセージも詰まらないし、二転三転する真相も、その先を誰でも予想できるので、読者は白ける
ばかり。ただ、小技の毒殺トリックが、ちょっとだけ面白かったです。

日下圭介「笛の鳴る闇」(祥伝社ノンポシェット)★★
1987年の長編。
将門伝説、暗号、地下室の密室トリックなど趣向が盛りだくさんで、幾通りにも解読できる暗号
文には努力の跡が見えますが、ペンキをぶちまけられた地下室の密室トリックは腰砕けの真相。
密室になった真相と動機は、ちょっとユニークではあるものの、何だかなあ、というのが正直な
感想。
更に、この作者の初期短編群に感動した身としては、文章の荒れ具合も気になります。
282名無しのオプ:2006/11/06(月) 19:40:53 ID:RXWg0nPr
>>281
レスどうもです。
以前はよく国立駅のブッコフに通っていたんですが
いつのまにかつぶれてしまって・・・

で、飛鳥高『細い赤い糸』読みました。
第15回(1962年度)日本推理作家協会賞受賞作ということで、
笹沢『人喰い』みたいなカンジかなと期待せずに読み始めたのですが、
最後の20頁で「おお!」と感心しました。
そこにたどり着くまでが・・・・でしたが。

ミステリ・フラッシュバックで紹介されてないのは有名すぎるからかな?
2833:2006/11/07(火) 13:40:42 ID:2QPH/xj+
>>282
「細い赤い糸」は、当時としては画期的だったのでしょうね。俺は犯人に感情移入してしまいましたが。
まあ何にせよ、あの土屋隆夫「危険な童話」を抑えての受賞ですからねえ。

陳舜臣「虹の舞台」(徳間文庫)★★★☆
1973年の長編。もう歴史小説に比重が移っていて、ミステリは少なくなっていた頃の作品ですが、なかなか
の佳作。
インド独立運動の英雄、チャンドラ・ボースに関連した殺人事件を陶展文が解明しますが、トリックはとも
かく、淡々とした「枯淡」の境地とも言える文章に気を緩めていたら、まんまとミスリードされてしまいま
した。また、何気ないエピソードも小技だけど伏線になっているなど、十分、楽しめました。飽くまでも
「本格ミステリ」としては薄味ですが、渋い、滋味に溢れた小説としてならお勧め。
なお陶展文は若干の短編を除いては、これが最後の登場。もう一度、彼の活躍するミステリの新作を読み
たいです・・・。
284名無しのオプ:2006/11/07(火) 22:32:10 ID:jhMcNx/P
「読みました」報告・国内編8

梶龍雄「鎌倉XYZの悲劇」(講談社ノベルス 1988年)★★★☆
何者かに銃殺された素人マジシャンが、天国から地上の私立探偵に意思を照射し
旧家の連続殺人事件を推理させるという話。佐野洋「見習い天使」、辻真先「デッド
ディテクテブ」など似たアイデアはありますが、一番の読みどころは真犯人の意外性
でしょう。泡坂妻夫の某作品の二番煎じともいえますが、私は関心しました。
285名無しのオプ:2006/11/07(火) 22:49:14 ID:c1Hir70v
>>283
陶展文は、80年代中頃に乱歩賞30周年で講談社ノベルズから出た乱歩賞スペシャルで
陳舜臣が書いた長編に出てきませんでしたっけ?
ずいぶん昔に古本屋で手に取っただけなのでうろ覚えですが、
確か裏のあらすじに陶展文の名前があったような気がするんですけど……。
2863:2006/11/09(木) 12:22:24 ID:6E5nsYAF
>>285
そのタイトル、早く思い出してください!w

結城昌治「夜は死の匂い」(集英社文庫)★★★
1964年、女性週刊誌に連載された長編。
北海道に住む裕子は、女優を目指して上京しテレビの脇役などをしていた姉の圭子が自殺したのを知る。
彼女は役を得るために、ディレクターやスポンサー、マネージャーの男性などと荒んだ生活をしていた
らしい。彼女を自殺に追い込んだのは誰なのか?裕子も上京して姉と同じ道に進み、姉の死の謎を追及
し、復讐を開始する。だが先回りするように、疑わしい男たちは次々と変死を遂げてゆく・・・。
女性誌に連載されただけあって、ヒロインの心理描写が丹念で、虚飾に満ちたテレビ界、芸能界を描いた
風俗的なサスペンスに行くかと思わせて、実はWho done itのポイントは外していません。別に大した
トリックがある訳ではなく、意外な真犯人も、現代の読者ならたぶん予想は付いてしまいますが、登場
人物の設定は上手いし、彼らの行動、心理を少しも破綻させることなく最後にカッチリと全てを収束
させる真相が見事。
ただ結城昌治は、非常に男っぽいというか、何か乾いた印象の文章を書く作家だと思うので、ヒロイン
の心理の綾などの描写は、やはり同時代では、笹沢左保の方が上手い気がしますね。逆に言えば、この
辺りに、結城昌治にハードボイルドが書けても、笹沢左保には書けない、否、ハードボイルドっぽく
見えても、それを突き抜けた虚無と情念の権化みたいなものになってしまっている理由があるような
気がします。上手く言えませんけど・・・。
287名無しのオプ:2006/11/09(木) 13:51:07 ID:A7Ec5lFW
>>285
そのシリーズには陳舜臣はエントリーしていないぞ。何かの間違いでは?
288名無しのオプ:2006/11/09(木) 13:57:31 ID:pirul1JB
手持ちの乱歩賞スペシャルを片っ端から調べてみましたが、陳舜臣は書いてないみたいです
伴野朗の名前はあったのですが。
>>285さんは勘違いか記憶違いをされているのではないでしょうか。

<陳舜臣のシリーズ探偵>
1.陶展文
 長編『枯草の根』『三色の家』『割れる』『虹の舞台』
 短編「くたびれた縄」「ひきずった縄」「縄の包帯」……単行本未収録
   「崩れた直線」……同題短編集(86年)に収録
   「軌跡は消えず」「王直の財宝」……『神獣の爪』(92年)に収録

2.竹森警部
 長編『まだ終わらない』『白い泥』
2893:2006/11/10(金) 18:14:26 ID:sR9ZI525
やはり陶展文の長編は「虹の舞台」どまりですか・・・・(´・ω・`)

今回は怪作を紹介。

上宮真人「飛鳥探偵帖−盗まれた国書」(角川文庫)★★
1987年の、聖徳太子を探偵役にした中篇集。
表題作は、小野妹子が隋から携えてきた隋の皇帝・煬帝からの返書が、難波宮の鍵のかかった箱から
消え失せた事件を聖徳太子が推理。まあ盗難方法はトリッキーではあるけど特に目新しいものでも
なし、そもそも、この時代にあの親書を盗む動機を持つ者は一人しかいないじゃんw
吉備国を視察に訪れた聖徳太子が、現地で起きた殺人事件を解明する「吉備路の怪」、飛鳥の都で鬼が
辻斬りにあった謎を解く「英雄の研究」の2篇も、いずれもユニークではあるし、一応、論理的に犯人
と真相を指摘する形にはなっていますが、やはり「本格」の観点から見れば、ちょっとどうかな、と
いうレベル。あと、聖徳太子ほか登場人物にベタな関西弁を喋らせるのは止してほしいです。関西弁が
いけないのでなく、キャラクターに全く合わない調子の喋り方なので。それと作品全体に漂う通俗臭さ
もマイナス。読み易さを狙って却って裏目に出た感じ。まあ古代史が好きな方(俺はそうですが)には
お勧めですが・・・。
なお著者の上宮真人は古代史を専攻する研究者らしいですが未詳。
290名無しのオプ:2006/11/10(金) 21:31:47 ID:qvmn9L30
2ちゃんねるにふさわしからぬもんのすんごい良スレですね。
毎日楽しみにしています。
これも『3』さんを中心とした誠実な書き込みの賜物だと思います。
私もいささかネタを持っていますので、
『3』さんのネタが尽きそうなころ(それとも無限?)、
ぜひ参加させていただきたいと思ってます。
291285:2006/11/10(金) 22:31:51 ID:m7FZIGD0
>>287-288
講談社ノベルズで中国人探偵が出てくる話があったという記憶から、陶展文があると勘違いしたのかも知れません。
どうも、お騒がせしました。
でも、一体何と勘違いしたんだろう?

>>289
上宮真人の上宮は聖徳太子が上宮王と呼ばれたこと、真人は古代の姓の一つと、
いかにも古代史の好きな人がつけそうなペンネームだなと思います。
でも、聖徳太子の時代の話なのに都大路が出てくるなど、
研究者というよりもただの古代史好きの素人で、ちゃんとした研究者ではないと思います。
292名無しのオプ:2006/11/10(金) 23:04:15 ID:qvmn9L30
>291
上宮真人、懐かしい名前ですね。ここで取り上げられることがなければ、一生思い出すことがなかったと思います。

上宮真人、たぶん『古代史推理』、『近江志賀京』などの著作がある長谷川修という人なのではないかと私は推理してます。
この人の著作、着眼は面白いのですが、291さんが御指摘しているように、
テキストクリティークなど無縁の世界、
『研究者には作家的想像力が必要』などと言い出す人ですから・・・・・
この言葉、アカデミズムの立場にいる人たちからは決して出てきません。

ちなみに長谷川修という人が、カーター・ディクスンやライスの『スイートホーム殺人事件』などの訳書がある
長谷川修(新青年の編集部で横溝正史のおともだち!渡辺温が交通事故で亡くなったとき、自動車に同乗してた!)
と同一人物かは不明。
知ってる人います?
2933:2006/11/14(火) 12:21:06 ID:qrdiupia
>>290
どんどん紹介してください。俺もストックが少なくなりつつあり、特に傑作、佳作は僅少の状態です。
今や紹介しているうちの1/2はごく最近読んだもの。自転車操業だなw

>>291-292
上宮真人の正体、サンクスです。第二作だかの「額田王の暗号?」とかいう作品を探求中ですが、探す
必要もないかなあ?

皆川博子「殺意の軽井沢・冬」(祥伝社ノンポシェット)★★★
1987年の長編。
軽井沢にある新進女流作家の山荘に集まったライバル作家、編集者、その友人らの面々。その夜、女流
作家が真冬の吹雪の中、山荘から閉め出される事件が勃発。幸い助かった彼女は犯人の顔を見なかった
が、彼女に嫉妬心を抱くライバルの女流作家が疑われる。更には山荘の電話線が切られてしまい、クルマ
を修理に出しているため、山荘は「陸の孤島」状態になる。そして遂に殺人事件が・・・。
典型的なCC物の設定ですが、「本格ミステリ」としては伏線が不足気味で、手掛かりも後出しが多い
ので、真犯人が指摘された段階で不満が残ります。ただ、嫉妬深くてイヤラしく情けないライバルの女流
作家が、実に上手く描かれており、その視点が真犯人を上手く隠している部分もあるし、また追い詰め
られてゆく彼女の焦燥が直に伝わってきて、サスペンスとしては十分楽しめます。

深谷忠記「『邪馬台国の謎』殺人事件」★★★
1989年の壮・美緒物の長編。
邪馬台国の候補地とされる熊本県の或る市の市長選。レジャーランドの建設に反対し、遺跡の保存を訴え
る候補者が殺された。対立候補の仕業なのか?だが被害者を応援する学者やアマチュア研究家たちの間で
も邪馬台国を巡る対立が。更には、十五年前に東京で起きた、雪の密室での心中事件も絡んでいるらしい
のだが・・・。
例の「魏志倭人伝」の記述を一捻りした暗号文と、その解読によって雪の密室トリックを解明する点が
見どころで、暗号文が如何にも「それらしい」のに感心しました。但しトリック自体は大して面白くあり
ません。意外な犯人の設定は先ず先ずでしょうか。
294名無しのオプ:2006/11/14(火) 18:47:28 ID:Vq/ruBkp
佐野洋「同名異人の四人が死んだ」(講談社文庫 1978年)
流行作家が新聞に掲載した小説の登場人物と同名の男たちが連続して変死、その作
家の担当である中央日報文芸部の記者が、変死者の接点を見出すべく乗り出すが・・
いかにも本格ぽいタイトルに惹かれ読みましたが、やはり佐野洋でした。ミッシング
リンクものにしてはサスペンスに欠け、「ぬるま湯本格」という感じでした。
佐野洋の代表作って何ですかね?
295名無しのオプ:2006/11/15(水) 00:37:31 ID:pKnPiJFL
佐野洋ってさ、「何となく巨匠(笑)」の見本みたいな人だよね
今の時代だったらまずデビュー出来なさそうだ
296名無しのオプ:2006/11/15(水) 02:15:14 ID:h/ZP4hCS
佐野洋は地味で小粒だけどいい作品を書いてると思う。
ただ、扱ってるものが古びやすいというか、
週刊誌のそれこそトップではなく広告でも炭のほうにひっそり載ってそうなテーマを扱ってるから、
賞味期限切れが早いと思う。

でも、「一本の鉛」のようにびっくりするくらい普通の本格(でも地味)をやっている初期のものや、
退廃的で暗くねっとりした人間関係を描いた短編は、今も読む価値はあると思う。

佐野洋の代表作とされている「華麗なる醜聞」を読みたいんだけど、なかなか手に入らないんだよな。
297名無しのオプ:2006/11/15(水) 06:09:25 ID:0LP1wgE8
「華麗なる醜聞」は双葉文庫の推理作家協会賞全集がまだ生きてるだろ。
注文すれば買える。

つか、アマゾンで検索したら双葉文庫も角川文庫もユーズドで出てるぞ。
298名無しのオプ:2006/11/15(水) 12:49:09 ID:gLV6n6gP
/ ̄ ̄'' -、 <BR>  (    / ) ヽ <BR>  i r-,,,, /,,,, )   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <BR> ( >| ● 
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<BR>   / / ヽ ヽ <BR>   ト-<    |_/''┐ <BR>   ヽ=''     `=='
299名無しのオプ:2006/11/15(水) 16:42:22 ID:sy04GCjU
近作、といっても2000年度版くらいのなんだけど、ベストミステリーズに収録されたりして、
そこそこ水準作は書いているんだけど、>>296のいうように地味だから、
何を措いてもこれを読めっていうのがないんだよなあ佐野洋。
まあちゃんと読んだのは「かわいい目撃者」、「検察審査会の午後」(対象外)くらいしかない。
300名無しのオプ:2006/11/15(水) 19:01:52 ID:ETvtPn8x
佐野洋は基本的に短編作家と思う。読みやすいので「通勤電車の友」ですね。
長編は初期の数編にトリッキイなものあり、文庫で250ページぐらいの薄い
作品ほど出来がいい。
「華麗なる醜聞」は止めたがいい。協会賞作品が必ずしも代表作とはいえません。
301名無しのオプ:2006/11/16(木) 03:57:56 ID:CARtDiTh
どう考えても佐野洋の代表作って推理日記シリーズでしょw
302299:2006/11/16(木) 23:42:46 ID:bAwWx6mt
久しぶりに読み返してみて、いろいろ思うこともあり、レビューもあまりなさそうなんで書いてみる。
「かわいい目撃者」 (集英社文庫 1979 ・ 初出・双葉社 1973)
推理小説好きの女性教諭の周囲で起きる事件を、同僚の(ほぼ探偵役の)男性教諭と追っていくという形式の連作短編集。
母子家庭の生徒が提出した作文に、パパがころされるとあったことから始まる「かわいそうなパパ」、
参観日用に描かせた絵にはモップを振り上げて男に立ち向かう母親が描かれていた「いさましいママ」ほか、
「いやらしいペンパル」「あつかましいフィアンセ」「おませなリボン」「ないしょのマーチ」「ひねくれたクイズ」全7篇、
いずれもあるきっかけから現れた事件のその様相が、主人公が推理したものから終盤で一変、意外な真相を現すという、
短編の骨子を忠実に押さえた出来になっている。
ただねえ、佐野に限らず、この時代の作品・この年代の作者にいえることかもしれないんだけど、
女性の描き方が上手くないというか、むっつりスケベというか、例えば「ペンパル」の話で、知り合いの女子高生の身代わりで
彼女の文通相手に会う羽目になった主人公が、この歳でも高校の制服姿でもいけるんじゃないかみたいな思いに耽るシーンとか、
読んでてちょっといたたまれなくなるんだよなあ。
それでも今回読み返してみて看過してたかもしれないと思ったのは、いかにも中間小説的な【メール欄1.】という
物語の締めくくりが、【メール欄2.】というミステリ的な要素と直結してるのって、意外とありそうでないと気づいて、
ミステリとしてのこういう結末は洒落てるんじゃないかと見直すようになった。


いや結構難しいな紹介文も。
303名無しのオプ:2006/11/17(金) 00:29:43 ID:mkscu7JL
>>302

>女性の描き方が上手くないというか、むっつりスケベというか

それは仕方ないと思う。
佐野洋らが活躍した時代は、ミステリーはオヤジの読み物だったんだから。
オヤジ趣味的で、男の理想や男に都合のいいヒロインが出てくるし、
読者サービスとしてエロシーンを入れる作家もいたし。

ちなみに、オヤジのスケベ心あふれる作家というと、漏れは斉藤栄が浮かぶんだけど、
それって漏れだけか?
304名無しのオプ:2006/11/17(金) 12:39:56 ID:DoUjOXCk
いや、たぶんミステリー界最大のむっつりスケベは
土屋隆夫だと思います。

佐野洋は会話文が古くて読むのがつらくなります。
いまごろ 『〜ですわ』 なんていう女性、います?

ちょっとスレ違い申し訳ない。
305名無しのオプ:2006/11/17(金) 16:22:27 ID:fLRk+v8K
佐野洋は小説の会話の言葉遣いには結構厳しく指摘してるんだがな
自分も感覚がおじいちゃんのまま必死に現代風俗を取り込もうとして
取り残されてるわけだ 中町信とかもよく「〜ですわ」とか書いてるし
306名無しのオプ:2006/11/17(金) 16:27:10 ID:d5lskvQY
>>303
でも同時期に読んでた小松左京とかと比べると、やっぱり気になったんだよね。
特にヒロイン視点一人称なだけに。堅物の人が頑張って書いたみたいな、居心地の悪さが。
誰とはいわないけど、最近の作家でも、女性読者が多いみたいないわれ方してる作品に、
そんなタイプのヒロインが出てて、あれぇ?と思うこともある。

>>304
最近久しぶりに見た「バイオニック・ジェミー」がこんなお嬢様みたいな喋り方してたのかと
驚いたことがある。まあこっちは板違い。


ところで、>>302に書き漏らしたんだけど、集英社文庫版の解説は「フィアンセ」に関して若干ネタバレ気味。
全編中、真相の意外さではぴか一なのでなおのこと要注意。
3073:2006/11/17(金) 17:53:50 ID:pn/Hy/9v
またも怪作を紹介。

由良三郎「葬送行進曲殺人事件」(新潮文庫)★☆
1985年の長編。
産業スパイの疑いで逮捕、起訴された男。証拠不十分で無罪を勝ち取るが、その娘は更に、父親を
罠にかけ、実際にスパイを使っていたと思しき男たちの動きを探ろうとする。一方、火葬場では、
遺体を焼いた後、二人分の骨が出てくるという前代未聞の椿事が。二つの事件の真相は・・・。
まあ何というか、いろいろな意味で笑えます。警察の鼻を明かす変な学生探偵の言動が底抜けに
ヘンだし、ベタベタのご都合主義の展開に笑えるし、火葬場の死体に関するトリックも、大昔なら
ともかく、現代ではあり得ないもの。こんな火葬場じゃ、おちおち葬儀もできないよ。でもって、
ラストの意外な真犯人も白々しいばかり。
大学教授の余技にしても、これは一寸・・・。後の長編「裏切りの第二楽章」なんかはそこそこ
面白かったのですが・・・。

山村美紗「京都嵯峨野殺人事件」(光文社文庫)★★☆
1985年の狩矢警部が単独で活躍する長編。
男女7名の大学生グループ。担当教授から京都・嵯峨野の別荘を譲り受けることとなり、男子学生
2名は別荘を民宿に改造してその経営に乗り出し、女子学生たちは出資をすることに。
それから三年後。かつての男子学生らに招待され、別荘に一同が会することに。出資の配当と、更には
彼女らの中から結婚相手を選びたいとの思惑があったのだが、一人、また一人と女性たちが殺されて
ゆく・・・。
これは設定からして「お伽ばなし」みたいなものなので、そこは割り切った上で読めば面白いのですが、
突っ込みどころ満載の良い加減な出来栄えでしたね。密室トリックも、「京都府警の鑑識はバカの集団?」
と思うようなレベルですし、そもそも、こんなに容易に連続殺人が出来る状況じゃないだろ!とも思い
ました。
なお、終章のタイトルが、実に巧妙なミスディレクションとなっていたのには感心しました。そのタイトル
を見て、てっきりラストは、「ああ、アレがああなるんだな」と思い込んでしまい、まんまと騙されて
しまったので。計算してやったのだとしたら、この点だけは凄いです。
308名無しのオプ:2006/11/19(日) 21:17:54 ID:Vt1+0Ybz
「読みました」報告・国内編9

梶龍雄「殺人者は道化師」(1989年 廣済堂出版)★★☆
軽井沢の別荘に住む謎の夫人が探偵役の連作ミステリ。密室からの宝石消失トリック
の「消失の闇」、意外な犯人の設定「封筒の中の犯人」ほか、軽めながらしゃれた本格編
7作収録。なお、軽井沢夫人の正体に関しては「隅の老人」系を狙ったものの不発。
309名無しのオプ:2006/11/19(日) 21:56:18 ID:xLQdW98h
アニオタは気にならないんじゃないか>ですわ

もっとすごい語尾の口癖持ってるキャラいるし
310名無しのオプ:2006/11/19(日) 22:57:25 ID:+aZKKRwk
二階堂黎人は未だに「ですわ」を使うぞ。
それも蘭子シリーズじゃなくてサトルシリーズだぞ。
舞台は現代だぞ。いまどきのOLが使うんだだぞ。
「もしや自分はとんでもない駄作を読んでいるのではなかろうか…」って
気になってなかなか読み進めないよ。
311名無しのオプ:2006/11/19(日) 23:17:20 ID:oBZrxQTM
梶龍雄は次から次と知らない作品が出てくるなあ
参考になります
312名無しのオプ:2006/11/20(月) 01:01:37 ID:xs56QcI+
大学のゼミの先輩で「ですのよ」を使う人はいるけど、「ですわ」を使ってる人は会ったことないな。
313名無しのオプ:2006/11/20(月) 02:33:14 ID:3yPV07an
たしかに「ですわ」を使うのは関西人のおっさんぐらいだな
3143:2006/11/20(月) 12:25:45 ID:X/w3of9E
深谷忠記「ゼロの誘拐」(徳間文庫)★★★★☆
1987年のノンシリーズの長編。
進学塾の経営者の娘が誘拐された。この塾では生徒が何者かに殺害される事件がおきたばかりで、
それを逆恨みする者の犯行か、或いは、ライバル塾の関係者の仕業か?誘拐犯は警察の裏をかき、
まんまと身代金の奪取に成功する。だが娘は帰ってこない。経営者の男は警察とは別に一味を追及
し始める。警察も、誘拐犯や経営者の男の言動に不審なものを感じ、何かの裏取引があるのでは、
と捜査を続けるが、真相は意外にも・・・。
これは誘拐物ミステリの秀作。序盤から、どこかヘンだなと読者に思わせつつも、絶妙な描写で
尻尾を掴ませません。後になって真犯人の行動を読み返せば、心憎いまでフェアに勝負しています。
この作者の初期の最高傑作でしょう。

山村正夫「ボウリング殺人事件」(角川文庫、別題「球形の殺意」)★★★
1972年の長編。
ボウリング場に強盗が入り、同僚を殺されたのみならず、警察には一味を手引きしたと疑われ、
会社もクビになった男が、徒手空拳で一味を追及する。一方、強盗の一味は分け前を巡って対立、
殺し合いが始まる。だが真相は・・・。
長いこと探していて、ようやく見つけて読んだのですが、やや期待はずれ。倒叙物の展開にフーダ
ニットを盛り込んだ点が評価されているのでしょうが、最後に明らかにされる真犯人は、それしか
ないよな、というレベル。ボウリング場の密室状況の真相も、ちょっとだけ盲点を突いていて面白
いかな、という程度のもの。
315名無しのオプ:2006/11/20(月) 16:26:56 ID:itLG9Uzl
清張スレで、「だわよ」というセリフが米倉涼子だと不自然じゃないって話が出てたけど、
何となくカイヤ川アっぽいと思った。
316名無しのオプ:2006/11/20(月) 20:09:44 ID:4ETE32s9
>>314
久々チェキラ!
★4つ以上は読もうと決めてるんで
3173:2006/11/22(水) 12:24:56 ID:saJG9M2T
赤川次郎「幽霊心理学」(文春文庫)★★★☆
1983〜85年に発表された短編によるシリーズ第4作。
「影のような男」は、命を狙われていると訴えて警部にまとわりつく男の話。訴えどおり彼のクルマが
爆破され、妻が犠牲になるが実は・・・。第一話として好調な滑り出し。「美女は二度死ぬ」は、女優
の付き人が、女優が殺されていると警部と夕子に訴えてくるが、現場に行くと女優はピンピンしていた。
だが数日後、本当に女優が殺される・・・。展開は上手いが、仕掛けに乏しく凡作。
恋人を奪われた男が結婚式場に乗り込んで、飛び降り自殺すると騒ぎ出すが、元恋人の花嫁は式直前に
写真室で殺されていた、というのが「幸運なる殺人」。夕子の鋭い観察が登場人物の心理を捉えて真相に
到達する、印象的な佳作。
「銀座の殺しの物語」は凡作で、最後の表題作がベスト。警部と夕子が食事をしていたレストランに指名
手配の殺人犯がいて人質騒ぎに発展、警部と夕子も人質になるが、殺人犯の向かった先は自分の犯行現場
で、自分は犯人ではないと言う・・・。二転三転する展開で読者を引っ張り、ダイイング・メッセージを
解き明かし、意外な真犯人が明らかになるラスト1行が鮮やか。
第3シリーズは凡作だったが、また持ち直してくるところは流石。第2シリーズのレベルには達していま
せんが、ちょっと侮れないです。

斎藤栄「徒然草殺人事件」(集英社文庫)★★☆
1975年の長編。
新婚まもなく上水道場で殺された夫の過去を追って、岐阜県の田舎を訪れた妻が知ったのは、夫が公害問題
に絡んで土地の女性を殺した、という疑惑だった。それを恨む娘が彼を殺したのか。だが彼女には鉄壁のアリ
バイがあった。一方、被害者夫婦の仲人役で、「徒然草」の兼好法師は南朝のスパイだった、と主張する神奈川
県庁の役人もまた独自に事件を追うが、三重県の山中で殺されてしまう・・・。
現場に残された錘の謎、写真のアリバイ工作は腰砕け、犯人の設定も強引。但し、第二の殺人で被害者が残した
オセロゲームの石のダイイング・メッセージは、こじ付け気味ですが、ちょっとした錯誤と、その何気ない描写
の伏線が秀逸。あと序盤が清張「ゼロの焦点」そっくりなのは意識してやったことでしょうね。
なお吉田兼好スパイ説は、まあどうでも良いですw
318名無しのオプ:2006/11/23(木) 02:13:26 ID:yVaa0FKX
菊村到は発掘の余地ないのかな?
“本格”が出てくるかどうかは微妙だが

いや、けっして「人妻刑事」というタイトルが気になってるわけでは…
319名無しのオプ:2006/11/23(木) 18:23:12 ID:nO9sCxtS
「読みました」報告・国内編10

梶龍雄「大臣の殺人」(中公文庫 1985年)★★★★
主婦と生活社から1978年に初出刊行されたものの文庫化。乱歩賞受賞が77年なので、最初期
の作品ということになる。解説の武蔵野次郎氏によると執筆自体は「透明な季節」より前とのこと。
さて内容ですが、明治10年代の警視庁創設間もない時代が舞台となっており、その東京警視庁密偵
が、黒田清隆(当時北海道開拓使長官、のち首相)がからむ連続殺人事件を解き明かすというもので
梶龍雄版「警視庁草子」本格ミステリ編といったところ。なかなかの力作です。
320名無しのオプ:2006/11/23(木) 23:22:44 ID:pYKGPXTz
>>319
へーそんな本があるんだ。
初耳。そんなに古そうでもないから、探してみよ。
3213:2006/11/24(金) 12:07:25 ID:iw0pIGD5
笹沢左保「日曜日には殺さない」(徳間文庫)★☆
1984年の長編。
北陸の小京都・越前大野。ここ十年の間に一族が次々と不審死を遂げ、兄もまた東京のホテルの密室で
殺され、ついに最後の一人となった旧家の娘。彼女はそれが戦国武将・柴田勝家の呪いだと言うのだが、
恋人はそれを信じず、過去の事件を再び調査し直してゆく。だが・・・。
この作者には珍しい伝奇ミステリ風のストーリー。過去の変死を一つ一つ合理的に解決してゆくのです
が、良く調べれば誰でも分かるレベルの謎解き。しかも最後に残った東京の密室殺人も良くあるパターン
でガッカリ。しかし・・・。
「そもそも、題名の意味が分からないよ」と思っていたら、最後の数ページで題名どおりの、とんでも
ない急転直下の結末。伏線が無かった訳ではないけど、余りにも救いのないラストに、久々に身の毛が
よだちました。この作者の宿命的な暗い人生観は承知していましたが、ここまで冷酷な話は初めて。
ともあれ、「本格ミステリ」としては落第ですけど。
322名無しのオプ:2006/11/24(金) 23:52:53 ID:VFhRpBJ+
伴野朗の冒険小説なんかはどうですか?
本格ミステリはあまり読まないので・・・
323名無しのオプ:2006/11/25(土) 00:02:14 ID:qEeUWyog
『長安殺人賦』とかいう阿倍仲麻呂主役の歴史ミステリは
つまらんかった記憶がある。
324名無しのオプ:2006/11/25(土) 01:40:41 ID:ptrRnDpx
伴野朗は3氏が上の方で殺意の複合を挙げてるね
325名無しのオプ:2006/11/25(土) 11:58:53 ID:6h3aZ5ND
伴野朗は3氏が別スレでレビューを書いている
3263:2006/11/27(月) 12:26:54 ID:fMSBdiDP
>>322
別スレ「『読みました』報告・国内編」をどうぞ。
純然たる冒険小説なら「九頭の龍」が暫定ベスト、「本格」風味も味わえる冒険小説なら「三十三時間」が
ベストかな。

>>325
「九頭の龍」「ゾルゲの遺言」とも、本スレに紹介しようと思って最近読みましたが、謎解きは多少あっても
「本格」とは言い難かったので、あっちへ書きました。

高柳芳夫「ライン河の白い霧笛」(徳間文庫)★★☆
1981年発表の長編。
日本で殺人未遂を犯し、出所後、ウィーンからデュッセルドルフへと流れてきた鷹見。或る人物の紹介で同地の
実業家ヴォルフマンの運転手に雇われるが、その妻の日本人・百合子に心惹かれてゆく。百合子の父親は密室
状態のホテルで変死を遂げ、自殺と処理されていたが、彼女は信じず、夫ヴォルフマンこそが真犯人だと疑って
夫婦仲は冷え切っていた。そんな冬の或る夜、ヴォルフマンは独りで過ごしていた屋敷内で殺される。施錠され
た室内の、更に箪笥の中に押し込められた死体、そして雪の降り積む屋敷一帯に残されていた唯一の足跡は、
百合子のものだけだった・・・。
相も変わらず密室トリックに執念を見せる作者ですが、それを支える小道具や伏線に精彩を欠いています。意外な
真犯人に関する伏線も今ひとつ。せっかく、「雪に囲まれた密室状況の屋敷に残された足跡はヒロインのもののみ」
というドラマチックな謎を提示しておきながら残念な出来栄え。
327名無しのオプ:2006/11/27(月) 20:31:30 ID:fo+/Upb5
「『ラインの薔薇城』殺人事件」とは別の作品なんですか?
328名無しのオプ:2006/11/27(月) 22:37:22 ID:P8e/W/h9
>>327
少しは調べろよ。ぐぐればすぐにわかるだろーに
3293:2006/11/28(火) 12:14:56 ID:fuG7uK3W
>>327
むろん別物。なお「ラインの薔薇城」は「禿鷹城」の続編。「禿鷹城」を先に読むことをお勧めします。

南條範夫「第六の容疑者」(徳間文庫)★★★
著者は時代小説「燈台鬼」で直木賞を受賞後、「からみ合い」でミステリにも進出した時代小説作家。
「三百年のベール」だけが有名のようですが、これは1960年の現代物の長編。
社長一族で固められた或る同族会社。社長の弟である経理課長は、昔付き合っていた女性の脅迫を受け、
会社製品の横流しに手を染める。更に彼の妻は出版社の男と不倫を重ね、彼の姪の夫であり、社長の
女婿にあたる男も不倫をしている。ところが、これら一連のスキャンダルを興信所の所員に握られ、彼に
よる脅迫も始まった。二重、三重の脅迫合戦の中で、興信所員が殺される。多数の容疑者のうち、真犯人
は誰なのか・・・。
錯綜する人間関係、多数の容疑者がひしめく中、各登場人物の個性を上手に書き分け、スピーディに、かつ
分かり易くストーリーを進めてゆく手腕は見事なもの。
但し「本格ミステリ」としては、地名に関する或るトリックとアリバイ崩しが出てくるのですが、地名の
トリックは鮎川哲也の某作品を連想させるものの、アリバイ崩しは使い古しの手口を、そのまま何のヒネり
もなく提示しただけのお粗末な出来。
もっとも、ラストの急展開はなかなかのもので、現代から見れば大したことはないが、当時にしてはかなり
意外な真犯人とドンデン返しは評価できます。
330名無しのオプ:2006/11/28(火) 13:03:24 ID:veOgAxxq
たしか「第六の容疑者」は映画化されてましたね(私は未見ですが)
331名無しのオプ:2006/11/28(火) 20:51:01 ID:u2WwYaX5
〜1987という年代条件に当てはまるのかどうか分りませんが、こちらに宣伝します。

各作家のナンバー1を決めよう!スレにて、「胡桃沢耕史」作品投票中。

締切りは、平成18年12月1日(金)、〜12:00まで。1人1票でよろしくご参加を。

http://book3.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1154275629/l50

投票したい作品を<<作品名>>のように<< >>括って投票するのがローカル・ルールになってます。
332名無しのオプ:2006/11/29(水) 21:50:50 ID:irdNbjAM
「読みました」報告・国内編11

梶龍雄「毛皮コートの死体」(中公文庫 1985年)★★★☆
ストリッパー探偵物語と副題あり。協会賞候補になった「アパッシュの女」を含む
6編の連作ミステリ。前半3作は浅草が舞台でトリックに重点が置かれた本格編、
後半3作は舞台を熱海に移し人生の哀歓が流れる人情物語風となる。
梶の80年代後半の短編は掲載誌編集部の意向もあってか、やたらベットシーンが
挿入された作品が多いが、この作品はそれほど酷くはありません。
なお、主人公のキャラが気に入ったのか、「浅草殺人ラプソディ」「野天風呂殺人事件」
と続編が書かれています。未読ですがミステリとしての出来はあまりよくないようです。

3333:2006/11/30(木) 10:00:23 ID:65HRUHyq
残り少ないストックからの切り札、先ずは一枚目。

司城志朗「そして犯人(ホシ)もいなくなった」(立風ノベルス)★★★★☆
本作しか読んでいないので良く知りませんが、著者の作品は、矢作俊彦との一連の共作などからみて、
軽ハードボイルドっぽい作風が中心でしょうか。
本作は1988年発表の長編、「初めて本格推理小説に取り組んだ」と裏表紙に紹介されており、発表年を
考えると「新本格」の登場に触発されたのかな?
東京・中野区で発見された他殺体。犯人が自首して出たにも拘らず、その隙に何者かが死体を動かし、
十数メートル先の杉並区に放置した可能性があった。次に起きた事件は、飛び降り自殺を、やはり何者
かが他殺に装った事件だった。一体、誰が何のために偽装しているのか?警視庁の岩男警部補が不審に
思う矢先に、フィットネスクラブの支配人が首なし死体で発見される第三の事件が発生。これも実は
首吊り自殺なのでは?だが、誰が何のために首を持っていったのか・・・。
メインのアイディアは、作者が「いつか使ってやろう」と暖めていたものでしょうね。似た例は過去に
もありますが、ちょっとギョッとするもの。中盤辺りで読者にも察しが付きますが、それでは終わりま
せん。その裏をかき、更に、その裏の真相まで用意。しかもラスト直前には容疑者たちの尋問内容を
おさらいしており、そこから読者も真相を推理できるように配慮され、きわめてフェア。
難を言えば、法医学的に「本当かよ?」と思える点が一箇所あることと、全体がユーモア・ミステリ風
で、200ページ程度の長さなので、全く重厚感に欠ける点ぐらいでしょうか。
ともあれ、お勧めの傑作です。
334名無しのオプ:2006/11/30(木) 11:49:29 ID:LEbVT7rM
『そして犯人(ホシ)もいなくなった』は以前から気になっていた作品でした
これはなにがなんでも読んでみなくてはいけませんな
335名無しのオプ:2006/11/30(木) 12:59:23 ID:rjonOmlH
俺も読もー
336名無しのオプ:2006/12/02(土) 01:57:21 ID:IMLCywVy
豊かな泉から湧き出てくるかの如き3氏の知識にも
終に枯渇の刻がやって来ましたか…。
今までご苦労様でした。
切り札、最後までしっかりと拝見させて頂きます。

…3氏の様な在野の賢人の登場が再びありますように
337名無しのオプ:2006/12/04(月) 01:34:23 ID:8HRCs4Zy
そうはいったって>>3氏がまた新たな鉱脈的作品群みつけりゃいくらも持つわけで・・・
338名無しのオプ:2006/12/04(月) 01:36:59 ID:DOegzikO
そうそうなかろうて
339名無しのオプ:2006/12/04(月) 13:08:19 ID:fPNQP7tj
皆3氏にばっかり頼ってちゃだめだ!!
340名無しのオプ:2006/12/04(月) 16:18:15 ID:9JkJ2Utr
>>339よ、ネタを提供してくれw
3413:2006/12/04(月) 17:51:24 ID:SiMN1Jki
切り札を使い果たす前に、ちょっと在庫整理。

小林信彦「合言葉はオヨヨ」(角川文庫)★★★
1972年の長編で、前作「大統領の密使」にも登場するテレビ・ディレクターの細井が主人公。
香港出張中の細井は滞在中のホテルの浴室で、見知らぬ他殺体を発見する。現場は内側から
ロックされた密室状態にあり、香港警察の楊警部補に疑われるものの、事件の裏に麻薬組織が
絡んでいることが判明、裏で糸を引くオヨヨ大統領の影が・・・。細井は友人の作家・安田、
楊警部補、そして殺し屋‘きのうのジョー’やら警視庁の鬼面警部、旦那刑事とともに二隻の
麻薬密輸船を追って神戸、東京、そして冬の北海道へ・・・。
ホテルの密室殺人、浴室に残された「007」のダイイング・メッセージの意味と解明された
トリックには大笑い。フェル博士もビックリの大トリック(な訳はない)。
二隻の船のどっちに麻薬が積んであるか分からないという状況での意表を突いた真相、更には
クライマックスでカーチェイスを繰り広げるクルマが、シトロエンDSとルノー(ギャビン・ライ
アルのパロディかな)。本格、冒険小説、ハードボイルドなど、ミステリ全般を茶化しまくって
います。飽くまで「本格その他ミステリのパロディ」の秀作ということで。

辻真先「宇宙戦艦富嶽殺人事件」(徳間文庫)★★★☆
1981年のポテト・スーパー物の長編。
「読者が犯人であり被害者であり探偵」という新作の執筆のため、編集者のアドバイスで神戸・
六甲大学のアニメ研を訪れたポテト。彼らの自主制作アニメ「宇宙戦艦富嶽」の試写会の最中に、
映写機の事故から、アニメ研の女子学生が死亡する事態に。だが事故死ではなく、何者かによる
巧妙な殺人では、との疑いが。続いて、アニメ研のリーダーの実家でも殺人事件が勃発する・・・。
第一の殺人の巧妙な偽装工作が見事。その他にも、アリバイトリックやら意外な真犯人、日本軍
が開発した幻の重爆撃機「富嶽」の薀蓄や洒落た結末など、趣向が盛りだくさんですが、やはり
どこか、「この人、どこまで本気で書いているんだろう?」という「軽さ」が感じられてしまい
ます。
まあ一番印象に残ったのは、アニメ研の連中が話し相手に対し「おたく」を連発していること。
1981年にして、この言葉が広く使われていたのですね。
3423:2006/12/04(月) 17:54:30 ID:SiMN1Jki
連投スマソ

高柳芳夫「津軽富士殺人事件」(徳間文庫)★★★
1986年の長編。
推理作家の主人公は、かつて商社員としてドイツ駐在中に因縁があり恨みに思っていたドイツ人・ラーベが
来日し、弘前で大学教授となっていることを知り、彼を殺すべく取材旅行と偽って編集者と現地へ向かう。
ラーベをバーで酔わせ、帰り道、首尾よく弘前城の堀に突き落としたのだが、翌朝、ラーベは国鉄の線路で
轢死体となって発見される。ラーベは一命を取り留めた後、何者かに殺されたのか。同行した編集者にも
不審な動きが。更には被害者を酔わせたバーも一夜にして消えていた?主人公は身に覚えのない殺人事件の
真相を追うのだが・・・。
ベタベタのトラミスかと思いきや、そうとも言えず、かと言ってガチガチの「本格」にも徹しておらず、ちょっ
と不思議な雰囲気の作品。
真犯人の計画が良く考えると穴だらけのような気がするし、伏線も不足気味ですが、主人公が現場に残った
「メガネの破片」から、犯人を一人に絞り込む推理はE・クイーンばりで楽しめました。
ところでラーベを堀に突き落とした推理作家、それは立派な殺人未遂だと思うが、いつの間にかウヤムヤに
なっているのは何故だw

長井彬「赤の殺意」(ケイブンシャ文庫)★★
1982〜91年に発表された作品を収めた短編集。
1991年に発表された「函館殺人事件」「不倫の決算」は駄作。この作者もここまでレベルダウンするとは
悲しい。一応、アリバイ工作やら電話のトリックやら出てきますが、精彩なし。「オホーツク殺人事件」は
「奇妙な味」を狙ったものか、作風に合わない凡作。「撮影旅行殺人事件」は指紋に関するトリックだが
やはり凡作。「三人の赤マント」は、ロックバンドのコンサートの最中に起こった殺人事件。何となく横溝
正史「かめれおん」を思い出した、一応の水準作。「赤いスーツの女」は、単なる××××トリックかと思わ
せて、そこにもう一つのトリックを絡めた点は上手いが、伏線不足なのが惜しい。
最後の2作以外、読む価値なし。
3433:2006/12/04(月) 17:58:15 ID:SiMN1Jki
再連投スマソ

多島斗志之「金塊船消ゆ」(講談社文庫)★★★★
1987年の長編。
太平洋戦争中、金塊を隠すためにフィリピン沖に沈めた日本の輸送船。夜間に沈没させるために
地上で火を焚いて目印にしたのだが、そこから割り出されたポイントから船は発見されなかった。
月日は流れ、火を焚いた日本軍の生き残りである浅田と鳥居の元に、戦後四十年も経って、謎の
人物から現地への招待状が届いた。再び、金塊を探し当てようというのか。現地へ向かい消息を
絶った浅田を追って鳥居も現地へ向かったが・・・。
冒険小説としての面白さに加えて、結末の意外性も楽しめました。招待状の送り主の正体とその
動機が明らかになったときは、思わず「おおっ!」と声を上げてしまった。沈没地点に関する
トリッキーな仕掛けも上手い。伴野朗の初期長編群と同様、「本格」風味のある冒険小説の秀作。
344名無しのオプ:2006/12/04(月) 19:20:17 ID:FAPrf0At
多島斗志之の初期国際謀略小説は意外な展開、意表をつく結末にこだわり、確かに
本格マインドがあふれてますね。「パンドラ抹殺文書」のバー=ゾウハーを思わせます。
私のお奨めは「聖夜の越境者」(講談社 1987年)「バード・ウォーズ」(天山ノベルス 
1988年)です。

「読みました」報告・国内編12
石沢英太郎「視線」(講談社文庫 1981年)★★★
77年に協会賞を受賞した表題作ほか6篇収録の短編集。
感心するようなトリックが使われているわけでなく厳密には本格ミステリといえない
かもしれませんが、人の内面の謎というか、松本清張の初期短編に通じる味わいが
あります。なかでも毒草による老夫の殺害計画「アドニスの花」が秀逸。

345名無しのオプ:2006/12/04(月) 21:30:19 ID:EScPwdH8
>初期多島
ミステリとしての意外性ととも、「バード・ウォーズ」以上のギャグすれすれの
設定が笑える「CIA桂離宮作戦」(「ソ連謀略計画を撃て」)も個人的には大好きですが
まぁやはり一番完成度の高いのは「密約幻書」かな

昨今ワイドショーなどで例の暗殺疑惑を扱われかたを見ると、みんなけっこう謀略好き
なのねって思う。「不思議島」以前の作品を復刊しても受け入れられる器は
まだまだあるんじゃないだろうか。
346名無しのオプ:2006/12/06(水) 17:45:15 ID:2Kg9qLok
創元で多島の海上タクシーシリーズが復刊していたね
3473:2006/12/08(金) 12:26:16 ID:Vl1Focwo
在庫分から怪作の紹介。

井沢元彦「死にたくなかった女たち」(双葉文庫)★★★
1986〜87年に連載された、殺人事件の被害者の女性が夢に現れるという超能力の持ち主・司門獏を
探偵役とする連作集。
第1話「死んだはずの女」で、司門が超能力を持つ由来などを紹介。被害者の霊が司門の夢に現れ、
事件を解決するまで夢に出続けるので、司門は仕方なく探偵役に。以下、殆ど同じパターンで司門
は事件の渦中に。本作の事件は平凡な出来。
第2話「叫ぶ女」はデパートでテレビのニュースを見ていた耳の不自由な女性が、突如絶叫して窓から
飛び降りた事件。トリッキーな仕掛けと「耳が不自由」という伏線が利いています。
第3話「執念の女」は、司門の友人の田舎に行ったところ、江戸時代に死んだ女性の霊に悩む話。凡作。
第4話「赤い糸の女」は、殺された女ではなく、これから命を狙われている女性を予知夢で救う話。以降
の話では、この時に救われた女性が助手役で登場。これはアリバイトリックなどを凝らした力作。
第5話「思い出の女」、第6話「固められた女」は凡作。第7話「わがままな女」はアイドル歌手の誘拐事件。
伏線の利いた佳作。
以上全7話、佳作、凡作ごっちゃ混ぜの怪作です。
3483:2006/12/08(金) 12:29:52 ID:Vl1Focwo
連投スマソ
切り札の二枚目の紹介。

高柳芳夫「奈良-紀州殺人周遊ルート」(徳間文庫)★★★★
1988年の長編。
推理作家の朝見は、自作「奈良-紀州殺人周遊ルート」の映画化のためロケに立会っていたが、主演女優が
小道具と誤って短刀で自らの腹を刺し、重傷を負う現場に遭遇。その後、関係者が次々と殺されてゆく。
密室状態のホテルでの墜落死、走行中の列車からの消失・・・。しかもそれは自作のストーリーどおりの
状況だった。誰が作品を模倣しているのか。朝見は自作のトリックを上回る犯人の犯行手段を解く羽目に
なった・・・。
>>342で紹介した「津軽富士・・・」の、弘前でドイツ人を殺しそこなった推理作家が再び探偵役を務めていますw。
不可能状況での連続殺人について、先ず作家の自作のトリックがあり、それに対し作家が別のトリックを推理、
しかし真相は・・・・、という凝った展開。普通の3倍もトリックを考えたことに敬意を表します。しかし、そうは
上手いトリックを量産できるはずもなく、一部のトリックは拍子抜けなのが残念。ともかく、タイトルから連想
されるようなベタなトラミスではないですが、二時間ドラマに出てくるような良い加減で間抜けな警察だけは
マイナス点。
全作読んだ訳ではないですが、致命的な瑕疵は見当たらないし、トリックから見ても、本作がこの作者のベストかな。

・・・しかし、二枚目の切り札としては今イチか。決して悪い札ではないですが、司城志朗「そして犯人も・・・」を
後にすべきだったかな。何か七並べやババ抜きで作戦ミスした気分・・・orz

・・・ということで、最後の切り札を一枚だけ残していますが、これで在庫一掃。今後はリアルタイムで読んだ
作品を、そのつど紹介することとなります。拙文にお付き合いいただいた方々、有難うございました。
349名無しのオプ:2006/12/08(金) 13:17:49 ID:ynkNxiTY
>>348
お疲れ様でした。最期の切り札は>>1000でお使いくださいw

高柳の日本を舞台にしたトラミスみたいなタイトルのは「京都祇園祭殺人事件」
だとかいうものを持っているけど、どこにしまってあるかわからない……
見つけたら読んでみます
>>3氏のレビューを読むかぎり、駄作シリーズではないみたいですね)
350名無しのオプ:2006/12/09(土) 02:23:02 ID:lc9D+BmQ
3氏の最後の切り札は何か?気になるので推理してみた。

1.今までに当スレで言及されていない作品
2.あまり有名な作家ではない(でないと切り札とは言わない)
3.文庫作品である(過去の3氏のレビューを見ると単行本、ノベルスがほとんど
  ない。しかも徳間文庫が圧倒的に多い)
ここまでの絞込みはどうでしょう?
351名無しのオプ:2006/12/09(土) 02:33:39 ID:mSvB1U22
焦らすのもいいけど、あんまり待たせちゃいやよ☆
352名無しのオプ:2006/12/09(土) 17:30:57 ID:NHqnru6T
切り札は藤本泉あたりと予想。
353名無しのオプ:2006/12/09(土) 18:18:57 ID:lc9D+BmQ
切り札はズバリ、井上ひさし「十二人の手紙」(文春文庫)と予想
354名無しのオプ:2006/12/09(土) 19:00:55 ID:mSvB1U22
>>352-353
レビューよろ
355名無しのオプ:2006/12/09(土) 20:59:22 ID:GZ8fr9+h
おつかれさんした。
未踏の地を進む事を恐れてはいけない、
そんな気持ちを教えられた連載でした。
356名無しのオプ:2006/12/09(土) 23:23:13 ID:eGMsIqMK
乙でした。続きも気が向いたら書いてください。

「十二人の手紙」は自分も読んだ。
本格かどうかはよくわからんが、おもしろかったよ。
3573:2006/12/11(月) 18:11:54 ID:ajVA8N/H
>>350
良いセンいってますw
自分でも意識してなかったけど、確かに徳間文庫が多いなあ。きっと、乱歩賞受賞作などの名作は
講談社文庫に、高木、鮎川、森村、土屋などの有名作家は角川文庫に取られていたので、後発組の
徳間は、それ以外の作品を文庫化する方針で、俺の読書傾向に合ったのかもw

結局この土日も、スレタイの主旨に沿ったミステリしか読まなかった・・・orz
で、感想です。

笹沢左保「遥かなりわが叫び」(角川文庫)★★★★
1977年の長編で、前年の「遥かなりわが愛を」(>>29)に続く、伊勢波警部を探偵役とするシリーズ
第二弾。
勤務先の社長を殺して逮捕された黒塚は、服役中に妻子が交通事故死し、逮捕直前に妻子に会わせて
くれなかった伊勢波警部に復讐を誓う。出所するや、警部のメンツを叩き潰してやると宣言、予告
どおり、黒塚と警部が名古屋にいる最中に、東京で、黒塚が殺した社長の未亡人が殺される事件が
勃発。伊勢波は黒塚の犯行だと断言するが、その彼自身が黒塚のアリバイの証人となっていた・・・。
前作「・・・わが愛を」のアリバイトリックよりも出来が良いと思います。この作品が先鞭を付けた
とは思えませんが、後年、深谷忠記の某作品や新本格の某作品でも使われるなど、様々なバリエー
ションを生み出しているトリックですね。後発作品を幾つか知っていたので、本作は、俺もほぼ
百パーセント見破れたし、現代の読者ならたいてい見当が付くと思います。でも先行作品、という
ことで評価は高めにしておきます。
あと、官能的な描写に重大なヒントが隠されているなど、やはり一筋縄でゆく作家ではないです。
3583:2006/12/11(月) 18:14:57 ID:ajVA8N/H
連投スマソ

嵯峨島昭「グルメ殺人事件」(光文社文庫)★★★★
既に>>256さんが紹介してましたね。探して読んでみました。これは面白かった。
酒島警視と鮎子のコンビが、毎回、或る料理にまつわる事件を解決、ついでに薀蓄を傾けたり、
平束八兵衛(実在した警視庁の名物刑事と殆ど同名では?)という刑事が憎まれ役として絡んだり、
という1982年の連作集。
本格ミステリとしてならば、「ちゃんこ鍋殺人事件」と「スイス・フォンデュー殺人事件」がベスト。
前者は、相撲博物館で夜な夜な力士の等身大の人形が暴れ出し、遂に親方を殺してしまうという話。
島田荘司もビックリの大技、というかバカミス。カセットテープに関する或る伏線が上手いが、
とにかくこれはスゴイw
後者は正統派で、白馬の山荘にスキーに招待された酒島警視と鮎子が到着すると、山荘では先に来て
いた客たちが皆殺しになっていたというもの。現場に残された手掛かりだけで、事件当時の状況を
再現する酒島の推理が見事。
その他、「にぎり鮨殺人事件」は、無愛想な鮨屋の主人が殺されるが、主人の残したダイイング・
メッセージがギャグすれすれの一発芸、「北京?鴨(ダック)殺人事件」は「物の隠し方」トリックが
出てくるけど、これまたトンデモ系の凄技。「野鳥獣料理殺人事件」「鮎料理殺人事件」では密室
トリックが出てくるけれどこれは凡作。
その他、奇妙な味っぽい「フォアグラ殺人事件」、「すきやき殺人事件」「ライスカレー殺人事件」の全9話。
今では誰でも知っている常識の薀蓄を垂れていて苦笑するところもありますが、北森鴻「香菜里屋」
シリーズなどとはまた異なる雰囲気の、何とも昭和の香りも漂ってくる、実に美味そうな料理ミステリの佳作。
359名無しのオプ:2006/12/11(月) 20:14:00 ID:3G7v685f
「遥かなりわが叫び」は「警部の証言」と改題されて、祥伝社文庫に入ってたと思います(まだ現役なのか?)
「遥かなり〜」のほうがいいタイトルだと思うのに、なんで変えちゃったんだろ
360名無しのオプ:2006/12/12(火) 01:06:40 ID:F+r7xU/m
愛人はやさしく殺せ(旧題「三種の神器殺人事件」)
ttp://www.papy.co.jp/act/books/1-102217/

タイトルとあらすじのギャップありすぎw
361名無しのオプ:2006/12/13(水) 00:10:22 ID:EuZeRx0O
きっとこのスレぐらいのレベルになると、中町信辺りはもうレビュー不要なんでしょうね…。

ブッコフで「榛名湖殺人事件」「女性編集者殺人事件」「奥只見温泉郷殺人事件」を手に入れたので、これから楽しみに読みます。

このスレを見て深谷忠記を読みました。(紹介されていないものですが)大変良い掘り出し物でした。ありがとうございました。
362名無しのオプ:2006/12/13(水) 00:12:00 ID:k3XxFaha
>>361
感想を報告スレによろ
363名無しのオプ:2006/12/14(木) 22:42:18 ID:HI9ZlFaJ
「読みました」報告・国内編13

梶龍雄「幻狼殺人事件」(1984年徳間書店、1987年文庫化)★★★☆

幻のニホンオオカミの取材で群馬県山奥の「密室村」を訪れたルポライターの主人公
を待っていたのは不可解な木像連続盗難事件と殺人死体だった。村の唯一の出口は
監視小屋で見張られていたにもかかわらず、いずれも村から隣町に運び出され発見
された。
事件の背景には昭和15年に村で発生した連続婦女暴行事件と憲兵殺害事件が関わって
いるようだが、その犯人は既に死亡したものと思われていた。
20年にわたる愛憎の軋轢が新たな悲劇を呼ぶ・・・コテコテの伝奇推理小説です。
ストーリーはちょっと複雑なので以下、パズルのピースをばらまくと、
平家の落人伝説の村、素封家同士の対立、忌まわしい血の怨念、ひょっこり登場する
素人探偵、鍾乳洞での追跡劇、最後は屋敷炎上、そうです横溝正史そのまんま。
梶龍雄版「八つ墓村」です。本格ミステリを期待して読むとガッカリですが、物語を
楽しむ分にはOKです。



364名無しのオプ:2006/12/15(金) 00:48:30 ID:VCE5GMgu
「黒いトランク」と賞を争った梶龍雄の「白い顔の男」って
改題とかされてその後単行本化してたりするんですかね?
3653:2006/12/15(金) 17:53:43 ID:TmKazk+w
山村美紗「愛の海峡殺人事件」(光文社文庫)★★☆
1970年の乱歩賞最終候補作「京城の死」を改稿し1984年に発表した長編。
終戦直後に父親がソウルで病死したと伝えられてきたヒロインは、戦後27年も経って、ひょんなことから
父が何者かに殺されたことを知る。ソウルに向かった彼女は当時の関係者を訪ね歩くが、彼らは次々と殺
されてしまう。父親の死に何があったのか、そして連続殺人の犯人は・・・。
犯人は直ぐに見当が付いてしまうし、アリバイのトリックも、その後の作者の作品で乱発される例のヤツ、
という訳で、乱歩賞を逃したのは仕方ないかな、という出来。なお犯人の動機の一部に、ちょっと驚く部分
があります。これは当時よりも現代の方がインパクトが大きいかも。
ともかくも、ベストセラー作家になった後の作品とは違って、作者が一生懸命に描いたということは伝わっ
てくるので、まあ好感は持てますが。

赤川次郎「幽霊湖畔」(文春文庫)★★☆
1986〜88年に発表された作品による「幽霊」シリーズ第5弾。
第1話の表題作は、休暇中の湖での殺人事件と、そこに強盗の指名手配犯が隠した宝石探しが絡んでくる話。
何気ない会話に潜む伏線が上手い。第2話「着せかえ人形の歌」はアイドル歌手とその吹き替えを巡る殺人
事件。凡作。第3話「危い再会」も本格ミステリとしては凡作だが、ヒロインの複雑な心理に着目した夕子の
推理が非常に面白い。第4話「吸血鬼を眠らせないで」は吸血鬼に凝っている中学生と、彼が作った杭で刺し
殺された女性の話。凡作。第5話「狼が来た夜」は、警察にウソの情報ばかり流す男が、またも近所に凶悪犯
が隠れていると連絡してくるが・・・。トリッキーというほどでもないが、これは佳作。
いずれもスイスイ読めるし、ストーリーの組み立ても上手いとは思いますが、トリッキーな仕掛けの面で、
またもレベルダウンしてしまったようです。
366名無しのオプ:2006/12/16(土) 13:39:42 ID:KVRHLvIp
「読みました」報告・国内編14

梶龍雄「殺人魔術」(光風社出版 1984年)★★
雑誌掲載された短編を落穂拾い的に収録した短編集。作者のこだわり3つのアイテム(
舞台は軽井沢、怪しげな宝石商、人物入替りトリック)が各編に散りばめられ、またかと
既視感にとらわれる。お約束のベッドシーンの筆力にのみ感心。

梶龍雄「浅間山麓殺人推理」(徳間文庫 1988年)★★☆
「殺人への勧誘」(光風社出版1984年)の改題、文庫化。
文庫タイトルで想起する「館もの」あるいはCCものではなく、多岐川恭がよく書いた
クライムサスペンスに近い。
浅間山麓の平原に集まった5人の男女、彼らは同じ殺し屋に殺人を依頼した過去があり、
その殺し屋から呼び出されたのだった。突然の銃声により5人は命を狙われていること
を知り、殺し屋の正体に迫るべく過去の殺人依頼の経緯を一人ずつ話し出す・・・
半分ほど読んだ段階で犯人の意図は容易に推理できます。凡作というか本格ミステリと
しては失敗作でしょうね。

3673:2006/12/18(月) 12:18:58 ID:IJAg51QD
ちょっとスゴい怪作の紹介。

斎藤栄「金糸雀の唄殺人事件」(光文社文庫)(採点保留)
1982年の長編。
怪我を負った仲間を見殺しにし、所持金を奪って生き埋めにした五名の高校生グループ。事件は
発覚しないまま、五年の月日が経った或る日、メンバーのもとに彼らの担任教師の名を騙る手紙が
届いた。例の事件について新事実が判明したので相談したい、というのだ。待ち合わせ場所の湖に
一行は到着するが、先に来ていたはずのメンバーの女性が行方不明となった。湖畔には人が転落し
たらしき痕跡が。そして生き埋めにした仲間が好きだった西條八十の「かなりや」の歌がどこから
ともなく聞こえてきた・・・・。あの時生き埋めにした仲間が生き返り、復讐を開始したのか?
更には、不安に駆られて生き埋めにした場所を掘り返し始めたメンバーの男もまた、密室状態の
小屋の中で不可解な死を遂げた・・・。
最後の最後に待っていたドンデン返しには唖然・呆然としました。確かに、密室トリックやらアリ
バイ工作も含め、理屈の上では、こんなことも起こり得るでしょうし、一応、辻褄も合っているし、
真犯人を示唆する伏線もあちこちにあります。しかし、それでも、常識的な人間の心理から言って、
こんなことをする意味あるの?とも思えるし、そもそも地の文に矛盾も幾つか・・・。
何か、トンデモないものを読んだ感じ。大傑作なのかデタラメの駄作なのか、ちょっと判断に苦しみ
ますので評価は保留。後日、良く読み返してみます。興味ある方は読んでみてください。とにかく、
色々な意味でスゴイよ。
3683:2006/12/18(月) 12:23:55 ID:IJAg51QD
連投スマソ

赤川次郎「知り過ぎた木々」(文春文庫)★★☆
永井夕子の高校生時代の活躍を描く「幽霊」シリーズ番外編。1985年発表。
或る女子高の林間学校。学園長夫人の失踪騒ぎに続いて発見された謎の女の他殺死体。更には毒薬騒ぎ
まで勃発する。自殺未遂で記憶を失った友人に随行してきた夕子は、一連の事件には前年の林間学校の
マラソン大会でおきた不可解な出来事に原因があると推理するのだが・・・。
大した伏線もなしに×××トリックを持ち出すのはちょっと頂けませんね。マラソン大会における或る
謎の真相はまあまあ。結末が非常に駆け足ぎみでやや説明不足なのが難。凡作でしょう。

赤川次郎「静かな町の夕暮に」(講談社文庫)★★★
1988年のノンシリーズの長編。
山あいの小さな田舎町に映画のロケ隊一行がやって来た。演劇部に属するヒロインの女子高生はエキス
トラとして出演するが、そのうちに未亡人の母親が主演の男優と急接近し、遂には再婚することに。
しかし事件は起こった。同じくエキストラ役だった演劇部の後輩が学校で殺され、彼女と付き合いの
あった男子高校生も自殺。新しい父親となった男優にも不審な動きが・・・。
「爽やか」「明朗」でもちょっと「苦い味」のするミステリです。やや伏線不足ですが、意外な犯人の設定
は上手いと思います。でも全体に仕掛けが乏しく、これも凡作。

草川隆「L特急<かいじ>に消えた女」(双葉文庫)★★☆
1990年の長編。
映画の撮影中に起こった殺人事件。主演女優が男優を刺殺する演技で、ナイフが本物にすり替えられていた。
誰が小道具をすり替えたのか?事件発覚前に何も知らずに更に次のロケ地に向かった女優は信州・諏訪湖で
水死体となって発見される。覚悟の自殺なのか?だが関係者には鉄壁のアリバイがあった・・・。
アリバイ工作は全体に陳腐なもの。ロケ現場における或るトリックは、まあ合格点でしょうか。探偵役となる
駆け出し女優とマネージャーのコンビがちょっと新鮮に感じられるだけで、何とも個性に欠ける作品です。
369名無しのオプ:2006/12/18(月) 19:09:44 ID:yw1dSrJ2
>>367
さっそくブッコフ行ってみましたが見つからず。読みてー
でも代わりに長井彬『槍ヶ岳殺人行』ゲト。
370名無しのオプ:2006/12/18(月) 19:15:27 ID:yw1dSrJ2
っと、高柳『「ラインの薔薇城」殺人事件』はガイエの続篇か、
しまった。前作読んでないのに読み始めちゃった・・・
3713:2006/12/21(木) 12:26:17 ID:yvwU6VDs
池田雄一「京都大文字連続殺人」(徳間文庫)★★★
1991年の長編。
東京・銀座のど真ん中で発見された全裸の死体。更には新宿の繁華街で発見された十二単を着た死体。
いずれも殺害現場は遠く離れた京都と判明するが、誰が何のために東京まで死体を運び、捨てていった
のか?捜査が進展するうちに、或る容疑者が浮かび上がる。だがその容疑者には鉄壁のアリバイがあっ
た・・・。
「出雲3号0713の殺意」にも登場した伊夫伎警部が活躍。2時間ドラマでテレビ化を狙っているかの
ような展開もありますが、タイトルに因んだ「見立て殺人」の趣向は面白いです。で肝心のアリバイトリッ
クは如何かというと、これは可もなく不可もなく、といったレベルでしょうか。じっくり考えれば誰でも
分かるレベルで、もう一捻り欲しいところ。その代わりラストにはヒネりを入れてますが、これは議論が
分かれそう。俺は無くても良いのではと思いますが。

津村秀介「宍道湖殺人事件」(光文社文庫)★
1986年のルポライター・浦上紳介物の長編。
山陰・松江のホテルから何者かによって転落死させられた男。彼の恋人は数ヶ月前にスイス・ジュネーブ
のホテルで謎の投身自殺を遂げていた。二人の死を不審に思った男の妹は、浦上とともに事件を追及するが、
容疑者と思しき男は同じ日に、横浜で殺されていた・・・。
序盤は非常に退屈で、こりゃ駄作だろうな、と危惧していたのですが、やがて、松江の被害者と横浜の被害
者が、ともに相手の事件の容疑者となっているという不可解な状況になるや俄然、面白くなったのですが・・・。
でもまさか、あの真相じゃないよな、と危惧していたとおりの結末。まあ他に解決方法はないとは思います
が、ヒネりも何もなく、このレベルで「本格」を名乗るのは、ちょっとおこがましいと思うし、本作を賞賛した
解説の権田萬治も反省してほしいです。騙された・・・orz
372名無しのオプ:2006/12/21(木) 14:38:57 ID:Zbfgl8w5
津村秀介は殆どが駄作ですから・・・(苦笑
373名無しのオプ:2006/12/22(金) 03:32:59 ID:aE1GuNFX
よくおぼえてないが、「影の複合」は面白かった記憶が。
3743:2006/12/22(金) 12:12:46 ID:Y9lHNAAT
赤川次郎「さびしがり屋の死体」(角川文庫)★★★☆
1978〜1980年の作品を集めた短編集。
巻頭の表題作は、心理カウンセラーの助手がヒロイン。彼女の親友が恋人の死を知って後追い心中して
しまう。だがその恋人が実は生きていた。ヒロインはカウンセラーとともに事件を追うのだが・・・。
長編に匹敵するアイディアとプロットを詰め込んだ佳作。意外な真犯人といい、結末のドンデン返しと
いい実に贅沢、でもたった50ページほどの短編に詰め込んだためか、ちょっとバタバタした印象。
「長き眠りの果てに」は両親の殺人に巻き込まれて意識不明となった女性が数ヵ月後に意識を取り戻す、
だが記憶喪失で事件の状況を思い出せない。関係者は事件の舞台となった別荘に集まるのだが・・・。
これも長編を支えられるプロットを投入、まあ結末は予想がつきましたが、「本格」というより「サスペ
ンス」風の佳作。CC物の長編にすると面白いかも。
「死が二人を分かつまで」は銀行から現金を横領した女性が名前を変えて別の会社に勤めていた。銀行に
依頼された興信所の調査員が女性を追うのだが・・・。凡作。
「できごと」は修学旅行先で起きたレイプ騒ぎの顛末。一応、犯人当て物になってますが凡作。
「三人家族のための殺人学」は、ともに殺し屋を稼業とする夫婦の話。妻の方が「仕事」に失敗、自然死に
見せかけたはずなのに、被害者はナイフで刺されて発見される。真犯人を見つけ出さないと、組織から消さ
れてしまう・・・。意表を突いた急転直下の結末が見事。伏線も上手い。
以上全5作。この頃の作者はアイディアが溢れ返っていたようですね。出来が悪い作品もありますが、投入
されているアイディアの量は半端ではありません。
それにしても、この文庫の郷原宏の解説は噴飯もの。同時期の松本清張作品の解説では全く逆の主張をして
なかったっけ?そして「郷原節」の例の決めゼリフ・・・。スゴい。
375名無しのオプ:2006/12/23(土) 00:57:50 ID:r8dguyOw
「読みました」報告・国内編15

梶龍雄「草軽電鉄殺人事件」(廣済堂文庫 1989年)★★★★☆
「殺人者は長く眠る」(中公ノベルス 1983年)の改題、文庫化。
昭和34年、軽井沢と草津温泉を結ぶ草軽電鉄から当時の人気女優白川梨花が不可解
な状況で失踪した。
24年後、主人公の青年は軽井沢の画廊で出会った少女から祖母である梨花の失踪事件
の真相解明を依頼される。当時の関係者たちを訪ねまわる二人だが、今度は少女の母親
が毒殺される・・・・
クリステイが中期の秀作「五匹の子豚」以降とりいれた「回想の殺人」テーマの本格編。
旧タイトルとのシンクロで梶龍雄版「スリーピング・マーダー」というべきでしょうか。
あらすじだけでこの作品の魅力を伝えられないもどかしさがありますが、列車からの
消失トリック、毒殺トリックなどトリック満載ですが、最終章で明かされる衝撃の真相
にこれらのトリックが翳んでしまいます。これは本格ミステリの埋もれた傑作でしょう。



3763:2006/12/25(月) 12:09:58 ID:vYMKRuRh
山崎洋子「横浜秘色歌留多」(講談社文庫)★★★☆
1989年の長編。決して「本格」とは言いがたい気もしますが、それなりに「犯人当て」と「仕掛け」を
意識した作品だと思うので紹介。
大正十年。東京の下町から行方不明の父親を探して横浜に来た桃子。母親は本牧の娼館のマダムとなって
おり、父親が訪ねてきたらしいのだが、行方は掴めない。桃子は隣人の小説家の世話で、亡命ロシア人
ブリエンの屋敷に女中として働くことに。だがブリエンは姪のエレナを使って何かを画策しているらしい。
活動写真にのめりこんでいる小説家にも不穏な動きが。やがてブリエンは体をピンク色に染めて殺されて
しまう。犯人は誰か、そして残されたエレナの秘密とは・・・。
一応、アリバイトリックやら犯人当ての趣向もありますが、やはり大正時代の横浜の風俗描写が出色の出来。
谷崎潤一郎をモデルにした小説家やら桃子の母親の屈折した心情など、脇役も上手く固めています。
「エピローグ」にも一応、意外性を狙った趣向があるし、「本格」風作品として、まあまあの水準ではないか
と思います。

梓林太郎「奥入瀬殺人渓流」(光文社文庫)★★☆
1993年の長編。スレの主旨からは外れる年代の作品ですが、感想が書かれることも少ないかと思うので・・・。
北アルプスの遭難救助隊員の紫門は、登山中、岩場で食事直後に眩暈を起こして転落死する事故が相次いだこと
に疑問を感じ、関係者を尋ね回る。一連の事故は何者かが画策した「殺人」なのではないか。更に調査を進める
うち、青森の奥入瀬渓流で起きた殺人事件も関係していることを掴む。やがて一人の容疑者が浮かび上がるが、
彼には岩場の転落死の時も、奥入瀬の事件の時も鉄壁のアリバイがあった・・・。
登山に因む小道具を使ってのアリバイ工作は、まあまあでしょうか。でも基本的なアイディアにオリジナリティが
感じられません。転落死におけるアリバイ工作は深谷忠記などが先行して使っているし、奥入瀬の事件の仕掛け
だって、警察の鑑識が気づかないのは変。探偵役も魅力不足。
3773:2006/12/25(月) 12:13:28 ID:vYMKRuRh
連投スマソ

高柳芳夫「ベルリンの女」(徳間文庫)★★★
1982年の短編集で、全てヨーロッパのドイツ、チェコ、オーストリアなど欧州が舞台の作品集。
表題作は、ベルリンのアパートで鍵のかかった部屋で死んだ男の話。発見者の妻と日本人の男には
アリバイがあったのだが・・・。J・スラデックの某作品にも似た大掛かりな趣向も上手いが、全て
が解決したと思われた後の裏の真相が見事。これが集中のベスト。
次点は「ヴィーナスの山の白い館」かな、J・D・カーなどが使った或るトリックで、レッドヘリ
ングの配置も上手い。でもそれ以上の仕掛けがなく残念。
「フィヨルド殺人事件」「国際電話会社殺人事件」は各々トリッキーな趣向があるが今一つの出来栄え。
「ラインの誘惑」は、単なるアリバイ崩しとみせて、実は主人公の屈折した心情を描いた心理スリラー
風作品。
「落下」「淫蕩の城」は珍しいショートショート。後者は古いドイツ怪奇小説そのままで面白くないが、
前者はこの作者らしからぬ文章で、乱歩「白昼夢」に似た雰囲気でベルリンの街を描いた佳品。でも、
「本格」ではないので・・・。
378名無しのオプ:2006/12/28(木) 22:16:09 ID:VRs2YswW
3氏が今年中に切札を明かしてくれますように……
3793:2007/01/04(木) 12:10:46 ID:4e3T+7Oh
>>378
リアルタイムで読んでる作品から傑作を発見できれば、前の切り札は発表しても良いのですが、見ての
とおりの状況ですのでねえ・・・。

井沢元彦「隠された帝−天智天皇暗殺事件」(祥伝社文庫)★★★
1990年の長編。
右翼過激派のテロの標的となったニュースキャスターの五条。一緒にいた友人は死亡するが、五代は幸運
にも重傷で済み、その入院中の無聊を紛らわせるため、死んだ友人と研究していた「天智天皇暗殺説」の謎
を解くこととなった。一方で、死んだ友人の遺族は、或る私立探偵に事件の真相究明を依頼、探偵は右翼の
大物へと迫ってゆくのだが・・・。
「天智天皇暗殺説」は、なかなかの迫力と説得力で展開されています。まあ一つの仮説としては非常に面白い
です。一方で現代に起きたサイドストーリーも、安っぽい軽ハードボイルド調ではありますが、それなりに
「本格」を意識して描いており、真相に関する或る伏線など上手いのですが、動機に関する重大な事実を最後まで
伏せていたのはダメ。しかし、意味深長なプロローグなど、捨てるには惜しい作品。

由良三郎「運命交響曲殺人事件」(文春文庫)★★☆
1984年、サントリーミステリー大賞受賞の処女作。
或る地方都市の交響楽団に東京の新進指揮者が招かれた。だがコンサート当日、ベートベン第五「運命」の開始
とともに、指揮台に仕掛けられた爆弾が爆発、死傷者多数の大惨事が勃発した。爆弾を仕掛けたのは誰か、また、
そのメカニズムはどうなっていたのか、指揮者を狙った動機は何か、地元県警本部の捜査一課長は、甥の素人探偵
とともに事件を追うのだが・・・。
音楽に関係の深い「或るもの」を使った爆破装置のトリックが非常に独創的で面白かったです。でも感心する部分は
そこだけ。それ以外の謎解きは凡庸で、「退屈」の一言。
3803:2007/01/04(木) 12:13:12 ID:4e3T+7Oh
連投スマソ

日下圭介「『野菊の墓』殺人事件」(光文社文庫)★★★
1988年の長編。
新聞社に入ったタレ込み情報。静岡県に漂着した死体は単なる事故ではなく殺人事件だという。密告者の
氏名を聞いた新聞記者は、その女性が「伊藤左千夫『野菊の墓』には重大な秘密が隠されている」という新聞
の投書で紹介されている評論の著者と同一人物であることに気づく。だがその著者は或る事件に絡んで十年
前に死んでいたし、その著書も見つからない。一方、静岡の水死事故は殺人事件の容疑が濃くなってくる。
被害者は南紀地方を旅行中に奇禍に遭ったものらしい。新聞記者らは調査を進めるうち、関係者の謎の自殺を
突き止める。だがその自殺も他殺ではないのか、しかし疑わしい者には鉄壁のアリバイがあった。そして、左千夫
「野菊の墓」に隠されている秘密とは何なのか・・・。
関係者がダラダラと整理されずに多数登場し、彼らを巡るうちに、事件の謎もダラダラと判明してゆくだけの
ストーリー。ただ、自殺偽装のトリックやその伏線のさり気なさ、×××によるアリバイ工作、「野菊の墓」の原作
を使った或るネタなど、アイディアは巣晴らしいのに、要らない人物が多かったり、謎解きの展開が詰まらないため、
損をしていると思います。もうちょっとシンプルな構成にすれば佳作となり得たのに残念。
381名無しのオプ:2007/01/04(木) 21:01:59 ID:kidky+Tr
「読みました」報告・国内編16

梶龍雄「連続殺人枯木灘」(1982年 徳間書店、1986年文庫化)★★★
和歌山県南紀の漁村で東京から来た昆虫マニアが射殺される事件が起き、友人の
主人公青年がその真相解明に乗り出す。一方、当漁村沖の無人島に野外冒険活動
に来ていた児童30名が謎の武装集団に囚われ身代金がわりに大量のモルヒネを要求、
政府は現地に政務次官を派遣する。
この二つの事件の背景には終戦直前の憲兵将校らによる新型銃器強奪事件が関係して
いたのだが・・・・
無人島乗っ取り犯の陸地での共犯者は誰か、そして意外な首謀者の正体は?
この辺は伴野朗の初期冒険サスペンスを思わせますが、前半の本格ミステリから
一転後半の謀略サスペンスへの展開に違和感を感じ、ともに中途半端な印象。
異色作ではありますが、本格フアンにはお奨めできません。
382名無しのオプ:2007/01/07(日) 21:28:51 ID:7PvU/1iT
正月休暇で約10年ぶりに帰省し実家の書庫を整理したところ、このスレ対象の
ミステリが大量に出てきた。
斎藤栄、山村美紗、深谷忠記、梶龍雄、西村京太郎、森村誠一、赤川次郎など
それぞれ20〜30冊、自分でもビックリしました。ほとんど読んだ記憶が欠落
しており、もちろん内容はまったく思い出せない。
歳をとるのもいいものですね、初読の感じで3冊ほど読みました。
3氏が上のほうでレヴューしている司城志朗「そして犯人もいなくなった」も既読
でした。
383名無しのオプ:2007/01/07(日) 23:08:50 ID:9lRLGMTe
レヴューきぼん。
384名無しのオプ:2007/01/08(月) 12:49:06 ID:7rnMwFkX
「読みました」報告・国内編17

梶龍雄「殺人者にダイヤルを」(1980年 講談社)★★☆
「天才は善人を殺す」の芝端敬一ら4人組大学生探偵団が再登場する本格ミステリ。
エリート銀行員とクラブホステスの変死事件が続発、同じクラブにアルバイトとし
て働いていた探偵団の紅一点・京子は仲間とともに真相解明に乗り出した。
事件の背景に銀行業界を揺るがす「トマト計画」という陰謀が見え隠れしていた・・
アリバイトリックにフィボナッチ数列の論理を絡ませたところに新味があるが、
最後のどんでん返しはちょっと強引で、単行本初期6冊のなかでは落ちる出来。
文庫になってない理由がわかる気がする。

梶龍雄「女はベッドで推理する」(1986年 サンケイノベルス)★★★
浮気妻エリ子&黒沢警部補コンビのお色気本格ミステリ連作。
幽霊シリーズ(宇野警部&夕子)や美食探偵シリーズ(酒島警視&鮎子)と同様の
素人女性探偵と警察官コンビ、まあ素人が何度も事件に遭遇するにはこのような
シチュエーションが必然でしょうね。
軽い気持ちで読み始めたが意外と本格度が高くお奨めです。
続編「浮気妻は名探偵」(1989年 桃園書房)も質が落ちていない。

3853:2007/01/09(火) 12:24:01 ID:i+eQKi0o
小杉健治「陰の判決」(新潮文庫)★★★★☆
1985年の長編。
弁護士の水木を訪ねてきた女性。十三年前に獄中死した父親の冤罪を晴らして欲しいと言う。水木は
当時この事件に関わり、現在は冤罪事件解決のヒーローとなり、今も或る事件の再審を進めている中西
弁護士に相談し、再審請求に向け、事件を再調査するのだが・・・。
本作は飽くまで法廷ミステリであり、「冤罪」と「再審」の意味を鋭く問う社会派の秀作ですが、終盤、
二転三転した末に、読者の予想を上回る結末が待ってます。やや伏線不足ながらも、緻密な裏の計画が
張り巡らされており、意表を突くトリックも幾つか仕掛けられていて驚きました。「本格」作品としても
佳作でしょう。

井沢元彦「暗鬼」(新潮文庫)★★★★
1987年の時代物ミステリ短編集。
表題作は家康の前半生に取材し、桶狭間の戦いの裏面と、子供を巡る家康の疑心暗鬼を扱った作品。
ミステリ的にはどうということはない。「明智光秀の密書」は正統な本格ミステリ。本能寺の変の直後、
光秀は毛利方に加勢を頼むべく密書を送るが、秀吉に密書を奪われてしまう。だがその密書は暗号で
書かれていた。苦心惨憺の末、解読した結果とは・・・。これは秀作。
「楔」は伊達政宗と豊臣秀吉の心理的暗闘。毒殺トリックは大したことないが、先の先まで読んだ政宗と
秀吉の駆け引きがめっぽう面白い。
「賢者の復讐」は不老長寿の薬を求める秀吉に対する果心居士の復讐。トリックは荒唐無稽だが、この
時代でならではのもの。「抜け穴」は大坂冬の陣、夏の陣を舞台にした家康の深慮遠謀を扱った作品。
「ひとよがたり」は秀吉の正妻・ねねに関わる奇談、「最後の罠」は家康の死因を巡る謎。これもトリッキー
な趣向が冴えている。「本格」風の作品は半数にも満たないがお勧めです。
3863:2007/01/09(火) 12:27:27 ID:i+eQKi0o
連投スマソ

嵯峨島昭「湘南夫人」(光文社文庫)★★
1978年の酒島警視が活躍する長編。
ストーリーは、義姉を慕う主人公の青年、義姉の姑の嫁イビリ、不倫、転落の人生・・・、何と言うか、
ベタベタのメロドラマで辟易しました。それらを剥ぎ取った骨格そのものは、海難事故と謎の幽霊船を
巡る保険金詐欺のカラクリを酒島警視が解明するもので、或るトリックも潜ませて、まあ「本格」と言え
なくもないですが、メロドラマが前面に出すぎて、酒島警視の謎解きが後ろに追いやられているのが残念。

斎藤栄「謎の幽霊探偵」(集英社文庫)(採点不能)
1981年のノンシリーズの長編。
三浦半島で自殺未遂の女性を救った高校の同窓生グループとその恩師。その女性が富豪令嬢であることを
知るや、一行は恩師の反対も聞かずに営利誘拐犯に早代わり、女性をダマして信州へと向かう。だが長野へ
の車中でリーダー格の男が殺される。その後も、誘拐メンバーが一人、また一人と殺されてゆくが、被害者
の一人は成仏できずに幽霊となり、自分を殺した真犯人を追及する・・・。
これはスゴイ。「荒唐無稽」で「支離滅裂」なバカミスの金字塔。列車に関するアリバイトリック、密室トリッ
クも出てくるが腰砕けの真相。ダイイングメッセージと、そのトリッキーな仕掛けだけ上手い。
マトモなはずの恩師の教師もスゴい。教え子を止めることも出来ずに、手をこまねいた挙句、各章ごとに一句ずつ、
お手製の川柳を披露!!ナメてんのか。実はこの川柳にもトリッキーな意味があるのですが、もはや暴走したバカ
ミスにとってはどうでも良いこと。それでも要所要所に伏線らしきものがあるのが余計にオカしい。
かなりヘンだが、これはこれで別の意味で面白かったです。
3873:2007/01/09(火) 12:35:18 ID:i+eQKi0o
3連投スマソ

夏樹静子「ひとすじの闇に」(文春文庫)★★
1982年の短編集。「斬新なトリックの本格ミステリー集」「トリック・メーカー」等々の惹句に
期待して読んでみたが裏切られました。殆どが凡作。
「死者の嘘」はダイイングメッセージ物だがオチが凡庸、「ヘソの緒」は臍の緒に関する意外な
事実?に驚いたのみ。実際にこんなことが行われているのかなあ?「普通列車の死」も、東海道
線の車内で死んだ男は、何故、新幹線を使わなかったのか、という滑り出しが面白そうだったが、
真相は尻すぼみ。
「鼓笛隊」「遭わなかった男」「年一回の訪問者」とも、起承転結と結末のヒネりは上手いが、
決して「本格」と言えるレベルではない。
例外は一番短い作品「走り去った男」でこれがベスト。何気ない書き出しが、後半一転して全く
別の意味を持っていたことに気付く、技巧を凝らした佳品。一字一句、計算し尽くしている。
本作だけ凄い。
それにしても、解説で絶賛している松村喜雄は、根本的に「トリック」の意味をはき違えてますね。

深谷忠記「踊子の謎 天城峠殺人交差」(祥伝社ノン・ノベルス)★★★
1990年の壮・美緒シリーズの長編。
美緒の友人の姉が伊豆半島で消息を絶つ。死体発見の報に下田に向かうが、別人だった。安心した
のも束の間、今度は天城峠で、その人物が他殺体で発見される。しかも下田の事件と密接に絡んで
いるらしい。関係者のアリバイは完全だったが・・・。
派手なトリックは殆どないですが、些細な矛盾点から、理詰めで真犯人とアリバイ工作を解明する
手際は流石の出来栄え。
388名無しのオプ:2007/01/10(水) 00:01:53 ID:BEv77Vv9
初めてカキコします。まだ出ていない作家のようなので。
書き方は真似させてもらいますね。

峰隆一郎「金沢発寝台特急「北陸」13分の殺意」(集英社文庫)★★
1988年の長篇。シリーズ探偵のようです。その探偵役が二人いるのが、珍しいといえば珍しい。
元・警視庁捜査一課刑事で、懲戒免職になって貧乏私立探偵の栢次郎と、テニスクラブの
社長で、何故か柔術の達人でめちゃくちゃに強い高比良亮という二人が探偵役。
他の作品は知りませんがこの作品ではどちらかと言うと後者が活躍しています。
お話は、寝台特急「北陸」で妊婦が刺殺され、容疑者が二人。ナイフの掌紋から一人が
じきに逮捕されるものの、もう一人の疑いも晴れず、探偵役がそれぞれ調査して…
なんていう筋です。
タイトルの通り、アリバイ崩しを主眼に置いたもので、捜査もまぁ丁寧なんでしょうけど、
どうもトリックがエレガントでないというか…。力技!って感じ。推理も、いろんな方法を
考えて検証しては打ち消して…という流れではなく、ひとつの方法にこだわってどうにか
こじ開けた!という感じで、本格の妙味はいまいち。二人の容疑者を巡る結末には
サービス精神みたいなものは感じられるんですけどね。
ただ、高比良亮の強さが尋常ではなく、その格闘シーンはなかなか痛快でした。
この著者には、何故か同じ列車を扱った「金沢発特急「北陸」殺人連鎖」(講談社文庫)も
ありますが、そちらはどうも官能シーンたっぷりの模様。いずれ読んでみます。
拙い投稿で失礼しました。
389名無しのオプ:2007/01/10(水) 01:36:50 ID:LTGvzC8G
磯部立彦「フランス革命殺人事件」(大陸書房)★★★

フランス革命が舞台という設定は面白いけど「本格度」はそんなに
高くないと思う。犯人の目星も後半にはつくし。トリックらしい
トリックもなかったような……?
390名無しのオプ:2007/01/10(水) 05:42:45 ID:hmwZch/Y
>388
官能シーンたっぷりなんてもんじゃないぞ、@峰作品
劣化版津村秀介風エロ小説といったところ。
391名無しのオプ:2007/01/10(水) 12:15:56 ID:uU/k8LiA
峰隆一郎と隆慶一郎を間違えたことが多々ありますw
峰のエロトラミスを何作か読んだことがあるけど、俺にはダメだった
笹沢の官能は許せるんだけど、峰の官能は許せない・・・
3923:2007/01/11(木) 18:20:35 ID:03VIOeCV
谷恒生「虚空アカシャの殺人」(光文社文庫)★★☆
1984年に出た「血文字『アカシア』の惨劇」の改題版。
海運王・五明家の御曹司とアイドル歌手・藤咲えりかの結婚披露宴の最中、シャンデリアが爆破され、
御曹司は死亡、えりかも負傷する。更に披露宴の司会者も殺される。部屋には「アカシア」の血文字が
残されていた。警視庁捜査一課の宗近は事件を追い、藤咲えりかの過去に事件の謎が隠されていること
を知る。だが、舅の五明重信とともに屋敷で隠遁生活を送る藤咲にも魔の手が迫っていた・・・。
一応、終盤には密室トリックが出てくるし、屋敷に一同が会しての謎解きシーンなど、「本格」を意識
していますが、真相は肩透かしだし、手掛かりが事前に読者に十分に与えられていないのも不満。しかも、
全てが論理的に解明された後に、話がヘンな方向に行ってしまうのもなあ・・・。凡作。
393名無しのオプ:2007/01/12(金) 22:35:46 ID:q6ttVVrw
3氏、2ちゃん閉鎖の前に切り札お願いします
394名無しのオプ:2007/01/14(日) 18:32:09 ID:59bQHzzs
私からも是非
3953:2007/01/15(月) 12:18:26 ID:cpt/OeKj
えっ?2ちゃん閉鎖!?それまでにどんどん紹介しなければ・・・。

高場詩朗「神戸舞子浜殺人事件」(天山ノベルス)★★★☆
1989年、前年の日本サスペンス推理大賞候補作を改題したもの。
神戸のタクシー会社の労使紛争で、深夜、無線室にいた社長が殺される。泥酔の挙句に殺したものとして、
組合の委員長が逮捕される。だが現場は完全な密室で、その謎だけは警察も解くことが出来なかった。逮捕
された男の息子は父親の無実を信じて事件の調査に乗り出すが、被害者を巡る関係者も殺され、その容疑者
として警察に追われるハメに・・・。
この作家の他の作品は知りませんが、本作は青臭いながらも青春小説風の本格ミステリとして、まあ頑張った
方だと思います。密室トリックは二段構えのもので、某海外有名作品に近いながらも工夫を凝らしており、
「その理由なら、密室にしなくとも他に方法はあったよな」とは思うのですが、そこはそれw、一応、密室の
必然性は説明しているので問わないことに。意外な犯人の設定もまあまあ。ただ伏線があからさま過ぎるのが
難点。あと、主人公が活躍すればするほど、警察のダメっぷりが強調されるだけで、もうちょっとバランスを
考えてほしいです。でも、そこらの有名作家が「本格」と称して書き飛ばした作品より、遥かに好感は持てるので、
甘いですが★3つに☆一つ。

鳥井加南子「月霊の囁き」(講談社文庫)★★☆
1985年の長編。
岐阜県の地方都市に誕生した新興宗教「月霊教会」。教祖は東京の社長夫人だったが、彼女が知らないところで
金銭トラブルが発生、担当の役員が殺されるが、トラブルに絡む容疑者にはアリバイがあった。教祖の学生時代の
後輩と、知り合いの雑誌記者が謎を追うのだが・・・。
一応、アリバイトリックが出てくるし、最後には意外な犯人も設定されていますが、短いこともあってか、新興
宗教に踏み込んでいる訳でもなし、謎解きに徹している訳でもなく中途半端な印象。犯人の動機もどうかなあ、
というレベル。何より、小説としての緊密感に欠けているのが残念。
3963:2007/01/15(月) 12:22:01 ID:cpt/OeKj
連投スマソ

池田雄一「北陸特急『白山』『しらさぎ』連続殺人」(立風ノベルス)★★★
1990年の伊夫伎警部物の長篇。
北陸の金沢駅にほぼ同時刻に到着した、下り「しらさぎ」と上り「白山」で、それぞれから他殺死体が
発見される。捜査の結果、一方の被害者の指紋やら証拠品などが出てきて、「各々の被害者が、もう一方
の事件の加害者」という不可解な状況に陥る。だが石川県警の若手刑事の活躍で、その謎は解かれる
ことに。その頃東京の警視庁では、身元不明の白骨死体を巡って伊夫伎警部が捜査を続けていたが、やがて
金沢の事件との意外な接点が・・・。
序盤の謎をあっけなく解きながら、結末でもうひとヒネりしたのも面白く、意外な真犯人の正体など、かなり
練ったトリックとプロットを投入しながら、ストーリーは、もう絵に描いたようなベタベタの2時間ドラマの
トラミス。
北陸の風物、加賀友禅染の老舗のお家騒動と贋作騒ぎ、薄幸の女性、歓楽街に蠢く色と欲、地元警察と警視庁の
マンガみたいな対立、若手刑事の恋の行方、そして結末は、まさかと思ったお約束の能登の海岸の断崖シーン・・・。
もう笑うしかないです。
トリックと謎解きは決して一流ではないけど「本格」として水準は保っているのに、何でここまでベタにする
かなあ?

皆川博子「奪われた死の物語」(講談社文庫)★★★
1979年の作品。
売れない作家のことろに雑誌の企画が舞い込んだ。全国各地の風景をプロのカメラマンがモデルを使って写真に
撮るので、それに同行して、写真のイメージに合った短い小説を付けてほしい、というものだった。一行は平戸、
網走、能登、京都・・・、と各地の名所を巡るが、その途上で、カメラマンの妻が謎の転落死を遂げ、継いで作家も
睡眠薬で死んでしまう。作家の後を引き継いだ女流作家が謎の真相を追うのだが・・・。
作家の書いている短編小説と、実際に起きていることを記した、作家の「ノート」が交互に出てくる凝った構成で、
一種の幻想小説でありながら、色々と伏線なども潜ませた謎解き物。いかにもこの作家らしい作品ですが、結局、幻想
小説としても謎解きとしても中途半端に終わった感じ。意欲は買いますが・・・。
3973:2007/01/15(月) 12:25:19 ID:cpt/OeKj
3連投スマソ

福本和也「北太平洋の壁」(光文社文庫)★☆
1989年の長編。
シアトルで射殺された日本の会社重役たち。容疑者は簡単に割り出されたが、その男は事件の数日前に
ヨットでシアトルを出港し、太平洋単独横断の途上にあった。警視庁の知り合いから非公式に事件を依頼
された、ヤクザの御曹司にして民間航空パイロットの酒巻は、水上飛行機の存在を突き止め、洋上で容疑
者は共犯者と交代したものと推理、事件はあっけなく解明されたかに見えた。だが、日本に到着したヨット
から出てきたのは容疑者だった・・・。
容疑者が一度もヨットから離れなかった・・・、という辺りで盛り上がり、水上飛行機などという詰まらない
手段の上を行くアリバイ工作が最後に待ち構えているのだろう、と期待しましたが・・・。下らない。一応、
謎解きの体裁だけは整えているが、脱力の真相。しかもヤクザにしてパイロット、って何だ?フィクション
なので面白く描いてくれれば、どんな設定でも良いけど、その設定を生かしきれておらず、鼻白むばかり。

・・・閉鎖まで未だ時間はありますよね?切り札は次回にでも。
398名無しのオプ:2007/01/15(月) 21:15:58 ID:IxY6SYp8
>>396

皆川博子『奪われた死の物語』は昭和ミステリ秘宝で復刊された
『花の旅 夜の旅』の別題ですね。
3993:2007/01/19(金) 12:25:31 ID:hljNAw7n
2ちゃん閉鎖かどうか知りませんが、安全をみて「最後の切り札」を紹介しときます。

陳舜臣「獅子は死なず」(講談社文庫)★★★★☆
これは2005年に文庫化されたので、今でも十分入手可能と思います。今まで未収録だった新旧の
ミステリその他の短編が収められており、何と言っても、デビュー間もなくの1962年頃に発表され、
俺が国産ミステリの短編集で最も好きな『方壺園』に収録されなかった、「狂生員」「厨房夢」「回想死」
「七盤亭炎上」の4編が目玉です。
「狂生員」は、少なくとも俺は今まで見たことも聞いたこともない、特殊な状況での「フーダニット」
の傑作だと思いました。トリックは全く違うが、何故かT・フラナガンの名作「北イタリア物語」を連想。
作品の持つテーマや格調においても、「方壺園」「九雷渓」等の名作に劣らないと思う。何故、『方壺園』に
収録されなかったのだろう?
「回想死」「七盤亭炎上」は、ともにアリバイ工作が出てくるが、それ自体には見どころはないものの、
やはりこの作者にしか描けない独特の格調高い本格ミステリで十分楽しめます。でも「方壺園」収録作には
劣るかなあ・・・。「厨房夢」は毒殺に関するものだが、本格ミステリとは言いがたいです、でも佳作。
上記4編以外の表題作他の作品は1970〜90年代に発表されたもの。ミステリではないですが、これまた滋味に
溢れた佳品揃い。
なお飽くまで、ガチガチの本格としてでなく「小説の格調高さ」が主眼の評価ですので念のため(それじゃ
切り札にならないかなあ?)

・・・ということで、最後の切り札は、1960年代の作品だが新刊として書店で入手可能なもの、というオチ。
お粗末様でした。
400名無しのオプ:2007/01/19(金) 13:21:06 ID:fTjU51X/
400GetBackers!

3氏よ今まで有難う!
これからは貴方のこと3師と呼ばせていただく!
さようなら!
4013:2007/01/19(金) 13:30:32 ID:hljNAw7n
ヲイヲイ・・・w
俺は今後もリアルタイムで読んだ作品は書き込みますので、未ださよならには早すぎますよ・・・。
でもそうか!2ちゃん閉鎖なら否応なく、さよならか・・・。

そうそう、講談社文庫から陳舜臣の最新刊「神戸わがふるさと」が出て、やはり1962年頃の短編が
収録されているので楽しみです。ミステリかどうか知らないですが(講談社の宣伝に非ず)。
402名無しのオプ:2007/01/19(金) 14:24:31 ID:6OjrVPf7
「獅子は死なず」はノーチェックでした。
明日、本屋に行ってこようっと。
「神戸わがふるさと」を読了されたら、感想をお願いします。

私も>>400さん同様、これからは3氏を「3師」と呼ばせていただきますw
403名無しのオプ:2007/01/19(金) 18:37:20 ID:LnteW32x
>>367 斎藤栄「金糸雀の唄殺人事件」(光文社文庫)(採点保留)

詠みました。
エピローグに入るまでは「なんじゃこりゃ」だったんですが、
ラストまで呼んで( ´゚д゚`)エー

たしかに一応辻褄あってるし、伏線もあるけど、3師がいうみたいに、
「そんなことまでして殺人犯す理由がよくわからん」です。
犯人が(メール)してるとこ想像すると笑える。
密室トリックも実現可能かどうかよく分からんし・・・

でもおもしろっかったです。メフィスト賞作家あたりが描きそうw 
斉藤栄は初読みなのだが、こういう作風の人だったのか・・・ 
404名無しのオプ:2007/01/19(金) 22:58:45 ID:LnteW32x
>>81 陳舜臣「孔雀の道」★★☆

自分も読みました。前時代的ラブロマンスにイライラしましたが、
(メール)の方は騙されました。でも物語的には少しタイクツ・・
405問題  俺を見つけてみな!:2007/01/20(土) 13:20:40 ID:ta4rxcU1
dear 高卒準看馬鹿茄子

from 日昇国彩圏西部ライオンズ市 
   「吉川病院」幻帥 鶏 哲夫

いつも俺の心を満たしてくれてありがとう。
いつも俺を癒してくれてありがとう。
いつも俺のカレー臭を嗅いでくれてありがとう。
俺は君が好きなのだ。好きでたまらないのだ。
カレー臭のするこんな俺だけど・・・
小さいことにすぐにカッカッして鶏冠をたててしまうこんな俺だけど・・・
鯖を上手にさばけないこんな俺だけど・・・
専門資格がないのに専門害来するこんな俺だけど・・・
どんなときも他力本願な俺だけど・・・
イキガルけどビビリへたれなこんな俺だけど・・・
老いているわりに精神的に幼いお茶目なこんな俺だけど・・・
髪のボリュウムが少し気になるこんな俺だけど・・・
ラグビーボールのこんな顔だけど・・・
ケンシロー眉なこんな俺だけど・・・
オイリーなこんな俺だけど・・・
ハイエナのように患者にこっそりたかるこんな俺だけど・・・
トラのサッチーに足元にも及ばないこんな俺だけど・・・
406名無しのオプ:2007/01/21(日) 14:19:38 ID:Z48b9noX
「獅子は死なず」はひょっとして単行本では「わが集外集」として出たヤツですか
歴史小説集となってたのでスルーしてましたが・・・・
4073:2007/01/22(月) 12:14:43 ID:giBJ2xTz
陳舜臣「神戸わがふるさと」(講談社文庫)★★☆
未収録エッセイ&神戸を舞台にした初期短編集。初出の記載が殆どないので不明ですが、短編は1962年〜
70年代のものと思われます。
「S君に」「気になる男」はエッセイ風の非ミステリ作品。後者は作者の或る友人の波乱万丈の半生を追った
もので、結構面白かったです。
「遠矢浜心中」はアリバイ物ですが、トリックも話も冴えない出来。「拾われた男」はオチはあるけど、ミス
テリとは言いがたい。
「半月組」は1962年に「宝石」誌に掲載の作品。殺されたヤクザを巡って、仲間たちが内部にいる裏切り者の
犯人探しをする話。「フーダニット」の基本とも言える或る仕掛けで決着、と思いきや、全く予想外のオチが
あります。この作者らしくないオチで唖然。
「山のアパッチ」は六甲山の自動車窃盗犯を巡る話。どうという出来ではない。「さよならショー」もアリバイ
工作自体は面白くないが、結末のやり取りの皮肉が効いています。何か、戸板康二作品のような味わい。
「霧の鍵」も六甲山の山荘が舞台の殺人事件。これも大したものでない。
「残った石」はホテルで起きた殺人事件。或る男を狙う主人公がホテルの客室に押し入るが、突然やって来た
別の男に標的を殺されてしまう。しかも仇と狙っていた男をよく見ると別人だった・・・。ちょっとしたトリッキー
な錯誤が上手いが、それだけの話。
はっきり言って、全体に出来が悪く、今まで未収録だったのも当然でしょうか。ただ、ストーリーや登場人物が、
神戸の底辺で暮らすアウトローやら麻薬中毒者、敗残者などが多く、この作者の「ダークサイド」を見た気分でした
4083:2007/01/22(月) 12:16:51 ID:giBJ2xTz
連投スマソ

大西赤人「鎖された夏」(光文社文庫)★★★
1983年の「熱い眼」を加筆改題した長編。
一代にして大企業グループを築き上げた浜村一族。当主の死去に伴って、兄弟・親戚間の後継者争いが深刻化する。
そんな中、当主の長男の家庭教師として軽井沢の別荘に招かれた大学生・風戸は、別荘を舞台に一族を狙った連続
殺人に巻き込まれてゆく・・・。
欲に眼がくらんだ、曲者ぞろいの富豪一族、豪邸を舞台とした連続殺人。古典的な「本格ミステリ」のパターンを踏襲
していますが、これと言ったトリックがなく、華がないなあ、というのが正直な感想。伏線の張り方は上手いのですが、
登場人物などの設定や話の展開を考えると、真相は誰でも推測可能となってしまい、驚きが少ないのが残念。

辻真先「急行エトロフ殺人事件」(講談社文庫)★★☆
1982年のポテト・スーパー物の長編。
昭和19年、日米開戦がギリギリで回避されたもう一つの日本。しかし中国での事変は予断を許さない情勢で、
ポテトも召集が決定している。そんな中、キリコと兄・克郎は名古屋で開かれた同窓会に出席するが、行方
不明となった友人の安否を調べているうち、友人たちが次々と殺されてゆく・・・。
択捉島にある架空の鉄道「択捉線」の登場が遅すぎます。名古屋の描写が長すぎ、択捉線をどう描くのか期待
していたのでガッカリ。トリック的にもそれほどのものではないし、広瀬正のエピゴーネンのような出来でも
あるし、残念。
409名無しのオプ:2007/01/22(月) 15:08:48 ID:eUKuWhZo
3師、乙です
「急行エトロフ」評は手厳しいですね
4103:2007/01/24(水) 12:25:41 ID:GgBPYFAU
池田雄一「寝台特急『ゆうづる』『鳥海』連続殺人」(立風ノベルス)★★★
1991年の伊夫伎警部物の長編。
東北線を走る寝台特急「ゆうづる」で起きた殺人事件。被害者の童話作家は、二年前に姉を殺されており、
更には十年前の五億円強奪事件とも絡んでいることが明らかに。そして二年前の事件で犯人と目されて自殺
した新聞記者の恋人が容疑者として浮かび上がる。当時、記者を犯人と断定した伊夫伎警部を恨んで挑戦
してきたのか。だが彼女には事件発生時、日本海回りの寝台「鳥海」に乗っていたという鉄壁のアリバイが
あった・・・。
色々手の込んだプロットを立てているし、アリバイトリックも面白くはあるけど、どうも真っ当な「本格」とは
何かが違うなあ、という感じ。トリックはかなり意表を突いてくるけど、ちょっと伏線が足りないです。しかも、
またしても終盤のクライマックスは、龍飛岬の断崖での犯人と警部の対決シーン・・・w
その他、あちこちにテレビドラマ受けを狙ったような描写や設定が多々あり、どうも白けるなあ。
411名無しのオプ:2007/01/24(水) 17:35:53 ID:A5pHK3ew
>304 :名無しのオプ :2007/01/24(水) 15:51:14 ID:GgBPYFAU
>1960〜1980年代までの作品で「本格推理小説の傑作」と書かれてあっても、
>読んでみるとサスペンスや社会派だったりする

ちょw
4123:2007/01/24(水) 18:25:51 ID:GgBPYFAU
何度、その惹句に騙されたことか・・・。ということでご勘弁をw
例えば、以下のようなヤツです。

山村正夫「本州縦断殺人旅行」(双葉ノベルス)★★
1984年刊の全国の観光地などを舞台にした作品で統一した短編集ですが、各短編が書かれたのは1970〜
80年代頃と思われます。
「化物まつり」は山形・鶴岡が舞台。或るトリックを使っているが、所詮は短編、一発芸となり面白く
ない。長編で筋を膨らませて伏線を巡らせれば面白いのに・・・。
「確証」は塩原温泉。不倫の話で、まあどうでも良い出来。そもそも本格じゃない。
「落日の墓標」は同題の春陽文庫版で既読。八丈島を舞台にしたアリバイ崩しの佳作。
「複製の女」は蓼科高原。単なる双生児トリックと見せて実は・・・、という話だが、錯綜し過ぎていて
分かりづらい。これも長編向けかも。「オフェリアは誰も殺さない」は名古屋。どうというレベルではない。
「風紋の埋葬」は鳥取砂丘。ショートショートに近いし、本格ではないですが、ヒネリが効いていて意外と
面白かった。「落書きの女」は萩。これまた双生児トリックと見せて、という話。
全体に出来は悪く、既読の「落日の墓標」以外は水準以下。本格じゃない話もあるし・・・。
413名無しのオプ:2007/01/28(日) 00:29:27 ID:J00sD3LJ
>>127 深谷忠記「阿蘇・雲仙逆転の殺人」(ケイブンシャ文庫)★★★☆

読みました。遺体の切断理由はおもしろかったけど、
そもそもあんな計画必要なのかなあという現実的疑問が。
まあ、印象深いトリックではありました。
4143:2007/01/29(月) 12:30:04 ID:H91woW3J
小杉健治「偽証」(中公文庫)★★★★
1987年の短編集。これは傑作。
表題作は、或る女性が映画館で遭った痴漢が殺人容疑で逮捕、彼女は容疑者のアリバイを証明できる
のだが、再婚を控えていて、痴漢行為を許していたことを証言できない・・・。かなり意外な結末で、
ヒロインの心理描写も出色の出来。
「赤い証言」も、恋人に裏切られた女性が交通事故を目撃するが、恋人に似たタイプの加害者を逆恨み
して不利な証言をする。が、やがてアッサリと偽証を認め謝罪するが・・・。これも裁判の仕組みを
使った意表外の動機が見事。
「涙雨からくり」「向島心中」は、下町情緒漂う作品。どちらも意外性はあるが、ちょっと落ちる出来。
「消えた女」は郡上八幡を舞台に、或る男の初恋の女性と現在の妻を巡っての繊細な心理による裏の真相
が上手い。主人公自身の行動を含め、かなりアンフェアではありますが、連城三紀彦作品を読む味わい。
「隠し絵」「絵の証言」は美術界を題材にした作品。前者は、或る画家が馴染みの芸妓に頼まれ、嘘のアリ
バイ証言をするが、というもので、これもアンフェアではあるがラストの意外性は十分。後者は新進画家と
その女弟子と、彼を毛嫌いする老大家の確執。これもドンデン返しを経た上に、更に意味深長なラストを
迎える佳作。
どの作品も伏線、手掛かりという面からは、とても「本格」とは言い難いのですが、ひたすら結末の意外性に
拘り、しかもかなり高度な出来。ストーリーの雰囲気も、連城三紀彦っぽいところもあるが、むしろ現代の
横山秀夫の先駆とも言えそう。「本格」としてはともかくも、傑作短編集でしょう。
4153:2007/01/29(月) 12:33:42 ID:H91woW3J
夏樹静子「影の鎖」(集英社文庫)★★★
表題作は原題「ガラスの鎖」で1962年の作者の処女短編。夫と子供をひき逃げされた女性のストーリーと、
夫殺しを疑われる別の女性のストーリーが平行して進み、やがて・・・、というもの。或る古典的なアイ
ディアなのですが、描き方が上手いので最後まで気付きませんでした。佳作。
他の作品は1971年〜74年の作品。「殺さないで」はサスペンス調。意外な犯人はいるが、今ひとつ。
「ハプニング殺人事件」は温泉のヤケド騒ぎの後に勃発した殺人事件。アリバイ工作と意外な犯人に工夫を
凝らしているが大した出来ではない。
「愛さずにいられない」は、粗末なアリバイ工作をわざと崩させることで別の或る謎を隠すもの。大した
ことではないのに、何故か引っ掛かってしまった。これは上手い。
「逡巡傷」は強盗事件で夫を喪い、妻も重傷を負うが、実は、というもの。これも別の真相を隠す手際が
上手い。出来の悪い作品もあるが、全体的には先ず先ずのところです。

邦光史郎「昼と夜の神話」(徳間文庫)★★
1972年、後の歴史推理物「幻の・・・」シリーズの先駆をなす長編。
雑誌編集者の佐久は、婚約者の実家に結婚の許可をもらうべく山陰・松江に向かう。だが婚約者は行方不明
の末、殺されてしまう。実家は神道に仕える旧家で、巫女となるはずだった娘を誘惑した佐久を許そうとは
せず、また何かの秘密があるのか、彼を遠ざけてしまう。佐久は知り合いの歴史研究家・神原東洋とともに
事件の謎を追うが・・・。
古代史に関する薀蓄のみ熱心で、肝心の事件の伸展はかなり良い加減。一応、或る交通機関を使った森村誠一
ばりのアリバイトリックがあるが独創性なし、もう一つの或る機械的なアリバイ工作は・・・独創性あり過ぎて
笑ったw狙いは分かるが他に方法は無かったのか?バカバカしい・・・。ともかくも本筋のストーリーは至極
平板でしかない。怪しい人がそのままやっぱり犯人ということで終了、というだけ、日本の古代史の薀蓄のみ
面白いだけの話。
416名無しのオプ:2007/01/31(水) 07:11:10 ID:c1cWOk1U
柘植久慶とかどうなんすかね?
417名無しのオプ:2007/01/31(水) 09:32:44 ID:KJlMuygQ
すくなくとも本格ではないわな。
4183:2007/02/05(月) 12:20:14 ID:/8wY2hPW
小杉健治「死者の威嚇」(講談社文庫)★★☆
1986年の長編。
関東大震災の直後に起きたという朝鮮人虐殺事件。その遺体が埋められている荒川河川敷の発掘を
計画している助教授と恋仲になった亜希子。だが助教授は彼女を捨てて別の女性と婚約、失意の
亜希子は、やはり荒川河川敷の発掘に拘る宗田と知り合う。しかし彼の興味は朝鮮人虐殺にはない
ようだった。発掘を求めるのは何が狙いなのか?しかし彼は殺され、やがて嫌疑は助教授に。だが
彼にはアリバイがあった・・・。
方言や言葉が不自由なため、朝鮮人に間違われて虐殺された日本人がいた、というのが事実ならば
ショッキング。ヒロインのキャラクターも上出来でしょう。
ただミステリとして読むには些か謎解きが簡単過ぎてガッカリ。アリバイなどトリックはあってない
ようなものだし、死体の隠し場所も、分からないほうがおかしい。ただし、関東大震災の時に何が
あったのか?という点だけは予想外でした。結局、本格ミステリとしては落第。別の観点からはまた
評価があるのでしょうが。

由良三郎「殺人協奏曲ホ短調」(文春文庫)★☆
1985年の長編。
全身不随で寝たきりの妻の目の前で起きた夫の殺害事件。だが、視覚、聴覚、触覚も失い、ただ嗅覚
だけが異常に発達した「目撃者」の妻は、不可解なうなり声を上げている。彼女は一体何を伝えよう
としているのか・・・。
うなり声の謎解きは面白かったです。しかし、他は全くダメ。或る医学的な症状に基づくキテレツな
殺人トリックが出てくるのですが、そもそも最初に死因が「絞殺」と断定されているのだから、この
謎解きはまるで無意味。で結局、それが引っくり返って、「絞殺」による真犯人が出てくるけど、最初
から分からなかったのか?で、名探偵が「最初から、この人が疑わしかったのです」って、ナメてん
のか?駄作。
419名無しのオプ:2007/02/05(月) 23:09:57 ID:MrkRIEu9
「読みました」報告・国内編18

伴野朗「密室球場」(1988年 集英社文庫)★★★★
バラエティに富んだ初期の短編6作収録。
表題作は不可能犯罪&野球ミステリの秀作、「毛沢東ー七月の二十日間」お得意
の歴史ミステリ(安楽椅子探偵もの)、「顔写真」野獣シリーズを思わせる秋田
県を舞台にした地方記者もの、「兵士像の涙」ベトナム戦争末期のサイゴン周辺
が背景の謀略ミステリ、「カチカチ山殺人事件」作者に珍しいまっとうな本格編。
そして「やねこい奴」は地方都市(松山市?)を舞台にした市長選に絡むクライム
小説、これが清張ばりに読み応え十分で編中のベスト。
中身の濃い短編集で堪能いたしました。

伴野朗「香港から来た男」(1983年 講談社ノベルス)★★★
講談社ノベルス創刊1周年記念として出版された作品のひとつ。だいぶ上のレスで
陳舜臣の陶展文シリーズが講談社ノベルスで・・云々の話題がありましたが、おそらく
同じような中国人探偵が登場するのこの作品との勘違いと思われます。
(陳舜臣+陶展文=陳展望となったのではと推測)
短編集「殺意の複合」以来の、その陳展望が活躍する長編ミステリなんですが・・・
420名無しのオプ:2007/02/06(火) 20:41:54 ID:Pp93ZDtj
お邪魔します、宣伝貼りウザかったらゴメンナサイです。

各作家のナンバー1を決めよう!スレにて、アリバイ崩しの名手
「津村秀介」作品投票中。

締切りは、平成19年2月9日(金)、〜12:00まで。1人1票でよろしくご参加を。

http://book4.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1154275629/l50

投票したい作品を<<作品名>>のように
<< >>で括って投票するのがローカル・ルールになってます。
4213:2007/02/08(木) 12:11:24 ID:N367nDKc
アンソロジー「死体消滅」(山村正夫編、KKベストブックス社)★★☆
「死体の隠し方」トリックをテーマにした1976年のアンソロジー。
何といっても、乱歩のエッセイ「隠し方のトリック」で言及されている、楠田匡介「人肉の詩集」と北洋「失楽園」が
収録されているのが嬉しかったのですが、さて・・・。
残念ながら2作とも、期待したほどではありませんでした。「人肉の詩集」は、ややエログロ趣味というか、読者への
サービスに阿る感じがしました。「失楽園」も、当時このアイディアを考えたのはスゴいのでしょうが、今となっては
大したものではないし、先ず小説として面白くないです。
その他は、夢野「人間腸詰」、日影「王とのつきあい」、L・ダンセイニ「二瓶のソース」といった有名どころなど。
森村誠一「人間解体」、斉藤栄「腐臭の女」などは全くの駄作。何が面白くて選んだのか意図が分かりません。
やはり水谷準「おーそれーみお」が群を抜いて素晴らしい。でも「本格」じゃないからなあ・・・。

藤村正太「原爆不発弾」(光文社カッパノベルス)★★
1975年の長編。
福島県の山中でクルマから放り出された男。絶命寸前に「ゲ、ン、バ、・・・、フ、ハ、ツ、ダ」と言い残して死ぬ。
新聞記者・江島は、原発取材中に知り合った被害者の娘と、父親の死の謎を追ううち、原発建設を巡る謀略へと
巻き込まれてゆく・・・。
「ゲ、ン、バ、・・・、フ、ハ、ツ、ダ」というダイイング・メッセージの真相は、簡単に割れてしまい(というか、
ダイイング・メッセージとしてのトリックの意味をなしていないのでは?)、後は、アリバイ崩しに重点が置かれます。
が、或るポピュラーなトリックで、これまた余り面白いものでもなく、ラストのヒロインとの絡みも、余り深みがあり
ません・・・。凡作。
4223:2007/02/08(木) 13:11:49 ID:N367nDKc
>アンソロジー「死体消滅」
>「死体の隠し方」トリックをテーマにした1976年のアンソロジー。
>楠田匡介「人肉の詩集」と北洋「失楽園」

アンソロジーは1976年でも、「人肉の詩集」も「失楽園」も、「1957〜1987年の本格ミステリ」じゃないじゃん。
「おーそれーみお」なんか戦前だって。スレの主旨に合ってないな、ちょっとボーッとしてた、俺ってバカ・・・orz
で、おわび、と言っても、今の手持ちはこんなジュブナイルしかないですが、1冊紹介。

大谷羊太郎「盗まれた完全犯罪」(講談社文庫)★★★
1976年の雑誌「高3コース」連載作品を改稿した長編。
高校三年生の恵一は、自室でミステリ物のテレビドラマを見ていた。男が自宅マンションのベランダから、
抵抗もしないで謎の転落死を遂げる、という話を放映していたのだが、その時、近所でもマンションからの
転落事件が起こる。現場は恵一のガールフレンド・紀久子の住む部屋の一階上で、何と事件はテレビドラマ
と同時進行、被害者もドラマと似た男だった。テレビドラマの方では、一階下の住人とトラブルがあり、その
人物が加害者、となっていたのだが、紀久子の兄・俊明も、やはり被害者との間にトラブルを抱えており、
事件後間もなく、失踪してしまう・・・。
何故、テレビドラマと全く同じ事件が同時に起きたのか、紀久子の兄・俊明が犯人なのか?紀久子を慕う
恵一は自ら、事件の渦中へ飛び込んでゆく・・・。
まあ、一般高校生向けに書かれた作品ということで、通常の本格ミステリとは同列には論じられませんが、
不可能犯罪に幾つかの細かいトリックを配した構成や、テレビ界の内幕を扱った点など、作者ならではの
もの。終盤では「読者への挑戦」まで付いているというサービスぶりで、当時のジュブナイルとしてなら、
先ず先ずのところでしょうか。
423名無しのオプ:2007/02/08(木) 14:03:56 ID:g22MgEAr
> アンソロジーは1976年でも、「人肉の詩集」も「失楽園」も、「1957〜1987年の本格ミステリ」じゃないじゃん。
> 「おーそれーみお」なんか戦前だって。スレの主旨に合ってないな、ちょっとボーッとしてた、俺ってバカ・・・orz

そこまで厳密にならなくてもいいと思いますよ。
対象期間に刊行されたアンソロジーってことでOKでしょう。
このスレでは対象期間に入らない時期に発表された作品が紹介されたこともありますしね。

ああ、読みたい本が一冊、また増えてしまった……w
424名無しのオプ:2007/02/08(木) 19:10:02 ID:spKCzgRg
最近、古本屋に行くとこのスレを思いだし、挙がってた作品を捜すんだが、
それを捜すのに夢中になって本来の目的を忘れて帰ってきてしまったりする
4253:2007/02/13(火) 12:18:02 ID:B+R2q5tv
日下圭介「女たちの捜査本部」(徳間文庫)★★★★
1988年の女性刑事・倉原真樹を主人公とする警察小説の長編。
岩手・三陸地方のペンションで起きた謎の女性消失事件。同じ頃、東京ではマンションで男が殺害される
事件が勃発、警視庁捜査一課が捜査に乗り出す。メンバーの紅一点の女性刑事・倉原真樹は、被害者の
元婚約者の挙動に不審なものを感じるが、彼女には岡山・倉敷にいたというアリバイが。だがそのアリバイ
はあっけなく崩れる。だが彼女はあやふやな別のアリバイを持ち出して捜査陣を翻弄する。彼女の狙いは
何なのか、そして真犯人は・・・。
この年代の男性作家にしては、女性を爽やかに、オヤジ臭くなく描いているのは上出来です。プロローグに
出てくる人間消失の謎が、いつ東京の殺人事件に絡んでくるのか、という引っ張り方も上手い。謎が解けて
みれば消失トリックは呆気ないものだし、アリバイの件も、アリバイ工作それ自体は詰まらないもの。但し、
ヒロインのアリバイに関する動機に、別の或る女性が絡んできて謎を錯綜させている点や、更にその動機が、
或る社会問題とも絡んでいるところなど実に秀逸。デタラメのアリバイを主張して別の効果を狙う作品は、
笹沢左保の「もしもお前が振り向いたら」(★★★)があるけど、あれよりも本作の方が出来は上でしょう。
しかし、上記の謎の構成に力を入れすぎた余りなのか、真犯人の設定が弱い。レッド・ヘリングなども上手く
配置されたのに、真犯人に関する伏線が不足していたのが残念。それさえクリアできれば傑作となったのに・・・。
あと警察小説としては、作者は新境地を目指して頑張ったのでしょうが、やはり黒川博行や横山秀夫などの
強烈な個性ある作品群と比べては見劣りしますね。なかなかメンバーは個性的なのですが・・・。
評価は甘めですが、力作なので★4つ。
4263:2007/02/13(火) 12:21:56 ID:B+R2q5tv
連投スマソ

森雅裕「椿姫を見ませんか」(講談社文庫)★★★☆
1986年の長編。
練馬区にある芸術系の専門大学、新芸学園。声楽科の学生によるオペラ「椿姫」のプリマドンナが舞台で
稽古中に毒殺された。被害者は自殺した父親が絡んでいた絵画の贋作疑惑について調査していたらしい。
そして贋作騒動に関わっていたとみられる日本画科の講師も毒殺される。彼に師事していた学生・守泉は
高校の同級生で声楽科に属する鮎村尋深とともに事件の謎を追うが、「椿姫」の代役の女子学生もまた
何者かの毒牙にかかり、ついには尋深にも魔の手が伸びる・・・。
芸術系大学の学生の生態がとにかく新鮮。クールな守泉と、屈折しながらも底知れぬ才能を持つ尋深の
「友達以上恋人未満」の丁々発止のやり取りや、事件の鍵を握る家出した小学生の生意気ぶりなど、実に
上手い。本格ミステリとしては、毒殺トリックなどに絵画やオペラの知識が動員されており、まあ面白い
のですが、いかんせん小粒のもの(意地悪く言えば、毒殺トリックは某有名捕物帳のパクリでしかない)で、
伏線もちょっと地味か。しかし、題材の面白さだけでグイグイと読ませる秀作ではあります。

斎藤栄「山陰殺人行」(徳間文庫)★☆
1976年の高校生向けジュブナイル。
母子家庭の高校生が自宅で何者かに殴打され、一命は取り留めたものの記憶喪失に陥る。母親は或る秘密を
持っているらしく、故郷の鳥取砂丘に出かけたところを射殺されてしまう。同じ病院に入院中の高校生・慶子
は友人の記憶喪失の謎とその母親の殺害の謎を解くべく、私立探偵・一条さゆりに調査を依頼したのだが・・・。
まあ高校生向けの小説にケチを付けるのも大人気ないですが、プロットやストーリーがスカスカで出来損ない
としか言えません。慶子の世間知らずのお節介ぶりにも辟易。トリックも弱く、「ひょっとして、あの人物が
真犯人なら、まだマシかな」と思ったら、最も詰まらない人物が犯人でガッカリ。
「破綻しなかっただけマシ」というレベルの作品。
4273:2007/02/13(火) 12:27:15 ID:B+R2q5tv
3連投スマソ

深谷忠記「ハーメルンの笛を聴け」(中公文庫)★★☆
1982年の乱歩賞候補作を大幅に加筆訂正した1989年の作品。
東京都下の八米留市。イジメによる中学生の自殺に引き続いて起きた、やはりイジメにより自殺した息子を
持つ主婦の自殺。だが、それぞれを予告する手紙が関係者に届けられていた。更に事件は最初の自殺者の
関係者たちの間にどんどん広がってゆく。その度に謎の予告状が。差出主である「ハーメルンの笛吹き男」の
正体とは・・・?
真相には肩透かし。ハッピーエンドだろうな、とは予想がついていましたが、謎解きの過程に魅力がないと
いうのか、だから何?という感想しか出てきませんでした。凡作。

斎藤栄「珊瑚樹の殺人」(中公文庫)★
1972年の長編。
旅行代理店に勤める姉小路。愛人の殺人未遂など周囲に不穏な動きが広がる中、今度は婚約者が殺される。
ライバル会社の陰謀か。だが・・・。
この時期の作品には珍しく、まるっきり破綻しています。てんでバラバラに色々な事件が起こり、最後には
全てが収束して意外性のあるラストへ行くのだろう、と思っていたら、全くバラバラなまま終了。8ミリ
フィルムを使ったアリバイ工作も腰砕け。あんなもの、警察の鑑識どころか、注意深く観察すれば素人でも
一発で見破れるはず。今まで読んだこの作者の作品中でも極め付けの駄作。本気で真面目に書いている分、
バカミスにもならない。
428名無しのオプ:2007/02/13(火) 16:32:44 ID:MpQEIPF/
地雷原(斎藤栄)を歩む3師には脱帽です。
ところで、日下圭介の倉原真樹シリーズは5,6冊あったと思いますが、他の作品はどんな感じなのでしょうか。
429名無しのオプ:2007/02/14(水) 15:05:15 ID:7Wz4g79O
西村京太郎が、流行作家になる前に私家版で出版した作品集「南神威島」を購入(文庫版だけど)。

残念ながら本格じゃないけど面白かった。
伝奇小説風の表題作が、構成も緻密で文章も良い
4303:2007/02/15(木) 12:16:30 ID:1zMMz8NM
>>428
以前のように作品のストックは無くて、自転車操業ですからw、他の作品は知りません。
第2作の「溶ける女」とかいうのを見かけたけど、ちょっと触手は動きませんでしたね。

小杉健治「動機」(光文社文庫)★★★☆
1987〜1990年に発表された作品による短編集。
表題作は、芸者が殺され、彼女に入れあげていた商店主が逮捕されるが実は・・・。意外な動機と真犯人の設定を
狙ったものだが、解説で絶賛されるほどのものではない。気付く人は気付くよ。
「自白調書」は、妹を殺された男が、容疑者とその弁護士に意外な方法で復讐する話。後味が悪いまま終了と思わ
せて、最後にちょっとだけ救いが。
「償い」は、観光バスの運転手が交通事故で相手を死なせてしまい、精神に変調を来たす。だが事故の裏には意外
な事実が・・・。本格ミステリとしても佳作でしょう。
障害者の職場復帰に絡む「手話法廷」も、真相は見当が付きましたが、手話に関するトリッキーな仕掛けは気付か
なかった。地味だけど上手い。
「元凶」は不良となった娘を殺された父親の話。娘と付き合いのあったチンピラが殺され、父親が復讐したとして
逮捕される。だが父親は何かを隠しているらしい・・・。これがベストかな。トリック的には大したことないが、真相
には驚いた。フーダニット物の佳作でしょう。
「福祉裁判」は生活保護を受ける女性が福祉事務所の職員に刃物で刺されて負傷。だが職員は「被害者が自分で刺した」
と主張。しかし真相は意外なことに。生活保護の実態を訴えた重厚な作品ですが、ミステリの謎解きとしては弱い。
全6作。短編としてのレベルは非常に高く、今から二十年近くも前に、被害者の人権や生活保護の問題を鋭く突いて
いるのは驚きで、読み応え十分ですが、結末の意外性や、その切れ味の鋭さという点では、先に紹介した「偽証」の
方が上でしょうか。
431428:2007/02/15(木) 20:07:46 ID:uCjN7o+V
>>3
うむ、そうですか。
日下圭介はなかなかブックオフで見かけないので気になっているのですが、
見かけることがあれば買って見ます。
斎藤栄は腐るほど見かけるのですがw
432名無しのオプ:2007/02/15(木) 23:52:30 ID:JV82qtpb
「ころす・の・よ」はわりと見かける>日下圭介
4333:2007/02/19(月) 17:57:10 ID:L1pkM2vq
高橋泰邦「サドン・デス」(徳間文庫)★★☆
1973年の長編。海洋物ではない、ゴルフを題材にした珍しいスポーツ物のミステリ。
ゴルフ・トーナメントの初日に発生した新進プロゴルファーの謎の殺害事件。どうやらゴルフクラブに
青酸ガスが仕掛けられていたらしい。捜査の結果、容疑者は同じくトーナメントに参加する四人のプロ
ゴルファーに絞られた。しかも四人は偶然にも同じパーティであり、そのうちの一人は警察側の協力者
らしい。ゴルフ雑誌記者と女流カメラマンのコンビはこのパーティを追い、競技中の四人の駆け引きや
心理状態から真犯人を割り出そうとするのだが・・・。
解説の小鷹信光が言うほど、「犯人当てパズル小説」の体裁が整っているとは思えません。プレーにおけ
るゴルファーの駆け引きや成績などから真犯人の心理を割り出し、決定的な心理的な証拠を掴もう、と
いうものですが、そんなもの、何とでも解釈できること。四人のうち誰が犯人でも理由は付けられるよ。
なお各章のタイトルが、1番ホールから18番ホール、プレーオフとなっており、試合に決着が付くととも
に真犯人が分かって幕、というスタイルで、洒落てはいますが、とにかく発端から結末までゴルフのプレー
の描写ばっかり。ゴルフのルールを殆ど知らない俺には苦痛でした・・・。

草川隆「寝台特急<はやぶさ>の殺人」(双葉文庫)★☆
1989年の長編。
寝台特急「はやぶさ」の個室寝台内で発見された両足を切断された死体。被害者は熊本の女子高の元校長で、
現在はSM小説を書いている作家だった。同じ列車に乗り合わせ、足の入ったバッグの持ち主で警察に疑わ
れた男は、自分をハメた犯人を独自に調査するが・・・。
足を切断した理由、意外な凶器などには工夫が見られるのですが、肝心のアリバイ工作がダメダメ。この真相
以外にも、自分でも幾つか方法は思いついたし、まるでスカスカ。あとプロローグも意味なし、これじゃ見破っ
てください、と言わんばかり。
4343:2007/02/19(月) 18:00:19 ID:L1pkM2vq
斎藤栄「イエス・キリストの謎」(徳間文庫)★★
1974年の長編。
作家の「私」は、或るホテルで謎の人間消失事件に遭遇、その人物が消失する直前に電話で喋っていた
「エレファンタ」なる謎の言葉に興味を持ち、事件の渦中に入ってゆく。事件はやがて、大学教授の
「イエス・キリストの謎」を巡る論文の紛失騒ぎから、伊豆の別荘の殺人事件へと発展してゆく・・・。
この真相は、まあ意表を突いているとはいえます。確か、この作品が出た1974年前後に実際にあった
「事件」ではないかと記憶しています。しかし、謎解き物としての描き方や、謎の隠し方、解明の手順
がマズいのか、真相を知っても驚きが少ないのが残念。しかも一部の人物の動きが不自然過ぎる気が
するし・・・。
なお「イエス・キリスト=日本人説」は、まあ、どうでも良いです。例の「竹内文書」と斉藤栄、トンデモ
度では似合いの組み合わせとも言えますがw

山村美紗「小野小町殺人事件」(光文社文庫)★★☆
1984年のノンシリーズ長編。
古美術商の男が失踪の末、京都・一条戻り橋で死体となって発見される。どうやら、現存しないと言わ
れる「小野小町の前向きの絵」を巡る取引に絡んで殺されたらしい。娘の女子大生・麻知子は父の知り合い
の大学助教授とともに事件の謎を追うが、この取引に絡んだとみられる男たちが京都の小野小町ゆかりの
旧跡で、次々と殺されてゆき、遂には最も容疑が濃かった男も自宅の密室で毒殺を遂げる・・・。
密室トリックも、また事件全体の引っくり返し方も、「発想の転換」によるもので大変面白く、そのアイ
ディア自体は優れていると思うのですが、いかんせん、ベストセラー作家のやっつけ仕事的なゾンザイな
文章で全く興ざめ。ラスト、小野小町の絵が遂に発見されるか、という一番盛り上がる部分の適当な描き
方など、もう憤りを感じるほど。トリックは上手いのに惜しい作品。

・・・このところ、どうも不調だなあ。
435名無しのオプ:2007/02/19(月) 19:22:09 ID:7efJWd/H
「読みました」報告・国内編19

草野唯雄「塩原殺人行」(光文社文庫 1988年)★★
中編2作収録。
表題作の機械的?アリバイトリックは島田荘司さえ「そんなバカな!」と言いそうな
バカミス系トリックが笑える(作者は真面目に書いてると思うが・・・)
併録の「大東京午前二時」は「失われた街」のタイトルで乱歩賞に応募し、海渡の「伯林」
に敗れた作品。タイムリミットもののサスペンスで本格とはいえませんが、読み応え
はあります。その後大幅に加筆し「見知らぬ顔の女」として長編化されている。
よっぽど愛着があったんでしょうね。
436名無しのオプ:2007/02/20(火) 00:33:28 ID:UwYIOUcx
不調なのはきっと斎藤栄のせいですよ
437名無しのオプ:2007/02/22(木) 22:31:44 ID:GunO0VPS
なんじゃ!?このスレは
438名無しのオプ:2007/02/24(土) 18:53:06 ID:xVJ+pQyY
「読みました」報告・国内編20

陳舜臣「燃える水柱」(1978年 廣済堂文庫)★★★☆
お得意の神戸・中国人街を舞台にした長編ミステリ。主人公の「わたし」は推理小説
作家であきらかに作者自身を投影した設定。戦前の古物商の怪死と現在の中国人素封家
の不審死をつなぐ遠大な謎の解明過程を悠々たる筆致で描く秀作。

陳舜臣「闇の金魚」(1977年 講談社文庫)★★★★
清朝崩壊後の革命勢力や軍閥が暗躍する時代を背景にした謀略サスペンス。といっても
作者独特の歴史観や中国人観がかいまみれ、伴野朗の中国冒険サスペンスと一味違った
読み応え十分の傑作。読了後タイトルにこめられた真意に思い至りぞっとする。
439名無しのオプ:2007/02/24(土) 18:54:21 ID:xVJ+pQyY
「読みました」報告・国内編20

陳舜臣「燃える水柱」(1978年 廣済堂文庫)★★★☆
お得意の神戸・中国人街を舞台にした長編ミステリ。主人公の「わたし」は推理小説
作家であきらかに作者自身を投影した設定。戦前の古物商の怪死と現在の中国人素封家
の不審死をつなぐ遠大な謎の解明過程を悠々たる筆致で描く秀作。

陳舜臣「闇の金魚」(1977年 講談社文庫)★★★★
清朝崩壊後の革命勢力や軍閥が暗躍する時代を背景にした謀略サスペンス。といっても
作者独特の歴史観や中国人観がかいまみれ、伴野朗の中国冒険サスペンスと一味違った
読み応え十分の傑作。読了後タイトルにこめられた真意に思い至りぞっとする。
4403:2007/02/26(月) 12:28:19 ID:vhN5jmBU
内容:
専用スレもあるけど、駄作ばかり紹介するのも何なので・・・。

中町信「女性編集者殺人事件」(ケイブンシャ文庫)★★★★
1987年の長編ですが、1970年代に出た作品を大幅修正したものらしい。
出版社のストライキ中に起きた女性組合員の殺害事件。死に際に写真に残した「S」の字は何を意味する
のか?争議の件で彼女を恨んでいる者は多く、捜査は難航する。続いて起こった常務殺害によって、一人の
容疑者が浮かび上がるが・・・。
本作のストライキのDQNぶりが大変に不愉快。まあフィクションに憤っても仕方ないが、作品の舞台は
作者の勤め先をモデルにしたと思しく、似たことがあったのかも。しかし、こんな「闘争」は笑止。あと
女性の描き方も、オヤジ臭さ炸裂で辟易(この作者のどの作品もそうだと思いますが)。
それはさておき、本格ミステリとしての出来は、良く考えられていると思います。ダイイングメッセージの
「S」も、出版社ならばアレだろう、と思わせて、もう一枚上手の真相を用意しているし、第二の殺人の
アリバイトリックも地味だけれど、肝心の箇所の描き方など、作者の真骨頂でしょう。ただ、例のアレに
慣れている読者には直ぐに見破られるかも。先ず先ずの佳作。

青柳友子「津軽路に死の雪が舞う」(徳間文庫)★★
1984年の長編。
美絵は、ボクシング世界チャンピオンで劇的な事故死を遂げた恋人・大谷の故郷・津軽を訪れる。美絵は或る
実業家との結婚を決意し、大谷の墓前に許しを得に来たのだが、そこで出会った大谷の旧友から、太田は事故死
したのではなく他殺だったのでは、と聞かされ、その復讐に立ち上がる・・・。
読み始めたところ、女流作家にしては汚らしい文章を描く人だなあ、というのが正直な感想。ミステリの趣向
などどうでも良い、オヤジ向けに媚びた内容、少しは終盤に意外性でもあるのかな、と思いきや・・・。まあ
確かに意外性はあった。犯人当て的な趣向も展開し、ちょっとした伏線も張られていたし、盛り上がる部分も
あるし・・・。
でも、どうも生理的に好きになれないタイプ。謎解きも少し交えた、女性を主人公にしたハードボイルドと言え
なくもないが、どうも通俗的過ぎるよなあ・・・。
441sen:2007/02/26(月) 18:57:25 ID:uSUvjezR
3氏の紹介はとても素晴らしい!!が、さすがに全部が的を射ているとは思えないんでいくつかイチャモンを。
まず、カジタツの「鎌倉XYZの惨劇」★五つまたは、四つ半でもいいはず。
確かにメインの趣向は泡坂の有名作と類似してるけど、あちらが偶然に頼ったものなのに対しカジタツ作品は趣向を巧く使ってる。
それに小道具の使い方や真の○○○の出し方も巧い。十分に★五つの価値はあるっしょ。
逆に「海を見ないで陸を見よう」の点数高すぎじゃないすか。確かに小説として完成されてるけれども、ストーリーテリングに問題があるしミステリ的にもそんなに驚くほどでもないような。
後、「点と線」、「猫は知っていた」の評価が異常に高いのはいただけない。確かに、エポックメイキング的な作品ではあるけど。
「影の座標」はいい作品だけど、★五つは持ち上げすぎのような…。勘のいい読者なら登場人物だけで見抜けるんじゃないかな。ストーリー的にも地味だし。でもロジカルで好感が持てる。★四つくらいかな。
「霧に溶ける」★五つは同感。オールタイムベスト級の傑作っすね。
442名無しのオプ:2007/02/26(月) 20:14:45 ID:gLyRqSfw
自分はその「霧に溶ける」は★4つ乃至4つ半ぐらいだと思った。
あと「ぼくの好色天使達」も★1つ減かな。
443sen:2007/02/26(月) 22:00:03 ID:Xc03uMrY
確かに小説的な部分から見れば★四つでもおかしくないかも。でもやっぱり新本格以前にこれをやってた人っていないからね。
「ぼくの好色天使たち」は小説的部分を重視すれば★四つ、ミステリ部分だけなら★三つかな。
ただ、イチャモンつけるだけってのも癪なんで、まだ挙げられてない作品をいくつか。
草野唯雄『寝台特急「はやぶさ」が止まった』好みが分かれると思うけど誘拐ミステリの傑作。古びる運命にある風俗描写はしかたないっしょ。
草野唯雄『爆殺予告』なかなかの佳作。サスペンスが上手いため、ぐいぐい読ませる。誘拐される子供が魅力的だから、それを生かせれば傑作になりえたかもしれない。
大谷羊太郎『複合誘拐』結構無茶してるが、細かいこと気にしないなら楽しめるはず。
大谷羊太郎『真夜中の殺意』傑作短編集。だが、どんでん返しの詰め込みすぎで人物描写がおざなりになっているため、好き嫌いは分かれるだろう。ただ一番シンプルな「殺意の二重奏」は一見の価値あり。間違いなく密室殺人の傑作だ。
皆川博子『聖女の島』幻想ミステリの傑作。事実多くの人が皆川のベストに挙げている。本格としてみた場合は大した作品とは思えないが、それを補って余りある文章力が凄まじい。
ま、こんなもんで。
444名無しのオプ:2007/02/26(月) 22:17:33 ID:WaudKp1g
>>443
紹介した作品はそれぞれ★いくつ?
445名無しのオプ:2007/02/26(月) 22:32:25 ID:LzSP1nLu
改行してくれ
446sen:2007/02/26(月) 23:23:15 ID:U4t2dIeS
『寝台特急「はやぶさ」は止まった』★★★☆
『爆殺予告』★★★
『複合誘拐』★★★
『真夜中の殺意』★★★
『聖女の島』★★★☆
447名無しのオプ:2007/02/27(火) 19:08:24 ID:56lU/OeH
3師は「鎌倉XYZの悲劇」をレヴューしてないと思うが・・・
448sen:2007/02/27(火) 20:47:44 ID:QkCaThBz
あ、ごめん。よく見てなかった。
じゃ、すべてのスレに対するイチャモンってことで。
449名無しのオプ:2007/02/27(火) 20:53:44 ID:BdctDIYO
君は今日からいちゃもん太郎と名乗りたまえ
450イチャモン太郎:2007/02/27(火) 21:05:53 ID:QkCaThBz
しょうがねえな。名乗ってやるよ。
451名無しのオプ:2007/02/27(火) 21:11:02 ID:SIIrLeeZ
3氏が中心のスレだが、べつに3氏を見守るスレではないので
イチャモンって言い方はせず、たとえ既出の作品でも普通に
自分の感想として書けば良いと思う。
452イチャモン太郎:2007/02/27(火) 21:17:24 ID:QkCaThBz
なるほどな。言われてみりゃその通りだな。
あんた、いい事言うね。
453名無しのオプ:2007/02/27(火) 21:56:23 ID:BdctDIYO
でも名前はそのままで
454名無しのオプ:2007/02/27(火) 23:36:46 ID:oQv85a9h
せめて、

伊茶 門太郎

ぐらいで。
455名無しのオプ:2007/02/28(水) 00:03:13 ID:EpQ0y/6N
遊びはほどほどに、なw
4563:2007/02/28(水) 18:31:36 ID:i/0votHz
俺なんか所詮は無名の一般人、偶然、スレの主旨に沿った本格ミステリが好きで読み続けてきたので紹介し
続けている、というだけなんだけどなあ。みんなも、どんどんスレの主旨に合った作品を紹介してください。
俺もここで紹介された未読の作品に出会って楽しかったしね。

>>senさん
「鎌倉XYZ・・・」は俺も読んだけど、★4つかな。泡坂の某作品の件は知らないけど、前半部分がゴチャ
ゴチャし過ぎ。後半の面白さは圧倒的ですけど。「海を見ないで・・・」のご指摘は尤もだけど、もう好みの
問題、としてご勘弁を。「影の座標」は、あの真相のミステリとして俺が最初に出会った作品なので。海渡
英祐のファンなので、彼の作品は全般的に評価が甘いかもw
「猫は知っていた」「点と線」は、歴史的作品というより、乱歩と正史しか知らなかった小学生時代の俺に、
全く異質の衝撃を与えた作品、という思い出があるので。
まあ所詮は無名の一般人の感想文です。なるべく個人的好みは排除して、本格ミステリとしての出来如何で
評価したいけど、シロウトのやってること、どうぞお手柔らかにw

海渡英祐「地獄への直行便」(トクマノベルス)★★★
「伯林−一八八八年」の前後に発表され埋もれていた連作集を改稿し1979年に刊行。警視庁外事課の石塚警部補
が主人公、「ハードボイルド」と銘打たれてますが・・・。
第1話「真珠とヘロイン」は六本木で拉致された同僚刑事の仇討ちに、石塚は単身、香港の麻薬王のもとへ。伏線
が盛り沢山で、謎解きに重点を置いてます。
第2話「赤い黄金」はドル贋造の話、第3話「殺意の花束」はパリが舞台。ちょっとした伏線が上手い。第4話
「天国の密使」は、石塚が麻薬の運び屋に化けてベイルートへ。内戦前のベイルートの描写が貴重だが、謎解き
要素は少ない。第5話「ゼロの幻」ではLSDを扱い、第6話「暗殺二重奏」は中東の政治家暗殺に絡む話。以上
6編。
これは「ハードボイルド」じゃなく「アクション小説」。当時流行っていた007シリーズの影響が大きいのかな。
ただ、どの話も大なり小なり謎解きの要素があり、伏線も張ってあるのは流石。まあ飽くまで、アクション小説
にしては本格ミステリ風の謎解き、伏線にも配慮しているな、というレベルですが。
457名無しのオプ:2007/02/28(水) 19:41:23 ID:l4KvRtvj
「読みました」報告・国内編21

草野唯雄「陰の告発者」(1979年文藝春秋、86年角川文庫)★★★
主人公は犯人であると同時に被害者であり、探偵でもある。さらに陰の告発者であり
ながら裁判官と死刑執行人でもある・・・というのがウリの長編ミステリ。
どんな仕掛けがあるのか期待して読んだが、「たしかにそうとも言える」程度のこじつけ
に近いもの。まあ、たんなる倒叙形式のサスペンス。
文庫解説で類似趣向作品として「シンデレラの罠」や「猫の舌に釘を打て」、辻真先の初期
諸作を挙げているのはいいとして、中井英夫の「虚無への供物」の真犯人を堂々とバラして
いるのは酷い。
458名無しのオプ:2007/02/28(水) 20:19:33 ID:7JDz2Rst
解説誰?
459名無しのオプ:2007/02/28(水) 20:47:05 ID:l4KvRtvj
「虚無への供物」の真犯人は、作者自身が物語が始まる前に献辞でバラしてる。
460名無しのオプ:2007/02/28(水) 21:42:27 ID:NrcBPjQ7
高原弘吉、あるスカウトの死ってミステリー昔読んだ覚えが・・・内容は全く
覚えていないけど。
4613:2007/03/01(木) 12:21:48 ID:UFICg8lk
またも怪作の紹介。

志茂田景樹「月光の大死角」(角川文庫)(採点不能)
初刊がいつかは不明ですが、本文庫版は1987年初版。
信州の企業グループを率いる社長が、道楽で建てた大観音像の中で何者かに刺殺された。命からがら
逃げ出した秘書が翌朝、警察とともに戻ってみると、現場は密室状態の上、あるはずの死体が消えて
いた。やがて死体は東京で発見される。社長一族の遺産を巡る争いも起こるが、果たして真相は・・・。
「密室と死体消失の大トリックを展開する本格推理」と紹介されており、でもこの作者で大丈夫かな
あと、おっかなビックリ読んでみたのですが。
この密室トリックはスゴいwこれぞバカミスの真髄。しかし伏線はきっちりと張られていて、或る箇所
など大胆不敵にも真相を暗示しているのに、読み返すまで気付かなかった。こんなバカげたことをする
動機も納得できるようになっているし、この作者を見くびっていましたw
しかし、それ以外は・・・。文章がヒドい。ブツ切れの文章で味も素っ気もない。本当に直木賞作家かよ。
真犯人の設定も、そりゃ何だ?というレベル。登場人物も、ユニ−クな社長以外はまるで精彩がなく
薄っぺら。警察の捜査も好い加減にも程がある。
なお作者の「あとがき」はネタバレに近い部分があるので最後に読むこと。
ともかく、妙ちきりんな密室トリックは楽しめましたけど。
462名無しのオプ:2007/03/02(金) 02:33:59 ID:Avy/rkYo
志茂田景樹は「トンデモ本の世界」にも紹介されているほど支離滅裂で有名ですよね。
本格も書いていたとは……

死ぬまで読むことはない作家だと思ってたけど、3さんのレビュー見て読みたくなってきたw
463名無しのオプ:2007/03/02(金) 03:39:39 ID:e7cUghjw
3師のアンテナには脱帽
4643:2007/03/02(金) 12:14:37 ID:ZQ/SCdg/
新宮正春「殺人球場−殺しのトリック・プレイ」(講談社Jノベルス)★★☆
あの「十角館の殺人」と同じ1987年9月刊。プロ野球界を舞台に、フリーのライター木辺とカメラマン太田
の探偵役に、警視庁の磯貝警部補が絡んでくるというパターンの連作集。
「殺しのサイン」はプロ野球チームのヘッドコーチが自宅マンションの密室でガス中毒死、遺書も見つかって
自殺かと思われるが、遺体の状況が一種のダイイング・メッセージとなっている・・・。被害者に遺書を書か
せるトリックがプロ野球チームならではでユニーク。「そうか、この手があったか」と感心しました。でも密室
とダイイング・メッセージの方は面白くないです。
「殺しのブラッシュ・オフ」は、チームメイトに再起不能の怪我を負わせた選手が乾燥機の中でガス中毒死。
内側からロックされていたので自殺かと思われたが・・・。密室の構成はごく単純だが、真相に関する何気ない
描写は上手い。
「殺しのスパイク」盗塁王争いのライバル二人のうち一方が殺され、その現場にいたもう一人が容疑者となる
が・・・。取り立てて言うほどのものでない。
「殺しのスコアボード」はオールスター戦で関西から出張してきた記者がホテルで殺される。持参したパソコン
には犯人と思われる名前が残されていた・・・。伏線は張られているけど面白くない。
「殺しのバット」は練習中に折れたバットの直撃を受けて選手が死ぬ話で、続く「殺しのマウンド」もピッチャー
返しの直撃で投手が死に至る話。だが真相は・・・。どちらも手は込んでいるけど精彩なし。
全体的に作品の舞台がユニークなので、そこそこ楽しめますが、謎解きやトリックはごく在り来たりで軽目のもの。
465イチャモン太郎:2007/03/04(日) 18:13:43 ID:/ul5GiwK
あくまでも私見なんで他意は無いっす。

ここで取り上げられた作品で自分の評価が違う作品
『殺人ドライブ・ロード』井沢元彦★★☆
うーん。ぶっちゃけバレバレ。発想は悪くないのに、伏線の張りすぎで墓穴掘ったかな。
『招かれざる客』笹沢佐保★★★
佳作。処女作にしては人物もそこそこ書けているし、ミステリとしても端正な部類。が、結構ご都合主義が目立つ。
『もう一人の乗客』草野唯雄★★☆
草野は好きな作家だ。それにこの作品も結構好きだったりする。が、それと評価は別。ある一点に気付けばたいした作品じゃない。
466名無しのオプ:2007/03/04(日) 22:40:40 ID:kVzzfaWX
「読みました」報告・国内編22

梶龍雄「奥信濃鬼女伝説殺人事件」(講談社ノベルス 1989年)★★★
伝奇本格犯人当て小説の第4弾。奥信濃・秋山郷と東京で資産家姉妹が相次いで殺害
された事件に私立探偵と女子大生助手が解決に乗り出すが・・・メインのアリバイ
トリックは作者お得意の×××トリックを組み合わせたもの、ある程度梶作品を読んで
いればピンときます。犯人の設定も「これしかない」というもの。
そもそも「意外な犯人」と煽ることで一種のネタバレになっています。


4673:2007/03/05(月) 12:27:40 ID:Z1ey8MRx
久々に当時の雑誌の感想を。

「宝石」(1957年11月号)
先ず、山村正夫「獅子」★★★★
古代ローマ帝国が舞台、皇帝の密命で、反乱を画策する貴族を暗殺するべく宴会に向かった近衛軍団長スパルタ
キュス。宴席には数人の容疑者がいるのだが、一体誰が命を狙われているのか。暗殺を阻止しようとする侍従長の
「私」が知った真相とは・・・。これは「犯人当て」ならぬ「被害者当て」の一種ですが、なかなかトリッキーな
本格ミステリで満足。最後の一行にはアッと驚きました。この作者の短編の最高傑作でしょう。
あと、楠田「脱獄を了えて」、仁木「粘土の犬」もああるけど名作中の名作なので割愛。海外作家では、J・J・
ファージョン「警官が来た!」が秀逸。奇妙な味ですが、オチが見事。
朝山蜻一の「足の下に気をつけろ」はSF。病弱な青年が閑職の傍ら、日本の地下に、もう一つの「大日本帝国」
があることに気付く。地下の「大日本帝国」は人口30数万人の少数精鋭、科学技術が発達して、地上の米国、
ソ連、欧州への反撃を計画中・・・、ってこりゃ、村上龍「五分後の世界」じゃないか!!偶然の一致では済ま
ないと思うのだが。
あと、星新一の出世作「セキストラ」も掲載。乱歩のルーブリックが興味深かった。
なお連載の目玉は、横溝「悪魔の手毬唄」と坂口「樹の如きもの歩く」。前者は、所用で鬼首村を離れた金田一
が雷雨の翌日、村に戻って、多々羅放庵の行方不明を知る辺り、後者は、安吾が書いた最後の部分までの掲載。
充実の一冊でした。
4683:2007/03/05(月) 12:30:37 ID:Z1ey8MRx
連投スマソ

「宝石」(1960年2月号)
先ずは、繩田厚「鐘馗殺人事件」★★★。
病院の院長宅の密室殺人。仇敵の医者も自殺するが真相は・・・。記者の「私」と法医学者の名探偵・江馬透の
推理合戦が見もの。密室トリックはまあまあの出来。タイトルに二重の意味があるところがミソ。まあ駄洒落に
近いですが。
桶谷繁雄「時間」★★★☆は、「逃亡将校シリーズ」第6話。このシリーズを初めて読みました。本編は、パリの
未亡人殺しを、医師のトランと看護婦のマリ、情報屋のフィリップが解き明かすもの。意表を突いたアリバイトリッ
クが印象的。笹沢左保の某長編よりも、こっちの方が早いかな。この医師のトランというのが、「逃亡将校」なん
でしょうか?当時にしては、フランス・パリの下町の描写は上手い方なんでしょうね。味わいのある一編。
鹿島孝二「七滝温泉」★★☆も連作集の一つ。横浜で暮らすマレー人のジョウが主人公。本編は謎のアメリカ人の
正体を巡る話。本格ではないが、トリッキーな真相が面白い。
高原弘吉「燃ゆる軍港」は、戦中戦後の佐世保を舞台に、軍人の「私」と上司の大佐の娘とその恋人、その二人を
脅す謎の男という四人組の心理的暗闘を扱ったもの。佳作ですが、残念ながら「本格」ではなかった。
渡辺啓助「恐山」は富豪とその若い妻、召使の若い男を巡る話。急転直下の結末と、オカルトにみせての論理的
(一応、ですが)な真相が上手い。邱永漢「視線と刃物」は香港の法廷ミステリ。余り面白くない。
ショートショートは、山川方夫「十三年」が言わずと知れた傑作。坂上弘の「ビルのほとり」、城「分身」、星
「遺品」も、切れ味鋭い。
あと海外作家では、R・アーサー「二十日鼠殺人事件」が面白かった。「二十日鼠(マイス)」と言い残して死ん
だ富豪のダイイング・メッセージと、或る物を使ったキテレツな殺害方法が楽しい。「マイス」の件は非常に
フェア。冒頭にちゃんと伏線があった。
なおグラビアは横溝。記事中に「・・・今度(の作品)は京都から始めるか・・・」とあるのが興味深い。前作「悪魔の
手毬唄」の最後が、金田一と磯川警部が関西で遊んで別れるところだったからなのだが、一体、どんな構想があった
のだろう?
469名無しのオプ:2007/03/06(火) 03:49:47 ID:IpABhjs4
1960年2月号の方は、大半が名前も知らないわ〜。

3氏のレポを読んだら、名作・傑作はさすがに埋もれることは少ないけど、埋もれた佳作はいっぱいあるんだと思えますね。
古本屋巡りや復刊本チェックがいっそう楽しみになります
470名無しのオプ:2007/03/07(水) 00:14:45 ID:OS/iN+m9
近所の図書館の蔵書検索をするのがこんなに楽しい日々が来ようとはw

>>468

桶谷繁雄の『逃亡将校』は確か全7作で、うち最初の6つが
角川書店の『逃亡将校』に纏められていたと思います。
「時間」以外はミステリとしては平凡だったように記憶しています。

鹿島孝二の「宝石」に載った一連のシリーズは、
『しゃっくり男』として纏められたそうなのですが、
一度も現物を確認できていません。

縄田厚は当時の「宝石」の新人懸賞から登場して5編ほど発表して
そのまま退場したみたいです。
光文社文庫の『「エロティック・ミステリー」傑作選』に
「いたずらな妖精」が収録されています。

邱永漢のシリーズは『被害者は誰だ』に纏められていますね。

以上、差し出がましい書誌コメントでした。
4713:2007/03/07(水) 18:29:49 ID:hAhktmio
>>470
情報サンクスです。書誌的なことは余り知らないので助かります。

大谷羊太郎「120秒の死角」(祥伝社ノン・ポシェット)★★★
1982年の「二千万人が見ていた」を改題した長編。
売れっ子歌手が生放送中にステージで爆殺された。照明室に忍び込んで爆破を指揮していた犯人
グループを警察は追うが、行方は杳として掴めない。歌手を喪った芸能プロの女社長は別の歌手
をスターに育てようとするが、その歌手もまた、公演先のホテルで爆殺される。しかしホテルの
部屋は、被害者以外には出入り不可能な密室状態にあった・・・。
真犯人の見当が付きやすいのが難点。また第一の殺人のトリックは凝り過ぎていて面白くないが、
第二の殺人はシンプルながらも上手い。この作家の密室トリックでは上出来の部でしょう。しか
し、芸能界ネタには好い加減に飽きました・・・。

大西赤人「引き継がれた殺人」(光文社文庫)★★☆
1987年の長編。
スランプに陥ったミステリ作家が沈黙を破って復帰、と思われた矢先、自宅マンションで何者か
に殺される。現場の状況から彼の弟子である女流作家の卵が逮捕されるが、別の証拠が出てきて
釈放、彼女は亡き師匠の遺作となった未完の短編を完結させるのだが、それが思わぬ波紋を呼ん
で・・・。
本編の中に作中作として、作家の遺作が登場するのですが、これが雪に覆われた足跡のない不可能
犯罪。期待しましたが、或るヒントが出たとたんに全てバレバレ。簡単過ぎるよ。本編における
真犯人の、裏の裏をかいたトリッキーな動機なども余り面白くない。凡作。
472名無しのオプ:2007/03/09(金) 21:00:43 ID:ClYanTL/
3師、新谷識はどうですか?
4733:2007/03/12(月) 13:24:45 ID:wREnyf4Y
>>472
新谷識、「ヴェルレーヌ詩集殺人事件」とかでしたっけ?
スミマセン、未だ一冊も読んでいないです。遠からず読もうとは思うのですが。

山村美紗「京都・宇治川殺人事件」(光文社文庫)★★★
これは1965年の乱歩賞応募作「歪んだ階段」で、未出版のものを作者没後の2002年に文庫化した長編。
宇治川にクルマごと転落死した高校教師。酔った末の事故死かと思われたが、妻は納得せず、独自に
調査を進めるうち、同じ頃に起きた轢き逃げ事件を捜査している刑事と出会う。二つの事件に接点は
あるのか。やがて事件の謎は、終戦直後、死んだ教師が子供だった頃の朝鮮からの本土引き揚げに絡
んでいることを妻は知る。だがその関係者たちも相次いで殺されてゆく・・・。
ベストセラー作家の頃の荒れた文章とは大違い、実にしっかりしたストーリーとプロットで楽しめま
した。朝鮮からの引き揚げの描写など、なかなかの迫力。余韻を残すラストシーンも良い。
ただ肝心のメイン・トリックが、当時は斬新だったかも知れませんが、今となっては陳腐なもので、
しかも後半早々でバレやすくなっているのが残念。
因みにこの年の乱歩賞受賞作が、あの西村京太郎「天使の傷痕」ですね。

井沢元彦「卑弥呼伝説」(集英社文庫)★★☆
連作「マダム・ロスタンの伝言」で活躍したトレジャーハンター永源寺峻の、1991年の初長編。
永源寺の友人で邪馬台国を研究している日向から掛かってきた電話。「ヒミコは殺された・・・」とだけ
呟いて電話は切れた。心配した永源寺が友人宅に駆けつけると、日向は自宅の密室で刺殺されていた。
彼の遺志を継いで永源寺は邪馬台国の謎を探るのだが、謎の犯人は彼の命も狙い始める・・・。
本筋よりも、邪馬台国と卑弥呼の謎についての薀蓄が主流で、肝心の本格ミステリ的な部分はどうかな、
と思われたのですが、やはり、殺人事件の謎解き部分は弱い。しかも脱力の密室トリック。ちゃんと
真相そのものは暗示されており、大胆といえば大胆ですが、まさかそんな真相だとは誰も思わないよ。
邪馬台国と卑弥呼の謎も、日食に関する或る解釈は面白かったのですが、真相自体は、さほど驚くもの
ではないです。凡作。
4743:2007/03/12(月) 13:26:39 ID:wREnyf4Y
連投スマソ

大谷羊太郎「悲鳴」(光文社文庫)★★★☆
1977〜1989年の作品を集めた短編集で全7編。
表題作がベスト。昭和20年代、朝鮮戦争当時の福岡が舞台。米軍基地のクラブでジャズ・ピアニストと
して働く男が主人公。宿泊先の旅館で、米軍相手のキャバレーのホステスが密室状態の部屋で殺される。
その意外な真相は・・・。トリックにも無理がないし、昭和20年代の米軍相手のジャズバンドの描写など、
作者の独壇場。
「死体は待っていた」は不倫相手の人妻から呼び出しを受けたホテルマン、相手の自宅に駆けつけると、
その夫が殺されていた。だがその男は、ついさっきホテルにチェックインしたはずの男だった・・・。これ
もトリッキーな趣向が上手い佳作。
「モーテルの怪死体」は演歌歌手が不倫相手の人妻を残してモーテルを一足先に出てゆくが、写真雑誌の
記者に取り囲まれており、再び戻ったところ、その女性が殺されていた。しかしモーテルの監視カメラには、
怪しい者は誰一人写っていない。しかし或る男が犯行を自供して自殺してしまう・・・。これも、或る趣向
が面白い。
「過去からの使者」は歯科医が主人公。十数年前にバンドのメンバーだった頃、過失で人を殺してしまい、
事件は迷宮入りしたのだが、娘が連れてきたボーイフレンドが実は・・・。「本格」というほどではないが、
ラストのヒネりが上手い。
残りの1980年代後半に発表された「悪夢の峡谷」「墜落する探偵」「結婚と血痕」の3作は駄作。颯爽と
登場した「新本格」からの一撃で屋台骨が吹っ飛んだような感じ。
4753:2007/03/12(月) 13:31:38 ID:wREnyf4Y
3連投スマソ

阿井渉介「虹列車の悲劇」(講談社文庫)(採点不能)
このスレでも>>102さんが紹介されており、俺も気になっていた、この作家の作品を初めて読みました。
1992年の、牛深刑事を主人公とする長編で、本スレがカバーする年代から外れてますが、余り紹介されて
ないようないので、と言うことでご容赦を。
上野駅に到着した寝台列車のベッドから、白骨死体が発見される。捜査の結果、その死体は有名な登山家
と断定されるが、その男は、前の晩には寝台車の中で元気でいたことが判明、一晩で人間が白骨化すると
いう前代未聞の事件となる。しかも死体から発見されたメモには、警視庁の牛深刑事が昔住んでいた家の
電話番号が記されていた。牛深刑事は突然、捜査から外れて北陸へ向かい、単独行動を取り始める。同僚の
松原刑事と岡井刑事がその後を追うが、牛深は容疑者を独断で釈放したり、勝手な行動を取ったりと、クビ
覚悟で独自の捜査を進める。更には北陸のローカル線で目撃された、妖しい虹と消える線路の謎も絡んで
くるのだが・・・。
何と言うか、これは・・・。確かに、最後には全ての奇想天外な謎は解かれるし、まあ、こんなことも起こり
得るのでしょうが、バカバカしいです。そもそも、真犯人が白骨化させた動機がまるで納得ゆかない。
ただ、序盤から物凄いテンションで、グイグイと読者を引っ張ってゆくパワーがあり、ロジャース「赤い右手」
とか、ロスコー「死の相続」に似た、熱にうなされたような雰囲気に満ちています。また、牛深刑事の心情にも
胸を打たれましたね、たとえ、この主人公と奇妙キテレツなトリックが、島田荘司の「北の夕鶴2/3の殺人」
「奇想、天を動かす」辺りの劣化コピー臭くてもw
なお「妖しい虹と消える線路」のうち一方は、俺自身も二十年ほど前、山の中で実際に見たことがあるので、あな
がちデタラメでもないのですが、でも俺は一瞬ギョッとしたものの、直ぐに正体に気付いたよw
476名無しのオプ:2007/03/13(火) 20:23:44 ID:aAQwn0by
お邪魔します、宣伝貼りウザかったらゴメンナサイです。

各作家のナンバー1を決めよう!スレにて、「大谷羊太郎」作品投票中。

締切りは、平成19年3月16(金)、〜12:00まで。1人1票でよろしくご参加を。

http://book4.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1172241141/l50

投票したい作品を<<作品名>>のように
<< >>で括って投票するのがローカル・ルールになってます。
477名無しのオプ:2007/03/13(火) 21:24:10 ID:cEvbWrhk
ここで訊くのもなんだけど海渡の冒険小説はどんなもん?
4783:2007/03/14(水) 09:48:42 ID:wzXvPr9h
>>477
主旨に外れますが、これきりと言うことで、以下のとおり。

「極東特派員」(東都書房)★★★
1961年発表、海渡英祐の輝ける長編第一作。
1960年、韓国・ソウルで李承晩政権の末路を見届けて東京に戻ったUSP通信社のケンジ・ブランデン。
彼は米国籍を持つ日本人で、帰国早々、台湾の女子留学生と知り合うが、彼女の知り合いの男が変死
を遂げる。どうやら台湾をめぐる謀略に関係して殺されたものらしい。ケンジは台湾に飛び、事件の
渦中へ・・・。
良くも悪くも若々しさに溢れており、微笑ましくなりました。登場人物なども深みに欠けますが、同年
の中薗英助「密書」と並ぶ国産スパイ小説の嚆矢としての価値は十分にあると思います。

海渡英祐「爆風圏」(徳間文庫)★★☆
同じく1961年のスパイ物長編。
重工業メーカーに勤める間宮は、伯父に頼まれ、次期防衛計画の地対空ミサイル選定の情報を探るべく
スパイ活動を開始。ホテルに滞在する外国人に接触を図るが、彼は交通事故死を遂げ、彼の妻も謎の
失踪を遂げた・・・。ライバル企業、政界のフィクサーなどが暗躍する中、間宮の活躍や如何に?
1970年代後半の冒険小説流行時に洗礼を受けた身としては、牧歌的な世界に思えましたが、未だ国産
スパイ小説が、前述の中薗英助「密書」と「極東特派員」しか無く、結城昌治「ゴメスの名はゴメス」
(1962年)、三好徹「風は故郷に向う」(1963年)に先立って書かれた意義を考えれば、その点は情状酌量
すべき。結末には意外性もありますが、このままでは終わらないよ、という感じのラストシーンは、作者が
続編を構想していたように思えます。

海渡英祐「謀略の大地」(徳間文庫)★★★
1980年の久々の冒険小説。文庫版では長編小説と紹介されているが、同一の主人公による一話完結の連作
集で、日中戦争前後の時代、軍人の立場に疑問を持ち、上司に睨まれている主人公の陸軍憲兵が、満州、
東京、上海、南京などを舞台に、スパイ戦に巻き込まれてゆく話。
「陸軍憲兵隊なんて諸悪の根源だろ?」と思ってましたが、そんな幼稚な悪玉論は吹っ飛びます。主人公
の苦悩については甘い部分もあるが、戦争へと突き進む日本の状況などは良く描けています。
479名無しのオプ:2007/03/14(水) 17:17:08 ID:w4hPycN7
>>478
有難う
4803:2007/03/16(金) 12:14:49 ID:eYNq1qSG
北川健「S公団醜聞事件」(祥伝社ノンノベルス)★★☆
1980年の長編。
大阪で発生した殺人事件。被害者が滞在した旅館に泊まった女性が謎の封筒を手に入れ、恋人の
公団職員・洋平とともに事件の謎を追ううち、事件は洋平の勤める公団のスキャンダルに絡んで
いることを知る。一方、東京では火鉢の中から人骨が発見される事件が勃発、警視庁が火鉢の木炭
の行方を追ううちに、一人の容疑者が浮かび上がる。だが容疑者には鉄壁のアリバイがあった・・・。
・・・何と言うか、一般人のオヤジが、当時世間を騒がせていたスキャンダルに憤り、週刊誌の記事
程度の知識で義憤も私憤も一緒ごたに告発しました、という感じの話。こういうのが「社会派」と
して、また出版社から「長編本格推理小説」と銘打って出版されるとは・・・。
それはともかく「本格ミステリ」としての出来はどうかというと、封筒の紙片に書かれた一種の暗号
は、まあまあ面白かったですが、メインのアリバイトリックは、犯人の意思とは関係ない或る偶然に
頼っていてダメ。真犯人も二転三転しますが、これも伏線不足。むしろ、ほんの些細な点なのですが、
或る箇所で一種の「叙述トリック」が用いられており、それが終盤のクライマックスで効果的に働いて
いる点に感心しました。でも良かったのはそこだけ。凡作。
4813:2007/03/19(月) 12:07:26 ID:NGHmK9rj
日下圭介「密室(エレベーター)20秒の謎」(祥伝社ノンポシェット)★★★★☆
1989年の長編。
富士山ろくのリゾートマンションのエレベーターで自殺を遂げた恋人の秘密を探るため、鮎子はマンションで
アルバイトを始める。一癖もふた癖もある住人たちを観察するうち、エレベーターを舞台に連続殺人事件が
勃発。だが、犠牲者はいずれも、たった一人でエレベーターに乗り込み、ノンストップで1階に着くまでに殺さ
れていた、という不可解な状況にあった・・・。
全体に漂う捻くれたユーモア感覚が趣味に合わず閉口したのですが、マンションに舞台を限定した、コンパク
トにまとまったフーダニット物の傑作。マンションで起こる些細な小事件など、散りばめられた伏線の回収も
上手いし、エレベーターの密室トリックも真相は呆気ないですが、まあ合格点でしょう。西澤保彦「解体諸因」
のエレベーターの密室バラバラ殺人よりも、本作の方が上だと思います。この作者の長編本格ミステリとして
は、今のところ最高傑作。

小杉健治「二重裁判」(集英社文庫)★★★★
1986年の長編。
社長殺しで逮捕された青年、無実を主張し続けるが、拘置所内で自殺。たった一人の肉親である妹・秀美は、
裁判中の死で公訴棄却されたものの有罪扱いのまま事件を放置する警察、検察、そしてマスコミに対し、兄の
名誉を回復すべく、意表を突いた復讐を開始した。だが意外なことに真相は・・・。
法廷ミステリに「本格」風味を加えた佳作。或る「事実」が結末近くまで伏せられているなど、アンフェアな
部分や伏線不足も目立つのですが、読者が想定し得る「結末」を上回る意外な真相と、兄の自殺の本当の原因
が明らかになり、妹の心情が迫るラストは感動もの。第一長編「陰の判決」に次ぐ佳作でしょう。
4823:2007/03/19(月) 12:10:19 ID:NGHmK9rj
連投スマソ

阿井渉介「Y列車の悲劇」(講談社文庫)★★★☆
1991年の牛深刑事物の長編。
寝台「はやぶさの個室車両で起きた殺人事件。不可解にも、その車両にいた他の乗客9名は、車掌らが
全く気付かないうちに、密室状態の車内から謎の消失を遂げていた。やがて警視庁には、乗客9名を誘拐
したとして身代金を要求する脅迫電話が。捜査当局が半信半疑でいるうちに第一の犠牲者として乗客の
死体が発見される。やがて刑事らは、一連の事件が人気脚本家の書いたシナリオどおりに進んでいるのを
知る。一体誰が模倣しているのか。だが、それをあざ笑うように、第二、第三の乗客の犠牲者が・・・。
なかなか楽しめました。はっきり言って、寝台車からの集団誘拐の真相はバカバカしい、というか、必然性
が理解できません。でも、意外な犯人の設定も合格だし、伏線も巧み。更に、詳しくは書けませんが、或る
「人物」の描き方と、それに絡んだ或る「見立て」は出色のもの。登場する刑事たちも、たった一行のセリ
フで、その個性を上手く表現しているし(作者が元・脚本家だったから当然かも知れないが)、トリックその
もののバカバカしさとは別に、職人芸に徹した上級の娯楽作品だと思います。

斎藤栄「危険な水系」(中公文庫)★★☆
1971年の長編。
横浜で石油会社が進める天然ガス採取が公害を起こすとして反対運動が盛り上がっていた。その最中、石油
会社の課長が自宅の密室で殺される。反対運動の中心人物であった大学教授も相前後して謎の失踪を遂げ、
教授の娘と助教授が事件の謎を追うが、事件の背後には自衛隊の影が・・・。
ストーリー、プロットともに手堅くまとめてはいるのですが、残念なことにトリックや真相などに華があり
ません。要となる或る小道具など、シロウトには理解不能。破綻なくまとまっているのに残念。
4833:2007/03/26(月) 12:15:08 ID:5rmiGZ1v
また連投になってしまった・・・

草川隆「寝台特急『あさかぜ』殺人事件」(廣済堂文庫)★★★☆
1988年のミステリ長編第2作。
博多どんたくの雑踏で発生した通り魔殺人事件。その夜、博多を発った寝台「あさかぜ」の個室内でも、
売れっ子漫画家に同行した原作者が殺される事件が発生、だが現場は密室状態にあった。被害者が残した
「マツオ」のダイイングメッセージから、彼らの友人で、やはり寝台車で同行していた松尾が容疑者と
なるが・・・。
ようやく、この作者の破綻のない作品を読むことが出来ました。謎解きの展開も合格だし、密室トリックも、
肝心の部分がフェアに描かれているので良しとしましょう。でも探偵役となる女性マジシャンに個性も魅力
も無いのが残念。

宗田理「人牛殺人伝説」(角川文庫)★★★
1986年の長編。
母親を探している中国残留孤児の記事を雑誌に発表した新米女性ライターの速水は、その記事を読んで
連絡してきた老女と会うため鳥取県に向かう。だが老女は彼女が到着する前に殺されていた。更に、や
はり記事を読んで連絡してきた大阪の男もまた、鳥取に向かう寝台車の中で殺されてしまう。孤児の母
親に何の秘密があるのか。また孤児が唯一記憶している「クダン」という言葉の謎は?速水は鳥取で教師
をしている大学時代の友人とともに事件を追うが、やがて大阪の男の繋がりから、事件は意外な方向へと
発展してゆく・・・。
特にトリッキーな仕掛けがある訳ではないのですが、錯綜する人間関係の中に上手く犯人が隠されており、
フーダニットとして、まあまあ楽しめました。「クダン」とは無論、小松左京のホラーでお馴染みの「件」
のことですが、それに引っ掛けた伝奇的な要素も、それなりに面白く読めました。可もなく不可もなく、と
いったところでしょうか。
4843:2007/03/26(月) 12:17:57 ID:5rmiGZ1v
山村美紗「エジプト女王の棺」(光文社文庫)★★★
1980年の長編。
エジプト公使の父が謎の自動車事故死を遂げて2年後、娘の麻子は京都の名門私立中学校の教師となるが、
修学旅行先の東京で女子生徒が謎の転落死を遂げる。彼女は2年前に開催された古代エジプト展で起きた
宝物すり替え事件の秘密を知っていたらしい。更には同じクラスの男子生徒も学校の放送室で服毒死する
が、現場は完全な密室状態にあった・・・。
序盤はなかなか上手い展開を見せるのですが、終盤、どこかモタモタしている印象を受けました。全ての
謎を解くためには仕方なかったのでしょうが、もっと一瀉千里に解決しても良かったのでは。放送室の密室
トリックは可もなく不可もなく、といった出来。

深谷忠記「虹色の罠」(徳間文庫)★★★
1989年の作者の最初の短編集。
「死者の証明」は長編でお馴染みの勝部長刑事が登場。或るトリックに保険証の仕組みを絡めたところが
ミソだが、地味な印象。
「虫の魂」は教師と元イジメられっ子の恐喝者の話。このイジメられっ子の不気味な描き方は上手いですが、
「本格」とは言いがたい。
「残酷な夕陽」はフィアンセを地上げ屋に殺されたヒロインの話。タイトルに因む伏線は上手いが、ただ
それだけの話。
「哀れな鬼子母」はまたもイジメ問題を扱っている。息子をイジメる相手を殺害する計画を立てた母親だが、
実行に移さないうちに、本当に殺人事件が起こる。彼女の計画を盗んだ真犯人は誰なのか。何気ない伏線が
活きている佳作。
「誤算」は兄の社長に支配された弟の専務が復讐する話。凡作。
「お礼参り」は予備校教師が主人公。義弟の裏口入学を巡っての話。非常に地味だし、トリッキーな面も弱い
が、味わい深い佳作。
全6編。本書のタイトルの意味が良く分からないし、一部の佳作を除いては凡作が多く地味な印象しか残さず、
この作者の本領はやはり長編にあるようです。
485名無しのオプ:2007/03/26(月) 14:05:59 ID:MRRXTZ2x
阿井渉介がおもしろそうだな。
なんとなくトラミスの印象があったけど・・
486名無しのオプ:2007/03/27(火) 20:07:01 ID:KiaQUPjj
お邪魔します、宣伝貼りウザかったらゴメンナサイです。

各作家のナンバー1を決めよう!スレにて、「日下圭介」作品投票中。

締切りは、平成19年3月30日(金)、〜12:00まで。1人1票でよろしくご参加を。

http://book4.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1172241141/l50

投票したい作品を<<作品名>>のように
<< >>で括って投票するのがローカル・ルールになってます。
487名無しのオプ:2007/03/27(火) 20:45:37 ID:SlQs91md
阿井は何冊か読んだが、ギャグ抜き霞流一・鉄道編って感じかしら。
銀河列車〜は島田荘司推薦!!

30年ぐらいしたらマニアが探し始めそうな作品かもね。
488名無しのオプ:2007/03/27(火) 20:46:25 ID:5AcX1hGO
こんどブッコフで探してみるよ。>阿井
489名無しのオプ:2007/03/27(火) 20:48:38 ID:Oqjqq/8O
銀河列車は怒りのバカミス
4903:2007/03/28(水) 12:57:48 ID:4IsnHhqD
最近、ハマっていますw

阿井渉介「湖列車連殺行」(講談社文庫)★★★
1989年の牛深刑事物の長編。
上野駅で発生した焼殺事件。背中に火が付いて殺され、しかも事件直前には「カチカチ」という音が
していたという。更に鳥取の白兎海岸で起きた自殺現場での幽霊騒ぎ。だが二つの事件には密接な
関係があった。そして寝台特急「北斗星」の車内で第三の殺人も起きるのだが、容疑者には鉄壁のアリ
バイがあった・・・。
民話「カチカチ山」の見立て殺人ですが、「何故見立てにしたのか?」という理由は、まあ納得でき
ますが、他にも方法があっただろw。あと第三の殺人のアリバイ工作は腰砕け。むしろ登場人物の
設定が、月並みでもあるけど、けっこう楽しめました。刑事ドラマに憧れて警察庁に入ったキャリア
の白川はともかく、松原刑事の屈折したダメっぷり、というか情けなさは出色、更に本作に登場する
ヒロインのキャラクターが非常に印象的。

赤川次郎「幽霊園遊会」(文春文庫)★★
1988〜1989年の作品を収めたシリーズ第6弾。
「他人の空似にご用心」は凡作。レッドヘリングは上手いが、それプラス何かが欲しいところ。
「英雄の誇り」は、宇野警部の旧友とその妻が巻き込まれた殺人事件。取り立てて言うことなし。
「夢の追加料金」は貧しい女性が週一回、望みどおりの贅沢がかなう、という話の真相。余りに
も古典的なアイディアですが、これが一番良くまとまっていたか。
巻末の表題作は富豪の婚約披露パーティの最中に、富豪の不肖の弟が舞い戻ってきて・・・、という
話。色々趣向は凝らしているけど、トリッキーな仕掛けでは今ひとつ。
流石の赤川次郎も、第6弾ともなれば、息切れ、マンネリが目立つようになってしまい、凡作としか
言えません。
491名無しのオプ:2007/03/28(水) 13:41:03 ID:1pIuFSKQ
3師、牛深シリーズにハマってしまったようですね
>>102でお勧めしたかいがありましたw
4923:2007/04/04(水) 12:56:40 ID:dIM8iE9X
風見潤「出雲神話殺人事件」(エイコー・ノベルス)★★★☆
1985年の長編。
出雲地方の漁村で起きた連続殺人。この地方に伝わる手毬唄の歌詞をなぞって、龍の住む沼には
村歌舞伎で使う龍のハリボテが死体のそばに沈められ、人食い蜘蛛が住むという伝説のお堂では、
死体に蜘蛛の巣が掛けられていた。更に七番まである歌詞に沿って次々と犠牲者が・・・。
地方の寒村で起こる見立て殺人、と横溝正史ばりですが、かなり満足できる内容でした。特に
「何故、見立てを行う必要があったのか」という点と、理詰めで真相を解き明かす終盤は、「本格」
の名に恥じないもの。さほど派手なトリックがないことと、結末を待たずに真犯人の見当が付い
てしまうことが難点でしょうか。

阿井渉介「列車消失」(講談社文庫)(採点不能)
1990年の牛深刑事物の長編(・・・しかし、発表順とは関係なしに読んでいるなあw)。
大井川鉄道で7両編成の列車から途中の6号車だけが突如行方不明となり、乗客三十数名が誘拐
される怪事件が勃発。更には身代金受け渡しのために牛深刑事たちが乗った寝台車「日本海」で
発生する奇想天外な事件の数々。親不知で列車に飛び込んだ男の死体から胴体だけが消えてしまい、
数百キロ離れた敦賀でその胴体が現れ、更にはその胴体が列車内で車掌をかついで歩き回る・・・。
トイレの密室では射殺事件も勃発。北陸線のループ線でまんまと身代金を奪われた牛深刑事は事件
の真相を追うが・・・。
アハハ・・・・。何だコリャ。これぞバカミス。大井川鉄道の件は、何故最初の捜査で気づかない?寝台
特急で起きた怪事件の数々も、まあ真相と動機は納得できなくもないけど、そこまでやるかなあ?
小技だけど、敦賀のループ線の件、特に、何故この場所か?の二つ目の理由だけ感心しました。
493名無しのオプ:2007/04/06(金) 02:38:13 ID:mb7ldB2w
私も気になったので阿井渉介作品買ってきました。
とりあえず「北」「湖」「雪」の三作を。極地的阿井ブームでしょうかw
494名無しのオプ:2007/04/06(金) 12:29:34 ID:MN2F7IpI
>>493
牛深シリーズは初期の頃はおとなしかったけど、ある時期からハジケちゃったんだよな
担当編集者に「もっと派手にしてください」とでもいわれたんだろうかw
4953:2007/04/09(月) 12:55:30 ID:b5fbaQ85
「推理文学」(1971年4月陽春号、新人物往来社)
本誌は中島河太郎が主宰していた推理文学会が発行する、維持会員制の半商業誌(?)。当時の本格ミステリ作家の
殆どが入会していますが、何故か高木彬光の名が会員名簿に無いですね。
先ずは、新羽精之の中編「日本西教記」★★★★☆。戦国時代、日本にキリスト教を布教したザビエルら宣教師一行の
書簡形式による作品。布教に訪れた薩摩、平戸、山口などでザビエルが見せた奇蹟の数々。だが最後の書簡が明かす
奇蹟の真相とは・・・。これは力作。燃え上がる十字架、死者の再生、密室からの消失、消えた宝石が遠い場所に現れ
るなどの「神の奇蹟」の裏のトリックは、まあ予想できるところですが、題材が新鮮なので飽きません。ザビエルの布教
に賭ける信念と最後の書簡のシニカルな対比なども実に上手い。傑作。
次いで緒方昌彦の中編「都井岬」★★★☆。不倫の男女が九州・都井岬で無理心中。男は死んだが女は一命を取り留める。
生き残った女が「二千万円を男の遺族に贈る」と書き残した手紙を根拠に、男の妻が損害賠償請求の訴訟を起こす。被告
側の女性弁護士がたどり着いた意外な真相とは。毒薬による心中のトリッキーなヒネりが上手い。
中山昌八「美談の構成」★★★☆も佳作。行方不明になったエンジニア。その妻に失恋した過去を持つ男が事件を調べる
うち、同日に起きていた或る交通事故との関連にたどり着く・・・。全てが解決された後に待っている意外な事実は、やや
アンフェアですが楽しめました。
その他、焼死したホームレスの老人が残した原稿から、老人が豊臣秀頼の子孫ではないかという疑惑が持ち上がる加納一朗
「ある落城」、推理作家協会の犯人当て余興作品の大谷羊太郎「風の夜のギター」、天藤真「或る殺人」などもあるが凡作。
むしろ海渡英祐のエッセイ「D・カー小論」が、オカルティズムよりも歴史小説としてD・カー作品を再評価する、当時と
しては画期的な卓見だと思いました。
あと横溝正史の「私の捕物帳縁起」なるエッセイが掲載されるなど、本当は新羽「日本西教記」だけを読みたいために購入
したのですが、大枚千数百円を払った甲斐がありました。
4963:2007/04/09(月) 12:59:14 ID:b5fbaQ85
連投スマソ

豊田有恒「崇峻天皇暗殺事件」(講談社文庫)★★★☆
1987年の歴史ミステリ。
蝦夷の謁見の席上、崇峻天皇が乱入してきた東漢直駒によって暗殺された。同席していた厩戸皇子、即ち
聖徳太子は蝦夷の友人とともに駒を追うが、蘇我馬子の邸辺りで見失ってしまう。だが駒は馬子の持仏堂
の中で殺されており、現場は内部から閂のかかる密室だった・・・。天皇家を支配しようとする蘇我馬子の
仕業なのか?だが皇位継承権のある皇子や関係者が次々と殺されてゆく。聖徳太子は友人の止利仏師や秦
河勝らとともに真犯人、黒幕を追うのだが、それは意外きわまる人物だった・・・。
崇峻天皇暗殺は、日本書紀などでは蘇我馬子が黒幕と断定されていますが、この作品が指摘する真犯人には、
まんまと騙されてしまいました。なまじ日本の古代史を齧っているほど騙されやすいかも。でも動機を考え
れば、まずまず納得できるもの。あと密室トリックも、ちゃんと伏線らしきものもあるし、この時代ならで
はのもので合格。特に、小技ですが聖徳太子の妻・刀自子郎女の扱いが結末で非常に効いています。一部の
登場人物のキャラが変な部分もありますが、なかなか楽しめました。佳作。

生田直親「劇画殺人事件」(光文社文庫)★★☆
1976年の長編。
出版社が主催した少女漫画家たちの慰安旅行で、売れっ子漫画家が信州・天竜川で殺された。不審なこと
に川で発見されたのに、死体は海水を飲んで溺死しており、更に被害者の遺留品は遠く離れた愛知県の
海岸で発見された。殺害現場は愛知県なのか?そうなると信州にいた一行のライバル漫画家、出版社社員
たちにはアリバイがあるのだが・・・。
探偵役となる伊集院という若者が個性的ではありますが、如何せん三十年も前の作品だし、作者の年齢も
あって、かなり勘違いした「若者」像になっています。
謎解きとしては、溺死の謎に絡むアリバイの件が、或る「意外な事実」に支えられているだけで、それが
分かれば一目瞭然で、その事実も推理して解けるものではないので、「本格」としてはダメでしょう。
しかも、終盤は謎解きから真犯人の心情にテーマが移ってしまい、それに感情移入できれば楽しいのでしょ
うが、俺には三流メロドラマにしか思えず、白けるばかりでした。
4973:2007/04/16(月) 12:27:49 ID:LJODU5XG
一週間ぶりだが連投になってしまいスマソ

小杉健治「崖」(講談社文庫)★★★☆
1989年の長編。
千葉県で発見された白骨死体。その男と財産目当てで結婚したらしき女・理沙子。千葉県警の刑事
市枝は理沙子の犯行だと確信するが決定的な証拠は無かった。理紗子は更に財産家の男と結婚し、
またも男が不審死を遂げる。市枝は彼女を再度追及するが、稀代の悪女である理沙子が簡単に尻尾を
掴ませるはずもなかった・・・。
ヒロインの悪女と刑事の駆け引きが続くのかと思いきや、途中から流れが微妙に変わってゆき、何だ
ろう?と思っていたら、なるほど、そういうことでしたか。さほど切れ味が鋭いトリックでもない
ですが、読者の注意を逸らせるテクニックが渋い。決してハッピーエンドではないのに、どこか爽や
かな読後感があるし、憎々しいながらも、どこか共感を覚えるヒロインの造形も上手いです。「本格」
としては或るトリック一発頼みだし、伏線にも不満な部分がありますが、先ず先ずの作品でしょう。

岩崎正吾「恋の森殺人事件」(立風ノベルス)★★☆
1989年の長編で「風よ、緑よ、故郷よ」の続編。
前作「風よ、緑よ、故郷よ」で事件を解決した「ぼく」こと正雄は、東京に戻らず、実家を出て近所
で山暮らしを始める。片腕の孤独な猟師と知り合うなどするうち、公園で起きた女子高生狙撃事件に
遭遇、被害者は一命を取り留めるが、更に、太鼓の名手の老人が狙撃された末、命を落としてしまう。
行方不明の片腕の猟師が容疑者として浮かび上がるのだが・・・。
・・・・・・。この真犯人には唖然。「そんなこと出来るかよ!」と突っ込みたいです。一応、色々な事例
を挙げてはいるんですけどねえ・・・。同じ犯人を扱った或る有名作品では、推理の過程などで納得
できたし、凄くインパクトが強かったのですが、本作ではギャグでしかない。あと、ごく当たり前の
正論なんですが、どこか甘っちょろさが抜けない自然観やヒューマニズムもどうもねえ・・・。
4983:2007/04/16(月) 12:31:07 ID:LJODU5XG
更に連投スマソ

日下圭介「竹久夢二殺人事件」(徳間文庫)★★★
1985年の長編。
大正初期、福島の温泉を訪れた竹久夢二と名乗る男から貰った葡萄酒を飲んで旅館の経営者
夫婦が毒殺される。数年後、その旅館の女中だった多鶴は上京して、再び竹久夢二の絵を巡る
事件へと巻き込まれ、土蔵の密室で殺されてしまう。夫はその復讐を誓い、夢二とその愛人を
付け狙うのだが・・・。
竹久夢二は探偵役と言うわけでもなく、まして犯人でもなく、ちょっと面白い立場に描かれて
います。夢二を巡る女性たちを丁寧に描いており、また大正時代の雰囲気も満点ですが、その分、
謎解きが薄くなってしまったのが残念。密室トリックはまあまあの出来でしたが。

草川隆「個室寝台殺人事件」(廣済堂文庫)★★☆
1986年、この作者のミステリ・デビュー作。
宮崎発の寝台列車「富士」で発見された女性の生首。手足は静岡で発見されたことから、警視庁
は列車内の凶行と断定する。やがて被害者は列車の隣室に乗っていた奇術師・フー谷田の妻と判明
するが、隣にいながら妻に気付かないなど証言に不審な点があることから、警察は谷田への容疑を
深める。だが彼もまた自宅で密室状態の中、殺されてしまう。警視庁の若手刑事・下川と事件を
通して知り合ったフー谷田の女弟子・若山美代のコンビは事件を追うのだが・・・。
密室トリックは失格、列車におけるトリックも手ごたえが無さ過ぎます。普通に推理できるとおり
の真相で、もう一ヒネり欲しいところ。次作「寝台特急『あさかぜ』殺人事件」の方が遥かに出来が
良いです。凡作。なお文庫版解説は鮎川哲也。彼も新本格登場前の状況では、このレベルのミステリ
でも、貴重な「本格」作品として推薦したかったのでしょうかねえ。
4993:2007/04/26(木) 13:23:38 ID:VfFfca1X
こう連投が続くと、そろそろ「チラシの裏・・・」と叱られるかな・・・。

高柳芳夫「維納の森殺人事件」(双葉ノベルス)★★★☆
1984年の、ウィーンの日本大使館員・草葉を主人公とする長編。
ウィーンで国会議員を接待する草葉が出会った国際電話会社KDKの社員・赤井は、謎の女性の影におびえ、
彼女に殺されるかもしれない、と草葉に訴える。KDK社の部下とともに赤井の滞在するホテルに向かった
草葉が見たものは、ホテルの窓越しに女性と争う赤井の姿だった。だが草葉が部屋に飛び込むと。赤井も
女性も消えていた。密室状態のホテルからどうやって消えたのか。やがてウィーン郊外の森で赤井の死体
が発見される・・・。
本作は「ベルリンの女」(徳間文庫)収録の短編「国際電話会社殺人事件」を長編化したものですが、幾つか
の点で改良されています。ストーリーは、かつて世間を騒がせたKDD事件をモデルに、ウィーン、チュー
リッヒ、パリと草葉が活躍し、在外公館の描写もなかなか冴えているし、ホテルの密室トリックも、余り
機械的なものに頼らず、些細な盲点を突くもので合格でしょう。真相のヒネりも頑張った方だと思います。
更に結末にチラッと疑問を残して、或る人物の関わりを匂わせるのも上手い。

志茂田景樹「桜桃忌殺人事件」(徳間文庫)★☆
1984年の長編。
太宰治ファンの女子高生トリオが、桜桃忌に太宰ファンの男と出会う。五年後、その男と結婚したトリオの
うちの一人が謎の失踪を遂げた。夫はトリオのもう一人とともに妻を追って津軽へと旅立つが・・・。
太宰の「津軽」におけるルートに沿って事件が起こるものだが、伏線がメタメタ。レッドヘリングや意外な
真犯人は用意されているけど、事件の動機が余りにも唐突。アリバイ工作もダメ。太宰治に関する考察も、
素人に毛が生えたレベル。以前に読んだ「月光の大死角」のようなブッ飛んだ豪快さにも欠けていて、バカ
ミスにもならない。駄作。
5003:2007/04/26(木) 13:25:39 ID:VfFfca1X
山村正夫「大道将棋殺人事件」(双葉文庫)★★★★
奇手、策略を得意とする故に、将来を嘱望されながらも師匠のもとを飛び出し、テキ屋稼業の詰将棋屋に
身を持ち崩した風早仙吉が、放浪先の各地で探偵として活躍する1985年の連作集。
第1話「鬼殺し」は全体のイントロダクション風だが、×××の行動による一種のアリバイトリックを扱った
作品、続く「瀬戸の夕凪」は尾道が舞台。これも使い古したトリックながらも本格の謎解きに拘っている。
「海猫岬」は松江、出雲地方で起きた自殺偽装事件を風早が解く。ここでもスタンダードなトリックと、
見え見えながらもレッドヘリングまで用意しているのに感心。
ベストは「国東心中」。寺のお堂で無理心中したかに見えた男女。現場は密室だが、凶器が見当たらない・・・。
被害者の子供に関する些細な描写が上手い。
「陸中双玉殺人」は凡作で真相は直ぐに見当が付くが、×××トリックの典型だし、最終話「闇路が浜」も
凡作ながら、飽くまでトリックを入れないでは済まない、という姿勢は良心的かな。
トリックがストーリーに溶け込んでいない作品など、凡作も多いし、しかも俺は将棋のルールを知らず、
作品中の将棋の話は殆ど理解できなかったのですが、それでも楽しめました。「大道の詰将棋師」という
ユニークな主人公の造形が面白いし、最低一つはトリックを用意している姿勢も評価できる。実に渋くまと
まった、アウトローの悲哀溢れる佳作だと思うので、甘いけど★4つ。
501名無しのオプ:2007/04/26(木) 14:18:23 ID:ed3g+idU
この間古いノートを整理してたら、中学の時に書いていた「読書感想ノート」みたいなものが見つかった
で、読んでみたら阿井渉介の作品十冊ぐらいの感想が書かれていた。
どれも痛々しい感想で苦笑したけどw
502名無しのオプ:2007/04/26(木) 22:25:57 ID:IiR4vvGQ
3師、お気になさらず続けてください
レスがついているととても楽しい気持ちになります
503名無しのオプ:2007/04/29(日) 21:34:01 ID:RnvBOSLC
最近紹介してくれる小説、まったくブッコフで見かけんw
504名無しのオプ:2007/04/29(日) 22:42:39 ID:24Yu7n0P
俺の地域でも見かけんよw
田舎だからかも知れないけど
5053:2007/05/01(火) 13:10:55 ID:w+te4C3B
どうも有難う。
あと、今回はブクオフで割りと見かける作品だと思います。

笹沢左保「誘う女」(光文社文庫)★★★
1961〜1976年までの作品のうち「本格」物で固めた短編集。
「餌」は新幹線を舞台にしたアリバイ物。シンプルだが手堅くまとまっている。「五人家族」は家庭内で
起きた現金窃盗事件。疑心暗鬼の家族が、次男の密室での謎の死によって崩壊してゆく。密室トリックは
ギャグでしかない。「乳色の夢」は落ちぶれたバーテンダーと或るカクテルを巡る話。ダイイングメッセー
ジ物だが、これは戸板康二の短編だったら面白いけど、この作者が扱うには無理がある。「赤い誤算」は
互いに殺意を抱く恋人同士が破滅する話でアリバイ物の変形。
「その朝に見た夫婦」がベストかな。些細な会話の断片から真相が引っくり返るのだが、そのトリッキーな
錯誤は最近の「新本格」風でもある。ラスト一行では「笹沢節」が炸裂しているし。「一歩手前」及びラスト
の表題作は駄作。工夫を凝らし、ドンデン返しもあるけど物足りないです。

山村美紗「華やかな密室」(中公文庫)★★☆
京都・祇園のクラブで働く女子大生ホステスが、恋人の弁護士とコンビで活躍する連作集で全4話。
巻頭の表題作は、チェーンの掛かったマンションの密室殺人。「またこのトリックかよ」とガッカリ。
「夜の不死蝶」は監視カメラのある病室が舞台。ちょっとユニークな仕掛けだが、良く考えれば、警察が
気付かないのはおかしいよ。
「死の同伴者」は鍵が密室内のバッグの中にあるという趣向。これも鑑識が気付かないのはおかしいのだが、
トリック自体は面白かった。あとホステスの生態に絡む、意外な真犯人などもあってベストかな。
「花のアリバイ」は密室でなくアリバイ物だが、このトリックはまるでダメ。むしろサブトリックである
「香の焚かれた現場」の真相の方が、意表を突いていて面白かった。こっちをメイン・トリックにすべき。
5063:2007/05/01(火) 13:15:02 ID:w+te4C3B
島田一男「箱根地獄谷殺人」(天山文庫)★★★★
1952年頃に「宝石」誌に連載されたシリーズらしいですが、初刊の光風社版「犯罪山脈」は1958年と
いうことでご容赦を。小田原支局の新聞記者・日下部を主人公にした連作集。春陽文庫では「特ダネ
はもらった」、徳間文庫では「通信記者」というタイトルらしいです。作者の「あとがき」にあると
おり、「本格」を意識して書いた、知られざる?佳作。
第1話「魔弓」は主人亡きあとの未亡人、妹、小姑らの遺産を巡る暗闘の中、未亡人が密室で矢に
射抜かれて殺される。機械的と思わせて実は、というユニークな密室トリックが面白い。
第2話「腐屍」は手紙に関するアリバイ物、第3話「毒唇」は映画上映中のトリッキーな殺人だが、
これらは今ひとつの出来。
第4話「死火山」はパーティ席上で配られた飲み物による毒殺事件。毒殺トリックの典型ではあるけ
ど、珍しく論理的な推理の過程が冴えている。或る盗難事件など小技も決まっています。
最終話「邪霊」は新興宗教の団体に貸した金を督促する高利貸しが、見張りつきの密室で首を切断
されて殺される。神罰だとうそぶく教祖には鉄壁のアリバイがあり、その取り巻きや、高利貸しの
部下にも不審な動きがあるのだが、密室は完璧なものだった・・・。或る「物」を使ったトリックに
心理的な仕掛けを組み合わせた点が秀逸。さり気ない描写など憎いほど。本作がベスト。

鳥井加南子「死者の還る渚」(光文社文庫)★★☆
1987年の長編。
両親に幼馴染との結婚を反対され、友人の福子を誘って十数年ぶりに伊勢志摩の奥地の故郷に帰省した
天宮珠子。親戚などを訪ねるうち、幼児の頃の、祖父の事故死の記憶が徐々に明らかになってゆく。両親
が幼馴染との結婚に反対し、自分たちは決して故郷に帰ろうとしなかった理由は何なのか。だが大晦日の
晩、とうとう殺人事件が勃発する・・・。
オドロオドロしい伝奇ミステリを想像していましたが、意外と淡白な印象。トリッキーな仕掛けに乏しい
ので、本格ミステリとしては非常に物足りないのですが、真犯人だけは意外性十分。それなりに伏線も張ら
れているので、まあ良しとしましょうか。
5073:2007/05/01(火) 13:20:19 ID:w+te4C3B
3連投スマソ、しかもこんな超駄作・・・

草野唯雄「アイウエオ殺人事件」(光文社文庫)☆
1986年の長編。
商事会社の経理部で、女子職員の横領疑惑をきっかけに連続殺人事件が勃発。先ずは阿妻という
OLが、次いで入間、その次は宇田・・・。被害者の頭文字は「ア」「イ」「ウ」・・・。この先
は「エ」「オ」の頭文字を持つ者が殺されるのか。更には幽霊騒ぎなども起こり、会社はパニック
に陥る。果たして四番目、五番目の被害者は・・・。
まあ、題名からして駄作、際物、トンデモ系だろう、とは思っていましたが、ここまでバカバカ
しいとは・・・w
ストーリーが下世話すぎるし、OLのセリフも「てめえ!」とか「この野郎!」といった調子。
「アイウエオ」どおりに殺される理由はちゃんと用意されているけど、初心者以外なら誰でも
最初の数十ページで見破れるし、初心者がこれを読んだらミステリ嫌いになっちゃうよw
そして見破ったとおりに終盤で真犯人が登場、「ところで幽霊騒ぎはどうなった?」と思ったら、
余りにもトンデモなドンデン返し。これには笑った。虚しく笑った。
豪快なトリックなどがあるならバカミスと言っても良いけど、そんなものもなく、「そもそも作者
は、どんな読者層を想定して書いたのだろう?」という根本的な疑問が・・・。
「バカミス」ではなく、バカそのものの「ミステリ風作品」と言えば良いのか・・・。
508名無しのオプ:2007/05/01(火) 23:21:01 ID:tbkc2uGz
3師はどんな怪作・駄作でもきちんとレビュー書いてくれるのが偉いと思う。
思わず探して読んでみようかって気になるもんなあ。
5093:2007/05/07(月) 12:14:58 ID:LeJtUmmd
清水一行「公開株殺人事件」(角川文庫)★★★
1984年の長編。
電子製品で急成長を遂げたベンチャービジネスの監査役・原田がシンナーを使った急性中毒で殺される。
不仲だった彼の後妻と娘たちは遺産を巡って暗闘を繰り広げていたが、彼女らにはアリバイがあった。
また原田らが追放した会社の創業者にもアリバイがあり、結局、彼にカネをせびっていた甥に容疑がかか
り、その甥は自殺し、事件は一件落着したかにみえた。だが・・・。
解説で権田萬治が「奇抜な機械的トリックと結末の意外性」と書いているので読んでみました。急成長
する会社の株式公開を巡る関係者の思惑、技術屋と事務屋の確執、取引先銀行の暗躍などなど、いわゆる
「経済推理」で、のんびりGWに読むような話ではなかったですが、けっこう面白かった。
機械的トリックは、「本格」のトリックとして許容できるものか疑問ではあるものの、まあユニークでは
あるし、「結末の意外性」も伏線不足ながら二重にヒネっていて、切れ味は先ず先ず。むしろ、刑事たち
の地道な捜査が丹念に描かれていることから、「警察小説」の佳作として評価したいと思います。他にも
密室トリックが出てくる作品があるらしいので、そちらも探そうかと思います。

斎藤栄「鎌倉将軍連続殺人事件」(集英社文庫)★★★
1980年の長編。
明法大学サッカー部のコーチを務める椎橋は鎌倉時代専攻の歴史学の助教授だが、恋人の女子大生を鎌倉の
別荘に誘ったところ、放火騒ぎに巻き込まれて、恋人を殺されてしまう。彼女が残した謎の言葉「ケマリ」。
更にサッカー部の選手や関係者が次々と殺されてゆく。ついには椎橋も修善寺の別荘で、密室状態の浴室内
で殺されてしまうが、その状況は彼の研究テーマであった鎌倉二代将軍・源頼家の暗殺と奇妙に一致していた。
部のキャブテン・加賀美は警視庁警部の父親とともに事件を追うのだが・・・。
源頼朝、頼家、実朝の源氏三代の史実に奇妙に沿った設定で、「じゃあ、真犯人はアレの立場にあるヤツか」
と思ったのですが・・・。それはともかく、最後のドンデン返しは上手いけど、その手前、最後に起こる事件
が余計なものに感じられて、驚きと切れ味が鈍ってしまったのが残念。
5103:2007/05/07(月) 12:21:14 ID:LeJtUmmd
saeg忘れたスマソ

山村美紗「京都大原殺人事件」(徳間文庫)★★★
1984年のノンシリーズ長編。後年この作者が乱発する題名「京都×××殺人事件」の第一弾らしいです。
失恋旅行で京都・大原を訪ねた東京の女子大生・麻由子。同地の旧家・水尾家に滞在するが連続殺人に
巻き込まれる。主人が愛人とともに毒殺されたのを皮切りに、長男が自室の密室で殺され、長女も瀕死の
重傷を負う。更には使用人たちも次々に殺されてゆく・・・。
アリバイ、密室・・・とトリックも盛り沢山で、序盤、中盤は快調だったのに、終盤の失速したような投げ
やりな文章が惜しいです。複雑な家庭環境を元にしたプロットは考え抜かれており、トリックも、密室
トリックはともかく、或る物を使ったアリバイ工作は、この作者お得意の「一昔か二昔前のハイテク」に頼る
ものでなく、ごく単純な錯誤によるもので、これは現代でも応用次第で使えると思う。
しかし、これだけの布陣で臨んだのに、終盤以降、作者が興味を失ったのか、投げやりに謎解きを説明して
いるだけのような文章はどうしたことか。残念。

小林久三「殺人試写室」(廣済堂文庫)★★☆
1977年の長編ですが、乱歩賞受賞作「暗黒告知」に十年も先立つ1964年に既に執筆されていた、作者の
処女作らしいです。
世界的な映画監督・都築が大船駅のホームでロケ中、助監督が何者かに線路に突き落とされて轢殺される。
その列車に乗っていた恋人の瑛子やホームの乗客たちは、被害者を突き落とす赤い上着を着た男を目撃した
のだが、その男は跨線橋の階段で不可解な消失を遂げてしまう。殺された助監督は、戦前に製作され、反戦
的な内容で上映禁止になり行方不明となっていた幻の映画を探していたが、その映画に事件の謎が隠されて
いるらしい。やがて都築もまた撮影所の密室で刺殺される・・・。
斜陽の日本映画界を描いた作品で、その点は大変面白く読めました。ただ、消失トリックは小栗虫太郎と
いうか葛山二郎ばりというか奇天烈なものだし、撮影所の密室も必然性に疑問が。いろいろ動機や真相に
関して説明されているけど、面白いものではないです。凡作。
511名無しのオプ:2007/05/07(月) 23:23:17 ID:cSuh43Cc
>>507
同じ作者の『死霊鉱山』もかなりのキワものだった記憶がある。
512名無しのオプ:2007/05/08(火) 00:30:30 ID:cFbxmetq
内田康夫も京太郎も初期には傑作があるが、
山村美紗の傑作ってあまり聞いたことないな・・
513名無しのオプ:2007/05/08(火) 01:26:00 ID:u+UQy0CV
そうかな? 山村美紗は「花の棺」とか初期はけっこうガイド本にも載ってね?
むしろ内田康夫のほうが浅見光彦のキャラクターとしての印象が強すぎて
具体的な作品名を挙げられてることが少ないような
514名無しのオプ:2007/05/08(火) 02:16:56 ID:ZQ7Nz496
西京も赤川も山村も中には傑作もあると思うけど内田だけは
何故かない気がする
515名無しのオプ:2007/05/08(火) 11:47:06 ID:UZuXflUt
山村は『花の棺』『燃えた花嫁』の2長編と短編集『黒の環状線』は傑作だと思う
内田はデビュー作の『死者の木霊』、浅見初登場の『後鳥羽伝説殺人事件』は佳作ではないかと思う
短編集では『パソコン探偵の名推理』『少女像は泣かなかった』『死線上のアリア』がそこそこ面白かったかな
初刊時に読んだきりの遠い記憶を基にした評価なので、参考にならないかも……
516名無しのオプ:2007/05/08(火) 18:57:18 ID:Y4dddpEa
「黒の環状線」は長編だろ?
短編集だと『殺意のまつり』(1976年文春文庫)とか『幻の指定席』(1978年文春
文庫)でしょう。
517名無しのオプ:2007/05/08(火) 20:06:55 ID:UZuXflUt
素で間違ったorz
>>516指摘サンクス
518名無しのオプ:2007/05/12(土) 14:45:24 ID:tlhX0ZKO
今日、嵯峨島昭の「美食倶楽部」を買ってきたんですが、これって副題に
グルメ殺人事件とあったのでてっきり>>358だと勘違いしたのですが、
別物なんですね。>>358は「デリシャス殺人事件」の改題なんですね。
「グルメ刑事」ってのもありますし、ややこしー

ノベルス系は改題多いし、タイトルだけうるおぼえではダメですね…勉強になりました
519名無しのオプ:2007/05/13(日) 18:50:08 ID:0VlpFQWC
本岡類の人妻が熊だかサメだかに食われるヤツ面白い?
520名無しのオプ:2007/05/13(日) 21:05:01 ID:JgD5fvXP
>>519
『斜め[首つりの木]殺人事件』(原題『大雪山 牙と顎の殺人』)
カッパ・ノベルス(光文社)昭和61年9月刊
光文社文庫 平成6年1月刊
八年前、大雪山旭岳で人妻がヒグマに食われ、
それから、四年後、オーストラリアで新妻が鮫に食いちぎられて死ぬんだけど
実は、二人の夫は同一人物で、彼は多額の保険金を受け取っていたという設定。
この頃の本岡類は意外なストーリー展開と大胆な不可能犯罪の本格推理を次々と発表していて
自分はリアルタイムで、それらの作品を読んでいたよ。
氏の初期の作品は本格好きな読者なら一読の価値はあると思う。
521名無しのオプ:2007/05/13(日) 22:23:01 ID:0VlpFQWC
>>520
おいもしかしてネタバレじゃあるまいな
522名無しのオプ:2007/05/13(日) 23:05:04 ID:JgD5fvXP
>>521
心配ご無用です。
文庫版の表紙裏のあらすじ紹介の一部を抜粋しただけだから。
523名無しのオプ:2007/05/13(日) 23:33:08 ID:0VlpFQWC
そっか
ありがとね
5243:2007/05/14(月) 12:09:45 ID:IgSrjsvf
清水一行「神は裁かない」(光文社文庫)★★★☆
1976年の長編。
女医の柳子に夫の浮気を告げる電話。柳子が浮気現場のアパートに行ってみると、ベッドには
夫の姿が。怒った柳子は夫を残して自宅へ戻るが、翌朝目が覚めてみると、夫はすぐ隣で絞殺
されていた・・・。逮捕された柳子の弟の徹夫が事件を追うが、姉の見た浮気現場のアパート
は何故か見つからない。更に事件は近隣の医者たちにも広がって行く。或る医者は子供を誘拐
され、医院を廃業せよ、と要求される。寝台特急「あさかぜ」では、別の医者が転落死。犯人
は近隣の医者を破滅させ、患者を独占しようとする同業者なのか・・・。
これは珍しいフーダニット物の佳作。まあ現代の厳しい読者から見れば、中盤を過ぎた辺りで
真犯人と動機には見当が付いてしまうかも。だが俺は、医者に関する或る件について、或る
「思い込み」があったので、完全に真相を見破ることは出来まなかった。
その他、消えたアパートの部屋の謎、寝台「あさかぜ」の時刻表トリック、誘拐事件の意表を
突いた決着など、前例多数の手垢の付いたトリックばかりではあるが、かなり「本格」に忠実
だと思う。真犯人の動機も非常に重いもので、当時はもちろん、現代でも十分通じるもの。

阿刀田高「過去を運ぶ足」(文春文庫)★★★☆
1972〜1978年に発表された作品による、初期の短編集。
もちろん「奇妙な味」の作品群がメインだが、未だオーソドックスなミステリの形式を引き
ずっており、図書館を舞台にした「記号の惨殺」は、奇抜な機械的トリックをメインした本格
ミステリそのもの。「天国に一番近いプール」も、ブラックユーモア風だが、実は密室トリック
の変形だし、「不在証明」は、皮肉な結末を除いたら鮎川哲也の短編そのもの。「氷のように
冷たい女」「窪んだ壁」は強烈なオチで、出世作「冷蔵庫より愛を込めて」などの作品群に近い
けど、実は古典的な死体処理トリックに忠実に従ったもので、推理の過程もちゃんと描かれている。
残りの作品は「奇妙な味」そのものだが、「本格」として無視できない短編集だと思います。
5253:2007/05/14(月) 12:13:26 ID:IgSrjsvf
連投スマソ

山村美紗「消えた相続人」(光文社文庫)★★★☆
1982年、キャサリン物の第4作。
キャサリンが今回遭遇したのは、パートナー浜口の教え子である女子大生誘拐事件だった。家族に
より身代金5千万円が支払われたが人質は解放されない。キャサリンは人質を殺されず、かつ犯人を
炙り出すための意表を突いた作戦を提案。人質にはアメリカの知り合いから200万ドルの遺産が
贈られる、というものだった。人質を生かして返せば、その遺産を犯人に渡す、とキャサリンは申し
出るのだが・・・。
これは本格ミステリとしてよりも、「誘拐ミステリ」の佳作でしょう。キャサリンと犯人の虚々実々
の駆け引き、逆転また逆転の展開で、この作者には珍しく、緊迫したストーリーが持続したまま、
一気にラストの意外な真相へとなだれ込みます。犯人の行動と、その裏をかこうとするキャサリンの
推理も見事。
惜しむらくは、真犯人の設定が、ちょっとアンフェアではないかと。伏線が無い訳でもないが、こう
いう登場の仕方は無いよなあ。

長井彬「萩・殺人迷路」(光文社文庫)★★★
1987年のノンシリーズ長編。
萩焼の人間国宝・大杉源之助が、弟子の陶芸家・三宅を殺した後、自宅の離れで自殺したらしき
事件。だが三宅の死亡推定時刻よりも遥か前に、大杉の自宅は閂が掛けられ、完全な密室状態に
あった。大杉はどうやって離れに戻ることが出来たのか。また、事件発生前に、JRで萩と近隣
の駅を行ったり着たりしていた大杉の不審な行動は何だったのか。萩を訪れていたルポライター
の関口は、陶芸店で知り合った千草と事件の謎を追うのだが・・・。
向こう気の強いルポライターが地方の観光地でボンクラ警察を尻目にヒロインと一緒に大活躍、の
例のパターン。しかし辟易するストーリーを別にすれば、前作「殺人路・上高地」(>>195)や次作
「南紀殺人・海の密室」(>>95)よりも、本格ミステリとしての骨格は整っており、まあ良く考え
ると突っ込みたい部分はあるのだが、密室トリックの他、アリバイトリックも配して、それなりに
まとまっています。
5263:2007/05/18(金) 12:56:41 ID:rXyAl/yH
清水一行「密室商社−男の報酬」(集英社文庫)★
1980年の長編。
総合商社の常務が出張先のタンザニアで射殺される。現地に向かった若手商社マンの入江は、
常務に同伴していた女性が、先輩の大久保部長の妻であることを知るが、彼女は人知れず東京
に戻り、別居中のマンションで殺されていた。だが現場の鍵は管理人らが厳重に管理しており、
密室状態にあった。被害者や犯人はどうやって部屋に出入りできたのか。企業の厚い壁に阻ま
れて警察の捜査が難航する中、入江は独り、事件の謎を追う・・・。
典型的な「企業小説」。「日本経済の尖兵」やら「企業の非情な論理」やら「男の矜持」やら「熱い
生き様」・・・・以下略w
入江と大久保部長を中心にストーリーは進みますが、中盤以降の謎解きに大いに不満が残った。
ストーリーの進行に従って、推理するでもなく謎は解けてゆき、しまいには予想外の人物が
登場してベラベラしゃべって解決・・・。密室トリックも最も詰まらない真相、もう一つの或る
トリックも、誰でも分かるレベル。この作者の膨大な作品群から「神は裁かない」という佳作に
巡り会えただけで喜ぶべきでしょうか。

(2007.5.17)
田中雅美「あっちゃんの推理ポケット」(光文社文庫)★★★
1985年の長編。
幼稚園児あっちゃんの親友、美加ちゃんが交通事故で死んだ。美加ちゃんは事故の直前、男の子
にイジメられて幼稚園を飛び出してバスにはねられたのだが、あっちゃんは納得せず、お母さん
の由子とコンビで事件の謎を追う・・・。
清水一行が脂っこかったので、口直しに、と思ったら今度は軽すぎたか。仁木悦子みたいな作風
かと思って読んでみたのですが、ちょっと違うな。マセたガキを描いても、仁木悦子なら抑制が
働くところ、やや悪ノリ気味で残念。
もっとも謎解きについては、出来るだけフェアに手掛かりを提供しようと心がけており、シーソー
の件や学芸会における伏線など、ごく軽いものだが幼稚園らしくユニークで良かった。また書き方
次第では非常に後味が悪くなるのに、絶妙のバランスで回避しているのは上手い。
・・・しかし幼稚園児がこんな利口な話し方しないよ。これじゃ小学校の中学年レベル。
5273:2007/05/18(金) 12:59:50 ID:rXyAl/yH
連投スマソ

本岡類「ウブドの花嫁」(角川文庫)★★☆
1989年に雑誌連載された、インドネシア・バリ島を舞台にした作品からなる連作集。次の話の
主人公が前の話にちょっとだけ登場し、前の話の主人公から魔力を持つというペンダントを貰う
が、犯罪に巻き込まれて・・・という繰り返しで、女性たちの手から手へと渡ってゆくペンダントが
真の主人公。最近の連作では、こういうリレー形式は時々見ますが、この当時は珍しかったのかも。
第1話「ロリータ・ハネムーン」は、新婚旅行でバリ島を訪れた夫婦が主人公。妻は夫の奇妙な
行動に不審を抱き、ホテルで起きた殺人事件の犯人ではないかと疑うのだが・・・。サスペンスと
しても謎解きとしても中途半端。伏線も足りない。
第2話「オーバー・ブッキングにご用心」は、第1話の主人公からペンダントを貰った女性がバリ
島から帰国するが、成田空港で恋人を見かけ、問い詰めると別の女性とハワイに行っていたことが
判明、だがハワイでは会社の重役が殺されていた、という話。これも謎解きとしては物足りない。
第3話「時差のおとし穴」はペンダントを貰った女性の友人が殺されるが、容疑者の婚約者は事件
当時、シドニーから日本に向かう飛行機に乗っていた・・・。思いもかけない事実から意外な真犯人
が浮かび上がり、アリバイ工作はともかく、ちょっとバカミスに近いけど余り前例のない密室トリッ
クが面白く、本格派としての作者の本領発揮。
最終話の表題作は、地元男性と結婚する女性が、結婚に反対する父親と従姉妹を連れてバリ島を訪
れるが、地元民の仕業と見られる盗難騒ぎが続出し、父親は激怒する。だが意外なことに・・・。
謎解き自体は軽いものですが、伏線は怠りなく、最終回として上手く締めています。
・・・全体的に洒落た構成ですが、謎解きはごく軽いものが多く、また出版された年から分かるとお
り、かなりバブル臭が充満している内容の作品でした。OLが贅沢な海外旅行して、東京ではフラ
ンス料理でデート。嗚呼・・・。
528名無しのオプ:2007/05/21(月) 00:50:30 ID:+eAdneGM
『支笏湖殺人事件』草野唯雄
1980年5月 徳間ノベルス
1984年12月 徳間文庫
新宿にある出版社の駐車場管理人が殺害されて、有力容疑者の編集者が出張先の支笏湖で遺書を残して溺死しまう。
警察は自殺と断定するが、夫の無実を信じる妻が事件の謎に挑むというストーリー。
この作品で事件の謎を解明するのは、後年、シリーズキャラクターとして活躍する尾高一幸。
尾高の現地調査が自殺説を覆していくプロセスが克明に描かれていて楽しめる。
のちにシリーズ化されたのも頷ける出来。
5293:2007/05/22(火) 12:19:10 ID:26vxhDxX
小杉健治「裁かれる判事」(集英社文庫)★★★★★
1987年の長編。
地裁判事の寺沢は担当する裁判の被告の妻に誘惑され、危うく逃れたものの、別の赤いコートを
着た女性に声を掛けられ、一夜をともにする。だがその頃、被告の妻は殺されていた。ホテルの
前を歩く寺沢と被害者の写真が暴露され、現場から不利な証拠が発見され、アリバイを証明する
はずの赤いコートの女性は名乗り出ず、寺沢は逮捕、現職の判事が殺人事件の被告として法廷に
立つ前代未聞の事態に。彼の無実を信じる義妹は、姿を現さない赤いコートの女性を探して新潟、
仙台を旅する。そして遂に彼女を発見し、法廷で証言することに成功するのだが・・・。
久々に5つ星の傑作。上記のあらすじから、アイリッシュのあの名作が頭に浮かびますが、あれが
念頭にあっても無くても、恐らく騙されるでしょう。幻の女性が法廷に立つシーンでアッと驚くの
も束の間、事件が180度引っくり返って、予想外の展開でラストになだれ込み、そして、幻の女性を
巡る、しみじみとした結末へ。
派手なトリックもなく、或る人物の行動、心理には疑問があるし、真犯人の設定にも不満があるの
で、厳密に「本格ミステリ」としてのみ判断すれば、3つ星半ぐらいでしょうが、とにかく終盤で
驚いたし、アイリッシュの名作に劣らないぐらい感動したので、最高の評価にしました。

草川嶐「急行〈アルプス82号〉の殺人」(双葉ノベルス)★★★★
1988年の長編。
芸能プロの社長が入院先の病院から誘拐された。犯人は「身代金を新宿駅に到着する急行アルプス
82号の車内に持ち込んで、そこにある別のカバンを開けろ」と要求するが、車内のカバンから出て
きたのは誘拐された社長の生首だった。そして騒ぎの中、身代金は何者かに奪われていた・・・。
これはもう一寸で傑作になったのに惜しい。最後に明らかになる真相と、首を切断した理由は盲点
を突くもので、非常に感心した。伏線もあったのに、「何が起きたのか」という点で完全にミスリー
ドされてしまい、思わず膝を叩きました。だが、本編のストーリーが余りに貧弱。これだけの真相
とトリックを用意しておきながら、ベタベタの展開というか、精彩のない文章で、非常に勿体ない。
530名無しのオプ:2007/05/22(火) 18:06:42 ID:K+YKKb5d
3が久しぶりに良い作品に当たったようで安心したw
531名無しのオプ:2007/05/23(水) 22:48:03 ID:Q5mmW6Kk
「読みました」報告・国内編23

戸板康二「淀君の謎」(1983年講談社)
歌舞伎俳優、中村雅楽を探偵役とする連作短編集。
表題作は悪女として知られる淀君の本質を追及する歴史推理もので、シリーズとしては
異色作。「時の娘」の雅楽版といっては大げさですか・・他の作品はいずれも「日常の謎」系
の軽いミステリ、なかでは「むかしの写真」が人情噺として秀逸。
しかし「団十郎切腹事件」など初期の本格度の高い作品がなつかしい。

陳舜臣「弓の部屋」(1962年東都書房、81年講談社文庫)
長編第3作、初めて陶展文が出てこないノンシリーズの本格ミステリ。
異人館の2階に集まった7人が花火見物中に毒殺事件に遭遇。3人の人物が次々と自分が
犯人だと名乗り出るが・・・毒殺トリックは中国人の著者らしいユニークなもの、しかし
それだけで、作者らしい重厚さに欠ける作品。

5323:2007/06/05(火) 12:02:12 ID:TGIv71RJ
溜まってしまい、連投続きになりますが予めご勘弁下さい。

池田雄一「カルチャーセンター殺人講座」(トクマノベルス)
(採点不能)
1985年の長編。
主婦向けのカルチャーセンターでミステリドラマのシナリオ講座
を受け持つ飛池克久。ある日、授業中に血まみれの男が教室に
飛び込んできて絶命した。被害者は歌川というカラオケ講座の
講師である作曲家。やがて、カルチャーセンターの講師たちを
狙った連続殺人事件が勃発する・・・。
連続殺人を描く本編と、その事件を題材に講座を進める飛池の
話が並行して展開。アリバイ、××トリック、二重三重のドン
デン返しなど、趣向は盛り沢山だが、これが古今東西の名作ミ
ステリのネタをそのままブチ込んだだけの代物、飽くまで素人
向けのミステリ講座で事件を推理するという構成から、分かり
易いネタを、ということだろうが余りにも安直、文章も通俗的
で、とにかくバカバカしい。2ちゃんミステリ板に「究極にベ
タなサスペンスシナリオ」というスレがあったが、あのスレそこ
のけの展開。「ひょっとして作者は2時間ドラマを皮肉ってい
るのかな」とも思ったが、どうやら大マジメのようで、イタ過ぎ
る。トリックにオリジナリティがあって俗っぽさを捨てれば、
或る趣向を考慮して、「新本格以前には珍しい試み」として別の
評価が出来るが・・・。
なお主人公の名前が何のモジリかは分かりますねw
5333:2007/06/05(火) 12:09:16 ID:TGIv71RJ
sage忘れで改行も変でスマソ

藤本泉「暗号のレーニン」(講談社ノベルス)★★☆
1984年の長編。
日本を亡命し革命下のロシアで行方不明になった祖父、新聞社の特派員としてモスクワに
駐在中、祖父から受け継いだロシア文字の暗号文をもとに、レーニン廟に関する謎を調査
中に不審死を遂げた父。彼らから受け継いだ謎を、在モスクワ日本大使館員の八重浜が探
るのだが・・・。
ペレストロイカ以前のソ連の描写が興味深いが、「暗号解読」テーマの本格ミステリとして
読むと肩透かしを食らう。解読シーンにもページが割かれているけど、それがテーマでは
なく、独特の感覚による謀略物の冒険小説と言うべきか。なお或る理由から、暗号文の掲載
の仕方には工夫が欲しい。バレやすくなっているので。
むしろ本作は、ソ連の特権階級「ノーメンクラトゥーラ」をミステリの世界で描いたことに
意義があるかも。レーニン廟の秘密はトンデモ系ですが、終盤の緊迫感は上手い。

長井彬「死の轆轤」(講談社ノベルス)★★★
1985年の長編。
愛知の瀬戸焼に興味を持つ妻木冴子が密室状態の自宅で毒殺された。更には友人の新聞記者・
山崎が失踪の末、博多のホテルで絞殺される。どうやら陶芸界の重鎮・高田弥四郎とその弟
子・瀬尾が事件に絡んでいるらしいが、彼らには鉄壁のアリバイがあった。妻木の婚約者で
山崎とは新聞記者仲間の江藤と妻木の叔父でやはり記者の望月が事件を追うのだが・・・。
陶芸などのジジむさい趣味に興味はないが、この世界の生臭い実態は、黒川博行ばりに良く
描かれていると思います。第一の殺人の密室、第二、第三の殺人におけるアリバイなどの
トリックは、はっきり言って精彩がなく、特に第三の殺人など、「ここでトリックを仕掛け
ていますよ」と言わんばかりの描写で萎えてしまいます。ただ、それ以外では、なかなか巧み
に伏線や手掛かりを出しており、特に凶器に関する或る描写や、大胆に示された動機の部分
などは見事なもの。凡作ですが、部分的には捨てるには惜しい作品。
5343:2007/06/05(火) 12:12:18 ID:TGIv71RJ
(承前)
なお上記2作は講談社が乱歩賞30回目を記念した1984〜85年のキャンペーン「乱歩賞SPECIAL」
の書き下ろし。このシリーズは、戸川「火の接吻」、斎藤「新・殺人の棋譜」、日下「罪の女の涙は
青」、梶「奥鬼怒密室村の惨劇」、多岐川「おやじに捧げる葬送曲」、栗本「猫目石」、大谷「偽装
スキャンダル」、伴野「さらば、黄河」、高柳「悪夢の書簡」、井沢「ダビデの星の暗号」などがあり、
もし未紹介の本格ミステリが見つかったら、いずれ紹介を。

梶山季之「朝は死んでいた」(文春文庫)★★☆
1960年のデビュー作を、出世作「黒の試走車」発表後の1962年に加筆、中島河太郎「ミステリ・ハンド
ブック」で「本格」との記載があったので読んだが・・・。
銀行員の東田が連れ込み旅館で目を覚ますと、一緒に泊まった名も知らぬ女性が殺されていた。現場は
密室状態にあったが、彼には全く身に覚えが無い。週刊誌のトップ屋である北川と西岡が事件の再調査
に乗り出し、被害者の身元を探るうち、意外な事実が明らかに。真相は果たして・・・。
「ブン屋が飲みに出かけると簡単に重大なヒントに行き当たる」という、この時代の社会派ミステリに良く
あるパターンで、偶然に頼ったところが多々あり残念。
最初の密室はトリックとして意味をなしてないし、トリッキーな謎も余りないが、後半、或る別の事件に
波及することで結構面白くなる。黒川博行がもっとトリッキーに取り上げたネタだが、本作でも巧妙に仕立
てられ、既に犯人はバレバレだが、そっちの興味で読者を惹きつけます。
「本格」というには物足りないですが、序盤で軽く触れた小道具が、犯人の動かぬ証拠となる場面など、
切れ味の良さを楽しめる部分はありました。
5353:2007/06/05(火) 12:14:34 ID:TGIv71RJ
笹沢左保「セブン殺人事件」(徳間文庫)★★★☆
1976〜77年に雑誌連載した、警視庁捜査一課のスマートな刑事・佐々木と、所轄署の無骨な
刑事・宮本が、捜査方針を巡って対立、時には協力して事件を解決してゆくという趣向の連
作集。
第1話「日本刀殺人事件」は社長秘書の男が日本刀で斬殺。一見当たり前に見えた人間関係の
些細な矛盾を突く宮本の推理が見事。些細な伏線も効いている。なお本編は宮本の勝ち。
第2話「日曜日殺人事件」は、主夫業に専念する夫と芸能記者の妻が登場、夫が自宅で刺殺さ
れる。アリバイトリックだが凡作。で佐々木の勝ち。
第3話「美容師殺人事件」はプロ野球の二軍ピッチャーと恋人の美容師を巡る殺人事件。トリ
ックは或る設定でバレバレだが、異様な動機に注目。
第4話「結婚式殺人事件」はホテルで結婚式に出席していた刑事が逃亡中の凶悪犯に殺される。
ホテルの密室状況とその真相の解明がユニークだが、読者の予想を裏切ろうとして意外性を
狙い過ぎでは。
第5話「山百合殺人事件」は殺人現場に残された山百合を巡る謎。駄作。
第6話「用心棒殺人事件」はタレント夫婦の娘が強盗を撃退して時の人に。だが強盗の相棒が
復讐のため娘を狙っているらしい・・・。これも奇抜な殺害トリックとヒネった動機が上手い。
第7話「放火魔殺人事件」は連続放火事件が発生するが、途中から女性の予告電話が入るよう
に。これも動機に意外性を持たせた佳作。
結局、佐々木と宮本の勝敗は、3勝3敗1分だったかな?途中で忘れましたw
5363:2007/06/05(火) 12:16:53 ID:TGIv71RJ
小林久三「火の鈴」(角川文庫)★★★★☆
1975〜76年に発表された、「火の・・・」でタイトルを統一した短編集。これは傑作・佳作ぞろい。
表題の「火の鈴」は、傑作の脚本を書き残して行方不明となった男を巡る殺人。長編「殺人試写室」
のプロットを拝借しているが、映画に関する作者の情念と映画ならではのトリックが上手く結び
ついており、暗いパッションに満ちた人物ばかり登場する、異様な迫力に満ちた佳作。
「火の穽」は三年ぶりに海外駐在から帰国した夫婦。留守中マンションを若い夫婦に貸していたが、
以前とどこか様子が違う・・・。これは或るオチが簡単に予想できた。
「火の壁」も映画物。新婚間もない妻が失踪、その行方を捜す美術係の男。妻は十二年前の父親の
失踪を追っているらしく、届いた手紙を頼りに男も現地に向かう・・・。これも映画界ならではの
トリックが渋い。
「火の坂道」は傑作。毎朝、坂道で乳母車を曳く母親を見かける、司法試験崩れのセールスマンの
男。やがて女の夫がガス中毒死したことを知るが、その時も彼女は乳母車を曳いて、男はそれを目撃、
アリバイがあった・・・。アリバイ工作も或るトリックも上出来、乳母車に関する或る伏線など抜群
の冴え。更に、事件が主人公の男の過去に跳ね返ってくるのも上手い。乳母車を曳く女性を見かける
度にこの作品を思い出しそう・・・。
・・・5連投お騒がせしました。
537名無しのオプ:2007/06/05(火) 13:13:10 ID:sxwmmQ8U
陶芸がじじむさいとは何だ!
538名無しのオプ:2007/06/05(火) 20:33:08 ID:aGC07dXL
>>3さま

いつもありがとうです。
また古本屋に行きたくなりました。

「火の鈴」は要チェックですね
539名無し陶芸:2007/06/05(火) 20:33:24 ID:tPdIgSrx
うむ。
540名無しのオプ:2007/06/05(火) 22:47:00 ID:Zsw1FzZh
いつも楽しみに見ております。
5413:2007/06/11(月) 12:18:36 ID:SgiujOhc
三好徹「砂漠と花と銃弾」(ケイブンシャ文庫)★★★★
1976年、読売新聞社が当時の著名ミステリ作家ごとに出していた「自選傑作集」シリーズ
の一冊。
先ずは作者本人が「本格」だという「死者の便り」と「沈黙の証言」。前者は熱海で自殺
したはずの男から死後数ヶ月も経ってから、自筆の手紙が新聞社に届く。記者が調べると
意外なことに・・。真相はなかなか意外。後者は、病院内で、声も出ず筆も持てない入院
患者が殺人事件を目撃する話。独特のヒネり具合は楽しいが、ちょっと凝りすぎたか切れ
味が鈍い。
むしろ、作者がスパイ小説と定義した、「約束」「影の使者」の2作の方が面白い。両作
とも東京を舞台に、KGBだのCIAだのイスラエルだのの諜報活動を描いているが、結末
はかなり驚く意外なもの。この作者がスパイ物でこういう処理をするとは知らなかった。
いきなり後ろから頭を殴られた気分、でも伏線は周到。多島斗志之のスパイ物とはまた違う、
「本格」風の意外性。どちらも佳作。
他に表題作や「重い悪の荷」が国際謀略物で意外なオチだが、「本格」とは違うレベルの
意外性なので略。「煮る」は作者には珍しいホラー物というか「奇妙な味」。でもタイト
ルでバレバレじゃないかw
他に「荒野と死と」「天使と匕首」で全9編。「自選傑作集」の名に恥じない出来。

吉岡道夫「〈稲妻〉連鎖殺人」(講談社文庫)★
1989年の乱歩賞候補作で、翌年「メビウスの魔魚」として出版された長編の改題版。
新潟・小千谷の養鯉業者とその弟が殺された。彼らの育てていた不世出の名鯉〈稲妻〉は
無事だったが、その鯉を欲しがっていた横浜のマニアが失踪してしまう。だが彼も他殺体
で発見されて・・・。
率直に言って、1980年代も終わりだというのに、最終候補に残ったことすらセンスを疑う。
養鯉業という余り知られていない業界を掘り下げた点が目新しいだけで、トリック的に光る
部分は全くなく、特にアリバイ工作は噴飯もの。議員と業者の癒着だの、ゴルフだの麻雀だ
のの描写も60年代の三流社会派レベル。鯉にまつわる或る秘密だけちょっと驚いただけ。駄作。
5423:2007/06/11(月) 12:21:55 ID:SgiujOhc
阿井渉介「北列車連殺行」(講談社文庫)★★☆
1988年、あの「列車」シリーズ第一弾。
金沢発・上野行きの寝台「北陸」から、何故か石の鉢を抱えて転落死した男。ビルの屋上
にあるツバメの巣を取ろうとして転落死したらしき男とその死体に群がる緑に光る虫。
第三の事件は、夜な夜な謎の光を発する竹林で起きた。被害者は竹の幹に逆さ吊りにさ
れて死んでいた・・・。
全ての謎は理屈の上ではちゃんと解明されるけど、何故こんな手間をかけるのか?その
理由は説明されているけど、どうも納得が行かないです。
ともかくも、必然性無視のトンデモなトリックが炸裂し、その奇想天外さ自体は面白おか
しく読めるし、牛深、松島コンビも初登場なので力を入れて活き活きと描かれていますが、
結局はそれだけの作品、としか評価できないかも。あと、一部の登場人物に、張り倒して
やりたい性格のヤツがいたのが不快だったw

阿井渉介「雪列車連殺行」(講談社ノベルス)★★★☆
1989年の「列車」シリーズ第2弾。
上野に着いた急行「津軽」で刺殺体が発見されるが、警察が来る前に突如として消失、だが
翌朝にデパートのショーウィンドウに死体が現れる。やがて舞台は蔵王のスキーリゾートに
移り、地元議員が臼に潰されて殺され、臼は空中を飛び行方不明に。更に開発会社の社長も
また狙われる・・・。
「見立て」を行う必然性は、このシリーズの中では上出来の方でしょう。第一作に比べ、
地に足が着いた感じw
空を飛ぶ臼も、まあ面白いし、犯人の設定も、或る伏線もあって合格でしょう。真相の一部
に不満な部分はありますが、シリーズ中では佳作の部類。
543名無しのオプ:2007/06/11(月) 20:15:41 ID:xvQxZvoB
「砂漠と花と銃弾」がそそられる。めちゃくちゃ面白そう!
5443:2007/06/18(月) 12:00:50 ID:LjUcidmq
山村正夫「悪霊七大名所の殺人」(祥伝社ノンポシェット)★★★☆
フリーのツアーコンダクター美也子と警視庁の元刑事・大二郎のコンビが、日本各地の
旅行先で起こる事件を解決する1988年の連作集。
「悪霊ツアー」の舞台は熊野。カーフェリーによる或るトリック。小粒の凡作だが、最後
にオカルトめいた謎を残すのは面白い。「ムサカリ絵馬の惨劇」は山寺。事故死した婚約
者の幽霊がマンションに現れて、ヒロインの恋人が殺される。伏線が分かりやす過ぎるよ。
これも最終的に一つだけ解明できない謎を残す。「神隠しの湯」の舞台は四万温泉。女性
三人組の旅行者が行方不明に。真相は意表を突いているが、赤川次郎の某短編に似たトリッ
クがあったような。「平家谷殺人行」は五家荘。密室の土蔵で射殺され、落武者の幽霊が
現れる。これはバカミスだが楽しめた。「巡礼不可能殺人」は淡路島。ありふれたアリバイ
工作と×××トリックの組み合わせだが、それを一捻りした真相は上手い。「旅は死体連れ」
は湯ヶ島。或るトリックと意外な真犯人の組み合わせ。「亡霊の宿」は湯田中温泉。交通
事故の遺族の慰霊ツアーで起きた殺人。J・D・カーの或るバカミスを思い出した。
第1話、2話あたりまではタイトルに沿って怨霊めいた舞台やストーリーで、本格とホラー
の融合を目指していたのに、途中から温泉名所巡りのトラミスになったのは惜しい。でも
どの作品にもトリックを最低一つは入れているのは流石。

中津文彦「喪失荒野」(講談社文庫)★★☆
「黄金流砂」で乱歩賞受賞後の第一作、1983年の長編。
終戦間近の満州。夫を何者かに殺され、さらにソ連軍が侵攻する中、倉田サチは娘の郁子と
生き別れになってしまう。郁子は父親から謎の数字が記された紙片を受け取っていた。数十
年後、中国残留日本人孤児たちが来日する頃、サチは取材で来日した新聞記者夫婦の楊夫妻
に郁子の調査を依頼する。だが、その直後、サチの夫である国会議員・須藤が密室状態の
自宅マンションから謎の転落死を遂げる・・・。
真犯人も郁子の正体も容易に推測できるし、残留孤児の問題も掘り下げ方が足りないです。
密室トリックは、ちょっと機械的すぎるけど面白かった。でも伏線が足りないです。凡作。
5453:2007/06/18(月) 12:05:47 ID:LjUcidmq
三好徹「謀略の迷路」(徳間文庫)★★★
1967年のスパイ小説集。こないだ読んだ「砂漠と花と銃弾」収録のスパイ小説が意外な
ほど「本格」風だったので、他のスパイ物の短編集を探して読んでみました。
だが「本格」風味を味わえたのは、「柔肌の罠」と「死者に告げよ」の2作のみ。前者は
東京が舞台で、来日中のA国人が、敵対するB国の大使館に駆け込み、亡命を求める。A国
の大使館に勤める日本人従業員は、B国大使館の監視を命ぜられるが・・・。二転三転した
末のドンデン返しは、短編なのでスケールこそ小さいが、多島斗志之のスパイ物の先駆と
言って良いと思う。後者は、パリに亡命中のモロッコ反政府ゲリラのリーダーがパリの路上
で拉致され、それを目撃した日本人新聞記者が謀略に巻き込まれる話。ラストで真相を解き
明かす記者の推理により、実は様々な伏線が張り巡らされていたことが分かる佳作。
その他には、ベトナム戦争中、サイゴンで消息を絶った友人を探す男が、ベトコン、南ベト
ナム、米国の三つ巴の諜報戦に巻き込まれる「風の弾痕」が力作だが、推理や伏線の点で
物足りない。
ジャカルタが舞台の「沈黙の敵」も、冒頭の何気ないエピソードが重要な伏線となるが、
ただそれだけ。
「高価な代償」、「陥穽」、「魔の渦」は一般人巻き込まれパターンで残酷な結末。
1960年代のスパイ小説集としては上出来の部類。もうちょっと「本格」風というか、伏線
を効かせた作品が多ければ更に楽しめたけど・・・。

高柳芳夫「ロマンチック街道殺人ルート」(光風社ノベルス)★
1987年の長編。
銀行の本店で起きた調査部長の刺殺事件。被害者は複数の女性を脅迫していたらしい。その
うち最も容疑の濃い女性は事件の翌日、日本を立って西ドイツへ旅立っていた。「わたし」こと
浅見警部は彼女を追ってドイツへ。だがそこでも殺人事件が・・・。
うーん、謎解きとしては完全な失敗作、というかトリッキーな謎など最初から無かった。最後に
取ってつけたように密室が出てくるだけ。そもそもドイツを舞台にする必然性が全くない。事件
は起きるし、最初の東京の事件との繋がりも分かるが、ドイツでなければならない理由はどこに
もない。ロマンチック街道の観光案内かよ。三流のトラミス。
546名無しのオプ:2007/06/18(月) 22:27:55 ID:RbgAZYRp
作者がドイツに思い入れがあるからドイツなんでしょうなー
547名無しのオプ:2007/06/21(木) 21:07:57 ID:Bq47Roy4
日下圭介
『海鳥の墓標』
1978年10月 トクマ・ノベルズ
1987年6月 徳間文庫
善良で平凡なOLが、追い詰められて殺人を犯す、フランス・ミステリー風のサスペンス。
この人の本領は本格よりも、カトリーヌ・アルレー風のサスペンスものだと思っていたので
そういう意味では楽しめたけど、個人的には後年の『告発者は闇に跳ぶ』のほうが、
もっとスリルに富んでいて面白いかな。
5483:2007/06/22(金) 12:07:17 ID:+RkvhY9j
阿井渉介「終列車連殺行」(講談社ノベルス)★★★
1990年のシリーズ第4作。
上野発、秋田行きの下り寝台「あけぼの81号」で発見された血まみれのベッド。だが被害者の
姿は見当たらず、何と同じ頃に上野に着いた上り寝台「あけぼの82号」で被害者は死体となって
発見される。目撃者やダイヤの関係上、被害者自身の乗り換えはもちろん、犯人による死体
移動も不可能な状況だった。更に、秋田の田舎町では奇々怪々な事件が頻発していた。何も
無い路上で、子供が、老婆が、バイクが、空中に吊り上げられ、放り出され、地元では天狗
の仕業と大騒ぎ。遂には松島刑事の目の前で、第二の犠牲者が何もない空中に吊り上げられ
て転落死させられる事件が起こる。そして第三の殺人の被害者は怪鳥ヌエに頭をカチ割られ
ていた・・・。
第一の事件は、ちょっとした発想の転換や、「××××」の秀逸なアイディア、「被害者の
自宅には××だけで、○○が無かった」という渋い伏線などもあって、かなり真っ当な「本格」
です。一点だけ、腰砕けのボケた真相がありますが・・・。ともかく、ここで止めておけば良い
ものを、第二の空中浮遊事件、第三のヌエ事件で、全てが台無しw
真犯人の動機とキャラクターは、かなり入念に考えられているのに、どうしてあんなバカな
宙吊り事件やらヌエ騒ぎを起こす必然性があるのかなあ。まあバカバカしいなりに面白いん
ですけどね。

森真沙子「悪魔を憐れむ歌」(廣済堂文庫)★☆
1985年の長編。
京都でバンドのヴォーカリストが謎の飛び込み自殺を遂げる。彼の恋人でロック雑誌の編集
者であったヒロインが事件の謎を追ううち、1960年代末の全共闘運動さなかの京都で異彩を
放った‘DAMNED’という謎のロックバンドと、そのリーダーで行方不明の男・牧村コウに
突き当たる。更にDAMNEDのメンバーたちの消息を探るうち、ヒロインの友人たちが次々と
殺されてゆく・・・。
DAMNEDのモデルは、あの「裸のラリーズ」かな。その他、ストーンズにドアーズ、バウハ
ウス、村八分など、俺の好きなロックバンドに言及されていて楽しかったのですが、ミス
テリとしての評価は別。これといったトリックもなく、謎解きも大したものではないのに
「本格長編推理」などと名乗るなよな。結末も端折り気味で残念。
549名無しのオプ:2007/06/23(土) 01:16:44 ID:mwXiE/eW
ここを>>3氏の読書ブログとして楽しませてもらってる
550名無しのオプ:2007/06/23(土) 17:06:01 ID:jQeFSRPu
そう思うのは勝手だが、3氏以外の投稿を締め出すようなことは書きべきで無い
551名無しのオプ:2007/06/23(土) 22:46:03 ID:QBS+5c6j
書きべきで無いね
552名無しのオプ:2007/06/24(日) 00:19:29 ID:xTVgFIyI
>>550
どう読んでも締め出してるようには見えないんだけど。
553名無しのオプ:2007/06/24(日) 00:21:59 ID:239cWYKo
ヒント:僻み
554名無しのオプ:2007/06/25(月) 09:01:59 ID:plplKaK6
余計な事を書きスレを汚しました。すみまえん。
一生ロムに戻ります。
3氏がんばってくだはい。他の人もがんばってくだはい
5553:2007/06/25(月) 17:08:16 ID:dGXbh/yy
俺もこのスレで勧められて、初めて深谷忠記とか阿井渉介を読んだんだし、皆さんもどんどん紹介して
くださいね。

赤川次郎「三毛猫ホームズのびっくり箱」(角川文庫)★★★★
1984年、シリーズ第9作の短編集。
巻頭の表題作は、コンテナ風の防音室の中、空き箱を前に心臓発作を起こしてショック死した男の謎。
現場の密室状況はともかく、カラの紙箱の何に驚いたのか、という真相が上手い(本当は無理やりな部分
もありますが)。或る部分の発想に、最近読んだP・アルテ「狂人の部屋」と同様のものがあり、アルテ
より早いとは、と驚いた。
「三毛猫ホームズ(以下では略)の名演奏」は指揮者とオーケストラを巡る事件。被害者は死に際に「キ」
というダイイング・メッセージを残すのだが・・・。これは箸休め程度の作品。
「・・・のパニック」は手抜き工事のビルのパーティに招かれた片山、晴美、石津、ホームズのメンバー。パー
ティの最中にビルが傾き始めるが、その騒ぎの最中に殺人が。現場には被害者の妻しかいなかったが・・・。
これは現場の状況が特殊すぎるけど、そこに意外な動機を組み合わせたのが上手い。
「・・・の幽霊退治」はホラー仕立て。幽霊が出るという屋敷に行くと、本当に鏡の中に幽霊が浮かび上がるが、
その幽霊が殺されてしまう。これは凡作。
「・・・の披露宴」がベスト。片山刑事の学生時代の友人の結婚披露宴で起きた事件。エリートの新郎を妬む同僚
やら、新婦の財産を狙う親戚などで当初から波乱含みの中、お色直しで控え室に入った新婦が、誰も出入りしな
かったのに殺されてしまう・・・。或る件の伏線が上手いが、短編だからバレやすいか。でも脇役の動きまで丁寧
に追った、長編でも通用しそうな、というか、長編化して或る件を目立たなくさせればもっと良くなる、密室もの
の佳作。
巻末の「・・・の宝さがし」はオマケのような短い作品。でも「隠し場所のトリック」をヒネり、後味の良いラストへ。
やはり赤川次郎は侮りがたい。
5563:2007/06/25(月) 17:10:54 ID:dGXbh/yy
連投スマソ

田中雅美「あっちゃんの危機一髪」(光文社文庫)★★☆
1986年、幼稚園児探偵「あっちゃんシリーズ」第2作。
お母さんとケンカして家を飛び出したあっちゃんが誘拐されてしまう。犯人は身代金を要求する
こともなく、また監禁されている家には、あっちゃんを世話する少女が。犯人の狙いは何なのか。
あっちゃんは親切な少女に許されて、お母さんに電話をかける。お母さんは、電話のやり取りだけ
で、あっちゃんの監禁場所を推理しようとするのだが・・・。
電話での断片的な手掛かりや、暗号めいたやり取りから監禁場所を推理する展開で、ごく軽いけど
楽しかった。誘拐犯の意外な正体はヒネっているけど、たいていの読者ならば推測が付いてしまう
でしょうね。しかし、相も変わらず、幼稚園児とは思えない利口すぎる子供たち・・・。

阿井渉介「『大久保長安の黄金』殺人行」(トクマノベルス)★☆
1991年の、ノンシリーズの長編。
大学のサークル仲間である池口、岡田、森末、新二、そして「ぼく」こと鳥越らは、旧家の富豪の
息子である市村から、大久保長安の埋蔵金探しに誘われ、静岡の別荘へ。市村家に伝わる隠し場所
を示した暗号文を苦心惨憺の末に解き明かすが、先ず新二が洋上のヨットから謎の消失を遂げ、更に、
黄金の甲冑を身に着けた武者が突如現れ、鳥越の目の前で森末が斬殺されてしまう。警察の追及を
逃れて山中をさ迷う鳥越は、風間という謎の男に助けられ、再びメンバーの元に戻るが、今度は岡田
が密室の中で、瀕死の重傷を負う・・・。
ええと、「列車シリーズ」の欠点が全く改善されていませんw
何故こんな回りくどい犯行を行う必要があるのか。しかも密室トリックはJ・D・カーの余りにも
有名な某作品と同工異曲。暗号文の解き方も、こじ付け気味でスッキリしていない。ヨットからの
人間消失も「だから何」というレベル。まあ若者の描き方は、梶龍雄あたりよりは上手く、屈折し
た心情なども掘り下げているけど、ただそれだけの凡作。なお大久保長安は、武田家、徳川家に仕
えた武将、というか鉱山師だそうです。
5573:2007/06/29(金) 17:27:07 ID:ijLS07JQ
嵯峨島昭「ラーメン殺人事件」(光文社文庫)★★★
あの「グルメ殺人事件」の続編、酒島警視と鮎子、平塚刑事のトリオが活躍する連作集で1980〜
1990年に断続的に発表された7作品を収録。
「天丼殺人事件」は人気の天ぷら屋の主人が何者かによって、店の煮えたぎる油に顔を突っ込ま
れて大火傷する話。大した話じゃないな、と思っていたら、突拍子もないトリックが出てきて
驚いた。
「カレーライス殺人事件」はインド料理店の一人娘を巡る三角関係の末の殺人。マンションの窓
に現れたインドのカーリー神の正体やら、或るトリックなどバカミスが炸裂、でもそれ以上に、
ライバルの男二人のカレー対決がバカバカしくも笑えた。
表題の「ラーメン殺人事件」はラーメン店の不愉快な対応に怒った男が店員を刺し殺した。向か
いの美容院にいた女性が一部始終を目撃していたのだが実は・・・。伏線は大したことないが、なか
なか意外な展開をみせる話。
「鰻料理殺人事件」はその昔、怪獣騒ぎがあった鹿児島・池田湖が舞台。凡作だが、ウナギに因
んださり気ない伏線が上手い。
「恐怖の食卓」は半可通の料理評論家に恨みを持つシェフたちの復讐。少々お下劣。
「ジンギスカン料理殺人事件」は函館、札幌が舞台。いつものトリオが脇役に引っ込み、酒島警視
は電話でのみ登場。それ故か冴えない出来。
「能登恐竜グルメ」は能登半島に恐竜が出現、同時期に起きた殺人事件の容疑者にはアリバイが・・・、
という展開で期待したのだが、アリバイにしても伏線にしても不満が残る出来。
後半の3作の出来が悪くてガッカリだが、1980〜1981年に発表された前半4作は楽しめました。
5583:2007/06/29(金) 17:31:21 ID:ijLS07JQ
小杉健治「過去からの殺人」(光文社文庫)★★★
1989〜91年の作品を集めた短編集、「私娼窟の女」「夫婦棺」「孤児の恩誼」「過去からの谺」「十五年目の
訪問者」「父が消えた」「母娘塚」の全7編。全作、「戦争」と「終戦直後の混乱」をテーマにした重厚な
ラインナップ。また戦中から終戦直後に実際に起こった犯罪をモデルにした作品が多いのも特徴。
どれも短編としての完成度は非常に高く、松本清張の初期短編あたりを読む味わい。ただし本格ミステリと
してのトリッキーな趣向はやや弱く、「孤児の恩誼」と「十五年目の訪問者」に、ちょっとしたトリックが使わ
れているぐらい。全体に、「戦争が招いた家族の悲劇」を扱った作品が多く、特に「父が消えた」は、トリッ
ク的には弱いが、ちょっとした伏線の上手さと、重いテーマをヒネりの効いたラストの感動で救っており、これ
がベストでしょうか。

服部まゆみ「時のアラベスク」(角川文庫)★★
1987年の横溝正史賞受賞作。
新進の作家・沢井慶は彼の熱烈なファン糸越魁から脅迫を受けていた。自作の映画化でロンドンに滞在中、
父親が彼らしき男に襲われて殺されてしまう。その後も慶にまとわり付く魁の影。遂にベルギーのブルージュ
を訪れた時、慶は投石により片目を失明してしまい、更に悲劇は続く・・・。
慶は中身空っぽの我が儘ボクチャンで、このヘタレ馬鹿はともかく、その友人・亮の心理、行動が理解し難い
し、少々気持ち悪い。「死都ブルージュ」も、三流トラミスに出てくる小京都レベルの描写で萎えるばかり。
ローデンバックに引っ掛けた「おでんパック?」の駄洒落には引きまくった。
まあ魁の正体や伏線の一部には感心する部分もあるのだが、結局、小手先だけで書いた典型的な「お嬢さん芸」
(作者の年齢を考えると語弊があるが)としか思えなかった。
でも、この種の小説を「欧州の幻想都市を舞台に、慶と亮が紡ぎだす耽美的で豊潤な物語世界」とか言って絶賛
する人たちもいるんだろうなあ・・・。
かなり辛口だが、個人的にどうしても拒否反応を起こす話だったのでご容赦を。
559名無しのオプ:2007/06/29(金) 22:05:04 ID:/UhOUj7i
3氏は特定の女性作家が嗜好に合わないようですね。
皆川博子、小泉喜美子、佐々木丸美、服部まゆみ等々、もっとも皆本格派
とはいえない作家ばかりですが・・・
服部まゆみ「一八八八切裂きジャック」は傑作です、未読でしたら是非読んで
みてください。
560名無しのオプ:2007/06/29(金) 22:24:15 ID:g47rkfE+
自分は佐々木丸美あわなかった。
20ページくらい読んで投げ出した・・・
561名無しのオプ:2007/06/29(金) 22:51:10 ID:fPUtFile
俺も佐々木丸美はあわない
5冊ほど積読してるんだが読む気がおきない
かといって、手放す気にもなれない
どうすればいいんだ……

3氏の翔んでる警視・警視正シリーズの感想を是非読みたいなあw
562名無しのオプ:2007/06/30(土) 02:08:55 ID:2a2BpPho
>>561
> 3氏の翔んでる警視・警視正シリーズの感想を是非読みたいなあw
人に勧めたいのならまずは自分の感想を書くべきかと
563名無しのオプ:2007/06/30(土) 02:10:22 ID:+DlYfjqJ
阿井渉介は「銀河列車の悲しみ」が島田荘司絶賛
解説付きだったから読んだな。
ぶっ飛んだ大掛かりなトリックのインパクトはあったが…。

それにしても最近は、島田荘司推薦を見かけると
悪い予感しかしなくなってきた。
564名無しのオプ:2007/06/30(土) 08:22:06 ID:akUr9ECR
>561
一歩間違うとバカミスなんだが、凝ったトリックを使ったものもある。
ただ、その当時話題になっていた事件や風俗を題材にしたものが
多いので、リアル世代を知らない若い人がこれから読むとどうだろう。
(何しろ主人公のモデルが郷ひろみ、ヒロインが志保美悦子だから)
565名無しのオプ:2007/06/30(土) 20:39:25 ID:mLXfOpEp
創元はスーパー&ポテトの殺人事件シリーズ全部揃えてくれよw
566名無しのオプ:2007/06/30(土) 20:55:24 ID:kL4FHQS2
>>565
こんなところに書き込んでも意味ないよ
創元にメールor投書しなきゃw
5673:2007/07/02(月) 12:02:54 ID:M80mBHmZ
>>559
ご指摘のとおりw女流作家は好き嫌いがハッキリ分かれます。小泉、佐々木、服部、あと加納朋子、
近藤史恵あたりが鬼門ですw
皆川博子、山村美紗、夏樹静子、戸川昌子などはニュートラル。
最近の作家では、今邑彩、黒崎緑、若竹七海などは、ちょっと意地悪なところもあるが、同性も男性
も非常に客観的に、どちらにも媚びずに描いていると思うので好きですね。特に黒崎のギャグは女性
としては画期的だと思う。
なお鬼門の女流作家から類推されるとおり、不倶戴天の敵は北村薫ですwww
>>561
胡桃沢耕史の「翔んでる警視」シリーズは一冊も読んだことないけど、ブクオフで100円でも、ちょっ
と勇気が要りますw
以前、この作者の「バロン探偵局」(1988年)は読んだけど、昭和初期の舞台設定や、当時の実在の事件
に絡めた話は良かったけど、謎解きなどと呼べるレベルではなかったのでガッカリでした。

草川隆「東京発14時8分の死角」(立風ノベルス)★★★★
1989年の長編。
東京発の新幹線で見つかった男の手首。やがて東京駅近くの駐車場の車のトランクから手首を切断され
た死体が発見され、被害者は芸能記者と判明。彼のゴシップ記事に恨みを持つ俳優や女優などが容疑者
に挙げられるが、彼らには鉄壁のアリバイがあった。更にテレビディレクターが殺され、ついには容疑
者の一人が毒薬を飲んで自殺?・・・警視庁の鈴木・下川刑事コンビとともに、恋人を容疑者にされた
女優が事件の真相を追うのだが・・・。
作者や推薦文を書いている鮎川哲也が自慢するほど、「手首が新幹線に置かれたのは何故か」という謎に
必然性があるとも思えません。確かに心理的には効果があるけど、トリッキーな決め手はそこにはなく、
別のところにあると思う。そのトリックは単純だけど、なかなか上手いもの。
でも一番感心したのは、第三の事件の毒薬に関する渋い小道具。多分、誰でも知っているはずのネタなの
に、これには気付かなかった。他のミステリで使われた前例も知らないです。ストーリーが単調ではある
けれど、なかなかの佳作。
5683:2007/07/02(月) 12:06:34 ID:M80mBHmZ
連投スマソ

笹沢左保「逆転」(徳間文庫)★★
1958〜1970年の作品を収めた短編集。
「九人目」は旧「宝石」誌に応募した作者の処女作2作のうちの一つ。連続する痴漢騒ぎの中、
資産家の娘が殺される話。意外性はあるけど、やはり習作の域を出ない。
「清志を返して」は恋人を殺人の容疑者とされた女性の語りによる形式。これもトリッキーな
ヒネりが弱い。「馬鹿野郎」は迷宮入りした殺人事件を追う老刑事の話。トリッキーな仕掛け
はあるけど、この程度の謎なら、迷宮入りするまでに誰かが気付いていたはずw
「さよならを、夜景に」が一応、ベストかな。銃砲店に勤める女性が大金をタクシーに置き忘れ
るが実は・・・。伏線は張り巡らされているけど、ここまでやったら読者の方も気付くよ。
「透明の殺意」は、凶悪犯の男が兄夫婦の家に逃げ込んで、兄の妻が警官の目前で射殺されてし
まう。弟は逮捕されるが実は・・・。これも予想できるとおりの真相で凡作。
どの作品にも意外性はあるけど、やはり現在では手法が古臭くなっているし、かと言って、当時
ならば斬新だった、とも思われない出来です。

辻真先「死体が私を追いかける」(徳間文庫)★★★☆
1979年の長編。
財閥の一人娘・真由子が機密書類を自宅から盗んで家出。九州で知り合った三流ルポライターの
瓜生慎と元税務署員の日下部老人の三人による珍道中が始まった。だが別府温泉では謎の女性が
刺殺され、阿蘇山では密室状態のバスでまたも謎の男が殺される。被害者は真由子の書類を狙う、
財閥や政党の追っ手か?では犯人は真由子か?しかも被害者がみな、各々の所持品の一つをアベ
コベに身につけて殺されているのは何故なのか?三人組は九州から大阪へ、更に寝台車で新潟へ
向かうが車内でまたも殺人が。そして北海道の寂れた温泉地にたどり着くが、ここでも殺人事件
が・・・。
一見、ユーモア、ドタバタ物のトラミスなのですが、ちゃんと締めるべき部分にはトリッキーな
仕掛けが用意されているし、最低限の伏線も押さえています。阿蘇山の密室バスの真相は面白かっ
たし、被害者の不可解な状況なども含め、終盤で一気に謎解きがなされ、重厚ではないけど、ユー
モア「本格」として十分、楽しめました。
5693:2007/07/02(月) 12:10:17 ID:M80mBHmZ
3連投スマソ

本岡類「奈良『ささやきの小道』殺人」(講談社ノベルス)★★
1988年の長編。
奈良公園で、幼い頃にシカに襲われてシカ恐怖症だった老人が、何十頭ものシカに取り囲まれて
ショック死した。単なる珍しい事故と思われたのだが、老人の何十億円もの財産を巡って、その
息子二人は暗闘を繰り広げていた。だが訓練もされていないシカがエサも何の合図もなしに、集ま
ってくるものなのか。やがて第二の犠牲者が。だが容疑者には鉄壁のアリバイがあった。老人の
姪の依頼で現地に飛んだ高月刑事が暴いた真相とは・・・。
第一の事件の真相にしても、第二の事件のアリバイにしても腰砕けの真相。簡単に推測できるとお
りでガッカリ。むしろラストシーンの悲劇が、かなり意外なものだが、ちゃんと伏線は張られてお
り、事件とは直接関係ないけど感心した。

阿井渉介「赤い列車の悲劇」(講談社ノベルス)(採点不能)
1991年の「列車シリーズ」第7?弾。
岐阜県の山中を走る神岡鉄道で、嵐の朝、列車が謎の消失を遂げる。土砂崩れに巻き込まれたの
でも、川に飲み込まれた訳でもないのに何故?しかも発見された運転士の供述によると、突然、
駅が消え、線路も消えてしまい、気が付いたら現場から数十キロも離れた場所にいたという。更に
発見された女子高生らによると、列車は何者かに乗っ取られ、人質を取ったまま、新潟から東北、
北海道まで走り続けているのだという。そして犯人からは、過去の公害犯罪を告発する脅迫状が
届く・・・。
とうとう「意味不明」の領域に入ってきましたw
もはや、「必然性」云々を詮索するのもバカバカしい。事件の謎が犯人の動機にまるで結びついて
いません。犯人による説明すらないし、伏線も何もあったものじゃなく、要するに「とにもかくに
も、ローカル線から列車を消して日本中を走り回らせるにはどうしたら良い?」というクイズを楽し
むだけのものです。このシリーズ、残す未読は「銀河列車」「黒い列車」の2作ですが、空恐ろし
いなw
5703:2007/07/04(水) 12:29:17 ID:Fy1Lx233
またも連投スマソ

赤川次郎「三毛猫ホームズの怪談」(角川文庫)★★☆
1980年のシリーズ第3作の長編。
石津刑事の住む団地で、子供を狙って池に放り込むなど、悪質なイタズラが続く。近くの地主で、
「猫屋敷」と呼ばれる家に住む馬鹿息子が犯人ではないかと疑われるが、その家の女主人が飼い
ネコ11匹もろとも惨殺される事件が発生。更に馬鹿息子も殺され、派出所の警官が失踪するなど、
事件は混迷を深めてゆく・・・。
とにかく読みやすく、ホラーめいた味付けも効いていますが、ちょっと色々な事件を盛り込みすぎ
た嫌いが。伏線はあちこちに張られており、良く考えられた作品だけど、最終的に一つに収束させ
るため、偶然による無理な繋げ方をしているのが残念。

(オマケ)
黒岩重吾「深海パーティ」(集英社文庫)
1966年の短編集。
表題作は、大阪のキャバレーに勤める海堂を主人公にした連作集。殺人事件が起こり、意外な
結末に至る作品が多いが、ヒントもなしに結末を突きつけられるだけ。
「結婚前奏幻想曲」はオチだけの作品、「あいつも殺した」はまあまま、「東京の下宿」は凡作、
「旅先きの女」はけっこう面白かった。「スカウトした女」は駄作。

黒岩重吾「氷った果実」(角川文庫)
1960年代の初期短編を収録。
「匂わない女」×、「セールスマン消ゆ」△、「黒い鳥」△、「煙と炎の底」×、「鼓笛隊」△、
「赤い肉は固い」△、「優しい男」×、表題作○

・・・上記2冊を読んだのは、大阪の夜の街を舞台にした男と女の恋愛を巡るミステリ、ということで、
「もしかしたら、連城三紀彦の先駆となる、意外性に富むトリッキーな作品でもないか」と思ったから
ですが、完全な失敗・・・。まあ、こういうこともあるw
まるで意外でないし、たまにオチがあっても、伏線もヒントもなしに唐突な結末を突きつけられてもね
え・・・。トリックも月並みな一人二役とかアリバイ工作とか出てくるけど、「本格」云々という以前
の問題、完全なジャンル違いでしたので、今回は採点しませんでした。
571名無しのオプ:2007/07/04(水) 12:56:06 ID:cX3XkW54
黒岩は俺も「休日の断崖」読んでつまらなさに呆れた
572イチャモン太郎:2007/07/05(木) 05:57:22 ID:b3PvT9do
つーかさー、小泉喜美子、佐々木丸美あたりの評価があまりにも低くね?
まー確かに小泉は壁本と紙一重だし、佐々木の体言止め多様もウザイんだが星二つとかはねえだろ、と思うんだけどなぁ。
573名無しのオプ:2007/07/05(木) 09:51:43 ID:JxPUYO1Q
ならお前が代わりにやれよ
574名無しのオプ:2007/07/05(木) 13:46:51 ID:WrtdQipY
3氏の個人的評価なんだから・・・
5753:2007/07/09(月) 12:09:47 ID:Pbllav90
>>572
前にも書いたとおり、一般人の道楽の個人的感想文ですから・・・。
小泉や佐々木の「名作」と言われる作品より「ラーメン殺人事件」なんてキワ物の評価が高くても
ご容赦ください。

赤川次郎「冬の旅人」(角川文庫)★★★☆
1981年の中・短編集。
表題作は、世界的なバリトン歌手・ディートリヒ・F・Dが探偵役。来日コンサートで起きた楽屋の
殺人事件に巻き込まれ、更にファンの富豪宅のパーティに招かれ、富豪の友人である音楽家たちが
一堂に会したところでまたも殺人事件が勃発・・・。事件の真相は詰まらないが、そこに至るまでは
色々手が込んでいて楽しめる。歌曲ファンの鮎川哲也なら、どんな感想を洩らしたかなあ、と思った。
「巨人の家」はシンプルな犯人当て物。会社をクビになった作家志望の男の妻に、親戚の大富豪から
手紙が届く。招待された山間の豪邸は、家も家具も全てのサイズが通常の二倍もあるという変な家だ
った。他の親戚たちも招かれているのだが、その晩、富豪が殺されてしまう・・・。これは冒頭から気
の抜けない、伏線を張った佳作。
「本末転倒殺人事件」は、捜査で失敗ばかりのダメ刑事が自宅待機となり、妻は手柄を立てさせてやろ
うと、近所の仲の悪い夫婦が何か事件を起こさないかと画策するが・・・。これは結末が読めてしまった。
「三毛猫ホームズの水泳教室」は、ホームズ物の初めての短編で、「幽霊」シリーズの永井夕子が競演す
る。そのためか、「三毛猫」シリーズの単行本に未収録だったが、レベルはかなり高い。スイミングスク
ールに勤める汐見は、水泳部の女子大生に頼まれ、終了後の深夜のプールを練習用に貸していたが、彼女
が殺されてしまう。友人の片山刑事とホームズが駆けつけたところに、噂を聞きつけた同じ大学の夕子ま
でがやって来るが、死亡したのは水泳部の学生ではないという・・・。叙述にも工夫を凝らし、キテレツな
トリックといい、更に終盤でもう一度ヒネる結末も上手い。
全4編、なかなかの作品集だと思います。ブクオフで100円ならお買い得。
5763:2007/07/09(月) 12:17:00 ID:Pbllav90
連投スマソ

岩木章太郎「捜査一課が敗けた」(立風ノベルス)(採点不能)
1989年の長編。
人気俳優・松本が自宅のサンルームで自殺。現場は密室状態にあり、ナイフを自分の首に突き
刺すという思い切った方法であったが、彼と噂のあった元女優が殺されるに及んで、彼の死に
も疑惑が。更に、彼と関係のある映画監督のスキャンダルを追っていた芸能記者も殺される。
警視庁捜査一課の四角・三上の刑事コンビが真相を追うが・・・。
第一の殺人の真相は大したものではないし、第二の殺人におけるアリバイもダメ。だが、第三の
殺人における或る錯誤はスゴい。確かに、こういう錯誤が起こりうることは予め示されているし、
なるほどトリッキーなネタだけど、これじゃ被害者が余りに気の毒w
それにしても変なタイトル。確かに探偵役は刑事コンビ以外にいるが、別に捜査一課が出し抜か
れた訳でもないよな。意味不明。

斎藤栄「最後の密室−『わが闘争』殺人事件」(祥伝社ノンポシェット)(採点不能)
1974年の「日本のヒトラーの秘密」の改題版。
作家の「私」は、高校時代の旧友で神経科の医師・永沢が勤める精神病院で、謎の入院患者に出会
う。白い覆面で素顔を見せない男だったが、或る日何者かに射殺される。正体は出版社に勤める男
だったが、友人の安東警部は、彼が、日本のヒトラーを自称する国会議員の影武者を務めていたの
ではないかと追及する。「私」たちは、その国会議員が「私」の高校時代の同級生・立花竜太郎で
はないかと推理、更に、別の患者が自宅の密室で殺されるのだが・・・。
なんかネジが一本ブッ飛んだ作品だなあ、そもそも、安藤警部が入院患者とヒトラーを結びつける
推理が強引過ぎ、ミュンヘン一揆でヒトラーが収監された期間と患者の入院期間の月日がぴったり
一致するだけで疑うんだものなあw・・・と思ったのですが、なるほど、そういう結末でしたか、と
いうことで、或る程度、ネジの緩みは修正されましたが、でもやはりヘンだ。密室トリックについ
ては、乱歩の某作品を連想する部分もあったが、アレを上手く使うことが可能なのか。でも伏線は予め
張ってあるから良しとしましょうか。
ところで、立花竜太郎のモデルは、作者が高校時代に同人誌を出した仲間の、あのヒトなのかな?
5773:2007/07/09(月) 12:20:46 ID:Pbllav90
3連投スマソ

赤川次郎「三毛猫ホームズの運動会」(角川文庫)★★☆
1983年のシリーズ第7作にして初の中・短編集。
表題作は、警視庁の運動会が舞台。或る刑事が、自分の妻が若手刑事と不倫の関係にあることを
知る。そこに護送車の事故で脱走した囚人が、恨みを持つ刑事に復讐するため、運動会に紛れ込
んでくる・・・。ダルマ競走や玉入れを利用した犯行がトリッキーではあるが、ただそれだけ。
「・・・のスクープ」はミス警視庁コンテストで、片山の上司・栗原警視を慕う婦人警官が水着コン
テストの直前に更衣室で殺される。凶器トリックに一工夫あるけど、これもそれ以外に良い所がな
く残念。それにしても婦人警官の水着コンテストって・・・w
「・・・のバカンス」は高原のリゾートホテル。後妻を連れた夫が、ホテルで前妻一家に出くわして
起こる殺人。これは駄作。
「・・・の温泉旅行」はひったくりの少年を誤って射殺してしまった刑事が新婚旅行で訪れた温泉旅館
が舞台。殺された少年の母親が付きまとうなど不穏な中、旅館が火事になって・・・。伏線は不足
気味だが、事件の真相は意表を突いており、動機の意外性は秀逸。なお「温泉が火事で事件発生」と
は中町信の常套手段だが、その扱いの違い、というか、赤川次郎は実に洗練されているなあw
「・・・の殺人展覧会」は殺人現場やレイプをテーマにした残虐な絵で売り出した画家を巡る話。パーティ
で画家に恨みを持つモデルたちが集まる中、果たして画家が毒殺され、絵が切り裂かれる・・・。毒
殺トリックをヒネっているが凡作。
実は巻末のSSといって良い「・・・のバースデイ・パーティ」がベスト。晴美が友人主催のパーティに
呼ばれるが、会場に入ったとたん、友人が殺されており、居合わせたほかの友人たちに疑いがかかる
が・・・。無駄な文章が一つもなく、ヒネりの効かせ方や真相のヒントの出し方など実に上手い。SS
のお手本のような作品。
578名無しのオプ:2007/07/09(月) 12:35:20 ID:mhq8qypb
親衛隊?
5793:2007/07/09(月) 13:09:50 ID:Pbllav90
>>578
>親衛隊?
一瞬、何のことか分かりませんでしたw
「日本のヒトラーの秘密」がらみの話なのか、或いは最近、赤川次郎作品の紹介が多いから
彼のファンクラブの熱心な会員と思われたか、と悩んだです・・・orz
SSですね。最近は「ショートショート」をSSとは略さないのかな?

ところで、「温泉が火事で事件発生」の件で或る作品を思い出したので、専用スレもあるけど、
オマケで紹介しておきます。

中町信「『心の旅路』連続殺人事件」(徳間文庫)★★★★
1974年の「新人文学賞殺人事件」に続く長編第2作。
大衆小説作家・新城の妻・朝子は、友人で出版社に勤める椎名に誘われ、出版社の社員旅行に
出かけるが、宿泊先の旅館で火事に巻き込まれる。逃げる途中で、社員から嫌われている課長
代理の有坂が何者かに殺される場面を目撃するが、火事で負傷したショックで記憶喪失に。
だが出版社の内紛を巡ってか、次々と関係者が殺されてゆく。朝子の記憶は戻るのか・・・。
なるほど、伏線の張り方という点では超一流といって良いでしょうね。細かい描写や登場人物の
何気ない言動など、終盤の種明かしでは、ほとほと感心しました。しかし、どうしてもストー
リーとか小道具とかエピソードなどには馴染めないなあ。温泉、カラオケ、レイプ騒ぎ、酒好きの
変なオバサンたち、といった「泥臭さ」「低俗ネタ」はいつものことだが、今回は非常に重要なト
リッキーな小道具までもが、みうらじゅん言うところの「いやげもの」だったりして悲しかったw
しかし、この文庫版、或る部分でかなりマズいことになっている・・・w
580イチャモン太郎:2007/07/10(火) 11:44:22 ID:+52lCblU
いや、別に貶してるつもりとかはないから。
ただ、このスレ見てる人たちも3氏の評価が低いからって読むのやめよ、とか思わないでねって事で提言したまで。

赤川次郎は『上役のいない月曜日』が俺的におススメかな。「徒歩十五分」って言う短編が入ってるんだが、これが凄い傑作。この作品だけでもいいから読んでほしい。
言うまでもないけど、赤川次郎の真髄は初期短編だよね。
581名無しのオプ:2007/07/10(火) 17:18:43 ID:AG9ApFaw
だからお前もレビューすれば良かろうが
582名無しのオプ:2007/07/10(火) 20:13:06 ID:XdiAjOgW
だよな。人のレビューにいちゃもんつけておいて、自分は「おススメ」「傑作」「読んでほしい」
としか書かないんだから。
583名無しのオプ:2007/07/11(水) 21:24:36 ID:e1oUOkL6
そこまで言うことないだろ。
584名無しのオプ:2007/07/12(木) 01:23:51 ID:MJj4sqw1
「イチャモン太郎」なんてコテで書き込んでるとこからみても確信犯だからこのクズは
585名無しのオプ:2007/07/12(木) 01:37:04 ID:6POmy/wt
まぁ単に「3氏の評価が低いからって無視しないで」と言いたかっただけだと思うけど、
無粋だしムダに反感買う書き方だったね。

3氏の個人的評価だってことくらいこのスレの住人なら言われなくても分かるっしょ?
586名無しのオプ:2007/07/12(木) 01:44:49 ID:sUe36X4A
スレの住人じゃなくたって判ると思う
587名無しのオプ:2007/07/12(木) 13:12:58 ID:8aRcyThm
>>584
お前何か浮いてるな
588名無しのオプ:2007/07/12(木) 15:29:14 ID:h1zTZKNR
そんなことよりみんなレビュー書こうぜ
あっ・・・じゃあおまえが書けよ、ですか…すみません・・・
589名無しのオプ:2007/07/12(木) 22:43:47 ID:SBOJrTVZ
>>587
お前が浮いてるとしか思えん
590名無しのオプ:2007/07/13(金) 01:42:49 ID:O1FkhCV5
本人乙
5913:2007/07/13(金) 12:11:33 ID:U1rljgHi
ともかくも「上役のいない月曜日」は未読なので、今度読んでみますね。

深谷忠記「熱海・黒百合伝説の殺人」(光文社文庫)★★★
1990年の壮・美緒シリーズの長編。
会社の出張で博多から寝台特急「あさかぜ」に乗った美緒。寝台に置かれていた黒百合の花を
不審に思い、洗面所に移したところ、翌朝発覚した殺人事件の現場の寝台にその黒百合の花が。
犯人による何かの目印なのか。更に事件は、被害者の家族を巡る連続殺人へと発展。最初の被害
者の元婚約者が容疑者として浮かび上がるのだが・・・。
いつもどおりのいつものパターンですが、たった一本の黒百合の花から、犯人の行動を特定して
ゆく、壮のクイーン張りの推理が見所。ただ中盤までは快調ですが、後の事件でのアリバイトリ
ックがショボくて残念。まあこのシリーズに多い、「大満足は出来ないが、外れもない」レベル
の水準作。

斎藤栄「東北新幹線殺人旅行」(徳間文庫)★☆
1982年のノンシリーズ長編。
女性議員の広重は東北新幹線で盛岡に向かう途中、何故か仙台で下車、郊外の温泉で死体となっ
て発見される。広重は新幹線の新駅誘致に関する疑惑に関わっており、その争いが原因なのか。
広重の妹は元恋人・水石に事件の調査を依頼する。一方、横浜で起きた、金沢から来た男の轢き
逃げ事件。こちらの被害者は広重の妹を訪ねようとして奇禍に遭ったのだが、彼女には全く心当
たりがなかった。更に轢き逃げ事件を追っていた刑事もまた・・・。三つの事件の意外な接点とそ
の真相は・・・。
或る人物の行動が真犯人を上手く隠しているなあと思ったのですが、「その人物は最初は・・・・・・だっ
た」という理由はないだろ。フザケルな。そんな理由が本格ミステリで許されるなら、いくらでも
読者を騙せるよ。
また写真を使ったアリバイトリックが二つほど出てきますが、最初の方は「暮らしの豆知識」って
感じだし、後で出てくるものも下らない出来。第一の殺人の小道具や電話トリックもバカバカしい
ことこの上ない。
なお本書の発表年に東北新幹線が開通しており、その便乗作品なのか、車掌が東北新幹線の特徴を
しゃべる場面など出てきて笑えた。
5923:2007/07/17(火) 12:08:23 ID:dscZaRDX
連投スマソ

日下圭介「山頭火 うしろ姿の殺人」(光文社文庫)★★★
1986年の長編。
俳人・種田山頭火を研究する女流作家のエッセイの原稿が、出版社の金庫で何故か白紙になって
しまう事故が発生。作家は火事に巻き込まれて死んでしまい、担当の編集者も失踪の末、遺書を
残して自殺してしまう。どうやら山頭火の或る秘密を隠そうとする連中がいるらしい。編集長と
編集部員は山頭火ゆかりの地に旅立つが、そこでも不審な出来事が相次いで起こる・・・。
山頭火に因んだ或るトリックは面白いし、事件の真相の隠し方、ミスリードの仕方も先ず先ずの
出来。ただ、全体に緊密さが感じられず、また真犯人に関する伏線が不足気味で残念。

斎藤栄「河童殺人事件」(光文社文庫)★★★
1977年のノンシリーズ長編。
鎌倉の外科医院で看護婦が殺される。現場には水溜まりと青臭い匂いが残り、「河童」のダイイ
ング・メッセージが。河童の仕業なのか?一方、川崎の産婦人科病院で発生した大臣の孫の誘拐
事件。だが赤ん坊は何故か別の子とすり替っていた。二つの事件の接点とは・・・。
ダイイング・メッセージは面白くないというかバカカしい。版元が光文社だからって、「河童とは
カッパ・ブックスを指しているのか?」なんて推理も出てきて脱力した。
しかし、二つの事件の接点、特に誘拐事件の真相は上手いと思った。伏線も最初から出ている。
看護婦殺しの現場の「青臭い匂い」の真相も、まあ許せるか。佳作とも言えないが、凡作で切り
捨てるのは惜しい出来だと思います。
5933:2007/07/17(火) 12:12:03 ID:dscZaRDX
志茂田景樹「冷血の罠」(徳間文庫)(採点不能)
保険調査員を主人公とする1979年の連作集。
第1話「朝の断崖」は、田舎の集落に突如、自衛隊のヘリコプターが飛来、驚いて外に出た酔っ払い
が崖から転落して死亡、事故死として保険金が下りるのか調査員の大塚が調べる。関係者には鉄壁の
アリバイがあり、他殺の線は消えたかに見えたが・・・。これは突拍子もないバカミス。このシャア
シャアとした臆面のなさはスゴい。見え見えだが豪快過ぎるアリバイトリックに、ダメ押しのような
真犯人の意味不明の行動。そもそも自衛隊のヘリがこんなことしたら、大事件で徹底的に調べられて
直ぐに真相はバレるだろってw
第2話「さかしまの殺意」は土地成金の屋敷の古井戸に子供が転落死したのに引き続き、隣家の子供が
行方不明になり、更にその双子の弟も池で溺死する。冒頭の或るトリックのさり気ない伏線が上手い。
第3話「冷血の罠」は実際に起きた保険金殺人に取材した作品で、面白いのだが犯罪実録風なので略。
第4話「冷血の殻」第5話「悪妻にサヨナラ」も同様なので略。
バカミスもあるが内容はどれも非常にシリアスで、未だ直木賞授賞前、普通の作家wだった頃の作品。

山浦弘靖「殺人特急300秒の罠」(光文社文庫)★
1989年の「ハイウェイ特捜刑事」シリーズの第3作。
高知行きの特急列車で発生した乗客の飛び降り自殺。だが死んだ男は、自動車メーカーの或る秘密を
握っていたらしい。特捜刑事の天宮が捜査を続けるうち、容疑者が浮かび上がる。だが彼には事件当時、
北海道にいたというアリバイが。更に第二の事件が起こるが、この時にもまた鉄壁のアリバイが・・・。
脱力。第一の事件のアリバイ工作なんて、1960年代に使い古されたレベル以下。第二の事件のアリバイに
至っては、もう噴飯もの。007の映画じゃないんだから・・・。
登場人物の造形も薄っぺらくて、読んでるこっちが小っ恥ずかしくなる。ヒマつぶしにもならない。
5943:2007/07/17(火) 12:15:53 ID:dscZaRDX
斎藤栄「京都殺人事件」(ケイブンシャ文庫)★★☆
1976年の、高校生を主人公にした中短編集。
表題作は、京都を旅行中の高校生が、枯山水の砂で囲まれたお堂で起きた殺人事件に遭遇、砂の庭
には、被害者以外の足跡が残されておらず、密室状況だった。更に高校生の周囲で起きる不可解な
事件・・・。密室トリックの真相はバカそのもの。何というか、ネタバレじゃないけど、「猿のよう
にすばしっこいヤツだなあ」と描写しておいて、真犯人はまさに文字通り「猿のようなヤツ」だった、
というようなものw
「雪の密室殺人事件」は札幌から横浜の富豪の叔父を訪ねてきた主人公だが、その晩、叔父が離れで
射殺される。現場は夜半から降り続いた雪に覆われ、足跡一つ無かった。その後も豪邸で殺人が相次ぐ
が・・・。これは悪くはないけど、余りに教科書的なプロットとトリック。
「死を呼ぶ将棋の駒」はマンションで起きた転落死。現場近くの部屋に住む挙動不審の夫婦。やがてその
夫が密室状態の風呂場で心臓麻痺で死んでしまう。被害者が手に握っていた将棋の駒の謎とは・・・。
凡作だが、被害者が将棋の駒を握っていた真相だけは面白かった。
以上3作、しかし、高校生向けのジュブナイルにしては、レイプだのスカトロやSMネタがあったりして、
一体何なんだろう・・・?
595名無しのオプ:2007/07/17(火) 22:31:51 ID:7QuOTqYy
「読みました」報告・国内編24

山沢晴雄「離れた家」(2007年 日本評論社)
鮎川編等各種アンソロジーでおなじみの作者ですが、今回初の単行本出版となる。
私立探偵砧もの4編も乙ですが、やはり表題作の中編がスゴイ。死体の瞬間移動と
重層的アリバイトリックの連打で、本格の鬼、そこまでやるか!という感じ。
あと「扉」(幻影城1977年初出)もスッキリまとまっていて好み。

伴野朗「西郷隆盛の遺書」(1985年新潮社、88年文庫化)
顔写真が現存しない西郷、上野の銅像の除幕式で参列した未亡人が「うちの人は、
こげん顔とは違う」とつぶやいたという・・・歴史雑誌の新人編集員が些細な謎から
明治維新の大いなる歴史の真相にたどり着く、歴史ミステリの秀作。

596名無しのオプ:2007/07/17(火) 22:36:11 ID:6+rSkBJ0
「西郷隆盛の遺書」のコメントが新聞広告の紹介文みたいでワロタ
ちゃんと自分の言葉で書いたほうがいいよ
597名無しのオプ:2007/07/19(木) 21:46:58 ID:7zRbEV08
離れた家ってマジで名作だと思います。
5983:2007/07/23(月) 12:06:18 ID:ht1FK575
麓昌平「影の白衣」(弘済出版社)★★★☆
1980年の長編。作者は医者で「推理文学」誌の同人らしいです。
病院長を務める梶の別荘に、釣りに招かれた友人や後輩の竹中、持原、京極の三名。だが梶は帰宅
途中で溺死。釣り船を見に行って事故死したのか。更に梶の後妻の郁子が家政婦とともに失踪、郁子
の死体が発見され、家政婦は自殺。一家に何があったのか。警察とは別に調査を始めた持原の掴んだ
真相とは・・・。
第一の殺人のアリバイ工作は、まあ良く考えられているし、その伏線の張り方もなかなかのもの。
第二、第三の事件のトリックは月並みだが、終盤の謎解きで解決、とみせて更にドンデン返しを用意
するなど、細かい部分まで緻密に考えられています。
・・・だが、とにかく文章と小説上の構成が下手クソ極まりない。「本格ミステリ」の理解度では、恐
らく、同じく医者でアマチュア作家の由良三郎などよりは頭一つ上のレベルにあるのに、文章がヘタ
で構成がゴタゴタしているから非常に損をしている。序盤など、二回読み直さなくては何がどうなって
いるのか理解できませんでした。惜しい。

井口泰子「山陽路殺人事件−殺人は西へ」(ケイブンシャ文庫)★★☆
1972年、サブタイトルの方で発表された長編の改題、加筆版。
大阪府警の敏腕警部だったが、勤務態度不良で左遷された浅川は無断欠勤して加古川の新幹線工事
現場に潜り込んでいた。彼の私生児が、過去の事件で恨みを持つ太田に復讐に来るのを張っていた
のだが、果たして太田は全く人の出入りがなかった工事現場で何者かに殴殺されてしまう。一方、
岡山では備前焼の第一人者が散弾銃で自殺したらしき事件が起こる。二つの事件には共通する人物
がおり、浅川に心酔する警察オタクのパト吉や女性編集者の木庭修子らは浅川とともに事件の謎を
追うのだが・・・。
新幹線が新大阪から岡山に延長された頃のお話。第一の事件の「工事現場の密室」は確かにユニーク
ではあるけれど、特に優れているとも思えない。第二の事件にも結末にヒネりがあるけど、「だから
何?」というレベル。なおストーリーが浅川と木庭の屈折した恋愛に傾き勝ちなのは、まあ気になり
ませんでしたが、まだるっこしいと感じる人もいるかも。
5993:2007/07/23(月) 12:23:00 ID:ht1FK575
青柳友子「帰りは怖い」(光文社カッパノベルス)★★★
1991年、作者急逝直前の作品。
医学部教授・上山の孫・唯人の家出騒ぎで雇われた女探偵の元織は、家出は解決するが、上山教授の
殺害事件に遭遇。死体は何本もの竹槍で串刺しにされた凄惨なものだった。更にその息子が毒薬を飲ん
で死亡、現場は雪に覆われ、外部からの出入りがなく、自殺と判断される。だが元織は納得せず、上山
の郷里、新潟の寒村に赴き、唯人の従姉妹・ミツルに出会い、一族の陰惨な過去を知る・・・。
序盤の構成が混乱しており、一体、どの事件が先なんだか分かりにくい。中盤からは持ち直すが、追及
すべき謎をあっさりスルーしたりして残念。さらに密室トリックのバカバカしいこと・・・。何故、そん
な面倒なことをw
但し、もう一つの或るトリックと真犯人の出来は良く、この手は最近の或る種のミステリでもポピュラ
ーなネタだと思う。一部混乱しているが、凡作で済ませるのは惜しい。

夏樹静子「蒼ざめた告発」(集英社文庫)★★★☆
1969〜1975年の作品を収めた、「影の鎖」(>>415)に続く初期短編集。
「冷ややかな情死」は弁護士と不倫関係にあるヒロインの美紀。彼女を慕う男、カメラマンなどが絡む
中、弁護士が殺される・・・。事件の真相は意表を突くもので、何気ない小事件の扱いが非常に効いて
いる。
表題作は、夫が愛人を殺し、現場近くで出くわした旧友も殺したのでは?と疑っている女性。アリバイ
に関する夫婦の心理的な駆け引きが面白い。
「二粒の火」は友人の依頼で彼女の夫を調べる女探偵。だが友人が別荘の放火で死んでしまう。これは
或る物を使ったアリバイ工作もの。「男運」はごく短いSS。
「お話中殺人事件」は電話を絡めたアリバイもの。山村美紗の電話トリックと比べてみると面白いかも。
「見知らぬ敵」は「交換殺人」を持ちかけられた男の話。先方が殺人に失敗してからの展開がかなりヒネ
っている。
「死者からの電話」は事故死した姉の謎を調べるうち、姉の脅迫を知る妹。或る女性の屈折した心情が事件
を二重にも三重にもヒネっているのが面白い。
600名無しのオプ:2007/07/24(火) 10:26:30 ID:OX74XWCE
600なら3師が公魚レビュー7連投
601名無しのオプ:2007/07/24(火) 13:09:29 ID:52x/qz/A
なにその罰ゲーム。((((゚Д゚ ;)))ガクブル
6023:2007/07/26(木) 12:09:58 ID:UBUqUWdh
そんなご無体なw

小杉健治「月村弁護士 逆転法廷」(徳間文庫)★★★★☆
1986年の長編。
静岡県藤枝市で起きた一家三人惨殺事件。逮捕された元暴力団員の岡野は死刑が確定するが、再審
請求が叶い、やり直し裁判で無罪となる。だが被害者の遺族や証人たちの中には癒しがたい傷が残っ
た。単に冤罪の者を救うだけでなく、被害者側も納得できる解決を望んでいた弁護士の月村には納得
できないものがあったが、そんな最中、かつて岡野を逮捕した元刑事が殺され、またも岡野に容疑が
かかる・・・。
再審無罪までの描写がやや冗長ですが、元刑事の殺人が起きて以降の展開は迫力に満ちています。
詳しくは書けないが、タイトルどおり全てが引っくり返り、或る人物の「狙い」が明らかになる終盤は
実に見事。真相に関する伏線も序盤から書き込まれているし、主人公の弁護士の推理もまあまあ。
ともかく今から二十年も前に「被害者の人権」を訴えた姿勢は高く評価したい。特に、前述の或る
人物の「狙い」は痛快で、「人権屋」弁護士や、ボンクラ警察幹部、裁判官、検事、マスコミの連中を
並べて、この本で引っ叩いてやりたくなったw
なお、何年か前に深谷忠記が、本作とは全く逆の結末を引き出した作品を書いていますね。本作に
影響されたのかな。

日下圭介「偶然の女」(祥伝社ノンポシェット)★★☆
1980年代の作品を収めた短編集。
「間違い電話」はホラー風。オチは全て読めてしまった。
「砕けて殺意」がベスト。ある女性が、過失で割ってしまった高価な陶器を留守中の知人宅から
盗み出すよう友人に頼んだが、その友人が家の主人と出くわして・・・。二転三転し、叙述上の工夫
も凝らした佳作。
「老女の企て」が次点の佳作。借金を重ねた男を捕らえるよう依頼された探偵が、男が立ち寄るはず
の一人暮らしの老女を見張るが・・・。伏線の効いた、ラストのオチも鮮やかに決まる作品。
「母たちの殺意」は毒殺もの、「箱」はアリバイ物だが、ともに切れ味が鈍い。
「にせ刑事」も、刑事だと偽って、満室の旅館にまんまと泊まれたサラリーマンが銀行強盗事件に
巻き込まれて、という中盤までは楽しいが、結末が中途半端。表題作はヒネっているけど、オチ
だけの作品。佳作も若干あるが、全体的に出来の悪い作品が多く残念。
603名無しのオプ:2007/07/26(木) 19:01:23 ID:19V9q5PW
>>602
「月村弁護士〜」面白そうだな。そのタイトルじゃ絶対に手に取らないな。
6043:2007/07/30(月) 12:27:39 ID:0COhxsYF
三好徹「悪の花園」(徳間文庫)
作者自選の「奇妙な味」を収めた短編集。初出が不明ですが、内容から1960〜70年代までの
作品が殆どだと思います。作者は「奇妙な味」と言っているが、「この作家には珍しい傾向の
作品が多いな」という感じで、本来の「奇妙な味」は少ない。なお全体的な★の評価はしません。
何故なら・・・
「疵ある女」★★★★★
本作だけが別次元の傑作。銀座のホステス・江津子が前の職場でイザコザを起こし、新しいクラ
ブに勤めだしたが、タクシー強盗の容疑者にされてしまう。彼女にはアリバイがあったが、証明
してくれるはずの男やホテルの従業員たちは知らないと言う・・・。
最初から最後まで伏線だらけ、序盤のヒロイン初登場シーンや、カタストロフの直前の描写など
心憎いほど。「えっ?何かオカシイな」とは思ったのですが、まんまと術中にハマッた。ごく単純
な真相ですが、実に上手い。連城も泡坂もブッ飛ぶ(とは大げさか、でも同レベルに達している)、
技巧を凝らした三好徹の本格短編の最高傑作。タイトルも意味深長。
他の収録作で辛うじて佳作と言えるのは、鐘造りの職人の世界を描いた「鋳匠」が、読者の予想す
る結末をひとヒネりしていて楽しめる。また「墓穴」は、大富豪の甥なのに叔父から冷遇される男が
叔父をガス中毒死させるが、飼い犬の見事な復讐でオチを迎える。これもタイトルが上手い。
「奇妙な脅迫」は官庁幹部が美人局に引っ掛かるが、相手の男は脅すだけで金品を一切要求してこ
ない。思い余った官庁幹部は女に接触を図ると・・・。これもオチは秀逸だが、ただそれだけ。
「良心の問題」も珍しい作風だと思うが、オチだけの作品。残りの「優しい殺人者」「個人教授」
「蕩す」は凡作。
605名無しのオプ:2007/07/30(月) 22:44:11 ID:EATLI7qJ
>>604
じゃあそれだけ立ち読んでくるかw
606名無しのオプ:2007/07/31(火) 00:16:01 ID:ZAqldQwP
立ち読んでくるって新語ですか?
6073:2007/08/03(金) 12:07:35 ID:+8LBOnnp
赤川次郎「三毛猫ホームズの駈落ち」(角川文庫)★★☆
シリーズ第5弾、1981年の長編。
田舎町で仲違いを続ける二つの旧家。両家の長男と長女が駈落ちしてから十数年後、両家の末っ子
同士が互いに刺し違えて死ぬ事件が発生。だが捜査の結果、凶器には二人の指紋がなく、二人とも
第三者に刺殺されたものと判明するが、現場には二人以外には誰もいなかった・・・。更に片山刑事と
晴美が、駈落ちした男女と勘違いされて一騒動。事件は東京に移って、駈落ちした男女の周囲で連続
殺人が・・・。
むろん「ロミオとジュリエット」が元ネタですが、余り両家の抗争には囚われず、肩の凝らないユー
モア調のストーリーが展開。起こる事件は、刺し違え事件の不可能状況、密室のガス中毒未遂事件、
不可解な絞殺事件、ノンストップのエレベーターからの犯人消失など、不可能犯罪てんこ盛り(勢い
余って、D・カーの某作品のネタバレもしていますが)。
だが真犯人を含め、盛り沢山の事件やトリックが上手く消化されていない。最初の刺し違え事件の
真相はブッ飛んでおり、或る意味で意外性はあったけど、その他のトリックは感心するようなレベ
ルではない。幾つかの部分で偶然に頼っているのも残念。

斎藤栄「王将殺人」(光文社文庫)★★
1974年の長編。
北海道で行われた将棋のアマ王将戦に勝利した星純一。だが札幌のホテルで彼の後援会長が絞殺
される。不審な動きを見せる父親や、純一の恋人の父・森田八段。事件には二十年前の将棋界を
巡るスキャンダルが絡んでいるらしい。更に純一は亡母のアルバムから謎の詰将棋の棋譜を発見
する。やがて森田八段も旅行先で失踪した末、東尋坊で死体となって発見される・・・。
ストーリー自体は破綻せず、良く纏まっているとは思うが、トリックが余りにチンケ。第一の殺人
の小道具は「そんな物、知らんがな」だし、第二の殺人のアリバイ工作も「それを使ったら余計に
目立って足が付くだろ」って代物。但し、伏線は大胆なまでに序盤に示されてたが。
その他、棋譜を使った暗号やらダイイング・メッセージやら電話トリックやら趣向はあるが、何ら
オリジナリティを感じさせるものではない。結末も冗長。
608名無しのオプ:2007/08/10(金) 17:29:05 ID:FazKiO7l
斉藤栄はババしかないように見えるんですけど
609名無しのオプ:2007/08/11(土) 01:53:23 ID:QAFCQ+6a
>>608
ババどころじゃないよwww

3師が『死角の時刻表』と『方丈記殺人事件』に★★★★つけてるので
気になってはいるんだけど、怖いんだよなあ
610名無しのオプ:2007/08/11(土) 13:37:13 ID:nZHw+1Vn
方丈記はまあまあ
611名無しのオプ:2007/08/11(土) 23:07:32 ID:zfC4h9Xn
そうなのか
今度見かけたら買ってみる
612名無しのオプ:2007/08/12(日) 00:36:17 ID:qLsmf/kr
3師が以前紹介してくれた「カナリアなんとか」は
新本格風でまあまあ楽しめたよ。
613名無しのオプ:2007/08/13(月) 00:54:06 ID:GVgPD+1X
3氏だけにまかせておかないで
皆で斉藤栄作品星四つ以上を探そうの会
614名無しのオプ:2007/08/13(月) 00:56:26 ID:SHaco/Sz
拙者はパスさせていただく
6153:2007/08/13(月) 15:22:48 ID:AfdjkRh8
藤村正太「脱サラリーマン殺人事件」(廣済堂ブルーブックス)★★★☆
1972年の長編。
電機メーカーで出世競走に敗れ、城跡や城下町の写真を撮る趣味の世界に逃避した野上。或る日、
旅先より妻に「伊達城下の町へ行く」と言い残して失踪する。その頃、大分・別府では殺人事件が。
被害者は一匹狼のブローカーで、野上とも趣味の会を通じて知り合いで、野上に脱サラを勧めて
いたらしい。野上の妻の絵里子は、かつて夫を紹介された旧友の三宮とともに事件の渦中へ。事件
には、野上との出世競走に勝った男も絡んでおり、彼も鷹取との間にトラブルを抱えていた。だが
その男にも、また仙台にいたらしい野上にも鉄壁のアリバイがあった。しかし遠く離れた米国・
シアトルの氷河で野上の死体が発見されるに及んで、事件は意外な方向に・・・。
第一の事件のアリバイは、或る事実を知っていたため、簡単に見破れました。第二の事件の写真に
関するアリバイ工作は、「シアトルということは、ひょっとして、あそこはアレなのかな?」と思い
込み、まんまとハグらかされてしまいました。先行作はありますが、この当時では斬新なものだっ
たのでしょうかね。似た趣向を或る新本格作家なども使っていますし。ただ、もっとハッタリを効
かせて、大掛かりなトリックにも仕立てられたのに、写真にだけ謎を集約させてしまい、スケール
が小さくなってしまったのが残念。まあ、新本格お得意の「あの趣向」の先駆作品として評価できる
と思います。

辻真先「山陰ドン行に死す」(徳間文庫)★★
1985年の瓜生慎ものの長編。
瓜生の妻・真由子の異母姉妹に当たる少女が、鳥取砂丘で服毒死した。山陰への取材旅行を兼ねて
瓜生は調査に赴くが、折からの豪雪で或る温泉場に閉じ込められてしまう。だがそこで第二、第三
の事件が。瓜生は、後を追ってきた真由子とともに事件の謎に挑むのだが・・・。
いわゆる「吹雪の山荘」の趣向も取り入れて、更に色々トリッキーなアイディアも盛り込んでいた
り、或る人物の意外な登場など見せ場もあるのですが、どうも話が雑駁なまま終わってしまった感
じがします。悪い意味で、ユーモアに逃げてしまっていると思います。凡作。
616名無しのオプ:2007/08/13(月) 19:07:08 ID:HuFZFCTh
「読みました」報告・国内編25

本岡類「飛車角歩殺人事件」(1984年 講談社ノベルス)
長編第1作。将棋のタイトル戦7番勝負の進行に併せて関係者が次々と殺されて、
現場には将棋の駒が・・・・もともと作者は将棋ミステリでオール読物新人賞デビュー
だからお得意の分野。でも、内容は2時間サスペンス風でガッカリでした。探偵役の
プロ棋士はいい味だしてるのに肝心のミステリ部分が弱い。
2作目の「女流棋士殺人事件」に期待しよう。
6173:2007/08/16(木) 18:13:03 ID:6hr+9gVD
多岐川恭「怖い依頼人 KK探偵局」(桃園書房)★★☆
私立探偵の近阿弥、予知能力を持つ霧子、気は優しくて力持ちの絹笠と、ワトソン役の古本屋主人・
袋の面々からなる「KK探偵局」の活躍を描く1978年の連作集。
第1話「KK探偵局」はイントロダクション風にレギュラーメンバーの紹介に費やされ、事件自体は
平凡なもの。
第2話「妄想殺人事件」は、家に帰って来ない夫は殺されているに違いないと、妻が探偵局に調査を
依頼。さほどトリッキーでもないが上手く纏まっている。
第3話「灰色の紳士」は、迷子の犬の捜索を依頼される話。飼い主の女は何故、犬に固執するのか・・・。
これはシャーロク・ホームズ物を読むような意外性のあるお話。
第4話「霧子の好きな美少年」は同性愛に走った夫が殺され、妻は愛人の美少年が犯人に違いないと
探偵局に訴えてくるが、その男にはアリバイがあった。凡作。
第5話「江戸調殺人事件」は、江戸時代を再現した町で起きた花魁殺しの一件。現場に出入りした者
を誰も見ていないという不可能犯罪物か、と期待したが、真相は下らないものでガッカリ。
第6話は表題作。暴力団のボスが殺し屋に邪魔者を消してもらったが、どうも不安なので殺し屋の正
体を調べて欲しいとKK探偵局に頼みに来る。これはオチをひとヒネりしており楽しめた。
第7話「依頼人『防ぎ屋』」は殺し屋に狙われている社長を守ろうとする「防ぎ屋」の男が殺し屋の
居場所を見つけて欲しいと探偵局に依頼する話。これも今ひとつ。
第8話「うつろな目」は寝たきりの富豪の財産を狙う兄弟の話。これもダメ。
全体的に本格ミステリとしては古典的なアイディア一発頼みで、しかもストーリー後半で霧子に「予言」
や「透視」をさせて重大なヒントや伏線を示して解決へ、というのは、それ以前のストーリー中に伏線
を張ることを怠けているわけで残念。
本作はむしろ「ルパン三世」というか、同時期の優作のTVドラマ「探偵物語」や半村良「女たちは泥棒」
辺りとも共通する、どこかダルな雰囲気の、個性的なメンバーの活躍を面白おかしく楽しむべき作品集で
しょうね。
6183:2007/08/16(木) 18:16:30 ID:6hr+9gVD
連投スマソ

山村美紗「花の寺殺人事件」(講談社文庫)★★☆
1981〜1983年に発表された、花の名所であえる京都の寺社を舞台に統一した連作集。
「柩の中に蘭の花を」は凡作、「芙蓉の花は血の色」も同じだが凄惨な復讐が印象に残る。
「彼岸花が死を招く」は売れないミステリ作家が京都を旅行中に殺人事件に遭遇、だが被害
者が抱えていた本が嫌いなライバル作家の本だったことが気に入らず、自分の本と差し替え
てしまう・・・。この発端は面白いのだが、いささか竜頭蛇尾。「桜の寺殺人事件」も今ひと
つだが、「死化粧は菊の花」は佳作。不倫相手の妻を殺そうとする女のアリバイ工作と、その
意表を突いた破綻が上手く描けている。「石楠花の咲く寺」も佳作。眼の不自由な子供が父親
の殺害に遭遇する。その時に聞いた音のトリッキーな趣向と、音に関する推理だけから犯人を
追い詰めてゆく展開が見事。「月下美人殺人事件」「桔梗寺の殺人」も面白いのだが、本格ミス
テリとしては見るところなし。
全体的に本格ミステリとしては凡作が多いが、小説としては意外と面白く、決して力を抜いて
いる訳でもないようで安心したw

草川隆「寝台特急〈エルム〉の殺人」(双葉文庫)★☆
1991年の長編。
札幌発の寝台「エルム」車内で毒殺された芸能プロの社長。捜査当局からいったんは容疑者
扱いされた所属俳優と、被害者の姪が独自に調査を開始するが、残りの容疑者の一人が殺さ
れ、残る容疑者には鉄壁のアリバイがあった・・・。
駄作。真犯人は中盤辺りで一人に絞れてしまい、では秀逸なアリバイ工作があるのかと思い
きや、手垢の付いたトリックだし、もう一つの「或る物の移動」に関するトリックも、確かに
思いつきにくいアイディアではあるけれど、本格ミステリにおける「意外性」とはちょっと違う
んじゃないの?という出来。この作家、けっこう良い線を行く作品もあるけど、ダメなときは、
とことんダメだなあ・・・。
6193:2007/08/21(火) 13:02:41 ID:a9rS+OGK
またも連投スマソ

斎藤栄「運命の旅路」(徳間文庫)★★★
1978年の長編。
霞ヶ関の政府委員会の会議室、総理大臣用の椅子に座って死んでいた他殺死体。被害者の学生は
山陰地方の旅行に出ていたのだが、何故、こんなところで殺されたのか?
一方で、旅芸人の女が幼い娘を医者の養子に出す話が展開。こちらは医者が娘を連れて姿をくら
ましてしまう。医者が養子を貰い、行方不明になった理由は何なのか?
この二つの事件を、被害者の学生の姉と、養子に出した娘の母親が、それぞれ独自に事件を追って
ゆく。警視庁の万代警部の捜査も並行して進む中、二つの事件の意外な接点と真相が明らかになっ
てゆく・・・。
うーん、作者が相当の「意気込み」を持って書いたことは伝わってきました。その割りに二つの
ストーリーの接点の真相に驚きが少ないのが残念。しかし、或る一方のストーリーには、意外な
「仕掛け」が施されており、俺はアンフェアだと思いましたが、果たしてどうでしょうか。
だが、その「仕掛け」と真犯人の行動が上手く繋がらなかったのが惜しい。真犯人による新幹線
のトリックにも相当のものがあり、まあ意地悪く言えば「鉄道豆知識」的なものだが、新幹線に
乗ったことがない人を除けば、決してアンフェアではないと思う。被害者が総理大臣の椅子に
座っていた理由も、一応(あくまで一応、だがw)合理的な説明は付いています。
野心的な試みだが、まさに幾つかの接点で詰めが甘いため、傑作になり損ねた惜しい作品。
6203:2007/08/21(火) 13:05:02 ID:a9rS+OGK
三好徹「殺人者の肖像」(徳間文庫)★★
作者自選の短編集。今回は「男女を巡る犯罪」をテーマにした作品集、ということかな。
相変わらず初出不明ですが、1960〜70年代の作品だと思います。
「闇の中の仮面」は高層ビルで起きた爆弾騒ぎの最中に、最上階で女優が殺される。容疑
者は現場ビルの近くにはいたが、爆弾騒ぎでエレベーターは全てストップ、アリバイが成
立したのだが・・・。これはチェスタートン流のトリックを現代風に上手くアレンジし直した
佳作。
「殺意の成立」は死亡時間をズラすトリックが使われているが突飛過ぎて面白くない。「赤い
満月」も凡作だか、船上での偽装自殺のトリックが一寸だけ面白い。
その他、「毛皮と真珠」「天罰」「冷たい手」「真紅の復讐」は本格じゃないし、出来も今ひとつ
なので省略。意表を突くスパイ物の短編や「疵ある女」の完璧とも言える出来で三好徹を再評価
してきましたが、三匹目のドジョウはいなかった・・・w

野村正樹「殺意のバカンス」(集英社文庫)★★
1986年のサントリーミステリー大賞候補作。
山陽新幹線の車中で発生した女性の毒殺事件。被害者が持っていた十数年前の色あせた写真
の学生たちの中に犯人がいるらしいのだが、疑わしい者にはアリバイがあった。やがて容疑
者の一人がパーティの最中に飲んだドライマティーニで毒殺される。だが毒を入れる機会を
持つ者はいなかった・・・。
一言で言えば「団塊世代の手前勝手なノスタルジーの押し売り」。「男が男らしく燃えていた」
(などと本文に出てくるが、恥ずかしくないのか?)’70年安保闘争から十数年経って、今度は
バブルでバカ踊り。
悪口はともかく、本格ミステリとして見れば、第一の殺人における新幹線のアリバイ工作は、似た
前例はありますが、ちょっとした「発想の転換」によるもので、これは上手いと思います。第二の
殺人でのマティーニの毒殺トリックは、クリスティの某名作とは方法を変えているものの余り面白
くない。
なお、或る社会事象がプロットの根幹にあるが、これも1970年代の西村京太郎の某作品(本スレで
は確か未紹介)における「怒り」の方がよっぽどリアルで共感できた。アレと比較すれば、本作で
の取り上げ方など「全共闘坊ちゃんのお遊び」に過ぎない。
621名無しのオプ:2007/08/23(木) 18:39:55 ID:xfhhfD5g
服部まゆみさん逝去とのこと。合掌
6223:2007/08/27(月) 12:05:50 ID:tx6HM7bc
赤川次郎「華麗なる探偵たち」(徳間文庫)★★★★
1984年の連作集。タイトルのシリーズ第一弾らしいです。
第1話「英雄たちの挨拶」で、ヒロインの鈴本芳子が登場、亡夫の莫大な遺産を狙う叔父一家に
騙されて精神病院送りになってしまう。だが入院患者の、「自称」シャーロック・ホームズにダル
タニアン、エドモン・ダンテスらの助けを得て、見事、事件の真相を解く。これはインントロな
ので大した出来ではない。結局、相棒のホームズらを従えて、昼は精神病院で生活し、夜はダン
テスの掘った穴から外に出て豪邸に暮らしながら探偵稼業に精を出す話が以下展開。
第2話「死者は泳いで帰らない」は水泳中に溺死した高校生の水泳部選手。彼のライバルの親父が
寄付金をエサに自分の息子を選手に選ぶよう学校側に圧力をかけていた。だが水泳の達人がプール
で溺死するものなのか?ちょっとしたトリッキーな真相が面白い。
第3話「失われた時の殺人」は退職した元警部が現役時代の回顧録を執筆しようとするが、書斎用
に作ったプレハブ小屋の中で変死する。現場は内側から施錠された完全な密室だったが・・・。これ
は作者自身の旧作のトリックを改良したもの。伏線の張り方が上手い。
第4話「相対性理論、証明せよ」は天才と紙一重の貧乏学者が講演会に乱入、その間に彼の弟子が
恋敵の嫌味な学者を楽屋で殺したとして逮捕されるが・・・。なかなかユニークな動機を扱っている。
第5話「シンデレラの心中」は湖畔で起きた男女の入水心中。だがもう一人の女性の水死体が発見
され、更に心中死体にも不審な点が。これも常識の裏を突く真相が面白い。
第6話「孤独なホテルの女主人」は力作。スキーに来た学生カップルが宿泊地にアブれ、漸くのこと
で小さなホテルを見つける。そこにはヒロインの芳子も泊まっていたが、ホテルの主人たちの様子
がおかしい。一方その晩、麓の町で金庫破りの事件が起きていた・・・。なかなか凝った犯罪計画で
真犯人の意外性に優れている。
設定自体は荒唐無稽だし、軽めではあるが、決して手を抜いていない直球の「本格」が楽しめる佳作。
6233:2007/08/27(月) 12:09:16 ID:tx6HM7bc
連投スマソ

斎藤栄「『伊勢物語』殺人事件」(徳間文庫)★★★
1975年の長編。
南川達也は恋人が変死したのは彼女に横恋慕していた黒沼のせいに違いないと、ひそかに殺人計画を
練っていた。一方、黒沼は公害に関する研究所に勤務していたが、騒音問題に関して政府寄りの調査
結果を出したとして住民たちの反感を買っていた。
その黒沼の唯一の趣味がオリエンテーリング。或る出版社の立てた、「伊勢物語」に登場する舞台を
転戦するオリエンテーリング大会に招待されるが、南川も妹とともに参加、殺害の機会を狙う。だが
他の参加者たちにも不審な動きが。果たして黒沼は殺されてしまう。先を越された南川だったが、第二
の殺人で思いもかけない人物が殺されてしまい、事件は飛んでもない方向へと発展してゆく・・・。
とにかく不審人物が沢山いて、競技が進むにつれ、一組、また一組と脱落してゆき、いよいよ残された
メンバーの中に真犯人が・・・、と引っ張りまわした挙句の真相は上手い。ミスディレクションはそれなり
に決まったと言えるでしょう。第一の殺人の、機械的なトリックながらも「切断された指」の理由なども
面白い。しかし、やや無理をし過ぎたか、真犯人の設定や動機にまで気が回らなかったようで惜しい。
そんな話、聞いてなかったよ、と言いたいです。

森真沙子「水晶の夜−ボヘミアン・グラス殺人事件」(角川文庫)★★★
1986年の長編。
カメラマンの真木れい子は、チェコ政府主催のボヘミアン・グラス展で国宝級のグラスが割られた事件
をスクープするが、事件はうやむやのまま終息してしまう。だがボヘミアン・グラス研究の第一人者の
芸大教授、小樽のガラス工芸家が不審な死を遂げ、真木の身辺にも怪しい追っ手が。更に芸大教授の死
の真相を知るという男も殺されてしまう。真木は事件の真相を求めて、チェコ・プラハに旅立つ・・・。
これは「本格」としては今一つの出来で、トリッキーな趣向は一箇所しかないのですが、サスペンス物
としては優れていますね。グイグイと結末まで読者を引っ張ってゆく迫力があります。直接関係がない
と思われた秘密のレズ団体とやらの話も伏線だったとは恐れ入りました。なかなか計算されたサスペンス
の佳作。
6243:2007/09/03(月) 12:20:14 ID:AiBmGcG7
またも連投スマソ

山村正夫「霊界予告殺人」(講談社文庫)★★★☆
1989年の長編。
探偵小説作家の雨宮鏡介は、青山の路上でバイクにはねられて生死の境をさ迷い、臨死体験を
味わうことに。「向こうの世界」では、亡き江戸川乱歩、横溝正史、木々高太郎らが探偵作家
クラブを結成し、海外からコナン・ドイル、ヴァン・ダイン、アガサ・クリスティを日本に招
いていた。だが三人の作家を殺害する予告状が届き、先ずはドイルが殺され、次いでヴァン・
ダインも殺された。雨宮の恋人で、交通事故で夭折した女性編集者が容疑者として逮捕され、
雨宮は彼女の冤罪を晴らすべく事件の渦中に。そして犯人と目される元ナチス将校ゲルハルトの
行方を追うのだが・・・。
あの丹波哲郎の「大霊界」物を元ネタにした荒唐無稽な設定ですが、そこは割り切った上で読む
と、なかなか面白かったです。死者を殺すということはどういうことなのか、その他「霊界」の
約束事については十分説明されており、そのルールに沿って、非常に奇妙キテレツな事件の真相
が浮かび上がってきます。あまりに通俗的なエンディングが臭いですが、一応、論理的に事件は
解決されるので、こういう本格物も有り、でしょう。

夏樹静子「喪失−ある殺意のゆくえ」(光文社文庫)★☆
1973年の長編。
テレビ局に勤める渓子は恋人がいないことを同僚にからかわれて、行きずりの男性に話しかけ、
先方も別人と勘違いしたまま彼女を同行させてしまう。男は渓子をクルマに乗せ、謎の行動を
取る。結局一夜を過ごした渓子だったが、その後、男性は姿を消してしまう。あの夜の謎の行動
は何だったのか。だが或る晩、帰宅した渓子が見たのは、男の死体だった。無我夢中で死体を
沼に投げ込み、警察の追及もかわした渓子は、やがて事件が数年前に阿蘇山麓で起きた轢き逃げ
事件に絡んでいることを知る・・・。
話の展開が非常にもどかしく、散漫な印象しか残りませんでした。或る人物のキャラクターが
前半と後半で全然違うのもマイナス。終盤でようやくメインの謎解きに移行し、鉄壁のアリバイ
の打破と意外な真犯人の暴露となるのですが、このアリバイ工作と真犯人の行動は、或る点に
おいて矛盾しているとしか思えません。駄作。
625名無しのオプ:2007/09/04(火) 20:22:13 ID:MWJ0X5jq
お邪魔します。

各作家のナンバー1を決めよう!スレにて、「阿井渉介」作品投票中。

締切りは、平成19年9月7日(金)、〜12:00まで。1人1票でよろしくご参加を。

http://love6.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1172241141/

投票したい作品を<<作品名>>のように、
<< >>で括って投票するのがローカル・ルールになってます。
6263:2007/09/05(水) 12:09:47 ID:oJ0VEkBG
高柳芳夫「悪夢の書簡」(講談社ノベルス)★★★★
1985年の長編で、講談社が乱歩賞30回目を記念した1984〜85年のキャンペーン「乱歩賞SPECIAL」
シリーズの一冊。
1961年、元外交官の杉浦千秋は、かつて第二次大戦勃発時に赴任していたリトアニアで、迫害され
るユダヤ人にビザを発給したことで数奇な半生を辿った末、西ベルリンで恋人のビアンカと暮らし
ていた。彼はイスラエル当局から或る依頼を受け、散逸していたリトアニア時代の外交文書や手紙
を集めていた。だが何者かの襲撃を受けて文書を奪われ、恋人も誘拐されてしまう。イスラエル・
モサド、東ドイツ秘密警察、更にはソ連の影もちらつく中、杉浦が辿り着いた真相とは・・・。
主人公のモデルはもちろん杉原千畝。事件の真相はけっこう意外なもので、誰が敵か味方か分から
ない、というのはスパイ小説の常套ですが、そこに伏線を張りめぐらしているので、「本格」風の
佳作として楽しめます。更に全てが解決した後にドンデン返しが待っていますが、これは伏線不足
で今ひとつ。ここを補強し、もっと切れ味を鋭くすれば、多島斗志之の秀作にも匹敵する傑作にな
っただろうに・・・。

伴野朗「六人目の裏切者」(徳間文庫)★★☆
1980年の中・短編集。
表題作の中篇は、「三十三時間」他の作品でも活躍する山城太助が登場。上海で山城率いる特務機関
の作戦が失敗。負傷した山城は仲間の中の裏切り者が誰なのかを推理する・・・。裏切り者の意外な正体
はまあ面白かったのですが、そこに至るまでが錯綜し過ぎ。
「ハノイ発IF951便」は日本で食い詰めた新聞記者がベトナム戦争さなかのサイゴンで新聞社に勤務
するが、CIAなどの謀略に巻き込まれる話。凡作。「赤い閃光」もベトナムが舞台。これは暗号解読
などもあって楽しめました。「サイゴンの星」もベトナム絡み。ベトコンと米軍の射撃の名手による息
詰まる追跡戦を扱った秀作。手に汗握る迫真の展開ですが、こりゃ「本格」じゃなかった。残念w
「草原特急の女」の舞台はモンゴル。モンゴルを巡る中ソの謀略戦に巻き込まれた学者の話。敵の正体
も含め切れ味が鈍く凡作。
作者の脂が乗り切っていた時期の短編集と思って期待したのですが「本格」風の作品も、また一般の
スパイ小説としての佳作も少なく、残念でした。
6273:2007/09/11(火) 17:40:41 ID:NzU5Qnnz
また今週も連投でスマソ

佐野洋「高すぎた代償」(徳間文庫)★★★★☆
1959年、「一本の鉛」に続く長編第2作。これは傑作。
事故死した元上司の未亡人・治子の経営する連れ込み旅館に転がり込んだヒモの久世。或る日、
客室に仕掛けたテープの録音から、或る鉄鋼会社の労使関係に絡んだ無理心中事件に疑惑が持ち
上がっているのを知る。久世は好奇心から私立探偵を開業し、治子とともに事件の関係者を調べ
てゆくのだが・・・。
三部構成で、第一部は久世の一人称の視点、第二部は治子の一人称、そして第三部は三人称で事件
の真相が語られるのですが、第三部でまんまと作者の仕掛けた罠にハマってしまった。それまで
寝そべって読んでいたが、ラスト数ページのところで「えっ!」と叫んで飛び起きました。
これは現代の本格ミステリでも時折り使われる或るトリックの先駆。最近では浦賀和宏の某作品が
コレの変形として印象に残っていますね。もちろん今から半世紀近くも前の作品なので、最近の
作例ほど洗練されていませんが、決してアンフェアではないと思う。伏線も十分。俺もその部分で
「あれっ、変だなあ?」とは思ったのですが、詰めが足りなかったw
この作者の作品は10冊程度しか読んでいませんが、現時点では「賭の季節」以上の最高傑作。

笹沢左保「過去は雨のなかに佇む」(角川文庫)★
1969年の長編。
古瓶回収業の会社に勤める虚無的な性格の小田切。前社長の病死で、会社を乗っ取った新社長の
大槻ら幹部四人組から、目の上のタンコブである前社長の娘・蓉子の殺害を命じられる。蓉子は
小田切の恋人だったが、未練のない小田切は蓉子を岩手県の鍾乳洞で心中に見せかけて殺してし
まう。だがその後、大槻ら幹部の愛人や妻や娘が次々と殺されてゆく。蓉子の殺害を押し付けら
れた小田切による復讐なのか。だがいずれの事件でも小田切には鉄壁のアリバイがあった・・・。
これは思い切りアンフェアでしょう。或る部分の描写など虚偽じゃないか。笹沢左保ともあろう
者が・・・。
まあ作者の主眼はアリバイ物の本格ミステリを書くことではなく、全く別のところにあることは
分かるのですが・・・。
6283:2007/09/11(火) 17:52:33 ID:NzU5Qnnz
多岐川恭「ゆっくり雨太郎捕物控1」(徳間文庫)★★
1967〜1973年に書かれた、八丁堀同心の「ゆっくり雨太郎」を主人公とした捕物帖シリーズ。
このスレの趣旨に合った時代で「本格」風味の捕物帖を探したのですが、もちろん「なめくじ
長屋」は著名すぎるし、海渡英祐の諸作は紹介済み、ということで、多岐川恭のこれを読んで
みたが・・・。
全18編で、どの作品も文庫で15ページ程度と誠に短い。省筆でサラッと描いて、なるほど粋では
あるし、伏線もあるが、これがまた省筆すぎる。一行ほど描写されていれば良い方で、数文字しか
なく、ウッカリしていると事件の詳細が全く理解不能の場合も。また人間関係だけ紹介して、あと
は想像して解け、といった感じの作品もあり、これじゃ「本格」として評価はし辛いです。
それでも、斬首の直前に「俺が殺したんじゃない」と言い捨てた男、そのセリフのトリッキーな
真相に迫った「土壇場の言葉」、迷子の女の子に誘拐犯が絡み、そもそも迷子になった真相が意表
を突く「迷子のお安」、戦前の「新青年」掲載の或る名短編にも通じる「江戸みやげ」、赤子殺し
と見せかけて実は、という「植木売る御家人」辺りはけっこう楽しめました。
でも、「半七」、「なめくじ長屋」、「顎十郎」の名作群、海渡の諸作に比べると差があるなあ・・・。

赤川次郎「百年目の同窓会」(徳間文庫)★★☆
1986年、「華麗なる探偵たち」シリーズの第?作の長編。
或る日突然、自分はメアリだと名乗って他の記憶を失った女性。更に日本中でエリザベス、アニー、
キャサリン・・・・と名乗って記憶を失う女性が続出。女性たちには何の共通点や関係も見出せなかっ
たが、ヒロイン・鈴本芳子の相棒である「自称」シャーロック・ホームズは、それらの名前が全て
1888年の切り裂きジャック事件の被害者の名だと指摘する。そして彼女らの一人が喉を切り裂かれて
殺されるや、関係者を巡って連続殺人が勃発する・・・。
ミッシング・リンク物の意欲作。終盤の手前で、「これはひょっとしてアレでは?」と感づいたのです
が、それは半分当たっていました。真相は更にヒネっていますが、個人的には「これでは『本格』から
離れてしまったようでスッキリしないな」と思った。人によって別の評価もあるかも知れませんが。
6293:2007/09/11(火) 17:54:42 ID:NzU5Qnnz
西村京太郎「殺意の設計」(廣済堂文庫)★★★★☆
1972年の長編。これも傑作。
新進画家・田島の浮気を密告され、その現場を目撃した妻の麻里子。田島や麻里子の共通の
友人で、今は絵筆を捨て仙台で旅館を経営する井関に相談するが、田島との関係は悪化する
ばかり。遂に離婚の意志を固めた麻里子は、離婚前に井関も呼んで三人で酒を飲もうという
田島の誘いを承諾したが、その席で麻里子と田島は服毒死してしまう。田島による無理心中
なのか。現場にいた井関には、密かに愛していた麻里子を殺す動機などは全く無い。田島が
毒薬を購入した事実も発覚、事件は無理心中で落着。警視庁の矢部警部補は納得できなかった
が、やがて或る画家が失踪を遂げたことから、一連の事件の真犯人は井関ではないかと再捜査
を始める・・・。
前半は麻里子の視点、後半は矢部警部補の視点で展開しますが、前半の浮気に悩む人妻の視点
によるストーリーが絶妙な効果を挙げています。後半、それまでの出来事が別の解釈により、
鮮やかに反転。大きなトリックはありませんが、死の瞬間の些細な矛盾点、妻の肖像画に関する
トリッキーな仕掛け、毒薬購入の小技など、地味で渋い小技のトリックを次から次へと繰り出し
てくる手際の上手いこと。叙述上の或る仕掛けもありますが、これだけは現代の読者にはバレバレ
だろうな。
なお肖像画に関する真相には、その時の或る人物の心情を察して、ちょっと泣けてしまった。
「天使が消えてゆく」や「ポケットにライ麦を」のラスト、「異邦の騎士」でもそれほどでは無か
った俺には珍しいことですが・・・。
派手さは無く、同時期の「殺しの双曲線」に一歩譲るかも知れないが、それに次ぐ傑作でしょう。
630名無しのオプ:2007/09/11(火) 19:16:24 ID:V+CBHezM
「高すぎた代償」は後の密会の宿シリーズの原型ですかね、主人公の設定が似ている。

「読みました」報告・国内編25
本岡類「女流棋士殺人事件」(講談社ノベルス 1984年)
傍若無人のプロ棋士探偵・神永七段シリーズ第2作。前作「飛車角歩」でも感じたけれど
この長編第2作も冴えがなく、時間差を利用したアリバイも予想の範囲内でガッカリ。
このあとの「南海航路」も凡作だし、カッパノベルスの作品と差がありすぎ。

佐野洋「ひとり芝居」(桃源社1960年、角川文庫1981年)
初期の本格もの。中央省庁の課長が不倫現場を目撃され、その恐喝者が殺されると
いうありきたりのストーリーながら周辺人物の心理描写が心憎いほどうまく描かれており
拾い物の秀作。最後のどんでん返しはちょっと驚いた。
佐野洋の初期長編は余分な描写を避け、文庫で200ページ程度のすらすら読めるものが多く
かえって今読むと新鮮な感じをうける。


631名無しのオプ:2007/09/11(火) 23:46:43 ID:qgr1ERjo
>>627
佐野洋はあからさまな駄作は少ないんだが、
ものすごい傑作もまた少ないw
632名無しのオプ:2007/09/12(水) 19:40:30 ID:apO7zP6L
今日古本屋で小杉健治の2作品が丁度その2つだけあった
嬉しい
6333:2007/09/18(火) 12:04:38 ID:ifvYF+sD
赤川次郎「死体置場で夕食を」(徳間文庫)★★★★
1980年の長編。
新婚旅行の最中に雪山で道を間違えた洋一・芳子の夫婦は、運良くロッジを見つける。管理人
夫婦と6人の宿泊人がいたのだが、どこか様子がおかしい。翌朝、芳子たちが目を覚ますと、
宿泊客たちは全て姿を消しており、地下室には管理人の男の死体があった。芳子は洋一を残し
て町へ救援を求めに行くが、戻ってみるとロッジは火事で焼け落ち、識別できない焼死体が残
され、洋一の姿は見えなかった。焼死体は死んでいた管理人なのか、それとも行方不明の夫・
洋一なのか。芳子は東京に戻り、元刑事で大金持ちの御曹司・瀬口とともにロッジの関係者を
探し回る。だが先回りするように、芳子が会う直前に、ロッジの滞在者たちは次々に殺されて
ゆく・・・。
これは力作。スピーディでかつ読みやすく、しかも非常に複雑なプロットを上手く纏めている
と思います。ロッジの秘密に関する真相だけは、やや強引で尻すぼみでもあったが、泡坂ばりの
人間消失トリックもあり、特にレッドヘリングが非常に効いていて、結末まで飽きさせません。
しかし赤川次郎って、濫作を避けてじっくり腰を据えて執筆したら、途方も無い本格ミステリの
大傑作を書きそうな気がする・・・。

大岡昇平「歌と死と空」(光文社カッパノベルス)★★☆
1962年の長編。
歌手・有本品子が自殺した。落ち目になり始めたのを気にしていたらしいのだが、その死後、
彼女を利用して食い物にしてきた関係者が次々と殺される。作曲家、芸能プロ社長、テレビ
ディレクター・・・。そして犯行現場直前には、録音もされていない品子の歌声が聞こえてくる。
品子は生きているのか、或いは何者かが品子の遺志を継いで復讐を開始したのか・・・?
大岡昇平と言えば「事件」が代表作でしょうが、「本格」ということで本作を選んでみました。
死んだはずの品子の歌声が聞こえてくる趣向やら、或る意外な交通手段によるアリバイ工作、
レッドヘリングの設定など、目指したところは良く分かるのですが、面白いかどうかは別。
ダラダラとしたストーリーで引っ張った挙句に真犯人が明らかになるだけで、謎解きの過程と
上手く絡んでいないので、ただ退屈の一言。その真犯人の設定や動機も上手くない。凡作。
6343:2007/09/18(火) 12:08:47 ID:ifvYF+sD
連投スマソ

三好徹「天使が消えた」(中公文庫)★★★★
1972年の「天使」シリーズ長編。
横浜の新聞社支局の記者である「私」は、病院の放火事件を取材していたが、事件は街娼の
殺人事件へと発展、しかも後輩記者の野尻が容疑者として警察に追及されていることを知る。
「私」は野尻の無実を信じて、徒手空拳で事件の渦中へと飛び込んでゆく・・・。
かつてハードボイルドや警察小説として評価されていたロス・マクドナルドやヒラリー・ウォー
が、謎解きの点から「本格」としても再評価されているようなので、その観点からブン屋もの
の「天使」シリーズを読んでみました。
トリッキーな趣向は少ないし、「私」が「犬も歩けば」式で関係者をあちこち訪ね歩き、とき
にはチンピラに殴られ、政治家のスキャンダルに絡んだりするうちに解決するだけ、にも見え
ますが、ちゃんと推理と謎解きによるフーダニットの基本は踏まえており、「私」も無闇矢鱈に
歩き回るのではなく、ちゃんとヒントを掴んで推理した上で行動しています。伏線も十分とは
言えないながら、要所は押さえており、特に野尻が絡む或る登場人物二人の秘密は、ロスマクの
某名作のトリックを連想させます。
またデクスの横山や伏見警部など脇役陣も魅力的で、ストーリーの雰囲気も含めて、横山秀夫に
影響を与えているようにも思えます。
まあ悪く言えばロスマクのパクリとも言えますが、「本格」としても十分楽しめる佳作でした。

佐野洋「不幸な週末」(角川文庫)★☆
1962年の長編。
豊原悦子はかつての不倫相手に久々に呼び出されるが、すっぽかされ、待ち合わせ場所で声を
かけてきた淀川という男と酒を飲みに行く。一方、私立探偵の樋田は姓名不詳の男の依頼で、
悦子と淀川を尾行し、二人の写真を撮る。やがて淀川が殺され、悦子に容疑がかかる。だが悦子
の知っている淀川と殺された淀川は、似ても似つかない別人だった。しかし樋田の写真には悦子
と被害者が写っているのだが・・・。
これは駄作。悦子のストーリーと樋田のストーリーの間に、物凄いトリッキーな趣向が隠されて
いるのだろうと思ったら、何のことはない、非常に陳腐な真相でガッカリ。こんな偶然に頼った
トリックを使っているようではダメ。
635名無しのオプ:2007/09/19(水) 22:28:41 ID:i39Qpub3
森村誠一の★4つ以上の作品をずらずらっと並べてみてください
636名無しのオプ:2007/09/19(水) 22:44:07 ID:OVVziMR1
今のところ、森村の★4つ以上は出ていない
紹介されたのは「死の軌跡」(★★☆)だけだし
637名無しのオプ:2007/09/19(水) 22:59:51 ID:CBOg53o8
わざとマイナーな作品選んでレビューしてるからでしょ
638名無しのオプ:2007/09/19(水) 23:46:40 ID:fPvcSXeK
森村誠一の大傑作って何?
639名無しのオプ:2007/09/20(木) 03:25:36 ID:GKo7gti7
大傑作ではないかもしれないが、捜査線上のアリアはいいよ
6403:2007/09/21(金) 12:11:14 ID:yCU8x5ND
森村誠一は専用スレもあるし、高木彬光や都筑道夫、土屋隆夫と同様、紹介せずとも名作、
佳作は知れ渡っていると思ってました。紹介するなら次のとおり。

「高層の死角」(講談社文庫)★★★★☆
1969年刊。ホテルの密室トリックは正直、良さが分からないが、難攻不落のアリバイは、
一つのトリックが解明されても、更にアリバイが出現して、三重、四重の壁を崩して行く
過程が非常に面白い。東京と福岡を跨る設定で「点と線」を連想したが、トリックそのもの
は「高層の死角」の方が上だと思う。
「虚構の空路」(講談社文庫)★★★★
国際線搭乗手続、出入国管理の網の目を潜った緻密なアリバイ工作が圧巻。でも現代
では古めかしさが目立つ。なお最後のヒネり方は上手い。
「新幹線殺人事件」(角川文庫)★★☆
当時のハイテクも三十年も経てば陳腐の一言。結末の破局もヒステリック過ぎる。
「密閉山脈」(角川文庫)★★★
山岳を舞台にした一種の「密室」トリックだが、これも良さが分からない。長井彬の山岳物
の方が本格ミステリとしては上。但し小説としては面白い。
「超高層ホテル殺人事件」(ハルキ文庫)★☆
何もかもが強引、ドンデン返しも効果が上がらず。
「日本アルプス殺人事件」(中公文庫)★★
写真ネタのアリバイ物だが、複雑すぎる。ラストのヒロインの絶望感も、戦前の悲恋小説
みたい。
「東京空港殺人事件」(文春文庫)★★
これは珍しく、全ての真相を見破ってしまった。簡単すぎる。
「殺意の接点」(講談社文庫)★★☆
短編集。山岳物の本格「虚偽の雪渓」「裂けた風雪」を収録しているが今ひとつ。巻末の
「高燥の墳墓」がベスト。「死体の隠し場所」がスゴい。
641名無しのオプ:2007/09/21(金) 13:24:55 ID:PCCEcEZD
作家自体はメジャーでも知られざる傑作みたいなものはあるかも
知れないじゃん? 高木とかでも「刺青」や「人形」は有名だけど
642名無しのオプ:2007/09/21(金) 13:35:32 ID:olga2VG2
個人的には有名作家の知られざる傑作よりも
今のように地雷作家・無視されている作家の知られざる傑作を紹介してくれた方が有り難い
643名無しのオプ:2007/09/21(金) 14:01:58 ID:PCCEcEZD
別にどっちかに絞れとは言ってないよw
644名無しのオプ:2007/09/21(金) 16:23:09 ID:ccYVngHp
このスレを最初から読んでいて知ったんだけど、Wikiに纏めた人がいたんだな
645名無しのオプ:2007/09/24(月) 09:12:52 ID:s6uYZfB9
キャサリン・エアード3冊を一気読み!なんで3冊しか出ていないのか不思議。
他のも出してくれ>ハヤカワ文庫
6463:2007/09/26(水) 12:01:29 ID:iJF7snpX
辻真先「ブルートレイン北へ還る」(徳間文庫)★★★☆
1980年の瓜生慎・真由子ものの長編で、前作「死体が私を追いかける」の続編。
取材旅行で大阪から寝台特急「日本海」に乗り込んだ瓜生は、発車早々に死体騒ぎに巻き込ま
れるが、死体は何故か消失、その後も怪しい出来事が続発する。一方、東京から寝台「あけぼの」
に乗り込んで、秋田で瓜生と合流しようとした真由子は、家出少年やダイナマイトを持つ青年、
曰くありげな老夫婦との珍道中で、こちらも前途多難。秋田で二人は再会し、二つの列車に乗る
胡散臭い連中も合流して、一行は一路、北海道の果て、根室へと向かう・・・。
これも前作同様、単なるドンチャン騒ぎと思われた描写に重要な伏線を仕込ませるなど、なかなか
の出来栄えです。特にある人物が着込んでいたコートの一件は渋く決まっており、「日本海」と
「あけぼの」を跨ぐ或る仕掛けも面白い。トリックはごく基本的なものばかりですが、ユーモア
調にして「全ては冗談なんじゃないか」と思わせたのが良い方向に働いたと思います。ドタバタな
がらも「本格」の芯は一本通した佳作。

阿井渉介「卑弥呼殺人事件」(講談社ノベルス)★★☆
1983年のノンシリーズ長編。例の「列車」シリーズよりも前の作品。
「ぼく」ことテレビ局のAD水沢は、敏腕プロデューサーの赤城、ディレクターの原らと「邪馬台
国発見」なる番組を制作していたが、邪馬台国の候補地の一つである静岡・焼津の山中をアマチュ
ア学者が発掘中に人骨を発見する。卑弥呼の骨かと騒がれたが、その骨はたかだか二十年前の
ものだった。だが状況に不審な点があり警察が乗り出す。やがて水沢は、事件が自分のテレビ局
の過去に繋がっていることを知る。不審な行動をとる赤城たち。やがて番組出演予定の女優が殺
され、水沢の恋人もまた殺される・・・。
アゲハチョウを絡めた主人公と恋人のエピソードなど、どこか暗い、作者独特の抒情などもあり、
トリックもテレビらしい仕掛けだし、伏線もあり、そこまでは良いのですが、真犯人の隠し方が
ミエミエだし、いかにもテレビ業界の人、といったステレオタイプの登場人物たちには閉口しま
した。
6473:2007/09/26(水) 12:08:31 ID:iJF7snpX
連投スマソ

典厩五郎「シオンの娘に告げよ」(集英社文庫)★★★☆
1988年の長編。
昭和25年の米軍占領下の東京。映画会社に勤務する木暮は、会社の危機を救うため、「M資金」
による融資話に飛びつく。しかも相手は、満州で自殺したと思われていた、あの甘粕正彦だった。
さらに一緒に渡されたダイヤモンドは、ロシア・ロマノフ王朝にまつわる伝説のダイヤ・オルロフ
と鑑定されるが、ダイヤはいつの間にか偽物とスリ替えられ、木暮は警察に追われる羽目に。
終戦直後に北陸・小松で起きたドイツ空軍機の不時着事故の謎も絡んでくる中、木暮は都内に潜伏
して事件の謎を追うが、背後にGHQの謀略と派閥争いがあることを知る・・・。
これは娯楽に徹しきったスパイ物、というか歴史ミステリの佳作。ちょっと類型的だけど、個性溢
れる脇役陣、特に関西弁を操るヘンなGHQ将校のトミー・ジョーダンの造形が面白い。
かなり意外な結末を迎えた後に、エピローグで更なるドンデン返しを仕掛けているのがスゴいので
すが、いかんせん伏線が不足気味。歴史上、周知の事実だから省略したのかも知れないけど、作品
中でもそれとなく事前に匂わせておく方が良いと思う。あと主人公の木暮も、事件の渦中に巻き
込まれてゆくだけで、自分で事件を推理する場面が少ないのも残念。昭和20年代の雰囲気は、まあ
こんなもんでしょうか。決して「本格」とは言いがたいが、結末の意外性に溢れた佳作。

矢島誠「『六大都市』Kの殺人」(エイコーノベルス)★★☆
1988年の作者の長編第2作。
東京、大阪、札幌、名古屋、神戸の各都市の北区で発見されたバラバラ死体と脅迫状。そして頭部
は、京都駅に着いた急行「きたぐに」の車内から発見される。北区に拘った犯人の狙いは何なのか。
京都府警の上原刑事は、被害者の姉・真美子ともに事件の追うのだが・・・。
一言で言えば、劣化版の深谷忠記。アリバイ工作やら脅迫状の謎などトリックをちりばめてはいる
けど、オリジナリティがないし、そもそも死体をバラバラにして各地に送った理由が弱い。一応説明
されているが、非常に苦しい言い訳でしかない。最後に明らかになる意外な真犯人も想定内。
6483:2007/09/26(水) 12:13:00 ID:iJF7snpX
山村美紗「目撃者ご一報下さい」(集英社文庫)★★☆
1967年のデビュー作となる表題作の他、1973〜1982年までの作品を収めた短編集。
「偽装の回路」は、もう電話トリックは好い加減にしろ、と言いたいです。「その日、あなたは
死亡し・・・」のアリバイトリックは大したものではないが、占い師の予言がハズれた理由が面白い。
今の作家なら、コレをメイントリックにしたヒネった好短編を書きそう。「虹への疾走」「人気
作家の秘密」ともに×。駄作。「京都・映画村殺人事件」は2時間ドラマ用に書いたものだが、割り
切って読めば面白い。派手に徹したのが却って良い方向に収まった佳作。
「人形寺殺人事件」「尼僧殺人事件」ともに×。これまた手抜きの駄作。「椅子とりゲーム」「青い
札束」とも狙いは分かるけど佳作とは言い難い。「死ぬ前に電話を!」はまあまあの出来。巻末の
表題作はデビュー作らしく初々しくも文章が生硬だが、アイディアとしては面白いと思う。
全体に傑作短編集とは言い難く、佳作と凡作、駄作の差が激しすぎる。

鷹羽十九哉「津軽逆転の3重殺」(講談社ノベルス)☆
1987年の長編。
フリーのルポライター梓弓甲矢は、自らの出生の秘密を探るため、故郷の津軽を旅するうち、十三
湖畔の旧家・蘭麝家の美人姉妹と知り合う。蘭麝家は、「東日流外三郡誌」に出てくる長脛彦、安東
氏の末裔で、代々超能力を操るという。やがて梓弓は、長姉の夫や愛人を巡る殺人事件に巻き込まれ
てゆく・・・。
「書きおろしアクション&トリック」とあり、タイトルからも深谷忠記ふうの「本格」かなと期待し
ましたが、全く騙された。単なる「ヒヒ爺のロリコン妄想爆発エロ小説」です。
若者やジャーナリズムなどの描き方は梶龍雄並み、伝奇的な雰囲気を出そうとする変な詠嘆調の文章
がそれに輪をかけたヒドさで、エロ描写の時だけ作者がノリノリという、久々に焼き捨てたくなるほど
酷い作品でした。
因みにトリックは、京都で起きた殺人事件に一つキテレツなのが出てきますが、京都の或る地域でなく
ては成立不可能なトリックで、まあ、それはそれで面白いか。ともかく、これは草野唯雄「アイウエオ
殺人事件」をはるかに凌ぎ、藤村正太「魔女殺人」に迫る最低最悪の似非ミステリ。
649名無しのオプ:2007/09/28(金) 00:34:34 ID:a+HBu0yw
「本格ミステリフラッシュバック」11月に単行本出るみたいですね。
楽しみ♪
650名無しのオプ:2007/09/28(金) 00:38:54 ID:wKTA0FUW
藤村正太「魔女殺人」が気になる
651名無しのオプ:2007/09/28(金) 00:50:52 ID:SVj28L2R
>>649
創元社だから油断してはいかんぞw

>>650
俺も気になる
スーパー源氏を検索してみたら1500円で売ってたけど、怖くて買えないわ
100円だったら買ってもいいんだけど
6523:2007/10/01(月) 12:08:59 ID:jpsWfOuD
嵯峨島昭「愛と死の幕営」(廣済堂ブルーブックス)★★★☆
1981年の酒島警視ものの短編集。グルメから猛獣狩り、登山にヨットと作者のスノッブぶりが
堪能できる一冊。
巻頭の表題作は、寒村の宿が舞台。脱サラして山宿を経営する若夫婦、山中でクマに襲われて
死んだ男は彼らの旧友だった。たまたま登山で現場を訪れた酒島警視はクマの仕業ではないと
疑う。これは結末まで全てミエミエですが、酒島がクマの仕業ではないと見破る或る伏線だけ
は上手い。「蛍の森」はインド。猛獣狩りツアーのアマチュアカメラマン一行と現地商社員を
巡る殺人。密輸のトリックが面白い。
「星の女」は佳作。北海道を放浪する学生が外国人サーカス団に合流するが、ナイフ投げの男が
焼死する。トリックはともかく真相が意表を突いているが、独特の侘しい雰囲気と叙情が、つげ
義春にも通じる雰囲気を持っている。
「満漢全席殺人事件」の舞台は香港。中華料理の究極・満漢全席を味わおうというツアー客がホテ
ルで殺され、被害者と部屋を代わった医師が狙われる。血液型に関する思い切ったトリックが出て
くるけど、これは本当かなあ?
「殺意の太陽」は湘南。金持ちのドラ息子に家来のように使える父子。そこに現れた謎の美少女。
やがてドラ息子が殺されるのだが・・・。これもユニークなトリックが使われているが、映画
「狂った果実」や「八月の濡れた砂」を連想させる独特のアンニュイでニヒルな雰囲気が上手い。

栗本薫「黒船屋の女」(文春文庫)★★★☆
1982年のノンシリーズ長編。
深夜に散歩中だったイラストレーターの寺島は強盗事件に遭遇する。大正時代を思わせる古びた
洋館の現場では、主人の千藤が殺されていたが、後妻の紫乃は無事だった。竹久夢二の美人画から
抜け出してきたような妖艶で果敢ない美女・紫乃に心を奪われた寺島は、紫乃の最初の夫で戦争中
に夭折した天才画家・鷹取を巡る事件へと巻き込まれてゆく・・・。
或るトリックの扱いが上手い。鷹取と紫乃の或る秘密に関しても伏線は色々あり、大正浪漫あふれ、
乱歩や谷崎への言及もあるなど、サービス満点の作品。結末の付け方もなかなか上手い。腐った花
を思わせる「耽美」一辺倒の作品、と思わせて、実は伏線を張り、「本格」の構成にも気を配って
いる佳作。
6533:2007/10/01(月) 12:15:38 ID:jpsWfOuD
連投スマソ

笹沢左保「海の晩鐘」(角川文庫)★★☆
1978年発表の「絶望岬」改題の長編。
西ドイツにバイオリン留学中の八千代は、母・貴子が幼馴染の森田と心中したことを知り急遽
帰国。だが地元警察の山ノ内刑事は他殺ではないかと疑い、単独で捜査を継続していた。八千代
は母親の死後、その妹の秋子と再婚しようとする父・夕紀夫に反発、山ノ内と行動をともにする
うち、犯人は父親ではないかと疑い始める。だが彼には鉄壁のアリバイがあった・・・。
アリバイトリックは大したものではない。既にバレバレなのに延々と話を引っ張るのはウンザリ。
しかし心中を偽装した遺書のトリックは秀逸。どう読んでも心中を決意した遺書でしかなかった
のが、ほんの些細な指摘でガラッと意味が変わってしまう部分は圧巻。でもコレ以外に褒めるべき
箇所が少ないのが残念です。やはり凡作でしょう。

藤村正太「魔女殺人」(立風書房、品切)
1975年の短編集。「異色推理」なる副題が付いていますが・・・。
先ず表題作は、ゼネコンの営業マンが公団住宅の入札情報を探ろうと、恋人を使ってSM趣味の
相手方を篭絡する・・・、という話。SMのテクニックの数々が、まあ何と言うか(以下略)。
「仮面の貞操」は死んだ恋人と瓜二つの女性に会った男の陥ったワナ。またS(以下略)。
「夜の罠」もマゾヒスト男の話ですが、一応、アリバイ工作が出てきて、ようやく安心しましたw
しかし続く「偽りの脂粉」で、またもフェティシズムと女装趣味に惑溺。
「夜の受刑者」は一応の水準作。婚約者の女性の秘密を探るうち、旧陸軍の化学兵器開発に至る
話で、やや強引ながらも、ラストのオチが強烈なホラーの異色作。
ラスト「美貌の母」も、もうどうしようもない話だが、毒殺トリックを導入しており、一応読ませ
ます。
以上6編、幾瀬勝彬もブッ飛ぶ、トンデモC級ミステリ。特に作者のマゾヒズム、フェティシズム
に対する興味は只事ではありません。こういう作家だったのか?
なお巻末の既刊目録にあった「実用推理−女房を殺す法」も読みたくなったw
・・・が、あれから5年、まだ見つからない・・・。
6543:2007/10/09(火) 12:19:45 ID:yiNEASEa
また今週も連投でスマソ

小杉健治「原島弁護士の愛と悲しみ」(文春文庫)★★★★☆
デビュー作の表題作を含む1986年の最初の短編集。長らく探していて、やっと読めました。
とにかく巻頭の表題作と巻末の「牧島博士、最後の鑑定書」の2作が圧巻。前者は、度重なる
前科を持つ凶悪な男に妻子を殺された男が、再審無罪となった被告を殺す話。だが被告を弁護
し、無罪を勝ち取った弁護士の原島もまた、彼に妻子を殺された過去があった。何故そんな男
を弁護し、無罪を勝ち取ったのか・・・。カンが良ければ真相は読めてしまいますが、これは傑作。
意外性という点では今ひとつだが、或る意味、裁判制度そのものを揺るがす問題作でしょう。
後者も問題作。精神病に罹った過去を持つ男が団地で大暴れ、或る男に重傷を負わせるのだが・・・。
これも「心神喪失者は無罪」の法律の裏を突いた傑作。チラッと描写された或る件との繋がり
が見事で、そのトリックだったのか、と驚いた。
その他、父親の後をついで刑事になった男が、幼馴染みを強盗殺人の容疑者として取り調べる
うち、過去の迷宮入り事件と父親の辞職の真相に行き当たる「赤い記憶」、「冬の死」は、自殺
した妹の後を追って自殺した兄、更には妹の恋人だった男の上司が転落死するが実は、という話。
「愛の軌跡」は、恋人のエリート坊ちゃんのために身代わりで轢き逃げ事件の犯人となった女性の話。
これも読者に例のパターンと思わせて、引っくり返す真相が見事。
「本格」としての評価はまた別でしょうが、ともかく傑作、佳作ぞろいの一冊。

西村京太郎「悪女の舞踏会」(角川文庫)★★
1963〜65年の駆け出し時代に大衆誌に掲載された通俗作品を収めた短編集。
本格物は、典型的な毒殺トリックだが、関係者全員が容疑者と判明した瞬間に真犯人が一人に
特定されるという点が一寸だけ面白い表題作と、宝石の隠し場所トリックで、読者のスケベ根性
を誘導しておいて背負い投げを食らわせる「女とダイヤモンド」の2作のみ。
他の「女に気をつけろ」「拾った女」「女と逃げろ」は三流アクション小説の典型。「女が消えた」
は、ヒネり方によってはホラー物の佳作となり得るのに、真相の出し方や結末の付け方がアッケ
無さ過ぎる。
6553:2007/10/09(火) 12:23:59 ID:yiNEASEa
福田洋「空白の交換殺人」(光風社ノベルス)(採点不能)
1991年の長編。この人の作品って、犯罪実録風のものとか、春陽文庫でお馴染みのアクション・
猥雑系しかないのかなと思って触手が動かず未読でしたが、本書は「本格推理」とあり、内容も
ソレらしいので読んでみましたが、さて。
フリーのルポライター朝岡は、幼い頃に川で溺れたのを助けて身代わりで死んだ男の妻が通り魔
殺人の被害者となっていたことを知り、命の恩人に報いるため、事件の調査に乗り出す。そして
別の轢き逃げ事件を起こし自首した或る人物をマークしていたのだが、その男は出所後に放火で
殺される。朝岡はやがて、通り魔事件と轢き逃げ事件は「交換殺人」だったのではないかと思い
至るのだが、しかしどちらの事件にも全く接点は見出せなかった・・・。
これは中盤で明言されているのでネタバレになりませんが、ネタは「交換殺人」です。しかし、
互いの事件の被害者や容疑者たちの間に、いくら調べても繋がりを見出せない、というところが
ミソ。そして真相は・・・。そりゃ「繋がり」は分からないはずだよ。恐れ入りました、というか、
空恐ろしくなったw
「交換殺人」の真相としては或る意味で前代未聞。笑って許せるか、フザケるな、と怒るかの
どっちかでしょう。

皆川博子「北の椿は死を歌う」(光文社カッパノベルス)★★☆
1988年の長編。
画廊を経営する村上は、ふとしたことで知り合った斎原茜と結婚式を挙げるが、当日、茜は花嫁
衣裳のまま式場から不可解な消失を遂げてしまい、郷里から来ていた茜の父母も直後に消えてし
まう。村上はかつての恋人・明子とともに茜の実家があるという山形県・温海を訪ねるが、そこで
出会った斎原茜は全くの別人だった。村上の恋人だった茜の正体は、そして別人の名を騙っていた
理由は・・・。
序盤から中盤までは快調ですが、画家志望の素人探偵・永井の登場が全体の雰囲気を壊してしまい
ます。伝奇的な方向に向かうかと思えば、突如コメディ調になったり一定しません。結末の真相で
は、色々なトリックが仕込まれていたことを知って感心しましたが、ちょっと説明がバタバタし過ぎ。
200ページ程度では短すぎて、もう一寸終盤を膨らませた方が良かったと思います。
656名無しのオプ:2007/10/23(火) 20:20:12 ID:pSB61tek
お邪魔します。

各作家のナンバー1を決めよう!スレにて、企業経済ミステリの第一人者
「清水一行」作品投票中。

締切りは、平成19年10月26日(金)、〜12:00まで。1人1票でよろしくご参加を。

http://love6.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1191850300/

投票したい作品を<<作品名>>のように、
<< >>で括って投票するのがローカル・ルールになってます。
6573:2007/10/28(日) 15:52:01 ID:m16WUMvs
高柳芳夫「闇からの呼び声」(双葉文庫)★★★☆
1985年の珍しいゴシック風の長編。
弘前郊外に屋敷を構える津軽の旧家・多香城家。元外交官の男が、二人の娘と隠棲していたが、
末娘の由里は或る日、自分の日記帳に書いた覚えのない未来の出来事が書かれているのに気付く。
そこには来年の3月、自分が姉の麻里を殺すことが詳細に記されていた。多香城家には、予言を
した伯母や、精神病で自殺した長姉の絵里がおり、由里は自分にも呪われた血が流れているので
はないか、いや、既に自分は狂っているのではないかと怯える。やがて日記に書かれた予言どお
りの出来事が次々と起こり、運命の3月を迎える。由里は父親とともに屋敷から脱出しようとする
のだが、大雪に閉じ込められ、遂に惨劇が起こる・・・。
津軽の陰鬱な風土、古びた洋館、雪の密室の惨劇・・・、完全なゴシックロマンとして結末が付くの
かと思いきや、終盤で由里が学ぶ大学の助教授が登場、奇怪な出来事の数々を論理的に解明し、
真犯人を指摘、「本格ミステリ」として見事に秩序だった解決かと思ったら、エピローグ手前で或る
人物が登場して全てが崩壊、そして・・・。この作者には珍しい作風の異色作。
6583:2007/10/28(日) 15:59:53 ID:m16WUMvs
阿井渉介「銀河列車の悲しみ」(講談社ノベルス)(採点不能)
1992年の「列車」シリーズ第8作。
冬のある日、北海道のローカル線で列車が消失。後に発見された乗客たちは、列車は太陽系の
惑星やら恐竜のいる原始時代に飛んでいったのだと証言する。そして肝心の列車は、現場から
百キロも離れた旭川郊外の原野で焼け焦げた死体とともに発見される。しかも列車は大木に寄り
かかって、今にも空に飛んでゆきそうな状態、雪の降り積もった原野には延々二十キロにもわた
って列車が走った車輪の後が残っていた・・・。
カネに糸目を付けないハイテクで人海戦術なら、そりゃこんなことも出来るでしょうが、だから
何だと言うのか。「奇怪な謎が論理的に解かれる」という本格ミステリの前提を、ヘンな方向で
突き詰めてゆくとこうなる、という悪しき典型。何とも言えない脱力の真相。

阿井渉介「黒い列車の悲劇」(講談社文庫)★☆
1993年の「列車」シリーズ第10弾にして最終作。
岩手県を走る三陸鉄道の列車が、トンネルに入ったまま消失するという怪事件が発生。更に、現場
近くの沖合で、海の上を列車が走っていたという怪情報も。やがて列車は消失地点に戻っていると
ころを発見されるが、乗客は何者かに誘拐され、犯人は警視庁の牛深警部補を身代金の持参人に指名
してくる・・・。
今度はトンネルからの列車消失に、海を走る列車ですかw
松島刑事は電話での会話のみで、牛深とのまるで噛み合わないボケとツッコミのやり取りが無いのが
寂しいw
列車消失の真相は、これが最強の脱力もの(今に始まったことではないが)。いくら岩手県の過疎地帯
でも、全く第三者に気付かれないのはおかしい。消失させる必然性も全くない。今までは苦しい言い訳
ぐらいはあったのに、それすらない。第10作目で、作者もシリーズ最終作ということを意識していたと
思うが、中途半端な終わり方で残念。或いは作者自身が飽きてしまったのだろうか?
6593:2007/10/28(日) 16:02:34 ID:m16WUMvs
三好徹「風葬戦線」(中公文庫)★★★☆
1967年の「風の四部作」シリーズ第4作。
アメリカ人と結婚して日本からハワイに移住したが、ベトナム戦争で行方不明となった夫を
探すため、従兄弟で医師の卓也とともにサイゴンに乗り込んだ妻の「私」。米軍司令部や前線
基地を訪ねたり、更にはベトコンが潜伏する村にまで乗り込んで、夫の生存に関する情報を
集めるうち、ついにベトコン側が接触してきた。果たして夫は生きているのか・・・。
うーん、幾らなんでも米兵の護衛もなく、女だてらにベトナムの村に足を運ぶのは無理じゃない
か、とも思うのですが、まあ、そこはそれw
「本格」の観点から読むと、読者を或る方向に誘導するテクニックが上手い。どうしたって××××
にばかり目が行くものなあ。そして何故か活躍の場が無かった或る人物と、チラッと紹介されて
いる或る事件の扱いが、終盤で突然クローズアップされ、真相に絡んでくる点も見事。良く考えれ
ばヒントははっきりと書かれていたのに、事件の真相がアレだったとは気付かなかった・・・。
死屍累々の末に迎える結末の付け方も申し分なし。
むろん本作は謀略スパイ小説であり、「謎解き」を主眼とするものではないですが、「ミスディレク
ションによる真相の隠し方」という点では、十分「本格」風ではあります。
6603:2007/10/28(日) 16:11:58 ID:m16WUMvs
4連投スマソ
たまには巨匠の作品でも。

高木彬光「最後の自白」(角川文庫)★★★☆
「グズ茂」こと近松検事が神戸を舞台に活躍する短編集。
「パイプの首」は神戸の山中で起きた外国商社員殺し。第一の事件のアリバイ工作は大した
ものではないが、第二の事件の密室状況と現場に残されたパイプの謎が面白い。
「影の男」はワンマン社長の死去と、その臨終の直前に密室状態の書斎で殺された長男の謎。
手垢の付いた密室トリックでヒネりがなく、面白くない。
「愛と死のたわむれ」は、心理的にヒネッたトリックが出てきますが、それより真犯人の最後
のセリフが非常に印象に残った。
「かまきりの情熱」は倒叙形式で完全犯罪を目指す女の話。本文でも指摘されていますが、或る
偶然がなければ完全犯罪は達成できており、しかもかなりご都合主義。犯人に同情しましたw
「消えた死体」は実もフタもないタイトルですが、アパートの窓越しに殺人の瞬間を見た男が見張
りを残して警官を呼んでくると、現場は何事もなく犯罪の痕跡すら無かった、だが数時間後、その
部屋に本当に死体が現れて・・・、という話。まずまずの出来。
巻末の表題作は、関係者がみな、自分が犯人だと名乗り出てくる話。C・ブランドみたいですね。
真犯人のアリバイ工作は周到ですが、ここまで裏の裏をかかなくても、とは思います。
全体的に、やはり「本格」としてのトリックなどのレベルが安定していて、安心して読めますね。
どれもこれも同じようなストーリー展開にはウンザリですが、それでも「愛と死のたわむれ」の
真犯人の鬼気迫るキャラクターなどに人物の描き方の工夫は見えます。
661名無しのオプ:2007/10/28(日) 22:01:06 ID:xvKf4ul0
毎回乙。
662名無しのオプ:2007/10/28(日) 22:41:17 ID:Bh5QouDF
なんでそんなに読めるんだろ
663名無しのオプ:2007/10/29(月) 00:39:21 ID:6HOUxTRZ
>>658
牛深シリーズは島田御大流の奇想を目標に書かれていたシリーズだけど、
どこをどう勘違いしたらああなるんだろ(笑)
元々は脚本家だったから、インパクトがある「列車消失」や「集団誘拐」を
やるようになったんじゃないかと俺は邪推してる
(初期でやっていた見立ての方が俺は好きなんだが)
だから、必然性がないうえに苦しい言い訳をすることになるんだけど、
残念なことに殆ど失敗しているってのが……ね(笑)
まぁ、良くも悪くも“奇想ミステリを誤解した作家”ですよ、阿井は

「黒い列車〜」は牛深自身の事件でもありますし、幕引きとしてはまずまずではないかと
『IN★POCKET』に発表の「名探偵の自筆調書(阿井渉介編)」は牛深の人物像を理解する
うえで重要な掌編だけど、埋もれたままなのが残念
(『列車消失』復刊時に付録として収録すればよかったのに)

ってことで、牛深シリーズ後に書かれた「警視庁捜査一課事件簿」(6冊で打ち切り)も是非
664名無しのオプ:2007/10/29(月) 22:13:24 ID:Dk0Emfee
脚本家出身繋がりで辻・生田・山浦・金春等の知られざる名作をよろ
665名無しのオプ:2007/10/31(水) 01:34:39 ID:4dMvarFm
>>664
お前が書けよ
666名無しのオプ:2007/10/31(水) 11:01:23 ID:rv6XQDOF
知らないから頼んでるんだろ
馬鹿だなあきみ
667名無しのオプ:2007/10/31(水) 18:47:20 ID:RaMMgkqS
自分で買って読んで感想書けばいいだけじゃん
668名無しのオプ:2007/11/01(木) 00:25:19 ID:fXnnwSu6
>>666
スレ違い
669名無しのオプ:2007/11/01(木) 16:39:14 ID:5EwBp+ot
スレ違いではないが他力本願は良くない
670名無しのオプ:2007/11/01(木) 22:27:39 ID:uwEqthU9
リク厨は死ね
671名無しのオプ:2007/11/04(日) 17:17:40 ID:aymv81w9
平岩弓枝も昔ミステリー書いてたみたいだけど読んだ人いる?
672名無しのオプ:2007/11/04(日) 19:19:09 ID:vkD5dXQU
「御宿かわせみ」ってまだ現役じゃないか?
673名無しのオプ:2007/11/04(日) 19:26:08 ID:XfHC+nNR
「御宿かわせみ」は明治編に入ったね
ってそういうことではなくて、>>671は平岩の現代ミステリーのことを言っていると思われ
6743:2007/11/06(火) 13:27:39 ID:7DBKRT83
森真沙子「青い灯の館」(角川文庫)★★★★
1987年の長編。
霧生冴子は将来あるバイオリニストだったが交通事故で同乗の母親を亡くし、自分も音楽家
生命を絶たれ、精神科医の治療を受けていたが、湘南の旧家・楡家の娘・美也のバイオリン
教師を頼まれる。繊細で病弱な美也も母親を亡くしていたが、洋館には母親の幽霊が出ると
いう。古めかしい洋館には明治時代に作られた、迷路のある奇怪な庭園などもあり、過去には
刃傷沙汰や自殺なども起きていた。或る日、イタズラ半分に連れてきた霊能力者が庭園に作ら
れた密室状態の四阿で謎の死を遂げ、以来、冴子と美也を巡って奇怪な出来事が続発する・・・。
これはゴシック・ロマンの典型。謎めいた一族と美少女、古びた洋館、奇怪な庭園に幽霊、そこ
にやって来た家庭教師を襲う怪事件・・・。しかし、結末はごく常識的に解決されます。「本格」
というほど論理的な推理やトリックがある訳ではないが、全ての謎がスッキリと解明される結末
で満足できました。この作家の作品では今まで読んだ中で一番の出来、なかなかの佳作。
・・・でも、「美少女の美也が先生への嫌がらせで、バイオリンで‘とんねるず’を弾いた」とい
う一節だけは何とかならんものか・・・。ゴシックロマン台無しw

佐野洋「未亡記事」(集英社文庫)★★★
1961年の長編。
地方新聞・四七新聞の政治部長・亀沢が列車に轢かれて死んだ。その直前には新聞社に妻と名乗
る女性から亀沢が脳溢血で死亡したとの電話があり、自宅に確かめると、妻はそんな電話はして
いない、という騒ぎがあったばかりだった。轢死体は顔と指紋が判別できなかったため他殺の疑い
が濃厚になる。新聞記者・浅田は婚約者の寺崎が亀沢と関係があり破談となったことから彼を恨ん
でいたが、上司の命令で事件の謎を追うことに・・・。
いわゆる「顔のない死体」で、むろん定石どおりには終わりませんが、今では、このパターンも容易
に真相を見破られてしまうかも。真犯人の設定も、さほど意外ではないです。結末の決着の付け方は
良かったと思うし、タイトルも意味深長で良かったのですが。
6753:2007/11/06(火) 13:31:01 ID:7DBKRT83
本岡類「桜島一○○○キロ殺人空路」(講談社ノベルス)★★★
1987年の高月警部補ものの長編。これは「本格ミステリフラッシュバック」で紹介済みの作品
ですね。
弁護士夫人が絞殺された。捜査の結果、夫の弁護士以外に容疑者はいなかったのだが、弁護士に
は、事件当時、鹿児島の桜島にいたという鉄壁のアリバイが。彼の部下が東京から現地に電話を
しており、もちろん電話器には転送装置など、何の仕掛けも無かった。部下も絶対に嘘はついて
いない。迷宮入りが心配される中、捜査一課長直属で、捜査本部からは独立して捜査を行う、高月
警部補が出馬した。高月は鉄壁のアリバイを崩すことができるのか・・・。
なるほど、アレとアレの違いに着目した、まあまあ面白いトリックですね。山村美紗ふうの「電話
トリック」とは違う発想で、誰でも知っているけど気付き難いネタをメインに据えています。
さり気ない伏線も上手い。でも、この仕掛けを施すのは、ちょっと危険な場面があるような。また
メイントリック以外には謎らしい謎がないので、ちょっと物足りない点も。

辻真先「火の国死の国殺しを歌う」(徳間文庫)★★
1982年の慎・真由子シリーズの第4作。
取材旅行で熊本の謎の遺跡「トンカラリン」を訪ねた慎は、地元老人の消失事件に遭遇。失踪した
老人は真由子の昔の知り合いだったが、数日後、老人の死体が遠く離れた阿蘇山で見つかる。そして
老人の友人たちを狙う連続殺人が勃発するのだが・・・。
うーん、事件の動機がコレというのは、なかなかユニークではあるけど、どうも面白味に欠けるなあ。
メインのトリックもそれほどではないし、動機が動機だけに暗い結末となるのはやむを得ないけど、
やはり救いがないな・・・。
6763:2007/11/06(火) 13:47:11 ID:7DBKRT83
斎藤栄「青い耳の謎」(徳間文庫)★★☆
1967〜69年頃に旧「宝石」誌に掲載の短編を中心にした初期短編集。
表題作は、横浜と思しき町の市立大学で起きた教授殺害事件、発見者が姉妹都市のイベントで来日
中の外国人だったことから、市長の厳命で市役所の渉外係が探偵役となるという中編。擬音に関する
英語表現の錯誤がミソですが、それ他のアリバイ工作や、巻き添えで死んだ男の話、ドンデン返し
など、アイディアを詰め込みすぎて、ゴタゴタで整理されておらず残念。
「炎の根」は銀行強盗に誘拐された男が無事救出されたが、強盗二人組は盗んだカネを燃やし、仲間
割れで主犯が相棒を殺す、という不可解な展開。真犯人の登場場面がアヤシすぎてカラクリが読めた。
「強盗と被害者の××××」というアイディアはユニークだが。
「昼の花火」も外国人による英語表現の感覚のズレを狙った作品。真犯人の設定と文章の表現振りに
努力しています。
「メバル」は「本格」ではないが異色の力作。叔父の火葬を見送る夫婦の描写から始まり、妻は叔父
の臨終時における夫の行動に疑惑を抱く。自宅へ帰る途中、釣り帰りの隣家の主人から魚をもらう
が・・・。これはR・ダール辺りの味を狙ったのか。
「春の陰謀」は駄作、「勝負手」は将棋ネタの話だが今ひとつ。
全体に出来は良くないが、新人ゆえの文章や構成の拙さはあっても、「本格」や「奇妙な味」の様々な
アイディアを投入して斬新なミステリを書こうとした姿勢は好感が持てます。

平岩弓枝「ハサウェイ殺人事件」(集英社文庫)★☆
1960〜1975年の作品を収めた短編集。
表題作は、ちょっとした早業トリックだが△、「夏の翳り」は×、「オレンジ色の口紅」も鑑識は何を
してるの?という感じで△、「右手」はただの犯罪小説で×、「石垣が崩れた」も犯人の心情は上手く
描けているけど、それだけ。「青い幸福」も主人公の犯罪に走るまでの心の動きは秀逸だが、結局のと
ころ犯罪を扱ったホームドラマ。全体に「犯罪がらみの一般小説」といった感じでしかないです。
今度は「華やかな魔獣」を読む予定ですが、果たしてどうかなあ。
6773:2007/11/06(火) 14:07:02 ID:7DBKRT83
小杉健治「夏井冬子の先端犯罪」(集英社文庫)★★☆
1987年の長編。
コンピュータ・コンサルタントの純子は、かつて自分の恋人を奪って駈落ちした親友の弘美
を見かける。一方、電機メーカーの大東電機では、コンピュータから特許の情報が盗まれ、
五億円と引き換えに売り渡してもよい、という脅迫状が届く。同社に勤める井川は、事件の糸
を引く冬子と名乗る謎の女性を追ううち、その女性が弘美ではないかと行方を追っていた純子
と出会う・・・。
真犯人はかなり意外だが、伏線の出し方が遅く残念。また、もう一つの殺人と連動してないのも
惜しい。コンピュータ・ネットワークに関しては、二十年も前の作品なので、今の感覚ではチャチ
に見えますが仕方ないでしょう。

浅利佳一郎「いつの間にか・写し絵」(ケイブンシャ文庫)★★
1979〜87年頃の作品を収めた短編集。
「いつの間にか・写し絵」は1979年のオール讀物新人賞受賞作。サスペンスだが下手だし、
ラストもヒネり不足。「いつの間にか」と「写し絵」という二つの作品かと思った。当時は
斬新なタイトルだと思われたのか。
「冬から、秋に」は謎の手紙の差出先を訪ねた男、訪ねた廃屋には一本の筆が・・・。凡作。
「枯花」は旅行先で入った美術館で、自宅の絵と同じ構図の絵を見つける話。オチが唐突。
「思い出しましたか」もオチが唐突。
「つき」は電車にカバンを忘れた男。どういう訳か、中身の品がバラバラに警察に届けられる。
最後にカバンが届けられてくるが・・・。これは上手い。
「豪華本」は蔵書マニアにはキツい話。本を集めるだけで読みもしない奴に「ざまみろ」と言って
いるようで、個人的には爽快だった。
「逢いびき」が一番の「本格」。車でネコを轢いて鬱の女性。同じ日に子供の轢き逃げ事件があり、
目撃者の証言から夫が乗っている車ではと疑う・・・。小栗虫太郎風のトンデモなトリックだが、
切れ味の鋭い結末。「爪」は凡作。
全体として作風が掴めない。奇妙な味でもなく、連城風でもあるが深みや伏線が足りない。
1、2作を除いてオチの付け方も不味く切れ味も乏しい。
6783:2007/11/06(火) 14:29:47 ID:7DBKRT83
5連投スマソカッタ
なお
>斎藤栄「青い耳の謎」(徳間文庫)★★☆
>1967〜69年頃に旧「宝石」誌に掲載 ×
>1962〜64年頃に旧「宝石」誌に掲載 ○

井上ひさし「十二人の手紙」(中公文庫)★★★★☆
>>353さんが紹介してくれたので読みました。全編、手紙や届け書などを混ぜて構成された
1978年の連作集。傑作でした。
プロローグの「悪魔」は、集団就職で上京した娘の転落の人生。「葬送歌」は或る作家宛て
に送られた創作の脚本と返事。何故、下らない出来の脚本を作家に送ったのかの理由が意表
を突く。
「赤い手」は出生届、転居届など役所への届出書や誓約書などの公文書ばかりで構成された
或る女性の人生。この構成で薄幸の女性の人生が鮮やかに浮かび上がるのがスゴい。そして
ラストの手紙・・・。
「ペンフレンド」もトリッキー。北海道旅行を計画する女性が、現地に住む男性をペンフレ
ンドとして募集する。折原一の或る短編を思い出した。
「第三十番善楽寺」はホームレスの家出話。「隣からの声」は夫が海外赴任した妻の孤独。
これはオチが読めた。
「鍵」は山中に篭った画家と妻のやり取り。留守宅で事件が起きるが、画家は手紙の文面だけ
から全てのカラクリを見破る。これも上手い本格もの。
「桃」は慈善団体の寄付を断る施設の話。「シンデレラの死」は上京して劇団に通う女性の話。
「玉の輿」は、やり取りされる手紙が、実は殆ど全て・・・・・・だったという技巧的な短編(だが、
たまたま最終ページを先に見てしまった・・・orz)。
「里親」はミステリ作家とその弟子の間に起きた殺人事件。タイトルに絡む錯誤が効いている。
この作家について「あれ?」と思ったが、まあそれはエピローグまでのお楽しみ。「泥と雪」は
高校時代の初恋の女性を巡る話。
そしてエピローグの「人質」。こう来たか。今から三十年も前にやっているのはスゴい。
以上、ミステリとは全然関係ない話もあるけど、非常にトリッキーな趣向や技巧が隅々まで凝ら
されている。面白かった。
679名無しのオプ:2007/11/06(火) 18:10:59 ID:Ek1O70yY
どんどん連投してくれ
680名無しのオプ:2007/11/06(火) 21:39:53 ID:6Nf/SrZM
平岩弓枝のミステリはそこそこ楽しめるけど、本格ってほどでもなかった。
2時間ドラマ感覚で割り切って読むのが吉かと。

「ふたりで探偵を」は妻が実働、夫が安楽椅子探偵のコンビでほほえましい。
681名無しのオプ:2007/11/06(火) 22:15:27 ID:Ek1O70yY
直木賞の選評で繰り返し「ストーリーよりもキャラクター」を
強調するのは自分が気の利いたプロットを捻り出せない裏返しなのかな
6823:2007/11/11(日) 14:22:12 ID:7SDvQwlI
高木彬光「捜査検事」(角川文庫)★★
1964年のグズ茂物の短編集、名古屋地検に勤務している頃のお話し。
「灰色に見える猫」は団地で起きた恐喝屋の殺害事件。J・D・カーの有名なトリックを導入
しているが、さほどの出来ではない。「黒と白の罠」も凡作だが、違法捜査スレスレの手を使う
グズ茂が面白い。「新妻への疑惑」は駄作。全くヒネりがない。
「灰の軌跡」のトリック自体は面白いのだが、そのネタの名が出た瞬間に読者に感づかれてしま
う。それに鑑識でバレなかったのもおかしい。
「身元不明」は無駄に長いだけ。「顔のない死体」と見せて、実は・・・、と見せて、更にユニーク
な動機面から説明するのだが、その動機に無理がある。
こないだ読んだ「最後の自白」に比べると格段に落ちる出来。

高木彬光「波止場の捜査検事」(角川文庫)★★★
1966年のグズ茂ものの短編集。「捜査検事」に続く第二弾で神戸に転勤してのお話し。
「黒い波紋」は海外から指名手配犯を送還してきた貨物船で肝心の指名手配犯が殺される。更に
船員の一人も殺されて・・・。第一の殺人は面白くないが、第二の殺人の密室状況の桟橋での犯行
方法が面白い。
「情熱なき犯罪」は会社のカネを横領した男が恋人と一芝居打って逃亡しようとしたところ、二人
の仲を疑う同僚が何故か横領男の自宅で殺されてしまい、更には横領男も殺されてしまう。横領男
の視点に立った前半が後半鮮やかに反転して、裏の真相が暴かれる佳作。
「第三の顔」は暴力団を追っていたやり手のブン屋が殺される話。アリバイものだが先ず先ずの出来。
「第四の脅迫」は技術屋の重役が目障りな社長を殺そうと計画、社長に瓜二つの弟に脅迫状を出し、
弟と間違われて兄の社長が殺されるという筋書きを企むが、本当に弟のほうが殺されてしまう。これ
も力作だが、「情熱なき犯罪」に似ている点はマイナス。「鎖の環」は凡作。
前作に比べて本格味は増えたが、やはり「最後の自白」の方が上かな。
6833
富島健夫「容疑者たち」(徳間文庫)★★★
1961年の長編。
さち子は順平と結婚した後も元恋人の沖津と浮気をしていたが、或る日、何者かに殺されて
しまう。容疑者は四人。沖津はさち子に未練が募っており、隣家の学生は慕っていたさち子の
浮気を目撃してヤケになり、順平の元恋人の節子もさち子を恨んでいた。そして夫もまた出世
のために専務の娘との再婚を企んでいた。果たして真犯人は誰なのか?
冒頭で正体を隠した犯人による犯行が描写され、それは誰なのか?という興味で惹きつけます。
そして通夜の席では四人が互いにお前が犯人だと名指し合って、もうシッチャカメッチャカ。
そして結末・・・。なるほど、或る現代きっての人気作家の某作品の先駆、とも言えますが、
これは「本格」かなあ・・・。まあこれ以上は書けないので・・・。
なお「解説」は先に読まないこと。

笹沢左保「夜の声」(徳間文庫)★★
1963年の短編集。
突如記憶を失った女性の原因を探る「死んだ記憶」△。「雨の中の微笑」もヒロインの心理の
豹変ぶりが良く分からん。「男妾」△。「作品・死の跡」もダメ。「若すぎた未亡人」も△。
とにかく前半の作品群は全く取るところなし。
バカバカしいけど密室トリックを扱った「灰色の空間」辺りから持ち直してくる。福岡、高知、
松山・・・、と泊り歩いたアベックの片割れが殺される「身許不明の女」はまあまあ。時代的な
ものもあるけど、現代ならハワイ、グアムといったところかなw
自殺願望の女性を描いた「敗北の運命」、「被害者の顔」も今ひとつ。
「流れる血も美しく」がベスト。作家の「わたし」は、ふと盗み聞きした男女の会話から、二人が
女の夫を殺そうと計画していることを知る。決行の日、「わたし」と警官が犯行現場に踏み込むと・・・。
これは上手い。男女の会話の真相は確かにフェア。2ちゃんの「面白い叙述トリック考えた」スレに
出てきそうなネタw
巻末の表題作も佳作。会社のカネを横領した男が料亭で突然、仲居に襲い掛かり、仲居は男を殺して
しまう。だが男は不能で、女性を襲うはずは無いのに何故?という話。オチが効いている。
後半の3作ほどを除いては読む価値はないです。