ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第七部

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1創る名無しに見る名無し
                ____,,,,,____
             _,.-‐',ニ=-‐-、 `ヽ、
            / (ノ/ ,.==、 ヽ、  `ヽ,
          _,.='"  /  ,_,._ ゙'  }!ir‐- 、ヽ,
       _,.-''" /,,/,,)/ ,,==≡ト  ji} ,.=、ヽ,}i_   もう
   _,.-‐''"   /,,/,,//,,     ゙´_,,    ヾ {( )  読んじゃうわッ・・・
. _,-" _,.-j   /,,/,,//   、_  / `〉 ,,=≡ } `}   ジョジョロワ3rdスレ〜!
ヾ_,.-' _,.-'  /  //   / `゛ー、'"    " / /} 〉
 _,.-''"_,.j  l   ヾ  /      `ゝ   ゙/ /〉/
{___,.-'/ _/ | i   }  {i       /   / /ノ丿
  ///  ハ j  }  ゞ、   /   / 〃 ソ
  {__/  {__/ 〉  丿  〃="   / 〈ソ /
       (\___/ \〃    / /〃/'"{__
       /\____丿__`ー-‐‐'" /〈ソ/ / ゝ-''"">、
   _,.-'"/   /ヽ  `ー--- / ヾ// / /  ̄  ̄\
  /  /   /  `ー----‐/ ({/ / / /       ヽ
  { /    /         { 〈{/ l  l l         }


このスレでは「ジョジョの奇妙な冒険」を主とした荒木飛呂彦漫画のキャラクターを使ったバトロワをしようという企画を進行しています
二次創作、版権キャラの死亡、グロ描写が苦手な方はジョセフのようにお逃げください

この企画は誰でも書き手として参加することができます

詳細はまとめサイトよりどうぞ


まとめサイト
http://www38.atwiki.jp/jojobr3rd/

したらば
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/15087/

前スレ
ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第六部
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1351649347/
2創る名無しに見る名無し:2013/01/02(水) 17:23:35.78 ID:AmWgUrkO
名簿
以下の100人に加え、第一回放送までは1話で死亡する(ズガン枠)キャラクターを無限に登場させることが出来ます
Part1 ファントムブラッド
○ジョナサン・ジョースター/○ウィル・A・ツェペリ/○エリナ・ジョースター/○ジョージ・ジョースター1世/○ダイアー/○ストレイツォ/○ブラフォード/○タルカス

Part2 戦闘潮流
○ジョセフ・ジョースター/○シーザー・アントニオ・ツェペリ/○ルドル・フォン・シュトロハイム/○リサリサ/○サンタナ/○ワムウ/○エシディシ/○カーズ/○ロバート・E・O・スピードワゴン

Part3 スターダストクルセイダース
○モハメド・アヴドゥル/○花京院典明/○イギー/○ラバーソール/○ホル・ホース/○J・ガイル/○スティーリー・ダン/
○ンドゥール/○ペット・ショップ/○ヴァニラ・アイス/○ヌケサク/○ウィルソン・フィリップス/○DIO

Part4 ダイヤモンドは砕けない
○東方仗助/○虹村億泰/○広瀬康一/○岸辺露伴/○小林玉美/○間田敏和/○山岸由花子/○トニオ・トラサルディー/○ヌ・ミキタカゾ・ンシ/○噴上裕也/
○片桐安十郎/○虹村形兆/○音石明/○虫喰い/○宮本輝之輔/○川尻しのぶ/○川尻早人/○吉良吉影

Parte5 黄金の風
○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/○レオーネ・アバッキオ/○グイード・ミスタ/○ナランチャ・ギルガ/○パンナコッタ・フーゴ/
○トリッシュ・ウナ/○J・P・ポルナレフ/○マリオ・ズッケェロ/○サーレー/○プロシュート/○ギアッチョ/○リゾット・ネエロ/
○ティッツァーノ/○スクアーロ/○チョコラータ/○セッコ/○ディアボロ

Part6 ストーンオーシャン
○空条徐倫/○エルメェス・コステロ/○F・F/○ウェザー・リポート/○ナルシソ・アナスイ/○空条承太郎/
○ジョンガリ・A/○サンダー・マックイイーン/○ミラション/○スポーツ・マックス/○リキエル/○エンリコ・プッチ

Part7 STEEL BALL RUN 11/11
○ジャイロ・ツェペリ/○ジョニィ・ジョースター/○マウンテン・ティム/○ディエゴ・ブランドー/○ホット・パンツ/
○ウェカピポ/○ルーシー・スティール/○リンゴォ・ロードアゲイン/○サンドマン/○マジェント・マジェント/○ディ・ス・コ

JOJO's Another Stories ジョジョの奇妙な外伝 6/6
The Book
○蓮見琢馬/○双葉千帆

恥知らずのパープルヘイズ
○シーラE/○カンノーロ・ムーロロ/○マッシモ・ヴォルペ/○ビットリオ・カタルディ

ARAKI's Another Stories 荒木飛呂彦他作品 5/5
魔少年ビーティー
○ビーティー

バオー来訪者
○橋沢育朗/○スミレ/○ドルド

ゴージャス☆アイリン
○アイリン・ラポーナ
3↑ミス修正:2013/01/02(水) 17:32:55.11 ID:AmWgUrkO
名簿
以下の100人に加え、第一回放送までは1話で死亡する(ズガン枠)キャラクターを無限に登場させることが出来ます
※第一回放送を迎えましたので上記のズガン枠キャラクターは今後の登場は不可能です。
4創る名無しに見る名無し:2013/01/02(水) 19:07:23.82 ID:LswRGOG9
5創る名無しに見る名無し:2013/01/03(木) 10:21:08.69 ID:SUV5GNqz
投下、代理投下乙です

あーん、スト様が(ry
静かな闘争心の吉良がらしくていい
時間的な制限もある中どうなるか…

>>418
戸惑うのも無理じゃない
→無理はない ?

>>420
この殺しは彼を恥ずかしめ
辱め
6創る名無しに見る名無し:2013/01/06(日) 17:28:50.64 ID:GZt3xSH5
おそばくいたくないよう(
7創る名無しに見る名無し:2013/01/07(月) 16:38:58.25 ID:Wr+hHsB1
蕎麦なんぞ食っとる場合かァッ!
8創る名無しに見る名無し:2013/01/14(月) 16:47:04.34 ID:ZPW1dBYp
森中に轟く様な放送が終わりを告げ、静寂が訪れる。
誰も何も言わなかった。声をあげることもしなかったし、身じろきすらしなかった。
名簿と放送を前に三人が見せた反応は実に対照的である。



ヴァニラ・アイスは名簿を運んできた鳩を吹き飛ばすような勢いでその紙をひったくり、長い間顔をあげなかった。
ただひたすらにDIO、その三文字で記された名前を見つめ、ヴァニラは拳を固く握った。
同時に彼はその近くにある空条承太郎、ジョセフ・ジョースターの名から目が離せなかった。

握った紙はくしゃくしゃになる勢いで、その体はぶるぶると小刻みに震えていた。
確かにこの目で見たはずだ。首に巻かれた爆弾が爆発し、血を噴きあげながら死んだはずだ……!
だが違ったのだ。空条承太郎は生きている……! 今、こうしている間ものうのうと。ヴァニラ・アイスの知らぬところで、生きている……!

それだけではない。DIOに敵対するジョセフ・ジョースターが、モハメド・アブドゥルが、花京院典明が。
ヒビ一つ入らなかった男の顔がドス黒く歪んでいく。渦巻く感情は激情に近いものだった。この数時間自分はいったい何をしていたんだ、という自戒と自らに対する苛立ち。
あの憎きジョースターたちがこの場にいるというのに自分は何を呑気に過ごしていたのだ。
仕留めなければならない。殺さなければならない。一刻も早く、一秒でも早く。

―――ジョースターたちを殺すのはこの私だ……! ヤツらを殺し、血を、肉を……DIO様に捧げるのは自分の義務であるというのに……!

静寂に満ちた空間をミシリ……という嫌な音が破った。
あまりにも強く握った拳が骨を軋ませ、ヴァニラの怒りに堪え切れなかった筆記用具がへし折れた。
乾いた音に顔をあげる者はいなかった。ヴァニラは怒りに身体を震わせ、憎々しげに名簿を見つめ続ける。
まるでそうしていれば、遠いどこかにいようとも呪い殺すことができるかのように。



シーザーは呆然としたまま名簿を何度も見直した。
一度見た時は自分の頭がおかしくなったのかと思った。二度目見た時は自分がつづりを読み違えているだけではないかと疑った。
だが何度見直してもジョセフ・ジョースターの名前は消えなかった。兄弟弟子で喧嘩別れの挙句、二度と会えないはずだと思っていた男の名前。
シーザーは戸惑っていた。長い沈黙の後で、一体どういうことだ、と思わず独り言をつぶやいてしまうほどに混乱していた。
ヴァニラも形兆も返事を返さず、シーザーも返事を期待していたわけではない。だがそれでも彼は独り、自らに向かってつぶやき続けた。
安堵の気持ちを、その言葉に乗せて。

―――死んでいなかったのか、ジョジョ……!

少しだけ平静を取り戻し、名簿を上から下まで改めて見直す。よく見ればエシディシの名もそこにはあった。
それどころか、その男は既に死んだものとして名前が読み上げられている。
一度死んだはずのあの柱の男が? そもそもあんな化け物を誰がどうやって? 実は死んでいなかったのか? ジョセフもエシディシも?
シーザーの口から漏れる呼吸音はいつの間にか乱れ、不自然に途切れ途切れになっていた。波紋の呼吸を忘れるほどに、シーザーは戸惑っていた。
いくら考えても答えは出ない。沈黙のまま、シーザーはそれでも考えるのを辞めなかった。
何を信じ、何をすればいいのか。シーザーは唇を噛みしめ、思考を続ける。
9創る名無しに見る名無し:2013/01/14(月) 16:50:37.92 ID:ZPW1dBYp
そして形兆は……一度だけ深い溜息を吐くとそれっきり顔をあげなかった。
ゆっくりと筆記用具を下ろし、両手で顔を覆う。名簿を見直すことも地図を確認し直すようなこともしなかった。
彼の表情はうかがえない。悲しんでいるのか、皮肉気に唇を曲げているのか。それとも……涙しているのか。
虹村億泰。その名前は名簿から見つけ出すよりも先に放送で読み上げられてしまった。
形兆はその名前が呼ばれた時一寸だけ、メモを取る手をピクリと固めた。だが結局彼は最期まで几帳面に全ての死者の名をかき取った。
淡々と。まるで機械のように几帳面な字で一字一句、書きとった。

形兆はヴァニラ・アイスが怒りに震えても、シーザーが問いか/ける様に呟いても動かなかった。
億泰が死んだことに対して形兆は二つの感情を抱いていた。やっぱりなという諦めの様な気持と純粋な悲しみ。
家族を失った喪失感が影のように形兆を包んでいる。顔を覆う両手を下ろすと、男は深々と息を吐いた。彼の顔には疲労の色が濃く浮かんでいた。
疲れて表情を作ることすら面倒だと言わんばかりの、深く深く青い顔。形兆は眉間に手を当てると考えに沈んだ。

父親を殺すために生きてきた。父親を治すため生きようとした。でもそれは形兆自身のためだけだったのだろうか。
いいや、違う。苦々しげに表情を歪め、形兆が脳裏に浮かべたのはできの悪い弟の顔。
兄らしいことはなにもできなかった。否、なにもしてやれなかった……『しなかった』。
億泰と前に会話をしたのはいつになるのだろうか。一緒に食卓を囲んだのはいつだった。
母が死んで、父があんなものになってから……兄弟そろって笑ったことなんてあっただろうか。

『こいつを殺したとき、やっと俺の人生が始まるんだッ!』
そう声高に叫んだのは自分だ。弟は何も言わなかった。自分の目的のため、何もかもをほっぽり出して形兆は矢の分析と調査に夢中になった。
そんな時も億泰は何も言わなかった。何も言わず、ただ自分をじっと見つめていただけだ。

『家族』を失ったんだ。形兆はゆっくりとその事実を理解し、途端に乾いた笑いが口から漏れた。
母は死んだ。父は屑でそれにふさわしい化け物に成り下がった。だが弟は違ったはずだ。億泰は違う。億泰は違うはずだったというのに……!
何の罪もないアイツを巻き込んだのは自分だ。
自分がスタンド使いにならなければこんなことにはならなかったはずだ。自分がDIOの連中にこんなちょっかいをかけなければ億泰は死ななかった。自分が親父を殺そうと思わなかったら……!

―――アイツを殺したのは、俺だ。



冷たい風が三人の間を切り裂いた。身体を震わせるような冷たい風だ。誰も動かなかった。

控え目に舞った木の葉が恐る恐ると言った様子で一枚だけ落ちてくる。
ヴァニラ・アイスはそれが落ちるのを待ちかまえていたかのようにデイパックを取りあげると無言のまま立ち去ろうとした。
一度だけシーザーがその背中に声をかける。おい、待て、どこに行く気なんだ、と。
ヴァニラ・アイスは振り返りもせず、返事もすることもしなかった。ただ背中から滲み出た怒気はそれ以上に彼が言わんとすることを物語っていた。
シーザーは男が立ち去るのをただ見送るしかなかったった。きっと止めるべきだったのだろう。だがはたして今の自分にヤツを止められるのだろうか。

動揺に波紋を乱した自分と、主の忠誠に燃える男。シーザーは拳を固く握った。
ヤツがリサリサを、シュトロハイムを、そしてジョセフを殺す未来だってあり得るというのに。
祖父の仇ディオ。ならばそのディオに仕えるあの男も見逃していい道理などあるはずがないというのに……!

シーザーは結局戦わなかった。
唇をきつく噛みしめ、ヴァニラ・アイスの背中が見えなくなるまでその姿を見つめていただけ。
深く多い繁った森がヴァニラ・アイスを包み、やがて彼の姿は消えていく。悔しいが見逃したのは自分ではなくヴァニラのほうだ。見逃したのでなく、『見逃された』のだ……ッ!
シーザーはもう一度拳を固く握った。戦ってもないのに、惨めなまでの敗北感が彼を襲い、シーザーは何も言うことができなかった。


10創る名無しに見る名無し:2013/01/14(月) 16:51:48.10 ID:ZPW1dBYp
「お前はどうするんだ」

シーザーがそう言ったのはだいぶたった後だった。
風がもう一度吹き木の葉を揺らすまでの長い間、二人はそれぞれに黙り込んでいた。
形兆は長いこと俯いたままだった。もしかしたら泣いていたのかもしれない。そうシーザーは思った。

依然無言のまま黙り込む形兆を見て、シーザーはデイパックを取りあげる。いつまでもこうしているわけにはいかなかった。
混乱が収まったわけではない。だが気持ちは既に固まっていた。
ジョセフに会う。リサリサを見つける。シュトロハイムと協力し、柱の男たちを仕留める。
そして……ディオとの決着も、なにより死んだはずの祖父ウィル・A・ツェペリその人にも、必ず会わなければならない。
一体何が起きているのかはわからない。だからこそ、ここで立ち止まっているわけにはいかなかった。
シーザーは前に進む。デイパックを担ぎ直すと、最後にもう一度形兆を見、そして歩き始める。



「わからねェんだ」

不意に形兆がそう言った。放送を越えて初めて形兆が口にした言葉だ。
背中越しに投げかけられたその言葉に振り返り、シーザーは腰に手を当てると男の顔を真正面から見つめた。
形兆の頬は涙でぬれ、目は充血して真っ赤だ。乱暴にごしごしと目元をこすり、地面を見つめる形兆。
神経質そうな面影はもうどこかへいってしまった。悲しみと失意に打ちひしがれた、ただの青年がそこにはいた。
シーザーは覚えている。名簿にはもう一人の『ニジムラ』が載っていたことを。そしてその名前が放送で呼ばれたことも。

「もうなんのために戦えばいいのか、俺にはわからないんだ、シーザー」

なんと弱気な言葉だろう。なんと哀れな姿だろう。
これがあの虹村形兆か。計算高く、度胸に溢れ、掴みどころのない男。そうシーザーに思わせた男なのか。
シーザーは黙って拳を握りしめた。一歩、二歩、大股で形兆に近づくとその胸ぐらをつかみ無理矢理その場で立たせる。
力のない視線がシーザーを見返した。何て目をしているんだとシーザーは思った。死んだ魚だってもう少しましな目をしている。

ああ、そうだろう、悲しかろう。涙したいだろう、励ましてほしいだろう。抱きしめてほしいだろう。
家族を、身内を失えば誰だって悲しいさ。泣きたくもなる。動きたくもなくなる。ずっと蹲ってそんなこと信じたくないんだって叫び出したくなる気持ちだってわかる。

―――わかるとも。俺だってそうだったんだ……ッ!

だがシーザーはそんなことをしなかった。そんなことを考えもしなかった。
代わりにシーザーは腕を思いきり振りかぶり、万力込めて目の前の男を張り飛ばした。
波紋を込めた強烈な、眼がばっちり覚めて一週間は眠れなくなるような、そんな凄まじい一撃だ。
11創る名無しに見る名無し:2013/01/14(月) 16:53:21.16 ID:ZPW1dBYp
「知るかよ」


吹き飛んだ形兆は綺麗な弧を描き、受け身を取る暇もなく大地に叩きつけられる。
吐き捨てるようにシーザーはそう言った。もとよりシーザーには学がない。難しいこともわからない。
女の子を口説くことは大の得意だが、身内を失った男の励まし方なんて考えたこともない。
だから殴った。自分の気持ちを込めた一撃を、言葉だけではなく拳で伝えようとしたのだ。


「戦う理由なんて俺だってわかんねェよ。考えたこともないさ。
 けど……それでも俺のご先祖様は戦ってきたんだ。俺のお師匠さんも、悪友も、むかつくがあの柱の男たちだって……今までずっと戦ってきたんだ。
 贅沢言ってんじゃねェぞ! 生きてんだろ、お前は。脚がある、手がある、ピンピンしてる。
 わからねェならわかるようになればいいッ! わかるまで戦い続ければいいッ! すくなくとも俺はなにもしないで、何もできないで殺されるなんてごめんだぜッ
 爺さんも親父も戦って死んだッ! なら俺だって戦って戦って……何か成し遂げねェーとあまりにカッコ悪すぎるだろうがッ!」


シーザーもかつて『失った』男だった。母を失った。父を失った。家族を失った……!
だがそこで彼は折れなかった! シーザーを立ちあがらせたのは失ったはずの父だ。
彼が失ったと思っていた祖先が、血統こそが彼を奮い立たせたのである。


「俺はもう行くぜ、形兆。ヴァニラ・アイスは放っておけない。アイツは本気で危ないヤツだ。放っておいたら何しでかすかわからない。
 それに危ないのはヤツだけじゃない。ほかにもたくさん、たくさんぶっとばさねーといけねーやつがいるんだ。
 いつまでもここにいるわけにはいかない」


地べたに座り込んだ形兆を尻目にシーザーは立ち止ることなく歩き出した。
太陽は既に昇り始めている。多い繁る木々を掻い潜り、光の筋が辺りに降りそそいでいた。
形兆はまだ俯いたままだ。シーザーの殴った頬を撫ぜると、無言のまま項垂れている。
シーザーは振り向くことなく、顔をあげることなく言葉を口にした。それでも形兆は動かない。

「森の切れ目で五分だけ待つ。その後どこに行くかは考えてないが……もしもお前が一緒に行きたいって言うなら俺は大歓迎だ」


ヴァニラ・アイス。忠誠と狂信で、ただ盲目に先をゆく者。
シーザー・アントニオ・ツェペリ。背負って潰れて、それでも再び歩きだす者。
虹村形兆は? 弟はいない。背負うべき血統も家族もない。支える友人もいなければ、守りたいものももう失った。


二人が去り、一人残された森の中。ようやく顔をあげた形兆を照らす日差しは眩しい。
殴られた箇所がズキズキと痛んだ。口の中を切ったのか血の味がじんわりと広がっていく。唾を吐きだしてみれば、それは真っ赤に染まっていた。
形兆は重々しくため息を吐いた。その目はいくらか『まし』になっていた。すくなくともさっきよりは随分と『まし』な目を、彼はしていた。

デイパックを取りあげ、のろのろと体を引きずるように行進を始める形兆。
その行く先にはなにが待つ? その行く先になにを見る?
12創る名無しに見る名無し:2013/01/14(月) 16:57:46.93 ID:ZPW1dBYp
―――シーザーがその遺体を埋めた少女、シュガー・マウンテンはかつてこう言った。

“『全て』をあえて差し出した者が、最後には真の『全て』を得る”

差し出すものもない青年は何を見る? 主に全てを差し出した狂信者は? 全てを背負った誇り高きものには?




―――答えはまだ出ていない。


【E-1 東部 / 1日目 朝】
【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:怒り、焦り
[装備]:リー・エンフィールド(10/10)、予備弾薬30発
[道具]:基本支給品一式、点滴、ランダム支給品1(確認済み)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様のために行動する。
1.DIO様に敵対するジョースター一行とその一味を始末する。
2.DIO様を捜し、彼の意に従う
3.DIO様の名を名乗る『ディエゴ・ブランドー』は必ず始末する。



【E-1 ドーリア・パンフィーリ公園 泉と大木 / 1日目 朝】
【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッシ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:健康
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック
[道具]:基本支給品一式×2、ジョセフの女装セット
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒。
0.形兆を森の切れ目で五分だけ待つ。来なかったらそれまで。
1.ジョセフ、リサリサ、シュトロハイムを探し柱の男を倒す。

【虹村形兆】
[スタンド]:『バッド・カンパニー』
[時間軸]:レッド・ホット・チリ・ペッパーに引きずり込まれた直後
[状態]:悲しみ、動揺
[装備]:ダイナマイト6本
[道具]:基本支給品一式×2、モデルガン、コーヒーガム
[思考・状況]
基本行動方針:親父を『殺す』か『治す』方法を探し、脱出する?
0.???
1.シーザーについて行く? ヴァニラを追う?
2.情報収集兼協力者探しのため、施設を回っていく?
3.ヴァニラと共に脱出、あるいは主催者を打倒し、親父を『殺して』もらう?

464 :背中合わせの三つの影   ◆c.g94qO9.A:2013/01/11(金) 18:18:15 ID:O1t3If1w
以上です。誤字脱字矛盾点ありましたら指摘ください。
申し訳ないんですが、どなたか代理投下をお願いします。

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代理投下完了。
13創る名無しに見る名無し:2013/01/14(月) 17:58:51.05 ID:AGc2ehvf
投下および代理投下乙
ヴァニラの個人行動は怖すぎる
1stに引き続き弟より長生きする形兆は見ていて悲しい・・・・・・
シーザーが心の支えになってくれるといいが、2人ともロワでは比較的長生きしたキャラなので将来が心配だったりする
14創る名無しに見る名無し:2013/01/14(月) 23:11:11.07 ID:cGbi3kpU
投下と代理投下乙
>>10
最期 ⇒ 最後

一触即発の状況だったんで誰も死ななくて良かった(?)
やはりロワでは再会できない虹村兄弟
恥パでは精神に欠陥があると評されてた形兆がどうでるかが気になる
15創る名無しに見る名無し:2013/01/16(水) 03:19:15.26 ID:/zqkPsY7
それぞれの心理描写が細かくて、実に良かった
悲しみにくれる形兆をブン殴るシーザーがいい
16創る名無しに見る名無し:2013/01/18(金) 03:30:36.75 ID:dZjXtXv+
466 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:09:15 ID:dZiaTow.



―――初めて乗るバイクはとても大きかった。



17創る名無しに見る名無し:2013/01/18(金) 03:31:33.24 ID:dZjXtXv+
467 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:09:35 ID:dZiaTow.




双葉千帆は小説家を夢見るフツーの女の子だ。
親の愛情をたっぷり受け、のびのびと育ち、温かな家庭で生きる女の子。
家に帰っても母親がいないというのは年頃の女の子に少しだけ辛い事実であるが、父は優しく、時に過保護すぎるほどだった。
そんな家で育ったから千帆は夜遊びなんてめったにしなかったし、バイクに乗るなんてことはもってのほかであった。
彼女にとってバイクとは学校にいる悪い先輩のオモチャ道具、あるいは住宅街でやたら騒音をたてる耳障りなものでしかなかった。

「……お前、運転できるか?」

折りたたまれた最後の支給品を開けば、そこから飛び出て来たのは一台のバイク。
なにが入っているか確認していたとはいえ千帆が想像していた以上にそのバイクは大きかった。
目を丸くする千帆にプロシュートが尋ねる。千帆は黙って首を振った。自転車なら載れますけど、彼女はそう申し訳なさそうに返事をした。
プロシュートはそうか、とだけ言うと何でもないといった感じでバイクに近づき、シートやハンドルを優しく撫でた。

えらく手慣れている感じがした。普段からバイクに乗り慣れているのだろうか。
千帆が見守る中、プロシュートはサッと脚をあげ座席に跨り、メーターをチェック。
ガソリンの量を確認し、ハンドルの感触を手に馴染ませる。なんら異常のない、むしろ手入れが行き届いている良いバイクだった。
手首を返すようにグリップを捻り、バイクのスタンドを蹴りあげる。途端に機械の体に命が宿ったようだった。
腹のそこまで響く様な低音が辺りを包む。ドドド……と唸るバイクはまるで大きな獣のようだ。手懐けられた元気いっぱいの鉄の生き物。
そしてそれに跨るシックなスーツをまとったプロシュート。

凄く『絵になる』風景だな。千帆は状況も忘れ、一人そう思った。
まるで古いハリウッド映画の一コマの様な、そんなことを連想させるワンシーンだった。


「なにしてるんだ、おいていくぞ」

千帆の思考を破ったのはそんな言葉だった。目をパチクリとさせながら見れば、プロシュートが座席の後ろ側を指さしている。
千帆は最初プロシュートが何を言っているのかわからなかった。おいてく、って何が?
いまいち状況が飲み込めていない千帆の状況を察し、男が深々と息を吐く。

「お前が持ってた支給品なんだからお前がのらないんでどうするんだ」

だから乗るって……どこに―――?




18創る名無しに見る名無し:2013/01/18(金) 03:32:19.08 ID:dZjXtXv+
468 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:09:56 ID:dZiaTow.




「しっかりつかまっておけよ」

改めてみる男の背中は大きかった。千帆は振り落とされないようにその体にしがみつく。
親でも兄妹でも恋人でもない男の人に抱きつくのは初めてのことで千帆は最初、それを躊躇った。
腕越しに伝わる男の体の温もり、スーツ越しでもハッキリとわかるほど鍛え抜かれた肉体。心臓が早鐘を打つ。
お願いだから振り返らないでほしい。誰にいうわけでもなく千帆はそう願った。今の自分は間違いなく赤い顔をしているだろうから。

一台のバイクが街をゆく。ゆるいカーブに千帆は振り落とされないよう、少しだけ腕に込める力を強くした。

プロシュートが気を使ってくれたのだろうか。あるいは乗車中に襲撃されることを考慮したのかもしれない。
バイクはそれほどスピードを出さないで、滑るように道路を進んでいった。音は微かにしか出ず、振動もほとんど感じられない丁寧な運転だった。
最初は緊張に身を固くしていた千帆も、その内運転を楽しむまでになっていた。
頬を撫でる風が心地よい。風景があっとういまに前から後ろへ流れていく。とても新鮮だった。
バイクに乗るってこんな感じなんだと思った。そんな驚きと興奮が彼女の中で湧き上がっていた。

二人の旅は順調に進んでいく。千帆とプロシュートは一度地図の端まで参加者を探しに南下し、ついで禁止エリアの境目を確認する。
そこにはなにもなく、目印も標識も一切なかった。何も変わりない街並みが、ずっと先まで続いている。
それはとっても非現実的な光景だった。日本のただの住宅街なのに、そこには生活の臭いと言うものを感じさせない、居心地の悪い無機質感が漂っていた。


折り返し、今度は病院を左手に北上していく。東から地図に記されている拠点をしらみつぶしに周っていった。
レストラン・トラサルディー、東方家、虹村家、靴のムカデ家、広瀬家、川尻家、岸辺露伴の家……。

そうして幾つものカーブを曲がり、無数の十字路を通り過ぎ、何度か左に右に曲がったころ……。
順調に進んでいたバイクがスピードを落とし始め、遂には完全に止まる。
それはこの旅で一度もなかったことで、突然の停止に千帆は何事かとプロシュートの背中を見つめた。

ひょっとしたら誰か他の参加者を見つけたのかもしれない。それとも何か人がいたと思える痕跡を見つけたのかも。
何も言わないプロシュートの後ろから首を伸ばして道路の先を見る。すると一人の男が立っているのが視界に写った。
どうやら向こうもこちらに気づいたようで、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

近づいてくるにつれ、その男の容貌がはっきりとしてきた。ヒゲ面で腰のベルトにナイフを刺した風変りな男だ。
抜き身のまま剥き出しの刃物が怪しく光る。見るからに『危ないヤツ』というを雰囲気を醸し出している。
アウトロー丸出しの、西部劇に出ても違和感なく馴染めそうな浮世離れした男だ。
自然と千帆の腕に力がこもる。プロシュートは何も言わなかった。だが千帆の腕を無理にひきはがすようなこともしなかった。
それが彼女を少しだけ冷静にさせた。

バイクにまたがる二人に近づく男。お互いに顔がわかるぐらいまで近づいたころ、ようやくその男が口を開いた。
思ったよりハッキリとした口調でしゃべるなと千帆は思った。もっとぼそぼそとくぐもった声でしゃべるかと思っていた。

「エシディシという男を知らないか。民族衣装の様な恰好をして、がっちりとした体つきの二メートル近い大男だ。
 鼻にピアスを、両耳に大きなイヤリングをしていて頭にはターバンの様なものも巻いていた。
 一度見たら忘れらない様な、強烈なインパクトの男だ」
「……しらねェな、そんなヤツは」
「そうか」
19創る名無しに見る名無し:2013/01/18(金) 03:33:07.26 ID:dZjXtXv+
469 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:10:36 ID:dZiaTow.


沈黙が辺りを漂った。会話はそれでおしまいのようで、ヒゲ面の男は要は済んだという顔で踵を返し、元来た道を戻り始める。
プロシュートはそんな男を何も言わず、ただ見つめていた。とても険しい顔をしていた。
千帆が話しかけられないほどにプロシュートは鋭い目つきで、その男が見えなくなるまでずっとその後ろ姿を睨んでいた。

男が角を曲がり、ようやくその影も見えなくなる。初めてプロシュートが緊張を解いた。
短い間だったはずなのにずしっりとした疲労感を感じさせる、緊迫した時間だった。
千帆も止めていた息を吐くと、張りつめていた神経を解く。実を言うと千帆はあの男が怖かった。
ギラギラとした眼、亡霊のように力なく揺れる身体。気味が悪かった。エシディシと言う男との間によっぽど何かがあったのだろう。
その底知れない執念というのか、怨念と言うのか。きっとそれは千帆が初めて体験した『生の殺意』だったのかもしれない。
混じり気なしの、ただただ“殺したい”という気持ちが凝縮された感情。

思い出すだけでゾッとした。千帆はそっと鳥肌が立った腕を撫でる。改めて自分がとんでもない場所にいるんだ、と実感する。
早人や露伴先生、プロシュートのような人ばかりでない。あんな恐ろしい男が沢山いるかもしれないのだ。


再び動き出したバイクはさっきより遅くなったように思えた。
滑るように進んでいたその機体はノロノロと住宅街を進む。千帆は少し躊躇ったが口を開いた。
ずっと黙ったままのプロシュートに尋ねる。背中越しにその表情はうかがえない。
二人を包む風に負けないよう、大きめの声で言った。

「あれだけでよかったんですか?」
「あれだっけって言うのはどういうことだ」
「だからあれだけですよ。何も聞かなかったじゃないですか。
 向こうはエシディシって人のことを聞いたのに何も聞かなかったし、今思えばあの男の人の名前もわからないじゃないですか。
 さっき言ってましたよね、仲間と情報が欲しいって」
「……そうだな」
「そうだな、って……」
「千帆、アイツの眼見たか?」

プロシュートがスピードを緩めるとT字路を左に折れた。
こうやって会話を交わしながら、運転しながらでも、プロシュートが辺りをしきりに警戒していることがわかる。
見ることは見ましたけど。千帆は自信なさげにそう返す。だけど見たからなんだというんだ。
千帆は軍人でもないし、心理学者でもないのだ。正直言ってあまりいい印象を持たなかった、としか言いようがない。詳しく聞かれたところでなにも言える自信はない。
プロシュートも彼女の言わんとすることがわかったのか、問い詰めるようなことはしなかった。ただ少し間を開けた後、彼はこう言った。

「病院で話したよな。“最終的には『持っている』人間が生き残る。力の優劣とは、また別の次元の問題だ”って。」
「はい」
「直感でいい、お前から見てアイツはどう思った?
 あの男は『持ってる』ヤツか? それとも『持ってない』ヤツか? 千帆の眼にはどう映った?」
「…………」
20創る名無しに見る名無し:2013/01/18(金) 03:33:49.89 ID:dZjXtXv+
470 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:11:00 ID:dZiaTow.


すぐに答えることはできなかった。難しい問いかけだ。
千帆はもう一度さっきの男のことを思い出す。今度は曖昧な記憶を掘り起こすのでなく、しっかりと男の容姿から話し方まで、全部くっきりとイメージする。
話しながらどんなふうに身振りをしていたか。プロシュートを見る時どんな眼をしていたか。千帆を見た時、どういう顔をしていたか。
身長はどれぐらいだ? 癖は何かなかったか? 薄暗い雰囲気をしていた。ならどうしてそう思ったのか。どこがそう思えたのか。
プロシュートは千帆の返事をじっと待っていた。急かすようにするわけでもなく、その間もバイクの運転とあたりの警戒に神経を注いでいる。

やがて長い直線が終わるころになってようやく千帆の中で答えがまとまった。
ハッキリとした声で千帆は言う。まちがってるとか、正解は何だと聞かれてたらこうは答えられなかっただろう。
でもプロシュートが聞いたのはどう映ったか、だ。だから自分の思ったことなら、千帆は自信を持っていうことができる。


「『持ってない』ヤツ、だと思います」
「……なんでそう思った?」
「難しいんですけど、あの人から“死んでも生き残ってやる”って気持ちが伝わってきませんでした。
 変な表現なんですけど……というか矛盾してるし、きっと小説でこんな言葉使っちゃいけないんですけど……私にはそう見えたんです。
 凄い気持ちがこもってる人だとは思ったし、それが伝わってきたのは確かです。怖かったぐらいです。
 でもだからこそ、一度それが壊れたら……脆いんじゃないかなって」
「なるほど」
「エシディシ、って人を探してるみたいで……きっとその人を……殺したがってるみたいなんですけど……。
 なんというか、殺したらそれで満足しちゃいそうな気がしました。生き残れって言われてるはずなんですけど、殺したらそれで満足だ、みたいな……。
 悲壮な覚悟って言えばいいんですか。特攻隊というか、思いつめてるというか……」
「俺もだいたい同じことを考えてた。俺から見ればアイツは『持ってるものを放り捨てれるヤツ』だと思った。
 目的のためなら簡単に飛び移れるやつだ。何かを犠牲にして次のステージに写って、そっからまた次へ……って具合でな。
 こうやって言うのは簡単だが、それをするのはなかなか難しい。それにそれがいつだってそれがいい事かと言えばそうでもない」


持ってるものを放り捨てるヤツ。千帆はその言葉を聞いて顔をしかめた。
あまり好きそうになれないタイプだ。繋がりとか積み重ねというものを大切にする千帆にとってはそういう人はなかなか信用できる人ではない。
勿論何かを成し遂げるには何かを犠牲にしなければいけない。小説を書くときに睡眠時間を削ったり、友達の誘いを断ったり。
でもそういうのも普段の積み重ねのうえでの取捨選択だ。100から0に、イエスかノー。切り捨てや立ち切りというものはそう簡単にできるものではない。
逆説的に言えば、それができるほどあの人は強い人でもあるのかもしれないけど。千帆はそう思った。

プロシュートの話は続いた。

「俺が銃の構えを教えた時、何て言った?」
「えっと……引き金を引くことに意識を集中させるんじゃなくて、引き金を『絞る』」
「それ以外は?」
「6発あるからだなんて考えるんじゃなくて、一発で仕留めろ」

プロシュートが大きく頷いたのが筋肉の振動で伝わってきた。
声のトーンが少し変わった。もしかしたらうっすら笑っているのかもしれない。
21創る名無しに見る名無し:2013/01/18(金) 03:34:31.17 ID:dZjXtXv+
471 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:11:27 ID:dZiaTow.


「そうだ。なら聞くけど一発でも仕留められそうにもない時、お前だったらどうする?
 今しかきっとチャンスはない。ここで撃てば確実仕留められるはずだ……ッ!
 でもどうしてだか、相手に銃弾が当たる気がしない。コイツを討つイメージが頭に浮かばない。
 そう思った時、お前はどうする?」
「…………」
「……俺がお前の立場なら答えは決まってる。『逃げる』、ただそれだけのことだ。
 そしてもう一度待つ。次こそは見逃さない、今度こそ絶対に一発で仕留めてやるってな」
「逃げていいんですか?」
「勿論逃げちゃいけない時もあるし、逃げられない状況もある。けど逃げが間違いだっていうのは『間違い』だ。
 逃げだって選択肢の一つだ。それに時には撃つ時よりも、戦う時よりもよっぽど勇気が必要な『逃げどき』だってある。
 忘れるな、逃げることだって立派な選択肢なんだ。進む方向が違うだけで逃げだって前進してる。
 イノシシみたいになにがなんでも突っ込めばいいってもんじゃねーんだ。まぁ、その選択が一番難しいってのはあるけどな」

難しい話だ。一発で仕留めなければいけない覚悟が必要なのに、二発目以降も準備しておかなければならない。
歌を歌いながら小説を書けと言われてるのも同然だ。そんなことが自分にできるのだろうか。まだ銃の構えだっておぼろげなのに。
千帆の不安が伝わったのか、プロシュートは更にスピードを緩めながら口を開く。
その口調は確かに柔らかなものになっていた。

「俺が言いたいのはな、さっきの言ったことと矛盾してるみたいだが、一発外したら、はい、そこでお終いなんてことはないってことだ。
 そりゃ相手を前に外したら誰だってヤバいって思う。衝撃を受けるのは当然だ。俺だってきっと動揺する。
 けど大切なのはそこで敗北感に打ちひしがれないことだ。まだ相手は生きてるし、自分も生きてる。
 もしかしたら相手が俺を撃ちぬくことのほうが早いかもしれない。けどもしかしたら相手も慌てていて、俺の二発目が間に合うかもしれない。
 俺が逃げ伸びて、次の時にうまく弾丸をぶち込めれるかもしれない。一瞬硬直して、逃げようとしたら背中を撃たれるかもしれない」
「…………」
「つまりだな、千帆、生きることを最優先しろ。生きてればリベンジできる。生きてる限り、銃弾を込めなおすこともできる。
 けど死んだらおしまいだ。死んでもやってやるなんて覚悟は『死んだ後』にでも考えておけ。それか『どうあがいても間にあわない』って時にでもとっておけ。
 死を賭してでもって覚悟はけっこー諸刃のもんなんだ。少なくとも俺はそう思う」
「…………」

千帆は何も言えなかった。ただ何も言わないのは失礼な感じがして、黙って大きく頷いた。
背中越しでも頷いたことがわかるように少しだけ大袈裟に。プロシュートがどう思ったかはわからない。でも千帆はその言葉に素直にうなずけない自分がいることを自覚した。
自覚したから頷くだけで返事をしなかったのだ。バイクは何事もなく進んでいった。辺りには人影一つ見当たらなかった。
22創る名無しに見る名無し:2013/01/18(金) 03:35:45.33 ID:dZjXtXv+
472 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:11:48 ID:dZiaTow.



―――生きること、か。


それは時にものすごく残酷な刃物になる。
悲しみを背負って歩き続けなければいけないことは辛いことだ。それが努力ではどうにでもならないものであればなおさらだ。
だが千帆に逃げる気などさらさらない。死のうだなんて絶対思わないし、さっきプロシュートに言った言葉に偽りはない。

―――『私、小説を書くんです。元の世界に戻って。絶対に』

絶対に……。絶対に……! 彼女は言い聞かせるように心の中でその言葉を繰り返した。
ああ、そうだとも。生き残ってやる。例えそれが呪われた運命だとしても、それを選んだのは千帆だ。千帆自身だ。
千帆は自分が『何かに巻き込まれた』とは思ってない。千帆がここにいるのはそうする必要があったからだ。
千帆がここにいるのは、千帆である必要があったから。千帆にしかできないこと、千帆が成し遂げるべき何かがあるからだ。

プロシュートが一瞬だけ視線をサイドミラーに移した時、後ろの少女と眼があった。
さっきあった男と正反対の意志が彼女の瞳には宿っていた。誇り高き、強いものの眼だ。プロシュートは彼女のそんなところが気に入った。



再び口を開いた時、プロシュートの口調は元の淡々としたものに戻っていた。
バイクのスピードを落とし、次の角も右に曲がる。まるでそこにある『なにか』がわかっていたかのような感じで、彼はバイクの速度を緩める。
二人の視線の先に一人の男が映っていた。さっきのような怪しい気配剥き出しの男ではなかったが、こちらを警戒しているのが一目でわかる。

身長は平均よりやや高いぐらい。腕や肩のあたりががっちりしていて、それに比べると足や腰はほっそりしている。
バイクの音を聞きつけていたのか、びっくりした様子もなく、鋭い目つきでこちらを睨んでいる。
片方の腕を伸ばし、突きつける様に指さしている。見た感じ武器を持っているようには思えなかったが油断はできない。スタンド能力を持っているのか知れない。
プロシュートはそんな彼の手前、三十メートルほどでバイクを止めると振り向くことなく千帆に言った。

「千帆、お前が説得してみろ」
「え?!」
「さっきのヤツは見るからにヤバいヤツだったから俺が対処した。今度のヤツはまだマシに見える。
 いつまでも俺におんぶにだっこってわけにはいかねーだろ。それに俺はお前の眼を信用してる。お前のツキも信用してる」
「そんなこと言われても……」

いいからやってみろって。そう背中を押され、千帆は最後にはやるしかないと覚悟決め、バイクを降りた。
プロシュートが隣に立ってくれていることが彼女を勇気づけた。真正面に立つ青年がそれほど怪しい目つきでないのも彼女を奮い立たせてくれる。
唇を一舐めすると、心臓に手をやりながら口を開いた。なんだか喋ってるのが自分じゃないみたいだ。
千帆は相手に聞こえる様、大きな声ではっきりと話した。

「私は双葉千帆と言います。ある人を探していて、その人のことについて知っているならお話がしたいです。
 私は誰も殺したくありませんし、貴方も誰も殺さないというのなら一緒に力を合わせたいと思います。
 どうでしょうか、私と協力してくれませんか?」

訪れた沈黙が居心地を悪くする。ジャケットに入れた拳銃がひやりとしていて、その感触がなんだか胃をムカムカさせた。
馬鹿正直に話しすぎだろうか。千帆は少しだけ後悔した。でも彼女は自分の勘を信じていた。
眼の前の青年は決して平和ボケしたような甘ちゃんではないが、誠意をもって話せば話は通じる相手だろうと。
ピンと来たのだ。この人は私と同じだと。私と同じように誰か探している様な気がする。それも堪らなく会いたいと思えるような、大切な人を探してる。
23創る名無しに見る名無し:2013/01/18(金) 03:36:35.74 ID:dZjXtXv+
473 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:12:07 ID:dZiaTow.


「彼女の後ろに立ってるアンタ……。アンタはスタンド使いか?」

返事は冷たく、固かった。
視線を千帆からゆっくりと外し、プロシュートを睨みながら青年が口を開いた。
プロシュートは唇を捻っただけで何も言わなかった。肯定も否定もしない。初対面でこの反応はいい印象を与えないだろう。
隣に立つ千帆は少しだけ心配だった。自分に説得するようやらせておいて、それはないんじゃないのと思った。
長い沈黙の後、ジョニィが口を開いた。依然指先はこちらを向いている。その鋭い眼光も一向に衰えていない。

「話をするなら……一人ずつにしたい。僕はあなたたちを悪いヤツではないと思ってる。
 だけど、まだ完全に信頼することはできない。騙し打ちをする気なんじゃないかって、そう疑う気持ちだってある。
 だから話をするならどちらか一人ずつだ。ここじゃないどこかで、一人ずつ話をしたい」

千帆が振り向けばプロシュートは我関せずと言った顔であらぬ方向を向いていた。
話をするかどうかも、全部任されたということだろうか。初めての交渉なのにいきなり投げっぱなしとは信頼されているのか、試されているのか。
少しの間考えてみた。ずっしりとした拳銃の重みが彼女の決断をより一層重大ものにすると訴えている。
そうだ、間違えたら死ぬのだ。眼の前の青年を測り違えたら殺されるのだ。そう簡単にできるものではない。

それでも……再び千帆が動いた時、彼女の中で迷いはなかった。
ジョニィに見える様、彼女は力強く頷いた。その目に一点の躊躇いも持たず、千帆はジョニィ・ジョースターとの対峙を選択した。



24創る名無しに見る名無し:2013/01/18(金) 03:56:26.94 ID:MWlhWlLN
474 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:12:28 ID:dZiaTow.




スクアーロからもらったタバコを病院に置いてきたのは間違いだったかもしれない。
千帆とジョニィ・ジョースターがひっ込んだ民家の前で座り込み、プロシュートは一人思う。
こんなのんびりとした時間がこうもはやく来るとは流石に予想外だ。病院を一歩出ればそこは戦争で、戦い尽くしの未来だと勝手に思っていた。

スーツについたほこりを叩き、さっきまで乗っていたバイクにもう一度またがる。
千帆の予想に反し、プロシュートはそれほどバイクに乗り慣れているわけではない。どちらかと言えば車のほうが普段からよく使うし、車のほうが好きだ。
座席は柔らかいし、オーディオもいい。風にバタバタ煽られることもなければ、不格好なヘルメットをつける必要もない。
ただどうしてか、プロシュートは昔から何事も飲み込みがよく、バイクだってそのうちの一つでしかなかった。
実際さっきの運転中も見た目以上に神経をすり減らしていたのだ。千帆にそれを悟らせなかったところは流石と言うべきか。
わかっていたことではあるが、キツイ道中になりそうだ。プロシュートは身体を馴染ませるようしばらくの間、バイクに跨り考えにふけっていた。

プロシュートの思考を破ったのは道路の先から聞こえてきた足音だった。
住宅に跳ね返り聞こえてきた靴の音。それほど先を急ぐような音ではなかった。一歩一歩、確実に進んでいくような足取り。
バイクにもたれ何が来るだろうと曲がり角を睨んでいれば、一人の男が現れた。
ナルシソ・アナスイだ。そこに現れたのは愛に生きる一人の男。

プロシュートを最初見た時、彼は露骨に警戒心をあらわにした。だが見敵必殺とばかりに襲いかかってこないことがわかると、少しだけ警戒心を緩めた。
そのまま少しずつプロシュートへと近づいてくる。一歩、そしてまた一歩。その歩き方が少し不自然で、プロシュートはアナスイが怪我を負っていることに気がついた。
見れば服装も汚れ、所々血が付いているの見える。プロシュートはアナスイにばれないよう、後ろのベルトに刺した拳銃に手を伸ばす。
グリップの冷たさが彼の思考をクリアにした。怪我を追っているとはいえ油断はできない。なにかあれば容赦なく、撃ち抜く。


「……ここを誰か通っていかなかったか?」

アナスイが言った。

「人を探してるんだ。男と女の二人組。アンタは見てないか?」





25創る名無しに見る名無し:2013/01/18(金) 03:57:21.63 ID:MWlhWlLN
475 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:12:49 ID:dZiaTow.






タロットカード、十三枚目。それは死神。
意味は終末、破滅、決着、死の予兆。しかしひっくり返して逆位置にすれば……その意味は再スタート、新展開、上昇、挫折から立ち直る。
リンゴォ・ロードアゲイン。双葉千帆、プロシュート。ジョニィ・ジョースター。そして、ナルシソ・アナスイ。
死神に取りつかれ、死神に魅了された五人ははたして死神に呑みこまれずにいられるのか?





                                        to be continue......
26創る名無しに見る名無し:2013/01/18(金) 03:58:24.80 ID:MWlhWlLN
476 : ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:13:12 ID:dZiaTow.
【D-7 南西部 民家/1日目 午前】
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:全身ダメージ(中)、全身疲労(中)
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還。
0.目の前の男に対処。
1.暗殺チームを始め、仲間を増やす。
2.この世界について、少しでも情報が欲しい。
3.双葉千帆がついて来るのはかまわないが助ける気はない。

【ナルシソ・アナスイ】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:全身ダメージ(極大)、 体力消耗(中)、精神消耗(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:空条徐倫の意志を継ぎ、空条承太郎を止める。
0.徐倫……
1.情報を集める。
【備考】
※放送で徐倫以降の名と禁止エリアを聞き逃しました。つまり放送の大部分を聞き逃しました。


【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:疲労(小)
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、救急用医療品
[思考・状況]
基本的思考:ノンフィクションではなく、小説を書く。
0.ジョニィ・ジョースターと情報交換。
1.プロシュートと共に行動する。
2.川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える。
3.琢馬兄さんに会いたい。けれど、もしも会えたときどうすればいいのかわからない。
4.露伴の分まで、小説が書きたい。
[備考]
※千帆の最後の支給品は 岸辺露伴のバイク@四部・ハイウェイスター戦 でした。

【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
0.双葉千帆と情報交換。信用はまだできない。
1.ジャイロを探す。
2.第三回放送を目安にマンハッタン・トリニティ教会に出向く
[備考]
※サンドマンをディエゴと同じく『D4C』によって異次元から連れてこられた存在だと考えています。
27創る名無しに見る名無し:2013/01/18(金) 03:58:58.48 ID:MWlhWlLN
【D-7 南西部/1日目 午前】
【リンゴォ・ロードアゲイン】
[時間軸]:JC8巻、ジャイロが小屋に乗り込んできて、お互い『後に引けなくなった』直後
[スタンド]: 『マンダム』(現在使用不可能)
[状態]:右腕筋肉切断、幼少期の病状発症、絶望
[装備]:DIOの投げナイフ1本
[道具]:基本支給品、不明支給品1(確認済)、DIOの投げナイフ×5(内折れているもの二本)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.それでも、決着をつけるために、エシディシ(アバッキオ)と果し合いをする。
[備考]
※名簿を破り捨てました。眼もほとんど通していません。
※幼少期の病状は適当な感じで、以降の書き手さんにお任せします。


477 :死神に愛された少女と死神に魅せられた男たち    ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:15:16 ID:dZiaTow.
以上です。誤字脱字、なんかありましたら指摘ください。
タイトルは前も一回やりましたけど 062話『神に愛された男』からです。
神系列はタイトルで使いやすくて素敵です。
28創る名無しに見る名無し:2013/01/23(水) 23:27:36.39 ID:Dx/mmVhP
兄貴かっこいい!
ギアッチョもいなくなって暗チは残り一人だけど頑張って欲しい
29創る名無しに見る名無し:2013/01/25(金) 00:11:54.65 ID:2qjLyKaG
投下乙です
積極的なマーダーはいないけど複雑な連中だな・・・

>>24にスクアーロからもらったタバコとありますが、ティッツァーノの間違いですよね?
30創る名無しに見る名無し:2013/01/28(月) 20:54:57.37 ID:lOg3uvmx
2ndのあの方まで書き手復帰とな?
やはりジョジョロワは不滅なのか
31創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 03:20:55.86 ID:f96+n08h
479 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:50:38 ID:TFUPmPs. ◆



「なんで助けたんですかッ!? なんでッ!?」

吠える様に、唸るように康一がそう言った。康一に胸ぐらを掴まれたマウンテン・ティムは、何も言えず俯いた。
カウボーイハットを深くかぶりなすと、その表情を暗く影に隠れるようにする。しかし大きく俯いてもその口元までは隠しきれなかった。
怒りに震えるその唇を。真一文字に結ばれたその口元を。
マウンテン・ティムは口を開く。その声は自らに対する怒りで低く、くぐもっていた。

「君が俺を殴りたいというのであれば甘んじてそれを受けよう。君が俺を罵倒して気が済むならばいくらでもそれにつき合おう」
「そんな話がしたいんじゃないッ! 僕が話したいのは……ッ!」
「君を救うためだ。君を助けるためにはどうしたって誰かが足止めしなきゃいけなかった。
 誰かがあの化け物を相手にする必要があった。そしてあの娘はそれを望んだんだ。
 だから俺はそうした。ああ、そうさ、康一君。俺は逃げたんだよ。彼女を見殺しにした。彼女を助けにずに、時間稼ぎの生贄に利用した。
 責任があるというのであれば判断を下した俺だ。俺の……この俺の、ミスだ」
「……ッ!」

矛先のない怒りが康一の中を駆け巡った。
八つ当たり気味に振りあげた拳はマウンテン・ティムの胸の前で止まり……かわりに地面に向かって叩きつけられた。
違う……違うッ! 康一もわかっていた。マウンテン・ティムはあえて悪者になろうとしている。
康一の向けどころのない怒りを受け止め、その感情のはげ口になろうとしてくれている。でも違う。康一もわかっているのだ。マウンテン・ティムは何も悪くない。
むしろ彼のおかげでこうして康一は生きていられるのだ。今身体を駆け巡る怒りがあるのも、電流のように流れる節々の痛みも、全てティムが救ってくれたおかげだ。


「……悪いのは、僕なんだ」

重苦しい沈黙を切り裂くように、康一がそう言った。



―――そうだ、由花子さんを殺したのは……僕だ。
32創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 03:21:26.83 ID:f96+n08h
480 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:51:07 ID:TFUPmPs.
「僕がもっと強かったなら! 僕がもっと冷静だったなら! 僕がもっと辺りを見ていられたら! 警戒を怠っていなければ!
 僕が……僕が……僕がッ! 全部僕がいけなかったんだッ! 由花子さんを殺したのは僕だッ!」
「……康一君」

せきを切ったように康一の口から言葉が溢れだした。途中からその声は涙でぬれ、ほとんど何を言っているかわからないほどになっていた。
康一を励ますようにマウンテン・ティムが肩に手を置く。その手は暖かった。
しかし……康一はそっとその手を引きはがす。その優しさに溺れてはいけない。その甘さに目をそむけてはいけない。現実を見つめるんだ。
山岸由花子を殺したのは……僕だ。由花子が死んだのは、広瀬康一が……弱かったから。


好きになったわけではない。まだ会って数時間、共に過ごした時間は数えるのも馬鹿らしくなるほどの短い間だ。
恋人になりたいとかだとか、共に生きていたいだとか……そんなことを問われれば、わからない、と康一は答えるだろう。
二人が過ごした時間はあまりに短く、入り組んでいた。それでもきっと出会い方が違ったなら……そう思ったのも事実である。

第一印象は最悪だった。なんだこの人は。なんなんだこのヒステリックな女の子は。正直に言えばそう思った。
しかしそれだけじゃないのだ。彼女の言葉を受け止め、彼女の視線を見つめ、一度だけではあるが共に戦い……康一は由花子の中にある強さも見ていた。
そのダイヤモンドのように固く輝く彼女の強さに……見とれていたのも事実である。いや、正確に言えば見惚れていた。

少しずつではあるがハッキリとイメージは浮かんでいた。そうか、未来の僕はこの人と一緒に過ごすのか、と。
一緒に学校に登校したり、休日には買い物に出かけたり、ご飯を食べに行ったり、映画を見に行ったり……。
そう思うと悪くないなという気持ちだった。恋人だとかは置いておいても結構僕たち、いい友達になれるんじゃないかって本気で思ったりした。
33創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 03:22:01.30 ID:f96+n08h
481 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:51:27 ID:TFUPmPs.


「…………守れなかった」


しゃがれた声で康一がそう言った。

だけどそう思った少女はもういない。康一に輝く未来を見せてくれた少女は死んでしまったのだから。
糸が切れた様に全身から力が抜ける。崩れ落ちた身体でその場にうずくまり、康一は地面を見つめた。
とりとめもなく、涙が溢れた。後から後から感情がこみあげてきて、それはどうしようもなく止められなかった。

由花子が笑うことはもう二度とない。嫉妬に怒り狂うこともなければ、不機嫌そうに顔をしかめることも、もう、ない。
彼女と共に歩む未来はその手をすり抜け、二度と掴めない。友達から始めませんか、そう言って差し出した手を由花子が握ることも決してないのだ。

守れなかった、未来の恋人を。友達になって欲しいと差し出した手を握った女の子を……守れなかったのだ、康一は。


康一は大声をあげて泣いた。少女の名を呼び、情けない自分を呪い、地面を叩き、涙した。何度も、何度も叫び、泣いた。
いっそのこと喉が張り裂けてしまえと康一は思った。地面を叩く拳も壊れてしまえばいい。なにもかもが、もう、どうでもいい!
康一は自らを罰するかのように、ずっとそうしていた。
だって由花子さんは痛みすら感じられなくなってしまったじゃないか。だって由花子さんは僕のせいで死んでしまったじゃないか……!

少年の叫びが辺り一面にこだまする。
マウンテン・ティムは何も言わず、ただ康一の傍で立ちつくすことしかできなかった。何もすることができない自分がふがいなかった。
獣のような吠え声が住宅街に響き渡る。康一の叫びはいつまでも、いつまでも途切れることなく、辺りに轟いていた。




【山岸由花子 死亡】





34創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 03:22:51.82 ID:f96+n08h
482 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:51:51 ID:TFUPmPs.



―――物語を少々遡って……

「ちょっと、えと、由花子さん……!?」
「しょうがないじゃない、こうしてないと危ないんだから」
「そんなこと言ってもこんなにくっつかないでもいいじゃないかな……?」

暗闇に包まれた民家の、その中でもさらに暗い場所でのこと。康一と由花子は身を寄せ合って辺りの様子を伺っていた。
先の由花子と康一の戦いで辺りには木片が散り、家具は壊れ、部屋中がひっちゃかめっちゃかな状態になっている。
由花子が伸ばしたラブ・デラックスは依然辺りに広がったままで、その一番濃い部分、中心地に二人は寄りそうにように立っていた。

由花子はそっとスタンドを動かすと伸ばしていた髪を集め、二人を包むように展開していく。
それはまるで巨大な繭のようだった。真っ黒で、禍々しくて、人二人をゆうに包み込める大きな繭。
二人がぴったりと体を寄せ合っているのでそれほど窮屈ではない。怪我をしている康一も由花子が気を使ってラブ・デラックスで支えているので、問題なく立つことができている。

敵のスタンドはなにか光に関連したものだろう、と二人はあたりをつけていた。
ガラスに映ったぼんやりした影。康一を襲った謎の閃光。おおまかであるが何かしら光が関連しているか、あるいは光を利用したスタンド攻撃なのではないだろうか。
康一も由花子もスタンドによる戦いの経験は少ない。戦いながら相手のスタンド能力を推測することにはまだ慣れていないのだ。

とにかく、二人はとりあえずの防御態勢を取ることにした。
由花子のラブ・デラックスで光を遮る。同時にクッションのように二人を包み込むことで突然の襲撃にも対応できるようにする。
康一の傷はそれほど深くはない。依然出血があるものの、それも由花子の応急処置で対処できている。
言い換えれば、相手の攻撃は『それまで』の攻撃なのだ。

謎の襲撃者のスタンドは由花子のラブ・デラックスのように窓をぶち破ったり、人を持ち上げたりすることはできない。
康一のエコーズのように、火を発生させたり、音をぶつけたり、そういう能力もないようだ。
ならば由花子のラブ・デラックス二人をで包めば、光が差し込むこともないし、ある程度の攻撃も防げるだろう。

無論それで全ての攻撃が防げるわけではないだろうし、繭の中であれば安全が保障されているわけでもない。
最大限の防御を引いているだけで、いずれは破られる可能性だってある。ラブ・デラックスを貫く一撃もあるだろうし、二人のスタンド予測が的外れな可能性だってある。
結局のところ、あとは戦いの中で見つけていくしかないのだ。経験が皆無と言っていい、スタンド使い二人の力を合わせて、戦うしか……!


「それで、どうするつもりなの?」

黒繭のなか、由花子が康一にそう尋ねる。今の状況、正直言えば防戦一方だ。
35創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 03:24:08.81 ID:f96+n08h
483 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:53:13 ID:TFUPmPs.
「一応助けは呼んでおいたよ、僕の『スタンド』でね」
「……そんなので大丈夫なの? 助けにやってきたところを逆に返り討ち、なんてなったら目も当てられないわよ」
「大丈夫だよ、僕は仗助くんたちを信じてる。すっごく便りになる人達なんだ。由花子さんもきっとすぐ友達になれるよ」
「……まぁ、いいわ。それでその助けが来るまで呑気にここで待ってればいいのかしら?」
「由花子さんは何か考えある?」
「……自分で聞いておいて言うのも何だけど、ない、わね。光が攻撃になるって言うならこの防御を解くのを相手がまっている可能性は高いでしょうね。
 外に逃げようものなら光に身をさらすことになるからそれは危険。暗闇で隠れていても相手の能力次第では懐中電灯も必殺の道具になる。
 お手上げ、かしら? 動いた途端やられるとわかっている以上、下手に動かずこうしているのが最善策……。
 じれったいわね。まるで壁越しに拳銃を突きつけられたみたい」
「我慢比べってことかな? 一応僕のスタンドで少しずつあたりを伺ってみるよ」
「あまり無理しちゃ駄目よ」
「わかってるって」


二人がそうしてからどれくらいの時間が経っただろう。焦れる様な、ひりつくような緊張感の中を二人は長い事ただ待っていた。
由花子が康一の怪我の様子を見直したり、エコーズでほんの一瞬だけ辺りを見回ったり……。
結構な時間がたったが、その間に何か起きるわけでもなく、かえってそれが二人を不安にさせた。

繭の外の様子に変化はなかった。薄暗い部屋、照りつける太陽、静寂に包まれた住宅街。襲撃者の影一つ見当たらなかった。
康一は少し危険を犯してまで先に自分が攻撃を喰らった窓ガラス辺りを調べてみたが、そこにも人影は見当たらなかった。スタンドの気配もなかった。


諦めたのだろうか……? いや、まさか。
敵は二人が戦っている最中も、粘り強く隙を伺っていたようなヤツなのだ。獲物の位置がはっきりとしている今、そんなヤツがこのチャンスを逃すだろうか?
現状由花子と康一は圧倒的不利な状況におかれている。そうまでして追いつめた獲物を、わざわざ諦める様なことをするだろうか?
いいや、しないだろう。必ずや相手は何か仕掛けてくる!
由花子と康一が光に身を晒さざるを得ない状況を作り出す……ラブ・デラックスから二人を引きずりだす攻撃を仕掛けてくる……。
そう、そんな風にならざるを得ない何かを……! 必ずや、何かを仕掛けてくるッ……!


「ねぇ」

唐突に由花子が言った。振り向いた康一の視界に写るのは暗闇のみ。辺りは真っ暗なため由花子がどんな顔をしているかわからない。
だがどことなく不機嫌な声音だった。恐怖と言うよりは、不愉快だと言わんばかりの声だ。

「なんだか熱くない?」

確かに少し康一も汗をかいている。だがそれは気にするまでもない、普通のことだと思っていた。
髪の毛の繭に包まれている今、その性質から汗をかくのも不思議ではないと思っていた。髪の毛の保温性は高いし、その中にいる二人が熱く感じるのは当然のことだ。
しかしよく考えてみれば、確かにおかしい。由花子も汗をかいてる。自分も汗をかき『始めている』。

「まさか……」


康一は思わずそう呟いた。即座にスタンドを呼び出すと外の様子を慎重にうかがう。
この現象が意味することは気温が上昇しているという事実。それも汗をかくほどまでに、急激に! 急速にッ!
そしてそれが意味することは即ち……!
36創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 03:24:56.13 ID:f96+n08h
484 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:53:54 ID:TFUPmPs.


「エコーズッ!」

スタンド越しに見た民家は数分前とはうって変わって明るく、光を放っていた。康一の口から思わず呻き声が漏れる。
火だ……! 敵は火を放っていた! 籠城を決めこんだ由花子と康一に対して相手がとった手は古典的だが効果抜群の策ッ!
火炙り、火攻め、炎の流法! しかもただの火炙りではない。敵には同時に光を使った攻撃手段もあるのだッ!
それが意味するものは即ち、火と光の挟み撃ち! 火から逃れようと動けば光のスタンドが容赦なく二人をねらう。光のスタンドから身を隠し続ければいずれは二人に火の手が伸びる。
攻撃は既に完成していた! 相手は何もしていなかったわけではない。『既に』だッ!

二人の策、そして由花子のラブ・デラックスを前に『襲撃は完了』していたのだッ!


「由花子さん」
「……覚悟を決めろ、って顔してるわね」
「火、凄く広がってた」
「…………なるほどね」
「……」
「なら仕方ないわね」
「え?」

そう言って由花子は康一を強く抱きよせた。突然のことに康一は何が何だかわからないという顔をしている。

「康一君、まさかと思うけど貴方こんな風に考えてないかしら。
 僕が囮になる、だからその間に逃げて、とか。それか僕が敵の注意をひきつける役をするからその間に安全な場所まで走ってだ、とか。
 僕がなんとかしている間に近くにいるはずの仲間を呼んできて、だとか」

図星だった。由花子は康一が考えていたことを、まさに言い当てた。
康一には覚悟も度胸もなかった。由花子と一緒にこの場で焼け死ぬという覚悟と度胸も。共に手を取り逃げだす覚悟と度胸も。
由花子を死なすわけにはいかない。だけどこれと言った策が思いつくわけでもない。そんな康一が思いついたことといえば愚直なまでに身体を張ることだけだった。
英雄(ヒーロー)のように、その身一つで全てを抱え込むこと。女の子を守ること、庇うこと。


「まぁ貴方が考えそうなことよね。でもね、敵もそんなこと承知で火を放ったんじゃないかしら。
 火を放つまでかかった時間から考えても相手はなかなか頭が回るヤツよ。下手に康一君が囮になったとしても最悪二人ともやられる、なんてこともあるわけ」
「じゃあ、どうしろって……?」
「それはね……」


だが由花子は断じてただの女の子ではない!
彼女はスタンド使いだ。そして何より守られるだけの女の子では決してないし、ましてや庇ってもらうべき者でもないッ!
由花子は夢見る少女だ。広瀬康一に恋する少女だったのだ!
37創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 03:25:27.34 ID:f96+n08h
485 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:55:40 ID:TFUPmPs.
二人を包んでいた繭が狭く、そして少しだけ薄くなる。エコーズをひっこめた康一にはなにが起きているかがわからない。
いったいこの繭の外で、由花子が何をしようとしているのか、何をしているのか。
問/いか/ける様に見上げても、由花子は何も答えてくれなかった。途切れた言葉はふわりと宙に浮かび、どこに落ちるわけでもなく宙ぶらりんでぶら下がっている。
由花子は鋭く輝く目で康一を見返し、ほんの一瞬微笑んだだけだった。そして次の瞬間、キッ、と表情を険しいものに変えると彼女は叫んだ。

由花子が康一を抱き寄せたのは“こうする”ためだ。
『ラブ・デラックス』がその黒い体を振るわせる。それはまるで暴れるまえに大きく息を吸い込む、巨獣のようで。


「正面からぶち壊すッ!」


由花子の言葉と共にラブ・デラックスがその力を解き放った! 二人を中心として四方八方伸びていく髪の毛。とてもじゃないがそれは髪の毛には見えなかった。
それを髪の毛と呼ぶには、あまりに太く逞しすぎた。電信柱をゆうに越す長さと大きさで、ラブ・デラックスが辺りにあるもの全て、なぎ払っていく。
それはまるで黒い濁流! 何百、何千もの髪の毛を一つにまとめ上げ、力任せに振り回す! その力は民家の柱を叩きおり、窓を粉砕し、壁をも突き破る!

ガードに回していた髪の毛をも動員したこの圧倒的破壊力ッ!
未だ内側にいるためその全貌を見ることは叶わないが、突然聞こえてきた轟音に康一は眼を白黒させて驚いたッ!


「焼け死ぬ? 酸欠で死ぬ? そんなのはまっぴらごめんねッ
 そんな風にここで小さくはいつくばっているぐらいなら、いっそのこと全部ぶっ壊してやるわッ」

半壊していた家は由花子が言葉を吐くごとに、更にその安定感を失っていく!
傾いた屋根が更に大きく傾く! 家を支えていた大きな柱が、由花子の暴力的な衝動を前に堪え切れず折れ始めるッ!


「火がなんだっていうの? 炎? 火災? ならその火ごとこの家と共に押しつぶすッ!
 敵が近くにいるかもしれない? 好都合よ。なら私たちと一緒にまとめて民家の影に叩き落とすッ!」


折れまがった水道管から勢いよく水が噴き上がる! 降りそそぐ天井が、瓦礫の破片が火を押しつぶし消していくッ!
由花子の狙いはこれだ! 遠い昔、江戸時代に人々が火災の際に柱を倒し、家を壊したのと同じこと!
燃え広がる前に、叩き壊す! シンプルだが効果は抜群だッ! それに彼女のスタンドならば家の内側から壊しても押しつぶされるようなことはない。

なにより今の彼女は恋する乙女なのだから。憧れの彼のまさに眼の前でいるのだから! カッコ悪いところなんて見せていられようかッ!
38創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 03:26:05.54 ID:f96+n08h
486 :マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:57:02 ID:TFUPmPs.
やがて遂には砕け落ちてきた天井をも由花子はスタンドで支えると、ぐっと力を込めて投げ飛ばす。
勢いよく跳んだ残骸が地面ではねあたり、轟音を立てて崩れていく。
砂埃があたりを包み……そして静寂が響いた。聞こえるのは未だ吹きあげ続ける水の音。そして僅かに燻る残り火の音。
再び火が燃え上がるようなことはないだろう。なぜなら辺りにはもはや由花子と康一を残して一切なにも残ってないのだから。

暗闇が二人を包んでいた。薄く残ったラブ・デラックスを透かしてみても辛うじて残った瓦礫が積み重なり、大きな影として日光を遮っている。
呆然としたままの表情で康一が由花子を見つめる。何を見るでもなく立ちつくしていた由花子はその視線に気づくと振り向き、そしてにっこりと笑った。

その時、康一の脳裏に浮かんだのは仗助と噴上の言葉だった。
放送前のちょっとした時間、由花子について話をした時、二人はとっっても微妙な顔をしていたことを康一は思い出した。
曰く、見ればわかる。あんまりアイツのことは話たくねェ―な。とにかくパワフルなヤツだ。プッツンしてるが悪いヤツじゃない。
その言葉が今になってようやくわかった。

眼の前で微笑む山岸由花子を見て、広瀬康一は一つの真実を悟った。

自分は決して山岸由花子に敵わない。自分は一生この娘に勝つことはできないだろう、と。
山岸由花子。ただの少女でありながら彼女が持つ底なしのエネルギーを前に、康一は何も言うことができなかった。



39創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 06:46:05.53 ID:gybx/7M4
487 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 19:58:22 ID:TFUPmPs.


マウンテン・ティムが駆けつけたのは全てが終わった後だった。
彼は申し訳なそうに康一に謝り、そして無事に再開できたことを素直に喜んだ。

「怪我はともかく……こうして会えて何よりだよ、康一君」
「ええ。それも全部由花子さんのおかげです」
「……私は何もしてないわ」

マウンテン・ティムの言葉に康一は笑顔でそう返し、由花子は複雑そうな顔でボソリと呟いた。

戦いの終わりは意外なまでに呆気なかった。火を止めた由花子と康一が民家の中を調べてみれば、一人の男が見つかったのだ。
崩れ落ちた瓦礫に挟り、脚だけはみ出たその男を引きずりだすと、見るからに凶悪な面をしていた。ゲスじみた内面が顔まで滲み出ている、そんな顔をした男だった。
幸か不幸か、その男は落ちてきた破片に頭を強く打ち、気を失っていた。二人はとりあえず手足を縛り、猿ぐつわをかませ、今は適当に寝かせてある。
眼が覚めたら色々と情報を聞きだすつもりだ。まさかここまで来ておいて放火や光のスタンドと無関係である、なんてことはないだろう。

その後エコーズの声を元にやってきたマウンテン・ティムと合流し、由花子と康一はこうしてほっと一息ついているのである。
康一は由花子につけられた怪我の手当てを、ティムは未だ起きない男に対する警戒を。
そして由花子は……何をするでもなく、どこか浮かない様子で瓦礫に腰かけている。
彼女が戸惑うのも無理ではない。心中湧き上がるのは康一に対するまとまりのない感情、複雑な想い。

由花子にとってティムが来たことは幸運でもあり、不運でもあった。
正直なところ、戦いが終わったところで康一と二人きりにされたならば、どんな顔で、何を話せばいいかわからなかっただろう。
かといって、ティムが来たことによって康一とゆっくり話す機会を失ったのもまた事実なのだ。
じれったい気持ち、ほっとする気持ち、もどかしい気持ち……様々な思いが今、彼女の中に渦巻いている。
時折康一と目があえば、彼は由花子に向かって微笑みを向ける。その度に由花子は顔をしかめ、顔を背けた。

こんなこと今までなかったのに。こんな感じ、どうすればいいのかわからない。瓦礫に腰かける三人の間に沈黙が流れ、それは長い間破られなかった。
由花子は顔をあげ、瓦礫の隙間から差し込む光を仰いだ。細く差し込む太陽の光が、無性に眩しかった。
いつもは気にならないどうでもいいいことが何故だか今は無性に気になった。
康一の笑い声が、マウンテン・ティムと楽しげに笑う少年の横顔が、目に焼き付いて離れなかった。



「さて、そろそろ二人とも落ち着いただろう」

二人がすっかり回復しきったころ、マウンテン・ティムがそう言った。その言葉をきっかけに情報交換が始まる。
ティムと康一がほとんど一緒に過ごしていたこともあって、話はほとんど長引くことなく終わった。
目を引くような内容を強いてあげるならば、由花子が語った花京院典明と言う少年について。それくらいだろうか。
どっちにしろ即座に対処すべき問題はない様に思えた。
崩れた民家の薄明かりの中、由花子と康一、そして時折質問を投げかけるティムの声が交差していく。
当面の方針としては、まずはこの襲撃犯と思わしき男の眼ざめを待つことで三人は同意する。
40創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 06:47:06.45 ID:gybx/7M4
488 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 19:58:57 ID:TFUPmPs.
「……ティムさん」
「コイツ、目、覚ましたみたいよ」
「待て、何か様子がおかしい」

数分も経たず、猿ぐつわをかまされた男が意識を取り戻す。途端にその男J・ガイルは目を大きく見開くと、縛られた身体を捻り、暴れ出した。
尋常じゃない様子だった。その様子はまるで、その姿勢のままでもいいからとにかくこの場を離れようとしているかのようだった。
拘束されたことで悪態をつくでもなく、逆に開き直って襲いかかって来るでもない。
まるで、何かから、逃れようとしているかのようなそんな必死さが見る三人にも伝わってくるほどだった。

ティムがゆっくりと口の拘束を緩める。喋られるようになった途端、J・ガイルは街中響くような声でこうがなりたてた。

「助けてくれッ! 早く助けてッ……くそ、なんだこの……ッ! おい、解けよ、このロープッ!」
「自分の立場をわかってないのか? 二人を襲っておきながらそんな虫のいい話があるわけないだろ、このマヌケ」
「間抜けだろーがなんだろーが、今はどうでもいいッ! いいからほどけよ! やばいんだ……ッ! ここは、ヤバいんだよッ!」
「……ヤバい?」

鬼気迫る様子だった。
そこには襲撃者としての開き直りも、凶悪犯としての余裕も残忍さも見られなかった。
額に浮かんだ汗、狼狽した表情。三人は思わず顔を見合わせる。
マウンテン・ティムはカウボーイハットをゆっくりとかぶりなおすと、もがき続けるJ・ガイルに問いかけた。

「康一君、由花子君を襲ったのはお前だな?」
「俺は乗り気じゃなかったんだ! そりゃ最初は正直殺る気満々だったぜ? でもそこにいるアマがしっかり対処するもんだから、俺は途中で諦めたんだ!」
「ならどうして……?」
「脅されたんだよッ! さっきからいってんだろ? 俺は途中から引く気だったんだ!
 せいぜい火を放つにしても、その後は遠目で隙あればスタンドで攻撃する程度のつもりだったさッ!
 じゃなかったらこんなノコノコ接近する理由なんてねーさ! でも『アイツ』がッ!
 『アイツ』が、お前たちを始末しなければ、この俺も殺すなんて言うもんだから! これは不可抗力だったんだよ! 俺は仕方なしに……!」

「アイツ……?」




そう誰かがともなく呟いた時だった。
直後 ――― 瞬時に、そして同時にいくつものことが起きた。幾つもの影が交差した。
41創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 06:48:10.82 ID:gybx/7M4
489 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 19:59:22 ID:TFUPmPs.
J・ガイルの前に覆いかぶさるよう立っていた康一を由花子が突き飛ばす。
J・ガイルの胸を突き破り、超速で伸び出た一本の刃がそのまま直線状にいた由花子を貫く。声をあげる暇もなく、J・ガイルは絶命する。
死ぬ間際、ほんの僅かに呻いただけだった。呆気ない終わり。最後まで彼の顔から、焦りの色は消えることなく、その凶悪殺人鬼は殺された。

康一の眼の前で由花子がJ・ガイルと連なるような形で刃に串刺しにされる。太く、禍々しい刃は容赦なく彼女の体を貫いていた。



「余計なおしゃべりを……ゴミクズの分際で…………」

積み重なった瓦礫の隙間から、身長二メートルを超す大男が姿を現した。
関節を捻じ曲げ、筋肉伸び縮めさせ、その身体を徐々に三人の前に露わにする。



「こ、コイツは……ッ!」
「逃げて、こう、いちく……ん」
「そ、そんな…………なんで…………ッ!」



柱の男カーズがそこにいた。蹲る瓦礫の中で、最強の生物が躍動する。



42創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 06:49:05.15 ID:gybx/7M4
490 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 19:59:53 ID:TFUPmPs.
叫び声が木霊し、悲鳴が行き交う。押しとどめる者、もがく者。
地面に転がっているのは由花子とJ・ガイル。男はもう末にこと切れている。由花子も同じようなものだった。
心臓からその下、肺、胃、肝臓、腎臓……いくつもの臓器を真っ二つに裂かれ、血がとめどなく流れている。生きているのが不思議なほどだ。
もっとも、そう長くないことは間違いないだろう。カーズは舐めるようにあたりを見渡し、満足げに笑った。


「ふむ、一、二、三……全部で四つの首輪だ。なかなかやるじゃないかァ、J・ガイルゥ……?
 口が軽いのはどうかと思ったが、これは思わぬ収穫だったぞ。まぁ、もう聞こえてはいないだろうがね……フフフ……!」
「由花子さんッ!」
「駄目だ、康一君ッ! 行っちゃ駄目だ……!」

―――もう手遅れだ。

その言葉をつけ足すことは躊躇われた。
マウンテン・ティムは血が滴るほどに強く奥歯を噛みしめる。助けに入ろうと今にも飛びださんばかりの康一の背中を掴み、必死で内なる激情を押し殺す。
何もできない、今この状況に。無力な、守るべき少女が目の前で蹂躙されているのにどうしようもできないという事実。

相手は間違いなく『柱の男』と呼ばれる一族だ。シュトロハイムが言った特徴、サンタナを思わせる圧倒的なプレッシャー。
今ここで飛び出せば、間違いなく殺される。マウンテン・ティムも。広瀬康一も。
ちょうど地面に転がるJ・ガイルのように貫かれるのが関の山だ。
ならばここは飛び出すべきではない。例え由花子が虫の息でなっていようとも、今すぐに助けなければ間にあわないとわかっていても……。
考えるべき事は生きるため、死なないため……何をすればこの場から逃げられだろうか。


―――マウンテン・ティムは間違っていない。だがそれを冷静ととるか、冷徹ととるかは人次第だ。

康一には我慢ならなかった。理性的にだとか、相手の力量を考えてだとか、そんなことは全部吹き飛んでいた。
由花子は自分を庇ったのだ。あの瞬間、何かに感づいた由花子は康一を突き飛ばし、そして彼の代わりに貫かれた。
由花子は康一を救った。由花子は康一を守った。本当なら今地べたで血を吐き、内臓を撒き散らしているのは康一だったはずなのだ。康一だったはずなのだ……ッ!


「由花子さん、今助けるからッ! 今、助けるからッ!」
「……『オー! ロンサム・ミー』」
「なッ!?」


康一の体が滑るようにロープの上で分裂し、由花子の元へかけよろとしていた身体は力なく崩れ落ちる。
マウンテン・ティムのスタンドによって脚はもがれ、もはや動けず。口は上下に分かれ、話すこともできず。
康一のバラバラになった身体はマウンテ・ティムの腕の中で、それでも弱弱しくもがいていた。
ティムがなぜ助けに入らないのかもわからず、それでも山岸由花子を助けるためになんとかしようと、必死に。
43創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 06:51:54.20 ID:gybx/7M4
491 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 20:00:12 ID:TFUPmPs.

カーズは何も言わずその様子を眺めていた。冷たい眼をすぅ……と細めると感心したように言った。

「撤退を選ぶか。なかなか賢いじゃないか。激情にかかれて襲いかかるか、我を失って殴りかかって来ると思っていたぞ」
「……生憎『あんた達』の恐ろしさは身にしみるほど知っているんでね」
「…………ほぉ」

それが意味することは柱の男たちと戦ったことがあるという事実。
そして同時に今こうやってカーズの前で立っているということは柱の男と戦って生き残った、勝利したほどの強者と言うことでもある。

そんな相手をどうしてみすみす見逃せようか。カーズのプライドにかけて、そんなことは許せるはずもない。
カーズは唇を釣り上げると凶暴な笑みを浮かべ腕を振りかざした。背筋が凍るような金属音と共に、鋭く磨かれた刃がむき出しになる。
カーズに二人を見逃す気はさらさらない。慎重に、一切油断することなく……この刃で真っ二つにするつもりだッ!

距離はそう離れていない。三人の間にある間合いは柱の一族の前ではあまりに短すぎる距離。
カーズが全力で飛び出せば、一歩、二歩で縮めれるほどの距離だ。問題はタイミング。
マウンテン・ティムが背を向けて走る瞬間。カーズが脚に込める時。
どちらが動くか、どちらへ動くか。きっかけをつかめずに微動だにしないまま時間が流れる。

マウンテン・ティムは鋭い視線でカーズを睨む。暴れる康一を押さえつけ、ひたすら逃げる隙を伺い続ける。
カーズは瓦礫の隙間より射し込む太陽の位置を確認し、襲いかかる最短経路を探し出す。獲物の様子を伺い、行動を読むために目を凝らす。


焦れるような沈黙が流れ……そしてカーズが一歩踏み出した ――― その時だったッ!



「む!?」
「行って、マウンテン・ティム……。アタシはもう長くない。せいぜい時間稼ぎと言っても、もってほんの少しだけ……」


その瞬間、脱兎のごとく走り出したティム。カーズは動けない。カーズの足を止めたのは虫の息だった由花子だった!

カーズの足首にまとわりつくラブ・デラックス。最後の力を振り絞り、由花子はスタンドを動かしカーズを引きとめたのだ。
一秒でも長くその場に引き留めるために。すこしでも確実にマウンテン・ティムと康一が逃げ伸びることができるように!
消えそうな命のともしびを必死でつなぎとめ、由花子は最後まで抗った!


「おのれ、この小娘がッ!」
44創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 06:52:50.83 ID:gybx/7M4
492 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 20:01:00 ID:TFUPmPs.
ティムが走る。その肩に担がれた康一は声にならない叫びを放つ。
即座に由花子の静止を振り切ったカーズであったが、今から走ったところで間にあわないのは明らかであった。
二人は既に瓦礫の間を抜け、崩れた家から抜け出し、陽のあたる場所まで走り去ってしまっていたのだから。
ティムは走り続けた。カーズの視界から完全に消えるまで、一度として止まることなく、走り続けた。

歯がみする柱の男にできたのは苛立ち気に悪態をつくだけだった。
足元に転がる、瀕死の小娘に足止めされたという事実は彼の神経を逆なでした。
なんたる恥! なんたる醜態! 餌のまたその餌にごときにこのカーズが邪魔をされただと?
この石仮面を作りし最強で最高のカーズが……たかが人間の小娘に、まんまと一杯食わされただとォ……?!

「貴様……ただではおかんぞッ!」


しかし、その言葉を吐いた後、カーズはその言葉がもはや意味をもたないことを理解した。
カーズが見下ろすその先で、由花子はもう既に死んでいた。康一が逃げ延びたのを最後に見届けた彼女は、満足げに頬笑みを浮かべ、こと切れていた。
残されたのは瓦礫の山、二つの死体、一人の柱の男と敗北感。
カーズは顔をしかめると拳をぎゅっと握った。フンと鼻を鳴らし、振り上げかけた拳をほどくと代わりに刃を振るい、二人の首輪を回収する。


カーズはきっと認めないだろう。しかし確かな事実として、マウンテン・ティムと広瀬康一は生き延びた。
山岸由花子は勝利した。たった一人の少女は自分身を犠牲に、二人の命を救ったのだ。柱の男を相手に、勝利した。
後にも先にもそんな偉業を成し遂げたのは彼女ぐらいだろう。

あのカーズを相手に! 一人の女の子が! 真正面から挑み! 二人の命を救ったのだ!


それを成し遂げさせたのは大きな、大きな愛。
それは一人の少女が少年に恋をして、その恋に一生懸命生き、その果てに成し遂げた……大きな愛の物語。
山岸由花子。彼女は愛と共に生き、愛のために死んだ ――― どこにでもいる、ただの少女だった。

彼女は恋する、夢見る少女だったのだ。


強いて言うならば柱の男は山岸由花子にではなく……偉大な偉大な愛(ラブ・デラックス)の前に敗北したのだ。


カーズが刃を振るうその直前、由花子は最後にそっと恋する少年の名を呼んだ。
誰にも届かないその名前を呼び、彼女はそっと目を閉じた。
45創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 06:54:45.10 ID:gybx/7M4
493 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 20:01:20 ID:TFUPmPs.












【J・ガイル 死亡】
【残り 62人】
46創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 06:55:18.01 ID:gybx/7M4
494 名前:マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/01/26(土) 20:01:39 ID:TFUPmPs.
【B-5 南部/一日目 午前】
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:悲しみ、ショック、全身傷だらけ、顔中傷だらけ、血まみれ、貧血気味、体力消耗(大)、ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1.由花子さん…………

【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミ―』
[時間軸]:ブラックモアに『上』に立たれた直後
[状態]:全身ダメージ(中)、体力消耗(大)
[装備]:ポコロコの投げ縄、琢馬の投げナイフ×2本、ローパーのチェーンソー
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
0.康一が落ち着くのを待つ。
1.シュトロハイムたちの元へ戻り、合流する。
2.各施設を回り、協力者を集める。



【B-5 南部 民家/一日目 午前】
【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:健康
[装備]:服一式
[道具]:基本支給品×5、サヴェージガーデン一匹、首輪×4(億泰、SPW、J・ガイル、由花子)
    ランダム支給品3〜7(億泰+由花子+アクセル・RO:1〜2/カーズ:0〜1)
    工具用品一式、コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる。
0.首輪解析に取り掛かるべきか、洞窟探索を続けるか。
1.柱の男と合流。
2.エイジャの赤石の行方について調べる。
47創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 14:56:12.24 ID:cN35OwZP
投下乙!代理投下も乙!
そして由花子超乙!!
48創る名無しに見る名無し:2013/01/29(火) 17:21:36.92 ID:69GKzLnN
投下乙です。

愛に生き、愛に殉じた女の子。
恋する乙女に勝てる生物などいない!
49 ◆yxYaCUyrzc :2013/01/29(火) 22:07:19.63 ID:B7AdWIPh
投下&代理投下乙です。

人間の愛ってすごいんだなぁ、由花子の散り様と、康一の成長に期待が高まりますね

それでは仮投下していた自分の作品の投下を開始します
50最強 その1  ◆yxYaCUyrzc :2013/01/29(火) 22:10:32.65 ID:B7AdWIPh
地上最強の生物と呼ばれる父親がいる。
強靭で無敵で最強だと評価される究極の龍がいる。
あたいは最強だと自負する妖精もいる。
地球人最強と呼ばれる武闘家もいる。
白い死神と呼ばれる最強の狙撃手もいた。


彼らはどうして最強であり続けたのだろうか?


……お待たせ。約束通り話をしよう。


●●●
51最強 その2  ◆yxYaCUyrzc :2013/01/29(火) 22:15:00.19 ID:B7AdWIPh
どこからともなく響いてきた放送は、空中の二人と一匹の耳にも届いてきた。だがしかし。

「……ちっ」

そう小さく舌を鳴らすのはサーレー。
敵対する連中の隙がこの放送で発生すれば、などと考えていたのが甘かった。
たとえ聞き逃そうとも放送の内容なんざ別の相手から聞き出せば良い、あるいは最初から興味がないか。
彼らは一瞬たりともお互いから目を離さないままであった。

とはいえ『戦闘』という言葉で表現する程派手なドンパチは行っていない。
ペット・ショップはサーレーが己の氷塊を固定してきた段階で次弾の発射を止め、警戒態勢を取りながら周囲を飛行するに留めている。
チョコラータは自分のスタンドの特性を殺さぬようにサーレーのやや下に陣取ったまま。
そんな連中に警戒されっぱなしのサーレー当人は――

「おいチョコラータよぉ、まずはあの鳥公から片付けるぜ」
「まずは、か……ククク」
「ニヤニヤすんな、気持ちわりぃ。ホレ俺が固定しといた『鳩三羽』だ。さっさと使いな。さっき聞いたお前の能力にはおあつらえ向きだろ?」
「そう――おあつらえ向きだ。それを理解し、協力させるために私はあえて能力を明かしたのだよ、サーレー君」

そう言ってチョコラータに“弾丸”を提供した。あるいはそれは“爆弾”と言っても良いかもしれない。
名簿を提供しに来た鳩達を、その任務を全うさせる前に空中に固定していたのだ。


そこからはまさに秒殺。
殺しという行為に後ろめたさを感じぬ者たちだからこその鮮やかさであった。

地面に叩きつけられる二人と一羽。
立ち上がったのは――?決着は――?
52最強 その3  ◆yxYaCUyrzc :2013/01/29(火) 22:18:37.12 ID:B7AdWIPh
――作者から――
スタンドバトルでは格闘技や銃撃戦などの常識は全く通用しない。
……というのは決着がすごく一瞬で起こるのだ。
スタンドの値打ち(能力)を知らない敵のスタンド使いはいったい何が起こったのか見当もつかず、すぐ殺されてしまう。
しかしここの世界では殺すことは悪いことではない。
ハメられて殺されてしまったやつが間抜けなのである!
ここで決着の顛末を解説しよう――


チョコラータがグリーン・デイの腕力でもって虚空に向け三羽の鳩を投擲。
ペット・ショップは自分に直接向けられたものではないそれをヤケクソの苦し紛れと判断、見送った。
――が、それこそ二人の思惑である。

固定の能力によって羽ばたくことが出来ない三羽の鳩はそのまま『爆弾』となって黴をまき散らしながら降り注ぐ。
眼下の二人に意識を向けていたペット・ショップは一瞬遅れてこの策に気付いた。
咄嗟に氷ミサイルで撃墜する。が……“カビる前”に氷漬けにしていれば『超低温で生まれる生物がいない』ように彼への攻撃はストップしていたかも知れない。

ペット・ショップは“一手”しくじった。
傷ついた体ですべての黴を避け切ることは彼にとっては不可能な芸当。
結局のところ黴まみれになった鳩のうち一羽の体当たりを受け無様に落下していった。

そして!その落下はそのままサーレーへの攻撃へと変換される!
「言ったよなァ、“まずは”鳥公だ、と。お前自身が」
そんなチョコラータの言葉を背中に聞きながらサーレーはニヤリと口元を歪める。

「そうさ。……“次は”お前だよ、バイキンマン」

言うが早いか、サーレーは思い切り空中に飛び出したッ!そこには固定できる小石も何も無いというのに!
当然、一瞬の浮遊感の後に一気に落下する。もちろん黴に蝕まれながら。しかし!それでも彼は空中に自分を留めようとしなかった。

「ククク……ハハハハハッッ!諦めたかサーレー!この私に敵わぬと知って!」
サーレーが気絶したのだろう。固定の能力が解けチョコラータ自身も落下を始めるがそれを意に介せず声を上げて笑う。

「どれ!見せてみろ!貴様の恐怖に歪んだツラを!この俺にッ!
 もっとも、この声が届いてるとは思えないがなァ〜〜ッ」

絶望した奴が自分より上に位置するというのは彼にとって妙な感覚ではあるが、それでも勝利には変わりない。
53最強 その4  ◆yxYaCUyrzc :2013/01/29(火) 22:23:01.01 ID:B7AdWIPh
――そう思った一瞬の後だった。

「いや、恐怖するのはテメェだけだ。
 カビは皮膚に触れてる部分だけ固定してる。他が動いてるから気付かなかったな。
 そしてこのカビの分、俺には『空気抵抗』が出来た。どっちが先に地面にキスするんだろうなァ!?
 その“足のないスタンド”でどうやって着地する!?」

長々と解説臭い台詞を吐かれたチョコラータの眼が見開かれた。サーレーは気絶など最初からしていなかった。能力の解除は任意だったのだ!
言い終わるが早いか、サーレーは四肢を大きく広げスカイダイビングのような体勢をとる。

こうなってしまえば確かにチョコラータが地面に激突するのは避けられない。
サーレーの言うとおり、半身がないと表現して差し支えないグリーン・デイでは手を使って受け身を取らざるを得ないし、それは事実上の両腕骨折も意味する。

そう、何の装備もなければの話だが。チョコラータは背負ったデイパックから一枚の紙を取り出した。

落下の風圧で開かれたそれに書かれていた文字は『ナチス軍用機に搭載されていたパラシュート(人形付き)』。
下手くそな文字で顔の描かれてあるその人形にしがみつきながら叫ぶ。
「フン――褒めてやるぞ、ここまで私を追い詰めたのは!だがやはり“次は”貴様に変わりない!」

だが、だがしかし。勝ち誇った人間は既に敗北している、という法則があるのもまた事実。
いくら高度の空中で戦ったと言えどそこはせいぜい上空数百メートル。パラシュートの展開から着地までに身体を減速させるにはあまりにも低すぎた。
一方のサーレーもまとわりつく黴を次々と固定し即席の翼を作り上げるが、それでも安定した減速は望めないし、まして肉体を食われながらである。


メ メ タ ァ

  ド グ チ ア ッ


●●●
54最強 その5  ◆yxYaCUyrzc :2013/01/29(火) 22:27:33.04 ID:B7AdWIPh
「よぉ……生きていたか、鳥公よ」

生きていたのがアイツなら尚のこと良かったんだがよ、とは口にしなかった。そんなのはマンモーニが言うセリフである。
しかし心には誓った。『ティッツァを殺した奴をぶっ殺した』と言い切るまでは戦い続けると。
そのために利用できるならやかましい刀だろうと言葉通じぬ隼だろうと利用する。スクアーロの心は完全に固まった。

声をかけられたペットショップの身体から緑色の黴はとうに消え去っている。

黴にまみれながら落下したペットショップは、グリーン・デイの能力の法則性を見出していた。
先の戦闘で受けた傷を止血していた氷。そこにだけ黴が生えないことを発見しすぐさま全身を氷の中に包み込み、黴の繁殖を防いだのだ。
あとは“敗者”を演じながら決着を待っていればいい。案の定というべきか、間もなくして二人とも落っこちてきた。
落下のショックで二人とも死んだのかどうかは定かじゃあないがとにかくスタンド能力は解除された。カビも消えたし空中から石やらピアノやらが降ってくる。

そこで初めて防御態勢を解く。そこにちょうどよくスクアーロが登場したという訳だ。

「おい、犬野郎は逃げたぜ。お前も負傷しているがプライドの傷のが大きいんじゃあねーのか?
 俺はお前に借りを作りたくはねーからな、とりあえず先に追ってやるよ」

未だ動かないペット・ショップに一瞥をくれて歩き出す。ついて来いと言わんばかりに。


――数瞬の後、スクアーロは背中に強い衝撃を受ける。
何が起きたと視線を落とす。そこには胸から顔を出す氷柱が。

このクソ鳥、俺にまで八つ当たりかよ、結局誰でも良いってのかッ!?
……そう言いたくとも肺や器官が潰れ碌に声も出ない。

倒れこみながら振り向く。そこにはアヌビス神をつかみ飛び上がろうとするペット・ショップの姿が。

常人ならばダメージのショックや出血、あるいは絶望感などからここで意識を手放し、そのまま死にゆく運命だったろう。
だがしかし、スクアーロは違った。胸の氷柱を思い切り引っこ抜いた!

大量の血があたりに飛び散る。
その行動が何を意味するかを解らぬペット・ショップではない。その血を浴びる訳にはいかないと飛行の軌道を変える。
しかしそれも傷ついた体ではほとんど敵わず。さらに言うなら地面に撒き散らされた血液も攻撃の範囲。そこから逃れることはもはや不可能だった。

目にもとまらぬ速度で飛びかかるクラッシュ。最初から欲を捨てアヌビス神を無視し飛んでいればあるいは結末が変わったのかもしれない。
だがそれらはすべて結果論。スクアーロの分身は見事にペット・ショップの腹を食い破った。


●●●
55最強 その6  ◆yxYaCUyrzc :2013/01/29(火) 22:33:10.63 ID:B7AdWIPh
「なるほど……この三人と一匹は『共倒れ』か……『全滅』ではなさそうだ」

そう一人呟くのはGDS刑務所から物音を聞きつけ参上したディ・ス・コである。
状況をひと通り認識した彼は、しばし顎に手を当て考え込んだのち、その場に倒れ伏す連中を引っ掴み歩き出す。

ディ・ス・コは命を受けた。
『私にとって不要なジョースターどもやその他参加者を始末してきてくれよ』と。
そして『もう少し首輪のサンプルがあればとも思っている。持ってきてくれないか』とも。

この“瀕死の連中”を連れて行けばDIO様に首輪も生き血も提供することも出来るし、あるいは自分が知らされていないDIO様の友人たちかもしれない。
なんだかんだ言ってもジョースターの連中は自らの手で始末したいかもしれない。
全てはDIO様のために。

一度に全員を運び込むのは無理だが、それでも確実に彼は手足を動かす。

ずるり、ずるり。

数分の後、静かな音を立てて刑務所のドアが閉じられた。


●●●
56最強 その7  ◆yxYaCUyrzc :2013/01/29(火) 22:38:49.07 ID:B7AdWIPh
――え?
『共倒れじゃ誰が最強なんだ』ァ?
『一人無事なディ・ス・コが最強なのか』だと?
『負けぬが勝ちって言ったのはお前だろ』ォ?

……って、おいおい。

『負けぬが勝ち』…………?
それは君らが勝手に聞き間違えて解釈した法則。

直訳は『“曲げぬ”が勝ち』
強い信念を最初から最後まで貫き通せるものが最強と俺は呼んでいる。


――もちろん、さっき話した『勝利の定義』は否定するつもりはないけどね。

となれば、今回の話で誰が“最強”かはどうなるか?考えてみようか。

まずはチョコラータ。彼は『生き残りつつも、精一杯殺し合いを楽しむ』という行動方針だった。
この『ナニナニしつつも』という発想。歪んで曲がってるな。

次、サーレー。『とりあえず生き残る』ってなぁ。まっすぐも何も最初から線を引いてない感じだ。
あるいはその場その場でのみまっすぐな線を引けるだろうけど、それじゃ線は“放射線”になってしまう。

そのあと、先にスクアーロについて。『ティッツァーノと合流、いなければゲームに乗ってもいい』と思っており、結果ティッツァが死に。
そしてその後は『ティッツァを殺した奴をぶっ殺したと言い切るまでは戦い続ける』なんてねぇ。方向転換も良いところだ。
行動の中心にティッツァーノがいるあたり、まぁ信念を貫いてるとも言えなくはないが、俺に言わせれば80点。

で、ペット・ショップ。今回の話で言えば俺の考える『最強』に最も近いのはコイツだな。
『サーチ・アンド・デストロイ』見つけて殺す。空条徐倫への復讐やら何やらもあるが、動物の本能っていうかね。ある意味では真にまっすぐだ。
だが、これで何度目だ?“結果”が付いてこなかった。
それから最後の最後まで八つ当たりしたこと。これはアウトだろ。ゆえに彼は最強になれなかった。

――え?ディ・ス・コ?
だってほら、いくら信念やら何やらを持ってたとしても、DIO“様”に捻じ曲げられちゃったじゃん。最初から議論の外だよ。


……なんだよ?注文が多いな君らは。
だって俺は『最強について』の話をする、とは確かに言ったが。

『この話で生き残ったやつが最強なんだよ』とは一言も言っていないだろう?

さらに言うなら“これが正解”とも言っていないからな。あくまでこの俺が考える最強論だからな、そこは勘違いしないでくれよ。

ま、朝を迎えて行動の方針が大きく変わる奴もいると思う。そんな中で信念を貫き通す『最強』が現れることに期待してるよ、俺はね。
57最強 状態表1  ◆yxYaCUyrzc :2013/01/29(火) 22:44:16.78 ID:B7AdWIPh
【E-2 GDS刑務所 外/一日目 午前】

【サーレー】
[スタンド]:『クラフト・ワーク』
[時間軸]:恥知らずのパープルヘイズ・ビットリオの胸に拳を叩きこんだ瞬間
[状態]:瀕死(落下による全身打撲および骨折、グリーン・デイによる黴の浸食)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず生き残る
0.???
1.ボス(ジョルノ)の事はとりあえず保留

【チョコラータ】
[スタンド]:『グリーン・デイ』
[時間軸]:コミックス60巻 ジョルノの無駄無駄ラッシュの直後
[状態]:瀕死(落下による全身打撲および骨折)
[装備]:ナチス軍用機に搭載されていたパラシュート(人形付き)
[道具]:基本支給品×二人分
[思考・状況]
基本行動方針:生き残りつつも、精一杯殺し合いを楽しむ
0.???
[備考]
間田の支給品は『ナチス軍用機に搭載されていたパラシュート(人形付き)』でした、

[支給品紹介]
ナチス軍用機に搭載されていたパラシュート(人形付き)@2部
JC12巻にて登場。究極生命体となったカーズに立ち向かうためにスピードワゴンやシュトロハイムが乗ってきた軍用機。それに搭載されていたパラシュートである。
墜落する軍用機からパラシュートで空中漂うジョセフのその姿はくもの巣に引っかかった蝶だとカーズに評価された。
……が、それさえもJOJOの策。人形を括り付けたそれを囮にカーズとともに火山に突っ込んだのだ。
ここで気になるのが人形。よくもまあ、あれだけの短期間に似顔絵まで書いた人形を用意できたものだ(胴体は布を丸めれば作れるだろうが足がある)
58最強 状態表2  ◆yxYaCUyrzc :2013/01/29(火) 22:50:21.18 ID:B7AdWIPh
【ペット・ショップ】
[スタンド]:『ホルス神』
[時間軸]:本編で登場する前
[状態]:瀕死(蓄積したダメージ、グリーン・デイによる黴の浸食)
[装備]:アヌビス神
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:サーチ&デストロイ
0.???
1.DIOとその側近以外の参加者を襲う

【スクアーロ】
[スタンド]:『クラッシュ』
[時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前
[状態]:瀕死(ホルス神による胴体貫通の穴、脇腹打撲、前歯数本消失)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:ティッツァーノを殺したやつをぶっ殺した、と言い切れるまで戦う
0:???

【ディ・ス・コ】
[スタンド]:『チョコレート・ディスコ』
[時間軸]:SBR17巻 ジャイロに再起不能にされた直後
[状態]:健康。肉の芽
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、シュガー・マウンテンのランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様のために、不要な参加者とジョースター一族を始末する
1.DIOさま……
2.とりあえず瀕死のこいつらをDIO様に献上
[備考]
※肉の芽を埋め込まれました。制限は次以降の書き手さんにお任せします。ジョースター家についての情報がどの程度渡されたかもお任せします。
59最強  ◆yxYaCUyrzc :2013/01/30(水) 09:57:34.18 ID:zn7U5kOj
投下は終了しましたが最後のご挨拶でさるさん規制w

仮投下からの変更点:誤字脱字・表現の変更、ペットショップがスクアーロを撃った理由=八つ当たりの心境をやや追加。

サンドマンの空耳パロは使ってみたかったんで自分パートで使用してみました。
あとは『作者からパロ』これは2ndでも一度やってますね。お気に入りですw

書いてて問題かなと思ったのは『誰一人として死んでいないこと』です。どこからどう見ても『いやそこは死んどけよ』な感じがねぇ。
後は戦闘での矛盾とか。サーレー正直に落っこちないでも&パラシュートはそんな使い方しねぇよ→落っこちた瞬間の描写はないの?ペットショップ無限コンボはどうした、スクアーロ何しに来たんだ、などなど。
それから文章の表現法や文体。ちょっと原点回帰というか、『小説っぽいSS』でなく『2chのパロディまみれなSS』を意識してみました。
未来の書き手さん、こういう書き方で良いんだよ、ってことでw……え、いつものこと?まぁそう言わず。

そんなこんなで突っ込みどころ満載かとは思いますが多少強引にでも動かさなきゃなぁと私なりに考えた結果です。
誤字脱字、指摘等ありましたらご意見ください。それではまた次回作でお会いしましょう。
60創る名無しに見る名無し:2013/01/31(木) 01:21:30.23 ID:TZ+W1CQk
投下乙
死者が出ないのは意外でしたが、全員瀕死なので次の回はやばそうですね

曲げぬが勝ちは普通に知らなかったですね。
氏の話の作り方は本当に大好きです。
誰になんと言われようと、自分のスタイルを貫く氏にもピッタリの言葉だと思います。
これからもこのスタイルで名作を生み続けていってください。
61創る名無しに見る名無し:2013/02/03(日) 12:15:57.20 ID:sludb+cO
代理投下します
62創る名無しに見る名無し:2013/02/03(日) 12:17:23.34 ID:sludb+cO
510 : ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:50:06 ID:Tb5DzS7w
音石明というチンピラの死から、宮本輝之輔の身にはアクシデント続き、最低最悪のジェットコースター気分。
 今ならどんな神にでも、すがって頼りたい心境。
 いっそ、あのまま本にされ湿っぽくて薄暗い図書館の棚に収まっていたほうが、何倍幸せだったか知れなかった。
 それならば、耳たぶの肉を根こそぎ『指先で削り取られる』などという経験をすることもなかったろうに。

 音も無く滴る血の筋を、輝之助は頬に感じる。
 周囲は薄暗く、闇に慣れない目を限界まで見開いても、まともな景色を認識できない。 
 何処かの地下らしいということだけは分かったが、紙の中で震えていた彼には、現在位置など推測しようにも無理な話だった。
 どこかも分からないような陰気な、土の下の空間に、二メートル近くある大男と二人きり。

 ――頭がくらくらする。

 なぜこうなってしまったのだろう。紙の中にいれば安全だとばかり思っていたのに。
 あの殺人事件の後、わけがわからないまま紙の中に収まっていたら、こんな取り返しの付かない事になってしまった。

 全ては第一回放送後、短い時間に起こったこと。

 出てこないならば破いて捨てると、『エニグマ』の性質も知らないはずなのに、その弱点を押さえられた。
 人間離れした感の鋭さは、スタンド使いになったばかりの少年にはショックが甚大、恐怖のボルテージははちきれそうに高まる。 
 渋々紙から出てきてみれば、襟首を掴み上げられ、主催者との関係を問いただされて、何も知らなくて、震えて上手く喋れなくて。
 口からは、意味のない音を吐き出すしかできなかった。

 その結果がこれだ。
 大男の指先が米神をかすったと思うと、頬を伝い口の中に侵入してくる血。
 耳をやわやわと襲う痛み。
 鉄の味のぬるい液体が、震える舌をさらにこわばらせる。
 死のイメージを呼び覚ます、この生暖かさ。
63創る名無しに見る名無し:2013/02/03(日) 12:19:35.89 ID:sludb+cO
511 : ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:50:23 ID:Tb5DzS7w
「あ、あ……」
「俺が人間に触れるとこのように、な。わかったのなら知っていることを話せ」
 
 人間を超越した種族と名乗った『ワムウ』は、煩わしそうな声で言う。

 恐怖の中でのっそりと起き上がった痛みに、恐れが限界点を超えた輝之助は、デタラメに暴れだした。
 襟首を掴まれた状態でじたばたともがき、哀れ『エニグマの少年』は、苦労の末、懐から拳銃を取り出す事に成功する。
 その浅黒い手のひらに収まったコルト・パイソンが、闇雲に動いて、かろうじてワムウの体を捉えた。
 硬い銃口が男の顎にあてがわれたのを視界の隅で捕らえるが早いか、輝之助の指先は冷たいトリガーを押す。
 破裂音が静かな地下に響いた。空間を伝わり、どこかへと広がっていく。

 反響するその音が闇に吸われて消える頃、輝之助の顔は、拳銃を撃つ前のそれよりもより強い恐怖に引き攣っていた。

「は。な、んであんた、何だそれ、顔撃ったのに、血も流れてない……?」

 軽蔑の色をたたえて、男はふ、と全身をこわばらせた。
 弾丸の型にめり込んだ皮膚から、スイカの種でも吐き出すように、潰れた鉛玉が飛び出てくる。
 乾いた音を立てて転がる、ひしゃげた金属。

「全く呆れ果てる。こんなチャチな武器なぞで、このワムウに傷を負わせることができると? 人間という種族は、幾世紀を経てもこの程度か。
 武器の見てくれと手軽さが変わっただけで、性能はまるで石槍と変わらんな」

 おしまいだ、と固く目を閉じた輝之助の耳に、怪物の独白めいた言葉が落ちてきた。

「ここまで差し迫っても吐かんとは……貴様、真実何も知らんのか」

「い、い、い、いや……たしかに、なんで僕の能力が、支給品に使われてるかのは知らない、けど……けど」

 声は、輝之助自身が思った以上に震えている。
 ここで自分に価値がないと分かれば、まるでろうそくの炎を消すような手軽さで、命を吹き飛ばされるだろう。
 何とか生き残るための言葉、情報、理由を絞り出さなくては。しかし焦るほどに思考が空回る。

「殺す気はない……貴様の能力は使える。それに、依然主催者との関わりが全くないと判明しきったわけでもない。
 貴様があの忌々しい老人への『道』となるかもしれんのだからな」

 見透かしたように怪物はしめくくり、掴んでいた襟首を離す。間抜けな音と一緒に尻餅をついた。
 ようやく布地の圧迫から逃れるが、輝之助の胸中は窒息しそうなほど恐れおののいている。

 それは延命宣告であり処刑宣告だった。
 ひとまず殺されることはない代わりに、この怪物にいいように引きずり回され、用無しとなれば殺されるのだ。
 疑いなく、殺される。それだけの凄み、怪物の『表情』から読み取ることができる。
 今は、情報提供がこの乱暴者の求めることだとわかったのなら、輝之助にそれを拒む理由はない。
 自分がここに来る前、何をしていたのか。誰の命令で、どんな事情で。
 微に入り細を穿って、事細かに並べ立てていく。隠せば命はないと悟り、自分のスタンド能力さえも。
64創る名無しに見る名無し:2013/02/03(日) 12:25:05.35 ID:sludb+cO
512 : ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:50:45 ID:Tb5DzS7w
「……ていう、感じ、でした」

 腕を組みうつむきながら聞いていたワムウは、輝之助の語りが終わったと見るや、すぐに名簿を取り出して言った。

「第一の異常は、死者が生存しているらしいということ……名簿を率直に信じるならば。
 貴様の言う『虹村兄弟』。死んでいるはずの兄が生存者と数えられ、弟が死者として発表されている?
 そして、エシディシ様が、『サンタナ』と人間どもに呼ばれていたあいつが! 死亡者、として数えられているということは、生者としてこの地にあったということ!
 さらに、『シーザー・ツェペリ』! なぜ生きている? このワムウが確かに葬ったはず。これがスタンド能力によるものだというのかッ」

 矢継ぎ早に立ち上がる疑念と、激しい怒りの感情がせめぎ合っている様は嵐のよう。
 輝之助は圧倒され、ぽかんと口を開けたまま、ワムウを凝視するしかできなかった。
 『人間を超越した種族』は、伝書鳩が運んだ名簿を握りしめ、思いの丈を表し続ける。

「そして、最も怪奇極まりないと同時に、俺に対する最大の嘲りである、この名簿の内容……」

 ギリ、と歯の軋む音。

「『ジョセフ・ジョースター』! 生存者として記載されているのはどういうことだ!? 俺はたしかにあの広場で見届けたぞ、奴の鮮血がほとばしるさまを。
 名簿に載っているのは、JOJOの名を騙る者!?」

 その怒り、突風が巻き起こらんばかりの凄まじさ。
 輝之助は逃げ出したい衝動にかられながらも、動けない。男の覇気の激しさに足が震え、立ち上がることもままならない。
 何より、その常軌を逸した『体質』、人間に触れるだけでその肉を吸収してしまうとあれば、すこしでも変な動きをみられただけで、命取りになりかねない。きっとなる。
 名簿が引き裂けるかというほどの力で掴み、わずかに震えながら、ワムウはくぐもった憎悪の言葉を吐いた。

「憎いぞ、このような座興を企んだ存在……スティーブン・スティールッ! 決闘に水を差すだけでは飽きたらず、奴の偽物まで創り出したのかッ!?
 ……いや、JOJOに会うことがない限りどうにもわからん。『蘇り』を可能にする能力があるかも知れぬのだから。
 しかし、第二の異常『動かされた地形』……第三は『年代の著しい隔たり』……第一、第二、第三と、各種の異常に共通点が無い。
 我ら柱の一族にとっても奇想天外な能力の産物か。どうであれ、許さん。よくもこの戦闘の天才たるワムウの、誇りある戦いを、これほどまでに侮辱できたものだな……」

 頭部から垂れ下がった幾本もの紐を振り乱し、ワムウは今や立ち上がって同じ場所を歩き回っていた。
 まるで、得物に狙いを定める獣のように。
 柱の男の独白は続く。

「俺も、シーザーも、JOJOもたった一つの命をかけて戦っていた。エシディシ様や『サンタナ』とて同じ事。
 それを、まるで遊技盤の駒を右から左へ動かすように生き返らせ、あるいは殺し……これは、戦いの中にその身を置く者の『尊厳』に対する侮辱と見なすッ!」

 見えない敵、主催者への宣戦布告。
 戦い? 尊厳? 侮辱? 訳の分からぬ内容ながら、輝之助はその極まった激情に、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 
「JOJOとの誇り高き決闘と、奴の生命を汚した罪、エシディシ様やシーザー、すべての戦士達への侮辱、その死を持って以外には贖えぬと知れ……」

 燃え上がるかと思うほど、その瞳は怒気をはらんで煌めている。
 戦士の固く握りしめた大きな拳が、くぐもった音を立てた。
65創る名無しに見る名無し:2013/02/03(日) 12:26:29.06 ID:sludb+cO
513 : ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:51:01 ID:Tb5DzS7w
その拳が、今にも自分に振るわれるのではないかと身構える輝之助をよそに、ワムウは自分のデイパックを掴みあげた。

「ここに長居するつもりはい。本来なら足を運ぶことも避けたかった場所だ」

「な、なんでだよ。とりあえずは安全だろ」

 どもりながら言う輝之助の言葉が聞こえているのかいないのか、怒れる戦士は、ひとりきりの思惑に沈んだ様子。

「エシディシ様と『サンタナ』が逝ってしまった今……ここへ飛ばされる前と同様、残る柱の一族はカーズ様とこのワムウ、たった二人。
 やはり、我らの悲願、赤石を追い求めるカーズ様に、俺の目的を理解していただくことは……」

 輝之助はふと、その表情に織り込まれた『変化』に気がついた。
 恐怖のサインを探し続け、人を観察する能力を極限まで練り上げたといえる彼にのみ、気づくことができたもの。
 何者にも動ずることが無いように思われたこの怪物の、静かな表情のなかに薄く広がった、ごく僅かな。
 これはなんだろう。悲しみ? 怒り? いや、違う。そんな単純なものじゃない。
 強烈な何か、狂おしい何か。
 輝之助は胸中で相応しい言葉を探しあぐねて惑う。
 その訝しげな視線に気付いたのか、ワムウは一点を見つめていた視線をこちらに向けると、毅然とした表情を取り戻して言った。

「……余計な話だった、忘れろ。ともかく、俺はカーズ様にお会いするわけにはいかん故に、ここには留まらん」

「あ、『カーズ』って、ここ確か地図で『カーズのアジト』とか書いてあった場所……カーズ様、って知り合いなのか? なのに会いたくない?」

 慌てて地図を広げる輝之助の言葉には答えず、大男は鼻を鳴らす。
 
「宮本とやら、貴様は少ない脳みそを使ってあれこれ思い悩む必要はない。
 どうせ太陽の出ているうちは自由に動けぬ身、ならば地下でつながっている『ドレス研究所』まで足を運んでみても損はないだろう」

 さり気なく罵倒されていることを感じつつ、荷物をまとめにかかる。

 怪物にわりと会話が通じるとわかり、震えが幾らか和らいだ。
 紙の中で怯えていて聞き逃した第一回放送も、大体の必要な部分を教えてもらえた。
 おそらく足手まといにしないためで、それ以上でもそれ以下でもないのだろうけど。
 今のところ、能力にも価値があると思ってもらえているらしい。すぐに殺されることも無さそうだ。
 ようやく生きた心地が戻ってきた。
 耳の傷は痛むが、袖の一部を破って手で抑えている。じきに出血も止まるだろう。

 輝之助は考える。
 さっきのワムウの表情、まるで人間のような感情のゆらぎについて。
 この怪物にも感情があるのならば、『恐怖のサイン』も存在する?
 人間を紙にするための条件を話した時も、自分には関係ないとでも思っているかのように、無関心だった。
 だが、感情がある以上、『恐怖』も当然存在するのではないか。

 一抹の望み。
 こいつを紙にさえしてしまえば、煮るのも焼くのも思いのまま、この絶望的な状況から一発逆転も夢ではない。

 だが、なんなのだろう。
 輝之助は胸に違和感を覚え、ワムウの表情を盗み見ながら、そっと手のひらを握り絞める。
 この、自分には窺い知れない深い深い感情の、底知れないゆらぎの名は?
 無表情だと思っていたこの人物は――人ではないが――よくよく見れば、表情豊かだ。
 耳たぶを吸収された痛みも忘れるほどの集中力で、輝之助は怪物を凝視する。
66創る名無しに見る名無し:2013/02/03(日) 12:28:05.40 ID:sludb+cO
514 : ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:51:15 ID:Tb5DzS7w
この世にたった二人しかいなくなったという柱の男は、今は顎に手を当てて思案顔だ。
 やはりこいつ、ずっと無表情に見えてそうでもない。

「貴様を紙に閉じ込めて持ち運んだほうが、俺にとって面倒がないか? どう思う、人間。宮本輝之助よ」
「か、勘弁……話したけど、燃えたり破れたりしたら、中身も駄目になるって言ったろ。
 あんた、戦闘になっても僕を気にして戦ってくれるつもりなんかないだろうし……」
「FUM、俺が戦闘に臨んだ時に、紙ごとどこかへふっ飛ばされてもかなわんな。同じ理由から、荷物を収納することも避けたほうが良かろう。
 ならばせいぜいついてこい。逃げられぬのはわかっているな? 妙な気配を悟った瞬間、貴様の体は消し飛ぶぞ」

 今度はニヤリと笑う、目の前の怪物。恐怖がまた胸に迫り、輝之助はひゅっと悲鳴に近い呼気を漏らす。

 ――僕は、死にたくないんだ! 

 彼は決心したように唇を噛み、思う。

 ――こいつの恐怖のサイン、それを見つけ出す!

 見つけられるだろうか? こんな異形の生物が『恐怖』する瞬間を。 
 自分をバカにして道具扱いした報いを、きっと受けさせてみせる。

 でも、あの一瞬だけ見えた、悲しそうな、苦しそうな表情が、なぜか心に焼き付いてはなれない。
 血がダラダラ流れるほどの怪我を負わされたばかりだというのに、一体何だというのだろう。
 大股に歩き出したワムウの後をつんのめり気味に追いながら、輝之助は心の内を持て余している。
 傲慢な化け物の鼻を明かしてやりたいと思う一方で、人間ではないと豪語する生物の計り知れない感情が、心の中をチラついて消えない。

 ――人の肉をえぐっておいて何も思わないような奴が、悲しむ? 苦しむ? そもそもこいつは、人間じゃあ無いんだ。
     
 ただそれだけのこと。
 言い聞かせ、振り切るようにぶんぶんと頭を振って思考を保つ。

 地下は静まり返り、二人の歩くヒタヒタという音だけが不気味に響いていた。
 輝之助が付いて来ていることを肩越しに確認し、警戒するように周囲を見渡したワムウは、なぜか同行者のさらに後ろ、影になっている一点を強く睨む。
 釣られた輝之助が不思議そうに振り返ったが、そこには何もなく、薄暗い空間しか見えない。
 
 「……今は良い。遅れるな、人間」
 「あ、歩くの速……」 

 二人は湿った地下道へと進む。
 少年と怪物が闇に吸い込まれると、少し遅れて、一枚のトランプカードがひらりと舞い落ち、その後を追った。

 これは、長く続く闘いの、ほんの幕の内の物語。
67創る名無しに見る名無し:2013/02/03(日) 12:48:02.94 ID:czgIhmRR
515 名前: ◆33DEIZ1cds[sage] 投稿日:2013/02/01(金) 00:54:47 ID:Tb5DzS7w
【宮本輝之輔】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前
[状態]:恐怖、片方の耳たぶ欠損(どちらの耳かは後の書き手さんにお任せします)
[装備]:コルト・パイソン
[道具]:重ちーのウイスキー
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない
0.ドレス研究所へ
1.ワムウに従うふりをしつつ、紙にするために恐怖のサインを探る。
2.ワムウの表情が心に引っかかっている

※スタンド能力と、バトルロワイヤルに来るまでに何をやっていたかを、ワムウに洗いざらい話しました。
※放送の内容は、紙の中では聞いていませんでしたが、ワムウから教えてもらいました。

【ワムウ】
[能力]:『風の流法』
[時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前
[状態]:疲労(小)、身体ダメージ(小)、身体あちこちに小さな波紋の傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:JOJOやすべての戦士達の誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)を殺す。
0.ドレス研究所へ
1.強者との戦い、与する相手を探し地下道を探索。
2.カーズ様には会いたくない。
3.カーズ様に仇なす相手には容赦しない。
4.12時間後、『DIOの館』でJ・ガイルと合流。

※『エニグマ』の能力と、輝之助が参戦するまでの、彼の持っている情報を全て得ました。
 脅しによって吐かせたので嘘はなく、主催者との直接の関わりはないと考えています。

※輝之助についていた『オール・アロング・ウォッチタワー』の追跡に気付きました。今のところ放置。

>>507氏にご指摘いただき、たしかにワムウが突然死者の「蘇生」と言い出すのは不自然かと思い、表現を変えたところが主な修正点です。

その他時間軸の矛盾などがあればよろしくお願い致します。
無さそうであればお手数ですが、代理投下をお願い致します。
68創る名無しに見る名無し:2013/02/03(日) 12:51:19.25 ID:czgIhmRR
最終レスだけ代理投下させていただきました。
作者さま、先に代理投下されていた方、乙です。

ワムウの誇りはやっぱりカッコイイなぁ。
人間らしく恐怖する宮本はこれからワムウをどう評することになるんだろう
ただただ敵として警戒するだけなのか、それとも何かその誇りに影響を受けるんだろうか。
69創る名無しに見る名無し:2013/02/10(日) 21:02:58.14 ID:MM7A/WUq
保守
70創る名無しに見る名無し:2013/02/13(水) 23:58:52.57 ID:deVkP9/w
516 : ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:22:44 ID:fHviQRHE
遅れました。すみません。投下します。

517 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:24:01 ID:fHviQRHE

開け放した窓から雨の臭いがした。風は吹いていない。雨の臭いだけが部屋の中にそっと忍び込んでいた。
雨が降っている。目を凝らさないとよく見えないぐらいのきめ細かい雨。
ジョルノは窓越しにそれをじっと見つめていたが、ふと思い出したように手もとの時計へ目を落とす。
濡れる街、薄暗い空。時計の針は短針が九を、長針が六を指していた。気が滅入りそうになる午前九時半だ。BGM代わりの雨音が店内に響いている。
ここはダービーズ・カフェ、ジョルノがミスタと合流を約束した場所。窓際の席に腰かけたジョルノは何も言わず、雨打つ街を眺めていた。

聞こえるのはしとしとと降りそそぐ雨の音、少し低めの天井にとりつけられたファンが回る音。そして朝食にがっつく男たちの声。
ジョルノの真正面に腰かけたミスタが派手に食器を打ち鳴らし朝食を堪能する。
隣に座ったミキタカも一度として手を止めることなく、皿に盛られた料理に食らいついていた。よっぽど腹が減っていたのだろう。


「それでよォ、ミキタカのやつ、いきなり俺を担いで走り出すもんだから……」
「ミスタさんはそんなこと言いますけど、ほんと危なかったんですよ! 私、冗談じゃなくて死ぬかと思いました」


口の中をからにした途端、ミスタがフォークを振り上げ大袈裟にそう言った。
頬についたパンの欠片に気づくことなく、彼は如何に自分たちが大変な目に会ったかをジョルノに語って見せた。
その話の内どこまでが本当で、どこからが誇張されたものなのだろうか。
時折入るミキタカの的確な突っ込みに、ジョルノの頬もついつい緩む。そうやって会話を交わす二人の姿が面白くて、ジョルノは少しだけ頬笑んだ。
いつも通りの朝だ……そう勘違いしてしまいそうになるほど辺りは平和に包まれ、何事もなく進んでいるように見えた。


「それでまた最後になァ……って、オイ、ジョルノ! 聞いてるのかよ!」
「ジョルノさん?」
「すみません、少しぼうっとしてました。あまりに平和すぎて、つい……」


霧雨の向こうに向けられた視線。影は見えなかった。
そして店内を見直せばどうしたって空いている椅子のことが気になる。ミスタ、ミキタカ、ジョルノ……そして誰も座っていない四つ目の空席。
ジョルノはウェザー・リポートの事を考えた。
少しだけ辺りの様子を見回って来る、そう言い残したウェザー・リポートは、まだ帰って来ていない。


『何かあったら雨が教えてくれる……心配するな、俺は弱くない。それに“何もわからぬまま”死ぬ気もない』


カフェを出る直前にそうウェザーは言っていた。ミスタ達と入れちがいになるような形で、ウェザーは霧けぶる街に姿を消したのだ。
控え目ではあるが確かな自信と確固たる意志がウェザーの口調には込められていた。
きっとジョルノの考えすぎなのだろう。すぐにでもウェザーは帰って来る……。

ミスタとミキタカの笑い声がどこか遠くで聞こえた様な気がした。話に集中できない。薄い雨音がジョルノの頭にゆっくりとしのびこむ。
ウェザーは強い。間違いなく強い。だがそれでもジョルノは彼が無事帰って来てくれるかは、確信が持てなかった。
復讐心と失った過去。蓮見琢馬とエリザベス。ウェザーの憂いを含んだ横顔がちらつく。
見回りというものは何かの口実でしかないのかもしれない。ひょっとしたらウェザーに帰って来る気はないのかもしれない。

ジョルノにウェザーを止める権利はなかった。背負うべき過去を失ったわけでもない、ジョルノには。
71創る名無しに見る名無し:2013/02/13(水) 23:59:33.17 ID:deVkP9/w
518 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:24:30 ID:fHviQRHE


―――カラァァン……


その時、唐突にベルの音が響いた。店内が一瞬凍りつく。ミスタも、ミキタカも、ジョルノも。三人はそろってはたと動きを止めた。
扉のほうを向けば全身を雨で濡らし、立ちすくむ男の影が見えた。ウェザー・リポートだ。ウェザーは約束通り、帰ってきた。
だがミスタとミキタカはウェザーのことを知らない。ウェザーもミスタとミキタカの顔を見ていない。
戸惑い気味の三人に慌ててジョルノは互いのことを紹介した。ウェザーに空いている席を勧め、簡単な自己紹介をすませる。

ミスタがウェザーの手を握る。ミキタカは馬鹿丁寧なお辞儀を繰り返していた。
ジョルノはそっと横目でウェザーの様子を伺った。これといって変わりは見えなかった。ウェザーは二人と何事もないように、淡々と会話を交わしている。硬さも見られない。
案外人見知りしない人なのかもしれない。ジョルノは椅子に深く座りなおすと、気のせいだったか、と誰に聞かれるわけでもなく、呟いた。


「グイード・ミスタだ。ミスタでいいぜ。よろしくな」
「ウェザー・リポートだ。ジョルノに話は聞いている。ミスタと……、それとアンタは?」
「よくぞ聞いてくれました。私、実は宇宙人なんです……―――」


―――雨が少し強くなったような気がする。

雨音にまぎれながら飛び込んでくる三人の会話を聞き、ジョルノは顔をしかめた。
さっきから何かおかしい気がする。理由のわからない違和感だ。もどかしさと不安。顎をゆっくりと撫で、考える。
だが見つからない。“何か”がおかしいはずなのに、その“何か”が見つからなかった。気を紛らわすように会話に集中しようとするがそれすらもうまくいかない。

ジョルノは舌打ちしたくなる気持ちをぐっとこらえた。何なのだろうか、この違和感は。
違和感の始まりはミスタとミキタカにウェザーのことを言ったころからだったような気がする……。
詳しい説明は省いたものの、もう一人仲間がいると真っ先にジョルノは言った……。信頼できる仲間、ウェザー・リポート。
琢馬とエリザベスは引きとめられなかったがウェ―ザは残ってくれた……。
詳しい事はわからないが、直感的に頼りになる仲間だとわかった……。そうジョルノはウェザーのことを説明した。
ミスタとミキタカを何も言わず、そんなものかと受け入れてくれた。事実今だってこうやって四人で今後のことを話している……―――。



「……待って下さい」


三人の会話に割って入るよう、唐突にジョルノは言葉を口にした。訝しげな表情で三人がジョルノを見る。ジョルノ自身も口にした自分に驚いていた。
“それ”は“おかしなこと”だった。“ありえない”ことだった。
三人の雰囲気がどうだとか、せっかくのうちとける機会だとか……それを越えてでも聞かずにはいられなかった。

ジョルノは立ち上がると、きっかり三歩だけ、距離を取った。そして隣にゴールド・エクスペリエンスを呼び出す。
この間合いならばジョルノのほうが早い。仮にウェザーがスタンドを出したとしても、それはスタンドを叩きこむ十分な隙になるだろう。
唇を一舐めすると、ジョルノはミスタを見つめ口を開いた。困惑した表情のミスタ、不思議そうに首を傾けるミキタカ。そしていつも通り無口で無表情な、ウェザー・リポート。
72創る名無しに見る名無し:2013/02/14(木) 00:00:20.89 ID:deVkP9/w
519 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:25:05 ID:fHviQRHE

「ミスタ……僕の思い違いならばそれで構いません。考えすぎだとしたらそれはそれで笑い話になるでしょうし、むしろ僕はそれを期待しています」
「おいおい、どうしたんだよ、ジョルノ? 何か俺、失礼なことでもしたか? それとも何かヤバい事?」
「ウェザーは“四人目”の男なんですよ、ミスタ。なんで貴方はそんなに彼に打ち解けられるのですか?」


自分で言いながらも馬鹿らしいと思った。きっと言い終ると同時にミスタは笑いだすだろう。ウェザーとミキタカは何を言っているんだと混乱するだろう。
そうであってくれ、むしろジョルノはそう願った。自分のこの些細な違和感がくだらないジョークとして終わって欲しいと心から思った。
もしかしたらミスタはわかっていて敢えてそれに触れなかったのかもしれない。自分のジンクスを押し殺してでもウェザーを歓迎してくれているのかもしれない。

だが聞かずにはいられなかった。店の外の天気のように、薄く霧がかった不安がジョルノをまとわりついていた。
何か不気味な違和感が……、湿りついた異常なぎこちなさが……。ジョルノの心に張り付き、離れなかった。



 そして…………―――    ―――……瞬間



ミスタの顔から表情が滑り落ちる様に消えた。一瞬何もかもが停止する。沈黙が針のようにジョルノを突き刺した。
背中の産毛が一斉に逆立つ感覚。隣に立つミキタカも不自然なまでにピタリと動きを止める。ウェザーも動かない。
一瞬のうちに、ジョルノの世界全てが凍りついた。

「な……ッ! ま、まさか…………!?」

跳ねあがるように飛び下がれば、机が倒れ、椅子が転がった。ジョルノは慌てて三人から距離を取り、そして違和感に気がついた。
音が遠く聞こえたのだ。倒れた椅子がゆっくりと宙に浮いた気がした。フローリングの上で跳ねあがったはずだというのに何も聞こえない。
そしてなにより……身体にぶつかった感覚がなかった。痛みすら感じなかった。そのことがジョルノの中で焦燥と、そして同時に確信を生んだ。


「これはスタンド攻撃…………ッ!」


誰にいうでもなく、自分自身に言い聞かせるように叫んだ。信頼できるはずの仲間は何も言わなかった。
ミスタも、ミキタカも、ウェザーも。案山子のように突っ立ったまま、ガラス玉のような眼でジョルノを見つめていただけだった。
それが尚更不気味だった。自分が知っていると思っていた仲間たちが、不気味な何者かにすり替えられたことがなによりも恐ろしかった。
ジョルノは叫んだ。自分自身を目覚めさせるように、喉が壊れんばかりに叫んだ。


「幻覚だッ! このスタンドは……僕に幻覚を見せているッ!」





73創る名無しに見る名無し:2013/02/14(木) 00:01:48.30 ID:deVkP9/w
520 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:25:29 ID:fHviQRHE
ウェザー・リポートが最初に理解したことは自分が誰かに殴られた、ということだった。
電流を流されたような痛みに身体がビクリと反応し、背中を強く打ちつけた感触が身体中を駆け巡る。
ガシャン、と家具を倒れる音も聞こえた。きっと殴り飛ばされた拍子に椅子や机をなぎ倒してしまったのだろう。
じわりと痛みが広がるとともに意識が覚醒していく。混乱する頭でまず考えたのは現状の把握。
殴られた。左頬を殴られた。そして椅子や机のあった場所に突っ込んだ。だけど誰に? そしていったい何故? そもそもここはいったい……?

鉛のように重たい瞼をこじ開けると異様な様子が目に飛び込んできた。あまりに不思議な光景だった。
ウェザーが今いるのはダービーズ・カフェだ。ジョルノと一緒に朝食とった場所。しかし朝食を取った、ついさっきまでと比べて、その様子はあまりに異なっている。

天井に取り付けられたファンは止まり、その先から不気味な液体が滴り落ちる。天井も壁も床も……全部、水浸しだ。
椅子や机、ウェザーの体までびっしょりと濡れている。そして僅かではあるが、溶けている。服も、家具も。全てがまるで使いかけの蝋燭のようにただれている。
カフェ全体が何かの胃の中かの様な、そんな不気味な光景だった。ウェザーは頭を振って意識をはっきりとさせた。それでも目の前のその光景は変わらなかった。


「ウェザー・リポート…………」


机に突っ伏したままのジョルノがそう呻いた。ジョルノの状態もひどい有様だった。
液体に覆われ、謎のドロドロが彼の体という体を濡らしている。とても弱っている。息をするのも苦しそうだ。
ウェザーは立ち上がりジョルノを助けようとしたが、ウェザー自身も消耗が激しかった。“ただれ”は彼自身をも覆っている。
立ち上がりかけたウェザーをジョルノは視線だけで押しとどめた。助ける必要はない。ジョルノはそう眼で訴えた。
息も絶え絶えにジョルノが言う。


「スタンド攻撃です……僕たちは、幻覚を、見せられていました」


ウェザーは自分を落ち着けるように大きく深呼吸を繰り返した。冷や汗が額を伝った。唾を飲み込めば、大きな音をたてて喉が鳴った。
そうだ、自分はカフェを出て見回りに出たはずだ。心配そうな顔をしたジョルノを安心させるよう、自分のスタンドを少しだけ見せたことも覚えている。
雨がやめば自分の危機を知らせてくれる。そう言ってカフェを後にして……それで、それから……。

―――ならいったい何故自分はカフェにいる?

重たい頭に痛みが走る。全てが混乱していた。全ての記憶があいまいで、ごちゃごちゃにされている。
スタンド攻撃で幻覚を見せられていた。ならばどこからが『幻覚』で、どこまでが『幻覚じゃない』んだ?
いや、待て、そもそもこの状況、このスタンド……俺は“知っている”。実際にこのスタンド攻撃を受けたことがある……?
馬鹿な。そんなことなら覚えているはずだ。だがしかし、忘れたこともあるかもしれない……?
それすらもしやこのスタンドの幻覚が見せたことかもしれなくて…………ウェザーは頭を振って、奥歯を噛んだ。

なにもかもがわからない。駄目だ。今の自分は何かを考えるには混乱しすぎていたし……なによりひどく頭が痛んだ。
万力で締められているかのように、ひどい頭痛がした。


「行ってください……僕は、もう限界です。
 なにかが……『決定的な』何、かが僕、の中から失われてしま、ったよう な…………」
74創る名無しに見る名無し:2013/02/14(木) 00:02:40.16 ID:Kad/TYp4
521 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:26:43 ID:fHviQRHE



痛む頭と歪んだ視界。ウェザーは思う。今、何か影を見た気がする。ジョルノの後方、窓の外を駆け抜けていった影が見えた様な気がした……!
よろめく身体をおこし、ジョルノが突っ伏す机までなんとか辿り着いた。ジョルノを起こそうとその身体に触れ、ウェザーは愕然とした。
冷蔵庫に入れられたようにジョルノの身体は冷たくなっていた。まさかと思った。しかし僅かにではあるが脈はある。呼吸もしている。ただ意識は……ない。

―――俺は、この病状を……知っている?

ノイズがかかったように視界の中を砂嵐が通り抜けていく。ウェザーは強烈な眩暈を感じた。
ジョルノを助け起こし、隣の部屋のソファになんとか寝かしつけるその間も、脳にかかった霧が晴れることは起きなかった。
あたまが痛い、割れるように痛い。いっそのことジョルノの隣の床に倒れ込んでしまいたいぐらいだ。

大きく唾を飲み込むと、ウェザーは目を瞑り意識を取り戻す。駄目だ。そんなことはできない。
ジョルノは言った。“奪われた”、“決定的な何かを奪われた”と。
そうやって奪われている間にも、ジョルノはウェザーを救いだした。幻覚から覚めたのはジョルノがウェザーを殴り飛ばしたからだ。
ジョルノがいなければ、やられていたのはウェザーだったのかもしれない。ジョルノはウェザーを庇ったのだ。
身体を溶かしながら、致命的な何かを奪われながら……ジョルノはウェザーを救いだした。


「すぐに助けに戻る。待っていてくれ」


よろめく身体に鞭をうち、ウェザーはカフェを飛び出した。雨には止んでおらず、薄い雨の向こうに虹がかかっているのが見えた。
ウェザーは走る。辺りを見渡し、怪しげな人影が見つかりやしないかと目を凝らし、走り続ける。

ジョルノはウェザーを救った。精神的にも、そして肉体的にも。この短い数時間で二度も、彼は救われた。
ジョルノがいなければウェザーは過去に囚われたままだったかもしれない。エリザベスが見せた確固たる意志、琢馬が見せた気高い意志。
あの時ウェザーが感じたのは自己嫌悪と劣等感だ。ジョルノはそれをなんでもないことだと慰めてくれた。些細なことだが、それは確かにウェザーを救ったのだ。

ジョルノがいなければあの幻想の中に囚われたままだったかもしれない。そして気づかぬうちに体全身を解かされ……そのまま死んでいたのかもしれない。

「ジョルノ……」

ジョルノを放っておけるわけがない。ウェザーは拳を握りしめ、固く誓う。
同時にウェザーは徐倫のことを思い出していた。守りたかった一人の女の子。
どこかジョルノに似ていて、そしてウェザーの知らぬところで逝ってしまった女の子。

ジョルノは未来を見据えていた。だから脚を止めなかった。だから過去を振りかえらなかった。
徐倫はいつも希望を抱いていた。現実に立ち向かう時、脚が止まってしまいそうな時……いつだって彼女は希望を見つめていた。

震える脚に鞭をうつ。徐倫のことを思い出すと勇気がわいてきた。ジョルノのことを考えれば頭痛のことなんて吹っ飛んだ。
今度は間にあわせる……! また間に合わなかったなんて……・、“三度”失うだなんて、もうごめんだ……!
ジョルノを死なすわけにはいかない……! 絶対に、絶対死なすものかッ!
ウェザーは一人街を走っていく。どこへ知れず、ただ己の勘と運を信じ、走り続けた……。





75創る名無しに見る名無し:2013/02/14(木) 00:03:56.75 ID:Kad/TYp4
522 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:29:02 ID:fHviQRHE
雨が降っていた。エンリコ・プッチはそんな雨の中、微動だにせず、全身を濡らしている。
吐く息が白い。雨は相当冷たい様子だ。だがプッチはそんなこと気にも留めていない。それどころか雨が降っていることにも気づいていないのかもしれない。
プッチの足元には一人の女性が寝そべっている。目は固く閉じられ、手足がだらりと投げ出されている。一目には眠っているようにも見える。
プッチがそっと言った。囁くような口調だった。


「……君は“運命”というものを信じるかね?」


返事も待たずにプッチは続ける。


「ホット・パンツ、もしも君が私に出発を促すようなことしなければ……。もしも君がダービーズ・カフェでなく、DIOの館に向かっていれば……。
 もしも君が店内の様子を伺った時にジョルノ・ジョバァーナに気づかれていれば……。ウェザー・リポートに気づかれていれば……。
 もしも君がそのまま私に相談することなく、二人に接触していたならば……。もしも私がスタンドを使わずに、二人に対して交渉することを選択していたならば……。
 もしもジョルノ・ジョバァーナが、あのDIOの息子でなかったならば……ッ!」


プッチの手には一枚のDISCが握られていた。微かではあるがその表面に写っているのはジョルノ・ジョバァーナの顔だった。
それはジョルノの記憶DISCだ。たった今の今までプッチがその中身をのぞいていたDISC。
プッチは少しの間何も言わず、ただそこに立っていた。誰かの返事を待っているようにも見える。勢いを増した雨が彼の顔をうち、水滴がその顎から滴り落ちた。


「君は聖女だ、ホット・パンツ……。巫女であり、祈りの人であり、しかし私にとって君はそれ以上の存在となった。
 君は私を導いてくれた。君の選択が、そして運命が、私をここまで連れてきた……! それはもはや奇跡ではなく運命だ。
 君の運命が私を押し上げた! ジョルノ・ジョバァーナ! DIOの、あのDIOの息子との邂逅を!」


静かな興奮がプッチを包んでいる。震えているのは寒いからではない。激情が彼を震わせていた。
ホット・パンツを見下ろすプッチの視線は慈愛に溢れている。彼は心の底から思っているのだろう。
ホット・パンツが成し遂げたことが彼の考えた通りであると。彼女こそが聖なるものであるに違いないと。


「ここに教会を建てよう。君のための教会だ」


プッチの口調が早くなる。隠しきれない興奮が彼を突き動かす。
一度大きく息を吸い込むと、プッチは呼吸を整えた。焦ることではない。大切なのは尊厳だ。厳粛さだ。
再びプッチが口を開いた時にその口調はいつもの控え目で厳かなものに戻っていた。
しかし押し隠した感情はやはり言葉に飛び出る。声が震えた。意図せずとも頬が緩む。


「人と人の出会いは運命だ。なるべくしてそうなったもの。
 だがそれを運命と片付け、得意げに鼻を高くするのは神に対する冒涜だ。
 私たちは祈るべきなんだ、感謝するべきなんだ。君のような存在に……それを導く神と、その全てに……」


誰も何も言わない。プッチの独白にホット・パンツが返事をするようなことは起きなかった。
しかし代わりにプッチは振り向くと霧雨の奥に見える影に問いかけた。
“彼”がそこにいることはとっくに気がついていた。いや、彼がここにやって来ることはわかっていた。
プッチに言わせたならば……それもまた“運命”なのだから。


「なあ、そう思わないかい……ウェザー・リポート?」
76創る名無しに見る名無し:2013/02/14(木) 00:06:51.13 ID:Kad/TYp4
523 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:29:23 ID:fHviQRHE
ザァザァ……という雨音にまぎれ、革靴が地面をうつ音が響いた。
うっすらと映っていた影が濃くなり、やがてプッチの目にはっきりと像となってその姿が映った。
険しい顔のウェザー・リポートが姿を現す。プッチの顔を真正面から睨みつけると、ウェザーは十メートルほど離れた場所で立ち止まる。
隠す気もないほどに、その表情は憎しみに塗られていた。奥歯を噛みしめ、その隙間からひねり出すようにウェザーは言う。


「ジョルノに何をした」
「聞くまでもなくお前はわかりきっているだろう」
「DISCを返せ」
「それはできない」


そこで会話は途切れ、雨音が二人を包んだ。睨み合う視線、絡みあう感情。
プッチは見下すような、憐れむような目線でウェザーを見つめ、ウェザーは今にもプッチを殺さんばかりの凶暴な目で見返す。
雨が強くなったような雰囲気が辺りを包んだ。しかし、雨脚は強くなどなっていない。
二人の敵意と、戦意が辺りの緊張感を高めていた。それはあまりに強烈で、宙を落ちる雨粒がはじけ飛びそうなほどだった。
何も言わず、二人は長い事睨み合っていた。沈黙の後、唐突にプッチは視線を切ると、ふぅ……と息を吐いた。
瞳を閉じ、腰に手を当てる。聞きわけの悪い修道士に説教をするような感じでプッチは言った。


「私は全てを赦そう、ウェザー・リポート」


そして付け足す。



「いいや……、“ウェス・ブルーマリン”」



ウェザーは何も言わなかった。反射的に彼は右手で頭の後ろ辺りをそっと撫でた。そこに入ったであろう、自らの“記憶”を確かめるように、優しく。

プッチに言わせるならば、それすらも“運命”であった。全てがこのために用意された、こうするべきだから導かれた一つの事実。
ホット・パンツがジョルノとウェザーを見つけることも。ジョルノがDIOの息子だったことも。そこにウェザー・リポートがいることも。
そして……プッチに支給されたランダム支給品が『ウェザー・リポートの記憶DISC』であったことも……!


「我が弟よ、私は全てを赦そう」


ウェザー・リポートは何も言わない。ずっと睨みつけていた視線を足元に落とすと、彼は俯き、唇をかんだ。
何を言うべきか、長い事ウェザーは悩んでいた。言いたいことが多すぎた。突きつけたい感情は溢れるほどあった。
ウェザー・リポートがぎゅっと拳を握った。腕が震える、唇がわななく。これほどに感情が高まったことは生きていて今が初めてだった。
ペルラに恋をした時よりも……。ペルラにそっとお別れのキスをした時よりも……そして彼女が、死んだ時よりも……、ずっと……。
77創る名無しに見る名無し:2013/02/14(木) 00:07:44.11 ID:Kad/TYp4
524 :Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:29:44 ID:fHviQRHE

結局出てきた言葉は何の意味も持たない言葉だった。それが今のウェザーには限界だった。


「なんのつもりだ……?」


そう問いかける。プッチはため息を吐き、あきれた様子で返事をする。


「だから言っているだろう……私はお前を赦す、と。お前が望んでいるものを私は差し出そう。
 記憶を返した。それはそれがお前の望みだったはずだからだ。記憶を取り戻す前のお前は何よりも望んだこと。
 そして記憶を取り戻した今、お前が望んでいることは……」


その時、辺りを静寂が包んだ。雨音がやんだ。時間が止まったような感覚がウェザーを襲う。
プッチの体から影が飛び出る。薄い膜のような影。反射的にウェザーは腕をあげ、頭を庇う。
音が聞こえない。超速で浮き上がったホワイト・スネイクがウェザーに迫る。強く地面をけり上げたプッチの体が宙を舞い、その影がウェザーを覆う。
上空からプッチが囁いた。文言を唱えるように穏やかな声だった。


「―――死だ」


交差する二つのスタンド。間一髪で間にあった『ウェザー・リポート』。
硬く閉じられたガードを押しとおし、行き場をなくした運動エネルギーがウェザーを吹き飛ばす。
バシャバシャと水しぶきを上げながら、ウェザーは後ろに大きく跳び下がった。水が舞う。雨粒が顔をうつ。
二人の距離は大きく離れた。ウェザーはプッチを睨みあげる。プッチは冷たい眼でウェザーを見下す。


「これは運命だ、弟よ。神が選んだのだ。
 ジョルノ・ジョバァーナに相応しいのはお前ではない。彼の隣にお前が立つのはあってはならないことだ。
 私だ。私こそが彼に相応しい。DIOがいて、そして彼の息子である彼の隣に立つべきはお前ではない! この私だ!」


今度は押しとどめる必要がなかった。
背後に小さな竜巻を展開、風に乗った体全身で真正面からプッチにぶつかっていくウェザー。
全体重を乗せ、全ての感情を乗せ、ウェザーは拳を振るった。受け止めたホワイト・スネイクの腕が衝撃で軋む。プッチの顔が苦悶の色に染まった。

互いの腕を掴みあい、つばぜり合いのような至近距離からウェザーは吠える。
今度は躊躇わなかった。迷わなかった。最初から言うべき事はわかっていた。思うがままに、感じるがままに言えばいいだけだったのだ。


「お前は俺から怒りすら奪うのか……! 覚悟すら取り上げるのかッ!!
 過去を奪い、ペルラを奪い……それでも飽き足らず、まだ奪う気かッ!!」
78創る名無しに見る名無し:2013/02/14(木) 10:11:08.49 ID:+YoG+3LF
525 名前:Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/02/13(水) 00:30:25 ID:fHviQRHE

右の拳で殴りつける。受け止めたプッチのその顎狙い、蹴りあげる。どちらもなんとかプッチは受け止める。
左からの拳は力に加え風を利用した一撃だ。今までの一撃とは違う重さにホワイト・スネイクがぐらつく。プッチの顔に汗が浮かぶ。
堪らずプッチは後退する。隙を創り出さんと、ウェザーの顔めがけて腕を伸ばした。DISCを奪われるわけにはいかず、ウェザーも身体を大きく振りさげる。
それは一瞬ではあった。だがプッチにはそれで充分だった。プッチは跳び下がり、距離を取る。二人はまた元の通りに、離れた位置で互いに隙を伺う形。
雨音に包まれ、互いに睨み合う。雨が二人に染みいるわずかな間、二人は何も言わなかった。

突然、ウェザーの右の頬がパックリと開いた。真っ赤な血が滴り落ちる。ウェザーはそれを拭わなかった。
プッチの胴着が大きく切り裂かれた。胸ポケットにしまっていたジョルノの記憶DISCが音もなく、落下する。
プッチはゆっくりとそれを拾い上げると、もう一度ポケットにしまいなおす。ウェザーは動かなかった。プッチもまた隙を見せなかった。



―――雨が強くなった。



気のせいではなく、確かな事実として二人をうつ雨粒が大きく、そして多くなる。
滝のように二人の顔から水滴が散る。落ちては落ちて、それでも止むことのない雨。


「“虹”は出ないようだな」


そうプッチが言う。ウェザー・リポートが返す。


「出す必要はない」
「私を殺したいのではないのか、“ウェズ”?」
「なら尚更だ」
「ほう」


以前ならば、そう一瞬だけウェザー・リポートの脳裏を想いが走った。
ここに呼び出される前ならば……。この殺し合いとやらに巻き込まれていなかったならば……。
もしかしたら、ウェザーは“虹”を望んだかもしれない。

だがもう彼は虹を望んでいなかった。
雨に溶けるようなレインコートを着た男。雪のように真っ白な肌を持つ青年。霧に包まれ微笑む老人。
そして黄金のように輝く、太陽のような少年……。皆全てこの場で会った人たちだ。
そして誰もが何かを背負っている。過去を背負って、それでも生きている。


「プッチィィィイイイイ―――――――ッ!!」


バシャリ、と音をたてウェザー・リポートの足元で水が舞う。飛び出すように動くその身体。水たまりに写るウェザー・リポートの姿。
プッチは構えを取り、そんなウェザー・リポートを迎え撃つ。跳ねあがった水滴にぶつかるよう前に飛ぶと、ホワイト・スネイクが躍動する。



雨はまだやまない。今はまだ……止まない。






                             to be continue......
79創る名無しに見る名無し:2013/02/14(木) 10:11:55.43 ID:+YoG+3LF
526 名前:Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/02/13(水) 00:30:50 ID:fHviQRHE
【B-2 ダービーズ・カフェ店内 / 1日目 午前】  
【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:瀕死、記憶DISCなし
[装備]:閃光弾×1
[道具]:基本支給品一式 (食料1、水ボトル半分消費)
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える。
0.気絶
1.ミスタたちとの合流。もう少しダービーズ・カフェで待つ?
2.放送、及び名簿などからの情報を整理したい。
[参考]
※時間軸の違いに気付きましたが、まだ誰にも話していません。
※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。


【C-2 北部/ 1日目 午前】
【ウェザー・リポート】
[スタンド]:『ウェザー・リポート』→『ヘビー・ウェザー』
[時間軸]:ヴェルサスに記憶DISCを挿入される直前。
[状態]:記憶を取り戻す、体力消耗(中)
[装備]:スージQの傘、エイジャの赤石、ウェザー・リポートの記憶DISC
[道具]: 基本支給品×2(食料1、水ボトル半分消費)、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者と仲間を殺したものは許さない。
1.プッチを倒し、ジョルノを救う。

【エンリコ・プッチ】
[スタンド]:『ホワイト・スネイク』
[時間軸]:6部12巻 DIOの子供たちに出会った後
[状態]:健康、有頂天
[装備]:トランシーバー
[道具]:基本支給品、シルバー・バレットの記憶DISC、ミスタの記憶DISC
    クリーム・スターターのスタンドDISC、ホット・パンツの記憶DISC、ジョルノ・ジョバァーナの記憶DISC
[思考・状況]
基本行動方針:脱出し、天国を目指す。手段は未定
1.ウェザー・リポートを殺し、自分がジョルノの隣に立つ。
2.ホット・パンツを利用しながら目的を果たす
3.DIOやディエゴ・ブランドーを探す
4.「ジョースター」「Dio」「遺体」に興味
[備考]
※シルバー・バレットの記憶を見たことにより、ホット・パンツの話は信用できると考えました。
※ミスタの記憶を見たことにより、彼のゲーム開始からの行動や出会った人物、得た情報を知りました。
※プッチのランダム支給品は「ウェザー・リポートの記憶DISC」でした


【ホット・パンツ】
[スタンド]:『クリーム・スターター』
[時間軸]:SBR20巻 ラブトレインの能力で列車から落ちる直前
[状態]:気絶中、両方のDISCを奪われている
[装備]:トランシーバー
[道具]:基本支給品×3、閃光弾×2、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に戻り、遺体を集める
0.気絶中
1.プッチと協力する。しかし彼は信用しきれないッ……!
2.おそらくスティール氏の背後にいるであろう、真の主催者を探す。
80創る名無しに見る名無し:2013/02/14(木) 10:12:30.90 ID:+YoG+3LF
527 名前:Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/02/13(水) 00:33:04 ID:fHviQRHE
以上です。何かありましたら指摘ください。
毎度毎度代理投下をお願いして申し訳ないです。
そして予約期限ぶっちぎりまくりでごめんなさい。

Catch The Rainbow - Ritchie Blackmore's Rainbow
ttp://www.youtube.com/watch?v=tV8x2HKTRdM
81創る名無しに見る名無し:2013/02/14(木) 10:17:36.62 ID:+YoG+3LF
途中からの代理投下をさせていただきました。
作者様、代理投下を行っていた方、乙です。

予約状況を確認していなかったのもあって始めの幻のミスタたちにはあれ?と思わされつつ、
それでもジョルノが確信するまで理解できず、面白い見せ方で始まったと驚かせられて。
そこからのウェザーの心情が痛いくらいに伝わってきて、いやぁ楽しい時間を過ごさせてもたいました。
82創る名無しに見る名無し:2013/02/14(木) 12:22:14.15 ID:hRqoH4rz
面白かった。いつの間にかハマっているスタンド攻撃の恐ろしさたるや!
投下乙ー
83創る名無しに見る名無し:2013/02/14(木) 17:20:46.19 ID:IexK5r/l
投下乙です。

前向きになり、悪魔の虹を制御したウェザー。
相も変わらず他者を利用し、それこそが運命だと嘯く神父。
兄弟対決の行方や如何に。
84創る名無しに見る名無し:2013/02/15(金) 22:33:33.04 ID:6KI5q4IM
やっと1stから見て追いつけた…
投下乙です、プッチとウェザーどっちが勝つんだろう
85創る名無しに見る名無し:2013/02/16(土) 20:24:58.58 ID:jY44ocBv
プッチとジョルノは2ndに続いて今回も出会ったか
あっちでは悪くない関係性だったけど今回はどうなるやら
一方のウェザーとプッチはロワ初遭遇か
こちらも気になる対面だなあ
そしてなにより新規読者が増えたことはやっぱり嬉しい
86創る名無しに見る名無し:2013/02/17(日) 23:01:07.40 ID:J6yhtQG8
支給品で、シルバーチャリオッツレクイエムとかって駄目だよね?
87創る名無しに見る名無し:2013/02/17(日) 23:33:29.74 ID:oo/z43Ol
独断では判断できないけど、やめたほうがいいと思う
88創る名無しに見る名無し:2013/02/18(月) 03:55:03.65 ID:eLTMGXU5
参加者のスタンドが支給されるのはNGだろ流石に
89創る名無しに見る名無し:2013/02/19(火) 23:30:28.11 ID:ZDZTZfwI
作中に出てきたディスクなら参加者のがあってもいい感じなのかな?

ウェザー・リポートとか承太郎の記憶ディスクとか

逆に参加者にいないのはどうだろう

サバイバーとか


あと遺体はなしだよな
眼球があればスキャンだと思うけど

Dioが博士と同じ遺体から同じ能力を手に入れてたけど
90創る名無しに見る名無し:2013/02/19(火) 23:33:37.52 ID:P7biDP6x
>>1のまとめサイトぐらい読もうぜ
91創る名無しに見る名無し:2013/02/20(水) 00:09:26.50 ID:3s8pYdPW
>>90
ありがとう 見てきた

違う疑問なんだけど
支給品の生き物ってどこまで可能かな
Dioの首(七部)とか緑色の赤ん坊(六部)とか幽霊(四部)とか
92創る名無しに見る名無し:2013/02/20(水) 00:37:20.84 ID:i/gMlblZ
何であろうと、結局のところ他の書き手が続き書けるかどうかだからなー
やばそうな支給品が出るSSが投下されてから議論すればいい話かと

読み手なら気にする必要なし、書き手志望者ならあんまり気にせずYOU書いちゃいなよ(心配ならしたらばの仮投下スレに投下するのがベネ)
という書き手の意見
93創る名無しに見る名無し:2013/02/26(火) 16:47:50.94 ID:sX8yOoBv
あれ?もしかして代理投下するべきか?
94創る名無しに見る名無し:2013/02/26(火) 16:54:13.13 ID:sX8yOoBv
528 :理由 その1  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:43:58 ID:4qAwTwKE 例えば……君らが、あるマンガキャラを原作とした対戦格闘ゲームを予約したとする。
別に発売日に店頭に並んで待ってたっていいのに、予約したとする。

……なぜ?

どうしても発売初日に手に入れたい?
売り切れが心配?
初回封入特典のダウンロードコードとメモ帳がほしかった?
数量限定生産のエッチングプレートがほしいから?

――おいおいそう熱くなるなよ。俺は何もゲームそのものについて話をしようとしてる訳じゃあない。
要は“欲しかった『理由』”について聞いてるんだよ。

何もゲームの購入に限ったことじゃあない。
全ての行動に理由はある。

……たぶん、きっと。


●●●
95創る名無しに見る名無し:2013/02/26(火) 16:54:59.38 ID:sX8yOoBv
529 :理由 その2  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:46:18 ID:4qAwTwKE 「よくもエリナを……エリナばあちゃんを見殺しにしやがったなッ」
バキィッ!

「……」

「治したとか言って手ェ抜いたんじゃねぇだろうなァアッ」
ドムッ!

「……」

「彼女は俺のこと本物の旦那と信じて疑わなかったんだぞッ」
ベチィッ!

「……」

「なんで、なんで死なせたんだ!このハンバーグ頭ッ」
ボスッ!

「……」

「何とか……何とか言えよ!この野郎ッ……クッソ……」

「……」

「オイ……ナメてんのかテm」
ドガァッ!

「おい――俺の頭がなんだって?
 ドサクサに紛れてバカにしてんじゃあねぇぜッ!

 殴って気が済むならいくらでも殴りやがれ!
 ……俺のは一発で許してやるよ、えぇ?親父」

「――え」

「俺だって“曾祖母ぁちゃん”を救えなくって悲しいさ。悔しいんだ。
 だがよ、俺は一緒に暮らしてた祖父さんが死んだときにゃあ一秒も泣かずにその意思を継いだもんさ。
 ジョセフ・ジョースターっつったな?
 『ジジイ』の若いころがこんな泣き虫野郎だとは思わなかったぜ」

「お、おま――じゃあ本当に」

「んな事今ここで問答するこっちゃあねぇだろ。
 『エリナばーちゃん』はそんな事望んでるのか?
 見てみろよ、幸せそうな顔で眠るようでよ――
 アナタは泣かないで前向いて歩いてくださいね、って、そういってる風には見えねぇか?」

「……何が言いてぇんだ?かたき討ちでもしに行けってのかッ!?」

「それをバーチャンは望んでないだろうがな。
 きっかけなんて、理由なんてそんなもんでいいだろ、とにかく立ちやがれ。
 ここでグズってるよりは百倍マシだと思うぜ、俺ぁよ」


●●●
96創る名無しに見る名無し:2013/02/26(火) 16:55:42.88 ID:sX8yOoBv
530 :理由 その3  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:49:08 ID:4qAwTwKE 「畜生!おいなんで行かせてくれないんだよ!仲間攫われてんだぞ!」
そう叫ぶ男は噴上裕也。目の前には立ちはだかる一人の軍人。

「何度も言っておろうが!マウンテン・ティムに任せておけとォ!
 貴様らごときが行ったところで足手まといにしかならんわァアア!」
周囲の目も気にせず高らかに声を上げるのはシュトロハイムである。

ちなみに、
「あーあ、だめだこのガンコ軍人。あたしはエルメェスのそばにいるから何とか説得しておいて」
早々に説得を放棄したシーラEはそう言って救急車の中に戻ってしまった。

「ホラホラァ!言葉で説得できなければ力ずくでも俺を納得させて見せろォ!」
「クッソ!言われなくてもッ!ハイウェイ・スター!次は左からだ!」

言いながら己の分身をシュトロハイムにぶつける。
身体に張り付く無数の足跡に、普通の人間なら栄養失調で立ってなどいられない。
更に上半身は拳でのラッシュを無防備な顔面に叩きこむ。

しかし。

「――効かぬわアァァッ!」

それらの猛攻をものともせず本体である噴上の足元に威嚇射撃。
当然弾丸は当たらないものの、不意を突かれた上にその気迫に押し負けた噴上はスタンドを消してしまう。

「――えぇい!ナチス軍のサイボーグはバケモノかッ!?」
思わずこぼす噴上。それに対しシュトロハイムは鼻を鳴らす。

「バケモノ?違うなァ!貴様らが軟弱すぎるのだ!
 なーにが『スタンド』!なァにが『ひ・と・り・ひ・と・の・う・りょ・く』だッ!
 そんな慎ましさで今後襲いくる脅威に敵うモノかァ!サンタナなどカーズらに比べれば赤子も同然よ!」

「おい……スタンド使いバカにしてんのかよ」
「そうともよ!マウンテン・ティムはスタンド使いである以前に『カウボーイ』で『保安官』!さらに『ルックスもイケメン』だ!
 たかだか『学生』でしかない貴様よりは十分に有能よ!ゆえに康一の捜索を依頼した!貴様の匂いの能力も不要!」

「それが――それがさっきまで一緒に戦った仲間に言うセリフかよ(つーかイケメン関係ねーだろ)」
もはや噴上からは闘志が抜けきってしまっている。
目の前の男に叶わない事実。仲間を追う事すら許されない悔しさ。

「フン、貴様が重要なことを忘れて――お、終わったか、気分はどうだ、ジョジョ」


●●●
97創る名無しに見る名無し:2013/02/26(火) 17:00:02.18 ID:sX8yOoBv
エラー…
98創る名無しに見る名無し:2013/02/27(水) 23:07:07.95 ID:e1RO9k01
531 :理由 その4  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:52:27 ID:4qAwTwKE
「気分はどうだ、ジョジョ」
そういって後ろに立つジョセフ・ジョースターに向かって歩き出すシュトロハイムを手で制す。

「康一を追わせてもらうぜ」
「なんだなんだ、パパの前に子供が立つだなんて、なかなか面白い光景じゃあないか?普通は逆だぞォ?えぇ?ジョースケよ」

シュトロハイムの奴がやっすい挑発をかましてくるが気にしてなどいられない。
康一が攫われてるっつーのにこの泣き虫野郎の説得に時間をかけすぎたからな……
これが“ジジイ”いや『オヤジ』なんて信じられっかっつーの、俺は絶対ェに認めたくねーぞ――

「話題変えてんじゃあねぇ。康一を追いたいっつってんだ」
「ホホォ〜?それじゃあ噴上に代わってこの俺を説得してみるんだなァ?」

なるほど……それで噴上はこんなに悔しそうなのか。シュトロハイムも面倒な事しやがったな――

「ホラホラァ〜何とかして康一を追いたいんだろォ?その理由言ってみなァ」

わーったよ……そんなに聞きたきゃ言ってやる。
たっぷり十秒くらいは間を開けた後、軽く息を吸い込む。
極力感情を抑えて俺は口を開いた。


「ダチ助けるのにいちいち理由がいるのかよ」


「んん?ダチぃ〜?」
「そうよ、広瀬康一は俺の親友だ。そいつを助けに行きたいんだ。理由なんかいらねぇだろ」

眉一つ動かさずそう付け加えた。
俺のメンチとタンカを黙って聞いてたシュトロハイムは……

「フン、やっと友人という単語を聞けたわ。
 そう、それでいいッ!『仲間は友とは限らん』が!『友は仲間』なのだァァァ!
 よし良いだろうッ!合格だ!全員で追うぞォッ」

そう返してきた。


……き、決まったァ〜仗助君カッコイイ〜!
99創る名無しに見る名無し:2013/02/27(水) 23:10:39.61 ID:e1RO9k01
「お、ちょうどいいタイミングだったかな?行くんだろ?コウイチ君を追っかけに」
「君が治療してくれたんだってな、ありがとよ、ジョウスケ。
 ……ちょっと前から見てたけど、ナチスのアンタ。うめぇなぁ、ピエロごっこがよ、ハハハ」

振り返ればシーラEがそう言って手を振ってる。隣にいるのはエルメェス!意識を取り戻したみてーだな。

「チッ、なんだ俺ぁやられ損かよ。おい仗助、良い役回りやったんだから今度なんか奢れよ――もういいだろ、行けッハイウェイ・スター!」
背中をドツいてきた噴上も、悪態付きながらスタンドを展開してる。思ったよりショック少なそうだな。


で――問題の奴は……?
「――ジョースケ、悪かったな。
 まだ漠然としちゃあいるが、俺だってなんかしなくっちゃあな。
 きっとエリナばぁちゃんもそう望んでるだろうからな」


……大丈夫そうだな、さっそくシュトロハイムの激励攻撃にあっていやがる。


よっしゃ、いっちょ康一を攫ったやつをぶん殴りに行こうじゃあねーか!


●●●
100創る名無しに見る名無し:2013/02/27(水) 23:11:48.25 ID:e1RO9k01
532 :理由 その5  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:54:42 ID:4qAwTwKE
――どうやらうまく話がまとまったみたいだ。

しかし仗助が『理由なんてそんなもん』とか言いながら、ちょっとしたら『理由なんかいらない』って言うんだから面白いもんだ。

だがそれは確かに的を得てる言葉だ。
……確か君らに最初に話したのは『欲望の話』だったかな。それにも似通ってくる。
本能的な行動には理由なんかないが、それをいかに理由づけて抑制するか。
あるいはその逆かな。どう理由つけてワガママを押し通そうとするか。

――ん?
なんで仗助がこんなにカッコ良すぎるか?その理由?

う〜ん……



……『主人公補正』ってやつかな?


バァー―z__ン
101創る名無しに見る名無し:2013/02/27(水) 23:15:00.30 ID:e1RO9k01
532 :理由 その5  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:54:42 ID:4qAwTwKE
――どうやらうまく話がまとまったみたいだ。

しかし仗助が『理由なんてそんなもん』とか言いながら、ちょっとしたら『理由なんかいらない』って言うんだから面白いもんだ。

だがそれは確かに的を得てる言葉だ。
……確か君らに最初に話したのは『欲望の話』だったかな。それにも似通ってくる。
本能的な行動には理由なんかないが、それをいかに理由づけて抑制するか。
あるいはその逆かな。どう理由つけてワガママを押し通そうとするか。

――ん?
なんで仗助がこんなにカッコ良すぎるか?その理由?

う〜ん……



……『主人公補正』ってやつかな?


バァー―z__ン
102創る名無しに見る名無し:2013/02/27(水) 23:16:36.52 ID:e1RO9k01
533 :理由 状態表1  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:57:14 ID:4qAwTwKE
【B-4 古代環状列石(地上)/一日目 午前】


【チーム名:HEROES+(-)】

【ジョセフ・ジョースター】
[能力]:波紋
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前
[状態]:絶望(回復中)、体力消耗(中)、泣き疲れて目が真っ赤
[装備]:なし
[道具]:首輪、基本支給品×4、不明支給品4〜8(全未確認/アダムス、ジョセフ、母ゾンビ、エリナ)
[思考・状況]
基本行動方針:オレだってなんかしなっくっちゃあな……
1.康一を追うことに同行
2.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる

[備考]
エリナの遺体は救急車内に安置されています。いずれどこかに埋葬しようと思っています。

【ルドル・フォン・シュトロハイム】
[能力]:サイボーグとしての武器の数々
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:健康
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ドルドのライフル(5/5、予備弾薬20発)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊
1.康一を追うことに同行。友というその言葉!聞きたかったぞ!
2.ジョセフ復活!思ったより元気そうじゃあないか!
3.『柱の男』殲滅作戦…は、どうする?

【東方仗助】
[スタンド]:『クレイジー・ダイヤモンド』
[時間軸]:JC47巻、第4部終了後
[状態]:左前腕貫通傷(応急処置済)、顔面の腫れ(軽度・ジョセフに殴られた)、悲しみ、やや興奮気味
[装備]:ナイフ一本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す!
0.康一を追う。さらったやつは容赦しない。
1.ジョセフ・ジョースター……親父とはまだ認めたくない(が、認めざるを得ない複雑な心境)
2.各施設を回り、協力者を集めたい
3.承太郎さんと……身内(?)の二人が死んだのか?
4.キマッタァァァ俺カッコイイー!

[備考]
クレイジー・ダイヤモンドには制限がかかっています。
接触、即治療完了と言う形でなく、触れれば傷は塞がるけど完全に治すには仗助が触れ続けないといけません。
足や腕はすぐつながるけど、すぐに動かせるわけでもなく最初は痛みとつっかえを感じます。時間をおけば違和感はなくなります。
骨折等も治りますが、痛みますし、違和感を感じます。ですが"凄み"でどうともなります。
また疲労と痛みは回復しません。治療スピードは仗助の気合次第で変わります。
103創る名無しに見る名無し:2013/02/27(水) 23:17:05.89 ID:e1RO9k01
534 :理由 状態表2  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:58:49 ID:4qAwTwKE
【噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[時間軸]:四部終了後
[状態]:全身ダメージ(回復)、疲労(ほぼなし)、ちょっと凹んでる
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数 90%)
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
1.康一を追うことに同行
2.ジョセフ・ジョースター、マジか……
3.各施設を回り、協力者を集める?
4.ったく損な役回りだったぜチクショウ……↓

【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前
[状態]:ダメージによる疲労、傷は回復、空腹
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1.康一を追うことに同行
2.まずは現状を把握したい
3.徐倫、F・F、姉ちゃん……ごめん。

[備考]
シーラ・Eから自分の境遇についてざっと聞きました。これから他のメンバーと情報交換したいと思っています。

【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:健康、肉体的疲労(小)、精神的疲労(小)
[装備]:ナランチャの飛び出しナイフ
[道具]:基本支給品一式×3(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1〜2(確認済み/武器ではない/シ―ラEのもの)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
1.康一を追うことに同行
2.ジョセフ・ジョースター?マジかよ……
3.エルメェス、良かった……

[備考]
※参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。
※ジョージU世とSPWの基本支給品を回収しました。SPWのランダム支給品はドノヴァンのマントのみでした。
※放送を片手間に聞いたので、把握があいまいです。→他のメンバーとの情報交換によって把握しました。
104創る名無しに見る名無し:2013/02/27(水) 23:18:07.87 ID:e1RO9k01
535 :理由  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 11:04:12 ID:4qAwTwKE
以上で投下終了です。

仮投下からの変更点
・分割箇所をwiki収録に合わせ***から●●●に変更
・若干の文章変更(内容に変更なし)

『死亡遊戯(Game of Death)』と『BREEEEZE GIRL』の間の補完話という時間軸で書かせていただきました。
のはいいんですが……

ジョセフ号泣→一人にしてやろう
→その間に仗助による全員の治療&情報交換(ここまでは『死亡遊戯』でも行われています)
→康一いねぇじゃん!どうすんだ!
→ティムが一人で追うことになった
→俺らも追うぞ!→シュトロハイム「駄目だティムに任せておけ!」
→仗助「てか親父はいつまで泣いてンだ俺が根性叩きなおしてやる!」

という、冒頭に入るべき描写をざっくりと省いています。
このことに関して特に指摘をいただきたい。
……と思っていましたが仮投下時に指摘無かったので一切補完していません。
因みにいうとシュトロハイムが噴上に放った威嚇射撃もドルドのライフルではなく自分の肉体(胴体の機関銃とは思いにくいけど)だったりとか、そういうのもカットしてます。
もちろん今からでも指摘ありましたらwiki収録までには補完話書くつもりですが。


さて内容ですが、仗助が見事に暑苦しいキャラになってしまってますねw
まぁ歴代ジョジョの7(8)人の中では一番直情的なジョジョだと思っておりますから。このくらいはね。
○○の××はバケモノか!なんて有名な(?)パロディ、今後とも使っていきたいと思っております。

それでは最後になりましたが、誤字脱字や上記その他のご指摘ありましたらご連絡ください。それでは。


***
以上の文章まで、どなたか代理をお願いいたします。
105創る名無しに見る名無し:2013/02/28(木) 20:42:02.08 ID:JuE5QAvN
代理投下乙です
仗助のキャラはやっぱりいいな
今後のHERO達に期待したい
106創る名無しに見る名無し:2013/03/03(日) 01:14:49.09 ID:uvvp3crX
的は得る物じゃなくて射る物(ry
107 ◆c.g94qO9.A :2013/03/06(水) 01:08:19.00 ID:p3iVqiAh
投下します。
108 ◆c.g94qO9.A :2013/03/06(水) 01:09:17.14 ID:p3iVqiAh
一人の男がわき目もふらず、走り続けていた。
まるで一羽の鳥が飛び去っていくように家の間を影が縫ってゆく。時折聞こえる音はサンドマンの脚が屋根をうつ音だ。
だんっ……、だんっ……、だんっ……!
リズミカルに音を刻みながらサンドマンはひたすら走る。行く当てはわからない。ただ立ち止まってはいられなかった。

立ち止まっていては何か嫌なことを考えてしまいそうで……サンドマンはただただ走っていた。
呼吸が乱れて、足がもつれる。空中でバランスを崩し、いつものスピードが出ない。ひどいものだった。
その姿にあの砂漠の健脚、サンドマンの面影はなかった。無理もない。今の彼は悩める青年、サウンドマンだ。

理想と現実のはざまに揺れ、必死で抗おうともがく青年。
故郷を愛し、故郷を背負い……しかしその故郷すらいずれ消えてなくなってしまうと知ってしまった、孤独な青年。

サンドマンは更にスピードを上げ走っていく。全身が休息を求めている。心臓と肺がものすごい勢いで稼働する。骨と筋が軋んで、鳴いた。

音は途切れない。だん、だん、だん……。それでもサンドマンは止まらなかった。止まれなかった。サンドマンはひたすらに走る。
彼は疲れが欲しかった。痛みが欲しかった。なんでもいいから気を紛らわせるものが欲しかったのだ。
感覚でもいい。感情でもいい。なんなら心奪われる風景なんて最高だろう。
なんだってよかったのだ。ジョニィ・ジョースターが言ったあの言葉を忘れさせてくれるのであれば。

想い浮かべまいとしていた一節が、針のようにサンドマンを突き刺した。
どんなに疲れていても、どんなに身体が痛んでも、歪まなかった顔に軋みが入る。
サンドマンは苦痛に顔を歪めた。遠くどこからか、乾いた声が聞こえてくる。


―――君の部族は、もう、死んだんだ。


硬いアスファルトを蹴った時、足の裏を鋭い痛みが走った。サンドマンは奥歯をぎゅっと噛み、それに耐える。
よろけた身体をたてなおし、そのままの勢いで進んでいく。痛みはそれほど重いものではなかった。
訪れたのが唐突だったのと同じように、消え去っていくのも唐突だった。一瞬だけ走った痛みは宙に消える。
大丈夫だ、まだ走れる。誰にいうでもなく、サンドマンはそっと囁いた。まだ走れる。俺はまだ……―――。



109 ◆c.g94qO9.A :2013/03/06(水) 01:12:24.73 ID:p3iVqiAh
どれほど走ったころだろうか。辺りの風景が少しずつ変わり始め、やがて完全に別のものに代わっていった。
まるで別の世界に入り込んだようだった。閑静な住宅街から一変、奇妙な動物を模した像がいたるところに姿を現したのだ。
奇妙な光景だ。だが、違和感はなかった。サンドマンは脚を緩めるとゆっくりと歩きながら、テカテカと光る像を眺める。

これを作った人は一体何を考えながら作ったのだろう。像の表面をそっと撫でればそれはざらざらとしていて、意外にも生温かい。
サンドマンは口をぎゅっと閉じたまま、思う。彼の故郷にもたくさんの像がある。木で作られ、天を突くように建てられた多くの像。
物心つくころからそこにあり、自分たちを見つめるように立っていた像。

これを作った人もそうなるようにと願って作ったのだろうか。サンドマンは思った。一族を、国を見守るようにと願って作ったのだろうか。
像は何も言わなかったが、サンドマンはしばらくの間じっとそこに立ちつくしていた。
郷愁が彼を包んでいく。サンドマンの脳裏には考えまいと思っていた砂漠の風景がくっきりと浮かんでいた。


故郷を思う気持ちは民族を超えるのだろうか。サンドマンは思う。
そうかもしれない……。そこで暮らし、そこを愛せば、誰にだって故郷は大切なものになる。そしてそこは“帰るべき場所”になる。
人はいつだって、誰だって帰る場所を探しているのかもしれない。そうでなければあまりに寂しいから。
誰もいない静かなる道をたった一人で駆け抜け続ける……それではあまりに孤独すぎるから

そこまで考えて……サンドマンはグッと奥歯を噛んだ。考えてしまったのだ。
ならばサンドマンの生まれ故郷で生まれた白人たち……彼らもまたサンドマンたちと同じなのではないか、と。
白人たちとて同じだったのではないか。聖なる大地は一つだが、それになりうる故郷は人それぞれに、無数にある。
サンドマンにとっての故郷は、白人たちにとってもまた故郷になりうるのではないか。


「……だからと言って」


サンドマンは火傷をしたかのようにさっと手をひっこめると、改めて像を見る。像は突如として生々しく、グロテスクなものに姿を変えていた。
白人を赦す気はさらさらなかった。赦せる理由もない。
彼らは殺すのだろう。そして奪っていくのだ。サンドマンが守りたいと思っていたものを一つ残らず、全て。

いつのまにか止めていた脚を動かし始める。呼吸を整えるように静かに歩き出し、サンドマンは心を落ち着けようとした。
しかしそう簡単に心は静まらなかった。嫌でもジョニィの言葉が蘇ってきて、それは実像として脳の中で浮かび上がった。

山のように積み上げられた死体。池のように広がる血。腐臭を放つ砂漠の風。
額に嫌な汗が浮かんだ。サンドマンは頭を振って、映像を頭の中から追い出す。何度も、何度も。
その像がなくなるまで、繰り返し……。


―――君の部族は、もう、死んだんだ。


それはなかなか難しいことだった。砂漠の砂をすくい上げるかのような、途方もない行為。
それでもサンドマンは何とかしようと繰り返して……―――その時だった。
110 ◆c.g94qO9.A :2013/03/06(水) 01:15:20.19 ID:p3iVqiAh
「―――ッ!?」


突如視界の右端から輝く閃光がサンドマンに襲いかかった。反射的に身体を捻る。右腕の上部分を鋭い爪が、サッとかすめた。
一跳び、二跳びでその場を大きく後退するも追撃者は手を緩めない。サンドマンの肩から脚にかけ、大きく切り裂かんと腕を振るう。
サンドマンは間一髪のところでこれも避ける。返しの切り上げもかわし、さらに後退する。その時ようやく襲撃者の姿を視界に捕えた。

恐竜だ。一メートル大で、テカテカと鱗を輝かせた気味の悪いハ虫類。鋭く伸びた歯と研ぎ澄まされた爪が怪しく光る。
サンドマンはスタンドを傍らに呼び出すと、迎え撃つ構えを取った。更に襲いかかってきた恐竜向かって、スタンドの拳を振るう。
直撃を喰らわせることはできなかったが、恐竜が大きく跳びはねたおかげでサンドマンに余裕が生まれた。
サンドマン、さらに後退。大きく距離を取る。さっきまで眺めていた像を踏み、さらに跳ね、そうしてまたさがる。

恐竜との間に二十メートルは距離を取る。追撃は来なかった。何を考えているのかわからない不気味なにやつき顔で、恐竜はサンドマンのほうを向いているだけ。
睨み合ったままサンドマンはあたりの気配を探った。風が動くのを感じる。もう一匹……いや、後二匹はいるだろう。
状況は予想以上に悪化しているようだった。思わず舌打ちがこぼれる。考え事をしているうちに、まんまと罠の中に飛び込んでしまったということか。

「『イン・ア・サイレント・ウェイ』ッ!」

スタンドの名を呼ぶと、その能力を発動する。あらかじめ拾い上げておいた石、葉、その他投げれそうなものに“文字を込めておく”。
何が起きても対処できるように。誰が襲いかかってこようと迎え撃てるように。
目の前の恐竜からは一切眼をきることなく、辺りの音に注意する。

そう、サンドマンはこのスタンドを“知っている”……。スタンドだけでなく、その持ち主も……。
何かが起きるはずだ……。サンドマンは思った。この絶対的有利な状況で、『あの男』が何もしないはずはない……。


そうして微動だにしないサンドマンの頭上から……突如として声がかけられる。
声の方向を見上げればサンドマンの眼に映ったのは一人の男と、その腕に抱かれ眠る少女。
ディエゴ・ブランドー、そしてルーシー・スティール。一段と大きくド派手に輝く像の上に立ち、ディエゴが口を開いた。
馬鹿馬鹿しいほどに、丁寧な口調だった。

「やぁ、ご機嫌よう……サンドマン」
「ディエゴ……ブランドー……」




111 ◆c.g94qO9.A :2013/03/06(水) 01:17:55.11 ID:p3iVqiAh
黄色く細ばめられたその目は、凶暴な肉食動物を彷彿させた。獲物を逃がさんとする、捕食者の眼。
サンドマンが黙ったままいるとディエゴは口の端を歪ませ、続ける。

「思ったより元気そうで何よりだよ」
「…………」
「おいおい、そう固くならなくてもいいじゃあないか……一度とはいえ、コンビを組んだ仲だろ?」
「…………」

サンドマンは何も言わなかった。黙るサンドマンを見て、ディエゴは笑みを深める。
嘲るようでもあり、微笑んでるようにも見える。いちいち癪にさわるヤツだ、とサンドマンは思った。
そうやっていつの間にか自分のペースに巻き込んでいく。詐欺師の様な男だ。
サンドマンは右手に潜ませた小石を握りなおした。姿を現さなかったころより一段と相手の行為に注意を払う。
姿を見せないというアドバンテージを捨てた以上、必ずや何かを仕掛けてくる。ディエゴ・ブランドーとはそういう男だ。

「だんまり、か。君と組んでた時は親切にしてやったつもりなんだけどな」
「お前とおしゃべりをするつもりはない。何が狙いだ? 用があるならばさっさと済ませたい」
「やれやれ、へそを曲げられてしまった。世間話もできないぐらいに神経質とはね。
 そんなに警戒しなくてもいいだろう? その右手に持った何か、おいてくれてもいいんじゃないか?
 何もとって喰おうというわけじゃない。いや、俺がいくら恐竜だからって人喰いはナンセンスさァ……。
 それとも……俺みたいな白人野郎とは話す価値もないってつもりか?」
「…………」

サンドマンの影が一段と濃くなったのを見て、ディエゴは満足そうに笑顔を深めた。
ディエゴ・ブランドーとはこういう男だ。まとわりつき、すり抜け、絡みとっていく。
その自信満々の態度が鼻につく。捕え所のなさが苛立たせる。しかしそれすらディエゴの策略の一つにすぎない。
戦うのであれば冷静でなければならない。相手にするのが間違いなのだ。

サンドマンは一旦視線を外すと、そっと息を吐いた。少しだけ気持ちが落ち着いた。
つっかかってくるとディエゴは予想していたのだろう、感心したように唸る。サンドマンは口を閉ざす。何を言っても無駄だろう。
挙げ足を取られ、口車に乗せられるだけだ。表情を変えないように心を空っぽにする。顔の皺ひとつ曲げないようにサンドマンは気をはらった。
ディエゴが口を開く。ゆっくりと、そして仰々しく。


「それか、ああ……―――」


しかし直後の一言が全てを変える。
その時、ディエゴの顔にはこれ以上ないほどの爽やかな笑みが張り付いていた。
思い通りだと言いたげであった。ならば……とディエゴはわかっていて、敢えてそうしたのだろう。
そうしたほうがサンドマンが傷つくと。サンドマンが動揺すると。確信して。


「さては、サンドマン……君、死んだ後から呼び出されたのかい?」


サンドマンの中で再び時が止まった。ジョニィ・ジョースターの言葉を聞いた時のような、真っ暗な何かが彼を見返していた。





112創る名無しに見る名無し:2013/03/06(水) 01:18:36.87 ID:hm7/28Dx
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
113 ◆c.g94qO9.A :2013/03/06(水) 01:20:48.48 ID:p3iVqiAh
「いま、何て、言った……?」
「おや、違ったのか。だとしたら失礼なことを言ってしまったなァ……忘れてくれ、“サウンドマン”」
「……今なんと言ったかと聞いている。答えろ、ディエゴ・ブランドー」

ディエゴの隣に立つ恐竜がせわしなさそうに身体を振った。ディエゴはその上にルーシーをそっと横たえると、顎に手をやり微笑んだ。
沈黙が焦燥を駆り立てる。サンドマンは拳をぎゅっと握りしめた。ディエゴの顔に浮かんだあの笑顔、それをなんとかして剥ぎ取ってやりたいと思った。
ディエゴの顔に張り付けられた、あの勝ち誇ったような笑顔……ッ! 何かしないと爆発してしまいそうだった。
握りしめた拳をすり抜け、小石がボロリと砕けていった。

ディエゴはわざとらしくため息を吐き、これ以上ないほどもったいぶって頭を振った。
劇団員にでもなったつもりだろうか。サンドマンの中で苛立ちが募る。仮にせっついたとしてもディエゴが口を開くことはないだろう。
面白がって余計もったいぶられるだけ……。そうわかっていても……そうわかっていても尚、サンドマンは口を開かずにいられなかった。
ディエゴの言葉を確かめずにはいられなかった。

「“俺が死んだ後”……。つまり俺は死ぬのか。いつ死ぬんだ? どうやって死ぬんだ?」


―――まさかお前が俺を殺したのか。

思わずその問いかけが零れ落ちかけた。それは考えられる未来の一つ。
サンドマンの歴史は大統領と取引をし、ディエゴとチームを組んだところで止まっている。あの直後にサンドマンはこの場に呼び出されたのだ。
サンドマンは知らない。ジョニィ・ジョースター襲撃は失敗に終わるのか成功に終わるのか。そもそもジョニィは遺体をサンドマンに引き渡すか。

いや……それはない、とサンドマンは否定する。
ジョニィのあの鋭い眼光を思い出す。あの男がみすみす遺体を引き渡すなんてことがあり得るだろうか?
いいや、ない。ならば自分は戦ったのだろう。ジョニィ・ジョースターとサンドマン……そして裏に控えるディエゴ・ブランドー。

二人がぶつかり合っているところをディエゴが掻っ攫った? 負傷した隙をつき、サンドマンは用済みと切り捨てられた?

ありえる。十二分にあり得る未来だ。サンドマンはただただディエゴの返事をまった。重々しく、更にもったいぶるであろう男の言葉を待つ。


「ジョニィ・ジョースターだ。お前を殺したのはジョニィだ」


だからこそ、何でもないようにあっさりと言いのけられたその言葉はより衝撃的だった。
サンドマンはしばらくディエゴが何を言っているのか理解できなかった。
ジョニィ? ジョニィ・ジョースター? あのSBRレースに参加していて、つい今さっき会話を交わした? あの青年が? 俺を?

サンドマンの動揺を読み取ったディエゴがにんまりと笑う。嫌な笑みだ。下劣で、品の悪い笑み。
優雅に像から飛び降りると慣れ慣れしくサンドマンに近づいてくる。サンドマンが咄嗟にスタンドを構えなければ肩を組みかねない勢いだった。
少し距離を取って立ち止まると、ディエゴは頬笑みを浮かべたまま口を開いた。面白がっている口調だ。それがサンドマンの神経を逆なですると、承知の上で。

「その顔、さてはジョニィと会ったんだな。いつあった? まさかついさっきだなんて言うんじゃないだろうな?
 なんてこった、些かできすぎってものだろう! 自分が殺そうとした相手! 自分が殺された相手!
 そんな男とついさっきまで一緒にいた……俺だったらあまりのことに震えるね。寒気だってする。がたがたしちまうぜ」
「…………」
114 ◆c.g94qO9.A :2013/03/06(水) 01:24:26.86 ID:p3iVqiAh
嘘を言ってるのではないか。
サンドマンはディエゴの顔を見つめ、そうも考えた。だがディエゴ嘘をついて何の得をする?
無論ディエゴが信用に値する男だなんて、そんなことは思っていない。だが、それでもサンドマンはディエゴを頭が回る男だと思っていた。
少なくとも下手にばれるよな嘘をつく男ではない。こんなサンドマンがジョニィに尋ね、それだけで崩れる……そんな雑な嘘をつく男では。


「言っておくが、本当のことだぞ」


サンドマンの考えを見透かしたように、ディエゴがそう言い放った。
口調はまじめそのものだった。ニヤつき顔は豹変し、真剣そのものの表情でディエゴは言った。
一瞬、サンドマンはディエゴの言葉を信じかけてしまった。まさにその感情の上げ下げこそがディエゴの策略だと知っていながらも。

しばらくの間、二人とも口を開かなかった。聞こえてくるのは時折ディエゴの隣に立つ恐竜がうなる声、ルーシーがその上で揺れおきる衣擦れの音。
静寂は一分にも満たない短いものだったが、とても長く感じられた。サンドマンを見つめるディエゴ。足元をじっと見つめ、俯くサンドマン。

サンドマンは理解する。


―――そうか、俺は殺されるのか。あのジョニィ・ジョースターに、新たな道を授けた男に、俺は殺されるはずだったのか。


はじめは微かなものだった。ディエゴは最初サンドマンのその変化に気づかなかった。
風のさえずりかと思えた僅かな音。その後に気づいたのは細かな揺れ。ディエゴが気づけば、サンドマンの肩が細かく揺れていた。
何かに堪えるように、感情の起伏を押さえつけるように。
ディエゴはサンドマンにばれないよう、ほんの少しだけ鼻に皺を寄せた。


―――笑っている……? この状況下で……サンドマンが?


サンドマンは笑っていた。声をたてることもなく、歯を見せることもなかったが、肩を揺らし、彼は笑っていた。
それはあまりに壊れきった、疲れ切った笑みだった。とても淋しげな笑顔を彼は浮かべていた。サンドマンは沈黙の一分間、その笑顔をずっと貼り付けていたのだ。
あまりに自分が馬鹿らしく、あまりに何もかもが理不尽で……。もう投げやりな気分で、サンドマンはただ笑うしかなかった。


―――俺は死ぬんだ。殺されるんだ。あのジョニィ・ジョースターに殺される。


怒りがないと言えば嘘になる。ジョニィに対する怒りだ。何故お前は殺した相手にああも素直になれたのか。優しくなれたのか。
俺を殺した罪悪感はなかったのか。よくもぬけぬけと自分と話せたものだ。肝の据わったあの眼はそういうことだったのか。
そうやってジョニィに問いただしたかった。八つ当たり気味に、そう言い放ってやりたかった。

だがそれ以上に……それ以上の虚無感が、サンドマンを覆っていた。厚さもわからない、黒い膜のようなものが彼を覆う。
足元が不安定にゆがんだ。硬い地面に立っているはずなのに、まるで揺れる水面を歩くかのようだった。
こんな短時間の間にこうも俺は立て続けに衝撃を受けないといけないのか。そうサンドマンは自嘲的に思った。
はじめは民族の終わり、続いて自分の死。どちらも自分をひっくり返すには充分な衝撃だ。充分過ぎて、何かもを放り投げたくなるほど。
115 ◆c.g94qO9.A :2013/03/06(水) 01:26:06.66 ID:p3iVqiAh
何故自分は戦っているのだろう。何のためのあのレースだったのだ。
何のためにあれほどの苦しみに耐えたのだろうか。何のために民族全員に追いまわされ、物辛く当てられ、悲しい迫害を受けてきたのか……。

サンドマンの中でわき上がったのは虚しさだ。ゴールのない迷路をただひたすらに歩くかのような、そんなずっしりとした虚無感。
民族が死ぬ、一族が滅ぶ。なるほど、それはサンドマンが危惧した起こりうる未来だった。
それを避けるため必死で走り、殺しに手を染める決意をし……そしてこれからもそのために走り続けようとした。
命をかけ、人生をかけ……今度はその上“自分も生き残る”という更なるハードルをかしてでも成し遂げようとした。

だがそれでも一族は滅ぶ。そして自分は死ぬ。それもジョニィ・ジョースターの手で。ディエゴ・ブランドーに利用され。

お笑い草だ。あまりに惨めだ。それはサンドマンの一族が辿る未来、それの縮図そのものではないか。
白人どもに翻弄され、白人どもに利用され、白人どもに殺される。不都合な真実は隠され、それを告げるのも白人。新たに道を与えたのも白人。


白人、白人、白人、白人……ッ! 滑稽だ! あまりに滑稽じゃないか!


ならばサンドマンが今まで成し遂げたことは何だったというのだ?
今までやってきたこと全部……! 得てきたもの全て……! 身につけたもの、努力したもの、成し遂げようとしたもの、全部、全部、全部…………ッ!
全て、文字通り! ただレールの上を走ってきただけじゃないかッッ!!

与えられたコースに沿い、進んできただけ。自ら選んだと思われた道は……ただ切り取られたトラックでしかなかったのかッ!


考えれば考えるほどおかしかった。そして惨めだった。自分が。そして一族が。
自分たちはどうあがいても死ぬ運命でしかないというわけか? “神”に愛されていない人間には生きる価値もないと?
それが“白人の愛する神”が……選んだ道だとッ……!?


ディエゴは笑顔も、神妙さもその顔からはぎ取ると、ただまっすぐサンドマンの顔を見た。
サンドマンの顔に浮かんだ表情は、見ているほうが心痛むような、悲しげな笑顔だった。泣きたいのを押し殺した先に浮かんだ、歪み切った笑顔だ。
尤もディエゴはそんな彼に同情する気など、一切起きはしなかったが。

「お前の言葉を信じよう、ディエゴ・ブランドー」
「……それはどうも」
「それで、信じた俺に何か言うことでもあるのか?」

ディエゴは肩をすくめた。状況を察するに今から何を言っても無駄になるだろうと思えた。
たった今サンドマンの葛藤を見せられた以上、これから口にしようとすることに彼が賛成するとは思えなかった。

「俺ともう一度組まないか」
「断る」
「だと思ったよ。やれやれ」
116創る名無しに見る名無し:2013/03/06(水) 08:05:44.19 ID:p3iVqiAh
536 : ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:28:38 ID:/z9qDo4g 本スレ>>115の続きです

乗馬メットからはみ出た髪を撫でつけると、ディエゴはため息を吐いた。
どうも調子が狂う。色々計算外のことが起き、面倒なことになったな、というのがディエゴの本音だった。
最初はからかい半分、搦め手半分のつもりだった。サンドマンはどうやら色々知らないらしい。これは利用できる。ヤツの興味を引き、なんとか利用してやろう……と。
そんな軽い言持ちで話しだしてみれば……なにやらジョニィ・ジョースターと色々あったことがサンドマンの表情から読みとれた。

悲しみ、苦しみ、虚しさ。そんなところか。
馬鹿らしい、とサンドマンの耳に届くないよう、口の中で呟いた。
何を悩む必要があるのだ。何をそんなに苦しむことがあるのだ。

ならば勝てばいいだけじゃないか……ッ! スティール・ボール・ラン・レース? 百万ドルを超える賞金と名誉?
それすらが馬鹿馬鹿しくなるほどの商品が、今目の前に転がっているではないか。あのスティール自身もそう言っていた。
たかが“レース”が“殺し合い”に変わっただけのことだ。ならば悩む必要などない。
勝てばいい。奪えばいい。それだけのことだ。そしてディエゴはそのつもりだ。


―――尤も、俺は大人しく“受け取る”だけで満足するつもりはないがな。


「白人の傲慢さにはもはやあきれ果てた」

脈絡もなく、突然サンドマンがそう呟いた。途端にディエゴは一歩踏み下がり、指笛を吹く。辺りに潜んでいた恐竜に合図を送る。
傍らに立っていた恐竜がその音に反応し、鼻をぴくぴくと鳴らした。そして背中に乗せたルーシーを落とさないよう、二人から離れた位置に飛び下がる。
野性動物でも感じ取れる、不穏な空気が辺りを漂っていた。ディエゴを睨むサンドマンの視線は鋭かった。
そして……何もかもを乗せたように重苦しく、どす黒かった。

ディエゴはそんな視線をそよ風か何かのように軽く受け止めると、首の骨をならし、軽く肩をまわしていた。
戦いの前の準備体操と言ったところか。そこに緊張や重荷を感じ取ることはできなかった。
ディエゴにとって何かを奪う、誰かを打ち倒すということはあまりに軽い、当たり前の行為に思えた。

「組むつもりもないのなら不戦条約は?」
「却下だ」
「“領土不可侵条約”も?」
「馬鹿にするな、“白人”」
「ウィットに富んだジョークと言ってほしいね。俺はイングランド出身だからな」
117創る名無しに見る名無し:2013/03/06(水) 20:06:17.85 ID:hm7/28Dx
537 : ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:29:31 ID:/z9qDo4g
ニヤッと笑みを見せたディエゴ。その口元で鋭く尖った歯が輝いた。人間にしてはありえないほど、鋭い歯。
サンドマンが腰を低く下ろす。ディエゴが爪と爪をぶつけ合わせ、カチカチという音が辺りに響いた。
空気が張りつめていく。風が奇妙な動き方をした。像と像の間を通り抜け、二人の頬を優しく撫でていく。
サンドマンが口を開く。

「もう何も信用できない」
「それは俺が白人だからか?」
「信じられるの自分だけだってことだ」
「それが白人に与えられた知識を前提に下した判断だとしても?」
「例えそうだとしてもだ」
「なら俺としても仕方がないなァ……」


一瞬の空白。呼吸を整える瞬間、静寂が降る。

「俺が引導を渡してやる、野蛮人」
「一族を舐めるな、白人風情が」

ディエゴの姿が一変する。全身を鱗が覆い、身体が縦に一気に伸びる。
サンドマンの傍らに立つスタンドが、その身体につけた羽を震わせた。まるで踊っているかのようだった。サンドマンの一族が戦いの前に踊りを踊るように。

両者の足元から砂埃が舞った。地を蹴り、弾丸のように空を跳んでいく。
叫び声が重なり合う。ディエゴが爪を振るう。サンドマンが拳を突き出す。

戦いの始まりだ。



118創る名無しに見る名無し:2013/03/06(水) 20:07:04.69 ID:hm7/28Dx
538 : ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:29:50 ID:/z9qDo4g


―――戦いは長く続かなかった。結末はあっけないほど簡素で単純だった。


戦いの図は追うディエゴ、逃げるサンドマンの形。
サンドマンは冷静だった。冷静に自分の不利な状況を受け入れ、そして最善の策を取った。
即ち、逃げながらの各個撃破だ。目に見えただけでディエゴを含め二匹の恐竜。ディエゴの性格から考え、まさかそれだけでお終い、というわけはないだろう。
一対多は避けられない……。ならば可能な限り、自分の有利な状況を作り出す。一度に多数を相手にするのでなく、できるだけ一対一の状況を作り出すのだ。
そのためにサンドマンは走った。像と像の間を風のようにすり抜け、乾いた大地を思いきり蹴りあげ、颯爽と駆けていく。

走り出すと、像越しに右側から迫って来る恐竜が見えた。左後方にも二匹、その姿を現す。そして背後からはディエゴ本人、ルーシーを背中に乗せた二匹。


「……全部で五匹」


進路を左に切り、円を描くように駆けていく。ジグザグに像の間を抜け、途中で急に反転。踏み越えたり、出し抜いたり……サンドマンはまずは恐竜たちの包囲網を崩そうとした。
だが恐竜たちはサンドマンのかく乱作戦に粘り強くついてくる。立ち止まりはしても、すぐに気を取りなおしたように包囲網を引き直す。
司令塔のディエゴの裏をかかない限り、ヤツらの連携は破れはしないということか。

「ならば……」

サンドマンは低い体勢のまま、こっそりと指の間から小石を滑り落とした。隠し持っていた木の葉もカムフラージュできるよう、落ち葉に紛らす。

追いすがるならばその足を奪うまでだ。音を乗せた攻撃でまずはその足を駄目にする。そして負傷し、足並みが崩れ、バラバラになったところを一人ずつ、始末する!
サンドマンがスパートをかけ、速度を上げる。たちまち恐竜たちの姿が後方に消え、同時にに叫び声があちこちから挙がった。
それは苛立ち気な声であったり、悪態をつくような鳴き声だったり……。察するにサンドマンの作戦は上手くいっているようだった。
まきびしのように巻いた音、罠のようにひそめたスタンド攻撃。絶えずついてきていたディエゴの姿も消えた。かく乱作戦は成功だ。ここからはサンドマンが追う番だ。
スピードを緩めブレーキ、そして反転。サンドマンは元来た道を引き返すと恐竜たちを探し始める。


小石や葉に込めた音はそれほど大きいわけでない。モノ自体が小さいため、ダメージはせいぜい足の裏に傷をつける程度だろう。
しかしそれで十分だ。痛みに足を止めたならば、包囲網が崩れ、連携が取れなくなり……あとはそこを一匹ずつ殺っていく。
サンドマンの眼光が暗く、鋭くなった。狩られる側から狩る番へ。攻守交代だ。

音と叫びを頼りに一匹ずつ処理していく。あっけないものだった。分断された個の恐竜たちは、あまりにもろく、簡単に倒れていった。
自慢の動体視力も脚が満足に動かなければ意味がない。身体がついて行かず、『イン・ア・サイレント・ウェイ』の拳を受け一匹、また一匹と倒れていく。
ある恐竜は最後まで必死であがき、ある恐竜は懇願するように泣き叫んだ。哀愁を誘う姿であったがサンドマンは容赦しなかった。
一切の慈悲もなく、スタンドの拳をその鼻先に叩きこんだ。恐竜たちは音を込められ、バリバリと身体を二つに裂かれながら絶命した。


「これで、三匹目……」


どさっ、と音をたててその身体が地面に倒れた。足元に広がる血を目にも留めずサンドマンはすぐに走り出す。
残るはディエゴ本人と、その近くにいた一匹のみ。油断はできない。やはり一番注意すべきはディエゴ本人だ。
119創る名無しに見る名無し:2013/03/06(水) 20:08:54.66 ID:hm7/28Dx
539 : ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:30:14 ID:/z9qDo4g
風が通り抜けていく。今のサンドマンは冷酷ッ! 残忍ッ! 白人に対する、逆恨み的なテンションが彼の体を突き動かしていた!

少し開けた場所まで出ると一旦立ち止まり、辺りを伺う。音は聞こえず、空気も震えない。
ディエゴはどこにいるのだろうか。まさか逃げてはいないだろうか。

「俺を探しているのか?」

再び声が頭上から降り注いだ。最初の時と一緒だ。サンドマンは反射的に声のほうを見上げた。
見下ろすディエゴ、見下されるサンドマン。状況はディエゴ不利だというのにその気配はみじんも感じさせない。
いつもの余裕さ、優雅さを携え、ディエゴは静かにサンドマンを見下ろしていた。傍にいた恐竜も今はいない。
一対一、絶好のチャンスだ。サンドマンは脚に力を込めた。像の上だろうとこの距離ならば一跳びで詰められる。

「まァ、待てよ。サンドマン」

遮るように、ディエゴは掌を向けると言った。サンドマンの出鼻をくじくように言葉を続ける。

「戦って改めて思ったが、君は相当の実力者だ。称賛に当たる。ここで殺すのはあまりに惜しい」
「…………」
「俺の自慢の恐竜たちがいつの間にか三匹もやられた……ほとんど音もなく、気配も感じさせなかった。見事だぜ。
 暗殺稼業でも開けば売れっ子間違いないな……。羨ましいね。ランナーからの転職をお勧めするよ」
「御託はいいからさっさとかかってこい」
「まぁ、待て。そう慌てるなよ……ッと!」

音速で飛んできた小石を器用にかわし、ディエゴはにやりと笑った。こんなときでも笑顔を崩さないその余裕はどこから出てくるのか。
サンドマンはもう一度握っていた石を放り投げる。と、同時に本命の攻撃、音を込めた木の葉も上から舞わせる。
だが全て読み切ったかのような動きで、ディエゴはそれすらもかわした。
よく見ればディエゴの身体には傷一つ、ついていない。これまでの恐竜たちとは違い、サンドマンの音を込めた攻撃を全てかわしたということなのか。

「君が始末したのはあくまで偵察隊だったってことさ」

答えるように、ディエゴがそう言った。

「まさかと思うが恐竜たちがたったこれだけで打ち止めだなんて考えていないだろうなァ、サンドマン?
 君を追わせたのはあくまで一部隊でしかないんだぜ。先見隊ってヤツだ。おかげで俺はこの通り、傷一つない」
「…………」
「いやいや、恐ろしいスタンドだ。何て言ったかなァ……そうそう、『イン・ア・サイレント・ウェイ』だったか?
 迎撃にはうってつけだ。なんせスタンドの攻撃がスタンドの攻撃らしく見えないんだからな。
 音を込めたのは石とか枝とか砂とか……そう言ったものだったんだろうな。
 恐竜たちが走ってる途中に呻き声をあげながら倒れていく様は異様だったぜ。もしもあれが俺だったらって考えると……背筋が凍るね」
「…………」
「そう、迎撃にはうってつけ……だがこうやって向かい合ってのサシの勝負ではどうなるのかなァ!?」

言葉を言い終えた瞬間、ディエゴが動いた……! 他の恐竜たちとは比べもにならないスピードだッ!
120創る名無しに見る名無し:2013/03/06(水) 20:10:03.77 ID:hm7/28Dx
540 : ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:31:27 ID:/z9qDo4g
「WRYYYYYYYYYYYY!!」
「『イン・ア・サイレントウェイ』ッ!」

スタンドの拳をすり抜け、音を込めた投擲も全てかわされる。圧倒的な動体視力だ。そしてそれを可能にさせる身体能力もまた、超ド級ッ!
スタンドのラッシュを潜り抜け、ディエゴがサンドマンに肉薄する。迎え撃つように飛び出たため、避けるのは難しい。
サンドマンは前に傾けた身体を宙で思いきりのけぞらせる。エビ反りのような苦しい体勢だ。顎先をディエゴの鋭い爪が通っていった。
苦し紛れに身体を捻り、蹴りを繰り出す。ディエゴはそれすらもかわす。持ち合わせていた投擲を全て放り投げ、距離を取る時間を稼ぐ。

「無駄無駄無駄無駄ァ! 眠っちまいそうなほどスローだぞ、サンドマンッ!」

だがそれすら無意味だった。あまりの速さにサンドマンの眼にはディエゴの姿がダブッて見えた。

サンドマンの顔が苦痛にゆがんだ。熱ゴテを押しつけられたような、鋭い痛みが脳を揺さぶる。
ディエゴの爪が彼の腕を切り裂いていた。右の上腕、深い筋肉の繊維までざっくり。
続いて頬の肉をごっそりと奪われる。爪跡が真っ赤に染まり、鮮血が舞った。こちらも痛い一撃だ。
口の中まで切り裂かれ、一瞬だけ呼吸が止まった。息をするたびに血の味と臭いがする。
ディエゴは止まらない。畳みかけるように、爪を、そして牙を振るう……!

サンドマンは地面をけり上げた。走るためでなく、砂を使った眼つぶしのため。しかし苦し紛れの雑な一発だ。
当然のようにディエゴはこれすらも避ける。砂粒、一粒一粒が見えているような動きだ。
立ち止まることなく、更にサンドマンに襲いかかるディエゴ……ッ! 鋭い爪を頭上高く振り上げる……!



「『イン・ア・サイレント・ウェイ』」


―――その時、サンドマンがそっと囁いた。


ディエゴが手を伸ばせば届くぐらいの距離にいるにもかかわらず、彼の眼は怪しく輝いている。
その目線はディエゴに向いていない。ディエゴは気づく。後ろだ。サンドマンは後ろを見ている……!


―――次の瞬間、影がディエゴを覆った。ディエゴを丸々押しつぶすには充分すぎるほど、大きな影。


ディエゴは振り向いた。振り向かずにはいられなかった。
そして振り向き、その視界に映ったのは……根元からぽっきりと折れた像だった。


ここはタイガーバームガーデン。金色に輝く怪しげな像はそれこそ百を超えて展示されている。
見る者が見ればそれは全部一緒に見えるだろう。旅行者でもない限り、注意をはらわない置物。ただの風景と一緒だ。
木や葉、ただそこにあるものでしかない。

しかしあらかじめそれを罠として利用しようと思っていたならば……?
走りながらも像に触れ、それを一つの武器として利用としようと思っていたならば……!
121創る名無しに見る名無し:2013/03/06(水) 20:11:17.07 ID:hm7/28Dx
541 : ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:33:14 ID:/z9qDo4g

「WRYYYYYYYYYYYYYYYY!」
「ぶっ潰れろ」


どれだけ反射神経が優れていようと。どれだけ身体能力がぬきんでていようと。
脱出不可能な攻撃はある。それ以上の質量、物量で上から蓋したならば、逝きつく先は二つに一つだ。
ディエゴに残された選択肢は、スタンド構えるサンドマンに真正面からぶつかっていくか、そのまま像の下敷きにされるか。
そしてどちらを選んでも……タダで済むわけがない。

砂に音を込め、最後の一押し。完全に折れた像がディエゴを押しつぶさんと降りかかる。
ディエゴは動かなかった。ディエゴが選んだのは不動。
迎え撃つサンドマンのほうには向かわず、ディエゴはその場で踏ん張った。
脚に力を込め、腕をあげる。像を受け止めようと全身に力を込める……!


―――ズゥゥゥゥウウウウウンンンン…………ッ!


地面を揺るがすほどの音が響き、砂埃が舞う。サンドマンの見る眼の前で、黄金の像が完全に落下した。
脱出は不可能だった。出ていく影も見えなかったし、像が持ち上がるようなことも起きなかった。ディエゴは像の下だ。

サンドマンは唇をほんの少しだけ曲げた。罪悪感はないが、気持ちのいいものではない。殺しを楽しいと思ったことは決してない。
ただ必要だったからしただけ、それだけだった。気分は晴れなかった。サンドマンはその場を立ち去ろうと、踵を返した。
ジワリと広がる血の池が不愉快だった。たとえ外道の血であろうと、大地に血が流れることは決して歓迎できるものではない。

沈黙が辺りに降りそそいだ。木の葉がそよぐ音すら、辺りには聞こえなかった……。


「おい、サンドマン! いや、ミスター・サウンドマン!」


静寂を破り、突如として聞こえてきた声。ありえないはずのその声に足が止まった。サンドマンは振り向いた。
ディエゴの姿は見えない。黄金に輝く像がそこにあるだけで、声だけがどこからか聞こえてきた。
よくよく耳を澄ませばその声はどうやら像の下から聞こえてくるようだった。どうやって、とサンドマンは思った。
下敷きになればただで済むはずなんてない……! 脱出も不可能だ。逃げ道なんてない事はサンドマン自身がこの眼で、確かに見ていたはずだというのに!

サンドマンが冷静になるまで、長くはかからなかった。よくよく眼を凝らしてみるとディエゴが何をしたかがわかってきたのだ。
滲んだ血はディエゴのものではない。像が完全に落下したにしては隙間がやけに大きい。
サンドマンは用心しながらその場にしゃがみ、隙間を覗き込んだ。そしてやはりそうか、と納得する。
そこにいたのは恐竜をつっかえ棒のようにし、苦しそうな笑顔を浮かべたディエゴだった。

あの瞬間、ディエゴは一瞬だけ像を支えたのだ。自らが操る恐竜を呼び出す一瞬、その時間だけあれば十分だった。
あとは恐竜を盾に像の落下を待つだけ。勿論恐竜はただでは済まない。しかしディエゴは無事だ。
122創る名無しに見る名無し:2013/03/06(水) 20:12:27.46 ID:hm7/28Dx
542 : ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:34:31 ID:/z9qDo4g
「いやいや、お見事だ。完全にやられたよ。完敗だ、完敗。
 言い訳の一つも出ないぐらい、真っさらな敗北だ。お手上げ、お手上げ」
「こんなときだっていうのによく回る舌だ」
「なぁに、すぐに殺されないってわかってればこれぐらいの余裕は出てくるさ」

その通りだった。サンドマンにディエゴを殺す気はない。“今は”まだ。
サンドマンが尋ねる。

「ルーシー・スティールはどこだ?」

その言葉を待っていたと言わんばかりに、ディエゴはニヤッと笑った。

「俺が素直に答えるとでも?」
「答えないのであれば今度こそ完全に押しつぶしてやる」
「できるものならば、どうぞ」

無言のまま、しばらくの間二人は見つめ合った。折れたのはディエゴのほうだった。

「オーケー、オーケー、降参だ。わかった、君に従おうじゃないか。流石の俺も今回は分が悪い」

音もなく、一匹の恐竜が姿を現す。ルーシーはその背中に乗せられていた。まだ恐竜が残っていたのか、とサンドマンは驚いた。
この様子からすればまだ二匹、三匹……いや、それどころかもっと潜んでいるのではないだろうか。
ディエゴにばれないよう、さり気なくあたりを伺ったが影は見えなかった。油断はできない。
いまだ余裕の見えるディエゴの様子が不気味だった。絶体絶命の危機、サンドマンのさじ加減一つで死ぬのはディエゴだというのに。
追い込まれているのはディエゴのほうだというはずなのにッ!

「丁重に扱えよ、貴重な情報源なんだからな」

ディエゴの神経質な声が聞こえたが、サンドマンはそれを無視した。
恐竜の背中から、そっと地面に横たえる。ルーシーはいまだ眼を覚まさない。
幼い横顔を見つめながらサンドマンは少し躊躇いを感じた。

なんだってやってやる、そう決意したはずだった。
SBRレースに参加すると決めた時、暗殺の依頼を受け入れた時、ジョニィの話を聞いた時……。
分かれ道はたくさんあったはずだ。そして今ここに立っているのは自分が選んだから。

だが、これ以上頑張って何になるというのだろうか。こんな小さくて幼い少女を利用して……それはまるで“白人”と同じじゃないか。

何も知らない、ただ巻き込まれただけの人間を利用する。
サンドマンはルーシー・スティールを知らない。ただスティーブン・スティールの妻であるということしか知らない。
だが妻であるならば……きっと何かを知っているだろう。仮に知らないにしても、主催者であるスティールとの繋がりはルーシーが一番太いのだ。
123創る名無しに見る名無し:2013/03/06(水) 20:13:11.42 ID:hm7/28Dx
543 : ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:34:50 ID:/z9qDo4g 利用してやる……。何も知らないだなんて言わせない。
拳をぎゅっと握りしめ、サンドマンは決意を確かなものにする。そうだ、やってやる。なんだってやってやるとも。
例えそれが無垢な少女を踏みにじる行為になろうとも……。白人たちと同じ、下劣な行為をすることになったとしても……!

サンドマンは振り向くと、ディエゴがいるであろう、像の下を睨みつけた。

そうだ、ならばまずはヤツからだ……。
動けない無抵抗の男を殺す。もはや子供同然の無力で哀れなあの男を、躊躇いなく殺す。

なぜなら……殺らなきゃ殺られる。先に拳を振り上げたのは……お前たち、白人のほうだからだ。

サンドマンは一歩、前に踏み出した。像の下は影に隠れ、ディエゴの様子はわからない。
わからないほうがいいのかもしれない。せめて痛みだけはなく、葬ってやる。それが最大限の礼儀だろう。
サンドマンは更に脚を進めた。像に近づき、そのそばにしゃがみ込み、そして……―――





ルーシー・スティールの腕が、サンドマンを貫いた。






124創る名無しに見る名無し:2013/03/06(水) 20:14:05.30 ID:hm7/28Dx
544 : ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:35:10 ID:/z9qDo4g サンドマンの口から血が溢れた。とめどなく血が流れ、全身から力が抜ける。
なんとか立とうと力を込めるが、それは無駄だった。柔らかな地面を爪先が虚しくひっかいた。
崩れ落ちるようにサンドマンの身体は倒れ、そして二度と起き上がれなかった。
ルーシーは平らな表情のままサンドマンの体から腕を引き抜くと、何も言わず彼を見下ろしている。
サンドマンはようやく気がついた。

ルーシーの肌に浮かんだ鱗。奇妙に縦長の瞳。鋭く尖った爪と歯。そうだったのか、と言葉が口から零れ落ちた。
同時に派手に咳こむと、サンドマンは大量に血を吐いた。内臓を貫かれているのだ。もう長くはないことを理解した。

恐竜化したルーシーが機械のようにぎこちない様子で脚を進めると、像の傍にしゃがみ込む。
ただの少女ではびくともしないであろう像に手をかけると、彼女は軽々とそれを持ち上げた。
ディエゴはゆっくりと像の下から姿をあらわにする。身体を伸ばし、服についた血を気味悪そうに眺め、そしてサンドマンの傍に立つとニヤつき顔で口を開いた。

「気分はどうだ」
「最悪だ」
「俺は絶好調さ、野蛮人」

最初から全て計算づくだったのだろう。
サンドマンがルーシーを利用しようとしていることをディエゴは見抜いていたのだ。
そしてルーシーの安全が保障されるまで自分が殺されないことも、ディエゴはわかっていた。わかっていたからこそ、こうなった。
サンドマンは奥歯を噛んだ。今にも死にそうなほど、弱弱しかった。

ディエゴは鼻を鳴らすと、サンドマンを見下ろした。一切の躊躇いも、慈悲も……情けをかける気配を微塵も感じさせなかった。
先のサンドマンとは対照的な冷え切った眼が彼を見下ろしていた。俺もそうすればよかったのかもしれない、とサンドマンはぼんやりと思った。

ディエゴのように冷徹であれば。ディエゴのように全て割りきっていれば。ディエゴのように開き直って、自らのためだけに動けたならば……。

意味のない仮定だった。全ては終わってしまったことだった。
それでもサンドマンは血の池に沈みながら、静かに思いを馳せた。
あったかもしれない未来と、その手から滑り落ちた希望。どこで間違えてしまったんだ、と呟きがこぼれ出た。
125創る名無しに見る名無し:2013/03/06(水) 21:43:27.37 ID:p3iVqiAh
545 : ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:35:32 ID:/z9qDo4g


何がまちがっていたのだろう。レースに出ることがまちがっていたのだろうか。
やはり一族のしきたりを守っていればよかったのだろうか。白人を理解するには白人らしく、そんな考えが神の逆鱗に触れたというのだろうか。
あの時、あの時、あの時、あの時……。走馬灯のように記憶がわき上がって止まらない。
サンドマンの頬を涙が伝った。悔しかった。砂漠にある、全ての砂粒ほど多くの後悔がわき上がって、感情がせきを切ったように溢れた。

サンドマンは吠えた。大声をあげて、残された力を振り絞って拳を振り上げ、最後の一瞬まで足掻いた。
意味のないことだってわかっていた。どうしようもなく愚かで、惨めで……それがわかっていて一層やりきれなかった。

ディエゴの冷たく、憐れむ瞳を真っ向から見返す。呆れてはてる彼に向って呪いの言葉を吐き続けた。
喉が張り裂けるかと思うぐらい大声をあげた。ただ服を汚すだけとわかっていても、血まみれの拳で、脚で、ディエゴの体を殴った、蹴りあげた。
潔さなどかなぐり捨て、最後の一瞬までサンドマンは抵抗を続けた。ただディエゴを煩わせただけにすぎなかったのかもしれない。でもそうせずにはいられなかった。

ディエゴがその鋭い爪を振り上げる。照りつける太陽が顔に影を落とし、彼がどんな表情をしているかはわからない。
サンドマンはその顔を睨みつけた。もう声を挙げることもできなかった。喉が潰れて、呻き声すらあげられなかった。
しゃがれた声で最後の言葉をつぶやく。誰の耳にも届かないぐらい、か細い声だった。
最後に一粒だけ雫が、頬を伝っていった。


「姉ちゃん……俺は、……―――」


ディエゴが腕を引き下ろした。肉を裂く、ザクッという小気味いい音が辺りに響き渡る。
そしてそれっきり、何も聞こえなくなった。




126創る名無しに見る名無し:2013/03/06(水) 21:51:05.29 ID:p3iVqiAh
546 : ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:36:42 ID:/z9qDo4g
腹が減っていては戦いはできない。
ディエゴはデイパックを開くと、味気ない食事をほうばりながらルーシーの眼ざめを待った。
辺りには血のにおいが充満していた。恐竜の血、人間の血、野蛮人の血……食欲を削ぐようなむせかえるほどの血の臭いだ。
だがディエゴは一向に気にしない様子で淡々と手をすすめた。
ぼうっと頭を空っぽにして、久方ぶりに頭も体もリラックスさせる。辺りの警戒は恐竜たちに任せている。
完全には信用できないが少しの間だけならば大丈夫だろう。ディエゴは何を見るでなく、何を考えるでもなく、ただ機械的に食事を終えた。

ディエゴは気づかない。いや、はたして彼がいつも通り注意深く、狡猾であったとしても……彼はそれを見て何を思っただろうか。
きっと何も気にしなかったに違いない。そう言うこともあるのかと首をすくめるか、馬鹿にしたように唇を曲げるか。

ルーシー・スティールの頬を涙が伝う。声を殺し、喉を押さえ、彼女は一人涙する。
ルーシーは震える手を抑えるように、そっとその両手で自らを抱き寄せた。血から漂う血の臭いに思わずせき込みそうになったが、グッとこらえた。

ディエゴがサンドマンを殺したのだ。そう開き直るのは簡単なことだった。
だがどれだけそう信じても、どれだけそう言い聞かせても……こびり付いた手の感触が、血の臭いが、微かに残った記憶が、音が、映像が……。
ルーシーは涙した。肩を震わせるでもなく、声をあげるでもなく、静かに涙する。

最後の最後に力を振り絞った一人のインディアンが乗せた音。それは誰にも届かず宙に消えることなく、しっかりと少女の体に刻まれていた。

呪いの言葉だ。どれだけこの世を恨んだ事か、どれだけ未練を残しこの世を去ったのか。どれだけの想い、どれほどの気持ち。
それら全てが一つに集約され、ルーシー・スティールの体に刻まれていた。必死で伸ばした腕は、もしかしたら望まぬ相手に届いたのかもしれない。

ルーシーは想う。こっそりと涙をふき、髪の毛を整えると、眼を開いた。

誰もが必死で生きたがっている。誰もが何かを成し遂げたいと願っている。
ならばどうして救われないんだ。神様はいったい何を見ているのだろうか。
救いを求めて、必死であがいて……なのにどうして。なんで。誰も救われず、こんな虚しい結末しか用意されていないのだろう。

サンドマンに託されたのはきっと偶然でしかないのだろう。
いや、サンドマン自身、きっと託したなんて思ってもいないだろう。無我夢中で伸ばした手がルーシーに触れた、ただそれだけのことだ。
だがそれをルーシーは偶然ですませたくなかった。そこに何か意味を持たせたかった。何かをしてあげたかった。
そうでなければ……あまりにインディアンの彼が、可哀想だったから。

よろめく身体を起こし、眼を見開いた。ディエゴは彼女の眼ざめに気づくと、いつも以上ににこやかな笑みを浮かべた。
ルーシーは何も言わず、ディエゴを見返した。後ろ手に回すと、拾い上げたサンドマンの形見をこっそりポケットに忍ばせた。
127創る名無しに見る名無し:2013/03/06(水) 21:55:08.90 ID:p3iVqiAh
547 : ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:37:18 ID:/z9qDo4g


「お目覚めか、プリンセス」
「馬鹿な呼び方しないで頂戴」
「最初ぐらいは上品にさせてほしいね。なんせ君の出方次第で、いくらでも野蛮なことになるんだからな」

すぅと細められた眼を睨みつける。黄色く鋭い目に怯みそうになるが、ルーシーは堪えた。

像から優雅に跳び下りたディエゴが迫る。体が震え、思わず後ずさりそうになる。だけどルーシーはそうしなかった。
彼女より孤独で、気高くて、立派に戦いぬいた男が……ついさっきまでいたのだから。
その生きざまを彼女は受け継いでいこうと決心したのだから。

ディエゴに向かって逆に一歩踏み出した。僅かだが、ディエゴの表情に驚きの影が走ったのをルーシーは見逃さなかった。
ここじゃ場所が悪いわ。そう呟いた。それを聞いたディエゴが指笛をならす。途端に恐竜が二匹、とんできた。

ディエゴ・ブランドーを“出し抜いてやる”……。
なんとも無謀で、呆れるような無理難題。だがしかし、やり遂げてやる。必ずや、やってみせる。
振り落とされないよう恐竜の首に固く腕を回し、ルーシーは思った。その目はもはや脅えた少女のものでなかった。

芯を持ったひとりの人間として、戦う一人の人間として……怪しいまでの輝きを、ルーシーはその目に宿していた。


二匹の恐竜がタイガーバームガーデンを去る。そしてそこには誰もいなくなり、侘しいまでの砂埃が一人、通り抜けていった。




                                 to be continue......
128創る名無しに見る名無し:2013/03/06(水) 21:56:24.77 ID:p3iVqiAh
548 :IN A SILENT WAY   ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:38:02 ID:/z9qDo4g


【サンドマン 死亡】
【残り 61人】



【E-5 タイガーバームガーデン / 1日目 午前】
【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスターズ』
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×4(一食消費)地下地図、鉈、ディオのマント、ジャイロの鉄球、ベアリングの弾、アメリカン・クラッカー×2   
    ランダム支給品2〜5(ディエゴ:0〜1/確認済み、ンドゥ―ル:1〜2、サンドマンが持ってたミラション:1、ウェカピポ:0〜1)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰る
1.人気のない場所を探す。その後ルーシーから情報を聞き出す。たとえ拷問してでも。
2.ギアッチョの他の使える駒を探す。
3.別の世界の「DIO」に興味。
[備考]
ギアッチョから『暗殺チーム』、『ブチャラティチーム』、『ボス』、『組織』について情報を得ました。

【ルーシー・スティール】
[時間軸]:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、形見のエメラルド
[思考・状況]
基本行動方針:スティーブンに会う、会いたい
1.ディエゴを出し抜く。


[備考]
※フライパン、ホッチキス、百科事典、基本支給品×1(食料消費1)がタイガーバームガーデンに放置されてます
129 ◆c.g94qO9.A :2013/03/06(水) 21:57:58.26 ID:p3iVqiAh
549 :IN A SILENT WAY   ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:39:07 ID:/z9qDo4g
以上です。何かありましたら指摘ください。


途中代理投下して下さった方、ありがとうございました。
死亡表記を忘れてたので付け足しました。まだ変な点がありましたら指摘、よろしくお願いします。
130創る名無しに見る名無し:2013/03/07(木) 21:14:38.19 ID:9R5BMdn1
クソ面白かった!
ディエゴが着々と危険マーダーになってますね
それも七部キラーか?

質問ですが、サンドマンにやられた恐竜は何体で、残りは何体なんでしょうか?
131創る名無しに見る名無し:2013/03/08(金) 17:18:12.76 ID:ZDhZTEs6
投下乙!ディエゴが勝って神父かDIOに会ったらというドキドキ感がw

そして頑張れルーシー、君がキーパーソンなんだ
132創る名無しに見る名無し:2013/03/08(金) 17:28:06.32 ID:ZgSs2LP0
投下乙です。

もはやルーシーは手綱を付けられたも同然ッ!
果たして出し抜けるのかッ!?
133創る名無しに見る名無し:2013/03/12(火) 21:36:54.34 ID:IXCVdyIG
保守もかねて。
読み手が増えたようでうれしい。この調子で書き手デビューも増えればいいんだが
134創る名無しに見る名無し:2013/03/15(金) 19:45:32.79 ID:nH0uPFlh
書き手増えてほしいよなぁ…
135 ◆c.g94qO9.A :2013/03/15(金) 23:33:44.05 ID:VZXbxjka
投下します。

>>130
遅くなってすみません。
合計で4匹倒されて、今手元には2匹いるつもりで書きました。
136 ◆c.g94qO9.A :2013/03/15(金) 23:34:27.18 ID:VZXbxjka
脚を進めると草を踏みしめる音が響いた。
さく、さく、さく……。小気味良い芝生の踏みしめる音。同時に草いきれの臭いが鼻をつく。脚の動きに合わせて浮かび上がる風を感じた。
五感すべてが今の自分が何をしているかを示していた。歩いている、ただひたすら真っすぐに。目的地へと向かって、歩いている。

さく、さく、さく、さく…………さく――――

シーザーが足を止めれば、周りの音も止んだ。また歩き出せば音が響いた。
それが何よりもシーザーに知らしめている。
今、自分が一人であるということを。さっきまで隣に立っていた虹村形兆、彼はもうそこにいないことを。

「ちっ……」

盛大に舌打ちを一つすると、シーザーは足を速めた。黙々と足をすすめる。疲れも苛立ちも抑え、ただひたすらに。
視線の先でGDS刑務所が刻一刻と大きくなっていく。目的地はもうすぐそこだ。


シーザーは約束通り森のはずれで形兆を待った。木が無くなった開けた場所で、どう頑張ってもそこを通らずにはいられないであろう場所で待った。
五分が過ぎ、十分が過ぎ、二十分が過ぎ……シーザーははやる気持ちを抑え辛抱したが、形兆は来なかった。
森から浮かび上がる影も、草をかき分ける気配もなく、結局シーザーは諦めざるを得なかった。
後ろ髪ひかれる想いだったが、来なかったということはそういうことなのだろう。

形兆は離別を選んだのだ。シーザーは思った。形兆はシーザーとは違う道を行くことを決心したのだ。
三十分は過ぎたころ、シーザーはデイパックを担ぐと最後にもう一度だけ後ろを振り返り、そして出発した。
残念だが仕方ない、それも形兆の意志だ。シーザーがとやかく言えることではない。
そうしてシーザーは今、一人GDS刑務所目掛け歩を進めている。傍に立つ者もいなく、頼るべき者もいない。
シーザーの背中には孤独で、寂しげな影が落ちているように見えた。

残念なのは、さよならを言えなかった事だ。シーザーは形兆のことを思い出し、そう思った。
結局励ましの言葉も餞別の言葉も送れずに別れることになってしまった。
たった六時間の短い間だったが、形兆には一目置いてただけに、殊更それは心残りだった。

歩きながら、ギュッと拳を握る。まだその手には形兆の横面を張ったたいた感触がハッキリと残っている。
もはや祈ることしかできない。形兆は何を望んだのだろうか。今何を目指して、何をしているのか。
それはシーザーの知らぬことだ。想像しかできない。
137虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A :2013/03/15(金) 23:38:30.50 ID:VZXbxjka
だからシーザーは祈った。死なないでほしいと願うのは無責任だろうから、せめて形兆に『納得』が訪れるようにと。
あの神経質な男が前向きに立ち向かえるよう、シーザーは一瞬目を閉じると、どことも知れぬ神に祈りをささげた。
途端、俺もセンチになったもんだなァ……と苦笑いが漏れる。同時に、いつかメッシーナが話した言葉が脳裏に浮かんだ。


『お前は友人を作るのは下手だが一度惚れ込んだら女以上だ』


誰がいるわけでもないのに、友達なんかじゃねーよとシーザーはつぶやく。
そうだ、友達なら放っておくわけがない。真摯に向き合って語り合って、話を聞いて……そう言うのが友達なのではないだろうか。
誰かが何かを抱え込んだ時、向き合わなきゃならない何かと向き合った時……その時に傍にいるのが友達というものだろう。

「なぁ、そうだろう、JOJO……」

GDS刑務所の入り口が見えてきた。シーザーは心の内で、友にそう語りかけた。
生きているのか、死んでいるのかさえ不透明な、一番の友に。

刑務所の正面玄関、そこの重い扉を音をたてて開けると、シーザーはその間に身体を忍び込ませる。
闇に眼がなれるまでの短い時間、後ろで重々しい音をたて扉が閉まっていった。
シーザーがGDS刑務所に足を踏み入れた瞬間だった。




138虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A :2013/03/15(金) 23:42:31.52 ID:VZXbxjka
―――……なんか嫌な感覚だ。

外はさんさんと太陽が照りつけているというのに、刑務所の中はやけに暗く、じめじめしていた。
それにえらく冷える。まるで冷蔵庫に入れっぱなしのコーラ瓶ぐらい、室内はキンキンに冷えていた。
寒さに震えながら慎重に建物の内部を探っていくシーザー。一呼吸つくと、辺りを見渡した。
これと言って目につくようなものはない。誰かの話声も聞こえなかったし、人がいるような気配もなかった。

「……気のせいだったのか?」

自分の呟きが高い天井に跳ね返って戻って来る。シーザーは息をひそめた。慎重に辺りの気配をもう一度探ってみる。


―――……いや、気のせいではない。


“何か”がいる。そっと視線をペットボドルへ移すと、微かであるが水面に乱れが映っていた。
スタンド使いか? まさか恐怖に震える女の子? そうだったらこんな嬉しい事はないんだが、その可能性は低いだろう。
もしや血に飢えた吸血鬼が? はたまた生き残った柱の男?
それとも……―――それ以上の化け物?

看守の控室とおもしき部屋を通り抜け、更に奥に進んでいく。シーザーはいつ襲われてもいいように構えをとった。
呼吸は乱れていない。体調も良好。怪我もないし、調子は悪くない。
だというのになぜだか汗が止まらなかった。拭っても拭っても汗が噴き出て、額から顎先、腕から指先。身体に沿うように汗が伝って、止まらない。
まるでシャワーを浴びた様に、全身にびっしょりと汗をかいていた。とんでもない圧迫感がシーザーを包んでいる。
シーザーは何か言葉を口に出して自分を励ましたくなったが、口をつぐんでグッと奥歯を噛みしめた。

此方の居場所を知らせてはいけない。例えそれが些細なヒントであろうと……それは致命傷になりかねない。

そう思わせるほどの圧倒的なプレッシャーを、シーザーは感じ取っていた。
シーザーは進んでいく。扉を開き、敷居を跨ぎ、危険が潜む刑務所の奥へ、奥へと進んでいく……。

しばらく進んだところで、一層埃っぽくて暗い一室に突き当たった。微かな光を頼りに辺りを見渡すと、何十にも並んだ大きな影が見える。
そっと近づいてみるとその影は大きな本棚であることがわかった。見れば閲覧用の椅子やソファーも置いてある。
そうか、ここは図書室か。身を隠すにはうってつけの死角が多く、危険が潜んでいそうな場所だ。シーザーは一層気を引き締めると更に奥に進む。
更に奥に、もっと奥に……。そうして図書室をぐるりと一周してみる。図書室には誰もいなかった。

ほっと一息を吐く。やはり気のせいだったか。だがまだ安心はできない。危険が去ったわけでは決してないのだ。
シーザーはドアノブに手を伸ばし、その冷たい感触を感じながらも手首を捻り……その瞬間、その場に凍りついた。


―――……ぱたんっ
139虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A :2013/03/15(金) 23:45:38.86 ID:VZXbxjka
汗が音をたてて滴り落ちた。今まで平静を保っていた波紋の呼吸が、大きく乱れた。

今、確かに聞こえた。本を閉じる音だ。落ちる音でもなく、こすれる音でもなく、閉じる音。
一周した時、確認したはずだ。誰もいなかったはずだ……影も気配も、微塵も感じなかったというのに……!


「誰だッ!?」


暗闇にシーザーの叫び声が吸い込まれる。返事はなかった。しーんとした静寂だけがシーザーを見返していた。
得体の知れない恐怖を前に、先に進むべきか、もう一度戻るべきかは悩ましい問題だった。
気のせいだったのか、と済ませることは随分と簡単なことだろう。何も見ていない聞いていないと自分に言い聞かせ、眼を瞑って先を行くのだ。

「……くそッ」

だがシーザーは敢えて後戻りを選択した。確かに怖い。身体が震えるほどの、謎のプレッシャーも感じる。
しかしこんなことで怖気づくのはツェペリ家の男としてあるまじき行為だッ! 一人の男として退くわけにはいかないッ!
シーザーを突き動かしたのは勇気と誇りだ。
例えそこに得体の知れない何かがあるとわかっていても……。縮みあがってガタガタ震えていたとしても……。
恐怖を背負うことは恥だッ! 恐怖を前に立ち向かうことこそ、勇気なのだッ!

シーザーはドアノブから手を離すと、暗闇広がる図書室に戻る。そしてずんずんと棚の間を進んでいった。
まるで風のように早かった。決心さえしてしまえば、もう迷いはなかった。
進んでいくとほのかな灯りが見える。どうやら蝋燭が灯っているようだ。本をつづる音も聞こえてきた。
疑惑は確信へ、確信ははっきりとした事実へ。ついさっき見回った時はそんなものはなかったはずなのだ。

シーザーは先を急いだ。音の先へ、光のさすほうへ進み、そうして閲覧机のある場所へと飛び出した。


「…………」


蝋燭の薄明かりの中、肘掛椅子に座っている男が一人いる。顔は見えない。
背の高い椅子の裏側と、ほんの少し突き出た男の頭が見えただけだ。こちらに背を向けているためどんな男かはわからない。
ただかなりの長身だということはわかった。その椅子はかなりの大きさで、女性や子供ならばすっぽりと身体が隠れてしまうほどのサイズなのだから。

シーザーは無言のまま、そこに立ちつくした。緊張が走る。身体が固くなる。
なぜだか口を開くことも、椅子の前に回り込むこともためらわれた。シーザーにできることは目の前の謎の男が口を開くことを待つこと。
男が本を閉じ、こちらを振り向き話しかけるのをシーザーは待った。随分と長い時間待たされたがシーザーは辛抱強かった。

「アドルフ・ヒトラーという男を知っているかな」

心地よい声だ、とシーザーは思った。依然シーザーに背を向けたまま、振り向くことなく男は言った。
よく響くテノール歌手のような声だった。シーザーは軽く頷く。
警戒を解かないまま、慎重に答えを口にする。
140虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A :2013/03/15(金) 23:50:14.55 ID:VZXbxjka
「名前はよく聞く」
「“名前はよく聞く”……君は面白い事を言うね」


くっくっくと喉を鳴らす音、じじじ……と蝋燭の芯が燃える音。辺りが静かすぎて二人の声は奇妙に響いた。
パタンと音をたてて男が本を閉じた。机の上に放り投げられた本の表紙が目に入る。
そこには“我が闘争”という題名と共にアドルフ・ヒトラーの写真がでかでかと印刷されていた。

「それで、君は彼についてどう思うんだい?」

答えを返すシーザー。

「……さぁね。生憎俺は政治とか大衆とかにはとんと関心が持てないんでね。育ちも悪い、教育だってろくに受けてない」
「私が聞いているのは君の感想だ。思ったことだ。正確性だとか思量の深い浅いとかは問題ではない。
 君がこの男をどうとらえたのか、どう感じたのか。私が聞いているのはただそれだけさ」
「……あまり好きじゃあないね。好き嫌いでどうにもならないものがあるってことはわかってるつもりだけどな」
「なるほど、君は正直者のようだ。
 私は逆だ。君の逆。アドルフ・ヒトラーという男、私は彼のことを好意的にとらえてる。
 “買っている”と言ったほうが正確だろうか。ひどく興味をそそられるよ……正直いってね」

しばしの沈黙が流れた。息がつまりそうだと、シーザーは大きく呼吸を繰り返した。
シーザーは危うくのところで、アンタのほうがよっぽど面白そうだけどな、なんて軽口を叩くところだった。
きっと言ったところで怒るような男でないことは雰囲気でわかっていたが……そういう問題ではなかった。
この男に心を許してはならないと頭の中で警報が鳴り響いている。それは本能的な、無意識的なひらめきだった。

シーザーはわざとらしく、咳をした。沈黙が気まずかった。男は一向に気にせず、静寂が二人の間を漂っている。
なんともなしに辺りを見渡してみたが、辺りは何も変わっていなかった。
さっきシーザーが来た時と同じような配置、同じような内装が彼を見返していた…………と、思われた。

次の瞬間、シーザーの横顔に険しい影が色濃く映る。警戒心と攻撃性が鮮やかに浮かびあがる。
シーザーが口を開いた。何かに気がついたのだろう、口調はかわらず穏やかだっただけに殊更表情の変化は顕著だった。
シーザーが言う。男は変わらず、淡々とした感じで返事をした。



     ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………
141虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A :2013/03/15(金) 23:53:13.29 ID:VZXbxjka
「こんな暗い中でよく本なんて読めるな。蝋燭はあるがそれでも読書には、ちょっと暗すぎないか」
「慣れてるんだ。暗闇の中で活字を追うと、まるで秘密の研究をしているような気分になる。
 ちょっとしたスリルを味わうと驚くほど内容が頭に入って来るんだ」
「すると、カーテンを閉じたのもアンタかい? 俺が来た時にはもう閉められていたけど今見るともう一枚、ぶ厚いヤツが引かれてる」
「演出には凝るタイプでね。形から入るんだよ。それに実を言うと肌が弱いんだ。太陽アレルギーかもしれない」
「太陽アレルギーね……」



         ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………!



呆れたようにシーザーが息を吐けば、寒さのあまり吐息は白く宙に浮かんだ。
男は一向に気にしない様子だった。変わらず呑気にくつろいでいる。まるで寒さを感じていない様子だ。


「暖炉に火をくべればいいだろう。明るくなるし、寒さも和らぐ」
「生憎火の持ち合わせがなくて」
「そうかい、ならしかたねーな……にしてもアンタ、なんでこんなに寒いのに白い息が出ないんだ?」
「…………」
「それとアンタ、素敵な笑い顔をするよなァ。さっきからずっとにこにこしてやがるが、気になってたんだよ……。
 白くて鋭くて、尖った牙みたいな歯を並べてよォ……思わず見とれるような笑い方しやがってなァ…………!」



                         ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………!



ピシリ、と音をたてるように緊張がわれた。シーザーは今、はっきりと怒りの表情を浮かべていた。
肘掛椅子に座っていた男が立ちあがり、振り向いた。黄金の衣装、怪しげな色気を含んだ横顔。
王は余裕綽綽の態度で、戦士は自らを鼓舞するように猛々しく。
睨み合った視線は火花を散らしているかのようだった。


「ふっふっふっ…………! 貴様こそ随分と素敵な呼吸法じゃないか。久しくその音は聞いていなかったが……なつかしいものだ。
 排水溝にドブ水が流れるような、けがらわしい音だ。耳障りだ……吐き気がする!」
「ディオ・ブランドー……個人的にはてめェのことは知らねェ。なんで消えたはずのお前が、なんてこともどうでもいい……!
 祖父を失った一人の男として! 父を奪われた息子として! 敢えてひとこと言わせてもらうぜ!
 とうとう会えたな、このクソ野郎がッ!」
「随分と悪い言葉を口にするじゃないか、ツェペリのせがれが……!
 付属品の分際で生意気な口を叩くな、間抜けめ。所詮はナンバーツーの、この帝王に踏みつぶされるだけの羽虫がなァ!」
「ほざけ、吸血鬼ッ!  練りに練った波紋をッ! その脳天にぶちまけて、真っ二つに掻っ捌いてやるぜ! 爺さんの仇だッ!」
142虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A :2013/03/15(金) 23:58:28.32 ID:VZXbxjka
シーザーが脚に力を込め、跳躍する。祖父と同じような、いや若い分それ以上の跳躍力で! 上空からDIO目掛け襲いかかるッ!
天井付近まで浮かび上がったシーザーが、忍ばせて置いた石鹸水に手を伸ばす。
シーザーお得意のシャボンランチャー! これを受けて倒れなかった吸血鬼はいまだかつて存在しない!
まさに一撃必殺! 王を前にしても、戦士は一切動じるなかった! これが波紋戦士! これがツェペリ一族!
一面を覆い尽くさんとばかりに浮かんだシャボン玉! かわすことも避けることも不可能ッ!
さらにッ! 追撃とばかりにシーザー自身の拳が迫るッ! DIOに逃げ場はないッ! 待ち受けているのは死、それのみだッ!


「喰らって消えろッ! ディオ・ブランドォオオオオオ――――ッ!」


―――シーザーの叫びを遮ったのは何十もの重なった銃声だった。


パン、パン、パン……と面白いようにシャボン玉が撃ち抜かれていく。
同時に宙に浮かんだシーザーの体が奇妙にゆがんだ。まるで見えない腕に押されたようにバランスを崩したのだ。
また銃声。シーザーの体が更にぐらつく。もう一発、もう一発、更にもう一発……。

そうして甲高い音が止んだ時、宙に浮かんでいたシャボン玉は全て消え去り、シーザーは地面にたたき落とされていた。
文字通り、叩き落とされた羽虫かの如く。惨めで、汚らしくて無力だった。
シーザーは背中にじんわりと液体が広がっていくのを感じた。眼も霞み始めた。呼吸だって上手くできない。

必死で身体を起こそうとしたが、微かに首が動いただけだった。
床にへばりつくような姿勢で見上げればDIOの姿が、そしてその奥に人影が見えた。
見慣れた特徴的な髪形の、黒い学生服に包まれた、人影が……。


「けい、ちょ う…………?」
「見事な腕前だ、ニジムラ。オリンピックのクレー射撃よりも優雅だった」
「そいつはどうも」

ポケットから櫛を取り出すと乱れた髪形を神経質そうに整える。形兆の表情に悲しみや後悔は見られなかった。
たった今、シーザーを撃ち殺したというのにまるで皿洗いでも済ませた様な何でもない表情をしている。
シーザーにはわからなかった。眼の間にいるこの男が家族の死を悼んでいた、あの形兆と同じ人間であるとは。
143創る名無しに見る名無し:2013/03/16(土) 00:03:56.84 ID:ofrKod+6
C
144代理投下 虹村形兆の裏切り    ◇c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:08:35.50 ID:ofrKod+6
「それで、コイツはどうしますか」
「君の意見を聞こうじゃないか」
「血で床が汚れるのは個人的に好きじゃない。ああいう汚れは一度しみつくとなかなか落ちないんだ。
 こすってもこすっても張り付いたように残っちまう。どす黒い血の後ほどいらつくものはね―ぜ。
 よかったら川に放り込んでおくが……それでどうだ?」
「君に一任しよう。なんてたって君が仕留めた獲物なんだからな」
「人を猟銃扱いするのは勘弁してほしいね」

どうしてだ、と口に出そうとしたがそれは呻き声にすらならなかった。
視界が狭く、暗くなる。急速に身体から力が抜けていった。シーザーにできることと言えば恨めしげに形兆の眼を覗き込むことだけだった。
形兆は真っすぐシーザーの眼を見返した。それは憂いを含んだ、深い視線だった。


「フフフ……君を部下にしたのは正解だった。優秀な男だ。君の父親もそうだった」
「親父の話をするのはやめてくれませんか。アイツの血が流れてると思うだけで頭痛が止まらなくなる」
「これは失敬……だが父親が父親なら、子もまた子だ。改めて君の忠誠を歓迎するよ、ケイチョウ・ニジムラ……」
「忠誠はいいから、どうせなら手を貸してくれませんかね。人一人運ぶってのはけっこう大変なんですよ」



そうしてシーザーの意識は闇に落ちる。最後に彼が見たものは空っぽの表情を張り付けた、形兆の顔だった。



【シーザー・アントニオ・ツェペリ  再起 不 能】





145代理投下 虹村形兆の裏切り    ◇c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:09:42.00 ID:ofrKod+6
何が何だかわからなかった。なにはともかく、シーザーが真っ先に感じたのは息苦しさだった。
酸素を求め思いきり口を開けば、器官目掛け水が逆流した。思いきり水をのみこんでしまったシーザー。苦しさにもがけば、酸素が泡となってさらに出ていく。
身体を包む浮遊感、ひんやりとした水の冷たさ。混乱する頭で今の状況を理解する。シーザーは水面目掛け思いきり腕と足をばたつかせた。

「ぶハッ!!」

ようやくのことで川面に顔を出すと、シーザーは盛大に咳こみ、飲み込んだ水を吐き出す。
深呼吸を何度か繰り返してようやく一息つくまで落ち着く。顔を流れる水滴が心地よい。肺を満たす酸素が最高に気持ち良かった。


「生きてる……」


そう、シーザーは生きていた。形兆に心臓をうちぬかれ死んだと思われたシーザーはまだ、生きていた……!
辺りを見渡す。見覚えのない場所だった。川岸まで泳いで間近で建物を見るが、洋風の建物だということしかわからなかった。

シーザーは撃ち抜かれたはずの場所を触ってみる。
血はまだ流れていたが、傷は小さい。弾丸も体内にとどまることなく、綺麗に貫通している。
これなら波紋の呼吸で対処できる範囲内だ。バンダナをほどくと圧迫するように傷口にあてる。これで治りも早くなるだろう。

「……あの野郎」

川辺にどかッと腰をおろし、シーザーはそう呟いた。
体を冷やしてはいけないと上着を脱ぎ、よく絞る。水が滴る様子を見ながら憎々しげに彼はそう言った。

自分が今生きているのは形兆のおかげだ。シーザーは思う。
思わず熱くなって襲いかかったが、今冷静になってわかる。きっと俺は死んでいた。
もしもあの時形兆が後ろから撃ってくれなかったら……、もしもあのままディオ向かって飛びかかっていたら……。
今自分は生きていない。今頃死体になって河底を漂っていたことだろう。

「くそったれ……」

もう一度傷口を撫でれば、あまりの正確性に唸り声が漏れた。
心臓に傷一つつけない一撃は形兆らしい神経質な一撃だった。血管も傷一つない。兆弾もなし。
全てが計算ずくで、定められたものだった。

「お前は大甘ちゃんだ……ッ! 大甘ちゃんのクソッタレ野郎だッ! 大馬鹿野郎のトンチキだ、形兆ッ!」
146代理投下 虹村形兆の裏切り    ◇c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:11:04.63 ID:ofrKod+6
なぜ形兆がDIOの傍にいるのか。なぜ形兆がスパイになろうと思ったのか。
それはわからない。なにもかもわからない。
だがそれでも唯一わかったことは、一つだけわかったことは……形兆が命をかけてシーザーを救ったということだ。

「これで借りを返したってつもりなら、ソイツは違うぜ、形兆……!
 返しすぎだ、馬鹿野郎……! これじゃ俺が借金背負いじゃねーかッ
 貧乏生活はガキん時に嫌というほど味わったってのに、また俺はあんときに逆戻りじゃねーかッ!」

そう、ガキん時に逆戻り。波紋も優しさも温かみも知らない、何一つできない、何一つ受け取ろうとしない情けないただのガキ。
シーザーは顔をこするとキッと顔をあげた。その顔に迷いはない。後ろめたさや恐怖は微塵も感じられなかった。

「今の俺じゃ勝てない」

DIOは未知なる何かを持っている。それは理屈でなく、魂で理解したことだった。
ただの吸血鬼がああまでした圧倒的プレッシャーを纏えるものか。王たるもののカリスマ、強者としてのオーラと言えど限度がある。
なによりシーザーは波紋使いだ。吸血鬼の天敵だ。ならばもっと危機感を抱いてもいいはずだ。

何かがある。DIOに余裕を持たせる未知なる力が……、スタンドが……ッ!!


「待ってろよ、形兆」


服が乾くまで、なんてのんびりしている暇はなかった。
波紋の呼吸が戻ったころ、シーザーは立ち上がると、見知らぬ街を睨みつけた。
そして叫んだ。

「借りた借りは必ず返す! 約束は必ず守る! テメーには一発殴った借りと命を救ってもらった借りがある!
 だからテメーが俺を一発殴るまで! 俺がテメーを救うまで! ディオなんかに殺されるんじゃねーぞ、形兆ッ!」

川辺に響いた声に返事はなかった。シーザーは顔を引き締めたものに変えると、照りつける街に向かって歩き出した。




【シーザー・アントニオ・ツェペリ  再起可能】
147代理投下 虹村形兆の裏切り    ◇c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:12:20.43 ID:ofrKod+6
【E-3 北部 ティベレ川岸/ 1日目 午前】
【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッシ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:胸に銃創二発、体力消耗(中)、全身ダメージ(小)
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒。
0.街に向かう。
1.ジョセフ、リサリサ、シュトロハイムを探し柱の男を倒す。
2.DIOの秘密を解き明かし、そして倒す。
3.形兆に借りを返す。






148代理投下 虹村形兆の裏切り    ◇c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:13:46.25 ID:ofrKod+6
「よろしいのですか」
「何のことだ、ヴァニラ」
「……虹村のことです」
「つまり、シーザー・アントニオ・ツェペリのことでもある」

ヴァニラ・アイスは控え目に頷いた。DIOはしばらく何も答えなかったが、思いついたように急に口を開いた。

「お前に任せる」
「……任せる?」
「ああ、私としては泳がせたほうが面白いと思ったからそうした。ちょっとしたゲームだ。
 吸血鬼の私にとって波紋使いというのは言わば好敵手。殺し合いの中でちょっとした余興とすれば充分じゃないか。
 あのスティーブン・スティールが言った通りだ。ゲームならば楽しまなければならない。ゲームなら演出にも凝る必要がある」

ヴァニラは沈黙を貫いた。彼が慕うDIOという男は時折こういったことをする。
慎重かと思えば大胆。徹底的かと思えばひどくずぼらな点もある。それについてとやかくいう権利もつもりも、ヴァニラには全くない。
王には王の素質があり、相応しい態度、相応しい振る舞いもまた存在している。余裕もまたその一つの要素にすぎない。

「シーザー・アントニオ・ツェペリは放置。あの波紋戦士がどう出るか、楽しみにしようじゃないか。
 なんならヴァニラ、気にいったと言うならお前が戦ってもいい。
 歴戦の波紋戦士と最強のスタンド使い……血肉湧き踊る戦いじゃないか」
「ありがたきお言葉です」
「虹村形兆に関してもお前に一任する。いや、私から直々に奴に言っておこう。
 今後ヴァニラ・アイスと共に行動を取るように、と」
「つまりDIO様の邪魔だと判断したならば、始末しても構わないと?」
「ヴァニラ・アイスよ、すぐは駄目だ。今は駄目だ」

DIOはもて遊んでいたワイングラスを一気に飲み干すと、それをサイドボードにそっと下ろした。
床に膝をつき、此方を見ていた部下を見返す。底知れない、真黒な目がDIOを見ていた。

「亜空の瘴気、全てを飲み込むスタンド『クリーム』……お前のスタンドは強い。このDIOの『世界』と肩を並べるほどに強い」
「私にはあまりにもったいないお言葉です、DIOさま」
「謙遜するな、ヴァニラ……。私は事実を語っているまでだ。
 仮にだ。仮に私がお前と戦わなければならないとなれば……敗北はないにせよ、大きな痛手をこうむることは間違いないだろう。
 半身をもがれるか、腕を失うか、はたまた脚がちぎれ飛ぶか……それはわからない。しかし最終的には私が勝利するだろう。
 それもひとえに私がお前の弱点を知っているからこそだから。唯一にして絶対の弱点をな」
「…………」
「お前は飲み込むモノを捕える時顔を出さねばならない。それは大きな隙になる。
 お前のスタンド能力を知っていればなおさらだ。その一点のみを辛抱強く待ち、その一点のみを突こうとするだろう」
「…………」

DIOは視線を外し、蝋燭を見つめた。話している最中にも蝋が解け、白い結晶が積もっていく。
揺らめく火の影が、DIOの横顔にそっと落ちていた。ヴァニラは何も言わない。DIOの話は続いた。

「虹村形兆のスタンドはお前の補佐にピッタリだ。小回りのきくスタンド、数で圧倒する物量作戦、小粒でありながら破壊力もある。
 ジョースター一行は決して弱くない。心配しているわけではないが、万が一ということもある。
 お前は虹村を利用して奴らを始末しろ。一秒でも早く、一人でも多く」
「……必ずや奴らの首を貴方様に捧げます」
149代理投下 虹村形兆の裏切り    ◇c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:15:16.84 ID:ofrKod+6
扉が開く音が響き、二人の会話は中断する。
マッシモ・ヴォルペが室内に姿を現すと、DIOに向かって言った。ヴォルペのは口調は相変わらず乾いたままだった。


「三人が目を覚ました」
「正確には三人と一匹だろう、マッシモ」


どうでもいいことだ、とヴォルペが呟くとDIOは面白そうに笑った。
ヴァニラ・アイスは眉をひそめた。そんな風に笑う主のことを、彼は今まで一度も見たことがなかったから。
お前に任せたぞ、と念を押すような言葉をもう一度受け、ヴァニラ・アイスは無言で頭を下げた。
扉がもう一度閉まり、DIOの姿が見えなくなるまでそうしていて、姿が見えなくなった後もしばらく動かなかった。
否、動けなかった。

胸に湧き上がった絡み付いた感情をほどくのには時間が必要だった。
自分が一番あのお方を理解していると、自分こそが傍に立つ者に相応しいと思っていた。
それは間違いだったのかもしれないと今、それに気づかされ、ヴァニラはそれがショックだった。

マッシモ・ヴォルペ、という呟きが思わず零れ落ちる。
口にした途端、ヴァニラ・アイスは思わず辺りを伺った。誰もを聞いたものはいないようだった。
ほっとすると同時に何を憂う必要がある、とも思った。

やがて時間が立ち、ヴァニラ・アイスが立ちあがる。
もう動揺は収まっていた。主君の命に従う忠実な部下として、ヴァニラは虹村形兆の姿を探しに刑務所の奥へと姿を消した。

同時に本棚にあった本が僅かに揺れた。隙間に隠れていた兵士はヴァニラが消えたことを確認すると、自身も姿を消す。
主君である虹村形兆にこの会話を届けるため。自らの任務を成し遂げるため、バッド・カンパニーは闇に溶けていく……。



そうして後に残されたのはワイングラス、一冊の本、そして暗闇……―――。



そこにはもう誰もいなかった。
バタン、とどこか遠くで扉が閉じる音が聞こえ……音さえも姿を消した。
150代理投下 虹村形兆の裏切り    ◇c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:16:46.04 ID:ofrKod+6
【E-2 GDS刑務所の一室/ 1日目 午前】
【DIO】
[時間軸]:JC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:健康
[装備]:携帯電話、ミスタの拳銃(5/6)
[道具]:基本支給品、スポーツ・マックスの首輪、麻薬チームの資料、地下地図、石仮面
    リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、予備弾薬18発
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』に向かう方法について考える。
1.眼を覚ました四人の様子を見に行く。
2.セッコが戻り次第、地下を移動して行動開始。
3.プッチ、チョコラータ等と合流したい。


【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:健康
[装備]:リー・エンフィールド(10/10)、予備弾薬30発
[道具]:基本支給品一式、点滴、ランダム支給品1(確認済み)
[思考・状況]
基本的行動方針:DIO様のために行動する。
0.虹村形兆と合流、ジョースター一行を捜索、殺害する。
1.DIO様の名を名乗る『ディエゴ・ブランドー』は必ず始末する。


【ペット・ショップ】
[スタンド]:『ホルス神』
[時間軸]:本編で登場する前
[状態]:瀕死
[装備]:アヌビス神
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:サーチ&デストロイ
0.???
1.DIOとその側近以外の参加者を襲う


【虹村形兆】
[スタンド]:『バッド・カンパニー』
[時間軸]:レッド・ホット・チリ・ペッパーに引きずり込まれた直後
[状態]:悲しみ
[装備]:ダイナマイト6本
[道具]:基本支給品一式×2、モデルガン、コーヒーガム
[思考・状況]
基本行動方針:親父を『殺す』か『治す』方法を探し、脱出する?
1.隙を見せるまではDIOに従うふりをする。とりあえずはヴァニラと行動。
2.情報収集兼協力者探しのため、施設を回っていく?
3.ヴァニラと共に脱出、あるいは主催者を打倒し、親父を『殺して』もらう?
151代理投下 虹村形兆の裏切り    ◇c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 09:19:37.48 ID:pEKJouD4
【サーレー】
[スタンド]:『クラフト・ワーク』
[時間軸]:恥知らずのパープルヘイズ・ビットリオの胸に拳を叩きこんだ瞬間
[状態]:瀕死
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず生き残る
0.???
1.ボス(ジョルノ)の事はとりあえず保留


【チョコラータ】
[スタンド]:『グリーン・デイ』
[時間軸]:コミックス60巻 ジョルノの無駄無駄ラッシュの直後
[状態]:瀕死
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:生き残りつつも、精一杯殺し合いを楽しむ
0.???


【スクアーロ】
[スタンド]:『クラッシュ』
[時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前
[状態]:瀕死
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:ティッツァーノを殺したやつをぶっ殺した、と言い切れるまで戦う
0:???


【ディ・ス・コ】
[スタンド]:『チョコレート・ディスコ』
[時間軸]:SBR17巻 ジャイロに再起不能にされた直後
[状態]:健康
[装備]:肉の芽
[道具]:基本支給品、シュガー・マウンテンのランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様のために不要な参加者とジョースター一族を始末する
1.DIOさま……
[備考]
※肉の芽を埋め込まれました。制限は次以降の書き手さんにお任せします。
※ジョースター家についての情報がどの程度渡されたかもお任せします。


【マッシモ・ヴォルペ】
[時間軸]:殺人ウイルスに蝕まれている最中。
[スタンド]:『マニック・デプレッション』
[状態]:空条承太郎に対して嫉妬と憎しみ?、DIOに対して親愛と尊敬?
[装備]:携帯電話
[道具]:基本支給品、大量の塩、注射器、紙コップ
[思考・状況]
基本行動方針:空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい。
0.DIOと共に行動。
1.空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい 。
2.天国を見るというDIOの情熱を理解。しかし天国そのものについては理解不能。
152代理投下 虹村形兆の裏切り    ◇c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 09:24:54.72 ID:pEKJouD4
558 名前:虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A[sage] 投稿日:2013/03/16(土) 00:25:58 ID:PtRhpByI
以上です。誤字・脱字・質問等ありましたらお願いします。

代理投下終了です。
作者さま投下乙でした。
タイトルに完璧にだまされたなー。
シーザーに対するあそこでの攻撃を示してるんだと思ってああ、って諦めてたけど、
まさかDIOに対するそれを示してるとは思いもしなんだ。
そしてそれを全部受け止めて把握してるDIOの大物っぽさやシーザーとの友情やら見ごたえがある話でした。
153創る名無しに見る名無し:2013/03/19(火) 14:17:12.33 ID:UEkF7i4S
投下乙です

形兆かっこいいッ!そしてDIOのカリスマさも大いに現れていて凄いです。
シーザーはこのまま行くと誰に会うんだろう?ディエゴ?
154創る名無しに見る名無し:2013/03/20(水) 02:50:09.24 ID:LfgAIMSH
よくよく思い返してみたら、DIO様が会いたがってたチョコ先生がいるじゃないですかー
セッコが帰還したら石仮面で吸血鬼チョコラータの誕生か?
そのセッコが修羅場なのが気になるけど・・・
155創る名無しに見る名無し:2013/03/20(水) 12:41:32.35 ID:BucF/Hba
DIO様が楽しそうで何よりです
156創る名無しに見る名無し:2013/03/20(水) 17:00:58.71 ID:/t7f+2K0
めっちゃ充実してるよなDIO様w
今回のSS読むまで形兆(と億泰)の親父がDIOの部下だったことをすっかり忘れてた
157 ◆c.g94qO9.A :2013/03/25(月) 18:30:41.77 ID:+U5GcOmx
投下します
158太陽の子、雨粒の家族   ◆c.g94qO9.A :2013/03/25(月) 18:33:00.98 ID:+U5GcOmx
しゃがんだウェザーの頭上を横薙ぎが通り過ぎていった。帽子の切れ端が短くちぎれ飛ぶ。
低く身を沈めた姿勢からウェザーはプッチの顔めがけ、拳を振るった。しかし、空振り。
ウェザーの拳は何もない空間を通り抜けただけだ。

バシャリ、と水たまりを蹴りあげる音が後ろから聞こえた。ウェザーは反射的に振り返る。同時に背後に回った敵目掛け、身体を捻るように裏拳。
またも空振り。攻撃を予期していたかのように、プッチは後ろに飛び下がり、ウェザーの一撃は敵を捕えらない。
何もない空間につきだされた拳をひっこめると、ウェザーは鋭い目線で敵をにらんだ。
戦意は衰えていない。いや、ますます燃えがる。体全身を打つ雨粒を蒸発させんとばかりに、熱い闘志を燃えあがらせる。

見つめるプッチ、睨むウェザー。雨音が辺りを包む。どちらも動かなかった。二人とも何も言わなかった。

突然、プシッと短く力強い音が辺りに響くとプッチの頬より血が噴き上がった。
深い切り傷だ。傷口にやった手が一瞬で真っ赤に染まるほどの深い傷。
そうして立て続けにプッチの身体より血が噴き上がる。見えない刃が腕を、脚を、胸を撫でる。
修道服がズダボロになり、二万ドルもするズボンは血と雨と傷で台無しになる。


「ロックコンサートにでも行こうというのかい、神父様」


ウェザーの皮肉に、プッチは頬笑みもせずに返す。


「拳に風を纏わせているのか」
「答える必要はない」


ウェザーが思いきり大地を蹴りあげた。瞬時に二人の距離は肉薄する。
向かい打つべく、ホワイト・スネイクを構えるプッチ。背を少しだけ曲げて、膝は柔らかく、緩やかに。
仕掛けたのはウェザーだったが上をいったのはプッチだった。
高らかに拳が打ち鳴らされ、衝撃で雨粒が浮き上がった。気合を入れたプッチが吠える。押されたウェザーが苦しげに呻く。

隙を逃がさんとばかりにプッチは崩れた身体目掛け、右蹴りを放った。防ぐべく、ウェザー・リポートは腕を振るう。
だがプッチの踏み下ろすような勢いと軌道に、迎撃ははじかれる。ウェザーは更に体勢を崩す。ぐらつく上半身に直撃ではないが、何発かの拳が叩き込まれた。
衝撃で後ろに吹き飛ぶウェザー。バシャバシャと水しぶきをあげ、足下の水たまりが揺らぐ。

プッチはその隙を見逃さない。短く息を吐きながら跳びかかる。
地面を強く蹴りあげると、弾丸のようにウェザーに迫る。DISCをフリスビーのように投擲、左右後方、逃げ道を塞ぐ。
ウェザーは前に出ざるを得ない。待ちうけるプッチへと突っ込むしか道はない。
風を操り、後ろで爆発させる。暴風に乗り、思いきり突っ込む。同時にカマイタチを拳に寄せる。
159太陽の子、雨粒の家族   ◆c.g94qO9.A :2013/03/25(月) 18:34:00.59 ID:+U5GcOmx
「うおおおおおおおおぉぉ――――――ッ!!」
「迎え撃て、ホワイト・スネイクッ!」


両者がぶつかり合ったのは一瞬だった。そしてその一瞬が勝負が大きく動かした。


一撃目、ウェザーの拳がプッチの顔めがけ放たれる。待ち構えていたプッチはそれを下側から跳ねあげると、これを回避する。
同時にウェザーのガードをも崩し、逆に大きなチャンスとする。胴体ががら空きだ。今ホワイト・スネイクが手刀を放てば、やすやすと胸に穴が開くだろう。

二撃目、ウェザーは体勢を立て直すことなくそのまま突っ込む。身体ごとプッチにぶつかっていく気だ。
風が唸り、更に加速する。ものすごい速さだ。肉薄していた距離がさらに狭まる。眼と鼻の距離。
しかしプッチは冷静だ。驚くほど落ち着いていた。身体を半分だけ傾けると、ウェザーやりすごし、その後を追うように駆ける。
ウェザーの顔が悔しげに歪む。プッチの眼が捕えた、と言わんばかりに輝く。捨て身の作戦はいなされた。

三撃目、反転したウェザーの視界いっぱいに写ったのは拳だった。ホワイト・スネイクの拳がウェザーの顔面に突き刺さる。
自分がつけた勢い、唸る風に乗ってウェザーの体が吹き飛ばされた。長い長い二秒間の浮遊を終え、コンクリトートの大地に叩きつけられる。
肩から斜めに身体をうち、そのままもんどりうつように二回転。最後に水たまりに顔を突っ込み、そしてウェザーはようやく止まった。


雨音が沈黙を殊更際立たてた。拳をうち合わせる音も、自らを鼓舞する叫びも聞こえない。
戦況は大きく傾いた。地にはいつくばるウェザー。雨に打れながら見下ろすプッチ。

ウェザーが唾を吐くと水たまりが赤く染まり、そして降りそそいだ水滴がそれを押し流した。
降りそそいだ雨粒が顔を伝えば、額のあたりで赤く染まった。大きく裂けた皮膚から流れ出す血が、伝う水滴を赤く染める。
見ているほうが痛々しいぐらいだ。ウェザーはゆっくり起き上がると、顔をぬぐった。血と雨を吸った服が、重く、強くまとわりつく。


「出すがいい。そして近づいてこい」

プッチの挑発に対し、ウェザーは無言を貫く。やすやすと煽りに乗るわけにはいかないが、このチャンスを逃す手もない。
重い身体を引きずり、対峙する。二度目の激突だ。プッチとの距離はわずか二メートル強。互いのスタンドはすぐそば。
今度はどちらにアドバンテージがあるわけでもない。どちらが迎え撃つでも、撃墜するでもない。
五分五分の状態からの早打ち。真正面からの殴り合い……! スタンド能力ではウェザー有利、コンディションではプッチ有利!


「ウェザー・リポートォォォォオオ――――――ッ!」
「ホワイト・スネイクッ!!」

轟音が響き、拮抗する拳。しばらくの静寂……そして、ウェザーの腕に亀裂が走った。
160太陽の子、雨粒の家族   ◆c.g94qO9.A :2013/03/25(月) 18:35:22.44 ID:+U5GcOmx
噴水のように噴き上がる血、獣のような吠え声。一撃で決した戦いはさらなる追撃をもって終わる。
ホワイト・スネイクが畳みかけるように攻撃を放った。全弾命中、急所的中。
ウェザーが水たまりに突っ込むのは何度目になるだろう。倒れ伏し、その顔を冷えた地面に浸すのは何度繰り返されたことだろう。

ダメージの大きいウェザーに、頭上より声が降りそそぐ。顔すらあげることができない。雨音にまぎれ、乾いたプッチの声が聞こえてきた。

「諦めるんだ、ウェザー……お前は負ける運命にある。お前の未来は死、それだけだ」
「黙れ、この外道が……!」

それでも何とか立ち上がり、反撃する。ふらつく身体で精いっぱいの反撃。
キレもスピードもない蹴り、見え切った軌道をえがく拳。どれもプッチは簡単に避けた。
大きく跳び下がる必要もなかった。ただ身体を傾け、すり足で間合いを測り、そしてカウンターを叩きこむだけ。


「無駄だと言ったはずだ」


冷たい目線でウェザーを見つめる。ノックダウン寸前のボクサーを相手するかのような、そんな哀れな心境を彼は抱いていた。
立ちあがるウェザー、吹き飛ばすプッチ。また立ちあがるウェザー、またも殴り飛ばすプッチ。
また、また、そしてまた……それの繰り返しだった。


再び、ウェザーの身体が宙を舞った。


「だから言っているだろう。無駄だと」


今度の一撃は効いた。胸を強く打たれ、ウェザーの心臓が止まりかけた。
呼吸が上手くできない。深く息を吸い込めば、その分だけズシリと鈍く、耐えがたい痛みが彼を襲う。
地面に手をつき精一杯身体をたてなおそうとするが、うまくいかない。
それどころか体を支える腕すらも、蓄積されたダメージを前に萎びれ、震え始めていた。

プッチが一歩、一歩とウェザーに近づいてくる。それでも立てない。立ち上がることができない。
ウェザーにできることと言えば、地面に這いつくばったままそれを眺めているだけだった。


「虹は出ないのではない。出さないでいるんだ、違うか」


プッチのぶっきらぼうな言葉が降りそそぐ。
精一杯の憎しみをこめて、ウェザーはプッチを見返した。すぐには答えない。
実際のことを言えば、答えられなかった。ぜぇぜぇというウェザーの呼吸音が辺りに響く。
よろめく身体に鞭打ち、なんとか対峙するとかすれ声で返事をした。
161太陽の子、雨粒の家族   ◆c.g94qO9.A :2013/03/25(月) 18:37:30.82 ID:+U5GcOmx
「何度でも言ってやろう。貴様に与える答えなど万に一つも……パン屑のカスほどもない!」
「ならば答えなくていい。いや、答えずともわかる。なんせ私たちは家族なのだから。兄弟なのだから。
 お前の言葉など効かずとも、私に流れるこの血が叫ぶ。お前の体に流れ血が教える。
 ウェズ、もう無理はしなくていい。救われるんだ。苦しまなくて済む」
「黙れッ!」

冷静さを失った大振りの一撃。避けることは簡単だった。
遠回りで迫った拳を上半身のみ傾けて避ける。スローな蹴りも同様だ。
かわりに足払いをかけてやれば面白いようにウェ―ザが転んだ。


「遅い」


ウェザーが立ち上がる。そして拳を振るう。
プッチは避ける。また、避ける。


「悲しくなるぐらい、遅すぎる」


避ける、避ける、避け続け……プッチがガッチリとウェザー・リポートの手を掴んだ。
力比べのような、取っ組み合いのような形になる。憎々しげに顔を突き合わせ、二人の腕が力の行きどころをなくし震える。
しかし結局のところ、勝ったのはプッチだった。
うまく相手の体重を乗せ、身体にひっかけるように投げ飛ばす。ウェザーがまた倒れる。そして今度こそ、ウェザーは立ち上がれなかった。

プッチの眼に浮かんだのは憐みだった。惨めな敗残者の弟を見つめ、情けをかけるように話をする。


「よくここまで戦った。よくそこまで耐えた。もう充分だろう、弟よ。神もきっと祝福してくださるはずだ。
 お前の精神はもう限界だ。16年分の記憶を一気に取り戻し、雨の中を行くあても知らず走り回り、ホワイト・スネイクの拳を何発も食らった。
 その上、精一杯虹を出さないように……この私との戦いのさなかでさえ、一切出すことのないように! 内なる自分の欲望に振り切られぬように!
 お前は虹とも戦ってたのだから! スタンドを操りつつも、スタンドを押さえつける必要があったのだから!
 私の勝利は決定的だ。もうこれは決まり切ったことだ。お前はよく戦った。もう諦めろ。もう休んでもいいはずだ」


苦悶に満ちた表情が何よりも図星だということを物語った。
そう、プッチもわかっている。真正面からのぶつかり合いであれば通常ホワイト・スネイクがウェザー・リポートなんかに勝てるはずがないと。
スタンドの性能で言えばはるかに勝る、ウェザー・リポートは負けるはずはないのだ。


もしもスタンド使役するウェザー自身の精神状況が正常であれば。
162太陽の子、雨粒の家族   ◆c.g94qO9.A :2013/03/25(月) 18:39:00.58 ID:+U5GcOmx
決着はとうについていた。
プッチがウェザーにDISCを叩き込んだ時点で、こうなることは見えていた。

ウェザー・リポートはプッチと戦いつつも、自らと戦わなければいけない。
スタンドを使役しつつも、その暴走をうちとどめなければいけない。
それはどれほどの苦しみだっただろう。どれほどの困難を伴うことだろう。

プッチは短く、強く息を吐く。呼吸を整えると弟の元へ近づいていく。
悲しい結末だった。だがこれすらも、言うなれば運命……。そうなるべくしてなったことだ。神が選ばれたことならば、しかたあるまい。
せめて最期ぐらいは殉教者らしく。せめて兄として苦しまずに、家族を見送ってやりたい。
研ぎ澄まされたホワイト・スネイクの一撃で、痛みを感じる暇もなく……逝くがいい。

物悲しい顔で歩くプッチ。その足を止めたのは、ウェザーの言葉だッた。


「―――……黙れ、このエセ神父が」
「……なに?」


か細く震える、小さな叫び。
震えているのは寒いからでない。怖いからではない。勿論脅えているからでもない。
怒りだ。ウェザーを突き動かすのは怒り。

戦っている時もずっとそうだった。冷静に冷静にと自らに言い聞かせていた。
熱くなって視界が狭くなってはまずい。怒りに視野を狭くしては足元をすくわれる。
そう思い必死で堪えてきた。だが無理だった。こんなにもコケにされ、踏みにじられ……もはやウェザーの我慢は限界だった。


「黙れと俺は言ったんだ……ッ! 貴様に赦しを与える資格などないッ! 貴様にその言葉を口にする価値はないッ!
 どの口がそのセリフを吐けるんだッ! 何故貴様は平然と人の意志を踏みにじることができるんだッ! 
 ペルラ、ジョルノ、街の皆……俺もお前も赦されるはずなんてないッ! 俺は誰にも赦してほしいなど思っていないッ!」


天を裂く叫びが街中にこだました。そして同時に! 二人の間を切り裂くように! 天の怒りが降りそそぐように!

視界一面を覆う大豪雨が辺りに降りそそいだッ! 大粒の雨粒ッ! 散弾銃のような圧倒的雨量ッ!
いままでの雨がまるで子供の遊びだったかのような、“大”“大”“大”雨ッ!
それはさながら災害のようなものだったッ! 数十年に一度……、否、数百年に一度おきるかもわからぬほどの!
超ド級のスコールが辺り一面に降りそそいだッ!!
163太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A :2013/03/25(月) 18:39:52.96 ID:+U5GcOmx
「なにッ!?」
「虹を出さないようにしていた……? ああ、そうだ。だがそれ以上に俺が神経を裂いてたのは、気をはらっていたのは“これ”だ!」
「ウェザー・リポート、貴様ッ!」
「天上の神にでも祈ってるんだな、プッチ。だがどれだけ神に祈ろうと、頭上も見えていない神父に神は微笑まない!」
「貴様、私の信仰と神を愚弄するかッ」

ウェザーが押されていた理由? プッチがなぜ優勢を保てていたか?
全てはこのためだッ! 勝利への布石! 殺意の執念ッ!
ウェザー・リポートは雨雲を呼んでいたッ! プッチにばれることのないようにッ!
雨雲に雨雲を重ね、その上に更に積み上げッ! 直前の直前まで決して悟られることのないように!


これが、これが! ウェザー・リポートだッ! 文字通り、これこそが本物の『ヘビー・ウェザー』ッ!


喋り声すらかすれていた。互いの姿すら霞んでいた。
もはや視界は雨一面、目を開けるのも辛いほどの雨量。
頭を伝う雨粒で瞼が重く、開かない。鼓膜を揺さぶるような雨音が、互いの叫びを霞ませる。

伸ばした自分の腕すら不透明になるほどの水の弾幕を前に、プッチはウェザーの姿を見失った。
さっきまでそこに這いつくばっていた弟の姿は、まるで霧がかった幻想のように霞んで溶けて、消え去った。

「音で探ろうというつもりならそれはおススメしない」
「ハッ!?」

反射的に拳を振るう。声は耳元から聞こえていた。だがそこにウェザーはいない。何も見えない。

「眼で捕えようと言うのであれば、それは無理ってもんだ」
「き……貴様ァ!」

今度は逆側から。またしても空振り。プッチの額を雨粒以外の水滴が伝う。
嫌な汗をかいていた。追いつめられた時にかく、焦りと脅えを含んだ汗。
どうすればいい、と呟く。表情がゆがむ。歯がカチカチと恐怖に打ち鳴らされる。

プッチは考える。プッチは予期する。
今ウェザー・リポートに襲いかかられたら……、今ウェザー・リポートが拳を叩きこんできたら……!
姿も見えず、音すらも近くできない今この現状でッ! 破壊力A、スピードBのスタンドが襲いかかったらッ!



プッチにしのぐすべは…………ないッ!
164太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A :2013/03/25(月) 18:40:53.11 ID:+U5GcOmx
「喰らってくたばれ、エンリコ・プッチィィィィイイイイ――――ッ!」


雨を突き破り、影が躍動した。真正面から飛び出したのはウェザー・リポートとそのスタンド。
風のように早く、雪のように静かに。既にウェザーの攻撃は終了していた。
つきだされた拳が迫る。プッチのボディに重たい一発。身体が“く”の字に折りまがる。決まる……、面白いように、拳が決まるッ!


そして! 初撃が入ったならば! 既にウェザーの攻撃は完了しているッ!


「オラオラオラオララオラオラ―――」


雨よりも多い拳がとぶ。


「オラオラオラオララオラオラオラオラオラオララオラオラ―――」


風よりも早く拳が打つ。


「オラオラオラオララオラオラオラオラオラオララオラオラオラオラオラオララオラオラ―――――――――ッ!」



捕えた。確実に。間違いなくウェザーの嵐のような攻撃はプッチの体に風穴を開けて………―――
165創る名無しに見る名無し:2013/03/25(月) 18:47:59.67 ID:rtHWXi2i
来てる!
166創る名無しに見る名無し:2013/03/25(月) 18:48:52.73 ID:rtHWXi2i
来てる!
167太陽の子、雨粒の家族  ◇c.g94qO9.A 代理:2013/03/25(月) 22:10:02.26 ID:p5S0MSXK
「こ、これは……ッ!?」



驚愕に手が止まった。呼吸がつまる。汗が噴き出る。
ウェザーは雷に打たれたように、その場に立ちすくむ。そして見る。

自らのスタンドの腕にぶら下がった人間を。エンリコ・プッチであろうはずのその影を。

だが違ったのだ。そこいるべきはずのエンリコ・プッチはッ!
ウェザーが叩きのめしたいと望んだはずの男は!
そこには影も形もいなかった! 代わりにそこにいたのは……―――何も知らない一人の女性だッた!!!


ホット・パンツが血を吐きながら、その身を貫かれ、絶命していたッ!!


弱まった雨をやぶり背後から、靴音が聞こえた。同時に話声も。

「自分を信じるとは難しい事だ……あらゆる困難が立ちふさがり、あらゆる難敵が襲いかかる。
 その度に私たちは自らに問いかけなければいけない。これでよいのか? 自分は正しい道を歩めているのか? と」


振り返ればそこには見覚えのある影、自分と同じぐらいの背、同じぐらいの肩幅の男。

「弟よ、ホット・パンツを貫いたのはお前の腕だ。そのか細き女性の体をぶち抜いたのはお前のスタンドだ」

焦りもなく、恐怖もなく、乗り越えた強さを持つ者の目をした男がそこにいた。
傍らに立つのはアルファベットを身体に刻んだ、黒と白のストライプ。細長で強靭な肉体を持つスタンド。
 

「自分を信じてみればいい。彼女を殺したのは俺ではない。エンリコ・プッチのせいだ。
 ヤツが見せた幻覚のせいだ。俺は悪くない。悪いのはプッチだ。ヤツのスタンドがこうさせたんだ……! そう言い聞かせてみればいい!
 だがどうだ、今実際目の当たりにしてる光景はッ! 手に残った感触は、どう答えるッ!?
 さぁ、答えてみろ、ウェズ・ブリーマン……!
 それを殺したのは誰だ? 私かッ!? お前かッ!? 答えてみろッ!」
「プッチ、貴様……ッ!」
「さぁ、誰が悪い? 私のせいか? お前のせいか? 天気のせい? 彼女のせい?
 答えてみろ、ウェザー・リポートッ! そのお前のやわな信仰心で、何を支えられるか答えてみろッ!」
168太陽の子、雨粒の家族  ◇c.g94qO9.A氏代理:2013/03/25(月) 22:11:19.09 ID:p5S0MSXK
勝ち誇ったプッチの叫びが、雨音をも突き破ってウェザーの鼓膜を揺さぶった。
あの瞬間、プッチがとった行動は逃走でもなく、諦めでもなく、ひらめきだった。
即座にスタンド能力を発動。ほんのちょっぴりだけ、幻覚をウェザーに見せつけた。

幻覚は大きなものでなくて構わなかった。豪雨が味方したのはウェザーだけではない。
先も見渡せない狭まった視界はプッチにも味方したのだ。

そう、ウェザーにホット・パンツがエンリコ・プッチであると勘違いさせるほどに……。
かつてとられた罠に、もう一度陥ってしまうほどに軽率に……!


ウェザーは動かなかった。
プッチの問いかけを受け、彼はあらぬ方向に視線を送り、自らの腕にぶら下がる遺体から目を逸らした。

プッチが迫る。駆けるプッチ、走るホワイト・スネイク。
今度こそ終わりだ。次こそ、ウェザーは対処できまい! そのズタボロになった精神で、このホワイト・スネイクに勝てるはずがないッ!

腕を高く高く振り上げると、頭めがけ叩き下ろす。脳天から股下まで、真っ二つに切り裂き、それでお終いだッ
ウェザーは動かない。いいや、動けまい! なんせ、なんと言おうと、ホット・パンツを殺したのはウェザーなのだから。
紛れもない、誤魔化しようもない、確固たる事実として! 彼女を殺したのはウェザー・リポートなのだから!


「終いだ、ウェザー・リポートォォォォオオ――――ッ!!」


プッチが跳んだ。三メートル、二メートル、一メートル……! 振りかざされた手刀がウェザーに押し迫る!
ウェザーはまだ動かない! 逃げ場なし! 反撃もなし!
重いホット・パンツの体を抱えては今さら動いたところでかわすことも不可能ッ!
プッチの勝利は確実だ…………ッ! 



そして! まさに! 瞬間ッ!



―――ウェザーのどす黒い視線が、跳び上がったプッチを捕えた。
169創る名無しに見る名無し:2013/03/25(月) 22:13:14.08 ID:p5S0MSXK
ウェザー・リポートが動いた。ホット・パンツを貫いたまま、腕に彼女の遺体をぶら下げたまま。
身体を反転、その手でプッチを迎え撃つ。宙に浮いて身動きの取れないプッチ目掛け、的確に腕を振るった。
精密射撃のような鮮やかさで、呆然とするプッチの顔を殴り飛ばす。一撃、二撃、三撃……それ以上数えることは不可能だった。
目にも止まらぬ速さの拳の嵐が、ホワイト・スネイクとプッチを、空高く弾き飛ばした。

呻き声をあげながら、プッチは地面に強くたたきつけられる。何が何だかわからないと言った表情で、唖然とした表情で上半身だけを起こす。


「これしきで怯むと思ったのか……? たった一人の女を殺したことでこの俺が……街一つ消し飛ばした俺が、“怯む”とでも?」


“死神”が迫る。恐怖のあまり身体がすくんだ。
今のプッチから見ればウェザーはまさに死神だった。細かな霧雨を背に、影を携え、女性の遺体を腕に抱き、しかし一歩も引かず迫って来る。
情けない悲鳴が口から零れ落ちる。尻もちをついたまま、腕を使い、後ずさる。
ウェザーは一歩一歩近づいてくる。真黒な目でプッチを捕え、一瞬でもその視線をとぎらせることなく。


「来るな……来るんじゃない……」
「天国に行けるだなんて思っていねェ……救われるだなんて願ったこともねェ。
 俺は人殺しだ。ゲス汚ねェ差別主義の探偵を殺した。その一味も殺した。黒ずきんをかぶった奴らを殺した。
 何の罪もない街の市民も殺した。そしてこれからも殺し続ける……。
 そしてなにより……、妹を、ペルラを……愛するあの女(いもうと)を殺したのはこの俺だッ!」


腰を抜かしたのか、プッチは立ち上がれなかった。震える脚をひきずり、二本の腕でなんとかさがる。
情けない震え声が、後からともなく口を出た。意味もない祈り。意味の為さない懇願。
ウェザーは一切それらを無視する。確実に、着実にプッチに迫る。

プッチは何を考えたのか、水たまりの水をウェザー目掛け撒き散らしていた。
はっきりと恐怖の色が浮かび上がっていた。狼狽、焦り、脅え……。混乱した頭でプッチが何を導き出したのかはわからない。
それでもプッチは狂ったように、水をばしゃばしゃと跳ねあげた。それが本気で死神の足を止められると、信じて。


「来るな……こっちに、来るな…………! 来ないでくれ…………!」
「罪悪感で俺が膝をつくとでも? 人を殺して、俺がビビり上がるとでも?
 今さら一人殺したぐらいで、この俺が立ち止まれるわけがない……! この俺が人殺しで怯むはずがないッ!」
170創る名無しに見る名無し:2013/03/25(月) 22:17:56.77 ID:p5S0MSXK
死神は止まらない。噴怒の表情はさながら鬼ののようだ。
歯をぎらつかせ、目を燃え上がらせ、ウェザーがプッチに迫る。
その腕に抱いたホット・パンツの遺体が乱暴気に放り投げられた。打ち捨てられた女性の遺体が、地面で跳ね、動かなくなる。

「来るな……」

腕を振り、足をすすめ、ウェザーが進む。加速する。加速する……!
ハッキリと走り出したウェザーはあっという間にプッチの元へ!

「来ないでくれ…………」

恐慌半狂状態のプッチがDISCを投げつけた。だが届かない。あらぬ方向、見当違いの方向へ跳び、ウェザーは叩き落とす必要すらなかった。
もはやプッチにまともな思考は残されていなかった。訳もわからぬ抵抗と目の前の死を目にして、神父がしたことは無駄なあがき。

神にすがることすらせず、プッチが最後まで寄りかかったのは己の半身、ホワイト・スネイク。
狂ったようにDISCを投げ続け、甲高い声で叫び続けた。死を受け入れてなるものかと、必死で。


「私の傍に近寄るなァァァァアアアア―――――ッ!!」
「死ねェェェェエエエエい―――――ッ!!」




そして、肉を切り裂くような音が木霊して……雨が次第に弱くなる。


薄く見える霧雨の向こうで影が二つ、並んでいる。
一人は男。もう一人は女。
そこに見えたのは……死んだはずのホット・パンツが、ウェザー・リポートの背中を貫いている姿だった。
171創る名無しに見る名無し:2013/03/25(月) 22:23:33.92 ID:p5S0MSXK
色をなくしたウェザーの唇から、血が一筋、スゥ……と流れ落ちる。重力に従い、首が下に振り下がる。
背中から胸を貫く腕を見て、意味をなさない呻き声が漏れた。
同時に全身から力が抜け、ウェザーの体はその場に崩れ落ちる。


その最中、ウェザーは見た。座り込んだ男の眼に宿った二回目の希望の光を。
怪しいほどに輝く、エンリコ・プッチの瞳を。

―――ああ、そうか。

全てを理解したウェザーは、自らの敗北を悟り、その場に崩れ落ちる。
そしてピクリとも動かなくなった。









172創る名無しに見る名無し:2013/03/25(月) 22:29:15.80 ID:p5S0MSXK
「DISCはお前目掛け投げつけたのではない。ホット・パンツだ。
 私は指令を書きこんだDISCを、彼女目掛け放り投げた。実際にこうなるかどうかは賭けだった。
 頭部にDISCが入らないかもしれない。もはやホワイト・スネイクにその力は残っていないかもしれない。
 ホット・パンツが完全に死んでいるかもしれない。彼女の手刀より、お前の拳のほうが早いかもしれない。
 全ては偶然だった。幾つもの“かもしれない”を潜り抜け……ここに私は立っている。そしてお前は地に伏している」
「………ッあ」
「弟よ、お前は運命に敗北したのだ。神が選んだのは私だ」

力なく伸ばされた腕は何も掴まずに、地に落ちる。
プッチの胸ぐらを握ろうと、二度三度、最期に虚しくあがくが、ウェザーの腕はそれっきり動かなくなった。
空っぽの瞳は憎き相手を捕えるでもなく、未来を見据えるでもなく、ただ虚空を見つめる。

プッチはウェザーの傍らに立つと、そっと優しく語りかけた。
もう決して間にあうことのない病人を見送るような、そんなそっとした口調でプッチは言う。

「天に召される前に何かいい残したことはないか?」

辺りを包んでいた雨音が段々と遠くなる。湿った服の冷たさが染みいるまでの長い沈黙の後、ポツリとウェザーが呟いた。


「……―――雨を、ふらしたんだ」
「……なに?」


ウェザーはぼんやりとした表情で、プッチに顔を向ける。
その目は確かにプッチを見つめていると言うのに、どこか遠くのものを眺めているかのごとく、深く澄んでいる。
ウェザーは雨をふらしたんだ、とだけ繰り返した。困惑するプッチ向かって、そう言い続けた。
言葉は途切れ途切れでえらく聞き取りづらい。プッチが身をかがめて、口元に耳を寄せる必要があったくらいだ。

途中で何度もつっかえながら、血をせき込み吐き出しながら、それでもウェザーは懸命に言葉を紡いだ。

「俺は、ただ……雨を振らしただけなんだ。そこから先は、運……だった」
「……何のことだ? 何を言っている?」
「た、だ雨を……振らしただけ。それだけなんだ……。だから、立ち……あがったのは“彼”の意志だ。“彼”、自身の 強さだ……。
 ほんとに、ほ んとにありがとう……それしか言葉が出な……い。彼は 俺を信じて く……れた。俺は彼を救え た。
 記憶のないこの俺を……、人殺しのこの俺が……」

天より降りそそいだ水滴が、ウェザーの頬に落ちると、涙のように伝っていく。
雨はほとんど上がっていた。黒くぶ厚い雲は頭上を去り、本来の天気が辺りに戻って来る。
173創る名無しに見る名無し:2013/03/25(月) 22:36:50.08 ID:p5S0MSXK
何かがおかしい。何かが、変わってきた。

プッチはゆっくりと振り向いた。雲が去り、雨が上がり、辺りは温度のは急激に上昇する。
その影響で濃い霧が街を包んでいた。前方十数メートルは立ち上った水蒸気が遮り、多くの影が蠢いては怪しく揺れる。
プッチの眼はその蠢きの中に異質のものを捕えた。あれは……ちがう。あの蠢きは、あの揺れ方は……本物の人影だッ!


「ありがとうを言うのは、僕のほうです」


コツン、コツン……と革靴の音が民家に反響する。頭上の雲が薄れ、少しずつ太陽が街を明るく照らす。


「そして同時に謝らなければいけません……」


霧が晴れ、その中から一人の少年が姿を現した。
プッチは反射的に胸のポケットに手をやった。ない。そこにあるべきはずの、“あの”DISCが……。
一枚のスタンドDISC、三枚の記憶DISC……。そしてあるはずの“四枚目の記憶DISC”……!
一番大切にしまっておいたはずのあのDISCが……! 決して手放さんと、丹念にしまったはずのあの記憶DISCが……―――!


―――『ロックコンサートにでも行こうというのかい、神父様』


「ハッ!? ウェザー、貴様まさかッ!?」

ウェザーは何も答えなかった。否、答えれなかった。
答えるにはあまりに血を流しすぎていた。いつ死んでもおかしくないぐらいだ。
文字通り血の池にその身体を鎮めながら、ウェザーはそれでもプッチに向かってニヤッと笑って見せた。

その通りさ、と馬鹿にするように。今頃気づいたのか、馬鹿めと言わんばかりに。

「あの一撃はこの布石だったのか……ッ!? 全てはこのため、全ては“彼”のために……ッ!?
 何故だッ!? 何故そんなことができたッ!? 何故お前は今日会ったばかりの、見ず知らず同然のヤツを信用して……ッ
 そのもののために命すらかけたと言うつもりかッ―――!?」
174太陽の子、雨粒の家族  ◇c.g94qO9.A氏代理:2013/03/25(月) 22:41:21.41 ID:p5S0MSXK
プッチとの距離およそ10メートル。“少年”は歩みを止めなかった。
爛々とその瞳輝かせ、傍らに黄金のスタンド並び立たせ、希望に満ちた表情をして。
少年は歩みに合わせて、話を続ける。雨は既に止んでいた。濡れた街の向こうには、一本の虹が弧を描いていく。


「『何かあったら雨が教えてくれる……』、貴方のその言葉を僕は危険信号だと思っていました。
 一種の救助サインだと、助けを求めるサインだと、僕は勘違いをしていたのです。
 だが違いました。あの雨こそが……、あの豪雨こそが、僕を救ったんです…………ッ!」


ウェザー・リポートは戦いの直前に、プッチがDISCを胸ポケットにしまっていたところを見ている。
すぐにでも取り返そうとは思っていなかった。正直に言えば戦いに勝ち、復讐を果たすことが一番の目的だったから。
けれども、取り返そうとする意志は衰えていなかった。ウェザーは自責の念を抱えていたのだ。
“彼”を巻き込んだのは自分だと。自分こそが彼とプッチを引き合わせてしまった。
自分のせいで、“彼”はこんな目に会ってしまったのだ、と……!

だからDISCが落ちた時、ウェザーはそれを見逃さなかった。そして自分が負けるかもしれないと思った時、瞬間的に閃いたのだ。
この豪雨を利用してやろう。濁流のように湧きあがった雨粒をコントロールし、彼がいるあのカフェまで……彼が寝るあの部屋まで。
このDISCを運んでやる、と。そうしたならば、仮に負けたとしても心おきなく逝くことができる、と……。


ウェザーは今にも落ちてきそうな瞼を必死でこじ開けると、プッチの背中越しに彼の姿を捕えた。
ウェザーが笑えば、彼も笑い返してくれた。ひどくやられたな、という顔をしたので君ほどじゃないと、おどけてみせた。
そんななんでもないやり取りができることがうれしかった。こんな死に間際でも彼とそんな些細な、友人のような挨拶ができ、ウェザーは心の底からそれを喜んだ。

“彼”がいう。力強い、何もかもに任せられるような、エネルギーに満ち溢れた声だった。


「ウェザー・リポート、あなたの覚悟は天降りそそぐ太陽よりも貴く、まばゆい光を放っている……!
 その誇り高き輝きが照らし出した道は……この僕を導き、呼び寄せたッ!
 僕は貴方に敬意を表します、ウェザー……! そして貴方は死なせない……!
 この“ジョルノ・ジョバァーナ”の名にかけて! 僕はッ! 必ず貴方を救いだすッ!!」





―――雨が上がった。ジョルノを照らし出すように、ぶ厚い雲の隙間を切り裂き、太陽の光が降りそそいだ。


そうさ、俺はウェザー・リポートさ。お天道様の名前をしてるんだ。イカすだろ? なぁ、ジョルノ……。
口の中で、自分だけに聞こえる冗談を口にしてウェザーはそっと目を閉じる。
そのまま全身を包む無力感に逆らわずに、彼は闇に意識を手放した……。
175太陽の子、雨粒の家族  ◇c.g94qO9.A氏代理:2013/03/25(月) 22:45:18.10 ID:p5S0MSXK




辺りの景色は様変わりしていた。
雲は流れ、霧は晴れ、さんさんと輝く太陽が照らす。
気温は上昇し、フライパンを温めるかのごとく地面が熱を帯び始めた。
プッチが口を開く。ジョルノが来たときの動揺や驚きは既におさまっていた。


「大見え切って啖呵を吐いたのはいいが……足元がふらついているぞ、ジョルノ・ジョバァーナ」
「…………誰のせいでそうなったか、とぼけるつもりですか」


ジョルノを中心として円を描くように、足をすすめていく。
左に流れていくプッチを追うことなく、ジョルノは身体を傾けるだけで動かなかった。
互いに様子を伺う慎重な立ち回り。戦いは既に始まっている。しかし激突の時は、まだ“今”ではない。プッチは話を続ける。


「君におとなしくしてもらうにはああするしかなかった。時間が必要だったのだ。
 これは私と弟、私とウェザー・リポートの問題だ。何も知らない君に首を突っ込んでもらいたくなかった。
 それが結果的に、ああいった形で君を傷つけるようなことになってしまったのは……謝りたい。本当に申し訳なかったと思う。
 だが君には必ずやDISCを返すつもりだった。それだけは神に誓ってもいい。私の本心だ」
「僕が神ならば例え一時とはいえ、他人から記憶を奪う盗人を赦すつもりはありません。それが神父というのならばなおさらです」
「神はいつだって私に寄り添ってらっしゃる。時に神は人知を超えた行動をとることもある。それが神だからだ」
「神の選択と言えば何でも許されると? まるで免罪符ですね。神が聞いて呆れます」


じりじり、じりじり……プッチは足を止めることなく、ジョルノの周りを回り、最適な角度を探す。
地面の状態、背後にさがるスペースの少なさ、ウェザー・リポートと射線を重ねること。
“攻撃”に必要な条件はそろっていた。あとはタイミングだ。一瞬でもいい、あとはジョルノが見せる隙を待つのみ……。


「君はまだ若いから知らないのだろう。人間はそれほど強くない。
 不都合がその身に襲いかかった時、不条理なことが起きた時、納得のいかない災害に襲われた時……。
 縋るモノが必要だ。祈るモノが必要だ。自分を支えてくれる、見持ってくれている存在が。
 そんな神と呼ばれる存在が……弱い人間を強くする時がある」
「……ならば僕には神は必要ありません」
「……なに?」
「そんなものが神ならば、こっちから願い下げだと言ったのです」
176創る名無しに見る名無し:2013/03/25(月) 22:48:57.30 ID:CghTxUnh
支援
177太陽の子、雨粒の家族  ◇c.g94qO9.A氏代理:2013/03/25(月) 22:54:05.40 ID:p5S0MSXK
思わず足が止まった。それは聞き逃せない言葉だった。
プッチの怒りを込めた視線を受け止めながら、ジョルノは鋭く返す。

「エンリコ・プッチ、あなたは悪だ。それもこの世で存在するなかで最も醜い悪、独善に満ちた悪だ。
 貴方は自分が正しいと思っている。まごうことなく正義だと自分を信じている。大した精神力です。すがすがしいほどの割り切りだ。
 だが違う。そんなものは正義ではない。邪悪だ。
 貴方はそうやって自分が信じる正義のために! 自分の信じる正義を振りかざしたいがために!
 何人ものを無知なるものを踏みにじってきた……吐き気を催す邪悪だ!」

民家の壁に反響し、辺りはジョルノの叫びで埋め尽くされる。
最後にひときわ大きな声で叫ばれた邪悪だ、の一言が何度も何度も繰り返される。
邪悪だ、邪悪だ、邪悪だ……。険しい顔のプッチはやがてふっと顔をあげるとため息を吐いた。
彼の顔にはやれやれ、といった表情が浮かんでいる。


「……君には失望した、ジョルノ・ジョバァーナ」


目を閉じ、頭を振る。聞き分けの悪い小僧を相手するのはつかれた、と言わんばかりだ。
ホワイト・スネイクが新しく一枚のDISCを創り出す。プッチはそれを無造作に、ジョルノの前に投げ捨てた。


「幸運なことを一つ上げるならば……君がDIOと会う前にこうして私と会えたことだな
 君には相応しい役割を演じてもらうことになりそうだ。王には王の、料理人には料理人の、そして皇子には皇子の役割がある。
 今はわからなくてもいい。段々と君もわかり、そして身につけていくがいい。だが私はDIOを失望させたくない」
「なんのつもりですか」
「そのDISCを頭に入れろ。そうすれば一時的ではあるが君はそのバカげた考えを忘れることができる」
「拒否します。僕は操り人形なんかじゃない」
「やれやれ、DIOにこんな報告をするのは心苦しい事だが……そういうのならば仕方ない。
 君の息子は随分と聞き分けの悪い男で、しかたなく私が処分した……なんて報告を聞かせるようになるとはなッ!」


言い終ると同時にDISCがものすごいスピードでジョルノ目掛け飛んだ。
ジョルノはゴールド・エクスペリエンスではじきとばし、その一撃を回避する。
と、同時にプッチ目掛けて駆けだした。答えるように、プッチも走る。二人の距離はあっというまに縮まっていった。

白の大蛇、黄金の戦士。激突の時が来た。互いに吠え声をあげながら、二つのスタンドがぶつかり合う。


「ホワイト・スネイクッ!」
「ゴールド・エクスペリエンス!」

―――……戦いが始まる。
178太陽の子、雨粒の家族  ◇c.g94qO9.A氏代理:2013/03/25(月) 23:18:44.47 ID:p5S0MSXK




二人の力は五分と五分。プッチはウェザーとの戦いで消耗し、ジョルノは記憶を取り戻したばかりで本調子じゃない。
プッチは強引に攻勢を仕掛けていった。長期戦になれば先に体力が削れているプッチが押し負ける。
ジョルノが調子を取り戻す前に決着をつける。狙うは短期決戦……、呼吸を整える前に終わらせてやる!

「……くッ」

苦しそうな、短い息がジョルノの口から零れ落ちる。
心臓目掛けて放たれたプッチの手刀を間一髪のところで防ぐ。鋭い一撃だった。ワンテンポ遅れたら、殺られていた。
続けて放たれた回し蹴り。今度は防げなかった。体勢が崩れたところに重い蹴り。
腹をけり飛ばされ、ジョルノの細い体が吹き飛ばされる。民家に叩きつけられると呼吸が止まった。
ガハッ、と空気が肺から押し出され、同時に血を吐きだす。プッチは隙を見逃さず、攻撃を畳みかける。

石を穿つ音がひびき、ジョルノ顔のすぐそばをホワイト・スネイクの拳がとんだ。
背後の壁を削りながら、構わずプッチは攻撃を続ける。ジョルノは避けの一手だ。攻撃をする暇もない。プッチの猛攻がそれをさせなかった。

しかし何の策もなかったわけではない。
攻撃をかわし続ける中でジョルノのスタンドは既に壁に触れていた。その壁から既に、生命を産みだしている。

「小賢しい真似をッ!」

まとわりつくように伸びた蔦をさけるため、プッチが一旦距離をとる。
今度はジョルノの番だ。ゴールド・エクスペリエンスが躍動すると、プッチ目掛け拳を振るった。
地面を砕き、民家を崩し、辺りを破壊しながらゴールド・エクスペリエンスがプッチを追いかけていく。
だが完全にとらえるには至らない。後一手が足りない。どうしてもプッチを捕えられず、いたずらに住宅街を破壊する音が木霊した。

「どこを狙っているッ!」

何度目になるかわからない破壊音、そして伸びる蔦。プッチはかわす。もう何度繰り返したかわからない攻撃と回避。
ジョルノは少し離れたところで膝をついて、息を荒げていた。段々と攻撃が単調になっていた。体力の回復より消耗が上回っていたのだろう。
状況はプッチに傾いた。腰を落とし、瞬時に踏み込むと間合いを詰める。
ジョルノが敷いたガードの上から強引に殴りつけてゆく。パワーでのごり押しだ。実際、今のジョルノにそれを受ける体力はない。

焦燥が表情に浮かぶ。徐々に、そして少しずつ、ジョルノの体にダメージが浮かんでいく。
頬に走る真っ赤な線。身体に浮かぶ真っ青なあざ。少しずつ、だが着実にジョルノの体は浸食されていく。
一方プッチに消耗は見られなかった。攻勢一方なのだから当然だ。
つまるところ勝負の分かれ目はひとつだ。消耗したジョルノにプッチを押し返す力はあるのか。プッチを防戦に持っていく策があるのか。
179太陽の子、雨粒の家族  ◇c.g94qO9.A氏代理:2013/03/25(月) 23:32:28.47 ID:p5S0MSXK
ついにプッチがジョルノを追いつめる。
街中を飛び回るように戦っていた二人が辿りついたのは袋小路。三方を高い壁に囲まれて逃げ道なし。正面にはスタンドを構えたプッチがいる。
ジョルノの額を汗が伝った。それは疲労ゆえのものなのか。追いつめられた危機感ゆえのものなのか。

ゆっくりと、そして確実にプッチが距離を詰める。後ずさりしていたジョルノの身体が壁にぶつかった。
もう時間を稼ぐことも不可能。消耗したジョルノに正面のプッチを打ち倒すことも無理。
観念するんだなと、プッチが言った。文字通り将棋やチェスでいうところの『詰み』だ。ジョルノは唇を噛み、青い顔で黙り込んだ。

「覚悟するんだな、ジョルノ・ジョバァ―ナ……ここまできたら逃げられない」
「“覚悟”……ですか。それなとうに済ませましたよ」
「ふっふっふっ……殺される覚悟か? それとも自分を捨てる覚悟か?」
「いいえ、そのどちらでもありません。僕にできた覚悟、それは…………」

疑惑がもたげる。不安がよぎる。思わずプッチの動きが止まってしまった。
ジョルノはすでに疲れ切っている。そこに偽りはない。
ダメージも相当のものだ。生傷、青痣、骨折、打撲……プッチはジョルノに生命を生み出す隙、治療させる隙を与えなかった。
つまり状況は圧倒的有利なはずだ。ここからプッチに負ける要素など、皆無のはずだ。

―――ならばこのジョルノの余裕はなんだ? その顔に浮かんだ不屈の心は、輝くきらめきは……?



「危険を冒してでも貴方を殺す覚悟です」
「……なに?」

プッチの問いかけは地響きに紛れ、ジョルノの耳まで届かなかった。
直後、辺りを揺るがすような轟音が響いた。否、事実、現象として辺りが揺らいだ。
プッチの足元が崩れる。ジョルノが倒れた地面が割れる。民家が、壁が、木が、街が…………!
突然足元に生まれたぽっかりとした穴に二人の体が吸い込まれていくッ!

「ゴールド・エクスペリエンス!」
「うおおおおおおおおおおおおおお――――ッ!?」

プッチは見た。そして理解した。
固いコンクリートを貫き張り巡らされた根。水道管をぶち抜き伸びる木々。
ついさっきの光景が頭の中で再生される。つまりは『こういうこと』だったのだ。すべてはジョルノの策だったのだッ!

ジョルノの攻撃はプッチを狙っていたのでない。地面だッ!
すべてはこの時のため、プッチをはめるためッ! ジョルノは! あえて大振りで拳を振るったッ!
プッチに悟られぬよう、あえてそうしたのだッ!
180太陽の子、雨粒の家族  ◇c.g94qO9.A氏代理:2013/03/25(月) 23:42:15.81 ID:p5S0MSXK
底知れぬ闇に落ちていく二人。プッチの叫びが聞こえる。
どこまで落ちていくんだろうか。この先はどこに通じているのだろうか。
まさか行き着く果ては……転落死? 固い地下通路にたたき伏せられ、この私が……こんなところで…………死ぬ?


―――バシャンッ



「こ、これは…………“水”……?」

濡れた顔を拭い、足着かぬ縦穴で泳ぎながらプッチは上を見上げた。
相当深いところまで落ちたようだ。さっきまで見えた太陽がまるで針の穴かのように細く小さく、上から射している。
辺りを見渡せば少し離れたところにジョルノもいる。闘志は衰えていない。ここからが勝負だということか。
足場もない水の中、そこでの真っ向勝負と洒落込むわけか。

「貴方は覚悟を口にした……それは軽々しく口に出してはいけない言葉だ
 なぜなら覚悟とは与えらるものでも押し付けられるものでもないからだ」

しかし直後プッチは自らの勘違いに気づく。ジョルノの言葉が狭い穴の中で増幅される。
ジョルノの策は終わっていない。むしろここからだ。逃れられない結果だけが、そこには存在していたのだ!


「覚悟とはッ! 己の意志で、自らの手で……光り輝く明日を切り開くことだッ!」


顔を打つ雨粒。滴り落ちる水滴。そして聞こえる轟音。水の音。
太陽がさえぎられる。黒い雲が細い光を遮り、今にも泣きだしそうな天候がプッチを見返した。
絶望に染まった顔でプッチはジョルノを見た。ジョルノは何も言わなかった。スタンドすら構えなかった。
なぜならここに落ちた時点でプッチは“終わっていた”のだから。
なすすべもなく“死ぬこと”だけは、すでに決まりきった“運命”なのだから。


「嘘だ……ありえない。この私が、この私がこんなところで、こんな小僧と共に…………ッ!!」
「“覚悟”してもらいますよ、エンリコ・プッチ…………」


縦穴に水が流れ込む。ゆっくりと、そして次第に加速して。肩までだった水が顎まで伸びる。顎までだった水位が唇まで上がる。
ジョルノはゴールド・エクスペリエンスであちこちの水道管をひねり、曲げて、そしてこの縦穴に流れ込むように細工した。
ウェザー・リポートの豪雨を最大限に利用したのだ。

逃げ道はない。今のプッチに縦穴を上る力は残されていない。仮あったとしてもジョルノがそれを許さない。
逃げようにも足は底をつかず、絶えず立ち泳ぎ状態。辺りはすべてに壁に囲まれている。
井戸に落とされたも同然だ。そして井戸に突き落とされたままそこに水がなだれ込めば……しかも記録的、災害的豪雨の直後であったならば……。
181太陽の子、雨粒の家族  ◇c.g94qO9.A氏代理:2013/03/25(月) 23:50:09.59 ID:p5S0MSXK
「このちっぽけなゴミ糞がァァアアア――――ッ!」


やけっぱちに悶えたプッチのスタンドがジョルノに迫る。ジョルノは冷静に、落ち着いて……一閃。
黄金の輝きがクロスカウンター気味に拳を叩き込んだ。つぶれた饅頭のような格好でプッチがうめき声をあげる。
ジョルノは止まらない。ジョルノは今一度、力を振り絞り、すべてのエネルギーを解放し……スタンドの拳をプッチ目がけ叩き込んだ。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄―――」


雨よりも多い拳がとぶ。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄―――」


風よりも早く拳が打つ。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄―――――――――ッ!」



そして耳をつんざく轟音と共に、この世の終わりを思わせるほどの濁流が天より降りそそぎ……二人の姿は見えなくなった。
そこにあったのは水。二人は水に飲みこまれ……そして浮かんでくるものは何一つなかった。





182太陽の子、雨粒の家族  ◇c.g94qO9.A氏代理:2013/03/25(月) 23:59:04.56 ID:p5S0MSXK
「終わったのか……」

底も見えないほどの深さの池の近くで、男の声がそう問いかけた。
ウェザー・リポートは身体を引きずりながらジョルノとプッチが落ちていった池を覗き込む。
真黒で何も見えない。あの大雨全てが流れ込んだのだ。二人が生きてるはずがないだろう。


――――もしもなにも策を講じていなければ、だが


「……ぶ、はアッ!」
「ジョルノ、大丈夫か」

池から二本の腕が伸びると、水面からジョルノが顔を出した。身体には何十もの蔦が絡まっている。そしてその腕に丸々と太った魚が一匹。
ジョルノはあの濁流を乗り越え、底知れない池より這い上がり、見事に生還した。
ジョルノの完全勝利だ……! プッチは死に、ジョルノは生き残った……!


濁流が流れ込んだ瞬間、ジョルノは頭上と体全身をスタンドで生んだ木の葉でつつんだ。
あの状況で真っ先に死ぬ要因として挙げられるのは溺死でなく、圧死。
何万トンもの水が、雪崩のように流れ込むのだ。そのまま何もせずにいたならば、まず真っ先に水の重さで、潰れて死ぬ。
ジョルノはそれを避けるために、隠し持っていた木の葉、木の枝、あらゆるものを身に纏った。
プッチとの戦いでそれをしなかったのは機動力を殺さないため。そしてプッチに攻撃してもらうためだ。
ジョルノにとって避けなければいけなかった事は長期戦と、ウェザーをいけにえに取られるような行為だったから。
長引けば体力を限界まで削りきっていたジョルノは押し負けていだろう。そのためにもカウンターではなく、一撃で沈める必要があったのだ。

水の濁流をスタンドの反射で乗りきり、次にすべきことは脱出だ。
圧死は免れたとしても深さ20メートルはあろう縦穴からの脱出は困難必須。
一度に流れ込んだ水流が安定するのには時間がかるだろうし、渦潮のように滅茶苦茶にうごきまわる可能性もある。
人間の体は自然と浮かび上がるようにできているとはいえ、それを待っていては窒息死、あるいは戦いの中でついた傷が開いて失血死が待っている。

ジョルノがとった策は二重。穴の外にいるウェザーによるサルベージ。そして生みだした生命が元の持ち主戻ろうとする性質を利用するもの。
生みだした魚は生まれた地上目指し上昇する。舵を取るように蔦が動けば、もう大丈夫だ。
何をする必要もなく、ジョルノは水面にたどり着く。そうして今、こうやって彼は生きている……。
183太陽の子、雨粒の家族  ◇c.g94qO9.A氏代理:2013/03/26(火) 00:08:34.05 ID:LINOSRSY
「やったな」

柔らかな笑顔をこぼし、ウェザーが言う。水を滴らせながら呼吸を整えていたジョルノはその言葉に顔をあげ、そしてニヤッと笑った。

「目にもの見せてやりました」

ぱんっ、と乾いた音が辺りに響く。二人の掌がぶつかり合う音だ。高らかに鳴る勝利の音。
ウェザーは笑った。ジョルノも笑った。この勝負、二人の勝ちだ。しかもただの勝利ではない。二人がいたからこそ、二人だったからこその勝利。
どちらかが欠けていても負けていた。どちらかの意志が伝わらなかったら負けていた。
二人こその勝利。二人だけの勝利。それはとっても嬉しい事だ。境遇を越え、年齢を超え、二人が真に心を通じ合わせた証拠とも言えよう。


「ジョルノ」
「はい」
「頼みがある」
「はい」
「アメリカ、フロリダ州メーランドに俺の家族の墓がある。母、父、そして妹……一家の墓なんだ。
 そこに俺の名前を刻んでほしい。頼まれてくれるか?」


だからこれは悲しい事ではない、とジョルノは自身に言い聞かせようとした。
血を流し、白色の顔で倒れたウェザーを見て、奥歯をグッと噛みしめた。
既に手遅れだった。最後のあの豪雨、大穴に雨を流し込んだ時点でウェザーの命は燃え尽きていた。
否、実際はもっとそれよりも前に、ウェザー死んでいたのだ。ウェザーが今動けているのはジョルノのおかげ―――。


「君が悲しむ理由はない。君がダービーズ・カフェで俺に拳を叩きこんだ時、ちょっぴり君のエネルギーをわけてもらえた。
 そうでなければ俺はとっくに死んでいる。今こうやって話していられるのも君のおかげなんだ。だから悲しむことじゃない」
「わかっています……。わかってはいるんです……」
「ジョルノ、君は俺を救ったんだ。家族との決着を済ませた。一夏の恋物語もついに決着だ。
 もうなにもいらない。登場人物はとうに皆、死んでいる。だから今度は俺の番。ただ今それが来ただけ。
 それだけのことなんだ……」

時が来ようとしている。二人は口にするまでもなくそれを察した。
残る力を振り絞って、ウェザーが腕を持ち上げる。その手を受け止め、ジョルノが手を握る。
死ぬ間際とは思えないほどの温かくて力強い握手を交わし、二人は言う。別れの言葉だ。
184太陽の子、雨粒の家族  ◇c.g94qO9.A氏代理:2013/03/26(火) 00:16:51.50 ID:LINOSRSY
「君と友達になれて良かった、ジョルノ」
「僕もです、ウェザー・リポート」


太陽が真上から二人に降りそそいだ。そして一瞬雲が横切って……再び光が見えた時、既にウェザーはこと切れていた。
冷たく硬くなった手に一度だけ頬よせ、ジョルノ目を瞑った。

仲間がいた。上司がいた。敵もいたし、コイツだけは許せないと思うヤツも何人もいた。
ウェザーはそのどれにも当てはまらない不思議な人物だった。
互いがどんな音楽を好きかも知らない。食事を一緒にとった回数だって一度だけ。
今回だって共に戦ったとはいえるが、肩を並べて戦ったわけではない。


「人と人との出会いは偶然です。もしかしたら、それは運命と言えるのかもしれません」


それでもジョルノにとってウェザーは友人だった。
年齢も人種も性格も境遇も全く違うが……違うからこそ芽生えた不思議な連帯感はそうとしか形容ができなかった。
もっと一緒にウェザーといたかったとジョルノは思った。
記憶を取り戻したウェザーは予想以上に激情家だったが、そんな一面も新鮮で面白いと思えた。
落ち着いた一面だって素敵だった。物静かで、読書や音楽を楽しむ時に一緒にいてくれるだけで幸せにしてくれるんじゃないかと思った。
そんな風に期待できる何かを、ウェザーは持っていた。


「だったら僕はあなたと出会わせてくれた運命に感謝します」


約束は必ず守ってやる。この戦いを終えたらウェザーの言った通りに、花束を持ってアメリカにわたり、そして彼の名前を刻んでやる。
とびっきり派手にだ。なんだったら墓一つ丸々作り変えてもいい。
名前以外になんて刻もうか。偉大なる気象予報士、ここに眠る、なんてジョークを書くのがアメリカ式なんだろうか。
185太陽の子、雨粒の家族  ◇c.g94qO9.A氏代理:2013/03/26(火) 00:22:33.14 ID:LINOSRSY
「さよなら、ウェザー・リポート」


ジョルノは振り向かない。冷たく転がる遺体に一瞬も目をやることなく、彼は先に向かって足をすすめた。
いいだろう、約束してやる。約束してやるとも。
ウェザー・リポート、僕がまとめて救います。貴方を救ったよう、僕は皆を救います。
もう誰も失わない。もう誰も死なせません……!


決意を胸に少年がいく。その背中を押すように温かな光線が降りそそいだ。
雲は去り雨は上がり太陽が輝く。ジョルノは進んでいく。その輝ける未来めざして。







【ホット・パンツ 死亡】
【エンリコ・プッチ 死亡】
【ウェザー・リポート 死亡】

【残り 58人】







【C-2 北部/ 1日目 午前】  
【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:体力消耗(小)
[装備]:閃光弾×3
[道具]:基本支給品一式、、エイジャの赤石、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア)
    地下地図、トランシーバー二つ
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える。
1.ミスタ、および他の仲間たちとの合流を目指す。
2.放送、及び名簿などからの情報を整理したい。
[参考]
※時間軸の違いに気付きましたが、まだ誰にも話していません。
※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。

※ウェザー・リポート、エンリコ・プッチ、ホット・パンツの支給品、デイパックを回収し、必要なものだけを持って行きました。
 必要のないものは全て放置しました。回収したものはエイジャの赤石、不明支給品、トランシーバー二つ、閃光弾二つ、地下地図です。
186太陽の子、雨粒の家族  ◇c.g94qO9.A氏代理:2013/03/26(火) 00:32:03.93 ID:LINOSRSY
以上です。遅れてすみません。
何かありましたら連絡ください。

ウェザーは書いてて、天気で演出ができるので楽しかったです。

--------------

投下乙でした!
二転三転するバトルに興奮が止まりませんでした!
ホット・パンツは可哀想に……
187創る名無しに見る名無し:2013/03/26(火) 01:10:41.60 ID:y7arG5Ua
ウェザーの本名ってウェス・ブルーマリンだよね?
188創る名無しに見る名無し:2013/03/26(火) 14:08:33.18 ID:BClejKCQ
投下乙です。

雨の後には、太陽が虹を照らす。
ハラハラ白熱のバトル、堪能しました!
189創る名無しに見る名無し:2013/03/26(火) 23:46:28.53 ID:ayVqDKL4
投下乙です!
最後の二行に感動。やはりジョルノはかっこいい!
そしてホットパンツは利用されて死んで可哀想だった…

そういえばプッチの私の傍に近寄るなァーッは演技でしたが
誰かがこれを本気で言っていたような…w
190 ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 02:50:08.46 ID:/+E4aaKB
投下、代理投下乙です。
バトルの描写もさることながら、ジョルノとウェザーの最後のやり取りにグッとくるものがありました。
それにしても記憶DISC抜かれっぱなしの誰かさんはどうなるんだろう……

では
ウィル・A・ツェペリ、モハメド・アヴドゥル、マリオ・ズッケェロ、ジャイロ・ツェペリ、ビーティー、ドルド
投下開始します。
191影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 02:52:54.35 ID:/+E4aaKB
―――B-8、サンモリッツ廃ホテル。
ホテルと銘打ってはいるがそれは改築された後の呼称であり、本来の建築目的は別荘兼要塞―――すなわち『城』である。
城といえばその役割は主に外敵からの攻撃を防ぐというものだが、現代人にとってはむしろ内部にいる者たちがそこで何かを繰り広げる場所という印象のほうが強いかもしれない。
実際、このバトルロワイアルでも内部において協力、疑惑、闘争、裏切り………多くの出来事が発生し、登場人物は大きく変わったものの未だに騒動が治まったとは言い切れない場所となっていた。
そして現在、特に被害が大きいロビーでは四人の参加者たちが今まさに対話を再開しようとしていた。


「………………それで」

沈黙を破ったのはドルド。
先程自分たちを脅迫に近い形で勧誘してきた魔少年、ビーティーへと視線を向けて真面目くさった声で問いかける。

「ただ同行しろ、というわけではないだろう。名簿を見せてもらう条件として、こちらは何をすればよいのかな?」
「ふむ、話が早いのはぼくとしても助かるが………どちらにせよすぐに名簿を見せる、ということは出来ないな」
「ずいぶんと強気に出ているようだが………理解できないわけではあるまい? 名簿にしろ放送にしろ、きさまらに協力せずとも別の参加者から情報を得ることが十分可能だということが」
「短絡的な考え方だな………確かに差しあたっての情報はそれで得られるだろう。だが、おまえたちは最初のホールで壇上に立っていたあの男が何者で、その裏にいる存在に気付いているか?
 殺された男たちが誰なのかわかるか? これらのことを、ぼくは知っているッ!!」

ビーティーの言葉は全体でいえばハッタリに近い。
だがジャイロ・ツェペリから聞いたスティーブン・スティールと大統領の情報、そしてモハメド・アヴドゥルから聞いた空条承太郎の情報………
これらを組み合わせることにより、部分的に真実を含んでいる情報として『一度に全てを話す』ことでもない限り、十分使用できるものになっていた。

「………………それが本当だとして、わたしたちを引き入れる理由が見当たらんな」
「ぼくの『目的』………そのための計画自体は十分に成功しうるものと考えているが、さすがに一人や二人では実行が出来ない………人手がいるというわけだ」
「ほう、なるほどな………内容にもよるが、わたしのほうは協力してやらんこともないがね―――」

そこには大の大人が中学生ぐらいの少年と対等な目線で話をするという奇妙な図があった。
しかしビーティーはもちろんのことだが、ドルドにとってもこの会話自体に違和感は覚えていなかった。
彼は秘密結社『ドレス』の一員………相手を見た目だけでは測れないということをよく理解していたためである。

さらに会話を続けるビーティーの後ろで、彼の同行者であるアヴドゥルは固唾を飲んで見守っていた。
なにしろ相手はゲームに乗った可能性が高い者、それも二人である。
なにかのはずみで彼らが一斉に襲い掛かってきた場合、自分ならともかくビーティーはひとたまりもないだろう。
とはいえビーティーの『策』によりどうにか対話が成立している以上、自分が余計な手出しをするのはこの均衡の崩壊を招くことにつながると分かっていた。
それゆえに見守ることしかできなかったのである。

「まあ、こちらとしても最初から能力やらなにやら全てを話してもらえるとは思っていないさ。だがこの場においては多かれ少なかれ『信頼』というものが必要だ。
 だから、まずはぼくの質問に答えてもらう。それを受ければ、ぼくも君たちの質問に答えることにしようじゃあないか、ミスタードルドに………ミスターズッケェロ」

ビーティーは先ほどから黙って自分を苛ただしげに見ていた男―――マリオ・ズッケェロのほうへと視線を移して続ける。

「大方『ガキのくせにチョーシこいてんじゃあねえぞ』とでも考えてるんだろう。
 だがおまえはそのガキに不完全ながら一本取られた、というのも揺るぎない事実だ。
 まあ、相手がぼくでまだよかったじゃあないか………もし別のガキだったら、取られていたのは『命』だったかもしれないのだからね」
「………………」
192影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 02:55:58.63 ID:/+E4aaKB
この場に彼の親友がいれば『まだよかった』なんてよく言うよ、と心の中で呆れたであろう台詞を受けたズッケェロはますます不機嫌そうになる。
しかしビーティーは彼の視線を意にも介さず続けた。

「だんまりか………まあいいさ、もう一つ言っておくがチョーシこいてるというならば、一番偉そうにしているのはあの『主催者』だということを忘れていないかな?
 ぼくは実際に会場にいて『命を張っている』状態だ。だがあの男はおそらく、安全な場所からこちらを眺めてほくそえんでいるのだろうからね」
「………うるせえ、組んではやるからさっさと『質問』とやらを言いやがれ。いっとくが、答えるかどうかは内容次第だぜ」

いらついた表情のままながらも、このままでは埒があかないと判断したのかズッケェロは一先ず提案を受ける意思を示す。
ドルドの方を見て彼も頷くのを確認すると、ビーティーは『質問』を口にした。

「それじゃあ質問だ。ゲーム開始から今までの約六時間、君たちは『どこで』『何を見て』『何をしたか』を聞かせてもらおうッ!」

(ビーティー、本当に大丈夫なのか? スタンド能力までは聞き出せないにしても、知っている人間や所持している武器とか、もっと他に聞くべきことがあるんじゃあないか………?)

アヴドゥルは黙ったままながらも自分なりに考えを巡らせていた………が、今の思考のみに関していえばその心配は不要であった。
能力にしろ武器にしろ、今現在の状況で聞き出すとなるとおそらく自分たちの手札も明かす必要が出てくる。
それに今後戦闘が起きれば彼らも否応なくその『手札』を見せざるを得ない状況が必ずやってくるだろう。
無論その時の相手が自分たちである可能性も少なからず存在するが、迂闊に自分たちの能力を明かしてしまい対策を練られればその分不利になるのは明白である。
なぜならば、今の彼らは『ビーティーがスタンド使いではない』という事実を知らないのだから。

一方、問われた二人は互いに牽制するように視線を交差させ、すぐに逸らす。
彼らはどちらも質問に答える気はあったが、どのように答えるかを自身の記憶と照らし合わせて考えていた。
さらにいえば答えた後に質問するのは当然後の方が有利………だが両者とも順番について交渉する気は無く、自分が質問する内容についても練っておく必要があったのだ。
ややあって、痺れを切らしたズッケェロのほうが口を開く。

「今までっつっても正直オレは大した話はできねーぜ………気が付いたら見知らぬ街の真ん中―――地図からするとたぶん杜王町ってとこにいたんだが、適当に歩いてもだれ一人いやしねえ。
 遠くで誰かが小競り合いでもやってるような音はしたが、なるべく関わらないようにしてようやくこのホテルまで来たんだよ。
 だが入口から見た感じじゃ誰も見当たらなかったから中に入って詳しく調べようとしたときだ………てめーらが入ってくる音が聞こえたんでとりあえず身を隠した。
 あとは知っての通りってとこだな」
「………ということは、今ここにいる者たちが殺し合いで最初に遭遇した人間だと?」
「ああ!?悪いかよ? こんな状況じゃヤバい奴に遭わねーに越したことはねーだろうがッ!」

いちいちつっかかるような態度ながらも質問に答える。
とはいえ、その内容はあらかじめ考えておいた偽りのもの―――彼自身が今までやったことを考えれば当然であるが。
ビーティーは耳をなでながら何やら考えていたが、数秒後には視線を元に戻して言った。

「ふむ………まあいいさ、次はそちらが質問する番だ。もっともきみ自身が言った通り『答えるかどうかは内容次第』だがね」
「チッ………参加者は全部で何人で、これまで誰が死んだのか、後禁止エリアについて聞かせてもらおうじゃねーか」

ここにいる者たちが今後どのような関係―――一時的な味方か、あるいはすぐにでも敵となるのか、それがはっきりするまではうかつに知り合いの名前を出すべきではない。
そう判断したズッケェロは放送と参加者全体についての情報を要求する。
―――自分の聞いた放送に間違いは無いか、また一人きりで優勝を狙えるかどうかということを確認する意味も兼ねて。

「いいだろう、参加者は全部で150人………うち放送までに死亡したのが76人さ。死亡者の名前は―――」

「………………」
193影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 03:00:21.00 ID:/+E4aaKB
情報の真偽に関しては問わず―――『お互い様』だからだ―――無言でズッケェロ、そしてドルドはメモを取る。
一通りの作業を終えるころにはドルドの元に『次はお前の番だ』といわんばかりの視線が集中していた。
ドルド本人もそれは理解しており、淡々と喋り始める。

「わたしは最初地図の北端近く、ミステリーサークルにいた………そこから東の砂漠に一度移動した後南下して杜王駅まで行き、遠めだが駅前にて参加者同士の争いを確認した。
 関わる気は無かったのでそこで方向転換し、このホテルにやってきた。ひとまず中に入って誰かいないか様子を窺っていると君たちが入ってきた………こんなところだな」
「―――ひとつ聞きたい。ずいぶん長距離を移動したようだが、移動手段は何を使った?」
「ほう、聡いな………お察しの通り徒歩ではない。わたしはずっとハンググライダーを使って移動していたよ」

本人以外には知る由も無いが、意外にもドルドは質問に対して正直に答えていた。
砂漠で目撃した男の死とライターを拾ったことなどは伏せているが、それを含めても彼の行動には後ろめたい部分というのが無かったのである。
となれば無理に作り話をせず素直に答えても何も問題は無い、と判断してのことだった。

「なるほど、ホテルへの進入経路はひとつだけ開いていた窓かそれとも屋上か………さて、そちらの質問に答えよう」
「そうだな………そこの男が先ほど鳥の頭をした何かを呼び出し、そこから炎を放出していたが、あれはいったいどういう仕組みだ?」
「「「………………!」」」

ドルドの質問に他三人は各々のしぐさで驚きを見せる。
数瞬の後、ビーティーは真っ直ぐドルドを見ながら言った。

「『スタンド』という言葉に聞き覚えはあるかな?」
「単語自体は一般的なものとして知っているが、この場においてそれ以上の意味がわかるかと聞かれれば答えはNOだ。
 君たちがホテルに入ってきたときにスタンド能力と口にしていたことから察するに、あの鳥の名前ということか?」

その答えを受けたビーティーは今の発言について考える。
実はスタンド使いだが知らない振りをしているだけか、と勘ぐるがすぐにこのパターンは自分のときとほぼ同じことに気づく。
第一わざわざ『質問』を使ってまで聞いてくるところを見るとその可能性は低い―――そう判断しビーティーは答えを返す。

「いいだろう。質問に答えてもらったのは事実だし、説明しようじゃあないか―――」

ビーティーはドルドにスタンドとは何かを説明していく。
話す内容はほとんどがアヴドゥルに聞いたことの受け売りであったが、彼はあたかもずっと以前から知っていたかのようにすらすらと言葉をつないでいく。
その様子が何も知らぬドルド、そして横にいたズッケェロにどう映ったかは本人しかあずかり知らぬところであるが、少なくともビーティーがスタンドに関わりがあるという疑いを持ったのは確かであった。
そして説明を聞き終えたドルドは自分なりの考えを巡らせる。

(超常現象………か。さきほどの男が実際に炎を出したことや駅にバオー鼠がいたことを踏まえれば、おそらくこのゲームには多数の『超能力者』が参加させられている。
 しかもあの小娘の予知能力などとは違う、戦闘用の能力を持つものがいるということだ………一筋縄ではいかんと思っていたが、想像以上に厄介な………)

処刑を免れたと思っていたが、今現在のこの状況こそが処刑そのものなのではないか―――心の中で戦慄するドルドであった。
一方、ようやく話に区切りがついたと判断したアヴドゥルは会話に混ざるべく口を開く。

「しかし、そうなるとここで何が起きたかを知っている者はいないということか? 参ったな………」
「おっと、その件についてなら力になれると思うぜ」
「「「「………!!」」」」
194影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 03:05:38.46 ID:/+E4aaKB
聞き覚えの無い声を受け、慌ててそちらのほうへと視線が移る。
正体不明の男が登場したことで場に緊張感が漂うが、ビーティーは男の姿にいち早く気づくと警戒を緩める。

「ジャイロ・ツェペリか」
「………よおビーティー、お互い無事で何よりってやつか」

ジャイロは無造作にビーティーへ近づいていくと………その拳を彼の頭にあてがい、グリグリと押し付け始めた。

「ぐっ、何をするんだッ………」
「このクソガキが、なにが鬱憤は晴らせた、だァ? ふざけやがって、悪戯にしちゃ度が過ぎてたぞ?」
「だからあれはお互い様だと―――痛っ、そちらこそ加減というものを考えろ………」

ビーティーはなすがままにされながらも表情を崩さず受け入れていた。
………実のところ、ビーティーにとってどこか大人気ない部分があるジャイロがこのようなことをするのは予想できていたし、身をかわしてしまえばわざわざ痛い思いをせずに済んだ。
では何故あえて彼の報復(?)を受け入れたのか、その答えは後ろに立つ男たちの顔にあった。
アヴドゥルはわずかな安堵、対称的にズッケェロとドルドは苦虫を噛み潰したような表情。
三人の思いは皆同一―――すなわち『彼はビーティーの知り合い、それも友好的なものか』というものである。
これで人数的には良くて二対三、ズッケェロとドルドが組んで名簿を奪いとることを試みたとしても、その成功率は大幅に下がったといえる。
すなわち彼らにとって対等以上になり得る状況が、一気に形勢不利にまで持ち込まれたのだった。

だが、真に恐るべきはビーティーである。
彼は、ジャイロ本人すら気づかないまま『利用』し、自分たちの『安全』を確保したのだ! しかも一瞬でッ!!
初歩的なものかもしれないが、いかに彼が人心掌握というものを理解しているかということがわかる一場面であった。

ようやく手を離したジャイロに向かい、口を開いたのはドルド。
まがりなりにもビーティーに協力する以上、逆に自分が攻撃されることも無いと判断し会話に加わる。

「それで、先ほどの発言からするとこのホテルで何が起きたのか知っていると? ………いや、それ以前にそちらは何者かということを説明してもらいたいね」
「っと、自己紹介とかはちっと待ってくれねーか? オレよりも詳しい人がいて、これからそこに連れて行くからよ」
「………ちょっと待て、そちらに仲間がいるのなら何故今この場にいない? しかもそちらのテリトリーまでついて行けだと? 失礼ながら罠としか思えないな」

ジャイロの返答に対して投げかけられたもっともな疑問に残る大人二人が小さく頷く中、ビーティーだけは違った反応を示していた。

「いいよ、行こうじゃあないか」
「ビ、ビーティー!?」
「虎穴に入らずんば虎児を得ず、慎重なだけでは何も得られないよ………もちろん、きみたちにまで強制はしないがね」

ビーティーは先ほどの疑問に対して質問しようとすらしなかった。
だが静かな自信に満ちたその言葉に何かを感じ取ったのか、まずアヴドゥルが、次いで残る二人も警戒しつつ賛同の意を示す。
それを見て頷くとビーティーはジャイロへと向き直る。

「意見はまとまったようだ………ジャイロ、道案内を頼む。アヴドゥル、君は最後尾を担当してくれ」
「………わかった。よろしく頼む、ジャイロ」
「あー、よろしく………ところでおたく、アヴドゥルっていうのか? どっかで会ったことなかったっけ?」
「………? すまない、わたしには覚えが無いが………」
「んー、どこだったっけな? 確かラクダに乗ってたような………イテッ、ビーティー! 今オレの足踏みやがったな!?」
「おや、失礼………まあサービスでさっきのお返しはこれでチャラということにしておこうか」

こうして五人は、互いに信用しきれない状態ながらも隊列を組んで移動を始めた。
―――そして舞台はホテル内の一室へと移る。


(さて、忙しくなりそうだ………)
195影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 03:11:44.99 ID:/+E4aaKB
#


「無事に戻ってきたか、ジャイロ君」
「オレは何もしてねーよ、あえて言うなら『勝ち馬』に乗っかっただけさ………あんたこそ何事も無かったか?」
「おかげさまで、変わったことはなかったよ。それにしたって、ずいぶんと大所帯になって帰ってきたもんじゃの」

部屋の中に揃った顔ぶれを順番に眺めながら言うのは壮年の男性―――ウィル・A・ツェペリ。
道すがら彼が下半身不随で動けないということは聞かされていたものの、それが真実か否か………二人のツェペリを除き、ほぼ全員が思い思いに考えを巡らせていた。
そんな中、重めの空気を打破するべくジャイロは口を開く。

「まずは自己紹介しとくぜ………オレはジャイロ・ツェペリ。
 そしてこっちがウィル・A・ツェペリ………会ったのはついさっきが初めてだが、オレの遠い親戚に当たる。
 まぎらわしいってんならオレのほうはジャイロって呼んでくれりゃあいいぜ」
「あらためて名乗らせていただこう、わたしはウィル・A・ツェペリ男爵だ………見ての通りのありさまだが、よろしくたのむよ」

何は無くともまず自己紹介から始める。
ジャイロが二人の関係を親戚といったのは、時代の件についていきなり話しても困惑するだろうという配慮であった。
ツェペリ、ジャイロ共に言葉は友好的であり、残る四人も見知らぬ相手に対して警戒を怠るほど弛んではいなかったとはいえ、それらはあくまで最低限のもの。
相手方に戦闘の意思がないことを再確認したビーティーたちも、一人ずつ名乗り始める。

「ビーティー………本名ではないが、名簿にある以上はこの名前で通させてもらう………そしてぼくは、このゲームにおける重要な立ち位置にいるといっていい」
「わたしはモハメド・アヴドゥル。エジプトで占いをやっていた」
「マリオ・ズッケェロ。イタリア人で………悪いがほかに名乗れることなんてねー」
「………ドルドだ。某国の政府に仕える軍人とだけ言っておこう」

「見事に国籍から何からバラバラじゃの。しかしビーティー君といったか、見たところずいぶんお若いようじゃが、きみが言う重要な立ち位置とはどういうことかね?」
「好きに想像してもらえばいいさ………とはいえ何もなしじゃあ締まらないからひとつだけ言おう。
 ぼくは最初のホールにいたあの男―――スティーブン・スティールの裏に『ある国』が関わっていることを知っている」

(((………!?)))
(ビーティー、お前って奴は………)

ビーティーの言葉にはハッタリが含まれていたが、その効果はてきめんだった。
真相を知るジャイロ以外が明らかに動揺するのを確認し、つかみは上々だと判断したビーティーは話題を切り替える。

「まあ、今はそんなことなんてどうでもいいだろう………ミスターツェペリ、ぼくたちはあなたに聞きたいことがあってここまで来た」
「聞きたいこと………ふむ、それはゲーム開始からずっとホテル内にいたわしが今までに見聞きした全てということかな? 少々長い話になるが………」
「ちょっと待った。確かに話は聞きたいが、その前にひとつだけ質問に答えてもらいたい」
「………質問?いったいなにをかな?」
「あなたはこのホテルでいったい何人の参加者と出会い、そしてその中に先ほどの『放送』で呼ばれた者は何人いるのか、ということさ」

ツェペリは返事をする代わりに訝しげな表情を作る。
それを見てとったビーティーは言葉を続けた。

「ぼくにとって重要なのは『ここで何があったのか』じゃあない。『ここにいたのがどんな奴か』という先に役立てられる情報だ。
 もしここにいた参加者が互いに殺し合い、あなたがただ一人の生き残りというならば話を聞くだけ時間の無駄だからやめてほしい、というわけさ」
「ビーティー、そんな言い方は………」
「かまわんよ、彼の言うことももっともじゃからの。さて、質問の答えだが君たち以前にわしがこのホテルで出会った者はそこにいるジャイロを含めて『九人』!
 そのうち放送で名を呼ばれた者が二人、名前を知る機会が無かった者が二人となる」
196影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 03:17:15.71 ID:/+E4aaKB
アヴドゥルがたしなめるようにつぶやくが、ツェペリは気にした風もなく質問に答える。
一方彼らの後ろでドルドは合点がいった、という表情をしていた。

(フム、確かに単なる思い出話なら時間を浪費する必要は無いと思っていた。だが複数の参加者の情報が得られるのならば聞く価値はあるかもしれん。
 スタンドというものをよく知らないおれにとっては特に、な)

バオーなどの生物兵器を生み出した『ドレス』に関わり、彼自身もサイボーグであるとはいえ、それはあくまで『科学』で説明がつく範囲である。
スタンドといういわば『超能力』までは理解が及ばない以上、ドルドとしても話を聞く―――ひいてはしばらくこの集団と共に行動するのが最善であると結論を出していた。

そして残る一人、ズッケェロも場の雰囲気を感じ取ったのか腕組みをして壁に寄り掛かる。
当然彼はツェペリの話になど興味は無い―――九割方、自分も知っている話であることを理解しているからだ。
だがこの場で自分だけ別行動というのは不自然であり、下手を打つと自分の印象が悪くなりそうな状況ではさすがに身勝手はできなかった。

もし先ほどの質問がなければズッケェロとドルドは話を聞くよりも迅速な行動を促し、あるいは口論にまで発展していたかもしれない。
だがビーティーの質問により自然と『全員で話を聞く』という状況が出来上がっていた。

「それでは、ほかに質問が無ければ話させてもらう………ゲーム開始後、わしは気がつくとこのホテル内にいた―――」


―――そして、ツェペリの話が始まる。
ゲーム開始後トニオ・トラサルディーを始めとする多くの人物と出会い同盟を結んだこと。
情報交換をするうちに自分たちが時代を超えて集められたという事実に気づいたこと。
だがそんな中、仲間の一人である音石が突然不可解な死を遂げ、争いが発生したこと。
現れたジャイロの介入も空しくワムウとの戦いとなり、他の者はホテルから逃げ出したこと。
新たな闖入者である怪物と少年のこと。
そして、ジャイロと共闘する最中に突如正体不明の攻撃を受けたこと。

ツェペリはそこで話を切り、語り手はジャイロへと移る。
ワムウと共にツェペリの治療を行ったこと。
その後ワムウは去り、自分たちは現在位置でもあるホテルの一室で待機していたこと。
先ほどビーティーたちが起こした争いを目撃し接触を試みたこと―――


話が終わって周囲が静寂に包まれる中、最初に口を開いたのは妙に焦った様子のドルドだった。

「確認しておきたいことがある………戦闘の最中に天井から現れた化け物、そいつはッ………そいつはどんなヤツだった………!」
「あん? 俺もチラリと見た程度だからあんま詳しくはわからねーが、確か体の色が青くて―――」

説明を聞きおえたドルドは先ほどまでのポーカーフェイスが完全に崩れ、戦々恐々といった表情をしていた。

「バオーだ………まさか、既に捕獲されていたというのかッ………!」
「バオー………なんだねそれは?」
「………いいだろう、話してやる。わたしが政府の人間ということは先ほど言ったな? この殺し合いの直前に、わたしはとある使命を帯びていた。
 その内容は、悪質な伝染病にかかった少年と少女を対処するというもの。その伝染病にかかったものは怪物と化し、人を襲う………その怪物の名が『バオー』だッ!
 そして、そいつにふれることは死を意味するッ!」

ドルドの話を聞いた者たちが一様に浮かべた表情は………困惑。
ややあってズッケェロが疑り深いまなざしを向けながら言う。
197影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 03:23:03.96 ID:/+E4aaKB
「………オメー、スタンドは知らなかったくせにそんな化け物は知ってるってか? いいかげんなこというんじゃあ………」
「ビーティー、きさま名簿を見ただろう………? バオーか、そうでなければ橋沢育朗という名があったはずだ」
「それが伝染病にかかった少年の名かな? ………確かにあったよ」
「ってことは、だ。ドルドの話は真実で………」
「その怪物を見たっていうツェペリのおっさんたちの話も、適当に思いついた作り話じゃあないってワケかよ………」
「オマケに、そのバオーとやらは相当の実力者だったワムウ相手に生き残れる強さを持ってるってことでもあるな………」

吸血鬼に柱の男、スタンド使いに加えて新たに出てきた怪物、バオー………あらためてここはまぎれもなく『殺し合い』の舞台なのだと全員が心で理解する。
続いて、何事か迷っていたようなアヴドゥルが意を決したのかツェペリに向かって口を開く。
ツェペリが彼のパートナーであったジョセフ・ジョースターと同じ『波紋』の使い手であるためか、そこに警戒はほとんど見られなかった。

「わたしからもいいでしょうか………話の中に出てきた人物のうち、J・ガイルとスティーリー・ダンの2人をわたしは知っています。
 彼らは共にわたしたちの敵であったDIOの部下で、スタンド使いでした」
「共に………ということは」
「お察しの通り、ダンはツェペリさんに嘘をついていたということ………それだけならまだしも、彼のスタンド『恋人』は最小のスタンド………
 その主な戦い方は、相手の体内………脳などに入り込んで破壊活動を行うというものだそうです」
「………………!!」

ツェペリの顔に驚きの表情が浮かぶ。
アヴドゥルの言った『恋人』の能力はまさにツェペリが受けた攻撃そのもの………それはすなわち、ダンがツェペリを今のような状態にした張本人であることを示していたからだ。

「そうか、彼が………」

ツェペリはダンの姿を思い返す。
あの気弱に見えた青年が自分に嘘を吐き、あまつさえ殺害しようとした………
彼は同盟の中では比較的自分のことを信用してくれている、そう思っていただけにショックは大きかった。

「申し訳ない、言うべきかどうか迷ったのですが、やはり………」
「いやいや感謝しておるよ、疑問のひとつが氷解したのだからね………それで、J・ガイルのスタンド能力はどんなものなのか知っておるのかな?」
「ええ、彼の―――」
「アヴドゥル、すまないが話は後にしてちょっと付き合ってほしいことがある」
「どうしたんだ、ビーティー?」

突如、ツェペリの話が終わった後は不気味なほど静かだったビーティーが話しかけてくる。
耳をなでながら周りにいた者たちを一通り見回し………その視線はズッケェロとドルドのところで動きを止めた。
198影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 03:28:38.31 ID:/+E4aaKB
「音石って奴の死体を少し調べてみたい。アヴドゥル、それにズッケェロかドルド、どちらか一緒に来てもらおうか」
「あん? なんでオレたちがそんなことしなきゃ………」
「単純に人数比を等しくするためだが、不満かな?」
「………おいビーティー、変わりにオレじゃ駄目なのか?」

先ほどから彼らのほうを見ていたジャイロが名乗り出る。
しかし、ビーティーは遠まわしにそれを断った。

「きみはツェペリのそばにいたほうがいいんじゃあないのかい、ジャイロ?」
「ウィルはああ見えて再起不能じゃあねえ、それに死体の位置がわかるのか?」
「別にわかりにくい位置じゃなさそうだから案内は不要として………彼が再起不能ではない? とても信じられないな」
「見た目で侮ってもらっては困るの、ビーティー君。今のわしとて君に負ける気はせんわい」
「おやおや、忘れていないか? この場にいる人間は多くがスタンド使い………当然ぼくも見た目で侮ってもらっては困るんだがね」
「だとしても、じゃよ」

妙に煽るビーティーと、それを余裕の表情で流すツェペリ。
どちらも表情は穏やかで、争いになるとまでは見られていないが注目を集めているのは確かであった。
やがて、ドルドが軽く咳払いをしながら声をかける。

「………コホン! 死体を調べに行くのではなかったのか?」
「ああ、そうそう………それでどちらがついて来てくれるのかな?」
「チッ、しゃーねーな………わかったよ、オレがいく」

了承したのはズッケェロ。
彼は元々死体を調べることになった場合、自分も同行して不利な証拠が出てくるようならば人であれ物であれ全て消してしまうつもりであった。
いささか急な展開に面食らってはいたが、あまり長い時間考えているのも怪しまれる要因となるため、いやいやながらの振りをしつつビーティーたちと共に部屋を出て行く。
妙なことに気がつくようなら即座に始末してやる、という黒い思いを抱きながら………


#
199影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 03:33:31.85 ID:/+E4aaKB
再び入り口付近の大階段前。
ビーティー、アヴドゥル、ズッケェロの三人は程なくして音石の死体を見つけ、検分に取り掛かっていた。
分担はビーティーが死体、ズッケェロが所持品であり、アヴドゥルは彼ら自身も含めて周囲の監視を行っている。

「この短剣は、わたしが使っていたものだ」
「なにィ? ってことは………」
「誤解しないでもらいたい、殺し合いが始まる以前の話だ。いつの間にか失くしたと思っていたら、こんなところで再び見ることになるとはな………」
「なるほど、ぼくも自分の持ち物が足りないことには気づいていたが、参加者の持ち物の一部は支給品としてばら撒かれているということか」

言いながらビーティーは死体の胸から短剣を引き抜く。
死後しばらく経っているせいか噴水のようにとはいかずとも、傷口から血が溢れ出てくる。

「………持っていくのか?」
「彼を殺したのはあくまで『凶器』ではなく『犯人』だよ。使えるものは使わせてもらうさ」
「ま、正論だわな………ところでそれ、ちっと見せてくれねーか?」

ズッケェロは短剣に興味を示すと手にとってしばらく眺め、やがてビーティーに返す。
もちろん、アヴドゥルはこの一連の動作の間も間違いが起こらないよう目を光らせていた。

「それで、何かわかったのかよ?」
「ずいぶんとせっかちなんだな………そう簡単に新たな事実が出てくるようなら苦労はしないさ、まあ『彼が確実に死んでいる』ということはわかったけどね」
「ふざけんじゃねー! んなこと一目見りゃあわかるだろーがッ!」
「カリカリするなよ、ズッケェロ。それでデイパックのほうはどうだったのかな?」
「めぼしいものなんてありゃあしねーよ」

あわよくば『名簿』がないかと期待して音石のデイパックを調べていたズッケェロだったが、どうやら死者の元には名簿は届けられないらしかった。
同じく付近に落ちていたものを調べるが、やはり収穫といえそうなものは皆無に終わる。

「周りにもギターやグローブ、ビールに漫画と使い道がなさそうなものばっかだよ、クソッ」
「やれやれ、ナイフはともかく他がこれでは無駄足だったかな? ………いや、待てよ。このテーブルを持っていこう」

ビーティーが目をつけたのは、ロビーの隅にあった大人一人が上に横たわれるほどの広さを持つテーブル。
元からホテルにあったらしく、ボロボロとなったロビーの中で奇跡的にほぼ無傷のまま残っていたものだった。

「………一応聞いとくが、んなもんどうする気だ?」
「部屋に飾るのにちょうどいいインテリアだと思ってね………アヴドゥル、すまないが運んでくれないか」
「わ、わたしが? うむう………まあ、別にかまわないといえばかまわないのだが………」
「ズッケェロ、きみは手伝っては………」
「馬鹿いうんじゃねー! ほかにやることねーんならとっとと戻るぜ!」

キレ気味のズッケェロはそれだけ言うときびすを返してさっさと部屋のほうへと歩き出す。

(くだらねぇ、くだらねぇ、くだらねぇ! 警戒してついてはきたものの、あまりの馬鹿さ加減にあきれ果てたぜッ!
 最初は油断した隙に『行方不明』にして逃げてやろうかと思ってたが、こんな間抜けならわざわざ始末するまでもねえッ!!
 つーか、やりづれェ! 名乗っちまったのは………いやそもそも『外』に出たのは失敗だったか?)

ズッケェロにとって自分の目的の妨げとなっているほか、子供でありながら立場的に上にいるビーティーは個人的に気に入らない存在であった。
とはいえ今の一連の様子を見る限り、名簿の一件は子供の悪知恵がたまたま功を奏したものと見える。
そうなると彼らがいなくなることで自分が疑われることになるリスクも踏まえ、今は手を出すべきではない………そう考えたのだった。
付け加えるなら、探知能力を持つアヴドゥルと能力が不明なビーティー、始末する順序を間違えれば自分が危ないと迷っていたこともある。

「やれやれ、それじゃあぼくらも戻ろうか、アヴドゥル」
「………うむ」

ビーティーは肩をすくめつつ辺りの物を拾い集めると、自分も部屋に戻るべく歩き始める。
その後ろでテーブルを抱えるアヴドゥルはというと、心の中になにか引っ掛かるものがあった………それも死体ではなく、ビーティーに対して。
彼の横顔は依然変わりなく自信に満ちた表情だったが、それが逆に妙に感じられる。
思えばこのホテルに入って状況検分を行った際、彼はどんな表情をしていただろうか………そう考えていると、突然ビーティーがアヴドゥルのほうへと向き直る。

―――そして、見ようによっては邪悪ともいえそうな顔で、ニヤリと笑った。
200影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 03:46:57.12 ID:/+E4aaKB
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一方、こちらは部屋にて待機中の三人。
ジャイロはビーティーから『名簿』の一件について聞かされていたため迂闊な会話ができずにいたが、手持ち無沙汰なのも確かであった。
ツェペリのほうを見るも、彼はベッドの上で静かに目を閉じて新たに得た情報から自分なりに考えをまとめているらしく、話しかけられる雰囲気ではない。
仕方が無いので何を話すか適当に考えると、入り口付近で一息ついていたドルドへと話しかける。

「なあ、ドルドだっけか。おたく、政府の人間だといってたがどこの国の所属だ? 合衆国か?」
「……そこまで答える義務はない。第一知ったところで何になる」
「ところが、案外重要かもしれねーんだなこれが。まあ答えたくねーなら別にいいが、ずいぶんと珍妙な腕を持ってるんだなと思ってよ」
「わたしからすればきさまらのほうこそ妙な格好だがな………それに好きでこんな体になったわけではない。
 爆弾で吹っ飛ばされて負傷したためやむを得ず、というやつだ」
「爆弾に政府………おたく、オエモコバって奴知ってるか?」
「『放送』でその名が呼ばれたそうだが、あいにくそのような奴は見たことも聞いたことも無い」

実は『見たこと』ならあったのだがドルドは彼の名前までは知る術がなかった。
ジャイロのほうも特に深い意味がある質問というわけではなかったため、答えはどうでもよかった。
ついでに名前も間違っていたがこれまたどうでもいい話である。

それ以上は特に会話らしい会話も無く、気まずい雰囲気になりかけたところでビーティーたちが戻ってきた。
ジャイロはすぐさま声をかけるが、最後尾にいるアヴドゥルが抱える物に気がつき絶句する。

「お、戻ってきやがったか。どうだった………ってなんだそりゃ」
「申し訳ないが、新しい事実は特に見つからなかったよ………ああアヴドゥル、それは部屋の真ん中ぐらいにおいてくれないか」

部屋にテーブルを持ち込んだアヴドゥルと、その横で心底あきれたような表情をしているズッケェロ、さらに呆然とするジャイロとドルドを尻目にビーティーはベッドに近づく。
そこにいたツェペリも彼らが戻ったことで思考を中断し、ビーティーを迎えた。

「失礼、確認しておきたいことがあるんだが少しいいかな? ツェペリ」
「戻ってくるなり出し抜けじゃの………まあかまわんが、何を聞きたいのかな?」
「ああ、まず一つ目だが音石が消えた後、死体が出てくるまでに彼のなにかしらの声は聞こえなかったのか?」
「………わしも含め、誰一人として音石君の声を聞いたものはおらん。こういう言い方はしたくないが、皆が真実を言っていればの話じゃがの」
「もうひとつ、死体はあなたのデイパックから出てきたとのことだが、開けられるまで中に死体が入っていたことに気付かなかったのか?」
「うむ、情けない話じゃが全く気付かなかったよ。特別注意を払っていたわけではなかったが、入れられるような隙もなかったはずなんじゃが」

質問の答えを聞いたビーティーはため息をつく。

「ふむ、なるほど………まったく残念な話だな」
「………ビーティー、まがりなりにも人が死んでいるのだぞ。もう少し言い方というものをな………」
「いいや、これでいいんだよ」

ビーティーは持ち込ませたテーブルが部屋の中央に置かれているのを確認すると、その上に登る。
そして振り向きながら両手を広げて大仰な仕草で言った。


「まったく残念な話だよ。なにせ………………




    この中に音石を殺害した犯人がいるんだからね」
201影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 03:57:25.52 ID:/+E4aaKB
                    「「「「「な、なあああにいいいいいいい!!??」」」」」


衝撃の告白に全員が驚愕の声をあげ、続いてその視線は周囲の者への疑いの眼差しとなる。
数秒後、思い思いの場所へと向けられていた視線は………事件当時現場にいたという二人のツェペリ………ことにウィル・A・ツェペリへと収束していった。
最初に口を開いたのはツェペリ。

「ビーティー君、きみはこの中に犯人がいるといった。今ここにいる人間の中で、事件当時ホテルにいたのはわしだけだ。
 つまり、わしが音石君を殺害した犯人だといいたいのかね?」

口調に怒りは悲しみは感じられなかったが、先ほどまでとは明らかに違う張りつめた声であった。
だが………

「いいや、ぼくの考えではあなたは犯人じゃあない」

意外、それは否定ッ!
こちらはまったく変化を見せない口調でビーティーが返答する。
それを受けて、周りの者は思案の表情を見せ始め………次に口を開いたのはアヴドゥル。

「ビーティー、もったいぶらないでくれ。この中に殺人犯がいるというのなら、それは誰なんだッ!!」
「ふん、映画やドラマならここでトリック云々から話すところだが、伏せておいても意味はないだろうしさっさと言ってしまおうか。
 犯人は………………おまえだよ」

アヴドゥルに催促されたビーティーは余裕の表情のまま頷くと、バァーンという音が聞こえそうな勢いで『犯人』を指差した。
驚きの表情を浮かべる男にビーティーはその名を告げる。



                            「マリオ・ズッケェロ」



「………………ハァ?」

差されたズッケェロの口からは呆れたような声が漏れる。
他の者たちもわけがわからないという表情ながら、彼の顔を凝視していた。
やがて、我に返ったのかズッケェロが喋りだす。

「オイオイなに言いだすんだよ、オメー頭脳がマヌケか? 
 そこにいるツェペリのおっさんの話には、オレは欠片も出てきてねーじゃあねーか!」
「おっと、動かないでもらおうか。おまえが『犯人』じゃないと主張するのならね………」

文句を言いつつビーティーの元へ進もうとするが即座に止められる。
ズッケェロは周りの視線に気付き、ひとまずビーティーの言葉を待った。

「さっきもいったが、これは映画やドラマじゃあない。事件の登場人物が認識していない、新たなる人物が犯人でも不思議じゃあないだろう?」
「だからって、なんでオレなんだよ!!」
「それは、お前がモノを紙のようなペラペラの状態にするスタンド能力を持っているからさ」
「な、な、な!?」
「いっておくがスタンド能力が違う、という言い訳は通らないぞ。
 ホテルの入り口で、ぼくとアヴドゥルは確かにペラペラになったおまえを見たんだからなッ!」

怒り心頭のズッケェロに対し、ビーティーはすらすらと述べてゆく。
そんな二人を周囲の人間が交互に見比べ………やがて、どうにも理解できないという表情のアヴドゥルが他の人間を見渡してから問いかける。
202影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 08:08:02.52 ID:/+E4aaKB
「ビーティー、すまない………彼の能力についてはともかく、その他の点についてわたしには君がなにをいっているのかさっぱりわからない。
 おそらく、周りの者も同じだろう。わかるように説明してくれないか?」
「そうだろうな………とはいえなにがどうわからないのかは人によって違うだろう。
 まずは、なにについて聞きたいんだ?」

ビーティーはそういうと口を閉じてあたりを見渡し、質問を待つ。
最初に口を挟んできたのはドルド。

「それではまず、なぜいきなり外部の人間であるズッケェロが犯人という話になったのか、そこからお聞かせ願いたいものだね」
「簡単なことさ。単純にいってしまえば、ツェペリの話に出てきた者たちには『動機』がないんだよ。
 最初ホールに集められたとき、そこにいる人数を見れば余程の自信家か、とてつもない馬鹿でもない限り自分一人で皆殺しにするのはできそうもないと思うだろう。
 人数が多ければ戦いが有利になるのに対し、一人きりじゃあおちおち眠ってもいられないだろうしね。
 つまり七人からすれば、組んだばかりの同盟を早々に崩壊させるメリットは皆無………これは人間じゃないワムウにも当てはまることだ。
 崩壊させるにしても、邪魔な相手をあらかた排除した後で裏切る方がよっぽど賢いやり方さ」

続いてジャイロが会話の中に入ってくる。

「そりゃ言ってることはごもっとも………だが忘れちゃいねーか? トニオって奴の話だと音石は犯罪者だったんだろ?
 もしくは犯人にとって都合が悪い何かを知っていたか………そっから後のことを考えて早々に処分したって説はどうなるんだ?」
「それはないよ。まず理解しておいてほしいのが『犯人は誰にも気づかれずに音石を殺害し、死体を隠しておくことができた』………この前提を忘れないでこれからの話を聞いてほしい。
 そもそも音石が犯罪者という話が出てきたのは彼が殺害された後………同盟のことを考えると、最初に七人の中で多少なりとも信用できそうな相手を集めてそのことを伝えておく方がよっぽどいい。
 そうすれば賛同は得られずとも音石に妙な動きがあれば他の者が対処してくれるし、自分が殺害した後も複数の人間に疑いの目が向くことになる………話の真偽に関わらずね」

アヴドゥルも、自分の疑問を投げかけ始める。

「しかし、こういってはなんだが証言以外に音石が犯罪者という証拠はない。逆に自分が疑われることを避けたということは?」
「音石の件について喋ったのはトニオだが、彼は日本人じゃあないんだろう?
 本来なら到底つながりがない自分と音石を結びつけるようなことなんてわざわざ言うはずがないし、問い詰められたときも知り合いに同じ名前の日本人がいたとでも言えばそれで通るさ」
「他の人間………たとえば、同じ日本人の宮本が知っていて音石を殺害したが、予想外にもトニオが同じ事実を知っており、喋られてしまったというのはどうかな?
 彼なら能力で死体を仕込むのは簡単だったろう」
「確かに宮本は能力的に一番怪しい………」

ビーティーはそこでいったん言葉を切る―――それを見て、周りの目にはビーティーに対する疑いがわずかに混じりだす。
ところが次の一言でそれらは全て消し飛ぶこととなった。

「………と思うだろう? ところがそれはありえないのさ」
「!?」
「『屏風の虎』という話を………さすがに知らないかな? 偉い人が頭のいい小坊主に屏風―――要するに絵に描かれた―――虎が夜な夜な抜け出して困るから縛り上げろと命令した。
 もちろん小坊主は絵に描かれた虎をどうこうできる能力なんて持っているわけがなく、虎が夜な夜な抜け出るというのもでまかせ………偉い人は彼がどれほど頭がいいのかを調べたかったんだ。
 そして小坊主はどうしたかというと、縛り上げる縄を用意してから偉い人に『今すぐ虎を屏風から追い出してください』と言った。
 当然そんなことは出来るはずがないから偉い人は自分の負けを認めたという話さ。
 この場合屏風がデイパック、虎が音石の死体として………宮本が音石を『外に飛び出させる』にはどうすればいい?」
203影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 08:15:02.19 ID:/+E4aaKB
言われたツェペリは宮本の能力を思い返し………すぐに気がついた。

「そうか、音石君をデイパックに収納するには『紙』にする必要がある………じゃがそれを『元に戻す』には誰かが『紙』を開けなければならん。
 彼の死体はデイパックを開けた瞬間に飛び出してきたし、包まれていた紙などどこにもなかった………!」
「そういうことさ。既に音石は虎と同じで命なんて無かったろうから自分では外に出られない。
 デイパックを開けるときに引っかかって自然と開くような仕掛けを作るには相応の大きさの紙が必要だが、そんなものが残ればいくらなんでも気付くはず………
 さらに位置関係までは知らないが疑いの目が集中していない以上、少なくともデイパックが開けられた瞬間に宮本は近くにいなかったんだろう?
 つまり彼の能力で『収納』はできても、『屏風の虎』と同じく『放出』なんてできやしないというわけだッ!」

ビーティーの推理にツェペリは………いや、その場にいる全員が唸る。
一時は最有力と考えられていた宮本犯人説だったが、それは死体を入れるだけで外に出すことをまったく考慮していなかったという事実に。

「細かいところばかり見ていると簡単で圧倒的な事実に気づけないということもある………納得していただけたかな? 
 さて、話がだいぶ逸れたが………手っ取り早く言えば音石の真実を知っていようがいまいが『七人のうち誰が犯人でもおかしい』のさ。
 ここで皆に聞きたいんだが、何故『ツェペリのデイパックから音石の死体が出てきた』と思う?」
「ハァ? んなもん犯人が入れたからに決まって………」

ほぼ反射的に返されたズッケェロの答えにビーティーはゆっくりと首を横に振る。

「原因ではなく理由だよ、ちょっと言い方を変えようか。
 『犯人は何故、ツェペリのデイパックに死体を入れる必要があった』?」
「何故死体を入れたか………? ちょっとまってくれ、それにいったいどういう意味があるんじゃ?」

なかなか進まない話を自分なりに噛み砕きながらツェペリが質問する。
自分を陥れる以外の意味は果たしてあったのだろうか、と思いながら。

「いきなり死体がデイパックから出てくれば誰だって慌てる、ぼくだって慌てる………そして『誰がやったか』を追求しようとするのは当然さ。
 しかしその場には犯行が可能そうな能力者が別に存在する上、他にも能力が不明な者がいた………すると死体が出てきたのはツェペリのデイパックだが、イコール彼が犯人であるということにはならず言い争いが発生し、同盟が崩れたというのがツェペリの話だ。
 ここでさっきの前提が出てくるわけだが、『犯人は誰にも気づかれずに音石を殺害し、死体を隠しておくことができた』。
 そもそも、七人のうち誰かが犯人なら死体と凶器をツェペリのデイパックに入れるよりも、どこかに隠して見つからなくしてしまえばいいんだ。
 そうすれば音石が独断行動をして行方不明の可能性が示唆されて同盟が崩れる危険は少なくなる。
 つまり『死体が見つからなければ犯人自身も疑われずにすんだ』ってわけだ。
 さて、それをふまえて先ほどの問いについて考えてみてほしい」

「………一番考えられるのはツェペリのおっさんが犯人で、死体を隠そうとする途中で運悪くデイパックを開けられちまったってことじゃねーのか?」
「彼が死体をデイパックに収納できるような能力を持っているなら、その辺の隙間にでも隠してしまえる………
 いつ開けられるかわからない自分のデイパックにわざわざ死体を入れてうろうろするマヌケな犯人なんてどこにもいやしないさ」

「同盟以前に、犯人の狙いはわし個人を陥れることで音石君はそのダシに使われたというのはどうじゃ?」
「先ほどジャイロはツェペリをひとり残してこの部屋を離れ、ぼくらの元に来た。犯人がツェペリを狙っているのなら、その隙にとどめを刺しに来ているさ。
 ツェペリ自身『変わったことはなかった』と言っていただろう?」
「だとすると………うむむ………」

全員が答えを出せず、すっかり考え込んでしまう。
ビーティーはその様子を見て、締めくくった。

「前置きが長くなったが、つまりはそういうことだよ。
 ツェペリ本人も、他の誰かもわざわざ死体を彼のデイパックの中に入れる必要はない。
 つまりこれは、外部の犯人が彼らに疑心暗鬼を起こさせるためにやった………というわけさ」
204影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 08:23:09.28 ID:/+E4aaKB
内部犯と考えると犯人にメリットがないどころかデメリットばかりで、さらに状況も不自然。
すなわち、この事件は外部犯の仕業である………それがビーティーの推理。
ツェペリたちも言っていること自体はよくわかったものの疑問点が数多く存在したため、次々に口を開く。

「………もう一つ聞きたい。音石君の傷は胸の位置にあったが、あれはどう見ても正面からのものじゃった。
 ズッケェロ君が犯人なら、音石君は誰かもわからない彼を懐まで近づかせたというのかね?」
「ズッケェロと音石が実際どういう関係だったかはわからないが、どちらにしろズッケェロのほうが無理やり近づいたと考えるのが自然だろう。
 一つ目の質問………『音石が消える前に、彼の何かしらの声は聞こえなかったのか』、答えはYES。
 誰が犯人だったとしても音石の叫び声が聞こえなかった以上、彼は不意打ちで殺害されたとみるべきだ。
 スタンドかなにかで奇襲を行い、音石が気付いて声を上げる間もなく殺害は完了。
 なるべく速く息の根を止める必要があったために正面から刺さざるを得なかった、と推測できる。
 あんなナイフ一本じゃ背中を刺して致命傷を与えるのは難しいからね」

「………なるほどな、それじゃあ次はオレから質問だ。
 ズッケェロはどこでどうやって誰にも知られずに音石を殺害し、死体をウィルのデイパックの中に仕込むなんて芸当ができたんだ?」
「ふむ、殺害方法に関しては『不意を突いてナイフで刺した』ということしかわからない………とはいえ七人はわりとバラバラに行動していたそうだから彼がひとりの時と場所を狙うのはそう難しくはない。
 つまり『どこでどうやって殺害したか』はさして重要じゃあないだろう。
 問題は死体を仕込んだ方法だが、二つ目の質問………『開けられるまでデイパックに死体が入っていたことに気付かなかったのか』、これも答えはYES。
 どう見たって彼の体重が30kgより軽いなんてことはないだろうし、それだけの重さがそのままデイパック内に入っていたのなら気付かない方がおかしい………
 ということは話の中に出ていた通り、スタンド能力が絡んでいたと考えるのが自然だ」

「………そうなると実証は不可能ではないか? きみの理論で宮本は容疑者から外れるとしてもスタンド能力は千差万別だ。
 ズッケェロのペラペラ能力でなくとも、単純にものを小さくするとか物体をワープさせるとかいくらでも………」
「スタンド能力は一人につき一つだけ………状況をよく考えれば、例の犯行が可能な能力なんて簡単に絞り込めるさ。
 ツェペリたちの探知に引っかからなかった以上、見える範囲で様子をうかがっていた可能性は無い………すなわち透明能力やデイパックを開けるタイミングに合わせなければならないワープ能力は外していい。
 ものを小さくする能力にしても、死体を外に出せたということは犯人はその近くにいた―――この場合は自分も小さくなってデイパック内に隠れていたことになる。
 そしてツェペリが死体や犯人の重さを感じなかったのなら、よほど小さなサイズになっていたということだ。
 だが外の様子がわかりにくいうえに物が多く、頻繁に揺れるデイパック内でそんなに小さくなっていたら自分がつぶされて死んでしまうよ」

(ヤベエ………か? クソッ、どうすりゃいい?)

ビーティーはツェペリやジャイロ、アヴドゥルの質問に対してもよどみなく答えていく。
その様子を見ていたズッケェロはわずかに危機感を覚え始めるも、全員がビーティーの話に耳を傾けつつもズッケェロ自身に怪しい動きがないか見張っていた。
下手に動くのは墓穴を掘ることに等しいと判断し、視線のみを動かして策を練り始める。

「むう………ということはつまり、君が言う犯人の能力とは………」
「つぶされても平気なペラペラの体になることができ、他人や物も同じような状態にすることができる能力………そう考えるのが一番自然だろう。
 そして、まさにその能力を持つものがズッケェロ、おまえだということさ」
「………じゃが、わしは何度もデイパックの中は見たが、ペラペラになった誰かはいなかった。いったい犯人はいつ―――」
「ミスターツェペリ、間違えないでほしいな。ぼくはペラペラの犯人が『あなたのデイパックの中に隠れていた』とは一言も言っていないッ!」
205影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 08:30:06.55 ID:/+E4aaKB
またしても衝撃発言が飛び出す。
死体はデイパックから出てきて、犯人も近くにいたということなのに、それがツェペリのデイパックの中ではないとはどういうことか。
当然ツェペリは真っ先に反論しようとするが………

「なに………!?ま、待ってくれ!わしは確かにデイパックの中から………」
「ツェペリ、それは本当にデイパックの『中』だったのかな?
 ………ひょっとしたら、別の場所から出てきたのを中から出てきたと勘違いしたんじゃあないか?」
「べ、別の場所………?」
「そう、例えば………」

ビーティーは自分のデイパックを開け、人差し指と中指で名簿をはさんで取り出す。
ズッケェロとドルドがピクリと反応を示す中、ビーティーはトランプを広げる要領で指を開いた。
すると一枚と思われた名簿の下に重ねられていた、もう一枚の紙が姿を現す。
下から出てきた紙の正体はまったく同じ名簿………さらに二枚の名簿の間から、白紙の紙が一枚零れ落ちてきた!

「二重になったデイパックの隙間………とかね」
「「「「「………………!!」」」」」

「ツェペリの話によればゲーム開始後しばらく、デイパックを置いたままの時間があったらしい。
 おそらくデイパックを二重にして潜伏したのはその時で、犯人はそれからずっとデイパックの隙間に隠れたまま様子を窺い、機を見て音石をペラペラにして引きずり込んで殺害し、デイパックが開けられるタイミングで死体だけを外に出した。
 後は騒動が収まってから悠々と抜け出し、素知らぬ顔でつい今しがたホテルにやってきたことを装った………『犯人』すなわちズッケェロがとった一連の行動はこんなところだろうね。
 さて、質問があれば答えるが?」

ビーティーはついに事件の全貌を明らかにし、辺りを見回した。
いまだ呆然とするツェペリ以外は全員が何か言いたげな顔をしているのを確認し、挑戦的な笑みを浮かべる。
そして周りの者もひとりひとり順番に、ビーティーへ向かって口を開く。

「………待てビーティー、その推理にはいくつか腑に落ちない点があるぞ。
 ホテルにいた参加者たちは互いの素性も能力もわからない状態で不完全ながらも『同盟』を組むことに成功していた。それに宮本という少年は、方法こそ違えど犯人と同じくデイパックに隠れていたという事実があり、それでも受け入れられたのだろう?
 もしわたしが犯人の立場だったら、適当なところで自分も名乗り出て同盟に参加させてもらうほうが賢明だと思うがね」
「果たして本当にそうかな………? 先に言っておくが、ぼくは犯人そのひとじゃあないからいちいちどう考えたかなんてことはわからない。
 よって推測するだけだが………まあ鍵となるのは今言った通り『互いに素性も能力もわからない』という点だろうね。
 まず宮本は『見つかってしまった』から同盟に参加しただけで、他の者に怯えていたそうじゃあないか。
 しかし犯人からすれば、それからしばらくたっても誰一人自分の存在に気付く者はいない………こんな怪しいマヌケ共と組むよりも、優れた自分の能力で一人勝ちを狙うほうが賢いやり方だと思った………こんなところだろう。
 加えて言うなら名乗り出る場合、必然的に自分の能力を明かすことになってしまう………複数の、能力が分からない相手も含めてね。
 つまり、同盟に加えてもらうリターンよりも能力を明かすリスクを優先したというわけさ」

アヴドゥルの疑問にすらすらと答え。

「ふむ………では、七人の中で殺害されたのが音石だったのはどういうわけかな?」
「犯人の狙いは同盟を崩壊させること………そこから考えると『殺害するのは誰でもよかった』と推測できる。
 まあデイパックの持ち主であるツェペリだと状況が不自然になるし、人間じゃないワムウは他と比べて殺害するのが困難そうだからこの二人は候補から外していたかもしれないがね。
 音石は『たまたま一人でデイパックの近くにいた』、そんな程度の理由なんじゃあないかな」

ドルドの問いにもあっさり返し。
206影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 08:38:12.94 ID:/+E4aaKB
「………さっきから犯人が単独であるかのように話してるが、ズッケェロでなくとも、別の複数犯がそれぞれの能力で分業を行ったって線はないのかよ?」
「ありえない、とは言い切れないが内部犯にしろ外部犯にしろ、犯人が複数で協力できるほど他人を信用できるならそれこそ同盟に加わっていたはずだよ。
 それにホテルから脱出した者の中で『放送』までに死亡したのはトニオというコックただ一人、しかも彼と同じ方向にほかの三人も逃げていったそうじゃあないか。
 そのしばらく後にホテル内ではツェペリが瀕死の状態、おまけにさっきまでは一人きりだったそうだし、一度この場を離れたぼくも同様だ。
 犯人が複数なら、参加者が分散して人数的不利がなくなったこの隙に一気に人数を減らしたいと考える………すなわち奴らが事件後どこにいこうがもっと犠牲者が出ているはずさ。
 音石を誰にも気づかれずに暗殺できて、その後もまったく見つからない能力の組み合わせを持つ複数犯なら見つかって返り討ちにあったとは考えにくいしね」

ジャイロの仮説にも即座に反論する。

「………待てよ、てめーひとつ忘れてるぜ。ツェペリのおっさんはホテルの出入り口からは侵入した奴も、出てった奴もいなかったって言ってただろ。
 それと確か波紋ってやつでレーダーみてーなことをやって『自分たち以外には誰もいない』って確認してたぜ。
 おまけにワムウも気配が読めたそうだし、オレがずっとデイパックの隙間にいたってんならその時点で分かるはず………ってことは元々外部犯なんていなかったんじゃあねえのか?」

最後に反論するのはズッケェロ。
彼の問いに何人かが軽く頷く………音石がホテルの外におびき出されて殺されたなどならともかく、ビーティーの推理では『犯人』はずっとホテル内にいたということ。
ならばツェペリやワムウの探知に引っかからなかったのはどういうわけか。
またしても視線が集まる中で、ビーティーは皆が予想だにしない一言を放った。

「ふむ………実を言うと、そこのところはぼくにもよくわからないんだ」
「………ハッ、説明できねーってんなら―――」
「まあ慌てるなよ、ここでツェペリに質問したいんだが、あなたが使った『波紋法』の探知というのは『どんな相手でも』、『どんな状態でも』、『確実に』探知できるものなのかな?」

それはある意味、卑怯ともいえる質問であった。
なぜなら『波紋法』自体が常人の認識とはかけ離れているのに加え、スタンドという人知を超えた能力が存在している世界を知った今となっては『確実にできる』なんて答えを返せる者はいるはずがないからだ。
案の定、ツェペリは自信なさげに答える。

「………すまないがわからんよ。波紋による探知の原理はわし自身キッチリと理解しておるが、その原理に当てはまらない生物………あるいはスタンドに対しては、反応せんかもしれんの」
「………だ、そうだ。つまりスタンド能力の効果で『見つからなかった』だけであの場には他に人がいたという『可能性』は存在する、それで十分だろう」
「納得できるかッ! だいたい―――」
「まあ、一番手っ取り早いのはおまえが能力でペラペラになり、それをツェペリが探知できるかどうか実際に試してみることだが、やってみるかな?」
「………ん、んなもんツェペリの言葉ひとつでどうとでもなるじゃあねーか! オレをハメようったってそうはいかねーぞッ!!」
「ぼくの『いたかもしれない』とおまえの『いない』、主張するならそれを何らかの形で証明しなければならない………
 出来ないんだったら、おまえがこの件に関してこれ以上言う資格はない!」
「グッ………!」

ピシャリと言われてズッケェロは言葉に詰まる。
しかしそれも一瞬で、ある意味さすがともいえる根性で再び口を開く。

「んじゃあずっと言いたかったこと言わせてもらうぜ………! さっきからてめーのいってることは単なる憶測にすぎねー。
 それに世の中にはまったく同じスタンド能力や、てめーの想像すらつかねー方法で犯行が可能な能力だってあるかもしれねーだろ。
 ………ってことは容疑者にしたって事件からしばらくして現れたジャイロに、ここにいるドルドやてめーみたいな能力を隠してる怪しい奴らいる。
 ついでに他の参加者だってまだまだいるだろーが? その中でこのオレひとりを犯人と決め付ける理由を聞かせてもらおうじゃねーか………!」
「ふん、いいだろう。まずは皆少しでいいからぼくから離れてもらおうか」

(コイツ、動じねえ?………いや、短剣の指紋はさっき触ったから誤魔化せるし、ほかに証拠なんてあるわけねえ………ハッタリだ!)
207影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 08:45:30.34 ID:/+E4aaKB
ズッケェロが要求したのは証拠の提示―――彼自身は決定的な証拠などありはしないと考えており、これで言い逃れできると思っていた。
だがビーティーはビクともせずに全員を下がらせると自分のデイパックを開け、ビンを取り出した。

「………それは?」
「ルミノール試薬………名前くらいは聞き覚えがあるんじゃあないか? 警察が科学捜査に使う、血痕を調べる薬品さ。
 ぼくのスタート位置である研究所の薬物庫から頂いてきたものだ」
「血痕………?」

全員の不思議そうな顔を確認し、ビーティーはベッドのほうへと向き直る。

「口でいうより実際にやってみたほうが手っ取り早いだろう。ツェペリ、あなたのデイパックを貸してもらいたい」
「わしの………? まあ、いいじゃろう」

ビーティーはツェペリからデイパックを受け取ると、薬品をデイパックの外側に付けていく。
やがてホテル内の中途半端な明るさのためにわかりにくかったものの、デイパックのあちこちがわずかに発光しはじめた。

「まあ、ざっとこんなもんさ」
「………それがどうした。音石の死体は隙間っていってもウィルのデイパックから出てきたんだろ? だったら血がついてるのは当たり前じゃねーか」
「その通り、『外には』血が付いていても不思議ではないさ。
 本題はここからだが、もしぼくの推理が間違っていてツェペリのデイパックの中に死体が入っていたとしたら、当然あるはずだよな?」
「何がだよ!………って………」

ビーティーはデイパックを開き、今度は内側に液体を付けていく。
ところが、いつまでたっても内部に先程のような発光は見られなかった。

「内部に血の跡が、無い………? ちょっとまて、いったいこれはどういうことだ?」
「べ、別におかしいってこたねーだろ。たまたま内側には血が付かなかったとか………」
「音石は心臓を刺されていた。人間とはしぶといものでね、ギロチンで首をはねられた後に十数秒も瞬きができたという事例があったほどだ。
 ましてや心臓を刺して殺害する場合、脳は無事だから叫ばれることなどを考慮して、手で口をふさぐか何かしなければならない………
 当然もう片方の手は凶器を持っていただろうから殺害時に犯人の両手はふさがっており、流れ出た血を止めることはできなかったということだ」
「つまり………どういうことかな?」
「ツェペリのデイパックの外側に血痕があるということは、死体が出てきた時点ではまだ血は止まっていなかった。
 それに先ほど調べた死体からもまだ血が流れ出てきた以上、死体の血が抜けきってしまった可能性は消える。
 ということは必然的に『死体があった場所には血痕が残る』ことになるわけだ。
 つまり音石がいつどこで殺害されようが、一時でもツェペリのデイパックの中に死体があったのなら、『内側にも血痕が残っていなければおかしい』ということさ」
「………!!」
「これこそが、ぼくの推理の裏付け………死体が出てきたのはデイパックの中ではなく隙間だったという『証拠』さ」
「ビ、ビーティー………それでッ!そこからどうなるんだッ!?」

次々と明らかになる事実に興奮したのかアヴドゥルが待ちきれない様子で先を促す。
もはや完全に場の空気を支配したビーティーはニヤリと笑うと人差し指を立て、言葉を続けた。

「さて、ここでひとつの疑問が発生する。二重になったデイパックの『内側』となったひとつはここにあるが、今は別に二重になんてなっちゃいない。
 そして、ホテルにいた参加者の中にデイパックを忘れていった奴はいないし、音石のデイパックもそのまま。
 それじゃあ、犯行に使われた『外側』のデイパックは『今どこにある』と思う?」
「………なるほど、何が言いたいかわかったぞ。つまり犯人は、犯行に使った自分のデイパックをそのまま所持している可能性が高いということだな」
「その通り、そして今までのぼくの推理が正しければ、あるはずなんだよ」
 


                ―――『音石の血痕』が、そのデイパックの内側にね………!
208影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 08:53:20.66 ID:/+E4aaKB
全員が鋭い目つきでズッケェロの方へと向き直る。
その手に持つデイパックを見ながらビーティーは言った。

「ズッケェロ、デイパックの中を改めさせてもらおう。
 別に身体検査までするつもりはないから、支給品の中に見られたくないものがあるなら後ろでも向いて隠しても………」

ビーティーが言い終えるよりも早くズッケェロは行動を開始していた。
『ソフト・マシーン』で即座に自分をペラペラにしてあらかじめ決めておいた床の隙間へ一瞬の内に潜り込むッ!
他の者は誰一人追うことも出来ず、完全にズッケェロの姿は部屋から消えた!

(チキショウ! まさかあんなガキがマジであそこまで立証しちまうとは………やっぱとっととブッ殺しとくべきだったぜッ!
 だがこうなっちまえば追うことなんて出来ねえ! この勝負オレの勝ちだッ!! ………ん? うおっ!!)

勝利を確信したズッケェロが見たのは、狭い隙間内のあちこちに張り巡らされている赤い糸のようなもの。
次の瞬間、糸が一斉に『炎』を発したッ!!

(ぐわァァァァッ! 熱ィィィィィ!!)

高熱の炎に焼かれ、先に進むどころかその場にとどまることすら出来ずに隙間から飛び出すズッケェロ。
近くにいたドルドにすぐさま押さえつけられ、動きを封じられる。

「………驚いたな。先ほどズッケェロの目を盗んで『ぼくが話している間に床や壁の隙間に炎の罠を仕掛け、誰もこっそり逃げられないようにしてほしい』と言われたときは意味がわからなかったが、
 まさか本当にこの『仕掛け』が役に立つとは」
「キッチリ果たしてくれて感謝するよ、アヴドゥル」

その様子を眺めながらアヴドゥルは自分自身でも信じられない、という表情でスタンドを解除する。
ビーティーは事実をつきつけられた犯人が自分かツェペリのどちらかを人質に取ろうとするか、あるいは今のように逃亡しようとすることなどとっくにお見通しだった。
そこで『自分はスタンド使いである』と匂わせておき、また『ツェペリも再起不能ではない』とそれとなくアピールすることによって人質作戦の可能性を減らし、アヴドゥルに頼んで逃走防止の罠を張っておいたのだ!

「最後の、そして決定的な証拠はおまえが今逃げようとしたことさ。どうやら、決まりのようだな!」
「………うるせぇ!! よってたかってオレを犯人扱いしやがって! 確かにオレのスタンドはモノをペラペラにする能力だよ!
 だがそれだけでオレが犯人だって疑われちゃあ逃げるしかねーじゃねえかッ!!」

だがしかし、この期に及んでズッケェロはあきらめていなかった。
喚く言葉はもはや支離滅裂に近かったが、それでもビーティーをはじめその場にいたものは黙ってその言葉を聞いていた。

「大体さっきから聞いてりゃあ効率的だのなんだの、推測ばっかじゃあねーか!! 人間ってのはもっと単純で適当な考えすることもあんだよッ!!
 宮本ってガキが恐怖に耐えかねて後先考えずに殺っちまったとかも十分ありえるだろーがッ!!
 それに波紋の探知はスタンドでなんとかした、だァ? だったらオレのデイパックの中に血の跡があったとしてもだぞ!
 だれか………たとえばビーティー、てめーがオレをハメるために能力で血液だけワープさせたとか、いくらでも説明はつくじゃねーか!
 そもそもツェペリのおっさんの話が本当かどうかだって………!」
「見苦しいぞ、黙れ………!」

そのズッケェロの言い訳を止めたのは彼をつかんでいたドルドだった。
後ろから羽交い絞めにし、首元には拾ったガラスの破片を突き付けている。
ズッケェロは拘束を振り払おうとするも、予想以上に相手の力が強く身動き一つとれなかった。
209影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 09:03:05.50 ID:/+E4aaKB
「確かに、スタンドというものはこちらの想像をはるかに超える………だがそれを別にしても、きさまは気にいらん。
 きさまはなにひとつ説明も、譲歩しようともせずただ喚くのみだ。
 おれが思うに、なにもかもが図星だから言い訳できなかったのだろう………?
 まあ、たとえこの件に関してシロだったとしても、きさまのような敬意を持たぬ見苦しい輩と組むのは御免被りたいものだな」
「う、うるせぇ!オレはやってねーとしかいいようがないんだからしょうがねーだろ!
 調べるんなら勝手に調べやがれ! だが血痕があったとしても、オレが犯人っていう証拠には………」

………もはや疑う余地はなかった。
この場にいる全員が、音石殺害事件について理解していた―――すなわち、犯人はズッケェロで、ビーティーの推理は正しかったのだろう………ということが。
ビーティーの論証は決して完璧ではなかったが、この場にいる全員を納得させる程度の力は持っていた。
それに加えて今しがた起こったズッケェロの逃走未遂………これにより、もはや彼を信じる理由は何一つ!存在しなくなったッ!!
見苦しくもがくズッケェロに業を煮やしたのか、ドルドが表情が怒りのそれに変わる。

「往生際が悪いぞ………! なんなら今この場で、おれが殺してやろうか―――」
「ドルド君、そこまでにしてくれんかの」
「………………ツェペリ!」

今にもズッケェロの首をかき切らんとするドルドを止めたのはツェペリであった。
ベッドの上にいながらにして彼らに向けて放つ雰囲気は、本当に再起不能の人間のそれではなかった。

「ズッケェロ君の言うことにも一理ある。
 スタンド使いである彼らでさえも他人の能力には未知の部分が多い以上、ビーティー君の論証だけでは決して『証明』はできんじゃろう。
 『ない』と証明することは何よりも難しいのだからね」
「ほう? ならばきさまはどうするというのだ………?」
「彼の処分は、わしにすべて任せてほしい」
「たわけたことを―――「構わないさ」………?」
「お、おいビーティー!? 何を言っているんだ!」

横から口を挟み、しかもその内容はあっさりとズッケェロの処断を任せる、ということに驚くアヴドゥルを左腕をあげて静止させ、ビーティーはツェペリに言う。

「ここまで長々と謎解きをやってきたが、ぼくは音石の無念を晴らしたいとか卑劣な犯人が許せないとか思っていたわけじゃあない。
 ただ、ぼくたちの中に『多人数の同盟を崩壊させる奴がいる』というのが困るからやっただけだ。
 名簿には音石という苗字はひとつだけしかなかったし、この場において犯人に然るべき報いを受けさせる権利を持つ人間がいるとすれば………
 彼の行いによって間接的に被害を受けたツェペリ、あなただけだろう」
「………すまんの、ビーティー君」
「きさまら、おれの意見はどうでもいいとでも?」
「ドルド、取引だ。今だけでも手を引くのなら、すぐに『名簿』を見せると約束しようッ!」
「………なるほど、悪くはない取引だ、受けようではないか」

ビーティーからすれば人数が増え、しかも『お人よし』な仲間が加わった以上いつまでも名簿の内容を隠し通すことはできないと考え、切れるうちにカードを切るという判断。
ドルドからすれば他の参加者に手荒な真似をするまでもなく名簿の情報を得られる機会を逃せないという判断。
ここに二人の利害は一致した。

「てめーッ!いったい何する気だッ!離すんならさっさとオレを自由に………」
「まあズッケェロ君、少し落ち着きなさい。わしとしても君に手荒な真似はしたくない………ただ聞きたいことがあるだけじゃよ………
 それとも、このわしのことも一片たりとも信用できんかね?」
210影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 09:11:00.64 ID:/+E4aaKB
『手を引く』とは約束したものの自由にするとまた逃げられかねないため、ドルドはズッケェロを拘束したままツェペリのところまで連れていく。
そしてツェペリに声をかけられたズッケェロは即座に思考を開始した。

(ドルドに、ジャイロ、アヴドゥル、ビーティー………どいつもこいつもヘタすりゃすぐにでもオレを殺しかねない『凄み』があるッ………!
 それに比べりゃお人よしのツェペリならあるいはどうにかなるかもしれねぇ………)

ズッケェロはこれまで―――それこそゲーム開始直後から見てきたツェペリの行動を思い返し、彼ならばどんなに悪くとも殺されることはない―――そう判断した。
わずかにだが警戒を解き、ぶっきらぼうに言う。

「………何が聞きてーんだよ」

この時、ズッケェロにとって他に道はなかった。
それ故仕方ないといえば仕方ないのだが、彼はここまで貫いてきた一つの行動方針を自ら破ってしまう。
―――すなわち『見知らぬ相手を信用しない』という方針である。

そんなズッケェロの目の前に、ツェペリの手が怪しくかざされる。
それを見ているうちに、彼の意識はゆっくりと闇に落ちていった………


#



「………………ハッ!!?」

ズッケェロが目覚めた時、そこは変わらずホテルの一室。
そして周りにはツェペリにドルド、ジャイロがこれまた変わることなくそこにいた。
………だが、彼は自分を見る視線が妙なものになっていることに気付くと不機嫌になり、激高する。

「て、てめーらなんだその目は! いったい何を………!?」

そこまで叫んだところでズッケェロは異変に気付く―――手が、足が動かない。
手は後ろ手に回され、ぴったりと180度に曲げられた脚の先と腰のあたりでぴったりとくっつき、地面に転がされていた。
縛られている感じはしないのに手も足もまったく外れる様子がないのに焦りつつ、ズッケェロは顔だけをあげて睨みつける。

「てめーら、こんなことしてタダで済むと思うなよ………オレは―――」
「マリオ・ズッケェロ、ローマ在住でギャング組織『パッショーネ』の一員、スタンド名は『ソフト・マシーン』………
 ポルポという男の隠し財産を手に入れるため仲間のサーレーと組んで同じ組織に所属するブローノ・ブチャラティのチームを襲撃………
 五人を人質に取りブチャラティ本人と一対一まで持ち込んだところでこのゲームに参加させられた」
「………? なんでてめーがそんなこと知って………」

静かに語りだしたのはドルド。
彼の口から自分の情報が次々と出てくるのにズッケェロは呆然とする。

「なんでそんなこと知ってるか………? オメーがそういうってことは本物だったってわけか。
 ったく『くっつく波紋』といいスゲー技術があったもんだね、ホント」
「きみのその『鉄球』の技術もたいしたものだと思うがの、それよりも疑われていたとは心外じゃわい」
「そういわれても、なあ………」
「てめーら、オレを無視すんじゃねーッ!!」

我に返り再び叫ぶが、彼も先ほどまでと比べて明らかにおかしいこの状況に気づかないほどマヌケではない。
やがてジャイロが種明かしをするが………その内容は彼にとって驚愕のものだった。
211創る名無しに見る名無し:2013/03/27(水) 09:20:41.33 ID:5y6BSVsU
支援
212影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 09:21:04.99 ID:/+E4aaKB
「波紋による催眠術………ウィルがおたくを眠らせて、事情を全て聞き出したんだ。
 ビーティーが言った通り、隙間に隠れて音石を殺害した一部始終も含めてな………やってくれたな、オイ」
「え……あ……お……」
「言っておくがスタンドを出した場合、逃走の意思ありと見なして即座に『始末』する………全員一致で許可したことだ」

ドルドが付け加えた言葉にズッケェロは顔面蒼白になる。
自分の経歴が割れていた以上、おそらく今聞いたことは真実。
となればスタンドを出そうが出すまいが、いつ殺されてもおかしくはないのだから。

「て、てめーッ………ツェペ………リ………」

どうにかツェペリのほうへと顔を向けたズッケェロは言葉を失う。
ベッドの上にいたツェペリが、今までの彼からは想像もできないほど冷たい目で自分を見下ろしていたからだ。

(あ、あの目………養豚場のブタでもみるかのように冷たい目だ………「かわいそうだがあしたの朝には肉屋の店先にならぶ運命のようだね」ってかんじの!)

普段温厚な人物ほど怒らせると恐ろしい………ツェペリの気迫は、シャバイ脅しにはビクつきもしないはずのギャングを怯えさせるほどのものであった。
完全に戦意喪失したズッケェロはついにその口を閉じ、震えはじめる。
この場にいないビーティーとアヴドゥルの行方について疑問に思うことも無く………


#


その頃のビーティーとアヴドゥルはというと、ツェペリの頼みで音石を埋葬するためホテルの外に出ていた。
遺体は燃やさずにホテル近くの地面へと埋められ、墓標代わりに彼の愛用していたエレキギターが備えられる。
ほかの参加者に遭遇することも無く埋葬はつつがなく行われ、後は戻るだけであったが、ここにきてアヴドゥルが何事かを考え込み、上の空となっていた。

「………………」
「―――アヴドゥル、聞いているのか、アヴドゥルッ!」
「………! あ、ああ、すまない。どうかしたのかな」

当然ビーティーにたしなめられ、正気に戻る。
彼もアヴドゥルにいろいろ思うところがあるというのはわかっていたが、半ば命を預ける立場としては時と場所をわきまえてほしかった。

「どうかしたのか聞きたいのはこっちのセリフさ、さっきから何をそんなに考え込んでいるんだ?」
「う、うむ………ブチャラティという男の素性がわかったのはいいのだが、まさか彼がギャングだったとは思わなくてね」
「考えるな、とは言わないがもうすこし余裕のあるときにしてもらいたいな。きみがそんなんじゃあ下手すると二人まとめて御陀仏の可能性があるからね………
 少し、落ち着ける場所まで会話でもしながら動こうか」

ズッケェロから引き出したブチャラティチーム、さらに殺された三人のうち一人であるジョルノ・ジョバァーナの情報。
意外なところで重要な手がかりが得られたものの、ギャングである彼らとポルナレフ、そして主催者にどんなつながりがあるのかはいくら考えてもわからなかった。
疑問を口にしようとするがその思考はお見通しだったらしく、先に言われてしまう。

「言っておくが彼らをどう思うかなんて聞かないでくれよ、ぼくだって見たことも聞いたこともない人物のことなんてさっぱりわからない」
「そうだな………ポルナレフの言っていた『ディアボロ』は放送で呼ばれたようだが、『レクイエム』に『矢』とはいったい………」
「………幸か不幸か、彼のチームのメンバーは全員が参加させられているようだし、直接会って聞くしか方法は無いだろう」

適当な会話をしながらホテルの扉があった場所をくぐる。
一息つくため階段に腰を下ろすと、話題は先ほど解決した事件へと移っていった。
213影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 09:29:14.74 ID:/+E4aaKB
「しかし恐れ入ったよ。あの事件、ツェペリさんの話を聞いて少し現場検証をしただけで即座に解決してしまうとは予想外だった」
「スタンドの存在さえ知っていれば比較的簡単な話だよ。第一ズッケェロの犯行はスタンド能力に頼っただけでトリックも何もあったもんじゃない。
 犯人が超能力で殺人を行い、それを催眠術で自白させて解決なんてとてもじゃないがミステリーとはいえない代物だよ、まったく………」
「スタンド能力はひとりひとり違うし、能力そのものを隠すなんて容易だ………スタンドによる事件を証明するなど、ずっと不可能だと思っていたよ。
 デイパックの内外における血痕の有無を証拠にするなんて、普通ならとても思いつかないものだ」

惜しみない賞賛の言葉を送るアヴドゥル。
するとビーティーはとんでもないことを言い出した。

「ん?ああ、あれか………外側に使ったのはただの蛍光塗料で、内側に使ったのは容器を入れ替えた単なる水だといったら信じるかい?」
「な………!?」
「そもそも、あの事件はスタンド能力なんて証明する必要はどこにもないくらいだよ。
 例えば事件時に全員の指紋をナイフについていたものと比較して、犯人は自分たちの中にいないことを確認するだけでも争いは収まったろうに。
 というより、ツェペリもツェペリだ。あんなことができるのならさっさとやっていればよかったものを………」

おかげで仕込みが無駄になってしまったじゃあないか、とビーティーは妙なことをつぶやく。
証拠がでっち上げということに思わず絶句するアヴドゥルだったが、犯人自体は正しかったのだと無理矢理納得して会話の続きに戻る。

「………会ったばかりだがなんとなくわかる、ツェペリさんは高潔な人物だ。他人を自分の意のままに操る、ということを嫌悪していたのかもしれないな………
 それに彼のデイパックから死体が出てきたという時点で発言権はなかっただろうし、他の者も自分たちの中に殺人犯が混ざっている可能性が極めて高い状況で無防備にはなりたくない。
 加えて言うなら、もし催眠術を使うことを容認されても腹話術で自白の振りをしているとでも疑われればそれまでだったんだろう」
「ぼくも催眠なんてかけられるのはいやだが、だとしてもだ。ツェペリが『自分は犯人を特定する術を持っている』と周囲に知らせるだけで大分違った展開になったはずだよ」
「そうもいかなかったのだよ………こればかりは、年月を重ねなければわからないことだろうな」
「理解したところで役に立たないことは彼ら自身が証明しただろう? たとえ精神的貴族に位置しようとも、それだけでは何の意味もなさないね」
「………………」

手っ取り早い解決こそが最善の方法と信じる―――こういう考え方はやはり子供特有のそれだな、とアヴドゥルは思う。
もっともビーティーの本質はそこではなく、仮に正しかったとしても『子供だからこそ』恐ろしい部分があるのだが。
ともあれ、そんな子供が何故事実に気付くことができたのか疑問は尽きなかった。

「………いつからズッケェロを犯人だと疑っていたんだ? ドルドが怪しいとは思わなかったのか?」
「きっかけはぼくが『策』を考えるために一度離れたとき………上へ行って戻ってくるあいだに、ぼくは音石の死体を既に見ていたんだよ。
 当然最初に疑うべきはホテル内にいたあの二人………だからぼくはわざわざ彼らの第一放送までの行動を聞いたというわけさ。
 案の定、ズッケェロはその場でぼろを出した」
「そんなに早くからか………しかしぼろを出した? 確かに彼の話は不確かなものだったが………」

虚空を見ながらズッケェロの話を思い返すアヴドゥル。
ビーティーはそのしぐさを見て薄笑いを浮かべながら言った。

「人間にはいろいろな『くせ』というものがあってね………
 たとえば考え込むときに自分の記憶を思い返している場合は今のきみのように左上を見るが、ありもしないことを空想しているときは右上を見るという習性さ。
 実際、これまでの行動を話す前にドルドは左上、ズッケェロは右上を見ていた………とはいえ、人間全てに当てはまるわけじゃないからあくまで参考程度だけどね。
 これによって怪しいと感じたズッケェロの話をよく聞くと、明らかな矛盾点が一つあった」
「矛盾………?」
「よく思い返してほしい。ぼくたちがこのホテルに入る直前、きみはどう感じた?」
「どう、といわれてもな………ひどい有様で、中に入るのはちょっとためらわれたということぐらいしか覚えていない」
214影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 09:36:59.02 ID:/+E4aaKB
自信なさげに答えるアヴドゥルだったが、ビーティーは小さく頷いた。

「それで十分だよ。さて、ズッケェロの話だとヤバイ奴に会わないよう、争う音にすら近づかず慎重に移動してきたそうだ。
 そんな男がいくら廃ホテルとはいえ、あちこち崩れたり穴が開いている上に血痕まで残っている入り口に一人でノコノコと入っていくと思うかい?」
「なるほど、わたし達の場合は『仇を探す』という目的があったから探索に踏み切ったが、確かに普段なら近づくのは御免被りたい状況だな」
「そう、ぼくですら調べても何があったかはわからなかったが、少なくとも自然にあのような状態になったわけではないことは一目瞭然だし、ちょっと見れば現場の状態が真新しいことにすぐ気づいたろう。
 すなわち入り口付近をここまでメチャクチャにした奴が近くに潜んでいてもおかしくない、普通はそう考えるだろうね。
 そしてホテル内に特別な用事も無く、ヤバイ奴に会いたくないのならその時点でホテルからできるだけ遠くに逃げるはず………
 ズッケェロ自身の今まで誰とも遭遇していない、という証言も合わせると、彼がホテル内に潜んでいたのは明らかに『不自然』だった」
「つまり、その時点で彼の話はでたらめだと?」
「その通り。今思えばズッケェロは破壊の元凶である化け物たちは既にホテルを去り、戻ってくる可能性はまずない―――
 そして残っているのはお人よしのツェペリたちだけだということを知っていて、ホテル内の方が安全と判断したんだろうね」

まあそれはさておき、とビーティーは話を戻す。

「ぼくはズッケェロの話は嘘で、彼はもっと前からホテルにいたことを隠している………つまりは音石を殺害したと知られたくないのだと思った。
 ところがその後、ずっとホテル内にいたツェペリの話を聞いても、その中にはズッケェロの名前がまったく出てこないじゃあないか。
 ツェペリの話のほうが嘘というわけではなさそうだし、ならば何故ズッケェロはホテルに今来たばかりだという嘘をついたのか………
 そこでピンと来たのさ。ツェペリが認識していないだけで、本当はズッケェロも事件に関わっていたんじゃあないかとね。
 そして事件に関わった者の中で、関わりそのものを隠す必要があるとするなら、それは『犯人』だけ………
 後はつじつまが合うように考えていけば事件の真相に辿りつくのはそう難しいことじゃあなかったよ。
 むしろ他の者が無実だという理由付けと、犯人を明かす前にぼく自身が狙われないようにする、ということに気を使ったぐらいさ」
「むう………」
「それに、彼は要所要所で怪しいそぶりを見せていたよ。たとえばぼくが死体を調べに行くと言ったとき、ズッケェロはドルドに押し付けようともせず自らついてきた。
 ぼくとアヴドゥルが自分を連れ出し、二人がかりで亡き者にしようとしている可能性があったにもかかわらずだ。
 おそらく、ぼくらがなにかに気付くんじゃないかと警戒して見張るつもりで同行したんだろう。
 ぼくの真の目的が死体の調査などではなく、告発の際に床の隙間から不意打ちされないための道具………テーブルを手に入れることだとも知らずにね。
 ホテルの入り口で遭遇した際にきみがぼくを引っ張って奴の攻撃を回避できたことから、射程距離そのものはたいして長くないことを知れたのはラッキーだった。
 あの時はお節介だと言ってしまったが、今となっては感謝しているよ」
「………………」

あのテーブルにはそんな意味があったのか、という言葉すらもはや出ないアヴドゥル。
その間にビーティーの話は後半の疑問………ドルドのことへと移っていった。

「ちなみにドルドに関しては彼の話が全て真実だと仮定した場合、ハンググライダーを使って屋上からホテル内に進入したと予測されること、それに彼が軍人ということを考えて犯人から除外した。
 入り口の惨状を見ていないのならホテル内にいてもおかしくないし、戦闘訓練を受けた者ならば心臓なんて刺すよりも喉元を掻っ切るほうが自然で賢いやり方だと知っているだろうからね」
「仮定………か。ビーティー、ドルドは信用できると思うか?」
「きみと同等に、という意味なら間違いなくNOだ。ドルドはまだ何か隠していることがありそうだしね。
 『既に捕獲されていた』とはどういう意味なんだか………ところでアヴドゥル、話は変わるがきみは賭け事は好きかな?」
「??賭け事? いきなり何を言い出すんだ?」
215影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 09:43:43.58 ID:/+E4aaKB
唐突過ぎる話題変化に戸惑うアヴドゥル。
だがビーティーはどこ吹く風で答えを促す。

「いいから答えてくれ。ぼくから言うならば、大好きさ―――自分で言うのもなんだが目が無い、といっても過言じゃあないね」
「わたしは………正直あまり好きではない。わたし自身賭け事向きの性格をしていないし、最近もあまりいい思い出が無いものでね………」
「おや、そうかい? 日常生活においてあのスリルはなかなか味わえないと思うが………まあいいさ。
 本題に入るが、これからぼくとちょっとした賭けをしないか?」
「………………まず賭けの内容と何を賭けるのか、それらをハッキリ言ってくれないか? 包み隠さず言えば、そうしないと怖くてとても受ける気にならない」

以前エジプトのカフェで魂を奪うスタンド使い、ダニエル・J・ダービーと戦ったことを思い出す。
結局アヴドゥル自身が勝負することは無かったものの、あれほど肝を冷やすような賭け事はもう御免だった。

「内容は、そうだな………『今から五分以内にジャイロ・ツェペリがひとりでぼくらのところにやって来るかどうか』をきみがどちらかに賭けるというもの。
 賭けるものは『敗者は勝者の命令をひとつだけ聞かなければならない』でどうかな?
 もちろん、命令といっても常識的に考えて犯罪になるようなことはしないし、させないと約束しよう。
 ………ああ、それともうひとつ『この賭けに関することは一切他言無用』も条件のひとつだ」

内容自体は単純なものだったが、わざわざそれをやる意味がどこにあるのかアヴドゥルには理解できなかった。
納得できる答えはおそらく返ってこないと思いつつも一応聞いてみる。

「言っていることはよくわかったが………ビーティー、今度は何をたくらんでいるんだ?」
「おいおい人聞きの悪いことを言わないでくれよ、ぼくだってたまには暇つぶしをしたくなることだってあるさ。
 アヴドゥル………さあ、賭けるか賭けないのか、ハッキリ言葉に出して言ってもらおうか?」

相も変らぬ飄々とした口調とどことなく聞き覚えがあるような言い回しで決断を迫られたアヴドゥルは思案する。

(条件自体は『選べる』わたしが有利のはずだが、先ほど見せられたビーティーの頭脳を考えると、どうも的中するというイメージが浮かんでこない………
 とはいえ、ツェペリさんの部屋を出る前にビーティーがジャイロに指示をするような動作はなかった以上、論理立てて考えれば答えがわかる賭けだろう。
 もしかすると、彼はわたしがキチンと物事を考えることができるかどうか試しているのかもしれない………)

賭けの内容と相手の目的について考え、自分なりに答えを出す。
安全であることは確かだし、なによりこの悪魔的な少年から一本取ってみたいという思いも少なからずあった。

「わかった、きみのその賭け………受けようじゃあないか」
「グッド! それじゃあどちらに賭けるのか決めてもらおうかッ! 当然、なるべく早くだッ!」

アヴドゥルは再び思案する。
想像するのは、ジャイロを取り巻く現在の状況についてだった。

(ジャイロがひとりで来る………それはすなわち、ドルドとズッケェロがいる部屋にツェペリさんをひとり置いてくるということ………普通に考えれば彼がそんなことをするわけがない。
 あるとすればなにか緊急事態が発生した場合………その場合もわたしたちが近くにいることは知っているのだから大声で呼べば済むことだ………しかし、それだけだろうか?)

最初に出したのは『来ない』という解答だったが、なにか裏があるのではないかと勘ぐる。
とはいえ考えてもいっこうに『来る』理由は思い浮かばず………しばらく後にアヴドゥルは結論を出す。

「わたしは『来ない』ほうに賭けよう」
「いいのかい? 後になってやっぱり逆にするっていうのはなしだぜ?」
「ああ、それでかまわない。先ほどの君じゃあないが、ジャイロには来る『動機』がない」

疑心暗鬼に囚われず、単純(シンプル)にいく………それがアヴドゥルの出した答えであった。
216影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 09:51:26.02 ID:/+E4aaKB
「ふうん、そうかい。一応言っておくが、ぼくは先に賭けられるとしたら『来る』に賭けていたよ」
「………何? それはいったい………」

疑問を口にしようとしたところで二人の後ろから物音がした。
アヴドゥルは音源のほうを向いて驚く―――そこには本当に、ジャイロ・ツェペリが一人で立っていたのだから。

「おふたりさん、ここにいたのか。埋葬はすんだみてーだな」
「ジャ、ジャイロ………おまえこそ何故ここにいる? ツェペリさんを置いてきたのかッ!?」
「ウィルなら心配ねえ。オレたちが思っているよりもずっと強いし、へこたれていないからな。
 それにドルドの野郎もひとまずは安全そうだし………まあ気になるってんなら先に部屋に戻っててくれねーか? オレはコイツにちっとばかし話があるんでね………」

ビーティーの方を見ながら言うジャイロだったが、当のビーティーはそれを遮る。

「話は『今』『ここで』かまわないよ………公一のことだろう?」

その瞬間ジャイロの、そしてそれを見たアヴドゥルの顔色が変わる。
この少年はおそらく10代前半………そんな彼がここまで物事を見通す力を持っているものなのかと末恐ろしいものを感じていたのだ。

「………知ってやがったのか?」
「このホテルで再開してから、おまえは時折ぼくのほうをチラチラと見て何事か考えていたな。
 それに最初会ったときと再会したときでは明らかに様子が違う、いうならばどこか無理をしているように感じられた………
 だから非常に重要な、それもなにか後ろめたいことを隠しているのではと思ったのさ。
 そうなれば研究所でぼくが話した情報からして、放送で呼ばれた公一に関わる何かがあったというのが一番可能性が高いと判断したまでだよ………」

彼にしては珍しく、相手の顔を見ずにビーティーは言う。
その頭脳は変わらず冴えていたが、あさっての方向へと向けられて見えない顔は怒りか悲しみか………いずれにしても表情を見られたくないかのようであった。
ジャイロは状況を半分程度しか理解できていないアヴドゥルのほうを見ながら聞く。

「………こいつはいいのか?」
「彼は今のぼくと同じ、このゲームで友人を失った男だ。
 ………もっとも、楽しい話ではなさそうだから聞くかどうかはきみに任せるよ、アヴドゥル」
「わたしは、きみに力を貸すと約束したのだ………聞かせてくれ」

アヴドゥルがはっきりと言うのを聞いたビーティーは彼らのほうへと向き直る。
―――その顔は、すっかり普段のものへと戻っていた。
217創る名無しに見る名無し:2013/03/27(水) 10:17:48.79 ID:5y6BSVsU
支援
218影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 13:06:29.63 ID:/+E4aaKB
#


―――時は少々遡り、ツェペリたちの残る部屋にまだジャイロがいた頃。

テーブルに腰掛けながらズッケェロを見張りつつ、渡された名簿を見ているドルドとベッドの上にいるツェペリ、そして腕組みをしながら部屋の中を落ち着きなく歩くジャイロ。

「ジャイロ君………先程から様子が妙だが、どうかしたのかね?」
「なあ、ウィル………オレがホテルに入ってきたときのこと、覚えてるか?」
「うむ、確か聞きたいことがあるといっておったの………結局うやむやになってしまったが」
「そのことなんだが………」

ジャイロは重い口を開いて話し始める。
ビーティーから親友に出会ったら保護してほしいと頼まれたが、後に自分が見つけたその少年は既に殺害された後であり、その『犯人』を見つけるべくホテルを訪れたということを。

「………それで犯人を捜してここに来たというワケか、なんとも間が悪かったもんじゃの」
「いや、アンタを救えた以上は意味があったってことだ、それについては後悔してねーよ。だが………」
「ビーティー君に話さねばならないが、タイミングを逃してしまった………というところか」
「ああ………どうにも、二人きりになる機会がなくてよ」
「話してきたらどうだ」

そこへなんともなしに会話を聞いていたドルドが口を挟んでくる。

「ヤツはしっかり放送を聞いただろうから、その親友が死んだことも確実に知っている。
 話しづらいからといって後回しにすれば、それだけ遺恨が生まれると思うが」
「………まあ、そうだな。オレとしても行く気は十分あるんだが………」

ジャイロはドルドとツェペリを見比べる。
彼が言わんとすることを察したドルドは先に言葉を発した。

「おれが信用できないか? いくらなんでもこの状況でツェペリを襲いはしない………仮に殺害とその後の逃走が成功したとしても、きさまらに悪評をばら撒かれてはたまったものではないからな………」
「おたく、損得勘定はうまいようだな。だが知ってるか? 歴史じゃだいたいそういう奴が裏切り者になってるんだぜ」
「何とでもいってくれて結構。少なくとも『今』はきさまらと敵対する気は皆無だ」
「なーに心配いらんよ、万が一この男に襲われても君たちが戻るまでは持ちこたえられる、いやそれどころか勝ってしまうかもしれんの。
 君は『納得』いくまで話し合ってくるといい、こうして送り出すのは二度目だが、行って来い」

見ようによっては無理をしているように取れなくもない、明らかな冗談交じりの言葉―――だがそこから不思議な安心を感じ取り、ジャイロは決断した。
先ほどと比べると自分のほうに危険は無いが、それでも踏み出すのに必要な度胸は同等。
なるべく早く戻る、とだけ言い残しビーティーたちを探すべく部屋を出て行った。


―――それからしばらくして、ジャイロが十分に離れたと判断したツェペリはドルドに問いかけた。

「さて、ドルド君。わしになにか話があるのではないかね」
「何のことだ?………まあいい、そういうならばひとつだけ聞いておこう。何故、きさまはこの男をすぐに処分しようとしない?」

部屋の隅に転がされたままのズッケェロを眺めながらドルドは聞き返す。
てっきり個人的な話のためにジャイロを遠ざけたと思っていたツェペリは見当違いだったかの、とつぶやくと質問に対して答える。
219創る名無しに見る名無し:2013/03/27(水) 13:09:59.20 ID:30YHvdY/
支援
220影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 13:16:14.36 ID:/+E4aaKB
「わしとて聖人君子ではない。運命を狂わせたものに『復讐』したいという気持ちがないわけではないが………
 殺人を犯したから命で償わせる、というのは間違いだと思っとる。それに………」
「それに、なんだ?」
「個人的なことだが、彼の名である『マリオ』はわしの息子と同じ名前なのじゃよ。
 それだけのことじゃが、どうにもやりきれない思いになってしまってね………」

それを聞いたドルドは思わずズッケェロを凝視する。

「………まさか、とは思うが」
「オ、オレはあんたの息子なんかじゃねー………」
「まあそうじゃろうな、ワムウから聞いた話によるとわしの孫はシーザー・『ツェペリ』というらしいからの」

時代を超えて参加者が集められている………その事実から二人が親子という突拍子も無い可能性を思いつくも、さすがにそこまで偶然は重ならなかった。
もはや嘘を言う気力さえ残っていないズッケェロをもう一度だけ眺めると、ドルドは名簿をしまいゆっくりと立ち上がる。

「何かと思えば、そんなくだらないことだったとはな………それを聞いて安心したぞ」
「安心………!? ドルドッ! きさま何を………ッ!!」


―――ツェペリが気づいたときには既に手遅れだった。



#



「………これで、終わりだ」
「………………」
「そんなことが………」

そして場面はロビーへと戻る。
ジャイロの話が終わっても、ビーティーは黙ったままであり………共に聞いていたアヴドゥルは奇妙な親近感を覚えていた。

(似ている、わたしの事情と………たった一つの判断ミスで、助けられたかもしれない命を奪われてしまったことが………)

何か言わなければならない………そう思い口を開こうとしたとき、彼はビーティーが小声で何かをつぶやいているのに気がついた。

「ビーティー、ショックなのは………」
「………………さん」
「………?」
「絶対に、ゆるさん………!!」

ビーティーは顔を伏せたまま耳をなで………静かに、だが力強い声で言った。


「よくもぼくの親友を………しかも無抵抗な彼を何度も痛めつけて殺害しただとっ! それも自分だけの都合でッ!!
 この罪は大きいなんてもんじゃあないぞ………くらわしてやらねばならん! 然るべき報いを!」


その声は注意しなければ聞き取れないほど小さいものであったが、聞くものが聞けば卒倒するほどの迫力を持っていた。
221影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 13:26:00.07 ID:/+E4aaKB
「………………こいつが、そのレンガだ。犯人を突き止める手がかりになるかはわからねーが」

彼の声が聞こえたかどうかは定かではないが、ジャイロは持ってきたレンガブロックを取り出して見せる。
ビーティーはそれを受け取ってためつすがめつ眺めていたが………決定的な何かを得られていないのはその表情から見て明らかだった。
それでも、アヴドゥルは聞かずにはいられなかった。

「………どうなんだ、ビーティー?」
「………………」

ビーティーはしばらく黙ったままだったが、やがて苛立たしげに答える。

「………さすがにわからない。一応、これまで見聞きした参加者の中に疑わしき人物はいるが、そもそも犯人がホテルへ向かったかどうかすら定かではない………今はお手上げだ」
「疑わしい奴がいるって、どういうことだおい………つーかオメーの頭の中はどうなってんだ?」
「支給品だ………公一は殺害され、持ち物を奪われていた。当然持って行ったのは犯人だろうから、人より多くの支給品を持っている可能性が高い。
 だがひとりひとり支給品の数は違うようだし、なにより時間が経ちすぎた………道具なんていくらでも拾えるし捨ててしまえる………ッ!」

搾り出すように自分の考えを述べるビーティー。
しかし、現段階で犯人の特定は不可能―――その事実が彼に屈辱的な表情を作らせていた。

(………おそらくビーティーは心配ない、感情的になっているようでも頭の中は冷静だ。しかし、彼が言っているのはスティーリー・ダンのことか?
 それに支給品といえば、確かポルナレフのデイパックも残っていなかった………わたしが置いていったものもあったはずなのに)

アヴドゥルはふと、いまだ見つからぬポルナレフの仇についても似たような状況だったことに気付くが、思考はそこで止まる………というよりも止められた。


―――上階からすさまじい絶叫と、衝撃音が聞こえてきたことによって。


誰一人として言葉は発さず、ただ全力でツェペリたちを残してきた部屋まで駆ける。

「ウィルッ! 無事かッ!? 何があったッ!!」

最初にたどり着いたジャイロは扉を蹴破らんばかりの勢いで部屋内に突入し、間髪いれずに叫ぶが答えは返ってこなかった。
そしてジャイロはそこに広がる光景を目の当たりにする。
喉元を切り裂かれて床をのた打ち回るズッケェロと、その傍らで歯噛みするツェペリ、そして壁際で尻餅をついているドルドを。

ツェペリとドルドは互いに睨み合いを始め、今にもどちらかが襲い掛からんばかりの緊張感を漂わせている。
ジャイロは状況を把握しきれないながらも鉄球を構え、ズッケェロをチラリと眺めるがすぐに『助からない』と判断せざるを得なかった。
出血量から判断して傷が気管まで達するほど深いものである以上、薬があっても手の施しようが無い………ツェペリの波紋でさえも、呼吸が出来ない彼を治すのは不可能だった。

ズッケェロは噴出す鮮血を止めることもできず、虚ろな目のままかろうじて口を開く。


「………チ…ショー……な…でオレ…こ…な目に…………」


最後につぶやいた声は、声かどうかも怪しいかすれたもの。
………次の瞬間だらりと首が落ち、彼の身体は永久にその動きを止めた。

―――彼の誤算はビーティーを見くびったことか、それとも他人を信用できなかったことか、はたまた隠れる能力を持ちながら表に出てきてしまったことか。
どの時点で彼が『詰み』になっていたかは、おそらく本人にもわからないだろう。
222影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 13:36:04.05 ID:/+E4aaKB
………そして、ここでようやく当事者である二人が口を開く。

「ドルドッ!! きさまぁッ! 何のつもりだッ!!」
「何のつもり………? 何のつもりか、だと? きさまらこそ、この男をどうするつもりだった?
 ここに放置していくつもりだったか………? まさかこの状態のまま連れて行くとか言い出すつもりじゃあなかったろうな?」

その言葉でジャイロ、そして駆けつけたアヴドゥルとビーティーも理解した。
ズッケェロを殺したのは、ドルドだということを。

―――ドルドはツェペリとの会話後、目にも止まらぬ速さでズッケェロに飛び掛って押さえつけ………手にしていたガラス片で相手の喉元を、瞬時に切り裂いたのだ………!!
ツェペリはとっさに片腕で跳躍し、体ごとぶつかるようにしてドルドを壁際まで弾き飛ばすことに成功したものの、彼に出来たのはそこまでだった―――

攻撃によるダメージがさほどではなかったドルドはゆっくりと立ち上がり、服に付いた埃を払いながら言葉を続ける。

「ツェペリ、きさまもわかっているはずだ。この殺し合い、全員が手を取り合うなど夢物語にしか過ぎないということがな!
 何を目的にするとしても、殺さなければならない奴は必ずいる………そしてズッケェロは、排除しなければならないヤツだった!
 この男は参加者の命を奪うことにためらいがなく、そのくせ自分で奪った命に対して責任を持とうともせず逃れようとするばかりだった。
 生かしておいてもなにひとついいことはないどころか、逆恨みでいつこちらの寝首をかかれるか分かったものではない………
 きさまらが誰一人やろうとしない以上、おれがやるしかないだろうッ!!」

ドルドはツェペリに向かって声高く主張する―――自分たちは今、殺し合いの真っ只中にいるのだと。
だが、ツェペリも曲げるわけにはいかない―――それでも、人として超えてはならない一線があることを。

「だからといって、命を奪ってよい理由にはならん! きさま―――いったい何人の生命をその理屈で奪い取った!?」
「フン! 軍人のおれにそれを聞くとはな………正確にはわからんが、戦場において2500人は殺したさ! 全てそいつと同じ、やらねばやられる相手をなッ!」

もはや争いは避けられないのか………ジャイロがそう思っていると、その視界にビーティーが映る。
彼は何事もないかのように―――ズッケェロの死にすら動揺していないかのようにゆっくりとツェペリとドルドの間に割り込み、厳かに言った。

「そこまでにしてもらおう………どちらが正しいとか間違っているとか、そんなことを議論するつもりはない。
 ぼくが言いたいのはズッケェロが死んだ今、この場でおまえたちが争う理由はもう存在しないということだッ!」

ビーティーの指摘は正しかった。
ドルド本人によれば彼の標的はあくまでズッケェロただひとり、他の者とまで事を構えるつもりはない。
ツェペリも動かないのは迷っているということ―――真に相手が許せないのであれば再び攻撃を仕掛けているはずである。
なぜ迷うのか、それは感情的になっているツェペリもドルドの理屈自体は理解できる―――彼は『波紋戦士』として吸血鬼や屍生人を討伐しなければならないのだから。
ただ、倒す相手が人間か否か………それは大きな問題ではあったが、ドルドの主張を覆すには至らないものだった。

「ビーティー君、そうは言うが―――」
「………アヴドゥルはゲーム開始直後、襲われていた友人を助けるために四人もの参加者の命を奪ったそうだ。
 その相手は不利になると命乞いをし、背を向けたアヴドゥルを後ろから不意打ちしようとする卑劣な奴………
 結果的に全員を殺害せざるを得なかったというが、彼が悪人に見えるか?
 そしてドルドの殺人にも同じく『理由』があったということはあなたも理解できるだろう?」

グ………と唇を噛みツェペリは深く考え込む。
一片たりとも許したわけではないが、それでもしばらく後にツェペリはビーティーの言葉で一時的に矛を収めた。

「………………………おそらく一生かけたとしても『納得』はできんじゃろう。
 とはいえ、そういう方法を取らざるを得ない場合があることもわしは知っておる………
 だが覚えておけッ、きさまが殺害した相手は『無抵抗』だったということをッ!!」

殺されたズッケェロはツェペリにとっても憎むべき相手………それを踏まえると、目の前で無抵抗の人が殺されておきながらその犯人を見逃すという行為が甘いかどうかは意見が分かれるところであろう。
ともあれ、ドルドはいわば『執行猶予』を与えられた。
223創る名無しに見る名無し:2013/03/27(水) 13:42:54.40 ID:30YHvdY/
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224影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 14:40:46.66 ID:/+E4aaKB
だが、それを黙って眺めていた当のドルドは先程の言葉とは裏腹に黒い思考を働かせていた。

(やはりな………この連中は、おれが捜し求めていた『お人よし』の集団だ………理由さえあれば『殺人』すら許容されるほどのッ!
 無論、これでおれには監視が付くことになるだろうが………どちらにせよ、バオーがいるならば単独行動は出来ん。
 それに霞の目やあのウォーケンとかいう男の名が名簿にない以上、主催に『ドレス』が一枚噛んでいるのは確実………!
 しばらくはこの連中と共に行動し、邪魔な参加者を排除しつつ生き残る………それが最善の策だろう)

ツェペリに語ったことに『嘘』はないが、彼がズッケェロを殺害した理由は主に二つ、いずれも結局は自分のためだけである。
ひとつは仲間になりうる彼らが真にお人よしかどうかを確かめるため。
そしてもうひとつは自分が無能でないことを証明するため、スタンド使いを始末できる―――超能力が使えても肉体は人間であり、同じように殺害が可能である―――ことを確認するためだった。
捕らえられた殺人者であるズッケェロは、殺害しても角が立ちにくいおあつらえむきの標的だったというわけである。

そして残る二人、どちらも黙ったままのアヴドゥルとジャイロ。

(倫理的にはツェペリさんのほうが正しい………だが、ここでそのような考えは命取りになるというのが現実だ)
(殺すべきだったのか、生かしとくべきだったのか………そいつは『ネットにはじかれたテニスボール』………だな)

彼らもまた『目的』を持ち、それを邪魔する敵を排除してきた身である。
無抵抗となった相手に止めをさすという行為の善悪に対してそれぞれ思うところはあるものの、強く言うことはできずに沈黙するほかなかった。

ビーティーは周囲の人間を一通り眺め、自分以外に意見を出すものはいないと判断する。
まずは部屋の中央にあるテーブルに再び上り注目を集め………はっきりと、力強い声で全員に聞こえるよう言った。

「みんな、よく聞けッ! 思うところはあるだろうが、ズッケェロが死んだ事実は変えようがないッ!
 ぼくらには過ぎたことを悔やむより先に『やるべきこと』があるはずだッ! 倫理や常識なんてものは全てが終わった後にまとめて考えればいいッ!」
「「「………………」」」

それは全体への言葉であり、同時に個人へ向けた言葉。
普段ならば『それで済ませられる問題ではない』と反発されるであろう言葉だったが、意外なことにそのような意見は挙がらなかった。
言っていること自体はもっともであり、さらにビーティーは先程の謎解きの結果、全員の『信頼』をある程度得ていたためである。
………とはいえ残酷な話かもしれないが、殺されたのがズッケェロ以外の人物だったらこうはいかなかっただろう。

「………そうだな、まだオレたちにゃ倒すべき敵がいる」
「ジョースターさんに花京院、イギー………今もどこかで戦っているかもしれない仲間がいる」
「何もせずにうなだれていては、状況は悪くなる一方………」
「会ったこともないとはいえ、同じ姓を持つ孫にこんな姿は見せられんの………」

人は生きるからには目的を持つもの………当たり前のことを再確認することで、ビーティーは彼らの顔を上げさせたのだ。
またドルドは除くとしても、残りの皆はそれぞれ強靭な精神力と『やるべきこと』を持っていたのも再起する要因のひとつとなった。
わだかまりまで消えたわけではなかったが、彼らの中に後ろ向きのままの者は既に一人もいない。

そんな彼らを見て、ビーティーはいつも通りの不適な笑みを浮かべていた。
この集団をまとめるべき『リーダー』の座は、この時点で彼が手にしたも同然だったのだから。
225創る名無しに見る名無し:2013/03/27(水) 14:46:36.13 ID:30YHvdY/
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226影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 15:08:35.11 ID:/+E4aaKB
―――そして五人はここに至ってようやく、詳細な情報交換を行う。
ツェペリの話の前後やズッケェロの捕獲直後などのタイミングもあったはずなのに何故今になって?と思う者もいたが、彼らも情報交換自体に文句はない。
ドルドとツェペリもお互いに短気すぎる性格ではないため、仲良くとはいかずとも議論に支障が出るほど険悪ではなかった。
またビーティーも『自分も全てを知っているわけではない』と限定的ではあるが明かし、その中に加わっている。

「ジョナサン・ジョースター、ジョセフ・ジョースター、空条承太郎、それにひょっとしたらジョルノ・ジョバァーナもこの一族の一員なのかもしれないな………名簿にはまだ彼らと同じ姓のものがいるしね」
「時代を超えて集められている以上、ひょっとしたら一族総出かもしれんの。そして彼らの中から見せしめが選ばれた以上は………」
「主催者に何らかの関わりを持つものがいる………ということだ。ジャイロ、きみにも何か心当たりがあるんじゃあないか?」
「何を持ってそう判断したのかはわからねーが、決め付けはよくないぜ?」
「おや、意外だな。きみはスティーブン・スティールを知っていたし、最初出会ったときに何度か口にしていた『ジョニィ』というのはてっきり名簿にあるジョニィ・ジョースターのことだと思ったんだが」
「………あってるが、オレはむしろオメーがそんな細かい部分まで覚えてることのほうが意外だよ」
「………ドルド、本当に彼らのことは誰一人知らないのか?」
「本当だといっているだろう。おれが知っている名は橋沢育朗のほかにスミレとケイン、ブラッディにマーチンぐらいだ」
「アヴドゥル、それぐらいにしておいてくれないか。心当たりのない参加者が一人や二人いたっておかしくはないだろう?」

名簿を見ながら仲間や危険人物、死者について整理し、またこれからの行動方針も決めていく。
また、あらためて情報の整理を行った結果、各人にも様々な思惑が生まれていた。

「ビーティー君、主催者の居場所はわかるのかね?」
「さて、ね………普通に考えれば会場外、何か理由があって会場内のどこかにいるとしても、適当に歩いてたどり着けるような場所にはいないだろう」
「どうにせよ、他の参加者と接触しなければ何も始まらん。ひとまず地図の中心部を目的地として移動を提案する」
「………おいドルド、オメーはそれでいいかもしれねーが、ウィルにはどうしろってんだ?」
「ああ、それならば何とかなる。先程わたしたちがホテルの外に出た際、使えそうなバイクを一台発見した。
 運転者にしがみつく形になるが、どうにかツェペリさんを運ぶことは出来るだろう」
「バイク………? なんだそりゃ」
「………そこから説明せねばならんとは………」
「ツェペリ、あなたはどうしたい?」
「当然、這ってでもついていくつもりじゃったわい。野放しに出来んやつもおるしの」
「動くのは全員一緒でか? 乗り物がひとつだけならチーム分けをするってのは………」
「………他はともかく、バオー相手に一人や二人では勝ち目などない。多少非効率的でも全員で動くほうが安全だ」
「よし、それでは次に――――――」

(ドルド………よりにもよって目の前で殺人を行うとは、きさまのその行為はわしに最大限の屈辱を与えるのに成功したぞ………
 だが許してはおらん、次はこの腕がちぎれようとも必ずや止めてやる………!)

(さまざまな事実が明らかになった、しかしそれ以上に『謎』も増えている………
 DIOが参加者のひとりとはいったいどういうことなんだ………?
 それに、未だに手がかりすらつかめないポルナレフを殺した犯人は見つかるのだろうか………?)

(妙だぜ………明らかに死んだはずの奴がいたり、オレでもわかるほどチグハグな外見の参加者………
 ほかの連中が言ったとおり時代を超えて参加者が集められてるとして………そもそも『今』は『いつ』なんだ?
 主催者の背後にいる大統領か、それとも全く別の誰かを倒したときに、オレはちゃんとレースに戻れるのか?
 ………ま、何であれ結局前に進むしかねーんだがな)

(仲間の確保は出来た………不信感は持たれたものの、むしろその程度で済んだというのが良い………
 バオーを敵視させることにも成功したようだし、すこぶる順調というわけだ………
 後は予想以上にキレるビーティー………奴の策は自分の優勝狙いか、あるいは主催を打倒する類のものか、
 そしてその策が単なるハッタリなのかそれとも………どうにせよ、用心しておくべきだな)

(………………………)
227創る名無しに見る名無し:2013/03/27(水) 15:29:13.77 ID:30YHvdY/
支援
228影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 15:33:58.24 ID:/+E4aaKB
―――
――




一通りの議論が終了した後、ビーティーはまたしてもアヴドゥルを連れてホテル近くの民家にあったバイク―――J・ガイルが乗り捨て、結局再び使うことはなかったもの―――を持ち出していた。

「燃料は十分残っている、と………運転は、わたしがすることになりそうだな」
「それが妥当だね。ドルドと相乗りはツェペリが嫌がるだろうし、他に運転できる者はいない」
「うむ、しかしこの程度の作業、わたしひとりで十分だと思うのだがな」
「必要もないのに単独行動なんてするもんじゃあないさ。それに、きみに話があったしね」
「話………?」
「忘れてしまったのかい? 先程の賭けのことさ」

言われてアヴドゥルは思い出す。
ジャイロが来たということは自分が負けたということ―――すなわちビーティーの命令をひとつ聞かなければならないことを。
だがアヴドゥルにはどうしても気になることがあった。

「結果に文句はつけない………だがビーティー。ジャイロが部屋を離れた結果、ドルドがああするとわかっていたのか?」
「まさか、だろ。いくらなんでもそこまではわからなかったさ」
「………………」
「さて、それじゃあこれを受け取ってくれ………血は既に拭っておいたよ」

アヴドゥルの問いかけをさらりと否定し、ビーティーが差し出したのは音石の死体から回収した短剣だった。
相も変わらず笑みを浮かべるその顔からは何を考えているのかさっぱり読み取れない。

「これを………? 確かに元はわたしのものだが、スタンドの無いきみが持っていたほうがいいだろう?」
「ぼくが刃物を持ったところで出来ることなどたかが知れてるし、なによりナイフなんて暴力は使わないよ………
 これは、きみ自身の戒めとして持っていてほしい」
「戒め………どういうことかな?」
「ズッケェロはホテルの騒動の後も、その気になればずっと隠れていることも出来る能力を持っていた………だが実際はどうだ?
 ぼくたちに能力を知られ、完璧だと思っていたはずの犯行を暴露され、最後には殺害されてしまった。
 何故、そんなことになったのだろうね?」
「………………」
「ぼくが思うに、彼は『過信』していたんだろう。一度うまくいったことで自分の能力が無敵で、それを操る自分自身も最強だと思い込んだ。
 だから調子に乗って外に出てきてしまった………そういう奴が長生きできると思うかい?」

アヴドゥルはそこまで聞き、おそらく自分に同じ話を当てはめるつもりだと考え………侮辱とまではいかないが、見くびられていると思った。
この少年から見た自分は、油断して命を落としかねないほど危うく見えるのだろうか、と。
眉間に銃弾を受けて重傷を負ったこともあるが、それはビーティーの言うこととは別の話である。
返す言葉も多少不機嫌さがにじみでるものとなっていた。

「………わたしは、自分の能力をよく知っている。慢心などはしていないし、自慢にはならないが勝てないと悟った相手からは即座に逃げたこともある」
「ああ、勘違いしないでほしいが、ぼくはきみを疑っているわけじゃあない。
 『魔術師の赤』があの二人相手に一歩も引かず戦えるほど強力で、さらに探知にも秀でていることはよくわかっている。
 きみ自身に関しても、この殺し合いで今に至るまでスタンド使いでもないぼくに全く手出しすることなく、
 自分より一回り以上年が離れている少年に対等な立場で協力を要請することから、人間性も判断力も信用に足る人物だと理解しているさ」

自己分析も出来るしね、と付け加えられアヴドゥルはまたしても相手の目的が読めなくなる。
回りくどい言い回しに翻弄され、結局相手の結論を促すことしか出来なかった。
229影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 15:44:53.71 ID:/+E4aaKB
「先程から一体何を………いや、それよりも皆がわたしたちを待っているだろうし、さっさと命令とやらを言ってくれないか?」
「わかったよ、ぼくからの命令………というよりもお願いになるかもしれないんだが、『スタンドに頼りすぎないでほしい』」
「………なに?」
「ぼくは単に『能力』というだけならきみだけじゃなくツェペリも、ズッケェロでさえもたいしたやつだと思っている。
 だがホテルの一件で、ツェペリは自分の能力でズッケェロを探知出来なかった故にあんなことになってしまった。
 その探知から逃れるほどの能力を持つズッケェロも、油断して能力を解除したことがきっかけで命を落とした。
 結局、使い手が人間………おっと、吸血鬼や犬もいるらしいから『生物』である以上、完璧な『能力者』なんて存在しないのさ。
 だから少し心配になったんだよ………きみもいつか『炎の探知機』で探知できない相手に知らぬ間に近づかれて奇襲を受けるんじゃあないか、とね。
 そうならないように、スタンド『だけ』に頼るのはやめてほしいというわけだ」

言われてアヴドゥルはふと思い返す―――この殺し合いに参加させられる直前の出来事を。
ラクガキを見て振り返った瞬間、自分たちがあのホールへとワープさせられたということを。

(ラクガキがスタンド発動のスイッチとなっていた―――そう考えたとしても探知機にひっかからない攻撃方法でやられたのは確かだ………
 だがツェペリさんの場合と同じように、もしもその敵が自分たちに気付かれないようにすぐ近くまで接近していたのだとしたら………?
 ありえない、と考えるのはビーティーの言う『過信』になるのだろうな)

幸いなことにと言うべきか、アヴドゥルは『探知不能』の体験がごく最近にあった。
確かに炎の探知機に反応は無く、イギーの鼻にもにおっていなかったはずなのにスタンド攻撃を受けたという事実。
元から油断するつもりなど一切無いが、ビーティーの言葉を無視できる立場でないことはよく理解できたのだ。

「音石は味方が多いと油断して一人きりになり、そのナイフで命を奪われた………ナイフを使ったズッケェロも油断が元で殺された。
 二人と同じように油断で命を落とさないよう、ナイフを見るたび思い出してもらいたいというのがぼくからの『命令』だ」
「命令やお願いというよりは、忠告に近いな………わかった、覚えておこう。そしてこの短剣も、証として持っておくことにする」

話が終わったものと思ったアヴドゥルは短剣を受け取ると懐にしまい、歩き出す。
そんな彼の背中に向かって唐突にビーティーは言う―――不思議な『何か』を感じさせる声で。

「きみとぼくは、親友の仇に報いを受けさせたいという点で同じ立場となった………お互い、目的を果たすまで頑張って生き残ろうじゃあないか、アヴドゥル」
「あ、ああ………」

その言葉を聞いたアヴドゥルはかすかに………ほんのかすかにだが背筋が寒くなる感覚を覚えた―――ビーティーと最初に会い、その右手を差し出されたときと同じようなそれを。
それでもやはり、自分たちにはこの少年の頭脳が必要である………その考えから違和感を振り払い、彼の言葉に頷くしかなかった―――振り向くことも出来ずに。

会話はそれで本当に終わり、二人はホテル前にて残る三人と合流しサンモリッツ廃ホテルを後にして会場の中心へと進出を開始する。
こうして、ゲーム開始から騒動が続いてきたサンモリッツ廃ホテルに参加者は一人もいなくなり、ここを舞台とする話はひとまず幕を閉じるのであった。
230創る名無しに見る名無し:2013/03/27(水) 16:12:24.95 ID:30YHvdY/
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231影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 16:39:33.14 ID:/+E4aaKB
―――ところで、ホテルにおける彼らの『行動』についてはこれで終わりだが、いくつか腑に落ちない点はなかっただろうか。
例えば、何故情報交換があそこまで遅れて行われたのか。

これは偶然などではなく、ビーティーがズッケェロを警戒していたためである。
ビーティーはツェペリのいる部屋へと向かう時点で、既にズッケェロが音石を殺害した犯人だと疑っていた。
その考えが確信に変わると、おそらく次に狙われそうなのは名簿の一件で逆恨みされているであろう自分自身と予想でき、しかもいつ不意打ちを受けるかわかったものではない………
よって、ズッケェロに考える時間を与えず一刻も早く捕らえる必要があり、時間がかかりそうな情報交換はさりげなく話題をそらすことで回避していたのだ。


次に、何故ビーティーは公一の話を無関係のアヴドゥルにも聞かせる気になったのか。
実を言うとその理由に大きく関わっているのは公一ではなく、語り手であるジャイロのほうだったりする。

ビーティーはジャイロ・ツェペリという男を一から十まで全て知っているわけではない。
最初に出会ったときには無抵抗の人間を殺して回るような人物ではないとわかったが、それはあくまで過去の話。
例えば『放送』で恋人や無二の親友を亡くし、表面上は変わらぬように見えても心の奥では優勝するために皆殺し………そんな考えになっている場合もある。
そして彼と一緒にいたウィル・A・ツェペリは彼と同じ姓………同じ一族と考えると現時点でお互いに裏切る可能性は低い。
彼らが結託し、参加者の皆殺しをたくらんでいる………そのような可能性もゼロではないとビーティーは考えていた。
要するに、彼は二人のツェペリを完全に信用しきってはいなかったのである………!

だからこそ、ビーティーはずっとアヴドゥルと離れたがらなかった―――特に彼がスタンド使いではないと知っているジャイロに対する有効な防衛手段は、今のところそれ以外に存在しないのだから。
………とはいえ、ビーティーもジャイロ達のこれまでの行動を見聞きしてきた以上、今も二人がまるきり信用できないというわけではない。
彼にしてみればあくまでも『用心』の範囲、詳細な情報交換をした頃にはその『用心』も解かれていた。
少なくとも、アヴドゥルにバイクの運転を任せてもいいと思う程度には。


最後に、何故ビーティーはアヴドゥルにあのような賭けを持ちかけたのか。
ビーティー本人は暇つぶしと言っていたが、無論真の目的は別にある。
アヴドゥルに忠告を行うという意味もあるにはあるが、それならば賭けなどせずとも普通に言えば済むことだからだ。

早々に種明かしをしてしまえばこれは残る一人、ドルドに関わる話であった。
ジャイロ以上に得体の知れない男であり、彼自身が言っていたことすらどこまでが真実かわからなかった。
そこでビーティーは彼を『試す』ことにしたのだ―――アヴドゥル、ジャイロと共に別行動をとり、その間にドルドが『何をするか』を。
準備としてジャイロが自分に何らかの話がありそうだということを利用し、一旦アヴドゥルとだけ別行動をとり『時間稼ぎ』となる賭けを持ちかける。
そしてジャイロがやって来たら適当に理由をつけてアヴドゥルをその場に引き止めておくだけでやるべきことは全て完了。
後は部屋にいるドルドのほうで勝手にやってくれるというわけである。
232影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 17:23:04.99 ID:/+E4aaKB
ビーティーが考えた結果の予測は大まかにわけて三通り。

絶好のチャンスに『何もしない』ならば彼は安全か、危険人物だとしても行動力は低い。
いずれにしろ、自分の手で十分にコントロールしてしまえる。

『ツェペリを襲撃する』ようならば彼は間違いなく優勝狙いの積極的殺人者。
話し合いでどうにかなる相手ではないため、その場で排除するつもりだった。

そして、実際の結果となったように『ズッケェロを襲撃する』ならば。
この場合、ドルドが優勝狙いかどうかはわからないが、少なくとも何らかの目的があり、そのためならば手段を選ばないスタンスであると考えられる。
対策としては要警戒………悪く言えば先延ばしである。
しかしこの結果ならば、おそらく自分を含む四人は一斉にドルドへと注意を向けて団結しやすい―――味方が多くなるのに加えて今後自分が動きやすくもなる。
さらに言うなら邪魔なズッケェロを始末してもらえる、というアヴドゥルにも言えない秘密の利点があった。
当然、そこに罪悪感など欠片も感じていない―――ズッケェロの殺害はあくまでドルドが『自分の意思で』やったことなのだから。

ビーティーはこの三通りのうちどの結果になるのかまではわからなかった。
そのため、アヴドゥルに『わかっていたのか』と訊かれたときも『わからなかった』と答えたのである。
たとえ『予測の範囲内』だったとしても、問われたことには答えたのだから。


………ここまで言えばわかるだろう。
この一連の出来事は初めの安全確保どころか、最初から最後まで全員がビーティーの手のひらの上で踊らされていたということ、そして誰一人としてその事実に気が付いていないということが。
彼は他人の命までも利用して参加者たちの真意を探り、自分は可能な限り安全地帯に居続けるという悪魔的所業を誰にも知られることなくやってのけたのだ………!
それも、スタンドのような『力』や持って生まれた『カリスマ』などは一切使わずに、人間ならば誰でも持っている『頭脳』を駆使して。

この真相を知るものがいれば、彼に対して良い感情を抱かないかもしれない。
だが、ビーティーがいるのはバトルロワイヤル………命を賭ける場である。
そして彼が何かを賭ける場合に確率の低いと思うほうに賭けたりはしない人間である以上、最悪のケースを想定して自身が生き残る確率を少しでも高めようとするのは自然なことであった。
彼が他の対主催者と違うように見えるのは、良心的な考えが前面にあるか否かの違い………ただそれだけである。

そしてなにより、放送で公一の名が呼ばれたときにビーティーは決めたのだ。
公一を殺した犯人に、そして自分や公一をこんなゲームに巻き込んだ主催者に必ずや然るべき報いを与える―――そのためならば、生き残るために何だってやってやるのだと。


―――果たして彼が本懐を遂げるときは訪れるのか、はたまた失策により斃れるのが先か。
今はまだ、その答えは出ない。



To Be Continued...
233影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 18:19:53.15 ID:/+E4aaKB
【マリオ・ズッケェロ 死亡】

【残り 57人】



【B-8 サンモリッツ廃ホテル / 1日目 午前】


【ウィル・A・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:ジョナサンと出会う前
[状態]:下半身不随、怒り(中)
[装備]:ウェッジウッドのティーカップ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の打倒
1.こんな自分でも出来ることがあるはず……足手まといにならぬよう皆に付いて行く。
2.ドルドを監視する、いざというときは腕づくでも止めねばならんッ!
3.『同盟』の者たちにはもう一度会って何かしらの決着をつけたいものだ。

※ビーティーをスタンド使いだと思っています。


【モハメド・アヴドゥル】
[スタンド]:『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』
[時間軸]:JC26巻 ヴァニラ・アイスの落書きを見て振り返った直後
[状態]:疲労(小)、後悔
[装備]:アヴドゥルの短剣、六助じいさんの猟銃(5/5)
[道具]:バイク(三部/DIO戦で承太郎とポルナレフが乗ったもの)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの破壊、脱出。DIOを倒す。
1.さらなる情報を得るため、地図の中央へ向かい参加者と接触する。
2.ポルナレフを殺した人物を突き止め、報いを受けさせなければならない。
3.レクイエムとはなんだ? DIOの仕業ではないのか?
4.ブチャラティという男、もしくは彼の部下に会う。ポルナレフのことを何か知っているかもしれない。
5.ビーティー……信用していいんだな………?


【ジャイロ・ツェペリ】
[能力]:『鉄球』『黄金の回転』
[時間軸]: JC19巻、ジョニィと互いの秘密を共有した直後
[状態]:精神疲労(小)、波紋エネルギー(?)
[装備]:鉄球、公一を殴り殺したであろうレンガブロック
[道具]:基本支給品、クマちゃんのぬいぐるみ、ドレス研究所にあった医薬品類と医療道具
[思考・状況]
基本行動方針:背後にいるであろう大統領を倒し、SBRレースに復帰する
1.さらなる情報を得るため、地図の中央へ向かい参加者と接触する
2.主催者の背後が気になる。本当に大統領が黒幕なのか?
3.麦刈公一を殺害した犯人を見つけ出し、罪を償わせる
4.ジョニィを探す

※ウィルに波紋を流されたおかげで体力が回復しています。彼が波紋エネルギーを使用できるかどうかはわかりません。
234影に潜みし過去暴くもの ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 18:41:26.21 ID:/+E4aaKB
【ビーティー】
[能力]:なし
[時間軸]: そばかすの不気味少年事件、そばかすの少年が救急車にひかれた直後
[状態]:健康、怒り(復讐心)(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、薬物庫の鍵、鉄球、蛍光塗料、薬品数種類、少年ジャンプ、缶ビール、ボクシンググローブ、名簿2枚
[思考・状況]
基本行動方針:主催たちが気に食わないからしかるべき罰を与えてやる
1.皆をまとめることにはひとまず成功した……次に必要なのはさらなる情報と戦力だッ!
2.公一……彼を殺したヤツと主催者にしかるべき報いをッ!
3.ドルドを警戒、今すぐ裏切ることはなさそうだが……
4.見せしめに殺された男たちの一族と主催者の関係が気になるところだな……


【ドルド】
[能力]:身体の半分以上を占めている機械&兵器の数々
[時間軸]:ケインとブラッディに拘束されて霞の目博士のもとに連れて行かれる直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ジョルノの双眼鏡、ポルポのライター、紫外線照射装置、ランダム支給品0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残り、且つ成績を残して霞の目博士からの処刑をまぬがれたい
1.仲間を増やし、自分にとって脅威となる参加者を排除していく……最優先は『バオー』だな
2.1のため、多くの参加者がいそうな会場の中心部に向かう
3.ビーティーの真意、そして『策』について詳しく知りたい
4.ライター? ああ、そんなのあったね

※ドレスに関することは誰にも話していません。
※主催者が大統領であるという考えを聞きましたが、それとは別にドレスも主催に絡んでいると考えています。
※ビーティーをスタンド使いだと思っています。


[備考]
・五人は各人の知る仲間、危険人物、主催者について情報交換を行いました。
・五人はズッケェロからブローノ・ブチャラティの素性と部下五人(ジョルノ、アバッキオ、ミスタ、ナランチャ、フーゴ)の名前、サーレーの名前を聞き出しました。
 口頭で簡易な説明だったため、彼らの容姿やスタンド能力は一切わかっていません。
・音石明の死体がB-8サンモリッツ廃ホテル入り口近くの地面に埋葬されました。墓の代わりとして音石明のエレキギターが備えられています。
235 ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/27(水) 20:02:32.03 ID:/+E4aaKB
以上で投下終了です、投下速度遅くて申し訳ありません。
切れる人物が一人いると、他が相対的に頭悪そうに見えるのはなんとかしたい……

結構急いで書いたため話の展開などに突っ込みどころがあるのは覚悟しています。
誤字脱字、矛盾、その他意見などありましたら遠慮なくお願いいたします。
236創る名無しに見る名無し:2013/03/27(水) 21:51:54.29 ID:k6QTNvLK
投下乙ナレフ
いやー面白い
ビーティーがカッコイイ!他のキャラも頭悪い印象は受けませんよ
数人で固まってはいつつ不穏な空気が抜けない、これぞバトルロワイアル
237 ◆vvatO30wn. :2013/03/27(水) 23:34:17.07 ID:NtD2h1h4
酉付きで感想なんて普段書かないんですが、今回は特別で
金田一少年の事件簿を完結させてくれてくれてありがとう……!
もはや有耶無耶になって仕方ないかな〜と思っていたあの殺人事件が、およそ1年越しに解決編を迎えてくれるとは。
自分でも覚えていないような細かい描写にまで突っ込んで頂き、事件編を書いた人間としては感無量です。
ジョジョロワ書いてて良かったたと、改めて思える最高の作品でした。
オエモコバだとか、ニヤリとさせる小ネタも満載で抜け目がない!
見苦しいズッケェロ、狡猾なドルド、どこか抜けてるアヴドゥル、紳士なツェペリ、かっこいいジャイロ
誰も彼もキャラがしっかり立っていてとても良かったです。

そして………
これ以上ビーティーの難易度を上げんといてください……(褒め言葉)(w
238創る名無しに見る名無し:2013/03/29(金) 00:37:12.66 ID:gOxZSY30
投下乙!
スタンドもない、かといって他に特殊能力もない
でも頭脳だけで他の5人相手に完全に優位に立ち回ったビーティーはマジで凄いな
あの状況から完全に犯人を割り出すとは…
暴力こそ使わないが、真に強い男よ!
239創る名無しに見る名無し:2013/03/29(金) 13:19:18.92 ID:3dtBAzTW
投下乙です
ビーティー凄いマジ凄いとしか言えない…
こっからどうなるうんだろうかと楽しみです

そしてオエ何とかさんの名前が出たのにはフフッってなりましたw
240創る名無しに見る名無し:2013/03/29(金) 20:12:18.32 ID:FQlETDpT
>>216のBTの台詞
「このホテルで再開してから、〜〜〜
再開は再会の誤字では?すごく細かい点で申し訳ないが。面白くて何度も読み返してて気づいたもので
241 ◆LvAk1Ki9I. :2013/03/31(日) 00:05:33.82 ID:xe4TESxz
感想、誤字報告ありがとうございます。
こんな長い作品を何度も読み返していただいて、書き手としてとても嬉しいです。
そして◆vvatO30wn.氏、やはり事件編あっての解決編ということで、当時自分の仮投下も忘れて支援してしまうほどの面白さだった事件編を書いていただき、こちらこそ感謝しております。
Wiki収録は◆c.g94qO9.A氏の作品が未収録のため、自作の修正等しながら待ちます。
ありがとうございました。
242創る名無しに見る名無し:2013/04/03(水) 20:36:46.29 ID:uZbl8uhl
予約来ないなぁ…というか未収録あるなぁ…と思いながら保守
243創る名無しに見る名無し:2013/04/04(木) 22:16:51.29 ID:ZJz/kup8
積んでた分追いついた!
サンドマンの最後が切ない……
シーザー!かと思ったら……。DIO様の懐の深さも半端無いけど、シーザーと出会った時のやりとりが脳内再現されるレベルで好き
ウェザーはお疲れ様。最後のジョルノとの会話や、ジョルノの目を瞑ってからがほんとやばすぎてまじで泣いた。涙でた
ビューティーはなんの能力もないんだけれどだからこそ油断とかなくてほんとに怖い
244創る名無しに見る名無し:2013/04/05(金) 21:28:02.64 ID:QjcscCH4
代理wiki編集の仕方が最近見だした新参だからよくわからん
245創る名無しに見る名無し:2013/04/06(土) 00:19:44.92 ID:xA4ZF1BH
今未収録なのは両方分割だろうし、作者本人が収録したほうがいいでしょう
どこで切るか、何分割か、ってのも結構こだわる人いるでしょ
246創る名無しに見る名無し:2013/04/06(土) 16:57:33.28 ID:n55tc8Vy
さすがにwikiのトップがもう新年じゃあなくなったんだな
247創る名無しに見る名無し:2013/04/06(土) 20:03:09.18 ID:hTIzlTav
>>245
そうか…◆c.g94qO9.Aさん気軽にPC触れれないらしいから
代理が必要なのかと思ってさ
248創る名無しに見る名無し:2013/04/06(土) 21:23:56.19 ID:/SJb+BjO
まぁ、代理収録したらしたで書き手さんがあとから修正するでしょ
予約も入ってないしのんびり進行でもいいんじゃないか
249創る名無しに見る名無し:2013/04/11(木) 21:40:53.14 ID:L+3EdmDR
俺も新参だから代理wiki編集の方法だけでも知っておきたいな
250創る名無しに見る名無し:2013/04/16(火) 00:46:28.39 ID:uUe2599a
保守
251創る名無しに見る名無し:2013/04/22(月) 00:54:14.80 ID:HbQE1Wzs
書き手増えないね、書こうと思った事はあっても
矛盾が出ないかとかでやっぱ出来ないよ…
252創る名無しに見る名無し:2013/04/28(日) 16:18:40.61 ID:IlgCmbAk
もしかしたら俺以外いないのかもしれない
253創る名無しに見る名無し:2013/05/05(日) 15:52:03.83 ID:kmhTllk2
まあ待て、予約入ったし
254創る名無しに見る名無し:2013/05/15(水) 21:57:49.36 ID:HFfMzQD/
月報です
仮投下分は含めていないので含める場合は話数+1でお願いします
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
140話(+2) 57/150(-4) 38.0(-2.7)
255創る名無しに見る名無し:2013/05/17(金) 09:58:07.09 ID:+ZWE3PiR
代理投下します
256創る名無しに見る名無し:2013/05/17(金) 09:58:38.27 ID:+ZWE3PiR
580 :判断 その1  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:46:17 ID:8/47zDzA――さて突然だが、


ピシュッ


――……おおっ、この距離で投げたフォークを全員が回避できるとは!
先っぽ研いであるから当たれば結構痛いかななんて思ったんだけど。
……あ、イヤ悪かったよ本当。ごめんごめん、何も君らに怪我させようなんて意味はないんだって。
フォークだってほら最近流行ってる名状しがたいカオスなナントカのアニメで良く見るからってだけの理由だし。

――しかし君らは“カンが良いな”。
俺の最初の一言から何かしらのニュアンスを感じたか、単純に飛んでくるフォークを見てからどう動くかを一瞬で決めたか。
いずれにしてもその直感、もっと磨いた方が良いよ。

さて、この『カン』は――えーと、まあつまり“判断力”ってことだと思う。
この判断力って何するにも重要だと思う訳よ。学校のテストにせよ今のような戦闘――じゃないんだって、まあ何にせよね。正解を選んだり、あるいは今自分はどうすべきか、とか。

じゃ、そういう事で今回はそんな連中の話をしよう。


●●●
257創る名無しに見る名無し:2013/05/17(金) 09:59:53.46 ID:+ZWE3PiR
581 :判断 その2  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:46:58 ID:8/47zDzA
「おい、聞こえているだろう。
 どこからか攻撃を受けた。なにか情報をくれ……」

小さく呟いた僕の言葉に対しトランプからの返事はない。
情報の提供どころか、たとえば『テメーで考えろバーカ!』のような煽りもないとは。

あっても迷惑なだけだが。

しかし……この状況、裏を返せば“ムーロロの情報を聞かなくても対処できるレベル”という事なのでは?

「フーゴッ!おい外は大丈夫なのかッ!?」
――と、ここで悲鳴にも似たナランチャの呼びかけに意識を引き戻される。
そうだ、ここは三人で切り抜けなければならない。とりあえず飛び出そうとするナランチャを手で制す。

「フーゴ、今のは……突然緑色の飛礫がガラスを割ったように見えた!これがスタンド攻撃というものなのか!?」
ジョナサンがそう聞いてくる。緑の飛礫?僕には見えなかった。彼の波紋の力か、あるいは動体視力か?いずれにせよ彼の力もスタンド使いに引けはとらない。
「君には今のが――僕には見えなかったが――見えたと?すごい動体視力だ。そして、そう、今のは明らかにスタンド攻撃。
 そしてナランチャ。君ならこの場をどうする?」
あえてナランチャに話題を振る。この状況を三人で切り抜けると決意した以上、状況と思考は共有しておかなければならないからだ。

「そ、そんな事急に言われたって俺にわかる訳ねーだろッ!」
「落ち着いて、ナランチャ。君は『飛び道具で攻撃するスタンド使い』を良く知っているはずだ」
「この攻撃がミスタだってのかよォーッ!」

……以前ならここで『んなワケがあるか』とブチ切れて彼を殴り倒していただろう。だが、そうはしない。

「そうじゃあない。ミスタを良く知ってる君なら“銃使いを相手にしたらどうするか”を考えられるはずだ」
ナランチャがハッとして目つきを変える。どうやら彼にも理解できたようだ。

『銃弾の軌道をも操作される可能性がある以上、我々のスタンドの間合いまで突っ込む』ッ!
258創る名無しに見る名無し:2013/05/17(金) 10:00:46.76 ID:+ZWE3PiR
582 :判断 その3  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:48:14 ID:8/47zDzA
「待ってくれ!戦うという事なのか!?僕たちには味方が必要だ!
 怯えて不意にスタンドを使ったのかもしれないッ」
ジョナサンが話に割り込む。彼が言いたいこともよく理解している。
「ジョナサンも。スタンドに関しての戦闘は僕やナランチャの方が慣れています、落ち着いて聞いてください。
 ――あれを見てください。ふわふわと浮いている、あれがスタンドです。きっとあれが僕たちを監視しているのだと思う」
人差し指を立てて静粛を促し、そのまま指さした先には鍵のぶら下がったUFOのような物体が浮いている。
どう見てもスタンドだ。しかも“人型ではない遠距離型あるいは自動操縦型”と推測できる。
「じゃああれが先の飛礫を放ったというのか?」

「おそらくは。ですが推測のし過ぎは良くない。ハナから相手はチームで、飛礫を放ったのは別のスタンドという事も考えられる。
 そして、とにかくここで立ち止まっていれば全滅の可能性もある。ならば戦うにせよ逃げるにせよ、必要なのは移動ってことです。
 さらに先にナランチャに聞いた質問の答え。飛び道具が相手なら、それが届かない距離に逃げるよりもこちらの間合いまで突っ込むのが鍵。

 ……ここは僕が引き受ける。全力で君らを逃がす!」

ジョナサンの質問に回答しつつ方針の決定、行動に移す旨を伝える。
そして僕がこの場を引き受けるという発言を受けナランチャがギョッとする。そりゃあそうだろう。
ジョナサンの腕を引っ掴み戸口へ走った。
「行くぞジョナサン!ここはフーゴに任せるぞッ」
「彼を置いていくというのか!?僕も戦うぞッ!」
「ちげーよバカ!近くにいたら巻き込まれる!とにかく行くんだよ!!
 おいフーゴ!そうだよなッ?」
振り返って叫ぶように僕に問うナランチャ。僕も彼の目をしっかりと見返し、頷いた。
「ああ。ここはあくまで足止め、僕もすぐ行くから、安全な場所についたらエアロスミスを飛ばしておいてくれ。勝手に見つけて合流しますから」

最後の方なんかほとんど聞いてないんじゃあないか、という勢いでナランチャが飛び出した。
ジョナサンは心配気味に最後まで僕の方を見ていたが、それでもナランチャを追って行ってくれた。そう、それでいい。

さあ、いくぞ……“全力で”!

パープル・ヘイズ・ディストーション!


●●●
259創る名無しに見る名無し:2013/05/17(金) 10:01:39.18 ID:+ZWE3PiR
583 :判断 その4  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:48:58 ID:8/47zDzA
結論から言ってしまえば、ジョンガリ・Aは三人を襲撃するつもりはなかった。
三人のうちに知り合い、あるいは敵がいるのかどうか、そういった状況を把握するためにとスタンドを行使しただけである。

それが気付けば前を走っていた奴と同一人物か、またはチームでの襲撃かと勘違いされて攻撃を受けたという訳だ。
人型のスタンドではない『マンハッタン・トランスファー』のダメージフィードバックが全身の皮膚に傷をつけている。

だが、まだ彼が再起不能になったわけではない。

一瞬だけ襲ってきた、蝕まれるような鋭い痛みにひるみ、さらにその後に吹き上がった煙に気流を乱されその場を退いた、それだけだ。
そしてこの屈辱を、『恨み』を晴らさぬジョンガリ・Aではない。

とは言え、とは言えだ。
自分の能力で、あるいは単独行動というスタンスで今後も動き続けられるかと問われれば素直にイエスとは言えない。
狙撃手ならば狙撃手らしく安全かつ有利な場所に陣取って動かずにいるという事も選択肢の一つであるし、放送で得た情報、得られなかった情報の獲得に動こうとしていたことも事実。

それらを理解しているからこそジョンガリ・Aは歯噛みをしつつも再びスタンドを空中に舞い上げ、歩き出すしかない。

そんな逆境続きの中、数分もしないうちに先の三人組を見つけられたのは彼にとって幸運以外の何物でもなかった。
当初からそう遠くへ逃げ出そうとする気はなかったのだろう。そんな推測が一瞬頭をよぎるも、問題はそこではない。

『三人組が五人組になっていること』と、
『己のスタンドで読めるのは気流から得る体格や動きだけで会話を聞き取ることが出来ないこと』の二点が問題なのだ。

ジョンガリ・Aは考える。
先の戦闘の際に向こうの五人組のうち少なくとも一人以上には自分のスタンドが見られており、自分が攻撃を仕掛けた“と思われている”事は大いに問題だ。
姿を現しただけで有無を言わさずスタンドのラッシュを受ける可能性だってある。
しかし、『ガラスを割ったのは自分ではない』と証明することが出来たのなら。
割った本人に罪をなすりつつ――事実彼が割ったわけではないから些か語弊のある表現ではあるが――彼らに取り入ることも不可能ではないのでは?
自分が攻撃“された恨み”を抑える事さえできれば『無実の自分を問答無用で攻撃してきた』として逆に弱みを握ることも出来るのでは?
もちろん……この五人組を相手に今度こそ本当に攻撃することも選択肢の一つである。

さまざまな可能性を考えながらも歩みは止めない。止められない。
全てはDIO様のため。迷いこそすれ立ち止まる訳にはいかないのだ。


――緩やかな日差しが注ぐ街並みにジョンガリ・Aは姿を消した。


●●●
260創る名無しに見る名無し:2013/05/17(金) 10:04:57.74 ID:+ZWE3PiR
584 :判断 その5  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:51:09 ID:8/47zDzA
●●●


「お、おーいフーゴぉ〜」
「よかった!無事だったのか!」
ラジコン飛行機みたいなスタンドがナランチャとかいうガキのもとに戻ってくる、一人の男を連れて。
ジョナサンとか言われた方も顔がゆるんでやがる。マッチョのニヤニヤ顔なんて見たくねーっつーの。

「ええ――倒すことを前提としなかった分楽に逃げられましたよ」
「え、お前のパープル・ヘイズで倒さねーなんて、そんなこと出来るのか!?」
「まあ……何でもいいじゃないですか、無事だったんだから」
フーゴと言われた奴がナランチャと一言二言挨拶してこっちに歩いてきた。

「だな、それよりよォ!スゲェ人と会ったぜ!誰だと思う?ドジャァ〜ン!」
どじゃぁ〜ん、ってお前ガキかよ。確かに見た目ガキだけど。
最初から俺ら隠れてもいねーし。フーゴとやらも最初からこっちガン見だったし。

「フーゴ……久しぶりね」

――え?

「あ、あぁ。久しぶり。元気そうで何よりです、トリッシュ」

え?え?

「なんですかトリッシュ様?この穴スーツもトリッシュ様のお知り合いで?」
思わず聞いちまった。
穴スーツなんて呼んじまったせいで明らかに嫌な顔をされた。チクショウ。

「まあね、あ、こいつは小林玉美っていって――」
ト!トリッシュ様が俺の事を紹介してくださってる!思わず背筋が伸びる。
「紹介に預かった玉美と言いやす。縁あってトリッシュ様のお供をさせていただいておりやすが……」
が。そうだ。ガキらにナメられる気はさらさらネェ……そこまで言うとこっちがガキ臭くなるので言わねーが。

「――なぁフーゴ?トリッシュの奴あんなちゃっちぃオトコを連れて何のツモリなんだろうな?」
「さあ……この半日間の間に何かあったんでしょう。あとでゆっくり聞けばいい」
小声で話してるつもりなのか!?聞こえてるっつーの!流石の俺様も怒り爆発のサムライ激怒ボンバーってやつだ。

「オイ!おめぇらな、いくらトリッシュ様の知り合いだからって俺にイバりちらすんじゃあねーぞ!俺が忠誠を誓ったのはトリッシュ様だけなんだからな!」
「……玉美、うっさい」

ぐっ……流石にトリッシュ様に怒られると引き下がるしかない。
「し、失礼しやした……」
そうか、トリッシュ様の命令次第じゃ俺はこいつ等の下になっちまうのか……

「まあまあ。君たちが皆顔なじみの友人でよかったじゃあないか。
 改めて、僕の名はジョナサン・ジョースター。君たちとともに力を合わせて戦いたいんだ!」

と、ここでジョナサンとやらが自己紹介して場をリセットする。
学級委員タイプだな。コラ男子静かにー!ってか。まあ、嫌いじゃあねーかな。好きでもないが。
261創る名無しに見る名無し:2013/05/17(金) 10:05:52.34 ID:+ZWE3PiR
「決まりね。じゃあちゃっちゃと情報交換……始めようかしら、ね。フーゴ。ナランチャはエアロスミスで周囲の警戒を」
「な、なんで俺がトリッシュに命令されなきゃなんねーんだよ!?おいフーゴッ」
しかし切り出したのはトリッシュ様!流石です!ナランチャてめーは黙ってトリッシュ様にしたがってりゃいいんだよ!ケッ!

「いや、まあ……でもトリッシュの言うとおりだ、とにかく周囲の警戒を。
 トリッシュ、特に君とはいろいろ話をしておきたい」
こっちはこっちでナニ気安くトリッシュ様のこと呼んでるんだよ!こいつぁメチャムカ着火ファイアーなんじゃねーの!?

「あァん?てめぇトリッシュ様に馴れ馴れしkブゲッ」

「玉美、うっさい」

トリッシュ様……ナイスな腹パン、ありがとうございます……


●●●
585 :判断 その6  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:51:45 ID:8/47zDzA
さて、ここでいったん話を切ろう。

最初に君らに念頭に置いといてもらったのは“判断力”ってことだが、どうだろう?
ここで一番物事を判断しなきゃならないのは誰だ?

ジョナサンはまあ、今回そろったメンツの中では顔見知りがいない分判断は連中任せ……とは言っても本人の目的は明確だからまっすぐ行くだろうね。
玉美も同じ。まあ判断の基準が『トリッシュ様』の命令だから何とも言えないけど。全て彼女に一任します!って感じで。
ナランチャは……頭がアレだから行動方針やら何やらの判断は出来なさそうだなぁ。戦闘になれば天才的な勘、つまり判断ができるんだけど。

で、メインはトリッシュとフーゴの二人だろうね。
どちらも『ジョジョ』を知ってて、しかもトリッシュに至ってはブチャラティに送り出されてきたばっかりで。
情報交換も慎重になりそうだ。各々の考えや判断をいかに先の三人に伝えるかが課題だろうね。

――で、忘れちゃあいけないのがジョンガリ・A。
現状で選択肢が、つまり判断しなければいけないことが一番多いのは彼だと思うよ。しかもそれを一人で判断しなければいけない。自分の判断の尻拭いもすべて自分ですることになる。
これは中々のプレッシャーだろうね。あ、いやプレッシャーと表現するのはアレだけど。

あとはそうだなぁ……この話には出てこないけど、ムーロロだってずっとフーゴのポケットで話聞いてるはずだからね。判断要素が一気に増えたと思うよ?
殺戮ウイルスって聞いてたフーゴのスタンドが相手を殺さなかった?
最近デビューした歌手がなんでパッショーネの連中と知り合いなの?
……とか。
でもまあ、ここで俺がムーロロについて話しても仕方ないからね。ほら何というか――話さない方が面白くない?彼の場合は。


――え?俺の判断力?
いや俺は大してないよ。選択肢を選んでくゲームなんかはいっつも負けばっかりで、


……ってうわっヤメ、フォーク投げるの止めて!痛いから!ごめんマジごめんってッ――
262創る名無しに見る名無し:2013/05/17(金) 10:08:52.32 ID:+ZWE3PiR
586 :判断 状態表(1)  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:52:23 ID:8/47zDzA【E-6 南部 路上  / 1日目 午前】


【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:全身ダメージ(小程度に回復)、貧血(ほぼ回復)、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
0.ナランチャやフーゴの知り合いか!情報交換をしよう。
1.先の敵に警戒。まだ襲ってくる可能性もあるんだから。
2.『21世紀初頭』? フーゴが話そうとしていたことは?→方針0の情報交換で聞こう
3.『参加者』の中に、エリナに…父さんに…ディオ……?→方針0の情報交換で何かわかるかも?
4.仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
5.ジョルノは……僕に似ている……?
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。


【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:額にたんこぶ(処置済み)&出血(軽度、処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.トリッシュだ!仲間増えてよかった!エアロスミスで警戒してるから情報交換しようぜ!
1.フーゴが話そうとしていたことは?→方針0の情報交換で聞こう
2.ブチャラティたちと合流し、共に『任務』を全うする。
3.アバッキオの仇め、許さねえ! ブッ殺してやるッ!
4.フーゴのパープルヘイズが『逃げ』で済ました……?よくわかんねー
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。
※エアロスミスのレーダーは結局花京院もジョンガリ・Aもとらえませんでした。


【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:健康、やや困惑
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のハートのAとハートの2
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
0.トリッシュ……素直に喜んでいいものか、とにかく情報交換はせねば。
1.先の襲撃&追撃に引き続き警戒。
2.ジョナサンと穏便に同行するため、時間軸の違いをきちんと説明したい。→方針0でしっかり話しておこう
3.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集め、ジョルノやブチャラティチームの仲間を探す。
4.ナランチャや他の護衛チームにはアバッキオの事を秘密にする。しかしどう辻褄を合わせれば……?
263創る名無しに見る名無し:2013/05/17(金) 10:13:24.07 ID:CdCqfqkU
587:判断 状態表(2)  ◆yxYaCUyrzc
13/05/17(金) 05:52:46 ID:8/47zDzA
【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:肉体的疲労(中程度までに回復)、全身に凍傷(軽傷だが無視はできないレベル)、失恋直後、困惑
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服
[道具]:基本支給品×4、破られた服、ブローノ・ブチャラティの不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:打倒大統領。殺し合いを止め、ここから脱出する。
0.フーゴ……いざ会うと複雑な気持ちね、とにかく情報交換かしら
1.ウェカピポとルーシーが心配
2.地図の中心へ向かうように移動し協力できるような人物を探していく(ただし情報交換・方針決定次第)
3.ありがとう、ブチャラティ。さようなら。
4.玉美、うっさい

[参考]
ブチャラティ、ウェカピポ、ルーシーらと、『組織のこと』、『SBRレースのこと』、『大統領のこと』などの情報を交換しました。


【小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:広瀬康一を慕うようになった以降
[状態]:全身打撲(ほぼ回復)、悶絶(いろんな意味で。ただし行動に支障なし)
[装備]:H&K MARK23(0/12、予備弾0)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュを守る。
1.トリッシュ殿は拙者が守るでござる。
2.とりあえずトリッシュ様に従って犬のように付いて行く。
3.あくまでも従うのはトリッシュ様。いくら彼女の仲間と言えどあまりなめられたくはない。
4.トリッシュ様、ナイス腹パンです……

[備考]
拳銃の弾は無くなりました。


【E-6 中央部 / 1日目 午前】


【ジョンガリ・A】
[スタンド]:『マンハッタン・トランスファー
[時間軸]:SO2巻 1発目の狙撃直後
[状態]:肉体ダメージ(小〜中)、体力消耗(ほぼ回復)精神消耗(小)
[装備]:ジョンガリ・Aのライフル(30/40)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み/タルカスのもの)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様のためになる行動をとる。
0.襲撃する?取り入る?見逃す?どうする、俺?
1.情報がほしい。
2.ジョースターの一族を根絶やしに。
3.DIO様に似たあの青年は一体?
264創る名無しに見る名無し:2013/05/17(金) 10:24:01.32 ID:CdCqfqkU
588:判断  ◆yxYaCUyrzc
13/05/17(金) 05:53:35 ID:8/47zDzA
以上で本投下終了です。……規制YYYYYYYYYorz
仮投下からの変更点
・wiki収録に合わせて***を●●●に変更(これをやると必ず作品を読み返すので誤字訂正も兼ねてたりします)
・若干の表現の変更(内容に変更なし)
当初はもう単純にフーゴ組とトリッシュ組を出会わせるだけの予定でしたが、襲撃中だったのね彼ら。ということで。
残念ながらc.g氏が破棄した予約、そこに入ってたムーロロは混ぜませんでした。予約は取り消してましたし当然と言えば当然ですが。

あと、私が描く『出会いや移動のみのつなぎ話』の場合、大概は状態表の疲労やダメージが前SSよりも若干回復します。
原作でも治療担当がいなくても結構回復してるだろお前らwってことで大きなフラグになりそうにないダメージや時間が相当経った疲労などはどんどん回復させてます。
そういった点に関してもご指摘いただければと思います。

今後もちょっとでも過疎っぽい個所動かせていければなと思っております。それではまた次回。


以上で代理投下終了です
個人的に多少のダメージ回復は問題ないかと
某ポルみたいに平然と肉体が復活してるキャラもいますしねw
感想ですが、恥パ後のフーゴはやっぱりいい!
ジョンガリがどう動くかも楽しみだし何より玉美の存在感w
265創る名無しに見る名無し:2013/05/18(土) 21:51:11.60 ID:U8m+hP7m
投下乙です

玉実がどんどん(俺にとっての)癒しキャラになってきているw
そしてフーゴ頼もしいなぁ…
もしジョンガリがフーゴ達と接触することになったらジョナサンと会う事になるのか…
そしたらまた色々厄介なことになりそうだなあ
266創る名無しに見る名無し:2013/05/21(火) 19:29:01.94 ID:set7PmbT
DIOの首から下はジョナサンのだから、「なんか似てる!?」と思うかもしれないのか。
267創る名無しに見る名無し:2013/05/22(水) 16:31:10.28 ID:oG3/56ic
ジョンガリ「同じだ…ジョナサンと「DIO様」は、なんか『似てる』…」
268創る名無しに見る名無し:2013/05/23(木) 00:56:47.75 ID:iLTCX0rX
投下乙でっす
前の話、アブが探偵の助手みたいなポジションに収まってて笑ったw
269創る名無しに見る名無し:2013/05/23(木) 17:09:29.26 ID:JDV3Zp/V
言われてみれば確かにアヴドゥルは探偵の助手枠にピッタリなんだよなw
基本的に常識人だし適度に狼狽えたりツッコミ入れたりもできるキャラだし
270Nobody Knows ◆ARe2lZhvho :2013/05/26(日) 17:03:19.68 ID:3kVyE0BH
予約分投下します
271Nobody Knows ◆ARe2lZhvho :2013/05/26(日) 17:04:19.50 ID:3kVyE0BH
街に向かったはずのシーザーはティベレ川に沿って北上していた。
何故か?時間は少々遡る……


 ■   ■


    …………ドドドドドドドド

物音と言うには物騒な音が聞こえてきたのはシーザーが川に背を向けて数分もしないうちだった。

「……何の音だ?」

周囲に生物がいないことは波紋で確認していた。
手にしているペットボトルを見ても波紋の乱れは見られない。
生物が起こしたものではないと半ばわかっていても、気になってしまったものは仕方がないと振り返って音の正体を確かめ――立ち止まる。

「コイツはッ……!」

透明だったはずの川の水が茶色に変色していた。
それだけではない、水嵩も明らかに増している。
形兆も狙っていたわけではないだろう。
この後川が氾濫するとわかっていたならば投げ込まずに川岸に放置するだけで済ませたはずだ。
つまり、シーザーが濁流に巻き込まれずに済んだのは『偶然』。
無論シーザーとて厳しい修行を積んだ波紋戦士の一人、たかが濁流ごときに遅れを取ることはないが、もしも川岸に上がるのが遅れていたならば……そう思わずにはいられなかった。
雲一つ無い空の下、どうしてこのような事態になっているのか疑問には思ったがそれよりも誰かに会うことの方が先決だと再び街に向かおうとし――

        ……ドッバアアアアァァァァン!!

なかった。
さっきまでの濁流がまるで小川のせせらぎに感じられるような激流。
鉄砲水という表現ですら生温いと思ってしまうような奔流。
シーザーは絶句する。
つう、と冷や汗が頬を伝う。
ふいに聞こえたゴクリという音が生唾を飲み込んだということに気付くのに時間がかかった。
思わず駆け戻り、上流を見遣る。
轟々と渦巻く流れは視界の端まで絶えず、始まりを悟らせない。
シーザーは知る由もなかったが、これはウェザー・リポートが降らせた雨がカイロ市内地下水道を通ってティベレ川に流れ込んだものだ。

(形兆のスタンドは軍隊、ヴァニラのスタンドは消滅……だったか?スタンドは一人一能力、裏を返せば『一つのことしかできないが誰がどんな能力を持っているかわからねー』って事でもある。
 もっと言い換えれば『何でもアリ』ってわけだ。水を操る、いや、水量を増やすスタンドがあってもおかしくねーが……となると何故こんな目立つことをしたのかだが、大規模な戦闘があって下流への影響を気にしていられなかった、とかか?
 クソッ、考えても埒が明かねえ、上流に向かって張本人を探した方が手っ取り早いか……ん?あれは何だ……レコードか?)

依然泳ぐには危険であることには変わりないがいつしか流れは比較的緩やかになり、シーザーの目にとまったのはぷかぷかと浮かぶ光る4つの物体。
それを目にしたのが近代的な人間だったならばそれをCDだと言うのだろうが、生憎シーザーは1940年代の人間なので知識として持っていない。
このまま見逃すのも勿体ないしもう流れがこれ以上は激しくならないと判断し(第二波が来たところで跳べばいいだけの話だ)水面に立ち、波紋を応用して水面の一部を固定、物体が流れていかないようにキープする。
師匠のリサリサならば水を操って自分のところまで引き寄せるのもお茶の子さいさいなのだろうなと考えつつそれを拾う。

「やっぱりレコードじゃあねえな……小さいし鈍い光沢を放ちはしないし、何よりこんなにグニャグニャとはならねーはずだ。
 それに表面に浮かんでいるのは顔に馬に……筒、か?川の氾濫とも関係あるかもしれねーし持っておいて損はねーだろう」

再び川岸に戻ると北へ向かって歩き出す。
このまま行けば川の濁りから流れ込んだ場所を突き止め、記憶を失ったグイード・ミスタと遭遇できるかもしれない。
しかし、すぐ近くにあるサン・ジョルジョ・マジョーレ教会での戦闘や生命反応を探知するかもしれない。
シーザーがこの後どのような運命に巻き込まれるかを知る者は誰もいない。
272Nobody Knows ◆ARe2lZhvho :2013/05/26(日) 17:05:19.73 ID:3kVyE0BH
【D-2 南部 ティベレ川岸/ 1日目 昼】
【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッツ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:胸に銃創二発、体力消耗(小)、全身ダメージ(小)
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック、シルバー・バレットの記憶DISC、ミスタの記憶DISC
   クリーム・スターターのスタンドDISC、ホット・パンツの記憶DISC
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒。
0.ティベレ川を北上、氾濫の原因を突き止める。
1.ジョセフ、リサリサ、シュトロハイムを探し柱の男を倒す。
2.DIOの秘密を解き明かし、そして倒す。
3.形兆に借りを返す。
4.DISCについて調べる。そのためにも他人と接触。
273 ◆ARe2lZhvho :2013/05/26(日) 17:06:06.49 ID:3kVyE0BH
投下終了です
仮投下から変更した点は特にないですが何かお気づきの点があればお願いします
274創る名無しに見る名無し:2013/05/28(火) 19:28:06.41 ID:pX5QsK/5
投下乙です
放送を越えてなお新規の書き手さんが書いてくださるのがすごいと思います
ミスタ…シーザーに会えるといいね
会っても2人ともDISCを入れるのに気づかなかったりして
275創る名無しに見る名無し:2013/05/29(水) 19:00:55.39 ID:sU6Nh5um
おお投下乙です!これDISC入れたらシーザースタンド出しちゃうフラグ?
276本当の気持ちと向き合えますか? ◇4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:13:39.95 ID:2HLNmBXZ
 車は市街地をのろのろと進む。

 川尻しのぶは、運転席に座る空条承太郎の顔色をうかがっては前を向き、話しかけようとして口をつぐむ、そんなことを繰り返していた。
 彼女がなにか話しだそうとしていることに、承太郎は気づいている。しのぶも、彼が気づいていることに気づいている。
 しかし二人の間に会話はなかった。
 のろのろ進む車と同じように、わだかまった空気が二人を取り巻き、車中を支配していた。

 やがて、意を決したようにしのぶが口を開いた。

「さっき、…………死んだ、あの人、死ななければならないほどのことをしたの? って思うんです。
 空条さんはあの人のことを知っているみたいでしたけど、
 こんな、殺し合いをしろだなんていわれて、あの人、怯えているようにも見えました。
 『危険人物』として、処理しなければならない人だったのか、わたしには……」

「あの男、スティーリー・ダンは疑いようのない人殺しで、他人の命をなんとも思わねぇクズだ。
 ヤツは俺たちを殺す気でいた。かつて対峙したときも、先ほども。
 すでに攻撃もなされていた。あなたが気づかなかっただけで」

「でも、あんな一瞬で、……無力にするだけで十分だったかもしれないのに……」

 承太郎が静かにため息をついた。

「聞き出すほどの情報もないと俺は判断した。
 手足を縛ったところでスタンドを封じることはできねぇ。
 気を失わせれば無力化はできる。が、そうしたところでなんの役にも立ちやしない」


――だからスティーリー・ダンを殺したのは正しい判断だった。


 承太郎はしのぶを見ようともしない。その目はあくまで窓の外に向けられている。
 車中に静寂が舞い戻る。それきり、話しは終わる。
 と、思われた。
 少なくとも承太郎はそう思っていたのだが、しのぶは違ったらしい。
 彼女は逆に息巻いてまくし立てた。

「でも、判断が間違っている可能性もあるじゃないッ!
 よくわからないけど、人によって『未来』から来た人、『過去』から来た人、それぞれ違うんでしょ!?
 誤解して間違いを犯してしまう人もいるかもしれないわ。
 こんな状況だし、誰かを守るために闘おうとしている人、目的があって悪人と協力している人もいるかもしれないじゃない。
 アナスイさんが嘘をついている可能性や誤解している可能性だってゼロじゃないわ。
 その状況でプッチという人の仲間に出会ったら、その人が悪人ではなさそうだったら、空条さんは」
 
「すでに、話してあるはずだ。
 俺は、俺の判断により危険人物を排除すると。
 あなたはそれを承知でついてくるといった。
 俺にあなたを守る義務はない。
 俺の判断基準について、あなたを納得させる必要もない」

 しのぶの早口を遮り、単純な説明を繰り返すように承太郎がいう。
 声をあらげるわけでもなく、ただ、淡々と、ゆっくりと。
 ぐっと言葉につまり、息だけは荒くしのぶが顔を歪める。
 でも、でも、と子供のように話の糸口を探す。

「でも……、わたし、ひどい母親でした」
277本当の気持ちと向き合えますか? ◇4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:14:25.87 ID:2HLNmBXZ
 話の飛躍に承太郎は閉口する。
 なぜ感情を優先して、非論理的な話し方をしたがるのだろう。彼女もそうだった。
 過去を思い出し、承太郎の目がかすかに遠くなった。
 そんな彼の様子などおかまいなしにしのぶは話し続ける。


「早人のこと、むかしは全然かわいいと思いませんでした。
 生まれた頃はかわいいと思ったこともあったけど、自己主張するようになってからは手に負えなくて。
 あの子がなにを考えてるかわからなくて、不気味に思ってました。自分の、子供なのに。
 あの人に対してもそう、回りがかっこいいっていうから、優越感からつきあって、そのまま結婚して……
 あの人はなにもいわなかった。それすら不満に思ってました。
 なんて『つまらない』男なんだろう、って」

 『つまらない』といったとき、しのぶははっきりと嫌悪の表情を浮かべていた。

「あの人がいなくなって、生活していけなくなって、わたしと早人は以前に住んでいたのよりずっとぼろいアパートに越しました。
 せまいアパートで、二人で暮らすようになって、わたし……、
 ようやく、……あの人の真面目さがわたしたちへの愛情だったことに、気づいたんです。
 給料が安くても、夕飯が用意されてなくても文句も言わず、あの人はわたしと早人のために毎日働いていた。

「でも、ふとしたときに、急にムカムカした気持ちが湧き上がってくることがあって、
 隣の部屋から、薄い壁を通して、幸せそうな声が聞こえてくるとき、
 どこからか、わいた虫をゴミ箱に捨てるとき、
 くだらないことで早人と言い争ったとき……、すごくつらくなって、
 何故もっと早く気づかせてくれなかったの、直接いってくれたなら、いい返してくれたならよかったのに、
 こうなる前に、なにかが変わっていたのかもしれないのに、
 ……って、そう何度も何度も、いなくなったあの人をなじっているんです」

「おっしゃりたいことがわかりかねます。
 いま、そのことを話す必要性についても」

 話の着地点がまったく見えて来ませんが。
 と、承太郎が口を挟んだ。慇懃でいて、ひどく無礼な口調で。
 彼は神父でもなければ、カウンセラーでもない。
 無駄な話に付き合って精神を消耗させる義理はないのだ。
 しのぶはいくらか傷ついた表情をしたが、

「わたしは、ひどい母親でした」

 しっかりと承太郎の瞳を見据え、もう一度繰り返した。

「でも、いまは、息子を、早人を愛しています。あの人のことも。
 わたしは十一年間気づかなかった。それでも、わたしは、自分がむかしとは変わったはずだと、信じます。
 『人』の本性は変わらないと、空条さんは考えますか?」

 しのぶは、どこか焦っているように頬を紅潮させている。
 いい足りないようにも見えたが、彼女はそれきり喋らなかった。
 承太郎は、やはりしのぶを見ようとはしなかった。
 彼にしては長いこと黙り込んでいたが、やがて、口火を切る。
 その声色には、あからさまな侮蔑の念がこめられていた。

「川尻さん、あなたは……、
 さきほどのスティーリー・ダンも、そして吉良吉影も、プッチとかいう野郎も、更正の可能性があるといいたいのか……?
 排水溝のネズミにも劣るゲス野郎にも反省の機会を与えれば、生まれ変わる可能性があると。
 俺にそれを見極めろというのか?
 この、殺し合いの場で。肉親を亡くしてなお。
 その必要があると、そういいたいのかッ!?」

 しのぶは、これほど多弁になった承太郎を見たことがなかった。
 承太郎はそのまましのぶの返答も待たず、言い募る。
278本当の気持ちと向き合えますか? ◇4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:14:57.06 ID:2HLNmBXZ
「俺はいい父親とはいえなかった。あなたと同じだ。
 娘の行事に顔を出したことは一度もない。
 あいつが望むように、なにかしてやれたことはなにもない。
 いつも、怨みがましい目であいつは俺を見ていた」

 承太郎の双眸がしのぶに向けられる。暗緑色の瞳は激しい感情を映し燃えていた。


「俺は娘を愛している。心の底から『愛していた』。
 だが、人は……、人の本性は変わらない。
 俺はいい父親にはなれなかった。今までも、これからもだ」


――その機会は、永遠に失われてしまったのだから。


「どんな方便をいったところで変わらない。
 あなたは……、あなたが思いこんでいるようには変わっていない。
 おそらく、あの『吉良吉影』を想っていた頃と、少しも……」

 承太郎が視線を逸らす。彼の声は次第に小さくなっていった。

「人道を説くのはあなたの勝手だ。
 だが、あなた自身は…………」


(自分の、本当の気持ちに、向き合えるのか?)


 最後は言葉になっていなかった。
 車中の熱気が急速に去っていく。
 承太郎は少しばつが悪そうに窓の外を眺めていた。
 しのぶは深くうなだれている。細いあごの先から、水滴がパタリと落ちた。
 それきり、なんの物音もしない。

 車はいつの間にか止まっていたらしい。
 承太郎が車を降り、ドアを閉めた。
 足早に去っていく。振り返りもせず、ただまっすぐに。
 すぐに足音も聞こえなくなった。晴天の下、のんびりとした空気の中にしのぶはただひとり残される。

 こんなことを話そうと思っていたのではない。
 と、しのぶは自分の無力さに打ちひしがれる。

 頭の中には、論理的な話の道筋ができていたはずだった。それなのに。
 話し始めるとつい感情に流され、けんか腰になってしまっていた。
 承太郎を糾弾したかったわけではない。
 まして『吉良吉影をかばおう』としていたわけではなかった。

 たしかに、あまりに一方的な惨殺劇は、ショックだった。
 『見張られている』という緊張感、銃を持ち出されたときの恐怖、転がってきた生首の衝撃。
 大の大人の首が、あんなにも一瞬で、簡単に……。

 衝撃から遅れてやってきたのは哀れみだった。
 川尻しのぶはスティーリー・ダンを知らない。
 もしかしたら、彼は殺人者でありながら、家庭では優しい人間だったのかもしれない。そう考えてしまう。
 身内に優しい犯罪者など、客観的に見ればそれこそ処断されるべき人間だとは思う。
 それでも、胴体と切り離された頭のヴィジョンは、哀れみを誘わずにはいられなかった。

 そして『吉良吉影』への未練がまったくない、といえば嘘になる。
279創る名無しに見る名無し:2013/05/30(木) 13:16:18.24 ID:I4w+EQbX
支援
280創る名無しに見る名無し:2013/05/30(木) 13:17:42.42 ID:j3nmHxj4
支援
281本当の気持ちと向き合えますか? ◇4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:18:37.68 ID:2HLNmBXZ
 夫が初めて自分で夕食を作ったあの日――あの瞬間から、夢見がちな少女のようなドキドキした日々を過ごした。
 その淡い感触は、罪悪感を伴って、いまもまだこの胸の内にある。
 死んだはずの吉良吉影が存在している。
 その人は連続殺人鬼だというけれど、もしかしたら、自分をかばってくれたときの彼が『本当』の彼で、心根は優しい人間なのかもしれない。
 どうかしてると思いながら、それを期待している自分も認めざるを得なかった。
 自分が夫や息子への愛情を得ることができたのは、逆説的には吉良吉影のおかげという事実を、正当化したいのかもしれない。
 吉良吉影が、本質的には真っ当な人間であったから、彼との一時的な生活が、自分を変えた、と。そう、自分を納得させたいだけなのかもしれない。

 それを承太郎に指摘されたため、しのぶは言い返せなかった。
 夫を亡くし、息子を亡くし、それでも『危険人物』の排除を止めて欲しいなんて、身勝手でとち狂っている。
 しかも最愛の娘と母親を亡くした人に対していったのだ。
 けれど、吉良吉影との再会を承太郎に甘えて、彼の温情にすがって行おうなどとは、しのぶも考えていない。

 しのぶは、ただ、承太郎を止めたかったのだ。
 承太郎が『殺人者』になったときから感じるしのぶ自身の苦しみを、彼女は承太郎がひた隠す内心そのものだと感じていた。
 感じてはいたけれど、うまく言い表せない。
 言い出したとたんになにか別のものに変わってしまう。

 無差別に人を殺すのは悪人で、悪人を懲らしめる必要な人が必要というのは理解できる。
 罰されるべき人間、罰されるべき罪は存在する。

(でも、どこまでが許される罪で、どこからが罰される罪なの?
 その判断を一人の人間に負わせてしまっていいの?
 あんなに……、優しい人なのに)

 人を殺したあとの承太郎の瞳を、しのぶはもう見たくなかった。
 あの目を見ているとつらく、悲しい気持ちになる。

(でも、どうすれば……?)

 アナスイ青年は力で承太郎を止めようとして、返り討ちにあった。
 純粋な力で、承太郎にかなう人間なんているのだろうか。

(わたしの、本当の気持ち……)

 額に手をあてて考える。
 息子の顔が、夫の顔が、まだ見ぬ吉良吉影のぼんやりとした輪郭が、そして空条承太郎の寂しげな横顔が浮かんでは消え、浮かんでは消えた。


 うめきながら顔をあげる。
 少し落ち着いたためか、周囲を見渡す余裕ができていた。
 車外を見れば見慣れた景観、杜王町のぶどうが丘高等学校がすぐ目の前にあった。

「あっ……」

 しのぶがなにかに気づき、声をあげる。
 その視線の先にあるのは高等学校のグラウンドだった。
 不自然に土が盛り上がり、よくみればすぐ脇に大きな穴があいている。
 人を埋めようとして穴を掘れば、あれくらいの土が積み上がるだろうか。

(空条さんは、あれを調べるために出て行った……?)

 ついに愛想を尽かされたわけではないらしい。
 いくらか希望を取り戻し、しのぶも車を降りた。
 足元に、小さなシミのようなものがあるのに気づき、目をこらす。
 血痕だった。
 よく見れば点々と標のように残されている。
 不安な気持ちを抱えたまま、小走りに人けのないグラウンドを横切った。

「……なにも、いないわ」
282創る名無しに見る名無し:2013/05/30(木) 13:18:42.76 ID:I4w+EQbX
支援
283創る名無しに見る名無し:2013/05/30(木) 13:20:27.51 ID:j3nmHxj4
紫煙
284本当の気持ちと向き合えますか? ◇4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:21:28.92 ID:2HLNmBXZ
 おそるおそる穴を覗き込み、しのぶは少し安堵した。
 土塊の横の大きな穴の底には乾燥して白くなった地肌がのぞいている。
 正直、無残な死体が転がっていることを覚悟していた。
 自分の墓を掘らせて殺す。そんな、どこかで聞いた拷問方法を、置かれた状況から連想してしまっていたのだ。

(なら、空条さんは、どこへ……?)

 そう思ったとき、ふと程近い茂みの向こう側が気になった。
 白い塊がちらちらと見え隠れしているように思える。
 胸が早鐘を打つ。
 見ない方がいい。と頭の中から警告がグワングワンと響いていたが、足は自然とそちらへ向かう。

 白い布地になにかがくるまれている。
 ミイラのようなそれは、ところどころが点々と赤黒い。

 布の隙間に手を伸ばす。
 厚い布地からあらわれた、それは――――


 血で固まった逆立てた銀髪。
 威圧的にせりでた額。
 眼帯によって隠された、顔の右半分を十字によぎる古傷。

 すでに絶命した白人男性の顔……。


「うぅ……」

 目を背け、後ずさる。吐き気をこらえるのでやっとだった。

 川尻しのぶに知る由はないが、それは承太郎の旧友J・P・ポルナレフの死体。
 アヴドゥルは親友を埋葬しようとして思い止め、ビーティーと手を組んだ際にポルナレフを置き去った。
 埋めてしまうのがしのびなかったため、彼らは死体を茂みへと隠していったのだ。
 アヴドゥルが背負って歩くには文字通りただの『荷物』であると、当然の判断だった。
 親友を置いて去るのにはあまりに簡素、手を抜いた後始末に見えないこともなかったが、
 手を組んだばかりのビーティーを私事に長時間付き合わせるわけにはいかないという、アヴドゥルの苦渋の判断がそこには垣間見られた。

 が、しのぶにそれを知るすべはない。
 そこにあるのは、頭を割られて絶命したと見られる男の死体。
 なぜ穴を掘っておきながら埋葬されずに置き去られていたのか。埋葬をしようとした人間と殺害した人間は異なるのか。
 結論を出すことも不可能だった。

 おそらく承太郎も同じような思考をたどったのだろう。
 近くに犯人の痕跡があるかもしれない。
 そう考え、見渡してみれば、校舎の一階に窓ガラスが割れている箇所がある。
 承太郎はそこに向かったに違いない。

(もし、この人を殺した人と、空条さんが鉢合わせたら……?)

 胸がざわざわする。いてもたってもいられず、しのぶは走り出した。



   *   *   *



 割れた窓ガラス。熱でひしゃげた金枠。無数の弾痕。
 プラスチックの焦げた匂い。腐臭。かすかに混じる、血の匂い。
285創る名無しに見る名無し:2013/05/30(木) 13:21:38.10 ID:I4w+EQbX
支援
286創る名無しに見る名無し:2013/05/30(木) 13:23:11.16 ID:j3nmHxj4
sien
287本当の気持ちと向き合えますか? ◇4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:24:07.60 ID:2HLNmBXZ
 ぶどうが丘高等学校の校舎の中を空条承太郎は歩いていた。

(火事、か……?)

 それにしては燃え方が局所的で、爆発物にしては床面の破壊が少ない。と、承太郎は思った。
 金属が溶けるほどの高熱が発されたはずなのに、火は自然に消えている。
 燃えカスが少ない点も不自然だった。一瞬の発火と同時の鎮火。化学的な現象とは思えない。
 というより、実のところひとりの知り合いの『能力』を承太郎は思い出していた。
 情に厚く、生真面目な男の『炎を操る能力』を。

 1年B組の教室に入ったとき、腐臭がひどくなった。
 原因はじっくりと探すまでもなくすぐに判明する。
 人間のような四肢を持ってはいるが、とても人間とは思えない形相をした化け物が教室の中央で絶命していた。
 ところどころが炭化し、凄絶さに色を添えている。
 承太郎は無表情に、焼死体とその周囲を検分した。
 死体はすでに冷たくなっている。数時間前に絶命したと思われた。
 死体の周囲には机とイスが放射状になぎ倒されている。
 どうやら化け物は隣の1年C組の教室を突き抜け、ここまで吹き飛ばされてきたらしい。
 穴の向こうにいっそう煤だらけの机やイスが散乱しているのが見えた。

 C組もB組と変わらない、いや、それ以上の腐臭と血の臭いが充満していた。
 死体はどこにもなかったが、ここで殺し合いが行われたとはっきり理解できるほどの血が床に広がっている。
 学校にはあつらえ向きのサッカーボールが、赤く血に染まっている様がある種不釣り合いだった。
 そして床の上には、ドロドロに溶けたおぞましい『なにか』がある。
 『星の白金』を発現させドロドロの『なにか』を解剖してみる。
 臓物をこねくり回して焼き上げたような異様な物体は動かない。
 それが生物だったとしたら、すでに絶命しているようだった。

 これ以上この教室を調べてもなにも利はあるまい。そう判断した、そのときだった。
 ずずっ、と引きずるような足音が廊下の方から聞こえてきたのは。

(化け物の仲間か?)

 学校を根城にし、迷い込んだ人間を惨殺する化け物を思い描いてみる。
 ポルナレフを斬殺したのは彼らだろうか。
 戦闘の予感を感じながら、あくまで冷静に、承太郎は教室を後にする。

 廊下に出てみれば、50メートルほど向こうにひょろりと長身の男の姿があった。
 男の足取りは重い。脚を引きずるように全身を上下させている。
 怪我をしているのか右腕を無気力にぶらぶらとゆらし、左腕で空気を『掻く』ようにしてこちらへ歩いて来る。

 二人の間が10メートルほどの距離になったとき、男は足を止めた。
 顔をあげ、話しだそうとして、むせ、ベッと口中のものを吐き出す。
 黒ずんだ床の上に、真っ赤な鮮血が散った。

「……エシディシという男を知らないか。
 民族衣装の様な恰好をして、がっちりとした体つきの2メートル近い大男だ。
 鼻にピアスを、両耳に大きなイヤリングをしていて、頭にはターバンの様なものも巻いていた」

 今にも倒れてしまいそうな、か細い声で男は語る。
 ぜいぜいと喉がなり、何度もつばを飲み込んでいた。

「放送を聞かなかったのか?
 エシディシという男は名前を読み上げられた。
 『すでに死んでいる』」

 承太郎のにべもない返答に、リンゴォの灰白色の瞳が暗く沈みこむ。
 モゴモゴとなにか、聞き取れないことを自嘲気味に呟いて、ふたたび彼は歩き出した。
 承太郎は微動だにしない。が、彼はリンゴォを見送らなかった。
288創る名無しに見る名無し:2013/05/30(木) 13:24:13.90 ID:I4w+EQbX
C
289創る名無しに見る名無し:2013/05/30(木) 13:25:40.18 ID:j3nmHxj4
しえーん
290本当の気持ちと向き合えますか? ◇4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:25:48.78 ID:2HLNmBXZ
「人を殺しそうな目をして、人探し、か。
 死んだはずの男になんの用だ?」
「………………」

 リンゴォは答えない。そのまま通り過ぎようとする。
 彼の腰に差したナイフが承太郎の目を引いた。
 どこかで見たことがある小振りのナイフは、血曇りで汚れている。

「そのナイフ……、野ウサギでも捌いたのか?
 ここで、なにをしていた」

 ゆきかけていたリンゴォが、歩みを止める。
 上体だけをひねった姿勢で彼は承太郎を見つめた。
 その血走った瞳が映すは、純然たる『憎悪』の感情。

「貴様には関係のないことだ、『対応者』」
「ほ……う……」



   *   *   *



「はぁ……はぁ……」

 まともな運動をしなくなって何年経っただろう。
 少し走っただけで息があがってしまう。
 心だけが急く状況で、高等学校のグラウンドは川尻しのぶにとってやたら広く感じられた。

 空条承太郎は優しい。
 だからこそ、彼はもう迷わない。
 いまの彼はきっとすべての危険人物を排除してしまう。
 時間軸の違いから生じる無知、誤解から殺人を犯してしまう人、『彼自身』が救いたいと願う人も、許したいと思った人も、
 『危険人物だから』
 その判断さえあれば彼は殺してしまうだろう。

 でも、そうやってすべての危険人物を排除したとき。
 あなたのそばには誰が残っているの?
 最後に滅ぼすのは、もっとも許せない、ほかならぬ自分自身じゃないの?


「空条さん……ッ!」


 しのぶが空条承太郎の後ろ姿を見つけたとき、すべては『終わった』あとだった。
 彼の足下には壮年男性が横たわっており、その胸には、承太郎が所持していなかったナイフが突き刺さっている。

 男が承太郎に襲いかかろうとしたのか、あるいは会話から承太郎が危険人物と判断したのかは、もうわからない。
 男のこけた頬には血の気がなく、地面に流れ出た血液はすでに手遅れだということを暗示していた。

 承太郎はしのぶを見留め、少しだけ意外そうな顔をする。

「どうして、どうして……ッ!!」

 しのぶが、わっ、と泣き出し、くずおれる。
 承太郎はなにも語らない。しのぶに対してなにかを説明する義務はもう微塵も感じていないようだった。

 しのぶを横目にリンゴォの荷物を探り始める。
291創る名無しに見る名無し:2013/05/30(木) 13:25:53.41 ID:I4w+EQbX
しえん
292創る名無しに見る名無し:2013/05/30(木) 13:27:24.36 ID:j3nmHxj4
しえん
293本当の気持ちと向き合えますか? ◇4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:27:33.78 ID:2HLNmBXZ
 しのぶを横目にリンゴォの荷物を探り始める。
 その手が一枚の折りたたまれた紙を見つけたとき、はたと、止まった。
 それに気づいたしのぶが、泣きながらも不思議そうな表情を浮かべる。
 いまや見慣れた『支給品』が出てくる紙を、なぜ承太郎は注視するのだろう。

 緊張した様子で承太郎が紙を開く。
 現れたのは、奇妙な形をしたロケットペンダントだった。
 虫のようにも見えるそのフォルム。
 チェーンもついていないそれを『ロケットだ』としのぶが判別できたのは、承太郎がそれを開いてみせたからだ。

 中を確認し息を呑む。


「…………ッ!!」


 安堵でもない。驚きでもない。
 哀しみに似た感情が、承太郎の顔面を、さっ、とかけめぐった。
 彼の無骨な手の中でロケットがパキリと小さな音をたてる。

 彼が泣いているのかと、しのぶは思った。
 それほどまでに沈痛な表情で、長いこと、承太郎は双眸を閉じていた。
 だらりと下げた手の隙間から、いびつな形になってしまったロケットが転がり落ちる。

 彼が目を開いたとき、承太郎は表情はサイボーグのようなそれにまた戻っていた。
 承太郎が立ち上がる。校舎の出口へと向かう足取りに迷いはない。

 追いかけようと、立ち上がりかけたしのぶの目の隅で、ロケットがチカリと光った。
 承太郎が捨てていったなんの役に立つかもわからないロケットを、迷いつつ、しのぶは手に取った。
 急いで走り出し、承太郎の横に並ぶ。


(わたし、あなたを止めてみせる……ッ)


 挑むように睨み付ける。
 承太郎はその視線を受け流すように、ただ前を向いていた。



   *   *   *



「フ……フフ……、これが……果てか…………」

 その胸に短刀が突き立てられたとき、リンゴォ・ロードアゲインは笑っていた。
 時を巻き戻す能力を所持した彼は、止まった時の中でも、そこで起きていることをすべて認識していた。

 承太郎が不快感をあらわに睨みつける。
 見知らぬ、死にかけの男が止まった時を認識できたことが意外で、気に入らなかった。
 スティーリー・ダンが浮かべた驚愕の表情とは違う。
 死を理解して、なお、男は嘲るように笑う。

「フフ……ハ、ハハハハハ…………」

 時が動き出し、リンゴォの長身が崩れ落ちる。
 名は、と問いかけた承太郎を無視し、彼は笑い続けていた。
 全身をひきつらせ、血を吐きながら、地面をのたうつように、笑う。
 実際には痙攣がそうさせていたのだが、すべてが承太郎には不快だった。
294創る名無しに見る名無し:2013/05/30(木) 13:27:39.25 ID:I4w+EQbX
紫煙
295創る名無しに見る名無し:2013/05/30(木) 13:29:51.59 ID:j3nmHxj4
C
296本当の気持ちと向き合えますか? ◇4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:30:00.79 ID:2HLNmBXZ
 呪詛のようなその声が。宙をさまようその視線が。


 アナスイの彷徨が。


 ポルナレフの死に顔が。


 しのぶの熱情的な双眸が。



 結果的に彼女を連れまわしていることに意味などない。意味などないのだ。



 川尻しのぶの手の内では、いびつになったロケットの奥で、一組の男女が、穏やかな表情を浮かべている。





【リンゴォ・ロードアゲイン 死亡】
【残り 56人】

【C-7 ぶどうが丘高校 / 1日目 昼】
【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』
[状態]:???
[装備]:煙草、ライター、家/出少女のジャックナイフ、ドノヴァンのナイフ、カイロ警察の拳銃(6/6 予備弾薬残り6発)
[道具]:基本支給品、上院議員の車、スティーリー・ダンの首輪、DIOの投げナイフ×3、ランダム支給品4〜8(承太郎+犬好きの子供+織笠花恵+ドルチ/確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.???
1.始末すべき者を探す。
2.ポルナレフの死の間際に、アヴドゥルがいた?

【川尻しのぶ】
[時間軸]:The Book開始前、四部ラストから半年程度。
[スタンド]:なし
[状態]:精神疲労(中) すっぴん
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、承太郎が徐倫におくったロケット、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:空条承太郎を止めたい。
1.どうにかして承太郎を止める。
2.吉良吉影にも会ってみたい。
297創る名無しに見る名無し:2013/05/30(木) 13:30:07.89 ID:I4w+EQbX
支援
298創る名無しに見る名無し:2013/05/30(木) 13:31:24.32 ID:j3nmHxj4
し え ん
299本当の気持ちと向き合えますか? ◇4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:33:58.20 ID:2HLNmBXZ
【備考】
承太郎はポルナレフの死体を発見し、ぶどうが丘高等学校の一階部分を探索しました。
リンゴォが所持していた道具の内、折れていない3本を承太郎が回収し、折れている2本は基本支給品とともに放置しました。
リンゴォが装備していたナイフはリンゴォの死体の胸部に突き刺さっています。
リンゴォのランダム支給品の残り一つが【承太郎が徐倫におくったロケット】でした。
しのぶはロケットの中身をまだ見ていません。


【承太郎が徐倫におくったロケット@6部】
徐倫の危機に承太郎がおくったロケット。
矢の欠片は入っていなかった。
潜水艇の探知機能に反応するかは不明。

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代理投下終了です
途中支援感謝
以下感想
承太郎がエリナに対して嘘をついていたジョセフとは別の意味で見ていられない…!
ポルの死体見つけちゃったことも表には出さないけど辛いだろうに…
しのぶさんには頑張って欲しいけど止められるのか…
リンゴォは残念だったけど啖呵きるとこはすっごいかっこよかった
最後になりましたが投下乙でした!
300創る名無しに見る名無し:2013/06/03(月) 01:39:38.25 ID:k+6A3gIe
投下乙です

承太郎・・・
301創る名無しに見る名無し:2013/06/03(月) 20:12:54.16 ID:7ff6LxyY
もうこのままだといつ承太郎の精神が崩壊するか分からんな…
302創る名無しに見る名無し:2013/06/04(火) 13:20:38.43 ID:aLovsgLE
むしろ承太郎だとなかなか精神崩壊もできないだろうからこそキツいなと思った
正気のまま果てしなく沈んでいきそうというか
303創る名無しに見る名無し:2013/06/11(火) 16:51:05.48 ID:oWzG5bph
承太郎はタフなだけにきっかけがあればあるいは…とも思うけど、今吉良とF・Fが一緒で花京院があの状態なんだよな…どっちかと鉢合わせする前に仗助か康一あたりと会えればまた展開も違うか…うーん。
304創る名無しに見る名無し:2013/06/21(金) 11:17:48.28 ID:t19XHBAd
今の花京院だったらサクッと悪人判定されそうだ
305創る名無しに見る名無し:2013/06/23(日) 14:45:27.69 ID:2HKMeLq8
kikareitouhou
EXVS特有のくっそ弱い雑魚ターンXで煽り通信する雑魚
こいつ自身が猿以下の行動しかできない弱い雑魚のゆとりで頭の悪いガキだった
こういう雑魚は自分を棚に上げて調子に乗って煽り通信するから困る
弱い上にサブアカ作ってこういうチキン行為やってる時点でお察しのゆとり知能だな
306 ◆yxYaCUyrzc :2013/06/29(土) 22:28:37.18 ID:vHTMSt6E
本投下開始します。規制食らったらしたらばに持っていきますので代理をお願いいたします
307相性 その1 ◆yxYaCUyrzc :2013/06/29(土) 22:31:56.36 ID:vHTMSt6E
あーれ、……どこやったっけ。確かこの前ここ置いといたんだけど……。
――まいったな、出てこない。ちょっと放置しておくとすぐどっか行っちゃうんだよな。

いいやもう、とにかく進めよう。
アレがあると説明が楽ってだけでどうしても必要ってもんじゃないし。


さて今回は、まあ俺には到底理解できない二人だ。
登場人物はカンノーロ・ムーロロに蓮見琢馬。
彼らの情報把握能力は本当憧れるっていうかむしろ要らないっていうか。

さてと。どこから話すかな。
――ん?ムーロロサイドからの、ジョセフ見送ってから?
はいはい。じゃあそこから行くか。


「監視は続ける。が、優先度はひとつ繰り下がるな――」
って呟いたと思ったら舌打ちして溜め息。そこからはまた黙りっぱなし。
だってそうだろ、独り言なんていうのはホラ、本来必要のないものだし、それを言うってことは自分に言い聞かせる、あるいは脳内にいる何者かに対し語りかけるってことだ。
だからえー、要するに疲れてる証拠だと。ムーロロはそんな自分を戒めたか、疲労してる自分に気付いて呆れたか。
……?そういうなよ、確かに俺ぁ独り言多いけどさ。続き話すの止めちまうよ?――あーごめん冗談だって。

兎にも角にもジョセフのその後も、康一と由花子のその後もひと通り見た。
その話題に関する優先度を繰り下げよう、ってことだな。
あ、だけど後者、康一たちの戦闘は途中で監視を放棄。だから『見た』と表現するとちょっと語弊があるな。

理由は相手の一人にカーズがいたから。

「あの『警告』を聞かせておいてまだ『私に付きまとう』のか、虫よ」
なんて言われちゃあかなわない。いくら別の人間を追跡してた結果に偶然出会ったんだとしても多分ヤバい。ゆえにそこはカードを避難させたわけだ。
もう一つ俺の考えを付け加えさせてもらうなら、カーズが相当移動してるんだから今見逃しても近いうちにまた遭遇するだろう、とムーロロも考えたと思うよ。
308相性 その2 ◆yxYaCUyrzc :2013/06/29(土) 22:36:36.89 ID:vHTMSt6E
で、そこからはまた広く浅くの監視だ。
今までチェックしてた連中の情報を更新。

えーと、ビーティーの名推理とタンカを天井裏から聞いてたり。
あー、ナランチャ経由で玉美とかも知ったね……え、フーゴ?そりゃあアイツが戦闘の意志を口にした瞬間にサッとジョナサンのデイパックあたりに避難したんじゃない?

で、玉美の名前が出たからこっちもか。いうならば新規の関係。
例えば、リンゴォ追っかけてったら別方向で追ってた承太郎としのぶを発見して、リンゴォはそこで脱落。
仗助たちを経由してエルメェスと、シーラE。なんでここにパッショーネの奴が?なんて思ったかもね。

それから――


「交渉……それから、調和か。
 52、いや53分の2か、それは良い扱いだと解釈していいのか?
 お前たちに言っているんだ。クラブの7にスペードの2」

ハッとする。まさか自分たちの存在に気付く奴がいたとは!と驚いた。一気に集中をそっちに回す。独り言は言わないけども。
しかし、カーズは――二度目の遭遇のとき、康一由花子対J・ガイル戦をチラっと見ただけでも“タダモンじゃあない”のがわかった。
でもこっちのガキはなんだ。パッと見は路上のベンチで読書する学生にしか見えないのに『こっちの絵柄まで当ててきた』、少なくとも『虫』よりはハッキリと自分を認識してる。

「反応に困ってるようだから解説してやろうか。逃げずに聞いてくれるならな。
 俺を、というより俺たちを追跡し始めたのは少なくとも五時間四十七分前から。
 カフェから出て行った鳩でも見てそこに人がいるんだと推測したか?
 そこに『何枚』来たかまでは把握できなかったが、そこを俺が女とともに離れるときにはお前ら2枚が追跡してきた。
 だが流石に何時間も2枚の、じゃあないな。53枚ものカードを操り続けるのは疲労したんだろう。せっかく消してた気配がポロポロ出てきているぞ」

ムーロロは聞くしかない。今背を向けたらその場でカードを切られるかもしれない。あ、カードを切られるって後に“カッコ物理”ってつけておいてね。
でも、群体型のスタンドのうち何体かが攻撃されたところでさほど問題はない。真に問題なのは、こちらの逃走を逆に尾行される可能性だ。
こんなバケモノじみた記憶力の奴が自分を見逃すとは思えないから。

とか考えている内も相手の、そう蓮見琢馬の解説が続く。明らかに目線もカードに向いている。まだ琢馬の位置から直接は見えてはないけど。

「そして先に言ったのは小アルカナにおけるカードの暗示。
 1998年、民明書房刊『孫子とタロットで学ぶ現代ビジネス指南書』、話のタネに読んでおいたのがこんなところで役に立つとは。
 さて、そこまでの暗示を込めて俺を追ったのか?お前は」


……あ!あったあった。机の下に放っておいたのが今更出てきたよ。これこれ。えーと、

――“第二章一節、組と兵力から見えるもの”
――『孫子曰く、大規模の戦争においては兵士たちを五十六の精鋭部隊に分けることが良とす』とあります。
――五十六という数字は、詳しく見ると、それぞれ杖・剣・聖杯・通貨を象る四つの『枢闘(スート)』、さらに枢闘の中で役割や行動を十四に分けられたことからきています。
――この部隊の総称を、勝利、つまり金星を存在させるものという意味を込め『在金(アルカナ)』と呼び、のちに西洋に伝わったこの兵法にさらに武装を足し七十八としたものを『大在金(おおアルカナ)』と呼びました。
――古来は在金の各部隊を、それぞれを模して紙に描き、それを卓上で移動させて戦術を決め、あるいはランダムに捲るなどして戦場の運気として用いていました。
――これらを現代人向けに簡略化・アレンジしたものがトランプ占い、同様に大在金がタロット占い、ということは読者の皆様ならピンと来たのではないでしょうか。
――さて、この章では、現代ビジネスという巨大な戦争に勝利できるよう、まずは枢闘を理解し、社員達を分類するところから学びましょう。
――……

だって。琢馬はこのトランプ占いの事を言ったんだろうね。
因みに別冊付録には『剣の2』は『均衡・調和』、『杖の7』は『ディスカッション・勇気・交渉』とある。

え?続き?ああごめんよ。
309相性 その3 ◆yxYaCUyrzc :2013/06/29(土) 22:42:00.64 ID:vHTMSt6E
ぶっちゃけた話、ムーロロはそこまで意識してカードを散らしていたわけじゃあない。
エースだとかジョーカーだとかは見てくれにインパクトがあるから別だけど。というか占いなんて知らないし信じるガラじゃあない。

「……」

そりゃあ返事のしようがない。こっちから情報を渡すわけにはいかない。
とは言え向こうもすぐにどうこうしようって訳でもなさそうだ、ということは推測できる。
となれば待機。向こうの意志を聞いてから対処するのがベネ。
向こうが解説を終えてドヤ顔で立ち去ればそれはそれでよし。何か言ってきても不利ならシカトしてれば良いし、有利なら……まあ聞いてやろうか、という意味だ。

「――さて、俺の考えを話そう。そうしなければここで硬直しているだけだろうからな。
 まず、得意げに引用してやったが、俺はお前が“そういう意味”を込めて俺を追跡したとは思っていない」

琢馬が立ち上がって一歩二歩踏み出した。でもウォッチタワーは、ムーロロは動かない。
結果論だけど、ある種の確信があったんだろう。すぐには殺されないという確信が。

「……かつて俺はお前のような『小さいやつら』を街中で見かけたことがある。自販機やゴミ箱の下から小銭を拾って出てきたところをな。
 今にして思えばなるほど、そういうのもスタンドの一つの性質なんだな。だが――そういう『連中』を従えるのは大変なんじゃあないか?たったの一人で。
 そういう『スタンド使い』とは、俺が思うに“よっぽどすぐれた司令官”なのか、“多数を放し飼いにして放っておくような屑”なのか。そのどちらかだと思う。
 前者はともかく、後者だとしたらお笑いだ。自分の心を自分で放っておくだなんてな」

これにはさすがのムーロロもカチンときた。
彼も後にボス・ジョルノに似たようなことを言われ、あるいはスピードワゴン財団の担当から『群体型スタンド使いの精神テンション』を聞かされ理解するだろう。
けど『今、ここで』それをただの学生風情に説かれるほど俺は落ちちゃあいない!とね。
とは言ってもその一言でブチ切れ、キタナイ言葉で怒鳴り散らすようなマンモーニな真似はしない。流石ギャングだ。沈黙を貫く。


「ん、怒ったか?まあ落ち着いて聞いてくれ。
 俺は何も『お前は屑野郎だ』とは言っていない。むしろその逆だと思っている。
 そこで俺はあんたを利用することにした」


カードの先にいるムーロロを見透かしたような一言はともかく、この最後の一言で状況がグンと進んだ。
琢馬は相手が口を挟む隙を作らずに続ける。

「ハッキリ言おう。俺は人探しをしている。
 そこであんたにそれを手伝ってもらいたい。

 一方で俺があんたに提供するのは、俺の記憶力だ。先の引用や、あんたの追跡時間。聞いていたろう?自信はある。

 流石に何時間も寝ずに情報を処理するのは疲れるだろう。放送を過ぎて色々な場所で色々な状況の変化も起こるだろう。
 それの把握と整理整頓を俺が担ってやろう、と。そういう意味だ」

フムフム、ナルホド。確かに『本』の能力があればそりゃあ記憶も把握も、あるいは過去にさかのぼっての整理も楽ちんだ。
『情報収集と記憶!この世にこれほど相性のいいものがあるだろうかッ!?』
『たとえるならヒロシとキーボーのデュエット!オオタケに対するミムラ!夢枕獏の原作に対する板垣恵介の「餓狼伝」!』
……って感じだろうね。え、わかりにくい?そうかなぁ……
310相性 その4 ◆yxYaCUyrzc :2013/06/29(土) 22:44:52.34 ID:vHTMSt6E
まぁとにかく、そんな相性の良さゆえにムーロロは考える。今までもリスクは何度も何度も天秤にかけてきた。
しかし今度はその天秤の片側に“自分”が乗っかる訳だ。
この天秤は容易に傾かない。

傾かない。が……

「オイオイ、あんなこと言っちゃってるゼ?どうすんのさ?」
口を開いたのはクラブの7だ。すっかり琢馬の前に姿を現している。だけども目線は琢馬には向いていない。
「どうすんのって俺に聞くのかよ?エェ?コーショーの7さんよ?」
相手はスペードの2だ。
琢馬はそれを黙って見ている。

「ウッセ!テメェなんか2のくせに威張ってんじゃあネーヨ!」
「んだテメェ!喧嘩売ってんじゃねえぞ!」
「オイ今ドツキやがったな!やってやろうじゃあねぇか!」
「望むところだ!泣くまで殴るの止めてヤラネーからなッ!」
ついにドツキ合いを始めちゃったカード2枚。
流石の琢馬もちょっと引いた。でも喧嘩は止まらない。

そんなやり取りが30秒?1分?続いたあたりでついに決着。
最後はお互いがお互いの顔殴って――そうそうクロスカウンターみたいに。
で、二人が同時に、
「C−4……川沿い……亀……」
と言ってバタリ。

ムーロロの天秤がリスクよりもリターンを重く見てついに傾いた!

カードのやり取りから、どうやらそこに行けば?って意味のようだと解釈して琢馬は歩き出す。
数秒遅れて倒れた2枚のカードもひょこっと起き上って追いかける。拍手がないことにちょっと不機嫌そうにしながら。


これが琢馬とムーロロのファースト・コンタクトってところかな。
どうだろう、まだもうちょっと話すかい?


――いや、やめておくならそれでいいよ。じゃあまた別の話を持ってくるとしようか。
311相性 状態表 ◆yxYaCUyrzc :2013/06/29(土) 22:47:31.19 ID:vHTMSt6E
【C-3 南部/ 1日目 昼】
【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル半分消費)、双葉家の包丁、承太郎のタバコ(17/20)&ライター、SPWの杖、不明支給品2〜3(リサリサ1/照彦1or2:確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。千帆に会って、『決着』をつける。
0.双葉千帆を探す。
1.『カードの能力』を利用するために指示のあったC−4の亀とやらを探す。
2.千帆に対する感情は複雑だが、誰かに殺されることは望まない。 どのように決着付けるかは、千帆に会ってから考える。
[参考]
※参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
※琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
※また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
※また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
※蓮見琢馬の支給品は スピードワゴンの杖@二部 だけでした。
※琢馬の後を『ウォッチタワーのクラブ7とスペード2』が追いかけています。


【C-4 川沿い『亀』の中 /1日目 昼】

【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降。
[状態]:健康
[装備]:トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、『ジョースター家とそのルーツ』、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、不明支給品(5〜15)
[思考・状況]
基本行動方針:状況を見極め、自分が有利になるよう動く。
0.情報収集を続ける。
1.このガキ(琢馬)の記憶力を利用する?とりあえず自分のところに誘導させる。
2.『ジョースター家の血統』、『イレギュラー』、『DIOという男』、『波紋戦士』、『柱の男』、『パッショーネ』……。さて、どう、『利用する』べきか……?
[備考]
※〈オール・アロング・ウォッチタワー〉の情報収集続行中。
※現在は特に琢馬を監視している『クラブ7とスペード2』に注意を払っているようですが、もちろんその他の参加者の動向もチェック中です。
 今回、少なくとも新しく『マリオ・ズッケェロ、空条承太郎、川尻しのぶ、小林玉美、トリッシュ・ウナ、エルメェス・コステロ、シーラE』を発見しました。
※回収した不明支給品は、
 A-2 ジュゼッペ・マッジーニ通りの遊歩道から、アンジェリカ・アッタナシオ(1〜2)、マーチン(1〜2)、大女ローパー(1〜2)
 C-3 サンタンジェロ橋の近くから、ペット・ショップ(1〜2)
 E-7 杜王町住宅街北西部、コンテナ付近から、エシディシ、ペッシ、ホルマジオ(3〜6)
 F-2 エンヤ・ガイル(1〜2)
 F-5 南東部路上、サンタナ(1〜2)、ドゥービー(1〜2)
 の、合計、10〜20。
 そのうち5つは既に開封しており、『川尻家のコーヒーメーカーセット』、『地下地図』、『図画工作セット』、『サンジェルマンのサンドイッチ』、『かじりかけではない鎌倉カスター』が入っていました。
 その中のサンドイッチと鎌倉カスターは消費したようです。
312相性 ◆yxYaCUyrzc :2013/06/29(土) 22:52:52.76 ID:vHTMSt6E
以上で投下終了です。

仮投下からの変更点
・蓮見琢磨→馬の誤字訂正、軍隊→群体の誤字訂正
・ほんのちょっとだけ文末の修正

民明書房の引用ってやってみたかったんですよねw
本来の元ネタである男塾とはちょっと(?)違うような文体になってしまいましたが。
カードの役割はウィキペディアさんに書いてありました。興味のある方は是非。

問題点として仮投下時に伺った問題ですが、
・琢馬が『ハーヴェスト』を見たという記憶があったこと(当時はスタンドというものを知らなかった)
・ムーロロが直接の面識はないとはいえ『ジョルノ』と呼ばれた人物を放っておいて琢馬を追ってきた
この2点に関しては「大丈夫だろう」という意見をいただきましたので修正せず投下に至りました。
まぁご指摘はいつでも受け付けておりますのでお気軽にどうぞ。

それではまた……近いうちに、できれば最低でも月イチペースでお会いしましょうw
313創る名無しに見る名無し
投下乙です!
ムーロロ相変わらずの情報収集能力
これは全員を把握する時も近いかw?
琢馬もついに頼るとまではいかないけど他者と協力するようになったし対主催とはいえない二人、おもしろそうな位置につきそう