ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第六部

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1創る名無しに見る名無し
               . -―- .      やったッ!! さすがジョジョロワ3rd!
             /       ヽ
          //         ',      おれたちにできないことを
            | { _____  |        平然とやってのけるッ!
        (⌒ヽ7´        ``ヒニ¨ヽ
        ヽ、..二二二二二二二. -r‐''′     そこにシビれる!
        /´ 〉'">、、,,.ィ二¨' {.  ヽ     _ _      あこがれるゥ!
         `r、| ゙._(9,)Y´_(9_l′ )  (  , -'′ `¨¨´ ̄`ヽ、
         {(,| `'''7、,. 、 ⌒  |/ニY {               \
           ヾ|   ^'^ ′-、 ,ノr')リ  ,ゝ、ー`――-'- ∠,_  ノ
           |   「匸匸匚| '"|ィ'( (,ノ,r'゙へ. ̄ ̄,二ニ、゙}了
    , ヘー‐- 、 l  | /^''⌒|  | | ,ゝ )、,>(_9,`!i!}i!ィ_9,) |人
  -‐ノ .ヘー‐-ィ ヽ  !‐}__,..ノ  || /-‐ヽ|   -イ,__,.>‐  ハ }
 ''"//ヽー、  ノヽ∧ `ー一'´ / |′ 丿!  , -===- 、  }くー- ..._
  //^\  ヾ-、 :| ハ   ̄ / ノ |.  { {ハ.  V'二'二ソ  ノ| |    `ヽ
,ノ   ヽ,_ ヽノヽ_)ノ:l 'ーー<.  /  |.  ヽヽヽ._ `二¨´ /ノ ノ
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\___,/|  !  ::::::l、  \  \| \   \ヽ   / ノ



このスレでは「ジョジョの奇妙な冒険」を主とした荒木飛呂彦漫画のキャラクターを使ったバトロワをしようという企画を進行しています
二次創作、版権キャラの死亡、グロ描写が苦手な方はジョセフのようにお逃げください

この企画は誰でも書き手として参加することができます

詳細はまとめサイトよりどうぞ


まとめサイト
http://www38.atwiki.jp/jojobr3rd/

したらば
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/15087/

前スレ
ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第五部
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1342195958/

2創る名無しに見る名無し:2012/10/31(水) 11:10:19.00 ID:1c2T63pl
名簿
以下の100人に加え、第一回放送までは1話で死亡する(ズガン枠)キャラクターを無限に登場させることが出来ます
※第一回放送を迎えましたので上記のズガン枠キャラクターは今後の登場は不可能です。

Part1 ファントムブラッド
○ジョナサン・ジョースター/○ウィル・A・ツェペリ/○エリナ・ジョースター/○ジョージ・ジョースター1世/○ダイアー/○ストレイツォ/○ブラフォード/○タルカス

Part2 戦闘潮流
○ジョセフ・ジョースター/○シーザー・アントニオ・ツェペリ/○ルドル・フォン・シュトロハイム/○リサリサ/○サンタナ/○ワムウ/○エシディシ/○カーズ/○ロバート・E・O・スピードワゴン

Part3 スターダストクルセイダース
○モハメド・アヴドゥル/○花京院典明/○イギー/○ラバーソール/○ホル・ホース/○J・ガイル/○スティーリー・ダン/
○ンドゥール/○ペット・ショップ/○ヴァニラ・アイス/○ヌケサク/○ウィルソン・フィリップス/○DIO

Part4 ダイヤモンドは砕けない
○東方仗助/○虹村億泰/○広瀬康一/○岸辺露伴/○小林玉美/○間田敏和/○山岸由花子/○トニオ・トラサルディー/○ヌ・ミキタカゾ・ンシ/○噴上裕也/
○片桐安十郎/○虹村形兆/○音石明/○虫喰い/○宮本輝之輔/○川尻しのぶ/○川尻早人/○吉良吉影

Parte5 黄金の風
○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/○レオーネ・アバッキオ/○グイード・ミスタ/○ナランチャ・ギルガ/○パンナコッタ・フーゴ/
○トリッシュ・ウナ/○J・P・ポルナレフ/○マリオ・ズッケェロ/○サーレー/○プロシュート/○ギアッチョ/○リゾット・ネエロ/
○ティッツァーノ/○スクアーロ/○チョコラータ/○セッコ/○ディアボロ

Part6 ストーンオーシャン
○空条徐倫/○エルメェス・コステロ/○F・F/○ウェザー・リポート/○ナルシソ・アナスイ/○空条承太郎/
○ジョンガリ・A/○サンダー・マックイイーン/○ミラション/○スポーツ・マックス/○リキエル/○エンリコ・プッチ

Part7 STEEL BALL RUN 11/11
○ジャイロ・ツェペリ/○ジョニィ・ジョースター/○マウンテン・ティム/○ディエゴ・ブランドー/○ホット・パンツ/
○ウェカピポ/○ルーシー・スティール/○リンゴォ・ロードアゲイン/○サンドマン/○マジェント・マジェント/○ディ・ス・コ

JOJO's Another Stories ジョジョの奇妙な外伝 6/6
The Book
○蓮見琢馬/○双葉千帆

恥知らずのパープルヘイズ
○シーラE/○カンノーロ・ムーロロ/○マッシモ・ヴォルペ/○ビットリオ・カタルディ

ARAKI's Another Stories 荒木飛呂彦他作品 5/5
魔少年ビーティー
○ビーティー

バオー来訪者
○橋沢育朗/○スミレ/○ドルド

ゴージャス☆アイリン
○アイリン・ラポーナ
3勝者 修正追加分  ◆yxYaCUyrzc :2012/10/31(水) 11:11:57.70 ID:1c2T63pl
容量512kb到達につき新スレを立ち上げました。


前スレ最後の文章を378の
「略)見事についたビーティーの勝ちさ」

「さ、長くなったが(略」
の間に追加しようと思います。
ご指摘ありがとうございました。

さて、今作のwiki収録ですが、今回の指摘追加分に対するさらなる指摘を受けたのち(1日くらい置く?)に収録しようと思います。
とりあえず今はcg氏の作品に期待しておりますw

まだ何かご指摘ありましたらバシバシとどうぞ。 それでは。
4◇c.g94qO9.A氏代理:2012/11/01(木) 07:49:04.67 ID:zqobBdUc
それは唐突に襲いかかってきた。立ちくらみのような、めまいのような。脈絡もない突然のフラッシュバック。

鉄が錆びた様なこもった臭い。重苦しく淀んだ空気。地面に散らかる赤の斑点。
断片のようないくつもの記憶が思い浮ぶ。細部まで見たわけでもないし、急いで目を逸らしたから、全部がどうだとわかっているはずもない。
だというのに記憶の中のその光景は嫌に鮮明で、生臭くて。
手を伸ばせば掴めそうだと思えるほどのくっきりとした記憶が、川尻しのぶの脳を揺さぶった。

しのぶはごくりと唾を飲み込む。込み上げた吐き気も一緒に飲み干せたらいいのにと思ったが、吐き気は収まらなかった。それどころかますますひどくなった。
掌にじんわりと広がる汗を感じる。顔から血の気が引いて行くのが見ずともわかる。
彼女はゆっくりと眼を瞑って、息をとめてみた。あまり効果はないことはわかっていた。けれどもそうするほかにすることもなかったので、とりあえずそうしてみるしかなかった。
瞼の裏に映る暗闇を見据え、しのぶは隣に座る男に気づかれなければいいけど、と思った。
空条承太郎に気を使われるようなことはしたくない。それだけが心配だった。


アナスイとの一件を終えた後、二人は杜王駅内を捜索した。
駅には誰もいなかった。残酷な殺人鬼も、恐怖におびえる幼子も、影一人、人一人見つけることができなかった。
かわりに二人が見つけたのは、奇妙な形に歪められた死体。捩じれて、融け合わされ、崩れかけている幾つもの残骸。
人間としての表情が読みとれる余地が残されているだけ、余計にたちが悪い。
だがそれを見ても承太郎は眉一つ動かさなかった。彼は一切動じる素振りを見せなかった。

立ちすくむしのぶを尻目に彼は被害者の顔を覗きこみ、知り合いでないことを確かめ、そして支給品を一つ残さず全て回収した。
おまけに荷物になるであろう余分なデイパックや食料、懐中電灯を残してくるほどの徹底ぶり。
墓を造るようなことはもちろん、死者のために黙とうをささげるための僅かな時間すら、彼は惜しんだ。
吐き気を堪え俯く中、しのぶはそんな男を見て、まるで感情を剥ぎ落した機械のようだと思った。
場慣れた刑事や勘の鋭い戦士でなく、一体のアンドロイドが動いているかのような……そんな印象を彼女は抱かずにいられなかった。


しのぶはそっと眼を見開く。吐き気は少しだけ収まっていた。だがフロントガラスに映る自分の顔色は、一向に良くなる気配を見せない。
車内に会話はなく、壊れかけた空調が時折軋む音が、静寂を破っていた。隣の運転席でハンドルを握る男は、長い事口を閉ざしたままだった。

今二人は駅で拾った支給品のうちの一つ、車にのって移動している。
速度はそれほど出ていない。ちょうど朝の通勤ラッシュで急ぐサラリーマンぐらいの速さだ。
承太郎に言わせれば、誰かが見つけても追いつけられる程度で、誰かを見つければ追いつくぐらいのスピードだそうだ。
しのぶは自分の体調がよくなるよう、大人しく座席に収まっていた。


「少し休憩する」


数分後、男は速度を緩めると路肩に車を駐車した。
シガーライターでタバコに火をつけ、何回か煙を吐いた後、彼は思いついたかのようにそう言った。
やはり彼に気を使わせてしまったのだろうか。そう、と返事をするとしのぶはため息を堪え、居心地悪そうに視線を車外に向けた。
恥ずかしさと失望感で、とてもじゃないが話す気にはなれなかった。
5◇c.g94qO9.A氏代理:2012/11/01(木) 07:50:25.43 ID:zqobBdUc
しのぶにもわかっていたことだった。
お節介を焼いているのは自分のほうのはずだというのに、気がつけばいつも自分は彼に気を使わせている。
最初からそう。彼が無理を言ったことと言えば、ここにきて最初に会った時だけ。
『すまないが、一本吸わせてもらってからでいいか』 そう言った時だけなのだ。

彼との関係は、自分が一方的に追いまわしているだけの関係のはずなのに。
承太郎からすれば自分と一緒に行動してなんら得になるようなこともなかったし、きっとこれからもないように思える。
空条承太郎は自分がつけまわすことを“許してくれている”のだ。わざわざ自分に合わせ、足並みをそろえてくれているのだ。
その気になればしのぶをほっぽり出し、自分一人でより効率よく、より迅速にこの場を駆けまわれるというのにだ。
彼は自分が危険にならないよう、疲れないよう、さり気なく、いつも手を差し伸べてくれている。

しのぶは顔をしかめた。情けなさと怒りが半分ずつ同居するような、中途半端な表情だった。


長いこと、承太郎は動かなかった。
彼は何も言わず、地図と名簿をジャケットのポケットから取り出すと、じっとそれを眺めていた。
それほど熱心に眺めているわけでもない。なんとなくすることがないのでそうしている。何とも言えない、ポッカリとした空洞感があった。

そうして彼は不意に筆記用具を取り出すと、一つの名前の隣にメモを取る。
しのぶがすっかり回復したのを見計らったようなタイミングで、承太郎は動いた。
無言のまま、彼はしのぶにそれを突きつける。しのぶはそれを覗きこみ、そして次の瞬間、息をのんだ。

それは名簿に載っていた名前を見たからではない。承太郎の筆跡がそこにこう記していたからだ。

『俺たちは誰かに見られている』



6◇c.g94qO9.A氏代理:2012/11/01(木) 07:52:17.90 ID:zqobBdUc
突如脇腹に鈍い痛みが走り、私は呻き声を漏らしかける。
慌てて口を覆い、喉奥で痛みの叫びを噛み砕く。もしや聞かれてしまっただろうか。空条承太郎は今の声を聞き落としてくれただろうか。

ラバーズに意識を集中させ、様子を伺う。
車からのっそりとその巨体を捻りだしたのは紛れもなく、あの空条承太郎だ。辺りをゆっくり見渡し、鋭い視線で何一つ見逃すまいと神経を張り巡らしている。
しばらく観察を続けたものの、どうやら声を聞かれてはいないようだ。ほっとしたのも一瞬、私は気合を入れ直し、再びラバーズに集中する。

助手席に座る女には見覚えはない。念のため手元にある名簿に目を通すが、これといってピンとくる名前もなかった。
承太郎の母親にしては若すぎる。顔も似ていなければ、態度も肉親にしてはよそよそしすぎる。
きっとどこかで拾ったただの女だろうと、だいたいの見当をつける。あの脅えかたからしてもスタンド使いとは思えない。
こうなると、やはり注意すべきは承太郎だ。

あの強力無比なスタンド、スター・プラチナの恐ろしさを忘れてはいない。眼前まで迫った拳の嵐。ラバーズすら知覚し、捕える桁外れの基礎能力。
油断は禁物だ。ドジを踏めば今度こそ、あの拳で再起不能なまでに叩きのめされるだろう。
私は自らを叱咤激励するように、つい先、つけられた傷口を撫でた。鋭い刃物で貫かれたその脇腹は、決して油断してはならないという戒めの証。


今私は単独で行動している。放送を終えた後、結局私は独りで行動することを決意したのだ。
情報交換の後に身の振り方を考えようと思っていたが、呆れることにヤツらはまともに情報交換する気すら見せなかった。
怪物でありながら戦闘狂であるワムウ。血と殺戮を愛する狂人、J・ガイル。きっと頭の中は闘いのことでいっぱいだったのだろう。
認めよう、私の認識が甘かった。こんなやつらとともに行動していたら戦いに巻き込まれ惨めな死を迎えるか、策略をめぐらしてる最中に背中から貫かれるに違いない。
最初からこんな二人を手駒にしようというアイディアそのものが無謀だったのだ。

実際この傷はJ・ガイルによってつけられたものだ。
私が別行動をしようと提案したのがよっぽど気に入らなかったのだろう。
脇腹の肉をえぐり飛ばし、ゲスじみた笑いをヤツはあげていた。今でも動けばずきずきと痛むほどの傷だ。

怒りで体が硬直しかけ、再び私は傷に手をやった。冷静になるんだ、スティーリー・ダン。落ち着くんだ、落ち着くんだ……。
J・ガイルやワムウでのミスを繰り返してはならない。まして相手はあの空条承太郎、その上見たところ私が知っているヤツより年をとり、熟練の雰囲気すら纏わしている。
隙もなければ、その眼光の鋭さも並はずれている。思わず私の体が震えるほどだ。恐ろしい……、あの男、ヤバすぎる。

「―――……だが」

これは真っ向勝負の戦いでなく……決闘でもなければ、ルールの存在するゲームでもない。
正攻法で敵わないならばそれなりの戦い方というものがあるのだ。そしてその闘い方において、このラバーズに弱点は……ないッ
ここに連れてこられる前にジョースター一行と戦えたのは幸運だった。J・ガイルによって慢心の愚かさを知れたのは幸いとしかいいようがない。
慎重に、慎重にスタンドを進めていく。そうだ……慎重に、そして大胆に。
策さえうまくはめてしまえば例え承太郎だろうと上回る自信はある。あの場所へ、“あそこ”まで辿りついてさえしまえば……!

「……良し」

だが、まさにそんな時だった。まさに私が策を完遂させ、これでヤツとも対等に渡り合えそうだ……と思いかけた、その瞬間。
思わず小声で自身を勇気づけるような言葉を吐いた瞬間。


「――――――…………」
7◇c.g94qO9.A氏代理:2012/11/01(木) 07:54:27.95 ID:zqobBdUc
承太郎が息を吐く。深く、長いため息のような呼吸音。気を静めるのでもなく、呆れるのでもなく、ただ機能的にそうしたような音が聞こえた。
そして唐突にヤツは私のほうをまっすぐに見据え、呟くようにこう言った。

声が届く範囲に私はいない。そんな距離まで近づいていない。だから私はヤツの口元を読み取っただけだ。
もしかしたら間違いでは。そう望みたくなった。何故こちらの居場所がばれたのだろう。微塵の当てすら浮かばなかった。
ただのブラフだ。山カン張った、ただの虚勢に違いない。私は咄嗟にそう思う。
だが無意味だったのだ。空条承太郎は、私が隠れている場所を真っすぐに見据え、こういったのだ。


「そこにいるんだろう、スティーリー・ダン」、と。


刹那、ぞわり と、背中が震える。

その声は私が知っている空条承太郎のものではなかったから。いや、空条承太郎どころか……この声は本当に人間のものなのだろうか。
私の体は震え始めていた。私の腕が、身体が、足が、そして……傷口が警報をがなりたてるように疼いた。
私は見た。こちらを向いた空条承太郎の目を、見た。
そこに込められたのは狂気……。そしてどこまで続くかもわからないほどの、底無しの殺意……。



8◇c.g94qO9.A氏代理:2012/11/01(木) 07:57:05.22 ID:zqobBdUc
川尻しのぶが不安げな様子で外に出てきた。今にでも爆発する何かを刺激しないように、彼女はそっとドアを開け、そして閉める。
空条承太郎は動かない。男は道路の先に視線を向けたまま、微動だにしない。
その様子から彼が何かを待っているのだろう、としのぶは思う。だが一体何かを待っているのか、それが何なのかはさっぱりわからなかった。
沈黙のまま、刻々と時だけがすすんでいく。十秒、三十秒、一分…………。

状況が動くのにそれほど時間はかからなかった。スティーリー・ダンがその姿を現したのだ。
二人が面する道路、その先の坂を登って、たっぷり50メートルほどの位置で、その男は立ち止っていた。
しのぶは神経質そうに、ちらちらと承太郎へ視線を向けた。彼はその視線を無視した。承太郎は今、目の前に現れた男に全神経を注いでいる。

しのぶには何が起きているのか、まるでわからない。承太郎が車の外に出て、辺りを見渡して、一言二言、ブツブツと呟き……。
そして今、新たに姿を現した男は、はるか向こうで立ち止まり此方の様子を伺っているのみ。
此方に声をかけるでもなく、知り合いかどうかを確かめるために近寄るでもない。ただそこにひたすら立っているのだ。

そもそもここまで離れていると顔すらはっきり見えない。話をしようと思ってもこの距離となれば大声でしなければいけないのだが、そうする様子も見えない。
承太郎と男は会話もせず、互いに顔も見合わせる必要もなく、何かしら二人の間だけで通じ合っているようだった。
自分が蚊帳の外に置かれている事で、不安は大きくなるばかり。しのぶはやきもきしながらも、だが、ただ二人を見守るほかなかった。

「スティーリー・ダンか?」
9◇c.g94qO9.A氏代理:2012/11/01(木) 08:00:06.64 ID:zqobBdUc
承太郎が、確かめるようにそう言った。しのぶが辛うじて聞こえるぐらいの、小さな声。
これじゃ相手に聞こえるわけがない。無論、承太郎もそんなことは承知だろう。
だが彼はそのままの声で話を続けていく。
独り言としてはいささか奇妙で、淀みなく。

「タロットカード、恋人。スタンドはその名の通りラバーズ。能力は極小のそのスタンドを敵の脳内に埋め込み、内部から攻撃する。
 特徴は自分が傷つけば、相手にもダメージが及ぶというのを前提とした人質作戦。性格は紳士風を装っているが、そこらのチンピラと変わらない、虚栄心の強い男。
 DIOから命を受け、パキスタンを少し過ぎたあたりで俺たち一行に襲いかかったことがある……」

ふぅ、と一息入れる。そして続ける。
次に出てきた言葉は問いかけのようでありながらも、ほとんど確信を込めているのがしのぶにもわかった。

「あのスティーリー・ダンで間違いないな」

砂粒一つが落ちても聞こえるのではないか。そう思えるほどの沈黙が辺りを包み、二人と男の間を風が駆け抜けていく。
承太郎はきっかり十秒だけ待った。刑の執行直前に自白を待つかのような重苦しい十秒だ。
そして時が過ぎ、遠くの男がそれでも動かないのを見定めると……彼は男に向かって足を進めた。
その歩みに一切迷いは感じられなかった。空条承太郎は綺麗に、一直線に、男めがけて向かっていく。

慌てたのは遠くの男のほうだった。



※代理投下者注
したらばNGワードにかかって細切れになっていた4つの文章を一つにまとめ、
さらに次のレスで書かれた文章をまとめています
10◇c.g94qO9.A氏代理:2012/11/01(木) 08:02:42.42 ID:zqobBdUc
「止まれ、承太郎ッ」


承太郎は止まらない。変わらず一定のペースで黙々と足を運んでいく。


「そこまでわかってるなら、私が考えそうな策も、当然わかってるんじゃないか……ッ!?」


少しだけ、ほんの少しだけ、彼のペースが落ちた。早歩きのスピードが、普通の歩くぐらいまでのペースに落とされる。
それでも……それでも、彼は止まってはいない。着実に、二人の男の距離は詰まっていく。


「我がラバーズは! 既にッ! その女の脳内に潜んでいるッ!
 つまりこれがどういことかわかるか? 貴様には理解できているのか、エエ!?」


スティーリー・ダンと呼ばれた男の額に汗が浮かぶ。
顔は余裕を現すために笑おうとしているのだろう。だが承太郎の接近に驚きと狼狽を隠せていないのは一目瞭然だった。
奇妙にねじれた笑い顔は素直な焦り顔より、よっぽど惨めで、余裕がないことを顕著に示していた。


「おいッ、止まれと言ったはずだぞ、このクソガキがッ!」


男は声を荒げ、脅そうとしたのだろう。しかし緊張でか、途中で声が裏返ってしまい、脅すどころか笑いすらこみ上げてきそうだった。
本人もその裏返った声にあからさまに動揺している。見ていると、段々気の毒になって来るほどに。
同情すらしたくなるほどまでに、その男の表情と挙動は奇妙で余裕がなく、明らかに承太郎を前に冷静さを失っていた。

スティーリー・ダンは慌てふためきながら、ズボンのポケットをまさぐる。
尻ポケットから目的のものを見つけた彼は、これ見ようがしにそれを振り回し、承太郎の進行を食い止めようとした。


「動くんじゃねェ―――ッ! それ以上動くようだと、この銃で……、ぶっ殺すぞ!」
11◇c.g94qO9.A氏代理:2012/11/01(木) 08:09:54.60 ID:zqobBdUc
黒光りする武器、武骨で荒々しい暴力の象徴。今までどこか余裕のあったしのぶも、さすがに銃の登場にハッと息をのんだ。
承太郎が見せたスター・プラチナという能力。とても強力で、並大抵のことじゃかすり傷すら負わないだろうとはわかっている。
だが、それでも銃はやはり怖い。どれほど説得力を持たせ説明されても、現実世界最強の武器、銃は、しのぶにとって死そのものを連想させるのだ。

承太郎が、ようやく止まる。スティーリー・ダンが荒れる呼吸を整える。気がついてみれば彼と男の距離はもはや十メートルほどしかない。
いつの間にこれほど詰められてしまったのか。だが驚いている暇すら、今のダンには惜しい。
とにかく止めることはできたのだ。ようやく・・・・・・、ようやく! 承太郎が止まったのだ。
畳みかけるならここしかない。ラバーズが潜んでいる事実をもう一度印象付け、最悪ここは一時的に逃走してもいい……―――

ダンがそう考えている時だった。
無意識のうちに、彼は銃身を下げていた。承太郎の心臓目掛けて向けられていた暗闇が、足元へ向く。
最強のスタンド使いの眼が怪しく光る。そして男は絶妙のタイミングで彼は話しかけた。まるで日常の会話の一コマかのように、極めて自然に、そして如何にも気軽な感じで。
承太郎が言った。

「覚えてるか、スティーリー・ダン。てめェにはじめ会った時の事、ジジイを人質に取った時のことだ」
「…………?」

そうして一寸、立て続けにいくつかの事が起こった。承太郎の体から飛び出る大男の影。最強のスタンド、スター・プラチナが構えを取る。
スティーリー・ダン、反射的に及び腰になる。頭は冷静に射程距離外だと喚き立てるが、本能的な恐怖が理性を上回った。
男の膝が砕ける様に曲がり、彼は何もかもを捨ててその場から逃げようとした。脅しが効かない相手だと、そのとき初めて理解し、命惜しさにその場を逃れようとした。

逃がれようとした。

「『スター・プラチナ・ザ・ワールド』」
「え」

それが最期の言葉となる。スティーリー・ダンの記憶の中で最後に口にした言葉。


※代理投下者注
改行が多すぎるとのエラーで書き込めないので分割させていただきました
12◇c.g94qO9.A氏代理:2012/11/01(木) 12:54:52.66 ID:zqobBdUc
幸か不幸かと問われれば、きっと幸運だったのだろう。
スティーリー・ダンは自分が気づかぬうちに逝った。時が静止した世界で知覚すら不可能のまま、男はスター・プラチナに首をはねられ、一瞬で、死んだ。
一閃、目で追えぬほどの速さで振るわれた二本の指先。ザクッ、と小気味よい肉裂き音をとどろかせ、彼の首はピンポン玉のように綺麗に飛び、そして跳ねた。

坂を転がり、重力に従い、ころころころころ……。
驚愕を張り付けたままの首はしのぶの足元で、狙ったように止まった。
しのぶは見下ろす。見たくなくても、その生首から目が逸らせなかった。
自分の身に何が起きたかわからないまま、何が何だかわからない表情を張り付けた男の生首。
焦りと恐怖を焼き付けた瞳が、しのぶを見つめていた。しのぶは、視線をそらすことができなかった。

足が震え、呼吸が乱れる。足に力を込め、その場に崩れ落ちないよう、なんとかふんばる。
だがそんな彼女をつき落とすように……―――それは唐突に襲いかかってきた。立ちくらみのような、めまいのような。脈絡もない突然のフラッシュバック。

駅の死体、濁った臭い。そうでないはずなのに夫の、そして息子の死にざまがそれに重なる。
足元に転がる首。誰のものだろうか。スティーリー・ダンのものだったはずなのに。いつの間にか、息子の面影がそれを覆い隠す。
首なしの死体が、夫の一張羅をはおる。息子が首をサッカボールのようにドリブルする。
あらぬ妄想が、現実と重なり合い、氾濫し、混乱を生む。

しのぶは、その場で倒れないように、しゃがみ込むことで精いっぱいだった。
様々な感情がこみ上げる。同時に吐き気と、そしてなぜだか涙がせり上がった。

しのぶはその場にしゃがみ込む。長い間、彼女は動かなかった。
空条承太郎がスティーリー・ダンのデイパックをあさっている間も。点検を済ませ、首輪を拾い上げる音が聞こえても。
気遣っているのか、ただ単に待っているのか……彼女の様子を確かめる様に傍に男が立ちつくしていても。


川尻しのぶは、動かなかった。







※代理投下者注
改行が多すぎるとのエラーで書き込めないので分割させていただきました
13◇c.g94qO9.A氏代理:2012/11/01(木) 19:55:43.96 ID:zqobBdUc
いつかはその時が来るとはわかっていた。
それに近しいことは先のナルシソ・アナスイの時にも行ったことだったし、なにより自分は彼の凄みを理解していたつもりだった。
けれども、それでもしのぶはそうなって欲しくないとどこかで願っていた。彼の決心がどれだけ固かろうと、まだここでとどまっているうちは、彼は帰ってこれると信じていた。

踏切台から飛び降りる様に、もうその一線を越えてしまっては二度と戻れない。


空条承太郎は、たった今、殺人者になった。
スティーリー・ダンを殺したのは、空条承太郎。


誰かを守るためでもなく、誰かを救うためでもない。しのぶを傷つけないと確信していたから彼は拳を振るったわけではない。
彼は迷わなかった。きっとしのぶがもっと直接的に人質に取られていたとしても、彼は同じように殺しただろう。
もしかしたらその拳で、しのぶごと貫いていたかもしれない。足元に転がる生首、その男の何も写さない瞳を見ると、しのぶの胃がざわついた。


覚悟が、足りなかったのだ。

立てるか。そう承太郎に尋ねられ、しのぶはそっと頷いた。泣いてはいなかった。
差し出された腕を掴み、男の隣に並び立つ。彼女は承太郎の顔を見るのが怖くて、前を向けなかった。
覆いかぶさっていた影が動き、男が去っていくのがわかる。見れば車へ向かう男の後ろ姿があった。
彼の鉄仮面に負けず劣らず、その背中は何も教えてはくれない。大きくて、けれども淋しい背中だ。

このまま私はついていっていいのだろうか。彼と共に歩むのは間違った行為ではなかろうか。
ふとそんな疑問がわき上がり、しのぶの足が自然に止まる。男は変わらず車へ向かっていく。

でも……今さらどこに行くの? この人を、一人、放っておくつもりなの? こんなに優しくて……さびしい人なのに。

何秒かの後、しのぶの足が動き出す。しっかりと大地を踏みしめ、力強く前進していく。もう迷ってはいなかった。
彼女の顔色を伺うように視線を向けていた空条承太郎。しのぶは車を出すように彼を促し、助手席へと滑りこむ。
男は無表情のまま、しばらく彼女を見つめていた。そして……ゆっくりと頷き、車のキーをポケットから取り出す。


車のエンジン音が轟き、やがて消えていく一台の車。排気ガスが立ち込める街。後には誰も残っていない。
捨て残されたスティーリー・ダンの死体は、何も言わず、俯いたままだった。
14スター・プラチナは笑わない◇c.g94qO9.A氏代理:2012/11/01(木) 21:37:28.38 ID:zqobBdUc
以上です。指摘などありましたら連絡ください。どなたか代理投下してくださったら助かります。

状態表についてなのですが、したらばのNGワードに引っ掛かってしまい投下できませんでした。
実は文中の>>361->>319の間にもあったようで、細切れになったのはそのためです。
何がNGワードなのかはわかりませんが、規制がとけたら本スレに、駄目だったらwiki収録の際に状態表と一文を加えたいと思います。

管理人さん、できるようでしたらNGワードの確認をお願いします。


***
代理投下終了です。改めて投下乙でした。
いやあ承太郎の黒いこと黒いこと。でも有言実行だしいいのかな?
しのぶさんは良く壊れないなぁ。強い女性だw
ダンは長生きできないとは思っていたが……相手が悪すぎましたね

※代理投下時に分割やNGワード部の接続を行っていますのでcg氏はご確認ください。
15創る名無しに見る名無し:2012/11/03(土) 17:01:52.20 ID:UXZ+qvC+
なんか投下・予約ラッシュ来てるな
これはアニメの影響もあるのか・・・?

俺はなかなか書き込めないから代理も何もできないが
(この書き込みも規制じゃなく書き込めることを願いつつ)
これでジョジョロワに人が集まると良いな。

そういえばyx氏の収録はどうすんの?2作品あるうち最初の方はもういいんじゃないの?
それとも議論待ち?
16創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 00:50:38.94 ID:GGR5rvWO
◆SBR/4PqNrM氏の代理投下行きます
17死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 00:51:30.89 ID:GGR5rvWO
326 名前: ◆SBR/4PqNrM[sage] 投稿日:2012/11/02(金) 21:07:30 ID:oEnzT.CU [1/19]
『ぼっ、ぼっ、ぼくらは 〈劇団見張り塔〉〜〜!』
『今から、

 ジョナサン・ジョースター、エリナ・ジョースター、
 ジョセフ・ジョースター、ルドル・フォン・シュトロハイム、
 DIO、東方仗助、広瀬康一、噴上裕也、山岸由花子、セッコ、ナランチャ・ギルガ、パンナコッタ・フーゴ、
 エルメェス・コステロ、マウンテン・ティム、ディ・ス・コ、シ―ラE、カンノーロ・ムーロロ

 …の、SSを、投下するよォ〜〜〜!!』

『誰か代理投下を、よっろしっく、ねぇ〜〜〜〜!!』

『それにしても何だいこの人数! ちゃんとさばききれているのかなぁ〜〜?』
『そうだね、ちょっとリストラした方が良いンじゃないかな〜〜〜?』
『おい、ちょっとまて、お前、今俺の方みたな!? リストラするならやくたたずのお前の方だろ!?』
『はは、役たたずの下っ端同士で揉めてるぞ!』
『まちなよみんな、ぼくらはみんな揃っての 〈劇団 見張り塔〉 だろ〜〜?』
『うるせぇ〜、いい子ぶりっこ!』
『いた、やめろって、おいっ…!』
『ばか、それは俺の数字だっ』
『いてて、いてっ!』

『そ、それでは……』
『タイトル、【死亡遊戯(Game of Death)】……』
『……はじまり、はじま……りぃ〜〜〜……』

  パタン……。
18死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 00:52:03.19 ID:GGR5rvWO

 トクン  …―――…  トクン  …―――…  トクン  …―――…  トクン  …―――…
 
 微かな。
 聞こえるか聞こえないか。感じるか感じないか分からぬ程に微かな。
 儚く、もろく、今にも消えいりそうな鼓動。
 それを無理矢理に動かしているのは、男の両手から発せられている生命のエネルギー。
 古代より伝えられる、呼吸法により生み出される技。波紋、である。

 背に負うた女性は、若く美しく、常ならば誰しもの心を癒しうるだろう気品すら感じられるが、その顔面は土気色をし、胸元は赤黒い血で染まっている。
 出血そのものは止まっている。
 しかし問題はそこではない。
 黒騎士ブラフォードによって与えられた、鉄槌のダメージ。
 それは間違いなく、彼女の骨を砕き、内蔵を破り、血反吐を吐かせている。
 瀕死。
 本来ならばすでに死んでいる。死んでいるはずの損傷。
 それを、ただ波紋の力で、無理に生かしている。
 もし、少しでも波紋呼吸のリズムが狂えば。
 もし、その効き目が通じなくなるほどにの時間が経てば。
 
 彼女は、死ぬ。
 
 それを知り、だからこそ。
 彼は、走るのを、止めない。
 止められるはずもないのだ。
 
  
☆ ☆ ☆

「ジョースターの血統……?」
 名簿を見る。確かにそこには、ジョナサン・ジョースターはもとより、二人のジョージ・ジョースターに、エリナ・ジョースター、ジョセフ・ジョースター、さらにはジョニィ・ジョースター等、多くの『ジョースター姓』の名前がある。
 ジョナサン・ジョースター。
 ゲーム開始直後にコロッセオでナランチャと出会い、行動を共にしていた屈強な青年。
 正直で、誠実。
 自分たち『ギャング』とは真反対な、気高く誇らしい世界の住人。
 元々は資産家、上流階級の中で育ったフーゴではあるが、これまでの人生で、『本物の紳士』に出会ったことはほとんどない。
 いや、むしろ、『上品で気取った連中』の、その裏にある醜さであるならば、ギャングになる前にもそれ以降にも、嫌というほどに見てきている。
 その上で、フーゴは感じ取ったのだ。
「彼は、本物の紳士だ」と。
 
 今、ジョナサンはナランチャと共に、簡単な食事と水分補給をしつつ、リストの確認をしている。
 放送は、彼らがまだ意識を取り戻す前に行われていた。従って今ここにいる3人の中で、メモを取れたのはフーゴのみ。
 放送後に意識を取り戻した彼らとフーゴは、近くの建物に一旦身を隠し、『放送』の内容を伝え整理しなければならなかった。
 奇妙な境界からは、『ローマ』側の建築物。石造りの外観だが、中は広めのアクセサリーショップの様だ。
 居住性を考えれば、住宅のどこかに隠れたほうが良かったのかもしれないが、異国の狭い住宅はいまいち勝手がつかめないし、外の様子を確認しづらく思えた。
 それと近くに戦闘の痕跡があるというのも問題に思えたし、思案の末、西へ数ブロックほど移動することにしたのだ。
 ここは、外の様子がよく見える大きめのガラス張りだが、内側にはショーケースやカウンターがあり遮蔽物に事欠かない。
 裏口と二階への階段もあり、とっさの逃亡ルートも確認してある。
 また、目が覚めた後のナランチャは、フーゴに言われて〈エアロスミス〉での索敵を始めていた。
 その上で、無人の街のショップの奥、レジカウンター近くに、3人は陣取っている。

 参加者とされる人間の名前。そして死者の数。
 メモを確認しつつ、ジョナサンとナランチャは、驚きを隠せない。
 そう、『77人』もの死者の数、その意味を、それぞれに異なった衝撃で受け取っている。
19死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 00:52:39.80 ID:GGR5rvWO

「なんだよ、これ、おかしーじゃねーかよ…」
 震える声でそう吐き出すのは、ナランチャ。
「だっておかしーじゃねーか!? 俺ははっきりと見たんだぜッ!?」
 叫びだすナランチャに、フーゴはそっと人差し指を立てて口元に寄せ、静かにするよう促す。
「たしかに、ナランチャ。ぼくらは最初の場所で、ジョジョ……ジョルノが殺されるのを観ている」
 ジョジョ、という言葉にジョナサンが僅かに反応する。フーゴはなんとなしに、そういえば彼の名前、ジョナサン・ジョースターも、愛称として『JOJO』と呼ばれるのには相応しい、と思った。
「だったら…、だったらなんで、『名簿』にジョルノの名前があるんだよ!? 
 ブチャラティやミスタ、トリッシュが居るのは分かるぜ…。きっと『ボス』の奴が何かやってるんだッ……。
 けど、まさか、『殺し合い』させるために、ジョルノを殺してから、また生き返らせたとでも言うのかよッ!?」
 生き返らせた、という言葉に、またジョナサンが微かに反応した。
 アバッキオの体の持ち主が『吸血鬼』であると即座に見抜いたりと、どうも彼はそのあたりに何か因縁があるらしいが、フーゴはまだ詳細を知らない。
「ナランチャ。この名簿が正しいのかどうか。それは今の僕らに確かめようは無い。
 けど、それでも、君と僕はここで出会った。この名簿に名前のある、ジョナサンとも出会っている。
 だったら、僕らがまずすべきことは、分かるだろう?」
 何度も『このド低脳がーッ!』 などと『ブチ切れられた』ことのあるナランチャが、平時であれば気味悪く思うくらい優しく丁寧な調子で、フーゴが続ける。
 唾を飲み込みながら、ナランチャはそれに応える。
「……ああ、わかってるよ。まずは、ブチャラティ達と合流する……」
「『チーム』が集まること。『任務』を達成すること。
 それが一番だ。そしてその任務には間違いなく、『このゲームを仕組んだ奴らを倒す』ことが含まれる……!!」
「けど、けどよォ……!」
 飲み込むべき言葉。けれどもナランチャは堪えきれずに吐き出してしまう。
「あの、アバッキオを『殺して、逃げた』でかいやつをッ……!」
「あいつは後回しだ、ナランチャ!」
 その叫びを、フーゴはきっぱりと、そう切り捨てた。
 日の光が出始めて、あの化物は逃げていった、と、二人には説明してある。
 もちろん、「あの大男の中身はアバッキオで、化物となった宿命を背負い、その力で会場にいるであろう殺人者たちを始末して回るつもりでいる」などということは、言っていない。
 そして、二人が聞いていないことから、『死者として告げられた名』の中に、アバッキオの名を付け加えておいた。
 ごまかしに過ぎないと分かっている。しかしナランチャに問われて、誤魔化しきれる自信がなかった。
 アバッキオの意志もある。あるが何より、そもそもフーゴ自身、そのことをどう捉えれば良いかの整理がついていない。
 何よりフーゴは今、それら以上にどう捉えれば良いかわからぬ情報に混乱させられているのだから。
 
 強く言われたナランチャは、やや意気消沈した様子で押し黙る。
 立ち上がっていた足も萎え、半歩ほど後ずさり、傍のカウンターにもたれ掛かり項垂れる。
 ナランチャとて、分かっているのだ。
 まずは仲間と、チームと合流すること。『アバッキオの仇』を追うにしても、まずはそれからなのだと。
 そして何よりも、ジョルノのことを確認したいという気持ちもある。
 彼が本当に生きているのか? あの最初のステージで殺されたのは誰だったのか…?
 ナランチャが不承不承ながらも納得したのを確認して、フーゴは改めてジョナサンに向き直る。
「ジョナサン…そう呼んでも構いませんね?」
「……あ、ああ。ジョナサン・ジョースターだ」
 不意に声をかけられて、苦痛と困惑に顔をしかめていた青年は、悩ましげな様子を慌てて引っ込めてそう返した。
「辛いことを聞くことになりますが、教えてもらいたい。
 この名簿の中に、ジョースター姓の人物が多くいます。彼らは君と関係が?」
 小細工や、もって回った物言いは返って逆効果と考え、フーゴは率直に核心に触れる。
 ジョナサンはその岩のような拳をぎりりと握り締め、それを震えさせながら口元にやりつつ、それでもはっきりと、「何人かは」と答えた。
 ナランチャとも、フーゴとも、比べようもないほどに体格が良い。丸太のような脚は、チームの中でも一番痩せているナランチャの胴回りくらいはありそうだし、胸板は並みの格闘家にも引けを取らない。
 それでいて粗野粗暴の風はまるでない紳士。その紳士の彼が、今はひとまわりもふたまわりも小さく見える。
20死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 00:53:10.86 ID:GGR5rvWO
「ジョージ・ジョースターT世、というは、僕の父の名だ……。U世とあるのが誰かは解らない。
 ほかの名前も、もしかしたら遠縁の人かもしれないが、少なくとも僕は知らない…」
 ジョージ・ジョースターは、T世、U世ともに、放送で告げられた『死者』に含まれている。
「何人かは、というと、後は…?」
 再び、ジョナサンは苦痛と苦悩に顔を歪める。
「エリナ……」
 エリナ・ジョースター。これも、名前がある。まだ『死者』としては呼ばれていないが、名簿には書かれている。
「僕の知っているエリナは、エリナ・ペンドルトン…。優しく、気丈で、誇り高い……僕の幼馴染で……最愛の人だ」
 再びここで、口ごもる。
「結婚したいと、そう考えていた……」
 ジョナサンはつまり、それを加味して危惧しているのだろう。
 意地悪くも、或いは残酷なこの『主催者』は、彼が結婚しようとしている女性の名前を、敢えて『ジョースター姓』で名簿に載せたのではないか、と。
 
「君は、ディオという敵を追っている最中だと聞きましたが……」 
 フーゴが話の流れを変える。
「ああ。ディオは石仮面の力で吸血鬼となった、かつての僕の友人だ。彼は非常に危険な力を持っている。
 それに……」
 困惑と悔恨。複雑な感情のうずで藻掻いている。
「吸血鬼のディオは、死者を屍生人として蘇らせ、自分の手下にする能力を持っているッ……!
 蘇ったものは、人間の生き血を啜る邪悪な亡者となってしまうんだ……!
 僕の………僕の父も、まさかッ………!」
 ぶるぶると震えているのは、恐怖ではない。怒りと悲しみ。それらの感情の波が、彼の体の全てに波紋のように広がっているのだろう。
「ジョナサン。確認させてもらいたい。
 つまりそれは、君の父は、『すでに死んでいた』ということですか?
 それなのになぜかこの『名簿』に名前があり、さらに先ほどの放送で『ここに来て死んだ』とされている。
 だから、『ディオにより蘇らせられた後に、ここで再び死んだのではないか?』 と………。
 そう考えているのですね?」
 慎重に、言葉を選びながらも、はっきりと問い直すフーゴに、丸太のような両腕が伸ばされ、その襟首を締め上げる。
「ジョ、ジョナサン……!?」
 慌てたナランチャが間に割って入ろうとするが、するまでもなく締め上げる力は勢いをなくし、怒りに燃えた瞳から、瞬時に強い後悔の色が浮かび上がる。
「わかってる、ナランチャ…。済まない、フーゴ……。
 君たちも今しがた仲間を失ったばかりだというのに、僕は、自分の事ばかり……」
「気にしないでください、ジョナサン……」
 襟元を直しつつそう言うフーゴ。
 
 しかし。
 フーゴがそう言うのは、何もジョナサンを気遣ってのことではない。
 もちろんまるで気遣っていないというわけでもないが、フーゴにはそれよりも考えねばならないことがあったからだ。
 いくつかはすでにナランチャにも話していた事を含め、改めて『名簿』としてもたらされた人名について、照らし合わせていく。
 ロバート・E・Oスピードワゴンは彼の友人で、ウィル・A・ツェッペリは波紋法の師。そしてその同門の波紋戦士、ダイアーとストレイツォ。
 黒騎士ブラフォードとタルカス、ジャック・ザ・リパーやワンチェン等ディオの配下の屍生人。
 そして……。
「『DIO』もしくは、『ディエゴ・ブランドー』。このどちらかが、君の宿敵である『ディオ』かもしれない」
「ディオ・ブランドー、が彼の名前だ。
 僕は最初、ウィンドナイツロットに来たときのように、催眠術のようにディオの罠にかけられてここに居るのではと考えていた。
 けれどもし、この『名簿』のどちらかが『ディオ』で、『殺し合いの参加者』というのなら、全く別の何者かの仕業なのかもしれない……」
 
 ジョースターの血統。『ディオ』との因縁。だが、しかし……。
 
「クウジョウ、とか、ヒガシカタ、というのは、まるで聞いたことがない」
 
 再び、フーゴはしばし押し黙った。
 そうだろう。きっとそうなのだ。
 そしてだからこそ、それをいつ、どう説明するべきかを考えねばならない。
21死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 00:54:15.27 ID:GGR5rvWO
★ ★ ★

 四方を壁に囲まれた、石造りの海の底。
 あえて形容するならば、此処はそういう場所だ。
 広大な敷地と、堅牢な外壁を持つこの施設の奥の奥、一切の日の当たらぬその場所で、彼は名簿に目を通している。
 重厚な机に、クッションの良い椅子。棚や調度品もそれなりに値の貼るものだし、机の斜め向かいにある応接セットも同様だ。
 元々それらは、刑務所内の他の場所にあったものだ。
 GDS刑務所の女子監房内の一室を仮の拠点とし、いろいろと物を運び込んでいる。
 女子監房はGDS刑務所のほぼ中央に位置し、管理ジェイルや医療監房等の施設に近い。
 建物自体の、外に通じている窓などは全て塞いでおいた。
 強いパワーのスタンドや、吸血鬼並みの膂力を持つものであればたやすくどかせる程度のものだが、ここで直接日の光にさらされる事はまずない。
 地下へと通じる経路も確保している。よほどの油断をしなければ、たいていのことに対応できるだろう。

 簡素な蛍光灯の明かりの下で、DIOは、広げた名簿とメモを見る。
 150人の『参加者』。76人の『死者』。
 その中には、馴染んだ名もあれば、知らぬ名もあり、配下や友人の名もあれば、宿敵や殺した者の名もある。
 屍生人、波紋使い、スタンド使い…そして、「過去の、すでに死んでいるはずの人物」……。 
 過去の、というのは、いささかに主観的すぎる言い分だ。
 彼ら(例えば先ほどそれを確認した少年、ポコなど)からすれば自分の方……、つまりはDIOこそが『未来の』人物だろうし、或いはDIOの時代より『未来から』来ている者もいるのだろう。
 
「セッコ」
 座ったまま、DIOはそばにいた別の男へと話しかける。
「今は何年だ?」
 呼びかけられ、セッコと呼ばれた、『奇妙な全身スーツ姿の男』は、作業の手を止めてしばし思案する。
 しかし思案の後に帰ってきた答えは、
「……わッかんね〜〜。気にしたこともねーや」
 というもの。
 常にチョコラータの庇護下にいて、彼の言うままに殺しを働くだけの生活において「今が何年か」という知識は、確かに不要なものだったのだろう。
 年、年月というのは、主観的な世界においては無用だ。それは社会性というものの中に存在する。
「そうか、なら良い」
 そう言ってDIOは会話を打ち切り、セッコも元の作業に戻る。

 ポコの証言。最初のホール、ステージで見た『空条承太郎と、よく似た男たち』。
 そして、名簿に、放送された死者の名前。
 これらを、『事実』と仮定するのであれば、この『殺し合い』を目論んだものは、『時空間を超越した能力』を持っていることになる。
 だとしたら、それを、『どう扱うべきか』……。
 そう、『どう対処するか』ではない。『どう扱うべきか』だ。
 つまり、『天国への扉を開くために、使えるか否か』。
 DIOにとって重要なのは、その点なのだ。
22死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 00:54:46.34 ID:GGR5rvWO
「な、な、DIO!
 どう? どう?」
 楽しげに、或いは些か誇らしげに、セッコがDIOへと聞いてくる。
 思索から引き離され煩わしげ、ということはまるでない素振りで、DIOは僅かに視線を向ける。
「そうだな……、悪くは、ない」
 しかしその言葉は、セッコにとっては望む評価には程遠いいものである。
「だ、だめか、これェ……?」
 奇妙に小首をかしげるように、少しさみしげに返すセッコ。
「駄目、ということはない。
 少ない材料で仕上げたにしては、なかなかセンスが良い。
 特に、上下のバランス、かな。
 真ん中を中心に、左右をあえて非対称にずらして配置し、それらを囲む並べ方も象徴的だ」
「そうか!? センス良い!?」
 一転して、DIOの寸評にご機嫌になる。
「まあ、悪くはない、と言ったのは、やはり材料自体が足りないということにあるかな。
 もともと小さかったし、数も少ないが、何より、バリエーションに欠ける」
「けどよォ〜〜〜、そいつはしょ〜〜〜がねェ〜〜〜しよォ〜〜〜〜……」
 再び残念そうな表情のセッコに、DIOは指を1本挙げて続けた。
「ひとつ……。
 ついさっき、『ここから逃げた何者か』がいる。
 なぜわかるか……? は、問わないでくれ。私にも説明はできない。
 ただ、『私を見ていた者』がいて、そいつは、『恐れて、逃げた』……。
 そういう事だ……」
 首筋に意識をやる。
 首から下、今の『DIOの肉体』の下の持ち主である、ジョナサン・ジョースターの肉体。
 その肉体を得たことで、DIOは『ジョースターの血統』との、奇妙な結びつきをもっているらしい。
 だから、『分かる』 …いや、『感じる』というほうが正確だろう。
 誰かは分からぬが、誰か。名簿にある『ジョースターの血統』の中の誰かが、『見ていた』のを、DIOは感じ取っていた。
 そして、『逃げた』。
 だとすれば、それは承太郎ではないし、また脅威となる相手でもない。
 
「少しの間、遊んで来てみてはどうだ?」
 直接的な驚異ではないが、周りを飛び交うハエは、潰しておいたほうが良い。
 アスワンツェツェバエの例では無いが、たかがハエに邪魔されることになるのは、面倒ではある。
「ウホッ!? い、良いのか? 遊んじゃって、良いのか、俺ェ…!?」
 セッコは…『面白い』。DIOはそう考えている。
 無邪気な子供のように、今彼は『新しい遊び』に、夢中になっている。
 かつてのセッコは、チョコラータという男の『ご褒美』欲しさに殺しをしていた。
 今、彼は、自分自身の中に、『殺すことの意味』を生み出そうとしている。
 悪意でも憎しみでもない。狂気でも利害でもない。
 無意味の時平線から、意味を創造し起立させようとしている。
 そのこと自体は、DIOにとってさして意味のあることではない。
 ただ面白く、興味深いのだ。
 そういう意味で言えば、セッコ自身がDIOにとっての、『新たに手に入れた面白げな玩具』そのものでもある。
「できれば一時間程度で戻って来て欲しいが、まあ、君のその『能力』なら、どこに逃げようと隠れようと、見つけ出して捉えられるだろ?
 障害はほとんど無い。
 僕の友人や部下たちに気をつけてくれれば、好きなだけ『材料』を持ってこれる」
 新たなる創造物。セッコの初めての『作品』に目をやる。
「おう、おう! すげェ! DIOの言うとーりだ!
 俺、次はぜってー、もっと『スゲェもの』作れるぜ!」
 そう言うとセッコは、軽く飛び上がってからくるりと身を翻して、地面の中へと『飛び込んで』行った。
23死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 00:55:25.55 ID:GGR5rvWO
 
 残るは、DIOと、『作品』。
 赤錆た匂いと、糞尿の混ざった臭気は、近づくもの全てに吐き気を起こさせるだろう。
 乾きかけた血と体液に肉塊は、うずたかく積み重ねられ、組み合わされ、形作っている。
 先ほど、ここでその命を奪われた3人の少年、その残骸を材料として作られた、血塗られたオブジェ。
 
 放送前にポコに対して試してみた、『食べてみる』という選択肢は、セッコにとって目新しい刺激ではあったが、そのことをまだ自分の中でうまく捉えきれていない。
 それもそうだろう。
『食人行為』というのは、飢餓によるそれや性倒錯を除けば、一種の呪術的行為で、死者の肉体を自らに取り入れることで、相手の持っていた霊力を得る、というような意味合いを持つ。
 言い換えれば、他者の持つ人格や精神を認めた上で、それらを『自分のものにしたい』という欲求、同化願望や支配欲こそが、食人という行為に意味を持たせる。
 そういった呪術的な思考というのは、セッコの持つ感覚からは程遠い。
 それでも敢えてその観点で考えるとすれば、セッコにとって『意味のある食人行為』と言えるのは、チョコラータやDIOを『食べる』ときになるとも言える。
 セッコはその発想には未だ至れない。セッコにとって意味も価値もない人間の死体をどれほど『食べた』ところで、そこから意味を見出すことは叶わないだろう。
 
 それで、次に彼が試したのが、この『アート』だ。
 誰かを殺し、その死体を使って、何かを『創る』。
 チョコラータは、『死の間際の恐怖』にそそられていたし価値を見出していたが、死んだあとの死体にはさほど関心を示していなかった。
 元々医者でもある。彼にとって死体はただの物体でしかない。タンパク質とカルシウム。そこに、それ以上の意味などは感じないし見いだせない。
 ならば、そのあとに自分なりの創意工夫を凝らしてみようというのが、セッコの新たな着想であった。
 セッコにとってこれもまは、未知なる喜びだ。
 死体、死者を弄ぶ、冒涜する、というような感覚はセッコにはない。
 ただ純粋に、生まれて初めて、『自分で何かを作り出す喜び』を感じているのだ。
 はなから、彼にとって、殺人はそれ自体が快楽でもなければ、忌避されるべき悪でもない。
 神も人間性も信じていない、その存在すら知らない彼には、冒涜という概念すら無い。
 彼にとっての殺人とは、『できるから、する』ものだし、死体とは『その結果できるもの』でしかないのだ。
 
 
「―――さて、どうする?」
 そのセッコによる『初めての作品』、奇怪なオブジェを挟んで向こう側。
 暗闇の中のさらにその奥に、DIOが言葉を投げかける。
「今ここで、君と私は、『ふたりきり』だ。
 戦うか? 君が是非にというのなら、それもよかろう。
 それとも ――― お話でもしてみるか?
 私は、どちらでも構わないよ ―――」
 奇怪なオブジェの向こう側。
 暗闇の中のさらにその奥からは、すぐさまの返答は返ってこなかった。
24死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 00:56:03.98 ID:GGR5rvWO
☆ ★ ☆
 
 紙が、あたり一面に散乱している。
 それらのいくつかは、テーブルの上に並べられ、またいくつか床やソファの上に何箇所かに分けてまとめられている。
 紙の多くは、会場内各所から〈オール・アロング・ウォッチタワー〉が『拾ってきた』ものだ。
 コーヒーメーカーに『サンジェルマンのサンドイッチ』、『鎌倉カスター』等の新鮮な食料も、その紙の中にあった支給品である。
 支給品の中には、『地下地図』のような有用なものから、武器類に、飲食品類、そして『図画工作セット』のような、何の目的で支給されたか不明なものもあった。
 
 テーブルの真ん中辺り、本来は、綺麗に磨かれていたはずの面には、マーカーで縦横の線が引かれている。
 ちょうど7×9マス。縦にはA〜Gの文字が振られ、横には1〜9の数字が振られていた。
 そのマス目の中に所狭しと並べられているのは、駒。
 小さく切り抜いた紙を、テープで三角形にし、名前とマークを書いてある。

 例えば、ほぼ中央に位置する場所に、ボルサリーノ帽のマークが書かれた駒がある。
 これは自分の位置を現す駒だ。
 そのやや斜め右下に3つの駒があり、『◎フーゴ』、『○ナランチャ』、『☆ジョナサン』、と書かれていてる。
 やや左下には、別の駒がいくつか有り、その中には『●セッコ』、『●ヴォルペ』、『△男』、そして、『★DIO』などとある。
 名前が解らない人物には、とりあえず便宜的な属性だけ書いておいた。
 やや左下の集まりの中の、南北戦争時の軍服のような服を着た無精髭の、『△男』は、今ところ『●=危険で殺る気満々の奴ら』とも、『○=殺る気の少ない手合い』とも解らない。
 だから、『△=立場不明』の、『男=名前不明の男』の駒だ。
 そのやや近くにある『●鳥』は、『危険な鳥』だし、『●チョコラータ』、『●サーレー』は、それぞれに殺る気アリな危険人物と分類している。
 
 マークは、会話や行動からの危険度を簡易的に表しているそれと、もう一つ。
 先ほど手に入れたものにあった、特筆すべき情報、『家系図』にある、『ジョースターの血統』と、その関係者を現す、『星』の記号。
 
 ジョースターの血統。
 ボルサリーノ帽を斜に被り、洒落た仕立てのスーツを着込んだ男、ムーロロは考える。
『亀』の中で、ソファに沈み込むかのように身を落とし、テーブルの上に並べられた駒と、いくつかの情報を書止めた紙を見ている。
 煎れたばかりの熱いカプチーノには殆ど手をつけておらず、サンドイッチも鎌倉カイターとかいう甘いケーキ菓子も、何口か食べただけで置かれたままだ。

 名簿の中にいる、驚くほど多い『ジョースター姓』の名前。そして、花京院という男から手に入れた、『家系図』の中に秘められた、『因縁』。
 それらは、まず間違いなく、『鍵』だ。
 この、『殺し合いのゲーム』を引き起こした何者かにとっても、おそらくは重要な『鍵』なのだ。
 下弦の月が、呼ばれてこの会場では満月となっていた。
「一瞬で呼び出された」というのが実は間違いで、「さらわれたあと数日か数週間、どこかで昏睡させられていて、改めて全員揃えてからゲーム開始になった」
 その可能性も考慮していた。
 だが、違うのだ。
 ムーロロはすでに『確信』している。
 このゲームが始まってからの約6時間ほどの間。ムーロロはひたすら『亀』の中に潜み隠れたまま、会場中に飛ばしたカード、自らのスタンド〈オール・アロング・ウォッチタワー〉により、情報収集をしていた。
 最初のステージで殺された男によく似た男たち。
 すでに死んでいるはずの、ナランチャやアバッキオ、ブチャラティチームの面々に、暗殺チームの面々。
 体が半分機械化されたナチスの軍人に、西部劇さながらの格好をしたカウボーイやメキシカン。
 日本の学生やサラリーマンらしき者たちに、産業革命時代の英国紳士。
 吸血鬼、屍生人、柱の男、波紋戦士。
 とうの昔に死んだはずの、スピードワゴン財団設立者、ロバート・E・O・スピードワゴン。
 彼らの振る舞い、言葉、話している内容…。
25死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 00:56:35.88 ID:GGR5rvWO
 
 皆が皆、『演技をしている偽物』であったり、『催眠術や暗示か何かでそう思い込まされている何者か』というのでもない限り、結論は限られてくる。
 そう。
 ムーロロはほぼ、『確信』している。 
 この『殺し合い』の参加者は、『様々な時代から呼び出されて』おり、そしてその多くは、『ジョースターの血統と因縁のある者か、その関係者』である、という事を。
 もちろん、まだ確定的とは言えない。すでに、その例外、『イレギュラー』と思える参加者たちもある程度は把握している。
 それでも、この『ジョースターの血統』が大きな『鍵』である、という見立てには、『確信』を抱いている。
 
 ジョセフ・ジョースター。
 はじめのステージで殺された男に、酷似した男。
 先ほど『コンタクト』を取ったこの男は、探っている間ずっと自分の名を言わなかったし、同行しているエリナという女も、襲いかかってきた長髪の剣士も、『ジョナサン・ジョースター』と呼んでいた。
 しかし、ムーロロは既に、最初の頃に発見したナランチャが、ジョナサン・ジョースターと名乗るよく似た男と同行しているのを確認していた。
 だから、カマをかけてみた。
 
 
 
「 ――― ジョセフ・ジョースターだな?」
 
 否定は、ない。ムーロロの推測は当たっていた。
 そして、ならばこの、『家系図』のとおりの『事実』が、見出されるかもしれない。
 
 エリナ・ジョースター。家系図によれば、ジョセフの祖母。ジョナサンの妻。
 その見捨てることのできるはずのない存在を『救う』ため、どんな決断をするのか ―――。
 
「―――クソッ、ごちゃごちゃくだらねーコト言ってんじゃぁねぇ〜〜〜ッッ !! 全部だッ! 全部教えろッ!!!」
 怒号とともに首を絞め上げられる。
 なかなか、直情的なところもあるようだ。
 だが、震えるその両腕は、決して加減を間違えてもいない。本当に本気で締め上げて、こちらの情報を得られなりかねない愚を犯すほどではないというところか。
「貸しがさらに二つ、そう判断するぜ」
 ムーロロは、表情ひとつ変えずに返す。
 ひらりと動かした手の中には既にカードはなく3枚のメモ。
 それがはらりと地面に落ちる。
「どこを選ぶかは、お前が決めろ。どこに行けば良いかなんてのは、俺に決められる事じゃぁないしな」
 ジョセフの両手から解放され、襟元を直しながらムーロロは言う。
 慌ててメモを拾い集めて、その中身を確認するジョセフだが、再び顔を上げた時には、暗闇にムーロロの姿はなかった。
 
 
 
 ムーロロはようやくに、カップのカプチーノに口を付け、ふた口目を啜る。
 ――― どれを、選んだか。
 その答えをムーロロは既に知っている。カードがジョセフの後をつけているからだ。
 そしてその先で起きている出来事も、起こりつつある出来事も、ムーロロは知っている。
26創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:00:40.01 ID:WT6tmVqC
しえ
27創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:02:36.25 ID:WT6tmVqC
しえ
28創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:04:36.21 ID:WT6tmVqC
しえ
29創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:04:48.58 ID:5iXK07eH
30創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:05:20.89 ID:xR00gy/M
31創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:06:29.13 ID:WT6tmVqC
しえ
32創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:07:27.78 ID:xR00gy/M
33創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:08:44.83 ID:WT6tmVqC
しえ
34創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:09:59.74 ID:WT6tmVqC
しえ
35創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:11:44.76 ID:WT6tmVqC
しえ
36死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 01:12:15.57 ID:GGR5rvWO
 
 それをしかし、知らせる事はしない。
 ボス ――― ジョルノが今どこでどうしているかも知っているが、それをフーゴに教えることも、まだしない。
 フーゴに伝えたのは、『家系図』にある、『ジョースターの血統』が、『鍵』になるのではないか、という推測と、「ジョナサン・ジョースターから目を離さず同行しろ」という指示。
 とは言えフーゴのことだ。
 おそらくは、『何世代にも渡るジョースターの血統』に関する話と、こちらの『煮え切らない反応』から、きっと敵が持っているであろう、『時間を超越したスタンド能力』に関してまでは、独自の推理でたどり着いていてもおかしくはない。
 
 情報の全てを、与えてはならない。
 情報には、使うべき時と使うべき価値が有り、今ムーロロのもっているそれは、おそらく他の誰もが及ばないだけのものだ。
 あとは ――― それらを使い、どうするか ―――。
 いつどこで誰と誰を組ませ、誰と誰を争わせるか ―――。
  
 盤面の駒を見る。
 ハートのキング。長年に渡る『ジョースターの血統』の宿敵、DIO。
 この男を、どう『利用』すべきか。
 さらには、家系図には書かれていないが、おそらくは彼らの一族と強い因縁のある対立構造、『柱の男』と、『波紋戦士』。
 ジョナサンの体と、DIOの魂の落し子、『ボス』、ジョルノ・ジョバァーナと、敵対するパッショーネの殺し屋ども。
 そして、いくつかの『イレギュラー』たち……。
 
 家系図と名簿を見比べる。
 『ディエゴ・ブランドー』、『ジョニィ・ジョースター』。
 『家系図』に無い二人の『ディオ』と、『ジョジョ』は、果たしてどのような存在なのか?
 
 盤面の駒を見る。
 この二つの『イレギュラー』は、今行われている死の遊戯において、果たしてどんな利用価値があるのだろうか?
 
 
☆ ☆ ☆
 
「ジョジョ!? ジョセフ・ジョースターか、貴様ッ!?」
37創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:13:22.60 ID:WT6tmVqC
しえ
38死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 01:14:53.24 ID:GGR5rvWO
 
 シュトロハイムの大声に、一同の注意が引き寄せられる。
   
 シュトロハイムと噴上裕也が戻ってから、さほど時間が経ったわけでもない。
 意識のあったものは簡単に食事や休息をとり、また周囲を警戒しつつ、二人の女性の治療にあたっていた。
 怪我の具合が幾分ましで、疲労もあるがむしろ緊張が緩和したことから意識を失っていたシーラ・Eがエルメェスより先に目覚め、ごく少ない時間ではあったが、自己紹介とわずかな情報交換をしはじめていた。
 それぞれの名前と、簡単な経緯を確認し始めた、ちょうどその最中である。
 サンタナ、そしてカーズ。二人の『柱の男』と関わってしまった、2組の即席チーム。
 彼ら男女7人、そこに居合わせた者たちの反応は様々だったが、突如としとて古代環状列石の地下から現れた男へと、自然と視線が集まった。
 
「死んだものと思っておったぞ、このバカモノが!
 しかし一体どんなトリックで……」
 多くの。ここにいる多くの者が、『首輪の爆発で殺された』ことを確認しているハズの男。
 シュトロハイムは、彼自身が『ジョセフ・ジョースター』と呼んだこの男が、生きている事に喜びこそすれさほど訝しみはしていない。
 彼の中では、『死んだと思ったら生きていたとしても、おかしくはない』のだと言わんばかりの反応だ。
 しかし、残りの者は違う。
 
(あの男は、確かに最初のステージで殺されていた……。それはここにいる皆が見ているはず……だが) 
 投げ縄を手にしつつ、救急車の中のエルメェスから離れずにマウンテン・ティムが鋭い視線を向ける。
(ジョセフ・ジョースター? おい待てよ、そいつは確か仗助のオヤジで、ヨボヨボの爺だったんじゃねーのか!?)
 ハイウェイスターを傍らに呼び出す噴上裕也が脳裏に浮かべるのは、全く別の人間の姿。
(知ってるわ、その名前……! スピードワゴン財団とも関係のあった、ニューヨークの不動産王の名前と同じ……。
 スピードワゴンと良い、いったい何なんだッ!?)
 ようやく疲労からも回復し始めたシーラ・Eが、未だおぼつかない意識で困惑の目を向ける。
 
「シュトロハイム! 俺の事は今はいい!
 細かい話をしてる場合じゃねーんだ!
 それより……誰が、『ジョースケ』だ!?
 エリナを、エリナばーちゃんを助けてくれッ!!」」
「ジョースケ? ジョースケならそこで別の女性の……」
 
 ショトロハイムとしては質問攻めにしたいところだったが、ジョセフの勢いに押され、救急車でエルメェスの治療をしていた仗助の方を見やる……が、そこに仗助の姿は無かった。
 何処だ? 慌てるシュトロハイムと、焦るジョセフの背後から、その声が聞こえてくる。
「アンタが何者で、何で生きてんのかとか……何で俺のことを知ってるのかとか……、いろいろと聞きてー事は山ほどある……」
 いつの間にか後ろに回っていた仗助が、重く暗い眼差しでジョセフを見据える。
「お前がジョースケか!? 頼む、エリナばーちゃんを、『治して』くれッ……! 頼むッ……!」
 懇願。悲痛なまでのその叫びに、周囲のざわめきも困惑も、さざ波が引くかのように消えていった。
 だが ―――。
 
「もう、試した……」
39創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:15:16.58 ID:5iXK07eH
 
40創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:15:23.06 ID:YtxqKp70
しぇん
41創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:15:36.89 ID:j/dD1eZK

42創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:15:38.34 ID:LUA/Yjxc
 
43死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 01:16:02.58 ID:GGR5rvWO
 
 ぐらり。
 地面が揺らぐ。
 ――― ため…した…? 
 ――― 何を言っているんだ、とにかく早く『治して』くれ。
 ――― 俺の『波紋』で持たせられる時間はそんなに無いんだ。
 ――― もうこんなに冷たくなっている。
 ――― 青白くなった肌が乾いているし、足がうっ血してむくみだしている。
 ――― それに見ろ、首なんて、だらりと力なく仰け反り、目は既に何も見ていないじゃないか。
 ――― だから早く、『治して』くれ。
 ――― 何やってんだよ、おい。
 ――― 待て、聞こえ無いぞ。
 ――― きちんと、しゃべ 
 
「俺のスタンドは、『物を直す』こともできる……、『怪我を治す』ことも出来る……」
 
 絶叫が、響いている。
 
「けど ――― 『死者を蘇らせる』ことは、出来ない……」
 
 絶叫が、ただ響いている。
 行くあてすら無い、絶叫が ――― 。
 
 
☆ ★ ☆
 
 ジョセフが仗助を選んだ理由には、見当がつく。
 ムーロロの渡したメモにある道のりで、今いる場所から一直線に走って着く場所が、仗助のいる古代環状列石に続いていたからだろう。
 不確かで、何ら確証の無い情報であっても、あれこれ吟味している時間など無い…そういう判断だ。
 ハナから死ぬことを前提にすれば、複雑な地下迷路をたどってGDS刑務所へと行く手もあっただろうが、流石にそれは選ばなかったし ――― 選べるわけもない。
 そして、地下、地上どちらから向かっても見つけにくい位置にいたジョルノは、その点で論外だったというワケだ。
 とは言え。
 時間的に最速の位置に居た仗助に助けを求めたものの、結局は『間に合わなかった』のだから、『エリナ・ジョースターの死』については、どれを選んだところで不可避だったということになる。
 ならばDIOであれば蘇らせることができたのか? それをジョセフは、エリナは(そして、この殺し合いを仕組んだ者は)『よし』としただろうか?
 そこに関しては、確認できずじまいだった。
 
 
 今 ―――、それぞれの場所で、当事者とムーロロしか確認していない出来事が三つ、進行している。
 
 一つ。ジョルノ・ジョバァーナは、『家系図』上のジョセフの母、リサリサを治療し終えたが、彼女の様子は『かなりおかしい』ということ。
 
 もう一つ。DIOの元を訪れた新たな存在。テーブル上の駒、『△男』のこと。
 この男のマークが、『●=危険で殺る気満々の奴ら』の仲間になるのか、あるいは、『○=殺る気の少ない手合い』となるのか……或いは、『駒そのものが盤上から消え去るのか』。
 
 そして、さらにもう一つ ―――。
 ジョセフの訪れた場所にいた一人と、それをつけまわしていたもう一人。
 少し前まで『●カキョーイン』と一緒にいた、『●ユカコ』…『髪の毛を自在に伸ばして操る、スタンド使いの女』が、残り全員がジョセフの出現に気を取られているその隙に、『○コーイチ』…、『背の低いガキ』を絡め取り、密かに連れ去ったということ。
 このことに、今はまだ、あの場にいる7人は、気づいていない。
 
 この二つの出来事の顛末。その結果、その波紋が盤上にどのような結果をもたらすのか。
 それはまだ、誰にも分からない。
 
 
【エリナ・ジョースター:死亡】
44死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 01:16:33.03 ID:GGR5rvWO
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【E-6 ローマ市街・ショップ内 / 1日目 朝】
 
【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:全身ダメージ(中)、貧血気味、疲労
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
1.『参加者』の中に、エリナに…父さんに…ディオ……?
2.仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
3.ジョルノは……僕に似ている……?
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。
 
【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:気絶中、額に大きなたんこぶ&出血中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
1.ブチャラティたちと合流し、共に『任務』を全うする。
2.ジョナサン…は、どうする?
3.アバッキオの仇め、許さねえ! ブッ殺してやるッ!
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。
 
【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:困惑
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のハートのAとハートの2
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
1.『ジョースターの血統』に、『ディオという男』……? とにかくジョナサンとは同行しておかないと…。
2.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集め、ジョルノやブチャラティチームの仲間を探す。
3.ナランチャや他の護衛チームにはアバッキオの事を秘密にする。しかしどう辻褄を合わせれば……?
45創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:16:44.38 ID:xR00gy/M
46創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:17:28.67 ID:LUA/Yjxc
 
47創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:17:59.99 ID:LUA/Yjxc
 
48死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 01:18:25.48 ID:GGR5rvWO
【E-2 GDS刑務所1F・女子官房内の一室 / 一日目 朝】
 
【DIO】
[時間軸]:三部。細かくは不明だが、少なくとも一度は肉の芽を引き抜かれている。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×5、麻薬チームの資料、地下地図、リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、携帯電話、スポーツ・マックスの首輪、ミスタの拳銃(5/6)、石仮面、不明支給品×0〜3
[思考・状況]
基本行動方針:帝王たる自分が三日以内に死ぬなど欠片も思っていないので、いつもと変わらず、『天国』に向かう方法について考える。
1.『新しい訪問者』を見定める。
2.マッシモとセッコが戻り次第、地下を移動して行動開始。彼とセッコの気が合えば良いが?
3.プッチ、チョコラータ等とは合流したい。
4.『時空間を超越する能力』を持つと思われる主催者を、『どう利用する』のが良いか考えておく。
5.首輪は煩わしいので外せるものか調べてみよう。
[備考]
※『この会場に時間を超えて人が集められている』、『主催者は、時空間を超越する能力を持っている』であろう、と思っています。
※『ジョースターの血統の誰か(徐倫の肉体を持ったF・F)』が放送中にGDS刑務所から逃げ出したことは、感じ取りました。
 
【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、興奮状態、血まみれ
[装備]:カメラ
[道具]:基本支給品、死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ)
[思考・状況]基本行動方針:DIOと共に行動する
1.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。
2.逃げてった? やつ? で、遊んでみて、一時間くらいで戻る!
2.DIO大好き。チョコラータとも合流する。角砂糖は……欲しいかな? よくわかんねえ。
[備考]
※『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。  
 
【ディ・ス・コ】
[スタンド]:『チョコレート・ディスコ』
[時間軸]:SBR17巻 ジャイロに再起不能にされた直後
[状態]:健康、空腹
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、シュガー・マウンテンのランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況] 基本行動方針:大統領の命令に従い、ジャイロを始末する
1.何 な ん だ こ い つ ら は っ … … !?
49創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:19:11.88 ID:WT6tmVqC
しえ
50創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:19:31.54 ID:LUA/Yjxc
 
51創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:21:11.53 ID:WT6tmVqC
しえ
52創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:21:51.04 ID:LUA/Yjxc
 
53死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 01:21:51.95 ID:GGR5rvWO
【D-4 近辺いずれか。『亀』の中 /1日目 朝】 
  
【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降。
[状態]:健康
[装備]:トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、『ジョースター家とそのルーツ』、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、不明支給品(8〜21)
[思考・状況]
基本行動方針:状況を見極め、自分が有利になるよう動く。
1.情報収集を続ける。
2.『ジョースター家の血統』、『イレギュラー』、『DIOという男』、『波紋戦士』、『柱の男』、『パッショーネ』……。さて、どう、『利用する』べきか……?
[備考]
※〈オール・アロング・ウォッチタワー〉の情報収集続行中。
※回収した不明支給品は、
 A-2 ジュゼッペ・マッジーニ通りの遊歩道から、アンジェリカ・アッタナシオ(1〜2)、マーチン(1〜2)、大女ローパー(1〜2)
 C-3 サンタンジェロ橋の近くから、ペット・ショップ(1〜2)
 E-7 杜王町住宅街北西部、コンテナ付近から、エシディシ、ペッシ、ホルマジオ(3〜6)
 F-2 エンヤ・ガイル(1〜2)
 F-5 南東部路上、サンタナ(1〜2)、ドゥービー(1〜2)
 
 の、合計、10〜20。
 
 そのうち5つは既に開封しており、『川尻家のコーヒーメーカーセット』、『地下地図』、『図画工作セット』、『サンジェルマンのサンドイッチ』、『かじりかけではない鎌倉カスター』が入っていました。
 
 
※【川尻家のコーヒーメーカーセット@Part4 ダイヤモンドは砕けない】
 川尻家の朝には欠かせない、手軽に本格コーヒーをドリップできるコーヒーメーカーのセット。
※【図画工作セット@現実】
 はさみ、のり、セロテープにカラーマーカーやクレヨン、色鉛筆に油粘土等々。
 いわゆる小学校低学年の図画工作の授業で使われるようなものの詰め合わせ。
※【サンジェルマンのサンドイッチ@Part4 ダイヤモンドは砕けない】
 売り切れ必死大人気のサンドイッチ。重ちーの買ったほうなので吉良の『恋人』は入っていない。
※【かじりかけでない鎌倉カスター@Part4 ダイヤモンドは砕けない】
 神奈川県鎌倉市にある鎌倉ニュージャーマンで製造販売している、カスタードクリームをカステラ生地で包んだ洋菓子、と思われる。
 東方朋子の好物で、杜王町在住の彼女は、おそらく通販かなどのお取り寄せで購入したか、知人縁者から贈答で貰ったていたのだろうから、そりゃあ一口だけかじっておかれていたら怒る。誰だって怒る。
54創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:21:53.62 ID:j/dD1eZK
支援
55創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:22:20.14 ID:WT6tmVqC
しえ
56創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:23:02.38 ID:WT6tmVqC
しえ
57死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 01:23:40.40 ID:GGR5rvWO
【B-4 古代環状列石(地上)/一日目 朝】


【チーム名:HEROES+(-)】

【ジョセフ・ジョースター】
[能力]:波紋
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前。
[状態]:絶望、体力消耗(中)
[装備]:なし
[道具]:首輪、基本支給品×4、不明支給品4〜8(全未確認/アダムス、ジョセフ、母ゾンビ、エリナ)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.???
 
【ルドル・フォン・シュトロハイム】
[スタンド]:なし
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:健康
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ドルドのライフル(5/5、予備弾薬20発)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊。
1.ジョセフの様子が心配。
2.『柱の男』殲滅作戦…は、どうする?

【東方仗助】
[スタンド]: 『クレイジー・ダイヤモンド』
[時間軸]:JC47巻、第4部終了後
[状態]:左前腕貫通傷、深い悲しみ、
[装備]:ナイフ一本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す!
1.ジョセフ・ジョースターに、エリナ……?
2.各施設を回り、協力者を集める?
3.承太郎さんと……身内(?)の二人が死んだのか?
[備考]
クレイジー・ダイヤモンドには制限がかかっています。
接触、即治療完了と言う形でなく、触れれば傷は塞がるけど完全に治すには仗助が触れ続けないといけません。
足や腕はすぐつながるけど、すぐに動かせるわけでもなく最初は痛みとつっかえを感じます。時間をおけば違和感はなくなります。
骨折等も治りますが、痛みますし、違和感を感じます。ですが"凄み"でどうともなります。
また疲労と痛みは回復しません。治療スピードは仗助の気合次第で変わります。

【噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』

[時間軸]:四部終了後
[状態]:全身ダメージ(小)、疲労(小)、空腹
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数 90%)
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
1.ジョセフ・ジョースター? 仗助の親父の名前じゃなかったか?
2.各施設を回り、協力者を集める?
58創る名無しに見る名無し:2012/11/04(日) 01:25:15.20 ID:WT6tmVqC
しえ
59死亡遊戯(Game of Death) ◇SBR/4PqNrM (代理):2012/11/04(日) 01:25:49.89 ID:GGR5rvWO
【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前。
[状態]:フルボッコ、気絶中(?)、治療中、空腹
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1.徐倫、F・F、姉ちゃん……ごめん。
 
【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミ―』
[時間軸]:ブラックモアに『上』に立たれた直後
[状態]:全身ダメージ(中)、体力消耗(大)、
[装備]:ポコロコの投げ縄、琢馬の投げナイフ×2本、ローパーのチェーンソー
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
1.ジョセフ・ジョースター? 最初に殺された男に瓜二つだが……。
2.各施設を回り、協力者を集める。

【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:全身打撲、左肩に重度の火傷傷、肉体的疲労(大)、精神的疲労(大)
[装備]:ナランチャの飛び出しナイフ
[道具]:基本支給品一式×3(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1〜2(確認済み/武器ではない/シ―ラEのもの)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
1.ジョセフ・ジョースター? スピードワゴン財団関係者の不動産王と同じ名前じゃないか……?

[備考]
※参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。
※ジョージU世とSPWの基本支給品を回収しました。SPWのランダム支給品はドノヴァンのマントのみでした。
※放送を片手間に聞いたので、把握があいまいです。
 
【B-4 近辺のどこか /一日目 朝】  
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:左腕ダメージ(小)、右足に痛み、山岸由香子に捕獲され中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1.???
 
【山岸由花子】
[スタンド]:『ラブ・デラックス』
[時間軸]:JC32巻 康一を殺そうとしてドッグオンの音に吹き飛ばされる直前
[状態]:健康、虚無の感情(小)、興奮(大)、康一君を捕獲中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品合計2〜4(自分、アクセル・ROのもの。全て確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:広瀬康一を殺す。
1.康一くんをブッ殺す。他の奴がどうなろうと知ったことじゃあない。
2.花京院をぶっ殺してやりたいが、まずは康一が優先。乙女を汚した罪は軽くない。
※康一くんをひそかに捕獲成功。まだ(ムーロロ以外の)他の者達に気づかれていません。
-----------------------------------------------------------------------------
以上で代理投下終了です。支援ありがとうございました、●でも大変なんだなあ……うーむ
60創る名無しに見る名無し:2012/11/05(月) 13:50:54.61 ID:nOQN4Kvz
投下乙です
代理投下の方も乙乙

c.g氏
改めて描かれると「殺すこと」は重い
原作でも状況的に死んだだろうってことはあったが…
しのぶの存在は承太郎にとって救いとなり得るんだろうか、あるいは悲劇の引き金に?

SBR氏
ムーロロを中心とした情報生理が見事
ムーロロ、2ndのテレンスポジションになりつつあるか?w
個人的にDIO様と遭遇しちゃったディ・ス・コの将来が楽しみ
由花子がどうやって康一君を捕獲したのか気になるけど補足が必要というほどではないと思います
61創る名無しに見る名無し:2012/11/06(火) 20:44:28.43 ID:kMaIpanz
投下、代理投下乙です。
いろいろなロワを見てきたけど、たった六時間程度でここまでいろんなものをひとりで集めたやつが他にいただろうか…
そしてジョセフ……承太郎も身内の死であんなことになってるし、立ち直れるんだろうか…?

指摘というか要望に近いですが、ムーロロが開けた支給品5つはもともと誰に支給されたものだったのか明記して欲しいです。
Wiki編集の問題がありますので。
62 ◆yxYaCUyrzc :2012/11/06(火) 20:49:15.24 ID:DaWx0FMJ
いささか突発的ではありますが、本投下開始します
63創る名無しに見る名無し:2012/11/06(火) 20:54:35.75 ID:mf6bLmfn
支援
64敗者 その1  ◆yxYaCUyrzc :2012/11/06(火) 20:55:37.74 ID:DaWx0FMJ
あー、すまない。
約束を破るようで申し訳ないんだが……『最強の話』はもうちょっと待ってくれ。
どうしてもここで話しておかなければならない連中を忘れてたんだよ。

君たちだって薄々気付いてたんじゃあないのか?

『一つだけ気になったのがジャイロの存在です。前作で『下の様子を見てくる』と言ったのに、何のリアクションなしは少し奇妙な感じがしました。
 誤差範囲内なんで、そこまでと言ったらそこまでなんですけど。』

――と。
さらに君たちは、

『ぶっちぎってもらっても全然OKです。』

と言うだろうが、そうすると後々面倒だからな。いろいろ話を進めちゃう前にここで少し説明しておこう。


●●●
65創る名無しに見る名無し:2012/11/06(火) 20:56:25.40 ID:mf6bLmfn
C
66敗者 その2  ◆yxYaCUyrzc :2012/11/06(火) 20:57:23.72 ID:DaWx0FMJ
「な……なんだってんだ、この状況」
ジャイロの口から思わず溜息が漏れ出す。

様子を見に外に出る、なんていうレベルではない。
よく部屋の中に危害が及ばなかったとむしろ感心するほどに、ホテルの中は壊滅状態だった。
蒸し風呂のような熱気、舞い上がる火の粉、顔中の穴という穴から玉のような汗がぶわりと浮かぶ感触……
廊下から中央ホールを見下ろせば炎のドームが。中に何人の人間がいるのかさえ解らない。

鉄球を叩きこんでみるか?

――否、それはできない。

自分一人で行動しているならまだしも……今はウィルを部屋に残したまま。
まして彼は戦闘が出来る状態ではない。となればこの現状をウィルに報告するだけにとどめるべきか。
どうするジャイロ・ツェペリ……自分が“納得”出来る結末をこれで迎えることが出来るのか――?


「おはよう、諸君。時刻は午前六時ちょうど、第一回放送の時間だ」


ジャイロの思考を遮ったのは戦況が変わったことが要因ではなかった。
主催者の――スティーブン・スティールの声が彼の鼓膜を震わせる。

「チッ――クショウ」
小さくそう呟き部屋に戻るジャイロ。

静かに扉が閉められた。
彼がもう数瞬だけその時間を遅らせれば、あるいは違う結末も見えたかも知れなかったのに。


●●●
67敗者 その3  ◆yxYaCUyrzc :2012/11/06(火) 21:03:10.69 ID:DaWx0FMJ
放送で告げられたダイアーという名を呟くウィルを俺は放っておいた。
俺だって知り合いが死んでいる。文字通り命がけのレースを戦ってた相手だ。敵だったとはいえ、そりゃあ複雑な心境にもなる。
だが、事態の重要さはそこではない。
放送はどうも名簿の順に死んだ連中を述べたようではない。
となれば『死んだ順』に呼ばれている。
つまり……ウィルの知り合いは、あるいは師匠やら同胞やらはこの場で真っ先に……相打ちという可能性もあるが、一番乗りの死者だって訳だ。
それからこの名簿を運んできた鳩もだ。ワムウが出て行った窓から器用に入ってきたそいつは、俺が足輪から名簿を抜き取ったらすぐに出てっちまった。
ジョニィが言ってた、馬よりもずっと早いって言葉通りだったが、これで確信もした。リンゴォの隠れ家にいたという大統領のものと同じだろう。となればやはりこの殺し合いは――

「……ロ君、ジャイロ君」
と、どうやら考え込んでいたのは俺の方だったようだ。
ウィルに呼び掛けられ顔を上げる。そこには妙に晴れやかな顔をした男の顔があった。

「君が何を考えてるかくらいわかるわい。
 ダイアーのことは仕方あるまい……奴とて無駄死にしたわけではなかろう。そう信じることにするよ。
 となれば我々が彼の、いや彼らの遺志を“受け継いで”歩かねばなるまいな……
 ……ふむ、まあ私の場合は這いつくばらねばなるまい、か。フフ」
「――すまない」
「冗談じゃよ。君が謝ることじゃあなかろう。
 それより聞かせてはくれないか?今さっき君が部屋を出て見てきたことを」

ウィルに促され話し始める。
ほんの数十秒の出来事だから、説明にはそれほど時間はかからなかった。
俺の口が閉じるとその場を静寂が支配した。重苦しい空気にはやはり暑さは、熱さは感じられない。
不思議な感覚だった。自分は自分の出来る精一杯をしたからこそこうしてこの場にいる。
だがなんだ、この妙なやるせなさは――

「ジャイロ君……いや、ジャイロ・ツェペリよ」

不意に改まって呼ばれたことに俺ははっと頭を上げた。
先ほどと同様に見上げる先にはウィルの顔。だがその顔には今度は緊迫感が見て取れた。


●●●
68創る名無しに見る名無し:2012/11/06(火) 21:05:28.68 ID:mf6bLmfn
支援
69敗者 その4  ◆yxYaCUyrzc :2012/11/06(火) 21:10:20.64 ID:DaWx0FMJ
「行け――ってあんた何を言ってるんだ?」
私の言葉を復唱し、さらに続けようとするジャイロ君を横たわったまま手で制す。

「さっきと同じこと言うが、君が何を考えてるかくらいわかるわい。
 “自分はここでウィルの看病をしなければならない。このジイサンをこの場に放っておくわけにいくか。
  そんな事したら医者であるジャイロ・ツェペリの名が廃るってもんだ。”
 ――大方そんなところだろう?」
「……ああ。だからこそアンタのさっきの言葉が信じられねぇ」

ジャイロ君がそういって顔を背ける。ふぅ、と小さくため息をつき私も視線を彼から外す。
見上げたそこは見知らぬ天井。そののっぺりとした木目を眺めながら私は話し始めた。

「聞いてはくれぬかジャイロ君。
 ……私は若いころ結婚していた。しかし石仮面のために家族を捨てた。
 だけども……自分の運命には満足しておる。
 なーに、まだこうして生きとる。死んだわけじゃあないんじゃからこれからどうにでも動けるよ。
 ――このようにッ!」

ド――z__ン!

「なっ!?
 寝転がったままの姿勢!
 肘だけであんな跳躍を!
 ――ったくアンタには本当驚かされっぱなしだぜ」

ベッドから椅子に――そうそう、動かない足もきっちり手できれいに組み直し――着席した私にジャイロ君は驚嘆しきりだった。
「解ったろう?たかだか半身の自由をもぎ取られた程度でこの私が負けると思うな!ってなもんじゃ。
 どれジャイロ君、ちょっと、もうちょっとだけこっち寄ってくれんかの。
 そうそう、そこがいい。……パウッ!」

ジャイロ君の腹の奥、その横隔膜に小指を叩きこむ。
彼は不思議と抵抗しなかった。普通こういうタイミングじゃあ、私が気を失わせたジャイロ君を放って逆に戦いの場に行くような、そういう攻撃にも見えたはず。
なのにホルスターにさえ手を伸ばさなかったのは、彼が医者だからかの。いや――私のパンチが強力だったんじゃな、ハッハッハ。
そうそう。灰の中の空気をすべて……1cc残らず絞り出せよ。

「ぐはっ!……ウィル、アンタいったい何したんだ!?」

「なーに、心配はいらん。ちょっとしたオマジナイってところじゃよ。心がリラックス出来たんじゃあないかね?
 どれ、私のことは一旦忘れろ。あーいや、逆じゃな。今の一発で私のことを心底忘れられなくなったろう?君は戻ってくるさ、必ずな。
 さ、行って来い。フフフ」


●●●
70創る名無しに見る名無し:2012/11/06(火) 21:12:03.22 ID:mf6bLmfn
しえ
71敗者 その5  ◆yxYaCUyrzc :2012/11/06(火) 21:19:30.56 ID:DaWx0FMJ
うーん、ここまで話せばとりあえず良いかな。もうちょっと突っ込んだところまで行ってもいいんだけど……まあいい。

さて、さっき話した勝者の定義で言うなら、ジャイロは間違いなく敗者だな。俺に言わせれば。
俺は『勝利の定義に反する負けに達しなかったから勝者だ』と言ったろう?さっき。
だが、ジャイロは今回の件で何かしら勝利の定義づけをしたか?
せいぜい『様子見て戻ってくる』がその定義。だとすればそこまでは彼だって勝者だった。

問題なのはそこから先だ。
行って来い、と言ったのはツェペ……ああ、ウィルの方、で。
それに対し彼は反対した。となれば『反対して残っているが勝ち』と言えるだろ?強引にでもなんでもウィルを黙らせて看病に徹する、あるいは自分の意志で行くと結論付けて出ていくか、それならそれでジャイロの勝ちさ。
しかし結果はどうだ。ウィルの言葉に言いくるめられ――というと彼がヘタレっぽく聞こえるから語弊があるけれども。渦中に、いや火中というか。乗り込もうとしてる。
つまりはどうだ、彼はこの場においては“敗者”だろう?あくまで俺の定義に沿った考え方だがね。

ジョニィ・ジョースターはジャイロのことをこう評価した。
『君は受け継いだ人間だ』と。
もちろんそのすぐ後に『どっちが良いとか悪いとかいってるんじゃあない』とフォローもしたが、事実ジャイロは受け継いできた人間だ。
そう、SBRレースでないこの場でもウィルが受け継いだダイアーの意志を。ライバルであったレース対戦者たちの無念を。
さらにはウィルの波紋エネルギーをも――まあこれは一時的なものだろうけど。ぜーんぶ受け継いできてるんだね、これが。

ジャイロは果たして『勝者』になってウィルのもとに戻れるかな?

――すまない、少々駆け足になったがここまでは話しておこうと思ったんだ。それじゃあ、また、改めて。
72敗者 状態表  ◆yxYaCUyrzc :2012/11/06(火) 21:25:41.09 ID:DaWx0FMJ
【B-8 サンモリッツ廃ホテル3階 一室 / 1日目 朝】

【ウィル・A・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:ジョナサンと出会う前
[状態]:下半身不随、貧血気味(軽度)、体力消費(小程度まで回復)、全身ダメージ(小程度まで回復)
[装備]:ウェッジウッドのティーカップ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の打倒
1.行って来い、そして戻ってこい、ジャイロ・ツェペリ

【ジャイロ・ツェペリ】
[能力]:『鉄球』『黄金の回転』
[時間軸]: JC19巻、ジョニィと互いの秘密を共有した直後
[状態]:疲労(小程度まで回復)、精神疲労(中)、全身ダメージ(ほぼ回復)、波紋エネルギー(?)
[装備]:鉄球、公一を殴り殺したであろうレンガブロック
[道具]:基本支給品、クマちゃんのぬいぐるみ、ドレス研究所にあった医薬品類と医療道具
[思考・状況]
基本行動方針:背後にいるであろう大統領を倒し、SBRレースに復帰する
1.行ってくる、そして必ず戻る、ウィル・A・ツェペリ
2.階下の渦中に潜り状況を判断する
3.麦刈公一を殺害した犯人を見つけ出し、罪を償わせる
4.ジョニィを探す
[備考]
ウィルに波紋を流されたおかげで体力が回復しています。彼が波紋エネルギーを使用できるかどうかはわかりません。
73創る名無しに見る名無し:2012/11/06(火) 21:26:53.96 ID:mf6bLmfn
C
74敗者  ◆yxYaCUyrzc :2012/11/06(火) 21:32:21.82 ID:DaWx0FMJ
以上で投下終了です。支援ありがとうございました。

仮投下からの変更点
・文末等の修正
・ジャイロたちのもとにたどり着いた伝書鳩に対する言及を少々追加

見事にとってつけたような展開でしたが思いのほか酷評が少なくてホッとしております。
で、wiki収録に関してですが、『勝者』と『敗者』は自分の中では別の作品です。
ということで収録は別々に行います。
明日あたりにでも『勝者』を収録し、『敗者』は本投下後の意見待ちとしてもう少々おいておきます。
時間軸としては連続、投下順で見たら間に作品が挟まっている、という状態での収録を予定しています。

最後になりますが、ご意見ご感想ありましたらお待ちしております。それではまた次回作でお会いしましょう
75創る名無しに見る名無し:2012/11/06(火) 21:36:00.75 ID:mf6bLmfn
投下乙です
二人のツェペリ、凄く「らしい」感じだったと思います
76創る名無しに見る名無し:2012/11/06(火) 21:54:06.12 ID:CZJ95ZPO
投下乙!
タイトルがすごく『いい』!
敗者から勝者にのし上がれるのだろうか、楽しみ!
77創る名無しに見る名無し:2012/11/06(火) 23:36:48.98 ID:SCgV4AgW
投下乙です
怪我の功名というやつか、廃ホテル組が動き出しましたね
元気そうだがツェペリさんはこれからどうなるんだろう
78 ◆yxYaCUyrzc :2012/11/07(水) 13:01:26.67 ID:Q1eh6knu
感想ありがとうございます。
さて、『勝者』の方をwikiに収録しました。
作品ページのほか、本編目次・追跡表・書き手ページを更新しました。
不足のほか、投下から収録までに間が空いたため前後話のリンクや時系列別リンクが間違ってるかもしれません。ご指摘ありましたら連絡ください。
79創る名無しに見る名無し:2012/11/09(金) 02:03:51.76 ID:AGldVJ2u
347 : ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 01:57:14 ID:52T8yFhU
学生や社会人が足早に駆けていく朝。誰もが立ち止まり、何事かと思うような轟音が、一件の民家から聞こえてきた。
木製の家具がけたたましい音をたて床に叩きつけられる。椅子は倒れ、机が床を滑り、衝撃に合わせて棚より何枚かの食器が落っこちてきた。
壁に投げつけられた少年は、ぐぇ、と短い呻き声をあげた。視界が一瞬で真っ白になり、心臓を止められたかのように呼吸ができない。
地面に落下し、二度目の衝撃を受けても、呼吸は戻ってこなかった。まるで息をする方法を忘れてしまったようだと、康一は空気を求めて喘ぎながら、思った。

パリン、と陶器が割れる音が聞こえる。砕けた細かい破片を踏みしめる音。
パキ……、パキ……、パキ……。足音に合わせ、倒れた康一に近づく一つの影。
彼を投げ飛ばした少女、山岸由花子が迫りくる。

由花子は興奮を抑える様に深呼吸を繰り返していた。ゆっくりと息を吸い、大きな扉を押し開けるかの様に、肺の奥にためていた空気を吐き出す。
彼女は必死で冷静になるよう、言い聞かせていた。
まだよ、まだ漏らしては駄目。ここからが本番じゃない、と。自身に言い聞かせるように、そう呟いた。

左まぶたの痙攣が止まらない。彼女の高ぶり、残虐性を知らせるように目元の筋肉が収縮を繰り返す。
ピクピク、ピクピクと。震えが大きくなるに従って彼女の中で、大きなさざ波が生まれる。それに呼応するかのように、彼女の美しい黒髪も震えた。
獲物を前にした蛇のように、ざわめき、首をもたげ、凶暴な目で康一を見下ろす。少年はごくりと唾を飲み込んだ。


「……それで」


弱弱しい声が沈黙を破る。康一の声は震えてはいなかったものの、懇願するような声音だった。
隠しきれない恐怖と戸惑いの色が漂い、由花子の心の震えを更に大きくする。憐れむような視線と声が、彼女の中の何かを刺激した。
少年は続きを言おうと口を開くが、途中でそれをひっこめる。代わりに短い、押し殺した唸り声が漏れ出た。
彼が言葉を言いきる前に、由花子の長く、獰猛な髪の毛が少年の体を宙吊りにしていた。

「一体、僕に……なんのようだっていうんだい…………?」
「よくもそんなセリフが吐けるものね……私に、あんな仕打ちをしておきながらッ」

ぎゃ、と短い悲鳴に続き、轟く衝突音。康一の体は弾丸のように弾き飛ばされ、もう一度壁へと叩きつけられる。
耳を覆いたくなるような音が聞こえた。グシャリと音を響かせ、少年の体が折れ曲がる。見ているほうが、聞いているほうが痛々しく思えるほどだ。
康一の体は何度も何度も、床に、壁に、そして天井に叩きつけられた。出来の悪いピンボールのように、少年の体は何度も跳ねかえり、はずみ、由花子はそんな様子を薄笑いを浮かべ眺めていた。

最後に一段と派手に食器棚を吹き飛ばし、そこでようやく由花子は一満足する。埃が収まらぬうちに、瓦礫の中より足だけ突き出た少年を引きずり出した。
由花子は彼を逆さ吊りにしたまま、改めて少年の顔を眺めてみた。愛する恋人と見つめ合うような至近距離で、彼の顔を見つめてみた。
青あざ、切り傷、水ぶくれ。傷だらけの泣きべそ。そんな表情を浮かべた彼は、大層ひどく、醜く見える。
由花子は笑う。情けない男ね、と少年を鼻で笑い、そしてそんな彼に向かって手を伸ばす。
少年への処刑はまだ終わっていない。由花子の高ぶりは、この程度では収まらなかった。

康一の悲鳴が宙を切り裂いていく。手入れのいき届いた尖った指先が、彼の傷口を抉りとっていく。
目に鮮やかな赤い肉、その奥底までずぶりずぶりとその指を射し込んでいく。康一が身をよじらせ苦痛にもがくが、由花子は一向に意に介さない。
爪が丸ごと埋まるぐらいまで、女は指を進め、長く轟く少年の痛みの叫びに身体を震わせた。心地よい興奮が彼女を満たしていた。

自分のことを侮辱したこのガキを、今確かに自分は蹂躙している。踏みつけ、屈服させ、懇願させている。他でもない彼を。この私が。
加虐心が空っぽの体へ流れ込む。素晴らしい感覚だった。満ち足り、充実感が、彼女を包んでいた。
由花子はしばし時間を忘れ、その高揚感に身をよじらせていた。康一のすすり泣きと絶叫が、民家を包むように響いていく。
80創る名無しに見る名無し:2012/11/09(金) 02:15:38.01 ID:AGldVJ2u
348 : ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 01:59:17 ID:52T8yFhU
やがて満足したのか、由花子はその指を引き抜いていく。
些か名残惜しい気持ちもあったのだろう。突き刺した時の倍以上の時間をかけ、引き抜く際には関節を曲げ、爪でひっかき、彼の内側を徹底的に痛み付けるのを忘れない。
康一は几帳面に刺激を与えるごとに悲鳴を上げ、身をよじる。それが由花子にはたまらなく心地よかった。


「なんで……」


涙声の少年が哀れっぽく呻いた。依然逆さ吊り、宙づりの彼の頬を、傷口から流れ出た血が濡らしていく。
由花子は血で真っ赤に染まった指先を口で含み、唇を朱に染める。
口の中に広がる鉄苦さ。生温かく、張り付く様な弾力のある液体が口の中に広がっていく。
広瀬康一の血で自分が汚れることに嫌悪感はなかった。それを上回る満足感が、少女の中を満たしていたから。

反対向きの少年の頬を両手で包み、優しく撫でる。涙で潤み、問いかけるような少年の視線を受け止めながら。由花子はゆっくりといとおしむ様に康一の頬を撫でる。
血が筋になって少年の頬をすっと流れていく。赤い線が無数に走り、彼自身の血で肌が染まっていく。

今度はその両手で、十本の爪で、由花子は少年をいたぶり始めた。
万力の力で全ての爪を喰いこませていく。プツリ、プツリと肌を突き破る音。ジワリと赤の液体が滴り、零れてくる。
そしてそれに調和するように、少年の長い、長い呻き声がこだましていた。由花子は夢中でその行為を続けた。時間を忘れるほど、それに熱中した。


どれほどの間、そうしていただろう。どのぐらいの間、由花子は康一をいたぶっていただろう。
気がつけば由花子は肘まで真っ赤に染まっていた。少年の顔には無数の傷跡が蟻塚のように空いている。
二人はともに、制服の元の色がわからないぐらい、血まみれになっていた。

正気に戻った由花子はそっと康一をその場におろしてやる。
トスン、と軽い音が響き少年は久方ぶりに大地に降り立つ。彼にその事を喜ぶ余裕は既になかったが。

辺りが急激に静まり返っていった。しんと冷える民家と、誰もいない街並み。聞こえるのは康一が痛みに喘ぐ声と、彼の荒い呼吸音だけ。
由花子は彼を見下ろす。康一はうなだれ、その体を小刻みに震わせる。沈黙が二人を包み、しばらくの間、時だけが過ぎていった。


「山岸、由花子さん……なんだよね?」


康一が口を開いた。少女は返事を返すことなく、口を開いた少年を突き刺すように見つめる。
少年はそれを肯定と受け取ったようだ。彼は話を続ける。

「なんで、僕に、こんなことを」
「……殺し合いで誰かを殺すのに理由が必要とでも?」

由花子は少し間をおいてから楽しげな声でそう言った。ゾッとするような声だった。
氷のように冷たく、鉄のように頑なな声。であるのにその声は確かに喜びに満ちていた。
楽しくて仕方ない。幸せでどうにかなりそう。そんな感情が手に取って確かめられそうなほど、少女の声は朗らかで透き通っている。
相反する二つの感情をその声に乗せ、由花子の言葉が康一の鼓膜を震わせた。
少年の胃がぐらりと揺れる。確かな恐怖を、彼は感じ取る。
81創る名無しに見る名無し:2012/11/09(金) 02:17:45.41 ID:AGldVJ2u
349 : ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 01:59:48 ID:52T8yFhU
湧き上がった感情を誤魔化すかのように、康一は言葉を繋げる。
焦燥感、危機感。二つの感情に突き動かされ、彼はこう付け加えた。


「でも、由花子さんは僕の……―――」


恋人だったんじゃないの、と。

だがその言葉を遮るように黒色の光が彼を襲い、少年はまたも黙らされた。
それを言えばどうなるかは先で嫌というほど味わったはずなのに、それでも康一は思わずそうこぼしてしまったのだ。
ひょい、と気軽な感じでラブ・デラックスが彼の体を締め上げ、そして康一の体が縛りあげられる。
これ以上ないほど痛みつけられているはずなのに、それでも痛覚だけは彼の体を離れていない。

ギリギリと、骨まで軋む髪の圧力。ひきつぶすように胃が、心臓が。内臓全てが圧迫されていく。
康一はもう言葉も出ない。身体中が激痛に溢れ、どこがどう痛いのかすら曖昧なほどに彼の身体は全身痛みで支配されていた。
しばらくの後、由花子が拘束を緩めた。絞りあげられた雑巾のように、惨めで汚い少年の残骸が、床に崩れ落ちる。
康一は低く、唸るように、泣いた。

「アンタのその図々しい話は聞きあきたわ。一度でも充分なのに、二度もそんな話は聞きたくない」

そこにはからかいの響きはなかった。しかし同時に温かみもなかった。
この民家に来てから始めて、由花子の顔に怒りの色が灯った。殺意や愛情、憎しみ以外の初めての感情だ。

由花子が康一を連れ去って真っ先に口にしたその話。それは彼女にとって侮辱以外の何でもなかった。
彼曰くこの舞台は様々な人々たちが集められ、その中には時間軸の違いあるとのこと。
曰く康一は由花子と知り合う前から呼び出され、故に由花子とはこれが初対面であるし、どんな感情を持てばいいかわからない。
将来の恋人と言われてもピンとこないし、由花子の気持ちに対しては戸惑い以外の何も持てない。
要約すれば、康一の言っていたことはこんな感じであった。そしてそれは由花子の中で暴力という感情を膨らませ、結果二人はこうして蹂躙し、蹂躙されている。

由花子にとってもその話はどうでもいいことばかりだった。
時代を超えていようがいまいが知ったことでない。康一が過去から来ていることに対してはそう、としか言いようがない。
他の参加者なんて知ったことでないし、だいたい殺し合いなんて話もべつにどうでもいい。
彼女にとって大切で重要なのは終始一貫して広瀬康一のみだった。彼女にとって広瀬康一以外は何一つ興味をひくものはなかった。

そして、だからこそ! だからこそ、なによりも!
これ以上ないほど! 異論の余地を挟めないほどに彼女が気に入らなかった事は!
それは!

「げフッ」

康一を次に襲った衝撃は締め上げるような痛みでもなく、叩きつけられるような苦しみでもなかった。
山岸由花子と言う少女自身が振るった拳による殴打。由花子の鋭い拳が直接、真正面から、康一の頬と脳を揺らした。
骨と骨がぶつかり合う音、鈍くこもった打撃音。少年の眼から火花が散る。
由花子は手を緩めない。熟年のボクサーのように、彼女は拳を振るい、そして同時に彼の身体に刻みつける様に言葉を吐いた。
82創る名無しに見る名無し:2012/11/09(金) 02:21:37.87 ID:AGldVJ2u
350 : ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 02:01:34 ID:52T8yFhU
「なんで、アンタは私のことを知らないのよッ! 時代を超えた? 過去から来た? 未来では恋人?
 ふざけるんじゃないわよッ! ならッ! そうなるはずだって言うのならッ! なんでアンタはッ!
 私のことを『知らない』だなんていうのよッ!」

一言一言、区切る度に腕が伸び、康一の口から血へどが噴き出る。
一度は収まりかけた左まぶたの痙攣。残忍性が少女の中でずるりずるりと影を伸ばしていく。
濁流のように溢れかえる凶暴な気持ちが、由花子を突き動かした。彼女に拳を振るわせていた。

「未来なんてどうでもいいわ。過去から来たなんて言い訳よ。時間? 時空? 私たちには関係ないじゃないッ!
 なんでアンタは私を見てないの? なんでアンタは私を知らないの?
 こんなにも私は康一君を見てきたというのに。アンタがそうしてた間にも私はアンタを見ていたというのに。
 康一君の魅力に気づいて、康一君の良さに気づいて、康一君のことばかり考えて。
 なのに康一君はその時私のことさえ知らなかったっていうのッ!? 私に対して何の感情も抱いていなかった、そう言うのッ!?」
「がハッ…………!」
「私が康一君を想い、康一君を呪い、康一君を愛し、康一君を憎み!
 康一君のために動いて、康一君のために走って、康一君のためにかけずり回って、康一君を殺そうとしていた時に!
 アンタは私のことを『知覚』すらしていなかったッ! アンタは私の名前も、顔も、存在自体を知らなかったッ!
 なんでなのよッ! 可笑しいじゃないッ! 私のことを何だと思っているの!? 舐めるんじゃないわよッ!
 このクソガキがッ! アンタにとって私って何なのよッ! アンタにとって私はその程度の存在だとでも言いたいのッ!?
 ふざけんじゃないわよ、この屑がッ!」

由花子の感情の高ぶりは、一向にとどまる気配を見せなかった。
無抵抗の康一をいたぶる行為は続いてゆく。康一は気を失うことも、逃れることも、そしてそのまま死ぬことすらも叶わない。

「私の中にいる康一君の分、康一君の中に私がいないなんて可笑しいじゃないッ!
 どうして私が愛した分、愛してくれないの? どうして私が呪った分、呪ってくれないの? どうして私が憎んだ分、憎んでくれないの?
 私が費やした時間の分だけ費やしなさいよ。私が殺したいと思うだけ私を殺したいと想いなさいよ。私が愛おしいと思ったぐらい私を愛おしいと想いなさいよ。
 どうして康一君はそうしてくれないの? なんで、なんで、なんで? ねぇ、なんで、なんで? なんでなのかしら、康一君?」

一向に終わる気配の見えなかった暴力の嵐。ようやく拳の動きが止まった。少女の美しかった手は血でまみれ、手の甲は慣れない殴打に腫れあがる。
少年の顔はもはや判別不可能なほどに損なわれていた。コブと膨らみ、青あざと血に染まった肌。
幾つもの影が彼の顔を覆い、そして濃淡混じった無数の彩りが浮かび上がっていた。

康一は息を吸い込んで、それを耳障りな音として吐きだした。
何かを言おうと彼は口を動かしたが、それすら不可能なほどに彼の顔は由花子によって破壊されてしまっていた。
ただそれでも底のない彼の深い眼は、じっと少女に注がれていた。何かを訴える様に。

また深い沈黙が訪れた。潮時だろう、と由花子は思う。
もう充分だ、もういいだろう。これ以上耐えられない。
殺してしまおう。広瀬康一を殺し、そしてそれでおしまいだ。
彼女は髪を震わせ、康一の腕や足を押さえつける。そして腕を伸ばし、その首に手をかけた。
じわりじわりと馴染ませるように、由花子が康一の首を締めあげていく。ゆっくりと時間をかけて、少年の気道が塞がっていく。

「…………」
83創る名無しに見る名無し:2012/11/09(金) 02:23:36.75 ID:AGldVJ2u
351 : ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 02:02:50 ID:52T8yFhU
少年の澄んだ目線はずっと彼女にそそがれていた。
責めるわけでもなく、恨みを込めたでもなく。
康一の視線は、ただひたすら真っすぐに由花子の中へと突き刺さっていた。
由花子が呟く。


「……何よ、戦う気なの?」


緑色のスタンドは控え目に姿を現していた。康一の上に馬乗りなった由花子、その脇三メートルほど離れた場所に、ふわりと浮かんでいる。
由花子は少しだけ力を緩めると、汚らしい昆虫を眺めるかのよう眼でエコーズのほうを向く。
康一が何を考えているのかはわからないが、そのスタンドは由花子に対峙するでもなく、ただそこに浮いているだけだった。
攻撃の姿勢を見せるでもなく、逃走の準備をするわけでもなく。エコーズは時折身体を揺すり、首を傾げるようなしぐさを見せた。
いちいち癪に障るやつだ、と少女は思った。

死ぬならさっさと死ねばいい。戦うならさっさと戦えばいい。
いちいち反発するガキだ。何故こうも無駄に抗うのか。どうして人がこうしようとした時に、それを邪魔するようにたてつくのか。
ああ、いらつく。黙って従えばいいものを。アンタは黙って私の言う通りにすればいい、それだけでいいのに……ッ。
そんなこともできないのか! そんなことすら邪魔しようというのか!

真意の見えない行動は彼女を惑わせる。エコーズの無機質な顔。何も浮かべない康一の顔つき。
その二つの曖昧さは少女を戸惑わせ、苛立たせ、そして怒らせた。
もしかしたらそれこそが康一の策なのでは。そう思ったが感情は押し殺せなかった。

由花子は緩めていた両手を完全に離し、スタンドを展開していく。
逃げ道を塞ぐように、ゆっくりと、だが広範囲に真黒な髪の毛が伸びていく。
四方八方、縦横無尽。部屋を、そしてそれどころか民家を丸ごと包むように、由花子の髪は張り巡らされていった。

エコーズはまるで蜘蛛の巣に迷い込んでしまった蝉のようだった。
逃げ道は塞がれ、自由に動くスペースはほとんどなく、視界はもはや真黒に染まっている。
時刻は早い時間だというのに室内は薄暗く、電気をつけなければとてもじゃないが廊下を進むのも困難だろう。

挑発にのっても構わない。やるっていうのであれば徹底的に、体の芯から刻みつけてやろう。
エコーズを切り裂き、同時に本人の首をへし折ってやる。
肉体的だけではなく精神的象徴としてのスタンドまでをも、彼女は切り刻み、八つ裂きにしようとしていた。
それほどまでに由花子は、猛烈に、そして容赦なく、康一の全てを破壊つくそうとしていた。

「…………」

エコーズが動きをピタリと止める。ラブ・デラックスが伸ばしかけていた末端を宙で留めた。
戦いはしんとした空白の後に起こる。短い間だった。その一瞬の間の後に、静寂が引き裂かれた。

緑色のスタンドが風のように動いた。その尾を丸め、解き放つ。狙いを定め放ったその一撃、弾丸のように一直線に向かっていく。
なだれ込む髪の毛は一部の隙間もなく、空間を押しつぶす。まるで堤防が決壊したかのように、黒い影が部屋中を覆い尽くした。

ズシン、と揺れる音。パリン、と割れる窓。床に倒れていた康一は突如跳ね起き、由花子を突き飛ばす。直後、少年が痛みに呻く声が聞こえた。
二人がいる民家はなんとか崩れ落ちるのを堪えていたが、ラブ・デラックスがトドメとばかりに柱を叩き折り、家は壊滅状態へと追い立てられた。
天井が崩れ、床は割れ、屋根が大きく傾いた。なんとか全壊はしなかったものの、崩れた民家の外観は同情を誘う。
84創る名無しに見る名無し:2012/11/09(金) 02:27:15.31 ID:AGldVJ2u
352 : ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 02:03:24 ID:52T8yFhU
少女は訝しげに暗闇を見つめた。半壊の民家で、自らを髪でクッションのように包み込んでいた少女に傷はない。彼女のその浮かない顔は痛みからではなかった。
不可解だったのだ。
康一のエコーズが最後に放った攻撃が、少女を突き飛ばした康一の行動が、彼女の心を乱していた。

エコーズの攻撃は由花子目掛けて放たれていなかった。彼女から大幅に逸れ、背後にあった窓をねらったのだ。
康一は唯一といっていい攻撃の機会を放棄して、彼女の後ろの窓を破壊した。何故? 何のために?
少年には由花子を突き飛ばせるほどの余裕があった。ならば彼は何故あれほどまでに無抵抗だったのだろう。
突き飛ばした時もそうだ。あんなことする必要なんてなかった。その時間で、逃げたり、或いは攻撃に対処できたはずだというのに。

由花子にはわからなかった。
何をしたのかはわかっても、何故そうしたのかがわからなかった。
何が起きたかはわかっていても、どうして彼がそう動いたのかがわからなかった。

少女は、ふぅと息を吐くと、少し離れた場所に位置する康一の傍で片膝をついた。少年の脇腹に鋭く空いた傷口。それは由花子がつけたものではない。
何者かが、つい今しがたナイフで刺しぬいたような傷だ。彼女はラブ・デラックスを展開し、包帯のようにその傷口を覆ってやる。
治療とまではいかないが、これで多少出血は抑えられる。何もしないよりはましという程度の施しだったが、今はそれで我慢するしかない。

由花子はじっと康一を見つめた。自分の拳で、風船のように腫れあがった少年の顔を見つめた。

「……どういうつもりよ」
「…………」
「私はアンタを殺そうとしていたのよ?」
「…………」
「首に手をかけ、絞め殺そうとしていたのよ?」
「…………」

沈黙。康一は何も言わない。
だが間違いないだろう。何も言わなくても由花子にはわかっていたことだ。
だがどうしてもそれを受けいれられなかった。それを認めると自分が惨めで、情けなく思えて。それは彼女にとって許されざることで。

エコーズが文字を投げつけた瞬間、走った閃光。彼女を突き飛ばしたと同時に、抉られた康一の脇腹。
視界の端、窓に映った怪しい影。包帯巻きの怪しいスタンド。舌打ちと同時に聞こえた、うすら寒い男の笑い声。

由花子は叫んだ。康一の肩を掴むと、彼女はその体を揺すり、彼に向って怒鳴った。

「なんで助けたのよッ!? なんで今、私を庇ったのよッ!?」

考えてみればおかしなことだった。
由花子が康一をさらった時も、彼は暴れることなく無抵抗だった。
民家にたどり着き話をしている最中も、由花子が暴力を振るった際も、康一はスタンドを出さなかった。

冷静になればわかることだった。
康一は由花子をなだめようとしていた。由花子を落ち着かせ、辺りに注意を向かせようとしていたのだ。
彼女に向けられていた視線は二つの意味を持っていた。
辺りを警戒するようにという無言のメッセージ。そして康一自身の眼で、彼は彼女が危機に巻き込まれることのないよう、常に警戒していた。

エコーズを出現させたのは口を開けなかったのもあるが、相手のスタンドを視界に捕えたから。
由花子を挑発するようにスタンドを動かしたのは、彼女が攻撃の対象にならぬよう。
85創る名無しに見る名無し:2012/11/09(金) 02:28:27.98 ID:AGldVJ2u
353 : ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 02:04:01 ID:52T8yFhU
広瀬康一は最初から“そうしていた”のだ。彼は“既に”由花子に出会った時から彼女を守っていた。
彼は理解していた。由花子がどんな人間かを。どんな激情家で思い込みが激しく、一度思い込んだら他人の意見を聞こうとしないかを。
無駄にもがけば二人もろとも屠られる。下手に刺激したなら殺人鬼に隙を見せることとなる。
康一はそれがわかっていたので、ああしたのだった。全ては自身と、由花子の安全のためだった。

犠牲になろうだなんて、そんな気持ちはなかった。
広瀬康一にとってそれはただ単にすべきことをしただけのこと。
未来の世界で自分が幸せにし、自分を幸せにしてくれるであろう少女をみすみす殺すことなんて、彼にはできるはずがなかった。

だから我慢した。痛くてもこらえた。言いたかったけど言わなかった。襲われる直前、彼女を突き飛ばした。
ただ由花子が気づくのが遅れただけのことだ。全てはそれだけのことだった。


「正直気の強い女の子とは聞いていたけど……まさか問答無用でここまでされるとは思ってなかったよ」


苦笑いを浮かべ、少年はそうこぼす。
腫れがすこしおさまったのか、もごもごとした声であったが、彼の口は言葉を紡いだ。
少女はまるで怒鳴られたようにその言葉に身体を固くする。
怒りは既に去っていた。殺意もいつのまにか、どこかに飛んでいた。

あるのは戸惑いと脅え。こんなことをした後でも、広瀬康一は笑った。自分をリラックスさせるように微笑んだのだ。

どうしてそんなことができる。何故そうまでしてくれる。
由花子はわからなかった。だがそのわからないという気持ちは、決して嫌ではなかった。
冷たく、黒く尖った殺意でなく、温かな濁流が彼女の中を駆け巡った。
罪悪感とそれ以外の“何か”が彼女の心を満たしていく。心を振るわせ、締め上げた。

「いきなりは無理かもしれない。やっぱり僕には初対面の女の子といきなり仲良くなるのは難しいや」

場所も忘れ、時も忘れ、康一は笑った。
そうしている場合でないとはわかっている。包帯巻きの謎のスタンド使い、彼の気配はまだ残っている。だがそんなことよりもやらねばいけないことがあるのだ。
罪悪感と戸惑いで、どんな顔をしたらいいかわからない。
そんな山岸由花子を放っておいていいわけがなかろうが。どうして彼女をこのままにしていられようか。

康一は床に腰を下ろしたまま、由花子の眼を見つめる。

だからさ、そう少年は言葉を繋ぎ彼女へと笑いかけた。朗らかで眩しいくらいの笑顔が彼の中で咲き誇っていた。

「まずはお友達から……始めませんか?」
86創る名無しに見る名無し:2012/11/09(金) 02:31:14.81 ID:AGldVJ2u
354 : ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 02:04:49 ID:52T8yFhU
それで由花子さんが満足してくれたら、の話だけど。
そう康一が慌てて付け加えた言葉を、彼女はもう一度口の中で繰り返した。
由花子は思わず脱力してしまいそうだった。指や、肩や、首や、足から一つ、また一つ力が消えていく気分だった。

少女はその時、自らの敗北を知った。広瀬康一には敵わない。自分は一生この男に勝つことはできない。

肉体的にという意味ではない。精神的にということでもない。
由花子は恥じた。自らの未熟さ、そして正眼のなさを恥じた。それは同時に広瀬康一への称賛でもあった。
自分の行為を許した、この少年の懐の大きさ。少女はそれを認めた。小さいけれど、なんて大きな男なのだと由花子は思った。

「……お友達も何も、まずはここを切り抜けないことには何も始まらないわ」

どうしたってキツイ口調になってしまう。ついさっきまで殺そうとした相手なのだ。今さら彼の存在を認めたところで、どう対処を変えればいいのかわからない。
いや、認めたからこそ、それを相手に知らせるようなあからさま態度の変化は由花子にとって照れくさかった。
自然とぶっきらぼうな口調になり、視線は周りへ向けられる。警戒すべき敵がいることを、どこかで歓迎していることは否めなかった。

「そうだね。じゃあ、僕と協力してくれる?」

康一は何も言わなかった。その変化に気づいているのか、先より少しだけ笑みを深めると彼はそうとだけ言った。
由花子は黙り、すぐには返事を返さない。そしてふんと鼻を鳴らし、彼に早く立ちあがるよう腕を貸す。少年は痛みに顔を歪ませながらもその手を取った。




山岸由花子、広瀬康一。
ガール、ミーツ、ボーイ。少女は少年に二度恋をする。
今、スタンド使い最凶のカップルが、一人の殺人鬼と対峙する。

はたして愛は障害を乗り越えるのか?



                                   to be continue……
87創る名無しに見る名無し:2012/11/09(金) 04:10:45.88 ID:JgcDEyxE
355 :BREEEEZE GIRL     ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 02:05:36 ID:52T8yFhU



【B-5 南部 民家/一日目 午前】
【J・ガイル】
[能力]:『吊られた男(ハングドマン)』
[時間軸]: ホル・ホースがアヴドゥルの額をぶちぬいたと思った瞬間。
[状態]:健康、イライラ
[装備]:コンビニ強盗のアーミーナイフ
[道具]:基本支給品、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
0.カップル死ねよ。
1.思う存分楽しむ。ついでにてワムウの味方や、気に入りそうな強者を探してやる。
2.12時間後、『DIOの館』でワムウと合流。
3.ワムウをDIOにぶつけ、つぶし合わせたい。
4.ダン? ああ、そんな奴もいたね。
  
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:全身傷だらけ、顔中傷だらけ、血まみれ、貧血気味、ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1.とりあえずこの場を切り抜ける。
 
【山岸由花子】
[スタンド]:『ラブ・デラックス』
[時間軸]:JC32巻 康一を殺そうとしてドッグオンの音に吹き飛ばされる直前
[状態]:健康、血まみれ、???
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品合計2〜4(由花子+アクセル・RO/確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:広瀬康一を殺す?
1.康一くんをブッ殺す? まずはここを切り抜けてから。

356 :BREEEEZE GIRL     ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 02:09:23 ID:52T8yFhU 以上です。何かあったら指摘ください。
元ネタの歌は凄く爽やかで素敵です。UよりTのほうが好みです。
どなたか代理投下をよろしくお願いします!
88創る名無しに見る名無し:2012/11/09(金) 23:51:38.75 ID:4gFI57xB
投下乙!
うわ、すごい。こう来るとは
これは惚れますわ
89創る名無しに見る名無し:2012/11/10(土) 17:18:40.46 ID:TXtZwcLA
投下乙です。

二人の間に時間の壁なんて無かったんや!
90創る名無しに見る名無し:2012/11/11(日) 12:13:50.23 ID:9X7KEY23
投下乙
康一くんまじイケメン
91創る名無しに見る名無し:2012/11/11(日) 17:41:50.11 ID:+LE/HaAg
投下乙
康一くんがイケメンすぎて震えるぞハート!
これは由花子じゃなくても惚れざるをえないな
92創る名無しに見る名無し:2012/11/13(火) 22:40:50.60 ID:EtiXCXrd
358 : ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:05:34 ID:VPgF32Is
じっと空を眺める男の後ろ姿がそこにはあった。遠く広がる空には藍色が滲み始め、いよいよ太陽の光も強まり始めていた。
思えば遠くまで来てしまったものだ、と男は思った。走って、走って、走り通して……ついにはこんなところまでやってきてしまった。
不意の哀愁が彼を襲った。ただ理由もなく、乾いた砂漠と一族の歌が懐かしくてたまらなくなった。

時間は恐ろしくゆったりと辺りを漂っている。男は手元に残った紙切れに、もう一度眼を落した。
何人もの名前がそこにはあった。数えるのも億劫になるほど、人の名前が記されている。
そのどれもが彼にとってはどうでもいいことのように思えて、男は黙って名簿をカバンにしまいこんだ。
今は考えるよりも行動しよう。為すべき事を終えれば幾らでも時間はあるはずだ。

静まり返った街並みを一人、男はゆっくりと進んでいく。
恐れる必要はない。何一つ見逃すまいと辺りに眼を配り、彼は慎重に足をすすめていった。
ジョニィ・ジョースターはそう遠くない場所にいる、と彼は思っていた。
これと言った理由があるわけではない。強いて言うならばあの青年が見せた暗く冷たい眼だろうか。
あの眼を思い出すたびに、彼の中でその想いは大きく膨らんだ。それは次第に思いというより確信にすり替わっていった。


ヤツの眼を思い出せ。あれは覚悟の座った目だった。自分の目的のためならば難なく一線を超えてしまえる眼。
ヤツは、俺と同じ眼をもっている。ジョニィ・ジョースターは俺と同じだ。目的のためならば手段や方法を選ばない意志。
それをヤツは持っている……!


ピりッ……と空気が張り詰めていくのを感じ取った。もはやそれは男の中で確信と言うものから確固たる事実として姿を変えていた。
男の足が自然に早まる。ぶるり、と電流が駆け抜けていくような感覚が彼を襲い、彼の身体は戦いを前に自然と高揚し、緊張し、震えた。

男は足を進め続けた。一切気を緩めることなく街の道を歩き続け、そして次の十字路を左に曲がったところでピタリと立ち止まった。
いた。そこに立ちつくしているのはジョニィ・ジョースター。
二本の足でしっかりと立ち、左手は右手首を固定。銃の狙いを定めるように、その右手を彼目掛け伸ばしている。

即座に男はスタンドを傍らに呼び出した。わざわざスタンドを隠す必要はないと思った。
青年の背後に漂う薄い影は間違いなくスタンド像。どうせわかってしまうことならばわざわざ隠すまでもない。
青年の足が自由に動いていることは確かに驚くべきことだった。しかしそれもあまり考慮すべき事ではない。
この一本道、例え足が動こうが動かまいが、逃げ道はない。つまるところ、戦いは単純だ。

生きるか死ぬか。数時間後、ここに残るのはジョニィ・ジョースターか、サンドマンか。


吸い込む息はどことなくざらざらしていた。呼吸を躊躇うような重い沈黙が辺りを満たし、二人はその場に凍りついたように動かない。
狙いを定める青年の指先。懐に飛び込もうと力を込めた男の足。隙のない二人はどちらも動かない。動けない。
風が二人の間を通り抜けていった。沈黙を青年の言葉が破った。

「君は何のために戦っている……?」
93創る名無しに見る名無し:2012/11/13(火) 22:41:28.74 ID:EtiXCXrd
359 : ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:05:58 ID:VPgF32Is
ちょっとした静寂が二人の間を流れる。風が吹けば消し飛んでしまいそうなほど、薄い静寂。

「土地のため、家族のため、一族のため」

男は短くそう答えた。青年は何も言わず、ただ頷いた。返事のしようがなかった。
男は一呼吸置くと、歯の隙間から漏らすように息を吐き、話を続けた。
別に話す必要はなかった。二人は戦うべきはずで、おしゃべりなんかを楽しんでいる場合ではない。
だというのに、何故だかそうしなければいけないと思った。
そうしなければ自分の行為がまちがった、汚れたものに成り下がってしまう。そんな気がインディアンの彼にはしていた。

「俺はただ奪われたものを取り返したいだけだ。ほかは何も必要ない。
 大地があって、精霊たちを祭る聖地があって、一族が暮らせるだけの場所があればそれだけでいいんだ」
「…………」
「綺麗事ばかり言ってはいられない。
 例え土地と言うアイディアが俺たちにとって掴みどころのないものであったとしても……。
 後から乗り込んできた者たちが、勝手に権利という紙きれで主張しようとも……。
 俺はただ、俺たちの生活を守りたいだけだ。なによりも俺たちにとっての大切なものを守りたいだけだ」
「…………」
「……そして、そのためなら俺は躊躇わない。一族を救うためなら、俺はなんだってやってやる。
 レースで一位にもなってやる。金を集めて買い取ってやる。誰かを犠牲にしなければいけないとでもいうのなら、殺しだって、やってやる」

言葉が宙に消えていくと、再び辺りは沈黙に満ちた。静けさが影を落として二人の間を漂う。
青年はゆっくりと手を下した。銃のように突きつけていた指先は地面を指し、背後を漂っていたスタンドが姿を消す。
青年は無防備な姿をさらしていた。チャンスだ、と男は思った。
何故そうしたかはわからないが、青年はみすみす大きな隙を見せていた。ジョニィは直立不動、サンドマンは臨戦態勢。
その一瞬は、大きな一瞬として勝負を決定づけしまうだろうというのに……青年は構えを解いた。

固く冷えたコンクリートの感触を確かめる様、そっと足先に力を込める。サンドマン、いつでも動ける体制で初撃を狙う。
青年はそんな動きを見せても、何も言わなかった。何も動かなかった。
黒く乾いた目線が男を突き刺すように見据えている。その沈黙は話の続きを促すようだった。

彼の懐まで飛び込むのにどれぐらいの時間が必要だろうか。何度跳躍をし、どれほど踏み込めばこの拳は彼に届くだろう。
もう何も話すことは残っていなかった。しかし、考える時間が欲しかった。
サンドマンは白々しいとはわかっていたが、話を続けた。彼の体を貫くイメージを脳裏に浮かべながら、青年の問いかけに答えを重ねる。

「だからジョニィ・ジョースター、俺はお前を殺す。お前にはここで死んでもらう。
 遺体を大人しく引き渡せばと考えていたが、お前はあまりに知りすぎている。
 足が動くようになっていて、俺の知らないことを多く知っているようにも思える。
 取引を確実にするためにも、お前にはやはり死んでもらうしかない」
「……一族のため、聖なる大地のためか」
「ああ、そうだ」

青年はため息をこぼさなかった。その瞳に感情の波風一つ立てずに、彼は言った。



「―――ないんだよ、サウンドマン」
94創る名無しに見る名無し:2012/11/13(火) 22:42:06.64 ID:EtiXCXrd
360 : ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:06:24 ID:VPgF32Is
耳が痛くなるほどの沈黙が落ちた。
インディアンは眉をひそめた。まさに今飛びかかろうと、足に込めていた力を緩めた。
目の前にいる青年が放った言葉の意味が理解できなかった。彼の言い放った五文字の言葉が、一体何を指し示しているのか、彼にはわからなかった。

青年は繰り返す。なくなったんだ、とはっきりとした口調で繰り返した。男は何が、と聞き返すことができなかった。
青年の瞳は寒々しさを覚えるほどにからっぽだった。がらんどうの空洞の奥には感情が潜んでいるかどうかも、わからない。
肌の下で心臓が大きく膨らんでいくのがわかった。それが上下に揺れて、肺と喉が締め付けられた。男は無償に苦しかった。
沈黙がこれほどまでに苦しいということを、彼は今初めて知った。

今から始まるものが何であるにせよ、決して良くないものだということだけはわかっていた。
多分言葉を遮るように襲いかかることもできたはずだ。彼を黙らせるように飛びかかることも容易かったし、きっとそうしたほうが自分は幸せなのかもしれない。
けどそうしなかった。男は、息を殺し、青年の言葉を待った。ジョニィ・ジョースターは話を続けた。


「1890年12月28日のことだった。
 その日サウスダコタ州、ウーンデット・ニーで争いが起きた。争いという名の虐殺が行われた。
 米軍第七騎兵連隊はスー族インディアン、女子供を含む200人を、或いは一説によれば300人以上を、一斉に殺した。
 軍は速射ホッチキス砲で無差別砲撃を加えたんだ。それだけでなく、当時新鋭のスプリングフィールド銃がこの虐殺では試用された。
 幼い子を抱いて逃げる女性も、馬も、犬も、子どもも狙い撃ちし、皆殺しにされた。100人弱の戦士たちは、没収された銃を手にするまでは素手で虐殺者たちと戦った。
 戦士たちは銃をとった後はテントに立てこもり、白人を狙い撃ちした。テントに火が放たれ、全身に銃弾を浴びるまで勇敢に戦った」


何を言っているんだ、と思った。お前は一体どこの、何の、誰の話しているんだ。
しかし話を聞けば聞くほど鮮明に、男の頭の中にその光景が思い浮かんだ。生々しいほどのリアリティがその話にはあった。

銃弾を喰らいもんどりうつ戦士たちの姿が見える。泣きながら母の名を呼ぶ子供たちが撃ち殺される。子の死体に縋りつく女たちが物言わぬ亡きがらに変わる。
決して降ることなのない、真っ赤な雨が砂漠に堕ちていた。息を吸い込めばその臭いをかぎとれるほどに、青年の話は鮮烈だった。
青年はまるで実在した、本当の事件のことを話しているようだった。男は自分の足元がゆっくりと崩れ落ちていく錯覚を覚えた。


「銃と砲弾の降り注ぐ中、女子供たちはそれでも3キロばかり逃げた。だが負傷のためにそこで力尽き、一人、また一人と倒れていった。
 部族員のほとんどが武器を持たず、それを四方から取り囲んだ兵士達が銃撃した。白人は29人死んだ。白人側の負傷者は39人だった。
 インディアンの抵抗はないに等しかった。白人たちは味方の攻撃の巻き添えを食って死んだんだ。それほどまでのすさまじい無差別銃撃だった。
 ある兵士はその様子をこう語っている。
 『ホッチキス砲は1分間で50発の弾を吐き、2ポンド分の弾丸の雨を降らせた。命あるものなら何でも手当たりしだいになぎ倒した。
  この女子供に対する3キロ余りの追跡行は、虐殺以外何ものでもない。幼子を抱いて逃げ惑う者まで撃ち倒された。動くものがなくなってようやく銃声が止んだ』
 またある兵士はこうも語っている。
 『これまでの人生で、このときほどスプリングフィールド銃がよく出来ていると思ったことはない。乳飲み子もたくさんいたが、兵士はこれも無差別虐殺した。
  この幼子達が身体中に弾を受けてばらばらになって、穴の中に裸で投げ込まれるのを見たのでは、どんなに石のように冷たい心を持った人間でも、心を動かさないではいられなかった』」


めまいが彼を襲っていた。吐き気もだ。
聞きたくないと思えば思うほどに、ジョニィ・ジョースターの言葉一つ一つが容赦なく彼の鼓膜を揺すぶる。
やめてくれ、と男は叫びたかった。彼の話を遮り、殴りつけ、その荒唐無稽な話で自分を惑わせるのはやめろと怒鳴りたかった。
だが彼がそう思えば思うほど身体は固くなった石のように地面にこびり付き、動かなかった。
青年の話は暗く死んだ世界の向こうにあるものを想像させた。荒涼とした砂漠と、誰ひとりいない故郷の影。
95創る名無しに見る名無し:2012/11/13(火) 22:43:01.27 ID:EtiXCXrd
361 : ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:09:19 ID:VPgF32Is
「ワゴン砲の砲撃でばらばらになったたくさんの死体の中、こときれた母親の胸で乳を吸おうと泣き叫ぶ赤ん坊もいた。
 虐殺から数日後、凍結した女性の死体の下から赤ん坊の泣き声が聞こえ、女の子の赤ん坊が発見されたんだ。
 死んだこの女性の娘で、発見された時、母親は彼女を守る様に腕にうつ伏せになって娘を抱いたまま死んでいたと言う。
 彼女はその後、軍率いる准将に“ウーンデッド・ニーの虐殺の生きたマスコット的存在”として利用され、育てられた。
 ロスト・バードと名付けられた彼女は結局のところ、差別や虐待に苦しみ29歳の若さで死んだ。最後まで故郷のことを想い続けていたと記録は語っている。
 この虐殺を白人側は“ウーンデッド・ニーの戦い”と呼び、虐殺を実行した第7騎兵隊には議会勲章まで授与した」


男は青年の声に混じって風の歌を聞いた。一族皆の声をのせ、笑いや雄叫びが混じる、懐かしい歌を。

砂漠に立ち上る蜃気楼のように、全てが捩じれて、霞んでいく。朝の日差しが彼を包み、視界全てが真っ白に染まった。
足元がフワフワする。平衡感覚が狂い、全ての感覚がマヒしていく。
いっそのこと悲しみや苦しみの感覚もマヒすればいいのに。そう願ったがむしろ感情は殊更鋭くなっていた。
全身を針で貫いたように、痛みが彼を襲っていた。


「サウンドマン、君の帰るべき場所はもうない。君が守りたいと思ってるものはもう失われた。
 アメリカ政府は同日、フロンティアライン消滅を宣言した。
 事実がどうであれ、結果は変わらない。その日、アメリカ政府にとってインディアンは消滅した。
 無関係だった150人もの女子供は無抵抗、無意味に、家畜同然に虐殺された」



―――君の部族は、もう、死んだんだ。



96創る名無しに見る名無し:2012/11/13(火) 22:43:58.11 ID:EtiXCXrd
362 : ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:09:57 ID:VPgF32Is




「うそだ」


長い長い沈黙の後、零れ落ちた言葉はそんなものだった。それはガラクタのように意味を持たない言葉だった。砂漠でコンパスを失った地図よりも無価値な言葉。

そうかもしれない、とジョニィ・ジョースターは返した。
彼の眼はとても静かだった。そしてとても透き通っていた。砂粒を含まない、無機質で、固くて、気温の感じられない眼だ。
風の歌が止んだ。もう誰の声も聞こえなかった。誰の歌も聞こえなかった。

「ウンデット・ニーの虐殺は避けられなかったという説もある。虐殺が、ではなく民族の滅亡が、という意味らしいけど。
 君も知っての通り、生活環境の破壊は加速していた。インディアンは住む土地、住む土地追い出され、絶望のどん底にあった。
 きっかけがなんであれ、衝突は起きただろうということだ。それが濁流で押し流されるように一瞬なのか、真綿で締める様にじわりじわりとなのかの違いだ。
 そしてその結果がどうであれ、それを指揮するのは、指示するのはアメリカ政府だ。インディアンに対する排他的行為は、他でもない、公式見解だった。国民の総意だった。
 アメリカ国民が、移民たちが、白人が、そして……大統領が、それを認めたんだ」

息だけが不自然に短く、途切れ途切れに繰り返されていた。
言葉はなによりも男の心を傷つけていた。それは心臓を刃物で抉り取るかのような激痛を男に与えていた。
青年の言葉には一切の許容も、容赦もない。インディアンの男はそっと眼を瞑った。

「サウンドマン、君はそれでも戦うのか。君にはもう守る故郷も、守るべき人もいない。それでも、例えそうだとしても、君は戦うというのか」

真冬の砂漠よりも冷たい孤独感が彼を襲っていく。そこにはなにもなくて、誰もいない。
何もかもが崩れ落ち、湧き出た故郷の記憶さえ次々に失われていく。砂漠の砂を掬おうとしているかのようだ。急速に全てが現実感を失っていった。
光が消える。臭いが消える。風が消える。声が消える。もう何も考えられなかった。もう何も考えたくなかった。


「サウンドマン」
「その名前で俺を呼ぶんじゃない。白人のお前が、その名前で、俺を」


ジョニィ・ジョースターの長い影が男の上に落ちていた。倒れ伏し、固いアスファルトを見つめる男は振り絞るようにそう言った。
サンドマンの瞳から涙が一粒だけ溢れ、乾いた大地に音をたてて零れた。
泣けばいいのか、怒ればいいのか、決めかねた様な様な表情を彼は浮かべていた。ジョニィは何も言わなかった。
何かを言うべきかどうか、長いこと悩んでいたが、結局口を開くのを諦めた。ただ男が立ち上がるのを彼は待った。
温かい日差しが二人を照らしていく。男の涙と嗚咽は長いこと止まらなかった。



97創る名無しに見る名無し:2012/11/13(火) 22:44:28.57 ID:EtiXCXrd
363 : ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:10:20 ID:VPgF32Is




「共に戦うことはできない」

泣き疲れた男の声に、青年は沈痛な面持ちで頷いた。
きっとそうなるだろうとは思っていた。それでもできることなら彼と共に戦いたいとジョニィは思っていた。

サンドマンは全てを失った。故郷も一族も土地も大地も、なにもかも。ジョニィ・ジョースターの言うとおりだった。
彼がそれでも立ちあがる理由は、もはや自分しか一族がいないという使命感だ。

全て失った。例え遺体を持ち帰っても今さら約束通り土地が返してもらえるとは、もう思えない。
例え返してもらえたとしても、近い将来インディアンはきっと土地を追われる運命にあるのだろう。
白人は白人だ。インディアンがインディアンであるのが自然であるように、彼らはどうしようもなく彼らなのだ。
そうしていつかはこの地上から彼ら一族はいなくなってしまうのかもしれない。聖なる大地は汚され、白人の手によって壊されてしまうのかもしれない。

だからといって諦められるわけがなかった。絶望のままに、命を投げ捨てるわけにはいかない。
なぜならまだ自分は生きているんだ。まだ、自分が、残っているのだから。
この身に流れる血が、歌が、魂が。それはどうしようもなくインディアンのものだった。
まだインディアンは死んでいない。サウンドマンはまだ、生きている。

過去は変えられないかもしれない。未来を変えることも難しい。しかしそれは未来を諦めることとイコールではない。
インディアンの男の中で燃え上がったのは復讐心でもなく、噴怒の炎でもなく、代々受け継いだ未来に託す想いだった。

血を絶やすわけにはいかない。必ず生きて帰って、自らの手で一族を創りなおさなければいけない。
それは今まで以上に過酷な旅路を意味していた。SBRレースやこのデスゲームで行った“命を賭してでも”、そんな無謀な戦いをすることはもうできなくなった。
その瞬間から、彼は決して死ねなくなった。自分たち一族全ての祈りを乗せ、彼は必ずや故郷に帰ることを誓った。


だからこそッ!
彼はジョニィと共に行くことを拒否する。ほかでもない、ジョニィ・ジョースターが白人だったから。
彼の元からすべてを奪い、全てを裏切った人間と同じ人種だったから。

感情的な問題だった。冷静に考えればとか、合理的に考えればだとか、そんなことはわかっている。
だがそれでも男は青年を拒否した。彼を殺す気もないし、邪魔をしようとも思わないが、力を合わせることは無理だった。
もうこりごりだったのだ。勝手に権利を主張し、それに合わせて契約や約束というものを学んでも、それでも結局白人は与えようとしなかった。
かわりに彼の手元からすべてを奪っていった。
98創る名無しに見る名無し:2012/11/13(火) 22:45:17.56 ID:EtiXCXrd
364 : ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:10:43 ID:VPgF32Is


もう誰にも頼らない。もう誰も頼れない。

ジョニィは眼の前に立つ男を見つめた。なんて気高き男なんだろう。なんて誇り高い男なんだろう。


―――だというのに、何故彼の横顔はこうも儚く見えるんだ。


青年の心は締め付けられる。できることなら手伝いたい。だがそれは不可能だった。これはもう、彼自身の戦いだった。
自分には決して手出しができない、彼だけの戦い。

泣きだしたくなるような、叫びたくなるような、郷愁がジョニィを襲う。

青年は黙って事実を記した百科事典を男に手渡す。そして彼に伝言を頼んだ。
ジャイロ・ツェペリに会ったら伝えてほしい。第三回放送の時刻に、マンハッタン・トリニティ教会で会おう、と。
サンドマンは頷き、そして言う。

「ジョニィ・ジョースター、また会おう。お前には借りができた。
 “俺たち”は借りた借りは必ず返すと誓ってる。だから必ず生きて、また会おう」
「“ゴール”は僕と一緒なんだろう? 殺し合いからの生還。ならまた必ず会えるさ。その時に返してくれよ」

殺し合うはずであった男たちは、固く手を握り合う。
青年の言葉に、男の顔が微かにほころんだ。僅かにだけ見せた微笑はすぐに消えると、サンドマンは身をひるがえす。
別れの合図に手をあげるとジョニィが見守る中、男は徐々にスピードを上げていく。そうしてすぐに、サンドマンは道の先へと姿を消した。

彼の姿が見えなくなっても、青年は長いことそこから動けなかった。
彼の脳裏に浮かんだのはアリゾナの砂漠。不意にジャイロと砂漠を旅していた時のことを、彼は思い出していた。

見渡す限り砂しかない不毛の大地。サボテンと岩、砂と太陽しかそこにはない。
ジャイロは不満ばかり言ってたような気がする。といっても彼はいつでも不満ばかり言ってたような気がするけど。
自分は馬のことが心配で風景を楽しむ余裕なんてなかった。ああ、道のわきにある十字架がすごく不気味だったことは覚えてる。
ジャイロと顔を見合わせて苦笑いしたもんだ。突っ切る時はドキドキしたな。
スタンドと鉄球があると言え、馬がやられたらそこでアウトだ。今考えればよくぞ無事ですんだものだ。
そういえばサボテンの針で攻撃するテロリストもいた。ワイヤー使いのスタンド使いもいた。煙や川を爆弾にかえるヤツもいた。ロープの達人、マウンテン・ティムと共に戦った……。

いくつもの思い出があった。冗談のように笑える出来事があった。今だから笑い飛ばせる無茶も、少しはある。
サンドマンはあそこで育ったのだ。彼にとっての故郷なんだ。愛すべき家族、愛すべき故郷。

「サンドマン、君の故郷はあそこにあったんだな」

ジョニィは一人思った。立ち去った男のことを思い出し、彼は一人空に向かって呟いた。


―――祈っておこうかな……彼の旅路の無事を…。そして、彼が故郷に帰れるその日のことを……。
99創る名無しに見る名無し:2012/11/13(火) 22:46:16.91 ID:EtiXCXrd
365 :彼の名は名も無きインディアン   ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:12:06 ID:VPgF32Is


【D-7 南部/1日目 朝】
【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
1.ジャイロを探す。
2.第三回放送を目安にマンハッタン・トリニティ教会に出向く
[備考]
※サンドマンをディエゴと同じく『D4C』によって異次元から連れてこられた存在だと考えています。
※召使のもう一つの支給品は予備弾薬でした。ジョニィの支給品はフーゴの百科事典のみでした。
※サンドマンと情報交換をしました。

【サンドマン(サウンドマン)】
[スタンド]:『イン・ア・サイレント・ウェイ』
[時間軸]:SBR10巻 ジョニィ達襲撃前
[状態]:大きなショック、うろたえ気味、ナイーブ、動揺
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(内1食料消費)、ランダム支給品×1(ミラション/確認済み)
    形見のエメラルド、フライパン、ホッチキス、百科事典
[思考・状況]
基本行動方針:生きて帰って、祖先の土地を取り戻す。もう一度部族を立ち上げる。
1.とりあえず情報収集。もう誰も頼らない。
2.故郷に帰るための情報収集をする。
3.必要なのはあくまで『情報』であり、積極的に仲間を集めたりする気はない。
4.ジャイロ・ツェペリに会ったら伝言を伝える。
[備考]
※ジョニィと情報交換をしました。
100代理投下完了:2012/11/14(水) 02:02:51.85 ID:C+gokLmW
366 名前:彼の名は名も無きインディアン   ◆c.g94qO9.A :2012/11/13(火) 20:13:50 ID:VPgF32Is
以上です。なにかありましたら一言ください。

規制が一向に解除される気がしません。
仕方ないとはいえ、毎回こうもやられると興をそがれるというか、代理投下の方に申し訳ないというか。
したらば管理人さん、チェックありがとうございました。なんだったんだろう。


あと前作、感想ありがとうございました。
感想がたくさんもらえてうれしかったです。頑張ろうって気になりました。
頑張ります。
101創る名無しに見る名無し:2012/11/14(水) 14:20:36.92 ID:2pMZR80r
投下乙でした。
目的を失い、それでも未来を目指すサウンドマンの姿が物悲しくも美しい、
そして、ジョニィの「サンドマン、君の故郷はあそこにあったんだな」に濃縮された様々と、祈りが胸に迫る。
ほんとうに素晴らしいSSでした、改めて投下乙です!
102創る名無しに見る名無し:2012/11/15(木) 09:13:51.28 ID:ckDag/Kq
うおおおおサンドマン…切ない…
7部のキャラはどうしてこうドラマを背負っているものか
サンドマンを見つめるジョニィの視線にも、彼自身の成長を感じる
彼らが『故郷』に帰れることを願わずにいられないようなSSでした
103創る名無しに見る名無し:2012/11/15(木) 22:22:47.63 ID:LjU4NALT
「彼の名は名も無きインディアン」
その彼の敵はジョニィや大統領といった個人でなく、
これもまた自身の正義や価値観を持つ無数の「名も無き白人たち」
現実のインディアン居留地に立っている記念日には、こんな言葉が彫られています

『──インディアン戦争はまだ終わっていない』
104 ◆c.g94qO9.A :2012/11/17(土) 01:25:17.67 ID:6pnITykS
投下します。
105 ◆c.g94qO9.A :2012/11/17(土) 01:28:05.18 ID:6pnITykS
歩いて、歩いて、歩き続けて……。
一度として立ち止まることはしなかった。一度として道を逸れることもしなかった。
輝き、照らし出す灯りは道標だった。俺は自分だけを信じ、自分だけの道を進んできた。“俺”だけの“気持ちのいい”道だ。

それが急に途切れることなんぞ、考えたこともなかった。
進むか、倒れるか、そのどちらかだと思って生きてきた。途中で野垂れ死ぬならばそれまでのことだと、ここまで鞭打ち、歩いてきた。
だというのならば、この先俺はどうしろというのだ。道はもうない。光ももう見えない。

俺は失った……。俺はもう、全てを失ったんだ……!



106 ◆c.g94qO9.A :2012/11/17(土) 01:29:42.07 ID:6pnITykS
―――それでは良い朝を!


スティーブン・スティールの言葉が宙に消えるのを、男は長いことぼんやりと見つめていた。
何も見ているわけではない。その目は空虚で哀愁を誘うほどに、何も写してはいなかった。

いつからだろう。今のこんな生き方しかできないとわかったのは。
リンゴォ・ロードアゲインは自身の記憶を一つずつ振り返っていった。
覚えている限りの一番古い記憶から、つい最近の事まで。そして数時間前のことを。

空を見上げれば飛び立っていく鳥の姿が見えた。リンゴォはその姿をぼんやりと見つめた。鳥が見えなくなるまで、見つめていた。
鳩が置いてった名簿にのっている『エシディシ』の文字。放送の男が読みあげたその名前。それを聞くのがたまらなく嫌で、信じられなくて。
気がつけば足元に散らばる細切れの紙くず。冷たくもない横風が吹くと、細く裂かれた破片が舞う。
季節外れの雪のようだ。男の冷たい頬をさっと撫でると、名簿だったモノは遠く彼方に飛んでいった。

「俺は、信じないぞ」

それは何を?
レオーネ・アバッキオと呼ばれた男の話を? パンナコッタ・フーゴと言った青年の言葉を? スティーブン・スティールが行った放送の内容を?
それとも……これまで自身が歩いてきた道のりを、だろうか。

男はどうしようもなく、男の道しか知らなかった。彼は悲しくなるほどに、男の世界でしか生きられない男だった。
信じなければ死を意味する。しかし死ですら、男の世界を内包している。
それはつまり死ぬことと生きることの否定だった。男の世界を失ったリンゴォは、生きることも死ぬこともできなくなった。
彼に残された道は、自分を誤魔化しながら生きていくという道だけだった。


「……ケほッ」


乾いた咳、続いて聞こえるぴちゃりと液体が滴る音。吐き出した唾には血が混じっていた。リンゴォは顔をしかめる。

だがいくら誤魔化そうとも、どれほど強く否定しようとも……いや、否定したからこそ、その歪みは彼を容赦なく蝕む。
生まれつき、リンゴォは皮膚が弱く、ちょっとしたことで擦りむいたり、血が止まらなくなったりした。或いは病気にかかりやすい体質でもあった。

今、彼の健康状態はその時のものに戻りつつあった。咳が止まらない。簡単に出血する。男の世界を取りあげられた代償が、彼の身体を追いこんでいた。


リンゴォはゆっくりと息を吸うと、足を進めた。向かう先はわからない。ただそこに留まる理由がもうなかった。
わかっている、彼だって自分の体に何が起きているか。自分がどんな矛盾を抱えているのか、わかっている。
でも、それでも彼は男の世界を進む。リンゴォ・ロードアゲイン、不器用で真っすぐな男。あまりに不器用すぎる男。

口の端から流れ出た血をぬぐい、男は進む。東から昇った太陽が彼の行く先を照らすと、まるで道は光り輝いているかのようにも見える。
光を探せ、光輝く道を……。しかし、そう呟いた男の眼に、光は宿っていなかった。



―――これは呪いを解く物語なのかもしれない。男の世界に別れを告げることはできなかった、一人の男の物語。
107 ◆c.g94qO9.A :2012/11/17(土) 01:34:03.69 ID:6pnITykS
【D-6 中央/1日目 朝】
【リンゴォ・ロードアゲイン】
[時間軸]:JC8巻、ジャイロが小屋に乗り込んできて、お互い『後に引けなくなった』直後
[スタンド]: 『マンダム』(現在使用不可能)
[状態]:右腕筋肉切断、幼少期の病状発症、絶望
[装備]:DIOの投げナイフ1本
[道具]:基本支給品、不明支給品1(確認済)、DIOの投げナイフ×5(内折れているもの二本)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.それでも、決着をつけるために、エシディシ(アバッキオ)と果し合いをする。
[備考]
※名簿を破り捨てました。眼もほとんど通していません。
※幼少期の病状は適当な感じで、以降の書き手さんにお任せします。
108ああ、ロストマン、気付いたろう   ◆c.g94qO9.A :2012/11/17(土) 01:37:58.52 ID:6pnITykS
以上です。なにかありましたら指摘ください。
最近気合い入れた作品ばっかだったので、勝手がわからなかったです。
wikiのカウンターが結構回ってるので人が多く来てくれてるのかなァと思うと、頑張ろうって気になります。
109創る名無しに見る名無し:2012/11/17(土) 21:03:17.67 ID:JKark0L/
投下乙です。

リンゴォは男の世界に帰れるのか。それとも違う世界に行くのか。はたまた何処にも行けないのか。
110 ◆eVB8arcato :2012/11/21(水) 17:19:14.71 ID:iE+wJFPI
初めまして、そうでない人はお久しぶりです。
現在、投票で決めた各パロロワ企画をラジオして回る「ロワラジオツアー3rd」というものを進行しています。
そこで来る12/1(土)の21:00から、ここを題材にラジオをさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?

ラジオのアドレスと実況スレッドのアドレスは当日にこのスレに貼らせて頂きます。

詳しくは
http://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
をご参照ください。
111創る名無しに見る名無し:2012/11/22(木) 08:14:34.98 ID:8iZt1M69
368 : ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:44:26 ID:u2BhKLhQ
規制されていたのでこちらに

ラジオ!!もちろん大歓迎!!

プロシュート、双葉千帆
投下します
112創る名無しに見る名無し:2012/11/22(木) 08:15:06.81 ID:8iZt1M69
369 : ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:44:52 ID:u2BhKLhQ



……さて、放送は以上だ。第二回放送は同じく六時間後、太陽が真上に上る12時きっかりに行う。
この放送は私、スティーブン・スティール、“スティーブン・スティール” がお送りした。
諸君、また六時間後に会おう! 君たちの今まで以上の健闘を、私は影ながら応援しいるッ
それでは良い朝を!…………



 煩いばかりだった放送が終わり、フロリダ州立病院の一室は再び静寂を取り戻しつつあった。
 人けのない病院の南側の一室には、双葉千帆とプロシュートがおのおの壁を背に向かい合い座っている。
 かわす言葉はなく、ふたりは彫像のようにかたまっていた。

 双葉千帆のもとよりあまり日焼けしていない顔は、さらに色を失い骨のように白い。
 岸辺露伴の死を、彼女は直接見てはいなかった。
 露伴の死を証明するものは地中にめり込んだ巨大なコンテナと、早人から渡された彼からの手紙のみだったからだ。
 ゆえに心のどこかで期待していたのだ。
 岸辺露伴は死んではおらず、彼に自分が原作の漫画を書いてもらう日が来るのではないかと。
 『放送』はそんな彼女の期待を無常にも否定した。
 自覚すらしていなかった願いを、無惨に打ち砕いた。
 死亡者として読み上げられた中には川尻早人の名もあった。
 実際には死亡していない人間を、いたずらに『死亡者』として放送するなどということはおそらくないだろう。
 疑いなく、ふたりは死んだのだ。
 岸部露伴の新作漫画を読む日も、川尻早人の成長を喜ぶ日も、決して来ない。

 そして、読み上げられた双葉照彦の名前。
 読み上げられた瞬間には彼女は気づかなかった。それが自らの父親の姓名だと。
 76名もの死亡者はあまりに多く、少女には音として認識した文字を筆記するだけで精一杯だったのだ。
 『ふたばてるひこ』
 ひらがなで書かれたそれはなにかの記号のようだった。
 名簿とつきあわせ『双葉照彦』という文字列を理解した瞬間の気持ちを表現することはできない。

 シチューの残り香がただようリビングで、あの人に突き立てようとしたものは紛れもない殺意。
 父だから許せなかった。
 愛していた、父だからこそ……。
 皺を刻んだ笑顔の父と、絶望の表情を浮かべた父の顔が交互にフラッシュバックした。

 苦しまぎれの息つぎをするように千帆が顔をもちあげる。
 視線の先、プロシュートは無表情で名簿を眺めていた。
113創る名無しに見る名無し:2012/11/22(木) 08:15:38.55 ID:8iZt1M69
370 : ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:45:20 ID:u2BhKLhQ


(ホルマジオ、ペッシ、イルーゾォ、リーダー……)

 表情こそ平静を装っていたもののプロシュートの心中は穏やかさとかけ離れた状態にあった。
 死亡者の中には彼が呼びなれた名前が混じっていた。
 弟分であったペッシはおろか、自分がリーダーと認めたリゾットすらすでに死んでいるとは。
 胸のうちにあるものが『驚き』だけだといえば嘘になる。
 ソルベが送りつけられたとき以上の激情が彼の胸の内で燃えさかっていた。
 しかしプロシュートはそれを表に出そうとはしない。
 必ずやり遂げなければならないことができた。嘆くことも思考停止することも許されない。

 名簿を見返す。ギアッチョの名が斜線を引かされずに残っていた。
 『暗殺チーム』という括りでみれば、メローネ、ソルベ、ジェラートの名前は名簿のどこにも載っていなかった。
 死んだ者は蘇らない、という当たり前の原則に沿えば、ソルベ、ジェラートがいないことに疑問はない。
 しかしメローネはどうだ。
 あの男が死んだという情報を、少なくとも自分もペッシも受けていなかった。
 死亡したはずなのに参加させられた、ホルマジオ、イルーゾォそして涙目のルカと、死亡していないはずなのに参加していないメローネ。
 考えたところで、メローネが名簿に載っていない理由はわからないが、時間軸の違いは確定していいように思えた。
 時間軸が違えば死んだ人間が蘇ったようにみえることに疑問はないだろう。
 自分が殺した男、ティッツァーノからすれば、すでに自分は死んだ人間だった可能性もある。
 プロシュートは自嘲的な笑みを浮かべながら再び名簿に視線を戻した。
 まずジョースターの姓をもつ人間が嫌でも目につく。
 次におそらく『パッショーネ』の関係者がほとんどであろうイタリア人。
 東洋人も多いように見受けられる。
 だがその組み分けからあぶれる人間もまた多い。
 国籍の判別がつかない「あだ名」のような名前は本名や身分を隠したがる人種の二つ名のようなものだろうか。

 このふざけたイベントを主催した存在は、『老い』も時間も世界という枠組みさえも超越したもの。
 だというのに、この場にいる者で疑いなく共同戦線を張れる人間はすでにギアッチョしか残されていない……。

 カタカタ……と床が音を立てる。
 ふと見ると手が小刻みに震え、握っていた鉛筆が床を叩いていた。
 一瞬呆気にとられたプロシュートの表情が、徐々に羞恥に歪む。
 名簿から目をはなせば、同じようにひととおりの考察を終えたのであろう少女がこちらを見つめていた。

「嬢ちゃん、まずは知り合いについて教えてもらおうか」

 かたぎの人間がきけば震え上がりそうな口調をしたことに、プロシュート本人は気づいていない。
 双葉千帆の瞳に恐怖の色はなかった。
 ただ、数瞬、鳩が飛び去った窓辺を見やり、小さなため息と共に彼女は、はい、とこたえた。
 窓の外には、徐々に青みを増しつつあるライトブルーの空が広がっている。



  *  *  *
114創る名無しに見る名無し:2012/11/22(木) 08:16:10.14 ID:8iZt1M69
371 : ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:45:58 ID:u2BhKLhQ



 プロシュートは自分のことを語ろうとはしなかった。

 千帆の知り合いが何人いるか。
 彼らとはどういう関係か。
 直接の知り合いでなくとも、知っている人物がいるか。
 彼女にとって今は“何年”か。
 ここに連れてこられる前、どこにいたのか。
 杜王町とはどんな地域なのか。

 彼の一方的な質問に千帆が答えるだけ。
 それを千帆はおかしいとは思わなかった。
 早人に協力してはくれたが、おそらくそれは敵あらばこそ。

 早人は死んだ。彼を死に至らしめた鼠も死んだ。
 そして戦闘のさなか銃撃によってプロシュートを救った男性も、死んだ。
 彼がプロシュートの仲間であったのなら共にここで放送を迎えられたはずである。
 銃のグリップにこびりついていた血の跡。
 赤く汚れた長い白髪と血だらけの白鼠のイメージが重なった。

 ただの高校生である自分が、足手まといにしかならない自分が生かされたのは情報交換という目的があったからだろうか。
 だとすればこうして喋っている一瞬一瞬が、死へのカウントダウンにほかならない。
 それを理解していながら、同時に淡淡と感情もなく語る自分を千帆は実感するのだった。


「安心しな。オレは嬢ちゃんを殺す気はねえ」

 そんな千帆の心を見透かしたようにプロシュートが言い放った。
 哀れな孤児をなだめるようなおだやかな口調だが、目も口元も笑ってはいない。

「情報の整理はあらかたすんだ。
 本当のところをいえば、嬢ちゃんを生かしておく理由はない。
 殺す理由はいくらでもあるがな」
「なら、どうして……」

 千帆がいいかけてやめ、そんな自分を恥じらうように目を伏せる。
 自らの発しかけた問いがその身の安全を脅かすことに気づき、そして、そんな保身に走った考えが恥ずかしくなり、千帆は押し黙った。
 目の前の男にはそうした下衆な考えがすべて透けて見えただろう。

 プロシュートは千帆の手元を見つめていた。胸の前で心臓を守るように組まれた小さな手を。
 時が止まってしまったのでは、と千帆が思い始めた頃、ようやくプロシュートは口を開いた。
115創る名無しに見る名無し:2012/11/22(木) 08:16:43.13 ID:8iZt1M69
372 : ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:46:24 ID:u2BhKLhQ

「死ぬのは怖い、か?」

 はじかれたように千帆の瞳が見開かれる。
 カッと頬に赤みがさし、彼女は声を張り上げた。

「プロシュートさんは、怖くないっていうんですかッ?!」
「さあな。
 だが生きている限り、恐怖、孤独、悲しみ、不安、あらゆる苦痛は永遠に続くんだ。
 『死』は平等だ。優しい。
 そこに、人が恐れるものは存在しない」

 語るプロシュートの表情は、落ち着きを通り越して安らかだった。
 千帆が戸惑い、反発を覚えるほどに。

「でも……ッ」
「スタンドも、体術の心得があるわけでもねえだろう。加えて人脈もねえ。
 どうやって生き残る気だ?」

 頬を紅潮させた千帆の指が短銃のグリップをなぞる。
 その早人の形見となった銃でスタンド使いを相手に渡り合おうというのだろうか。

「戦います」

 千帆が銃を持ち上げてみせる。
 少女のほっそりと柔らかな手の内で、ゴツゴツとしたフォルムの銃はひどく不似合いで重たく、危うげに映った。

「射撃の練習をしたことがあるってわけでもないんだろう?
 初心者が扱う場合10mも離れれば弾はまず当たらない。
 嬢ちゃんは6発の内1発くらいは当たるだろうと考えてるかもしれねえが、目の前に対峙したやつを敵だと判断してから何発撃てると思う?
 的はさっきみてえな目先の死にかけじゃねえ。
 こっちを殺そうとする敵だ。全速力で向かってくる。そいつだって死にたくないからな。
 10mなんて一瞬だ。相手がガキでも。
 くわえて銃にはリコイル、反動がある。さっき撃ってみてわかってるはずだ。
 あれだけの衝撃を受けて、何発も狙いをつけて発砲することができると思うのか。その貧弱な腕で」

 千帆は言い返せなかった。
 自分で自分の腕を抱き、イヤイヤをするように首をふる。

「それでも、私は……」

 今にも泣き出しそうになっているくせに、千帆は頑として折れなかった。
 うっすらと涙を浮かべた瞳で、プロシュートのことを睨んでいる。
 地獄を見てきた人間が持つ壮絶さと、聖母のような慈愛を併せ持ったその瞳。

(まるで聞き分けのない、“マンモーナ”だな)

 プロシュートが千帆を見つめる。
 二人は無言のまま見つめ合い、やがてプロシュートの方が根負けしてため息をついた。
116創る名無しに見る名無し:2012/11/22(木) 08:17:30.61 ID:8iZt1M69
373 : ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:46:46 ID:u2BhKLhQ

「こっちに来な。
 少しはマシにしてやる」

 プロシュートは千帆から銃を受け取ると、馴れた手つきで銃弾を抜いていった。
 弾丸の込め方はあとから説明する、と口上を添えて。
 6発分の銃弾を抜き取ると、プロシュートは対面の壁に向かって銃を構えてみせた。

「銃を撃つときの基本的な姿勢はこうだ」

 両足を肩幅ほどに開き、腕をまっすぐ前方に伸ばす。
 腕の先端、プロシュートの存外大きな両手が銃のグリップを握っていた。
 その指は引き金にかかっていない。
 顔は突き出しすぎだと千帆が感じるほど銃に寄せている。
 千帆がそう感じているのをプロシュートも読み取ったのだろう。

「大事なのはきちんと照準を合わせることだ。
 正しく狙いをつけたところでさまざまな要因によって銃弾は逸れる。
 だがそれで照準合わせを怠れば、絶対に銃弾は当たらないと思え」

 銃を千帆の目線の高さまで持っていき、照準あわせの動作を確認させる。
 そして握り方と引き金の引き方について。

「引き金を引くことに意識を集中させるな。
 標的に照準をあわせたまま、引き金を『絞る』」

 銃の携帯の仕方から、構え方、空薬莢の抜き方、銃弾の込め方まで、一連の動作をデモンストレーションしたところで、M19はふたたび千帆の手の内にかえってきた。
 見よう見まねで銃を構える千帆に、激しい檄が飛んだ。

「銃は遠距離から攻撃できるだとか、6発あるから余裕だなんて考えは捨てろよ。
 1発で仕留めろ。1発撃てばもう終いだ。
 たとえれば、ギャンブルと同じ心理だな。
 撃ちはじめちまったら、次こそ当たるだろう、次こそ当たるだろうとすがっちまう。
 6発の中に『当たりくじ』が入っていない可能性を、人は直視できなくなる。
 気づいたときには距離のアドバンテージなんてもんは皆無になっちまってる。
 結末は、いわなくてもわかるな?
 これが武器になるなんて考えは捨てな。
 下手に撃てば、互いに引けなくなる。
 銃声は別の敵を引き寄せる。
 銃を撃つ状況はどちらかがすでに詰んでる状況だと思え。さっきの鼠みてーにな。
 確実に殺すために撃ちな」
117創る名無しに見る名無し:2012/11/22(木) 08:18:14.79 ID:8iZt1M69
374 : ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:47:18 ID:u2BhKLhQ

 小一時間ほど経ったころ、ようやくプロシュートの指導は終わった。
 約1kgの銃を、暴発に注意しながら扱う作業は想像以上に千帆を疲れさせた。
 紙から出てきたドーナツと水で休憩をとる千帆に対して、プロシュートは静かに語る。

「嬢ちゃんは、なぜオレに殺されないか不思議に思っていたな。
 おそらく理解できないだろうが、オレはこう考える。

 単純に、“力”を持つことは素晴らしい。それを行使することも。
 しかしそれは“強さ”とは違う、とな。

 最終的には『持っている』人間が生き残る。
 力の優劣とは、また別の次元の問題だ」

 千帆が困ったように首を傾げる。
 プロシュートがなにを言いたいのかわからなかった。

「この6時間の間に76人が死んだ。
 力の優劣がすべてを決めるなら、嬢ちゃんはとっくに死んでるはずだ」

 そこでプロシュートは言葉を切った。
 どこか、痛ましい色がその瞳に浮かんでいるのを千帆は見逃さなかった。

(『暗殺チーム』と言っていた。
 この人も、誰か大切な人を失ったのかもしれない)

 プロシュートの言いたいことが千帆にはよくわからない。
 『持っている』人間の話と、自分を殺さないという話は結びつかないように思える。 
 それに彼が言ったとおり、自分は特殊な力も、武器を扱える腕も、頼りにできる友人もいない人間だ。
 『持っている』人間にあたるとは思えない。

 けれど頭で理解できないことが、心で理解できることもある。
 プロシュートの言葉が、行動が、千帆に勇気の心を芽生えさせようとしていたのは確かだった。

「私、小説を書くんです。
 元の世界に戻って。絶対に」

「……そうか」

 プロシュートの返答はそっけない。
 しかし千帆はプロシュートを信頼しつつあった。
 かつて好きになった人は、彼のような強さをもつ男だった。

「さて、オレはそろそろここを出る。
 この6時間ほとんどこの近辺から動いてないんでね。
 欲しいのは仲間と情報だ。向かうのは当然人が集まる場所になる」

 荷物を肩にかつぎあげながらプロシュートが、足元のほこりを払う。

「ついてくるなら忠告くらいはしてやるが、オレは嬢ちゃんを助けない。
 その兄貴とやらを探すも、ここに篭城するも、好きにしな」

 振り返りもせず歩き出す。
 その背を追って、千帆は迷いなく立ち上がった。
 それを気配で感じ、プロシュートがうっすらと笑う。

「後悔するなよ“千帆”」

「……はい!」
118創る名無しに見る名無し:2012/11/22(木) 08:18:47.57 ID:8iZt1M69
375 : ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:47:42 ID:u2BhKLhQ
【G-8 フロリダ州立病院内/1日目 朝】

【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:体力消耗(中)、色々とボロボロ
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
0.暗殺チームを始め、仲間を増やす 。
1.この世界について、少しでも情報が欲しい。
2.双葉千帆がついて来るのはかまわないが助ける気はない。

【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:体力消費(中)、精神消耗(中) 、涙の跡有り
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、救急用医療品、ランダム支給品1 (確認済み。武器ではない)
[思考・状況]
基本的思考:ノンフィクションではなく、小説を書く。
0:プロシュートと共に行動する。
1:川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える。
2:琢馬兄さんに会いたい。けれど、もしも会えたときどうすればいいのかわからない。
3:露伴の分まで、小説が書きたい。


【備考】
プロシュートは千帆から、千帆の知っている人物等の情報を得ました。
千帆はプロシュートから情報を得ていません。
千帆はランダム支給品を確認しました。支給品は1つで、武器ではありません。
ウィルソン・フィリップス上院議員の不明支給品は【ドーナツ@The Book】のみでした。


以上で投下完了です。
指摘等ございましたら、よろしくお願いします。
119創る名無しに見る名無し:2012/11/23(金) 01:16:49.41 ID:4DaMHFPo
376 名前: ◆4eLeLFC2bQ :2012/11/21(水) 22:51:43 ID:u2BhKLhQ
タイトルは「Dream On」です
すみませんがどなたか代理投下お願いします
もう一人ぼっちじゃない
貴方がいるから






☆ ☆ ☆
「――ブ、ブチャラティ!?」
「……ルーシー・スティール?なぜここに!?」


薄暗い洞窟の中で出会ったのは、自分の見知った少女――トリッシュ・ウナだった。
可能性として考えなかったわけではない。
ジョルノが死に、自分もこの場に存在する。
先ほどの襲撃者は、(直接面識があるわけではないがジョルノらの情報から察するに)組織の暗殺チームの氷使いギアッチョである。
わかっているだけでも、これだけの数の関係者が巻き込まれている。
ミスタとナランチャの2人や、もしかしたらフーゴも、この場に招かれているかもしれない。
だが、トリッシュまで巻き込まれていたとは。
何も知らない、ただの町娘だった彼女が、こんな血生臭い催しへと。

ある意味で彼女の顔は、この6時間の間でもっとも見たくないと思っていた顔だった。



「……彼は?」
「大丈夫よ、ウェカピポさん。知った顔だから…… 私に任せて」

向こうは2人……いや、トリッシュは誰か小柄な人間を背負っているようだ。となると3人か?
ともかく、傍らの男が懐に手を伸ばしながら此方に警戒心を見せる。
そしてそんな彼を、トリッシュが制した。
2人の様子を見るに、トリッシュはここで信頼のおける仲間を得ていたようだ。
本当に良かった……。それも運のいいことに、ルーシーの知り合いでもあるようだ。

だが、トリッシュの様子がいささか妙だ。
ウエイトレスの衣装に男物のコートを羽織った珍妙な格好のことではない(多少気になりはしたが)。
おかしいのは、彼女の俺に対する態度。
初めに俺の姿を確認した時は、唖然とした様子だった。それからという物ずっと怪訝な視線を向けてきている。
出会ってまだ一週間も経っていない彼女だが、この数日である程度の信頼関係を築けてきたつもりだったのだが。

「………トリッシュ。よく無事で―――――」
「待ってブチャラティ!」


ともかく、トリッシュに話しかけ近づこうとする俺を、彼女の大声が制止した。
あまりの迫力に押し黙る俺に対し、トリッシュは落ち着いた口調で話し始めた。


「ごめんなさい、ブチャラティ。あなたに言いたいことや聞きたいことはたくさんあるのだけれど……突然、あなたと再会して、少し混乱しているの。
それに、『あの男』が言っていたことが本当ならば、もうじき―――」

そう言ってトリッシュはちらりと、支給された懐中時計に目をやる。
ああ、そうか。追っ手から逃げることに必死で気が付かなかった。
もうじき午前6時になる。
『放送が六時間ごと』という主催の男の言に従えば、最初の放送とやらがもうじき始まる。

「―――わかった。詳しい話はそのあとだ」


一定の距離を保ったまま、俺たちは言葉を交わすこともなく放送の開始を待った。

黙って睨み合いを初めて3分と経たぬ頃、どこからともなく五羽の鳩が現れた。
かと思うと、それぞれの手元に紙切れを落としていき、そのままどこかへ飛び去って行った。
なるほど、これがあの男の言っていた『名簿』か。
そして、そこに並ぶ膨大な数の名前に目を通す間もなく、6時間ぶりに聞く、バラエティテレビのMCを彷彿とさせる『あの男』の声が聞こえてきた。


『―――――この放送は私、スティーブン・スティール、”スティーブン・スティール”がお送りした。
諸君、また6時間後に会おう!君たちの今まで以上の健闘を、私は陰ながら応援しているッ
それではよい朝を!』


そのように締めくくられ、放送自体は滞りなく終わった。
俺はトリッシュの様子を伺いながらも、車のボンネットの上に名簿と紙を広げ、メモを取りながら聞いていた。
ルーシーは俺の後ろに隠れながらじっとしており、ウェカピポと呼ばれていた彼も離れたところでこちらを警戒しつつメモを取りながら放送を聞いていた。
そしてトリッシュは、その一切をウェカピポに任せて、放送が終わるまでの間、じっと俺の姿を見ていた。
睨みつけるでも見つめるでもなく、ただ、じっと。

放送で告げられた犠牲者の数は、76人―――――。
このわずかな時間の間に、76人もの人間が犠牲になったのだ。
当然、中には俺が初めに始末した暴漢の名や、2番目に始末した不気味なスタンド使いの名も含まれていたのだろう。
だが、ルーシーやトリッシュのようなどこにでもいる善良な市民も犠牲者の中にはいただろう。
名簿を見るに、参加者は全部で150人。
たった6時間もの間にその半数が死んでしまったという事実。

想像以上に過酷なサバイバルゲームが展開されている。
期間は3日間とあの男は言っていたが、このままのペースでいけば24時間もしないうちに、ゲーム参加者は一人を残し全滅してしまうのではないか?

いや、させない――――
何としてでも、俺がこの手で食い止めてみせる――――――
それにしても、この『放送』と『名簿』には不可解な点が多すぎる。
ミスタ、ナランチャ、そしてフーゴの名前が呼ばれなかったことには心底安心したが、名簿には、すでに死んだはずのジョルノとアバッキオの名も記されている。
さらに、俺が始末したはずの涙目のルカや、プロシュート、ペッシの名も。
死者が蘇ったとでも?
ルカとペッシの名が呼ばれてプロシュートが呼ばれないということは、死んだはずの人間が、今現在も生きてこの会場のどこかにいるという事か?
同姓同名の他人という可能性もあるが、あのギアッチョの例もある。
そして、既に死者でありながら生き続けている自分の例も……。

気になったことは他にもある。
放送の最後に強調された、あの男の名前……。
『スティーブン・スティール』という名前はルーシーに聞いて知っていたが、名前を繰り返されてピンときた。
そして、ウェカピポという男が、さきほどルーシーの名を呼んだ。
名簿を広げ、彼女の名前を探す――― あった。


ルーシー・"スティール"


彼女が隠していたのはこの事だったのか。
彼女の様子を伺うと、ばつが悪そうに顔をそむけ、俯いている。
そして、俺にだけ聞こえるくらいの小声で、「ごめんなさい」と謝ってきた。
この様子だと「姓が偶然同じ名だけの他人」ということはないだろう。
彼女の年齢から察するに、父娘か何かだろうか?
なるほど。安心させようとして俺が言った「主催者を倒す」という言葉が、逆に彼女を苦しませ、言い出せなかったのだろう。

隠し事をしていたのはお互い様だ。
できれば放送前に、彼女自身の口から話させてあげたかった。
そうすれば彼女とともに、スティール氏がこんなことを行っている理由を一緒に考えてやることもできたのに。



「……ブチャラティ」


トリッシュが声をかけてきた。
そうだ、後悔しても始まらない。
こうしてトリッシュと無事再会できたのだ。
これからのことを考えなければならない。
「ブチャラティ、この人はウェカピポさん。そっちで寝てるのは……そういえば名前知らなかったわ。ただの変態だから、"変態"でいいわ。
"変態"はただのクソヤローのゴミクズだから無視していいけど、こっちのウェカピポさんは信頼できる仲間よ」

これほどまでに辛辣な言葉を使うトリッシュは初めて見た。
よほど"変態"のことが嫌いなのだろう。よく見れば顔もゲスい顔をしている。トリッシュに何をしたんだ、この男は?
ウェカピポの方が、俺に軽く頭を下げ、俺の後ろのルーシーに目を配る。
彼とルーシーは知り合いなのだろう。ルーシーに直接聞くのも忍びないし、まずは彼からスティール氏のことを聞いてみよう。

「俺はブローノ・ブチャラティ。そちらにいるトリッシュの―――そうだな、"友人"だ。殺し合いに乗るつもりはない。このゲームを止めるために行動するつもりだ」

あえて主催者を叩くとは言わない。
これ以上ルーシーを不安にさせてくはない。
だがギャングであることは、早いうちに話しておかなければな。

「トリッシュ……この男、もしかして………」
「ええ、それについても、聞いてみるつもりでいるわ」

何の話だ?と質問する間もなく、トリッシュから意味の分からない質問が投げかけられた。

「ねえブチャラティ、私のことを知っているあなたで心底ホッとしたのだけれど……」
「……どうした?」

そこでトリッシュが言葉を詰まらせる。
何か言いにくいことがあるのか、彼女は押し黙ってしまった。
『私のことを知っているあなた』とは、どういう意味だ?
普通の表現ではない。トリッシュは何を言っている?
自分の中で考えを巡らせる。
そういえば、今自分が話しているトリッシュは、自分の知っている彼女と少し雰囲気が異なっている。
何と言ったらいいのか、とにかく『迫力』があった。
飛行機内での戦いで彼女が『守られているばかりの少女』ではないことは分かったが、今目の前にいる彼女はさらになにか巨大なものを乗り越えてきたかのような風格があった。
外見的特徴も、服装の他に、髪が少し長くなったような気がした。

「……なんだかわからんが、話してみろ。トリッシュ」

俺が再度質問を繰り返すと、トリッシュは慎重に言葉を選びながら、おずおずと話し出した。。

「―――ブチャラティ。こんな聞き方しかできないのだけれど…… あなた、"いつ"のブチャラティなの――――――?」

この質問を皮切りに、俺は様々な事実を知らされることとなる。




☆ ☆ ☆
「オイ、落ち着いたか?」
「………ああッ!」
「なら話を再開する。お前の仲間のホルマジオ、イルーゾォ、ペッシ、プロシュートの4人は間違いなく死んでいた。そうだな?」
「俺が直接見たわけじゃあねェ。だが、俺の信用している仲間から得た情報だ。間違いねェよ」
「なるほど。で、プロシュートを除く残り3人と、俺たちが看取ったリゾットの名前が呼ばれた。メローネって奴だけ名前がないな? 何故だろうか」
「俺が知るかよ! そんなことより、オレが頭にきてるのは、チームの連中の名前ばかりが呼ばれて、ブチャラティの奴らがまだ誰一人として死んでねえってことなんだよッ!!
どういうことだよこのクソが!!」
「おいギアッチョ。落ち着けと言ったろう? もう二度と言わんぞ? 二度言うことは無駄だから嫌いなんだ。貴様がその調子だと次の放送までに話が終わらねえ」
「チッ………」

ブチャラティたちを追ってエア・サプレーナを後にした俺とギアッチョの二人は、サン・マルコ広場のオープンカフェに居を据えて放送を聞いていた。
この場所ならば視界が開けており、襲撃者が近づけばすぐにわかる。
ギアッチョの能力があれば狙撃を気にする必要もない。

そうして情報を整理していた俺たちだったが、放送の内容が気に入らないらしいギアッチョがキレて中断、の流れを繰り返していた。

「とにかく、だ。このホルマジオ、イルーゾォ、ペッシ、プロシュートの4人は、"どういうわけか生き返って、そしてこのゲームに参加していた"ってわけだ。
プロシュート以外の3人は、まあ、また死んでしまったのかもしれないが、『少なくとも6時間前にはおそらく生きていた』。そういうわけだ」
「………ああ、そうだろーよッ」
「俺の方も、何人か知人がいる。死んだはずの人間もな。このサンドマンやウェカピポなんかがそうだ。直接の関わりはなかったが、マウンテン・ティムもくたばったと聞いている。
俺の考えていること、わかるか?」
「オレだって馬鹿じゃねーよ。『並行世界』の人間、そう言いてえんだろ?」
「これで間違いないな。スティーブン・スティールはやはり駒だ。このゲームを仕組んだ黒幕はファニー・ヴァレンタイン大統領。そして、それだけじゃあない。
ブチャラティたちやお前の仲間を、わざわざ別世界からまで呼び寄せたということは、だ。お前たちの『ボス』とやらも、この件に一枚噛んでいるんじゃあないか?」
「何ッ!? ボスが!?」

もっとも、この考えについても推測の域を出ない。
名簿に記されている150人のうち、ギアッチョの組織に関係する人物はこいつの知る限り10人弱。
そして俺の知る限りSBRレースの関係者も10人を少し越える程度だ。
2人が認識していない人物がいたとしても、全然数が合わない。
第一、イタリアのギャングとアメリカの騎馬レースというのも共通項が見当たらないし、クウジョウだとかカキョウインだとかの日本人名は俺たちのどちらにもなじみはない。
(ヒガシカタだけは聞き覚えがあるが、名簿に記載があるのはノリスケではなくジョウスケだ。やはり知らない)

だが、組織の『ボス』でなくても、大統領以外にこのゲームに関わる人間がいる可能性は少なくはない。
でなければ、ギアッチョとの110年もの時代の差異が説明できない。
大統領の能力が、俺の知らぬところで『成長』していなければの話だがな。
「クソがッ! ボスめ…… ソルベとジェラートにむごい仕打ちをしただけでなく、こんな殺し合いにまで俺たちを巻き込んで―――」
「オイオイ、焦るな。その可能性もあるってだけだ。主催のことを考えるのはまだ早い。まずは、当面の行動指針を立てることだ。貴様はこれからどうしたい?」

放送を終えてギアッチョからいろいろと聞き出せたものの、根本的に身になる情報はほとんど得られなかった。
やはり、ルーシー・スティールだ。彼女を確保し、こちらのカードに加えることがまず第一だ。
ゲームに参加させられている以上、大統領にとってはもう不要なのかもしれないが、スティールに近づく鍵になるかもしれない。
彼女に近づくことこそ、この大統領を倒すための第一歩と言えるだろう。

「オレは………やはり、ブチャラティを殺りたい。プロシュートが別の世界の奴かもしれない以上、やはりオレの世界のオレの仲間は全滅したってことだ。奴らを皆殺しにしなければ、オレは前に進めない」

フン、やはりこいつはこういう性格か。
だがブチャラティに近づくことは、ルーシーに近づくということ。俺との利害も一致する。
それに話に聞く限り、ブチャラティという男と、俺は相容れないだろう。放っておいてもいずれ敵対する相手。ならば、早めに叩いておいても問題はない。

「いいだろう。もう熱くなって自分を見失うことはないと約束できるのならば、俺が指揮を執ってやる。俺はルーシーを捕えるため、お前はブチャラティを殺すためだ」
「ケッ! 奴らを見失ったくせによく言うぜ。まるで2人の現在地を知ってるみたいな口ぶりだな?」
「ああ、それならば―――――」

俺の背後から、能力で生み出した1匹の中型恐竜が姿を見せる。

「たった今、こいつが見つけてくれたぜ」




☆ ☆ ☆
「ファニー・ヴァレンタイン大統領………」
「ええ。信じてもらえるかはわからないけど、夫は―――スティーブンは、ただ利用されているだけ。
あなたとトリッシュさんや私とウェカピポさんの微妙な認識の違いが、何よりの証拠だと思います……」
「でも、当の大統領が死ぬところを、あなた見ていたのでしょう? それも、『並行世界を行き来するスタンド』と共に崩れ去ったって…… それなのにどうして?」
「それより、俺は大統領のことを詳しくは知らんが、その並行世界ってのは"100年以上の時間までも乗り越えられる"ものなのか?」


放送から早30分。
俺(ブチャラティ)、トリッシュ、ウェカピポ、ルーシー、"変態"の5人は、(ウェカピポの持っていた地下地図でいうところの)コロッセオ地下遺跡にて情報の交換と作戦会議を行っていた。
車は遺跡内の地面にジッパーで穴を開け隠し、俺たちは遺跡内に発掘現場に身を潜めている。
ここは薄暗く、大理石でできた柱や石造りの段差も多く、身を隠しやすい。
コロッセオの地下にこのような大空間があったことにも驚いたが、まさかナチスドイツの鍵十字が掲げられているとはな。
そしてその意味を理解できたのは俺とトリッシュの2人のみ。
それをきっかけに知らされた、俺やトリッシュと、ルーシーたちの住んでいた時代の違い。
ルーシーが自動車を見たときにえらく驚いていたのを今さらになって思い出す。
トリッシュとウェカピポは、出会ってすぐにこの事実に気が付いたという事らしい。
いかに、自分とルーシーが意思の疎通ができていなかったのかと思い知らされた。
ルーシーを怖がらせないこと、自分の秘密を隠すことに囚われ、そんな簡単なことすら把握しきれていなかったのだ。

そしてそのルーシーも、スティール氏と相対する気がないことを説明すると、ポツポツと知っていることを話し始めた。
彼らの時代のアメリカ大統領、ファニー・ヴァレンタイン。
並行世界を自由に行き来する能力を持ち、死んだ者でも隣の世界から連れてくることのできるのだという。
名簿に名前のあるアバッキオや俺の出会ったギアッチョをはじめとする暗殺チームの面々、ルーシーやウェカピポの知る死んだはずの知人たちは、よく似た違う世界から呼び寄せられたからではないかというのだ。

ゲームの主催者はアメリカ合衆国大統領。
この仮説が、俺にとって最大の驚きであった。
俺は心のどこかでトリッシュの父、組織のボスがこのゲームの黒幕ではないかと勝手に想像していた。
ボスの素顔のデスマスクを見つけた直後にこのローマに呼び寄せられ、ジョルノの死を目の当たりにしたからだ。

だが、俺がその仮説を唱えた時、トリッシュから聞かされた俺の『本来の未来』。
俺、トリッシュ、ジョルノ、ミスタ、ナランチャの5人はアバッキオの遺してくれたメッセージを手掛かりに、以前よりボスの手掛かりを追っていたフランス人、ジャン・ピエール・ポルナレフ氏と合流する(その彼は放送で名を呼ばれたようだ)。
そして、俺達5人はそれ以上"一人の仲間も失うことなく"、打倒ボスを果たすというのだ。

それも、ボスの名は『ディアボロ』。放送で2番目に名を呼ばれた『ディアボロ』なのだというのだ。
放送中、トリッシュが表情をゆがめた理由はそこにあったのか。
トリッシュはゲーム開始直後、死んだはずの自分の父の気配を感じ、すぐにその気配が消滅するのを感じたのだという。
このゲームの主催者は(恐らく別世界の)ボスまでもをゲームの駒として招き入れていた。そして、俺たちが命を懸けて打倒しようとしていたディアボロがわずか6時間の間に戦って敗れるほどの相手がいるということなのだ。
ゲームの主催者は、俺が想像していた以上に途方もなく巨大な存在のようだ。

そしてもう一人。放送前に遭遇したギアッチョと行動を共にしていた人物。
ディエゴ・ブランドー 通称「Dio」。
ルーシーたちや大統領と同じ世界に存在した男であり、大統領と同等の危険人物。
窮地に陥った大統領が自分の後継者として選ぶほどの男だという。
野心家で、目的のためならば残虐非道の限りを尽くす極悪人。
ルーシー自身が機転を利かせて倒した相手だというが、生きていた大統領がさらに別の世界から彼を呼び寄せたのだろうか?
要注意人物の一人だ。
「それで、これからどう動くか、だが……?」

そう俺が切り出す。
わからないことをいつまでも考えていても仕方がない。
トリッシュがまず口を開き、提案する。


「私は……もっと地図の中心付近の―――人が集まる所へ向かうべきだと思う。ジョニィさんやジャイロさんという人なら、大統領について何か知っているかもしれないし……。
それに、もしジョルノたちが本当に生きているのならば……」

その通りだ。
ジョルノ・ジョバァーナは確かに俺たちの目の前で爆死した。しかしジョルノの名は名簿に記されているにもかかわらず放送で名を呼ばれることはなかった。
ゲーム開始前に死んだから、という理由も考えられるが、あれが俺たちを殺し合いへ誘うためのハッタリだったとすれば、『死んだジョルノとは別世界のジョルノ』がこの場に呼び寄せられている可能性はある。
アバッキオだって、『まだ生きていた世界』から呼び寄せられたのかもしれない。
ジョルノやアバッキオならば、例え別の世界のあいつらだったとしても、信用できる。

「………そうだな。これほどまでに巨大な力を見せつけられては、個人の力で立ち向かうのは至難だ。仲間を組み、チームを作ることは有効だ。特に、一度大統領に勝利しているというジョニィ・ジョースターとの合流は最優先すべきだろう」

ウェカピポもそれに続く。ルーシーも、彼の言葉に応じて頷く。
彼らもまた、俺たちと共に戦うことを約束してくれた。
トリッシュたちとの出会いを経て、頼りになる仲間を手に入れた。ゲームの黒幕の正体も、おぼろげながら掴み始めてきた。
絶望しか見えなかった未来に、わずかな希望が見え始めていた。






「おい、そろそろ起きろ、"変態"。ここからは自分の足で歩かんと捨てていくぞ」



ウェカピポが、少し離れた石柱に寝かされている"変態"を起こしに向かった。
そういえば、彼からはまだ何も話を聞いていない。
トリッシュを強姦しようとした変態らしいが、こんな異常な状況に陥ったら仕方ないことかもしれない。
外見から察するに日本人だ。名簿に記されている日本人らしき名前は30人近く―――全体の5分の1を占めている。
そして、ジョルノの隣で爆殺された白コートの男性も、おそらく日系の血が入っているような感じだった。
トリッシュは気が進まないだろうが、この"変態"の知り合いにも力になってくれる人間がいるかもしれない。
彼から情報を聞き出すことも、この先重要になるだろう。



「ねえ、ブチャラティ……」


メモと名簿をデイパックに詰め、出発準備を終えた俺に、トリッシュが神妙な声で話しかけてきた。
「……あなた、身体の方は………なんともないの?」

その質問に、戦慄を覚えた。
どうしてそんな質問をしてくるのか。

思えば、トリッシュの様子は初めから少しおかしかった。
いや、大統領に立ち向かうと覚悟を決めたトリッシュを見て、彼女が俺の知らないところで強い少女に成長したことを悟ったのは確かだ。
だが、それとは別に、彼女の俺に対する態度だけが、どこかよそよそしい。

もしかして――――。
心当たりは一つある。トリッシュが、「打倒ボスを果たした」と俺に告げた時から。


「……心配するな、トリッシュ。お前は元の世界に帰って、歌手として、歌姫として世界に羽ばたかねばならないだろう?」

だが、俺はその不安を、決して言葉にはしない。

「大統領を倒すまでは、皆で笑ってゲームを脱出するまでは――――――」

―――俺は死なない。
そう続けるつもりだった俺の言葉は、ウェカピポによって遮られてしまった。



「なっ! なんだこいつは!? "変態"ッ? いや―――!?」

ウェカピポに声をかけられても目を覚まさなかった"変態"。
彼の頭を揺さぶろうと手をかざしたその時、"変態"が彼に牙を剥いた。
ウェカピポに飛び掛かった"変態"の身長は180センチほどにまで巨大化し、口元には鋭い牙が生え、爪は鋭く光り、皮膚は鱗で覆われ、長い尻尾が生えていた。
昔見たスピルバーグの映画を思い出す。

"変態"が恐竜に『変態』した。



☆ ☆ ☆
「なッ! なんだそいつは!? スタンド!? いや、まさか恐竜か?」

「ほう、よく知っているな。さすがは21世紀の人間だ。未来では古生物学というのももっと進化しているのだろうな。
これが俺のスタンド能力、『スケアリー・モンスターズ』だ。能力は生き物を恐竜に変え支配すること。生き物ならば生きていようが死体であろうが問題ない。そして俺自身も恐竜に変化し、身体能力を向上させることができる!」

「………」

「そしてこの恐竜はこの殺し合いで死んだある男の死体を恐竜化させたものだ。こいつは特に耳が利いてな。こいつに地下洞窟の探索をさせ、ブチャラティ一行の動向を捕えることに成功した。
俺の知っている男がひとりと、『トリッシュ・ウナ』という女も一緒にいるッ!!」

「何ッ!? トリッシュだと!?」

「その女はブチャラティとも顔見知りの様子だった。十中八九、お前らの目的の娘だろうな?」

「………チクショウ、ブチャラティにトリッシュ・ウナだと!? 上等だぜッ! ヤロウをブチのめすついでに生け捕りにしてやるぜッ!」

「よし、決まりだな。俺の指示通りに動くと約束できるのなら、2人で奴らを攻撃するぞ」

「………何故、隠していた能力を、いまさらオレにすべて話した?」

「言っただろう? 利害が一致したためだ。俺はルーシーを手に入れるため、お前はブチャラティを殺すため……」

「………俺は、どうすればいい?」



☆ ☆ ☆
「ウバシャァァァ―――!!」


玉美恐竜は前足の爪でウェカピポを切り付け、彼が怯んだ隙にトリッシュめがけて飛び掛かっていった。
『スケアリー・モンスターズ』で生み出された恐竜は元となった生物の影響を受けることが多いが、『変態』を『恐竜化』した場合は真っ先に女性に襲い掛かるということだろうか?
牙を剥いた玉美恐竜は、高さ2メートルはあるであろう跳躍を見せ、トリッシュを頭上から襲う。

「『スティッキィ―――・フィンガ―――ズ』ッ!! アリアリアリアリィィ―――!!」

そこに叩き込まれるブチャラティのスタンドの拳。

「WANABEEEEE!!!」

そしてそれに重ねられる、トリッシュのスタンドによる壮絶なラッシュ。

「ギャピィィィィ!!」

吹き飛ばされる玉美恐竜。石壁に叩きつけられ悶える。
恐竜になって身体能力は向上していたようだが、さすがに2人の格闘型スタンドの連撃を受ければ、動けなくなる程度にまで痛めつけられたようだ。
やがて恐竜となった身体は元に戻り、服が破かれ再び半裸になった小林玉美の姿が地に伏せた。

「ウェカピポッ! 今のはまさかッ!?」
「Dioの恐竜だッ! 奴が攻撃を仕掛けてきているッ!!」
「くそッ! 何てことだッ! こんなに早く見つけられてしまうとはッ―――ッ!」
「ブチャラティさんッ!! 後ろッ!!」

「ギャオオオオオ―――ン!!」


ルーシーの声にブチャラティが反応する。
彼の背後から新手の恐竜が姿を見せた。

(チッ! 今度のヤツは"変態"のより二回りはでかいッ!! 生物を恐竜化する能力ッ!! あの小柄な"変態"であのサイズだ。こいつは『元』も長身だったのだろうッ!)

強力な牙は厄介だが、このタイプの手合いには力押しが最も有効である。
先ほどと同様、恐竜に『スティッキィ・フィンガーズ』を叩き込む―――



『ホワイト・アルバム』―――――ッ!!!



「何ッ!!」

恐竜を迎え撃とうとスタンドを繰り出したブチャラティの足元を冷気が襲う。
とっさに飛びのかなければ、ブチャラティの両足は凍らされ地面に固定させられていただろう。


(『氷のスタンド』ッ ギアッチョ!! やはりヤツも現れたかッ!! まずいっ 体勢を崩してしまっては攻撃が不十分となる―――――ッ)

恐竜とスタンド使いによる挟み撃ち。
とっさの対応で体勢を崩してしまったブチャラティへ、獰猛な恐竜が牙を剥ける。
「伏せろブチャラティ――!! 壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)―――ッ!!」


ウェカピポが鉄球をぶん投げた。
恐竜の死角より投擲された鉄球だったが、間一髪のところでその鉄球を回避する。
かわされた? いや、まだだ。ウェカピポの攻撃はまだ終わっていないッ



ドギャァァァアア


「グゲェェェェエエエッッ!!」

鉄球は恐竜の頭部間近で炸裂し、無数の衛星を飛ばす。
ジャイロ・ツェペリの鉄球に、ベアリングの弾を埋め込んだだけの急造品ではあるが、効果は絶大である。

「グ……グガァ………」

苦しむ恐竜、だが致命傷は与えられていない。


「ブチャラティ! こいつはあたしに任せてッ!!」
「トリッシュッ!?」

ブチャラティよりも先に、トリッシュが恐竜を迎え撃つ。
スタンド『スパイス・ガール』。経験は足りないが、パワーだけならば『スティッキィ・フィンガーズ』に匹敵するほど強力。
トリッシュは強くなった。もう、守られているだけの少女ではなかった。


(それに――――――)


ブチャラティは恐竜の相手だけをしているわけにもいかないのだ。
恐竜よりも、もっと手ごわい相手が目の前にいる。


「お前の相手はオレだぜ――― ブチャラティッ!!」

氷のスタンド使い――― 暗殺チームのギアッチョが、ブチャラティの前に姿を現した。



☆ ☆ ☆
「まずはこいつを使う。『カエル』を『恐竜化』した小型の恐竜だ。こいつを先行させて、"変態"と呼ばれていた男に『恐竜化』を感染させる」

「役に立つのか、そんな変態野郎が?」

「当てにはしていない。なにしろ『恐竜化』の戦闘力は元になった生物の身体能力にも左右されるからな。
だが、本陣に突然恐竜が放り込まれたら隙の一つも出来よう。そこで第二陣をすかさず仕掛ける」

「それが"コイツ"と"オレ"か。こいつの『元』は、いったい何者なんだ?」

「なあに、このゲームに参加させられていた『誰か』さ。『恐竜化』に適した都合のいい肉体だったんで利用させてもらっているだけだ。
奴らのいるのはコロッセオの地下だ。地図がないからおおよそにしかわからんが、大体こんなふうに繋がっている。
恐竜は北のトンネルから、お前は真実の口から侵入して仕掛ける。挟み撃ちの形になるな」

「『まずはブチャラティを集中狙い』、『オレの標的はブチャラティに絞る』ってのは、オレとしちゃあわかりやすくてありがたい」

「コイツ(恐竜)はトリッシュかウェカピポにぶつける。トリッシュがどうかはわからないが、ウェカピポは『スタンド』を持っていない。
『恐竜』のような純粋に『力』の相手を苦手とするはずだ。"コイツ"が相手だとなおさらな」

「なるほど、悪くない作戦だが…… それで、ディエゴ・ブランドー。お前は何をする?」




☆ ☆ ☆
「トリッシュ!! ヤツの左側に回り込んで攻めろッ!! 奴は今、体の左半分が見えていない!!」
「―――了解ッ!!」

投擲した鉄球は柱に当たって跳ね返り、ウェカピポの元に戻ってくる。
普段ならば5〜6個の鉄球を持ち歩いているが、現在の持ち合わせはこの一球のみだ。大切に扱わねばならない。
直撃を食らわせれば恐竜も仕留められただろうが、完全な死角からの投球を回避するとは恐るべき洞察力。
だが、ウェカピポの鉄球はたとえ直撃しなくとも威力を発揮する。

左半身失調。
それがウェカピポの持つ鉄球の戦闘技術・壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)の『技』だ。

鉄球に取り付けられた14の『衛星』を飛ばし、攻撃する。。
今回使った鉄球は急造品ゆえにオリジナルよりも威力は落ちるが、それでも脳を騙し身体の左半分を失わせるには十分な威力を持っていた。
トリッシュもあらかじめウェカピポの『技術』を教わっていたため、即座に対応、恐竜の左側に回り込み、攻撃を仕掛ける。


「『スパイス・ガァァァ――――ル』ッ!!!」


だが―――――

恐竜は左半身の失調などものともせず、身体を大きく捻ってトリッシュの攻撃を回避。
そしてその勢いをそのまま攻撃に転化させ、強烈な尻尾での一撃をトリッシュに叩き込む。

「何ッ!!」
「何ですってッ!!!」

恐竜が隙だらけだと思い油断してかかったトリッシュに手痛いカウンターパンチが炸裂する。
咄嗟にスタンドでガードしたため致命傷は避けたが、大理石でできた柱に叩きつけられ、痛手を負う。

「グフ……ッ」
(ウェカピポめぇ…… どこが見えていないのよ!! 思い切り超反応かましてくれるじゃないのッ!!)

ウェカピポにもその理由はわからない。
なぜならこの恐竜、元々目が見えていなかったのだ。
左だけでなく、右目も。

小林玉美の変態要素が恐竜に反映されたように、恐竜化された生物は元々の姿の時の影響を色濃く受ける。
この恐竜は、ディエゴ・ブランドーが最初に死を看取った参加者、盲目の戦士『ンドゥール』の遺体を恐竜化させたものなのだ。

つい先ほどまでその存在をギアッチョにも隠し続け、逃げたブチャラティの追跡もこの恐竜にさせていた。
地下洞窟へと逃げ込まれては直接の追跡は不可能だったが、地中を走る自動車の音はンドゥールならば追えるのだ。
流石のブチャラティも、地下でギアッチョを撒いたところで、地上から恐竜に追跡されているとは思いもよらなかった。
トリッシュたちと遭遇し放送を聞いていた最中も、まさか自分たちの頭上、コロッセオ内にて1匹の恐竜が聞き耳を立てていたとは想像だにできなかった。
そしてブチャラティたちが移動をやめた頃合いを見計らいDioの元へ戻り、万全のプランを立てて襲撃するに至ったのだ。

そして、襲撃の場面では2番手の恐竜として送り込まれた。
左半身を失調したところで、元々が視力に頼らないンドゥール。
音の反響し合う地下遺跡の中では、右耳さえ生きていれば通常状態となんら変わらなかった。
(くそッ! 俺のミスでトリッシュが……!)

ベアリングの球を込め直し、再び鉄球を構えるウェカピポ。
直撃だ。直撃さえさせれば、あんな恐竜などひとたまりもない。
今度こそ、と狙いをつけ投球のフォームに入ったウェカピポに―――――

「ウェカピポさんっ―――!!」

「ウバッシャァァァァァアア!!」」


―――闇の中より、別の恐竜が襲い掛かってきた。


「ヌウゥ!!」

3体目の恐竜の出現。
恐竜はその発達したその全身を用いて、ウェカピポに強烈な突進を見舞う。
まるでオートバイに跳ねられたような強力な打撃がウェカピポを襲う。

(なんという威力……これが恐竜の打撃ッ!?)

とっさに鉄球の回転を自分に押し付け、硬質化して防御した。
にも関わらず、この威力、このダメージ。
新たに現れた3体目の恐竜はウェカピポの顔をじっと見据える。

傷つきながらも、ウェカピポは鉄球を構え、恐竜を迎え撃つ姿勢を取る。
トリッシュやブチャラティのカバーにも回りたいが、先に自分の目の前にいる恐竜を片付けなくてはいけなくなってしまった。

しかし恐竜は、何故かウェカピポから興味なさげに視線をそらす。
心なしか、笑っているように思えた。
恐竜の目線の先にいるのは――――― ルーシー・スティール。


(しまった――――――ッ!!)

ウェカピポが気づいた時にはもう遅い。
恐竜は一足飛びにルーシーへの距離を詰め、悲鳴も出させぬスピードで手刀を叩き込み、気絶させる。
そして恐竜はルーシーを担ぎ上げ、こちらを振り返りながら静かに笑った。

(これが奴らの真の狙いか―――)

玉美の恐竜の攻撃は、ウェカピポに大したダメージを与えることはなかった。
恐竜化された他の2体の恐竜は、動きは比較的シンプルで直線的だった。
この3体目の恐竜は、他2体とは攻撃力も知力も段違いだった。
こいつが恐竜どもの親玉である。
そして、奴らの真の狙いは、ルーシー・スティールの確保。
この男の正体は――――――
「貴様! Dioかッ!!」

「あばよ、ギアッチョ」




短く捨てゼリフを漏らし、ルーシーを背中に担いだディエゴ・ブランドーが北へ走り去る。
コロッセオの北、ウインドナイツのトンネルには難解な迷宮がある。
もしそこに逃げ込まれたら、追跡は不可能だ。


「追ってッ ウェカピポ!!」
「俺たちにかまうなッ!! 行けッ!!」

「な――― し、しかし――――――」

トリッシュもブチャラティも優勢とは言えない。
とくにブチャラティが相対しているギアッチョという男の能力は底が知れない。
恐竜である奴を人間の足で追いかけるなんて不可能かもしれない。
だが、彼らはウェカピポにディエゴ・ブランドーの追跡を命じるのだった。

「あたしの"護衛"は必要ないって言ったでしょ!? 早く行ってッ!!」
「行ってくれウェカピポッ!! 彼女を助けてやってくれ!!」

「………わかった」

ウェカピポは2人の真意を理解する。
彼らは、ルーシーが『スティーブン・スティール』の妻だから、大統領に近づくための切り札になるから、そういった理由で彼女を助けたがっているわけではない。
ただ、普通の少女だから。
事件に巻き込まれただけの、どこにでもいるごく普通の少女だからこそ、助けてくれというのだ。

ギャングが人を助け、大統領が人を殺す。
全く狂った世の中だ。

ブローノ・ブチャラティ。
彼とは出会って一時間と経っていないが、いい仲間と巡り合うことができた。



鉄球を携え、ウェカピポは遺跡を後にして走り去った。
そんなウェカピオを見送り、ブチャラティは気持ちを切り替える。
こちらの人数は減らされてしまった。


「『俺たちにかまうな』……だとォ? ズイブンヨユーかましてくれんじゃあねえかッ!! このクソダボがッ!!」


ブチャラティの相手は、恐らく暗殺チーム最強の使い手。
絶対零度のスタンド使い、ギアッチョなのだから。



☆ ☆ ☆
509 : ◆vvatO30wn.:2012/11/21(水) 23:56:37 ID:1NqoTLgY



もうチョイ書けてますが、この辺までにしときましょう、キリがいいので。
まあ大体いつもの俺の作風通りの話です。
そんだば三連休に残り投下できるよう頑張ります

一応ageときますが、◆4eLeLFC2bQ氏の投下が転載用スレに来ているので、そっちもヨロシク&転載よろしくお願いします
138創る名無しに見る名無し:2012/11/28(水) 20:19:08.28 ID:VX/ERVrX
最初に投下があったのが11月26日
ちょっと遅れたけど一周年おめでとう
139 ◆LvAk1Ki9I. :2012/11/28(水) 22:01:02.03 ID:KZ9DP1Ya
ヌ・ミキタカゾ・ンシ、グイード・ミスタ、エンリコ・プッチ、ホット・パンツ
本投下開始します。
140聖堂に運ばれた2人の男 ◆LvAk1Ki9I. :2012/11/28(水) 22:03:47.85 ID:KZ9DP1Ya
(さて、どう動くか………あんまり時間はかけられねーな)

グイード・ミスタは柄にもなく悩んでいた。
物陰に隠れた彼の視線の先には地面に倒れているミキタカと、それを囲む二人組みの姿。
ミキタカを追ってここまできたものの不用意に飛び出すわけにはいかず、かといって放っておくわけにもいかなかった。

「クソッ、なんでよりによって二人なんだよ………あいつらとミキタカとオレで、『四人』になっちまうじゃねーか………」

ミスタは誰にも聞こえないようひとり呟く。
単に縁起が悪いというだけでなく、相手が一人だけならば例え危険人物でもやりようはあった。
あるいは相手の人数がさらに多ければ、少なくとも全員が殺し合いに乗っている可能性は極めて低くなるため、素直に出て行くことも出来た。
そういう意味で相手が二人というのは最も判断が難しい微妙な数だったのである。

(拡声器も閃光手榴弾も、ダメだな………)

腰に下げた道具をちらりと見て思案するが、すぐに首を横に振る。
拡声器で注意をひきつけるとしても、おそらく片方が残ってもう片方が様子を見にくるのが関の山であり、結局二人を相手にしなければならない。
この場から閃光手榴弾を投げ込むにしても、気絶したミキタカを背負って逃げきるのは難しいだろう。
第一そんなことをすればこちらが危険人物と判断されて攻撃されるのが落ちだ。

(となりゃあ出て行くしかねーか、だがその前に………)

ミスタはその場で『ピストルズ』を発現する。
六人組のスタンドを並べ、ミスタは声を落として指示を出した。

「ピストルズ、誰か一人あいつらのそばまでいってこい」
『エエーッ!?ミスタ、ソリャナイゼーッ』
『下手スリャソノママヤラレチマウゼッ!』
「言ってる場合か!あーもう、行ってくれた奴には後でメシの量を多くしてやるから」
『ンナコト言ッテ、メシノ当テモネージャネーカ!』

ミスタが考えたのはまずピストルズを一人だけ接触させること。
これなら二人組みの意思を確認できるだろうし、やられてもダメージは六分の一で済むという寸法だった。
だが………

『ウウーッ、人使イガアライゼッ』
『オレヤダヨーッ』
『コウユーノハNo.5ノ役目ダローッ』
『うえええ〜〜ん オシツケルナヨーッ』

ゲーム開始から満足に食事をしておらず、また時間もいきなり日中から深夜に移ったため寝る時間もずれて気が立っているピストルズはなかなか言うことを聞いてくれない。
―――このような状況において適切なのは『誰か行け』ではなく特定の相手を指して『おまえが行け』と指示することである。
何故ならば、前者だと責任の分散が発生し『自分がやらなくとも誰かがやってくれるだろう』という認識をする者が多いからだ。
だが焦りからかミスタが『誰か一人』と言ってしまったために押し付け合いとなり、行動が遅れてしまう。
そしてしばし口論が続いた後………

『チキショー、コウナッタラジャンケンデ………ッテミスタ!ウシロダァーッ!!』

「………? 後ろ………ッ!!?」
『一人漫才というやつか?………ヒマつぶしなら他でやれ』

いつのまにか背後に忍び寄っていた妙な文字模様のスタンドが振り下ろした手刀を頭に受け、ミスタはあっさり意識を失ってしまったのだった。

―――誤解のないよう付け加えるが、彼自身は至極真面目にやっていた、と言っておく。
ただ今回の彼には、ツキがなかった。
141聖堂に運ばれた2人の男 ◆LvAk1Ki9I. :2012/11/28(水) 22:06:44.51 ID:KZ9DP1Ya
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「まったく、何故わたしがこんなことを……」

大聖堂内部の片隅で一仕事終えたホット・パンツは呟く。
そんな彼女の足元には意識のない男二人が寝かされていた。

(こうなったきっかけは……この男が馬に乗ってきたことがそもそもの始まりだったな……)

―――今からおよそ一時間ほど前のことである。
聖堂の見張りをしていたら、夜が明けるか明けないかというところでDioの馬、シルバー・バレットに乗った男が広場に進入してくると同時に気絶していた。
馬をおとなしくさせてもらい、どう対応するかを相談していると神父が突然「妙な気配がした、様子を見てくる」と言って歩き出していき、しばらくして別の気絶した男を抱えて戻ってきた。
かと思えばすぐに「おそらく危険人物ではない。適当なところに寝かせておいて起きたら知らせて欲しい、わたしはやることができた」とだけ言い残して聖堂の奥にこもってしまったのである。

(ちょっと待て、女性一人だけで力仕事をやらせる気か、それに危険人物でないという保証はどこにあるんだ、そもそも何故その男も気絶しているんだ)

聞きたいことは山ほどあったがその時既に神父の姿は見えなくなっていた。
同時に『放送』も始まったため、重要な点は逃さないようにメモを取りながら聞き、改めて男達をどうするか思案する。
馬に乗せて運ぼうにもシルバー・バレットは座り込んだまま動かなかったので、仕方なく自力で一人ずつ聖堂内へと引きずり込む。
入り口から見えるところに置く、というのは誤解を招きそうだったので左手奥のほうに二人を並んで寝かせるとようやく一息つくことが出来た。
そこで自然と口をついて出たのが先程の一言である。

ホット・パンツは男達が目を覚ますまでの間、名簿の中身に目を通していた。
トラップを警戒して直接身に着けているものには手をつけていないが、念のため男たちのデイパックと鳩が運んできた名簿は全て回収してある。
『放送』で死者の数には驚いたものの、呼ばれた名前には特に思うところはない―――最も、知り合いの名が呼ばれていたとしても、彼女はここを『基本世界』とは認識していないのだからショックは少なかっただろうが。
むしろ彼女の目を引いたのは名簿に記されている生存者のほうであった。
中でも特に気になったのが………

(どういうことだ………なぜ、ルーシー・スティールの名がある………?)

この世界の大統領はダイヤモンドを集めているだろうから彼女は列車内のような姿にはなっていないだろうし、大統領側としても『基本世界』のようにルーシーをそばに置く理由はないはずだ。
すなわち彼女がいること自体は別にありえないことではない。
だが、主催者であるスティーブン・スティールは妻をこんな殺し合いのゲームに参加させる男ではなかった………そこまで考えてホット・パンツには『ピン』と来るものがあった。

(そうか………スティール氏が放送時に妙な言いかたをしたのは、『そういうこと』かッ!!)

あそこまで自分のフルネームを強調して話す理由は一つ、参加者達に名簿でただひとり自分と同じ姓を持つルーシーに気付かせるためだろう。
そうすればこのバトルロワイヤルに反発する者達は主催者の手がかりにつながると考え、こぞってルーシーと『接触』あるいは『生け捕り』を試みるはずだ。
すなわちどちらに転んでも彼女は『生かされる』可能性が高い。
つまり、あれはスティール氏の『ルーシーを死なせないで欲しい』という意味を持つメッセージだったと考えられる。

(となれば、スティール氏自身は全ての黒幕ではない。背後にいるのは『大統領』か………?
 いや………『はさまれる』方法で戻れない以上そうではない可能性もあるか。
 だが別人だとしても、わたしたちをここに連れてきたならば『戻りかた』ぐらいは知っているだろう。
 どちらにせよ敵は『真の』主催者………辿り着くには『情報』と『協力者』がいる………
 わたしはこの六時間、なにをやっていた? いたずらに時を消費して、たいしたものも得られずにッ!)

ホット・パンツはゲーム開始からの行動を思い返し、悔やむ。
参加者の半数が死亡したこの六時間で、自分は無傷どころか争いにすら巻き込まれていないのは幸いだが、代わりに『外部』のことは何一つ分かっていない。
篭城の結果、この聖堂を訪れたのはこの妙な男二人だけ―――さらに目的も出来た今、これ以上自分がこの場にとどまる意味はない。
すぐにでも神父にこのことを話して行動を開始するべきだ、そう考えた矢先のことだった。
142聖堂に運ばれた2人の男 ◆LvAk1Ki9I. :2012/11/28(水) 22:10:03.09 ID:KZ9DP1Ya
「う、ううーーーん……ここは……?」
「ン!………気がついたか」
「えっ? あ、おはようございます」

二人の男のうち馬に乗って来た方がようやく目を覚ます。
きょろきょろと辺りを見回すその様子は、とても見知らぬ相手に警戒しているようには見られない。
それでも注意は怠らずにホット・パンツは口を開いた。

「おはよう、さっそくだが用件を言う―――お前は何者だ?」
「……よくぞ聞いてくれました。実はわたし、マゼラン星雲からやってきた『宇宙人』なんです」
「………………………」

ブシュウウウウ!

ホット・パンツは無言で『クリーム・スターター』のスプレーを相手の口元に吹きかける。
スプレーから放出された肉の泡は男の口と鼻をふさぎ、呼吸を封じてしまった。

「?………!?………!!」
「暴れるな、すぐ元に戻してやる。だが次にふざけた答えを……何ッ!?」
「ぷはぁ〜〜ッ、いきなり何をするんですか!」

男の顔が『変形』し、吹き付けた肉をかき分けて出てきた口が文句を言う。
その人間離れした光景を見てホット・パンツは僅かだが、引いた。

「………予想外だ……お前、本当に何なんだ……?」
「あ、自己紹介ですね? うっかりしてました。わたしの名はヌ・ミキタカゾ・ンシ、ミキタカでかまいません。職業は宇宙船のパイロットで―――」
「………わかった、もういい………………」

ホット・パンツは額に手を当てながら相手の言葉を遮る。

(こいつ、スタンド能力者のようだが反撃してくる様子も逃げ出す様子もない以上、敵意はないと見ていい。
 そして名乗った名前も確かに先程まで見ていた名簿の中にあった。だが、『こいつはいったい何を言っている』?)

今まで出会った人間とは比較にならないレベルで言っていることがまるでわからないのに彼女は動揺を隠せなかった。
詳しい話は後で神父を交えてすることにして、会話をさっさと切り上げるべく未だ気絶したままのもう一人の男を指差して聞く。

「それで、そこの男はお前の知り合いか?」
「あ、はい。彼はミスタさんです。そういうあなたは―――」
「ミキタカ………といったか、悪いが質問は後にしてもらおう。お前はここで待っていろ、神父様を呼んでくる」

相手が質問に肯定するのを聞くとホット・パンツはミキタカに背を向け歩き出す。
最低限の警戒はしていたものの、それ以上に彼女は未知との遭遇によって疲弊していた。

(神様、この男はなんというか………なんというか、なんなのでしょう)

頭を抱えながら二人から見えない位置まで移動するとトランシーバーを取り出し、プッチと連絡を取ろうとする。
………ところが。

「神父様、馬に乗ってきたほうの男が目覚めました………神父様?」

トランシーバーに向かって何度も喋るが、応答がない。
何かあったのだろうか―――そう考えると彼女は表情を引き締めて再びスタンドを構え、慎重に聖堂の奥のほうへと歩いていった。

―――誤解しようもないが、彼女は常に真面目である。
故に気苦労も多い。
143聖堂に運ばれた2人の男 ◆LvAk1Ki9I. :2012/11/28(水) 22:15:19.00 ID:KZ9DP1Ya
#


―――ミキタカが目覚める少し前。
侵入者の処遇そっちのけでエンリコ・プッチ神父は聖堂の奥で何をしていたかというと………彼は偏にDISCの記憶を見るのに没頭していた。

「おもしろい」

先程馬から抜き取った記憶DISC………その中身は彼にとって実に興味深いものであった。
19世紀のアメリカで行われているレース『スティール・ボール・ラン』。
参加者である『ディエゴ・ブランドー』、『ジョニィ・ジョースター』、『ホット・パンツ』、そして『ヴァレンタイン大統領』。
断片的ではあるが、まさにホット・パンツが語った話そのものが、そこにはあった。

「どうやらあの女、嘘偽りない真実を言っていたらしい………そしてこの名簿………これもまた、おもしろい」

名簿に記されている数々の聞き覚えがある名前へと目を向ける。
幾人ものジョースター、空条親子にウェザー・リポート、さらに………

「きみもいたんだな………DIO………」

プッチは見ようによってはまるで恋人のことを思うかのような安らいだ表情を浮かべる。
彼の脳裏に浮かぶのはある意味で唯一無二といえる友。
DISCの記憶でその姿は何度も見てきたが、本人と最後に話したのは既に20年以上も前―――彼にとっては懐かしき思い出であった。
またそのすぐ上にある『ディエゴ・ブランドー』―――ホット・パンツの話によれば別世界のDIOの名にも興味は尽きない。
馬の記憶で見た彼は、自分の知るDIOと雰囲気も、スタンド能力も異なる。
だが彼もまた間違いなくDIOである………そう思わせるだけの何かがあった。

(DIOの息子や親戚………そんな次元の話ではない。ぜひ一度、彼とも話してみたいものだ)

さらにもう一人、気になる人物がいた。
プッチは広場に侵入してきた馬とその乗り手らしき男を見たとき、ある仮説を立てていた。
騎手が振り落とされるほど全力で馬を駆けさせるというのは『何かから逃げてきた』ためではないかと。
となれば、周囲に『追手』が潜んでいる可能性がある―――そう考えて『ホワイトスネイク』で辺りを捜索したのだった。
その結果物陰に隠れていたマヌケな男―――ミスタにいち早く気がついて不意打ちで気絶させることに成功。
すぐにDISCから最近の記憶を読み取って事の顛末を知り、彼や馬に乗ってきた男―――ミキタカはゲームに乗っていないことを理解したのだった。

その際男の記憶の中に出てきた人物―――ジョルノ・ジョバァーナ。
彼もまた、ディエゴほどではないが何かを感じさせるものがある―――例えるならば、あの三人の『DIOの息子たち』と非常に良く似た何かが。
だが彼に限っては同時にいいことばかりではなく、憂慮すべき事柄も存在していた。

「あの少年………ジョルノといったか。殺されたはずの彼が生きているということは空条承太郎も同様に生きて、しかも万全の状態でいる可能性が非常に高いッ!」

彼は確かに、ゲーム開始前に空条承太郎と並んで殺害されたはずの男だった―――だが、その彼が生きているとなると、そこから考えは派生してゆく。
プッチは『放送』に加えて記憶で見た情報と名簿の名前を見比べて、現状の再確認を始めた。

(放送によれば空条徐倫は死亡したらしい………だが空条承太郎はもちろん、わたしの『正体』を知っているウェザーやナルシソ・アナスイが残っている。
 わたし自身はもちろん、DIOにとっても彼らは厄介な存在以外の何者でもない。それにジョンガリ・Aやスポーツ・マックスなど死者の名前があるのも気がかりだ………
 どうやらこのゲーム、わたしの想像を遥かに超越した『何か』があるのかもしれんな………
 こうしてはいられない、DISCを見終えてあの二人の処遇を決めたら、すぐにでもここを発たねば)

そう考えるとプッチは再びDISCの記憶へと注意を向けるのだった。
記憶を見るのに雑音が入らないよう、トランシーバーのスイッチを切ったことをすっかり忘れて。

―――誤解されがちだが、彼は目的に向かって真面目に取り組む男である。
………目的の善悪は別として。
144聖堂に運ばれた2人の男 ◆LvAk1Ki9I. :2012/11/28(水) 22:19:21.28 ID:KZ9DP1Ya
#


「………そう、カフェの近くから大きな音が聞こえてきて―――」

ミキタカはどこかに行ったホット・パンツの帰りをじっと待ちつつ、自身の記憶を回想していた。
カフェで待機していてサイレン音が聞こえるまでの出来事は簡単に思い出せる。

その後のことも、かろうじてだが記憶は残っていた。

「確か、そのすぐ後に嫌なサイレンの音がして………ああ、馬に乗って無我夢中で逃げてしまったんでしたね。
 ミスタさんとジョルノさんには悪いことをしてしまいました………
 ―――彼らと一緒に逃げるべきでしたね」

微妙にずれた思考ながらも、彼自身迷惑をかけたという自覚はあった。
気絶したミスタに目を向けるが、彼は未だに目を覚ます様子はない。
その腰元に拡声器と閃光手榴弾があるのを見てふと周囲を見渡す。
自分たちのデイパックは………なかった。
おそらく運び込まれたときにでも没収されたのだろう、と推測する。

「それにしても、ここはどこなんでしょう? それにジョルノさんはどうなってしまったんでしょうか?」

見知らぬ場所で仲間も足りない状況ながら、危機感を全く感じさせない声で呟くミキタカ。
その余裕ぶりは他人が見ればむしろ頼もしく感じるかもしれないほどであった。
ところが、そんな彼の表情は一瞬の後に驚愕に染まることになる―――自分達の首輪から、突如声が聞こえてきたことによって。


『『おっと 自分の位置がわからないアホがひとり登場〜〜 今いる場所が禁止エリアなの知ってたか?マヌケ』』

「………エッ!!?」



サン・ピエトロ大聖堂はその大部分がC-1に属している。
だが、地図をよく見るとわかるが南端の端の部分はわずかにD-1―――「現在の時刻である」7時に禁止エリアとなる区域に入っていた。
そして、その南端こそが今まさに彼らがいる位置だったのである。
ホット・パンツは放送を聞いており、メモも取っていた。すなわち直後に禁止エリアとなる場所へと移動を行うなど本来ありえないはずであった。
だが、彼女は考え事をしながら作業をしており、また聖堂内から出ることがなかったのでここ数時間のうちに地図を開いていなかった。
そのため、前述した聖堂の南端がD-1に跨っている事実を失念していたのである。
あとは………強いていうならば北ではなく南に運ばれた彼らの『運』が悪かったのかもしれない。



―――閑話休題。
他人の言葉には比較的従順なミキタカであるが、さすがにこの状況で黙って待っているわけにはいかなかった。

「ちょ、ちょっとミスタさん!起きてください!なんだかヤバイです!!」
「………………」

身体を揺すりながら必死に叫ぶも、ミスタは目を覚まさない。
そうしているうちに首輪から聞こえてくる声はカウントダウンを始め、その数字は着々と減っていく。
迷っている暇は、なかった。
145聖堂に運ばれた2人の男 ◆LvAk1Ki9I. :2012/11/28(水) 22:22:03.95 ID:KZ9DP1Ya
「ウウーッ、仕方ありませんッ………!」

ミキタカは素早く変身してスニーカーになり、ミスタの足に取り付くと無理やり移動を開始する。

ガツンッ!

「痛ッ! なっ、なんだぁああ〜〜ッ!?」

のけぞる姿勢になったことにより後頭部を床にぶつけて目覚めたミスタが叫ぶが、気にする余裕はなくほとんど彼の上半身を引っぱるような形で正面入り口の方へ向かう。
すぐに禁止エリアから出たらしく音はやんだが、ミキタカのパニックは収まっていなかった。

(『ここを動くな』。あの人は確かにそういってました………ひょっとしてこのことを知っていてわたしたちを始末するために………?
 そういえば先程もいきなりわたしに攻撃してきたような気もしますし………き、危険です! 一刻も早くここから『脱出』しなくてはッ!!)

「お、おい何やってるんだオレの………足? ちょっと待て!勝手にどこ行く気だよ!」
「お目覚めですかミスタさんッ! それでは急ぎましょうッ!!」
「喋ったァ!? い、いやそれはともかく理由を言え―――ッ」

ミスタの抗議を無視してがらんとした大聖堂を見渡し、朝日が差し込む出口を見つけるとそちらへ一直線に駆ける。
奥のほうにいたプッチ達が彼らに気付くことはなかったが、たとえ気付いていたとしても二人分の速さで走る彼らに追いつくことなど到底出来なかっただろう。
座り込むシルバー・バレットにも気付かず、二人(といっても見た目は一人だが)はみるみる大聖堂から離れていく。
一直線に広場を抜け、道を走り、流れる川の近くまで来たところでようやく落ち着いたのか、ミキタカは動きを止める。

「フゥー、ここまでくれば一安心でしょうか」
「おいおい、何がどうなってやがるんだ? 説明を要求するぜ………まずオレの足っつーか、よく見たら妙な靴履いてるんだが、喋ってるおめーは何モンだ?」
「おお、そうでした。わたしですよ、ミスタさん」

ウジュルウジュルと音をたてながらミキタカが人の姿へと戻る。
ミスタは呆気に取られた様子でその一部始終を眺めていたが、やがて言った。

「あーー………えっと………………どちらさんでしたっけ?」

「………………え?」


―――プッチは最初にミスタを気絶させたとき、彼の記憶DISCを抜き取った。
中身をちらりと見て危険人物ではないことを確認したものの、ずっと聖堂に篭城していたプッチにとって『外部』の情報は貴重なものであった。
そのため後で詳しく調べようと『DISCを戻さないまま』彼をホット・パンツに預けたのである。
プッチ本人は不審に思われないよう調査が終われば返すつもりだったのだが、不幸にもそれより先にミスタは勝手に逃亡させられる羽目になってしまったのだった。

果たして、記憶を無くしてしまった不運を嘆くべきなのか。
あるいは、命までは失わずに済んだ幸運を喜ぶべきなのか。
それすらも今の彼にはわからない。
そんな彼の傍らには状況がよく飲み込めないミキタカが佇むのみであった。

「なんとなく『敵』じゃあねー気はするんだが………あークソッ、思いだせねェ〜」
「ミスタさん、どこかで頭でも打ったのでは………あ、わたしのせいでした」

―――誤解も六階もない。彼が真面目かどうかは他者には判別不能である。
その真意は本人と神のみぞ知るところであろう。


様々な不幸に苛まれつつも、ゲーム開始から数えて自身の『四番目』となるエピソードを乗り切ったミスタ。
聖堂内に引きずり込まれ、ホット・パンツを引かせ、ミスタを引っ張りながらも『引力』とは全く無縁なミキタカ。

―――この妙なコンビの行く先と、聖堂にて彼らの逃亡が判明するのは共にもう少し先の話である……
146聖堂に運ばれた2人の男 ◆LvAk1Ki9I. :2012/11/28(水) 22:25:14.87 ID:KZ9DP1Ya
【C-1 サンピエトロ大聖堂 / 1日目 朝】


【ホット・パンツ】
[スタンド]:『クリーム・スターター』
[時間軸]:SBR20巻 ラブトレインの能力で列車から落ちる直前
[状態]:健康
[装備]:トランシーバー
[道具]:基本支給品×3、閃光弾×2、地下地図
[思考・状況] 基本行動方針:元の世界に戻り、遺体を集める
1.プッチと今後について相談し、行動開始する。
2.おそらくスティール氏の背後にいるであろう、真の主催者を探す。
3.プッチと協力する。しかし彼は信用しきれないッ……!


【エンリコ・プッチ】
[スタンド]:『ホワイトスネイク』
[時間軸]:6部12巻 DIOの子供たちに出会った後
[状態]:健康、やや興奮ぎみ
[装備]:トランシーバー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2、シルバー・バレットの記憶DISC、ミスタの記憶DISC
[思考・状況] 基本行動方針:脱出し、天国を目指す。手段は未定
1.DISCを確認後、ホット・パンツと今後について相談、聖堂を出発する予定
2.DIOやディエゴ・ブランドーを探して話をしてみたい。余裕があればジョルノも
3.ホット・パンツを利用する。懐柔したいが厄介そうだ……
4.ホット・パンツの話に出てきた、「ジョースター」「Dio」「遺体」に興味

※シルバー・バレットの記憶を見たことにより、ホット・パンツの話は信用できると考えました。
※ミスタの記憶を見たことにより、彼のゲーム開始からの行動や出会った人物、得た情報を知りました。
147聖堂に運ばれた2人の男 ◆LvAk1Ki9I. :2012/11/28(水) 22:28:08.43 ID:KZ9DP1Ya
【C-2 南東 / 1日目 朝】


【グイード・ミスタ】
[スタンド]:『セックス・ピストルズ』
[時間軸]:JC56巻、「ホレ亀を忘れてるぜ」と言って船に乗り込んだ瞬間
[状態]:記憶喪失
[装備]:閃光弾×2
[道具]:拡声器
[思考・状況]
基本的思考:なし(現状が全くわからない)
1.ここはどこ?あんた誰?っていうかオレ何してたんだっけ?

※第一回放送を聞き逃しました。名簿も未確認です。
※記憶DISCを抜かれたことによりゲーム開始後の記憶が全て失われています。
※ゲーム開始『以前』の記憶がどの程度抜き取られたかは次回以降の書き手さんにお任せします(ただし原作承太郎のように全ては奪われていません)。


【ヌ・ミキタカゾ・ンシ】
[スタンド?]:『アース・ウィンド・アンド・ファイヤー』
[時間軸]:JC47巻、杉本鈴美を見送った直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本的思考:ゲームには乗らない
1.ミスタさん、どうしたというんでしょう……?
2.先程の建物にいた人物(ホット・パンツ)から逃げる
3.知り合いがいるなら合流したい
4.承太郎さんもジョルノさんと同じように生きているんでしょうか……?

※第一回放送を聞き逃しました。名簿も未確認です。
※ジョルノとミスタからブチャラティ、アバッキオ、ナランチャ、フーゴ、トリッシュの名前と容姿を聞きました(スタンド能力は教えられていません)。
※第四部の登場人物について名前やスタンド能力をどの程度知っているかは不明です(ただし原作で直接見聞きした仗助、億泰、玉美については両方知っています)。



[備考]
・シルバー・バレットは神父にDISCを抜かれて記憶を失い、広場に大人しく座っています。
・ミスタとミキタカは自分たちの現在位置がわかっていません。また地図も持っていません。
・禁止エリアに入ると首輪が『誰か』の声で教えてくれるようです。
148 ◆LvAk1Ki9I. :2012/11/28(水) 22:32:27.49 ID:KZ9DP1Ya
以上で投下終了です。
真面目にやっているはずなのに周りから妙な目で見られるということ、ありますか?
仮投下からの変更点として、若干文章を修正しています(展開に変化は無し)。
誤字脱字、その他ご意見などありましたらよろしくお願いいたします。

そしてジョジョロワ3rd一周年、おめでとうございます!
土曜日にはラジオツアーも行われるとのことなので、一度最初から読み返してみようかなとも思ってます。
それでは、また次回。
149創る名無しに見る名無し:2012/11/29(木) 19:49:13.38 ID:yjNlD4sG
投下乙
ミスタがえらいことに…
このヤバい事態にギャングと宇宙人のコミカルなコンビはどう動くのか
150創る名無しに見る名無し:2012/11/30(金) 12:38:27.18 ID:PVHcsBJW
投下乙
マジメなのにコミカルな話だと思ってたらミスタァァァァ
これプッチが先に死んだらどうなるん…?
151創る名無しに見る名無し:2012/11/30(金) 17:22:59.77 ID:LYsIBsHM
投下乙です!
やっぱり「4番目」は縁起悪かったかww
二人とも何とか頑張って生き残ってほしい
152 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 05:17:49.54 ID:GZCgpRO/
お昼頃投下に来ます
支援よろしく
153創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 12:54:01.51 ID:db3NUl4A
そしてお昼頃ッ!!
154 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 14:20:09.28 ID:GZCgpRO/
ヘイ、10月に予約して12月に投下しにくるクソ書き手一丁!
ちょっとトイレ行ってクソしてくる!

14時半に投下始めます!
155 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 14:30:19.31 ID:GZCgpRO/
長い間お待たせしました
皆様にご迷惑と苛立ちを与え、誠に申し訳ありませんでした。

小林玉美、ブローノ・ブチャラティ、トリッシュ・ウナ、ギアッチョ、ウェカピポ、ルーシー・スティール、ディエゴ・ブランドー
投下します

初めは先行掲載分と同じなので退屈かもしれませんが、どうかお付き合いください。
微妙に修正している部分もありますので。
156虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 14:31:58.47 ID:GZCgpRO/
もう一人ぼっちじゃない
貴方がいるから















☆ ☆ ☆
157虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 14:39:01.40 ID:GZCgpRO/
「――ブ、ブチャラティ!?」
「……ルーシー・スティール?なぜここに!?」


薄暗い洞窟の中で出会ったのは、自分の見知った少女――トリッシュ・ウナだった。
可能性として考えなかったわけではない。
ジョルノが死に、自分もこの場に存在する。
先ほどの襲撃者は、(直接面識があるわけではないがジョルノらからの情報から察するに)組織・暗殺チームの氷使い『ギアッチョ』である。
わかっているだけでも、これだけの数の関係者が巻き込まれている。
ミスタとナランチャの2人や、もしかしたらフーゴも、この場に招かれているかもしれない。
だが、トリッシュまで巻き込まれていたとは。
何も知らない、ただの町娘だった彼女が、こんな血生臭い催しへと。

ある意味で彼女の顔は、この6時間の間でもっとも見たくないと思っていた顔だった。



「……彼は?」
「大丈夫よ、ウェカピポさん。知った顔だから…… 私に任せて」

向こうは2人……いや、トリッシュは誰か小柄な人間を背負っているようだ。とすると3人か?
ともかく、傍らの男が懐に手を伸ばしながら此方に警戒心を見せる。
そしてそんな彼を、トリッシュが制した。
2人の様子を見るに、トリッシュはここで信頼のおける仲間を得ていたようだ。
本当に良かった……。それも運のいいことに、ルーシーの知り合いでもあるようだ。

だが、トリッシュの様子がいささか妙だ。
ウエイトレスの衣装に男物のコートを羽織った珍妙な格好のことではない(多少気になりはしたが)。
おかしいのは、彼女の俺に対する態度。
初めに俺の姿を確認した時は、唖然とした様子だった。それからという物ずっと怪訝な視線を向けてきている。
出会ってまだ一週間も経っていない彼女だが、この数日である程度の信頼関係を築けてきたつもりだったのだが。

「………トリッシュ。よく無事で―――――」
「待ってブチャラティ!」


ともかく、トリッシュに話しかけ近づこうとする俺を、彼女の大声が制止した。
あまりの迫力に押し黙る俺に対し、トリッシュは落ち着いた口調で話し始めた。


「ごめんなさい、ブチャラティ。あなたに言いたいことや聞きたいことはたくさんあるのだけれど……突然、あなたと再会して、少し混乱しているの。
それに、『あの男』が言っていたことが本当ならば、もうじき―――」

そう言ってトリッシュはちらりと、支給された懐中時計に目をやる。
ああ、そうか。追っ手から逃げることに必死で気が付かなかった。
もうじき午前6時になる。
『放送が六時間ごと』という主催の男の言に従えば、最初の放送とやらがもうじき始まる。

「―――わかった。詳しい話を始めるのは、そのあとだ」

一定の距離を保ったまま、俺たちは言葉を交わすこともなく放送の開始を待った。

黙って睨み合いを初めて3分と経たぬ頃、どこからともなく五羽の鳩が現れた。
かと思うと、それぞれの手元に紙切れを落としていき、そのままどこかへ飛び去って行った。
なるほど、これがあの男の言っていた『名簿』か。
そして、そこに並ぶ膨大な数の名前に目を通す間もなく、6時間ぶりに聞く、バラエティテレビのMCを彷彿とさせる『あの男』の声が聞こえてきた。


158創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 14:39:39.18 ID:z7Ymh5qq
C
159創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 14:39:42.05 ID:vca0dzUz
投下きたぁ!
160虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 14:42:00.88 ID:GZCgpRO/
『―――――この放送は私、スティーブン・スティール、”スティーブン・スティール”がお送りした。
諸君、また6時間後に会おう!君たちの今まで以上の健闘を、私は陰ながら応援しているッ
それではよい朝を!』


そのように締めくくられ、放送自体は滞りなく終わった。
俺はトリッシュの様子を伺いながら、車のボンネットの上に名簿と紙を広げ、メモを取りながら聞いていた。
ルーシーは俺の後ろに隠れながらじっとしており、ウェカピポと呼ばれていた彼も離れたところでこちらを警戒しつつメモを取り放送を聞いていた。
そしてトリッシュはその一切をウェカピポに任せ、放送が終わるまでの間、じっと俺の姿を見ていた。
睨みつけるでも見つめるでもなく、ただ、じっと。

放送で告げられた犠牲者の数は、76人―――――。
このわずかな時間の間に、76人もの人間が犠牲になったのだ。
当然、中には俺が初めに始末した暴漢の名や、2番目に始末した不気味なスタンド使いの名も含まれていたのだろう。
だが、ルーシーやトリッシュのようなどこにでもいる善良な市民も犠牲者の中にはいただろう。
名簿を見るに、参加者は全部で150人。
たった6時間もの間にその半数が死んでしまったという事実。

想像以上に過酷なサバイバルゲームが展開されている。
期間は3日間とあの男は言っていたが、このままのペースでいけば24時間もしないうちに、ゲーム参加者は一人を残し全滅してしまうのではないか?

いや、させない――――
何としてでも、俺がこの手で食い止めてみせる――――――


それにしても、この『放送』と『名簿』には不可解な点が多すぎる。
ミスタ、ナランチャ、そしてフーゴの名前が呼ばれなかったことには心底安心したが、名簿には、すでに死んだはずのジョルノとアバッキオの名も記されている。
さらに、俺が始末したはずの涙目のルカや、プロシュート、ペッシの名も。
死者が蘇ったとでも?
ルカとペッシの名が呼ばれてプロシュートが呼ばれないということは、死んだはずの人間が、今現在も生きてこの会場のどこかにいるという事か?
同姓同名の他人という可能性もあるが、あのギアッチョの例もある。
そして、既に死者でありながら生き続けている自分の例も……。

気になったことは他にもある。
放送の最後に強調された、あの男の名前……。
『スティーブン・スティール』という名前はルーシーに聞いて知っていたが、名前を繰り返されてピンときた。
そしてウェカピポという男が、さきほどルーシーの名を呼んだ。
名簿を広げ、彼女の名前を探す――― あった。

ルーシー・"スティール"

彼女が隠していたのはこの事だったのか。
彼女の様子を伺うと、ばつが悪そうに顔をそむけ、俯いている。
そして、俺にだけ聞こえるくらいの小声で、「ごめんなさい」と謝ってきた。
この様子だと「姓が偶然同じ名だけの他人」ということはないだろう。
彼女の年齢から察するに、父娘か何かだろうか?
なるほど。安心させようとして俺が言った「主催者を倒す」という言葉が、逆に彼女を苦しませ、言い出せなかったのだろう。

隠し事をしていたのはお互い様だ。
できれば放送前に、彼女自身の口から話させてあげたかった。
そうすれば彼女とともに、スティール氏がこんなことを行っている理由を考えてやることもできたのに。


「……ブチャラティ」


トリッシュが声をかけてきた。
そうだ、後悔しても始まらない。
こうしてトリッシュと無事再会できたのだ。
これからのことを考えなければならない。
161創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 14:43:50.00 ID:z7Ymh5qq
支援
162虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 14:44:36.27 ID:GZCgpRO/
「ブチャラティ、この人はウェカピポさん。そっちで寝てるのは……そういえば名前知らなかったわ。ただの変態だから、"変態"でいいわ。
"変態"はただのクソヤローのゴミクズだから無視していいけど、こっちのウェカピポさんは信頼できる仲間よ」

これほどまでに辛辣な言葉を使うトリッシュは初めて見た。
よほど"変態"のことが嫌いなのだろう。よく見れば顔もゲスい顔をしている。彼女に何をしたんだ、この男は?
ウェカピポの方は俺に軽く頭を下げ、俺の後ろのルーシーに目を配る。
彼とルーシーは知り合いなのだろう。ルーシーに直接聞くのも忍びないし、まずは彼からスティール氏のことを聞いてみよう。

「俺はブローノ・ブチャラティ。そちらにいるトリッシュの―――そうだな、"友人"だ。殺し合いに乗るつもりはない。このゲームを止めるために行動するつもりだ」

あえて主催者を叩くとは言わない。
これ以上ルーシーを不安にさせてくはない。
だがギャングであることは、早いうちに話しておかなければな。

「トリッシュ……この男、もしかして………」
「ええ、それについても、聞いてみるつもりでいるわ」

何の話だ?と質問する間もなく、トリッシュからよく意味の分からない質問が投げかけられた。

「ねえブチャラティ、私のことを知っているあなたで心底ホッとしたのだけれど……」
「……どうした?」

そこでトリッシュが言葉を詰まらせる。
何か言いにくいことがあるのか、彼女は押し黙ってしまった。
『私のことを知っているあなた』とは、どういう意味だ?
普通の表現ではない。トリッシュは何を言っている?
自分の中で考えを巡らせる。

そういえば、今自分が話しているトリッシュは、自分の知っている彼女と少し雰囲気が異なっている。
何と言ったらいいのか、とにかく『迫力』があった。
飛行機内での戦いで彼女が『守られているばかりの少女』ではないことは分かったが、今目の前にいる彼女はさらになにか巨大なものを乗り越えてきたかのような風格があった。
外見的特徴も、服装の他に、髪が少し長くなったような気がした。

「……なんだかわからんが、話してみろ。トリッシュ」

俺が再度質問を繰り返すと、トリッシュは慎重に言葉を選びながら、おずおずと話し出した。。

「―――ブチャラティ。こんな聞き方しかできないのだけれど…… あなた、"いつ"のブチャラティなの――――――?」

この質問を皮切りに、俺は様々な事実を知らされることとなる。





☆ ☆ ☆
163創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 14:44:53.96 ID:z7Ymh5qq
支援ー
164虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 14:46:50.15 ID:GZCgpRO/
 




「オイ、落ち着いたか?」

「………ああッ!」

「なら話を再開する。お前の仲間のホルマジオ、イルーゾォ、ペッシ、プロシュートの4人は間違いなく死んでいた。そうだな?」

「オレが直接確認したわけじゃあねェ。だが、オレの信頼している仲間から得た情報だ。だから間違いねェよ」

「なるほど。で、プロシュートを除く残り3人と、俺たちが看取ったリゾットの名前が呼ばれた。メローネって奴だけ名前がないな? 何故だろうか」

「オレが知るかよ! そんなことより、オレが頭にきてるのは、チームの連中の名前ばかりが呼ばれて、ブチャラティの奴らがまだ誰一人として死んでねえってことなんだよッ!!
どういうことだよこのクソが!!」

「おいギアッチョ。落ち着けと言ったろう? もう二度と言わんぞ? 二度言うことは無駄だから嫌いなんだ。貴様がその調子だと次の放送までに話が終わらねえ」

「チッ………」

(やれやれだぜ……)


ブチャラティたちを追ってエア・サプレーナを後にした俺(ディエゴ・ブランドー)とギアッチョの2人は、サン・マルコ広場のオープンカフェに居を据えて放送を聞いていた。
この場所ならば視界が開けており、襲撃者が近づけばすぐにわかる。
ギアッチョの能力があれば狙撃を気にする必要もない。

そうして情報を整理していた俺たちだったが、放送の内容が気に入らないらしいギアッチョがキレて中断、の流れを繰り返していた。

「とにかく、だ。このホルマジオ、イルーゾォ、ペッシ、プロシュートの4人は、"どういうわけか生き返って、そしてこのゲームに参加していた"ってわけだ。
プロシュート以外の3人は、まあ、また死んでしまったのかもしれないが、『少なくとも6時間前にはおそらく生きていた』。そういうわけだ」

「………ああ、そうだろーよッ!?」

「俺の方も、何人か知人がいる。死んだはずの人間もな。このサンドマンやウェカピポなんかがそうだ。直接の関わりはなかったが、マウンテン・ティムもくたばったと聞いている。
俺の考えていること、わかるか?」

「オレだって馬鹿じゃねーよ。お前の話はちゃんと聞いていた。『並行世界』の人間、そう言いてえんだろ?」

「これで間違いないな。スティーブン・スティールはやはり駒だ。このゲームを仕組んだ黒幕はファニー・ヴァレンタイン大統領。そして、それだけじゃあない。
ブチャラティたちやお前の仲間を、わざわざ別世界からまで呼び寄せたということは、だ。お前たちの『ボス』とやらも、この件に一枚噛んでいるんじゃあないか?」

「何ッ!? ボスが!?」



もっとも、この考えについても推測の域を出ない。
名簿に記されている150人のうち、ギアッチョの組織に関係する人物はこいつの知る限り10人弱。
そして俺の知る限りSBRレースの関係者も10人を少し越える程度だ。
2人が認識していない人物がいたとしても、全然数が合わない。
第一、イタリアのギャングとアメリカの騎馬レースというのも共通項が見当たらないし、クウジョウだとかカキョウインだとかの日本人名は俺たちのどちらにもなじみはない。
(ヒガシカタだけは聞き覚えがあるが、名簿に記載があるのはノリスケではなくジョウスケだ。やはり知らない)

だが、組織の『ボス』でなくても、大統領以外にこのゲームに関わる人間がいる可能性は少なくはない。
でなければ、ギアッチョとの110年もの時代の差異が説明できない。
大統領の能力が、俺の知らぬところで『成長』していなければの話だがな。
165創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 14:47:38.22 ID:vca0dzUz
支援
166創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 14:47:50.52 ID:z7Ymh5qq
支援
167虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 14:48:57.29 ID:GZCgpRO/
「クソがッ! ボスめ…… ソルベとジェラートにむごい仕打ちをしただけでなく、こんな殺し合いにまでオレたちを巻き込んで―――」

「オイオイ、焦るな。その可能性もあるってだけだ。主催のことを考えるのはまだ早い。まずは、当面の行動指針を立てることだ。貴様はこれからどうしたい?」


放送を終えてギアッチョからいろいろと聞き出せたものの、根本的に身になる情報はほとんど得られなかった。
やはり、ルーシー・スティールだ。彼女を確保し、こちらのカードに加えることがまず第一だ。
ゲームに参加させられている以上、大統領にとってはもう不要なのかもしれないが、スティールに近づく鍵になるかもしれない。
彼女に近づくことこそ、この大統領を倒すための第一歩と言えるだろう。


「オレは………やはり、ブチャラティを殺りたい。プロシュートが別の世界の奴かもしれない以上、やはりオレの世界のオレの仲間は全滅したってことだ。奴らを皆殺しにしなければ、

オレは前に進めない」


フン、やはりこいつはこういう性格か。
だがブチャラティに近づくことは、ルーシーに近づくということ。俺との利害も一致する。
それに話に聞く限り、俺とそのブチャラティという男とは、永遠に相容れることはないだろう。
放っておいてもいずれ敵対するであろう相手。ならば、早めに叩いておくに越したことはない。


「いいだろう。もう熱くなって自分を見失うことはないと約束できるのならば、俺が指揮を執ってやる。俺はルーシーを捕えるため、お前はブチャラティを殺すためだ」

「ケッ! エラソーに言いやがって。奴らを見失ったくせによく言うぜ。まるで2人の現在地を知ってるみたいな口ぶりだな?」

「ああ、それならば―――――」


俺の背後から、能力で生み出した1匹の中型恐竜が姿を見せる。


「たった今、こいつが見つけてくれたぜ」




☆ ☆ ☆
168創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 14:49:45.65 ID:vca0dzUz
支援
169創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 14:53:28.37 ID:z7Ymh5qq
支援
170創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 14:59:56.88 ID:vca0dzUz
さるった?
171創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 15:01:00.95 ID:z7Ymh5qq
なんでもありなスレ曰く、
227 名前: ◆vvatO30wn.[] 投稿日:2012/12/01(土) 14:58:31 ID:kmrL.Ak6
ごめんさるった
ちょっと早すぎた
転載依頼するのは忍ばれる分量なんでちょっと時間開けます

らしい
172虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 15:02:40.27 ID:GZCgpRO/
 


「ファニー・ヴァレンタイン大統領………」
「ええ。信じてもらえるかはわからないけど、夫は―――スティーブンは、ただ利用されているだけ。
あなたとトリッシュさんや私とウェカピポさんの微妙な認識の違いが、何よりの証拠だと思います……」
「でも、当の大統領が死ぬところを、あなた見ていたのでしょう? それも、『並行世界を行き来するスタンド』と共に崩れ去ったって…… それなのにどうして?」
「それより、俺は大統領のことをまだ詳しくは知らんが、その並行世界ってのは"100年以上の時間までも乗り越えられる"ものなのか?」


放送から早30分。
俺(ブチャラティ)、トリッシュ、ウェカピポ、ルーシーの4人は、(ウェカピポの持っていた地下地図でいうところの)コロッセオ地下遺跡にて情報の交換と作戦会議を行っていた。
"変態"は気絶したまままだ目が覚めないらしく、縛り上げたまま近くの石柱に寝かせて放置している。
車は遺跡内の地面にジッパーで穴を開け隠し、俺たちは遺跡内に発掘現場に身を潜めている。

ここは薄暗く、大理石でできた柱や石造りの段差も多く、身を隠しやすい。
コロッセオの地下にこのような大空間があったことにも驚いたが、まさかナチスドイツの鍵十字が掲げられているとはな。
そしてその意味を理解できたのは俺とトリッシュの2人のみ。
それをきっかけに知らされた、俺やトリッシュと、ルーシーたちの住んでいた時代の違い。
ルーシーが自動車を見たときにえらく驚いていたのを、今さらになって思い出す。

トリッシュとウェカピポは、出会ってすぐにこの事実に気が付いたという事らしい。
いかに、自分とルーシーが意思の疎通ができていなかったのかと思い知らされた。
ルーシーを怖がらせないこと、自分の秘密を隠すことに囚われ、そんな簡単なことすら把握しきれていなかったのだ。

そしてそのルーシーも、スティール氏と敵対する意思がないことを説明すると、ポツポツと知っていることを話してくれ始めた。
彼らの時代のアメリカ大統領、ファニー・ヴァレンタイン。
並行世界を自由に行き来する能力を持ち、死んだ者でも隣の世界から連れてくることのできるのだという。
名簿に名前のあるアバッキオや俺の出会ったギアッチョをはじめとする暗殺チームの面々、ルーシーやウェカピポの知る死んだはずの知人たちは、よく似た違う世界から呼び寄せられた

からではないかというのだ。

ゲームの主催者はアメリカ合衆国大統領。
この仮説が、俺にとって最大の驚きであった。
俺は心のどこかでトリッシュの父、『組織のボス』がこのゲームの黒幕ではないかと勝手に想像していた。
ボスの素顔のデスマスクを見つけた直後にこのローマに呼び寄せられ、ジョルノの死を目の当たりにしたからだ。

だが、俺がその仮説を唱えた時、トリッシュから聞かされた俺の『本来の未来』。
俺、トリッシュ、ジョルノ、ミスタ、ナランチャの5人はアバッキオの遺してくれたメッセージを手掛かりに、以前よりボスの手掛かりを追っていたフランス人、ジャン・ピエール・ポ

ルナレフ氏と合流した(その彼は放送で名を呼ばれてしまったようだ)。
そして、俺達5人はそれ以上"一人の仲間も失うことなく"、打倒ボスを果たすというのだ。

それも、ボスの名は『ディアボロ』。放送で2番目に名を呼ばれた『ディアボロ』なのだというのだ。
放送中、トリッシュが表情をゆがめた理由はそこにあったのか。
トリッシュはゲーム開始直後、死んだはずの自分の父の気配を感じ、すぐにその気配が消滅するのを感じたのだという。
このゲームの主催者は(恐らく別世界の)ボスまでもをゲームの駒として招き入れていた。そして、俺たちが命を懸けて打倒しようとしていたディアボロがわずか6時間の間に戦って敗

れるほどの相手がいるということなのだ。
ゲームの主催者は、俺が想像していた以上に途方もなく巨大な存在のようだ。

そしてもう一人。放送前に遭遇したギアッチョと行動を共にしていた人物。
ディエゴ・ブランドー 通称「Dio」。
ルーシーたちや大統領と同じ世界に存在した男であり、大統領と同等の危険人物。
窮地に陥った大統領が自分の後継者として選ぶほどの男だという。
野心家で、目的のためならば残虐非道の限りを尽くす極悪人。
ルーシー自身が機転を利かせて倒した相手だというが、生きていた大統領がさらに別の世界から彼を呼び寄せたのだろうか?
要注意人物の一人だ。
173創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 15:03:53.99 ID:z7Ymh5qq
支援
174しばらくは5分に1回くらいのレスで行きます ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 15:08:40.13 ID:GZCgpRO/
「それで、これからどう動くか、だが……?」

まず俺が切り出す。
わからないことをいつまでも考えていても仕方がない。
続いてトリッシュが口を開き、提案した。


「私は……もっと地図の中心付近の―――人が集まる所へ向かうべきだと思う。ジョニィさんやジャイロさんという人なら、大統領について何か知っているかもしれないし……。
それに、もしジョルノたちが本当に生きているのならば……」

彼女の言う通りだ。
ジョルノ・ジョバァーナは確かに俺たちの目の前で爆死した。しかしジョルノの名は名簿に記されているにもかかわらず放送で名を呼ばれることはなかった。
ゲーム開始前に死んだから、という理由も考えられるが、あれが俺たちを殺し合いへ誘うためのハッタリだったとすれば、『死んだジョルノとは別世界のジョルノ』がこの場に呼び寄せ

られている可能性はある。
もしくは爆破された方が、『別の世界から来たジョルノ』だという可能性もある。
アバッキオだって、『まだ生きていた世界』から呼び寄せられたのかもしれない。
ジョルノやアバッキオならば、たとえ別の世界の彼らだったとしても、絶対に信用できる。

「………そうだな。これほどまでに巨大な力を見せつけられては、個人の力で立ち向かうのは至難だ。仲間を組み、チームを作ることは有効だ。特に、一度大統領に勝利しているという

ジョニィ・ジョースターとの合流は最優先すべきだろう」

ウェカピポもそれに続く。ルーシーも、彼の言葉に応じて頷く。
彼らもまた、俺たちと共に戦うことを約束してくれた。
トリッシュたちとの出会いを経て、頼りになる仲間を手に入れた。ゲームの黒幕の正体も、おぼろげながら掴み始めてきた。
絶望しか見えなかった未来に、わずかな希望が見え始めていた。






「おい、そろそろ起きろ、"変態"。ここからは自分の足で歩かんと捨てていくぞ」



ウェカピポが、少し離れた石柱に寝かされている"変態"を起こしに向かった。
そういえば、彼からはまだ何も話を聞いていない。
トリッシュを強姦しようとした変態らしいが、こんな異常な状況に陥ったら、男ならそれも仕方ないことかもしれない。
外見から察するに日本人だ。名簿に記されている日本人らしき名前は30人近く―――全体の5分の1を占めている。
そして、ジョルノの隣で爆殺された白コートの男性も、おそらく日系の血が入っているような感じだった。
トリッシュは気が進まないだろうが、この"変態"の知り合いにも力になってくれる人間がいるかもしれない。
彼から情報を聞き出すことも、この先重要になるだろう。



「ねえ、ブチャラティ……」


メモと名簿をデイパックに詰め、出発準備を終えた俺に、トリッシュが神妙な声で話しかけてきた。
175創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 15:09:40.80 ID:z7Ymh5qq
C
176虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 15:14:24.31 ID:GZCgpRO/
「……あなた、身体の方は………なんともないの?」

その質問に、戦慄を覚えた。
どうしてそんな質問をしてくるのか。

思えば、トリッシュの様子は初めから少しおかしかった。
いや、大統領に立ち向かうと覚悟を決めたトリッシュを見て、彼女が俺の知らないところで強い少女に成長したことを悟ったのは確かだ。
だが、それとは別に、彼女の俺に対する態度だけが、どこかよそよそしい。

もしかして――――。
心当たりは一つある。トリッシュが、「打倒ボスを果たした」と俺に告げた時から。


「……心配するな、トリッシュ。お前は元の世界に帰って、歌手として、歌姫として世界に羽ばたかねばならないだろう?」

だが、俺はその不安を、決して言葉にはしない。

「大統領を倒すまでは、皆で笑ってゲームを脱出するまでは――――――」

―――俺は死なない。
そう続けるつもりだった俺の言葉は、ウェカピポによって遮られてしまった。



「なっ! なんだこいつは!? "変態"ッ? いや―――!?」

ウェカピポに声をかけられても目を覚まさなかった"変態"。
彼の頭を揺さぶろうと手をかざしたその時、"変態"が彼に牙を剥いた。
ウェカピポに飛び掛かった"変態"の身長は180センチほどにまで巨大化し、口元には鋭い牙が生え、爪は鋭く光り、皮膚は鱗で覆われ、長い尻尾が生えていた。
昔見たスピルバーグの映画を思い出す。

"変態"が恐竜に『変態』した。



☆ ☆ ☆
177創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 15:15:01.63 ID:z7Ymh5qq
しえーん
178虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 15:20:02.18 ID:GZCgpRO/
 



「なッ! なんだそいつ!? スタンド!? いやまさか――― 恐竜か?」

「ほう、よく知っているな。さすがは21世紀の人間だ。未来では古生物学という分野も、もっと進化しているのだろうな。これが俺のスタンド能力、『スケアリー・モンスターズ』だ


能力は生き物を恐竜に変え支配すること。生き物ならば"生きていよう"が"死体であろう"が問題はない。そして"俺自身"も恐竜に変化し、身体能力と動体視力、反射神経などをを向上さ

せることができる!」

「………」

「この恐竜はこの殺し合いで死んだある男の死体を恐竜化させたものだ。こいつは特に耳が利いてな。こいつに地下洞窟の探索をさせ、ブチャラティ一行の動向を捕えることに成功した


俺の知っている男がひとりと、『トリッシュ・ウナ』という女も一緒にいるッ!!」

「何ィッ!? トリッシュだと!?」

「その女はブチャラティとも顔見知りの様子だった。特徴も一致する。十中八九、お前らの目的の娘だろうな?」

「………チクショウ、ブチャラティにトリッシュ・ウナだと!? 上等だぜッ! ヤロウをブチのめすついでに生け捕りにしてやるッ!」

「よし、決まりだな。俺の指示通りに動くと約束できるのなら、2人で奴らを攻撃するぞ」

「………何故、隠していた能力を、いまさらオレにすべて話した?」

「言っただろう? 利害が一致したためだ。俺はルーシーを手に入れるため、お前はブチャラティを殺すため……」

「………オレは、どうすればいい?」



☆ ☆ ☆
179創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 15:20:31.10 ID:z7Ymh5qq
支援
180虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 15:25:12.39 ID:GZCgpRO/
 


「ウバシャァァァ―――!!」


玉美恐竜は前足の爪でウェカピポを切り付け、彼が怯んだ隙にトリッシュめがけて飛び掛かっていった。
『スケアリー・モンスターズ』で生み出された恐竜は元となった生物の影響を受けることが多いが、『変態』を『恐竜化』した場合は真っ先に女性に襲い掛かるということだろうか?
牙を剥いた玉美恐竜は、高さ2メートルはあるであろう跳躍を見せ、トリッシュを頭上から襲う。

「『スティッキィ―――・フィンガ―――ズ』ッ!! アリアリアリアリィィ―――!!」

そこに叩き込まれるブチャラティのスタンドの拳。

「WANABEEEEE!!!」

そしてそれに重ねられる、トリッシュのスタンドによる壮絶なラッシュ。


「ギャピィィィィ!!」


吹き飛ばされる玉美恐竜。石壁に叩きつけられ悶える。
恐竜になって身体能力は向上していたようだが、さすがに2人の格闘型スタンドの連撃を受ければ、動けなくなる程度にまで痛めつけられたようだ。
やがて恐竜となった身体は元に戻り、服が破かれ再び半裸になった小林玉美の姿が地に伏せた。

「ウェカピポッ! 今のはまさかッ!?」
「Dioの恐竜だッ! 奴が攻撃を仕掛けてきているッ!!」
「くそッ! 何てことだッ! こんなに早く見つけられてしまうとはッ―――ッ!」
「ブチャラティさんッ!! 後ろッ!!」

「ギャオオオオオ―――ン!!」


ルーシーの声にブチャラティが反応する。
彼の背後から新手の恐竜が姿を見せた。

(チッ! 今度のヤツは"変態"のより二回りはでかいッ!! 生物を恐竜化する能力ッ!! あの小柄な"変態"であのサイズだ。こいつは『元』も長身だったのだろうッ!)

強力な牙は厄介だが、このタイプの手合いには力押しでの格闘が最も有効である。
先ほどと同様、恐竜に『スティッキィ・フィンガーズ』の拳を叩き込む―――




『ホワイト・アルバム』―――――ッ!!!



「何ッ!!」

恐竜を迎え撃とうとスタンドを繰り出したブチャラティの足元を冷気が襲う。
とっさに飛びのかなければ、ブチャラティの両足は凍らされ地面に固定させられていただろう。


(『氷のスタンド』ッ ギアッチョ!! やはりヤツも現れたかッ!! まずいっ 体勢を崩してしまっては攻撃が不十分となる―――――ッ)

恐竜とスタンド使いによる挟み撃ち。
とっさの対応で体勢を崩してしまったブチャラティへ、獰猛な恐竜が牙を剥ける。
181創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 15:25:56.81 ID:z7Ymh5qq
支援
182創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 15:28:23.84 ID:HAU7Dfqj
しえんn
183虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 15:33:02.62 ID:GZCgpRO/
「伏せろブチャラティ――!! 壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)―――ッ!!」


ウェカピポが鉄球をぶん投げた。
恐竜の死角より投擲された鉄球だったが、間一髪のところでその鉄球を回避する。
かわされた? いや、まだだ。ウェカピポの攻撃はまだ終わっていないッ



ドギャァァァアア


「グゲェェェェエエエッッ!!」

鉄球は恐竜の頭部間近で炸裂し、無数の衛星を飛ばす。
ジャイロ・ツェペリの鉄球に、ベアリングの弾を埋め込んだだけの急造品ではあるが、効果は絶大である。

「グ……グガァ………」

苦しむ恐竜、だが致命傷は与えられていない。


「ブチャラティ! こいつはあたしに任せてッ!!」
「トリッシュッ!?」

ブチャラティよりも先に、トリッシュが恐竜を迎え撃つ。
スタンド『スパイス・ガール』。経験は足りないが、パワーだけならば『スティッキィ・フィンガーズ』に

匹敵するほど強力。
トリッシュは強くなった。もう、守られているだけの少女ではなかった。


(それに――――――)


ブチャラティは恐竜の相手だけをしているわけにもいかなくなっていたのだ。
恐竜よりも、もっと手ごわい相手が目の前にいる。


「お前の相手はオレだぜ――― ブチャラティッ!!」

氷のスタンド使い――― 暗殺チームのギアッチョが、ブチャラティの前に姿を現した。



☆ ☆ ☆
184創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 15:34:21.81 ID:z7Ymh5qq
しえん
185創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 15:37:14.30 ID:N8rQ/mm3
支援
186創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 15:38:20.66 ID:HAU7Dfqj
4えん
187虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 15:38:22.29 ID:GZCgpRO/
 


「まずはこいつを使う。『カエル』を『恐竜化』した小型タイプの恐竜だ。こいつを先行させて、"変態"と

呼ばれていた男に『恐竜化』を感染させる」

「役に立つのか、そんな変態野郎が?」

「当てにはしていない。なにしろ『恐竜化』の戦闘力は元になった生物の能力にも左右されるからな。
だが、本陣に突然恐竜が放り込まれたら隙の一つも出来よう。そこで第二陣をすかさず仕掛ける」

「それが"コイツ"と"オレ"か。こいつの『元』は、いったい何者なんだ?」

「なあに、このゲームに参加させられていた『誰か』さ。『恐竜化』に適した都合のいい肉体だったんで利

用させてもらっているだけだ。
奴らのいるのはコロッセオの地下だ。地図がないからおおよそにしかわからんが、大体こんなふうに繋がっ

ている。
恐竜は北のトンネルから、お前は真実の口から侵入して仕掛ける。挟み撃ちの形になるな」

「『まずはブチャラティを集中狙い』、『オレの標的はブチャラティに絞る』ってのは、オレとしちゃあわ

かりやすくてありがたい」

「ソイツ(恐竜)はトリッシュかウェカピポのどちらかにぶつける。トリッシュがどうかはわからないが、

ウェカピポは『スタンド』を持っていない。
『恐竜』のような純粋に『力』の相手を苦手とするはずだ。"ソイツ"が相手だとなおさらな」

「なるほど、悪くない作戦だが…… それで、ディエゴ・ブランドー。お前は何をする?」




☆ ☆ ☆
188創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 15:41:23.81 ID:z7Ymh5qq
C
189なんか変なところで改行されてた すんません ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 15:44:14.33 ID:GZCgpRO/
 




「トリッシュ!! ヤツの左側に回り込んで攻めろッ!! 奴は今、体の左半分が見えていない!!」
「―――了解ッ!!」

投擲した鉄球は柱に当たって跳ね返り、ウェカピポの元に戻ってくる。
普段ならば5〜6個の鉄球を持ち歩いているが、現在の持ち合わせはこの一球のみだ。大切に扱わねばならない。
直撃を食らわせれば恐竜も仕留められただろうが、完全な死角からの投球を回避するとは恐るべき洞察力。
だが、ウェカピポの鉄球はたとえ直撃しなくとも威力を発揮する。

左半身失調。
それがウェカピポの持つ鉄球の戦闘技術・壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)の『技』だ。

鉄球に取り付けられた14の『衛星』を飛ばし、攻撃する。。
今回使った鉄球は急造品ゆえにオリジナルよりも威力は落ちるが、それでも脳を騙し身体の左半分の感覚を失わせるには十分な威力を持っていた。
トリッシュもあらかじめウェカピポの『技術』を教わっていたため、即座に対応。
恐竜の左側に回り込み、攻撃を仕掛ける。


「『スパイス・ガァァァ――――ル』ッ!!!」


だが―――――

恐竜は左半身の失調などものともせず、身体を大きく捻ってトリッシュの攻撃を回避。
そしてその勢いをそのまま攻撃に転化させ、強烈な尻尾での一撃をトリッシュに叩き込む。

「何ッ!!」
「何ですってッ!!!」

恐竜が隙だらけだと思い油断してかかったトリッシュに手痛いカウンターパンチが炸裂した。
咄嗟にスタンドでガードしたため致命傷は避けたが、大理石でできた柱に叩きつけられ、痛手を負ってしまった。

「グフ……ッ」
(ウェカピポめぇ…… どこが見えていないのよ!! 思い切り超反応かましてくれるじゃないのッ!!)

ウェカピポにもわからない、その理由。
何故、この恐竜は失明した左側からの攻撃に即座に対応することができたのか。

実はこの恐竜、初めからもともと目が見えていなかったのだ。
左だけでなく、右目も。

小林玉美の変態要素が恐竜に反映されたように、恐竜化された生物は元々の姿の時の影響を色濃く受ける。
この恐竜は、ディエゴ・ブランドーが最初に死を看取った参加者、盲目の戦士『ンドゥール』の遺体を恐竜化させたものだった。

つい先ほどまでその存在をギアッチョにも隠し続け、逃げたブチャラティの追跡もこの恐竜にさせていた。
地下洞窟へと逃げ込まれては直接の追跡は不可能だったが、地中を走る自動車の音はンドゥールならば追えるのだ。
流石のブチャラティも、地下でギアッチョを撒いたところで、地上から恐竜に追跡されているとは思いもよらなかった。
トリッシュたちと遭遇し放送を聞いていた最中も、まさか自分たちの頭上、コロッセオ内にて1匹の恐竜が聞き耳を立てていたとは想像だにできなかった。
そしてブチャラティたちが移動をやめた頃合いを見計らいDioの元へ戻り、万全のプランを立てて襲撃するに至ったのだ。

そして、襲撃の場面では2番手の恐竜として送り込まれた。
左半身を失調したところで、元々が視力に頼らないンドゥール。
音の反響し合う地下遺跡の中では、右耳さえ生きていれば通常状態となんら変わらなかった。
190創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 15:44:45.37 ID:z7Ymh5qq
C
191創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 15:49:09.09 ID:N8rQ/mm3
支援
192虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 15:50:40.91 ID:GZCgpRO/
 

(くそッ! 俺のミスでトリッシュが……!)

ベアリングの弾を込め直し、再び鉄球を構えるウェカピポ。
直撃だ。直撃さえさせれば、あんな恐竜などひとたまりもない。
今度こそ、と狙いをつけ投球のフォームに入ったウェカピポに―――――



「ウェカピポさんっ―――!!」


「ウバッシャァァァァァアア!!」」



―――闇の中より、別の恐竜が襲い掛かってきた。


「ヌウゥ!!」

3体目の恐竜の出現。
恐竜はその発達したその全身のばねを用いて、ウェカピポに強烈な突進を見舞う。
まるでオートバイに跳ねられたような強力な体当たりがウェカピポを襲う。

(なんという威力……これが恐竜の打撃ッ!?)

とっさに投げようとしていた鉄球の回転を自分の体に押し付け、硬質化して防御した。
にも関わらず、この威力、このダメージ。
新たに現れた3体目の恐竜はウェカピポの顔をじっと見据える。

傷つきながらも、ウェカピポは再び鉄球を構え、恐竜を迎え撃つ姿勢を取る。
トリッシュやブチャラティのカバーにも回りたいが、先に自分の目の前にいる恐竜を片付けなくてはいけなくなってしまった。

しかし恐竜は、何故かウェカピポから興味なさげに視線をそらす。
心なしか、笑っているように思えた。
恐竜の目線の先にいるのは――――― ルーシー・スティール。

(しまった――――――ッ!!)

ウェカピポが気づいた時にはもう遅い。
恐竜は一足飛びにルーシーへの距離を詰め、悲鳴も出させぬスピードで手刀を叩き込み、気絶させる。
そして恐竜はルーシーを担ぎ上げ、こちらを振り返りながら静かに笑った。

(これが奴らの真の狙いか―――)

奴らの真の狙い。
それは、ルーシー・スティールの確保だった。
突然、"変態"を恐竜化させられ、間髪をいれずに別の恐竜とスタンド使いによる総攻撃。
こちらの混乱に乗じてガードが薄くなったルーシーを攫う、絶好のチャンス。

玉美の恐竜の攻撃は、ウェカピポに大したダメージを与えることはなかった。
恐竜化された他の2体の恐竜は、動きは比較的シンプルで直線的だった。
この3体目の恐竜は、他2体とは攻撃力も知力も段違いだった。
こいつが恐竜どもの親玉である。

この男の正体は――――――
193創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 15:52:04.49 ID:z7Ymh5qq
支援
194虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 15:55:57.50 ID:GZCgpRO/
 

「貴様! Dioかッ!!」

「あばよ、ギアッチョ」


短く捨てゼリフを漏らし、ルーシーを背中に担いだディエゴ・ブランドーが北へ走り去る。
コロッセオの北、ウインドナイツのトンネルには難解な迷宮がある。
もしそこに逃げ込まれたら、追跡は不可能だ。


「追ってッ ウェカピポ!!」
「俺たちにかまうなッ!! 行けッ!!」

「な――― し、しかし――――――」


恐竜である奴を人間の足で追いかけるなんて不可能かもしれない。

それに、トリッシュもブチャラティも優勢とは言えない。
とくにブチャラティが相対しているギアッチョという男の能力は底が知れない。
だが、彼らはウェカピポにディエゴ・ブランドーの追跡を命じるのだった。

「あたしの"護衛"は必要ないって言ったでしょ!? 早く行ってッ!!」
「行ってくれウェカピポッ!! 彼女を助けてやってくれ!!」

「………わかった」

ウェカピポは2人の真意を理解する。
彼らは、ルーシーが『スティーブン・スティール』の妻だから、大統領に近づくための切り札になるから、そういった理由で彼女を助けたがっているわけではない。
ただ、普通の少女だから。
事件に巻き込まれただけの、どこにでもいるごく普通の少女だからこそ、助けてくれというのだ。

ギャングが人を助け、大統領が人を殺す。
全く狂った世の中だ。

ブローノ・ブチャラティ。
彼とは出会って一時間と経っていないが、いい仲間と巡り合うことができた。



鉄球を携え、ウェカピポは遺跡を後にして走り去った。
そんなウェカピオを見送り、ブチャラティは気持ちを切り替える。
こちらの人数は減らされてしまった。


「『俺たちにかまうな』……だとォ? ズイブンヨユーかましてくれんじゃあねえかッ!! このクソダボがッ!!」


余裕などありはしない。
ブチャラティの相手は、恐らく暗殺チーム最強の使い手。
絶対零度のスタンド使い、ギアッチョなのだから。





☆ ☆ ☆
195愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 16:01:11.56 ID:GZCgpRO/
 


(ひいいいい とんでもねえ! とんでもねえよ!!)

ゲーム開始以降、二度目の気絶から目を覚まし、二度目の『気絶したフリ』を継続中の、名実ともに小さい男、小林玉美。
トリッシュらからひたすら"変態"と呼ばれ続けていた彼は、現在窮地に陥っていた。

(なんだよコレぇぇぇぇ!! いつの間にか気絶させられていて、目が覚めたらいきなり目の前でガチバトルおっぱじまってるなんてよォ!!
オレは関係ねえ! 関係ないからここから逃がしてくれぇ!!!)

ニワトリ大の小型恐竜にお尻をかまれて恐竜化した玉美。
彼は、自分が恐竜の姿にされていたことすらも気が付いていなかった。
トリッシュとブチャラティにボコボコにされ、恐竜化を解除させられ、それでも何とか目を覚ました彼だったが、目の前で行われている死闘に身体が硬直してしまっていた。

走って逃げることは、おそらく不可能ではない。
恐竜化していた際に防御力も強化されていたようで、身体に受けたダメージは致命的なものではないようだ。
だが、恐怖で身体がすくんでしまい、動けない。

バトル・ロワイアルという殺人ゲームが開始されて6時間。
けっこう呑気してた玉美も暴走する機関車だろうと止められる氷スタンドにはさすがにビビっていた。



ドン! ドン!



銃声が聞こえて、さらに冷や汗をかく玉美。
薄目を開けて様子を伺うと、しゃがみ込んだトリッシュが拳銃を構えて恐竜と応戦していた。

恐竜―――
こっちはこっちで、戦えそうも、逃げられそうもそうもない。

小林玉美も一応スタンド使いなのだが、能力は罪悪感を感じた相手の動きを封じるのが精一杯。
殺人を生業としている暗殺者と、本能だけで生きる獣が相手では、能力の発動すら期待できないだろう。


(せめて…… せめてブチャラティたちがなんとか勝ちますように)


結局、そう願うしかできない玉美だった。






☆ ☆ ☆
196創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 16:01:12.48 ID:z7Ymh5qq
C
197創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 16:06:17.59 ID:N8rQ/mm3
 
198愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 16:06:32.81 ID:GZCgpRO/
 

おかしい。

少し前から、俺はそう思い始めていた。
Dioが変身している恐竜は、捕食をする肉食タイプの恐竜だ。
生物学には詳しくはないが、狩猟をする動物というのはたいてい、時速数十キロで平原を走り回るものだ。

俺はまだDioの姿を『見失っていない』。
曲がり角を曲がっても、奴の姿はまだ視界に捕えられている。


それがどう考えても"おかしい"。


Dioは初めから、俺から逃げ切るつもりはないのではないか。
そんな気がしていた。





「ここは……?」

数分間の鬼ごっこの末、やっと地上にたどり着いた場所は奇妙な庭園だった。
カラフルに彩色された不気味な動物たちの像の飾られている。

このあたりの地図は大体暗記している。
コロッセオ地下遺跡からの距離を考えると、この場所がどこだがだいたい見当がつく。

「タイガーバームガーデン…… とかいう場所か」

こんなふざけた景色はローマにはない。
とすれば、ここはトウモロコシ畑と同様に大統領が用意した、切り取られた世界の一部なのだろう。
そして、自分の見上げる目の前の背の高い像の頭の上から、黒いマントを身にまとった金髪の男が俺を見下ろしていた。

「Dio……」
「フン、ウェカピポ。久しぶりだな」


久しぶり……か。
奴のことを知識として知ってはいたが、直接出会うのはこれが初めてだ。

やはりルーシーの言うとおり、俺とこの男とでは認識が違う。
俺より未来のDioか、もしくは別の世界のDio。

ルーシー本人の姿は見えない。

「彼女をどこへやった?」

「この近くで眠らせてある。まずはお前と2人きりで話そうと思ってな」


やはり――――――。
Dioは俺から逃げ切るつもりなど毛頭なかったのだ。

タイガーバームガーデン。
立体的な構造をしており、身体的能力に秀でた恐竜の戦闘に向いていると言える。
ヤツを追いかけているつもりが、逆にヤツ好みの戦場に誘い込まれていたってわけだ。
199創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 16:08:59.74 ID:z7Ymh5qq
C
200愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 16:11:34.73 ID:GZCgpRO/
「なあ、ウェカピポ。お前は今、何のために生きている? 今ここにいるお前は、何故俺とこうして会話をしている?
ルーシー・スティールなんていう出会って間もない小娘のために命を懸けるのか? 死を覚悟してまで、あんな小娘のために俺に立ち向かう必要はないだろう。
別の世界のお前はもっと利口だったぞ? 一時的にとはいえ、俺と組んで大統領と戦ったのだからな」

その言葉に、ピクリと心が揺れる。
大統領と戦った、というのは初耳だった。
俺がジャイロたちと手を結び、ルーシーの護衛を引き受けたのは確かだ。
だが、俺はまだ大統領に表立って牙を剥けたことはない。

大統領に刃向えば、俺の居場所はこの地球上から永遠に無くなってしまう。
いや、もともと最初っからそんな場所なんて無かったのかもしれない。

「あの『氷のスタンド使い』ギアッチョ。あいつはダメだ。強力な使い手ではあるが、頭が悪く使いづらい。あんな野郎といつまでも組み続けるつもりはない。
だが、お前は違う。お前の鉄球の技術、冷静な判断力、大統領に立ち向かう姿勢。どこをとっても悪くはない」

Dioが高みより、俺に語りかける。
先ほどまで身に着けていなかった黒いマントが、彼に一層の存在感を演出している。
まるで、どこかの『帝王』にでもなったかのようだ。
そして、俺の方へ手を差し伸べて、ぬけぬけとこう言った。

「もう一度、俺と手を組まないか? ウェカピポ」


別の世界の俺が大統領に立ち向かい、どんな結末を迎えたかはわからない。
だが、想像はつく。
大統領に勝利した世界のルーシー・スティールは、俺のことを何一つ知らなかった。
それはつまり、無事ではいられなかったという事。
彼女との出会いを果たす前に、俺は戦いの中のどこかで命を落としたのだろう。
「ルーシー・スティール」か。一度も会った事のなかった少女のために、国を敵に回し、その結果くたばってしまうのか。

だが、ま、それもいいだろう。


「大統領を倒す、というところまでは賛成だ。だがな、Dio――――――」

そこで一度、言葉を切る。
そして鉄球をDioに向けてかざし、強い言葉で言い放つ。
201愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 16:18:00.95 ID:GZCgpRO/
「貴様とは組めんッ!! Dio―――!! そのちっぽけな少女を、『ルーシー・スティール』を自分の利益のためだけに襲い、てめーの都合だけで利用しようとしている貴様とはなッ!!」

ブチャラティから受け継いだ、黄金の精神。
ルーシーの胸に秘められた、気高き覚悟。
そして、トリッシュに教えてもらった、立ち向かう勇気。

俺は、もうひとりじゃない。
俺の帰る場所はここにあった。


俺はここでDioと戦い、ルーシー・スティールを救い出す。


「フン、ならばしょうがない………」

マントを翻し、Dioは不敵に笑う。
元々、本気で組むつもりなど無かったのだろう。



「死ぬしかないな、ウェカピポッ!!」



別の世界の俺がどうなったかなど関係ない。

俺は俺だ。

『ルーシー・スティール』はこのオレの手で助け出す。




これで、俺の気分も結構、清らかだ。






☆ ☆ ☆
202愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 16:23:50.42 ID:GZCgpRO/
 



「『ホワイト・アルバム』ッ!!」

氷のスーツを纏ったギアッチョの攻撃がブチャラティを襲う。
ブチャラティは『スタンド』の脚力と、このコロッセオ地下遺跡内部に数多く存在する大理石の柱を利用してギアッチョの攻撃から逃げ続けていた。

触れたところを瞬時に凍らせるスタンドに対し、防御は意味をなさない。
防御したところから凍らせる敵の攻撃は、すべて回避する必要がある。
多少やりづらくはあるが、『ホワイト・アルバム』自体のスピードは大して速くないため、逃げ続けるだけなら不可能ではなかった。

「ブチャラティッ!! てめえ戦う気あんのかッ!!」

柱にジッパーを取り付け、それを閉じることで天井方向へ逃れたブチャラティ。
そのブチャラティに対してギアッチョが怒鳴る。
ブチャラティに戦意が無いわけではないが、攻めあぐんでいることは確かだ。

『スティッキィ・フィンガーズ』は打撃が中心のスタンド能力。
攻撃するためには、敵を自分の射程距離内まで近づけさせなければならない。
だが、動くものすべてを凍らせる『ホワイト・アルバム』に近づいては、こちらもただでは済まない。
そして『ホワイト・アルバム』の強度はスタンドの中でも随一の硬さを持つ。並みの打撃では、ヒビひとつ入れられない。

『策』がないわけではない。
非常に単純かつ、効果的な『策』がある。
だが、それはブチャラティにとっても命がけ。
良くて相打ちという危険な『策』だった。


ブチャラティはチラリとトリッシュたちの様子を伺う。
トリッシュは今、ウェカピポに渡された拳銃を用いてンドゥール恐竜と交戦していた。



「くそっ! くそォっ! 当たれぇっ!!」


ンドゥール恐竜は弾丸をかわせるギリギリの距離を保ち、トリッシュからの弾丸を回避していた。
あの銃は軍用のもので、彼女が扱うには少し大きすぎる。
それ以前に、ミスタ並みの射撃センスがあれば動きを先読みして当てることもできるだろうが、トリッシュは銃なんか握ったこともない普通の女の子だ。

『スパイス・ガール』の格闘にしてもそうだ。
俺やジョルノ並みの格闘センスがあれば恐竜とも渡り合えるだろうが、トリッシュには決定的に『経験』が足りない。
いかに強力な打撃でも、当たらなければ意味がないのだ。
自分でもそれをわかっているからこそ、トリッシュもスタンドではなく銃を取り出したのだろう。
だがそれでも、恐竜を傍に近づけないようにすることが精いっぱいだ。

トリッシュの持っている銃は予備を合わせても30発強……
それを撃ち尽くしてしまったら、トリッシュに勝ち目はない。



「オレを相手にして余所見とは、いい度胸だなあブチャラティ!!」
203創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 16:26:24.43 ID:z7Ymh5qq
C
204創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 16:27:48.63 ID:fZGAxTL5
しえんぬ
205愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 16:29:24.14 ID:GZCgpRO/
ブチャラティは、ふと気が付いた。
ギアッチョから視線を逸らしたのは一瞬であったが、その僅かな隙に、石柱に触れていたブチャラティの左腕と両脚は凍らされ、固定されていた。
いや、違う。ブチャラティが掴まっていた大理石の石柱自体が、すべて一瞬のうちに凍らさたのだ。

(何ッ!! 話には聞いていたが、なんという威力!! 想像以上に、冷凍化の速度が速い!!)

「今度は全身凍らせて、オブジェにして博物館に飾ってやるぜェェェェ!!!!」

キレたギアッチョの拳が凍らされた柱を破壊しはじめる。
柱上部に固定されたブチャラティの身体を叩き落とすつもりだ。

(くそッ! やはりギアッチョだ。まずはこいつを何とかしなければならない。それも相打ちでは、トリッシュがあの恐竜にやられてしまう。何か、他に『策』は―――)

ジョルノとミスタから元の世界でギアッチョを倒したときの話は聞いているが、あれは色々な偶然が重なったから可能となった辛勝である。
ミスタ自身も死に掛け、ジョルノの能力がなければ相打ちだっただろう。
打撃の能力では、ギアッチョとは渡り合えない。

奴に有効なのは、おそらく『爆弾』や『火炎』。
そんな能力のスタンドならば、ギアッチョの氷を止めることができるかもしれないが………



(まてよ…… 『爆弾』―――――)

「一か八か、やってみるか―――」



『スティッキィ・フィンガーズ』

ギアッチョが柱を完全に破壊し叩き落とされる前に、ブチャラティは柱の上から飛び降りた。
柱に固定された『左腕』と『両脚』はジッパーで切り離し、捨ててきた。
右腕のみを残したブチャラティは受け身すら満足に取ることは叶わず、石造りの地面に投げ出される。
そんな無様な姿になってまで逃れたブチャラティを、ギアッチョがさらに追撃を掛ける。

「それで逃げたつもりかブチャラティ!! ダルマになってオレに勝てると思ってんのかァ!?」

「開けッ ジッパ―――――――――ッ!!!」

地面に取り付けられたジッパーに掴まり、ブチャラティの身体は地面を引きずられるように疾走する。
ジッパーは地面に裂け目を生み出しながら、ブチャラティはギアッチョから逃げ去った。
そしてその向かう先は、トリッシュの銃撃を避け続けているンドゥール恐竜。

(なるほどなァ! ジッパーにはそんな使い方もあんのか! 先に恐竜の方を叩いてから、トリッシュと2人がかりでオレと戦うって算段か…… だがなァ)

「甘いんだよブチャラティ!! 飛び回ってならともかく、『直線』に逃げるのは『失敗』だぜッ!? オレの『ホワイト・アルバム』からはなァ!!」

ギアッチョの足元にブレード状のスケート板が出現する。
これを履いたギアッチョは、凍らせた大地を時速数十キロで駆け抜ける。
ブチャラティからンドゥール恐竜までの距離はおよそ10メートル。
彼が恐竜にたどり着く前に、追いつき仕留めるのは容易い事!!



「終わりだブチャラティ!!」
206愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 16:36:21.05 ID:GZCgpRO/
「――――あの野郎ォ!!!」

すさまじい爆音が響く。

ギアッチョのすぐそばで自動車が大爆発を起こし、大地を揺らす。


「ぐおッ!」

至近距離にいたギアッチョは思い切り爆発に飲まれる。


「きゃあっ」

トリッシュは小さく悲鳴を上げ、耳をふさぐ。


そしてブチャラティは――――――

「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ――――」

ギアッチョに見向きもしないまま、ンドゥール恐竜にスタンドのラッシュを叩き込んでいた。


「ギャバァァァァァァァァッ!!」

ギアッチョによる見立ては、ある意味で正しかった。
左腕と両脚を失った状態では、いくら百戦錬磨のブチャラティとはいえ恐竜とまともに戦うことなどできるわけがない。
その上、この盲目の恐竜には死角からの鉄球を回避し、左半身失調を物ともせず、弾丸すら容易に避ける反射神経と身体能力があった。

だがそれも、『まともに耳が使えていたら』の話だ。
ギアッチョを巻き込んで大爆発を起こした自動車の爆音は、同時にンドゥール恐竜の聴覚を奪っていた。
音の反響し合う地下の遺跡での爆発は、反響し合いとてつもない大音量となる。
通常より聴覚の発達したこの恐竜には、とんでもないダメージとなる。

聴力以外に頼る物がないこの恐竜にとっては、それはすべての感覚を奪われるに等しい。

「アリーヴェ・デルチ(さよならだ)」

そうなってしまえば、あとは右腕一本でも事は足りた。
『スティッキィ・フィンガーズ』の能力によってバラバラにされた恐竜は、やがて沈黙し人間の姿へと戻る。

ブチャラティやトリッシュは知らぬ顔だが、死んでなおも利用され続けた誇り高い盲目の戦士は、今やっと永遠の眠りにつくことができた。

(とっさに思いついた作戦だったが、意外とうまくいくもんだ……)

両脚のないブチャラティは立ち上がることもできない。
失った左腕からも、少しずつ出血が始まっていた。

「ブチャラティ!!」

トリッシュがブチャラティに駆け寄る。

「しっかりしてっ! 私たちが勝ったのよ!!」


☆ ☆ ☆

次レスより、ようやく初投下分が始まります。
お待たせしました。
207創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 16:39:14.41 ID:z7Ymh5qq
ごめん、
>>205>>206のレスの間ってなんか飛んでない?
208愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 16:41:12.14 ID:GZCgpRO/
>>207
飛んでたごめん
先行投下分で良かった

――――――――

逃れたブチャラティを追って地面を滑走するギアッチョ。
だが突如、そのギアッチョの目の前に巨大な金属の塊が出現した!

(何ィ!! なんだこれは!! 自動車かッ!?)

そう。それは、ブチャラティがこの地下にたどり着くまでに利用していた自動車。
コロッセオ地下遺跡を訪れてからは、情報交換の間、目立たないように地面にジッパーを開け、地中に隠していたのだ。


「グハッ―――!」


突然現れた金属の大質量に、自らスピードを出していたギアッチョは溜まらず激突、クラッシュする。
スピードがついていた分、思い切り叩き付けられ『強烈なキス』を自動車さんと交わすことになってしまった。

「クソがッ!! なめたマネしやがって………」

ぶつけられひっくり返った自動車のそばで、ギアッチョが身を起こす。
ブチャラティが地面のジッパーを開いたのは、ギアッチョから逃げるため"だけ"ではなかった。
当然追ってくるであろうギアッチョに、地中に隠していた自動車の体当たりをぶつけるため。




「トリッシュ!! ギアッチョを撃て!!!」


すかさず、ブチャラティの声が聞こえてくる。
ブチャラティはすでにンドゥール恐竜の元にたどり着き、奴との格闘を始めていた。

(オレを撃てだと? 馬鹿め、オレに銃弾なんぞが通じるとでも思っているのか?
装甲で弾いてやってもいいが面倒だ。『ジェントリー・ウィープス』で弾き返してトリッシュを仕留めてやる。
それに、いくらブチャラティといえ、右腕だけで恐竜と戦えるわけがない。ブチャラティの野郎め、ヤキが回ったか?)

トリッシュはブチャラティに従い、ギアッチョに向かって拳銃を撃った。
だが弾はギアッチョの体を大きく逸れ、彼の背後へ。


(バカが! どこを狙って――――――)


瞬間、ギアッチョは悟った。

トリッシュの狙いはギアッチョ自身ではなかった。
ギアッチョのすぐ後ろ、クラッシュさせられた自動車の燃料が漏れている!!
いや、ガソリンタンクがジッパーで穴を開けられている――――ッ!!

地中に隠していた自動車を出現させたのは、ギアッチョに体当たりをぶつけるため"だけ"ではなかった。

トリッシュの撃った弾丸の火花が、自動車から漏れ出たガソリンに引火する。
209創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 16:42:50.41 ID:z7Ymh5qq
よかった、勘違いだったら失礼ってもんじゃねえぞ、って感じだし。
しえーん
210愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 16:45:25.97 ID:GZCgpRO/
あらためて初投下分スタート
支援といっしょにリアルタイム感想なんかつくと俺のテンションが上がります。


――――――――



「ウバシャァァァアア!!」




戦いの開幕と同時に、ディエゴ・ブランドーは地面を蹴って像から飛び降りた。
目の前真下のウェカピポ目がけて最短距離である斜方投げ下ろしの軌道。

ウェカピポは舌を打ちつつ、バックステップで距離を開ける。
玉美やンドゥールの恐竜のように馬鹿みたいに飛び上がってくれれば――― 『放物線の軌道』ならば、その軌道の線に鉄球の軌道を乗せるだけで片が付いた。
さすがというよりは当然の事かもしれないが、見た目は恐竜のDioの動きは『動物のそれ』ではなく、戦術を立て理論的に動く『人間』の戦闘スタイルだった。

牙を剥きウェカピポに迫るDio。
ウェカピポは懐に仕舞い込んだ『武器』を取り出し、素早くDioに投げつける。



(見切ったッ!!)


着地と同時に身体を低く沈ませ、鉄球を回避するDio。
遺跡内のウェカピポの戦いぶりから察するに、彼が鉄球を一つしか持っていないことは推測していた。
つまりこの一球目さえ回避してしまえば、ウェカピポには勝機はない。

小さくしゃがんだ体勢から、柔軟なバネへと進化した肉食恐竜の後ろ脚を踏み切り、ウェカピポに飛び掛かる。

鉄球を失って隙だらけ。
いわば丸腰になったウェカピポはもはや、鷹の前の雀も同然――――

この勝負、一瞬で決まった。



(――――いやまて、何か妙だ!)


Dioの知るウェカピポは、もっと思慮深い男だった。
何事にも謙虚に振る舞い、決して油断せず、敵に対しても常に敬意をもって戦い、そしてここぞというときには一切の容赦をしない。

ウェカピポの持つ武器が鉄球一発だとすると、勝負は彼の攻撃を"Dioが回避することができるか否か"―――この一点に掛かっていた。
それが勝負の分かれ目だろうと覚悟していたからこそDioは攻撃を避けることができたが、問題はその『タイミングが早すぎる』ことだ。

戦いが始まって、まだ第一ラウンドのゴング直後。
ウェカピポは、一発しかない鉄球をこのタイミングで放って来るような男ではない。

これではまるでマジェント・マジェントの戦闘。
ウェカピポなら…… ウェカピポならば、この攻撃の裏に『何か』がある。


この間、わずかコンマ1秒ッ―――!
211創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 16:49:27.57 ID:vca0dzUz
す、すごいッ!
212愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 16:51:42.73 ID:GZCgpRO/
「クアッ―――!!」



急ブレーキ! アンド、バック宙。

Dioは攻撃を即座に止め、即座に退避を選択した。
そのDioの後を追うように、ウェカピポから放たれる『二球目の鉄球』。
鉄球はDioの鼻先を掠め、小さな擦り傷を残していった。
あと一瞬、回避が遅れていれば恐竜となったDioの顔はつぶれたカエルのようにグチャグチャにされていただろう。

だがまだ終わりじゃあない。
後ろに着地したDioの側部から、『一発目に投げた鉄球』が大きく弧を描きながら遠心力を付けて迫りくる。


「――――ッ!!」

「チッ!」


身体を逸らして間一髪これも逃げる。


「………くそっ!」

「フンッ!」

二発目の鉄球も弧を描いて戻ってくる。
Dioは溜まらず跳躍して逃げる。虎の像の頭を蹴り、ここらで一番背の高い龍の像の頭の上へ。

ここまでくれば、ウェカピポの円軌道を描く鉄球の攻撃範囲からは離れる。
そう。早くもこのとき既に、Dioはウェカピポの隠し持っていた武器の正体を見極めていた。


ウェカピポの投げた2つの鉄球は、遺跡内で用いていた鉄球とは別の武器だ。


一度投げた後も、円の軌道を描いて横から襲ってくる。
太陽のようにウェカピポを中心に置き、惑星のように一定距離で公転をする鉄球。
遠心力という力までつけて何度でも攻撃可能。
ただしその代り、その鉄球は『公転』は出来ても『自転』は出来ない。

すなわち、『黄金の回転』も『左半身失調』も起こりえない。
なぜならワイヤーで繋がれた特殊な鉄球だからである。

いや、正確にはそれは鉄球ではない。
正しくは『アメリカン・クラッカー』と呼ばれる代物だ。

鉄球にベアリングの弾と同様、情報交換の際にブチャラティから譲り受けたもの。
もっとも、こちらはゲーム開始直後にルーシーに襲い掛かった屍生人『ジャック・ザ・リパー』に支給され、その後ブチャラティの手を経てウェカピポの手に渡ったものだ。

普通の鉄球とは違い綺麗に回転しないため、『技』としての威力は当然落ちる。
だが、ヨーヨーのようにワイアーで結ばれているため、振り回しても手元から離れていくことはない。
性質としては、モーニングスターに近い武器である。


「フム、ワイヤー付きか。なかなか面白い武器を使うな。俺の世界のウェカピポは、そんな武器は持っていなかったが」
「だろうな――― 俺も使うのは初めてだ」
213創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 16:55:09.62 ID:vca0dzUz
しえん!
214創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 17:08:29.53 ID:z7Ymh5qq
ジョセフの武器か!
215創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 17:09:31.85 ID:j6INL5lT
しぇん
216創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 17:10:20.19 ID:N8rQ/mm3
 
217愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 17:10:26.09 ID:GZCgpRO/
皮肉めいたDioの口調に、淡々と答えるウェカピポ。だが、内心は苛立っていた。
できれば、最初の攻防で仕留めておきたかったのが本音だ。
Dioの前で、まだ一度も使用していなかった2丁のアメリカン・クラッカーを隠し持ち、初披露で仕留めてしまいたかった。
鉄球が一発しかないことがばれていたのも薄々感じてはいたが、他にも武器を隠し持っていたことまでは知られていなかったはずだ。

2発目のクラッカーは直撃まであと一息だった。
どこかで隠し持っていたことが感づかれるような仕草を見せてしまったのかと自問するウェカピポ。

だが、これは不運な奇跡だったとしか言いようがない。
ゲームの支配者による気まぐれ、すなわち参戦時系列の差。

ウェカピポはDioのことをあまり知らず、そしてDioはウェカピポという人間のことをある程度まで把握していた。
どうして隠し武器の事がバレたのかと質問されるとしたら、その前情報と経験の差であるとしか答えようがないだろう。
もし、Dioがウェカピポという人間と初対面であったとしたら、彼はこの時すでに地に伏せられていたかもしれない。


「――――――くっ」


バレてしまっては仕方がない。
ウェカピポの手元にはもう隠し玉はない。

ブルンブルンとアメリカン・クラッカーを振り回し、ウェカピポは自分の周囲に壁を作る。
まるでドラゴンへの道のブルース・リーが操るヌンチャクのように、近づくものに反応して打撃を与える防御壁だ。
これだけ振り回されては、攻撃速度だけは恐竜のそれを上回る。
幸いこの武器の性質は、鉄球との共通点も多く扱いやすかった。
それが2対。振り回すだけでも、ディエゴはウェカピポに近づけないでいた。




「ホウ。初めて使うという割には大した腕前だな。護衛官の職を追われても、大道芸人にでもなれば食い扶ちくらいは稼げるんじゃあないか?」
「……その無駄口がいつまで続くか、楽しみだ」


とは言え不意打ちが失敗した今、『自転』の無いクラッカーの攻撃は決め手とはならない。
分厚い皮膚で覆われた『スケアリー・モンスターズ』に対抗できるのは、やはり『壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)』だけだ。
アメリカン・クラッカーはあくまでDioの隙を生み出すための小細工。
ウェカピポの戦いは、如何にしてDioの脳天に『鉄球の回転』を叩き込むかにかかっている。


「フフフ…… 確かにその通りだ。少々貴様の力を侮っていたぞ。これからは俺も『謙虚』に振舞おう。
貴様をはっきり敵と認め、いかなる手段を用いてでも確実に殺す事とする」



その言葉を合図として、ウェカピポの背後、虎と鷹の像の後ろからそれぞれ2体の恐竜が姿を見せた。
どちらも、Dioが変身するのと同じドロマエオサウルス科の肉食恐竜。
全長は4メートルほどの中型恐竜で、後肢に付いたナイフのように鋭く湾曲した鉤爪が特徴的である。



「ケェェェイイィィィィィ!!!」
「ブルルァァァァァァァ!!!」
218創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 17:10:46.26 ID:z7Ymh5qq
228 名前: ◆vvatO30wn.[sage] 投稿日:2012/12/01(土) 17:00:06 ID:kmrL.Ak6 [2/2]
またさるった
まだ早いっすか?

ちょっと休憩タイム
15分くらいで解けるやろか?

らしいので今のうちに席立ってやれることやっといたほうがいいかも?
219創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 17:12:03.32 ID:z7Ymh5qq
タイミング悪っ!
支援
220愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 17:15:43.68 ID:GZCgpRO/
甲高い叫び声と低い唸り声で威嚇をする2体の恐竜たち。
正面のDioも再び変身し、ウェカピポは3体の肉食恐竜の中心でまさに四面楚歌だった。


(クソッ 新手の恐竜か――― 血まみれの服を着ていることから、奴らもこのゲームで死亡した元人間の参加者だろう。
死んだ人間を『ゾンビ』のように蘇らせ、支配する――― 悪趣味な黒いマントも相まって、Dioはまるで『ドラキュラ』か『吸血鬼』のようだ!
いや、恐竜は日中でも這い回る実在したモンスターである点で『吸血鬼』よりもタチが悪い)


Dioの能力はウェカピポの想像以上に厄介だった。
このバトル・ロワイアルという殺し合いゲームの盤上では、Dioの配下はほとんど際限なく増やすことができる。
そして、Dioが最も好みとするこのタイプの恐竜は群れで狩りをする習性を持つ地上のハンターだ。
数が増えれば増えるほど、強力かつ危険な存在となる。


(ルーシーの救出も大切だが、それ以上にこのDioは危険だ。ゲームが進むにつれ、奴の配下の恐竜は増えていく。
放置していたら、奴の恐竜軍団はどんどん強化され、どんどん手を付けられなくなる。今、この段階で確実に倒しておかねばならない!)


2つのアメリカン・クラッカーを振り回すウェカピポ。
リーダーであるDioを含む3体の恐竜たちがその周囲を飛び回り、攻撃の機会を伺っていた。

Dioの策略にハメられて、ウェカピポたちの戦力は分散させられてしまった。
一方のDioは能力で恐竜たちを生み出して3対1。

この場面だけを切りとって見た人は、Dioを卑怯者だと思うかもしれない。
もしくは、群れなければ戦うこともできない臆病者かと。


Dioにプライドはないのか?
―――いや、そうじゃあない。

これこそがDioのプライドだ。



貧しい過去―――過酷な少年時代を送ってきたDioにとって、『勝者』となることは何より重い。

"ゲームの勝者" "ケンカの勝者" "競走の勝者" "決闘の勝者" ―――そして"人生の勝者"。

何ごとにおいても『敗北』は許されない。

欲しい物を手に入れる為ならばババアとだって結婚する。
使えるものならば、たとえ便所のネズミの糞だろうが利用する。
地べたを這いずり回って惨めな思いをしてでも、勝利をつかみ取る。
『過程』に拘らず、『勝利』という『結果』のためならばどんな手段だって用いる。

それがDioの人生哲学なのだ。
221創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 17:18:53.21 ID:z7Ymh5qq
こうしてみると配下をこんなふうに増やせるDioはDIO以上にやっかいとも思えてくるなぁ
222創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 17:19:54.37 ID:C2O4hl9C
>>221
肉の芽(小声)
223創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 17:21:40.03 ID:z7Ymh5qq
>>222
あっ……

……大人はウソつきではありません、ただ間違いを犯すだけなのです
224愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 17:23:16.14 ID:GZCgpRO/
対するウェカピポは、現在、圧倒的に不利な状況。

武器の少ないウェカピポにとって、ひとりで複数の敵と戦うのは分が悪すぎる。
それも、親玉であるDioへは、クラッカーの攻撃ではおそらく力不足。
奴には確実に鉄球の回転を食らわせてやる必要がある。

(とはいえ、配下の2体も無視するわけにはいかないが―――)

奴らはおそらく3体同時に攻撃してくる。
アメリカン・クラッカーで同時に攻撃できるのは2体まで。
仕留めると同時にクラッカーを捨て、鉄球を取り出し最後の1体を仕留める。
そしてその最後の1体をDioにしなければならない。

そう、クラッカーを手放し、鉄球も使う。
つまり、1体でも仕留め損ねると恐竜の牙がウェカピポを喰い殺すということだ。

(まったく、無茶な注文だな)

一応気を付けねばならないのは、4体目の恐竜がどこかに潜んでいないかということだ。
Dioの事だ、充分あり得る。
だが、たとえ恐竜の移動速度が尋常でないにしても、奴らに遠距離の攻撃手段はない。
気配を察知できる距離に感じ取れないのならば、心配する必要はないかもしれないが。

ウェカピポは覚悟を決めた。
勝負は、恐竜たちが攻撃を始めた瞬間に決まる。



「いくぞ…… ウェカピポ」

言葉を吐くと同時に、Dioがマントを脱ぎ捨て、ウェカピポに投げつける。
真っ黒なマントの影が目の前に広がり、ウェカピポの視界が一瞬遮られる。

「クソッ――― 姑息な手を―――――!?」

マントを上空へ弾き飛ばしたウェカピポ。
彼が目に捕えたのは、3体の『同型』の恐竜たち。

奴が脱いだのはマントだけではなかった。
着ていた衣服をすべて脱ぎ捨てたのだ。

他2体の恐竜も、Dioと同時に衣服を捨てた。
ウェカピポは"衣服"で恐竜を見分けていたのだ。
全員が素っ裸になってしまえば、恐竜たちの見分けはつかない。

(クソッ――― どいつがDioだ?)

この世界に連れて来られる直前、とある汽車の中でDioは大統領と戦った。
今度はDioが、大統領の立場になって再現した。
あの時、Dioは3人の大統領を相手に戦い、3人すべてを『即死』させる必要があった。
今回のウェカピポは、あの時のDioより過酷だ。

ウェカピポは、3体の恐竜のうち『どいつがDioかを見定め』、その上で『全員倒す』必要があった。
それも、武器も攻撃回数も限られた状況でだ。


「WRYYYYYYYYYYY!!!」

3体の恐竜が、同時にウェカピポへと襲い掛かった。
ウェカピポは―――
225創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 17:26:42.85 ID:z7Ymh5qq
支援
226創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 17:27:00.65 ID:j6INL5lT
しぇ
227愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 17:30:01.19 ID:GZCgpRO/
 


ドゴドゴォォ――――――ン




「ゲイイィィィィィ――――ン!!」
「ブラァァァァァァ―――――――――ッ!!!」



冷静に、かつ確実に、Dioの配下の恐竜2体にアメリカン・クラッカーを叩き込んでいた。


「何ッ!?」


(Dio―――――― お前は大きなミスを犯した)


衣服を捨てても、一つだけ残っていたものがあった。
それは、最初の攻撃で2発目のアメリカン・クラッカーがDioの鼻先を掠めてできた『小さな傷』だ。
戦いにも、何も影響を及ぼさないであろう小さな傷。
それがDioと他の恐竜を見極める、唯一にして最高の手掛かりとなった。


アメリカン・クラッカーをまともにぶつけられた2体の恐竜は戦闘不能となり、人間の姿へと戻った。
そんな彼らに見向きもせず、ウェカピポはクラッカーからすばやく手を放し、捨てる。
そしてすかさず鉄球を取り出し、手のひらの上で高速回転。

たった一発の、そして強力な鉄球の回転。
まだ"行ける"間合いだった。
それどころか、外しようも避けようもない絶好の距離。


(とどめだ、Dio――――――)









ザクリ――――――



ウェカピポの首を、獰猛な恐竜の顎が噛み砕いた。



「ドノヴァァァァァァァ―――――ッ!!!」
228創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 17:31:01.79 ID:z7Ymh5qq
?!
ドノヴァンがなんでここに、っていうか叫んでるの誰だ?!
229愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 17:37:36.05 ID:GZCgpRO/
「な゛――――――――」

(バカな―――――― 何が起こった?)


身体の力が一気に抜けていく。
恐竜の馬鹿力に負け、地面に叩き付けられた。
鉄球は、もう手元にはない。
攻撃されると同時に、落としてしまった。


「正直、ここまで手こずるとは思っていなかったぞウェカピポ。俺の世界のお前よりはよっぽど強敵だった、誉めてやろう」


(Dio――――? いや違う、奴じゃあない。奴はすでに恐竜化を解き、脱ぎ捨てた衣服を着ながら俺の目の前で笑っている。
それに、攻撃はあさっての方向から受けた――― 奴じゃあない)

恐竜がウェカピポの腕を喰いちぎった。
すさまじい激痛に叫び声をあげるウェカピポ。
そしてようやく、その存在に気が付いた。



「ハァ…… ハァ…… もう一体……… 別の、恐竜が――――――?」

「簡単に言えば、そういう事だ。それまでの行動はすべてブラフ。お前が倒した2体も、そして"俺自身"も囮だったというワケだ」


(バカな―――――― 4体目の恐竜は予想外の存在ではない。あり得ることだと、しっかり『警戒していた』のだ―――ッ!
にも関わらず、接近に―――いや、『噛みつかれるまで存在を一切関知できなかった』―――― そんなことが――――――)

そもそも、こいつはどこから現れたのだ。
ここは庭園の中でも、ある程度開けた場所に位置する。
近づけば、必ずわかるはずなのに……

そんな考えを巡らせるウェカピポの頭上へ、Dioの脱ぎ捨てた黒いマントが風に舞いながら落下してきた。

「まさか――――――」

「ご明察。そいつはずっと"俺のマントの中にいた"ッ!!」






――――――――

>>228
ヒント:他2体の恐竜の鳴き声(ポケモンアニメの法則)
あと、俺の前々話「僕は友達が少ない」i参照。
230創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 17:41:07.90 ID:z7Ymh5qq
言われるまで鳴き声気付いてなかったwwww
あとドノヴァンの軽い身のこなしが原因で気付けなかったとかじゃなくてよかったw
231愛・おぼえていますか ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 17:43:39.78 ID:GZCgpRO/
(バカな――――――ッ!!)


タイガーバームガーデンに着いて以降、Dioが四六時中翻していた目障りなマント。
『あの中』に、今までずっと隠れていただと?
ウェカピポがアメリカン・クラッカーで連続攻撃を仕掛け、それを間一髪で回避し続けた時も。
そして投げ捨てられ、ウェカピポがそれを弾き飛ばした時も。
ウェカピポに一切、その気配すら悟らせないまま。

(そんなこと――― できるワケが―――ッ)

「こいつは特殊な経歴の持ち主でな。人間だったころの名は『ドノヴァン』。軍人で、コマンドー部隊の所属だったそうだ。
特技は、砂漠の上でも足跡を付けずに歩くことができるらしい。また、野生のコウモリにさえ気づかれずに近づくことができるそうだ。
それも、『人間』の時からな。身体能力がすべて向上する『恐竜』となったとき、こいつの存在はまるでステルスの迷彩だ。気配を感じ取れるものなどいない」

マントを着ていたのは、ドノヴァンを隠すため。
マントを脱ぎ捨てたのは、気づかれぬようにドノヴァンをウェカピポに近づけるため。
他の衣服を脱いだのも、3体の恐竜の見分けを付けさせなくするためだけではなく、ドノヴァンの存在をウェカピポに悟らせぬため。



(ルーシー…… ブチャラティ……… トリッシュ――――――)


「話は終わりだ。ところで、さっき俺は『俺の世界のお前より強敵だった』と言ったが、『成し遂げた事』はここにいるお前の方がはるかに少ないぞ」

Dioが指先を尖らせる。
完全な恐竜化ではなく、半恐竜化。

「前のお前は、大統領のスタンドを見極めるのに大いに役立ってくれた。本当に感謝している。
俺が今こうして生きているのも、お前のおかげなんだからな」

強化されたDioのナイフのような爪が、ウェカピポの頭に振り下ろされる。

「だが、『お前』は何もしていない。ルーシー・スティールも助けられず、俺にも手も足も出ずに完敗した。
前のお前が、"俺を助けるため"にアメリカ大陸に来たのだとすると――――――」

ウェカピポにまっすぐな『線』が引かれる。
深く抉られた心臓へ向かう傷口が、大量の出血を起こした。


(すまない―――――)


「『お前』は、"特に理由もなく"このゲームに参加させられ、そして最期まで"何もできないまま"死んでしまうということかな?」

返事は、帰ってこない。
なぜなら、ウェカピポには話すことも、身体を動くことも、考えることすら二度とできないのだから。




【ウェカピポ 死亡】

【残り 69人】


☆ ☆ ☆
232創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 17:46:17.75 ID:z7Ymh5qq
なんか、ごめん……
いや、それだけが原因で気付けなかった、って感じだとドノヴァンサウルス強すぎるだろ、
って気持ちでのレスだったから今の展開には満足なんだけど書き方とタイミングが悪かった
233恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 17:49:27.92 ID:GZCgpRO/
 













生き残りたい
まだ生きていたい

君を愛している

本気のココロ見せつけるまで
私 眠らない
















☆ ☆ ☆
234恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 17:57:07.49 ID:GZCgpRO/
「あったわブチャラティ! 貴方の左腕と両脚よ!」

意識の朦朧とするブチャラティに代わり、戦闘中に捨ててきた彼の手足を拾い集める。
あの自動車の爆発は凄かったけれど、この手足が巻き込まれていなかったのは幸運だった。
元通りにとは行かないかもしれないけど、ある程度動けるようにはなるはず。
ジョルノがいれば、破損した部位も纏めて治してくれるのに……なんてことを考えていても仕方ないわね。

ブチャラティに拾ってきた手足を渡す。
彼は能力でそれらをつなぎ合わせ、見た目だけは元の無事な姿へと戻った。

腕をブルンブルンまわし、脚も動かして具合を確かめている。
そんな彼の様子を見ながらも、あたしの内心は不安でいっぱいだった。

手足の切断部からは、わずかに出血が始まっていた。
精神力に限界が来て、ジッパーの能力が失われてきたからだろう。
そう。つまり、彼の身体は普通に身体を切断されたに近い状況まで陥っていた。


にも関わらず、出血は"わずか"だった。


普通なら、もっと滝のようにドバドバ血が出るものじゃないのだろうか?
『スティッキィ・フィンガーズ』での切断部はいつもこんなものだっただろうか?

列車で戦った時のブチャラティはどうだっただろう?
あの時戦っていた釣竿の男はどうやって死んだのだっただろう?

気になっている事は、まだある。



「………調子はどう? ブチャラティ…… 体の方は―――?」
「ん……。ま、問題はない。腕も脚も、いつもと変わらない。ありがとう、トリッシュ。おかげで助かった」


神妙な声で問うあたしに対し、ごまかすように笑うブチャラティ。
すかさず、あたしは彼の左手を握り、掴み上げた。


「ここ……… 凍傷を起こしているわよ」

それはブチャラティが石柱に掴まっていたとき、ギアッチョのスタンドに凍らされた部位。
指摘された瞬間、ブチャラティの顔色が暗くなる。


気がついて、いなかったの……?
235創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 18:01:16.94 ID:z7Ymh5qq
支援
236恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 18:03:12.28 ID:GZCgpRO/
 
「………ああ。だが、あの男と戦って、この程度の傷で済んだのならば御の字だろう。この程度の怪我ならば、"いつもと変わらない"からな」

またそうやって誤魔化し、そして手を放してしまった。
彼の手は、とても冷たかった。
比喩ではない。
本当に、氷のように冷たかったのだ。

凍傷を起こしたから?
氷のスタンド使いが暴れまわったから?
興奮したあたしの体温が高くなっているから?
ここが地下だから?

それとも――――――?

あなたの体温は、どうしてそんなに低いままなの?



「いやあいやあ、お二人さん。ご無事で何より」

よそから声をかけられ、そちらを振り返る。
げ。"変態"―――――― コイツ、生きてたの?



「トリッシュちゃんと、そちらはミスター・ブチャラティだっけ? いやいや、この前は俺もちょっとワケわかんなくなっちゃっててさ……
でも大丈夫もう乱暴したりしないし、これからは力を合わせて……」


!?

「だめえぇぇぇぇぇぇ!!!」


気が付いたら、あたしは"変態"の方へ向かって全力疾走していた。




☆ ☆ ☆
237創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 18:04:29.83 ID:j6INL5lT
しぇん
238創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 18:08:47.61 ID:z7Ymh5qq
支援
239恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 18:10:23.94 ID:GZCgpRO/
 

「おーおー好き勝手やりなさる」


薄目で目を開け、大丈夫そうだったので起き上がった。

ん、オレが誰かって?
玉美だよ、コ・バ・ヤ・シ・タ・マ・ミ!

いままでブチャラティたちと敵との戦いをじっと見守っていたんだが、彼らが勝利したのでこうして激励をだな……
あの大爆発にはビビったが、あれはブチャラティが起こしたものだったんだな。
あいつは強い。そして、なんだか頼りになりそうだ。

このゲームで、生き残るために『強さ』が必要なのはよくわかった。
これからはあのブチャラティにうまく取り入って、ついて回れば安心だろう。

自動車の方を見る。
今もまだ爆炎を挙げて、原型もない。
あんなのに巻き込まれちゃあ、命はないわな。
敵とは言えかわいそうに、ご愁傷様。

自動車の残骸に背中を向けると、真反対にはブチャラティと、愛しのトリッシュちゃん。
うん、ウェイトレスの衣装も、よく似合っていてプリティだ。

グヘヘヘヘ

さっそく声を掛けてみよう。


「いやあいやあ、お二人さん。ご無事で何より」


あからさまに嫌な顔をされたが、気にしない。


「トリッシュちゃんと、そちらはミスター・ブチャラティだっけ? いやいや、この前は俺もちょっとワケ

わかんなくなっちゃっててさ……
でも大丈夫もう乱暴したりしないし、これからは力を合わせて……」



そのあたりで、トリッシュちゃんの顔つきが急に厳しくなる。
もしかして、オレまた履き忘れてたか?
いや、パンツもズボンも履き直したし、大丈夫だよな?

そんなことを考えていると、トリッシュちゃんが何か叫びながらこちらに走ってくる。
なんだかわからんが、とにかくすげえ。
めっちゃオッパイが揺れてて、フヒッ すげえ柔らかそ―――――




『ホワイト・アルバム』ッ!!!




240創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 18:16:21.95 ID:z7Ymh5qq
支援
241創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 18:16:34.75 ID:fZGAxTL5
遥かなる旅路 さらば玉美
242恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 18:18:01.04 ID:GZCgpRO/
 





「え?」


小林玉美が感嘆の声を漏らす。
何が起こったのかわからない。
突然、トリッシュに突き飛ばされて、自分はすっ飛ばされて転んで。

そしてトリッシュは、身体の半分を氷づけにされて動けなくなっていたッ!!



「ギアッチョ!!」

ブチャラティが叫ぶ。彼は――― ギアッチョはまだ死んではいなかった。
小林玉美の後方、爆破した自動車の残骸から這い出たギアッチョが、再び攻撃を仕掛けてきたのだ。


「このクソカスどもがァァァァァ!!! どいつもこいつも皆殺しにしてやるッ!!!」


完全なる誤算だった。
『ホワイト・アルバム』というスタンド能力は、ブチャラティの想像をはるかに超えていた。
この能力は、ギアッチョがその気になれば爆走する機関車だろうが止められる。荒まく海だろうと止められる。
そして今回は、ついに大爆発を起こした自動車まで止めてみせたッ!

スーツの中、ギアッチョは頭から出血している。
それすらも凍らせて止血している。

普通ならば立ち上がれないほどのダメージは受けているだろうが、それもスーツ型のスタンド能力で痛みを矯正して補っている。

『爆弾』や『火炎』のスタンド使いが有効という、ブチャラティの考え方は間違ってはいない。
なぜなら過去、この世界とは別の物語でギアッチョと戦ったのは、その『爆弾』や『火炎』を操る者だったのだ。
だが、それではギアッチョを倒しきることはできない。
ギアッチョは、そのどちらの戦いでも『相打ち』という結末に持ち込んでいた。

この火では倒せない。
ギアッチョに炎で勝利するには、彼ら以上のパワーが必要となる。



「あ…… あぁぁあああ…………!」

悲鳴を漏らし、みっともなく腰を抜かしてしまった玉美。
見れば、情けのないことにズボンを濡らしてしまっているではないか。



「何してるの"変態"!! さっさと逃げろバカ!!!」

そんな玉美を覚醒させたのは、自分を助けたトリッシュ・ウナの叫び声。
自分の身に何が起こったのかを理解した玉美は、一目散にどこかへ逃げ出した。
243創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 18:20:14.59 ID:fZGAxTL5
玉美じゃなかった……だと……?
244創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 18:23:09.28 ID:z7Ymh5qq
シンプルな能力がもっともおそろしい
245恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 18:24:31.89 ID:GZCgpRO/
 
「あんなカスの"変態ヤロー"のために、ずいぶん間抜けなことをしたなトリッシュ!!」
「くっ!」

トリッシュは拳銃を抜きギアッチョに向けようとするが、素早く平手で叩かれ、拳銃は遠くへ飛ばされてしまう。

(くそっ! ホントにコイツの言う通りよ!! なんであたしがあんなレイプ魔の"変態"を助けて、こんな目に合わないといけないのよッ!!)

トリッシュは自問するが、答えは出ない。
考えるより先に、身体が動いてしまったのだ。
『助ける相手がだれか』という事よりも、『助けなければ』という気持ちが、先に生まれてしまったのだ。


ギアッチョが右腕を高く掲げ、トリッシュの頭上で手刀の構えを作る。

「もう、ボスの娘も、ボスの秘密も関係ねえ! 順番に粉々にしてぶっ殺してやるッ!!
まずは自動車爆発の引き金を引いた貴様からだ! トリッシュ・ウナァァァァァ!!」

今にも振り下ろされんとする氷の手刀。
そこへ、雄たけびをあげながら特攻する一人の男、ブローノ・ブチャラティ。

「うおおおおおおおお!!」

ニヤリ

「かかったなダボが」
「ギアッチョォォォォォ!!!」

ブチャラティが『ホワイト・アルバム』の射程に入った瞬間、ギアッチョはトリッシュを蹴り捨てる。
ギアッチョの狙いはあくまでブチャラティだった。
「殺すぞ」と脅すより、実際に殺しのアクションを見せつける方が、挑発として時には有効だ。

トリッシュの死という餌に釣られ、ブチャラティはまんまとギアッチョの射程距離に入ってしまった。


「だめぇ! ブチャラティ!!」

トリッシュが叫ぶ。
勝てっこない。このギアッチョには勝ち目はない。
せめて自分一人が犠牲になれば――― ブチャラティもあの"変態"のように逃げてくれればよかったのに。
もう、何もかも遅い。


「この距離では回避不能!! 氷のスタンドは防御不能!! そして弱ったお前のスタンドのパワーではこの装甲は突破不能!!
これで終わりだブローノ・ブチャラティ!!」
「『スティッキィ・フィンガ―ズ』ッ!」


二つの影がぶつかり合った。
ブチャラティの顔が、激痛に歪む。
ギアッチョのスーツへと伸びた右腕はから肩口にかけて、彼の身体は冷たい氷で覆われていた。

そして、ギアッチョは―――


「ごふッ―――」


『スティッキィ・フィンガーズ』の右腕に腹を貫かれ、血の塊を吐き出した。
246創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 18:28:21.24 ID:z7Ymh5qq
再度の相打ちか……?
247創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 18:30:46.95 ID:j6INL5lT
シエぇーーーーーン!
248恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 18:31:32.15 ID:GZCgpRO/
「嘘っ……」

トリッシュが思わず声を漏らす。
戦いの展開は、彼女にとって意外な方向へ転んだ。


「だが―――――― お前への攻撃は、『可』能だ―――ッ!」



自動車をぶつける作戦の前から、ブチャラティにはギアッチョを倒す一つの『策』があった。
その『策』とは、あきれるほどに単純明快。

『右ストレートでぶっとばす』
『まっすぐ行ってぶっ飛ばす』

それだけだ。


もちろん、ただの右ストレートでは、ギアッチョの『ホワイト・アルバム』の装甲を破ることはできない。
せいぜいヒビを入れさせる程度で、逆に殴ったところから凍らされて、それでおしまいだ。
だが、『スティッキィ・フィンガーズ』にも能力がある。
殴ったところにジッパーを取り付けるというとても強力な能力が。

装甲を破れないならば、ジッパーで開いてしまえばいい。
ジッパーで穴を開けてしまえば、どんな堅牢な鎧だろうが、それは紙切れと同じようなものだ。


しかし、この『策』には大きな欠点がある。
それはこの攻撃では「腹」以外の場所を狙えないため、相手を即死させることができない。
そして、過去に戦った暗殺チームのスタンド使いは―――
いったん食らいついたスタンドは、腕や脚の一本や二本失おうとも決して『スタンド能力』はを解除しない――― そんな男だった。



「これしきの事で、このオレがくたばるとでも思っているのか! ブチャラティイイイ!!!」


『ホワイト・アルバム』の冷凍能力、全開放。


「ぐあああああああ―――――ッ!!」


いったん弱まりかけたスタンド能力が、さらに強力なものになりつつあった。
腹のジッパーの口から全身にかけて、ギアッチョに組み付いたままの姿で、ブチャラティの氷像がまるまる一体造られようとしている。

ブチャラティの『策』の欠点。
それは、この男が死亡しスタンド能力が解除されるまで、この冷凍化攻撃を耐え続けねばならないこと。
自分で突っ込んだ腕はギアッチョの体に固定され、もう動けない。
全身が奴の身体と接触しているため、どこかを部分的に捨てて逃げることもできない。

『相打ち覚悟』でないと、このギアッチョは倒せない。
そう判断したからこそ、ブチャラティはこの特攻を行った。
249創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 18:35:32.62 ID:vca0dzUz
支援ンンン!!!
250恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 18:38:45.14 ID:GZCgpRO/
「ぐがっ―――― がががががっ――――――――」

体内に入り込んだブチャラティの腕がギアッチョの内臓を掻き回し、少しでも死期を早めようとする。
ギアッチョの死は、もう免れないだろう。
問題は、ブチャラティの体力がそれまでもつかどうか。

最期の力を振り絞り、ギアッチョは絡み付いたブチャラティの両肩を、両腕で覆うように挟み込んだ。
無論、ブチャラティの全身はすでに氷の塊となっている。

「て……めえも…… 道連れだ……… ブチ―――割れな――――――」


『ホワイト・アルバム』の最期の力を振り絞り、凍りついたブチャラティの身体を押しつぶした。

だが、ブチャラティの身体はその力に逆らわない!
まるで『ゴム毬』のように形を変えてグニャリと変形して、破壊を免れた―――ッ1



「な―――ッ」



『『柔ラカイ』トイウ事ハ『ダイヤモンド』ヨリモ壊レナイッ!!』


トリッシュ・ウナのスタンド能力『スパイス・ガール』!
能力は、触れた物質を『柔らかく』する事!
柔らかいということはダイヤモンドよりも壊れない!

今、凍らされたブチャラティの身体を柔らかくした!
ギアッチョがいくら力を加えたところで、柔らかい氷がブチ割れることは決してない!!



「クソ―――が――――――」


ここらで、ギアッチョにも限界が訪れたようだった。
冷凍能力が弱まっていく。
氷像と化したブチャラティの身体がみるみる元通りに戻っていく。

スタンドによる氷なのだ。
能力が解除されれば、解凍速度は冷凍の比ではない。
そして暗殺チームであるギアッチョのスタンドが解除されたいうことは、それは彼の死と同義であった。



(リーダー……… オレ…… オレたちは―――――― 間違って―――― なかったよな――――――?)
251創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 18:38:55.07 ID:j6INL5lT
支援ッ!
252恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 18:44:56.50 ID:GZCgpRO/
 



するすると力が抜け、ギアッチョの身体は地面に倒れる。
それと同時にブチャラティも膝をつき、そのまま地面に倒れこむ。



「ブチャラティ! 大丈夫ッ!?」


そんな酷い有様のブチャラティを、トリッシュが抱き留めた。


「ハァ……… ハァ…… ハァ… トリッシュ――――――」


全身を完全に凍らされたといってもほんの数秒のことだ。
痛みは酷いが、命は無事だった。
氷をブチ割られていたら、命はなかった。
あと一歩のところでブチャラティはトリッシュに命を救われた。
彼女のおかげで、今度こそ相打ちとはならなかった。



「――――――勝ったぞ!」



【ギアッチョ 死亡】

【残り 68人】






☆ ☆ ☆
253創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 18:45:27.17 ID:z7Ymh5qq
支援
254恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 18:51:02.55 ID:GZCgpRO/
 

はあ…… はあ…… はあ……

逃げろ、逃げるんだ。


誰も、何者も追ってこない、遠い場所まで。


ただその一心で駆け抜けた、長い通路。

光が見えてきた。出口だ。
二度と見ることはできないと思っていた、太陽の光だ。


「はぁ…… はぁ……」


息が上がっている。
ここは、真実の口。入ってくるときは、トリッシュたちと3人だった。
今、小林玉美は、1人でその入り口の前で転げている。


「なんで………」


思い返すのは、つい先ほどの出来事。

彼は、トリッシュに庇われて、命を救われた。
彼女は、自分の身代わりとなって、敵スタンドの攻撃を受けてしまった。


「なんで、オレなんかを………」

自分が彼女の仲間だというのなら、納得もいく。
見ず知らずの相手だったとしても、まだ分からなくはない。
問題は、その相手が『自分』だったことだ。

自分は、彼女に間違いなく嫌われている。
恨まれているといってもいい。

当然だ。
自分は、彼女を、ただ自分の欲望のためだけにレイプしようとした。
女性にとっての一生モノの傷を、自分勝手に追わせようとした最低の変態のクズなのだ。

そんな自分を、彼女は助けた。
自分の危険などかまわずに…………


「なんで、オレなんかを助けたんだ!! トリッシュ・ウナァァァァァ!!!」

小林玉美は慟哭する。
唯一、彼を見守る真実の口は、その問いに答えてはくれなかった。



☆ ☆ ☆
255創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 18:54:15.23 ID:z7Ymh5qq
支援
256恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 18:57:22.29 ID:GZCgpRO/
足元で伏せて絶命したギアッチョの死体を、トリッシュが蹴り飛ばす。
ブチャラティは、自分がまだ生きていることが奇跡に思えた。

「よかった――― ブチャラティ…………」

トリッシュが涙を流して喜ぶ。
彼女がいなければ、ブチャラティは生きてはいなかった。

「間違いなく、今度こそ間違いなく、奴は死んだ」


呼吸は止まっている。
心臓も動いていない。
間違いなく死んでいる。

遺跡内の気温が少しずつ上がってきた。
奴のスタンドエネルギーが完全に消滅したという証拠だろう。



「ブチャラティ、大丈夫? 動ける?」
「ああ、凍傷は酷いが、死ぬほどヤバいってほどでもない。スタンドの氷だからか、能力が解除されてから温度が戻るまでの速さが速かった。
おかげで、後に引きずるような重傷ではないようだ」
「ほんとにっ? ああ、よかった―――」


そして何となしに会話が途切れ、少し思いつめた顔をしたブチャラティが、口を開いた。



「やはり、聞いておいたほうがよさそうだな」



そう前置きし、トリッシュがドキリとする。
その反応を伺いながら、ブチャラティはずっと頭の片隅で気になっていた疑問を問いかけた。

「トリッシュ…… 君の未来で、"俺"は一体何をしている?」

ドキリとする。
トリッシュは一瞬目をそむけ、そして何でもないかのように装いながら笑って話し始める。



「だ……だから、みんなでボスを倒して、平和に暮らしているに決まってるじゃないッ! もちろん貴方は組織の幹部よ。
ジョルノが組織を乗っ取ってボスになって、当然あなたは彼の右腕、ナンバー2よ。ポルナレフさんが3番で、ミスタが4―――――じゃなくて、えっと、そうそう。
4はナランチャで、ミスタは5で………」

突然饒舌になったトリッシュ。
言っていることも何一つまとまっていない。
それでもしゃべり続け、次第に聞いていないことまで話し始めたトリッシュ
ブチャラティは彼女の手を取り、無理やりに中断させる。


「もういい、トリッシュ。もういいんだ―――」

「――――――ッ!!!」
257創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:01:35.94 ID:vca0dzUz
ううう支援
258創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:03:29.72 ID:z7Ymh5qq
気付いちゃうよなぁ、気付いてるんだよなぁ
259恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 19:04:02.51 ID:GZCgpRO/
「トリッシュ。君はここで俺と初めに出会ったとき、まるで幽霊にでも出会ったかのように驚いていた。突然、俺と『再会』した、とも………
自分の事だ。なんとなく、わかっている」

『トリッシュの世界にいた自分』が『今の自分』と全く同じ状態だったとするならば、今はサルディニアでアバッキオの死体を看取った6時間後―――
ならば、ちょうどローマでボスの親衛隊とやらと戦っていたという頃だ。
さっきのギアッチョとの戦いの最中から、ちょくちょく感覚が鈍ってきている。
体温も、ゲーム開始直後から比べてどんどん下がってきた。

「トリッシュ…… 俺は―――」
「言わないでッ―――!!」

トリッシュは目に涙を浮かべ、顔を伏せてしまった。
泣かせるつもりはなかった。彼女には笑っていて欲しい、ブチャラティは心からそう思う。

「大丈夫だ。心配するな、トリッシュ。俺の身体は、まだ動く。まだ、あと少しだけならば大丈夫だ。
皆で笑ってゲームを脱出するまで、俺は死なない。―――君は、俺が必ず守る!」

さっきは言えなかったこの言葉。
トリッシュはきっと笑ってくれる。そう思っての心からの言葉だった。

だが―――、トリッシュの反応は。

「嘘……… でしょ………?」

彼女の反応は、ブチャラティの想像とは違っていた。
トリッシュは声を震わせ、その表情は絶望に満ちてゆく。

「どう… した………? トリ………… シュ………」

「ブチャラティ……… それ……… 何―――?」

トリッシュに示されて、ようやく気が付いた。
ブチャラティの胸から、鋭いナイフのような刃の束が2本伸びていた。


「な………」


ブチャラティの身体が引き裂かれる
腹から小腸の一部を掻き出し、いくつかの骨と血管を引き裂いた。
2本の腕から伸びた鋭い爪から血が滴り落ちる。

「ギィィアアアァァァァァア――――――ッ!!!!!」


ブチャラティの背後には、割れたメガネを掛けた肉食恐竜が前足の爪に付いたブチャラティの血液を舐めまわしていた。


「そんな――― 嘘よォ!」

(バカな―――! このタイミングで恐竜だとッ!?)

ギアッチョの死体がどこにもないッ!
いや、この恐竜自体がギアッチョなのだ!

(そんなバカなッ! 俺に殺されて死んだギアッチョが、再び恐竜と化して襲い掛かってきたというのかッ!?)


☆ ☆ ☆
260創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:05:41.62 ID:z7Ymh5qq
支援
261創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:07:13.16 ID:vca0dzUz
うわあああああああ
262創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:09:06.78 ID:j6INL5lT
ししし支援だッ!支援は狼狽えないッ!
263恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 19:10:36.21 ID:GZCgpRO/
 


「なあ、Dio。お前の『スケアリー・モンスターズ』の恐竜化、オレにはかけられねえのか? 死体である必要は無ェんだろ?」

「出来なくはない。だが、今回の作戦では必要がない。恐竜化したお前より、今のお前の方がよっぽど強いからだ」

「何故だ? 『恐竜』だぜ。パワーもスピードも、人間と比べりゃあ段違いだ。オレだって、生身で恐竜とケンカしたら勝てる気がしねえぜ」

「それは当たり前だ。何故なら、恐竜はスタンド能力がつかえない。もしくは、使えたとしても、非常に微力な能力なのだ。
スタンドは精神のエネルギー。恐竜の精神力が低いからかは分からんが、ともかく恐竜化した人間は、たとえ元がスタンド使いであったとしても、能力を使えたことはなかった」

「あぁ―――。なるほどな。そのンドゥールがあの『水のスタンド』でオレとコンボを組めない理由はそういうワケか。ケッ、でも仕方ねえか。
確か恐竜って氷河期で絶滅したって聞くし、『氷のスタンド能力』を使って戦うんじゃあ、笑い話にもなりやしねえぜ」

「…いや。だが、『お前を恐竜化させる』というのは、悪くない考えだ。例えば、お前がブチャラティと戦って殺された場合―――」

「オイ! どういうことだ? オレがブチャラティの野郎に負けるとでも思っているのかッ!?」

「仮の話だ。つまり、保険だ。仮にブチャラティの奴にお前が殺された場合でも、安心した隙をついて恐竜化すれば、お前は一矢報いて相打ちの形になる」

「――だがよ、お前の『スケアリー・モンスターズ』の恐竜化って、お前かお前の恐竜が近くにいないと発動できない筈だよな?
作戦ではオレとお前は別行動だし、仮にオレが死んだとしても、オレの死体へ恐竜を近づけるようなヘマ、ブチャラティの野郎がするとは思えねえが」

「ニヤリ。それについては考えがある」


☆ ☆ ☆
264創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:11:34.68 ID:vca0dzUz
支援
265創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:12:28.06 ID:vca0dzUz
(このDioニヤリって口で言って)
266恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 19:14:57.00 ID:GZCgpRO/
 
ゲームが始まって以降、Dioはギアッチョの凍らせた地面と『カエル』を利用してある実験を行い、気が付いたことがあった。

それは、氷の地面の上で生物を恐竜化させることはできない事。

すでに恐竜化した生物が氷の上を走り回る方は問題ないが、凍った大地の上で『新しい恐竜』を生み出すことはできないのだ。
恐竜が氷河期で絶滅したという説があるせいなのか、それとも単にマイナス100℃の中で生まれる『生物』はいないからなのか。
ともかく、Dioの『スケアリー・モンスターズ』の発動には『温度』が必要だった。

襲撃前、前もってギアッチョに『恐竜化』を感染させる。
そして恐竜に自我を奪われる前に、『ホワイト・アルバム』で身を包み、恐竜化を制止させる。

このようにすれば、『ホワイト・アルバム』の能力を解除しない限り、ギアッチョの恐竜化は始まらない。
そしてギアッチョが死に、"スタンド能力が解除され"れば、ギアッチョはその瞬間、獰猛な恐竜へと姿を変えるのだ。


『なにが……俺たちにとって、勝利なのか……よく……考えろ……』

(リーダー……… オレ……………)


例え、腕や脚の一本や二本、失おうとも―――
腹をぶち抜かれて内臓をグリグリ抉りまわされようとも―――

いったん食らいついた『スタンド能力』は、決して解除はしない。

そして――――――


たとえぶっ殺されて、食らいついたスタンド能力を"解除させられ"ようとも――――――

『ブッ殺す』と心で思った相手は、間違いなく殺して、殺しつくす。
最期まで決して諦めず、たとえ命尽き果てようとも、かならずやり遂げてみせる。



『……誇りを…………』



それが、彼らリゾットチームの誇り。

そうだよな?


(オレたちは―――――― 間違って―――― なかったよな――――――?)


この戦い。
あえて勝者を決めるとするならば、それはブローノ・ブチャラティではない。
それはリゾットと、その仲間たちの執念の勝利である。



☆ ☆ ☆
267創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:16:22.73 ID:z7Ymh5qq
決着ウウウウウゥゥゥゥゥッ!
268恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 19:20:45.19 ID:GZCgpRO/
 
「うわあああああああ!!! 『スパイス・ガ―――』
「ギャバシャァァァァ――――!!」

ギアッチョ恐竜の頭を振り回すだけの頭突きでさえ、トリッシュはなすすべもない。
いったん左腕両足を切り離し、全身凍傷を負ったブチャラティよりはマシだとはいえ、トリッシュも既に満身創痍だ。
ンドゥール恐竜に痛めつけられ、一度ギアッチョにも身体半分を凍らされている。
『スパイス・ガール』を繰り出すも難なく弾き飛ばされ、地面に叩き付けられる。

「くは――――ッ」

トリッシュが吐血した。
激しい打撃を食らい、どこか内臓を痛めたのだろう。

「そ―――――んな――――――」


一方のブチャラティは、もっと酷い。
身体を爪で引き裂かれ、動くこともできない。
いや、それ以前から、ブチャラティの身体にはすでに限界が訪れていた。
ディアボロに殺され、一度は命を落とした身。
ジョルノの能力で現世に繋ぎとめられたが、確実に肉体の方が消耗され、体力は底を尽きていた。

立ち上がろうと、地面に左脚を立てる。すると、左脚は根元から外れ、転んでしまった。
続いて右脚と、左腕。これも、地面に立てた瞬間にねじ折れ、身体はバラバラになった。
まだ、完全に接合されていなかったからだ。
自身のスタンドパワーが、完全に失われつつあるからだ。

後ろで恐竜が動いていることにも気が付かなかった。
自分が刺されたことすら、トリッシュに指摘されるまで気が付いていなかった。
感覚は、既に無いに等しい。
ブチャラティはもはや、自分で動くことすらできない。


ひたひたと、トリッシュに忍び寄るギアッチョ恐竜。
今のギアッチョはただの野生動物。そのはずなのに、ギアッチョは本能に逆らった明らかな殺意を持ち、トリッシュを攻撃しようとしている。

恐竜となった玉美は、変態だった。
恐竜となったンドゥールは、盲目の戦士だった。
恐竜となったドノヴァンは、身軽なコマンドーだった。
そして、恐竜となったギアッチョは、だれよりも彼らに殺意を抱いていた。

彼女に勝ち目はない。
ブチャラティは心の中で慟哭する。

(そんな――――――トリッシュが―――――― 殺されてしまう―――ッ!
たった今、彼女と約束したのだ。『俺が守る』と約束したのだ――――ッ!!
そんな約束すら、俺は守ってやることができんのか――――――! 誰か…… 誰か、彼女を―――――)


「ギャオオォォォォ――――――ン」

恐竜が牙を剥いて、トリッシュに襲い掛かった。

(誰か――― 彼女を護ってやってくれ―――――――)



ダァン!
269創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:22:22.07 ID:vca0dzUz
!?
270恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 19:25:50.84 ID:GZCgpRO/
 



突然の銃声とともに、恐竜の攻撃が止まった。
恐竜の皮膚には生々しい弾痕が刻まれ、痛々しい出血が始まった。



ダァン!


「ギャギャッ!」


銃声がもう一発。
今度は恐竜の首筋に命中し、恐竜も悲鳴を上げて苦しむ。


「死ねッ! 死ねッ! 死ねェッ! 」


ダァン! ダァン! ダァン!


拳銃の連射は続く。
一発でも食らってしまえば、たとえ恐竜でも、もうンドゥールの時のように回避し続けることはできなかった。


「死ねッ! 死ねッ! 死ねッ! 死ねッ! 死ねッ!」


レパートリーの少ない殺しの文句を叫びながら、銃を乱射する男。
トリッシュは彼の顔を確認して、呆然とする。

白馬に乗った王子様には程遠い。
だが彼が来なければ、間違いなくトリッシュ・ウナは死んでいた。

最後の最後に現れて、おいしいところだけかっさらっていっただけであることは間違いない。
だがそれでも、彼が地獄に現れたHEROであることには変わりはない。

トリッシュが、思わず名前を口にする。

その救世主の名は――――――




「"変態"―――――!」





――――――否、  小 林 玉 美。
271創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:27:03.56 ID:z7Ymh5qq
名前じゃねえーっ!?(ガビーン!
272創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:27:43.82 ID:vca0dzUz
なにこれ燃えればいいの?笑えばいいの?
273恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 19:31:40.57 ID:GZCgpRO/
 





「死ねェェェェッ!」




弾丸が恐竜の脳天を打ち抜き、吹き飛ばす。
恐竜は次第に生命力を失い、そして変身が解け、元のギアッチョの姿へ戻っていった。

カチリカチリと拳銃を打ち鳴らす玉美。
やがてそれが拳銃の弾切れによる不発音だと気が付き、そして恐竜が沈黙したことから腰を抜かして倒れこんだ。
そして、呆気にとられて自分の方を眺めているトリッシュに向かって、叫んだ。



「な、なんでオレなんかを助けれるたんだるおおお!!?」



盛大に噛んだ。
それほどまでに、彼は混乱し、ワケが分からなくなっていた。

自分が犯そうとした女の子に、逆に命を助けられた。
そして、ワケも分からず逃げ出して、二度と見ることのないと思っていた太陽の光を浴びて、何が何だか分からなくなってしまった。

気が付いたら、足が勝手にこの場所へ引き返していた。
見ると、自分を助けてくれた女の子へ、恐竜が牙を剥いてジリジリと迫っていた。
いつの間にか、足元に転がっている一丁の拳銃を手に取っていたのだ。



「はぁ……… はぁ……… はあ………」

激しく息を切らして呼吸をする玉美。
そんな彼に大して、トリッシュは小さな声で囁いた。



「………ありがと」



その言葉に、一気に顔を赤らめる玉美。
初めて出会った時の、衝動的な気持ちは既に無かった。
強く、凛々しく、美しく、そして優しい彼女に、小林玉美はこの時、本気で惚れていた。



そしてトリッシュは、ブチャラティの元へ向かう。
もう確認する必要すらないほどに……
ブチャラティは、もう助かりようのない姿となっていた。

彼は右腕以外の四肢を失い、胸からは血を流し、瞳孔も開いていた。
トリッシュは、瞳いっぱいに涙を浮かべる。
274創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:33:44.34 ID:j6INL5lT
支援
275創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:34:34.57 ID:vca0dzUz
ブチャラティーーーー!
276恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 19:36:22.69 ID:GZCgpRO/
 
「ブチャラティ……… こんな事って………」

「そんな…… 顔をするな、トリッシュ。綺麗な顔が、台無しだ」

実際には、既にトリッシュの顔はブチャラティには見えていない。
ブチャラティの視力は、既にゼロだった。

だが、わかる。
たった数日の付き合いだが、それでも、トリッシュのさまざまな顔を見てきたブチャラティだ。
彼女のことなど、声を聴けば分かる。


「気にすることはない。俺はどのみち、こうなる運命だった、そうなのだろう?
例えボスを倒したとしても、その未来の"彼ら"の中に、俺の姿はいなかった。そうなのだろう」

「…………………」

嗚咽がひどく、トリッシュは首を小さく上下させるだけで応えた。
ブチャラティには、わかっていた。自分がもう長くないことをを。

ボスを裏切った時点で、ブチャラティは”既に死んでいた”のだということを。
このバトル・ロワイアルの是非に関わらず、自分の身体が動いていられる時間はもう長くないということを。

すべて理解して、覚悟していた。
そして、運命を受け入れて、それを享受した。そのつもりだった。

トリッシュはそれを認めたくはなかった。だから嘘をついていたのだ
だが、今トリッシュが泣いているのには別な理由もあった。

「ヒグ………エグ…………ウウゥ――――――」

トリッシュのすすり泣く声が、大きくなっていく。
何かを訴えかけるかのように、ただただ涙を溢れさせる。


ズシリ


「話したほうがいいぜ、トリッシュ……ちゃん。何か、言いたいことがあるんだろ?」

いつの間にか、トリッシュの隣には小林玉美が立っていた。
そして、トリッシュの胸には小さな『錠前』が付けられていた。
トリッシュは、心臓が締め付けられたような気がした。

"変態"なんかに、自分の心のうちを言い当てられてしまい、ついカッとなってしまい――――

「何を―――っ そんな事――――」

強く否定しようとしたトリッシュの顔に、ブチャラティの指が伸びる。
唯一残された右手の人差し指が彼女の眼尻に伸びていき、涙をぬぐい取り……
そしてそのまま、ブチャラティは指先に付いた水滴を、自分の口元まで運んで行った。


「この…… 『涙』の味は……… 嘘をついている味だぜ…… トリッシュ!」


そう言ってニコリと笑うブチャラティ。
その笑顔を見て、トリッシュはもう我慢できなかった。
277創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:40:54.50 ID:vca0dzUz
支援…
278恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 19:41:33.94 ID:GZCgpRO/
「うあ……… うあああぁああああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」



大声で泣き叫ぶトリッシュ。
彼女が恐れていたのは、もう一度ブチャラティを失う事だった。

あの日。運命に打ち勝ち、組織のボスである父を消滅させ、日常に平和が戻ったあの日の夜。
自宅のベッドに帰ったトリッシュは、ブチャラティが死んだことを知り、朝まで泣き明かした。

護衛される日々の中で。
何度も恐ろしい目に会い、何度も助けてもらっている中で。
トリッシュ・ウナの中で、ブローノ・ブチャラティの存在は、いつの間にか大きな存在になっていた。


『大丈夫かって、気にかけてもらいたかったわけ?』

『君はこれからブチャラティの事がわかりたくってしょうがないってわけだ』

『あとでゆっくり自分の気持ちに気づくんだね』


いつか、ナランチャが言っていた言葉。
あの時は、自分でも意味が分からなかった。
気が付いた時には、すべてが終わっていたのだ。

今、言わないといけない。
―――でないと、きっと後悔する。






「――――――好゛ぎでずッ!」


涙声のまぎれてで、トリッシュがそう叫んだ。

僅かな静寂の時間が流れる。
トリッシュは涙を必死で堪えて、そして顔を赤らめながら俯いている。

小林玉美は目をつぶり、静かに行く末を見守っている。

ブチャラティが、返す言葉に困っている。
すると、涙をふき取り気持ちを落ち着かせ、今度ははっきりとした声で、もう一度トリッシュが言った。



「私は――― トリッシュ・ウナは、ブローノ・ブチャラティが大好きです。」



一世一代の大告白だ。
「好きでした」と、過去形は使わなかった。
未来がどうなろうと、今は考えたくなかった。
今、この瞬間だけは、目の前にいる男性を好きでいたかった。
279創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:44:18.85 ID:vca0dzUz
支援!
280創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:44:27.15 ID:bm0Hbzmd
支援
281恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 19:47:09.81 ID:GZCgpRO/
「トリッシュ………」



涙を溢れさせ、呼吸を必死に落ち着かせながらも、まっすぐ自分を見つめる彼女へ、ブチャラティは返事をする。



「俺はまだ、君がどんな音楽が好みなのかも知らない。 だから――――――」


トリッシュが俯き、自らの拳を握りしめる。
そんな彼女に、ブチャラティは優しく微笑みかけた。
どんな返事をしても、それは彼女にとって残酷な結果を与えてしまう。

だからブチャラティは、こう彼女にこう頼むことにした。




「君の歌を、聞かせてはくれないか?」








282創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:47:27.20 ID:vca0dzUz
支援んんん
283恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 19:51:26.55 ID:GZCgpRO/
 

石段を何段か上っただけの、何もないステージ。
服装は、まだよれよれのウェイトレスの衣装のまま。
小林玉美は空気を読んで脇へどき、トリッシュの目の前にいるお客は、ブチャラティただひとり。

漏れ出る嗚咽を堪え、トリッシュ・ウナのソロライブが始まった。

曲は、彼女がプロデューサーに無理を言って書かせてもらった、彼女の曲。
彼女が、ブローノ・ブチャラティを想って作った一曲だった。







     神様に         恋をしてた頃は
     こんな別れが      来るとは思ってなかったよ

     もう二度と       触れられないなら
     せめて最後に      もう一度抱きしめて欲しかったよ

     It's long long good-bye...



     さよなら  さよなら  何度だって
     自分に   無情に   言い聞かせて

     手を振るのは優しさだよね?
     今 強さが欲しい




     貴方に出逢いSTAR輝いて アタシが生まれて
     愛すればこそ      iあればこそ

     希望のない奇跡を待って どうなるの?
     涙に滲む 惑星の瞬きは gone...








トリッシュは、強く、逞しく、そして美しくなった。
自分にはもったいない、できた少女だ。
歌声から、ブチャラティはそれを感じ取る。

伴奏もない。
ライトアップもない。
暗く汚い地下の遺跡のステージで、彼女の歌も、泣き声と混ざり合い掠れている。


それでもブチャラティにとっては、どんな有名人のライブステージよりも素晴らしいものに思えた。
284創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:52:15.03 ID:vca0dzUz
トリイイイイッシュかわいいよ!
285恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 19:52:17.03 ID:GZCgpRO/
(泣いてくれても……いい…… でも…君は… 生きなくては…ならない……)


チームの仲間たちは、まだ誰一人として名前を呼ばれてはいない。
誰でもいい。彼らを頼れ。
そして、死ぬなトリッシュ。何があっても、最後まで絶対にあきらめるんじゃあない。



(幸……せ……に………… トリッシュ………)









     もし生まれ変わって   また巡り会えるなら
     その時もきっと     アタシを見つけ出して

     もう二度と離さないで  捕まえてて
     ひとりじゃないと  囁いてほしい  planet...







286創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:52:34.89 ID:z7Ymh5qq
支援
287創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:55:11.85 ID:psrcYq/O
支援
288創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 19:55:18.42 ID:bm0Hbzmd
支援
289恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 19:58:43.95 ID:GZCgpRO/
 





トリッシュが歌を歌い終わったとき、ブチャラティは既に息絶えていた。
彼の死に顔は、驚くほどに綺麗な笑顔だった。
あれほど流れていたトリッシュの涙は、何故か途端に止んでいた。

これから自分は、前へ進めるだろうか?
分からない。でも、行かなければならない。

自分はブチャラティに、全てをもらった。
救われたのは、自分の方だった。






パチ パチ パチ


ステージの隅から、乾いた拍手が聞こえてくる。
"変態"だ。


「感動しました。とても」

慣れない敬語が気持ち悪い。
というか、キャラ変しすぎて何か不気味だった。


"変態"はトリッシュの前に跪き、そして胸に手を当てて話し始めた。


「以前の無礼をお詫びします。そして、役不足かもしれませんが、私にあなたと共に戦う許可を頂きたい。
トリッシュちゃん。いや―――――― トリッシュ"様"。この小林玉美、命に代えても、あなたをお守りしたい所存であります」

パンチパーマを当てたチビのオッサンが、年下の少女にひれ伏している。
武士を気取っているらしい妙な口調もどこかずれているし、しっかりと『役不足』も誤用している。

はたから見れば滑稽な図なのだが、彼は至って真剣なのだからタチが悪い。


(あたしが想い人を失った直後で傷心しているのはわかってるだろうに、正気なのかしら?)


見るからに惚れっぽそうな男、小林玉美。
まさにその通りなのだが、本気の"恋"はこれが初めてだった。

いや、これは恋愛感情ではないのかもしれない。
その証拠に、トリッシュの大告白を聞かされても大してショックは受けなかった。

元の世界で、広瀬康一につかえていた時のような気持ち。


小林玉美は純粋にトリッシュ・ウナに憧れ、忠誠を誓ったのかもしれなかった。
290創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 20:01:22.21 ID:psrcYq/O
支援
291恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 20:03:05.15 ID:GZCgpRO/
(やれやれだわ……)


荷物を纏め、何事もなかったかのようにスタスタと歩いていくトリッシュ。


「言っとくけど、あんたのやったことを許すつもりはないからね」


跪いた玉美に向き合わず、彼の横をすれ違うさまに、キツい口調で吐き捨てるようにそう言った。
玉美は黙ったまま、俯きじっとしている。
トリッシュは無視して、遺跡の北のトンネルへ向けて歩き始めた。

ウェカピポとルーシーたちのことも心配だが、追いかけようにも、どこへ行ってしまったかもわからない。
ならば、目的地は、その前の作戦会議で決まった場所。
地図の中心付近。人が集まる場所で、仲間を探すのだ。


遺跡の出口に差し掛かり、トリッシュは後ろを振り返る。
玉美はすれ違った時のまま、こちらに背を向けしゃがみ込んだまま動いていなかった。


(ハァ…… ほんとに、めんどくさいオッサンね)



「何してるの"玉美"! 置いていくわよっ!!」

「は…… ハッ!!」

初めて『名前』を呼ばれ、心底嬉しそうに叫び、敬礼して走り寄る玉美。
今度は武士は辞めて、女士官に傅く従兵にでもなったつもりだろうか。
まったく忙しい男だ。



(変な奴も一緒だけれど、でも、私ももう少し頑張ってみる。貴方にもらったこの命で、最後まであがいて見せるから………)


もう、涙は流さなかった。


(だから、見守っていてね)


バイバイ、ブチャラティ。

本当にありがとう。






【ブローノ・ブチャラティ 死亡】

【残り 67人】
292創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 20:04:08.04 ID:bm0Hbzmd
支援
293創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 20:05:30.70 ID:z7Ymh5qq
支援
294恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 20:07:07.55 ID:GZCgpRO/
 

【F-6 地下 コロッセオ地下遺跡 1日目 朝】

【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:肉体的疲労(大)、全身に凍傷(軽傷だが無視はできないレベル)、失恋直後
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服
[道具]:基本支給品×4、破られた服、ブローノ・ブチャラティの不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:打倒大統領。殺し合いを止め、ここから脱出する。
1.ありがとう、ブチャラティ。さようなら。
2.ウェカピポとルーシーが心配だが、探しようもないのでとりあえず地図の中心へ。
3.ジョルノ、ミスタ、ナランチャ、アバッキオ、フーゴ、ジャイロ、ジョニィを筆頭に協力できそうな人物を探す。

……玉美? あんな"変態"の事など思考にないわ。

[参考]
トリッシュの着ていた服は破り捨てられました。現在はレストランで調達したウェイトレスの服を着て、そ

の上に吉良のジャケットを羽織っています。
ブチャラティ、ウェカピポ、ルーシーらと、『組織のこと』、『SBRレースのこと』、『大統領のこと』

などの情報を交換しました。

ブチャラティの支給品の一つはベアリングの弾でした。
ジャック・ザ・リパーの支給品はアメリカン・クラッカーでした。
そのいずれもがウェカピポに譲渡されました。

トリッシュの歌った歌は、アニメ「マクロスF」の主題歌「ダイアモンド・クレバス」に似た何かでした。
トリッシュが作詞したことになっていますが、実際に作詞されたのはhalさん、作曲は菅野よう子さん、歌っ

ているのはMay'nさんです。
こちらのCDなどに収録されています。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0015DQFP0/kasi-22/ref=nosim

【小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:広瀬康一を慕うようになった以降
[状態]:全身打撲(ダメージ小)。興奮(大)。
[装備]:H&K MARK23(0/12、予備弾0)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュを守る。
1.トリッシュ殿は拙者が守るでござる。
2.とりあえずトリッシュ様に従って犬のように付いて行く。

[備考]
どうしようもなくバカなうえ変態です。
拳銃の弾は無くなりました。



※コロッセオの地下遺跡内にギアッチョ、ンドゥールの遺体と、爆破した自動車の残骸が放置されています。
ブチャラティの遺体はどこか目立たないところに安置されています。



☆ ☆ ☆
295恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 20:09:16.03 ID:GZCgpRO/
 



恐竜化したドノヴァンが腹をすかせ、肉を喰い漁っていた。
喰われているのは、彼の元友人であるケインとブラッディである。
このゲームに参加して以降、彼らはドノヴァンのよき友であった。
初めての獲物である花京院典明を襲撃し、返り討ちに合って仲良く殺された3人組だった。

だが、今のドノヴァンは獰猛な絶滅動物。
昔の友など、今の彼にとってはただの上手そうな餌であり、肉の塊でしかない。

ディエゴ・ブランドーに従う、忠実な奴隷恐竜ドノヴァン。
恐竜化する人間はスタンド使いである必要はない。
むしろ、生身での身体能力に優れた人物の方が優秀な戦士となる。
抜群の身軽さと格闘術を併せ持つナチス兵親衛隊の一人ドノヴァン。
そういった意味で、このドノヴァンはディエゴ・ブランドーにとってもお気に入りの恐竜の一体だった。


「よう、戻ったか」


ウェカピポの荷物の中から手に入れた地下地図を眺めながら、ディエゴ・ブランドーは帰還した別の恐竜を迎え入れる。
こいつはドノヴァンやその他の恐竜化した人間たちよりもずっと小型のタイプだ。
カエルを恐竜化させたニワトリサイズの小型恐竜。
今回の攻撃では一番初めに玉美を恐竜化させ、そのあとは遺跡の隅に隠れ、誰にも気づかれぬよう事の顛末を見届けていた。


「なるほど、ギアッチョがくたばったのか。それも、ブローノ・ブチャラティと相打ちか。フフフ、いいじゃあないか。もっともいいパターンだッ!」

ギアッチョは手を結びはしたが、いずれはどこかで切り捨てるつもりでいた男だ。
奴の『ホワイト・アルバム』は強い。まともに戦っても、勝てるかどうかわからない。

それを、体良く始末できたと言ってもいいだろう。
それも、確実に自分と敵対することになるブローノ・ブチャラティを巻き込んで。


ギアッチョは最期まで自分の意志で戦い、そして暗殺チームの誇りを掛けてブローノ・ブチャラティとの死闘を繰り広げ、相打ちに持ち込んだつもりだった。
しかし、ディエゴ・ブランドーに言わせれば、自分のために都合よく動いてくれた駒でしかなかった。
うまくディエゴの口車に乗せられ、恐竜と同じように使われたただの兵士の一人。
296創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 20:10:16.33 ID:psrcYq/O
支援
297恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 20:10:17.58 ID:GZCgpRO/
(トリッシュ・ウナと"変態"を仕留めそこなったのは癪だが、それでも上出来の結果と言えるだろう。
俺の方もウェカピポを始末できたし、なにより最高の収穫があった)

そして、Dioの膝に頭を乗せて眠る少女。
彼女が目を覚ましたならば、この屈辱的状況をどう思うだろう。
恐竜化したドノヴァンの頭を撫でながら、Dioは彼女に語りかける。


「なあ? ルーシー・スティールよ」


ウェカピポは死んだ。
ギアッチョは死んだ。
ブチャラティも死んだ。
そしてルーシー・スティールの身柄すらも確保した。

この長い長い戦い。
蓋を開けてみれば、結果はディエゴ・ブランドーの一人勝ちに終わっていた。




【E-5 タイガーバームガーデン / 1日目 朝】

【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスターズ』
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康、人間状態、疲労(小)
[装備]:ディオのマント
[道具]:基本支給品×4、ランダム支給品1〜4(内0〜1は確認済み) 、地下地図、鉈
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰る
1.ルーシーから情報を聞き出す。たとえ拷問してでも。
2.ギアッチョの他の使える駒を探す。だが、正直恐竜を使っている方が捗る気がしてきた。
3.あの見えない敵には会いたくないな。
4.別の世界の「DIO」……?

[備考]
ギアッチョから『暗殺チーム』、『ブチャラティチーム』、『ボス』、『組織』について情報を得ました。
ウェカピポとルーシーの装備をすべて回収しました。(ウェカピポの不明支給品0〜1含む)
現在従えている恐竜はカエルとドノヴァンの2体です。ンドゥール、ケイン、ブラッディの遺体はもう恐竜としては扱えそうもありません。
ディエゴの支給品の一つは【ディオのマント@Part1】でした。


【ルーシー・スティール】
[時間軸]:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
[状態]:健康、気絶中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:スティーブンに会う、会いたい
1.気絶中。

[備考]
ブチャラティ、ウェカピポ、トリッシュらと、『組織のこと』、『SBRレースのこと』、『大統領のこと』などの情報を交換しました。


タイガーバームガーデンにウェカピポ、ケイン、ブラッディの遺体と、ジャイロの鉄球、ベアリングの弾、アメリカン・クラッカー×2が放置されています。
298 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 20:15:32.74 ID:GZCgpRO/
おーわーりーーーーーー


投下始めたのって何時だっけ? → 14:30
今は? → 20:10
俺のレス数は? → 60以上
投下前のスレの容量は? → 216kB
今は? → 340kB

予約したのは? → 10/30
今日は? → 12/01

結論 → アホかオレ


お疲れ様でした。
たくさんの支援ありがとうございました
特に ID:z7Ymh5qq様、本当に長時間突き合わせてしまい申し訳ありませんでした。
貴方がいなければラジオ開始までに投下が終わりませんでした。



それでは、ラジオの時間までに飯食ってきますノシ
299創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 20:16:20.32 ID:psrcYq/O
長時間の投下乙
ウェカピポもギアッチョもブチャラティも
皆頑張ったよ……(´;ω;`)
300創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 20:21:57.87 ID:z7Ymh5qq
投下乙です。
こんだけの規模の乱戦をよく描ききってくれたと感心やら尊敬やら色々と。
死力を尽くした奴らを笑うみたいに、スマートに全部持っていかれたなぁ、Dio。

やっべ、ラジオ忘れてた!
急いで飯食ってこないと……!
301 ◆eVB8arcato :2012/12/01(土) 20:51:58.49 ID:wRiRUSjf
投下乙です!

さて、ロワラジオツアー3rd 開始の時間が近づいてきました。
実況スレッド:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5008/1354362662/
ラジオアドレス:http://ustre.am/Oq2M
概要ページ:http://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
よろしくおねがいします
302創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 20:55:18.17 ID:j6INL5lT
投下乙です。

「ウェカピポはこれから、ウェカピッポー!とか鳴いてしまうん?」という心配は杞憂だったようで。
303創る名無しに見る名無し:2012/12/01(土) 21:12:14.76 ID:OLSut0/A
投下乙です!
ウェカピポ…ギアッチョ…ブチャラティ
みんな自分の信念の下に全力で戦って散っていった…カッコよかった…
変態カッコよすぎた…彼への思いを告げる後押しをしてくれた変態…

そして一番得したのはディエゴか…やっぱり厄介な男だな
あの狡猾さには舌を巻く 恐竜軍団による集団戦も強力だしな(もう2体だけど)
こうゆう奴は見ててハラハラするというか、面白くて気になるなぁ
304 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 21:27:18.73 ID:GZCgpRO/
相変わらずおもしれえ絵www
305 ◆vvatO30wn. :2012/12/01(土) 21:28:10.83 ID:GZCgpRO/
ミスったここラジオのスレじゃねえ
306代理投下:2012/12/02(日) 22:33:29.15 ID:k0TSvT7m
379 : ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:34:55 ID:HIANix1k
「立ち話も何だ、席に着いたらどうだね?」

ディ・ス・コは動こうとしなかった。座るどころか動くことすら危ういと、彼は感じ取っていた。
目の前の男の存在感は圧倒的だった。それはもう、あまりに圧倒的だった。
例えるならば丸裸丸腰でライオンの檻に閉じ込められたも同然の如く。それは下手に動けば死が訪れることを嫌でも意識させられた。

DIOが椅子を指し示した指先は、長いこと、ただいたずらに宙にかざされていた。やがて彼は腕を下ろし、それを肘掛椅子の上に戻した。

男は何も言わなかった。代わりにその真っ赤な目をゆっくりと細ばめた。
百獣の王、生まれついての捕食者としての目線がディ・ス・コの身体を舐めまわしていく。
身体の隅から隅まで、一部の隙間もなく。ディ・ス・コの肌はゾクリと震えた。

そうかい、私は遠慮なく座らせてもらうがね、と男は言った。
男のの言葉には苛立ちや怒気は込められていなかった。ただ面白そうな何かを見つけた、純粋な興味がにじみ出ていた。


DIOは深々と身を沈めると息を吐き、肘掛椅子の上で頬杖を突く。しばらくの間彼は無言で天井を見つめた。
ディ・ス・コも喋らなかった。何を言えばいいかわからなかった。
沈黙が蜘蛛の張った糸の巣のように辺りにからまり……しばらくの間、二人は共に動くことも、話すこともしなかった。


沈黙を破るきっかけは音だった。
カタカタと微かに聞こえる音にDIOは首を傾けると、男の腕が激しく震えているのが目に映った。
肩にかけたデイパックがその振動を伝え、音を発していたのだ。DIOは頬笑みを浮かべ、ゆっくりと彼に向かって語りかけた。

「震えているのかい? このDIOを前にして」

ディ・ス・コは身体を固くした。それはその声がとても美しかったからだった。
美しいと思って、そして一瞬聞き惚れてしまいそうになった自分に動揺して、彼は身を固くしたのだった。
何を馬鹿なことをしているんだ、と彼は思った。この男を前に自分はなんて呑気なことを。こんなことをしている場合など断じてないというのに。
先手必勝だ。唇を噛みしめ、ディ・ス・コは自身を勇気づける。
相手は椅子に座ったまま余裕を醸し出している。そのどたまにスタンド能力を叩きこんで、一瞬で始末してやれ。
震える腕を伸ばしスタンド出現させ、構える。構えようとして……彼は、動けなかった。
そうわかっているはずだ。そう思っているはずなのに……ディ・ス・コは動かない。動けない。

DIOが話を続けても、スタンドを構えることすらしなかった。
それは彼が心の底では、男の言葉をもっと聞きたいと願っていたからかもしれなかった。


「脅えることはない、何も私は君を取って食おうとしているわけじゃあないんだ……安心してくれ」


男は安心させるよう手を広げ、そして次いではディ・ス・コに向かって笑いかけて見せた。
どうやら彼を気に入ったらしい。肘掛椅子に投げ出していた身体を持ち上げると、男は姿勢をただし、椅子の先に乗り出すように座りなおした。
膝を組み替えてリラックスした様子で、DIOはそっと囁くように続けた。
307代理投下:2012/12/02(日) 22:33:59.43 ID:k0TSvT7m
380 : ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:35:28 ID:HIANix1k

「安心と恐怖は感情の双子の様なものだ。隣り合わせ、鏡写し……言葉は何であれ、つまるところ恐怖があるから安心があり、安心があるから恐怖がある。
 そもそも人間は誰でも不安や恐怖を克服し、安心を得るために生きている。名声を手に入れたり、人を支配したり、金もうけをするのも安心するためだ。
 結婚したり、友人をつくったりするのも安心するためだ。人の役立つだとか、愛と平和のためにだとか、すべて自分を安心させるためだ。
 安心をもとめる事こそ、人間の唯一にして究極の目的だ……」

不思議と続きが気になる話し方を、DIOはした。彼は話の最中に身振り手振りを加えることをしなかったし、大声で声高々に主張することもしなかった。
しかし、ディ・ス・コは知らず知らずのうちにその話に引き込まれていく。耳を傾け、聞き惚れ、頷いてしまう。
彼は一呼吸置くともう一度口を開いた。相変わらず、その声は囁くような声音であった。

「人間は生まれた時から死ぬ運命を背負っている。
 それは誰一人例外でなく、誰にしも赤ん坊だった時があり、少年だった時があり、青年、成人、そして老人……。
 やがてそうやって人は皆老い、そして死んでいく。
 死は避けようもない人類共通の恐怖だ。いまだかつてそれを克服した人間は誰一人としていない。
 このDIOを除いては、だが……」

快活な笑い声を挟んで、DIOは更に話を続けた。

「恐怖こそが人間を支配する感情だ。恐怖を克服するためならば、人間は死に物狂いで何かを成し遂げることができる。
 君が今身につけている服も、私が手にしているグラスも、口にしているワインも全て、全てその結果だ。
 恐怖という鞭が人間を進化させ、安心という飴を手に入れるために人間は生きているのだ。
 そう考えると人間とは随分低俗で、愛らしく……哀れな生き物だと思わないかね?
 人間は限界がある。恐怖を上回ることも、安心という檻から出ることもできない。
 人間は実に物悲しい生き物だよ……。いたたまれなくて、時には見ていられなくなるほどに……」

ディ・ス・コは答えを返さなかった。
何を言えばいいのかわからなかったし、何を言っても間違った答えになるような気がして、黙って口を閉ざした。
DIOは一向に気にしていないようだった。彼は誰かに話すというよりも、自分の考えを思いのまま、口にしているだけのようだった。

「では吸血鬼になり、永遠の命を得たこのDIOは何に恐怖すればいいのだろうか? 何を目的に生きていけばいいのであろうか?」

沈黙。空白。言葉を切ったDIOはじっと宙を見つめ、そしてまた口を開く。

「……スタンドはその人物の精神の象徴といってもいい。私のスタンドの名は『世界』。能力は、そうだな……文字通り『世界を制する力』といっておこうか。
 どちらにしろそれほど重要なことじゃあない。ここで取り上げるのは能力でなく、名のほうだ。
 『世界』、私はこの名をいたく気に入っている。運命的な出会いとってもいいかもしれない。
 その名前を初めて聞いた時、私はまるでその二文字の言葉が私だけのために用意されていたと思えたほどだ。
 感動すらした。クローゼットの中でずっと袖を通すのを待っていた仕立て済みの服かのように、ピッタリと馴染んだんだ。
 いずれ『世界』を制するであろう私に、まさにうってつけの名前だ。君もそう思わないかね……?」

ディ・ス・コは黙って頷いた。DIOが言うのであればそうなのだろう、そう思って彼は素直に首を縦に振る。
世界を制する。並みのものなら夢物語と馬鹿にされるだけだろうが、彼が言うとその言葉は途端に説得力に満ちたものに変わった。
本当にこの男なら成し遂げてしまうのだろう。ディ・ス・コは実際にそう思って、思ったので頷いた。
DIOは言う。彼の話はまだまだ続いた。
308代理投下:2012/12/02(日) 22:34:30.12 ID:k0TSvT7m
381 : ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:35:57 ID:HIANix1k

「再び問いかけだ。では世界を制するとは何をもってそう言えるのだろうか? 何を成し遂げれば世界を制したことになりえるのか?」

今度は頷かなかった。ただ黙ったまま頭を何度か左右に振った。
ディ・ス・コにはそんなことはわからなかったし、ただのそれ以上、思いつきもしなかった。
彼にとって沈黙が答えだった。だがそうして黙っていると、奇妙に暗闇が広がっていきそうな感覚が男を襲った。
どちらも口を閉ざしたまま長いこと時間が経った気がした。実際のところはわからない。

「君は神を信じているか?」

DIOが言った。それは突拍子もない疑問で、突然言い放たれた言葉だった。
だが、それが大切な問いかけであることはディ・ス・コにはわかった。DIOの口調でそれがわかった。ディ・ス・コは首をゆっくりと横に振る。
DIOは何も言わなかった。確認のつもりだったのか、彼はそれを見て満足そうに、小さくうなずくだけだった。

サイドテーブルからグラスを取ると、一含みを口の中に流し込み、男は言う。

「かつて最も神に近づいた男がいた。その男は数々の奇跡を起こし、人々に神と崇められ、その思想は今も生きている。
 彼は水をぶどう酒に変えた。家が吹き飛ぶ嵐を片手で静めた。何の変哲もない石や水をパントとワインに変え、海の上を歩き、イチジクから命を吸い取り、そしてまた人々に命を分け与えた。
 そして彼は、一度死んだ後に蘇り、その奇跡が決して不純なものでなく奇跡以外の何でもないことを証明して見せた。
 人々は彼を神と呼んだ。今も呼んでいる。そしてこれからも呼び続けるだろう。人間が生き続ける限り」

それはまさか“あの方”のことを言ってるのですか。喉元まで込み上がった言葉を押し戻し、ディ・ス・コは訳もなく動揺している自分に動揺した。
そんな、まさか。ありえない。しかし本当にあり得ないかどうかとDIOに問われたら、彼は自信を持って返答できたろうか。
DIOならなれる。いや、DIOにならば“彼”を越えて見せれるのではないかと、そう思うほどまでにディ・ス・コの中には確固たる“何か”が芽生え始めていた。


「私は、神(ディオ)になるべき男だ。世界を制するとは、神(ディオ)となり、人々を導くことだと私は思っている」


だから彼はこんなにも私を怯えさせているのだろうか。
こんなにも恐怖で私を竦ませているのは、彼が神に近い男で、私に安心と恐怖を刻みなおすためなのだろうか……?
私にこれからの道筋を、導きを、もう一度示しなおすためなのだろうか……?


「惜しむべきは彼は二度の奇跡を起こさなかった事だ。結局彼が死を克服することはなかった。
 だがこのDIOは違う。私は死を克服した。世界を制する力を手に入れた。
 彼ができない、決して手にすることのない奇跡を、今すぐにでも実践できる力が私にはある。
 このDIOこそが神に相応しいのだ。私は全てを制して見せる。運命も、生命も、世界も、時空も、空間も制し……全ての頂上に私は立って見せる……!」

力を貸してくれないか。そう囁かれた言葉が自分に向けられたものだと気付くのには、時間がかかった。
顔を上がればいつの間にかDIOは椅子より立ち上がり、ディ・ス・コと同じ地べたで同じ高さで、手を差し伸べていた。
直々に。その身で、直接。ディ・ス・コという男のために。
309代理投下:2012/12/02(日) 22:35:02.64 ID:k0TSvT7m
382 : ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:36:36 ID:HIANix1k

その時、男は初めてDIOの眼を見た。

真っ赤だった。そしてとてもきれいだった。
闇の中でもハッキリとわかるほどに、その目は光って、輝いていた。
自分を見つめるその真っ赤な目から目が離せない。吸い込まれていきそうだ。どこまで澄んでいて、輝いていて、美しくて。

すぅ……と縦に開いた瞳孔が彼を映しだす。真っ赤な輝きとは正反対に、そこには底知れない黒さが潜んでいた。
その輝きから目が離せなかった。その底知れなさに呑みこまれたいとすら、ディ・ス・コは思った。
このままずうっと見ていたいと、ディ・ス・コは思ったほどだった。叶うことならば、ずっと、そのまま……。

ディ・ス・コは何も言わなかった。ただDIOが彼を見つめていることが、たまらなくうれしくて、彼の心は大きく震えた。
その震えは今まで感じたどんな震えよりも大きな震えだった。どんなに人生で幸福だった時よりも、どんなに生涯で嬉しかった記憶よりも……。


奇妙な安心感が男を包む。ディ・ス・コは息を漏らすと、そっと瞳を閉じた……。





「DIOさま……」
「期待しているよ、我が部下ディ・ス・コよ……」

勿体のないお言葉……、と言い放たれた言葉を最後に男の姿は闇に紛れ、そして扉を閉めるような音が微かに響いた。
DIOはしばらくの間身じろぎもしなかったが、やがて面白くもなさそうに鼻を鳴らすと、彼は椅子に深く座りなおした。
どうやら男の興味は既に次のものへと移っているようだった。先ほどとは違って、部屋には新たな緊張感が満ちていた。
見知らぬ誰かを探るような、警戒心に近い緊張感。DIOはそのままの姿勢でじっとしていて……そして不意に笑い声を洩らすと闇に向かって囁いた。

「いつまで隠れている気だい?」

それを合図としたように、ぬっと姿を露わにした男が一人。

「短い間に随分とお行儀が悪くなったじゃないかい、マッシモ」

からかうような言葉に返事もせず、マッシモ・ヴォルペは無言のままDIOの正面の席に腰かけた。
表情は硬く、顔は白い。DIOもしばらくの間は笑顔を浮かべていたが、そんな彼の様子に笑いをひっこめると、彼の顔をじっと見つめた。
二人は長いこと話さなかった。ヴォルペを落ち着かせるように、DIOは彼の膝に手をやると、そっと優しく撫でてやった。
まるで子供をあやす母親のような仕草だった。ほどなくして、ヴォルペが重々しく口を開いた。
310代理投下:2012/12/02(日) 22:36:01.09 ID:k0TSvT7m
384 : ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:42:02 ID:HIANix1k


「今、俺はこの場で死んでもいいと思ってる」
「それは何故?」
「俺の心に安心は存在しないからだ。二度と、俺の心に安心が吹くことはない」

DIOは問いかける様に彼の眼を見た。
ヴォルペは黙って首を振り、その白く濁った眼で彼を見返した。
吸血鬼の彼もゾッとしない、何も見ていない眼を彼はしていた。
ふむ、と唸り声をあげDIOは顎を撫でる。そして腕を伸ばすと、躊躇いなくヴォルペの首元へとその鋭い指先をのめりこませていった。

DIOはヴォルペの血管を指先でつまんだまま動かなかった。青年もまた、動かなかった。
ほんのわずか、どちらかが身体を傾けでもすれば大動脈はかっ切られ、その男は死ぬだろう。
すぅ……と裂けた皮膚から一滴だけ血が流れ落ち、首筋に赤いラインを描いていく。
同時に俯むき具合の彼の頬に、幾筋もの涙が下りていくのをDIOは見た。

静寂の中、二つの液体だけが滴る音が響いた。涙と血。青年は泣き、血を流した。


DIOは首元から手を離した。それは長い長い沈黙の後のことだった。その間もヴォルペは泣き続けていた。音もなく、男は涙していた。
吸血鬼は立ちあがるとぶ厚いカーテンを閉めた窓際に寄りかかり、男に向かって言い放った。

「すまなかった。君を侮辱することになってしまった」
「……別にかまわない」

ヴォルペは本気だった。本当に心の底から死んでしまってもいい、と思っていた。
深い深い絶望が彼を襲い、すさんだ感情が彼を覆っていた。DIOはそれを肌越しにも感じ取った。彼の涙を見て、それを理解した。
青年の深い悲しみと、失意、そして虚無感が本物であり、自分がその事を疑ったことを恥じた。DIOはそっと視線を自らの足元へと落とした。
311代理投下:2012/12/02(日) 22:36:31.70 ID:k0TSvT7m
387 : ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:50:42 ID:HIANix1k
ヴォルペの頬を伝う涙は追悼の涙だった。一人の少女と一人の老人を想う涙。
彼と彼女がくれた安心。それが二度と戻ってこないと改めて突きつけられたのは辛かった。
一度失って、もしかしたらこの地でもう一度得ることができたかもしれなかっただけに、その辛さはより鋭く、彼の心をえぐっていた。
死んでもいいと言ったのは本当だった。何もかもが空っぽに思えた。
自分にはなにもないし、なにもわからない。わかっていない。
分かり合える時があったはずだったのに、それがわかった時には全て失った後だった。いつも、そうだった。

ヴォルペはうな垂れた。涙はとめどなく流れていた。
そうやって感情が収まっていくと、ようやく自分の正直な気持ちがわかってきて、そこにたどり着くまでにまた随分と時間がかかる自分に嫌気がさした。
暴発的に誰かに殴りかかり、感情的に心許せる男の前で涙し、そうしてようやく自分の気持ちに気づく。
ヴォルペの固く閉じた唇から言葉が零れ落ちた。それは紛れもない、彼の本心だった。

ただ……、どうしようもなく……

「虚しいんだ」

ヴォルペは虚しかった。自分の生きている意味がわからなかった。どうしようもなく自身が空っぽに思えた。
DIOが言っていた幸福も、不安や恐怖も安心も、全部が全部自分にはもはや関係ないもののように思えて辛かった。
自分はどこにも属せない様な強い疎外感が彼を包んでいた。そして、だからこそ自身が唯一安心感を覚えた麻薬チームがどこまでも懐かしくて、愛おしかった。
それが全て終わったものだと知っていても、それを懐かしめれるほどに、彼は強くなかった。ヴォルペには彼を支える今がなかった。

虚しかった。本当に虚しかった。
壊れたオルゴールのように、その言葉をヴォルペはただいたずらに繰り返した。

DIOはじっとヴォルペを見つめていた。彼はゆっくりと立ちあがり、また元の肘掛椅子に座った。
ヴォルペの真正面に位置する椅子だ。男は青年を落ち着かせるように、そっと彼の背中に手を置き、ヴォルペの気が済むまでそうしていた。
やがて青年の心がすっかり平静を取り戻したころ、DIOはゆっくりと口を開いた。

「なぁ、マッシモ」

青年はゆっくりと顔をあげる。DIOは彼の眼を覗き込みながら、話を続ける。
312代理投下:2012/12/02(日) 22:37:02.32 ID:k0TSvT7m
388 : ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:51:35 ID:HIANix1k
「あるところに男がいた。
 その男は容姿に優れ、素晴らしい運動神経と優れた知性を持ち、比類なき勇気と判断力を持っていた。
 それだけでなく高潔な人間性、熱い情と強い正義感を持ち合わせていて、おまけに有り余るほどの金を持った財団とのコネがあり、更に先祖をたどれば高貴なるジョースター家直属の血統付きときたものだ。
 更に更に彼、空条承太郎はこのDIOと同じタイプのスタンド、同じ能力を持っている。
 ヤツが願うことはないだろうが……うまく立ち回れば世界を制することもできるかもしれない。
 いや、そう願わなくても、ある程度はヤツを中心として自然と世界は回るだろう。きっとこのDIOを打ち倒した後の世界でな」
「……打ち倒した?」
「ああ、そうだとも」
「君が、敗北した相手なのか。その……空条承太郎という男は」
「正確に言えば、“ある世界”では“敗北しうる相手”と言い直させてもらおうか。
 “この”DIOにとってはそれは未来に起こり得ることなので何ともいいかねることだ」
「とても信じられないな」
「私もさ、マッシモ」

DIOの口元には薄く妖艶な笑みが、貼り付けられたように浮かんでいた。
ヴォルペはその笑みから目が離せなくなっていた。その笑みにの裏には灼熱に燃え上がる何かが潜んでいることを、彼は感覚的に理解した。

「そんな全てを手にして空条承太郎という男だが……きっとヤツは今嘆いてる事だろう。慟哭していることだろう。悲しみに打ちひしがれていることだろう。
 言うなれば、ヤツの屈辱的喪失初体験ってところかな……? フフ……!
 空条徐倫……やつに姉や妹がいないことは把握している。母の名は知っているが、その名は既に放送で読み上げられている。
 となるとこの女はヤツの妻か、娘と言ったところか……。どっちにしろ、母を亡くした男にとっては手痛い損失だな……!」

話がどこに向かっているのかわからない。いきなり持ち出された男の話に混乱するヴォルペ。それを察したDIOは丁寧にもう一度その男の話をした。
空条承太郎。その男と彼の血縁。繰り返された話を整理するうちに、ヴォルペもいつしか冷静さを取り戻していた。
涙は止まり、呼吸は整い、今しがたまで荒れていた青年はいつものように冷静な面持ちで彼の話に耳を傾ける。

大きく頷くと、ヴォルペの頭の中ではおぼろげながらに男の存在が像として浮かび上がり始めていた。
なんとも凄まじい人生を歩んできている男だ、とヴォルペは思った。
同時に、羨ましいとため息がこぼれ落ちた。どれほどの充実感、安心感を彼はその手でつかみとってきたのだろう。どれほどの満足感を、彼は築き上げてきたのだろう。
ヴォルペが決して成し遂げられないことを成し遂げれるその男が眩しかった。自分と対極的だとそれがわかり、冷えた心にチクリと痛みが走った。

DIOは気の毒そうに顔を歪めていた。ヴォルペのことを心から同情するような顔をしていた。
青年が顔あげれば彼は慈愛に満ちた頬笑みを浮かべ、励ますようにこう言った。

「不公平だと思わないかい、マッシモ」

一瞬何を言っているのかわからなかった。ヴォルペは不公平という言葉を繰り返し、DIOはその言葉に頷いた。
313代理投下:2012/12/02(日) 22:37:32.86 ID:k0TSvT7m
389 : ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:52:14 ID:HIANix1k
「君のように不運を掴まされ、不幸な人生を味わい、虚しさに身を縮めている一方で全てを手にしていた男がほんの少しの喪失で君と同じ感情を覚えているんだ。
 君が望んでも得られなかった幸福感をそれこそ山ほど持っていた男が! ほんのちょっぴりを失っただけだというのに!
 ついこの間まで人生を大いに謳歌していた男と、この世全ての不幸を一身に背負っていたような男が同時に失い、しかしどちらも身を引き裂かれたような痛みを嘆くのだ。
 こんなおかしなことはないと思わないかい……?」

じんと頭が痺れるような感触をヴォルペは覚えた。
目の前で淡い光がちかちかとちらつき、眩暈を感じた青年は椅子の中で身を固くする。

不公平。確かにそうだと思った。実際にヴォルペは空条承太郎を妬んだ。羨望した。ずるいとすら思った。
そしてその彼が今自分と同じ失望感に沈んでると考えてみると……不思議と心が揺れた。
それはとても奇妙な感覚だった。

暗く閉め切った部屋の中に浮かんだ二人の影が歪な形に膨らんでいく。
ヴォルペの中で、虚しさ以外の感情が次第に大きく首をもたげ始めていた。


「DIO……俺は」


男は何も言わなかった。ただ彼の顔には艶やかな邪さを秘めた、含み笑いが浮かんでいた。
それは、何も言わずとも君の言いたいことはわかるよ、と言わんばかりの表情だった。
男は椅子から立ち上がり、部屋から出かけの途中でヴォルペの肩に手を乗せこう言った。

焦ることはない、自分の気持ちに戸惑うことは誰だってある。じっくりと時間をかけて自分と向き合う時間が誰だって必要なのだよ、と。

いとおしむように最後に頬を包んだ彼の手の温かさが、ヴォルペは忘れられなかった。
DIOが部屋を後にする際、扉を閉めた音がこびり付いたように耳から離れない。
ヴォルペはしばらくの間石のように動かなかった。ようやく動けるころになると、彼は立ち上がり、男がずっと座っていた椅子に目をやった。
まるでそこに空条承太郎という名の男を創り出そうとするかのように、彼はずっとそこを見つめていた。

ドクドクと心臓が鼓動をたてる音が聞こえた。身体を包んでいた無力感、虚しさはもう薄れていた。
かわりに新しく芽生えた“何か”が、怪しいばかりの生々しさを訴えていた。だがその何かが、今のヴォルぺにはわからなかった。

結局自分は何もわかっていない。自分のことも、仲間たちのことも。そして……DIOのことも。


「知りたい」


そうヴォルペは呟いた。自分が今抱いている感情が一体何なのか、どうなるのか、そしてそれをどうすればいいのか。
同じ無知でも今はそれは絶望の無知ではなかった。DIOが与えてくれた新しい無知、興味だった。
ヴォルペは椅子に腰かけたまま、そっと頬に手をやり、そしてそれを薄暗がりの灯りに透かしてみた。

「空条承太郎、DIO、そして俺自身……」

室内の淡い灯りが青年の細い影を長く落としていた。影に紛れて、彼の表情は伺えない。
最後に呟いた言葉は、誰一人も耳にすることなく、やがて暗闇吸い込まれ、消えてしまった。
314代理投下:2012/12/02(日) 22:53:16.10 ID:k0TSvT7m
390 : ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:52:52 ID:HIANix1k
【E-2 GDS刑務所 外/一日目 午前】
【ディ・ス・コ】
[スタンド]:『チョコレート・ディスコ』
[時間軸]:SBR17巻 ジャイロに再起不能にされた直後
[状態]:健康。肉の芽
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、シュガー・マウンテンのランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOさまのために、不要な参加者とジョースター一族を始末する
1.DIOさま……
[備考]
※肉の芽を埋め込まれました。制限は次以降の書き手さんにお任せします。ジョースター家についての情報がどの程度渡されたかもお任せします。


【E-2 GDS刑務所1F・女子監周辺一室/一日目 午前】
【DIO】
[時間軸]:JC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:健康
[装備]:携帯電話、ミスタの拳銃(5/6)
[道具]:基本支給品、スポーツ・マックスの首輪、麻薬チームの資料、地下地図、石仮面
    リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、不明支給品×0〜3
[思考・状況]
基本行動方針:帝王たる自分が三日以内に死ぬなど欠片も思っていないので、いつもと変わらず、『天国』に向かう方法について考える。
1.しばらくはヴォルペを一人にする。その後は……?
2.マッシモとセッコが戻り次第、地下を移動して行動開始。彼とセッコの気が合えば良いが?
3.プッチ、チョコラータ等と合流したい。
4.『時空間を超越する能力』を持つ主催者を、『どう利用する』のが良いか考えておく。
5.首輪は煩わしいので外せるものか調べてみよう。
[備考]
※『ジョースターの血統の誰か(徐倫の肉体を持ったF・F)』が放送中にGDS刑務所から逃げ出したことは、感じ取りました。
※参戦時期はJC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間でした。
※時間軸の違いに気づきました。
※余分な基本支給品×4(内食料一食分消費)は適当な一室に放置されてます。
※ディ・ス・コから情報を聞きだしました。

【マッシモ・ヴォルペ】
[時間軸]:殺人ウイルスに蝕まれている最中。
[スタンド]:『マニック・デプレッション』
[状態]:疲労(小)、空条承太郎に対して嫉妬と憎しみ?、DIOに対して親愛と尊敬?
[装備]:携帯電話
[道具]:基本支給品、大量の塩、注射器、紙コップ
[思考・状況]
基本行動方針:空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい。
1.空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい 。
2.天国を見るというDIOの情熱を理解。しかし天国そのものについては理解不能。
315代理投下:2012/12/02(日) 23:03:21.19 ID:k0TSvT7m
391 :神を愛する男たち   ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:57:49 ID:HIANix1k
以上です。誤字脱字いろいろありましたら指摘ください。
作品名は 062話「神に愛された男」 よりです。
ラジオ楽しいです。嬉しいです。もっと頑張ります。


代理投下完了

NGワード部分は繋いでおきました
タイトルも修正入れておきました

いやーおもしろかったです
ディエゴに次いで本家DIOの方も着実に自分の軍団を作っていってますね
打倒DIOを考えている連中も近くにいますし、どうなるか非常に楽しみです。
投下乙でした
316 ◆vvatO30wn. :2012/12/03(月) 20:01:51.91 ID:UzAc52pi
今日wikiに入れる予定でしたが、したらばで指摘された点について解決案が思いつかないのでちょっと待ってください
c.g氏は先に収録してしまって結構ですよ
317創る名無しに見る名無し:2012/12/06(木) 05:13:24.81 ID:Toj3kf7Z
DIOのなんとも言えない妖しげな雰囲気がいいなぁ
318代理投下:2012/12/06(木) 23:28:18.20 ID:wB4YiaKD
392 : ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/06(木) 17:08:40 ID:jyE6INkw
タルカス、イギー
投下します

393 : ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/06(木) 17:09:19 ID:jyE6INkw
 あたたかな陽光が街路をてらしてゆく。
 生命の素晴らしさの象徴のようなその光は、シンガポールホテルの前にうずくまる男の、熊のような巨体も柔らかく包みこんでいた。
 つ、と、男の頬にひとすじの光がはしる。


――メアリー様がこのような場所におられなくてほんとうに良かった。


 タルカスは泣いていた。
 死亡者として読み上げられた中にも、そして名簿にも、敬愛した主君の名は存在しなかった。
 それだけで、こころが慰められたことを男は実感していた。
 『死者の蘇り』などということがほんとうに起きうるのならば、ふたたび彼女を失うこともありえたのだ。
 わが主君への辱めを一度ならず二度までも許してしまったならば……、きっと、世を怨まずにはおれぬ亡霊のように成り果てていただろう。
 さきほど死闘を演じた、戦友ブラフォードのように。

 もし……、とタルカスは考える。
 メアリー様がこの場所におられたとしたら、メアリー様だけを救うため、ほかの参加者すべてを殺すと決心していただろうか。
 たとえ彼女が涙ながらに引きとめたとしても、俺はスミレを殺していただろうか。

 彼のかたわらにはすでに事切れた少女が眠るように座していた。
 固くとじられたまぶたの先のこまやかな睫。、ふっくらとしたくちびる。すべらかで、冷たい頬。
 タルカスの大きな左手が、その手ですっぽり包みこんでしまえるほどの大きさしかない少女の頭を撫でる。
 彼が敬愛する主君がこの場にいたらという『もしも』が存在しないように、スミレと出会わなかったらという『もしも』もタルカスには存在しなかった。

「スミレ、お前がいう『人間離れした力を持ってしまった』友人が、人のこころを失っていたのならば、どうしていた?
 お前はそれを考えたことがあっただろうか」

 返事はない。男は自分がはっした言葉を噛みしめるように目を細めた。
 スミレを殺した誰かが憎い。こんな無力な少女を殺し合いの場に放り込んだ誰かが憎い。
 タルカスの胸中のほとんどを占めるものもまた怨みだった。
 手近に置いた槍の穂先が血を求めるようにギラリと光る。

 すべて殺してしまえばいい。
 神はお前などには微笑まぬ。
 求めるままに破壊しつくせばいい。
 主君が、スミレが微笑まぬとも、お前の渇きは満たされる……。
319代理投下:2012/12/06(木) 23:28:49.03 ID:wB4YiaKD
394 : ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/06(木) 17:09:51 ID:jyE6INkw

 ため息とともにタルカスは目を閉じた。

 スミレの瞳は未来を見つめていた。
 無力な少女が、怖気もなく、明日を夢見ていた。
 彼女がいたからこそ、スミレの友人である少年は人のこころを失わずにすんだのだろう。

――スミレ、俺は……

 彼は戦友を愛していた。
 息を吹き返した人としてのこころが、戦友を救わなければならないと確信していた。

――ブラフォード、わが戦友を殺す。
――メアリー様への愛ゆえに、やつを放置するわけにはいかないのだ。

 そっと、タルカスの無骨な指がスミレの首輪をなぞった。
 手首のようにほっそりとした首にまわされた首輪は固く、冷たい。
 せめてこのくびきから解放してやりたいと思った。
 だが、この首輪が爆発でもしたら……。
 逡巡し、やがて、タルカスは手をおろした。
 首輪が爆発すれば、タルカスもまた無傷ではすまされない。
 さきほどのブラフォードとの交戦ですでに身体は悲鳴をあげている。
 必ずブラフォードを救わんと決するのならば、無駄なリスクは犯すべきではない。
 決意を無為にする行為こそ、恥ずべきことだ。そう、彼は信じた。

「むっ……?」

 ふと、違和感を覚えた。
 いやに低い位置から自分を凝視している視線を感じる。
 見やれば、道のむこうから一匹の犬が、こちらを黙って見つめていた。

 無力な少女ばかりでなく、犬まで。
 そう思ったところで、タルカスはスミレの言葉を思い出した。
『猿の化け物みたいな、怪物』
『悪人に改造され人間離れした力を持ってしまった少年』
 この犬も猿や少年と同じように改造された特殊な犬なのかもしれない。

 タルカスの左手が槍をつかむ。
 犬はおかまいなしにこちらに向かって歩いてくる。
 タルカスが油断なく立ち上がった。犬に対して槍を構える。

「犬公ッ、言葉が通じるとは思わんが聞けいッ!
 貴様が哀れな改造犬だろうと俺には勝てんッ!
 腹を空かせて来たのだとしたらもってのほか、肉塊となる前に消え失せいッ!」

 犬の動きが止まった。
 利口そうな瞳で、ただタルカスを見つめている。
320代理投下:2012/12/06(木) 23:29:20.11 ID:wB4YiaKD
395 : ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/06(木) 17:10:18 ID:jyE6INkw

「あっちへ行けと言っているのだッ!!」

 声を張るタルカスを見上げながら、クーン、と犬が鳴いた。いかにも寂しそうに。
 タルカスの顔に動揺が走る。
 その隙に、犬はいかにも慕わしげな様子でスミレのもとへ駆けていった。

「こ、こら……!」

 追い払おうとするタルカスの声色にさきほどまでの覇気はない。
 まさか、ほんとうに、ただの犬? という疑念がタルカスの胸中を支配し始めていた。
 クーン、もう一度寂しげに犬が鳴き、スミレの頬をなめ始めた。
 涙の痕をかき消そうとでもするかのように。
 いかにも、スミレの死を悼むように。

「お前は、人の死を悼む気持ちを、理解しているのか……?」

 ワン、と犬が吠えた。
 そうだ、と答えているようにタルカスは感じた。
 槍を引き、しげしげと犬の身体を検分し始めたタルカス。
 犬の首の短いゴワゴワした毛に見え隠れする、血で汚れた首輪に気付き、哀れみに、その眉根がよった。

「お前もこの殺し合いに巻き込まれているのか……」

 犬の前足がじれったそうに首輪をかく。
 この邪魔な首輪はなんだ、はずしてくれ、といわんばかりである。

「すまんな、犬公よ。
 あいにくだがお前のように無力な生き物でも、元いた場所に戻してやるのはあいかなわぬのだ。
 だが、いずれはこの殺し合いの主催者とやらを滅してみせる。
 そうすればお前はふたたび自由の身となれるだろう」

 犬ははじめ、なんのことですか? といった表情で首をかしげていたが、タルカスの力強い宣言を聞くと、嬉しそうに一声鳴いた。
 タルカスの顔にはじめて笑みが浮かんだ。
 それは一瞬でかき消されてしまいそうな儚い微笑だった。
 
 タルカスの巨躯がスミレの小さな身体を抱き上げる。その身をこれ以上損ねる者があらわれないようにするために。
 その後ろを、小さな影が追った。



   *   *   *
321代理投下:2012/12/06(木) 23:29:50.83 ID:wB4YiaKD
396 : ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/06(木) 17:10:48 ID:jyE6INkw



(やっぱ人間って単純だぜッ
 ちょっと感傷的になってるやつは特にな)

 『犬公』ことイギーはタルカスに付き従いながらケケケと笑った。

(ちょっとオリコーで純粋なフリをしてりゃあコロっと騙されちまうんだもんな。
 見たとこ、正義感の強いおっさんが無力なガキを助けようとして失敗したって感じだったな。
 ご愁傷様、お嬢ちゃんよう。おかげで俺が楽できるぜ)

 放送でポルナレフの死を知ってなおこの態度。
 それも致し方ないことだろう。
 彼はジョースター一行に仲間意識を芽生えさせる前の彼なのだから。

(このおっさん、すでに重傷を負ってるところが気になるっちゃあ気になるが、囮か、最悪弾除けくらいにはなってくれることを期待しとくぜ)


 正義感も、危機感も、いまだこの『愚者』には存在していない。





【C−4 シンガポールホテル/一日目 朝】

【タルカス】
[能力]:黄金の意志? 騎士道精神?
[時間軸]:刑台で何発も斧を受け絶命する少し前
[状態]:疲労(大)、全身ダメージ(大)、右腕ダメージ(大)
[装備]:ジョースター家の甲冑の鉄槍
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ブラフォードを救い、主催者を倒す。
1:ブラフォードを殺す。
2:主催者を殺す。


【イギー】
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[スタンド]:『ザ・フール』
[状態]:首周りを僅かに噛み千切られた、前足に裂傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する。
1:ちょっとオリコーなただの犬のフリをしておっさん(タルカス)を利用する。
2:花京院に違和感。

397 : ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/06(木) 17:12:45 ID:jyE6INkw
以上で投下完了です。
誤字脱字矛盾等ございましたらよろしくお願いします。

やっぱり規制中です。規制多すぎません?
どなたか代理投下をお願いします。
タイトルはwiki収録までに考えておきます。
322 ◆vvatO30wn. :2012/12/06(木) 23:32:34.23 ID:wB4YiaKD
代理投下完了
最後のイギーさえなければええ話やったのにwww
完ッ全に騙された悔しいwwwww

さすがやなイギー様。参戦時期をリアルに再現しているわ………


さて、拙作の指摘された個所をしたらばの修正用スレに投下しました。
ご確認+ご意見よろしくお願いします。
323 ◆vvatO30wn. :2012/12/08(土) 01:26:14.48 ID:gR0z1p1c
本日12月8日(土)20時より、
ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd 一周年記念チャットを開催します。
書き手・読み手とも参加自由 ROM可です。トリップも対応。

以下のURLにごアクセスください。
ttp://jojobr3rd.chatx2.whocares.jp/

書き手の皆さんは裏話など、話せる内容の準備を。
読み手の皆さんは書き手勢への質問などを用意し、楽しい時間を一緒に盛り上がりましょう。
324 ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 09:20:38.13 ID:grJztDMK
すみません。
予約分ですが一話にすると構成的に不安が残るので
まずアバッキオパートの一部を独立した話として投下します
325THE LIVING DEAD ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 09:22:10.80 ID:grJztDMK
主導権を握る者が変わったと言えども柱の男の健脚は依然として健在であり、太陽がその頭を見せ街に光を振りまき始める前にコロッセオへと辿り着く。
石造りの闘技場はこの殺し合いへと呼ばれる以前に訪れた時とまるで変わらぬ姿で威容を放ち続けており、それを確認した巨漢は忙しなく大地を蹴り続けていた脚の動きを緩める。
地図に示されていた地下への入口を探すため、日光で滅びてしまう自身の体を守るため、男はコロッセオの外周に沿って歩き出した。
疲労感など一切感じていないが、レオーネ・アバッキオであった男は大きく息を吸い込み吐き出す。
吐息に込められた感情は複数の色を孕んでおり、彼自身もどのような意図を込めていたのかハッキリとは分かっていない。
ただ、深呼吸でもしたい、そんな気分であった。それだけは確かなこと。

人間臭いな。

そんなことを小さく呟いて苦々しげに笑う。
もはや怪物へと身をやつしてしまったはずなのにあたかも人間であるかのような振る舞いをする自分がとても滑稽に思えた。
心の奥底で燻り続けている人間としての生に対する未練。
いずれは消さねばならぬと分かっていながらも、望みが叶うことが億に一つも無いことが分かっていても。
目的という名の覚悟で塗りつぶそうとしようと石畳の間からミミズのように這い出してくる願望。
眼前の建造物が悠久の時を経ても変わらずその姿を保ち続けてきたように自分も変わらぬままでありたかった。
沸き起こってくる感傷的な思いに苛立ちが募る。
が、その感情も途中で途切れることとなる。

「ここが地下への入り口ってやつか……?」

足を止め、通路の奥を注視した男。
柱の男の眼力は確かに地下へと続く下り階段の姿を捉えていた。
目的地が見つかり、早速日光から逃れようと体の向きを変えるも、踏み出そうとした一歩が宙で止まる。

いや、日光に弱いってのがどれくらいのもんか確かめてみるのもありなんじゃねぇか?

もう後数分もすれば太陽が姿を表す。
日光が弱点ということは知っているが、それがどの程度なのかは知らぬ彼にとっては試すべきチャンス。
火傷をしながらジリジリと肌が灼けていく感覚を味わうことになるのか、それとも一瞬にして死に至ってしまうものなのか。
後者の可能性も存在している以上は賢明な判断ではないということは彼も分かっている。
だが今、男の心中を占めるのはどこか捨鉢な物。
『俺』として生きるといったものの、死ぬのなら死んでしまっても構わないという後ろ向きな感情は拭い去ることが不可。
全ての警戒を捨てて棒立ちになる男。
しかし、その逡巡も一瞬にして断ち切り男は前へと歩を進める。
通路の入口に消えていった大きな背中からは彼の本心は如何なるものなのだろうか感じ取ることができない。
裸足であることもあって階段を下る足音は聞こえない。
少しずつ彼の背中が地下へと消えていく。
日の当たる世界から姿を消していく。
そこにあるのは一面に広がる闇。
レオーネ・アバッキオが所属していた社会の暗部とはまた違った闇。
途中で一度だけ首のみを振り返かせ外の世界を眺める。
男の瞳に世界はどのように映っているか。
無言のまま再び前を見据え歩き出した彼の瞳には。



☆  ★  ☆
326THE LIVING DEAD ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 09:24:31.58 ID:grJztDMK
「――ブ、ブチャラティ!?」
「……ルーシー・スティール?なぜここに!?」


「………トリッシュ。よく無事で―――――」
「待ってブチャラティ!」


地下へと降り立った男の耳に入る複数の声。
駆け出した。
それを聞いた瞬間。
体の制御を失ったが如く。
勝手に脚が動き始めた。
足音を一切立てず。
かつ可能な限りの迅速さで。
ふと目を向ければ数百メートル先には見慣れた男の姿。
避ける。
障害物に隠れる。
道無き道を進む。
彼の視界に己の姿が入らぬことを願いつつ動く。
ボスの娘がいた。
見知らぬ男女がいた。
その事を確認しつつなお駆ける。
気が付かれずに彼らを置き去りにする。
余計なことなど考えぬ。
ただひたすらに姿を隠しながら走る。
走る走る走る。
走って走って走り続ける。

そして人間の目では決して目視が叶わぬ距離の倍以上を走りぬけ、ようやく彼の脚は動きを止めた。
予め地図の内容を頭に叩き込んでいたことが功を奏した。
もしもあそこで彼らの声から離れようとしていればそこに待つのは袋小路。
だからリスクを取ったとしても前に進んだ男の判断は正解に限りなく近いものであった。
ブローノ・ブチャラティの前に姿を現すという選択肢を除いての結果であったが。
咄嗟に逃げ出したのはなぜか。
パンナコッタ・フーゴには話すことができた真実をなぜ明かすことが出来なかったのか。
考えようとするもその答えは闇の中に消える。
直後に始まったスティーブン・スティールによる放送によって。
327THE LIVING DEAD ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 09:26:29.14 ID:grJztDMK
「チッ」

思わず舌打ちが漏れる。
近くに他の人間がいたらなんて考えない。考える気もねぇ。
襲われたらそいつを殺すだけだ。
この化け物の体。戦った俺だから分かる、強さだけは一級線だからな。
そして俺は再び先ほどの放送へと頭を切り替える。
76人。150人いた参加者の内の過半数が6時間という短い時間で死んじまった。
不幸中の幸いってやつだろうか。レオーネ・アバッキオと同じチームに所属していた人間は誰一人としてその名を呼ばれる事がなかった。
けどな、それが一体なんだってんだ?
生き死にの価値観が常人よりも薄い俺でも心に黒いものが湧き上がる。
嫌悪感に思わず表情が歪む。
反吐を吐きそうになるほどに迫り上がってくる不快感。
チームの人間は誰一人として呼ばれなかったとはいえ、放送の中に名を知っている人間がいくらかいた。
その中の一人は岸辺露伴。
半ば事故のようなものだとはいえ俺の手で命を奪ってしまった人間。
自分を化け物の体におとしめた張本人。
ヤツのことについてごちゃごちゃ考えるのはやめにした。
どうせ俺の感情に決着がつくことなど無いのだから。
そしてもう一人。

「あのガキも死んじまったのか……」

川尻早人。
リプレイ中に露伴が呟いた名前。
あの場面から考えるに該当するのは一人だけ。
直後に届けられた名簿を見たが他に『はやと』言う名はなかった。
つまりはそういうことなのだろう。
別れ際に見たあの強い目をもったあのガキが死んだ。
レオーネ・アバッキオが最後に出会った人間が死んだ。
その他には何も知らない相手だったが、もう会うことがないと思うと無性に寂しく思えた。

「らしくねぇな」

感傷的になるなど本当に自分らしくないと苦笑。
思えば早人を救ったことも俺にとっては"らしくない”ことだった。
そんな感情を振り切るかのように別の思案へと頭を切り替える。

「ジョルノの野郎が名簿に載ってて放送で名前も呼ばれてないってのは一体どういう事なんだ?」

始まりの間において首を吹き飛ばされたのは見間違い様もないジョルノ・ジョバァーナ本人。
体格や服装、髪型、顔の全てにおいて男の知っているジョルノそのもの。
だとすれば可能性は二つ。
殺されたジョルノの名も名簿に載せているのか、もしくは殺されたジョルノは偽物なのか。
後者の場合、殺された偽ジョルノのあまりにも精巧な造りからスタンド能力が関与しているのは間違いない。
柱の男の五感をもってしても参加者以外の生物が一切関知できない異常な空間。
紙の中に詰まっている支給品。
始まりの場から一瞬でワープさせられた現象。
これらの全てをたった一つのスタンドで賄いきれるとは思わない。
複数人のスタンド使いが運営に絡んでいるのだろう。
そこまで考えたところで思った。
馬鹿馬鹿しいと。
意図せぬ内に顔が笑みの形を作り出す。
俺にとっては慣れきったこの表情。
328THE LIVING DEAD ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 09:29:39.01 ID:grJztDMK
「くだらねぇ、どうせ俺には関係ねぇ話なのにな」

そうだ、これは俺の役割じゃない。
この手の仕事はブチャラティやフーゴ、気に食わねぇが新入りに任せればいい。
俺がやるべきなのは、殺るべきなのは。

「川尻浩作や組織の連中も何人か死んだらしいが……」

事前に目を付けていた危険人物は死んだらしいが、まだこの会場には人を殺して回ってるクソッタレ共がいるはずだ。
だから殺す。
そいつらを一人残らず殺す。
ブチャラティ達の道に立ちはだかる連中を一人残らず殺す。
完膚なきまでに、一欠片の害も及ばせないようにぶっ殺す。
それが俺の仕事。

「さて、じゃあ探すとするかね、俺が殺すべき標的達を」





"殺す”
ギャングの世界では決して言うべきではないこの言葉を彼は何度も繰り返す。
何故なら彼はもはやギャングではないのだから。
ボスを倒して組織を乗っ取るというリーダーの野望に乗ることすらできなくなってしまったのだから。
彼は今、運命という巨大な歯車の中に取り込まれる奴隷として働くことを望んだ。
再びなにか大きなものに従って生きてゆきたいと願った。
何も考えず、何も得られず、ただただ働き続ける眠れる奴隷。
今の彼は言うならば生ける屍。
目覚めることを恐れ、眠りながら働く死者。

屍はたった一つ残されたと思う存在意義に突き動かされて生きる。
それが正しいのか間違っているのか、それを考えることすらせずに。



【D-6 地下北部/ 1日目 朝】

【レオーネ・アバッキオ】
[スタンド]:『ムーディー・ブルース』
[時間軸]:JC59巻、サルディニア島でボスの過去を再生している途中
[状態]:健康
[装備]:エシディシの肉体
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:護衛チームのために、汚い仕事は自分が引き受ける。
1.殺し合いにのった連中を全滅させる。護衛チームの連中の手を可能な限り、汚させたくない。
2.全てを成し遂げた後、自殺する。
【備考】
※肉体的特性(太陽・波紋に弱い)も残っています。 吸収などはコツを掴むまで『加減』はできません。
329 ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 09:31:05.07 ID:grJztDMK
   



投下完了です。
誤字脱字その他指摘があればよろしくお願いします。

後言い訳というか説明です。
前作『怪物は蘇ったのか』で時間が【早朝(放送直前)】になっていたのですが、
それだとコロッセオ到達前にエシディシのボディが太陽で消滅するのではないかと考えたので勝手に少し余裕を持たせてしまいました、申し訳ない。
ならば何故コロッセオ到達と同時に放送にしなかったのかというと、
その時間にすると先日◆vvatO30wn.氏が投下したSSに絡まないことに矛盾が出るのではないかと考えてのことです。
(日光浴びながらでも無理矢理移動させてその最中に放送を聴かせることはできなかったのか? って疑問への答えもこれですね)
多少無理矢理になってしまった感じは否めませんがこれで通せないとアバッキオが詰みな状況になりかねないので容赦してくださいお願いします
本日チャットなんでそのついでにでも意見をいただければありがたいですw

それと予約スレのレオーネ・アバッキオ、ビットリオ・カタルディ、橋沢育朗は継続して予約させて頂きます。
予約期限は本来のままで構わないので、わがままと思われるかもしれませんがどうかよろしく頼みます。
330 ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 09:37:46.46 ID:grJztDMK
あ、状態表間違ってた。D-6北部じゃなくてD-6でお願いします
331 ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 22:26:53.40 ID:grJztDMK
ではおまたせしました。
レオーネ・アバッキオ、橋沢育朗、ビットリオ・カタルディ投下します
332Wake up people! ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 22:29:16.93 ID:grJztDMK
「そういえば名前を聞いてなかったね、君の名を教えてくれないか?」

無言

「さっきから言ってるヴォルペって人は君の友人なのかい?」

無言

「体調が悪いそうなんだけど本当に大丈夫なのかい?」

無言



育朗がいくら話しかけようともビットリオはただフラフラと歩き続けるだけ。
朝日が照らし出す街の中、二人の影が一定のペースで同じ動きを繰り返すだけ。
コツリコツリと靴が石畳とぶつかる音を立てるだけ。
顔色が蒼白であり、明らかに健康体とは思えない足取りのビットリオを育朗は気にかけるも、呼びかけど呼びかけど彼からの反応はなし。
道の両脇に林立している民家で休もうと提案するも、それすらも無視して歩き続ける。
どうしたものかと困った育朗が無理矢理肩を掴むと訳の分からぬ奇声を発しながら狂ったようにナイフを振り回す。
人よりも弁舌に秀でているわけでもない育朗はここでどうすれば良いのか分からず、思わず押し黙ってしまう。
しかし、彼のことを置いていけるかといえば否。
育朗からすれば傍らにいる少年は仲間を喪ってしまい心神喪失状態に陥ってしまったものであるとしか考えられない。
ビットリオに起きている身体的な病気だとしか思えない様な症状も心的な負担によって引き起こされてしまっているのだと。
言ってしまえばビットリオを殺し合いの被害者であると思っているのだ。
彼の本性を知らぬ育朗はただビットリオの心配をしながら彼の傍らについて歩くことしか出来ない。
目的もなく彷徨い続ける幽鬼が二人。
正確に言えば育朗にはこの殺し合いを破壊するという目的がある。
だが、それでも、ビットリオに行き先を委ねて歩いているこの状況は何もしていないに同じ。
他者との接触を図りたいと考えている育朗にとって歩きまわるという選択自体は悪くない。
その事は理解できているのだが、明確な目的地もない歩行に焦りが生じ始めるのも無理は無いだろう。
なんせ彼はバトルロワイアルが始まって8時間近く経過した今でもたった一人を除いて主催に反抗の意を示した参加者に出会えていないのだから。
歯がゆい現実に眉を僅かに潜めつつ、前を歩くビットリオの後を追い続ける。

そして歩くこと幾ばくか、ビットリオが突然足を止めた。

「どうしたんだい?」

何かあったのではないだろうか?
ビットリオの身を案じた育朗が肩に手を置いて軽く声をかける。
相変わらずの無反応であったが、今までのように暴れだすこともない。
しかし、育朗は今までとは違った挙動を取っている事に気がつく。
首の据わらぬ赤子のようにふらふらと動いていた頭が急に固定されたかの如く不動のものとなっていた事に。
もしや何かを凝視しているのではないだろうか。そう考えた育朗が彼の目線の先を追うと―――。

「もしかして……あそこに行きたいのか?」

そこにあったのは泉。
地図にあったトレビの泉かトリトーネの泉のどちらかであるだろうと育朗は判断した。
が、ビットリオが泉などに関心を寄せる理由が一切理解できない。
再度少年の目線の先を追ってみると、泉の側に通路のようなものがあることが分かった。
そしてその奥にあるのは恐らく地下へと続いているであろう下り階段。
育朗の言葉に反応したかどうかは定かではないが、ビットリオは肩に置かれた手を振り払って前に前にと進む。
こうなっては止める術もない。置いて行けるはずのない育朗は危なっかしく階段を降りるビットリオに内心ヒヤヒヤしながら付き従うのであった。
余談ではあるがバイクは階段を通すには狭すぎるため育朗が背負うかのような形で運んでいる。
未来の話であるが両腕の力のみで軽々とバイクを持ち上げた彼にとってはこの程度容易い話なのだ。



☆  ★  ☆
333創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:32:15.33 ID:PxNQjKzv
支援
334Wake up people! ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 22:33:16.28 ID:grJztDMK
   


「地下にこんな空間があったのか……」

長い階段を下った先にあった広々とした地下世界。
辺りを見回した後、頭上へと視線を向けた育朗が僅かな驚きを込めて呟く。
数車線分はあるであろう広い道。路面は多少荒れているがバイクでの走行が可能な程度には整っている。
多少薄暗くはなっているものの、天井にある光源が照らしだしてくれているお陰で視界が効かなくなるということはない。
地図に載っていない場所の登場に面食らったものの、気を取り直してビットリオへと視線を向ける。
彼も辺りをキョロキョロと見回していたが、この地下風景に特に心惹かれるモノがなかったのか、ふらふらと歩き出すことを再開していた。
育朗も特に慌てること無く今まで背負っていたバイクを下ろし、それを押しながらビットリオの傍らに付く。

地下という新たなフィールドを見つけたものの、目的が無いということは変わらない。
再びあてどない歩み続けることしばし、育朗は遥か前方に久方ぶりの人影を発見した。
そして育朗が気がつくと同時、相手方も警戒したかのような動作を見せる。
おかしい。
育朗は瞬時に警戒態勢へと入る。
見つけたのはバオーの力を借りてようやく見つけることが出来たような小さなシルエット。
なのに両者が互いの存在に気がついたのはほぼ同時。
ここから導き出される結論は単純。
相手も常人を越える何かを持っているということだ。
止まることは出来ない。
ビットリオが暴れだしてしまえば並行して戦闘を行うのが困難になるから。
かと言って彼を気絶させるなど手荒な方法で止めることもできない。
自分に万が一のことがあった場合、彼の死が確定してしまうから。

共に歩み寄る。
その中で育朗は強く願った。
相手が殺し合いにのっていない人間であることを。

距離が近づく。
相手の姿が明確となっていく。
育朗は瞬間凍りついた。
似ている。
カーズに、廃ホテルで戦った怪物に。
警戒を更に強める。
少年を巻き込まぬように早足で彼の先を進む。
バオーの力を完全に引き出す一歩手前。
男は構わずに歩み寄る。
育朗の脳裏にトラウマとも呼べる記憶が過ぎる。
友の血で濡れた両腕の紅さと生暖かさ、そして濡れた感触。
傍らの少年も自身の手で殺したらどうなるか。
思わず固く目を瞑る。
そして目を開く。
男との距離は僅かであったが縮まっていた。
額に浮き上がる冷や汗。
覚悟を決めかねる。
せめてのも虚勢で拳を力いっぱい握る。
男との距離は残り数メートル。



「止まりな」
335創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:33:30.31 ID:344HqoHS
しぇん
336創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:33:36.46 ID:gR0z1p1c
支援
337Wake up people! ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 22:34:57.48 ID:grJztDMK
 
だからかもしれない。
男からかけられた言葉に少なくとも問答無用で襲ってくることはないと安堵したのは。
半ば殺気に近い威圧感を放ってはいるものの、それが殺意とはまた別な物であると気がついたのは。

「すまない、同行者の都合でそれはできないんだ」

そう言って後ろをノロノロと歩いて徐々に育朗の背に追いつきつつあるビットリオを指さす。
男は見るからに異常な様子のビットリオをしげしげと眺め一言。

「なるほど、薬中のガキを抱えてるってわけか」

ぶつぶつと訳の分からぬことを呟き、おぼつかない足取りで歩く死んだ目をした少年。
裏社会に身を置いていた経験が即座に答えを導き出す。
今までに見飽きるほどの人数の患者と出会ってきた彼だから一発で理解できた。
逆に育朗は驚愕に目を見開く。
超常の世界に巻き込まれてしまった彼にとっても、クスリというのはまた別の意味で違った世界の話。
想像もしていなかった事態に思わず後ろを振り返るも男は構わぬ様子で言葉を吐く。

「で、てめぇはどっちの側なんだ? 殺して回ってんのか? それともスティールとやらに反抗すんのか?」

実のところ、男はこの質問に意味は無いと考えていた。
殺し合いに乗ってる人間は正直に答えないだとかそんな理由ではない。
ヤク中で自分の意識があるのかすら分からない様な少年を保護し、連れて歩いているお人好し。
ビットリオがヤク中であることを知らなかったという反応から、同行していたのが元々仲間であったからという理由は消える。
そのリアクション自体が演技である場合もなくはないのだが、あまりにも育朗の驚き方が自然であったために男は無意識でその可能性を排除していた。
つまるところ男が質問をしたのは、姿を現しておきながらも何もせずに立ち去るという行為に抵抗があったという小さな意地。

「僕はこの殺し合いを壊したい。そう考えている」

だからかもしれない。
自分を正面から見据え、堂々と答えた育朗の双眸が眩しすぎると感じたのは。
育朗の瞳に輝く意志の光に思わず不意をうたれたのは。
気圧されてしまいそうになったのは。
ヤク中であると知ってしまったビットリオに今まで以上に心配気な目線を送ったため、目と目が合う時間は短かった。
しかし、それでも男は心のなかで何かがささくれ出す感覚を味わう羽目になる。
だからかも知れない。徐々に明確になっていった少年の呟きを聞き逃したのは。
















「死ね、化物」
338創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:35:05.00 ID:gR0z1p1c
支援
339Wake up people! ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 22:36:25.89 ID:grJztDMK
突如手に持ったナイフを振りかざし踊りだす少年。
今までの力ない動きは何処に行ったのか、機敏な、手慣れた動作で男へと跳びかかった。
……しかし、男の反応速度からすればその動きはあまりにも愚鈍であり、焦りの欠片すら見せずに男は考える。

出会った当初はヤク中の少年をどうするか決めかねていた。
足手まといになるのは確実であるが、白か黒かは不明。
そんな人間を問答無用で殺してもいいのか、そんな悩みが男にはあった。
だが、錯乱し他者に襲いかからならば、仲間に危害を与える恐れがあるならば。
排除せねばならない。
薬のせいで錯乱してるだとか、自身の外見が明らかに危険人物のモノであるなどは関係ない。
この判断力の欠如が今後何処かで邪魔になるのは確実なのだから殺す。

そこまで考えたところでもナイフの切っ先が自身に突き刺さる気配は一切ない。
心臓を狙って突き出そうと構えているのがチラリと見えた。
だから、迎撃する。
右腕を小さく引き、前へと突き出す。
只の人間であればそれだけで容易に胴を貫くことができる。
が、彼の腕に肉の手応えはなく、ただ宙を切った感覚が残るだけ。

「おい、そいつを寄越しな」
「彼は自分が何をやってるか分かってないだけなんだ。許してはくれないか?」

男はビットリオのフードを右手に掴んだ育朗を睨む。
要求に対する育朗の答えは当然ながら否。
だからこそ男も育朗の願いを汲んでやる気など微塵もない。

「駄目だな」
「クッ、君、逃げるんだ!」

懐柔できる要素など微塵もない。
冷徹に告げられた死刑宣言を聞き育朗は即座に理解した。
だからこそ逃さねばならない。
抵抗すら許さぬ力の差を感じ取ったのかその場から動けずにいるビットリオ。
乱暴であるのは分かっていた。
それでもこれしか方法はない。
力を込めて少年をを放り投げる育朗。
彼は見たのだ。
薬で心を壊されていようとも、仲間の死を悼んで泣き叫ぶ少年の姿を。
だからこそ死なせる訳にはいかない。
男が跳ぶ。
育朗も咄嗟に動き巨大な肉体を止めようと立ちはだかる。
刹那の判断。
二人の体はぶつかり合う事なく、両者は互いの手を掴みながら組み合う形となった。

「どきな!」
「行かせは……しない!」
340創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:36:45.55 ID:gR0z1p1c
支援ぬ
341Wake up people! ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 22:38:07.41 ID:grJztDMK
ビットリオがこちらから離れていくのを育朗は気配で感じ取った。
自身の思惑通り逃げてくれたことに安堵し、育朗は男との力比べに専念する。
と言ったものの柱の男と変身前の育朗ではパワーが段違い。
体勢が徐々に崩されてゆくのを自覚しつつ、それでも時間を稼がんと粘る。

「もう一度言うぜ、どきやがれこの糞ガキが」
「断る!」

男が腕に込める力がさらに増した。
負荷の限界が近くなった育朗の腕が、脚が大きく震えだす。
けれども内に潜む化物の力は引き出さない、引き出せない。
確かに男には殺意がある。
初めて感じる様な謎の匂いがある。
しかし、邪悪な気配を一切纏っていないという事は分かる。
今まで戦ってきた相手と、人の死を弄ぶ外道とは違うことが分かる。
故に変身しない。命を奪う真似をしたくはない。

「僕が彼に殺人などさせない。約束する!
 だから、どうか、どうか今回は見逃してくれないだろうか!?」
「しつこいぜ。俺は既にノーって言ってんだよ」

苛立ち混じりに放たれた蹴りが育朗の胴に直撃する。
全力ではないが、少なくとも死んでも構わないという意志のもとで放たれた一撃。
男が組み合っていた手を離すと、育朗は派手に吹き飛び岩壁に叩きつけられる。
常人ならば即死、バオーの適合者である力を以ってしもダメージは免れぬ衝撃。
それでも、それでも育朗は立ち上がり、立ちはだかる。
口の端から血を流しながらも、足が僅かに震えていても。

「分からねぇなら教えてやるがな、俺は見逃してやるって言ってるんだぜ?」
「彼を見逃すとは言っていない」

手の甲で口からわずかに漏れた口を拭う。
ダメージを負った内臓も動きに支障がない程度には回復。
だが、動きに支障がないとはいえ痛みがないわけではない。
襲い来る鈍い痛みに抗いながら、意志の力で育朗は男の前へと立ちはだかる。

「死ぬ気か?」
「死んでも……通さない!」

不意に男が高く跳び上がる。
半ば天井に張り付くような大跳躍で育朗の頭上を通り超えようとする男。
しかし、育朗も壁を蹴って宙へと飛びその両腕に男の胴を捕らえた。
バランスを崩し地面に叩きつけられる二人。
互いにほぼ無傷。
先に立ち上がった男が駆け抜けようとするも、左足を掴まれて盛大に転ぶ。
大して労することも無く起き上がった男であったが、これ以上の進行を諦めた。
本来ならば柱の男の力をもってすれば引きずって進むことも可能。
だが育朗を無視して無防備になれば何をするか分からない。

「分かったぜ。よく分かったよ」
342Wake up people! ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 22:39:41.54 ID:grJztDMK
   

左足を掴む育朗の両腕を自由な右足で踏み抜く。
パキリと妙に軽快な音が地下道に響き渡る。
砕けた両腕の痛みに顔が苦痛に歪む。
それでも育朗は力を緩めない。手を離さない。

「進むためにはてめぇを潰して行かなくてはいけないってことがよぉ。
 再起不能ですませてやってもいいが、死んでも恨むんじゃねぇぞ」

無造作に振られた左脚の動きに合わせて吹き飛ばされた育朗。
大地へと派手に叩きつけられ数回バウンド。
それでも彼は立ち上がる。
再生が追いつかず垂れ下がった両腕。切れてしまった額から流れ出る血。
重症であるのは間違いないはずなのに。
動かずに寝ていれば回復能力によって痛みも傷もすぐに癒すことができるのに。
元よりそんなものが無かったのかのごとく彼は立ち上がる。

「頼む、止まってくれ。貴方が悪人じゃないことは分かっている。だから―――」

鳩尾へと叩きこまれた拳。
ややアッパーカット気味に放たれた拳が育朗の体を浮かせた。
彼の体が一瞬だけ天井に張り付き、数秒後には地面にぶつかる。
先程よりも更に派手に血を吐き出した育朗。

「悪人じゃない? 知ってるさ。俺は怪物なんだからな」

育朗の耳にすら届かぬ程の小さな声で怪物が呟く。

歩み寄る男。
立ち上がる。
もはや小枝よりも頼りなくなった足に力を込めて立ち上がる。

「終わりか?」
「まだだ、まだ―――」

返事を聞かずに放たれた蹴りが右足に直撃。
穴の開いたジーンズから白いものが覗く。
片足をやられた育朗がバランスを崩す。
それでも彼は倒れない。
343創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:40:08.43 ID:gR0z1p1c
支援
344創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:40:37.53 ID:344HqoHS
支援
345Wake up people! ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 22:41:14.51 ID:grJztDMK
  
男が殴る。

育朗が立ち上がる。

男が蹴る。

育朗が立ち上がる。

男が投げる。

育朗が立ち上がる。

男が薙ぐ。

育朗が立ち上がる。

男が締める。

育朗が立ち上がる。

男が突く。

育朗が立ち上がる。

男が折る。

育朗が立ち上がる。



骨を折られようと、皮膚が切れようと、血が流れようと。

育朗は立ちはだかる。
346創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:42:16.67 ID:PxNQjKzv
支援
347Wake up people! ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 22:43:09.34 ID:grJztDMK
  
だが、男が本気でなかったとはいえ、育朗に常人を遥かに凌駕する再生力があったとはいえ。
未だに立ち上がり、立ち塞ぎ、立ちはだかろうとする彼の体は限界が近い。
傷がない部位を探すほうが難しいほど傷にまみれ、血に濡れた体が紅く染まる。


そして――――意地と気力のみで立っていた体にもついに限界が訪れた。



立ち上がれない。
足にいくら力を込めようとしても、腕にいくら力を込めようとしても。
体が心に応えてれない、動かない。

そんな様子を見て男の唇がニィと動いた。
本来、この男はそこまで気の長い性格ではない。
しかし、今、とうにキレていても可笑しくない状況で男は余裕を見せる。
本気を出せばバオーの力を完全に引き出せていない育朗を気絶させるなど容易いのに、それを行わない。
見ていて滑稽だったのだ。
育朗の姿があまりにも。
■■なのに必死になる育朗が。

「ククッ」

男が小さく笑いを漏らす。
男はとうに確信していた。
直接触れ、"食った”感覚はあるのに次から次へと新たな皮膚が生まれ来る感覚。
初撃で判明した生身の人間にあるまじきパワーとタフネス。
そして、人間の匂いに紛れながらも明確に感じられる人のものとは異なった匂い。
だからこそ男は嘲りの言葉を投げかけざるを得なかった。
言わずにはいれなかった。



「博愛精神に目覚めて人間気取りってか? 笑わせちまうな、おい。
 いくら人間のふりをしてても分かっちまうもんなんだよ、この"怪物”が」



――――同士へと。






  
348創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:43:20.84 ID:gR0z1p1c
支援
349創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:44:24.03 ID:PxNQjKzv
ウワアアアアア!
350Wake up people! ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 22:44:43.87 ID:grJztDMK
  


☆  ★  ☆




ビットリオ・カタルディはある意味では幸運な少年であった。

熟練のスタンド使い二人が存在している学校において、片方が離れていた間にもう片方を殺せた。
後少し離脱のタイミングが遅ければ、参入のタイミングが早ければ、
彼は強敵二人、もしくは自身のスタンド能力を事前に知った猛者一人と戦うことになっていただろう。

ジョージ・ジョースターを、アイリン・ラポーナを、サンダー・マックイィーンを殺害できたことも幸運によるものが大きかった。
最大戦力であるアイリンを最初に無力化出来たこと、マックイィーンの能力で死にかけていたところをジョージの"狂気”に救われたこと。
この二つによって彼は足に少しの傷を負った程度で正面から3人を圧倒することが出来た。

二人のツェペリを相手にして不意を打てたのもそうだ。
いや、この場合は怒れる柱の男を相手にして無事逃げ切れたことを幸運だというべきか?
とにかく支給品に恵まれていたおかげで彼は命を落とすどころか五体満足のままでいられたのである。

ここまで幸運が続いているビットリオ。
麻薬が切れてしまったことによる禁断症状が殺し合いの場で発症したという事は確かに不幸である。
だが、積極的に殺害をしようとしている人物に見つかっていないどころか、力強いボディーガードまで隣に侍らせているのだからその程度の不利さは相殺できる。
更に思考力を一時的に鈍らせたということは先刻知ってしまった仲間の喪失について考えるということを奪う結果にも繋がっていた。
仲間の死を直視しない、できない。
人によっては不幸であると思うだろう。不憫であると思うだろう。
しかし、だ。この少年にとっては、ビットリオ・カタルディにとってはそれが幸せなのだ。
すべての責任を他者に求めてしまうという性を持って生まれてしまったこの少年にとっては。
死を受け止めることもなく、ただただ他者に怒りを振りまくよりは何もせずにぼんやりと歩きつづけることの方が。
   
351創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:47:34.06 ID:PxNQjKzv
支援
352創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:49:15.01 ID:344HqoHS
そして、彼にとっての最大の幸運。
それは隣を歩く青年、橋沢育朗と出会った時期がベストなタイミングで会ったこと。

もしも育朗と放送直前に出会っていなっかったら、嬉々として人を殺して回っていた時期に出会ったら。
彼の持つ邪悪の気は橋沢育朗にとってのトリガー。秘められた力を引き出すためのスイッチ。
仲間を喪った怒りと悲しみのみで攻撃を加えたからこそ、育朗も激情に燃えるビットリオに対して説得を行おうとしたのだ。
邪悪な気配が混ざっていなかったからこそ、橋沢育朗はバオーに変身して戦うことを選択しなかったのだ。
麻薬の禁断症状により思考を奪われたこともプラスに作用している。
考えることができなくなってしまえば、さしものバオーであっても本質を見ぬくことは不可能なのだから。
バオーと万が一戦う事態になってしまった場合、断言できる。
彼の命はなかったと。
『ドリー・ダガー』の弱点は複数あるが、バオーとの相性は最悪と言っても良い程のものである。
足がもがれようとも容易く癒着させるような回復力を持った相手に対し、自身の負ったダメージの7割を転嫁する程度のことが如何に不毛であるのかは想像に難くない。
だからこそ、本性がバレる前に彼の側から逃げ出せたというのは幸運であったという他無いだろう。

幸運は幸運を引き寄せる、そう感じた事のある者も多いのではないだろうか?

当然、無限に続く豪運などという夢物語を信じるものは少ないだろう。
しかし、今のビットリオはまさにこの状況。
続いている幸運によって4人もの参加者を殺害しながらも、状況は一向に悪くなることがない。
ならば彼が怪物から逃げ去る際、無意識に手にしていた育朗のディバッグの中、エニグマの紙に収められていた支給品の中に彼の最も望むものが入っていてもおかしくはないだろう。
そう、人を狂わす禁断の白い粉末が入っていようとも。


だが、何時まで続くかも分からぬ幸運しか持たぬこの少年は、誇りすらも持つことが出来ないこの少年は勝者たりえるのだろうか?
ビットリオ・カタルディは、果たして何かを掴み取ることが出来るのだろうか?
幸運にまみれているはずの彼はある意味では最も不幸な人間なのかもしれない―――――。




【C-5 地下/ 1日目 午前】

【ビットリオ・カタルディ】
[スタンド]:『ドリー・ダガー』
[時間軸]:追手の存在に気付いた直後(恥知らず 第二章『塔を立てよう』の終わりから)
[状態]:全身ダメージ(ほぼ回復)、肉体疲労(中〜大)、精神疲労(中)、麻薬切れ
[装備]:ドリー・ダガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済)、マッシモ・ヴォルペの麻薬
[思考・状況]
基本行動方針:とにかく殺し合いゲームを楽しむ
0:ヤクが切れているのでまともな思考が出来ない。目的地も不明瞭
1:兎にも角にもヴォルペに会いたい。=麻薬がほしい
2:チームのメンバーの仇を討つ、真犯人が誰だかなんて関係ない、全員犯人だ!
[参考]
1:彼の支給品はバイクとともに置いていかれました。
  現在持っているのは橋沢育朗のディバッグに入っていたものです
2:名簿を確認しましたが、自分に支給されたものは持ってきていません
3:行動の目的地は特に決めていません。というよりも考えられません






☆  ★  ☆
353創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:50:06.13 ID:NWKK0INL
支援
354創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:50:26.36 ID:344HqoHS
「博愛精神に目覚めて人間気取りってか? 笑わせちまうな、おい。
 いくら人間のふりをしてても分かっちまうもんなんだよこの"怪物”が」


常人を遥かに超えた筋力を持つ自分の更に上を行く剛力。
古代の拳闘士が現代にやってきたかのような装い。
敵意とも殺意とも違うもう一つの『匂い』が気になったが、それは置いておく。
僕は確信した。
眼の前に立つ相手はカーズ達と同様の存在であるのだと。
そして彼は言った。
「怪物」と。
そう言った。僕のことをそう呼んだ。
違う。
否定せねばならない。
これだけは認める訳にはいかない。
友のことを思い出す。
それだけで不思議と体に力が湧いた。
震える腕で体を起こす。
ろくに動かぬ足でゆっくりと立ち上がる。
男が驚愕に目を見開いた。
構いはしない。
そんなことは関係ない。
やらねばならぬことはたった一つだけ。



確信を込めて、力いっぱい育朗は叫ぶ。





「違う、僕は……人間だ!」
355創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:51:35.95 ID:344HqoHS
育朗がまだ動けたことに僅かに驚いた男も、彼の言葉を聞くと同時に口の端を皮肉げに歪めた。
逃したヤク中の少年など即座に頭から飛んでいく。

「諦めな、てめぇは既に怪物なんだからな。
 気持ちはわかるぜ? 人間であることに縋りたいってのはな。
 だがもう一度言うぜ、諦めな。もう無理なんだからよ」

今から彼が行うことに意味など無い。
言うならば只の憂さ晴らし。
吐き出す相手の居なかった苛立ちを晴らすための行動。
同じ立場で諦めていない青年を無性に壊したくなった、ただそれだけ。
だが、それでも彼は抗う。

「なんどでも言ってやる! 僕は人間だ!」
「ほぅ、根拠もないのにか? 誰に聞いても今のテメェは化物って言うぜ?」

男の笑みが更に広がる。

「根拠なら、ある」
「ほぅ、強がりかどうかしらねぇが言ってみろよ」

育朗が強く拳を握り締める。
思い出すのはあの感触。
強く握りしめられた掌の温もり。
拳を顔の前に突き出し、育朗は言葉を紡ぐ。


「友が……いや、ダチが僕を人間だと言ったんだ」


二カッと笑みを浮かべたダチの姿が目の前に浮かぶ。
彼の、虹村億泰のかけた言葉が一字一句違わずに耳から聞こえる。
『だからお前も人間だ。 頭がワリーから上手く言えないけど俺はそう思ってる』
育朗の心に勇気が満ちる、なおもふらつく体に力が滾る。
この言葉を嘘にはしない。
たとえ絶大な力を持った男を前にしたとしても。

「それだけか?」
「ああ、それだけだ。たった一つの言葉でしか無い。
 だが億泰君は笑いながらお前は人間だと言ってくれた。
 同情でも哀れみでもなく心の底から僕を人間と呼んでくれた。
 それだけで十分だ」

数時間も行動にしていない人間のたった一つの言葉。
ただそれだけ。
ただそれだけのことだというのは育朗自身も理解している。
しかし、それがなんだというのだろうか。
育朗の瞳は確かに前を向く。
黄金の煌きをたたえながら。
356創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:52:07.04 ID:NWKK0INL
支援
357創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:52:52.37 ID:344HqoHS
「気に食わねぇ」


育朗の耳にギリギリで届くか届かないかの呟き。
ここに来て男が初めて苛立ちを見せた。

「てめぇのダチみたいな物好きがどんだけいると思ってんだ?
 他の連中はきっと皆が皆テメェを化け物だって呼ぶぜ」
「それでも、誰に化け物と言われようと僕は、僕と億泰君だけは僕が人間だと信じ続ける!
 億泰君が信じた僕が僕を信じる、だから僕は人間なんだ!」

なおも本心を抑え嘲るような態度を崩さない男。
なおも男の言葉に抵抗を続ける育朗。
頑として譲ろうとはせぬ二人のにらみ合いが続く。
が、男の堪忍袋の緒がついに切れる。
クソと小さく毒づくと同時に全身の血管が浮かぶ。

「だからてめぇのその根拠もクソもねぇ考えが一体なんだって言ってんだよ!」

嵐のような咆哮が地下道の大気を大きく震わせた。
常人ならそれだけで殺せそうな威圧感という名の暴風を浴びながらも育朗は男を睨む。

「てめぇも億泰ってやつ正気か? お前みたいなのが本当に人として生きていけると思うか?
 断言してやるぜ、怪物の体はいつか誰かを殺しちまうな、ああ断言してやるよ。
 甘ったれは知らないかもしれないがな、手加減しても人の体なんて簡単に崩れちまうんだぜ。
 ああそうさ、どうやってもあっけなく死ぬんだよ人間なんてな。だったら怪物として生きるしか無い、違うか?」

感情をすべて吐き出すような、すべてを叩きつけるようなそんな叫び。
だが、育朗は男の叫びに違和感を感じた。
それはまるで自分自身の体験かのようで、自分自身に言い聞かせてるかのようで。
男から感じていた謎の匂いの正体。その片鱗を理解した。

「もう一度言ってやるよ。俺たちはもう戻れないところまで来ちまったんだ。
 どうしようもねぇんだよ、ああ、クソッタレ!」

"俺たちは”
決定的な言葉。
育朗の浮かべていた表情が険しいものからハッとしたものへと転じる。
男が苦々し気な表情で舌を打つ。

「チッ、余計なことを言っちまったか」
「あなたも……なんですね」

目の前に立つ男が抱えている闇。
それはこの殺し合いに呼ばれた直後の育朗が抱えていたものと同様のもの。
理解した。理解することができた。

「ああ、下らねぇ話もここで終わりだ。最終通告だ、どきな。
 さもなくば……殺すぞ」

今までの物とは質が違う殺意が育朗を襲う。
一瞬も怯むこと無く重厚なそれを正面から受け止め、彼は考えた。
358創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:53:39.12 ID:NWKK0INL
支援
359創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:54:19.45 ID:344HqoHS
目の前で荒ぶる彼は億泰君に出会えなかった僕なのだと。
行く先のない迷いや苦悩を諦めることで片付けてしまったのだと。
だから、そう、だから。

「あなたに人を殺させるわけには……いかない!
 ここで僕が、止めてやる!」

僕の言葉と同時に飛んできた豪腕。
屈むことによって辛うじて避けることが出来た。
そして同時に飛んでくる顔面を狙う蹴り。
横に転がることでこれも回避。
頬が切れ血が流れるもその程度は気にしていられない。

圧倒的な身体能力の差。
躱すだけでは勝てない、いや、躱し続けることすら出来るかわからない。
どうすれば、いや、分かっている。


彼を止めるためには僕も変身しなければならない。


だが、意図的にコントロール出来ないこの力では。
制御のきかないこの力では。
……彼を殺してしまうかもしれない。

それでは駄目なんだ。
殺すんじゃない、それに止めるんじゃない、彼を……助けなければならない。

『恐怖をわがものとせよッ 怪物よッ!』

突如脳裏に過ぎった重低音。
ホテルで戦った男からの忠告。

『恐怖をわがものとせよッ 怪物よッ!
 今のお前は何物にも成れん、哀れな生き物でしかない。
 何のために戦うのだ? 誰のために戦うのだ? 誇りを持たぬ戦いなんぞ、犬のクソに劣っておるわッ』
360創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:55:36.10 ID:NWKK0INL
支援
361創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:55:37.94 ID:344HqoHS
誰のため、何のために戦うのか。
僕はまだ決めかねていた。
この殺し合いを止めるため? 人々を助けるため。
そうだ、それも大事だ。
けど、けど今僕がやらねばならぬのは、僕の戦う目的は。



「僕が、僕があなたを人間だと信じる! だから……」




眼の前にいる男を止めることだッ!彼の手を差し伸べることだッ!
何があっても彼の手を握ってみせる。
逃げようとも暴れようとも彼の手を握りしめて絶対に離してなんかやるものか。
ダチが教えてくれたこと、今度は僕が彼に教えるんだ。
僕の力はこのためにある!



だから……。



僕は僕の中の怪物を制御してみせる。
僕は人間なのだから。
僕のことを信じてくれるた人間がいるのだから。
そのために恐怖を克服してやる!
怪物を克服してやる!





「あなたも自分が人間だと信じてくれ」




さぁ、僕に力を―――――貸せ!!!
362創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:57:08.92 ID:NWKK0INL
支援
363創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:57:28.41 ID:344HqoHS
バル
      バル      バル
     
   バル     バル
 
 バル   バル     バル
 
    バル            バル



体が作り変えられていく感覚の中、スミレと億泰君が笑っていた。
「よく言ったわ育朗」「よく言ったじゃねぇか育朗」二人してそう言って笑った。
そんな気がした。



億泰君、スミレ……ありがとう




バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル





バオーは、いや、橋沢育朗は思った。

目の前の男から発せられている嫌なニオイを消してやるッ!
強く感じられるこの"悲しみ”のニオイを消してやるッ!



【D-5 地下/ 1日目 午前】

【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:バオー変身中。全身ダメージ大(急速に回復中)、肉体疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊
0:億泰君、ありがとう。スミレ、ごめん。僕は僕の生きる意味を知りたい
1:眼の前にいる男の悲しみのニオイを消す
2:それが終わったら少年(ビットリオ)を追う
[備考]
1:『更に』変身せずに、バオーの力を引き出せるようになりました
2:名簿を確認しましたが、育朗が知っている名前は殆どありません(※バオーが戦っていた敵=意識のない育朗は名前を記憶できない)
3:自身のディバッグはビットリオに取られましたが、バイクの荷台に積んであったビットリオの支給品はそのままです
  ワルサーP99(04/20)、予備弾薬40発、基本支給品、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾・黒煙弾×2)
4:バイクは適当な位置に放置されています
364創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:58:08.04 ID:NWKK0INL
支援
365創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:58:24.59 ID:344HqoHS
【レオーネ・アバッキオ】
[スタンド]:『ムーディー・ブルース』
[時間軸]:JC59巻、サルディニア島でボスの過去を再生している途中
[状態]:健康
[装備]:エシディシの肉体
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:護衛チームのために、汚い仕事は自分が引き受ける。
1.目の前の男を倒す?殺す?
2.殺し合いにのった連中を全滅させる。護衛チームの連中の手を可能な限り、汚させたくない。
3.全てを成し遂げた後、自殺する。
【備考】
※肉体的特性(太陽・波紋に弱い)も残っています。 吸収などはコツを掴むまで『加減』はできません。

406 :Wake up people! ◆m0aVnGgVd2:2012/12/08(土) 22:56:13 ID:mX4RIBk.
投下完了です。
代理投下してくれている方、本当に有難うございます、感謝です


代理投下完了
366創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 23:01:20.44 ID:NWKK0INL
投下乙でした

化け物の体を持つ人間二人の行く末が気になります
367Wake up people! ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/08(土) 23:01:54.40 ID:grJztDMK
代理投下お疲れ様でした本当にありがとうございます。
支援をくださった皆様にも感謝です。
では、誤字脱字その他指摘があれば遠慮なくお願いします
368創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 23:45:30.70 ID:v3IPBBPm
>手の甲で口からわずかに漏れた口を拭う。

口→血?でしょうか?
369創る名無しに見る名無し:2012/12/09(日) 13:15:07.75 ID:pZyWbQPh
投下乙です。

人間辞めたって、友達は出来る!
370創る名無しに見る名無し:2012/12/14(金) 15:19:12.05 ID:9aSLxK+J
wikiのほう、『虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜』と『愛・おぼえていますか』で、
数箇所に変な改行が入っていたり、をが重なっていたりしてるけど、勝手に直していいのでしょうか?
371 ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/20(木) 22:02:30.49 ID:fooQn0P/
それではレオーネ・アバッキオ、橋沢育朗 投下します
372タチムカウ〜狂い咲く人間の証明〜 ◆m0aVnGgVd2 :2012/12/20(木) 22:04:19.16 ID:fooQn0P/
体の主導権をよこせ。
怪物がそう囁く。
力いっぱいに拒絶する。
明け渡してなるものか。
奪われてたまるものか。
たった一つ残された意志をくれてやるわけにはいかない。
心の中、自分と怪物だけに聞こえる声で抗った。
尚もしつこく迫る怪物。
思わず持っていかれそうになる。
だが、それでも決して折れない。
己の内から怪物を消さんと強く念じる。
幾度も侵略者への拒絶を繰り返し、彼は自身を守ることに成功した。





★  ☆  ★


  
373創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 22:36:51.85 ID:0/GrSLwl
支援
374創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 22:46:17.67 ID:kHJ1XE9L
不思議な感覚であった。
視覚でもない、聴覚でもない、嗅覚でもない、触覚から全ての情報が流れこんでくる感覚。
未知の経験に多少戸惑う育朗であったが、目の前から感じる"におい”で即座に我に返った。
変身前よりも遥か濃厚に感じられる悲しみのにおい。
殺意のように突き刺す様な刺激はないものの、深く絡みつくようでいてどこか儚さを感じさせるにおい。
不快だった。これ以上感じていたくないものだった。
だから橋沢育朗は改めて誓う。
このにおいを止めてやると。

「ほぅ、それがてめぇの本性かよ怪物」

爬虫類のような質感をした蒼い肌。
顔の各所に無数に走るひび割れ。
額の少し上に生えた触角。
塞がれたかのようになっている左目。
見るからに硬そうな波打つ髪。
長く伸びた爪。
発達した筋肉。
人ならざるにおい。

「俺よりもずっと人間離れしてるくせに、あんなでかい口叩くなんてな」

男が嘲るかのごとく笑う。
バオー、いや、橋沢育朗はそれに応えようと口を開く。
しかし、唇から漏れたのは『バル』という意味の持たぬ言葉だけ。
この形態では喋ることができない。育朗はそのことを初めて理解した。

「来いよ怪物が。相手するのは面倒だが、邪魔されるともっと面倒だからな」

露骨過ぎる挑発。
分かっていながらも育朗の両足は激しく大地を踏みしめた。
一瞬の交錯。
突き出された育朗の右拳を男が握って止める。
男が不敵に笑った。
力任せに、無造作に育朗の体を持ち上げ、地面へと叩きつける。

小規模なクレーターが生まれた。

育朗が苦しげな呻き声を出し、僅かに血を吐く。
が、男の脚が迫ってきていることを感知し、咄嗟に両腕で防いだ。
大きく浮き上がる体。
しかし、空中で体勢を立て直す。
吹き飛ばされた先にある石壁を蹴って男へと肉薄。
油断した男の顔を思い切り拳で殴りつける。
男の体が盛大に仰け反った。
追撃を加えようとするも、嫌な気配を感じ一度距離を置く。
直後、顎のあった辺りを蹴り上げる一撃が空を切る。

「なるほど、考える頭はあるってことか」
375創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 22:47:13.16 ID:kHJ1XE9L
折れた鼻を指で無理やり元の形へと戻しながら男がつぶやく。
直感に任せて避けていなければどうなっていたのか、育朗の背筋に冷たいものが過ぎった。
だが、それしきで呑まれる彼ではない。
再度両拳を握りしめ、半身を向けるような構えを取る。
武装現象が使えぬわけではない。
本能のような物でうっすらとその存在を感じ取ってはいた。
両手首から出る万物を切り裂く刀、掌から放出される全てを溶解させる酸、あらゆるものを焼きつくす毛髪。
これらの能力が自身に備わっていることは知っていた。
だが、育朗はこれらの能力を使用しない。
殺傷能力が高すぎるため男を誤って殺害してしまう恐れがあるから?
もちろんそれもある。だが違う。
拳に思いを乗せるから。友が握ってくれた掌で思いを伝えるから。
だからこそ橋沢育朗は身体能力のみを武器に男へと立ちはだかる。

「オラァ!」

今度は男が先に仕掛けた。
急接近からの腹部に対するブローじみた一撃。
体を捻ることで外側へと回避し、その勢いを殺さず裏拳を放つ育朗。
だが、男が伸びきった腕を無理矢理開くように動かし、育朗の脇腹へとぶつける。
勢いが乗ってないためダメージは少ないものの体勢が完全に崩れた。
追撃として放たれた蹴撃。
育朗の肋から砕けた音が鳴る。
息が一瞬止まる。
それでも戦意を挫かれることはない。
怪我など負わなかったかのごとく着地し、瞬時に構えを取る。

「俺を止めるって言っただろ? やってみろよ」

語気とは裏腹に一層強まる悲しみのにおい。
育朗は立ち上がる。
止めなくては。
力尽くになってしまうかもしれない。
喋れない今、心を伝える手段は拳一つ。
が、悪くない。
言葉による説得が失敗した今、伝える手段としてはこれがいい。これしかない。
折れた骨がくっつくのを感じるとともに再度仕掛ける。

「バルッ!」

咆哮と共に放たれた牽制気味のジャブ二発。
当てるだけの軽いものとはいえ、バオーの膂力を考えれば必殺の一撃。
しかし、男も並の存在ではない。
胸板に拳をぶつけられるも、そんな攻撃はものともせずに男は距離を詰める。
育朗は咄嗟に膝を上げた。
男の腹に膝の先端が突き刺さり、表情が僅かに歪む。
生じた隙を逃す真似はしない。
右頬へと育朗の拳がめり込み、盛大に男は吹き飛ばされ、岩肌に頭をぶつける。
376創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 22:48:42.39 ID:kHJ1XE9L
普通ならばこれで決着がつく場面。
人間はおろか、吸血鬼ですら頭を砕かれ派手に血の華を咲かせていたであろう状況。
だが、相手の肉体はそんな脆弱なものではなかった。
超越種、柱の男のボディがその程度で壊れてしまうほど軟なものであるはずがない。

片手で頭を抑えながらも男は平然と立ち上がった。
あの一撃でも決着どころか深手にもならない。
更に気を引き締めた育朗。
だが、彼の体が一瞬硬直した。
男の瞳に宿る今までとは違う色。
依然として頭を抑えている男の瞳に薄ら寒いものを感じた。


「わざわざ待ってくれるなんて優しいこったな」

が、頭から手を離し、軽口を叩くと共にその色は消え失せる。
育朗の首元を狙って放たれる横薙ぎの手刀。
腕を上げて防いだものの、男の腕が蛇のように絡みつく。
関節を完全に無視した動き。
振りほどこうともがく育朗の腹へと男の前蹴りが入る。
一発。
二発。
三発。
男も育朗も戦闘中の人外じみた動きは半ば本能的に行なっている。
が、この蹴撃は違う。
脳の持ち主が得意としていた馴染みのある攻撃。
肉体が覚えてなくとも頭が動きを覚えていた。
育朗が血を吐き出す。
が、四発目は入らない。
脚に意識がいって力が緩んだ隙を狙って育朗が無理矢理絡んだ腕を振り払った。
そして飛んでくる足の側面へと自分の脚を叩きつける。
男の膝から骨の先端が突き出した。
バランスを崩し、倒れる男をよそに後ろへと飛び退いて距離を置く。
追撃の好機ではあるが、自身の内蔵へのダメージを考慮して回復を優先。
377創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 22:49:37.99 ID:kHJ1XE9L
負傷の度合いの差か回復力の差かは分からないが先に再生が完了したのは男の方。

一飛びで距離を縮め、猛然と両腕を突き出す。
形容するならばそれは拳の嵐。
育朗もガードに専念するも、内蔵への損傷が癒え切っていない体である。
反撃の糸口を掴めないどころか、徐々に押し切られていってしまう始末。
最初は勢いが殺された攻撃、そしてそれを皮切りに次から次へと直撃する防御をすり抜けた連打。
硬質化した皮膚がある程度の攻撃は防ぐ。
だが、当たりどころが悪ければ骨折は不可避。
飛んでいく育朗の体が男の射程から離れる前に負った損傷は数知れず。


それでも彼は立ち上がる。


またしても猛追する男。
今度は距離を取ることを意識しつつ後退しながら捌いてゆく育朗。
ひび割れた骨がくっつき、折れた骨が正しい位置に戻り癒着、粉砕した骨が急速に新しいものへと生まれ変わる。
が、それも途中で終わった。
男に頭を掴まれ、そのまま岩壁へと押し付けられる。
育朗を中心に亀裂が入り、衝撃で天井からパラパラと小石が落ちた。
半ば埋まる形になった育朗に男は追撃を仕掛けようとしない。
待つこと数秒。
壁から体を引っ張りだした育朗。


それでも立ちはだかる。


まるで傷など負っていないかのように振る舞う育朗。
だが頭への衝撃が影響をもたらさないわけがない。
男の顎を狙った蹶り上げに全く対応できず、育朗は天井まで飛ばされた。
ぶつかった衝撃で洞窟内が大きく揺れ、照明が幾つか砕ける。
降り注ぐガラスのシャワーになど目もくれずに育朗を凝視する男。
しばし天井に張り付いていた彼もやがて重力に引かれて落下。
受け身をとることすら許されず、盛大に地面とキスをする羽目となった。
だが、彼は諦めない。


立ち向かう。
378創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 22:50:31.42 ID:kHJ1XE9L
それはあたかも先ほど変身する前の育朗が行ったことのリピート。
傷つき、立ち上がる。
ただそれだけの繰り返し。
いくら痛めつけられようとも諦めないその姿は依然として変わることが無い。
しかし、たった一つだけ変わったものがある。
それは男の心情。
男の心中を占めるのは苛立ちではなく疑問。
諦めの人生を送ってきたと感じている彼にとっては不思議だった。
いつも途中で投げ出してきたと思い込んでいる彼にとっては謎だった。
自分は何も成し遂げられないのだと常に考えてきた彼には理解できなかった。
今までとは違う棘のない声で男は尋ねる。

「なんでてめぇはそこまでして立ち上がろうとするんだ?
 いくら一人で肩肘張ったところで他の連中どう考えるかぐらいは分かるだろ?
 諦めちまえよ。なぁ、おい。無理する必要はねぇと思うんだがよ」

何を今更。
男だって分かっている。
こんなことを言ったところで目の前の相手が折れるはずないのだと。
なのに聞かずにはいられなかった。

「無駄になるんだぜ? いくら頑張ろうとも認められなきゃ終わりさ。
 例えば誰か一認められたとしてもだ。
 周りいる人間が一人でも怪物だって言えば他の連中はそれに追従するだろうよ。
 てめぇはどう思って……そんな苦労を背負い込んでいるんだ?
 いや、答えなくていい。わかってるさ」

ああ、これもだ。
聞くまでもない。
自分が人間だと強く信じているから。
無駄になるとしても、諦めたら最初から可能性を失うから。
諦めたら終わりだから諦めない。
そんな笑ってしまうほどシンプルな解。
されど彼にとってはずっと掴みかねていた難解な答え。
男の中にある靄がわずかに晴れた。
そして生まれ来る一つの願望。

「遠慮してんだかなんだか知らねぇが本気で戦ってないってことは分かってんだぜ?
 はっ、なめられたもんだな俺も。手加減なんてやめてかかってきな怪物。
 てめぇの理想も力も無駄だって俺が教えてやるからよ」
379創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 22:51:55.73 ID:kHJ1XE9L
育朗が完全に回復をしたことを確認して男はニヤリと笑う。
次の瞬間には男の姿は消える。
フェイントも牽制も一切ない正面切った渾身の拳。
胸に突き刺さったそれによりまたしても育朗が口端から血を流す。
後ろに飛ばされていきそうになる体。

が、両の足を踏ん張ってそれを堪える。

結果、数メートルの後退で育朗の体は止まった。
そして彼も派手に大地を蹴り、開いた距離を加速に利用。
お返しだと言わんばかりに固く握りしめた拳を鼻っ柱へ。
初めて見せる一切の手加減を抜いた一撃。
男の上体が派手にのけぞった。

だが、堪える。

育朗の全力は予想以上のものだが、それでも踏ん張る。
仰向けに倒れたりなどすることなく、ギリギリで体勢を維持した。
反った体を戻す勢いを利用して自身の額を育朗の脳天へとぶつける。
頭への攻撃に僅かにふらつく育朗であったが、即座に男の腹へと拳を叩き込んだ。
体が僅かに浮き、吐き気が起こるも、それを無視して同じ箇所への同じ攻撃。


ガードなど無い。
一撃貰えばそれよりも強烈な一撃を返す。
身体能力の優劣など関係ない。
勝敗を決めるのは意志を押し通すというエゴと意地。
殺意などはない。
純粋に互いをぶつけあうだけ。俺を/僕を認めろと拳で叫ぶだけ。


肉が裂け、骨が砕け、血が流れる。
二人の回復力などとうに追いつかない。
折れた腕を直せば頭に大きな裂傷が生まれる。
内出血を止めれば今度は腿の動脈が破裂する。
砕けた鼻を修復すれば脛骨にヒビが入る。
血で鈍った感覚器官を正常に働かせれば次は内蔵が血を流す。


どんな重傷を負ってもこの二人は止まらない。止められない。
言葉ではダメだった。
ぶつけあう事でしか会話ができなかった。
男が今までとの皮肉げなものとは違う笑みを浮かべた。
育朗の唇が気のせいではないかと思うほど僅かに動いた。
捻くれ者の男が感情を思う存分発散できた。
今まで本心を見せなかった男が初めて心を開いた。
だから二人は戦いをやめない。
本来ならばこのような事をするはずのない両者がひたすらに殴りあう。
嬉々としながら互いの体を傷つけあう。
いや、彼らにとってそんな考えは微塵もない。
会話をしているのだから。
ぶつけ合いにしか過ぎない不器用なものにしろ、それは確かに会話なのだから。
380創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 22:53:08.84 ID:kHJ1XE9L
「まだやるか?」


血だるまとなった男が尋ねる。
当然と言わんばかりに育朗が拳をぶつけた。
育朗の返事に男は満足気に拳で返す。
怪物の体を持っていたはずの両者。
だが、その肉体にも限界は近い
丸太のごとく太くなった脚が笑い始め、小刻みに震える
無尽蔵であるはずの体力は枯渇しかけ肩で息をする始末。

「いいかげん、倒れやがれ!」

男が吠えた。
放とうとするのは体力の消耗も全身の負傷も関係ない、これまでで最高の一撃。
踏み込んだ足によって地面が沈む。
残像を見ることすら許さぬ体の捻り。
育朗が眼の前にいるはずの男の姿を完全に見失う。
風圧で髪が揺れるのを感じた。
次の瞬間。
間髪入れずに襲い来る衝撃。
心の臓が上から潰される感覚。
膝を付きそうになる。
意識が遠ざかる。
力の抜けた脚がガクンと曲がった。
が、踏みとどまる。
体に土をつけるものかと耐える。
男の口元が僅かに動いた。



「ああ、俺の負けか……」



呟いた直後、全身へと伝わる衝撃。
男の巨体が仰向けに倒れていく様をスローモーションで眺め、育朗は勝利の咆哮を上げた。
まだ説得は終わっていないのも分かっている。
自分の意見を完全に押し付けることができたわけではない事は理解している。
それでも育朗はただただ叫んだ。





★  ☆  ★
381創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 22:54:03.51 ID:kHJ1XE9L
「分かってたさ、言われねぇでも分かってんだよ俺だってな」


そう言いながら男は上体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。
今までの荒んだ空気が霧散し、男の周りに穏やかな気配が流れていることを育朗は感じ取った。
だから男と同様 構えを崩し、彼の言葉一字一句に耳を傾ける。
そして、育朗は変身の解除も行う。
バオーの状態では言葉を発そうと思えど不可。
この場では戦闘力よりも対話が必要と考えたゆえの判断。
初めて経験であるが、開始時と同様にスムーズに行うことができた。
自分の体が戻ってゆく感覚を味わいながらも男の言葉を聞き逃すまいと神経を尖らせる。

「まだ俺が人間をやめきれてねぇからこそ、こんなことを考えちまうってことはなぁ。
 だが一つだけ言ってやるぜ。この体の主食は人間だ。
 他の食いもんで代用が効くかどうかは分からねぇが、ダメだったら俺は生きるために他人を喰わなきゃならなくなる。
 いや、既に一人食っちまったんだよ俺は。人間をな。
 それでもお前は俺を人間と呼ぶか? 人食いの怪物のことをよ」

人間をやめられないからこそ、人間を喰ってでも生き延びることができない。
最後に残されたこの矜持を捨ててしまえばもはや怪物そのものなのだから。
しかし、食物を食べずに死ねなどとはそれこそ死んでも言うことができない。
育朗は理解した。
男が抱えている絶望の一端を。
それは表面上の薄っぺらい一部に過ぎないのかもしれない。
真に共感できるのは男と同様の境遇になったものだけかもしれない。
それを理解しつつ、それでも育朗はイエスと叫ぶ。
穏やかでありながらもハッキリと叫ぶ。

「ああ、僕はそれでも貴方を人間と呼ぼう。
 人を食べたと言っているけど、貴方は後悔している人だ。
 事情は分からない。だとしても命を奪ったことについて開き直れないなら、まだ怪物じゃない。
 それに、もしも人を喰わねば生きてゆけぬのなら……その時は僕の体を喰えばいい」

バオーの回復力を以ってしてもトカゲの尻尾のように切断した四肢が再生するかは分からない。
しかし、再生可能な程度に肉を抉るくらいならば幾らでも構わない、育朗はそう考える。
苦痛が伴うのも承知の上、覚悟の上。
男が感じている痛みを考慮すればそれしきの痛みを躊躇する訳にはいかない。

一瞬だけ感じた疑問。
なぜ、育朗は自分のためにこんなにも必死なのだろうか。
問いかけずにはいられなかった。
答えなどとっくに出ているのに。

「どうして俺のためにそこまでする?」
「なぜって? 僕も貴方も人間だからだ」
382代理:2012/12/20(木) 23:30:29.21 ID:0/GrSLwl
.



間髪入れず返された答え。
想定と一字一句違わぬそれに思わず苦笑が漏れる。

「言うと思ったぜ。クソッ、てめぇのしつこさには負けたよ」 

半ば吐き捨てるように喉から出した言葉。
悪態をつきながらも発した降参の言葉。
育朗の表情が綻んだ。
心底から嬉しそうな笑みを浮かべる。
男もそんな育朗へと静かに歩み寄った。
殺気も敵意も感じないため、育朗は警戒を見せない。
一メートル程まで近づいた男が自身の顔を育朗のそれの正面へと寄せる。
そして、男は育朗の双眸を凝視したまま囁いた。

「だが、最後に聞いておくぜ。もしも俺が暴走したら、どうしようもない状況になったら……殺してでも止めてくれるか?」

硬直。
男の瞳は視線を外すことを許さない。
僅かな逡巡の後、育朗は小さく首を縦に振った。
しかし、その瞳に強さはない。
肯定の意志に嘘はないのは理解できた。
が、それでも躊躇うのだろう。
男は思わず鼻で笑う。

「底抜けの甘ちゃんだぜ、てめぇ」
383代理:2012/12/20(木) 23:36:08.22 ID:0/GrSLwl
.
 

腹部に一撃。


崩れ落ちる育朗。


世界が黒く反転する。


肉体的な苦痛などどうでもいい。


最後に見たのはどこか寂しげな男の瞳。


それが気になるもこれ以上の思考は不可能。


石段に叩きつけられる感覚と共に完全に途絶えた意識。


ピクリとも動かなくなった青年を見下ろしつつ嘲笑の声を上げた男。





「これで邪魔も入らなくなったしなぁ。さっさとあいつを殺しに行くとするか」









★  ☆  ★
384代理:2012/12/20(木) 23:40:04.37 ID:0/GrSLwl
.
 

「うぅ……」

呻き声を上げながら育朗が体を起こす。
気絶する前に起きたことを忘れていたのかしばし呆然とするも、直ぐに我を取り戻し警戒態勢に入る。
男は自分を殺さずにどうしたのか。
男が見せたあの瞳は一体何だったのか。
男が吐いた言葉の真意とは。
分からないことだらけの中、辺りを見渡すと、棒立ちで立ち尽くす男の姿を見つけた。

「よかった」

育朗は思わず息を漏らす。
ビットリオの殺害に向かったのではないかという懸念が無くなったことに心の底から安堵した。
だが、ピクリとも動こうとしない男はどう見ても尋常な様子でない。
彼が何を考えているのかが一切理解できぬ育朗は恐る恐る声をかける。

「あの……」

返事がない。
それもビットリオの様に完全な無視を決め込んでいるのではなく、銅像の様に動かない男。
鍛えぬかれた肉体美もあり、その様は古代の彫刻であるかのごとき神々しさを放つ様は本当に人間離れしていると今更ながら思ったものの、今はそれどころではない。
育朗が二度目の呼びかけを行おうと手を伸ばした、その瞬間。
385代理:2012/12/20(木) 23:44:13.77 ID:0/GrSLwl
.

「あー、その、なんだ」

どこかバツの悪そうな表情を浮かべ、男が口を開いた。
敵意の欠片すら見えない事に育朗の表情がわずかに綻ぶ。
思いが通じたのだと。
今の戦いは無駄ではなかったのだと。
そんな育朗の様子など知らなかったように男は言葉を続ける。

「今から俺が喋る内容は、いや、俺が自分のスタンドに喋らせるのはいわゆる遺言ってやつだ。
 一応事情を説明しておいてやるが、俺の怪物の体はこの殺し合いで手に入れたもの。
 簡単に言えば怪物の体に奴のものと交換する形で俺の脳を移植してこんな体になっちまったんだ俺は。
 で、問題はこれからだ。
 お前が変身し始めた辺りから脳が無くなって死んだはずの怪物が囁くんだよ、『俺の体を返せ』ってな。
 俺だって抵抗したがよぉ、無理だった。
 戦ってる中で徐々に俺の脳が侵食されていく感触ってのがハッキリしてきやがるし、声もどんどん大きくなりやがる。
 だから、こいつを道連れに死ぬことを決めたのさ。そうするしかないんだ、仕方ねぇって話だな。
 幸い太陽に弱いって弱点があるらしいからな。自殺も簡単でありがたいこった」

育朗の表情が凍りついた。
男が自ら命を断つ。
理由は確かに納得できるもの。
しかし、自分の言葉は拳は無駄だったのか。
絶望の影が姿を現したところで男は言葉を続ける。

「だがな、勘違いするなよ? 俺はヤケクソを起こして死ぬわけじゃないんだ。いいか、ここは間違えるなよ?
 俺は人間である誇りのために死ぬんだ。
 おめおめ怪物にもう一回乗っ取られるなんて真っ平御免だからな。
 おっと、むしろヤツが自分の体を取り戻すってのが適当か? いや、そんな話はどうでもいいな。
 とにかくだ、もう一度言うぜ。俺は人間だからこそ、この怪物を抱えたまま死んでいく。
 任務でも仲間のためでもねぇ、俺のために、人間としての誇りってやつを守るために。
 これがレオーネ・アバッキオとしてできる最後で最大の抵抗ってやつだ。
 お前のおかげで俺は人間として最期を迎えることができた。
 最後まで甘い理想論ばかり言いやがっていけ好かないやつだったが、これだけは感謝しといてやるぜ。
 どうせクソ真面目そうなお前の事だから、俺の死についてグダグダ悩むんだろうが、馬鹿馬鹿しいから辞めときな。
 俺がやるべきだと思ったからやった、それだけは勘違いするなよ?
 お前の言葉で思いつめた俺がこんなことしたなんて調子乗ったこと考えてんならあの世で笑ってやるよ。
 いいか? 何度でも言ってやるぜ? 確かに切っ掛けはお前かもしれないが、決めたのは俺だ。
 生憎てめぇみたいな糞ガキの言葉に一々感激しましたなんてハッピーな野郎じゃないんでな俺は。
 それと、最後の質問についてだが深く考えなくていいぜ。
 てめぇのことは自身で決着を付けなきゃいけねぇのは分かってたんだ。
 押し付けたりするなんて恥ずかしい真似ができてたまるか」
386創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 23:47:49.36 ID:RkDmVOgy
 
387創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 23:48:19.74 ID:RkDmVOgy
  
388創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 23:49:43.50 ID:RkDmVOgy
  
389創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 23:50:22.11 ID:RkDmVOgy
    
390代理:2012/12/20(木) 23:50:51.52 ID:0/GrSLwl
.
  
少なくとも自身の行動がアバッキオに多少なりとも影響を与えることができたのだと知り、暗闇が晴れることを確かに感じた。
そのことに感謝するも、男が喋る間、育朗は一切声を発さない。
これは記録であってレオーネ・アバッキオ本人ではないのだから
厳しい言葉も優しい言葉も全て心に刻まんと耳を傾ける。

「それで、だ。一応遺言らしいこともやっとかねぇとな。
 まず、俺の足元にディバッグを置いといたからうまく使いな。
 次に、ブローノ・ブチャラティ、パンナコッタ・フーゴ、グイード・ミスタ、ナランチャ・ギルガ、トリッシュ・ウナ。
 ……それとジョルノ・ジョバァーナってやつに出会ったらレオーネ・アバッキオがよろしく言ってたと伝えといてくれや。
 ブチャラティ以外は全員一癖も二癖もある連中だが、お前の力になってくれると思うぜ。
 それに、お前を人間だとすんなり認めてくれるだろうよ、俺とは違ってな」

ちらりとアバッキオの足元に目をやると確かにディバッグが置いてあった。
だが、まだそれは拾わない。
アバッキオが告げる仲間たちの名を頭で何度も反芻し、決して忘れぬように刻む。
そうしていると、再びバツの悪そうな表情になったアバッキオが僅かに困ったかのような声を出した。

「適当に気絶させたからお前がいつ起きるか分からねぇんだよな。
 こんだけ長々と喋っといて聞き逃してましたってんじゃ笑い話だ。
 やっぱりらしくねぇことなんてやるもんじゃねぇ。
 リプレイ中に起きた時の事を考えてここで改めて言っておく。
 これは俺のスタンドが再生してる俺の遺言だ。
 怪物が俺の体を乗っ取ろうとしてどうしようもないから、ヤツを道連れに死ぬことにした。
 てめぇに責任はないからくれぐれも勘違いすんなよ? 一応感謝はしてるんだぜ俺も。
 これ以上喋ってると俺が生きてるうちに終わらないからそろそろ終わりにするぜ。
 言わねぇでも解ってると思うが、頑張れよ。俺の分もな。」
391創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 23:51:33.21 ID:RkDmVOgy
  
392代理:2012/12/20(木) 23:52:18.66 ID:0/GrSLwl
.  
   











――――――あばよ、人間
393代理:2012/12/20(木) 23:55:57.44 ID:0/GrSLwl
.
 
そう言い残して男の姿が徐々に粒子状へと変わり溶けてゆく。
スタンドの消失が命の喪失とつながっている事を育朗は知らぬが心で理解した。
目の前にいた"人間”はたった今その生命を落としたのだと。
誇り高き人間はそのプライドを失うことなくケジメをつけたのだと。
アバッキオがそうせねばならなかった理由は痛いほど理解できた。
しかし、それでも、それでも育朗は少しだけ気分が沈む。

「僕は……結局手を握ることができなかったのか?」

自分の言っていることが全くの間違いであるのは理解できている。
アバッキオの残した言葉が全て嘘でないと、育朗の言葉は確かに届いていたのだということは分かる。
だが、そう割り切るには育朗はあまりにも真面目であり、優しすぎた。

「すみませんアバッキオさん。僕はまだ自分に一切の責任がないと言えるほど強くないんです。
 もしも僕にもっと力があれば、もしも僕がもっと上手く言葉に出来れば。
 そんな後悔ばかりしてしまいます、本当にごめんなさい」

天に昇った人間へと己の弱さを詫びる。
育朗に残った唯一の誇りは涙を見せないこと。
時折悔しそうに地面を眺めるものの、決して歩みを止めることはない。

「強くなります。もっと、今度はこんな後悔しないようにもっともっと。
 絶対に立ち止まったりしない。それだけは約束します。
 これは……あなたが人間と認めてれた僕の誓いです」

だから、僕がそっちへ行ったときは許してください。

最後の小さな呟きは地下道に溶けて消えた。
ビットリオを追わなくてはならぬ以上、長々と感傷に浸る訳にはいかない。
アバッキオの遺したディバッグを拾い上げ、放置していたバイクへと歩み寄る。
一時は近づきながらも結果的にそことは逆方向へと進んでしまったドレスの研究所が気にならないわけではなかったが、今は少年の保護を優先。
音や匂いが探知の邪魔をするのを防ぐためエンジンはかけずに今まで通り押しながら進む。
その最中、育朗はふと天を見上げた。
空が見えた。
無機質で冷たい色をした岩肌などではない。
日差し降り注ぐ明るい空が。
彼が最期に見たであろう景色が。
青く澄み渡った今にも落ちてきそうな空が。



【エシディシ 完全消滅】
【レオーネ・アバッキオ死亡 残り66名】


.
394タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◇m0aVnGgVd氏代理:2012/12/20(木) 23:59:44.53 ID:0/GrSLwl
名前: タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◇m0aVnGgVd氏代理  ◆yxYaCUyrzc
E-mail: sage
内容:
【D-5 地下/ 1日目 昼】

【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:バオー変身中。全身ダメージ大(急速に回復中)、肉体疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:バイク、基本支給品×2、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾・黒煙弾×2)
    ワルサーP99(04/20)、予備弾薬40発、地下世界の地図、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊
0:億泰君、ありがとう。スミレ、ごめん。僕は僕の生きる意味を知りたい
1:少年(ビットリオ)を追う
[備考]
1:『更に』変身せずに、バオーの力を引き出せるようになりました
2:名簿を確認しましたが、育朗が知っている名前は殆どありません(※バオーが戦っていた敵=意識のない育朗は名前を記憶できない)
3:自身のディバッグはビットリオに取られましたが、バイクの荷台に積んであったビットリオの支給品はそのままです



***
以上で代理投下終了です。
人間ではない二人が人間を捨てきれず。人間であることを誇りに思いながら拳をぶつけ合う。魂が震えました!
次回作にも期待です。
395代理 ◆yxYaCUyrzc :2012/12/21(金) 00:01:24.84 ID:uZL/TpIU
キャーコピペニトリップツイテターハズカシー

改めて投下乙です。
そして週末には2ndのラジオがあるそうで。楽しみですなー
396創る名無しに見る名無し:2012/12/21(金) 18:20:12.05 ID:I6oR5/AF
投下乙です!燃える戦闘だった…!
そしてさらばアバッキオ…
自害したのは悲しいが、人としての誇りを守って散れたのは本望だっただろうな…
人間としてロワに立ち向かう育朗の今後にも期待
397創る名無しに見る名無し:2012/12/21(金) 18:45:12.47 ID:VuJEGy/e
こんな結末になるとは・・・・・・
アバッキオ、育朗・・・・・・二人とも最高だぜ
398創る名無しに見る名無し:2012/12/24(月) 18:00:50.78 ID:USTFG5li
投下乙!
化物を倒すのはいつだって人間だ
399◇4eLeLFC2bQ氏代理:2012/12/24(月) 18:45:42.55 ID:neDdfZ7W
 ジョンガリ・Aは白内障によってほとんどの視力を失ってはいるが、まったく目が見えないというわけではない。
 くわえて、卓越した狙撃手としての感覚と彼のスタンドで気流を読むことによって建物の位置や人の存在は察知できた。
 光ささぬその瞳は、常人が見えている範囲より多くの物事を見通していた。

 だが、彼はこの殺し合いの場において幸か不幸かでいった場合、不幸な状況にあった。
 地図や名簿といった薄っぺらな紙は彼になんの情報も与え得なかったからである。
 敬愛すべき主君も、幼き頃より見知っている神父も、この場にいるかすらわからない。
 放送を聞き終えた彼がまず情報を欲したのは、当然ことだといえる。

 空条承太郎と、その同族が最初のステージで死に、そして空条徐倫が死んだ。
 死んだ者がそれだけだったならば彼にとって疑問はない。
 この殺戮のゲームはジョースターの血統を根絶やしにするために行われており、なすべきことは参加者の殺害。
 そうシンプルな結論に落ち着く。

 しかし、あまりに死者が多すぎた。
 ンドゥール、そしてDIO様に似た空気をまとった青年の存在……。
 ジョースターの血統に仇なす者たちもまた同様に集められ、一緒くたに殺し合いを強要されているのではないか。
 そうなれば、と彼は考える。
 俺のすべきことはDIO様の護衛。
 二度とあの方を失わないチャンスがここには存在しているのだ。そのためにはまずあの方を見つけださなければならない。と。


 皆殺しか、情報収集か。


 ジョンガリ・Aは、その両方をとった。
 すなわち、情報を得つつ殺害を行う。

 放送を経て決心したジョンガリ・Aが察知したのは、南から北上する青年の姿だった。



   *   *   *
400◇4eLeLFC2bQ氏代理:2012/12/24(月) 18:48:59.45 ID:neDdfZ7W
――山岸由花子を放置するべきではなかったかもしれない。

 あらためて、現状を鑑み、花京院典明はそう考えていた。

 山岸由花子は空条承太郎を知らなかったようだが、このゲームにはジョースター家に類する者、そして彼らに関わりを持った人間が多く存在する。
 何名かはDIO様と空条承太郎がたどった「歴史」を知っているのだろう。
 つまり、間接的にも、空条承太郎の仲間は多く存在していることになる。
 DIO様の敵が多いということは、とどのつまり私が始末すべき敵が多いということを意味する。

 だというのに……!!
『花京院典明』という人間が『DIO様の敵である空条承太郎を抹殺しようとしている』。
 そのことを山岸由花子は知っている。
 山岸由花子が殺害をもくろんでいた広瀬康一はたくさんの仲間に囲まれていた。
 どうせ返り討ちにあうだろうと彼女を放置したが、彼女がなんの情報ももらさず死亡する確証はない。
 彼女は私のことを憎い相手と認識していただろう。空条承太郎に関係がある相手と出会った場合、私の情報を漏らす可能性は十二分にある。
 触れるだけで相手の記憶や思考を読みとる能力――そのようなスタンドも存在しないとは言い切れない。

『未来の花京院典明』は空条承太郎の仲間だったとアレッシーは語った。
 ジョースターの一味と信頼関係を築いていたのならば、彼らは自分を見て、仲間だと認識したかもしれない。アレッシーのように。
 現在の私には「仲間になった」という未来を知っているアドバンテージがある。
 空条承太郎や他の仲間の寝首をかけるステータスが私には備わっている。
 しかし、最初から疑われていたのでは不意を打てる可能性は大いに下がってしまう。


――あの方のお役に立ちたいと願ったのなら、どんなミスも犯すべきではなかったのに……。


 名簿もなかった状況では、本名を名乗るべきですらなかったのかもしれない。
 山岸由花子から信頼を得ようとしたところで、なんの意味もなかったのだから。

 山岸由花子は爆音の響いた方へ向かった。
 追いかければ、山岸由花子かあるいは広瀬康一とやらが殺されかかっている状況に間に合うかもしれない。
 広瀬康一を助けるふりをして山岸由花子を殺害すれば……。

 花京院典明の足は自然と北へとむかう。
 しかし彼は山岸由花子に追いつくことができなかった。


 先行させたスタンドの視覚が、ライフルを背負った長髪の男の姿をとらえていた。



   *   *   *
401◇4eLeLFC2bQ氏代理:2012/12/24(月) 18:56:22.53 ID:neDdfZ7W
「殺害を依頼した相手までリストに載せるバカがいるか……?」

 地図でいうところのF-8北側にある民家の一室で、男の嘆息が漏れた。
 そこは、しがないサラリーマンの住居とはにわかに信じられないような洋風二階建ての戸建て。
 川尻浩作が毎月13万円の家賃を支払い、家族と住んでいた家屋である。
 いまそこにいるのは、川尻浩作の格好をした川尻浩作ではない男。川尻浩作の心情を永遠に理解し得ないであろう男、ラバーソール。

 彼の指先はびっしりと文字が書き込まれた紙片を摘んでいた。
 陽に透かし、風に泳がせ、なんの変哲もない紙であることを確かめる。

「殺しの依頼にしちゃ、まぁ、いろいろと不自然だ、が……
 この紙切れ以外にはなんもねえようだしな」

 彼の視線の先には黄色いスライム状の物体の中でもがくハトがいる。
 ラバーソールのもとへ名簿を運ぶこととなった不幸なハトであった。

 この殺し合いのゲームが新しい依頼であり、参加者を皆殺しにすれば報酬が貰えると考えていたラバーソールにとり、『名簿』と放送の内容はやや予想外のものであった。

 依頼人にとっては、殺し屋だろうが一般人だろうが関係ねぇ。
 誰が誰を殺してもOKってことになる。
 そこから察するに、この殺し合いは誰を殺したかによって賞金の額が異なる。
 川尻浩作が100ドルだとして、空条承太郎は100000ドルってな具合にな。
 名簿にそれが載ってないのは不自然だが、『三日間生き残れ』ってのには説明がつく。
 三日間で殺した人間の賞金の合計額が生き残ってるやつに支払われるってわけだ。

 放送では空条承太郎と川尻しのぶ、そしてサンドマンとかいう野郎の名が呼ばれるのを期待したが、結果は惜しくも大ハズレ。
 死んだのは早人っていう、川尻浩作のガキだけだった。
 変装がばれ、珍しくヒヤっとする体験をしたわりに得たものはほぼ皆無。
『川尻浩作』と、もうひとりを喰ってやってからろくな目にあってねぇ。
 ったく、アンラッキーとしかいいようがないぜ。


ブジュル


 ラバーソールの苛立ちを反映し『黄の節制』が膨張する。
 もがいていたハトの姿は完全に飲み込まれ、動かなくなった。

 それにしても放送が終わってからしばらくたったが、誰もこの近辺を通りかからねぇ。
 やる気のあるやつらはすでにDIOの館なんかに行っちまってるってことか?
 それで、殺しあいなんてまっぴらだって臆病なやつらは、地図の端の方の施設でふるえてるわけだ。
 俺は? 当然、乗ってる側だ。
 泣きわめいて命乞いをするやつらを端から潰していくのも一興だが、すでに76人も死んじまってるからな。ここからは飛ばしていくぜ。

 とはいえ、問題は『誰』でいくかだな。
 空条承太郎もさっきのやつらも俺を追ってきている気配はないが、まだこの辺をうろついている可能性は捨てきれん。
 正直、空条承太郎のわけがわからん能力も、『黄の節制』をスパッとやっちまったサンドマンの能力も、ハンサムのラバーソール初の障害ってやつだ。
 俺の『黄の節制』に弱点はない。が、相打ちにならねえとも限らねぇ。
 見た目で警戒されるのは避けとくべきだ。


 となると…………。



   *   *   *
402◇4eLeLFC2bQ氏代理:2012/12/24(月) 19:34:32.72 ID:neDdfZ7W
「ジョナサン、僕から質問をしてもかまいませんか?
 吸血鬼や屍生人について、詳しいことが知りたいんです。
 たとえば、その化け物たちが呼吸を必要としない生物なら『エアロスミス』のレーダーでは感知できないかもしれない。
 レーダーで追えるのはあくまで二酸化炭素の反応だけですから。
 それに、君にとっては『スタンド』の方が信じがたいと思われるかもしれませんが、僕には吸血鬼や屍生人なんてファンタジーやメルヘンの中の存在としか思えないんです」
「そうだね、ナランチャにもきちんと伝えていなかったから、さっきは危なかった。
 ふたりは『石仮面』について、聞いたことは……?」

 E-6のアクセサリーショップの中では、主にジョナサンとフーゴの間で綿密な情報交換が行われていた。
 フーゴが第一に問いただしたのは、吸血鬼と屍生人について。
 彼がそれについて真っ先に触れたのには理由があった。
 ジョナサンにもナランチャにも伝えることのできない問題がフーゴにはあったためだ。
 すなわち、自分の知るナランチャはすでに死亡しているという事実と、吸血鬼は死者を蘇らせるというジョナサンの言葉。

 ナランチャが屍生人という存在だと、フーゴには到底思えない。
 しかしジョナサンの前で、『ナランチャ、君はすでに死んでいるはずだ』と、問題提起する勇気はどうしても持てなかった。
 ジョナサンの知らないジョースターの血統――時間軸の違いをフーゴは確信しつつある。
 それはジョナサンより進んだ時間から連れてこられたゆえに気付けたのであり、吸血鬼による死者の蘇りを信じるジョナサンに罪はない。
 それでも。
 ナランチャは屍生人などではないと、完全に否定できる材料をジョナサンの口から得たかった。
 確固たる証拠がそろってから説明したいと思ってしまう自分の弱さもフーゴは自覚している。
 アバッキオのことは保留するとして、なんの説明もなしに、ナランチャ同様死んだはずのブチャラティに、かつて『パッショーネ』に属していた者たちに出会えば、いずれはどこかで混乱が生じ、隙が生じる。
 ジョナサンは誤解から他人を殺めてしまうような人間には見えないが、仲間内でのいざこざの種は潰しておくべき、彼はそう考えていた。
 それに、吸血鬼、屍生人について詳しく知れば、アバッキオを救う手だてがあるかもしれない。

 ジョジョの夢をともに追う、誰も欠けることのない、ブチャラティチーム……。
 儚い夢とうしろめたい気持ちをかかえながらフーゴは話を続ける。



   *   *   *
403◇4eLeLFC2bQ氏代理:2012/12/24(月) 19:44:20.43 ID:neDdfZ7W
――エメラルドスプラッシュ


 弾かれた弾丸がどこか遠くの壁に命中し、鋭い音をはなった。
 花京院典明は舌打ちとともに神経をスタンドへ向ける。

――まさか、あの距離から撃ってくるとは思わなかった。

 北方300mはあろうかという距離から放たれた銃弾は、正確に足元を狙っていた。
 スタンドの視覚によって男の動向に気付くことができたから、どうにか銃弾を逸らせたものの、一瞬でも判断が遅れていれば骨もろともやられていたに違いなかった。
 男のものと思われるスタンドの存在は感知できていたが、それを介さない純粋なライフルによる狙撃。だというのに、おそろしく判断が早く、狙いは正確だった。

 接触を試みるか、ひとまず撤退するか。

 そうこう悩んでいるうちに、狙撃手は空薬莢を抜き、次の一撃の準備をし終えようとしている。

――見境なく撃ってくる相手と話が通じるとも思えない……。

 この狙撃手が山岸由花子を処分していることを願いながら、花京院は進路を南に取った。
 DIOへの忠誠――心中をともにする二人ではあったが、互いにそれを気付くすべはない。
 遮蔽物の多い道をジグザグに走行しながら、行く先へスタンドを先行させた。

 どうやら狙撃手は追ってきているようだ。
 脳漿までぶちまけそうな鋭い一撃が髪先をかすめ飛んでいく。

 いまや見慣れてしまったタイガーバームガーデンに突き当たり、東へまわりこむ。

 E-6の南側、スタンドの視界がガラス張りの建物の中に数人の影をとらえた。
 周囲に警戒しながらなにかを話し合っているようだ。

 正義感の強い人間ならば、銃撃を受け、逃げこんできた人間を無碍に扱ったりはしないだろう。
 うまく取り入り、狙撃手を撃退し、情報交換を行う。
 ジョースターに与する者ならば、そのまま仲間のふりをし、折りをみて一網打尽にする。
 彼らがこのゲームに乗り気な者たちであっても、こちらが無力なふりをすればまずは狙撃手への対抗を試みようとするだろう。
 狙撃手にとっての的は増える。
 どちらにせよ彼らに接触を試みるのは悪くない……。

 南東へと足を向けかけた花京院の目が、にわかに見開かれる。
 その目、いや、先行させた彼のスタンドの目がとらえていたものは、『己自身の姿』だった。



   *   *   *
404◇4eLeLFC2bQ氏代理:2012/12/24(月) 19:49:35.03 ID:neDdfZ7W
狙撃する瞬間において、筋肉を信用せず骨をささえとすることを信条としてきたジョンガリ・Aにとって、逃げ出した青年――花京院を自らの足で追うことは苦渋の選択だった。
 動けば動くほど筋肉は震え、骨はきしむ。
 遠距離から一方的に狙撃できるというライフルの利点をむざむざ手放す行為でもある。
 しかしこの数時間、誰にも会わずにきたことが彼を焦らしていた。
 地図のほぼ中央にいるのに、主君はおろか敵の姿さえ発見できずにいる。
 彼の周囲にほかに撃つべき相手の選択肢があれば、ジョンガリ・Aはリスクの高い行動を選択しなかったはずである。

 ジョンガリ・Aからの狙撃を起点とした無言の追いかけっこが続く。
 青年がスタンド使いであることはジョンガリ・Aもすでに気付いていた。
 銃弾をかわしたときの気流の乱れ、そして現在も逃げつつスタンドでなにかしようとしている。

 罠にはめられる前に追跡をあきらめるべきか……。
 ジョンガリ・Aがそう思ったときと、青年がつ、と立ち止まったのはほぼ同時だった。

 いぶかしんだ瞬間に『なにか』に足をとられ、ジョンガリ・Aの体勢が崩れる。

 膝を突き、地面に転がるのは阻止したものの、あっけにとられ、気流を読みとることをわずかな間、完全に放棄してしまっていた。
 我にかえって自分の失態に気付くもすでに青年の姿はどこにも見えない。
 
 足をとられたのがスタンドによる攻撃ならば、追撃があるはず……と構えるも、気流は朝靄のように沈澱しなにものも動き出そうとしない。
 かわりにバラバラとガラスが砕けるような音がほど遠くから聞こえてきた。

 音のした方へ向かうと、200mほど離れた建物の一階に、数人の人間が集まっているのが見える。
 大柄な男と、少年ふたりの計三人。
 さきほどまでは室内にいたため存在を見逃していたが、表のガラスが割られたことで彼らの姿がくっきりと気流に浮かび上がるようになっていた。

 どうやら青年がスタンドで表のガラスを破壊していったらしい。
 銃弾を弾くほどのスタンドならば、ガラスを割ることだって造作もないだろう。


――かわりの獲物を用意したとでもいいたいのか……?


 狙撃をかわされ、膝を突かされた青年のことは単純に憎らしい。
 だがどこにいったかもわからなくなってしまった青年と、襲撃に慌てふためく眼前の三人、どちらがよりDIO様に近いだろう……。

 あくまで冷静に、自らの目的を遂げる方法を、ジョンガリ・Aは模索し続けている。



   *   *   *
405◇4eLeLFC2bQ氏代理:2012/12/24(月) 19:59:42.26 ID:neDdfZ7W
「待てッ、花京院、俺だ!!」

「承太郎……! 君は、殺されたはずじゃ……」

 E-7中央付近の路地裏で、ふたりの『学生』が対峙していた。
『花京院』と呼ばれた青年は目を見開き、驚きの表情をしている。
 そこから10mほど離れ、呼びとめた手をゆっくり降ろしているのは『承太郎』と呼ばれた青年だった。

「ああ……確かに俺はあのとき死んだ。
 それは間違いない。
 だが俺はなぜかこうして生きている。それも事実だ」

「なにを言っているのかわからないが、本当、なのか……?」

 目深にかぶった帽子の下、『承太郎』の瞳が奇妙に光る。

「この滅茶苦茶な地図を見ればわかるだろう。
 俺たちスタンド使いの常識を越えるなにかが起きつつあるんだ。
 俺が死んだはずなのに生きていること、それが不思議でないようななにかが……」

『花京院』は絶句している。
 それを見た『承太郎』の口元がヒクヒクとひきつる。
『承太郎』――否、ラバーソールは笑いをこらえるのに必死だった。

 そうそう、こういう反応を待っていた。
 あいつらみてーな異常者に先に会っちまったせいでちっと自信をなくしていたが、俺の変装は完璧だ。
 一瞬の迷いもなく俺を敵だと断じやがった空条承太郎や、人の話を聞こうともせず撃ってきやがった野郎とは違う。人の話を吟味しようって態度。
 こういう態度が大事だぜ。

 化けた『本人』を見つけちまったときには肝が冷えたが、ジョースター一行に会えたのはラッキーってやつだ。
 ブヂュブヂュルつぶして、賞金ガッポガッポだぜぇ。
406◇4eLeLFC2bQ氏代理:2012/12/24(月) 20:07:48.14 ID:neDdfZ7W
「参加者の半数が死んじまってるって状況でお前に会えたのはラッキーだったぜ。
 ひとまず屋内に移動しないか?
 ここでつっ立ってるのは的にしてくれと言っているようなもんだ」

「……屋内に移動するのは賛成です。
 ですが…………」

「おう、じゃあさっさと……うぉッ?!!!」

 一歩踏み出したつま先から俺の上半身めがけて光弾が撃ち込まれる。
『黄の節制』の能力はどんな物理攻撃も無効化するが、衝撃でスタンドはぐにゃぐにゃ拡散し、『空条承太郎』の胸板には不自然なへこみができた。
 よくよくみれば足下にはかすかに発光する、なめくじが這った跡みたいな筋が走っている。

「情報を交換するのは、互いの立場が対等になってからだ。
 偽りの、空条承太郎」
「てめぇ、最初から気付いてやがったのか」

 驚きつつも親しげな雰囲気を出していた花京院の瞳がいっきに鋭く険呑の光を帯びる。
 さきほどの光弾も、すでに這わせていたスタンドからの攻撃のようだ。

「あなたが『私の姿』で歩いているところからすべて見ていた。
 それに気付かず路地裏に誘い込まれてくれるようなアホで助かったが……」

 どういうわけだか空条承太郎の姿に変装するところから見られていたらしい。
 どうしてこうも変装にひっかからないやつが多いのか。
 ラバーソールは自分の不運を嘆きたくなった。

「だがどうする?
 てめぇの貧弱なスタンドじゃあ俺には勝てねぇ。
 ドゥーユゥーアンダスタンンンドゥ!」

「理解していないのは貴様の方だ。
 人の話を聞いていなかったのか?」

「質問を質問で返すんじゃあねえ。
 てめぇ頭がいかれてんのか。
 俺のスタンドに喰われてオシマイなんだよてめぇはよぉ」

「確かに貴様のスタンドはなかなか攻略し難い能力をもっているらしい。
 変装するしか能がないスタンドだと考えていたので誤算だった。
 敵に回せば、私のスタンドでは勝てないだろう。『敵に回せば』、な」

 どうも雲行きがおかしくなってきやがった。
 たしかにこいつのスタンドは射程距離に優れていると聞いていた。
 俺の変装が偽物だと見破っていたならわざわざ近づかせる必要はねぇ。
 攻撃を仕掛けるにしろ逃げるにしろ、本体が俺に近づくことはなんのメリットもないはずだ。

 そのとき、ラバーソールの中で、奇妙に老けていた空条承太郎、川尻しのぶが夫に言った空白の半年間、それらが一本の線のように結びついた。

「まさか…………」

「ようやく理解したようだな。
 手を組まないかと言っているんだ。変装の能力を持つスタンド使い。
 私の敵は、空条承太郎だ」
407◇4eLeLFC2bQ氏代理:2012/12/24(月) 20:30:20.11 ID:neDdfZ7W
 花京院典明と『空条承太郎』、横に並ぶ姿にまったく違和感のないふたりが手近な民家へと歩き出す。
『空条承太郎』は半信半疑ながら、絶対の自信を隠そうともしない狡猾そうな表情を浮かべている。
 半歩さきをゆく花京院典明は……、目を細め、口の端だけを歪め、笑っていた。

 のんきに歩いている『私』の姿を見つけたときには驚いたが、アレッシーから聞いていた話がここで役に立つとは……。
 見るからに、殺し合いに乗り気のこの男、手を組むことに反対はしまい。
 ジョースターたちへの敵意と、予想外に強力なスタンド。うまく扱えば確実にジョースターたちをしとめることができるだろう。

 そして……、これでたとえ山岸由花子が誰かに私のことを話したとしても、彼女を脅し、軍人三人を殺したのはこの男になる。
 私はあくまでジョースターの仲間を演じればいい。
 少なくとも、誰にも真相はわからない。

 自らの欲望にのみ忠実そうなその下卑た笑い。
 どうせDIO様から信用されていたわけではなかろう。
 空条承太郎とその仲間を殺すことで、あの方にお役に立てることを喜ぶがいい。
408◇4eLeLFC2bQ氏代理:2012/12/24(月) 20:35:56.99 ID:neDdfZ7W
【E-7 中央 / 1日目 朝】

【花京院典明】
[時間軸]:JC13巻 学校で承太郎を襲撃する前
[スタンド]:『ハイエロファント・グリーン』
[状態]:健康、肉の芽状態
[装備]:ナイフ×3
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様の敵を殺す。
1.ラバーソールと情報交換し、手を組む。
2.ジョースター一行の仲間だったという経歴を生かすため派手な言動は控え、確実に殺すべき敵を殺す。
3.機会があれば山岸由花子は殺しておきたい。
4.山岸由花子の話の内容、アレッシーの話は信頼に足ると判断。時間軸の違いに気づいた。

【備考】
※スタンドの視覚を使ってサーレー、チョコラータ、玉美の姿を確認しています。もっと多くの参加者を見ているかもしれません。

【アレッシーが語った話まとめ】
花京院の経歴。承太郎襲撃後、ジョースター一行に同行し、ンドゥールの『ゲブ神』に入院させられた。
ジョースター一行の情報。ジョセフ、アヴドゥル、承太郎、ポルナレフの名前とスタンド。
アレッシーもジョースター一行の仲間。
アレッシーが仲間になったのは1月。
花京院に化けてジョースター一行を襲ったスタンド使いの存在。

【山岸由花子が語った話まとめ】
数か月前に『弓と矢』で射られて超能力が目覚めた。ラヴ・デラックスの能力、射程等も説明済み。
広瀬康一は自分とは違う超能力を持っている。詳細は不明だが、音を使うとは認識、説明済み。
東方仗助、虹村億泰の外見、素行なども情報提供済み。尤も康一の悪い友人程度とのみ。スタンド能力は由花子の時間軸上知らない。


【ラバーソール】
[スタンド]:『イエローテンパランス』
[時間軸]:JC15巻、DIOの依頼で承太郎一行を襲うため、花京院に化けて承太郎に接近する前
[状態]:疲労(大)、空条承太郎の格好
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3、不明支給品2〜4(確認済)、首輪×2(アンジェロ、川尻浩作)
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残って報酬ガッポリいただくぜ!
1.まずは花京院の話を聞く。役に立ちそうにないなら養分に。

※サンドマンの名前と外見を知りましたが、スタンド能力の詳細はわかっていません。
※ジョニィの外見とスタンドを知りましたが、名前は結局わかっていません。



   *   *   *
409◇4eLeLFC2bQ氏代理:2012/12/24(月) 20:42:38.63 ID:neDdfZ7W
「イタリアにはそんな話ぜんぜん流れてこねーけど、イギリスってやばい国なんだな」

 屍生人となったいにしえの騎士との死闘、人体を一瞬で凍らせてしまう吸血鬼の能力、改めてジョナサンの話を聞きながら、ナランチャがのんきな感想をもらした。

「やっぱりジョナサンはすげーや」
「僕にはスタンドの方がよほど複雑で、未知の存在に思えるけどね」

 ナランチャの純粋な賞賛に、話し始めて以降曇りがちだったジョナサンの表情がゆるむ。
 それは一見微笑ましい光景であったが、内心フーゴはふたりの認識の差の原因を思い、暗澹たる気持ちをかかえていた。

「……ナランチャ、モニターに反応は?」
「なんだよ、ちゃんと見てるだろー? 反応なしだぜ」

 不満げに言い返すナランチャに、ジョナサンの笑みが深くなった。

「仲がいいんだね、ふたりは……」
「ちげーよジョナサン。フーゴ、猫かぶってんだぜ。
 いつもはフォークでオレのこと……」
「ナランチャ!!」

 余計なことは言わなくていいと、フーゴが手で制す。
 それを見て、さらにジョナサンが笑った。

「フーゴ、僕の方は知りうる限りのことを話したように思う。
 君はずいぶん頭がいいようだから、この殺し合いについて、考えていることがあるなら話してもらえないか?」

 そう、フーゴから見ても、すでにジョナサンから得るべき情報はすべて得られたように思える。
 さりげなく水を向け、ジョナサンが19世紀末期の人間だということを確認し、ナランチャ、そしてジョナサンが屍生人や吸血鬼ではないということも確信している。
 語らなければならない。
 ジョナサンの知り合い――彼の父やSPW財団の創始者が、僕にとって全員過去の人間であることを。
 アバッキオ、ブチャラティ、ナランチャが、ここにいる彼らから見た未来の彼らがすでに死んでいることを。
 ジョナサンは彼の父に訪れた再度の死になにを思うだろう。そう考えると、フーゴの胸は苦しくなった。

「ジョナサン、……そしてナランチャ。
 どうか僕が話し終えるまで質問は挟まないでください。
 信じられなくても、落ち着いて、聞いてほしい」
「やっぱりなんか変だぜフーゴ」

 茶化すナランチャとは対照的に、困ったように、しかし信頼のこもった瞳でジョナサンがうなずく。

「ジョナサン、僕とナランチャは21世紀初頭のイタリアからここへきました。
 そして……、ナランチャ、僕の知る君は……」



 瞬間。



 フーゴの言葉は轟音に呑み込まれた。


 とっさに身を屈めた三人にこまかな結晶がパラパラと降り注ぐ。
 ショップ表側のガラスが、粉々に砕け散っていた。
410◇4eLeLFC2bQ氏代理:2012/12/24(月) 20:52:49.63 ID:neDdfZ7W
「フーゴ! ジョナサン! 敵だッ!!」
「わかっていますナランチャ! いいから君はモニターを見て!」
「だめだ。見当たらない。
 ずっと見ていたけど『敵は最初からいなかった』!!」
「ここから焦って逃げ出して、狙い撃ちにされるのが一番危険です。
 ナランチャ、落ち着いてモニターから目を離さないで」

 フーゴは素早く頭を巡らせる。
 最悪のパターンはジョジョがコロッセオで戦ったというカビのスタンドのように、すでに敵の術中にはまりかけている場合。
 僕がポンペイ遺跡で戦ったイルーゾォのように、本体・スタンドが見えずとも攻撃を加えられる能力も考えられる。
 こちらにも広範囲を攻撃できるスタンドがあればいいが、エアロスミスの探索範囲を超える攻撃手段はない。
 打って出るべきか?
 しかし、すでに敵の攻撃が開始されている場合、さきほどわざわざガラスを割った攻撃の意味がわからない。
 注意を外に向けさせるための攻撃か?
 なら敵は上か、下か……。
 ダメだ。考えすぎるな。
 まず安全が確保できればいい。それは敵を倒すこととは違う。

 フーゴの視線が、ジョナサンをとらえ、ついでナランチャの黒髪に注がれる。


――僕の目の前で、コイツを死なせるわけにはいかない……。


「おい、聞こえているだろう。
 どこからか攻撃を受けた。なにか情報をくれ……」


――ムーロロ!!





【E-6 ローマ市街・ショップ内 / 1日目 朝】

【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:全身ダメージ(中)、貧血気味、疲労
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
0.敵の襲撃に対処。
1.『21世紀初頭』? フーゴが話そうとしていたことは……?
2.『参加者』の中に、エリナに…父さんに…ディオ……?
3.仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
4.ジョルノは……僕に似ている……?
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。
411◇4eLeLFC2bQ氏代理:2012/12/24(月) 21:00:02.78 ID:neDdfZ7W
【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:額に大きなたんこぶ&出血した箇所は止血済み
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.敵の襲撃に対処。
1.フーゴが話そうとしていたことは……?
2.ブチャラティたちと合流し、共に『任務』を全うする。
3.アバッキオの仇め、許さねえ! ブッ殺してやるッ!
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。

【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:困惑
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のハートのAとハートの2
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
0.敵の襲撃に対処。ナランチャは死なせたくない。
1.ジョナサンと穏便に同行するため、時間軸の違いをきちんと説明したい。
2.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集め、ジョルノやブチャラティチームの仲間を探す。
3.ナランチャや他の護衛チームにはアバッキオの事を秘密にする。しかしどう辻褄を合わせれば……?

【備考】
『法皇の緑』でガラスを割ったため『エアロスミス』のレーダーは花京院をとらえていません。
ジョンガリ・Aもいまは射程外にいます。
ふたりとも『エアロスミス』のレーダーに気付いているわけではなく偶然です。


【E-6 ローマ市街西側 / 1日目 朝】

【ジョンガリ・A】
[スタンド]:『マンハッタン・トランスファー』
[時間軸]:SO2巻 1発目の狙撃直後
[状態]:体力消耗(小)精神消耗(中)
[装備]:ジョンガリ・Aのライフル(35/40)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み/タルカスのもの)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様のためになる行動をとる。
0.三人を襲撃する?
1.情報がほしい。
2.ジョースターの一族を根絶やしに。
3.DIO様に似たあの青年は一体?

【備考】
ジョンガリ・Aが三人を襲撃するかは次の書き手さんにおまかせします。
412◇4eLeLFC2bQ氏代理:2012/12/24(月) 21:09:04.86 ID:neDdfZ7W
タイトル「目に映りしものは偽」

以上で投下完了です。


仮投下時から何箇所か表現の変更がありますが、内容に変更はありません。
川尻家の家賃が26万と書いていましたが、ド低能はこの私でした。13万円ですw

・吸血鬼、屍生人、柱の男は呼吸をする必要がない
という問題についてですが、このSS内ではフーゴの推測のみであるため、
実際にどうかは、後続のそういった場面を描写することになった書き手さんにお任せしたいと思います。


***

代理投下終了です。どのキャラも『らしい』ッ!
花京院とジョンガリって、確かに原作時間軸でもニアミスしてそうな関係ですよね。
予約段階では彼らが互いを知っていて協力する話を想像してましたが、その予想の斜め上をいかれた感じです。

改めて投下乙でした。

※一部改行多数のエラーにより分割しています、ご容赦ください
413創る名無しに見る名無し:2012/12/26(水) 16:27:33.83 ID:4ZUQHOiq
代理投下乙!
まさかのラバソと花京院同盟の予感
そしてジョンガリAはどう出るか…
414創る名無しに見る名無し:2012/12/27(木) 01:21:20.52 ID:XG2td/DP
まさかのラバソと花京院!こんなコンビはみたことないぜぇ!
投下乙!
415AWAKEN ― 乱 ◇c.g94qO9.A氏 代理投下:2013/01/02(水) 15:56:05.40 ID:AmWgUrkO
「せっかくの二人きりだって言うのに、つれないねェ」

その声に振り向きかけた少女だったが、途中で思いなおし、彼女はそのまま水面を見つめ続けた。
足音はゆっくりと近づいてくると、少女の隣で止まった。男は気だるそうな感じで、川辺に腰を下ろす。
彼は煙草に火をつけると、うまそうに煙を吐いた。煙は真っすぐ上に立ち上り、太陽の光を浴びきらきらと輝く。二人は無言のままそれを眺めた。
煙がすっかり消えてしまった後は口を開くこともなく、二人はただ当てもなく視線を泳がしていた。
しばらくの後、男は煙草を持っていないほうの手でこめかみのあたりをこすり、そして口を開いた。

「ストレイツォ……あの二枚目カタブツに無理言ったのは俺なんだぜ?
 君が一人にしてほしそうだったから気を使ったつもりだったんだけどねェ、俺は」
「ほっときなさいよ」

ホル・ホースは無言のまま唇を曲げ、肩をすくめた。つっけどんな少女の言葉を最後に二人の間に沈黙が漂う。
少女は何も言わず、男はただ咥えた煙草の火先を眺めていた。辺りは不思議と音一つしなかった。
とても殺し合いの舞台とは思えないほどに、奇妙な静寂があたりを漂っていた。

「私のこと何も知らないくせに……ってか?」

そう言うとホル・ホースはもう一度唇を曲げて見せた。
皮肉っぽい捻り方に加え、彼の目の脇の皺は笑いをこらえる様にプルプルと震えていた。
少女の頬にさっと赤みがさす。

「それがわかる程度にはわかってるつもりだよ、『徐倫』。
 それとも……『フ―・ファイターズ』、そう呼んだほうがよかったかな?」

彼女は何も言わなかった。拳をぎゅっと握り、口を真一文字に閉じたまま男のほうを見ようともしない。

まるでお手本のような図星の反応に、ホル・ホースは肩を揺らし笑った。笑い声は控え目だった。さすがに彼女の機嫌を試すような度胸はない。
じゃじゃ馬娘で癇癪持ちの若い女の子の扱い方は決まってそうだ。超えない程度に茶化すに限る。簡単なもんだ。それで相手が顔真っ赤にすればなお良し、だ。
少女の照れ隠しの顔は、美人の泣き顔の次ぐらいによい。それが男の意見だった。

徐倫はやがて、ゆっくりと拳をほどくと、つかつかと男に向かって歩いて行った。
数メートルほどあった距離を無言のまま詰めると、徐倫は男の脇にただ立ちつくす。
次の瞬間、目にも止まらぬ速さで彼女の手が動いた。男が反応できないぐらいの速さで彼女は咥えていたタバコを掻っ攫い、そして言った。

「煙草、やめてくれる?」
「できればぶん捕る前に言ってほしかった」
「父親のことを思い出すのよ」

私がじゃなくて、記憶が、だけど。一寸の空白を置いてつけくわえられたその言葉は妙に宙ぶらりんに、辺りに響いた。
ホル・ホースはしゃがんだまま少女を見上げた。少女もまた、無言のまま男を見下ろした。
沈黙のまま睨み合うように、二人は視線を逸らさなかった。『徐倫』の眼はどこか気弱で、強がってるように、ホル・ホースには見えた。
何よ、と彼女は言った。男は何も、と言い返すべきか悩んで、結局何も言わなかった。

随分と雰囲気が変わった、とホル・ホースは目の前の少女見つめ、思う。
彼女が変わったと言えるのは放送を境にだ。きっと知人が放送で呼ばれたのがきっかけだったのだろう。名簿を見たのもあるかもしれない。
なにせよイイ女であることに変わりはない。それが最も最も最も大事で、大切で、重要なことだ。
416AWAKEN ― 乱 ◇c.g94qO9.A氏 代理投下:2013/01/02(水) 15:59:27.90 ID:AmWgUrkO
ほんの少し前のことだ。
リキエル、そう名乗った青年の叫びがきっかけに、場は荒れに荒れ、そして混乱した。
時代、DIOとディオ、空条承太郎とその娘、ジョースター一族、波紋とスタンド。
互いの自己紹介代わりの簡易な情報交換ではなく、全員がそろい、膝と膝を突き合わせるような濃密な情報交換が行われた。
そしてその中で浮かび上がった微かな共通点と、特異点。だが話はそこで煮詰まった。あまりに物語は自分たちの領域を超えていた。
殺し合いというものを抱えるだけでも精一杯だったのに、その上時代と因縁と来たものだ。
どうしたって頭を冷やす必要があった。冷静に自分の考えや気持ちを落ち着かせ、その上でこの後どうするか決める必要があった。
今二人がこうやって川辺でたそがれてるのはそういうわけだった。流れる川のように、穏やかで、落ち着いて、ゆったりとした思考を取り戻す必要がある。
だがそれはなかなか難しかった。ホル・ホースにとってではなく、『徐倫』と呼ばれた少女にとっては。

沈黙が二人の間を漂う。気まぐれに少女が投げた石がドボン、と砕けた音をたて水の中に消えていく。
彼女が口を開くまで長いこと二人はそれぞれに黙り込んでいた。動いているのは川の水面に浮かんだ波紋だけだった。


「私にはなにもないの」


彼女がそう言った。ホル・ホースは微かに浮かべていた笑顔をひっこめると、難しそうに顎を触り、言う。
何もない。少女が言った言葉を確認するように、そう繰り返す。
自分の言葉を繰り返されたのが嫌だったのか、少女が顔をしかめたのを見てホル・ホースは黙った。
まずは話を聞くべきなのだろうと彼は肩をすぼめ、続きを待った。

「ホル・ホースが言った通り、私は『フ―・ファイターズ』であり『空条徐倫』でもある。
 でも違うのよ。私は私、アタシはアタシ……確かにここにいるはずなのに、違うの。
 自分は自分以外の誰でもないはずなのに……それを確信できない気持ちってわかる?
 自分は間違いなく自分のはずなのに、それを納得できない、違和感を感じる、誤魔化せない。
 それがすっごく辛いの、空っぽなの…………。私の言ってる事、わかる?」
「部分的には」

徐倫は何も言わず頷いた。そして言った。だからわたしにはなにもない。なにもないことがすごく悲しい。
予想に反して、男の返事は素早かった。


「いいじゃあないか、『なにもない』。結構だ。これ以上何もなくさずに済む。素敵だ」


俺は羨ましいよ、と付け加えるべきかどうか悩んだが、いちゃもんをつけられそうな気がしたのでやめておいた。
返事がないままポケットから煙草を取り出して咥える。火をつけて一服しても、今度はぶんどられるようなことはおきなかった。
さっきまでとはまた違った沈黙が流れていた。その沈黙は決して悪くない沈黙だった。
かびついた、陰気臭い沈黙というよりは、どことなく春の爽やかさを感じさせる静かな時間だ。
長い沈黙の後、徐倫は呆れた様に大きく息を吐いた。ホル・ホースを見るその視線には冷ややかさが含まれている。
コイツに相談するんじゃなかったという気持ちが、ありありと浮かんでいた。それを見て、彼は満足そうに笑った。
417AWAKEN ― 乱 ◇c.g94qO9.A氏 代理投下:2013/01/02(水) 16:02:50.31 ID:AmWgUrkO
「あなたって悩みとかあるの?」
「どうやったら川辺でセンチになっている女の子を慰められるか、今悩んでる」


馬鹿らしい、と少女がいうとそれを待ちかまえていたように、男はそろそろ戻ろうかと言った。
馬鹿らしい、結構なことだ。少なくとも無駄に落ち込んで、うじうじしているよりは何十倍もいい。
憂鬱な美人よりも呆れる美人のほうが数百倍綺麗だ。例えそれで自分が呆れられるようなものであってもホル・ホースという男にとってはそれは些細な問題だった。

二人は並んで川を後にすると、すぐ後ろに立つ教会へと向かっていった。
さり気なく肩を抱こうと男が伸ばした手は、無言のうちに少女にはたかれる。乾いた音と男の控え目な呻きが辺りに響いた。
ホル・ホースと『空条徐倫』は教会へと戻っていった。



418AWAKEN ― 乱 ◇c.g94qO9.A氏 代理投下:2013/01/02(水) 16:06:16.14 ID:AmWgUrkO
「茶でも飲むか?」

私はその声に顔をあげた。反射的に物音に反応しただけのことだった。
吉良吉影の言葉をもう一度頭の中で繰り返し、ようやくその言葉がなにを指し示しているのか理解する。
私はゆっくりと首を振った。吉良は顔色変えずそうか、とだけいうと、再び読書に戻った。
どうやら彼なりに気を使ってくれたようだ。だとしたらさぞかし自分は難しい顔で考え事していたのだろう。
実際、ひどく混乱している。

ホル・ホースは戸惑うのも無理じゃない、と言った。
時代の越境、未来の技術、過去の存在、スタンドという概念、喋るプランクトン、ディオ・ブランドーとDIO……。
考えすぎるとひどく頭が痛くなりそうだった。知るべきことと考えるべきことが多すぎて流石の私もこれには参っていた。

その混乱を少しでも解消するために、ホル・ホースはわざわざ時間を取ったはずだった。
私も時間は必要だったし、動揺していたの事実だった。だが時間をもらえど気持ちを切り替えることはなかなかどうして難しい。
自分の置かれている立場がよく理解できない。掴みどころがないのだ。
まるで水の上に浮いた地面を歩いている様な気分だ。私は額を抑え、思わずため息をこぼした。
情けないものだ。戦いであるならばそれこそ幾千、何万もの機会を積んできた。己を鍛える辛く長い修行にも耐え努力を積んだ。

だが誰が予想できようか。時空を超え、次元を超えたものとの邂逅がこれほどまでに難解だったとは。


「……あの二人みたいに散歩でもしてきたらどうだ」

パタン、と本を閉じる音に続いて、平坦な男の声が思考を破る。吉良吉影はスーツの裾をなおしながら、顔もあげずにそう言った。

「随分と難しい顔で考え事していたのでね、お節介だとわかっているが、ついつい口出ししてしまった」
「いや、ありがたいよ、吉良。そうだな、確かにそうしたほうがいいかもしれない」
「あまり動きたくないというのならば私が席を外すが」
「大丈夫だ。リキエル、と言ったあの青年の様子も気になる。大人しくはしているようだが気分転換がてら、すこし見てくるよ」

そうして守るべき一般人からも心配される始末。私は立ち上がると青年のいる部屋に向かいながら、もう一度深い溜息を吐いた。
頭を振って思考をすっきりさせる。わからないことは素直にわからない。私はやるべきことだけをこなそう。
立ち止まるようなことがあれば、その時は彼らと共に考え協力すればいい。
とりあえず決めるべき事は……ディオの根城に乗り込むべきか、どうか。まずはこれだけを考えよう。

リキエルを寝かしつけた講堂の扉をあける。吹き抜けの高い天井に扉の軋んだ音がこだまし、靴が地面を叩く音が聞こえる。
ステンドグラスが美しく輝き、優しい光が室内を満たしていた。少し暗いが気になるほどではない。先ほどまで灯していた蝋燭の燃えかすの臭いが鼻先をかすめた。
講堂内はとても静かで落ち着いていた。人一人いないように静かで、奇妙だった。
私は扉を後ろ手でゆっくり閉め……そして戦いの構えを取った。部屋に入ってすぐおかしなことに気がついた。リキエルの姿が見えないのだ。
419AWAKEN ― 乱 ◇c.g94qO9.A氏 代理投下:2013/01/02(水) 16:09:43.29 ID:AmWgUrkO
嫌な気配が辺りを煙のように充満している。
リキエルは入ってすぐの長椅子に転がしておいたはずだった。話を聞き終えた後で猿ぐつわをかませ、椅子ごと固定するように縛り上げたのだ。
ならば彼の姿が見えないのは何故だ。その上ロープもなくなっている。ただ抜け出しただけではないということだろうか。
吉良と共にホル・ホースたちの散歩を見送って、目を離していたのは僅か数分のことだというのに……。

そっと手に持つペットボトルに目を落とす。波紋は乱れていない。渦巻く波紋は乱れず、床伝いに何かの生命エネルギーを感じることもない。
スタンド能力だろうか。だがホル・ホースの言ったリキエルの能力にはこんな芸当ができるとは思えない。
仮にリキエルがスタンド能力とやらで自由になったとしても我々に悟られず、且つ跡一つ残さず、こうも姿を消す事なぞ可能なのだろうか……?

吉良を呼ぶべきかどうか、私は一瞬迷った。
だが危険が潜んでいる以上迂闊に動くと更に状況が混乱する可能性もある。そのまま室内を進んでいく。
カツン、カツンと革靴が音をたてる。その響きかたから考えても辺りを動くような何者かがいるとは思えなかった。

慎重に一歩。そしてまた一歩。辺りは影一つ動かない。まるで室内ごと、椅子も窓も、全てが凍りづけられかのようだった。
吸い込む息はどこか湿っていて、ネバついている様な気がする。神経を徐々に張り巡らしていくと、波紋の呼吸も落ち着いてきた。
室内の状況が段々と明らかになってゆく。やはり室内には誰もいないようだ。見渡しても長椅子がうずくまった獣のようにじっとしているだけのことだった。

「……逃げられたか?」

だとするならば考えるべきはどうやって、だ。スタンド能力か。はたまた協力者がいるのか。
もう一つ。逃げたのか、それとも潜んでいるのか。個別に行動するのは賢明とは言えないな。後ろから襲われる可能性がないとは言い切れないのだから。
私は講堂を入口から端まで歩ききり、急いで吉良の元へ戻ろうと振り返った。彼が心配だった。ホル・ホースとあの少女のことも気にかかる。
そうして振り返った時だった。


「なっ!?」


波紋が乱れないわけだ。既にそれは呼吸をしていないのだから。
床伝いに生命エネルギーを感じられるわけがなかった。それはもうとっくに死んでいて、その上壁にくくりつけられていたのだから。


「こ、これはッ!?」
 

 ドギャァ――――――z__ンッ!!


入口の真上、数メートル頭上の位置でリキエルは壁にめり込むようにして事切れていた。
彼が死んでいたという事実。それに気づかなかった自分のうかつさ。幾つもの情報が急速にわき上がったが、私はなによりもリキエルの表情に、ぞっとした。
見開かれた目、苦痛にゆがんだ頬。そして一部分がなくなっている。暗闇に目を凝らし、その部分を見た私の背中がさぁ……と泡立つ。
歯形だ。しかも人間の歯型。
420AWAKEN ― 乱 ◇c.g94qO9.A氏 代理投下:2013/01/02(水) 16:13:37.37 ID:AmWgUrkO
リキエルは殺された……! それもただの殺しではない……!
この殺しは彼を恥ずかしめ、屈辱に塗れ、そしてなによりも! 残忍性、異常性においてずば抜けているッ!
あちこちを食いちぎり、飾り立て、オブジェのように展示しているのだッ!
彼を殺害した人物は異常すぎるッ! 吸血鬼、屍生人、人間! それを超えた禁忌に触れた、そう、まさに狂人のものの行為だッ!

無意識に後ずさっていた私は長椅子に足をぶつけ、その音で正気に戻る。
痛みと音が私を現実に引き戻した。慌てて手元のペットボトルへ目を落とす。波紋は乱れていない。少なくとも、まだ。
殺害者はもうこの部屋にはいないのか。一人目じゃ飽き足らず、二つ目の獲物を狙っているとでも言うのだろうか。
だとするならばここにいるのは尚更危険……! そしてなによりこの事実を知らない吉良が、そしてホル・ホースが……!


そう、私は焦っていた。狼狽していた。もしかしたら、恐怖、していたのかもしれない。


だから即座に気付けなかったのだ。そのちょっとした波紋の変化に。
いつもならすぐに気づけたであろう、その微かな、しかし致命的とも言える見落としに。

もう一度手元に目をやり、私は眉を寄せた。この透明な容器は使いなれてないせいか、変化に気づきにくい。
波紋は乱れていない。だがそこに変化はあった。渦巻く波紋はさきほどより深くなっているのだ。下に伸びているのだ。
そのうねりは横に乱れるでもなく、脇にずれるでもなく、まるで誰かに引っ張られるように下へ回転を増し……。


「まさかッ!?」


そう私が零したのと同時に、床板から伸びた太い腕が私の胴体を貫いた。



421AWAKEN ― 乱 ◇c.g94qO9.A氏 代理投下:2013/01/02(水) 16:17:37.31 ID:AmWgUrkO
「ストレイツォ、ここにいるのか?」

やれやれ、いったいどこに消えたというのだろう。
あちこち見回ったが影一つ見当たらない。一度入口から覗いたこの講堂だが、ほかの場所にいない以上、この奥で何やかんやしているのかもしれない。
カタブツで融通がきかない以外はなかなか役に立つ男なんだが……まぁ贅沢は言わんがね。これくらいだったら私の平穏のために妥協はするさ。

入口の扉を開き中に入っていく。少し暗いため奥まで一目で見ることができない講堂だ。
確かに雰囲気は悪くない。考え事、読書に集中するにはうってつけの場所だな。
ストレイツォもきっとここで難しい顔をしながら考えているのだろう。

「ストレイツォ、いるのか。いたら返事をしてくれ」

さて、私がいくら平穏を愛していると言っても限度があるというものだ。
今の状況に不満があるわけじゃないがいつまでも首元に爆弾をぶら下げてるというのもわずらわしい。
辺りを殺人鬼や危険人物がうろうろしてるかもしれないというのにリラックスして過ごすというのも無理なもんだ。
私の理想としてはストレイツォがさっきの二人をひきつれて悪者退治に出かけてくれれば万々歳なんだが、さて……。

それにしてもさっきの話し合いは流石の私も度肝を抜かれた。
スタンド、というらしい特殊能力。明らかに私が持つキラークイーンと同種のものじゃあないか。
勿論私はキラークイーンの事なんぞ一言ももらさなかった。能力を誇示すれば戦いに巻き込まれることは明白だ。そして戦いは平穏とかけ離れた場所に位置しているものだ。
戦いなんていうものストレイツォの様な正義のヒーローに任せておけばいい。私にはどうでもいいことだ。
まぁ戦ったところで負ける気はしないのだがね。

「ストレイツォ、いないのか?」

にしてもディオ、と言ったかな。リキエル、ホル・ホース、そしてストレイツォが口にした男のこと。
まったくこの二十世紀になっても世界征服をもくろむ男がこの世に存在するだなんて思ってもみなかった。
頭がおかしいとしか思えないな。世界征服? 頂点を目指す? フン、笑わせるね……滑稽だ。

「…………ふぅ」

考え事をしながら辺りを見渡すがあのカタブツ正義漢の影は見当たらなかった。
長椅子の隅から隅まで視線を撫ぜるがそこに誰かが座っていた形跡すら残されていない。
一体どこに消えたというのだ? そろそろあの二人も帰ってくるころだろうし、ここでストレイツォがいなくなると色々面倒なことになるんだが。
これでまたストレイツォ捜索に駆り出されたとしたら非常にめんどうだ。できることならもっとこの教会に留まっていたい。
来るべき労働に顔をしかめ、あの正義漢はどこにいったのだろうと私はため息を漏らす。その時だった。


「―――!」


揺れる風、感じる気配。キラークイーンを出現させたのはほとんど反射的と言ってよかった。
422AWAKEN ― 乱 ◇c.g94qO9.A氏 代理投下:2013/01/02(水) 16:22:09.98 ID:AmWgUrkO
「キラークイーン!」

背後から伸びた一撃は重く、強烈だった。両腕で固く守ったキラークイーンのガードが痺れるほど。
驚愕に目を見開きながらソイツを睨み、そしてさらに驚いた。

奇妙な格好をしている男だった。
毛糸を編み込んだような全身スーツ、あちこちからケーブルプラグのようなものが伸びている。これほど趣味の悪い恰好は見たことがない。
落ち窪んだ眼光、真っ赤でてかてか輝いている口元がこれ以上ないほど気味悪い。
私は驚愕と同時に、それ以上の嫌悪感を抱いた。なんなんだ、コイツ。一体何者なんだ。

「おっ、おっ、おっ…………!」
「くッ……!」

考える暇も与えない、ということか。その男は立て続けに拳を振り回し私に襲いかかる。
右に左に素早い身のこなし。鉛のように固い拳。なんてやつだ。コイツ、素早いぞ……! それに、重いッ!
私のキラークイーンをもってしてもさばききれないほどに……コイツの一撃は、強烈……ッ!

間違いない、こいつ……『スタンド使い』だ。私と同じ能力を持っているということだ……ッ!

隙をついて繰り出した右の一撃。私の反撃を相手はガードすることなく、その場で沈みこみ回避する。鼠のようにすばしっこいヤツだ。
長椅子をガタガタと揺らしながら男は暗闇に紛れ、そして姿が見えなくなる。恩わず私は舌打ちした。この状況、圧倒的に不利なようだ。
だが不利であっても不運ではない。ヤツは完全に去ったわけではない。気配は感じられる。どうやらコイツ、戦る気のようだ。
あのスーツをまとった謎の男はこの吉良吉影と戦う気らしい……!

(いいだろう……ならば、かかってくるがいい! 私とて君をここで逃すわけにはいかないのだからな)

腕時計に目を落とす。ホル・ホースたちが帰って来るまでどれぐらいかかるだろうか。もうすぐにでも帰って来るのではないだろうか。
やれやれ、とんだ災難だ。だがこんなピンチであろうと私には切り抜けられる。切り抜けるだけの能力があると、自負している……!

速攻でカタをつけさせてもらおうか。
ああ、そうだ。君は既に見てしまったのだからな……このキラークイーンを。私のスタンドを!
私は誰かに勝利することに喜びを感じない。だが、だからといって誰かに敗北することは決してない。
平穏は勝利でもなく敗北でもなく、その先にあるのだ。私の平穏のためにも……

「君にはここで死んでもらう……!」






【リキエル 死亡】
【ストレイツォ 死亡】

【残り 65人】
423AWAKEN ― 乱 ◇c.g94qO9.A氏 代理投下:2013/01/02(水) 17:08:59.35 ID:AmWgUrkO
【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会脇/1日目 午前】

【H&F】
【ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1(ホル・ホースの物)
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
0.教会に戻ってストレイツォ達と合流。
1.とにかく、DIOにもDIOの手下にも関わりたくない。
[備考]
※第一回放送をきちんと聞いていません。内容はストレイツォ、吉良のメモから書き写しました。
※ストレイツォから基本支給品、それとホル・ホースのものだったランダム支給品を返してもらいました。

【F・F】
[スタンド]:『フー・ファイターズ』
[時間軸]:農場で徐倫たちと対峙する以前
[状態]:髪の毛を下ろしている
[装備]:空条徐倫の身体、体内にF・Fの首輪
[道具]:基本支給品×2(水ボトルなし)、ランダム支給品2〜4(徐倫/F・F)
[思考・状況]
基本行動方針:存在していたい(?)
0.教会に戻ってストレイツォたちと合流。
1.『あたし』は、DIOを許してはならない……?
2.もっと『空条徐倫』を知りたい。
3.敵対する者は殺す? とりあえず今はホル・ホースについて行く。
[備考]
※第一回放送をきちんと聞いてません。
※少しずつ記憶に整理ができてきました。
424AWAKEN ― 乱 ◇c.g94qO9.A氏 代理投下:2013/01/02(水) 17:14:22.89 ID:AmWgUrkO
【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会内講堂/1日目 午前】

【吉良吉影】
[スタンド]:『キラークイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その@、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:健康
[装備]:波紋入りの薔薇、聖書
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:静かに暮らしたい
0.スタンドを見られた以上セッコを逃さない。
1.平穏に過ごしたいが、仕方なく無力な一般人としてストレイツォと同行している。
2.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
3.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。

【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、興奮状態、血まみれ
[装備]:カメラ
[道具]:基本支給品、死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ、リキエル、ストレイツォ)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOと共に行動する
0.邪魔されたので吉良を殺す。
1.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。
2.DIO大好き。チョコラータとも合流する。角砂糖は……欲しいかな? よくわかんねえ。
[備考]
※『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。  


[備考]
※リキエルとストレイツォの死体は講堂内に放置されています。一部がセッコによってデコレーションされてます。
※それぞれの死体の脇にそれぞれの道具が放置されています。
 ストレイツォ:基本支給品×2(水ボトル1本消費)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)ワンチェンの首輪
 リキエル:基本支給品×2、
425代理投下終了。:2013/01/02(水) 17:21:40.92 ID:AmWgUrkO
453 名前: ◆c.g94qO9.A [sage] 投稿日: 2013/01/01(火) 02:05:37 ulmKWjRY

以上です。何か指摘ありましたらください。
年末すごく忙しくて投下が遅れました。連絡もできなくて済みませんでした。
今年もよろしくお願いします。


>>批評して下さった方々
丁寧な批評ありがとうございました!
指摘くださった箇所を意識しながらもう一度自分でも読みなおしてみました。
まだまだ駄目だな、と痛感しました。同時にもっともっと巧くなりたいとやる気がわいてきました。
これからも悩んだり、一区切りついたら批評をお願いするかもしれません。その時はよろしくお願いします!
ありがとうございました。


>>支援絵
描き手さんに敬意を表する! 水の不安定な感じが素晴らしい!
書き手も頑張るので、今年もよろしくお願いします。

ーーーーーーーーーー
新年一番乗りの投下お疲れ様です。

次スレ
ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第七部
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1357114589/
426↑ミス修正:2013/01/02(水) 17:31:22.74 ID:AmWgUrkO
名簿
以下の100人に加え、第一回放送までは1話で死亡する(ズガン枠)キャラクターを無限に登場させることが出来ます
※第一回放送を迎えましたので上記のズガン枠キャラクターは今後の登場は不可能です。



ーーーーーーーーーー
新年早々gdgdでごめんなさいorz
427創る名無しに見る名無し:2013/01/02(水) 19:04:54.90 ID:LswRGOG9
投下乙です。

そして、敢えて言おう!
あーん、スト様が死んだッ!
428創る名無しに見る名無し
あーん