ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第四部

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1創る名無しに見る名無し
__、_、ヽ`ニ、ニ`二、ニ`ニ`、=、=ヾァー:-:ー丶、,、、,,_,.,、
⌒>\丶\ヽヽ ',!|/〃/ //,. ゙ : ' .: ゙ ,: ゙ ,/
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   __\ヽヾ:ヾ_ヾミ[]―‐[〕-''''"~´ 彡 . ゙ .゙〃
   ⌒\ ミ|{「己川ロ后叨:.: し___! 彡 ;' . ゙ /     う ・ ・ ・
      ヾレュ三<´{(厶ニニ-‐、>ヽ ; : . ,゙i
  ⊂   ,{ {(j  } }==Y∠r:ュ.ヾ,  く;/^ヽ!
   c    { ト >-<ン ,'  ~厂 ̄´`ヽ  ,ィ个 }     うろたえるんじゃあないッ!
   '   {〔!厂〈ー‐、 '":::...  u  }  )丿,ハ
       )|h `-'"       / (__/,/     ドイツ軍人はうろたえないッ!
.        !|  「r三三ヽ J   l  /⌒l !
        l |    } ,. ―-| u   ,/ 、_,ノj  ,r一''"~´)
         !.ハ  ノノ二ニ二!     ノ `7〈 /  ゝ''"´ __
.        | .ハ ヽ-r―‐-    ,f 、__// ヽ/-‐''(´  _,,ノ、
_,,.. -ー―ノ / ヽ  ゙ー‐  / ! `゙{'′ ノ  >‐'''(´_,,/
       ー-、 ヽ-r―‐< ,r'゙{:___ノ`ー(、__/ >''"´
   、_,,,,,,,,,,,,,,,}!,,___{  ;' /´ '゙ ̄´ ̄´  丶イ  __
  \     r―ー>''"/~"''ーく⌒ヽ._,,ノィ´   `)
    \    /  /7゙ <´      ノ  /〈   ><~´
      ヽ,/   { ヽr、\   ''"    ,. -''"―-ヽ `'ー- 、
    //     \ \ヽ、`丶、__,,..ィ´}! ,iリ    ``丶、 \


このスレでは「ジョジョの奇妙な冒険」を主とした荒木飛呂彦漫画のキャラクターを使ったバトロワをしようという企画を進行しています
二次創作、版権キャラの死亡、グロ描写が苦手な方はジョセフのようにお逃げください

この企画は誰でも書き手として参加することができます

詳細はまとめサイトよりどうぞ


まとめサイト
http://www38.atwiki.jp/jojobr3rd/

したらば
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/15087/

前スレ
ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第三部
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1329066319/
2創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 01:08:24.30 ID:TdwHXiaP
名簿
以下の100人に加え、第一回放送までは1話で死亡する(ズガン枠)キャラクターを無限に登場させることが出来ます
Part1 ファントムブラッド
○ジョナサン・ジョースター/○ウィル・A・ツェペリ/○エリナ・ジョースター/○ジョージ・ジョースター1世/○ダイアー/○ストレイツォ/○ブラフォード/○タルカス

Part2 戦闘潮流
○ジョセフ・ジョースター/○シーザー・アントニオ・ツェペリ/○ルドル・フォン・シュトロハイム/○リサリサ/○サンタナ/○ワムウ/○エシディシ/○カーズ/○ロバート・E・O・スピードワゴン

Part3 スターダストクルセイダース
○モハメド・アヴドゥル/○花京院典明/○イギー/○ラバーソール/○ホル・ホース/○J・ガイル/○スティーリー・ダン/
○ンドゥール/○ペット・ショップ/○ヴァニラ・アイス/○ヌケサク/○ウィルソン・フィリップス/○DIO

Part4 ダイヤモンドは砕けない
○東方仗助/○虹村億泰/○広瀬康一/○岸辺露伴/○小林玉美/○間田敏和/○山岸由花子/○トニオ・トラサルディー/○ヌ・ミキタカゾ・ンシ/○噴上裕也/
○片桐安十郎/○虹村形兆/○音石明/○虫喰い/○宮本輝之輔/○川尻しのぶ/○川尻早人/○吉良吉影

Parte5 黄金の風
○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/○レオーネ・アバッキオ/○グイード・ミスタ/○ナランチャ・ギルガ/○パンナコッタ・フーゴ/
○トリッシュ・ウナ/○J・P・ポルナレフ/○マリオ・ズッケェロ/○サーレー/○プロシュート/○ギアッチョ/○リゾット・ネエロ/
○ティッツァーノ/○スクアーロ/○チョコラータ/○セッコ/○ディアボロ

Part6 ストーンオーシャン
○空条徐倫/○エルメェス・コステロ/○F・F/○ウェザー・リポート/○ナルシソ・アナスイ/○空条承太郎/
○ジョンガリ・A/○サンダー・マックイイーン/○ミラション/○スポーツ・マックス/○リキエル/○エンリコ・プッチ

Part7 STEEL BALL RUN 11/11
○ジャイロ・ツェペリ/○ジョニィ・ジョースター/○マウンテン・ティム/○ディエゴ・ブランドー/○ホット・パンツ/
○ウェカピポ/○ルーシー・スティール/○リンゴォ・ロードアゲイン/○サンドマン/○マジェント・マジェント/○ディ・ス・コ

JOJO's Another Stories ジョジョの奇妙な外伝 6/6
The Book
○蓮見琢馬/○双葉千帆

恥知らずのパープルヘイズ
○シーラE/○カンノーロ・ムーロロ/○マッシモ・ヴォルペ/○ビットリオ・カタルディ

ARAKI's Another Stories 荒木飛呂彦他作品 5/5
魔少年ビーティー
○ビーティー

バオー来訪者
○橋沢育朗/○スミレ/○ドルド

ゴージャス☆アイリン
○アイリン・ラポーナ
3英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:09:49.52 ID:TdwHXiaP
サンタナ自身もどうやら慎重になっているようだ。それもそうかもしれない、ヤツにとってもスタンドと言う概念は未知なる力。
ティムの柔よく剛を制すの戦法を前に、焦れるような時間が続く。それでも粘り強く、的確に急所を狙ってくる。そして、じっくりと観察を続ける。
未知なる力、ロープ上で身体を分解するという奇術。この男の能力は何なのか、何が可能なのか。一体どこまで、何ができるのか。

数回の交戦が終わった。流れ落ちる汗と血をぬぐいながらティムは厄介な相手だ、と一人毒づく。
一息ついたこの時でさえ、数メートル離れた位置からサンタナは、じっとこちらを見つめている。
一挙一足見逃すまいと、ぎらつかせた目で、どんな時でも気を抜かない。隙があればすかさず襲いかかって来るだろう。不用意にスタンドを発動しようものなら、すぐさま能力を把握するだろう。
カウボーイとして牛や馬を相手するのとはわけが違う。今まで相手してきたどんな生物より、サンタナは骨の折れる相手だ。
息もつかせぬ攻防が、また繰り返される。瞬きすら許されぬサンタナの突進、攻撃。
微かな牽制の意味を込め、ティムは銃弾を放ち、ナイフとチェーンソーを振りかざす。必要最低限の攻撃、意識のほとんどは防御と回避に集中だ。それでようやく釣り合いが取れるレベルとなる。

どれほど経ったのだろう。僅かな時間しか経ってないように思える。数時間もの間、戦い続けているようにも感じる。
ふとすれば切れてしまいそうなる集中力をもう一度かき集め、ティムはサンタナと戦い続けていた。

「ッ!」

だが足場が不安定な場で戦っている以上、遅かれ早かれ起こるべき事がここ一番で起きてしまった。
車体の上、攻撃をかわす際に着地でバランスを崩したティム。身体が傾き、時速数十キロの地獄が牙をむく。地面に叩きつけられるようなことがあれば一巻の終わりだ。
そしてそんな隙を見逃す相手でもない。迫りくるサンタナ、タンクローリーの表面をへこまんばかりの力強さでジャンプ一番! ティムの頭上より、飛びかかる!
下へ逃げるもできず、上へ逃げるもできず! 決断を迫られるティム! 逃げるべきはどちらだ? 上か、下か?
4英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:11:46.71 ID:TdwHXiaP

「やれやれだ……」

いいや、この男は逃げることなんぞ選びやしない。端から逃げるなんて考えてもいない。
保安官マウンテン・ティムは戦うためにこの場にいるのだ。仲間を守るため、彼はタンクローリーの上で化け物を相手しているのだ!
ロープを巧みに操り、彼はサンタナへ叩きつけるように縄を放った。重力の加速を味方に、凄まじい勢いで迫る柱の男。そんな状況でも彼は、クールに笑顔を浮かべていた。

『オー! ロンサム・ミ―』で宙に浮かび、地へと叩きつけられることを回避したティム。空中でサンタナと激突する。
振るわれた腕がティムの顔を喰らいつくさんと迫る。紙一重で回避するも、脇腹を抉り飛ばされた。飽き足らんとばかりに、腿の大部分も同時に奪われる。
車体に同時に降り立った二人。しかし、ダメージの大きさからか、ティムはまたしても体勢を崩した。最後尾に着地したサンタナは畳みかけるように、駆けてくる。
今度こそおしまいか。知覚すら容易でない素早さで、サンタナが迫りくる。なんとか危機を回避した保安官、それでも粘りは、ここまでか……!?
サンタナの腕が矢を放つ弓かのように、大きくしなる。拳より、全身を喰らわんと突きが放たれる!


『……? ……?』


……と、思われた。確かに柱の男は拳を放ったはずだった。
故に混乱は収まらない。まるで手品、まるで奇術。表情を持たないと思われたサンタナの顔は、確かに驚きの色に染まっていた。
腕が、なかった。寸秒前、マウンテン・ティムの脇腹と腿を喰らい、そして今度は彼そのものを飲み込むはずだった右腕。それが肩の先から削り取られたように、消えてしまっているのだ!

「もしかして、探し物はこれかな?」

かけられた言葉に、顔をあげる。カウボーイハットをかぶり直し、不敵な笑みを浮かべる男がいる。そして、その男の足元にあるものこそ、柱の男が本来持つべきもの。
マウンテン・ティムの足元に転がっているもの、それはサンタナの腕だった。右肩からごっそりと、綺麗な精肉用品かのように、見事なまでに切り取られたものがそこにあった。

そう、全てはマウンテン・ティムの思惑通り。足場が不安定な場でバランスを崩したのもわざと、それに乗じてサンタナが攻めてくるのも彼の計算の内。
ダメージを負う覚悟で彼は攻めに打って出たのだ。宙で交わった僅かな瞬間、針に糸を通すかのような、ほんの少しの時間に彼はスタンド能力を発動。
脇腹と腿を代償に、彼はサンタナの腕をロープ上で分解。そして、先ほど康一がやったのと同じように、その部位のみをナイフで切ったのだ。

完全にスタンド能力を把握しているわけではない。しかし、本能的とでも言うべきか、直感的とでも言うのだろうか。
サンタナはすぐさまティムに向かい、真正面から飛びかかった。自らの腕を取り戻さんと、これまで以上の速さで、ティムへと突進。
タンクローリーの上で交錯する二人。すれ違い、数メートル進んだ先で、微動だにしない二人。次の瞬間、今度はサンタナの左腕が切り飛ばされていた。

「たいした暴れ馬だ。だが…………」

表面上は変わりないように見える。しかし、サンタナがもしも人間であったならば。もっと表情豊かな生物であったならば。
きっとその顔は青ざめ、冷や汗をかいていたことだろう。だるま状態一歩手前の自らの危機的状態に、さぞかし狼狽したことだろう。
立場は完全に逆転していた。ティムは深呼吸をひとつし、長い、長い息を吐いた。足元に転がる二つの腕を何の感情のこもらない瞳で見つめる。

「裏を返せば、君は“馬”程度、ってわけだ」

革靴のつま先で、地べたに向けて蹴落とす。時速数十キロの速さにさらわれ、すぐさま二本の腕が見えなくなる。
ティムはもう一度帽子をかぶり直し、脅し文句と言わんばかりに、マシンガンを握りなおす。
サンタナはまるで狼かのように、鋭い歯をむき出しにし、彼を睨みつけていた。

「このまま細切れにさせてもらおう……!」

ティムの声は、もう震えていない。身体も手もしっかりと動き、その顔は戦う男のものとなっている。
戦況は人間有利。化け物は化け物でも、殺し方がわかったならばそれは希望となり、勇気となる。
闇を振るわせるような咆哮が響く。屈辱に燃えた獣が保安官へと、襲いかかった。



―――――第二ラウンド、開始。



5英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:20:55.62 ID:TdwHXiaP






 『 ア マ っ た れ て ん じ ゃ ね ぇ ッ ! !』

ついさっき、自分が言い放った言葉が頭の中で鳴り響く。
まるで拡声器を使ったかのように増幅され、地の底まで響くかのように反響していく言葉。
何度も、何度も、繰り返される。叱咤激励するため咄嗟に言ったとはいえ、今の状況を考えればあまりに皮肉すぎる一言だ。
自重の笑み一つ浮かばせる余裕もなく、東方仗助は深くうなだれる。その間も、自分が言い放った一言が呪いのように重く、深く、彼の背中にのしかかっていた。

 『俺のダチに、何でも削り取っちまうスタンド使いがいる』

そのダチは、今まさに目の前にいる。道のど真ん中に転がっていた彼を、仗助はここまで担いできたのだ。
こんなところに寝かしていたら可哀想だ、起きるもんも起きなくなっちまう。せめて死に場所ぐらいは綺麗なところで。こうやって安静にしておいてやればすぐにでも目を覚ますだろう。
二つの感情が入り混じる。目をそむけたくなるような現実と心の底から信じたくなるような理想。揺れ動く感情は行き先をなくし、仗助は苦悶の声を漏らす。
助けを求めるように、手を伸ばした先にあったのは手(ハンド)。
血に塗れた億泰の大きな手をもう一度握りしめる仗助。温もりを感じさせない、冷え切った掌を額に押し当て、もう一度彼は念じた。

 『俺なんかいちいちスタンドの名前を叫ばなくても、ちょっと心で思えばそれだけで能力は発動する。スイッチなんかいらねぇし』

だが、いくら強く念じようとも。どれだけ心で強く思えど。
億泰が目を覚ますことはなかった。安らかな笑みを浮かべたまま、彼はまるで夢を見ているかのように眠り続けている。
二度と覚めることのない、深い、深い眠りの中で、夢を見ているかのように。

「……クレイジー・ダイヤモンド」

何も、変わらない。億泰は、眠り続ける。

ああ、もしもこれが夢であるならば。そう仗助は思う。
億泰の安らかな顔を見ながら彼は思う。俺もこんな呑気な顔して夢を見ているのであれば、どれだけ幸せだろうか。
お袋に叩き起こされ、遅刻間近の時刻に大慌てで家を飛び出す。いつもの通学路、いつもの級友たちに囲まれ、退屈な学校生活が始まる。
そんなささやかだが、愛すべき日常が始まったらどれだけ幸せだろうか。

その一方でこうも思う。きっと満足して億泰のやつは逝ったんだろう。
最後の最後に、こいつは悔いなく逝けた。この混じりけのない表情は、億泰が何かを成し遂げたからこそ、刻まれているのだ。
そう思うと少しだけ救われる気がする。せめて満足げに彼はこの世を去れた。慰めにはなるだろう。

信じたい、信じたくない。二つの矛盾した想いは、仗助の中を駆け巡り、心の中を滅茶苦茶に噛み砕く。
何を信じたいのだろうか。億泰が生きているということか。自分のスタンド能力か。吉良との戦いで見せた、奇跡の復活を信じているのか。
何を信じたくないのか。億泰の死か。先ほど言い放った自らの言葉か。未だ能力は発動していない、そんな僅かな希望を信じたくないのか。

行き先をなくした感情が暴走し、彼を苦しめる。仗助は祈るように億泰の手を握り締める。
神に祈るかのごとく、彼の手を両手で包み、膝をつき、目を瞑る。
込み上げる熱い感情が目頭を熱くする。喉が焼けるように熱くなり、呻き声が噛みしめた歯の隙間から漏れ始める。
それでも、それでも仗助は信じたい。今だけは、自分の感情が赴くままに。今しばらくは絶望の希望に浸っていたい。
6英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:25:34.95 ID:TdwHXiaP
『仗助!』
「…………………………噴、上か?」

立ち向かうべき現実はどこまでも厳しく、仗助の前に立ちふさがる。ああ、なんという無情か。心の整理をする時間すら与えてくれない。
部屋に響いた聞き覚えのある声に、仗助はゆっくりと、機械的に顔をあげる。未だ手は離さず、億泰のものをしっかりと握りしめながら、彼は部屋を見回した。
『ハイウェイ・スター』、街のスタンド使いの一人、噴上裕也のスタンドがそこにはいた。

『ああ、見つかってよかった、クソッたれ! いいか、よく聞いてくれ、とにかく時間がねェ!
 俺たちは今、タンクローリーに乗って……』

わからない。言葉は耳を確かに通り抜け、鼓膜を振るわしている。
しかしながら今の仗助には、その言葉が心を振るわせてくれない。考えることを心が、魂が受け付けてくれないのだ。
突如言葉を切り、動きを止めたスタンドを目にしても、これといって動くわけでもない。
ただぼんやりと待つのみ。彼自身から状況を把握しようという意志は一切起きなかった。

『クソが!』

突如現れたのと同じように、消えるのも唐突であった。
本体のほうに緊急事態が起きたのだろう、ハイウェイ・スターは瞬く間に身体を細切れにすると、開け放たれた窓から飛び出ていった。
それを眺める仗助の眼は、まるで曇りガラスかのように無気力で、くすんでいる。
スタンドを眼で追って初めて窓の外の変化に気づいた彼。段々と明るくなり始めた空。夜明けが近づいている。それはつまり放送が近いことを意味していた。

「放、送…………」

次の瞬間、そう遠くない位置から聞こえてきたのは車両音。タイヤが地を滑り、道路を進んでいく音。音の低さと大きさから、大型の車両であろうと仗助は推測した。
だが、それがどうしたというのだ。そう囁く声がする。今大事なのは億泰を守ってやることだ。
こんなところで一人ほったらかしにしてみろ。誰に襲われるかわかったもんじゃねェー。間抜け面して眠りこけやがって、とんだ迷惑掛けやがるぜ。
俺はここにいないとだめだ。億泰をここに一人置いて行くなんて、そんなことできやしない。
そうだ、俺たちは最強のコンビだったじゃねーか。一番のダチ公だったじゃねーか。サイモン&ガーファンクル、うっちゃんに対するなっちゃん。
俺と億泰も一緒だ。そう、俺たちはいつも一緒、俺たちは……


「どうしろっていうんだよ……」


仗助の頬を、いくつも雫が伝っていく。開け放たれた窓から風が吹き込み、水滴を運んでいく。
誤魔化しは限界だった。わかっている。仗助には痛いほどわかっているのだ。死んだものを生き返らせることは自分にはできない。
どんなスタンドだろうと、どんな能力を使っても。生命が終わったものは、もう戻らない。


「億泰、俺は……」


だが、たとえそうであろうとも。例え少年にとって、そんなことは百も承知だとしても。
理性的判断と『納得』は別物だ。少年の脚は動かない。微動だにせず、彼は親友の手を握り続ける。
とめどなく流れる涙は涸れることを知らない。呻き声とともに閉じられた瞳、仗助の頬から流れ落ちた水滴が億泰の頬をぬらしていく。
その様は、まるで彼の親友も涙を流しているかのようで。
7創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 01:27:37.57 ID:DXXYSSh/
支援
8英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:29:34.08 ID:TdwHXiaP




BANG! BANG! BANG!
三発の銃弾を曲芸のようにかわしたサンタナだったが、両手を失った影響か、着地の際に体はよろめき、バランスを失う。
すかさずマウンテン・ティムは距離を詰める。至近距離から首輪を狙おうと銃を構えるが、数歩進んだところで飛びのいた。
サンタナの右蹴りがティムを蹴り殺さんと横薙ぎで迫っていたのだ。大きく後ろに飛ぶと、再びサンタナの脚の届かない安全圏へと退避する。
互いに間合いを取った状況、息をつける僅かなこの瞬間。保安官はカサカサに乾いた唇を一舐めした。

戦いは均衡していた。戦況はどちらに大きく傾くでもなく、主導権をどちらが握るでもなく。
両手を失ってもサンタナは圧倒的であった。今まで以上に荒々しく、そして獰猛にティムの命を狙い、駆けまわる。
リーチを失ったのを運動量で補わんと、狭いスペースを存分に使い、ティムをあらゆる角度から攻めたてる。
ティムもただ攻撃を受け止め続けていたわけではない。柱の男より腕を奪ったロープ&ナイフ戦法、そして首輪を狙った射撃。
二つの戦術を軸に、彼は粘り強くサンタナの隙を伺っていた。カウンター一番、後ほんの少しというところまで何度も迫ったが、その後少しが遠い。

時間だけが淡々と過ぎていった。ティムがそれを実感したのは、微かに明るくなり始めた空と、見慣れない街並みに車両がさしかかったことからだ。
それは落胆すべきことではない。時間稼ぎが彼の仕事であるならば、充分以上の働きをティムはしている。
むしろ追い込まれ始めているのはサンタナのほう。時期に夜が明ければ彼らの天敵、太陽が顔を出す。
サンタナから逃げ切ることができた。そうなってしまえば、この勝負、人間たちの勝利だ。

「俺はお前に近づかない」

投げ縄の要領で、ロープを回転させるティム。ヒュンヒュンヒュン……と鳴く風切り音が耳に心地よい。
車両が起こす風を切り裂かんとばかりに、サンタナ目掛けて放たれた縄。怪物は身体を捻り、関節を外し、これを避ける。
そして人間には不可能な体勢から、あり得ないほどの跳躍力で宙より迫らんとする。
マウンテン・ティム、前転で相手の下に潜り込む。同時に首輪目掛け、天へと銃弾を放つ。狙いをろくすっぽ確認せずに放ったが牽制には充分だったようだ。
サンタナ、着地と同時に反転、ティムに接近する。引き戻したロープを構え、保安官の左手に構えたナイフが鈍く光を放った。
何度となく繰り返された交錯。サンタナの脚がティムの腕を狙う。
カウンターは無理だ、そう判断したマウンテン・ティムは、『オー! ロンサム・ミ―』を発動。身体を分解すると、相手の攻めをいなし、ゆるりと暴力の嵐をすり抜けた。
元通り、位置も変わらず、戦力を失ったわけでもない。繰り返す、何度も、何度も。ティムはこれを繰り返す。
もう少しの辛抱だ。夜明けが先か、噴上が仗助を見つけるのが先か。あるいは三人の男たちが何かしらの突破口を見つけるということもあり得るかもしれない。
勝利が近づいても決して気を抜いてはいけない。滝のように流れ落ちる汗をぬぐい、ティムはそれまで以上に神経を張り詰める。

呼吸を整えろ。武器を構え、神経を張り詰めろ。
全身でサンタナを感じるのだ。見るのではなく、観るんだ。聞くのでなく、聴くんだ。
夜明け前の薄暗さの中に立つ化け物へと視線を向ける。焦るべきは俺ではなく、ヤツのほうだ。無策無思考、人間であるならば、考えろ、マウンテン・ティム!

立ちすくむサンタナを前にロープを握り、銃のグリップへと手を伸ばす。
何もしない、この時ですら不気味さを感じる。表情のない化け物を相手取るのは予想以上に、彼の神経を消耗させていた。
そんな時だった。車両が街の街灯の脇をすり抜け、灯りがサンタナの横顔を、一瞬だけ照らした時だった。


(……笑っ―――!?)
9創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 01:30:16.14 ID:DXXYSSh/
支援
10英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:33:16.42 ID:TdwHXiaP
奇術や魔術、波紋やスタンド、近代兵器に車という最新機器。恐るべきは柱の男たちの対応力。そしてあくなき好奇心と向上力。
欺き、欺かれる。騙し、騙される。そのたびに彼らはそこから何かしらを学び、取り込んでいく。
自分なりに咀嚼し、消化しきったものを、自ら実践するのだ。さながら柱の男たちの食事方法かのように。
サンタナは学んだ。ジョセフ・ジョースターの奇襲戦法、マウンテン・ティムの博打殺法。
そして人間の勇気! 人間のしぶとさと、弱さから生まれる、知力そのものを!

「これは……ッ!?」

マウンテン・ティムの集中力が裏目に出た。いや、サンタナが自身に注意を引かせるような動きをしていたからこそなのかもしれない。
切り落としたはずの腕は地面に落ちたのではなかった! 落とされる瞬間、車両にひっかけるようにサンタナがコントロールしていたのだ。
今、まさにティムの脚を喰らっているのは、彼が落としたと思っていた腕のうちの一本! そして、それはティムを喰らい、ダメージを与えるには充分すぎるほど!

マウンテン・ティムは知らなかった。切り落とした腕だろうが、爆破して木っ端みじんになった肉片だろうが、柱の男たちは肉体を再構築できることを。
マウンテン・ティムは知らなかった。時間を稼いでいたのは人間たちでなく、柱の男のほうだったのだ!

「……ッ」
『マウンテン……、ティム………………』

地獄の底からゾッとするような声が聞こえてきた。サンタナの深く、喜びに溢れた声に身体中の毛が恐怖で逆立った。
瞬間的にティムは無傷でこの場を切り抜けることを諦めた。腰に刺していたナイフを抜き、『オー! ロンサム・ミ―』を発動させる。
足を諦め、切り落とす。その判断は間違っていない。むしろ、この緊急事態にその素早く、勇敢な対応は称賛されるべきもの。
だがロープ上に逃げようとスタンド発動させた彼は、今までのように素早い身のこなしを奪われていた。
この対応もサンタナの計算内。再度切り落とされかけた腕はそれに抵抗するかのように『憎き肉片』でティムに食らいつく。
逃がしてはなるものか、そんな怨念が込められた一粒一粒がティムの動きを鈍くする。

「うおおおおおおおおおおおおおお!」

同時にサンタナ本体自身も動いていた。足を取られ、スタンドで逃げることも叶わない。保安官が遂に死神の手にかかってしまった。
体全身で喰らう、その特徴を最大限に生かした体当たり。足元から肉片が喰らい、本体は腕からティムを身体に取り込まんとしている。ティムの断末魔のような叫びが空気を震わす。何とか逃れんと彼は手にもつ武器を必死で振り回す。

現実はいつだって唐突に降りかかる。困難な選択肢は、時間制限があるからこそ、その難易度をさらに上昇させる。
ティムの脳裏に浮かんだ一つの天秤。取るべきはどちらか。自らの命か、仲間の命か。信じるはどちらか。現状からの一発逆転か、安全な妥協策か。
選択肢は二つだ。スタンドを何とか発動させ、身体の内無事な部分だけでもサンタナの捕食より逃れる。しかしこれは消極策だ。逃れたところでどうする、そんな難問が待ち構えているのだから。
もうひとつは、よりシンプル。今やサンタナと一体化したこの身体ごと……タンクローリーより身を投げる。こうすれば、仲間三人の安全は保証できる。犠牲になるのは、マウンテン・ティム一人のみ。
思考に時間を割く時間はほとんどない。躊躇っていてはその身、余すことなく喰らいつくされる。
保安官マウンテン・ティムとして、男マウンテン・ティムとして。
そして少年たちにその生きざまを見せるべき、大人として! 彼は選ぶ。彼の選択は…………!
11英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:35:49.01 ID:TdwHXiaP



「…………え?」


しかし彼が決断を下すまでもなかった。二人が一つに一体化した身体は誰に支えられるでもなく、タンクローリーの上に転がっているのみ。
いとも簡単に彼らは地に落ちる。足で蹴落とされたサンタナとティムの体は宙にふわりと浮かび、重力にひっぱられていく。
スローモーションのようにコマ切れで回る世界。地が迫り、車体が離れ、空が地面に、星が道路に。
回転する視界の中、マウンテン・ティムは確かに見た。タンクローリーの上で、こちらを見下ろす影と傍らに立つスタンド。

「……―――すまねェ、ティム」

ふわりと揺れる首元のスカーフ。この舞台で保安官が初めて会った青年の声が聞こえた。
同時に、大地に叩きつけられた衝撃が襲う。轟音とともに瞬く間に車体が遠ざかっていくのが見え……車は闇へと消えていった。



12英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:39:26.14 ID:TdwHXiaP





地面を転がる事、四、五回。大地に叩きつけられること、幾度となく。
慣性の法則にしたがっていた二人の一つの身体は、いつの間にか元の一人一人に別れていた。
流石のサンタナも時速数十キロの衝撃に耐えきれなかったのか。或いは唐突すぎる突き落としにさしずめ柱の男も動揺したのか。
もしかしたら百戦錬磨の保安官、マウンテン・ティムがスタンド能力を行使したのかもしれない。

結果から述べよう。サンタナとティムはそれぞれ自由を取り戻し、道路上数十メートルの距離をとって互いに倒れ伏している。
しかしながらその後の対応は実に対照的。サンタナは即座に起き上がると、辺りを見渡し、現状を分析する。
獣のごとく鋭い眼光は追撃者を伺い、芸術作品に匹敵する肉体はどこから襲いかかれようと対応できるよう臨戦体制。
一部の隙も見当たらない、今しがたタンクローリーから突き落とされたとはとても思えない、万全に近い状態だった。

一方、マウンテン・ティム。仰向けのまま、指一本動かさず、満点の空を眺め続けるのみ。
サンタナから離れることができたとはいえ、その体はつい先ほどまで捕食されていたのだ。
半身は火傷のように肉が爛れ、ぴかぴかに磨かれていたブーツは足ごとミンチのようにひきつぶされていた。
そんな状態でも、彼は笑っていた。痛みが全身に走り、身体も動かせない状況でマウンテン・ティムは笑った。自虐と自嘲、諦めと情けなさで彼は思わず笑みをこぼしてしまった。

幽霊のように、ゆらりと立ち上がる。足は震え、視界が歪む。少し離れた位置に立っていたサンタナがこちらを向いた。
今の自分の状態、この何の遮蔽物のない道路という状況。一瞬でかたはつく。柱の男対正義の味方保安官の戦いは、そろそろ最終ラウンドへ向かおうとしていた。
いや、最終ラウンドとは語弊があるな、そうティムは自嘲する。今からここで起こるのは、一方的嬲り殺し。虐殺だ。

ロープ&ナイフ作戦は無効だとヤツに身をもって知らされた。平地では切った先から、元の本体に融合されてしまうに違いない。
銃撃にしたって、あの狭い空間ですら首輪に直撃させることができなかったのだ。この道路という、横幅・立て幅・高さを存分に生かせる立体的空間で高速移動するサンタナの、さらにごく小さな首輪をピンポイントで打ち抜くなど、できるわけが、ない。
そして肉弾戦。これに至っては論じるまでもない。瞬時にヤツのごちそうとなるだけ。最初から抵抗しようというのが間違いだ。

車両という狭いスペースがあったからこそ、ここまでは対等までわたりあえていたのだ。
スタンドという未知なる力があったからこそ、のらりくらりとやり過ごせていたのだ。
種明かしが終われば、マジシャンは舞台を去らなければいけない。
誰よりも、一戦交えた彼だからこそわかってしまう、この現実。絶望的なまでの現状が導く結論は一つ。それは、彼の死だ。
ゆっくりと、だが確実にこちらを目指し歩きだしたサンタナを前にティムは、ただ立ちつくすことしか、できなかった。

揺れる視界の中で確かに大きくなるサンタナの影。一歩、また一歩、怪物は近づいてくる。
油断も隙もなく、ただ一心にマウンテン・ティムに死をもたらそうと、彼へと近づいていく死神。

ティムは笑う。クックックッ……と低く、茶化すように喉を震わし、笑う。食われかけた左頬が筋肉の痙攣を起こしたように突っ張り、痛みが走る。
それでもマウンテン・ティムは笑い続けた。自らの愚かさを嘲笑い、迫りくる死神を前に諦めの笑みを浮かべていた。

「やれやれ……」
13創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 01:39:36.97 ID:DXXYSSh/
支援
14創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 01:42:35.55 ID:DXXYSSh/
支援
15英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:43:11.53 ID:TdwHXiaP
噴上に突き落とされ迄もなく、彼はこうする予定だった。頼まれるでもなく、彼には自らを犠牲に三人を救う覚悟があった。
いや、ティムは頭を振るうと自らを否定する。醜い自分はこう囁いたはずだ。臆病な自分は悪魔の誘惑になびいたはずだ。
もしかしたら、三人が助けに来てくれるのではないか。もしやすると、スタンドを上手く使えば自分だけタンクローリーの上から脱出できたのではないか。
一瞬でも、一時でもそんな考えが浮かんでないと誓えるだろうか。合衆国旗を前に、正々堂々宣言できるだろうか。

(いいや、できない)

ふとすれば消し飛びそうな勇気をありったけ集めて、ティムは化け物の前に立ち続けた。それは一人の人間としては称賛されるべき、勇気ある行動だ。
だが、しかし! 保安官マウンテン・ティムであるならば! 彼自身が目指すべき男、という存在であるならば!
最後の最後、決断を迫られた時、迷わずタンクローリーの下に身を投げたはずだ。サンタナを道連れできる、そう思い嬉々として化け物と一緒に時速数十キロの地獄に飛び込んだはずだ。

そして、なにより! もしも、もうほんの少しだけ、ティムの判断が早ければ!
噴上裕也という少年に十字架を背負わせずに済んだはずだ。自分たちの命を優先するために、一人を切って捨てる。そんな辛い選択を少年に強いたのは、ティム自身の不甲斐なさゆえだ。
ティムは、噴上は間違っていないと思っている。彼は正しい選択をした。だが、それを迫った自分が情けない。まだ青さが残る少年に、辛い選択をさせてしまった自分に呆れかえるほどだ。

(これは、俺への天罰だ)

数メートルとまで二人の距離が詰まった時だろうか。サンタナが低く姿勢をとった。太ももが爆発的加速を前に、ミシミシと音を立てて筋肉を膨張させる。
どうせなら一思いにやって欲しい。いや、散々苦しんで、自分は死ぬべきだろう。こんな不甲斐ない、威厳もない、保安官失格のクソッたれにはそれが相応しい末路だろう。
ロープもナイフも、マシンガンも。全てを手放すと大きく腕を広げる。サンタナを受け止めるかのように、堂々と待ちかまえる。
貫くならば、心の臓を。へし折るならば、心の魂を。後は死を待つのみ。ティムは目をつぶると、最期の言葉を呟いた。



「ベッドの上で死ぬなんて期待してなかったさ。俺はカウボーイだからな…………」


その瞬間、サンタナが動いた。巻き起こった風が頬を打つ。砂と泥が舞い上がり、鼻を震わす土の香り。サンタナの脚が大地を蹴る音が聞こえた。
16英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:47:52.90 ID:TdwHXiaP





「そうかい、じゃあお前といるときはいつもベッドを担いでねェーとなァー!」
「!?」




耳を打ったのは自らの肉体が抉り飛ばされる音でも、喰らいつくされる音でもなかった。
少し斜めに構えた、捻くれ者の青年の声。拳と拳がぶつかり合う、鈍い打撃音。
ティムは信じられない思いで眼を開く。視界にうつったのはサンタナと渡り合う一つのスタンド像。
噴上裕也のスタンド、『ハイウェイ・スター』がティムを庇うようにそこにはいた! 柱の男を相手に一歩も引かず、激戦を繰り広げていた!

「おもしれェ、体そのものが消化器官だって? くいしん坊野郎が、かかってこいよ、オラ!」

見知らぬスタンド乱入に、当初は慎重だったサンタナ、次第に調子を上げて攻め立てる。そんな柱の男に負けまいと、ハイウェイ・スターも押し返す。
だが無情なまでに戦力差は大きかった。気持ちだけで勝利は得られない。圧倒的なまでに有利なのはサンタナ、ぶつかり合った先からスタンドの肉体を喰らい始める。
手を、腕を、足を、脚を。突きを、拳を、蹴りを、投げを。攻防一体の鎧は残酷なまでに少年に現実をつきつける。血が飛び、肉が飛び、骨を喰らわれる。

だが、それでも! 決して噴上裕也の気持ちが折れることはなかった!
スタンド勝負は精神の勝負。噴上裕也は砕けない。噴上裕也は砕けない!

「吸収対決といこうか、エエ?」

サンタナの両手首を抑え、ハイウェイ・スターがその能力を発揮する。肉体が喰らわれるのを意に介さず、サンタナのエネルギーを吸い上げる。自らの体に訪れた違和感に、柱の男の顔に驚きの色が走った。
肉体が喰らわれようと、ハイウェイ・スターは手を離さない。サンタナによる強烈なけりが腹を揺らそうと、脳天切り裂く頭突きを見舞われようと、決してその手を離さない。
血を流し、意識が飛びそうになるのをこらえながら、それでも青年は戦い続ける。かつて一人、タンクローリーの上で戦い続けた男かのように。気高く、孤高に、化け物相手に食らいつく。

「待たせたな、噴上ィイイイ―――――ッ! 俺が来た以上、ここから先は任せろォオオオオオ―――ッ!」

闇夜を切り裂く叫び声と同時に、ハイウェイ・スターが脇に飛びのいた。入れ替わりにティムの前に躍り出たのは軍服に身を包んだ一人の“兵器”。
ゲルマン魂の叡智の結晶、シュトロハイム大佐、ここに見参。サンタナへと飛びかかると、化け物相手に一歩も引かない力比べ。
手と手を合わせて、真正面からの力勝負。二人の足場が、力のあまり削れていくほどに。

「この時をまっていたぞ、サンタナァアアアア―――ッ! リベンジマッチ、貴様に吹き飛ばされた肉体が疼きよるわ―――――ッ!
 尤も、今となってはこの最高にして偉大なるドイツの科学力によってェエエエエエ、この俺の肉体はァアアアアア!
 貴様以上のものへと、大変身を果たしたのだァアアア! その力、とくと体に刻みこんでやるわァアアアアア―――――ッ!」

本日何度目だろうか、サンタナの目に驚愕が灯ったのは。削れた足場に沿うように、サンタナが押されていく。一歩、そしてまた一歩。
距離にすればほんの数センチずつなのかもしれない。しかし、サンタナからすれば予想もできないことだ。この柱の男が、人間から化け物扱いされていた生物が、人間相手に力負けをしている……ッ?!
その顔色の変化を読み取ったのだろう、ニヤリと笑みを浮かべるシュトロハイム。さらなる隠し玉、とっておきを彼は持っていた。
サンタナが気づいた時には既に遅し。シュトロハイムの右目が怪しく輝く。

「紫外線照射装置発動!」
「HUOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA―――――ッ!」
「ふはは、ゲルマンの叡智を思い知ったかッ わがドイツ軍の科学力は世界一ィイイイイイイ―――!」
「おい、シュトロハイムッ! さっさとどけ!」
17創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 01:48:39.11 ID:DXXYSSh/
支援
18創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 01:55:04.06 ID:DXXYSSh/
19英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:55:12.86 ID:TdwHXiaP
顔を覆い、苦悶の叫びをあげるサンタナ。シュトロハイムはその場を逃れるように大きく飛び跳ねた。
その場を退くように指示を出した張本人はいつのまにであろうか、ティムの傍らに立っていた。
ティムに負けず劣らずの満身創痍。ボロボロの肉体に鞭打ち、彼はティムを抱きかかえるとシュトロハイムと同じようにサンタナから距離をとる。
噴上裕也、いつもの小奇麗な身なりはどこへやら。スタンドのフィードバックもあってだろう、身体中傷だらけの泥だらけ。
だがその眼は、だがその眼はだけは。いつも以上に光輝いていた。

「あとは頼んだぞ、康一ッ!」
「どいて、どいて―――ッ!」

悲鳴に近い声、重なるように聞こえるダイヤの摩擦音。
マウンテン・ティムは噴上裕也に支えられたまま、なんとか首だけを動かし声のほうを見る。すると、眼を疑いたくなるような光景が飛び込んできた。
広瀬康一がフロントガラスよりちょこんと顔を覗かし、タンクローリーを運転していたのだ。呆気にとられるティム。無免許運転だの、道路交通法違反なんぞそんなチャチなものでは断じてない。
なんとも奇妙で、滑稽な。時が時ならば笑ってしまいそうになる、そんなシュールな光景。しかし運転している本人は真剣そのものだ。それが一層、滑稽さを引きたてている。

凄まじい速度でタンクローリーが進んでいく。目指すは柱の男、サンタナだ。
サンタナへと向かい、一直線。脇目も振らず、どんどん速度を増し、化け物を引き殺さんばかりに迫っていく! タンクローリーが牙をむいて、死神へと襲いかかるッ!
だがッ!

「何だと!?」
「かわされたッ」

ティムの叫びと、噴上の怒号が重なり合う。よろけながらも、正気を取り戻したサンタナは紙一重のところで横っ跳び、タンクローリーをさけたのだ!
康一を乗せた車体は無情にも通り過ぎていく。ブレーキ―なしの暴走列車が、勢いそのまま駆け抜けていく。
最悪の状況だ、そう保安官は思った。噴上たちの計画は泡となって消えた。それどころか今や状況は悪化している。
危機的状況が二か所、それも同時に。化け物サンタナを殺す方法が消え、暴走列車に乗っているのは頼る相手を失った広瀬康一のみ。
一体どうするのだ。どちらから対処すべきだ。化け物か、康一の救助か。
判断しかねるティムは視線を傍らの青年へと向ける。すると、驚くべき事に青年は笑顔を浮かべていた。
20英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:55:50.69 ID:TdwHXiaP

「やれ、康一ッ!」

噴上の言葉と同時に聞こえたのは『キキィイイ……―――――ッ!』という甲高いブレーキ音。
そう、聞こえるはずのない、壊れたはずのブレーキ音が確かに聞こえたのだ。ティムは我が耳を疑い、我が目を疑う。それはサンタナも一緒だった。
通り抜けていったタンクローリーが帰ってきた! その巨大な車体をそびやかし、再びものすごい勢いでタンクローリーが、サンタナ目掛けてつっこんできた!

柱の男に迫られた選択。いや、それは選択ではなかった。サンタナは腰を落とし、手を広げると肺一杯に空気をため込む。
ティムは悟った。あの化け物、真正面から受け止める気だ。さきほどシュトロハイムに跳ね飛ばされたのとは違い、真っ向勝負で、タンクローリーとぶつかり合う気だ!
そして同時にこうも思った。あの化け物ならば、もしかしたら。あの脅威の肉体ならば下手すれば、タンクローリーでさえ。
はたして勝負はここに極めり。サンタナにぶつかる直前、康一が運転席から外へと飛び出す。
それを待ちかまえるように並走していたシュトロハイム、ナイスキャッチで彼を受け止める。そして一目散に、ティムと噴上の元へ。

スローモーション。
シュトロハイムが走る。その後ろでタンクローリーも走る。
シュトロハイムが駆ける。むんずり掴まれ、脇に抱えられた康一が喚き立てる。その背景でサンタナがタンクローリーの前で仁王立ち。
シュトロハイムが跳んだ。康一を庇うように、抱きかかえるように、数メートルの大ジャンプ。サンタナの背中の筋肉が盛り上がる。いざ、尋常にとタンクローリーとがっぷり組みあう。
その時、ティムの視界の端でちらつく物体が。サンタナの背後にふわりと浮かぶ、謎の物体が。
緑色の昆虫のような、蛹のような、不思議な生命体が宙に浮かんでいた。サンタナも気づいていない。それもそうだろう、今柱の男は車につきっきりだ。
するとその昆虫が尻尾をこねくり回し、まるで粘土細工を練り直すかのようなしぐさをとり始めた。時間にしてそれは数秒もかからなかっただろう。だが今のティムには全てがスローモーションのように見えた。

そして次の瞬間、彼ははっきりと見た。昆虫が作り出した『ボカァアアアアン』の文字を。そして、それをサンタナの背後から、ヤツの首輪へと放り投げた瞬間を。
そして―――――
21創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 01:55:54.71 ID:DXXYSSh/
22英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:56:32.92 ID:TdwHXiaP
腹の底に響くような大爆発。首輪の爆破はタンクローリーのガスに引火。辺りは一瞬で黒煙と熱風、そして耳が壊れるほどの音の嵐に包まれる。
暴風と熱風で眼が開けられない。凄まじい熱気、凄まじい轟音。
マウンテン・ティムは必死で墳上裕也につかまる。シュトロハイムと広瀬康一の叫び声が微かに聞こえた。
数秒の間、世界の終わりを迎えたかのような時が過ぎていく。やがて、舞い上がった砂埃が落ち始めたころ、ようやく視界が元に戻った。
ティムはゆっくりと目を開く。見ると、隣でシュトロハイムが頭から地面につっこんでいる。康一は無事なようだが、音と光に目を白黒させグロッキー。
そして何より、噴上裕也。なんとこんな状況でありなが彼は、身だしなみをただしていた。
いつもと同じように、何があるわけでもないのに不満げな表情で、スカーフをいじりながらポケットより手鏡を出す。
髪形を整えながら、誰に言うわけでもない不満を口にしていた噴上。横目でティムの意識がはっきりしていることに気づいた彼は、あたかも興味がないかのように、こう言った。

「生きてるか、ティム」
「……ああ、生きてるとも」

カウボーイハットをかぶり直す。すこし深めに被ったのは表情を見られたくなかったからだ。
尤も、顔中広がったニンマリ笑顔はどうやっても隠しきれないだろうがな、そうティムは思った。

情けない。自分は何も成し遂げられなかった。守るはずがいつの間にか、守られていた。
だが、それは喜ぶべき事でもあった。なんてことはない、どうやら彼は少年たち二人を甘く見ていたようだ。
逞しく、頼りがいのある少年たちだ。いや、もはや少年と呼ぶのが相応しくないほどだ。
彼らは男だ。一人前の男。マウンテン・ティムの窮地を救った、英雄(ヒーロー)たちだ。

「なぁ、ティム」
「なんだ?」
「その……本当にすまねェ」

予期せぬ謝罪に、マウンテン・ティムは目をパチクリさせる。
噴上は視線を逸らし、ぼそぼそと言葉を続けた。

「俺はあんたみたいな英雄(ヒーロー)にはなれなかった。俺はアンタが戦ってる時も助けに入ることはできなったし、作戦があったとはいえ、一時はアンタを切り捨てて一番の貧乏くじをひかせちまった」

本当にすまねェ、そう繰り返された謝罪の言葉。しかし、言葉の途中からマウンテン・ティムはそれを聞いていなかった。
全身に広がる安堵感。自分が許されたという開放感。職務を全うできた達成感。
全てが電流のように彼の中を駆け巡り、感情を揺さぶっていく。
どうすることもできず、何を言うわけにもいかず。最後に彼がひねり出したのは笑い声だった。
腹を抱え、傷だらけの身体を捻りまわし笑う。最初は突っかかるように噛みついていた噴上だったが、その内つられるように笑い始める。

パチパチと火花を散らし、タンクローリーの破片と思しきものが音を立てる。
静寂の中でやけに響く火の音を聞きながら、ティムと噴上はいつまでも、いつまでも笑い続けていた。



23英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:58:47.45 ID:TdwHXiaP






「おい、なんなんだよ、これ……」

ドサリ、と腰が抜けたように仗助はその場に崩れ落ちた。膝を地面に落とし、目の前の光景を呆然と見つめる。
噴上は笑いながら仗助の元へと駆けよっていく。彼の後ろに見えるのは三人の男たち。いずれも満身創痍、傷だらけのボロボロだ。
大げさで仰々しいとわかっていながらも噴上はあえて舞台の一コマかのように、手を広げ声を張り上げた。

「なんなんだって? これが一体なんなのかわからないっていうのかよ、仗助よォ?」

表情を変え、噴上は自戒を込めたさびしそうな笑顔を浮かべた。
助け起こすように差し出した手をぼんやり見つめたまま動かない仗助。そんな彼を見て、噴上はその手をひっこめた。
その代り、彼と同じ目線まで姿勢を低くすると、強い目つきで彼の瞳を覗きこむ。

「英雄ごっこはお終いだ、ってことさ」

両肩に手を置き、一言一言語りかけるように。仗助の瞳が揺れる。彼は焦点の薄れた眼で噴上を見あげると、かすれた声で問いかけた。

「俺は、また……間に合わなかったのか?」
「いいや、間にあったぜ。その証拠に、ここには誰一人、死んだ奴はいねェからな」

呆然としたままの東方仗助。瞬きを何度か繰り返した後に、彼は俯くと、それっきり黙りこんでしまった。
噴上は下唇をかむと、次の言葉を探し、しばらくの間黙りこんだ。
言うべき言葉が見当たらない。どんな言葉をかければいいのか、わからない。それでも彼は口を開いた。

「仗助、お前は今泣いていいんだ。言っただろ、英雄ごっこはお終いだって」
24英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:59:06.08 ID:TdwHXiaP



いつの間にか彼の仲間が傍らに並んでいた。一番重症のマウンテン・ティムはシュトロハイムに肩を担がれ、足を引きずるようにして近づいてきた。
仗助の心許せる友、広瀬康一はすぐそばに腰かけると、背中に手を回し、彼を落ち着かせるように優しく撫でる。
噴上がもう一度口を開いた。その声は優しかった。

「何でもかんでも一人で抱え込むことねェよ。そりゃ俺たち、そんなに仲良しじゃねェってのはわかってる。
 気が合う友達、気が許せる仲間っていうのもなんか違う気がする。
 それでもよ、俺たちは英雄(ヒーロー)じゃねェんだから。
 誰でも彼でも救えるようなスーパーマンじゃねェから。苦しいし、キツイし、やっぱずるしたくなっちまうんだよ、俺たちは」

語りの最中、仗助の眼から大粒の涙がこぼれおちる。康一はポケットからハンカチを取り出すと、黙ってそれを手渡してやった。

「だからさ、力を合わせようぜ。辛さは分け合おうぜ。
 俺も一人じゃなんもできなかっただろうさ。逃げて、逃げて、逃げ回ってたにきまってる。
 逃げたっていいじゃねーか。泣いたっていいじゃねーか。
 今はそう言えるぜ。なんせ逃げても帰ってくる場所を守ってくれる男たちがいる。泣いても励ましてくれる友達がいる」

抑えきれない涙声が、仗助の口からあふれ出る。拭っても拭っても、滴り落ちる涙の数々。
四人はそんな仗助を優しく見つめる。二人の男は少年の成長と挫折を前に凛々しい面構えで。二人の少年は友の嘆きと苦しみを和らげようと慈愛に溢れた表情で。


「泣け、泣いちまえ。それで、落ち着いたら……億泰の墓を立ててやろう、な?」


ハッピーエンドじゃ終われない。
全ての物語が笑顔で終演を迎えられるとは限らない。

堪え切れなくなった仗助は、人目もはばからず大声を出し、泣きじゃくる。康一は傍らに座り、仗助を優しく抱いた。彼の目にも涙が浮かんでいた。

空は漆黒の闇から、ほの暗い暁の紺へと色を変えていた。
五人の頭上、遥か天高くより、いくつもの星が堕ちていく。
友の死を弔うかのよに、一際輝いた大きな星は、やがてその輝きを失い、闇へと消えていった。



25英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 01:59:22.68 ID:TdwHXiaP

                    ◆





 誰もが皆、ヒーローなんぞにはなれやしない。けれども、だからだろうか、誰もが皆、ヒーローに憧れる。
                僕らは皆、ヒーローに恋をする。
               彼らに花束を。ヒーローたちに幸運を。





                    ◆
26英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 02:00:23.00 ID:TdwHXiaP
【C−5 北西 コルソ通り/一日目 早朝(放送前)】

【チーム名:HEROES】
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:左腕ダメージ(小)、精神ダメージ(小)、膝上より右足切断
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0:仗助が落ち着いた後、億泰を埋葬してやる。その後、治療と情報交換。
1:各施設を回り、協力者を集める。

【ルドル・フォン・シュトロハイム】
[スタンド]:なし
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:大量消耗(小)、全身ダメージ(小)
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品、ドルドのライフル(5/5、予備弾薬20発)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊。
0:仗助が落ち着いた後、億泰を埋葬してやる。その後、治療と情報交換。
1:各施設を回り、協力者を集める。

【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミ―』
[時間軸]:ブラックモアに『上』に立たれた直後
[状態]:左半身喰われかけ、左脇腹消失、右足ミンチ、右腿消失、全身ダメージ(大)、体力消耗(大)
[装備]:ポコロコの投げ縄、ローパーのチェーンソー、琢馬の投げナイフ×2本、トンプソン機関銃(残弾数 90%)
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
0:仗助が落ち着いた後、億泰を埋葬してやる。その後、治療と情報交換。
1:各施設を回り、協力者を集める。

27英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 02:01:32.97 ID:TdwHXiaP
【噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[時間軸]:四部終了後
[状態]:両手ダメージ(大)、全身ダメージ(中)、体力消耗(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
0:仗助が落ち着いた後、億泰を埋葬してやる。その後、治療と情報交換。
1:各施設を回り、協力者を集める。

【東方仗助】
【時間軸】:JC47巻、第4部終了後
【スタンド】: 『クレイジー・ダイヤモンド』
【状態】:左前腕貫通傷、深い悲しみ
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、ナイフ一本、不明支給品1〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す!
0:落ち着いた後、億泰を埋葬してやる。その後、治療と情報交換。
1:各施設を回り、協力者を集める。
2.リンゴォの今後に期待。
3.承太郎さんと……身内? の二人が死んだ、のか?



【備考】
タンクローリーの移動経路:F−5→G−6→G−7→F−7 / (ここまで前SS)コロッセオの左を通って E−6→E−5→D−5→C−5
仗助の北上ルートは以下の通りです:D−4→D−5→C−5→B−5
タンクローリーが爆発した音が響きました。もしかしたら他の参加者に聞こえたかもしれませんし、聞こえなかったかもしれません。
C−5北西のコルソ通りで火の手が上がっています。今は鎮火していますが、もしかしたら誰か見てたかもしれません。
タンクローリーは完全に爆破しました。破片や瓦礫、残りかすがそこら辺に転がっています。
億泰の死体はクレイジー・ダイヤモンドによって綺麗にされ、仗助に運ばれて、B−5の民家に安置されています。
28英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 02:04:55.50 ID:TdwHXiaP
以上です。誤字脱字、矛盾点とうとうありましたら指摘ください。
久しぶりにかいたら楽しかったです。これからはもっともっとバリバリ書いていきたいです。
サンタナに関してですが、死亡表記を忘れてました。wiki収録の際、補完しておきます。
29創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 07:44:35.14 ID:ACiZDVh0
冒頭のアレに騙されたーwww
なんて気持ちのいい奴らなんだろう。
本当にいいもの見させてもらいました。
30創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 12:42:07.41 ID:KRwP3UyZ
ハリウッド映画を見てるようでした
乙でした
31創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 18:42:09.07 ID:lgLaAbqY
投下乙です!
サンタナさんは死亡か!良かったぁ!
したらばで読んだときは不気味に生死不明なのかと……T-1000みたいに蘇るのかと……怖かった
32創る名無しに見る名無し:2012/04/18(水) 19:54:01.69 ID:96lznaA0
ブラボー!おお、ブラボー!
彼らはHEROじゃない、HEROESや!
投下乙です!
33創る名無しに見る名無し:2012/04/19(木) 23:11:37.65 ID:BRxxWlyc
お二人とも投下乙!

>>計画
このコンビもどう転がるのか全くわからなくてハラハラするな…
繋ぎ回でしたが、不穏なフラグがいくつも見えてくる良作でしたッ!
単独行動が吉とでるか凶とでるか、楽しみです

>>英雄失格
冒頭の絶望感に見事騙されましたwww
しかしティムも墳上もイケメンすぎる…仗助も救われて良かった!
一気に読める疾走感のある大作、お疲れ様です!
34創る名無しに見る名無し:2012/04/20(金) 03:11:45.91 ID:WDROJvY2
>>28
乙!
まさかの噴上マーダー化か!?と思いきやのこの展開、すごく面白かったです
ただ、ちょっとした疑問なんですが始めの方でティムがサンタナを蜂の巣にした後
再生したのをみた描写があるのに、柱の男が肉体を再構成できるのを知らず
ピンチになる流れがいまいち納得できなかったんです
ここで引っかかると>>10以降の流れに違和感が出てしまって…
読解力に欠けるレスですみませんがその説明をしてもらえますか?

とはいえ、すっきりとした読後感の大作でした!
35 ◆c.g94qO9.A :2012/04/20(金) 22:37:41.65 ID:okDXNOKE
>>34
説明不足ですみません。
ティムは回復することは知っていても、肉片がそれぞれ切り落とした後も動くとは思っていなかったのでびっくりした、足元にいつの間にか肉片があって動揺したというのが僕が表現したかったものです。
原作でもジョセフが一度体内で波紋でサンタナをバラバラに吹き飛ばした後、それぞれの肉片が動く描写がありました。

シュトロハイムに銃や打撃が効かないことを聞いてた→マシンガンで撃っても死なない、動揺それほどなし
康一が『憎き肉片』で足をやられる→肉を喰らう肉があることを認識
腕を切りとばした→肉片が動くとは知ってたけど、まさかタンクローリーにひっかけるとは予想外&足元奪われてピンチやん

うまく伝わってるかどうかわかりませんが、僕のアイディアはこんな感じです。
説明が下手ですみません。
36創る名無しに見る名無し:2012/04/22(日) 11:45:17.29 ID:uT/3ZsxZ
そういう意味だったんですね!
わかりました、説明ありがとうございます
37 ◆yxYaCUyrzc :2012/04/26(木) 19:56:07.82 ID:Uj+vyg9K
本投下を開始します。
規制のことを考えて少々ゆっくり目に。それでも規制がかかったらしたらばに持っていきますので代理をお願いします。
38由来 その1 ◆yxYaCUyrzc :2012/04/26(木) 19:58:10.09 ID:Uj+vyg9K
若さ……若さって、なんだ?

――振り向かない事さ。

愛って……なんだ?

――ためらわない、事さ。


……ん?あぁ、ごめんごめん。
今回の話がある歌とよく似通っているからちょっと口ずさんでみたんだよ。
じゃあ早速始めようか――


●●●


静かに、でもコソコソしないで救急車に近寄る。ドアを降りたところでぐったりと座り込んでいる老人は動く気配がまるでない。
私の足音は他に何の音もしないこの場所ではきっとその耳にも届いているはずだけど……シカト?

「……もしもしィ?」

正面から声をかけるとその人はゆっくりと顔を上げた。泣きまくってたせいだろうか、しわがやたら深くて丸めた新聞紙みたいな顔だった。
私が次に何を言おうか考えてるとその人はまた顔を伏せる。頭を持ち上げてキープするのも辛い程に首が弱ってるって言うの?

「ちょっと――シカトこいてないでなんか言う事無いの?」

思わず口調が強くなる。
相手――もはや老人とかお爺さんとか言ってやれるレベルではない――は上体を起こし、救急車にもたれかかる。
私はその目をキッと見る。きっと睨んでいるという表現では足りないんじゃあないだろうか。要するにガン飛ばしまくっていたと思う。
と同時に鼻を突く血の匂い。私の鼻がどうだとかではない程の強さ。場所は言うまでもない、救急車の後部。
……と、そんな風に状況を観察していたらやっとの事で老人の口が動いた。

「君は……殺し合いに乗っているのか?」

……うーん。まぁ、会場で他人に遭ったらこういう会話で始まるのが妥当でしょうけど。そうじゃなくない?目の前まで迫られてガンつけられてる相手に?
とはいえ、私にだって答える義理はある。私の方が質問を促したんだから。
39由来 その2 ◆yxYaCUyrzc :2012/04/26(木) 20:00:31.74 ID:Uj+vyg9K
「……誰かをぶっ殺そうと思ってる、っていうのを“乗ってる”って言うんならそうなんでしょうね」

「そうか――じゃあ、私の事も殺してしまってくれないか?もう、疲れた」

ぼんやりとした口調でそんな言葉が返ってきた。でも、疲れたと言っても過労死とかいう話じゃあない。要するにメンタル面で何かあったのだろう。
そう思って私は救急車の後部ドアをバンと開ける。そこには一人の男がいた。さっきからプンプンする死臭の発生源。
老人が何か言いかけたが私は無視する。話は『コイツ』に聞く方が信憑性がありそうだった。

「『ブードゥー・チャイルド』――!」

スタンドの拳で座席に触れる。いつもと同じように、その場に唇が浮かんだ。

「スピードワゴ……さん……
 母…と……エリザベ……スと………ジョセ…を…
 ……頼み……ま……」

「だめだ…ッ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だッ………! ジョージ、まだ行くなッ……!!
 二度もッ……、二度もわしより先に死ぬんじゃあ無いッッッ!!!」

片方はさっき聞いた老人の声。となればもう片方がこの死体の声か。ンなるほど。
分析が終わった私はその人の方を向いた。

「あなた……スピードワゴン?ロバート・E・O・スピードワゴンなの?
 名前は知ってるわよ、有名人だもの。スピードワゴン財団の創設者でトップだった男でしょう?
 それが息子――ではなさそうね、話の感じ。でもそれ同然に大切だった男を失って“疲れたから殺してくれ”ですって?」

「……」

老人、スピードワゴンは返事をしない。
私のヴードゥー・チャイルドを見て驚いた表情をし――彼がスタンド使いだったっていう情報はあったような無かったような――
それでまた泣きそうな顔になった。この表情から言いたいセリフはどんなド低能でも分かる。次にアンタは、
『そこまで分かってるんなら良いだろう?早くこの世から立ち去りたいのだ』
……と言う。って感じかしら。

でも――


●●●
40由来 その3 ◆yxYaCUyrzc :2012/04/26(木) 20:03:44.37 ID:Uj+vyg9K
目の前の少女に胸倉を掴まれ、引っ叩かれた。先程エルメェスさんにされた行動と全く同じだった。
どうも私をすぐに殺してしまおうという気はないらしい。
が……それがなんだと言うんだ?こんな老いぼれに、今更何が残っていると言うのだ?

「私を――侮辱してんのか?」

――なんだって?思わず聞き返しそうになるほどに、言葉の意味がわからなかった。
さっきのエルメェスさんは私のためを思っての行動だった。
が、この子はなんと言った?私のことなど話題にも出さない。それどころか、自分のことを侮辱しているのかだと?

「大切な人が死んだから自分も死ぬ?それじゃあ私は最初に3人の首輪が爆破した時点で舌噛んで死ななきゃあならないわね。
 ……アァ?分かってんのか!アンタそんな私を侮辱してんのかって聞いてんだよ!」

ものすごい勢いでまくし立てられた。言葉の意味……そういう意味だったのか。だとするならそれを理解できない訳がない。
この少女だけではない。リサリサだって、エリナさんだって悲しんでいるに決まっているじゃあないか。
だが、だからと言ってこの殺し合いと言う舞台の中でどうやって生きていけばいいと言うのだ?
そんな私を察してか、少女の方が言葉を続ける。

「私はシーラ。シーラEだ。
 この『E』は『エリンニ』のEだ。意味分かる?――復讐よ
 私が敬愛する方の命を奪った罪をあのカリメロジジイに償わせてやる。
 誰かを殺すのがこのゲームに乗るって言うなら、あのジジイを殺そうと思ってる私はゲームに乗り気、ってことなんでしょうね」

「復讐……そんなことをして何になる?
 願いが叶うと言う主催者の話を信じると言うのか……?」

思わず口が動く。もう喉なんかカラカラに乾ききっていたのに。
お互いが黙ったまましばらく目を見つめ、見つめ返され――ドンと突き飛ばされる。

「……そんなことを言ってるんじゃあない。飽くまでも重要なのは復讐を『すること』それ自体だ。
 『復讐』なんかをして失った命が戻る訳ではないと、アンタはそう言った。許すことが大切なんだという者もいるだろう。
 だが――愛する者をこんなゲームで失って、その事を放棄して死ぬなんてまっぴらごめんだし……私はその事を覚悟してきた。

 いいかッ!
 『復讐』とは!
 自分の運命への決着をつけるためにあるッッッ!」


●●●
41由来 その4 ◆yxYaCUyrzc :2012/04/26(木) 20:07:34.11 ID:Uj+vyg9K
しばらくの沈黙ののちに――どちらからともなく救急車に乗り込み、その場を走り去った。
運転はシーラE。助手席にスピードワゴン。もちろん後部ではジョージが眠っている。だがそれをシーラは深く聞いたりしない。
スタンドで聞けるとか同情したからではない、聞くだけ無駄だから。彼女が聞いたのはたったの一つだけ。

「ところで、私の名前についてる『E』の話はしたけど……
 アンタの名前の『E』には何か意味があるのかい?」


――と、こういう話だ。
な?結構、歌詞とマッチしてるだろ?
若い頃のスピードワゴンならそりゃあもうすぐにでも立ち上がっただろうし、愛ってのは躊躇わないもんだ、ってのもそうだろう?
……おい誰だ!?スピードワゴンの愛って聞いてホモォとか言ってる奴は!?――まぁ、いいや。話題を逸らしても仕方ない。

しかし――ここから本当にスピードワゴンが復讐に生きるのかなぁ?

確かめたいぜ――皆、同じじゃないから。
やりたいことをやってやれ、命がけだぜ。欲しけりゃその手で……掴め。

なんて歌もあるくらいだしなぁ。シーラEと一緒に決起すると思う?そりゃあ自分の道は自分で決めるだろうけど、それが復讐なのかどうか……。
何にしても俺に言わせれば結構時間かかると思うね……あ、いや、こういう復讐者を集めまくってそのトップに立つとか?
うーん、それでもどっち道すぐには無理か……あぁでもなぁ――
42由来 状態表 ◆yxYaCUyrzc :2012/04/26(木) 20:11:15.59 ID:Uj+vyg9K
【B-3カイロ市街北西 → ?−? / 1日目 早朝】

【二人のE】


【ロバート・E・O・スピードワゴン】
[スタンド]:なし
[時間軸]:シュトロハイムに治療され、ナチス研究所で覚醒する直前
[状態]:肉体的疲労(小)、精神的疲労(中)
[装備]:救急車(助手席に座っている)
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.とりあえずシーラEと共に移動
2.復讐だと……?こんな無力な私に?
3:何故ジョージが……? 何故なんだ、リサリサ……?そして最初の場所で殺されたのはジョセフ……?

[備考]
※救急車内に、エルメェスの基本支給品、ジョージ・ジョースターU世の死体及び支給品(未確認)があります。


【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:健康、興奮状態(小)
[装備]:救急車(運転中)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2(確認済み/武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
1.とりあえずスピードワゴンと共に移動し情報収集
2.主催者のクソジジイを探し、殺す
3.邪魔する奴には容赦しない
[備考]
参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
(もちろんジョルノも面識がありますが死んだと思っていますので彼女の中では除外されています)
元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。
移動経路については大して考えていません。以降の書き手さんにお任せします。
43由来  ◆yxYaCUyrzc :2012/04/26(木) 20:15:55.94 ID:Uj+vyg9K
以上で本投下終了です。

仮投下からの変更点
・レス分割箇所の変更
・パート分割箇所の記号を変更
・表現の追加、変更
・状態表の手直し少々(救急車の運転中、など)

以前書いた仗助リンゴォのSSと似通った展開になってしまいましたね……激アツ演出は書いてて楽しいんですが、どうも上手く発展しなくて申し訳ないorz
タイトルの由来は名前の由来。「復讐」や「決意」なんかは別の機会に使おうと思いますw
内容としては泣いてるSPWをひっぱたくだけの話ですので矛盾もそんなに無いとは思いますが(懸念は時間軸だけ?)何かご指摘ありましたらコメントください。
ちょっと過疎の波が来てましたが予約も来てますし今後の展開に一人の読み手としても期待しています。それではまた。
44創る名無しに見る名無し:2012/04/26(木) 23:29:01.65 ID:W8WX5sCg
投下乙です
さりげなく時事ネタが混じってて噴いたwww
二人の今後の道中にも期待が膨らむ良SSと思います
面白かったです
45 ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 00:26:06.91 ID:yiNcdfiu
投下乙です。しばらく繋がれてなかったので不安になってました。
スピードワゴンは二部で聖人っぽくなってたので復讐者としての彼も見てみたいですね。

予約の分、投下します。
46 ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 00:27:23.24 ID:yiNcdfiu
 【0】



  ―――死の臭いがする。

47 ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 00:29:50.72 ID:yiNcdfiu
 【0】



  ―――死の臭いがする。

48 ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 00:30:53.56 ID:yiNcdfiu
 【1】



両肩の中点、脊椎を撫でるように一筋の汗がツゥ―……と流れていくのを感じた。
周りが暗闇でよかった、とティッツァーノは思う。表情はこわばり、緊張で全身から汗が噴き出ている。
どんな些細な仕草であろうと、動揺を悟られるようなことは暗殺チームを前に可能な限り避けたい。
いや、殺し合いに巻き込まれというこの状況下、むしろ動揺しているほうが自然なのだろうか。
互いの影が濃くなるまで距離が縮まったころ、金髪の男が口を開いた。

「そこで止まれ」

大きく叫んだわけでもないが、洞窟内に反響したその声はよく通った。
プロシュートの鋭い視線を受け止めながら、ティッツァーノは進めていた歩を止める。
左手に持ったベレッタがやけに重く、まるで鉛を持っているかのように感じた。
この銃を使うような状況は勘弁願いたい。いや、そんな状況に追い込まれないために、自分から声をかけたのだ。
指示に従い、その場に立ちどまる。二人の男の表情は暗がりではっきりとはしないが、それでも交互にその顔を覗き込み、ティッツァーノは言った。

「私は、この殺し合いにのっていません。協力者を探しています。共に戦い、力を合わせてくれる、そんな協力者を」

一呼吸置くと、畳みかけるように言葉を続ける。少し焦りすぎかと思ったが、存外それが素人くさくて良いかもしれない。
話の最中、黒髪の帽子をかぶった男がプロシュートのほうをちらりと横目で見たのが眼に映った。

「貴方達は殺し合いに乗っているのですか。二人で行動しているところをみると、とりあえずはのっていないのではないように思えますが。
 話し合いの場をもつことを希望します。ちなみにこの私の右手にあるのはベレッタM92。この武器を使うようなことがないよう、貴方達の慎重な行動を願います」

早口で、最後はまくしたてるように、一息で。
ティッツァーノはあくまでプロシュートとは初対面であるかのように振る舞うことに決めた。
あたかも彼については何も知らないかのように。事実、顔と名前以外は知らないも同然なので、あながち間違ってはいない。
親衛隊はボス直属唯一の機関。ならばその所在も構成員も、固く秘匿されているはずだ。
ティッツァーノはその可能性にかける。ベレッタのグリップを固く握りしめ、彼は二人の返答を待った。

不気味なほどに静まる洞窟内。じっとこちらの瞳を覗きこむプロシュートの視線が辛い。
まるでX線にさらされているかのような気分になる。もしやヤツはこちらの思考が読めるのでは、そんなありもしない馬鹿げた考えが頭をよぎるほど彼の視線は鋭かった。
敢えてプロシュートのほうに眼をやらず、ティッツァーノはもう一人の男をひたすら眺めていた。
黒髪の男はプロシュートとは対照的に、落ち着きがなく、ずっとそわそわしている。
帽子をかぶり直したり、髪の毛をいじってみたり。鼻をかいたと思えば、服のしわを伸ばして満足げな表情を浮かべたり。
その間に、男は何度か隣に立つプロシュートをちらりちらりと盗み見していた。
時間にすればそれほど経ったわけでもない。しかし沈黙に耐えきれなかったのか、その男がおもむろに言い放った。

「なんて言ってるけどよォ〜〜、どうすんだよ、“プロシュート”?」

思いもよらない情報公開にティッツァーノは反射的に表情を崩してしまう。呆気ないほどの、そしてその軽率な行為に動揺を隠しきれない。
たかが名前と思うかもしれないが、スタンド使いを前にはいかなる情報であろうと隠しうるものは隠すべきだ。
自ら手の内をばらすようなことは自殺行為に近い。顔と名前を必要とするスタンドがある可能性も否定しきれないというのに。
この男、底なしの間抜けなのか。或いはヤツも暗殺チームの一員でティッツァーノのスタンドを知っての大胆な行動なのか。

動揺を誤魔化すため、彼は咄嗟に口を開く。思いついたまま、頭に浮かんだ言葉をそのまま口に出した。

「プロシュート……? もしや同郷の人ですか?」
49 ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 00:34:23.63 ID:yiNcdfiu


暗闇のため、本人の顔ははっきりと見えない。しかしティッツァーノは確かに見た。
自分が姿を現わしてから一瞬たりとも視線を外さなかった暗殺チームの男が、チラリと相方を眺めた時の、その表情を。
泣く子も黙る、とはよく言ったものだ。いや、この場合、それすら通り越して、泣く子が気絶するのではなかろうか。
青筋が浮かんだ顔でプロシュートは、もう一度ティッツァーノに向き合う。苦虫をかみつぶしたように、憎々しげに彼は言い放った。

「とりあえず、銃を下ろせ。俺たちにも戦う気はない。情報交換といこうじゃねーか」

額に浮かんだ汗を拭いながら、思わず緩みかけた表情を再度引き締める。
まだだ。ターゲットとの接触に成功した、ただそれだけのこと。ここからが、一番の難関。ここまでの苦難など前菜の前菜にすぎないのだ。
如何にヤツに信頼されるように振る舞うか。如何にヤツと一対一の状況を作り、そして百戦錬磨のこの男の隙をつくか。
スタートラインには無事立つことができた。しかし依然状況は変わらない。
銃を持っていようと自分は圧倒的弱者。赤子の腕をひねるよりたやすく、奴は自分を始末できるだろう。
なによりも避けなければいけないのは自分の正体がばれること。
何も変わらない、そう自分に言い聞かせるとティッツァーノは偽りの笑顔を張り付け、ひとまずは情報交換のために腰をおろした。

情報交換は滞りなく行われた。時間も時間で互いに話せるようなことは少なかったが、有益な情報交換となった。
ティッツァーノは地図で言うところの現在位置を、そして病院で起きた事の顛末を。
プロシュートは時間軸の違いと、時空を超えたこの殺し合いに関しての情報を。
そして互いの立場に関して。これについては共に多くは語らず、イタリアのチンピラ同士、という曖昧なままで自己紹介には決着がついた。
互いに負い目があるからだろうか、深く語らず、また聞き出そうともしなかった。
スタンド能力に関しては、悩ましい判断だったがティッツァーノは口を閉ざすことを選んだ。
イタリアのスタンド使いとなれば、まず思いつくのがパッショーネだ。疑いが僅かでもかけられれば、暗殺は難易度を増す。
無論、スタンド使い同士の戦いとなった時、隠し通すことは非常に困難であろう。
そうとわかっていても、ティッツァーノはこの選択を選んだ。冷静な判断のもとで彼はリスクを冒してでも、相手の懐により深く飛び込むことを選んだのだ。

情報交換が一段落したところで、ティッツァーノは大きく息を吐く。
会話の最中から取っていたメモに目を落とすと、その傍らでプロシュートは黙って地図を見つめていた。
横目でそんな彼を観察していると、ふと気づけばマジェンドの姿が見当たらない。飛行機、暗闇、瓦礫と岩が転がる中でいつのまにかいなくなっているではないか。一体どこにいったのだろうか。
スタンド攻撃、とっさにそんな考えが頭をよぎる。緊張が走る中、プロシュートにも知らせなければと、手を伸ばす。
ティッツァーノの細い腕が伸び、プロシュートの肩に触れんとした、まさにその時。

「おーい、プロシュート、ティッツァーノ! 早く行こうぜ―。ちゃっちゃとこの暗闇からおさらばだァー!」

メキッ、という音とともにプロシュートの持つ筆記具が歪んだのがわかった。
今度こそ、見間違いでも何でもなく、確かにプロシュートの額に青筋が走ったのがティッツァーノにも見えた。
思えば情報交換の時も、マジェントは我関せず、知らぬ存ぜずでぼーっとしている態度だった。その注意力のなさは、目に余るほど。

ギロリとプロシュートがこちらを睨みつける。ティッツァーノは隠すことなく半笑いで答える。
暗闇だろうと、明るい光のもとだろうと、もはや表情を隠す必要はないだろう。

「貴方達は、相性が悪いみたいですね」

苦笑いのティッツァーノに盛大な舌打ちで返事するプロシュート。
二人は荷物をまとめると、マジェント・マジェントの後を追うように、地上に向かうことにした。

50 ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 00:41:17.05 ID:yiNcdfiu

 【2】



―――腹だ、腹が減ったぞ……。

51 ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 00:45:28.72 ID:yiNcdfiu
 【3】



「ワシは……ウィル、ソン・フィリッ…………プス上院議員だぞォー………ケヒヒ、ホヒヒー……」

眩しいほどの白も、薄明かりのもとでは寒々しい青に変わる。
数字で言えばついさっきまでいた地下のほうが気温は低いはずだ。けれどもその青さは身体を振るわせるほどの何かを持っている。
不安や恐怖。夜の病院というものはどうしてこうも訪れる者の心をかき乱すのか。
それはきっとここが終着点だから。生と死、そして今の状況ではより死を意識させる場所だからだろう。

ピカピカに磨かれた廊下を鮮やかな赤が飾り立てていた。ぼかされ、歪まされ、あたり一面無造作に、赤の絵の具を巻き散らかしたのようだ。
その赤の中心であり源に、ウィルソン・フィリップスがいた。
言葉にならない言葉を吐き、時折思い出したかのように呪いの叫びをあげる壊れた人間。
華麗さと醜さ、赤と白。その二つのコントラストがやけに印象的で、醜くも綺麗だなとティッツァーノは思った。

「あらまァ、コイツ、もうダメなんじゃねーのか」
「どうします? 予備弾薬なら何発かありますし、殺すも、黙らせるも可能ですが」
「待て、こう見えてもまだ使い道はあるはずだ」

隣にいたマジェント・マジェントは片膝をつき、男の顔を覗き込む。
怖いもの見たさに似た好奇心。指先でちょいちょい男をつつき、お調子者の彼はうげェーと面白そうに男の反応を楽しんでいる。
プロシュートの興味はむしろ男よりその周りに向いていた。ゆっくりとあたりを歩き回りながら、人の気配を探っている。
些細な物音も逃すまいと、神経を張り詰めているその横顔。飢えた獣のような本能と、氷のように凍てついた理性を併せ持つプロシュートという男。
ティッツァーノはゴクリと生唾を飲み込むと、ほとんど無意識のうちにベレッタを握りしめた。
自分の内からわき上がった恐怖を誤魔化すかのように、急いで会話を続けた。

「というと、プロシュート、貴方に何か考えがあるのですね?」
「いや、具体的にはない。ただ……」
「ただ?」
「殺し合いが始まる直前、ホールでの事、覚えてるか?」

一人の男を見下ろしながら三人は議論を続ける。痛みに呻き、訳の分らぬうわ言を無視しながら。
プロシュートの問いかけに思わず顔を見合わせる二人。マジェントは肩をすくめるだけで何も言わなかった。

「生憎、そんな余裕はなかったもので」
「俺もだ。なんーも覚えてねェーな」
「俺も混乱していて定かではない。だが見間違いでなければだが、何人か顔見知りがいたように思える。名前と顔しかしらねェような連中も何人かいた」
「それがなんか関係あるのかよォ〜〜?」
「頭を働かせろ、マジェント。あのスティールとかいう野郎はなんて言ってた?
 エンターテーメント、ゲーム、イベント。コイツはヤツにとって催しものなんだ。悪趣味全開のクソッタレ、だが超がつくほど大規模のな」
「つまりイベントである以上、赤の他人同士で殺し合わせるだけではつまらない。
 因縁深い関係者を集め、知り合い同士を殺し合わせたほうがよりエンターテーメント性は増す……。
 あなたはこの男から情報を聞き出そうとしているのですか?」

首を縦に振ると彼は肯定を示す。隣でマジェントが感心したように口笛を吹いた。
直後、何かを見透かすかのように、プロシュートの視線がティッツァーノに注がれた。
何秒か見つめ合ったままの二人。先に視線を逸らしたのはティッツァーノのほうだった。
52 ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 00:49:12.90 ID:yiNcdfiu


「なるほど〜〜、つまりこのオッサンから知り合いについて聞き出せばいいってわけだ」
「そうだ。碌な情報がないようだったら、それはその時でまたこいつの利用価値を考えよう」
「ならばまずはこの男の治療をしなければなりませんね」

マジェントが靴のつま先で床に転がる男をつっつく。豚の喉を絞め殺したような、甲高い声が静まり返った廊下によく響いた。
ティッツァーノはそっと、誰に聞こえることもないように息を吐く。
自分が直面する困難さを前に、ティッツァーノは抑えきれない不安を吐息に混じらせ、何度も何度も大きく息を吐いた。
心のさざ波はおさまるどころか、風速を増し、平穏をかき乱していく。不安と焦りは時間が経つにつれ、大きくなるばかり。

マジェントは相変わらず死にかけの昆虫をいたぶるかのように、男にちょっかいを出してはその反応をじっと見ている。
プロシュートは血の池に踏み入れることがないようゆっくりとあたりを歩き回り、立ち止まっては一人、何か考え込んでいる。

震える唇を抑え込むように、噛みしめる。
自分の成そうとしていることの困難さに今頃になって気づいた。自分のお気楽さに嫌気がさす。
知れば知るほど、このプロシュートという男を暗殺しようとすることは馬鹿げた自殺行為にしか思えない。
やるしかない、そう自分を奮い立たせても明確なビジョンが浮かんでこないのだ。
この男を殺す? この男を暗殺する?
プロシュートのこめかみに銃を突きつける絵を想像してみる。ベレッタから放たれた銃弾で赤く染まる男を想像してみる。

……無理だ。そんなこと、できるわけがない。
もう一度、息を吐いた。弱気になっているのは自分が一人だからだろうか。頭を振って、何を馬鹿な、と一人自分に言い聞かせる。
二人の男に聞こえなかったことに安堵するとともに、もう一度思考の海に沈んでいく。
どうすべきだ。何が正解だ。自分の非力さは誰よりも自分が一番わかっているはずだ。それを補うには頭を働かせるほかない。

数秒の後、彼は口を開く。軽く咳払いをして二人の男の注目を引くと、彼は控えめに、しかしはっきりとした口調でこう言った。

「ここは二手に分かれませんか?」

53 ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 00:54:15.25 ID:yiNcdfiu

 【4】



 ―――見つけたぞ、エモノだ……ッ!

54創る名無しに見る名無し:2012/04/27(金) 01:00:16.16 ID:2nyDSDDj
支援
55 ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 01:02:52.85 ID:yiNcdfiu

 【5】



「どうだ?」
「いえ、何も」

廊下に出て短い会話を交わす。向かいの部屋から出てきたプロシュートは、そうか、とだけ返し、延々と続く廊下を先立って歩き始めた。
ティッツァーノも黙ってそのあとに続く。男たちは一通り探索を終えたこのフロアから一つ下の階に移動しようと、突き当りの階段に足を向けた。
一見すると無防備にも見える男の背中を眺めながら、ティッツァーノは先の記憶を呼び戻す。彼はほんの少し前にかわされた会話を思い出していた。

『いいか、マジェント。こいつはお前にしかできねェ仕事だ。俺にもティッツァーノにも不可能な仕事。ましてや、そこらのゴロツキじゃてんで無理な“超高等難易度”の仕事だ』
『そうなのか!?』
『ああ、だからマジェント、いいか、その耳かっぽじてよく聞け。お前がすべきことは二つだ。
 一つ、この玄関を見張る事。誰か来たらその時の対応はお前に任せる。ただ、どんな生意気な野郎だろうとてめェから喧嘩を吹っかけることだけはノーだ。
 そこは我慢強いおめェだ、グッと堪えろ。てめーならできる、いいな』
『おう、任せとけよ、プロシュートォ!』
『べネ、さすがマジェントだ。
 二つ、コイツから目を離すな。錯乱状態の人間なんて少し目を離せばフラフラとどっかいっちまうもんだ。
 さっきも話したがコイツは貴重な情報源だ。逃がしたりしたら承知しねェぞ、わかったか』
『もっちろんだッ』
『頼んだぞ、マジェント。お前に俺たちの命がかかってる。
 もう一度言うぞ、俺はお前を信頼してる。俺はお前ならやってぬける、成し遂げるッ……そう信じてる。
 俺たちの背中、お前に託したぞ、いいな』
『オオ……ッ! わかった、わかったぜ、プロシュートッ! 任せろッ この俺に任してくれッ!』

吹き抜けの階段に響く靴音に耳を傾けながら、ティッツァーノはもう一度目の前の男をまじまじと見つめる。
慎重に、人の気配を探りながら、ゆっくりと歩を進めるプロシュート。同じように注意深く歩いているはずなのに、彼の足からは不思議と物音が立たなかった。
ティッツァーノと同じように靴をはき、同じペースで歩いているというのに。氷上を滑るかのように、滑らかで、淀みなく彼は進み続けていた。

表情一つ変えることなく引き金を引く冷徹さ、人の懐に飛び込み言葉巧みに心揺さぶる情熱さ。
この短時間で見たプロシュートという男を総括すると、恐ろしく有能という評価を下さざるを得ない。
短時間で人のメンタリティを把握するその観察力。そして飴と鞭を使い分け、容易く心開かせる行動力。
対人関係だけではない。本業とも呼べる暗殺に関する技術ではティッツァーノの舌をいくつ巻いても敵わないほど、その手際の良さには目を見張るものがあった。

マジェントに見張り役を任せ、二人は今、施設内に他の参加者が潜んでいないか、あるいは潜んでいた形跡がないかを探っている。
広大といってもいいこの施設を二人で見て回るのは予想以上に骨の折れる作業だ。しかもスタンドという未知の可能性もある以上、その難易度は計り知れないほど。

しかし、このプロシュートという男は違った。格が違う。文字通り、住んでいる世界が違っていた。
プロシュートが手本だ、と言って見せたその捜索の仕方は無駄一つなく、ある種の芸術家の作品かのように美しさすら漂わせていた。
無意識のうちに、息を潜め、目が離せなくなるほどに。なるほど、暗殺者だからこその繊細さと、そして大胆さがその一挙一足には込められていた。
ティッツァーノはもう一度溜息を吐くと、数瞬の間目をつぶってその時のことを思い出した。そして彼は思う。

作戦の放棄。もはやこの男は自分一人じゃ手に余る、私一人でこの男を殺すことなんぞ間違いなく不可能。
情けないと思うし、悔しいとも思う。しかし同時に、はっきりと目に見える形でこの力量差を見ることができてよかったのだ。
むやみやたらに特攻し、無駄死にすることを避けれた。惨めに敗残兵として頭を垂れ、屈辱に塗れた死を眼前でかわすことができた。ならば、これ以上の幸運はないだろう。

階段を下り切り、一階へと戻ってきた二人。延々と続くような廊下に影を落としながら二人はゆっくりと歩いて行く。
病室の前まで来ると左右それぞれ、扉を前に一度立ち止まる。視線を合わせ合図すると、互いに同時に部屋の捜索を始めた。
六つのベット、垂れ下がるカーテン。純白のベッドが目に焼きつき、薬品の臭いが鼻孔をくすぐった。
56創る名無しに見る名無し:2012/04/27(金) 01:06:49.26 ID:73IOnb32
支援
57 ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 01:08:53.73 ID:yiNcdfiu
無論諦めたわけではない。ただ確率の問題だ。
暗殺に次はない、それは強者の理論だ。耐え忍ぶ勇気が弱者には必要なのだ。神経が削ぎ落されるような環境にいようと、決して安易に引き金に頼ってはならない。
確実性のためならば、二人きりであるチャンスを投げ捨ても惜しくはない。我慢我慢と唱え続ける。今はまだその時ではなかったのだ。


 (今は、まだ―――……)



病室を調べ終え、廊下で彼を待つ。向かいの部屋から出てきた男に異常がないことを告げると、二人はすぐさま次の部屋に取り掛かる。
それが終われば次の部屋、その次も終わればその次に。その次、その次、その次……。
最後の部屋を無事調べ終えった二人は玄関に向かって歩いて行く。互いに無言、ティッツァーノの革靴だけが遠慮がちに靴音を反響させていた。
プロシュートがゆっくりと口を開く。目線は前に向けたままで彼は言った。

「収穫はあったな」
「……何か見つけたのですか?」

プロシュートが黙って肩にかけたデイパックを突きだしてきた。ティッツァーノが中を覗き込むとそこにあったのは治療器具に応急処置セット。

「さすが抜け目ないですね」
「お前のほうはどうだ、何か収穫はなかったのか」
「これといって特には……」
「そうか……」

珍しく歯切れの悪い物言い。何か引っかかるそんな言い方に、思わずティッツァーノは視線をあげ、プロシュートを見た。
先を行く男は黙り込んだままでその背中からは何も読み取れない。少し足を速めその隣に並ぶと、廊下の先から差し込む月の光が、プロシュートの掘り深い顔に大きく影を落としていた。
その時、プロシュートが止まった。玄関まで後ほんの少しのところだというのにふいに立ち止まり、二人の間には沈黙が流れる。
ティッツァーノは黙って、プロシュートが何か言うのを待った。緑色に光る緊急出口のランプが、怪しく二人の頭上で灯っていた。

「何かあったのですね?」
「まぁな」

またしても沈黙。こうも焦らすような話し方をしてくると、不安や恐怖よりも苛立ちが大きくなってくる。
苛立ちを抑えティッツァーノは話の続きを促す。男は感情の籠らない口調で、いつも以上にゆっくりと、彼に問いかけた。

「スタンド使い、って聞いたことないか」

言葉を言い切る直前に、プロシュートの身体から一つの影が浮き出てくる。陽炎のようにぼやけ、浮かび上がった腕は決して錯覚でも何でもない。
ティッツァーノは何も言わなかった。ゆっくりと瞬きを繰り返す。長いまつげを何度か瞬かせ、表情に皺ひとつよせず、視線を僅かでもぶらすことなく。
その声に波一つ立たせずに彼は返事を返そうと、言葉を探した。
振り返っていたプロシュートが一歩間合いを近づけた。二人の距離は顔と顔を間近で見合わせるような距離まで縮まり、男たちは互いの眼を覗きこむ。
灰色にくすんだ互いの瞳に、自らの姿が反射する。反射して浮かび上がった互いの姿を男たちは、ただ、見つめ続けた。

空気は張りつめたわけでもなく、凍りついたようでもない。ただ静かだった。音が死んだように、二人の間に沈黙が流れ続けていた。
プロシュートが見つめる。その視線は鋭利で冷たく、そのくせ燃え盛るような炎が今、その目には宿る。
ティッツァーノが見つめ返す。その視線には一切の感情がこもっておらず、霧ががったように彼の真意は覆い隠されている。
沈黙、静寂、閑散。そして―――

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

―――早朝の病院に少女の悲鳴が響いた。二人は同時に動いた。
58 ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 01:12:40.20 ID:yiNcdfiu

 【6】



――― 一撃で仕留めてやる。

59 ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 01:15:43.93 ID:yiNcdfiu

 【7】



少女は後悔していた。
何故病院なんかに来てしまったんだろう。早人を追うがままにここまでやって来た。でもこんなことになるんだったら、来るんじゃなかった。

病院にはたくさんの人が集まる。早人はそう言った。人が集まれば情報も多く集まる。情報が多く集まればここで上手く生き残れる。
確かにそうかもしれない。千帆は早人の頑固さ、強引さもあって彼について行くことを選んだ。
危険が増える、そんなことはわかっていての行動だったはずだ。弱者である自分たちだからこそ、ここでは強気でいなければいけない。そんな早人の言葉に頷いたのは自分だ。
だけど……千帆は、少し前の自分を呪う。何故病院なんかに来てしまったのか。


少女は後悔していた。
何故私たちは慎重に行動しなかったのか。どうしてもっと、もっと、もっと! 周りを警戒しなかったのだろうか。

私たちはいったい何を考えていたのだろう。私たちは露伴先生の死から何も学んでいなかったのか。
危険なんていうものはいつだって、どこにだってある。それはこんな舞台でなくても、論外ではない。
街を歩けば車やバスがブンブン脇をとんでもないスピードで駆け抜けていくし、天災や火事、不慮の事故。危険は様々なところで手ぐすねを引いて待っている。
ようするに、自分たちは『なめていた』のだ。根拠のない自信と早人のカバンに入っていた黒光りする武器で不安を誤魔化していたのだ。
二人はタダの少女と少年にすぎないのだ。少年少女の警戒心……なんて馬鹿だったのか!そんなものは紙で編んだ網のように脆く、頼りないものだとどうして気づかなかったのだろうか!
千帆は今になって後悔する。過去の自分を張り飛ばしたくなるぐらい、後悔する。




後悔する、後悔する、後悔する―――――……。



「誰か……いませんか?」

玄関をくぐり病院に入ると、早人が小さな声で問いかける。薄暗い部屋内に反響し、吸い込まれるようにその声は帰ってこなかった。
寒くもないのに千帆は震えていた。早人の額に浮かぶ汗は、ここまでやってきた道のりの険しさだけが原因ではないだろう。
立ちすくむ少女の脇をするりと抜け、早人が足を踏み入れた。少年の手には似つかわしくない、重く大きな銃がぶら下がっている。

「――ぅうあ…………」

同時に振り返る二人。千帆は早人の肩を掴み、早人は銃を声が聞こえたほうへと向ける。
視線の先は玄関の脇、待合室かのように設けられたソファや椅子が置かれている一角。物陰に隠れ、声の主は見えなかった。
ソロリ、ソロリ……とまるで氷の上を歩くかのようにゆっくりと歩を進める。早人が一瞬だけ千帆を見る。その眼は明らかに、後ろに下がっていろ、ひっこんでろ、という意味が込められた目だった。
首をゆっくりと、そしてきっぱりと横に振ると逆に早人の前に先立つように歩いて行く。
深い理由はなかった。ただ早人だけを危険な目に合わせる、そんなことは許せなかった。

声が聞こえた辺りに近づくため、椅子の間を抜け、ソファを回りこむ。
ガラス張りの一面からは月の光が差し込んでいたものの、声が聞こえた辺りはちょうど暗がりで、誰がいるのか、何があるのかわからなかった。
慎重に、慎重に。使命感と恐怖の葛藤で足が竦み、揺れる。一歩、また一歩近づいて行く。
暗がりに、一段と濃い影が写り込んだ。人の形ではなく、何か大きな荷物のように見える。時折思い出したかのように震え、そして僅かにだが蠢いている。

服を後ろから引っ張られた感覚に振り向くと、早人が無言で指さすほうを向くと二つのデイパックが転がっていた。
無造作に転がり、片方にいたっては中身が飛び出ていたほどだった。その脇には古めかしい、黒のシルクハットが置かれていた。
きつく目線で動くな、と合図され、それでも動こうとすると軽く小突かれた。仕方なく千帆はそこで立ち止まり、早人がデイパックに手を伸ばすのをじっと見つめていた。
60 ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 01:18:05.16 ID:yiNcdfiu
「……―――ワ、シはァ」

髪の毛が逆立つようなおぞましい声が聞こえた。背中一面に鳥肌がたち、吹雪が通り抜けていったように気温が下がった気がした。
地獄から聞こえてきたかのような声に、ゆっくりと千帆は振り返る。暗がりに見えたはずの影がズルリという音ともに、近づいてきた。
差し込む月光に照らされ、浮かび上がったのは歪な形の人間だったモノ。あらぬ場所から突き出た首、腕、脚。
二人の人間とかろうじてわかったのは、顔と呼べる部分がまだあったからだ。
ミンチ状に刷りあわされ、かき混ぜ合わされた二つの肉体はまるで四つの脚をもつ別生物のようで、千帆は瞬間的に叫び声をあげた。


―――その時だった。


喉もとからせり上がった悲鳴をかき消すほどの衝撃、冷水を浴び掛けられたように冷静さが彼女に戻った。
グロテスクな二人だったモノの後ろで赤く光る一対の何か。小さな影が足元を照らす緊急灯の前を横切り、長い尻尾がその後ろになびいていった。
振り向くより早く、彼女は叫んだ。この数秒の間に見たもの全てが、パズルのように脳裏を駆け巡り、ピタリと当てはまるような直感的な何かが働いた。

「早人君、駄目ッッッ!」

もつれる脚で早人の元へ向かう。二人の間には距離にして、ほんの数メートルしかない。
だが今の千帆にとって、その数メートルはまるで足元に広がる絶望の谷底かのように、暗く、黒く、広がっていた。

「罠よッ!!」

ああ、たしかに罠だった。だが、それは千帆が思っていた罠とは違っていた。
早人を突き飛ばそうと手を伸ばした彼女、それよりも早く、逆に早人が千帆を突き飛ばしていた。
同時に何かが宙を切っていくような音が聞こえ、彼女は大地に強く叩きつけられた。
冷たいフローリングに顔を打ち付け、見ると目線の先にいたのは、たった今後ろをかけぬけていったはずの獣の姿。
一匹の鼠が、十数メートル先からこちらに向かって可愛げな鳴き声をあげた。

「足ばかりひっぱって……、お人好しすぎるんだよ、お姉ちゃんは…………」

ズルリ……、なにかが腐り落ちるような音。続いて聞こえたのは重量を持った何かが地面に落ちた音だった。
早人の影が不自然に歪む。左右対称なはずの身体の右側の腕が、ゆっくりと重力に従い、落ちていった。


「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


少女の悲鳴が木霊する。早人の右腕が、腐り切り、落ちた。


【マジェント・マジェント 死亡】
【ウィルソン・フィリップス上議員 死亡】
61 ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 01:22:01.23 ID:yiNcdfiu
【G-8 フロリダ州立病院内/1日目 早朝】
【ティッツァーノ】
[スタンド]:『トーキングヘッド』
[時間軸]:スクアーロを庇ってエアロスミスに撃たれた直後
[状態]:左腕に噛み傷(小)
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 27/50)@現実
[道具]:基本支給品一式、救急用医療品(包帯、ガーゼ、消毒用アルコール1瓶)
[思考・状況]
基本行動方針:スクアーロと合流したい
0.???
1.暗殺を確実に行えるよう、信頼できる仲間と武器を手に入れる
2.情報が少しでも多く欲しい
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(水なし)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
0.???
1.暗殺チームを始め、仲間を増やす
2.この世界について、少しでも情報が欲しい

62『日陰者交響曲』    ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 01:23:16.16 ID:yiNcdfiu
【虫喰い】
[スタンド]:『ラット』
[時間軸]:単行本35巻、『バックトラック』で岩陰に身を隠した後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:食う、寝る、生きる
1:食う、寝る、生きる

【川尻早人】
[スタンド]:なし
[時間軸]:四部終了後
[状態]:漆黒の意志、体力消費(小)、右腕融解
[装備]:スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬24発
[道具]:基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:ママを守る。人殺しは殺す。
0:???
1:本物の杜王町への手がかりを探す。
2:仕方がないので千帆と行動。
【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:体力消費(小)、精神消耗(中)、混乱、後悔、
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、万年筆、露伴の手紙、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本的思考:ノンフィクションではなく、小説を書く。
0:???
1:早人と行動。
2:ゲームに乗る気はない。
3:琢馬兄さんもこの場にいるのだろうか……?

【備考】
ティッツァーノ、プロシュートの情報交換に関してですが、詳しいことは次回以降の書き手さんにお任せします。
ティッツァーノ、プロシュートの思考、行動に関しても続きを書かれる書き手さんにお任せします。プロシュートの質問がブラフなのか、真意のものなのか、そこらへんも任せます。具体的に何を考えてるのか、どう動くのか。全部お任せします。
マジェント・マジェント、ウィルソン・フィリップス上院議員の死体の近くにそれぞれのデイパックが転がっています。
川尻早人の支給品はスミスアンドウエスンM19・357マグナム と その予備弾薬でした。

【支給品紹介】
【スミスアンドウエスンM19・357マグナム と その予備弾薬@現実】
川尻早人に支給された。全長191mm、重量888g、装弾数6発、高さ132mm。
アメリカ、S&W社のリボルバー。その重量感ある外観から一部のマニアから絶大の人気がある代物だとか。
63『日陰者交響曲』    ◆c.g94qO9.A :2012/04/27(金) 01:25:09.33 ID:yiNcdfiu
以上です。投下が遅れてすみませんでした。支援感謝します。
誤字脱字、矛盾点、気になる点ありましたらお知らせください。

投下数だけはナンバーワン。それが僕の人生哲学よ。
64創る名無しに見る名無し:2012/04/27(金) 01:38:13.44 ID:73IOnb32
投下乙です!
上院議員無惨……そしてマジェントは最後までしょっぱいヤツだった
65創る名無しに見る名無し:2012/04/27(金) 20:37:58.34 ID:XtqcpOz4
投下乙!
上院議員は長くないとは思っていたが、マジェントもか……
虫喰いは随分移動しましたね。駅前の餌(死体)は食べ切ったんですか?
66創る名無しに見る名無し:2012/05/01(火) 00:31:47.91 ID:srtTBrJb
投下乙です
色々感想こねくり回した末
「なにこれ超面白い」としか言えない自分に絶望した
面白かった!です!

ひとつ気になった点として
虫食いの能力ってあくまで「溶かす」能力じゃあなかったかな、と
表現の違いだけかもですが、腐るのとはちょっと違ったような…本編ではにこごりだったかな
気になった部分はそこだけです
67創る名無しに見る名無し:2012/05/01(火) 00:41:24.22 ID:Uioe8vNJ
確かに
むしろ溶かして保存してたから腐るとは真逆の表現かも
68 ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 20:06:24.64 ID:CNAky4ew
ジョナサン・ジョースター、レオーネ・アバッキオ、ナランチャ・ギルガ、パンナコッタ・フーゴ、リンゴォ・ロードアゲイン
投下開始します。
69迷える子羊は神父への懺悔を望む ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 20:08:41.10 ID:CNAky4ew

「………………」

リンゴォ・ロードアゲインはひとり道の真ん中に立ち尽くしていた。
先程説教を行った少年―――東方仗助の姿は既にない。
彼は言いたいだけいうと、本当に北へと向けて歩き出して行った。
その姿が見えなくなる寸前に一度だけ振り返ってこちらを見ていたのは彼なりの『心配』、あるいは『期待』だったのかもしれない。

「『成長』すればいい……か…………」

元々リンゴォはそのつもりであった。
人として未熟な自分自身を人間的に生長させるために、彼は公正なる『果し合い』に挑んできたのだから。
しかし、自分は敗れた―――命を奪われることも無く『生かされて』。
その時点で、自分は既に『死んでいる』―――それに等しいことだと考えていた。

―――だからこそ、彼のスタンド『マンダム』は精神が落ち着いた今も発動しない。
生命エネルギーの像であるスタンドが、自分は死んでいると思っている人間に現れるはずがなかった。

人は成長を続ける生物だが、死んでしまえばそこで成長は止まる。
スタンドが無くなる……すなわち、魂が死んでしまった状態に等しい自分がこれ以上成長できるはずがない。
先程の仗助の言い分を聞いても、自分の歩んできた道を、信念を曲げることはどうしても出来ず、彼の後を追う気にはなれなかった。
かといって、仗助の言葉が全くの無意味というわけでもなかった。

「……オレが『未熟者』、そんなことは元より理解している……だが『甘ったれ』だというならば、今のオレがオレ自身を殺すわけにはいかない」

リンゴォは彼の言葉を聞き、ひとまず自決を思いとどまっていたのである。
思い返すのは、この『殺し合い』が始まってから耳にした言葉。


『―――このゲームにおけるルールは唯一にして絶対無二、『生き残れ』、ただそれだけッ!―――』

―――そう、ここは殺し合いの場……相手を『負かす』には『命を奪う』しかない。


『―――返してほしければ、力づくで奪うがいいさッ UHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

―――だが、あの男は逃げていった……自分の『命を奪わず』に。


『―――だったら成長すりゃあ良い。でもそれがない。自分の限界決めつけてるから―――』

―――成長、限界……それ以前の問題として、スタンドは変わらず使えない……では、どうするか。
70迷える子羊は神父への懺悔を望む ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 20:11:34.03 ID:CNAky4ew

リンゴォは顔を上げ、首を横に向ける。
見つめる先は東―――巨漢が去っていった方角。


(……ヤツにはオレを殺す、その義務がある……そんな気すらないというのならば……)


―――彼の心は、決まった。


「殺し合いの場にもかかわらず、おまえはオレを生かしたまま去っていった」

言葉の内容は巨漢に向けられているもののようであったが、リンゴォはほとんど自分に言い聞かせるかのようにつぶやく。
まずは辺りに落ちていたデイパックとナイフを――折れてしまった二本を含めて――拾い上げた。

「しかし、この場からはオレを含む『参加者』を殺さなくては出て行けない…………ならば」

『果し合い』の決着は、まだついていない―――自分の考えにも完全な納得は出来ない。
だが、『果し合いの最中』ならばどんなに絶望的な状況になろうとも自暴自棄になり、自らの命を捨てることは『男の世界』に背くことになる。

(そうでなければオレはあの夜、軍服の男から銃を奪い取ることなく、なすがままにされ殺されていただろう……
 あがいたからこそ、オレは『光』を見つけることができた……進むべき『光り輝く道』を……
 あの時のように、あがいてみるのが『アマったれるな』ということだと、オレは受け取った)

自分の歩を進める―――先程までの自分が出来なかった『限界』を超えるためにリンゴォは『前を向いた』。
言葉の意味はリンゴォ自身の勝手な解釈。
もしかしたら、仗助は彼に『他の道を見つけろ』と言いたかったのかもしれない。
しかし……

「……おまえはオレに成長すればいいと言った……だが、オレは他に生長の方法を知らない。
 そして、この道が間違っているとは欠片も思っていない……これ以外には生きられぬ『道』」

ちらりと北―――仗助の歩いていった方角を見て、リンゴォは口を開く。
その言葉は仗助に聞こえるはずも無く、どちらかといえばリンゴォ自身の『けじめ』というべきものであった。
言い終えると彼は再び前を向き、歩き出す。
公正なる『果し合い』の続き―――決着を『つけさせる』ために。

「ヤツがどんなつもりか……どちらにせよ、オレの命を奪わないというのならば、奪ったものは返してもらう―――『スタンド』も、『誇り』も」


リンゴォはどこまでも歩き続ける―――自分の定めた一本道を。

71迷える子羊は神父への懺悔を望む ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 20:15:37.39 ID:CNAky4ew
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―――時間的にはリンゴォの出発から大分経過した頃。
果し合いの相手であったエシディシ―――今はレオーネ・アバッキオである―――は呆然としていた。

『再生』は既に終わっていた。
それにより、アバッキオは全てを知ってしまった―――ムーディー・ブルースの『再生』によって巨漢と東洋人が何をしたかということ。
そして、自分が命の恩人であるその東洋人の命を図らずも奪ってしまったことも。

「こんな……こんなことが……」

目の前で見た『過去』に、別のものになってしまった自分の体……事実は全てそこにある。
しかし、あらゆる意味で脳がそれに追いつかなかった。

「……オレの……からだ……は」

頭の中は真っ白になっていたが、それでもふらふらと歩き、すぐ側で潰れているコンテナに手をかける。
アバッキオ本来の力ではビクともしない重量のコンテナも、『柱の男』のパワーならば話は別であった。
金属がきしむ音を立てながらコンテナが浮き、横へとどかされる。
その下にあったのは、コンテナに潰されて無残な姿になった東洋人―――岸辺露伴の死体と、自分自身―――レオーネ・アバッキオのぬけがら。

「―――ッ!!」

無残な死体を見たのは初めてというわけではなく、コンテナの下に死体があることも分かっていた。
しかし、スタンド使いであっても想像できないものである―――自分の死体を見る、ということは。

アバッキオは気分が悪くなり、頭を抱える。
脳は吐き気をもよおしているのだが喉の奥から何かがせり上がってくるという様子は無く、代わりに目元から涙がこぼれそうになっていた。
……まるで、体の元の持ち主が大声で泣き叫びたいとでも言わんばかりに。

(だが、今はまだ目を背けるには早すぎるだろーが……ッ!)

歯を食いしばって堪え、続いてもう一人の死体に目を向ける。
この体の本来の持ち主であった巨漢を倒し、自分をこのような状態にした張本人。
72迷える子羊は神父への懺悔を望む ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 20:19:29.21 ID:CNAky4ew

「助けてもらって……アンタに感謝するべきだとは思ってる……だが……オレは……すまない…………」

命の恩人かと聞かれれば間違いなくそうであると言える……が、素直に感謝できるかと聞かれれば即答は出来なかった。
されど、自分のせいで彼が死ぬことになったのもまた、まぎれも無い事実。
アバッキオは複雑な感情を抱いたまま、届くはずもない謝罪をするほかなかった。

「悪いが、ちょっとだけ試させてもらう……死体に鞭打つってワケじゃあねえが……」

アバッキオは『再生』で見たことを実際に確かめるため、露伴の死体に軽く手を触れる。
すぐに手は死体に……いや、死体のほうが手にめり込んで、自分の体に『吸収』されていく。
意図して『吸収』をやめようと考えても、何をどうすれば加減できるのかがさっぱり分からなかった。

「やっぱり、この体は……明らかに人間のモノじゃねえ……」

明らかに特異な全身だけでなく、体の中に流れる血液や、血管にまで妙な何かを感じる。
『化け物』は文字通り『化け物』だったということであり、それは現在の自分が『化け物』であるということを示す。
そして、元に戻すことが可能といえそうな人物は既にいない。

果たして、自分は本当に『救われた』のだろうか。
アバッキオはその答えについて、いくらもしないうちに知ることとなる。

「お、おい…………」

呆然としていたうえにその『音』が比較的なじみのあるものだったため、用心深い筈のアバッキオが『エアロスミス』の発する音に気付いたときには既に遅かった。
振り向いた彼の後ろには信じられないような目でアバッキオと……彼のぬけがらを見る同じチームの仲間―――ナランチャ・ギルガの姿があった。

(―――ナランチャ……!? どうする……? 事情を話すべきか…………本当に、それでいいのか……? オレが、化け物になっちまったと伝えて……
 それともこの場は一旦離れて『放送』でオレの名前が呼ばれないことを確認してから―――いや、そもそも主催者の野郎はこの状況をどう判断する……?
 この化け物じゃなく、オレの名前の方が呼ばれてもなんらおかしくはねえ……それほどの異常事態だ……)

―――混乱に疑問、そして躊躇。
自分でも受け入れ難い事実を伝えてしまって本当に良いのか、そもそもナランチャが理解できるような説明を行えるのか。
それよりもここは一度離れ、『放送』を確認してから説明するべきではないのか。

アバッキオにはこの時、向かうべき二つの道があった。
―――そう、この時は。
73迷える子羊は神父への懺悔を望む ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 20:25:00.91 ID:CNAky4ew
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「どおゆうことだよォオオオオオオ!! なんでアバッキオが死んでるんだよォオオオオ!!」

ナランチャは人目も気にせず力の限り叫んでいた。
皮肉にも、サルディニア島でナランチャが見たのとほぼ同じ―――腹に大穴が開いているアバッキオの死体にすがりつき、泣き叫んでいた。
せっかく生きていたと思っていたのに、また会えると思っていたのに―――彼の悲しみは、計り知れない。
希望が絶望に変わるというのは、何より深い悲しみを生むことになるのだから。

そんなナランチャのすぐ近くには巨漢が立ち尽くしており、ナランチャに何をするでもなくただ見つめている。
その姿はまるで、ナランチャに対してどうしていいかわからないように見えた。
だが、彼が迷っているうちにナランチャは巨漢の方へと向き直る。

「てめえか〜〜ッ!? てめえがアバッキオをやったのかぁぁぁーーッ!!」

ナランチャの疑いはすぐ近くにいる巨漢に向けられる。
それも当然……彼は直前まで『ムーディー・ブルース』の発する音を聞いていた。
しかし、駆けつけてみればアバッキオは物言わぬ死体となっており、近くには見知らぬ巨漢がいる。
状況的に、誰が見ても犯人はただ一人しか考えられなかった。

「落ち着……」
「下がるんだ、ナランチャ!!」
「!?」

まさに巨漢が口を開いた瞬間、ジョナサン・ジョースターが二人の間に割って入る。

「え、ジョナサン?」
「そいつは人間じゃない! おそらく吸血鬼……化け物だ! とにかく一度離れるんだ!」
「えっ?えっ?」
「―――!!」

その言葉を理解しきれないナランチャ、一方巨漢のほうはジョナサンの言葉にショックを受けたかのように固まってしまった。



―――わずかに時は遡る。
実はジョナサンはその身体能力で先回りをし、ナランチャが巨漢に接近する少し前に現場付近の高所に辿り着き、そこから巨漢の様子を伺っていたのだ。
ナランチャが言っていた『ムーディー・ブルース』の音は既に途絶えていたため、ジョナサンは巨漢の正体と、その近くにある二人の男の死体について判断しかねていた。

(あれが、アバッキオ……? いや、確かに背は高くて体格もいいが、あの巨漢がナランチャと同郷の人間とは思えない……
 それに、あの二人の死体はいったいどういうことだ……? 彼がたまたま通りかかっただけ……ではなさそうだが)

次に彼が見たものは、巨漢が二人の死体のうち片方に手を触れる場面。
そのとき、ジョナサンは巨漢の持つ生命エネルギーがほんのわずかだが増えたことを感じ取った。

(あれは……血を吸っているのか……!? だとすると、ヤツは吸血鬼……! やはりあの二人はヤツに……?
 ……いけない、このままではナランチャが危ない!)

即座に判断し、自分も巨漢の元へと急ぐ。
そして、駆けながらもナランチャの発言から、巨漢ではなく近くに横たわる死体のほうがナランチャの知り合いであるアバッキオだということを確認した。

(ならば、手加減は無用ッ!!)

―――そして、今に至る。
74創る名無しに見る名無し:2012/05/03(木) 20:27:17.31 ID:M/ITyFBh
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75迷える子羊は神父への懺悔を望む ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 20:30:24.80 ID:CNAky4ew


ジョナサンはキッと巨漢を睨むと、決意に満ちた表情で言う。

「おまえがこの殺し合いの場で何を思い、何故彼らを襲ったのかは分からない。
 しかし、彼らにもナランチャのような仲間が、家族がいたはず! それをおまえは奪ったのだ!
 許しておくわけにはいかないっ!! 浄めてやるっ! その穢れた魂ッ!!」

未だに呆然とするナランチャを下がらせると、ジョナサンはその腕を振りかぶり巨漢に迫る。

(狙うのは当然、脳が存在する頭部―――!)

対する巨漢は我に返ると、まるで体に触れられることを恐れるかのように必要以上の動作で後退してジョナサンの攻撃をかわす。
……だが、次の瞬間!

「ズームパンチ!」
「―――がッ!!?」

関節をはずして腕をのばすッ! その激痛は波紋エネルギーでやわらげるッ!
ジョナサンの腕が手元でグーンと伸び、とっさにのけぞった巨漢の喉を捉えた!

波紋の一撃を食らった巨漢は何度か口をパクパクさせていたが、ジョナサンが再び構えるのを見ると……
背中を見せ、恐るべき速さで一目散に逃走を始めた。

「あっ! てめーっ! どこに行きやがる! 逃がさねえぞォオオ!!」
「ナランチャ! 待つんだ!」

ようやく気を取り直したナランチャは即座にそれを追い始める。
アバッキオの死体を野ざらしにしたままとはいえ、殺した相手がすぐ近くにおり、逃げるというのならば追う以外の選択肢は彼には無かった。
ジョナサンも後に続こうとして、ふとアバッキオのぬけがらの様子に気がついた。

(頭が開かれて……脳が、無くなっている……?)

違和感を覚えるものの、躊躇は一瞬。
すぐに逃げる巨漢とそれを追うナランチャに続き、ジョナサンは駆け出した。
76創る名無しに見る名無し:2012/05/03(木) 20:33:49.17 ID:JFukcPGX
支援
77迷える子羊は神父への懺悔を望む ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 20:35:27.96 ID:CNAky4ew
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アバッキオは逃げていた。
自らを追ってくる二人だけではなく、現実からも。
自分のぬけがらを見て悲しみと怒りに震えていたナランチャに、自分のことを『化け物』と呼んだジョナサンという青年。
彼らの目に映っていた自分は『レオーネ・アバッキオ』ではなく、ただの『化け物』である―――その事実が、たまらなく悲しい。
化け物と呼ばれた瞬間、頭の中がごちゃごちゃ……あるいは真っ白になっていたのかは自分でも分からなかった。
さりとて、加減が出来ない今の状態では下手に攻撃を受けるわけにもいかず、逃げるしかない―――かろうじてそう判断し、可能な限りの速度で行く当てもなく地を駆けていた。

(なんなんだ、さっきのパンチは……!? ブチャラティみたいにリーチが伸び……いや、それ以前にッ……喉が……熱いッ!!)

手を触れてみて驚く。
自分の喉が、シューシューと音を立てながら溶けていた。
にもかかわらず、血は一滴も出ていない。

(クソッ、この体……マジに化け物だ……! だが、それでも弱点はあるってことかよッ……)

改めて自分の体の特異さに呆れるも、喉がないという事は声が出せない、すなわち状況の説明も出来ないということである。
追ってくる者の順序はいつの間にか入れ替わり、逃げるアバッキオのやや後方で、ジョナサンが後ろを走るナランチャを気にしつつ追ってくる状態になっていた。

(このスピードなら、どうにか撒けるかもしれねえッ)

化け物の体はその体格の割に、信じられないスピードを持っていた。
さすがに走るという行為は人間も柱の男も共通の動作であるため、アバッキオもエシディシ本来とまではいかなくとも、それに近い速度を発揮することが出来ている。
追うジョナサンのほうも純粋な速度だけならば決して負けてはいなかった。
しかし『エアロスミス』のレーダーではぐれる心配は少ないとはいえ、ナランチャをひとりにするわけにはいかない以上どうしてもアバッキオに差をつけられてしまう。

(オレは……なにを馬鹿なことをやってんだ! あの場でナランチャに『ムーディー・ブルース』を見せりゃ何も問題はなかっただろうが!)

アバッキオは逃げながらも状況を打破するための方法を考え……すぐに最も簡単で効果的な方法を思い出し、自分のマヌケさ加減に呆れる。
だが現在、スタンドは出せても説明するのにそれだけではまだ不足……声が出せない以上、何か別の方法で伝達をしなくてはならない。
そうこう考えているうちに……

(―――!? 喉が、治りかけてやがる? これもこの体のせいかッ!?)

アバッキオはなにげなく喉に手をやり、先程の傷がふさがりはじめていることに気付く。
おそらく、もういくらもしないうちに再び声が出せるようになる―――わずかな希望を見つけながらも、今は駆け続ける。
やがて、アバッキオの目の前にはT字路が見えてきた。

(この道……左に行けばコロッセオがあるな……時間を稼ぐにはそっちに行ったほうが有効だ!)

周りの建造物から判断し、即座に左折を決定。
だが、いざT字路に進入し、左方向を向いたところでアバッキオは止まった―――止まらざるを得なかった。



―――目の前に、またもや知り合いの姿があったのだから。
78迷える子羊は神父への懺悔を望む ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 20:41:00.96 ID:CNAky4ew
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パンナコッタ・フーゴはコロッセオからE−7北西を目指して北へと向かっていた。
またしても入れ違いになった、という事態は避けたいため、先程までと比べてやや足早に進んでいく。

(それにしても、ぼくは運がいいのか悪いのか……
 スタートしてからもう四時間以上経過しているのに、最初のムーロロも含め、人間らしき姿を一度も見ていない……)

いまさら孤独が怖いというわけではない。
だが、この異常な状況の中でいつまでもひとりきりというのは否応なしに不安感を掻き立てる。
しばらくして、フーゴがT字路の手前に差し掛かったときだった。

(足音……誰かが走ってきている……?)

前方右の角の先から物音……何者かが来る――それもかなり急いでいる――音を感じ取ったフーゴは一旦足を止める。
あいにく、近くに身を隠せるような場所はなかったため、角から距離をとると懐に手を入れ、上着で隠しているナイフに手をかける。

(どんなヤツが出てくるかはわからないが、むやみに刃物を見せると疑われるだけだ)

それ故に、まだナイフを構えることはしない。
一応、後方には何の危険もないことを再確認してから、フーゴはその時を待った。

―――そして、一分も経たないうちに『それ』は現れた。
横道から出てきたのは、古代人のような格好をした筋骨隆々の巨漢。

巨漢にとってフーゴの存在は完全に予想外だったのか、驚いた顔のまま静止していた。
一方、フーゴのほうも人間離れしたその男の正体をつかみかね、一瞬だけだが固まってしまう。
硬直を解くことになったのは、自分の懐からの声。

『ああァ、フーゴォ。気を付けろォ、そいつが例の『化け物』だァ』
『ヤバイヤバイ、近すぎで激ヤバだァ。急いで下がるんだァ』

ハートのAと2が、この状況でも歌うように言葉を発する。
『化け物』―――そう聞いたフーゴは即座にベルトからナイフを引き抜き、いまだ静止したままの巨漢から後ずさりして距離をとる。

(こいつが、化け物……? なるほど、確かに人間離れした体格だ……だけど、ムーロロが言っていたことを考えると、おそらくそれだけじゃないはずッ……!)

誰かに出会う可能性は常に考えており、化け物と遭遇するのも覚悟の上―――そう思っていたからこそ、フーゴはE−7を目指していた。
しかし、まさか化け物がこちらに向かっており、こんなに早く遭遇するとは―――迂闊に追いかけるのはお勧めしないというムーロロの言葉を今になって思い出す。

(戦うべきか、逃げるべきか……いや、それ以前にヤツは何を考えているのか……)

場が緊張感に包まれる中、巨漢が口を開き、何かを伝えようとする。



「……フ……ー……「おまえの相手はこのぼくだッ! そこの君、下がるんだッ!」」

79迷える子羊は神父への懺悔を望む ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 20:45:40.09 ID:CNAky4ew
だが、その言葉は横からの声によって途中でさえぎられる。
先程巨漢が出てきたのと同じ道から、一人の青年が駆けてきたのだ。
青年もまた、化け物ほどではないが背が高く、がっしりとした体格を備えている。
フーゴは青年の姿を見て、何か覚えがあるような―――言葉に出来ない不思議な感覚を覚えていた。

「あなたは……?」
「ジョナサン・ジョースター」

厳かに、しかしよく通る声でジョナサンは答える。
巨漢から注意を逸らすことはせず、しかしフーゴの方にも気を配っているのがよく分かった。

(この場において、初対面の相手にあっさり本名を教えるような行為は避けるべき……
 なのに何故だろう……彼に対してはきちんと名乗り返すべきだ―――そう思えてならない)

相手は一見信用できそうであり、名乗られたら自分も名乗るのが礼儀―――だが、素性や能力が不明である以上、そう簡単に口を開くわけにはいかない。
するとフーゴに対し、ジョナサンの方から思いもよらない言葉が投げかけられた。

「間違っていたらすまない……君はパンナコッタ・フーゴだね?」
「……!! 何故、それを!?」
「やはり、君がフーゴ……か」
「……どういうことです? まるで、ぼくのことを知っていたかのような口振りですね」

名前を正確に言い当てられ、フーゴは思わず反応してしまう。
その直後、自分の迂闊さに反省して相手に疑念と警戒を向ける。

(先程カードの発した声が聞こえていたにしても、フルネームまでわかるわけはない! まさか、この男……!)

だが、ジョナサンがその問いに答えるよりも早く、その疑念は氷解した。
ジョナサンの後ろから、ナランチャ・ギルガが遅れてその姿をあらわしたのだ。

「ハァ、ハァ、やっと……追いつい……た……って……? あれっ!? フーゴ? フーゴか!?」
「………………ナランチャ!!」

ナランチャはフーゴの姿を認めると、不思議そうに、しかし嬉しそうに声を上げる。
フーゴもまた、その姿としぐさをしっかりとその目で見ていた―――何度も、確認するように。
忘れるはずもない、その姿……サン・ジョルジョ・マジョーレで別れてから、フーゴにとっては実に半年振りの再会。
―――本来ならば、決して叶うことなど無いはずだった再会。

(本当に……本当にナランチャなのか……!? 今すぐ近くで確かめたい……ナランチャが、ぼくの幻覚などでなく確かに生きていることを!!)

ムーロロの情報と、ジョナサンが自分の名前を知っていた理由が一つの線となって繋がる。
よそ見をしていられる状況ではないはずなのに、フーゴは今、ほんの一時とはいえ全てを忘れていた……
二度と戻らないはずの、大切な思い出…………その断片が、目の前にあったのだから。
さりとて、巨漢の目の前を横切るなどという無謀な行為をしないのは、彼に理性が残っていた証拠であろう。

そんな中、ジョナサンは巨漢に挑むべく波紋を練り始めていた。
巨漢は彼らの会話中にも攻撃を仕掛けてくること無く、しきりに自分の喉元を確かめているだけだったが、その裏で何を企んでいるのかわかったものではなかった。
先程与えた傷が既に直っているのを見て、その回復力の高さから一気に勝負をつけるべきだと判断する。
腰を深く落とし、相手の懐へと飛び込もうとしたところで―――



                   「待てッ!! これを見ろッ!!」



……巨漢が突如、大声を張り上げる。
80創る名無しに見る名無し:2012/05/03(木) 20:47:59.21 ID:M/ITyFBh
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81迷える子羊は神父への懺悔を望む ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 21:00:53.42 ID:CNAky4ew
フーゴとナランチャはお互いの顔から巨漢の方へと視線を移し―――目を丸くする。
巨漢のすぐ側には、見間違えるはずもない仲間のスタンド―――『ムーディー・ブルース』の姿があった。

「それは……何だ? おまえの能力か……? だがッ……!」
「「ま、待ってくれ!!」」
「……?」

ジョナサンにとっては見覚えのない怪しい人型であり、かまわず攻撃しようとするがフーゴとナランチャに静止され……警戒しながらも交互に二人の顔を見て、行動をやめた。
そして、フーゴとナランチャはそれぞれが巨漢へと問いかける。

「お、おい……なんでてめえが……『ムーディー・ブルース』を……?」
「ああ、そうだ。何故、そこにアバッキオのスタンドがいる……!?」

二人の問いに、巨漢は不思議と安心したような表情を浮かべた。
そして、おもむろに口を開き―――




                   「それは……オレが「見つけたぞ」」




―――巨漢の言葉は、またしても途中でさえぎられる。
全員の視線がそちらに向く中で、T字路における誰もいなかった最後の道から、新たな闖入者である男が一人姿をあらわしたのだった。
男はわき目も振らずに、巨漢へと近づいていく。

「あなたは……?」
「会話をするのは………ひとりずつにしたい」

先程ジョナサンに尋ねたのと全く同じフーゴの問いかけに一応の返事はしたが、その内容はほぼ無視を決め込むもの。
だが、何かを思い直したのか男はフーゴに向けて再び口を開いた。

「名は……リンゴォ・ロードアゲイン」
「……うかつに近づいちゃ危ない! そいつは……」
「………………」

ジョナサンとは違い、まるで興味がなさそうに名前を告げられる。
フーゴは彼に警告を促すも、その歩みが止まる様子は全くない。
リンゴォは巨漢のすぐ近くまで進むと、何の偶然かフーゴが持つものと全く同じナイフを突きつけ、言った。




                 「オレのスタンドを、返してもらいにきた」




―――空気が、変わった。
82迷える子羊は神父への懺悔を望む ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 21:05:40.83 ID:CNAky4ew
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その発言はリンゴォからすればただ目的を告げたまでのこと。
しかし、その場にいた他の人間にとっては、全く別の意味合いを持つ言葉。
特に、巨漢―――アバッキオにとっては最悪のタイミングでの発言であった。

「どういう……ことだ……? オレはお前のスタンドなんて―――」
「確かに、この右腕と時計は今、ここにある……おせっかいな男の仕業でな……
 だが、スタンドは戻って来なかった……取り戻す方法があるとするならただひとつ……おまえを、殺すことのみ」

アバッキオの言葉を聞くのもそこそこに、淡々とリンゴォは述べていく。
一方フーゴは判断を放棄して沈黙を保つムーロロの代わりに、ひとまず自分よりは事情を知っていそうなナランチャに質問を投げかけていた。

「ナランチャ、一体これはどういうことなんだッ!?」

それに対し、ナランチャは答える―――自分の考えを、言ってしまう。




「どうもこうもねえ……そこのデッカイ奴が、アバッキオを殺してスタンドを……『ムーディー・ブルース』を奪いやがったんだ!!」




―――殺し合いが開始してすぐか、あるいはさらに過去において、この巨漢はリンゴォと名乗る男のスタンドを奪った。
そして、この殺し合いの場において、レオーネ・アバッキオのスタンドを奪い、彼を殺害した―――これがナランチャの出した結論。

その考えは、誤解の末に生まれた、誤った認識。
だが、不幸なことにそれが誤りであることを『納得』させられる人物はこの場にいない。


「違うッ!! オレは―――」
「何いってやがる! どこが違うっていうんだッ!!」


全てを知るアバッキオの言葉はもはや相手に届かない。
立場上は加害者に位置する者が自分を擁護する発言をしたところで、誰がそれを信じるというのか。
さらに、誤解を招く発言をしたリンゴォは周りの人物のことなど眼中に入っておらず、発言について詳しく説明するつもりもなかった。

それにより、ジョナサン、ナランチャ、フーゴの三人はこの結論を信じきってしまう。
この出来事はアバッキオにとっては気の毒だが、無理もないことであった。
人知を超えたスタンド能力が存在するとはいえ、脳を移植して別人になったと考えるよりは、相手のスタンドを奪ったと考えるほうがまだ理解が及ぶ話なのだから。
そして、スタンドをよく知らず、紳士であるジョナサンもアバッキオを吸血鬼と認識している以上、彼の言い分を詳しく聞く理由はなかった。
三人がそれぞれアバッキオへと向け、動き出す―――明確な、敵意を持って。
83創る名無しに見る名無し:2012/05/03(木) 21:05:46.36 ID:JFukcPGX
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84迷える子羊は神父への懺悔を望む ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 21:09:44.55 ID:CNAky4ew

「罪なき者の命を奪い、さらに死者さえも弄ぶその所業、断じて許すまじッ!
 この波紋戦士、ジョナサン・ジョースターが必ずおまえを打ち砕くッ!!」

ジョナサンは前に進み出ると、改めて構える。
その姿はまるで、全身が光り輝いているかのように見えるほどであった。


「てめえが誰かなんて知ったこっちゃねえ……覚悟しろよ、ブッ殺してやるッ!!」

ナランチャはジョナサンのやや後ろに付き『エアロスミス』を発現する。
その目に、迷いは欠片も見られなかった。


「わからないことはまだある……だが、今重要なのは、おまえがぼくの『仲間』の命を奪った、ということだ」

フーゴも自らの分身である『パープル・ヘイズ』を発現する。
その意味は、彼が完全に相手と闘う覚悟を決めたということであった。


「おい、てめーなんてことを―――」

アバッキオはリンゴォに食って掛かろうとするが、相手の不審な動作に動きを止める。
リンゴォはナイフを左手に持ち、自分の右腕に当てていた。
何をする気かと思っていた瞬間…………リンゴォはナイフを右腕に差し、一気に切り裂いた!

「「「「――――――!?」」」」

鮮血が迸り、リンゴォ以外全員の顔が驚愕に染まる。
ジョナサンは治療をするため彼の元へ駆け寄ろうとするが、リンゴォの『近づくな』といわんばかりの鋭い眼光に射抜かれ、足を止めた。

「筋を切断した……オレの左腕一本では腕そのものを完全に切り落とすことは出来ないが、これで先程と同じように、右腕は『使えない』……
 これで『公正』だ……さあ、今度こそオレを殺していけ……さもなくば、ここからは絶対に出て行けないッ!」

もはやアバッキオの言葉が届いているかどうかすら定かではない様子で、リンゴォは手早く止血を終えると再びナイフを構える。
もう一度彼を見たとき、アバッキオははっきりと理解した。
その目に宿るのが、純粋な黒―――『漆黒の意志』だということに。

彼が悩む間にも、周りの風景は少しずつ本来の色を取り戻していく。
―――太陽が、昇り始めたのだ。


……猶予は、もういくらも残されていない。
85迷える子羊は神父への懺悔を望む ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 21:14:08.47 ID:CNAky4ew
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―――死に至る傷を受けて気を失い、目が覚めたら化け物になっていた。
その現実をすぐに受け止めきれず、ぐずぐずしているうちに事態はどんどん悪い方向へと向かい、アバッキオを追い込む結果となっていた。
もう少し上手く立ち回れていれば、あるいはもう少し早く決断し、正体を明かしていれば……悔やんでも、彼に現実の時間を『巻き戻す』ことは不可能であった。

(クソッ……これは、この状況はマジでやばいぜッ……! なんでこんなことになっちまったんだ……
 オレは、どうすればいい……? オレは………………)

彼の心の問いかけに答えはもちろん返ってこない。
そして、考えている間にも状況は待ってくれず、彼を殺さんと全員が迫ってくる。

三叉路のうち一方には現在の肉体の弱点となる『波紋』を使うジョナサン・ジョースターと『エアロスミス』を構えるナランチャ・ギルガ。
もう一方には、アバッキオもその凶悪さをよく知っている『パープル・ヘイズ』を発現させたパンナコッタ・フーゴ。
さらに別の一方には、その目に汚れなき黒である『漆黒の殺意』を持つリンゴォ・ロードアゲイン。


アバッキオには彼らと戦う理由など何一つない。
彼らが敵として見なしているのは、体の元の持ち主であるエシディシなのだから。
しかし、彼らは怒りに、決意に、殺意に満ちているため下手な言葉は通じそうになく、切り札である『ムーディー・ブルース』も誤解により証拠の意味をなくしてしまった。
アバッキオを本気で殺さんとする彼らに、命尽きる前に真実を理解させることが果たしてできるかどうか。


抵抗は……おそらく可能だろう。
アバッキオ自身も『能力』の全容は把握しきれていないが、人間を遥かに凌駕したパワー、スピード、回復力を持ってすればこの場の全員を『黙らせる』ことは十分出来る。
だが、問題は『加減が出来ない』ことだ。
先程ジョナサンに殴られたときは違ったが、いまの彼は触れるだけで相手に致命的な痛手を負わせることが出来る。
しかし、それは逆に言えば相手を殺したくない場合、下手に触れることすら許されないということでもある。
スタンドで抵抗しようにも、相手は『エアロスミス』と『パープル・ヘイズ』―――『ムーディー・ブルース』でははっきりいって、一対一でも分が悪い勝負だ。


逃走は……仮にこの場は成功したとしても、彼らは全員、この会場の果てまで追ってくるだろう。
大切な仲間、罪なき命、自身の誇り……それらを奪われた(と思っている)者たちが、化け物を見逃すはずがない。
『エアロスミス』のレーダーの存在も加えれば、どこにも逃げ場などない。
体力的な問題などで一時的に撒くことは出来ても、逃げ切るなどというのは不可能に近かった。


まさに四面楚歌というほかにない。
果たして、レオーネ・アバッキオはこの状況で何を思い、どう行動するのか。


そしてもう一つ、アバッキオどころか誰もが知らない、気がかりな点がある。
エア・サプレーナ島でエシディシが腕を失った後、ロギンズの腕を代わりに付けた直後にこんな発言をしているのだ。

―――「フン! ちょいと細めだが そのうち一体化してもとの太さになるだろう」―――と。

岸辺露伴は確かに脳の移植には成功したが、その後どうなるかに関しては触れぬまま、この世を去った。
柱の男の肉体が別物の肉体を侵食し、一体化するというのならば、その肉体をコントロールしきれていないアバッキオの脳は、無事でいられるのだろうか……?
真相は誰にも、わからない。


迷える子羊(abbacchio)に、救いがあるのかどうかも………
86迷える子羊は神父への懺悔を望む ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 21:19:17.92 ID:CNAky4ew

【E-7 杜王町住宅街(南西部)/ 1日目 早朝】


【レオーネ・アバッキオinエシディシ】
[スタンド]:『ムーディー・ブルース』
[時間軸]:JC59巻、サルディニア島でボスの過去を再生している途中
[状態]:健康(喉の傷は再生済み)、激しい焦り
[装備]:エシディシの肉体
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:未確定(それどころではない)
1.現在の状況をどうにかして切り抜ける。できれば戦いたくはないが……

※肉体的特性(太陽・波紋に弱い)も残っています。
※吸収などはコツを掴むまで『加減』できない。
※『ムーディー・ブルース』の再生より、49話 Break My Body/Break Your Soulと60話 生とは――(Say to her)で何が起こったのかを知りました。
 細かい部分(エシディシの名前や柱の男の詳細など)についてどこまで知ったのかは次の書き手さんにお任せします。



【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
1.目の前の吸血鬼?を倒す。これ以上は一人の犠牲も出させはしない。
2.(居るのであれば)仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
3.ジョルノは……僕に似ている……?

※見せしめで死亡した三人に、『なにか引っかかる』程度ですが感じるものがあるようです。
※ナランチャの知る五部主要メンバーの情報を得ました。ただしナランチャ参戦時点で死んでいる人間については詳しくない。
87迷える子羊は神父への懺悔を望む ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 21:22:18.19 ID:CNAky4ew
【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド] :『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
1.アバッキオの仇め、許さねえ! ブッ殺してやるッ!
2.ジョナサンについていく。仲間がいれば探す。
3.もう弱音は吐かない。
4.ジョナサンはジョルノに……なんか……似てる。

※一部主要メンバーの情報を得ました。ただし屍生人などについては詳しくない。



【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パーブル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点。
[状態]:健康
[装備]: DIOの投げナイフ1本
[道具]:基本支給品一式、DIOの投げナイフ半ダース(デイパック内に5本)、地下地図、『オール・アロング・ウォッチタワー』 の、ハートのAとハートの2
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
1.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集める。
2.アバッキオを殺したというこの化け物を倒し、仇をとる。
3.ナランチャが、本当に生きていた!?
4.ジョナサンは誰かに似ている……?



【リンゴォ・ロードアゲイン】
【時間軸】:JC8巻、ジャイロが小屋に乗り込んできて、お互い『後に引けなくなった』直後
【スタンド】: 『マンダム』(現在使用不可能)
【状態】:右腕筋肉切断(止血済み)
【装備】:DIOの投げナイフ1本
【道具】:基本支給品、不明支給品1(確認済)、DIOの投げナイフ半ダース(未使用2本、折れたもの2本)
【思考・状況】
基本行動方針:(未確定)
1.決着をつけるため、エシディシ(アバッキオ)と果し合いをする。
2.周りの人間はどうでもいいが、果し合いの邪魔だけはさせない。

※果し合いのことしか考えていないため、相手の様子が以前と違うことに気がついていません。
※ナイフの残り一本は仗助が持っていったままです。


【備考】
※E-7北西のコンテナが退かされました。下敷きになっていた露伴の遺体、アバッキオの遺体、エシディシの所持品(基本支給品×3(エシディシ・ペッシ・ホルマジオ)、不明支給品1〜6(未確認) )はその場に放置されたままです。
※タンクローリーについては次回以降の書き手さんにお任せします(フーゴやリンゴォ辺りが走る音を聞いたり、目撃しているかもしれません)。

五人は現在T字路にいます。
位置関係は↓のようになっています。

| |
|リ└――
|ア ジナ
| ┌――
|フ|
88 ◆LvAk1Ki9I. :2012/05/03(木) 21:29:48.08 ID:CNAky4ew
以上で投下終了です。
誰一人として話を聞いてくれない鬱展開……というよりは「誤解」に関する話になったと思います。
支援してくださった皆様、ありがとうございます。

ご意見や問題点などございましたら遠慮なくお願いいたします。
89創る名無しに見る名無し:2012/05/03(木) 23:29:56.00 ID:ugZB0FGa
>>88
GJ!
解決策を手遅れになってから思いつくのってよくあるのでリアルですねぇ……
すごく先が気になります。
太陽も昇り始めてるしアバッキオにはなんとかピンチを切り抜けてほしいものです。
90創る名無しに見る名無し:2012/05/04(金) 00:42:51.86 ID:obsjOV7z
乙です。

見た目が違うせいで、アバッキオが勘違いされすぎで悲惨なことに…
ムーディー・ブルースで勘違い回避するかと思ったらリンゴォにうまい具合に
チャンス潰されてるしw

あとフーゴ、それお前のジョジョの父ちゃんや。
91創る名無しに見る名無し:2012/05/10(木) 22:26:17.95 ID:affx6gKG
保守。予約も来てるけど以前に比べるとやっぱり少なく感じて寂しいな
92創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 09:49:21.79 ID:J++bKod/
ジョジョロワはいい意味で難易度が高いんだろうな
住民が求めているクオリティの基準が高いんだろう
93創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 10:43:30.96 ID:ZbwfQrjw
気が付けばロワ系スレは8〜9年くらい見てきたけど
ここのジョジョロワは書き手も住人も空気読めてる環境だと思ったな
住人と書き手のノリが近いというか、ジョジョ好きなら新規も古参も垣根があまりないというか
94創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 20:45:33.29 ID:WL8MjfGg
投下は日付を跨ぐ頃になりそうだとのことです
待機待機
95『日陰者交響曲』    ◆c.g94qO9.A :2012/05/11(金) 23:24:21.22 ID:XsHO+m2N
お待たせしてすみません、推敲が終わり次第投下します。
30kbぐらいです。支援いただけたら喜びます。
今しばらくお待ちください。
96創る名無しに見る名無し:2012/05/11(金) 23:57:24.78 ID:J++bKod/
待ってました
タイトルが前のままですよ
97 ◆c.g94qO9.A :2012/05/12(土) 00:02:47.29 ID:oEcxjKog
まずは遅れてすみません。そして、お待たせしました。
エリナ・ジョースター、ジョセフ・ジョースター、川尻しのぶ、空条承太郎、ウェザー・リポート、蓮見琢馬、ヴラディミール・コカキ、ズカン枠
投下開始します。
98愛してる ――(I still......)   ◆c.g94qO9.A :2012/05/12(土) 00:04:30.58 ID:oEcxjKog
 ◇ ◇ ◇



【1】



「なになに、いきなりどうしたのよ、またいきなり“愛”についてだなんて。どうかしてんじゃねーの、アンタ?
 悪いもんでも食べたンじゃないのォ? それかあれね、どうせエルメェスになんか茶化されたんでしょ?
 そんな気にしないでいいじゃないのォー。アンタが好奇心旺盛だってのはわかってるけどさー、何も無理して全部知ろうっとしたって無理があるってもんよ?

「そんなことないわよー、面倒だからって、言いくるめようだなんて、アンタねェ……。
 ちょっとはあたしを信用しなさいよ、まったく。仕方ないわ、ちょうど暇だったし、付き合ってやってもいいわよォー、しょうがないから。
 
「にしてもアンタも厄介な事知りたがるわねェー。よりによって“愛”だなんて!
 おェ、ビートルズだとか、ローリングストーンズでも聞いてれば? アタシなんかと話してるより何倍もアイツらのほうがお利口さんなんだから。
 そもそもアタシなんかより、エルメェスとか、エンポリオにでも聞いたほうがいいと思うけど。
 アイツらの知識凄いわよー。ほんとたいしたモンよ、アイツらはねェー。 
 
「――あの二人ったら、今度会ったらタダじゃおかねェぞ……。
 人の逆鱗平気でほじくり返しやがって……こっちは冗談にできないつーのに。まったく、やれやれだわ。
 まぁいいわ、とりあえずはそうね……まずは“愛”、そのものの意味から調べてみましょうか。
 アンタ、なんかもってないの? 辞書とか、百科事典とかさ。
 
「準備がいいわね……、じゃあさっそく索引、索引で……ちょっと読み上げてみなさいよ。
 『愛(あい、英: Love、仏: Amour)とは、崇高なものから、恋愛、そして欲望に至るまで様々な意味で用いられる概念である』。
 はん、お偉いさんも意外にイイことというじゃない。けど明らかに説明不足よね。“様々な意味で用いられる”……じゃあ様々って何よ、って話。
 結局アンタが知りたいのって、まさにその“様々”って何さ、ってことだからねェ。

「うーん、具体的にいろんな“愛”を見てみましょ。
 ほら、ここ。そこじゃなくて下の、そう……。
 愛国、愛称、愛想、愛憎、愛着、愛用、慈愛、母性愛……。こうやってみると結構あるもんね。
 でももっとほかにもあるのよ? 友愛とか、兄弟愛とか、親子愛とか。
 まぁ、アンタには関係ないか……でも友愛ならわかるんじゃない? “友人”との“愛情”。ね、わかるでしょ?
99創る名無しに見る名無し:2012/05/12(土) 00:05:13.65 ID:KGlxjzpz
待ってました〜
支援ッ!
100創る名無しに見る名無し:2012/05/12(土) 00:05:24.85 ID:ZxbOMA6x
おまえはこれから「支援」というセリフを……4回だけ言っていい
101愛してる ――(I still......)   ◆c.g94qO9.A :2012/05/12(土) 00:06:44.28 ID:oEcxjKog

「そうねェ……それこそどんなくだらないことでもいいけど、例えば前アンタの足の形が変だ、って笑ったじゃない。あれも一種の愛じゃないかしら。
 別に笑ったことが愛じゃないのよ? ただなんていうか……ようはアンタもゲスくさいヤツらの足なんか知ったこっちゃねェーって感じでしょ?
 アタシもエルメェスもエンポリモも、ようはアンタに興味があるのよね。F・Fって一体どんなやつなのよ、ってね。

「ただ興味があるから全部愛かっていうと……うーん、なんか全面的にはYESじゃないのよね……。
 他になんか例はないかしら。他に他に……そうね…………。
 そうだ、アンタ、キャッチボール、好きよね? あれも一つの愛だと思うのよ。ボールとかスポーツへの愛。
 興味がなければボールになんて執着しないわけだし、自分が進んで投げようとも思わないわけだし……ごめん、これはなんか違うかも。
 でもシンプルに言っちゃえばそれはそれで通じるし、一つのアイディアではあると思うのよね。
 “好き”=“愛”! これも一つの考え方としては立派にありだと思うけど。

「正直人間にも難しいのよ。 だって考えてみなさいよ? 周りを見てみなさいよ?
 この図書室にある書物の内、どれだけ愛を語った内容があると思う? どれだけ愛を歌った詩があると思う?
 人間が何百年、何千年かけて探求し続けてるのに、まったくと言っていいほど形となった答えなんて発見されてない。
 それがアンタが探してるものなんだから、これはもう、無理難題、なんて言葉じゃ表しきれないわ。
 だからアンタはアンタの答えを探すべき、ってのがアタシの答えかなー。実際ちょっと興味はあるわね。
 アンタは人間とは違うし、そこらへんの“生物”とも一線を画してるじゃない?
 アンタの答えが気になるっちゃ、気にはなるわよ! それはもう、ね!

「アンタそれをあたしに聞く?
 考えてみなさいよ、なんでわざわざあたしがこのションベン臭い刑務所にいると思ってんのよ。
 親子愛よ、親子愛! もうそれっきゃないじゃない、どー考えても。
 父親と娘の愛情、なんか自分で口にすると相当恥ずかしいけど、あたしが話せるとしたらこれぐらいしかないしね。

102愛してる ――(I still......)   ◆c.g94qO9.A :2012/05/12(土) 00:10:18.94 ID:oEcxjKog

 ◇ ◇ ◇



 入口のドアを開けるとチリンチリン……と陽気な鈴の音が店内に響く。
 いらっしゃいませ、いつもならすぐさま飛んでくるであろうそんな挨拶。だが店員の朗らかな声は帰ってこなかった。
 控えめなBGMが静々と流れるフロアを一瞥して、空条承太郎はその大きな体を店内に滑り込ませる。
 後ろ手にドアを閉めると、彼は大きく息を吐き慎重に、こう囁いた。


「川尻さん?」


 すぐに返事は帰ってきた。


「空条さん、ですか……?」


 少し離れた机の下から青い顔がのぞいていた。承太郎の指示通り机の下に隠れていたのは、川尻しのぶ。
 その不安げな様子はまるで飼い主の帰りを待っていた子犬のようだった。
 恐怖と緊張でうまく立ち上がれない彼女に、承太郎は黙って手を貸した。

 互いに席に着き、彼女が話を聞ける状態まで落ち着いたのを待って、承太郎は口を開いた。
 自分が何を見たのか、誰がその場にいたのか。淡々と感情を交えず、ただ述べていく。結局のところ、彼はただありのままの事実を伝えることにしたのだった。
 コンテナと大男、川尻早人と一人の少女。これ聞いてどうするのか。選択権はしのぶに、そう思い承太郎は話し続けた。

 話は10分とかからずに終わった。承太郎の低く、落ち着いた声が宙に消えていき、二人の間に沈黙が流れる。
 しのぶは話を聞き終えても、しばらくの間、黙り込んでいた。
 神経質そうに唇の輪郭をなぞり、何か遠いものに目を凝らすかのように、その両目は細められていた。承太郎の予想以上に沈黙は続いた。
 そのことを意外に思いながらも、決して表情には出さない。彼は黙って、しのぶの返事を待った。
 遅々と流れる時間を前に承太郎は無意識のうちに、ポケットへと手を伸ばす。
 煙草を咥え、ライターで火を灯しかけたところでしのぶの視線に気づいた。承太郎は、目で話すように促した。


「空条さん、ここ、禁煙席ですよ」
「……失礼した」


 それに私タバコの煙が苦手なんです、臭いもなんですけど喉にまとわりつくあの感覚がどうもダメなんです。
 しのぶの言葉に承太郎はそうですか、と返し灰皿にタバコを押し付けた。ジュッ、という音を響かせて灯っていた火がかき消された。
 意外だった。ほんの少し前、激情に駆られ、感情をむき出しにしていた川尻しのぶ。
 そんな彼女が今、冷静な眼差しで承太郎の目を見返していた。
103愛してる ――(I still......)   ◆c.g94qO9.A :2012/05/12(土) 00:15:10.11 ID:oEcxjKog



「貴女は……」


 その表情にちらりと目線を向けると、彼は言った。
 承太郎は自ら話を切り出した。話が本題に入ってくるのを合図としたかのように、しのぶは背筋を伸ばすと、顔付きを鋭いものにする。
 不安げな表情の中にも気高さがあった。恐怖に打ち勝とうと、しのぶは自らを奮い立たせている。
 承太郎は強い女(ひと)だ、と思った。


「早人君に会いたいのではなかったのですか」


 癇に障るような言い方ですみません、承太郎はそう素早く付け加える。
 しのぶは合わせていた視線をそらすと、疲れたように目を閉じる。唇をかみしめ、そんなことありません、そう小さくつぶやいた。
 悩ましげな様子で眉間にはしわが寄せられ、机におかれていた手で両ほほを包む。

 ほんのさっき、それこそたった今、といってもいい。
 川尻しのぶは息子と夫の安否を気遣っていた。あんなに二人の無事を祈っていた。
 ならば、何を悩む必要があるのだろうか。何をそんなに気を揉むことがあるのだろうか。
 灰皿から漂っていた煙がすっかり消え去ったころ、しのぶが口を開いた。微かな疲れがその声には混じっていた。


「空条さん、私すごく怖かったです。空条さんが出て行って、一人残されたとき、ものすごく不安になったんです」


 話の行く先が見えなかったが、承太郎は黙って彼女の話を聞いた。
 うなずき、話を続けるように訴える。しのぶはポツリポツリ、つぶやいた。


「机の下で一人、膝を抱えて震えていました。
 情けないと思われるかもしれませけど、その時初めて、本当に殺されるかもしれない、死ぬかもしれないってことに現実感がわいたんです。
 そして早人が今、こうやっている時にも……自分と同じように震えているかもしれない、自分と同じ気持ちを味わっているのかもしれない。
 そう知った時……なんとしてでも、何をしてでも。あの子を守ってあげたい、そう思ったんです」

 
 話すうちにしのぶの声は大きくなっていった。
 自信なさげに伏せられていた目は承太郎の目をしっかりと見つめ、震えていた体は止まっていた。
 空条さん、承太郎の名を呼ぶとしのぶは大きく息を吐き、言葉を重ねる。


「私は母親です。母親ならば例えどんな時だろうと、どんな状況だろうと息子のことを思い、息子のために行動すべきだと私は思っています。
 息子のためならば、それこそ……私はもしかしたら殺人者になるかもしれません。
 反対に、息子のためならば……息子を救うためなら、私は殺人者にも立ち向かっていけるでしょう」
104愛してる ――(I still......)   ◆c.g94qO9.A :2012/05/12(土) 00:18:14.38 ID:oEcxjKog



 川尻しのぶの目は覚悟のある目だった。気弱さ、頼りなさを押し殺し虚勢を張る姿を、誰が馬鹿に出来ようか。
 子のためならば自ら手を汚すことも、自ら命を投げ捨てることも厭わない。親ならば当然だ、そう簡単に口にできようか。
 
 承太郎はその澄んだ目に耐え切れず、視線をそらす。
 彼にもしのぶの気持ちが痛いほどわかった。彼も父親であり、一人の娘を持つものなのだから。
 彼の心臓がギュッと締め付けられるように痛んだ。しのぶの気丈で誇り高い姿に、自らの娘が重なって見えたから。


「わかりました」


 平静を取り戻した承太郎が言う。かき乱された心を抑え込むように、拳を強く握りしめ彼は立ち上がった。
 結論が出た今、これ以上時間を無駄にするわけにはいかない。すぐにでも早人の元へ向かおう、承太郎はそのつもりであった。
 しかしそんなかれの行動を遮ったのはしのぶ、その人。
 待ってください、慌てるように彼に投げかけられた言葉。承太郎は訝しげに彼女を見返した。
 男の目線を受け止め、しのぶは俯き、目を泳がせる。
 歯切れ悪く、言いづらそうな表情で川尻しのぶは承太郎へと問いかけた。


「空条さん……あなたは不安じゃないんですか? 怖くないんですか?」
「何が……ですか」


 強く唇をかみしめて、彼女は意を決したように話し始めた。
 決して承太郎のほうを見ず、お節介とはわかっています、失礼になったらすみません。
 そんな前置きを繰り返し、しのぶは絞り出すように早口で言った。


「空条さんにお子さんはいないのですか? 空条さんは、怖くないんですか?」
「――――――ッ」
「お母様だと、先ほど……そう言われてましたよね。私にはわかりません。
 どうしてあなたはそんなにも私にやさしくしてくださるんですか?
 なぜ早人のことや私のことを、そんなにも気にかけてくださるんですか?
 スタンド、さっき見せて下さったあれ、あんな超能力があるなら尚更でしょう。
 その力を使って家族を守る、家族を見つける。普通の方ならそう思われるんじゃないでしょうか。
 見知らぬ超能力で息子が、娘が、奥様が……。この瞬間にでも危ない目に合っているかもしれないのですよ?
 ……ごめんなさい、言いすぎました。あまりに不躾で、本当に失礼なことを。申し訳ありません……。
 私も何が言いたいのか、もうわからないんです……。
 ただ……貴方は私を守ってくれました。だから、今度は私が空条さんの助けになりたいんです」
「……………………」
「変ですよね、可笑しいですよね。
 早人がそこにいた、母親ならそれを聞いたらすぐにでもここを飛び出しているはずですよね?
 例え見つからなくても、血眼になってでもあの子を見つけてやるべきだとはわかっているはずなのに。
 けど……けど、本当にわからないんですッ! 何が正しいのか、それでいいのか、もうなにもかも、ぐちゃぐちゃで……ッ
 ただ…………あの子に怒られる気がするんです。
 あの子は優しい子だから、もし目の前で困ってる人がいるのに、その人をほったらかしにしたらあの子は怒るんじゃないかって……」


 両手を組むと、その手に額を押し当てて、しのぶは一言、一言、捻りだすようにつぶやいた。
 承太郎は黙って話を聞いた。心臓をわしづかみされたように、彼は動くことができなかった。激しい運動今しがた終えたかのように、心臓が音を立てて鼓動を繰り返していた。
 承太郎は徐倫と同じような目で見てくるしのぶから、いつのまにか目が離せなくなっていた。
105創る名無しに見る名無し:2012/05/12(土) 00:19:24.71 ID:ZxbOMA6x
支援
106愛してる ――(I still......)   ◆c.g94qO9.A :2012/05/12(土) 00:21:11.29 ID:oEcxjKog



「私は息子を愛しています」


 しのぶのハッキリとした声が承太郎の心をかき乱す。
 繰り返し、繰り返し自らに言い聞かせ平静を保っていた。最大限の努力を払い静めてきた心が、精神が、揺れ動くのを確かに感じた。 
 水面に波を起こした言葉が、打ち寄せては彼の心を削りとっていく。
 投げかけられた言葉が鋭い刃物のように、凍りつかせていたはずの承太郎の心を砕いて行く。


「そう、息子を愛しているはずなのに、息子のことを大切と思っているはずなのに。
 なのに、なのに私は、こうやってただ座って、どうすればいいかわからず迷っている」


 しのぶははっきりとそう言いきった。
 青ざめてはいるが、決してうろたえているわけでもない。
 言葉とは反対に、凛としているその姿はまるで彼女が迷いなく、固い意志を持っているかのようだった。
 だが承太郎はそんな彼女を見ることができなかった。見るに堪えなかった。
 
 彼にはしのぶが脆く、今にも崩れ落ちてしまいそうに見えたから。
 今にも消えてしまいそうなほどに、儚く、頼りなさげに見えたのだから。
 優しく抱きしめたら砕け散ってしまいそう。両手で包めば霞み吹き飛んでしまいそう。
 しのぶの姿が窓ガラスに薄く浮かび上がる。承太郎は、そこに浮かび上がった彼女の横顔を見つめ続けていた。


「空条さん、たったひとつでいいんです。たったひとつ、質問に答えてください。
 それだけで私は勇気がわいてくるんです。確信を持って、誇りを持って行動できるんです」


 闇に浮かび上がった女の顔は青白い。
 頭の後ろで乱雑に束ねられた髪が、席から立ち上がった彼女の動きに合わせゆらりと揺れた。
 ふと承太郎は思い出す。娘の髪型に口出ししなくなったのはいつごろだったのだろうか、と。
 いや、そもそも、もう娘と会わなくなってどれぐらいたったのだろうか。最後に顔を見合わせたのはいつだろうか。
 
 娘の未来のため、妻の安全のため。
 そう言って興味のないふりをして彼女たちに背を向けたのはいつからだ。
 もう何年、彼は目を逸らし、一人の道を歩き続けていたのだろう。


「空条さん、アナタは家族を愛していますか……? 」


 ガラス越しに見ると東の空がうっすらと明るくなっている。
 もう、夜明けが近い。
 承太郎はいつまでも、じっと地平線を眺め続けていた。
107愛してる ――(I still......)   ◆c.g94qO9.A :2012/05/12(土) 00:25:31.56 ID:oEcxjKog




【E-7 北部 レストラン・ジョニーズ/一日目 早朝】


【空条承太郎】
【時間軸】:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
【スタンド】:『星の白金(スタープラチナ)』
【状態】:精神疲労(中)
【装備】:煙草、ライター
【道具】:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
【思考・状況】
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊&娘の保護
0.???
1.川尻浩作の偽物を警戒。
2.お袋――すまねえ……
3.空条承太郎は砕けない――今はまだ

【川尻しのぶ】
【時間軸】:四部ラストから半年程度。The Book開始前
【スタンド】:なし
【状態】:疲労(中)、精神疲労(中)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
【思考・状況】
基本行動方針:家族に会いたい。
0.???
1.『教えて』ください……『教えて』くれれば、勇気がわいてくるんです
2.空条さん、あなたはいったい、何を……

【備考】
スタンドという概念を知りました。
吉良吉影の事件について、自分の周りの事に関して知りました(例えば他の『吉良吉廣』のことや『じゃんけん小僧』等の事件はまだ知りません)
承太郎以外のスタンドについては聞いていません。


 ◇ ◇ ◇
108愛してる ――(I still......)   ◆c.g94qO9.A :2012/05/12(土) 00:28:50.62 ID:oEcxjKog
【2】



「具体的に、なんて言われると困るけど……そうねェ、強いて言えばあの時のことかしらねェ。
 随分前になるから記憶もあいまいだし、あの時はあたしも、ぐれる前だったからなー。そう考えると懐かしいな。
 そんなたいしたことじゃないのよ、ほんと。ただ珍しく父さんと海外電話したってだけのことなんだけど。

「いつだったかな……多分夏に入る前の春、ぐらいだった気がするわ。
 さっきも言ったけど随分前のことだからはっきりは覚えてないのよ、ほんとに。
 ただ、あの父さんが電話してきた、ってこと自体が相当珍しいことで、だから曖昧な割に印象に残ってんだろうなァー。
 そう言えばママが電話の後でやけに上機嫌になってたもんな。そうだ、そうだ、段々思い出してきた。

「ほんとまた内容がくだらなくてさ。当時のあたしって6歳だったのよね。
 まず父さんのいる日本がどこにあるのかわからなくて、質問攻めにして困らせたっけ。
 実際6歳のガキに電話越しにアメリカと日本の距離感覚教えるって今考えたら相当難問よね。
 父さんには悪いことしたなー。そのあともくだらない質問連発で、話す時間より父さんが悩んでる時間のほうが多かったぐらいなんだもん。

「しかもわざわざ日本に言った理由がヒトデの研究だって言うんだからもう爆笑。マジ笑える。
 当然あたしはわからないわけよ。大の男がそれでも必死で理解させようとするのよ。
 ヒトデっていうのはだな、なんて言って。最終的には『お父さんの話、面白くない』って一蹴よ。
 可愛くないわね、あの時のあたしも。

「まぁ、結局何が言いたいかって言うとね、F・F。
 親子とか血縁関係って不思議なもんで、好きです、はいそーですか、みたいにうまくいかないのよ。
 というかほとんどうまくいかない、うまくいったためしがない。特にあたしの場合は。

「アンタがどれぐらい知ってるかはわからないけど、愛があれば全て、だなんて幻想もいいところだわ。
 実際のところ一番近いはずの家族でもうまくいかない。アンタから見たらすっげー変な行動とったりすると思うの。
 合理性、だとか、冷静に考えて。そう言うのが一番働かないのが家族だと思うの。

「だからこそだろうけど、悪くもあればよくもある。結局のところ、損得勘定じゃないのよね。
 理屈じゃなくて、なんていうのかしら……こういっちゃ安っぽいかもしれないけど魂、っていうのを感じるのよね。
 一族っていうのかしら。やっぱり自分の体を構成する半分は父親、半分は母親から引き継いでるわけだしね。

「こんな私が言うのも何だけど、F・F。
 家族っていうものは生まれてくるものは選べないわけ。子供は父親と母親を選べない。
 だからこそ固く強く結ばれてるし、そのくせ脆く弱い絆でしか繋がってない。
 わからないかもしれないけど、そういうもんじゃないかしら、親子とか家族って。
109創る名無しに見る名無し:2012/05/12(土) 00:32:23.35 ID:Em88WqoU
すごく読ませる文章
素人のレベルじゃあない……

支援!
110愛してる ――(I still......)   ◆c.g94qO9.A :2012/05/12(土) 00:33:00.73 ID:oEcxjKog
 ◇ ◇ ◇



 ジョセフの見開かれた目から、ポタリポタリ……と涙が零れ落ちる。
 ぐっ、と噛みしめられた歯の隙間から、チクショウ……という言葉が思わず漏れ出た。
 
 ジョセフは知った。怒りと悔しさで涙を流すことができることを。
 憎悪と憎しみ、そんなどす黒い感情をこの自分が持つことができるということを、今、初めて知った。
 
 もしもこれがあの眼鏡ジジイの計算だというのなら……。
 もしも俺が、おばあちゃんがここにいて、こうなることをわかってこんなことをしたっていうなら……。

 怒髪、天を衝く。
 彼の体から発せられたエネルギーが熱となり、纏わりつくように彼の周りを漂っている。
 暗く淀んだ怒りが、ジョセフを近寄りがたい存在にしていた。
 感情の高ぶり、かき乱された怒りの思考を遮るように無垢な声が洞窟に響いた。


 「ジョナサン……?」


 背中越しに投げかけられた言葉に我を取り戻す。
 乱暴に顔をこすると怒りと涙を振り払い、男はゆっくりと振り返り、声の主に笑いかけた。
 
 膝から崩れ、地に伏していた女性はゆっくりと立ち上がると、よたよたとよろける脚で男の元へと向かっていく。
 子が初めて歩くことを知ったような頼りなさげな様子だった。彼女のドレスは泥で汚れ、顔や髪も汚れで黒ずんでいる有様だった。

 広げた両腕に飛び込んできた女性をしっかりと抱きしめながら、ジョセフはまた溢れだしそうになった感情をぐっとこらえる。
 あのエリナおばあちゃんが、こんなにも弱り切っている……
 あのいつも気丈で、誇り高く、どんな時でも頼りになる、あのおばあちゃんが……ッ

 折れてしまいそうなほどに細い身体、恐怖と不安に歪んだ表情。
 クソッたれ、一段と祖母の体を強く抱きしめるとジョセフは口に出さず、そう毒づいた。
 憎しみというどす黒い感情が彼の中で膨れ上がる。それはまるで毒のように、身体中を駆け巡り、暴れ出す衝動を彼は必死で押さえつけた。

 おばあちゃんをこんなにも追い込んだクソッたれゲーム。
 おばあちゃんをこんなにも悲しませやがる、スティーブン・スティールとかいう眼鏡ジジイ。
 そして……おばあちゃんを励ますこともできず、騙し続ける、この俺、ジョセフ・ジョースター。

 全てが憎かった。全てが許せなかった。

 泣き言なんて言ってられねェ、文句を言っても仕方ねェ。
 そんなことはわかり切っている、百も承知でわかっている。それでも怒りは収まらない。
 身体の中で、まるで獣が暴れまわっているようだった。
111創る名無しに見る名無し:2012/05/12(土) 00:37:31.88 ID:Em88WqoU
支援
指摘もあるけど野暮だよね。
終わってから書く
112創る名無しに見る名無し:2012/05/12(土) 00:46:31.93 ID:Em88WqoU
支援
113愛してる ――(I still......)  ◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/12(土) 00:50:12.24 ID:Em88WqoU



「ジョナサン……」
「ああ、ここにいるよ」
「ああ、ジョナサン……! 本当に、怖かった……本当に、本当に…………」
「もう大丈夫だよ……大丈夫だから…………」


 落ち着かせるように、なだめるように背中をさすり続ける。
 もたれかかってきた身体をしっかりと支え、ただただ、ジョセフはエリナをなだめ続けた。
 無理もないだろう。たった今起きた出来事は、エリナでなくても目を覆いたくなるような惨劇だった。
 あまりのむごたらしさ、そして悪趣味具合に吐き気がするほどだ。
 洞窟の地面に転がる首輪とカバンに、ジョセフはゆっくりと目を向けた。

 ほんの少し前の出来事だ。二人が歩いていると、暗闇にうずくまる一人の女性がいた。
 警戒するジョセフを押しとどめ、エリナは後ろから声をかけた。
 看護師である彼女は女性が怪我をしていると思ったから。慈愛にみち溢れる彼女は女性を放っておくことができなかったから。
 すすり泣く彼女に、エリナはこう言った。


『もしもし? あの、すみません』
『…………―――の赤ちゃん、私の、私の……………………』
『どこか怪我をされているんですか? 大丈夫ですか?』
『……私の赤ちゃんはどこ? 私の赤ちゃんが、アタシの赤ちゃんが…………』


 呟きがピタリとやんだ。不穏な雰囲気にジョセフが前に出ようとした、その時だった。


『あたしィィィの赤ちゃあァァァ―――――ンッッッ!』
『危ない、エリナッ!!』




 知らず知らずのうちに、ジョセフは拳を固く握りしめていた。
 耳の奥がジンと痺れ、胸のあたりに込み上げて来る不快な感触から、必死で目をそむける。
 だが、掌に伝わった確かな感触、それだけは誤魔化しようがなかった。
 波紋が的確に流れたことは一瞬のうちに融け消えたゾンビと、残された首輪が確かな事実として物語っていた。
 残酷すぎる事実として、はっきりと。

 ジョセフは乱れた呼吸を整えるように、ゆっくり呼吸を繰り返す。
 揺れ動く感情を沈め、内なる獣をあやし続ける。けれどもうまくいかなかった。
 ほんの少しの間に、あまりに多くのことが起きすぎた。
114愛してる ――(I still......)  ◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/12(土) 00:51:42.66 ID:Em88WqoU
 ジョセフ・ジョースターがどれほどの楽天家であろうと、どれほどのおちゃらけものであろうと。
 彼はまだ19歳の青年だ。彼は、重荷を背負うには余りに若すぎた。
 
 祖母を守る決意、同時に祖母に自分の正体がばれてはいけない。
 生粋のおばあちゃんッ子であるジョセフは彼女のほっとした笑顔を見るたびに胸が張り裂けそうな罪悪感に苛まれる。
 俺は、おばあちゃんを騙している。こんなにも、おじいちゃんのことを愛し、信じ切っている、おばあちゃんを……。
 
 殺したゾンビの最期の言葉が、耳の奥で鳴り響き続けている。
 彼女も一人の母親だったのだろう。どうしてゾンビなんかになってしまったのか。
 生を呪ってでも彼女は子を守ろうとしたのかもしれない。悲しみのあまり、彼女は呪われた道を選んでしまったのかもしれない。


(―――考えるな)


 落ち着いたエリナに向かって笑いかける。強張った表情がゆっくりとほどけ、彼女も笑顔を浮かべていた。
 くすんだ瞳は未だ輝きを取り戻していない。祖母の精神状態はまだ、不安定だ。
 自分がしっかりしなければ一体誰が彼女を守るというのだろうか。

 足元に気をつけて、そう声をかけると腕を組んで歩きだす。
 僅かな光を頼りに二つの影が道なき道を進んでいく。右に左に、ゆらりゆらり。
 寄り添い歩くその姿は、まるで夫婦のようだった。


「ジョナサン」
「なんだい?」


 見るとエリナはどこか夢見心地の表情でジョセフを見つめている。
 ジョセフが視線を向けると、彼女はにっこり笑い、もう片方の腕を伸ばした。
 自由なほうの手で、エリナがそっと自らのおなかを触る。愛する何かを撫でるように、何か守るべきものがそこにいるかのように。
 

「愛しているわ、ジョナサン……」


 その時ジョセフは自分がどんな表情をしていたのか、想像もつかなかった。
 もはや精神の限界、感情の決壊。思考は白濁にのまれ、視界は暗転。
 果たして壊れているのはエリナなのだろうか。壊れてしまっているのが世界ならば、まともなままの自分こそが壊れているのではないか。
 隣にいるのは祖母であり、彼女のおなかの中には自分の父がいる。
それはパニックにも近い衝動だったのかもしれない、恐怖と言い換えてもいいだろう。
 考えれば考えるほど、気が狂ってしまいそうだ。もうなにがなんだかわからなくなってしまった。

 ただひとつ、わかっていること。
 こんな狂った世界だろうとジョセフは祖母を守ってやりたい。隣を歩く女性の笑顔を守りたい。彼は顔をあげ笑顔を祖母に振りまくと、改めて共に歩こうと固く誓った。
 無論ぐしゃぐしゃになった感情は、到底整理しきれるものでない。
 大声をあげて吠え狂いたい。手当たりしだいやつあたり、怒鳴り散らし暴れ狂いたい。全てを放り投げて逃げ出せたらどれだけ楽だろうか。
 けれども……けれどもジョセフは、そうしなかった。横にいる女性を支え、荷物を背負い、彼は歩いて行く。 

 より一層固く腕をからめ、祖母の存在をしっかりと確かめる。エリナの青ざめていた頬にさっと赤みがさした。
 愛する祖母のためならば。大切なエリナおばあちゃんを守るためならば。
 暗闇はいまだ濃く、辺りははっきりしない。はたしてこの洞窟から抜け出すことはできるのか。
 よぎる不安を押さえつけ、ジョセフはゆっくりと歩を進めていく。底の見えない闇の中へ、彼とエリナは今、歩み出した。
115創る名無しに見る名無し:2012/05/12(土) 00:51:46.60 ID:KGlxjzpz
次にお前は支援ッ!依然変わりなくッ!と言う
116愛してる ――(I still......)  ◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/12(土) 00:52:14.42 ID:Em88WqoU
【D-4中央 地下通路/1日目 早朝】


【ジョセフ・ジョースター】
【スタンド】:なし
【時間軸】:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前。
【状態】:精神疲労(大)
【装備】:なし
【道具】:首輪、基本支給品×3、不明支給品3〜6(全未確認/アダムス、ジョセフ、母ゾンビ)
【思考・状況】
基本行動方針:エリナと共にゲームから脱出する
0.とりあえず地上を目指す。洞窟から出たい。
1.『ジョナサン』をよそおいながら、エリナおばあちゃんを守る
2.いったいこりゃどういうことだ?
3.殺し合いに乗る気はサラサラない。

【エリナ・ジョースター】
【時間軸】:ジョナサンとの新婚旅行の船に乗った瞬間
【状態】:精神摩耗(中)、疲労(中)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、不明支給品1〜2 (未確認)
【思考・状況】
基本行動方針:ジョナサン(ジョセフ)について行く
1.何もかもが分からない……けれど夫を信じています

【備考】
エリナはジョセフ・ジョースターの事をジョナサン・ジョースターだと勘違いしています
ジョセフはエリナが「何らかの能力で身体も精神も若返っている」と考えています


 ◇ ◇ ◇
117愛してる ――(I still......)  ◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/12(土) 00:53:49.78 ID:Em88WqoU
【3】


「…………もしも反対の立場だったら? またあんたはとんでもないこと考えるわね。
 あの父さんがムショ入り? 似合わねェー! 想像もつかねェな。

「……ざまぁみろ、としか思わないと思う。あたしとママを捨てた天罰だッて感じでね。
 確実に言えるのは今言ったような親子愛だの、家族の絆だとかについて、きっと微塵も考えなかったでしょうね。
 きっと嘲笑って、高みの見物代わりに面会に来たりはしたかもしれないけど。
 情けない話、ここに来てようやくあたしは家族とか、血縁に属してるって言うのを感じたのよ。
 それまであたしにとって大切だったこと、ものが180度変わった。
 だってね、これまで“クウジョウ”だなんていう苗字はあたしにとって重荷以外の何でもなかったのよ。
 父親の血が流れてるって考えるだけでも嫌だったし、それこそあのオヤジと関係があるって考えただけで寒気がした。
 そういえばジュニアスクールに通ってた時、一回同級生をボコボコにしちゃったことがあったのよ。
 父親のことでからかわれてね。ママには迷惑かけたな……あれはちょっとやりすぎたな、今考えると。
 思うに、父さん関連であたしって問題起こしすぎな気がするわ……。

「今は違う。それだけは確実に言えるわ。
 自分でも可笑しいとは思うけどこうまでして変わったか、ってぐらい違うものね。
 不思議なもんよね……。

「なんで、って言われても……うーん…………なんでなのかしらね?
 エンポリオも言ってたわよ、普通じゃない、って。
 けどなんていうんだろう……父さんはとても不器用な人なんだなァーって思ったの。
 方法がわからなかったんじゃないの、ママもあたしも守りながら幸せになるっていうのが。
 こうやって刑務所にぶち込まれて、クッソでタフな生活してると、そりゃ誰だって大切な人をこんな風にしたくないってなるわ。
 きっと背負ってたのよね、ママとあたしの分まで。
 父さんが悪いってわけじゃなくて、言うなら父さんがアンラッキーすぎたんじゃないの?
 あの人、行く先行く先で決まったようにアクシデントとかハプニングに巻き込まれるって言ってたし。
 やれやれ、刺激溢れる人生よね。だからヒトデだなんて意味分かんない生物に興味もったんじゃない?
 人生の刺激のバランスをとるみたいにさ、あんな害もくそもない平穏の塊みたいな生物の何がいいんだか。

「F・F、アンタの言うとおりだと思う。
 というかそれは世界中のだれもが考えてる事だし、実際事象としても起きてるし、偉人達もそうやって言ってきたのよね。
 さっきの本、ある? 多分載ってるんだろうけど……、あ、そこそこ。そこの下、読んでみなさいよ。

「『愛の反対は憎しみではない 無関心だ』 流石マザー、聖女様よね。

「その通りだと思うのよ。愛情の裏に憎しみがあるんじゃなくて、愛情と憎しみは隣り合ってるの。
 今まで人類の歴史上で何人もの男と女が憎しみで殺し合ったし、嫉妬から戦争が起きたこともあるのよ?
 それだけとんでもないエネルギーをもったのが愛で、それに匹敵するのは憎しみ。
 無関心っていうのはまったくのなし、無、ってことだからね。

「そうよ、時に憎しみは容易く愛情に変わるし、逆もしかりよ。
 かわいさ余って憎さ百倍、嫌よ嫌よも好きの内。
 人の感情なんて不安定だし、未来に何が起きるのかもわからない。
 過去に積み上げてきた感情が大きければ大きいほど、崩れたときに発生するエネルギーは相当のモンよ。
 その時、その人がどうするかはほんとにその人次第でしょうね。
 我を失うのか、逆上するのか、泣き叫ぶのか。
 取り戻せないわけじゃない。というか、そもそも取り戻そうだなんていう考えが可笑しいのかもね。
 なんかアンタと話してると結局愛情ってのも一つの感情にすぎない、そう思えてくるわ。
 でもそれはあまりに寂しいかな、あたしは。
 やっぱりあたしにとって愛は特別であってほしいのよ。
 例えそれが憎しみから変わったものであろうと、憎しみに変わりゆくものだろうと。
 そこには混じりけのない、誰か一人のために向けられたものであってほしい。
 少なくともあたしはそう思うわ。
118愛してる ――(I still......)  ◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/12(土) 00:56:39.71 ID:Em88WqoU
◇ ◇ ◇


 ヴラディミール・コカキが苦手とするタイプは主に二つである。
 一つ、息をひそめて影から命を狙うスナイパー。
 彼のスタンドの性質上、相手に思考を強いられない、あるいは彼の土俵に持ち込めないと途端に戦いは厳しくなる。
 二つ、狂人、理解不能の殺人ジャンキー。
 思いこみを定着させる『レイニーデイ・ドリームアウェイ』だが、問答無用で襲いかかって来る殺人狂には分が悪い。
 だがそれは一方でコカキのスタンドの強力さを裏付けているともいえる。
 この二つの天敵以外を相手すれば、ほとんどといっていい、コカキが負けるようなことはないのだから。
 

「1943年8日6日 ――― 見たところ君たちは生まれてもいないだろう。
 その日は私にとって長い長い一日だった。そして私の人生を決めづけた一日となった。
 君たちにもあるだろう、忘れられない一日というものが。その日以降、人生が激変した、そんな運命とも言える日が。
 私にとってこの日はまさにそんな日だったのさ」


 たった一言、そう、一言でいいのだ。言葉一つを相手に聞かせれさえすればいい。
 それだけでコカキは相手を征服できる。それだけでコカキは相手を掌中に収めることができる。
 
 会話を行う以上、何も感じずに言葉をかわすという行為を続けるのは不可能だ。
 どんなくだらないものであれ、どれだけ難解なものであれ、人は何らかの感情を抱かざるを得ない。
 それがコカキの付け入る隙となる。コカキは想いを定着させていき、これまで何人もの豪傑を葬ってきた。
 もはや皮と骨だけの存在ともいえる、タダの老人が、だ。
 彼には力もなければ途方もない技術があるわけでもないのに。

 スタンド能力と相性抜群の観察眼と度胸。
 心を見透かしているかのようなその両目で相手を丸裸にし、例え銃や刃物を突き付けても表情一つ変えることなく笑顔を浮かべ続ける。
 戦闘能力と呼ぶには的外れと言えるかもしれない。いうなれば精神力であり、彼の人生そのものだ。
 ヴラディミール・コカキの強さとは彼自身の歴史や経験、彼が培ってきた『記憶』そのものといえるかもしれない。

 コカキはゆっくりと自分の言葉が相手の心に染みいっていくのを眺めた。
 彼の前に立つのは一人の青年と一人の男。視界が遮られるほどの霧の中、二人はともに鋭い視線でコカキを睨みつけている。
 既に、コカキの術中にはまっているとも知らずに。皮肉を込めた笑みを浮かべ、コカキは続ける。
 彼の呪われた半生がいかに形作られていったかを。

 始まりはどんな感情だろうと、どんな思いだろうと構わない。
 大切なのは相手に聞かせることだ。語りかけることだ。
 『なんだこいつは』という感情を定着させられたならば、もはや相手は後戻りできない。
 『興味』だろうと『警戒』だろうと、一度定着してしまえばもはや脱出不可能の罠。
 あとは、コカキがあせることなくじっくりと調理を施していくだけだ。
 一手一手逃げ道を防いで、詰みまでの道筋を立てる。将棋やチェスで言うところのチェックメイトまで持ち込むだけ。
 
 彼は朗々と語っていく。彼の妹がどのように死んだかを。彼の能力がどのように発動し、彼の能力でどんな最期を妹が迎えたのかを。
 話が進むにつれ、二人の表情が変わっていく。はっきりとして警戒に加え、焦燥や危機感が広がっていくのが面白いほどわかった。
 それが命取りになるとも知らずに ――― にっこり笑うとコカキは構わず話を進めていく。仕上げまでもう少しだ。
 駒は盤上から逃れることはできない。コカキのスタンドから獲物が逃れられることができないように。
119愛してる ――(I still......)  ◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/12(土) 00:57:16.19 ID:Em88WqoU
恐怖や警戒を思った人間が取る行動は二つ。
 行動に移るまで時間の差はあれど、彼らが選ぶのは決まって『闘争』か『逃走』だ。
 そしてそのどちらを選ぼうと、コカキが敗北することはない。
 
 一瞬でも浮かべてしまった逃亡の思い、『逃げる』という思いを定着させてしまえば、あとはこの舞台が処理してくれるのだ。
 逃げる、の一色で染まった頭。逃げ続けた先に待っているのは禁止エリアか、あるいは血に飢えた殺人者たちか。
 わざわざコカキが手を下すまでもないのだ。疲労にまみれ思考停止の人間たちが、はたして死神の手から逃れようか。
 
 『戦い』であっても変わりはない。恐怖に突き動かされた人間の取る行動はシンプルそのものだ。
 そもそも恐怖や危機感から振った拳がコカキを捕えることなんぞできようか。
 窮鼠猫をかむ、それは美学に見えるが実態はただの開き直りでしかない。
 幾多もの修羅場をくぐってきたコカキにとって初撃をかわすのは難しくはない。
 そして一度攻撃をかわせれば、あとはなにもしないでいい。『外した』という思いを定着させるだけでいい。
 何をする必要もなく相手が外し続けるのを眺めていくだけ。コカキはそんな相手にじっくり止めを刺すだけでいいのだ。

 今回の二人も同じであった。妹の話を終えると男と青年は感情に突き動かされるように動き出した。
 雪のように白い肌の少年は荷物を全て放り投げ、気の毒になるほど大慌てで逃げだした。よっぽどコカキのことが不気味に見えたとみえる。
 毛皮の帽子をかぶった男は軽蔑するような眼差しで襲いかかってきた。だがまたたく間にその顔には大粒の汗が浮かび、呼吸は乱れ切っていく。
 逃走し続ける青年、闘争し続ける男。滑稽とも言える光景にコカキは忍び笑いを漏らした。

 しばらくの後、彼はゆっくり立ち上がると、ウェザー・リポートに向かって一歩踏み出した。
 害虫駆除するような手軽な感じで、コカキは目の前の男を殺すことを決心した。
 殺す必要がないのであれば殺さないに越したことはない。
 が、彼が属する麻薬チームに僅かでも危機が及ぶ可能性があるなら、その芽は潰しておくしかない。
 例えそれが数パーセントであったとしても。 

 しかしながら不運な事に、コカキの支給品には武器が入っていなかった。彼に与えられたものは真っ赤な宝石一つだけ。
 ただ幸運な事に、逃げだした青年は荷物を放り捨てていってくれた。もしかしたらこの中に何かしらの武器があるかもしれない。
 別に暴れまわる男を殴り殺したり締め殺したりすることもできなくはないが、老体に鞭打つのは可能ならば遠慮願いたい。
 せっかくデイバッグあるのだから、まずは中身をチェックして、それでも武器がないようだったらその時はその時だ。
 コカキはそう判断すると、ゆっくりと青年が置いたデイパックへ近づいて行った。
 その鼻先を男のスタンドの蹴りが、ものすごい勢いで駆け抜けていく。だがそれも『外されて』いく。

 コカキはきびきびとした感じで青年の支給品へと近づいて行く。
 霧漂う中放置されたバックへ手を伸ばした時、脇に置かれた本の存在に、彼はその時初めて気がついた。
 
 くすんだ茶色の革表紙の本。使い古され歴史を感じさせるが、大切に扱われているのか、とても綺麗だった。
 なんでこんなところに。そう感じたが、これも支給品の一つだったのだろうと宝石を思い出し、一人納得する。
 折り目をつけるように伏せられていた本をコカキは手に取った。
 そして何の気もなしに、彼は開かれていたページに目を通そうとしたのだった。
120愛してる ――(I still......)  ◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/12(土) 00:58:43.73 ID:Em88WqoU
 ◇ ◇ ◇



 「琢磨」


 後ろからかけられた声を無視し、蓮見琢磨は目の前の老人をじっと見つめた。
 足が奇妙な方向にねじ曲がり、血だまりの中で虫の息。まるで車にでも跳ね飛ばされたかのような怪我を負っている。
 今はかろうじて生きているが、このまま治療を施さなければもう数分もせずに彼は死んでしまうだろう。
 ヒュウ、ヒュウ……と細い管を空気が抜けていくような音が聞こえた。それが老人の呼吸音だということが、しばらくしてから琢磨にはわかった。
 
 耳の奥がジン……と痺れるような気がする。息が少し苦しく、モノを吐き出すかのように盛大に咳を繰り返す。
 果たして自分は何を思っているのか。きっと今手に持っている本を覗けば赤裸々にそこに感情が記されているに違いない。
 怒りなのか、悲しみなのか、あるいは嬉しさなのか。本はいつでも正直に琢磨の気持ちを教えてくれる。
 けど琢磨はその気になれなかった。ただじっと目の前で地面に横たわる老人を見つめ続けていた。

 唐突に肩を掴まれる。振り払いたくなるのをなんとか堪えると、ゆっくりと首を動かし、ウェザーの顔を見る。
 険しい表情で、首を左右に振るウェザーがそこにはいた。
 もう少しだけ、そういう意味を込めて琢磨は沈黙を返す。
 それでもしばらくの間、ウェザーは琢磨の肩を掴んでいた。やがて諦めたかのように手が肩から離れ、地面を踏みしめる靴の音がした。

 老人が折れまがった腕を持ちあげようとしている。
 ほとんど力が入らないのか、腕は絶えず震え続け、そんな簡単な動作にさええらく時間がかかっていた。
 琢磨はその場にしゃがみ込むと老人の口に耳を近づける。血濡れた腕が頬に触れ、かすれた声が鼓膜を震わせた。


「い、もう……――― じん、せいは…………あ、い」

  
 意味を持たない言葉を最後に呟き、それっきり老人は黙りこんだ。
 冷え切った手が頬から離れ、血だまりの中へ沈んでいく。琢磨は何も言わなかった。
 黙って老人のふれた頬を撫で、服の袖で血をふき取った。死んだはずの老人が、ニヤッと笑ったような気がした。

 くるりとその場を後にすると、少し離れた場所で待っていたウェザーと合流する。
 何も言わずについてくるウェザーが少しだけありがたい。とてもじゃないがおしゃべりをする気にはなれなかった。
 今琢磨に必要なのは沈黙だ。けれども沈黙は否応なしに思考を助長させ、琢磨は思考の海に沈んでいく。
 老人が語った歴史が頭の中でもだけ、妹との悲劇が砂に染みいる水のようにじんわりと広がっていく。
 例えようもないくらい、それが不愉快だった。

 戦うことも、逃げだすこともしなかっただけではないか。琢磨はそう思った。
 老人の人生は妹が死んだ時から終わった。その時から彼は妹の人生を背負い、歩き続けなくてはいけなかった。
 それは途方もない呪いといってもいいだろう。それを真っ向から受け止めるのがいいのか、放り捨てて逃げ出すのがいいのかはわからない。
 琢磨には死んだ妹なんぞいないし、人の人生を背負うって生きていこうなんてことは考えたこともなかったから。
121愛してる ――(I still......)   ◆c.g94qO9.A :2012/05/12(土) 01:03:19.80 ID:oEcxjKog
 ウェザー・リポートが戦闘の途中、折り曲げた電灯が行く先に転がっていた。
 最後の輝きを見せるように一瞬だけ輝くと、バチッ……と音を立てて電球はそれっきり黙りこんだ。
 二人は黙って歩き続ける。琢磨の頭の中に母と妹の顔が思い浮かんだ。

 老人はどっちつかずだ。
 妹の死に何故泣き叫ばなかったのだろう。妹の死に何故怒り狂わなかったのだろう。
 ナチスドイツに復讐を決意してもいいはずだ。悲しい思い出として大切にしまいこみ、新たなスタートを切るのも選択肢にあったはずだ。
 考えたくもないのに、纏わりつくように老人の笑顔が視界にちらついてくる。
 妹の死を呪った彼が、今度は琢磨に呪いかかったかのようだった。琢磨は首を振り、何を馬鹿な事を考えているんだ、そう一人呟いた。

 暗闇の中を黙って歩き続けていく。それでも、ふと気づけば琢磨はまた考え込んでしまう。
 母の事、妹の事、そして老人の事。琢磨は道路わき、民家の窓に映った自らの顔を覗き込んだ。
 本来なら自分の顔が移るべきそこに、殺したはずの老人が映り込んでいるかのような錯覚を覚えた。

 先を行くウェザーに急いで並ぶ。世間話を切り出すかのような感じで、琢磨は彼に問いかけてみた。
 妹はいるか、と。ウェザーは首を振り、小さく返す。俺には記憶がない。だからわからない。
 琢磨は驚き、少しだけ眼を見開くもそうか、とだけ返した。深くは聞かなかった。聞く必要もないな、そう琢磨は思った。

 湿った空気を切り裂くように、一陣の風が吹きぬけていく。
 僅かにだけ残っていた霧を掻っ攫い、二人の間を通り抜ける風。
 琢磨は目を閉じると、頬を撫でる風に身を震わせた。
 寒くはなかったが、何故だか胸にぽかっりと穴が空いたような消失感を感じ、彼は気が休まるまで自らの胸を撫でまわしていた。
122愛してる ――(I still......)   ◆c.g94qO9.A :2012/05/12(土) 01:03:45.26 ID:oEcxjKog
【A-2とB-2の境目/1日目 早朝】


【ウェザー・リポート】
[スタンド]:『ウェザー・リポート』
[時間軸]:ヴェルサスに記憶DISCを挿入される直前。
[状態]:身体疲労(中)、右肩にダメージ(中)、右半身に多数の穴、
[装備]:スージQの傘、エイジャの赤石
[道具]: 基本支給品×2、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア)
[思考・状況]
基本行動方針:襲いかかってきたやつには容赦しない。
0.南下する。施設にたちより、情報収集するつもり。
1.仲間を見つけ、ここから脱出する。
2.琢馬について、なにか裏があることに勘付いているが詮索する気はない。
 敵対する理由がないため現状は仲間。それ以上でもそれ以下でもない。
3.妹、か……

【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中。
[状態]:憂鬱、思案中、精神疲労(中)、身体疲労(小)
[装備]:双葉家の包丁
[道具]: 基本支給品、不明支給品2〜4(琢磨/照彦:確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。
0.南下する。施設にたちより、情報収集するつもり。
1.千帆に対する感情は複雑だが、誰かに殺されることは望まない。
2.千帆との再会を望むが、復讐をどのように決着付けるかは、千帆に会ってから考える。
3.妹、か……

[参考]
参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります(例・4部のキャラクター、大成後のスピードワゴンなど)
明里、照彦、コカキの基本支給品は放置してきました。
照彦のランダム支給品(1〜2)は確認後、現在琢磨が所持しています。赤石はウェザーが所持しています。
二人は情報交換をしましたが、必要最低限のみです。ほとんど喋ってないという解釈で構いません。具体的には次以降の書き手さんにお任せします。
ウェザーと琢磨の移動経路は ルーブル → 双首竜の間 → 現在位置 です。
123愛してる ――(I still......)   ◆c.g94qO9.A :2012/05/12(土) 01:05:37.17 ID:oEcxjKog

【母ゾンビ 死亡】
【ヴラディミール・コカキ 死亡】
【残り 80人以上】





【支給品紹介】
【エイジャの赤石@二部】
カーズ達が捜し求めていた、ルビーのように赤い石。
結晶内で光を何億回も反射を繰り返し増幅した後、レーザービームのように一点に照射する力を持っていて、武器としても使える。
石仮面とともに使用すれば、究極生命体を作り出すことも可能となる。


――――――――――

以上です。誤字脱字、矛盾点等ありましたら指摘お願いします。
改めて投下遅れてすみません。支援と代理投下、ほんとうにありがとうございました。

題名元ネタは2ndの「I stil...」と◆ZAZEN/pHx2さんの『生とは――(Say to her)』を意識しました。
というかぶっちゃけスタイル、形式全部◆ZAZEN/pHx2さんのをパクリ、もといオマージュです。

過疎過疎言われて悔しいので、指摘なく収録できたら、また明日予約します。
124創る名無しに見る名無し:2012/05/12(土) 21:22:45.41 ID:OPKJ11ta
投下乙です。
支援の最中に誰かが言っていましたが、氏の作品は本当に「読ませる文章」だと思います。
多少ブッ飛び気味の内容かなぁと感じはしましたが、それは決して悪い意味ではなく、あくまでも「俺たちは“パロロワ”をやってるんだから!」という印象を受けました。
それぞれのキャラが今後どこへ向かうのか、という事に期待が湧くSSでした。

あと、これはまぁ投下SSには関係ないかもしれませんし余計なお世話ですが、
「悔しいから予約」はあんまりお勧めしません。
過疎だ過疎だと言ってもこのスレやしたらばに書き込みがあれば誰かが何かしらの反応を示してくれるあたり、人が全くいない訳ではないと思います。
それに、せっかくだから楽しんで書かないと、後で書いてること自体が苦痛に感じてきますよ(私自身の経験上、パロロワ以外の場面でもそうでした)
私自身も時間が出来ればどんどんSSを書いていくつもりなので、あまり無理はなさらないでくださいー
125創る名無しに見る名無し:2012/05/13(日) 12:09:49.33 ID:niyQDOXz
投下乙です
物語に大きな進展はありませんが、ジワジワと何かが動いている気がしますね。
特にジョセフのパートは泥沼化しそうで見ていてヒヤヒヤします。
放送後の承太郎も心配である。

指摘点

>>101 アタシもエルメェスもエンポリモも、

>>110 スティーブン・スティールとかいう眼鏡ジジイ。
オープニングでスティールは名乗っていません。
全て確認したわけではありませんが、SBRキャラのいない他SSでは「メガネの老人」などで呼ばれているようです。

>>120〜 琢磨 → 琢馬
126創る名無しに見る名無し:2012/05/13(日) 22:10:15.93 ID:niyQDOXz
投下前の予約に対して質問するのもどーかと思ったんですが、一応気になったので……

スクアーロ、ペットショップの予約にイギーがいませんが大丈夫でしょうか?
絶賛戦闘中のハズですが……
127創る名無しに見る名無し:2012/05/19(土) 11:10:41.18 ID:vUo/Pm8F
投下乙でした
128創る名無しに見る名無し:2012/05/23(水) 17:24:58.91 ID:OJFwzYTB
保守

一定のペースで予約入ってて嬉しいんだけどいっつもジョセフの人だけじゃないか・・・?
これは過疎って言うよりもむしろ書き手不足だよな、と思う。最初の勢いはどこへ…
そりゃあ話書くんだからハードルの高さもわかるけど、もうちょっと「初めてだけど好きだから書いたぜーどうだー!」みたいな人いないのかな
129創る名無しに見る名無し:2012/05/23(水) 18:14:39.69 ID:wtRHBsEz
君が書けばいいじゃあないか……

なんて冗談はともかく、新規が入りにくいのはロワじゃ良くあること
難しいところだね
130◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/28(月) 00:16:47.96 ID:lzOtQThW
ピンと張りつめた空気を破るものはいなかった。
誰もが拳を握る理由を持ち合わせながら、それを振るうきっかけを掴めずにいた。
微かな呼吸音が静寂を震わせ、五人の鼓動がそこにあることを知らしめる。
敵となるものを鋭く睨みながらも、横目で互いの様子を伺い、いつか来る『その時』をただひたすら待つ。
誰かの顎より滴り落ちた汗の雫が落ち、水滴音が家々に反響する。緊張を現すような深呼吸が、路地裏にこだまする。
それでも誰も動くものはいなかった。誰も動けずにいた。

 ―――カッ……

固い革靴の音を響かせ、一歩踏み出したのは男、リンゴォ・ロードアゲイン。
虚ろで、しかし妖しげに輝く目で大男を睨みつけ、彼は一歩一歩近づいて行く。
手に持つナイフが月の光を反射し、銀色に輝いた。
男はさらに一歩踏みだす。もう一歩。更にもう一歩。

それを合図としたかのように、真正面に位置していたパンナコッタ・フーゴが動き出した。
リンゴォの動きに合わせ、距離を徐々に詰めていく。慎重に、滑るように。闇に溶け込むかのように。
一歩、そしてもう一歩。更にもう一歩。青年は確実に近づいて行く。

間に立つエシディシと呼ばれる男は左右の接近を前に、顔色を変える。
弾かれたように首を振ると、焦りと狼狽が大粒の汗となり顎の先から滴り落ちた。
右側からはリンゴォ・ロードアゲイン。左側からはパンナコッタ・フーゴ。つまり挟み打ちの形となっている。
どうしようもない危機的状況を前に、男は必死で頭を絞るも何も考えられず、何も動くことができず。
ただ彼にできたのは、忙しくなく両者を見比べるのみ。

「―――……それ以上、俺のそばに近寄るな」

そんな時、唐突にリンゴォは歩みを止め、口を開いた。
意図の読めない、誰に向けたかもわからない宣言に、再び空気が張りつめる。
リンゴォは黙ってナイフを腕の高さまで持ち上げると、視線の先の人物にその切っ先を向けた。
民族衣装の大男、エシディシではなく。こじゃれたスーツの青年、パンナコッタ・フーゴに。
リンゴォは、これは警告だ……、そう付け加え、青年に変わらずナイフを向け続ける。そして続けるように、こう言った。

「奪われたのは俺のスタンド、そして誇り。
 ならばこれは俺とヤツの問題だ。これは俺とヤツの戦いだ。
 神聖なる誇りを取り戻す戦いに、意志を持たない対応者は必要なし」

一息つくと、彼は言葉を重ねる。

「仲間のスタンドを取り戻す、それは別にかまわない。どうでもいい、俺には関係のない話だ。
 だがそれが俺の戦いを邪魔することを意味するというのならば、俺の世界を汚すというのならば……話は別だ。
 戦いを邪魔し、俺の誇りを汚すというのならば、俺はその行為を許しはしない。
 覚悟を持たない部外者に、俺は敵意を向けることを躊躇わない」

広がり始めたのは緊張感に加え、不穏な空気。
コールタールのようなどろりとした、纏わりつくような感情が、辺りを漂い始めていた。
不信、敵意、戸惑い、反発心。夜明け前の冷えた空気が体温を奪うのと引き換えに、憂いの感情を忍び込ませていく。
パンナコッタ・フーゴは眉を寄せ、ゆっくりと口を開く。視界の端で焦れるような表情を見せるナランチャ・ギルガを視線で押しとどめ、彼は問いかけた。
131◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/28(月) 00:17:11.27 ID:lzOtQThW
「つまり……手を出すな、一対一で話をつけたい、コイツは俺の獲物だ。そういうことですか?」
「そうだ」
「貴方は本当に一人でこの男に勝てると思っているんですか?
 スタンドもなく、片腕も使えず、見た限り身体のどこかに怪我も負っているように僕には思える。
 それでも貴方は真正面から戦いたい、助けを乞う必要はない、そう言っているんですか?」
「……昨今では理解されなくなったことだ。
 世の中には『社会的な価値』がある。そして『男の価値』がある。
 不条理や不合理だと人は呼ぶ。だがそんな『男の価値』が『真の勝利への道』には必要だ。
 社会がはかる勝ち負けの定義、そして生と死。それを超えたところに存在しているのが『男の世界』。
 俺には歩みを止めるすべを知らない。俺にとっては他の道など存在する価値を求められない。
 道に立ちふさがるものを除外する。そこに何の理由がある?
 道を取りあげたものから道を取り戻す。そこに何故躊躇う必要がある?」

生温かい空気が充満し、うっすらと東の空が明るみ始めた。時計の針は留まることを知らず、当たり前のように全てが進んでいく。
話を進めていくうちにリンゴォの脳裏に男たちの顔が浮かび上がった。
ジャイロ・ツェペリの怒りに満ちた瞳が。東方仗助の激昂に歪んだ表情が。二人の男がまるでリンゴォ・ロードアゲインを乗っ取ったのかのように、突き動かしていく。
考えるよりも先に言葉が口をついて、飛び出した。男の言葉だけが、閑静な住宅街に響いていた。

「俺は『納得』したいだけだ。はたして俺は生き残るのに相応しいのか、俺の道は間違っていないのか。
俺は死ぬべきなのか、生きるべきなのか。
 白黒つけることでしか俺は『納得』ができない。灰色じゃ駄目だ。
 白か黒か。生か死か。
 ……俺は戦わなければならない、誰よりも己自身と。そして『男の世界』と」

リンゴォは決して声を荒立てたわけではない。声を張り上げたわけでもなく、大声で叫んだわけでもない。
しかし訪れた静寂はそれまでのものよりずっと重く、ずっと長かった。

四人の男たちはリンゴォの言葉に衝撃を受けていた。一人の男の生きざまに、雷にでも打たれたかのように、ただその場に立ちつくすほかなかった。
ジョナサンは無意識のうちに力一杯握りしめていた拳を緩めていた。
フーゴは奥歯をぐっと噛みしめ、視線を逸らしたい衝動を必死でこらえていた。

ジョナサンは思い出す。怒りに震え、ディオに向かって叫んだときの自分のことを思い出す。
父を殺された時からずっと、彼は恨みを晴らすために戦ってきた。父と師を殺され、誇りに満ちた騎士を踏み台にされ、ジョナサンはそれだからこそ、彼らの意志を受け継ぎ、戦いぬくことを決意したのだ。
奪われたものをディオから取り戻すべく、もうジョナサンはディオを殺すことに躊躇いはなかった。
数の違いや、方法の違いが問題なのではない。受け継ぐでもなく、切り開く。
リンゴォ・ロードアゲインが自ら手に入れた誇りはそれだけに尊く、どれだけ輝かしいものだろうか。
ジョナサンは身震いしたくなるような高貴な精神をリンゴォの中に見た。
誇りを取り戻すため、納得をするため、戦う。気高く、光輝く魂が確かにそこにはあった。

フーゴは思い出す。頼るべきものを見失い、ボートに乗るために一歩踏み出せなかった自分のことを思い出す。
自分が信じていたものが唐突に消えてしまった時、自分は立ち止ることしかできなかった。
リンゴォは違う。彼はもがき、苦しみながらも、闇夜の中に踏み出す勇気を持っていた。たった一人でも、戦い続けることに迷いはなかった。
誇り高いという言葉がこれ以上似合う男が他にいただろうか。そして、その辛さを自分以上に理解できる男が、この場にいるだろうか。
フーゴは胸が締め付けられるような哀愁をリンゴォの姿に見た。
固い意志で立ち続ける彼は、それしか信じられぬ故に座り込むことを知らなかった。立ち止まるなと言われたからこそ、彼は再び道を歩き出すしかなかった。
その悲しみに、フーゴは泣き叫びたくなるような衝動に襲われた。
132◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/28(月) 00:17:32.15 ID:lzOtQThW
再び沈黙が流れる中、口を開くものはいなかった。じんわりと熱せられた大地より薄く陽炎が立ち上り、湿った空気の臭いが男たちの鼻をくすぐる。
もう太陽が昇る時も近いのだろう。月明かりは薄れ、夜の世界は終わり告げる。傍らに立つ街灯の灯りが、やんわりと夜明け前の明るさに滲んでいった。
その時だった。誰もが足を止め、動くのをためらうような中、大男の肩が震えだした。
その表情は暗闇に隠れはっきりとしない。身体が震えているのは歓喜になのか、悲しみになのか。
彼を囲むように立つ四人の男たちは何事か、と訝しげにその様子を伺う。彼らは黙って大男を見守った。

ゆっくりと空気が震えた。その波は鼓膜を震わせ、音となり、男たちの脳を揺らす。
大男は笑っていた。やがて大きくなり始めたその声は、はっきりと笑い声となって辺りの建物に反響する。
そして身体を捩るように、彼は大口を開けて笑った。恐怖を煽るような笑いではなかった。だが、人の神経に触る、不愉快な笑いであった。

フーゴは反射的にスタンドを呼び出すと、自らを守るように戦いの構えをとる。
リンゴォはナイフを向けると、いつでも戦える臨戦態勢をとった。
苛立ち気な様子のナランチャをなだめるように、ジョナサンはその肩に優しく手を置いた。
四人の鋭い視線が一人の男に注がれる。狂乱の持ち主はあたりを知ってか知らずか、それでも笑いを止めようとしなかった。

どれほど笑いは続いただろうか。乾いた笑いは最後に一段と大きくなり、そして消えた。
息を乱し、肩で息をしながら、大男は笑顔を張り付けると捻りだすように言葉を口にする。
その声は低くドスの利いた声であった。

「お説教はおしまいか? 戯言吐くのにも満足しただろうな。あまりのくだらなさに欠伸が出るぐらいだ。
 言いたいことがあるなら今のうちに言っちまいな。じゃねーと後で言いたくなった時、その口、使い物になってねーかもしれねェからな。
 くだらねェ……誇りだ? スタンドを取り戻すだと?
 ハッ、いいだろう、やってみやがれってんだ。かかってこいよ、髭野郎、筋肉だるまにもやし小僧と阿呆チビッ
 四人同時にかかってきても俺は一向に構わないぜ? スタンド使いだろうと、なんだろうと大歓迎だッ
 文句があるならかかってこいよッ 戦おうってなら……やってやろうじゃねーかッ」

当初追いつめられ、うろたえていた様子はもう、微塵も感じられなくなっていた。
ギラギラと光る目は獣のように鋭く、戦いの興奮に合わせたかのようにその体が大きく膨らんだように見えた。
空気が圧縮され、重量を持って五人の上にのしかかる。

大男が背にした民家に拳を叩きつけた。窓が割れ、コンクリが砕け、大気が震えた。
それを合図にしたかのように、飛び出す二つの影。
血気盛んなナランチャがジョナサンの制止を振り切り、飛び出した。ナイフを構えたリンゴォが、一目散に駆けていく。

迎え撃つは超越者、『柱の男』、『エシディシ』。咆哮をあげた大男が戦場に身を躍らせる。
戦いが始まろうとしていた。
133◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/28(月) 00:18:14.14 ID:lzOtQThW




その戦いは一瞬だった。
あまりに素早く、あまりに圧倒的で、唐突であった。フーゴは一歩も動くことができなかった。

まずはリンゴォだ。真っ先に襲いかかった男が鋭く突きを放つも、柱の男は身体を僅かに傾ける最小限の動作でこれを回避。
お返しとばかりに、スタンド『ムーディー・ブルース』でリンゴォの首目掛けて手刀を振り下ろした。
同時に本体である柱の男は、つい今しがた砕いたコンクリートの破片を手にすばやくリンゴォの後ろに回り込む。
ムーディー・ブルースの攻撃を避け、体勢が崩れていたリンゴォはその俊敏で大胆な動きについていけない。
苦し紛れに振り向きざま一閃、しかしこの一撃も空振りに終わり、大男はリンゴォの後頭部に鉄塊を叩きこんだ。あっと叫ぶ暇もなくリンゴォの身体が沈んでいく。

まずは一人。なすすべもなかった。
柱の男の身体能力はスタンド同等。いや、下手をしたらそれをはるかに凌駕するほどだ。
ナイフ一本の男を相手するなどわけないことだったのだ。
リンゴォは何が起きたかよくわかっていないような、呆けた表情のままその場に崩れ落ちる。
どうやら気を失ったようであった。


次はナランチャだ。同時、飛び出していた少年は戦いの隙を突き、大男の後ろをとっていた。
飛行機型のスタンドを呼び出すと、大きく跳躍し狙いをしっかりと定める。ターゲットはスタンドではなく、大男本人。
奪われたとはいえ、かつての仲間のものであったスタンドを攻撃することは、ナランチャにはできなかった。
跡かたもなく吹き飛ばしてやる、怒りに燃えたナランチャはそう思った。
銃口を向け、まさに今、銃弾を発射せんとする。だがまさにその時、男が鋭く言葉を言い放った。
足元に横たわるリンゴォ・ロードアゲインを見つめながら、振り向くことなく柱の男が言った。

「いいのか、ナランチャ……? 『エアロ・スミス』をぶっ放せばハチの巣になるのは俺だけじゃないぜ?」

ほんの少し、時間にすれば秒針が動く隙もないほどの、僅かな時間だったであろう。ナランチャは躊躇った。
男が背を向けているというその姿を怪しんでしまったのもいけなかったかもしれない。スタンド名を何故知っているのか、そう考えてしまったのもいけなかった。
迷いは隙を生む。隙は時間を呼ぶ。

「ナランチャ君ッ!」

ジョナサンが叫ぶ。しかし、動き出すのがあまりに遅すぎた。
ハッと気づいた時にはナランチャの視界いっぱいに広がる灰色の石。柱の男の馬鹿力で放り投げたコンクリの塊はもはや凶器と呼ぶにふさわしい。
時速百数十キロで襲いかかってきた投石を宙で避ける術はない。
コンクリはナランチャの額に直撃、血飛沫を上げながら少年の視界は暗転する。ナランチャの意識は闇へと沈んでいった。
これで二人目。秒針が半周もしないうちに、この場に立つ人間の数が半分まで減らされていた。
134◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/28(月) 00:18:42.23 ID:lzOtQThW
それでも戦いは終わらない。意識を失ったリンゴォの腕時計の秒針が、音を立てて進んでいく。

ナランチャの身体が宙に舞い、地面に落ちるその直前、ジョナサンが身体を滑り込ませる。
叩きつけられぬよう、少年を優しく抱きとめるジョナサン・ジョースター。それも計算の内だと言わんばかりに、柱の男は既にッ 既にッ!
次なる攻撃に備え、動いていたッ!

少年の影に隠れる様、軌道に合わせ、颯爽と駆けていく。
数十メートルを瞬時に詰める脅威の身体能力。
吸血鬼という超越者を更に上回るスピードはジョナサンにとっても予想外。それでも咄嗟に蹴りを放つのは流石歴戦の波紋使いだ。

だが柱の男、これを一歩で避け、さらに懐に潜り込む。もう一歩、更にもう一歩ッ!
両腕で少年を抱え、不慣れな体勢では歴戦の戦士も普段通りとはいかない。数回の交戦を経るも、瞬く間に追い詰められていく。
加えて相手は一人でありながら、スタンドを操り攻撃を仕掛けてくる。
それは人を五人同時に相手するのと同じ、いや、下手をすればそれ以上の人数の攻撃を同時に裁けというのと同義であった。
ジョナサンの呼吸が乱れる。強引に放たれた蹴りにはいつもの鋭さがまったくなかった。
柱の男の右頬が、ジュ……と波紋で焦げるような傷跡を残す。それだけであった。致命傷どころか、怯ませることもできなかった。

次の瞬間、柱の男の右腕の筋肉が大きく盛り上がる。
グシャッと手に持ったコンクリの塊が一瞬で砕け散り、無数の破片へと形を変える。
そしてそれが超至近距離、顔を合わせたような距離からおもいきり、ジョナサン向けて叩きつけられたッ

刹那、ジョナサンは全身を同時に殴りつけられたような衝撃を感じた。
マシンガン、あるいは散弾銃を身体中、埋め尽くすように撃ち込まれたような衝撃だった。
爪の先ほどの大きさの小石が、まるで生きた羽虫のように、青年の身体を喰らいつくしていくかのようだった。
ジョンサンの皮膚という皮膚全てが切り裂かれ、砂混じりの血飛沫がシャワーのように降りそそいだ。

ジョナサンは倒れなかった。ナランチャをこれ以上傷つけまいと彼は全ての弾丸を体全身で受け止め、それでも倒れなかった。
真っ赤な服を着ているかのように全身を血で染めながら、顔をあげたジョナサン。輝く瞳で柱の男を見つめる。
その視線に、暴れまわっていた大男が一瞬だけ怯んだように、フーゴには見えた。

だがそれでもッ それでもだッ 暴力はやまず、拳は止まらず。
ジョナサンが口を開こうとする。何か言葉を口にしようとするも、それは柱の男の疾走音に紛れ、よく聞こえない。
まるで掻き消すかのように走っていく。聞くのを嫌がるように、見つめられるのが辛いかのように。
血を一度に失いすぎた青年は軽い貧血状態に陥り、その動きに対応することができなかった。
リンゴォと同じように、『ムーディー・ブルース』が優しくその首筋に手刀を振るうと、呆気ないほど簡単に、青年は気を失った。
135◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/28(月) 00:19:01.48 ID:lzOtQThW
そして三人目。ついに残すは後一人のみ。呆然とその場に立ちつくす、パンナコッタ・フーゴのみ。
あっという間だった。フーゴが割って入るほどの隙は一切なく、気付けば戦いは終わっていた。
地面に横たわる三つの体。薄明かりの中、月を背にそびえる柱の男。傍らに立っているのはフーゴにとって見慣れた仲間のスタンドだ。
どこか現実感のないその光景に、フーゴは眩暈を感じ、まるで足元が溶け落ちていくかのような感覚に襲われた。

大男が一歩踏み出した。ビクリと身体を震わせ、反射的にパープル・ヘイズを間に立たせるように動かす。
後ずさりしたくなる気持ちを必死で堪え、フーゴは目をしっかり開くと現実を見つめる。
恐怖はある。死にたくもない。だがそれ以上に、後ずさりたくない。その気持ちがフーゴの中で上回った。
これ以上逃げるのはまっぴらだ、そう思った。

強張る表情とは裏腹に、脳は柔軟にフル回転していく。
そもそもフーゴが戦いに参加しなかったのは、隙がなかったのもあるが、なにより彼のスタンドの性質故だ。
柱の男のような超至近距離を主戦とする敵を相手する場合、下手にフーゴが介入すれば助けになるどころか、仲間討ちになる可能性のほうが高い。
不用意な一撃、不必要な接近でパープル・ヘイズの毒を充満させることを、フーゴは何よりも恐れていたのだ。

なんとか逃げだす足を止めた。堪えることはできている。えらいぞ、そうフーゴは口の中で自らを勇気づける。
今度は足を動かしてみる。大地を踏みしめ、逆に男に向かって歩み出す。
半歩は踏み出すことができた。その勇気を持っている。ならばもう半歩だ……もう一歩だッ

前は持っていなかった勇気だ。誰かに頼らなければいけない自分だった。
だがもう頼る相手はいない。太陽のように輝いていた『彼』は、もういない。
ならばこそ……フーゴはなんとか自分に言い聞かせ、進んでいく。自らの意志で一歩、更にもう一歩ッ
そんなフーゴの足が次の瞬間止まった。目の前の男が口を開いたのだ。

「やめとけ、フーゴ。この明るさで『パープル・ヘイズ』を使おうってもんなら、俺もお前もあっという間にお陀仏だ。
 それだけならまだマシだろう……。けどな、下手に即死できずにのたうち回ってみろ。
 気絶してるこいつらにも菌が感染、あとは地獄絵図だ。もしかしたら俺たちの戦闘音を聞きつけて他の参加者も来るかもしれない。
 そんなことになったら……死の連鎖は、どこまでも続いて行くぜ?」

何故この男は自分のスタンドのことを知っているのだろうか。沈黙が流れた中、混乱した頭で最初に思いついたのはそのことだった。
フーゴは警戒心から進めていた足を止め、むしろ一歩離れるように距離をとった。
まじまじと、改めて目の前の男の様子を伺ってみた。さっきまであんなに大きく見えた男が、今は何故か小さく、しぼんで見えた。
それどころか化け物のような荒々しさ、獣のような猛々しさから一転。
仕事に追われ、くたびれ果てたサラリーマン。そんな疲れ切った表情を浮かべているように、フーゴには思えた。

一体この変わりようはなんだ。何故こいつは僕に襲いかかってこない。
一度考えだすとそこから先は止まらなかった。フーゴの中であぶくのように、次から次へと疑問と疑惑が浮かび上がってきた。
そしてまるで誰かが電球のスイッチを捻ったかのように。まるで誰かがスイッチのボタンを押したかのように。
唐突にフーゴの中で一つの可能性が思い浮かんだ。
こま割り映画のように、たった今起きた出来事全てが、頭の中でもう一度流れていく。
無意識のうちにたまっていた違和感が次々に、ハマるべきところにハマり、あたかもパズルのように仮説が頭の中で完成していく。
136◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/28(月) 00:19:23.10 ID:lzOtQThW
なぜナランチャの名前を知っていたのか。それどころかナランチャのスタンド、『エアロ・スミス』まで、その存在を知っていたのはなぜだ。
それは彼自身の場合にもあてはまる。パンナコッタ・フーゴ、そして『パープル・ヘイズ』。この場合は名前にとどまらない。
スタンドの能力まで把握されていた。菌の弱点、光とその関連性までも、この男は知っている。
それを知っているのは、アイツらしかいない。同じ護衛チームにいた、アイツらしか、知らないはずだ。
それはつまり…………―――

フーゴはゆっくりと口を開いた。
唇がかさつき、舌がやけに乾いていて、口の中に貼りついたかのように、うまく動かなくなっていた。まるで喋り方を忘れてしまったかのようだった。
半信半疑のまま、言葉の通じぬ動物にでも話しかけるように、フーゴは言った。
その低く、くぐもっている声は、まるで自分じゃない、他の誰が喋っているかのようだった。

「アバッキオ、なのか」

大男は何も言わなかった。しかし顔にかかる影が一段と濃くなり、疲労の色が確かなものになったような気がした。
沈黙は即ち肯定の合図。フーゴはそれを信じられぬ思いで見つめ、しかし心のどこかで冷静に納得している自分がいた。
安堵と絶望、相反する二つの感情が強力な毒素のように全身を駆け巡った。

「一体、なにが」
「これは、俺のひとりごとだ。聞き流してくれても構わねェ」

問いを遮るように発せられた深い低音の声。
それはかつて護衛チームとしてフーゴと行動を共にしたレオーネ・アバッキオのものとは似ても似つかぬ声だった。
だというのに、その声の裏側には確かに彼の存在が見え隠れする。
ぶっきらぼうなもの言いといい、一つ一つの言葉の刺々しさといい、誰を相手にしようと食ってかかるような口のきき方といい。

フーゴは何も言わなかった。何も言えなかった。彼はただ黙って、『レオーネ・アバッキオ』の話を聞くほかなかった。



根性ある少年を助けるため、怪物と戦った。えらく自分らしくないとはわかっていた。でも自然と身体が動いていた。助けない、そんな選択肢は浮かばなかった。
どこかの誰かさんの甘さが移ったのかもしれない。物怖じず、ふてぶてしいガキがどっかのアホのガキと重なって見えたのかもしれない。
とにかく無茶して、下手をこいた。怪物はとんでもないヤツで、自分は殺された。レオーネ・アバッキオは死んだ。

―――そのはずだった。
137◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/28(月) 00:19:53.56 ID:lzOtQThW
その後のことも数分がかりで話し、『レオーネ・アバッキオ』のとんでもない話が終わった。
語り聞かされた話はまるでおとぎ話のようで、とても信じられぬものではなかった。
普段のフーゴならば、馬鹿馬鹿しい、そういって一蹴するような与太話で合っただろう。
しかし今回ばかりは話が違った。フーゴは何度も瞬きを繰り返し、脳の働きをチューニングするように繰り返し頭を振って、意識をはっきりさせる。
それでも、彼が感じる事象に変化はなかった。五感から感じるもの全てが、はっきりと目の前の存在が何かを示していた。

それは人ではない、超越者。全身で人を喰らう、謎の生命体。
それは彼の同僚、レオーネ・アバッキオ。天邪鬼でガラが悪くて、喧嘩ッ早い、目つき最悪の元不良警官。
矛盾しながらも辻褄の合う説明だった。フーゴの感情と理性を無視すれば、それは筋の通る話であった。

堪らず放心状態で、それでも何か言わねばと、フーゴは口を開く。
だが当たり前のように言葉は出てこず、かわりに唸り声が漏れ出た。それを聞いて男が唇を捻りあげるような嘲りの笑みを浮かべた。
その皮肉たっぷりで人を小馬鹿にする笑い方は、かつて何度か青年をブチぎらせかけた同僚の笑い方にそっくりであった。
その事に気づき、初めてフーゴは事実を事実として受け入れた。ああ、目の前のコイツは……紛れもなく、アバッキオなのだろう、と。

沈黙が流れる。立ちつくす二人は腕を伸ばせばすぐにでも届くほど近く、間に深い深い谷底が横たわっているかのように遠い。
男が口を開いた。自分の身に何が起きたかを説明していた時より、更に感情の籠らない話し方で、彼はフーゴに向かって言った。

「チームの皆には言わなくていい」

視線を合わせるも、その瞳からは感情が読み取れなかった。
底の知れない怪物のような目が青年を見返していただけだった。
再び男が話し始める。ふと、視線を外すとどこか遠いところを眺めるような、そんな目つきになった。
フーゴはそんな風に話す『アバッキオ』を見たことがなかった。

「リンゴォ、ロードアゲイン、だったかな。さっきの髭野郎の名前。
 面白いやつだよな。久しぶりに、柄にもなく昔のことを思い出しちまった。
 俺がまだ現実ってやつを知らず、警察官であることに誇りを持っていて、餓鬼みたいに目をキラキラ輝かせて時のことをよォ……」
「…………」
「『納得』……納得ねェ。たいしたもんだぜ、まったく。吐き気がするほど青臭ェ、眩暈もするほど見てらんねェ。
 だけど一番眩暈と吐き気がするのは、そんな言葉に動かされた自分がいるってことだ」
「これから……どうするつもりなんだい、アバッキオ」

肩をすくめると男はしばらく黙りこむ。その横顔をじっと見つめるも、奥底にある感情は読み取れなかった。
いや、フーゴは視線を逸すと、目を瞑った。感情を読み取りたくなかったし、読みとってはならないと思ったから。
一人の男が赤裸々に感情を吐露している。かつて長い間、相棒役を務めながら一度も触れなかった不可侵の領域。
鋼鉄のように固い守りを放っていた男の無防備さを、青年は直視することができなかった。
そんな男の脆さを見てはいけないような気がしたから。
138◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/28(月) 00:20:16.20 ID:lzOtQThW
「なぁ、フーゴ……二人でよく殺したよな。沢山、沢山殺したよな。
 スキャンダルのもみ消し、横領をしようとしたやつの処刑、抗争の裏工作……まったく、汚ねェ仕事だったよなァ。
 ポルポに頼まれもしたし、ブチャラティに内緒でした時もあったはずだ。
 一体俺とお前で、何人殺したんだろうな」
「…………」
「結局のところ、俺に出来るのはそんな仕事だけだ。俺に相応しいのはそんぐらいだってことだ。
 ゴミ捨て場の掃除、後処理と片付け。それが俺にはお似合いだってことだ。
 神様とやらがいるんだったらな……まぁ、なんというか、よく見てやがる。天命ってやつだぜ、まったく」
「アバッキオ、君は……」

――また誰かの代わりに、殺すんですか。『巨大で絶対的な何か』、神(ディオ)とやらに従って、動くつもりですか。

その言葉をフーゴは飲み込んだ。
それこそがリンゴォ・ロードアゲインが最も卑下し、唾棄すべきものだと思っているのではないだろうか。
フーゴはそう思ったが、それを言う勇気はなかった。それに正解なんてないのだと思ったのだ。
レオーネ・アバッキオにとっての『納得』がそれなら、それでいいはずだ。それが彼の歩む道なら、フーゴにそれを止める権利はないのだ。

――だがそれは、あまりに寂しすぎないだろうか。

フーゴの胸の奥底が、チクリと痛んだ。

「俺は行くぜ、フーゴ。次あった時はもう他人同士だ。
 もちろん襲いはしねェ。だけど呑気なお話はここでお終いだ。
 俺とおまえはもう赤の他人。知り合いでもなんでもねェし、同じチームで何でもない。いいな……」
「……」
「『レオーネ・アバッキオ』は死んだんだ……。だがな、『俺』は死なねェぜ、フーゴ?
 必ず生き残ってやる。殺して、殺して、殺しつくして……そして最後、最後の最後の尻拭いも自分で済ませるつもりだ。
 なんでも、そいつ……ジョナサン・ジョースターによるとこの身体は吸血鬼のものらしい。なら簡単だよな。太陽の日を浴びちまえば、銃を使う手間もなく、楽に自殺できる。
 それに最悪、この首輪とやらにお世話になればいい。あの眼鏡ジジイの世話になるのは癪だが、まぁこの際贅沢は言わねェさ」
「吸血鬼、ですか」
「なんでもありだよな」

暗い声で、男は笑った。フーゴはとてもじゃないがそんな気分でもなく、ただ彼を見つめていた。
だが彼がそろそろ旅立とうと準備を始めた時、フーゴは自分の支給品を思い出した。
そしてこれ以上ない、餞別になるな、そう思い彼にこれを譲ることにした。
アバッキオ、背中を向けた怪物にそう声をかける。ジロリと脅すように睨みつけるその様子は迫力たっぷり。だがフーゴは怯まなかった。
それどころか、ここ一番の笑顔でもう一度彼の名を呼び、そして地図を彼の顔先に突きつけた。

「僕からの餞別だと思ってください」
「……礼はいわねェぞ」
139◇c.g94qO9.A氏代理:2012/05/28(月) 00:20:39.20 ID:lzOtQThW
デイパックに地図をしまう彼と握手をしようと腕を伸ばす。アバッキオはそれを無視した。だが皮肉気な、いつも通りの笑顔を浮かべた。
素直じゃないな、そう思い苦笑いを返す。アバッキオはそれを見て更に口の端を釣り上げた。
一瞬だけ視線が交わる。それは文字通り一瞬だった。
次の瞬間、男は近くの民家に向かって跳躍。ひとっ飛びで屋根の上に着陸すると振り返ることなく去って行った。
向かう先はきっと地下へと続くコロッセオだろう。手渡した地図の内容を想い浮かべながら、フーゴはぼんやりと、そう思った。

アバッキオはほんとうに『納得』しているのだろうか。
チームのため、誰かのために、殺人者を殺す殺人者になる。
毒を持って毒を制する。怪物を仕留めるには自ら怪物になるしかない、そういうつもりなのだろうか。
誰にも理解されることなく、誰が褒めるわけでも感謝するわけでもない。称えてくれる人もいなければ、共に戦ってくれる人もいない。
孤独で辛い道をレオーネ・アバッキオは選んだのだ。考えてみれば、いつだって彼はそんな選択肢を選んできた。
遠ざかっていく背中が見えなくなるまで眺めていた。その背中はとても大きく、しかしとても寂しげに見え、フーゴは身を切られるような切なさに、唇をかんだ。

助けることはできない。だけど祈ることはできるだろう。
せめて彼がこの先も『納得』できる道を歩み続けれるよう、可能な限りのサポートはしよう。
地面に転がるナランチャを見つめ、フーゴは固く決心した。

その時、後ろで何者かが動く気配を感じ、反射的にフーゴは振り返った。
立ちあがっていたのはリンゴォ・ロードアゲイン。いつのまに意識を取り戻したのだろうか。
見たところ、怪我はそれほど重症ではなさそうで、後遺症もないようだ。
だがその様子は異常だった。カッと見開かれた目は血走り、今にも目玉は飛び出さんばかり。その瞳は狂気に染まっていた。
彼は、ものすごい勢いでフーゴの肩を掴むと掠れた声で問いかける。あまりに強く掴むので、フーゴの肩の感覚がなくなるほどだった。

「今の話は……ほんとうなのかッ」
「い、今の話って……」
「お前と、お前がレオーネ・アバッキオ、そう呼んでいたヤツの会話のことだッ」

チームの皆には言わなくていい、アバッキオの言葉が思い起こされた。
だがこの男はチームの一員ではない。ならば彼には知る権利がある。
それに会話を聞かれた以上、隠す必要もないし誤解を解くきっかけにもなる。
フーゴは頷き、言葉を返した。

「全て事実です。貴方がどこから話を聞いていたのかはわかりませんが、彼は『レオーネ・アバッキオ』です。
 見た目は全くの別人ですが、正真正銘『レオーネ・アバッキオ』なんです」
「…………馬鹿な」
140◇c.g94qO9.A氏代理(続き):2012/05/28(月) 07:52:24.24 ID:SHn87APk

説明を続けようとフーゴは口を開く。だが男は既に聞いていなかった。
痛くなるほど掴まれていた肩は離され、男は脱力したようにその場に崩れ落ちる。
もはやフーゴなんぞ目に入っていないのか、呆けた表情を浮かべしばらくの間、ずっとそうしていた。
その間、彼は何を見つめるでもなく、何を伝えるでもなく、ただひたすらに、意味の成さない言葉を、ぶつぶつ呟き続けていた。
空っぽの瞳で地面のある一点を凝視し続け、早口で何語かもわからぬ言葉を捲し立てる。異常な光景だった。
気味が悪いな、フーゴは男の行動に戸惑いつつも、そんな感情が自らの中で湧き上がるのを認めざるを得なかった。

長い間、男はずっとそうしていたが、やがて立ち上がると、夢遊病者のようにあらぬ方向へと向かい歩き出す。
その異常さを目の当たりにしたフーゴは一度だけ彼に声をかけた。
正直気味も悪いし、一体何が何だかわからなかったが、それでも男を放っておくことはできない。そうフーゴは思ったから。

だが無駄だった。彼は一度も振り向くことなく、まるでフーゴなんぞそこにいないかのように歩みを止めようとはしなかった。
一度だけ肩に手を置くと、ものすごい勢いで振り払われ、鬼のような形相で睨みつけられた。
男の表情を見てフーゴはゾッとした。それは男の表情が鬼気迫るものであったからではない。
数十分しか経っていないはずなのに、男は十歳も二十歳も一気に年をとったかのように、やつれ果てていたのだ。
その変貌っぷりに、フーゴは伸ばしていた手をひっこめた。

もう一度、まるで脅すようにフーゴを睨みつけるリンゴォ・ロードアゲイン。
恐怖は湧きあがらなかった。フーゴは無意識のうちに拳を握りしめ、彼をそのまま見送った。

彼はそうされることを最も嫌悪するだろうとはわかっていても、フーゴは男に同情してしまった。
きっと『超越者』とリンゴォ・ロードアゲインの間には並々ならぬ因縁があったのではないだろうか。
それが今や『超越者』は『レオーネ・アバッキオ』になってしまったのだ。
滾る感情は宙ぶらりん。そうですか、わかりました、なんて簡単には真実を受け入れられないのだろう。
あんなに声高々に『納得』を叫んでいたのだ。彼の気持ちを推し量れば、フーゴにはかける言葉が見当たらなかった。

東に向かって歩き始めた彼。太陽がうっすら昇り始め、逆光の中、光の道を歩き出した男、リンゴォ・ロードアゲイン。
フーゴは彼が見えなくなるまでじっと彼を見つめ続けていた。

そして、ふと時間に気づくと、ゆっくりとその場を離れ、放送にそなえるための準備を始めた。
ジョナサン・ジョースターをスタンドで抱え、ナランチャは自分自身の腕で抱きかかえる。
最後にもう一度だけ東の空を見る。顔をのぞかせていた太陽は今日も変わらず、美しい。

目が霞むほどの明るさを飽きることなくフーゴは見つめ続けていた。
そして、ゆっくりと近くの民家へと向かい、彼は足を向けた。

考えることは山ほどある。やるべき事は沢山ある。
長い一日になりそうだ。フーゴはポツリとそうこぼし、ふとトリッシュ・ウナ護衛作戦の日を思い出した。
それほど時間は経っていないというのに、なぜだか彼の胸は懐かしさで満たされていた。
141◇c.g94qO9.A氏代理(続き):2012/05/28(月) 07:52:52.18 ID:SHn87APk

【E-7 杜王町住宅街(南西部)/ 1日目 早朝(放送直前)】
【レオーネ・アバッキオ】
[スタンド]:『ムーディー・ブルース』
[時間軸]:JC59巻、サルディニア島でボスの過去を再生している途中
[状態]:健康
[装備]:エシディシの肉体
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:護衛チームのために、汚い仕事は自分が引き受ける。
1.南下しコロッセオに向かう。そこから地下に潜る予定。
2.殺し合いにのった連中を全滅させる。護衛チームの連中の手を可能な限り、汚させたくない。
3.全てを成し遂げた後、自殺する。
【備考】
※肉体的特性(太陽・波紋に弱い)も残っています。 吸収などはコツを掴むまで『加減』はできません。



【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:全身ダメージ(中/出血中)、貧血気味、気絶中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
0.気絶中
1.目の前の吸血鬼?を倒す。これ以上は一人の犠牲も出させはしない。
2.(居るのであれば)仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
3.ジョルノは……僕に似ている……?
142◇c.g94qO9.A氏代理(続き):2012/05/28(月) 07:53:25.48 ID:SHn87APk


【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド] :『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:気絶中、額に大きなたんこぶ&出血中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.気絶中
1.アバッキオの仇め、許さねえ! ブッ殺してやるッ!
2.ジョナサンについていく。仲間がいれば探す。
3.もう弱音は吐かない。

【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:精神消耗(小)
[装備]: DIOの投げナイフ1本
[道具]:基本支給品一式、DIOの投げナイフ×5、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のハートのAとハートの2
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
0.民家で二人の手当、その後放送を待つ。
1.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集める。
2.ナランチャ、アバッキオが生きていることについて考える。
3.ナランチャや他の護衛チームにはアバッキオの事を秘密にする。なんて言うべきだろうか……?



【リンゴォ・ロードアゲイン】
【時間軸】:JC8巻、ジャイロが小屋に乗り込んできて、お互い『後に引けなくなった』直後
【スタンド】: 『マンダム』(現在使用不可能)
【状態】:右腕筋肉切断(止血済み)、身体ダメージ(小)、放心状態、絶望
【装備】:DIOの投げナイフ1本
【道具】:基本支給品、不明支給品1(確認済)、DIOの投げナイフ半ダース(折れたもの2本)
【思考・状況】
基本行動方針:???
0.嘘だッ……嘘だろ…………ッ!?
1.決着をつけるため、エシディシ(アバッキオ)と果し合いをする?
2.周りの人間はどうでもいいが、果し合いの邪魔だけはさせない。



【備考】
E-7北西のコンテナが退かされました。
下敷きになっていた露伴の遺体、アバッキオの遺体、エシディシの所持品(基本支給品×3(エシディシ・ペッシ・ホルマジオ)、不明支給品3〜6(未確認) )はその場に放置されたままです。
以上です。誤字脱字、矛盾点ありましたら指摘ください。
前作の誤字脱字指摘、ありがとうございました。遅くなりましたが、さっきなおしてきました。
感謝します。
144創る名無しに見る名無し:2012/05/28(月) 17:34:01.68 ID:x+IfAlDp
◆c.g94qO9.A氏も代理投下の方も乙です

アバッキオ…
切なさに狂いもだえました
145創る名無しに見る名無し:2012/05/28(月) 21:02:08.89 ID:03aSLe9t
投下乙です。アバッキオほど鬱展開の似合う男がいるだろうか!
『恥知らず』のフーゴとの関係がフル活用されてて良かったです

細かいようですが「エアロ・スミス」→「エアロスミス」ですね
あとは特に見当たらない気がします
146創る名無しに見る名無し:2012/05/28(月) 22:38:48.36 ID:BY67XAtN
投下乙です。
予約を見たときに「序盤にしてまた多くのキャラが死亡か…まあロワ進行には良いんだろうけど」
と、正直言ってそんな印象でした。
が・・・投下作品を読んで驚愕。誰も死なず、それでいて十分に次回作への引き継ぎが期待できるSSでした。
どのキャラも今後の動きが気になりますね。改めて乙でした。
147 ◆yxYaCUyrzc :2012/06/05(火) 00:18:43.50 ID:APtqRSqA
書き込みテスト。規制無ければ明日(もう今日か)の昼ころに作品を持ってきます
148 ◆yxYaCUyrzc :2012/06/05(火) 10:27:02.28 ID:APtqRSqA
投下開始します。
ゆっくり時間かけて投下しますが、それでも規制がかかりましたらしたらばに持っていきます。
149弾丸 その1 ◆yxYaCUyrzc :2012/06/05(火) 10:33:03.52 ID:APtqRSqA
『スピード×体重×握力=破壊力』
――という公式がこの世には存在する。
要するに、思いっきり“速くて”“重くて”“固い”モノをぶつけるのが強大なダメージになるって事なんだが……

さてここで問題だ……え?質問してばっかり?まぁそう言うなよ。俺だって君らの意見聞きたいのさ。じゃあ改めて聞こう。
『この公式に更に掛け算を追加して破壊力を上げるには何を掛ければよいか』?
まぁ、正解はないと思うよ。鋭さでも良いし、火力でも電力でも良いし。

……ん?なに『命をかける』?上手いこと言うね。確かにそれもアリだ。
しかし、それは最後の最後、文字通り一撃必殺で一発限りの大技だ。そうそう使えないだろうね。
それに、今回の話ではそこまで“かける”やつは出てこないよ。それじゃあ、始めようか――


***
150弾丸 その2 ◆yxYaCUyrzc :2012/06/05(火) 10:37:35.44 ID:APtqRSqA
ドンッ!ドンッ!ドンッ!


日の出前の閑散とした路地に乾いた音が響く。
ほんの数刻前に起きた地鳴りのような音に比べればその音は小鳥の囀り程度にしか聞こえない。しかしそれを目の当たりにした人間にはとてもそうは思えないだろう。
まるで何匹もの小さな猛獣たちが、爪を光らせ牙をむいて襲いかかってくるかのように映るはずだ。
着弾まであと数メートル、きっと二秒とかからない内にそれは相手の身体にいくつもの風穴を開けるだろう。
今にも攻撃を食らいそうなその男は恐怖のせいで顔も身体も強張っている。

「……何ビビってんだッ!俺が“守ってやる”っつってんだからテメェは思いっきり走って距離詰めてりゃあイイんだよッ」

しかし、そんな男を叱咤する者がいた。声の主もまた男なのだが……不思議な事に、地面に這い蹲るような姿勢のまま怒鳴り声を上げている。
着弾までのわずか数秒。されど数秒。この激昂が立ちつくす男を突き動かす。
もっとも、気合が入ったとかいう意味でなく、恐怖の衝動に駆られるまま動き出したと言う感じなのだが。
ヒッと悲鳴を上げながら一歩、二歩……三歩目で足をもつれさせた。当然、前につんのめる。

が――この“つんのめった姿勢”が結果として男を弾丸から守った。
頭が下を向いたから、その上を弾が掠めていったのだ。
とは言え、男は現在進行形で転倒している。足はもつれ、肩にはバッグをかけ、利き手は震えながらも拳銃を握り締めている。
……となれば受け身も取れないまま地面に激突する。これも当然。

が――この“地面との激突”が結果として男の状況を防御から攻撃にシフトさせた。
緊張しきった手を握り締めたらその勢いで銃弾が発射されたのだ。
とは言え、男は転倒した姿勢で発砲した――という表現もおかしいが、とにかく銃を撃った。肘も固定されておらず銃口は明後日の方向を向いているが。
おそらく、撃った当人には『ガァン!』という音が拳銃から発せられたものなのか、あるいは地面と自分の頭蓋骨から発せられたものなのか分からなかったことだろう。

が――この“妙な弾道”が結果として先に攻撃した側に大きな動揺を与えた。
弾丸は近くのマンション、そのベランダに飛び込んで行ったと思ったらそこから割れた植木鉢がシャワーのように相手に襲いかかったのだ。


ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!


相手――先に攻撃を仕掛けた男であるジョニィ・ジョースターは、思いもしない方向からの奇襲に対処しきれない。
指先から無数の弾丸を放ち降り注ぐ破片を弾き飛ばすも、防ぎきれなかった何発かはその身体に浴びてしまう。
「なんなんだ!?さっきからッ!あいつはッ!」
そんな悪態も今ので四度目になる。そう、四度目。今回の攻防が初めてではないのだ。
そもそも“最初に”攻撃を仕掛けたのはジョニィではない。彼は家を出たと同時に襲撃を受け、路地を走りながら応戦していた側なのだ。

「ホラァッ!あのガキにダメージあんぜ!とっととトドメさせよ!オラッ!」

痺れを切らし、先程声を張り上げた男がまたも怒鳴る。

怒鳴られた方はと言うと……立ち上がり、そして、ついに自分の意思で拳銃を握り締める。
人間を死なせる、そう言う事も出来る『銃』に一発だけ弾を込め――決意を持って、狙いを定めた。


***
151弾丸 その3 ◆yxYaCUyrzc :2012/06/05(火) 10:44:11.42 ID:APtqRSqA
――コイツぁいい〜ぃ“ネタ”が出来たぜ。

人が寝てるとこをデケぇ音たてて叩き起こしたと思ったら(後で二階の窓から見たらコンテナが空から降ってきたらしい)、今度は銃撃戦だァ?

どいつもこいつも……殺る気マンマンで良いんじゃねぇの?
でもな……このゲームで優勝する気ならただただ殺して回っても仕方ねぇ。もっと賢く立ち回ってやらねぇとな。

あのホームレスみたいな、とってもラッキーマンなスタンド。相棒に欲しかったぜ……勿体ねぇ事しやがって。
だがまぁ、いい勉強にもなった。タロットの暗示だけじゃあない、ああいうスタンドも世の中にはあるってこった。
それから“指銃”とでも言うかね?あのガキの。アレも参考にさせてもらうか。俺の『節制』ならラクショーで再現可能だからな。

と、大方の状況は把握できた訳だ。あいつらが呑気に同じ路地で追いかけっこしててくれたおかげってヤツだ。
――さて、ここで俺がとる行動はどうなる?

マル1、戦闘の直後で疲労してるガキを背後から不意打ちで食う
マル2、力のない一般人に偽装してとり言った後隙を見て食う
マル3、“相手を自殺にまで追い込んだ”ガキをゆすって奴隷扱いにする

――ってところか。あまり考え過ぎて頭でっかちになるのもマズいが行き当たりばったり過ぎってのも良くねぇ。
まず、マル1は却下だ。賢く立ち回るって言ったばっかりだからなァ。
すると答えはマル2かマル3だ。正直言ってどっちにも魅力はある。だが同時にリスクもある。
マル2は相手が疑り深い奴ならそれだけで危険だし、マル3は相手の精神が強ければそのまま返り討ちにあっちまう。

だが……どっちかを却下するのもおしいな。

……

よし、決定だ。

いうなれば、マル4、だな――

***
152弾丸 その4 ◆yxYaCUyrzc :2012/06/05(火) 10:55:02.70 ID:APtqRSqA
「ハァッ、ハァッ……何だったんだ、あいつはッ!?
 まるでポコロコ――そう言えばレース後に尋ねたら彼もやっぱりスタンド使いだったな……
 それとまるっきり同じタイプ!完全に幸運という力に守られていた。相手の“自殺”がなければ倒せない相手だった……」

大きく肩で息をし、民家の壁にもたれかかった僕は先の戦いを思い出す。
ジャイロに会う決意をして家を出た、なんてレベルじゃあない。ただ単にというか、目的地もハッキリさせないまま外に出ただけで襲われるとは。

結局のところ、自分のことを“トウモロコシ会社幹部の召使い”と名乗った相手の男。
自殺した彼が『私の戦う相手は君でも、まして主催者の老人でもない』と言い残して消えていったことで決着がついた。
改めてこの『殺し合い』、いつ、どこで、誰が、どのように襲ってくるか分かったもんじゃあない。

身体の負傷個所を確認する。銃弾は一発も撃ち込まれなかった。石やら棒やらで怪我しただけだ。しかし……

「しかし……“この状況”これがまずい」

呟いて能力を発現する。
タスク――爪を超え『牙』となったそれは、確かに強力だが、明らかに“弱くなっている”。

「なぜ……なぜ“Act1”なんだ」

疑問を口に出すも、答えはもう分かってる。自分でそれを認めるために敢えて声にして確認したんだ。

――この世界には“本物”が無い。
住宅のドアに窓。舗装された道路の幅。街灯のランプの大きさ、それらの間隔。エトセトラ。エトセトラ。
どれも『本物の黄金長方形』ではない。ゆえにそれを見て強くなるタスクはただの“爪弾”になってしまった……

ここで浮かび上がるもう一つの疑問。
『最初にアナスイと出会った時、何故簡単にAct2が発現出来たのか?』
これもすぐに分かった。ちょっと語弊のある表現になるけれども。

……アナスイは“美しかった”。
153弾丸 その5 ◆yxYaCUyrzc :2012/06/05(火) 11:01:49.00 ID:APtqRSqA
勘違いしないでほしいが、別に、肉体がどうとかフェロモンがどうとかいう意味じゃあない。
彼のジョリーンという子に対する愛、その『姿勢』が間違いなく“自然体”で、つまり“美しかった”からだろう。
ゆえに彼の姿は腰の角度も手首のひねりも、鼻の形も、風に流れる髪の毛一本一本にいたるまで『黄金の形』になっていた。だからAct2が発現出来たんだ。
逆に言うならばさっき戦った相手の“幸運”や動きは明らかに偽物。絶対に“美しさ”とは縁のない話だった、ということになる。

「だとするなら……必要なのは“出会い”ってことか、ジャイロだけじゃあなく……さっきの地震?あったところ見に行ってみようかな。
 本当は馬がいれば良いんだけど、贅沢は言ってられないか……」

ざっ、と立ち上がり荷物を拾い上げる。『彼』の分も拾っていこう。戦利品だ。
そして地震の発生源と思しき所に視線を移し――

「まっ!ま待ってくれ!おお俺は怪しいもんじゃあないッ!」

視界に映り込んだ帽子の男。反射的に『タスク』を発現させ狙いを定めるが、その声に遮られてしまう。

「……僕にそれを信じろって言うのか?大体あんたは」

「そ、そそそうだ俺は一番最初にいたあの場所で“確かに死んだ”筈だッ!
 じゃあ今生きてる俺は誰なんだ?おお俺はこんな所で何をしている?
 さっきチラと見たがお前は……そこの男のゆ、『幽霊』じゃあないのか?それと話をしていたように見えた!
 お前……いや君は私のことを何か知っているんじゃあないのかッ!?」


見ていた……だと……?どこから見ていたんだ?
まさか僕のことを“彼を自殺に追い込んだ殺人者”とでも思ってるんじゃあないのか……?
だとするならヤバい。さっきの地震やら何やらと話を結びつけられたら今の僕に言い逃れする手段はない。

そして――あぁ、なんてこった……

この男も……『偽物』だッ!


***
154弾丸 その6 ◆yxYaCUyrzc :2012/06/05(火) 11:05:44.35 ID:APtqRSqA
『ったくよォ、テメェが自分のこめかみに銃突き付けた時はマジで狂っちまったかと思ったぜェ?』

「それは君が私の話を聞こうとしなかったからだろう?
 『俺がついてるからサッサと全員殺して元の世界に戻って、改めて“決着”つけんぞ』
 なんて言いだして、そこから私の話など一切聞こうとしなかったじゃあないか。
 だいたい、狂ってるのは君の方じゃあないのか?」

『ワリーワリー、って――オマエ今最後酷いこと言わなかったかッ!……まあ聞かなかったことにしてやる。
 しかしお前が散々撃ちたくないとか喚いてたのはビビってたとかじゃあなくて、最初から“戦う相手を間違えてるから”って意味だった訳だ。
 つーか途中から黙りこくったから分かんなかったんだぜ?』

「そう言うこと。黙ったのは……あまりに話が通じないから諦めたんだ。君だけを直接撃って殺す事も出来なかったようだし」

『だからワリーって言ってるだろ。
 しかしなんだ、あのガキには悪いことしちまったなァ。だがまぁお前が大して撃たなかったせいで怪我もしてねぇだろ。
 ま、そんなことで“逆恨み”しちまったらこの世に未練が残るぜ?なぁ?ウェヒヒヒッ』

「君は人のことを言えないじゃあないか。無論、私もだが……」

『だな……良し。そうと決まりゃあ、早速“向かう”としようじゃあねぇか。俺を無理に労働させた揚句に殺し――』

「そして私に整形手術を促して影武者に仕立て上げたあの“旦那様”を――」

「『幸福の絶頂の時から絶望に叩き落としに“迎え”に行こうじゃあないか……』」


***
155弾丸 その7 ◆yxYaCUyrzc :2012/06/05(火) 11:09:57.70 ID:APtqRSqA
さて……今回の話。何も端折って話した訳じゃあないんだが随分と短い話になってしまったな――あ、いつものことか。まあとにかく。
しかし、不思議な関係だよな。スタンドが見えるから幽霊も見えて。幸運のスタンドを知り合いに持っていて。
死んだ相手に化けられて。そんな連中が三人も集まったら……まあ一人――二人?はもう逝っちゃったけど。

……で、だ。最初に話した『破壊力の公式』の話題だ。
ジョニィはあの公式に、さらに“回転”という力をかけていた。だが今回、それに加えて持っていた“黄金比”という力を失い、代わりに“数”という力を取り戻した。
召使いの方は“幸運”という力で守られてきた訳だが、結局のところ“筋違い”で力を失ったと。
ん、ラバーソールは?知らないよ、今回直接戦ってる訳じゃないから。強いて言うなら“情報”かね?
いずれにせよ、出てこなかったろ?『命をかける』なんて大それたことをした奴は。

――さて、ラバーソールは完全にジョニィを騙せた気でいる。
ジョニィもジョニィで、相手が“偽物”だとは分かるがどこからどこまでが偽物なのかまでは分からない。
それを知ってるのは、あるいは既に空に昇った召使いと浮浪者だけかもしれないな。
まぁその辺に深く突っ込んだ話は“別の話題”になるから今度にしよう。それじゃあ――
156弾丸 状態表 ◆yxYaCUyrzc :2012/06/05(火) 11:15:49.81 ID:APtqRSqA
【E-8 路上 / 一日目 黎明】


【ラバーソール】
【スタンド】:『イエローインパランス』
【時間軸】:JC15巻、DIOの依頼で承太郎一行を襲うため、花京院に化けて承太郎に接近する前
【状態】:疲労(中)、『空条承太郎(3部)』の外見
【装備】:なし
【道具】:基本支給品一式×3、不明支給品3〜6(確認済)、首輪×2(アンジェロ、川尻浩作)
【思考・状況】
基本行動方針:勝ち残って報酬ガッポリいただくぜ!
1.さて、まずは“幽霊と話せる男(ジョニィ)”に取り入るぜ(いうなればマル2かーらーのマル4ってやつだ)
2.次に“相手を自殺に追い込んだ男(ジョニィ)”を脅してやろうか(これが方針マル3だな)
3.空条承太郎…恐ろしい男…! しかし二人とは…どういうこった?
4.川尻しのぶ…せっかく会えたってのに残念だぜ
5.承太郎一行の誰かに出会ったら、なるべく優先的に殺してやろうかな…?


【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(小)、打撲(数か所、行動に問題はない)、軽い困惑
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1〜3(確認済)、拳銃(もとは召使いの支給品。残弾数不明)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
0.ジャイロを探す。
1.この“偽物”の男を……どう対処する!?
2.スタンドが“退化”してしまった。どうしよう……
3.謎の震源(コンテナが落ちたところ)に向かってみるか?

【支給品情報】拳銃@SBR:JC22〜23巻に登場。ヴァレンタイン大統領が持っていたもので、ジャイロに「とどめを刺した」そういう事も出来る「銃」
これが回りまわってジョニィの手に渡ったのは何の因果か。弾丸のストックは不明だが、拳銃自体には5〜6発装填可能のリボルバータイプの拳銃。


【召使い@岸辺露伴は動かない 死亡 残り 79人以上】
※召使いの参戦時期は「ポップコーン投げ勝負の開始直前」でした。
※行動の方針・経緯としては、浮浪者の幽霊が『幸運で守ってやるからさっさと優勝して改めて決着をつけるぞ』と言い召使いを行動させていた、という感じです。
具体的には「浮浪者が召使いを脅迫気味に説得」→「ジョニィ襲撃(ラバソに目撃される」→「召使いの意思で自殺」→「旦那様に復讐しに旅立つ」というイメージです。
157弾丸 ◆yxYaCUyrzc :2012/06/05(火) 11:19:06.25 ID:APtqRSqA
以上で本投下終了です。

仮投下からの変更点
・表現や文章を多々変えました。これじゃあ仮投下の意味がないw
・表現の統一。召使いと執事、とか。
・状態表の変更。装備品などの表記を追加

さて、ドルチ出てきたから良いかななんて思いで書いた今回のSS(というか召使い)。ご意見くださった皆様ありがとうございます。
結局『召使いは登場、別キャラで代用しない』という結論に自分でもって行きました。
ジョジョロワ3rd開催当初から見ていた自分が『外伝キャラNG』というルールを見落としていたこと、多くの意見を頂きながら結局変更せず(ルールを曲げて)書いたこと。
その事に関しては、申し訳ありません、と謝るほかありません。
これに関してはこの投下直後だけでなく、後々まで意見を頂きたいところです。ダメなもんはダメ、ルール守れよという方がいらっしゃるようでしたらぜひご指摘ください。対処法を考えます。
第1回放送間近(=ズガン枠終了)になってきたから等とうやむやにしてしまうと、自分だけでなく他の多くの書き手さんの執筆活動にも影響を与えてしまうので……

もちろん、外伝キャラ参戦以外にも問題点がありましたらご指摘ください。
・コンテナの落下を無視してまで戦っていた?
・ジョニィのスタンド退化&アナスイ相手にはAct2発現の理由づけ
・ラバソの(もちろんジョニィも)行動方針に矛盾はないか
・文章の誤字脱字、読みにくい、脳内補完を強制されるような箇所はないか
などなど

最後に。したらばでは励ましの言葉を頂きました。ありがとうございます。
別に執筆に疲れている訳ではありませんが、やっぱり難しいなと思う感じはあります。
リレー小説だからと言ってしまえばそれまでですが、次を書きたくなる話、繋ぐのが難しい話、盛り上がるところ、進展のないところ、多々あります。
ですが、そのことで次の作品のハードルを上げてしまうのはあまりにも勿体無い。
良い作品が書けなくても良いじゃない。
私だって最初に書いたSSは「ウェザーがセッコから赤石もらうだけ@ジョジョロワ1st」でしたもの。今の『SS前後の語り』無ければ2レスくらいの作品なんてザラにあるもの。
日ごろの妄想をぶつけるチャンスをぜひ新規参入の方々にも(もちろん何度も書いてるベテランの皆様にも)見つけてもらいたいなと思いながらこの辺で筆を置きたいと思います。それでは。
158創る名無しに見る名無し:2012/06/06(水) 20:51:40.60 ID:qKq2q4ad
遅くなりましたが投下乙です
ジョニィは「本物」と出会うことはできるのか?
話自体も面白かったですし続きが気になります
自分は召使いの参戦は問題ないと思いますが書き手さんの意見を聞きたいですね
159創る名無しに見る名無し:2012/06/06(水) 23:53:50.31 ID:GkWegiWS
ジョセフの人、真夜中に投下って言ってたからそろそろか・・・?
みんなで支援してこの予約ラッシュから良い流れ作りたいもんだ。
だが・・・俺は寝なければ明日に差し支えるので離脱orz
160代理投下:2012/06/07(木) 20:28:04.15 ID:+fgBQ/vD
170 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:21:51 ID:pK8x81ZQ
 



 先に動いたのはティッツァーノだった。だが上をいったのはプロシュートだった。



全てがスローモーションのように、ゆっくり流れていく。
研ぎ澄まされた神経は的確に脳を、そして身体を動かす。ティッツァーノはプロシュートが動くより早く、既に動きだしていた。
聴覚が狂ったのだろうか、まるで音が遅れてやって来るかのよう。しかし極限の集中力が生んだそんな不思議な世界の中でも、彼は驚くほど冷静だった。

静脈注射を施す看護師のように、慎重に狙いを定める。狙いは目の前の男、脳髄を吹き飛ばし確実に仕留める。
考えるよりも前に、身体は動いていた。西部劇のガンマンも青ざめる早撃ち、早貫き。既に銃は構え終えていた。
死をもたらす、無慈悲で暴力的な銃口。夜空より更に深い漆黒、底知れない暗がりが、男の眉間に突きつけられていた。


だが対する男は平然としていた。銃を額に向けられていても汗一つかかず、髪の毛一本動かすことない落ち着き。
一枚上手だったのは暗殺チームの一員、プロシュートという男。
敢えて先手を取らしたのか、そう疑うほどに淀みなく、彼もまた、既に動き終えていた。
ティッツァーノが掲げた腕に巻きつかせるように、プロシュートは腕をからめとっていく。
肩と腕の関節を利用して、ティッツァーノの腕を締めあげる。途端にティッツァーノの顔が、苦悶の表情に歪んだ。

銃を持った腕が震える。当然、銃口の狙いは定まらない。
もはや痛みはとうに次の段階へと移り、段々と腕の感覚が失われつつある。
これはまずいことになった。感覚が失われてきたということは、こうしている今にも、銃を取り落としかねないのだから。
制御の利かない腕に必死で言い聞かせ、ティッツァーノはそれでも銃を離さず、殺意を手放さず。

ミシミシ……深夜、病院の廊下の元、青年の腕はしなり、音をたてて軋む。万力のような力で、男は顔色一つ変えず、負荷をかけ続けていく。
その表情に焦りはない。自分が指先一つで死ぬことになる、そんな恐怖を一切感じていないかのようだった。
だが落ち窪んだ目の奥を覗きこんだとき、真っ赤に燃える何かがティッツァーノを見返していた。


 ―――『ブッ殺す』と心の中で思ったなら その時スデに行動は終わっているんだッ


乾いた音を立て、拳銃が床に落ちた。ティッツァーノの指先から滑り落ちた銃を、プロシュートが踏みつける。
ティッツァーノの腕は砂漠の樹木かのように、萎びれ、渇ききったものへと変わり果てていた。
『グレイトフル・デッド』、プロシュートのスタンド能力を前には流石の親衛隊の意地も折れざるを得なかったのだ。

二人は見つめ合う。落ちた銃に目をくれることなく、黙ったまま二人は互いの瞳を覗きこむ。
廊下の先から、再び少女の悲鳴と銃声が聞こえた様な気がした。それでも二人は動かなかった。
頭上に吊るされた避難灯が男たちの顔に影を落とす。プロシュートがゆっくり瞬きを繰り返した。ティッツァーノがそっと瞼をしぱたかせた。
来るべき瞬間が来るのを待つ二人。断頭台に上った死刑囚が運命を受け入れる様、その瞬間をただひたすら、男たちは待った。

161代理投下:2012/06/07(木) 20:30:17.68 ID:+fgBQ/vD
171 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:22:49 ID:pK8x81ZQ


 ――― いったん食らいついたら腕や脚の一本や二本、失おうとも決して『スタンド能力』は解除しないッ


しかし……プロシュートはティッツァーノの腕をゆっくりと手離すと、何事もなかったかのように銃を拾い上げる。
そうして、萎びた腕を庇うようにもう片方の腕でさするティッツァーノに、銃のグリップを突きだした。
親衛隊の男は肩で呼吸をしながら、目の前の男と銃を、ゆっくりと見比べた。

その男の意志が全く読めなかった。目の前の男が一体何を考えているのか、全くわからなかった。
ポタリ、音を立てて、ティッツァーノの顎先から汗が一滴、流れ落ちる。

たった今、敵と認識した男に再度獲物を渡すという行為。敵に塩を送ることなんぞ、この男が最もしないであろう行為だ。
慈悲だとか、正々堂々だとか、そんな言葉はプロシュートに全く持って相応しくない。

困ったら殺す、面倒になったら殺す。敵ならば殺す、味方であろうと時に殺す。
それは何も暗殺チームに限ったことでなく、ギャングならば誰もが実践する原則的ルールだ。ましてやプロシュートは暗殺チーム所属の男。
今さら殺しに躊躇いなんぞはまったくないだろうし、彼以上に殺しを徹底してきた男はいないはずだ。
だというのに何故殺さない……? 何故今さら殺さないという結論に至ったのか……?
何をどう考えたら、たった今銃を突きつけ、その上スタンドを曝け出した相手に、武器を渡すような行為に及ぶのか。
ティッツァーノには全くわからなかった。いくら考えても答えは出てこなかった。

沈黙が続く。空気が凍りついたまま、しばらくの間、時間が流れていった。
やがてプロシュートは我慢しきれなくなったのだろう、半ば強引に彼の掌に銃を押しつけ、そして、くるりと背中を向け走り出していった。

最初はゆっくり、そして次第に駆け足、最後には全力疾走。
暗殺チームの男は一度たりとも振り返ることなく、そして一瞬たりとも立ち止まることなく、瞬く間に廊下の先へと姿を消した。
差し込む月光の中に消えていったプロシュート。ふと手元へと視線を落として見れば、手のひらに収まった拳銃が一丁、そこにあった。

どんな馬鹿だろうと、どれほどマヌケであろうとも、誰だってできる簡単なことだった。狭い廊下ではかわすこともできないし、加えて男は背中を向け走っている。
拳銃を狙いに向け、引き金を引くだけ。それだけで男はもんどりうって、その一生を終えるだろう。たった、それだけのことで。
ティッツァーノはぎこちなく銃を構えると、男の背中に狙いを定めた。対象を真ん中に合わせ、あとは指先に力を込めるだけ。

だが、できなかった。ティッツァーノは引き金を引くことができなかった。
ティッツァーノは馬鹿の一つ覚えのように、その背中を見続ける。
それは何故か。ティッツァーノは今気がついたのだ。プロシュートが何故彼を殺すことなく、そして何故平気で銃を手渡したのか。
それに今、ようやく、気がついたのだ。

162代理投下:2012/06/07(木) 20:32:43.00 ID:+fgBQ/vD
172 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:23:06 ID:pK8x81ZQ

男は知っていた。ティッツァーノが引き金を引けないことを。親衛隊所属の男に自分が殺せないことを。
武力や方法という意味ではない。
ティッツァーノには覚悟がなかった。喰らいついてでも必ず成し遂げて見せる、そんな覚悟が感じられなかった。
ティッツァーノには勇気がなかった。どこかで諦め、言い訳していた。思考即行動、それを妨げる、一歩踏み出せない遠慮を男は嗅ぎ取っていたのだ。
だから銃を渡した。だから背を向け、彼は一目散に走っていたのだ。何も心配することなく、殺されないという確信を持って。


『覚悟』がないことを見透かされた。そう、ティッツァーノは『情け』をかけられたのだ。
見下され、蔑まれ、憐れみを……ッ 同じギャングでありながら、暗殺チーム、プロシュートという人間に彼は……ッ

自分の愚かさに気づいたティッツァーノは愕然とした。そしてそんな彼の視線の先から、いつのまにか男は姿を消していた。
後に残されたのは惨めで、間抜けな、敗残兵。真っ暗やみの廊下の下、放り出された一人の、哀れな敗北者。
たった今受けた屈辱、そして最後に男が投げかけた視線。男の後ろ姿が彼の瞼に焼きつき、ティッツァーノはただ、立ち尽くすしかなかった。
163創る名無しに見る名無し:2012/06/07(木) 20:34:13.13 ID:0QkzxcMZ
支援
164代理投下:2012/06/07(木) 20:36:12.06 ID:+fgBQ/vD
173 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:23:23 ID:pK8x81ZQ




研ぎ澄まされた感覚は玄関への扉をぶち開くとともに、一つの殺意を感じ取った。
すかさずプロシュートはその場から逃れるよう、近くの机の下へと飛び込んだ。
直後、彼がたった今いたであろう場所に弾丸が撃ち込まれる。タァン……、重量感を持った銃撃音が部屋内にこだましていった。
プロシュートは闇夜に目をこらし、狙撃手の姿を探る。同時に、今ここで何が起きているのかを、瞬時に把握していく。

見張り番を頼んだはずのマジェントの姿、見当たらず。マジェントが見張っていたはずの老人、同じく見当たらず。
室内、荒れた形跡有り。広いロビーは所々影になっていて隅まで見渡すことはできないが、物を引きずった跡や、家具が動いた形跡がある。
破壊された形跡、特になし。何者かがここで暴れまわったことはなさそうだ。それはつまり、大規模な戦闘は起きていないことを意味している。

プロシュートは考えを進めていく。弾丸飛び交う戦場であろうと、彼は常に冷静だ。

プロシュートはマジェントがもう既に死んだものとして考えを進めていた。それは何故か。
マジェントが言いつけを破って単独行動をするようには思えないのだ。短い付き合いだが、ある程度、彼のことは理解したつもりでいる。
そんな彼がいるべきはずの玄関にいない、姿を見せない。となるとその理由は必然的に一つになる。
マジェントは姿を現すことができない状態にいる、すなわち既にマジェントは死んでいるのではないか。
プロシュートはそう考えていた。

『20th Century BOY』は強力なスタンドだ。だが強力な能力ゆえに、本人の注意力のなさは際立つほど、ない。奇襲から即死、その可能性は十二分にあり得る。
また、これは室内が荒れていないことの裏付ともなる。侵入者はマジェントを一撃で仕留めた、あるいは本人が侵入に気づく以前に殺したのではないだろうか。

ここで疑問になって来るのが、果たしてプロシュートを撃ち殺しかけた相手とマジェントを仕留めた相手は同一人物なのかという点だ。
プロシュートが部屋に飛び込んできたとき、咄嗟に相手は銃を使って攻撃してきた。そう、主な攻撃手段は銃なのである。
ところが玄関の窓は一枚も割れていない。それどころかヒビ一つ入っていない。
そうなると、仮にマジェントが銃殺されたとすれば、窓の外からの狙撃ではなく、面と向かって射殺されたことになる。
それは不可解だ、プロシュートは不機嫌そうに顔をしかめた。
どれだけマジェントがマヌケであろうと、面と向かって銃殺されるほどの大馬鹿ものではないとプロシュートは思っている。
ならばマジェントを殺した人物と、今プロシュートを狙撃している者。これは別々の人物ではなかろうか。
つまり、病院内に忍び込んだ参加者は、少なくとも二人以上いるのでなかろうか。

そこまで考えた時、もう一度聞こえた銃声に思わずプロシュートは首をすくめた。
一度思考を中断すると、男は神経を集中させ気配を探っていく。銃弾は彼に着弾することなく、見当違いのところへ撃ち込まれていた。
銃撃音は室内に反響するため、音から狙撃手のいる位置は容易には掴めない。しかし銃撃の際出たフラッシュのような閃光、それを彼は見逃さなかった。
闇夜に浮かぶガラスが鏡代わりに、一瞬だけ散ったスパークを映しだしていた。そして青白く浮かび上がった少年と少女の顔を、プロシュートは見過ごさなかった。

165創る名無しに見る名無し:2012/06/07(木) 20:37:06.01 ID:0QkzxcMZ
C
166代理投下:2012/06/07(木) 20:41:20.39 ID:+fgBQ/vD
174 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:23:44 ID:pK8x81ZQ

『グレイトフル・デッド』はそこまで素早いスタンドではないが、注意をしていれば銃弾をはじき返す程度のことは可能だ。
プロシュートは音もなく身体を滑らし、机の影から抜け出す。そうして徐々にバリケートへと近づいて行く。
暗殺者は影のように静かに、闇へ姿を紛らし、接近する。彼の狙いは今しがた見つけた二人組に接触すること。

マジェントを打ち破った者、プロシュートを狙う子供二人組。どちらが与しやすいかと問えば、間違いなく後者だ。
敵の敵は味方。実際のところ子供二人を味方にしたって、戦力になるとは思えない。だが、彼の狙いは二人を味方につけることよりもむしろ、彼女たちに敵として認識されないことにある。
一対一対一 よりも、ターゲットを一つに絞り込む。懐柔する際にリスクはあるが、とりあえず背中を撃たれる危険が減れば、それだけでもお釣りが返ってくる。

体勢を低く、ソファーの影に滑り込んだ。目標の二人組は、まさにこのソファーの裏側に陣取っているに違いない。
困難な事は二人組に話をつける前に狙撃されることだ。同時に、第三の敵にも注意を払わなければならない。
厄介な任務だな、プロシュートは冷静な分析の元、そう判断する。しかし最悪ではない。
これより遥かに難関な暗殺を、彼は何度も成功させてきたのだ。この程度で怖気ついたり、怯んだりする男ではない。

「おい、ガキとお嬢ちゃん。聞こえるか」

距離にするとソファーを挟んで僅か一メートル以内。物陰の裏側でビクリと人が震える気配がした。
可能ならばゆっくり、じっくりと説き伏せたいところだが今は時間がない。マジェントを殺した未知なる牙が、今こうしている間にもプロシュートに迫っているかもしれないのだから。
できる限り単刀直入に。そう思い、男は畳みかけるように言葉を繋げようとした。

直後、長年の勘が我が身に迫る危機を察知する。直感的に、二人組がいるであろう、ソファーの裏側へ身を躍らせた。
ほぼ同時といっていいタイミングで、プロシュートの耳を打つ二つの風切り音。
一つは銃声、一つは彼を掠めるように飛ばされた針の発射音。間一髪のところで、男は危機を脱することができた。

突っ込んだバリケード内、ソファーや椅子に囲まれた狭い空間。飛び込み、受け身をとると、プロシュートも思わず息を吐いた。
流石に紙一重のところで死地を切り抜けると肝が冷える。きっとこの二人の銃撃がなければ、針はプロシュートの身体を的確にとらえていただろう。
ほんのわずかだけ、本当に掠めていっただけだというのに、その針はプロシュートの上等物のスーツを台無しにし、その下の皮膚まで被害を及ぼしていた。
火傷のように、チクリと走る痛みにプロシュートは生きていることを実感する。そして同時に、直撃していれば死は免れなかったな、そう思いゾッとした。

とにもかくにも、予定していた形とは随分違うが、二人組と接触することには成功した。
プロシュートが死なないよう銃で牽制してくれたところをみると、敵意はそれほどないとみていいだろう。
借りを作ってしまったことは癪だが、この際、それは置いておく。とりあえずの礼を言おうと、彼は振り向き、そして、開きかけた口を閉じた。

少女にほとんど抱きかかえられるように、支えられている少年。彼には腕がなかった。
本来なら腕があるべき場所にポッカリと闇が存在し、歪んだ暗闇がプロシュートを見返していた。
ほとんど涙目の少女が、少年の顔にかかった髪の毛をかきあげてやる。鬱陶しそうに彼は少女を睨みつけるも、文句を言わず、ただ辛そうに深呼吸を繰り返していた。


167代理投下:2012/06/07(木) 20:43:58.95 ID:+fgBQ/vD
175 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:24:45 ID:pK8x81ZQ


 ―― もう長くないな


プロシュートは冷静に、そう判断する。
今しがた男を射殺しかけた針を、少年はまともにくらっていた。針は十中八九スタンド能力だろう。
刺さった部分から肉を溶かす毒が流れていくようだった。毒は継続的なもので、その上即効性充分のようだなと、プロシュートは自分の傷と少年の状態を確認し判断する。
針が着弾したのは左肩の下あたりだろう。場所が悪かったな、心臓まで毒がまわり、その上肉の爛れが止まらない。
やけに少年の呼吸が荒いのは、融解が内蔵機器まで届いているからだろう。脂汗の量が尋常でない、体温調節もやられているのかもしれない。
皮肉な事でいくらここが病院だからといって、処方できる医師もいなければ、スタンドを処置できる特殊器具なんぞも存在しない。
つまるところ、少年は運が悪かった。プロシュートに言わせればたったそれだけのことだった。

そう、普段の彼ならばそれまでだったであろう。苦しそうなガキがいようと、彼には関係ない。
彼はそれこそ、哀れなガキが惨めに死んでいくところを嫌になるほど見てきた。今さら目の前で二人や三人ガキが死のうと、何ら感慨を抱くことない。
そういつもの彼なら考えていたであろう。

だが、今回ばかりは違った。プロシュートは手を伸ばすと少年の頭を乱暴に握った。そして同時に真正面から、彼と視線を合わせた。

「―――……チッ」

“人殺しの目”、少年の奥底にはプロシュートの中にも潜む狂気と殺意が、幾重にもなって渦巻いていた。
彼は自分自身を少年の中に見た。少年の中に潜む、どうしようもない燃え盛る情熱を、彼は見逃すことができなかった。
見つめ合ったまま、プロシュートはゆっくりと口を開く。僅かにでも視線がぶれるようであれば、そこまでのガキだ。
だがもしもこの子供が、復讐を願うようならば。心の底から、神に何者かを殺すことを祈るような狂信者であるならば。

「坊主、殺したいか。お前をこんな風にしちまったどっかの誰かが、憎いか、殺したいか」

不用意に答えれば浅はかさを見透かされ、考えなしにその問いに答えれば後悔することになる。
低く押し殺したその問いかけには凄味があった。長い間その界隈に身を置いた、一流の男が醸し出す威圧感に、千帆は身を震わした。
だが、早人は脅えなかった。唾を飲み込み、呼吸を整えると言葉を返す。小さな声だったが、一切迷いのない返事だった。

「憎くはない。どうしようもないことだったし、今さらどうのこうのしたって自分が手遅れだって事には気がついてるさ」

だけど、そう最後に付け加える早人。少年は男を見た。男は少年を見返した。

「決着がつけたいんだ。腕の一本をもいだところで僕が負けたってことにはならない。戦いは、まだ終わってないんだから。
 僕は見せつけてやりたいんだ。僕の覚悟を、僕の根性をッ
 終わらせるんだったら僕の手で。このまま、舐められたまま終わるだなんて、まっぴらだ……ッ」

168創る名無しに見る名無し:2012/06/07(木) 20:47:28.63 ID:0QkzxcMZ
しえん
169代理投下:2012/06/07(木) 20:50:12.10 ID:+fgBQ/vD
176 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:26:02 ID:pK8x81ZQ


少年がそう言いきると、再び沈黙が三人を包み込んだ。
そして、唐突に男は少年に問いた。名前は何と言うのか、と。
少年は答えた。川尻早人、そう答え、彼は男の返事を待った。
二人は会話を終えても互いを見つめ、そしてどちらからともなく息を吐いた。


「いいだろう……助けてもらった借りもある、一時とはいえ手を組んだ相手を始末された“礼”もある。
 川尻早人、テメーの依頼、暗殺チームのプロシュートが、確かに請け負ったッ」


プロシュートが言った。その言葉には力が込められ、彼の目はらんらんと輝いていた。
単なる怨恨だけならば或いは話はもっと単純に終わっていたのかもしれない。男はそこまで少年に期待していなかったのだから。
だが彼は会話を通し少年の覚悟を受け止め、そして会話以上に心そのもので川尻早人の覚悟を理解した。
そしてその瞬間から、プロシュートにとって彼は少年ではなくなった。
男にとって彼もまた、認識すべき男になったのだ。敬意を払うべき誇り高き魂を、少年の瞳に見つけたのだ。


「さぁ、出てこい、臆病者のマヌケ野郎ッ 出てこないってなら……俺のほうから炙りだしてやるぜッ」


そう、プロシュートは見たのだ。川尻早人の瞳に映る漆黒の殺意が拭い難い、屈折した輝きを放っているのを。


「グレイトフル……、デッドォオオ―――ッ!」


傍らに出現したスタンドが煙を撒き散らしていく。病院全てを飲み込むような、濃縮された霧が辺りを漂い始めていた。
やるとなったらとことんやる。手を抜かず、最初から全力全開の真っ向勝負ッ それが川尻早人への最大限の礼儀となるッ
プロシュートは叫ぶ。己の分身の名を呼び、彼はありったけのスタンドパワーを振り絞った。

170代理投下:2012/06/07(木) 20:52:06.20 ID:+fgBQ/vD
177 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:27:14 ID:pK8x81ZQ




グレイトフル・デッド、彼のスタンド能力は老いを増進させること。
その射程距離は丸々列車一つを包むほどであり、また直に触れれば一瞬で相手を老化させることが可能だ。
だがこの能力、一つ弱点がある。氷や冷水によって体温をさげれば、老化のスピードが緩やかになってしまうという点だ。
尤もこの弱点に関しては、スタンドの担い手であるプロシュート自身には関係ない。
彼にとっては未来の出来事だが、実際にプロシュートは護衛チーム暗殺の際、自らを老化させることでグイード・ミスタを欺いたことがある。
すなわち、彼自身は老いの超越者なのだ。プロシュート自身は、老いのスイッチを自らオン・オフ、切り替えることが可能なのだ。

そう、可能『だった』はずだ。スティーブン・スティールによる、ふざけた制限というものがなければ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
「プロシュートさんッ?!」

千帆が悲鳴を上げた。彼女の金切り声を無視して、プロシュートは構わずスタンド能力を発動し続けた。
彼の体が酷使に耐えかね、老木のように枯れ果てて行っても、ボロボロと崩れ始めても。男はスタンド能力を止めようとしなかった。
プロシュートが吠える。辺りに漂う霧が一層濃くなり、彼自身の体の震えが大きくなった。
それでもやめないッ プロシュートは叫び、病院全体がビリビリと揺れ始めていたッ

プロシュートはここに来るまでに支給品の水を使い切っていた。それは何故か。
制限だ。忌々しいことに、彼のスタンド能力は制限されていたのだ。それも、彼が最も屈辱的だと思う方法で。
射程距離が制限されていたならば、戦い方を変えればいい。能力発動に時間がかかるようなら戦略を練り、頭を絞ればいい。
だが主催者は違った。彼らが仕掛けた制限とは『プロシュート自身にも霧の効力が発動する』、そして『プロシュート自身で老いのオン・オフをコントロールできない』というものだった。

これによって、スタンド使い本人であろうと老いを解除するには身体を冷やさなければならなかった。また、老人に扮して行動することも不可能になった。
だから彼は当初、マジェントと遭遇した時、水をかぶっていたのだ。自らのスタンドの不調に気づき、検証を重ね、彼は自身の能力の異変に気付いたのだ。
制限を気にしては全力で戦えない。必ずどこかでブレーキを踏みながら戦わざるを得なくなる。
それは胸糞悪くなるような、屈辱的な気分であった。怒りのあまり吐き気を催したほどだった。
彼らが施した制限とは文字通り、飼い犬に首輪をつける行為であったから。暴れる獣の牙や爪を奪う行為であったから。


   だがッ! プロシュートという男はッ だからといってそこで留まるような『臆病者』では断じてないッ!

171代理投下:2012/06/07(木) 20:54:19.15 ID:+fgBQ/vD
178 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:28:21 ID:pK8x81ZQ

「いったん食らいついたら腕や脚の一本や二本、失おうとも決して『スタンド能力』は解除しないッ!
 やれ、グレイトフル・デッド……全力全開、この病院を、崩壊させてやろうじゃねーかッ」

男は思う。川尻早人の言うとおりだ。舐められたままで終わるだなんて、まっぴらだ、と。
その通りだ。彼はプロシュートと同じだ。プロシュートと早人は似ているのだ。
川尻早人は針のスタンド使い、プロシュートはこの催しものを管理しているクソッたれ眼鏡ジジイ。
相手は違えど互いに抱く感情は一緒だ。それがわかったからプロシュートは手を貸したのだ。
自分と同じ、誇り高い魂を早人の中に見つけたのだから。

「目にもの見せてやろうじゃねーか、川尻早人……ッ
 踏ん反り返って、こっちを見下す頭でっかち野郎。イイ気になっていられるのも今のうちだ……ッ!」

川尻早人、そして双葉千穂のみを避けながらスタンド能力を展開していく。それも制限下という慣れない状況で。
だがプロシュートはやってのけた。自らの体に鞭を撃ち、加速的な疲労を身に感じながらも、彼はスタンド能力を解除しない。
彼は屈しない。他人が作ったレールなんぞぶち壊し、囲い込まれたルールを蹴破った。
死をもってしても、プロシュートの誇りだけは奪えやしないッ!

直後、ソファーと椅子の隙間をぬってプロシュート目掛けて飛ぶ針一群。
目で捕えど、回避が間にあわない。老化した身体は言うことを聞かず、プロシュートは迫りくる針を前に動けない。
だが焦りはなかった。とっさに千帆が自らのデイパックを放り投げるのが目に映った。針はいつものスピードもキレもなく、少女でも十分対処できるほどであった。
凶暴な笑みが男の口元に浮かんだ。グレイトフル・デッドは効いている。それは針のスピードが格段に落ちたことからも明らかだった。
そしてクソッたれスタンド使いもそれがわかっているから、虫の息の早人よりも、容易く仕留められるであろう千帆よりも、プロシュートを狙ったのだ。

プロシュートが吠える。隣で少年が、少女に寄りかかりながらも銃を構えた。
ピンチの後にチャンスあり。射撃型スタンドは攻撃の際、一番大きな隙を生む。攻撃は即ち、自らの位置を知らしめる行為なのだから。

「やれ、早人ッ!」

鳴りひびく銃声、再度飛来する針。弾丸と針は宙で交差することなく、それぞれがターゲット目掛けて飛んでいく。
銃弾は獲物をしっかりと捕えていた。川尻早人はやってのけたのだ。彼は自らの屈辱を、その手で晴らすことに成功した。
耳障りな獣の悲鳴が天井に反響し、男は少年が成し遂げたことを確信した。そして同時に、自分がどうしようもない状況に陥っている事も、また、理解した。

銃弾と同時に放たれた針、これに対処できる人物がいない。
早人は銃を握っていて、片腕はない状態。千帆はそんな早人を抱え、狙いがぶれることないよう支えていts。
自身はどうだ。いいや、彼はとうに限界を迎えていた。
病院を包み込むほどの霧を展開しつつ、早人たちの場所にだけ能力が行かないようコントロール。その上、自らも可能な限り老化しないように神経を振り絞ってきた。
それでもいくらか霧はコントロールしきれず、プロシュートは弱っていた。飛んでくる針を避けられぬほどに、彼は力を振り絞っていたのだ。

針の狙いの先はプロシュートッ! 肉溶かす死神の刃が、彼に襲いかかろうとしていたッ!
迫る……迫るッ! 回避、間に合わない。撃撃、整わないッ
身体を捻るも、射軸から逸れることはできないだろう。軌道を辿っていけば、針はプロシュートの頭部のど真ん中を直撃する。
即ち、プロシュートはここで死ぬ。男の戦いは呆気なく、ここでお終いだ……―――

172代理投下:2012/06/07(木) 20:55:07.40 ID:+fgBQ/vD
179 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:28:44 ID:pK8x81ZQ


 ―――連続して、銃声音が響いた。放たれた銃弾がプロシュートの目前で、針を一つ残らず、弾き飛ばしていった。


振り向けば、廊下へ続く扉の脇に人影。いつの間に、いつからそこいたのだろうか。
白く長い髪をなびかせた一人の男が、こちらに銃を向けたまま、そこに立ちつくしていた。
手に持った銃口から立ち上る煙。プロシュートの危機を救ったのはティッツァーノ。
今しがた、プロシュートによって生き永らえた男が氷のように冷たい目で、暗殺チームの男を睨みつけていた。

「……これで貸し借りはなしだ」

不機嫌そうに、彼はそう言った。そしてもはや関係なし、そう言いたげに壁に背を預けると三人と一匹の様子をただ見守っていた。
プロシュートは口角を釣り上げ、何も言わなかった。無様なところを見られた気恥ずかしさがあったが、それを振り払うように彼は今一度、力を振り絞る。
スタンドを再度出現させ、大地へと掌を叩きつける。スタンドパワー全開……ッ! 彼はもう一度、あらん限りの力で叫んだッ!

「グレイトフル・デッドォオオ―――ッ!」

一瞬の静寂が訪れ、そして、ギャース、そう小さい鳴き声が聞こえてきた。
早人の銃弾を喰らいながら、逃げおおせようとしていた小さなスナイパー。
立ち込める霧の中、鼠は手足が痺れたかのように震わせ、弱弱しげにその場に倒れ伏した。
こうして獲物は遂に捕えられ、ここに戦いは決着した……。

173代理投下:2012/06/07(木) 21:02:59.05 ID:+fgBQ/vD
180 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:29:02 ID:pK8x81ZQ




這いずるように少年は一歩一歩確実に、獣の元へ向かっていく。
千帆は不安そうに、彼より一歩下がったところで少年を見守り、時に腕を伸ばしてはひっこめるを繰り返していた。
早人を助けるべきか否か、止めるべきか黙って見守ればいいのか。彼女にはわからなかった。

早人の額に浮かんだ脂汗が、ピカピカに磨かれたフロアにこぼれ落ちる。
青を通り越し真っ白な顔で、少年は手が届く距離まで鼠に近づくと、そこで力尽きたかのように座り込んだ。
慌てて千帆は早人を助け起こす。ぜぇぜぇ……と整わない呼吸を繰り返し、彼は一息つくと、手に持つ武器を獣へ向けた。
いつの間にか明るくなり始めた東の空を、その真黒なピストルが映し出していた。少年は目を細め、一瞬だけその光景に目を奪われた。

千帆は湧き上がる感情をグッとこらえ、零れ落ちそうになった涙をなんとか止めた。早人が泣いていないのに自分なんかが泣いていてはいけない、そう思ったから。
膝の上で少年を抱え、早人が銃を構えるのを彼女はただひたすら見守った。
弱弱しく震える獣は見るに堪えぬ痛々しさだ。だがこのネズミは人を二人も殺し、そして今、早人をも殺しかけているのだ。

一思いに終わらせてあげて。或いは、気の済むまで早人君の好きなようにしたほうがいい。
一体どちらの言葉が真実なのか。こんな時にどんな言葉をかければいいというのだろうか。
どんな気の利いた台詞も、心をこめた言葉も、空回りしてしまう。心を滑って、中途半端に浮かんでしまう。
言葉を選ぶことが唯一できることだというのに、自分は一体なんと無力な事だろう。
千帆は湧き上がった幾多もの感情を飲み込んで、同時に再度せりあがった涙を根性で押し込んだ。
見守らねばならない、早人の雄姿を。見届けねばいけない、自分のした行為の結末を。
岸辺露伴の言葉が千帆の心を揺さぶり、彼女は涙をぬぐうと今度は胸を張って、凛と姿勢を正した。

早人の腕が震える。もはや銃を持つのも、腕を上げることすら辛そうだ。
滝のように流れ出た脂汗が掌にも広がっている。拭っても拭っても、銃のグリップがぬめり、手のひらを滑っていく。
早人も自身がながくない事をわかっている。だからこそ、最期の決着は自分自身で。終幕は自分で締めてこそ、そういった思いが彼を突き動かす。

だがそれでも、その小さな身体には容赦なく限界が訪れていた。こればかりは誤魔化しようがなかった。
やっとこさで持ち上げた銃口、その向きが安定しない。小さな鼠の身体を前に、震える手が狙いを定めさせてくれない。
そうしているうちに痙攣はさらに振り幅を大きくしていく。
気持ちとは裏腹に、身体が言うことを聞いてくれない。視界も段々狭まってきている様だった。
ここまでか……、せっかくプロシュートの助けを借りたというのに……ッ それでも僕は、決着をつけられずに……ッ

「早人君……」

174代理投下:2012/06/07(木) 21:06:20.35 ID:+fgBQ/vD
181 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:30:30 ID:pK8x81ZQ

銃を握る掌がぽかぽかした暖かさに包まれた。
ほっとするような柔らかみに、落ちかけた瞼を強引にこじ開ける。見ると、千帆のほっそりとした手が自らの手を覆うように添えられていた。
手を重ね、共に銃を握る。滑り落としそうになっても、千帆が支えてくれる。離しそこなっても、千帆が受け止めてくれる。
思えば、左腕を失ってからずっとそうしてもらっていたはずだ。けれども早人は今ようやく気がついた。
どれだけ自分が彼女に助けられ、また、どれだけ彼女が自分のことを気遣ってくれていたか。
少し気づくのが遅すぎたかな、そう考えて早人はひっそりと笑った。

拳銃を持ち上げる。もう手は震えていなかった。瀕死の鼠が懇願するような目でこちらを見つめている。
大丈夫、僕ももうすぐそっち側だ。意志が伝わるかどうかはわからないが、少年は弱弱しく笑いかける。
ひょっとすると鼠からしたら止めを刺す前の残忍な笑顔に見えるのかもしれないな。なんだかそう思うと可笑しかった。

自分が死にかけているのは彼女のせいだ。湧き出るように心に響く恨み節。仄暗い声に早人はイエスと返した。
そうだ、確かに千帆がいなければ自分は死なずにすんだ。鼠が仕掛けた罠に、先に気がついたのも自分のほうだ。
彼女を庇う必要がなければ針を避けることもできたし、そもそも病院にも来ていないかもしれない。
そう考えると、確かにそうだ。千帆は間違いなく、早人の死に対して責任がある。それは動かすことのできない、れっきとした事実であった。

「それが……どうしたッ」

そうだ、だからなんだというんだ。早人はその事に後悔はない。千帆と共に行動したことを悔やむことは一切ない。
この舞台で千帆に会った時、彼自身が言ったはずではないか。足手纏いなんだ、お姉ちゃんは。お姉ちゃんは甘すぎるんだよ、と。

だがその甘すぎる少女がついてきたとき、それを許したのは誰だ? 早人だ。
お節介で、世間知らずの少女があちこち首を突ッこんだ時、何も言わなかったのは誰だ? 早人だ。

力ない、渇いた笑い声が漏れた。ああ、そうだ。早人がこんなにも千帆のことを嫌っていたのは同族嫌悪ゆえの事。
結局のところ、自分だって非情に徹しきれなかった。殺し合いだなんて極限状態で虚勢を張って、母親を守ろうと背伸びしてきた。
それなのに千帆といったら、マイペースで、図々しくて、怖いもの知らずで……―――

「まったく、弱っちゃうよ……」

自分が否定し、なんとか目を逸らしてきたことを堂々と恥じることなく。
彼女はこの舞台の上でもあるがままの自然体で、生きている。
嫉妬にも似た感情なのかもしれない。自分は母親を守ろうと躍起にもなっているのに、千帆は自然体で、感情的で、我慢知らずで。
強がっている自分が馬鹿みたいじゃないか。力んでいることがアホみたいに思えるじゃないか。
だから早人は千帆にどなったり、苛立ったり、噛みついたりしたのだ。
あるがままの、子供のままでいられる彼女が、早人は羨ましかったのだ。彼は夢見る少年であるには、いささか修羅場を潜り抜けすぎていた。

「大丈夫、怖くないから…………」

175代理投下:2012/06/07(木) 21:08:25.62 ID:+fgBQ/vD
182 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:30:51 ID:pK8x81ZQ

マグナムのトリガーを千帆の細く長い指が押し下げる。
怖がっているのはお姉ちゃんじゃないか。震える声でそう言った千帆をからかいたくなったが、やめておいた。実際その余裕もなかった。
着実に、自分に残された時間は減ってきていた。早人はなんとか力を振り絞り、引き金へと指を伸ばす。
強張った指を苦戦しながらもなんとか撃鉄にそえ、早人は再度力を尽くして身体を起こした。
ふと、視界が広がり早人は傍らのガラスに映った自分たちの姿を、改めて見直した。
大きく黒い銃を、子供二人が押し合うように握る姿。不格好な姿に思わず笑ってしまいそうだった。なんとも滑稽な姿だった。

「ほんと……お人好しなんだよ、お姉ちゃんは」

千帆のひきつった横顔を眺め、ポツリとそうこぼした。実のところ、早人が千帆にやけに突っかかっていたのにはもう一つ理由があった。
認めるのは恥ずかしくてここまで誤魔化してきた。だが、早人は最後になってようやく、その事を受け入れた。

千帆は彼の母親に、どことなく似ているのだ。
感情豊かでコロコロ表情が変わっていく。素直じゃなく、お節介なうえに頑固者。そうかと思えば、飾らずストレートに気持ちを伝えてくる。
いうなれば、彼女への抵抗はささやかな母親への反抗期みたいなものだったのだ。
癪だったが早人自身どこかで、母親に甘えるように彼女に甘えている部分があったのかもしれない。きっとそうだったのかもしれない。

「ママ……」

死ぬのは怖くない、なんてプロシュートの前では啖呵を切ったが、実際やっぱり怖い。
段々と体が冷えてきた。意識もはっきりしないし、どことなく視界もあいまいだ。
これが死ぬ事かと思うと、恐怖がない、だなんて口が裂けても言えない。
怖いし、独りぼっちだ。あのどこまでも底なしの闇に自分が呑まれていくのかと思うと、気がおかしくなりそうだった。
やっぱり死にたくない、まだまだ生きていたい。早人はそう思った。
涙が自然と込み上げてきたが、ここで零すと情けなくて、男の子の意地でそこはグッとこらえた。
怖くて怖くてたまらず泣け叫びたくなったけれども、なんとかそれだけは踏ん張った。

「……なんで泣いてるのさ」
「……早人君の分まで、私が泣いてるのよ」

176代理投下:2012/06/07(木) 21:12:19.35 ID:+fgBQ/vD
183 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:31:14 ID:pK8x81ZQ

だというのに、まただ。またも千帆は早人の意志なんぞ関係なしに。早人の気持ちなんてお構いなしに。
ポタリポタリと早人の掌に水滴が降りかかる。見るまでもなくわかった。千帆が人目をはばからず、泣いていた。
宝石のように綺麗な瞳から、キラキラと輝く水滴が流れ落ちる。綺麗だとは思ったが、口に出すと何だか悔しいので早人は黙ったままだった。
千帆の目から水の蕾が、とめどなく溢れ、落ちていく。
その美しいこと! 健気な様子も相まってか、千帆のその涙にくれる姿はとても印象的だった。

一滴落ちるたび、早人の中で邪念が消えていく。
恐怖が、妬みが、憎しみが。怒りが、悲しみが、寂しさが。
水滴とともに、負の感情は流れ落ち、早人の心は澄み渡っていった。湖のように穏やかで、波一つないほど平穏だった。
ふと頬に手を伸ばしてみると、早人自身もいつの間にか涙していた。口元には笑顔が浮かんでいるというのに、涙が止まらない。
せっかくさっきは頑張ってこらえたというのに。まったく台無しだ。本当に、千帆は困ったものだ。
困らされたついでだから、最期は自分が千帆を困らせる番だ。そう早人は思い、少女に話しかける。
彼が託した願いはたった一つだけ。泣き笑いのまま、最期に千帆に囁くような声で早人は頼んだ。

「ママに、よろしく伝えておいてくれない……?」

返事はなかった。決壊した感情から、千帆は嗚咽を漏らし、僅かに頷くことしかできなかった。
それでよかった。きっと彼女はやり遂げてくれるだろう。これで心おきなく逝くことができる。
早人は最後にやり遂げた。戦いを終え、伝えることを伝え、もう少年がなすべき事はない。
達成感とともにこみ上がってきた疲労感。倦怠感に身を任せ、早人はゆっくりと千帆に身体を預けた。
そして最後、千帆に、おねえちゃんと声をかける。そして手に持つ拳銃のグリップを力強く握った。
無言で伝わる合図に、少女は頷き、そして掌と心を重ねた。


そして早人は引き金を引く。銃弾は宙を裂き、狙い通り、獣の心臓を捕えるだろう。
叫び声をあげる暇もなく、いたぶらずに済めばそれは幸いだ。早人は最期、満足そうにそっと呟いた。
少女にあてた、最後のメッセージだった。それが銃声に紛れ、彼女に届いたかどうかは早人にはわからなかった。


「ありがとう……」




   ―――パァン………………!







177代理投下:2012/06/07(木) 21:13:06.40 ID:+fgBQ/vD
184 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:31:35 ID:pK8x81ZQ

これだけ明るいと月の位置にも気をつけないといけないな。
頭上にそびえる大きな月を眺め、そう考えていた男は直後、苦笑いを漏らす。
こんな時まで仕事のことを考えているなんて、さすがにワーキングホリックがいきすぎだ。
第一もう夜は明けようとしているのだ。東の空に顔をのぞかせた真っ赤な球体を眺め、プロシュートは大きく息を吐いた。
朝の陽ざしが立ち上る蒸気を反射すると、寒い冬に吐いた息のように、白い霧がうっすらと漂っていた。

病院入り口前の段差から立ち上がると、ズボンについた埃をはたき落とす。
腫れぼったい眼をこすり、身体を伸ばしていると、後ろで自動ドアが開く音が聞こえた。プロシュートは病院から出てきた人物に目を向けた。

プロシュートは普段タバコを吸わない。ウマいマズイは別として、臭いがつくのが嫌なのだ。
タバコの臭いは本人が気づかぬ以上に服についてしまうもので、それが原因で任務失敗なんてことになったら、悔やんでも悔やみきれない。
なにしろこのご時世、嫌煙家はすごい勢いで増えつつある。ターゲットもタバコのにおいに敏感になりつつあるのだ。
それがいいことかどうかはわからないが、少しでも任務の成功率を上げるためなら努力は惜しまない。
だから彼はタバコを吸わないのだ。決して吸えないわけではないし、嫌いでも好きでもないが、ただ吸わない。
プロシュートとは、そういう男なのだ。

故に男が彼に向かってタバコを突きだしてきたとき、彼は少し迷った。
しかし断るのもなんだか野暮で、その上誘い方が強引だったものだから、なし崩しで彼は一本受け取った。
すかさず渡されたライターで火をつけると、肺一杯に煙をため込み、そして、大きく一服する。
爽快感も、清々しさも別段これと感じなかった。ただそのままボケっとしているのもマヌケっぽいと思ったので、何度か煙を吸い、そしてその度、吐き出した。

時間が経つにつれ、ニコチンが身体中に回っていくのがわかった。同時に身体のあちこちに鋭く、ズン、と響くような痛みを感じた。
表面上は平然としているよう努めるが、相手に気づかれぬよう、プロシュートは自分自身の体を逐次点検していく。
短時間でダメージを追いすぎたな、そう反省した。一方で、あの厄介なスタンド使い相手にこれだけ軽症で済ませられたのは幸運だったな、彼はそうも思った。

タバコが半分まで短くなったところで、咥えていた吸殻を落とし、靴の裏で踏んづけた。
隣の男を見るとちょうどよく、彼もまた一服を終えたところだったようだ。都合がいい、なすべき事はさっさと済ませてしまうに限る。
プロシュートは傍らにいる男に背を向け、数歩だけ足を進める。背中に突き刺さるような視線をあえて無視し、彼は必要以上にゆっくりと歩いた。

「いつから気がついていた?」

振り向くと同時に、眼前の男はそう問いかけてきた。右手に持った拳銃をギュッ……と握りしめたのが、傍目からみてもわかった。
すぐには返事をせずに、プロシュートは男の目を見つめ続けた。互いの視線が混じり合い、瞳の奥底、更に奥に潜む心を覗きこんでいるかのようだった。
依然そのままの眼差しで、暗殺チームの男は気だるそうに、口を開いた。

178代理投下:2012/06/07(木) 21:13:54.22 ID:+fgBQ/vD
185 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:31:51 ID:pK8x81ZQ


「いつからと言われれば最初からだし、最期の最期まで確信はなかった。
 ただ言わせてもらえば、最初から病院内にいる参加者全員、始末する予定ではいた。
 マジェントも、お前も、あの上議員さんとやらも」
「疑わしきは殺せ……ってか?」
「そういうことだ。特にマジェントは俺のスタンド能力を知っていた。
 アイツの事だ、放っておいたらあっという間に会うやつ会うやつ全員に言いふらしかねない勢いだった。
 そんな危険性も考えれば、始末しないわけにはいかなった。スタンド能力は俺にとっての死活問題なんでな」
「自分の尻拭いを口封じで補おうってか? 暗殺チームの名が泣くぜ」
「そういうお前さんもギャングが聞いて呆れるな。敵前逃亡、自信喪失。対した度胸だ、涙が出るほどご立派だ。
 お母ちゃんのお乳でも吸って、慰めてもらえばいいさ。おっと、タマナシ臆病者の場合は、“ぶ厚い胸板に抱いてもらう”、か?」


眼光鋭く、挑発に挑発を重ね合う二人。口調こそ冷静そものだったが、一色即発の空気が二人の間には漂っていた。
ティッツァーノが震える右手で銃を握り直す。プロシュートは重心を僅かに下ろし足裏で砂利をしっかりと踏みしめた。
あとはどちらが先手を打つか。達人同士が刀を握ったまま動かない、そんな肌を焦がすような緊張感が二人の間に流れていた。
瞬き一つ躊躇うような時間がいくらか流れ、二人の考えることは、ともに一つ。

これがそこらのナンパ道路や仲良しクラブであるならば、あるいは二人が虚勢を張ったチンピラ同士ならば。
なんてことない、二人は派手に喧嘩騒ぎを起こし、共にムショにぶち込まれ、そしてそれっきりだ。
それが普通だ。ぶっ殺すなんて言うが、本当に殺すやつなんかいるわけがない。死ね、なんて暴言を実行してしまうやつは頭のおかしな殺人狂だ。

だが不幸な事に、二人はギャングだった。それも他方は裏切り者、もう一方はそれを始末する命を背負った親衛隊。
尤も相容れない両者に、覚悟の決まった者同士。ならばこれは必然だ。戦いは必須であるほかない。

ティッツァーノの目にもう迷いはなかった。ここでひいたら、彼は彼でなくなってしまう。
一度ならず二度まで尻尾を巻いて逃げだすことは、死ぬより辛い行為だろう。
敗北を背負い続けて生き永らえるなんぞどんな拷問よりも、惨い処罰だ。
怒りのあまり、拳が震えた。彼は先ほどかけられた屈辱を、忘れてはいない。

プロシュートはとうの昔に覚悟しきっている。彼は一度として過去を振り返らず、神に祈ったこともない。
男はいつだって自分が正しいと思った道を歩んできた。全て背負い、頭を下げることなく歩いてきた。
それで戦う必要があるならば、彼は全身全霊を傾けて戦うだろう。今も、そして、これからも。
目前の男から立ち上る闘気を前に、武者震いをする。自分が生きている世界を実感する瞬間だ。

突如、身体がよろけるような暴風が吹きすさんだ。ティッツァーノの白い髪が風に煽られ、大きくなびく。
音を立て流れる気流に負けることないよう、彼は大きく叫んだ。
179代理投下:2012/06/07(木) 21:14:43.02 ID:+fgBQ/vD
186 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:32:25 ID:pK8x81ZQ



「パッショーネ、ボス親衛隊、ティッツァーノ。スタンドは『トーキング・ヘッド』」


そして向かい合う男も、言葉を返した。


「パッショーネ、暗殺チーム、プロシュート。スタンドは『グレイトフル・デッド』」



 ―――いざッ 尋常に……ッ!



病院が、二人を覆うように影を落としていた。
その影を切り裂くように、東から昇った日が差し込んだ。
それが合図だ。男たちは同時に動いていた。


「ティッツァーノォオオオ―――――ッ!」
「プロシュートォオオオオ―――――ッ!」


光の道に合わせ、プロシュートが駆けていく。十数メートルあった距離を、一跳びッ 二跳びッ
己の分身、『グレイトフル・デッド』を纏うように呼び出し、男は吠え、駆けていく。獲物目掛けて、走っていくッ
ティッツァーノは黒光りする銃を振り上げ、凶弾を撒き散らす。そして同時にバックステップ、距離をとるッ
予想通りプロシュートは弾丸をはねのけ、頭を低くしたまま突っ込んできた。ここまでは思った通り。覚悟の差を見せつけるならば……次の一手だッ

直後、二人の間に一つのビンが放り投げられた。ティッツァーノが投じたのは消毒用アルコールのビン。
そう、真夜中時にティッツァーノが一人の男を始末した時のようにッ アルコールの引火による火炎攻撃ッ!
彼の狙いは銃撃でなく、灼熱の炎による真っ向勝負だッ 手に持った銃口がビンを狙う。着弾すれば、油の雨が容赦なく二人を襲うだろう。

180創る名無しに見る名無し:2012/06/07(木) 21:15:41.34 ID:5Hu5OSho
支援
181代理投下:2012/06/07(木) 21:15:45.11 ID:+fgBQ/vD
187 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:33:16 ID:pK8x81ZQ


「グレイトフル・デッドッ!」

だがプロシュートは怯むことなく踏み込んだッ 常人ならば踏みとどまるところを、男はさらに加速した。
ビンに向かって身を乗り出し、さらに勢いをつけて突進したのだッ これしきのことで、プロシュートは止められない!
殺意を、死を幾らもってしても彼を止める事なぞ出来やしないッ それがプロシュートという男なのだッ!

そして それがわかっていたからこそッ 男がそんなことでは怯みもしないと知っていたからこそッ
ティッツァーノもまた、彼を上回るため、既に行動は完了していた! 無傷で済まそうなんて、そんな甘えた思考は一切ない!
後退から一転、急発進すると彼は銃を持っているというのに接近戦を仕掛けようとしていたッ!
そして同時に、頭上のビンを、銃弾で狙い撃とうと構えを取ったッ!

地獄の業火も生ぬるい、例えこの身焼き尽くされようともッ
二人の男が接近する。銃を構えたティッツァーノ、スタンドを従えたプロシュート。
届くはどちらだ? 拳か、弾丸かッ!


そのさなか、ティッツァーノは気がついた。刹那、訪れた辺りの変化に、彼は自らの敗北を悟った。
いつの間にか辺りを漂っていた霧が色を変えていた。白く薄かがっていた朝もやが、いつしか不気味な紫色の霧に変わっていた。
途端、手に持つ銃が鉛のように重くなる。踏み出す脚が泥に嵌ったかのようにもつれた。


 ―――これは…………ッ!?


銃声、風切り音、そして沈黙。
宙で割れることなく落ちてきたビンが、ガシャン、と音を立てて破裂した。続いて一つの影が地面にゆっくりと、倒れ伏す。
崩れ落ちたのはティッツァーノ、立ちつくすはプロシュート。勝負は決した。暗殺チームの一員、プロシュートの勝利だった。

182創る名無しに見る名無し:2012/06/07(木) 21:16:31.64 ID:5Hu5OSho
支援ー
183代理投下:2012/06/07(木) 21:16:44.06 ID:+fgBQ/vD
188 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:33:29 ID:pK8x81ZQ

胸に空いた大穴から血が吹き出る。両手でいくら抑えても、後から後から底なしの泉のように血が湧き出て、止まらなかった。
瞬く間に辺りは血の池になり、その真ん中で陸に上がった魚のように、ティッツァーノは口を動かしていた。
呼吸ができない。血が止まらない。死に逝く定めだとわかっていても、やはりそう簡単には手放せなかった。彼は死に物狂いで、必死で、必死に生へと食らいつく。

頭上、影が覆いかぶさった。逆光で表情が見えない中、男は屈むとティッツァーノの右手に持った拳銃へと、手を伸ばす。
渡してなるか、そう思い歯を食いしばったが、虚しくなるほど簡単に銃は取り上げられた。
もう何の抵抗も無駄だ。まな板の上の鯛。現実は悲しくなるほど、非情である。

最期の瞬間、ピストル越しにティッツァーノは男の目を見た。
それを見た時、安堵にも似た感情が身体中を駆け巡り、彼は自分の全身から力が抜けるのがわかった。
ああ、それでいい……なんて美しいのだろう。
感嘆するほど、その目に慈悲は一切なく、憐れみも、同情もしない、真っすぐな目が彼を見つめ返していた。
口元が緩み、死にかけの男の顔に笑顔と思しきものが浮かんだ。諦めでもない、皮肉でもない。
沸き起こった感情は何だかわからなった。だが、それでも、彼は笑っていた。

「男一人仕留めるのに、えらく苦労したな……プロシュート?
 裏切り者は死ぬ運命だ。俺程度に苦戦しているようなら、この先、お前たちに未来はない」

細く皺だらけになった腕を、頭上に伸ばす。男に指を向け、彼は大見えを切った。

「勝利にはかわりがない。必ずやボス親衛隊はお前たちに死をもたらす……ッ」

男の表情は見えなかった。
言葉を返すこともせず、代わりにティッツァーノの耳に聞こえてきたのは彼が安全装置を引き下げる音だった。
無慈悲で、冷たい、機械的な音だった。


「そうだ、かわりない。俺たちの勝利には……」




   ―――パァン………………!

184創る名無しに見る名無し:2012/06/07(木) 21:17:20.27 ID:5Hu5OSho
支援!
185代理投下:2012/06/07(木) 21:17:22.48 ID:+fgBQ/vD
189 : ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:33:50 ID:pK8x81ZQ





歌が聞こえた。美しい歌声だった。
柔らかなメロディに、伸びのあるハミング。どこか故郷を懐かしむようなその歌は、プロシュートの足を立ち止らせた。
再度病院に足を踏み入れた男は、しばらくの間、その歌声に聞き惚れていた。
それでもいくらか経てば歌は終わり、辺りは再び沈黙に包まれる。男は玄関ホールを横切ると、うっすらと浮かび上がる人影に近づいていく。
人影がはっきりと見える距離まで近づくと、彼はそこで立ち止まった。

人影は一人の少女と、一人の少年だったもの。
少女は膝の上で死んだ少年を抱き、彼の頭を優しく撫で続けていた。渇いた涙の後がはっきりと残り、真っ赤に充血した眼が痛々しい。
少年に目をやると、その死に顔は大層穏やかで、まるで子守唄で眠りに落ちた赤ん坊のようだった。
悔いが残らなかったならそれでいい。プロシュートは自分の行いが少年の助けになったとわかり、少しだけ充実感を感じた。

気配を感じたのか、少女がこちらを見る。目をそむけたくなるほど真っすぐで、綺麗な目をしていた。
プロシュートは何も言わず、無言のまま。しばし二人は見つめ合う。視線を逸らしたのは少女のほうで、男が持つ拳銃に気づいた彼女が途端に身を固くした。
男はそれでも何も言わないままだった。弁明するでもなく、脅迫するでもなく。
彼女と同じように、自分の持つ拳銃を改めて見直す。親衛隊の男の血がこびり付き、グリップに至っては元の色がわからぬほどに真っ赤に染まっていた。
それを見ているうちに、男の脳裏を一つの言葉が横切っていく。今しがた、元の拳銃の持ち主に、彼が言った言葉だった。


   『最初から病院内にいる参加者全員、始末する予定ではいた』


顔をあげ、もう一度少女の視線を真正面から受け止めた。握り直したグリップは血が滑り、その拍子に渇いた血痕が剥がれ落ちた。
私も殺すんですか、少女が聞いた。寸秒も置くことなく、ああ、そう言おうとして……言い返せなかったことに男は驚きを隠せなかった。
何を躊躇っているのかまったくわからない。けれども普段であるならば、考えるまでもなく言えるイエスが、今は口に出すことができなかった。
自分の言葉が重みを持って、心臓辺りにぶら下がっている。込み上げた吐き気を無理矢理呑み戻したかのような、不愉快さだった。

だが、どれだけ僅かであっても、躊躇った決断に身を委ねるのは許せない。
不愉快さには意味がある。本能や直感は必然だ。なにか自分の中で不満や鬱憤があるからこそだが、一体それはなんだというのだろうか。
少女を殺すのには理由がある。必要もあれば、手段も選ぶほどある。ならば何故。一体どうして。

186創る名無しに見る名無し:2012/06/07(木) 21:17:52.77 ID:5Hu5OSho
まだまだ支援
187代理:2012/06/07(木) 21:22:13.96 ID:USC0rvRk
190 名前: ◆c.g94qO9.A [sage] 投稿日: 2012/06/07(木) 01:35:02 pK8x81ZQ



「……ッ」

頭をぶん殴られたような衝撃が、次の瞬間プロシュートを襲った。
どんなことがあろうと一切ヒビを入れなかった男の表情に、亀裂が走っていた。
夢か幻覚か、プロシュートは少女の後ろに二人の男の姿を見た。
川尻早人とティッツァーノ、亡霊のように、彼女の目を通して二人が男を見返していたのだ。

人は誰でも甘さを持って生きている。誰もが心を鬼に、修羅のような人生を送れるわけではない。
漆黒の殺意を持つ男であっても。どんな時でも苦楽を共にしたパートナーを持つギャングでも。
人が人である以上、優しさや慈愛はどれだけ洗い流そうとも、落ちることのない業だと言っていい。そう、愛だってまさにそうだ。

罪を背負って生きていくこと。それはどれだけ難しく、辛いものなのだろうか。
誤魔化すでもなく、目を逸らすこともなく、受け入れる困難さを男は知っている。
彼がどれだけ長くをかけて、今の自分である覚悟をしたのか。心張り裂けるような葛藤がその裏には確実にある。

プロシュートが感じたのは凄みだ。ただの一人の少女、双葉千穂が背負う宿業の大きさ。
何千何万と人々を見てきた。人間の罪深さ、欲望の底なしさ、吐き気を催すような所業。
殺しに深く関われば関わるほど、人の本質から目を背けずには生きていけなかった。
だが違う、双葉千穂は違う。彼女の瞳に宿る意志は、清汚混在、彼がかつて見たことのないほど底知れない。
そう、無限に続くのではと思わせ、恐怖を抱かせるほどの深淵が、彼女の中に潜んでいた。

「……埋めてやるぞ」
「え?」
「川尻早人をだ。放送までしばらくある。気休めにはなるだろう」

男はそれに気づいてしまった。知らなければ、どれだけ彼にとって心穏やかに済んだであろう。
ただ一人の少女を始末した。それはきっと心乱すことない、いつもの彼でいれた、『あったかもしれない未来』だ。
だが、気付いてしまった。偶然であろうと、必然であろうと、運命であろうと。プロシュートは悟ってしまったのだ。
ならばもう戻れはしない。もう男は、振り向くことができない。

今、振り返れば。今、後戻りしたら。
それはプロシュートだけでなく、早人を、ティッツァーノを、そして彼が背負ってきた人すべてを侮辱することになる。

病院の冷たい床が、頭上の蛍光灯を反射した。
浮かび上がったプロシュートの顔は幽霊かのように青ざめていた。
だが、その顔から迷いは消えていた。暗殺チームの一員、プロシュートは振り返ると、千帆がついてくるのを待ち、そして裏庭へと姿を消した。


188代理:2012/06/07(木) 21:24:33.17 ID:USC0rvRk
191 名前: ◆c.g94qO9.A [sage] 投稿日: 2012/06/07(木) 01:35:23 pK8x81ZQ







誰もいない病院の玄関。
天井から漏れた一雫の水滴が、誰のものとも知れない血だまりに落ち、ピチョン……と音を立てた。








【虫喰い 死亡】
【川尻早人 死亡】
【ティッツァーノ 死亡】


189代理:2012/06/07(木) 21:27:37.51 ID:USC0rvRk
192 名前: ◆c.g94qO9.A [sage] 投稿日: 2012/06/07(木) 01:36:15 pK8x81ZQ


【G-8 フロリダ州立病院内/1日目 早朝(放送直前)】
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:動揺、体力消耗(大)、色々とボロボロ
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
0.早人を埋めてやる。その後放送を待って行動。
1.暗殺チームを始め、仲間を増やす
2.この世界について、少しでも情報が欲しい
3.千帆の処遇は保留。

【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:体力消費(中)、精神消耗(大) 目が真っ赤、涙の跡有り
[装備]:万年筆、露伴の手紙、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、救急用医療品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本的思考:ノンフィクションではなく、小説を書く。
0:早人を埋めてやる。その後放送を待って行動。
1:とりあえずはプロシュートについて行くつもり。
2:川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える。
3:琢馬兄さんもこの場にいるのだろうか……?
4:露伴の分まで、小説が書きたい

【備考】
※『グレイトフル・デッド』には制限がかかっています。が、精神力でどうともなります。水をかければ一瞬で治ります。
 あまりロワというものの制限が好きじゃないのでノリで書いていいと思います。
 一応具体的には 射程距離が伸びると疲れる、自身の老化コントロール不可 の二点です。が、気にせずブッちぎってもいいと思います。
※プロシュートは病院内に放置してあった基本支給品から水を回収しました。不明支給品も回収し、残りは荷物になるので置いて行く予定です。
※病院の玄関前にティッツァーノの死体が、玄関ホールにマジェント+上議員の合体死体、そして虫食いの死体が放置されています。
※ティッツァーノの銃をプロシュートが、早人の銃を千帆が、それぞれ所持しています。


190代理:2012/06/07(木) 21:34:01.66 ID:USC0rvRk
193 名前: ◆c.g94qO9.A [sage] 投稿日: 2012/06/07(木) 01:43:00 pK8x81ZQ

以上です。誤字脱字、矛盾点などありましたら連絡ください。
前回も確かそうでしたけど、毎回こんな感じで少し遅れて投下してすみません。
タイトルは仮ですが「ろくでなしブルース」です。変えるかもしれません。

ベレッタの予備弾薬で少し気になった点がありました。
銃が15発単位なのに、予備弾薬が50になっているのって正しいのでしょうか。
イメージですが、カートリッジみたいな感じで弾補充はすると思うので、予備弾薬も15発単位では? と思い勝手ですが変えました。
銃について詳しい方、なにか知っていたら教えて下さい。

長くてきっと大変ですが、どなたか代理お願いします。


191 ◆yxYaCUyrzc :2012/06/07(木) 21:42:28.46 ID:LAu0irLf
代理終了かな、代理した人乙。

そしてもちろんcg氏も乙。
今回のSSは虫食い含め全員の覚悟が見られて良かったです。
早人もプロシュートもティッツァも勿論千帆も、みんなが決意を持って決着つけて。
これは今後のカップリング(というと失礼かw)に期待が持てそうです。改めて乙でした!
192創る名無しに見る名無し:2012/06/08(金) 16:40:54.45 ID:mLRLREqJ
cg氏も代理投下してくださった方も乙です!

うーん、やっぱり早人もティッツァーノも探し人には会えなかったか…
相方が放送後どうなるかも気になるけど、この二人もどうなるのか実に楽しみです
読みながらハラハラしてしまう文章で引き込まれてしまいました
193 ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 10:51:54.06 ID:RtpS5+1t
以前予約していたスピードワゴン他が完成しました。
投下していいでしょうか?
なお徹夜して眠いので今からは無理です。
194創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 11:29:07.27 ID:B2XLMY1+
いいと思いますよー
ゆっくり寝てからで!w
195 ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 21:07:06.00 ID:RtpS5+1t
9時半くらいに投下に来ます。
推敲足りない気もしますが、それくらいに投下を始めないと明日起きられなくなりそうなので。
長編ですので支援していただけると嬉しいです。
196 ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 21:13:32.39 ID:RtpS5+1t
あ、だめだ◆3u氏の本投下予約が先に来てる……
じゃあ、それが終わってから投下します。
197創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 21:33:16.79 ID:X6UjbjlI
支援支援
198創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 21:34:42.39 ID:X6UjbjlI
支援支援!
199創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 21:38:45.91 ID:X6UjbjlI
支援支援
200 ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 21:39:40.34 ID:RtpS5+1t
支援ありがとうございます
◆3u氏が23時頃より投下予告されていますので、私の投下はそのあとにしようかと思います。
また一時間半後によろしくお願いします。
201 ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 23:19:32.10 ID:RtpS5+1t
先に投下してください、とのことですので、投下を始めたいと思います。

それでは、
ロバート・E・O・スピードワゴン、リサリサ、ヌ・ミキタカゾ・ンシ、ジョルノ・ジョバァーナ、グイード・ミスタ、エルメェス・コステロ、
ウェザー・リポート、エンリコ・プッチ、ホット・パンツ、蓮見琢馬、シーラE

投下します。
202創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:19:53.78 ID:f1BpeJBQ
支援
203創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:21:54.14 ID:f1BpeJBQ
  
204創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:22:03.46 ID:sG0R1VIL
支援だッ!
205BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 23:22:13.06 ID:RtpS5+1t

【Scene.1 『E』の意味】

「君は……何も聞かないのだな? 私について……」

数刻前のシーラEの質問に対し、老人は矛盾した質問で問い返す。
シーラEはロバート・E・O・スピードワゴンの名に含まれる「E」の意味を問うた。
だが自らに課した復讐の「E」と違い、彼のそれは単なるミドルネームである。
アメリカで一斉を風靡した石油王の彼のことだ。自らの名に『泊』を付けるため、意味もなく冠した名前かもしれない。
別にシーラE自身も、意味のある問いを投げかけたかったわけではない。
自分の覚悟を示しつつも、老人に口を開かせるきっかけを作りたかっただけだ。

目論見は半分成功、しかし力のない言葉を聞くに半分は失敗といったところか。ため息をつきながら、シーラEは救急車を路肩に停車させた。
移動にも明確な目的があったわけじゃあないし、運転+警戒+情報交換の3つを同時に行うのはシーラEにとっても無駄な披露を蓄積するだけだからだ。

車を停車させたシーラEは、助手席に座るスピードワゴンの顔を黙って見つめる。
その心底疲れた様子の彼女の沈黙に耐え切れなくなり、スピードワゴンは目線を逸らし、後部座席のストレッチャーで眠るジョージU世の遺体に目をやった。
ジョージにはスピードワゴンに支給された大きめの赤いマントが被せられ、顔は見えない。

スピードワゴンの問うた『何も』というのは、もちろん彼のことである。
何もなしに人は死にはしない。悲しみはしない。
ましてはその『作品』の死因は、喉を掻っ切られた失血死かショック死――――鋭利なナイフか剣か、はたまたスタンド能力によるものかはわからないが、少なくとも明確な「殺意」をもって殺されたことは確かなのだ。
それらはこのゲームを戦い抜くためには得難い情報であるに違いない。
しかしだ――――

「株で大損扱いたみたいに自殺しそーな今のあんたには、何を聞いても無駄だと分かっているからね」

スピードワゴンは顔を伏せて項垂れる。とてもじゃあないが、シーラEの表情を見ることはできない。

シーラEの言わんとしていることを、スピードワゴンは理解した。
つかぬところ、前を向いていないスピードワゴンから得のある情報は得られないだろうということだ。
スピードワゴンの生い立ち。JOJO(ジョセフ)が自分の身内であったこと。このジョージが何者であるか。自分とジョージの関係。そして、泣いている理由。
仮に彼女に問われたとして、スピードワゴンが答えたであろう情報(与太話)だった。
そしてシーラEは、そんな話は望んでいない。
状況が落ち着き、情報交換が飽和し、スピードワゴンが落ち着きを取り戻したあとならば、そんな身の上話も聞いてやらないでもないわけだが……。

彼女が望むのは、より実のある生の情報。
彼が、誰に、どのようにして殺されたか。その理由は。
そう言った生き残るため、戦うための情報でなければ、シーラEは聞く必要がないのだ。
改めて、スピードワゴンは実感した。





自分とこのシーラEという少女は住んでいる世界が違う。
物を考える価値観が違う。
おそらくJOJOやシーザーならば、そしてジョナサンやツェペリならば…… 素早く頭を切り替えて、彼女とともに戦いに赴くのだろう。
だが、自分には無理だ。
こんなくたびれた老人には ―――いや、若い時からそうだったな――― 戦いの場において出来ることなど何一つなかった。
私はいつも見ているだけで蚊帳の外よ。


206創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:22:31.23 ID:2NFY7gp2
支援
207創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:23:01.13 ID:sG0R1VIL
どんどん支援
208創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:23:12.50 ID:X6UjbjlI
先走ってすまん。だが支援
209創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:23:15.45 ID:f1BpeJBQ
  
210創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:23:53.90 ID:f1BpeJBQ
  
211創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:24:43.54 ID:sG0R1VIL
作品も読む、支援もする。両方やらなくっちゃあいけないのが読み手のつらいところだな
212創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:24:47.23 ID:2NFY7gp2
C
213創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:25:10.37 ID:f1BpeJBQ
  
214BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 23:25:12.18 ID:RtpS5+1t

「すまない…… 君の、邪魔をしているな、私は……。確かに、今の情けない私に、君のためになるような話は、できそうもないよ」

ヤレヤレといった風に頭を振り、シーラEは再び救急車を走らせるべくシフトレバーに腕を伸ばした。
イタリア人の彼女は右ハンドルに慣れていないらしく、不便な手つきで車を操作していた。
そんな彼女を横目にスピードワゴンは目を瞑り、なんともなしにシーラEの投げかけた初めの質問について頭を働かせる。





Robert Edward O Speedwagon

それが彼の正確なフルネームだ。
「E」。すなわち「エドワード」は英語圏ではごく有り触れた男性名だ。
もともとの由来(言われ)古典英語のead(幸福)とweard(守り手)にある。
しかし、幸福の守り手とは名ばかり…… 彼のの人生は他人に守られてばかりだった。
50年前の戦いでは、ジョナサンやツェペリに何度も命を助けられてきた。
5年前の誘拐事件の時は、初めて波紋を見せたJOJOの機転により助けられた。
ついさっきは、彼の代わりにジョージが犠牲になってしまったのだ。
そして、彼の命を助けたものは悉く死んでしまっている。スピードワゴンという老いぼれ一人を残してだ。
こんな私に「幸運の守り手」などという名なんて。などと頭を抱えるスピードワゴン。

そこまで思案して、スピードワゴンは自分にもうひとり『恩人』がいることに思い当たった。





「…………エルメェス!!」

215創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:25:35.68 ID:f1BpeJBQ
  
216創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:26:07.67 ID:f1BpeJBQ
  
217BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 23:26:16.33 ID:RtpS5+1t

スピードワゴンに突然肩を捕まれ、ハンドルを取られたシーラEは車を急停止された。
老人に対して何度目ともわからない溜め息をつき、シーラEは彼に怒りの含んだ声色で話し始める。

「あのなあ、おじいちゃんよ…… 私はあまり運転が得意じゃあないんだよ。いくらゴーストタウンとはいえ事故らせるような真似――――」
「――――――頼みがあるッ!!」

そんなシーラEの言葉を遮り、スピードワゴンが声を荒らげた。
その真剣な眼差しに、シーラEも目付きを変えた。

「私の命を助けてくれた娘がいる! 君とよく似た、勇気ある強い少女だ!! その娘(こ)はついさっき、私を逃がしてくれた…!
だが、その相手に、今にも殺されてしまうかもしれない!」

シーラEは大切な人を殺され、しかし前を向いて、このゲームを影で操る者と戦おうとしている。

だが、リサリサは――――ッ?
有無を言わさず手刀を振り下ろした、スピードワゴンを殺そうとしたリサリサはッ!


『優勝者には何でも……文字通り何でもだッ! 願い事を叶えることを約束しようッ! 』


ゲームの頂点に立つべく、殺人を行っているのではないのかッ!?
他ならぬ、JOJOを生き返らせるために!


止めねばならない。リサリサを――――
そして、エルメェスを死なせるわけには行かない。


「ったくッ!! なんでそんな大切なことを早く言わないッ!!」

シーラEは老人を怒鳴る。だが、その語調は前より明るかった。

「それで―――― 手ごわいのか。その相手は」
「彼女は… 私では、とてもじゃないがどうしようもない。だが、どうしても助けたいのだ」

その言葉に、シーラEは一転して笑みを漏らした。
そしてエンジンをかけ車を急発進させると同時に高速でUターンし、来た道を逆走し始めた。

「まったく、景気は一向に良くなりそうにない…… だがアンタ、さっきよりはなかなかマシな瞳(め)になったな!
そこへ案内しろッ! スピードワゴン!!」



まだ吹っ切れたわけではない。立ち直ったわけではない。
だが、この時のスピードワゴンは少なくとも前を向いていた。





☆ ☆ ☆


218創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:27:16.61 ID:f1BpeJBQ
    
219創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:27:18.62 ID:sG0R1VIL
くらえ!支援ビンだ!
220創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:27:28.37 ID:X6UjbjlI
よし支援
221創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:27:44.95 ID:f1BpeJBQ
  
222創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:28:07.52 ID:f1BpeJBQ
  
223創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:28:16.73 ID:2NFY7gp2
支援ー
224BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 23:28:52.38 ID:RtpS5+1t

【Scene.2 戦う女 VS 泣けない復讐者】



この女……強いッ!!


「……………………」


くっ! なんてヤツだ!
この女(スピードワゴンは『リサリサ』とか呼んでいたが)、こちらの攻撃を軽く去なしてやがる。
それも無言で、淡々と作業しているような立ち回り。
さらに相手はあたしのスタンドを相手に『生身』で打ち合っているのだ。
まあ、こちらのスタンドの動きが言えていること。相手の手足が、なんというか、生命力に満ちた光のようなものを放っていることから、まったくの生身というわけではないのだろう。
おそらく、像のないタイプ。肉体を強化するスタンド能力か何かだろう。だが、それにしてもだ。
あたしのスタンド、『キッス』はパワー、スピード、持久力とともに自信がある。
徐倫の『ストーン・フリー』と腕相撲で勝負したこともあるが、つい力を入れすぎてあいつの肩を外しかけてしまった(後で涙目になった徐倫に怒られたのはいい思い出である)。
だがこのリサリサには、さっきから一発もまともに攻撃が当たっていない。
蹴りも、手刀も、拳の連打も、まるで社交ダンスでも踊っているような華麗なステップで受け流されている。
ほとんど不意打ちに近かった最初の一撃ですら間一髪のところで回避され、サングラスを弾き飛ばしただけであった。

「クソッタレェ!! このアマァ!!」
「……………………………………………………」

無言であたしの攻撃を受け流し続けるリサリサ。
しかし、ひたすら打ち合っていた攻防は、途中から少し変化していた。
初めは数発の蹴りを見舞ってきていたリサリサだったが、途中からはスタイルを変え、回避と防御のみに徹していた。
特に、拳での攻撃に関しては一発も「受け」ず、わざと全てを回避する動きだった。
そしてリサリサの動きの全てが、あたしの動きを観察しているようだった。
こちらは本気で倒すつもりで攻撃しているのに、リサリサの奴はまるでボクサーを指導しているトレーナーのような余裕の動きだった。
このリサリサ、「喧嘩」という土俵の上では、間違いなくあたしの数段上にいる存在だ。

「クソッ! 舐めるなァ!!」

リサリサの顔面を狙い、大振りの左正拳を叩き込む。
余裕を持って右へ回避するリサリサ。だが、パンチを交わされるのは計算の内。
そこへ、今度は『キッス』の全力の右蹴りを叩き込む。これも読まれている。リサリサは左の小脇にスタンドの脚を挟み防御する。『キッス』は脚を取られ、動きを封じられた。

「……!?」

だが、ここまでは想定内。
スタンドの攻撃姿勢を一瞬解除する。するとリサリサは小脇に抱えていたあたしのスタンドが突如消えたことにより、若干体勢が崩れた。
スタンドはスタンドでしか触れることができない。たとえ本体がスタンド使いであったとしてもだ。
こちらのスタンドが本体を狙った攻撃をする場合、スタンドは半実体化して相手に物理的ダメージを負わせることができる。その反面、相手もスタンドに触れて攻撃を防御することも可能だ。
だが、スタンドの攻撃姿勢を解いた場合、スタンドは精神的なエネルギーへと戻り、物理的な干渉は不可能となる。像を持たないスタンド使いにはない発想だ。
そしてこの現象を利用し、リサリサに隙を作らせた。

「かかったな! 余裕カマしているからそうなるんだよッ!! 頭かち割ってケツの穴から火ィ吹かしてやるぜぇ!!」

体勢を崩し前のめりになるリサリサに、再び臨戦態勢となった『キッス』の手刀を叩き込む。
ベストなタイミング! 防御することも、ましてや回避することもできっこない。
勝負あった! これで決まりだ――――――――

225創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:29:07.44 ID:f1BpeJBQ
  
226創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:29:17.14 ID:X6UjbjlI
支援
227創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:29:35.84 ID:sG0R1VIL
投下があって支援があって。なんだよ過疎なのはフェイントかよ!
でも人がいて俺は嬉しいぞ!w
228創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:30:02.91 ID:f1BpeJBQ
    
229創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:30:36.51 ID:X6UjbjlI
まだまだ支援
230創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:31:16.11 ID:2NFY7gp2
もうちょっと支援
231創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:31:16.23 ID:f1BpeJBQ
  
232BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 23:31:19.30 ID:RtpS5+1t

「がふッ!!」


そう思ったのも束の間だった。
リサリサの鋭い蹴りがあたしの腹を抉り、吹き飛ばした。
あたしの体は5〜6メートルは宙を舞い、制限時速30マイルを示す道路標識に背中から思い切り叩きつけられた。

あたしの策に嵌り、体勢を崩したリサリサ。普通の人間ならばバランスを崩したとき、なんとか転ぶまいと踏ん張るものだ。
だがリサリサは勢いに逆らわずそのまま転ぶことを選んだ。
そして地面に両の手を付き、逆立ちの姿勢で勢いのついた蹴りを叩き込んできたのだ。
カポエイラだ。
こんな特異な体術まで使いこなすとは。何者か知らねえが、この女、やはり只者じゃあない。


「ウッ…… オエぇ!!」

たまらずあたしは嘔吐した。刑務所で食わされた不味い飯が目の前にリバースされる。
腹に貰った一撃がモロに効いている。
それに、標識に叩きつけられた背中もおそらく痣になっているだろう。

「……汚いわねえ。あなたのその言葉遣いと同じくらい下品だわ。
ちゃんと掃除しておきなさいよ。あなたのゲロなんてバクテリアだって餌にしたりはしないわ」

顔を上げると、リサリサがこちらを見つめている。相変わらずサングラスで表情は読めない。
だが腕を組み、火の灯ったタバコがある指先を見れば、大体の予想はつく。
要するに、あたしは舐められている。
攻撃の手を休め、一服する暇なんていくらでもある。あたしなんぞ、いつでも殺せるというのだ。
こんな屈辱は初めてだった。


「初めはさっさと殺してあげるつもりだったけど、考えが変わったわ。私の質問にいくつか答えてくれたら苦しまずに殺してあげるけど、どう?」
「へっ! ずっとだんまりだったクセに、口を開くとギャーギャーと文句をつけて自分勝手なババアだなッ!!
あたしの問いかけには何も答えなかったから、耳をママの腹ン中に忘れてきちまったのかと思ってたのによォ!」
「本当に下品なグリーザーね。人種差別なんて趣味じゃあないけど、ここまで教育が悪いとすると、一度移民センターに苦情を言ってもいいかもしれないわ」

なるほど…… さっきの攻防で攻撃の手を休めたのはそういう理由か。あたしに拷問をかけて情報を引き出すつもりか。
あたしに対し初めて口を開いたかと思えば、挑発的な態度を示すリサリサ。
対抗して挑発で返すあたしだったが、リサリサは全く気にする素振りも見せずに、今度はヒスパニックであるあたしをさらに侮辱する。
そしてリサリサは先刻のあたしの問いに、明日の天気の話をするかのようにしゃあしゃあと答え始めた。


「……スピードワゴンさんを殺そうとしたのは、あの白い車が欲しかったのよ。いい足になると思ったから」

は?

「それから……。殺し合いに乗ったのは、優勝するためよ。望みとやらを叶えてもらうため、片っ端から殺していくことにしたわ」

この女……。

「望みは息子を生き返らせること。どう? あなたが思っているほど私は母親失格というわけではないと思うけど…… これで満足した?」

ふざけるな…………。



「ふざけるなァァァァァ!!」

233創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:31:57.77 ID:f1BpeJBQ
  
234創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:32:16.04 ID:f1BpeJBQ
    
235創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:32:29.24 ID:X6UjbjlI
支援ん
236創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:32:46.41 ID:sG0R1VIL
支援
237創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:33:29.72 ID:f1BpeJBQ
  
238創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:34:05.68 ID:f1BpeJBQ
  
239BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 23:34:27.62 ID:RtpS5+1t

飛び起き、再び『キッス』を出現させて突進するあたし。
頭に血が昇っていて、さっきまでとは全く違う、弾丸のような正面からの特攻だった。

「何が気に入らないの? あなたの質問にはちゃんと答えてあげたつもりだけれど……?」
「てめえのその幸せな考え方の全てにだよ!! ゲームの黒幕連中が本当に、素直にあたしらの願い事なんて聞き入れるとでも思っているのかあッ!!」

タバコを投げ捨て、迫る『キッス』の拳を大きく飛び越えて避けるリサリサ。
軽く15メートルは跳躍した彼女は、あたしの背後の建物の外壁に着地し――――

「波紋乱渦疾走(トルネーディオーバードライブ)――――――ッ!!」
「ぐわっ!!」

きりもみ回転しながらあたしの脇腹を襲った。
『キッス』の射程距離のはるか外側からの飛び蹴り。冷静さを欠いたあたしには、回避できない。
あたしは衝撃に襲われ、地面に倒れ伏せる。先刻とは比べ物にならないほどの激痛。
カポエイラキックの時とは違う、異常な痛みを身体が訴えていた。

「あまりに聞き分けが悪いから、軽く『波紋』を流してあげたわ。直接『神経』に『痛み』を送り込んでいる。気絶しなかったことを褒めてあげるわ」

ハモン………? こいつのスタンド能力か?
奴の肉体に時折、強力なエネルギーの存在を感じる。
それが、こいつの異常な体術の秘密―――――― 単純な威力は並みのスタンドに引けを取らないッ!

「たしかに、あなたの言うとおり。あの老人の言った『望みを何でも叶える』というものが嘘である可能性もある。
その場合の私は惨めな道化師(ピエロ)、奴にとってのしみったれた犬っころに過ぎないのかもしれない。
でもね―――― それでも私の息子ジョセフが死んだという現実は、エイプリルフールの嘘なんかじゃあない、どうしようもない事実なのよ。
例え望みが低くても、ジョセフを生き返らせる可能性があるのならば私はそれにすがるまで…… たとえ私が悪魔になってでも、やり続けるしかないのよ」

ハァ……ハァ…… なるほど、多少の誤解はあったかもしれない。訂正するよ。
ある意味で、この女は母親の鏡かもしれない。
このリサリサとスピードワゴンのじいさんとがどんな関係かは知らないが、何を切り捨ててでも、たとえ修羅になったとしても、僅かな可能性にすがり――――――
すべては、たったひとりの息子のために。

だけど――――――
そんな愛情は間違っている。

間違っているんだ。



240創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:34:37.05 ID:X6UjbjlI
さあさあ支援
241創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:35:44.80 ID:f1BpeJBQ
  
242創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:36:04.61 ID:f1BpeJBQ
  
243創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:36:29.27 ID:sG0R1VIL
支援しながら読んでると書き手との一体感を感じるなw
しかし途中でさえも臨場感があふれてるぜ
・・・という事で支援
244創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:37:14.92 ID:X6UjbjlI
がんがん支援
245創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:37:53.90 ID:f1BpeJBQ
  
246創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:38:49.44 ID:X6UjbjlI
支援
247創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:38:52.29 ID:f1BpeJBQ
  
248BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 23:38:55.67 ID:RtpS5+1t

「さて。私が聞きたいのは、あなたの『それ』のことよ。一体何の手品なの? その……あなたの『人形』―――?」

なんだと!?

「初めは、あなたの思うように動かせる『操り人形』かと思った。けれど、ちょっと拳を交えてみて感じたのは異なる印象だった。
まるでそれは『あなた自身の分身』―――。あなたのかわりに代理で格闘を行う、もう一人のあなたの姿に見えた。そこに興味を持った」

この女、スタンドを知らない。
少なくとも、自分以外のスタンド使いを見るのは今日が初めてなんだ。
今のこいつは、あたしの手のひらから初めてシールが出たとき―――
いや、マックイイーンの奴を倒した時のあたしに近い(あたしはエンポリオの話を聞いた後だったから順序は逆になるが)。
だが、そのくせ読みはほとんど正解に近い。スタンドについて、誰にも教わらずにここまで分析するとは―――― なんて奴だ。

「実際に攻撃を受けてみてわかったことは、その人形は破壊力、スピード、リーチの長さ、どれをとっても常人の数倍以上の力を持っている。
まともに喰らえば、私だってただじゃあ済まない。でも、あなたはその力を満足に扱えていない。
動きがチンピラの喧嘩と同レベルなのよ。動作に無駄が多く、攻撃も直線的。だから、たとえパワーやスピードがあっても、私には当てられない。
要するに、あなたは戦い方が非常に醜い。女の子ならば、もう少しエレガントに戦ったらどう?
おそらく、あなたがその能力(ちから)を手に入れたのは、ごく最近ね」

正解だ。当たっているよ。
たった数分の戦いの中で、あたしの攻撃を軽く受け流すだけに留まらずそこまで分析しているとは。
いや、この女にとって、さっきまでのは「戦い」じゃあない。「組み手」も同然だ。

「でも… もしもあなたと同じその『人形の能力』を格闘の達人が持っていたとしたら…。その人形を操る修行を何年も積んだ熟練者だ相手だったとしたら。
そして、波紋の達人や吸血鬼、柱の男のような超人がその『能力』を持っていたとしたら………。
かなり厄介な相手になるのは必須。だからこうして、秘密を聞いている」

リサリサのいる対岸の歩道までフラフラと歩き、立っている道路標識を杖にして体重を支える。
さっきまでとは立ち場が逆転して、リサリサの問いに、あたしは答えない。
サングラスの奥にあるであろう冷たい瞳を、あたしは黙って見つめ返す。

そうさ、あたしはスタンド能力を持って間もない。パワーやスピードは強力でも、戦闘技術という面ではあたしは全くの素人なのだ。
スポーツ・マックスに復讐を果たすのだって、念入りに作戦を練り、ハメて殺すつもりだった。
真っ向な戦闘については素人同然。生身の人間とはいえ、達人を相手に優位に戦えるほど強くはない。
だが、これはただの戦闘ではなく『スタンドバトル』。
あたしのスタンドにできるのは、単純な殴り合いだけじゃあないッ。

249創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:39:24.73 ID:f1BpeJBQ
  
250創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:40:53.15 ID:2NFY7gp2
支援
251BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 23:41:37.50 ID:RtpS5+1t

だんまりを決め込むあたしに対し、リサリサは口元だけの笑みを浮かべ、さらに語りかける。

「まあ、あなたが答えなくとも『人形』については大体想像通りでしょうね。では、これについてはどうかしら?」

そう言って、リサリサはコートの懐からあるものを取り出した。

「『これ』……。さっきそこで拾ったのだけれど、これは私のものよね。でも、同じものを2つ持っていた覚えはないわ。これはどういうカラクリなの?」

取り出したのは、リサリサのサングラスである。現在、リサリサの掛けているサングラスと全く同じもの。
最初の不意打ちの時、『キッス』の拳で弾き飛ばし、そのとき『シール』によって2つに増やされていたのだ。

「これだけは、他の現象と比べてもかなり特殊で秘密が見えない。ただ、最初の攻撃の時、あなたの人形の拳から『何か』が出てきたような気がする……
だから拳からの攻撃は受けずに回避するよう徹していたんだけど。私の推理は当たっているかしら?」
「……フフフフフフ、フフフフフフフフフ」

リサリサに対し、あたしは不敵に笑う。
一瞬の出来事でそこまで見極めていたとは、恐れ入った。
あんたの推理は正しい。拳での攻撃を『受け』ずに『回避して』いたその判断もな。
だが、あんたの読みもここまでだ。

「あら? このサングラス……… これは何?」

あたしの笑いの意図が掴めていないリサリサがふと、手元にあるサングラスの異変に気が付いた。
自分が現在掛けてあるそれにはない『シール』の存在を確認し、リサリサの視線が一瞬、あたしから外れた。




今だッ!


「ねえ、この『シール』みたいな物。これは一体―――――」
「これがその『答え』だッ!! 喰らってくたばれ! 『ザ・キッス』ッ!!」


252創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:41:52.90 ID:f1BpeJBQ
    
253創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:42:09.74 ID:sG0R1VIL
支援だ、依然変わりなく
254創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:42:17.44 ID:f1BpeJBQ
  
255創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:42:35.38 ID:2NFY7gp2
四円
256創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:42:41.96 ID:X6UjbjlI
まだまだ支援
257BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 23:43:26.59 ID:RtpS5+1t


リサリサの注意があたしから逸れた隙を狙い、あたしの体重を支えていた道路標識に貼られた『シール』を勢い良く剥がした。
その瞬間、道路標識は勢いよくリサリサ目掛けて飛来する。

「―――ッ!?」

そう。あたしの切り札はこの、時速30マイルを示す道路標識。
さっきリサリサにカポエイラの蹴りで叩きつけられたとき、シールを貼って増やしておいたのだ。
道路の対岸の歩道に全く同じ標識を出現させた。
そして、リサリサが2つの標識の線分上に乗った瞬間を狙い、シールを剥がしたのだ。

拳から出現する『シール』を貼ったものを2つに増やす。
そして『シール』を剥がした時、増やされた物体は引かれ合い、高速で元に戻る。
それがあたしのスタンド『キッス』の真骨頂だ。

あたしのスタンド格闘技術では、リサリサを捉えることはできない。
だから、あたしが勝つためにはこの方法以外なかった。
この物体の元に戻る際のスピードは、パンチやキックより数段上なのだ(測ったことはないけどね)。

「くっ」

ここまで不意をついても、飛来する鉄の棒をとっさに横っ飛びで直撃を避けるリサリサは流石である。
それでも、鉄の牙は回避しきれなかったリサリサの左腕に喰らい付いた。
そしてリサリサの左腕を飲み込んだまま、彼女の背後にあるオリジナルの道路標識と一体化したのだ。

「――――――くぁぁァァッ!!」

小さな声で、しかし明確に痛みを訴える悲鳴を上げるリサリサ。
リサリサは左肘を道路標識の支柱に突っ込み、身動きが取れなくなってしまった。
鉄製の棒から伸びる肘から先は力なくダラリと垂れている。おそらく骨が折れているのだろう。

「形勢逆転……だな」
「やって……… くれたわね………」

片腕を固定され身動きの取れなくなったリサリサの姿を確認し、あたしは声をかける。
リサリサはサングラスを懐にしまいながら、明らかな怒気を含んだ返答を行った。
ここまで感情を表に出したリサリサは、初めてである。
そしてあたしにとって、これ以上の勝機はない。

258創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:44:05.97 ID:X6UjbjlI
それでも支援
259創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:44:52.35 ID:f1BpeJBQ
  
260創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:45:05.90 ID:sG0R1VIL
支援支援
261創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:45:36.68 ID:X6UjbjlI
けど支援
262創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:45:54.59 ID:f1BpeJBQ
  
263創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:46:27.03 ID:f1BpeJBQ
  
264創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:46:53.89 ID:X6UjbjlI
支援だッ
265BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 23:46:56.59 ID:RtpS5+1t

「なるほどね。『シール』を貼ったものが増える。そして『シール』を剥がすと元に戻る、か。
相変わらず理屈はわからないけど、そういう能力だって理解するしかなさそうね。
それにしても、いつの間にこの標識を増やしたの? 全く気が付かなかったわ」
「増した物体を出す場所はある程度指定できるんだ。その標識はあたしがそこに叩きつけられた少しあとに、あんたの背後に出したんだ。
ここ(カイロ)の街並みはどこも似たようなものだし、旅行者同然のあんたやあたしには、標識のひとつやふたつ増えてもそうそう気付けるものでもねえだろうな」

軽口を交わしながら、リサリサに歩み寄る。
リサリサも左腕を取られた不格好な体勢ながら、あたしと向かい合う。
『キッス』の射程距離のギリギリ外側で一度立ち止まり、再びリサリサに話しかける。

「あたしはあんたとは違う。だから殺しはしない。あんたとスピードワゴンのじいさんがどんな関係かもわからないからな。
でも、あんたを放っておいたらその左腕を切断してでも殺人を繰り返すんだろうな。だから、今ここで確実に、あんたを戦闘不能にする」
「下品な言葉遣いは最後まで治らなかったわね。左腕を切断? 馬鹿言わないで。
あなたみたいなスパゲッティ頭のお間抜けさんを相手に、腕を捨てるようなもったいないことするわけがないでしょう?」


『キッス』ッ!!
スタンドを出現させ、左腕の手刀をリサリサの肩甲骨めがけて振り下ろす。
その攻撃に対し、リサリサは自由な右腕を掲げて防御する。

そう、リサリサは『防御』するしかない。
いままでのリサリサはパンチや手刀といった攻撃はすべて「回避」し、「受け」てはいなかった。
だから今まで、リサリサの手足が増やされるようなことがなかった。
だが、リサリサは今、左腕を道路標識に固定され動けない。
もうヒラヒラと滑稽なフラダンスを踊って、あたしの攻撃を回避することはできないのだ。

防御したリサリサの右腕に『シール』を貼り付ける。リサリサの右腕が肘から二股に別れ、増やされた。


「終わりだリサリサァッ!!」


素早くリサリサに貼り付けた『シール』にスタンドの手を伸ばす。
『キッス』の能力のもうひとつの秘密。増えたものが元の1つに戻る際、対象には破壊が伴われる。
これで一度増やされたリサリサの右腕は破壊される。流石のリサリサも両腕を潰されては、戦闘は不可能と言っていいだろう。

『キッス』が指先で『シール』を弾き飛ばし、リサリサの右腕は1つに――――――




――――戻ら、ない!?

何故だ――――――!?







「元に戻る際に破壊が生じることは、この道路標識の修繕具合を見て分かっていた」

リサリサが静かな声で語りながら、右腕であたしの首根っこを掴んだ。

266創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:47:32.09 ID:f1BpeJBQ
 
267創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:47:56.56 ID:f1BpeJBQ
  
268創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:48:53.11 ID:f1BpeJBQ
  
269創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:49:14.95 ID:sG0R1VIL
そろそろ支援が規制されそうだが構わず支援
270創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:49:22.87 ID:X6UjbjlI
し支援ッ
271創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:49:27.92 ID:f1BpeJBQ
  
272創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:51:15.61 ID:f1BpeJBQ
すっげーいまさらだけど、支援結構あるし投下スピード上げても良くないっすかね?
273BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 23:51:35.21 ID:RtpS5+1t

「だから、今度あなたが私の右腕にシールを取り付けて破壊しようとしてくるのもなんとなくわかった。
私の左腕はこんな状態だし、あなたの『人形』の攻撃を避けることも、動きについていくことすらもできない。
でも、『波紋の呼吸』ならばいつでもできる」

リサリサの馬鹿力で首を絞められ、意識が遠のいていく。
そんな中、あたしはリサリサの右肘に貼り付けられたままの『シール』を見た。
確かに、『シール』の貼付部位は『キッス』が弾き飛ばした。あの『シール』は水を掛けられた程度で剥がれるほど、粘着力は弱いのに……。
あれで、剥がれていないはずはないのに……。

「『くっつく波紋』って言うのよ。あなたが『シール』を狙ってくることは分かっていた。
だから『シール』の粘着力を高め、あなたに剥がされないようにした。私は『地獄昇柱(ヘルクライム・ピラー)』を5分で登り切ることができる。
要するに、あなたの『人形』と同じように、私にもいろいろ秘密があるの」

また……ハモン………?
なんてことだ…… 形勢…再逆転じゃないか。

「さて、そろそろ終わりにしましょうか。どうせあなたは何も喋らないだろうし。
あなたの敗因はその下品な戦い方の全て。さっきも言ったでしょう? エレガントに戦いなさい、と」

リサリサは右腕であたしの首を絞めている。
しかし、今のリサリサには『シール』によって増やされたもう一本の『右手』が存在していた。
破壊するために貼った『シール』が裏目に出て、せっかくの思いで左腕をつぶしたのに、リサリサにもう一本自由な腕を与えてしまったのだ。
リサリサは右腕であたしの首を絞めながら、もう一本の右手で懐からサングラスを取り出し、貼り付けられた『シール』を指で弾き飛ばす。
リサリサの掛けていたサングラスが彼女の手元に引き寄せられ、破壊された。
久々に見た彼女の素顔は、いままであたしが見たどの女性よりも美しかった。

「やれやれ、このサングラス高かったのに……。ところでこの『シール』………。
『あなた自身の身体にも効果はあるのかしら』―――――?」


ニヤリと笑うリサリサの表情に、背筋がざわついた。
次の瞬間、『シール』を持ったリサリサの右腕があたしの胸を突く。
感覚でわかった。今、あたしの心臓は2つに増やされた。

「クソ………タレ………」

「バイバイ。ヒスパニックの下品なお嬢さん」


リサリサが『シール』を引っぺがす。
あたしは口から血を履き、視界は真っ暗になった。

ごめん徐倫……。あたし、負けちまったよ………。





274創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:53:01.56 ID:Qdgb7kUg
支援!
275創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:53:05.95 ID:sG0R1VIL
エルメェェェェェェェェスウゥゥゥゥゥ!!!

支援まだまだ!
276創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:53:28.71 ID:f1BpeJBQ
  
277創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:53:55.97 ID:X6UjbjlI
支援ッ
278BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 23:54:22.04 ID:RtpS5+1t






(なるほど。この子自身がくたばれば、『シール』の効果も消えるわけか)

倒れた死体を蹴り飛ばしたリサリサの右腕は、破壊もなく元通りになっていた。
リサリサは最後までエルメェスの名前を知らなかったが、彼女との戦いはリサリサにとって非常に利のあるものだった。
おぼろげではあるが、スタンド能力というものの存在を知れただけでも大きな収穫である。


(さてと、この左腕をどうやって開放するかな? 骨折は波紋で治療できると思うけれど……)

未だに鉄の棒と一体化したままの左腕を見ながら、リサリサは今後について考える。
下手に引っこ抜けばさらにダメージが残ってしまう。
無理やり標識をへし折れば、左腕ごと切断されてしまうかもしれない。


さっさとスピードワゴンを殺害したいという思いもある。
救急車も魅力だが、それ以上に自分のネガティブキャンペーンを展開されることがまずかった。
だが、彼が現在どこまで行ってしまったかも、わからない。


それに、エルメェスとの戦闘も楽なものではなかった。
どこかで身体を休めるのもいいかもしれないな、なんてことをボンヤリと考えていたリサリサの耳に、重く響くエンジン音が聞こえてきた。
スピードワゴンの救急車と同じエンジン音だとすぐにわかった。
音源は、彼の走り去った方向。轟音は次第に大きくなっていく。そしてリサリサの目に、引き返してきたであろう救急車の姿がはっきりと映った。

何か様子がおかしい。
よく見れば、運転席に座る人物は、リサリサのよく知るスピードワゴンではなかった。
エルメェスよりもさらに若いであろう小さな少女。
救急車はどんどん加速してくる。


(まずいっ!)


左腕は未だ標識に突き刺さっていて動けない。
リサリサは回避行動を取ることはできなかった。

重さ3tを超える金属の塊が、時速100キロ以上の猛スピードでリサリサの身体を吹き飛ばした。
衝撃の瞬間、救急車のけたたましいサイレンの音があたりに響き渡った。




☆ ☆ ☆

279創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 23:56:02.55 ID:X6UjbjlI
しえんッ
280BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/10(日) 23:57:02.70 ID:RtpS5+1t


【Scene.3 相棒】


「なっ―――― なんだァ!?」

ダービーズ・カフェで『待機』することを選んだジョルノ一行。
彼らの耳に飛び込んできたのは、自動車が何かに激突したような鈍い衝撃音。
何かが大型ガラスを突き破り、盛大に割れたような甲高い音。
数瞬遅れて、けたたましいサイレンのような音が聞こえてきた。
3人は気がつかなかったが、少し前には地鳴りのような低いエンジン音も聞こえていたのである。
そのいずれも、このカフェより北の方向。
距離も大して離れていないようである。


「何か…… あったようですね。少なくとも、僕ら以外の参加者が、この近くにいます」
「交通事故みてーな嫌な音だったぜ。それに、聞こえてくるこのサイレンの音はなんだ? ポリや消防とも少し違うようだが……」
「この音は日本の救急車のサイレンです。昔日本に住んでいたことがあるので知っているんです。この町並みとは似合わない音であることは確かですが……」
「ほ〜。相変わらず博識なことだな、ジョルノ。 ……で、どうするよ? 行ってみるか?」
「そうですね。慎重になるに越したことありませんが、しかし、様子は見に行くべきだと思います。
近くを訪れた参加者に接触しないのでは『待機』を選んだ意味がありませんし、もしかしたら、誰かが危険な目にあっているのかも……」


冷静に状況を分析するジョルノたち。
素早い判断で行動方針を定め、それを具体的な形にする。


「ミキタカ、あなたの意見を聞きましょう。 ……ミキタカ?」


2人の一歩後ろに立つミキタカに振り返り、ジョルノたちは彼の異変に気がついた。
ミキタカは耳を抑え、痙攣するようにブルブル震えている。
よく見ると、顔も蕁麻疹ができたようなブツブツができていた。


「お おい! どうしたミキタカ!? だいじょう……」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア―――――――――ッッ!!」

281創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:00:15.83 ID:f1BpeJBQ
サルってましたw 支援
282BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:00:31.23 ID:/0wSlYM9

ミキタカが豹変して叫び声をあげ、頭を抱えて暴れ始める。
その変貌っぷりにミスタは目を点にし、ジョルノですら言葉を失ってしまった。

「こ……この音だけは…… このサイレンの音だけはァ〜〜〜〜〜〜!!
ダメなんだよォォォォォ――――ッ!! ウゲァァァァァァァ―――ッ!!」
「サ、サイレン? 何言ってんだミキタカ? 大丈夫か?」
「落ち着いてください、ミキタカ!」
「うぷっ!」

頭痛をこらえ悶絶するミキタカ。
顔色はどんどん悪化し、さらには吐き気も催したようで、口を抑えてもがいている。
突然のミキタカの行動に対処ができないジョルノたち。

「……もうっ! 我慢できないッ!!」
「あっ! オイ待てっ!」

ついに堪えきれなくなったミキタカは走り出し、店の外に待機させておいたシルバー・バレットに飛び乗りしがみついた。
そして、自らの腕のムチに変化させ、シルバー・バレットを走らせ始めた。

「待てミキタカッ! 勝手に何処へ行くッ!!」
「イピカイエ―― マザー○ァッカ―――ッ!!」

ミスタの静止を振り切り、どこで覚えてきたのかわからない映画のセリフを真似したミキタカと彼を乗せた馬は、サイレン音のする反対方向、南へと走り去っていった。


「あのバカっ! 勝手な行動を―――――」
「ミスタ! あなたはミキタカを追ってください! サイレンの音の方へは僕が行きます!」

ミスタの啖呵を遮り、ジョルノがそう告げる。
別行動を取る。この状況でジョルノはそう言っているのだ。
言葉の真意を理解し、ミスタは言葉に詰まる。

「ミキタカ…。 彼は自分を宇宙人、正確にはマゼラン星雲人と自称した。彼の奇矯な行動の原因はそこにあるのかもしれません。
なのに、僕たちは彼の正体について、どうでもいいと判断してしまった。とすれば、彼の行動の原因は僕たちにもあります。放っておくことはできません」
「オレが言いたいのはそんな事じゃあねえ! オレだってミキタカのことは気に入っているんだ。見殺しになんてできるかッ!!
だがな、この状況で別行動を取る危険性は分かっていないわけじゃあないだろう?
特にお前が向かおうとしている方向には、何が待っているかもわからねえ! 危険な匂いがプンプンしてるのはお前も同じじゃあないのかッ!!」
283創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:00:44.02 ID:RmTLmj22
ミキタカはある意味でブレないなw
という事で支援
284創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:01:08.62 ID:AdRSlBna
  
285創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:01:15.55 ID:HOmFEkmb
出遅れたけど支援支援!
286創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:01:34.48 ID:AdRSlBna
  
287BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:02:28.98 ID:/0wSlYM9

放送まで、あと30分あまり。
放送後に今後の身の振りを考えるつもりであったが、今別れたら放送までに再び合流することは不可能だろう。

いや、北で起こった何か次第では、ミキタカの逃げた南方向にいる人物次第では、2度と合流することはできないかもしれないのだ。


「わかっています。ですが、向こうで何かが起こったということも、間違いありません。
もしかしたら、誰かが死にかけているかもしれない。それがブチャラティやトリッシュである可能性だってあるんです。
きっと僕のスタンド『ゴールド・エクスペリエンス』の治癒能力が役に立つはずです。もちろん危険ならば、深入りはせず戻ってきます。
あなたこそ、早くミキタカを連れ戻してきてください。彼を放っておくことのほうが、僕は心配です」

しかし、心配するミスタの目を、ジョルノはじっと見つめ返す。
強い意志を秘めた彼の瞳を見る。何を言っても無駄であることを悟り、ミスタは笑い声を漏らす。

「まったく、これはテコでも動きそうもないな。冷静なように見えて、そういう頑固なところは誰かさんにそっくりだぜ」
「ありがとうございます、ミスタ。拡声器はあなたが預かっておいてください。それと、放送の二時間後……。午前8時までにこのカフェに戻らなければ、僕のことは無視してくれて結構ですから」
「エンギでもねえこと言ってんじゃあねえよ、バーカ! 死ぬなよ…… 相棒!」
「………あなたもね。ミスタ!」


2人の男はカフェを離れ、逆方向に走り始めた。
もう一度、再会できるその時を信じながら。



☆ ☆ ☆

288創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:02:43.12 ID:RmTLmj22
・・・俺の投下の時は支援全然なかったなぁ(ボソッ

でもめげずに支援
289創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:03:02.52 ID:AdRSlBna
  
290創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:04:08.36 ID:f1BpeJBQ
  
291BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:04:21.51 ID:/0wSlYM9


【Scene.4 シーラEとスピードワゴン ―そして―】



『リサリサは黒い長髪の美人! それで間違いないな!!』


『ああ! そしてドレッドヘアーのヒスパニックの少女がエルメェスだッ!! 頼む、シーラEくん!!』


『見えてきたよ! あの女だなッ! ぶっ飛ばすぜスピードワゴン! しっかり捕まってな!』


『エルメェスくんが倒れているッ! 遅かったかッ!!』


『突っ込むよォォォォォォォ!!!!』



☆ ☆ ☆


292創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:04:58.46 ID:RmTLmj22
支援支援
293創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:05:15.36 ID:AdRSlBna
  
294創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:05:52.67 ID:35nOKgA2
しえんッ
295創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:06:27.04 ID:f1BpeJBQ
  
296BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:07:07.32 ID:RtpS5+1t


体当たりの衝撃に吹き飛ばされたリサリサはガラスのショーケースを突き破り、道路沿いの高級な食器店の中になだれ込んだ。
リサリサの自由を奪っていた道路標識は根っこから叩き折られ、道路に転がった。
救急車はなんとか停車はしたが、そのあまり衝撃にフロントガラスにはヒビが広がり、さらにはサイレンマシンが誤作動し、ウーウーというけたたましい音を響かせ続けていた。
運転していたシーラEと助手席に座っていたスピードワゴンも頭を強く打ったが、エアバックが作動したため大事には至らず意識を保つことができた。

「ざまあみやがれ! リサリサとかいう女を吹っ飛ばしてやったわ!」
「やれやれ、想像以上にひどい運転だったなシーラEくん。制限30マイルの標識が見えなかったのか? 速度違反だぞ」
「だから言ったでしょ? あたしは運転は苦手だって……。それより急ぐよ!」


ジョークを飛ばし合える程まで元気を取り戻したスピードワゴンと軽口を交わしながら、シーラEは『ヴードゥー・チャイルド』の腕力で2人のエアバックを破り捨てる。
そして、2人は素早く救急車を飛び降りた。


「リサリサ………」

スピードワゴンは、リサリサの吹き飛ばされた食器屋を遠い目で眺める。
流石のリサリサもこれほどの体当たりをまともに食らっては、助からないだろう。
ふと目線を下に向けると、へし折られた道路標識のそばに、見覚えのある女性の左肘から先が転がっていた。

「うッ……!!」

吐き気を催すスピードワゴン。これはリサリサの腕の先だ。
体当たりの衝撃によってリサリサの身体は吹き飛ばされ、そのとき道路標識と一体化していた左肘に強烈な負荷がかかった。
リサリサの腕はその負荷に耐えられず、ねじ切られてしまったのだ。

(本当にこれでよかったのか? 話し合うことはできなかったのか?)

スピードワゴンに後悔の念が押し寄せる。
リサリサは確かに狂っていた。誰かが止めねば、リサリサはさらに無関係の人間を殺し続けただろう。
だが、ここまでする必要があっただろうか。いや、こうでもしなければリサリサは止められなかっただろう。しかし――――――
シーラEがスピードワゴンの想像以上に豪快な手を使ったといえばそれまでだが、リサリサを殺したのはスピードワゴンに他ならなかった。

「スピードワゴン! 何してるの!? こっちに来なさい!!」

シーラEの声によって現実に引き戻されたスピードワゴン。
慌てて彼女の元に駆け寄る。
そう、忘れてはいけない。スピードワゴンをこの場に戻ってきたのは、リサリサのためではない。
他ならぬエルメェスを助けるため、スピードワゴンはシーラEに頭を下げ、危険なこの場所へ舞い戻ったのだ。

297創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:07:16.67 ID:AdRSlBna
    
298BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:10:59.80 ID:/0wSlYM9

「スピードワゴン! この女性(ひと)、意識は失っているが、まだ生きてやがる。なんて生命力だッ!」
「何だって! そうか、良かった! 本当に良かった!!」
「ああ、だが死にかけていることには違いない! 早く治療しねえとやばいぞ!!」

倒れているエルメェスに駆け寄ったシーラEは、彼女の生存を確認した。
だが状態は決して良いとは言えず、彼女の戦ったリサリサにいかに痛めつけられたのかを物語っていた。
彼女は全身傷だらけ、特に胸からの出血は痛々しかった。

しかし、エルメェスはなぜ生きていたのか?
エルメェスはリサリサによって心臓に『シール』を貼られ、それを剥がされたのである。
心臓を破壊されて、生きていられる人間などいるわけがない。
普通なら即死するはずなのだ。


そのカラクリの秘密は、種さえわかれば至って簡単だ。
エルメェスは、さらにもう一つ心臓を増やしていたのだ。
リサリサによって心臓を2つに増やされたエルメェスは、とっさの機転で体内に『キッス』を出現させ、さらにもう1つの心臓を作り出したのだ。

『キッス』の『シール』を複数枚対象に貼り付けると、その数だけさらに対象の数を増やすことができる。
そうして、エルメェスは自分の体内に3つ目の心臓を作り出した。

リサリサが『シール』を剥がし2つの心臓を破壊しても、ギリギリで作り出した3つ目の心臓を血管に繋ぎ合わせることで、なんとか生き延びることができたのだ。
だが、胸を貫かれたという事実だけはどうすることもできず、戦闘不能となったというわけだ。


「スピードワゴン、頭側を持て。私は足だッ!」
「わ…… わかった!!」
「急げ! うるさいサイレンのおかげで、誰かがここに来ちまうかもしれない!」


シーラEに急かされ、スピードワゴンはエルメェスの上半身を担ぎ上げる。
急いで救急車に積み込み、この場を去らねば。
だが、スピードワゴンが救急車の後部ドアを開くとほぼ同時に、スピードワゴンの頭めがけて円盤状の何かが飛来した。




「危ないスピードワゴンッ!」

299創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:11:16.07 ID:RmTLmj22
もう限界だ・・・俺は先に行く(寝るとも言う)よ・・・

祈って・・・おこうかな・・・投下完了の無事を・・・
300創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:12:19.10 ID:AdRSlBna
301BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:13:16.04 ID:/0wSlYM9
>>299
遅くまでありがとう。


――――



飛んできた何かを『ヴードゥー・チャイルド』が身を挺して弾き落とす。
飛んできたのは高級そうな漆器の皿だった。皿は叩き落とされ、パリンと音を立てて割れた。



「ぐゥ……」


そして皿を叩き落とした『ヴードゥー・チャイルド』の腕のダメージは、シーラEに還元される。
シーラEの腕がビリビリ痺れる。皿には波紋が込められていた。
皿の飛んできた方向にあるのは、ショーウインドウのガラスがぶち割れた高級食器店。
シーラEとスピードワゴンは、店内から姿を現した敵の姿を同時に確認する。


「リ……リサリサ………………」

リサリサは生きていた。
救急車のサイレンの音がうるさく、彼女がガレキをかき分けて起き上がる気配に気が付かなかったのだ。
左腕は肘から先を失い、右手で患部を抑えていた。波紋の呼吸により出血と痛みを抑えているようだ。
そして、無表情とも鬼の形相とも取れる険しい瞳で、2人を睨みつけていた。

「今のは、さすがの私も死ぬところだった。左腕を捨てなければ、私は直撃を受け即死していたでしょうね…………」

彼女の左腕が切断されたのは、体当たりの衝撃によるものではなかった。
正確には衝突の一瞬前。リサリサは自ら左腕を切断し、激突前に身体を自由にしていたのだ。
そして衝撃に備え後ろに飛び、衝撃の瞬間に救急車のフロントガラスで受身を取ったのだ。
体当たりの衝撃は大幅に軽減され、吹き飛ばされガラスをぶち破ったとしても重傷で済むダメージで済んだというわけだ。
そして、身体の痛みは波紋の呼吸で軽減できる。全力には程遠いが、リサリサはまだまだ戦闘『可』能だった。

302創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:13:21.15 ID:AdRSlBna
303創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:15:35.33 ID:zWjtoUNE
しぇん!
304創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:16:17.69 ID:35nOKgA2
支援支援ッ
305BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:16:35.84 ID:/0wSlYM9


「フフフ…… わざわざ殺されに戻ってくるとわね! スピードワゴンさんッ!!」
「あたしが時間をかせぐ! スピードワゴンッ! あんたはさっさと車を出せぇ!!」

シーラEはスタンドを出現させ、エルメェスに向かって駆け出す。
その隙にスピードワゴンはエルメェスの身体を車内に積み込み、運転席にかけ乗った。
スピードワゴンはすぐさまエンジンを掛けるよう試みるが、体当たりの衝撃の影響か、なかなか上手くエンジンが作動しないのだ。






「エリエリエリエリエリィィィ――――――ッ!!!」


スピードワゴンの逃げる時間を稼ぐため、『ヴードゥー・チャイルド』の拳でリサリサに迫る。
リサリサは回転を付けた大振りの波紋回し蹴りで、軽くその腕を弾き飛ばた。
自分の全力の攻撃を軽くあしらわれたシーラEは、背筋に寒いものを感じる。
彼女の『ヴードゥー・チャイルド』は極端に破壊に特化したスタンド能力ではないが、それでも生身の人間に力負けするなど初めての経験だった。

リサリサはさらに追撃を加えるべく、シーラEの頭上に飛び上がり両足に波紋を込めた飛び蹴りを放った。

この飛び蹴りは、喰らえば首をへし折られる威力――――。
そう直感したシーラEはスタンドの両腕で、咄嗟に頭部をガードした。



「かかったわね、おバカさん!」


『ヴードゥー・チャイルド』の両腕がリサリサの蹴りを塞いだ直後、リサリサは両足を大きく開脚し、シーラEの防御を難なく無効化した。


「何だって!」


飛び蹴りは布石。
リサリサの真意は両足でスタンドの両腕を封じ、次の攻撃を防御させない事だった。
そして波紋を込めた右腕の手刀によるリサリサの本命の一撃が、シーラEの肩口を襲う。

攻守において完璧なコンビネーションだ。
これを破った格闘者はディオを除き1人もいない。


「『灼熱空裂刃(ファイヤースプリットアタック)』!」

306創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:17:30.94 ID:35nOKgA2
まだ支援ッ
307創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:19:07.86 ID:35nOKgA2
支援支援
308BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:19:55.00 ID:/0wSlYM9

ダイアーの必殺技に『緋色の波紋疾走(スカーレットオーバードライブ)』を複合した、リサリサのオリジナル技だ。
リサリサの波紋によるそれは炎のように高熱で、威力は過去に存在したどの波紋使いのものより強力だった。

「ぎゃあああ!!」

直撃を受けたシーラEは燃えるような痛みに叫び声を上げる。

片腕の一撃でこれなのだ。
もしリサリサの左腕が残っていたら。
さらに強力な『灼熱十字空裂刃(ファイヤークロススプリットアタック)』だったとしたら。
そして救急車による体当たりのダメージの無い万全の状態だったとしたら……。

シーラEの身体は燃やし尽くされていたかもしれない。
吸血鬼でない生身の人間相手でも一瞬で焼き尽くす威力を持っていた。


「さあ、次でとどめよ。お嬢さん……」


感情の剥き出しにしたリサリサの殺意が、追い打ちを掛けるようにシーラEに向けられる。

(なんて女だ―――ッ! これがスピードワゴンの言っていた『波紋の戦士』の力!
あのエルメェスって女と一戦交え、救急車の時速100キロでの体当たりを喰らった後で、なおもこの戦闘能力―――!!
いくら化け物がすぎるぜ―――ッ!! 殺される――――)


シーラEは死を覚悟する。
しかしその時、救急車のエンジン音が鳴り始めた。
動いた。スピードワゴンは、なんとか救急車のエンジンをかけることに成功した。

「よしッ! 早く乗るんだシーラEくんッ!! 逃げるぞ!!」
「無駄よ。あなたたちを逃がしは―――――― うぐゥッ……!」



シーラEにとどめを刺そうとしたリサリサが、突然悲鳴を上げ足から崩れ落ちる
両足に激しい痛みを感じ、リサリサは膝から地面に転倒した。
全身に溜まった疲労が爆発し、リサリサの脚の破壊したのだ。
やはり、あれだけの勢いのあった救急車の体当たりを受け、平気であるわけがない。
先ほどの『灼熱空裂刃』が引き金となり、蓄積されたダメージがリサリサを襲ったのだった。

脚を押さえて動けなくなったリサリサに背を向け、シーラEは救急車に駆け込む。


「出せッ! ぶっ飛ばせスピードワゴンッ!!」
「待て―――― 逃が…… さん………」


シーラEに言われるまでもない。
スピードワゴンは力いっぱいアクセルを踏み込んだ。
足を抑え苦しむリサリサを置き去りにし、救急車は走り始めた。
しばらくした頃、救急車から鳴り続いていたサイレンの音が、内部よりようやく止められた。




☆ ☆ ☆
309創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:20:06.45 ID:35nOKgA2
まだまだ支援支援
310創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:20:52.06 ID:35nOKgA2
次々支援
311創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:21:01.85 ID:AdRSlBna
  
312創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:21:29.75 ID:AdRSlBna
  
313創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:22:03.12 ID:AdRSlBna
  
314創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:22:15.62 ID:35nOKgA2
支援
315BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:22:49.28 ID:/0wSlYM9


【Scene.5 凄惨な事件現場】


スピードワゴンの運転する救急車が走り去った数分後、ジョルノは現場にたどり着いた。



「一体ここで、何があったんだ?」

ぶち割られた大型ガラスのショーウインドウ。
へし折られた道路標識。
破壊されたサングラスの残骸。
女性のものと思われる左腕の残骸。
そして、あちこちに見られる血溜りの池。

まるで怪獣でも現れたかのような凄惨な現場が、ジョルノの目の前に広がっていた。
サイレンの音は、もう聞こえてこない。
だが、本の数分前に、この当たりで何かが起こったことは間違いなかった。

ジョルノは目ざとく、へし折られた道路標識の付近の地面に、擦れたゴムの欠片を見つけた。
この当たりで急停車した車があったのだ。十中八九、救急車だったろう。

「まだ近くにいるかもしれない……」

ここには救急車の姿はもう無い。そしてここにいたであろう人間の影も、一人も見つけられなかった。
ミスタたちのことも気にかかるが、ジョルノはもう少しだけ、付近を探索することにした。


☆ ☆ ☆


316創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:23:18.44 ID:AdRSlBna
  
317創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:23:36.54 ID:35nOKgA2
どんどん支援
318創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:24:17.69 ID:AdRSlBna
  
319創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:24:18.12 ID:35nOKgA2
支援支援
320創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:25:00.62 ID:AdRSlBna
  
321創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:26:02.45 ID:AdRSlBna
  
322創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:26:45.79 ID:35nOKgA2
怒りの支援
323BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:27:28.70 ID:/0wSlYM9

【Scene.6 救急車内の最終ラウンド】


「エリィィ――――ッ!!」

『ヴードゥー・チャイルド』によってサイレンマシンを破壊し、耳障りだったサイレンの音はようやく鳴りやんだ。
一息つき、ジョージの遺体の眠るストレッチャーの側部に腰掛けるシーラE。
後部にひとつだけある座席には、瀕死のエルメェスが座らされていた。
運転席に座るスピードワゴンは、シーラEに声をかけた。

「フウ…… なんとか助かったな、シーラEくん」
「まったくだ…… 聞いてないぜスピードワゴンさんよ―――― リサリサって女が、あそこまでの化け物だったなんて……」
「―――私もあんなリサリサを見たことはほとんどない。今回で……、多分、2度目だ。
一度目は、空軍パイロットであるジョージU世。彼女の夫が吸血鬼に謀殺された時。
私もすっかり忘れていた。彼女は、JOJOの…… 愛する人のためならば、とことん修羅になることができる…… そういう女性(ひと)だった」

ジョージU世……。それは確か、ここで死んでいるこの男のことだよな。
やはり、スピードワゴンの言葉には矛盾がある。いや、矛盾しているのはこの世界の方だろうか。
やはり、スピードワゴンに聞かねばならないことがまだありそうだ。
だが、優先すべきは自分たちの身の安全。そして瀕死のエルメェスの治療を行うことだ。
そんなシーラEの考えを汲み、運転するスピードワゴンは問う。


「シーラEくん…… とりあえず、どこへ向かえばいい? できるだけさっきの場所から離れた方がいいだろう?」
「そうね…… とりあえず東の橋を渡って、ボルゲーゼ公園の方へ向かいましょう。身を隠す場所があるかもしれない」

「それより、もっといい目的地があるわよ――――――」


2人の会話に割って入る、第三者の声。
スピードワゴンたちが後ろを振り返ると、救急車のバックドアがゆっくりと開かれ、声の主が車内に乗り込んできた。

「―――――そう、あの世という、もっといい場所がね」


324創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:27:41.33 ID:35nOKgA2
急かす支援
325創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:27:49.47 ID:OrpdO73p
サンダークロススプリット支援
326創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:28:30.70 ID:AdRSlBna
  
327創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:28:44.84 ID:zWjtoUNE
母は強し…支援ッ
328BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:29:27.67 ID:/0wSlYM9

「リ……リサリサ―――ッ!!」
「なんなのよ……この女―――ッ 本当に化け物かよ―――――ッ!!」

乗り込んできたのは、片腕を無くした妙齢の美人。全身は血にまみれ、瞳は黒く滲み、殺意を剥き出しにして、彼女は3たびスピードワゴンの前に姿を現した。
運転席に座るスピードワゴン。向かい合うシーラE。座席で眠るエルメェス。そしてストレッチャーに寝かされ赤いマントを被せられている何者か。
4人の姿を確認したリサリサは、語り始める。

「この車の後ろに、しがみつく取っ手と足場があったおかげで助かったわ。おかげで、少し身体を休めることができた。」

救急車が走り始めたころ、リサリサは波紋によって足の痛みを軽減し、なんとか立ち上がっていた。
そして、救急車が加速しきってしまう前に、車両の後部に追いつき、しがみ付いていたのだ。

「リサリサ! もうやめてくれ! そんなことをしても、JOJOは…… ジョセフ・ジョースターは喜びやしないッ!」
「本当にごめんなさい。スピードワゴンさん。あなたにはいくつもの恩があるし、感謝もしている。でも、私はあなたを殺さなくてはいけない。
死んでしまったジョセフのために、私が母親としてできるのは、これしか思いつかないから………」
「無駄よスピードワゴン! この女が今更説得に応じるようなら、ここまで執念深く追って来たりはしないわっ!」


迫るリサリサに対し、『ヴードゥー・チャイルド』で向かい打つシーラE。
しかし――――――

「エリエリエリエリエリエリ――――――ッ!!!」
「無駄よッ!! 『山吹き色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)』!!


シーラEの繰り出すは、スタンドの拳の連撃。
リサリサの繰り出すは、最も高い威力を持つ波紋の連撃。
シーラEは左肩の火傷を庇い、リサリサは左腕を失い、互いに片腕のみの攻撃が続く
スピードは互角。手数も互角。
しかし、ダメージを受けているシーラEと、痛みを軽減できるリサリサの拳。
パワーではまだ僅かに、後者が上回っていた。

「ぐはァ!」

リサリサの拳を胸に喰らい、シーラEの身体は吹っ飛ばされる。
スピードワゴンの座る運転席の背中に激突し、シーラEの身体は車内に崩れ落ちた。
波紋によって上半身は麻痺してまともに動かせなくなってしまった。

「残念だったわね。動きはなかなか悪くなかったけれど、あなたの人形には『パワー』が足りない。
そこで寝ているヒスパニックのお嬢さんと、2人を足して割れば、なかなかいい勝負になったかもね。」
「リサリサ………」

残るは、ハンドルを握るスピードワゴンのみ。
リサリサは大型の救急車の車内で歩を進める。絶体絶命だった。

(リサリサ……… なんて奴だ! もうあたしたちに…… 手はないのか?)

倒された体勢のまま動けないシーラEが、必死に頭を働かせる。
リサリサを止めることはできないのか?
思いを巡らせ、ふとシーラEの目に映ったのは、赤いマントをかぶせられたストレッチャー。
シーラEの頭に、先ほどのスピードワゴンとの会話の内容が巡る。


『一度目は、空軍パイロットであるジョージU世――― 彼女の夫が吸血鬼に謀殺された時――――』


「『ヴードゥー・チャイルド』ッッ!!」

329創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:29:28.10 ID:35nOKgA2
母親支援
330創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:30:42.57 ID:35nOKgA2
リサリサ支援
331創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:30:59.88 ID:AdRSlBna
  
332創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:31:40.07 ID:35nOKgA2
深夜支援
333創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:31:43.71 ID:OrpdO73p
支援んんんん
334創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:32:54.70 ID:AdRSlBna
  
335創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:33:06.76 ID:35nOKgA2
嫉妬支援
336BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:33:17.02 ID:/0wSlYM9

最後に力を振り絞り、シーラEはスタンドの腕を天に掲げ、振り下ろした。
狙いは当然リサリサ――――― ではなく、赤いマントの中で眠る遺体にだ!!




『スピードワゴ……さん……
 母…と……エリザベ……スと………ジョセ…を………』


赤いマントの内側から、ポツリポツリと言葉が漏れる。
『ヴードゥー・チャイルド』の能力によって作り出された唇が、辿たどしく言葉を紡いでいた。
この世に未練を残し、悔やみながら死んでいった男の言葉。
その聞き覚えのある声色に、リサリサの表情は蒼白し、わなわな震えている。


まさか――― まさか―――――――――ッ!!

「……そのっ マントの中はッ!! まさか――――――ッ!!」
「ああ、そのまさかさッ! あんたの旦那さんだよ! リサリサ…… いや、エリザベスさんよォ!!」

リサリサはストレッチャーに被せられたマントを引っぺがす。
中から現れたのは、彼女のかつて愛した男、ジョージ・ジョースターU世。その亡骸だ。

『……頼み……ま……』
「そんな…… ジョージ……! 私…… 私は――――――ッ!!」

そんなわけがない。
存在するはずがない。
そう頭で理解しているはずなのに、感情で理解ができない。
この数時間でいろいろなことが起きすぎて、脳がついにリサリサの脳はパンクしてしまった。
不意に直面した夫の姿に、彼女の戦意と殺意は、一瞬のうちに喪失した。


「これで終わりだッ! 旦那と一緒に夫婦仲良く…… 地獄に落ちなッ!!」

仰向けに倒れたシーラEが、唯一動く両足で、力いっぱいストレッチャーを蹴り飛ばした。
車輪のついたストレッチャーは勢いよく車内を滑る。
もはや呆然と立ち尽くすのみとなったリサリサの身体を巻き込み、ジョージを乗せたストレッチャーは、開け放たれた救急車のバックドアから投げ出された。

「アスタラビスタ…… ターミネーター女ァ――ッ!!!」

車外に投げ出されたリサリサは、時速60キロ以上のスピードで頭から地面に叩きつけられた。
救急車のストレッチャーは大破し、ジョージU世の遺体も近くに投げ出された。




「リサリサ…… ジョージ……… すまない………」

スピードワゴンは涙を流しながら、さらに救急車を走らせる。
目的地は東。
ようやく上半身の痺れが取れてきたシーラEがのろのろと車内後部に歩き、開け放たれたバックドアを閉じた。
救急車は登り始めた朝日に向かって走り去り、やがてその姿は見えなくなっていった。



☆ ☆ ☆
337創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:34:06.19 ID:AdRSlBna
  
338創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:34:18.40 ID:35nOKgA2
むむむ…これは支援
339創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:34:35.85 ID:AdRSlBna
  
340創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:35:36.24 ID:AdRSlBna
  
341創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:35:40.00 ID:35nOKgA2
どんどん支援
342創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:36:39.18 ID:35nOKgA2
うらま支援
343創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:36:40.83 ID:vfH1kgPa
うおお…支援!
344創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:36:58.63 ID:AdRSlBna
  
345BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:37:37.69 ID:/0wSlYM9

【Scene.7 宇宙人、ヴァチカンへ行く】


ここサンピエトロ大聖堂は真正面から姿を見せ始めた朝日に照らされ、黄金色に輝いていた。
聖堂内に篭城していたプッチ神父はサンピエトロ広場に何らかの気配を感じ、外の様子を伺った。
すると、広場の中央付近に大きな馬が唸り声を上げて暴れまわっている。
騎手の姿は見えない。裸馬だった。
どこかから迷い込んだのか、どうやら興奮状態にあるらしい。
なんにしても、キリスト教の聖地であるこの場所には、場違いな存在だった。

プッチはホット・パンツに声をかけ、2人は外に出た。
あんなうるさい馬を放置できないからだ。
プッチは暴れまわる馬に近寄り、ホット・パンツに『ホワイト・スネイク』の姿を見られぬよう気を付けながら、素早く馬から記憶DISCを抜き去った。

途端に馬はおとなしくなり、地面に座り込んで動かなくなった。
どうやった?と問うホット・パンツに、プッチはとぼけてみせる。
馬の記憶なんて覗いても仕方がないだろうし、さっさとDISCを処分してしまうか。
そんなことを考えているプッチをよそに、何かに気がついたホット・パンツが声を上げた。

「待って神父様! どこかで見たことがあると思ったけれど…… この馬、Dioの『シルバー・バレット』だ! さっき私の話したDioの愛馬です!」
「何だとッ!?」

その言葉に、プッチの顔色が変わった。
頭の中で、プッチは先ほどの思考を撤回する。
別世界、ジョッキーとして活躍していたDioの愛馬。
彼について、何か情報が得られるかもしれない。そして、何故Dioの愛馬がこんなところに迷い込んだのか?
多くの疑問と、それ以上の期待と好奇心がプッチの脳内を巡った。

「ム? あそこに倒れているのは誰だ?」

ホット・パンツが、今後は馬から十数メートル離れた地面に倒れる人間の姿を発見した。
2人は人影に近寄る。
間抜けそうな顔をした長身の男が、目を回して気絶していた。
シルバー・バレットに乗ってきた男だろうか。
馬に乗ってこのサンピエトロ広場に訪れ、興奮したこの馬から振り落とされ、落馬して頭を打った。といったところだろうか。
プッチとホット・パンツは、この気絶した男の処遇をどうするか、相談を始めた。





346創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:38:37.61 ID:AdRSlBna
  
347創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:39:55.30 ID:35nOKgA2
すばら支援
348創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:40:15.79 ID:AdRSlBna
  
349創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:40:45.08 ID:35nOKgA2
なやま支援
350創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:41:34.02 ID:35nOKgA2
支援
351BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:41:41.62 ID:/0wSlYM9


(ミキタカァ―――! あンのバッキャロォ〜〜! あんな目立つ場所で気絶しやがって!!)

ヴァチカンの国境沿い、サンピエトロ広場の外壁の支柱の一つに隠れ、ミスタは広場の様子を伺っていた。
ミキタカは暴走する馬に振り回され、この広場に辿りついたころに振り落とされてしまったようだ。

彼らにとっての不運は、このヴァチカン市国に先客がいたこと。
そして、ミスタがミキタカに追いつくより先に、その先客がミキタカに接触してしまったことだ。


(どうする? 出て行くか? しかし、相手は2人…… 何者かもわからない。だが、放っておいたらミキタカはどうなるかわからない)


ミスタの手の内にあるのは、3人で分けた閃光弾が2つ。
スタンドがまともな戦力にならないミスタが、こんなしみったれな武器を持っているくらいで出来ることなんて限られている。
もし相手がやる気満々だったとしたら、ノコノコ出ていくミスタの姿は、さながらライオンの檻の中に飛び込む間抜けな羊だ。

ミスタは支給品の懐中時計を取り出して時間を確認する。
放送まであと僅かだ。

(クソォ…… オレはこういう選択問題は苦手なんだよ! ブチャラティなら、ジョルノなら…… こんな時どうするッ!?)

飛び出すか、否か。
ミスタは選択を迫られていた。


352BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:42:44.34 ID:/0wSlYM9

【C-1 サンピエトロ広場 / 1日目・ 早朝】

【グイード・ミスタ】
[スタンド]:『セックス・ピストルズ』
[時間軸]:JC56巻、「ホレ亀を忘れてるぜ」と言って船に乗り込んだ瞬間
[状態]:健康
[装備]:閃光弾×2
[道具]:基本支給品一式、拡声器
[思考・状況]
基本的思考:仲間と合流し、主催者を打倒する
1.飛び出してミキタカを助けるか、否か。
2.ミキタカの傍にいる2人(プッチ&ホット・パンツ)は敵か、味方か。
3.ジョルノと再会したい。合流地点はダービーズ・カフェ。
(8時までにジョルノが姿を見せなければ無視するよう指示されているが……)
4.武器(特に銃)を手に入れたい。
5.死んでいったジョルノはわからないが、さっきまで一緒にいた彼はまぎれもなくジョルノだ。

※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。


【ヌ・ミキタカゾ・ンシ】
[スタンド?]:『アース・ウィンド・アンド・ファイヤー』
[時間軸]:JC47巻、杉本鈴美を見送った直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、閃光弾×2、地下地図、シルバー・バレット
[思考・状況]
基本的思考:ゲームには乗らない
0.気絶中
1.サイレンの音から遠ざかる ⇒ ひいいい!下ろしてくださいぃぃ〜
2.知り合いがいるなら合流したい
3.承太郎さんもジョルノさんと同じように生きているんでしょうか……?

※ジョルノとミスタからブチャラティ、アバッキオ、ナランチャ、フーゴ、トリッシュの名前と容姿を聞きました(スタンド能力は教えられていません)。
※第四部の登場人物について名前やスタンド能力をどの程度知っているかは不明です(ただし原作で直接見聞きした仗助、億泰、玉美については両方知っています)。
※シルバー・バレットは神父にDISCを抜かれて記憶を失い、大人しく座っています。

353創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:43:06.83 ID:AdRSlBna
  
354BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:43:59.53 ID:/0wSlYM9

【ホット・パンツ】
[スタンド]:『クリーム・スターター』
[時間軸]:SBR20巻 ラブトレインの能力で列車から落ちる直前
[状態]:健康
[装備]:トランシーバー
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本行動方針:元の世界に戻り、遺体を集める
1.この気絶した男は誰だ? こいつをどうする?
2.この世界の大統領を探す
3.プッチと協力する。しかし彼は信用しきれないッ……!

【エンリコ・プッチ】
[スタンド]:『ホワイト・スネイク』
[時間軸]:6部12巻 DIOの子供たちに出会った後
[状態]:健康
[装備]:トランシーバー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況] 基本行動方針:脱出し、天国を目指す。手段は未定
1.この気絶した男は誰だ? こいつをどうする?
2.シルバー・バレットの記憶DISCの中身を見たい。
3.ホット・パンツを利用する。懐柔したいが厄介そうだ……
4.ホット・パンツの話は半信半疑だが、「ジョースター」「Dio」「遺体」には興味

※プッチ達はミスタの存在には気がついていません。

【補足】
ホット・パンツの仮説
「ここはSBRレースの代わりにバトルロワイヤルの行われている世界。
大統領が何らかの理由で色々な世界からここに人間を集めている。」
プッチはこの仮説を信じていません。もっと複雑な裏があると読んでいます。




☆ ☆ ☆

355創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:44:22.95 ID:OrpdO73p
支援
356創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:44:56.43 ID:35nOKgA2
支援
357創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:45:27.01 ID:35nOKgA2
だい支援
358創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:45:40.79 ID:AdRSlBna
  
359創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:46:22.22 ID:35nOKgA2
はよ支援
360創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:47:13.75 ID:AdRSlBna
  
361創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:47:15.49 ID:35nOKgA2
伊西支援
362BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:47:53.57 ID:/0wSlYM9

【Scene.8 生き残る希望を捨てない少女たちの強い意志】


「スピードワゴン!! そこのトンネルに入れッ!!」

カイロ市街地を離れ、ティベレ運河を越えた東側へと車を走らせたシーラEたち。
彼女たちは古代環状列石の付近に設けられたトンネルの入口を発見し、地下へと救急車を走らせた。
落ち着いた環境でエルメェスの治療を行うため、周囲から身を隠せる地下へ逃げ込むことを選んだのだ。
トンネルに入り100メートルほど走らせたところで救急車を停止させる。


「エルメェスの様子はどうだっ! シーラEくんッ!!」
「正直言って、良くはないね。あの執念深いリサリサのおかげで、治療に取り掛かるのが思いのほか遅くなってしまった!」

壁の棚から予備のストレッチャーを取り出し、エルメェスの身体を寝かせる。
シーラEは患部の衣服を破り捨てるた。
改めて見るエルメェスの状態は素人目にも非常に悪く、痛々しい。
身体はアザだらけ。首には物凄い握力で締め付けられた痕。
そしてなにより、胸に開けられた大穴から、血液が溢れ出していた。
だが、胸に穴を開けられたにしては、これでも出血は軽いくらいである。

こんな大怪我で、生きているのが不思議なくらい。いや、普通ならば生きているはずがない。
心臓の破壊は免れたとはいれ、胸に穴を開けられ心臓は剥き出し状態。
その状態で長時間放置されたのだから、常人ならば出血多量で既に死亡しているはずだった。

それを免れたのは、エルメェスの強靭な精神力によるもの。
既に意識は完全に失われているが、それでも彼女はまだ、スタンドの一部を操っていた。
気絶しているにもかかわらず、彼女の『キッス』は胸の大穴を必死で塞ぎ続けていた。
すべてはエルメェスの、誰にも負けない生への執着心による物だった。

「スピードワゴン!! 止血剤とガーゼだッ! それに糸をくれ! 縫合するぞ!!」
「シーラEくん! きみ、医療の知識はあるのか?」
「そんなものない! 勘と見様見真似だッ!! だがっ、あたしたちがやらないとエルメェスは死んじまうだろうッ!!」

スピードワゴンを怒鳴りつけ、シーラEは自分に出来うる限りの処置を必死に施す。
『できる』か『できない』かじゃあない。
『やる』か『やらない』かなのだ。
絶対に彼女を助けられると信じているかが重要なのだ。

「はぁッ…… はぁッ……… 絶対助けてやるぞッ―――――― エルメェス!!」

自らの肩の火傷を抑えながらも、鬼気迫る表情のシーラE。
自分だってリサリサに散々痛めつけられているはずなのに……
彼女だって、いつ気絶してもおかしくない激痛と戦っているはずなのに……

「何故…… そこまでしてくれるんだ…… 君は?」

363創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:48:19.25 ID:35nOKgA2
160支援
364創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:49:04.99 ID:35nOKgA2
050支援
365創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:49:11.84 ID:AdRSlBna
  
366創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:50:11.63 ID:AdRSlBna
  
367BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:50:56.01 ID:/0wSlYM9

スピードワゴンは、つい聞いてしまった。


元々、エルメェスを助けたいとシーラEに頼み込んだのはスピードワゴンだった。
シーラEには、エルメェスに対しここまでする義理は何もない。
彼女が何故ここまで必死になってくれているのか、スピードワゴンにはわからなかった。



「………似てると思ったんだ。こいつは、あたしに――――――」

シーラEがポツリと言った。
また怒鳴られるのではないかと覚悟していたスピードワゴンは、シーラEのその掠れた小さな声に驚きを感じていた。



リサリサを体当たりでぶっ飛ばした時。
倒れていたエルメェスに初めに駆け寄った時。
シーラEはエルメェスの言葉を聞いたのだ。


「――――――姉さん、と。そう言ったんだ。こいつは」

その時、エルメェスは既に虫の息だった。
うわ言のように、ただの一言、『姉さん』と……。
エルメェスはそれ以上語ることもできず、シーラEもエルメェスについてそれ以上のことは何も知らない。
だが、その瞬間。シーラEは理解したのだ。


自分とこのエルメェスは似ている。
同じように愛する姉を失い、そして辛い過去を生きてきた人間なんだと。
そして、にも関わらず強い希望を持ち、現在を戦い続けている少女であることを――――――


言葉ではなく、心で。
魂と信念で理解できた。

エルメェスとシーラEは、いわば精神的な双子のような存在なのだ。



「助ける! 絶対に助けてやるぞ! エルメェス!!」

力強いシーラEの言葉に、スピードワゴンも頷いた。

絶対に死ねないというエルメェスの生命力と、絶対に助けるというシーラEの強い意志。
相対するは、死神の鎌と天国への扉。

どっちが勝つかの根比べだ。


368創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:51:39.97 ID:AdRSlBna
  
369創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:52:34.32 ID:zWjtoUNE
支援支援
370創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:52:52.24 ID:AdRSlBna
  
371BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:53:01.17 ID:/0wSlYM9

【B-5 地下 ウインドナイツのトンネル 救急車の中 / 1日目 早朝】

【前を向いた老人と姉を失った2人の少女】

【ロバート・E・O・スピードワゴン】
[スタンド]:なし
[時間軸]:シュトロハイムに治療され、ナチス研究所で覚醒する直前
[状態]:肉体的疲労(小)、精神的疲労(大)
[装備]:救急車
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.シーラEと共にエルメェスを助ける。
2.リサリサ…… ジョージ……… すまない。
3.最初の場所で殺されたのはジョセフ……?

[備考]
救急車内に、エルメェスの基本支給品、ジョージ・ジョースターU世の支給品(基本支給品一式・ナランチャの飛び出しナイフ)があります。
スピードワゴンの支給品の一つに、ドノヴァンのマントがありました。ジョージU世の遺体に被せられていましたが、ジョージの遺体とともに救急車から投げ出されました。

【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:全身打撲、左肩に重度の火傷傷、肉体的疲労(大)、精神的疲労(大)、普通なら気絶しているほどの痛みがある
[装備]:救急車
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2(確認済み/武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
1.自分と似ているエルメェスを何が何でも助ける。
2.主催者のクソジジイを探し、殺す
3.リサリサの生死を確認したい。もし生きていたら殺す。
4.邪魔する奴には容赦しない
5.身体を休めたい。

[備考]
参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
(もちろんジョルノも面識がありますが死んだと思っていますので彼女の中では除外されています)
元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。
移動経路については大して考えていません。以降の書き手さんにお任せします。

エルメェスに自分に近いものを感じています。
ただし、エルメェス自身のことはほとんど何も知りません。なんとなく感じているだけです。

【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前。
[状態]:気絶中。重体。全身痣だらけ。胸に大穴を開けられて出血している。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.気絶中
1.徐倫、F・F、姉ちゃん…… ごめん

[備考]
エルメェスは生きているのが不思議なくらい痛めつけられています。
客観的に見て、助かる確率は非常に低いです。
素人の手術では生存率は5%未満と考えていいでしょう。

☆ ☆ ☆
372創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:53:59.74 ID:AdRSlBna
  
373創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:55:08.52 ID:AdRSlBna
    
374創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:56:11.65 ID:AdRSlBna
  
375BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:56:13.74 ID:/0wSlYM9

【Scene.9 時を超えた義姉弟】


遠くでサイレンの音を頼りに、ウェザーと琢馬は東に進路を変えていた。
そうしてB-3エリアの北東部あたりまで辿りついたかと思えば、今度は走り去っていく救急車の姿を目撃した。
ウェザーはその動きを目で追うのがやっとだったが、琢馬は視線を横切る一瞬で救急車の詳細な状態を見極めていた。

車両前方にはものすごい衝撃で何かに衝突した凹み。
そして白い車体を真っ赤に染める、何者かの血液の痕。
フロントガラスは派手にひびが入り、割れそうだった。


運転手の顔にも見覚えがあった。
ウェザーに悟られぬよう【本】で【検索】し、出た答えに驚愕する。

救急車を運転していたのは、あのスピードワゴン財団の設立者、ロバート・E・O・スピードワゴンの晩年の姿だった。
しかし、スピードワゴンは1952年に心臓発作で死亡している。障害結婚はせず、子はいなかったはずだ。
他人の空似にしては、あまりにも瓜二つすぎる。


そして、救急車自体も特異な存在だった。
救急車の後部にでかでかと記された「杜王消防署」の文字。
あの車体は、琢馬の住む杜王町で使われている救急車と同じ種類のものだ。

ナンバープレートの番号を【検索】し、車両を特定する。
なんとあの車は、昨年の初夏に事故でとある会社員を轢き殺したものと同一の車両だった。
被害者の名前は、吉良吉影。

吉良は事故死する少し前に謎の失踪を遂げており、オカルト好きな千帆が興味を持っていたことを思い出した。
吉良の失踪した日は、ムカデ屋でガス爆発があったあの日―――
琢馬が街中で承太郎を見かけたあの日とも一致していた。
さらに、吉良吉影という男の家は、配布された地図の中にも記されていたではないか。


(なんだというのだ。まったく………)


琢馬の記憶を辿れば、パズルのピールはそれこそ無制限に広がっていく。
だが、真相に辿り着けている気はまったく起きない。
自分たちの身に、一体何が起こっているのか。考えれば考えるほど、謎は深まる一方だった。

376創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:57:24.93 ID:35nOKgA2
支援
377創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 00:57:39.66 ID:AdRSlBna
  
378BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 00:58:43.29 ID:/0wSlYM9

琢馬とウェザーは取り敢えず、救急車の走り去った方へ向かうことにした。
救急車に追いつけるはずもないが、特に目的地もあるわけではない。
そうして道路沿いにいくらか進み、会場内で北から2番目の橋の手前の地面に倒れる2人の人間を発見した。
近くには大破した医療用のストレッチャーの残骸がある。数分前にさっきの救急車がここを走り去ったはずだから、その車内から投げ出されたと推理するのが自然だった。

「こっちの男は駄目だ。もう死んでいる。だが、地面に投げ捨てられて死んだわけではない。
もっと以前から死んでいたようだ」

男の方へウェザーが駆け寄り、確認する。
ウェザーは倒れている男の様子を観察して、遺体の状態を端的に告げた。
それを聞いて琢馬の方は、もうひとりの女性の方へ足を運んだ。

「こっちはまだ生きている。だが、もう助からないだろう。頭が割れて出血がひどい。
それに左腕は途中で無くなっているし、全身血塗れだ」

全身にある打撲と切り傷のあとは、車に轢かれたあとのようだった(自分も経験があるからなんとなくわかった)。
状況を考えると、さっきの救急車に轢かれたのはこの女かもしれない。
そして、致命傷である頭部の傷が真新しいことから、女の方は救急車から叩き落とされたのだろう。
まあ、事実がどうであれ、東方仗助の能力でも使わない限りこの女は死ぬだろう。
もちろん、琢馬はそんなこと口にはしないが。




「お前たち! そこで何があったか見ていなかったか!?」


後方から不意に掛けられた声に、ウェザーと琢馬は振り返る。
そして現れた少年の顔を見て、2人は目を丸くした。
そこに立っていたのは、忘れようにも忘れられない奇抜な髪型をした金髪の少年。
ゲーム開始前のデモンストレーションとして殺された、空条承太郎の隣に座っていたあの少年だったのだ。

ジョルノにしても、2人のこの反応は想定内。
できる限り刺激を与えないように心がけ、ジョルノは2人に更に語りかける。

「僕の名前はジョルノ・ジョバァーナ。僕自身の存在について疑問を感じるのは当然でしょうが、僕はあなたたちと争うつもりはありません。
それより、そこに倒れている人たちに何があったのか? ここで何があったのか知りたいんです」

傍にいたからといって、加害者だと疑って掛かるような短絡的な思考は持ち合わせていない。
もちろん警戒を怠るようなことはないが、無意味に争いに発展するようなことを避けたい。

東洋人の少年と、白人の壮年男性。
人種も年齢も全く違うにも関わらず、行動を共にしていた。
ゲームに乗っている可能性は低いのではないか、そう判断したからこそ、ジョルノは2人に声をかけたのだ。

琢馬は未だ懐疑心を向け無言を貫いていたが、ウェザーがジョルノへの警戒を軽くし、説明を始めた。

379創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:00:04.40 ID:AdRSlBna
  
380創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:00:48.61 ID:OrpdO73p
支援!
381創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:01:30.24 ID:AdRSlBna
  
382創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:01:56.29 ID:35nOKgA2
サカ支援
383BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 01:02:15.77 ID:/0wSlYM9

「俺たちもここへ来たばかりで、詳しいことは何もわからない。だが、この2人は走り去った救急車の車内から投げ捨てられたものだと思う。
こっちの男は既に死んでいる。そっちの女も虫の息だ」

ジョルノに掻い摘んだ状況説明をするウェザー。
黙っている琢馬の様子を伺いながら、ジョルノは彼らのもとへ駆け寄った。
死んでいる、と紹介された方の男の顔を一瞥し、ジョルノはふと『自分と似ている』という感想を持った。
だが既に死んでいる人間について深く考えることは放棄し、虫の息であるという女性の傍へ駆け寄る。
何を考えているのかわからない琢馬の動きを警戒しつつも、ジョルノは倒れている女性の状態を調べる。



「これは酷いですね。特に頭からの出血がすごい。こんな状態で生きている方が不思議なくらいだ」

軽く身体に触れる。
『ゴールド・エクスペリエンス』の能力によりさらに詳しく分析する。
彼女の生命エネルギーは尽きかかっている。
全身の骨が4割近く骨折しており、中には粉々に砕けているものもある。

先端部を失った左肘からも出血も酷く、痛みは相当なものだろう。
まるで、強力な脳内麻薬を用いて痛みを忘れさせ、身体を酷使させ続けたような状態だった。


(だが、助けられるかもしれない。僕の『ゴールド・エクスペリエンス』ならば……)

だが、彼のスタンドの治癒能力はあくまで身体の『部品』を作り出すもの。
患者の体力がここまで消耗していては、可能性は低いかもしれない。
たとえ助かっても、完治させることは難しいだろう。
だが、それでもジョルノが手を差し伸べることによって、この女性は命をつなぐことができるかもしれない。


しかし、ジョルノはなかなか治療に踏み切る決断ができなかった。


(この女性を助けてしまって、本当にいいのだろうか。)


先刻ジョルノが訪れたカイロ市街地北部の悲惨な惨状を思い出し、ジョルノは躊躇していた。
あそこに転がっていた腕は、ほぼ間違いなくこの女性のものだった。
つまり、この女性は、あの凄惨が戦場跡の当事者なのだ。
あれほどの戦いを経験し、なおも生き永らえている人物。
もし危険な人物だったとしたら、自分の手に負える相手なのかどうかわからない。



女性の身体に手を添えたまま考え倦ねているジョルノの手の甲に、力なく別の手のひらが添えられた。

384創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:02:57.33 ID:AdRSlBna
  
385創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:03:14.73 ID:35nOKgA2
支援
386創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:03:21.57 ID:AdRSlBna
  
387創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:04:11.50 ID:AdRSlBna
  
388創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:04:16.69 ID:35nOKgA2
支援支援
389創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:04:56.35 ID:AdRSlBna
  
390BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 01:05:33.39 ID:/0wSlYM9

「!?」
「まさか………」
「………………」

予想外のことにジョルノは驚き、琢馬も感嘆の声を漏らした。
そしてその様子を、ウェザーは一歩離れて見つめていた。
虫の息だった女性がわずかに意識を取り戻し、ジョルノの手に自分の手のひらを重ねたのだ。
そして、女性の瞳はジョルノの目を見つめ返し、そして掠れた声で呟いた。


「あなた…… ジョージ……… ごめ…… なさい……… わたし………」


それだけ呟き、女性の右手からは再び力が失われた。
瞳は閉ざされ、再び意識を失ってしまった。


(ジョージ…… 誰のことだ。僕のことを誰かと見間違えたのか?
もしかして、ジョージとはそこで亡くなっているもうひとりの男性のことでは………)

再び、黙り込むジョルノ。
決意は固めた。

「ジョルノ・ジョバァーナ。一体何だというのだ? その女は何者だ?」
「僕にもわかりません。ですが、僕は今から僕のスタンド能力で、彼女の治療を行います。手を貸してくれませんか?」

黙り込むジョルノに、ウェザーは質問を投げかける。
そしてジョルノは強い決意と込めた言葉で、ウェザーに意思を示した。
ウェザーは無意識のうちに、ジョルノのその真っ直ぐで輝かしいオーラを気に入り、自らの意思も固めた。


「わかった。俺たちもお前に聞きたいことはたくさんある。お前は悪人ではないようだし、とりあえず信じて従おう」
「俺もこいつほどお前を信用しているわけではないが、とりあえずは了解した」

ジョルノの正体。
見せしめとして殺されたはずのジョルノがなぜ生きているのか。
聞きたいことは山ほどある。
ウェザーと琢馬はジョルノの提案をのみ、行動を共にすることを了承した。

「ありがとうございます。よければ、おふたりの名前をお聞きして宜しいですか?」
「ウェザー・リポート」
「………蓮見琢馬だ」



運命に導かれて引かれあったジョルノ・ジョバァーナとジョージ・ジョースターU世。
彼らは父親も母親も違う、そして年齢すら100歳近く離れた実の兄弟である。
そしてジョージの妻、エリザベス。
彼女こそが今回の災悪の現況であることを、ジョルノたちはまだ知らない。
世代をも超えたこの運命的な出会いは、ジョルノ・ジョバァーナの未来に何を及ぼすのか。

時刻はまもなく、午前六時。
ローマは第一回放送の朝を迎える。


391創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:05:39.59 ID:AdRSlBna
  
392創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:05:39.86 ID:35nOKgA2
支援支援ッ
393創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:05:58.51 ID:AdRSlBna
  
394BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 01:06:11.57 ID:/0wSlYM9

【A-3 ピエトロ・ネンニ橋の西側 / 1日目 早朝】


【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:健康、やや興奮状態
[装備]:閃光弾×1
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える 。
1.瀕死の女性(リサリサ)の治療を行う。
2.ウェザー、琢馬と情報交換。
3.ミスタたちとの合流。できれば午前8時までにダービーズ・カフェに戻りたい。
4.この女性(リサリサ)とジョージとの関係は? カイロ市街地北部で一体何があった?
5.救急車の行方など、その他のことは放送後にゆっくり考える。

[参考]
時間軸の違いに気付きましたが、まだ誰にも話していません。
ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。
ウェザーについてはある程度信頼、琢馬はまだ灰色です。


【ウェザー・リポート】
[スタンド]:『ウェザー・リポート』
[時間軸]:ヴェルサスに記憶DISCを挿入される直前。
[状態]:身体疲労(中)、右肩にダメージ(中)、右半身に多数の穴、
[装備]:スージQの傘、エイジャの赤石
[道具]: 基本支給品×2、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア)
[思考・状況]
基本行動方針:襲いかかってきたやつには容赦しない。
1.ジョルノと情報交換。特に見せしめで死んだはずのジョルノの秘密が知りたい。
2.琢馬について、なにか裏があることに勘付いているが詮索する気はない。
 敵対する理由がないため現状は仲間。それ以上でもそれ以下でもない。
3.妹、か……
4.今後については放送後、ジョルノ、琢馬らと相談して決める。


395BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 01:06:37.49 ID:/0wSlYM9

【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中。
[状態]:憂鬱、思案中、精神疲労(中)、身体疲労(小)
[装備]:双葉家の包丁
[道具]: 基本支給品、不明支給品2〜4(琢磨/照彦:確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。
1.ジョルノと情報交換。特に見せしめで死んだはずのジョルノの秘密が知りたい。だがジョルノはまだ信用できない。
2.千帆に対する感情は複雑だが、誰かに殺されることは望まない。
3.千帆との再会を望むが、復讐をどのように決着付けるかは、千帆に会ってから考える。
4.妹、か……
5.今後については放送後、ジョルノ、ウェザーらと相談して決める。

[参考]
参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
琢馬は救急車を運転していたスピードワゴン、救急車の状態、杜王町で吉良吉影をひき殺したものと同一の車両であることを確認しましたが、まだ誰にも話していません。
スピードワゴンの顔は過去に本を読んで知っていたようです。


【リサリサ】
[時間軸]:ジョセフの葬儀直前。
[状態]:気絶中。重体。頭部裂傷(致命傷)。全身複雑骨折。左腕切断(肘から先)。精神崩壊。
[装備]:承太郎のタバコ(17/20)&ライター
[道具]:基本支給品、不明支給品1
[思考・状況]基本行動方針:優勝してジョセフを蘇らせる。
1:???

[参考]
リサリサの頭部の傷は生きているのが不思議なくらいの致命傷です。
ジョルノの治療がなければ数分で死亡します。
また左腕の切断部からの出血も激しく、こちらも放置すると死に至ります。
その他、救急車の体当たりを食らった際に全身打撲および複雑骨折を負い、まともに動ける体ではありません。
(作中では波紋の呼吸により痛みを軽減して無理をしていました)
ジョルノの治療を経ても完治することは難しいです。
特に脳には重大な障害が残る可能性が高いです。(重要)

※リサリサが初めから所持していたサングラスは破壊されました。
現在は裸眼です。
396創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:06:58.40 ID:AdRSlBna
  
397創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:07:43.71 ID:35nOKgA2
支援
398BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 01:11:12.79 ID:/0wSlYM9
おわりで〜〜〜す
めっさ疲れましたイエーーーーイ
結構自己解釈で書いた部分もあるけど二次創作だからちかたないねwwwwwww

もうスタンド使いVS非スタンド使いの戦闘は書きたくないwwwwww
めっちゃ難しいぜwwwwwwww

リサリサがたーみねーちゃん過ぎてワロタwwwwwwww
当社のリサリサは特殊な訓練を受けておりますwwwwwwwww
いいリサリサは決して真似しないでね(ハート)

実は金田一少年より長編だったりしますwwwwwwww
パネえwwwwwwww
長いのばっか書きすぎでワロタwwwwwww

c.g氏の才能がウラヤマシイッスwwwwwwwwww



それでは、感想、矛盾点、誤字脱字等の指摘があればよろしくお願いします(キリッ
399創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:15:42.50 ID:35nOKgA2
投下乙です
すみません、感想は明日に
眠い……
400創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 01:15:55.28 ID:OrpdO73p
投下乙です
いろいろスゴかったですがかかったわねで盛大にワロタ
401 ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/11(月) 01:29:02.04 ID:Q9Y2HE3R
投下乙です!
いやー…面白かったとしか言えません
リサリサも不死身すぎてスゲエエエって感じですが、心臓潰されて生きてるエルメェスもなかなかにたーみねーちゃんw
そしてあちこちに火種ばらまかれすぎて放送後が不安です…

えーっと、拙作の本投下は延長した方いい気が…
もしその方がよさそうなら明日の23時ころに本投下しにきます
402創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 21:10:24.21 ID:6N1u6pxJ
まじリサリサさんターミネーター
403創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 22:27:37.92 ID:RmTLmj22
投下乙でした。
感想、もうすごいとしか言いようがないwあっちこっちに戦闘が飛び火して、今後どのグループも執筆のし甲斐がありそうです。
そしてなんといっても随所に仕込まれている小ネタ。
かかったわねおバカさん!だけじゃなく、戦闘『可』能とか、ジョジョっぽさを随所に、かつ、さり気なく入れてるあたりが流石です。
面白い作品ありがとうございました!
404 ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/11(月) 23:09:35.71 ID:Q9Y2HE3R
ブチャラティ、ルーシー、ディエゴ、ギアッチョ、投下します
405暗いところで待ち合わせ  ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/11(月) 23:13:23.00 ID:Q9Y2HE3R
握った彼の手には、温度がなかった。
雪の溶け出す小川にそっと指をつけたような、背中がすっと冷える冷たさ。それが、彼の大きな手に触れた時の感覚だった。
きちんとした医学知識を持っている訳じゃない。けれど脈を計るために重ねた指からは、一つの鼓動も感じられなかった。

それでも、脈もない、温度もない、そんな死人の身体を持つブチャラティの瞳は――強い光を持って活きている。

「ねえ、どうしてあなたは死んでいるの?」

私に手を触れられたまま、沈黙を守るブチャラティにもう一度同じ言葉を投げかける。彼は見開いた目を閉じた。
レバーから手を下ろし、私の手もそのまま振り払う。それは柔らかい拒絶だった。

「どうして……?」

ブチャラティのその一言で、車内の温度まで冷え込んだ気がした。それでも私は座席から乗り出した身体を戻すことない。

「ごめんなさい……私、読唇術を習ったことがあって。ほんのちょっぴりだけど……」
「つまり俺がさっきしていた事を見ていたと?」

無言で頷くと、ブチャラティは両手でハンドルを握りしめた。

彼は怒っているのかしら。
私が盗み聞きみたいな事をしたせい?
余計な事を言ったせい?

罪の意識と恐怖が、私の喉を締め上げる。ブチャラティが身体を動かす音が、やけに耳に響いた。
でも私の震える手に気がついた彼は、それを見て笑った。この殺し合いに巻き込まれてから何度も見てきた、安心させようとする優しい微笑み。

「ああ……すまない。別に怒っている訳じゃあないんだ!ただ俺は驚いただけで」

不思議と人の心を落ち着ける声だ。私も安堵の笑みを浮かべることができる。
しかしブチャラティはその微笑みをかき消すと、顔を近づけてきた。じっと私の瞳を覗き込む彼に、再び緊張が走る。 なんて強い目なのかしら。

「君は不思議な子だ……。ただの少女かと思っていたが、強い意志と行動力を持っている」
406BLACK LAGOON ◆vvatO30wn. :2012/06/11(月) 23:15:38.67 ID:/0wSlYM9
支援
407創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:15:55.01 ID:/0wSlYM9
支援
408創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:17:29.80 ID:noaoRd69
支援
409暗いところで待ち合わせ  ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/11(月) 23:18:00.69 ID:Q9Y2HE3R

――そんなことはない。
その言葉は声にならなかった。
――私が持っているとすれば、それは……あの人への愛だけよ。
ブチャラティの方がよっぽど強い何かを持っているくせに、そんな事を言う。そうだ。彼はジャイロ・ツェペリに似ているのかもしれない。どことは言えないけれど、その前だけを見つめる背中とかが。
そっと、彼の手が私の頬を撫でる。一瞬の冷たさに、私は思わず息を忘れてしまった。恋人のような甘いものではない。子供に何か言い聞かせるような仕草で。

「君が信頼できない訳じゃあないんだ……。ただ『知らなくていい事』とか『知らない方がいい事』はいくらでもあるだろう。
 ……君に秘密はあるように、俺にも言えない事はある。
 気をつけて……。純粋すぎる好奇心は君を傷つける事もあるから」

頬を撫でた手がそのまま下へ下りる。とん、と一度だけ軽く心臓の上をその指が示した。彼に撃たれた心臓がズキズキと痛み出す。
ブチャラティは固まったままの私を横目で見て、ハンドルとレバーに手をかけた。
彼の目線から開放された私は、呪縛から開放されたように車の座席に体重を預ける。体温が上がった。異常な程のスピードで、血液が巡っている気がする。思わず胸を片手で握りしめてしまうくらい。

「すまない……。君を責めている訳じゃないともう一度言わせてくれ。
 ただ、これは言い訳みたく聞こえるかもしれないが……聞かない方が君のため、という事さ」

分かっている。
彼が私を責める気などなく、私の身を案じてくれているだけだということは。瞳がそう語っていたから。

だから私が怯えているのは、もっと違うこと。
一つの単純な恐れ――。
私が嘘をついたことを、彼は知っている……!

こんな目をした人を欺けるなんて思ってはいけなかった。私は甘かったのよ。
そして何より、彼は私を信じてくれている。その信頼を裏切っているという事実が、私にはひどく重い。
私もブチャラティの事を信じている。でもそれ以上に彼の敵を裁く躊躇いのない姿は、私を不安にさせる。

気がつくと、窓から見える景色は前から後ろへ流れていた。ブチャラティは無言でハンドルを握っている。その姿を見ていられなくて、私は景色をじっと眺めることにした。
窓に写った私の顔はひどく憔悴しきっている。怯えた瞳から一粒だけ流れた涙を、ブチャラティに気づかれないように拭った。


410創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:18:56.57 ID:/0wSlYM9
411創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:20:15.50 ID:/0wSlYM9
412創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:22:22.33 ID:noaoRd69
413暗いところで待ち合わせ  ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/11(月) 23:23:25.68 ID:Q9Y2HE3R
※※※



「――シー……ルーシー?」

その声に目を覚ました。心地よく揺れる感覚に、私は眠ってしまっていたらしい。はっとして運転席のブチャラティを見ると、真剣な顔で私を見ている。

「あ……ごめんなさい!」
「いや、いいんだ。休めるときに休んだ方がいい……。それより、少し降りよう」

ブチャラティの発する緊迫感は、どうやら外へ向けられているらしい。それでも、肌を刺すような緊張は車内を支配していた。
彼は私に声をかけながらも、じっと外を見ている。その様子に身体は強張った。私はブチャラティに続いて車を降りる。

「これって……」

そこで見たのは、一目で分かる悲劇の跡だった。

地面には穴が幾つも穿たれている。弾丸の跡のような丸いものや、切り裂いたような跡。辺りをキョロキョロと見回していると、地面が不自然に黒く染まった場所がある事にも気がついた。
あれはもしかして――。

「ルーシー。此処は独立宣言庁舎だ」

ブチャラティがいつの間にか取り出していた地図を私に見せてくれる。確かに此処は見覚えのある独立宣言庁舎だ。しかし人の気配は全くない。

「見ての通り、どうやら此処で何か衝突があったようだ。そして恐らく……死人が出ている……」

ブチャラティがその言葉と同時に赤黒く染まった地面を足先で示す。
やっぱりこれは血。それもかなり大量の。
詳しい事は分からないけど、この量の出血は危ないってことなんだろう。羽織っていたフードを握りしめ、改めて思う。やっぱりこれは殺し合いなんだ。

「だが恐らく、此処で戦闘があったのも少し前のことだ。生き残った方も既にどこかに立ち去っているとは思うが……」

ブチャラティはそう言って考え込んだ。彼の思案を邪魔しないように、私は黙って地面を見つめる。
きっと彼は今、私なんかには難しくて分からないことに集中してるのね。でもブチャラティが再び口を開くのに、そんなに時間はかからなかった。

「……とにかく、少しこの辺の捜索をしてみよう。ルーシー、危険だから俺の側を絶対に離れないようにしてくれ」

その言葉にした頷こうとして、止めた。
414創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:27:25.88 ID:noaoRd69
しえん
415創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:27:26.64 ID:/0wSlYM9
試演
416創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:28:07.22 ID:noaoRd69
四円
417暗いところで待ち合わせ  ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/11(月) 23:28:36.60 ID:Q9Y2HE3R

「いえ……ブチャラティ。私、どこかに隠れて待ってるわ」
「え?」
「万が一戦闘になったら、私がいたら足手まといでしょ?それにきっと貴方だけの方が探索もすぐに済むと思うし……」
「だが……」
「此処も人が寄ってきたら危険だろうし、車の中も目立つから……そうね、何処かの民家の中で待ってる」

そう一息で言い切ってから、ブチャラティを見つめる。彼は何か言いたげだったが、結局口を紡いだ。
小さく分かった、と了承するブチャラティ。本当は安心したけれど、それを隠すために微笑む。

「なるべくすぐに戻る。何かあっても出来るだけを離れないでいてくれ」
「ええ」

そして私は辺りの民家へ目を通す。目立たなくて、この場に溶け込んでいて誰も見向きしないような家――。
私は適当な一件を指さした。外から見てもおかしなところはないし、人の気配もないみたい。

「あそこ、あの家に隠れてることにするわ……。外から分からないように灯りはつけない」

彼が頷いたのを見て、私は小走りに駆け出した。後ろは振り向けない。
――きっと、彼が私を穿つような目で見ているから。



※※※



民家の一階、カーテンの閉まった窓のすぐ下に私は荷物を下ろした。カーテンをちょっぴり開けて外を見てみる。外は少しずつ白んできているような気がした。
この家は、やはり何の変哲もない民家のようだった。ぼんやり暗がりの中に見える内装からは生活感が漂っている。それなのに、どこか歪で作られたような違和感を感じるのはなぜなのかしら。
窓の外からはさっきまでいた独立庁舎前の道が見える。ブチャラティの姿はもうなかった。そして車も。車で辺りを回るつもりなのか、どこかに車を隠したのかは分からない。
カーテンを隙間のないように閉めると、部屋は真っ暗になった。灯りのない、静かで寂しい部屋。

自分がワガママだということは十分わかっている。でもそれを押してでも一人になりたかったのは、少しだけ考える時間が欲しかったから……。
悩んでいる私の顔を、ブチャラティには見せたくなかった。

このままブチャラティに全てを隠したままで一緒にいてもらおうなんて、私はズルいのかもしれない。
もしこの殺し合いに、大統領とか遺体が――そして『大統領に呼び出された最後の刺客』が関わっているなら。私のこの行為は、彼の信頼を傷つけるひどい裏切りだわ。
……それでも私は怖い。
私には想像出来てしまう。正義の人であるブチャラティが、スティーブンを真っ直ぐな目で切り裂く姿が。それを……甘んじて受け入れてしまう、夫の姿が。

私は窓の下で、膝を抱えて座っていた。考えれば考えるほどに自然と涙が零れそうになり、唇を噛み締める。
一人は怖い。
でも今は一人がいい。
418創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:28:51.42 ID:35nOKgA2
支援
419創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:29:27.39 ID:noaoRd69
支援
420創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:30:19.06 ID:/0wSlYM9
シエン
421創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:32:01.28 ID:35nOKgA2
支援
422暗いところで待ち合わせ  ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/11(月) 23:33:09.79 ID:Q9Y2HE3R

真っ暗闇の中、どのくらい一人でいたんだろう。
そんなに長くはなかった気がする。

トントン、と音がした。

リズミカルに床を叩く音。それが二種類重なって聞こえる。
はっとして部屋のドアを見つめた。目線を外さず、音も立てないようにゆっくり立ち上がる。

間違いない。
『誰かが階段を降りてきている――』
二つの足音は部屋の前で止まった。

誰かがいる。部屋に入ってくる。侵入者だ。
いや、違う。彼らは元から此処にいた。二階にいた。侵入者は私だ!

悲鳴を上げそうになる口を必死に抑える。何も見えない中で、音だけが状況を教えてくれていた。

ドアノブのまわる音。
左手は口を抑えたまま、右手は鉈を握りしめる。二つの足音がゆっくりと床を踏みしめて部屋に入ってきた。
後ずさろうとして、背中が壁にぶつかる。カーテンの擦れる音が、部屋中に響いた。

「やはり……誰かいるな」
「――っ!」

恐怖で頭が真っ白になる。
喉から小さな声が絞り出された。言葉になっていない、悲鳴にすらならないうめき声だった。

「高い声……女か?」
「此方に戦う意志はない。ひとまず落ち着いてくれ」

ドアの前に立っているらしい二人のせいで、私はもうこの家の外には逃げられない。窓から逃げるという手もあるけれど、『この暗闇の中でカーテンを開いて鍵を探し解錠をして飛び出す』……そんなことをしている余裕もなく捕まってしまう。
だったら私が取らなくてはいけない行動はただ一つ、時間を稼ぐことだ。
声からして、両方とも男。まともに戦っても勝てないわ。
息を吸い込んで、出来るだけ落ち着いた声を出そうとしてみる。もう随分とおびえている空気は伝わってしまっているけれど。

「――外の……血の跡は?」
「……」
「知らない、関係ない……なんて言えないでしょう?」

挑発にも取られてしまいそうな発言だったと気がついたのは、暗闇が静寂に包まれてからだった。
がしがしと頭を掻く音と、舌打ちが聞こえる。思わず息をのんで後ずさってしまい、踵が壁を打った。

「君の予想通り……あそこで戦闘があった。戦ったのは、俺達と襲撃者だ」
「襲撃者……?」
「ああ。おそらく殺し合いに乗った者だろうな」

私の質問に答えているのは、二つの声の内の一人だけだった。先ほど舌打ちした方の男は黙っている。
光のないこの状況で、三人の呼吸とポツポツとした話し声が部屋を支配している。

「襲撃者は二人組。片方には逃げられてしまい、今は二人でこのあたりを探していた所だ」

……つまり、もう一人はもうこのゲームから下ろされたという事なんだろう。その命を代償に。
まだ警戒は解けない。
私と同じ、この戦場下において、「ウソ」は重要な意味を持つんだから。
でも無防備な女の私を即座に狙わなかったという事は、この人たちには殺し合い以外の狙いがある……のかも。警戒しているだけの可能性だって十分あるけどね。

「貴方たちは……二人?」
「ああ」
「いや、三人だった」
423創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:33:50.69 ID:/0wSlYM9
私怨
424創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:36:37.51 ID:35nOKgA2
支援
425創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:38:00.34 ID:35nOKgA2
支援
426暗いところで待ち合わせ  ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/11(月) 23:38:37.64 ID:Q9Y2HE3R

二人の会話に混ざってきた声は、もう一人の男のものだった。
その声に含まれる感情が、うまく読みとれない。でも何かを必死に押し殺しているような、そんな気がした。悲しみ?怒り?

「……おい」
「本当のこと言っといた方がいいだろう……」

二人が静かに何かを探り合うような時間が流れた。
しばらくすると――どちらかというと落ち着いた声の男の方が、折れたようで「分かった」と声が聞こえる。

「俺は……その戦いで仲間を失った」
「ッ!」
「だが俺は『逃げたもう一人』を討つだけで満足するつもりはねぇ……。本当に叩かねぇといけないのはもっと上だ」

まさか。考えられる最悪のシナリオが頭の中に展開される。
もっと深刻に予想すべきだった。さっきまでの状況が『最悪』ではなかったッ!

「俺たちは主催者を引きずり落とす――そして俺たちの誇りのために、報いを取らせる」

あの会場にいた百人以上の中で、一体何人が夫の命を狙っているの!?


大統領が裏にいることは分かっている。
そして……その他の百人以上の参加者までも、スティーブンを殺そうとしているかもしれない。
もしも誰かがこのゲームの黒幕に近づいたとして、その時に夫が「トカゲの尻尾」にされるのなんて分かり切ったこと。

またしても、私の身体は小刻みに震えている。鉈を両手で握りしめて震えを止めようとしても、荒い息が漏れるのは止められない。
この鉈だけが、私とスティーブンを繋いでくれている証のような気がする。

助けて、と誰に向けているのかも分からない救いを求めてしまう。もうこの世界に希望なんてないような、暗闇の中に彷徨う気分だった。

「……だが、俺にはあの演説かましてた爺が全ての黒幕だとはどうしても思えねえんだよ」

でもその中に小さな火が見える。
あまりにいきなりの事で、私は声も上げられずに男のいるだろう方向を見つめていた。

「あんな何百人から恨まれるって分かり切った状態で堂々と顔晒すなんて狂気の沙汰だぜ。あの爺がそんな狂った奴には思えねぇ」

思わず頷きたくなるのをこらえて、私は彼の言葉を待った。

「黒幕は、暗い穴蔵の中にいる。そっちを叩かなくちゃあ、終われねえ……爺は利用されてるだけかもしれないしなあ」

ドッと、全身から力が抜けたような気がした。今までずっと私を支配していた緊張が消えて、座り込みそうになってしまう。

この人なら、この人たちなら分かってくれるかもしれない!
一歩、二歩と足が彼らの方へ進んでいく。ぼんやりと二人の影を捉えた。

「君は一人かな?一緒に行動しないか。少しでも協力者が欲しい
「え、あ……実は一人、人を待っていて……。彼に聞いてみないと……」

でもきっと、ブチャラティだって協力者が欲しいはず。上手くいく。全て上手くいくわ!
もうひっそりと隠れる必要もないだろう。荷物の中から懐中電灯を取り出して彼らに向けた。
新しく仲間になるだろう二人の姿を確認したい。弾くような高い音が聞こえて、暗闇は瞬間掻き消える。
427創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:39:49.82 ID:noaoRd69
支援
428暗いところで待ち合わせ  ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/11(月) 23:42:58.13 ID:Q9Y2HE3R

そう、瞬間だった。
全ては幻で、ウソで、安すぎる希望で、未だ私は生温かい暗闇の中にいるのだと、一瞬で気付かされたのは。



手前に立っていたのは、白い服の男だった。短いくせ毛と、鋭い目を隠すように眼鏡をかけている。
眩しさに目を細めてから、彼は私の心臓を掴むような視線で此方を睨みつけていた。

そしてもう一人、見覚えのある男がその背後にひっそりと立っている。ジョッキー服を着た青年。首筋に添うように伸ばした明るい金髪。
その姿を私が忘れられる訳がなかった。

「ディエゴ……ブランドーッ!」

もう一人の男と同じように目を細めていたディエゴは、私の姿を認めると柔らかい笑顔を浮かべた。人好きする、明るい、それでいてハリボテみたいな笑い。

「ルーシー……?良かった!貴方だったのか!」

手前に立っていた男を押しのけるように私へ近づいてくる。それに合わせるようにして、私の足は再び後ずさる。

こんな風に彼と再会するなんて、思っていなかった。ぎゅっと握りしめた鉈が汗で滑りそうなほどに緊張している。
なぜ、なぜ……!今の私は「アレ」を持っていない!こんな鉈一本で彼に敵う訳がないッ!

「そんなに警戒しないでくれ……。確かに俺はレースの中でジョニィたちと対立した。でも今はレースの勝者なんて気にしている場合じゃないだろう?
 ……それに、君も……あの人を助けたいんじゃないかな……?
 なあ――マダム?」

ディエゴの言葉は全て、私の心を上滑りしていく。何も耳に残らなければ、意味を理解出来るほど心の奥に届く訳でもない。
でも、最後の一言だけが胸の奥に爪となって突き刺さった。

(誓いを立てて結婚したなら夫のために守り続けろーーーッ!!)

……私はあの時決めた。何を犠牲にしてでも彼を守り続けると。
彼と私の幸せを、掴んでみせると。

もう何があっても退けないのよ。
彼が本心から協力したいと望んでたとしても、私は彼をスティーブンには近づけない。絶対に、彼を守ると決めたのだから。
そのために――何人もの命を犠牲にしてしまったのだから。
同じように全てを犠牲にしたジョニィの意志も、私の彼への思いも、全てがディエゴ・ブランドーという男を拒絶している。

そう決意すると、頭は逆に冷静になるようだった。
必要なのは、時間と――狼煙。

「待って!止まって!こっちに来ないでッ!」
429創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:43:47.27 ID:/0wSlYM9
しえん
430創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:45:15.42 ID:noaoRd69
しえん
431創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:46:47.27 ID:35nOKgA2
支援
432暗いところで待ち合わせ  ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/11(月) 23:46:48.28 ID:Q9Y2HE3R

お腹に力を込めて、出来る限りの大声を出す。そのままなるべく自然に後ずさり、窓に背中をつけた。
ディエゴは動きを止める。一瞬だけ、彼の瞳が冷たく細められたのに、私は気付いていた。

「……貴方、遺体はどうしたの?」
「い、遺体……?」

遺体と口にすると、彼の様子は明らかに変わった。
ディエゴの後ろの男は何を考えているのか、何も言わず私たちを見ている。

「その様子だと……貴方も利用されているだけかしら?それとも何か企んでいるの!?」
「……」
「どちらにしろ、私は貴方とは組めないわッ!分かっているでしょう!?私たちは決して相容れない!!貴方がどんなに甘い言葉を吐いてもッッ!!!」

喉がぴりぴりと痛み始めた。
怒りに身を任せているように見せればいい。そんなの簡単よ。全てぶちまければいいだけだから。
ディエゴはすっかり「演技」を忘れているようだった。その瞳に疑惑と怒りを湛えながら、私を見ている。

「……ルーシー、君は――」
「それじゃあ困るんだよなぁ」

唐突に声がした。

それは、今まで私たちの会話を言葉も挟まず聞いていたもう一人の男だった。いつの間にか彼は苛立ったように、身体を揺すっている。
その鋭い眼光は、一度ディエゴを見てから、私へ向けられる。

私は再び恐怖を思い出していた。
一体、彼は何者なんだろう。
二人の関係の「イレギュラー」であるこの人が何をするのか……私にはまったく予想ができない。

「テメーには何としても一緒に来てもらわなきゃ困るんだよ……」
「おい、待て……ギアッチョ」

『ギアッチョ』とディエゴに呼ばれた男は、大きく足を広げて歩み寄ってくる。

「どうやら、テメーは黒幕とあの爺を殺すのに役立つらしいじゃねーかッ!」

逃げ場のない私を、男はあっという間に追いつめた。鉈の握りながら何も出来ない私の右手が締め上げられる。
無我夢中で腕を振りまわしながら逃げようとしても、首を絞めるように身体を持ち上げられてしまう。

「イヤッ!は、放して……ッ!!」
「キイキイうるせーなあ!冬のナマズみてーにおとなしくしてろ」
「ギアッチョ!」

どれだけ大声を張り上げても、何も変わらなかった。それどころか、私の首を締め上げる力は増していく。
鉈を取り落としそうになりながら、絶対にそれは手放せない。これだけは――スティーブンが私にくれた、この武器は……。

頭がぼおっと霞んでくる。
何も考えられなくなる。
金魚のように、ひたすら空気を求める。
でも望んだ酸素は肺には届かない。

ごめんなさい。ごめんなさい。
そんな気持ちだけでいっぱいになる。
誰に向けているのかも分からない。
もう一度、スティーブンに会いたい。
貴方の隣で、また……。


433創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:47:12.65 ID:35nOKgA2
支援支援
434暗いところで待ち合わせ  ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/11(月) 23:52:33.62 ID:Q9Y2HE3R

切り裂く音が聞こえた。
いや、それは切り開く音だった。





押しつけられていた壁がなくなり、支えを失った身体が外に投げ出される。
私を押さえつけていた男の顔が遠ざかっていった。男はなぜか私ではなく、もっと奥をじっと見ている。その目は驚愕に彩られていた。
床に叩きつけられると思った身体は、何か柔らかいものに支えられた。

私は、そのたくましい腕を知っている。
温かさを失いながらも、力を、信念を失わないこの身体を。

「ブチャラティ……ッ!」
「ルーシー、大丈夫か」

私の身体をしっかり受け止めた彼は、壁の向こうを観察する。
するとすぐに、私の肩を抱いて走り始めた。

「二対一では危険だな……。走れルーシー!向こうに車を隠してあるッ!」

ブチャラティのスーツを握りしめながら、私は走る。彼が隣にいるというだけで、涙がぼろぼろと流れてきた。

「ごめんなさい……ごめんなざいッ!ブチャラティ……」
「……いいんだ。君に時間が必要だと思って、一人にした俺にも責任はある」

ブチャラティは、私の肩をより一層強く抱いてくれる。彼の優しさにまた涙がこぼれて、ほとんど視界も見えなくなった。でも彼が私を支えてくれるから、私は迷わず走ることができる。
本当に良かった。ブチャラティが私の叫びを聞き届けてくれて――。

「ルーシー……。俺は、あそこにいた男を知っている」

はっとして、私はブチャラティの顔を見上げた。彼は真っすぐに前を見ていたが、その眉は歪んでいる。

「……君に全て話そう。だから……君も俺に打ち明けてくれないか」

その言葉に彼から視線を外した。

――全て打ち明けて、それでも彼は私を信じてくれる?
――ブチャラティはいい人よ……。でもだからこそ、あの人たちのように死んでしまったら……。

もつれそうになる足を必死に動かして私は走った。涙の流れなくなった視界が徐々に開けていく。
夜明けがやってきた。
435創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:56:24.03 ID:35nOKgA2
支援
436暗いところで待ち合わせ  ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/11(月) 23:56:47.37 ID:Q9Y2HE3R
※※※



失敗した。しくじったのだ、このDioがッ!

ファスナーで開かれた壁。走り去る後ろ姿を見ながら俺は拳を握りこんでいた。ギアッチョは何も言わずに、ルーシーと男の背中を見ている。

「ギアッチョ、とにかく二人を――」
「……何でだよ……」
「……?」
「クソッ!クソッ!クソッ!何で毎回毎回毎回毎回アイツなんだよ!!!なぜテメーは俺たちの邪魔をするッ!ブチャラティーーーッ!!!」

ギアッチョはもはや俺を見ていなかった。その怒りに燃えた目はルーシー・スティールを見ている訳でもなく、ただ彼女を連れ去った男に向けられている。
そこからは一瞬だった。
ギアッチョは即座にスタンドを発動させると、二人を追って走りだす。俺はその場に一人だけ残された。その状況に、俺の苛立ちは更に増した。



この家にルーシー・スティールが入ってきたことには気がついていた。

ゲームの黒幕を叩くと決めたものの、まずはどう動くべきか俺たちは悩んだ。とりあえず二人組の襲撃者の内のもう片方を探しに、狙撃出来そうな家をいくつか回る。
「らしき」家は見つけたのだが、その二階はすでにもぬけの殻で誰もいない。そのままその部屋で今後の動きについて話し合っていた。
――そしてその時、俺たちは車の音を聞いた。

窓から外を見て様子を伺うのも手だったが、俺はより安全な手を選ぶ。
ギアッチョに付けたままだったカエルを元にした恐竜を、その場所へ向かわせたのだ。

そこで俺は、車に乗っていた片方がルーシー・スティールだと知った。丁度恐竜が到着した時に二人は別れる所だったので、もう一人は確認できなかったが、それ以上に嬉しい情報を手に入れられたのだ。
俺たちの今現在潜伏している家屋に、ルーシーが飛び込んできてくれるとは!

正直、ギアッチョに彼女のことを話すのは不安だった。しかし此処に入ってきた女が、主催の男の妻だと話しても奴は案外冷静を保っていたのだ。
彼女は何も知らないが、うまく使えばいい道具にはなるだろう――そう言うと、ギアッチョはルーシーを取り込むことに同意する。

おそらく、本当に彼女は何も知らない。利用されているだけの哀れな娘だ。
利用され終わったとしても、あの大統領が「知りすぎた」ルーシー・スティールを生きたままにしておく訳がない。
だから、俺はあの「ルーシー・スティール」は「別世界のルーシー・スティール」だと思ったのだ。
437暗いところで待ち合わせ  ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/11(月) 23:58:59.27 ID:Q9Y2HE3R

しかし、いざルーシーと対峙するに当たって誤算が多すぎた。
交渉をした時のギアッチョの口ぶりは実に鮮やかなものだ。事前に俺が流れを提案していたとはいえ――あそこまですらすらと言葉をつむぐ様に、俺は驚いた。ここまで冷静になれるなら、今まで以上にうまく使えるかもしれないと。

まず第一の誤算は、ルーシー・スティールがギアッチョの仇敵と協力していたことだった。
もう一人同行者がいたとしても、ルーシー一人言いくるめてしまえばどうにでもなると思っていた。
「ブチャラティ」
それは、ギアッチョの仲間を殺したチームのリーダー。冷静に主催を狙う、と宣言したはずのギアッチョがあんなに簡単にキレるとは。

そしてもう一つ……あのルーシー・スティール自身だ。
あの女は遺体を知っていた。ならば「基本世界のルーシー・スティール」に他ならない。
――ならばなぜ、そのルーシーが参加させられている!?
大統領の狙いは?まさか本当にあの女は大統領と繋がっているのか?
……そして、ルーシーの言葉の意味は。

(……やはり、あのルーシー・スティールは『俺の知らない未来』を知っているという事か……ッ)

だとしたら、やはり俺は何としてもあの女からそれを聞き出さなければならない。

「俺は『イレギュラー』は嫌いなんだよ……」

五感が更に研ぎ澄まされる。
恐竜のそれに変わった四肢を動かし、ギアッチョの背中を追い始めた。
夜明けが来てしまった。






【F-4 独立宣言庁舎前路地→? 1日目 早朝】


438暗いところで待ち合わせ  ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/12(火) 00:01:08.52 ID:yvyfbeTq
【ブローノ・ブチャラティ】
【スタンド】:『スティッキィ・フィンガーズ』
【時間軸】:サルディニア島でボスのデスマスクを確認した後
【状態】:健康 (?)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×3、不明支給品1〜2(未確認)、ジャック・ザ・リパーの不明支給品1〜2(未確認)
【思考・状況】 基本行動方針:主催者を倒し、ゲームから脱出する
1.ルーシーを連れて逃げる。逃げ切ったらウソ偽りなく、ルーシーと互いの情報を話したい
2.なぜ死んだはずの暗殺チームの男が…
3.ジョルノが、なぜ、どうやって…?
4.出来れば自分の知り合いと、そうでなければ信用できる人物と知り合いたい。

【ルーシー・スティール】
【時間軸】:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
【状態】:健康・混乱
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、鉈
【思考・状況】
1.スティーブンに会う
2.ブチャラティに全てを話すべきなの?


439創る名無しに見る名無し:2012/06/12(火) 00:02:49.29 ID:WceuvHlr
 
440創る名無しに見る名無し:2012/06/12(火) 00:03:39.01 ID:35nOKgA2
支援
441暗いところで待ち合わせ  ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/12(火) 00:03:53.54 ID:Q9Y2HE3R

【ギアッチョ】
[スタンド]:『ホワイト・アルバム』
[時間軸]:ヴェネツィアに向かっている途中
[状態]:健康 怒り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1〜2(未確認)、ディエゴの恐竜(元カエル)
[思考・状況]
基本的思考:打倒主催者。
1.ブチャラティを追う(頭に血が上ってそれ以外の考えは一時的に忘れています)
2.暗殺チームの『誇り』のため、主催者を殺す。
3.邪魔をするやつは殺す。

【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスター』
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康 恐竜状態
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品2〜4(内1〜2は確認済み)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰る
1.ギアッチョを追う。ルーシーから情報を聞き出さねば
2.仲間を増やす
3.あの見えない敵には会いたくないな
4.ギアッチョ……せいぜい利用させてもらう……
5.別の世界の「DIO」……?


[備考]
ルーシーとブチャラティは今、どこかに隠しておいた車に乗ってギアッチョから逃げるつもりです。
どこに向かうかはお任せします。

ギアッチョとディエゴ・ブランドーは『護衛チーム』、『暗殺チーム』、『ボス』、ジョニィ・ジョースター、ジャイロ・ツェペリ、ホット・パンツについて、知っている情報を共有しました。
フィラデルフィア市街地は所々破壊されています。
ギアッチョの支給品はカエルのみでした。

※ローマ近くの村にあった車(5部)
ブチャラティ達がサルディニアからイタリア本土に上陸し、チョコラータ達の攻撃を避けてローマに行くために盗んだ車。
盗んだと言っても車の持ち主は『グリーン・デイ』で死亡済み。ジョジョ本編でもブチャラティが運転していた。

442暗いところで待ち合わせ  ◆3uyCK7Zh4M :2012/06/12(火) 00:07:37.78 ID:Q9Y2HE3R
以上で投下完了です!
タイトルの元ネタは某おつ/いちさんの小説です。

たくさんの支援ありがとうございました!
そして本投下までに色々とご迷惑をおかけして申し訳ございません。

蛇足ですが、ジョジョのヒロインでは実はルーシーが一番好きです。
の割りにルーシーの魅力を書ききれなくて唸ってました。
みなさんのロワでのルーシーが素敵すぎるので…!
443創る名無しに見る名無し:2012/06/12(火) 18:56:03.29 ID:zuGUzGas
投下乙です
ギアッチョよ軽々しく動くのは良く無いぞ
444 ◆vvatO30wn. :2012/06/13(水) 01:49:15.60 ID:RGohizuX
投下乙でした。
ディエゴの狡猾さが見て取れ、DIOとはまた違う魅力にワクワクします。
だが、ギアッチョと仲間で居続けるのは考えたほうが良さそうかもなwww
ただでさえ短気なギアッチョが自分の手でリーダー殺しちゃったんだから、どう暴走するのか予想がつかない。


あと、前回言い忘れていましたが、たくさんの支援をありがとうございました。
皆様のおかげでスムーズに投下を行うことができ、大変感謝しています。

拙作のwiki収録ですが、明日の昼頃に行おうと思います。
一応自分で見直し、誤字脱字等はあらかたチェックを終えました。

救急車内でのシーンのサブタイトルが気に入らなかったので、【Scene.6 Hasta la vista】に変更します。
その他もちょくちょくイジってますが、大きな変更の予定はありません。

それでは、次回作の構想もあるので、近いうちにまた時間を作って書いてみたいと思います。
またよろしくお願いします。
445創る名無しに見る名無し:2012/06/14(木) 02:20:10.18 ID:5tJK0/Vj
花京院、由花子、ディスコ、セッコ、ジョンガリAの5人が未だ時間帯深夜のまま続きが書かれていない模様
だれか書ける人いない〜?(チラッ
446創る名無しに見る名無し:2012/06/14(木) 09:18:25.00 ID:8asXANqS
ディスコとセッコ、この二人がキツイな
それ以外はいけそうだが
447創る名無しに見る名無し:2012/06/15(金) 01:25:42.57 ID:GGd9lRFV
ディスコセッコは会場の端っこなのがネックか
一応絡ませられそうなのはジョースター邸の3人とか?
448創る名無しに見る名無し:2012/06/22(金) 22:51:15.60 ID:llwU6X1X
保守
449 ◆yxYaCUyrzc :2012/06/29(金) 23:09:45.72 ID:JYUP7vku
本投下開始します
450病照 その1  ◆yxYaCUyrzc :2012/06/29(金) 23:11:06.35 ID:JYUP7vku
何度も質問するようで申し訳ないんだが……どうしても今の内に聞いておきたい事がある。

『俺の話をつまらないと思う人はいるか?』
――正直に言ってほしい。

ハッキリ言うと、今回の話のテーマは、愛だ。

さっきスピードワゴンの愛の話をしたが、あれとはまた少し違う。少しだけ。
一口に愛と言っても色々ある。夫を、妻を、彼氏彼女、子供、自分自身。
対象は人に留まらない。いわゆる俺の嫁から、物品、過去の思い出、自然、宇宙……

――いや、色々言うのは終わってからにしよう。まずは話そう。愛に生きる男女の話を。


●●●


「……何か?」
ぼんやりと明るくなりだした東の空を窓越しに見つめながら、山岸由花子は問う。

「東方向、約300メートル……鼠だ」
若干の沈黙の後、最低限の情報だけが相手の男から帰ってくる。
花京院典明の無愛想な返答にも由花子は眉をしかめたりしない。彼女もそういう態度をとっているから。

「――で?」
「いない。どちらも」
一言で済む――というよりは、一言にすら満たない会話。それだけでお互いの言いたい事は分かった。
だが。阿吽の呼吸、歩調の揃った夫婦――そんな甘っちょろいモノではない。

二人はお互いの目的のためだけに共にいるのであって。
お互いの理屈を否定しないために情報を共有しているだけであって。
お互いが目的を達成したらそこで消滅する関係であって。


●●●
451病照 その2  ◆yxYaCUyrzc :2012/06/29(金) 23:13:28.79 ID:JYUP7vku
――時間を少々、いや、だいぶ前に遡る。

花京院と由花子は早々に広瀬康一の自宅に辿り着いていた。
本来の契約ならば、この場所に康一の姿が確認できなかった時点で契約は解消。別行動、いや……殺し合いになる予定だった。
だが、予定とはその通りにいかないからこそ予定と言うのかもしれない。

由花子の方が『待機』を提案したのだ。
彼女はあくまでも康一を見つける事を行動の第一方針としている。目的は殺すことだが、見つけぬことにはそれすらも出来ないのだから。
となれば、家を出て探索に出た途端に入れ違いで康一が帰宅、なんてことは避けるべきである。
そう花京院に提案した。もちろん、アンタのスタンドをこき使って探索しまってやるから、と挑発を忘れずに。

一方の花京院もこれを否定しないどころか快諾。
理由は簡単。
『この場所を一目散に目指してきたから』それだけである。

教皇の結界を利用し襲撃に備えてはいたものの、目的以外のことにはもともと興味がないコンビである。
今まで見た人間で自分たちが探している相手以外はすべて避けて――いや、関わる気もなく放っておいたのだ。
空中でロッククライミングに興じる男たちも、女子トイレに潜り込む変態も。

だが広瀬家に到着してみたらどうだ。その途端に大地を揺るがす衝撃を受け、ついたったの今は駅から南下する動物を見つけ。
思った以上に入ってくる情報の多さに、それらを取捨選択し行動できる幅の広さを見出したのだ。

とは言え……彼等も天才ではない。
“わき目もふらずに”、なおかつ“徒歩で”移動してしまったがゆえに目的から遠ざかっていた。
もう少しのんびりと情報交換していれば当初いた位置からやや西にDIOが通りがかり。
もう少し移動手段を考えていればトラクターで走り去って行った康一を追いかけられた。
もう少し早く広瀬家についていれば落下物を確認している空条承太郎を見つけられた。

しかし――それでも彼等の運は尽きない。杜王町の周辺では戦いもいざこざも尽きない。それがこのバトル・ロワイヤルである。


●●●
452病照 その3  ◆yxYaCUyrzc :2012/06/29(金) 23:17:20.01 ID:JYUP7vku
「さて――大事な事を聞いておこう」
「なに?攻撃する気ならやめなさいよ、さっきそう言う契約をしたところでしょう?」
不意に情報提供以外の会話を持ち出され由香子の眉が若干持ち上がる。

「いや、此処にいる制限時間だ。
 私としては第一放送終了をめどにここを出るべきだと思っている」
「理由は?」
「そもそもの問題なんだが……このゲームに広瀬康一、およびDIO様が参戦していると言う証拠はどこにある?」
相手のまぶたが痙攣し始めるのを花京院は見逃さなかった。目的を告げながらも。

「つまり――名簿とか言うのを配られて、そこに名前がなければ私たちは目的を失うと?」
「その通り。私はそれを確信したら即刻、優勝を見据えた行動に映る。こんな場所に長居する理由はない」
由花子が大きく動揺した様子はなかった。
おそらくはこの数時間で同じような推測と計画を立てていたのだろう。花京院と同様に。

「その時コンビは解消?殺して回るのも二人の方がいいと思うけど?
 私は別に一人でも構わないけどアンタが土下座して懇願すれば考えてやらなくもないわ」
「それはこちらのセリフだ。私の幽波絞が万一にも負けることなどない。
 ゆえにDIO様から空条承太郎抹殺の命令を与えられたのだ」
挑発と自負が混じった自己主張がその場の空気を重くする。
しかしそんな状況すらこの二人は気にしなかった。彼等にとっては緊張感すらどうでも良いものなのだろう。由花子が早々に沈黙を破る。

「――はいはい、まあ後何時間か知らないけど、それまでは協力してやるわよ」
「ああ……おっと、早速情報を提供することになりそうだ」
花京院が窓の外を見やる。
由花子は、どうせまたハズレなんでしょう、と小さくもらして伸びをした。
が、次の花京院の一言でリラックスタイムを中断する。

「いや――今回はどうやらアタリのようだ。広瀬康一とは身長が低く、短めの髪を軽く立てているんだったな」

その名を聞いた途端に由花子は花京院を睨みつける。ばん、と彼女の手を叩きつけられた机は心なしか反ってしまったようだ。
「どこよ!?どこにいるのッッッ」
掴み唾を飛ばす勢いで怒鳴り散らす彼女に対しても花京院はやはり冷静。罵声の入り混じる欲求を制止する事すらせず淡々と告げる。

「トラクターに乗っている。どうも敵から逃げ……いや、逃げながら戦っているんだろう。その姿はのスタンド視野からは把握できない。
 ――今コロッセオから離れるように西に進路を取った」

言い終わるや否や、由花子が玄関先に向かい、振り返る。
「さっさと行くわよ!アンタがいなきゃ追っつけないって事は認めてやるからさっさと用意しなさいよ!」
「やれやれ――その道中にDIO様がいたらその場で契約は解消するからな。それまでは――ああ、放送までか?とりあえず組んでいてやろう」

花京院を待つ、その数秒すらも惜しむ勢いで山岸由花子は駈け出した。
「見つけたわよ……康一くん」
鬼気迫るという表現がぴったりのその表情からは似ても似つかない甘い声が、住宅街に飲み込まれていった。


●●●
453病照 その4  ◆yxYaCUyrzc :2012/06/29(金) 23:22:00.86 ID:JYUP7vku
――これで彼らには家を出てからの目的が出来た訳だ。

もう少し長く広瀬家に留まっていれば先に話したジョニィやラバーソールの攻防も目撃したんだろうが。それはまた別の、仮定の話。
とにかくまずは康一を追うこと、その最中にDIOを探すこと。彼等にとってはそれが全てなんだな。
とは言え今は徒歩だから時間はかかるだろうけど。

ふぅ……さて。愛の話をしようか。

異性でも同姓でも、あるいは家族でも友人でも好き嫌いはあるし、好きならばそれは愛だ。
何もガチホモが……おっと失礼、とにかくそういうのを推奨してる訳ではない。否定もしないけど。
要するに、『母親が子供を愛する』ってのは同じ人間が『妻として夫を愛する』のとはまた別の愛だろう?そういう話だ。

今回の話で言えば、山岸由花子は広瀬康一を。花京院典明はDIOを愛している。
そしてその愛の大きさが一線を画しているから殺すだとか死ねだとか、そう言う発想になっているだけだ。
そこに何の問題があるんだろう?好きなものには何も惜しまない。練習を繰り返す野球部員も。グッズをかき集めるオタクも――おい何ムキになってるんだ。君のことを言ってるんじゃあない。
とにかくそういうのだって全部愛なんだって事を言いたいんだよ俺は。

――それでやっと、最初の質問に戻る。

勿論俺も皆のことを愛していて、その表現方法が、皆が知りたがっているバトル・ロワイヤルという世界を、彼等の冒険譚を、一人の語り部として語ること。今のように。

それで、もしも、もしも『俺の話がつまらない』という人がいたら……それはその人に俺の愛が届いてない、あるいはズレているってことだ。
となれば俺も多少なり考えなければならない。今後の立ち振る舞いについて。如何にして愛を伝えるかについて。

だから、もしいたら正直に言ってほしい。『お前の話はつまらん』と。
大丈夫だよ――流石に殺しまではしないから。さあ、手を上げてみな?
454病照 状態表  ◆yxYaCUyrzc :2012/06/29(金) 23:24:12.14 ID:JYUP7vku
【E-8 広瀬康一の家→??? / 1日目 黎明〜早朝】


【花*花】


【花京院典明】
【時間軸】:JC13巻 学校で承太郎を襲撃する前
【スタンド】:『ハイエロファント・グリーン』
【状態】:健康、肉の芽状態
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×2、ランダム支給品1〜2(確認済)
【思考・状況】
基本行動方針:DIO様の敵を殺す
0.DIO様の敵を殺し、彼の利となる行動をとる。
1.広瀬康一の乗ったトラクターを追う。
2.山岸由花子を警戒・利用しつつ、情報収集する。
  ※利用するのは第一回放送後・名簿を確認次第、延長するか否か決定
3.ジョースター一行、ンドゥール、他人に化ける能力のスタンド使いを警戒。
4.空条承太郎を殺した男は敵か味方か……敵かもしれない。
5.山岸由花子の話の内容で、アレッシーの話を信じつつある。(考えるのは保留している)

【備考】スタンドの視覚を使ってサーレー、チョコラータ、玉美の姿を確認しています。もっと多くの参加者を見ているかもしれません。

【アレッシーが語った話まとめ】
花京院の経歴。承太郎襲撃後、ジョースター一行に同行し、ンドゥールの『ゲブ神』に入院させられた。
ジョースター一行の情報。ジョセフ、アヴドゥル、承太郎、ポルナレフの名前とスタンド。
アレッシーもジョースター一行の仲間。
アレッシーが仲間になったのは1月。
花京院に化けてジョースター一行を襲ったスタンド使いの存在。

【山岸由花子が語った話まとめ】
数か月前に『弓と矢』で射られて超能力が目覚めた。(能力、射程等も大まかに説明させられた)
広瀬康一は自分とは違う超能力を持っている。(詳細は不明だが、音を使うとは認識・説明済み)
東方仗助、虹村億泰の外見、素行など(康一の悪い友人程度、スタンド能力は知らないしあるとも思っていない)


【山岸由花子】
【スタンド】:『ラブ・デラックス』
【時間軸】: JC32巻 康一を殺そうとしてドッグオンの音に吹き飛ばされる直前
【状態】: 健康・虚無の感情(小)・興奮(大)
【装備】: なし
【道具】: 基本支給品×2、ランダム支給品合計2〜4(自分、アクセル・ROのもの。全て確認済)
【思考・状況】
基本行動方針:広瀬康一を殺す。
0.康一くんの乗ったトラクターを追う。花京院さっさとついてきなさいよ。
1.康一くんをブッ殺す。他の奴がどうなろうと知ったことじゃあない。
2.花京院を利用しつつ、用が済んだら処分する。乙女を汚した罪は軽くない。
  ※利用するのは第一回放送後・名簿を確認次第、延長するか否か決定

【備考】アクセル・ROを殺したことについては話していません。話すほど彼女の心に残っていませんでした。
455病照  ◆yxYaCUyrzc :2012/06/29(金) 23:27:43.92 ID:JYUP7vku
以上で投下終了です。

●仮投下からの変更点
・したらばで指摘のあった誤字訂正
・分割箇所を*から●に変更
・多少の加筆(文末の修正程度、内容に変更なし)

多少強引にでも深夜組を動かそうと思った結果がこのあり様ですw
時間軸がずれてて、かつ近所のパートがバリバリ進んでるとこんなに大変だったのかorz

したらばで言われていた「俺の語り」についてはとりあえずノーコメントでw
無くても良いのは分かりますが、無いとレス二つ分の作品が大半に……長い作品書ける人が本当にうらやましい。

それでは、ご意見ご感想お待ちしております。つまらんならつまらんって言っていいのよ?大丈夫、殺したりしないからw
456創る名無しに見る名無し:2012/06/30(土) 00:21:36.96 ID:ZbiC9dKf
乙。2人は康一たちに追いつくかな?追いついたら一気に修羅場になりそうだ
読むのが楽しみだけどなんか怖い
あと、康一たちが乗ってるのはタンクローリーでは?
トラクターだとこれだよ
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%BC
まあ、想像して笑ったけどw
457創る名無しに見る名無し:2012/06/30(土) 00:38:12.33 ID:Nx2ferzy
投下乙です
幽波絞wwwww
458創る名無しに見る名無し:2012/06/30(土) 13:47:13.88 ID:oXjtlI9G
乙です
ヤンデレ二人は実にきびきび動くなあ
あと花京院がDIOを愛しているという表記に違和感を感じてしまうw
459 ◆yxYaCUyrzc :2012/06/30(土) 20:25:59.55 ID:3eYX/iST
皆様ご意見ありがとうございます。乙の一言があるだけでモチベーション上がるってもんです。

>>456
タンクローリーでしたねw「披露」でもミスってたかもw
なんかタンクローリー→トレーラー→トラクターと誤認識が連鎖していたような。

>>457
気付いてくださって感謝です。なんかもうパロディとかいうレベルじゃないですねコレw

>>458
こういうストイックな動きがロワ的にどうなのかとも思いましたが無理してでもフラグ立てないとねw
花京院はDIO様を愛してるんですよ。プッチと良いライバルですよw

さてwiki編集ですが、明日の日曜では流石に早いと思いますので少々置いときます。
スケジュール的に都合がつくのが水曜なのでそれをめどに収録しようと思います。
460創る名無しに見る名無し:2012/07/01(日) 22:24:16.14 ID:wFO71SgP
>>452
見つけるのが遅くなりましたが、由香子という誤字がありますね。
461創る名無しに見る名無し:2012/07/05(木) 15:50:02.53 ID:7oNzL/bX
2nd完結からロワは見ていなかったが、ジョジョ展記者会見みてテンション上がったのでちょっくらまとめ行ってくる。
アニメ・ゲーム化とか胸アツすぎる!!!!
462創る名無しに見る名無し:2012/07/05(木) 21:46:34.10 ID:d5H2uCXv
公式に荒木キャラのバトルロワイヤルが見られるなんて胸熱
という訳で2次ロワも支援
463創る名無しに見る名無し:2012/07/05(木) 23:38:02.78 ID:sti3I+DX
恥パ面白いじゃんかよぉ……
464創る名無しに見る名無し:2012/07/06(金) 20:25:59.01 ID:jqrlcW6C
>>463
その作品の作者はジョジョファンで他作の文章もジョジョっぽいからな
465 ◆c.g94qO9.A :2012/07/07(土) 00:18:01.78 ID:mpbu/ou1
すみません、色々遅れましたが投下します。
466 ◆c.g94qO9.A :2012/07/07(土) 00:26:33.57 ID:mpbu/ou1
泣いている女の顔が見える。汚らわしい断頭台に上らされ、屈辱の果てに死んだ彼女の顔は、血の涙とどす黒い憎悪に塗れていた。
何故彼女が死ななければならなかったのか。一体彼女が何をしたというのだろうか。
痺れた頭は靄に包まれ、俺にはなにもかもがわからなかった。首筋に叩きこまれた太刀すら鈍く、遠い世界のものに思えた。

ただその時、俺は世界を呪った。
俺はその時から一人の騎士ではなく、男でもなく、人間ですらなく、一つの感情となり果てた。
俺は『怨』そのものに、なり果てることを、選んだのだ。



どうしようもなくわからない。問いが綻び、意味をなさなくなるまでに、俺は答えを探し続けた。
繰り返し、自らに問い続けた。そして、それでも納得できる答えは出てこなかった。

高貴な彼女はその身を捧げることで、民草の、我ら戦士たちの、そして愛する祖国の平和を願ったはずだ。
内に湧き上がる恐怖や絶望を押し隠し、犠牲となることを断腸の思いで決断なさったはずだ。

そんな彼女であったからこそ。そんな彼女の孤高な姿があったからこそ。
我ら戦士も身を捧げることに躊躇いはなかったのだ。悔いなく運命を受け入れ、下劣な処刑も受け入れた。


 だが、だが、だが……ッ! ならばいったい何故…… そして何のためにッ!


俺はエリザベスを呪う、死を呪う、誇りを呪う、運命を呪うッ
彼女の誇りは地に棄てられたッ まるでボロ雑巾かのように、誇りは投げ捨てられ、踏みにじられ、侮辱されたッ
彼女の死がいったい何をもたらした? ……なにもない、零だッ 無だッ!

後に残ったのはエリザベスが残した偽りの物語、我々の敗北と犠牲のみ。汚名を歴史に刻まれ、我々は永久に蔑まれるのだッ
彼女が何のために死んだのかも知らない愚民たちに。彼女が守りたいと願った民衆たちに。

ならば、我々は……一体何なのだ? なぜ我々は死んだのだ? 我々は、誰のために、なんのためにッ?!

 
 許されない……ッ 許してはならない……、この非道はッ! 悪徳はッ!


ああ、俺は全てを呪う。この世の全てを呪う。塵一つ残さず、俺はこの世の全てが憎い。この世全てを憎悪する。
死が訪れても……いいや、死が訪れた後も、俺はその悠久の闇の世界の中で、世界を呪い続けた。
呪詛を吐き、怨念を振りまき、妄執を漂わせ、噴怒を吐き散らした。
それでも運命が変わることはなかった。時は流れ、エリザベスは栄華を築き、やがて我らの汚名すら時の廃屋に取り残されても。
それでも俺は忘れられなかった。擦り切れることなく、俺は心にこびり付いた感情一つ手に、いつまで願い続けた。いつまでも、念じ続けた。
467 ◆c.g94qO9.A :2012/07/07(土) 00:28:05.24 ID:mpbu/ou1



 ―――そして時は訪れる。


『君は……、いや君たちがタルカスとブラフォードだね?』


許しを請うことなんぞ、もはや求めていない。忠誠を誓ったメアリーさまの物憂げな表情は、考えるまでもなく浮かんでくる。
優しい彼女は涙を流すに違いない。心痛め、懇願するような顔で俺を見つめる彼女が思い浮かぶ。
だがそれでも、だ。俺の心に安らぎはもはや必要ない。俺の心の狂い、焦がれるような気持ちは収まらない。

いつの間にだろう、俺が求めていたもののはすり変わっていた。俺は許しを『請われる』ことを求め始めていた。

そう、あの憎きエリザベスの末裔たちが。愚かで醜い群衆たちが。安穏と平和を貪る人々が、我々にこんな結末をもたらした運命が!
俺が求めてやまないのは因果応報、それだけだ。我らに襲いかかった悲劇を、俺は奴らに突きつけてやりたい。何の犠牲の上に、誰のおかげで生きていられるのか、奴らに見せつけてやりたいのだ。

突然訪れた理不尽を味わうがいいさ。我々がどれだけ嘆き、怒ったかを身をもって知るがいい。
俺が求めるのは贖罪だ。俺はこの手で、お前たちに全てを知らしめてやる。
その時になって知るがいい。我々が、俺たちが、そして俺が。どれほど怒ったかを。どれほど苦しんだか、どれほどこの世を呪ったことかッ!

ああ、そうだ。或いはこの感情は復讐なのかもしれない。
全てを俺から奪いさり、それでものうのうと日々を過ごしていく、全ての者に対する、俺の『狂ッた』様な……

  
   
   ―――復讐心だ

468 ◆c.g94qO9.A :2012/07/07(土) 00:32:24.80 ID:mpbu/ou1




高々と振りかぶり、咆哮とともに叩きつけられる。空を切った一撃は暴走したエネルギーのままに大地と衝突、堪らず地面が陥没した。
直撃したならばどんな強靭な肉体の男であろうと、肉屋に置かれたミンチのようにひきつぶされてしまうだろう。
眉一つ表情には出さないが、その化け物じみた怪力にタルカスは冷や汗をかく。
一手でも間違えれば、嵐のような連撃が彼を襲うだろう。そうした後に、一体彼はどれだけ『残って』いられるだろうか。

そんな恐怖を微塵も感じさせないほどに、タルカスの行動は冷静だった。
男は半歩だけ後ろに下がり、鼻先をかすめる攻撃を涼しい顔で受け流す。
同時に大柄な体とは不釣り合いなほど軽やかに跳躍。鉄鎚の細い柄の部分に立ち、至近距離から槍を放とうと振りかぶる。
が、直後、即座に後退。ブラフォードの髪が大蛇かのように襲いかかり、危うく喉もとを食い千切られかけたのだ。

両者同時に引き下がり、二人はまた睨み合いの形に。一瞬だけおさまった二人の間を、風が吹き抜けていった。
風に乗るかのように、今度はタルカスが仕掛けた。獰猛な笑みを浮かべ、騎士は鋭く突きを解き放つッ!

ブラフォード、槌を振り下ろし、柄で切っ先をいなす。二人の力が拮抗し、互いの腕が力を振り絞らんと膨張した。
タルカスはそれを予期していたように、すかさずバックステップ。拮抗をいなされ、黒騎士が体勢を崩された。

すかさず足元目掛け、またも突き。ブラフォードはこれをかろうじてさける。自慢の髪が切断され、紙吹雪のように辺りを舞った。
舞う土埃、黒のベールを切り裂き、無数に襲いかかる槍の雨。今度はブラフォードが冷や汗をかく番だ。
頬をかすめ、髪を切り裂き、タルカスの槍は的確に急所を目掛け穿たれる。紙一重の攻防に、憎悪に滲んだ表情が焦燥へと色を変えた。


突き、突き、そして突きッ 突き、突き、更に突きッ!


鉄鎚は防戦となるとたちまち扱いづらい獲物へと変貌する。
重くバランスの取れない得物。刃はなく、斬撃を受け止める場所は限定されている。
ブラフォードほどの歴戦の勇者でなければ、この猛攻をしのぎ切ることなんぞ不可能であったに違いない。
そんな彼でさえも、タルカスの攻撃の前で無事ではいられなかったほどだったのだ。
かろうじて致命傷を避けるも、身体に無数のキリ傷を負い、自慢の髪の毛は無惨にも切り裂かれていった。

タルカスが大きく振りかぶった。突きから一転、今度は槍をしならせると横薙ぎでブラフォードを一刀両断ッ
これは……防ぎきれんッ! 刹那での判断、黒騎士は大地に伏せ、泥も気にせず横に転がる。頭上を心惜しげに死神の鎌が通り過ぎて行った。
そのまま低い体勢で返しの一撃も避け、ブラフォードは状況を打破しようと槌を握った。
しかし流れは変えられない。そうはさせまい、鉄鎚を振るう隙すら作らんと、タルカスは追いたてるようにその手を緩めない。
むしろ今こそ戦いに決着をつけんと、タルカスは勝負に打って出たッ

手数勝負の片手の一撃でなく、全体重を乗せた必殺の構え。隙は大きいが、今のブラフォードにその始動を止める手段はない。
刃が飛び交い、火花が散る中で、ブラフォードにできたことは髪で防御壁を展開するのみ。
この時を待っていたとばかりに、タルカスが間合いを計る。大地を踏み抜くような勢いで、足元に力を込める。
そして、瞬間、弾丸のように槍を抱え、彼は黒騎士目掛けて突進していったッ
469 ◆c.g94qO9.A :2012/07/07(土) 00:35:09.64 ID:mpbu/ou1



ブラフォードが必死の努力で広げた黒の弾幕。嘲笑うように、タルカスの一撃が、黒騎士の守りを打ち砕いたッ


しかし両者はともに、歴史に名をはぜる猛者だった。
黒騎士、まるで曲芸師かのようだ。彼はすんでのところで、男の槍をあの細く頼りない鉄鎚の柄の部分で受け止めていたのだ。
タルカスの顔が驚愕と、好機を逃した自らの失態に歪んだ。
髪の毛一本の誤差も許されない。なんという技術、なんという度胸。

攻撃を防がれることを予期していなかったタルカス。あまりの重量攻撃に体が痺れたように動けなかったブラフォード。
故に二人は互いに大きな隙を見せながら、共に致命的と言えるまでのその一瞬を逃し、免れることができた。
一瞬の空白、そして同時に動いた二人。振りかぶられた鉄槌、引き絞られた長槍。
タルカスの左頭部を襲った鉄鎚は僅かに額を切るのみ。ブラフォードの右頬に長い引っ掻き傷を残し、槍は彼の体から離れて行った。
呻き声を漏らし、武器を振り切り、そして即時撤退。砂埃を舞わせ、姿勢を低く保ち、そしてまた二人はにらみ合う。

観客がいたならばその攻防はまさに拍手万雷、観衆騒然。
ブラボー、タルカス。ブラボー、ブラフォード。
ギリギリの攻防は互いの手を知りつくし、歴史に名を刻んだ英雄たちの最高のショー。

二人は動きだす。見えぬ群衆の称賛に耳を傾けることなく、互いの姿の身を見つめ、共に目指すは勝利のみ。
タルカスが吠える。ブラフォードが迎え撃つ。騎士たちの戦いは続いて行く。誇りと意志をぶつけ、彼らの決闘は終わらない。



どれだけ時間が流れたことだろうか。
斬撃の火花が幾度と散り、地面に穿たれた槍跡、陥没した鉄鎚の跡は数知れず。
流れた血液は僅か、しかし反比例するように冷や汗と脂汗は膨大。それでも一向に戦況が変わることはなかった。
押しては引き、退いては迫る。攻めては凌ぎ、切り抜けては打って出る。
拮抗状態は続き、何度となく繰り返された決め手に欠ける膠着状態が訪れていた。

ブラフォードが伸ばした髪の毛が空を切る。それでも口惜しそうに最後に一伸びした黒の大蛇。
タルカスは鎧に引っ掛かった髪を切り飛ばすと後ろに下がり、大きく息を吐いた。
戦闘の合間に流れる、束の間の静寂。視線を逸らすことなく、相手から目を離すことなく。その視線をほんの少しだけ、彼は上空に向けた。

一体戦い続けてどれほどたったのだろう。まもなく夜が明けようとしていた。
東の空が明るくなりかけているのを見て、タルカスは先のブラフォードの言葉を思い出した。
『夜に生きる者たち』、嘘か誠かはともかく、それを信じるのであれば戦いはいよいよ終盤といったところだろうか。

ここまでよく持ちこたえてきたものだ。無尽蔵のスタミナ、多少の怪我はものともしないタフネス、髪の毛と鉄鎚のコンビネーション。
考えてみれば彼はゾッとするような怪物とここまで五分の戦いを繰り広げているのだ。
称賛されるべきはタルカス、忠誠の騎士。槍一本で化け物に立ち向かう、姫を守るため闘う姿はまさに英雄譚の一節。

その時、敵が動いた。タルカスは突進してきた相手に対し、槍を突き出し応戦する。
ところがブラフォード、大胆不敵、秘術巧妙。槍の刃を伝い、身体がぶつかり合う位置まで接近。戦法を変える。
鉄鎚で相手の槍、つまり攻防の要を抑え、髪の毛で自由を奪う戦法だ。
タルカスもそれを察してだろう。絶好のカウンター機会を放棄すると、素早く跳び下がり、再び槍の距離を彼は取る。
ハンマーは届かず、髪の毛を伸ばせばその懐へと飛び込める位置。舌打ちをした怪物がまたも攻める。その顔面を掠めるように、刃が飛んだ。
470創る名無しに見る名無し:2012/07/07(土) 00:35:52.25 ID:8YTmznfe
しえ
471 ◆c.g94qO9.A :2012/07/07(土) 00:39:46.69 ID:mpbu/ou1

焦りは瞳を曇らせる。怒りは頭脳を鈍らせる。
ブラフォードは搦め手から攻め立てるはずが、いつのまにかタルカスに、搦め手でいなされていた。
ここまで化け物相手に騎士が戦えたのも、彼がひとえにブラフォードの性格、そして感情を見事に制してきたからだ。
達人同士の争いの中、タルカスは抜群の勘と集中力、経験と冷静さで、今、戦いを掌握しつつあった。

幾度と打ちあう。何度となくぶつかり合う。そして時間は流れ、場所を変え、それでもまだ、戦いは終わらない。
レンガ造りの街並みの中、せりあい、削り合い、潰し合う。
ブラフォードの灰色の肌には、今や数え切れないほどの傷ができていた。タルカスが握る槍は互いの血で、赤く色を変えていた。

戦いの合間にタルカスが叫んだ。もういいじゃないか、もう戦うな。これ以上、俺はお前と戦いたくない。
悲痛な叫びを黒騎士は無視する。どれほど戦えどメアリーさまはもう帰ってこない。どれほどお前が勝利しようとも彼女は笑ってくれやしない。彼女の嘆きはいやされない。
タルカスの声は届かない。ブラフォードは止まらない。獣のように唸り、亡者のごとく、無機質に金槌をふり続ける。

これ以上戦いをつづけたら、俺はお前を本当に傷つけなければいけない。これ以上やったら、俺はお前を殺してしまう。
もはやこれは戦いでない、何か違ったものになっているじゃないか。だからブラフォード、目を覚ましてくれ。誇りを取り戻してくれ。
返事は鉄鎚だった。ブラフォードがタルカスに飛びかかった。騎士は苦しそうな表情で、その一撃を回避した。

タルカスはブラフォードに勝てないのだろうか。いいや、それは違う。『殺して』いいのならば、きっと彼は勝利できるだろう。
だがそれで何を手にする? それでタルカスは何をその手に掴むのだ?
戦えど戦えど友は言葉を返してくれなかった。魂を込めた一撃も、叫びと祈りを乗せた拳も刃も。全てすり抜け、ブラフォードをいたずらに傷つけるのみ。

二人はなおも激突する。互いの鎧に刃を突き立て、肌を裂き、肉を抉って急所を突く。
四本の足と二本の武器が踊るように跳ねまわり、二人はぶつかっては離れ、そしてまたぶつかる。
何故戦っているかもわからないぐらい必死で。誰のために刀を振るうかも考えられないぐらいひたすらに。

時が経ち、タルカスの息がすっかりあがったころだった。ブラフォードが槌をさげ、ぼそりと呟いた。
互いの姿が見えるぐらい近づいているのに、耳を澄まさなければ聞き落としてしまう、そんな小さな呟きだった。

「戦ったって何も戻りはしない。既に起きてしまった過去に、決して救済なんぞ訪れない。
 俺たちの現在は歴史となってしまった。歴史を覆すことは決して叶わぬ、幻想でしかない。
 そんなことはわかっている。そんなことはわかっているんだ」

タルカスの動きが止まった。ブラフォードは話を続ける。

「だがな、俺は忠義を誓ったのだ。俺は祖国に身を捧げ、王女に魂を捧げ、戦い続けるしかもう知らんのだ。
 ならばそれを取りあげられたら、俺はいったいどうすればいいのだ。俺は何のために、誰のために戦い続ければいい?」
「ブラフォード……」
「だから、タルカス……だから俺は、俺は……―――」
472創る名無しに見る名無し:2012/07/07(土) 00:39:51.62 ID:8YTmznfe
しえ
473創る名無しに見る名無し:2012/07/07(土) 00:41:23.17 ID:8YTmznfe
しえ
474 ◆c.g94qO9.A :2012/07/07(土) 00:44:23.73 ID:mpbu/ou1

柄を握り直すと、彼が顔をあげた。反射的に槍を持ち直したタルカスは、戦友の顔を見て、身を竦ませた。
メアリー王女が処刑されたまさにあの時、あの瞬間に舞い戻ったかのようだった。
たった今塗り返されたような真新しく、生々しい赤と黒。ブラフォードの顔は妄執の色に塗りつぶされ、かつて黒騎士と呼ばれた彼の面影は一切残されていなかった。
まるで一つの感情、恨みという感情そのものが、タルカスを見返していた。


「―――俺は、それでも、この世界を呪い続ける」


直後、雪崩のように彼の足元が崩れていった。沈みゆく地盤、崩壊する足元。しまったと思ったのとブラフォードが襲いかかってきたのは同時であった。
レンガ造りの道路と建物は、一見堅牢そうに見え、実は隙間への衝撃にたいそう弱い。
ブラフォードは会話の最中、そしてそれ以前から髪の毛を操り、要所要所に綻びを入れていた。
そして鉄鎚をぶち当ててはその衝撃を伝え、タルカスの知らぬところで罠を張り巡らしていた。
今その罠が牙をむき、タルカスに襲いかかった。これ以上ないほど隙だらけの姿をさらしたタルカスに、轟音を立てて鉄鎚が迫っていた。

だがブラフォードにとって唯一の誤算はタルカスの粘り強さだった。
ブラフォードは自分の力を過信していたわけではなかったが、それでもここまで粘られるとは思っていなかった。
全ての準備が整ったころに、戦いの場所は変わり、日が間もなく出ようとしていた。そしてそれが決着を変えた。

「ぐおおおおぉぉ!?」

両者にとって幸か不幸か、崩落した場所は川岸付近、崩落したのは日の出直前。
初撃をたたき込み、そのまま川にまで吹き飛んだタルカスを追おうと勢いづいたブラフォード。しかしその脚がはたと止まった。
恨めしそうに明るくなり始めた東の空を見、そして視線を戻てみれば、あの巨体が見えなくなっていたことに彼は舌打ちした。

なんて逃げ足の速いやつなんだ、そう毒づくもどうしようもない。
一撃を浴びせたというのに、タルカスのタフネスは人間離れしたもので騎士はどこへともかく、身を隠してしまったのだ。

「……ちッ」

最後に恨めしそうに、揺れる水面を一瞥すると、ブラフォードは踵を返し、建物の影へと姿を消した。
闇へ溶けて行った彼は、一度として振り返らず、そして足を止めなかった。
握りしめた鉄鎚から滴り落ちる血を気にもせずに、彼は暗闇の中に消え去っていった。
最後にザワリと揺れた髪の毛が空間を歪ませるように震え、そして彼はいなくなった。
後に残されたのは荒れ果てた戦場、窪んだ地面と決壊した河川場。

そして彼がその場を後にし、いくらか経った後。静寂を破るように唐突に、水を切る音が聞こえた。
そして水の中から、二本の腕が生え出た様に飛び出した。
475 ◆c.g94qO9.A :2012/07/07(土) 00:49:07.94 ID:mpbu/ou1


満身創痍のタルカスは、川から這い出るとその場に崩れ落ちる。
血か水かもわからないぐらいに身体は液体で濡れ、鉄鎚の直撃を喰らった右腕は使い物にならなくなっていた。だらりとぶら下がる腕が痛々しい。
ぜえぜえと呼吸を繰り返し、タルカスは激しくせき込んだ。口から血を吐き大地を見つめながら、彼は唸るように言葉を口にした。血と水混じりに、苦しそうに彼は名を呼んだ。

タルカスは絶望していた。
自らの浅はかさ、愚かさ、滑稽さ。
拳と拳で語らえば、言葉を交わすまでもなく分かり合える。そんなものは虚しい幻想にすぎなかった。その事実が、彼には衝撃的であった。
それだけではない。自分は誰よりも彼のことを知っている、彼の真の理解者は俺しかいない。そう思っていた相手が、未だかつて見たことない表情を浮かべていた。
その時タルカスは恐怖したのだ。戦友の底知れない憎悪に。そして自分がああなっていたのかもしれないという事実に。
自らが築きあげたはずのものが、音を立てて崩れ去っていったかのようだった。
君主を失い戦友は立ち去り、後にはいったい何が残っているのだ。空っぽの祖国に一人きりの騎士に、一体何が守れるというのだろう。

「……―――」

タルカスが名前を呼んだ。その少女こそが、彼が唯一守れる、そして絶対に守りたいモノの名前だ。
戦いの最中何度も心が折れそうになった。友との和解が絶望となった時、それでもその名は彼を支えてくれた。
川に叩きこまれ、意識を手放しかけた時、彼を最後でつなぎ止めたのは少女の名前だった。

重い身体を引きずり、タルカスが立ち上がる。戦友が消えた先に一度だけ視線を向けるも、すぐに彼は空を見上げ歩き始めた。
ボロボロの身体と心を支えるのは、もはや少女の存在だけ。少女に会いたい、スミレに会いたい。その感情が彼を突き動かす。
あの笑顔を見れば、元気が湧いてきそうだ。今は疲れ、すぐにでも倒れそうだが、彼女に会えばそれもたちまち治るだろう。
スミレ……スミレに、会いたい。とにかく彼女の笑顔を見たい。今はもう、それしか考えられない。


「待っていろ、スミレ……」


タルカスは進む。シンガポールホテル、そこで元気で、けれども自分のことを心配し、気を揉むように待っているはずの少女のために。
タルカスは重い体を引きずり、歩き続けた。




476創る名無しに見る名無し:2012/07/07(土) 00:49:40.18 ID:8YTmznfe
しえ
477 ◆c.g94qO9.A :2012/07/07(土) 00:50:22.62 ID:mpbu/ou1





泣いている少女の姿が見える。血と氷の海で身体を縮こめ、冷たくなっている彼女の遺体。少女の頬には、涙の跡が残っていた。
壊れてしまうことがないように、俺は震える手で彼女を抱きあげた。
幼い身体は俺の両手に収まってしまいそうなほどに小さい。かつて飛ぶように跳ねまわっていた少女は、もう、動かない。
俺の頭は凍りついたかのように何も考えられず、一面、白に染め上げられる。唯一できたことと言えば、彼女の頬をそっと優しく撫でるのみ。

傍らに刺さった氷柱が夜の終わりに合わせるかのように、ゆっくりと溶けだした。
一筋の雫が水たまりに落ちると、ポチャン……と音を響かせていった。

どうしてこうなったのだ。こんな結末、俺は望んでなどいなかった。
少女を泣かせたくない、その一心で俺は戦うことを選んだはずだというのに。
少女に救われ、そんな少女をもう二度と失いたくない、そう思ったから俺は二度目の忠誠を彼女に捧げたというのに。

救われた恩を返すことはもう、叶わない。
少女は俺一人残し、はるか遠く手の届かない所へ逝ってしまったのだ。
そう、あの時と同じ。メアリーさまと同じように。

辺りを見れば真ッ二つに折れた棒が見える。執拗に追いまわされ、それでも懸命に逃げ惑った彼女の足跡が見える。
救いを求めていた彼女を、俺は救えなかった。全て手遅れになった今になって、俺はようやくここに現れた。
そして、そこに彼女はいたのだった。悲しそうに涙を流し、冷たく、硬くなった体のままで。


何故、何故、何故なんだ……ッ どうしていつも俺の手をすり抜け、全て、零れ落ちてしまうのだ……ッ!


目の奥が焼けるように熱い。唇は震え、せり上がる感情が喉元で暴れ回る。
神よ、天よ、運命よッ! これが貴様たちの答えなのか……? これがお前たちの真意だというのか……ッ?!
ならば、問おう。何故なのだッ!? 何故彼女たちが死なねばならんのだッ なぜ彼女たちを、貴様らは殺したのだッ


 死ぬべきはずでない女性(ひと)たちが死に、死ぬべき騎士(おれたち)が生き永えるッ


どうしてッ どうしてッ どうしてなんだッ! 何がいったい望みだというんだッ
俺たちが、一体何をしたんだッ 何故こうも全てが狂ってしまうんだッ? 何故誰も幸せにならないんだッ!?
大切なものがあって、そのどちらかを選ばなければならない。断腸の思いで俺たちは選択するッ
忠義か命か。個人か民衆か。友か君主か。遵守か逸脱か。
大切なものを守るために、大切なものを裏切らなければならないッ 大切なひとを救うため、大切なひとを傷つけなければならないッ
478 ◆c.g94qO9.A :2012/07/07(土) 00:51:17.00 ID:mpbu/ou1


 それが貴様らの答えだというのかッ それがお前たち、天のッ 神のッ 運命のッ!
 『そんなもの』がお前たちがッ 俺たちにッ 彼女たちに示すッ 『救い』だとでも言いたいのかッッッ!!


「赦すもんか……俺は赦さんッ 俺は、貴様らを断じて赦さんぞォ!」

決して、決して、俺は赦さないだろう。
例え地べたに頭をつけ、泣き喚き、醜く涙を流し、懇願しようとも。それでも俺は決して赦すまい。
地の果てまで貴様らを、血が流れる限りに永久に、俺はお前たちを追いたてるッ

貴様らが俺から奪ったものは二つだ。
かつて遠い日に抱いた俺の理想。忠義の果てに夢見た、女王と戦友と過ごす日々。
少女に託した限りない明日。救われた命の限りを尽くし、彼女の行く先を照らそうと俺は固く誓ったはずだッた。
だが崩れ去ったものが、二度と紡がれることはない。

運命なんぞ、くそくらえだッ 俺は決して屈しない。どれだけ貴様らが俺を貶めようとも、俺は絶対ッ お前らなんかに屈しないッ
ああ、そうだ。さぞかし俺は滑稽だろうな。恥知らずのマヌケ野郎だ、芸もできないどんくさ犬だ。
だがな、そんな俺ですら、そんな俺からすらッ 貴様らは誇りを奪うことなんぞできやしないッ
ああ、そうだッ 死ぬべきでなかった彼女たちが託したものが、残したものが『俺だけ』だというのならッ

「生き残ってやるとも……ッ どれだけ辛かろうが、どれだけ絶望しきろうが……ッ」

俺こそが彼女たちの託した希望となる。俺こそが彼女たちの成した救済となる。
ふんぞりがえった神々どもよ、神様気取りの主催者とやらよ。
これは俺からの挑戦だ。俺から取り上げれるものなら、取り上げてみるがいいッ 殺せるものなら、殺して見るがいいッ
俺は決して死なん。俺は決して殺さん。ああ、そうだ。これは俺からの挑戦であり、お前たちへの俺からの……全てをかけた―――

  
   
   ―――復讐だ



479全て遠き理想郷    ◆c.g94qO9.A :2012/07/07(土) 01:02:03.22 ID:mpbu/ou1
【C−4 シンガポールホテル/一日目 早朝(放送前)】

【タルカス】
[能力]:黄金の意志? 騎士道精神?
[時間軸]:刑台で何発も斧を受け絶命する少し前
[状態]:疲労(大)、全身ダメージ(大)、右腕ダメージ(大)
[装備]:ジョースター家の甲冑の鉄槍
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:主催者を倒す?
1:???


【C−4 中央/一日目 早朝(放送前)】
【ブラフォード】
[能力]:屍生人(ゾンビ)
[時間軸]:ジョナサンとの戦闘中、青緑波紋疾走を喰らう直前
[状態]:腹部に貫通痕、身体中傷だらけ、全身ダメージ(大)、疲労(中)
[装備]:大型スレッジ・ハンマー
[道具]:地図
[思考・状況]
基本行動方針:失われた女王(メアリー)を取り戻す
0:とりあえず太陽の届かない場所に身を隠す。
1:強者との戦いを楽しむ。
2:ジョナサン・ジョースターと決着を着ける。
3:女子供といえど願いの為には殺す。
480全て遠き理想郷    ◆c.g94qO9.A :2012/07/07(土) 01:03:46.49 ID:mpbu/ou1
以上です。誤字脱字、矛盾点等ありましたら連絡ください。
久しぶりでしたがなんとか書きれました。
481創る名無しに見る名無し:2012/07/07(土) 03:44:34.42 ID:Edr5mhb9
投下乙でした!
熱かったです!
今後に不安もありますがタルカスが好きになりました!
482創る名無しに見る名無し:2012/07/07(土) 20:40:47.80 ID:UbZhazYD
投下乙
人間タルカスの戦闘は新鮮で面白い
決着がつかなかったことで、この因縁はロワ後半まで期待できるフラグの一つになるかもですね
483創る名無しに見る名無し:2012/07/08(日) 00:38:47.03 ID:7z9ASoV8
乙でした
タルカスが切ない…
スミレが生きていたらもうちょっと救われただろうになあ
484 ◆vvatO30wn. :2012/07/13(金) 22:32:15.41 ID:xNlM94j6
投下告知
23時半頃から投下開始します。
485創る名無しに見る名無し:2012/07/13(金) 23:10:22.18 ID:p5tftgbo
しえんたいき
486 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:00:49.04 ID:C1V7IOmJ
遅れて申し訳ない。
直前にもう一度推敲をと思ったら思いのほか時間かかってしまいました。

これより投下を開始します。
487創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:01:56.44 ID:04taZaK8
支援してもかまいませんねッ
488 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:02:14.50 ID:xNlM94j6
フロリダ州立グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所。
またの名を『水族館』。
囚人番号FE40536の空条徐倫は、当施設を『石の海(ストーンオーシャン)』と表現した。
囚人たちは何人たりとも脱獄不可能。
その名に恥じぬ堅牢な要塞はアメリカ・フロリダ州を離れ、永遠の都ローマの市中、ジャニコロの丘の上に居を構えていた。
本来の刑務所周辺に広がっていた湿地帯は姿を消し、歴史都市の郊外に現れた奇妙な光景だ。

現在までに、この施設にはすでに多くのゲーム参加者が訪れていた。

チョコラータ。
元・外科医でありながら自らもサイコパスを患うイタリアのギャングにして快楽殺人鬼。
間田敏和。
ひょんなことからスタンド能力を手に入れたことを除けば、どこにでもいる男子高校生。

彼らは初期配置がこの刑務所に定められていた。
ゲーム開始早々、チョコラータは間田を殺害。
そのまま籠城も考えたが、堪え性のないチョコラータは午前2時を迎える前には刑務所を後にしていた。

F・F。
プランクトンに知性を与えられた、新種の生命体にしてスタンド能力そのもの。
彼女は当刑務所の元囚人である空条徐倫の体を奪い、その記憶に釣られてこの建物にやってきた。
ホル・ホース。
DIOの元・部下のひとりでスタンド使い。能力はタロットカード『皇帝(エンペラー)』の暗示。
彼は徐倫(F・F)に興味を持ち、彼女に同行していた。

彼女たちは午前4時過ぎにこの刑務所に辿り着き、一通り見回ったあとは女子監の北、看守控え室に腰を落ち着かせた。
ゲーム開始早々、それぞれが激しい戦闘を経験し、体力の回復も兼ねて放送まで急速を取ることを選んでいた。

マッシモ・ヴォルペ。
彼は既に刑務所最南部に位置する懲罰房棟の敷地外に出ていた。
ゲーム開始後に知り合った友人と一時的に別行動を取り、刑務所周辺の探索と友人のための血液の収集に向かっている。
放送後30分を目処に、刑務所へ帰還する予定である。

DIO。
懲罰房棟でヴォルペと別れた数分後、彼は一般男子監に腰を据えていた。
彼自身も、一度ヴォルペと離れて自分ひとりの時間というものが持ちたかったのだ。

そして、あと4人。
舞台は徐倫やエルメェスたちも収容されていた、一般女子監。
役者は国籍の違う3人の少年たちと、イタリアギャングの殺し屋がひとり。


☆ ☆ ☆
489 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:03:35.32 ID:C1V7IOmJ


「うわあああああ!! エンポリオさああああんッ!!」
「お前えぇぇッ!! エンポリオから離れるんだどおおおッ―――ッ!!」

少年たちが悲鳴を上げる。
ゲーム開始以降、比較的平穏な時間を過ごしていた彼ら。放送を迎える午前6時の直前、とうとう悲劇に見舞われた。
血まみれになって倒れるエンポリオ・アルニーニョの息は既に無い。
遺体の傍らに立つ下手人と思われる男は、泥でできたスーツを纏ったような、怪奇な出で立ちをしている。
男の名はセッコ。
彼はたった今殺した少年の遺体にも、新たに姿を見せた2人の少年にも目もくれず、ポラロイドカメラから出てくる写真に夢中である。

「おっおっおっおっ! おうおっ! 撮れてる撮れてるぅおっ! うおっ!」

セッコの殺人に動機は無い。
ゲームに生き残りたいからでも、怨恨によるものでも、ましてや快楽ですらない。
彼にとっては日常が殺人なのだ。
人間が死ぬときの様子を撮影すれば、チョコラータと再会した時に褒めてもらえる。
角砂糖を投げて遊んでくれる。
この殺人に理由があるとすれば、たったそれだけだ。

「に…逃げよう、重ちーさん。早く逃げないと……殺されちまうよォ―――ッ!」
「ダメだどポコ。あいつはオラたちの友達のエンポリオに酷いことをしたんだど!
あんな悪い奴を放ってはおけないど! オラがあいつをやっつけるど!!」


エンポリオ・アルニーニョ。矢安宮重清。ポコ。
3人の少年たちのこれまでの経緯はこうだ。

ゲーム開始後、彼らはヴァチカン市国南側からジャニコロの丘の北部にかけた地域で遭遇し、行動を共にする事となった。
それぞれがアメリカ人、日本人、イギリス人である彼らにとってローマは見知らぬ国の見知らぬ街であったが、地図を確認したところ、それぞれの人物にとって聞き覚えのある地名も幾つか見受けられた。

矢安宮重清にとって杜王町は生まれ育った町だし、友人である東方仗助や虹村億泰の家も確認できた。
ポコにとっても、双首竜の間は彼が初めて『男』を見せた場所で、大きく成長することのできた思い出深い場所である。
そして彼らの現在地からもっとも近くにあった場所が、エンポリオの生まれ育った、このグリーン・ドルフィン・ストリート刑務所だったのだ。

刑務所という普通の人間なら敬遠しがちな重苦しい施設ではあるが、エンポリオにとっては最も安全に時間を過ごせる場所だ。
幸運にもチョコラータとほぼ入れ違いに刑務所に辿りついた彼らは、エンポリオのスタンド『バーニング・ダウン・ザ・ハウス』によって出現させた『音楽室の幽霊』の中に隠れることに成功した。
この『音楽室』は、知識のある人間でなければ見つけられることはほとんど無いだろう。
食料は3人分あるし、いざとなれば重ちーの『ハーヴェスト』に調達させれば良い。
彼らはここで、安全な時が来るまで籠城することを選んでいた。
490創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:05:02.99 ID:04taZaK8
これが『支援』だ……
491 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:05:08.88 ID:C1V7IOmJ

午前4時を過ぎた頃、刑務所に新たな来訪者が現れた。
空条徐倫とホル・ホースの2人だ。
彼女たちは刑務所内を一通り探索していったが、階段の踊り場の壁の隙間に入口のある『音楽室』までは、さすがに見落とさざるを得なかった。
外を見張っていたエンポリオは、当然2人の来訪には気がついた。
徐倫はエンポリオの仲間の一人だ。だが、エンポリオは声をかけることができなかった。
一緒にいたホル・ホースの存在も原因の一つではあるが、徐倫の様子がおかしいかったのだ。

頭をフラつかせ、目は虚ろ。
記憶喪失か夢遊病者のような、とにかく普段の徐倫とは違う奇妙な雰囲気を醸し出していた。
彼女の父親である空条承太郎が死んでしまったことにも影響があるのかもしれない。
結局エンポリオが声をかけられないまま、彼女たちは階段の踊り場を去ってしまった。

エンポリオの決意が固まったのは、それから一時間もたった頃。
理由は第1回放送が迫っていたからだ。
放送では、名簿の配布、禁止エリアの通告の他に、過去6時間以内の死亡者の告知もされるという。
自分や徐倫が参戦している以上、エルメェスやアナスイもここに居るのかもしれない。
そして、もし彼女たちの名前が放送で呼ばれるようなことがあれば……。
お父さんに続き、大切な友達をなくしてしまうようなことがあったら……。
徐倫は壊れてしまうかもしれない。
今の徐倫には、自分がついていなくてはいけないのではないか?放送より前に。
そう思ったのだ。
それが、大きな間違いだったのだ。
あと10分、決意するのが早ければ、エンポリオには違う物語もあったかもしれない。

『やっぱり、僕は徐倫お姉ちゃんに会ってくるよ。2人はここにいて』
『えっ エンポリオっ! へっ 平気なのかっ!? おらたちも一緒の方がいいと思うど……』
『いや…… 徐倫お姉ちゃんは何か様子がおかしかった。混乱させないように、まずは僕ひとりの方がいいと思うんだ』
『エンポリオさん…… 気をつけて……』
『大丈夫、すぐ戻るから』

それがエンポリオの最期の言葉となった。
『音楽室』を出たエンポリオは、階段を下りて女子監房の食堂へと向かう。
そこで、刑務所内に迷い込んでいたセッコと遭遇した。
土や石の中を掘り進むことのできるスタンド『オアシス』の能力によって地中を移動していたセッコは、ちょうどその時この刑務所の食堂へと辿りついていた。

セッコは出会い頭に、エンポリオの腹を突き破る。
そして、一瞬では死なないように内蔵を引きちぎり、彼の胃や小腸が地面へと転がり落とした。
『オアシス』によって強化された膂力ならば容易いことだった。
うめき声をあげ、弱っていくエンポリオ。
そしてセッコは、少年がゆっくりと苦しんで死んでいく様子をカメラに収めていた。
エンポリオの精神力が尽きたことにより、『音楽室の幽霊』は消滅。
室外へ投げ出された重ちー、ポコの両名がセッコの元に辿りついた頃、エンポリオは既に果てていたのだ。



492創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:06:28.14 ID:04taZaK8
支援支援
493 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:06:29.12 ID:C1V7IOmJ


「お前聞いてるのかっ!? 何をしているんだど!! その手に持ってるものは何なんだど!?」
「あ!? おめえ誰だよォォォォ――― ジャガイモみたいな頭した糞餓鬼がよォォォォ!」

セッコが、初めて重ちーの言葉に反応を示す。
同時に二つの物事を考えることが苦手なセッコは、大事な写真の確認に横槍を刺されて苛立ちを露わにする。
エンポリオに次いで新たに現れた2人の少年。
もちろんエンポリオ同様に殺すつもりである事は変わりないのだが、セッコにとっての優先順位は殺人よりも写真撮影の方が高いのだ。

「動くんじゃあないど! 行けえッ! 『ハーヴェスト』! それを取り上げるんだど!!」

重ちーがスタンドを出現させる。
群体型スタンド『ハーヴェスト』がわらわらとセッコの身体に群がる。
真夜中の自動販売機に群がる蜉蝣のように現れた小さな亜人たちは、その数総勢500体。

「なっ! なんだよォォォォォ! こいつらぁぁぁぁ!!」

そのあまりに壮観な群衆に、セッコはたまらず嘆き声を漏らす。
そんなセッコの油断をついて、数十体の『ハーヴェスト』たちのはセッコの手から写真の束を奪い、重ちーのもとに舞い戻った。

「なっ! なんだど!? これは死体の写真だど!! エンポリオと…… 知らない女の子が苦しんで死んでいく写真だど!」
「ひいっ!」
「あああああっ!! おっ お前! その写真返せよォォォォ!! ぶっ殺すぞこの野郎オオオオ!!」

大切な写真を奪われたことで、明確に殺意を露わにしたセッコ。
『オアシス』で強化された身体能力で重ちーに飛びかかり攻撃する。
しかし、無数の対する重ちーも『ハーヴェスト』たちを鎧のように纏い、素早く移動してセッコの攻撃を軽々と回避する。
さらに、セッコの身体にもまだ残っている別の『ハーヴェスト』たちが、『オアシス』の走行が薄い「のど」や「顔面」を切り裂いて攻撃する。
怒りを見せているのはセッコだけじゃあない。
写真を見て、セッコの本性を垣間見たことで、重ちーの心も正義の怒りに燃えていた。

「お前! とんでもない悪い奴だど!! ぜったいに許さないど!! オラがやっつけてやるど!!」
「重ちーさん………」

ポコが不安そうに重ちーに声をかける。
ポコの身体も重ちー同様、『ハーヴェスト』たちが群がって鎧を作り保護している。
誰かを守りながら戦うという点においても、『ハーヴェスト』は非常に優れたスタンドだった。
重ちーは、ポコの不安を取り除くべく力強く声をかける。

「ポコ! 心配ないど! オラが付いてるど! 『ハーヴェスト』は無敵なんだど! 仗助たちにだって本当は勝っていたんだからなっ!?」

重ちーは、正義に燃えていた。重ちー自身も知らなかった、自分にこんな一面があったことを。
これまで、重ちーは同年代の友達というものができたことがなかった。
つい先日、同じスタンド能力を持つ友人、東方仗助と虹村億泰と知り合ったことで、初めて友情というものを知ることができた。
もっとも、彼らふたりは重ちーより年上であるし、これまで人に頼られたことがなかったままである。
両親に溺愛されて育った彼はそのことに不満を感じることもなく、これまでの人生を過ごしてきたのだ。

だが、このゲームの中で出会ったポコとエンポリオは、重ちーより年下である。
そう。重ちーは、3人の中で兄貴だった。
こと戦闘という面では重ちーは他2人より優れていたし、頭が悪い分、度胸も誰よりも強かった。

494創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:06:49.76 ID:NH5p7KuL
495創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:08:02.24 ID:04taZaK8
さー支援
496 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:08:06.46 ID:C1V7IOmJ

「うっがあああああ!! なに喋ってるんだよォォおお前らぁああああ!! 殺すぞォォォ!!」

なかなか自分の思う通りにならないことに、セッコの怒りが蓄積されていく。
『ハーヴェスト』の鎧を纏った重ちーの動きを、セッコは捉えることができない。
攻撃の対象を自分に群がってくる方の『ハーヴェスト』に標的を変更するが、相手は500体にも及ぶ群体型スタンド。2〜3体潰したところで本体である重ちーにはほとんど影響がない。
対するセッコ自身は、群がる『ハーヴェスト』の人海戦術によって「泥スーツの隙間」を狙われ、少しずつ、しかし確実にダメージを蓄積されていた。

「がっ! テメェ! クソォ!! ぐわっ!!」
「いいぞ『ハーヴェスト』ッ!! そのままやっちまうんだどッ!!」

重ちーは自分の力の強さを確信した。
自分は敵の攻撃を一切受け付けない。敵は自分の波状攻撃に対し何も出来ない。
やはり、自分は強い。『ハーヴェスト』は最強のスタンドだ。
仗助たちに負けたのは、自分が油断したからだ。

だが、侮ってはいけない。セッコは、ギャング組織に所属するスタンド使いの中でも、特に戦闘能力の高い手練なのだ。
組織のボス・ディアボロが、あのチョコラータと同格扱いするほどの凶悪な危険人物。
原始人を思わせる間の抜けた叫び声と下品な言葉使いから、重ちーはセッコを自分以上に頭の悪い人物だと認識していたが………。

「てめええええ! あんまり調子に乗ってんじゃあねええ――――ッ!」

攻撃を受けながら、セッコはエンポリオの死体を横目で見る。
セッコはエンポリオの死ぬ姿を、事細かく観察していた。
出会い頭に、腹に一撃。セッコに手痛い一撃を受けたとき、エンポリオは懐に手を突っ込んでいた。
咄嗟に、何か武器を取り出そうとした動きだ。結局、セッコの素早い攻撃によって、反撃は叶わぬまま終わってしまった。
セッコはそれを思い出した。

『ハーヴェスト』たちの攻撃を一旦無視し、セッコはエンポリオの死体に飛びかかる。
血液と胃酸の海に溺れるエンポリオの腹から発見されたのは、リングの栓が嵌められた缶コーヒーほどの大きさを持つ黒い筒。
これは使える。
セッコは迷いなくその栓を引き抜き、自分の足元へ叩きつけた。

「うわっ!! なんだどっ!! 何をしたんだどおおっっ!!!」

筒から勢いよくカラフルな煙が吹き出した。
セッコが咄嗟に利用したのは、エンポリオに支給されていたスモークグレネードだ。
直接の殺傷能力のある武器ではないが、この重ちーに対しては非常に効果的だ。

「まっ! まずいど!! あいつの姿が見えない!! 『ハーヴェスト』!! 全員オラたちの周りに集まるんだど!!」

『ハーヴェスト』のスピードは、『オアシス』と比べて特別速いわけではなかった(むしろ遅いくらいである)。
セッコの攻撃を『ハーヴェスト』の鎧で回避し続けることができたのは、500対もの瞳で多角的にセッコの動きを観察し、動きをある程度予測できたことに起因する。
スモークグレネードによって文字通り煙に巻かれてしまえば、重ちーからはセッコの動きを予測できない。
重ちーはセッコからの攻撃に備え、全ての『ハーヴェスト』を防御に徹しさせた。

「くっ 来るなら来るど! 返り討ちにしてやるど!!」
「………………………………………………………」

だが、セッコからの攻撃はない。不審に思う重ちー。
天井の高い女子監では、煙を用いた目眩ましはそう長くは続かない。
煙が晴れた頃、重ちーたちの目の前からセッコの姿は消えていた。

497創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:09:27.09 ID:04taZaK8
さぁさぁ支援
498創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:09:32.56 ID:NH5p7KuL
499 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:09:48.60 ID:C1V7IOmJ

「重ちーさんっ! あいつがいないよっ!!」
「なにいっ! しまったど!! 逃げられたど!!」

煙を撒いたのは、攻撃するためではなく逃げるためだったのか。
重ちーは、全ての『ハーヴェスト』を分散させ、逃げたセッコを探させた。

「『ハーヴェスト』! あいつを探すんだど!! そんなに遠くには行ってないはずだ!! きっとまだこのケームショの中だど!!」

ここで重ちーは大きな判断ミスを犯した。
先の攻防から、セッコは自分より劣った存在である。
セッコは自分に勝てなかったのだから、目の前からいなくなったことで奴は逃げてしまったのだと、無意識の内に結論付けてしまった。
そしていつもの癖で、セッコを探す際に全ての『ハーヴェスト』を総動員させてしまった。
まだ、セッコの能力の本質を見抜いたわけではなかったのに。




「……捕まえた!」
「――――――ッ!?」

重ちーは自分の足元から聞こえてきた声にゾッとする。
石畳の地面からヌッと生え出た日本の腕が、重ちーの足首を強く握りしめていた。

「なっ! なんだど!! ハ… 『ハーヴェ』……」
「『オアシス』!!」

重ちーの身体が地中に引きずり込まれる。
今更『ハーヴェスト』を戻してももう遅い。
セッコが煙を撒いた理由は、攻撃のためでも逃げるためでもない。
自らに纏わりついた『ハーヴェウト』を引き剥がすため、そして地中から重ちーを攻撃するためだ。
『オアシス』の能力で石畳の中に侵入してしまえば、『ハーヴェスト』たちの探索能力も用意に掻い潜ることができる。
そして地中に重ちー本体を引きずり込んでしまえば、『ハーヴェスト』たちは彼を助けることもできない。
この『石作りの海』を自由に泳ぎ回ることができるのは、セッコただひとりなのである。

「重ちーさんっ! 重ちーさんっ!!」

ただひとりその場に残されたポコが、重ちーの消えた地面にすがり寄る。
固い石畳に戻った地面の下からは、悲鳴も何も聞こえてこない。
悲鳴が聞こえてくるのは、ポコから見て『地面以外』の方向からだった。

『ギャピ!!』 『グギャ!!』 『ブギョ!!』 『ゲヒッ!!』

ポコの周りで、『ハーヴェスト』たちが次々と悲鳴を上げては倒れていく。
刑務所の天井から、真っ二つに引き裂かれた『ハーヴェスト』が落ちてくる。
壁を登っていた『ハーヴェスト』が、頭を潰されて転がってくる。
『ハーヴェスト』が地面を這いずり回っていたまま、いつの間にか動かなくなっていく。
そして、そのどれもが冬を迎える桜の木の葉のように、塵のように消えていく。
500体もいた重ちーの『ハーヴェスト』が、まるで彼の命の灯日が消えていくかのようにいなくなっていく。

『ポコ…… ポコ………』

弱りきった『ハーヴェスト』から、重ちーの声が聞こえてきた。

『……逃ゲル…… ン…… ダ……… ゾッ!!』

そのハーヴェストが最期の一体だった。
全ての『ハーヴェスト』が消えた直後、地面から大量の肉片が飛び出してきた。
それは、バラバラに引き裂かれた重ちーの惨殺された姿だった。
500創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:10:25.94 ID:LM156kVP
支援
501創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:12:03.32 ID:04taZaK8
ほいほい
502創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:12:15.52 ID:NH5p7KuL
503 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:12:30.78 ID:C1V7IOmJ

「う わ あ あ あ あ あ あ あ あ !!!!!!」


地面より這い出たセッコにとって、ポコの叫び声は心地よいファンファーレだった。
相変わらずのポラロイドカメラと重ちーの恐怖を写したスプラッターな写真を手にしており、満悦な表情で笑っている。

「げひっ げひっ またまたうまく撮れたなあ〜〜〜〜 チョコラータに見せたら、甘いのまたくれるかなあ〜〜〜 げひひっ」

口調はまた、以前の頭が悪そうな下品なものへと戻っていた。
既に重ちーの『ハーヴェスト』に翻弄されたことは、セッコの頭から消えていた。
セッコの頭の中で、重ちーはうっとおしい敵からただの被写体へと変わっていた。
重ちーの死体写真に満足したセッコは、そこらじゅうに散らばっている「エンポリオ」と「シュガーマウンテン」の死体写真を拾い集め始めた。

その様子を、ポコは震えながらじっと見ている。
写真を拾い集めたら、奴は自分を殺しにくる。そんなことはわかっているが……
腰が抜けて、足がすくんで…… 動けないのだ。

「ところでよォ―――? お前はどんなふうにして殺されたいんだぁぁ?」

写真を尻ポケットに仕舞いながら、セッコはポコに声をかけた。
もうどうしようもない。ポコは逃げられない。

「生きたまま身体を切り刻んでやろうかぁ〜〜 それとも一撃で首をはねて苦しむ顔を見ていてやろうかぁぁ〜〜〜」

それらは全て、チョコラータがセッコに教えた殺害方法である。
拷問殺人による被害者の恐怖が、チョコラータの何よりの好みであった。
シュガーマウンテンを殺害した時の土手っ腹に大穴を開けるやり方も、エンポリオの時の内蔵を引っ張り出すやり方も、重ちーの順々に四肢をもいでいくやり方も、すべてチョコラータが教えたものだ。

「いっぱい苦しんでぇぇ! 泣き叫んだらさあああ――― チョコラータは甘いのたくさんくれるかなあああ!!」
「ぎゃあああ!!」

飛びかかり、セッコはポコの脚を手刀で切り裂いた。
まずは機動力を奪い、逃げられなくする。
その上で、如何に苦しませて相手を痛めつけるのかを考えるのだ。
セッコは、自然とチョコラータの好む殺害方法を身につけていた。
チョコラータの好みに合わせるほうが、自分にとって利になることを学んでいた。
ポコのような圧倒的弱者を殺す場合、その傾向は特に顕著に現れていた。



「ほう? なかなか上手く撮れているじゃあないか」
「アァ!?」

504 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:14:24.55 ID:C1V7IOmJ

だが、今回のポコに関しては例外のようである。
セッコの注意は、後ろから声をかけてきた新たな来訪者に向けられた。
いつの間にこの部屋にやってきたのか。セッコもポコも全く気が付かなかった。

「真の恐怖とは、本当に死に直面したものでないと理解できないものだ。これらの写真には、彼らの畏れる様が見て取れる。なかなか見られるものではない」
「あああああ!!! お前またオレの写真をォォォォ!!!」

セッコの興味は完全にポコから消え去り、突然現れたこの金髪の男に向けられていた。
どうやって取られたのかわからないが、せっかく取り返した写真をまたもや奪われたことにより、セッコは激怒する。

「なかなかいい趣味をしている。どうだ? 友達になろうじゃないか――――――」
「写真返せコノヤロ―――ッ!!」

彼の与太話も耳に入らない。
セッコは『オアシス』を身に纏い、男に襲いかかった。

「―――――このDIOとな!」



☆ ☆ ☆


505創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:14:33.45 ID:04taZaK8
しえん
506創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:14:39.96 ID:NH5p7KuL
507 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:16:42.55 ID:C1V7IOmJ


面白い男と出会う事ができた。
このDIOがいままで出会った事のないタイプの人間だ。
一番近いのはジャック・ザ・リパーだが、彼も今回のこの男とは少し違う。
確かに殺人趣味の狂人であったが、彼はターゲットを売春婦のみに絞り、汚れた女性や浮ついた女に制裁を加えるという彼なりの動機もあった。
性的な面においても、彼は極度の変態であった。
殺害した女性の死体を分解し、腑分けして内蔵を取り出す行為に興奮を覚えるという異常者だった。
この男は、そうではない。
殺人は彼にとって本質ではないというか、二次的な結果でしかない。
彼の行いの根本は写真の撮影であり、殺人行為はそのための過程でしかない。
その写真撮影ですら、この男の切望では無いような気がする。
吸血鬼になったことでの、発達した聴覚に感謝しよう。
スポーツ・マックスの記憶DISCの読み取りを中断してでも、この場に来たことは正解だった。
この刑務所の囚人であり、DISCが取り出せたことから予想もついていたが、私の友人とも知り合いだったようだ。
こと情報という面においてでは、非常に有用な人間だ。
だが、奴の本性は街のチンピラであり、人間性を知ったところで面白みも何もない。
こちらの彼の方がずっと面白い。そう感じた。


☆ ☆ ☆


508創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:17:04.33 ID:LM156kVP
支援!
509創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:17:59.77 ID:04taZaK8
しえん
510創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:18:10.66 ID:NH5p7KuL
511 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:18:34.75 ID:C1V7IOmJ

客観的に見れば、タイミング的にポコは命を救われたと言ってもいいのかもしれない。
だが、ポコ自身にとっては彼の登場によって安心するような心の余裕は生まれない
むしろこの男の登場によって、ポコは前以上の恐怖を味わっていた。
少し印象は変わっていたが、この男はポコも以前会ったことのある恐ろしい吸血鬼だったからだ。



「ふむ。被写体に近づきすぎていて情景は読み取れない。物によっては表情に焦点すら合っていない。プロの写真家ならばこの写真は失格だろう」
「うっ ううううるせぇぇぇ!! 写真返せぇ!! あぐおああああ――――」

写真を非難されていると思い、セッコは『オアシス』を纏い攻撃を仕掛ける。
だがセッコの拳が達する瞬間、DIOは煙のように姿を消し去ってしまった。

「ありっ? なにぃ!?」

姿を消したDIO。セッコが隠れるためにはスモークグレネードを用いる必要があったが、DIOは一瞬の隙も無く姿を消してしまった。

「それに、警察の現場写真としても使えないだろう。手振れも酷いし、光度もマチマチだ。被写体の趣味を考慮から外しても、一般的に見て質の悪い写真と言えるだろう」

そしてDIOは、後ろからセッコに声をかけた。
その声につられ、セッコは後ろを振り返る。DIOはセッコから10メートルは離れた位置に立っていた。
超スピードで避けたか。しかし、反応できないのはまだしも、セッコが目で追えないほどのスピードなんてありえるのか?

「だが、この写真はこれでいい。この写真だからこそベストと言えるだろう」
「何が言いてえんだあああ!! てめえはよォォォォ――――!!」

DIOは淡々と写真を評価する。
そんなDIOに対しセッコは激しく戦意を向け、大声で怒鳴り散らす。
DIOはフフフと口元のみで笑い、次の瞬間にはまた姿を消してしまった。
セッコは辺りを見渡す。DIOは2階のテラスの上からセッコを見下ろしていた。
今度はDIOとの距離があったから、見間違いじゃあない。
DIOは一瞬のうちに音も立てずに移動し、セッコを翻弄しているのだ。
やはり超スピードではない。では、瞬間移動か? だがセッコの本能は、目の前の男の持つ能力が、もっと得体の知れない恐ろしいものであることを直感していた。

「スプラッターフィルムというものは技術が稚拙なほど映えるものなのだ。創作用語でモキュメンタリーと呼ばれる手法に近い。
素人技術による甘いカメラワークや写真画像の画質の悪さが、見るものにより現実感を与え、恐怖心を煽ることができる。
実に見事だ。無意識のうちに、君はこういった才能を身につけているのかもしれないな」
「うるせええ!! だから何だってんだよォォ!! 写真を返せ!!」
「――――――もう返したさ」

喚き散らすセッコに、DIOは笑いながら両の手のひらを広げて見せる。
慌ててセッコは自分の衣服を探る。
写真はいつの間にか、自分の尻ポケットの中に戻されていた。

512 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:19:57.60 ID:C1V7IOmJ

「何ィ!?」

一体どうやって? やはり瞬間移動でも説明がつかない。
臨戦態勢のセッコに全く気付かれずに写真をポケットにしまうなんて、たとえ瞬間移動できる能力でも不可能な芸当だ。
ニヤニヤと笑いながら、DIOはセッコを見下ろす。
写真が手元に戻ったことにより冷静さを乗り戻したセッコは、改めて自分を見下ろす男のことを考える。
この男は、自分の殺人行為や写真についてまっとうな評価を下し、認めてくれている。
嫌悪感を抱いていた、先ほど殺した小太りの少年(重ちー)たちとは全く違う。
チョコラータ以外の人間に認められ、褒められる経験はセッコにとって初めてである。
写真を返してくれたことにより、この男は(自分にとって)悪い奴ではないのかもしれない。
そしてそれ以上に、自分以上の圧倒的な力と威圧感を見せつけられ、セッコは小さな憧れを感じていた。

「何モンだよ…… あんたァ………」

DIOはマントを翻し、2階のテラスから飛び降りてセッコの前に美しく舞い降りた。


「ディオ・ブランドーだ。DIOと呼んでくれたまえ」



☆ ☆ ☆


513創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:20:59.90 ID:LM156kVP
支援
514 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:21:28.43 ID:C1V7IOmJ


「なるほどなるほど。セッコ、それでようやく合点が行ったよ。殺人も写真も君の恰好ではなく、そのチョコラータという先生の趣味なのだな」
「おうおうおう! チョコラータはすっげえんだよォ! そんでよ、上手くビデオに撮れてると甘いのたくさんくれるんだよォ!!
やっぱ写真じゃダメかなあ! チョコラータ甘いのくれないかなあァァ――――!!」
「大丈夫だとも。さっきも言っただろう? お前の写真はなかなかのものだ! このDIOが言うのだから間違いない!」
「うへえええ!! やっぱり? やっぱりそう!? DIO! お前やっぱりいい奴だなぁぁ!!」

会話を初めて5分も経たぬうちに、セッコはすっかりDIOのことが好きになっていた。
チョコラータ以外の人間に懐いたのはこれが初めてのことだ。
いや、甘い物という絆がなくともセッコはDIOのことを気に入っている。セッコの中での単純な順位は、いまやDIOがチョコラータを抜き去っているかもしれない。

セッコはすっかり上機嫌になり、組織にこと、自分のこと、チョコラータのことなど様々な情報をDIOにべらべらと話す。
そんな話を、DIOは相槌を打ちながら面白そうに聞き浸っていた。

「連続殺人鬼の多くは自分の殺した人間の死体から何か『戦利品』を得ようとすることが多い。それは物だったり、行為だったり、個人によって様々だ。
20世紀中盤を代表する殺人鬼、レザー・フェイスのモデルとなったことで知られるエド・ゲインは死体の皮を剥いで縫い合わせ、衣服や家具などを作成していた。
テッド・バンディは殺した女性の死体を性的に痛み付ける、いわゆる死姦を趣味としていた。
そして、あのジェフリー・ダーマーは人間の肉を喰っていた。カニバリズムというやつだ。
どいつも異常な行為だが、チョコラータ先生にとっては、恐怖の映像を記録する行為がそうなのだろう」
「おおうおうお! 何言ってんのかわかんねえよォ! 誰だよそれェェ〜〜!? あんた社会科の先生かよォォ―――!?」
「社会科? いいや、これは精神医学という分野だよ。いや、犯罪心理学と行った方が近いかな?
君の主人のチョコラータ先生という人物に興味を持ってね。プロファイリングを行ってみたのだよ。
是非とも会って友達になりたいよ。君の先生にね」
「うひひーー! オレも会わせてあげたいぜぇぇ!! DIOならよ、きっとチョコラータと気が合うと思うぜぇぇぇ!!」

515 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:23:53.83 ID:C1V7IOmJ

特にDIOの気を引いたのはチョコラータの話だ。
組織の話も重要かもしれないが、話を聞く限り、セッコの所属していた組織というのはマッシモと同じパッショーネのことだろう。
その組織については興味がないし、知る必要が出てきたとしてもまずはマッシモに聞いたほうが手っ取り早い。

チョコラータという人間について、大雑把に聞いただけでも非常に面白い人間だとわかる。
現在のDIOの部下である『灰の塔』グレーフライ、『悪魔』呪いのデーポ、『黄の節制』ラバーソール、『吊られた男』J・ガイル、そして直属の部下、『9栄神・セト神』アレッシーらは、中でも特に残忍な殺人者だった。
だが、本質はスポーツ・マックスと同様の打算的なチンピラに近かった。
使える手駒ではあったが、DIOの好みのタイプとは程遠かった。
打算的、野心家の人物ならホル・ホースやプッチ、それにマッシモのような狡猾かつ聡明な人物ではないと興味がそそられない。
先に話に上がったバンディやダーマーも服役中の刑務所に出向き面会したが、彼らは100年前のジャックを彷彿させる、紛う方無き『狂人』だった。
非常に、DIOの好みのタイプだ。だが、DIOのメガネには適わなかった。
彼らにはスタンド使いの才はなかったのだ。

チョコラータは、DIOにとっては初めて知った『スタンド使いの狂人』。
是非とも会ってみたい。配下に加えたい。友達になってみたい。







「動くなッッ!!」

516創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:24:16.52 ID:LM156kVP
支援
517創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:24:37.35 ID:NH5p7KuL
518創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:25:01.34 ID:04taZaK8
しえん
519 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:25:48.02 ID:C1V7IOmJ

セッコとの話に花を咲かせていたDIOに、この場にいるもうひとりの少年から強い言葉が投げかけられる。
ポコだ。
自らの支給品である回転式拳銃を握り締め、DIOを狙っている。
セッコにやられて脚を怪我しているポコは逃げることもままならない。
だからといって、こんなことをしてもDIOやセッコを倒せるとは到底思えない。
それでも、少しでも一矢報いなければ、死んでいったエンポリオや重ちーに顔向けできない。

「てめえ!!」と身を乗り出して威圧するセッコを手で制して、DIOはポコに話し始める。

「ジョナサンと一緒にいた小僧だな? 名は何といったか…… あの気丈な娘の弟くんだ。私のことはわかるか?」
「ポ ポコだ! そしてお前はディオ! 僕の町をひどい目に合わせた吸血鬼… 余計なことは喋るな! これを撃つぞ!!」

震えた手で拳銃を構えるポコに対し、DIOは余裕で受け答えをする。
DIOがセッコたちのやり取りをいつから見ていたかはわからないが、結果的にポコを助けるようなタイミングで割り込んできたことは単なる偶然じゃあない。
DIOはセッコの他に、このポコにもひとつだけ用事があったのだ。

「やはりそうだったか。記憶違いかとも思ったが、確認が取れてよかった。私の感覚だとお前はとっくに死んでいるか、生きていても100歳を超える超高齢になっているはずなのだが…
まあ、そんなことはお前に聞いても無駄なこと。聞くべき相手はこのゲームの主催者たちよ」
「―――――?」

マッシモの薬の被検体に選んだ女。DIOは彼女を知らなかったが、彼女はDIOの事を知っていたようだ。ケース1。
スポーツ・マックスの記憶の中に登場したプッチ神父は、自分の知る10代後半の青年ではなく、40歳前後の男だった。これがケース2。
そして、いま目の前にいる小僧は、間違いなく100年前に出会った子供であった。ケース3。
おっと番外。最初の会場で吹っ飛ばされた一人目の男はJOJOの若き日の姿。おそらくジョセフだろう。ケース0だ。
この短い時間の中で、時代的矛盾点が4つも発見された。
主催者のことを知るためには重要なカードかもしれない。あとでマッシモにも鎌を掛けてみるか、と思った。

さて、この小僧への用事も済んだ。
ジリジリ…と、DIOはポコに向かって一歩詰め寄る。

520創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:26:36.45 ID:LM156kVP
支援
521創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:26:42.07 ID:NH5p7KuL
522 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:27:06.20 ID:C1V7IOmJ

「う…動くなって言っただろ!! いいのかッ!? 本当に撃つぞッ!?」
「ああ、撃ちたまえ。撃たないのか? お前に従って、私が動きを止めたとして、それでお前はその後どうするつもりなのだ?
このままゲームが終わるまでの残り66時間弱、時間を稼ぎ続けるとでも言うのか? そんなことは不可能だろう。
お前が今やるべきことは、脅迫ではない。その拳銃でこのDIOの息の根を止めることだ」

うう……、と小さくすすり泣く声をあげ、ポコは震えている。

「そんな拳銃では私を殺せないか? ならばこうしよう。これでどうだ?」

DIOは頭を上に向け、首をわかりやすく露出させる。
そして指先を首筋に置き、さらにポコを促す。

「ここだ。この『首輪』を狙ってみてはどうだ? この首輪を破壊してしまえば、私の首は爆弾で木っ端微塵になるかもしれんぞ?
どうせだったら試してみたらどうだ? お前が撃つまで私は動かない。このDIOを殺す、これほどのチャンスはないぞ?」

ポコは震えている。
この拳銃を撃つということは、タルカスの檻の中へ飛び込んだ時よりも勇気が必要だ。

「ただし、拳銃で人を撃つという行為を行うときは、自分も殺されても仕方がないという覚悟を持つことだなッ!?」
「うわあああああ!!」


ねえちゃん! 明日っていまさッ!!


拳銃が低く唸り声をあげる。
ポコの拳銃から発射された弾丸は、DIOの首輪に向けて向かっていく――――――



―――しかし軌道は逸れ、首輪の数センチ横を通過し、後ろの壁に小さな銃痕を作るだけに終わってしまった。




「――――――残念だったな?」

523創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:28:07.43 ID:LM156kVP
支援!
524創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:28:33.88 ID:04taZaK8
しえん
525 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:29:20.89 ID:C1V7IOmJ

次の瞬間、DIOは一瞬でポコとの距離を縮め、2発目を発射させる隙も与えずに銃を叩き落す。
そのまま胸ぐらを掴み、掛け時計のように壁に叩きつけた。

「うぐっ!」

さらに今度は手近な位置にあった房の一室の鉄格子から冊を一本へし折り、さらに二分割して2本の鉄杭を作成した。
そして叩きつけられたポコが落下するよりも素早く、彼の両の手首を鉄杭で突き刺し、壁に磔にした。

「ぎゃあああああああああああ!!!」

絶叫するポコ。
自由を奪われたポコの姿は、両腕を広げて磔にされたキリスト。もしくは自由を求めて翼を広げるも、決して飛び立つことのできない哀れな鳥のようだった。
一連の作業を瞬きする間に終えてしまったDIOは、悦に浸るクラシック指揮者のように両手を掲げて目を瞑っていた。
そして、それらの様子を呆然と見ているだけだったセッコに質問を投げかける。

「セッコ……… 君はこの少年の叫び声を聞いて、どう思う?」
「なんだ? どういう意味だ? DIO……」

質問に質問で返すセッコ。
DIOはそれを咎めることもなく、息をひとつつき、さらに話を始める。

「私はここ数年間で何人もの女性と関係を持ってきた。実験のため無理やり襲うこともあったが、相手の女性から求めてきた方が多かった。
女やデキた子供はほとんど死んでいるだろう。3〜4人は生き残っているかもしれんが興味はない。
それ以前に、ハイスクールやカリッジにいた頃に女を抱いた時のような性的興奮は、一度たりとも感じたことはなかった」

「あんた何が言いてえんだよォ? 前から思ってたけど話長いぞおまえぇ!」

「フフフすまんな。つまり、吸血鬼になったこのDIOから見て、人間たちは既に自分とは別の存在だということだ。
もちろんお前やチョコラータ先生のように気に入った相手もいるが、大半の者はただの『食料』にすぎない。
人間の血を啜ることは、お前たちが仔羊の肉を喰らっているのと同じようなものだし、殺人自体もただの屠殺に過ぎず、大した感慨もわかない。基本的にはな」

DIOの指がポコの心臓の上を撫でる。
ついさっきまで対話していた相手が、DIOにとっては既に『物』だ。

「殺人はチョコラータ先生にとって、快楽のための行為なのだろう。また、小僧がこのDIOを殺そうとしたのは、生き残るための手段だった。
ならば、お前にとって『殺人』とは何だ? この小僧のあげる悲鳴は? 絶叫はなんだ?
ただ先生に喜んでもらうためのものなのか? 甘いものをもらうことだけが、お前にとっての全てなのか?」
「おっおっ オレに、とってぇ………!?」

セッコはそんなこと考えたことすらなかった。
人を殺せば、チョコラータが喜ぶ。チョコラータに喜べば、角砂糖が貰える。
セッコにとっての殺人はそのための行為に過ぎなかったし、大した理由があるわけでもない。
ウンウン唸りながら頭を抱えるセッコに時間を与え、DIOはポコに向き直り顔を近づける。

526創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:31:28.96 ID:LM156kVP
支援!
527 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:32:33.19 ID:C1V7IOmJ

「気分はどうだポコ? 痛いか? 怖いか? 生きたいか? 助けて欲しいか? どうだ、答えろ」
「い……い……生ぎだい! 殺ざないで!! だずげで!!!」
「うんうん、素直でいい答えだぞポコ。元人間のDIOの経験から言わせてもらうと、人間は普段生きていることに感謝しない。
真に死の恐怖した者でなければ、平穏無事に生きていることの幸せさといものがわからないのだ。
だからこそ、かつてのオレは、のんきな毎日を過ごし何不自由なく暮らしてきたジョナサンが気に入らなかったのだ! 我慢ならなかったのだッ!
スピーゴワゴンの糞野郎はオレのことを『生まれながらの悪』と表現したが、オレは幼少期の辛い体験が今の自分を形成したと自己分析している! いまさらだがなッ!!」

次第にDIOの口調が荒くなる。
これまで誰に対しても紳士的な対応を貫いてきたDIOが、初めてその本性の片鱗を見せた。
過去の人間であるポコに、昔の自分の話をした事が原因だろうか?
大泣きしながら首を上下させるポコに、DIOはひとつ息を付き、冷静さを取り戻しながら話を続ける。

「要するに、死の恐怖に直面した事がない人間は生きる資格すらない。そういうことだ。
お前は違うだろうポコ? 何度も死ぬ思いをした。ジョナサンとは違う。生きたいか? 助かりたいか?」
「い……生ぎだいッ!!!」

何度も何度も首を上下させ、ポコは命乞いをする。
こんなに怖いと思ったことはこれまで無い。
ゆっくり、じっくりと殺されていく。拷問殺人の恐怖、他者には到底理解できない。
「そうか……」と、DIOは小さく息を漏らす。
必死の懇願が実を結び、もしかして助けてもらえるのでは?という希望の光がポコの中に芽生える。

528 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:34:49.21 ID:C1V7IOmJ

「フン! だが、私の二人目の父の口癖は、『逆に考えてみろ』だった。お前もよ〜〜〜く考えてみろ。
死を恐怖しない人間を殺すことに大した意味はない。お前のように、生きたい、死にたくないと必死で願うものを殺すことこそ、最高に意味のある殺人だとは思わないか?」

「ッ!!!? ――――ァァァアア ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

それはポコへの死刑宣告だった。
生きる希望を与えられ、希望から絶望へと叩き落とされた。
こんなことならば、ひと思いに殺されて方がマシだった。
ポコは絶望し、泣き叫ぶ。発狂して自我を失う。



「セッコ。そろそろ答えは出たか? これがお前にとっての『最初の殺人』となる。じっくり考えて、お前の思うように、このポコを殺してみろ」

セッコはウンウン頭を捻らせる。
DIOに言われて考えた、自分にとっての『殺人』。
自分なりに考えて、辿りついた一つの疑問。セッコはDIOに問うてみる。

「あのよぉ――― あんたは人間じゃなくて吸血鬼なんだよなあァ? だからそいつを喰っても、それはただの食事であって、普段通りの生活の一部なんだって言ったよなぁ〜?」
「ああ、その通りだ。それがどうかしたか?」
「でもよォぉぉ! あんたがさっき話したジェフリーなんとかって奴は、人間なのに人間を喰ってたのか? それって意味あんのかよォ―――?」

ほう、とDIOは感心する。セッコは実に面白いところに着陸したものだ。
自分なりに『殺し』の意味を考え、その疑問にぶち当たったわけだ。
DIOの話の内容も、聞いていないようでいてしっかり頭には残っている。
やはりこのセッコ、頭の出来は悪くない。うまい使い方を知らないだけだ。

「カニバリズムとは一般的に『食人恰好』、『人肉嗜食』のことを指すが、生物学的には『種内捕食』、要するに『共食い』を意味する。
が、それはその生物としての性質である場合がほとんどだ。生存のための捕食であったり、縄張り争いのためだったり、繁殖や配偶行動の一環だったりと様々だが――――
人間は生きてゆくために人間を食う必要性はない。当然ダーマーも人肉から栄養を採取して生きていたわけではない」
「おうっ! おうっ! それでっ? それでっ!?」

セッコの態度も、この数分間で大きく変わった。
以前のDIOの話は半分に聞いていたような態度だったが、今のセッコは話の続きに興味津々だ。
初めて自分で頭を使ったことで、セッコに知識欲が身に付いてきている。
DIOはその変化を面白がり、ニヤリと笑う。

529創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:38:18.42 ID:LM156kVP
ポコオオオオオオ
支援
530 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:39:05.67 ID:C1V7IOmJ

「なら、彼の食人には何の意味があったのか? そこまでは、既に人間をやめたこのDIOでは理解しきれないかもしれない。
そこでだセッコ…… お前が自分で試して、やってみてはどうだ――――――?」
「!? うひぃいぃいいぃぃぃぃ―――――!!」

DIOに言われて、セッコは目を輝かせる。
そうか、わからないならばやってみればいい! 簡単なことじゃないか。
さすがDIO! オレに考えつかないことを平然と教えてくれる!
そこが大好きだ! かっこいい!!

DIOはセッコの手からポラロイドカメラを奪い取る。
撮影は私に任せて、お前は思う存分やれ。という意味だ。
子供のように笑いながら、セッコは磔にされたポコに歩み寄る。

「ぐひっ うひっ げひぃぃぃ〜〜〜っ!!」
「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 来゛る゛な゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
「諦めて覚悟を決めろポコ! 覚悟は幸福だぞ!?」

セッコがポコの鼻にかぶりつく。
血の味がセッコの口の中いっぱいに広がる。

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

ポコの衣服を引きちぎり、セッコはポコの首筋に噛み付く。
ポコの絶叫が、セッコの鼓膜を刺激させる。

「い゛や゛た゛あ゛あ゛あ゛! 痛゛い゛い゛!! や゛め゛ろ゛お゛お゛お゛!!!」

ポコの腹に穴を開け、セッコは顔を突っ込んで内蔵を貪る。
セッコの興奮は、前にも増して高まっていく。

「ぎゃ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」






一部始終を写真に収めながら、DIOは思う。
重ちーを殺害したスタンド『オアシス』。
これもDIOにとっては大きな収穫だった。
セッコを味方につけるだけで、DIOの行動範囲は大きく広がる。
地下の地図を見る限り、地下道は全ての施設につながっているわけではない。
だが、このセッコの能力を利用すれば、東の杜王町に至るまでの全ての施設に地下トンネルからの侵入が可能となる。
これで刑務所の下水道などという下品な道を選ぶ必要もない。
吸血鬼となって屍肉の腐敗臭に不快感は持たない、汚物の悪臭や藻の植物臭さは相変わらず敬遠したいものなのだ。

だがセッコのスタンド以上に、彼の人格形成に携われたことが面白かった。
やはりこのセッコ、面白い。
セッコは子供だ。何にでも興味を持つ。教えれば何でも覚える。
早い段階で出会えてよかった。
このセッコ、出会ったもの次第では正義のヒーローにも悪魔の使いにもなりうる。

531創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:41:17.40 ID:LM156kVP
ポコオオオオオオオオオオオオオ
532羊たちの沈黙 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:41:27.28 ID:C1V7IOmJ

「ぐひひぃぃ!! 終わったぜぇDIO! 写真は撮れてるかあ?」
「もちろんだとも。それでどうだ、セッコ? 実際に人間を喰ってみて、どう感じた?」

ポコは既に事切れている。目から涙を流し、口を半開きにしたまま硬直し、果てている。
最終的な死因はショック死だ。
極度の恐怖心と大量の出血により、ポコはセッコに肉を喰われながら死亡していた。
DIOに問われ、セッコは手を頭に添えて考えながらも答えた。

「う〜〜〜ん…… 角砂糖みたいに甘くは無いしぃぃ〜〜〜 血の味ばっかりでちっとも旨くはなかったかもなぁぁ〜〜!!
でもよォ―― なんだかわかんないけどすごくワクワクしたぁぁぁぁ―――!!」
「そうか、それは良かったな。 今日、お前は初めて『自分の殺人』を犯した。もっともっと喰ってみると、旨く感じるようになるかもしれないぞ?」
「ホントかァ!? うひぃぃぃ!! また喰いてえなぁあああ!!」
「ただし、私が殺すなと言った人間はだめだぞ。私にも人間の友達はいるのだからな。お前だってチョコラータ先生を喰うのは嫌だろう?」
「うん! うんっ! わかったぁ!!」

DIOは完全にセッコを手懐けてしまっていた。
もはやセッコは、DIOの言うことならばなんでも聞いてしまうだろう。
セッコはすっかりDIOに魅了され、心酔してしまっていた。
セッコは『人肉嗜食』に目覚め、自ら殺人を犯す悦びを覚えてしまった。
お互いがお互いを気に入り、友人とも主従関係とも取れぬ奇妙で恐ろしいコンビが誕生した。

そして、チョコラータ。
まだ出会ったことのない、正体不明の狂人。セッコとは違う、正真正銘の殺人鬼。
彼のことも、DIOは甚く気になっていた。
チョコラータは間違いなく、重度の精神病質を患うサイコキラーである。
そして近年、異常犯罪と脳の『前頭葉』の関係性が医学的に注目されつつあった。
前頭葉とは、外界の情報を整理し組立て判断する機能を有する。
つまり、人間らしさ、人間としての心、人格、自我、意識などが、前頭葉の機能として考えられているのだ。
そして、連続殺人者の脳を調べると、この前頭葉に何らかの異常があるケースが多いというのだ。

DIOは懐に手を突っ込む。
さきほど、この刑務所の階段踊り場に転がっていたデイパックより入手した。
おそらく、セッコに殺された3人のうちの誰かに支給されたものだろう。
100年前、DIOの運命を大きく変えた宝物――――石仮面がそこにはあった。
DIOとしても、手に取って見るのは100年ぶりである。
石仮面は脳に骨針を突き刺し、人間の獰猛な力を呼び覚まし、吸血鬼へと変貌させる。
前頭葉に異常があるだろうチョコラータに、石仮面を被らせたならば―――
一体どんな吸血鬼を生み出すのか?
もちろん、このDIO以上の力を持つ者が生まれるはずもないが、しかし試してみたい。
DIOの知的好奇心を刺激する。
セッコの話から想像できるチョコラータの性格ならば、彼は自ら喜んで肉体を差し出す可能性も高い。
石仮面を手に入れたことについてはマッシモにとっても喜ばしいことだろうが、DIO個人の意見としては、石仮面の実験はマッシモではなくチョコラータで行いたい。
マッシモには日中のDIOの手足となって欲しいという大切な役割もある。

もうじき放送だ。
ゲーム開始から6時間。
この6時間の間、DIOにとって無駄なことは何一つなかった。


533羊たちの沈黙 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:44:29.90 ID:C1V7IOmJ

【エンポリオ・アルニーニョ 死亡】
【矢安宮重清 死亡】
【ポコ 死亡】

【E-2 GDS刑務所1F・女子監食堂 / 一日目 早朝(放送直前)】

【DIO】
【時間軸】:三部。細かくは不明だが、少なくとも一度は肉の芽を引き抜かれている。
【スタンド】:『世界(ザ・ワールド)』
【状態】:健康
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×5、麻薬チームの資料、地下地図、リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、携帯電話、スポーツ・マックスの首輪、ミスタの拳銃(5/6)、石仮面、不明支給品×0〜3
【思考・状況】
基本行動方針:帝王たる自分が三日以内に死ぬなど欠片も思っていないので、『殺し合い』における行動方針などない。
0.基本方針から、いつもと変わらず、『天国』に向かう方法について考えつつ、ジョースター一族の人間を見つければ殺害。もちろん必要になれば『食事』を取る。
1.放送が終了し30分程度でマッシモを呼び戻す。地下を移動して行動開始。彼とセッコの気が合えば良いが?
2.我が友プッチもこの場にいるのか? ポコたちのような時代の矛盾の謎も解きたい。
3.この身体に感じる違和感はなんだ?ジョースターの血統か?
4.方針3の処分を考える。
5.セッコは面白い奴だ。もっと教育させてやりたい。
6.チョコラータ先生とも会ってみたい。彼を吸血鬼にしたらどうなるだろう。
7.もちろんマッシモ・ヴォルペにも興味。
8.首輪は煩わしいので外せるものか調べてみよう。

[参考]
スポーツ・マックスの記憶DISCをどこまで読んだのかは不明です。
少なくとも彼の人格、彼がGDS刑務所に服役している事、2011年時点でのプッチの姿は確認しています。
ミスタの拳銃の予備弾薬の有無、数量は不明です。
DIOがセッコに殺人の初等教育を行っている理由は不明です。ただの興味本位か、他に理由があるのか、それはDIOにしかわかりません。

【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、興奮状態
[装備]:カメラ、死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本行動方針:DIOと共に行動する
1.人間をたくさん喰いたい。今は角砂糖よりも食べたい。
2.DIO大好き。もっと色々なことを教えて!
3.チョコラータとも合流する。角砂糖は……欲しいかな?よくわかんねえ。

[参考]
『食人』という行為を覚え、喜びを感じました。
また、初めて自分の意志で殺人を行った事のに達成感を感じているようです。

※2人がこの刑務所内にいる他2人、ホル・ホースとF・Fに気が付いているか、その場合、どの程度まで把握しているかは不明です。
※エンポリオの参戦時期は不明。少なくとも徐倫たちと知り合った後です。
※矢安宮重清の参戦時期は「重ちーの収穫(ハーヴェスト)」終了後です。
※ポコの参戦時期は、ウインドナイツロットでのディオ戦終了後です。

※エンポリオの支給品のひとつは、スモークグレネードでした。
※矢安宮重清の支給品のひとつは、石仮面でした。
※ポコの支給品のひとつは、ミスタの拳銃でした。
※少年たちの支給品があとどのくらいあるかは、先の書き手さんにお任せします。

※GDS刑務所・女子監食堂に3人の遺体があります。
※エンポリオは腹を貫かれ、内蔵をぶちまけています。
※矢安宮重清はバラバラに引き裂かれて原型がありません。
※ポコは鉄杭で両手首を貫かれて壁に磔にされています。死体の至る所にセッコが喰いちぎった跡があります。
534創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:46:13.66 ID:LM156kVP
支援
535羊たちの沈黙 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:47:00.86 ID:C1V7IOmJ


少しでも、稚気を抱いた自分が馬鹿だった。
出会ったら躊躇いなく引き金を引く? そんな事をして、本気で生き残れるとでも思っていたのか?
このDIOを、俺なんかが本気で殺せるとでも?

目の前で行われているのは、悪魔の所業。
吐き気を催す邪悪。狂気の宴そのものだった。
俺だって、カタギの世界に生きて長い。人を殺した数だって、両の手のひらじゃあ数え切れねえ。
だが、目の前で行われている奴らの行いは、心臓を握りつぶされるような恐怖を俺に感じさせる。
グロい。グロすぎるっ! 嘔吐を必死で我慢する。
これ以上見せられたら、気が変になりそうだ。
隣にいる徐倫の姿を見ろ。普通の人間の感情すらわからない彼女が、本能で怯え震えている。
関わってはいけない。逃げるしかない。
DIOは化け物だ。死神だ。本物の悪魔だ―――――。

「ど……どうするの…… 逃げる……?」

徐倫が震えながら、俺に声をかける。

「いや…… 待て。慌てるな。今動いたら、DIOに感づかれる。放送まで待つんだ。
あと5分もすれば、第1回放送とやらが始まる。どんな方法で流れるのかはわからないが、放送が始まれば、さすがのDIOでも放送に気が取られて動かないはずだ。
その隙に逃げるんだ……」
「わかったわ――――――」

DIOより先に、俺たちが奴らの存在に気がついてよかった。
あのガキには悪いが、断末魔の叫び声に感謝だ。

いや、DIOが俺たちに気がついていないというのは希望的観測に過ぎない。
DIOは侮れない。顔や動作には見せないが、奴の心の内はわからない。
もしDIOが、俺たちの存在に気が付いていたならば、おしまいだ。

放送まで、あと5分。
人生でもっとも長く感じる5分間だ。

536羊たちの沈黙 ◆vvatO30wn. :2012/07/14(土) 00:47:45.66 ID:C1V7IOmJ
【E-2 GDS刑務所1F・女子監食堂から看守控え室につながる廊下の影/ 1日目 早朝(放送5分前)】
【H&F】
【ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後
[状態]:恐怖、(徐倫への興味、混乱、動揺)←今はそれどころではない
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
1.放送と同時にDIOから逃げる。こんな恐ろしい光景は見たことがない。
2.徐倫に興味。ただ、話は全く信用してない。利用した後は……?
3.牛柄の青年と決着を付ける…?

【フー・ファイターズ】
【スタンド】:『フー・ファイターズ』
【時間軸】:農場で徐倫たちと対峙する以前
【状態】:恐怖、(空条徐倫の『記憶』に混乱、『感情』に混乱)←今はそれどころではない、髪の毛を下ろしている
【装備】:空条徐倫の身体、体内にF・Fの首輪
【道具】:基本支給品×2、ランダム支給品1〜4
【思考・状況】
基本行動方針:存在していたい(?)
1.怖くてたまらない。早くこの場を逃げたい。
2.ホル・ホースに興味。人間に興味。
3.もっと『空条徐倫』を知りたい。
4.敵対する者は殺す。それ以外は保留。

【備考】
二人共、思考2以降は現在ほとんど頭にありません。DIOから逃げることのみを考えています。
二人はセッコがポコの肉を喰い漁る様を目撃しました。感想は言わずもがな最悪です。
F・Fの首輪に関する考察は、あくまでF・Fの想像であり確証があるものではありません。
体内にF・Fの首輪を、徐倫の首輪はそのまま装着している状態です。
ホル・ホースはF・Fの話を妄想だと思っています。
537創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:49:32.22 ID:04taZaK8
しえん
538創る名無しに見る名無し:2012/07/14(土) 00:52:12.61 ID:LM156kVP
支援
539羊たちの沈黙 ◆vvatO30wn.

投下完了です。
今回の話は、読む人によっては非常に嫌悪感を持たれたものだと思います。
嫌な気分になった方には、本当に申し訳ないです。
しかし、その一方でゾクゾクしながら読まれた方もいるのではないかと思います。
それが、ホラーの醍醐味だと思います。今回はホラーテイストを前面に推した作風になりました。

ポコの死に様は、ジョジョロワ始まって以来の悲惨なものになってしまいました。
彼に何の恨みもありません。ごめんよポコ。
あと、このSSを読んで私の心理状態が大丈夫かと疑われるかもしれませんが、私はノーマルです。何の問題もありません。

タイトルも、初めてアニメ、ゲーム、漫画作品を離れ「羊たちの沈黙」。
少年漫画の中でも屈指の悪の美学を持つDIOに、洋画好きな私の中での大好きな悪役『ハンニバル・レクター』を投影しています。
紳士的な6部DIOには、彼に通じる面もあるのではないかと思います。3rdDIOは3部の振りをした6部DIOですよね。
DIOがチョコラータの事を「チョコラータ先生」と呼ぶのも、DVD吹き替え版でのレクターの「チルトン先生」という呼び方が好きだったからです。

当初ズガンされるのは少年たち3人ではなく、5部と恥パのペリーコロ親子でした。
ストーリーも牢屋の鉄格子を挟んだペリーコロとDIOの対話(「羊たちの沈黙」のオマージュ)、後半はそれにセッコを交えたチョコラータへのプロファイリングと拷問殺人、
という流れのつもりでしたが、全編通して会話のみのシーンがダラダラと続き、退屈な展開になりそうだっとので却下。
第2案だった少年たちにキャラを変更して、一から書き直しました。
その結果、前半はいつもの私の作風どおりのバトル展開に……。
正直、セッコVS重ちーがこんなに長くなるとは予想外でした(笑)

余談ついでに、書き終わったあと、タイトルをアニメ縛りに戻すなら「氷菓」もありかな、と思いました。

・DIOのプロファイリング(謎解き)
・セッコの「おれ、気になります」
・そしてポコの断末魔の叫び声(I Scream)

見事に「氷菓」の要素が揃っています。
しかし、今季のアニメの中でもっとも正統派に青春やってるさわやかなアニメのタイトルを、このグロテスクな話にくっつける気にはとてもなれず、却下となりました。
当たり前ですね(笑)


では、感想や誤字脱字、指摘などお願いします。