ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第三部

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1創る名無しに見る名無し
             (⌒).(⌒)
      (⌒) /.:/___! :| (⌒)
       }: レ;{.:〈= =j.::ト/.:/_) (⌒)
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   \`ヽi〜/,イフノ ミ ミ ミ ミ i/,//¨  厂 ̄ ̄ ̄`ヽ
-‐=ニ、 ヾj} 〈_ノ' ` ヾ-'⌒>'Y´/     〈 3rdか !? |
-―- 、\jリ,/    / `! y<,.} j'´    _,厶_  _____,ノ
┤イ ト丶∨    ノ / 、},。)j/  ┌'´ ̄ ̄´  ` ̄`'┐
┬ 卜 イ ! }  // _ "¨ ン′  | ロワが3個    〉
┬ ┤ト 」ハ{/´  fエl ,. '"|    <  ほしいのか? |
L.卜 ┬ /\.〉   iノ┴'‐--'     └、______,r‐'
\_. イ   `ー'´      
イへ./    , ---、_____ヽ丶   、__,/ ̄ ̄ ̄ ̄`'ー┐
}-‐'´    _ノ_,入_`ブ┐    \  3rd…       ヽ
 ̄`7ー'7´/  ノ  jレーく__) ))   | イヤしんぼめ !! |
  {l __{ ..:\__┌<_>‐'´        \_______,/
_____ヽ __,>-‐'´ `´___ ____ ┐7
---‐'´     /___/| ̄又又>|
二ヽ ̄ヽ〜'ニ三ヾ⌒ ̄ヽ、又>'´|
  }}  └ =ニ~~}}  `ー--く_|_/
==' _ -‐ ___,ノ、二._ーァー'
___,. -一'¨¨ ̄  `'ー‐'´ ̄


このスレでは「ジョジョの奇妙な冒険」を主とした荒木飛呂彦漫画のキャラクターを使ったバトロワをしようという企画を進行しています
二次創作、版権キャラの死亡、グロ描写が苦手な方はジョセフのようにお逃げください

この企画は誰でも書き手として参加することができます

詳細はまとめサイトよりどうぞ


まとめサイト
http://www38.atwiki.jp/jojobr3rd/

したらば
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/15087/

前スレ
ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第一部
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322211303
2創る名無しに見る名無し:2012/02/13(月) 02:05:46.77 ID:9jCPtbKW
名簿
以下の100人に加え、第一回放送までは1話で死亡する(ズガン枠)キャラクターを無限に登場させることが出来ます
Part1 ファントムブラッド
○ジョナサン・ジョースター/○ウィル・A・ツェペリ/○エリナ・ジョースター/○ジョージ・ジョースター1世/○ダイアー/○ストレイツォ/○ブラフォード/○タルカス

Part2 戦闘潮流
○ジョセフ・ジョースター/○シーザー・アントニオ・ツェペリ/○ルドル・フォン・シュトロハイム/○リサリサ/○サンタナ/○ワムウ/○エシディシ/○カーズ

Part3 スターダストクルセイダース
○モハメド・アヴドゥル/○花京院典明/○イギー/○ラバーソール/○ホル・ホース/○J・ガイル/○スティーリー・ダン/
○ンドゥール/○ペット・ショップ/○ヴァニラ・アイス/○ヌケサク/○ウィルソン・フィリップス/○DIO

Part4 ダイヤモンドは砕けない
○東方仗助/○虹村億泰/○広瀬康一/○岸辺露伴/○小林玉美/○間田敏和/○山岸由花子/○トニオ・トラサルディー/○ヌ・ミキタカゾ・ンシ/○噴上裕也/
○片桐安十郎/○虹村形兆/○音石明/○虫喰い/○宮本輝之輔/○川尻しのぶ/○川尻早人/○吉良吉影

Parte5 黄金の風
○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/○レオーネ・アバッキオ/○グイード・ミスタ/○ナランチャ・ギルガ/○パンナコッタ・フーゴ/
○トリッシュ・ウナ/○J・P・ポルナレフ/○マリオ・ズッケェロ/○サーレー/○プロシュート/○ギアッチョ/○リゾット・ネエロ/
○ティッツァーノ/○スクアーロ/○チョコラータ/○セッコ/○ディアボロ

Part6 ストーンオーシャン
○空条徐倫/○エルメェス・コステロ/○F・F/○ウェザー・リポート/○ナルシソ・アナスイ/○空条承太郎/
○ジョンガリ・A/○サンダー・マックイイーン/○ミラション/○スポーツ・マックス/○リキエル/○エンリコ・プッチ

Part7 STEEL BALL RUN 11/11
○ジャイロ・ツェペリ/○ジョニィ・ジョースター/○マウンテン・ティム/○ディエゴ・ブランドー/○ホット・パンツ/
○ウェカピポ/○ルーシー・スティール/○リンゴォ・ロードアゲイン/○サンドマン/○マジェント・マジェント/○ディ・ス・コ

JOJO's Another Stories ジョジョの奇妙な外伝 6/6
The Book
○蓮見琢馬/○双葉千帆

恥知らずのパープルヘイズ
○シーラE/○カンノーロ・ムーロロ/○マッシモ・ヴォルペ/○ビットリオ・カタルディ

ARAKI's Another Stories 荒木飛呂彦他作品 5/5
魔少年ビーティー
○ビーティー

バオー来訪者
○橋沢育朗/○スミレ/○ドルド

ゴージャス☆アイリン
○アイリン・ラポーナ

参戦部未定
○ロバート・E・O・スピードワゴン
3アルトリアに花束を   ◆c.g94qO9.A :2012/02/13(月) 02:06:45.48 ID:9jCPtbKW
【スミレ 死亡】
【残り 87人以上】


【C-4 シンガポールホテル周辺/一日目 黎明】
【ペット・ショップ】
【スタンド】:『ホルス神』
【時間軸】:本編で登場する前
【状態】:全身ダメージ(中)
【装備】:なし
【道具】:なし
【思考・状況】
基本行動方針:サーチ&デストロイ
1.とりあえず体力の回復を図る
2.自分を痛めつけた女(空条徐倫)に復讐
3.DIOとその側近以外の参加者を襲う
[備考]
※ペット・ショップの状態は飛ぶことはできるが、本来のような速さは出せない状態です。
※シンガポールホテル付近にスミレの死体が転がっています。近くにデイパック、折れた棒、溶けかけの氷柱が放置されています。
4アルトリアに花束を   ◆c.g94qO9.A :2012/02/13(月) 02:07:42.58 ID:9jCPtbKW
以上で投下完了です。まさかスレ容量オーバーとは予想外でした。無事にスレ立てできて良かったです。
誤字脱字、気になる点ありましたらお願いします。タイトルは結構気に入ってるんですが、変えるかも。一応仮で。

三行状態表を見たらなんでもスミレの花言葉は忠誠だそうで。面白いですね。
5創る名無しに見る名無し:2012/02/13(月) 16:11:35.23 ID:6WGXu3WQ
投下&スレ立て乙です
うわあぁぁぁぁぁぁスミレえぇぇぇぇぇぇぇ
うわああああああああああああああああn
スミレェ…
さて、タルカスとブラフォードの戦いの軍配も気になりますが
タルカスがスミレを発見したらと思うと…ウワァァァ
露伴のセリフもすごく印象的でした
アバッキオの心情も気になるところですし
ナランチャの反応やジョナサンの判断も気になる…でもどうあがいても良い方向に行きそうにない気配がムンムンするぜ…
総じて面白かった&ナイス鬱展開です

読んで特に気になる点はありませんでした
6創る名無しに見る名無し:2012/02/13(月) 22:17:24.82 ID:L2myKd5W
投下乙です
ボディーガードから離れすぎると瞬殺なのはお約束とはいえ、辛い……
原作とは大きく異なる立場になって戦う二人も期待大ですね

誤字報告ですが、
前スレ>>423 おおらかヤツ→おおらかなヤツ
   >>432 近距離線→近距離戦
   >>434 鷲→隼
がありました
7創る名無しに見る名無し:2012/02/14(火) 00:23:51.96 ID:D2Slywzw
投下スレ立て乙

あーん!スミレちゃんが死んだ!
スミレちゃんペロペロSS&スミレちゃんFSSって思ってたのに…
くすん…童女薄命だ…

でもタルカスってかっけーなーだけどブラフォードが屍生人になっていった

いどうなるんだろう。
8 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/14(火) 17:40:06.75 ID:AUcZ8aWE
スレ立て乙
そして投下乙

スミレ……スミレエェェェェェ!!!
時間軸の差異や各々の感情を見事に書ききってくれた良いバトルSSでした

さて「空気」をwiki収録しました。
変更点の詳細はしたらばに書いておきます。
不足等ありましたらご指摘ください。
9 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/14(火) 22:25:23.53 ID:iYbtZskR
◆yxさん収録乙です。

自分も、朝までには収録しますね。
また、収録の際に↓を修正しておきます。

指摘をいただいた『エアロ・スミス』。
いくつかある『隼人』という誤字。
アバッキオの遺体について触れてなかったので、備考欄にコンテナの下敷きになっていると追記。
その他、言い回しなど。
10創る名無しに見る名無し:2012/02/14(火) 23:54:32.70 ID:RSwOpwHo
>>1の前スレが違うので、一応貼っときます

ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第二部
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1324740063/
11創る名無しに見る名無し:2012/02/19(日) 19:17:01.29 ID:mesJJjqr
保守は・・・いるのか?
なんか一気に予約が入って期待が止まらんw
12 ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/21(火) 16:55:23.50 ID:z3RW+7UR
DIO、スポーツ・マックス、マッシモ・ヴォルペ
投下します
13神に愛された男 ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/21(火) 16:56:11.56 ID:z3RW+7UR
月明かりに照らされた石造りの河岸をふたつの影が歩いていた。
河を越えた先、遙か東岸に広がるだろう古都ローマの遺跡や町並みは夜闇に深く沈み、水底の見えない深い河は音もなく静かに流れている。
この夜が永遠に続きそうな錯覚さえする、静かな世界。
ふと、ふたつの影のうち、闇よりなお暗い気配を持つ男が気まぐれのように呟いた。

――色々な文献を読んで興味深く思ったことのひとつなんだが。
――川は、死者と生者の世界の境目だという。

思索に耽る者特有の緩やかさで、黄金にも似た荘厳なバリトンが闇に溶ける。
傍らを歩く男に向けられているのか、それとも単なる独りごとなのか。判然としないながら、形よく肉感的な唇から詩を紡ぐように軽やかに言の葉が散る。

――陽の昇る東を生者の都、陽の沈む西を死者の都としたのは古代エジプトの神話だが、キリスト教においても東には特別な意味がある。
――君は、キリスト教徒かい?

傍らを歩く男――マッシモ・ヴォルペは、突然の問いかけに少し考え込む素振りを見せ、微かに首を振った。否定とも肯定とも取れない、曖昧な仕草。

「そうだ、と言えばそうだし、そうでないと言えばそうではないな」
「答えになっていないよ、マッシモ」

言いながらも、問いの答えに気を悪くした風もない男――DIOは、歩みを止めず愉快そうにマッシモに一瞥をくれた。
妖しく艶めかしい眼差しは、血のように赤く毒のように甘い。心の底まで見透かす、射抜くような視線。
しかしマッシモは物怖じする様子もなく平坦な声で続けた。

「救いもしない神なんぞ信じちゃいない」
「だろうと思った」

気安い友人に向けるように、DIOはくつくつと笑って見せる。月光にけぶる黄金の髪が、青いほど白い頬に細く影を落とす。ある種の宗教画めいたそれにもマッシモは無感動な面持ちを崩さず、のろのろと歩調を合わせていた。
奇妙な関係だった。
ひとつ掛け違えれば、捕食者と哀れな餌という一時的な関係にしかならなかっただろう。
しかし運命はそうならなかった。互いが互いに興味を抱いている、その一点。そしてそのたった一つの引力で、二人は道行を共にしている。
月明かりだけが頼りの散策の道すがら、様々なことをDIOは語った。ときに饒舌に、ときに沈黙を交え。そしてマッシモも、問われては答え、また考えた。教師とその弟子のようでもあったし、友人になる過程を踏んでいるかのようでもあった。
たった三人、血を分けた親兄弟よりも密に支え合って生きていた仲間たちにしか許さなかった心が、闇を纏う美貌の不死王によって少しずつ浸食されている。
そして、その浸食は癒しにも似ていた。乾きひび割れた大地に染み込む水のように、DIOの言葉と思考は全てを亡くしたマッシモの裡にじわりじわりと染み込んでいく。
14神に愛された男 ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/21(火) 16:57:22.11 ID:z3RW+7UR
「DIO。そろそろ目的地を教えてくれてもいいんじゃあないか?」
「おや。とっくに気づいていると思っていたんだが」

刹那、交わる視線。
友人と呼ぶには短すぎる時間、しかし無関係というには長すぎる時間。共にした時ゆえに、マッシモはDIOの言わんとするところを察した。

「この先にある刑務所……か?」
「残念、少し違う」

――だが、そこに寄ろうとは思ってた。半分は正解だな、マッシモ。

甘い甘い声音がマッシモの耳をくすぐる。酷く耳触りのいいそれを心地よいと感じ始めている自身に、マッシモは薄々気づいていた。

「市街地で見つけられたのは、君と首輪をつけた参加者ひとりきりだ。適当に歩いていれば誰がしかと接触できるかと思ったが、どうも人の気配がしない。手近にある建物から見てみようと思ってね。
 本当に誰かがいるかどうかなんて期待しちゃいない。ちょっとした確認みたいなものだよ。
 それに、刑務所なんて他に見る機会もなかっただろう?」
 
ジョークのつもりか、悪戯っぽくDIOが笑いかける。そろそろ、闇の中にもその広大な建物が見え始めていた。
地図からも察せられたが、実物はちょっとしたテーマパークくらいありそうな大きさだ。おそらく街中と同様に人などいないだろうが、あの大きさの建物を調べるのはえらく骨が折れそうだった。

「死ぬより縁がないと思ってたところだな」

マッシモはひとつ息を吐いてひとりごちた。







DIOがマッシモ・ヴォルペに語った数々の思索と過去における出来事の一端は、真実ではあれど全容ではなかった。
当たり前と言えば当たり前だろう、出会った端から一切合切全てを曝け出すなんて、トチ狂った精神的露出狂か白痴の善人くらいなものだ。どちらも似たようなものである。
だが、全てではなくとも真実ではある。DIOは注意深くマッシモを観察していた。
マッシモが自ら語ったことは少なかったが、ゼロではない。人となりを理解するにつれ、よりマッシモへの興味は深くなった。
何より、マッシモはDIOに対して恐怖や畏敬、およそ『友人』関係を築くにあたり差しさわりある感情を抱いていない。人の血を啜る人ならぬ化け物と理解してなお、マッシモはありのままのDIOを見ている。
これは『彼』以来のことかもしれない――DIOはふと思う。
アメリカに住む、かの『友人』と、最後に言葉を交わしたのはいつだったか。
つい先日だった気もするし、遙か遠い昔にも思える。彼との時間は得難く貴重なひと時だった。
その心安らかさ、気安さには及ばないまでも、マッシモとのひと時はDIOの抱える鬱屈を大いに紛らわせた。

(思った以上に良い拾い物をしたものだ)

『天国へ行く方法』は、DIOにとっての至上命題。マッシモ・ヴォルペはその良き担い手となってくれるだろう。
ジョースターの血族の抹殺は、いわば『天国』へ行くための道程に纏いつくささやかな障害に過ぎない。
肩の付け根にある『星』は、依然変わりなくジョースターの存在を知らせている。意識を向ければチリチリとささくれだつように、その気配を感じている。いずれは処分せねばなるまいが、それに付随して気になることもあった。
ジョジョと承太郎の死をこの目で確認した。だが、少なくとも『ジョジョは既に死んでいる』はずだった。他ならぬこの肉体こそがジョジョのそれであるのだから。
奇妙なことは他にもある。『星』の示すジョースターの血統……部下に調べさせた限りでは、ジョセフ・ジョースター、ホリィ・空条、空条承太郎、該当者はその三名のはずだった。
そして承太郎は死んだ。ならば、この気配はなんだというのだろう。『星』は片手の指では間に合わぬ数の気配に疼いている。

(放送後に、名簿の配布があると言っていたな)

主催者を名乗る老人はそう告げていた。ならば、それを確認してから動いても遅くはない。
ささくれる『星』を一撫でして、そう結論付ける。
優先されるのは『天国』だ。得難い能力を持つ者に出会えた引力をもって、DIOはますますその思いを強めていた。
そこまで思考を纏めたところで、ふと微かな臭いを感じて立ち止まった。唐突に立ち止まったせいで少し先んじたマッシモが足を止め、訝しげにDIOを見やっている。

「どうした?」
「ふむ……君にはわからないか」
15神に愛された男 ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/21(火) 16:58:37.90 ID:z3RW+7UR
――血の匂いだ。

吸血鬼になってからというもの、こと血に関しては煩くなった。人が嗜好品を吟味するにも似ているが、それ以外は口にできても体が受け付けないのだからある意味では必然か。
マッシモはDIOの意図を理解したようで、周囲に視線を走らせている。だが、人あらざるDIOの眼にすらかからない何者かが、人の身であるマッシモに捉えられるはずもない。

「死臭もするな。それも古くない……」

言う間にも、臭気はどんどん強まっている。マッシモも気づいたのか、警戒もあらわに眉を顰めている。
そして、奇妙な光景が二人の目に映った。
ひたひたという足音と、ずるずると引きずるような足音。なにもないはずのそこに浮かび上がる、血のマスク。
真っ赤な口が、ニタリと吊りあがった。

「……ッ!?」
「屍生人……とは少々趣が違うな。スタンド能力か」

絶句するマッシモとは対照的に、DIOはごく冷静にそれらを観察している。
辺りに溢れる死臭と濃厚な血臭は、間違いなく目前にいるだろう『動く死体』から発せられていた。笑ったことからも、ある程度の自意識は残っていると推察する。
周辺にスタンド使いらしき姿が無いことは『世界』の目を通しても確認済み。使い手当人すら透明にする能力であるとも考えられるが、どちらにせよ武器であるだろうこの死体を処分すれば、直接出てくるか逃走せざるを得なくなる。
目の前の死体の挙動はどう見ても『餌を前にした駄犬』そのもの。知能の低い屍生人にもよく見られた傾向だ。
自意識の残る透明な死体を操る、少しばかり興味をそそられる能力ではある。だが、せっかくの『友人』を危険に晒してまで欲しいものでもない。
立ちはだかるのであれば排除するまで。

「残念だが、運が無かったな」

聞こえているのか居ないのか、ニタニタと笑っていた真っ赤な口が拭いとられるように消えていった。







スポーツ・マックスは、とてもとても乾いていた。
リビング・デッド――生ける屍。かの刑務所で神父より与えられたスタンド能力『リンプ・ビズキット』によって肥大した食欲を持て余したまま彷徨う透明ゾンビと化した彼に、元ギャングの伊達男ぶりは見る影もない。
老婆ひとり『喰った』ところで、乾きはいよいよ増すばかり。おまけにあたりはだだっぴろい野原で、人っ子ひとり見当たらない。
何かを忘れている気もするが、思い出すより乾きが先だ。

――ああ、喉が渇いた。カラカラだ。

乾いて乾いて仕方がない。しかし、かといってどこに向かえばいいという単純な目的も思いつかない。屍と化したスポーツ・マックスに残されているのは『食べたい』という原始的で強大な欲求だけ。
彼の後をついて回る、哀れに従う生ける屍――己が喰った老婆すら、彼の目には止まらない。意識の端にもかからない。
仮に彼が何かを思ったところで、老婆の魂はここより失われて久しく、そのか細いぼろきれのような肉体はリンプ・ビズキットの能力によって保たれているに過ぎないのだが。
当てもないひとりとひとり、ふらふらと彷徨っていたところで、ようやく次の獲物を見つけることができた。

――男、男ふたり。
――片っぽはあんまり美味そうじゃあないが、あの金髪は悪くない。
――あぁ、喉が渇いた。
――男のくせに、そこらのビッチよりよっぽどキレイなツラしてやがる。
――あぁ、もう、カラカラだ。
――早く早く早くッ! そのキレイなツラに齧り付いてッ! 脳ミソを喰らいたいィッ!

スポーツ・マックスは思わず垂れそうになった涎を拭う――既に死んでいる彼から生体特有の分泌物がでるわけはなく、拭われたのは先の犠牲者であるエンヤ・ガイルの生乾きの血液と脳漿だったが――と、乾きに任せてむしゃぶりつくように飛び掛かった。

「世界」

飛びつき、今まさに食らいつかんとした男が告げた一言で、スポーツ・マックスの第二の生は終わりを告げた。
否、終わったことすらも理解できていなかったかもしれない。
静止した時の中では、思うことすら許されない。死してなお死ぬ――それにすら気付けないスポーツ・マックスの魂は、果たしてどこへ行くのだろう。
16神に愛された男 ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/21(火) 16:59:10.81 ID:z3RW+7UR




DIOにとって、死体が動いていることはなんら不可思議な現象ではない。
百年にも及ぶ海底での眠りにつく以前にも部下として使っていた憶えはあるし、死体を操る能力を持つ老婆もひとり知っている。ただ、今回のケースが”当の死体が見えない”少しばかり特殊なケースだったというだけだ。
見えないのならば、どちらかが対象を捕捉した時点で時を止めればいい。
どちらを狙っているのかは定かでなかったが、DIOが促したことでマッシモも警戒をしていた。致命的な攻撃はそうそう食らわないだろうと大雑把にあたりをつけ、透明な死体が自身に触れた時点で『世界』を発動した。

「死体を操り、また透明にする能力……か。悪くない能力だ。
 だが、無知とは悲しいな……貴様の敗因はただひとつ、このDIOを狙ったこと」

無造作に腕に浅く刺さった金属を引き抜いて投げ捨てる。掴んだ形状から察するにハサミのようだ。
不快ではあるが、この程度の傷は怪我のうちにも入らない。先だっての『食事』も幸いし、傷痕は瞬く間に跡形もなく消える。
跡らしい跡は衣装に残った破れ目だけだ。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」

目の前の空間へと――そこには死体が居る――『世界』のラッシュを叩きこむ。黄金色の闘士が主の意志の下、あまりの速さに無数にも映る力強い拳を繰り出す。骨が砕け、肉が弾け、形状が失われていく。
不快な死体が人としての原型も留めずグチャグチャに潰れていく感触がスタンド越しに拳に伝わった。
操り人形も、原型すら留めなければ操れまい。
そこでふと中空に妙なものが飛び出たことが目にとまり、DIOは『世界』の拳を停止した。

「……!?」

『それ』が何なのかを確認した瞬間、DIOは久方ぶりに驚愕していた。
記憶の海から引っ張り出した『それ』の印象と、透明な死体から飛び出た『それ』は、あまりにもよく似通っていた。似ていた、というより『それ』はそのものだった。
不自然に浮かぶ二枚の『それ』を手に取り、まじまじと眺め、ぽつりと呟く。

「まさか……君も、ここに呼ばれているのか……?」

プッチ。

――そして時は動き出す。


17創る名無しに見る名無し:2012/02/21(火) 16:59:22.00 ID:XC32Vf+o
shienn
18神に愛された男 ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/21(火) 17:00:00.74 ID:z3RW+7UR
マッシモには、何がなんだかわからなかった。
何者かが襲いかかってきたことだけは辛うじて理解していた。マッシモの足首に、異様な力でしがみついてきた透明な何かが居た。
だが、マッシモが己のスタンドを発現させるより先にDIOが『世界』と呟いた瞬間、恐ろしい握力で握り潰さんばかりにしがみついていた何者かは、煙かまやかしかのように消えてしまった。
残るのは、確かに掴まれたという足首の鈍いしびればかり。
あたりを漂っていた血臭も、今やかすかな残滓を残すのみ。
不意にカシャンと硬質な音を立てて、何かが石畳に落ちた。月明かりに鈍く光る金属の首輪。己らの首に付けられているものと相違ないだろう。
マッシモは俯いて何やら考え込んでいるDIOをちらりと見て、首輪を気にする素振りもないことを確認すると嘆息しながらその首輪を拾い上げた。

「参加者、だったみたいだな」

首輪だけが落ちているということは、おそらくDIOによって頭を吹っ飛ばされたか何かしたのだろう。純粋な膂力によるものか、それともスタンドの能力によるものか、どちらにせよ恐るべき力には変わりない。
だが、理解すら及ばない恐るべき力を見せつけられて尚、DIOに対しての恐怖は無かった。マッシモにとって恐怖の定義は仲間を失うことだったし、そしてそれは既に失ってしまったものである。ゆえに恐怖という感情はなかった。
不可解だったのは、心の奥底に微かに湧きおこった歓喜。
ブッ殺してスカッとした、とか、殺されなくてよかった、などという矮小で利己的なものではない。そんなものは端からマッシモの裡に存在していない。殺して当然だし、殺されてもまた当然。殺し合いは彼の日常の一端に属している。
ならば何に『歓び』を覚えたというのか。

「……おい、DIO?」

相変わらず沈黙したままの彼に、しびれを切らして再度声をかける。首輪が転がっていたということは、襲撃者を処分したということだろうと思っていたが、もしや未だ何らかの攻撃を受け続けているのだろうか。
仮定は想像を引き起こし、想像は感情を引きずり出す。
首輪のことから、襲撃者は一人だと思っていた。だが、その前提すら何の保証もないものだ。ここは殺人遊戯場に等しく、いつ何どきどんな悪意がばっくりと口を開けて待ち構えているのかも定かでない。
かつてマッシモの大切な仲間だった少女――アンジェリカのように、姿を見せる必要のない広範囲型のスタンド能力だとしたら? すぐには認識できない攻撃があるということをマッシモは知っている。
背筋が総毛立った。

「ッDIO!」
「……そんなに呼ばなくとも聞こえているよ」

実に面倒くさそうに、気怠げに、こともなげに、マッシモが呼びかけたその人は俯けていた面を上げた。ピジョンブラッドの如く美しい真紅の瞳が、駄々っ子を叱るように眇められている。
そこでようやくマッシモは気づいた。今や全ての情動の端が、この異形の帝王たる麗人に繋がりつつあるという揺るがしがたい事実に。

「何というか……すごく、気になることがあるんだ。少し時間もかかるかもしれない。
 歩き回って君も疲れただろう? 丁度いいから刑務所で休憩でもしようじゃあないか」

耳朶をくすぐる声音が心地よい。
これは毒だ。抗いようもなく染みこむ甘い毒。もう囚われて抜け出せない。
先程の悪寒は既に別の何かに姿を変えている。『この人に見捨てられ、殺されるのだけはいやだ』ふとそんな思いが脳裏を過ぎった。
19神に愛された男 ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/21(火) 17:00:33.56 ID:z3RW+7UR
「あ、ああ……構わない」
「それは首輪か? ふむ……それも、少し調べたい。いいだろ?」
「ああ……」
「なんだよ、ヘンなヤツだな」

言葉ほどには気にするふうもなく、鷹揚とした微笑みを浮かべ、DIOは手に持った円盤状の何かを玩ぶようにいじくっている。

「別に、なんでもない……DIO、それは何だ?」
「これか? DISCだよ」

DISCだという奇妙な円盤状のそれを、DIOは詳しくは語らずやけに大切そうにデイパックへとしまいこんだ。
それが何を意味するものなのか、きっとDIOは知っているのだろう。せっついたところで話してもらえないのならば、マッシモは餌を待つ犬のように、ただひたすら主の気まぐれを待つよりない。
人と人でないもの。被食者と捕食者。敵。友人、そして。
この僅かな間に、マッシモと彼の間には幾つの関係が築かれたのだろう。
奇妙な、関係だった。
首輪とDISC以外に特に目を惹かれる物もなく、やがて二人は連れだって目的の地であるGDS刑務所に向かった。

「なあ、マッシモ……東には特別な意味がある、と言ったのを覚えているか?」

不意に、DIOが問いかける。ついぞ聞き覚えのない、酷く真剣な声色だった。
マッシモは暫し逡巡し、肯定するように頷いて見せる。それを確認してDIOはこう続けた。

「キリストの経典の一部にある、東の果てにあるという幸福の地エデンなる『天国』は、あくまでも伝承の中のものでしかない。
 エデンがどこかに実在するとは到底思えないし、それが土地や場所である必然性は全くない。
 だが、『天国』が存在するという事実を告げていると、私は思う。
 伝承とは戯曲化された歴史に他ならない。ならば何を主眼に置いて戯曲としているのか?
 ……精神の向かう所だと、私は考える。物質的なものでは本当の幸福は得られない。
 『天国』は物質的なものではなく、精神の力によりもたらされる。本当の幸福がそこにはある。
 精神の力はスタンドの力であり、その行きつく先が『天国』。
 真の勝利者とは『天国』を見た者の事だ……どんな犠牲を払っても、私はそこへ行く」

熱っぽく語られた一言一句、全て漏らさず理解できたとは到底言い難かった。
むしろ、理解できるほうがどうかしているんじゃあないかとすらマッシモは思ったのだ。
ただ、その狂おしい程の情熱だけは理解することができた。強大な力を持ち、不死の肉体を持ち、何を憂えることもなさそうなこの帝王然とした彼が、唯一欲し、求める果てが『天国』なのだろう。

「そのために、俺が必要だと?」

DIOは無言の肯定を見せ、ふと遠くを見るような眼差しをした。

「彼が……私のもう一人の友人が、ここにいるのなら。
 『天国の時』は近いだろう」

果たしてその時に何が起こるのか。

神の名を冠する不死の王の傍らに、敬虔な殉教者のように男はひっそりと添っていた。






【スポーツ・マックス 死亡】
【残り **人以上】
20神に愛された男 状態表 ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/21(火) 17:01:02.81 ID:z3RW+7UR
【E−3 西部、ティベレ川河岸/一日目 黎明】

【DIO】
【時間軸】:三部。細かくは不明だが、少なくとも一度は肉の芽を引き抜かれている。
【スタンド】:『世界(ザ・ワールド)』
【状態】:健康
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×2、麻薬チームの資料@恥知らずのパープルヘイズ、地下地図@オリジナル、リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、ランダム支給品1〜2(確認済み)
【思考・状況】基本行動方針:帝王たる自分が三日以内に死ぬなど欠片も思っていないので、『殺し合い』における行動方針などない。
              なのでいつもと変わらず、『天国』に向かう方法について考えつつ、ジョースター一族の人間を見つければ殺害。もちろん必要になれば『食事』を取る。
1.我が友プッチもこの場にいるのか? DISCで確認しなければ…。
2.適当に移動して情報を集める。日が昇りそうになったら地下に向かう。
3.マッシモ・ヴォルペに興味。
4.首輪は煩わしいので外せるものか調べてみよう。

【マッシモ・ヴォルペ】
【時間軸】:殺人ウイルスに蝕まれている最中。
【スタンド】:『マニック・デプレッション』
【状態】:健康
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、大量の塩@四部、注射器@現実、スポーツ・マックスの首輪
【思考・状況】基本行動方針:特になかったが、DIOに興味。
1.DIOと行動。
2.天国を見るというDIOの情熱を理解。
3.しかし天国そのものについては理解不能。
21創る名無しに見る名無し:2012/02/21(火) 17:04:22.10 ID:XC32Vf+o
shienn
22 ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/21(火) 17:05:15.17 ID:z3RW+7UR
以上で投下完了です
支援ありがとうございます!

仮投下時にご意見頂いた部分については、描写増やし気味にしてみました…が、それでもわかりづらいという…
誤字脱字指摘感想ほか、何かありましたらよろしくお願いします
23創る名無しに見る名無し:2012/02/21(火) 17:16:51.18 ID:XC32Vf+o
投下乙です。
話の中で魅かれていくマッシモがまんま俺のリアクションしててワロタwww
DIO様のカリスマが爆発過ぎて、俺男だけどDIO様になら肉の芽されてもいいかなァ……///
3部影DIOの静寂な凄みと6部DIOの哲学者気質がみごとにマッチングされてて、正直濡れたッ

1stの帝王DIOでもなく、2ndの成り上がり野心ディオでもない。
3rdならではの味が浸透してきて、もうこのコンビからは目が離せないぜ!
ここにプッチが入ったら間違いなくDIOの奪い合いwww
マッシモ、プッチ、ヴァニラ・アイスとDIO様、マジハーレムwww
ジョルノともどう決着つけるのか……妄想が押し留まらんぜ!

改めて投下乙でした!
24 ◆c.g94qO9.A :2012/02/21(火) 23:27:13.56 ID:t0iP4ic5
投下乙です
DIO様かっこよすぎ、ハードル上がりすぎでプレッシャー半端ないです。
ヴォルペのリアクションが新鮮で、良かったです。


予約の分ですが、日を跨ぐぐらいに投下します。
支援できるかたは助けていただけたら幸いです。
25 ◆c.g94qO9.A :2012/02/22(水) 00:07:28.49 ID:tvKgugAP
投下します。
26狂気   ◆c.g94qO9.A :2012/02/22(水) 00:08:48.06 ID:tvKgugAP
突然だけどクイズだ。人を殺す『もの』、あるいは殺せる『もの』、これってなーんだ?
……はい、タイムアップ。解答時間が短すぎる、だなんて苦情は受け付けないよ。
君たちにとってはこんなありふれた問題、問いかけることすら、はばかれるぐらいのものだろうからね。

正解は『凶器』さ。
銃殺、刺殺、撲殺、絞殺、エトセトラ、エトセトラ……。やり方は色々あるさ。ただ方法は変わっても結局行きつく先は一つ。
『凶器(エモノ)は何だ?』なんて刑事がドラマの中でも言うじゃない。

……なに? 引っかけ問題? 挙げ足取り?
おいおい、まさか君たちにそうやって言われるとは思わなかったよ。四六時中頭ん中は殺すことばかり考えてる癖にさァ。
ま、でも一つ俺から言わせてもらうと……モノが人を殺すわけなんてないさ。人を殺すのはいつだって人、人の意志が人を殺すんだよ。

もう少し詳しく見てこうか。
ブタを食う時、牛を食らう時、鳥を食べる時、魚を食する時……常日頃から、あまりに人は殺すことに『慣れすぎている』。
だからいざこうやって『ハイ、どうぞ殺しあって下さい』なんて言われると俺たちは困ってしまう。
その時、最後に俺たちを突き動かすのはなんなのさ? 何が最後の最後で、俺たちの背中をポンッと後押しし、俺らは殺しに手を染めるのかな?

今回の話はまさにそれ。
殺し、その深遠なる淵に俺らをつき落とすのは『狂気』だ。今回はその『狂気』についてまつわるお話を紹介しよう……―――



27 ◆c.g94qO9.A :2012/02/22(水) 00:11:55.16 ID:tvKgugAP
深夜、街。まるで幽霊のように、どこからともなく姿を表した一つの影。
それは女性と言うにはあまりに幼く、少女と呼ぶにはあまりに刺々しい空気を纏っていた。
アイリン・ラポーナは闇に紛れ、音もなくあたりを伺う。暗闇に溶け込んでしまいそうな真黒な髪が風に煽られ、ふわりと揺れた。
足音は聞こえない。固く頑丈な石畳を歩く彼女の足取りは悠然としていながら、一切の気配を絶っていた。
突然、彼女は石像のようにその場に立ち止まる。何秒か動くことなく、鋭い視線をあたりに放ち、自分以外の気配を探っていくアイリン。

微かに、しかし次第にはっきりと話声が聞こえてきた。男だ、それも二人組。
緊張感が感じられない男の声とそれを叱咤激励する初老の男の声は、まさにアイリンが姿を現したその場所から聞こえてきた。

「アイリンは立派に活躍してるってのに俺は役に立つどころか足を引っ張るばかり……死にたくなってきた…………」
「ほら、まただぞ、マックイィーン君! 今ので五回目だ!」

アイリンは眉をひそめると後ろを振り返った。これでは自分が先立って歩く意味がほとんどない。
自分たちの置かれている状況をよくわかってないのか、わかっていてあえてそういう態度をとっているのか。
どちらにしろ、あまり気のいいことでない。そうアイリンは思った。長く美しい髪の毛を指先に巻きつけ、それでも彼女は辺りを警戒しながら同行者を待った。

ほとんど隣の男を抱きかかえるように歩いているのがジョージ・ジョースターT世。そして頭を抱え、ぶつぶつ呟き続ける男がサンダ―・マックイイーン。
彼らがアイリンの同行者、この殺し合いという奇妙な舞台で彼女と行動を共にしている男たちだ。
今のところ周りに人の気配はない、そうジョージに伝えると、彼はありがとう、と言葉を返した。能面のように無表情だったアイリンが初めて表情を崩し、柔らかな微笑を浮かべる。
それを見たジョージはにっこり笑う。そして今度は隣に並んだ卑屈な男に向き合うと、口うるさく説教を始めた。

やかましいと言いたくなるような熱いお説教が道路に響く。熱っぽく愛情に溢れるその声を聞いていると、とてもでないが『静かにしてください』とは言えなかった。
可笑しいような、困ったような、何とも言えない状況に、どうしたものかしらとアイリンは考える。
しかし可笑しさが勝った。自分一人だけ神経を張っているのが少し馬鹿らしくなった彼女は、素行を崩すと、二人に並びだって歩き始めた。

なんて甘ッたれなのだろうとアイリンは思う。マックイイーンもそうだが、ジョージもそうだ。
いい年した男が父親にあやされているかのような光景は、ある意味ではほほえましくもあるが、馬鹿らしくもある。
だがアイリンの目には口酸っぱく励まし続けるジョージが輝いて見えた。あの手この手で沈んだ男を盛り上げようと、熱弁を振るうジョージは素敵だった。
それはアイリンが優しさや甘さから無縁の世界で生き続けた代償なのかもしれない。
暗殺、殺し。これ以上なくドライで厳しい世界の住人である彼女は、ジョージのような人物を知らない。
だからこそ、彼は太陽のように眩しく、暖かい。希望に溢れ、何が起きようとも 『ドン!』 と構えている彼は、とても頼もしい男だった。

アイリンは少し前のことを思い出す。ジョージが自己紹介にと、自分の生い立ちについて話した時のことだ。
すぐにわかったのはジョージ、マックイイーン、アイリンがそれぞれ別の世界に住んでいるという矛盾。
年代が違う、住んでいる場所が違う。奇妙では済まされない、とんでもない事実だった。自分たちがいかに大きな事件に巻き込まれているかわかった時、アイリンの腕にはうっすらと鳥肌が立っていた。
だがジョージは平然としていた。なってしまったことは仕方ない、事実なのだから受け入れるしかない。
そう言って落ち着きはらう彼の態度を見て、やがてアイリンとマックイイーンも平静さを取り戻した。そして、ジョージと同じようにそれも仕方ないな、と考えるようになった。

この舞台には未知なる能力が数多く潜んでいるだろう。マックイイーンの不可思議な能力もそうだが、アイリン自身、暗殺という変わった特技を持っている。
自分がジョージを守らなければいけない。戦えるのは自分しかいない。
不思議と、恐怖や重荷は感じなかった。頭を下げるジョージの姿がアイリンの脳裏をよぎる。
自分のこの能力が役に立つと言ってくれた。それは不思議な気持ちだった。だけどそれは心地よく、アイリンは必ずジョージを守ろうと固く決意した。
28 ◆c.g94qO9.A :2012/02/22(水) 00:14:03.15 ID:tvKgugAP
「アイリン君、マックイイーン君、少し止まってくれないか。現在位置を確認したいんだ」

しばらく歩いた後、ジョージが二人を呼びとめる。三人は鍾乳洞から地上に出た今、誰かと会うことを目的に杜王町を目指している。
三人が先ほどまでいた鍾乳洞は、怪しげな研究所に繋がっていた。研究所内を調べまわった三人は、人がいたであろう痕跡は見つけたものの、他の参加者たちに会うことはできなかったのだ。

ジョージが薄明かりの元、デイパックより地図を取り出した。三人で顔を突き合わせるように地図を覗きこみ、自分たちのいる場所を探す。
ああだこうだと、少しばかりの問答の末、だいたいの位置をつきとめた。現在位置はC−6、杜王町に着くにはもう少し時間がかかりそうだ。
それを知ったマックイイーン、ほとんど反射的にぼやく。それを聞いたジョージ、躊躇することなく指導にはいる。
まるで漫才だ。二人が真剣なだけに、余計に滑稽だった。アイリンは笑いをかみ殺し、二人よりほんの少しだけ先を歩いていく。
杜王町に続いているであろう道路は広く、どこまでも続いているかのようだ。
後ろから聞こえる騒々しい漫才に耳を傾けながら、アイリンの心は穏やかだった。一時の平穏を彼女は噛みしめるように、楽しんでいた。


―――カツン、カツン……


アイリンの目つきが変わる。片手をあげ、二人の注意をひきつけると、音をたてないように合図を送る。アイリン自身も闇に融けていくかのように、気配を消していく。
数メートル先の十字路、左の角を曲がった先から音は近づいてくる。

カラン、コロン……ガリ、ギリ……。無神経に立てられる足音に紛れて刃物を研ぐような音が聞こえた。
ガリガリ……ブツブツ……。無警戒に近づいてくる何者かは様々な音を連れ、ゆっくりとこちらに向かってくる。
電燈が照らし出し、大きく伸びた影が見えた。ヒョコヒョコと人影が左右に揺れ、まるで地面の上でダンスを踊っているかのようだ。

張りつめた緊張感、息詰まる一瞬。だが来訪者は意外なほど、呆気なく姿を現した。
十字路にヌッと姿を現したのは小柄な人影。とても大きく、ぎょろりと剥き出しの目、顔中カサブタだらけの奇妙な風貌が暗がりの街並みにマッチしていた。
逆光の中、アイリンは目を細めて少年の顔を見る。そう、少年と言っていいほどに、彼は幼かった。
後ろに隠れていたジョージがホッと息を吐くのがわかった。身を縮めていたマックイイーンも緊張が緩んだのか、大きく空を仰ぐ。

「アイリン君?」
「おじさま……下がっていてください…………」

しかし、アイリンは少年に声をかけようとしたジョージの前に立ちふさがった。
不審そうに問いかける彼のほうを一瞥もせずに、アイリンはジョージを庇うように両手を広げる。
震えが止まらない。まるで吹雪の中に裸で放り出されたかのように、アイリンの身体が細かく揺れる。
ジョージもマックイイーンも知らぬことであった。彼らの目にはマヌケそうな少年がただ突っ立てるように見えたのだろう。

だがアイリンは確かに感じた。緊張でカラカラになった喉、カサカサに乾いた唇。迫りくる怖気はアイリンが今まで体験したものの中でも飛びぬけている。
十字路に姿を現し、動くことのなかった少年がゆっくりとこちらを向く。半眼に閉じられた少年の目が、はっきりとアイリン達を捕えた。
闇の世界に生きるアイリンにはわかったのだ。ジョージもマックイイーンもわからない、『こちら側』の世界の住人だけがもつ、ほの暗さ。そして少年が持つほの暗さはどこまでも深く、誰よりも濃いものであった。


少年の持つナイフがギラリと煌めく。薄明かりに照らし出された四人の影が、陽炎のようにゆらりと揺れた。



29 ◆c.g94qO9.A :2012/02/22(水) 00:17:52.15 ID:tvKgugAP
「止まりなさいッ」
「…………」
「……アイリン君?」

アイリンの鋭い警告、意外にもヴィットリオは素直に従い、その場に立ち止まる。
魂が抜けたような虚ろな表情は何を考えているのか。ぼんやりと立ちすくむヴィットリオをアイリンは睨みつける。
険しい目つきのアイリン、突然の登場にも関わらず言葉を発さない無表情のヴィットリオ。ジョージはそんな二人を見比べる。不穏な空気を感じつつも、何も知らない彼には二人の無言の会話がわからない。

口を開こうとしたジョージを押し黙らせ、二人を少年からどんどん遠ざけて行くアイリン。
そんな彼女の鬼気迫る様子に、ジョージもマックイイーンも思わず圧倒されてしまう。口を開こうにも、そうすることもできず、ゆっくりと下がっていく三人たち。
少年はそれを眺めていた。ゆっくりと遠ざかっていく三人をぼんやりと見つめていた。
そして彼はなんでもないように……、常日頃からそうしているように、手軽な感じで…………ナイフを自らの脚に突き立てた!

 「「「えッ?!」」」

何度も、何度も! 振り上げては自分の脚へと叩き下ろされる切っ先!
真っ赤な血しぶきが舞う。頸動脈を傷けられたのか、吹き上がる大量の血液が噴水のようなアーチを描く。
ぐりぐりと骨まで削るような痛みが電流となり、頭のてっぺんから足元まで痛みが貫いて行く。
脚の力が抜けていく。剥き出しの筋肉、チラリと見えた白い骨。過激な自傷行為は加速していく。
足腰は立たず、絶えぬ激痛に脳が耐えきれなくなる。何が起きているのか考えられなくなるほどに、痛みが、傷が増えていく。

真っ赤に染まった脚はもはや形が変わっていた。歪なアートに白い骨のキャンバス、真っ赤な絵の具のトッピング。
倒れ込んだのは……刃物を振りかざし、狂気に魅せられたヴィットリオではなかった。
突然自分の身におきた謎の出来事。一瞬の合間に脚が無惨な形に。倒れ込んでしまったのは、離れて立っていたはずのアイリンだった!

「アイリン君ッ!!」

屈むジョージの心配そうな顔、恐怖に震えるマックイイーンの身体。そんな三人目掛けてヴィットリオが猛烈に走り出したのがアイリンには見えた。
刀を振り下ろしたのと同じぐらい唐突で、そして素早く接近する敵。狙われたのは動けないアイリン!
庇うようにジョージが飛び出した! アイリンを傷つけさせまいと、ヴィットリオを突き飛ばし、二人は道路上でもみくちゃの掴みあい。
石畳の上で転がりあう二つの影、加勢に入ろうとアイリンは立ち上がりかけるが、脚の出血と痛みがそれを許さない。
ナイフを取りあげようと腕にかじりつくジョージ。唸り声をあげ、ヴィットリオが力で老人を振り切る。次の瞬間、地面に投げ伏せられたジョージの胸に、刃物の一閃が走った!

「グ、うッ…………!」
「おじさまッ!」

何を切ったか、わかっているのかわかってないのか。あるいは一切興味がないのかもしれない。
ヴィットリオは倒れ伏したジョージを、無感動で、無表情な目で見降ろしていた。
両手の指、その隙間から絶え間なく流れ続ける真っ赤な濁流。ジョージの手が、胸が、あっとういまに朱色に染まっていく!
倒れ伏した老人の胴体に、ヴィットリオが慈悲もなく蹴りを叩きこんだ!

呻く老人、アイリンの悲鳴。ヴィットリオは淡々と、まるで作業でもこなすように、ジョージの体を痛み付ける。蹴りあげ、殴りつけ、切りつける。
その一発が、一動作が行われるたびにアイリンは自分自身が傷つけられているかのような錯覚に陥る。
まるで自分が殴られているかのような痛みが襲いかかってくる。まるで自分の胃が蹴りあげられているかのように吐き気がこみ上げてくる。
横たわっているのはジョージのはず、傷つけられているのはジョージのはず。だがその痛みはアイリンの痛みだ。傷つけられているのはアイリンだ。

やめて! やめなさい!
そう思っている。なんとかしてやりたいと思う。だが身体は言うことを聞いてくれない。
脚の出血が激しいせいか、一気に血を失ったせいか。次第にアイリンは頭に激しい痛みを感じ始めた。まるでレンガであまたを殴られているかのような、鈍い断続的な痛み。
30 ◆c.g94qO9.A :2012/02/22(水) 00:20:42.33 ID:tvKgugAP
ジョージを守れるのは自分しかいない。アイリン、マックイイーン、そしてジョージ。
さっき誓ったばかりでないか。鍾乳洞で、ジョージがプライドを投げ捨ててまで頼みこんでくれたのは、この自分だったではないか。
無力だなんて嫌だ。助けたい、ジョージを。痛みなんかに……負けてたまるかッ!

しかしそんな熱情も霞むほどの痛み。いまや痛みは錯覚ではなく、確かな事実としてアイリンの身に襲いかかる。
額が割れるようだ。いや、実際に割れているのではないか。じゃなかったらこの垂れ流れる血液は何だ。鼻筋、瞼に覆いかぶさるこの真っ赤な液体は何だ?
ぐちゃぐちゃになってしまった脚、留まることのない額からの出血と痛み。アイリンの意識が次第に薄れていく。疑惑と憂いも、痛みが吹き飛ばしていく。安息と安らぎが彼女を遠ざけていく。
少し、また少し、霞み、消えていく世界……。痛みが走る、だがそれも薄らいでいく。沈んでいく……アイリンの意識が闇の中へと沈んでいく……。

「……ハッ!?」
「なんだァー、こりゃーーーッ!?」

跳びかけた意識を何とかつなぎとめ、アイリンは痛みに抗い身体を起こそうとする。ヴィットリオの間の抜けた声が彼女の意識を鮮明にした。
彼女は数時間前のことを思い出す。ジョージと出会ったあの鍾乳洞での出来事を思い出す!
彼女は知っているッ ジョージとマックイイーン、彼ら二人の会話が彼女の記憶を揺り起こすッ!
なんとか起き上がった彼女の目にうつったのは謎のプロペラ群。身体にまとわりつくように浮遊するプロペラ群が、アイリンだけでなく、ジョージにも、そしてヴィットリオにも現れていた!


―――ガス、ガス、ガスッ…………!


「アイリンが倒れこんでる……ジョージさんが傷つけられてる……。
 なのに俺は何もできない。怖くなって脚が竦んで、ただ突っ立てるだけだ…………」

そう、これはマックイイーンの不思議な能力ッ アイリンにダメージを与えていたのはヴィットリオでもなく、ジョージでもないッ
純粋なる邪悪、敵意なき悪意ッ サンダ―・マックイイーンの『ハイウェイ・トゥ・ヘル』ッ!

鈍い打撃音が路上にこだまする。リズムよく金槌で釘を打つかのように、一定の間隔を刻んでマックイイーは自らの頭部を民家の壁に叩きつけていた。
民家の漆喰が剥がれおちるほどの勢いで、繰り返しマックイイーンは頭を打ちつける。ブツブツ、誰に向けられたのかもわからぬ言葉をつぶやき、虚ろな瞳で壁を見続ける。
そしてマックイイーンがダメージを受けるたびに、アイリンの頭部にも鈍い痛みが走る。まるで実際に壁に頭を打ち付けているかのような、鈍痛が一発一発襲いかかるッ

「ジョージさんの言った通りだ。俺は死にたい、死にたいとか言いながら、全然そんなことは思ってねェんだ。自分の命が惜しいんだ。
 だってよォー……ほんとに死にたいなら、死ぬ気で誰かを守ってやるって思えるはずだろ?
 ジョージさんみたいに、アイリンを庇って死ぬのは俺だったはずだろ?」


―――ガス、ガス、ガスッ…………! ガス、ガス、ガスッ…………!


額が割れ、顔中が真っ赤に染まっても彼は作業をやめようとはしなかった。
彼の頭部が激しく血を噴けば噴くほど、地べたに横たわるアイリンの頭部も同様に染まっていく。彼はそれを意に介さない。
いや、自分一人ではない、という道連れの悪意がこそが彼の原動力!
三人を巻き込みながら、彼はそれでも一切気を払うことなく狂ったように頭を打ちつけ続けていた。
民家の壁がキャンバスかのように紅で染まり上がっても、マックイイーンはやめようとしなかった。

「だってのに結局このざまだ。情けねェなァ〜〜、俺はよォ〜〜〜……。
 ああ、死にてェ……こんな俺なんて生きてても価値ねェよな? 意味ないよな?
 死ぬ気でなんかやろうだなんて結局俺に出来るわけがなかったんだよ。俺はジョージさんみたいにカッコよくなれねェんだ……。
 ああ、何勘違いしてたんだろな、俺はよォ〜〜。死にたくなってきた…………。
 こんな俺がいてもジョージさんにも迷惑かけるだけだ。アイリンの足を引っ張って邪魔するだけだ。だったらいっそのこと……」

アイリンにはどうにでもできなかった。朦朧とした意識を何とかつなぎとめ、目の前の光景を呆然と見つめるだけでも彼女は精一杯。
故にマックイイーンの次の行動に彼女は叫ぶしかできなかった。デイパックへとゆっくり手を伸ばしていくマックイイーン、彼が中から取り出したのは一丁の拳銃。
支給品、ワルサーP99。
31創る名無しに見る名無し:2012/02/22(水) 00:21:53.01 ID:f4cG35+Q
支援
32 ◆c.g94qO9.A :2012/02/22(水) 00:23:32.75 ID:tvKgugAP
「ばッ……!」
「死んだほうがマシだろうなァ…………」

アイリンは血の気が引くのを感じた。自分の顔から、わずかに残っていた赤みすら消えたのが、確かに、彼女にはわかった。
マックイイーンはやるだろう……彼は本気だ。彼には『何にもない』。空っぽの虚無感、底知れない理解不能の情熱が彼を突き動かしているッ
アイリンにミスがあるとしたら、マックイイーンを軽んじていた事。ジョージのお人好し具合に押し切られる形で、彼への警戒心を緩めていた事。

「死んでやるゥゥゥウウ―――ッ! 独りぼっちで逝くのは寂しいからよォオオ、皆も一緒に逝ってくれよォオオ―――ッ!」

マックイイーンがトリガーに指をかける。銃口はこめかみに向かって一直線、あとほんのすこし指を動かすだけで、彼は脳髄をまきちらしあの世に『逝ける』だろう。
それは即ち、死。それも奇妙な自傷願望を持つ男一人が勝手に死ぬだけでなく、アイリンも、ジョージも、周りの三人を巻きこんで起きる自殺と言う名の殺人行為。
マックイイーンの絶叫が響いた。アイリンは何もできない。すぐそこまで迫った死を前に、彼女は何も考えられず、だが、目をつぶりその時が来るのを待った。


――銃声は響かなかった。


かわりに響いたのはスカッと、気持ち良くなるぐらいの鮮やかな張り手音。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするマックイイーン。けたたましい音を立て、地面で拳銃が跳ねまわる。反射的に、彼ははたかれた自分自身の頬をなでていた。
息も絶え絶え、肩で出呼吸をしながら、残された生命力を燃やすように、ジョージは生きていた。血だらけになりながら、気力だけで立ち上がったジョージがマックイイーンの前にいた。
やつあたりのように、転がる拳銃を蹴飛ばしたジョージ。彼を支えているのは情熱、そして……怒りだ。
温厚で、紳士的。そんなジョージ・ジョースターT世が怒っていた。怒りに体全身を揺らし、その声は怒りのあまり、わなわなと震えていた。

「君は、心底、馬鹿ものだ、マックイイーン君ッッッ!」

呆然のアイリン、唖然とするマックイイーン。少し離れた場所でけだるそうに立ち上がったヴィットリオが、不思議なものを見た様に首を傾げていた。

「どうして皆殺したがるッ?! どうして皆死にたがるッ!? そんなに世界が憎いのか、そんなに世の中が怖いのかッ
 誰もかれもがそうやって命を投げ捨てるッ 簡単に、見切りをつけて、諦めて死のうとするッ
 何故だッ そうやって君たちが生きている世界は、誰かが望んでも生きられなった世界なんだぞッ!
 誰かが生きたい生きたい、そう望んでやまなかった一日なんだぞッ!
 命を投げ捨てるな、若造たちがッ 君たちが生きている今は、私が、私の妻が、どうあがいても手に入れることができなかった一瞬なのだぞッ……
 ふざけるな、侮辱するな……くそ、くそ、クソォ…………ッ!」

マックイイーンの肩を揺さぶり、唾を吐きかけない勢いでジョージは叫んだ。
面と面を合わせて、至近距離で、一切眼を逸らすことなく、彼は叫んだ。
魂の咆哮だった。叫び終わったジョージが、マックイイーンの足元で、唸るように地面を拳で叩く。
アイリンは何が起きたかわからない。マックイイーンもおろおろとその場でジョージの背に手を置き、途方に暮れている。どうやら自殺願望は吹っ飛んでしまったようだ。

悔しかったのだろう、ジョージは。アイリンは思う。
鍾乳洞でジョージはマックイイーンに頭を下げ、心をこめて頼み込んだのだ。そして道中も、なんとか彼の歪んだ精神を前向きにしてやろうと、懸命に励まし続けてきた。
それがこのざまだ。だが決して、ジョージはマックイイーンが憎いのではない。マックイイーンを怨んでいるわけでもない。

(おじさま……貴方は、貴方と言う人はお人好しすぎますッ)

ジョージ・ジョースターT世はその事に気付けなかった自分を戒めているッ! そんなマックイイーンのことを理解できなかったことを悔やんでいるのだッ!
33創る名無しに見る名無し:2012/02/22(水) 00:24:26.55 ID:f4cG35+Q
支援
34 ◆c.g94qO9.A :2012/02/22(水) 00:27:42.23 ID:tvKgugAP
自分はマックイイーン君をおだて、誤魔化し、先送りにしてきただけだったのではないか。どこか楽観視して、惰性で問題を後回しにしていただけはないか。
マックイイーン君の事を考えて自分は本当に彼と向き合っていたのか?
本当に彼のためを思っていた、そう自分は胸を張って誇りを抱いて宣誓できるだろうか? 百パーセント、全力全開で努力をした、そう言えるだろうか?

悔しがっているのは伝えきれなかった自分の力量。マックイイーンの自殺願望を覆すほどに、忘れさせるほどに導けなかった自分の度量のなさ。
もっと話しておけばよかった。もっと必死に伝えるべきだった。
呆れを通り越し、アイリンはもはや嘆息するほかなかった。自分たちが少年に襲われていることすら忘れ、こんな状況ですら彼は心底悔んでいるのだ。

狂気! アイリンの底に沸き上がった感情はまさにそれ! ジョージ・ジョースターは誰よりも、普通で、無力なものにみえる。
しかし、実態は違うッ! この場にいる誰よりも……アイリンよりも、マックイイーンよりも、底知れない少年よりも!
ジョージのお人好し具合は群を抜き、天を貫き、狂気というのに相応しいッ!
もし彼が持っているという能力があるとするならば、正気の沙汰ではないその能力ッ まさに『狂気』というほかないだろうッ!

「君もだ、少年……」

しばらく経った後、悔し涙を拭ったジョージが問いかける。
ナイフを持った殺人鬼は地べたにしゃがみ込む三人を前に困惑しているのか、何も考えてないのか、ついさっきまで襲いかかってきたこと忘れたかの様に、その場に突っ立っていた。ただ黙ってジョージの姿をじーっと見つめていた。
マックイイーンの手を借り、ジョージが立ち上がる。しゃがれ声で彼は少年へと問いかける。

「殺すだの、死ぬだの……もう沢山なんだ。見ての通り、私は弱い。誰よりも……なによりも。無力すぎるぐらいだ。
 目の前の彼の苦しみすら理解できてやれない、アイリン君が怪我を負ったのも私のせい。
 大人としての責務を果たすどころか、足を引っ張るばかりだ。私は何もできない、ただの無力な田舎者の紳士だ。
 しかし、君は違う。ナイフ一本で我々に立ち向かったのはものすごい勇気が必要だったろう。殺し合いに巻き込まれ、ものすごい葛藤の末に、君は武器をとったのだろう。
 その勇気を私に分けてくれはしないか。そもそも私たち三人は殺し合いなんぞに乗っていやしない。
 あらぬ誤解から生まれた戦いなんだ、これは。我々は本来手を取り合える仲なんだ……」

一歩、一歩。さきほどまで凶器を振り上げていた少年に馬鹿正直に手を差し伸べ、近づいて行く。
純粋無垢、天真爛漫、馬鹿正直。ジョージの目に輝く希望や望みというものはあまりに眩しすぎる、美しすぎる。
人殺しの舞台で人を疑わずにはいられない自分がおかしいのだろうか、そうアイリンに思わせるほどであった。
少年も同じように感じたのだろか、きまりが悪いようにナイフを持った手で鼻頭を軽くかく。
少しもごもごと口を動かした後、ポツリポツリと言葉をこぼす。決して大きな声ではなかったが、静まり返った道路で、その声はよく響いた。
35 ◆c.g94qO9.A :2012/02/22(水) 00:30:58.00 ID:tvKgugAP


「なんッてかよォー、おっさん、相当ぶっトンデやがんぜェ……。
 マゾヒストってか? にしても流石の俺もどんビクぐらいだ。いくら俺でも他人に蹴られ殴られしたらプッツンくるっつーのにさ。
 勇気だの、無力だのよォ……お花畑かァ、あんたの中身は? 頭、ヤクでもやってるんじゃねェのかって思いたくなるぐらいだ、アンタのおつむの中はさァ。
 にしてもおかしーつの? とんでもねーつーの? ヤクやっててもここまでトんだやつはいねーよな。
 ましてこれがシラフ? さぞかしオッサンはよォ、生きてるっつー感覚に溢れかえってんじゃねーの。
 ただなァ……ただァ…………」

言葉の最中、なんどか痰を吐くような苦しそうに咳をする。心配そうにジョージが少年の目を覗きこむ。それをわかっていて少年は敢えて、空中をぼうっと見つめる。
ジョージに対する答えは喉に絡み付き、言葉として出てこないかのようだ。何度か、うなり声のような意味の成さない言葉を発し、つまりだなァ、とか、そうだなァ、と少年は繰り返した。
なかなか言うべきことが見つからないようで、彼はうろうろと歩きまわり、苛立ち気にナイフを何度か素振りする。

心配そうな顔でマックイイーンがジョージをちらちら見るのがアイリンの視界に映った。
そしてそんなマックイイーンを落ち着かせるように、優しく微笑むジョージがいた。太陽のように眩しく、春の日差しのようにその笑顔は暖かかった。
ジョージは待つ。どこまでも真っすぐな目で、自分の信念を貫き、少年へと手を差し伸べる。
友好の一歩は自らの一歩。あとはそんなジョージの狂気に少年が魅せられるかどうかだ。


「ただ一言、俺から言わせてもらうとよォ……」


不意に、少年が言葉を口にした。食堂で級友にソースをとって、というかのような気軽な口調だった。
思わぬところから言葉が舞い降りてきたかのように、ポンと少年は言葉を吐きだした。視線はジョージに向いておらず、バツが悪いかのように自らの足元へと向けられていた。

並び立つ三つの影、訪れた静寂。アイリンはゴクリと唾を飲み込んだ。
誰も動かず、少年の次の言葉を、今か今かと待ち望んでいる。マックイイーンの能力によって割れた額が疼きだした。
たらァ……と一筋の血が流れ、アイリンは目に入りそうになったそれを拭おうと下を向いた。
36 ◆c.g94qO9.A :2012/02/22(水) 00:34:08.22 ID:tvKgugAP



―――次の瞬間



胃が縮むような肉を切り裂く音と、何か重さを持ったものが地面で弾む音をアイリンは聞いた。
そして幼い少年の声。その声にはカラカラに乾ききった達観が込められていた。



「なァに言ってんだ、お前」



カランカラン、とジョージの首から外れた首輪が地面に落ち派手な音を立てた。
糸を無造作にちぎられたマリオネットかのように、ジョージの身体が地べたに崩れ落ちる。

「えっ?」

マックイイーンの間抜けな声。そしてその呟きが彼の最後の言葉になった。
黒豹のように飛び跳ねた少年が、マックイイーンの懐に、たったの一歩で潜り込む。
ジョージの首を跳ね飛ばしたナイフが、返しの一刺しでマックイイーンの首を貫いていた。


ぴちょん、という音が静まり返った町に響き渡った。
それはジョージの首からドクドクと流れ続ける血が跳ねた音なのか、マックイイーンの首筋から噴き上がる見事な血のシャワーの音なのか、その時のアイリンにはわからなかった。
最後にアイリンが聞いたのは誰かの悲鳴。喉が、肺が焼けるように熱い。甲高い女性の声が鼓膜を振るわしていた。
二人の血を全身で浴び、額から垂れ落ちる血と涙で視界が真っ赤に染まった。もう何も見えない……、もうなにもみたくない。

ゆっくりと小柄な少年のような影が近づいてきて、右手に持った何かを振りかぶる。
そして―――









【ジョージ・ジョースターT世 死亡】
【サンダ―・マックイイーン 死亡】
【アイリン・ラポーナ 死亡】

37 ◆c.g94qO9.A :2012/02/22(水) 00:36:42.99 ID:tvKgugAP




と、このへんでやめておくか。これ以上話してもつまらないし、なにより、『いささか不適切』なんでね……。
『殺す』ことが得意のアイリン・ラポーナ。『自殺』することの達人、サンダ―・マックイィーン。逆に考えるが勝ち、『説得』のプロフェッショナル、ジョージ・ジョースターT世。
そんな奇妙な三人組が行きついた先は仲良くそろってあの世行き。皮肉だねェ、なんとも。

今回の話しで言えばあまりに相性が悪すぎた。
ヴィットリオを『殺す』ことはとっても難しいし、『道連れ』しようたってなかなかうまくいかない。ましてや『説得』だなんて……元々会話の通じない相手なんだから、それは無理ってもんだよ。
それぞれの狂気が暴走した結果がこのざまだよッ……って感じかな?

ただ、補足と言っちゃなんだけど、一つだけ紹介しておきたいことがあるんだ。俺の好きな言葉にね、こんな一節がある。
作者はたしか……フリードリヒ・ニーチェだったかな?


『怪物と戦う者は自らも怪物とならないように気を付けねばならない。
 汝が深淵を覗き込むとき、深淵もまた汝を覗き込んでいるのだ』


今回の話で言えば一体誰が怪物だったんだろうね?
狂気に魅入られ、怪物になれ果てたのはジョージ? マックイイーン? ヴィットリオ?
それとも……知らず知らずのうちにアイリン・ラポーナこそが狂気に魅入られ、怪物となっていたのかな?

一つわかっているのは……ここではマトモな神経してるやつこそ、どんどん死んでいくことになるだろう。
皆も狂人、全員狂人。タガが外れてるやつこそが強靭だったりするもんだ。イカれてるのさ、この状況で。
この話はまた今度の機会に話そうか。狂気、そしてそれが生み出す『怪物』。
これについてはまたの機会に…………―――






【C-6 中央/1日目 黎明】
【ビットリオ・カタルディ】
[スタンド]:『ドリー・ダガー』
[時間軸]:追手の存在に気付いた直後(恥知らず 第二章『塔を立てよう』の終わりから)
[状態]:体力消耗(中)、貧血気味、肩にダメージ(小)、片脚にダメージ(中)、額から出血(小)
[装備]:ドリー・ダガー、ワルサーP99(20/20)、予備弾薬40発
[道具]: 基本支給品×6(自分、ポルナレフ、アヴドゥル、アイリン、マックイイーン、ジョージ)、不明支給品×四人分(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:とにかく殺し合いゲームを楽しむ。
1.荷物を整理したい。いらないものは捨てる。
2.少し休みたい。さすがに傷つきすぎた。
[参考]
ビットリオは殺し合いについて深く考えていません。マッシモ・ヴォルペが参戦している可能性も考えていません。
マックイイーンの支給品はワルサーP99と予備弾薬でした。
不明支給品の内訳はヴィットリオ自身、ポルナレフ、ジョージ、アイリンの四人のものです。
脚へのダメージは歩ける、走れるものの治療なしで長時間の酷使はできない、ような状態です。脚を含め傷の状態の詳細は次回以降の書き手さんにお任せします。
C−6中央にジョージの頭部、首なしのジョージの死体、マックイイーンとアイリンの死体が放置されています。




【支給品紹介】
【ワルサーP99 と その予備弾薬@現実】
サンダ―・マックイイーンに支給された。
全長180mm、重量750g、装弾数20発、9mm口径の軍用・警察用自動拳銃。
漫画版『バトル・ロワイアル』では沼井充に支給され、沼井の死亡後は桐山和雄が、桐山死亡後は中川典子が使用した。
38狂気   ◆c.g94qO9.A :2012/02/22(水) 00:41:46.48 ID:tvKgugAP
以上です。誤字脱字、なにかあれば指摘お願いします。
題名漢字二文字と冒頭・最後のモノローグはyxさんからパクった……もとい、オマージュです。
事後報告みたいになってすみません。でもやってみたかったんです。


予約、仮投下が多くてワクワクです。新人さんのクオリティの高さに憂鬱になったりもするけど、これまで以上に僕も頑張りたいです。
39 ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/22(水) 01:27:54.82 ID:6/CjAgxC
投下乙です!
なんという鬱…だが、それがいいッ!
貴重な女の子成分がまたひとり減ってしまった寂しさはありますが、それを補って余りある力作でした
ジョージさんの叫び以降は読んでてゾクゾクしました
気付いた点としては、本文中のヴィットリオ→ビットリオ、です
誤字脱字は…たぶんないんじゃないかなと思います


あと、拙作への感想もありがとうございます
DIO様のハーレムwwwww男しかいねえwwwwwwwww  いや、マジでどういうことなの…
女子成分萌え萌えエンヤ婆もきっちり消滅させちゃいましたし…こうなったら他の書き手さんに頼るしか(チラッ
マッシモの反応は限りなく代弁に近いものがあります…特に「どうかしてるんじゃあないか」のあたり
ハードル…そんな上げたつもりもないんですが、DIO様(の描写)に関しては自重しなかった すいませェん
40 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/22(水) 15:33:40.90 ID:pHtENN5p
お二方、投下乙でした。

>神に愛された男
DIO様というとどうしてもハイでWRYYYなDIO様が浮かんでしまいがちですが、
こういう静かに敵を仕留めるのは新鮮な印象で、且つ違和感がない。他の方も仰っていましたが、まさに3rdのDIOと言ったところでしょう。
大きく展開を動かした訳ではない(スポーツマックスごめんね)話ではありますが、今後に期待が出来る絶妙なパスだったと思います。

>狂気
お……俺だ!俺がいるぞ!w オマージュ、大いに結構ですよ。むしろ「パクった、もといオマージュです」という新たなネタを俺に提供してくれたわけでw
本編の方の感想ですが、見事に鬱展開でしたね。生き残ったのがビットリオ一人だからまだ引きずらなくていいか……?
数少ない女性枠&外伝キャラが減るのは少々残念な気もしますが、この話を見せつけられたら納得です。

どちらの作品もいよいよキャラの方針が明確になってきた、というのを見事に書ききってくれていると思います。
時間軸だけを見ればぼちぼち放送待ちになりそうなパートですが、今後に期待しています。
え?俺?えぇ、この予約ラッシュが落ち着いた頃に何かしら書きますよw
41 ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/22(水) 20:02:45.04 ID:KYm1M3nE
ストレイツォ、吉良吉影、リキエル
本投下開始致します。
長さ的に、支援をいただければ幸いです。
42能ある吉良はスタンド隠す ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/22(水) 20:04:37.12 ID:KYm1M3nE
―――D-2、サン・ジョルジュ・マジョーレ教会。
同じイタリアではあるが、本来ならばローマではなくヴェネツィアの島に存在する教会。
16世紀から18世紀にかけて建築され、ヴェネツィアを一望できる鐘楼や教会内部に存在する数々の名画などは有名な観光名所にもなっている。


このような神聖な場所にはふさわしくない殺人鬼の内面を持つ男、吉良吉影はストレイツォと名乗る波紋戦士と共に床に座り込んでいた。
二人は簡単な情報交換を行った後、地下も含めて教会内部には他に誰もいないことを確認し、今は地図などを見ながら今後について相談している真っ最中である。

「つまり、この『吉良邸』が君の家かどうかはわからない……ということか?」
「そうだ。杜王町というのはわたしが住んでいた町の名だが、駅や図書館の位置も違うし、なによりこんな滅茶苦茶な地形の中には存在しない」
「ふむ……」

とはいっても、提案や質問を行うのはほとんどストレイツォであり、吉良がそれに答えるという場合が多い。
吉良吉影はこの殺し合いの場においても極力目立たないように努めていた。

「では、この『首輪』についてどう思う? ……外せそうか?」
「……よくはわからないが、見た限りわたしのような素人に分解できる代物ではない。
 それに、下手をすれば爆発の危険性がある以上、うかつに手を出すべきではないと思うがね」
「やはりそうか……ならば、ひとまずこの首輪は手がかりとして持っていこう」

消滅させた化け物(ワンチェン)の首輪を前にして相談するが、結局現時点では手出しできそうにないという結論に達する。
ストレイツォが首輪をデイパックにしまうのを見ながら、吉良は自分の立ち回りについて考えていた。

(まるで上司にペコペコするサラリーマンのようだが別に構わないだろう。
 実際わたしにもこのハードすぎる状況下で良い考えなどないし、有用な意見をポンポン出したりすると逆に怪しまれかねん。
 今のわたしは『一般人』なのだからね……)

あくまでも本音は隠しつつ、今度は吉良の方から質問する。

「それでストレイツォ、まずはどこへ向かうんだ?」
「うむ……最終的に目指したいと考えているのはこの教会のすぐ北にあるDIOの館、ここだ。
 DIOとはおそらくディオ・ブランドーのことだろう。ならば奴はここにいる。
 仲間達もおそらく、それを理解して集まってくるに違いない」

だが、と一息置いてストレイツォは続ける。

「しかし、今のわたし一人だけではディオに勝てるかどうかわからない。
 ツェペリから応援の要請が来たということは、波紋戦士一人では手に余る相手だということだろう。
 そこで、まずはこの教会の近辺を捜索して君のような巻き込まれた人間を探し、できるだけ保護する。
 太陽が昇る時間になり、仲間達と合流したら皆でDIOの館へと向かおう」
「……わたしも、か?」

思わず確認する吉良。彼としては、危険な敵の本拠地に飛び込む気はさらさらなかった。

「このような妙な場所においてはいつ、どこで亡者が襲ってくるかわからない。
 どこかに隠れているよりもわたし達と共に行動していた方が安全といえるだろう。
 なに、心配せずとも君に戦いをさせる気など無い」

質問されることを予想していたのか、ストレイツォはすぐに答えを返す。
一方、吉良はストレイツォの提案について考えていた。

(……言っていることはわかる。実際、神聖な場所とされるこの『教会』に化け物がいた以上、
 どこかに安全な場所があるとは考えにくい。だが……)

「……大丈夫なのか?」
43能ある吉良はスタンド隠す ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/22(水) 20:07:06.32 ID:KYm1M3nE
なにが、とは聞かない。
吉良は自分の認識に対し、ストレイツォが今の状況においてどのような『危険』の可能性を考えているか知っておきたかった。

「先程も言ったが、道中ディオの手下や亡者達が襲ってくるかもしれない。しかし、わたしの誇りにかけて君を守ろう。
 彼らは太陽の下には出られない。朝になり、太陽が昇ればひとまずは安心といえる。
 そして、我ら波紋戦士が集まれば、ディオにも勝てるはずだ。いや、必ず勝たねばならない」

(やむをえない……か。まあいい、情報収集という意味でも周辺の捜索はするべきだな……もっとも、DIOの館とやらにまでつきあう気はないがね)

ストレイツォから返ってきた答えは大体予想通りのもの。
吉良は頭の中では提案に賛成しつつも、いざとなれば別行動を取ることも選択肢に入れていた。

「わかった。……ところで」
「……? 何かな?」

頷いた後、吉良は気になっていた疑問を投げかける。

「その……『亡者』には生前の記憶というものは残っているのだろうか?」
「記憶……? ふむ、おぼろげに残っている者もいることがあるが、人を襲うという本能に抗える者はほぼ存在しない。
 記憶があるかもしれないが、意味を成さない……といったところか。 ……なぜ、そんなことを?」
「……いや、化け物とはいえ、元々人間だった存在を倒すのに抵抗はないのかと思ったものでね……」

吉良のこの答えは嘘である。
彼の懸念は『死者が蘇る』という点にあった。

先程の化け物には『知能』も『感情』も存在した。
加えて『記憶』もあるとなると、自分の殺害した『被害者』が蘇った場合、自分のことをどう思うかは容易に想像できる。
『杉本鈴美』ただ一人を除いて『キラークイーン』で跡形もなく『始末』して遺体すら残っていない者ばかりではあるが、
自分への『手がかり』となってしまう可能性がある以上、念には念を入れなくてはならない。
特に、自分が無くした『彼女の手首』から全身が復元されて誰かに自分の特徴などを喋られる、などということがあっては破滅につながる。

(どちらにせよ、一刻も早く『彼女』を見つけなくてはならないな……
 後は地図にある『吉良邸』がわたしの家だとして……そちらは問題ないだろう。
 家に殺人の証拠など何一つ残してはいないし、重要な物も……いや、一つだけあったか。
 わたしと父に『能力』を授けてくれた、不思議な『弓矢』が)

あの弓矢が一体何なのかは吉良自身も知らないが、他人の手に渡すべきではないということは理解できる。
とはいえ回収に向かう場合、会場の真ん中を横切らなければならない危険があるし、
無事に着いたとしても、そこが同姓の別人の家だったら骨折り損だ。
なにより『吉良邸』に向かう理由をストレイツォに説明しなければならないが、上手い言い訳が浮かばない。

(リスクが大きすぎるな……まあ、『弓矢』自体はわたしの殺人の証拠にはつながらないだろうし、
 ここはひとまず、ストレイツォの提案に従っておいたほうがいいだろう。
 ……父が、家にいてくれれば問題は無いのだが)

弓矢に関しては保留とし、会話の続きへと意識を向ける。
先程の吉良の答えに一瞬だけ何かを思い返すような目をしたストレイツォだったが、すぐに厳しい表情になる。

「……忠告しておくが、亡者はたとえ生前の家族や知り合いであってもためらいなく襲う。
 奴らには、安らかな眠りを与えることこそが唯一の救いだ。不用意に近づくと、命を落とすことになるぞ」
「肝に銘じておく。わたしからはこれくらいだろうか」
「……よし」

ストレイツォは地図をしまうと立ち上がる。思えば、情報交換に相談だけで随分時間が経過していた。
44能ある吉良はスタンド隠す ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/22(水) 20:09:47.32 ID:KYm1M3nE
「それでは、出発しようか。ここはDIOの館に近い、ぐずぐずしていてはまた襲われるかもしれん。
 ……そういえば、荷物の中身は見たか? このロープは荷物の中にあった紙に隠されていた」

そう言いながら、ストレイツォは先程倒したワンチェンの荷物―――床に転がっていたデイパックを拾い上げて中身を改め始めた。
吉良もデイパックを開けて支給されたものについて確認しておく。
―――食料、水、地図、磁石、筆記用具、懐中電灯、そしてストレイツォが言っていた折りたたまれた紙。
紙を開いてみると、中にあったのは魔法瓶。
蓋を開けると、湯気と共にいい香りが漂ってきた。

(これは……ハーブティーか。しかし、紙と中身の容積が一致していないが、どうなっているんだ?)
「吉良」

考えている途中で声をかけられ吉良は振り返る、すると



             ストレイツォが吉良に向かって薔薇の花を差し出していた。



……一瞬、あるいはもうすこし長いかもしれない沈黙。

(………………似合ってはいる。だがこの男、何のつもりだ?)

吉良は思わず絶句するも、何とか喉の奥から言葉を絞り出す。

「………………ええと、これは?」
「持っておけ。これはヤツの荷物に入っていた『波紋入りの薔薇』だそうだ。亡者に襲われたとき、投げつければ武器になるだろう」
「……はあ」

今の自分はさぞかし間抜けな表情をしているだろうなと思いつつ、吉良は薔薇を受け取る。

(……ハーブティーよりは役に立つかもしれんが、どちらにせよ『キラークイーン』の方が破壊力は大きいだろう。
 おおっぴらに使える、という点を除けばあまりアテにしないほうが得策だな……)

「では、今度こそ出発だ」

やるべきことは全て済ませた、とストレイツォは入り口の方へと歩いていく。
吉良も道具をデイパックに入れると遅れないように急いで付いていった。
だが教会から外に出たところで、吉良はストレイツォの様子がおかしいのに気付く。

「どうし……」
「静かに、何者かが近くにいる。念のため下がっていろ」

その言葉を聞いて後ろに下がりつつ、吉良はストレイツォと同じ方向へ視線を向ける。
吉良の目では人の姿を確認することは出来なかったが、ストレイツォは『波紋法』で何者かの存在を感じ取っていた。

(やれやれ、面倒なことにならなければいいが……)

心の中でため息をつきながら建物の陰に隠れる吉良。
しかし程なくして、彼は自分の身体に異変が起きていることに気付いた…………

45創る名無しに見る名無し:2012/02/22(水) 20:11:29.05 ID:6/CjAgxC
支援
46能ある吉良はスタンド隠す ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/22(水) 20:14:32.48 ID:KYm1M3nE
#


「そこに隠れている者よ、わたしたちは君を傷つける気はない。姿を―――」

前に出たストレイツォは未だ姿を見せない相手に向かい出てくるよう声をかける。
だが……

「やれ!ロッズ達ッ!!」
「―――!?」

隠れていた男―――リキエルはストレイツォの言葉を最後まで待たずに不意打ちを仕掛けた。
ストレイツォは相手の言葉に危険を察知し、距離をとるため飛びずさろうとするが……

(……足が!?)

片足のみが何故か意思に反して妙な方向に曲がり、ストレイツォは体制を崩して転んでしまう。
それを見て、リキエルは物陰から姿を現した。

「……待て! 話を―――」
「二人、いるのか。同時に始末することが可能だ、ロッズにはそれができる。
 しかし先にどうにかするべき厄介な相手は……お前の方だッ!」

リキエルはストレイツォの言葉に耳を傾けようともせず、再び能力を繰り出した。
目の前にいるストレイツォと、建物の陰に隠れている吉良を狙ってロッズを飛び回らせる。

対するストレイツォにとっては気配は感じるものの姿の見えない何かがいる、ということしかわからない。

(なんだ……この男、何をしている……!? 周りに何かがいるようだが、見えん……! それに、どうやって触れもせずわたしに攻撃を……)

考えながらも相手の攻撃を止めるためにロープを構え、リキエルに向かって投げつける。
しかし、正確に投げたはずのロープは動こうとしないリキエルから逸れて地面に落ちてしまった。
ストレイツォには分からないことだが、このときリキエルがロッズに手の体温を奪わせたため関節が勝手に曲がり、狙いが外れたのだった。

「無駄だ、そんな苦し紛れの攻撃が当たると思ったかッ?」

(どうなっている……ならば地面を伝わる波紋を…………ッ!?)

足から地面に波紋を流そうとしたストレイツォは驚愕した。
いつのまにか呼吸が乱れ、波紋がまともに練れなくなっている。
同時に口からは血と、綿のようなカスが出てくるという明らかな異常が起こっていた。

(い、いつの間に……!?)

焦りを感じ始めるストレイツォ。
リキエルは余裕の表情を浮かべながらその様子を眺める。

「もう終わりか……? 手ごたえのない奴だ。さっき倒した奴でももう少し頑張ったっていうのによッ!」

(『さっき倒した』だと!? この男、誰かを殺害してきたというのか……?)

「つまらないな……それじゃあ、そろそろとどめといこう。もっと近づくからな」

ストレイツォに向かって1歩、また1歩とリキエルは近づいてくる。
先程の発言には聞き捨てならない箇所もあったものの、今は他人よりも自分の方が重要であった。
理由はわからないが、ヤツを近づかせてはならない―――そう考えるも、片足は依然妙な方向に曲がったままで、
加えて手の指までもが勝手に折り曲がり、自由に動かせなくなっていた。
47能ある吉良はスタンド隠す ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/22(水) 20:17:58.20 ID:KYm1M3nE
(くっ、いかん……ヤツは近づくといっていたが、この状態では波紋はおろか格闘すらも満足にできん……
 しかし、あきらめるわけにはいかん……! わたしの後ろには吉良がいる……
 なにより波紋戦士として、このような悪漢に負けることなど許されん!!)

だが、リキエルとの距離が縮まってきても、ストレイツォはいまだ希望を捨ててはいなかった。

(見ていろ……わずかでもチャンスがあれば、最大の一撃を喰らわせてやる―――)

数刻前にこの殺し合いの会場のどこかで強大な悪と共に散った男と同じく、守るべき者がいる限り決してあきらめない誇り高き存在。
―――それが『波紋戦士』だった。


#


―――一方、後ろに下がった吉良。

(クソッ……何故だ、勝手にまぶたが落ちて……出血している!? それに、右手の指の関節が妙な方向にッ!)

彼もまた、ロッズの攻撃を受けて身体に異常をきたしていた。
集中的に攻撃されているストレイツォと比べて症状は僅かに軽いが、攻撃の正体がつかめないという不気味さは同じであった。
落ちてくるまぶたを左手で無理やり開き、どうにか視界を確保する。
その目に飛び込んできたのは地面に膝をつくストレイツォと、そこへゆっくりと近づいていく『敵』の姿。

(ストレイツォは劣勢か……どうする?)

吉良にとってこの場合のどうするとは『戦うか逃げるか』ではなく、『相手を如何にして倒すか』ということである。
なぜならば、吉良吉影は追ってくる者を気にして背後におびえるというのはまっぴらな性格だからだ。
このような攻撃の正体も射程距離も不明な『敵』を放置して逃げるという選択肢は元から無かったのである。
加えるなら、自分の『隠れ蓑』となるストレイツォを早々に失いたくはないという理由もあった。
さすがに目立ちたくないなどと言っている場合ではないため、バレない程度に『キラークイーン』を使うことも視野に入れて考える。

(近くの石を爆弾に……ダメだ、接触型はこんな状態でヤツに当てられるかどうかわからんし、
 点火型を使うにしても右手が妙な状態になっていてスイッチが押せん、なによりストレイツォは目を閉じていない!
 シアーハートアタックは……これもダメだ、位置関係が悪すぎる……今のままではヤツよりも先にストレイツォの体温を感知して……体温?)

ふと気がついたことがあり、冷静になって考える。

(そういえば、わたしやストレイツォに出ている症状には覚えがある……たしか、家にあった人体健康事典に載っていた―――)

吉良吉影は長所を人前に出さない男である。
出た大学は二流だったが、それはあくまで目立たないようにするため。
本来の彼は、高い知能と能力を隠し持つ恐るべき男なのである。

(関節が曲がる、まぶたが落ちる、口から綿のようなカスが出る、これらの症状は全て『体温が低くなった場合』に発生するものだ!
 どうやってかは知らないが、ヤツはわたしたちから『体温』を奪っていたというわけかッ!!)

吉良は自身の知識と記憶、そして現在の状況から、あっさりとリキエルの攻撃の正体に辿り着いた。
続いて、対処法について頭を巡らせる。

(ならばシアーハートアタックで……いや待て、わたしとストレイツォの症状が違うということは、
 攻撃されている部位が限定的だと考えるべきだ……ストレイツォの体温が残っている部分によってはそちらに向かってしまう可能性もある。
 ……となれば、ストレイツォの説明で聞いた限りだが、『波紋法』でなんとかしてもらうのが手っ取り早いッ!)

急いでデイパックを開き、目的の物を探り当てるとリキエルに向かって走り出す。
48能ある吉良はスタンド隠す ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/22(水) 20:21:11.40 ID:KYm1M3nE
「ストレイツォ!」
「吉良……? 来るな、逃げ―――」
「……そっちかッ!!」

大声で叫び、リキエルとストレイツォ、両方の注意を自分の方にひきつける。
リキエルも向かってくる吉良に向き直り、ロッズを差し向けようとする。
その瞬間、吉良は行動を起こした。

「体温だッ! ヤツはこちらの体温を奪っているッ!!」
「……そうかッ!」

叫ぶと同時に蓋を開けた魔法瓶をストレイツォに向かって投げる。

(さて……これでも負けるようなら『波紋法』とやらもそこまでだということだ。
 そのときは、わたしも『キラークイーン』を出し惜しみしている場合ではないな……)

直後、吉良は足の体温を奪われて関節が曲がり、地面に倒れこむ。
傍から見れば自己犠牲に見えるが、彼はストレイツォが負けた場合においてもしっかり次の手を考えていた。
吉良がそんなことを考えているとは露知らず、熱いハーブティーを頭からかぶり一時的に体温低下を防いだストレイツォは間髪いれず次の行動に移った。

「炎の波紋ッ! 緋色の波紋疾走(スカーレットオーバードライブ)!!」

自らの身体を殴って波紋を流し、熱エネルギーを発生させることにより全身の体温を上昇させる!
ロッズが奪う以上の熱量を発生させることで、ストレイツォの身体は自由を取り戻したのだった!
吉良に追撃を加えようとするリキエルにストレイツォは素早くロープを投げる。

「ハッ!!」
「……グッ!? このッ……」

リキエルの周りに配置されていたロッズはロープに流される『はじく波紋』で弾き飛ばされ、今度こそリキエルの首にロープが食い込む。
自分の首へと視線を移したリキエルは、一刻も早くロープを外そうと手を掛けるが……

バチッ!

(!? ビリッときたぁぁぁ!!)

ロープを通じて流された波紋がリキエルの動きを止める。
その隙にストレイツォはロープを引き寄せると、リキエルに向かって駆けた!


「……おまえ、何を!?」
「このストレイツォ―――」

このとき、リキエルには黄金に輝き全身から発熱するストレイツォのどこから体温を奪うべきかがわからなかった。
もし、リキエル自身に『全身が炎に包まれるような』経験があるか、あるいは『波紋法』についての知識があれば、
彼は迷いなく、ストレイツォの『口の中』を狙っていただろう。

奇妙なことに、リキエルがこの殺し合いに参加しない『本来の運命』を辿っていた場合でも、彼は似たような状況に遭遇することになる。
そしてその場合、彼は自分の身体に火を放つという荒業で一時的とはいえ乗り切ることに成功しているのだ。
しかし『今の』リキエルにはそのようなことは出来ず、一瞬の躊躇が致命的な隙を生み出してしまった。

「ロッ……」
「―――容赦せん!」
49創る名無しに見る名無し:2012/02/22(水) 20:21:34.55 ID:IQhipZ08
支援
50能ある吉良はスタンド隠す ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/22(水) 20:23:50.15 ID:KYm1M3nE


ボッゴォッッッ!!



―――直撃。
格闘者として鍛え上げられたストレイツォが繰り出した顔面への容赦ない蹴りの一撃は、単なる暴走族でしかないリキエルには重すぎた。
あっさりと意識を手放し、地面に崩れ落ちる。
同時に、ロッズ達も動きを停止し、遥か彼方へと飛び去って行った。



―――もし、ロッズが体温を奪うことにより、体内の血管ごと凍らせる――リキエルの父親、DIOがかつて使用していた『気化冷凍法』のような――ことが出来れば、
ストレイツォの身体に波紋は流れず、立ち上がることは出来なかっただろう。
『スカイ・ハイ』―――空高くとも、さらにその上にある『太陽』のエネルギーである波紋を完全に止めることは出来なかった。
そういう意味では、リキエルの能力はDIOに遠く及ばなかったのだ。



周囲と自分達の状態を確認し、ストレイツォは吉良の元に駆け寄る。

「……終わったぞ。大丈夫か、吉良? すまない、逆に助けられてしまったな」
「いや……気付けたのは偶然だ。それにとにかく必死だったから役に立てたなら幸いだよ」
「うむ。待っていろ、すぐに波紋で治療を行う」

ストレイツォは自分にやったのと同じように波紋で吉良の体に熱を発生させる。
病気から回復した吉良は、リキエルを眺めつつ聞いた。

「……ヤツは死んだのか?」
「いや、容赦はしなかったが命までは奪っていない。ヤツにはディオとの関係など、いろいろと聞きたいことがある」
「……しかし、目を覚ましてまた襲ってくるという可能性は……」
「そうだな……ヤツが『ロッズ』と叫ぶとき、右腕に付いた妙な生き物を動かしているのが見えた。……だから、こうしておこう」

ストレイツォは気絶しているリキエルをうつぶせにして右肩と腕の付け根に手をかけると、掴んだ腕を凄まじい勢いで体の後方に捻る。
グキリ、と嫌な音がしてリキエルの肩が外れた。

「!? グ、あああーーーッッッ!!」

痛みに耐えかね、リキエルが覚醒する。
しかしストレイツォは容赦なく、左肩も同様に外してしまった。
絶叫の後、ピクリとも動かなくなったリキエルを見て、吉良は思う。

(殺し合いの敵は『化け物』だけでなく、『人間』もいる。考えてみれば当然のことだったな……
 しかし、相手の体温を奪うというのは、こいつの『能力』なのか?
 わたしや父だけでなく、こんな『能力』を持った人間が他にもいるのか?
 この男を生かしておくのは危険だが、『始末』する前に確認しておかなければな……)

同情の念は一切なく、初めて戦った不思議な『能力』の使い手に対する数々の疑問。

(この殺し合いに同じような『能力』の使い手がまだ複数存在するのならば、ストレイツォだけでは不利かもしれん……
 先程はどうにか勝利したが……まあ、いざとなればストレイツォごと『爆破』すれば済むことだ。
 わたしに『キラークイーン』を使わせることが無いよう、せいぜい頑張ることだね……)

リキエルの処遇についてストレイツォと話しながらも、
吉良は依然変わりなく、心の中で密かに笑い声を上げていた―――

51能ある吉良はスタンド隠す ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/22(水) 20:26:50.81 ID:KYm1M3nE
#


―――徐倫達が乗るヘリを落とし、バイクに乗って落下地点に到着した瞬間、世界が変わった。
大勢の人がひしめき合うホールで男達の首が吹っ飛び、気がついたらリキエルは暗い地面の上に立っていた。

彼はわけもわからぬうちに、殺し合いに参加させられてしまったのだ。
いつものようにまぶたが落ち、呼吸が苦しくなり、正常な判断ができなくなっていた。

(こんな殺し合いなんて、オレ一人じゃどうにもならない……
 きっとオレは、あの見せしめと同じく虫けらのように殺されてしまう……いや、落ち着け。
 まだそうと決まったわけじゃない。無理に殺し合いに参加せずとも、生き延びるだけならば、なんとかなるかもしれない。
 まずは武器とやらを確認しよう)

そう思い近くにあったデイパックの中を探ろうとする……が、手が震えてなかなかうまくいかない。
ようやく中を確認できたものの、武器と言えそうなものは何も無かった。

(……どうする?どうするんだ? こうしている間にも、誰かがオレを殺しにやってくるかもしれない。
 ……落ち着け、まずは水でも一口飲んで……)

震える手でペットボトルの蓋を開けようとするが、取り落として足元に中身を撒き散らしてしまう。

(ヤバイ……それによく考えれば、水がわざわざ支給されるってことは貴重なものだってことかもしれないのに……)

あわてて地面に落ちたボトルを拾いあげる……だが、その時リキエルに電撃が走った。
リキエルは気付いていなかったが、彼がこぼしたペットボトルは『支給品』であり、中身はただの水ではなかったのである。

(……どうして、あっさり殺されるなんて考える? オレには新しく身についた『能力』があるじゃないか……
 第一、何故こんな殺し合いに勝手に参加させられなければならない? それが『運命』だとでも?)

無性に腹が立ち、『闘志』が沸いてきた。
いつの間にかまぶたは開いていたし、息苦しさもなくなっている。
同時に、自分には何でもできるような、どんな敵にも負ける気がしないような高揚感があった。
試してみたい―――そう思って歩き出し、近くにいたガンマンに戦いを仕掛け、勝利してデイパックを奪い取った。

(もう、昔のオレではない、オレは生まれ変わったんだ)

そう思えていた。
続いて教会の前を通りかかったとき、二人組みの男達を発見し、同じように『本能』の赴くまま襲い掛かったのだが―――



(ど、どうなってるんだ、何故こんなに顔や肩が痛いんだ……? それに腕がぜんぜん動かない……
 ええと、とりあえず立ち上がって……いや、どうやって? それよりもそこで話している二人に……いや、ダメだ……
 どうすれば、どうすればいいんだ………………? ああッ、まぶたが落ちて、それに、息が……苦し……)

ゲームスタート直後、支給品のペットボトルに入っていた『サバイバー』の能力により『怒って』いたリキエルはここに至ってようやく、能力から開放された。
実のところ、彼にとってそれがよかったかどうかは疑問であるし、少しばかり手遅れだったかもしれないが。


リキエルには分からない。現在の状況は、彼自身の想像以上に危ういものであることが。
なぜならば彼の『血統』はストレイツォ達の宿敵、吸血鬼DIOに直接関わるものなのだから―――
52能ある吉良はスタンド隠す ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/22(水) 20:29:56.59 ID:KYm1M3nE

【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会前 / 1日目 黎明】


【ストレイツォ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:JC4巻、ダイアー、トンペティ師等と共に、ディオの館へと向かいジョナサン達と合流する前
[状態]:肺にわずかなダメージ(波紋で治療済み、波紋使用には支障なし)
[装備]:マウンテン・ティムの投げ縄
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0〜1(確認済み)、ワンチェンの首輪
[思考・状況]
基本行動方針:対主催(吸血鬼ディオの打破)
1.倒した男(リキエル)から情報を聞き出す(他の参加者やディオについて)。
2.周辺を捜索し吉良吉影等、無力な一般人達を守る。
3.ダイアー、ツェペリ、ジョナサン、トンペティ師等と合流した後、DIOの館に向かう。


【吉良吉影】
[スタンド]:『キラークイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その@、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:まぶたから微量の出血(波紋で治療済)
[装備]:波紋入りの薔薇
[道具]:基本支給品、ハーブティー(残り1杯程度)
[思考・状況]
基本行動方針:静かに暮らしたい
1.倒した男(リキエル)から情報を聞き出す(特に『能力』について)。
2.些か警戒をしつつ、無力な一般人としてストレイツォについて行く。
3.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
4.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。

※ストレイツォから波紋や吸血鬼について説明を受けました。
※ランダム支給品はハーブティー(第7部)のみでした。


【リキエル】
[スタンド]:『スカイ・ハイ』
[時間軸]:徐倫達との直接戦闘直前
[状態]:両肩脱臼、顔面打撲、痛みとストレスによるパニック
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜1(ホル・ホースの物、確認済み)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)
[思考・状況]
基本行動方針:
0.パニック状態。痛みと恐怖でまともに物事を考えられない。

※ランダム支給品は『サバイバー入りペットボトル』のみでした。
※現在ダメージを受けて一度気絶したことにより、サバイバー状態は解除されています。


[備考]
・ワンチェンのランダム支給品は『波紋入りの薔薇』のみでした。
・二人が情報を聞きだした後、リキエルをどうするかは次の書き手さんにお任せいたします。
53能ある吉良はスタンド隠す ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/22(水) 21:00:41.81 ID:KYm1M3nE
【支給品】

波紋入りの薔薇(第1部)
ワンチェンに支給。

首だけになったダイアーが波紋を込めてディオに飛ばした赤い薔薇の花。
有名なセリフ「フフ……は…波紋入りの薔薇の棘は い 痛か……ろう………フッ」のアレ。

ロワ仕様として、誰かに刺すまで波紋は消えないようになっている。


サバイバー入りペットボトル(第6部)
リキエルに支給。

見た目は共通支給品と同じ水入りペットボトルだが
中の水を飲んだり触ったりするとスタンド『サバイバー』の電気信号が脳に送られ、その人物を『怒らせる』効果がある。

『サバイバー』で怒った人間は
・闘争本能が引き出され、ほとんど見境なしに相手を襲う
・相手の「強い」ところが光って「見える」
・身体能力が強化される
といった状態になる。


ハーブティー(第7部)
吉良吉影に支給。

SBR11巻でジョニィが淹れたミントのハーブティー。
原理は不明だがジョニィはハーブを飲むことで撃った爪が速く生えてくる。
カモミールを混ぜるのが効果的。

原作ではキャンプケトル(キャンプ用のやかん)に入っていたが、
ロワでは魔法瓶に入っているため、冷めることはない。
54 ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/22(水) 21:03:22.10 ID:KYm1M3nE
以上で投下終了です。支援ありがとうございます。
比較的オーソドックスな展開……の割りにはやや長めだったり。

仮投下時からは多少文章をいじった程度で大きな変更はありません。
サバイバーの設定もそのままです。
ご意見、感想などありましたら遠慮なくお願いします。

55創る名無しに見る名無し:2012/02/22(水) 21:23:47.65 ID:6/CjAgxC
投下乙です!
あーんスト様〜〜かっこいい〜〜!www
薔薇の花には噴きましたwww
吉良のしたたかさもリキエルの補完具合もすごくよかったです!

仮投下時に気付かなかったのですが、
サン・ジョルジュではなく、サン・ジョルジョです ちいさい『ョ』ですね
他はざっと見た感じではないかなと思います
56創る名無しに見る名無し:2012/02/22(水) 21:25:53.55 ID:IQhipZ08
投下乙でした
流石スト様、何やってもサマになる…
57 ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/23(木) 17:27:25.12 ID:hQRU7eAi
ジョセフ・ジョースター、エリナ・ジョースター、投下します。
58嘘つきジョセフと壊れたエリナ ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/23(木) 17:28:54.89 ID:hQRU7eAi
彼女はひたすら走っていた。
そうする内に、なぜ自分が走っているのかも分からなくなる。
何かから逃げているのだ。
じゃあ、何から?

誰か、助けて。
そうだ。助けて欲しいときには、必ず彼は現れてくれた。
そしてその彼を頭に浮かべた瞬間、思い出す。
優しい笑顔、力強い手、暖かな眼差し――吹き飛ぶ頭。

「……いや……いやぁぁぁ!!!」

エリナ・ジョースターは最愛の夫、ジョナサン・ジョースターの末路を思い出した。
喉から絞り出すような叫びを上げると同時に、彼女の身体から力が抜ける。
カクンと躓くように地面に倒れたエリナは、もう立ち上がることは出来なかった。

一面の暗闇と冷たい空気の中、足音がどんどん迫ってくる。
エリナは覚悟を決めることすら出来ずに、白い手で地面を握った。
その甲に、ぽつりと水滴が落ちる。
ぽたぽたと涙の落ちる音が、足音にかき消されていく。
そしてその足音は、エリナの視界の端に太い脚が映り込むことで止まった。

「おいおい……大丈夫?お嬢さん」

頭上から聞こえた、その声のする方へ顔を向ける。
自分を追ったせいで少し息を切らせながら、安心感のある笑顔を浮かべている男。
それはやはり「ジョナサン・ジョースター」だった。
59嘘つきジョセフと壊れたエリナ ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/23(木) 17:29:18.52 ID:hQRU7eAi

エリナは、確かにその頭が吹き飛ばされるのを見ていた。
ただ何も出来ずに見ていた。
助けに走ることも、声を上げることすら出来ずに。

ジョナサンがゆっくりとエリナの前にしゃがみ込む。
今すぐにでも彼の胸に飛び込みたくなるような衝動を抑えるのに必死だった。
エリナは震える声を整えられないまま、水滴を垂らすように少しずつ言葉を紡ぐ。

「ど……どうして?」
「え?」
「貴方は……さっき確かに、死んだはず……!」
「……」
「あのホールでッ!あ……頭……を」

そこでエリナは一瞬動きを止める。
すぐに口を押さえて背中を丸めた彼女は、声を上げずに泣き始めた。
ただ、時々隠しきれない声が指の間から漏れ出ていく。

その背中を男が辛そうに見つめていたことには、エリナは気づかない。
ただ温かい手が自分の肩に置かれた時、ふっと心の中に木漏れ日が差すような感覚を得ていた。
その手を、振り払うことなど出来る訳がない。

「俺だって訳がわかんねーんだよなぁ〜……。
 あそこで見せしめみたいに殺されたのは確かに俺。
 でもここにいて、今君を慰めようとしている俺も、確かに俺自身だ。
 どっちも本物の『自分自身』だと、俺だからこそわかるッ!」

肩に置かれた手に力がこもり、エリナは思わず顔を上げる。

「でも俺は自分が本物だって信じてる。
 『殺し合いになんて乗らない俺』で『君みたいな女の子は絶対に守る俺』だってな」

確信できた。
目の前の彼は、自分が生涯唯一愛すると決めた男だ。
何があっても側にいると、ずっと支え続けると誓った「ジョナサン・ジョースター」その人。
自分には、まだ何もわからない。
それでもずっとこの人を信じようと、そう思える。

まるでその血に惹きつけられるように、エリナは愛する夫の胸にそっと寄りかかった。
60嘘つきジョセフと壊れたエリナ ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/23(木) 17:30:33.64 ID:hQRU7eAi
※※※



突然、先ほどまで泣きじゃくっていた女性に胸に飛び込まれたジョセフは、思わず息を飲んだ。
片膝を立ててしゃがんだ体制のまま、男は彼女に自分から触れることも出来ずに固まる。
思い切り抱きつかれた訳ではない。
そっと寄り添うように身体を預けた彼女は、ためらいがちにジョセフの服を握る。
柔らかい身体、どこか高貴な香り、すすり泣く声、上から覗く美しい谷間……。

(これは……まずい気がするッ!よくわからねーが、何かがまずいッ!!!)

「お……俺、一応新婚なんだけどなァ〜……」
「?ええ、そうね……」

返されると思わなかった独り言への返事に、ジョセフは違和感を覚える。
確か、自分とこの女性は初対面のはずだ。
しかし涙を流しながらこちらを見上げる彼女の顔に、どことなく見覚えがある気もする。
だが、地下の暗闇の中ではハッキリと確認できない。

ジョセフに縋り付いたまま、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。
皺になるほど強くジョセフの服を握るその女性を見て、彼はその話に口を挟まずに聞くことにする。

「『俺』と新婚旅行の船に乗ろうと思ったら、いきなりあのホールにいた」
「その時突然『俺』が消えてとても驚いて」
「その後、見せしめのように『俺』が殺されて不安に」
「でも、また『俺』に出会えて本当に嬉しい」

涙で詰まって上手く話せなかったり、混乱して支離滅裂になりつつ話したことだったが、纏めるとそう言いたかったらしい。

彼女の話を頭の中で整理しながら、ジョセフはようやく自分が彼女の夫と間違えられていることに気がついた。
しかし、自分の旦那を普通間違えるもんか?
思わずそう指摘してやりたくなったが、涙で目を腫らし唇を震えさせる様子を見てとどまる。
暗闇の中、しかもいきなりこんな状況に放り込まれて憔悴した彼女には、仕方ないことかもしれない。
幸せの絶頂から、いきなり地獄の底のような戦場に落とされたのだ。

あまり勘違いを長引かせてこの人を傷つけたくない。
ジョセフは自分の正体をさっさと明かしてしまおうと決意する。

「あのさ、お嬢さん。実はそのぉ……」
「ジョナサン……」

その名前を聞いた瞬間、彼の身は凍りついた。
61嘘つきジョセフと壊れたエリナ ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/23(木) 17:31:22.87 ID:hQRU7eAi
目の前の女性は相変わらず此方を熱い視線で見つめながら、ジョセフをそう呼んだのだ。
祖母やスピードワゴンに常々聞かされてきた言葉が、血流に乗って脳内を駆け巡る。
そして同時に、先程感じた彼女への既視感が再び彼を襲ってきた。
首の裏を、冷や汗が流れ落ちる。
ジョセフは今まで触れることの出来なかった彼女の肩にそっと両手を置くと、澄んだ瞳を見つめ返した。

「……君の名前は?」

真剣なジョセフの表情を見て、彼女は目を見開いてから縋り付いていた手を離す。
そして、地面を掻いて少し傷ついた両手を膝の上に合わせた。

「私を疑っているのね?」
「いや……とにかく名前をね、聞かせてほしいなァ〜って……」

「……エリナ・ペンドルトン。
 いえ、ごめんなさい……エリナ・ジョースター!貴方の妻です!」



(……………………う、嘘だろォォォォ!!!??)

その叫び声は辛うじてジョセフの頭の中に留められたが、驚愕の表情までは抑えられなかった。
そんな様子の夫を見て、エリナと名乗った女性は首を傾げる。
瞬間的にその女性の肩に添えた手を離すと、恐る恐る彼女の頬に触れた。
むにむにぎゅうぎゅうと、遠慮など忘れて柔らかな頬を揉みしだく。

「ひょ、ひょなひゃん!?」

彼女は顔を真っ赤にしながらも、為すがままにされていた。
62嘘つきジョセフと壊れたエリナ ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/23(木) 17:32:05.07 ID:hQRU7eAi
確かに、その顔は自分の祖母の面影が……あるような気がする。
じっと彼女の顔を見ていると、ふと一枚の写真を思い出した。
スピードワゴンにこっそりと見せてもらった若い頃のエリナの写真、朧げなその像が次第に鮮明になり――思わず頭を抱えた。

まさにその写真の女性が今、目の前にいる。
触って確かめたその身体は温かい。
まさか石仮面でも被ってしまったかとも思ったが、彼女は紛れもなく普通の人間だった。
仮に石仮面か波紋で若返ったとしても、記憶まで飛んでしまっている様子なのが奇妙だ。

(ど……どういうことだ……!?この女は一体……何者なんだよーッ!)

いきなりの瞬間移動、殺されたもう一人の自分。
それに加えて新たな謎が浮上した。
しかもどうやらこの謎は、真っ先に解決しなければならない問題のようだ。
ジョセフはそっと立ち上がり、彼女を見下ろして考える。

彼を心配そうに見つめる『エリナ』の瞳は、どこまでも無垢で美しい。
だからこそ厄介だ。
彼女自身は自分をエリナ・ジョースターだと、更にはジョセフのことを夫であるジョナサン・ジョースターだと完全に信じきっている。
彼女は何者か――まさか本当にエリナおばあちゃん……なのか?
63嘘つきジョセフと壊れたエリナ ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/23(木) 17:32:33.33 ID:hQRU7eAi

その女性が、自分から距離を置いて神妙な面持ちで見つめる彼をどう思ったのか、それは彼女自身しか知らない。
しかし女は何も言わずに立ち上がると、後退ろうとするジョセフに近づいていった。
ジョセフはそれを、処刑台への導きのように感じる。
だが「エリナ」は、彼の右手を包み込むように握っただけだった。
彼女の顔には、百合の香り立つような微笑が浮かんでいる。

「あ、あのぉ……」
「貴方が何をしようとしているのか……私には分かりません。
 ……でも、私は貴方がどんな事をしようとも必ずついて行きます。
 貴方を――信じていますから」
「――!」
「でも私が一緒だと戦えないのなら、そう仰ってくださいね。
 一人でどこかに隠れて、貴方を待っています。いつまででも……」

美しすぎる――ジョセフは思った。
当然彼女が持っているはずの悲痛な覚悟も、不安も、寂しさも、その笑顔からは一切感じられない。
ただひたすらに夫を想い支えたいと願う、一人の聖女がそこにはいた。

(間違いない――この人は、エリナおばあちゃんだ……。
 エリナ・ジョースターだ……)

彼の知っている祖母の手は皺だらけのくたびれた手だったが、いつでも厳しくて優しかった。
手袋ごしに、記憶の中のエリナと同じ温もりが伝わる。
本当に、此処に来てから奇妙なことばかりだ。
なぜ彼女が身体も精神も若返っているのか、ジョセフにはまだわからない。
恐らく「石仮面」でも「波紋」でもない、何らかの未知の力が存在していることは確かだ。

それでも、俺は彼女を守り抜く。
おばあちゃんを元の姿に戻して、必ずアメリカに帰す。
そしてもう一つ――。
64嘘つきジョセフと壊れたエリナ ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/23(木) 17:33:05.79 ID:hQRU7eAi

ジョセフはエリナの手を握り返した。
そのまま彼女を引き寄せ、たくましい胸の中へ抱き止める。
右手で細い指を握り、左手はエリナの頭を包んで。
頭を撫でると、彼女は一瞬身を固まらせる。
その瞬間のエリナの顔は見たくなかった。
見られなかった。

「ジョナサン……」
「大丈夫。絶対に置いて行ったりしない……。
……君は――『僕』が守る。何があっても……ッ!」

これがただのエゴだと、ジョセフは気づいていた。
それでもジョセフには、まだ彼女の知らない「真実の未来」を伝えることなどできない。
エリナ・ジョースターは、どんなに残酷だろうと真実を求める女性だということも知っている。
それでもジョセフは、愛する人を欺き続ける覚悟を決めて甘い嘘をついたのだ。
その甘さはエリナのためのものなのか、ジョセフ自身のためのものなのか――。

「……ジョナサン?ジョナサン……よね?」
「ああ……どうしたんだ?エリナ」

エリナの髪が、ジョセフの頬をくすぐった。
彼女には、ジョセフの歯を食いしばり眉根を寄せたその表情は見えていない。
彼が、今にも抱き潰してしまいそうなのを堪えながら抱きしめていることも、何も知らなかった。

エリナはジョセフの腕の中でみじろぎを取ったが、自分を呼ぶ声にぴたりと動きを止める。

「……いいえ、何でもないわ」

エリナには、彼女を愛してくれるジョナサンの優しい声があればそれで十分だった。
もうそれ以上考えることなどない。
例え彼女の頭を撫でる左手に固く体温を感じられなくても、自分の手を握る右手にあるのは、確かに愛する人の温もりなのだから。



そして、ようやく二人の歯車は噛み合った。
エゴは救いとなり得るのだろか?
無知は罪になり得るのだろか?
歯車はまだ、回り始めたばかりだ。
65嘘つきジョセフと壊れたエリナ ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/23(木) 17:33:44.59 ID:hQRU7eAi

【地下D−5 南西地下通路/1日目 深夜】

【ジョセフ・ジョースター】
【スタンド】:なし
【時間軸】:第二部終盤、ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前。
【状態】:健康
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×2、不明支給品1〜2(未確認)、アダムスさんの不明支給品1〜2(未確認)
【思考・状況】基本行動方針:エリナと共にゲームから脱出する
1.『ジョナサン』をよそおいながら、エリナおばあちゃんを守る
2.いったいこりゃどういうことだ?
3.殺し合いに乗る気はサラサラない。
※エリナは「何らかの能力で身体も精神も若返っている」と考えています

【エリナ・ジョースター】
【時間軸】:ジョナサンとの新婚旅行の船に乗った瞬間
【状態】:精神摩耗(小)、疲労(小)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、不明支給品1〜2 (未確認)
【思考・状況】基本行動方針:ジョナサン(ジョセフ)について行く
1.何もかもが分からない……けれど夫を信じています
※ジョセフ・ジョースターの事をジョナサン・ジョースターだと勘違いしています

【備考】
二人はタイガーバームガーデンから北西方面へ走り、今はE−5とD−5の境目付近にいます
66嘘つきジョセフと壊れたエリナ ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/23(木) 17:36:53.92 ID:im4nROXK
以上で投下完了です。

仮投下時から、ジョセフの義手に関する描写をすこーしだけ増やしました。
流れなどは全く変わっていません。

ご意見などありましたら、よろしくお願いします。
67創る名無しに見る名無し:2012/02/23(木) 21:05:08.57 ID:8z2D/D04
投下乙です!
これからの壮絶な鬱展開がすごく…予想できます…
しかし本当に身内に手を出すことに定評のあるジョセフw
今後の展開が楽しみになる一作でした!
68創る名無しに見る名無し:2012/02/23(木) 21:28:57.46 ID:nqLll2oZ
投下乙です。
さびしそうな女性のためにつく嘘は正しい…というのはシーザーだけど、
敬愛するおばあちゃん相手にジョセフははたしてどこまで隠しとおせるんだろうか……

予約〜投下ラッシュも折り返しと思いきやまた新たな予約が来ており、
いろんな意味で先が楽しみです!
69 ◆4eLeLFC2bQ :2012/02/27(月) 00:24:20.32 ID:rfIT7nc9
遅くなりました。
ウェザー・リポート、蓮見琢馬 投下します
70 ◆4eLeLFC2bQ :2012/02/27(月) 00:26:15.81 ID:rfIT7nc9



 いつの間にか、歩みを止めてしまっていた。
 何者かの気配に身体が自然と警戒したわけではない。
 街灯が遠くなった狭い路地裏に自分以外の生命の息遣いはなく、黒絹の夜空には無数の穴が開いているかのように星が瞬いていた。 
 そもそも行く当てもないのに、どこへ向かおうとしていたのか。
 歩き続ければどこからか千帆が現れ、『先輩』と邪気のない笑顔を覗かせるとでも?

「なにを期待しているんだ」

 呟いた言葉でさえ自分が平常心を失っている象徴のように思え、急に馬鹿らしくなった。
 デイパックの中身を確認もせず、ここがどこかもわからないのに歩き続けていたなんて、それこそ愚行だ。
 そのまま物陰に隠れるようにして琢馬は息を吐く。
 デイパックを下ろし、思いのほか肩が強張っていることを実感した。


――あの男の望んだように、千帆を助けることは、成し遂げた復讐をふいにすることにあたるだろうか。


 気が付けばそのことばかりを考えている。

 元より、あの男が人間として最底辺の存在ではないからこそ成り立つ復讐だった。
 あの男が金にしか興味のない、人との繋がりを完全に絶っている男だったのならば、俺の復讐は成立しなかった。
 あの男は、母が自分に与えてくれた感情と同じものを、自分の娘に対して抱いていた。
 この本がなければ、一生理解し得なかったかもしれない感情だった。

『愛情』

 親から子へ。子から親へ。人から人へ。
 俺は母からその感情を与えられた。
 もしこの感情を実体験として知り得なければ、違う手段の復讐しか思いつかなかっただろう。

 絶命する瞬間、あの男は知っていたのだろうか。
 娘の体内に宿った新たな命を。
 最期の願いを告げた相手の抱いていた本心を。

 俺の顔と名前を正しく認識していた。ゆえに母とは違い『時間のずれ』のようなものは俺と数時間以内だったはずだろう。
 その数時間の間に、あの男はどんな感情を抱いたのだろう。
 あるいは迎え入れた男が何者かも知る直前の、ある種幸福な時間から一瞬で引導を渡されたのかもしれない。
 千帆があの男に直接働きかけずとも、愛娘の宿した命『宿命』に打ちひしがれていたはずだった。
 あの男はすでにすべてを知っていたのかもしれない。あるいはそうでないかもしれない。
 真相はもう確認しようがない。あの男は死んだのだから。

 逃れようのない死を待つそのわずかな時間。
 あの男は娘の生存に希望を見出していたのだろうか。
 千帆の存在は、あの男の絶望に穿つ一点の光だったのだろうか。
 あるいは、真相──息子の復讐──を、知ってなお、あの男の『愛情』は自らの死の恐怖を凌駕していたのだろうか。
71 ◆4eLeLFC2bQ :2012/02/27(月) 00:28:08.01 ID:rfIT7nc9

 腕には母の重みがまだ残っていた。
 ビルの谷間で拾い上げた白骨は片手でつまみあげられるほど、ちっぽけで軽かったというのに。
 母は『生きて』いた。
 返り血でべたついていても、その手は自分と同じ、血が通い肉がついた『人』の手をしていた。

 殺すほどに憎みきった男の娘を救うことを母は望むだろうか。
 千帆は一般的な女子と変わりなく父親を愛していた。
 無知で、夢見がちで、両親の離婚を除けば絵に描いたように幸せな女子高生だった。
 大神照彦の遺伝子を受け継ぐ娘を母は……。

「それは、問題じゃない」

 母は俺を愛していた。あの男の遺伝子を受け継ぐ息子を。


 俺は母の復讐を代わりに遂げようとしていた。
 だが、母そのものではなかった。

 復讐は、母が果たした。
 俺は母の仇を討つために生きてきた。
 母が満足だというのならば、俺の目的も達成されたと言える。
 それが望んだ形ではないとしても。
 母への愛情を俺自身のエゴと誰にののしられようとも、母に否定されるような真似だけは絶対に犯してはならない。
 それは自分の生を否定することのみならず、母の生を否定することだった。


――頭痛がおきそうだ……。


 もし、母がその手であの男を殺したことで、すべてが精算されるのならば、最も不幸なのは、千帆だ。
 利用され裏切られたあげく、不必要になってしまったピース。
 彼女が自分と同じ認識を持つ、『現実』の彼女であればの話だが。
 母や、ホールで見た『すでに死んでいるはずの人間』が証明するように、ここではなにか得体の知れないことが起こっている。
 もしも過去と現在の区別がなくなってしまっているであれば、大神照彦が見たと証言した千帆はなにも知らず、俺にまだ出会う前の千帆なのかもしれない。
 俺は、そう願っていることも、認めざるを得ない。
 千帆がこの場にいなければ、千帆だけが救われるべき資格を持たないのであれば、なにも迷わずにすんだはずだ。


 憎み続けてきた大神照彦の娘。
 俺自身と血を分けた妹。


 千帆の生存は大神照彦の絶望を消し、母の正当な復讐を無益なものとしてしまうだろうか。
 あるいは、千帆の不幸に見合うだけの救いは、俺の、彼女を妹として愛する兄としての義務なのだろうか。
 彼女が俺の復讐に利用される前の無知な少女だとしても、彼女を見捨ててしまうことは、『俺』自身が望むことなのだろうか。

 首飾りを細い首にまわし、二度と会うことはないと思いつつ彼女に手を振った。
 あの時の感情も『本』には克明に記載されている。
 読み返してみれば、今現在自動書記され続けている箇所と、同じような文章かもしれない。

 デイパックの中を漁る手はいつの間にか止まっていた。
 自嘲的な笑みが琢馬の口元を歪める。
 大神照彦の足元にデイパックを放置したままだった。
 ふと、そんなことを思い出していた。



 * * *
72 ◆4eLeLFC2bQ :2012/02/27(月) 00:28:54.14 ID:rfIT7nc9



「刺殺、か……」

 血だらけで横たわった男を検分しウェザー・リポートが呟く。
 彼自身、右半身に突傷を負い、裂けた衣服から出血の跡が覗いていた。

「凶器は……見あたらないが、デイパックを残していくほどに襲撃者は焦っていた。
 あるいは血の匂いを放つデイパックはいらぬ疑惑を呼ぶと考え放置していったか……」

 男の傷口から溢れ出した血が雨水と混じり石畳の地面を濡らしている。
 放置されたデイパックは上下から血を吸い、持ち上げると滴が垂れた。
 溜息とともに周囲をぐるりと見渡す。

 この男を殺した人間が『殺し合い』に恐怖し、怯えからこの男を殺害してしまった臆病者ならば、この場はある種安全といえる。
 血を見ることも、まして死体を見ることも恐ろしいと感じるような非力な人間がここへ戻ってくるとは思えなかった。
 だが、合理的判断からデイパックを放置するような人間がこの男を殺害したのであれば……。
 『刺殺』に見えるような傷口を残すスタンドがいることに疑問はない。
 デイパックを餌に新たな被害者を待ち受けているのであれば、今すぐここを離れるべきだった。

「その可能性は、低い」

 ブラックモアの死後、現在位置の確認はすでに行っていた。
 目立った施設がないことから地図の端のどこかにあたると推察し、西へ歩き始めてすぐ禁止エリアに立ち入っていることを知らせる警戒音が響いた。
 どこかに明確な線が引かれていたわけではない。
 地続きになった道の途中、突然警戒音が鳴り出したのだった。
 同じことを北上した際にも体験した。
 つまり禁止エリアとやらも指定されていない現在、このエリアは『A-1』ということになる。
 人を集めるような施設もなく、殺し合いを恐れる人間が安住の地を求めて来るには時間が足りなかった。
 あのホールに集められた人間がランダムにマップに飛ばされていたとして、初期位置が同じ『A-1』でなければ通りかかる人間を見つけることすら難しいだろう。
 そんなエリアで死体とデイパックという餌が機能するとは考えられない。
 偶然できた状況を利用して甘い汁を吸おうとする輩であれば、それは狡猾とはいえぬ、やはり臆病者の考え方だった。
 警戒してしかるべきだが、強敵の予感とは程遠い。

「気は進まないが、デイパックの中身だけでも確認するか」

 死亡した男の必死の形相は男が決して安らかに死んだわけではないことを物語っている。
 逃れられぬ死に絶望し、いかなる未来も摘み取られた人間。
 どのような思想を持ち、どのような生活をしていたのだろうか。
 哀れみは生き残った者の驕りでしかないと自覚もしている。自分が先刻命を奪った男が指摘したように。


「それでも、俺は生きることを望む」
73 ◆4eLeLFC2bQ :2012/02/27(月) 00:31:05.95 ID:rfIT7nc9





──カツン…………





 音そのものではなく、空気が微かに震えたような違和感だった。

「誰か、そこにいるのか?」

 声を発したウェザーにとって、それが人であるかすら確信はなかった。
 血の匂いに惹かれてやってきた小動物の類かと疑うほどのささいな気配。
 街灯が作る影の中、声を向けられた相手は動くそぶりを見せなかった。
 逃げようか、姿を現そうか相手は迷っているに違いない。
 あれほどの人数の中、自分に好意的な人間に出会う確率は圧倒的に低いのだから。

「オレから攻撃する意志はない。そちらにもその気がないなら対話を望む」

 足元に倒れている男を一瞥する。
 男はピクリとも動かない。完全に絶命していた。
 夜目に雨と血液の見分けが失われたとしても、鉄臭さは今更ごまかせるレベルではない。
 足元に散乱したものに加え背負ったデイパックの数が多いことも、マイナス要素にしかならないだろう。
 これでよく攻撃の意志がないと宣えたものだと苦笑したくなった。

「……その足元の男は?」

 噛み殺した苦笑をなんと解釈したのだろう。やがて、暗闇が声を発した。
 無機質な印象を与える、低い青年の声だった。
 やたら大きな声で恐怖心を隠そうとしたり、焦りから上擦ることもない淡々とした喋り方は、この非常時において好ましくもあり、警戒するべき人物であるという印象も与えた。

「オレが来たときには死んでいた。どんな方法で殺されたのか、確認していたところだ」

 青年は黙っている。
 迷っているのか、焦らして反応を見ようとしているのか、あるいはスタンド攻撃を仕掛けようとしているのか。

「俺はあんたを警戒している。しばらくはこの距離で話をしたい」

「そちらがオレを攻撃しないという保証はない」

「足元に死体を転がしておいて、警戒するなという方がおかしい。
 それにあんたを警戒する理由は他にもある。
 ……が、『対話』を拒否する理由もない」

 寂しげな街灯に照らし出された青年の姿は影そのもののように見えた。
 首元まで堅苦しく着込んだ衣装は例外なく漆黒。
 遅れて見えた骨のように白い手や顔がなければ、完全に闇にまぎれてしまえるだろう。
 東洋人だと判断したが、それ以上に人としてなにかが欠けている瞳をしていた。
 殺し屋の目つきではないが、生気に欠けた、色のない瞳だった。



 * * *
74 ◆4eLeLFC2bQ :2012/02/27(月) 00:35:00.91 ID:rfIT7nc9
 * * *



「俺があんたを警戒する理由は、そこの死体を別にすると二つある」

 姿を現して以降、会話の主導を握ったのは琢馬だった。

「『妙な力』を持った連中がいるんだろう?
 あんたはそれに対抗する力を持っている。その怪我……」

 琢馬の視線がウェザーの半身に集中する。
 そこには散弾銃を間近で喰らったような出血の跡があった。

「なにをもって攻撃されたらそんな跡が残るんだろうな」

 デイパックの存在を思い出し、ついで照彦が本当に死んでいるのかと疑問に思い、琢馬は父の死体のもとへ舞い戻った。
 動かぬ死体のそばにいたのは母ではなく、見知らぬ長身の男。
 スタンドの存在を感じながらその認識のない琢馬は、状況からかまをかけつつ情報を得ることがリスクを上回ると判断した。
 『本』の能力は外国人に通用しない。という前提がある以上、いざというとき頼れるものは話術と包丁しかない。
 会話が成立するという事実はある程度楽観的な見方を許す事項ではあったが、それでもリスクは大きかった。
 琢馬は彼らしくもなく他人の出現に焦っていたのかもしれないが、それはわからない。
 彼の漆黒の瞳はウェザーをまっすぐに捉えて離さなかった。
 ウェザーは色めき立つ様子もなく黙っている。

「もうひとつ俺があんたを警戒する理由が一つ。
 その怪我が自傷でないとして、それを負わせた奴はどこにいる?
 あんた、余裕がありすぎるんだよ。
 怪我をしているのに、誰かに追われる不安なんて皆無って顔をしている。
 殺人鬼から命辛々逃げてきたわけじゃないってことだろう」

「……目の前にいる人間が殺人を犯した者だと推理した上で、それだけの余裕を保っていられるあんたの方こそ、オレは警戒してしかるべきだと思うがな」

 琢馬の視線を受け流しウェザーは足元の男を見つめた。
 絶命した男の、青年と同じ漆黒のような瞳がそこにあった。

「俺の疑問については棚上げか?」

「一方的な質問に甘んじるほど、オレたちの置かれた状況はそう差があるもんじゃない。
 むしろフェアー、対等な位置にあるくらいだとオレは考えている。
 あんたはこの男と知り合いか?」

 ウェザーが改めて琢磨を見つめる。
 表情の乏しい琢馬の顔に、疑問の色が浮かんだ。

「この状況からすれば、この男を殺したのはオレだ。
 デイパックの数が役者の数に比べて多すぎるという疑念は残るが、この場に居合わせた誰もが俺を加害者だと思うだろう。
 この男の死の真相を知っているわけでもない限り」

 琢馬の視線は相変わらずウェザーからはがれない。
 しかし図星をつかれた痛みが一瞬走ったのをウェザーは見逃さなかった。

「たまたまこの場に居合わせてしまった不幸な『一般人』ならば、殺されたくないと思うだろう。
 殺害方法は? 逃走可能な距離は? 自分のアドバンテージは?
 オレに警戒をしながらも遺体を盗み見て、この男の二の舞にならないようにと考えるのが普通だ。
 最初にオレが声をかけたとき、あの距離から詳細が観察できたとは思わない。
 あんたは、この男を見ようともしないな。
 自分にとって不都合なことでもあるのか?
 遺体というだけで目を背けるような繊細な神経の持ち主だとしたら、今まで言ったことは俺の一方的な思い込みだ。申し訳なかったな」
75 ◆4eLeLFC2bQ :2012/02/27(月) 00:39:26.89 ID:rfIT7nc9

 それきりウェザーは押し黙り、琢馬の反応を待った。
 ウェザーの言うとおり、二人の立ち位置は対等。
 後手に言いくるめられた分、無言の重圧は琢馬へ余計に重くのしかかった。


「………………悪かった。降参だ。
 俺はあんたがこの男を殺したわけじゃないってことを知っている。この男が殺される一部始終を見ていたんだ。
 そいつを殺した人は、俺の……、知り合いだった。そいつを殺してすぐ、その人も……。
 ここに戻ってきたのは、デイパックのことを思い出したからだ」

 一転して琢馬が饒舌になる。
 弁解からすべてを明かしてしまうつもりはない。
 しかし憎い父のせいで、無駄な時間を過ごすことなど、それこそ許せなかった。

「俺は見知りもしない爺さんのせいで死ぬなんてまっぴらだ。
 命令に従うのはクズのすることだ。
 助けを請うつもりもない。
 俺は…………俺のために、生き残る」

 普段の琢馬ならば口には出さなかっただろう。
 母が望むのならば、命を懸けて息子に生きて欲しいと願ったのならば、生き残ることそのものが目的になったとしても、絶対に反故にするわけにはいかなかった。

 ウェザーが心なしか落胆したように琢馬には見えた。
 誰が敵かもわからない状況で、相手の出方に会話を委ねたのは、この男が迷っているからかもしれなかった。
 ほぼ確実にこの男は人を殺している。
 それでも生きることに迷いはあるのだろうか。

「これだけ話をしておいて、なんの攻撃もしかけてこないってことから、あんたが無闇に他人を傷つけるようなクズじゃないってことはわかった。
 だが、俺は正義のヒーローを気取る気なんてこれっぽっちもないんだ。
 正義感だかなにかから協力者が欲しいっていうのなら俺は的外れだ」

 協力者を得るメリットと寝首を掻かれる可能性、五分五分くらいだと考えている。
 とっさの状況で包丁しか対処方法がないのではあまりに頼りない。
 逆にポーズだけでも協力者を得ておくことは、玉避けとしてもさることながら、いらぬ疑惑を回避するメリットがある。
 この男やその周囲の人間が、ある程度の人格者であるならば、と注を付けるべきではあるが。

「オレも似たような考え方だ。ゆえに信用する。
 オレは仲間を探しているが、それについて協力は求めない」

「正気か?
 あんたにとってメリットがない話に思える。
 疑わしいことを言っていると思わないのか」

「一緒に行動することであんたがオレの仲間を傷つける可能性は減るだろう。それだけで十分だ」

 琢馬のことを無力な一般人だと思っていれば、行き着かないような結論だった。
 信用していないからこそ、仲間に引き入れようとする。
 自分に自信があればこその行為であり、同時に自身の力の限界を自覚しているからこその判断だろう。
 矛盾しているように見えて、合理的な判断だと感じられた。
 そしてその印象はこの男の、余裕たっぷりに見えて空虚な印象と重なっていた。
76 ◆4eLeLFC2bQ :2012/02/27(月) 00:40:37.37 ID:rfIT7nc9

「蓮見、琢馬」

 名簿が後々支給されると聞いていた。
 『飛来琢馬』という人間は存在しない。自分と、母の心中をおいて他には。

「ウェザー・リポート。
 琢馬、君が他人を無闇に傷つける人間ではないと理解している。
 身の危険を感じたら勝手に逃げてもらってかまわない。
 俺の仲間についても、信用するかはまかせよう」

「仲間、ね……」

「?」

「いや、なんでもない…………」

「そうか……」

 千帆にもし会えたなら、それはそのとき考えればいい。
 千帆は、なにも知らない無垢な少女かもしれない。
 それよりもウェザーになんと説明すればいいのかわからなかった。
 憎んだことも、愛情を感じたこともある少女に対する感情を、なんと説明すればいいのだろう。
 説明したところで、理解されるだろうか。
 肉親を憎みきった過去を。
 自分でも整理の付かない感情を。

 ウェザー・リポートの半身の傷跡を見た。
 千帆なら、なにも抵抗できずに死んでいただろう。
 血だらけで、横たわる千帆。

 娘を愛することが生き甲斐だった父親が見間違える可能性は低い。
 今や確信を持って、千帆はこの場のどこかで、殺し合いに巻き込まれていると思える。

 千帆が誰かに殺されることは、肉塊に変わることは望んでいなかった。
 この腕の中にあの華奢な肩を抱いたときにも、『本』のすべてのページを読ませてしまおうかと逡巡したときでさえ。
 それは千帆への甘さだったのかもしれない。だが、父への最高の報復にあたると信じて疑わなかった。

 彼女の体内に呪われた子供を残すことが、死してなおあの男を苦しめるだろうと思う。
 その一方で、妹が誰ともわからぬ輩に殺されることは許せなかった。


 千帆の死は望んでいない。


 今は、それだけの、真実だった。





【忘れることは幸せ?コンビ】結成
77 ◆4eLeLFC2bQ :2012/02/27(月) 00:41:33.03 ID:rfIT7nc9


【A-1南東の路地/1日目 深夜】

【ウェザー・リポート】
[スタンド]:『ウェザー・リポート』
[時間軸]:ヴェルサスに記憶DISCを挿入される直前。
[状態]:右肩にダメージ(中)、右半身に多数の穴
[装備]:スージQの傘
[道具]: 基本支給品×2(自分、ブラックモア)、不明支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:襲いかかってきたやつには容赦しない。
1.仲間を見つけ、ここから脱出する。
2.琢馬について、なにか裏があることに勘付いているが詮索する気はない。
 敵対する理由がないため現状は仲間。それ以上でもそれ以下でもない。


【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力(名前はまだない)』
[時間軸]:The Book 2000年3月17日 千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中。
[状態]:健康
[装備]:双葉家の包丁(飛来明里の支給品)
[道具]: 基本支給品、不明支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。
1.千帆に対する感情は複雑だが、誰かに殺されることは望まない。
2.そのために千帆との再会を望むが、復讐をどのように決着付けるかは、千帆に会ってから考える。

[参考]
参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります(例・4部のキャラクター、大成後のスピードワゴンなど)
明里の基本支給品、照彦の基本支給品、照彦のランダム支給品(1〜2)は二人で確認した後、分担して所持する予定です。
78 ◆4eLeLFC2bQ :2012/02/27(月) 00:41:54.68 ID:rfIT7nc9
以上で投下完了です。
遅くなってすみません。次回ペナルティだな、これ。
タイトルはwiki収録時までに考えます。
誤字、脱字、矛盾点等ございましたら、指摘をよろしくお願いします。
79創る名無しに見る名無し:2012/02/27(月) 15:14:38.18 ID:deIxsCup
川の底からこんにちは ◆SBR/4PqNrM
代理投下します
80川の底からこんにちは ◇SBR/4PqNrM代理投下:2012/02/27(月) 15:34:51.80 ID:deIxsCup
「お前の事はあたしの記憶に無い…。
 だからもう一度問う。
 お前はあたしの『敵』か? 『味方』 か…?」

 ああ、分かってるよ。
 おれみたいな奴が、間抜けにもこんなときこんな場所で気ィ失って寝とぼけてなんかいたら、話になんねぇ。
 スマートに決めてスマートに立ち去る。そいつが本来おれの流儀。
 しょぼくれて、若造に訳も分からずにしこたまやられて、お次は可愛い子ちゃんと来た。
 こりゃツイてるのか? ツイてねぇのか?

 ☆ ☆ ☆

 ひとまず、気がついたときに話を戻すぜ。
 気がついた、ってのは、つまりおれが意識を取り戻したとき、ってのと、この女に気がついたとき、ってのと二つの意味でだ。
 意気消沈していたところを、やたらに調子の良い小僧にしてやられて、おれとしちゃあもう殺されたと思っていたわけだが、そうじゃ無かった。
 あの小僧、おれを舐めてたのか、いざとなってブルっちまったのか、単にそこまで考えて無かったのか、荷物だけ盗んだだけで、止めを差しもせずズラかりやがったらしい。
 川っぺりでアホみてーにぶっ倒れていただろうおれだが、意識を取り戻すのにそう時間が掛かったワケじゃ無い…と、思うぜ。
 まあそこんとこは曖昧だ。そんなに根拠はねえし、一々突っ込むなって。
 ただ、意識がぼんやりとでも戻ってきていることと、すぐさま行動できるってのは別だ。そうだろ?
 まあこれ又情けねぇことに、意識が戻って周りの状況(そして、おれ自身の状況)が分かってからもしばらくは、這い蹲ってただ辺りを眺めているだけだった。
 で、ざまぁねぇや、と自重するヒマも無く、川を流れてくるそいつが目に入ったワケだ。

 初めは、死体かと思ったぜ。
 そりゃそうだろう。泳いでる、でも、溺れている、でもねぇ。ただ水に浮かんで、ゆるりとした流れに運ばれているだけだ。
 ただの死体ならそう気にもしなかった。どこのどいつか知らねーが、とんでもねぇパワーのスタンド使いに浚われて殺し合いをしろなんて言われてりゃ、死体が流れてきたっておかしかねぇ。
 おれだってそうだ。ついさっき、殺されたと思ったんだからな。
 ただ、微かな光に照らされて、二つのふくらみが見てとれて、おれはようやく上体を起こしたわけだ。
 何だって? つまり、胸だよ、胸。乳房。女の身体でも、群を抜いて魅力的な部位のことさ。
 要するに、シリコンでも埋め込んだヤローでないなら、そいつは女だってことだ。そうだろ?
 で、俺は女にゃ優しい男だ。いつだって、な。
 ああ、そりゃあ勿論、利用もするし騙しもする。けど、優しいってのは間違いじゃねぇし、進んで女を傷つける真似もしねぇ。
 そして勿論、困ってる女を見捨てたりもしねぇ。ま、相手は選ぶがな。(エンヤ婆みてーなのは俺だってお断りだ)
 もしかしたらまだ生きてるかもしれねえ。死んでいたとしても、そのまま川を流れたままにしておくってのはあんまりだろ?
 で、ここに来ておれはようやく、ちょっとばかしいつものペースを取り戻しかけた、ってわけさ。
 がばと起きあがり、ざんっ、と川へと入ると、その女の方へと泳ぐ。
 泳いで、肩を掴むと、ぐいと引き寄せ声に出して聞いた。
「おい、お嬢ちゃん、生きてっか? 生きてるなら返事をしな!?」
 で、そこから冒頭に繋がってくわけだ。
「…お前は、敵か?」
 おいおい、いきなりそれはねぇだろうよ。
81川の底からこんにちは ◇SBR/4PqNrM氏代理投下:2012/02/27(月) 15:35:52.34 ID:deIxsCup
「お前の……その行為は……状況から察するに、『救助』しようとしている…という事に思える……。
 だが『わたし』はお前を知らない……。
 ならば、何故『助ける』……?」
 妙な具合だぜ、こいつは。
「おうおう、無事なら結構。
 とにかく岸に上がろうぜ。水の中をぷかぷか浮いていたら、落ち着いて話しも出来やしねえ。
 少なくとも今はアンタの『敵』じゃあねぇ。
 おれは世界中の可愛い子ちゃんの『味方』だぜ」
 女は、月明かりに見ても美人だった。この俺が言うんだから間違いねえぜ。
 東洋人とアングロサクソンの血が混じったような、エキゾチックな雰囲気がある。なんとはなしに見覚えのある気もしたが、いや、やっぱり記憶にゃあ無かった。
 ただ、妙なのは言葉や態度だけじゃねぇ。
 なんというか、巧く言えねえが、何かが妙だった。
 ぎくしゃくしているというか、ちぐはぐというか、機械的ってのとも違う。何か人間のようで人間でない、妙な感じだ。
 とはいえ、それでも目の前の女を助けないってのは、俺の流儀にゃ反する。
 反するし、何よりここに来てようやく、『俺らしい』事が出来る機会が来たってのも、重要っちゃ重要だ。
 女の肩をそのままぐいと引いて、岸まで行く。
 それに抗う素振りも見せず、そのま素直に、ふたりして岸へと上がった。
 
 さて、ずぶ濡れだ。俺としても正直気持ち悪いし、ここは2人とも服を脱いで乾かすのがベターなところだが、女は濡れた服のことなどまったく気にした様子が無い。
「とにかく、どっかの建物に入って、服を脱いで乾かした方が良いぜ。
 おっと、変な気持ちで言ってるんじゃねえ。
 俺は少なくとも女に対しちゃあ紳士だ。特に可愛い女の子には、な」
 軽くおどけた調子で、気持ちをほぐそうとする。
 改めて向き合うと、思っていた以上に若い。もしかしたらまだ10代かもしれねえ。
 首輪がつけられている事から、おれ同様に無理矢理連れてこられて殺し合いをしろと言われているお仲間、って事なんだろうが、態度様子からもその事を気にしている風でも無い。
 顔立ちの美しさに加えて、プロポーションも悪くない。ただ、立ち姿がちょいと様になっていない……というか、変だ。
 そしてその姿勢以上に、女の反応はどうもぎこちない。
 いや、ぎこちないというか、俺の言っていることを理解していないというか……いや、むしろ俺のことを観察している感じだ。
 警戒している、というわけでもない。
 最初はそう思った。だからおどけた事を言ってみたわけだが、そこには何の反応も無いんだから、どうにもつかみようがない。
「……その恰好」
 表情のない視線を俺に向け、妙な事を言い出す。
「『あたし』の記憶によれば、『西部劇』とやらの……カウボーイか…ガンマンみたいだが……お前はそういうヤツなのか……?
 そういうヤツ、というのは、つまり『西部で牛を追って暮らしている人間』なのか、という事だ。
 『あたし』の記憶の中では、直接会った事は無いんだ。『西部劇』の中か、フェスティバルの扮装以外では、という事だが……」
82川の底からこんにちは ◇SBR/4PqNrM氏代理投下:2012/02/27(月) 15:36:16.84 ID:deIxsCup
 さて、どうしたもんか。
 状況から混乱しているのか? それともハナっからイカれてるのか…? 或いは記憶障害ってーヤツかもしれねえ。
「あー、俺はまあ、『世界中を旅している男』さ。
 そんなのは『職業』じゃねぇって言う奴もいるが、そりゃそうだ。ま、言うなれば『生き様』ってーヤツだからな。
 で、この恰好はそーゆー俺の『開拓精神』に即してるからってのもあるし、険しい土地でも丈夫で破けねえから、ってのもある」
「理解した。つまりその恰好は、『カウボーイでは無いが、カウボーイの様に生きたいという意思表示』という事だな」
 うぐ…。なんかそう簡潔に纏められると、ちょっと恥ずかしい気がしてくるじゃねえかよ。くそっ。
 調子狂うぜ。
「とにかく、お前は『わたし』の敵ではない。そして ――― 『ありがとう』 と言っておこう。
 『あたし』の記憶において、こういうときはそう言うべきはずだ……」
 回りくどい、というより、非常に奇っ怪だ。
 狂っている、ってーんでもない。何が何やら、とにかく妙だ。混乱しているというのも又違う。 
 いや、むしろ逆だ。混乱はしていない。凄く理路整然としている。
 そして、理路整然としつつ、おかしいんんだ。
 まいったぜ。こんな女…いや、こんなタイプのヤツは、見たことも会ったこともねえ!
 
 俺の方が些かに混乱していると、それを尻目に女はくるりときびすを返し歩き出した。
「お、おい、ちょっと待ちなよ、嬢ちゃん!
 どこに行こうってんだ?
 とにかく一端落ち着きなって。服も乾かした方が良いしよ。風邪ひくぜ?」
 妙な女だと思いつつも、ついそう呼び止めてしまう。
 呼び止められた女は、またぎこちない姿勢で変な具合に振り返る。
「『わたし』は、刑務所に向かう。そこに、『あたし』の記憶があるからだ。
 『わたし』は、『あたし』の記憶を見なければならない。そうしなければ、『あたし』を『わたし』のものにする事は出来ないからだ」
 この点、嘘偽りなく正直に言っておくぜ。
 『おれ』は間違いなくこのとき、とてつもなく間抜けな面をしていただろうさ。見てねーけどな、自分じゃ。
83川の底からこんにちは ◇SBR/4PqNrM氏代理投下:2012/02/27(月) 15:37:30.60 ID:deIxsCup
 ☆ ☆ ☆
 
 で、今おれが居るのは、地図上で『GDS刑務所』と書かれた場所の真ん前、ってわけだ。
 塀に囲まれた、妙に近代的 ―― というか、未来的? ――― なコンクリートの建物は、敷地内にゃ椰子の木なんか生やしてやがって、ちょいとした南国気分で、刑務所って感じがしねえ。
 空も白み始めているし、だんだんと周りが見え始めている。
 その中で見てもこの女は確かに美人で、そして同時にやはり、何か妙に、人間らしさが無かった。
 そんな妙な女に何故のこのこと付いていっているのか、って言うと、結局のところ『成り行き』と、『他にやることがなかったから』って事になっちまうかもしれねえ。
 勿論、妙な女だが女は女だし、そうそう放ってもおけねえってのもあるし、打算的な事を言えばいずれ『利用』出来るかもしれねえってのもある。
 だが、そうだな ――― もっと妙な事を言えば、例えばこう、『引力』みたいなもんかもしれねえ。
 いやいやいや、変な意味じゃあねえぜ。
 
 おれは夢見る乙女の運命論みたいなのとは無縁な男さ。
 それでもこの女とは、今ここで別れるってのは『無い』って気がしたのは、事実なんだよ。
 そして、それがツイていたのかツイてなかったのか、ってのも、これまた分からねぇ。
 
 女は何かを確認するように、立ち止まり周りを見て居る。
 記憶、と言っていたが、その記憶と合致しているところを確認しているかのようにも思えた。
 そして暫くして、唐突にこう言い出した。
「『知性』 ――― と、『記憶』……。
 自分を自分たらしめるものは、一体どっちなんだろうな ―――」
 妙な事ばかり言う女だ。最初はそれが自分に向けられた言葉なのか、ただの独り言なのか分からなかった。
 そして、おそらくは独り言だろうとは思ったんだが、かと言って無視するのも何か変な気がしたもんで、おれはこう答えた。
「そりゃ、『記憶』だろうよ。
 どっちも必要だし、どっちも欠けたら困るけどな。
 おれがおれでいるのは、おれとして生きてきた『記憶』があるからだし、おれの女たちにしたって、『おれとの記憶』が無くなっちまったら、もうそいつは『見知らぬ女』になっちまう。つまり、『別人』さ」
 まあ、やはりというか当然というか、おれから答えが返ってくるとは思っていなかっただろう女が、こちらへと顔を向けて、なんというか「きょとん」とした様な表情を浮かべていた。
 初めて見た、ちょっとは『人間らしい』 と言える表情だ。なかなか可愛いじゃねえのよ。
「――― そうだな」
 今度は軽く口の端を上げて、微笑んだように見えた。
「だから ――― あたしは、空条徐倫なんだ。
 『わたし』は、F・Fだが、『あたし』は、空条徐倫でもあるんだな ―――」
 
「ニャ…ニャニィ ー――z___ ッ!?」
 な? たしかにこいつは、ちょっとした『引力』だ。
 そしてこの『引力』が、ツイていたのかツイていなかったのか、まだ分からねえ。
 
 
----
【H&F】


【E-2 GDS刑務所 / 1日目・早朝】
【ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後
[状態]:些かの疲労、まだ服が濡れて気持ち悪い
[装備]:マライアの煙草(濡れている)、ライター
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
1.『空条徐倫』 だってェー――z___ ッ!?
2.牛柄の青年と決着を付ける…?
84川の底からこんにちは ◇SBR/4PqNrM氏代理投下:2012/02/27(月) 15:52:55.14 ID:deIxsCup
【フー・ファイターズ】
【スタンド】:『フー・ファイターズ』
【時間軸】:農場で徐倫たちと対峙する以前
【状態】:健康、空条徐倫の『記憶』に混乱
【装備】:空条徐倫の身体、体内にFFの首輪
【道具】:基本支給品×2、ランダム支給品1〜4
【思考・状況】
基本行動方針:存在していたい
1.GDS刑務所の中で空条徐倫を知り、彼女となる
2.敵対する者は殺す。それ以外は保留。

【備考】
※F・Fの首輪に関する考察は、あくまでF・Fの想像であり確証があるものではありません。
※空条徐倫の支給品(基本支給品、ランダム支給品1〜2(空条徐倫は確認済))を回収しました。
※空条徐倫の参戦時期は、ミューミュー戦前でした。
※体内にFFの首輪を、徐倫の首輪はそのまま装着している状態です。


89 : ◆SBR/4PqNrM:2012/02/27(月) 00:18:46 ID:EcmzuraA
 区切りが変なんなっちゃった。
 けど、取りあえず以上にて、どなたかよろしうに。
85創る名無しに見る名無し:2012/02/27(月) 15:57:20.99 ID:deIxsCup
代理投下は以上になります

作品を投下されたお二方とも乙です
どちらもすごく面白かったです!
86 ◆4eLeLFC2bQ :2012/02/27(月) 19:39:01.11 ID:rfIT7nc9
本来は自分が投下時に気付いて代理投下するべきでした
氏には申し訳ありません。代理投下して下さった方、ありがとうございます

感想
なんだか別種の可愛さが出てきたが、そいつは女じゃないぞホル・ホースw
ホル・ホースは悪人になりきらないのがいいところだけど、今回は吉と出るか凶と出るか

自分のSSについてですが、タイトルは「The Day of Night」にします
このまま特に指摘がなければ、wiki収録時に展開の変更はなしで後半を加筆する予定です
改めて読み返し、説明不足な箇所が気になったので…
87 ◆vvatO30wn. :2012/02/28(火) 10:07:22.14 ID:ajC+MfAU
お二人とも投下乙です

私の予約分は14〜16時頃には本投下できると思います。
もう少々お待ちください。
88 ◆vvatO30wn. :2012/02/28(火) 15:27:35.55 ID:ajC+MfAU
書き終わりました。
もう少し推敲して、16時頃に投下を始めたいと思います。
平日のニートタイムですが、長くなるかもしれないので支援していただけると助かります。
89 ◆vvatO30wn. :2012/02/28(火) 16:01:31.71 ID:ajC+MfAU
3回連続で予約破棄。
前回タルカスの時のペナルティはまだ払っていないにも関わらず、延長。
その延長も締め切りギリギリまでかかって、やっと完成。
このオトシマエは、なんらかの形で必ず付けます。

SSを最後まで書き上げたのは、ものすごく久しぶりな気がします。
大変お待たせしました。
虫喰い、ドルド、ズガン枠数名  投下します。

90創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 16:02:37.53 ID:A10iucYj
支援
91迷い猫オーバーラン ◆vvatO30wn. :2012/02/28(火) 16:03:26.46 ID:ajC+MfAU



1人、2人、3人、4人………
既にこの場に立っている人間はいない。
残る2匹で一騎打ち。
その気になれば、逃げることはおそらく可能―――だがしかし。
そんなわけにはいかねェよ。
『オレ』と『オマエ』、狩られる立場なのはどちらか、教えてやらねーといけねェな。



☆ ☆ ☆


92迷い猫オーバーラン ◆vvatO30wn. :2012/02/28(火) 16:07:22.69 ID:ajC+MfAU


10分前、杜王町エリア東部。
街灯の明かりに照らされた夜道を歩く、3人の男女の姿があった。
なかでも目立つのは、2メートルを超える巨漢に強靭な筋肉の鎧。
たくましい髭面を蓄えたアメリカ人の大男。

「Hey, Boy! そんなに怯えていても仕方がないだろう! このようなフザけた殺し合いゲームなどすぐに終わらせてくれる!
あのメガネの男をこのブルート様が叩きのめし、ニューヨークタイムズのスターになってくれるわ!!」

大男・ブルートは足元にすがりつく少年に声をかける。
人種差別も多かった20世紀前半期の人間ながら、この白人の大男は人種の異なる少年に対し一切の偏見を持っていなかった。
少年を安心させるため、力強い言葉をかける。
彼は粗暴そうな外見とは裏腹に、心根は優しい紳士なのだ。
そのブルートの言葉に、怯えていたエジプト人の少年も心を開く。

「うん、ありがとうブルートさん……。どうしてこんなことになったのかわからないけど……僕も怖がってばかりじゃあいけないよね」

少年は大きな鳥に2匹の飼い犬を殺され、自分もやられるところだった。
2匹の飼い犬は体が大きく凶暴だったが、彼自身は同年代の子供と比べても体も小さく力も弱い、ごく普通の少年だった。
ブルートの力強い言葉と、自分を助けた見知らぬ小さな犬の勇姿を思い返し、少年は少し元気を取り戻した。

「おばさん。おばさんも元気出して。ブルートさんが、きっと何とかしてくれるはずだよ」

少年は3メートルほど後ろを付いて歩く女性に声をかける。
彼女もまた、疲弊しきった表情を浮かべながら歩いていた。

「うぅ…… 神さま許してください。 神さまぁ……」

少年の言葉を聞いても、言葉を返すことはなく……
織笠花恵は胸に抱いた小さなネコに力を込め、過去を懺悔する。
彼女は若い頃、ある犯罪に加担していた。
出来心だったとはいえ、到底許されることはない卑劣な行為だった。
齢三十を過ぎてからは、過去の罪を思い出し、懺悔する時間が増えた。
しかし長年の懺悔行為も虚しく、彼女は史上最大級の「罰」を受けることになった。
これは夢だと思い込みたい頭を、精神が邪魔をする。
彼女の心は闇の中に沈んでゆく。
93迷い猫オーバーラン ◆vvatO30wn. :2012/02/28(火) 16:12:12.01 ID:ajC+MfAU

「おばさん、ネコが好きなの? 僕もイヌを飼っていたことがあるんだけどね、えっと……」
「……!!」

イヌが殺されてしまったことは話さない。彼女を不安にさせてはいけないからだ。
切り口を変えて話しかける少年の言葉に、花恵は初めて反応を示す。
元の世界でも彼女はネコを飼っていた。名前はトリニータ。
トリニータの母親の代から、彼女の愛猫だったのだ。
独身女性はネコと相性が良いとよく言われる。理由はよくわからないが、寂しさをごまかす狙いがあるのかもしれない。
ご多分に漏れず、彼女も飼い猫に依存している女性の一人だ。

「うぅ……。帰りたい……。誰か助けてよぉ……」

結局、彼女の不安を解消することは出来なかった。
愛猫と過ごした日々を思い出し、彼女を更なる懐郷病に陥らせる。
少年は焦り、話題を変えてさらに話を続けるが、彼女を元気付けることは出来なかった。

「Boy……。ベイビーはちいっとばかし混乱しているんだ。そっとしといてやんな」

ブルートに促され、少年は前を向いて歩き出した。

そして、もう一匹。
花恵の胸の中に抱きかかえられたネコがいる。彼女の飼い猫ではない。
そのネコの首には、他の3人と同じ禍々しい首輪が取り付けられていた。
織笠花恵がこの殺し合いの会場で最初に出会ったゲーム参加者。
種類はブリティッシュ・バイカラー・ショートヘアーの雑種。
年齢は3歳。性別はオス。
ベッドカバーを切り貼りして作った悪趣味な服に、ブランド物のバッグを改造して作ったブーツ。
その小さな体に、およそネコとは思えない行動力と頭脳を兼ね揃えている。
言葉を話さない彼は自己紹介することもない。
彼の名前は、『ドルチ』といった。


「おお! 見えてきたぜモリオウステーション!! 地図の通りだな!!」

先頭を歩くブルートが声を上げる。街道を進んでいた3人は目的地として定めた杜王駅に辿りついた。
駅は万国共通、情報収集の基本。他の参加者を探すにはまず駅に向かうべきだ、というブルートの意見に従い、彼らはここを目指していた。
ブルートは支給品の拳銃を装備し、警戒しながら駅構内に侵入。残る2人も恐る恐る後に続いていく。
薄暗い建物内を進み、ポツンと放置されているデイパックを数メートル先に発見した。
現在ブルートが担いでいる4人分のデイパックと同じデザインのものだった。

「Boy、荷物を預ける。ベイビーと2人で、ここでしばらく待っていろ」

使い慣れぬ拳銃を構えたブルートは1人、放置されたデイパックを調べに向かう。
このデイパックの持ち主はどこに行ったのだ。近くに隠れているならば、それは何者なのか。
どこに誰がいるかわからない現状では、まずは安全確認が最優先だった。
94創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 16:12:22.58 ID:A10iucYj
支援
95迷い猫オーバーラン ◆vvatO30wn. :2012/02/28(火) 16:13:36.79 ID:ajC+MfAU

放置されているデイパックを拾い上げる。周囲に気配はない。
デイパックの中身も確認し、そこで新たな奇妙さに気がつく。
基本支給品のパン、そしてランダム支給品であろうブドウが食い荒らされた形跡がある。
しかし問題そこではなく、デイパックの中に点々と存在する無数の動物の糞の方だ。
花恵が抱えているネコの例もある。あのネコと同じように、参加させられた動物がいて、そいつが食い散らかした跡なのだろうか。

「うわああああああっ――――!!!」

と、その時、少年の叫び声。ブルートは思考を止め、振り返る。
何かを見つけたらしい少年が尻餅を付いて大声を上げていた。花恵も目の前の光景に恐怖し怯えている。
ドルチだけが何者かの殺気に気がつき、周囲を観察・警戒していた。

「ブルートさん!! こっちに来てください!! 死体がッ……!」

助けを求める少年の声はそこで途切れる。
少年の腹部にはどこからともなく飛来した『毒針』が突き立てられ、そこから溶け始めていた。

「なんだ――これ――? 僕の――お腹が――!?」
「Boy!!!」

そしてさらに2発、3発と放たれる毒針は少年の四肢を奪い、その小さな体は動かなくなった。
首に撃ち込まれた毒針によって頭が落とされ、金属製の首輪が音を立てて地面を転がっていく。
ドロドロに溶かされた少年の体……
そしてその傍らには、同じく体を一度溶かされた上で歪な形に固まった被害者、東方良平『だった者』の遺体と、彼に支給されたであろうデイパックが転がっていた。

「いやあああぁぁぁぁ!! なんなのよォォォ!!!」
「何だ! 何が起こったァ!!」

急いで花恵たちの元に駆け寄るブルート。
ドルチは叫び声を上げる花恵の腕の中から抜け出し、ブルートの頭上に駆け上がった。
敵が何者かはわからないが、狙われていることは確かだ。こんなスットロい女に抱えられていては危険すぎる。
そう判断したドルチは、敵の正体を確かめるため行動を開始した。

「な! なんだネコ公! 今はお前とジャレあっている場合じゃあ…… ッ!?」

その時、ブルートとドルチは同時にひとつの妙な気配に気がついた。
薄暗い駅構内の闇に隠れていた、もうひとつのデイパック(東方良平のデイパック)。
横倒しになり中身が散乱したデイパックの口から、光る二つの瞳が……
そして、大砲のような機械がこちらを狙っていた。


「ギャァァァァァ――――――ス!!!」

96創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 16:14:37.73 ID:OZaz8+OV
支援
97創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 16:15:24.87 ID:A10iucYj
支援
98迷い猫オーバーラン ◆vvatO30wn. :2012/02/28(火) 16:15:54.32 ID:ajC+MfAU

デイパックの中から放たれた毒針がブルートの腹を襲う。
ドルチは敵の正体を確認した。
自らがこの世に生を受けてから3年余……
ネコとしての本能から、幾度となく捕え、餌としてきた格好の獲物の姿。
「敵」の正体はネズミだった。右耳が虫に食われた葉っぱのように欠けた体長10cm程度のネズミが、大砲のような機械を操ってブルートを攻撃したのだ。

「なんだこりゃあああ!! 俺の腹がああァァァァァ!!」

衣服ごと溶けて混ざり始めた腹の肉に痛みと恐怖を感じ、ブルートは絶叫する。
そして手に持った拳銃で素早くデイパックを6連射。全弾を撃ち尽くした。
その激しい弾幕に、ネズミの隠れていたデイパックは跡形もなくボロボロになる。

「イデえよおォォォ!! なんなんだよォォ!!」

腹を抑えて悶え苦しむブルートの頭の上から飛び降り、ドルチは足元でボロクズとなったデイパックの中に飛び込んだ。
ネズミの生死を確認するため、そして生きていたら止めを刺すためだ。

しかし死体はおろか、デイパックの中にネズミの影も形もない。
だめのデイパックにも入っている地図や水などといった基本支給品と、リボンのように長く伸ばすことができる特殊なナイフがあるだけだった。
6発の弾丸でネズミの身体は跡形もなく粉みじんになってしまったのか?
いや、いくらネズミの身体が小さいと言えど、たかが拳銃にそこまでに威力はない。
それに首輪も含めて跡形もなくなるわけがない。
ネズミはまだ、どこか近くにいるはずだ。

「ぐわあああああああ!!」

ブルートが大声を上げて、地面に倒れた。
ドルチがボロボロになったデイパックから頭をのぞかせると、そこにはうつぶせに倒れるブルートの巨体が転がっている。
ブルートの死体は後頭部から溶かされ、その傷口には毒針が突き立てられていた。



これで間違いない。ネズミは生きている。
そして、どこからかまだドルチのことを狙っている。
しかし、いったいどこから? 周囲に、隠れられるような物陰はない。
拳銃を撃つブルートの頭上からデイパックを見ていたが、中から逃げるネズミの姿は確認できなかった。
ネズミがネコの動体視力から逃れられるものなのだろうか?
いくら何でも、敵の移動速度が速すぎるのではないか?
しかし事実ネズミは生き延びて、次の獲物を仕留めようと身を潜めている。
ドルチは完全にネズミの姿を見失ってしまった。


99迷い猫オーバーラン ◆vvatO30wn. :2012/02/28(火) 16:17:05.85 ID:ajC+MfAU

ドルチは考える。
どこから狙われているかわからないこの状況で、飛来する毒針を回避することができるか。
否。
毒針の正確な射程距離はわからないが、ブルートの撃たれた現在地から半径10メートル以内にネズミの隠れられそうな物陰はない。
ネズミの狙撃地点は、さらに遠距離にある。
射程距離は10メートル以上……少なくとも20メートルはあると判断したほうがいい。
方向もわからず、10メートル以上の距離から弾丸並みの早さで撃ち込まれる毒針を避けることなどできるわけがない。
せめてネズミの居場所さえわかればと思うが……


「いやぁぁ! もう、なんなのよお!! 誰か助けてぇぇぇ!!」


少年とブルートが謎の変死を遂げ、残る織笠花恵が騒いでいる。
ドルチと花恵、ネズミは先にどちらを狙ってくるだろうか?
いや、どちらが先だろうと狙われることも変わらない。
ならば、次の攻撃の一手が始まる前に―――



「きゃっ…… ネコちゃんっ!! ああ、あなたも怖いのね……」

ドルチは再び織笠花恵の胸に飛び込み、抱きかかえられる。
ずっと怯えていた花恵だったが、そんな花恵をこのネコは頼ってくれているのだ。
暗闇だった花恵の心に、なんだか勇気が湧いてきた。

このネコちゃんを守ってあげられるのは、自分しかいない。


「だ、大丈夫だからね、ネコちゃん。わ……私がついている……」


ドルチは、その織笠花恵の―――


「か……ら………」

口の中に自ら飛び込み、体内に侵入した。

100創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 16:17:57.39 ID:A10iucYj
C
101迷い猫オーバーラン ◆vvatO30wn. :2012/02/28(火) 16:20:13.79 ID:ajC+MfAU

(ネコちゃん……なんで…………?)


なんで、だって? 答えは至って単純なものだ。
織笠花恵が、まだ毒針を食らっていない唯一の人間だったからだ。
四方八方どこから飛んでくるかもわからない毒針を防ぐには、自分の身体よりも大きなもので身を守ることが手っ取り早かった。

ドルチが防具に選んだのは、人間の体内に侵入しての肉の壁。
ブルートは既に頭に毒を受けていて体内への侵入が困難。
少年の身体は小さすぎて耐久面に不安が残る。
東方良平の死体は既に毒で汚染されていて危険。
消去法でも、ドルチの逃げ込むべき身体は織笠花恵しかいなかったのだ。

太平洋の真っ只中で「元」飼い主の愛子雅吾と命の取り合いをしたとき、ドルチは雅吾の口から体内に侵入し殺害した経験がある。
あの時と要領はほとんど同じ……一瞬で体内に侵入し身を守ることができる、確かな自信がドルチにはあった。
そして―――


『犬好きの子供は見殺しにはできねーぜ』

そう言って見ず知らずの子供のために、自分の身を危険にさらすようなイヌも、世界のどこかにどこかにいたかもしれない。
しかし、ドルチはそうではなかった。
あくまで大切なのは己の命。
本能で人間との友好関係のあるイヌとは違い、ネコの世界の中心は常に自分自身。
いざとなれば、相手が『猫好きの女性』だろうがなんであろうが、構わず殺して利用できる。
それがダイ・ハード・ザ・キャット―――ドルチ―――だった。






東方良平、犬好きの子供、ブルート、織笠花恵………
この場に立っている人間はもういない。
残る2匹で一騎打ち。
その気になれば、逃げることはおそらく可能。
野生動物を狩ることに特化したネコの走行速度は時速50km。
小さな体だが、50CCの原付にだって引けを取らないスピードで走ることができる。
相手はネズミだ。振り切って逃げることはワケない。
いくら毒針が強力でも、当たらなければどうということはないのだ。

だがしかし、そんなわけにはいかねェよ。
ネコとしてこの世に生を受けて3年。
人間だろうと負かしてきたオレが、太平洋上で一週間も生き延び生還したこのオレが、ネズミにいっぱい喰わされて、オメオメと逃げ帰るわけにはいかねぇだろう。

『ネコ(オレ)』と『ネズミ(オマエ)』、狩られる立場なのはどちらか、教えてやらねーといけねェな。




【犬好きの子供 死亡】
【ブルート 死亡】
【織笠花恵 死亡】


☆ ☆ ☆
102創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 16:21:54.49 ID:OZaz8+OV
支援
103創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 16:34:06.86 ID:pF8nAwRu
ブルりん…
支援
104創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 16:38:24.02 ID:MUdzfGCV
支援
105創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 16:47:06.15 ID:MUdzfGCV
代理投下します
106迷い猫オーバーラン ◇vvatO30wn.氏代理投下:2012/02/28(火) 16:48:32.26 ID:MUdzfGCV
(こいつはタマげたぜ。ありゃあ、ネコと……ネズミか?)

杜王町立図書館、通称『茨の館』。
その屋上に降り立ったドルド中佐はハングライダーを折りたたみ、双眼鏡で杜王駅の様子を伺っていた。
駅は人が集まる重要なポイントだが、それを逆手にとった待ち伏せ攻撃を受ける可能性もある。
現に、ドルドは点火したものを攻撃するライターを、トラップとして駅に仕掛けようとしていた。
ドルドは付近でも背の高い建物だったこの図書館の屋上に降り立ち、双眼鏡で駅の状況を探ることにしたのだ。
観察を初めて数分、ドルドは恐るべき殺戮現場を目撃することとなった。
女子供を含む3人の人間が駅を訪れたかと思うと、そのうちの一人の少年が突如、ロウソクのように溶かされてしまう。
次いで、白人の大男が足元のデイパック目掛けて銃を乱射…… しかし、その後むなしく大男も溶かされてしまった。
ドルドは、その大男を仕留めた敵の正体も目撃していた。
大男の背後30メートルの物陰から、小さなネズミが針を飛ばし、その効果によって大男は死に至ったのだ。
そして最後には、妙な服を着たネコが残った女の口の中に飛び込み、殺害したのだった。

(ものの数分で3人が全滅か…… このゲーム、思った以上にハードなようだ。
あんな危険な生物がいるんじゃあ、いま駅に近づくのは自殺行為だな……)

ネコの方もブッ飛んではいるが、ドルドが特に注目したのはネズミの方だった。
触れただけで身体を溶かす、これとよく似た技をドルドは知っている。
『バオー・メルテッディン・パルム・フェノメノン』。
寄生虫バオーに侵された生物が、強力な酸を含む体液を放出しタンパク質を溶かす技だ。
そして、針を飛ばすのは『シューティングビースス・スティンガー』によく似ている。
どちらもバオー武装現象(アームドフェノメノン)の一種だが、あのネズミの能力は酷似している。

『バオー鼠』…… 実験で犬に寄生させていたことを考えると、可能性としてはなくはない。
だが、2つの武装現象を組み合わせて新たな技を作り出したとなると相当危険な相手になる。
狙撃銃でもあれば話は別だが、体内にある武装だけではあのネズミを安全に始末することは出来そうもない。
107迷い猫オーバーラン ◇vvatO30wn.氏代理投下:2012/02/28(火) 16:49:02.26 ID:MUdzfGCV

(まあ、いい。バオーとはいえ所詮はネズミだ。行動範囲はたかが知れている。
しばらくは杜王町エリアとやらを離れ、この町であのネズ公が参加者の数を減らしてくれることを期待するか)


方針変更。目的地は西だ。
あわよくば、どこかで『人間』の仲間でも欲しいものだ。
それも、さんざん利用できそうなお人好しの馬鹿野郎だと嬉しいんだがな。

これから始まるネコとネズミの戦いにも気づかず、ドルドは再び空へ飛びだした。




【C-7 杜王町立図書館 屋上・1日目・黎明】

【ドルド】
[能力]:身体の半分以上を占めている機械&兵器の数々
[時間軸]:ケインとブラッディに拘束されて霞の目博士のもとに連れて行かれる直前
[状態]:健康。見た目は初登場時の物(顔も正常、髪の毛は後ろで束ねている状態)です
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ジョルノの双眼鏡、ランダム支給品0〜1(確認済み)、ポルポのライター
[思考・状況]
基本行動方針:生き残り、且つ成績を残して霞の目博士からの処刑をまぬがれたい
1.コレ(ライター)を誰かに拾わせる。
2.地図の西方向へ向かう。
3.仲間が欲しい。できれば利用できるお人好しがいい。

[備考]
・支給品は確認しました。
・ジョルノの双眼鏡はカプリ島でジョルノがボート監視小屋を見張っていた時に使用していたものです。
・ゲームはドレスの仕業だと思っています。
・犬好きの子供、ブルート、織笠花恵の死亡を確認しました。
・杜王駅にいたネズミの正体が「バオー鼠」ではないかと推測しています。
108迷い猫オーバーラン ◇vvatO30wn.氏代理投下:2012/02/28(火) 16:49:43.90 ID:MUdzfGCV
☆ ☆ ☆


再びドルチが考えるのは、あの右耳が欠けたネズミ野郎がこれからどう動くか、ということだった。
ネズミはドルチと目があった(はずである)。
ならば、ネズミはドルチを始末したがっているはずだ。
織笠花恵はもう死んでいるが、ネズミはこの女にもう毒針は撃ってこないだろうか?
いや、以前からあった死体(東方良平)は、死後にも執拗に毒針を撃ち込まれ続けたような、歪な死に様を見せていた。
おそらく毒針で溶かして固めるのがあのネズミの『狩り』であり『食事』なのだ。
だとすると、ネズミは織笠花恵の死体にも毒針を撃ってくるだろう。
織笠花恵の肉の鎧を纏い、凌げる攻撃はせいぜい5〜6発ほど。
時間にして、30秒といったところだろう。

たったの30秒。
せっかく逃げ込んだ人体という名の要塞も、ネズミの毒針に対しては一時的なその場凌ぎにしかならないのだ。
ドルチも、そんなことは承知していた。
だがドルチの策にはそれで十分だった。
ほんの30秒の時間さえ稼げれば、ドルチは作戦のための細工ができる。
その細工さえ完了すれば、ドルチはネズミを追い詰める一手を掴むことができる。

ドルチは頭の中で、花恵の体外の情報を整理する。
織笠花恵の死体、少年の死体、ブルートの死体、東方良平の死体。
杜王駅構内の地形、出口、改札口、売店、4人の死体、散乱したデイパック、それらの位置関係。
うむ、完璧だ。
外に飛び出しても、迷い無く行動できる自信がある。

織笠花恵の胃袋という狭い空間の中で千載一遇の機会を狙い、ドルチは小さな身体を潜めていた。
109創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 16:50:13.39 ID:A10iucYj
支援
110迷い猫オーバーラン ◇vvatO30wn.氏代理投下:2012/02/28(火) 16:50:14.31 ID:MUdzfGCV
「ギャァァァァ―――――スッ!!」

物陰から両耳を覗かさたネズミから、『ラット』の毒針が連射される。
標的は30メートル先に倒れる織笠花恵の死体。
正確無比なその射撃は、近くに転がる東方良平や少年の死体にはかすりもしない。

『ダサい格好をしたネコが、ニンゲンのメスの体内に逃げ込んだ』

それだけ理解していれば、ネズミの脳でもどうやって追い詰めればいいのかが見えてくる。
ドルチのとった行動は、どう見ても苦し紛れの悪手でしかない。
スタンドを起動させ、立て続けに毒針を10連射。
これで織笠花恵の身体は毒に侵食され溶けていく。
ヤドクガエルよりも強力な生物毒は、やがて花恵の身体を肉の泥へと変えていく。
体内にいたら、そのままドルチはオロク確定だ。
そして予想通り、毒針でやわくなった腹部をぶち破り、ドルチが外へ飛び出した。
花恵の血液に塗れ、身体は真っ赤に染まっていた。
そのグロテスクなネコに止めを指す。

狙いを定め放った毒針は、見事ドルチのどてっ腹に突き立てられた。


『勝った――― ざまあみろ、ネコ野郎。いままで散々ビビらせてきやがって――
ネズミ様をなめるなよ―――』






(左斜め後ろ―――――8時の方向――――――)
111迷い猫オーバーラン ◇vvatO30wn.氏代理投下:2012/02/28(火) 16:50:37.30 ID:MUdzfGCV
「ギッ!!」

ネズミは、勢いよく振り返ったドルチに睨まれ戦慄する。
ドルチの鋭い眼光は、そのネズミのピンと伸びた2つの耳と、赤く光る両眼を捉えていた。

(距離――30メートル―――――  改札手前―― ベンチの影の後ろ――――――)

間髪を入れず、ドルチは駆け出す。
ネズミを目指して最短距離だ。
対するネズミは、向い来るドルチに向けて毒針で応戦、しかし―――

「ギャギャァッ!!?」

ドルチはそれを口に咥えた『盾』で防ぐ。
『盾』――― それはネズミの最初の攻撃で犠牲となった「少年の生首」だった。
いつの間にそんなものを咥えたのか、ネズミには見当もつかない。

頭部に毒針が効かないならば胴体に撃てばいい。
跳弾を利用して身体を狙えばいい。
だが、先ほどどてっ腹に撃ち込んだ毒針は効かなかったではないか?何故?

そして、再び照準を合わせ、跳弾でドルチを狙う。
そんな悠長な時間など、ネズミにはありはしない。
ほんの2秒ほどでネズミとの距離を一気に詰めたドルチは、野生で獲物を狩ることに特化した肉食動物特有の前足を振りかざし、ネズミの胴体を叩き潰した。

「ギャァァァァァァァ――――ッ!!」

すべてが一瞬の出来事だ。
これが野生の掟だった。
こうなれば、ネズミにスタンド能力があろうが無かろうが関係ない。
人間に好かれ、愛玩用として育てられてはいるが、これこそが本来の『ネコ』の姿なのだ。
食物連鎖の名の元に、ネズミは成すすべもなく『狩り(ハント)』され、絶命した。

花恵の血液で血まみれのドルチが、煩わしかったダサい服を脱ぎ捨てる。
その服の下。ドルチの体には、薄い金属製の帯が何重にも巻かれていた。
そう。これこそがドルチが施した策。
東方良平のデイパックに忍び込んだ際に手に入れた、「ドノヴァンのナイフ」だった。
リボンのように長く伸ばすことができるこのナイフを身体に巻きつけ、簡単な防弾チョッキを作り出したのだ。
人間と比べ、ごく小さな身体を持つドルチだからこそ取れる奇抜な用法だった。
ナイフを隠し持ち、ドルチは織笠花恵の体内に侵入。
体内に隠れていられる数十秒もあれば、防具として身体に巻きつけることができたのだ。
そして、服の下にこれを隠すことで目立たない。
愛子雅吾の忘れ形見となった悪趣味な服は、思いもよらぬ形でドルチの役に立ってくれたのだった。
112迷い猫オーバーラン ◇vvatO30wn.氏代理投下:2012/02/28(火) 16:51:02.91 ID:MUdzfGCV
体外に出たドルチはまず、花恵の死体のそばに転がっているはずの「少年の生首」を口に咥えた。
距離を詰めるまでに2〜3発撃ち込まれるだろうから、それを防ぐ簡易の盾が欲しかった。
自分の頭より大きなものならば何でもよかったのだ。


ひとつ、ドルチに不安があったとすれば、それはネズミの移動速度だった。
東方良平のデイパックの中でブルートの射撃を受けたネズミが、脱出してブルートを攻撃するまでの時間が短すぎたのだ。
ブルートが攻撃された地点の周囲には、ネズミが身を隠せるような場所はなかった。
あの一瞬で、ネズミはどうやって姿を眩ませたのか、それだけがわからなかったのだ。


だが、その心配も杞憂に終わったようだ。
ネコに距離を詰められたネズミは、所詮ただのネズミだった。
確かに手ごわい相手だったが、それでも自分が負けるわけはない。

『ネコ』が『ネズミ』に負けるなど、そんなことあるわけがないのだ。

その揺るぎない事実を自分の中で再確認し、ドルチは自らが仕留めたネズミの亡骸を見下ろしていた。





チクリ




そしてそれと同時に、首筋から身体が溶け始める妙な感触と、再び感じる殺気の存在を察知した。
113創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 16:51:14.18 ID:A10iucYj
支援
114迷い猫オーバーラン ◇vvatO30wn.氏代理投下:2012/02/28(火) 16:52:51.69 ID:MUdzfGCV

「バ………カな………………」

ブルートの頭の上に登り、最初に『敵』の姿を確認した時のことを、ドルチは思い出す。
東方良平のデイパックに隠れたネズミは特徴的にも、右耳が虫に食われた葉っぱのように欠けていたのだ。
だが、今しがた仕留めたネズミはどうだった?
目の前に横たわるネズミの頭には、しっかりと両耳、無傷で生え揃っているではないか。
ドルチが眼前に見下ろすそのネズミは、最初のネズミとは別のネズミ。

「2匹いた……… という事か……… チクショウ…………」


死に物狂いで、ドルチは後ろを振り返る。
ブルートの死体の分厚い腹に隠れ、懐からこちらを狙うネズミ、『虫喰い』の姿がそこにあった。
さらに2発、3発。
動きの鈍ったドルチはさらなる攻撃を交わすことは出来ず、その全てを被弾。
最後の最後で人語を喋ったダイ・ハード・ザ・キャットは、その儚い一生の最期を迎えたのだった。


つまり、こういうことだ。
当初から杜王駅には毒針のスタンドを操るネズミは『2体』いたのだ。
2体のネズミはゲーム開始直後、まず東方良平を襲撃した。
そして次に杜王駅に縄張りを張り、手当たりしだい襲撃することにしたのだ。
初めに犬好きの子供を殺害し、ブルートの腹に毒針を撃ち込んだのは『虫喰い』だ。
虫喰いは東方良平のデイパックの中に潜み、良平の死体を餌に近づいた人間を攻撃する役目だ。
そしてブルートに拳銃で狙われ、慌ててデイパックを脱出。ブルートの懐に飛び込み、身を隠した。
ドルチの動体視力をもってしても逃げるネズミの姿を捉えることは出来なかったわけだが、なんてことはない。
虫喰いは逃げたのではなく、向かってきていたのだ。
ブルートの分厚い腹の下に隠れてしまえば、ドルチの視界からは完全に消えてしまったのだ。

そしてここで選手交代。『虫喰いでない』方のネズミがブルートの背後から止めを刺したのだ。
このせいでドルチはブルートの腹に隠れたもう1匹のネズミに気付くことがなかった。
その2匹目の存在に気が付けなかったことこそが、ドルチの完全なる敗因となってしまったのだ。
115創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 16:53:13.21 ID:A10iucYj
支援
116迷い猫オーバーラン ◇vvatO30wn.氏代理投下:2012/02/28(火) 16:53:19.55 ID:MUdzfGCV
虫喰いにとっても、今回の戦いはとてもじゃあないが完全勝利とは言い難い。
元の世界にいた頃、虫喰いたちは他の仲間のネズミを皆殺しにしていた。
彼らにとって、スタンド使いでないネズミはすでに仲間ではなかったからだ。
残った唯一の仲間であるネズミと、この戦場でも再会することができた。
にもかかわらず、この共同戦線はほんの数時間で崩されてしまったのだ。
しかも、相手はあの『変な頭』でも『白コート』でもない。
元・天敵とはいえ、何の特殊能力も持たない『ただのネコ』だったのだ。
チカラを得て、自分は最強だと理解した。そう信じ込んでいた。
だが現実はそうではなかった。
虫喰いは改めて、本能で理解する。

この弱肉強食の世界、一筋縄で行くほど甘くはないということだ。


【虫喰いでない 死亡】
【ドルチ 死亡】



【D-8 杜王駅 / 1日目 黎明】

【虫喰い】
[スタンド]:『ラット』
[時間軸]:単行本35巻、『バックトラック』で岩陰に身を隠した後
[状態]:健康。食事中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:喰う……サーチ・アンド・デストロイ
2:練る……もう油断はしない。同じ失敗を繰り返したりはしない。
3:覚悟を決める……この弱肉強食の世界、一筋縄で行くほど甘くはない。

[備考]
杜王駅内に東方良平、犬好きの子供、ブルート、織笠花恵、ドルチ、虫喰いでないの遺体と、以下の物が放置されています。内容は以下のとおり
1:虫喰いのデイパック:パン消費、支給品のブドウ(1部でエリナがジョナサンに渡した物)消費、中は虫喰いの糞だらけ。
2:良平のデイパック:拳銃でボロボロ。中は基本支給品一式のみ。
3:犬好きの子供、織笠花恵、ブルート、ドルチのデイパック:詳細不明。ブルートの支給品のみ一つは使用済み。
4:虫食いでないの支給品:駅またはその周辺のどこか(虫喰いでないの初期位置)に放置されている(はず)
5:ドノヴァンのナイフ:東方良平の支給品。ドルチの遺体のそばに放置。
6:カイロ警察の拳銃:ブルートの支給品。ブルートの遺体のそばに放置。弾倉は空。予備弾薬の有無は不明。

東方良平の死体はすでに、原作で冷蔵庫の中に保存されていた住人のように固められています。
織笠花恵、ドルチの死体はドロドロに溶かされ原型はほとんどありません。
犬好きの少年の死体は腹部と四肢を溶かされ、首が溶け落ちています。頭部のみ離れたところに転がっています。
ブルートの死体は腹部と頭部を溶かされていますが、比較的原型を留めています
虫喰いでないの死体は、胴体が叩き潰された状態です。

ブルートの参戦時期は、ジョセフと出会う前でした。
犬好きの子供の参戦時期は、イギーに助けられた後でした。
織笠花恵の参戦時期は、少なくとも飛来明里失踪事件の数年以上後でした。
虫喰いでないの参戦時期は、少なくともスタンドを得た後、殺される前でした。
ドルチの参戦時期は、本編終了後でした。
117創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 17:00:07.19 ID:A10iucYj
代理の代理行きます
118創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 17:00:41.09 ID:OZaz8+OV
投下・代理投下乙です
「ネズミ」は二匹いたッ!
119迷い猫オーバーラン ◇vvatO30wn.氏代理投下:2012/02/28(火) 17:01:08.78 ID:A10iucYj
以上で投下完了。
いやはや、難産でした。

どうしても書きたかった虫喰いVSドルチ。
動物ロワを彷彿とさせる対決というのも悪くはないもんです(ほとんど読んだことないですけど)。
実際書いてみると、お互いセリフがないので苦労しました。(ドルチは喋れますが、喋るのは最後だけにしたかった)

事前にズガン枠を公表しなかった理由は2つ。
1つ目は、最初のズガン人間3人を誰にするか決まっていなかったから。
話の流れ上、はじめに数人犠牲にしたかったのですが、その内訳は誰でもよかったわけで……
何度も書き直している間にキャラを変更することもしばしば…… 執筆開始前にズガンを誰にするか決めてしまうことはできませんでした。
例えばブルりんがドノヴァンだったり、犬好きの子供がポコやスモーキーだったり……
「猫好き」ということで織笠花恵の犠牲は早めに決まっていましたが、東方朋子だったり、「猫を飼っている」ということでダービー兄だったり、いっそのことドルチとセットで雅吾を参戦させるアイディアもありました。

そして2つ目は、最後まで『虫喰いでない』の存在を隠したかったからです。
叙述トリックというものに憧れて、物語終盤まで『虫喰い』という名前は用いず、一貫して「ネズミ」で通しました。
あとは『虫喰いでない』の耳に関する描写をちょくちょく差し込んだり……
4キャラクターも登場した他のズガン枠の面々も、『虫喰いでない』の存在を隠すいい隠れ蓑になってくれているのではないかと思います。

まあ、うまくいったかどうかはよくわかりませんが。


しかし、タイトルと内容が見事に関係ない。
「猫」が主人公ってところくらいじゃねーか
あ、ネコがネズミに勝つためには「2回死なす」必要があった、的な……なんちゃって
120創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 19:07:44.31 ID:pF8nAwRu
投下乙です
あーんブルさまが死んだ〜
やはりこのネズミ一筋縄ではいかんな
121創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 22:14:25.06 ID:TG+2Yqyc
>>川の底からこんにちは
ホルホルくん黎明中ずっと寝てたのかw
承太郎の娘なようなそうでないような未確認生命体の扱いは大変そうだ
飄々と口説けないしホルホースの苦労はまだ続きそうだね

>>迷い猫オーバーラン
マジにドルチの参加を拝めるとは……!
しかもスタンド使い相手にこんなガチバトルだなんて想像以上だ
殺るか殺られるかのトムとジェリーかっこいいぜ
122 ◆vvatO30wn. :2012/03/01(木) 01:14:40.92 ID:CvaABXqY
未収録3作品のwiki編集完了しました。
投下された本文はそのまま掲載させていただきましたが、◆4e氏は収録時の加筆予定とのことでしたので、
wikiにてご修正ください。

私の新作「迷い猫オーバーラン」に関してですが、ズガンの「虫喰いでない」の存在は、それだけで本編の(重大な)ネタバレになってしまうので、
本編ページの登場人物には記載しないでおきました。
ネタバレ名簿や死亡者情報にはきちんと対応させています。
独断とわがままでこんなふうにしてしまいましたが、問題ありましたらご意見ください。

そして◆yx氏でしょうか? 名前をつけていただいてありがとうございます。
露伴の名に恥じぬよう、これからも頑張って書いていきたいと思います。
123創る名無しに見る名無し:2012/03/01(木) 08:26:49.05 ID:EdE5rsY3
>>93
>トリニータの母親の代から、彼女の愛猫だったのだ。
初代愛猫→トリニータママ、2代目愛猫→トリニータってこと?
124 ◆vvatO30wn. :2012/03/01(木) 09:43:45.42 ID:CvaABXqY
>>123
そのつもりです。
ハードカバー版The Bookだと76ページ目にそうあります。新書の方は持ってないのでわからん
日本語おかしかったでしょうか?
指摘して頂ければ修正いたします。
125創る名無しに見る名無し:2012/03/01(木) 10:58:35.93 ID:Fuvy+3fd
>>124
新書版The Bookだと74ページ目から件の描写が入ってます
日本語は別におかしくないと思いますよー

あと、wiki本編ページの件ですが、個人的にはかまわないと思います
叙述トリックにおいて、ネタが割れているのはオチから読み始めるに等しいことだと思いますので…
編集おつです!
126創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 06:14:52.38 ID:etbsOxsA
てst
127 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 06:15:20.59 ID:etbsOxsA
破棄した分が完成しました。
再予約をしても構わないでしょうか。
128 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 06:22:00.39 ID:etbsOxsA
これ言っとかなきゃ、さらに待たせてしまうところだった。

いまから寝ますんで、オーケーもらえてもすぐに投下はできません。
申し訳ないです。
129創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 10:52:07.81 ID:hcSbhv1J
いいんじゃないでしょうか
130創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 10:52:49.31 ID:q4DG3cfi
期待全裸待機
131創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 11:58:32.83 ID:N2Jpbdco
いいと思います
あの話の続きはものすごく気になってた
待機
132創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 12:59:21.99 ID:51N3N4Mf
まだそこのほかの予約もありませんし、完成しているならばいいと思います
もうゲリラ投下も解禁になったわけだし、予約せず即投下もアリかと
133創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 14:38:34.84 ID:CbPNtv8g
投下マダー?
134 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 16:46:05.41 ID:etbsOxsA
自分でもびっくりするほど寝てしまった……w
ともあれ、許可をいただけたので、顔洗ってザッと読み返したら投下したいと思います。
135 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 17:15:37.00 ID:etbsOxsA
さて、投下します。
136手――(ザ・ハンド) ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 17:16:56.40 ID:etbsOxsA
 ◇ ◇ ◇


【0】


「お前の『ザ・ハンド』ってよォ――
 日本語でどういう意味なのか、知ってんのか?

「……さすがに知ってたか。
 怒るなよ。少し意外だっただけだ。だから怒るな。

「問題はこっからだ。
 その『手』ってのは、言うまでもなく人間にとって大事な部位だ。
 二足歩行によって『手』を自由に使えるようになったってのが、人類の発展の第一歩って有名な話もある。

「まあ、んなことはどうでもいい。
 人類全体なんて大規模な話をしようってワケじゃない。
 お前の話だ。お前の『手』はよ――いったい、なんのためにあるんだ?

「『スタンド』のほうじゃねえ。
 お前の、お前自身の手のことだよ。

「俺の答えを聞くんじゃあねえよ。
 俺は頼りになるし、間違わねえから安心?
 違うな。俺の答えは、俺にとっての答えでしかない。
 俺の『手』がなんのためにあったのか――その答えにしかならない。

「お前が決めるんだ。
 お前の『手』の使い道は、お前だけが決められるんだからな――」


 ◇ ◇ ◇
137手――(ザ・ハンド) ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 17:17:42.87 ID:etbsOxsA


【1】


 育朗と呼ばれていた少年の身体が、異形の姿へと変貌していく。
 その変化が少年自身の能力でないことを、対峙しているカーズは見抜いていた。
 『柱の男』たる彼の眼力は、少年の脳内に埋め込まれた寄生虫の姿を鮮明に捉えているのだ。

 ――バルバルッ!

 奇妙な音ともに、少年の全身にひびが入る。
 体表から柔らかみが消失し、金属じみた硬度に。
 さらに東洋人特有の黄色から、光沢のある濃紺に。
 黒々としていた毛髪も濃紺となって、僅かに逆立つ。
 爪が、肉食動物のそれのように長く鋭利なものとなる。

 ――バルバルバルバルッ!

 眼球全体が淡い光を帯びる。
 額の中心から真紅の触覚が出現。
 そして最後に、両手首より二本の刃が飛び出す。

「ウォォォォーーーム!」

 咆哮をあげた直後、少年――であった異形の姿は掻き消えた。

「ほう」

 嘆息を漏らしつつ、カーズはなにもない空間に右腕を掲げた。
 その前腕部からは、異形のものよりも長大で重厚な刃『輝彩滑刀』が伸びている。

「なかなか早いな」

 硬いもの同士がぶつかり合う鈍い音が、カーズの呟きに重なる。
 異形は、消して消えたのではなかった。
 常人が捕捉できる限界速度を超えて、横合いから斬りかかったのだ。
 しかし常人では追い切れぬ速度でも、カーズならば問題なく視認可能であった。

「やはりッ、このカーズの輝彩滑刀と同じタイプ! 肉体を硬質化させた刃!
 だが……たとえ種類が同一だとしても、はたしてその性能のほうはどうなのだろうなァ。
 貴様ら人間が足りぬ知恵を振り絞って到達した寄生虫移植技術が、我が輝彩滑刀に勝るか……試してやろうッ!」

 言い切るより早く、カーズは輝彩滑刀に籠める力を強くする。
 二つの刃の拮抗が崩れ、異形はのけ反ってしまう。
 逆海老の無理がある体勢となるが、異形はその状態のまま地面を蹴った。
 迫りくる輝彩滑刀を、後方に跳ぶことで危なげなく回避したのだ。
 目を見開くカーズをよそに、異形は跳んだ先にある民家の壁を蹴り飛ばす。
 壁に亀裂が入るほどの力で跳び上がり、カーズへと再び肉薄する。

「バルッ!」

 大きく踏み込んでいたので、カーズは前のめりになっている。
 それを好機と見たのか、異形は独特の叫びとともに右の刃を振り下ろす。
138手――(ザ・ハンド) ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 17:19:14.67 ID:etbsOxsA

「よもや、このカーズに隙が生まれたなどと思ってはいまいな?」

 嘲笑うような口調とともに、カーズは即座に体勢を立て直す。
 元よりすぐに戻せたものを、あえて持続し続けていたのである。
 異形の刃を難なく受け、しかしカーズは怪訝そうに眉をひそめた。
 先ほどとは異なり、相手がすぐに刃を引いたのである。
 その理由は、すぐに明らかとなった。
 右の刃を弾いた直後に、左手首の刃が接近してきたのだ。

「手数で勝負するかッ! なるほど。我が輝彩滑刀より華奢な刃を使う以上、正しい戦術と言えよう……がッ!」

 カーズは言葉を半ばで呑み込み、死角となる後頭部に伸びる刃を輝彩滑刀で払う。

 右手首の刃が真下から振り上げられる――これを弾く。
 左手首の刃が脳天をかち割らんとする――これをいなす。
 右手首の刃が首を狩り下ろさんとする――これをあしらう。
 左手首の刃が頭上から凪ぎ下ろされる――これを受け止める。
 右手首の刃が斜めに突き上げる逆袈裟――これをかがんで躱す。
 左手首の刃が薙ぎ払うように横に一閃――これを逸らして無力化。
 右手首の刃が返され上段からの袈裟懸――これをのけ反り回避する。
 両手首の刃があらゆる角度からの連撃――すべて輝彩滑刀で受け流す。

「速度ならば勝てるという思い上がり……それが誤ちよッ!」

 攻撃をことごとく払われることに業を煮やしたのか、異形が後方に跳んだ。
 距離を取ろうとしたのだろうが、それを許すカーズではない。
 同じ方向に同じ勢いで跳び、異形との距離を保ち続ける。

「なにをしている! 逃がすはずが――」

 カーズの余裕ぶった言葉は、途中で切り上げられる。
 彼の表情から笑みが消え、口元は苦々しく歪んでいた。
 異形の逆立った毛髪が、矢のように射出されたのだ。
 撃ち出された数本の毛は、すべてが精密にカーズの眼球を貫いていた。
 人間ならば失明に至る大怪我であるが、そこは柱の男。
 眼球が潰されたのならばまだしも、毛髪のような微細なものが刺さったところで、すぐに治癒して終わりである。
 ゆえに、異形の攻撃を嘲笑おうとした。

「ふん! 悪あがきか……ぬうッ!?」

 嘲笑おうとした直後に、異変が起こった。
 カーズの視界が、赤く染まったのである。
 直後、辺りに肉の焦げるにおいが広がっていく。
 そのにおいにより、カーズは異変の理由を察した。

「これは……『燃えて』いるッ! くッ、輝彩滑刀!」

 毛髪が突き刺さった箇所から、炎が上がっているのである。
 炎の向こうで両手を掲げている異形の姿を捉え、カーズは右腕の刃を振るった。
 異形の刃を受けるためではなく――自身の眼球ごと、毛髪を体内から摘出するめに。
 眼球を切り刻んだ痛みの直後、左胸に刃が突き刺さる感覚が走り抜けた。
 自身に突き刺さったのが異形の『右手首から伸びる刃』であることを、カーズは目で見ずとも理解していた。
 両手首から伸びる刃の、ほんの僅かな違いをとうに発見していたのである。
 二つの刃の違いを踏まえた上で、体内に入り込んだ刃がどちらのものであるのか。
 そのくらい、カーズの頭脳をもってすれば簡単に見分けることができた。
 そしてどちらかが分かれば、異形がどのような体勢でいるのかも分かる。
 視覚がなくとも、その他の感覚は鮮明だ。
 聴覚によって足音を捉えているので、どの程度接近しているのかも分かり切っている。
 また、目を刻むついでにターバンを切断したことで、カーズの触角は露になっている。
139手――(ザ・ハンド) ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 17:21:10.71 ID:etbsOxsA
 体勢と接近具合が分かっており、さらに触角の得る情報もプラスされる。
 もはや、カーズは異形の姿を完全に把握していると言っていい。

「ナメるなよ、寄生虫の宿主の分際でッ!!」

 カーズは、渾身の蹴りを異形の腹があるであろう位置に放った。
 身体とは思えぬ硬い感触であったが、それはたしかに異形の腹部であったらしい。
 触角によって、異形が凄まじい速度で吹き飛んで行くのが分かった。
 続いて、聴覚が民家が粉砕される音を捉える。

「ふん。こんなものか」

 民家がいくつか崩壊する音を聞いてから、カーズは落ち着きを取り戻す。
 予想外の攻撃に取り乱してしまったが、異形は確実に息絶えたはずだ。
 眼球も少しずつ再生しており、二十秒ほど経てば完治するだろう。
 視力を取り戻し次第、一応は死体を確認するとしよう。
 そのように決断し、カーズは治癒の完了を待つことにした。
 結局、どちらの刃が勝っているのかは分からずじまいであったが、あくまで少し好奇心が沸いたにすぎない。
 そんな小競り合いよりも、深遠な目的がカーズにはあるのだ。
 太陽という唯一の恐怖を克服し、なにもかもを支配するという大いなる目的が。
 最終的にその目的さえ果たせるのならば、多少の好奇心など無視して構わない。
 そのように考えていると、カーズの聴覚が捉えるはずのない音を捉えた。


 ――バル……


 目を見開き、カーズは反射的に音のほうを向いた。
 あるはずのない音に続き、カーズの触覚はあるはずのない感覚を捉える。


 ――バルバル……


 さらには、朧気な視界にあるはずのない影が浮かぶ。
 ひどく不鮮明で、それが誰であるのかなど視認できない。
 だが視認できずとも――明らかだ。

「大した生命力だな」

 瞳を閉じて、カーズはゆっくりと告げる。
 言葉の途中で、眼球の再生は完了した。
 勢いよく目を見開くと、視界に映ったのは想像通り――異形の少年であった。

「虫は潰したら死ぬものだッ!」

 カーズの言葉に応えるように、異形の身体が蠢き奇妙な音を奏でる。


 ――バルバルバルバルバルバルバルバルッ!!


 地響きにも似た音を上げながら、異形は跳躍した。
 腕を背後に回すと、両手首から刃が飛び出す。
140手――(ザ・ハンド) ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 17:22:16.45 ID:etbsOxsA

「いいだろう、人間の英知の結晶よッ!
 我が『光の流法』を……輝彩滑刀の真なる力を見せてくれるッ!!」

 宣言したと同時に、輝彩滑刀が眩く輝き出す。
 刃が特別なエネルギーを纏っているのではない。
 そもそも、そんなものを纏う必要などありはしない。
 余計なエネルギーなどなくとも、真なる力を発揮した輝彩滑刀は万物を切断可能なのだから――!

 輝彩滑刀の表面には、微小にして鋭利な刃が敷き詰められている。
 それらが滑るように走ることで、周囲の光を複雑に反射しているのだ。
 現在、この場には街灯や月光などの僅かな灯りしかないが、それでも十分。
 僅かしかない光を反射し合い、その過程で光度を増幅させ、輝彩滑刀を覆うように集束し、激しく発光する――!


 これがッ!


 これがッ!


 これが『輝彩滑刀』だッ!


 そいつに触れることは、両断を意味するッ!


 二つの影が重なった瞬間、硬いもの同士がぶつかり合う鈍い音が――響くことはなかった。
 なにか柔らかいものを切り分ける際のように、これといった音もなく。
 ただ、異形の両手首から生えた刃が根元から切断されただけであった。
 重力に引っ張られ、二本の刃は地面へと落下していく。

「ふん。『光の流法』の前では、こんなものか」

 地に落ちた刃を眺めながら、カーズは満足気に吐き捨てる。

「バルッ!」

 振り返れば、異形の両手首には切断されたはずの刃が伸びていた。
 その事実に、カーズは特に驚きもしない。
 自身の輝彩滑刀のように肉体を刃としているのならば、即座に再生できてもおかしくはない。
 考慮に入れていた事態である。
141創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 17:31:25.62 ID:UlqF1KcN
支援
142創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 17:33:24.73 ID:p8o8nw4j
支援
143創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 17:33:54.50 ID:p8o8nw4j
シエン
144創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 17:35:47.82 ID:p8o8nw4j
支援
145創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 17:36:38.03 ID:p8o8nw4j
支援
146創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 17:37:15.88 ID:UlqF1KcN
sienn
147手――(ザ・ハンド) ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 17:38:14.64 ID:etbsOxsA

「同じことよォ!」

 再生した刃が、先ほど以上の硬度を誇るというワケでもなく。
 またしても、音もなく斬り落とされるだけである。
 切断した端から再生し、また切断する。
 それを繰り返していくうちに、カーズはあることに気付いた。
 眩い光を放つ輝彩滑刀を前にしても、異形は目を背けるどころか表情をしかめることさえしないのだ。
 光の流法を前にして、まったく驚く素振りを見せないというのも腑に落ちない。

「……見えていない、のか?」

 そんな考えが浮かんだのは、先ほど視力を奪われていたゆえである。
 聴覚と触覚を頼りにしていたからこそ、この仮説に思い至った。
 見れば、カーズの触角がある額に、異形にも真紅の部位があるではないか。
 口角を吊り上げ、カーズは異形から距離を取るべく跳んだ。
 ある場所で立ち止まって振り返ると、異形は手首を掲げて追ってきている。
 カーズが輝彩滑刀を体内に収納すると、異形は速度を上げた。

「ふん。光を捉えぬことから察するに、貴様は視力を持たぬのだろう。
 にもかかわらず、輝彩滑刀をしまったことを理解するとは、やはり『感じ取って』いるらしいな」

 そう言っている間に、刃はカーズを真っ二つにせんと振り下ろされた。
 勢いよく迫ってくる刃を見据え、カーズは受けようとも避けようともしない。
 ただ、少しばかり、軽くなにかを蹴り上げるような動作で足を動かすだけである。

「ウォォォーーーーーームッ!」

 雄雄しい雄叫びが響き、辺り一面が赤黒く染め上げられた。


 ◇ ◇ ◇
148創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 17:38:27.44 ID:p8o8nw4j
支援
149手――(ザ・ハンド) ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 17:39:01.38 ID:etbsOxsA


【2】


 途切れていた橋沢育朗の意識が、ゆっくりと覚醒していく。
 寄生虫・バオーの支配から解かれた証である。
 曖昧な思考のなかで、育朗は実感する。
 彼の――バオーの嫌いなにおいは、もう漂っていない。
 つまりあのカーズと名乗った男は、もうこの世にいないのだろう。
 人を殺めた事実に胸が痛むが、カーズは億泰を虫ケラ扱いして殺した男である。
 殺さねばならない相手であったのだ。
 その事実が、育朗の胸の痛みを和らげた。

「……やはり虫ケラか」

 聞こえるはずのない声に、育朗は息を呑んだ。
 彼の発する嫌なにおいは、もう消えているはずだ。
 にもかかわらず、どうして彼の声がするのか。

「ふん。所詮は人間よ。
 我らと戦える力を手にいれたまではよかったが……目も見えず、触角で捉えるだけか。
 たしかに力だけはあるようだが……敵を判別できぬなど、恐るるに足らぬ。
 それならば、己の意思を持って戦う波紋戦士のほうがよっぽど脅威よ。
 最初から見えぬのならば、波紋戦士と異なり成長する余地もない。殺す価値さえ――ない」

 それだけ言い残し、カーズの気配は遠ざかっていった。
 最初から、ただ行く道に障害物がいたから仕掛けただけかのように。
 一度動かせば、わざわざそれ以上かかわる意味などないかのように。
 心の底から――相手をただの虫ケラとしか見てなかったかのように。
 殺しもせずに、去って行った。
 嫌なにおいがしなくて、当然である。
 対等の相手ならばともかく、脅威となるやもしれぬ相手ならばともかく。
 害にすらならない虫ケラに殺気を振り撒く輩など、この世に存在しない。

(しかし……ならば、この『におい』は……?)

 育朗が腑に落ちないのは、殺気のにおいではない。
 周囲に漂っている『血』のにおいである。
 意識が完全に覚醒するのを待ち、育朗は上体を上げ――言葉を失った。
150手――(ザ・ハンド) ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 17:39:17.98 ID:etbsOxsA

「……へ、えぁ?」

 思わず零れたのは、言葉ではなかった。
 なにか言おうとするも、視界より伝わる情報を飲み込めずに動転するばかり。

 ――カーズに背を斬り付けられた虹村億泰が、腹を大きく抉られていたのだ。

「お、億泰さんっ!!」

 ようやく状況を理解し、育朗は意識のない億泰へと声をかける。
 返事はない。
 当然だ。
 背中の傷の時点で、放っておいたら死に至る傷だったのだ。
 さらに腹を、しかも背中よりも深く斬り付けられては――
 脳裏を過った最悪の可能性を振り払うべく、育朗は頭を振る。
 そうして、とりあえず止血すべく手を伸ばそうとして――見てしまった。

 ――赤黒い液体に塗れた、自身の両手を。

「……え?」

 去り際にカーズが残した言葉が、フラッシュバックする。
 どうして、カーズはバオーに変身した育朗に視力がないと知っていたのか。
 触角で捉えるだけと知っていたのか。
 恐るるに足らないと結論付けたのか。
 敵を判別できぬ――とは、どういう意味なのか

「ま、まさか……」

 浮かんだ考えを否定しようとするが、育朗にはできなかった。
 バオーとなっている際の記憶はなくとも、血塗れの両手は雄弁だった。
 化物である自分を受け入れてくれた億泰を、いったい誰が殺したのか――その答えを物語っている。
 もはや、億泰を見ることはできなかった。
 優しい彼の言葉を受け入れてしまったせいで、彼はもう助からない。
 自分が死を振り撒く存在であることなど、分かっていたはずだ。
 匿ってくれた六助という老人にも、ともに組織から逃げていたスミレにも、危険が及んでしまった。
 これらの揺らがぬ事実を知っていながら、億泰の優しさに甘えてしまった。
 その結果、億泰が死ぬこととなった。
 しかも――今回は、自分自身が殺してしまった。

「う、あぁぁぁあああああああ!」

 真実から目を背けるべく、育朗は駆け出した。
 どこに行こうとも、血塗れの両手はついてくるというのに――あてもなく、逃げ出した。


 ◇ ◇ ◇
151創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 17:39:24.07 ID:p8o8nw4j
支援
152創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 17:40:45.80 ID:p8o8nw4j
支援
153創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 17:42:06.85 ID:p8o8nw4j
支援
154手――(ザ・ハンド) ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 17:42:23.61 ID:etbsOxsA


【3】


 育朗の絶叫により、虹村億泰の意識は覚醒した。
 とはいえ覚醒こそしたものの、立ち上がることはできなかった。
 大量の血を流しているからだと気付いたのは、なんとか立とうと数回試みてからであった。

(痛……ッ、てえ。んだよ、こりゃあ。どうなってんだ、クソッ)

 どうにか首だけを、育朗の声がしたほうに向ける。
 遠ざかっていく背中が、やけに小さかった。
 朧気な意識だというのに、彼の悲鳴はやけに鮮明だった。

(なんで泣いてやがんだ、アイツ……バカ野郎が。
 なにあったのかなんて分かんねーが、アイツが泣く必要あるワケねーだろ。
 ちくしょう。全ッ然分かんねえ。なにがあったんだよ。どうなってんだよ、ダボがッ)

 意識を失う直前のことを思い出そうとするも、億泰は特になにも覚えていなかった。
 いきなり斬りかかられたので、なんとか避けようとした。
 即死は避けられたらしいものの、気を失ってしまったようだ。
 そのくらいしか、億泰には分からない。

(なんの参考にもなんねーな、ちきしょう。
 でもよォ、よく分かんねーけど、なんも分かんねーけど、アイツが泣く意味はねえだろ。
 いいヤツなんだからよ。クソッタレ。頭がいいヤツってのは、勝手に抱え込むから困るぜ)

 思い切り声をかけてやろうとして、億泰は困惑した。
 声は出ずに、ただただ空気が口から零れていくだけなのだ。

(なんなんだよッ! 行っちまうじゃねえかッ! 泣きっぱだぞ、アイツ!)

 力が入らない事実に歯を噛み締めようとするも、それさえ叶わない。
 身体に力を籠めることさえ、不可能であった。
 無力感に苛まされて、ようやく気付く。
 たとえ立てなくても、声が出なくても、育朗を引き留めることができるではないか。
 億泰のスタンドならば、『ザ・ハンド』ならば、それができるではないか。
155創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 17:42:36.41 ID:UlqF1KcN
まだまだ支援
156手――(ザ・ハンド) ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 17:42:42.53 ID:etbsOxsA

(『ザ・ハンド』ッ!)

 脳内で呼びかけると、『ザ・ハンド』は即座に現れる。
 そのヴィジョンはいたるところにひびが入っており、いまにも崩れてしまいそうだが――たしかに出現した。

(俺とアイツとの距離を削り取れ、『ザ・ハンド』ッ!!)

 崩壊寸前のヴィジョンでありながら、『ザ・ハンド』のスピードはかつてないほどだった。
 目に見えぬほどの速度で右手を振るい、その右手で空間を削り取る。
 驚愕している育朗をよそに、ひたすらに空間を削り続ける。
 削った分だけ、育朗と億泰の距離は狭まっていく。
 一度削ったくらいでは、まだ遠い。
 二度、三度――と、何度も右手を振るい続けてやる。
 戦闘の際に相手を削ってやろうとしたときより、よっぽど鋭く速く――『ザ・ハンド』は育朗との距離を削っていく。
 いままで削ってきたなによりも、いま削っているこれこそを削らねばならない。
 その考えが伝わっているかのように、『ザ・ハンド』の効果は見る見る上昇していく。
 億泰の脳裏を掠めるのは、意識を失っていた際に見た夢だ。
 夢のなかで、いまは亡き兄に質問をされた。
 結局、はぐらかしているうちに目が覚めたのだが、いまならば即答できる気がした。

(やっと分かったぜ、兄貴! 俺の、この『手』は! このためにあったんだッ!!)

 ついに、育朗が億泰のすぐ近くにまで引き寄せられる。
 もう、十分だ。
 『手』が届く距離なのだから。
 未だ事態を呑み込めていないらしい育朗を意に介さず、億泰は彼に手を伸ばす。
 最後の力を振り絞って、なんとか上半身だけを起こす。
 呆然としている育朗の手を思い切り握って、どうにか声を絞り出す。

「泣いてんじゃねえよ、育朗。
 なにあったのかなんて知らねーけど、でもよ一度握った手ェ振り払って逃げようなんて、ひでーじゃねーかよ」

 身体から力が抜け、億泰はくずおれそうになる。
 『ザ・ハンド』に身体を支えさせて、どうにか立て直す。

「俺とお前は、もうダチだろ。離してなんかやんねーよ」

 それだけ言って、億泰は無理矢理笑顔を浮かべてやった。
 身体から力が抜けていることなど、知ったことではない。
 育朗の手が血で塗れていることは分かっていたが、その程度で億泰が手を離すことはなかった。


 ◇ ◇ ◇
157創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 17:43:09.77 ID:p8o8nw4j
支援
158手――(ザ・ハンド) ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 17:43:59.73 ID:etbsOxsA


【4】


「億泰さん……」

 育朗がぽつりと零した言葉に、返事はない。
 億泰の傍らにあったヴィジョンも、ゆっくりと消滅してしまった。

「僕は……どうしたらいいんだ」

 育朗の疑問に、誰かが答えてくれることはない。
 だから、億泰を眺めていても意味はない。
 そんなことは理解していても、育朗は物言わぬ億泰に尋ねるしかなかった。

「億泰、さ――」

 何度目かになる問いの最中、育朗は目を見開いた。
 億泰の首筋に、光の線が走ったのだ。
 唖然とするしかない育朗の前で、億泰の首がゆっくりとずれていく。
 ゆっくりと時間をかけて首から上が落下し、その背後にいる人物が露になる。

「カー、ズ……」
「安心したぞ。貴様らが動いてなくて、な」

 億泰の首に残された首輪を回収すると、カーズは育朗を見据える。

「どうしたらいいかだと? 簡単だ」

 右前腕から生えた光り輝く剣を掲げ、口元を三日月状に歪める。

「首輪を献上するがいい。
 このカーズが、下らぬ児戯から抜け出すためのサンプルとしてな」

 カーズが剣を振り下ろす寸前に、育朗は高く跳び上がっていた。
 バオーに意識を奪われることなく、育朗自身の意識を保ちながら。

「……ほう。変身せずに、力を引き出したか」

 腰を低く落として構えるカーズであったが、育朗は仕掛けようとしない。

「ふん。変身していないときは、決してマヌケではないようだな。
 だが意思がある状態で、手首から刃を出せるか? 髪を飛ばせるか?」

 歯を噛み締めるしかない育朗に背を向け、カーズは億泰の荷物を拾って遠ざかっていく。

「先刻言った通り、やはり貴様に殺す価値はない。
 近くにいるから殺すだけで、遠ざかっていく虫ケラをわざわざ殺す必要がない。はははははッ!」

 哄笑を響かせて去って行くカーズを、育朗は眺めるしかできなかった。
 カーズの気配が完全に消えてから、育朗は地面に両手をつける。
 その血塗れの両手を前に、出てくるのは先ほどと同じ疑問であった。

「いったい、僕はどうすればいいんだ……」

 地面に転がる億泰の首は、やはりなにも答えてくれなかった。
159手――(ザ・ハンド) ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 17:45:11.53 ID:etbsOxsA



【虹村億泰 死亡】
【残り 82人以上】


【B−5 路上/一日目 黎明】

【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:健康、両手血塗れ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊し、スミレを助けだす。
1:どうしたらいいのか分からない。
[備考]
※『少しだけ』変身せずに、バオーの力を引き出せるようになりました(まだ咄嗟に跳んだだけ)。


【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:不明
[状態]:健康、ターバンなし
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品2〜4、首輪(億泰)
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる。
1:柱の男と合流。
2:首輪を集めて解析。





【備考】
※B−5の民家が、結構えらいこっちゃです。
※B−5路上に、億泰の死体(背中と腹部を斬られ、首切断)が転がっています。
160 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/02(金) 17:46:15.54 ID:etbsOxsA
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

支援ありがとうございました!
161創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 19:35:23.71 ID:N2Jpbdco
投下おつです!
ざっと読んで、誤字脱字は特にないかと思います

とりあえず読み終わった興奮というか虚脱感というか…それがスゴイ
よくよく柱の男って無敵に近いですよね…育郎はこれからどうなっていくんだろうか
億泰の最後のセリフが切なかった…
面白かったです!
162創る名無しに見る名無し:2012/03/03(土) 05:01:44.59 ID:SWLIM36k
誤字ですが、【1】の>異形は、消して消えたのではなかった。
の「消して」は「決して」か「けして」でしょうか
見つけたのはそこだけです
それにしても育郎の行く末が心配です
スミレも死んじゃったわけですし…
投下乙でした
163創る名無しに見る名無し:2012/03/03(土) 10:26:20.54 ID:L4PkGGr6
ジャスティン・ビーバー「ビーバーだ!二度と間違えるな!わたしの名はビーバーというんだ!バービーでもダービーでもない!」
164創る名無しに見る名無し:2012/03/03(土) 14:40:43.41 ID:0IpdUpCn
投下乙!
いやあ面白い、待った甲斐がありました
これが、これが、これがカーズだッ!!
カーズは序盤に因縁をつけるのが本当に得意ですね。
鬱にも希望にもなりゆるいい幕切れでした。
本当に楽しかったです。

したらばのほうの支援絵も乙!
ミラション可愛い!!そして美しい!!
読んでた時の想像通りの素晴らしい絵でした。
ありがとうございました。
165創る名無しに見る名無し:2012/03/03(土) 20:57:18.06 ID:w55EmnxA
投下乙
うわぁ、育郎……
吹き飛ばされても復活してきた時のバルバルで震えただけに……
166 ◆Rf2WXK36Ow :2012/03/03(土) 22:57:17.12 ID:oK1ygDC8
スクアーロ、投下します
167Beyond the Bounds ◆Rf2WXK36Ow :2012/03/03(土) 22:57:58.16 ID:oK1ygDC8
仄暗い水の底に沈みきって、どれだけの時間が流れただろう。
光も、音も、何もかもが遠い。
時折ちらりと視界を過ぎる小さな魚影だけが、僅かに慰めと言えなくもない。それでも、物言わぬ死体となり果てた『元相棒』を横目に『孤独』であることに変わりはない。

(ああ――――孤独、孤独だよォー……)

何を叫ぼうと届きはしない。印すらない水の底に、動くはおろか物言うことすら出来ない刀剣に、救いの手が現れるはずもない。
ナイルの奔流から掬い上げられた歓びも泡沫の夢、このまま錆付き朽ち果てるまま、緩慢に流れる時に任せた消滅を迎えるばかりだとアヌビス神は思った。いや、思っていた。

(あぁ――――うン? なんだ、ありゃあ……?)

ゆらりと泳ぎ過ぎた魚影は、それまでにちらちらと見えていたものよりも妙に大きい。そして、見たこともないような形をしていた。
奇妙なことに、通り過ぎるばかりだった小魚と違い、その魚影はアヌビスの周囲をグルグルとうろついているようだった。チラリチラリと視界の端にその影が映っている。

(魚、魚か? それにしちゃあ妙な動きをしてやがる。ああ、でも、なんでもいい――)

この水牢の孤独から救ってくれるなら。
アヌビスは懸命に願った。神様DIO様、この際悪魔でもなんでもいい、どうか俺をお救い下さいッ!
知ってか知らずか、魚影がアヌビスを咥え上げたのはその直後。
哀れな妖刀の第2の奇妙な物語が始まろうとしていた。



168Beyond the Bounds ◆Rf2WXK36Ow :2012/03/03(土) 22:58:27.56 ID:oK1ygDC8
『ゲーム』の開始早々から、スクアーロは結構な戦いを強いられた。
黒を基調としたタイトな服装は、至るところじっとりと黒ずんだ染みにまみれ、シャープさを感じさせる風貌に似合わない陰惨な雰囲気を醸し出している。
大女、ヤク中女、時代がかった軍人、死んでいるはずのチンピラ、大猿のような化け物。女たちとピントのずれた軍人はまだスクアーロの持てる知識の中で解釈がつけられるものの、死んでいるはずのチンピラと猿の化け物に関しては、全くもって己の理解の埒外だった。

「まァ――報告がマチガイ、実は死んでなかった、ってのも妥当な考えだけどよ……」

乾いた血痕の残る顔に拭いきれない倦怠感を滲ませて、疲れた足を引きずるようにふらふらと歩きながら、スクアーロはチンピラに関する一考察をぽろりと吐きだした。
数瞬たって、いつもの相槌が無いことに気づく。ああ、またやってしまった――

――ティッツァ。

声に出さずに愛称を呼んだ相棒は――いない。半身のように行動を共にしてきた相棒は、スクアーロの隣にはいないのだ。
静かに流れる川と、川を越えて遠く薄闇に浮かぶ景観は、確かに慣れ親しんだローマのものであるはずなのに、右手に広がった砂の気配混じる異国の町並みがそれを否定する。

――ここは――何だ?

ひとつだけ判っているのは、この『ゲーム』において、死は限りなく近しい隣人であるということ。ひとつ選択を間違えば、纏わりつく死神が嬉々として大鎌を振るうだろう。

――死ぬわけにはいかねぇ。

何かを成し遂げて戴く死と、何も遂げられぬまま与えられる死――どちらが良いと問われれば、どちらもごめんだとスクアーロは吠えるだろう。己が望むのは相棒と掴む栄光。そのために、クズみたいなゴロツキから、がむしゃらに親衛隊という地位まで上ってきた。
知恵も気も回るが非力な相棒が、こんな凄惨なゲームに巻き込まれているなど考えたくはない。だが、巻き込まれている可能性は否定できない。与えられるもので確認するというのも癪な話だが、せめて名簿とやらで安否を確認しなければ納まらない。
相棒が不在ならば、あの老人の甘言に乗ってやるのも構わない。あの老人が『ボス』だろうがそれとも代理の一幹部だろうが、試されているのなら力でねじ伏せて示すだけ。
万が一どこかにいるのならば、一刻も早い合流を。頭の切れる彼ならば易々と死にはしないと信じているが、理不尽な暴力の横行するこのゲームで彼の非力さは格好の的だろう。

――情報が、必要だ。

しかし、殺戮の現場となったそこらを歩き回ってみても人の姿は見かけなかった。あるいは、スクアーロ自身に運がなかったのかもしれない。
いつ何時、誰から襲われるかもわからないこの状況で、身を守ることを優先するのは必須事項だった。ゆえに、スクアーロは『川』を選択した。
あの通りにあった水たまりは局地的な雨がもたらしたもののようで、散策するにつれて地面は乾いたものになっていた。
しかし、川であれば話は違う。地図に記されているとおりなら、川にさえ沿って動いていればある程度のアドバンテージを持てることに違いは無い。
それゆえの『川』――しかし、その選択が間違いだったのか。スクアーロは疲れたように息を吐く。ひとりきりの放浪とは、こんなにも遣る瀬ない疲労を伴うものだったのか。

(孤独、か……)

ひとつきりの足音にすら気が滅入る。化け物に打ちすえられた体が鈍痛を訴える。誰でもいい、何でもいい。この無限にも思える錯覚の孤独から救い出して欲しい。
そんなとき、遠くに何か重い音が聞こえてきた。何かを打ち合うような金属の音。重低音の怒号のような音。
スクアーロは疲労に鈍る足を急がせて、音の震源地に向かった。何がおこっているのかを確認できるだけで上等だった。
そして辿り着いた対岸、周辺に待ち伏せなどの気配がないことを確認してから、スクアーロはおもむろにクラッシュを発現させた。



169Beyond the Bounds ◆Rf2WXK36Ow :2012/03/03(土) 22:59:02.75 ID:oK1ygDC8
その死体を見つけたのは、全くの偶然だった。
夜闇に加えてうすら濁った水底は、ぱっと見て何が沈んでいるのかもよくわからない。石かもしれないし、単なる水草の影かもしれない。
スクアーロはまず『音』の正体を確認しに行った。少々距離はあったが、遠目に確認できるくらいには近寄れた。
クラッシュを水面に浮かばせて打ち合う重低音の元を探して見れば、開けた場所で大柄な影がふたつ、すさまじいスピードで打ち合っているのが見て取れた。何やら怒鳴り合っているのは聞こえたが、内容までは聞き取れない。
相棒でないなら別にどうでもいいと、クラッシュを沈ませて戻そうとした矢先。流れが妙に淀んでいる水流を発見した。濁った水に微かに混じる血の気配に、スクアーロは瞬間的に身構えつつ慎重にクラッシュを進ませた。

――死体か?

死体それ自体には別段なんの感慨も沸かないが、それが相棒でないかどうかは別問題だった。自然と湧きあがる最悪の妄想を振り払いつつ、スクアーロはじっくりとその死体を検分し始めた。
体の前面から沈んでいるせいで顔までは覗けない。熟れきって弾けた果実のようにぱっくりと割れた中身すら覗く後頭部は、加減をしらない子供がオモチャを叩きつけて壊したような有様にも見える。

――良かった、ティッツァじゃあねえ。

服装といい、髪色といい、この死体は単なる他人だ。沈んだ死体が相棒ではなかったことに安堵し、他に何も無いか確認のためにクラッシュを一回りさせたときだった。

――あぁ、なんだありゃあ?

死体の傍というには少々離れたところに、一本の刀が沈んでいる。この死体の所有物だったものか、それとも殺害と共に証拠隠滅とばかりに投げ捨てられたものか。
夜闇に加えてうすら濁った水底においても輝きを失わない見事な抜き身が、妖しくギラついているようだった。
少し迷って、あるものは貰っておくかという結論に達する。スタンド能力一本で、何が待ち受けるかもわからないこの先を渡りきれるはずもない。
そう、スクアーロは武装という意味においては丸腰だった。だいたいにおいて、スクアーロのランダム支給品とやらはハズレの部類だったのだ。
限定的とはいえ、攻撃にも索敵にも幅広く応用の効く能力を保持していたからいいようなものの、自身のデイパックから出てきたのは最低限の備品を除けば『アスパラガスに英語辞書を巻いたもの』と『英単語カードのコーンフレーク』だけ。
川縁でデイパックを改めた際、メモかなにかかと思って開いた紙の中からそれらの料理が出てきたとき、スクアーロは場違いな悪寒に総毛立った。
温かな湯気と丁寧に整えられた見た目から滲む、異常な妄執みたいなものがひたすら気色悪かった。出したその場に放置して、逃げるように去ったものだ。
護身のための武器として、刀は甚だ時代錯誤の感が拭えないが、それでも無いよりマシだろう。
そうして、クラッシュで刀剣を拾い上げた直後だった。

――た、助かったァァァァァァァァァァァァ!!

大音量で聞こえた声に、スクアーロは焦って周囲を見渡した。だが、辺りの闇には何かがいるような気配はなく、ただただ声だけが響いている。

――オイ、早く俺を引き上げてくれェーッ!

こいつは一体、何を言っているのか。察しのつかないスクアーロが尚も辺りを見回していると、焦れたように口早に声が響き渡った。

――お前だお前、『鮫』の本体ッ! 水ン中じゃあ錆びちまうよォー!

そうして、ようやくその声が己自身にしか聞こえていない――正しく言うなら、音にすらなっていない――ということに、スクアーロは気がついた。クラッシュが咥えていた『刀』を放すと、途端にその声は聞こえなくなったからだ。

「い、一体何だってんだ……?」

待てど暮らせど、あれほど喧しかった声は聞こえない。おそるおそる、もう一度クラッシュにその刀を拾わせる。すると、今度は泣き声のような哀れがかった声が響き渡った。

――た、頼むよォーッ 拾い上げてくれェーッ! もう水の中はコリゴリなんだあッ!

どうやら、この奇妙な声はこの刀から発せられているらしい。ますますスクアーロの知識と理解から遠のいているが、実際起こっているからには現実を受け入れる他ない。
それに、武器らしい武器は手に入れたい。若干悩んだスクアーロだが、結論は変わらなかった。
そして鮫と刀の奇妙な物語が始まる。




【アヌビス神復帰】
170Beyond the Bounds状態表 ◆Rf2WXK36Ow :2012/03/03(土) 22:59:45.90 ID:oK1ygDC8
【C−4 ティベレ川河岸・1日目 黎明】
【スクアーロ】
[スタンド]:『クラッシュ』
[時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前
[状態]:脇腹打撲(中)、疲労(中)、かすり傷、混乱(小)
[装備]:アヌビス神
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:ティッツァーノと合流、いなければゲームに乗ってもいい
1:まずはティッツァーノと合流。
2:この喋る刀は一体なんなんだ?

[備考]
※スクアーロの移動経路はA−2〜A−3へ進んだのち、川に沿って動いています
※川沿いのどこかに、支給品である料理が放置されています


支給品情報

『アスパラガスに英語辞書を巻いたもの』……4部で康一に出された由花子の愛情料理。見た目はアレだが味は美味しい……かもしれない。

『英単語カードのコーンフレーク』……4部で康一に出された由花子の愛情料理。そもそも単語カードは『コーン』ではないという突っ込みは野暮だろうか。
171 ◆Rf2WXK36Ow :2012/03/03(土) 23:08:36.54 ID:oK1ygDC8
以上になります
誤字脱字や展開の不自然等ありましたらご指摘をお願いします

閑話
由花子の手料理は是非どこかで支給したかったので、与えてみました
書いてみて、わりと真っ当な反応をするな……と思いました
露伴先生なら『味も見ておこう』なのは言わずもがなw
172 ◆c.g94qO9.A :2012/03/03(土) 23:59:49.81 ID:VFBV9rO8
>>手――(ザ・ハンド)
最初からクライマックス、の煽りに文句なしの形で答えた作品に震えました。
億泰の死にざま、カーズの小賢しさ、育朗の苦しみと各キャラの思考が綺麗に重なり合う図がすごくかっこよかったです。
読み終わった後、なんとも言えない虚脱感に襲われました。カーズはどのジョジョロワでも名バトルメーカーですね。

>>Beyond the Bounds
アヌビス神復活、は朗報ですね。
キャラもおいしいですが、性能もいいだけにスクアーロのキルスコアの力になってくれたら面白くなりそうです。
個人的にはスクアーロに早く相方、ティッツァーノでなくてもいいので、誰か見つけてほしいです。

>>支援絵
ロワっぽい暗さが素敵でした。ミラションがセクシーのくせに凄み溢れてました。
絵はSSと違って一枚一枚が大変でしょうけど、いつも楽しみにしてます。頑張ってください。


では、投下します。
173Isn't She Lovely ◆c.g94qO9.A :2012/03/04(日) 00:04:15.06 ID:xAYepHVR
刑務所にしちゃ立派すぎる、ってのが俺の率直な感想。
色々と中を見回ったが、最後に俺たちが辿り着いたのは看守控室だった。
看守が二人組行動を義務付けられているからだろうか、ベッドが二つ、シャワー室も二つ。
クローゼットには溢れんばかりのタオルと着替え、冷蔵庫に簡素なキッチン、乾燥機と洗濯機。設備としては完ぺきに近い出来だ。
決して広くはないものの、シンプルで小奇麗。インドやパキスタン辺りで言えば上の上、上等もののホテルの一室以上だ。

口笛を吹き上機嫌な俺とは対照的に、彼女はどこか浮かない様子。もっと施設内をうろうろしたかった、そんな言葉が表情にありありと浮かんでいた。
が、仕方のないことだ。時間も時間、6時までもう一時間を切っている。
放送とやらを聞き逃すわけにはいかないだろ、そんな俺の言葉に彼女は心底残念そうな表情を浮かべるものの、最後には大人しく俺についてきた。

備え付けのクローゼットを開き、俺はタオルを取り出すと彼女に渡してやる。
入り口でぼんやり立ちすくんだままの彼女を促すように無理やり部屋に連れ込む。決して襲おうなんて気はないぜ、そんな俺の軽口を聞き流し、彼女も部屋の中へと入ってきた。
天井を見上げ、壁を触り、シャワー室を覗きこむ。辺りをじっくり観察するかのような目で見ていく“空条徐倫”。

「……見たことのない場所だ。『あたし』も『わたし』も、ここを知らない」

窓際の椅子に帽子と上着を放り投げる。俺は尋ねた。

「『記憶』にない場所?」

微笑む俺、無表情で頷く彼女。窓に近いほうのベッドに俺は腰掛けると、そのまま上半身ごと倒れ込んだ。
両手を後ろに回し、リラックスした表情で彼女を見つめる。背中の下で、ベッドのスプリングがきしむ音がした。

「こんな言葉、知ってるか?」

窓際まで移動し、鉄格子越しに外を見つめていた彼女が振り向く。宝石のように澄んだ二つの瞳が俺を射抜くように注がれる。
何秒間か、沈黙のまま見つめ合う。少しだけ勢いをつけて起き上がると、俺は少女の手を引っ張った。
呆気ないほど簡単に、彼女はバランスを崩しベッドに倒れ込む。
重なり合うように俺も体を倒し、二つの身体の重みに床下の板が音を上げた。

「“何だこれは、と思わせるのが最高の芸術だ。なんだこの人は、と思わせるのが最良の女性だ” ――― いつか読んだ冒険小説に載ってた一節だ」

湿った肌に張り付く渇いたシーツ、存外悪くはない。
顔に垂れ下がった髪の毛をかきあげてやると少女は一度だけ、ゆっくりと瞬きをした。
彼女の頬はとても柔らかく、驚くほど冷たかった。

「……それで?」

互いの息がかかるぐらいの距離で、彼女は鋭い視線で、睨みつけるかのように俺から目線を離さなかった。
胸に顔をうずめるでもなく、猫なで声で甘えてくるわけでもない。子が親に問いかけるような、無垢な声音。
首筋まで伝わせていた手をそのまま下ろし、彼女の鎖骨をゆっくりと撫でる。さらに下へ。
左腕に掘られている刺青まで手を伸ばすと、その輪郭を舐めるように象っていく。
174Isn't She Lovely ◆c.g94qO9.A :2012/03/04(日) 00:07:34.21 ID:xAYepHVR

彼女の目はぶれなかった。真っすぐ俺を見つめ、心底不思議そうに、首を僅かにだけ傾げる。今か今かと答えを待っているかのようだ。
演技だとしたらたいしたもんだ。カマトト娘、ここに極めり。俺はついつい、笑いを堪えることができなかった。
笑われたことに気を悪くしたのか、少女は苛立ち気につっかかてきた。

「何故笑う?」
「いいや、笑ってないぜ?」
「いや、笑った」
「笑ってない」
「……さっきの言葉、あれは一体どういう意味だ?」
「…………こういうことだよ」

のらりくらり、問答をかわす。
ぐいっと抱き寄せると、頭のてっぺんに軽く口づける。刺青をなぞっていた右手を腰まで伸ばし、左腕で優しく頭を包んでやる。
掌で、彼女の髪の毛が湿っているのを感じた。グシャリ、と髪型が崩れるほどの強さで、少しばかり強引に抱きしめる。

「…………?」

しかし、だ。女は身体をこわばらせるわけでもなく、預けてくるでもなかった。
なすがままにされつつも、表情一つ変えることなく、俺の腕の中でじっ……と変わらぬ表情で返事を待っている。
澄みきったその眼が、切なげで、印象的だった。

「どういうことなんだ?」
「まだわからないのか?」

教えてやろうか、そう言った俺は直後に、今度は額に口付けしてやった。
彼女は少し経った後、落ち着きないようにもぞもぞと俺の腕の中で身じろく。それはただ単に窮屈だったからのようだ。
そして言う。小さな声だが、はっきりとした口調で、断言するように。

「…………わからない」

流石の俺も苦笑いを隠せなかった。
一度彼女を抱き起こし、二人してその場で起き上がる。クシャッ、と髪の毛を撫でつけてやり枕元に置いたタバコとライターに手を伸ばす。
湿ったフィルターを咥えた時、そういえばさっきこの娘を助けるときに駄目にしてしまったことを思い出した。

「ホル・ホース……さん?」
「ホル・ホースでいい。そのかわり俺も君のことを呼び捨てで呼ぶぜ、“徐倫”」

部屋の隅にあるダストボックスへとタバコとライターをシュート。綺麗な弧を描き、見事ホル・ホース選手、得点です、と。
身体を元の向きに戻し、最期の徐倫という言葉を強調しながら彼女の目を覗きこむ。
散々俺の手を焼かした気ままな子猫ちゃん。ところがただ名前を呼んだだけ、それだけで効果はてきめんだった。
頬に赤みがさし、こわばった表情が緩んだ。仏頂面してるときより、何倍もセクシーで、何十倍もキュートだ。すかさず放たれた俺の褒め言葉は、気持ちいいほどに無視されてしまったが。

「それで?」
「それで?」

徐倫がもう一度俺に問いかける。俺はトボケて、誤魔化しの返事。

「さっきの言葉、お前が小説から引用したという一節。一体どういう意味なんだ?」

無言で俺はベッドから立ち上がり、体が冷えることないようにと、彼女の体にシーツを巻きつけてやった。
そうしてみると、意外なほどに徐倫の体は華奢で、小柄に見える。小さくて、幼くて、愛くるしい少女そのものだ。
本人が狙っているのかどうだかはわからないが、保護欲を刺激される、そんなイメージ。
右手で彼女の顎を支え、俺はそんな彼女の額にもう一度口づけた。そして抱きしめる。俺の笑い顔が見えないよう、少し強めに抱きしめてやった。
175Isn't She Lovely ◆c.g94qO9.A :2012/03/04(日) 00:10:01.57 ID:xAYepHVR

可笑しかった。笑わないわけにはいかなかった。
支離滅裂、意味不明。無茶苦茶、滅茶苦茶、はっちゃかめっちゃかの電波女。
シンデレラ気分か、悲劇のヒロイン気取りか。それとも本当に、事故か何かで頭がおかしくなったのか?
もしかしたら殺し合い、なんて言われてあまりの恐怖に、正気でも失ったのかもしれない。

一体こいつは何を勘違いしているんだ。空条承太郎の娘? もう少しましな嘘つけってもんだろ。どう見たってコイツとヤツは同い年ぐらいだ。
2011年? 数も数えれないほどの間抜けには見えない。だったら何だ? 時間旅行でもしてきたつもりかね。

笑える、とんだほら話のうそつき野郎。でたらめ話のくそったれだ。
だけど何より笑えるのはそんな女に俺が段々魅かれてるっていう事実だ。可笑しいのはそんな自分の馬鹿さ具合だ。
自覚はある。えらく弱気で『らしくない』、っちゃ『らしくはない』。いつも恋だの愛だのに溺れるのは俺じゃなくて女だったはずだ。
惚れてる自分に惚れて、自分を見失うのは俺じゃなくていつだって女のほうだったはずだ。
俺は弄ぶ側、女は踊る側。それがおれのスタイル、それがおれの流儀だったはずだ。

恐れているのかもしれない。逃げられない今の状況で、何か勇ましいことをして、無謀さと蛮勇で恐怖を誤魔化したがってるのだろう。
この女は安心だ。無垢で、頼りなさげで、儚い。その気になればものの二秒もかからずに、俺はこいつの心臓に、どたまに銃弾をぶち込むことだってできる。
強者でいたい、優越感に浸ってたい。そんなくだらねェ俺の感情が今のこの関係を作り出してるってんだったら、心底笑えるよ、本当に。



「まだ君には早すぎたみたいだな」
「そうか」

おいで、徐倫にそう声をかけると俺は彼女をシャワー室まで引っ張ってってやる。
戸惑う彼女の手におれ自身の手を重ね、蛇口をひねり、温度調整を済ませてやる。シャワーでも浴びるといい、気分がスッキリする。そんな俺の助言に彼女はおとなしくうなずいた。
彼女がすりガラスの向こうの脱衣所に消えていくのを確認すると、俺自身もシャワーを浴びようと、もう片方のシャワー室へと入っていく。
脱衣所で着替え終わったとき、ガラス越しに徐倫のからだがうっすらと、霞ががったもやのように浮かび上がったのが見えた。
しばらくの間見つめていたがふっと我に返る。体は思いのほか、冷え切っていた。


小奇麗なシャワー室、全身に染み渡るような温水を浴び、たまらず、声が漏れた。
水が流れ落ちるのと一緒に、余分なものが流れ出していくかのような感覚。頭の中がスーッと澄み渡り、思考がはっきりとクリアになっていく。
ようやく一息つけた。数時間の間、張り詰めさせ続けていた神経を緩ませ、一時の平穏に全身の力を抜く。

扉一枚向こうには謎の少女。今のところは殺す気もないし、殺されるような危険性もない。
だがほんの一枚、ほんとうに危険は扉一枚のように薄く、危うい状況に変わりはない。ここから出れば、安息なんぞは一切訪れない戦場が待っている。
俺が相手しなければいけないのは人間をやめた本物の化け物たちと、殺しなんぞが日常生活のイカレポンチキ野郎ども。

勝つ。そう豪語した俺だが、実際のところ勝算は薄い。ただのスタンド使いにすら敗北した俺では……俺のままでは、生き残ることなんて不可能だ。

あきらめる気は毛頭にもない。
生き残りたければ、俺は何にだってすがってやる。使えない駒だろうと、不確定な情報だろうと。
そう……幼く無垢で、恐ろしく脆い女を利用してでも、必ず俺は―――。


「やれやれだぜ……」


思わずこぼれた呟きは、反響する水滴音にかき消され俺自身の耳にも届かなかった。





176Isn't She Lovely ◆c.g94qO9.A :2012/03/04(日) 00:12:32.69 ID:xAYepHVR
男にしては長い、と評判のシャワーを済ませると俺は乾燥機から自分の服を取出し、手早く着替えていく。
帽子掛けにつるしておいたお気に入りのカウボーイハットは生乾きのまま。なんとなく、頭が寂しい気持ちで着替え終わると冷蔵庫の中を覗き込んでみる。
これと言ってパッとしないラインアップ。それならばキッチンでもお湯を沸かしてコーヒーでも淹れようか。そうやってぼんやり考えてた時、ふと後ろに気配を感じ振り返った。

「おいおい、女性が裸でウロウロするのはいただけないぜ」

顔をしかめ、タオルをぶん投げる。相変わらず彼女は何を考えてるのかわからない顔で、俺に従い、タオルで体を隠していく。
ため息が出る。惜しい、惜しすぎる。まったくもってもったいない。
さっきのカマトトぶりはどこにいったんだ。恥じらいの一つや二つ見せてみろ、そこらの男だったら完全にイチコロ間違いなしだってのに。
シャワーを浴びる前、編み込み、結ばれていた髪の毛が下ろされ、肩ぐらいの長さで揺れている。
湿った髪の毛の艶が天井の薄暗い照明に反射し、黒々と光る。エロティックな体つきと幼げな表情、アンバランスな女性という存在が背徳感を刺激する。
首筋の髪の毛がささくれ立つような、微かな興奮を感じた。

「……服」
「服?」

しなやかな髪を伝い、垂れ落ちる水滴が床に染みを作っていく。渦巻く髪の毛と真っ白なうなじから無理矢理視線を剥がすと、徐倫の指さす乾燥機を見てみる。
中を覗き込むと、何の変哲もなく、しっかりと乾いた徐倫の服がそこにある。振り向き彼女を見るが、これといった反応はない。
一体何が不満なのかはわからないが、彼女の腕の中に押し付けるようにして、服を渡してやった。

「電気……、電化製品は苦手だ」

ボソボソ、と一つ一つの言葉を区切るように言うと、ぎこちない感じで続けてありがとうと付け加える。
姿勢をかえ、頭を下げ、何事もなかったように着替え始める彼女。まじまじと見るわけにもいかず、キッチンでお湯を沸かし始めた時、ようやく“礼”を言われたんだなと気がついた。
カタカタと震えるやかんの蓋、噴き上がる白い湯気を見ながら俺は頭をかく。ペースが乱されてる。“空条”徐倫、まったくもって読めない女だ。

「徐倫」

コンロのスイッチを捻ると、湯沸かしを中断。着替え終えた彼女に声をかけると、俺は化粧台前の椅子を引く。
徐倫を半場無理矢理座らせると、さっき見つけたドライヤーを引きだしから取り出し、手に取った。
そわそわと落ち着かない様子を見せる彼女の肩に手を置き、大丈夫だ、安心しろと声をかける。徐倫は神経質そうに、頷くだけだった。

「なんでそんなに電化製品が嫌いなんだ?」

スイッチをつけ、ぬるい温風で徐倫の髪の毛を乾かしていく。風に巻き上げられ、質感のいい徐倫の髪が俺の手の中で踊る。
しなやかで美しい髪はさらさらと俺の指をすり抜け、ふわりと羽根のように舞い、思わず見とれるほど。
心地よい手触りを楽しみながら放たれた俺の問いに彼女にしては珍しく、目を伏せながら答えた。

「……一度だけ感電したことがあるらしい。ほとんど死にかけた」
「感電ねェ。それは『あたし』、それとも『わたし』?」
「……『あたし』が見た『わたし』だ」
「……君は一体どんなに刺激的な生活を送っているんだ?」
「…………わからない」

答えにならない返答、それはこれ以上聞くなという合図だろうか。ただ単純に記憶が混乱しているのだろうか。俺は肩をすくめるとそれっきり黙り、髪の毛を乾かすことに集中していく。
あらかた髪の毛が乾き終わった後、俺は引き出しから櫛を取り出す。徐倫のばらついた髪の毛にブラシをかけていった。

「髪の毛、下ろしてるほうが俺の好みだ」

後ろを三つ編みに、両側をお団子状に。いつもしているように髪の毛を結ぼうとした徐倫の手を掴むと、俺は耳元でそう囁いた。
そういうものなのか、徐倫は不思議そうに聞き返してきた。そうにきまってる、力強く断言する俺には一切眼もくれず、鏡に反射する自分自身を彼女はじっと見続けていた。
まるで、瞳の中にうつる自分の姿を『記憶』に焼き付けようとしているかのように。
177Isn't She Lovely ◆c.g94qO9.A :2012/03/04(日) 00:14:35.28 ID:xAYepHVR

「ホル・ホース」
「なんだ?」

鏡を見つめたまま、彼女がポツリと零した。独り言のような呼びかけに、化粧代から離れていた俺は、窓枠に手を置いたまま返事をする。
窓越しに見えた地平線。顔を出し始めた燦然と輝く球体。眼球にしみるような眩しさに、思わず目を細める。
数分もしないうちに、夜は完全に開ける。日が出て、放送が始まれば、被害ははっきりと目に見える形で、音として聞こえる形で俺たちにつきつけられるだろう。
気の重い話だ。何人が脱落して、何人が残っているのか。
そしてそのうち何人が次の放送を迎えられるのだろうか。俺もこの娘も、無事でいられる保証は、ない。

「ホル・ホースはイイ人だ」

まさかそんなことを言われるとは予期していなく、目を何度か瞬かせながら俺はゆっくりと振り返った。
いーっ、と歯をむき出しにしてみたり、笑い顔を作ったり、顔をしかめて嫌そうな表情を作ったり。鏡の前で彼女は忙しそうに、一人、にらめっこのようなことをしている。
無邪気に言われたからこそ、俺は動揺を隠しきれない。表情を隠すため、徐倫の後ろから背中越しに彼女を抱きしる。
きっと俺が聞き逃したのだと彼女は思ったのだろう。徐倫はもう一度ホル・ホースはイイ人だ、と繰り返した。
俺はそれを無視すると彼女の肩に顔をうずめ、鏡に自分が映らないようにする。見ると、背中に特徴的な星型のあざがあった。俺はそのあざに優しくキスをした。

「また笑ってるのか?」
「笑ってないよ」

毒気を抜かれたような気分だった。この女がもし、全てをわかった上でこういうことをやっているというのなら、たいしたものだ。
もてあそばされてる。掌の上で上手く転がされ、上手いようにやられてる。
この俺が、このホル・ホースが、だ。

「何がそんなにおかしいんだ?」

徐倫の懐で俺の手が蠢く。掌に感じた『エンペラー』の感触。
冷や汗一つかかず、指先が震えることもない。ほんの少しだけ力を込めれば、なんてことはない、もうおしまいだ。
数秒間、そうして彼女を抱きしめたまま沈黙に浸る。徐倫の腕が優しく俺の腕を撫でた。一瞬だけ、呼吸が止まったような感覚に襲われた。
俺は、身じろき一つせず、数秒間固まる。そして、何事もなかったように、エンペラーをひっこめた。


「なんでもないさ、なんでも」


声音が変わらなかった事に安心した。そして、そのセリフを吐いた後、鏡に映った自分の顔が何一つ変わっていなかった事に気づいた時、もっと安心した。
徐倫の元から離れると、俺はキッチンに向かいながら何か飲むかい、と彼女に聞いた。
必要ない、と返ってきた言葉にそうかい、と俺も返す。久しぶりに甘ったるいコーヒーが飲みたくなった俺はさっきまで沸騰しかけていたやかんを持つと、コンロの上に置きなおした。

視界の端にうつった時計が知らせてくれる。もう間もなく、放送が始まる。
それを確認した俺は、ゆっくりと口を開き、鏡の前でいまだ座ったままの徐倫に声をかけた。

「徐倫、もっと君のお父さんについて教えてくれないか?」




178Isn't She Lovely ◆c.g94qO9.A :2012/03/04(日) 00:17:35.78 ID:xAYepHVR

【E-2 GDS刑務所 看守控室/ 1日目 早朝(放送直前)】
【H&F】
【ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後
[状態]:徐倫への興味、混乱、動揺
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
1.放送を待つ
2.徐倫に興味。ただ、話は全く信用してない。利用した後は……?
3.牛柄の青年と決着を付ける…?

【フー・ファイターズ】
【スタンド】:『フー・ファイターズ』
【時間軸】:農場で徐倫たちと対峙する以前
【状態】:健康、空条徐倫の『記憶』に混乱、『感情』に混乱、髪の毛を下ろしてる
【装備】:空条徐倫の身体、体内にFFの首輪
【道具】:基本支給品×2、ランダム支給品1〜4
【思考・状況】
基本行動方針:存在していたい(?)
0.ホル・ホースに興味。人間に興味。
1.もっとGDS刑務所の中を回りたい。もっと『空条徐倫』を知りたい。
2.敵対する者は殺す。それ以外は保留。

【備考】
※F・Fの首輪に関する考察は、あくまでF・Fの想像であり確証があるものではありません。
※空条徐倫の参戦時期は、ミューミュー戦前でした。
※体内にFFの首輪を、徐倫の首輪はそのまま装着している状態です。
※GDSは現在ホル・ホースによって警戒システムが作動しています。侵入者が無理矢理入ってきたら警報が鳴るかもしれません。
 詳しくは次の書き手さんにお任せします。
※情報交換をしました。が、FF→ホル・ホースのみです。
 ホル・ホースはF・Fの話を妄想だと真剣には捕えていません。
179Isn't She Lovely ◆c.g94qO9.A :2012/03/04(日) 00:26:24.04 ID:xAYepHVR
以上です。誤字脱字、気になる点ありましたら指摘ください。
勢いとノリでやった。反省はしてない。前作での徐倫、もといFFの可愛さに呑まれた結果がこれである。
180創る名無しに見る名無し:2012/03/04(日) 00:45:18.54 ID:x/2sWRVN
投下乙
川沿いの激戦地に無差別マーダーになり兼ねないスクアーロ&アヌビス神のタッグとは……
なんて末恐ろしい爆弾が投下されたんだ……
続きが超気になります。
181創る名無しに見る名無し:2012/03/04(日) 00:52:16.31 ID:x/2sWRVN
徐倫の方も投下乙
なんか「いい」雰囲気になりつつある二人
ここはついに放送直前かー
しかしその割には早朝のキャラってここだけだよな?
結構パートごとに差が付いちゃってきてるみたいだな
182 ◆Rf2WXK36Ow :2012/03/04(日) 00:56:18.27 ID:UuoT6/pq
投下乙です!
匂い立つような艶やかさにドキドキしながら読みふけりました
FF…めちゃくちゃ可愛いなオイ…!
ホル・ホースのずるい大人ぶりもすごく良かったです ヤキモキさせられっぱなしでしたがw
「お父さん」の話でどう転がっていくのかも、すごく気になる良い引きでした


あと、拙作へのコメントもありがとうございます!
誰かと出会えるか、そして臨時でもなんでも『相棒』獲得まで漕ぎつけるかどうか…
どう転がるかはスクアーロのリアルラック次第ということでw
そういえば今回の川沿いって見渡すと何気に激戦区ですね…書いてるときは何故かすごく平穏なイメージで書いてました
気になると言って頂けて書き手冥利に尽きます、ありがとうございました!
183創る名無しに見る名無し:2012/03/04(日) 02:39:10.29 ID:XQhP5MY3
投下GJ!
うおおおおお、アヌビス復活ッ!!
スクアーロは水辺じゃ強いし、結構強力なタッグになるんじゃなかろうか。
刀は血を出させやすいしな!これは期待大!
184創る名無しに見る名無し:2012/03/04(日) 02:48:10.91 ID:XQhP5MY3
リロードしてなかった。
FFホルホルコンビもいい感じになってきたな。
どう転ぶかわかんない危なっかしさもあるけどw
185 ◆vvatO30wn. :2012/03/04(日) 03:56:14.47 ID:x/2sWRVN
深夜にこっそり投下
F・Fとホルのいい感じの話の次が、これでいいんだろうか?

玉美、トリッシュ、ウェカピポです。
186幕張 ◆vvatO30wn. :2012/03/04(日) 03:58:17.40 ID:x/2sWRVN


――ヒーロー。
そう聞いたとき、人はいったいなにを連想するだろうか。

魔王を倒すべく旅立つ勇者の血を受け継いだ少年かもしれない。
いかなるミッションも危なげなく完遂する諜報員かもしれない。
どんなトリックであろうとたやすく見抜く名探偵かもしれない。
潜んでいる妖怪変化を人知れず退治する霊能力者かもしれない。
人類の自由と平和を守るために日夜戦う改造人間かもしれない。

別に、そのようなフィクションの住人だけとは限らない。
ヒーローは、ブラウン管や紙の束のなかだけにいるワケじゃない。

一一〇番をすればすぐに駆けつけてくれる警察官かもしれない。
体調が悪い理由を的確に教えてくれるお医者さんかもしれない。
一打逆転のチャンスを決して逃さないスラッガーかもしれない。
沸き出す気持ちを思いのままに歌うロックスターかもしれない。
敵陣のゴールを正確無比に射抜くファンタジスタかもしれない。

そして、広瀬康一という「まっすぐ」な人間にとっては、命の恩人である東方仗助やダイアーのような人間のことを『ヒーロー』と呼ぶのだろう。




だがしかし、この世に住む万人の意見が、そのような「前向き」なものであるとは限らない。
ある程度は有名なギャグだが、こんなネタを聞いたことがないだろうか?
HEROという英単語を分解してみると、

H と ERO が組み合わさって出来たものだ、と。


非常に馬鹿らしい低俗な話である。
ちなみに、『H』というスラングの由来は、『HENTAI』の頭文字から来ているそうだ。



☆ ☆ ☆

187幕張 ◆vvatO30wn. :2012/03/04(日) 04:00:35.35 ID:x/2sWRVN

「ちきしょお〜〜 あと一歩で康一どのを屈服させられたのにォォー。あのイカレ軍人マニアめ………」

引っぱたかれた頬を撫でながら、小林玉美は悪態をつく。
青ぶくれになって腫れているし、奥歯も一本持っていかれたようだった。

(『億泰』とかいうガキにぶん殴られた時の100倍はいてェ………
これで「手加減してやった」だとぉ? あの男は一体どんな馬鹿力をしてやがるんだ……)

シュトロハイムらから逃げる際、玉美は康一に渡した拳銃「H&K MARK23」だけはひったくって取り返すことができた。
しかし、支給品の入ったデイパックまでをも回収することは出来なかった。
玉美のもうひとつのランダム支給品は「タンクローリー」だったし、玉美のデイパックには、もうランダム支給品は入っていない。
しかしこのゲームを生き残るために必要なのは、なにもランダム支給品だけではない。
地図や方位磁針がなければ現在地がわからなくてってしまうし、食料だって必要なのだ。

だがシュトロハイムがいる以上、支給品を取りに戻るのは危険と判断。
そこで玉美は、康一との会話に登場したダイアーという男の話を思い出す。
康一と出会った場所から数百メートル先、橋の上で敵に襲われた康一はダイアーという男に命を助けられた。
そして戦いがあり、その敵も、ダイアーという男も、ともに死んでしまったのだという。
つまり3人のゲーム参加者がそこにいて、そのうち2人が死んだということだ。

だが、康一はデイパックを『自分一人分しか』持っていなかった。
出会った時の康一は精神的にかなり疲弊していたようだし、荷物を見逃して置き忘れていたのかも…… 充分にあり得る。
こういった姑息さこそが玉美最大の取り柄である。
無事、橋の上でひとつのデイパックを回収することに成功した玉美。
もうひとつのデイパックは残念ながら発見することができなかった。(川にでも流された?)
そしてデイパックの中身の確認と今後の方針決定のために落ち着ける場所を探し、休息をとることにしたのだ。
そして、現在に至る。



「こいつは…… い〜いものを手に入れたぜぇ〜〜〜 武力も大切だが、こういうゲームで生き残るには情報も重要なファクターだからなァ」

腰をかけて、さっそく手に入れた新しい支給品を物色…… 入っていたのは基本支給品の他、自分のデイパックには入っていなかった会場全体の地下の地図だった。

(なるほどねぇ、それで懐中電灯があるわけだ。これだけ入り組んだ地下迷宮ならば、地図が無いと迷う可能性は高い……
逆に地図さえあれば地下で籠城作戦が組めるってスンポーだッ! 頭良いぜ、オレ!
危険人物とは出会わないに越したことがないし、オレってばラッキーッ!)

地上の地図と見比べて、現在地からもっとも近くにある地下道への入口を探す。

(え〜っと、さっきF-5の橋の上で「デイパック」を見つけて、そこから東に少しもどる。
イタリアだかフランスだかにあるはずの真実の口と、トウモロコシ畑の間の道を抜けて、この辺のレストランに入ったわけだ。
お、さっきの真実の口の辺りに地下に通じる道があるじゃあねーか。
ここからなら5分もあれば行ける距離だ。またまたオレってばラッキーッ!!)

あらかたの方針が決まり、玉美は腰を落ち着かせる。
もう少し休憩―――― もとい、ここを『堪能』したら、地下へ向かうことにした。

188幕張 ◆vvatO30wn. :2012/03/04(日) 04:02:47.67 ID:x/2sWRVN

え、『堪能』ってどういうことだって?
それは、いま玉美が腰を落ち着かせているところが、普段だったら絶対に入ることができないところだからだ。
男なら一度も入ったことのない場所、入りたくても入れなかった特別な場所。
こんな異常事態でなければ入る機会など巡ってこない。
玉美が腰掛けているのは、便座だ。
そして、ここはローマのとあるレストラン――――― その女子トイレの個室だ。

(ま、実際にオンナがいるわけじゃあないがよォ――――
なんか無性に興奮するぜーっ!
ちょっとくらいタノシンデも問題ないよなァ〜〜


あん?)






玉美が個室に籠って10分ほどが経った頃、別の誰かがこの女子トイレに入ってきた。
コツコツコツ、という足音。
玉美は息を潜めて静かに様子を伺う。
来訪者は玉美のいる個室の、隣の個室に入ったようだ。
声は聞こえてこない。
だが、息づかいでわかる。

入ってきたのは、「オンナ」だった。
それも、若い。


(………オレってば、ラッキーッ!!!)



☆ ☆ ☆

189幕張 ◆vvatO30wn. :2012/03/04(日) 04:07:19.42 ID:x/2sWRVN

トリッシュ・ウナは憂鬱だった。
殺し合いを止め、脱出せねばならない。
ただひとり残った仲間であるミスタ、ウェカピポの信頼に足るジャイロとジョニィを見つけなければならない。
協力できそうな人間を探し出し、仲間を増やさなければならない。
だが、生理現象だけはとめられない。

ブチャラティたちとの旅の中でトリッシュは精神的にも肉体的にもタフになった。
だが、それでもトリッシュがまだ16歳の少女であることは変わらない。
ウェカピポはトウモロコシ畑の影の中で「済ます」ように勧めたが、トリッシュはそれを拒否。
無人となった街の適当な建物でトイレを借りることにした。
トウモロコシ畑を抜けた先にあったレストランに侵入し、ウェカピポを扉の前に待たせてトリッシュはトイレの中に入る。

これがまたボロくさい造りだった。
個室の扉は建て付けが悪く、鍵もかけられない。
薄暗くて嫌な感じだ。
ローマは観光地でもあるというのに、もう少し掃除でもすればどうなのか。

便座に腰掛けてため息をつく。
これから一体どうなってしまうのか。
そんなことをぼんやりと考えていると、突如目の前の扉が勢いよく開かれた。


「おおっと! 大きな声を出すんじゃあねえぜ! でないとその綺麗な顔が、ひしゃげたトマトみたいにグチャグチャに潰れちまうぜぇ〜!」


――――最悪だ。
入ってきたのは『変態』だった。

いかにもいやらしそうな下衆い表情。よだれを垂らした下品な小悪党。
パンチパーマに垂れ目の小男、小林玉美が突然目の前に現れた。
手に握られている拳銃の先端には消音器らしきものが取り付けられ、トリッシュの額に向けられている。

「立ちあがって、後ろを向きな。妙な真似はするんじゃあないぞ」

これじゃあ助けを呼べない。
仕方がない。
今はこの変態男、小林玉美に従うしかない。
トリッシュはまだパンツも下ろした、まま立ち上がる。
だがトリッシュは屈服したわけではない。
相手は拳銃を持ってはいるが、これはあくまで威嚇用だ。
この変態の目的が「殺人」ではなく「自分の身体」であることは明白である。
自分が騒がない限り、この拳銃が火を噴くことはない。
ならば、拳銃の銃口が自分から離れるのを確認するまでの、辛抱だ。
相手が油断して拳銃を下した瞬間、『スパイス・ガール』の拳撃を叩き込んでやる算段だ。



ドスッ


190幕張 ◆vvatO30wn. :2012/03/04(日) 04:09:15.02 ID:x/2sWRVN


「――――かはっ!」

だが、玉美はトリッシュの予想を越える周到さで攻めてきた。
トリッシュが後ろを振り返ると同時に、玉美はトリッシュの肩口に注射器を打ち込んだ。


「っっっ!! ――――っっっっ!!」
(声が出ないっ! スタンドも出せないっ! 体もっ―――)

強力な麻酔薬のようだった。
油断した。これでは反撃できない。助けも呼べない。


(やったぜぇぇぇぇ!!
注射成功! 拳銃は囮でしたァァァ〜〜ん!!)

拳銃をズボンのホルスターにしまう。
トリッシュは既に体の自由を完全に奪われ、ガクガク震えている。

(ひゃっほほ〜〜〜〜〜〜〜いいっ!!
想像以上の効果だぜッ! この『冬のナマズみたいにおとなしくさせる注射器』ッ!!
地下の地図も大収穫だったが、オレが欲しかったのは『こーいうアイテム』だったんだよなァァァ〜〜〜!!
完全に動かなくなっちまいやがったッ!! しかも、意識だけは残っているみたいだぜぇぇぇ!!)

ビクンビクンと身体を震わせるトリッシュの全身を、玉美は物色する。
トリッシュは正気の感じさせない、しかし屈辱に満ちた表情で玉美の顔を睨みつける。
しかし、その行為すら玉美は快楽に変換し、興奮材料とする。

(い〜〜〜〜〜い女じゃあねえかッ!! 屈辱的な顔がまたいいッ!!
康一どののお姉ちゃんも色っぽくってカワイかったが、この女は別格だぜぇ〜〜〜!
ムチャクチャ可愛いのはもちろん、体もプリプリしてるしよぉ〜〜〜!!
身につけてる衣装もセクシーだし、何より外国人ってのは初めてだぜぇぇ〜〜!!
やっぱり風俗の姉ちゃんより食べ頃のオンナノコだよなぁぁ〜〜〜)


外国人。それは玉美にとっては未知の領域だった。


191幕張 ◆vvatO30wn. :2012/03/04(日) 04:10:47.64 ID:x/2sWRVN

(もう辛抱たまらねぇぇぇ〜〜〜!! オレはやるぜぇぇぇ〜〜〜〜!!
オレが悪いんじゃあねえッ! この『異常な状況』が悪いんだぁ〜〜〜!!
いつ死んじまうかもわからねえ『こんな状況』だったら、女を襲うくらい『シカタナイコト』だよなあ〜〜〜!!)

玉美の汚い腕がトリッシュの上半身に伸びる。
いやらしい手つきで玉美はトリッシュのブラ紐を引きちぎり、胸を露出させた。

(さっ さっ さっ さいこぉ〜〜〜〜〜っ イッイ〜〜〜ッ!
これはオレが悪いんじゃあねえぜぇぇぇぇ〜〜〜!! 『異常な状態』が引き起こす、ただの『錯乱状態』だぜぇぇぇぇ〜〜〜!!!
もう、どんなになっても玉美さんは収まりつかねえよォォォ〜〜〜〜!!
『冬のナマズ』ってのがどんくらいおとなしいかはよく知らねえがよォォォ――――)

玉美はズボンをずり下ろす。

(この『小林さん』の―――― 『大林さん』は――――)

小林玉美。この男は正真正銘、最悪の――――――

(『夏のナマズみたい』になっちゃってるんだぜぇぇぇぇぇ――――――ッ!!!)

変態だった。

192幕張 ◆vvatO30wn. :2012/03/04(日) 04:11:39.27 ID:x/2sWRVN


(小林玉美――― 行っきまあ〜〜〜〜〜ッす!!)









「そこまでだ、この変態野郎」

半裸で動けないトリッシュに飛びかかろうとしていた玉美のパンチパーマを、ウェカピポが掴み上げた。

「へ……?」
「ただの小便にしては戻るのが遅いと思って様子を見に来てみれば…………
やれやれだぜ、この変態野郎……」

そして落ち着いた調子のまま、玉美の顔面に全力の拳を叩き込んだ。

「ふぎゃっ!」

間抜けな叫び声を上げて壁に叩きつけられる玉美。
こんな最低な変態野郎に鉄球を使うほど、ウェカピポの『技術』は安くはない。



(2人いた……… という事か……… チクショウ…………)

鼻血を垂らしながら、玉美はウェカピポを睨みつける。
いいところで邪魔しやがって…… 玉美の心に自分勝手な怒りがこみ上げる。

「ふざけやがってェ―――!! てめーぶっ殺してやるッ!!!」

腰のホルスターに手を伸ばす。
撃ち殺してやるッ!
こっちには拳銃があるんだッ!!
拳銃が――――――

あれ、拳銃が、『ない』。


玉美の右手が、腰にあるはずの拳銃を空振りする。


なんで?
なんだ無いんだ?

あ、そうか。
自分でズボンを脱いだんだった。





無言で玉美に近づいてくるウェカピポ。
この世で最も哀れな人間を見つけたかのような、可哀相なものを見る目で玉美を見下ろしている。
193幕張 ◆vvatO30wn. :2012/03/04(日) 04:14:10.03 ID:x/2sWRVN

「て…… てめー おれのそばに寄るな〜〜っ!
丸腰だぜ! 無抵抗だぜっ! これ以上おれに暴力して、てめーの心に『罪悪感』は……」

玉美は自分で言ってて虚しくなる。
下半身丸出しで女の子に襲いかかろうとしていた最低な変態野郎に対し、罪悪感を持つ人間なんて、いるわけねーだろ。

「ふぎゃー!」

強烈な蹴りをくらい、玉美はトイレの隅の掃除用具庫に吹っ飛ばされた。
玉美の無駄な抵抗が収まったことを確認したウェカピポは、トリッシュのもとに駆け寄る。

「災難だったなトリッシュ。間に合ってよかった。とりあえずこいつを羽織っておけ」

できるだけ素肌を見ないように心がけ、ウェカピポは自分に支給されたジャケットをトリッシュの体に被せてやる。
男物のデザインで、そこそこ裕福なサラリーマンが着るようなスカしたデザインのブランド品だったが、玉美に破かれた服よりはマシである。
そして次に、懐にしまった鉄球を取り出し手のひらで回転をさせる。

「何かの薬を注射されたようだな。体の自由が効かないんだろう…?
戦闘面以外の『回転技術』は専門外だが仕方ない………」

鉄球をトリッシュに叩きつける。
衝撃にたまらず、嘔吐するトリッシュ。

「うっ…… おえっ……」
「100パーセントとはいかないが、薬を吐き出させた。これで少しはマシになるだろう」

フラつきながらも、トリッシュは意識を覚醒させる。
まだボーっとした頭をなんとか働かせ、パンツを履きなおす。
そして助けてもらった礼を言うことも忘れ、トリッシュはウェカピポの脇をフラフラと通り抜けていく。


「へっ」


そして、下半身丸出しで掃除用具庫に倒れる玉美の前に立ち止まった。
トリッシュは、何者にも形容しがたい怒りの形相で玉美を見下ろしている。
女の子がこんな表情、めったにするものではない。

「じょ…… じょおおだんですってばあ〜〜〜〜〜 お姉ちゃあああ〜〜ん!!
全て冗談なんですよおおおおお〜〜〜〜〜!!」


「この―――――」
「…えっ?」

トリッシュのスタンド、『スパイス・ガール』が姿を現す。

194幕張 ◆vvatO30wn. :2012/03/04(日) 04:17:35.02 ID:x/2sWRVN


「  ド  変  態  がァァァァァ――――――ッ!! 」


『WAAAAAAAAAAAAAANNABEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!』





薄れゆく意識の中で、玉美は思った。


美少女に殴られまくって気絶するというのも、悪くない。






「やれやれだぜ」





【小林玉美 下半身丸出しで気絶】










【G-5北東のレストラン 女子トイレ / 1日目 黎明】


【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:麻酔が全身に回って気分が悪い(ウェカピポのお陰でかなりマシになった)
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止め、ここから脱出する。
1.この変態野郎にあと100発くらいぶち込んでやりたい。
2.ミスタ、ジャイロ、ジョニィを筆頭に協力できそうな人物を探す。
3.あのジョルノが、殺された……。
4.父が生きていた? 消えた気配は父か父の親族のものかもしれない。
5.二人の認識が違いすぎる。敵の能力が計り知れない。
[参考]
トリッシュの着ていた服は破り捨てられました。
現在は吉良吉影のジャケットを羽織っています。
『冬のナマズみたいにおとなしくさせる注射器』を打たれました。
かなり吐き出しましたが、まだ気分が悪いようです。
195幕張 ◆vvatO30wn. :2012/03/04(日) 04:18:43.60 ID:x/2sWRVN
【ウェカピポ】
[能力]:『レッキング・ボール』
[時間軸]: SBR16巻 スティール氏の乗った馬車を見つけた瞬間
[状態]:健康
[装備]:ジャイロ・ツェペリの鉄球、H&K MARK23(12/12、予備弾12×2)
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜1(確認済)、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュと協力し殺し合いを止める。その中で自分が心から正しいと信じられることを見極めたい。
1.この変態野郎が目を覚ましたら尋問して情報を聞き出す。
2.ミスタ、ジャイロ、ジョニィを筆頭に協力できそうな人物を探す。
3.スティール氏が、なぜ?
4.ネアポリス王国はすでに存在しない? どういうことだ。
[備考]
ウェカピポの支給品のうちひとつは『吉良吉影のスカしたジャケット』でした。
ボタンが一つほつれて取れてしまっているようです。

【小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:広瀬康一を慕うようになった以降
[状態]:下半身丸出しで気絶中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:どんな手を使ってでも生き残る。
1:下半身丸出しで気絶中。
[参考]
橋で回収したデイパックはダイアーの支給品です。
ダイアーの支給品は地下地図と『冬のナマズみたいにおとなしくさせる注射器』でした。
地下地図は拳銃と共にウェカピポが所持。注射器は使いきり、女子トイレの床に放置されています。
196 ◆vvatO30wn. :2012/03/04(日) 04:20:09.38 ID:x/2sWRVN
投下完了



ご覧の玉美はフィクションです。
作者とは何の関係もありません。ご注意ください。




当初の想像以上にひどくなってしまった。
怒られないかどうか不安。ギャグ回のつもりだったが、所どころ描写がガチっぽい……。
まあ、SBRやジョジョリオンを見る限り、このくらいまでは大丈夫かな?

あと、冒頭に関しては本当に怒られても仕方ない。
◆ZAZEN氏、ごめんなさい。玉美が変態なのが悪いんですよ。
197創る名無しに見る名無し:2012/03/04(日) 04:25:23.83 ID:XQhP5MY3
これはひどい(褒め言葉)
198創る名無しに見る名無し:2012/03/04(日) 04:50:21.12 ID:S2XNFopL
小林さんちの大林さんが柔らかくなっちゃった……
199創る名無しに見る名無し:2012/03/04(日) 08:48:16.21 ID:8b8mfKOe
投下乙です!
やはりFFはカワイイ。ホルホースも原作で描写されてない所はこうなんだろうなという「らしさ」がイイな〜。
死亡者放送の徐倫の名前にどう反応するかも気になります。

トイレの災難に合いやすいトリッシュw無頓着なウェカピポ。玉美はいいやられキャラですねー。
痴漢行為の目撃者に罪悪感はつかねえってオチもついて良かった。ジャンジャン
200創る名無しに見る名無し:2012/03/04(日) 09:00:20.71 ID:UuoT6/pq
これは…なんというゲス野郎…ッ!
ロワにありそうで無かった、火事場泥棒的な新しい分野を拓いたSSだと思いますw
あと、タイトルは例の千葉の高校が舞台のアレでいいんですかねェ〜
未だにコミックス持ってるくらいには好きな漫画ですw
投下乙でした!
201創る名無しに見る名無し:2012/03/04(日) 09:09:11.53 ID:xcycq5Ed
さり気なく入ってる「重要なファクター」で吹いたwww
202創る名無しに見る名無し:2012/03/06(火) 00:50:21.75 ID:LHsz4lSJ
1st、2ndには こういう原作でいう新井田和志みたいなキャラは居なかったし、やっぱり玉美の参戦は新鮮で面白いね。
203 ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/06(火) 20:25:11.39 ID:cLz8KQW5
ヌ・ミキタカゾ・ンシ、ジョルノ・ジョバァーナ、グイード・ミスタ
本投下開始致します。
204『ボス』の役目とは ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/06(火) 20:27:29.22 ID:cLz8KQW5
―――B-2、ダービーズカフェ。
今ここにはなんとも奇妙な空気が流れていた。
緊張からくるピリピリした空気というわけではなく、かといって安息を得られるようなのんびりとした空気というわけでもない。

カフェの中では三人の男性……ジョルノ・ジョバァーナとグイード・ミスタ、そしてヌ・ミキタカゾ・ンシが互いに向かい合って座っている。
ジョルノとミスタは顔を寄せ合って相談しており、ミキタカはそれを黙って見ていた。
ちなみに、カフェの周囲はミスタの『セックス・ピストルズ』に分担して見張らせている。


ジョルノとミスタは困惑していた。
自分達の自己紹介はつつがなく終わった―――というよりもジョルノとミスタはもともと知り合いであり、
ミキタカもジョルノに行われた『尋問』を聞いていた以上、新たに付け加えることはほとんどなかったのである。

問題はこのミキタカという男が、自分のことを年齢216歳でマゼラン星雲からやってきた宇宙人と名乗ったことだった。
疑わしげに質問を繰り返すジョルノとミスタだったがその答えは変わらず、結局二人はミキタカの目の前で話し合いまで行う羽目になってしまった。
ただ、この奇妙な自己紹介のせいでミスタはジョルノに対する警戒をほぼ解いており、
ジョルノのほうも必要以上に気を張る必要が無くなってホッとしているあたり、なにが有利に働くか分からないものである。

(おいジョルノ、こいつ本当に『宇宙人』だと思うか?)
(ミスタ、この際彼が何者かはどうでもいいことです。重要なのは彼が本当に殺し合いに乗っていないかどうか、です)
(そりゃあそうだがよ、怪しいにもほどがあるじゃねーか。くそっ、こんなときブチャラティがいてくれりゃあな……)

ミキタカの話は到底信じられるものではなかったが、否定できる証拠もない。
見知らぬ自分達(しかもギャング)に対して素性を隠したいのだとしても、わざわざこんな妙な自己紹介をするものだろうか。
ミスタはどうにも納得できず、上司の『汗を見ることで嘘を見抜ける』特技を思い出して歯噛みしていた。
一方、ジョルノに関しては既に考えるのをやめており、さっさと話を先に進めようとしていた。
先程の『尋問』とは違い、ミキタカに友好的に問いかける。

「それで、あなたはこの殺し合いに乗っていない……ということでいいですね?」
「ええ、わたしはこの星に『闘い』に来たわけではありませんから」
「……で、改めて聞きますがあなたの能力は」
「先程言ったとおり、大抵のものに変身できます。ただし、機械など複雑すぎるものにはなれませんし、人間の顔マネはちょっと無理ですが」

ジョルノは最初に基本的な質問を行う。
相手が『尋問』の際に言っていたことが苦し紛れの出鱈目ではないことを再確認したところで、ミスタが話に入ってきた。

「……目の前で見せられた以上嘘とは思わねーが、ずいぶん素直に喋るんだな、おい」
「イヤー それほどでも……」
「褒めてるんじゃねえ! 話す理由を聞いてんだよ!」
「……? あなた方は殺し合いに乗る気は無いのでしょう? なら素直に話すのは当たり前のことです」

(……コイツ、ギャングとかには向かねータイプだな。警戒心が薄すぎるぜ)
(演技だとしたら大したものですね。とりあえず、情報を聞けるだけ聞いてみましょう)

隠し事どころか緊張感すら無さそうなミキタカに対し、二人は心の中で呆れたような視線を向ける。
もちろんそんなことはおくびにも出さず、ジョルノは質問を続けていった。

「最初のホールにいた、主催者らしき男性に心当たりは?」
「あの男性に見覚えはありませんが、殺された三人のうち一人だけわたしの知っている人がいました」
「『今知り合ったばかりのジョルノさんです』なんて言わねーなら、教えてみな」
「ええ、白いコートを着た男性……あの人はわたしの友達の身内で、空条承太郎という人です。彼とは―――」
205『ボス』の役目とは ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/06(火) 20:29:08.72 ID:cLz8KQW5
ミキタカが語ったのは、町に溶け込んでいた殺人鬼を住人達が倒す話の断片。
ミキタカ本人は空条承太郎と密接なつながりは無かったものの、数多くのスタンド使い達の話を聞いたジョルノとミスタは再度話し合う。

(どう思う? さっきの自己紹介よりはまだ現実的だが、普通じゃないことには変わりねーぜ?)
(ブチャラティやアバッキオじゃないんですから確かめることなんてできません。しかし、出鱈目ではないと思います)
(なんでだよ?)
(ミキタカの話の中に、ちょっとした知り合いの名前が出てきましてね……スタンド能力も一致しています)
(へえ……『信頼』できるのか?)
(ぼくの考えでは、ひとまず信じても大丈夫だと思います)

―――広瀬康一。
ギャング組織パッショーネに入団する直前に僅かだが関わった、スタンド使いで『いい人』だった少年のことをジョルノは覚えていた。
彼の知り合いならば少なくとも極悪人の可能性は低い―――そう判断し、ミキタカの話を(言っていること全てではないが)信用することにしたのだった。


#


自己紹介はこれくらいに―――と道具を確認し始めた二人をよそに、ジョルノは思う。

(しかし、そうなるとこの殺し合いにはぼくや『空条承太郎』、そして『マフラーの男』の知り合い達が参加させられているということか……?
 そもそも、なぜあの主催者は知り合いでもないぼくを見せしめにした……? ぼくとあの二人に何か関係があるとでもいうのか……?)

先程の『自分達』について考えるが、わからない。
頭の回転が速いジョルノといえど、今はそれ以外の答えが出せなかった。
ふと気がつくと、ミスタとミキタカの二人が会場の地図と睨めっこをしている。

「しっかし、見れば見るほどミョーな地図だぜ。元はローマっぽいが、あるはずの無い建物とか地域がごろごろありやがる。
 なんなんだ?この……シャオーチョー?とかいう一帯は?」
「あ、それは杜王町と読みます。先程話したわたしが潜伏している町です」
「あーハイハイ、そいつはわかったから。……で、これからどこに行くんだ? つーかここって地図のどのあたりなんだよ?」

(そうだな……今は結論が出せるような段階じゃない。考えるだけ『無駄』だ)

ジョルノは思考を切り替えると、同じように地図を見て二人の会話に入っていく。

「そうですね、周りを見るにここはカフェのようです。ミキタカ、杜王町のカフェ・ドゥ・マゴという場所はこんな造りでしたか?」
「いえ、似ても似つきませんね。数日行かないうちに大幅に改装したとかなら話は別ですけど」
「ならおそらく、ここはB-2にある『ダービーズカフェ』でしょう。周りにある建物も、ここがカイロ市街地の中だと考えれば頷けます」
「カイロ……ってエジプトだったか? それにしたってこの『DIOの館』ってのはなんだよ? そんな観光名所なんて聞いたことねーぜ」
「そうですね……仗助さんや億泰さんの家がわざわざ記されているのを考えると、参加者の中にDIOという人か、あるいはその知り合いの方がいるのかもしれません」

二人の言葉にジョルノの眉がピクリと動く。

(DIOの館がなにか、か……聞きたいのはぼくの方だ。ぼくの父と関係があるのか……?)
206『ボス』の役目とは ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/06(火) 20:30:59.25 ID:cLz8KQW5
思い浮かぶのは、写真でしか見たことの無い実の父親の姿。しかも、館はカイロ――父が死んだエジプトの地形の中にある。
館を訪れてみたいという好奇心はあるが、まずは状況の整理が先決――そう自分に言い聞かせ、会話の中に戻る。
ミキタカの出現でうやむやになっていたが、ジョルノはミスタに聞いておくことがあったのを思い出したのだった。

「現在位置はそれでいいとして……ミスタ、一つ確認しておきます。あなた『銃』を持っていませんね?」
「……いきなりなんだ、ジョルノ」
「先程の『尋問』のとき、あなたは銃を構えてすらいませんでした。ぼくの知るグイード・ミスタという男は一般人相手でも怪しい場合はとりあえず銃を向ける男です。
 もちろん、撃つかどうかは別の話ですが」
「……それで?」
「そういう用心深い男が死んだはずの仲間や自分を宇宙人と名乗る怪しい人間に対して、銃を突きつけないというのはありえません。
 それこそ、突きつけたくとも銃を持っていない、という場合を除き」

ジョルノの正確な指摘に隠しても無駄だと悟ったのか、ミスタはすぐに両手を挙げて降参のポーズをとった。

「マイったな、確かにその通りだ。オレがあのホールで気がついたときには、銃も弾丸もいつの間にか消え失せてたよ」
「ミスタ、正直に答えてください。今の状態で『戦闘』はどの程度できます?」
「オレのスタンドは軌道を変えるだけだからな……相手が銃を持ってて、うまく『ピストルズ』を近づけられりゃ相手の弾丸をはじくぐらいは出来るが、
 正直、それ以外は見た目通りの一般人ってとこだな」

返答を聞き、ジョルノは一度ミキタカのほうに視線を移す。
ジョルノとミスタの能力は先程の『尋問』の最中に両方とも知られてしまったため、半ば開き直る形でミキタカも話し合いに参加させることにしていた。

「ミキタカ、あなた銃にはなれますか?」
「銃ですか……形だけならともかく、自分以上の力が出る物にはなれませんから、弾丸の発射はできません。
 わたしの銃は宇宙船においてきてしまいましたし」
「……わかりました」

いちいち構っていては時間の無駄になるため後半の発言はスルーし、ジョルノはミスタの方へと視線を戻す。
ともあれ、現状ミスタはスタンド使い相手の『戦力』としては数えられないことが判明してしまった。

「なら、どこかで銃を手に入れなければなりませんね」
「だな。ったく、弾丸はあるのに銃がないってのはもどかしいぜ」
「……? ミスタ、あなたさっき弾丸も消えていたと……」
「ん? ああ、こいつだよ」

そう言いながらミスタはデイパックから紙を取り出す。

「まだ開けちゃいねーが、この中に弾丸が……」

誰にともなく呟きながら紙を開いていく。
二度、三度……最初の大きさからは考えられないほどに紙は広がっていく。
ようやく開き終わったとき、そこには銃の弾丸―――

「………………ミスタ」
「えーと、これはだな……」

―――は一発もなく、立派な白馬が四本足で立っていた。
サンタ・ルチア駅へ向かっていた途中ほどではないが、空気が凍りつく。

「………………」
「い、いや、オレはその……紙に『シルバー・バレット』って書いてあったからてっきり……」

冷めた目で見つめるジョルノに対し、ミスタは聞かれてもいないのに言い訳を始める。
ちなみにミキタカは馬とじっと見つめあっていた。
207『ボス』の役目とは ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/06(火) 20:32:55.23 ID:cLz8KQW5
「で、でも馬だって役に立つだろーがよ? 西部劇じゃあ馬に乗ったガンマンだってたくさんいるしな」
「銃はありませんけどね。それに、乗馬なんて出来るんですか?」
「お手」
「え?いや、やったことねーが……ジョルノはどうなんだよ?」
「できません。ぼくが生まれたときには既に自動車という文明の機器がありましたから」

しれっとした顔で言うジョルノ。
『無駄』が嫌いな彼は現代社会を生き抜くのにそんな不必要な技能は持ち合わせていなかった。
空気に耐え切れなくなったのか、ミスタは強引に話題を変えようとする。

「……ま、まあこれはこれとしてだ。オメーらの支給品は何だったんだ?」
「あ、わたしのはこれです」

振り向いたミキタカがテーブルに置いたのはなにやらスプレー缶のようなものが五つと、地図が一枚。
ミスタがスプレー缶の方を一つ手にとって調べる。

「こっちは……閃光手榴弾か。そっちの地図はなんだ?」
「多分、この会場の地下の地図だと思います。さっきの地図と同じ地形に下水道や地下トンネルが記してありますから」
「なるほど、会場の地図とは別に支給される秘密の地図というわけですか……最後はぼくですね」

ジョルノも自分の紙を開き、支給品を取り出す……が、ミスタは出てきた『それ』を見て眉をひそめる。

「……そいつはメガホン、いやスピーカーか?」
「拡声器……そう呼ぶのが最適でしょうね」

言いながらも複雑な表情で拡声器を眺めるジョルノ。
周囲が全く分からないこの状況で不用意に『目立つ』ことは多大な危険を伴う。
そのことを理解しているからこそ、ジョルノは難しい顔をしていた。
そんな彼に気を使ったのか、ミスタはジョークを交えて言葉をかける。

「まあなんにしてもだ。そいつで呼びかけながら歩き回りゃ、あっという間に全員集合ってわけか」
「ミスタ、わかっているとは思いますが」
「当然だろ。オレがゲームに乗ってたら、そんな迂闊なヤツはさっさとズドン!……だ」
「ええ、そうです。便利ではありますが、それ故に使い方が難しい……」

ジョルノはそういうと口元に手を当て、使用方法について考え始めた。
それを見て、ミスタとミキタカはそれぞれ思いついたことを口にする。

「ジョルノ、オメーの能力で口だけ作って遠くから喋らせるってことはできねーのか?」
「無理です。声を出すには口以外にも肺や声帯も必要ですから。まだあなたの『ピストルズ』を使う方が現実的です」
「あの、なんならわたしが使いましょうか? お二人には離れてもらって、近くのイスか何かに変身しながら呼びかければ」
「呼びかけの場に拡声器だけあって誰もいない、という状況はマズイです。見られたら罠と思われて、誰も集まらなくなりますから。
 結局、人間かスタンドが見える範囲内にいる必要があります」
「馬に乗って走りながら呼びかけるってのはどうだ?人間の足じゃあまず追いつけねーぜ」
「ミスタ。相手が徒歩とは限りませんし、馬に追いつける、あるいは動きを止めるスタンド能力なんていくらでもありますよ」

様々な意見が出るが、どうも決定的といえるものは無い。
ジョルノは出された案に一つずつ問題点を挙げていき、なおも口を開こうとする二人を一旦制止する。

「落ち着いてください、すぐにこれを使うと決まったわけではありません。それに誰が呼びかけるか、というのも重要です。
 仮にぼくが呼びかけたとして、死んだはずの人間の声が聞こえてくる、
 という場所にはたとえブチャラティ達であっても近づいてくるとは思えません。あなた達がぼくを怪しんだように」
「ナランチャあたりは『生きてたんだァァァ』って飛び込んできそうだけどな」
「それなら、ミスタが呼びかける方が確実だと思いますが……もう一つ、呼びかける内容も考えないと敵まで呼び寄せてしまう危険性が非常に高いです」
「そのあたりは、オレらにしかわからない情報を使って集合場所を決めるとか、そういうのでいいんじゃねーのか?」
「あ、もしよければ仗助さんや億泰さんにもわかるような伝言がいいです」
「………………」
208『ボス』の役目とは ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/06(火) 20:34:51.78 ID:cLz8KQW5

ジョルノは目を閉じて口元に手を当て、再び考え込むしぐさを見せる。
しばらくして、ゆっくりと口を開いた。

「拡声器に関しては保留としましょう、やはりこれは危険すぎます。じっくりと作戦を練らなければ命取りになりかねません。
 ブチャラティ達が参加しているかどうかも分からない以上、名簿が配布されるまで待つ、というのも一つの手です。
 ……それで、あなた達はこれからどう行動するのがいいと思います?」
「どうするって……そりゃあブチャラティ達を探して、あの主催者をブッ倒すに決まってるぜ」
「わたしも、知り合いの皆さんと合流したいです。皆さんいい人ですから、きっと力になってくれると思います」
「だよな、こんなとこで喋ってても何にもならねーし、とりあえず出発しねーか?」

ミスタとミキタカは仲間との合流のため、行動を促す。
しかしそんな二人に対し、ジョルノはハッキリと自分の意見を述べた。


「ぼくは反対です。今はまだ、ここを動くべきじゃない」


その発言を聞き、立ち上がろうとした二人の動きが止まる。
ミスタはイスに座りなおし、真剣な表情でジョルノに質問してきた。

「……オメーがそういうってことはなにか根拠があるんだよな?」
「もちろんです。まず、あなた達は仲間を探しに行くと言いましたが、具体的にどこへ行くつもりですか?」
「どこって……そう言われてもな……」
「そうですね……杜王町にある仗助さんや億泰さんの家に行けば彼らがいるかもしれません」
「その可能性は低いです。ぼくはネアポリスの中学に在学し、なぜか地図にも記されているこの寮に住んでいますが、スタート位置はこのカフェでした。
 彼らが都合よく自分の家に飛ばされているなんてまず考えられませんし、なによりここから杜王町までは距離がありすぎます」
「………………」

逆に返された質問に対しミスタは答えを出せず、ミキタカも反論を受けて黙ってしまう。
ジョルノはやれやれ、とかぶりを振って口を開いた。

「先程も言いましたが、そもそもぼく達の仲間がこの殺し合いに参加しているかどうかすら定かではないんです。
 ここにいる三人が全員スタンド使いということを考えると、おそらく殺し合いに積極的な参加者もスタンド使いと見ていいでしょう。
 目的地が特に無いのなら、わざわざ移動することでそういう連中に遭遇するリスクを高める必要はありません」
「だがよ、『あの時』とは違うんだ。ただ待ってても誰かが連絡をよこしてくれるなんてことは無いと思うぜ」

あの時―――すなわち『トリッシュの護衛任務』のときはボスからの連絡や別行動中の仲間を待つときを除けば、常に『移動』をしていた。
しかし、今は指示を与えてくれるような存在はいないし、仲間達もどこでどうしているか全くわからない。
ならば、自分達が動かねば何も始まらないのではないか。
そう考えていたミスタに、ジョルノは順番に説明していく。

「いいえミスタ。確かに連絡が来る可能性はほぼゼロですが、誰かがこのカフェにやってくるという可能性は十分あります」
「……どういうことですか?」
「まず最初に、ホールにいた人数は軽く百人を超えていました。会場が9×7に区切られていることと合わせると、
 ここB-2とその周囲8マスの地域にはぼくらを入れて20人近くの参加者がいると考えられます」
「まあ、完全にランダムに配置するっていうならそのくらいだろうな……それで?」
「参加者の思考はそれぞれでしょうが、他の参加者を始末するにしろ仲間を増やすにしろ、
 最初は『人が集まりそうな』近くの施設に行ってみるということを考える者は多いでしょう。
 周辺の施設の数からすると、2〜3人程度はこのカフェを訪れるとしてもおかしくはありません」

ミスタとミキタカは互いに顔を見合わせた後、ジョルノの言わんとするところを理解して言葉をつなぐ。

「つまりこういうことですか……? 『ここで待っていれば誰かが来る』……と」
「そして『そいつらと接触して仲間を増やすか、殺し合いに乗ってるようなら倒す』……ってとこか」
「その通りです」
209『ボス』の役目とは ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/06(火) 20:36:54.09 ID:cLz8KQW5

二人の答えに頷くジョルノ。
彼としては『情報』も『戦力』も足りず、『目的』も決まっていない現在は迂闊な移動自体がハイリスクであり、
最低限どれか一つが満たされるまでは待機したほうがよいという考えだった。
しかし、なおも二人は食い下がってくる。

「ですが、推測も多いですね。本当に誰かがやってくるんでしょうか?」
「確実にとは言い切れませんが、来ない場合はこの拡声器があります。幸い、周辺の街は道が入り組んでいますし、他の道具も逃走するには便利な物ばかりです。
 しっかりと作戦さえ立てておけば、呼びかけた後に危険な参加者がやってきたとしても生き延びることは十分に可能でしょう。
 この場で待機しつつ拡声器をどのように使うか考えて、そのうえでどう動くか決めたほうがいい……というのがぼくの意見です」
「……言いたいことはわかったがよ、オレらがのんびりしてる間に味方が全員やられちゃいました……って可能性もあるぜ」
「かといって当ても無く歩き回り、ぼく達の方がやられてしまってはそれこそ本末転倒です。
 三人いるとはいえ、スタンド使い相手に正面きって戦えるのは今のところぼくだけですから」
「………………」
「ブチャラティ達のことは信じるしかないでしょう。彼らだってギャングでスタンド使いなんですから、最低限自分の身は自分で守れます。
 彼らと無事に合流するためにも、焦りは禁物です」

説明を終え、ジョルノは二人の反応を待つ。
ミスタ達としてもジョルノの言う通り、広い会場を当てもなく歩き回るよりしっかりとした目的地があったほうがいいのは当然だった。
加えて、現在『戦闘』はジョルノ頼みにならざるを得ないことを考えればなおさらである。
先に口を開いたのはミスタの方だった。

「わぁーったよ。オメーの言ってることは今までだって大体正しかったし、ここはじっくり作戦タイムといくか。ミキタカもそれでいいな?」
「ええ、わたしにも当てはないですし、それでかまいません」
「……決まりですね」

まずミスタがジョルノの意見に賛成し、ミキタカもそれに頷く。
指導者的立場となっていたジョルノのおかげか、はたまたシンプルなミスタの気質ゆえか、この三人はいつの間にかすっかり打ち解けていた。

「なあジョルノ、参加者と接触っつうのは別にかまわねーがよ、ここに誰か加わるってことは『四人』になっちまうんじゃあ……」
「下らないこと言ってる暇があったら武器になりそうなものでも探しててください。『目的』さえできればすぐにでも行動を開始しますから」
「ったく……オレにとっては重要なことだってのによ」
「それにしても、ジョルノさんはすごい頭をお持ちですね。ミスタさん、彼は一体何者なんですか?」
「さあな……あいつは新入りで、ラッキーボーイで……っていうか、すごい頭って髪型のことじゃねーよな?」


ミスタとミキタカが席を立つのを見て、ジョルノは静かに目を閉じる。
彼にとって、現在考えなければならないことはあまりにも多かった。

―――見たこともない主催者と、彼らへの反抗方法。
―――目の前で殺された自分達の正体。
―――拡声器の使い方と、使用後の対処。
―――行動の際の目的地。
―――そして、自己紹介のときにわかったことでまだ情報が少ないため秘密にしているが、ミスタと自分の認識には数日程度の『ずれ』があったこと。

さらに、行動を開始したらしたで探すべき人物も片手の指では数え切れない。

―――仲間であるトリッシュやポルナレフ、そしてフーゴ。
―――ミキタカの知り合いである康一や、仗助に億泰という人物。
―――殺されたはずだが、自分と同じようにこの会場内にいるかもしれない『空条承太郎』や『マフラーの男』。

(そして、時間のずれがあるのなら……いるのか……? ブチャラティ、アバッキオ、ナランチャ、それにかつてのボス、ディアボロも……)

死んだ人間はいかなる能力を持ってしても生き返ることはない。
しかし、ミスタが自分よりも『過去』から連れてこられたとしたら……?
死ぬはずの人間を『死ぬ前から』連れてこられるとしたら……?
210『ボス』の役目とは ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/06(火) 20:39:00.35 ID:cLz8KQW5

思考は新たな疑問を呼び、留まる所を知らない。

(やれやれ、冗談抜きで『自分がもう一人いれば』と思ってしまうな……まあ、わからないことは後回しにするとして、
 やはり最優先事項は他の参加者にぼくが生きている理由をどう説明するか……だろうな)

ジョルノは目を開けて辺りを見渡す。
ミスタはカウンター内を物色し、使えそうな物を探している。
ミキタカは馬の前に座り、どこから持ってきたのかアイスティーを飲んでいた。

(この二人は、ぼくのことを『信頼』してくれるだろう……だが、他の参加者は……)

パッショーネのボスであるディアボロを倒した後、ジョルノは自分達以外にボスの正体を知る者がいないことを利用し、
以前から自分がボスであったように振る舞うことで『今の組織をそのまま自分のものにする』つもりであった。
そうすることで、パッショーネが今まで築きあげてきた資金、人員、コネクション、そして『信頼』も全て自分のものにすることが出来るからである。

しかし、今のジョルノが考えているのは少ない人員と限られた物資を使い、どこで何を行うかということ。
さらには自分の存在を何も知らない者に対して説明し、『信頼』を得なければならない。
例えるなら『一から組織を作ろうとする』ようなものであった。

(以前のボスがやったのと似たようなことを、殺し合いの場でぼくが行う、か……)

ディアボロはかつて、たった一人からのし上がって強大な組織である『パッショーネ』を創り上げた。
果たして、自分は『ボス』として『組織』を創り上げる―――この殺し合いの場で協力者を増やし、主催者を倒すことが出来るかどうか。
今のパッショーネのボスの座を継ぐのにふさわしい『器』かどうか。
それを確かめるためにも、ジョルノは自分の『役目』を再確認していた。

(このジョルノ・ジョバァーナには『夢』がある! そのためにも必ず全ての謎を解き明かし、夢を阻む主催者を倒さねばならない……!)

自分にどこまで出来るのか、とは考えない。
出来て当然と考えるからこそ、『夢』は現実のものとなる。
ボスを倒し、後一歩のところまで迫ったはずの『夢』に向かい、若きギャング・スターは改めて心に誓いを立てるのであった。


―――かくして、三人は『待機』を選択した。
時間ではなく、行動の『無駄』を無くすために行ったこの選択。
それがどう転ぶことになるかはまだ誰にも分からない。

211創る名無しに見る名無し:2012/03/06(火) 20:39:24.59 ID:HSp2nRNE
支援
212『ボス』の役目とは ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/06(火) 20:40:57.54 ID:cLz8KQW5

【B-2 ダービーズカフェ店内 / 1日目 黎明】


【ヌ・ミキタカゾ・ンシ】
[スタンド?]:『アース・ウィンド・アンド・ファイヤー』
[時間軸]:JC47巻、杉本鈴美を見送った直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、閃光弾×5、地下地図
[思考・状況]
基本的思考:ゲームには乗らない
1.カフェで待機し、他の参加者を待つ
2.知り合いがいるなら合流したい
3.承太郎さんもジョルノさんと同じように生きているんでしょうか……?

※ジョルノとミスタからブチャラティ、アバッキオ、ナランチャ、フーゴ、トリッシュの名前と容姿を聞きました(スタンド能力は教えられていません)。
※第四部の登場人物について名前やスタンド能力をどの程度知っているかは不明です(ただし原作で直接見聞きした仗助、億泰、玉美については両方知っています)。


【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、拡声器
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える
1.カフェで待機し、他の参加者を待つ
2.参加者を待つ間、拡声器の使い方や今後の行動などについて考える

※時間軸の違いに気付きましたが、他の二人にはまだ話していません。
※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。


【グイード・ミスタ】
[スタンド]:『セックス・ピストルズ』
[時間軸]:JC56巻、「ホレ亀を忘れてるぜ」と言って船に乗り込んだ瞬間
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、シルバー・バレット
[思考・状況]
基本的思考:仲間と合流し、主催者を打倒する
1.カフェで待機し、他の参加者を待つ
2.武器(特に銃)を手に入れたい
3.死んでいったジョルノはわからないが、今目の前にいるのはまぎれもなくジョルノだ

※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。


[備考]
・ランダム支給品は全て開けました。
・待機するのは長くても名簿が配布される(第一放送)までと考えています。
 それ以前にも拡声器の使用など、『目的』ができれば動く可能性はあります。
213『ボス』の役目とは ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/06(火) 20:43:00.84 ID:cLz8KQW5

【支給品】

シルバー・バレット(第七部)
ミスタに支給。

ディエゴ・ブランドーの愛馬。
アラブ・サラブレッド混血で馬年齢4歳の白馬、額の位置に星の模様がある。
ちなみに、ニュージャージーの線路そばに放置されていた『基本世界』の方。


閃光弾(現実)
ミキタカに支給。

いわゆるスタン・グレネード。
爆発時の爆音と閃光により、付近の人間に一時的な失明、眩暈、難聴、耳鳴りなどの症状と、
それらに伴うパニックや見当識失調を発生させて無力化することを狙って設計されている(Wikipediaより)


拡声器(現実)
ジョルノに支給。

声を増幅して遠くへ伝えるための道具。
バトロワではおなじみ、死亡フラグの代名詞ともなっているが……?
214創る名無しに見る名無し:2012/03/06(火) 21:47:29.21 ID:HSp2nRNE
投下乙

考察回も面白いですね
特にジョルノがものすごくジョルノしていて良かったです。
ミスタとミキタカもなかなかいい感じになりそう。
パートによってはそろそろ朝日が照り始めることですが、ぞくぞく地下地図も増えてきて、
地下施設を舞台とした作品も増えてくると面白いですね。
215創る名無しに見る名無し:2012/03/06(火) 22:01:26.79 ID:Jf1DQ5wn
投下乙です
それぞれの『らしさ』がとても良かったです
ちりばめられたフラグも面白そうなものばかりだし…!
若きギャング・スターと仲間たちの今後が気になります
216創る名無しに見る名無し:2012/03/06(火) 23:49:10.48 ID:mqCbGF1w
最高!
217創る名無しに見る名無し:2012/03/07(水) 15:22:22.33 ID:p+DfLKCm
>>207
文明の機器は「文明の利器」の間違いではないでしょうか?
あと、同会話中の「お手」っていうのは、ミキタカが馬と戯れている様子と解釈したんですがそれであってますか?
218 ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/07(水) 19:25:33.97 ID:HSkkZAyQ
感想、ご指摘ありがとうございます。
というか、投下終了のレスを忘れて申し訳ありません。
特に動きの無い回を書きたかったのですが考察はほとんど出来ず、支給品などでフラグだけ立てるという結果に……
正直もう少し考察が出来る段階になってから書いたほうが良かったと反省しています。

機器→利器は確かに間違いですね。wiki収録時には修正しておきます。
お手はその解釈で正しいです。
219創る名無しに見る名無し:2012/03/07(水) 23:57:38.79 ID:p+DfLKCm
もうすぐ新人さんの予約期限か
投下あるとしたら今晩中だが来てくれるだろうか
予約権が無いだけに心配
期待してるんだけどな……
220創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 00:08:35.83 ID:wJxuW4J2
>>219
予約権ではなく延長権
221創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 00:10:22.33 ID:wJxuW4J2
ついでに言うなら、3rdでは新人だけど2ndでも書いてた人だよ
つまり実力は確かなハズ
期待してます
222創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 00:28:02.22 ID:pogscvdZ
あんまりプレッシャーになるのも本意じゃないんだけど
予約期限が近づくと楽しみすぎて結構な頻度でスレや避難所を巡回してしまう
明日も平日ってのが恨めしいぜ
223 ◆wKs3a28q6Q :2012/03/08(木) 04:34:39.29 ID:NZDg7kQm
>>213
シルバーバレットが出てきた時の一連のシーンに和んだw
康一くんはしっかり記憶に残ってたのか、よかった。
しかし、拡声器か……大丈夫かこいつら……



というわけで、ギリギリになりましたが、イギー他投下します
224創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 04:35:53.01 ID:AUJI3Ggz

225どうぶつ奇想天外ッ!  ◆wKs3a28q6Q :2012/03/08(木) 04:38:10.34 ID:NZDg7kQm

その鳥は、一言で言うと不機嫌だった。
折角呼ばれた殺戮の場。
言い換えるなら、自由の楽園。
幸せばかり訪れるはずのその環境で、二度も連続で辛酸を舐めた。

「………………」

羽ばたく度に翼が痛む。
飛べない程の痛みではないが、決していい気分ではない。
スタンドで殴打され、棒っきれで殴打され、小さな体はそれなりにボロボロである。

けれども鳥は飛行をやめない。
何故か。

理由は簡単。
鳥は理解しているのだ。
この痛みを、少しでも和らげる方法を。

――獲物を嬲り、ぶち殺す。

それだけが、この苛立ちと痛みを和らげてくれる。
だから鳥は獲物を探す。
“自分が有利なあるエリア”に向け飛行しながら。

「………………!」

そして鳥は発見した。
その相手は、人間ではない。
そして、それは鳥の知ってる相手だった。

鳥は内心ほくそ笑む。
そして、その相手に目掛け――――
226創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 04:38:46.15 ID:AUJI3Ggz

227創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 04:39:32.83 ID:AUJI3Ggz

228どうぶつ奇想天外ッ!  ◆wKs3a28q6Q :2012/03/08(木) 04:40:06.66 ID:NZDg7kQm






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






その犬は、一言で言うと不機嫌だった。
いきなり呼ばれた殺戮の場所。
もうそれだけで、不満を溜め込むには十分だ。

「…………」

となると、勿論目指すは脱出だ。
脱出といえば聞こえはいいが、実際思っていることは「めんどくせーわさっさと帰ろ」程度のことだ。
そのために仲間を探す程度の知能は持っているが、危機感はあまり持っていない。
花京院という仮にも仲間だった男がワイルドなことをしでかしていたが、犬にとってそれはどうでもいいことだった。

対岸の火事はどうでもいい。
大事なのは、自分にふりかかる火の粉を振り払うことだ。

「!?」

そして、火の粉は唐突に訪れた。
空の上から氷柱が降ってきたのである。
当然のように、犬の体目掛けて。

だがしかし、その氷柱は犬の体に触れること無く地面に落ちる。
犬と氷柱の間に突如として現れた砂のドームに勢いをそがれ、着弾点をずらされて。
229創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 04:40:43.29 ID:AUJI3Ggz

230どうぶつ奇想天外ッ!  ◆wKs3a28q6Q :2012/03/08(木) 04:41:37.30 ID:NZDg7kQm

「グルルルル」

唸り、そして威嚇する。
傍に立つは、スタンド『愚者(ザ・フール)』
砂のドームから襲撃者を睨みつけるは、犬――ただの犬じゃない。血統書付きのボストン・テリアだ――『イギー』

襲撃者は、上空に居座っている。
その鳥は、『ペット・ショップ』
だがその名を、イギーは知らない。
鳥と犬とは話せないのだし、知る方法など存在しない。

とはいえ、もう少し“後”でイギーがここに拉致されていれば、イギーはこの鳥公を知っていたことになる!
いや! このまなざしとこの氷のスタンドを知っている、という状況になっているはずであった!!
そのことは、少なからずイギーの対応に影響を与えただろう。

だがしかしッ!
ここで大切なことはそんなことなどではないッ!
本来戦う運命にあった者が、こうして再び違う形でまみえたということ!
それこそが、真に大事なことなのだ!
人の出会いとは『重力』であり、出会うべくして出会うものだからだッ!

そしてその『重力』に従い、イギーは臨戦体勢を取る!
犬好きの少年がいなくとも、殺し合いという環境が、戦闘へと二匹を誘う!
更に加えると、砂のドームを突き抜けてきた氷柱に前足を軽く切られたことも、イギーの怒りを買った。

――上等だ、この鳥公!来るなら来い!ブッ殺してやる!

それが、イギーの今の想いだった。
だがそれでも、イギーは至極冷静である。
無闇矢鱈に突っ込まず、砂のバリアを展開していた。
そのバリアは、正方形の厚めの盾といった風だ。
先程ドームに穴を開けられ、ドームで凌ぐという戦法は棄てたのだ。

砂の形を変えたのは、氷柱が発射されてから次の氷柱が訪れるまでの間に長めの時間があったことが挙げられる。
それで砂をドーム状から変形させる猶予が生まれ、それならばと砂の形を変えたのだ。
その猶予が、二人の少女がペット・ショップに与えた傷によるものだと、イギーは知らない。
231どうぶつ奇想天外ッ!  ◆wKs3a28q6Q :2012/03/08(木) 04:42:40.90 ID:NZDg7kQm


ボボンッ! ボシュ――――z______ッ!!!


インターバルを挟んで、再び氷柱ミサイルが発射される。
それらをすべて砂の盾でガードする。
イギーの目論見通り、氷柱ミサイルは砂のバリアに突き刺さるだけで貫通まではしなかった。

勝てる、とイギーは確信をした。
愚者(ザ・フール)は、自由自在に形を変える。
再び氷柱ミサイルの雨が止んだ際、氷柱を投げ返せるような形になることも十分可能だ。
空気圧を利用したミサイル返しをしてもいい。

そしてイギーは走り出す。
ペットショップの真下に向かって。
少しでも近く、氷柱ミサイルをお返ししてやれるよう。
ちょこまかと動き、氷柱ミサイルをかわしながら。

――氷柱ミサイルをかわすことくらい、今のイギーには造作も無い。
何せ相手は防御を優先しているためか上にいるのだ。
つまりそれは、『攻撃は上空からしか来ない』ということを意味する。
来る方向がわかっていて、なおかつそちらに盾を展開しているのだから、前足を負傷していても無傷で切り抜ける事はできる。
もっとも、傷のせいで近づき難くはあるけれども。

「………………!」

にやり。
イギーの顔が不敵に笑んだ。
ペット・ショップがよろけ、氷柱ミサイルが止んだのだ。

素早く砂をドーム状に展開し、中に空気を包み込む。
ドームの上方、即ちペット・ショップに向いている方に、氷柱がそのまま生えていた。
そのドームをグシャリと潰せば、氷柱ミサイル・イギーバージョンの完成だ。

だが――――――

発射しようとしたその時、首に鋭い痛みが走った。
イギーは思う。一体何があったのかと。
イギーは見る。視界の端に魚のような生物を。

イギーは知る。
敵は、一匹ではなかったのだと。
232創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 04:43:06.33 ID:AUJI3Ggz

233どうぶつ奇想天外ッ!  ◆wKs3a28q6Q :2012/03/08(木) 04:44:15.30 ID:NZDg7kQm






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






時間は少し遡る。
鳥ことペット・ショップが、“見知った人外”を見つけた時の時間まで。

――助かったぜェェ!! もう水なんて近寄りたくもねェーーーー!!

“見知った人外”ことアヌビス神は、再び陸へと姿を現しその身を乾かしていた。
その体に触れ、“見慣れぬ人間”スクアーロは呆れたように言葉を返した。

「オレのスタンドは水があった方が強いんだがな」
――分かってるよ。でもお前も人を探してるってんなら、いつまでもここに居るわけにゃあいかねェだろォ!?
「まぁ、確かにな」

スクアーロは、既にあらかたアヌビス神から情報を入手していた。
アヌビス神が戦ったという、恐ろしい男の情報を。

(ゾンビ、ね。信じたくもない話だが、実際この目で見ているしな)

アヌビス神に聞かされたゾンビのような存在を、スクアーロは思いの外すんなりと受け入れられた。
スクアーロ自身そのことには驚いている。
だがしかし、涙目のルカという『生き返った死んだ人間』を見ている以上、信じるのが道理とも思っていた。

――とにかく操ることが出来ない以上、俺達はチームだ。
「……接近戦は苦手だからな。お前の切れ味には期待するぞ」

チームじゃねえ、お前は道具だ。俺の相棒はティツィアーノただ一人。
そう思ったが、それをいちいち口にするほどスクアーロは子供ではない。
サラっとアヌビス神の言葉を流して、出発の準備をする。

――けけけっ! お前運がいいぜ。俺と組めば無敵だからなァッ!
「お前、聞いただけでも2回も負けてるじゃねえか」

それでもこれはツッコまずにはいられなかった。
呆れたように溜息を吐く。

――ばっか、お前、それはよう、相性が悪かったんだよ、相性が。
「相性、ねぇ」
――その点俺らは相性バッチリ! 俺の切れ味を持ってすれば、素人だろうと触れさせるだけで血しぶきを出させられる!
「……なるほど、確かに相性抜群だ」

例えそこに水がなくとも、血しぶきという水をつくれる。
そういう意味で切れ味のいい刀というのは非常に魅力的だった。
情報を引き出せた今、喋るオプションは正直邪魔なだけだけど。
234創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 04:45:13.02 ID:AUJI3Ggz

235どうぶつ奇想天外ッ!  ◆wKs3a28q6Q :2012/03/08(木) 04:45:54.55 ID:NZDg7kQm

――ん? あれは……

一応、前言を撤回しよう。スクアーロは早々にそう思った。
やかましいのは勘弁してほしいところだが、自分の死角を変わりに見て情報をくれるというのは有り難い。
現に、今もこうして自分では気付けなかったことを教えてくれた。

「また鳥か……!」

スクアーロは舌打ちする。
つい先程、小鳥のビジョンのスタンドと一戦交えて来たばかりだというのに、ここに来てまた鳥である。

――待て待て! 多分だが、あいつは敵じゃねえ。
「……根拠は? 鳥だから、なんて言ったら重石をつけて海に放り込んでやる」
――落ち着けよ、あいつはスタンド出してねえだろ! やる気があったらスタンドとっくに出してるって!

確かに、一理ないわけでもない。
あの高度で飛行していて、こちらに気付いてないわけがない。
もしもあの鳥が参加者かつ殺す気満々であるなら、とっくの昔にスタンドくらい出しているだろう。
だが――

「あいつがスタンドビジョンだって可能性もあるし、何よりあいつを殺して困る理由がない」

殺しておいて損はない。
スクアーロの臨戦態勢を説明するには、その言葉だけで十分だった。
参加者ではなかったり、あるいは殺る気のない者であった場合でも、殺してしまって困るということはない。
役に立つこともないだろうし、人間をそうするのに比べて罪悪感も薄いだろうから。

――ああ、それなら心配いらねぇよ。俺はあいつを知っている
「はぁ?」
――確か、名前はペット・ショップっつったかな? ディオ……ああ、俺らのボスな。そのボスの館の門番だ、あいつは。

ボスを守る門番という役割に、僅かながら親近感を覚えてしまう。
相手は鳥だし、そんな気持ちもすぐに消え去ったけど。

「鳥が、刀に対して仲間意識を持っているものなのか?」
――知らねえけど、多分アイツ頭相当いいからな。命令の一貫として、同志の俺には牙を剥かないと考えてもいいだろうぜ。

そんなことを喋っている間に、ペット・ショップはスクアーロの直ぐ側までやってきていた。
高度が下がり、スクアーロの足元へと降りてくる。

――あ、そうだ。いいこと思いついた。スクアーロ、っつったっけ。ちょっと俺を離してくれ。
「別に、構わないが……」

うるさいし、と心の中で付け加え、スクアーロはアヌビス神を地面へと横たえた。
それを見て、ペット・ショップがアヌビス神へと降り立った。
その足を柄にかけ、じっと止まり続けていた。
236創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 04:46:50.80 ID:AUJI3Ggz

237創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 04:47:45.10 ID:AUJI3Ggz

238どうぶつ奇想天外ッ!  ◆wKs3a28q6Q :2012/03/08(木) 04:48:28.12 ID:NZDg7kQm

(……後で、あの刀からディオとかいう奴とその仲間についての情報も引き出さないとな)

海に捨てると脅せば引き出せるだろう。
なんてことを考えながら、3分ほどアヌビス神を手放しておく。
それから、またうるさくなるな、なんて考えながらアヌビス神を手にした。

――おお、ナイスなタイミングだぜ! 丁度話が終わったところだ。
「ああ、そうか、そいつはよかった」
――俺の睨んだ通りだ! ペット・ショップは俺らには味方! 同盟を組めたぜェ!

アヌビス神は、手にした者の脳に直接語りかける。
その際別に特定言語を口にしているわけではない。
精神に直接訴えかけるため、相手の言語を選ばない。
訴えかけられる側の用いる言語で訴えかけるようなものだ。
だから動物でも操れるし、勿論動物と会話することだってできる。

そう、ペット・ショップとて例外ではない。
柄さえ掴んでもらえば、ペット・ショップと意思疎通を図ることが可能である唯一の存在なのだ。

――情報を交換しておいたぜェ! お前のスタンド能力を明かしちまったけど問題ねェよな?
「………………」
――わーーーーーッ! 悪かった! 悪かったよッ! 謝るから大きく振りかぶらないでェェェーーーーッ!

スタンド能力がバレることは致命的である。
少なくとも、搦手や奇襲を用いるスクアーロやティツィアーノみたいなタイプにとってはそうだった。
一方で、アヌビス神のように真っ向からパワーで押すタイプはさほどバレたところで問題がない。
その差が、この情報提供へと繋がってしまったと言えよう。

――それに! そのおかげでペット・ショップの能力も聞けて、すげーことが分かったんだよ!!
「すげぇこと?」
――ああ! 俺とお前だけじゃなくてよォーーー! ペット・ショップとお前も相性最高だってェことだ!
「なんだと……?」

確かに、クラッシュは単独で挑める力を持っているが、誰かと組んでも使いやすいスタンドだ。
相性のいい能力は多いだろう。
ならば、ティツィアーノと合流するまで、もしくはティツィアーノがいないと判明するまでは、この鳥と組んでもいいかもしれない。
本当に、相性抜群だとしたら。

――こいつの能力は、周囲の気温を下げて氷を生み出すものらしいぜ!
「氷のスタンド使いか……」

パッショーネにも、そんな奴がいた。
裏切り者の暗殺チームの一人・ギアッチョ。
もう死んでいるため関係のない話だが、水を凍りつかせる奴とは戦いたくないなと考えていたものだ。

――あ、疑ってやがんな! なら見せてやるぜェー!! 俺を置きなッ! スクアーロッ!!

言われた通り、アヌビス神を地面に置く。
そして、意図を汲み取り、ペット・ショップを見つけたあと、顎でアヌビス神に触れるよう促した。
ペット・ショップもそれに従い、再び柄へと足をかける。
数十秒の会話と思しき時間を経て、ペット・ショップは空を飛んだ。

(おいおい、どこかに行かせる気か?)

そうでなくても、目立つ飛行はあまり関心出来ない。
空に注意を払う者など決して多くはないだろうが、それでも上策とは言えまい。
そんなことを思いながら、アヌビス神に意図を聞こうと拾いあげたその時。
239創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 04:49:17.16 ID:AUJI3Ggz

240創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 04:54:07.30 ID:AUJI3Ggz

241どうぶつ奇想天外ッ!  ◆wKs3a28q6Q :2012/03/08(木) 04:57:56.22 ID:NZDg7kQm


ドッシュゥゥ――――――――z_______ンンッ!


ペット・ショップによって、氷柱ミサイルが発射された。
聞き齧りのギアッチョの情報故に、このような形での氷タイプのスタンドというのは想定していなかった。
故に、少々目を丸める。

――へっへっへ! 本番はここからだぜェ!!

打ち出された氷柱は、地面に刺さる。
そして、それは急速に溶けてなくなっていった。

――スタンドは生命エネルギーによる超能力ッ! その能力は一般常識を凌駕するッ!!
「自在に気温を下げて氷を作れるということは、溶けやすい氷を作れるということ、か……」
――まあ、もっと単純に、気温を下げて氷を作って気温を上げながら発射させただけだけどな!

そして溶けた氷柱は、小さな水たまりとなった。
クラッシュが発現できる、小さな小さな水たまりに。

「……そいつのスタンドってよォー……気温を下げて氷を生み出す力なんだろォ?」
――ああ、そうだが?
「なら――途中で解除したらどうなる?」
――は?

スクアーロは、川にスタンドを発現させる。
そして沈んでた死体の腕を食いちぎらせると、水溜まりへと腕ごと発現させた。
その腕を、クラッシュが目の前で噛み砕く。
がぶりとやると、細い腕は真っ二つになった。

「俺のクラッシュは……“最後まで使えば”腕を食い進み真っ二つに出来る……」
――ん? ああ、そうだな、知ってるよ。
「そして途中で解除すると――」

再び千切れた腕にがぶりとかぶり付く。
その最中、クラッシュを消滅させた。
歯形の付いた二の腕だけが残される。

「クラッシュは消えるが、腕は残る。それまでに与えたダメージを残してッ」
――そりゃあ、スタンドが与えた物理的ダメージは残るからな。
「ならばッ! ペット・ショップが同じ事をしたらどうなるッ!?」

クラッシュを、ホルス神に置き換えたら。
腕を、大気に置き換えたら。
凍らされるべく冷やされていた大気が、中途半端な時期で冷やされるのを止められたら。

「アイツは、水を生み出せるんじゃあないのかッ!?」

そこには、水が残るのではないか。
スタンドが消えても、与えたダメージは残るように。
242創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:01:50.79 ID:J3SJ7K8I
 
243創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:03:40.51 ID:PnlAaruE
244どうぶつ奇想天外ッ!  ◆wKs3a28q6Q :2012/03/08(木) 05:06:21.30 ID:NZDg7kQm

――まあ、確かに、俺の洗脳とかバステト女神の磁力と違ってスタンドが支配して何かする系統じゃなく、物理的に影響与えるタイプなわけだからなァ。

アヌビス神も考える。
スタンドには、解除されたらその効果がまるっとキャンセルされるものもある。
バステト女神がそんな感じだったように、アヌビス神は記憶していた。

本体候補を探し、スタンド使いに持ってもらおうと画策した際、マライアとは会っている。
「磁力だから刀とは相性がよくない」としてお断りされたわけだが、その際にバステト女神の能力は聞いていた。
細かく聞いたわけではないが、どうも相手に磁力を纏わせる力らしい。

その能力は、スタンドを解除したら消えてしまうだろう。
自分の洗脳と同じく、スタンド側が常に能力を発揮し続け、影響を与え続ける必要性があるからだ。
物理的に影響を一度与えてハイおしまいなスタンドは、基本的に解除しても影響は残るのではないだろうか。

「だとしたら、俺はツいているッ!」

スクアーロは、死人への支給品を回収し損ねていた。
スタンド使いを倒したとは言え、すぐに頭が冷静にはならなかった。
あまりの事態に混乱していたというのが一番の理由だが、スクアーロ自身は精神に働きかけるスタンドの後遺症だと思っている。

とにかく、おかげで手ぶらとなっていた。
しかしそこで、血を流させやすい得物を手に入れた。
そしてここに来て、ティツィアーノと合流するまで繋ぎとなる同盟相手が手に入った。
更にそいつが相性最高となれば、言うべきことなど何もない。
もっとも、相性という点で、ティツィア以上のヤツなんざァ存在するわけないんだがね。

245どうぶつ奇想天外ッ!  ◆wKs3a28q6Q :2012/03/08(木) 05:06:36.78 ID:NZDg7kQm


ボバオンッ!!


奇妙な発射音が聞こえ、視線を移す。
どうやらスクアーロの言葉を聞き、ペット・ショップはやりたいことを理解したらしい。
空高く舞い、川から陸地へ氷柱ミサイルを発射した。
まるで飛び石のように、一定の間隔を明けて氷柱ミサイルが大地に刺さる。
最初から露でぬらぬらに濡れた氷柱達は、比較的すぐにその身を溶かした。

「ベネッ!」
――ああ、でも、やっぱり普通の使い方じゃねぇからなぁ。時間はかかるみてーだぜ。乱発も厳しそうだし。

どうやらアヌビス神はペット・ショップが浮上した所から見ていたらしい。
氷形成にそれなりに時間がかかるようだ。
そもそも二人は知らないことだが、ホルス神は精密動作に向いていない。
大雑把に冷やすだけが攻撃の手段であった。
故に氷を形成していく過程で、冷やしを弱めるなどといった高度な行為は本来不向き。
結局生命エネルギーで溶けやすい氷を作り、その表面をもう少し溶けにくい大きな氷でコーティングして発射するしか出来なかった。

――それに、中にいっぱいの水を発生させる、とまでは、やはり厳しいみたいだぜ。

その溶けやすい氷にしても少量であり、あまり水の量には期待できそうにない。
本当なら一瞬で周囲に水を発生させて欲しいと思っていたが、そんなことを求めたら精神力の限界を超えて死んでしまってもおかしくなかった。

「となると……小さいクラッシュを発生させ、奴を援護するくらいしか出来ないか……」
――ま、それはなんとか出来そうなのが救いだなァ。

最高ではなかったが、この結果は最低ではない。
とりあえず戦闘にならなければクラッシュは開封した支給品のペットボトルに入れておけるので、ペット・ショップは休ませておけるだろう。
欲を言えば飛んで周囲を見てもらいたいが、飛行もふらふらと安定性に欠き、明らかに負傷の影響が出ていた。
陸上戦では決め手を持つ者としてメインで戦ってもらわなくてはならない以上、休息は取らせるべきとスクアーロは判断している。

「よく分かった。もう大丈夫だ。とりあえず俺の肩にでも止まっててくれ」

あちらさんは、人の言葉を理解することが出来るようだ。
そう判断したスクアーロが、ペット・ショップに声をかける。
勿論、あまり声が響かぬように気を使って。

一応声は届いたらしく、ペット・ショップはよろよろと高度を下げる。
しかし。
246創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:07:27.94 ID:PnlAaruE
247創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:08:31.44 ID:AUJI3Ggz

248創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:08:51.26 ID:J3SJ7K8I
  
249創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:10:18.70 ID:J3SJ7K8I
   
250どうぶつ奇想天外ッ!  ◆wKs3a28q6Q :2012/03/08(木) 05:11:17.66 ID:NZDg7kQm

――な、何だァ!?

不意に顔を横に向けると、ペット・ショップが氷の弾丸を発射した。
そして再び高度を上げる。
驚きの声をあげているアヌビス神を、スクアーロは握り直した。
そして姿勢を低くする。

(誰かが居た、か……? クソッ、ティツィアーノじゃないだろうなッ……)

ペット・ショップは好戦的な性格だと、ここで初めてスクアーロは思い知る。
同僚にでなきゃ容赦をする気0らしい。
身を屈め、アヌビス神を握りながら、クラッシュを先程作った大きな水溜まりに転移させていく。
やはり、時間をかけて非常に溶けやすい氷を巨大な氷でくるんで射出させたものが、一番大きい水溜まりを作れるようだった。
そんなことを思いながら、最初の実験で作った“溶けやすい氷をただ溶かしただけの小さな水溜まり”へとクラッシュを転移させる。

――やれやれ、アイツ作戦忘れてやがるな。
「作戦?」
――ああ、アイツが言い出したんだよ。水辺ってのは、アイツ自身に有利な場所らしいからな。

氷柱ミサイルから逃れようと水に潜ってしまったら、水を凍らされジ・エンド。
つまり回避の方面が限られるため、ペット・ショップに非常に有利な環境だと言うことらしい。
ペット・ショップは鳥ながらその発想に自力で至り、水の確保に訪れる参加者を待ち伏せる気で居たようだ。

「にも関わらず自ら仕掛けたということは、相手はこちらに向かう気はなかったということか……?
 先に向こうに気付かれた、という可能性もあるが……」

他にも、可能性としてはもう一つ。
そんな小賢しい真似をせずとも勝てる相手が見つかったから、自ら仕掛けたという可能性。
知能の優れたペット・ショップが、怪我をしていても自ら仕掛けようと思えるような相手。
つまり。

「弱者、か……?」

その予想は、間もなく的中と判明する。
追撃で放たれた氷柱が溶けて出来た水。
先程放たれたのが分厚く溶けにくい通常の氷柱だったため、水の量は更に少なくなっていた。
故に攻撃に転じられるほどではないサイズだが、クラッシュを潜伏させる。
スタンドを通し、襲撃相手を見るために。
その姿が、ティツィアーノかを確かめるために。

――どんな奴だ!? 俺らの仲間じゃあないんだろうが……

その姿に、スクアーロは一瞬硬直をした。
間の抜けた顔で。

「……犬だ」
――は?
「ボストン・テリアが戦っている」

小鳥のスタンド、大猿の化物、喋る刀、スタンド使いの隼ときて、今度はスタンド使いの犬。
もうなんでもありだった。
人間以外に縁がありすぎて笑えてくる。
251創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:11:19.99 ID:PnlAaruE
252創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:12:14.81 ID:AUJI3Ggz

253どうぶつ奇想天外ッ!  ◆wKs3a28q6Q :2012/03/08(木) 05:12:57.49 ID:NZDg7kQm

「……よし、いいぞ」

真面目に戦況の分析をすると、こちらがかなり有利だった。
犬は、逃げること無く攻めてきている。
つまり、川辺の方に来ているのだ。
そうなれば、広い場所でクラッシュを使い戦闘に参加できる。

スクアーロは、この犬を始末することに決めた。

スタンド使いであっても、意思の疎通は難しいと判断してのことだ。
わざわざこちらから仕掛けた相手と和解するだけのメリットもない。
だから、さっさと始末する。

――おいッ! やべェぞ!

アヌビス神の声を聞き、意識をペット・ショップに向ける。
スタンドを介し見ているビジョンに異変がなく、犬を見られないアヌビス神がそう言うということは、ペット・ショップに何か異変が起きたのだろう。
実際、ペット・ショップは怪我の影響かよろめいて、氷柱ミサイルを撃ち損ねていた。

「食い破れ、クラッシュッ!!」

クラッシュに、犬の喉元へ飛びつかせる。
犬が大分こちらに近付いてきており、最初に撃った氷柱出てきた水溜まりに近かったことが幸いした。
クラッシュは犬の肉を食い破る。
そしてその身を勢いのままに犬の向こうの溶けた氷柱へと飛び込ませた。

「ベネッ! 犬なんざ攻撃したことなかったから急所をやるのには失敗したが……十分だッ!」

首輪がついていたこともあり、喉元はあまり食いちぎれなかった。
致命傷には成り得まい。
それでも十分血は出させた。
これで、直接攻撃することができる。
それも、更に大きめのクラッシュでだ。

「やれ、クラッ――――がぼっ!?」

そしてクラッシュを血液から飛び出させ、犬に飛びかからせた所で、スクアーロは前歯数本をまき散らしてのけぞった。
254創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:13:16.37 ID:PnlAaruE
255創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:13:30.09 ID:J3SJ7K8I
 
256創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:14:17.49 ID:AUJI3Ggz

257どうぶつ奇想天外ッ!  ◆wKs3a28q6Q :2012/03/08(木) 05:15:06.20 ID:NZDg7kQm






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






首を噛まれたイギーの次の行動は早かった。
全身に、砂を纏う。
砂のドームを更に凝縮させたような防御体制。
攻撃を察知したら、一箇所に砂を集めてすぐさま防御出来るようにだ。
集めるよりも早く食らっても、少しでも砂があるならダメージもマシになろう。

そしてそれは、予想外の効果をイギーにもたらした。
スタンドが、砂の一部が盛り上がるのを感じたのだ。
勿論それは、クラッシュが潜伏した結果である。

イギーは、とりあえず砂の一部を使い、そちらめがけて攻撃を仕掛けた。
クラッシュは、既に跳びかかっている。
跳びかかったクラッシュに攻撃を避ける術はなく、開いた口に打撃を受け、間抜けにもそのまま吹っ飛ばされた。

勿論、クラッシュをすぐさま近くの水に飛び込ませるようスクアーロは試みる。
溶けた氷柱が近場に数本あったはずであり、逃げこむ場所には困らない。
しかし――――

「な……にィィ――――!? 水が消えただとッ!?」

スクアーロがペット・ショップと相性最高だったようにッ!
スクアーロがアヌビス神と相性が最高だったようにッ!
スタンドには相性があるッ!
そしてスクアーロとイギーは相性が最悪であったッ!

何故ならば、クラッシュは“水”しか瞬間移動できないッ!
“泥”も! “湿った砂”もッ! 移転対象にすることは敵わないッ!

「あの犬ッ! 砂のスタンド使いめッ!
 全ての水を砂で覆い被せやがったッ!!!」

氷柱の本数が少なければ、そのくらいは造作もない。
砂を操り水を覆う、ただそれだけの単純作業。
それが出来ぬほど、愚者(ザ・フール)は弱くない。

イギーは嗤う。
とりあえずは一矢報いた。
これで戦略的撤退を図ったとしてもプライドは保たれる。
それに、戦うにしても鮫のスタンドは対処できると判明した。

「あんまり……ナメてんじゃねーぞ、鳥公にサメ公ッ!」←と犬語で吠えている。

イギーは吠える。
それに呼応するように、ペット・ショップが氷柱ミサイルを吐き出して、第二ラウンドのゴングが鳴らされたのであった。
258創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:15:25.21 ID:PnlAaruE
259創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:15:54.13 ID:J3SJ7K8I
 
260どうぶつ奇想天外ッ!  ◆wKs3a28q6Q :2012/03/08(木) 05:16:34.99 ID:NZDg7kQm

【C−4 ティベレ川河岸・1日目 早朝】

【イギー】
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[スタンド]: 『ザ・フール』
[状態]:首周りを僅かに噛み千切られた、前足に裂傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出するため、ポルナレフのように単純で扱いやすそうなやつを仲間にする。
1:この状況を切り抜けるッ(逃げるとしても出来ることなら一発痛い目あわしてやりたい)
2:花京院に違和感。

【ペット・ショップ】
[スタンド]:『ホルス神』
[時間軸]:本編で登場する前
[状態]:全身ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:サーチ&デストロイ
1:犬をデストローイ!今度こそ完勝したい
2:犬の始末後、体力の回復を図る
3:自分を痛めつけた女(空条徐倫)に復讐
4:DIOとその側近以外の参加者を襲う
※アヌビス神から「スクアーロはアヌビス神の現在の本体」と聞いているため、今のところは攻撃対象外です

【スクアーロ】
[スタンド]:『クラッシュ』
[時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前
[状態]:脇腹打撲(中)、疲労(中)、かすり傷、前歯数本消失
[装備]:アヌビス神
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:ティッツァーノと合流、いなければゲームに乗ってもいい
1:まずはティッツァーノと合流。
2:そのついでに、邪魔になる奴は消しておく。
3:そんなわけで犬、恨みはねーが死んでもらう。

[備考]
※スクアーロの移動経路はA−2〜A−3へ進んだのち、川に沿って動いています
※川沿いのどこかに、支給品である料理が放置されています
261創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:16:41.75 ID:AUJI3Ggz

262創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:16:55.22 ID:J3SJ7K8I
 
263創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:17:00.56 ID:PnlAaruE
264創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:17:14.11 ID:J3SJ7K8I
   
265創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:17:30.78 ID:J3SJ7K8I
    
266創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:17:51.81 ID:J3SJ7K8I
 
267創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:18:14.04 ID:J3SJ7K8I
   
268創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:18:17.52 ID:AUJI3Ggz

269創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:18:29.81 ID:J3SJ7K8I
 
270創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:18:32.29 ID:NZDg7kQm
以上でイギー・ペットショップ・ゲリラのスクアーロ投下終了です。
ちょっと色々無茶だったかなと思わなくも無いので、指摘があったら遠慮無くして下さい。
271創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:18:38.59 ID:AUJI3Ggz

272創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:18:45.32 ID:J3SJ7K8I
    
273創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:27:35.43 ID:PnlAaruE
投下乙!
人間以外に縁がありすぎる!に吹いたw
確かに人外に縁がありすぎるw
そして題名がすんごい的確な内容だった
なんだか、イギーやペットショップの動物語が可愛かったw
274創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 05:29:47.87 ID:PnlAaruE
以下転載

100 名前:名無しさんは砕けない :2012/03/08(木) 05:23:30 ID:h89A6hBE
投下乙です
ペット・ショップが働きまくりやで。登場からフル稼働じゃないか、こいつw
ホルス神とクラッシュのコンビは考えてなかったけど、なかなかおもしろい
イギーが一矢報いることはできるのか! 楽しみ!
それにしてもスクアーロから、苦労人オーラが出まくりである
275創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 08:53:53.15 ID:WXVVnYHY
乙!すごく面白かったんだけど
ペットショップの時間軸:本編で登場する前 なのに
イギーと面識があることになってるのが気になる
276創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 09:13:42.95 ID:wJxuW4J2
投下乙!
だからやばいと思ったんだよ、あの場所でスクアーロとアヌビス神が合流するのは。
しかしペットショップまで合流するのは予想外
なんやかんやでスクアーロ無双もあり得る展開じゃねーか
バトルの続きが気になる幕引きですね

>>275
面識あることになってないよ
冒頭でイギーが見つけたのはペットショップだけど、ペットショップが見つけた"人外"は『アヌビス神』の事
この辺が書き手の見せ方のうまさなのかなーと思う
てか、みんな叙述トリック物うますぎだろ
277創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 09:16:15.30 ID:Gv76yvIc
>>275
わかりにくくて申し訳ないです。
ペット・ショップが見つけたのはアヌビス神のことであり、イギーとの面識はありません。
もうちょっと種明かしはわかりやすくすべきでしたね、精進します。
278創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 09:16:56.50 ID:Gv76yvIc
回線ぶっちぎれた拍子にID変わってる上にリロる前にフォロー入れられてるとは……!
279 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/03/08(木) 09:41:23.40 ID:J3SJ7K8I
>>274
転載ありがとうございます。


議論スレで質問をしましたので、反応していただけると嬉しいです。
280創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 12:24:03.87 ID:ryeo6GG/
『動物奇想天外』面白かったですッ!補完SSも気になる!読みたい!
スクアーロがなんか……動物ロワのカエル(クロノトリガー)を思い出す。
281創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 13:44:42.77 ID:ryeo6GG/
誤字
死角を『変わりに』見て→死角を『代わりに』見て
ですね
282創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 14:20:36.23 ID:6+iKDV5z
投下乙です
スクアーロよ、人間以外に縁があるってそもそもお前のスタンドもサメだろ……
喋る支給品だけあって、アヌビス神が斬る以外で意外な活躍を見せるというのも面白いですね
あと、誤字として
ティツィアーノ→ティッツァーノですね
283創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 14:24:50.06 ID:22U5qgcl
誤字の指摘ありがとうございます。
wiki収録時に治しておきます。
予測変換候補に頼っちゃダメということがよくわかりましたハイ……
284創る名無しに見る名無し:2012/03/08(木) 15:28:31.59 ID:pogscvdZ
投下乙です
いやー面白いッ! まさかこんなふうに繋げられるとは思いもよらなかった
タイトルも秀逸でした、苦労人だなあスクアーロwww
なにはともあれ、勝敗が気になりすぎる引きでした
乙です!
285創る名無しに見る名無し:2012/03/09(金) 23:50:17.70 ID:nsPBDfZt
OVERHEAVENの議論チャットの結果ってどこかで纏めてたっけ?
話作りの参考にしたいんだけど・・・
チャットログ見るしかないかな?
286創る名無しに見る名無し:2012/03/10(土) 06:03:41.97 ID:6OiomFW2
>>285
ログが纏めだと勝手に思ってた
4e氏の作成した気になる部分を参加者が一問一答式で○×で答えてる部分あるから
そこらへん見れば参考になるんじゃあないかと思う
287創る名無しに見る名無し:2012/03/10(土) 14:13:04.49 ID:HD33RUfR
ついに!混乱必至の廃ホテル予約キターーッ!正座して待ってます!
288創る名無しに見る名無し:2012/03/10(土) 19:36:15.75 ID:6OiomFW2
廃ホテルもだけど、比較的長く間の空いてたキャラの予約がぼちぼち来てるのがいいね
さて、自分もちょっと書いてくるか…
289創る名無しに見る名無し:2012/03/12(月) 19:29:16.69 ID:ycupST7C
そろそろ投下あるかな…
待機
290創る名無しに見る名無し:2012/03/12(月) 19:37:14.04 ID:hWQ1vIgZ
仮投下来てるぞ
291創る名無しに見る名無し:2012/03/12(月) 20:11:04.17 ID:ycupST7C
>>290
ありがとう、見てきた!

期限関連は微妙なものではあるけど、ギチギチに縛っちゃうのも考え物だな
ということで、意見のある人はしたらばへ行ったほうがいいと思う
292創る名無しに見る名無し:2012/03/13(火) 18:51:14.15 ID:lzLNc0KK
『どうぶつ奇想天外ッ!』について質問があります。
イギーが防御のために砂を纏い、結果的にクラッシュに一撃かませるのは良いのですが
何故イギーは周囲の水に砂を被せたのですか?クラッシュの『水から水への瞬間移動』の能力に気付いたんでしょうか?
だとしたらいつどうやって思いついたんでしょう?
初撃後氷柱に飛び込むのは見えたかもしれないとしても、攻撃の直前水溜まりから飛び出すところは見ていませんよね?
293 ◆3uyCK7Zh4M :2012/03/13(火) 23:35:23.37 ID:ADwj4x8a
質問のすぐ後に申し訳ないのですが
モハメド・アヴドゥル、ビーティー、投下してもよろしいでしょうか?
294褐色の不気味男事件の巻  ◆3uyCK7Zh4M :2012/03/13(火) 23:40:53.47 ID:ADwj4x8a
男はじっと穴の中を見つめている。
炎に照らされた横顔。
その目は何を見ているのだろうか。
いや、何かが映っているかすら怪しい。
ただ何もない虚空を見ている――そう言われても納得出来るような、そんな暗い瞳。
褐色の肌のその男は、高い背を丸めるようにして岩の上に座っていた。

彼の胸の奥に渦巻く炎。
その熱さを一番良く知る男は既にいない。



※※※



ビーティーと呼ばれる少年は、ジャイロ・ツェペリと別れた後に南へ進んでいた。
ドレス研究所から道に沿いつつ南進、つまり杜王町住宅街へ。
デイパックの中から見つけた地図は、全く不可解かつ出鱈目な物だった。
その地図の正確さを確かめるために移動することに決めたのだが、杜王町を目指したのには他にも理由がある。

「杜王町」その地名自体に聞き覚えはない。
しかし、その地域には唯一日本らしい地名がつけられている。
公一がこの場にいるとするなら、他に比べて多少馴染みのあるこの日本エリアを目指すかもしれない。

しばらく南へ進むと、日本の住宅街のような街並みが現れる。
どこにでもあるようなありふれた街。
地図は間違えていなかったようで、すぐに学校らしき施設にぶつかった。
「ぶどうが丘高校」――やはりビーティーに聞き覚えはない。
295褐色の不気味男事件の巻  ◆3uyCK7Zh4M :2012/03/13(火) 23:41:30.39 ID:ADwj4x8a
音を立てないようにしながら、校門から中を覗いたビーティーは視界の左端に灯りを見つけた。
炎に照らされて浮き上がっていたのは一人の男。
門柱に身体を隠したビーティーは、その男から異様な空気を感じた。
案外近いと内心焦りながらも、息を殺してその様子を伺う。

褐色の肌と、編み込まれた長い髪、余裕のある服を着ていてもわかるほどしっかりとした体型である。
明らかに日本人ではないとわかる容姿。
男はビーティーに横顔を向けたまま、じっと穴の中を見ていた。
高いであろう背を丸めて、暗闇の中の更なる闇を覗く。
全くみじろぎ一つ起こさず、あの体制のまま死んでいるのではないかとすら思えた。
学校という空間においてその姿は異常。
だがバトルロワイヤルという舞台の上ならば、何か自然な姿でもあるようだった。

穴の底には何があるのか、それはビーティーの位置からでは知ることは出来ない。
だが、暗闇の中で男の彫りの深い顔はハッキリと見える。
ビーティーが最初に見た灯り、それは男の目の前に浮かぶ「火の玉」だった。
球体の炎が幾つか組み合わさったようなそれは、男とその周囲を煌々と照らす。

(あれは……火の玉を作り出すトリックなら幾つか知っている。
 だが、もしかするとあの男の言っていた「スタンド」というものか?)

スタンドとは――ジャイロ・ツェペリは超常現象を起こす能力だと言っていた。
だとしたら、このように火の玉を作り出すことだって出来るのかもしれない。
あれはあの男のランプ代わりなのか?

そして、ビーティーにはもう一つ気になるものがあった。
それは、炎に照らされ不気味に浮かび上がっている。
ただでさえ異常を感じさせるその男を、更に不気味に見せていた。
男の足元に転がる白いそれは――。
296創る名無しに見る名無し:2012/03/13(火) 23:41:37.93 ID:cBEjwTNB
いいと思うよ
投下後に質問があったって安価指定で報告するから
支援
297褐色の不気味男事件の巻  ◆3uyCK7Zh4M :2012/03/13(火) 23:42:14.07 ID:ADwj4x8a

「そろそろ出て来てもらえないか?」

「……!?」

突如響いた声に、ビーティーは身体を門柱へ隠す。
今、言葉を発したのは間違いなくあの褐色の肌の男だ。
ビーティーを撃ち抜くような声だった。

「門の柱の裏に隠れている君だ。どうやら一人のようだが」

やはり……ビーティーの事だ。
どうしてビーティーの位置が分かったのだろうか。
男の視線は穴に向けられたまま、口だけが動いていた。
ハッタリかと、一瞬考える。
しかし、男はビーティーの場所を言い当てた。

(これも妙な超能力だか技術のせいだっていうのか!?このぼくがニ度もこんなヘマを……!)

ビーティーは息を殺したまま、開始時より重くなったデイパックの肩紐を握りこんだ。
298褐色の不気味男事件の巻  ◆3uyCK7Zh4M :2012/03/13(火) 23:43:30.11 ID:ADwj4x8a

※※※



どのくらい思考の砂漠を彷徨っていたか、分からない。
アヴドゥルは目の前に開けた空っぽの穴を見つめていた。
しかしそれは、突然中断される。

アヴドゥルの目の前に浮かぶ炎が揺れた。
半径15メートルのあらゆる生き物の呼吸を探知できる炎のレーダー。
右手の方向、平行位置に反応がある。
何者かが此方を伺っている――アヴドゥルはそう確信した。

レーダーに反応したその一つの呼吸は一瞬大きく燃え、その後急速に反応を小さくする。
どうやら、その相手は息を潜めているようだ。
向こうに潜む者は、どうやら先ほどの吸血鬼たちのようにいきなり襲いかかってくるような連中ではないらしい。
コイツは敵か味方か。殺人者か協力者か。

「そろそろ出て来てもらえないか?」

先手必勝、とばかりにアヴドゥルは声を上げた。
呼吸がわずかに乱れる。
相手に揺さぶりをかけることが出来れば、戦闘にしろ交渉にしろ有利に立てるかもしれない。

「門の柱の裏に隠れている君だ。どうやら一人のようだが」

もう一度、今度は止めだ。
逃げられないと匂わせた言葉の裏に、相手も気がつくだろう。
重い腰を岩の上から上げると、その何者かが潜む門の方へ身体を向ける。

しばらくの沈黙の後、門柱の裏から出てきたのは少年だった。
左手に支給品の入ったデイパックを掲げたまま、ゆっくりと近づいてくる。
東洋人らしき少年だ。
承太郎や花京院が着ていた、日本の学生服らしい格好をしているが日本人だろうか?
しかし二人に比べると、まだ幼い印象を受ける。

デイパックを見せるその姿は、一見すると敵意はないという合図にも見えるが些か妙だ。
なぜ、目の前の男がいきなり殺しにかからない保証も状況で近づいてくる?
距離を取って話せばいいだけだ。
気づけば少年との距離はかなり狭まっている。
299創る名無しに見る名無し:2012/03/13(火) 23:43:47.99 ID:cBEjwTNB
タイトルいいな
支援
300創る名無しに見る名無し:2012/03/13(火) 23:44:08.75 ID:cBEjwTNB
支援
301褐色の不気味男事件の巻  ◆3uyCK7Zh4M :2012/03/13(火) 23:44:15.47 ID:ADwj4x8a
そこまで近づいてアヴドゥルは――少年は薄く笑みを浮かべていることに気付いた。

「君は……」
「『話し合い』をする前に一つ伝えておかなくちゃあいけない事があります」

少年は大仰な仕草でデイパックを示しながら言葉を続ける。

「実は此処に来るまでの間に、大量に薬品を手に入れる機会がありまして……。
 この中にはそれが詰まっている。もちろん……起爆性が高いのも。
 貴方がその能力だかトリックだか武器だか、まあ何でもいいですが。
 とにかく此方を攻撃した瞬間貴方も一緒に爆発――なんて事になるかもしれませんよ?
 運よく逃れても、爆発に気づいた参加者が集まってくるでしょうし」

少年はアヴドゥルから目を逸らさない。
冷や汗一つかかず、愉快でたまらないといった笑顔を見せたまま。

――全く、日本の学生はこんな奴らばかりなのか?

炎の生物探知機を見てアヴドゥルが炎を操ると推測したのだろう。
幼く見えるからと言って侮ると痛い目を見るかもしれない。
この殺し合いでは油断は最も危惧すべきもの。
その事実はもう、痛いほどにアヴドゥルの身体に突き刺さっていた。

「いや、私は君を攻撃するつもりはない。殺し合いに乗るつもりもない」

アヴドゥルは少年の突き刺さるような警戒を受け流すように、努めて柔らかい声を出す。
しかし彼はその鋭い視線も、上げたバックも下ろさないままだった。

「それはぼくも同じだ」
「なら互いに情報を交換しよう」
「こちらもそのつもり……ならばまずは……」

少年の言葉は途切れる。
アヴドゥルは、そこで初めて少年の表情が崩れるのを発見した。
僅かに眉を潜め、アヴドゥルの足元に視線を移す。
彼は自分の足元にあったものを認め――少年の次の言葉を察した。

「『ソレ』が何なのか、教えてもらおうかッ!」

その声と共に、少年の右手が『ソイツ』を指さした。

そこに、白い人形が転がっている。
正確には白い布に包まれたミイラのような人型だった。
だが布は所々赤黒く染まっていて、それが何なのか容易に推測できる。
アヴドゥルは、それが誰か知っている。
302創る名無しに見る名無し:2012/03/13(火) 23:44:55.38 ID:xIHxxqAL
GO!投下GO!支援
303褐色の不気味男事件の巻  ◆3uyCK7Zh4M :2012/03/13(火) 23:45:14.80 ID:ADwj4x8a
「……コイツは、私の仲間だ。つい先ほど、何者かに……」
「ふうん……仲間、ね」
「簡単に埋葬してやろうかと思ったのだが……やはりコイツは祖国に返してやりたい。
 家族の眠るフランスに……ッ!」

ポルナレフの最後の呼吸を見届けた後、アヴドゥルは彼の遺体をカーテンに包んだ。
痛々しいその姿を見ていられなかったのかもしれないし、彼の死を見ていることで自分の背にかかる後悔を更に重いものにしたくなかったのかもしれない。
校庭の隅に穴を開けてから、ふとポルナレフの生前の言葉が幾つも蘇った。
そして、アヴドゥルは彼を埋めることをやめた。
フランスに、彼が愛した妹と家族の眠る地に、共に眠らせてやろう。

自らの掌をキツく握りしめるアヴドゥルの姿を見ながら、少年は鼻を鳴らす。
彼は先ほどまでの笑いとは違う嘲笑を貼りつけていた。

「そんな話が信用されると思っているのか?
 お前が殺して、証拠隠滅でもしようとしている……そう言われた方が納得出来る」

アヴドゥルは自分の表情が歪むのを感じた。
この少年相手に動揺は見せないようにしていたが、その言葉にはどうしても揺さぶられてしまう。
ポルナレフを殺したと、そう言われているのだから。
アヴドゥルは冷静を取り繕うことは諦める。
やはり、自分はこういうギャンブルめいたことは苦手だ。

「残念ながら、私は君に信用してもらう手段を持っていない……。言葉以外はな」
「いや……一つだけ」

少年は薄い笑顔を繕ったまま。
アヴドゥルは自らの手をきつく握り込んだまま。

「君の『能力』を教えてくれ。それでぼくは君と『協力』しようじゃあないか」

おそらく少年は、アヴドゥルが殺人者だと本気で思っている訳ではないのだろう。
ただ、自らが優位に立つために策を尽くしている。
それは確実に生き残るためなのか、少年自身の気質からくるものなのか、アヴドゥルはそれを判断出来るほど彼を知ってはいない。
アヴドゥルは顎に手を当てて、考え込む仕草をとる。
それを見た少年は笑みを引っ込めて、彼の判断を待った。
304褐色の不気味男事件の巻  ◆3uyCK7Zh4M :2012/03/13(火) 23:46:02.59 ID:ADwj4x8a
「君もスタンド使いか?」
「…………」
「なるほど……そういう情報も此方が能力を見せてから、ということかな」

再びの静寂。
しかしそれはあまり長くは続かなかった。
アヴドゥルが掌を見せるように少年へ向け、少年はその仕草にわずかに身構える。
そして、男の低い声が暗闇に響いた。

「『魔術師の赤』ッ!」

アヴドゥルの背中から突如飛び出した男。
鳥の頭、男の身体、鋭い爪。
一見すると仮装をした人間にも思えるが、人間のそれとは明らかに違った空気を醸し出している。
そして何より、何もいなかったはずの空間からソレは飛び出した。

その姿を目にした少年は、明らかに目の色を変えた。
無意識だろうが、半歩下がった彼は年相応の驚愕を見せている。
しかし一呼吸二呼吸の間には平静を取り戻した辺り、やはり只者ではない。
ただ、空いた右手はしきりに自身の耳を撫でていた。

アヴドゥルは上げた掌を握る。
再び開けば、その手の上には光が灯っていた。
炎を手の上で弄びながら、アヴドゥルは笑う。

「『魔術師の赤』……。これが私のスタンドだ。
 能力は単純、『炎を操る』これだけだ」

少年はしばらくアヴドゥルの手中の炎を見つめた。
彼の大きな瞳にチカチカと揺らぎが映りこむ。
アヴドゥルが炎を握り込むように消しされば、ようやく呪縛が溶けたように、少年は視線を戻した。
305創る名無しに見る名無し:2012/03/13(火) 23:46:30.87 ID:cBEjwTNB
支援
306褐色の不気味男事件の巻  ◆3uyCK7Zh4M :2012/03/13(火) 23:46:46.72 ID:ADwj4x8a
「なるほど……いいだろう。情報交換に応じようか」
「ああ。ならば最初に一つ」
「なんだ……」
「君はスタンドを持っていないのではないか?」
「……」

少年の苦虫を噛み潰したような顔に、アヴドゥルは改めて確信する。

「ただの勘だがね……。君は『スタンド』という言葉を今まで使わなかったな」
「……ふん、その勘は当たっている。
 そのスタンドという存在も、ここに来て初めて聞いたものでね」

少年は上げていたデイパックをようやく下ろす。
しかしその顔は「弱点を晒されて実に不快だ」とありありと語っていた。

この少年がスタンド使いではないことは分かった。
しかし、ならばなぜ少年にスタンドが見えたのだろう。
もしかすると、自身気がついていないだけで潜在的に能力を持っているのかもしれない。
何者かの別のスタンド能力で「スタンドを持たない者でも見えるようになっている」という可能性もある。
もしかすると、主催らしいあの老人の能力の一部か?

いつまでも考えたところで、謎ばかりが増幅していく。
本当に黒幕はDIOで、あの老人が九栄神の最後の一人――?
もっと、何か、別の意図が紛れているのでは……。
一体、ポルナレフは何を知っていたのだろう。

「いつまで一人で考え込んでいる」

少年の不機嫌な声が聞こえる。
そこ子供らしい感情の染み出した声に、アヴドゥルは思考を切る。
まずは、「情報」そして「仲間」だ。
彼はアヴドゥルとってのそれらになりえるのか、判断はまだつかなかった。
307創る名無しに見る名無し:2012/03/13(火) 23:49:11.02 ID:cBEjwTNB
支援
308褐色の不気味男事件の巻  ◇3uyCK7Zh4M氏代理:2012/03/13(火) 23:53:38.98 ID:cBEjwTNB

※※※



吸血鬼、波紋、スタンド、百年の眠りから目覚めた化物DIO、その部下たちとの戦いの旅路、突如巻き込まれた殺し合い。
モハメド・アヴドゥルと名乗ったそのエジプト人は、警戒心を解いてビーティーに語った。
此方が「スタンド使い」でないことが分かり、友人の仇ではないと安心出来たそうだ。
到底信じられない話ばかりだったが、実際に奇妙な体験ばかりだし、スタンドそのものを見せられては信じるしかなった。
そして、どうやらアヴドゥルはこの殺し合いで既に二人の仲間を失ったらしい。
一人はあのホールでの見せしめの一人、もう一人は自らの油断が原因で死なせてしまった男。
その話を聞いて、ビーティーは焦る。
もしこの場に公一がいるとしたら……真っ先にターゲットにされるだろう。

このアヴドゥルという男は見た目は暑苦しいブ男だが、実に理知的な人物らしい。
ビーティーは戦う術を持っていない、認めたくはないが圧倒的に不利な立場にいる。
アヴドゥルは立場的には有利な位置にいるはずだが、あくまで「対等な情報交換」という姿勢は崩さない。
力とか年齢とか、そういうものに左右それない高潔な男だ。

アヴドゥルからの話が終わると、ビーティーからも出せる程度の情報は出すことになった。
親友である麦刈公一、そばかすの謎の少年をやり込めたこと、その直後気づけば先ほどホールのような場所にいたこと。
此処に来てすぐ出会ったジャイロという男、「利害の不一致」で仕方なくジャイロと別れたこと。
309褐色の不気味男事件の巻  ◇3uyCK7Zh4M氏代理:2012/03/13(火) 23:54:21.36 ID:cBEjwTNB
アヴドゥルは一人で何やら考え込みながらビーティーの話を聞いていた。
互いに語り終わると、自然とその場に静寂が広がった。
アヴドゥルは顎に手を当て、ビーティーは耳を撫でながら考えをまとめる。
そんな空気がしばらく続いた後、アヴドゥルはふと伏せていた目をビーティーへ向けた。

「君に一つ相談があるのだが」
「何だ?」
「――私に君の理性を貸してもらえないだろうか」

ビーティーは耳を触る手を止めた。

「私は短気で熱くなりやすい性格でね。おまけに柔軟な発想、というものも苦手だ。
 ……ポルナレフを殺した奴に出会った時、自分が冷静でいられるとは思えない」

冷静な自己分析を口にしておいて何を。
だが友人のためにそこまで感情を荒げられるのならば、やはりこの男は信頼に足る人物なのだろう。

「私はわが友であり仲間であったポルナレフに、必ずや『復讐』と『勝利』を捧げると誓ったッ!
 だが復讐も勝利も、ただ感情的になっただけでは成し遂げることは出来ない……。
 だからこそ、君のその策士的な理性を貸してほしい。
 頼む。ポルナレフの仇を討ち、このバトルロワイヤルの謎を解く、そのために協力してくれないか」

ビーティーはまだ、アヴドゥルの内に潜む熱さを知らない。
そしてアヴドゥルもまだ、ビーティーの悪魔的な本性に気付かない。
少年はアヴドゥルの言葉を聞くと、至極楽しそうにその唇を歪ませた。

「……友のために報いをくらわせる、という訳ですね。
 いいでしょう。好きですよ、そういうの……。
 お互い、二つの点で協力することを誓約しませんか?」
「二つ?」
「まず貴方は、第一に『友人の復讐をする』第二に『バトルロワイヤルの裏を暴く』
 そして僕は、『公一を見つけ出す』そして『バトルロワイヤルの主催者に報いを与える』
 貴方の目的のために僕はこの理性を貸しましょう。
 そして僕の目的のために、貴方はその能力――力を貸して下さい」

アヴドゥルは底知れぬ少年の瞳を見つめた。
ビーティーはアヴドゥルの返答を待ち、彼に右手を差し出す。

アヴドゥルはその手を握ることを一瞬ためらった。
特に論理的な問題があった訳ではない。
むしろその条件は、アヴドゥルにとって願ってもないことだった。
だが、この少年の漂わせる空気が誰かに似ている気がする。

しかし自分にはこの手を取る以外に道はない。

魔術師は魔少年の手をとった。
310褐色の不気味男事件の巻  ◇3uyCK7Zh4M氏代理:2012/03/13(火) 23:54:55.76 ID:cBEjwTNB

【C-7 ぶどうが丘高校 校庭/1日目 黎明】


【モハメド・アヴドゥル】
[スタンド]:『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』
[時間軸]:JC26巻 ヴァニラ・アイスの落書きを見て振り返った直後
[状態]:健康、肩に一発だけ弾丸を受けた傷(かすり傷)、ポルナレフを死なせたことへの後悔
[装備]:六助じいさんの猟銃(弾薬残り数発) (ボーンナムの支給品)
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの破壊、脱出。DIOを倒す。
1.この少年の理性を借りる。そのために「公一を探す」ために少年に力を貸す。
2.ポルナレフを殺した人物を突き止め、報いを受けさせなければならない。
3.ディアボロとは誰だ?レクイエムとはなんだ? DIOの仕業ではないのか?
4.ポルナレフは何故年を取っていたのか? ポルナレフともっと情報交換しておくべきだった。
5.ブチャラティという男に会う。ポルナレフのことを何か知っているかもしれない。
6.ポルナレフを置き去りにしてしまった。俺はバカだ。
7.承太郎……何故……

【ビーティー】
[スタンド]:
[時間軸]: そばかすの不気味少年事件、そばかすの少年が救急車にひかれた直後
[状態]: 健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、薬物庫の鍵、鉄球、薬品数種類
[思考・状況]
基本行動方針:主催たちが気に食わないからしかるべき罰を与えてやる
1.この男の力を利用する。そのために「ポルナレフの仇討ち」のために男に理性を貸す。
2.公一をさがす


311褐色の不気味男事件の巻  ◇3uyCK7Zh4M氏代理:2012/03/14(水) 00:02:55.70 ID:gF8beZpv
以上で投下完了です。
仮投下で指摘していただいた点や、細かいところを少し修正してあります。

二人とも策士で魔術師で、でも正反対っておもしろいなーと思って書き始めましたが
心理戦はやはり難しい…精進いたします。
問題点誤字脱字、ありましたらお願いします。


----


代理投下終了のようです

先に指摘
>>306最後の行
アヴドゥル「に」とって  ですね。仮投下で気づけばよかった

報告
>>292にて『どうぶつ奇想天外ッ!』の質問が提示されました。
作者様は一応目をお通しし、できればご回答をお願いします。
私個人の意見では、超理論的な発想で敵の能力を推察して戦術に変えるなんて原作ジョジョでもよくあることだと思いますし、
別にこのままでもいいんじゃないかと思います。


『褐色の不気味男事件の巻』感想
とても面白かったです。タイトルにセンスを感じました。
一般人のくせに、非ジョジョキャラのくせに、BTはジョジョキャラの誰よりも聡明かもしれないですね。
よく言われますが、まさに(DIO + 露伴)/2 なキャラクターだと思います。
アヴドゥルとのタッグで『武力』を手に入れたBTが今後どう活躍するのか期待です。
312創る名無しに見る名無し:2012/03/14(水) 01:40:28.59 ID:Cnk2rifm
>超理論な発想
特にジョルノ様の敵スタンド能力を見抜く洞察力と推理力はマジパネェっす!
313創る名無しに見る名無し:2012/03/14(水) 01:49:01.72 ID:Cnk2rifm
ジョルノはなんかすぐに見抜いてしまうけれど、他大概は考察はしている描写がありますよ。論理的飛躍とか都合のいい閃きは多分にありますが。
314創る名無しに見る名無し:2012/03/14(水) 09:27:49.27 ID:aaOqyejb
◆3u氏投下乙です。
BTはジョジョキャラほど描写がないのにこの再現度。すばらしいッ!
最後の『魔術師は魔少年の手を取った』という二人の魔にグッときました。
この後二人がどう動いていくか楽しみな作品でした。

>>313
まとめwikiからここを知る人もいるから質問のタイミングについて文句は言いませんが、>>312のような言い方はあまり褒められたことではないかと思います。
例えばこれで◆wK氏が上手く修正出来なかったら「納得はすべてに優先するんだぞ」って言って破棄させてしまうつもりですか?
私も一人の読み手として良い作品に期待はしたいですが、そのためには書き手さんが良い気持ちでSS執筆出来るようなスレじゃないと、と思います
315創る名無しに見る名無し:2012/03/14(水) 11:47:34.31 ID:Cnk2rifm
312、313です。まずはごめんなさい。すみませんでした。
軽率かつ安易浅慮な書きこみでした。
氏のみならず全ての書き手さんに失礼な文体、内容です。ごめんなさい。
また、上記の書きこみに悪印象をうけた読み手の人たちもごめんなさい。


(能力看破が原作にもあるのだから、というだけでなく)イギーが水を封じる展開はあり、だと思っています。
ただ、能力を見抜いた描写が無いことが気になります。
傷(出血部位)から現れたから、魚イコール水という単純な発想、きっかけはなんでも構わないと思います。逆に、能力に気付いたわけではなく二匹目の奇襲に辺りを砂で警戒した、でも別にいいとも思います。
鳥と刀とヒトVS犬というこのSSはとても好きだし、関連する補完SSも執筆されるのだから、破棄はしてほしくないです。

ここで新たに修正希望を追記するのは、空気を悪くするだけではありますが
暗殺チームのスタンド能力はチーム外には知られていないのではないでしょうか?『どうぶつ〜』では展開に関係ない箇所ですが、プロシュートマジェント+ティッツァーノ組にはわりと重要な気がします。

長文失礼しました。
半年romってます。

316創る名無しに見る名無し:2012/03/14(水) 15:11:45.79 ID:xAkK9Wfe
うおおおお、ビーティーかっけえええええ!
頭だけで十分生き延びて行けそうなだけの凄みがあるッ!
ブ男との牽制合戦も見応えありました。やっぱり荒木キャラはあれこれ考るのが映えるなー。
317 ◆wKs3a28q6Q :2012/03/14(水) 17:16:30.02 ID:xAkK9Wfe
『水を防ぐ』というのは、『魚』が見えたことと二度目は血液から現れたことでイギーが推察しました。
しかし確かに描写不足だったかなと思います。よく読み返すと自分の血にも被せてるってのが伝わらないし。
未熟者で申し訳ない。
イギー視点での追加シーンを執筆したいと思います。

ギアッチョの能力については、スクアーロの居たヴェネツィア市内のサンタルチア駅で大暴れしていたので、情報くらい行っているのではと思っていました。
問題があるようなら該当部分を削除もしくは修正したいと思います。
318 ◆yxYaCUyrzc :2012/03/14(水) 18:29:11.23 ID:aaOqyejb
◆wK氏、修正頑張ってください。
こういう意見が出るのも、それほどまでに面白い・期待が大きい作品だからだと思います。

さて、したらばでは明日と書きましたが、まとめwiki見たら明日の15日はどうも投下ラッシュになりそうですので一日繰り上げて今から投下開始します。
319覚悟 その1 ◆yxYaCUyrzc :2012/03/14(水) 18:31:03.17 ID:aaOqyejb
この間、久しぶりに街で“ヤキドゲザ”やってるとこを見かけてね。
二十歳かそこらのカップルかな。男の方が土下座してて――すごいんだよ。強制装置は使ったものの一発でやり通したんだよその人。で、その後割と平然としてんの。
もう開いた口が塞がらなくて。ゴタゴタが終わってからフツーに女の子と帰ろうとしたから思わず声掛けちゃったのさ。
「なんで貴方は火傷を負いながらそんな平然としてられるんですか」って。
そしたら彼はなんて言ったと思う?

「たとえ火の中水の中、ってやつですよ。確固たる覚悟があればどんな物事でも受け入れられます」って言ったんだよ。

いや、スゴい……っていうか素晴らしい事だと思うよ。
でも今時いないっしょ、そんな人。絶滅危惧種って言うのかね?とにかく、その人の覚悟は半端なかったってこと。

じゃあ、今度はこの話に絡めて『覚悟』を持った参加者の話をしようか。

場所はE−7にあるレストラン、ジョニーズ。
登場人物は最強のスタンド使いと何も知らない家庭の主婦。
まずは、主婦の目に映る“青い大男”についての説明からだ――

●●●
320覚悟 その2 ◆yxYaCUyrzc :2012/03/14(水) 18:32:54.56 ID:aaOqyejb
――空条さん、遅いわね……こっちは聞きたいこと、山ほどあるのに。
  お母さんを亡くしたって言うのも分かるけど、私だって夫を……

俺のお袋の話は、もういい……待たせてしまってすまない。スプーンを二本持ってきた。これを使ってまず“大男”の説明をさせてもらおう。
これから“スプーン曲げ”をやってみせる。それがどう見えたか、俺に聞かせてほしい。
まず一本目から……どうだ?どう見えた?

――えっ……と。貴方の手が二重にぶれて、さっきの大男?の指が見えたわ。それで、その指がスプーンを思いきり押して。

ふむ。では次だ。これも曲げるぞ、『スタープラチナ・ザ・ワールド』……今度はどう見えた?

――うーん、正直に言わせてもらうと良く分からないわ。
  ありのまま今私が見たことを話すと、あなたがプラチナとかワールドとか言ったと思ったら、いつの間にかスプーンがポッキリ折れていた。

なるほど――では、改めて説明しよう。
今、俺が見せたのはいわゆる超能力とか手品とかいった類だが、それを実際にやっていたのはコイツだ。
守護霊と言えば分かりやすいだろう。これを、ユウレイのハモンと書いて『幽波紋(スタンド)』という。
先にやった方はスタンドを持っているもの、スタンド使いなら大概は出来る。スタンドの指でもって曲げてるだけだからな。
問題は二番目の方だ。こっちは俺じゃあなければできない。つまり、一人に一つ、他人とは違う力……特殊能力があると言う事だ。
その『俺にしかない能力』の名をスタープラチナ・ザ・ワールドという。

――うーん、じゃあなんで私にもその……スターさん?が見えたの?私もスタンド使いっていうものなの?知らないわよ、私そんなの。

そこんところだが、正直言って俺にも分からん。
普通スタンドはスタンド使いにしか見えず、またスタンドはスタンドでしか触れない。そういうルールだ。例えばスタンドに向けて銃を撃っても当たらない。
だが、貴方の目にスタンドが見えているとなれば、あの主催のジジイが俺たちに何らかの細工をして、通常の人間にもスタンドを見えるようにしたんだと考えられる。
このクソッタレゲームを円滑に進めさせるためにな。

――そうね……そして、まぁまぁ分かったわ。というより見せられたら信じるほかないし。
  それで、それが私の夫とどう関係しているの?
321覚悟 その3 ◆yxYaCUyrzc :2012/03/14(水) 18:35:00.13 ID:aaOqyejb
わかった。長くなるが全てを話そう。動揺の言葉や感想は最後にまとめて聞かせてもらうから、とりあえず最後までこちらから話させてくれ。

……最初に『結論』から話そうか。単刀直入に言う。貴方の夫、川尻浩作は×月○日に死亡している。
彼を殺した犯人の名は『吉良吉影』。こいつもスタンド使いだがその能力は後にしよう。

そいつは殺人を犯さずにはいられない、根っからの殺人鬼だ。杜王町の人間で俺の……知り合いがそいつに殺されたので、それを追っていた。
結果、そいつを一度は追い詰めるものの、奴は他人の指紋と顔を手に入れる事で俺たちから逃げ伸びた。その『他人』こそ貴方の夫だった、という事だ。
何故彼が選ばれてしまったかという理由は……『背格好が同じくらいだったから』といったもんだろう。奴にとってはその程度でしかなかったんだ。

ここで奴の能力について話しておく。顔を変えたのは吉良のスタンドじゃあない。
エステのシンデレラという店があっただろう。奴はあそこのオーナー、辻彩のスタンドを、彼女もスタンド使いだったんだが……利用して顔を変えた。
奴自身のスタンドの名はキラークイーンと言い、能力は『爆弾』だ。触れたものを爆弾に変え跡形もなく消し去る能力で自分の趣味である殺人を続けていたという訳だ。

それ以降……×月×日まで奴は『川尻浩作』として生活していた。
だが、そこで俺たちが再び奴を追い詰め、結果として……吉良吉影は『事故死』した。何十人と殺しておきながら誰にも裁かれなかったって訳だ。
そして、あなたにこれを言うのは少々気が引けるが、その場には川尻早人もおり、事件に関わっていた。というよりも早人君が犯人を一番最初に発見したと言っても良いだろう。

つまり、さっき見た『川尻浩作』だが、いや……吉良吉影にしてもだ。死んでいるはずなんだ。俺が目の前で見たんだからな。
となると、今この場にいる川尻浩作、もしくは吉良吉影は何者かが彼等の姿を借りているという事だ。変身するのがそいつのスタンド能力だという予想は容易にできる。
だからさっき俺は貴方を『偽物の夫』から引き離した、という訳だ。

これが俺の知っている、杜王町での『川尻浩作』に関する情報だ。もっと知りたいとなれば、まあ主に吉良の方の話になるが、話そう。

●●●
322覚悟 その4 ◆yxYaCUyrzc :2012/03/14(水) 18:37:06.89 ID:aaOqyejb
いえ……いいわ。要するに私は、少しの間とはいえ元の夫が死んでいたことにも気付かず、殺人鬼と一緒に生活してたって事よね。

――ああ……奴は自分の尻尾を他人に掴ませるような事はしないが、何か急に変った事はあったか?

え、ええ。さっき話した喫煙癖の話もそうだけど。そう、×月○日って言ったわね……その日かどうかは定かじゃあないけど、ある日の夜、急に晩ご飯を作ったのよ、彼が。
そう、そう言われてみれば急に彼、変わったわ。髭をそるのも剃刀に変えたし、椎茸も食べてたし……

――そうだ。完全に他人になる事は出来ない。あなたの息子さんがそういうところに気がついたから、吉良吉影を追い詰められたんだ。

で、でも……こう、変に思わないで聞いてください。

私は、その殺人鬼である男に、惚れてしまったんです。その、急に変わって見えてから。
特にそう思うようになったきっかけは、家賃の事で文句言ってきた大家を騙したある朝のことでした。
普通はそう言う騙すとか泥棒とか、軽蔑されるような事だけれど。それをやってのけたのよ、何食わぬ顔で。
それで、今まで黙って何もしないだけの夫がそう言う大胆な事をする、それに対して『なんてロマンチックなの』と思ってしまったんです。
それ以降、どんどん彼に惹かれていったんです。それが本当の夫の姿だと思い込んで……

――そうだったのか。だが吉良は犯行も単独で仲間や友人など作らず、家庭を持つなど想像できないような人間だった。
  もっとも、貴方はそのような事を知らなかったんだ。一般的にみれば夫に惚れ直した、ってところだな……。

はい……あっでも、彼、と言っていいんでしょうか。その吉良、さん……が私のことを心配してくれたことがあったんです。
ある日、私が庭で急に失神してしまったことがあるんです。何かの『植物』を見たとたん……
それで、その時にあの人は会社を遅刻してまで私を介抱してくれて。サボテンのとげが目に刺さらなくて良かっただなんて言ってくれたんです。

――意外だな。それを機に改心するなんて人間でないのは知っているが……

ええ。だから、私は……彼に会ってみたいと思います。もちろん、夫にも早人にも会いたいけど。その吉良さんにも会ってみたい。
そして聞きたい。『私はあなたが殺人鬼だと聞いたけど、何故あの時に私のことを心配してくれたの』と。

――言わなかったか?吉良にせよ貴方の夫にせよ、俺の知る限り、いや誰に聞いたって死んでいるんだ。

で……でも、貴方は生きているじゃない!
最初に……浩作さんを見て動揺してたけど、それでも見たわよ、貴方最初にあのお爺さんのせいで……死んじゃったじゃないッ!
死んだ人を生き返らせる……そう言うスタンドがいてもちっとも不思議じゃないわ!だって私から見たらそう言うモノ全部が不思議なんだからッ!
聞いた瞬間に殺されちゃうかも知れないけどッ!そこんとこハッキリさせとかなきゃ私だってどんな顔して夫に会えばいいか分からないじゃないッ!
もしもこの場所に早人がいて、危険な目に遭ってるかも知れないってなったら、誰が守るのよ!母親である私が覚悟決めて守らなきゃいけないじゃないッ!

●●●
323覚悟 その5 ◆yxYaCUyrzc :2012/03/14(水) 18:38:59.15 ID:aaOqyejb
承太郎が返答を渋る。しのぶはそれを見て今にも彼の襟首に掴みかかりそうだ。
しかし、その緊張感は会話とは全く別の要因で解かれることとなる。

ズゥン……

一瞬地震かと間違えるほどの大きな音。それがそう遠くではない場所から聞こえてきた。あるいは距離があってもなお聞こえるほどの大きな何かだが……
しのぶはヒッと息をもらし周囲を見回す。まるで落ち着きのない小動物のようだ。
「店の外に出て様子を見てくる。近くじゃあなければこの場でやり過ごそう。机の下にでも潜っていてくれ」
承太郎はそう言い残し、警戒しながら店を出た。

「アレは……」
スタンドの脚力でもって大きく跳躍し店の看板の上に立った承太郎。音の発生源はスタンドを使わなくても発見できた。
路上に巨大なコンテナが出現したのだ。それは決して『生えてきた』訳ではない。上から『降ってきた』のだ。アスファルトのヒビと歪みがそれを証明している。
かつてロードローラーを落っことされた事はあったが、それの応用をこの地で何者かがやったという事なのか。
承太郎の疑問が解決される前に、その場に新たな情報が生まれる。

「アレは……?」
コンテナがブルブルと振動し始め、そこから一人の男が抜け出してきたのだ。
タイミング良くコンテナの底に穴でもあけたのか、防御力に優れたスタンドなのか、はたまた不死の能力を持つDIOのような体質の持ち主なのか……
スタープラチナの目を凝らして見てみると、当の本人も自分の置かれた状況が理解できていないようである。己の身体をキョロキョロと見まわし、スタンドを発現させている。
そのスタンドが黙っているのを眺める本体。奇妙な構図ではあるが、承太郎にはそれをのんびり眺めている暇はなくなっていた。

「アレは……!」
丁度そのスタンド使いからコンテナを挟んで向かい側、距離は相当あるものの、その顔には見覚えがある。
川尻早人。
殺人鬼・吉良吉影を追い詰めた張本人であり、現在自分が保護している川尻しのぶの実の息子、その早人ではないか。
女子高生と思しき少女と二言三言会話をして背を向けたところを後ろから抱きかかえられている。

承太郎の視線が固まる。最初の会場で娘を見たときのように、あるいは浩作を見たと言うしのぶのように。
これを素直に全てしのぶに話すべきなのか。『母』を危険な場所に連れて行って良いものなのか。

看板から飛び降りた承太郎が押す店のドアはやけに重く感じられた。

●●●
324覚悟 その6 ◆yxYaCUyrzc :2012/03/14(水) 18:40:45.64 ID:aaOqyejb
ふう……いったんここらで話を区切ろうか。

家族に、そして吉良吉影に会いたいというしのぶの覚悟。
これからどうしのぶに話すべきかを考える承太郎の覚悟。

決してどっちが『正しい』とか『間違い』とかいう話じゃあない。
ただ、こういう時に状況がどちらに傾くかって言うのを決めるのは、持ってる覚悟の大きささ。それが大きい方に傾くのさ。
これは正義とか意思がぶつかりあった時にも同じこと、言えるんじゃあないかな。ま、それはその時に話そう。

あ〜でも、意思が『黄金』で殺意が『漆黒』だと覚悟は何色になるのかなあ?
金色だと意思と被るし、純白だと語呂が悪いし……え?なに『真っ赤な覚悟』?それは『誓い』の間違いじゃあないか?うーん……
325覚悟 状態表 ◆yxYaCUyrzc :2012/03/14(水) 18:43:09.69 ID:aaOqyejb
【E-7 北部 レストラン・ジョニーズ一日目 黎明】


【空条承太郎】
【時間軸】:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
【スタンド】:『星の白金(スタープラチナ)』
【状態】:健康、精神疲労(小)
【装備】:煙草&ライター@現地調達
【道具】:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
【思考・状況】
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊&娘の保護
1.今見たものをしのぶにどう伝えるべきか……
2.あの場所(コンテナ周辺)に行くべきか行かざるべきかの検討
3.川尻浩作の偽物を警戒。
3.お袋――すまねえ……
4.空条承太郎は砕けない――今はまだ

【川尻しのぶ】
【時間軸】:四部ラストから半年程度。The Book開始前
【スタンド】:なし
【状態】:疲労(小)、精神疲労(小)、若干興奮気味
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
【思考・状況】
基本行動方針:家族に会いたい。吉良吉影に会って、話をしたい
1.何なの今の音!?承太郎さん早く戻ってきて!
2.この川尻しのぶには『覚悟』があるッ!
3.か、勘違いしないでよ、ときめいてなんていないんだからねッ!
【備考】
スタンドという概念を知りました。
吉良吉影の事件について、自分の周りの事に関して知りました(例えば他の『吉良吉廣』のことや『じゃんけん小僧』等の事件はまだ知りません)
承太郎以外のスタンドについては聞いていません。

※レストラン・ジョニーズが本来の場所に建っているかどうかは不明です(原作中では玉美のレシートしか出てきていないはずです)
326覚悟 ◆yxYaCUyrzc :2012/03/14(水) 18:46:45.26 ID:aaOqyejb
以上で本投下終了です。

猫草の一件で吉良がしのぶを心配したシーン、あれをちょっと掘り下げてみようかなと。まだしのぶサイドだけですがw
後はコンテナが近かったのでそれに関する描写を入れました。場所が全然違えば「結論を急ぐな」と承太郎が諭して支給品の確認でもしながら放送へ、と考えていたんですが。
そんなわけで時間軸は未だに黎明。細かく言うなら「生とは」と同じ時間です。

仮投下からの変更点はレスの分割箇所以外は特にありません(というより全く変更してませんw)
台詞オンリーパートは読みにくいという意見もなかったのでこのまま。もちろん今からでも変更申請は受け付けますw
イメージとしては雑誌のインタビューみたいな。聞く方が『――』を使って答える方のセリフで文章を構成する。決して地の文の書き方を忘れた訳じゃないんだからねッ!

最後になりましたが、wK氏の問題について(氏がコメントしてはくれましたが)レスがあった直後の急ピッチで投下してしまって申し訳ない。
今後はもう少し本投下のタイミング考えて執筆しますorz

誤字脱字、矛盾点等々ありましたらご意見ください。それでは。
327創る名無しに見る名無し:2012/03/15(木) 15:41:22.89 ID:mmEX07Op
両氏とも投下乙です!

>>褐色の不気味男事件の巻
緊迫の頭脳戦、ビーティーとアヴドゥルのかっこよさにシビレました
タイトルも秀逸! 内容をよく表していながら何が起こるかわからないワクワク感もある良タイトルです
今後の両者の戦いがより気になります…!

>>覚悟
ロワSSでありながら、ミステリのようなサスペンスのような雰囲気の作品 だが、それがいい…! 
両者の対話という形で書かれたことで、より二人の内面が深まったように感じられます
しのぶさんが一方的に吉良にフラグってるのが今後どう響いてくるんだろう…

どちらもとても面白かったです!
328 ◆wKs3a28q6Q :2012/03/17(土) 17:39:31.22 ID:rnUebgc/
何だか台詞のみで進んでいく情報開示が独特の雰囲気を出してるなー。
個人的には刑事が一般人に説明してるシーンみたいなので脳内再生されたw
しかし承りはこのあとどうするのか……非常に続きが気になる引きですね。



あと、修正版を、したらばにあげておきましたので、あれでよろしいかチェックの方お願い致します。
329 ◆Rf2WXK36Ow :2012/03/17(土) 22:12:23.60 ID:ySGSXc+I
>>328
修正乙です、読みましたが違和感などはありませんでした
良いと思います!


あと、こちらも
パンナコッタ・フーゴ、カンノーロ・ムーロロ
投下します
330人生を賭けるに値するのは ◆Rf2WXK36Ow :2012/03/17(土) 22:13:09.23 ID:ySGSXc+I
パンナコッタ・フーゴは、デイパックを背負い月明かりに照らされる小道を黙々と歩いていた。
月明かりの為だけとも思えない青白い顔に張り詰めた表情を浮かべている様は、見知らぬ地を彷徨う迷い子のように不安げにも見える。

――また、どこかで何かが起こっている。

遠く遠く、か細い音が聞こえてくる。様々な方向から時折響いてくる音は、いつだってフーゴの不安をいや増させた。
いっそ確認しに走り出したくもあったが、『彼』から何の連絡も来ない以上、勝手に目的を違えるわけにはいかない。沈黙は、目的に変更がないことの表れだ。

――コロッセオの近くに、ジョジョの味方だったはずの人間がいる。

『彼』――カンノーロ・ムーロロのその情報を信じて、フーゴはひたすらにコロッセオを目指した。
あるはずのない建物が入り乱れて作られた異常な町の入り組み具合には辟易させられたが、ともすれば黙考に浸ってしまいそうになる現在、それがある意味ありがたかった。
懐に忍ばせた二枚のカードは、支給品の確認を促したことを最後に沈黙を保っている。
ムーロロとのスタンド越しの会話を終えて広場の店から出る前に、フーゴは助言に従って自身のデイパックを確認した。
水、食糧、懐中電灯、地図その他――特筆すべきは、紙の中から出てきた『ナイフ』と『地下地図』。
ナイフには『DIOの投げナイフ半ダース』とメモが付けられていた。ごくシンプルなそのナイフを、フーゴは一本だけベルトに挟んで上着で隠すように忍ばせている。
闇に紛れてどんな輩が潜んでいるかわからない以上、能力に頼らない最低限の抑止力があるのは有用だと思うべきなのだろうが、付けられていた名前の皮肉さがそれを躊躇わせた。
『地下地図』に関してはムーロロへの譲渡も考えたが、折を見て書き写し、彼の『見張り塔』に預けるという手段も使えると判断したため、とりあえずは己で持っておくことにした。
なんであれ、手持ちの選択肢は多いに越したことはない。その程度の思考は、ムーロロとの会話と時間を置いたことで取り戻せていた。

――既に死んでいるはずの人間が、いる。

情報は、何よりも強力な武器になり得る。だが、大きな落とし穴にもなり得る。
情報の真贋を見極めるには、近づき、実際の感触を確かめる他ない。十篇の読誦より、一篇の書写。そこに何が待ち受けていようとも、実際にこの目で見なければわからない。

――以前の情報が、間違っていた?

奇妙な言い回しになるが、間違いが真実であれば――それは希望なのだろう。きっと、おそらく。心に淀み凝った絶望、その一片を吹き晴らす一筋の希望。それはなんと甘美な妄想だろう!

――いや、考えるな。今はまだその時じゃあない。

歪んだ希望に期待を膨らませすぎれば、裏切られたときに心は砕けて散るだろう。
何よりも硬いダイヤモンドが、一筋の傷から砕けるように。
ふと気づけば、遠目にもコロッセオの威容が見えてきている。フーゴは少しだけ息を吐いて、僅かに歩みを早めた。



331人生を賭けるに値するのは ◆Rf2WXK36Ow :2012/03/17(土) 22:13:34.86 ID:ySGSXc+I
カンノーロ・ムーロロは、『亀』の中で座り込んだまま、目まぐるしく変わる状況の把握に努めていた。
オール・アロング・ウォッチタワー――『劇団見張り塔』の名の通り、ムーロロのスタンドは彼が望むとおりに情報を齎してくれる。
だが、フーゴと接触を計った時点での情報、それの整理もままならぬうちに、状況は急流を下るように変化している。予想以上のスピードだった。

――北、化け物同士が交戦中。能力はどちらも強力かつ詳細不明。危なっかしくて近づけやしねえ。
――東、あの炎にゃ参ったぜ。すっかり静かになっちまったが……どうなってやがる?
――西、特に…っと、犬が一匹。あれも参加者なのか? たかが犬っころが、ねェ。
――南西、妙な頭したガキと、男がひとり。どっちも特別注意するとこはなさそうだが……さて。
――西南西、ガキ二人。一見ただの学生にしか見えねえが……どっちもスタンド使いってのは間違いなさそうだな。詳細不明。
――東南東、帽子の中年と女は変わりなし。あの人食いスタンドに何もさせないで撃退ってのは、要注意に格上げすべきかねェ。
――南東、コロッセオ方面……ふむ。

見張り塔の情報は、例えるなら複数のテレビを同時進行で見ているようなものだ。一か所に集中すれば詳細な情報が得られるが、代わりに他の画面が疎かになる。全体の把握を優先すれば、大雑把な情報だけが画面を切り替えるようにくるくると飛び込んでくる。
恐るべきは、それらを全て統合可能なムーロロの才覚だろう。伽藍の見張り塔は、空虚であるがゆえに際限なく貪欲に情報を収集する。
その中でも、ムーロロは特に南東には気を割いていた。『レオーネ・アバッキオ』と『ナランチャ・ギルガ』、どちらも重要な鍵には違いない。
だが、その鍵――特にレオーネ・アバッキオのほうは、既に鍵としては使用不能になってしまった。平たく言えば、当人かどうかを確認させるより先に、死んでしまった。

――あの化け物みてぇな大男を、細ッこい野郎がブッ倒したときにゃあ驚いたぜ。

あの台風のような化け物じみた大男が細い男を追い詰めたと思いきや、細い男のほうのスタンドが決まったらしく追撃も出来ぬまま文字通りバタリと倒れたのだ。
そこから先は筆舌に尽くしがたい凄惨な場面の連続。細い男が何やら手を動かすと、倒れていた大男がやにわに動き出したのだ。操り人形にでもする能力だったのだろうか。

――大概のスプラッタは見慣れてたが、ありゃ別格だ。

思い返すだに怖気が走るのは、大男の為した一連の作業。己の手指でがぽりと頭蓋を外し、ぬらぬらと体液にぬめる中身を取り出し、そして――
嫌な場面ほど記憶に残るもので、そこまで思い返してムーロロはブルリと身体を震わせた。
その作業が行われている間中、ムーロロは信じがたい心持ちでそれを眺めていた。眺めていることしかできなかった。
悪魔の所業とでも言うべき一連の作業が終わったのち、細い男が再び倒れた大男に手を伸ばした。そこから先もまた、理解の及ばぬ域の出来事だ。
結局、細い男は大男諸共の自殺を敢行した。今となっては何を考えていたのか、知るよしもない。
その場から去って行った少女と少年は、それから見失っている。恐らくそう遠くには行っていないはずだが、見も知らぬガキどもよりもこの複雑怪奇な事実をどうやってフーゴに伝えるべきかに意識が飛んでいた。

――で、もっとわからねぇのはこっからだ。

派手な自殺の舞台となった大きなコンテナの下から、あの大男が這い出してきた。
そして、あろうことかレオーネ・アバッキオの使役していたスタンドを発現させた。
これをどう見る。
あの大男が、細い男の手によって『脳味噌を奪い取った』アバッキオのスタンドを獲得した、と考えるべきなのだろうか。それとも、『移植作業』によってアバッキオが蘇生したとでも。
332人生を賭けるに値するのは ◆Rf2WXK36Ow :2012/03/17(土) 22:14:04.68 ID:ySGSXc+I
――どっちにしたって、正気の沙汰じゃあねえよ。

憂慮すべきはそれだけではない。コロッセオにいたナランチャ・ギルガが、その現場に近づいている。
迷うことなくまっすぐに現場に向かっているところを見た限り、その場に何者かがいることをナランチャは確信しているのだろう。
ナランチャとその連れの反応次第では、その場でまた戦闘が行われる可能性もあるのだ。

――ここが正念場、見極め時ってやつだ。

フーゴに持たせた『見張り塔』は、現在コロッセオのほど近くまで辿り着いていることを知らせている。これ以上進ませれば、フーゴはコロッセオに目的の人物が居ないことに気づくだろう。
こちらが疑われるは悪手、では最善手は? なまじ頭の切れる奴だけに、生半な誤魔化しは通用すまい。
揃った札をどう切るべきか、溢れる情報を吟味し尽くすための残り時間はあまりにも少ない。
ムーロロは粘りつく気重さを払って、黙々と歩み続けるフーゴに情報を与えるべくカードを動かした。







初めにそれが聞こえたとき、空耳か何かかと疑った。

――フーゴ、フーゴッ!

やがて懐のカード――ハートのAと2――が、さわさわと動き出したとき、フーゴはようやく『彼』の意図するところに気づいて手近な建物に入り込んだ。
コロッセオを目前にしてのこの呼びかけに、フーゴは俄かに緊張する。何か、あったのだろうか。

――よう、ご苦労さん。ちょっとした連絡事項だ、手短に言うぜ。

懐から飛び出したハートのAが、ムーロロの声で告げる。なるほど、こんな使い方も出来たのかなどと悠長に感心している暇もなく、床の上でくるくると壊れたオルゴールのように踊りながらAが告げる。

――コロッセオに目的の人間はいねぇ。
――正しくは『移動しちまった』だ。
――ああ、待て待て逸るなよ。ちょっと落ち着け。
――どうにも様子がおかしいんだ。迂闊に追いかけるのはお勧めしねえ。
――あン? 何が起こってるのか、だって?
――……さてな。ひとつだけ言えるのは、そいつの行き先にゃちょっと想像もつかない化け物がいるってことだけさ。
――人間の形こそしてるが、ありゃあオレの理解できる範疇の人間じゃあねえ。
――どうするかは……おめぇに任せる。オレが決めるにゃ荷が勝ちすぎる。

そこまで伝えると、Aはマリオネットのように不自然にひょこひょこ跳ねながら『……E−7、北西部。コンテナ』と呟いてパタリと倒れ伏した。
少し待っても動かないところを見るに、伝えるべきことは伝え終わったということだろう。
カードを拾い上げ、フーゴは呟く。
333人生を賭けるに値するのは ◆Rf2WXK36Ow :2012/03/17(土) 22:14:40.24 ID:ySGSXc+I
「化け物、か」

ムーロロがそう評するなら、それはきっと掛け値なしにそう見える何者かなのだろう。だが、化け物とはまた随分と抽象的な言い回しだった。
そして何より、このタイミングでの連絡。

(すぐに進路変更を告げられないほどの何かが起こった?)

フーゴの問いかけに、言葉に詰まったムーロロ。
言葉に詰まる、それは目的に直接関係する事態が発生したからではないのか。例えば、その人物の生死に関わってしまう、何か。化け物がいるという一言だけで、想像は容易だ。
儚い希望は潰えるかもしれない。それどころか、直接的な危機が待ち受けている可能性が跳ねあがった。
ムーロロは、フーゴ自身をも切るべき手札として利用している。おそらくその認識は間違っていないだろう。

(だとしても、構いやしない)

持ちつ持たれつ、お互い様と言えばお互い様。
そして、ムーロロはこの賭けから降りた。示された札、そのどちらに賭けるかはフーゴに委ねられたのだ。
賭けるのは己の生命。当たれば希望になるかもしれない、外れれば十中八九、死。ハイリスクローリターン、酷く分の悪い酔狂な賭け。
船に乗れなかった頃の自身なら、とてもじゃないが選ぶことなどできやしない。脆弱な本心を隠すように、小賢しく先を読んだつもりになって静観を選び、挙句ぐずぐずと悩むのが関の山だったろう。
けれど、”彼”の手を取ることの出来た今なら。フーゴの心は既に決まっていた。

「そこに居るなら、行くだけだ」

たとえそれが更なる苦難に満ちた道への幕開けだったとしても、星の瞬きのようにささやかな希望に過ぎなかったとしても、それでも。
闇雲に怯え、悪戯に踏み止まり、時が経つに任せるまま停滞することがあってはならない。”ジョジョ”の示した気高い精神を裏切るような行為は出来ない。
”ジョジョ”の遺してくれた言葉を噛み締めるように思い起こしながら、フーゴは再び夜の町並みに身を投じた。

334人生を賭けるに値するのは 状態表 ◆Rf2WXK36Ow :2012/03/17(土) 22:15:24.32 ID:ySGSXc+I
【F−6 コロッセオ周辺・1日目 黎明】
【キャラクター名】パンナコッタ・フーゴ
[スタンド]:『パーブル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点。
[状態]:健康
[装備]: DIOの投げナイフ1本
[道具]:基本支給品一式、DIOの投げナイフ半ダース(デイパック内に5本)、地下地図、『オール・アロング・ウォッチタワー』 の、ハートのAとハートの2
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
1.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集める。
2.E−7北西方面にいるという、"死んだはずのジョジョの味方"と接触。
3.化け物なんて随分と大げさだが……気をつけよう。一体何がいるのか。


【D−5 トレビの泉・1日目 黎明】
【キャラクター名】カンノーロ・ムーロロ
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降。
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ムーロロのカード一式@『恥知らずのパーブルヘイズ』、ココ・ジャンボ@Parte5 黄金の風
[思考・状況]
基本行動方針:状況を見極め、自分が有利になるよう動く。
1.ココ・ジャンボに潜んで、情報収集を続ける。
2.今のところ直接の危険は無いようだが、この場は化け物だらけで油断出来ない。
[備考]
 ムーロロはメイン参加者のパッショーネメンバーについて"情報"は持っていますが、暗殺チーム以外では殆ど直接の面識はありません。
 スタンドで監視できている人物の動向は、74話までの黎明時点に限っています。
 また、ムーロロはアバッキオとナランチャ以外の各人物を姿かたちで認識しています(名前は認識していませんが、判り辛いために入れてあります)

 北……カーズ、バオー化育郎(どちらを捕捉しているか、両方捕捉しているかは今後の書き手様にお任せします)
 東……学校の戦いを遠巻きに見ていました(アヴドゥル、ビットリオは捕捉されていません)
 西……イギー(移動中の姿を見かけただけです)
 南西……仗助、リンゴォ(二人のやり取りを見ています)
 西南西……花京院、由花子(二人のやり取りと歩いている姿を捕捉しています)
 東南東……ラバーソール、しのぶ、承太郎(ラバーソールは見失いました、承太郎としのぶは捕捉しています)
 南東……ジョナサン、エシディシ、露伴、早人、アバッキオ、ナランチャ、千帆(早人と千帆は見失いました、アバッキオに関しての『理解』は放棄しており、フーゴの結論待ちです)

 キャラクターの捕捉状況について、上記されていること以外は今後の書き手様にお任せします。(新しく捕捉されるキャラクターの追加、会話を聞いていた等の追加)
 捕捉されているキャラクターに関しては、ある程度の距離を保ってカードが見ているだけなので、対象キャラクターが気づく可能性は低いはずです。また、いつ見失うかも今後の書き手様にお任せします。
335 ◆Rf2WXK36Ow :2012/03/17(土) 22:31:51.94 ID:ySGSXc+I
以上で投下完了です
タイトルは某名言を部分的に借りてきました
誤字脱字や矛盾、したらばでも確認させて頂きましたが内容の可否などございましたらご指摘をお願いします
336 ◆vvatO30wn. :2012/03/18(日) 04:33:49.45 ID:1zVy3jeI
書き終わりました……
が、眠さが限界です。
あと、推敲もろくに出来てないです。
分量も半端ないので、今すぐ投下というのはできそうもありません。
出かける予定があるので、締切の1時までに投下することは無理そうです。
申し訳ありませんが、夜まで待っていただけないでしょうか?
支援も多分必要になると思うので、投下できそうな時間がわかればまた連絡します。
申し訳ありません。
337創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 07:55:35.70 ID:iRZcGFFZ
いいんじゃないですか
少なくとも自分は「許可する」ッ!
時間帯が合えば支援もしたいところ
楽しみです
338創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 22:27:17.88 ID:X/oNZ254
したらばで投下予告あり
23時頃とのこと
339 ◆vvatO30wn. :2012/03/18(日) 23:05:57.02 ID:1zVy3jeI
遅くなりました。
投下を開始します。
340 ◆vvatO30wn. :2012/03/18(日) 23:08:04.18 ID:1zVy3jeI
【Scene.1 いっぱい食わされた】
am1:08 〜ドレス研究所〜


「くそったれェェ〜〜! あのクソガキッ!」

何が『次であったときは協力しよう』だ、ふざけやがって………
俺に視力が戻った時、あのガキの姿はもうどこにもなかった。
しかし、頭のいい子供だった。
俺か奴のどちらかがイカれてなかったとすると、奴は未来から来た人間ということになる。
いや、この超未来的ともいえる研究施設を見るに、『俺の方が未来に飛ばされた』と考えたほうが妥当かもしれねえ。

そして、あのガキは気になることを言ってやがった。
『23代目はベンジャミン・ハリソンだった』だと?
俺はヴァレンタインの前の大統領ですら3人くらいしかわからねえ。
他国の大統領を全員暗記してやがるのか? 暇な奴だ。
日本人ってのはみんなあんな感じなのか?
俺自身、日本人とはノリスケ・ヒガシカタとかいうふざけた男としか出会ったことはない。
いや、重要なのはそこじゃあない。
問題は、俺の世界とあのガキの世界、そしてこのゲームの世界が『別の世界』かもしれないということだ。
あの大統領の能力、ジョニィから聞いた話よりずっと強大なものなのかもしれない。
むしろ、ヴァレンタイン大統領よりも強力な誰かが後ろにいるのか?

いや、まさかそんな……




とにかく、この研究施設には興味深い物が多過ぎる。
未来の医療技術が、ここには山のように存在する。
死刑執行人ではなく、医学に携わる者としてジャイロ・ツェペリの好奇心を駆り立てる。
過去に救えなかった命が多くあるからこそ、ジャイロはこの研究施設に興味がわいた。
ジョニィのことも探さなければならないのに、こんなところで油を売っていていいものか。
しかしジャイロは抗えなかった。


よし…… とりあえずは、

「メシにするか」

ジャイロは腹が減っていた。
スティール・ボール・ラン・レースが始まって数ヶ月、ジャイロはろくな物を食べてきていなかったからである。
そして目の前には、最高級の故郷・ネアポリス料理のフルコース。
自分の時代のものとは味付けは違う、いや、自分の知っている故郷の味よりも確実に美味い。

ジャイロは食欲にも抗えなかった。
そしてその後は、研究施設の医薬品を調査、医療道具を持ち出し、医療技術の知識を得る。
この間に地下の鍾乳洞から研究所に上り、早々に研究所を後にしたジョージ・ジョースター1世、サンダー・マックイイーン、アイリン・ラポーナの存在にも気がつかなかった。

結局ジャイロがドレス研究所をあとにしたのは、午前4時を回った頃であった。

341創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:14:55.10 ID:X/oNZ254
支援
342創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:16:02.18 ID:1eu2jj/g
紫煙
343 ◆vvatO30wn. :2012/03/18(日) 23:16:36.68 ID:1zVy3jeI
【Scene.2 ワムウ到着】
am1:12 〜サンモリッツ廃ホテル前〜


「フゥム…… まさかとは思ったがな」

ワムウはローマ郊外にそびえ立つ巨大な建物に辿りついた。
この佇まい。ホテルというよりは城か砦のように強靭である。
それもそのはず。このホテルはもともと城として建てられ、ヘルマン・ゲスラーとかいう権力者が建てた別荘兼要塞とも伝えられているようだ。
窓という窓がすべて閉鎖されており、我ら柱の男や吸血鬼が日中隠れ住むのには適した施設といえる。
そして、ワムウはこの建物を前から知っていた。

スイス・サンモリッツには、ここ以外にも「廃ホテル」くらい存在するだろう。
ワムウ自身、地図上で名前を見た時点では半信半疑であった。
だが、実物を目の前にして、確信した。
そして主催者側の、かつてない強大さを理解した。

「この建物は、カーズ様が隠れ家に選んだ『あのホテル』だ。まちがいない」

カーズがここを居城と選んだのは、雪の積もる真冬のスイスであった。
だがワムウは、広大な砂漠の中を歩いてこの場所にたどり着いたばかりなのである。
そして周りに広がるのはローマの街並みなのだ。
立地条件や気候環境は大きく異なる… にもかかわらずだ。

つまりこれは、この会場自体が主催者の作り出した物だということ。
こんな芸当は、石仮面を生み出した柱の男にも容易くできることではない。
このゲームの主催者は、ワムウたちには無い… ワムウたちの知らない、何か秘密があるとしか考えられない。

344創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:17:30.53 ID:X/oNZ254
支援支援
345 ◆vvatO30wn. :2012/03/18(日) 23:17:39.43 ID:1zVy3jeI

そして、『手段』以上に『理由』も気にかかった。

もし……ゲーム主催者に、『自由に地形を改変するチカラ』があったとして。
重要なのは、なぜこの『サンモリッツ廃ホテル』を会場内に設置したか。

答えは、簡単に推測できた。
見せしめとされた1人がジョセフ・ジョースターであり、会場内には『ジョースター邸』という施設も存在する。
エシディシがJOJOに敗北した『エア・サプレーナ島』も存在する。
このことから、この会場内の施設は、ゲーム参加者にゆかりのある施設が選ばれているのだと想像できる。(ワムウはJOJOの家庭については知らないが。)
このホテルの場合は、『ワムウ』と『カーズ』だ。



主催者は、カーズがこのホテルを隠れ家としていることまで知っている。
そして、カーズまでもがこのゲームに参加させられている可能性がある。
もしカーズがこの場にいるとすれば、どのように行動するだろうか。
ワムウの目的はあくまでJOJOの誇りを怪我した主催者を殺すこと。
そして、カーズがこの考えに賛同してくれることはありえない。

「……カーズ様と出会うわけにはいかないかもしれんな」

次の朝には参加者全員の名簿が配布されるのだという。
それまでは、考えても仕方の無いことだった。
杞憂に終わればいいのだが……



ワムウはホテルの外壁に両掌を添えて、内部の様子を探る。
カーズも得意とする、温度差による探知だ。

(ホテル2階……… 3人の人間が立っている。
ホテル3階、別の部屋にはさらに1人………)

巨大な建物なので正確さはないが、気配の数は少ないので大体はわかる。
照明器具の熱は無視、人間の気配を探る。

(全部で4名、全員男!)



迅速に情報を得たいものだった。
会場内にワムウやカーズに縁のある施設は3箇所。
『コロッセオ』、『古代環状列石』、そして『サンモリッツ廃ホテル』。
カーズとの合流を避けるためには、ここに長くとどまるわけにはいかないかもしれない。

ワムウは本の数時間前にシーザーを葬ったホテルのエントランスへ、再び足を踏み入れた。




346創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:19:17.02 ID:X/oNZ254
支援
347 ◆vvatO30wn. :2012/03/18(日) 23:20:20.15 ID:1zVy3jeI
【Scene.3 追跡者J・ガイル】
am1:24 〜サンモリッツ廃ホテル周辺〜


(何者なんだ? あの馬鹿でかい男は………)


バイクを隠し、周辺の街道の陰で様子を伺っていたJ・ガイルは、ホテルに到着したワムウの行動を一部始終観察していた。
DIO様に負けず劣らずの巨大な身体、鍛え抜かれた肉体。
粗野で堕落した人生を送っているJ・ガイルには到底かなわない怪物の姿がそこにあった。
あんな化け物がいるなんて聞いていない。
さっとと逃げてしまうか?
J・ガイルはとっさにそう考え、しかし落ち着いて状況を整理し始める。

J・ガイルはすでに女性を1人強姦し、殺害している。
承太郎が死亡したことも重なり、少しハイになっていた。このゲームに乗り気だった。
だがワムウのような怪物を目の当たりにし、冷静さを取り戻す。
自分はあの男と戦って、勝てるだろうか。
もちろんやってみなければわからないが、負ければ死。その時点でJ・ガイルの愉しい人生は終わってしまう。

逃げてしまうことも、今ならば簡単だ。
だが、あの男以外にも強敵はいるかもしれない。
それにこの殺し合いゲームが続く限り、いつかはあの男とも戦わなければならないかもしれない。

ならば、あの男を仲間に引き入れることはできないだろうか。
もし、仮に。あの男に取り入ることができれば、このゲームで生き残る可能性は高まる。
ホテルに入っていく姿に殺気は感じられたが、同時に怒りの感情が大きく感じられた。
これが『無理やり殺し合いに参加させられた事』への怒りだとすれば、危険な人物かもしれないが……
もし、『空条承太郎ら見せしめ3人の誰かが殺された事』に対する怒りだったとすれば。
『承太郎の死に怒りを覚えるようなお人好し』だったとすれば。
取り入ることができる可能性は非常に高い。

ハイリスク……だが、勝ち目が薄い賭けではない。
そして、勝ったときのリターンは限りなく大きい。



J・ガイルはまず、ワムウの人柄を知らなければならない。
ワムウが別の誰かと接触した時の反応を見て、様子を見るのだ。

J・ガイルは支給品の地図と、空条ホリィのデイパックから得た『地下の地図』を見比べる。
この廃ホテルは、『カーズのアジト』とかいう地下施設へと通じている。
ここで陽が昇るまで待っていても、ワムウが地下へ迎えば、どこへ行ってしまうかわからない。追跡は不可能となる。
追うなら今だ。この時間、『吊られた男』は、やはりまだ出せない。
生身でやるしかない。

追跡開始だ。
覚悟を決めたJ・ガイルは、ワムウとは距離を置いてホテル内部に侵入した。


348創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:27:35.89 ID:X/oNZ254
支援
349 ◆vvatO30wn. :2012/03/18(日) 23:27:56.34 ID:1zVy3jeI

【Scene.5 スティーリー・ダンの思惑】
am1:28 〜サンモリッツ廃ホテル2階 202号室〜


「ナルホド…… ソノ『波紋』というのハ、『スタンド』のような『能力』デハなく、一種の『技術』なのデスね」

トニオが納得したように、大きく頷いている。
一方のダンは、トニオ以上によい表情を浮かべ、思案する。

(波紋……… 『太陽のエネルギー』。直接話題に上がったわけではないが、どう考えても対吸血鬼用の技じゃねえか。
つまりこれは、DIO様に対する反撃の一手となるのではないのか?)

ダンにとってもっとも警戒すべきは、DIOがこのゲームに参加している可能性だった。
自分が参加させられ、空条承太郎が見せしめだった。同じスタンド使いであるDIOも参加させられている可能性はゼロではない。
すでに空条承太郎が死んだとはいえ、もしDIOが敵に回ったとすれば、ダンに勝ち目はないだろうと思っていた。
だが、このツェペリ。『太陽のエネルギー』を操るこの男と仲間になれたのは幸運だった。
そして何より、この男もなかなかのお人好しで利用しやすいと考えられた(とニオほどではないが)。


「ふ〜む。その『スタンド』ってのが何なのかはよくわからんが、だいたいそんな感じじゃのう。
だから、この水面の揺れで気配を探れるのじゃがのう?」

波紋によって何者かの気配を感じたツェペリ一行は、隣の203号室から室内扉を通じてこの部屋に入ってきた。
だが、室内にあった人の気配は忽然と消え、影も形もない。
ただ持ち主のないデイパックだけが放置されていたのだ。


「確かなんですか? ツェペリさん。この部屋の人がいたというのは?」
「う〜ん、そのハズなんじゃがのぉ?」
「荷物がアルということは、誰かいたのは確かでショウ。何故いなくなってしまってンでショウカ?」
「だったら、逃げたんだろうぜ? 相手は一人、俺たちは三人だ。警戒するのは仕方がないぜ」
「ならば、遠ざかっていくのが波紋で感じられるはずなんじゃ。それに、荷物だけ置いていってしまうのは妙じゃのう?」
350創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:28:38.64 ID:eAmN7U3+
しえん
351創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:28:54.45 ID:X/oNZ254
支援
352 ◆vvatO30wn. :2012/03/18(日) 23:30:33.11 ID:1zVy3jeI

3人は議論を交わすが、なかなか結論は出ない。
そんななか、トニオひとつの説を唱える。

「もしかしたら『スタンド能力』かも…… もし『自分自身のみを瞬間移動させる能力』なのだとシタラ、荷物だけ残っていてモ、おかしくナイかもしれないデスね」

その可能性は、十分に考えられる。
それどころか、トニオとは比べられないほどのスタンドバトルの場数を踏んでいるダンには、真っ先にその可能性は考えついていた。
だが、ダンはあえて黙っていた。そしてこの話の流れは、ダンにとって都合のいいものではなかった。

「ふむ、トニオくん。さっきから言っているその『スタンド』と言うのは、一体なんなのだね?」

そう、こういう流れになるからだ。
ツェペリがこの質問を出してしまうと、トニオはスタンドについて説明を始めてしまう。
そして、自分はどうなのだ、という話になってしまう。
自分のスタンドを見せてみろ。そうなってしまうのが、ダンには最も恐ろしかった。
ダンの能力『ラバーズ』は、型にハマれば『最凶』だが、バレてしまえば『最弱』のスタンド能力なのである。
スタンド能力どころか、自分がスタンド使いであることすら隠していたい。
ジョースター一向を襲撃した際、わざわざドネル・ケバブ屋の男に変装までしたのもそのためだ。

「ああ、ツェペリサンはスタンド使いではナイのですネ。『スタンド』と言うのは……」
「っそんな事より! 今はそのデイパックの持ち主を探す方が先だろ? まだ近くにいるかもしれねえじゃあねえかッ!?」

ツェペリの波紋の説明を聞いたが、だからと言ってスタンドの説明をしてやる義理はない。
なにより『ラバーズ』は今、ツェペリの脳に侵入している。
『ラバーズ』は瞬間移動できるタイプのスタンドではない。
このことがバレたら、ツェペリとの同盟関係もお終いとなってしまうのだ。

ダンはなんとか話題を変えようとした。
だがそんなダンの言葉を、今度はツェペリ自身が制した。

「いや。持ち主の搜索も、『スタンド』とやらの講習も、後回しじゃな………」

そう言って、ツェペリは廊下側の扉を見据えていた。
ティーカップの水面が不規則に揺れている。誰かがこの部屋に来る。


「このデイパックの持ち主でしょうか? これを取り戻そうと帰ってきたのかも……」
「ああ、そうかもしれん。じゃが、『そうでない』かもしれんのォ――」

部屋の扉が勢いよく開かれた。




353創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:31:47.40 ID:X/oNZ254
支援
354 ◆vvatO30wn. :2012/03/18(日) 23:33:48.70 ID:1zVy3jeI
すみません scene4を飛ばしてましたね。

--------


【Scene.4 音石明のステージ】
am1:30 〜サンモリッツ廃ホテル3階 305号室〜

新たに2人、誰かがこの建物に入ってきた。
1人目は筋肉隆々、古代の民族衣装をまとった大男。

(何者かは不明。だが、油断ならない男だ。歴戦の戦士の風格がある。
ホテル内を我が物顔でズンズンと歩いていく。
このままだと2階の4人にぶち当たるな………)

もう1人は、一言で言うなら、不気味な男だ。

(カッコいいこの俺様とは違い、醜い男だ。
じっと観察して違和感の正体に気がついた。
あの男は両腕が『右手』だった。
フン、気の毒な体だな。TVゲームもろくに出来ないだろう。同情するぜ。
前の男を尾行しているようだ。
何を考えているのか、狙いはイマイチわからねえな。)


『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の能力により、電灯を通して建物中に広げられた電線からホテル内の情報は手に取るようにわかる。
新たに建物内に入ってきたワムウとJ・ガイルのことも、手に取るように把握していた。



(やれやれだ。ここまで人が集まるとは計算外だな。だが、こいつはチャンスかもしれねえ。
奴らのデイパックは全部で6つ。皆殺しにすれば全部手に入る。)


今はまだ、様子見。だが、音石明はすでに臨戦態勢だった。
ワムウとJ・ガイル。そしてツェペリ一行は、これからどう動くだろうか。




355創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:36:03.13 ID:X/oNZ254
支援
356 ◆vvatO30wn. :2012/03/18(日) 23:37:17.52 ID:1zVy3jeI
【Scene.6 ワムウ来訪、そして】
am1:31 〜サンモリッツ廃ホテル2階 202号室〜


扉から現れた大男は、ツェペリたち3人を無言で品定めしている。
ツェペリたち3人も同様に、無言で謎の来訪者の出で立ちを観察する。

ワムウにとって、この3人の人間は価値のある存在なのかどうか?
自分やカーズにとって不利益な人間ではないか?
そして、今目の前にいる自分と敵対する存在なのかどうかということだ。

一方のツェペリたちにとっては、ワムウが自分のデイパックを所持していることから、先ほど見つけた所有者不明のデイパックの持ち主ではないことは推測できている。
だとすれば、次に問題になるのはワムウが敵か味方か、ということだった。
もしゲームに乗っているものだとすれば、今ここで戦わなければならないかもしれない。

両者の間に緊張が流れる。
最初に口火を切ったのはツェペリだった。

「……あ〜、キミ。初めに言っておきたいのだが、わしらに戦いの意思はない。
3人とも今しがた知り合ったばかりなんじゃが、このふざけたゲームを破壊するために力を合わせようと手を取り合ったのじゃ……」

ほかの二人を手で制し、ツェペリはワムウに一歩近寄る。
ワムウは静寂を保ったまま、ツェペリの瞳を見つめ返している。
見た目は古代ローマの剣闘士のような出で立ちではあるが、見た目に反して彼は争う意思はないのかもしれない。
ツェペリはそう判断し、さらに一歩踏み込む。

「……どうだ? よければ君も、わしらの仲間に加わらんか?」

勧誘の言葉を投げかける。
ワムウの表情にわずかな変化が生まれた。
威圧感を放つ自分を目の前にして大した根性だとワムウは感心したのだが、しかし相手はあくまで人間なのである。
JOJOやシーザーのような一部の人間を認めては来たものの、人間の仲間になるという考えを持ったことは一度としてない。
ここで人間なんぞと対等な関係を持っていいものか、ワムウは考えあぐねている。
一方のダンは、自分たちと出会ってから一言も言葉を発しないワムウに対し、言葉が通じていないのではないかという心配をし始める。
が……

「………ところで、隣の部屋にいる『彼』も… 君の仲間かね?」
「――! ほう…… 貴様も『奴』の気配に気づいていたかッ!」

切り口を変えたツェペリの言葉に対し、ワムウは初めて口を開く。
ワムウがこのホテルにたどり着いてからというもの、何者かが後をつけてきていたのだ。
その何者かはそれなりの場数を踏んでいるらしいが、いかんせん自分とは経験も場数も違う。
しかしそれでも、素人に発見されるほどのナマクラでもない。
面倒なので放っておいたのだが、この初老の男の力量を図るのに役に立ってくれた。

「フン、いいだろう。おれの目的もこのゲームの主催者を殺すことにある。とりあえずは合格ということにしてやろう。
仲間になるメリットがあればなってやってもいいぞ、人間どもよ」
357創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:39:02.84 ID:X/oNZ254
ワンシーンごとに衝動的に感想つけたくなってくるわ…www
支援支援
358 ◆vvatO30wn. :2012/03/18(日) 23:40:31.57 ID:1zVy3jeI

このゲームが現実世界と同じように時間が流れるならば、当然朝になったら太陽が昇るだろう。
自分は身動きが取れなくなってしまう。
ゲームが3日間という短い時間でしか行われないというのならば、日中自分の手足になる存在は大いに価値がある。
ワムウはそう結論付けたのだ。

「ワタシの名前はトニオ・トラサルディーといいマス。ヨロシクオネガイシマス」
「……スティーリー・ダンだ」
「私はツェペリ男爵だ。フルネームはウィル・アントニオ・ツェペリ」
「………。ワムウだ」

4人は軽い自己紹介を交わす。
トニオはただ純粋に仲間が増えたことを喜び、ダンはワムウの高圧的な態度に不満を持ちつつも敵対しないで済んだことに安堵していた。
そしてツェペリは、ワムウの『人間ども』という言い回しに、そして自分が『ツェペリ』と名乗った時のワムウの表情の変化に違和感を感じていた。
だが、それをワムウに問い詰める前にやっておかねばならないことがある。

「………隣の部屋にいるキミ! 話は聞いていたじゃろう? わしらに戦いの意思はない!
よければ出てきてくれんかの?」

ワムウを追跡していたという人物を呼び出すことだ。
今度の気配は気のせいではない。ワムウのお墨付きでもある。
ワムウを追ってこの建物に来たということは、今の会話も聞いていたはずだ。
何者かはわからんが、放置はできない。
もしかしたら、脅えて震えている善良な人間かもしれないのだ。


声をかけてから数十秒後、隣室と通じている扉が静かに開かれた。

「……J・ガイルだ」

隣室から現れたJ・ガイルは愛想笑いをしながら両手を挙げ、4人のいる客室に入ってくる。
お世辞にも美しいとは言えない、いや、美しさとは程遠い容姿。
どう見てもチンピラかヤクザにしか見えぬ外見。
4人の男たちは四者四様の複雑な面持ちで、そんな彼の掲げられた『両右手』に注目していた。

(クソッ! 尾行がバレてたのも計算外だが、こんなに早く大勢の人間の前に姿を現すことになるとはッ!)

J・ガイルのスタンドは典型的な遠距離攻撃タイプ。暗殺に適したその能力の最大の弱点は本体を攻撃されることだった。
ワムウひとりと仲間になるつもりだったのに、ワムウが先にこんなにも仲間を作ってしまうとは思ってもみなかった。

(こうなったら俺のスタンド能力の秘密だけは、死ぬ気で隠していかねえとな……)

優勝するには、いつかは必ず仲間の寝首を掻く時がやってくる。
それまでは、切り札を残しておかなくてはならないのだ。




359創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:41:24.98 ID:X/oNZ254
支援
360創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:42:33.16 ID:eAmN7U3+
支援!
361 ◆vvatO30wn. :2012/03/18(日) 23:44:14.07 ID:1zVy3jeI
【Scene.7 ワムウVS音石明】
am1:45 〜サンモリッツ廃ホテル2階 202号室 3階 305号室〜


「ふむ、J・ガイルくん。君も違ったようじゃのう。はて、このデイパックの持ち主は一体どこへ行ってしまったんじゃろう?」

J・ガイルも自分のデイパックを背負っていた。
またしても違う。この広い会場の中、このホテルだけでも既に5人の人間が遭遇しているというのに、一向に元の持ち主がわからない。
この部屋に来たばかりで事情を把握しきれていないJ・ガイルがそのことに質問を投げかけ、ツェペリはワムウを含めた二人に説明を始めた。
そしてツェペリたち3人のこれまでの経緯を一通り話し終えた頃、ワムウが再び口を開く。

「なるほどな…… ならひとつ面白いことを教えてやろう。おれがこのホテルに入る前、このホテルには人間の気配が『もう一人』いたぞ!
そして、今もまだなッ!?」

(何ッ!?)


「本当か? ワムウくん!?」

「もっともその『誰かさん』がデイパックの持ち主であるかはわからんがな。
そして方法はわからないが、このホテルに入って来てからずっと『見られて』いる。
そこのJ・ガイル以上にもっと執拗にな。おれもそろそろ… うっとおしくなってきたところだ」

ワムウが『レッド・ホット・チリペッパー』を介しての音石明の視線に気がついた事に、論理的な理屈は存在しない。
ツェペリよりもさらに鍛え抜かれた戦士としての勘は、ワムウにとっては波紋をも超える高性能のレーダーだった。

「それで、その『誰か』はどこに!?」
「フン、こそこそ隠れて気に喰わん奴だ。おれが直々に出向いて引きずり出してやろうッ!?」

次の瞬間ワムウは宙に飛び上がり、石造りの堅牢な一室のその天井をサガットのタイガーアッパーカットさながらの一撃で吹き飛ばし、上の階に辿りついた。
そして――――――

「風の流法(モード)…… 『神砂嵐』ッ!!」
362創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:46:12.74 ID:X/oNZ254
支援
363 ◆vvatO30wn. :2012/03/18(日) 23:47:55.86 ID:1zVy3jeI

左肘を関節ごと右回転! 右腕を肘の関節ごと左回転!
そのふたつの拳の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間が、ホテルを仕切る大理石の内壁を溶かされたガラス細工のように捻り飛ばす。
微妙な力加減によって制御された歯車的砂嵐の小宇宙は、音石明の305号室とワムウの立つ302号室の間の『壁3枚だけ』をきれいに消し飛ばす。
壁が崩落し一繋がりになった4つの客室の両端で、ワムウと音石明は向かい合う。

「なんだ、フン! まだケツの青い小僧だったかッ――ッ!」
(何だッ! なんなんだこの化け物はッ!?)

ワムウに睨まれ、音石明は恐怖している。
姿を確認した時からただ者ではないと予想していたが、この圧倒的破壊パワーは音石の想像を遥かに超えている。
パワーでは明らかに承太郎以上。正面にやって敵う相手ではない。

階下で見上げるダンとJ・ガイルも同様である。
彼らからも、ワムウのスタンドを見ることは出来なかった。
これを生身でやってのけたのである。
J・ガイルが彼に目をつけたのは、この上なく正解だったのかもしれない。
二人はワムウが自分の敵に回らなかった幸運に安堵していた。

「ニヤリ…… その金色に光る亜人の姿が視線の正体か? だがこのワムウを前にして、まだそいつをチラつかせている余裕はあるのかな?」

ポリポリと頭を掻きながら、ワムウは音石に歩み寄る。
ワムウは音石を捕まえるだけのつもりであったが、その圧倒的威圧感に音石は思わず戦闘態勢を取る。
電線を通じて手元に戻した『チリペッパー』のヴィジョンに建物中の電力を集中させる。

「フフハハハ 圧倒的な破壊を見せつけられてなお、このワムウと戦おうというのか!?
面白い! 受けて立とうッ!!」

音石はスタンド能力を身につけ、自分は特別な存在だと、最強になったのだと錯覚していた。
その気になれば、仗助だろうと承太郎だろうと勝てると。
その驕りを、ワムウのパワーを前にしても消しさることができなかった。
そんな音石に向かって、ワムウは笑いながら暴走機関車のように猛然と走り寄る。

「いかんッ! 待てワムウッ!! 殺してはならんぞッ!!」

364創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:48:54.87 ID:X/oNZ254
支援
365創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:51:30.17 ID:eAmN7U3+
支援
366 ◆vvatO30wn. :2012/03/18(日) 23:52:30.37 ID:1zVy3jeI


ツェペリが天井に開いた大穴から這い上がった時、ワムウは既に音石に向かって走り始めていた。
このままでは間違いなく、ワムウは音石を殺してしまう。

(いかんぞ少年ッ! その男とは戦ってはならんッ! 君にどんな能力があるのかはわからんが、その男の力だけは普通じゃあない。
そのワムウという男、彼はおそらく――――――)

ワムウを、ふたりを止めなければならない。
3階の客室に這い上がったツェペリは立ち上がる時間すら惜しく、そのままの体勢で飛び上がった。

「うおおおお!! 『チリペッパー』最大出力ッ!!」
「小僧がッ! くたばるがいいっ!!」
「やめんかああああああぁぁぁぁぁ!!!」

激突寸前のふたりの間にツェペリが割って入る。
うつぶせの体勢のまま飛来したツェペリは、ふたりに対し手刀を振りかざした。

(なっ!? 寝転んだままの姿勢! 関節のバネを使わずにこんな跳躍をッ!?
しかもこの手刀ッ! ツェペリ! やはりこいつはッ!?)

「ぐはッ!」

ツェペリの波紋を込めた手刀が音石の首筋に刺さる。
ワムウを攻撃することに全神経を注いでいた音石はツェペリの本体への攻撃を防ぐことができず、気絶して倒れた。

一方でワムウは、全力で飛び退いてツェペリの手刀を回避していた。
ワムウほどの格闘の天才ならば、「ガードして止める」ことも余裕でできたはずなのに。
ワムウは始めからツェペリたちに対し『人間』という言葉を頻繁に使っている。
まるで自分が『人間ではない何か』であるように……

そして石造りの天井と壁をいともたやすく破壊したパワー。
どんなにきたえても、『人間』には到底不可能な芸当だった。
極めつけは、先ほどのツェペリの攻撃に対してみせた、『波紋』への警戒心。

ツェペリの中で、疑念が確信に変わった。

「ワムウくん…… お主は…………」
「やはり貴様、シーザー・ツェペリの関係者か――――?」


367創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:53:34.48 ID:X/oNZ254
支援
368 ◆vvatO30wn. :2012/03/18(日) 23:56:29.34 ID:1zVy3jeI
【Scene.8 interlude】
am2:59 〜サンモリッツ廃ホテル1階 大階段前ロビー〜


「む…… ここは?」
「おお、目を覚ましたかね!」

音石が意識を取り戻したのは、ワムウと激突寸前になった1時間ほど後のことだった。
ワムウをツェペリが説得、気絶した音石明をトニオが介抱し、一行はホテル1階の大階段前のロビーに場所を移していた。
ここはかつて、現世でワムウがシーザーを葬り去った場所でもある。
ここならば新たにホテルに誰かが来たとき、すぐに対応することができるからだった。

この場所に移動してからは、様々な情報交換がなされていた。



am2:07 〜サンモリッツ廃ホテル1階 大階段前ロビー〜


「ワムウくん。君は吸血鬼か?」

単刀直入に切り出したのはツェペリだった。
DIOという別の吸血鬼の存在を知っていたダンとJ・ガイルがこの言葉に息を飲み、トニオは1人困惑していた。
そして、ワムウはツェペリを笑い飛ばす。

「フフフ 吸血鬼のことを知っているかッ! 確かに人間から見れば共通する部分も多いが、おれはそうじゃあない。
吸血鬼は人間が石仮面を被ることで変態するが、おれは生まれながらに人間を超えた生命体だ」

カーズやエシディシの名前を出さぬように気を付け、ワムウは簡単に柱の男と呼ばれる生物の説明を行う。
何故、こんなにも容易く口を割ってしまったのか。
それも下等な生物と見下していた人間を相手に。

ワムウ自身にもよくわからなかった。
シーザーと同じ姓を持つこのツェペリという男に興味を持ったのかもしれない。
ワムウにしてみればほんの数時間前ジョセフ・ジョースターと戦い、戦士として自分よりも高みへと立った彼への敬意なのかもしれない。
369創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 23:57:08.77 ID:X/oNZ254
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370 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 00:00:21.03 ID:1zVy3jeI

一方のツェペリは複雑な面持ちだった。もしワムウが吸血鬼ならば、有無を言わさず倒してしまうつもりだった。
だが、ワムウはそうではない。
柱の男たちは吸血鬼のように太陽や波紋を嫌うが、人間の血を渇望したり自我を失ったりはしない。
むしろ大半の人間よりは利己的で理知的で、なにより強かった。
石仮面を作り出した種族の仲間だというが、『種族の罪』を『個人の罪』として問いたくはない。それではただの八つ当たりだ。
人間を軽視したり音石との戦いに挑んだりと好戦的な面も目立つが、それでも敵対する意思は(今のところ)ないという。
味方から失うにはあまりにも惜しく、そして敵とするにはあまりにも強大な存在だった。
好戦的なこの男を見張る必要も少なからずある。
敵対するのはまだ早い。

ワムウにとっても、ツェペリは今のところ敵対する相手ではなかった。
波紋の戦士を根絶やしにすることがカーズの目的だったが、ワムウの今の目的はJOJOの仇を打ち、誇りを取り戻すこと。
この人間たちとの同盟関係を結んだことも、シーザーと関わりのあるであろうこのツェペリの存在に興味を持ったことがほとんどである。
トニオ、ダン、J・ガイル、そして音石はついでに過ぎなかった。
今はまだ、仲間でいるメリットがある。だが名簿が配られて、参加者の中にカーズ様がいるのならば……
そしてツェペリがカーズ様にとっての障害になる人間だと判断したときは、ワムウは容易く同盟を破棄することも考えられるだろう。




次の質問も、ツェペリから投げかけられた。


「ワムウくん。君はわしのことを『シーザー・ツェペリの関係者』ではないかと聞いた。
たしかにわしの姓はツェペリじゃが、わしの親族にそんな人間はおらんぞ?」

この言葉には、逆にワムウが驚かされた。
ワムウはツェペリの年の頃からシーザーの父親ではないかと当たりをつけていた。
だがこのウィル・ツェペリの故郷に残してきた一人息子の名は『マリオ』なのだと言う。

仕方なくワムウはJOJOことジョセフ・ジョースターの名を出し、見せしめとして殺された彼の復讐が目的だということを告げる。
そしてそれに同調するように、ツェペリも別のJOJO、ジョナサン・ジョースターという男にちょうど会いにいくところだったという。
そしてそこにトニオが割って入る。
ジョセフ・ジョースターという人物を自分は知っていて、自分の友人(仗助)がそのジョセフの親族であるという。
ややこしい家系なのでジョセフと仗助が親子であることはあえて伏せたが、自分の知るジョセフは既に80歳近い老人であること。
そして見せしめで殺されてしまった白いコートを着た男性こそがジョセフの孫・空条承太郎だということを話す。

371創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:02:03.27 ID:X/oNZ254
支援
372 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 00:05:59.56 ID:ld53GJUe

3人の話が噛み合わない。
そして更に情報交換を交わされることによって、恐るべき事実が発覚した。
ツェペリとワムウ、そしてワムウとトニオの間には、それぞれ50年以上の時代の差があったのだ。
この時、5人は改めて主催者のありえない、そしてかつてなく強大な力を理解した。
推測でしかないがワムウと戦ったシーザーはウィル・ツェペリの孫。
ジョセフもおそらくジョナサンの孫で、ワムウと戦った後ジョセフはその後家庭を築き、トニオらと出会ったのだろう。


「そうか…… まだ見ぬわしの未来の孫の仇がお主になるということか………
なんとも、複雑な気分じゃのう………」

ツェペリのその言葉によって全員に緊張が走るが、ツェペリは今からワムウをどうこうするつもりはないようだった。
なぜシーザーとワムウが敵対するようになったのか、その詳しい経緯は聞いていない。
ツェペリがショックを受けたことは孫がワムウの手で殺されたことではなく、自分の呪われた運命が自分の子孫の命までをも奪ってしまっていたことだ。
妻や子を石仮面の呪縛から守るため、自分は家族を捨てた。
だが、未来の子孫たちはまだ波紋の修行をし、呪われた運命に立ち向かっていくのだというのだ。


情報交換のさなか、J・ガイルとダンはほとんど相槌を打つ程度しか物を話さず聞きに回っていたが、内心では様々な事実に驚愕していた。
J・ガイルにとっては、ワムウの目的を知れたことこそ一番の朗報だった。
最初に感じたワムウの怒りの感情は、やはり見せしめの3人を殺されたことによるものだった。
扱いづらい男ではあるが、ワムウを仲間にできたのはやはり幸運だった。

だが、あの承太郎の隣にいた若い男がジョセフ・ジョースターだということは驚いた。
そしてトニオという男の話だと、自分の時代の10年後も承太郎、ジョセフは健在だという。
DIOはどうなったのか、10年後自分は生きているのか?
えも言わぬ不安をJ・ガイルは感じていた。


スティーリー・ダンもJ・ガイルとほとんど同じだったが、ダンにはJ・ガイルには無いひとつの情報があった。
ダンもJ・ガイルもほとんど自分の情報を漏らさない。
このメンバーの中で仲間として溶け込むには、DIOという邪悪の手先だという背景は隠しておきたい。
この二人はお互いに顔も名前も能力も知らない間柄だった。だが、ダンの方はJ・ガイルの正体に気がついていた。
ダンの直接の上司はエンヤ婆と呼ばれる魔女だった。エンヤ婆の息子もスタンド使いであり、DIOの配下であるという。
そして、エンヤ婆もこのJ・ガイルと同じ『両右手』なのだ。

先ほどの初対面でこのJ・ガイルが話に聞いていたエンヤ婆の息子であることはすぐにわかった。
エンヤ婆は自分が始末したし、その息子もすでに死んでいるという話だったが、時代を越えて人間が集められているのだとすると合点がいく。
もちろんダンはまだこのことを誰にも話していない。だがダンはここで1つ、J・ガイルの弱みを握ったといってもいい。
ダンもJ・ガイルも、DIOの配下であったことは隠しておきたいのだ。


だが素性を話さないダンとJ・ガイルについて、ツェペリはある程度の警戒心を持っていた(トニオは何の疑いも持っていないが)。
仲間になるよう勧めたのはツェペリ自身であったが、この2人はトニオと違いカタギではない雰囲気があった。
それに、仮に2人が元々善人であったとしても、これは殺し合いゲーム。
いつ誰が妙な気を起こしてしまっても不思議ではないからだ。



ツェペリたちの話が終わったあと、最後にトニオが自分の素性を話す。
故郷に弟を残して家で同然で料理人になったこと、日本に住みたくさんの友人ができたこと。
トニオの話から得られる情報にこれといって役に立ちそうなものはなかった。
しかし、トニオのその明るい話し方と性格からかショックを受けていたツェペリの気分はいくらかマシになったようだ。
そしてトニオが一通り話し終えた頃、気絶していた音石明が目を覚ました。


373創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:06:38.57 ID:xdjHrVm8
支援
374創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:07:44.12 ID:dWWQzcp1
支援
375創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:08:30.04 ID:2AyuHntR
支援
376 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 00:11:33.82 ID:ld53GJUe
【Scene.9 スタンド講釈】
am3:12 〜サンモリッツ廃ホテル1階 大階段前ロビー〜


現在このロビーに集まっているのはツェペリ、トニオ、ダン、J・ガイル、音石明、ワムウの6人だ。

「………とまあ、大体こう言うわけじゃ。どうじゃ、わしらの仲間に入らんか?」

目を覚ました音石明に、ツェペリは自分たちの知る情報を要約して伝える。
ワムウやツェペリは気に入らない相手だったが、仲間入りを拒否できる空気ではない。
それに、殺し合いゲームもまだ序盤。
生き残るためには、ここで大勢の仲間を手に入れるのも悪くないかもしれない。
しばらく思案した後、音石は顎を上下させ了解の意を示す。

「そうか、それはよかった! ところで、君の名前を教えてくれんか?」
「……音石明だ」
「え―――? 音石サン?」

名前を名乗った音石の言葉に、トニオが反応を示した。

「どうかしたかね?トニオくん」
「イエ…… なんでもありません」

トニオは音石明と面識こそなかったが、その名前だけは聞いたことがあった。
あまり、良い評判ではない。
なんでも音石明は虹村億泰の兄の仇であり、スピードワゴン財団に逮捕された犯罪者だと聞いていた。
現在は刑務所に服役しているという話だったが、時代を越えて人間が集められたのならば、この音石はいつの音石だ?

罪を犯す前の音石なのか。
億泰の兄を殺した頃の音石なのか。
それとも罪を償った後の音石なのか。

とにかく、人の悪い評判をたやすく話すべきではない。
トニオは音石明のことをよく知らないのだから。



「ところで音石くん、君が目を覚ますのを待っていたのじゃ。君がワムウくんを迎え撃つときに見せた、あの『金色に光る鳥』のようなものは何だね?」

突然、ツェペリがそう切り出した。
その言葉を聞いて、トニオはすっかり忘れていた『スタンド』についての講釈をはじめる。
ワムウも『スタンド』という未知の能力に興味を持ち、耳を傾ける。

トニオは自らのスタンド『パール・ジャム』を出現させ、能力を説明し始めた。
音石も、既に見られてしまったのだから仕方がないと『レッド・ホット・チリペッパー』の姿を見せる。
音石の方は能力を細かく説明したりはしなかった。

この会話の流れに、ダンはひどく焦っていた。
自分がツェペリに仕向けた『ラバーズ』がバレてしまうかもしれない。
しかしダンは、何故ツェペリはスタンドが見えるのか、という疑問も感じていた。
スタンドを持たない当のツェペリ、ワムウも同じ疑問を持っていた。

377創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:12:39.67 ID:dWWQzcp1
支援
378創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:14:09.95 ID:WhfOj4+N
しえん
379 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 00:18:05.20 ID:ld53GJUe

「ふむ、何故わしらにもその『スタンド』が見えるんじゃろうか? このバトル・ロワイアルというゲームが関係しているのか……?
やはり、まだまだわからんことだらけじゃのう……?
ところでダンくん、J・ガイルくん、もしかして君らもスタンド使いなのかね?」

ついに来た、この質問。ダンは……

「………いえ、私は何も…… しかし私の目にも『何故か』そのスタンドは見えるようです」

嘘を吐く。
使い方の難しい『ラバーズ』の本体であるからこそ、スタンド使いであることは隠しておきたい。
その人物が「スタンド使い」であるかどうか、その判断に使う最適のリトマス試験紙は、スタンドが見えるかどうかということだった。
だが、ツェペリのような「非スタンド使い」にも何故かスタンドが見える。
そういうことならば、ダンは嘘を突き通すことが出来るかもしれない。
自分がスタンド使いであることをばらすことは御免だった。

「……俺はスタンド使いだ。能力は、まあ戦闘向きだと思ってもらってもいい。それ以上は話したくねェがな」

J・ガイルはダンとは違い、素直にスタンド使いであることを話す。
このあたりは、2人の性格と目的の違いが出た。

J・ガイルの目的はワムウに取り入ることだ。
無力な一般人であるとワムウに自己紹介すると、足手纏いだと切り捨てられる可能性もある。
実際、「戦闘向きのスタンド使い」であると話した時、ワムウは少し興味を持ったような笑を見せた。
ツェペリが「どんな能力なのか見せてくれ」とさらに追求をするが、J・ガイルはそれ以上はけして口を割らない。

スタンド使いにとって、スタンドが他人にバレることは不利でしかない。
そしてこのメンバーたちと仲間であり続けるために、自衛のため能力は黙っていたいと申し出た。
自分の能力について話したくない音石明も、J・ガイルの意見に同調する。
いかにも、もっともらしい理由。
そしてその半分以上は事実であった。



スタンドの講釈を一通り終え、ツェペリは次の議題を切り出した。

「ところで、この放置されていたデイパックについてなんじゃが……」



380創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:18:19.76 ID:xdjHrVm8
支援
381創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:19:33.58 ID:dWWQzcp1
支援
382 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 00:23:28.21 ID:ld53GJUe
【Scene.10 役者が揃って……】
am3:26 〜サンモリッツ廃ホテル1階 大階段前ロビー〜


(なんだ、こいつらまだ気がついていないのか………)

目を覚ました音石が5人の人間の顔を見比べた時、初めにそう思った。
この短時間で参加者間の時代の差に気がついた人間は少ないだろう。
なるほど、こいつらの持つ情報と推察力、戦闘力はなかなかのものだろうが、どこか抜けている。

ツェペリは202号室に放置されていたデイパックの持ち主を、いまだに探していた。
気絶していた音石明も自分のデイパックを所持していた。結局彼も持ち主ではなかった。

だがこの音石は、このデイパックの持ち主が誰なのか知っていた。
そしてその持ち主が、今どこにいるのかも。

『スタンド』で全てを見ていたからだ。
だが、直接彼らにそのことを話すことはない。スタンド能力の秘密はできるだけ隠しておきたい。
だいたい持ち主を探しているのならば、なぜデイパックの中身を確認しないのだ。

「………ツェペリさん。持ち主のことがわかるかもしれません。とりあえず、デイパックの中身を検めてみませんか?」
「ふむ、確かにそうじゃのう」

音石にそれとなく促され、持ち主不明のデイパックの中を調べてみることにした。
ツェペリは、開いたデイパックの中から開封されていない支給品の紙を3枚見つけた。

「ふむ、この持ち主の彼は支給品3つのようじゃな。持ち主不在で勝手に開けるのは忍びないが、ひとつ開けさせてもらおうか。」

ツェペリは1枚の紙を取り出し、開いてみる。
中から飛び出したのは――――――

「ふむ、拳銃じゃな」

(な……なに?)

「わしなんかティーカップセットだけじゃったのにな。まともな武器が配布されることもあるんじゃあないか」

(拳銃…… こんどこそ本物の拳銃じゃあねえか………)

「しかし、こんな武器が支給品だったとしたら、荷物を置いて逃げるのは余計におかしな話じゃなァ」
「ツェ…… ツェペリさん! その拳銃、私に使わせてくれませんか?」

そう切り出したのはスティーリー・ダンだった。

「ほら見てください! 私も支給品は『3つ』でしたが、内容は散々なものだったんですよ!」

ダンは自分のデイパックから支給品を取り出す。
中から出てきたのはブーメラン、おもちゃのダーツセット、そして一見本物にも見えるモデルガンだった。
その無人のデイパックと同じ、3つも支給品を貰っていたにもかかわらず全て外れだった。
そうやって自分の運の無さと無力さをアピールする事で、ダンは拳銃という強力な武器を譲ってもらいたかった。
383創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:24:48.51 ID:dWWQzcp1
支援
384創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:25:51.30 ID:3IlK7q3+
支援
385創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:26:16.74 ID:2AyuHntR
支援
386 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 00:28:35.73 ID:ld53GJUe


「ねえ、いいでしょう? トニオさんもJ・ガイルさんも音石くんも『スタンド』を持っている。
ツェペリさんやワムウさんだってお強いでしょう。 私だけ無力なんて不公平じゃあないか!?
誰も持ち主がいないのならば、私が持っていても構わないでしょう!?」
「ふうん、そうじゃのう……」


必死に懇願するダン。
ツェペリはこのダンを信用して拳銃を渡してしまっていいものか、と思案しながら2つ目の支給品を開封する。
出てきたのは瓶入りのテキーラ酒だった。
さすがに酔っ払うわけにもいかないし拳銃ほどの当たりではなかったが、傷の消毒に使えるし火炎瓶としても使える。
ダンの支給品と比べても、全くのハズレというわけでもないだろう。


そして最後に3つ目の紙を開封した。
そして、中から飛び出したのは――――

(はあ…… はあ…… み、見つかった………)

色黒の若い少年だった。
秘密を知っていた音石以外の全員が唖然としている。ワムウさえも驚きを隠せない様子だ。

「………なんとまあ。もしかしてお主がこのデイパックの持ち主か?」

あの時ツェペリに声をかけられ、咄嗟に自らのスタンド『エニグマ』で自分自身を紙に変え自分のデイパックに隠れ潜んでいた。
紙になった彼の体は他の支給品と同様、開けば元に戻る。
持ち主不在かと思われていたデイパックにずっと隠れ潜んでいたエニグマの少年。
宮本輝之輔がついに6人の前に姿を現した。
これで7人、役者は揃った。


387創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:30:03.81 ID:2AyuHntR
支援
388創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:31:05.39 ID:xdjHrVm8
支援
389 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 00:32:56.91 ID:ld53GJUe
【Scene.11 崩壊への兆し】
am3:40 〜サンモリッツ廃ホテル1階 大階段前ロビー〜


「宮本くん……といったな。別にわしらは君をどうこうするつもりはない。安心してくれ」
「そうデス。そこで話を聞いていたなら知っているでショウ? 私たちはみな仲間なんですよ。安心してください」

宮本は怯えて隠れていただけだ。
ツェペリは彼を安心させるため声をかける。
トニオもそれに続いた。

だが、他の4人は宮本に対してひとつの不信感を抱いていた。
その中でももっとも宮本を恐怖させていたワムウが、真っ先に切り出す。

「ツェペリ! そのミヤモトという小僧のスタンド、このゲームの主催者と関係あるのではないのか!?」
「ひいッ」

怒気を込めたワムウの言葉に、宮本は両目をつぶって恐怖する。
宮本のスタンドは人や物を紙にして持ち歩くことができる能力。
これは、ワムウらにばらまかれている支給品の配布方法と同じなのだ。
宮本が主催者側に関わっている人間なのではないか、と考えるのはいたって自然な流れだ。

「知らねえ! 僕が一番わかんねえんだよ! なんで支給品が僕の能力で紙になってるんだよ!?
なんで俺がこんな目に合わないといけないんだよォ!? 助けてください! 僕は死にたくない!」
「ワムウくん、結論を急ぐな! 彼は怯えているだけだ! 怖がらせるようなことを言うんじゃあない!!」

ツェペリの説得にワムウは「まあいい」とだけ応え、再び腕を組んで壁にもたれかかる。
納得したわけでもないが、ワムウにしても結論を急ぐことはない。
だが、この宮本が主催者につながる何か秘密を持っている可能性もある。

これは「時代の差」や「スタンド能力」、そして「ツェペリ」以上にいい収穫をしたかもしれない、とワムウは笑う。


「ダンくん、すまないがこの拳銃は宮本くんに返すぞ。彼は怖がっているし、元々は彼に支給されたものだ。納得してくれよ」
(納得いかねェ――――!)

自分の支給品を全部見せてしまったのは、何がなんでも拳銃を手に入れたかったからだ。
持ち主がいない支給品ならば、交渉次第で手に入れられるんじゃあないか?
そう考えたが、まさか本人が中から出てくるとは思わなかった。
いや、今更持ち主が現れるとは思ってもみなかった。
計算外もいいところだ。
390創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:34:43.46 ID:2AyuHntR

391創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:35:30.64 ID:2AyuHntR

392 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 00:38:15.68 ID:ld53GJUe

「ダンさん、ワタシの支給品を使ってクダサイ。私には武器は必要ありませんカラ」

ダンの様子を見て、トニオが自分の支給品を手渡す。
トニオの支給品は小さな折りたたみナイフと十字架のネックレスの2つであった。
ダンは折りたたみナイフという武器らしい武器をようやく手に入れたが拳銃と比べて随分グレードが下がってしまった。

そしてダンの提案で、一行は全員に配布された支給品を確認し合うことにした。
ワムウは興味なさげにデイパックを放り投げ、傍観し始める。
ツェペリが中を検める。ワムウの支給品はボクシングのグローブとエレキギターだった。

ここで、音石が自分のエレキギターであると主張した。
ワムウも特に興味を示さず、エレキギターは音石自身が所持することとなった。


(ヒヒヒやったぜ! このギターさえあれば百人力だッ! 理屈はねェが、こいつを手にした俺は誰にも負ける気がしねェぜ!)


ギターさえ手に入れれば支給品の確認にも興味を失ったのか、音石は自分のデイパックをツェペリに渡し、ギターを愛で始めた。
しかたなくツェペリらは音石の支給品も確かめる。
既に開封済みだった音石の支給品は、少年ジャンプと缶ビールだった。
確かにこれでは本人が興味がなくても仕方がない。
音石の支給品もスティーリー・ダンと大差のないハズレ支給品だった。


そして最後にJ・ガイルの支給品。
J・ガイルがデイパックから取り出したのは、大型のアーミーナイフ、そして会場全体の地下地図であった。

実はこれ、もともとは空条ホリィの支給品であり、J・ガイルの元々の所持品ではない。
J・ガイルの元々の支給品はバイクと包丁。
バイクはホテル付近の建物に隠してあり、包丁も捨ててきたのだ。

ワムウに取り入るに当たり、今しがた殺人を終えたばかりの血まみれの包丁を持ち歩いては印象が良くない。
それにより戦闘に向いているアーミーナイフを手に入れた以上、包丁は用済みだった。

そして、何よりも全員の注目を浴びたのが地下地図である。
ただでさえ広大なゲーム会場であるにもかかわらず、これほどまでに巨大な地下迷宮が存在しているとは。

ワムウにとっては特に朗報であり、そして凶報でもあった。
柱の男として日中の活動範囲が増えたことは幸いだったが、現在地の地下から繋がっている施設が問題だった。
『カーズのアジト』。
カーズ様がゲームに参加している可能性が高くなったように感じられた。
カーズ様の名を冠する施設が堂々と存在しているという事実も。
そして、できるかぎり再会したくはないカーズ様のアジトが、自分の現在地のすぐ近くだったということもだ。

ツェペリ、トニオ、ダン、そして宮本らが順番に地下地図の確認をする。
大まかな地下の地形、どの施設が地下とつながっているか、地下施設の名称などを交代で自分の地図に記していく。
ワムウだけは地図を軽く見ただけですべて暗記してしまったようだ。
393創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:41:24.49 ID:2AyuHntR
支援
394創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:41:59.35 ID:xdjHrVm8
支援
395 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 00:42:23.25 ID:ld53GJUe

地図を見る順番を待つ間に、各自でホテル内の探索や休憩をおこなった。

ホテルから地下へ降りる階段も発見した。
ロビーの大階段の裏手の扉をあけると、隠し階段とつながっていた。
他に地下につながる通路は無いようだ。

トニオが支給品のパンを『パール・ジャム』で加工し、いまだ恐怖の抜けない宮本に振舞ったりもしていた。


そして数十分が過ぎ、現在得られる情報交換は終了したように思えた。
ここで一度、それぞれに配布された支給品をまとめておく。

ツェペリ:ウェッジウッドのティーカップセット
トニオ:家出少女のジャックナイフ、スティクス神父の十字架
ダン:ブーメラン、ダーツセット、モデルガン
J・ガイル:コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図
宮本:コルト・パイソン(回転式拳銃)、ジョセフのテキーラ酒
音石:少年ジャンプ、缶ビール
ワムウ:ボクシンググローブ、エレキギター

情報交換、ホテル内の探索、地下地図の確認が完了。
全員で今後の方針を決めるため、ツェペリがロビーの大階段前で仲間たちに集合をかけた。
そしてこの不安定な同盟は、このときから崩壊を始めることとなる。

「あれ? 音石サンはどこへ行きましたカ?」

いつの間にか、音石明が忽然と姿を消していた。


396創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:44:18.60 ID:2AyuHntR

397 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 00:44:53.36 ID:ld53GJUe
【Scene.12 謎の死体】
am4:15 〜サンモリッツ廃ホテル周辺 路上〜

研究所を後にしたジャイロは、地図に記された施設の中でも近くにあったサンモリッツ廃ホテルを目的地に選んだ。
まっすぐホテルに向かおうかと思っていたジャイロだったが、目的地へと続く路上に違和感を発見した。
舗装された街道に飛び散る黒い染みが、懐中電灯の明かりに照らされる。
医学に携わるジャイロにはそれが何なのかはっきりとわかった。

血痕だ。

そしてジャイロは、近くに民家の窓ガラスが割られ、侵入されていた痕跡を発見する。
中を覗き込むと、血痕は室内のクローゼットまで続いていた。
室内に侵入したジャイロは覚悟を決め、クローゼットの扉を開く。

「なんてこった………」

ジャイロの想像通り、クローゼットの中からは人間の遺体が発見された。



398創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:47:17.83 ID:xdjHrVm8
支援
399創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:48:18.46 ID:WhfOj4+N
これは…支援支援!
400 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 00:48:22.33 ID:ld53GJUe
【Scene.13 サンモリッツ廃ホテル 殺人事件】
am4:23 〜サンモリッツ廃ホテル1階 大階段前ロビー〜



急造りの同盟など、崩壊するのは一瞬である。



「音石くん! どこへ行ったのじゃ!」


突如姿を消した音石を、ツェペリと宮本、トニオとダンの4人が二手に分かれて捜索するも、見つからない。
といっても、本気で音石の心配をしているのはツェペリとトニオの2人だけだ。
宮本は恐怖心からツェペリと共に行動しているだけであり、ダンはツェペリに協力しているように見せたいだけだ。
ワムウとJ・ガイルは一応、入口の見張りを任されたが、正直音石明に対する興味は失せていた。
そしてJ・ガイルはワムウに取り入るため、共にいるだけだった。

「だめじゃ、見つからん。波紋のレーダーにも反応せん。どこへ行ってしまったのじゃ?」


ツェペリたちが再びロビーに集合する。
音石を発見することは出来なかった。
そもそも、音石がいついなくなったとかもわからない。
誰が最後に音石を見たのかもわからない。

情報交換が終盤に差し掛かったころ、彼らは個人個人が自由に動きすぎていた。


「けっ、逃げたんじゃあねえのか? 俺たちといることが不安になってよォ……
勝手にいなくなった奴のことなんかほっとけよ」

「私もJ・ガイルさんの意見に賛成です。彼一人の勝手な行動のために時間を費やすことは愚かだと思います」

「ちょっと待ってくれ! J・ガイルくん、ダンくん! それならば、この放置されたエレキギターという楽器はどう説明する?
音石くんはこの楽器を大切にしている様子じゃった! これを置いて一人でどこかへ行くということは妙じゃぞ!」


しびれを切らし始めた2人を眺めながら、ツェペリは出入口のそばの壁際で腕を組んだまま黙っているワムウの顔色を伺った。

「このホテルにおれたち6人以外の気配は感じられない。かと言って、外に行ったことも考えられん。俺は始めからここを動いていない」

ワムウが端的に告げる。
このロビーに移動してきて以来、ワムウは正面入口のそばを動いてはいなかった。
このホテルは正面入口以外の窓や扉は全て封鎖されていて、破壊しない限り外に出ることは出来ない。
4人で手分けして調査したが、破壊された出入口は確認できなかった。
401創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:50:10.51 ID:2AyuHntR

402創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:50:33.84 ID:3IlK7q3+
支援
403創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 00:56:06.49 ID:dWWQzcp1
支援
404 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 00:59:08.87 ID:ld53GJUe

そしてワムウの気配を探る能力の信頼性はツェペリの波紋以上に確かだ。
この建物の中に、人間の形をした生き物は6人しか確認できない。
地下へ逃れたのではないかという可能性も考えられたが、やはりエレキギターを残して行く理由が存在しない。
そして、音石はJ・ガイルの地下地図を確認していない。


ここでJ・ガイルが、新たな可能性を提示する。

「オイ、宮本。人間ひとりの気配が居なくなる……。 おめえがデイパックの中に隠れていた時に似ているよなァ?
おめえが音石を紙にして、隠し持ってるんじゃあねえよなあ?」
「ち、違うッ!」

J・ガイルが宮本に詰め寄り、宮本は怯えてトニオの後ろに隠れてしまった。
だが、トニオも宮本にわずかながら警戒心を抱いていた。
このJ・ガイルの考えは、ここにいる誰もが考えた可能性の一つだったのだ。

「まあ待てJ・ガイルくん、落ち着くんじゃ」
「この中で人一人の姿を消してしまえるのはその宮本だけだ。それとも、あんたもグルか? ツェペリさんよ?」
「とにかく、落ち着けJ・ガイル! ここで仲間割れになればそれこそゲーム主催者の思うつぼじゃぞ!」
「うるせえ!!」

しつこく詰め寄るJ・ガイルと、怒気を露わにするツェペリ。
宮本は相変わらず怯えている。トニオは宮本を宥め、ダンは傍観に回っている。
そしてワムウが何を考えているのか、誰にもわからなかった。

「……そういや、ツェペリさんよ。俺たちの支給品は全員2つ以上あったんだが、おめえだけはそのティーカップだけだったようだな?
本当にそれだけなのか? まだ何か隠し持ってるんじゃあないだろうな?
そういえば、あんただけデイパックの中身を開けて見せていないはずだぜ」

「それはわしがとっくに中身を確認し終えていたからじゃ! 他意はない!」

「いいから見せてみやがれッ!!」

405創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:00:15.59 ID:xdjHrVm8
支援
406創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:00:21.52 ID:2AyuHntR
支援
407金田一少年の事件簿 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:01:30.52 ID:ld53GJUe


J・ガイルがツェペリのデイパックを強引にひったくる。
そしておもむろにそのデイパックの口を開いた。
その瞬間、デイパックの体積をはるかに超える巨大な物体が外に飛び出した。



「何ィ?」
「なんじゃとォ!?」
「ツェ…… ツェペリサンッ!?」
「オイオイ、マジかよ……!」
「……………」
「うわああああああああああッッ!!!」




飛び出したそれは、音石明だった。
心臓に短剣を突き立てられ、即死していた。

自分が一瞬で殺されたことすら理解していない、そんな表情をしていた。
ツェペリのデイパックから飛び出した音石明の遺体に、6人の男たちは絶句するしかなかった。

408創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:02:34.61 ID:2AyuHntR
ぎゃあああ! 支援!
409創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:03:07.10 ID:dWWQzcp1
支援
410創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:04:16.50 ID:uuXo+eRO
支援!
411創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:05:20.47 ID:WhfOj4+N
支援
412金田一少年の事件簿 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:08:58.86 ID:ld53GJUe
【Scene.14 犯人は誰だ?】
am5:00 〜サンモリッツ廃ホテル1階 大階段前ロビー〜



この廃ホテルの入口は正面玄関と地下室への扉の二箇所。
どちらからも侵入した者も、出て行った者もいなかった。

音石明を殺害した犯人は、この建物の中にいる。



「信じてくれるかどうかわからんが、わしじゃあない」
「そうデス! ツェペリさんはそんなことをする人ではありまセン! 理由も無いデス!」
「どうだかなッ!? あんたらだってこのゲームが始まってから知り合った関係だろ?
そのオッサンの何を知ってるっていうんだ?」

音石の遺体の顔に布をかぶせ、ツェペリは弁明を行う。
それにトニオは同調し、J・ガイルが反論をする。

J・ガイルとしては、もう黙ってはいられない。
仮そめとはいえ、同盟を組んだ仲間内で殺人が起きたのだ。
それも、殺されたのはスタンド使いである音石明だった。

音石の『レッド・ホット・チリペッパー』はワムウと向かい合った時に一瞬見ただけだったが、戦えばなかなかの戦闘力が期待できそうな能力だった。
それほどの男を、いともたやすく殺害した犯人がこの中にいるのだ。
それに、光り輝くあの能力は、手を組めば自分の『吊られた男』と相性がよかったかもしれない。
ワムウの次に自分にとって利のありそうな男だっただけに、惜しい人間を亡くした。


「問題は、彼の遺体が『デイパックの中』に収納されていたということです。
『スタンド能力』を用いなければ、こんなことはできないのではないでしょうか?
つまり………」

今度はダンが、宮本に視線を移す。
再び宮本は自分が疑われ、震え上がる。

「こんなことは言いたくないですが、やはりデイパックの中に人間を収納できるのは、宮本くんの能力以外で可能なのでしょうか?」
「フン、たしかにその通りだな。どうなんだ宮本? ダンくんはあんたが犯人なんじゃないかと聞いているが?」
「違う! 僕は何も知らない!!」


「ヤメテクダサイ! 疑心暗鬼は危険デス!! みなさんで協力して犯人を探しまショウ!!」

疑いをヒートアップさせるダンとJ・ガイルを、今度はトニオが制する。
トニオはツェペリのことも宮本のことも、まだ信用している。

しかし、ツェペリのデイパックから音石の遺体が発見されたのは事実だった。
疑いのかけられているツェペリの発言に力は無い。
自分が場を収めなければ、と、トニオは覚悟を改めた。

しかし、J・ガイルの疑いの矛先はトニオにまで及ぶ。
413創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:09:52.69 ID:2AyuHntR

414創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:10:10.05 ID:dWWQzcp1
支援
続けたかったが眠さと仕事があるからここで脱落するよ
それにしてもなんという大長編
これを書き上げるパワーに敬意を表する…乙です!
415創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:11:19.23 ID:xdjHrVm8
支援
416創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:12:26.29 ID:3IlK7q3+
支援
417創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:13:09.49 ID:WhfOj4+N
おっ、タイトルついてる!なるほど!
支援
418金田一少年の事件簿 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:15:06.59 ID:ld53GJUe
>>414
遅くまで支援ありがとうございました。
おやすみなさいませ。

------

「トニオさんよ… 初めに音石が自分の名を名乗った時、あんただけは前から知っていたような様子だった。
………あれはどういうことだ?」
「ッ!! そ、それは……!!」

このタイミングでそんなことを聞かれるとは予想していなかった。
あの時の様子はツェペリも気にしていたようだった。
言い倦ねているトニオに、「話してみなさい」とツェペリは目で語りかける。
仕方なく、ツェペリは音石明に関する自分の知っている限りの情報を話し始める。


音石明が凶悪な犯罪者だったこと。
自分の友人が兄を殺されたこと。
刑務所に服役しているはずの人間であること。
あまり知っている人間ではなく、良い情報でもないので黙っていたこと。
しかし……


「ま、信用しきれねェよな…… 『死人に口なし』……… 今更音石を問い詰めることもできねェし………」
「なッ?」
「『音石の方が、あんたにとって都合の悪い何かを知っていた。だからそれを話される前に、あんたが音石を始末した。』
そういう可能性だって、考えられるわけだよなァ?」

J・ガイルは、自分とワムウ以外の人間全員を疑っていた。
いや、J・ガイルにとって、犯人が誰かということはもはやどうでもいい。
ただ、このワムウ以外のこのメンバーと同盟を組み続けることだけは御免だった。
可能ならば、ワムウ以外の全員をこの場で殺害してしまってもいいと考えていた。

だが、今度はダンがJ・ガイルに疑いをかける。


「J・ガイルさん、そういうあなたはどうなんです? 遺体の入っていたデイパックはツェペリさんの物ですが、実際に開けたのはJ・ガイルさんです。
あなたがデイパックを開ける際、我々に分からないように遺体を出現させたという考え方もできます」
「何だと?」
「違うというのならば、あなたのスタンドを見せてみてください。それで証明されます。
そして同じ理屈で、スタンドを持たない私やツェペリさんは犯人にはなり得ませんよ。宮本くんがグルでない限りはね」

ダンにとって、一番疑わしいのはこのJ・ガイルだ。
自分と同じDIOの部下。そしてエンヤ婆の息子は残忍な性格だと聞いている。
スタンド能力も謎。この場でもっとも殺人を行う可能性の高いのはJ・ガイルだった。
対するツェペリは、演技しているとすれば大したものだが、そうとうの善人である。
トニオも同様にだ。

戦闘能力ではワムウに分があるかもしれないが、自衛能力が無いに等しいダンにとっては、手を組むべき『正義のヒーロー』はツェペリの方だった。
波紋の戦士であるツェペリならば、DIOにたいしてもワムウに対しても、有利に戦えるかもしれない。
できる限り、まだツェペリとの同盟関係は破棄したくはなかった。

419創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:16:19.51 ID:2AyuHntR
支援
420金田一少年の事件簿 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:17:59.67 ID:ld53GJUe

「グ…… 『スタンド』は、見せられない。だが、犯人は俺じゃあない!」

問い詰められJ・ガイルは狼狽する。
ワムウの表情を伺うが、彼は鼻で軽く笑うだけで助けは期待できそうもない。
確かに『吊られた男』の能力を見せれば、自分の能力では遺体を隠すことが不可能なのは証明される。
だが、大勢の人間に能力を知られることは、疑いをかけられること以上に避けたかった。

それに、どいつが犯人なのかはわからないが、簡単に音石殺害をやってのけた誰かがいる。
これだけの人間の目をかいくぐって、スタンド使いである音石明をどうどうと殺害した危険人物が……
そんな野郎がいるこの場で、軽々と能力を披露することは御免である。


J・ガイルは否定することが精一杯。
しかし、J・ガイルは新たな反論に出る。

「だいたい、それを言うなら、貴様やツェペリが『スタンド使いでない』ということはどう証明するつもりだ?
貴様もツェペリも、そしてワムウもスタンド使いじゃないと言い張るが、『スタンドを見る』ことはできる。
スタンドの可視不可視での判別ができないのならば、もはや『悪魔の証明』ってわけだ
貴様やツェペリが、宮本と『同タイプのスタンド』を持っている可能性だって考えられるんだぜ?」
「くっ……」

今度はダンが反論に詰まる。
実際にダンはスタンド使いであることを隠しているからだ。
J・ガイルの言うことはもっともであることもよくわかる。
そして『スタンド』についてまだ明るくないツェペリも、こう言われてしまえば自分の無実を証明することは出来なかった。

「それに、音石の心臓に突き立てられているあの短剣……… あれは誰の支給品なんだろうなァ?
俺たちは全員デイパックの中身を見せ合ったが、ツェペリだけは自己申告だった……
そして、おめえだけ支給品の数は1つだった。もう1つが、あの短剣だったんじゃあねえのか?」

「違うッ! わしの支給品はティーカップ1つだけじゃったッ! それだけは間違いないッ!」

「だからおめえはそれを証明できんのかよッ!?」





「し…… 支給品と言えば………」
421創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:18:48.11 ID:3IlK7q3+
ここまで多くのキャラを動かせるのは凄いな


支援
422創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:19:29.89 ID:2AyuHntR
支援
423金田一少年の事件簿 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:19:48.76 ID:ld53GJUe

J・ガイルとツェペリが激しく口論する中、宮本輝之輔が初めて自分から話に入ってきた。

「ダンさん…… あ、あなたの支給品だけ、ほかの人よりも数が『1つ』多かった……ですよね?
あれは、本当に全部、あなたの物なんですか……?」
「ッッ!!!?」

その瞬間、スティーリー・ダンは心中で激しく動揺する。
ついに、この指摘を受けてしまった。
しかも、無警戒だったこの宮本輝之輔という小僧に………

「確かに、ハズレとはいえあんただけひとつ多かったよなァ? どうなんだ、ダンくんよォ…?」

J・ガイルが宮本を後押しし、ダンに詰め寄る。
ダンは動揺を悟られないように、なんと答えればいいか頭を働かせる。
宮本の指摘通り、ダンの支給品はすべてが元々自分のものではなかったからだ。




424創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:20:48.39 ID:xdjHrVm8
支援
425金田一少年の事件簿 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:22:21.33 ID:ld53GJUe
【Scene.15 もうひとつの殺人】
am0:13 〜サンモリッツ廃ホテル周辺 路上〜


ゲーム開始から10分が過ぎた。
この俺、スティーリー・ダンはサンモリッツ廃ホテル周辺の街道に飛ばされていた。
どうしてこんな目に…… なんで俺がこんなことに巻き込まれないといけねェんだ。
俺の問いかけに答えるものはいない。
不安で胸がつぶれそうだ。

ゲームが始まって間もないが、自分の身にどれほどの災悪が降りかかっているのかは理解していた。
次の瞬間には、自分は殺されているかもしれない。
それを思うと、怖くてたまらない。

自分のスタンド能力は誰よりも弱い。
強力なスタンド使いとの戦いになれば、自分に勝てる見込みはない。

そうだ、武器。
あのメガネの男は、武器やいろいろな道具を支給品として与えると言っていた。
何か強力なものが配布されていれば、俺にも勝機があるかもしれない。
マシンガンとか、スナイパーライフルとか、グレネードランチャーなんかだったら最高にラッキーじゃねえか!
そう期待して、デイパックを開く。そして発見された支給品は――――――


「ブーメランに…… ダーツセットだとォ?」

そこから現れたのは、どうみても子供のおもちゃのようなガラクタだけだった。
こんなものでどう戦えというのだ。主催者は何を考えている。
これでは、そのへんに転がっているレンガなんかの方がよっぽど優秀な武器に見えた。

そんなことを考えていると、道の向こう側から人の気配が近づいてくる。
俺は急いで民家の物陰に隠れ、様子を伺った。

歩いてきたのは、まだ少年だった。
俺以上にビビりまくっているようで、震えてキョロキョロしながら道を歩いていた。
初めは放っておこうかと思った。
だが、その少年の手に握られている物を見て、考えが変わった。
少年は生意気にも、拳銃を握りしめていた。
俺の支給品は、フザけたおもちゃだったのに……


欲しかった。
その時、俺はその拳銃がどうしようもなく欲しかった。

気が付けば俺は、レンガを握りしめていた。
少年が握りしめている拳銃が、モデルガンであるということにも気付かずに……



俺がサンモリッツ廃ホテルに侵入しツェペリたちと出会う、ほんの数十分前の話だ。




426創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:23:02.77 ID:2AyuHntR
支援
427金田一少年の事件簿 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:25:02.69 ID:ld53GJUe

am4:32 〜サンモリッツ廃ホテル近郊 民家〜


(頭を何発も殴打されている…… 可哀想にな………)

ジャイロは発見した遺体の状態を確認する。
遺体は東洋人の少年だった。まだ小さい。

(東洋人は若く見られがちという話を聞いたことがあるから、多分マルコよりは3つか4つ年上ってところか……
チクショウ………)

少年は無抵抗だったようだ。
いや、抵抗する暇すらなかったのだろう。それくらい必要に殴られたようだ。
この少年は、その犯人にそこまでされなければならないほどの何かをしたというのか?

ジャイロの心に、二種類の怒りの感情が生まれる。
ひとつは、こんな小さな子供を無慈悲に殺害した外道に対して。
そしてもうひとつは、自分に対してだ。

(オレは研究所で何時間も無駄な時間を……… 俺がもっと早く来ていれば、この子供は助かったんじゃあないのか?)

ジャイロは自分の行動を悔いていた。
医学の勉強なんて、いつだってできる。
食事なんか、移動しながらでもよかった。

ビーティーのような少年にいっぱい食わされ、調子を狂わされていた。
まだ自分が恐ろしい殺し合いゲームに参加させられていることを、実感しきれていなかった。

それに、ジャイロを攻めるのは酷な話である。
この殺人が行われた時、ジャイロはまだビーティーと出会ったばかりの頃だった。
始めからジャイロにこの殺人を防ぐことなどできなかった。

しかし、それでもジャイロは自分を『納得』させることは出来なかった。



「待ってろよ、少年……… 俺が必ず犯人を見つけ出し、罪を償わせてやるからな……」


ジャイロは心に誓う。
この少年を殺した犯人を必ず見つけ出すと。

ジャイロは胸の前で十字を切り、そして少年の衣服の乱れを直してやる。
その時、ジャイロは少年のTシャツに書かれた名前を見つけた。
自分の服に名前を書くとは、なんとも可愛らしい少年だった。
そして、Tシャツの名前はこう書かれていた。




麦刈公一と。




この遺体の少年は、ジャイロが研究所で出会った少年の探していた友人だった。
428創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:25:16.53 ID:2AyuHntR
支援
429創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:27:05.80 ID:xdjHrVm8
支援
430創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:27:07.08 ID:2AyuHntR
公一がここで来るとはwww 支援!
431創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:27:19.56 ID:3IlK7q3+
支援
432創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:27:40.32 ID:uuXo+eRO
うわあああ!!支援!
433金田一少年の事件簿 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:27:50.81 ID:ld53GJUe
【Scene.16 犯人はこの中にいる?】
am5:23 〜サンモリッツ廃ホテル1階 大階段前ロビー〜



「ああ、3つとも俺の支給品だッ! 間違いない!」
「J・ガイルくん! いい加減憶測で物を言うのはやめたまえッ!!
わしだって支給品は1つだったのじゃ! 3つの人間がいてもおかしくはないだろう!」

「ハッ、どうだかな?」



ダンはツェペリの支給品がティーカップセットだけであったことを疑ってはいない。
ここにいる他のメンバーは全員支給品が2つずつだったが、自分が外で殺害した少年の支給品はモデルガン1つだけだった。
支給品が1つだけというのは、ありえることなのだろう。

だが、3つはどうだ?
俺は自分を含め、ゲーム開始時から8人の参加者のデイパックを確認しているが、支給品を3つ配布されているものは未だいない。
今はとっさに嘘を吐いてしまったが、もし今後出会う参加者の中に支給品を3つ配布されているものがいなかったら……
支給品3つということが『有り得ないこと』だったとすれば……


(クソッ! どうすればいい? こんなことならば、モデルガンなんてどこかで捨ててくればよかったッ!
いや、そもそも支給品を見せたのが間違いだったッ!)


まだ宮本が発見される前、スティーリー・ダンは拳銃を欲していた。
所有者不明だったデイパックを確認した際、中から支給品の紙が『3つ』発見されたのだ。
このときダンは、支給品が『3つ配布されることもある』ものだと勘違いしてしまったのだ。
そして自分の無力さと支給品運の無さをアピールして拳銃を譲り受けるため、その場でブーメラン、ダーツセット、モデルガンを全てさらけ出してしまったのだ。
無人のデイパックの中の支給品が本当は『2つ』で、残り1つが所有者である宮本本人であることが分かる前に。
ダンにとって、すべてが運のない方向に物語が進んでしまったのだ。


そう言った意味では、J・ガイルの方はダンよりも上手く立ち回ったと言える。
J・ガイルもダンと同じように殺人を犯してからこのホテルを訪れたが、彼は自分に配布されたバイクと包丁を既に破棄していた。
バイクは後で使うつもりでもあったが、まあ仕方ないことだ。
空条ホリィへの支給品を自分の物と偽り、ダンと同様の疑いをかけられることは無かった。


そしてこの時、宮本は今のやり取りを観察し、ダンが何かを隠していることを確信していた。
人を観察することに長けた宮本には、ダンの表情から考えが読めたのだ。
ダンは恐怖を感じると、目尻が下がりタレ目になるという癖があるようだ。
そして自分に支給品の数について指摘された時、その癖がはっきりと現れた。
恐怖のサインというのは、隠そうと思ってもなかなか隠せるものじゃあない。
そしてダンの恐怖のサインは疑いを掛けられたことによる同様ではなく、何か隠し事がバレそうになった時のものだった。

音石明を殺したのがダンであるかどうかはわからない。
だが、ダンが重大な何かを隠していることだけは間違いなかった。



434創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:29:02.31 ID:2AyuHntR

435創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:30:50.65 ID:uuXo+eRO
支援!
436金田一少年の事件簿 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:31:17.79 ID:ld53GJUe

「フン、くだらん…………」


その時、沈黙を保っていたワムウが突然話し始めた。
この中でただ一人、誰からも疑いをかけられていないのはワムウだけだった。
しかし、ワムウにとっては今の時間は不快でしかなかったようだ。

「黙って聞いていれば、くだらん言い争いばかりしおって………
貴様らといても得られるものはもう何もなさそうだ。音石が誰に殺されたか、そんなことはおれにはどうでもいい。
おれは、もう貴様らに用はない…………」

「……ワムウくん、何を考えている!?」

「ここからなら、杜王駅か空条邸、それにタイガーバームガーデンだな。日の出まで30分。
ギリギリだが間に合わない時間でもない……」

ワムウはもともと、このホテルに長居するつもりは無かった。
できる限りカーズと再開したくないワムウは、縁のあるこの施設に長くとどまることは避けたかった。
だが、ツェペリ家の人間、参加者間の時代の差、未来のJOJOを知る人間、そして『スタンド能力』……
この施設で知り合った人間から得られる情報はかなりのものだった。
そこでワムウも同調し、彼らと同盟を組むことに甘んじていた。
だが音石が何者かに殺されてからというもの、人間たちは醜いいい争いを繰り広げている。

もはやこの同盟関係に未来はない。
たとえ犯人が見つかったとしても、一度崩れた信頼関係が修復されることなどないだろう。
いや、そもそもここにいる人間たちに、信頼関係などなかったか。


ワムウが目的地に定めた場所は、ここから近い、地下施設に通じる施設だ。
もうすぐ日の出である。それまでに地下と繋がりのある施設にたどり着きたかった。
このサンモリッツ廃ホテルからも地下に潜れるが、『カーズのアジト』にしか繋がっていないのでそれは避けたかった。
そこに近い『ドレス研究所』も同様だ。



「J・ガイル、荷物をまとめろッ! それから、宮本も連れてくるのだッ!」
「は… はいッ!」
「ひいっ!!」


ワムウに指名され、J・ガイルは歓喜、宮本は恐怖する。
J・ガイルはワムウが自分を味方と認めてくれたのだと思ったのだ。

ワムウにとって、J・ガイルが自分に取り入ろうとしているのは明らかだった。
そして、J・ガイルがこの中でもっとも腐った性根をしていることも。
だからこそ、自分の手足として利用するには持ってこいだった。
これから日が登っている間、自分は行動が制限される。
その間に動かす駒として、J・ガイルが選ばれたのだ。

そして宮本は、その能力『エニグマ』に目をつけた。
この能力は、主催者側が参加者に支給品を配布しているものと同じタイプのものだ。
宮本が主催者につながる何かを持っている可能性はまだ消えていない。
ワムウの目的はあくまで主催者殺害。
その目的のために、宮本は手元に置いておきたい人間だった。

437創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:33:10.85 ID:2AyuHntR
支援
438創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:33:29.05 ID:uuXo+eRO
支援!
439金田一少年の事件簿 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:35:00.61 ID:ld53GJUe

「待てワムウ! 勝手な行動は許さんぞ!」
「ほう? ツェペリ、殺人犯の疑いをかけられている貴様が、このワムウに指図するか?」
「それとこれとは話は別じゃ! とにかく今、お主をここから出すわけにはいかん」


自分が目を離すと、ワムウは外で何をしでかすかわからない。
いや、最悪でも、ワムウが1人で出ていくというのならば止めなかったかもしれない。
だが、怯えている宮本までもを連れて行くというのならば、黙っているわけにはいかない。






「フハハハハハ、そうかそうか………
そんなにまで死にたいか? ウィル・アントニオ・ツェペリ!!」







ワムウの表情が豹変した。


トニオは焦り、しかしどうすることもできない自分を歯がゆく思う。
ダンも、自分が利用するのに最適だったツェペリの身を案じている。
宮本はJ・ガイルに首根っこを捕まえられながら、両目をつぶりただただ恐怖している。
J・ガイルはもともと気に食わなかったツェペリをワムウが始末してくれることを願っていた。
そしてツェペリはワムウに対し、戦闘態勢を取った。


「馬鹿な真似はやめろワムウッ!」
「フン! やはり貴様ら波紋の戦士は皆同じだな…… 我ら柱の一族にとって害にしかならぬわッ!!
いろいろと情報提供感謝する…… だが、貴様にもう用はない!!
ウィル・アントニオ・ツェペリ!! シーザーと同じこの場所で、貴様も死ねィッ!!」



ワムウが、いまにもツェペリに襲いかかろうとしたその刹那、ホテルの正面玄関の扉が勢いよく開かれた。









「俺の名はジャイロ・ツェペリ!! 貴様らに少し聞きたいことがあるッ!!」
「何ィ!? またツェペリだと!?」


am5:30 日の出、そして第1回放送まで、あと30分。
サンモリッツ廃ホテル1階 大階段前ロビー


役者は揃った。
440金田一少年の事件簿 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:36:32.73 ID:ld53GJUe

【音石明 死亡】
【麦刈公一 死亡】




【B-8 サンモリッツ廃ホテル1階大階段前ロビー・1日目早朝】

【ウィル・A・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:ジョナサンと出会う前。
[状態]:体内にラバ―ズ
[装備]:ウェッジウッドのティーカップ(水が少量入っている)
[道具]:基本支給品(水微量消費) 、???
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の打倒
1.ワムウを止める。
2.突然現れたジャイロ・ツェペリとは何者か?
3.音石くんを殺害した犯人を特定したい。


【トニオ・トラサルディー】
[能力]:『パール・ジャム』
[時間軸]:杉本鈴美を見送った直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、スティクス神父の十字架
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いから脱出したい。
1.ツェペリを心配。どうにかこの状況を収めたい。
2.このジャイロという人は何者?
3.音石サンを殺害した犯人は誰?


【スティーリー・ダン】
[能力]:『ラバーズ』
[時間軸]:承太郎にボコされる直前。
[状態]:健康
[装備]:家出少女のジャックナイフ、モデルガン
[道具]:基本支給品、ブーメラン、おもちゃのダーツセット
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
1.目の前の状況をどうにかしたい。
2.あのガキ(麦刈公一)を殺したことだけはバレないようにしなければ……
3.音石の野郎を殺したのは誰なんだ?
4.ツェペリがまだ一番信用できる。ツェペリに取り入りたい。
5.J・ガイルは俺と同じDIOの配下。一番信用できない。
6.『支給品3つ』が有り得ないことだとしたら、ヤバい。自分の殺人がバレてしまう。

441創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:36:40.40 ID:uuXo+eRO
うおおおお!支援!
442創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:36:58.96 ID:2AyuHntR

443金田一少年の事件簿 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:37:04.82 ID:ld53GJUe
【宮本輝之輔】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前。
[状態]:恐怖、J・ガイルに捕まっている
[装備]:コルト・パイソン
[道具]:ジョセフのテキーラ酒
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない
1.ワムウに連れて行かれたくない。誰か助けてくれ。
2.スティーリー・ダンを警戒。やつは何かを隠している。
3.音石を殺したのは誰なんだ?


【J・ガイル】
[能力]:『吊られた男(ハングドマン)』
[時間軸]:
[状態]:健康
[装備]:コンビニ強盗のアーミーナイフ
[道具]:基本支給品、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
1.ワムウを味方につけることに成功。ツェペリを殺してしまえ!
2.音石を殺したのは結局誰なんだ? まあ、今となってはどうでもいいか……


【ワムウ】
[スタンド]:なし
[時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:JOJOの誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)を殺す。
1.情報収集は十分。ツェペリを殺す。
2.ジャイロ・ツェペリだと?
3.J・ガイル、宮本輝之輔を連れて移動する。
4.カーズ様には出来るだけ会いたくない。
5.だが、カーズ様に仇なす相手には容赦しない。


444金田一少年の事件簿 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:37:35.12 ID:ld53GJUe
【ジャイロ・ツェペリ】
[スタンド]:
[時間軸]: 不明(JC18巻、ジョニィから大統領の能力を聞いた後ではある)
[状態]: 健康
[装備]:鉄球
[道具]:基本支給品、クマちゃんのぬいぐるみ、ドレス研究所にあった医薬品類
[思考・状況]
基本行動方針:背後にいるであろう大統領を倒し、SBRレースに復帰する
1.麦刈公一を殺害した犯人を見つけ出し、罪を償わせる
2.ホテル内のこの状況は何だ?
3.ジョニィを探す。

[参考]
音石明の支給品である少年ジャンプ、缶ビール
そしてワムウの支給品である音石のエレキギターとボクシンググローブは放置されています。


[音石殺害事件 疑惑まとめ]
@宮本犯人説
・最有力
・音石明の遺体をデイパック内に収納できるのは宮本の『エニグマ』をおいて他に無い。

Aツェペリ犯人説
・有力候補
・遺体はツェペリのデイパックから発見された。
・ツェペリは実は宮本と同タイプのスタンド使いであり、それを隠している。

Bトニオ犯人説
・トニオは音石のことを以前から知っていた。
・音石によくない情報を握られており、その口封じのため殺害した?

CJ・ガイル犯人説
・実際にデイパックを開いたのはJ・ガイルである。
・スタンド能力の秘密を隠している。
・DIOの部下であるため、ダンは特にJ・ガイルを疑っている。

Dスティーリー・ダン犯人説
・支給品の数がおかしい。何か秘密を隠しているのかもしれない。
・恐怖のサインを見せていたため、宮本は特にダンを警戒している。


445創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:38:11.64 ID:2AyuHntR

446創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:39:23.41 ID:uuXo+eRO
支援
447金田一少年の事件簿 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:40:51.81 ID:ld53GJUe
【Scene.17 犯人はこの(デイパックの)中にいる】
am5:30 〜ウィル・A・ツェペリのデイパック内部〜


(フハハハハハハハ!! こんなにうまくいくとはなッ!! 笑いが止まらねえぜっ!!)


ホテルでの言い争いをしていた6人の中に、音石明を殺した犯人は存在しない。
ツェペリのデイパック内に潜む、音石殺害の真犯人。
それがこいつ、マイオ・ズッケェロである。

ツェペリはゲーム開始直後、大きなミスを犯していた。
突然このホテルに飛ばされたことにわずかながら同様し、デイパックを放置してホテル内を探索してしまったのである。
デイパックの中にウェッジウッドのティーカップしかないことを確認すると、それだけ持ってホテル内の探索をはじめてしまった。
そのおかげでトニオと早い段階で遭遇することができたのだが、ツェペリがデイパックを再び回収した時には、すでにズッケェロが中に潜んでいたのだ。

ズッケェロはスタンド『ソフト・マシーン』でデイパックの厚さをなくし、ツェペリのデイパックにピタリと被せる。
そして自分の支給品と自分自身も平らに薄くし、その隙間に忍び込んだのだ。
つまりツェペリのデイパックはこのときから二重となり、中にはズッケェロがずっと潜んでいる状態だったのだ。
外の情報は全て筒抜け、ズッケェロにとっても彼らの情報交換はとても有意義なものだった。

とくに、宮本の存在がありがたかった。
宮本が自らを紙に変えてデイパックに隠れていたという事実は大きかった。
おかげで、『別の方法でデイパックに隠れている』ズッケェロの存在に気付くものは、誰一人いなかった。

そして、彼らの情報交換が終わる頃、彼らを仲間割れさせる計画に移す。
ターゲットは誰でもよかった。
たまたまツェペリのデイパックの近くを通りかかった音石明が狙われただけだ。
ズッケェロは誰も見ていない一瞬のうちに音石に能力を行使し、ツェペリのデイパックの中に引きずり込んだ。

そんなことが可能なのかとも思うが、ズッケェロは以前にもブチャラティ以外のチームメンバー全員を、誰にも気付かれることなく手中に収めたこともある。
たった1人の人間を暗殺するくらい、朝飯前だった。


音石明を引きずり込んだら、自分に支給されたこの短剣で心臓を一突き。即死させた。
そして誰かがこのデイパックを開いた瞬間、音石のみ能力を解除させ、デイパックの外部へと飛び出させたのだ。
あとは外の奴らが勝手に仲間割れを始めてくれた。
面白いほどに期待通りの成果だった。
448創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:42:03.60 ID:2AyuHntR
支援
449金田一少年の事件簿 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:42:20.62 ID:ld53GJUe


(外の人間で殺し合いを行なったとすると、生き残るのはおそらくツェペリかワムウだな…
ツェペリなら、最後に残ったあと、ゆっくりスタンドでなぶり殺せばいい。
そしてワムウが残った場合は、こいつの出番だな)

ズッケェロのもうひとつの支給品、それは紫外線照射装置だった。

(ツェペリたちの話を聞くに、こいつはワムウの弱点らしい。
つまり、どう転んでも俺の完全勝利は変わらないってわけだ!)


厚さ0ミリの隙間の中で、ズッケェロは勝利を確信した。





『俺の名はジャイロ・ツェペリ!! 貴様らに少し聞きたいことがあるッ!!』


(なんだ? 誰があらわれたんだ?)




そこに突如登場したジャイロ・ツェペリ。
彼の存在によって、物語はさらに加速する。






【B-8 サンモリッツ廃ホテル1階大階段前ロビー ツェペリのデイパックの内部・1日目早朝】

【マリオ・ズッケェロ】
[能力]:『ソフト・マシーン』
[時間軸]:ラグーン号でブチャラティと一対一になった直後。
[状態]:健康、ツェペリのデイパックに自分のデイパックを重ねて間に潜伏中
[装備]:紫外線照射装置
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して金と地位を得る。
1.計算通りは気分がいい。俺の完全勝利だ。
2.誰だ? 誰が来やがった?
[参考]
ズッケェロのもうひとつの支給品、アヴドゥルの短剣は音石明の心臓に刺さったまま放置されています。


450創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:42:20.91 ID:xdjHrVm8
支援
451創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:42:43.98 ID:uuXo+eRO
支援
452 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 01:44:12.11 ID:ld53GJUe
以上で投下完了。

長い割にそこまで話は進んでいません。
本当はまだ先の話も考えていたんですが、ここで力尽きました。
というか、書こうと思えばどこまでも書き続けられる題材かもしれないです。
「ホテル」と「殺人事件」! これほど相性の良いものがあるだろうかッ?

それでは誤字脱字、ミスや矛盾点があればご指摘ください。
3時間近くに及ぶ長時間の支援ありがとうございました。
453創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:48:13.09 ID:uuXo+eRO
投下乙です!
あーん!アキラ様が死んだ!
そしてジャイロが乱入してさらに事態が複雑に…
めちゃくちゃ気になる引きでした。
454創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:49:25.35 ID:3IlK7q3+
3人目のツェペリ乱入はワムウも予想だにしていなかったろうなw
ホテルといえばやはり事件。
さらに混沌としてきたこのホテルは一体どこへ向かうのか

長時間の投下乙でした
455創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:52:44.93 ID:xdjHrVm8
投下乙です。
これはすごい……確かにこの人数ならタイトルみたいな話も出来る、脱帽です。
待ち受けるのは推理ショーかそれとも殺戮ショーか、楽しみすぎます。
大作、お疲れ様でした。
456創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 01:57:23.51 ID:WhfOj4+N
投下乙!
いやー面白かった!リロードする手が止まらなかったです
何が起こるのか分からない緊迫感と、謎が後半で繋がる収束感が最高でした!
しかし宮本不憫だな…ガンバレww

あと、細かい誤字ですが>>349
とニオほどではないが→トニオほどではないが
ですね
457創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 02:01:47.59 ID:IRWf8s15
投下乙です
スタンド使い、波紋戦士、鉄球使い、柱の男、様々な思惑が交わる、さながら小宇宙のようなストーリーで展開が読めません
これからの第一回放送、そして日の出による動きに期待です
458創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 05:36:18.16 ID:aphKvMTT
息をつかせぬ展開にずっとワクワクしてしまった

投下乙ですわー!
459創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 12:25:25.37 ID:YiKkYicZ
投下乙です!これからどうなっていくのか……?

>>447で「マイオ・ズッケェロ」になってる部分がありました。
460創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 15:22:08.42 ID:3IR/P7e9
投下乙です!
密室殺人事件!物凄く面白い展開です!
461 ◆Rf2WXK36Ow :2012/03/19(月) 16:54:54.04 ID:V/K1x6rp
投下乙です!
ホテルに殺人事件…ヴェリィィィナイス!な組み合わせ過ぎる…ッ!
本当に面白すぎて途中脱落するのが悔しかったです
じっちゃんの名にかけて真相を解明する高校生も頭脳は大人な小学生もいないこの状況から目が離せません
不幸にも亡くなってしまった二名には哀悼を 特にこれを知ったらビーティーはどうなることやら…
あと、気付いた部分として
>>427で入力ないし変換ミスと思われる部分がありました
必要に→執拗に
攻める→責める
とりあえず以上です


で、
投下してから1日経ちますし、特に指摘もなさそうなので拙作をこれからwikiに収録してきます
これからでも何か疑問や指摘がありましたらお気軽にどうぞ
462 ◆vvatO30wn. :2012/03/19(月) 23:41:51.39 ID:ld53GJUe
皆様、感想とご指摘ありがとうございました。

指摘された物以外でも、自分で気がついた誤字、地の文に一人称が出ている場所、地の文でカーズ『様』になっていた場所、その他ミスなどたくさん発見しました。
音石の死体発見のシーンやラストシーンも、個人的にもう少し筆を動かしてみたいのでwiki収録時に加筆修正、したらばにてご報告を行いたいと思います。
463 ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/20(火) 18:15:28.94 ID:jy4yp0ej
カーズ
本投下開始致します。
464カーズのカオスローマぶらり旅 ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/20(火) 18:16:47.18 ID:jy4yp0ej
―――C-5、北東部。
スペイン階段にトリトーネの泉と、奇妙な会場の中において比較的ローマの面影が残っているこの一帯を歩く人影があった。
人影はかなり大柄な男性のものであり、周囲を確認しつつ緩やかに歩を進めているだけだったが、その屈強な肉体と裸に近い珍妙な格好は一目見たら忘れ難いものであった。
この男の名はカーズ。
『柱の男』と呼ばれる存在の一人で、彼らの中でも特に高い知能を持つ男である。

「人間どもの気配が感じられん……われらを恐れて一斉に逃げ出したか、あるいはこの殺し合いとやらの影響か……」

周囲を確認しているとはいっても、カーズは敵を警戒しているというわけではない―――正確にいえば最小限の警戒しか行っていない。
柱の男は不老不死であり、さらに宿敵である波紋の一族は二千年前にすでに自分達の手で滅ぼした。
加えて先程の『異形』―――生物兵器『バオー』との戦闘も、多少驚きはしたが苦戦といえるような場面は何一つ無かった。
そのため、好敵手となるような存在がいるならば、むしろ見てみたいというほどの興味と自信があったのである。
ではなぜカーズは辺りを見ながらゆっくりと進んでいるのか、それは主に二つの『目的』のためであった。
その一つとして、似合わない表現であるが彼は街を『見学』していたのである。

なぜならば、彼はまだ眠りから目覚めたばかりなのだから。

―――殺し合いが始まる直前、カーズは一足先に目覚めていたワムウの声を聞き、遺跡の壁から全身を外に出した瞬間にどことも知れないホールへと移動させられていた。
周囲を見渡すと共に眠りについていたエシディシとワムウも同じようにその場におり、さらに西の果ての大陸においてきたはずの最後の一人の姿も確認できた。
そして殺し合いの宣言がなされ、カーズは『地上』のどこかへと飛ばされることになる。
だが彼は現在、積極的に殺し合いに参加する気はまるでなかった。

「このカーズにとっては殺し合いなどどうでもよいことよ。優勝者には望む物を与えるなどとほざいていたが、たかが人間にわれわれの望みは到底かなえられまい」

最初に戦った『異形』はともかく、一緒にいた人間は何もできない単なる虫けらだった。
さらに『異形』も妙な力を持ってはいたが欠点だらけの弱い存在、わざわざ殺す気にもならなかった。
優勝商品にしても主催者が人間の時点で興味はない。
しいていうなら『エイジャの赤石』の在り処について知りたくはあるが、そんなことならわざわざ優勝するまでもなく、ほかの人間から聞き出せばよいことである。
となれば、『殺し合い』などという結果が見えている児戯に付き合う理由はなく、人間世界の変化ぶりをその目で見て確認することの方が重要と考えたのだった。

……ただ、唯一懸念すべきだったのは『首輪』の存在。
最初に実演されたような爆発で自分達が死ぬとは到底思えなかったが、それは首輪の機能が『爆発』だけに限られる場合である。
眠っている間に人間がどのような『発明』をしたかわからない以上、迂闊に外してしまうのは危険であるとカーズの本能が警鐘を鳴らしていた。
だからこそ、最初に見かけた二人の男を襲い、首輪を解析するためのサンプルを手に入れることにしたのだった。

「とはいえ、この首輪の他にもわれらを一瞬で移動させた方法など、わからぬことはあるが……まあ、考えるのは後でもよかろう」

後数時間もしないうちに太陽が昇ることは理解しているが、既にカーズは地面に手を付くことで温度差を読み取り、地下空間の存在を認識していた。
加えて地面は土だろうが石だろうが簡単に穴を開けることができ、地下まで到達するのはたやすいこと。
同じく地下に潜るか、建造物にでも身を隠すだろう仲間達との合流や首輪の解析などは太陽が昇ってからでも遅くはない。
ならばその前に地上の様子をできるだけ調べておき、あわよくば首輪のサンプルを集めておいた方がよいと考えたのだ。
465カーズのカオスローマぶらり旅 ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/20(火) 18:18:34.06 ID:jy4yp0ej

「眠っている間に人間がどれほど進化したか……こうして見る限りでは二千年前から相当変化している…………が」

本来あるべきものがなく、代わりにないはずのものが存在する歪な会場。
とはいえ、そのことを知らないカーズは特に違和感を感じることも無く、何もかもが新鮮な人間世界の様子を調べていく。


―――道。
戦闘を行った場所の近くでは昔と同じく草に覆われていたり地面がむき出しになっているところがほとんどだったが、しばらく歩くと地面の様子が明らかに変わった。
石や砂利を固めて作られたと思われる、他よりは少しだけ頑丈な道。
ちなみに、本来道にあるべき自動車が一台も無いためやけに広く感じられ、それがカーズにとっては滑稽に思えていた。

「道をここまで頑丈にする必要性が感じられん。人間は一体何を考えているのか……
 大体この道の広さはなんだ? 人間はそんなに数を増やしていたというのか……?」

もちろん、カーズにとって道の材質や広さなどどうでもよいこと。
深く考える必要もないと判断し、さっさと進む。


―――街灯。
道のいたるところに並んでいる、光を発する金属の柱。
そのうち一本に近づき中を調べてみると、見たこともない機械と配線が詰まっていた。

「くだらん……夜間に活動するわれらへの対策かとも思ったが、このつくられた光は『太陽』と違いわれらの身体になんら影響を与えることは無い。
 闇夜の明かりとして火を焚く仕組みを置き換えただけの、貧弱な発明よ」

本来闇に生きる『柱の男』にとって明かりにしかならない光など、毒にも薬にもならない。
中の機械にも興味を示すことなく、カーズはさらに進む。


―――建造物。
一軒一軒色や形が違ってはいるが、ほとんどは石や木、砂利などで出来ている家屋。
中を覗き込んでみても生物の姿は無く、眠りにつく前には見られなかった道具が数多く存在している。
カーズは適当な建物の壁に触れて温度や強度を確かめると、入り口から中へと入っていった。

「壁の強度は話にならん。それに、武器といえそうな物も見当たらぬ。われらの眠っていた地のすぐ上にもかかわらず、こんな粗末な備えとはな……
 最も、本気でわれらに対抗するつもりならば、そのような武器をこんなところに隠しておくはずも無いが」

家の中を一通り見て回り、家具や美術品を眺め、戸棚を開けて中を確認する。
用途不明の道具については自身の持つ高度な知能を活用し、その素材や内部構造、置いてある場所から使用方法を割り出していった。

「フン……見てくれだけは二千年前からずいぶん変化しているが、本質的な部分は結局何一つ変わっておらんではないか。
 かと思えばあのような蟲を発明していたりと、まったく人間は妙な方向に進化したものよ……
 もっとも、その発明もこのカーズには到底及ばぬものであったが」
466カーズのカオスローマぶらり旅 ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/20(火) 18:20:09.83 ID:jy4yp0ej

建物の中を大方調べ終わったところでカーズは呆れたようにつぶやく。
家を作って雨風を防ぎ、動植物を蓄えて食料とし、夜間は明かりをともす……
彼からしてみれば使う道具が変わっただけで、現代の生活空間も原始人の生活と大差なかった。
……ただ、これは電話などカーズの知らない『機械』が使用不能の状態になっており、用途が理解できなかったという理由もあるのだが。

なおも家の中の捜索を続けるカーズの目に留まったのは洋服ダンス。
開けてみるとコートやズボン、帽子など一通りの衣服が揃っていた。

「服か……まあ、ちょうどよかろう」

カーズはしばし考えると、先程切断されたターバンの代わりに適当な布を巻いて触角を隠すとその上から帽子をかぶり、続いて服を身に着けていく。
彼にオシャレなどという概念はないためサイズがどうにか合う服を適当に着ると、輝彩滑刀を出したときに切断してしまわないよう袖をまくる。
最後にブーツを履き、カーズの『着替え』は完了した。

「……フム、こんなものか。これで『人間』に見えるはずだ」

着替え終わった姿を鏡で確認し、カーズはニヤリと笑う。
その姿はかなり大柄でどこか妙な点はあるものの、確かに外から見た限り『人間』とほぼ同じだった。

柱の男は体の構成からして人間とは異なる。少なくとも地球上の気候による寒暖の差はほとんど影響しないし、昆虫などの外敵から皮膚を守る必要もない。
場合によっては形式的なものとして装束を身につけることもあるが、普段は衣服などむしろ邪魔な存在といっても過言ではない。
だが、カーズ個人にしてみれば衣服には利用価値があった。
普通、生物というものは自分と同じ姿をしているものには警戒が緩むものである。
そして、目覚めてからこれまで目にしてきた人間達の格好からして、その『外見』は二千年前からたいして変わっていない。
つまり、衣服を身に纏うことによって人間に『化ける』ことが出来るというわけだ。

(これで人間どもから『エイジャの赤石』の行方について聞き出しやすくなるというものだ……
 それに相手が油断して背中でも向けてくれれば労せず勝利し、首輪を手に入れることができるだろう。
 無論、まともに戦って負ける気など微塵もないが、できるだけ汗をかかずに勝てるならそれに越したことはなかろうよ……
 どんな手を使おうが、最終的に勝てばよかろうなのだ)

柱の男、カーズ。
彼は『目的』を達成するのに手段を選ばない性格である。
石仮面などの人知を超えた道具を作り出し、赤石を使った応用を思いつく柔軟な思考を持つ一方、戦いにおいては『美学』を持たないリアリストなのであった。

「そろそろ日が昇る時刻か……『放送』とやらももうすぐだな……」

窓から外を見ると、うっすらと空が明るくなり始めていた。
時間切れだ、と判断したカーズは床に穴を開け、地下のトンネルへと潜っていく……
467カーズのカオスローマぶらり旅 ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/20(火) 18:22:06.51 ID:jy4yp0ej


―――と思いきや、カーズは一度家の外に出ると、唐突にある一点へと視線を向けて口を開いた。

「さて、聞こえているかどうかは知らんがこのカーズはこれから地下へと潜る。
 虫けらをわざわざ殺してまわる気はないが、きさまがいつまでも姿を見せずにこちらを見続けているのは不愉快だ。
 これ以上付きまとう気ならば、先程の人間と同じ運命を辿ることになると覚えておくがよい」

(―――!!)

カーズの言葉に答える者はいない。
だが見つめていた先……カーズの位置からは死角であるはずの、人が隠れられるはずもないわずかな隙間には微かに動くもの―――手足の生えたトランプが『いた』。

これがカーズのもう一つの『目的』である。
自分を監視する小さな『紙』のような存在が現れたことに、カーズは『異形』との戦闘中―――すなわち『紙』が最初に現れた時点でとっくに気がついていた。
始めは妙な生き物としか思っていなかったが、戦いの後付かず離れずで正確に自分を追って来る動作からまぎれもなく人為的なものだと理解できた。
そして首輪がついていないことから主催者側が監視を行っているのかとも考えたが、それならばスタート直後に監視の目がなかったのは不自然。
他の人間の姿が見えない以上、原理はわからないが会場にいる『参加者』の仕業ということになる。
こうして人間でも追いつけるほどゆっくり移動し、人気のない場所に来てみれば何らかの形で接触してくると思っていたのだが、そんな様子は全くない。
そうなると、自分に害を与える存在ではなくとも、虫けらがしつこく周りを飛びまわっているというのはあまりいい気分ではなかった。
ゆえにカーズは『警告』を行ったのである。

「………………」

(やはり無視するか……まあよい、あくまでも付きまとうのならば『始末』すればよいこと。
 実力差も見抜けず、言葉にされても分からぬ愚か者ならば生きている価値もなかろうよ……)

トランプは何も答えない。
カーズも元より、このような手段をとる相手が素直に答えを返すなどとは思っていない。
大して待つこともせず、さっさときびすを返すと今度こそ穴の中へと消えていった。


こうして、傍から見れば単なる空き巣まがいに過ぎない事を行い、カーズは去っていった。
強大な力を持ち、野望も大きい割にやっていることは小さいなどと言ってはいけない。
われわれは知っているはずである。
実際に小細工を弄し、積み重ねることによってサンタナを、エシディシを、ワムウを、そして他ならぬカーズを打ち破った男がいることを。
小さな伏線が何につながるかわからない―――それが『バトル・ロワイアル』なのだから……
468カーズのカオスローマぶらり旅 ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/20(火) 18:24:10.36 ID:jy4yp0ej


【C-5 北東部 / 1日目 早朝】


【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:健康
[装備]:服一式
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品2〜4、首輪(億泰)
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる。
1.柱の男と合流。
2.首輪を集めて解析。
3.エイジャの赤石の行方について調べる。

※地下のトンネル内に潜りました。この後どこへ向かうかは次の書き手さんにおまかせします。
※『オール・アロング・ウォッチタワー』の監視に気がついていました。
  監視を煩わしく思っていますが、相手がこれ以上付いてこないならわざわざ始末する気はありません。


[備考]
・カーズの現在の格好はJC9巻で犬を助けたときのものとほぼ同じです。
469 ◆LvAk1Ki9I. :2012/03/20(火) 18:29:01.19 ID:jy4yp0ej
以上で投下終了です。
大作の後でなんですが、短い繋ぎの話です。
仮投下から大きな変更はありません。

ご意見等ございましたら遠慮なくお願いします。
470創る名無しに見る名無し:2012/03/20(火) 19:50:23.22 ID:y/b01Wuk
投下乙です!
キャラがあのカーズであるにも関わらず、なんという微笑ましい雰囲気の話w
放送聞いた後の反応やら、ウォッチタワーの今後の動きも気になりどころです
471創る名無しに見る名無し:2012/03/20(火) 19:59:20.13 ID:yFE4q3lN
投下乙です!
短いながらに中身の詰まった話でした
それにしても、まさにぶらり旅www
あのカーズがなぜか可愛く見えてくるぞ?
少しずつ早朝組も増えてきて楽しみですね
472創る名無しに見る名無し:2012/03/20(火) 21:11:57.79 ID:aiV2L8zm
投下乙です!
何ともほほえましいカーズ様ww
短い繋ぎの話?こういうのがロワを面白く加速させていくんですよ!

しかし……
カーズ:おしゃれしてぶらり旅
エシディシ:アバッキオに身体を提供(ちょっと違うけど)
ワムウ:対主催、ホテルで殺人事件に遭遇
サンタナ:人身事故に遭う
今回の柱の男たち、どれも今後が予測できないw
473創る名無しに見る名無し:2012/03/20(火) 21:37:55.79 ID:dM9pgIC2
>>376
やはりカリフラワーの力は偉大だったのか……
474創る名無しに見る名無し:2012/03/20(火) 21:38:21.19 ID:dM9pgIC2
すまん誤爆
475創る名無しに見る名無し:2012/03/20(火) 22:55:14.41 ID:4GcitDGt
乙です
ムーロロがこの先どう動くか気になるな
476 ◆vvatO30wn. :2012/03/21(水) 01:17:43.90 ID:4AfTJdVQ
投下乙

なるほど、目覚めたばかりのカーズ様にしてみれば何もかも目新しい景色なわけですね
カオスローマがカオスだってことにすら気づかなくてもおかしくはないw
3rdも柱の男の動向が気になって仕方がない。
特にバオーとの因縁が発生したこのカーズは期待大ですね。

さて、我が愚作のwiki編集が完了しました。
変更点、加筆点はしたらばにて報告させていただきました。
477創る名無しに見る名無し:2012/03/21(水) 02:15:42.41 ID:RyK02AbS
誤爆と気づかず「何がカリフラワー?音石?」とかちょっと悩んでしまった
478創る名無しに見る名無し:2012/03/22(木) 02:00:34.91 ID:aMOtaZcx
3日前に長編投下があったばかりだってのに予約がないと寂しく感じる自分がいる
慣れって怖い
てか、やっぱジョジョ3のペースは異常
479創る名無しに見る名無し:2012/03/22(木) 18:32:10.48 ID:Kk0/uBd8
もう80話行ったか?
すげーハイペースだよな
480創る名無しに見る名無し:2012/03/23(金) 00:02:12.40 ID:sqQV8gBS
したらばでwiki編集について提案をしたので、出来れば確認しておいてください。
書き手の方は特にお願いします。
481◇yxYaCUyrzc氏代理投下:2012/03/25(日) 19:05:50.41 ID:4tMPn1vL
代理投下します
482披露 その1 ◇yxYaCUyrzc氏代理投下:2012/03/25(日) 19:06:51.32 ID:4tMPn1vL
二足の草鞋を履く、という言葉があるだろう?
“一人の人間が全く別方向の仕事をする”とか、そう言う意味だそうだ。

例えばそうだな……魔法が使える戦士とか。もう少し現実味のある話をするならいろんな出版社で全然ジャンルの違う作品を掲載している漫画家とか。
後は――全く別の方向かっていうとそうじゃないけど、任務を遂行しながら部下を守るなんて、ある意味そうじゃない?

で、ここから何が言いたいかなんだけど。
“二足の草鞋を履く”って、結構難しいことだと思う……少なくとも俺には出来ないね。
事実として今、俺の靴箱には二足の草鞋が入っている。けど、どっちかを履くとどっちかが履けない。だからまあ交互に履くんだけどね。

君らにはそう言う経験ないかい?……あーいや、仕事じゃなくて趣味とかでも良いよ。あっちをやったりこっちをやったり、って。
俺の話を聞きながら、少し思い浮かべてみてよ――

●●●

「オイッ!奴を叩くったって、一体どうするつもりだよ!?」
後部座席のユウヤが身を乗り出してくる、滝のように流れる汗を拭おうともせずに。
俺はそちらに一度視線を送り、すぐに顔を前に向けた。
「落ち着け、あまり騒いでると運転にも支障が出る。
 ……どうする、シュトロハイム。今の装備、状態でさっきのサンタナとやらを確実に殺せるか?
 この自動車はどのくらい走る?燃費はリッター400メートルくらいか?」
「バァカをぬかすなァッ!そんな高燃費の車がこの世のどこに存在すると言うのだアァーッ!
 それにこの大型車だ!そう細かい旋回など出来ん!大通りに出た上でエンジンブレーキをかけねばまともに止まれずドカンだぞォッ」
シュトロハイムには怒鳴り返されたが、状況の判断はこの中の誰よりも的確だろう。間違った事は何一つ言っていない。止まれなくとも加速しなければ問題ないという事か。
しかし、原理が分かろうと自動車に詳しくない俺はサポートに回るほかない。シュトロハイムの左手に握られていた地図を受け取り、現在地から大通りに出る方法を割り出す。
俺たちは今、エリアG−6かF−7あたりにいるのだろうか。速度は先程より緩やかになってきている。もっとも、まだ早々には止まれなさそうではあるが。

となれば次に考えなければならないのはサンタナへの攻撃だ。如何にしてあの生物を殺すべきかをこの場で考えておかねばならない。
俺は後部座席を振り返る。シュトロハイムは運転しながらでも話を聞いて答えを返してくるだろう。
「今の内に武器を出せるようにしておけ。さっき皆でやりとりした支給品だ……シュトロハイム、お前の物もここに出しておくぞ」
緩やかに左カーブを描くタンクローリーの遠心力に振り回されそうになりながら二人がデイパックを開く。もちろん俺もだ。

康一が力を込めてナイフを握る。ユウヤが機関銃を抱え込む。
それを見届けて俺はロープをパンと張り、シュトロハイムに割り当てた武器、チェーンソーとライフルを紙にしまったまま手の届く位置に置いた。
483披露 その2 ◇yxYaCUyrzc氏代理投下:2012/03/25(日) 19:07:47.10 ID:4tMPn1vL
「よォし、用意は良いなお前らアァッ!大通りに出るぞッ!振り落とされるナアァァーーーッ!」
言うが早いか、もぎ取らんばかりの勢いでシュトロハイムがハンドルを切る。ぐん、という衝撃とタイヤが擦れる音が車内に響いた。
頭を振って視線を正面に戻すと数百メートル先にコロッセオが映っていた。流石にあそこに辿り着くまでにはこの車も止まる筈だ。
となればコロッセオ内でサンタナを迎え撃つのが最適か。シュトロハイムを見れば彼の表情にも笑みが見られる。おそらく俺と同じ発想なのだろう。
後部座席からもギリッと歯を食いしばるような音が聞こえてくる。覚悟は出来ているようだ。

よし――

「止 ま る な ッ !」

●●●

「止 ま る な ッ !」

そう言った僕の方を皆が一斉に振り向く。運転しているシュトロハイムさんまで。
「オイオイそりゃどういうこったよ康一ィ!?サンタナの野郎から逃げ切りたい気持ちはわかるが止まらない事にゃあどうしようもないぜ!」
「そうだぞ康一イィィッ!走るのはともかく理由を言えェい!」
「二人の言うとおりだ。コロッセオなら十分に体勢を立て直せる。それともシュトロハイムの言うとおり何か理由が?」
口々に詰め寄る皆に、ひと息ついて僕は答えた。

「今のカーブで姿勢を崩して初めて気がついたんですよ。
 ……僕の足が食われてる」
キョトンとする、という言葉がどういう状態を指すのか?ってのを僕はタンクローリーの中で見た。まさに今、こういう状況のことだろう。
僕を除く車内の全員が全く理解できていないようだから、もう一度僕から切りだした。
「さっきサンタナを轢いた時、奴の身体の一部がこの車にくっついたんでしょう。
 それが今僕の右足にあって、溶けると言うかえぐれると言うか、とにかく……だんだんなくなっていってるんですよ。足が」
「――おのれェサンタナの野郎やってくれやがったナァッ!それはミート・インベイド、憎き肉片だッ!!」
シュトロハイムさんは流石に詳しいのか、そのギャグみたいな技の名を言って、ダンとハンドルに拳を叩きつけた。

「……それが車を止めねぇこととどう関係があるってんだ?」
「そこだよ噴上君。このままだと僕のせいで四人とも全滅してしまう。
 ティムさん、さっき渡したロープを」
その一言だけでティムさんは全てを理解してくれたようだ。
「いいのか?確かに俺のスタンドならダメージを受けている部分だけを切り離すことが出来るが……」
「エッ!?ちょっ待てよ!康一お前自分の足ぶった切るつもりかよ!」
驚きを隠そうともせずに噴上君がつかみかかってくる。逆の立場だったら僕だってそうするだろう。
そう、そのつもりなんだよ。確かにいきなりそんなことを言えば驚くさ。でも――


「僕はこれでもスタンド使いで皆の仲間だ!足手まといにはならないぞッ!
 ああ、いいさ! いいとも、やってやるとも!
 アイツに勝つためなら足の二本や三本かんたんにくれてやるぞーーッ!!」
484披露 その3 ◇yxYaCUyrzc氏代理投下:2012/03/25(日) 19:08:26.63 ID:4tMPn1vL
「……康一よ、お前の覚悟しかと受け取ったぞッ!
 ティム、ロープだ。我々が全滅しない内に早くッ」
シュトロハイムさんがそう言ってくれたのを合図に、ティムさんが僕にロープを差し出す。
それを左手で握りしめると、身体がぶつ切りになっていく。右足の付け根が身体から離れた。
僕は窓を開けてナイフを構える。車内に入りこむ強風に煽られる事もなく鮮やかなロープ捌きでティムさんが右足だけを外に出してくれた。

怖くないかと言われれば怖いと答えるだろう。
無人島で自分の足を食って生き延びたコックさんの漫画を見たけど、まさか自分が体験することになるなんて。
でも、僕も男だ。一度くらいは僕の覚悟ってやつを皆に披露してやりたい。

ブツッ、と小さい音を立ててロープが切れた。
痛みはない。自分の肉を直接切った訳じゃあないから当然かもしれない。
だけど……さようなら、僕の右足。

「チクショウ……康一おめぇカッコイイじゃあねーかよ!
 シュトロハイム!タンクローリーぶっ飛ばせよッ康一の見せてくれた覚悟を無駄にすんな!
 まずは康一の治療だ、いいかゼッテー止まるんじゃあねえぞ!」
「分かっておるわァーーー!サンタナを一度振り切り体勢を立て直すッ!」
噴上君が唾を飛ばしながらシュトロハイムさんに檄を飛ばす。シュトロハイムさんもやる気スイッチが完全にオンになっているみたいだ。

「そうじゃあねぇ!俺が仗助を探すッ!見つけるまでは何があっても止まるな!
 そいつに康一の足を治してもらってからでもサンタナ退治は遅くねぇ!」
言うが早いか噴上君はスタンドを足跡状にスライスして車の外に飛ばし始める。
「フフン、いずれにせよ我々がサンタナはじめ柱の男たちを駆逐せねばならんのは変わる事無き事実ッ!
 ――しかし車を止めないことには攻撃できず、車を動かさないことには治療できずかァッ!なかなかのブラックユーモアじゃあないかッ!
 だがここは治療を取るぞッ!万全の状態で彼奴を討たねば康一が披露した誇り高き精神に曇りが残るわアァァッ!!」

「……決まりだな。 康一君、君は自分の身を犠牲にして僕たちを助けてくれた英雄だ。
 そのジョースケ君とやらに足を治してもらったら、全員でサンタナを討とうじゃあないか」
ティムさんの言葉を待っていたかのように再びタンクローリーが加速を始めた。

僕には何もできないと思っていた。ヒーローなんかじゃあないと思っていた。なれる訳がないとも思っていた。
でも、なってしまったんだ、ヒーローに。
披露してしまったんだ、僕の覚悟を。ダイアーさんにも、ここにいる皆にも。だから、皆が僕のことを英雄だと呼ぶんだ……

皆が僕の行動を受けて次の方針を立ててくれている。
涙が止まらない。痛みとか恐怖のせいじゃあない。嬉しくて嬉しくて、ぼろぼろと大粒の涙が流れてきた。
ヒーロってものは、一人で孤高に戦う戦士のイメージだ。それなのに皆に助けられて泣きべそをかいている。
そんなふうに思ったら、ちょっとだけ笑えてきた。

●●●
485披露 その4 ◇yxYaCUyrzc氏代理投下:2012/03/25(日) 19:09:05.62 ID:4tMPn1vL
うーん、ちょっと歯切れが悪いけどこの辺で止めよう。さっきの草鞋の話がどうも頭から抜けなくてね……。
タンクローリーを止めてサンタナを倒す、タンクローリーを止めないで仗助を探すっていう全く逆でいて同じ草鞋を履いた皆の状態をちょっとまとめてみるよ。
運転もする、柱の男を殺すというルドル・フォン・シュトロハイム。
仲間を探す、主催も倒すというマウンテン・ティム。
仗助を探す、サンタナを倒すという噴上裕也。
そして――覚悟を見せながら、足の治療に期待をかけながら、ヒーローでもある広瀬康一。
どのメンツも……まあ全くの別方向ではないにせよ、一気に複数の物事を消化しようとしている。
これって案外、いやかなりすごいことだと思う。

で、最初に言ったけど俺には二足の草鞋は同時に履けない。
ティムは康一を“覚悟を見せ、仲間を守った”ヒーローだって言ってたけど、俺からしてみたら二足の草鞋を履けるだけでも十分に超人、ヒーローなのさ。
君たちはどうだい?あっちの絵を描きながらこっちで音楽を奏で、そっちでは小説も書くなんて出来る?

その話、聞いてみたいな。たまには俺からじゃなくて君たちからも何か話をしてくれよ――

486披露 状態表 ◇yxYaCUyrzc氏代理投下:2012/03/25(日) 19:10:00.12 ID:4tMPn1vL
【F−7 コロッセオ南の路上/一日目 黎明】

【暴走列車の乗客たち】

【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → ???
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:左腕ダメージ(小・応急処置済)、錠前による精神ダメージ(小)、右足切断(膝上から。痛み・出血なし)、若干興奮状態
[装備]:琢馬の投げナイフセット
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0:右足の治療のために仗助を探す(探してもらう)
1:サンタナを倒す
2:やってやるぞ!見せてやるぞ!僕の覚悟!
3:なってしまった、ヒーローに……

【ルドル・フォン・シュトロハイム】
[スタンド]:なし
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:健康。タンクローリー運転中。
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0、ローパーのチェーンソー、ドルドのライフル(残弾数は以降の書き手さんにお任せします)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊。
0:タンクローリーを走らせ続ける
1:サンタナを殺す
2:康一の誇り高い覚悟!俺は敬意を表する!
3:各施設を回り、協力者を集める(東方仗助が最優先)

【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミ―』
[時間軸]:ブラックモアに『上』に立たれた直後
[状態]:健康
[装備]:ポコロコの投げ縄(数十センチ切断。残り長さ約二十メートル程度)
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
0:サンタナを倒す
1:まずは東方仗助の捜索
2:方針1とほぼ同時に各施設を回り、協力者を集める

【噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[時間軸]:四部終了後
[状態]:健康、スタンドを行使中(仗助捜索のため)
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数は以降の書き手さんにお任せします)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
0:仗助(のにおい)を探して協力を仰ぐ
1:各施設を回り、協力者を集める
2:サンタナを倒す
3:康一のカッコよさにシビれる!憧れる!……?

【備考】
タンクローリーの移動経路:F−5→G−6→G−7→F−7と大通り(地図に表記されている道)を通り、現在は正面にコロッセオを見る形で走っています。
今後のルートは次回以降の書き手さんにお任せします。
また、故障個所はブレーキだけのようで、アクセルを離していれば自然と止まること自体は出来るようです。
487披露 状態表 ◇yxYaCUyrzc氏代理投下:2012/03/25(日) 19:10:44.11 ID:4tMPn1vL
【支給品情報】
※4人ともランダム支給品は2つずつ配られ(=全8種)全て確認済です。
※内、この作品で登場したのは5種。残りの3種は状態表の通り所有していますが、支給された人と所有している人が違う(渡す等のやり取りがあった)可能性もあります。

●チェーンソー
噴上に支給、現在はシュトロハイムが所持。
ゴージャス・アイリンにて大女ローパーが使用していた排気量400cc、重量80kgの巨大チェーンソー。ガイドバー(チェーンが巻いてある鉄板)に凝ったデザインが施してある。
余談:この道具、イメージとして『13日の金曜日』のジェイソンが浮かびやすいが彼がチェーンソーを使ったシーンはないらしい

●トンプソン機関銃
シュトロハイムに支給され現在は噴上が装備。
ジョジョ2部でジョセフがストレイツォに向けてぶっ放したもの。アサルトライフルというよりはサブマシンガンに分類される銃なのでジョセフにとっては少し小ぶりかもしれない。
余談:特徴的なドラムマガジンだが、あれを取り付けられる機種は製造中期の物で、おそらく『M1928』または『M1928A1』というモデルだと思われる

●ポコロコの投げ縄
康一に支給、現在はティムが装備。
SBRの1stステージでサンドマンに「持ってるロープを使え、操れるのならな」と言われたロープ。これでポコロコは崖を超えられた。
余談:レース開始時にグリッド内にいなかったポコロコのフライングの話はたびたび議論に上がるが、それを指摘されなかったのが彼の一番の幸運なのかもしれない

●琢馬の投げナイフセット
ティムに支給、現在康一が装備。
いわゆるスローイングナイフ。銀の物が2本に、カーボン製の黒い物が1本ある。今回のSSでは康一がこれで右足(のロープ)を切った。
余談:勘違いされがちであるが「ナイフは刃を持って投げる」だけでなく「まっすぐ飛んでいく」のも若干違う。至近距離ならまだしもある程度離れているなら回転させて投げるべきである。

●ドルドのライフル
シュトロハイムに支給され、そのままシュトロハイムが所持している。
ドルドがバオーを狙撃する際に腕に取り付けて使用した銃。スコープが目元まで伸びて距離や風向き、温度まで分かるようだ(ドルドゆえの能力かは不明)。シュトロハイムとの互換性も分からない。
余談:手榴弾もそうだが、炸裂弾は爆発の威力よりもそれではじけ飛ぶモノ(銃弾の破片や中に仕込む散弾)で攻撃する方が効率的らしい。ドルドさん……
488披露 ◇yxYaCUyrzc氏代理投下:2012/03/25(日) 19:11:29.15 ID:4tMPn1vL
以上で本投下終了です。
仮投下からの変更点は以下の通り
投下レスの分割箇所を変更
フンガミの字を「噴上(口へんの噴)」に統一。多分こっちであっているはず……
分割箇所の***を●●●に変更

さて、二足の草鞋、皆さんは履けますか?俺はジョジョロワという草鞋を履いたらもう他ロワなんて手を出せませんw

それから、康一君の登場するSSでの「HERO」タイトルという暗黙の了解(?)ですが。
『英雄』だと思ったか!違うよ!w
『ヒーロー』ト『披露』ガ カケテアリマスネ ダカラ『ドーダコーダ』言ウワケデハ ナインデスガネ
という事でこうなりましたwww『疲労』でも良かったんですがねw

あとは支給品。
全ての支給品がほぼアタリっていうグループが1チームくらいあってもいいんじゃない?という事でここにしました。
執筆当初はポコロコの投げ縄が西戸のチェーンだったり、ライフルがレッキングボールだったりもしましたが。まあまだ未開封の物もあると言う事で。

何だか勢いで書いてしまった今回のSS。草鞋の話、覚悟を披露する話、ヒーロー康一の話を上手く結びつけられた自信は正直言ってありませんorz
本編中だとシュトロハイムの「ブラックユーモア」のセリフがかろうじて、かなぁ。
展開は進んでいるのにリレーがされていないパートという事でここを執筆しましたが、他にもっといい作品を検討している方がいるようでしたらこれは没にしようかな、というくらいに自信がないw

誤字脱字、矛盾点等々ありましたらご指摘ください。それでは。
489創る名無しに見る名無し:2012/03/25(日) 19:19:59.12 ID:4tMPn1vL
代理投下は以上です

仮投下時にも思いましたが、康一は本当にグングン成長の兆しを見せているなあ…!
噴上もこれからの活躍に期待が膨らむ
決定打にはなれなくても結構重要なダメージ原因になれるんじゃないか、ハイウェイスター
大人組に関しては…このイケメンどもめ!www
シュトロハイムもティムもどっちもかっこいいなあ
乙でした!
490創る名無しに見る名無し:2012/03/25(日) 23:04:31.97 ID:2PCfFzJ7
噴上の活躍が命運を握っているな
投下お疲れ様でした
491創る名無しに見る名無し:2012/03/27(火) 23:17:33.83 ID:DRY8ZanA
ちょいちょい規制が…
何はともあれ乙です!
このチームはイケメン揃いだなwww
これからどうなるのか実に気になる作品でした!
そろそろここもどこかとぶつかりそうだけど、一体どうなるやらw
無事に仗助、もしくは回復スタンド持ちとぶつかれるといいが…
492創る名無しに見る名無し:2012/03/28(水) 16:51:08.97 ID:CVTg2UYj
チーム:イケパラ
ティム→イケメン。中身もイケメン。
噴上→美形(観賞用)
シュトロハイム→整ってはいるが、美形というには華が足りないかな。いい男。
康一→ショタ向け路線。中身のイケメン度は『成長性A超スゴイ』

493創る名無しに見る名無し:2012/03/29(木) 21:59:24.07 ID:uxlAnw5Y
テメー裕ちゃんディスッてんじゃねーぞ!
ともかくロワ的に中身も綺麗な噴上が見られそうで期待
ぶつかった先にもいい影響与えていくといいなあ
熱い展開にこれからが楽しみです!
494創る名無しに見る名無し:2012/04/04(水) 20:56:08.66 ID:97YAHiYT
保守ついでに投下マダー?
延長なら報告ヨロ
495創る名無しに見る名無し:2012/04/05(木) 23:18:32.50 ID:TGNaT0Kw
延長申請来てるね、楽しみにしてます!


ところで、話は全く変わるが
wikiのキャラ詳細がじわじわ充実してきてるのが個人的に嬉しい
まだ書かれてないキャラも多いけど、裏を返せばそれだけ楽しみが残ってるということだと思ってる
編集してくれてる方々は本当に乙
やったことないぜ!って人も気軽に書いてみたらいいんじゃないかと言ってみる
自分は予約の目途も立たない書きかけの本編SSをなんとかしてから出直してきます
496創る名無しに見る名無し:2012/04/07(土) 15:33:33.17 ID:NI331iAz
マジかよ・・・
497創る名無しに見る名無し:2012/04/07(土) 15:33:58.72 ID:NI331iAz
誤爆
498創る名無しに見る名無し:2012/04/07(土) 21:58:49.75 ID:CFmwxNpD
予約期限だけどどうかな?
何か反応があればいいんだが
他に予約で込み合ってるということもないし、個人的には待ちたいと思う
499創る名無しに見る名無し:2012/04/08(日) 01:50:26.63 ID:u9qBb4iy
したらばでの回答乙おつ
残念だけど無いものはしょうがない
今後の作品をお待ちしてます
500創る名無しに見る名無し:2012/04/16(月) 12:40:25.14 ID:TeR+Qa4O
ほしゅ
501 ◆yxYaCUyrzc :2012/04/17(火) 23:17:19.13 ID:h9jhZOzd
c.gさんと被ってしまう前に投下開始しちゃいます。
規制かかったらしたらばに持っていきますのでどなたか代理をお願いいたします
502計画 その1 ◆yxYaCUyrzc :2012/04/17(火) 23:19:15.28 ID:h9jhZOzd
君たちに対して『今回はどんな話をしようか』と、ちょっと考えてみたんだが――

ひとことで言えば“吸血鬼”の話をしようと思う。
現在行われているバトル・ロワイヤルにおいても何人かそう呼ばれる人種が……あ、いや人間じゃないから人種と呼ぶべきじゃないか?まぁとにかく。

彼等はいったい『何』だと思う?
例えば――運命を操ったり、ありとあらゆるものを破壊したりする程度の能力を持った姉妹とか。あぁ〜俺が昔丸太でぶっ潰したのも吸血鬼だったなぁ。
あとはアレ。妙にエロい緑の髪の……はサキュバスか、吸血鬼じゃなかった。似たようなもんだけどね。
しかしドイツもコイツも個人差?個体差?があり過ぎる。銀が嫌いだったりニンニク普通に食えたり。十字架は平気だけど泳げなかったり。

ふぅ……さて、色々と言ったけど今回紹介する吸血鬼の名はDIO。今、友人マッシモと共に刑務所……その特別懲罰房で休憩中だ。
彼は、いや彼等はここからどのように動いていくのか!?


――と、色々話してあげたいんだけど今回は無理っぽい。
え、『なんで?』って、知らないのかい?DIOは日光に弱く、なおかつ今は籠城が可能な場所にいる。
それでもって自分から『殺し合いにおける行動なんぞ』って言ってるんだよ。って事は……?

そう、このまま放送を聞き、名簿やら何やらと言った新しい情報を集めた上で行動しようって魂胆だ。

とは言え。とは言えだ。DIOもバカじゃないし、マッシモも空気は読める方だ。
DIOはマッシモに小さく告げたんだよ、
「すこし考えたい事があるんだ。友人にこういう事を言うのは申し訳ないが、少しの間一人にしてくれないか」
とね。
で、マッシモも察した。おそらくさっきチラリと聞いたDISCとやらに関する考察をしたいのだろうと。
なおかつ自分に話を聞かせる気はないとも理解した訳で。こう答えた。
「じゃあ……必要はないだろうが、見張りにでも出ようか。いつ頃戻ってくればいい?」

かくして、DIOとマッシモは一時的に別行動を取る事になった、と。
――え?説明不足?まあ待てよ、順番に説明してあげるから。
503創る名無しに見る名無し:2012/04/17(火) 23:21:42.33 ID:oVoBnr6k
なんか支援がくらえっ!
504計画 その2 ◆yxYaCUyrzc :2012/04/17(火) 23:23:28.16 ID:h9jhZOzd
まず、DIOは待機。マッシモの方は見張りを理由にして少し外に出ようとしている。
となれば必要なのはお互いの連絡手段だ。これがなければお話にならない。
だが残念な事に二人の支給品はすべて確認済み――けれども思い出してもらいたい。彼等が出会った一人の女性のことを。
スチュワーデスがファースト・クラスの客に酒とキャビアをサービスするように足を持ってくるよう指示された女性。
彼女の支給品は携帯電話だった。使わない手はないだろうね。

次に、別行動の具体性というか計画性。
第一回目の放送を二人で一緒に聞くほどのんびりしてるのはアウトだったんだ。俺に言わせればもっとまったりでも良いと思うんだけどさ。
まあ、考察をしたいDIOもそうだけど、天国について聞かされたマッシモも自分なりにゆっくり考えたかったって事なんだろう。
ならば善は急げ――悪は急げっていうのかな?とにかく即、行動さ。
でも、帰りの予定および行動範囲について、DIOは割と……いやかなり慎重だった。
彼はマッシモに放送の後30分くらいでさっさと戻ってくるようにと伝えた。頭の良いDIOのこと、放送を聞けばすぐに諸々の結論は出るだろうからね。
しかも刑務所には下水道が通っていることが分かっている。となればそこを通ってもっと地図の中心部に行くべきだとも考えていたのさ。
ゆえに早い帰宅、うーん帰宅って表現で良いのかな?とにかくさっさと戻って来いとマッシモに伝えたって訳だよ。
あぁ――ここでついでに説明しておこう。きっと君らの中には『DIO様がそんな汚いところを歩く訳ない』と思ってるのもいるだろうから。
下水ってのは何もトイレの流し水だけが通ってる訳じゃあない。雨水とかを濾過しながら排水してるのさ。割ときれいなんだよ。

次で最後かな?あっさりと別行動に移った理由だ。
そうだ、せっかくだからDIOが出ていこうとするマッシモに言ったセリフを紹介しようかな。

「『生きる』と言う事は、私は恐怖を克服することだと思っている……そして、その行きつく先が天国だ。これはさっき話したろう?
 だとするなら、生きるために必要なものは一体なんだ?肉体、あるいは精神を動かすために必要なもの……言い換えれば『生命』とはなんだ?
 ――そう、石仮面のことを知っているだけはあるな。まさにその通り。血は、生命なり。ということさ」
505計画 その3 ◆yxYaCUyrzc :2012/04/17(火) 23:27:56.28 ID:h9jhZOzd
うーん……分かるかなぁ?ちょっと難しいよね。という訳で、最初に話した“吸血鬼ってなんぞや”ってテーマを思い出してもらいたい。
――いやいや、思い出すまでもない。吸血鬼ってのは文字通り“血を吸う鬼”って事よ。色々いるけど皆が皆、結局のところというか……血を吸うから吸血鬼なのさ。
俺はそうでもないけど、必ず毎朝一杯のコーヒーとタバコは欠かせないとかいう人、君らの中にはいない?仕事上がりのビールでもいいよ。
あんまり話題を出すとキリないからやめるけど、そういう嗜好品ってさ、
『かぁ〜っ、コレのために生きてるんだ、まさに命のガソリンよ』
って言う部分が少なからずあると思うんだよ俺は。だとするなら、それはDIOにもある訳で。
それがそのまま『血は生命なり』と。血は生命のガソリンでと。そう言う事だな。嗜好品が血液で、それは生命になって――何とも面白い繋がりがあるんだな。
まぁ要するに何が言いたいかって言うと……DIOはマッシモに、外出するなら多少なり血液を集めてきてくれ、と依頼した訳だ。
マッシモも断る理由はない。ちょっと探索したら都合よくというか紙コップが落ちていた。それを拾って早速出発したよ。

と――これで良いかな?まぁ簡単にまとめると、
その1、お互いちょっと一人で考え込む時間を作ろう。
その2、それが終わったら地下を通って移動しよう。
その3、血液……というか人間との出会いが重要。食事にせよ天国にせよ。
こんな感じかな?計画は練るし、慎重で複雑な行動もするけど内容はシンプル。これはこのチームに限った事じゃあないだろうけどね。

……ん?あぁ、ごめんごめん、言うの忘れてたよ。
DIOは何もDISCの考察『だけ』をするためにマッシモに別行動を促したんじゃあない。他にも考えるべき事柄があった。マッシモがそこまで気付いたかは知らないけど。
彼がいる特別懲罰房には確かに誰もいないさ。でもそこから520メートル先、グリーン・ドルフィン・ストリート刑務所、言うなればその本館。
そっちには二人の人間がいる。まぁ厳密に言えばそっちも一人は人間だかどうだか怪しいんだけど。
そしてDIO自身に――さらに言うならその首筋に感じる違和感。ここまで言えば分かるだろう?
本館の一室にいるフー・ファイターズ。その身体が発する『ジョースターの血統』の……センサー?って表現で良いのかね?それだよ。
それについてもDIOは考えたかった。もしもジョースターの一族が向かってくるなら容赦はしないが、どうも『そうじゃない』違和感も感じている。
ゆえに彼女の――まぁDIOは正体を知らないから彼の、だと思ってるんだろうけど、処分についてどうするのかを決定させておきたい。
マッシモが戻ってきた後に接触するのか、それともその前?単独で行動しているのか?相棒がいるならそれは誰?自分のことを知っている、あるいは自分が一方的に知っている相手?
……って事でマッシモを一時的に自分から引き離したのさ。でも突っぱねた訳じゃないよ?DIOとマッシモは友人同士なんだからね。


さて……そろそろ放送が始まる時間だな。いろんな場所でいろんな参加者がいろんな行動をしている。ゆっくりだったり激しかったりもするが確実にゲームが動いてるってことだ。
じゃあ、今度はそっちにアプローチしてみようか。まぁ、今回はここまで。それじゃ――
506計画 状態表 ◆yxYaCUyrzc :2012/04/17(火) 23:29:24.54 ID:h9jhZOzd
【E−2 GDS刑務所・特別懲罰房内 / 一日目 早朝(放送すこし前)】

【DIO】
【時間軸】:三部。細かくは不明だが、少なくとも一度は肉の芽を引き抜かれている。
【スタンド】:『世界(ザ・ワールド)』
【状態】:健康
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×2、麻薬チームの資料@恥知らずのパープルヘイズ、地下地図@オリジナル、リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、携帯電話、スポーツ・マックスの首輪
【思考・状況】
基本行動方針:帝王たる自分が三日以内に死ぬなど欠片も思っていないので、『殺し合い』における行動方針などない。
0.基本方針から、いつもと変わらず、『天国』に向かう方法について考えつつ、ジョースター一族の人間を見つければ殺害。もちろん必要になれば『食事』を取る。
1.我が友プッチもこの場にいるのか? DISCで確認しなければ…。
2.この身体に感じる違和感はなんだ?ジョースターの血統か?
3.方針2の処分を考える。保留にした場合、放送が終了し30分程度でマッシモを呼び戻し下水道を通って地下を移動、情報を集める。
4.マッシモ・ヴォルペに興味。
5.首輪は煩わしいので外せるものか調べてみよう。
備考:ヴォルペからスポーツ・マックスの首輪を預かりました。


【E−2 GDS刑務所・特別懲罰房外 / 一日目 早朝(放送すこし前)】

【マッシモ・ヴォルペ】
【時間軸】:殺人ウイルスに蝕まれている最中。
【スタンド】:『マニック・デプレッション』
【状態】:健康
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、大量の塩@四部、注射器@現実、紙コップ
【思考・状況】
基本行動方針:特になかったが、DIOに興味。
1.放送終了30分程度までは外に出て自分の考えの整理&誰かに出会えば接触。
(おおよその移動経路としてE−3北西の橋を渡り東を見てみようと思っている)
2.DIOと行動。
3.天国を見るというDIOの情熱を理解。
4.しかし天国そのものについては理解不能。
備考:DIOにスポーツ・マックスの首輪を渡しました


【支給品紹介】
携帯電話@5部
スチュ略に支給された唯一の物品。チョコラータとセッコが使っていたもの。
デザインは若干古いが留守電の録音なども可能。
お互いの番号は知っている(登録されている)ようだが、他にこの会場に電話があるのか?番号の登録はされているのか?それは現段階では不明

紙コップ@6部
支給品ではなく刑務所内で入手したもの。
F・Fが陸上での活動を克服するためにしょっちゅう持っていたもので、今回マッシモが拾ったのは特別懲罰房に乗り込んだFFが(ケンゾー戦の時に)落としたであろうもの。
結構大きいサイズで500mlくらいは入るのではないだろうか。
これに血を入れてストローで飲むDIO様を見られる日は来るのだろうか?それは現段階では不明
507計画  ◆yxYaCUyrzc :2012/04/17(火) 23:30:24.86 ID:h9jhZOzd
以上で本投下終了です。
仮投下からの変更点は以下の通り
・改行位置、表現の変更
・FF&ホル・ホースペアに関する描写を追加
・入手アイテムの変更(紙コップの個数)
待機を選択するSSの難しさには本当苦戦させられます。下手すればレスひとつで話が終わるw
指摘があったFF組とのニアミスですが、乗り込んだ場所を懲罰房にして距離的な面を解消。DIOの違和感も『二人ともジョースターの身体だけど中身は違う人』って事で曖昧にしています。
というかいったん破棄して4人で再予約するのは大変だっt(ry
タイトルですが、やっぱり『要素』で行くほどの内容には持っていけませんでした。『計画』で行かせてもらいます。
誤字脱字・矛盾点等々ありましたらご指摘ください。それでは。
508 ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 00:43:43.24 ID:TdwHXiaP
規制解除されたんで、投下します。

>>507
投下乙です。ニアミスすぎて、FFとホル・ホースがやばい。
どっちがあっても終わりしか見えない辺りがやばい。
ヴォルペの単独行動が吉と出るか、さてどうなることやら。
509 ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 00:44:41.82 ID:TdwHXiaP
轟轟と音を立てて燃え盛る炎。火、火、火……辺り一面、火の海だ。
立ち上る熱気、滾る興奮に汗が止まらない。重く湿った学生服で額をこすりあげると血に染まった袖がどす黒く変色した。
それを見た噴上裕也は、自然と口角が吊り上るのを抑えきれなかった。
血だ。しかし、本来ならば反応を示すべきそれですら、今の彼にとってはどうでもいいもの。

ただ、ただ、おかしかった。目の前の光景、事象。すべてが滑稽だった。

「おい、なんなんだよ、これ……」

呆然とした声が聞こえ、彼は視線を上げる。燃え盛る光源がスポットライトのように辺りを照らし、声の主を赤く染め上げていた。
揺らめく熱気、陽炎のように点滅する光景を前に、東方仗助は思わず声を漏らしてしまった。
そんな仗助を見て、噴上は笑った。ずっと抑え込んでいた感情が爆発し、彼は腹を抱えて、笑った。

「なんなんだって? これが一体なんなのかわからないっていうのかよ、仗助よォ?」

大げさで仰々しいとわかっていながらも噴上はあえて舞台の一コマかのように、手を広げ、声を張り上げる。
二人の視線が交錯する。噴上は皮肉気に、自嘲を込めて彼に宣言する。
その瞬間、炎は勢いを増し、二人を呑み込むように天高く、舞い上がった。


「英雄ごっこはお終いだ、ってことさ」


ハッピーエンドじゃ終われない。
全ての物語が笑顔で終演を迎えられるとは限らない。


空は漆黒の闇から、ほの暗い暁の紺へと色を変えていた。
二人の頭上、遥か天高くより、いくつもの星が堕ちていく。
炎に飲み込まれたかのように一瞬だけきらめいた星々は、やがて見えなくなった。



510 ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 00:46:32.43 ID:TdwHXiaP






―――物語を少々遡って……


「しつこい男は嫌われる、というのがおれの持論なんだが、ユウヤ、君はどう思う?」
「時代は変わっても、そこら辺はあんまり変わってねェーぜ、ティム。
 おれも賛成だ、特にこっちの都合も考えずに追っかけまわすような男は風上にも置いとけねーなァ!」
「何のんびり話してるんですか、追いつかれそうなんですよッ!?」
「ドイツの運転技術は世界一ィイイーーーッ! 見よ、この華麗なドリフトをォオオーーー!」

爆音を鳴らし進むタンクローリー、車内に響く悲鳴にも近い少年の叫び声。
耳を塞ぎたくなるような轟音と混乱を前に、おもわずしかめ面になったマウンテン・ティム。知らず知らずのうちに、溜息を零してしまう。
この窮地を切り抜けた暁には煙草の一本でも吹かしたいもんだ、呑気にそんなことを考えながらも、ティムは現状を分析する。
バックライトに時折映る筋骨隆々の影は、先ほどより色濃くなり始めた。忍び寄る死神は疲れを知らず、それどころか、後一歩のところで彼らに追い付こうとしている。
つまりは、とそっと息を吐き出すと彼はこう結論付けた。
このままだと追いつかれる。ただこのまま何もせず、タンクローリーをむやみに走らせていたならば。

「ティムさん!?」

マウンテン・ティムが助手席の扉をあけ、車内に暴風がなだれ込んできた。
吹き飛びそうになるカウボーイハットを抑え、名前を呼ばれた彼は振り返る。その表情は緊張でこわばるでもなく、戦いを前に高揚しているわけでもなかった。
康一が目にしたのはどこまでもクールで、冷静な仕事人。パトロールに出かける前、同僚に呼び止められただけかのような、穏やかな表情を浮かべていた男がそこにはいた。

声をかけたはいいものの、何を言えばいいのかわからない。
言葉を失った康一からゆっくりと視線を外し、マウンテン・ティムはもう一人の少年に尋ねた。

「ユウヤ、ジョウスケ君は見つかったか?」

保安官の鋭い視線を受け止め、噴上は下唇をかみしめる。

「……いや、まだだ」
「そうか」

返しの言葉とともに席から立ち上がる。後部座席に座っていた少年二人は思わず腰を浮かした。
マウンテン・ティムには覚悟があった。自分の命を天秤にかけ、リスクを取る覚悟が。
マウンテン・ティムには誇りがあった。どんな状況であろうと、市民の平和のためならば戦いぬいてやろう。そんな保安官としての誇りが。
だが、たとえそうであろうと! 例え少年たちがそんなことは百も承知だとしても!
理性的判断と『納得』は別物だ。少年たちは『納得』できない。ティムを一人、戦いの場に送り出すなんて、承知できるわけがない。

口々に彼らは言う。一人で行かせるわけにはいかない、自分もついていく、このまま車内で待ちぼうけなんぞ臆病者のやることだ。
もう少し待つことはできないのか。すぐにでも助っ人を探し出して見せる。今の状況ならば、それこそ準備を整え四人で立ち向かったほうが、はるかに勝算が高いはずだ。
少年たちの抗議の声は反響し、増幅され、あたかも何千人もが抗議しているのかのようで。いきり立つ二人を前に、保安官は困ったように笑うのみ。
そんな時だった。
511 ◆c.g94qO9.A :2012/04/18(水) 00:49:15.15 ID:TdwHXiaP

「黙れェエエエエエいッッ!」

言葉とともにハンドルに振り下ろされた拳が轟音を立てた。シュトロハイムの大声に車内はようやく静寂を取り戻した。

「餓鬼どもがキャンキャンキャンキャン、喚くでないッ 貴様ら、闘うということを舐めているのか? エエ?
 お前たち二人合わさっても助けになるどころか、足を引っ張るだけだ―――ッ!
それともなんだ、貴様らティムを殺したいのか? ティムにわざわざ“守ってもらう”ためだけに、サンタナの前に立とうというのか?!」
「だったら、なんだっていうんだ、ここで大人しく蹲って、頭でも抱えとけっていうのかよ!?」
「ああ、そうだ! 今の貴様らなんぞ、犬の糞以下の価値もないわッ
 戦場を舐めるなよ、小僧ッ 貴様には貴様のなすべきことを果たせばいいのだ。
 それにな、まさかこの“鬼畜アメ公”が勝算もない戦いに挑むとでもお前たちは思っているのか?」

ティムは思わず声を立てて、笑ってしまった。言い放ったシュトロハイムも思わずニヤリと笑みを浮かべる。うろたえる少年たち二人とは対照的に、二人の男たちは何が面白いのか、しばらくの間笑い転げていた。
笑いが収まった二人、途端に真面目なものに表情を戻すと見つめ合う。無言の会話を通し、いくつもの感情と言葉が交わされていく。
任されたものと、任すもの。帰ってくるべきものと、帰るべき場所を守るもの。自然と二人がとったのは敬礼のポーズだった。沈黙の中で流れる男たちの歌がそこにはあった。
くるりと身体の向きを変え、ティムは少年たちに向き合う。シュトロハイムは何事もなかったかのように、運転に戻った。

「ユウヤ、ジョウスケ君を一刻も早く探してくれ。奴を相手に時間を稼ぐのはなかなか骨が折れそうだからな」
「…………」
「康一君、君は本当に頼もしいやつだよ」
「ティムさん……ッ」

短い会話を終え、男は武器となる支給品を彼らから預かる。ありったけの武器を抱え、もう一度だけ彼は車内の男たちを眺める。
シュトロハイムは運転に集中し、引き締まった表情で前を見つめている。窓の外を眺めている噴上の拳は、悔しさで震えていた。下唇を噛みしめ、くしゃくしゃに表情を崩しながら康一はティムをじっと見つめている。

なんて素敵な男たちだろう、なんて気持ちのいい奴らなんだろう。ティムはそう思う。
この短い時間で彼らは何度も素晴らしい勇気を見せてくれた。こんな難しい状況で、見知らぬ他人同然の自分を信頼してくれた。
ティムは嬉しかった。少年たちが、大声で自分も連れてってくれ、と叫んだとき、自分の中に温かい何かが流れ込んできたかのように感じた。
それは勇気というものだろう。ティムのどたまから、足の底まで貫く、大事な、大事な何かを揺さぶる感情。
それを今、ティムは三人の男たちから分け与えてもらったのだ。それは彼にとってどんな武器より強力なものだった。

素晴らしい少年たちだ、素晴らしい男たちだ。彼は思う。
そして、そんな少年たちを、男たちを守りたいと願ったからこそ、自分は保安官になったのだ。
これ以上の名誉はない、保安官冥利というのであればまさに今、この瞬間がそうだ。
自分はこれから戦いに行く。死ぬかもしれない。無事では帰ってこられないかもしれない。
正直に言えば、ブルってしまっている。身体は汗ばんでいるし、手の震えも止まらない。吐き気もすれば、顔もきっと青ざめていることだろう。

だが、しかし! 仮にそうであったとしても!
自分の正しいと思う正義のためならば! 自分が信ずる信念に殉ずる事が出来るのであれば!
マウンテン・ティム、この選択に一切の後悔はない。
人間賛歌は勇気の詩。いつの間にか震えは収まっていた。

戦いの前の表情を崩すと、最後にティムは柔らかな笑顔で男たちに別れを告げる。
ロープを巧みに操り助手席から飛び立った彼の姿は、すぐさま闇へと消えていった。
後に残されたのは、開かれた扉と誰もいない助手席。荒れ狂う風がシートを一舐めし、通り抜けていったのを二人の少年は、呆然と見るのみ―――。





512 ◆c.g94qO9.A






「さて、さて……」

タンクローリーの上に立ち、凄まじい風を全身に浴びながら男は独り呟く。
永い間愛用している帽子を押さえつけ、車の最後尾までやってきたマウンテン・ティム。そんな彼を待っていたかのように、二本の腕が闇より這い出てきた。
筋骨隆々、美しさすら感じさせる腕は車体の最後尾を捕え、巨体とも言える身体を軽々持ち上げる。
サンタナ、柱の男がゆっくりとその姿を露わにした。辺りを伺うような目つきで、鋭く睨みつけ、そして目の前の男へと目を向ける。
タンクローリーの上、幅わずか数メートルの空間で二人は対峙する。暴風吹き荒れる中睨み合う二人、その様はまさに決闘前のガンマンかのようで。

先に動いたのはティムだった。噴上よりあずかったトンプソン機関銃で、サンタナの頭を吹き飛ばす。
タンクローリーの上という場所もあり、ティムはむやみに弾をまきちらすこともできず、弾幕は数秒で終わりを告げる。
それでも、圧倒的な殺傷力。人一人には有り余る、充分すぎるほどの凶弾を、驚くことにサンタナは真正面から受け止めた。
いなすでもなく、かわすでもなく、ただそこに立ちつくす。ティムの射撃は狙いを的確に射抜き、サンタナの顔面をハチの巣のように穴だらけにした。
だが―――

次の瞬間、ティムは後ずさりそうになるのを、必死でこらえた。
世にもおぞましい光景。ぐしゃぐしゃになった顔が時間とともに、ゆっくり元に戻る。吹き飛ばされたはずの頭を乗せた身体は、何事もなかったかのように動いている。
顔をそむけたくなるような、グロテスクな状況だ。化け物具合はシュトロハイムから聞いていたが、流石に目の当たりにすると『くる』ものがある。
もはや恐怖を通り越し、笑いすら込み上げてくる。そして思う。
こんな化け物相手に、俺はいつまで時間を稼ぐことができるのだろうか。果たして本当にこんなやつを殺す事なぞ可能なのだろうか。

「ッ!」

じっくりと恐怖すら感じさせてくれない。サンタナが振り上げた指より、お返しとばかりに、いくつもの銃弾がティム目掛けて襲いかかる。
殺気を感じ取り、あらかじめスタンドを発動していたのが幸いした。鉛玉はバラバラになった身体をすり抜け、闇へと消えていくのみ。しかしティムは同時に予想以上に自分が追い込まれている事を実感した。
必要以上の銃弾は使えない。サンタナはタンクローリーを爆破したところで重傷は負うだろうが、死にはしない。しかし自分たちは違う。サンタナが放った弾丸がタンクローリーを爆破しようものなら、その時点でお終いだ。
銃弾をヤツに与えるのは危険。となるとあずかった重火器類はむやみやたらに使えない。
ならば近接戦を挑むのはどうか。これも愚策だ。チェーンソーだろうと、ナイフであろうと、柱の男たちのゴムのような身体を貫くには相当の腕力が必須となる。
波紋も使えない以上、ティムは自分の体をガードすることもできない。ならば、どうやって戦う? 一体どうやって、この化け物に立ちむかえばいいのだ?

『オー! ロンサム・ミ―』 を発動し、突進してきたサンタナをかわす。そのまま位置を入れ替えるようにヒラリとタンクローリーに着地。
ティムは頭をフル回転させる。何度も襲いかかる死神の鎌を紙一重で避けながら、考えるのをやめない。
人体の構造を無視した角度からの蹴り、顎の先をかすめ、肉を抉る。死角からの骨の追撃。ロープで身体をバラし、貫かんとばかりに迫った刃をかわす。