ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第二部

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1創る名無しに見る名無し
               __       \
         l` ー=ニ--\ノ\  _/  こいつに
        「¨ /  / ,.、 \〈 `ヽ、  ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rdを
       /, 〈 i'´/l / jノヽ i ヽ  ) 読ましてやりたいんですが
        〈// ,ノ ,≧! i  ,.ィォレi  |  /  かまいませんね
         V/! ヽtツV / i、ヒリ l / _/  !!
        ,.┴v'、     ヽノ    j‐{  ヽ
 .     { ,ヘ !. ',   ,ィニ:、  /ri l   )
       ヽニl ',   { Y`l /レ'  ∠ -──- 、   _
            ト、  ヽニフ /          ___∨´   ̄\
         /i  丶、  _./l        ,ィ::´:::::::: ̄:¨゙丶
       /l \   ̄ / l、      ,人:_:::::::::::::::::::::::::::\
    ,.--='フ / !   \_ /  l \     ト、_ `ヽ:::::::::::::::::::::::ハ
 /ヽ    /  l、  /lー-、 j  ト、.,__ /¨i:r‐‐ヽ. \::/::::/::/:::i
     ∨´ ̄フ l ヽ/  ト、/ ∨l   l r-、 \./ i'tiハ ',  ノ::ノ::::/::::::l
 ´)   ',ヽ_〈  i     l::::l   l ヽ i._ノ l ノ  `ー' _ V'" /:ノ:::::::::!
   ,  V  ヽ  ',   i:::::l   ,'  /  / 〉 i   〈 ノ ヽノ イ:/:;/
   i ,-、 i  i´\ ヽ  l:::::::l / /¨} _ノ  i∧ f‐)   l >イ¨
   l ! _j l ` ̄  ヽ \::::::::l/ // /!  l\ ヽ--‐ T¨ /ノ
 、     /i     \ ヽ::://i  / }  i/   // ./ i
  V´ヽ  l  i⌒ヽ  Lヽ.V__//´i   i  l   /::/___/ {
  l   l   !  ヽ-'   __ i /   Lノ ,.---‐つ::::::/l /  /
  l、_ノ .r‐l     /_i/__  ./  ´ ̄ニ⊃./  /


このスレでは「ジョジョの奇妙な冒険」を主とした荒木飛呂彦漫画のキャラクターを使ったバトロワをしようという企画を進行しています
二次創作、版権キャラの死亡、グロ描写が苦手な方はジョセフのようにお逃げください

この企画は誰でも書き手として参加することができます

詳細はまとめサイトよりどうぞ


まとめサイト
http://www38.atwiki.jp/jojobr3rd/

したらば
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/15087/

前スレ
ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第一部
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322211303
2創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 00:34:37.32 ID:tMN0mywz
名簿
以下の100人に加え、第一回放送までは1話で死亡する(ズガン枠)キャラクターを無限に登場させることが出来ます
Part1 ファントムブラッド
○ジョナサン・ジョースター/○ウィル・A・ツェペリ/○エリナ・ジョースター/○ジョージ・ジョースター1世/○ダイアー/○ストレイツォ/○ブラフォード/○タルカス

Part2 戦闘潮流
○ジョセフ・ジョースター/○シーザー・アントニオ・ツェペリ/○ルドル・フォン・シュトロハイム/○リサリサ/○サンタナ/○ワムウ/○エシディシ/○カーズ

Part3 スターダストクルセイダース
○モハメド・アヴドゥル/○花京院典明/○イギー/○ラバーソール/○ホル・ホース/○J・ガイル/○スティーリー・ダン/
○ンドゥール/○ペット・ショップ/○ヴァニラ・アイス/○ヌケサク/○ウィルソン・フィリップス/○DIO

Part4 ダイヤモンドは砕けない
○東方仗助/○虹村億泰/○広瀬康一/○岸辺露伴/○小林玉美/○間田敏和/○山岸由花子/○トニオ・トラサルディー/○ヌ・ミキタカゾ・ンシ/○噴上裕也/
○片桐安十郎/○虹村形兆/○音石明/○虫喰い/○宮本輝之輔/○川尻しのぶ/○川尻早人/○吉良吉影

Parte5 黄金の風
○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/○レオーネ・アバッキオ/○グイード・ミスタ/○ナランチャ・ギルガ/○パンナコッタ・フーゴ/
○トリッシュ・ウナ/○J・P・ポルナレフ/○マリオ・ズッケェロ/○サーレー/○プロシュート/○ギアッチョ/○リゾット・ネエロ/
○ティッツァーノ/○スクアーロ/○チョコラータ/○セッコ/○ディアボロ

Part6 ストーンオーシャン
○空条徐倫/○エルメェス・コステロ/○F・F/○ウェザー・リポート/○ナルシソ・アナスイ/○空条承太郎/
○ジョンガリ・A/○サンダー・マックイイーン/○ミラション/○スポーツ・マックス/○リキエル/○エンリコ・プッチ

Part7 STEEL BALL RUN 11/11
○ジャイロ・ツェペリ/○ジョニィ・ジョースター/○マウンテン・ティム/○ディエゴ・ブランドー/○ホット・パンツ/
○ウェカピポ/○ルーシー・スティール/○リンゴォ・ロードアゲイン/○サンドマン/○マジェント・マジェント/○ディ・ス・コ

JOJO's Another Stories ジョジョの奇妙な外伝 6/6
The Book
○蓮見琢馬/○双葉千帆

恥知らずのパープルヘイズ
○シーラE/○カンノーロ・ムーロロ/○マッシモ・ヴォルペ/○ビットリオ・カタルディ

ARAKI's Another Stories 荒木飛呂彦他作品 5/5
魔少年ビーティー
○ビーティー

バオー来訪者
○橋沢育朗/○スミレ/○ドルド

ゴージャス☆アイリン
○アイリン・ラポーナ

参戦部未定
○ロバート・E・O・スピードワゴン
3創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 00:37:54.92 ID:/W78HjCN
名簿忘れてたごめんねごめんね >>2
4創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 01:15:41.84 ID:OwLFzoRX
クレイジー・乙・ダイヤモンドユカイ
5 ◆yxYaCUyrzc :2011/12/25(日) 18:23:36.55 ID:V3kkSKgx
スレ立て乙です。
前スレにていただいたご指摘を踏まえまして後日wiki収録します。
相変わらず書き込みの調子が不調……orz
6創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 22:04:01.74 ID:WLw9z/Cc
スレ立て乙
7創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 22:51:23.36 ID:UVWrgP43
スレ立て乙です
8創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 23:10:23.63 ID:hgEstVJW
もう2スレ目とか早過ぎだろ〜ッ
乙です
9創る名無しに見る名無し:2011/12/26(月) 01:25:37.71 ID:CbVKnbp7
そういえば今日で開始一ヶ月ですね
ものすごいペースw
10 ◆yxYaCUyrzc :2011/12/27(火) 15:51:27.84 ID:AhW+lx/X
wiki収録しました。不足がありましたらご指摘ください。
11 ◆4eLeLFC2bQ :2011/12/28(水) 00:03:43.17 ID:0QoO6/Rp
トリッシュ・ウナ、ウェカピポ
前スレから引き続いて投下します。
12 ◆4eLeLFC2bQ :2011/12/28(水) 00:05:15.77 ID:0QoO6/Rp

 アメリカ国民としての市民権と地位が保証されるはずだった任務にも失敗したといえる。
 タッグを組まされたマジェント・マジェントは死に、オレはジャイロ・ツェペリを越えることができなかった。
 慢心を捨て、着実な戦いをし通したとしても、運命の女神はどちらかにしか微笑まない。
 それをわかっていながら、ルーシー・スティールを護ってほしいという願いを聞き届けたのは、まだ巻き返すことができると、愚かしくもどこかで考えていたからだ。

 その後、なにが起きた?
 ルーシー・スティールの居場所を探るため市庁舎の周辺を張っていたところだったはずだ。
 不自然に制止していた馬車を見つけた瞬間、──暗転。
 気が付けば、護るはずだったルーシー・スティールの夫、スティーブン・スティールが『殺し合え』と、信じられないようなことを宣言していた。

 今度こそ、盾にしてきた『信条』や『正しさ』のようなものは消え失せた。
 オレはいつでも正しく思える大多数の味方であろうとし、その都度坂道を転がり落ちてきた。
 今のオレはどこにも属さず、誰にも与しない。
 かといって、強い情熱や信条もない。
 オレが護ろうとしていたものは、消え失せてしまった。
 誰が正しいのかもわからない。行き場所はない。帰る場所もない。
 オレの居場所は、もう、完全に……。


 闇雲に歩いてきた途上、歌が、かすれたアルトがきこえてきたのは、そのときだった。



 * * *
13 ◆4eLeLFC2bQ :2011/12/28(水) 00:06:15.74 ID:0QoO6/Rp



 声は近くに見える小屋の方からきこえた。周囲にはばかるようにひっそりとおさえられている。
 すぐそばを通りかからなければ気付けなかっただろう。
 そっと、歩み寄る。
 薄暗い小屋の中、物音はひとつしかない。デイパックの中身を確認しているようだ。

 彼女は歌っていた。
 低くかすれたアルトが、ゆったりとした甘美な旋律を紡ぐ。
 若々しく伸びやかな声は、同時にいたいけで今にも壊れてしまいそうな儚い響きも宿していた。
 どうして自分が耳聡くも歌に引き寄せられたのか、そばできいてわかった。
 彼女の歌声には懐かしい響きがある。
 下品でやかましいアメリカ人の口調ではない、故郷ネアポリスの言葉。なめらかで暖かな響きにオレは惹かれたのだ。


──ナポリターナ──


 幻想的な情景に、郷愁の念を重ねながら漁師が海をゆく。
 彼が愛し、彼の帰りを待っているその土地は、美しい故郷ネアポリス。

 耳にしていながら、娯楽など必要ないと、頑なに興味を持たないでいた歌。
 なぜ、いままで不要なものだと決めつけていたのだろう。
 雪がいつの間にか溶け、春を実感するように、つまらない思い込みはすっかり消えていた。

 誰もが不条理の中で生きている。歌を聴いてもそれが解決されるわけではない。
 けれど人はおそらく、歌に自らの思いを託し、明日への活力とするのだろう。
 それを、今、はじめて理解した…………。


「オレの、故郷の歌なんだ……。
 なんという曲なのか、教えてもらえないだろうか?」


 一つしかない扉の方向を、少女は緊張した眼差しで見つめた。
 やがて、微笑み、彼女は手招きをする。

 戸口に佇む男の頬は、静かに濡れていた。



 * * *
14 ◆4eLeLFC2bQ :2011/12/28(水) 00:07:11.35 ID:0QoO6/Rp



 小屋にオレを招き入れた少女は、名をトリッシュといった。
 突然の来訪者に対して過剰に緊張することもなく、彼女は落ち着き払っていた。
 過去を悔い、道を見失っていたオレより、彼女は精神的にずっと年上のように感じられる。

 『なぜ危険を省みず歌っていたのか?』というオレの質問に、彼女は『少し長くなるわ』と答えた。
 それから語られた彼女の波乱に満ちた半生。
 母親の急逝、父親からの殺意、信じられる仲間たち、父親との訣別、新しい生活を始めようとした矢先の『殺し合い』。
 肉親に裏切られたというわりに、父親のことを話す彼女は淡々としており、もう過ぎたことと受け止めていることがわかった。
 かわりに、彼女の瞳が壮絶の色を帯びたのは、仲間との別れを語ったときだった。


「あたしのために彼らが死んだのだと思うと辛かった。やりきれなかった。
 なにも知らないで、あたしなりに必死だったことさえもバカバカしく思えて、すべてにやる気がなくなったの。
 あたしは護られるに値する人間だったのかしら。
 ボスの娘だというだけの、特別な力も、誰もが手をさしのべたくなるような性格でもない、ただの娘に彼らはなにを見出したのかしら。
 どうしてあたしが生き残って、彼らが死んだのかしら、って。
 彼らの葬儀がすんで、しばらくは落ち込んでいたわ。
 自分に価値があると思わなきゃいけない。でも思えない。
 そうやって鬱ぎ込んでる自分に、もっと自信がなくなっていって、どんどん悪い方に考えてしまって。

 でも、あるとき気付いたの。いいえ、気付かされたの。
 彼らはね、彼らが信じることのために命を懸けたの。
 あたしはそのきっかけにすぎなかった。
 あたしがあらわれる前から、彼ら、いいえ、彼は悩んでた。
 ずっとずっと、自分の中の正義が失われていくことに悩んでいたのよ。
 正しいと思うことを言い出せないで、心だけが死んでいくの。
 それって死ぬより辛いことだと、今では思うわ。
 あたしが哀れな娘だから護ってくれたんじゃない。
 自分の中の正義に殉じたんだって。
 あたしが護られていたのは、あたしが生き残ったのは、その結果でしかなかったのよ。

 彼が悩んでいたことを知って、彼がどうして死んだのか理解したとき、ふっと心が楽になった気がした。
 正しいことを正しいっていいたいのはあたしも同じだって。
 あたしも彼らと同じだった。誰も、特別じゃなかったのよ。
 だから……、たとえ殺し合いを命じられて、それを強要されたとしても、正しいと信じることをしたい。
 私の愛した人たちに恥ずかしくない人間でいたいから」
15 ◆4eLeLFC2bQ :2011/12/28(水) 00:08:23.92 ID:0QoO6/Rp


「羨ましいことだ……」
「え?」
「オレの周りには、君の友人たちのような人種はいなかった」

 彼女のすがすがしい瞳に、思い返すも恥ずかしいが、オレは憎しみを抱いた。
 嫉妬していたのだ。若干16歳の少女に対して。
 それからオレが吐き出した言葉は、現状を打開するための情報などではなく、後悔と恨みばかりだった。
 妹の夫を責め、ネアポリス王国を責め、アメリカ合衆国を責め、ジャイロ・ツェペリを責め、スティーブン・スティールを責めた。
 汚い感情に汚い言葉。話の繋がらない箇所も多かっただろうか、彼女はほとんど質問を挟まず、オレの話を聞いていた。


「ウェカピポさんは、これからどうするつもり?」

 しばしの沈黙の後、彼女が口を開いた。
 試しているような挑みかかるような目をしていた。

「話したとおりだ。オレには行く場所もなければ、目的もない。
 死にたくはないが、生き残れるほどの強運を自分が持ち合わせているとも思えない。
 スティーブン・スティールの真意もオレにはわからない。
 つまり、なにも展望がない。
 …………トリッシュ、君が良ければだが、君の護衛をさせてもらえないだろうか」
「そうくると思った。お断りよ」
「なぜ?
 巻き込まれた人々がみな殺し合いに積極的だとは思わないが、ひとりでいることがどれほど危険だと思う。
 オレの次に会う人間は、有無をいわさず君を殺すかもしれないんだぞ」
「あたしの問題じゃない。ウェカピポさんの問題よ。
 偉そうなこと言うと思うでしょうけど、言うわ。
 他人を傷つけてでも正しいことをしようとしたら、心から信じられることでなければ、必ず後悔すると思ったの。
 誰かを護ることも正しいことなのかもしれない。
 でも、自分が正しいと思えることを見極め続けなければ、なにを護っているのかわからなくなってしまうって、あたしはそう思うわ。
 だから迷ってるウェカピポさんには、護ってもらいたくない」

 正論を述べることは難しい。
 無知は子供の目を曇らせ、保身は大人の口を重くする。
 彼女は本当に辛い経験を乗り越え、成長してきたのだ。わがままではない意見を、必要あらば誰にでも伝えられるほどに。
16 ◆4eLeLFC2bQ :2011/12/28(水) 00:09:15.41 ID:0QoO6/Rp

「…………君は、大人、なんだな。オレなんかよりよっぽど」
「尊敬できる、いい友人に囲まれていただけよ」
「……………………」
「そうね……もし、ウェカピポさんが、年齢や性別のような差を問題に思わない人ならの話よ。
 その……、あたしが『彼ら』みたいに、あなたにとってのいい友人になれたら、嬉しく思うわ」
「…………!」

 少し照れたようにトリッシュは視線を逸らしている。
 分不相応なことをいってしまったとでも思っているのだろうか。
 オレが、どれだけ驚いているのか考えもしないで。

 彼女の言うとおり、オレはなにかを護ることで自分が正しくあろうとし、そのたびに後悔を重ねてきた。
 自分でも嫌気がさすようなこのオレに、彼女は心から信じられるものを見極めろと言った。
 主と護衛という関係ではなく、友人同士になれるのなら、嬉しいと。

「オレは…………まだ迷っている…………。
 だが、ここを脱出して妹に再び会いたい。
 そして今度こそ自分が正しいと信じられることを選び取りたい。
 そのために、君に協力したい。かまわないだろうか?」
「そういうことなら、もちろんよ」

 差し出された手は小さいが、暖かかった。

「……なぜ、歌っていたのか、って聞いたわよね?
 あたし、怖かったの。
 すべてはあのとき終わったんだと思いたかった。夢ならば醒めてほしいって願った。
 自分が育った街を思い出したら、少し勇気が湧いてきた。
 偉そうなこといってごめんなさい。
 あたしも怖くてしょうがないの。誰かに殺されることも、自分で自分の気持ちを裏切ることも。
 でも仲間がいれば平気よ」

 トリッシュが笑う。
 その表情はどこか、遙か遠い故郷の妹に似ていた。
 嫁入りの話が出る前の、海を見たことがなかった頃の彼女の微笑みに。

「それで、これからどうするつもりだ?」
「……まず、ウェカピポさんの話をきいていて疑問に思ったところを確認したいわ。
 『ネアポリス王国』ってなにかの組織名?」
「…………?
 オレの祖国、つまり国の名前ということになるな」
「ネアポリス……ナポリはイタリア、カンパニア州の県。国じゃあないわ。
 あたしはイスキアの出身だから、間違えるはずない」
「オレは、君が街の暗部の話をしているから認識がずれているのかと思っていた。
 まさかオレが離れているうちにネアポリス王国は滅亡を……?」
「ナポリ、というか両シチリア王国は1861年にイタリアに併合されたんだったわよね。
 だとしたら、ウェカピポさんはとんでもなく若作りなおじいさんか、『過去から来た人』になっちゃうわ」
「オレは1859年生まれの31歳だ」

 『両シチリア王国』『イタリア』聞き慣れない単語が並んだ。
 気色ばむトリッシュに対し、当然のことを言ったまでだったが、それをきいた瞬間彼女の表情はさらに色を失った。
17 ◆4eLeLFC2bQ :2011/12/28(水) 00:10:10.17 ID:0QoO6/Rp

「…………!?
 ちょっと待って、今年は2001年でしょう?」
「…………オレの認識では、1890年だ。
 冗談を言っている顔ではないな。どういうことだ……」
「まさか……、場所も人の命も、この世界という概念自体をも、自由に扱うことのできるスタンド……?
 それならほかのいくつか引っかかったところも、説明はつくわ。
 だけど…………それは…………」
「ああ……、人の身には過ぎる能力、と思いたいものだ。
 ひとりの人間の仕業とは考えたくない……」

 小屋内の空気が急に冷えだしたように感じた。
 口の中が乾き、嫌な汗で手がぬめる。

「あなたの知り合いのスティーブン・スティールという男が、黒幕なのかしら」
「彼についてはグレーだ。
 先ほどは彼を否定したが、彼に直接会ったことはない。
 きいていた情報と今回の件とで印象が違うのもまた事実」
「そう……、敵については未知数ってことね」

 ふぅーっとため息を吐いたトリッシュの眉間にはシワが寄っている。
 怯えだろうか。彼女のまつげの先が微かに震えて見えるのは。

「殺された3人に見覚えは?
 3人ともオレの知り合いではなかった」
「殺されたうちの1人は、あたしの友人だったジョルノ。ほかの2人は知らないわ」
「それは…………」
「大丈夫。辛くないといったら嘘になるけど。
 ……ステージ上で3人が殺されたとき、あたしは父が実は生きていたのかと思った。
 おかしいと思われるかもしれないけどね、あたしは父の『気配』のようなものを感じることができるのよ。
 さっき、ステージが見える場所にいたとき、あたしはたしかに父の『気配』を感じた。
 あのとき、父は逃げ延びていて、ジョルノやあたしたちに復讐しに来たんじゃあないかと」
「つまり裏にいるのは君のいうギャングの首領だった人物で、アメリカ合衆国との連携までして、関係者を殺し合いの舞台に立たせたと?」
「いいえ、それはないと思う。
 ついさっきあたしは、おそらく父の、『気配』が消えるのを感じた。
 つまり、父のような人種でさえ、『巻き込まれた』側に属するのよ。
 最初から父ではなく、父に類する人間だった可能性もあるけれど。
 あたしが恐れているのは、父よりももっと邪悪で、あのジョルノを軽々と拉致して殺せるような人間がいるってこと」

 トリッシュの視線が薄暗い小屋の天井を仰いだ。
 そこは濃い闇に支配され、天井の木枠はほとんど見えない。

「結局は、事情を知っているヤツを探して、できるかぎり協力関係をつくるしかないだろう。
 ジャイロ・ツェペリやジョニィ・ジョースター、ほかにもこの『殺し合い』自体について思うところのあるヤツが参加させられている可能性は高い。
 余計な消耗をしないうちに、積極的に関わっていった方がいいだろうな」
「同感よ。あたしにとって、頼りになる友人はもうひとりしか残っていないから」
18 ◆4eLeLFC2bQ :2011/12/28(水) 00:11:03.11 ID:0QoO6/Rp

 グイード・ミスタ。彼女が特別に信頼を置いている人物。
 お互い、負傷のないうちに出会うことができればいいが……。

「トリッシュ、出発前にひとついいか。
 オレには武器がない。いつも所持していたはずの鉄球は取り上げられてしまったらしい。
 紙に記されていたのも、武器にはなりえないようなものだった。
 君に銃火器があるなら貸してもらえないだろうか?」
「そうね、あたしはスタンドがあるからいいけど……。
 ごめんなさい。紙を開いてみたけれど、こんなものしか入ってなかったの」

 デイパックをごそごそさせ、トリッシュが彼女の支給品を取り出す。
 それは風変わりな模様の入った鉄球だった。

「『ジャイロ・ツェペリの鉄球』って紙には書いてあったけど、あたしにはよくわからなかったわ。
 一発勝負になるけど、なにもないよりマシかしら?」

 トリッシュはその手で鉄球をもてあそんでいる。
 彼女は知らない。ネアポリス王国に伝わる技術を。
 オレやジャイロ・ツェペリが辿った運命を。

 鉄球を受け取る手は震えていた。
 もし、一番最初に出会った人物がトリッシュでなかったのなら、オレはなにも見出せないまま、ボロ雑巾のようになって死んでいただろう。

「いや、いい。これで、十分だ。
 感謝しよう、トリッシュ…………」
19 ◆4eLeLFC2bQ :2011/12/28(水) 00:11:36.81 ID:0QoO6/Rp
【G-5 トウモロコシ畑 小屋内 一日目 深夜】



【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]: 健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止め、ここから脱出する。
1.ミスタ、ジャイロ、ジョニィを筆頭に協力できそうな人物を探す。
2.あのジョルノが、殺された……。
3.父が生きていた? 消えた気配は父か父の親族のものかもしれない。
4.二人の認識が違いすぎる。敵の能力が計り知れない。


【ウェカピポ】
[能力]:『レッキング・ボール』
[時間軸]: SBR16巻 スティール氏の乗った馬車を見つけた瞬間
[状態]: 健康
[装備]:ジャイロ・ツェペリの鉄球
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュと協力し殺し合いを止める。その中で自分が心から正しいと信じられることを見極めたい。
1.感謝する……トリッシュ……。
2.ミスタ、ジャイロ、ジョニィを筆頭に協力できそうな人物を探す。
3.スティール氏が、なぜ?
4.ネアポリス王国はすでに存在しない? どういうことだ。


【備考】
トリッシュの支給品は『ジャイロ・ツェペリの鉄球』のみでした。
ウェカピポの支給品は武器にはならないものです。
20 ◆4eLeLFC2bQ :2011/12/28(水) 00:12:42.84 ID:0QoO6/Rp
以上で投下完了です。
タイトルは「遥かなるサンタルチア」
誤字脱字、矛盾等ございましたら、ご指摘をお願いします。
21創る名無しに見る名無し:2011/12/28(水) 01:25:19.45 ID:pTd+2pKi
投下乙

予約された時からウェカピポがトリッシュの護衛することになるのかと思っていたけど、友人ってのはいいな……
ドキッ☆イタリア人だらけのジョジョロワ3rd 〜ポロリもあるよ〜

自分が見つけた誤字は前スレ>>473の読点重なりのみ
>オレが引き合わせた夫は、仕事をこなす能力に関しては申し分なかったが、、妹を
22創る名無しに見る名無し:2011/12/28(水) 07:13:02.35 ID:th1cL+II
投下乙です

帰る場所をウェカピポは今度こそ見つけられるのだろうか
23◇c.g94qO9.A氏代理投下:2011/12/30(金) 20:16:27.21 ID:E3j21foP
シュトロハイムさんは気さくで豪快な人だった。少し高慢ちきで無神経なところもあるけどその率直さが今の僕をホッとさせた。
身の丈に合わない期待、過剰なプレッシャー。もしシュトロハイムさんもそんな風に僕を扱っていたらさぞかし参ったと思う。
シュトロハイムさんにとって僕は単なる日本人の少年、僕に対してああだこうだと望むようなことはしない。ただの一人の人間として、等身大の僕でいられる。背伸びしないでいいことが僕の肩の荷を下ろしてくれた。

「なァに、康一ィ! 貴様は何ぞ悪いことはしとらん、少年は少年らしく健全にまっとうに、大船に乗った気でいるがいいッ
 殺し合いなんぞにこのシュトロハイム、そしてわれらが同盟国民を巻き込んだ事を後悔させてくれよォオオ―――――ッ!!」

シュトロハイムさんは何を考えてるのか……。こう言ったら失礼かもしれないけど、もしかしたらなんにも考えてない人なのかもしれない。
けどその見た目の奇天烈さ、常に高いテンションからは想像もできないぐらい実際頼りになる人だ。凄い人だと思う。
玉美さんがいなくなった後、僕らは互いに話した。それは主にこの数時間何があったか、だった。
僕が話に詰まった時、シュトロハイムさんは上手く言葉を引き出してくれた。うまく要点をつかみ、情報を整理し、僕の言いたい事はだいたいは理解してくれたみたいだった。僕自身、ほとんど言うべきことは言えたと思った。

シュトロハイムさんと話をして驚いたのは、スタンド使いでないシュトロハイムさんにスタンドが見えるようになっていたことだ。何故だか僕にはわからなかったけど、ここではだれでもスタンドが見えるようになってると考えたほうがいいかもしれない。
それと、シュトロハイムさんが話してくれた話はびっくり仰天の連続。柱の男、波紋使い、石仮面、エイジャの赤石……。僕自身がスタンド使いでなければきっと正気を疑っていただろう。それだけぶっ飛んだ話だった。

「気ィイイイになるぞォオオオ!! スタンド、未知の可能性ッ 異なる能力、常人には与えられぬ天武の才能ッ
 であるならば我ら崇高なるゲルマン民族にスタンドを授けることが不可能であるはずがないッ
 なぜならァアア……ドイツの科学力は世界一ィイイイ―――ッ!
 スタンド能力の分析と研究による人工的能力開発……、フフフ……もしこれができたならば戦線は拡大、そして…………」

シュトロハイムさんはスタンドのことを考えてるのか、ゲルマン、スタンド、待ちきれないッ と小さな声で呟き、ニヤニヤしていた。
僕はそんな横顔を見ながらどこまでこの人を信頼すればいいんだろうかァ、と悩んでいた。
シュトロハイムさんが悪人だとか信用できない、ってわけじゃあない。僕を助けてくれたし、一人の人間として僕に敬意を示してくれてる。
簡単なようだけど殺し合いの中でそれをするってのはなかなか簡単ではないと思う。とても立派で尊敬できる人だ。

けど少し“おかしい”のだ。
今は1999年だし、戦争なんて歴史の教科書に載るぐらい昔の事。日独伊なんちゃらかんちゃらなんてものはもはや存在しないし、アドルフ・ヒトラーはとっくに死んでいる。
シュトロハイムさんの言っていることはめちゃくちゃだ。
それに加えてその体は機械で作られていて、まるで漫画やアニメのサイボーグみたいだ。僕の知る限りじゃ最近ようやく二足歩行のロボットができたとかできてないとか、そのレベルだったはずなのに。
本人いわく ドイツの科学力は世界一ィイイイ―――ッ! だ、そうだけれども。

はたしてシュトロハイムさんは何者なんだろうか? 一体どこまで信じればいいのだろうか? 全部作り話なのだろうか。それとも僕を笑わせるための悪趣味なびっくりなんだろうか。
……違う。僕は即座に自分の思いつきを否定する。とてもじゃないが冗談ではない、それだけは断言できる。
シュトロハイムさんは言っていた。一番最初、ホールでの事、シュトロハイムさんの友人があの首輪を爆破された三人のうちの一人だったらしい。
快活で、いつも騒がしいシュトロハイムさんがこの時ばかりは神妙で真剣な顔つきになっていた。友人の死を語る軍人の顔になっていた。
そんな人がめちゃくちゃな嘘をつくだろうか? ありもしない作り話を大真面目に語るだろうか?
僕も名前と顔を知っている空条承太郎さんが目の前で殺されたことは相当ショックだった。今でも信じられないぐらいだし、仗助君のことが心配だ。
人の生き死には決して冗談で済まされない。死んだ人のことを想って、今を生きているシュトロハイムさんのことを信じたい。
24◇c.g94qO9.A氏代理投下:2011/12/30(金) 20:17:31.75 ID:E3j21foP
けれど釈然としないんだ。僕は今、混乱している。
どうすればいいんだろう? 一体何が起きてるんだろう? シュトロハイムさんはいったい何者で、なにがどうなってるんだ?


「止まれィイイイッッッ!」


突然の大声に、文字通り僕は飛びあがった。
見るとさっきまでニヤつき顔だったシュトロハイムさんは険しい顔で橋の向こうに広がる暗闇を睨んでいる。

「警告だッ それ以上近づくようであれば30mmの鉄板をも貫く重機関砲が貴様らをハチの巣にするぞォオオオ―――ッ!
 ……康一、車のキーが俺のポケットに入っておる。タンクローリーのライトをつけてきてくれないか」

僕にだけ聞こえるように出された指示に従い、僕はタンクローリーに向かう。車を運転している両親の姿を必死で思い出し、ああでもない、こうでもないと悩みながらもなんとかライトをつけることに成功した。


     ピカァアアアア―――……ッ


ライトに照らされ、姿を現したのは二人。
一人はテンガロンハットをかぶった、まるでカウボーイのような恰好の男の人。ルックスもイケメンだ。
もう一人も負けず劣らずのハンサムな学生。バッチリと決めた学ランを着、首から下げたスカーフがとても似合っていた。
突然の光に反射的に二人は手をかざし、眩しそうに目を細めていた。

「まずは名乗ってもらおうかッ 忘れるなよ、余計な事を言おうものならすぐさま撃つぞッ」
「マウンテン・ティム、保安官だ」
「……墳上裕也」

役に立つのか、足を引っ張ることになるのか。今の僕は正直どっちだろうか。
ただの子供でありながら、普通の子供とは違いスタンドという不思議な力が使える。けれどもその不思議な力というのはたかが音を張り付け、相手を惑わしたりだます程度の、ちっぽけな能力。戦力と呼ぶには心もとないんじゃないか……。
結局僕はシュトロハイムさんの後ろに立ち、何か起きたとしてもすぐに行動できるよう、気持ちだけは準備しておくことにした。
シュトロハイムさんならすべき事があればすぐに指示をくれるだろうし、邪魔になりそうだったらはっきりそう言ってくれるだろう。
子供は子供らしく。シュトロハイムさんの言った通り、僕はまだ大人に頼るべき少年なんだ。

「……康一? おい、康一じゃねーかッ!!」

その時、タンクローリーの光に目が慣れたのだろう、煌々とライトで照らしだされた内の一人が突然声をあげた。
見ると高校生らしき男の子が僕のほうを向き、叫んでいる。銃を突きつけられている以上、動くことはできないが、僕のほうを確かに見て嬉しそうな顔をしている。
だけど僕には全く心当たりがなかった。彼とは一切面識がなかった。覚えている限りじゃ、僕は“今”初めて彼と会ったはずなんだけれども……。
25◇c.g94qO9.A氏代理投下:2011/12/30(金) 20:18:53.64 ID:E3j21foP
そもそも僕の高校生活は始まったばかりで、クラスメイトの顔もまだ覚えきれていない。友達どころか、知り合いすらまだまだ少ない段階なのだ。
クラスのみんなは僕のことを広瀬とか広瀬君、って呼ぶし康一、なんて親しげに読んでくれるのは覚えてる限りじゃ仗助君ぐらいなもんだ。
シュトロハイムさんが顎を撫でながら僕のほうをちらりと見た。きっと僕が困っているのが顔に出ていたのだろう、声をかけてくれた。

「知り合いか?」
「……いえ、多分ちが……――」
「この不届きものォォオオオオ――――ッ!! 我々を騙そうとしてもそう上手く事は運ばんぞォオオ―――――ッ!!」
「は、何言ってんだよ、お前! 俺だよ、忘れちまったのか?
 そりゃ確かにおめ―とは実際つるんだり、一緒に飯食ったりするようなことはしなかったけどよォ、一緒に戦ったじゃねーか!
 あのクソゲスな紙使い! 仗助が本にしちまったスタンド使い! 覚えてねーのかよッ!?」

そっからさきは訳がわからなかった。彼の言うことには全く覚えがなかった。けれども何故だ変わらないけど全部が全部、嘘じゃなかった。
僕と仗助君に関して、杜王町について、ぶどうヶ丘高校について、承太郎さんについて、虹村億泰君について。

その一方で僕がまるで知らないことも次々と話題に出てくる。
殺人鬼”吉良吉影、“超人気漫画家”岸辺露伴、弓と矢について、僕のスタンドとその能力。
何より一番驚いたのは山岸由花子という女の子についてだ。
彼女は僕のことが好きらしい。そして僕も彼女のことが好きで、なんと付き合っているらしい!
この僕が、女の子と付き合っているッ!? 墳上君の言葉を信じるならば自分のことらしいんだけれども、とてもじゃないが信じられない……。

「貴様ァアアアア さっきから黙っておれば言いたい放題ぬかしおってェエエエ――――ッ!!
 スパイかッ 陽動作戦かッ どっちにしろ我々を混乱に陥れる情報錯乱戦術だというのならば容赦はせんぞォオオ! これは最終警告だッ!!」
「康一……、一体どうしちまったんだよ…………?」

シュトロハイムさんは少年の前に立ちふさがるように一歩踏み出すと、これ見ようがしにマシンガンを大きく揺らす。それをわかってか、墳上君は弱り切った表情で僕を見ている。切実そうな目に僕は思わず視線をそらしてしまった。
どうすればいいのか、ほんとうにわからなかった。墳上君は悪い人じゃなさそうだった。言ってる事は無茶苦茶だというのに全部が全部そうじゃない。
知り合いであるはずがないのに、彼は僕の事を信頼している。僕の事を気のいいやつだ、裏切るはずがない、そういう眼で見てくる。
けど……わからないんだ。だって、違うんだもの。僕は殺人鬼なんか知らないし、山岸由花子さんとは会ったことも見たこともない。
一体なんなんだ……。 僕に何をしろって言うんだよ……。


それでも僕は必死でシュトロハイムさんをなだめていた。銅像のごとく直立不動、銃身を逸らすことなく突きつけた状態でいる彼の前に立ち、なだめすかし、説得しようとしていた。
友人じゃないけど、友人かもしれない人。よくわからないけど、決して悪い人じゃない人。僕はどっちの人にも悲しんでほしくなかったし、僕のせいで誰かが傷つくなんてそんなことは絶対に嫌だったから。
26◇c.g94qO9.A氏代理投下:2011/12/30(金) 20:19:18.35 ID:E3j21foP
「……ユウヤ、さっき話した事、覚えてるか? 君がそんなことありえるか、馬鹿馬鹿しすぎる、そう言った話だ。」
「あれは……!!」

その時、今まで黙って静かにしていたカウボーイの男の人が口を開く。
墳上君が何か言いかけたが、カウボーイはそれを無視すると遮るように強く太い声が続いて響き渡った。
シュトロハイムさんは動きを止め、その言葉にじっと耳を傾ける。

「マウンテン・ティム、一人の平和を愛す保安官としてッ 約束を貫き通す一人の男としてここに宣言するッ
 我々に敵意はないッ! 戦闘の意志もなく、貴方達を陥れようなんてことは神と愛する祖国に誓い、ないと断言しようッ
 ミスター・シュトロハイム! どうか矛を収め俺たちの話を聞いてほしい。これはもは俺たちだけの問題でもなく、君たちだけの問題でもない。
 事件に巻き込まれ、今この時も殺し合いを強要されている全ての被害者の問題。フェアな情報交換をお願いしたいッ!!」

力強い宣言だった。沈黙の中、シュトロハイムさんがマウンテン・ティムを見る。マウンテン・ティムがシュトロハイムさんを見返す。
僕のようなひよっ子にはわからない。けど二人は無言の会話を通して言葉以上にわかりあったようだった。
これ見ようがしに振りかざしていた銃を収め、シュトロハイムさんが二人を手招きした。
僕を含め全員をタンクローリーまで誘導すると、ライトを切り僕ら四人は車内で膝をつき合わせた会話にうつる。
それが更なる混乱と驚愕になるとは知らずに。



27◇c.g94qO9.A氏代理投下:2011/12/30(金) 20:20:05.43 ID:E3j21foP
運転席に座ったシュトロハイムさんが、神経質そうに一定のリズムを指で刻む。コツコツと金属製の指が心地いい音をたてていた。
助手席に座るティムさん、整った顔の眉間に皺が寄り、外を眺めながら物思いにふけっている。
そして隣に座る墳上君は戸惑いの表情。苛立ち気に首から下げたスカーフをもてあそび、しきりに鼻を鳴らしていた。
僕はと言うと、暗闇の中、当てもなく視線を泳がしている。車のライトは消え、薄暗がりの中で僕は混乱する頭を必死で沈めようとしていた。

さっきの話声と光で、他の参加者を引きつけることになるだろうからとティムさんは移動したがっていた。だがシュトロハイムさんは四人での情報共有を優先した。
それは彼がこの情報交換がすぐに終わるものと思っていたからだ。僕という前例があったからそんなに時間はかからないものだ、そう思ってたのかもしれない。
だが四人での会話、そこから見えてきたものはまるでおとぎ話のような真実。僕ら二人の会話が砂粒ほどに見えるほどのビッグインパクト。

「それで……結局どうすんだよ?」

重苦しい雰囲気を破るように墳上君が言った。僕の隣、後部座席からバックミラーに映る前の二人を見つめている。
シュトロハイムさんは無言で僕らを見つめ返し、ティムさんはテンガロンハットをかぶりなおした。
墳上君も本気で返事を期待したわけでもないのだろう、顎を二、三度かくとまた黙りこむ。僕を含め、今わかったことを誰もが受け入れきれてないのだ。
僕らが時間を、あるいは時空をこえて集められたということに。

「俺は殺し合いに乗る気は一切ない。平和を守り、市民の安全を確保するのが俺の仕事であり、俺は自分の仕事に誇りとプライドを持っている。
 俺の提案としては当面は仲間探しだな。主催者に反抗するグループの結成、殺し合いの破壊、そしてここからの脱出。
 人数が多ければ多いほどアイディアは出てくるだろうし、技術者もいるかもしれない。コイツを分解できるような、誰かがな。
 それにせっかくこんな立派な“足”があるんだ。使わない手はないだろう?」

いくらか経った後、ティムさんの落ち着いた声がした。シュトロハイムさんが続いて賛成の意見を唱えた。
墳上君も納得したように頷いている。僕には反対する理由もなく、これからの行動方針は決まった。
協力者集め ―― 僕らはこれからいくつか施設を周り共に戦ってくれる人を探すことにした。


ティムさんの宣言の後、僕らは互いに話をした。いろんな事がわかったが一番の衝撃は決定的な矛盾。時代の違い、歴史の違い、認識の違い。
一人や二人ならまだもしかしたら“たまたま”知らなかった可能性もある。だけど四人が四人ばらばらの事を言い、知らなかったじゃ説明できないほどの矛盾があった。そして何より僕と墳上君の証言が決定的だった。
ティムさんは1890年のアメリカ、シュトロハイムさんは1938年のドイツ、僕と墳上君は1999年の“二つ”の日本。
僕らは違う時代を生きていた。そして違う歴史、違う世界を生きていた。小説や漫画でよく目にするパラレルワールドってやつだ。
さっきの墳上君の話しは“未来の広瀬康一”のものだったみたいだ。殺人鬼吉良吉影との死闘も、山岸由花子さんとのラヴロマンスも、杜王町に存在する七不思議も全て未来の僕が経験すること。

三人は地図を広げどのルートをどう取るべきかで熱い議論を繰り広げていた。僕は車の運転経験もないし、これといった案もなかったのでお任せすることにした。窓越しに広がる暗闇をぼんやりと眺めていた。
あまりに突拍子がなさ過ぎて、いまいち現実感がわかないというのが今の僕の正直な気持ちだった。そりゃ確かにスタンドなんて不思議でなんでもありな力がある以上、時間や空間を超えるスタンドがあってもおかしくはない。
けど不思議と恐怖は湧いてこなかった。突拍子がなさ過ぎて僕にはピンとこないのだ。
軍人、保安官、豊富なスタンド経験。三人はそれぞれ脅威に思える基準がある。これがどれだけ大きな力で、恐ろしいかということが直感的にわかる。
今もその気持ちがあるからこそ真剣にルートを議論し、可能な限り素早い行動に移ろうとしている。それが今までの経験上でどれだけ大切なことがわかっているから。
28◇c.g94qO9.A氏代理投下:2011/12/30(金) 20:21:23.75 ID:E3j21foP
でも僕は違う。数週間前までただの中学生だった、この僕には。


『少年、君はたいした英雄(ヒーロー)だったぞォ!!』


僕は違う。ただの学生だ。ただの子供だ。
たまたまスタンド使いになっただけ。それ以上でもないし、それ以下でもない。
そう繰り返し言い聞かせているのに、こんなにも苦しい。
ダイアーさんが最後の力で治してくれた腕がズキズキと痛む。墳上君が“過去の僕”を見て、拍子抜けしたような表情をしていたのが忘れられない。
未来の僕はどうしてそうなれたんだ。どうして強く立ち向かえたんだ。


どうして……『  』なんかに…………―――――




「静かにッ」
「……どうした、ユウヤ?」


車内に突然鋭い声が響いた。声の元は墳上君、指をたて神経を集中させ、何かを探っている。いきなりの警告にティムさんが辺りを警戒しつつも尋ね返す。シュトロハイムさんも大きな身体を捻り、窓越しに鋭い視線を辺りに飛ばしていた。
墳上君に僕ら3人の視線が集中する。彼は静かにしてろ、と口の前で指をたてしきりに鼻を鳴らす。真っ暗やみの静寂に、衣擦れや風の音が響いた。
時間にしたら数秒だろうか、気配を察知した墳上君が口を開いた。表情は険しく、その口調には若干の焦りが含まれていた。

「シュトロハイム、さっきてめー言ってたよな? 柱の男、だっけか。奴らは全身で相手を捕食して、一つ一つの細胞で人間や吸血鬼を食う。そう言ったよな?」
「ああ」
「…………臭い、だが一体何の臭いだ? 鼻が曲がっちまいそうだ……生臭い、けど魚や肉じゃねェ。
 新鮮な肉じゃねェくせに、妙に刺激が弱いのがさっぱりわかんねェ。なんだ、これは……? こんな臭い、嗅いだことがねェ」
「一体どうしたっというのだ、墳上よォ? まさか柱の男がいるとでもいうのかァ?
 だとすればいったいどいつだ? カーズか、ワムウか、それとも我々が知らぬ新たな柱の男か?」
「…………ッ?! 車を出しやがれッ、シュトロハイムッ!」

急発進しようとした車体。ギアが入ってたなかったのか、大きなタンクローリーは揺れ、黒い煙が噴あがった。
油断していた僕はしこたま頭を天井にぶつけ、眼から火花が飛んだ。痛みのあまり涙目になりながらも見ると、シュトロハイムさんが大急ぎで発進の準備に取り掛かっている。
急発進の元凶、墳上君はと言うと席から身を乗り出し、運転手をしきりに急かしていた。それにしても尋常ない焦り方だ。
焦らされるほうはたまったもんじゃない様子で、シュトロハイムさんが盛大に悪態をついた。
29◇c.g94qO9.A氏代理投下:2011/12/30(金) 20:22:20.12 ID:E3j21foP
「一体何が何だって言うんだッ」
「イイから出しやがれ!状況は走りながら説明する! いいから今は…………ッ」

ヘッドライトが灯され、それを合図にしたかのように彼は黙りこんだ。墳上君をのぞく僕ら三人も彼の焦りと言わんとした事を今目の前にして、黙りこむ。
ブジュル、ブジュルと微かにガラス越しに聞こえる音は耳触りで、不愉快極まりないもの。目の前に広がる光景も負けず劣らずの吐き気を催す、惨劇場。
二人と言えばいいのか、何人かと何匹と言えば正確になるのだろうか。とりあえず確かな事は一つの捕食者と、一つ以上の被捕食者がいる。
食べられているほうはもはや虫の息。一体どうなってるのかまるで分らないが顔から突き出た何匹かの蛇も、まるでつまみのように一緒くたに食べられてしまっている。
身体の大部分ももはや消化され、僅かに残った食べ残し具合がグロテスクさに一層拍車をかけている。隣で墳上君が口を押さえていた。
これが、シュトロハイムさんが口にしていた“柱の男”……ッ

「つまり、こいつがアンタが言ってた柱の男、というやつかシュトロハイム?」
「3人とも……今すぐシートベルトをつけろ。怪我をしても俺は保障何ぞせんぞ」

言葉もない僕とは対処的に眉一つ動かさず、冷静な声でティムさんが話しかける。
話しかけられたシュトロハイムさんはしばらくの沈黙の後、言葉を返す。質問には答えず、黙って従え、という意が容易にそこから読み取れた。
胃の底に響くような音をたて、タンクローリーのエンジンがうねりをあげる。獲物を前にしたライオンが喉を鳴らすように、低い音。
シュトロハイムさんの唇がめくり上がる。容赦など一切なく、目の前の敵を排除する。残忍さむき出しの、ゾッとするようなゆがんだ笑顔だった。

「貴様が何故生きているのか知らんが……今ここで再び、始末してくようぞ、サンタナァアア―――――ッ!
 貴様に与えれた痛み、屈辱ッ その身に刻んでやろうではないかァアア―――ッ!」

咆哮とともにタンクローリーは直進していく。超重量級のこの列車でシュトロハイムさんは引き殺すつもりなのだッ
打撃、斬撃、弾丸、圧力。全てに対して並はずれた抵抗力を持つ奴らに対抗すべく、シュトロハイムさんはさらにアクセルを踏み込んだッ

「くらえサンタナァアア――――ッ!!」

衝突音、車体に走る衝撃、暗闇で何が起きたか僕からはよくわからなかった。フロントガラスを遮るように一度だけ影が走り……そして静寂。
息をのむような沈黙だったがそれはすぐに破られる。僕が黙ったいたのは現状がよくわかっていなかったから。だけど他の三人は違ったようだ。
額に汗を浮かべ、引きつった表情。前の席に座った二人は一切警戒心を解いていない。墳上君がぽつりと、望むようにつぶやいた。

「……やったのか?!」
「あれッ!」

その時、僕は見た。何気なく視線を向けただけだった。別にそれを見つけようとしたわけではなく、言うならば見てしまったのだ。
口から飛び出た声は僕が思ったよりずっと大きく、緊張で高くなっていた。僕が指差したサイドミラーを一斉に三人は見た。
ゾッとするような怖気が走る。サイドミラーに映ったのは今しがた跳ね飛ばしたはずの……今しがたシュトロハイムさんが始末したはずの、柱の男だったッ
30◇c.g94qO9.A氏代理投下:2011/12/30(金) 20:23:38.33 ID:E3j21foP
「おいもっと飛ばせねーのか?! このままじゃ追いつかれんぞッ!! あんな化け物野郎、俺たちだけじゃ無理だッ 追いつかれようもんなら俺たち、皆殺しだぞッ!?」
「慌てるな、ユウヤ……いざとなったら川に飛び込めれば逃げ切れる可能性もある。本当の最終手段だが、まだあわてるような状況ではないッ」
「それもできんようだぞ、マウンテン・ティム……」

混乱の中、それぞれがありのままの言葉を口にする。
墳上君は焦り、恐怖を前に叫ぶ。ティムさんは努めて落ち着いて口調で冷静を呼びかけようとするも、柱の男の規格外のタフさを前に額に冷や汗を浮かべる。
そしてシュトロハイムさん。ひきつった笑顔に余裕は一切ない。強がりでもなく、ただただ驚愕の事実を前に笑うしかない、そんな感じの表情だ。
一瞬だけ視線をミラーに向け、アクセルを一踏み。うねりをあげて、車が加速する。シュトロハイムさんが食いしばった歯の間から言葉を捻りだす。

「くそッ、我々は決して奴を侮ったわけではないッ だがそれでもここまでの……これほどの化け物だったとはッ
 奴はこの“車”という機械の構造を完ぺきに理解している! この殺し合いの中での数時間で身につけたのか、あるいはそれ以外の場所で知識として理解したのか。
 とにかく今の一瞬の交錯の際、奴は肉片を利用したのか、直接その身で行ったのか……。
 このタンクローリー……もはやブレーキが利かんッ! この車はたった今、この瞬間から……」

開き直りににも似た表情、悟り切り覚悟した眼で僕らの顔を順に眺めると、最後の一言を言いきった。


「暴走列車になるッ……!」


呆然とする僕ら二人を脇目に、大人たちは動きを止めない。
シュトロハイムさんは片手でハンドルを動かし、ポケットから地図を取り出す。そんな彼に向ってティムさんはでデイパックをあさりながら、一言二言、言葉を交わした。
その眼に星屑のように輝く、力強い希望を宿して。

「運転は君に託したぞ、シュトロハイム。コーイチ、ユウヤ、腹をくくれ……四の五の言ってる暇はない。
 俺たち三人で奴を……叩くッ もしがそれができなければ……」


止められない。僕らはもう進むしかない。後戻りはもう、できない。
どうしてこうなった、そんな不平や不満を言っても何も変わらない。嘆き悲しみ、それでも僕らには突っ切るほか、道は残されてない。


「俺たち四人は全員、朝日を拝むことなく……死ぬことになるッ」


31◇c.g94qO9.A氏代理投下:2011/12/30(金) 20:24:34.75 ID:E3j21foP
数時間……たった数時間で僕の周りは劇的に変化した。
僕はそんな状況に出会うたび、慌てふためき、嘆き、苦しみ、それでも最善の選択肢を目指しもがいてきた。

突然見ず知らずの男に襲われた時、僕のような弱い人を戦いに巻き込くまいと必死だった。
倒れ伏し、死にそうな怪我負った命の恩人に僕は逃げてほしかった。
そんな人がそれでも立ち上がり、一歩も引かずに戦った時、なんとか手助けがしたかった。
僕を信頼し、期待してくれる人の期待に、僕は何とかこたえたかった。

そして今、またこうやって途方もない困難に立ち向かうしかない状況に直面する。
なんで僕がこんな惨めで、残念な気持ちにならなきゃならないんだ……? そんな気持ちがわいてくる。開き直り、そして怒りが僕の中で込み上げる。
やつあたり? ああ、そうだ、そうかもしれない。だけど殺し合いに巻き込まれて誰に怒りを向けずに素直に殺し合う……そんなとはまっぴらだッ


ああ、いいさ! いいとも、やってやるとも! やるしかないんだもの!
化け物だろうが、なんだろうがかかってくるがいいさッ
やってやる……僕は、僕らは…………負けてなんかやらないぞッ!!















さぁ、お手並み拝見と行こうか……、“勇敢なる”ヒーローたちよ!

【F−5 南東部路上/一日目 黎明】
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → ???
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:左腕ダメージ(小)、錠前による精神ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず殺し合いには乗らない。
0:サンタナをどうにかする。
1:各施設を回り、協力者を集める。

【ルドル・フォン・シュトロハイム】
[スタンド]:なし
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:タンクローリー運転中。
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊。
0:サンタナをどうにかする。
1:各施設を回り、協力者を集める。
32◇c.g94qO9.A氏代理投下:2011/12/30(金) 20:25:16.61 ID:E3j21foP
【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミ―』
[時間軸]:ブラックモアに『上』に立たれた直後。
[状態]:なし
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
0:サンタナをどうにかする。
1:各施設を回り、協力者を集める。

【墳上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[時間軸]:四部終了後
[状態]:なし
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
0:サンタナをどうにかする。
1:各施設を回り、協力者を集める。

【サンタナ】
[スタンド]:なし
[時間軸]:後続の書き手さんにお任せします
[状態]:なし
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:???
0:???


【備考】
四人と一人は東に向けて爆走中です。どのぐらいの速さ、ルートは次の書き手さんにお任せします。


61 :GO,HEROES! GO!    ◆c.g94qO9.A:2011/12/30(金) 18:30:42 ID:JqMC3wR6
以上です。また規制されてたのでどなたかすみませんがお願いします。
何かありましたら指摘ください。

あだ名を下さった方、ありがとうございます。名前負けしないよう、これからもがんばります。
33創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 22:01:49.30 ID:xII9YN1q
代理投下乙です

ティムとシュトロハイムかっこいいなあ。しっかりした大人だ
やっぱ柱の男は脅威だな
全員で朝日を拝めると良いけど、サンタナという強敵を相手にどうなるか
34創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 22:16:50.49 ID:jhNVhPP6
代理投下乙です
>>31ですが
死にそうな怪我負った

死にそうな怪我を負った
ですかね?
サンタナ対シュト様の因縁の対決の行方wktkです
35創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 22:47:12.76 ID:7z67P+Sh
代理投下乙です。

「未来の」康一君を知ってる墳上に会ったことで、どう康一君が変わっていくのか楽しみで仕方ないです。個人的にエニグマ戦の墳上が格好良くて好きなのでロワでも是非頑張って欲しいですが……どうなるやら。
36創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 23:09:36.55 ID:ojsqtn0d
一話目も書かれないメンバーが居る中康一君は三話目か
さすがだ
37創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 23:46:38.02 ID:jqN+cqbo
投下乙です
シュトロハイムはまた早々に柱の男とエンカウントか
ツイているのかいないのか…
康一くんは今回こそ長生きしてほしいがどうなる事やら

指摘は2点
墳ではなく噴です。噴上ですよ。
怪人ドゥービーは破棄でしょうか?
38創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 23:56:29.95 ID:w5y/xYwc
ドゥービー食われてるよ?
39創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 23:56:33.89 ID:xPyHV0Qt
投下乙です

イケメンとハンサムコンビかっこいいじゃねえの
上手くいけば安定したチームになりそうだ
康一君が逆ギレ状態なのが少し不安か

>>37
ドゥービー立派に死んでたじゃないですかやだー

以下指摘
>>25
何故だわからないけど → 何故かわからないけど
>>25、26
これ見ようがし → これ見よがし
>>27
誇りとプライド
同じ意味では?
>> 29
身体の大部分ももはや → 身体の大部分はもはや
>>29
貴様に与えれた → 貴様に与えられた
>>29
黙ったいた → 黙っていた
>>30
開き直りににも → 開き直りにも
>>31
巻き込くない → 巻き込むまい

タンクローリー
4人乗り可能? 一般的には二人乗りだと思います
シュトロハイムからサンタナへの思考
サンタナを細切れにして殺す実験を行っているので、ひいたくらいじゃ死なないと思いそう
ティムの思考
スティール氏とルーシーに対する考えがどこかにあればもっといいと思います
40 ◆VjwVrw6aqA :2011/12/31(土) 00:07:05.17 ID:NWoH9Ivf
投下乙です

初の奇麗な噴上。
1stだと最初に会った相手から不運の連続でしたから・・・

異色の対主催チームは果たして生き延びる事が出来るのか?
とても楽しみです。

一応、自分の作品も完成したので、今から投下します。
41 ◆VjwVrw6aqA :2011/12/31(土) 00:08:41.04 ID:NWoH9Ivf

無造作に伸ばした髪に、生気の感じられない灰色の肌。歴戦の兵である事を想起させる甲冑は、ところどころ錆び付いている。
『中世の騎士』という言葉がシックリくる。彼の名は黒騎士ブラフォード。

(最初の広間で死んだ男。似てはいるが、ジョナサン・ジョースターではない……)

直接見た訳では無い。だが、ブラフォードは勇気ある青年の気配をどこかに感じ取っていた。
この場にいるとあらば、いずれどこかで相対する。向かってくるならば受けて立とう。
ブラフォードは青年の事を頭の片隅に置き、思考の海に浸る。
彼にとって、殺し合いという現実はそこまで重い物ではない。『77の輝輪』の試練もある意味では命の取り合いであったし、戦場で剣を立てる事が日常だったのだ。歴戦の騎士にとっては100人程度の戦争など『その程度』でしかない。
彼の心を揺さぶったのは、主催者のかけた言葉一つ。

「どんな望みも叶える。その言葉が真実ならば、俺は……」

ブラフォード自身に託すべき願いはない。元より天涯孤独の身。望みがあるとするならば、死力を尽くした戦いのみ。
思うは、失われた主君唯一人。
戦で全てを失ったブラフォードを包んでくれた慈愛の女神。
全てを捧げてもいい。そう思っていたのだ。
しかし、現実は残酷だ。

卑劣な老女は、女神を迷宮に叩き落とした。
黒騎士は、命を差し出した。
待っていた物は、主君の変わり果てた姿だった。

「呪ってやるッ!てめえらの子孫末代にいたるまで呪いぬいてやるゥ!」

世を恨み。人を呪いながら、死んでいった。
朽ち果てた肉体は、吸血鬼の手の平で弄ばれながらも、生前の意識を鮮明に保っていた。
主君を失い。世への復讐を誓い続けた男が抱く望みはただ一つ。

「我が主君メアリー・スチュワート!彼女を黄泉路より連れ戻し、俺は彼女の傍で剣を振るい続ける!そして理不尽極まりない女王の選定をやり直す!」

高潔な人間の魂を残していれば、その思考のおかしさに気づいた事だろう。
何の根拠もない言葉に縋り付き、誇大妄想を描く。
元より、彼の崇めた聖女は、殺戮の上に立つ我が身など望みはしない。
望みを果たしても、聖女は決して微笑んではくれないだろう。
生前の忠誠心をそのままに人の心を失った屍生人は、その矛盾に気づかない。

「この戦場にいる猛者共よ!かかってくるがいいッ!能力と能力!技と技!精神と精神!最大を尽くし!このブラフォードと闘えィィィィ!」

騎士道と復讐心の奇妙なコントラスト。朽ち果てた体を引き摺り、騎士は呪いの声を、世への恨みを掲げながら、名乗りを上げる。

42 ◆VjwVrw6aqA :2011/12/31(土) 00:10:02.12 ID:NWoH9Ivf
ふと、主催者の言葉が蘇る。選りすぐりの品を、武器を用意していると。
背中の荷物には、重量を感じない。期待はできないと、ため息一つ。
中を見る。そこには紙切れ1枚と、用途の分からないもの。地図。
地図だけは残しておく必要があったが、他の物は不要と感じる。
100s相当の重りを以てしても苦としないブラフォードだが、余計な荷物はいらない。
荷物を無造作に捨てた。

放物線を描いて、荷物が飛んでいく。その内の一つでしかなかった紙切れが、地面に落ちると共に、鉄塊に化けた。
大型スレッジ・ハンマー。それが武器の名称。
紙がハンマーに変化した現実にブラフォードは目を見開くも、一瞬で鋭い眼光に戻り、ハンマーを拾う。
いたるところに手をあて、感触を確かめる。
3回程素振りを繰り返した後。片手に強く握り締める。
超重量のハンマーだが、屍生人の怪力ならば扱う事は容易。

よく手にじませたそれを、力の限り振り下ろす。

    ド グ ォ ン !

奇妙な破壊音とともに、クレーターが出来上がった。
もう一度、ハンマーをじっと見つめ、何の感慨もなく呟く。

「ふむ、剣に比べれば扱い難いが、武器としては充分か」

得物の感触を確かめ、地図とそれ以外の荷物を全て捨てる。
戦闘準備が整えられた。
ふと遠くを見つめると、巨大な鏡がそびえていた。
真一文字に引かれた赤い線は、どこか禍々しさを孕んでいる。
そう思ったブラフォードが鏡を覗き込んだのと、その中に人影を見つけたのは、それとほぼ同時だった。

「俺の姿が見えたのなら……おまえはもうおしまいだッ!」

敵の攻撃が始まった。

◆◆◆
43 ◆VjwVrw6aqA :2011/12/31(土) 00:11:17.45 ID:NWoH9Ivf
川のほとりで立ち尽くす。
そこにあるのは間違いなくティベレ川で、イタリア人の俺いるのに違和感が無い様にも思える。
問題はそのティベレ川を挟んでエジプトの町並みが見えるって事だ。俺の知ってるイタリアと違ーぞ。


一体どうしてこうなっちまったのか。これまでの出来事を思い返す。
俺は確かフーゴの野郎のウィルスに浸食され、腕を犠牲に『鏡』から外に出た。
命からがら鏡の外に出たら、そこにはフーゴのスタンドが待ち構えていた。
パープリン野郎。紫とイカレタ奴って意味をかけてる。ちっとも笑えねーがな。
とにかく、あの殺人スタンドの腕を止めて、賭けに勝ったと思った。
そう思ったら、その拳からウィルス入りのカプセルが出てきてーーー

気がついたら、下っ端のジョルノの野郎と、知らねえ男二人の首が吹っ飛んでいた。
鏡の世界に置いてきた右腕と、グズグズに崩れるはずだった体は至って健康だ。
そういう意味ではラッキーかもしれねえが、その代わりが殺し合いだ。
運がいいんだが悪いんだがわかりゃしねえ。

人から恨まれる仕事をしちゃいるが、それとは関係ない様に思える。
怨恨目的にしちゃあ人を集めすぎだ。
数にして100人以上。それだけの人間を逆恨みする奴なんざビビって冷蔵庫にでも隠れるのが関の山だ。

とすれば、あのカリメロ頭の言う通り、道楽という事になる。
俺の体を治したスタンド使い。拉致したスタンド使い。どうやらバックはかなり大きいみてーだな。
暗殺者の俺に殺し合いを強要するなんていい度胸だ。
御期待に添えられる様な仕事をしてやるぜ。ついでにテメーの命も頂いてやる。

取りあえずの行動として、持ち物の整理を始める。
デイパックの中に入っていた地図。
子供がおもちゃ箱とテレビの知識で作った様な滅茶苦茶な地形だった。
ローマにカイロ、東洋の町。不気味な事この上ない。
その地図によれば、俺の現在地はC−4の南って事になる。
川に潜れば、エジプト行き下水道。
出来れば世話になりたくねえ。

その出てきたのは、食料とか時計とか、そんな物ばかり。
殺し合いだかキャンプだかわからなくなってくるな。
鉛筆は、使い様によっては凶器になり得る。
頼りない事この上ないが、俺のスタンド『マン・イン・ザ・ミラー』は力そのものは弱いスタンドだ。無いよりマシだろう。

44 ◆VjwVrw6aqA :2011/12/31(土) 00:12:13.34 ID:NWoH9Ivf
最後に残ったのは、折り畳まれた紙が2枚。
何かの隠し場所でもメモしてあるのか?どの道大した物は入ってなさそうだ。
大した期待もなく紙を開く。その瞬間、巨大な物量が降ってきた。

(これもスタンド能力か?いや、ここは喜ぶべきか)

眼前に、俺の全長を映せる程大きい鏡が広がっていた。
なんという幸運ッ!やはり運は俺に味方している様だ。
これで、俺の取るべき戦法は決まった。
鏡の世界に入り込み。『待ち』に徹する。
後は興味本位でバカが釣られるのを待てばいい。
それこそ、鏡を消し飛ばされない限り、俺は無敵だ。

歌でも歌いたくなる様なハイな気分を抑え、二枚目の紙を開ける。
そこには、冷たい水で濡れてる様な美しい刃物が落ちていた。
東洋の品か?工芸品の様に作り込まれたそれを、拾い上げた。その瞬間

「ヒィィィィィ 孤独だよーっ」

……刀が喋った
それ自体はスタンドで説明がつく。メローネの『ベイビィ・フェイス』みたいな、自立型スタンドだ。
それにしても喧しい。どうでもいい事に突っ込むギアッチョ並みじゃねーか?
取りあえず、地面に落としてみる。

声が聞こえなくなった。
せっかくの武装を放っておくのもアレなので、もう一度触る。


「うわあああああああああああああああああああ」

「うるせえ!次喚いたら叩き折るぞ!お前のスタンドについて全部教えろ!でなきゃやっぱり叩き折るッ!」


「うう………グスッ…うわあああああああああああああ」

止まらない。止められない。

「操ろうと思ってもなんか出来ねえしよ〜ッ、なんでこんな目にあわなきゃならねんだよおおおおおお」


「うるせえって言ってんだよッ!川に沈めるぞ!」

「川は!川だけはやめてくれええええええええええええ」

「黙れえええええええええええええ」


どうして、こうなった。

◆◆◆
45 ◆VjwVrw6aqA :2011/12/31(土) 00:12:45.96 ID:NWoH9Ivf
鏡の世界に入り、イライラと共に剣を叩き付ける事数十回。
泣き止んだこいつから、話を聞き出した。
名前は『アヌビス神』
本体は色々会ってこの場にはいない。
能力を纏めると

・刀身に触った相手を操る(何故かこの場ではできないみたいだが)
・物体をすり抜けて攻撃が出来る
・相手の攻撃を『覚えて』強化出来る

犬みたいな像で泣き喚く姿は、不気味としか言いようがない。
なんでも、敵スタンドに負けて川底に沈んで、ここに来たらしい。
面倒くせえが、強力なスタンドである。
鉛筆を武器にするよりは大分マシだ。
問題としては、刀と腹話術する必要がある事だが、鏡の世界ではあまり関係ないだろう。

「まあ、この『アヌビス神』がいるからには勝ったも同然だな!
何故なら絶……〜〜対に負けんからだあ!」

「一回負けてるじゃねえか。パワーの方はともかくとして、オツムの方はあんまりよくないみてーだな。操れなきゃただの犬か?え?」

「細かい事は気にするァァァァ!!俺に使われるだけありがたいと
うわやめて捨てないでごめんなさいいい!!!!

取りあえず、『マン・イン・ザ・ミラー』に持たせる事にする。
どの道声は聞こえてくるが、一応『当たり』に部類される物みてえだ。多少なりとも我慢はする。


意識を外の世界に傾けると、甲冑の擦れる音が聞こえる。
人だ。それも、随分と時代錯誤な格好をしていやがる。体もがっちりしている。
最も、どんな力を持っていようが、鏡の世界では無意味だがな。
鏡を見た時があいつの最後だ。

そして甲冑野郎が鏡を覗き込んだ。
うるさく吠える刀をスタンドに持たせ、俺の攻撃は始まる。
俺の近くにきたのが運のツキだ。早いとこかっ切ってやるぜ。

◆◆◆
46 ◆VjwVrw6aqA :2011/12/31(土) 00:14:01.45 ID:NWoH9Ivf
ブラフォードが認識した次の瞬間には、既に世界は反転していた。
彼が手に携えた武器が無い事にも、その世界の異常にも素早く気づいたのも、鏡に引き込まれるという異常事態に狼狽える事が無かったからだ。歴戦の騎士は、冷静さを失わない。

気がつくと、胸に違和感を感じた。体から鉄が生まれた様な、そんな感触。
戦場で決して倒れる事のなかった彼の、屈辱的初体験。
胸から、剣が咲いていた。
背後を振り返る間もなく、ゆっくりと崩れ落ちて行く。


「あっけないと言えばあっけないが、当然か」

辻斬りというにも、あまりに味気ない一瞬。
素早く刀を引き抜く。
騎士の死体は微動だにしない。

外の世界の荷物を回収しに行こうと思ったイルーゾォは、刀が震えている事に気づく
アヌビス神は、犬の顔に冷や汗を浮かべて喋りだした

「刺した感覚がなかった!死体を刺している様なそんな感触ッ!この腐った臭い、まさか……まさか!」

アヌビス神の狼狽えように、イルーゾォの顔も青ざめる。
彼はアヌビス神の言葉を反芻する。死体。腐った臭い。
思い浮かぶのは、ゲームや映画にしかいない筈の架空の存在。
いる訳ないのだ。いてはならないのだ。
振り返ろうとするも、不吉な予感が耳に囁く。
振り返ったなら、よくない事が起きる。
恐れず、振り返る。

胸に穴が開いた死体が、ゆっくりと起き上がる。
フィルムの逆回しを思い起こさせるそれは、まさにホラー映画で。
立ち上がった『騎士』の拳が飛んでくる。
咄嗟にアヌビス神を持ったスタンドの右腕が防御も図ったが、なす術無く

 
「うおあああああああああーーッ!!」


反応の遅れたアヌビス神と共に、右肩の根元から吹っ飛ばれた。

47 ◆VjwVrw6aqA :2011/12/31(土) 00:15:20.10 ID:NWoH9Ivf
「なんて事しやがるんだあああああああああああ」

鏡の男が、吠える。
苦痛に腕を抑える事も適わない。抑えるべき腕はもう無いのだから。
どこかのドラマの脱獄する囚人の様に吹き飛んだ右腕とアヌビス神を抱え、距離を取る為に走る。目の前の『化け物』から逃れる為の、必死の行動。

騎士、或いは化け物は、その様を滑稽そうに見つめる。
力を振り絞らなくても、結果は変わらなかったのだ。
腕無しの状態でも脅威の精神力を発揮したイルーゾォは、己の半身に命令する。

「『マン・イン・ザ・ミラー!』あの化け物が外に出る事を許可しろォォォーーッ!」

死にもの狂いの中で思いついた。勝利策

「だが首から上は許可しないいいいいいいいいいいいいい」


いつの間にかブラフォードに投げつけられた鏡の破片。そこに縋り付いた彼の半身は、仕事を忠実に実行していた。
黒光りする首輪から上。まさに生首が、乱雑に地面に転がった。


◆◆◆
48 ◆VjwVrw6aqA :2011/12/31(土) 00:15:47.21 ID:NWoH9Ivf
「俺の右腕の償いはッ!おまえのクソみたいな死で払ってもらうぜッ!」

踏む、蹴る、飛ばす。

目の前の男から、屈辱的な仕打ちを受ける。
その顔は、俺たち屍生人に勝るとも劣らない。
そんな醜悪な顔を携えながらも、殺す算段はしっかり立てている様だ。

「そこでゴミみたいにころがってろッ!サッカーボールにしてやるぜッ!」

言葉の意味はよくわからないが、生首の俺をボールに見立てようとしているらしい。


生首


その言葉に、何かが揺さぶられる。頭の中の何かが。
生前の記憶が蘇ってくる。それも末期の、最悪の記憶。



「ほーれ!あそこにゴミみたいにころがっとる奴!あれが彼女さ!」



横たえる彼女の首。その肌は生気がなくて、白くて、まるで−−−−−−−−−−


「 う お お お お お お お お お お お  」


−−−−−−−−−−今の俺の様だった−−−−−−−−−−


「エリザベスウウウウウウウウウウウウウウウウウウ」


てめえらクズは皆殺しにしてやる!!

貴様如き血袋!首だけで十分だ!

伸びろ、伸び続けろ!全て喰い尽くすまで!

◆◆◆
49 ◆VjwVrw6aqA :2011/12/31(土) 00:16:20.61 ID:NWoH9Ivf
「なっ!?」

イルーゾォは、今起こった状況を理解出来なかった。
生首から髪の毛が伸び、足に絡み、体に絡む。
その全てが肉に食い込まんとしていた。

食い込んでいった部位から、生気が失せて行く。
血が、吸われていたのだ。

「首だけならば殺せると思っていたッ!死なない化け物だろうと何も出来ないと油断した!全身に食い込む前に、アヌビス神で……」

残った左腕、最後の希望。一振りの刀が吠えた。

「任せておけッ!ウシャシャシャーーッ!!!


 妖刀乱舞とでも言おうか、アヌビス神は絡み付いた髪の毛を寸断していく、
妖刀は、数秒にも満たない時間で全てを切り落とした。

明らかにイルーゾォ本人の腕ではない刀の切れ味。
強い怒りが身を焦がしがらも、怨念の化身はアヌビス神を凝視した

「成る程、あの刀が自体が一つの意思を持つ妖刀と言う訳か」

首だけの騎士は一瞬静かになる。その胸中に飛来した物は怒り。

「その様な物で俺を倒そうなどと、愚弄するにも程があるぞッ!そのおかしな人形といい、貴様自分の力で戦おという気はないのかッ!」

不意打ちの時から燻っていたその怒りは最高潮に達していた。
瞬間。首から下に感覚が戻る。
反転した世界も、全て元に戻った。

全身の血を吸われたイルーゾォが、精神の疲弊と伴ってスタンドを維持出来なくなったのだ。

(このままだと殺される……何もできないままに終わる!落ち着け、何か方法を……)

手足が冷える。思考が鈍る。血が、血が足りない。
その時思いつく。最後の、文字通り決死の策

(場所は目の前ッ!あの場所に……行きさえすれば)

精一杯の抵抗。鏡を割って投げつける。
恥もへったくれもないその攻撃は、ブラフォードの足を一瞬止める事に成功する。
鏡の男は、大きな水しぶきをあげて川に飛び込んだ

◆◆◆
50 ◆VjwVrw6aqA :2011/12/31(土) 00:16:49.24 ID:NWoH9Ivf
「なにやってたんだイルーゾォ!水の中じゃ俺を振る事ができねーだろうがッ!
それに川はやめろって言っただろッ!錆びちまうよォ〜ッ!」

知るか馬鹿、刀が2〜3分で錆びてたまるかと、アヌビス神の意見を完全に無視する。
俺が取った最後の手段、それは川に入る事だった。
何の映画かは忘れちまったし、自身も無かったが、ゾンビは川を渡れねえってのがあった筈だ。
あの化け物と映画が合致するかもわからないが、他に手はなかった。真っ向からやっても勝ち目はない。鏡の世界に引きこもる事もできなくなった。
イチかバチかの賭けだったが、どうやら成功らしい。
野郎は追ってこねえ。

それにしても、畜生!せっかく右腕が戻ったと思ったらまたサヨナラする羽目になっちまった!
命があるだけ儲けもんだが、切断面に水がしみていてえ……

「イルーゾォ!」

だから気づかなかった。完全に逃げ切れたと思っていた。
油断をしていた。

「イルーゾォ!」

あの時、化け物に攻撃をしていなければ。
今更そう思っても、何もかもが遅い。

「イルーゾォーーーッ!!後ろだァァァァァァ!!!」

振り返ると、奴がいた。
『鏡の世界』に持ち込む事を許可しなかったハンマーを握りしめて。
なにか、なにか方法は−−−−−−−−−−


「URYAAAAAAAAHHHHHHHHH―――!」

水面でアヌビス神をまともに振るう事は出来なかった。
化け物の怪力は、水中の重力をもろともしなかった。

最後に感じたのは、かぼちゃが割れる様な頭蓋の感覚。
最後に見たのは、化け物の恐ろしい形相。

それを最後に、俺の意識は途切れた。

◆◆◆
51 ◆VjwVrw6aqA :2011/12/31(土) 00:17:33.65 ID:NWoH9Ivf
「MUOHHHHHHHHHHHHHHHH―――――!!!!!!」

頭がら胸にかけてぱっくり割られた死体を睨みつけ、黒騎士は吠えた。
どんなに狂っていても彼の中の騎士道精神は、イルーゾォの様な者が生業とする『暗殺』を決して認めない。土台、相容れぬ存在だったのだろう。

イルーゾォは、屍生人は川を渡れないという仮定の元からこの策に打って出た。
しかし、それこそが大きな間違い。
そもそも、屍生人は川を渡る事が出来る。
ましてやブラフォードは三十キロの甲冑を身につけたまま五キロの湖を泳ぎきった男。
彼にとって水中は苦手どころか、ホームグラウンドも同然だったのである。
そして、成す術も無く殺された。

誤解のない様に言っておくが、イルーゾォは決して馬鹿だった訳ではない。
彼のスタンドは鏡という媒体さえ見つければ、それこそ無敵なのだ。
最も、相手が人間だったらの話だ。
無敵と言った彼のスタンドにも弱点は存在する、それは人間並みの力しかない事。
スタンド使いならまだしも、体一つで超人的パワーを誇る屍生人には無力なのだ。
殺す為には必ず首を取らなければならない。屍生人の弱点は頭部と日光しか存在しない
だが、その頭部だけでも、人間以上のパワーを持っているとしたら、彼に勝ち目はない。
詰まる所、体のどの部位を鏡の世界に持ちこんで行動不能にしようが、動かずとも攻撃手段のある屍生人には勝ち目はないのだ。
加えて、ブラフォードは毛髪を伸縮させ展開出来るという、屍生人の中でも特異な能力を持っていた。
月並みの表現だが、相手が悪かった。例えるならイルーゾォはジャンケンのグー。ブラフォードはパー。

グーは、パーに勝てない。
武装としては頼りになるアヌビス神も、不死の者に対する経験は皆無。
可能性はあったかもしれないが、波紋や紫外線の様な明確なチョキにはなれなかった。
もう一度言おう、相手が悪かったのだ。

頭がぱっくり割れた死体から、一振りの刀が離れて行く。
ジャンケンのチョキであり、グーになれなかった男。アヌビス神だ。
刀のスタンドは、とにかく焦っていた。持ち主が死んだ事ではない。そんなの日常茶飯事だからだ。
問題は、自分の数秒後の未来、このままではまた、川に沈んでしまうという恐怖……といいよりは現在進行形絶賛沈没中なのだが。


(また沈んじまう!こんなどこかもわからない様な所でッ!)

目の前には、イルーゾォの死体。その下手人の不死の怪物。
漆黒の瞳が、こちらを見つめた気がする。哀れな妖刀は、最後のチャンスに輝きを放つ。
(あんたは見た所剣の達人だ!誰よりも強い!そんなあんたがこの俺と組めばまさに無敵!倍率ドン!熟練剣士と妖刀の二刀流!お互い化け物同士でお似合いだろなあ頼む頼むから俺を使ってくれ〜ッ!)

勿論、声は聞こえない。たまたまブラフォードの目線が剣にいっているだけだ。
ブラフォードは、剣の前まで泳ぎ、見つめた。

(いいぞ〜〜ッ!もう少しだッ!さあ握れ!握ってしまえ〜〜ッ!)

しかし、騎士は妖刀をよしとしない。こんな物の力は頼らない。己の力のみで戦う。
結局、アヌビス神を放って、地上へと戻っていった。
その場にいるのは、一緒に沈んで行く死体と、魚達のみ。
餌になりそうな死体だって、もっと細切れにしなければ食指も動かないだろう。


(見捨てないでーッ ヒイイイイイ また孤独だよーっ)

妖刀の沈没物語は、第2章に突入した。

◆◆◆
52 ◆VjwVrw6aqA :2011/12/31(土) 00:18:01.93 ID:NWoH9Ivf
地上に戻ったブラフォードは、腹の傷跡を気にかける事も無く。呆然と立ち尽くす。

「我が女王よ……もう暫く待たせる事になるが、必ず―――」

その顔は、どこまでも暗い。
生きる事を、考える事を放棄した屍生人は、かつての理想郷を取り戻すため、呪われた戦いに身を投じる。死体すら朽ち果てるその前に。
その先に、何が待ち受けているのだろうか。どんな未来が用意されているのだろうか。
己が望みを果たすまで、彼は止まらない。

【イルーゾォ 死亡】
【アヌビス神 沈没】


【C−4 ティベレ川付近 / 1日目・深夜】

【黒騎士ブラフォード】
 [種族]:屍生人(ゾンビ)
 [時間軸]:ジョナサンとの戦闘中、青緑波紋疾走を喰らう直前
 [状態]:腹部に貫通痕(戦闘には支障なし)
 [装備]:大型スレッジ・ハンマー
 [道具]:地図(基本支給品にあった物)
 [思考・状況]:
 基本行動方針:失われた女王(メアリー)を取り戻す
 1:強者との戦いを楽しむ
 2:ジョナサン・ジョースターと決着を着ける。
 3:女子供といえど願いの為には殺す
 4:もしタルカスもいるとすれば……助力を得られるか?
 
※見せしめで死んだのはジョナサンでは無いという事に気づきました。

[参考]

どこへ向かうかは次の書き手さんにお任せします。

C―4のどこかに、ブラフォードの荷物が散乱しています。基本支給品のみなので、あまり意味はありません。

イルーゾォの支給品は、【アヌビス神@三部】【大女ローパーの鏡@ゴージャス☆アイリン】でした。

C−4のティベレ近辺に、鏡の破片が散らばっています。

アヌビス神がティベレ川に沈みました。回収出来るかはどうかはわかりません。

【支給品紹介】

【大型スレッジ・ハンマー@二部】
ブラフォードに支給
ジョセフVSワムウの戦車戦で使用された。
ブラフォードはジョジョロワ1stで因縁あり


【アヌビス神@三部】
イルーゾォに支給
今回設けられた制限は2ndと同じ物です。

【大女ローパーの鏡@ゴージャス☆アイリン】
同じくイルーゾォに支給
ローパーの館にあった大きな鏡。
真ん中に口紅で線が引かれている。
53 ◆VjwVrw6aqA :2011/12/31(土) 00:21:03.69 ID:NWoH9Ivf
以上で投下完了です。

タイトルは「朽ち果てるその前に」です
ご指摘、問題点等がありましたらよろしくお願いします。
54創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 04:15:28.56 ID:Ijzg068t
乙っす
イルーゾォは支給品の引きは良かったのにな・・・
しかしブラフォードは思っていた以上に強いな
身体能力は高く、強靭な意志も持っている。よほど相性が良いスタンド持ちか柱の男じゃないときついな
55 ◆Osx3JMqswI :2011/12/31(土) 11:38:11.19 ID:dHWzI+JJ
プロシュート マジェント・マジェント 投下します
56 ◆Osx3JMqswI :2011/12/31(土) 11:39:20.41 ID:dHWzI+JJ



とりあえず、これから登場する男の事について話しておこうか。
その男の名前はマジェント・マジェント。
彼は、アメリカ合衆国大統領から雇われた殺し屋であり、スタンド使いだ。
これから、殺し屋が殺し屋に出会う物語が始まるのだが、それはまた後にして彼の話を続けよう。
彼のスタンドは『20thセンチュリー・ボーイ』。
能力は簡単だから一回で理解してくれるとありがたい。
『20thセンチュリー・ボーイ』の能力は、攻撃を受け流すだけだ。
着るタイプのスタンドで、『20thセンチュリー・ボーイ』を着ている間は、物理的にも、科学的にも、どんな攻撃も効かない。
この情報だけなら、『20thセンチュリー・ボーイ』はとても強そうに感じるだろ?
残念ながら、一つだけ大きな弱点があるんだ。
それは、動けない事なんだ。
『20thセンチュリー・ボーイ』を着ている間は指一本、いや、1mmたりとも体を動かす事ができない。
頭の回転の速い人ならもう気づいたかもしれないけど、彼が生き残るためには『パートナー』が必要だ。
『基本世界』では、彼の『パートナー』はウェカピポと呼ばれる鉄球使いだった。
鉄球使いに関しての説明は省かせてもらうけど、ウェカピポという男は最終的には彼と敵対する事となり、彼はウェカピポに敗北したんだ。
つまりだ。
今、彼には『パートナー』がいない。
必要な物は新しい『パートナー』なんだよ。
この物語は、彼、マジェント・マジェントが、違う世界の殺し屋と出会う物語だ。
それじゃあ、そろそろ始めようか。

  ★
57 ◆Osx3JMqswI :2011/12/31(土) 11:40:09.95 ID:dHWzI+JJ

「スティールさんよぉ、一体全体ここはどこなんだよ。
デラウェア河から助けてもらったのは感謝するけどよ、殺し合いをしろ、だとぉ?
全く……大統領の命令どころじゃあねぇぞこりゃ……」

とりあえずは状況把握か。
懐中電灯……懐中電灯……っと。
スイッチをポチッとな。

「……ありゃー。
こりゃ、悲惨な状態だ……死体が乗ってないだけマシか……」

つい最近聞いた飛行機ってやつが地面に突き刺さってやがるじゃねぇか。
それに飛行機ってのは空を飛ぶんだろ?
見たところ、ここは地上では無さそうだがなぁ……さっぱり意味が分からねぇ……
まぁ、ここへ入ってくる道は一本らしいし、籠城戦にはうってつけの場所って訳だな。
とりあえずグルリと探索はしたが、飛行機の中にもその周りにもめぼしい物は無かったな。
次はデイパックの中身だな。
食料やら何やらの必需品と……折り畳まれた紙が二枚か。
開いてみますかね。
まずは一枚目。

「……額縁がズラッと並んでらっしゃる……よな?
中には……こりゃまた悲惨……」

額縁の中に輪切りの人間とは……これを作った奴の美的センスは常軌を逸しているね……
なんていうか……すごく悪意を感じるな……
さて、気を取り直して二枚目だ。

  ★
58 ◆Osx3JMqswI :2011/12/31(土) 11:41:36.53 ID:dHWzI+JJ

「おっ、人がいるじゃあねぇか。
開始早々ラッキーだな。」

ランダム支給品の双眼鏡でマジェント・マジェントを覗く彼はプロシュート。
さっき話した、違う世界の殺し屋なんだ。
彼はギャング組織『パッショーネ』の『暗殺チーム』のメンバーであり、彼もまたスタンド使いだ。
彼のスタンドは『グレイトフル・デッド』。
能力としては、ガスに包まれた人間を老化させるんだけど、これにもまた弱点がある。
それは、冷やされたら老化しない、って事だ。
まぁ、それが無きゃ自分も老化しちゃうから仕方ないだろうけど、今の彼には冷やせる方法が、支給品の水を被るしかない。
つまり、長時間スタンドは使えないって事だ。
冷やせる仲間がいればいいのに、とかプロシュートは考えているけど、残念ながら彼の目に写っている人に期待はできない事はみなさんの方も知っているはずだから敢えて言わないよ。
まぁ、期待させておこうか。
おや?動き始めたみたいだよ。

  ★
59 ◆Osx3JMqswI :2011/12/31(土) 11:42:46.99 ID:dHWzI+JJ

さて、気を取り直して二枚目だ。

「おい、お前、そこのお前だ。
ちょっとした質問がある。
お前、どっち側の人間だ、って聞けば伝わるよな?
返答次第では……俺の前で死体になってもらう。
雰囲気が表側の人間じゃあ無いが、俺はお前を確実に殺せる、とだけ言っておくさ。」

なんだあいつは?
全身ビシャビシャでカッコいいスーツが台無しだぜ?
んでもって、確実に殺せる、ってカッコつけちまったけど、ありゃ嘘だな。
俺の『20thセンチュリー・ボーイ』を破れるとは思えないしな。
まぁ、殺し合いに乗る気は無ぇし、良い返事を返してやるかな。
けど、ジョニィ、ジャイロ、ウェカピポ、Dio、スティールは別だからな。

「殺し合いに乗る気は無ぇ。
そういうあんたはどうなんだ?」

軽く笑って、こっちに近づいて来やがる。
俺の質問に答える気は無し、って訳ね。
俺の近くまで来てやっと飛行機の存在に気付いたらしいな。
あいつは懐中電灯も使ってないから仕方ないか。

「飛行機の残骸か……酷い有様だな……」

そう言ってあいつは両手を合わせ、胸の前に持って行き、深く礼をした。
東洋の礼儀作法って言ってたから俺も真似してみたが、これって意味有るのか?

「ところであんt」
「お前あれは何だ、あの額縁はよ?」

なんだ?あぁ、あれな、気持ち悪ぃよな。

「表側の雰囲気がしねぇとは思っていたが……
あの会場にはイルーゾォやホルマジオもいた。
お前の後ろにあるあの額縁は忘れたくても忘れられねぇ。
お前がボスなのか?
もしそうなら、復活できたソルベを同じ方法で殺すとは……
邪悪って言葉はお前のためにある言葉だな。
お前がボスじゃなくても謝っちゃやらねぇぜ。
死んでもらう……
『グレイトフル・デッド』ッ!」
「なッ!?『20thセンチュリー・ボーイ』ッ!」

なんだあいつッ!
イルーゾォとかホルマジオとかボスとかソルベとか超訳分かんねえぞッ!
いきなりスタンド攻撃とか……狂ってんのか?
クソ……どうする……
あいつを倒さなきゃどうしようもねぇ……
スタンド像が見えるのが唯一の救いだな。
あれが消えた瞬間しかチャンスはないと考えようか。
とは言っても攻撃手段が……
……そうだ、二枚目……二枚目があるじゃないかッ!
開ききれなかった二枚目がッ!
消えた瞬間に二枚目の紙に賭けるッ!

  ★
60 ◆Osx3JMqswI :2011/12/31(土) 11:43:50.14 ID:dHWzI+JJ

効いてない……だと?
チッ、ボス……殺し損ねたか。
お前は刺し違えても俺が殺す。
『暗殺チーム』への手向けにしてやるよ。
それにしても……近づいたとは言ってもまだ効いていないか。
そうなると、近づいて直触りしかないな。
水も温まってきているな……この際全部かけてやる。
スタンドを解除して一気に走る。
終わりにしようぜ……ボス……

「『グレイトフル・デッド』ッ!解除だッ!」

このまま走り抜けて直に触ってやる。

「『20thセンチュリー・ボーイ』ッ!解除ッ!」

何ッ!
解除だと……ッ!
デイパックに向かって走っている?
まさか……体を濡らした事で弱点がバレてしまったか!?

「悪ぃな……リーダー、ペッシ。
後はお前らに任せて、俺はボスと戦う……
ペッシ……済まねぇッ!」
61 ◆Osx3JMqswI :2011/12/31(土) 11:45:07.34 ID:dHWzI+JJ
  ★

よしッ!辿りついたッ!
二枚目……二枚目……あったぞ
この紙は俺の運命……生死を決めるネットに弾かれた運命のテニスボールだ。
運命に打ち勝つんだマジェント・マジェント。
『パートナー』無しで勝たなくちゃあならないんだ。
運命を引き寄せろッ!
開けッ!二枚目ッ!





ドスンッ!





……終わった……何もかも。
紙から出てきたのはSBRトロフィー入りの南極の氷だった。

だが、あいつが走ってくる音も止まった……止まった?

「……ハハッ……ハハハハハッ!
運すら完膚無きまでに負けるとはな……完敗だ、ボス……
一思いに殺してくれ。
今はなんだか清々しい気持ちでいっぱいだよ。
……悪いなペッシ、お前は生き残れよ。」

おいおい、なんであいつが完敗ムードになってんだよ……
俺が負けたんじゃねぇのか?
これは……聞くしかねぇだろ。

「完敗ムード満点の時に失礼するけどよ、イルーゾォとかホルマジオとかボスとかソルベとかって何なんだよ。
それによ、負けたのは俺だろ?
こんな氷塊じゃああんたを倒すなんてできやしないぜ。」
「お前、ボスじゃあないのか?
じゃあその額縁は、ソルベの入った額縁は何なんだ。
見間違えるはずがねぇ……そいつはソルベじゃあねぇかよ。」

  ★
62 ◆Osx3JMqswI :2011/12/31(土) 11:47:01.04 ID:dHWzI+JJ
彼らは、知っている情報を話し合ったんだ。
最初はマジェント・マジェントからね。
額縁の真相、互いのスタンド、時代背景、その他必要な事を話し合った。
するとね、プロシュートから疑問点が挙がったんだよ。

「すると、矛盾があるんだ。
まず第一に、俺は1890年の人間じゃねぇ。
ということは、俺とお前は違う時代を生きている事になる。
そして第二に、俺はファニー・ヴァレンタインなんて大統領は知らねぇ。
つまりだ、俺とお前は違う歴史を生きている事になる。
時代も歴史も違う人間が、お前らの世界の人間に干渉されている、って訳だ。
んでもって、俺らには共通目的がある。
ターゲットの殺害と、元の世界への帰還、の二つだ。
前者に関しては至極単純だが、後者に関しての推測としては、十中八九スタンドの仕業だろう。
そして、スティーブン・スティールを倒せばこのスタンドは解除されると考える。
そこでだ、疑った矢先、悪いとは思うが共闘しないか?
後者は、人が多ければ多いほど遂行しやすいだろう。
考えてみてくれ。」

まぁ、マジェント・マジェントの判断は決まっているよね。
ウェカピポに代わる人間が欲しい彼にこんなに美味しい話は無かった。

「考える間でもないな。
俺のスタンドじゃあ、この先闘えねぇ。
さっきの早とちりは許さねぇが、仲間にはなってやるぜ。
よろしく頼むぜプロシュートさんよ。」
「ありがたい。
ところで聞きたい事があるんだが、パイナップルみたいな頭をした奴とか、どっかに飛んでいく釣り糸とか見なかったか?
俺の弟分なんだが、なにせよマンモーニでな、とにかく世話を焼かせる奴なんだ。
あの会場では見かけたんだが……」

彼には、柱の男との悲惨な闘いは教えないでおいてあげようか。
きっと、使い物にならなくなっちゃうしね。

「いいや、見てないな。
力になれなくて済まなかった。」
「俺も期待なんて最初からしてなかったさ。」



彼らの同盟は成立した訳だけど、プロシュートの探すペッシはもういない。





『パートナー』のいない物どうし、せいぜい頑張ってくれよ。

63 ◆Osx3JMqswI :2011/12/31(土) 11:48:06.89 ID:dHWzI+JJ




【G-8 墜落飛行機の記憶 南側 1日目 深夜】



【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:少なくとも護衛チームとの戦闘開始前
[状態]: 健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(水は使い切った)  双眼鏡
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
1.暗殺チームを始め、仲間を増やす
2.この世界について、少しでも情報が欲しい
3.この氷塊、当分スタンドは使い放題だな



【マジェント・マジェント】
[能力]:『20thセンチュリー・ボーイ』
[時間軸]: 『考えるのをやめた』後
[状態]: 健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
1.暗殺チームを始め、仲間を増やす
2.この世界について、少しでも情報が欲しい
3.氷塊 を引き当てる俺ってツいてる



【備考】
プロシュートの支給品は『双眼鏡』のみです。
G-8には『SBRトロフィー入り氷塊』と『輪切りのソルベ』があります。
これからの短期的な行動方針は未定です。
64 ◆Osx3JMqswI :2011/12/31(土) 11:49:32.57 ID:dHWzI+JJ
投下完了です
タイトルは『1/2+1/2=』です
指摘よろしくお願いします
65 ◆Osx3JMqswI :2011/12/31(土) 12:10:27.86 ID:dHWzI+JJ
追記です

支給品は
双眼鏡@現実
輪切りのソルベ@5部
SBRトロフィー入り氷塊@7部
です
66創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 12:24:57.73 ID:WYzPfq5A
投下乙です

ペッシ・・・なんで死んだんだ・・・

兄貴が不憫でならんな
67創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 13:10:38.33 ID:sYjepr9b
三作も来てた! 投下乙

>GO,HEROES! GO!
康一くんの成長に期待
異色のチームだけどシュトロハイムとイケメンティムが何とかしてくれそうな安定感。

>朽ち果てるその前に
ブラフォードは首だけでも強い、ていうか髪の毛があるからなあ 鏡を支給されたけどイルーゾォ残念。
イルーゾォの思考の中にカリメロ、って単語が出てくるのはどうなのかな、と思って調べたら
カリメロの原作はイタリア、しかもアニメって日伊共作だったんですね。知らなかったー

>1/2+1/2=
マジェントもマンモーニ体質だよねw でもウェカピポよりはプロシュートの方が彼のことを雑に扱わなさそう。

一点だけ指摘。プロシュート本人がグレフル使う時って
氷で冷やさないと老化する、という制限はなかったと思うんですけどいかがでしょうか?
68創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 13:17:12.08 ID:qK+J5O68
投下乙です
20thセンチュリー・ボーイは負けないけど勝てないスタンドだから、パートナーは重要だな
このコンビは強いと思うが、果たしてどうなる事やら

指摘ですが、グレイトフル・デッドは本体に限り老化の解除が自由に行えます。
69 ◆Osx3JMqswI :2011/12/31(土) 13:29:12.02 ID:dHWzI+JJ
>>67
表記の矛盾点ですかね?
どこにあったか教えていただけると幸いです
>>68
「『20thセンチュリー・ボーイ』ッ!解除ッ!」のところですか?
もし、そこだったら、20thセンチュリー・ボーイを解除した、という意味で書いたのですが
7068:2011/12/31(土) 13:33:52.85 ID:qK+J5O68
>能力としては、ガスに包まれた人間を老化させるんだけど、これにもまた弱点がある。
>それは、冷やされたら老化しない、って事だ。
>まぁ、それが無きゃ自分も老化しちゃうから仕方ないだろうけど、今の彼には冷やせる方法が、支給品の水を被るしかない。
>つまり、長時間スタンドは使えないって事だ。

ここです。原作中でプロシュートが自分の体を氷で冷やすシーンはなかったですし。
71 ◆Osx3JMqswI :2011/12/31(土) 13:46:34.26 ID:dHWzI+JJ
Oh My God!!
俺がマンモーニだったよ兄貴
修正スレに上げて置きます
72創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 14:25:50.42 ID:jhc/VDF9
投下乙です
まず「朽ち果てるその前に」の方から。
イルーゾォ相手が悪かったな……まじで
でも、念願の(?)ロワ出演が果たせて良かったじゃないか
ブラフォード今回はマーダーか。タルカスと遭遇したら血を見るな。

以下指摘
>>43
俺いるのに → 俺がいるのに
運がいいんだが悪いんだが → 運がいいんだか悪いんだか
>>45
色々会って → 色々あって
>>50
自身も無かったが → 自信も無かったが
>>51
頭がら胸にかけて → 頭から胸にかけて

>>43 川に潜れば、エジプト行き下水道
地下地図はないので、下水道はわからないはず

>>51 明確なチョキになれなかった。(略)〜チョキであり、グーになれなかった男。アヌビス神だ。
結局チョキなのか?


続いて「1/2+1/2=」
なんだか楽しそうな二人だなw
ウェカピポよりはいいコンビになるだろうよ
ペッシのことを気にかけてる兄貴に泣ける

すでに指摘されている点以外で気になった箇所はありません
73創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 18:33:23.55 ID:MRTeqMQb
お前らあけおめ(><)
74創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 18:43:51.88 ID:fZwc/b+K
まだ明けてないぞw
75創る名無しに見る名無し:2012/01/01(日) 00:14:54.98 ID:4sHTmuER
あけおメッシャァァァァァ!!
76 ◆I5Ppp/MaHQ :2012/01/01(日) 00:27:29.56 ID:TYKzY6a7
あけましておめでとうございます 今年もよろしくお願いします
年越し投下は無理でしたが今日中に仮投下したものを手直しして本投下します
77創る名無しに見る名無し:2012/01/01(日) 01:23:17.20 ID:cLx4fPMq
あけおメメタァ
78創る名無しに見る名無し:2012/01/01(日) 02:36:58.73 ID:h2pz2Phf
お前らあけWRYYYY!!
79創る名無しに見る名無し:2012/01/01(日) 05:14:22.33 ID:JiUnEGK/
スゲーッ爽やかな気分だぜ 新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ〜ッ

あけましておめでとう
80 ◆Osx3JMqswI :2012/01/01(日) 09:36:35.94 ID:somTUvul
あけおメメタァ
2012年も精進していきますのでw
よろしくお願いします
81創る名無しに見る名無し:2012/01/01(日) 13:54:25.13 ID:8Rb0DuLs
もう収録されてしまったようですが、ドゥービーの支給品などはどうなりましたか?
82創る名無しに見る名無し:2012/01/01(日) 14:55:58.77 ID:o4sighWf
そういやドゥービーの死亡表記がないね
83創る名無しに見る名無し:2012/01/01(日) 18:14:23.76 ID:mghgY4GC
どこに書いて良いのかわからないんでここに書かせてもらう
前作2ndのwikiの支援絵にある偉大なる死の絵って別の絵じゃないか?
確かスナイプさん作で倒れ伏した兄貴が描かれてたと思うんだが勘違いしてたらごめん
84 ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/01(日) 20:12:21.08 ID:MXv58aYA
質問を遮ってしまうようで申し訳ないのですが、
シーラE、投下します
85復讐の名の下に ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/01(日) 20:15:14.56 ID:MXv58aYA
私は空っぽだった。
立っているのか倒れているのか、生きているのか死んでいるのか、それすらひどく曖昧だった。
ほんの少し前に見た、現実味のないバカげた映像だけが何度も何度も脳裏を廻る。
あの方の――ジョルノ様の、首、が。

「……あ、あ、アアアアアァァァァァァァァァァアアァァァァ!」

堪らず絶叫し、床を殴りつけていた。あらん限りの力を込めて打ちつけた拳は、磨き抜かれた床にぴしりと小さなクモの巣のようなヒビを入れた。

(何故、何故、なぜ!?)

あの方が、ジョルノ様が、あんな――あんな。

(何故――殺されなければならなかった?)

あの方の涼しげな声を憶えている。
あの方の凛とした眼差しを憶えている。
あの方がしてくださったことを……憶えている。

「ジョルノ、さま」

ぽとりと落ちた声は、まるで自分の声じゃないみたいに弱々しくてかすれていた。
そのとき、視界の端に何かが映った。

(荷物……支給品)

そうだ、あの男。あの気の狂ったようなジジイが言っていたこと。

「バトル・ロワイアル……」

何でも? 願い事を叶える? 望むもの全て?

――願えば、人が生き返るとでも?
86復讐の名の下に ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/01(日) 20:16:22.72 ID:MXv58aYA
そんなことはあり得ない。
それは私の人生において常に突きつけられてきたことでもあり、あの方に救って頂いたことでもある。
殺された姉、その仇を取ってくださったジョルノ様。
私はあの方に救われ、あの方についていこうと思った。
それなのに……殺されてしまった。奪われてしまった。
あの方の刃となり、楯となり、あの方の正義に尽くしていくために生きていた私だけ、残ってしまった。

「……望むことはたったひとつ」

私は誰だ?
シーラE。Eは――復讐(エリンニ)のE。

「あの方を奪ったこと、地獄で後悔しろ」

そのために邪魔なもの、力づくでもいい、薙ぎ払ってやる。
あのクソジジイをブチ殺してジョルノ様の仇を取る、そのためならなんだってやってやる。

私はシーラE、復讐者のシーラE。

そう決めて、私は辺りを見回した。
室内だが、窓などは見当たらない。出口を探さなければ。
暗闇に目を凝らすと、壁に掛っている絵に気がついた。
上半身裸の男が、生首を掴んでいる絵だ。なんだか妙に滑稽に見える。
さらに視線を巡らせると、扉があった。
あのクソジジイからの手土産だというのが気に食わなかったが、荷物を改めてこの部屋を出ることにする。さしあたっての手掛かりはこれだけだから。

「――行こう」

デイパックを背負い、扉に手をかけて、ふと思いついた。
あのクソジジイの首を、あの絵のように切って落とそう。
ジョルノ様を手に掛けた罪を思い知らせてやろう。


そのとき、きっと私は微笑んでいた。


87復讐の名の下に ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/01(日) 20:17:02.92 ID:MXv58aYA

【A-2 ルーヴル美術館内・1日目 深夜】

【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:利き手にダメージ(小)、健康、スティーブンへの復讐心で視野狭窄気味
[装備]:素手
[道具]:基本支給品一式、確認済みランダム支給品1〜2(武器ではありません)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
1.主催者のクソジジイを探す、殺す
2.邪魔する奴は容赦しない
[備考]
参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです
元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません
行き先は次の書き手様にお任せします

88 ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/01(日) 20:22:48.33 ID:MXv58aYA
以上で投下完了です
仮投下時に指摘して頂いた部分は修正したつもりです
が、何かありましたらご指摘ください
89創る名無しに見る名無し:2012/01/01(日) 21:00:26.48 ID:4A5r1e0b
投下乙
ジョルノがああなったら、こうなるよなぁ……
でも、勢い余ってマーダーにならなくてよかった
スタンドも強いし期待!

>>ドゥービー
単純に抜けてるっぽいね
したらばの方にも乗っけた方がいいだろうか

>>83
すまん。当時見てなかったからわからん……
90創る名無しに見る名無し:2012/01/01(日) 22:26:08.48 ID:dEgu15D+
シーラE心酔しきってからなぁ
再会できてもジョルノ五部終了前…ジョルノなら何とかなりそうだけど

>>83
すみません、当時見て無かったからわからないです
多分ピクシブにあるあの絵だと思うのですが…
91創る名無しに見る名無し:2012/01/01(日) 22:41:05.16 ID:kA9BEja8
投下乙です
シーラEちょっと危ういなあ
でもジョルノとそんなに離れてるわけではないから再開できるか

>>83
ジョジョロワで検索したら出るね
確かに今wikiに載ってるのは違うんじゃないかと思ってた
92 ◆I5Ppp/MaHQ :2012/01/01(日) 22:47:50.80 ID:TYKzY6a7
投下乙です
恥パーにはジョルノ信者もいるもんね 特にシーラEはその傾向強いし
個人的にジョルノ様、って呼び名に慣れなくてちょっと困る

という事で今から投下します 仮投下スレで意見下さった方ありがとうございました
93少女ルーシーとネクロファンタジア ◆I5Ppp/MaHQ :2012/01/01(日) 22:48:42.74 ID:TYKzY6a7

ジャニコロの丘を歩く男女が一組。
両手で顔を覆い、震えた浅い息をしているルーシー・スティールに対して
ブローノ・ブチャラティが肩を支える以外に何もしなかったわけもなく、泣き止まない少女を励ますつもりで
自分の出身地であるイタリアやこの殺し合いに巻き込まれているかも知れない仲間のことについて少し話した。

――ここに来る直前はサルディニア島にいたんだ。バカンスじゃあなく、まあ、仕事みたいなもんさ。
  知ってるかい? エメラルド海岸と呼ばれる所が美しくて……

――オレの仲間に変わったヤツがいるんだよ。でも信頼できる男だから、もしこの場にいたら合流したいんだが……
  ソイツ、数字の4を極端に怖がるんだ。4だぜ? 変わってるだろ? 良いヤツなんだがなあ。

身の上話をしたのはルーシーを落ち着かせるため、という側面が大きいものだったので
自分がギャングであることはもちろん、彼女を不安を煽るような話は一切しなかった。
ここに来る直前、サルディニア島でチームの一員だったレオーネ・アバッキオが暗殺され悔しい思いをしたことも、
今しがた自分の目の前で見せしめとして爆殺されたジョルノ・ジョバァーナが大切な仲間だということも。
何の力も持たないであろう一般人の彼女が知らなくていいことは隠すべき、というのがブチャラティの判断。
これ以上動揺させる必要なんて無いし、ただの少女をこんな殺し合いに巻き込むことは極力避けたかったのだ。
まるで、ヴェネツィアまでの道中で、自分たちのいる裏の世界に巻き込まないよう
トリッシュ・ウナの質問に対してずっとうやむやな回答を続けていたように。
ルーシーに話しかけながら、ブチャラティは少しずつ自分の現状について考察を始める。

……街並みはイタリアそのものだ。それにしてもどんな方法を使ってオレ達を集め、ジョルノ達を殺したのだろうか?
 主催者の男曰く、100人近くの人間がこのゲームに参加させられている。
 どうにか協力できる人材を集め主催者を打倒したいところだが、今思いつく限りでの大きな問題は二点。
 一つ目は、先の参加者(ジャック・ザ・リパー)のように殺し合いに乗った人物のこと。
 出来れば説得を試みたいが、止むを得ない場合は始末するしかないだろう。
 二つ目は、全参加者に掛けられている首輪のこと。威力の程はジョルノ達が身を持って示している。
 無理矢理外そうとするだけでなく、大きな衝撃を与えただけでも爆発するらしいから適当には扱えない……

少し言葉数が減ったのを察して、少し落ち着いたのか泣き止んだルーシーはブチャラティをジッと見つめ、どうしたの、と問いかける。
何でも無いよ、とブチャラティは囁き、あの教会で少し情報交換しないか、と続けた。


94少女ルーシーとネクロファンタジア ◆I5Ppp/MaHQ :2012/01/01(日) 22:49:30.83 ID:TYKzY6a7
 *



先に中に入って様子を見たブチャラティは誰も居ないからおいで、と合図をした。
窓から差し込む月明かりで十分だと判断したあたしたちは、照明を探すことなく荷物を置き椅子に腰かける。

「オレはさっき歩きながら話したことがすべてだ。仲間のことも、どこから来たかということもね。良ければ君の話を聞かせて欲しい、ルーシー」

「あたしはアメリカ、ニューヨークのトリニティ教会にいたわ。ここはあなたの国なの? 見たことない街並みだったわ」

「ああそうだ。それにしてもアメリカ? なぜそんな遠くから…… 知り合いはいそう? さっきのホールで見かけた?」

主催者のスティーブンが自分の夫だなんて言えるわけがない。
ついさっき悪漢に襲われたあたしを助けてくれたことから、目の前にいるブチャラティという男は正義感が強いのだと想像がつく。
たぶん彼は『良い人』だ。悪を許さず、黄金のような精神を持って行動出来る人物。
だからこそ、真実を告げたらどうなるか分からない。あたしのことを『殺し合いを主催する男の悪妻』だと考えるかも知れない。
問い詰められて、脅されて、殺されるかもしれない。あたしもスティーブンも……
さっきまで泣いていたせいで喉も唇も乾いてしまったわ。唇を舐め、唾液を飲み込み、少しゆっくりと息を吐き出してからあたしはこう続けた。

「いなかったわ、知り合い…… 今は少し落ち着いたけれど、周りを見る余裕も無かったし」

スティーブンに釘付けになって周りを見られなかったことだけは真実。
夫がこんな残虐で卑劣な殺し合いをプロモートするだなんて信じたくない。信じられない。
彼はあたしのことをずっと守ってくれていた。マフィアに売られそうになったあたしを助けてくれた時からずっと。
彼があたしを危険な目に晒すはずがないけど、このブチャラティという男が助けてくれなければ自分が殺されていたのも事実。
スティーブンを信じたいのに!

……ヴァレンタイン大統領が死んだ後に、別の世界から出てきたディエゴ・ブランドーが遺体を持ち逃げしたのをあたしたちは見ている。
つまり、あのスティーブンもあたしの知っているスティーブンとは別人の可能性が存在する?
会って、直接スティーブン本人と話がしなければ……

「君は、オレに嘘をついているな?」
95少女ルーシーとネクロファンタジア ◆I5Ppp/MaHQ :2012/01/01(日) 22:50:07.34 ID:TYKzY6a7
心臓を掴まれたような気がした。なんで? なんで嘘がばれたの? この男は一体……?

「オレね…… 人が本当のことを言ってるかどうかわかるんだ。なぜ君は嘘をついた?
オレは君を助けたことから分かるように、殺し合いに乗る気なんてサラサラ無いぜ。君のような普通の女の子を守ったりもするさ。
さっき話した仲間を探して、主催者を打倒するのが目的だ。なあ、何か隠していることがあればオレに教えてくれないか?」

主催者を倒すですって? スティーブンをどうするつもりなの?
もしかしたらブチャラティはスティーブンの居場所を突き止めてくれるかも知れない。
でも、その後、彼とあたしの身の潔白を証明することは出来るかしら?
既に彼は大人数を巻き込んだ殺し合いを開催し、三人もの人間を衆人環視の場で殺してしまったのに!

トリニティ教会でディエゴ・ブランドーを待っている時に、いいえ、もっと前から、あたしは夫のために命を懸けるって決めていたわ。
スティーブンに会わなくてはいけない。強くそう思う。いつまでも『誰かに助けてもらうルーシー』じゃあない、
自分の手で、自分とスティーブンを守らなければいけない。そのためには、この人と一緒にスティーブンの居場所を探し出す!

「そうだわ。あの、主催者の男は見たことあるかも。ごめんなさい。SBRレースの主催者のスティール氏でしょう?」

何も今すべてを教える必要はない。あたしのファミリーネームも隠したままでいい。
スティーブンに会うために、ブチャラティと行動すればいいだけよ。彼が知らなくてもいいことは隠すべき。
このまま夫に巡り合うことが出来たなら、その時に真実を打ち明ければいいだけ。
隠し事の理由は『主催者のスティーブンがあたしの夫だとあなたに話したら、何をされるか分からず、怖かったから。
あなたが最初に出会った参加者にしたように、あたしもバラバラに殺されてしまうかも知れないと思ったから』とでも言えばいい。
実際にそう思ってるし、今真実を告げた所でブチャラティがあたしに協力的になってくれるかどうかなんて本当に分からない。

「教えてくれてありがとう。ところでSBRレースって何だい? F1みたいなヤツ?」

F1って何だろう。よく分からないけど、外国の方だからSBRのこと知らないのかな?
ところで、SBRの参加者がここに呼ばれた可能性はないのかしら? あたしの知り合いはもうジョニィくらいしかいないけど。
もしいるとすれば、SBR参加者に会うのはマズイ。あたしはとっくに大統領の関係者から追われる身になっているし、
主催者スティーブンの妻だからと恨みを買い、殺しのターゲットにされるかも知れない。
……少しこんなことを言うのは心苦しいけど、『あたしと彼は何の関係も無い』と言うことにしましょう。
それよりも、何か、遠くの方から近付いて来るような音が聞こえてきたけど……

「君も気付いた? あれは車が走ってる音じゃあないか?」

車ってあの? そんな珍しいものがこの近くにあるの? 窓の外を見ても、車が走っているのは分からないわ。

「ちょっと様子を見てくるよ、オレの荷物はここに置いていく。話の続きは後にしよう」

ブチャラティは立ち上がると教会の外へ出ていった。あたしは拷問から解放された囚人みたいだった。
ずうっと放っておいた荷物を確認しながら、見つからないように外の様子を見ておこうかな。


96少女ルーシーとネクロファンタジア ◆I5Ppp/MaHQ :2012/01/01(日) 22:50:54.36 ID:TYKzY6a7
 *



教会に面している少し広い道路に出たブチャラティはルーシーとの会話を思い出しながら車が通るのを待っていた。
助けた時はただのか弱い少女だと思っていたが、涙を拭いてからは力強い意志を感じさせる目をしていた、と評価する。
些細な嘘については――顔の汗の変化だけでなく、唇を舐めたり喉を鳴らしたりする仕草を見て、
彼はルーシーが嘘をついていると判断したのだが――取るに足らないことだと考えることにした。 
少しすると、教会の方に車が近づいてくる。ローマナンバーのワゴン。運転しているのは男。薄い色のスーツに、黒い斑点。
自分の服装に少しばかり似ている、とブチャラティは男を見て考えた。
最も、服装だけでなく社会の闇の中を生きている(生きていた)ギャングという境遇も似ている、と言えるだろう。
――麻薬一つを例に挙げても、その考え方や行動理念すべてが正反対なのだが――
その運転手は、日本のタクシードライバーではないが、
手を上げて道端に立っているブチャラティを見つけると車を止め、荷物を持って降りてきた。

「おう兄ちゃん。オレに何か用か? オレがとんでもねえ悪人ならテメーのこと轢き殺してたぜ」

「そうか、悪人ではないんだな? オレはこの殺し合いに乗らない人を募っている」

月明かりに照らされる二人。ブチャラティの顔は車から降りてきた男にとってひどく青白く見えた。まるで死体のように。

「オレさぁー教会探してたんだよ。教会って大体納骨堂あるだろ? 隣接した墓地は見つからなくても、納骨堂のある教会は多い」

「何言ってるんだ?」

「でもそれよりオレ今すげえモノ見た気分だぜェェー! 墓地や納骨堂に行かなくても死体を手に入れられるんだからな」

「今、何て……」

『闇の中から蘇りし者リンプ・ビズキット…… 我とともに来たれ…… リンプ・ビズキット…… 闇とともに喜びを……』

怪しい呪文を唱え始めた男に対してブチャラティは警戒を強める。
いつでもスタンドを出せるつもりでいるし、そのための間合いを詰める準備もする。
話を聞かない男はスポーツ・マックスと言う名の囚人。彼は目の前のブチャラティへの興味が尽きない。
彼のスタンドの名は『リンプ・ビズキット』。ホワイト・スネイクに与えられた死骸を操るスタンド。
――彼と直接戦ったエルメェス・コステロはそのスタンド能力を『透明のゾンビをつくり出すこと』と表現した――
今のブチャラティはヴェネツィアでディアボロに殺される間際にジョルノから生命エネルギーを与えられた、生ける屍。
心臓がとっくに動いていないことも、呼吸を全くしていないことも、死骸使いにはすべてお見通し。

「何だテメエェェーー! 死体じゃあねーのかよォォオ!」
97少女ルーシーとネクロファンタジア ◆I5Ppp/MaHQ :2012/01/01(日) 22:51:36.46 ID:TYKzY6a7
ブチャラティは自分が既に死んでいることを看破され驚いたが、
スポーツ・マックスは目の前の死体が操れないことにブチャラティよりも大きな衝撃を受け、冷静さを失った。
普通は死体が動いていることに驚きそうなものだが、自ら動き出す骨や生物の死骸を日常的に見る男にとってはそんな常識は通じない。
スポーツ・マックスは一つ勘違いをしていたのだ。本来、彼が操ることが出来るのは生物の死骸。
ブチャラティの身体には生命エネルギーと魂が残っているのだ。生者を操るのは、『リンプ・ビズキット』の領域では無い。

「やれやれ話を聞いてくれ」

「そうだ、殺れば操れるはずだッ! でも何でテメエの身体は動いてるんだよォー!」

尻ポケットに隠していた切れ味の良いハサミを手に、ブチャラティに向かって急接近。
元ギャングの囚人は、刃物を振り回すというあまりスマートではない自身の殺り方には少々うんざりしていたが、
ここで退くよりはこの死体を手に入れて透明ゾンビに使える人材を確保しておく方が有益だと判断した。
どんどん距離を詰めていき、銀色に輝く鋭いハサミをブチャラティの身体に突き刺す。
しかしスポーツ・マックスの右手には男の腹をつらぬいた感覚が無かった。のれんに腕押し、という表現が合うだろう。
ブチャラティの腹には刺し傷では無いスキ間がポッカリと空いている。
『スティッキィ・フィンガーズ』、それはジッパーを繋げて空間を造るスタンド能力。
彼が刺された腹のジッパーを閉じてしまえば、たちまち男の右手はハサミごと腹から抜け出せなくなってしまった。
ブチャラティはもう一度だけ殺し合いゲームについて男に問うたが、
恨み辛みを零すだけのイカレた玩具のようになってしまったスポーツ・マックスを助けることもせず、
首輪に触れないよう細心の注意を払って男の全身をバラバラにし、腹に埋まったままのハサミと右手を後から取り出してやった。
一度殺し合いに乗ってしまったら、元に戻れない哀れな男もいるのだと感じながら、
お決まりの掛け声の後にアリーヴェ・デルチ、と叫び、一仕事を終えた。

バラバラの死体を見て、ブチャラティはこの惨殺死体がルーシーの目に入ることを想像した。
やっと落ち着きを取り戻した少女にこんなものを見せるわけにはいかないな、と結論付け、
幾つのも部位に分かれてしまった死体をパズルみたいに元の形へ戻した。
その後近くの柔らかい地面にスティッキィ・フィンガーズでスキ間を造りだし、死体を埋め、ハサミを墓標の代わりに刺してやった。
自分を襲ってきたゲームに乗った悪人だったが、こんな所に呼び出されて狂ってしまったのだと思い、わずかに同情した。
男が乗って来たワゴンに乗って移動する方が人探しには有効だと考え、
スポーツ・マックスのデイパックを拾ったブチャラティはルーシーを呼びに教会へと戻っていった。


98少女ルーシーとネクロファンタジア ◆I5Ppp/MaHQ :2012/01/01(日) 22:52:05.99 ID:TYKzY6a7
 *



ブチャラティが出て行くとすぐにあたしは荷物を調べることにした。
パンや水、地図等をデイパックの中から外に出していくうちに、余った紙が一枚。
そっと開いてみると、ただの小さな紙切れの中から鉈。これ、良く見たらさっき使った、ディエゴ・ブランドーの首を切り落とした鉈だわ。
ホット・パンツが下水道から『肉スプレー』で出てきたように、ものの大きさを変えるスタンドでこの紙切れにしまっていたんだろう。
この鉈のことを知っているのはスティーブンしかいないから、彼があたしのために持たせてくれたものなの?
確かにあたしは聖なる遺体集めに携わってから、そのつもりは無くても多くの人を手に掛けてきた。
夫を守って、二人で幸せになるために、制止を振り切ってあの首を手に入れた。……いざという時の覚悟ならもう出来ているわ。

そうだ、窓の外はどうなっているかしら? 意外と近くに止まったみたいだから見えるかも。
それにしても、あんな珍しい車を見るのは初めてだわ。男が出てきたけど、口の動きもここからなら見える……
『殺し合い』『納骨堂』『死体』『リンプ・ビズキット』
あッ! あの男刃物を隠し持って…… ブチャラティが危ないッ! ……刺されても平気なの? お腹に刺さっているのに?
それより、ブチャラティの隣にヒトのようなものがいる?
あの男まだ何か言ってるわ。 『死体』『お前が死体』『死んでいる』
どういうことなの? ブチャラティが死体? 奇跡でも起きなければ、死体が動くはずなんて無いわ。
そして、あっと言う間にバラバラになったみたい。たぶんあれはスタンド能力!
ブチャラティの隣にいるヒトがやったようにも見えるけど、怖ろしい能力……
死体に何かしているようだけど、位置が低すぎてよく見えないわ。でも一応片付いたし、彼はそろそろ戻って来るかしら。



 *



教会に戻って来たブチャラティは、行く時には無かったデイパックを背負いながらルーシーに車が手に入ったことを告げた。
バラバラにして土に埋めた男の遺品だ、とは言えずはずも無く、乗っていた男のことは一切話題に出さなかった。
ルーシーとしても、一部始終を見てしまったのだから、特に何も聞く必要が無いと思い、そのことに関してはわかったわ、とだけ返事をした。
彼女がデイパックの鉈以外の支給品について大方説明すると、地図を見てブチャラティは大きな溜息をついた。
ローマだけどローマでは無い狂った地図。ブチャラティは今まで歩いてきた道や建物、そしてこの地点が少し高い場所にあることから
自分たちの現在地点を『ジャニコロの丘』だと判断した。
主催者を打倒するための人材集めと、この地図に乗ったローマを調査するため、ブチャラティは車での移動を提案。
彼はSBRとやらについては車内で聞いても大丈夫だろう、と考えた上での選択だった。

ワゴンに乗りこむと、ルーシーは初めて乗る車に少なからず興味を持ったが、
それよりも先に、隣で運転している男についてどうしても一点だけ調べたいことがあった。
月明かりに照らされたブチャラティの顔をまじまじと見つめる。血の気の無い、土気色をしている。
ギアを握るブチャラティの右手に自分の手を上から重ねる。死体のように冷たい。
どうした、と聞く男に、何でも無いわ、と囁き、人差し指と中指を彼の手首に当てる。彼女が想像していた通り、脈は無い。
年頃の女の子のことはよく分からない、と苦笑いするブチャラティに対し、ルーシーは唇を噛み、また浅い溜息を付いてから、素朴な疑問を投げかけた。



「どうしてあなたは死んでいるの?」


99少女ルーシーとネクロファンタジア ◆I5Ppp/MaHQ :2012/01/01(日) 22:52:42.72 ID:TYKzY6a7
 *



――オレ、何してたんだっけ? そうだ、教会に死体を探しに行くんだった……
  死体を操って、オレが殺し合いに勝ってやる…… ああ、ここに落ちてるのオレのハサミじゃねーか。もうすこしで教会だ……

「ヒヒヒヒヒヒヒヒィィィ、あの承太郎が死んだわァァァァァ DIO様もさぞ喜んでくだしゃるじゃろう」

――なんだこのババアうっせーなァ、コイツも教会目指しているのか。

「ハア、ハア、しかし、年寄りにはこの坂道は億劫じゃのう…… 高台の上からなら、地図にあったDIO様の館がどこに
あるのかすぐ分かると思ったんじゃが、教会を見つけたのは好都合じゃ。納骨堂には我が『正義』の操り人形の元がたくさんいるからのォォ〜」

――ババアも納骨堂狙いかよ…… 怪しい感じのするババア系ババアだが声かけてみるか……
  おいバアさん、あんたも教会に用があるのか?

「ヒィィィー疲れるわい、教会まであと少しじゃ」

――聞こえてねーのかこのババア。しょうがねえもっと近づいてから声かけるか。

「ケエェェェェッッーー! あれはわしがジョースター達をブッ殺すために磨いておいたハサミィィ! どうして浮いているんじゃ?」

――ハサミが浮いている? 何言ってんだこのババア?

「ここに来てから我が『正義』を発動するにはなぜかいつもよりもしんどいのじゃが、このハサミが浮いている辺りだけでも霧を巡らせてみるかのォ」

――なんだこの霧 もうメンドくせえなこのババア…… なんか喉渇くしよォ、ババアの脳ミソを喰らえば……

「グエェッ!」


いくら『正義』の霧を自分の周囲に張り巡らせても、スポーツ・マックスは傷ついた死骸ではないので、死霊使いとしてに彼に与える効果は無い。
スタンド使いにはスタンドが見える法則があるが、『透明なゾンビ』になったスポーツ・マックスには誰の目にも映らない。
教会の近くでブチャラティに埋められたスポーツ・マックスは、一度バラバラにされ心停止した後、土の中よりゾンビとして復活。
同じく死骸を操るスタンド使いであり、納骨堂の死体を求めに来たエンヤ婆と教会付近で遭遇。
噛みあわない会話を一通り満喫した後、しびれを切らしたスポーツ・マックスが喉の渇きを満たすことで二人の出会いは幕を閉じた。

エンヤ婆と呼ばれた女の首はすべてスポーツ・マックスの胃の中に収まっていく。
吐き気を催すようなピチャピチャ、ズルズルという咀嚼音がジャニコロの丘の教会前に響く。
もしこの光景を目の当たりにした人間がいるとすれば、耳障りな音だけでなく闇夜に突如浮かびあがった血塗れの口許にも恐怖するだろう。

「あぁ、これだッ! 脳ミソを喰らいたかったんだッ! それでも、まだ、渇くッ!」

渇きを満たし恍惚としている男は本能的に血を求めるリビングデッドそのもの。
蘇ったばかりなので生前の記憶は生前の記憶はほとんど思い出していない。
それでも、墓標代わりに己の死体の上に突き刺さっていたハサミを拾うくらいの知性は残っていたようだ。
頭部を食べた時の残りカスである老女の白髪がはらはらと舞い、地面へと落ちていく。
エンヤ婆は首が無くなったことで、『バトル・ロワイアル』の参加者の喉元にまとわり付いていた煩わしい首輪からは解放された。
スポーツ・マックスは支えを失って地面へ転がっていった首輪には興味を持たなかったし、デイパックにも目をくれなかった。
先程まで彼女を拘束していた首輪と、小さな手に握られていたデイパックは持ち主を失ったままずっと教会の前に放置されるのだろう。

ゾンビに喰われた哀れな老婆は透明ゾンビとしての新たな人生を歩み始め、スポーツ・マックスの後を付いて歩く。
口の周りを紅く染めたゾンビは自分がゾンビだと気付くこと無く、次の獲物を探して闇の中を徘徊する。




【エンヤ婆 死亡】
100少女ルーシーとネクロファンタジア ◆I5Ppp/MaHQ :2012/01/01(日) 22:53:15.33 ID:TYKzY6a7
【F-2 ジャニコロの丘/1日目 深夜】



【ブローノ・ブチャラティ】
【スタンド】:『スティッキィ・フィンガーズ』
【時間軸】:サルディニア島でボスのデスマスクを確認した後
【状態】:健康 (?)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×3、不明支給品1〜2(未確認)、ジャック・ザ・リパーの不明支給品1〜2(未確認)
【思考・状況】 基本行動方針:主催者を倒し、ゲームから脱出する
1.ルーシーと情報交換・会話
2.ジョルノが、なぜ、どうやって…?
3.出来れば自分の知り合いと、そうでなければ信用できる人物と知り合いたい。


【ルーシー・スティール】
【時間軸】:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
【状態】:健康・混乱
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、鉈
【思考・状況】
1.スティーブンに会う
2.ブチャラティに疑問


【スポーツ・マックス】
【スタンド】:『リンプ・ビズキット』
【時間軸】:エルメェスに襲われる前
【状態】:健康 (?)
【装備】:なし
【道具】:エンヤ婆のハサミ、首無しエンヤ婆の死体
【思考・状況】
1.渇きを満たす



【備考】
・スポーツ・マックスのランダム支給品は『エンヤ婆のハサミ』と『ローマ近くの村にあった車』でした。
・スポーツ・マックスは自分が死んだことに気付いていません。また、ブチャラティのことも忘れています。
・エンヤ婆の参戦時期はJ・ガイル死亡後でした。
・F−2にエンヤ婆の首輪とデイパックが落ちています。

【支給品について】
※ エンヤ婆のハサミ(3部)
パキスタンで承太郎達を待ち構えている時にエンヤ婆が持っていたもの。
生死問わず生き物の身体に傷を付けることで『正義』の操り効果を発揮することが出来るので、エンヤ婆にとっては必需品。

※ ローマ近くの村にあった車(5部)
ブチャラティ達がサルディニアからイタリア本土に上陸し、チョコラータ達の攻撃を避けてローマに行くために盗んだ車。
盗んだと言っても車の持ち主は『グリーン・デイ』で死亡済み。ジョジョ本編でもブチャラティが運転していた。
101 ◆I5Ppp/MaHQ :2012/01/01(日) 22:54:30.05 ID:TYKzY6a7
投下完了です
ご指摘等あればお願いいたします
102創る名無しに見る名無し:2012/01/01(日) 23:28:16.54 ID:4A5r1e0b
投下乙です
ルーシーの置かれた状況は、ルーシーから見ると恐ろしいよなぁ
あげく支給品が鉈って…いい感じに鬱だね
おまけにブチャラティはゾンビだし、エンヤ婆もスポーツ・マックスもゾンビだし。
本当の屍生人たちはどんどんズガンされて、5、6部のゾンビが活躍する…これが3rd!?
103創る名無しに見る名無し:2012/01/02(月) 01:26:00.31 ID:h6fymxGh
投下乙!
ジョジョのゾンビってバタリアンみたいなゾンビなんだなw
104創る名無しに見る名無し:2012/01/02(月) 03:14:16.21 ID:Yam6l7An
小説買おうかどうか迷ってる人のためのよく分かるthe book

ジョジョの小説『The Book』を漫画にしてみた 【1】
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm14351094
105創る名無しに見る名無し:2012/01/02(月) 06:43:45.70 ID:o1Cr9opH
キモイ物持ってくんな
106創る名無しに見る名無し:2012/01/02(月) 12:18:14.87 ID:I8vDZzdj
The Bookの触りの雰囲気をみるにはいい動画ですね
107創る名無しに見る名無し:2012/01/02(月) 14:31:50.10 ID:1E0+26qJ
>>90
ピクシブにあるあの絵は投稿日が2008年で偉大なる死の絵がスレに投下されたのは2010年だよ
>>91も言ってるけどジョジョロワで検索したら出るタイトルが兄貴のスタンド名の絵だと思う
108創る名無しに見る名無し:2012/01/02(月) 22:15:05.75 ID:5yGMjXIZ
>>107
ジョジョロワで出る方の絵の事言ったつもりでした、わかりづらくてすみません
109◇c.g94qO9.A氏代理投下:2012/01/04(水) 18:19:32.92 ID:Jvh0bHya

     ――――それは零へと至った物語。僕と友のかけがえのない冒険譚。






ポタリ、ポタリ、ポタリ…………。
向かいに座っていたアナスイは席から立ち上がると、緩んでいた蛇口をしっかりとひねった。
耳障りな水滴音がなくなるのを確認すると彼は再び席につき、口を開いた。

「オーケー、あんたの言ってることは完璧に理解したよ、ジョニィ・ジョースター。
 この殺し合いの首謀者はあのメガネのジジイ、スティーブン・スティールではないであろうということ。
 裏で糸を引いているのは死んだはずのアメリカ大統領、ファニー・ヴァレンタインが関わっている可能性が高いこと。
 そして俺とあんたは時代を超えて呼び寄せられていて、そうである以上黒幕は一人ではなく、協力者がいるであろうこと」

だがな、そう最後に付け加えるとアナスイは初めて僕と視線を合わせた。僕はその目を見て、旅の途中で出会った一人の男を思い出す。
リンゴォ・ロードアゲイン。彼はかつて僕を見て言った。漆黒の殺意、いざというときに相手を躊躇わずに殺すことができる、人殺しの目。
アナスイの澄んだ目の底には根深い殺人者の匂いがこびりついていた。洗っても洗っても落ちることのない業。かつてリンゴォが僕の目に見たであろう殺意が、僕を見つめ返していた。

「俺が聞きたいのは『それでアンタはどうしたいんだ』ってことだ。
 首謀者も分かった。黒幕も分かった。それでアンタはどうするんだ? この殺し合いの中、アンタは結局どうしたいんだ?」

アナスイの身体から飛び出た影が彼自身に重なる。机を挟んだこの距離は、近距離パワー型スタンドの領域だ。
答えによってはただじゃおかない。並々ならぬ気迫を前に僕は唇を舐め、慎重に自分の答えを吟味する。彼の質問に答えようと僕は口を開いた。

その時、アナスイが僕を見た。僕は彼を見つめ返した。そうしたまましばらく沈黙が流れ、僕はそのまま口を閉じると、視線を逸した。

「……わからない」
「……俺は決まってる。一秒でも無駄にはできない、俺は徐倫を探しに行く」

消えるような僕の答えを聞くと彼は立ち上がり、足早に出口へと向かっていく。
僕はそんな彼を止められない。凍りついたように椅子から立ち上がれないまま、彼がただ出ていこうとしているのを見守るほかなかった。
ドアノブに手をかけると彼は思い出したかのように呟く。誰に聴かせるわけでもなく、つい口に出してしまったかのように。

「殺し合い、そんなことはどうでもいい。俺のすることは、いつだってどこだって決まっている。
 俺の身は徐倫のため、俺の心は徐倫のため。彼女のために全てを捧げ、彼女を守るためなら俺はなんだってする。
 そう、“なんだって”だ」

アナスイは言っていた。彼が守るべき存在、空条徐倫のことを。
アナスイは言っていた。彼は躊躇わない。彼女を守るため、彼女のためならなんだってする。殺しもする、拷問もする、人の道も外れるし、誰かに命を狙われても構わない。
彼の目には殺意以上に煌くものがあった。真っ黒に光る殺意の奥、そこには確かな覚悟があった。
人を殺す必要があるのならばぼくはきっとそうするだろう。いざという時ならば僕は容赦なく非情になる人間だと思っている。
だがはたして僕にあるのだろうか。彼のような、覚悟が。
110◇c.g94qO9.A氏代理投下:2012/01/04(水) 18:20:08.80 ID:Jvh0bHya
「一人で探すよりは二人で探したほうが早く見つかるに決まってる。ここで考えるよりも、行動に移したほうが確率は上がる。
 約束は守ろう、ジョニィ・ジョースター。ただし、アンタも俺の約束を守ってくれよ」
「……僕は空条徐倫を傷つけない。君もジャイロ・ツェペリには手を出さない」
「そのとおり。スティーブン・スティールとファニー・ヴァレンタインのことを教えてくれて感謝する。よろしく頼んだぜ。じゃあな」

約束を守らなかったら? そう聞き返してみたかった。だけどそんなことは無理だ。彼はその問いに答える前に出ていってしまった。
僕の目の前で、音を立て扉が閉まった。静寂の中、やけに反響する音が耳から離れなかった。







死んだはずの親友と出会えるとしたらあなたはどうする? あなたは全てをなげうってでも彼に会いたい、そう言えるだろうか?
その親友が自分の知らない親友でも? あるいは彼が自分のことをこれっぽっちも知らないとしても?
親しければ親しいほど、僕らは些細な違いに気づいてしまう。彼はこう言わない、彼ならこんなことはしない。誰よりもその差に気づくのは自分自身だ。

アナスイは言った。そんなことはどうでもいい、それでも自分は構わない、そう言った。
空条徐倫が自分のことを知らなくとも、自分の知らない彼女であろうとも。彼女という存在のためなら命すら惜しくないと。
彼女の記憶にとどまらなくても構わない。ただ俺は彼女の平穏のために死んだ、そう胸をはれるならば本望だと。

だが僕はわからない。僕の知らないジャイロ・ツェペリ。僕を知らないジャイロ・ツェペリ。
そんな君にあったら、そんな自分を見つけたら、一体僕はどうなるんだろうか。



     ―――この旅は僕が歩き出す旅だった。歩けるようになるという肉体的成長でなく、大人として歩き出すという精神的成長。



「……行こう」
111◇c.g94qO9.A氏代理投下:2012/01/04(水) 18:20:56.64 ID:Jvh0bHya
僕はマイナスだった。大陸横断の旅の始まり、僕は何も出来なかった。すべてを失っていた。
だけど彼と旅をするうちに、なくしていたものを僕はひとつずつ取り戻していく。ひとつひとつ、拾っては集め、見つけては再び手に入れる。

失う前に戻ったわけじゃない。過去は決して変わらず、僕はあの時より少しだけ年をとった。
零へ戻っただけというのならそうかもしれない。
傍らに立つ友はいない。名誉もなければ賞金も勝ち取れず、僕は何も成し遂げちゃいない。何も変わらずただ少し大人になっただけなんだ。
ほろ苦い別れを経験して、妥協と諦めることを知った。生き抜くための当たり前の知恵を身につけ、喧嘩していた親と和解した。
僕だけじゃない。ティーンエージャーなら誰もが経験するモラトリアムを乗り越えただけだ。

だからここからは“僕”なんだ。荒野の道、どこに向かい歩いていくのかを決めるのは僕だ。僕が僕の道を創りだしていくんだ。
まっさらな地図に赤線を刻んでいけ。十字路にさしかかり、右に曲がるか左に行くかは僕次第。僕だけが僕を決めていける。


「ジャイロ……君に会いたい」

僕はジャイロに会いたい。
会ってどうする。最初から決まっていた。僕はジャイロに『ありがとう』、そう伝えたいだけなんだ。
それだけのことか、と呆れられるかもしれない。ジト目で僕を睨む彼の顔が容易に思い浮かぶ。でもそれだけでいい。それで僕は構わない。

ジャイロは僕を歩かせてくれた。ジャイロは僕に与えてくれた。教えてくれた、受け継がせてくれた。
だというのに僕は彼に何一つ出来なかった。僕は彼に何もしてあげられなかった。

殺しあいなんてどうでもいい。誰がどうなろうが知ったこっちゃない。
ただ会いたい。会って、言ってやりたい、見せてやりたい、教えてあげたい。

ジャイロ、君のおかげで歩けるようになったんだ。見てよほら、イケてるだろ? これでお気に入りのジーンズも履けるぜ。
乗馬だって今まで以上に楽しめるんだ。君は知らないかもしれないけど、僕ってイケイケの騎手なんだぜ? イギリスにおいでよ、とびっきりのブロンドガールを紹介してやるよ。
君の住むところにも行ってみたいな。そうだ、イギリスから乗馬で君の祖国まで旅するってのもイカしてないか? 絶対楽しいよ。旅費は僕に任せてくれ。

     ―――それもこれも君のおかげなんだよ、ジャイロ。
112◇c.g94qO9.A氏代理投下:2012/01/04(水) 18:21:35.74 ID:Jvh0bHya
守る、だなんて傲慢だ。君無しじゃいられない、なんて男女のラブストーリーで出てきそうなキザな台詞を吐くつもりもない。
それを教えてくれたのは君なんだもの。君は君がしたいことをして、僕は僕がしたいことをする。
一人で立ち、歩いて行くこと。それができるようになったのは君のおかげなんだから。

だからこれは僕の勝手。僕がしたいこと。僕が選んだ僕の道。僕が歩く地図の上。


「ジャイロ、君にあって……伝えたい」


それ以外はそこから考えればいい。彼が僕の知るジャイロ・ツェペリでなかったならば。彼が僕、ジョニィ・ジョースターを知らなかったならば。
それでも僕は伝えたい。君がどんだけイケてるやつか。僕がどれだけ君に感謝しているか。
扉を開き、夜を冷えた空気が僕を包む。力強く地面を踏みしめ、僕は夜の世界へと、一歩踏み出した。







     ―――これは一へと至る物語。僕が大人になって進む初めての冒険譚。



113◇c.g94qO9.A氏代理投下:2012/01/04(水) 18:22:07.94 ID:Jvh0bHya
【E-8 杜王町路地 / 1日目 黎明】
【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
1.ジャイロを探す。


【E-8 杜王町路地 / 1日目 黎明】
【ナルシソ・アナスイ】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン』
[時間軸]:(あとの書き手の方にお任せします)
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
1.徐倫を探す。
2.味方になりそうな人間とは行動を共にする。ただしケースバイケース。今は協力者を増やす。


70 : ◆c.g94qO9.A:2012/01/04(水) 16:46:42 ID:iabJl0Mw
以上です。いつになったら規制解除されるんでしょうか。
すみませんがどなたか代理投下をよろしくお願いします。
なにか指摘がありました教えてください。
タイトルはまだ考え中です。
114創る名無しに見る名無し:2012/01/04(水) 19:52:01.02 ID:fFDg9EhA
投下乙です
さすがに長すぎですね… サーバーの問題か、ブラウザが悪いのかもしれません
いろいろ試してみる事をお勧めします
アナスイはぶれませんね
ジョニィがだんだんアッー!な人になりそうで怖いですw

今回では無く、前回への指摘です
ドゥービーの支給品などの行方をご明記ください(不明ならば不明とも)
115創る名無しに見る名無し:2012/01/04(水) 20:02:02.53 ID:iiuezDu4
投下&代理投下乙です
2か月ほどサーバー単位で規制されていた経験があるので、あり得ない話ではないと思いますが、毎回もどかしいですねw

ジョニィはジャイロに再会できるのだろうか
徐倫の方はもし会えたとしてもプランクトン入りだからな……
アナスイの行く末が恐ろしくて仕方ない。そのうちジョニィに飛び火しそうだw
116 ◆SBR/4PqNrM :2012/01/04(水) 22:29:54.24 ID:7JXH4QhV

 ロバート・E・O・スピードワゴン、エルメェス・コステロ 、スクアーロ

 の、投下をさせていただきます。
 あと、予約時に未記名でしたが、けっこうな数のズガン枠を使わせていただきましたァァ〜〜〜〜ん!!
117デッドマン・ウォーキング ◆SBR/4PqNrM :2012/01/04(水) 22:31:08.20 ID:7JXH4QhV
 あいつらが何者かをオレは知らない。
 何者かは知らないが、少なくとも友人でも仲間でもないし、ターゲットでもなければ、まずは"ボス"なわけもない。
 ただ、おそらくはこの『攻撃』をしている者はあの中の何れかだろう。であれば、まず今オレがやるべき事は既に決まっている。
 あの力が、ここにまで及ぶ前に ――― 始末を付けることだ。

☆ ☆ ☆

 何処かから、掠れた歌が聞こえていた。
 いや、それは本当に歌なのか。それとも、ただ音が喉から溢れて調子はずれの旋律と化しているだけなのか。
 ふわふわと辺りを漂う気配。
 数ブロック離れた区画から来る雨の匂いと、いくつかの水たまり。
 石造りの、しかし鮮やかな色合いの街並み。二本の広い道路の間に、同じくらいの幅の、街路樹帯と呼ぶには広い木々のある遊歩道。
 その路に踊る無数の影。その隙間を、奇妙な旋律が彷徨っている。
 それが結局何なのか。判別する術を持たないまま、ただ呆然と狂乱を眺めていた。
 男がいる。ナチスの制服を身につけ、手に持った乗馬鞭を手によたよたと踊る。
 女もだ。一言で言えば、大女。優に常人の二倍はある身長に筋骨隆々の体躯。サイケデリックな衣装に、顔のペイント。文字通りに鶏のトサカを思わせる髪型を振り乱し、狂ったように暴れている。
 スコップを手にした痩せたチンピラが、辺り構わずそれを振り回している。その先が大女の太腿に当たり、返す刀で殴り飛ばされ樹木に激突する。
 正に狂乱だった。
 酒に酔った酩酊状態。或いはもっと興奮作用のある何かだろうか。
 見渡す限りそこに居る者達は常軌を逸し、攻撃衝動をむき出しにしているかのようであった。
 かくいう彼も、その脳の奥からむずむずと沸き上がろうとしている衝動を感じる。
 恍惚。陶酔。忘我の至福をもたらすもの。そう、まるで麻薬の様な。
 
 麻酔から意識を戻したばかりであったこと。それがもしかしたら関係しているのかもしれない。
 拘束衣を着せられ、頭部には真新しい包帯が巻かれたこの老人は、この状況を理解できぬままながらも、まだ正気を保っていた。
 老人。そうだ。
 
 我々はこの老人を知っている! いや! このまなざしとこの顔のキズを知っている!
 彼の名は、ロバート・E・O・スピードワゴン!!
 単身アメリカへと渡り、石油を掘り当てて一代で財を築いた男!
 かつて、ジョナサン・ジョースターの友として、石仮面の力で吸血鬼と化したディオ・ブランドーとの戦いに身を投じた男!
 我々はこの老人を知っている! このまなざしの鋭さと、魂の勇敢さを知っている!
118デッドマン・ウォーキング ◆SBR/4PqNrM :2012/01/04(水) 22:31:55.36 ID:7JXH4QhV
 
 道を挟んで北側から狂乱の様子を呆然と見ながらも、よろめきつつ記憶を掘り起こす。
 朧気な断片。石仮面を手にしたストレイツォと、"柱の男"。
 それから、側頭部に強烈な蹴りを受け、意識を失った…そのハズだ。
 しかし、恐らく傷は治っている。身体はまだ思うままにならないが、怪我などは無いように思う。
 暗闇。記憶。光。人の声とざわめき。眼鏡の司会者。三人の、どこか見覚えのある男達…。
 夢か幻想か、麻酔の醒めつつある中で見た幻覚か、或いはそれこそ地獄の風景なのか。
 何も定かならぬ場面が、浮かんでは消える。 
 呆然と狂乱を見やりつつも、記憶を手繰る。
 あの中。あの1人は、よく似ていた。まるで…。

「スピードワゴンさん…!?」
 鋭く、低く声がした。
 この狂乱の中、その声は驚くほどに冷静で、文字通りに「正気を保っている」ものだった。
 そして何より、スピードワゴンはその声に聞き覚えがあったのだ。
「ジョジョ…?」
 辺りを見回す。
 建物の影に、1人の男が居るのが解った。
 月明かりの元、決して見やすくはない。見やすくはないが、そこで手招きをしているのが誰なのかを、スピードワゴンは直ぐに解ってしまった。
 よろよろと倒れるかのようにそこへと吸い寄せられる彼に、男は些かの興奮が感じられる声で言葉を続ける。
「…まさかとは思いましたが、やはり貴方でしたか…。以前会ったときよりも…その、やつれているようで、直ぐには分かりませんでした…」
 その顔に、見覚えがある。
 その声に、聞き覚えもある。
 若くして死んだ彼の親友に生き写しであり、そしてまだ年若く、彼が我が孫のように思っている青年ともよく似ている。
「ジョージ…」
 イギリス空軍の制服に身を包んだこの男は、ジョージ・ジョースターU世。
 ジョナサン・ジョースターの忘れ形見であり、ジョセフ・ジョースターの父親であり……。
 既に死んでいるはずの男なのだ……!!
「ばかな…き、君は…」
 目の前の狂乱より、気がついたらこの場所に居たことよりも信じられぬ出来事。
「ええ…。僕はイギリス空軍基地にいたはずです…。何故こんな場所に居るのかは、さっぱり分かりません。
 それにこの有様……。誰もが狂ってしまっているような……」
 影に潜むようにふたり。小声で、相応に緊張した声で囁き合う。
 話は噛み合っているようで噛み合っていない。
 スピードワゴンの知るジョージU世は、既に10年以上前に死んでいる。
 彼が所属しているイギリス空軍の指令官が、かつて吸血鬼ディオによって屍生人と化した化け物であった事を知ってしまったため、勇敢にも戦いを挑むが返り討ちに遭い、殺されてしまったのだ。
 ならば……このジョージU世も屍生人か?
 一瞬浮かんだ考えだが、即座にスピードワゴンは否定する。
 違う。彼は、屍生人なんかではない。
 表情は硬いが、生気に溢れ、目の輝きも失せていない。
 彼は生きている。生きて、10年以上前のあの頃と変わらぬ姿、変わらぬ面差し、変わらぬ声で、今、ここにいる。
 若くして死んだ親友の息子が、その当時の姿のまま目の前にいる。
 これが、夢や幻でなければ、どれほど嬉しいことであろうか………!!
「とにかく、何が起きているのか分かりませんが、ここに居ては危険です。
 誰かが異常な興奮作用のある薬をまき散らしているのかもしれませんし、僕たちもいつまで正気を保っていられるか分かりません。
 まずは、その拘束衣を切ります。それから……」
 ジョージはそう言うと、手にしたナイフでスピードワゴンの拘束衣の袖を切り、両手を自由にした。
 それから、用心深く周りを見回し、半腰になって一方を示す。
「彼らに気付かれないように、素早く移動しましょう。もしかしたらこれも…いや」
 そこで、彼の喉が爆ぜた。
 
「な…!? ジョージ……!!??」
 血しぶきの中、魚に似た何かが見える。
 見えたのは一瞬。しかしそれを気にするよりも、とにかく自由になったばかりの両手でその傷口を押さえようとする。
 力が入らない。拘束されていたこと。つい先程麻酔から覚醒したばかりだということ。この二つが、スピードワゴンの両腕を緩慢にしている。
 血を。血を止めなければ。
 再び…再び親友の息子が死んでしまう事など……自分の目の前で死んでしまう事など……あってはならない……ッッ!!
 瞬間、スピードワゴンの目に映る二つの影。
 尻尾を跳ね上げる小さな鮫と……そして勢いよく飛来してくるものは ―――。
 
119デッドマン・ウォーキング ◆SBR/4PqNrM :2012/01/04(水) 22:33:06.29 ID:7JXH4QhV
☆ ☆ ☆

 吹き飛ばされた。
 衝撃。浮遊感。まるで空中で時間が止まったかのような瞬間から、一気に重力の枷が身体を地へと引き寄せる。
 身体を丸め、とっさに両腕で頭を庇う。
 背中から落ちた先は、幸運にも茂み。
 細かい傷は受けたが、致命傷に至るものはないように感じる。
「うぅ…ぐぐ……」
 しかし、痛い。
 茂みに落ちたときよりも、最初の攻撃、打撃を受けた脇腹が、明らかに腫れているようだ。或いは、あばらにひびでも入っているかも知れない。
 嗚咽が漏れ出る。肺腑から空気が無くなり、荒く息をする。
 あいつらでは無かった……!
 黒を基調としたタイトな服装の男、"ボス"の親衛隊の1人であるスクアーロは、襲撃者の姿を見定めようと視線を闇に懲らす。
 この場にいる者達の狂乱ぶりは間違いなく何者かによる「スタンド攻撃」で、それを仕掛けている敵スタンド使いは、「この場で正気でいるヤツ」。
 勿論そいつは、ヴェネチアでボスの緊急指令を受けたばかりの自分を、ローマくんだりにまで飛ばした奴とは別だろう。別だが、今はそいつを処理しないことにはどうにもならない。
 そう踏んで周囲を探っていたときに見つけたのが、時代がかった古い軍服姿の男と、老人のふたり。
 拘束衣姿のジジイは戦力が低いものと見なし後回しにし、軍服男が敵スタンド使いかも知れないと、水の中をテレポートして移動する自らのスタンド、〈クラッシュ〉を、水たまり経由で近づけ、のど笛に食らいつかせる。
 が…その直後に何者かの攻撃を受けた。
 狂乱から少し離れ、小路の陰に潜んでいたスクアーロは、完全に不意を突かれる。
 敵はあいつ等じゃない。しかも複数か……?
 無差別範囲攻撃を仕掛ける者と、近距離パワー型の2人組だとしたら、それはかなりの脅威だ。
 スクアーロは実際にその組み合わせてチームを組んでいる者達を知っているが、正直敵に回したくはない。
 しかし……。
 
 咆吼ッ!

 人ならぬ野獣の咆吼ッ!!

 襲撃者は、人ではなかった。
 巨大な猿……人間の二倍は超える体躯をした、巨大な猿。
 スクアーロは知らない。それは、組織『ドレス』によって創り出された殺人生物。
 過酷な環境下を生き延び、改良され、さらには殺人のための訓練を受けたマンドリル!
 強じんな四肢と高度な知能に加え! 残忍な性格を身につけているッ! 名付けられた名は、マーチン!
120デッドマン・ウォーキング ◆SBR/4PqNrM :2012/01/04(水) 22:35:23.05 ID:7JXH4QhV
 
「おい…まてよ、何なんだこいつはッ……!?
 一体何だってんだ……!!??」
 スタンド使いであり、"ボス"の密命で暗殺を含めた多くの汚れ仕事をしてきた親衛隊のスクアーロにとっても、これは全く想定外の敵であった。
 動物がスタンド使いとして覚醒するケースは稀にあるとは聞いていた。
 しかしこれは、スタンド使いとかそういう問題ではない。
 存在そのものが化け物である。
「こ…こんなやつが……!?」
 こいつが、辺りに幻惑作用のあるスタンド攻撃をして、挙げ句素手で仕留めて回るというのなら、正に無敵。
 なまなかなスタンド使いでは歯が立つわけもないッ……!!
 巨大猿は再び咆吼をあげる。興奮か、歓喜か。
 近くには水たまりがない。もともと雨が降っているのは少し西に離れた区画で、ここに残っていた水は僅か。
〈クラッシュ〉を防御のために戻すことも出来ず、また不運にも巨大猿マーチンに殴り飛ばされた際、支給品の入ったバッグを手放してしまっている。
 丸太の如き両腕を振り上げ、巨大猿が足を踏みならす。まるで勝利を確信し舞い踊るが如く。
 身体が痛む。痛む、と思っていたが、次第にその感覚が消えてゆく。
 恐怖と興奮で麻痺したのか、とも思ったが、それは違うと分かった。
 例のスタンド攻撃だ。
 次第に、スクアーロの頭の奥から、奇妙な多幸感が沸き上がりつつある。
 尻を着いたままの姿勢で、腕を使い後ろへと這い逃げようとするが、既にその行為すら億劫になりつつある。
 その背に、何者かが当たる。バランスを狂わせたそいつが、スクアーロの身体に覆い被さるように倒れ込んできた。
「くそ…、ヤバイぞ……ッ。
 オレの頭も本格的にイカレはじめてきやがったのか……!?」
 そうだ、こいつはたしか、"涙目のルカ" とかいう組織のチンピラだ。
 そしてこいつはとっくに死んでいるハズの男だ……!

 次の咆吼は、悲鳴だった。
 
 
121デッドマン・ウォーキング ◆SBR/4PqNrM :2012/01/04(水) 22:35:52.70 ID:7JXH4QhV
☆ ☆ ☆
 
「じいさん、そいつに掴まれ!」
 鋭い叫びがスピードワゴンの背後から聞こえる。
 背後、それも路地の奥の方からの声だ。位置も離れていて、姿は暗くてよく見えないが、その存在ははっきり分かる。
「そいつ」が、先程飛来して地面に突き刺さった銛を指しているであろう事はすぐに分かった。
 しかし捕まったからといってどうなるものか。これを武器にして、先程見えた鮫のような影と戦えと言うのか?
「いいから、もたもたしてねーでその大男を抱えてしっかり銛に捕まるんだよッ!! 離すんじゃねーぞ!」
 再びの声に、スピードワゴンは慌ててジョージを背後から抱えるように腕を回しつつ、さらに両手で銛を握る。
 
 バチン!
 
 身体が宙に浮いて、まるで吸い寄せられるかの如く飛んで行く。
 いや、引き寄せられているのは自分の身体ではない。この銛だ。銛が引っ張られて、そこにしがみついている自分とジョージも一緒に浮かんでいるのだ。
 両手両足で、必死に銛とジョージの身体を離さないようにする。切った拘束衣の長い袖を丁度ロープ代わりに使えたのが幸いした。
 数十メートル移動して、柔らかい身体に抱き留められる。
「うおっ、結構重いな…あんたら、ガタイ良すぎだろ!」
 悪態を付くのは、すらりとしたシャープな顔立ちのヒスパニックらしき女性。細かく編み込んだ長いドレッドヘアーと、額と顎にある三角形の入れ墨が特徴的だった。
「す、すまない、お嬢さん。だが、ジョージは…ジョージはこのままでは……」
 押さえても、押さえても、スピードワゴンが抱えたままのジョージ・ジョースターの喉からは、血があふれ出し続けている。
「じいさん、酷なことを言うようだが、ここに留まってちゃマズイ。敵は2人組だし、能力の相性がバツグンに良すぎだぜ。
 範囲攻撃で無差別に周りの人間をイカレさせ、もう1人が遠隔攻撃で直接仕留めて回る…。
 はっきり言って今は、逃げの一手しか浮かばねー」
 そう言って女が示す先は、見たこともない外観だが、どうやら車らしい物体。白地の車体に赤いランプ。後部を大きく開いて、中には広い空間。
 2人がかりで中にジョージを運び込む。
「じいさん、アンタ後ろだ。
 そこらに応急処置の道具があると思うから、ここはそれでなんとかしてくれ」
 言いながら、女は運転席へと周り素早くエンジンを掛け発進する。
 車体の壁に掛けてある透明のバッグに、赤十字の赤いマーク。透けて見える中に包帯やガーゼ、消毒液らしきものがある。
 が、それでなんとか出来るとしは思えない。思えないが、それでもなんとか引っ張り出す。
「スピードワゴ…さん…」
 些か乱暴に走り出す車の中、息が漏れているのか、言葉を発しているのか、その曖昧な境界をなんとか繋ぎ止めるように、ジョージが口を開く。
「母…と……エリザベ……スと………ジョセ…を…」
 切れ切れの言葉。途切れがちな呼吸。
「いい、しゃべるな。血を…血を止めなければ……」
 既にスピードワゴンの両手は、ぬらりとした血に塗れて滑り、傷口を押さえようもない。
 ガーゼは溢れる血を吸いすぐさま真っ赤に染まる。拭いても拭いても留まる事を知らない。
 急激に、身体が冷たくなっていく。
「だめだ…ッ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だッ………! ジョージ、まだ行くなッ……!!
 二度もッ……、二度もわしより先に死ぬんじゃあ無いッッッ!!!」 
「……頼み……ま……」
 
 抱える腕の中で、ぷつりと、何かが切れたのが分かった。
 決定的で、掛け替えのない何かが、今失われたのが分かった。
 
 
122デッドマン・ウォーキング ◆SBR/4PqNrM :2012/01/04(水) 22:36:24.74 ID:7JXH4QhV
☆ ☆ ☆

「こいつでも…無かった……」
 ゆらりと、さながら幽鬼のように揺れる影。
 全身が血に塗れ、顔の判別もつかない。
「スタンド使いは……この狂乱の中冷静な奴…………。
 その考えが……既に……間違っていた……か………」
 咽せるように数度咳き込む。
 口から血の混じった唾を吐き出し、それから地面に散乱した荷物から、ボトルを1本手にして中の水を一口。口をすすいで再び吐き出す。

 辺りは惨憺たる有様だった。
 大女も、ナチスの服を着た東洋人の男も、涙目のルカも、そして、巨大な殺人猿に……1人の貧弱な体つきの少女も、全てが地に伏せ、倒れている。
 静寂と月明かりの中、1人スクアーロのみが、街路樹のある広い遊歩道に立ちつくしていた。

 涙目のルカ。スタンド攻撃で酩酊していたその男が近くに来たことで、スクアーロに反撃の機会が与えられた。
 以前喧嘩で顔に傷を負って以来、涙腺が壊れ、ずっと涙が流れたまま止まらなくなっていたこのチンピラの、その涙の筋に、〈クラッシュ〉を呼び戻したのだ。
 しかし、そのままではまだ足りない。だからまず、ルカののど笛を食いちぎり、辺り一面に血をぶちまけたのだ。
 殺人猿マーチンにも降りかかった血から、今度は猿へと〈クラッシュ〉の攻撃を加える。
 不意の攻撃に恐慌状態になった猿は、それがスクアーロのスタンドによるものだと理解できず悶え暴れ回る。
 大女にナチス服の男らをなぎ倒し、その隙間をスクアーロは〈クラッシュ〉で次々の攻撃を重ねる。
 暴れ回るマーチンの丸太のような腕は、その近くでふらふらとしていた貧相な小娘まで、まとめて打ちのめし引き裂いた。
 そこで、このスタンド攻撃が、初めて弱まったのを感じる。

 小さな、そしてやつれた小鳥のような姿のヴィジョンが舞い降り、女の側に落ちる。
 女の乾いて荒れた肌は、しかし蝋のように真っ白で蒼白だ。もとより虚弱な体質であったろう事は一目で知れる。
 その蒼白のカンバスに、赤く飛沫が飛び散って、夜目にも鮮やかなコントラストを形作っている。
「麻薬チームに……」
 再び血の混じった唾を吐きつつ、呟いた。
「イカレたヤク中女が居る…って話は聞いた覚えがあるが……。
 まさかお前じゃあないよな……?」
 脚のつま先で顔を小突き、こちらへと向けさせる。
 小さく、口が動いていた。
 蒼白な顔を赤く染め、唇の端から泡が零れる。
 マーチンにやられた際に、内臓から骨から、やられたのだろうと思う。
 小刻みに震えるような唇が、陸に揚げられた魚のようにぱくぱくと動き、何事かを囁いているようだった。
「………マッ…は……」
 僅かに顔を傾け、耳をそばだてる。
「……そうやって……笑うと………可愛い……うん、ほんとう………に……」
 意味をなさないその言葉の羅列を、スクアーロは〈クラッシュ〉で止めた。
「……完全に、イカレちまってたみたいだな……。
 ま、どーでもいいか………」
 濃密な血の匂い立ちこめる遊歩道で、スクアーロはゆるゆると辺りを見回す。
 ただこの惨状にさしたる興味も示さずに、水のボトルを拾い上げてながら、自らの相棒、ティッツァーノの事を考えていた。 


【ジョージ・ジョースターU世】【大女ローパー】【おじさんX】【涙目のルカ】【マーチン】【アンジェリカ】:死亡
 
 
123デッドマン・ウォーキング ◆SBR/4PqNrM :2012/01/04(水) 22:37:14.40 ID:7JXH4QhV
----
【ローマ市街地(A-2の何処か)・1日目 深夜】
【ロバート・E・O・スピードワゴン】
[スタンド]:なし
[時間軸]:第2部、ストレイツォに頭を割られた後、シュトロハイム等に治療され覚醒する直前
[状態]:健康
[装備]:袖を切った拘束衣、頭部の包帯
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:不明
1:何故ジョージが…? そして最初の場所で殺されたのは…?

【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:少なくともスタンド能力に目覚めてから後
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、救急車@Part4 ダイヤモンドは砕けない
[思考・状況]
基本行動方針:不明
1:くそ、成り行きで変なじいさん助けちまったけど、どーなってンだこりゃ?

※救急車@第四部
 連続殺人鬼吉良吉影に止めを刺した武器。緊急蘇生、応急措置の道具類などが内部に残されている。
※救急車内に、ジョージ・ジョースターU世の死体及び支給品類アリ。
※エルメェス・コステロのもう一つの支給品、銛は、〈キッス〉のシール使用により破壊されました。

【ローマ市街地、ジュゼッペ・マッジーニ通りの遊歩道(A-2)・1日目 深夜】
【スクアーロ】
[スタンド]:『クラッシュ』
[時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前
[状態]:打撲、疲労、かすり傷
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜2、
[思考・状況]
基本行動方針:不明
1:まずはティッツァーノと合流。
     
※A-2、ジュゼッペ・マッジーニ通りの遊歩道付近に、合計5人分の首輪と支給品が散乱、或いは破壊され放置されています。
※おじさんXの支給品は、乗馬鞭@魔少年ビーティー、涙目のルカの支給品は、スコップ@Parte5 黄金の風。どちらも本人所有品の支給。   
※スクアーロによる殺害は、ジョージ・ジョースターU世、涙目のルカ、アンジェリカの3名。(死因は〈クラッシユ〉による咬殺)
※マーチンによる殺害は、おじさんX、大女ローパーの2名。(死因は撲殺)
 
124 ◆SBR/4PqNrM :2012/01/04(水) 22:39:11.57 ID:7JXH4QhV
 以上にて、投下終了にございます。
125 ◆SBR/4PqNrM :2012/01/04(水) 22:53:55.59 ID:7JXH4QhV
>◆c.g94qO9.A
 アナスイの暴発臭がこれまで以上にハンパない今回、ジョニィもうかうか出来ませんわ!

 別な話、僕も以前別のプロバイダの頃には、巻き添えでプロバごとアクセス規制が頻発していて、
トータル1年のうち半年くらい規制中、なんつー事もあったりしました。
 いやもう、災難と思うしか無いのですが、ええ、ええ。
126創る名無しに見る名無し:2012/01/04(水) 23:22:47.52 ID:Hrmvy6v0
お二方、投下乙です。それでは感想を。

>◆c.g氏
アナスイもそうだけど、ジョニィもある意味ブレないっちゃあブレない性格なんですよねぇw
同盟を組んだと思ったら即単独行動……いやぁ、実に彼ららしい。

>◆SBR氏
いかにも“バトル”ロワイヤルって感じの作品で読んでいて面白かったです。
フラグをたてたりと言った内容は少なめではありますが、序盤はこんなもんでどんどん行きましょうw


あと、どちらの作品にも気になった点が。
アナスイとエルメェスの参戦時期は確定させてもいいかと思います。
 例として挙げるなら、アナスイは今のままだと最初期の女アナスイになっちゃう可能性だってありますし、
 エルメェスの場合、銛(6部ラストのアレですよね?)を見て何かしら思うところがある・無いと考えることもできますし。
参加者の参戦時期を決められるのは登場話を書いた書き手の特権でもあります。
例えば俺が仮に書いていたならジョニィはタスクACT2発現の瞬間だったでしょう。ロワ内で成長とか考えてました(爆)
後で「あぁ、この時間から持ってくれば面白い話がかけたかも」と後悔することのないように、バシバシと決めちゃって良いと思いますよ。
127創る名無しに見る名無し:2012/01/05(木) 01:46:29.44 ID:aPIHZ7JM
投下乙
血管針回を越え、1話死亡数がトップになりましたね。
小説、ビーティー、バオー、アイリンから一人ずつでてるってのも凄いw
SPWは期待通り2部ワゴンですか。
5部ナレフはあっけない最期だったので、今度は期待したいです。
128創る名無しに見る名無し:2012/01/05(木) 02:01:23.39 ID:8ZrbDveB
最悪だ
面白い事を書こうとか何か勘違いしたのか調子乗ってサクッと大量に殺しやがった
オイ、バカ作者
次から気を付けろ意外な展開やろうとして破綻させんなよ
129創る名無しに見る名無し:2012/01/05(木) 02:08:48.66 ID:rAHreoAC
>>128
べつに問題無いだろ
正規の参加者は一人も死んでない
何が気に入らないの?
130創る名無しに見る名無し:2012/01/05(木) 02:28:51.10 ID:63fddkdz
>>128
お前もしかしてルールもわからずに読んでるのか?
131創る名無しに見る名無し:2012/01/05(木) 02:59:48.41 ID:rAHreoAC
マーチンもスクアーロによる殺害では?
その場合、殺害人数は4人ですよね?
132創る名無しに見る名無し:2012/01/05(木) 04:10:15.44 ID:7GLCG8nV
というより、こんなに出して殺す必要あったの?
そりゃズガン枠だろうけど本当に描写すら無しで一単語程度の要旨説明がなければ居るのか居ないのか分からないし
133創る名無しに見る名無し:2012/01/05(木) 11:13:55.92 ID:Wxn5IS17
>>128
毒吐きスレへどうぞ
134創る名無しに見る名無し:2012/01/05(木) 20:14:25.80 ID:aPIHZ7JM
別にズガン枠のキャラクターが何人出てきて何人死のうがいいと思うのですが(そういうルールですし、何も問題は無い筈です)、
それぞれの不明支給品の個数や状態などはしっかりと作中(状態表)に明記してほしいと思っています。
このままでは支給品の所在が飽和状態になってしまい、のちの書き手さんたちへのリレーが困難になるやもしれません。
先日の怪人ドゥービーの支給品の時もですが、どうもズガン枠の支給品のことを失念されている書き手さんが多いようなので、注意していただきたいです。
135創る名無しに見る名無し:2012/01/06(金) 01:54:54.25 ID:nRl/AaLm
俺も書き手だけど遠慮してたからこんなに殺していいとは思ってなかった
主要キャラとかガンガン殺して行くわ
136 ◆SBR/4PqNrM :2012/01/06(金) 03:11:08.37 ID:8vqpjHHT
>>126
 エルメェスの参戦時期は、最初は想定していたのですけど、構成しているウチにエルメェス中心で描写する場面が無くなってしまい、
結果、その辺りは全部省くことにしました。
 本文中で入れる場所もなく、また本文中では一切触れていないのに、状態表だけで言及するってのもどうかと思うので、不明で。 
 少しでも描写して決めておいた方が良い、という意見が多ければ、ちょいと修正しようかとは思いますが。

>>131
 ワオ、間違えた。その通りです。収録時に修正します。

>>134
 上と同じで、本文中で触れていないところはなるべく他の書き手の人の自由裁量に出来る余地を残したいので、状態表などで
細かく限定かないようにしているのですが、これは読み直すと、せめて数量の記述くらいは補足した方が良かったな、と思い直した
ので、収録時にはそこだけ補足修正したいと思います。
137創る名無しに見る名無し:2012/01/06(金) 10:08:38.97 ID:2zkg/1lf
参戦時期の決め方に特にルールはないと思いますよ
同じ部のキャラにでも会わない限り細かい参戦時期の食い違いは話題にあがりませんし
参戦時期が確定する事項が本文中にないと決定できないというのでは
すでに投下されたたくさんのキャラが「少なくとも〇〇以降(以前)」になってしまいますw
138 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:31:41.03 ID:tzxzBzBn
ンドゥール、ギアッチョ、リゾット・ネエロ、ジョンガリ・A、ディエゴ・ブランドー
投下します
139 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:32:18.49 ID:tzxzBzBn



「『出会いは引力だ』というヤツがいるようだが、俺が君を見つけることができたのは、鼻が利くからであって、引力ってわけじゃあないだろうな。
 貧しい育ちだったからか、卑しくもやたらと鼻が利くんだよ」

「ああ、スタンドをこっちに戻そうとは思わないことだ。俺があんたを切り裂くほうが早い。
 それにもとから俺はどっちでもいいと思ってるんでな」

 攻撃をするでも助けようとするでもなく彼は、腰をおろした男の背後にただ立っていた。
 敵愾心を微塵も感じさせない、気さくといってもいいような声色だった。
 腰をおろした男は振り向かず、唇を震わせ言葉を紡ぐ。

「あなたに…………」



 * * *



「ここは……、独立宣言庁舎か……」

 家屋をチーズのように穴ぼこだらけにしてしまうスタンド使いに警戒しながら、
 ディエゴ・ブランドーとギアッチョの両名は気が付けば、時計を中央に設置した建造物の正面へと辿り着いていた。
 怪訝な顔をするギアッチョに対し、ディエゴは大げさなアクションでおどけてみせる。

「過去に訪れたことがあるのさ。決していい思い出があるってわけじゃあないが。
 それにしても、独立宣言庁舎の存在も知らないのか?」
「アメリカ合衆国のだろ。それくらいわかる。このあたりの旗を見れば尚更な。
 俺にとっての問題はここがアメリカらしいってことだ。
 馬鹿げてると思うが、ここに連れてこられる直前、俺はヴェネツィアに向かっている途中だった」
「なに……?
 ギアッチョ、すまないがもう少し詳しい話を聞かせてくれないか。
 さっき互いに話したのは人間関係のみについてだっただろう。
 ああ、とりあえず中に入るとしよう。
 周りが壁に囲まれていた方が例のスタンドの接近を察知しやすいだろうしな」

 薄暗いホールの中央で、デイパックの中身を確認しながらの会話が進む。
 ディエゴはアメリカから、ギアッチョは『イタリア』から、それぞれがどこから連れてこられたかに始まり、話してみれば、年代の違い、歴史の違いが際立っていった。
 その中で『平行世界』の概念とファニー・ヴァレンタイン大統領について、ディエゴは説明せざるを得なくなる。
 そうでなければギアッチョが沸騰しそうな状態だったからだ。
 結果としては、説明を受けてなおギアッチョはキレ続けていたのだが。

「こうなってみると、ファニー・ヴァレンタインがなんらかの形で関わっていると見た方が自然だろうな……」
「悪趣味なゲームに巻き込まれたもんだ。お前の『世界』のクソ大統領のせいでよ」

 勝利を目前にして取り逃した悔しさに、ディエゴは悪態をつく。
 そこそこ上等な床面を舌打ちと同時に蹴りながらギアッチョが応じた。
 彼の足下では『紙』から出てきたカエルが踏みつけられまいと必死にもがいている。
 その様子を横目で見ながら一方で、ディエゴは心に重くのしかかるものを感じていた。
140 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:32:53.75 ID:tzxzBzBn
(あのカエル、本当に生きたカエルらしいな。
 それだけでも、何者かの能力らしいということ以外、俺には想像がつかない。
 大体あんなメチャクチャな地図が、たとえ別の世界だろうと現実に存在するか?
 聖人の遺体がダイヤモンドに変わる……そんなレベルの差異じゃない。
 この独立宣言庁舎としか思えない建物が複製品だとしても、疑問は残る。
 俺は大統領が移動する隣の世界について、少しずつ異なるが同じ時間軸の世界なのだと理解していた。
 しかしギアッチョは2001年から来たと言った。これをどう説明する。
 スティーブン・スティールか大統領の部下の能力が、時間の操作、あるいは記憶の操作なのか?
 ほとんど法則も制限もないような混沌とした世界……。
 あの聖人の遺体を集め終えたために招かれた事態だとしたら、とんど笑い話だ。
 殺し合いを引き起こす聖人……なるほど皮肉がきいているじゃあないか)

 思案から、ふと顔を上げたディエゴは、ギアッチョが緊張した顔つきで空を見つめていることに気付く。
 うるさく床を蹴っていた時とは正反対の、暗殺者らしい顔つきだった。
 ピンと耳を立て、周囲を伺う猫を想起させるような。

「今の物音が聞こえたか?
 リーダー……リゾットの声だ……」



 * * *



 ギャング集団『パッショーネ』に属する暗殺チーム。
 そのチームリーダーの名をリゾット・ネエロといった。
 彼が路地裏で目を覚まし、周囲の探索を始めたのはわずか20分ほど前のこと。

 最初に発見したのは空中に浮いているだけの奇妙なスタンドだった。
 熱帯地方の花をモチーフに飛行物体を作成したような形状。
 手近なものを放り投げ、ヒラリと避けられる。放り投げる、避けられる。
 攻撃を受けても反応のようなものはなく、ただ避けるだけ。

 本当にそれだけのスタンドだとリゾットは当然思わなかった。
 周囲に視線を走らせ、物音に耳を澄ます。
 郡体型スタンドが体内でざわつくのを感じた。
 少ない外灯が寂しげに照らす路地はかえって闇が濃く、黒のロングコートを羽織った格好が遠目に判別しやすいとは思わない。
 それでも念のためいつでも姿を隠せるように準備をしておく。


くるり……


 宙を浮いていたスタンドが、初めて敏速な動きを見せる。
 リゾットは反射的に斜め後ろに退いていた。
 壁の間近に高い風切り音を聞き、見やれば銃弾がかすったような跡が残っていた。
 退いていなければ、心臓を正確に撃ち抜かれていただろう。

(いきなり、このスタンドからかッ……!?)
141 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:33:31.98 ID:tzxzBzBn

 発射音は聞こえなかった。
 10mほどの距離からの銃撃を避けることができたのは、幸運に近い。
 距離をとるため、今まで歩いてきた道を逆走する。
 振り返れば、銃弾を発射したスタンドはリゾットの後をゆっくりと追うように漂っていた。
 その様子にリゾットは違和感を覚える。
 目標に接近するためというより、埃が舞うような動きだったためだ。

(……あのスタンド、どこかおかしい……!!)

 空中に漂い銃弾を発射することができる能力ならば、絶対的な射程距離の不利がある。
 しかし、今、スタンドの弱点のようなものを掴みかけているのも事実。
 退くべきか、徹底的に叩くべきか。
 リゾットが瞬時に下した決断は…………。


ここで叩くッ!!


 銀鼠の煌めきを残しメスが飛ぶ。
 その数、3本。
 周囲の鉄分を集めて作った即席の凶器だが、鋭く空気を裂く様は本物のメスと寸分違わなかった。(そもそもメスは投げるものではないのだが)
 1本目は真正面、2本目はその真後ろ死角となる位置、3本目は両方を避けた場合の逃げ場を塞ぐ形での投擲。


1本目、なんなく避けられる。

2本目、ギリギリかわされる。

3本目、刺さる直前、弾かれたようにスタンドが上空へと跳ね上がる!!


「なるほど……、見てから避けているわけではなく……
 『風』か……?」

 それならば、と体勢を変えたリゾットの足下に蠢くものがあった。
 粘度の高いゼリー状の物体。
 音もなく姿を変じ、それは人間の手の形状を成す。
 見ようによっては、突然地面からゴム手袋が生えたようにも見えるだろう。
 それはさらに形状を変える、鋭い爪へと。
 なんのため?
 敵の足を切り裂くために。

「ぐっ……おおお……」

 リゾットの左足くるぶしのあたりから血が吹き出す。
 とっさの判断で身体をひねったため、骨まで切断されることはなかったが、逃亡用の足を潰すという目的が十分に察せられる攻撃だった。
 魚のヒレのように飛び出した皮からスタンド像が覗き、ロォォォオオオオオドと呻く。
 自分の声が更なる危機を引き寄せてしまう可能性がある。自分を呪いながらリゾットは予期しなかったもう一体のスタンドの姿を探す。
 血だまりの中、チャポン、というやや間が抜けた音とともにそいつの残像が地面へと溶けた。

「敵は、最初から二人いた……。
 あの浮遊しているスタンドの方が囮で、今のやつが本命……!!」
142 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:34:26.34 ID:tzxzBzBn
 足を切りつけたスタンドはどこにも見えない。
 頭上には相変わらずふわふわともう一体のスタンドが浮遊している。
 そのコントラストが逆に恐ろしくさえあった。
 リゾットの頭髪の先が微かに震える。殺気を直に感じたときの、ひりついた感覚だった。

「リーダー!! リーダーか!?」

 そのとき、路地の向こうから走り寄る影が二つ。
 適度に筋肉のついた男二人組のようだが、その片方にリゾットは見覚えがあった。
 声も、それは、聞き慣れた、もう二度と聞くことはないと思っていた声だった。

「ギアッチョ……か……?」



 * * *



「仲間か……」

 独立宣言庁舎の一室、ひとりの男が座していた。
 たっぷりとしたローブを身にまとい、双眸を閉ざした彼の身なりは、人によっては古の賢者のように見えたかもしれない。

「DIO様……」

 男の名はンドゥール。
 映像としての情報を得たことがない彼にとって、主の『姿』は甘美な響きの形をしていた。
 光がなにかを知らずとも、彼は光を知っていた。
 救世主がしばしば光そのものにたとえられるように、彼にとってもまた、その名は『光』そのもの。
 DIOの存在は彼の行く道を照らす、やはり『光』に等しいものだった。

「ライフルには撃てる数に限りがある……が……
 ここで彼に会えたことだけでも感謝するべきか。
 DIO様を慕う彼に」

 ジョースター一族が二人とも死んだ。
 なんの情報も与えることのできない瞳にかわり、彼に物事の運びを告げる『音』が伝えたのだ。
 無数の悲鳴を、驚嘆の声を、失望の沈黙を。
 あらゆる疑問を二の次にしてしまえるほどの衝撃と遅れてやってきた喜び。

 砂の上ではなく、固い地面の上で最初に出会った人物はその喜びを分かち合うことのできる人間だった。
 ジョンガリ・A。同じ光に魅せられた人間のひとり。

 彼は言った。
『あんたは……、もし生きていたのだとしても、若すぎる……。
 ……つまり、俺たちをここに呼び込んだやつは『時間』を操作する能力を持っている可能性がある』と。

 道理でわずか12、3歳だと思っていたジョンガリ・Aの声がすっかり大人びているはずだと思った。
 しかしンドゥールにとってそれ以上の感慨はない。
 正直、時間の操作でも、どの能力でも構わなかった。殺されたのがジョースターの二人であるならば。
 それがどんな意味を持つと思う。DIO様を慕う者がやつらを殺した、ということにほかならない。
 『殺し合い』はおそらく見せかけのゲーム。
 過去の世界で、DIO様を慕っていながら、成果を出すことのできなかった我々に機会が与えられているのだ。
143 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:35:27.68 ID:tzxzBzBn
「DIO様、すべてはあなたのために……」

 彼の補佐となる杖はその手にない。
 しかし、彼はたしかに、光の射す方を向いていた。

「その邪魔者を殺して見せましょう」



 * * *



「あんたも参加させられていたのか」

 リゾットにとってギアッチョがすでに故人であることを本人は知らない。
 傍らの男について説明するギアッチョをリゾットはなんともいえない表情で見つめていた。

「…………俺から聞きたいことはたくさんあるが、今は敵の攻撃に備えろ。
 ここには少なくとも二人のスタンド使いがいる。正確にはそのスタンドが。
 あの浮かんでいる方は一度銃弾を発射したきり、積極的には攻撃してこない。
 確実に仕留めるという瞬間にしか攻撃をしかけないのかもしれない。
 注意すべきは……、ッ……こいつだッ!!」

 ギアッチョの足元がにわかに黒光りしたかと思うと、一瞬でそれは人の手に形を変える。
 攻撃をしかけようとしたそれに、リゾットの投じたメスが突き刺さり、通り抜けた。
 苦しんでいる様子はない。地面に溶け、再びその姿は立ち消えてしまう。

「水の特性を持ったスタンドか……厄介だな」

 ディエゴが呟く。喜んでいるかのような声色を含んでいた。
 リゾットがディエゴに向けた視線は剣呑としている。

「ディエゴといったか、一応お前を信用して聞こう。
 お前のスタンドはこいつを叩くのに有効な能力か?」
「いいや、俺の能力は『接近戦に特化した』物理攻撃オンリーってヤツでね。
 水は切っても切れないだろうし、銃弾を放つ攻撃に対するアドバンテージもない」

 大仰に手を振ってみせるディエゴの様子は、自分の真意を悟らせない道化師の姿をリゾットに想起させた。
 地面から離れる術はなく、どこから襲撃されるかわからないというのに。
 無表情であろうとするリゾットとは対照的だった。

「そんな怖い顔をしないでくれよ。リーダーさん。
 ギアッチョの説明だけで信用が得られるなんて、俺は思っていない。
 暗殺を生業としてきたんだろう? 信用できない相手に能力を明かせないというのは、当然の判断さ。
 俺は本体を探すためにこの場から離れる。近くにいるはずだ。
 あんたが俺を信用するかしないかは、こいつらを片づけてから判断すればいい」

 構わないだろう?とギアッチョに視線をくれるディエゴは相変わらず余裕たっぷりで、リゾットには不信感が募っていく。
 しかし、ディエゴが言ったことはほとんどが核心を突いていた。
 『メタリカ』の能力を見た標的は必ず死ぬ。ずっとそうしてきたのだ。
 標的でも仲間でもない人間には、できるだけ能力を見せたくなかった。
144 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:35:56.31 ID:tzxzBzBn

「頭はきれるようだな……
 あまりアテにする気はないが、本体を探してくれ。スタンドの方は俺とギアッチョで対処する」

 走り去る直前も、ディエゴは不敵な笑みを崩さなかった。
 ああいうタイプは一番信用が置けない。
 あいつがいる時、なぜ攻撃が止んでいた?
 ギアッチョはここに来て以来、あいつと行動を共にしていると言っていたが。
 キレやすいギアッチョと初対面で打ち解け、行動を共にするなど、さらに怪しい……。
 リゾットの心に芽生えた不信感は強く根を張ろうとしている。


 やがて、再び攻撃が始まった。

 執拗に手足や瞳を狙い、液体状のスタンドが爪を振るう。
 そして忘れた頃に浮遊しているスタンドから銃弾がおみまいされるのだ。

「リーダー!! 俺たちも本体を叩くべきじゃないのか!?」
「少し黙っていてくれ……。能力はまだ使うな」

 焦れるギアッチョに対し、リゾットはあくまでも冷静だった。
 傷が浅いわけではない。しかし彼には経験と判断力があった。

(特に水のスタンドの方は、俺たちを確実に殺すつもりでいる。
 完全に自分が優位だと思っているがゆえの余裕ともいえよう。
 つまり叩くのならば今。それは変わっていない。
 いつの間にか飲料水にもぐりこまれていたり、川で待ち受けられれば、それこそ厄介だ。
 弾の数に制限があるのか……浮いている消極的なスタンドの方は敵ではない……)

 水のスタンドの攻撃は的確で鋭い。
 それは裏を返せば、次の攻撃を半ば予測できるということでもあった。
 問題は体力が尽きればそこでおしまいということだが。

(ギアッチョの物体を凍らせる能力ならば、『水』のスタンドには対処できよう。
 しかし攻撃されていることを相手に悟らせずやつを凍らせるにはどうすればいい?
 無差別に地面を凍らせていると知れば、当然やつは逃げるだろう)

 いまだ能力を見せず、傷のないギアッチョへは牽制程度に、敵スタンドからの攻撃はリゾットへと集中していた。
 リゾットが跳ぶ。足元をスタンドが薙ぐ。
 着地と同時に体勢を崩し、目前に迫ったそれを横回転で回避する。

(そもそも、やつの本体はどこから俺たちを見ている。
 人の部位を狙えるほどの的確な攻撃を双眼鏡で行えるとは思えない。
 すでにすべての窓をチェックし終えたが、近くからこちらを見下ろしているはずなんだ……ッ!!)
145 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:36:19.83 ID:tzxzBzBn

 脳天目掛けて撃ち込まれた銃弾が地面で跳ね、ほど近い人家の窓硝子が砕け落ちる。
 予期した水のスタンドの追撃は、『行われなかった』。

(今……なぜやつは攻撃をしかけてこなかった…!?
 緩急をつけるためか? このタイミングで。
 窓硝子が割れた…………。
 窓硝子が割れ、砕け落ちた。音をたてて…………)

 ハッとリゾットの暗い瞳が見開かれる。
 その表情に惹かれギアッチョが視線を投げかける。表情は明るかった。
 リゾットは黙ったままボディランゲージを送る。
 一瞬、間をおいてギアッチョが頷いた。



 * * *



「ンドゥール、なぜ攻撃しないッ!?
 まさか手負いの男が窓に飛び込んだと判断したのか!!」

 独立宣言庁舎との間に公園を挟んだ家屋の二階、窓の隙間から空気の流れを読み取り、ジョンガリ・Aが狼狽の声を上げる。
 目の不自由な二人ではあるが、音に頼る者と気流に頼る者、わずかながらに認識が異なっていた。

「あいつら、なにか仕掛けようとしている。
 一体何を…………」

 銃撃するべきか、様子を見るべきか。ジョンガリ・Aは躊躇する。
 その間に彼は『マンハッタン・トランスファー』が降下するのを感じた。
 疑問に思い、改めて気流を読むが、二人に動きはなく、もとより強い風は吹いていない。

「動いていないのに、動く……。
 つまり空気そのものが重くなっているッ?!
 まさかあいつら…………!!」

 今度は躊躇わず銃弾を発射した。
 二人は曖昧ながらもンドゥールが音を察知して攻撃することを察したのだろう。
 無言で、まったく動かないことでンドゥールの攻撃を誘っている。
 いや……なぜ空気が重くなっているかを考えれば、姿が見えなくとも『ゲブ神』を撃破することが……。
146 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:36:42.80 ID:tzxzBzBn

「ンドゥール!!
 スタンドを戻せ!! あるいは、今の内に攻撃しろーッ!!」

 『マンハッタン・トランスファー』を中継地点とし、銃弾がギアッチョへと迫る。
 当たれば一撃で射殺可能なヘッド・ショット。
 当たらずとも二人が避ければ、その物音はンドゥールに伝わる。
 それだけで十分…………。

「なに……!?
 銃弾がどこにも着弾しない……だと……?」

 空を切る銃弾の流れをジョンガリ・Aは着実に捉えていた。
 『マンハッタン・トランスファー』は確かにギアッチョの頭を目掛けて銃弾を発射した。

 しかし銃弾は、ギアッチョの頭上で布状の金属に絡め捕られていたのだ。

 音のない世界で、地面が冷やされていく…………。



────ジェントリー・ウィープス────



 凍りついた世界ではすべての生命が動きを止める。這い寄る氷は音もなく『静かな死』をもたらす。
 怒りが炎にたとえられるなら、それは青い炎。
 肌も焦がさぬ、煙も生じぬ、無感覚の低温はその実もっとも無慈悲な死の炎。

 リゾットから10mほど遠く、地面がピシリとはぜた。
 それは『ゲブ神』であったもの。
 水そのものである『ゲブ神』が、攻撃されていることに気付く間も逃れる術もなく取り込まれ、氷塊となったもの。
 細胞──とでも表現すべきか──という細胞が振動することを禁止され、『ゲブ神』は完全に制止する。


「金属でも……、細く縒り合わせれば、衝撃を吸収する帷子ができる……
 この場に、大量の鉄分が……あれば……の話だが……やるしかなかった……
 そっちが凍らされ……、お前が焦って攻撃を仕掛けるのは……目に見えていた……」

 リゾットが膝をつくのと、上空を浮遊していた『マンハッタン・トランスファー』が掻き消えるのは同時だった。

「逃げ……たか……
 ひとまずは……俺たちの……勝ちだ…………」

 リゾットの身体が、地に落ちた。




 * * *
147 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:37:09.12 ID:tzxzBzBn



「あなたに…………」

 背後に青年が立っていた。

「殺される……のだけは嫌だ…………。
 あなたに…………だけは…………」

 青年が二人と別れてから、幾ばくの時間も経ってはいない。
 ほぼ一直線に彼はこの独立宣言庁舎の一室へやってきた。
 ンドゥールが逃げるべきかを判断する暇も与えなかった。

「初めてあった人間によくそんなことがいえると思うよ。新手の命乞いか?
 それとも、どこかで君に会ったことがあったかな?」

 鼻歌でも歌いそうな雰囲気で、青年は部屋の中を検分している。
 ンドゥールはその耳に届いた声を疑わなかった。
 その声は光そのもの。人を惹きつけてやまない声だった。

「DIO様……」
「もしかして君も、彼のような別の世界の住人ってわけか?
 その世界での知り合いだとしたら申し訳ないな。俺の方はさっぱり覚えてないんだから。
 別の世界の俺がどうして君とオシリアイになったのか、説明して欲しいくらいだ」

 『時間』を操作する能力──ジョンガリ・Aの言がンドゥールの脳裏によみがえる。
 自分と出会う以前のDIO様。その可能性も?

「正直、君のような優秀なスタンド使いとも手を組めたらと俺は考えている。
 『数の利』というのは馬鹿にできないからなぁ。そうは思わないか?
 俺は君の能力を高く評価しているつもりだ。
 君のお仲間の方はライフルが弾切れを起こしたら戦えないだろう。
 そのためにスタンドを出していながら攻撃は控えめだった。違うかい?
 いつ攻撃されるかわからないってだけでプレッシャーにはなるから、仕事は果たしてると言えるのかもしれないが。
 だから先に君に会いに来た。
 彼らがどの程度やれるのか、俺は知らないしな」

 ンドゥールの動揺を知ってか知らずか、背後の男はひとりでしゃべり続けている。
 彼の口調はンドゥールが抱いている、帝王たるDIOの印象からは少し異なる、野心的で皮肉っぽいユーモアをきかせる、どちらかというと普通の青年のそれだった。
 記憶の中の主からは、心を開かずにおれぬような甘い芳香が漂っていた。
 それでいて、あの方はそばにいるだけで他人を縮みあがらせるようなプレッシャーを放つことができた。
 感覚は背後の人物をDIO様ではないと否定する。
 知識と感情がまたそれを否定した。

「あなたは…………」
148 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:37:32.73 ID:tzxzBzBn

 言いながら、舌が麻酔でも打たれたかのように感覚を失っていくのをンドゥールは感じた。
 気が付けば固く縮こまった身体全体が異様な低温になっている。
 二人の男がいる方に向かわせた『ゲブ神』が攻撃を受けているのだろう。

 『音』はなにも伝えない。
 あれほど頼りにしてきた聴覚が、いまや皮下の感覚にも劣るほど無力だった。

 ディエゴは耳を澄ませるように、背筋を伸ばしていた。
 彼はすでに目の前の男の言葉を聞いていない。
 彼には体外に無数の感覚器官がある。スタンド『スケアリー・モンスター』で配下の恐竜へと変えた生物のそれだった。
 ギアッチョらとわかれる最中、支給品のカエルを恐竜に変えギアッチョの荷物へ滑り込ませておいたのだ。
 悠長にンドゥールとの会話に興じていたのも、そのアドバンテージあらばこそ。

 敵も味方も彼にとっては一元的なものではない。
 独立宣言庁舎に踏み込んだ時から、見知らぬ人間の匂いは感じ取っていた。
 それを知っていながら、彼はそのまま放置したのだ。
 ギアッチョとその上司というリゾットを取り込んだ方が得か、彼らを裏切ってでも攻撃をしかけてきたスタンド使いを仲間にした方が得か。
 彼は秤に掛けた。
 運が良ければ、両方を得ることが出来たかもしれないが、そこまでは望んでいなかった。

 やがて、ディエゴ・ブランドーゆっくりとンドゥールへと向き直り、右手を口元に寄せる。

「勘違いしないでほしいのは、君に落ち度があったわけじゃないってことだ。
 水と一体化して敵を攻撃するスタンドなんて、そうそう勝てるヤツもいないだろう。
 何度も言うのは無駄だと思うが、俺は君を評価している」

 形だけのため息だとンドゥールは感じた。
 心底残念そうな声色ではあるが、それは捨てようと思っていたゴミが腐っていたと知ってしまったような、どうでもいい落胆。

「どちらかというと寒いのは好きじゃないんだ。
 恐竜が絶滅したのは、地球全体が寒くなったせいだっていう、知識があるせいかもしれないな」

 言いながらディエゴが踵を返す。
 パリ、パリという音が部屋の中で響いた。

「それに、良かったじゃないか。
 俺に殺されずにすんで」

 硝子が粉々になるような壮大な音を立てて、氷塊が崩れ落ちる。
 もしもそれを耳のいい人間が聞いていたのなら、あまりの騒々しさに、正気を失っていたかもしれない。
 もしもの話、だが。



 * * *
149 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:37:58.35 ID:tzxzBzBn



「……先に死ぬのは……お前のような、すぐに周りが……見えなくなるタイプだと……思っていたのにな……」

 氷が水へと変わりゆく路地でリゾットが横たわっていた。
 裂けた左足から除く血の色は、赤ではなく黄に近い。

「……………………」

 地面を凍らせろ、とリゾットはギアッチョに命じた。
 空気を凍らせることによって浮遊したスタンドからの銃撃を防ぐ方法を無視しての指示。
 ギアッチョは疑わず、それに従った。
 銃弾が脳天に直撃したとしてもスタンドは解除しない。
 その覚悟が彼にはあった。 

「ギアッチョ……、勝機が見えるまでは……耐えろ……
 難しいことかもしれないが……
 お前のスタンドは……最強だ……俺より……よっぽどな……」
「あんたが、人を誉めるなんて、縁起でもねえよ」

 手負いの自分か、無傷のギアッチョか。
 多少は判断力のある自分か、キレやすいギアッチョか。
 磁力を操作する能力、氷を操る能力か。
 目的の見えぬ殺し合いの場で優位につけるのはどちらなのか、リゾットはあらゆることを勘案して結論を出した。
 そこに感情的な考えは含まれていないと、彼自身は考えている。

「今更かと、思うかもしれない……それでも、常に考えていたことだ……
 ボスの娘を……手に入れることが勝利なのか……、麻薬ルートを手に入れることが、勝利なのか……」

 もとより光彩の少なかったリゾットの瞳がさらに暗くなった気がした。
 喋る内容も譫言のように判然としない。
 そんなはずないと、ギアッチョは思い込もうとしている自分を自覚した。

「なにが……俺たちにとって、勝利なのか……よく……考えろ……」

 ギアッチョは歯噛みする。
 とても、不条理な気分だった。なにかが間違っていると感じる。
 普段なら手近な物に八つ当たりしているに違いない怒りの感情。
 今、その手の中にあるのは、失われていく自らのチームのリーダーの命だった。
 八つ当たりなどせずとも消えてしまう、命の最後の灯火だった。

「……誇りを…………」

 それが本当に最後の言葉となった。
150 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:38:24.93 ID:tzxzBzBn

 リゾットが自分を遺していくことをギアッチョは、今まで、考えたことがなかった。
 先に死ぬのは冷静なブレインではなく喧嘩っ早い手足の方だと、チームを自覚してからは自然と考えるようになっていた。
 スタンドの能力、経験、性格、すべてが勘案されてチームは構成されていたのだ。

 自覚がなかったわけではないが、強く意識したことはなかった。
 ボスへあれほどの反発心は抱いたのはなぜか。
 ボスの娘を手に入れるために、チームのメンバーが命を懸けたのはなぜか。
 それを自分も当然のことと思っていたのはなぜか。
 自分は、自分たちはチームに愛着を感じていたのだ。
 世間から憎まれ、組織からも疎まれる暗殺という仕事に、それを遂行するチームのメンバーに俺たちは『誇り』を持っていた。
 そう、『誇り』を…………。


「すまない。俺が見つけた本体は、君たちが対処した方と同じヤツだったようだ。
 ギアッチョ……?」

 独立宣言庁舎より舞い戻り、ディエゴがギアッチョのそばに寄る。
 肩をブルブルと震わせたギアッチョの感情を、ディエゴは気付いていない訳ではない。

「クソックソックソックソックソックソックソックソックソックソッ!!!!」

 感情任せに地面を殴りつける。
 何度も、何度も、何度も、何度も。
 ディエゴはそんなギアッチョの様子をよそよそしい表情で見つめていた。

「間に合わなかったか、一応これでも必死だったんだが……
 もうひとりの方を追うなら急いだ方がいい」

 ディエゴにとって、疑り深くスタンドも弱いリゾットは消えてくれてもいい存在だった。
 せっかく味方につけたギアッチョとの『信頼関係』もリゾットのせいで切れていたかもしれない。
 氷を操る強力な能力、手放すには惜しい。

「もうひとりのヤツを追うのは後回しでいい、そのうち殺してやるが……」
「ほう、敵討ちよりも優先すべきことがあると?」
「俺たちをこのゲームに巻き込んだ人物、そいつを殺るのが俺であるなら、他の雑魚はどうでもいい」

(俺にとっては好都合って『世界』だな)

 水溜まりに浸かりながら闘志を燃やすギアッチョを前に、ディエゴはひとりほくそ笑む。



 * * *
151 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:38:49.69 ID:tzxzBzBn



「ンドゥールは、やられたか……
 あの三人目の青年、DIO様とよく似た空気をまとっていたが……」

 ジョンガリ・Aは壁にすがり息をついた。
 机とベッドのみというシンプルな部屋の中、乱れた呼吸が気持ち悪く響きわたる。

 始めから、敗戦の色が濃くなった瞬間に逃げ出そうとジョンガリ・Aは考えていた。
 主な攻撃は『ゲブ神』にまかせ、ジョンガリ・Aはあくまで補佐。
 スタンド自体に攻撃手段がないジョンガリ・Aにとり、ある種仲間以上に貴重な物がライフルとその銃弾だったのだ。
 実際にはかなりギリギリの逃亡だった。
 『氷』を操るという能力を駆使すれば、銃弾を防ぎ、『マンハッタン・トランスファー』を捕らえる牢を作ることが可能だろう。
 最初に戦っていた男の方も、金属を作り出す能力だとすれば、長期的には負けていたかもしれなかった。

 ンドゥールはジョセフ・ジョースターと空条承太郎の死に浮かれていた。
 彼は自身の目的の大部分を達成したために、この『サバイバル・ゲーム』を軽んじていた。
 敵か味方かの見境もなく、参加者を攻撃するほどに。
 自分は違うとジョンガリ・Aは自負している。
 彼にとってのジョースター家へのは復讐は終わっていなかった。
 空条徐倫──忌々しいジョースターの血統。あの女が死ぬまで、気を抜くことはできない。

「DIO様を慕う者が仕組んだ……か……」

 ジョンガリ・Aはンドゥールが語った考えに対して、半信半疑だった。
 理解しかねる出来事を疑い、戦いに消極的であったからこそジョンガリ・Aは命を繋いでいた。

「勝てる戦いのみを選び、俺の居場所を悟られてはならない」

 知らぬ場所、未知の敵、限られた攻撃手段、目的のわからぬ『サバイバル・ゲーム』。
 ジョンガリ・Aは苦悩する。
 しかしその心に宿る信念は揺るがない。

「DIO様……、あなたのために……」



【ンドゥール 死亡】
【リゾット・ネエロ 死亡】
152 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:39:09.94 ID:tzxzBzBn
【F-4 独立宣言庁舎前路地 1日目 深夜】

【ギアッチョ】
[スタンド]:『ホワイト・アルバム』
[時間軸]:ヴェネツィアに向かっている途中
[状態]:健康 怒り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1〜2(未確認)、ディエゴの恐竜(元カエル)
[思考・状況]
基本的思考:打倒主催者。
1.暗殺チームの『誇り』のため、主催者を殺す。
2.邪魔をするやつは殺す。

【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスター』
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品2〜4(内1〜2は確認済み)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰る
1.仲間を増やす
2.あの見えない敵には会いたくないな
3.ギアッチョ……せいぜい利用させてもらう……
4.別の世界の「DIO」……?

[備考]
ギアッチョとディエゴ・ブランドーは『護衛チーム』、『暗殺チーム』、『ボス』、ジョニィ・ジョースター、ジャイロ・ツェペリ、ホット・パンツについて、知っている情報を共有しました。
フィラデルフィア市街地は所々破壊されています。
ギアッチョの支給品はカエルのみでした。


【F-4 公園周辺の家屋2階 1日目 深夜】

【ジョンガリ・A】
[スタンド]:『マンハッタン・トランスファー』
[時間軸]:SO2巻 1発目の狙撃直後
[状態]:健康
[装備]:ジョンガリ・Aのライフル
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様のためになる行動をとる。
1.ジョースターの一族を根絶やしに。
2.DIO様に似たあの青年は一体?
3.この殺し合いはDIO様を慕う者が仕組んだ?
4.ンドゥールは殺された……。



[備考]
ンドゥールの参戦時期はJC20巻 自害する直前でした。
リゾット・ネエロの参戦時期はJC59巻 ドッピオの頭を切り落とす直前でした。
153 ◆4eLeLFC2bQ :2012/01/07(土) 00:39:40.39 ID:tzxzBzBn
以上で投下完了です。遅くなりました。
タイトルはwiki収録時までに決めておきます。
誤字脱字、矛盾等ございましたら、ご指摘をお願いします。
154創る名無しに見る名無し:2012/01/07(土) 01:42:14.78 ID:3njcARd3
投下乙
リゾットまで登場話死亡とは……とことん2nd最終回組に厳しい3rd書き手陣wwwwww
ジェントリーウィープスの使い方とか、DIOとディエゴ使い方とか、ンドゥールの最期とか、見せ方が上手くて憎いですねw
そして魔の2話目を生き残ったギアッチョさんに拍手!
リーダーの死を乗り越え、今度こそ長生きできますように……
155創る名無しに見る名無し:2012/01/07(土) 01:54:00.91 ID:5AH0XWo1
投下乙
リゾットは登場話死亡だったけどギアッチョ2話目で死ななかった…
けど冷静さを欠くのは死亡フラグすぎる ディエゴは助けてくれなそうだし
最初から自前の銃を支給されたジョンガリ・Aはかなりラッキーだな
DIOとディエゴの誤認はどこまで広がるんだろうか(ヴァニラは見分けてたけど)
156 ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/07(土) 09:13:20.85 ID:3Nz/eZFh
投下乙です
魅せてくれます…!!
生き残り組の今後の動きもとても気になります
ギアッチョはフラグをへし折って主催打倒の火種になれるのか…?

そしてこちらも投下します
ヌケサク、ウィルソン・フィリップス、ティッツァーノです
157夜、不穏、病院にて ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/07(土) 09:14:38.55 ID:3Nz/eZFh
白い壁、白い天井、清潔そうな白いベッド。
ぴしりと整えられたその部屋には、しかし誰もいない。
その部屋だけがそうであるなら『そういうこともある』と大した違和感もなかっただろうが、見てきた部屋、部屋、部屋……大部屋、個室、医局、ウロウロと歩きまわっても人どころかネズミ一匹見当たらない。
病院というものにあまり縁のない人生を送っていたティッツァーノだが、これは違和感どころの話ではなかった。
『異常』だ。
人間が、生きているものが見当たらないなんて。

――ああ、異常というなら何もかも、か。

常ならばきっと人で溢れているであろう待合ホールで、ティッツァーノは安っぽいソファに身を預けてひとりごちた。

「バトル・ロワイアル――殺し合い、か」

首に付けられた金属製の首輪に触れる。
あれは見せしめだ。わかりやすく、とびっきり悪趣味な。
ボスからの指令を受けて、あの首を吹っ飛ばされた金髪の少年――ジョルノ・ジョバァーナと裏切り者の護衛チームを追っていた。
多少の誤算はあれどジョルノ・ジョバァーナを追い詰め、あと一息で始末できるといったところで、ナランチャ・ギルガのスタンドに蜂の巣にされて……そこまでは記憶している。

「――なぜ、わたしは生きている?」

自分は、スクアーロの楯になったはずだ。
撃ち込まれた機銃の熱さ、喉奥にこみ上げた嫌な吐き気も思い出せる。
あの状態で『死ななかった』『助けられた』とでも?
否、死んでいただろう。辛うじて生きてはいたが、どう贔屓目に見たって手遅れにもほどがあった。
それこそ魔法のように――治すというより元に戻すようにでも出来なければ、自分がこうして生きていることなどなかったはず。
それ以外にも、考えるべきことは多岐にわたる。
あの老人が『ボス』なのだろうか?
『ボス』は何故姿を見せた? 自分を治したのは何故? 殺し合いをさせるため?
殺し合いとは? 文字通りの意味なのか?
考えれば考えるほど、わけがわからなくなってくる。少し時間が経って落ち着いたと思っていたが、湧き出てくる疑問は尽きない。

――情報が少なすぎる。
158夜、不穏、病院にて ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/07(土) 09:15:53.06 ID:3Nz/eZFh
情報は生命線だ。単純な武力の保有や強弱よりも、情報の有無の重要性は計り知れない。
非力な己であるからこそ、尚更。 
この現状がボスないし何者かの『スタンド能力』の行使によるものであると、ティッツァーノは推量している。
そうでなければ説明がつかない。痛みと失血に意識がブレた次の瞬間、ティッツァーノは全くの五体満足であのホールに居た。
あの場所では少なくとも二桁を超える人数がひしめき合っていたように記憶している。
背筋がゾッと総毛立つような異様な気配も、戸惑いを隠せない単なる一般人のような気配も、多種多様に混じりあってさまざまな人間がいたように感じられた。
呆気にとられていたとはいえ、仮にもギャングとして裏社会を生き抜いてきたのだ。その辺りを読み違えているようではお話にもならない。

「――スクアーロ」

相棒の名を呟く。彼はどうしただろう。
最後に見上げた彼は、決意に満ちた目をしていた。
彼は強い。
精神的な脆さが彼の弱点でもあったが、弱さを乗り越えられたなら、彼は。

「彼を、探しに行こうか」

探して、合流して、これからのことはそれから考えようか。
死にかけだった自分が連れてこられたくらいなのだから、彼もどこかにいるかもしれない。
……否、こんなところにはいないほうがいいのか。
いてくれたらいいと思うのは、ティッツァーノ自身が少なからず困惑しており、すがるものを求めていることから端を発する歪んだ希望に過ぎない。
この悪趣味な『ゲーム』……ボスの思惑がどうあれ、自分には仮にも彼を手に掛ける己の姿など想像もつかない。『ゲーム』の盛況をボスが望むのなら、それは彼と力を合わせて行うべきだ。
いや……そもそものところ、あの老人が『ボス』と決まったわけでもなかったか。
支給品のデイパックから、片手に納まる程度の拳銃を取り出す。銃が紙から転がり出てきたときは驚いたが、それもなんらかのスタンド能力と考えれば納得がいく。
ざっと検分はしてある、新品同様で使用にもまったく問題がなさそうだ。問題と言えば、別の紙から出てきた予備弾薬が一ケース分50発しかないことくらいだろう。
弾が尽きる前に彼と合流するか、何か別の護身用武器を手に入れなければなるまい。
病院を探索している際に失敬した簡易医療品を詰めたデイパックを肩に引っかけ、安ソファから立ち上がる。
ガラスの割れる耳障りな甲高い音が響いたのはそのときだった。

「ひっヒィイィ〜〜〜ィ〜〜〜ッ! たっ……助けてくれェ――ッ!」

落ち着いて、銃を構えて振り向く。
自分は義憤に燃える正義の味方でもなければ、慈善味溢れる聖人でもなんでもない。情報をくれる相手が飛び込んできてくれたのだから、それ相応の持て成しを図るだけだ。
そこには、何があったのかボロボロになったスーツを着た小太りの中年親父が、ティッツァーノに向かって助けを求めてこけつまろびつヨタヨタと走り寄ってきていた。

「止まれ、それ以上近づくな」
「ヒッ」

ビクリと男がたたらを踏む。
しかし、尚もチラチラと己の背後を気にしているようなそぶりを見せている。
そしてティッツァーノが問いかけるよりも早く、男はギャアギャアと喚きだした。
159夜、不穏、病院にて ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/07(土) 09:16:27.71 ID:3Nz/eZFh
「わ、わしを誰だと思っとるんだ!? ウィルソン・フィリップス上院議員だぞォ――ッ!!
 善良な市民にはわしを助ける義務があるッ!!」
「生憎、善良でも市民でもないもので」

無駄弾は正直撃ちたくないが、この興奮状態の親父相手にどれだけの会話ができるか怪しかったので、牽制をかけるために一発撃ち込んでやる。
乾いた音を立てた足元に、上院議員だなんだと喚き立てていた男が今度こそ硬直した。

「質問します。あなたに拒否権はありません」
「ぐ……う、うう……」
「何に追われているのですか?」
「ば、化け物だッ、女の顔に男の顔のある化け物ッ! こんなわけのわからん催し物に巻き込まれてさぞ難儀しているだろうと助けてやったのにッ! ワシに齧りつきよったッ!」
「そいつは武器を持っていますか?」
「い、いや……物凄い怪力で噛みちぎられて、治療と助けを求めてここまで走ってきたッ」
「ふん……そうですか」

ごく短い会話でしかないが、得られた情報は幾つもあった。
この中年親父を襲ったのは、おそらくスタンド能力者だろう。少々能力が分かりにくいが、怪力を発揮するとかいう能力なら近寄らずに叩けばいいだけだ。
そして、やはりこれは『ボス』がなんらかの意図の上で始めたことに違いない。
ウィルソン・フィリップスなどという名前に聞き覚えはないが、破られ血に汚れたスーツは古臭い仕立てながら上質なものに見える。上院議員だという身分も、この興奮状態で軽々に吐けるウソではない。
権力者、スタンド能力者、そして『殺戮ゲーム』。
見世物か何かのつもりなのだろう。表舞台での邪魔者を、ひっそりと攫い血に塗れた遊戯で狩る。趣味の悪い権力者が好きそうなことだ。
報酬の話もそれなら頷ける。この舞台の規模から考えても、相当な額が動くだろう。
ティッツァーノが少しばかり思考に沈んでいると、いよいよ追い詰められてきたのか目を血走らせて自称上院議員がじりじりとにじり寄ってくる。

「お、おい若造ッ、結局どうなんだッ? あの化け物を殺せるのかッ?
 殺せるんだろうッ! ああそうなんだろう!?
 金なら腐るほどあるッいくらでも払ってやる!
 それとも地位か? 名誉か? 何が望みだッ?」

パンッと乾いた音がして数瞬後、上院議員は屠殺される豚のような悲鳴を上げて崩れ落ちた。

「おしゃべりなひとですね、あなた」
「……うぐ、ヒィ〜、ひィ〜、ひ、ヒヒヒヒ……けひっ、クヒヒヒヒッ!」

上院議員のごく一般的な一般人の精神は、度重なるストレスに耐えかねているようだ。
片足を撃ち抜かれ、床の上に崩れ落ちた姿は哀れな豚以外の何物でもない。
だが、ティッツァーノは別段その姿に憐れみなど感じない。豚が、豚らしくなっただけ。
痙攣したような笑い声はあまり長く聞いていたいものでもないが。

「さて……どう出る?」

己がこのゲームにおける『獲物』の側であるとは考えたくないが、ティッツァーノには客観的に見て『命令を遂行できなかった』『しくじった』前歴がある。
ゆえに、ボスが制裁を加えることを考えているのかもしれない。命を救ってまで殺そうというのはどうにも整合性がないが、これが見世物であれば話は変わってくる。
獲物は、生きが良いに越したことはないと決まっているものだ。
しかしティッツァーノは、ただ狩られるだけの哀れな獲物になり下がるつもりなど微塵も無い。

「逃げるか、待つか……」



***
160夜、不穏、病院にて ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/07(土) 09:19:00.64 ID:3Nz/eZFh



ヌケサクは酷く上機嫌だった。
なにせあの憎たらしい『空条承太郎』が、首をブッ飛ばされて! 死んでしまったのだ。
舞台上で騒いでいたジジイに見覚えはなかったが、DIO様の手下連中の中には己と顔を会わせたことがないやつらもいくらだっているだろう。
雰囲気や着ている服が違ったような気もするが、そんなことはこのザマミロ&スカッとサワヤカな気分の前には些細なこと。
ヌケサクは、ひとつ鼻歌でも歌いだしそうなイイ気分だった。

「DIOさまァ〜あなた様の大事な部下であるオレを助けてくださったのですねェ〜ッ!」

更には堂々たる『殺戮ゲーム』の開催宣言!

「お役に立ってみせますともォ〜〜〜ッ!」

ヌケサクは笑いが止まらない。
つい先ほども、見るからにマヌケそうな中年親父が『引っかかった』。
最初の獲物だからとじっくりいたぶってから殺してやろうと思っていたのに、意外にも素早く抵抗され取り逃がしてしまったのは片手落ちだった。だが、逃げた先にあるのは病院くらいだ。
か弱いただの人間どもがいくら群れたところで、オレ様の前にはクズ……ゴミ……カス……ッ!
ヌケサクは己の絶対の優位を疑うことなく、さながら『帝王』のようにふんぞり返って歩いていた。
目指す病院の影が近づいている。




***




「ひひっ……わしはァ……ウィルソン・フィリップス……じょういんぎいんだぞォ……じょおいんぎいん……きひひッ……」
「なんだあ? 誰もいねえのか?」

ヌケサクが踏み込んだ病院の中は、蹲ってなにやらブツブツと呟いているさっきの中年親父がいるだけだった。
やたらに血の臭いがするとヌケサクが鼻をひくつかせて親父をみると、どうやら足を撃たれているようだ。DIO様の意図のわからない一般人が、わけもわからず怯えてやったに違いない。
この親父を取り逃がしてから、ものの10分と経っていない。その間、銃声は二発聞こえた。
ヌケサクの獲物はもう一匹いる。

「オレ様は不死身の吸血鬼だァ〜〜そんな豆鉄砲で撃たれたってヘッチャラだぜェ〜〜?」

わざわざ大声で言ったのは、おそらく隠れて怯えているだろう獲物に対してだ。
ヌケサクだって撃たれれば痛い。痛いが、それだけだ。
頭を潰されたり体をバラバラにされたり、その他身動きのとれない状態にでもされない限り、ヌケサクの優位は揺るがない。
しかし、獲物はすっかり怯えて縮こまっているのか、物音ひとつ聞こえてこない。
161夜、不穏、病院にて ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/07(土) 09:20:10.68 ID:3Nz/eZFh
「かくれんぼかァ〜〜? どこまで逃げられるかなァ〜〜〜〜?」

ヌケサクの誤算は、病院という人の集まりやすい場所にも関わらず、この建物内には人の気配がほとんどしない。無力な人間を思うさま狩れると思っていたヌケサクは、ホンのちょっぴり落胆していた。
そして勝算もひとつ。他に気配がしないのだから、『それ』は獲物に他ならない。

「オレ様にはわかるゥ〜〜そこの物陰ッ!」

出入り口からの対角線上、奥へ向かう通路の壁の端から、白い布がちょっこりとみえている。
隠れて様子を窺っていたのだとしても、えらくお粗末極まりない。
案の定、その白い布は慌てたように引っ込んだ。ぱたぱたと走り出す足音が響く。
速度は……遅い。女か子供だろうか。若い女ならしめたものだ。景気づけの食事にするもよし、腕のひとつもへし折っておとなしくさせて、DIO様への手土産にしてもいいだろう。
ヌケサクはもう中年親父には見向きもしなかった。こんな脂ぎった親父より、新しい獲物のほうが何倍も『美味そう』だ。
人を超越した己の能力があれば、追いつくのは赤子の手をひねるよりも容易い。ヌケサクは逃げた人影を追って通路を走る。広い病院の中、あまり目を離して小部屋にでも隠れられると面倒だ。
人影は、まさかこんなにも早く追いつかれるとは思ってもいなかったのだろう。慌てたように振り返った際、長い髪が乱れていた。

(ラッキィ――――ッ! オレ様はツイてるッ!)

背格好もそれらしく、妙齢の若い女に違いないとヌケサクはほくそ笑む。これは天が己に味方しているとしか考えられない。

(ちょっとくらい『味見』してもイイんじゃあないかァ〜〜ッ?)

白い影の逃げ込んだ先は、突き当りの部屋のようだ。部屋の中で怯えて震える様が目に浮かぶ。
さっきの親父のように逃がしては堪らないと、ヌケサクは勇んで扉を押しあけた。
……ヌケサクが知覚できたのは、そこまでだった。



***



ティッツァーノは、目の前の動かなくなった白い塊を見て嘆息した。
こんなにも簡単に捕まえられるとは思ってもみなかった。もちろん、多少の予備知識と仕込みはしていたが、それにしたって。

「こいつ、まぬけというほかありませんね……」

白い人影――シーツを纏っていたティッツァーノは、すでに身軽な元の格好に戻っている。デイパックはしっかりと担ぎ、片手には護身用の銃をしっかりと携帯し、万が一の逃走路の扉も開け放して準備は万端だ。
作戦はこうだった。
扉を開けて入り込んできた隙を狙って、シーツで誤魔化しながら抱えていた消火器でまず一撃。
よろけたところに被っていたシーツを目くらましと動き封じにかぶせ、頭部を狙って二撃、三撃。不死身だなんだと豪語していたわりに、あっけなく沈黙したものだ。

「まあ多少の油断はしてもらいましたが――」

ふと、塊がかすかに身動ぎする。念のため被せたシーツの端々を結んではいるが、そんな些細な拘束でいつまでも持つわけもない。

「ぅお……あぁ? 見えねえ! 見えねえよぉ!」

じたばたともがく姿は妙にコミカルだ。しかしティッツァーノは冷静に告げた。

「質問します、拒否権はありません。余計なことは言わないほうが身のためですよ」
「あ!? なんだァァテメェェェ男かよッ! ブッ殺してやるッ!」
162夜、不穏、病院にて ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/07(土) 09:21:11.89 ID:3Nz/eZFh
パン、と軽い音が響く。

「あギャッ……い、いデェ〜〜ッ」
「いきがるのも程々にしないと命をなくしますよ」

撃ち終わって、ティッツァーノは気づく。こいつからは血が流れない。
撃った位置にもよるだろうが、ティッツァーノは生かしも殺しもしない四肢を狙って撃った。そしてそれはこの小男の体にキッチリあたっている。しかし、血は出ない。でていたとしても、シーツにも滲まないほどのごく少量だということ。
まさか、あの世迷言が真実だとでもいうのだろうか?

「あなたの知っていることを洗いざらい喋ってください。ウソをついていると感じたら一発ずつブチこみますからそのつもりで」
「ぐ、ぐぐ……」

尋問は難航した。
というのも、この小男の話していることはティッツァーノにとってすべからく『夢か妄想か』としか思えないようなことばかりだったからだ。
100年の眠りから覚めた不死の王、吸血鬼たる主『DIO』。
小男がいかにしてかの吸血鬼の僕となったか。
主の偉大さ、強さ、恐ろしさ。
そしてこのゲームが主の『娯楽』の一環であるとの主張。
この場において有用そうな情報といえば、小男に主と呼ばれる『DIO』の話だろう。
限りなく譲歩して、この話がすべて真実だと仮定して……もしそんな化け物がいるのなら、一刻も早く対策を練らねばなるまい。
人を食うものと人間と、相容れることなど万が一にもありえまい。
このバトル・ロワイアル、ひと癖もふた癖もある連中ばかりが揃っているようだ。
ティッツァーノはもたらされた情報を整理するべく思考を巡らせる。

(この『ゲーム』、腑に落ちないことが多すぎる)
(このヌケサクにしろ、DIOとやらにしろ、『化け物』だという……はっきり言って信じられない)
(だが、これが事実だとしたら? ……想像の埒外にも程がある、いったい何が起きている?)
(全ての鍵を握るのは主催者……あの老人なのか)

そして、沈黙。
この沈黙は、後に思い返せばあまりにも悪手だった。

「……なぁ、オメー『マヌケ』かぁ?」

迂闊だった。あっさりとベラベラ喋っていることこそ、疑わねばならなかった。
小男は、話す声に紛れさせてこっそりとシーツを引きちぎり、ティッツァーノの油断を窺っていたのだ。

「ポンコロポンコロ撃ちやがってッ! 死ななくったってイテェんだよォ〜〜ッ!」

目を爛々とさせて躍りかかってくる小男に、ティッツァーノは咄嗟に防御態勢を取る。
が、小男は構わず『噛みついて』きた。

「――ッ!」

そのまま勢いよくブヂリ、と嫌な音を立てて腕の肉が『噛みちぎられた』。

「……チェッ、やっぱり男は美味くねェなァ〜〜」

くちゃくちゃと噛まれているのは、己の皮膚と、血と、肉。

――全身がぶわりと総毛立った。

ティッツァーノはしゃにむに小男を振り払って後退る。
・・
これを殺さなければ。
163夜、不穏、病院にて ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/07(土) 09:22:30.80 ID:3Nz/eZFh
「あイデデ……なんだぁ、さっきまでのヨユーブッこいた態度はどうしたァ?
 ようやくこのオレ様の恐ろしさを思い知ったか? ヒヒッ!」

醜悪に笑う目の前の化け物に、ティッツァーノは叶う限りの速度で銃弾を撃ち込む。

足。

「あだッ」

腹部。

「イデッ」

心臓。

「だっ……このッ」

顔面。

「ブがッ」

――よろけてはいるが、ただそれだけだ。

「だからよォ〜〜イテェっつってんだろッ!
 ……弾切れってとこか? 残念でしたァ!」

顔に、体に、穴をあけたまま化け物が笑う。
食いちぎられた腕から、ボタボタと血が滴り落ちる。
化け物は余裕ぶった態度のまま、ゆっくりとティッツァーノに向かって進み来る。

(……逃げるか? ――いいや、ありえない)

化け物だろうとなんだろうと、ギャングを舐めた報いを受けさせる。
一瞬でも恐怖させられ、傷つけられた己のプライドにかけて。

「――調子に、乗るなッ!」

こんなところで使うとは思わなかった、緊急用にポケットに忍ばせておいた消毒用アルコールの瓶。
目くらましや逃走用にと失敬してきていたものだが、この用途は『最悪に近い緊急時』の想定だった。
思い切り投げつければ、ガラスの小瓶は呆気なく割れる。

「あぁ? なんだこりゃ……」

パン、と幾度目かの銃声が響く。
そしてそれに呼応するように、小男の体がゴワリと燃え上がった。

「うげェェェェェェェェェェッ!?」

慌てふためきゴロゴロと転げまわる小男に、ティッツァーノが無表情に息を吐く。

「……化け物でも熱いですか? それは良かった」

更に目を眇め、その首にある輪に銃口を定め――

「首を吹っ飛ばせば、もう動くこともありませんよね――?」

――引き金が引かれた。
164夜、不穏、病院にて ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/07(土) 09:23:14.02 ID:3Nz/eZFh
【ヌケサク 死亡】





【G-8 フロリダ州立病院内・1日目 深夜〜黎明】

【ティッツァーノ】
[スタンド]:『トーキングヘッド』
[時間軸]:スクアーロを庇ってエアロスミスに撃たれた直後
[状態]:左腕に噛み傷(小)応急手当済み、行動に支障はありません
[装備]:ベレッタM92
[道具]:基本支給品一式、弾薬×1箱(残弾:約5分の4)、病院内の救急用医療品少々(包帯、ガーゼ、消毒用アルコール残り1瓶)
[思考・状況]
基本行動方針:スクアーロと合流したい
1.『化け物』を『ブッ殺したッ!』
2.この『ゲーム』、一体なんなんだ?
3.『DIO』は化け物、できれば出会いたくない
4.主催者はボス……? 違うかもしれない
[備考]
バトルロワイアルが単純な殺戮ゲームではないと思い始めました
信頼がおけるのはスクアーロくらいしかいないと薄々感じています
ヌケサク、上院議員から得た情報は本文中のもののみです


【ウィルソン・フィリップス上院議員】
[スタンド]:なし
[時間軸]:DIOに車内に乗り込まれる前
[状態]:手・肩等に無数の噛み傷、片足に銃創、精神不安定
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、未確認ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
1.ああ〜痛いッ痛いィィ〜ケヒヒッ
2.ワシはウィルソン・フィリップス上院議員だぞォーッ!
3.こんなバカげた催し物の主催者はどこだッ!?
[備考]
上院議員の怪我は、銃創を放置していたら半日くらいで失血死すると思います
噛み傷は深かったり浅かったりしますが、やたら痛いだけで致命傷には至っていません
今後会話が成立するかどうかは次の書き手様にお任せします



※ヌケサクの支給品は一緒に燃えました
※アルコールは少量だったので、病院への延焼はしていません
※消火器(病院備品)は首無し焼死体のある部屋に放置されています
165 ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/07(土) 09:27:12.31 ID:3Nz/eZFh
以上で投下終了です
仮投下時に指摘して頂いた部分については修正を入れている…はずです
その他ご意見ご指摘等お待ちしています
166創る名無しに見る名無し:2012/01/07(土) 18:45:42.83 ID:3njcARd3
投下乙!
せっかく参加したのにズガン枠みたいなヌケサクwww
でもこれも彼の魅力の一つだよね。
上院議員は何とか生き残ったけど、しょっぱなからあまりいいエンカウントとは言い難い。
これからどうなるのやら。
ティッツァは果たして彼氏に会えるのか? 期待したいですね。
167創る名無しに見る名無し:2012/01/07(土) 19:23:38.48 ID:3njcARd3
告知

本日1月7日(土)20時より、
新年記念チャットを開催したいと思います。
書き手・読み手とも参加自由 ROM可です。トリップも対応。

せっかくなんで、チャット会場立ちあげました。
以下のURLにごアクセスください。

http://jojobr3rd.chatx2.whocares.jp/
168 ◆Osx3JMqswI :2012/01/09(月) 13:10:03.21 ID:Laug0oCw
ホル・ホース リキエル 投下します
169 ◆Osx3JMqswI :2012/01/09(月) 13:10:58.31 ID:Laug0oCw


煙は、彼の歩く速度に置いて行かれ、ユラユラと河の流れに沿って後ろへ流れていく。

俺が生き延びる為にはNo.1になる器の人間が必要だ。
少なくとも、かつて忠誠を誓ったDIOや、俺が二度暗殺に失敗したジョースター一行と同等の力を持ったNo.1が。

「クソッ。」

煙は、彼の苛立ちを体現するかの様に、ユラリと大きく一揺れした。

出逢えたとしても、そいつが俺を本心からNo.2に選ぶとは限らない。
本質がDIOと同じなら、俺はまた利用されるだけ利用され、最後には始末されるんだろう。
きっとこんな状況じゃ無かろうと、No.1を間違えれば結果は同じなはずだ。
No.1たる器、実力、カリスマ、それらを兼ね備えた人間に俺は出逢えるのか?
あの化け物どもの中から、俺を“正しく”利用するNo.1を探し出すなんて俺にできるのか?
今まで俺は、飄々と自由気ままに生きてきた。
だから、No.1なんて誰でも良かった。
危なくなれば逃げれば良かったんだからな。
だが、今回は違う。
間違えれば、待っているのは『死』だ。

煙は、いつの間にか彼の目の前から姿を消していた。

「それにしても何だこの煙草は。
味も何もあったもんじゃねぇな。」

煙草の火は半ばで力尽きたように消えていた。

「シケた煙草だな。
あの爺さんも、もうちょっとマトモな煙草を用意してくれりゃあいいのによ。」

火を点けようと、左手の親指をライターへと運ぶ。
だが、ライターへと左手の親指が到達する事は無かった。
170 ◆Osx3JMqswI :2012/01/09(月) 13:11:57.80 ID:Laug0oCw

「動……か…………ねぇ……?」

なんで親指が動かねぇんだ?
まさか、スタンド攻撃か?
だとしても、相手は一体どこだ?

瞬間、微弱な風を感じるとともに、彼の両膝は地面へと落ちた。

「……なん……っだ……?」

「次だッ!次行くぜェロッズ達ッ!」

「後ろかッ!」

彼は上半身の力のみを使い、所謂膝立ちの状態で敵の方向へと体を向けた。
彼からは少し離れて、牛柄の服を着た青年が、どことなくDIOと同じ匂いを漂わす青年が立っている。

「出せよ……あんたのスタンドをよォ……」

使えるのは……右手だけだな。
全弾ブチ込んで一気に殺るしかねぇか。

「……てめェ、ブッ殺される覚悟はできてんだろうな……
皇帝ッ!」

銃弾は全て発射された。
ある一発は、一直線に青年の顔面へと進む。
またある一発は、左から、右から、上から、下から、と縦横無尽に青年の元へと向かう。
青年の顔面が穴だらけになり、その場に倒れ込む……



……事は無かった。



銃弾は青年の顔を逸れて、一発、また一発と地面に突き刺さっていく。

「甘いんだよッ!
考えが甘い甘い。
近距離型でも、ロッズでカバーできるように配置しておいた。
……つっまんねぇ敵だなぁ……あんたはよぉ……
ここで殺してやってもいいが……」

クソッ!
俺一人じゃ結局何にもできやしねぇ……
男一人殺すことも……
No.2が哲学だった訳じゃねぇ。
No.2じゃなきゃ何にもできねぇだけじゃねぇか。
……悔しいな
ジョースター一行に負けても何にも悔しくなんて無かったのによぉ……
自分一人でもできるって所をよぉ……見せてやるぜぇ……
171 ◆Osx3JMqswI :2012/01/09(月) 13:13:00.11 ID:Laug0oCw

「次だッ!
全弾ブッ放せ皇帝ッ!」

皇帝は、一瞬のうちに全ての銃弾を吐き出した。
三部隊と一発に分けた銃弾は青年の元へと向かっていく。
直線を進む部隊、左手に回る部隊、右手に回る部隊。
そして、右手の部隊から一発の銃弾が加速度的に突出し、背後へと回り込む。

配置は完成したぜ。
今すぐ蜂の巣にしてやっから待っててくれよ牛ちゃん。
牛はカウボーイに踊らされる運命なんだよ。

パチンッ

「……チェックメイトだ。」

動くようになってきた左手を高らかに上げ、指を鳴らす。
瞬間、青年に向かって銃弾が一斉に飛び出す。
直線の部隊が地面に刺さり、左右の部隊が第二派として青年の全身へ向かう。
それと同時に、後ろの一発を煙草の煙のようにゆっくりと青年に近づけていく。
左右のタイミングを見計らい、一気に後ろの一発を、頭部目掛け撃ち出す。
左右の部隊が地面に突き刺さるとともに、後ろの銃弾が後頭部に突き刺さる……



……事はまたしても無かった。



「なっ……!」

「だから甘いっつってんだよ!
一回目の攻撃が見られてんだから、対策しねェわけがねェだろォが!
つまんねぇ!
おい、あんた、もう一回俺を殺しに来いよ。
そしたら、リベンジのチャンスをやる。
それまでは……お休みだ……」

あの白い奴……あれがスタンド像か……

また、今度は、体中に風を感じて、彼は意識を失った。

「デイパックはもらっていくぜ。
んじゃ、また会えたらな。」

そう言って、青年は去っていった

172 ◆Osx3JMqswI :2012/01/09(月) 13:14:33.62 ID:Laug0oCw







夢を見ていた。

あの青年の夢だ。

何度もあいつに殺される夢。

 何度も……

   何度も……

     何度も……

だんだん、自分の死が客観的に見えてくる。

スゥーッと目線が上からになってくる。

見下すような、幽霊のような目線だ。

きっと、DIOはこういう所から物事を見ているんだろう、とか取り留めもない考えを頭に巡らせていた。

それでも、俺は殺される。

 殺される……

   殺される……

     殺される……

そうして繰り返し殺されるうちに、あの青年にDIOが重なる。

青年はDIOと混ざったような声で、こう言うんだ。

「お前に俺は殺せない。」

暗転。

夢の中でも、俺は意識を失った。



消灯ですよー。

どこかでそう聞こえた気がした。


173 ◆Osx3JMqswI :2012/01/09(月) 13:16:34.96 ID:Laug0oCw


開始早々、デイパック二個目はラッキーだねェ。
あいつ、バカ正直にリベンジしに来たら大爆笑だな。
徐倫達がいたら殺しておこうか。

そんな事を考えながら青年は進む。

「あっ、そうだ。
おい、あんた……消灯ですよー……なんつって。」



【D-2 河べり / 1日目・深夜】



【ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後
[状態]:気絶 全身の麻痺 敗北感
[装備]:マライアの煙草、ライター
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
1.利用できるNo.1を探す
2.牛柄の青年と決着を付ける



【リキエル】
[スタンド]:『スカイ・ハイ』
[時間軸]:徐倫達との直接戦闘直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品2~3(最低でもホル・ホースの分は確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:楽しむ
1.とりあえずゲームの流れに乗る
2.あいつとの再戦楽しみだな
3.徐倫達がいたら倒すか



【備考】
ホル・ホースは『スカイ・ハイ』の攻撃により、気絶しています。
どのくらいで目覚めるかは次の書き手さんにお任せしますが、すぐという事はありません。
ホル・ホースはうつ伏せで倒れています。
一般人や、ぱっと見では死体に見えるかもしれません。
174 ◆Osx3JMqswI :2012/01/09(月) 13:18:22.93 ID:Laug0oCw
投下終了です
タイトルは『揺れた煙は地に落ちる』です
175 ◆Osx3JMqswI :2012/01/09(月) 13:19:29.16 ID:Laug0oCw
ご指摘などありましたらよろしくお願いします
176創る名無しに見る名無し:2012/01/09(月) 15:15:37.39 ID:nUWfQE56
投下乙ー
リキエルが意外に強いw いや、不意を突かれたらホルホースもこんなものか。
リッキーはいいNo.1ではなかったか…
いい人に巡り会えるといいですね。

指摘は特にありません。
177創る名無しに見る名無し:2012/01/09(月) 16:01:04.79 ID:LZ3yNDOV
投下乙です
リキエルはパニックになってる印象が強かったので、意外さが面白かったですw

同じく、指摘は特にありません
178 ◆SBR/4PqNrM :2012/01/10(火) 00:14:58.96 ID:I5tNurmO
 三人の息子って、スタンドの基本スペックそのものは全員すげー高いのよね。
 過去の色んな不幸から、精神面が残念なばかりで……。

 しかしホルホルさん、今回No1探しに苦労しそうだ。
179 ◆yxYaCUyrzc :2012/01/13(金) 18:25:45.41 ID:z4Hiwt6b
本投下開始します。
180憤怒 その1 ◆yxYaCUyrzc :2012/01/13(金) 18:27:12.57 ID:z4Hiwt6b
『百人一首』というゲームをやった事はあるかい?

あのゲーム、極めると最初の一文字……その子音だけでどの札かを判断して手を出せるそうだ。
ではここで質問。『百人一首の達人に、シンクウ・ハドーケンはヒットするか』?

……はい、時間切れ。では答え合わせ。って言っても俺なりの解釈なんだけどね。
俺は『絶対に当たる訳がない』と思う。なぜか?それを今から説明しよう。一言で解決するよ、良く聞いてて。

だって彼等は言うんだもん、『シンクウ・ハドーケン!』って、わざわざ。
クギパンチもそう、ティロ・フィナーレもそう。言わなきゃ余裕で当たるのに、相手に『自分はこれからこの技を出すよ』って言うんだもん。
そりゃあ当たらないさ。でも彼等は言わずにはいられない。なんでかね?言わないと技が発動しないのかな?だとすればそれは明らかに『弱点』だよね。
じゃあ、これを前置きとして今回の話を始めようか。言わなくても分かるだろうけど、能力のスイッチ、その話だ。

●●●
181憤怒 その2 ◆yxYaCUyrzc :2012/01/13(金) 18:28:29.28 ID:z4Hiwt6b
「名は――リンゴォ・ロードアゲイン」

やっと絞り出した、質問への回答。
「そうッスか。俺は東方仗助。仗助で良いッスよ」
それに対して即座に返される自己紹介。リンゴォの正面に位置するその顔は純粋でいながら力強さを感じられる。
自分もかつてはこういう表情が出来たのだろうか、そんなことが脳裏をよぎった瞬間。口からは疑問の言葉が発せられていた。

「何故……何故治療などをした」

仗助はポカンとしている。彼にとっては、というよりも世間一般に、死にそうな人がいたら助けるのが自然。
半開きの口からは、ハァ?と漏れた気がした。それがリンゴォの精神に再び火をつける。

「侮辱するな……俺はなぜ!死ななかったのか!?
 なぜ!俺を生かしておいたのかッ!!」

エシディシに『生かされて』、さらになお仗助に『治療をされた』となれば、何が男か。
誇りを失ったリンゴォは男の世界に足を踏み入れる資格はないのかも知れない。だが、その『世界』は確実に存在するのだ。

「戦いに敗れ死ぬ男を生かした屈辱、やり直せと言わんばかりに治療された屈辱……この辱めを背負って生きろというのかッ!
 同じ男だが、お前のような奴には一生かかっても『男の世界』は理解できないだろうッ」

半ば怒りにまみれたような左手を腕時計に向ける。何故さっきまで回せなかったのかと聞きたくなるほどあっさりとツマミは回転した。
しかし――スタンドは発動しない。それは彼にとって精神の崩壊を意味していたと言っても良いだろう。
何度も、何度もツマミを捻る。だが全てが徒労。カリカリと、歯車だけが静かに音を立てるだけ。
それならば、それならば――

「スタンドを失い、受けた屈辱を持ったまま生きる事ほど辛い事はない――治療に対し、感謝はしない」

自分の喉元に思いきりナイフを突き立てた。

……筈だった。

ナイフから手のひらに伝わる感触は喉のそれとは違う。骨と筋肉の固さ。
喉から痛みも伝わってこなければ、呼吸も問題なく出来る。となればそれが意味する事は一つ。

目の前にあったのは仗助の腕。己の腕を突き出してナイフの進行を阻止したのだ。

そして――仗助は苦痛に表情を歪めることなく、ナイフが刺さったままの腕で思いきりリンゴォを殴り飛ばす。

●●●
182憤怒 その3 ◆yxYaCUyrzc :2012/01/13(金) 18:32:15.80 ID:z4Hiwt6b
今ブン殴った分は治療してやらねぇ。
いいか、耳の穴カッポジッてよく聞きやがれ。指さして言ってやるからよ――


チ ョ ー シ に 乗 ん な ッ ! !


アンタが『生かされた』ってぇんなら、俺だってそうさ!
最初に俺たちがいた会場、あそこで死んだ三人の中に俺の身内がいた。もしかしたら、会った事無いだけで全員がそうかも知れねぇ。とにかく一人はよく知ってる顔だった。
ってぇ事は、あそこで死んだのは俺だったかも知れねぇ。そう思ったら俺は既に、アンタよりも先に『生かされて』んだ。それでも今前向いてやってんだよ!


ア マ っ た れ て ん じ ゃ ね ぇ ッ ! !


で、さっきから時計いじってるようだが、それがスタンドのスイッチか?発動してねぇじゃねぇか。
なんで発動しないか分かるか?それぁアンタが『弱い』からだよ!

――俺のダチに、何でも削り取っちまうスタンド使いがいる。
だけど、そいつは『右手』でしか削れねぇ。左手でだって、口でだって削りゃあ最強なのに、なんで出来ねぇと思うよ?
アイツが聞いたらブチギレるから絶対に言えねぇが、アイツの精神が弱いからだと思うんだよ俺ぁな。
もっと強い精神なら出来ると思う。だったら成長すりゃあ良い。でもそれがない。自分の限界決めつけてるからアイツは今でも『右手』だけなんだ。

アンタだってそうさ。だいたい、スタンドの発動に時計がいるって方がおかしいぜ。寝起きとかどうするんだ?風呂入る時も腕時計つけたままなのか?
俺なんかいちいちスタンドの名前を叫ばなくても、ちょっと心で思えばそれだけで能力は発動する。スイッチなんかいらねぇし。
アンタだってそうなりゃ良いだろうが!たかだかスタンド出せなくなったくらいで自殺とかバカにしてんのかッ!?
なんつースタンドだか知らねぇが、オラァ!と思って発動できりゃあ無敵のスタンドにだってなれる筈だろうが!スタンドってのはそういうもんだろ!

大体、なぁ〜にが男の世界だよ、戦ってカッコよく死ぬのが男なのか?そんなもん、俺の周りで肯定する奴なんざ一人もいねぇぜ。
そして……女にだってそういう誇り高い人もいる。
一人で孤独に闘って、街を守った女。プッツンすると手がつけられねぇけど愛する男のためなら何だってする女もいる。

アンタ、未熟もんなんだよ。スタンド使いとしても、男としても。

ガキの戯言だと言いたきゃそう言えばいい。それでアンタが納得するんならな。
俺はこれから、そうだなぁ――地図の北に向かう。仲間を探してこんなクソッタレなゲームはぶっ潰す!
アンタはどうするんだ?俺はアンタの成長を見届けたい気持ちもあるが、こんなとこで立ち話してても解決しねぇだろうからな。
アンタの心が許すなら俺と一緒に来ればいい。来なけりゃあ……またどっかで会えればいいな。その時はちゃんと名前でリンゴォって呼ぶからよ。

……怒鳴って悪かったな、じゃあ、あばよ。

●●●
183憤怒 その4 ◆yxYaCUyrzc :2012/01/13(金) 18:33:29.28 ID:z4Hiwt6b
ハイ、ここまでー。
続き気になるって?そりゃあ良い。そういうところで終わるもんだろ、話って。

さて、生き延びた事に怒ったリンゴォと、そういう考え方に怒った仗助。
激突した二人の怒り。この場では仗助の方が正しく見える。この場ではね。
うん、仗助の話がハッタリの可能性だってあるから百パーセント正解だとは言えないよ。

だって考えてみろよ、本当に億泰の『ハンド』が『クリーム』になったら、それほど怖い事もないからね。
リンゴォが「ザ・マンダムッ!」とか言って時間戻してみろよ?トンデモない成長だよそれは。
だけど仗助自身も知ってる、エコーズのように進化するスタンドもね。だからあんなこと言ったんだと思うよ。

それじゃ、みんなにも仗助と一緒にリンゴォのスタンドの成長を期待してもらいながら話を終わりにしよう。

そうだ、皆聞いてくれ。
今いち遅れた流行っぽいんではあるんだけどさ〜。
一コ「ギャグ」思いついだんだよ――
184憤怒 状態表 ◆yxYaCUyrzc :2012/01/13(金) 18:35:07.46 ID:z4Hiwt6b
【E-4 北東部/1日目 深夜】

【東方仗助】
【時間軸】:JC47巻、第4部終了後
【スタンド】: 『クレイジー・ダイヤモンド』
【状態】:左前腕にナイフが刺さっている(貫通)、その他は健康、怒り
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、不明支給品1〜2(未確認)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す!
1.北に向かって仲間を集める
2.リンゴォの今後に期待。だが甘ったれは許さねぇ。
3.承太郎さんと……身内?の二人が死んだ。でも俺は挫けん!
[備考]
・思考1の「北」は具体的にどこに行くかは決めていません。

【リンゴォ・ロードアゲイン】
【時間軸】:JC8巻、ジャイロが小屋に乗り込んできて、お互い『後に引けなくなった』直後
【スタンド】: 『マンダム』
【状態】:右頬に腫れ、その他は健康、屈辱、怒り(収まってきてる)、軽い放心状態
【装備】:DIOの投げナイフ半ダース(未使用9本、2本折れている、1本は仗助に刺さったまま、計12本)
【道具】:基本支給品、不明支給品1(確認済)
【思考・状況】
基本行動方針:(未確定)
1.放心状態で(行き先や立ち回りを)あんまり考えられない
2.俺は仗助の話のように成長できるのか……?
[備考]
精神状態が落ち着けばマンダムが回復する『かも』しれません。
185憤怒  ◆yxYaCUyrzc :2012/01/13(金) 18:35:47.71 ID:z4Hiwt6b
以上で本投下終了です。
「なんで技名叫びながら攻撃するの?」をSSにした結果がこれだよ!という話ですw
最後のギャグのくだりはカットでも良いかなと思いながらも書いてしまう。

仮投下からの変更点
・仗助のセリフ&ジジイへの認識:承太郎さん以外も出会った事無い親戚かも?という認識に変更、状態表も改変
・誤字訂正(億安→億泰)その他多少の表現の変更&文章の追加
・パート区切りの「***」を「●●●」に変更(wiki対策)

以下裏話
・当初は「女にだってそういう世界がある」をエルメェスの兄貴に言わせるつもりでしたw
・スタンドを失ったリンゴォはまた病弱になる案もありましたが詰め込み過ぎかなと思って却下しました。

誤字脱字、矛盾等ありましたらご指摘ください。それではまた次のSSで。
186創る名無しに見る名無し:2012/01/13(金) 18:59:31.54 ID:Speaqs6z
投下乙です
仗助だからこそ言える熱い感じがベネでした
リンゴォの成長に期待です
それにしても億泰……とばっちり……
187創る名無しに見る名無し:2012/01/13(金) 21:04:12.37 ID:cny5EkzL
投下乙です
全く違う世界観を持つ二人がこれからどうなっていくのかが楽しみです
億泰のとばっちりはちょいと可哀そうでしたけど、なんだか納得w
188 ◆vvatO30wn. :2012/01/13(金) 21:16:39.49 ID:EJDecyz1
投下乙!
仗助の言っていることはもっともだけど、それって裏を返せば自分自身を治せない仗助にも言えるうじゃないの?というのは野暮でしょうかw
仗助自身が精神的に未熟って感じではないですしねえ…
そして2ndではひたすらアッパー路線だったリンゴォが今回は暗い暗いwww
ギアッチョもそうでしたが、少しのきっかけでどちらにも振れ得るのがジョジョキャラの面白いところですね。

では、こちらにも告知

明日の夜20時より、「OVERHEAVEN」チャットを開催します。
昨年12月に発売された西尾維新氏によるジョジョのノベライズ作品「OVERHEAVEN」より登場した新設定を、
ジョジョロワ3rdに反映するか否か、その度合いなどを議論する予定です。
書き手様の参加を推奨するのはもちろん、客観的な意見も取り入れたいため読み手様方もごなた様でも参加していただきたいと思っています。
ただし「OVERHEAVEN」の作品内容に関するネタバレは飛び交うと予想されますので、本作を読了し、ある程度内容を理解した上での参加が望ましいです。
また、今回のチャットに参加することができなかった方にも、議論の結果は必ずお伝えするようにします。
(チャットログの公開については、前回の新年記念チャットの分も含め検討中です。)

場所は前回の新年記念チャットと同じ会場になります。
ただし今回はROM不可に設定させて頂きますのでご了承ください。
アクセスは下記のURLより

http://jojobr3rd.chatx2.whocares.jp/


明日の私の帰宅時間がわからないので、今のうちに告知と設定の変更を済ませておきました。
私は遅れるかもしれませんが、時間になりましたら構わず始めてしまっていて下さい。
よろしくお願いします。
189創る名無しに見る名無し:2012/01/14(土) 01:57:50.58 ID:uWOIi+Ta
遅れましたが投下乙です
露伴ばりにこだわりのあるリンゴォと合わないのは仕方ないかもしれない
彼の能力が『時を戻す』と知ったら仗助は何を思うんだろうか……?

リンゴォの装備ですが、ナイフの数は半ダースなので計6本じゃないでしょうか
190創る名無しに見る名無し:2012/01/14(土) 20:41:48.16 ID:OhRrUpUJ
今みんなチャット中なんだろうなあと思いながら投下乙
>ハイ、ここまでー。
うざいwwww
そりゃ確かに話ってそういうもんだけど作中で言っちゃうと台無しだよwww
191創る名無しに見る名無し:2012/01/15(日) 19:49:03.09 ID:olxxPxwB
投下乙です!
技名叫ぶのって様式美って言えばそれまでだけど、
ぶっちゃけ言っても言わなくても当たるもんは普通にあたると思うんだ・・・・・・
出しながら言っているのもあるし
それよりも背後をとったのに「後ろが(ry」とか言う人達を(ry

しかし本編でジャイロに道を示したリンゴォが仗助に教えを受けるのは意外でした。
今回は参加者達から新たに学んで、今までとは違う信念を築き上げていきそうです。
良いほうか悪いほうかはまだわかりませんが・・・・・・
192 ◆c.g94qO9.A :2012/01/16(月) 00:46:07.89 ID:L9QJyaOA
投下します。
193 ◆c.g94qO9.A :2012/01/16(月) 00:47:35.33 ID:L9QJyaOA
【0】


閉じていた目を開くと、眼前に人がる空一面の星々。控えめに輝く星々に紛れ、我が物顔で夜空を横切る大きな月。
湿った風が俺の顔を優しくなで、後方へと駆け抜けていく。俺は暫くの間空を見上げていたが、やがて手元へと視線を落とす。

「アステカの祭壇、か……」

自分がいるであろう場所の名をポツリとつぶやくと、俺は改めて地図をまじまじと見つめる。
2000年の眠りから覚めると、人間は変わっていた。文化が変わった、考えが変わった、生き方が変わった。そして町並みも変わっていた。
ローマという街が地図のモデルであることはこの俺ですらわかる。そして本来そのローマにはあるべきはずでないものがこの地図にはあちこち記されていることもわかった。
カイロ、ヴァチカン、フィラデルフィア、モリオウチョウ……。ジョースター、という見知った名前すらこの地図には地名として記録されている。
不可解な地図だ。本来ならあるべきものがなく、ないべきものがある。寄集めのごった煮の街。
自然の中で生きてきた俺だからこそわかるのだろうか、とにかくこの街には作り物の匂いが充満していた。

もう一度目をつむると俺は全身で風を感じる。俺の流法は『風』。大気の流れを読み、空気中に舞った匂いを感じ、体中であたりの気配を探っていく。
やはり先ほど感じたものは確かであったようだ。舞い散る砂粒、乾いた空気。現在位置は間違いない、地図で言うところのA-9のアステカの祭壇だ。
確認が終わった今、俺は地図をカバンにしまい込む。
さて、そうなってくると次に考えるべきことは、目的地だな……。

俺の目的、それはこの俺とJOJOを侮辱したあのメガネの老人から誇りを取り戻すこと。
今すぐにでもヤツの元へいきたいところだが、それができないのであれば順にやるべきことをしていくほかない。
知らなければならないこと。まずはなによりヤツがどこに居るか、だ。

あの老人はこの地図のどこかにいるのだろうか。顔を出す大胆さがあるのであれば、もしかするとどこかに潜んでいるかもしれない。首輪を全員に巻きつけるような卑怯さがあるのであれば、或いはいないのかもしれない。
奴の居場所がわからなければ誇りを取り戻すことも屈辱を晴らすこともかなわない。
故にまずは知らなければならない。あの老人のことを。あの老人の居場所を。

次に考えるべきことはその首輪だ。どうもさっきから身体に違和感を覚えて仕方ない。最初は身体を取り戻した後遺症かと思っていたが、時間の経過と共にズレの認識は大きくなるばかり。
自分の体だからこそわかる気持ちの悪さ。全力をだそうとする最後の一瞬、ブレーキを無理やり踏まされる心地悪さ。
ひどく、不快だ。
この首輪を外す方法、それもぜひとも知らなければ。結果的にはこの首輪を外すことでヤツをこの地に引きずりだすことに繋がるかもしれないしな。

そうなってくると大切になってくるのは『情報』。
俺はあの老人のことを知らぬ。首輪の構造にも興味はない。
カーズ様のような頭脳があれば解析は可能なのかもしれない。老人を知るものであれば奴の性格から、どこにいるか推測を出せるものもいるであろう。

「合わねばなるまいな、人間どもと……」

誇りを安売りするつもりはない。安々と人間どもに助けを乞うことも容易にはしない。
ぐっと拳を握ると俺はうっすらと笑みを浮かべる。そうだ、だからこそ俺が求めるのは『情報』であり『闘争』である。
敬意を評すべき人間どもがいるのであれば、俺は厳粛にそれを受け止めよう。しかし、そうでないのであれば。情報を出し渋るような輩がいるのであれば―――

「軽くウォーミングアップといこうか」

突如吹き抜けて行った風が火照った筋肉を冷やしていった。
まだ見ぬ強者、手に入れるべき情報を求め俺は祭壇を駆け下り、走り始めた。砂粒を足裏に感じながら、俺はぐっと全身に力を込める。
目指すは一番近い施設 ――― サンモリッツ廃ホテル。
194 ◆c.g94qO9.A :2012/01/16(月) 00:49:30.83 ID:L9QJyaOA
 【1】


暗く、古い厨房に緊張感が走った。見るとトニオくんの顔に恐怖と戸惑いが走り、続いて説明を求めるかのように口が半開きになった。
ワシはそれを押しとどめるよう、おどけた表情で口の前に指を立てる。少しでも彼の精神を緩めるため、茶目っ気たっぷりにウインクをひとつ、飛ばしてやった。
緊張感は持ちつつも、ひとつ冷静になった表情が浮かんだのを見て、わしは手元のカップに目を戻す。
今、説明している暇はない。誰とも知らぬ来訪者に対応し、安全が確保できたからトニオくんと話しても遅くはないだろう。
波は静まらず、ゆっくりと水面は揺れ続けている。どうやらホテルに入ってきた誰かさんはなかなかの度胸を持っているようだのう。

アイコンタクトと身振り手振りを交え、トニオくんを厨房の奥まで下がらせた。廃ホテルとはいえ、その様式は立派。広々としたキッチンは窓ひとつ、扉二つの構造。
ど真ん中に置かれたテーブルを回りこむように、まずは隣の部屋へと続く扉を確かめる。鍵はかかってない様子。コップの中の波が動かないことから、侵入者は廊下側から接近しておるようだのう。
素早く身をかわし、今度は廊下側の扉へと近づく。自分が入ってきた時、開けっ放しにしていた扉。その先に広がる闇に目を細める。暗闇に紛れ動く影は見当たらず、ワシは再びカップに目を落とす。

その時ふと気配を感じて振り返ってみると無言のまま、なんとか必死でわしの気を引こうとしているト二オ君。
その様子があまりにも必死だったので失礼ながらも、わしは笑みをこぼしてしまう。笑顔と手で了解の合図を伝えると、注意力を高め、眼を凝らしていく。
トニオ君が伝えてくれた事、それは埃の存在だった。廃ホテルとして長いこと放置されていたのだろう、絨毯に降り積もった埃はほんの少しの力で宙に舞う。
足元にぐっと力を込めると、灰色の結晶がゆっくりと舞いあがった。まさに自然が作り上げた防犯装置。波紋&埃のダブル探知機。なかなか上々じゃないの。

廊下に漂う埃は入り口から入りこむ気流に煽られ、とめどなく流れて行く。カップにうつる波は収まることを知らず、揺れ続ける。
接近は一定。だが足音は聞こえず、物音をたてるようなへまはしない。それでいて、波紋で感知できる気配であり、埃に気付くようなレベルでもない。

「注意深く、警戒心は高い。場馴れもしておるが、いかんせん技量が追いついていない、か……?」

誰にともなく、わしは結論を呟く。
血肉に飢えた吸血鬼、大騒ぎを繰り返す馬鹿者が一瞬だけ脳裏をかすめるがしばらくは置いておく。そのまま廊下側に無音のまま近づくとわしは大きく息を吸った。
吸血鬼だろうが、犯罪者であろうが、わしは最終的にはこうする気でおった。結局最終的にはわしは誰であろうと信頼したいし、誰構わず戦いたいという戦闘狂でもないしのう。

「聞こえるかね……? わしの名前はウィル・A・ツェペリ。廊下にいる君に話しかけておる。
 わしはこの殺し合いに一切加担する気はない。君がどんな人物かは知らんが、君が危害を加えないならわしもそうしないと約束しよう。
 どうかね? 姿を現してはくれないか?」

答えはない。だがカップにうつる波が止まった。宙を舞う埃もその場をフワフワと漂うのみ。
相手が何を考えているかはわからないが、話は聞いているようじゃな。それとも虚をつかれて、呆然としておるのか?

「ほれ、わしのデイパックじゃよ。これでわしは無防備も同然、丸腰じゃ」

デイパックを放り投げるとわしの中で緊張感が高まっていく。昂る戦いの合図。ピリッとした空気に髭の先が震えた。
さぁ、どうなる? 戦わないならそれに越したことはない。トニオ君と廊下の誰かと三人で、ひと足早いモーニングと洒落こみたいとこだがのう。
鬼が出るか、蛇が出るか。それとも……?
わしは待つ。手の中にもったカップが震え、呼吸法ではない波紋が一つ、広がっていった。
195 ◆c.g94qO9.A :2012/01/16(月) 00:50:39.71 ID:L9QJyaOA
 【2】


「聞こえるかね……? わしの名前はウィル・A・ツェペリ。廊下にいる君に話しかけておる。
 わしはこの殺し合いに一切加担する気はない。君がどんな人物かは知らんが、君が危害を加えないならわしもそうしないと約束しよう。
 どうかね? 姿を現してはくれないか? ほれ、わしのデイパックじゃよ。これでわしは無防備も同然、丸腰じゃ」

どうしてこんな目に。ひたすら頭に浮かぶのはそんな言葉ばかり。なんで俺がこんなことに巻き込まれないといけねェんだ。そう思っても答えは返ってきやしない。
破裂しそうな勢いで鼓動する心臓を収めようと必死で呼吸をする。その呼吸すら誰かに聞かれちゃまずいと押し殺す。ぜぇぜぇ乱れた息は自分にしか聞こえない。
恐怖のあまり足が言うことを聞かない。がくがくと震える膝を支えるために、俺は壁に背をつけ、何度も何度も落ち着け、冷静になれと言い聞かせる。やがてはっきりし出した意識で俺は脳をフル回転させる。

廊下にいる君、その言葉を聞いた時、俺は飛びあがらんばかりに驚いた。心臓をわしづかみされ、喉から引きずり出されるんじゃねェかと思った。
とにかく、この部屋の中のウィル・A・ツェペリというおっさんは……声からしておっさんとわかるが、“とりあえず”は戦う気がないらしい。少なくとも本人はそう言っている。
デイパックを投げ捨てたような音も聞こえたし、扉の後ろに誰か隠れているような気配もない。入った途端、後頭部を殴打、そのままスティーリー・ダン、ぽっくり死亡、は避けれそうである。
だけどこれももし相手が銃をもってなかったら、って前提だ。姿を現した途端、銃口は俺を向いていて、はい、お終い。そんな可能性もあり得るんだ。

もしかしたら、もしかしたら。そんなありもしない可能性は無限に広がり、いつしか俺が部屋に入らないための言い訳じみたものへと変わっていく。
そうだ、冷静に考えればスタンド能力なんてものがある以上、どんだけ気を張ろうが、どれだけ注意していようが、今この瞬間にも俺はぽっくり逝く可能性がある。
ぐるぐる、結論は元通りだ。入るべきなのか、入らないべきなのか。
つまるところこれだけ。俺に勇気があるかないかだ。

そして答えは決まってる。俺には入る勇気はない。だが入らなければならない理由がある。
打算と計算、最弱を自認してるからこそ、ここで俺は部屋に踏み入れなければその瞬間俺の生存確率は一気に下がる。

「オーケー、わかりましたよ、ミスター・ツェペリ。ただ私はあなたがまだ信用できていない。可能な限り部屋の奥まで下がって頂けないか?」
「もちろん、いいとも」

部屋の構造は先行させたラバ―ズで把握済み。キッチンに窓ひとつ、扉二つの構造。いざとなれば窓を割って逃げるなり、単純に廊下から逃げ出すなり方法はいくらでもある。
俺は部屋にゆっくりと入っていく。思った通り、右手には流し台やら調理場やらが大きく広がっている。真中には皿を置くべき大きな机。左手には別の部屋へと続いて行く扉。
そして二人の人物が大きな窓を背にこちらを見つめていた。どちらも人の良さそうな顔をしている。実に利用しがいがありそうな、典型的なアホ面をぶら下げてやがる。

「私はダン、スティーリー・ダンと言います」
196 ◆c.g94qO9.A :2012/01/16(月) 00:51:07.35 ID:L9QJyaOA

この時点で殺されない、そのことが俺を自信づける。緊張は薄れ、恐怖は和らいだ。少なくとも笑顔を浮かべ善人ぶるぐらいはできるまでに、俺の精神は回復していた。
二人は自己紹介を進めてきた。シルクハットをかぶった老人のほうがウィル・A・ツェペリ、コック姿がトニオ・トラサルディーというらしい。
流れの主導権は完全に俺。三人そろって席に着くと俺は話を切り出した。極めて自然な流れで自己紹介へもっていく。
ここまでは計算通り、ここからが勝負だ。支給品の確認、そして譲渡、なんとかここまでもっていきたい。

俺のスタンド、『ラバ―ズ』は史上最弱のスタンド。最弱こそが最も恐ろしい、なんてジョースター一行の前では虚勢を張っていたが実際は強いほうがイイに決まってる。
そんな俺が是が非でも手に入れなければならないもの、それが武器だ。それも銃のように技術がなくても、簡単に人を殺せるものがベター。
殺し合いに巻き込まれ、このホテルに入って来るまでに考えた、生き残る方法。最弱のスタンド使いである俺には多分これしか方法がない。
すなわち、正義のヒーローたちに匿ってもらい、最後の最後で生き残りをかっさらう。これしかない。

だからこそ、この時点で勝負だ。ツェペリ、トニオ、どちらだろうか銃を持っていれば譲ってもらう。刃物でも最悪交渉の価値はある。
最高の形は二人の信頼を失うことなく、武器を手に入れ、そのまま集団に紛れこむ事だ。
だがそうも簡単にいくとはさすがの俺も思っていない。最悪、先行させ、ツェペリの体内に潜むラバ―ズを脅し文句に奪い取る。

はやる気持ちを抑え、俺はゆっくりと言葉を重ねていく。簡単な自己紹介を終え、脅えながらもこのホテルに入ってきた、そこまで一気に話しきる。
だがそこまで話し、まさに支給品の披露と思ったその瞬間、ツェペリが遮るように手を掲げた。
思わず怪訝な表情を浮かべた俺に対し、トニオはツェペリの手元を覗きこみ、息をのんでいた。
そして次の瞬間、ツェペリの言葉に俺は度肝を抜かれることになる。

「どうやら、隣の部屋にも誰かいる様じゃ。扉越しの君、どうだね、出てきてくれないか?」
197 ◆c.g94qO9.A :2012/01/16(月) 00:52:54.61 ID:L9QJyaOA
【3】


「どうやら、隣の部屋にも誰かいる様じゃ。扉越しの君、どうだね、出てきてくれないか?」

なぜ ――― 真っ白になった頭に浮かんだ二文字が、ぐるぐるひたすら周る。不自然に震えだした身体を抑えるために、僕はギュッと自分の体を抱きしめた。
眼を閉じ、耳をふさぎ、奥歯が壊れるんじゃないかって勢いで噛みしめる。何も聞きたくない、何も見たくない。
聞かなきゃならない、見なきゃならない。そうわかっていても、そんなことができるほど僕には勇気がない。だって僕はただの、一般人だ。ただの少年じゃないか。

膝を抱え、吹雪の中にいるかのように震える僕。僕がどうしてこんな目に会わなきゃいけないんだ。なぜ僕なんだ。なんでこうなったんだ。
これが僕の身に付けた能力の結果だとしたらなんて滑稽なんだろう。恐怖を観察するのが大好きな僕が、今まさに死の恐怖に震えている。皮肉じゃないか。
そうだ、僕はただちょっと変な趣味を持ってるにすぎないフツ―の人間だ。確かに度が過ぎてるし、人に堂々と言えるような趣味じゃないとは自覚してる。
けど性癖とか、趣味とかってそんなもんだろ。僕以上にヤバくて、ぶっ飛んでる趣味のやつだっているだろ。
なんで僕がこんな殺し合いなんかに巻き込まれなきゃいけないんだよ。こんなの、それこそ殺しが好きな奴だけでやればいいだろ。

「なんで僕なんだよ……」

耳をふさぎたくなるような会話声が隣から聞こえてきた。あれはいったい何の会話だろう。僕を捕えてふんじばって、殺そうとする算段でも唱えているんだろうか。
聞きたくない、聞きたくない。忍び足の音だって、聞こえない、聞いちゃいない。僕は、なんも聞いていない。

そりゃ僕だって悪かったさ。仗助にちょっかいだしたり、母親にも手を出したりしたのは謝るよ。康一を脅したり、噴上まで脅えさせようとしたのはやりすぎだったよ。
でも言い訳させて貰うけど、あの時だって僕は誰一人傷つけちゃいないじゃないか。殺すつもりなんて微塵もなかったし、なにより殺すことなんてできるわけがないだろ。
ただ突然舞い降りた幸運で浮かれてただけなんだ。そりゃ自分の趣味を叶えるようなとびっきりの魔法の力が宿ったんだ。有頂天にもなるってもんだろ、そうだろ?
だから僕は悪くない。僕は誰かをびっくりさせたかっただけなんだ。僕はただ少し皆を怯えさせて、その顔を見て満足したかっただけなんだ。

キィ……っと扉が開いた音が部屋に響く。力の限り閉じた瞼を突き抜け、微かに差し込む光を確かに感じた。
だけど僕は立ち上がれない。僕はうずくまり、なにもせず、ただひたすら恐怖に震える。

……悪かったよ。もうしない、そんな悪戯もう二度としない。もう誰も脅かしやしないし、恐怖におびえる顔だって見ないッて誓う。
僕が悪かったんだろ? 因果応報と言うならもう充分じゃないか。こんなにも今の僕は脅えてる。恐怖のあまり白目をむいて倒れるんじゃないか、それぐらい脅えている。
だからお願いだ……もう勘弁してくれ。殺し合いだとか、命の取りあいだとか、そんなの僕にできるわけがないじゃないか。
誰よりも脅え、恐怖してるのは、ほかでもない、僕じゃないか。だから……―――


「助けて下さい……死にたくないんだよ……」


「はて、ダン君。いまなんか言ったかね?」
「いいや、何も言ってませんよ。それにしてもツェペリさん、誰もいないじゃないですか。脅かさないでくださいよ」
「ううむ、確かに誰かいいたはずなんじゃがなァ」
「デモ、デイパックは置いてありマシタシ、さっきマデだれかいたんじゃないデスカ?」
「いいや、でも今は波紋が反応しとらんのよ。おかしいの…………」
「ところでツェペリさん、その波紋とやらは何ですか?」
「おお、そうだの、説明しようか。波紋っていうのはな、――――」


僕は怖いんだ。僕は立ち向かえやしない。
紙の中で、押し殺した悲鳴を上げる。デイパックの中、紙にしまわれた偽りの平和の中で僕はいつか訪れるであろう、恐怖に苛まれていた。
そう、すぐに訪れるであろう、誰かが僕の紙をひらいてしまう、その瞬間を。
デイバッグの布越しに、バチっと電燈がはじける音が響き、やがて僕を持った誰かが隣の部屋へと移っていくのを感じた。
198創る名無しに見る名無し:2012/01/16(月) 00:52:57.54 ID:2gWSaIAd
しえん
199 ◆c.g94qO9.A :2012/01/16(月) 00:53:43.52 ID:L9QJyaOA
 【4】


「危ねェ、危ねェ……」

最後、髭のおっさんに感づかれたんじゃねーかと冷や汗かいちまったぜ。
電灯を通して呼び戻したレッド・ホット・チリペッパーの状態をしばらく眺めるが、変わりないと判断してとりあえずは引っ込めておく。
さてさて、スタートとしては上々か。問題はこっからどうするかだ。

現在、俺のほかに少なくとも4人がこの廃ホテルにいることはわかっている。そう、さっきの四人組だ。
髭の爺さん、謎の能力で人の位置を知覚する。ハモンって言うらしい。口ぶりからティーカップ占いみたいなスタンドか? よくわからん。
中年のコックらしき人物。トニオ、っていうらしい。今のところスタンド能力があるかどうかすら不明。見知らぬ人物でもすぐに信用しちまうぐらいお人好しであることは確かだな。
スティーリー・ダン。こいつはどうもうさんクセェ。レッド・ホット・チリペッパーを目立出せるわけにもいかなかったから表情までじっくり眺めることは出来なかったが、どうも裏があるように感じる。まぁ、俺の勘なんだがな。
そして最後の少年。とりあえずビビって泣き散らかししてるだけのガキンチョだ。スタンド能力には注意が必要だが、まぁ、そこまでビビる必要はねぇだろ。

まぁ、当面は様子見だ。なんせこの殺し合い、多く殺せば得かといったらそうならないのが肝なんだよな、これ。
だって考えてみろよ? そりゃ一人で戦うよりは二人で戦ったほうがいいに決まってる。相手は注意をひとつに絞り切れないんだもんなァ。
ただやっかいになるのは味方に背中を撃たれるかもしれない、って危険性だ。こっちのほうが致命的。
なんせ俺のスタンドは一対一じゃある程度は戦える。仗助や承太郎レベルになるとさすがに無理だが、ただのナイフを持った殺人鬼とかなら何とか出来るだろう。

つまり何が言いてェかってっと……今、俺があの四人と手を組むメリットはあんまりないってことだ。
かと言って殺すメリットは、と考えるとこちらもあんまりなさそうだ。
無理に殺しにいって、殺しきれずに逃した奴らにスタンド能力がバレたりする方が痛ェ。無駄な恨みも買って、後々逆恨みなんてされたら目も当てられねェ。

「なぁに、焦ることはねぇよ。まだまだゲームは始まったばかりだぜ?」

その通り、ゲームは始まったばかりだ。とりあえずの保留も選択肢としては悪くねェだろ。
だがな、もし殺す必要があるとしたなら……もし手を組むメリットが見えてきたら……。
俺はタイミングを逃さねぇ。なんせ俺は―――

「ギタリストだからなッ」

脇に転がるベットに寝そべり、俺は自分のスタンドを目的の部屋へと向かわせる。
電灯を通して屋敷中に広げられた俺の電線は縄張り。そう、ここは……このホテルは―――

「もはや俺のステージだぜ……!」
200 ◆c.g94qO9.A :2012/01/16(月) 00:55:08.97 ID:L9QJyaOA
 【5】


気づかれ……なかったみてぇだな。よし、危ねェ、危ねェ。
だが今バレなかったとしても……ソフトマシーンを使ってデイパックに潜んだのは悪手だったかもしれねぇな。
最初はいい手だと思ったんだが、どうやら俺も冷静じゃいられなかったみてェだな。まぁ、それも仕方ねぇ話。今大事なのはこれからどうするかだ。

さて、頭を整理しよう。俺が直前まで覚えていることはラグーン号に忍び込み、ブチャラティを始末するまさにその直前まで。
見せしめでぶっ飛ばされたのがあのジョルノ、とか言った輩だったのは驚きだが、とにもかくにもこれは大チャンスだ。
だってよォ、あの親父が言ってたことが確かなら金をいくら望んでもイイんだろ? ボスの立場を要求してもイイんだろ?
こりゃやる気がムンムン湧いてくるじゃね――かッ! 100人いようが全員殺す必要はない、最期まで生き残ればいいってならこの俺の土壇場じゃね―――かッ
とは言ったものの、やはりここらであいつのゴキゲンを取っておきたいというのも本音。やはり一人も殺さないで金くれ、じゃ虫がよすぎるってもんだろ?

というわけでだ、俺のスタンドでデイパックに忍び込んだはいいものの、こりゃ参ったな。今にもデイパックの中を開けかねない様子だぞ。
最初は良い感じで相手の情報だけ聞きとったら退散する腹づもりだったし、一人ならデイパック越しにズブリ、で始末できるからこりゃGOOD! って思ったんだがなかなか上手くいかないもんだぜ。

さて、それはともかく、こうなると選択肢は3つだな。

@バレる前に何とか抜け出す。
A今ここにいる奴らを皆殺しにする。
B素直に飛び出てジャンジャジャーン。

まぁ、これのうちのどれかか。

俺としては自分のスタンド能力がバレるのだけは避けたい。だがここまで言ってそんな贅沢言ってられねぇな。
さてさて、考えろ。状況は極めて悪い。だが最悪じゃねェ。最悪になるかは俺次第だ。
どうする、マリオ・ズッケェロ? 俺がBETするのは 勝負? 保留? チャレンジ? 懐柔? それとも……―――
201 ◆c.g94qO9.A :2012/01/16(月) 00:56:34.98 ID:L9QJyaOA
 【6】


さすがに夜にバイクに乗ると寒さが身にしみる。剥き出しの右腕をさすると俺は目的地へと急ぎ、バイクの速度をあげた。
やがて闇に浮かんでいただけのビル群がゆっくりと鮮明になり、その姿を露わにしだす。目的地に定めてたサンモリッツ廃ホテルはもう眼と鼻の距離にあった。
さっさと身体をあっためたいとはわかっちゃいるが、だからと言って馬鹿正直にホテルの横にバイクをつけるほど俺は命知らずじゃねェ。
ゆっくりとブレーキを踏むと、俺は何本か離れた路地でまたいでいたバイクから降りもう一度地図をひらいた。

中学校があって、砂漠地帯の近くで……間違いねェ、ありゃサンモリッツ廃ホテルだ。
ちょいと辺りを警戒しながら走ったせいでか、そんなに距離もないのにえらく時間がかかっちまったなァ。まぁ、結果オーライだ。

「さて……」

問題はこっからだ。なにせあれだけでかくてしっかりとした建物だ。誰かもう中にいる可能性もあるだろう。
というよりそう考えたほうがいい。そう考えんなきゃ危ねェってもんだ。なにせ俺のスタンドは射程距離の長さから暗殺には向いちゃいるが、面と向かってのスタンド勝負はからっきし。
ホテルに入ったはいいが、近距離パワー型のやつと鉢合わせしたらひどく面倒間違いなし。もちろん殺しはやってもやっても、ヤりきれないってもんだが、さっきの余韻に浸りたいってのが今の俺の本音だ。
その一方で身体を休めるってだけなら別にホテルにこだわる必要性が全くないこともわかっている。それこそ地図に載ってる学校だろうが構わねェし、路地裏だろうがそこらの民家だろうが休もうと思えば休みはとれる。

「だけど、な」

剃り上げた頭を撫でると俺は考える。これが昼なら簡単な話なんだがなァ。
『吊るされた男』を先行させ、偵察する。安全を確認してからゆっくりとチェック・イン、そんなこともできるんだ。
ただし夜にこれをやるわけにもいかないだろうな。自分から光を出して自らここにいますよォ、って自己主張はいただけない。それで獲物を釣り上げるってのもあるが、ちょっとなァ……。

はてさて、困った。リスク覚悟でホテルに突っ込むか、そこらの民家で不貞寝を決め込むか。なんとか目立たないよう『吊るされた男』を忍ばせるか。
しばらく考えた後、俺はもたれかかっていたバイクからケツをあげた。うだうだ考えるのは性にあわねェ。スパッと決めちまおう。

「ヤるんだったら思いっきりヤれ、ってか……? ククク……」
202 ◆c.g94qO9.A :2012/01/16(月) 00:56:56.83 ID:L9QJyaOA
 【7】


 パーティーだ、パーティーだ! パーティーだ、パーティーだ!
 ケーキにチキン、メロンにハム、サラダにデザート、メインディッシュはローストビーフ!
 チキンもあるんだ、ポークもあるぜ、いやいや、ビーフも用意してますぞ!
 
 さぁさぁ、始まるパーティーだ! お客も続々やってきた! 会場準備もバッチリだ!
 今夜の主演はだーれだ? 真っ白コック? ダンディー紳士? まさかまさかの紙少年? その時が来るのが待ち切れない!
 いやいや、助演もこりゃ豪勢! 愛語る最弱! 荷物に潜む暗殺者! ホテルを貸切、ワンマンライヴのギタリスト!
 おやおや、どうやらゲストも駆けつける模様! 強靭・無敵・柱の男! 狂人・残虐・吊された男!
 
 七人の思惑は絡みあう。七人の気持ちはすれ違う。七人は互いに互いを、騙し合う。七人は互いに互いを、信じあう。
 七人は困惑を胸に抱え、それでも生き続ける。七人は痛みに悲鳴を上げ、地に伏せる。七人は喜びに身を悶え、歓喜の叫びを上げる。
       
       ―――おや? 七人が……八人に?
 
 一体全体どうなるんだ! それは私自身もわかりません! 踊り飲み、狂い騒ぐ! しかし我ら道化は笑うのみ!
 開幕を鳴らすのはそこのアナタ! アナタの指揮で彼らは踊る! 或いは互いに殺し合う! 狂宴の始まりは、そう、あなた次第!
 お取りなさい、その指揮棒を! 鳴らしなさい、開幕のファンファーレを!
 寄ってらっしゃい、みてらっしゃい! 一世一代のパーティーだ!
 前置きはここまでに! そろそろ始めと致しましょう! プロローグはおしまいだ! さぁ、始めよう!
 
       ―――『虚言者の宴』! どうぞお楽しみください!
203 ◆c.g94qO9.A :2012/01/16(月) 00:58:35.99 ID:L9QJyaOA
【A-9南西・1日目深夜】
【ワムウ】
[スタンド]:なし
[時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:JOJOの誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)を殺す。
1.とりあえずはホテルに向かう。情報収集だッ
2.情報を得るためなら手段を選ばない



【B-8 サンモリッツ廃ホテル一室・1日目深夜】
【ウィル・A・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:ジョナサンと出会う前。
[状態]:体内にラバ―ズ
[装備]:ウェストウッドのティーカップ(水が少量入っている)
[道具]:基本支給品(水微量消費)、不明支給品×1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の打倒
1.とりあえず三人で情報交換がしたい。
2.吸血鬼や屍生人が相手なら倒す。
3.協力者を探し、主催者を打倒する。

【トニオ・トラサルディー】
[能力]:『パール・ジャム』
[時間軸]:杉本鈴美を見送った直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いから脱出したい。
1.とりあえず三人で情報交換がしたい。
2.ツェペリサンを信頼、いずれ彼に料理をふるまいたい。

【スティーリー・ダン】
[能力]:『ラバーズ』
[時間軸]:承太郎にボコされる直前。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×1〜2(確認済)、宮本&ズッケェロ入りデイパック
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
0.とりあえず三人で情報交換がしたい。
1.うまく立ち回り、目の前の二人を利用出来るだけ利用する。
204 ◆c.g94qO9.A :2012/01/16(月) 01:00:00.99 ID:L9QJyaOA
【B-8 サンモリッツ廃ホテル一室 誰かが持つデイパック内・1日目深夜
【宮本輝之輔】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前。
[状態]:恐怖、紙になってデイパックの中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない
0:助けてくれ……

【B-8 サンモリッツ廃ホテル 某一室・1日目深夜】
【音石明】
[能力]:『レッド・ホット・チリペッパー』
[時間軸]:億泰のバイクに潜んでいた時。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
1.殺すなら殺す、味方になるなら味方になる。とりあえず様子見。

【B-8 サンモリッツ廃ホテル 宮本輝之輔のデイパック内・1日目深夜】
【マリオ・ズッケェロ】
[能力]:『ソフトマシーン』
[時間軸]:ラグーン号でブチャラティと一対一になった直後。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して金と地位を得る。
1.姿を表すべきか、皆殺しか、様子見か、立ち去るべきか。それが問題だ。

【C-7北東・1日目 深夜】
【J・ガイル】
[能力]:『吊るされた男(ハングドマン)』
[時間軸]:ラグーン号でブチャラティと一対一になった直後。
[状態]:健康
[装備]:バイク、トニオの肉切り包丁
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2 (確認済)
[思考・状況] 基本行動方針:思う存分“やる”。
1:民家で休むか、ホテルに突っ込むか、ハングドマンを信じるか。さて、どうしたもんか。
2:みせしめでみた空条承太郎はずいぶん老けてたが……二人いんのか?

【備考】
サンモリッツ廃ホテルは改装され、電気が通ってるようです。程度のほどは不明です。各部屋によって電気が通ってないかもしれません。
ズッケェロが隠れている、宮本が紙となって潜んでいるデイパックはダンが持ってます。
205虚言者の宴 ◆c.g94qO9.A :2012/01/16(月) 01:02:49.78 ID:L9QJyaOA
以上です。指摘ありましたらお願いします。結局タイトルは変えちゃいました。
変更点は誤字脱字、指摘された点に関しての回答変わりの備考追加、時間帯の確定です。
規制解除されて嬉しかったです。
206創る名無しに見る名無し:2012/01/16(月) 01:22:49.19 ID:2gWSaIAd
投下乙ッ
潜んでるやつがことごとくゲスでうけるったらない
しかも同じステルス系ゲスなのに、それぞれ思考が違って特徴がよく出ているw
この宴は大騒ぎになりそうだな

これであと書かれてしてないのは、早人、サーレー、セッコ、ディスコ、ドルドだけかな?
予想以上に速いなー
207創る名無しに見る名無し:2012/01/16(月) 02:32:14.33 ID:vF/R0oau
投下乙です
この次の話でどうなるのだろうとワクワクさせる良い繋ぎの話でした
崩れかけのジェンガを見てるような気持ちになりますww

あとJ・ガイルの参戦時期がズッケェロのものになっています
208 ◆SBR/4PqNrM :2012/01/17(火) 00:03:31.43 ID:7+M5tzMk
 いやー、ゲスいゲスい。
 しかし宮本君、本人も言っているとおり、結果的には作中で殺人とか一切していないんだよね。一応。
 やり口がゲスいってだけで。
 そーゆー意味で、平然と殺人を犯しているのになんとなく悪くないみたいな扱いになってるシュトロハイムやグエスより、不遇よね。
 がんばり宮本、くじけるな宮本!
209 ◆Osx3JMqswI :2012/01/21(土) 18:13:22.82 ID:iFCv60de
エシディシ 川尻早人 岸辺露伴 レオーネ・アバッキオ 双葉千帆 投下します
210 ◆Osx3JMqswI :2012/01/21(土) 18:14:26.96 ID:iFCv60de
彼らが道を間違えたかどうかは俺は知らない。
でも、彼らはみんな選択した。
その上で、一人の命が奪われた。
このゲームは殺し合い。
その一人が死んだ事で、大勢の命が助かったかもしれない。
その一人が死ななければ、助かった命があったかもしれない。
でも、俺も彼らもそんな事は知らない。
誰の選択が正解だったのかは、これからの一連の流れを見た君たちに任せる。
何にせよ、見てもらわなくちゃ始まらない。
それじゃ、始まりだ。
211 ◆Osx3JMqswI :2012/01/21(土) 18:16:07.56 ID:iFCv60de


  ★


僕の名前は川尻早人。
ごく一般の、どこにでもいるような小学生だ。
ただ、一つだけみんなと違うところがある。
僕は、パパを二回失った。
そのうち一回は、間接的に僕がパパを殺した。
夏休みの中で、僕は劇的に変わり、出会うはずの無かった人々と出会った。
そして、ママを守ると誓った。
猫草を持って家を出たあの時の気持ちは忘れてない。
全ては、救急車とパパがぶつかって終わった。
はずだった。
あの場所にはママと、そしてパパがいた。
あのパパはどっちのパパなんだろう。
どっちにせよ、ママは僕が守る。
決意を胸に秘め、僕は歩き出した。
瞬間、頭の中を駆けめぐる殺気、危険信号。

逃げろ  にげろ  ニゲロッ!

脚が震えて動けない。
顔だけ前を向けると、30m?いや、20mくらい先に筋肉の塊のような巨大な『ナニカ』が立っていた。

「あ……あっああ……ああっあ……」

パパなんか比べ物にならないくらいの圧倒的殺意。
死への好奇心。
僕は『アレ』に殺される。
直感的に理解してしまった。

「うあ……あ……あう……うっあ……」

こっちを……向いた…………

近づいて……くる…………

目の……前にいる…………

「NN?子供か。
喰うほどの大きさでもあるまい。
質問に答えられたら逃がしてやるぞォ。
お前は『スタンド』とやら、持っているのかァ?」

「あ……ああ……あうっあ……」

『アレ』はニヤリと笑って口を開く。
212 ◆Osx3JMqswI :2012/01/21(土) 18:17:12.24 ID:iFCv60de
「答えられなかったかァ。」

僕は……死ぬんだ。
ママ……ごめん。
守れそうにないや。
先にあっちで待ってるよ。

僕の体に『アレ』の手が触れようとする。
その時だ。

「見てらんねーな、弱い者いじめはよォ。」

ヒーローだ。

「相手は俺がなってやる。」

僕の目の前に。

「かかってこいよ、デクノボー。」

ヒーローが現れた。


  ★


「NN?子供か。」

見ると、そこには巨大な男と鬼気迫る顔の子供がいた。

「おい、ありゃ何だ。
まさか取って喰おうなんてわけじゃあねぇだろうな。」

助けるか?
俺があの場に行けば、あの子供は助けられる。
だが、いくら腕っ節が強いからって俺じゃああいつに適わない。
『ムーディー・ブルース』も、戦えるスタンドじゃない。
だとしても、ここで逃げたらブチャラティ達に顔向けできないな。
子供を守って死ぬなんてカッコいいじゃないか。
チームの誰か、フーゴあたりが通りかかるのを願ってるぜ。

「結果より過程だな。」

二人の元へと走り込み、そのまま滑り込むように間を突き抜ける。

「見てらんねーな、弱い者いじめはよォ。
相手は俺がなってやる。
かかってこいよ、デクノボー。」
213 ◆Osx3JMqswI :2012/01/21(土) 18:18:03.36 ID:iFCv60de

巨大な男は首の関節を鳴らし、ゆっくり口を開く。

「相手になる……かァ。
MUH……良いだろう。
お前から先に喰らってやるわッ!」

隙を見計らって子供に一言俺は、

「逃げろ。
余裕があったら戦える味方を連れてこい。
さぁ、走れ!」

「死なないでね、絶対に帰ってくるから。」

あの子供は、何度も死線をくぐり抜けてきたような目をして走っていった。

「さぁ、邪魔者はいないぜ。」

互いの拳が同時に飛び出した。


  ★



僕は行く当てもなく走った。
杜王町の勇者を探して走った。

「ハァッ……ハァッ……どこにも……いないッ。」

クソッ!
僕は無力だ……本当に……



「君、そんなに急いでどうしたんだい?
子供は嫌いなんだが、話しかけられただけ光栄だと思ってくれ。」



「露……伴……先生?」

「君みたいな子供が僕を知ってい「早く来てください!人が!化け物が!早く!」



何を言っているんだ?
全く訳が分からない。
言葉も切れ切れで聞きづらいしな、少しのぞかせてもらうよ。
214 ◆Osx3JMqswI :2012/01/21(土) 18:18:58.97 ID:iFCv60de

「『ヘブンズ・ドアー』ッ!」



ん?
なんだ?
僕が死んで?
未来の記憶?
キラー・クイーン?
化け物?



「解除。」

何を見たのか自分でも理解できていない。
だが、僕の推理として一つ確信した事がある。
彼と僕は時間軸が違う。
そして……
助ける事は取材になりそうだ。

「早く!早くしてくだ「分かった。千帆さん早く準備して。取材開始だ。」

「は、はい!分かりました。」

君にとってのヒーロー、死んでなければいいが。


  ★


「カハッ……ッ!」

まだだ、まだ死なねぇ……
あの目は、あの子供の目は、約束を破らない目だった……
あいつが来るまでに死んだらカッコわるいしな……
215 ◆Osx3JMqswI :2012/01/21(土) 18:20:30.87 ID:iFCv60de

「UGAAAAA!しぶとい人間だなッ!」

「……まだ……死ぬわけには…………いかないんでな……」

けど……もう無理…………かもな……

「MUHH!ならばこれで終わりだァ!」

ブチャラティ……すまねぇ…………



「『ヘブンズ・ドアー』ッ!」

「NN?なんだ貴様は?」

「チッ……かわされたか。」

なんだ……ちゃんと助けにきたじゃねぇか…………
良い大人になるぜ…………あいつは……

「千帆さんッ!彼の所にいてくれッ!」

「はいッ!」


凄まじい身体能力だな。
あの子供の記憶に『化け物』としてインプットされても無理は無いか。
さて、次で落としてネタにさせてもらう。


「『ヘブンズ・ドアー』ッ!」

「甘いッ!」

「『ヘブンズ・ドアー』ッ!」

「無駄無駄ァッ!」

「『ヘブンズ・ドアー』ッ!」

「死ィねェェェィッ!」


なぜだ……なぜ当たらない……
あのスピードは本当に人間業じゃないぞ……
スタンドか?いや、どこにもスタンド像が無い。

「動きを止めたなァァァァッ!
そこだァァァ死ねェェェッ!」

なんだと……?速度が上がった……?
僕は死ぬのか?
216 ◆Osx3JMqswI :2012/01/21(土) 18:21:46.07 ID:iFCv60de



「ムー…………ディー……ブルー…………ス……
ガハッ……ッ!」

男の拳は人型のスタンド像を突き破って止まり、それと同時に倒れ伏していた男の胴体にも大きな穴が開いた。

「今……だ…………攻撃を……当て……ろ…………」

スタンド像は男の腕を押さえつけている。

「ありがとう。
これであいつを倒せるよ……『ヘブンズ・ドアー』ッ!」



男は動きを止めた。





キャアァァァァァァァァッ!

悲鳴が空を包んだ。


217 ◆Osx3JMqswI :2012/01/21(土) 18:22:56.12 ID:iFCv60de

満身創痍の彼はもう長くないだろう。
こんな時になんであのクソッタレ仗助はいないんだッ!
せめてもの手向けだ……倒した証でもみせてやるか…………
僕はそう思って男の本を手に取った。
すると、奇妙な文字列が並んでいた。
それは、アラビア語だとかロシア語だとかそういう意味での奇妙じゃあない。

人間を喰った?

とても直視できないような、無惨で胸糞悪い記憶。
だが、僕は気づいてしまった。
この行為を犯せば、人道的に、倫理的に批判されるだろう。
だが、無差別殺人犯を生かして、子供を助ける人間を殺すなんてそんな事はできない。
可能性があればやるべきじゃないのか?



罪は僕が背負う。



そうして僕は男に命令を書き込んだ。


  ★


「ろ、ろ、ろ……はん…………せん……せい?」

「あぁ、千帆さん。やっと目を覚ましたか。
何で驚いているかはだいたい分かっている。
この男の事だろう。」

彼、岸辺露伴は、レオーネ・アバッキオの脳をエシディシの体内に移植した。
柱の男の力を使い、レオーネ・アバッキオの脳を神経系に繋げ、その後、エシディシ自身にエシディシの脳を『喰わせた』。
気を失ってはいるが、呼吸や脈は落ち着いている。
と、ここまで話した所で、双葉千帆が怒声を上げた。

「どうしてそんな事できるんですか!
元の体の人……エシディシさんだって生きてた!
なのに……どうして…………」

岸辺露伴が反論しようとした時、声を荒げて川尻早人が話し始めた。
218創る名無しに見る名無し:2012/01/21(土) 18:23:49.11 ID:WnXVva9K
これは予想外!
支援
219 ◆Osx3JMqswI :2012/01/21(土) 18:24:03.16 ID:iFCv60de

「お姉ちゃんはさぁ!甘いんだよ!
ぼくの周りでは、たくさんの人が死んだ!
パパだって死んだし、露伴先生だって何回も死んだ!
今さら殺人鬼が死んだ所でなんだっていうんだよ!
お姉ちゃんなんてさぁ!一緒にいても足手まといだよ!」

「早人君、流石に言い過ぎじゃないか?」

双葉千帆は涙目になりながらつぶやく。

「……そう……ですよね。
私……甘くて…………こんなんじゃ……一緒にいる資格…………無いですよね。
短い間でしたけど、ありがとうございました。」

そのまま双葉千帆は遠くへと走っていく。

「さ、露伴先生、準備しましょう。」

「あ、あぁ……そうだな。
にしても、千帆さんはどうしよ「気にしなくて良いと思いますよ、足手まといは。」


  ★


彼らが道を間違えたかどうかは俺は知らない。
でも、彼らはみんな選択した。
その上で、エシディシの命が奪われた。
このゲームは殺し合い。
エシディシが死んだ事で、大勢の命が助かったかもしれない。
エシディシが死ななければ、助かった命があったかもしれない。
でも、俺も彼らもそんな事は知らない。
誰の選択が正解だったのかは、これまでの一連の流れを見た君たちに任せる。



川尻早人を助けたレオーネ・アバッキオ。

岸辺露伴に出会った川尻早人。

エシディシを殺した岸辺露伴。

三人から逃げ出した双葉千帆。



四人の選択。
一人の犠牲。

罪深き者達は何処へ向かう。



【エシディシ死亡 残り○○人】

220 ◆Osx3JMqswI :2012/01/21(土) 18:25:13.14 ID:iFCv60de

  ★


【E-7 杜王町住宅街 北西・1日目深夜】


【川尻早人】
[スタンド]:なし
[時間軸]:四部終了後
[状態]:健康  漆黒の意志:小
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:ママを守る
1.本物の杜王町への手がかりを探す
2.アバッキオさん、露伴先生ありがとう


【岸辺露伴】
[スタンド]:『ヘブンズ・ドアー』
[時間軸]:ハイウェイ・スターに「だが断る」 と言った直後
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜 2
[思考・状況] 基本的思考:千帆が書いた作品を漫画に描きたかった
1:ネタ集めは続ける
2:ゲームには乗らない
3:アバッキオ、すまない
4:川尻早人には多少警戒する
5:承太郎さんが死んだ?


【レオーネ・アバッキオinエシディシ】
[スタンド]:『ムーディー・ブルース』
[時間軸]:JC59巻、サルディニア島でボスの過 去を再生している途中
[状態]:気絶
[装備]: 柱の男の肉体
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考・状況] 基本行動方針:チームと合流し、ボスを倒 し、『任務』を全うする
1:新しい体に慣れなくては……
2:余計なことをする気はないが、この『川 尻浩作』には要注意だな……


【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:健康 不安
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜 2
[思考・状況] 基本的思考:この現実を小説に書きたかった
1:露伴先生があんな人だったなんて……
2:ゲームに乗る気はない
3:琢馬兄さんもこの場にいるのだろう か……?
4:川尻早人君だけ……雰囲気が違った
221 ◆Osx3JMqswI :2012/01/21(土) 18:27:07.16 ID:iFCv60de
以上で投下終了です
タイトルは『Break My Body/Break Your Soul』
です
感想・指摘等宜しくお願いします
222創る名無しに見る名無し:2012/01/21(土) 18:31:53.76 ID:WnXVva9K
投下乙です。
アバッキオ死んだなー、と思ったら、まさかのエシディシBODY
作家組の解散は残念だなー
読めなかった展開に興奮が収まりません。これから先どうなるのか、全く読めないです。

特に問題点はないと思いますが、早人があっさり闇落ちしてるかなと
2ndは数多くのフラグを消化して至った訳ですし
「黄金の精神」ブレイク早くね?と思いました。
223 ◆Osx3JMqswI :2012/01/21(土) 19:24:12.96 ID:iLu6cL52
その点についてですが
漆黒の意志:小←片足つっこんでるかつっこんでないかくらいに思ってください
一過性のものにしてくださっても結構です
甘ったれてる千帆が多少ムカついた程度に取ってもらっても結構です
あくまでも、漆黒の意志:『小』です
というより、漆黒の意志:小自体がフラグとして挿入したものなので、なにとぞご容赦願いまする
224創る名無しに見る名無し:2012/01/21(土) 22:36:58.68 ID:JbSZBRuG
まさかのエシディシ敗北…読みながら思わず叫んでましたw
ヘブンズ・ドアーの有効活用といえばそうなんですが、「その発想はなかった」状態です

気になった点としては
アバッキオはエシディシの体に乗り換えたわけですが、柱の男の特性(太陽・波紋に弱い、身体能力、吸収能力等)は引き継いでるんでしょうか?
今後の書き手様に任せる状態でしたらすいません
225 ◆Osx3JMqswI :2012/01/21(土) 22:47:20.99 ID:ZZH/SMX8
肉体的特性(太陽・波紋に弱い)も残っています
吸収などはコツを掴むまでできない方向でお願いします
226創る名無しに見る名無し:2012/01/21(土) 23:17:52.97 ID:VQGlWeOg
投下乙です
自分が気になったのはアバッキオ関連ですかね
状態表に「新しい体に慣れなくては……」とありますが、彼は自分の体に起きた事を理解しているのですか?
それとも、理解する前に気絶してしまっているのですか?
そのあたりの描写が少し欲しいかなー…と思いました
227創る名無しに見る名無し:2012/01/22(日) 15:41:06.26 ID:1Q992SlE
言っちゃ悪いんですが全体的に端折りすぎているというか急すぎるというか
こういう展開をやるならもっと丁寧にやって欲しいってのが正直な感想です
228創る名無しに見る名無し:2012/01/22(日) 17:36:48.17 ID:sUMMD2in
というか一人称なのに視点が変わり過ぎてて、よくわかんなかった
代名詞も多かったし
話が短かったから脳内変換でなんとかなったけど、長かったら厳しかった
>>226
なので、これ以上の描写を求めるのは酷な気もする
読者にとっても
229創る名無しに見る名無し:2012/01/22(日) 18:02:12.91 ID:RgFSI5PY
千帆もメンタル弱過ぎな気もしますね。
なんだかんだであの後、家放火したりしてる訳ですから
後は「どうしてこんな事できるんですか」も筋が通ってない。その事に関して説明もない
エシディシが何してるかは目の前で見てる筈なのに

展開は斬新で面白いですけど、文章の飛び飛び感が否めないです
230創る名無しに見る名無し:2012/01/22(日) 19:53:12.03 ID:Ag9oKuDw
エディシ本に書き込んで脳ミソ交換させちゃった露伴先生の思考回路がぶっ飛び過ぎてるから「「どうしてこんな事できるんですか」ってドン引きしてんじゃないの?
231創る名無しに見る名無し:2012/01/22(日) 21:11:35.55 ID:YBEeNfdz
3rdはこういう作風でいいんじゃね
こんな展開多いしさ
232創る名無しに見る名無し:2012/01/22(日) 22:23:11.01 ID:Ag9oKuDw
ディオみたいに首ごと交換のが簡単じゃね?
233 ◆c.g94qO9.A :2012/01/23(月) 01:06:12.21 ID:zycD4fnW
投下します。
234 ◆c.g94qO9.A :2012/01/23(月) 01:07:25.57 ID:zycD4fnW
細い路地を何本も抜け、急カーブを曲がり切り、行く当てもなくさまよっていた救急車がゆっくりと速度を落としていく。
やがて人気のない大通りにつくと、運転手は当たりに人気がないことを確認し、車を止めた。
ずっと張りつめていた神経を緩めると、少しだけ疲れた様子で息を吐く。ハンドルから手を離すと座席に体を預け、エルメェス・コステロはゆっくりとバックミラーに視線を投げかけた。

細く涸れ果てたような身体は小刻みに震えていた。耳を塞ぎたくなるようなすすり泣きが車内に響き、たまらず彼女は視線を落とす。
老人は泣き続けていた。人目もはばからず、車内に自分以外に誰かがいることなんぞ忘れたかのように、みっともなく泣いていた。
遺体に覆いかぶさり、その胸の上で涙を流し続ける。胸中に湧き上がる想いは形を成さない。ただただ、悲しかった。ジョージ・ジョースターの死が受け入れらなかった。

そんな様子を見ているエルメェス。彼女も辛かった。胸が締め付けられ、唇を噛みしめたくなるような痛々しさ。
いたたまれない様子に彼女はどうすることもできない自分を呪った。どうすることもできないことが一番だとはわかっていても、そんな自分が恨めしかった。

ゆっくりと、時間が止まらないのと同じように自然なほど、やがて老人の涙も涸れ果てた。身体を起こすと改めて目の前の男の顔を眺める。
まぎれもなく、それは彼が知っているジョージ・ジョースターU世だった。ロバート・E・O・スピードワゴンの親友にして恩人の、ジョナサン・ジョースターの息子のジョージだった。
スピードワゴンは呆然とする。ジョージの死を理解することはできたとしても、目の前の事実は受け入れらなかった。
死んだはずのジョージを目の前で亡くす。そんなことが実際起きたとは到底思えない。しかし、実際に起きているではないか。彼の目の前で、彼の腕の中で消えて行ったものがニセモノであるはずがあろうか。
混乱と消失を前に、彼は唖然とする。間抜けヅラもいいところだ。けれど彼にはそうするしかなかった。そうすることしかできなかった。

「大切な人だったのか?」
「……ああ」

運転席から離れ、隣に座った女性が突然問うた。スピードワゴンは上の空で返事を返す。泣き叫びすぎたのか、その声はしゃがれていた。
無気力感に襲われ、何も手につかず、その場にただ座るスピードワゴン。魂が抜けたかのような様子を眺めていたエルメェスだったが、目線を外しゆっくりと遺体に向き合った。
血のついた首元をガーゼで拭いてやる。それ以上血が垂れ落ちないよう、簡単な処置を施した後、綺麗に包帯を巻いた。
次にキャリーから力なく垂れ下がった腕を持ち上げ、胸の前で組ませるようにする。乱れた服装と、髪の毛をサッと整え終わると、エルメェスは寂しげに微笑んだ。
整った顔立ちは美しく、一目には眠っているようにしか見えない。凛々しい眉と快活そうな顔から生前は誰からも好かれたんだろうな、とエルメェスは思った。

「……ありがとう」

慈愛に溢れたエルメェスの行動に、スピードワゴンはまた涙がこみ上がってきたのを感じた。
涙を誤魔化すように頭を下げた彼、エルメェスはなんでもないと言いたげに顔の前で手を左右に振る。
235 ◆c.g94qO9.A :2012/01/23(月) 01:11:13.01 ID:zycD4fnW


「別にどうってことないぜ。それより……この人のために、祈ってもいいかい?」
「ああ、いいとも」

死者に祈りを捧げる女性。その横顔を見ながらスピードワゴンは想いを馳せる。
どうして彼だったのか。死ぬのがこのおいぼれだったらどれだけいいことだったか。
この親切で想いやり溢れる女性とともに、今いるべきはジョージのはずだというのに。どうして自分が生き残ってしまったのだろう。
込み上げてきた感情は今までとは違ったもの。どうして自分が、どうしてジョージが。そんな理不尽さに、運命の意地悪さを老人は嘆く。
生き残ってしまったことをずっしりと肩に感じる彼。自分はどうすればいいのだろうか。一体何が起きているのかすらわからない、この自分に何ができるのか。

どうして、どうして、どうして。祈りを捧げる彼女を見ていた彼、いつしか自分も膝をつき祈りをささげる。
この私に何ができるというのか。このおいぼれて無力で、死ぬべきはずだった自分をどうして生かしたのか。
死ぬべきはこの私のはずだ。ジョージでもなく、ジョナサンでもなくこの私こそが、死ぬべきはずだったというのに!

湧き上がる罪悪感、行方を持たない悲しみ。それは懺悔だった。生き残ってしまったことが罪である自分への謝り。涸れ果てたはずの涙が頬をぬらす。しゃがれた声が喉を震わす。
二人は黙って祈りをささげた。涙を流し、許しを乞う老人を支え、エルメェスは彼が落ち着くまでずっと傍らに寄り添っていた。




236 ◆c.g94qO9.A :2012/01/23(月) 01:13:49.32 ID:zycD4fnW
リサリサは建物の角からほんの少しだけ顔を覗かしていた。車内の人物が振り向いたら見えるであろうギリギリだけ、姿を露わにしていた。
殺し合いに乗るとなった以上、足になり得る車は確保したい。だからといっていきなり襲いかかるのは軽率だろう。
確かに奇襲も一つの選択肢ではあるが、利用できる人物がいるのであれば、むやみに戦いを引き起こすようなことは賢明と言えない。
危険は最小限に、博打は勝てると確信できたときのみ。リサリサは『待ち』を選択した。何も眼についた人物全て殺しまわるほど、彼女は耄碌していなかった。

救急車が止まってからしばらくの間、変化は見られなかった。押し殺した声が途切れ途切れに聞こえるも内容はわからない。
声の調子から中にいる人数は複数あろうと推測する。少し厄介なことになるわね、彼女はそう考えるも立ち去るようなことはしなかった。
やがてすすり泣きのような音が消え、我慢強いリサリサも焦れ始めたころ、ようやく動きが見えた。
車の後部が上に開き、ゆっくりと出てきたのは彼女の知り合い、ロバート・E・O・スピードワゴン。

「リサリサ……そこにいるのか?」

少しの間、彼女は悩んだ。スピードワゴンは利用に値する人物だろうか。殺してしまっても問題ないであろうか。
スピードワゴンが一人でないことも彼女を悩ます要素になった。よろよろと、今にも倒れそうになった老人を支え、傍らに立つ女。
身のこなしは到底波紋使いには及ばないが、修羅場馴れしているのであろう、この状況でも冷静さを失うことなく辺りを警戒している。同時に始末するとなれば手を焼くかもしれない。
リサリサは闇に姿を隠し、しばらく考えた。そして答えを出した彼女は顔をあげ、ゆっくりと姿を現した。

「こんばんは、スピードワゴンさん」
「リサリサ……!」
「立ち話も何だから車の中で話しませんか? こうしている間も、誰かに見られているとしたら危険だわ」
「ま、待ってくれ、リサリサ!」

スピードワゴンはまさか自分が殺し合いに乗っている何ぞ思いもしないだろう。無造作に彼らに近づいていくリサリサ。そんな彼女をとどめるように、スピードワゴンはなんとか言葉を捻りだした。
街灯がはっきりと互いの姿を映す。光に照らされた自分を見て絶句するスピードワゴンを見て、なんだろうか、純粋にそう彼女は不思議がる。
問いかけるような姿勢を受けたスピードワゴンも、いざ説明しようとすると何から話せばいいのやら、混乱が襲う。
ただ彼は混乱の中でも、驚いていた。氷のように冷徹で、如何なる事件が起きようとも顔色一つ変えないリサリサ。そんな彼女であろうと、人間であり、母親であるはずだ。
であるならば……スピードワゴンは口ごもる。
彼女は何も感じなかったのだろうか。平然と受け入れられたというのだろうか。自らの息子の死すら、この女にとっては日常の論ずるに値しない出来事なのであろうか。

数メートル離れた場所で立ちつくすリサリサに向け、彼は口を開く。意を決して話しだしてしまえば、後は勝手に口が動いていた。

「リ、リサリサ! 君は見ていなかったのか、あの最初のホールで起きた、あの事件を!」
「……何のことかしら?」
「……首輪だ! 私たちにつけられている、この首輪の力を見せつけるかのように、最後壇上にいた三人の首輪が爆発した!
 その時の三人の顔を……君は見ていなかったのか?」
「いいえ、見てたわ」
「な、ならば君は……―――ッ!」

次の言葉を、スピードワゴンは飲み込んだ。背中を氷柱で貫かれたような寒気が彼を襲った。その根源は、今目の前にいるリサリサ。
何を考えているのか、まったくわからない。底の知れなさが老人の恐怖を掻き立てる。
悲しんでいるならば、彼女だってそれを見せていいはずだ。怒りに震えているならば顔をくしゃくしゃにし、地団太を踏んでいいはずだ。
だが、まったくの無。これは一体……?
237 ◆c.g94qO9.A :2012/01/23(月) 01:17:11.61 ID:zycD4fnW


「何も感じてないと言えば嘘になるわ。ジョセフは私の息子……長い間会ってなかったとはいえ、それ変わることない事実。
 本当のことを言うと、今こうしているのもギリギリなの。緊張が途切れたら自分がどうなるか、それはわからないわ。
 でも確かに言えることは、今はなるべく息子の事は考えたくないということ」

本当にそうだろうか? 何が原因もわからない、嫌な汗が額から流れ、スピードワゴンの額を滴り落ちる。
おかしい。こんなことが、ありえるのだろうか。
実の息子でなく、血のつながりのない自分ですら、ジョージとジョセフの死を受け入れられない。わかってはいても、理解しようとしてもまだ辛い。
泣き叫び、地面を叩き、神を呪いたくなるほどだ。いったん落ち着いたのもつい先ほど、横にいるエルメェスに諭され、なんとか我を戻したというのに。
このリサリサの余裕は何だ。普段と変わらない落ち着きは何だ。そして……身体が勝手に震えだす、この、張りつめた空気は、一体なんだ……?

「とにかく、車の中に入っていいかしら。人を探してあちこち歩き回ったから少し座りたいの」
「リサリサ、そ、それは……!」

彼は怖かった。知っていると思い込んでいた目の前の女性の存在が怖かった。そしてそんな彼女が息子だけでなく、夫の死をも直面することがあったら、一体どうなってしまうのか。
いいや、正直に暴露すると、彼は『どうかなって欲しい』と願った。この冷血漢の仮面が剥ぎ取れるところを見ることができれば、彼も安心できたはずだ。
ああ、リサリサも人の子だ。私と同じように、ジョセフの死を悲しみ、旦那の遺体を前に混乱しながらも涙を流せる、人間だと。
だが、それ以上に彼は怖かった。直感ともいえる何かが彼に問いかけていた。
想像の中でリサリサは眉一つ動かさず、夫の遺体を見下ろす。
申し訳得程度の慰めの言葉を口にし、街へと繰り出すよう彼らに提案するリサリサ。そんな彼女を、彼は見たくなかった。


次の瞬間、スピードワゴンは何が起きた理解できなかった。ただ彼が最後に見た光景は、こちらに足早に近づくリサリサの姿。
いくつも空気が動く音、短い叫びと、衣擦れ。自分が突き飛ばされ、固い地面に打ち付けられたとわかったのは、少し後のこと。
切り裂くように迫った手刀と背中を押す力強い腕。宙を舞う自分の体。横たわったまま、今起きた事をもう一度反芻し、彼は自分の身に何が起きたようやくわかった。

「リサ、リサ…………?」
「……オッサン、車にのりな」
「……な、ぜ?」
「早く行きやがれ、このトンチキッ 身体言う事きかねェってならアタシが無理矢理にでも放り込んでやろうかッ?
 アア? いいから黙って、早く車に乗り込みやがれッ ほら、起きろッ」
「リサリサッ! なんでだ、何が起きたんだッ! 一体どうなってるんだ! どうして君が―――」

胸ぐらを掴まれたスピードワゴンの頬に走る鈍い痛み。一度目で目から火花が散り、返しの二発目で完全に眼が覚めた。
焦点を戻した世界にうつったのは、険しい顔のエルメェス・コステロ。顔は怒り一色に染まっているというのに、その瞳だけが悲しげに彼に注がれていた。

「ほら、行けよ、スピードワゴンのオッサン……」
「…………」
238 ◆c.g94qO9.A :2012/01/23(月) 01:17:43.52 ID:zycD4fnW


言葉を失ったまま、よろよろと彼は立ち上がった。後ろを振り返らず、ストレッチャーに横たわる遺体も見ず。
手をつき、軋む足を無理やり動かし、なんとか辿り着いた運転席。一瞬だけ挙げた視線がフロントミラーに注がれる。
対峙する二人の女性。リサリサは相変わらず無表情。エルメェスはこちらに背を向け、その表情は読めない。

一息の沈黙の後、路地にエンジン音が響いた。救急車が車体を震わせ、出発の準備を整える。
ゆっくりと進みだした車。向かい合う女たちは睨み合いのまま、一歩も動かず、動かさず。
やがて白い車体が暗闇に消え去り、最後に一度だけ、バックライトを赤く灯すと、その影は闇に紛れ……見えなくなっていった。





239 ◆c.g94qO9.A :2012/01/23(月) 01:20:44.17 ID:zycD4fnW
エルメェスは怒っていた。湧き上がる怒りに爆発しそうなぐらい、彼女は怒っていた。
ほんの少し前の車内の様子が蘇る。70に近い年の男が、自分のような小娘を前に感情を隠すことなく大泣きしていた。
自分の身を切り裂かれたような悲痛な叫び。どうしようもなく、ただただ涙がこみ上げて仕方ない、そんな感情を彼女は知っていた。
泣き疲れた後の呆然とした老人の様子が、エルメェスの心を抉る。呆気にとられ、魂が抜けた様に座り込む彼の姿は、肉親を亡くした時のエルメェス自身の姿にかぶって見えた。
薄暗い救急車の中でうずくまる老人の中に、彼女は自分自身を見た。グロリアを失った時の自分がそこにはいたのだ。

彼女は怒る。この悲しみを生んだ理不尽さに怒る。家族を引き裂く運命に怒る。大切なものを奪い取る全てに、彼女は怒っていた。


「……なんか言うことねェのかよ?」
「…………」


キッスが弾き飛ばしたサングラスを優雅なそぶりで拾い上げるリサリサに問う。
彼女は問いを無視し、再びその眼は暗闇に隠れてしまった。エルメェスのスタンドがつけた額の傷をそっと撫で、指先についた僅かな血を眺めた。
傷が浅いことだけを確認するとリサリサは興味なさげに、ポケットに手を伸ばした。


「なんでオッサンを殺そうとした」


咥えた煙草がさかさまになっていたことに気付き改めて咥えなおすと、彼女はライターを取り出し、火をつける。
沈黙の中、タバコが焦げる音が仰々しく響き、煙がゆっくりと立ち上る。妙齢の美人は満足げに煙を吸い込むと、大きく息を吐いた。


「あのオッサンとは知り合いじゃなかったのかよ」
「…………」
「なんでアンタは殺し合いなんかに乗ってやがる」
「…………」
「そんなに命が惜しいのかよ……自分の息子が殺されてるのによォ!」
「…………」


しばしの沈黙。エルメェスの体が震える。リサリサが髪をかきあげた。


「てめえ、それでも……母親か――――ッ!!」
240 ◆c.g94qO9.A :2012/01/23(月) 01:21:34.13 ID:zycD4fnW

リサリサが咥えていたタバコを勢いよく吐き出した。宙に舞ったタバコがくるくると回転し、地に堕ちる。
目前に迫った拳を難なくかわすと、お返しとばかりに波紋を練った右蹴りをエルメェスの体目掛け、叩き込む。
反撃を予期していたのか、交差された腕に攻撃は防がれ、二人の力がそこで拮抗する。
腕越しに怒りに震えるエルメェスが睨みつける。顔色一つ変えないリサリサの視線はどこに向いているのかわからない。
両者同時に飛び跳ねる。再び宙で交差する拳と拳、鈍い音をたてぶつかり合う蹴り、ミシミシと音をたてる腕。



これより先、ブレーキ不能。両者後に引けず、顧みず。戦いの火ぶたは切って落とされる。
マグマのような熱き怒り。氷のように凍てついた覚悟。ぶつかり合うは互いの意志。譲れない想いを拳に、蹴りに。語り合うは己の体で。



そう、この戦いは女の戦い。一歩も引けない ――― 『女の世界』。



241 ◆c.g94qO9.A :2012/01/23(月) 01:22:27.37 ID:zycD4fnW




一台の救急車が夜道を走っていた。ふらふらと、今にも力尽きそうなほど弱弱しく走る白い車はそのまま速度を落とすと力なく止まった。
最後にプスン、と情けない音を吐きだし、震えていた車体が静止する。静寂の中での唯一の音源がなくなり、辺りは暗闇と沈黙に再び包まれた。
ハンドルを握っていた老人はガラスに浮きあがった自らの顔を見る。顔中皺が寄り、髪の毛の色はあせ、ギラギラと輝いていた目はすっかり鳴りをひそめている。
年相応の表情を改めてみて、彼は狼狽した。
自分が老いたことは重々承知していたつもりだった。もはや若くない、隠居すべきだ、何度となく投げかけられた言葉を彼は突っぱねてきた。
その結果がこのざまだ。ツケが一気に清算を迫ってきたというのならば、なんということだろう。

息子当然にその成長を見守っていた二人のジョースター。必ず守ると誓ったはずのエリザベス。
全てこの手をすり抜けてしまった。全ての歯車がおかしく狂ってしまった。誰かがこの運命を仕組んだとしたら、なんと悪趣味な台本か。
残酷なほどに自分の無力さをつきつけられ、スピードワゴンは呻いた。自らの無力さ、何もできない自分自身を呪った。
運転席に座った老人が両手で自らの顔を覆う。噛み殺した叫びが車内に広がっていく。

そこには老人がいた。繁華街の路地裏を我が物顔で歩くチンピラでもなく、石油を求め野心に溢れた男でもなく。
どうしようもなく、無力で年相応の、ちっぽけな老人。萎びれ、涸れ果てた男の末路。
悲痛な声が道路に響く。絶望に染まった叫びは夜空を揺らし、彼はどうしようもなく、ただ叫んだ。


―――微かな灯りが照らし出すビル群。頂上の影に紛れ、救急車を見下ろす小さな影。


なにをするわけでもなく、ただ眼前にある白い車をじっと見つめる影。
いつまでも途切れることのない叫びをただ黙って聞いていた。絶えることのない呪いの言葉を彼女は一体どう感じたのだろうか。
見つめる影、響く叫び。夜はふけていく。太陽が昇るまで、残り数時間……。




              to be continue…………

242 ◆c.g94qO9.A :2012/01/23(月) 01:23:41.55 ID:zycD4fnW
【B-2カイロ市街北東 /1日目 黎明】
【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前。
[状態]:健康、怒り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:リサリサをなんとかする。 絶賛怒り爆発中。


【リサリサ】
【時間軸】:ジョセフの葬儀直前。
【状態】:健康
【装備】:承太郎のタバコ(10/12)&ライター
【道具】:基本支給品、不明支給品1
【思考・状況】基本行動方針:優勝してジョセフを蘇らせる。
1:目の前の女を処分する。
2:逃げられたスピードワゴンを仕留めたい。なるべく自分がノッたことは隠したい。
3:足となる救急車は魅力的。できるならばGETしたい。





【B-3カイロ市街北西 / 1日目 黎明】
【ロバート・E・O・スピードワゴン】
[スタンド]:なし
[時間軸]:シュトロハイムに治療され、ナチス研究所で覚醒する直前
[状態]:混乱、絶望、悲しみ、唖然
[装備]:救急車
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:???
0.私はなんて無力なんだ……。
1:何故ジョージが……? 何故なんだ、リサリサ……?そして最初の場所で殺されたのはジョセフ……?
[備考]
※救急車内に、ジョージ・ジョースターU世の死体及び支給品類有り。


【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2(確認済み/武器ではない)
[思考・状況] 基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ。
0.???
1.主催者のクソジジイ、探す、殺す。
2.邪魔する奴、容赦しない。
[備考]
参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。
243戦う女と泣けない復讐者 ◆c.g94qO9.A :2012/01/23(月) 01:25:42.67 ID:zycD4fnW
以上です。何かありましたら指摘ください。
エルメェスの参戦時期を決定しておきました。続きを書かれる後続の書き手さんはご注意を。
あと自分喫煙者じゃないんでわからないんですけど、タバコって一箱12本入りでしたっけ。どうだっけ。
244創る名無しに見る名無し:2012/01/23(月) 02:44:27.83 ID:kQG1YM2a
20本入が主流で次いで多いのが10本入、50本入の缶煙草なんてのもある
逆に12なんてあるのか?
245創る名無しに見る名無し:2012/01/23(月) 17:46:09.54 ID:viyD+Elc
1ダース=12だからなんとなくそう思ったんじゃないかな?
よく大きさ比較で使うサイズの箱は20本入りです
スタンダードな煙草=20本入りって認識で問題ない


>>241
>息子当然にその成長を見守っていた二人のジョースター。
息子同然にry
246 ◆nRfUS8aewTFB :2012/01/26(木) 16:57:52.26 ID:M66kgZ/m
ティッツァーノ、プロシュート、マジェント・マジェント、投下します
247 ◆3uyCK7Zh4M :2012/01/26(木) 17:24:01.83 ID:M66kgZ/m
トリップの付け方を間違えていました…
したらばでの◆phRcHHD3bQです。
今から改めて投下します。
248 ◆3uyCK7Zh4M :2012/01/26(木) 17:26:38.42 ID:M66kgZ/m



独りで暗闇の中を歩いていると、どうしても重い考えばかり浮かべてしまうものだ。
声をかける者がいないという恐怖は、予想以上に精神を侵食する。



ティッツァーノは暗い病院内を歩き続けていた。
人の気配のない、恐ろしくなるほど静かな空間。あの上院議員はどうなったのだろうか。
先の戦闘であのマヌケな化け物に噛み千切られた傷が痛むが、戦えないほどのものではない。
止血と消毒をして包帯を巻いた。だが、その腕の傷は、今までのどんな傷よりも痛いように感じる。
これ以上の怪我なら幾らでも負ったことがある。
全身をマシンガンで撃ち抜かれる痛みだって知っている。つい先程味わったばかりなのだから。
だが、その時には必ず彼がいた。

自らのスタンドの非力さなど、自分が一番よく分かっている。
ただ、それは「トーキングヘッド」の力をよく理解しているからこそ思えるのであって、その能力を否定している訳ではない。
しかしこのバトルロワイヤルという狂った状況下では、単純な戦闘能力が皆無というのは痛いハンデだ。
もちろんギャングという職業上、身体はある程度鍛えてある。
だがそれがここではあまり意味をなさないと、知ったばかり。銃だって何時かは弾が切れる。

それに加えてあのヌケサクの言葉が気にかかる。
『吸血鬼』『DIO』―――。
そんな化け物が本当に存在して、このバトルロワイヤルに参加していたら……。
自分は幸運だったのかもしれない。最初に出会ったのは、錯乱した無力な男。
次に出会ったのは不死身と自称する奇妙な奴だったが、万全の策で挑むことが出来たし、脳ミソの足りないアホだった。
しかし、ホールで見たあの人数。自分より頭が切れる者も、強力なスタンドを持った者もいるだろう。ましてや、吸血鬼など。

ふらふらと病院の廊下を歩いていたティッツァーノは、右手を自然と壁につけていた。それと同時に足も止まる。

「スクアーロ、君がいてくれたら……」

ティッツァーノの声は、自らの耳にのみ届いて消えた。
らしくない。スクアーロと一緒にいた時、冷静なのはいつも自分だった。
だが独りになった途端、こんなにも不安に襲われるなんて思っていなかった。
ふと、最後に見た相棒の目を思い出した。強い瞳だと、自分がいなくても彼はナランチャを殺すことが出来ると確信したあの目。
祈ろう。彼がここにいない事を。万が一ここに呼び寄せられていたとしても、生き延びられることを。

次にティッツァーノが歩き出した時、もう既に迷いはなかった。彼はただ、相棒を探し出すだけだ。



しかし迷いは断ち切ることは出来ても、不安は心臓に延々と絡みつく。
孤独とは、暗闇とは、そうさせるモノなのだ。


249 ◆3uyCK7Zh4M :2012/01/26(木) 17:28:00.99 ID:M66kgZ/m
※※※



人間二人以上集まれば、どうしてもそこには「性格が合うか合わないか」とか、「好きか嫌いか」という問題は浮上してくる。
特に、ピリピリとした状況下では顕著なもので。
プロシュートも、今まさにその問題に直面していた。



「だからよォ〜〜〜、何でいつまでもこんな所でぼけーっとしてんだ?
さっさと地上に出て、オレたちのターゲットを殺ればいいだろォ!」

プロシュートは岩の上に座り込んでいる。
その背後にはなぜか大破した巨大な飛行機。
そして目の前にはイライラと騒ぐ、仮の相棒マジェント・マジェント。

僅かな戦闘の後協力体制を敷くとこになった二人は、とりあえず落ち着いて策を練るとこにした。
地図を開き、もう少し細かく互いの状況を確認し、考察を深める……。
と、そんな落ち着いたことをしていられたのも最初のうちだけで。しばらくするとマジェントは、こんなタラタラやってられるか!と騒ぎ始めたのだった。
どうやらこの男、知的な作業には向いていないらしい。
プロシュートは広げて持っていた地図を片手にまとめると、眼前に立つマジェントを半ば睨むように見上げた。

「……いいか?マジェント……。
この地図にはどうやら地上の様子しか描かれていない、そして此処は地下のようだって話はしたよなァ?」
「ああ」
「じゃあ此処が何処だかも分からないこの状況、迂闊に飛び出すのは危険だって話は?聞いたはずだよな」
「地上に出れば位置だって分かる」

プロシュートは、血管が浮き上がりそうになるのを必死で堪える。
こんなに苛立ちを我慢するのは自分らしくないが、せっかくの協力者を逃がすことは避けたい。
だが、マジェントはよくこのロワイヤルの危険を理解していないようだ。
どんな敵が何人いるのかも、主催者の目的も分からない。そんな状況で簡単に行動することは、ただの自殺行為だ。
確かに、マジェント・マジェントのスタンドは強力。
恐らく「負けることはない無敵のスタンド。」だが、本人にあまりにも油断が多すぎる。
半ば強いスタンドを手に入れたせいで、慢心しているのかもしれない。

未だ文句を言い続けるマジェントを見て、プロシュートは弟分を思い出す。
ペッシは無事だろうか、ヤケを起こしてなければいい。とにかく、さっさとアイツを探し出す。
早く早くと急ぐ気持ちはプロシュートも同じなのだ。
しかし、そのためにも「確実に生き残る」ための手段を慎重に考えなくてはならない。
プロシュートは自分が地図を握り込んでいる事に気がつく。
ため息をついて手を緩めるが、クシャクシャになった地図はそのままだった。

「オレにはどうしても許せない奴がいるんだよッ!ジャイロもジョニィも許せねえがアイツらは二の次だ。
俺はよォ、俺を裏切ったウェカピポの野郎だけは絶対に許せねーッ!」

眼帯に覆われた左目を掻きむしりながら、マジェントは激高する。
許せない奴がいる、という気持ちはプロシュートもよく理解している。
しかし、マジェントがこういう状態なら尚更自分は冷静にならねばならない。

「絶対に、絶対にアイツをぶっ殺してやるッ!」
250 ◆3uyCK7Zh4M :2012/01/26(木) 17:29:13.51 ID:M66kgZ/m
と、考えていたのも昔のこと。
一瞬で立ち上がると、プロシュートは地図を持っていない右手で、マジェントの襟首を締め上げていた。

「……え??」

あまりに突然の行動。マジェントは両手を上げて呆然としていた。
プロシュートは丸めた地図でマジェントの頬を軽く叩く。その迫力は言葉では言い表せないものだった。

「マジェントマジェントマジェントよォ〜〜〜」
「ひ、一つ多いんだけど……」

苦し紛れのマジェントの軽口も、プロシュートの耳には届いていないようだ。

「そういう言葉はオレたちの世界にはねーんだぜ……。そんな弱虫の使う言葉はな……。
『ブッ殺す』……そんな言葉は使う必要がねーんだ。
なぜならオレやオレたちみたいな殺し屋は、その言葉を頭の中に思い浮かべた時には!
実際に相手を殺っちまって『もうすでに』終わってるからだッ!だから使った事がねェーッ」
「へ?」
「マジェント、オマエもそうなるよなァ〜〜〜?
……ま、オレの相棒になるんなら、だけどな……」

プロシュートはそう言い捨てると、掴んだ襟首を離した。
マジェントはそれと同時に地面に座り込む。急に静かになった空間に、ドサリと音がした。
プロシュートとマジェントは、ギャングとテロリストとという違いはあれど、同じ殺し屋らしい。
だが、その信念と精神には大きな違いがあるようだ。この僅かな時間に、それは大きく表面化した。
プロシュートはマジェントに背を向けると、地面に置いたままだったデイパックを拾い上げてもうグシャグシャの地図を中に詰め込んだ。
しばらく呆然としていたマジェントは、その様子を見てようやく意識を取り戻した。

「な、何だよ……。そんなに怒ることないだろォ〜〜〜!?
分かったッ!もうぶっ殺すとか言わねッー!だから置いていかないでくれって!」

マジェントは慌てながらプロシュートの前に回り込む。
冷や汗を流しながらもへらへらと笑っているマジェントは、プロシュートの表情を窺っているようだった。
プロシュートはそんなマジェントを見てため息を吐く。
どうやら、コイツはペッシ以上の「マンモーニ」らしい。

「……飛行機の探索に行く。荷物持ってついてこい」

その言葉を聞いて、マジェントはデイパックを取りに走って戻る。

「性格が合わない。」
それがプロシュートの出した結論だった。


251 ◆3uyCK7Zh4M :2012/01/26(木) 17:30:29.44 ID:M66kgZ/m
※※※



ティッツァーノが病室の中に大きな穴を見つけるまでに、それ程時間はかからなかった。
至って普通の病室。その中心にぽっかり穴が開いている以外は他の部屋と変わらない。
そこまで深くはないが、暗い横穴が更に向こうへ続いていた。
彼は、その側にしゃがんで暫し考えを巡らせる。

自分は気がついたらこの病院にいた。気がついた瞬間は、おそらくゲーム開始の瞬間と一致するだろう。
それから多少ゴタゴタはあれど、ずっと病院内を散策していたのだ。
こんな大きな穴を開ける程の音を聞かなかったのだから、これは「最初から開いていた」と考えられる。
ただ、恐ろしいのはこれがスタンドによって開けられた罠という可能性だ。
この中に入った瞬間にいきなり殺される……なんてこと、あったらたまらない。
試しに病室にあった枕を投げ入れてみると、中に落ちただけでそのまま異変はない。
それから五分ほど病室の外から穴を見張っていたが、変化も起こらない。
もしも中に誰かいたとしたら、枕が落ちてきたのに無反応というのはおかしいだろう。何らかの手段で外の様子を知ろうとする可能性は高い。

非常に危険な賭けだとは分かってはいるが、ティッツァーノはその中へ入ることを決めた。
こんな見るからに怪しいもの、調べてみなくては仕方ない。
懐中電灯と拳銃を構え、じっと底を見つめる。

「では、行きましょうか」

自分を落ち着けるためにそう呟くと、ティッツァーノは軽やかに穴の中へ飛び込んだ。





横穴をしばらく進んだティッツァーノは、混乱の最中にいた。
『暗い穴の中を歩いていると思ったら、いつの間にか飛行機の残骸の中にいたーーー。』そうとしか言い様がない。
万が一に備えて懐中電灯の電気は消した。
翼が残っているおかげで何とか此処は飛行機の機内だと理解出来たが、とにかく酷い有様だ。
外には土の壁が続いていて、地下空間であることは確からしい。

(これも……何かのスタンド能力の一部か?)

地下に飛行機を墜落させる。こんな強力なスタンド使い、もしも戦闘になったらひとたまりもない。
だが逆に味方につけられれば、非常に心強いが……。と、言ってもこの状況では敵対する可能性の方が高いだろう。
元は壁だっただろう瓦礫の塊を触ってみても、何か違和感を感じることはなかった。
これ自体はスタンドではないのかもしれない。


252 ◆3uyCK7Zh4M :2012/01/26(木) 17:31:22.70 ID:M66kgZ/m
―――ガタン。



その音が聞こえた瞬間、ティッツァーノは急いで瓦礫の隙間に見を潜めた。
息を殺して耳をすませると、しばらくガタガタと音が続く。

「おお〜〜〜!これ……飛行機……!」
「おい……し…………ろ」

二人の男の声。片方は比較的大きな声を出しているが、もう一人は声を潜めている。
ティッツァーノは、自分の手が汗で滑るのを感じた。
この状況は不味すぎる。ベレッタ一つでどうにかなるだろうか?
男たちはなおも何か言いながら、がさがさとした音を立てていた。
ティッツァーノがゆっくりと顔だけ覗かせると、幸いにも二人組はコチラに背を向けていた。

黒髪と金髪。
黒髪の方は辛うじて残っていた座席に座っている。
金髪の方は瓦礫の中を捜索したいるようだ。
二人の会話を盗み聞きする限り、どちらもこの飛行機を墜落させたスタンド使いではないらしい。



ティッツァーノのそのほんの僅かな安堵も、金髪の男が振り向いた瞬間に消し飛んだ。
その男は、「ここにはいてはいけない人物」だったのだ。

―――プロシュート、暗殺チーム、裏切り者、ブチャラティたちと交戦、死亡済。

脳内に貯められていた情報がグルグルと回っていた。
ティッツァーノは荒くなりそうな息を止める。

(まさか……しぶとく生き残っていたとはッ!)

だとしたら、親衛隊である自分のすることは一つ。裏切り者には死。それだけだ。

だが、今の自分に奴を殺せるか?武器はこの拳銃だけ。
相手のスタンドは未知数。暗殺チームとはそういう奴らだ。
プロシュートは−−−いや、暗殺チームは一体どこまで知っている?
親衛隊の存在は?自分が親衛隊だと言うことまで割れているのだろうか?
それに、もう一人は?見たことのない顔だが?まさか暗殺チームにはまだ生き残りがいるのか?

(落ちつかなくては……焦ってはいけない)

ナランチャとの戦いでの敗因であった呼吸を一度整える。

―――覚悟を決めなくては。

この狭い機内、逃げ道はない。どうやったらあの横穴に戻れるのかは分からないのだ。
ここで交戦しても二対一では勝ち目はないだろう。
だったらここで取るべき行動は……。


253 ◆3uyCK7Zh4M :2012/01/26(木) 17:34:39.51 ID:M66kgZ/m
※※※



「嫌い。」
それがマジェント・マジェントの出した結論だった。もちろん、プロシュートに対する結論だ。
大体自分の方が常に正しいみたいな態度がムカつく。
向こうの方が年上のようだからと従ってやっていたが、いきなりキレられた。しかも全く意味不明。
瓦礫の上を登っていく間、二人はずっと無言だった。
プロシュートはピリピリと辺りに気を張っている。
マジェントはこれ以上奴を刺激しないように黙ったまま。埃に塗れたプロシュートの背中を、マジェントはじっと睨みつけていた。

だが、そんな不快感もけろりと忘れてしまった。
なぜならマジェントは、初めて入った飛行機の中の様子に興奮することで忙しいからだ。

「おぉ〜〜〜!これが飛行機の中か!」
「おいマジェント、静かにしろ」

機内に入ってみると、中は更にボロボロだった。
ほとんど元の状態を想像する事は出来ない。しかし、なぜか二席だけが綺麗に残されていた。
先を行くプロシュートは声を潜めている。
何もいる訳ないっつーの、と心の中で悪態をついたマジェントは鼻を鳴らした。

(そうだ、コイツは少しウェカピポに似ている。
いや、ウェカピポの方が真面目ちゃんって感じだったが、どことなく似ているような気がする。
例えば、その真っ直ぐな瞳とかがよォ……)

マジェントはまた急につまらないような心地になってしまった。
思い切りシートに腰を下ろすと、ぐぅっと背中を伸ばす。

「にしてもすげー有様だぜ……。誰がどうやってこんなことしたんだろーなあ?
これが本当に空飛ぶのかよ?もっと早く出来てれば、オレだってあんな目に……」

半分独り言のように呟きながら肘掛けを撫でる。それにしても気持ちの良い椅子だ。
大きくアクビをすると、今まで前の座席を何やら探っていたプロシュートが振り向いた。
条件反射のように、マジェントは身体をびくつかせる。

「何ぼけーっとしてやがる」
「い、いや……」

挙動不審に瞳を動かすマジェントを見て、プロシュートは本日何度目かの大きな息を吐いた。

「いいか、てめーのスタンドは油断しなければ絶対に負けることはない。ある意味で無敵のスタンドだ。
だからこそ、本体であるてめーの行動一つ一つが重要なんだ!
いいか、絶対に隙を見せるな……。
やれば出来るはずだ、オマエにもな」

プロシュートはそれだけ言うと、再び座席を探り始めた。
マジェントは座ったままでその背中を見ている。



第一印象というのは変わるものだ。案外あっけない、どうでもいいような理由でコロリと。
今この瞬間にその現象は起こった。

「分かったッ!任せろよォ〜。絶対に俺は負けないぜ!?」

マジェントはあまりにもあっさりと、プロシュートのことを好きになってしまった。
ただやれば出来ると言われた、それだけで。
254 ◆3uyCK7Zh4M :2012/01/26(木) 17:37:53.01 ID:M66kgZ/m


マジェントは椅子から立ち上がると、プロシュートの後についていこうとして―――気配に気づいた。
プロシュートもほぼ同時にそれに気付き、振り向く。
その背後にはグレイトフルデッドが浮かんでいる。
マジェントもいつでもスタンドを身に纏えるようにした。

二人の背後にいつの間にか立っていたのは、白い長髪で褐色の人物だった。
その中性的で整った顔からは、性別が判断できない。
片手にデイパックを持っている。それ以外には何も手にしていなかった。
なぜかマジェントは目の前の人物から、どこかプロシュートと似た匂いを感じた。
横目でそのプロシュートを窺えば、彼も緊張した面持ちで様子を見ている。



数秒後、目の前のソイツがようやく口を開いた。

「―――はじめまして」
255 ◆3uyCK7Zh4M :2012/01/26(木) 17:38:42.75 ID:M66kgZ/m

【G-8 墜落飛行機の記憶 機内 1日目 黎明】


【ティッツァーノ】
[スタンド]:『トーキングヘッド』
[時間軸]:スクアーロを庇ってエアロスミスに撃たれた直後
[状態]:左腕に噛み傷(小)応急手当済み、行動に支障はありません
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 27/50)@現実
[道具]:基本支給品一式、病院内の救急用医療品少々(包帯、ガーゼ、消毒用アルコール残り1瓶)
[思考・状況]:基本行動方針:スクアーロと合流したい
1.この状況、何とかしなくては……
2.プロシュートは生きていた?ならばいずれはは始末する
3.この『ゲーム』、一体なんなんだ?
4.『DIO』は化け物、できれば出会いたくない
5.主催者はボス……? 違うかもしれない
[備考] :バトルロワイアルが単純な殺戮ゲームではないと思い始めました
信頼がおけるのはスクアーロくらいしかいないと薄々感じています
ヌケサク、上院議員から得た情報は本文中のもののみです

【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:少なくとも護衛チームとの戦闘開始前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(水は使い切った) 双眼鏡
[思考・状況]基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
1.アイツは……
2.マジェントとは『性格が合わない……』
3.暗殺チームを始め、仲間を増やす
4.この世界について、少しでも情報が欲しい
5.この氷塊、当分スタンドは使い放題だな
[備考]:プロシュートが親衛隊の存在や、ティッツァーノがメンバーだということなどを知っているのかどうかは、次の書き手さんにお任せします。

【マジェント・マジェント】
[能力]:『20thセンチュリー・ボーイ』
[時間軸]: 『考えるのをやめた』後
[状態]: 健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
1.何だアイツ……?
2.プロシュートのことは『好き』だぜェ!
3.暗殺チームを始め、仲間を増やす
4.この世界について、少しでも情報が欲しい
5.氷塊を引き当てる俺ってツいてる

【備考】
プロシュートの支給品は『双眼鏡』のみです。
持ち運びは出来ないので、G-8に『SBRトロフィー入り氷塊』と『輪切りのソルベ』を置いてきました。
機内探索後、どうするかは未定です。
256 ◆3uyCK7Zh4M :2012/01/26(木) 17:43:40.97 ID:M66kgZ/m
以上で投下完了です。
タイトルは「寂しい半球、歪な全球」でお願いします。

なんだか投下前にぐちゃぐちゃしてすいませぇん…
257創る名無しに見る名無し:2012/01/26(木) 20:22:41.09 ID:RIBKCqra
投下おつです
続きが気になる良い引きでした
258創る名無しに見る名無し:2012/01/26(木) 20:31:31.83 ID:RIBKCqra
投下乙です
意外といいコンビになってるプロシュートとマジェントw
しかしティッツァは愛しの彼と合流できるんだろうか…いつ死んでもおかしくないな
259創る名無しに見る名無し:2012/01/26(木) 20:32:18.00 ID:RIBKCqra
あれ
消して投稿し直したつもりだったんだが…二重投稿すいませェん
260 ◆yxYaCUyrzc :2012/01/27(金) 12:48:21.06 ID:X0oNM9iv
本投下開始します。規制にかかった場合したらばに投下しますのでよろしくお願いします
261発見 その1 ◆yxYaCUyrzc :2012/01/27(金) 12:49:43.19 ID:X0oNM9iv
この間、古い友人と飲む機会があってね。そこでスタンドの要素について話し合ったんだよ。
彼の持論は『“スタンド”と“能力”は必ずしも一致しない』ってものなんだけどさ。
これには俺もなるほどなと思ったよ。
例えば、パワー超スゴいとかいうランク付け、あれはスタンドそのものの腕力なのか、それが生み出す能力のパワーなのか、ってね。
いやー熱く語ったよ。そのテーマだけで四時間くらいは話したかな。
最後は俺の意見で話がまとまったんだけどね。それが正解かは次回に持ち越して……ん、その意見?

あぁ、それは『スタンドと能力が一致しないとするなら、それに一番影響されるのは“射程距離”だ』――
262発見 その2 ◆yxYaCUyrzc :2012/01/27(金) 12:51:13.90 ID:X0oNM9iv
「フム、幻影装置(ホログラフ)か」
ライターを拾い上げそう呟いた男の名はドルド。

ミステリーサークルの中央に飛ばされたドルドは即座に周囲の状況を把握した。
戦場にいた頃の名残がそうさせたんだろうね。
そして同時に考える。この状況はいったいどういう事か?と。
任務に失敗して霞の目博士から処罰を受けるかと思った矢先に巻き込まれた殺し合い。
でもドルドはすぐに察しがつく。組織の仕業で間違いないだろうってね。
一定条件のもとで殺し合いをさせてその過程をデータ化するとか、新たな改造人間の素体を探すとかいった目的でこんな事をしているんじゃあないか?
それが合っているかどうかは別として……と言うより今の彼にその事は関係ない。処刑を免れたという事は、つまりチャンスを与えられたってことで。
要するに如何にここで成績を残し霞の目博士から評価を受けるかということこそドルドにとっての最重要項目なのさ。

周囲の警戒を始めてから何分と経たない内に東に熱源を感知したドルド。距離にして約七百メートル先。
じっくり様子を見ていると、男がライター片手に喚いていた……と思ったら爆死した。
男の名前?エーと……何だったっけ?まぁいいや、重要なのはそこじゃない。ドルドがそのやりとりを見てたって事。
普通の人間ならば見落としてしまいそうな――と言うより忘れられちゃいそうな戦闘だったけど、ドルドには多数の情報を与える事になった。

ライターの炎の奥から映った黒服の影、そして男の傍に立つ巨大な烏の影。これについてもドルドには思い当たる節がある。
「どこだったか、立体映像を用いた攻撃手段を考えていた研究班は」
そう、彼が所属していた組織の名前はドレス。
オカルト気味た、あるいはSF気味た兵器の開発などは飽きるほど見ていたのさ。
それどころか、そんな技術なんかとっくの昔に通り過ぎて、その結果として現在の生体改造があるんだろう?
もしかしたらまた発想が一巡してそういうところに戻ってくるかもしれないけど、とにかく。
そんなことを思いながら誰に言うでもなく三度めの呟き。
「……これの着火がスイッチになっているようだな」
263創る名無しに見る名無し:2012/01/27(金) 12:52:51.80 ID:X0oNM9iv
さて、ドルドがこの結論に至った理由をここで明言しておこう。ドルドは“再点火を見ていた”んだ。
すると一つの疑問が浮かぶ。なぜ、彼はブラック・サバスの攻撃を受けなかったのか?って事だね。今から説明しよう。
――答えは単純。距離があり過ぎたのさ。
皆にも心当たりはあると思う。窓から眺めた駅ビル、その一室の電気がついた、あるいは消えた。
あるいはサイレンの音が聞こえたからと慌てて外に出てみるも視界のどこにも救急車はいなかった。
それと全く同じ現象だよ。遠く遠くの場所で起こった事も視覚、聴覚は受け取れる。
ましてドルドはサイボーグ。遠距離スタンドを伸ばして“ライターの近くで点火を見た”んじゃあなく純粋な視力で見ている訳だ。
で……ブラック・サバスの方はあくまで自動遠隔操作のスタンドだろ?何百メートルも先にいて、点火が視界の片隅にちょっとでも入った、なんて連中をいちいち精密に攻撃できるスタンドじゃあない、と思う。
もっと言うなら、普通の人間なら見えないようなもんがドルドには見えたんだ。ブラックサバスの視点からじゃあそっちに人がいたかどうかすら分からないって訳。

さて、ここまで情報があればドルドがとるべき行動も自然と狭まってくる。
「問題は――誰にこれを拾わせるかだな」
自分で点火する訳にはいかない。ピンチを逃れるための手段で自分まで攻撃の対象になるなんていうのは笑い話にもならないからね。
可能な限り多くの人間の手に渡るような、それでいて警戒心の薄い連中に拾わせるのがベスト。
もちろん自分の武装で攻撃することも考えたさ。でもそれは最後の手段。
だってギャングでさえ信頼できる相手にしか能力を明かさないんだよ?元軍人がそうそう自分の武器を披露すると思うかい?え――あぁ、ナチスの人は例外だよ、置いといて。

とにかく、行動方針も決まったとなれば早速移動だ。
あ――そうそう。ドルドはワムウが走っていくのも見てるよ、上空からね。これでミステリーサークルから飛んで行ったってのもわかるだろ。
相手の頭上を取るってのは何にしても有利だ。そして一番評価するべきはワムウと接触するのを避けたこと。これは賢い。
で、ワムウを避けつつ行動しようとなれば地図の北ラインに沿って移動するか東ラインに沿って移動するかの二択。
その内北ラインは、まあエリア二つとは言え通ってきているんだから自然と東ラインに沿って南下する、目指す第一の目的地は駅と。こうなる訳だ。
264発見 その4 ◆yxYaCUyrzc :2012/01/27(金) 12:53:56.74 ID:X0oNM9iv
さて――ここから先ドルドがどう行動するかは別の機会に話すとしよう。
皆はスタンドの要素で一番重要なのはなんだと思う?俺とアイツが導き出した結論か、あるいは純粋な能力か?それとも別の何かか?
……まぁ、俺は個人的には最重要な要素は“精密動作性”だと思ってるんだけどね。
たまにこういう議論すると面白いだろ?どれ、お茶のお代わりを持ってくるから皆で少し話していてよ――


***

↑レスにトリップつけ忘れ&sage忘れ……申し訳ないorz
265発見 状態表 ◆yxYaCUyrzc :2012/01/27(金) 12:54:56.27 ID:X0oNM9iv
【A−9南西・1日目・黎明】
【ドルド中佐】
[能力]:身体の半分以上を占めている機械&兵器の数々
[時間軸]:ケインとブラッディに拘束されて霞の目博士のもとに連れて行かれる直前
[状態]:健康。見た目は初登場時の物(顔も正常、髪の毛は後ろで束ねている状態)です
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2(未確認)、ポルポのライター
[思考・状況]
基本行動方針:生き残り、且つ成績を残して霞の目博士からの処刑をまぬがれたい
1.コレ(ライター)を誰かに拾わせる
2.地図の東端を南下して杜王駅に向かう

[備考]
・支給品は未確認です。オエコモバの基本支給品はありません(6話『    』を参照)
・ドルドの移動経路は以下の通りです
ミステリーサークル中央にてオエコモバを見る(第6話『    』)その後飛行して移動、ワムウを見かける(第48話虚言者の宴)、A−9到着、思考して現在に至る
・ゲームはドレスの仕業だと思っています。
266発見  ◆yxYaCUyrzc :2012/01/27(金) 12:56:03.35 ID:X0oNM9iv
以上で投下終了です。
したらばでは問題ないとされましたが、サバス見てて襲われないのどうなんよ?は一応ここでも書いておきます。
オエなんとかさんをどうにか再登場させようと思った結果がこれだよ!やったねドルちゃん、アイテムが増えるよ!

仮投下からの変更点
・備考を一つ追加
・あとは特になし

以下裏話
・したらばにて「書き方変えました?」と言われたけど、とりあえず今回だけ。
 実は最初から最後まで「俺」なのは今回が初。一人しか登場しない&やたらしゃべらないキャラのSSはこれが書きやすかったもんで。
・ドルドはスコープつけて913.28メートル先の育郎見えてたから、裸眼(?)でもこのくらいはイケるでしょw
・オエ何とかさん、貴方は無駄死にじゃあなかったんや
・古い友人の持論は2nd荒木の没SSより。そしてそれを書いたのもまた俺と言うw

誤字脱字、その他矛盾等々ありましたらご指摘いただければと思います。
現在本投下されている作品(結局議論待ち?)がwikiに収録された後に本作を収録する予定です。それではまた次のSSで。
267 ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/27(金) 20:30:48.93 ID:8gKEl8fv
◆yxYaCUyrzcさん、投下乙です
仮投下時よりもドルドの軍人っぽさが際立っててベネ!
オエなんとかさんも再登場めでたいのうめでたいのうw
指摘は特にありません

こちらも本投下させて頂きます
花京院典明、山岸由花子です
268愛(欲望もしくは忠誠心) ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/27(金) 20:32:19.70 ID:8gKEl8fv
背の高い赤レンガ造りの建物が、貝殻の形をした広場をぐるりと囲んでいる。
イタリア、トスカーナ、カンポ・ディ・フィオーリ。
『花』を意味する名を冠し、構造の完全さと美しさに名高いその町並みは、常の賑々しい和やかな姿から一転し、今や血腥い殺し合いの一舞台として夜闇に粛々とその威容を沈ませていた。

――ほんの少し前、この広場には少女と少年が通りがかった。

少女は夜の闇に溶けそうな、それでいて浮き上がるように艶やかな黒髪に、日本の学生らしいセーラー服を身にまとい、翻るスカートからすんなりと伸びるしなやかな足は若いガゼルやカモシカを思わせた。
意志の強そうな眼差しに、整った顔立ち。しっかりとした足取りで颯爽と歩んでいく姿は、10人居れば7・8人は振り返りそうなほど美しい。
少年は同じく学生のようだが、改造されていると思わしき制服の上着はともすれば腿どころか膝までも隠れてしまいそうな長さで、成長期らしくひょろりと上背のある体躯を包んでいる。
表情を隠すように片側だけ伸ばされた特徴的な前髪に、酷薄そうにも見える薄い唇は自然に引き結ばれ、かっちりとした詰襟姿も相まって彼の頑なさを連想させた。
少年――花京院典明は、少女――山岸由花子よりも幾分か早く、その人影を察知していた。
それは、花京院の用心深さが幸いしたとも言えるし、由花子の慢心ゆえの隙が招いたとも言える。
由花子が夜闇の中の人影……花京院に気づいたとき、すでに彼の攻撃は完了していた。

「すみません、貴女に……少し、質問をしたいのですが」

冷ややかな声が広場に響く。かつかつと響く足音――つい先ほどまではほとんど聞こえることもなかったそれは、どうやら近づいてくることを知らせるようにわざと立てられているようだった。
咄嗟にざわりと蠢かせた黒髪は、しかしクモの巣のような何かに阻まれていつもよりも動きが鈍い。ブヅリと無理やりに引きちぎると、由花子の足元の石畳にピシュンと小さな穴があいた。
強いて言うなら、石ころを銃弾のように撃ち込んだらこんな穴が開くのだろう。

「やめておいたほうが無難ですよ。その髪の毛が貴女のスタンドなら」

――素直に答えて頂ければ、余計な危害は加えません。
――どうやら私の『仲間』ではなさそうですね。

距離にして20数メートルはあるだろうか。会話するには少し遠く、しかし先ほどのクモの糸の件もあり、迂闊には動けない。
糸は今なお、由香子の周りを隙なく囲んでいる。可視には至らなくとも、触感でわかる。由花子の皮膚より鋭敏な触覚である髪が、取り囲む糸の存在を伝えている。

「何よ、あんた。いきなり馴れ馴れしく話しかけてきたりして、気持ち悪い」
269愛(欲望もしくは忠誠心) ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/27(金) 20:33:10.45 ID:8gKEl8fv
目の前に立つのが誰だろうと、彼でなければ今の由花子にとって問題ではなかった。
彼女が気に掛けるのは広瀬康一ただひとり。
広瀬康一でないのなら、有象無象誰であろうと同じこと。まして同年代の見知らぬ男なんて、道端の石ころよりも興味が湧かない。
由花子の刺々しい言葉に、花京院の冷静さを装った仮面が微かに歪む。

「……立場をわかっていないのか? 私の気分次第でお前は死ぬ」
「あたしの邪魔をするなら容赦しないわ。でも……そうね、あたしも聞きたいことがあるの」

沈黙、そして睨み合い。
やがて花京院のほうから幾分険のある声音で会話が再開された。

「いいだろう、質問の内容によっては答えられるかもしれない。その代わり、私の質問にも答えてもらおう」
「何勝手に決めてくれてるわけ? まあ、別に構わないけど」

――康一君、広瀬康一の居場所を知ってる?
――彼の家に行こうと思ってるんだけど、彼がもし家にいなかったら無駄足じゃない。
――彼、素直なんだけどヘンなところで小賢しいっていうか、悪い虫みたいな奴らとつるんでるから。もしそいつらと一緒にいたりしたらちょっと面倒なのよね。別に問題はないけど。

殺すことにかわりはないもの。
そう締めくくられた逸り気味の口調は、言葉を紡ぐにつれゆるやかに平坦になっていった。
由花子が淡々と紡いだ言葉は、あまりにも非日常的で突然だった。ごく一般的な感性の持ち主なら、顔のひとつも引き攣らせ聞き間違いか言い間違いかと問いただすところだろう。
しかし、花京院もまた非日常の一角にいる。生まれたときから共に在った半身とも言うべきスタンド、その異能を以ってひとを殺すこと、それに些かの疑問も感じない。彼の場合、すべてはかの神のためなれば、だが。
花京院は驚くでもなく非難するでもなく、ただ淡々と由花子の言葉を聞き、吟味しているようだった。
由花子は話すことはもう終わったとばかりに、何の感情も映さない無表情でじっと花京院を見据える。

「……残念ながら、知らないな」
「そう、じゃあもういいわ」

――あんたも邪魔よ。

お人好しよろしく相手の質問に答える気などさらさらない。由花子にとって時間の無駄以外の何物でもないからだ。そんな余計なことをしていて、康一がどこかに逃げたりしたら面倒なことこの上ないではないか。
先ほど程度の攻撃であれば、髪で受け流しながら近づいて絞め上げればいい。少し前に出会ったあの不愉快なゴミのように、不気味に落ち着き払ったその首をへし折ればいい。
由花子は周囲の糸を引きちぎりながら進もうとして――びくりとも動かない自身の体に気がついた。髪で引きちぎった糸の数も、髪で認識していた以上に妙に少ない。

「貴女は少々……いえ、だいぶ周りが見えていないようだな。『法王』は既に侵入を終わらせている」

喉が絞め上げられるように苦しくなった。否、実際に絞め上げられている。己の手で。
視界の端で、きらきら光る半透明の緑の糸がびっしりと腕に絡みついているのが見えた。
由花子は懸命に髪で己の手を振りほどいたが、今度は息を吸えども吸えども『吸いこめない』。

「ふん……その髪、力は『法王』以上ですね。ああ、質問に答える気になったら頷いて。早いほうがいい、首吊り死体みたいに顔を膨らませる前に」
270愛(欲望もしくは忠誠心) ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/27(金) 20:33:47.82 ID:8gKEl8fv
ぞんざいに告げられた台詞に由花子は戦慄する。
意識すればするほど、体内に潜り込んだ男のスタンドの存在を認識してしまう。
温度もなく、質感もなく、しかしはっきりと侵入している異物。
内側を侵される気色の悪さに眩暈がする。それは酸欠も多分に影響していたのだろうが。
喉を内側から押し潰される痛み。いくらラブ・デラックスが強くとも、髪の毛を喉に詰めるわけにもいかない。
そんなことをする前に、男の一存で女の細首などいとも簡単に潰されてしまうだろう。

(いつの間に、この男はスタンドをあたしの体内に侵入させていた?!)
(苦しい)
(気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪いッ!!)
(息が)
(嫌)
(康一くん)

気がつけば、由花子はガクガクと頷いていた。
辛うじて意識を失わなかったのは、彼女の異常なまでの精神力の賜物だろう。
呼吸が戻された途端、彼女は膝をついてげほげほと咳き込んだ。エメラルドのようにきらきらとした緑の破片が吐きだされ、地面に落ちる前に消えた。
次いで、涙が落ちる。

「もう少し遅かったら喉を割るところだった」

大きさの微調整は難しいな。
何の気なしに呟かれた言葉に、由花子は再度ぞっとする。
花京院の声色は、人ひとり殺そうとしたわりにあまりにも平坦かつ無感動だった。
その響きが、少し前の彼女の声音によく似ていたというのは皮肉以外の何物でもないが。

「さて、こちらの番だ。嘘はつかないほうがいい、貴女のためにも」

腹の中の異物は消えない。






271愛(欲望もしくは忠誠心) ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/27(金) 20:34:47.69 ID:8gKEl8fv
「1999年……」

少女――山岸由花子という名前だそうだが、花京院にとって彼女の話は荒唐無稽としか思えなかった。
今は1999年で、彼女は数ヶ月前に誰かの手によって『弓と矢』に射られて『スタンド使い』となったというのだ。
試しにDIO様や空条承太郎の名を出してみたが、彼女は首を傾げるばかりかあたかもこちらを精神異常者かなにかのように訝しげに見つめている。
その眼差しに苛立ちが募るが、何よりもこの状況は何なのか考えることが先決だった。
アレッシーと名乗ったあの卑屈そうな男の一件もそうだが、この奇妙な時間の空白――これは何か重大なことを示しているのではないか?
花京院典明は考える。
あの方に害なすものは、何もジョースターの血統に限ったことではないのかもしれない。
あの方に害なすものが、たとえばそれがこの状況を作ったものだとして、果たして己はそれに対抗しうるのか、排除できるのか。
力なき隷属を象徴するような金属の首輪、こんなものはあの方に似つかわしくない。まして、こんなものに命を握られているなど考えたくもない。
仮定に仮定を重ねるなんて臆病にすぎると、あの方は一笑されるやもしれない。しかし、考えることすら放棄するのなら、それはただの獣と変わらない。
あの方を脅かすものは排除しなければならない。
あの方が私の不安や孤独からなる弱いものを取り除いてくださったように。

「ねえ、あんた……何をそんなに驚いているの?」

怒りと困惑とを綯い交ぜに、彼女が問いかけてくるが黙殺する。
考えろ、考えろ、考えろ。一体何が起こっているのか。

「あたし、正直言ってあんたをブチ殺してやりたいけど、今は無理そうだからやめておいてあげるわ。
 大人しくしているから、ねぇ、あんたのこれ、取って頂戴」

こんな文句で誰がほいほい危ない女を解放するというのか。
この女の危険さは、先ほどの一件からも十二分に理解できている。先手を取っている状態だからこそ、この奇妙な対話は成り立っている。
しかし、いつまでもこうしているわけにもいかないのも事実だ。
見晴らしのいい広場は、いつ何どき誰が通りがかるともわからない。まして、己が頼れるものなど砂漠の中の砂金粒を見つけるよりも困難を極めそうな、こんな状態では。

「解放、してもいい。ただし、条件付きで」
「……何?」
「簡単なことです。私と組んでくれればいい」
「はッ? ……頭沸いてるの、あんた。あたし、あんたをブチ殺してやりたいって言ったでしょ」
「ただでとは言わない、広瀬康一……でしたか? 彼を探す手伝いをしましょう。私の『法王の緑』は、広範囲の索敵・捕縛に向いている。彼を見つけて捕獲した時点で同盟は解消しよう」
「……なんだか、あたしにやたら良い条件のような気がするけど?」
「私にも利益はある。今は情報が欲しいんです。接触するときにひとりよりふたりのほうが警戒されないでしょう?」
「……あんた、ただの変態野郎かと思ってたけど、意外と頭回るのね」
「……今すぐ法王を暴れさせてもいいんですよ」
272愛(欲望もしくは忠誠心) ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/27(金) 20:35:24.90 ID:8gKEl8fv
山岸由花子は暫しの間考え込んでいたが、やがて猫のように瞳を細めて微笑みを浮かべた。
見るものの焦燥を駆り立てる、不吉で蠱惑的な魔女の微笑。

「いいわ、乗ってあげる。そっちのほうが早く康一君を見つけられそう」

――でも、康一君の家には行くわよ。そこにいるならそれまでのお付き合いね。
――とりあえずあんた、名前くらい名乗りなさいよ。

「そうですか。なら、とりあえず移動しましょう。ここは見晴らしが良すぎる」

――できるだけ、色々な人から話が聞きたいんです。色々な人から、ね。
――ああ、すみません。花京院、典明です。

表面上は和やかに、少年と少女は連れだって歩きだす。
月光に彩られた古い都で、逢瀬を果たした男女のように連れだって。

彼女を突き動かすものは愛――それは欲望とよく似ている。
彼を突き動かすものは忠誠心――それは愛とよく似ている。

欲望、忠誠心、愛。
似ても似つかないようでいて、その実どれもよく似ている。
いびつに歪んでいることに変わりはないが。




【コンビ名:花*花】
273愛(欲望もしくは忠誠心) ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/27(金) 20:36:02.78 ID:8gKEl8fv
【E-4 カンポ・ディ・フィオーリ広場/1日目 深夜】

【花京院典明】
【時間軸】:JC13巻 学校で承太郎を襲撃する前
【スタンド】:『ハイエロファント・グリーン』
【状態】:健康、肉の芽状態
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×2、ランダム支給品1〜2(確認済)
【思考・状況】
基本行動方針:DIO様の敵を殺す
1.DIO様の敵を殺し、彼の利となる行動をとる。
2.山岸由花子を警戒・利用しつつ、情報収集する。
3.ジョースター一行、ンドゥール、他人に化ける能力のスタンド使いを警戒。
4.空条承太郎を殺した男は敵か味方か……敵かもしれない。
5.山岸由花子の話の内容で、アレッシーの話を信じつつある。

【アレッシーが語った話まとめ】
花京院の経歴。承太郎襲撃後、ジョースター一行に同行し、ンドゥールの『ゲブ神』に入院させられた。
ジョースター一行の情報。ジョセフ、アヴドゥル、承太郎、ポルナレフの名前とスタンド。
アレッシーもジョースター一行の仲間。
アレッシーが仲間になったのは1月。
花京院に化けてジョースター一行を襲ったスタンド使いの存在。

【山岸由花子が語った話まとめ】
数か月前に『弓と矢』で射られて超能力が目覚めた。(能力、射程等も大まかに説明させられた)
広瀬康一は自分とは違う超能力を持っている。(詳細は不明だが、音を使うとは認識・説明済み)
東方仗助、虹村億泰の外見、素行など(康一の悪い友人程度、スタンド能力は知らないしあるとも思っていない)



【山岸由花子】
【スタンド】:『ラブ・デラックス』
【時間軸】: JC32巻 康一を殺そうとしてドッグオンの音に吹き飛ばされる直前
【状態】: 健康・虚無の感情
【装備】: なし
【道具】: 基本支給品×2、ランダム支給品1〜2(確認済み)、アクセル・ROのランダム支給品1〜2(未確認)
【思考・状況】
基本行動方針:広瀬康一を殺す。
1.康一くんをブッ殺す。他の奴がどうなろうと知ったことじゃあない。
2.まずは東に向かう。目的地は「広瀬家」。
3.花京院を利用しつつ、用が済んだら処分する。乙女を汚した罪は軽くない。

【備考】アクセル・ROを殺したことについては話していません。話すほど彼女の心に残っていませんでした。
274 ◆Rf2WXK36Ow :2012/01/27(金) 20:48:06.07 ID:8gKEl8fv
以上で投下終了です
ご指摘等ございましたらお願いいたします
wikiへの収録は本SS以前に投下されたSSが全て収録されてから行う予定です


呟き
コンビ名は完全に勢い任せでやらかしました 今は後悔…してないですテヘペロ!
やっといてなんですが、元ネタの某デュオのイメージと似ても似つかないギスギスっぷりですね
275創る名無しに見る名無し:2012/01/28(土) 00:57:46.98 ID:TZ2LIWJA
三名、それぞれ投下乙ッ

>>「寂しい半球、歪な全球」
まず……『おまえのような新人がいる』か!
各キャラの完成度のたかさにテンション高ぶりが留まらん。
かっこいい兄貴、馬鹿っぽいけど憎めないマジェンド、冷静だけど不安を抱えてるティッツァーノ……。
それぞれの良さが上手い具合に現れて、すげーってなりました。続きが気になる!

>>発見
相変わらずの安定感。ベテランになるともはや、週刊連載を待ってるかのようなお約束わくわくがあってすげーいい!
オエなんとかさん(笑) 3rd主役のフラグ受け継ぎとかドルド、責任重大だな―(棒)
杜王町方面は人が多いから、こっからどうなるか楽しみです

>>愛(欲望もしくは忠誠心)
ハイエロファント・グリーンってなんかエロくね?って思いました。
由花子のスタンドって近距離スピード型とだとけっこう相性いいんだよね
遠距離・近距離のW狂いコンビ、なかなか相性良さそう。ふたりとも殺る気満々だし。

改めて乙です。どれもどう繋がっていくか、楽しみだ。
後出てないのはセッコ、サーレ―、ディ・ス・コの三人だけか。
書き手さん頑張ってください!
276創る名無しに見る名無し:2012/01/29(日) 16:26:27.08 ID:IJ4CWQs7
ちょいと気になったんだけど、非ジョジョ作品の世界観だと、杜王町は実在の町なのか架空なのか
イタリアが舞台のアイリンはともかく、日本が舞台のBTや、特に東北が舞台のばおーのキャラの場合、認識を統一しとほうがいいと思うんだ。
ドルドの目的地が杜王駅になって少し気になった。
一応認識は統一したほうがいいと思う。

で、俺個人の意見では架空の町扱いにしたい。
ジョジョ勢とバオー勢の世界が別であることに気が付くためのきっかけ(フラグ?)になり得ると思うから。
277創る名無しに見る名無し:2012/01/29(日) 23:09:04.52 ID:1JbZ88/d
>>276
既出のSSでは触れられてるものはありません…よね?>実在か架空か
確かに、同時間軸とも同世界とも明言されてないのでそのあたりの認識の統一は必要かと思います
使うとも限らないフラグですが、決定されてないとたぶんSSによって誤差が生じるかと

個人的にはどちらでも(実在でも架空でも)構いません
ただ、ある程度期限は決めての議論をしたほうがいいと思います
(今後のSS内容にも変化が生じると思うので)
278創る名無しに見る名無し:2012/01/31(火) 08:58:00.32 ID:t4jdMgU/
投下乙!
予約されたときはコンビを組めると思わなかったが、結構いい感じだな
能力的にも性格的にも。だけど…すごく…陰湿です…

>杜王町
イタリアとネアポリスの関係と似たようなもんだろうか?
『ジョジョ』ロワということを考えると、ジョジョの1〜6部が世界観の基礎となっていた方がいいと思う
ただそうすると、読み手目線では違和感あるね
279創る名無しに見る名無し:2012/02/01(水) 20:54:01.83 ID:WKUn2S68
宣伝・・・の様な物
2月2日  パロロワ毒吐き別館のロワ語りにジョジョロワ3rd

楽しいロワ語りにしたいね、などと
280 ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/01(水) 21:56:52.07 ID:GAxEId64
ホット・パンツ、プッチ、ディ・ス・コ、セッコ、シュガー・マウンテン
投下いたします。
281創る名無しに見る名無し:2012/02/01(水) 21:58:48.40 ID:WKUn2S68
支援
282創る名無しに見る名無し:2012/02/01(水) 21:59:32.76 ID:3fkTyNNT
sien
283 ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/01(水) 22:00:58.93 ID:GAxEId64
人は、許しを求める。
人は、天国への道を求める。
人は、偉大なる導きを求める。
人は、誰かの温もりを求める。
その何かを求める心は時に引力となり、人々を引きつけ合う。



※※※



修道女、ホット・パンツは今、サン・ピエトロ大聖堂の広い入り口に立っている。
ただしその姿は、柱の影に隠れて外側から見ることはできない。
ホット・パンツは腰の「クリーム・スターター」に右手を置き、左手にはトランシーバーを持っている。
そして、じっと外に気配はないかと窺っていた。
そんな彼女の頭に繰り返し浮かぶのは、先ほど出会ったばかりの神父の声だった。
彼の名前は、エンリコ・プッチというらしい。


―――……「人と人との間には引力がある。」そう言ったら、君は信じるかな?
―――私と君は違う世界に生きる人間……。しかしこうして、この聖堂で出会った。
―――私はその運命を信じよう。そして、君を信じる……。


一体どんなお人好しが、出会ったばかりで得体の知れない女の与太話など信じるだろうか。
別の世界、聖人の遺体、大統領の陰謀……。そんな頭のおかしいとしか思えない話。
だが、エンリコ・プッチは信じると言ったのだ。

ホット・パンツとプッチの情報交換により、彼女たちは一つの仮説を得た。

「どのような目的があるのかは分からないが、大統領によって様々な世界から様々な人間が、この世界のバトルロワイヤルに集められている。」

プッチ神父もどこか別の場所から、急に先ほどの会場に飛ばされたらしい。
しかしこのゲームがSBRレースの代わりだとすると、勝ち抜いても手に入るのは恐らくただのダイヤモンド。
それに悪趣味な殺し合いなど、乗る気はなかった。
ホット・パンツはすぐにでも基本世界に戻らなくてはならない。
284 ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/01(水) 22:01:37.82 ID:GAxEId64
(神父様の柔らかい声が……私には少し恐ろしい。
何もかも吐き出してしまいそうになる……。
遺体のことまで話してしまったのは失策だったわ)


冷静さを欠いていた数十分前の自分を、ホット・パンツは後悔していた。
神父の質問に一つ一つ答える内に、遺体のことまで話してしまったのだ。勿論、全てではないが。

ホット・パンツの目的は、ゲームの脱出と遺体の回収。
そのためにもどこかにいるはずの「この世界の大統領」を探し出し、手がかりを手にいれる。
ある程度の落ち着きを取り戻したホット・パンツは、プッチと協力関係を結ぶことにした。
というか、彼の方から協力を申し出たのだ。


―――君は、本当に深く神を愛しているのだね。
―――いや……許されたいだけだとしても、その愛には偽りはないと私は思う。
―――私はそんな君に協力したい。
―――ああ、変な勘ぐりはしないでくれよ?私も元の世界に戻りたいんだ。
―――だからそれまで共に力を合わせようと、それだけのことだ。
―――よろしく頼むよ。ホット・パンツ……。


しかし、今はまだこのゲームに関しての情報が少なすぎる。
しばらくはこの聖堂に籠城して様子を見ることにした。
今、神父は聖堂内を見て回っている。そして、ホット・パンツは入り口付近で誰かがやって来た時のための門番をしていた。
もしも何か異変があれば、ホット・パンツの支給品であったこのトランシーバーで連絡を取り合う。
見たことのない機械だったが、プッチが簡単に操作方法を教えてくれた。

彼女には、ゲームや大統領に対する疑問の他にも、ある不信感を持っていた。
それは、協力者エンリコ・プッチへ対する違和感だ。
彼は「自分はある刑務所の教戒師であり、大統領もレースも遺体も知らない」と語っていた。
―――だが、そんな人物をなぜ大統領は他の世界からわざわざ呼んだ?
もしかしたら、プッチは嘘をついているのかもしれない。
全服の信頼を彼に置くのは、まだ危険だ。


(彼はあまりにも私を安らかにさせる……。
そう……神父様と一緒にいると、『私は許される』ような勘違いをしてしまうッ!
私を救ってくれるのはあの方だけなのよ……。勘違いしてはいけない。
―――私は……神父様を信用してもいいの?)


修道女、ホット・パンツの許しへの道はまだ遠い。
285 ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/01(水) 22:02:27.81 ID:GAxEId64
※※※



神父、エンリコ・プッチは一人考える。
聖堂の広い廊下を、懐中電灯で照らしながら。
誰かが潜んでいないか、何か利用出来るものはないかを注意深く探っている。
勿論、常にトランシーバーに意識を向けるのも忘れない。



(しかし……あのホット・パンツとかいう女、案外やっかいだった。最初は、ただのいかれた女だと思っていたのだが。
冷静になるにつれて目には強い意志が生まれていた……。恐らく信じるもののためなら何でも出来る部類の女だな。
だが、その更に奥には脆さと罪の意識がある。
そこをついてやれば、うまく懐柔出来るかもしれない。時間はかかるだろうが……。
―――とにかく、信用には足る誠実な人間だろう。信頼はできないが。

それに彼女という人物は信用できても、その語った話は違う。
確かに妙な説得力はある。だが、何一つ証拠がない。
結局のところ、ホット・パンツの言葉以外に裏付けは全くないのだ……。

辻褄を合わせて彼女の仮説を信じている振りをしたが、実際には穴がありすぎる。
目的も不明、人選の意図も分からない、なぜこの不自然な世界に集めたのかという疑問もあるな。
なぜレースにも「大統領」にも関係がない私が連れてこられ、あの承太郎が見せしめだったのか?
「大統領が遺体を手に入れるための陰謀」だけでは話が合わない。
DIOやジョースターとの因縁も当然関わっているのだろうが……とにかく情報がなさすぎる。


あくまで私はホット・パンツを利用するだけ。
そして、天国を完成させる。
その手段が「主催者を倒す」か「抜け道を探す」か「ゲームに乗るか」いずれにするかを判断するにはまだ早いだろう。

だが、彼女の話……興味を惹かれるものはある。
ジョースター―――その名前に注意を払っておいて損はない。
DIO、いやDio―――別の世界に彼がいる?そうだとしたら、私はどうしたらいいのだろう?
そして、「聖人の遺体。」
ホット・パンツはそれが力を持っていると言っていたが、詳しくは話さなかった。用心深い女だ。
しかしその遺体が本当にあれば、私の目的には大いに役に立ってくれるかもしれない。
天国に聖人……なんともピッタリじゃあないか!


―――ああ、そういえばホット・パンツの話では彼女の世界のDIOは騎手だったか。
あの彼が騎手だなんて、全く想像が出来なくて笑ってしまう。
しかし……会ってみたいと思うのも事実だ。
もし、別の世界の君でも良い。「DIO」と出会えたら……その時は共に天国を目指そうか。
君のために作る、天国への階段なのだから。)



プッチは、そんなことを考えて少し笑った。
仮に、なんて信用できない話を想像した自分がおかしかった。
凍った空気の中を、プッチは歩く。
足音と絹ずれの音だけが廊下を響いていた。

神父、エンリコ・プッチの天国への道はどこにあるのだろうか?
286 ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/01(水) 22:03:49.58 ID:GAxEId64
※※※



テロリスト、ディ・ス・コが気づいた時、そこは木の中だった。
正確には、木をくり抜いて作った小さな部屋の中である。
ボサボサに伸びた髪と無精髭、その左手には座標の入った金属の板が丸く嵌められていた。
その男、ディ・ス・コは木の部屋の隅に座り込み、支給品であるデイパックを開けていた。

デイパックの中身は水、僅かな食料、地図、時計などのいたってシンプルなものばかり。
しかし彼がデイパックの奥に入っていた紙片を開いた瞬間、その隙間から何かがこぼれ落ちてきた。
それを拾い上げてみると、それは一枚の板チョコだった。

「…………」

明らかに物理法則を無視した現象。
しかし彼は何も反応を示さず、チョコレートをデイパックに仕舞い込もうとした。

「荷物を調べているのね?」

幼く甘い声が、空間に響く。
ディ・ス・コは手を止めて顔を上げると、反対側の部屋の隅を見た。

そこには、黒い髪の少女が膝を抱えて座っていた。
愛らしく儚げな少女だったが、その首には彼のものと同じ黒い首輪が光っている。
彼女はじっとディ・ス・コに目を向けているが、その焦点は外れていた。

「……少しなら見えるの。ハッキリとは分からないけど」

少女の言葉に、彼が答えることはなかった。
彼らはたまたま同じ場所にいただけ。先ほど出会ったばかりで、互いに何の感情も抱いていない。
ディ・ス・コは自分に危害を加えるつもりがないなら関係ないと、干渉し合わないつもりだった。
彼女も再び口を閉ざし、そこには静寂が戻った。


ディ・ス・コは大統領に従うスタンド使い。
彼は大統領の命令に従う、ただそれだけ―――それしか考えない。
ジャイロに再起不能にされたはずなのに傷が全てなくなっているとか、このバトルロワイヤルの目的とか主催者とか、そんなものは考える必要はない。
最後に彼に下された命令は「ジャイロを始末すること」だ。
ならばディ・ス・コはそれを再び実行するまで。
287創る名無しに見る名無し:2012/02/01(水) 22:04:04.94 ID:3fkTyNNT
しえn
288 ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/01(水) 22:05:10.23 ID:GAxEId64
彼は行動を決意した。
立ち上がると、小さな入り口から外を眺める。
周りには木が点々と広がっているが、その更に向こうは広場のようになっている。
そして地面には足跡一つなく、一面に
雪が降り積もっている。しかし広場に出る辺りでは、その雪は綺麗に消えていた。
雪が積もっているのはこの大木の周りだけ、とはなんとも奇妙だ。
木々の隙間には所々水たまりのような泉が見える。
地図を確認したところ、此処はドーリア・パンフィーリ公園の「泉と大木」、その大木の中だと推測できた。

さて……どこに向かおうか。
地図で近くの施設をしばらく探し、気になる場所は幾つかあった。
しかし、「サン・ピエトロ大聖堂」というバチカンにあるはずの名前を見つけた時、ディ・ス・コの脳内に大統領の声が蘇った。


―――私は聖人の遺体を探している。そして、ジャイロ・ツェペリとジョニィ・ジョースターもそれを狙っている。


「聖人の遺体」それが目的だとしたら、大聖堂に大統領かジャイロがやって来るかもしれない。
それは不思議な決意だった。
まるで、何かに引きつけられるような―――。

「待って」

その時少女によって彼の服の裾が軽く引かれ、ディ・ス・コは振り返る。
彼女のもう片方の手には、紙片が握られていた。
それは、先ほど彼がチョコレートを出したものと同じような紙だ。

「これ……持っていって。何か役に立つものが入っているんでしょう?」
「……?」
「貴方は最初に私を殺せたはず。なのに何もしないでくれた、そのお礼。
それに……私はきっと生き残れないから……」

少女は落ち着いた声だったが、その手だけは小さく震えていた。

「また、お父さんとお母さんを待たなくちゃいけないみたい。
今度は……空の向こうで」

彼女に何があったのか、彼に知るよしもない。
その達観したような雰囲気と、一方での年相応の幼さは多くの人を惹きつけるだろう。
だが―――彼はそれに心動かされることはない。
ディ・ス・コは、少女の手から紙を受け取った。


そして代わりにその手に、チョコレートを握らせた。

「え?」
「……此処でじっとしていれば、信頼出来そうな奴を呼んでやろう」

彼の行動の真意は誰にも計れない。自分自身でさえ。
情が移ったのか、ただの礼なのか。

そのまま何も言わず、振り向かずに、ディ・ス・コは大木から出て歩き出す。
テロリスト、ディ・ス・コは偉大なる導きを求める、ただそれだけ―――。
289 ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/01(水) 22:05:57.14 ID:GAxEId64
※※※



番人、シュガー・マウンテンは入り口の穴の近くに座り込み、いつまでも去っていく男の背中を見つめていた。
例え目では見えなくても、見送っていたかった。


少女は不思議な人生を送っていた。
悪魔の手のひらと呼ばれる泉に出会い、両親をその泉に奪われた。
そして何十年もの間、新たな泉の犠牲者……もしくは「全てを捨てられる者」を待っていたのだ。
やっと、その時は来たはずだった。
彼女の前に現れた二人組の男が全てなくしたことで、両親は開放されてシュガー・マウンテンは実に五十年ぶりの幸福を味わっていたのだ!

それなのに、気がつくと彼女はこの悪趣味なゲームに参加させられていて……。
だから、希望を持つことは止めた。
彼女は手元のチョコレートを小さく一口分、割りとって口に運ぶ。

「甘い……」

だが結局、その少女は誰かの手を待つことにした。彼女を助けてくれる優しい手を。
今去っていったあの男の人は善人ではないのかもしれない。
それでも、シュガー・マウンテンに甘い甘い希望を残してくれた。
それだけで彼女はまた何十年だって、この泉で誰かを待てる気がしたのだ。
もう一欠片だけと、少女はチョコレートを割った。

「ありがとう。私ずっと―――」

そして、チョコレートは雪の上に静かに落ちる。

「……あ……?」

衝撃が走った。

ゆっくりとシュガー・マウンテンが視線を下ろすと―――彼女の腹部から赤黒く染まった腕がはえていた。
ズブリと嫌な音がして、それは引き抜かれる。同時にとめどなく溢れるのは真っ赤な血。
シュガー・マウンテンは振り向くことは出来なかった。

驚愕、痛み、恐怖―――絶望、死の匂い。
290 ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/01(水) 22:07:13.59 ID:GAxEId64
※※※



倒れ込む少女の姿を、男は見下ろしている。
その男はシュガー・マウンテンしかいなかったその大木の中に、突然現れた。
全身を奇妙な茶色いスーツに包んだ男は、背中を丸めてじっと彼女の顔を見つめている。

「……ああ?なんだよォォォ!これはッ!砂糖じゃなくてチョコレートじゃねーかッ!」


そんなおかしな事を叫ぶ男の名前はセッコ。
パッショーネというギャングの名前も明かさないボス、その親衛隊。
彼という人間を分類するならば、「ただ欲望のために生きる男。」
何かを祈ることはない、想うことはない。己の力を感情のままに振るう。


セッコはデイパックの中からカメラを取り出す。
そしてそれを少女に向けると、シャッターを押した。

「うぅ……」
「角砂糖……いくつもらえるかなぁ〜〜〜
やっぱビデオカメラじゃねーと……チョコラータあんまりくれねーかな〜〜〜」

彼女の苦悶の表情などまるで気にせず。

「二個しか貰えなかったら……ううう……」

何度も、何度も。

「……んお?そうかッ!その分たくさん殺せばいいのかぁ!そしたらいっぱい貰えるよな〜〜〜!!!」

様々な少女の死にかけた表情をカメラに収めたセッコは、外に視線を移す。
泉には人影はなかった。
しかし、雪の上には足跡が一つだけ残っている。
男は、次の被写体を決めた。

セッコは大木の中から地面に「飛び込んだ。」
固いはずの地面が泥のように揺れる。
もう次の瞬間には、息の消えかけた少女だけがこの場所に残された。
血まみれの現場から雪上伸びるのは、「一人分」の足跡。



番人、シュガー・マウンテンは家族の温もりを求めていた。誰かの救いの温もりを待っていた。
しかし、それはたった一人の欲望によって絶たれた。

「おと…………あさ、ん……―――おじ、さ……」

彼女の血と涙は泉の中へ落ちる。
しかしそれは、もう何も生み出すことはなかった。



【シュガー・マウンテン 死亡】
【残り 90人以上】
291 ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/01(水) 22:08:14.39 ID:GAxEId64
【C−1 サンピエトロ大聖堂 / 1日目・ 深夜】

【ホット・パンツ】
[スタンド]:『クリーム・スターター』
[時間軸]:SBR20巻 ラブトレインの能力で列車から落ちる直前
[状態]:健康
[装備]:トランシーバー
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本行動方針:元の世界に戻り、遺体を集める
1.この世界の大統領を探す
2.一先ず聖堂に籠城、門番をする
3.プッチと協力する。しかし彼は信用しきれないッ……!

【エンリコ・プッチ】
[スタンド]:『ホワイト・スネイク』
[時間軸]:6部12巻 DIOの子供たちに出会った後
[状態]:健康
[装備]:トランシーバー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況] 基本行動方針:脱出し、天国を目指す。手段は未定
1.一先ず聖堂に籠城、情報収集
2.ホット・パンツを利用する。懐柔したいが厄介そうだ……
3.ホット・パンツの話は半信半疑だが、「ジョースター」「Dio」「遺体」には興味

【トランシーバー×2】
ホット・パンツの支給品。 6部11巻から。
トランシーバー同士で通信可能
充電は電池か付属の手回し充電器充電可能、大体2ndの仕様と同じ
聖堂内ならば通信問題なし

【補足】
ホット・パンツの仮説
「ここはSBRレースの代わりにバトルロワイヤルの行われている世界。
大統領が何らかの理由で色々な世界からここに人間を集めている。」
プッチはこの仮説を信じていません。もっと複雑な裏があると読んでいます
292 ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/01(水) 22:08:43.96 ID:GAxEId64

【E−1 ドーリア・パンフィーリ公園 泉と大木 / 1日目・ 深夜】

【ディ・ス・コ】
[スタンド]:『チョコレート・ディスコ』
[時間軸]:SBR17巻 ジャイロに再起不能にされた直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、シュガー・マウンテンのランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況] 基本行動方針:大統領の命令に従い、ジャイロを始末する
1.サン・ピエトロ大聖堂に向かう
2.信用できそうな奴を見つけたら、シュガー・マウンテンのことを伝える
[補足]:ディ・ス・コ自身の支給品は、3部でダービー兄が食べていた板チョコだけでした

【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康
[装備]:カメラ
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本行動方針:たくさん殺して写真を撮る
1.角砂糖たくさん食べたい
2.チョコラータと合流する

【カメラ】
セッコの支給品
3部でジョセフが壊して念写したもの
まだまだ撮影可能

【補足】
シュガー・マウンテンの参戦時期は、両親と再開した直後でした
「泉と大木」の大木の中にシュガー・マウンテンの死体、シュガー・マウンテンの基本支給品、食べかけの板チョコが落ちています
ランダム支給品はディ・ス・コが貰いました
またセッコは地面を潜って進んだので、現場にはディ・ス・コの足跡しか残っていません
293 ◆3uyCK7Zh4M :2012/02/01(水) 22:13:34.19 ID:GAxEId64
以上で投下完了です……
タイトルは、ディスコの元ネタトリオさんの歌詞からお借りして「心全て引力」です。

ごめんよ、シュガーたん!あんなに可愛いロリを死なせるのは非常に胸が痛みますね……。
指摘などありましたらお願いします。
294創る名無しに見る名無し:2012/02/01(水) 23:15:52.05 ID:5MoGXxnV
投下乙です
ロリ属性は持っていないはずなのに涙が止まらないのはなんでなんだぜ…
セッコのキレ具合の見えるロワらしいエピソードでしたが…泣けるぜ
パンツと神父の聖職者コンビも先行き不安なかんじがベネでした
295創る名無しに見る名無し:2012/02/01(水) 23:20:55.59 ID:3fkTyNNT
うおおおおおおお!!

シュガーたんシュガーたんシュガーたんシュガーたんシュガーたんシュガーたん
セッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ね
シュガーたんシュガーたんシュガーたんシュガーたんシュガーたんシュガーたん
セッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ね
シュガーたんシュガーたんシュガーたんシュガーたんシュガーたんシュガーたん
セッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ね
シュガーたんシュガーたんシュガーたんシュガーたんシュガーたんシュガーたん  
セッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ねセッコ○ね

投下乙です。
シュガーたんが死んでしまったのは残念だけど、これがロワである以上、仕方ないですよね…
性格の掴みづらいディスコさんが意外に紳士でしたね。
クールな彼の今後に期待です。

明日のジョジョロワ3rd語りも楽しみですね。
296 ◆c.g94qO9.A :2012/02/04(土) 12:26:31.40 ID:oEsOyadM
投下します。
297 ◆c.g94qO9.A :2012/02/04(土) 12:26:51.38 ID:oEsOyadM




わたしは どうして 夢を見ないのだろう?



298 ◆c.g94qO9.A :2012/02/04(土) 12:27:24.73 ID:oEsOyadM




 私の名前は空条徐倫。
 
 私は父親が好きだ。彼との思い出は多くはないが、どれもが貴重な思い出だ。
 幼い時、肩車をしてもらった、あの楽しさが忘れられない。
 大きな背中におぶってもらいると、ついついそのまま遊び疲れて、寝てしまったこともあった。
 滅多に笑わない父だったが、私といるときはいつも優しげに微笑んでいた事を覚えている。
 そんな父親が、私は大好きだった。

 私の名前は空条徐倫。

 私は父親が嫌いだ。彼と会うときはいつも悪い話を聞かされるからだ。
 父親は私に興味がない。母にも興味がない。私が問題を起こしても、彼とはいつも電話越しでしか会えなかった。
 母と私を残し別居すると言った時も、離婚すると言った時も彼の声は波一つ立てなかった。
 そんな父親が、私は大嫌いだった。 

 私の名前は空条徐倫、私は―――

「違う……。これは、“わたし”だ。これは、空条徐倫ではない……」



 ……私の名前は空条徐倫。

 私は今、悲しんでいる。私は今、後悔している。
 父親ともっと話しておきたかった。私の気持ちをもっと、伝えたかった。
 私の心の中に、常に父親はいた。いつだって父を求め、信じて、待っていた。
 私の元に駆けつけてくれる父親を、私はいつも待っていた。
 父親なら私を救ってくれる、父親なら何があろうと私を守ってくれる、信じてくれる。そう思っていた。
 
 大好きだった。愛していた。
 そんな父はもう、いない。

「ならば、何故怒る……? 裏切られたから怒ったのか? 失ったことを怒っていたのか?」
299 ◆c.g94qO9.A :2012/02/04(土) 12:28:15.03 ID:oEsOyadM

 


 …………私の名前は空条徐倫、

 私は友人といるのが好きだ。彼らと、彼女らと一緒に過ごす時間はかけがえのないものだ。
 彼らといると私の心は安らいだ。彼女らといるといつも笑いが絶えなかった。
 馬鹿なことをした。いたずらもした。ふざけ合って、くだらない事で盛り上がって、大騒ぎもした。
 エルメェス・コステロ、エンポリオ・アルニーニョ、ウェザー・リポート、ナルシソ・アナスイ、そしてF・F(エフ・エフ)。
 誰一人かけることのできない、大切な仲間だ。


「『えふ………、え、ふ………?』」


 F・F(エフ・エフ)……?




「空条徐倫……お前はいったい何者なんだ? お前はいったい誰なんだ?
 なぜわたしを知っている? この記憶は何だ? 一体、お前は何を見たんだ?」


 知りたい、お前がいったい何者なのか。
 知りたい、わたしがいったい何者になろうとしていたのか。そして、わたしはいったいどこに向かって行ったのか。

 農場だけが私の世界だった。ホワイトスネイクとトラクター、DISCと知性だけが私の世界。
 失うことはとても怖い。消え去るのは心底恐ろしい。
 存在していられないのであれば、そこに一体何の価値があるのだろうか。
 それが私だったはずだ。その事に疑問を感じたこともなかったし、不思議に思ったこともなかった。
 
 だから、私は知りたい。
 
 彼女にとってわたしとは何だったのか。わたしにとって彼女とは何だったのか。
 そして、さよならを言うとはどういう気持ちなのか。
300 ◆c.g94qO9.A :2012/02/04(土) 12:28:46.02 ID:oEsOyadM



「……行こう」

 空条徐倫、わたしはお前の事を知りたい。
 空条徐倫、わたしはお前になりたい。

「GDS刑務所……そこに行けばなにかわかるかもしれない」
 
 わたしはいったい何者なのか。お前はいったい何者なのか。答えはお前自身に、そしてわたし自身に問うとしよう。

 今、この時からわたしが空条徐倫だ。




「徐倫……あたしの名前は空条徐倫です」


301 ◆c.g94qO9.A :2012/02/04(土) 12:29:37.93 ID:oEsOyadM





失う時が いつか来る事も 知っているの あなたは悲しいほど
 それでもなぜ生きようとするの 何も信じられないくせに そんな寂しい期待で




302人魚姫   ◆c.g94qO9.A :2012/02/04(土) 12:30:36.79 ID:oEsOyadM
【C-3 サンタンジェロ橋/一日目 黎明】
【フー・ファイターズ】
【スタンド】:『フー・ファイターズ』
【時間軸】:農場で徐倫たちと対峙する以前
【状態】:健康、空条徐倫の『記憶』に混乱
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×2、ランダム支給品1〜4
【思考・状況】
基本行動方針:存在していたい
0.GDS刑務所へ向かう
1.空条徐倫を知り、彼女となる
2.自分の存在のため、敵を殺すしかない
3.消失したはずのDISCがあったら守りたい

【備考】
※F・Fの首輪に関する考察は、あくまでF・Fの想像であり確証があるものではありません
※空条徐倫の支給品(基本支給品、ランダム支給品1〜2(空条徐倫は確認済))を回収しました。
※空条徐倫の参戦時期は、ミューミュー戦前でした
303人魚姫   ◆c.g94qO9.A :2012/02/04(土) 12:34:28.79 ID:oEsOyadM
以上です。なにかありましたら指摘ください。
しなきゃいけない事がある時のほうが執筆は進む罠。

Rfさん、前作wiki収録してくださってありがとうございました。
304創る名無しに見る名無し:2012/02/04(土) 21:16:27.97 ID:Zs4C+lx0
投下乙です
最後の詩は鬼/塚ちひろか…全体の雰囲気もそんな切なさがあるな…
自分の存在のため、自分を許し、愛してくれた人を殺してしまったF・Fは今後どうなるんだろう
鬱だ…

確認ですが、現在のF・Fの外見は空条徐倫ですか?
徐倫の身体と入れ替わった際F・Fの首輪がどうなったか少し気になります
305 ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/04(土) 23:42:11.08 ID:K7/PjYR/
投下乙です
最後の詩を思わず歌ってしまった…F・Fゥー!
灰色に変わりはないですが、出会う人次第で黄金にも漆黒にもなれそうな可能性を感じました
といっても、目標地点に居るのはジョジョ界最長のラッシュを食らった邪悪ですが…w
F・Fのボディの件、自分も少し気になりました
穴はプランクトンでどうにでもなるとして…首輪の処理ですね

あと、wikiは編集したッといいつつだいぶ穴だらけでした…orz
修正してくださった皆様ありがとうございました
306 ◆c.g94qO9.A :2012/02/05(日) 13:56:21.71 ID:XgbnElKz
指摘ありがとうございます。
したらばの修正スレのほうで自分の修正案を答えておきました。
まだなにかありましたら遠慮なく、ばしばしどうぞ。
307 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/05(日) 21:18:48.06 ID:k6gDiAfa
本投下開始したいと思います。
規制にかかりましたらしたらばに投下しますのでどなたか代理をお願いいたします。
308獲得 その1 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/05(日) 21:20:35.13 ID:k6gDiAfa
突然だが、皆は賭け事は好きかい?
ハッキリ言って俺は大好きだ――あ、いや言い直そう。一部の競技を除いて好きだ。
どうも俺は競馬や競艇は好きになれない。だって『自分でやらない』んだもん。
そりゃ情報収集とかさ、大事だとは思うよ?でもその手に握ってるのは馬券とかじゃなくてトランプやサイコロだっていう賭け事の方が好きなんだよ。
ただ、問題なのは……そんな強くないんだよ俺。持ってる運は並、イカサマの技術も大してないし、それに……

え?あぁ話?ごめんごめん、それじゃ――

●●●

「おまたせ。台所にあった砂糖と塩、それに小麦粉とかいった袋。それとティースプーン。ボウル」
ミラションと名乗った女はゴソゴソとテーブルに物品を置き始めた。本来こんな面倒な質問などする気はないが一応訪ねておく。
「それで何をするんだ?」
「うっさいわね。こっちは碌に休みもせず準備したんだ。食事くらいとらせろ。
 大体アンタの方は『シンプルな勝負が良い』って言ったきり寝てたじゃあねーか。
 で……これらの粉を、ホラまだ未開封。開けるわよ。ボウルにブッ混む」
ボトル(初めてみた、透明な容器だ)の水を飲み、パンを口に頬張りながら作業をするミラションを俺は黙って見ていた。
銀色の容器の中が白で埋め尽くされる。むわっ、と巻きあげられる粉に目を細める。
「ったく……アタシ一人にやらせといて後でイカサマだなんだって文句タレないでよね?まあこのボウルじゃ二人いっぺんにかき混ぜるのは無理だけど。
 さて、出来上がり。こっち来なさい」

言われるままに立ち上がり、ボウルを覗き込む。細かい粉(小麦粉といったか)や荒い粉(砂糖や塩だろう)が混じったもの。
沸き上がる疑問を率直に尋ねる。
「……この粉をどうする?」
「二人で交互に一掴みずつテーブルに盛る。もちろんボウルに入ってる全部よ。
 これで大きな一つの粉の山が出来る」
言われるまま粉を手にとってはテーブルに盛り、またボウルに手を突っ込む。
俺が五回、ミラションが六回その動作をしたところで丁度ボウルが空になった。
手をはたきながら目線を使ってもう一つの要素にミラションの注意を促し、また尋ねる。
「このスプーンは?」
「山の頂点に挿す。かき混ぜる方を上にして、そうそれで良い。これで完成」

テーブルの中央に、こんもりと盛られた粉、そこに挿さるスプーンという、奇妙な山が完成した。
それを満足げに見てミラションは俺の方を向く。
「ルールは単純。交互にこの粉を手で掻いていく。スプーンをテーブルに落とした方が負けよ。
 やった事無い?『棒倒し』よ」

●●●
309獲得 その2 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/05(日) 21:22:48.86 ID:k6gDiAfa
サンドマンにおおよそのルールを説明する……と言っても、倒した方が負け、それしか説明しようがない。
「なるほど。大体わかった。細かいルールはどうする?」
理解の早い相手だってのがせめてもの救いかしら。向こうから決めなきゃならないことを聞いてくるってのは悪い流れじゃあない。
「そう、うーん、まずは一度に掻く量の最低限を決めなきゃね。任せるわ、どのくらいがいい?」
これを決めておかないと試合が進まない。“ハイ一粒掻きましたー”とかやってられないっての。ね?
「なら、必ず“指を三本以上使って、一目見て分かる量を”掻く。どの指を使うかは問わない」

なかなかセンスあると思うわコイツ。随分妥当な案を出すじゃない。
「そうね、そのくらいが丁度いいかしら。他には?」
「スプーンはテーブルに触れなければいくら傾こうが“倒れた”と見なさない。
 掻いた後十秒間は倒れたか否かの判定時間とする。」
スラスラと答えてくる。ホントに初めてなの?後はそうね……
「それに付け加えるなら自分の番の制限時間は――三十秒。パスは当然不可。そんなもんじゃない?」
後は“何でもアリ”だ。これは言わなくていい。分かってるんでしょうね?戦うってのがどう言う事か……

「良し、ならば始めよう」

こうしてエメラルドを、あるいは支給品を賭けた戦いが静かに幕を開けた。
――ま、私は賭ける気なんてサラサラないけど。

先攻はコイントスで私。
まずは中指、薬指、小指の三本の指で水を掻くように粉をこそぎ取る。
さらさらと山が静かに形を変えるけど、まだまだ余裕のようね。

それを受けてのサンドマンの初手。人差し指と中指、薬指を使った熊手のような動きで問題なく粉を払ってきた。
なるほどなるほど。ただのコスプレ野郎ではなかったって訳ね。

二順目、三順目と順当に試合が進み、五順目の後攻、サンドマンが動きを見せた。いや、見せたと言うのはちょっと違う。動きを変えてきた。

「へぇ……親指と人差し指、中指で摘む動作に変えたかい?ちょっとビビり過ぎなんじゃあないの?」
ちょっとだけ煽ってみる。確かに、そろそろヤバいかな、とは私も思っていた。
だけど自分からこのスタイルに変えるのは勝負にビビっているようで気に入らなかった。
それを先にサンドマンがやってくれるならありがたいことこの上ない。
「ルール上は問題ない。さあ、お前の番だ」
短く返してくるサンドマンには余裕も焦りも感じさせない表情が張り付いたまま。眉ひとつ動かさないあたり、結構ギャンブラーの素質あるかもね、アナタ。
「なるほど、流石は『砂男』砂の動きならよくわかるってところかしら。まあ砂じゃないけど。
 ……それじゃあ私もそれにならって摘む動作に変えようかしらね」
310創る名無しに見る名無し:2012/02/05(日) 21:23:58.35 ID:bZxzAyvI
ちょうど投下に遭遇支援
311獲得 その3 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/05(日) 21:25:10.88 ID:k6gDiAfa
黙ったまま山を睨みつけるサンドマンに対して私は笑いをこらえるのに必死だった。
確かに私は三本の指を山の真ん中、ややサンドマン寄りに突っ込んだ。だが、空手ではない。

ククク……水に浸したパンをこの粉の中で絞ったらどうなる?中の粉が固まって良いことなんかないッ!
一見安定するように感じるが、それは全てを水浸しにした場合!
粉の塊に触れればそこからバランスを崩して山は崩れるッ!まさに地雷ッ!
そして……粉まみれになったパンを引きずりだせば、それがそのまま“摘み取った粉”になる!

「ふう……十秒経った?さあ、貴方の番よ。」

相変わらずサンドマンは黙ったまま。つまり見抜けなかった。イコール敗者。
だいたい、パンの突っ込み方なんて聞かれたって教えないわよ。私しか知らない秘密の技だからイカサマって言うの。

「分かった、俺の番だな」
案外あっさり返事が返ってきた。ま、せいぜい頑張ってね。
ここから先は如何に塊を避けつつコイツの番に回すかが課題ね。まあ問題ないでしょ。

●●●

「……何かしたか?」
突っ込んだ指先に違和感を感じる。先程よりも粉が重い。ミラションを睨みつけ俺は尋ねる。
「何のこと?仮に私がイカサマしてたとして、そんなもんその場で言うのが暗黙の了解ってもんでしょ?
 後から喚くなんてみっともないし、見抜けなかった奴が間抜けなのよ?違う?」

それもそうだ。現場か証拠を押さえなければただの虚言。家に置きっぱなしにしていて見つかった白人の本、あれと同じだ。
だが、こんなところでやすやすと支給品を奪われる訳にはいかない。
そして、理解した。このゲームは『何でもアリ』だと。

山の中ほどまで沈んだ俺の指先から数ミリ奥……おそらくは濡れているのだろう。触れればそこから山が崩れ落ちると言う算段か。
だが触れなければどうという事もないだろう。逆に言えば相手がそれを触らざるを得なくなるまで耐えきれば良いだけの話だ。

三本の指で粉を摘み出す。指の形に開いた穴を埋めるようにサラサラと流れた粉がスプーンを僅かに傾かせる。
しかし、それが倒れるには至らない。長いとも短いとも思わない、普段通りの十秒間が過ぎた。
「……どうやらお前の番に回るようだな」

ふう、と粉を飛ばしてしまわないように顔を逸らして溜め息をつく。
ミラションから見れば俺が安堵してひと息ついたように見えるだろう。だがそれはブラフ。俺はこの勝負、安堵だけじゃあなく緊張も恐怖もしていない。
ここから先は持久戦にはならないだろう。むしろ、超がつく短期決戦になる。問題なのはいつ、どこで今の『吹く音』をテーブルに張り付けるかだが。
そう考えながら椅子に座り直し……


ぞっ――


「ワタシは『オマエ』の心の影――オマエ、今『ルール』を破ったな?」
急に背後から来た悪寒に振り返る。目の前には毛皮を頭から被ったような……スタンドがいた。
312獲得 その4 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/05(日) 21:27:11.41 ID:k6gDiAfa
「私は何もしていない。ただ、アンタがルールを破った事を自分で知ってたから『取り立て人』が現れた」
ミラションが呟く。つまり彼女のスタンドだと言う事か。そしてソレは俺のデイパックを摘み上げ、こちらを睨む。
「ソモソモ……エメラルドに対シ、支給品ダケでは額が釣リ合ワナイナ。
 紙ニ入ッテタノハ、ホッチキスとフライパン。合わせてもせセイゼイが20ドルッテトコダナ。
 ドウスル?足りない分ヲ?思イ浮カベロ……大切なモノを」
その言葉に対し、俺は素直に思い浮かべた。心の底から大切に思っているものを。

一秒、
二秒。
三秒……

「何してる!マリリン・マンソンッ!コイツから『金目のモノ』を奪いとれッ!」
「……」

スタンドが硬直したことに狼狽するミラションの方を向きなおす。
「俺が心の底から大切だと思っているものは故郷の土地、それだけだ。
 そしてそれは今、白人の手にある。俺はそれを奪い返すために『何をしてでも』カネを手に入れるぞ」
俺の言葉にミラションがヒッと小さく喘ぐ。よっぽどスタンドに自信があったようだが……
「な、なら内臓だッ!マリリン・マンソン!さっさとえぐり出せぇッ!」
そして、絞り出されたその叫びにも取り立て人と呼ばれるスタンドは動かない。

「牛の胃袋は食えるらしいが……人間の内臓なんか、どうするんだ?」

●●●

背筋に嫌な汗が伝うのが分かった。

コイツは……このインディアンはコスプレ野郎なんかじゃあない。本当に――
『内臓が高値で売れる事を知らない正真正銘のインディアン』だった。

だとするなら取り立て人は動かない、と言うより、動けない。
本当に大切なもの(土地だと?バカバカしい)が嘘でなく、しかも自分が所有しているものじゃあないから動けない。動きようがない。

サンドマンがバンとテーブルを叩き私の顔を覗き込む。ゆっくりとその唇が形を変える。
何を言うかは分からないが私にとっていい話でない事は直感で理解できるッ!やめろ……やめてくれ……

「まあいい、払ってやろうじゃあないか。足りない分は俺がこれから『得る』カネだ。
 俺はそいつらからカネをもらう。アレは俺が『稼いだ』もので、俺じゃなければ手に入れられなかった。だから俺のカネだ。
 取り立てたければそいつのもとを訪ねるんだな。サンドマンのカネを寄越せと。取引の相手は――」

汗だくの手でテーブルをひっくり返す。
「マリリン・マンソンッ!早くそのクソボケから内臓と言う内臓をエグり出せエエェェェ――――ッッッ!!!」

舞い上がる粉が霧になる。
体中の汗にそれが絡みつく感じがして身体が重い。
次第に視界が晴れ、その先にいたのは……

「惜しかったな」
巻き髪の中年男だった。
313創る名無しに見る名無し:2012/02/05(日) 21:27:44.81 ID:bZxzAyvI
支援
314獲得 その5 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/05(日) 21:29:46.61 ID:k6gDiAfa
「確かに――我々と彼とは取引をした。報酬こそ“後払い”にしていたが、確かにな。
 ゆえに、現在我々が預かっているそれは、紛れもなく彼のカネだ……彼が生きている以上はな。死ねば支払いも反故だがね」
状況を理解できていない私を見かねてか、そいつが喋り出す。

「あ……アンタは?」
粉のせいか、それとも緊張、あるいは恐怖のせいか?ひどく喉が渇き、声がかすれた。

「私個人ではない。サンドマンは我々『アメリカ合衆国』と取引をしたんだよ。
 さて、ここからは君の十八番じゃあないのか?『思い浮かべろ、大切なものを』我々と彼との間にあった取引額に見合うようなね」

ヒッ――
もう声に出せていたかどうかすら分からない悲鳴を挙げて私は後ずさる。

「……どうやら、君の負けのようだな。ん?いや勝ってるのか?
 サンドマンが思い浮かべた金の在りかが分かって、それを今現在取り立ててるんだから……そう言う意味では勝者は君だと言っていい。
 もっとも、この場に辿り着いたのは『ルール違反』だ……このゲームのな。その点を私は許したりはしない」

ドムッ、と鈍い音がした。

●●●

視界が白から元の部屋に戻った時、俺の目の前にあったのは首がちぎれて死んでいるミラションだった。
何があったのか想像する必要はない。『相手が死ねば勝負なし』と言ったところか。
まぁ、何にせよ戦利品は頂いておくとしよう。粉まみれになって転がっているエメラルドを手に取り、そっと息を吹きかける。
吸い込まれそうな深い深い緑色が、俺の心を少しだけ明るくしたように感じた。

ミラションの支給品もデイパックに詰め込み、考える。必要なのものは、情報だ。
スティーブン・スティールがこのゲームを主催している以上、S・B・Rレース参加者もいるだろう。
いずれにせよ参加者と接触し、情報を集めて回る。
全てはカネのため……いや、故郷のために。

建物を出て、明るみ始めた空に一瞥をくれた後、俺はいつものように走り出した。

●●●

うん、この辺でやめとこうかな。この二人の話はまた今度ね。
いやぁ〜まさかイイ大人がマジ顔で棒倒しやるとは俺も思わなかったよ。ハハハ。イカサマ出来るんだね、あのゲーム。

そして、ミラションは早々とこのゲームの本質に首を突っ込んだ。
まあ、何にせよ相手が悪かったって事――ん、いやちゃんと取り立てに行けたあたり自分が優れてて、それで死んだのか?まぁ、どっちでもいいか。

さて……最初に聞いた質問の答えを聞いてなかったな。君たちは賭け事好きかい?
ん、俺?普段はカードとパチンコ。あとは彼等がやってたみたいな棒倒しとか、そう言うゲームっぽいギャンブルが好きだね。
最近は麻雀も始めて勉強中だよ。チートイツとかスーアンコーとかね。いやいや、まだ下手っぴさ。
でもね、今練習してるんだよ。握力でもって白の牌を作るのをね……


【ミラション 死亡】
【残り 89人以上】
315獲得 状態表 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/05(日) 21:32:01.28 ID:k6gDiAfa
【F−8→?−? どこかの路上 / 1日目・黎明】

【サンドマン(サウンドマン)】
[スタンド]:『イン・ア・サイレント・ウェイ』
[時間軸]:SBR10巻 ジョニィ達襲撃前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(ただしパンは一人分)、ランダム支給品1(元ミラションの物・確認済み)、サンドマンの両親の形見のエメラルド、フライパン、ホッチキス
[思考・状況] 基本行動方針:金を集めて故郷に帰る
1.故郷に帰るための情報収集をする
2.必要なのはあくまで『情報』であり、次に『カネ』。積極的に仲間を集めたりする気はない。
[備考]
ミラションの支給品(ミラションが食べたパン以外の基本支給品、ランダム支給品1)を自分のデイパックの中に入れています。
ミラションとサンドマンがいた建物の一室には粉が散乱しており、また首輪が爆破されたミラションの死体があります。
[支給品情報]
フライパン:第4部、JC35巻に登場。ネズミ(虫食いではない)戦において針を防ぐために仗助が使ったもの
ホッチキス:第5部、JC50巻に登場。サーレー戦で負傷したミスタの手当てにフーゴが使ったもの
316獲得  ◆yxYaCUyrzc :2012/02/05(日) 21:34:33.03 ID:k6gDiAfa
以上で本投下終了です。
ギャンブル話、随分グダグダと長い話になってしまったorz
視点がコロコロと変わるので読み難いかも知れません。
後はキャラの心情とか、結構オリキャラ入ってるんじゃないかなぁとも思ったり。

そして何より……発想ブッ飛ばしちゃいましたぁァ〜〜ン!(ぁ

仮投下からの変更点
・前半のほとんど無意味な視点変更をカット&他キャラの視点に移植
・話の後半〜終了までをほぼすべて変更

指摘に対して
・なんでマンソン出ないの?
・約束を反故にする可能性は?
などなど……
回答→マンソン出ました。そして第三者による解決です(ぁ

い、痛い、石投げないで!……えーと、具体的に回答しますと、

1:サンドマンの時代(というかサンドマンの文化圏内)には内臓を売買するという概念がない=内臓が高価だと知らない=取り立てられない
(サンドマンはそもそも金目の物を一切持っていない、だろう)
2:本当に大切なものは『故郷』であり(しかも自分の物ではない、と言うか誰の物でもないが)それを物理的に取り立てる事は不可能。可能だとしたらマンソンが時空をも超えられるスタンドだと言う事になる?
3:エルメェス戦の時マックイイーンのカネを取り立てられなかったのにサンドマンは良いの?→サンドマンの時間軸を考えるに米国との取引は終わっている、報酬を渡されてないだけ

と言う3本の柱を立てて修正しました。
その結果として「古畑の借金にサインしたカイジが遠藤さんに取り立てられるスタイル(?)」でミラションが大統領とご対面。バトロワと言うゲームのルールに反したと言う事で粛清
……と、話の終わり方をガラリと変えました。

で、仮投下時に頂いたコメントに返答した時にも書きましたが
「これでも問題が解決せず、さらに別の問題(=大統領関連について)もたびたび挙がるようならこのSSは没」とさせていただきます。
もちろんご都合主義、籠城は今後書き難いからというメタ視点がないとは言いません。こんなに早く主催者を本編に登場させるのにも賛否があるでしょう。
話が大きくなりすぎて「俺パート」との関連性もかなり薄くなりました。ですが、なんというか……意地で書きあげたSSです。これが今の自分にできる限界です。
これでもまだ穴があるようでしたら自分の力量が足りないと甘んじて受け入れ、キャラを一週間拘束したというのも含め責任払いで破棄。もっと実力をつけて再挑戦したいと思います。

それでは、最後になりましたが改めて、ご意見ご感想お待ちしております。
317創る名無しに見る名無し:2012/02/05(日) 21:51:08.29 ID:bZxzAyvI
投下乙です 意外ッ! それは(ドジャアーン

マンソンが発動し、ミラションが死んだから仮投下での問題点に挙げられていた点は解決されてますよね、お見事です
大統領についてはサンドマンが「金を払う手段・方法」として思い浮かべたんだから問題無いと思いました
というか取り立てに関してそういう手があるかーと思って感心

あと、気にしてる人が他にも居そう?だけど、
籠城作戦を取ったキャラのいる場所を放送毎の禁止エリアに指定すれば
多少は書きやすくなるんじゃないでしょうか
318創る名無しに見る名無し:2012/02/05(日) 23:39:52.44 ID:fwMipzyf
>>308
>ボトル(初めてみた、透明な容器だ)
透明なガラスのボトルくらい13世紀から有ったから透明ってだけじゃ意識すらしない
透明な容器なんて時代的にそこら辺に有っただろうから見ただけじゃガラスにしては軽そうだなって思う程度
319創る名無しに見る名無し:2012/02/05(日) 23:47:10.04 ID:DgC6ZHCQ
>え?あぁ話?ごめんごめん、それじゃ――

>●●●

>「おまたせ。台所にあった砂糖と塩、それに小麦粉とかいった袋。それとティースプーン。ボウル」

仮投下時にはこの間にもう一節描写が入っていたけど転載ミスかな?

しっかし仮投下時より面白い結末になってるじゃあねえかッ
砂男「大統領にツケとけ」
これでマジに取り立てに行けちゃうところがマリリンマンソンって強いな
主催に一番最初に辿りついたのがミラション、というのは意外だが方法には納得だ
投下乙でしたッ
320 ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/06(月) 00:06:05.21 ID:WgL9ezOJ
意外ッそれは大統領ッ! …ということで投下乙です
思考や展開の矛盾は感じませんでした
ひたすら面白かったです
ここで大統領を挟んだことによる今後への相乗効果も期待できそうで、個人的にわくわくしてますw
321 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/06(月) 00:06:13.49 ID:8tXe4kYw
ご意見・感想ありがとうございます。

>>317
もちろん禁止エリアも考えましたが放送はまだ先でしょうし、あんまりそこばっかり狙うとなぁ、と。

>>318
サンドマンはまぁ白人の本読めるくらいだから知ってるとは思いますが透明のボトルは「ペットボトル」のつもりでした。流石に知らないんじゃあないかなと。
基本支給品の水は・・・まあ、(  )を収録時にカットすれば解決ですかね

>>319
そこは「カット」です。ミスじゃないです。あんまり視点変えると読みにくいかなと思って必要な分だけ(サンドマンが寝てたとか)台詞に組み込んだりして解消してます
322創る名無しに見る名無し:2012/02/06(月) 04:20:24.01 ID:5r62BHqy
>>321
いや、発想の限界点の話です
登場話(走る→ドア→遭遇)で荷物確認してない+今話でミラションのを傍目に見ただけだから、未知(ペット)の透明ボトルって思わないで既知(ガラス)の透明ボトル
って認識するから、白人共の使ってるのより薄手のガラスボトル(=既知の透明容器)って認識が限界

初めて見る透明容器=確固たる事実だがメタ視点
見た感じ若干薄手だが白人世界でよく見る透明容器=砂男視点
ペットボトルを未知の透明容器と認識するのはメタ視点かペットボトル絡みの描写で違和感持たないと不可能
仮に1度でも手にとってれば材質が少なくともガラスではないってのを認識出来るから謎物質のボトルまで辿りつけるけど

>(  )を収録時にカットすれば解決ですかね
ですねー。括弧部がない方がテンポも良くなりますし
氏の導入と結びが好きなんでこれからも頑張ってください
323創る名無しに見る名無し:2012/02/06(月) 12:22:00.02 ID:KW9u/O/V
投下乙です。読み違えてるかもしれませんが、ちょっと気になったところ二点。

>サンドマンの時間軸を考えるに米国との取引は終わっている、報酬を渡されてないだけ
取引って「ジョニィたちから遺体を奪って大統領に渡す」ことですか?

> もっとも、この場に辿り着いたのは『ルール違反』だ……このゲームのな。その点を私は許したりはしない」
ということは、ミラションは自分のスタンド能力で大統領の元にワープしたということでしょうか?
取り立てはマリリン・マンソンが自動でやってくれます(FFの持っていたDISCを奪い取ろうとしたように)
324 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/06(月) 22:59:40.35 ID:8tXe4kYw
ご意見ありがとうございます

>>322
これはまぁ、修正するにしても(  )をカットするだけに留めておこうと思います

>>323
取引はその「遺体を奪って渡すこと」というイメージで書いてました。
執筆当初は「レースで優勝するカネだ、俺が絶対一位になる」と書こうと思ったんですが、ちょっと弱いかなと思いまして。
まぁ、この取引についても原作中で特に明言されてないから何とも言えないんですがね。

マンソンの取り立ての件ですが、確かにその通りです。
例えばハイエロファントのようにスタンドが本体と視聴覚を共有しているなら、
「取り立てに行ったマンソンを介して大統領と会話、マンソンが攻撃を受けて本体(建物で粉まみれ)にフィードバック」
という案が使えます。が……とてもそういうスタンドには見えない。完全に「意思持ちの自動操作型」ですもんねアレ。
後は――若干苦しい案ですが、
「マンソンが取り立てに行った→大統領のもとに辿り着く→大統領が「そりゃまずい」と思って本体も拉致」
「マンソン一人で辿り着く→会話とか無しで問答無用・首輪爆破の刑」
と言う案も出せなくはないですが……。

他の方の意見も伺いたいので、必要なら問題議論スレに持っていきます。
少なくとも丸一日はおきたいので、wiki掲載はもう少し待ってください。これから別の作品が本投下されて先に掲載したいと言うならそれでも構いませんので。
で、そこでまだまだ問題が出るようでしたら何度も言っているように破棄。これ以上改変するとほとんど新規の作品、仮投下した意味がまるでなくなってしまうので。
325創る名無しに見る名無し:2012/02/07(火) 02:46:49.18 ID:WvsIljGT
投下乙です。
意外ッ それは大統領ッ 相変わらすドライすぎるサンドマン
打算的すぎると前回みたいなんじゃーのッと心配になるぜ……
地味に支給品外れすぎてワロタw

>>「マンソンが取り立てに行った→大統領のもとに辿り着く→大統領が「そりゃまずい」と思って本体も拉致」
これでいいかと思います。
厳密に突っ込みだしたらきりがないですし、『演出』という面を考えるとこっちのほうがかっこいいというのがw
ジョジョって結構適当なところもありますし、そこらへんのアバウトさで幅が生まれるのも好きです。
あと地味に気になったのですが、yxさんがキャラ殺したのってもしかして初じゃないですかね。
326創る名無しに見る名無し:2012/02/07(火) 10:08:05.97 ID:T/aBnlFT
自分はマンソンが来たのを大統領が見て、マンソン攻撃→フィードバックで死亡
って感じかと思ってました。ミラションが直接会話&首輪爆破で死ぬことにこだわらなければ
どの代案でも大丈夫かと思います

>>325
yx氏といえば良質な繋ぎ回だと思ってたからな〜
嬉しくもあり、死んだのがミラションだということが悲しくもあり…
327創る名無しに見る名無し:2012/02/07(火) 10:42:51.05 ID:jCNovpj3
でも絵的には、主催者のポケットマネー奪おうとしたら殺された、みたいになるんだよなw

>>325
東方良平ェ……
2ndも含めると何回かあったはず、アレ何とかさんとか
328 ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/07(火) 22:00:28.71 ID:gNnPKM0l
ヴァニラ・アイス、シーザー・アントニオ・ツェペリ、虹村形兆、ズガン1名
本投下開始します。
329 ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/07(火) 22:01:28.13 ID:gNnPKM0l


                 ガ オ ン ッ ッ ! ! !


―――会場の南西にある牧草地。
ヴァニラ・アイスは『クリーム』の中に姿を隠し、一直線に突き進んでいた。
ときおり暗黒空間から顔だけを出して周囲を確認しつつ、また進むのを繰り返す。
彼の向かう先は主であるDIOの館……ではなかった。

(DIO様はこの殺し合いにおいてわたしの助けなど必要とはすまい。そういうお方だ。
 ならば、わたしのすべきことは一つ、DIO様の敵となる『彼ら』を排除すること……
 DIO様……このヴァニラ・アイスがジョースター達を必ずや仕止めてごらんにいれます……)




―――殺し合いの場で最初に遭遇したのは妙な言動の男。
わけのわからないことを喋りつつこちらへと攻撃を仕掛けてきたため応戦した。
仕止め切れなかった奴が合流していたのは、あろうことかDIO様の名を利用する愚か者。
(腹立たしいことに顔もどこか似ていた。無論、DIO様には遠く及ばなかったが)

『クリーム』で攻撃を仕掛けるも、予想以上に速い奴らの移動速度と複雑な住宅街に翻弄され、遂には見失ってしまった。
……まあ、それはいい。気にはなるが、スタンド使いとはいえあんなゴロツキ達などいつでも始末できる。
それよりも今は――――――


支給された荷物にあった地図を眺める。
見覚えのある場所名に眉をひそめつつも、ヴァニラは自分が行くべき場所を模索し始めた。

(空条邸……奴は、承太郎は死んだ。ならば行く必要などない。
 DIO様の館……一刻も早く馳せ参じ………………いや、待てよ)

地図から顔を上げ、辺りを見渡す。
穴だらけになった市街地、その向こうにかすかに牧草地が見えた。
方位磁石でそちらの方角も確認し、再び地図へと目を向ける。

(ここはおそらく地図の南端、フィラデルフィア市街地……
 となれば、わたしが向かうべきところは……ここだ!)

目的地を定めたヴァニラは『クリーム』の中に姿を隠すと、一直線に西北西へと向かったのである。
330 ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/07(火) 22:02:49.73 ID:gNnPKM0l



ある意味で、その選択は『幸運』であった。
なぜならば、ヴァニラがまっすぐにDIOの館に向かっていた場合、その針路上の近くにいたのはDIOその人だったのだから。
万に、いや億に一つもありえないかもしれないが、
自身の主を認識できずに『クリーム』でいつのまにか消滅させていたなどというマヌケな事態にはならずに済んだのである。
もちろん、DIOに気が付き、合流していたという可能性も考えれば
ある意味で、その選択は『不運』でもあったのだが。

『不運』といえばもう一つ。
実はヴァニラが直進していた牧草地には、参加者が一人いたのである。
彼の名はケンゾー。G.D.S刑務所に服役中の囚人だった。
何所へかは知らないが、歩き続けていたところで彼は妙な異変を感じ取った。
スタンド『龍の夢』を発動して『方角』を確認すると、
驚くべきことに先程確認したときは『大吉』だったはずの自分の進路が『大凶』に変わっていた。

「な、何が一体!?」

ケンゾーは周りに誰もいないことに油断し、いつのまにか安全な方角から足を踏み外していたのである。
慌てて移動しようとするも、その時には既に手遅れ。
一瞬の後、彼の身体は『クリーム』の暗黒空間にバラまかれこの世から消滅していた。
本人に言わせれば、『不運』というより『大凶』というべきかもしれなかったが。
進む『方角』ひとつで『運命』は大きく変わる。それはケンゾーのみならずヴァニラにもいえる事であった。



「……ここか」

こうして、ヴァニラが辿り着いた場所はジョースター邸。
主の宿敵であるジョースターの名を冠する屋敷。
ヴァニラは知る由も無いことだが、そこはある意味で彼の主が『誕生』した場所でもあった。
目的はただ一つ、ジョースターとその仲間の抹殺。
屋敷ごと破壊するという手もあるが、中の構造や潜む人間も分からないまま行うのは愚策である――
そう考えると、ヴァニラは『クリーム』の暗黒空間から完全に姿を現し、入り口に向けて歩き出した。

331 ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/07(火) 22:04:05.36 ID:gNnPKM0l
#


―――会場の最も南西から少し東の地点。
虹村形兆は『バッド・カンパニー』で周囲を確認しつつ牧草地を進んでいた。
その後ろをシーザー・アントニオ・ツェペリが付いていく。

現在、形兆が向かっているのはジョースター邸。
ジョースターの名前が気になるのはもちろん、情報収集のため最も近い建物に向かうのは基本である。
シーザーも何か思うところがあるのか黙って付いて来ていた。

(歩き始めてからここまで二十八分四十五秒……襲うつもりならばとっくにやっているだろう。
 ……少なくとも『信用』はできそうだ)

形兆はシーザーをそう評価した。
シーザーに襲われる可能性はまずないと考えた彼は再度自分の荷物を確認する。
調べるうちに気になったのは折りたたまれた紙だった。
裏返しても何も書かれておらず、大して厚みもない紙だったが、開いてみると中から銃が出てきたのである。

(まさか……この紙も、スタンド能力か……?)

驚きはしたが、武器が手に入ったのは幸運である
……と、思ったのは一瞬。

(………………モデルガンか)

調べてみると紛れもない偽物。
ハッタリには使えるかもしれないが、スタンドとはいえ本物の銃があるのだから必要ない。
そう思ってしまっておこうとしたのだが……

「………………む?」
「どうした?」

後ろから付いてきていたシーザーが耳聡く聞きつけて声をかけてくる。
形兆はモデルガンを紙の中にしまおうと悪戦苦闘しつつ答えた。

「……紙の中に収められん」
「その紙、『使い捨て』だと思うぜ。おれのやつもそうだったしな」
「な、なに!?」

シーザーの言葉に形兆は驚愕する。

(開けると物が出てくる紙なのに、逆に収納することは不可能だと!?
 なんということだ……これではキチッとしまうことができないではないか!!)

誰かは知らんが、この紙のスタンド使いとは一度キッチリと話をつけておく必要がある――
形兆はそう思いつつ、しかたなく懐にモデルガンをしまって次の紙を開ける。
続いて紙から出てきたのはコーヒー味のチューインガム。

(……贅沢は言わんが、もう少し役に立つものは無いのか……?)

形兆は小さくため息を吐きつつ、いつの間にか自分と並んで歩いているシーザーに聞いてみる。
332 ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/07(火) 22:05:29.49 ID:gNnPKM0l

「ところで、お前の紙からは何が出てきたんだ?」
「おれ……? おれは、この石鹸と………………これさ」

シーザーがデイパックから出したのは女物……にしてはやけにサイズが大きい服にアクセサリー、カゴ、テキーラ酒が二本。

「女装セット(テキーラ酒の配達)だそうなんだが……」
「おいおい、こんな服に合うデカイ女が普通いるか? これを着たやつは客観的に自分を見れねーのか?」
「ハッ、違いない。まったく、どんなやつが使ったのか顔を見てみたいもんだぜ」

思わず吹き出しそうになる形兆と、実際に女装した誰かを想像したのか笑い声を上げるシーザー。
とはいえ、二人の間の空気は和んだが実際役に立ちそうにないという意味では変わりない。
形兆は気を取り直すと、先程倒した人面犬の荷物にあった紙を取り出そうとして……


『バッド・カンパニー』の索敵によって前方に建つ屋敷の前に突然男が現れたということを知った。


既に形兆とシーザーは相手の姿が視界に入る程の距離―――ジョースター邸の門の近くまで来ていた。
見えたのは、ハートのアクセサリーを付けたガタイがいい長髪の……男、だろうか。

「あれは……誰だ?」

シーザーが男を遠めに眺めながら誰にともなく言う。
だが形兆は、自分の目で見たものが信じられない、といった様子で固まっていた。

「おい、お前ッ!」
「………………ハッ!」

シーザーに小声で怒鳴られ、我に返る形兆。
いきなりシーザーの方に向き直ると、早口で話し始めた。

「ここで待っていろ。オレはあの男を『知って』いる」
「本当か?……だとしても、待ってろってのはどういうことだよ?」
「いいから待っていろ」
「あ、おい!」

理由も話さず、反論も許さず、形兆は男の方へと歩いていく。
シーザーは納得できなかったものの、ひとまず様子を見ることにした。

(あいつはJOJOとは別の意味で計算高そうだ、少なくとも考えなしじゃないとは思うが……)

心配というほどではないが、形兆の様子がおかしかったことに一抹の不安はある。
幸い、自分の位置からでも会話は聞き取れそうだったため、シーザーは聞き耳を立てて二人の会話を聞くことに集中した。

333 ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/07(火) 22:07:03.49 ID:gNnPKM0l
#


「ヴァニラ・アイスだな?」

いきなり名前を呼ばれたヴァニラが振り返ると、そこには見覚えのない男が立っていた。
誰かが近づいてくるのはわかっていたが、まさか知らない男に名指しで呼ばれるとは思っていなかった。
自分の名を知るこいつは誰なのか、と警戒しつつ答える。

「………………きさま、何者だ」
「質問を質問で……いや、ここは名乗るのが礼儀だな。オレは虹村。虹村形兆という」
「……虹村、だと……?」

ヴァニラはその名前に聞き覚えがあった。
確かDIO様に肉の芽を埋め込まれ、極東の島国でジョースター達を見張っていたとかいう男の名だ。
しかし、この男が……?
訝しげな表情を読み取ったのか、形兆は言葉を続ける。

「おっと、勘違いしないでもらいたい。おそらく、お前が知っている虹村はオレのおやじだ」
「………………」
「疑っているようだな。ならば今から、おやじとお前達の関係についてオレが知っている限りのことを話してやる」

形兆は話し始める。おやじのこと、DIOのこと、ヴァニラのこと、他の部下たちのこと………………
無論、DIOの死により肉の芽が暴走したということは伏せて。


―――虹村形兆は父親が変貌してから10年かけて、肉の芽の治療法を調べるためDIOに関する様々な情報を集め続けていた。
その結果、エジプトでジョースター一行と戦って敗れたとされるDIOの部下の中にヴァニラ・アイスの名があったのを覚えていたのだ。
最も、形兆が興味を持ったのはどちらかといえばそのスタンド能力『クリーム』の方であった。
この世界の空間から完全に姿を消してしまえるスタンド。
自分の弟のスタンドと似てはいるが、それよりも遥かに強力で、それこそおやじを跡形も無く『殺す』ことができるのではないか。

そんな考えを持っていたからこそ、先程ヴァニラを見かけたときには驚いた。
死んだと聞いていた奴が何故ここにいるのだろうか、それとも情報が間違っていたのか。
だが、形兆にとってそんなことはどうでもよかった。
重要なのは、ヴァニラにおやじを『殺して』もらうこと。
今だけは、当のおやじがDIOの部下だったおかげで、こうして会話ができることに彼は感謝していた。

334 ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/07(火) 22:08:25.02 ID:gNnPKM0l
形兆の説明を聞き、ヴァニラはひとまず相手の言っている内容が出鱈目ではないことを理解した。
少なくとも、ジョースター側が決して知るはずのない情報を奴は知っている。
本当に虹村の息子かどうかはわからないが、そう仮定して話を進めても問題は無い、として会話を続けることにした。

「……それで、その虹村の息子がわたしに何の用だ」
「簡単なことだ。『協力』したい」
「……きさまごときの協力が必要とでも思っているのか?」

ヴァニラは相手の要求をにべもなしに断る。

(そもそも、この殺し合いに勝利するのはまぎれもなくDIO様……あのお方は『最強』だ。殺し合いならば勝てる者など考えられぬ。
 わたしはあくまで露払い役となるだけだ……もしDIO様と最後の二人になり、自らの首をはねろと命じられれば、
 わたしはためらい無く己の首をはねるだろう)

そう考えるヴァニラに形兆は質問する。

「ふむ。ヴァニラ、お前は自分が優勝できるとでも?」
「わたしではない。優勝するのは我が主、DIO様だ」
「……ほう。ということは、お前はDIOもまた、殺し合いに参加していると」
「当たり前だろう」

DIOを呼び捨てにする形兆に多少気分を害したものの、何をバカな――と相手にしないヴァニラ。
だが……

「ならば、この殺し合いを主催したものは、DIOを『強引に』ここに連れてきた。
 すなわち、奴よりも優れている……ということではないか?」
「……なんだと!?」

続く質問に激高し、形兆の胸倉をつかむ。
しかし形兆は涼しい顔で言葉を続ける。

「DIOが参加しているのを実際に見たのか、それとも思い込みかは知らんが、
 参加しているとすれば先程オレの言ったことは完全に間違いとはいえないだろう。
 逆に、もし参加していないとすれば、お前はどうする?」
「……ならば、こんな下らないゲームになど用はない」

相手のペースに引き込まれていると感じつつ、答えを返す。

「つまり、どちらにせよお前は、オレたちはこの殺し合いの主催者をどうにかしないといけないわけだ。そのために『協力』をしたい」
「………………きさまの『目的』はなんだ?」
「主催者を打倒し、このゲームから『脱出』すること」

ヴァニラの問いに形兆が迷いなく答える。
形兆にとって、この言葉は嘘ではなかった。
おやじを殺せるスタンド使いは今、目の前にいるのだから。

335 ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/07(火) 22:09:39.45 ID:gNnPKM0l
逆に、ヴァニラは何も言えなかった。
彼はずっと、主であるDIOが当然この殺し合いに参加していると思っていた。
最初のホールで姿を確認することはできなかったものの、あのとき感じた圧倒的存在感を間違えるはずがない。

しかし参加しているとなると、主催者側は少なくともDIOを無理やり動かせるような『能力』を持つということになる。
ならば、DIOの存在を脅かす者として生かしておくわけにはいかないが、優勝できるのはたった一人。
DIOが優勝するとしても、その時点で主催者は健在ということになる。

殺し合いが終わる前に主催者に挑む方法があったとしても、敵の規模や能力は未知数なのに加えて、首輪の存在が反抗を阻む。
現実的に考えて、自分ひとりで全てをどうにかするというのは不可能に近い。
それが分からないほどヴァニラは愚かではなかった。

そして、もしDIOが参加していないのならば、自分は一刻も早くこのゲームから脱出し、主の元へ戻らねばならない。
その場合でも、やはり主催者の存在が障害となる。
形兆の言葉は、納得は出来なくとも事実には違いないのだ。

相手の胸倉をつかむ手にはもう、力は入っていなかった。

(怒りに任せてこの男を殺すのは簡単なことだが……参加者が減ったとしても現状は何も変わらない。
 それに、この殺し合いの直前にテレンス・T・ダービーがジョースター達に敗北した。
 仲間と呼べそうなDIO様の部下はもう数えるほどしか残っていない。
『味方』になり得るこの男をここであっさり殺してしまってよいものか?)

その思考が、動きを止めていた。

ヴァニラは考え込むそぶりを見せる。
その心の中にあるのは、常に絶えることなきDIOへの異常なまでの忠誠心。
既に、彼の答えは決まっていた。

(DIO様……わたしは、あなたにお仕えする……その考えに微塵も変わりはございません……
 もしDIO様がこの『バトル・ロワイアル』に参加していたならば………………
 あなたをないがしろにした主催者もまた、必ずやわたしが仕止めてごらんにいれましょう……)

ヴァニラは心に想う。
必ず主催者とジョースター達を排除して、DIO様の期待を満たすのだと。
形兆の胸倉をつかんでいた手を離すと、ゆっくりと自分の口を開く。

「………………『協力』とは、どうすることだ?」
「別にたいしたことではない。オレたちは仲間を集め、主催者を討つ。オレたちと共に行動して、その一員となってくれればいい。
 もちろん、お前に偉そうに命令するつもりなどない」
「……いいだろう。ただし、きさまが妙なマネをするか、殺し合いにDIO様が参加しており、もしあのお方の意に沿わなければ……」
「その時は、好きにすればいい。オレを殺そうが、どうしようがなァーーーーーーーーッ」



―――DIOに絶対の忠誠を誓った男は、そのDIOに対する忠誠心ゆえに、折れた。


336 ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/07(火) 22:10:54.91 ID:gNnPKM0l
#


説得を終えた形兆は心の中でほくそ笑む。

(『予定』通りだ)

ヴァニラ・アイスは形兆の知る情報の限りでは、DIOに異常なまでの忠誠心を持つ男であった。
そういうタイプは主君に対する危機感をあおり、さらに『主君のためになる』という道を示せば、
寝返るとはいえずともある程度行動をコントロールできる。

(もし説得に失敗した場合は奇襲で首輪を爆破することも考えていたが、予想以上に上手くいった……
 後はヴァニラと共に主催者を倒すか、どうにかして殺し合いから脱出し、おやじを殺してもらうだけだ。
 ただ、気がかりなのはその前にDIOに遭遇した場合だが……)

会話中は動揺を悟られないようにしたものの、DIOが生きてこの殺し合いに参加しているというヴァニラの確信めいた言葉。
DIOが死んだことでおやじの肉の芽が暴走したことを考えると『生き延びて』いた可能性は低いが、ヴァニラの現実逃避や妄言とも思えなかった。
あるいは、吸血鬼の能力か何かで『生き返った』とでもいうのだろうか?
いずれにしても、遭遇したときにやるべきことは決まっていた。

(もしDIOがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら、オレが直接聞き出してやる! おやじを『治す』方法をッッッ!!)

形兆は心に決める。
必ずおやじをどうにかして、自分自身の『人生』を始めるのだと。

(DIOは実際一度敗れている……すなわち無敵というわけではない。
 ならば、戦いになってもどうにかできる『可能性』はあるはずだ。
 幸いこちらには吸血鬼に有効な―――)

そこまで考えて形兆は思い出す。

「……そうだ、忘れていた。おい、もういいぞ」

シーザーを待機させたのは、吸血鬼の宿敵である彼が会話に参加すると話がこじれる危険性が高かったからだ。
会話はおそらく聞こえていただろうし、説得に成功した今ならばもう大丈夫だろうと考え、形兆は後ろを見て手招きする。
するとシーザーが―――なにやら難しい顔をしながら現れた。

「……誰だ」
「とりあえずお仲間、ということになるんだろうか」

ヴァニラが聞き、形兆もそれに答える。
続いてその視線はシーザーへと向けられた。

「………………」

337 ◆LvAk1Ki9I. :2012/02/07(火) 22:13:03.47 ID:gNnPKM0l
#


―――シーザー・アントニオ・ツェペリは驚いていた。
会話を聞いていた彼は、最初ヴァニラがディオの部下だと聞き、驚いた。
次いで、形兆の父親に肉の芽を埋め込んだのがディオだと理解し、さらに驚いた。
だが何より驚いたのは、ディオがこの会場にいるかもしれないという点である。
しかし、彼は形兆がヴァニラと手を組もうとするのに納得がいかなかった。
どうして自分の身内の仇である奴の仲間と組もうとするのか。

シーザーをよく知るものならばこの時点で形兆に愛想を尽かし、一人で行動を始めているのではと考えるかもしれない。
何故彼が素直に姿を現したのか、そこにはある『理由』があった。

「……シーザーだ。よろしく」

『誇り』ある自分の姓は名乗らない。教える必要などどこにも無い。
代わりに手を差し出す。

「……馴れ合うつもりなど、ない」

ヴァニラはその手を払いのける。
しかし、シーザーにとってはそれでよかった。

(マンマミヤー……やはりこいつ、『人間』だ!!)

遠くから波紋で探知を行ってもヴァニラは吸血鬼などではなかった。
そして今、手を通して微弱な波紋を流しても相手の手が溶ける様子はない。
柱の男にしろ吸血鬼にしろ、シーザーが今まで見てきた奴らの部下は例外なく『人外』であった。
何故『人間』がディオに従っているのか。
もし形兆の父親と同じように肉の芽で操られているのならばヴァニラは被害者であり、助けなければならない。
あるいは自分の意思でディオに仕えているのならば、許しておくわけにはいかない。
どちらにせよ、ヴァニラの動きに目を光らせておく必要があったのである。

そしてもう一つ。
彼ら、特にヴァニラはディオを探している。
ならば、この二人と共に行動すれば、ディオの元に辿り着けるのではないか?

(もしディオがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら、おれが直接とってやる! じいさんの仇をッッッ!!)

シーザーは心に誓う。
必ずディオを討ち倒して、一族の『誇り』を受け継ぐのだと。
彼はそのために、不本意ながらもこの二人と共に行動することを決めた。


(この二人には注意するべきだが……待っていろよ、おれのじいさんの因縁であるディオ!!)
(DIO様……いるのですか? もし……いるのならば……わたしに道をお示しください……)
(オレのおやじに肉の芽を埋め込んだ張本人、DIO……出来れば会いたくはないが、どんな奴なのか……)


三人の『目標』は等しく、されど『目的』は三者三様。
彼らの同行がいつ、どこまで続くことになるかは誰にも分からない。
ともあれ、彼らは屋敷の中へと向かっていった。


―――最大の鍵となる男が意外とすぐ近くにいる、という事実を知らずに……
338創る名無しに見る名無し:2012/02/07(火) 22:17:42.50 ID:TR0Ha5zQ
 
339◇LvAk1Ki9I. 氏代理投下:2012/02/07(火) 22:39:57.33 ID:rfZD9Tsz
【ケンゾー 死亡】
【残り 89人以上】





【G-2 ジョースター邸前 / 1日目 黎明】

【チーム 一触即発?トリオ】

【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:後続の方にお任せしますが、少なくともエシディシ撃破後です
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1〜2(ベックの物)、トニオさんの石鹸、ジョセフの女装セット
[思考・状況]
基本行動方針:主催者(この場にいるなら)柱の男、吸血鬼の打倒
1.しばらくは形兆達についていき、ディオと会ったら倒す
2.形兆とヴァニラには、自分の一族やディオとの関係についてはひとまず黙っておく
3.知り合いの捜索
4.身内の仇の部下と組むなんて、形兆は何を考えているんだ?
5.ヴァニラは何故ディオに従う? 事と次第によっては……


【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:健康、人間
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様……
1.DIO様を捜し、彼の意に従う
2.DIO様の存在を脅かす主催者や、ジョースター一行を抹殺するため、形兆達と『協力』する
3.DIO様がいない場合は一刻も早く脱出し、DIO様の元へと戻る
4.あの小僧、自分を『DIO』と呼んでいるだとッ!思い上がりにも程があるッ!許さんッ!

※デイパックと中身は『身に着けているもの』のため『クリーム』内でも無事です。


【虹村形兆】
[スタンド]:『バッド・カンパニー』
[時間軸]:レッド・ホット・チリ・ペッパーに引きずり込まれた直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1〜2(人面犬の物)、モデルガン、コーヒーガム
[思考・状況]
基本行動方針:親父を『殺す』か『治す』方法を探し、脱出する
1.上記の目標の為、様々な人物と接触。手段は選ばない。
2.ヴァニラと共に脱出、あるいは主催者を打倒し、親父を『殺して』もらう
3.オレは多分、億泰を殺せない……
4.音石明には『礼』をする

※他のDIOの部下や能力についてどの程度知っているかは不明です(原作のセリフからエンヤ婆は確実に知っています)。
340◇LvAk1Ki9I. 氏代理投下:2012/02/07(火) 22:40:45.35 ID:rfZD9Tsz
[備考]
・形兆とシーザーはお互いのスタンドと波紋について簡単な説明をしました(能力・ルール・利用法について)
・ヴァニラは他二人との情報交換は行っていません。
・三人はまずジョースター邸内を探索する予定です。
 その後どうするかは後の書き手さんにお任せいたします。

※ケンゾーの支給品一式は粉みじんにされました
※ケンゾーの参戦時期はサバイバーによる乱闘が始まる直前からでした



【支給品】

ジョセフの女装セット(2部)
シーザー・アントニオ・ツェペリに支給。

ジョセフがナチスの地下施設に潜入しようとしたときの変装に使った服、アクセサリー、化粧道具、カゴ、テキーラ酒二本のセット。
結果はどこからどう見てもバレバレの変装だったため、一目で見破られた。
なにが恐ろしいかってジョセフ本人は自分の女装が見破られない自信があったことである。


コーヒーガム(3部)
虹村形兆に支給。

イギーの大好物であるコーヒー味のチューインガム(箱入り)。
これが無ければイギーは全く言うことを聞こうとしない。

ちなみにコーヒー味のガムは最近ロッテが復刻発売している。


モデルガン(4部)
虹村形兆に支給。

東方良平が仗助に突きつけたモデルガンのリボルバー。
仗助が本物と見間違えるほどの出来だが、弾丸は発射できない。
341代理投下:2012/02/07(火) 22:40:51.38 ID:jCNovpj3
【ケンゾー 死亡】
【残り 89人以上】





【G-2 ジョースター邸前 / 1日目 黎明】

【チーム 一触即発?トリオ】

【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:後続の方にお任せしますが、少なくともエシディシ撃破後です
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1〜2(ベックの物)、トニオさんの石鹸、ジョセフの女装セット
[思考・状況]
基本行動方針:主催者(この場にいるなら)柱の男、吸血鬼の打倒
1.しばらくは形兆達についていき、ディオと会ったら倒す
2.形兆とヴァニラには、自分の一族やディオとの関係についてはひとまず黙っておく
3.知り合いの捜索
4.身内の仇の部下と組むなんて、形兆は何を考えているんだ?
5.ヴァニラは何故ディオに従う? 事と次第によっては……


【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:健康、人間
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様……
1.DIO様を捜し、彼の意に従う
2.DIO様の存在を脅かす主催者や、ジョースター一行を抹殺するため、形兆達と『協力』する
3.DIO様がいない場合は一刻も早く脱出し、DIO様の元へと戻る
4.あの小僧、自分を『DIO』と呼んでいるだとッ!思い上がりにも程があるッ!許さんッ!

※デイパックと中身は『身に着けているもの』のため『クリーム』内でも無事です。


【虹村形兆】
[スタンド]:『バッド・カンパニー』
[時間軸]:レッド・ホット・チリ・ペッパーに引きずり込まれた直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1〜2(人面犬の物)、モデルガン、コーヒーガム
[思考・状況]
基本行動方針:親父を『殺す』か『治す』方法を探し、脱出する
1.上記の目標の為、様々な人物と接触。手段は選ばない。
2.ヴァニラと共に脱出、あるいは主催者を打倒し、親父を『殺して』もらう
3.オレは多分、億泰を殺せない……
4.音石明には『礼』をする

※他のDIOの部下や能力についてどの程度知っているかは不明です(原作のセリフからエンヤ婆は確実に知っています)。
342代理投下:2012/02/07(火) 22:41:35.85 ID:jCNovpj3
ぎゃあかぶった、申し訳ない
343◇LvAk1Ki9I. 氏代理投下:2012/02/07(火) 22:41:44.94 ID:rfZD9Tsz
以上で投下終了です。
タイトルは「もしDIOがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら」です。
Wiki編集だけでは飽き足らず、このたび遂に書き手として投下させて頂きます。
指摘、意見、感想等ございましたら遠慮なくどうぞ。
344創る名無しに見る名無し:2012/02/07(火) 22:43:26.46 ID:rfZD9Tsz
被り420しました
代理投下は以上で終了です
345創る名無しに見る名無し:2012/02/08(水) 00:38:11.21 ID:xZuqCmV3
投下乙!
形兆もヴァニラも「らしい」ですね。
人間時からの参戦ということも含め、今後が楽しみになる展開です。
康一登場話は「HEROES」が続いてますが、ヴァニラ登場話は「変なタイトルの小説捩り」が続いているね

そして、ケンゾーにワロタwww
もし4thがあってもケンゾーのポジションはもう決まったなwww
346創る名無しに見る名無し:2012/02/08(水) 20:20:06.79 ID:oRvlwAw6
投下乙ゥ
ネタ要員がまたひとり増えてしまったな……

形兆がDIO中毒者のヴァニラを説得するやり方がうめぇえ
シーザーとヴァニラが一瞬でもチームを組めるなんて意外!
ヴァニラが吸血鬼だったら速攻で退治されてたよね
なんて微妙なバランスでなりたっているチームだ……
347 ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/09(木) 13:02:30.68 ID:9ghf1+yy
ラバーソール、川尻しのぶ、空条承太郎
投下します
348Via Dolorosa ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/09(木) 13:04:08.12 ID:9ghf1+yy
――チッチッ、チッチッ、時計の刻む音だけが聞こえてくる。
――生臭い、生肉や生魚よりももっときつい、今にも吐き戻してしまいそうな臭いがする。
――空条さんは黙ったまま、ぴくりとも動かない。

川尻しのぶは、空条承太郎の動向を固唾を呑んで見守っていた。

――何? 何か問題でもあったの?
――黙ったままじゃあわからないわよ。

どれくらい時間が経ったのか、よくわからない。
まだ数分も経っていないような気もするし、もう何時間とここにいるような気もする。非日常の只中に置かれて、自分の感覚ひとつ信じられない。
ただわかることは、このままここに居続けたって何の解決にもならないということだけ。
刻み続ける時計、その音がじりじりとしのぶの不安を増長する。
やがて、しのぶは意を決して承太郎にもう一度声をかけた。

「あの……空条さん? 何か、問題でも?」

言ってから、言葉のまずさに気がついた。何かなんてものじゃない、人が死んでいるのだ。

「ご、ごめんなさい、わたしったら……その、ええと」

男の背中は、何物をも拒絶するように微動だにしない。
しかしぽつりと、聞き逃してしまいそうなくらい小さな声で、返事が戻ってきた。

「…………くろ、だ」
「何? ごめんなさい、今、なんて……」

しのぶが聞き返すと、もう少しはっきりとした、ただし恐ろしく冷たい声が路地に響いた。

「俺の、お袋、ははおや、だ」
「……えッ」

聞き間違いでもない、空耳でもない。今この人は、自分の母だと言った。
しのぶが踏んづけてしまったこの腕は、この異常な場所で初めて出会ったこの人の、母親だと。
しのぶはなんとも言えない気持ち悪さに襲われた。冷たい汗が噴き出て止まらない。
こんなことはテレビの中だけの出来事だと思っていた。笑えも泣けもしない、昼下がりの二時間サスペンス。
しかし現実は非情なもので、ここはテレビの中でもなければ昼寝の夢でもない。頭で理解を拒否しても、体は否応なしにこの現実に順応していく。
吐き気は残っているけれど、いつの間にか臭いはわからなくなっていた。
349Via Dolorosa ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/09(木) 13:04:39.80 ID:9ghf1+yy
「あ、その……なんて言ったらいいか……」

取り繕うように喋りながら背中を向けている男を窺うと、唐突に青い大男がぬっと姿を現した。
しかも、それは空条承太郎の体から透けるように浮き出ている!

「ひッ!?」

またしても恐慌状態に陥りそうになったしのぶだが、自分の手でなんとかそれ以上の悲鳴を上げないように口を押さえつけた。
異常といえば、みんな異常な出来事だ。どこかふわふわと地に足のつかない奇妙な感覚で、半透明の青い大男の動きに目を瞠る。
青い大男は、足を――先ほどしのぶが踏んづけた足――拾おうと手を伸ばし、ぎくりと固まって、不意に立ち消えた。まるでその場にいたことが間違いだったように、あっさりと掻き消えてしまった。

「あんた――見えてるのか?」

ようやく、空条承太郎が振り返った。だが、しのぶは男を『異常なものを見る目』で見つめていた。
出会ったときにうっすらと感じた頼り甲斐だとか、ささやかな安堵感だとか、そういうものは暗雲のように立ちこめた恐怖に覆い尽くされ、しのぶは堪らず叫んでいた。

「何、何、なんなのッ!? そいつッ!?」

忽然と現れ、そして煙のように消えた大男。
空条承太郎の、表情の無い能面のような顔。
無言の視線。観察するような、冷たい目。

色々なことが、短時間のうちに起こりすぎていた。
しのぶの心の容量は、もうほんの僅かな刺激で決壊してしまうくらい限界だった。
時間にすればほんの僅かな沈黙も、引き金と成り得るほどに。

「――――もう嫌ッ! いやァァァッ!!」
「ッ! 待て、待つんだッ……」

しのぶは弾かれたように駆けだした。
承太郎の声など、聞こえてもいなかった。



350Via Dolorosa ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/09(木) 13:05:06.61 ID:9ghf1+yy
川尻浩作――もとい、『川尻浩作の皮を被ったラバーソール』は、ごく一般的な日本の住宅街をゆったりと歩いていた。
支給品はすっかり検分が済んでいる。あとは、よさそうなシチュエーションを見繕うだけ。
いかにもただの会社員といったふうを装うのに、コロッセオや庭園などは不釣り合いだろう。つぎはぎの町の中でも目を惹いた『館』の所在は、ここからだと少々遠すぎるし、先約の『依頼人』が在居しているとは限らない。
もう少し――そう、もう少し時間が経ってからでいい。
あの場で無数にいた獲物やら御同類やらを鑑みても、こんな早々から西へ東へとあくせく働きまわるのも不合理だ。新しい『依頼人』にはそれなりの媚を売りつつ、美味い汁だけ啜らせてもらえばいい。
そのための、このひ弱な会社員姿だ。せいぜい有効利用させてもらおう。

「それにしても……日本の住宅街ってやつはどうしてこうゴミゴミしてやがるのかねェ」

ラバーソールの目的地、それは川尻家と地図上に記されている家である。
行く先で人に出会えればそれもよし、出会えなくとも、本人が自宅で休むのに何の不都合があろうか。気力体力を充実させてこそ、いい殺しができるというものだ。

「まあ、入り組んでるけどもうチョイってところか……っと、おやおやァ?」

熟練の殺し屋としての感覚が、近くにいる誰かの気配を知らせている。
誰であろうと構いはしない、何せ自分は『川尻浩作』だ。この姿、無力、無害、弱者!
ラバーソールがいかにも恐る恐るといったふうに曲がり角の先に顔を出すと、ひとりの女が息を荒げて蹲っていた。切れ切れに上がる嗚咽から察するに、どうやら泣いてもいるようだ。
ラバーソールは内心、にんまりと口角を釣り上げる。ひとつ口笛でも吹きたくなるようないいカモだった。

「あの、すみません……もしもし?」

ラバーソールは女に声をかける。無力、無害、いかにもマヌケそうな善人ぶって!
しかし、思惑は脆くも崩れ去る。
ラバーソールの誤算、それは女のあまりにも特異な反応だった。

「ッ!! ……あ、あなた、アナタぁぁァァァッッ!!」

涙と汗でぐちゃぐちゃになった顔に、振り乱した髪。元はそれなりに美人なのだろうが、いかんせん鬼気迫る表情がそれを台無しにしている。
たいがいの美女も醜女も見慣れていたラバーソールだが、一線を画した女の表情というのはいつ見ても心臓に悪いものだった。
まして、それが全力で抱きついてくるなんて!
女の細腕が、万力のような力を込めて回される。がくがくと震えているのは安堵故か恐怖故か。
一瞬、このまま『喰って』しまおうと思いかけたラバーソールだったが、女の叫びに僅かなひっかかりを覚えた。ものの試しに、川尻浩作から得た妻の名を口に出してみる。
351Via Dolorosa ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/09(木) 13:05:43.93 ID:9ghf1+yy
「しの、ぶ……?」
「ええそうよッ、半年見なかったら忘れたとでもいうのッ!? 本当に本当に心配してたんだからッ! よくわからないことは起こるし人は殺されてるし、こわかった、本当に怖かったわッ!」

堰を切ったようにとめどなく流れ出す『しのぶ』の言葉を、要点だけ拾うように聞き流しながら、ラバーソールは俄かに思考を巡らせていた。

(チッ、厄介なものを拾っちまったかもしれんなァ〜、このアマ……とかく面倒そうな女だ)
(しかし妙だな、川尻浩作は半年もこの女の元に帰ってなかった? そんなことなら女のひとりでもつくってそうなもんだが……ンなこたぁ言ってなかったしよォ〜)
(ま、気になることはあるがよ……オレ様の魅力にかかればチョロそうな女ではあるなァーッ! せいぜいいい奥さんになってくれよッ)

ラバーソールは、ほんの数十分の邂逅で得た『川尻浩作』像を、可能な限り模倣する。

「しのぶ、しのぶ……すまなかった、落ち着いて聞いてくれ」
「こんなところ、一時だって居たくないのッ……え、なあに?」

胸元に顔をうずめて泣きじゃくっていた女が、夫の言葉に顔をあげてことりと首をかしげる。
あどけない童女のような仕草に、これを素でやっているのだとしたら大したカマトト女だと思いながら、ラバーソールは壊れ物を扱うように優しく彼女を抱き返した。

「ここは危ない、一度家に行こう。何かわかることがあるかもしれない」
「……そう、ね。そうしたほうがいいわよね」
「そうとも。それに、人が殺されていたんだろう? こんな暗がり、どんな殺人鬼が潜んでいるかわからないじゃないか」
「……ええ、そうね。でも……ああ、わたし……空条さんに酷いことを……」
「ッ、?」

悔やむように呟かれた名。
ラバーソールにとって、その名は酷くひっかかりを覚えるものだった。
空条、空条だと? その名を持つ男は既に殺されたはず。
まさか生きていたとでも? いや、それはありえない。ラバーソールはしっかりと見届けていた。空条承太郎はあの場で殺されたはずだ。
しのぶの口調はほんの今しがたの接触を語っているように聞こえる。ならば、空条承太郎の身内……別の人間と考えるのが妥当だろう。
上ずりかけた声を整えながら、ラバーソールは優しく女の言葉を促した。

「ふうん、空条さん、空条さんね……下の名前は?」
「え? ……ええと、承太郎さんっておっしゃってたわ」

そのとき、ラバーソールの背に電流走る。
空条、承太郎? 同姓同名にしては出来すぎている。奇妙なことばかりが起こっているが、これは極めつけの異常事態かもしれない。

「……助けてもらったのかい?」
「ええ、でも……何か、不気味で……ヘンな青い大男が……」

そこまで話を聞いたところで、不意にざっざっという足音が聞こえた。
腕の中のしのぶも気づいたのか、胸に擦りつくように身を縮こませる。

(チッ……気配を消してやがった。聞いてやがったな)

嫌な予感、ある意味ではいい予感とも言い換えられる。ラバーソールは腕の中の女を確かめるように僅かに撫でた。いざとなったらこいつが楯だ。
そして予想に違わず、写真では見慣れた、しかし随分と年を食ったふうの空条承太郎がのっそりとその長身を現した。
352Via Dolorosa ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/09(木) 13:06:24.21 ID:9ghf1+yy




少し前、空条承太郎は叫び走り出した女の背を茫然と見送っていた。
口の中はからからに乾き、胃の腑がひっくり返ってしまいそうな吐き気に襲われていたが、辛うじて声は出せた。
しかし、足が動かなかった。動こうとしてくれなかった。
彼が背負うものの中に、彼の大事な人が増えた。その重みが、彼の足を鈍らせていた。

「……やれやれ」

自嘲。
何もかもを守れるつもりなど無い。それほど強いと嘯けない。その青さは、遙か昔に失った。
絶望することは簡単だ。投げ出すことはより容易い。
信じがたい、信じたくない現実に、揺らぐ心は今にも折れそうに危うく傾いでいる。

――だが、こんな俺にも守りたいものがある。守りたいひとがいる。
――折れるわけにはいかない理由が、ある。

承太郎は悲しいくらい『空条承太郎』だった。背負ってきたもの、背負っているもの全てが、彼を彼として縛り付けている。
ぎゅっと帽子を深く被り、もう一度スタープラチナを出す。バラバラにされていた彼女を一所に集めるために。
叶うなら静かに眠らせてやりたいが、今動かなければ手遅れになることがあるというのを嫌というほど知っている。
これ以上、手を伸ばせば守れたかもしれない命を失うのはごめんだった。
見開いたままだった彼女の瞼をそっと落とし、入れ物ごとすぐ傍の見知らぬ邸宅の庭を間借りした。せめてこれ以上、辱めを受けることがないように、傷つけられることがないように。
青さという強さは取り戻せなくても、それに代わる重厚な経験を以って、空条承太郎は彼のまま、この理不尽な事件を解決しようとしている。







承太郎は、さしたる間もなく川尻しのぶを見つけ出した。
血だまりに踏み込んだ際に付着した血の足跡によるところもあったが、何より彼女は派手に声を上げていたからだ。
危険そうな人物との遭遇であれば、有無を言わさず割って入るつもりだった承太郎だが、しのぶが抱きついている人物を窺って驚愕した。
川尻浩作――吉良吉影。忘れようにも忘れられないその姿は、十数年前の記憶となんの変わりもない、当時の姿そのものだった。
空条承太郎は恐るべき速さで思考する。
大前提として、吉良は承太郎の目の前で死んでいる。これは紛うことなき真実である。
十数年前の一連の事件、それはかの殺人鬼の死を以って終息した。
ゆえに生きているはずがない。当然の帰結として偽物と考えるしかないが、既に死んだ人間の偽物を作って何になろう。
川尻しのぶを絶望させたいがため? 彼女は限りなく『因縁』とは無関係の人間のはず。彼女を殺害してこちらを苦しめようということなら、反吐を吐き捨てたいくらい苛立たしく頭にくるが、意図としては読める。
そして、さらなる疑問は彼女の言葉。
彼女――川尻しのぶの叫びにあった『半年』とは? 彼女は十数年夫を待ち続けていたのではなかったのか?
川尻浩作の姿はまだ偽物という仮説をこじつけられるが、彼女の発言は奇妙だった。この時間のずれは何だ?
何かがおかしい。何かとんでもない、パンドラの箱を開きかけているような予感。
川尻浩作――中身は果たして何がでてくるやら――は、どうやら承太郎のことを妙に気にする素振りを見せている。
353Via Dolorosa ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/09(木) 13:08:29.27 ID:9ghf1+yy
――切るべき札は切る。

そうして承太郎は姿を現した。

「く、空条、さん……」

対話の口火を切ったのは川尻しのぶだった。彼女は怯えたように、川尻浩作にすがりついている。
これから起こることが彼女にとっての絶望に他ならなくとも、承太郎はこの理不尽なゲームの破壊をするために、一歩を踏み出す決意を既に固めていた。

「川尻さん、さっきは驚かせてすまなかった。ついでにもうひとつ、先に謝っておく」

――スタープラチナ・ザ・ワールド。

かつての全盛期には比べるべくもないが、女ひとりを男から引き剥がすには十分な、間。
瞬きも許されぬ時の狭間で、三者の構図は逆転する。

――そして、時は動き出す。

次の瞬間、川尻しのぶは空条承太郎のたくましい胸にすがりついていた。
何が起こったのかすら全く理解できていないだろう彼女は、黒目がちな目をさらにきゅうと丸くして、茫然と承太郎を見上げていた。やむを得なかったとはいえ、落ち着いたらもう一度きちんと謝罪せねばなるまい。
彼女の様子を視界の端に、承太郎は『川尻浩作』の次の動向を油断なく窺った。
さあ、鬼が出るか蛇が出るか――







――あ、ありのまま 今 起こったことを話すぜ!
――『空条承太郎の前で女を楯にしていたと思ったら
   いつの間にか女が空条承太郎に抱かれていた』
――何を言ってるのかわからねーと思うが オレも何をされたのかわからなかった
――催眠術だとか超スピードだとか そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
――もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

絶句するラバーソールを、空条承太郎は冷ややかな目で見据えている。さながら、実験動物でもみるような冷徹な視線。
なんらかのスタンド能力には違いない。だが、何をされたのかすら全くわからない、そんな理不尽な能力を空条承太郎は持っているのか?
そもそも、何もかもがおかしいのだ。殺された空条承太郎、あれも間違いなく『空条承太郎』だった。
だが、ここに存在しているのもまた『空条承太郎』である。殺されたものより幾分年を食っているようだが、ただ年を重ねただけとは到底思えない、熟練した戦士の凄味を感じさせる。
何より、人を殺したことのある人間だけが持つ不穏な気配。
ビリビリと肌を粟立たせる容赦のない殺気が、ラバーソールに向けられている。

――間違いねぇ、どういうわけだかコイツはオレに気づいてるッ!
354Via Dolorosa ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/09(木) 13:09:09.85 ID:9ghf1+yy
ラバーソールの背を冷たい汗が伝う。事を有利に運ぶはずだった『川尻浩作』の外見も、人質も兼ねた楯であったしのぶも、この『空条承太郎』の前で何の役にも立ちはしない。
今この瞬間、あの訳のわからないスタンド能力で抵抗する間もなく殺されるかもしれないのだ。
目の前の男が、得体の知れない化け物に見えた。

「て、テメー……一体何をしやがった……」
「……答える必要があるか? 川尻浩作の偽物」

それは決定的な一言だった。

「えッ……何よ、それ。何言ってるの」

空条承太郎の言葉を聞いて、呆気にとられていた川尻しのぶがやにわに騒ぎだす。
しのぶの気を引いて空条承太郎の隙を狙うという選択肢もなくはなかったが、恐らく空条承太郎は躊躇なくこちらを再起不能にするべく、あの訳のわからないスタンドを発動させただろう。
もはや会話は有用どころか、一触即発の危うさを孕んでいる。
答える代わりにじりじりと後退り、ラバーソールは脱兎の如く逃げ出した。
三十六計逃げるにしかず。
勝算のある殺しはするが、勝算のない戦いはラバーソールの望むところではない。それ以上に、あの空条承太郎とこれ以上相対していたくなかった。
右へ左へ進路を誤魔化しつつひた走り、やがてラバーソールは手近にあった民家の庭先に滑り込んだ。

(クソッ……何がどうなってやがるッ……)

壁に囲まれた庭先は、追跡者を窺うにも都合がいい。追手がなければなお良いのだが。
そのまま息を整えつつ、音と気配とに全神経を集中させる。
1分、2分、3分――追跡者は現れない。

(……お荷物が功を奏した、ってとこか)

楯にも隠れ蓑にもスタンドの食糧にも使える女を逃したのは手痛いが、あの奇妙な空条承太郎から逃走できたことを純粋に安堵しておく。
そしてラバーソールは、目の前の民家から人の気配がしないことを確認し、スタンドをグネグネと変形させて鍵を開けるとするりと忍び込んだ。室内を選択したのは、自身の能力を最大限に生かすためでもあり、純粋な休息を求めてのことでもある。
キッチンと思わしき場所は、幸いにして水も確保できるようだった。明かりはつけない、そんなことをすればここに人がいると大声をあげているも同じだから。

「理屈はさっぱりわからんが……空条承太郎は『二人』いた――?」

人心地のついたラバーソールは独り呟く。
それが何を意味するのか、彼の思考はたゆたっていく。
355Via Dolorosa ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/09(木) 13:09:58.51 ID:9ghf1+yy




――いったい、何が起こっているの?
――わたしはあのひとの傍にいたはず。
――それに、今、空条さんの言った『偽物』って何? あのひとの偽物?

夫と再会できたとき、しのぶは例えようもない安堵感を感じていた。
なんの変哲もない日常から不意に姿を消した夫、ドラマの中だけだと思っていた出来事が自分の身に降りかかってきたとき、しのぶは俄かには信じられなかった。
明日には帰ってくる、明日には連絡をくれる、明日には警察から報せが来る……。
そう期待して待ち続けて、待ち続けて……遂に、日常の中で夫が戻ってくることはなかった。
だから、この『バトル・ロワイアル』で夫の姿を見つけた時、しのぶは俄かに色めきたった。
もちろん不可解な現実に恐ろしさも感じはしたが、それ以上に『ようやく夫を見つけた』という胸の高鳴りが勝ったのだ。
そこから再会までは、ただまんじりと待ち続けていた半年間とは違い、ジェットコースターのような急転直下の事態が襲いかかってきた。
見知らぬ他人、無残な死体、奇妙な大男――そして。
再会した夫は、いなくなったあの日と変わらず優しかった。彼の腕は力強く、また懐かしかった。
しのぶはようやく、希望と言う光を見つけられたような気がしていた――それなのに。

「えッ……何よ、それ。何言ってるの」

見上げた男の表情は窺い知れない。近すぎるのだ。
そして逃げ出すことも叶わない、しのぶは空条承太郎の頑健な腕にしっかりと押さえつけられている。

――あなた、何か言って。言うべきことがあるでしょう、ねえッ!

沈黙。
いやに白々しい、それでいてピンと張りつめた空気が満ち満ちているのが、しのぶにすら理解できた。
夫は何も言ってくれない。
ようやく戻ってきてくれた、優しい言葉をかけてくれた夫。彼の腕の中で、しのぶは確かに安堵していた。彼だって、しのぶのことを抱きしめてくれた。居なくなっていたことが間違いだったとでも言いたげに、しっかりと。
それなのに、なぜ彼は何も言ってくれない?

「あな、た……ッ!?」

どうにか肩越しに垣間見た夫、その表情!
見たことのない、見たこともないその表情にしのぶは絶句した。

――どうしてそんな顔をしているの。
――どうしてわたしを見ていないの。
――どうして、逃げ出そうとしているの?

そして彼女の夫は逃げ出した。彼女に見向きもせず、あっさりと。
そして彼女は理解する。この無愛想な他人が告げたこと、それが真実だということを。
356Via Dolorosa ◆Rf2WXK36Ow :2012/02/09(木) 13:10:27.45 ID:9ghf1+yy
「……こんな形で知らせることになって、本当にすまないと思っている」

やがて紡がれた言葉を、しのぶはどこか他人事で聞いていた。
夫だと思っていた人の背は、既に闇に消えている。
言葉も現実も全てが遠い。
喜びが大きければ大きいほど、転じた絶望も深く際限がない。
俯き震えるしのぶに、目の前の男は静かな声で続けた。

「俺は以前、川尻浩作氏の死亡事件に関わっていた。詳細も――知っている。
 聞きたいというなら話そう。信じられないのならば、どこか安全なところまででいい、付き添わせてほしい。
 ――選んで、もらえないだろうか」

途切れた言葉に、しのぶはゆるゆると面を上げる。
乞い願うように、贖罪を求めるように、承太郎はじっとしのぶを見つめていた。
日本人らしからぬ深いエメラルドグリーンの、凪の海を思わせる眼差し。
恐らく、不器用な男の精一杯の気遣いなのだろう。
真摯な声と眼差しに、しのぶの硬直していた心がどきりと揺れた。
そうだ、彼も言っていたではないか。一人娘が、巻き込まれていると。
自分のことばかり考えていたが、振り返って彼はどうだったろう。
血を分けた娘がこの理不尽な殺戮に巻き込まれ、血を分けた母はあろうことか無残に殺され。
一度は彼を恐怖した。逃げ出しもした。
それでも彼は、詰りもせずしのぶをこうして気遣っている。悲しみも苦しみも押し隠して、赤の他人に過ぎない女を気遣っている。
そう、何も変わりはしないのだ。しのぶも、彼も、理不尽に運命の歯車を狂わされた者同士。
やがて、しのぶの唇がゆっくりと開かれた。

「……聞かせて、全部。あの人のことも、その『傍に立っている奇妙な大男』のことも」
「……わかった。少し――長くなるが。もう無関係とは思えないからな」

選んだ道、それが悲しみと苦難に満ち溢れていたとしても構いはしない。
女は、母は、そんなに弱い生き物ではないのだ。
空条承太郎は少しだけ躊躇ってから、頷き返事をくれた。
彼もまた、しのぶに宿った『覚悟』を見定めたのだろう。

――夜明けが近づいていた。
357◇Rf2WXK36Ow 氏代理投下:2012/02/09(木) 13:30:47.83 ID:aXWnD8SB
【E-8 どこかの民家/一日目 黎明】

【ラバーソール】
【スタンド】:『イエローインパランス』
【時間軸】:JC15巻、DIOの依頼で承太郎一行を襲うため、花京院に化けて承太郎に接近する前
【状態】:疲労(中)、『川尻浩作』の外見
【装備】:
【道具】:基本支給品一式×3、不明支給品3〜6、首輪×2(アンジェロ、川尻浩作)
【思考・状況】
基本行動方針:勝ち残って報酬ガッポリいただくぜ!
1.空条承太郎…恐ろしい男…! しかし二人とは…どういうこった?
2.川尻しのぶ…せっかく会えたってのに残念だぜ
3.『川尻浩作』の姿でか弱い一般人のフリをさせて貰うぜ…と思っていたがどうしようかな
4.承太郎一行の誰かに出会ったら、なるべく優先的に殺してやろうかな…?




【D-7、E-7 境目の路地/一日目 黎明】

【空条承太郎】
【時間軸】:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
【スタンド】:『星の白金(スタープラチナ)』
【状態】:健康、精神疲労(中)
【装備】:煙草&ライター@現地調達
【道具】:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊&娘の保護。
1.川尻しのぶに真実を話し、詳細な情報交換をしたい。
2.川尻浩作の偽物を警戒。
3.お袋――すまねえ……
4.空条承太郎は砕けない――今はまだ。


【川尻しのぶ】
【時間軸】:四部ラストから半年程度。The Book開始前。
【スタンド】:なし
【状態】:疲労(小)、精神疲労(中)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
【思考・状況】
基本行動方針:?
1.空条承太郎から真実を聞く。
2.この川尻しのぶには『覚悟』があるッ!
3.か、勘違いしないでよ、ときめいてなんていないんだからねッ!



358◇Rf2WXK36Ow 氏代理投下:2012/02/09(木) 13:33:20.57 ID:aXWnD8SB
以上で投下終了です
タイトルの読みは「ヴィア ドロローサ」です
誤字脱字、矛盾、指摘、俺のしのぶor承太郎さんは浮気なんかしないふじこ!という苦情等ございましたら遠慮なくお願いします

359創る名無しに見る名無し:2012/02/10(金) 10:43:51.86 ID:9LeXoMyR
投下乙です!
キャラの『らしさ』がはんぱない。2ndとは違って6部太郎で、守るべき徐倫がいるからこそ立ち直れた描写が丁寧で、読んでてこの太郎は応援したくなる。
ただその徐倫が死んだとなった今……放送後が辛いぜ……。
そしてしのぶもしのぶらしい。一般人らしく何にも知らず、でもしっかりと母親・妻らしい彼女が眩しい。いいコンビだな―!
ラバソさんも正直相当強いスタンドだし逃げって手もむしろ賢さがアピールされてべネ!
それぞれこの後どう動くか……続きが気になる!
360創る名無しに見る名無し:2012/02/11(土) 11:56:30.71 ID:i/Pnas+T
投下乙
このコンビ、やっぱりいいなぁ
個人的3rd注目コンビの一つ
しかし真実を明かしたらどうなるか。次が気になるところ!
361 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/11(土) 23:37:09.68 ID:kH9Sgdn8
サーレー・チョコラータの本投下開始します。
規制食らいましたらしたらばに投下しますので。
362空気 その1 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/11(土) 23:38:54.78 ID:kH9Sgdn8
『空気のようなキャラ』
皆はこの単語を聞いてどういうイメージを持つ?

存在感がない?いてもいなくても変わらない?そういうキャラクター?

……まぁ、普通はそう思うだろうね。
でも、俺の話を聞いたら考えを改めると思うよ。それじゃ、始めようか。

●●●

――失敗した。

間田とかいうガキを始末したのはハッキリ言ってミスだった。
カビは生き物を媒介として広がるから、というもっともらしい理由もあるが……
何より、私としたことが『観察』することを忘れていた、というのが大きい。

建物の中を一通り徘徊したが他の参加者はおらず、結局のところ数時間を無駄に過ごしてしまった訳だ。

――暇だ。

仕方がない。こんなところにいても何の発展も起こらないだろう。
ここを拠点にすることを考えた、なんてのは毛ほども考えていない嘘。まあ嘘をついた相手もここにこうして転がっているんだが。
私のスタンドは移動しながら発動してナンボの能力だ。しかも可能な限り高所を移動するべきである。
地図を見るに、ここはどうも『ローマ』と言うには無理がある。かと言ってこの地図が偽物だとも考えにくい。
どれ、施設巡りでもしながら獲物を探すとしようか。

――ん?

●●●
363創る名無しに見る名無し:2012/02/11(土) 23:39:10.22 ID:KW6sgMbK
支援ー
364空気 その2 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/11(土) 23:41:50.59 ID:kH9Sgdn8
――失敗した。

手ブラでここまで登ってきたのはハッキリ言ってミスだった。
空中に固定したピアノの中で寝てる、ってのはなかなかイイ戦術だと思ったが……
何より、俺は『サバイバル』しなきゃならねーって事を忘れてた、ってのがデカい。

ピアノ以外の支給品も一応見たが使えそうなモノはなく、結局のところ数時間を無駄に過ごしちまったって訳だ。

――暇だ。

仕方ない。そんな下らねーことを繰り返し考えてても何の発展も起こらないだろう。
今更このスタイルを変えよう、なんてのは毛ほども考えていないプラン。まあ誰に対してプランを報告する訳でもないんだがな。
ボスは……死んじまったんだ。深く考える事もないだろう、チンピラはチンピラらしく、だな。
俺のスタンドは攻撃と防御だけじゃなく移動に使ってもイイ能力だ。しかも出来るだけ他の奴は来れないところを移動するのがいい。
しかしこの地図、マジで『ローマ』なのか?こうやって見降ろしてみてもローマの面影全然ねェーっつーの。
ま、せっかくだしもう少しここにいるとしようか。

――ん?

●●●

場所はD−3、その上空約二百メートル。
まさか人間がいるとは思わなかった。互いにそう思った二人のギャングが、それぞれ不意を突かれた形で一瞬ポカンとする。

――先に動いたのはサーレーだった。
「クラフト・ワークッ!石の固定を解除しr」
「待てッ!争う気はない、『ローマのサーレー』ッ!」
チョコラータの言葉にサーレーの手がピタリと止まる。とは言え『寸止め』状態、いつでも能力を行使できる状態で次の言葉を待った。

「なぜ俺の名を知っている……ま、何言ったってすぐに信じるほど俺ぁお人よしじゃあねーがな。
 とりあえず言い訳だけ聞いてやる。攻撃しようなんて考えるなよ、まあ投身自殺してぇんなら構わねぇが」

「わかった――よし、順序立てて話そう。まずは名前、私はチョコラータという。
 さて、最初はここに辿り着いた理由からか?単純だ、石が空中に浮いてたから登って来たんだ。
 まあ好奇心もあった訳だが……そしたら夜の闇にピアノが浮いてるじゃあないか。それで覗きこんだらお前がいた。
 それで次は君の事を知っていた理由。
 パッショーネという名の組織に覚えは――当然あるだろう?私もその一員、その関係でローマに出入りしていてな。
 ローマのチンピラ……と、チンピラという言い方は失礼だったな。『サーレーとズッケェロ』は割と有名だぞ。
 最後、能力が必要だと言った理由。
 あまり明かしたくはないが、私は『自分が高いところにいるか、もしくは高いところから攻撃を仕掛けるのが有利な能力』を持っている。
 スタンド……そう、私もスタンド使いさ。そして今言ったような能力を発揮するのにはここにいるのが最善なのだ。どうだ?協力しないか?」
365創る名無しに見る名無し:2012/02/11(土) 23:43:02.81 ID:KW6sgMbK
C
366空気 その3 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/11(土) 23:43:13.79 ID:kH9Sgdn8
チョコラータは一切嘘を言っていない。先の間田との扱いの違いには彼自身が驚くところである。
一方のサーレーも、これだけの会話でおおよその状態を理解できた。
「そうか……少なくとも今、お前の前から逃亡したかったらココよりもっと上に逃げなきゃならねぇってことか、ん?
 しかし石を回収し忘れたのは痛恨のミスだな。ピアノ運ぶのに集中し過ぎてたってところか」
「理解が早くて助かる」

「――よし、じゃあ俺からの要求だ。
 俺の命は何があっても保障すること。これは絶対だ。利用するだけしてポイなんて許さねぇ。
 次に、食料や水。サバイバル用具って言えば聞こえがいいか?これを用意してもらおう。
 今後はピアノ以外の『階段』は解除しちまうのが賢い。それでここに――長くて三日くらいか?籠城するならそれなりの食事とかいるだろうからな」

この瞬間、利害が一致した『チーム』が誕生した。

「良いだろう。どっちみち私も『カビのもと』をどこかで入手しなければならない。
 一度下りる必要がある。その時に調達すれば良いだろう?」
「ああ――降りるのはお前からだ、『上』は俺だ。登る時も俺が先」
「もちろん。私にしても今ここで君を失うのは手痛いのだからな。だが、ピアノはここに置いていけよ」

●●●

さて、考えは改まったかい?

『空気』とは……『猛毒』なのさ。
酸素比率が6%を下回る大気を吸えば即気絶するし、逆に100%純粋な酸素を集めてくれば人間を内側から破壊できる。
そんな奴らなのさ。彼等はね。

これから――まあ間田くんの死体はもう使えないだろうから、チョコラータは何かしらの生物、サーレーは食事とか漫画とか、そういうものをそれぞれ探すんだろう。
出来れば夜が明けきる前に完了させたい作業だろうな。昼間だと低いところを移動している内は目につくからね。

ま、この二人なら大丈夫だろうよ。何せ……

『空気のようなキャラ』なんだからね。
367空気 状態表 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/11(土) 23:45:00.37 ID:kH9Sgdn8
【D−3 上空約200m、空中に浮かぶピアノ / 1日目・深夜〜黎明】

【カビ爆弾・爆撃部隊 inグランドピアノ】


【サーレー】
[スタンド]:『クラフト・ワーク』
[時間軸]:恥知らずのパープルヘイズ・ビットリオの胸に拳を叩きこんだ瞬間
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み、少なくとも籠城には使えないもの)
[思考・状況]
1.この場所(ピアノの中)で籠城し生き残る
2.チョコラータと協力する
3.籠城に必要な物品を調達する
4.ボス(ジョルノ)の事はとりあえず保留

【チョコラータ】
[スタンド]:『グリーン・デイ』
[時間軸]:コミックス60巻 ジョルノの無駄無駄ラッシュの直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×二人分、ランダム支給品0〜4(二人分、未確認)
[思考・状況]
1.『ゲーム』の勝者になる
2.サーレーと協力する
3.殺戮に必要な物品を調達する

[備考・支給品情報]
D−3エリア、およそ中央の上空200mにピアノが浮かんでいます。現在はそこまでの空中に小石が浮かんでいます。
日がさせば地面に影が映るかも知れません。二人が今後このピアノをどこかに動かすのか(もっと高く?他のエリアに?)は後続の書き手さんに一任します。
グランドピアノ:第6部にてエンポリオ、アナスイ、ウェザーがベッドに使っていたもの。もちろん本来の使い方ではない。演奏用の椅子も一脚、空中に固定してある。
368空気 ◆yxYaCUyrzc :2012/02/11(土) 23:46:43.59 ID:kH9Sgdn8
以上で本投下終了です。予定より一日早いですが。
さて、空気キャラに新しい定義をつけてみましたw

仮投下からの変更点
・チョコ先生とサーレーのやり取りを少々変更
・スレ投下の分割箇所変更
・サーレーの時間軸を考慮してボス=ジョルノに対する思考を追加
 (ホントはチョコ先生のパートにも同じような文を足す必要があるから入れたくなかったんだけどw)

チョコラータが『ローマのサーレー』を知っていたのは、JC49巻でズッケェロが「住所はローマ ローマのチンピラさんか」と言われていたことから、ローマを拠点に活動していた。
……というオリジナル設定。仮投下の時は問題ないと言われましたがここでも一応聞いておきます。

誤字脱字等々ありましたらご意見ください。
月曜〜火曜あたりにwiki収録出来ればと思っております。それでは。
369創る名無しに見る名無し:2012/02/11(土) 23:47:47.78 ID:KW6sgMbK
投下乙でした
お…お前らのような空気がいるかッ
370創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 01:19:26.72 ID:7/DmiFzm
投下乙!
これでついに全キャラ出揃って、本企画も本番って感じですね
まさかの恥知らず参戦。ビットリオのことを知っているキャラが増えたのは面白いですね

坐禅さんの投下も楽しみだが残念寝落ちorz
リアルタイム遭遇したかったぜ
371 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 03:55:09.56 ID:70zUrR+3
すみません。どうにか、書き終わったのですが……
36kbちょいあるのに、全然推敲できておりません。
もう少し時間をいただけないでしょうか……
372 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:28:58.21 ID:70zUrR+3
投下乙です!
クッソ迷惑なヤツらだな、おいwww
なにげに、こいつら強いよなぁ。グリーン・デイがあまりコンビ向きじゃないとはいえ
うわー、怖いわw 期待したくなるw


さて、投下します。
37kbありますし、この時間ですし、ゆっくり投下しようと思います。
373生とは――(Say to her) 前編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:31:48.68 ID:70zUrR+3
 ◇ ◇ ◇


【1】


「かつて――
 まあ、かつてなどと言うほど日にちが経過したワケでもないが……ともかく。
 たしかに、私はお前に一つ尋ねたな。
 『生きている』とはいったいどういうことなのか――と、そんな風に。
 そんな問いに対し、お前は『欲するものを手に入れること』と答え、私もまた私の持つ考えを口にした。
 そこで、だ。
 また異なる、されどある種似通った質問をしよう。
 変わった老婆よ――『死』とは、はたしていかなる状態のことなのだろうな。

「この私に死など無関係、だと?
 ふん、違うな。お前は、大きな思い違いをしている。
 永遠に年老いることがなく、そしていかなる損傷をもたちどころに再生してしまう。
 そんな永遠の命を持ってこそいるが、しかし決して無関係ではない。無関係など、ありえない。

「なにを興奮している。とうに、知っているはずだろう。
 この人間を超越した肉体は、日光を少し浴びただけで細胞のカケラ一つ残さず『消滅』する。
 それに――
 事実として、一度死にかけた過去が存在する
 私の首から下、すなわちこのボディの持ち主であったジョナサン・ジョースター。
 ヤツの『波紋』と『勇気』によって追い詰められ、永遠の命を持つ私は危うく息絶えかねなかった。

「死ぬ寸前まで行ったが、こうして生きている。
 そうだ。そこにこそ答えが存在し、そこ以外には存在しえない。
 『死』とは、『意思あるものにとっての死』とは、なにであるのか。
 その疑問の答えが、きっとあるはずだ。

「ああ、すでに分かっているさ。私のなかでは、な。
 先日と同じく、分かった上で訊いている。
 私にとっての答えは私にとっての答えでしかなく、他の誰かにとってのものではない。
 私が求めているのは、お前にとっての答えだ。

「肉体が動かなくなること、か。
 ……私の考えとは違っているな。
 肉体が動かなくなるのが死であるのならば、私には永久に訪れることがないではないか」

「私は、こう考えている。
 ――『この頭を喪失してしまうこと』こそが死であるのだ、とな。

「あのとき、私は首から下を破壊された。
 言い換えれば、首から上だけが無事であった。
 頭など、肉体全体の一割にも満たないだろう。
 つまり、私の肉体はほぼすべて死んでいたのだ。
 にもかかわらず、どうにか死を免れることができた。
 たしかに意識は鮮明であったし、綿密にヤツの肉体を奪う計画を立てていた。
 そんな状態を死んでいたなどと呼べるか……いいや、呼べない。

「体力も、あらかた失ってしまっていてな。
 血管を伸ばして移動することもできなかったが……それでも、考えることはできた。
 もしも残ったのが頭ではなく、腕や足であったのなら――確実に死んでいただろう。
 頭が残ったからこそ――いいや、正確に言おう。
 頭を残したからこそ、私はあれから百年ほど経った現在もこうして生きていられる。
374生とは――(Say to her) 前編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:33:03.67 ID:70zUrR+3

「究極的な話をすれば、頭ではなく『脳』かもしれない。
 己の意思で思考することができたのは、あの頭蓋骨に覆われた柔らかな部位があったゆえだ。
 とはいえ、脳だけが残されてはな。
 ボディを奪い取ろうにも、どこに神経や血管を繋ぐのかを認識できない。
 視神経だけがあっても、眼球がないのではなにも見えない。
 大気の流れを捉えようにも、脳には触覚も痛覚もない。
 結局、どうすることもできず、待っているのは死だ。
 ゆえに、やはり、私にとっての死は『頭を失うこと』だと考えている。

「私自身ではなく、他者の手で私の脳を新たなボディへと移植させる――ふん。
 たしかにその方法が可能であるのならば、脳だけが残っても死とは限らないな。
 だが、現実的とは言えない。
 脳とは、無数の微細な神経の塊だ。
 それを片っ端からすべて正確に繋ぐなど、とても人の手では叶わない。
 くわえてほんの小さなミスでさえ、致命的な自体を引き起こす。
 たった一つだけ繋ぐ箇所を誤ったり、繋ぎ損ねてしまえば、それだけで大惨事だ。
 脳が右腕をかざすよう指示したにもかかわらず、肉体は左足を上げてしまう――だとかな。

「いや。マリオネットじゃあるまいし、そこまで単純ではないだろうが。

「いずれにせよ、結論は同じだ。
 この身体ゆえに思考することはできるだろうが、移動することができなくては脳のような貧弱な部位はいずれ砕かれる。
 ただ多少の時間が残されているだけで、脳だけしか残されていないのならば死んでいるのとなにも変わらない」


 ◇ ◇ ◇


『足手纏い足手纏いと、言っていたけどね。
 彼女は、僕にとって取材するに足るおもしろい人間だ。
 この状況で小説を書くだなんて、いかしてるじゃないか。
 それにな、僕から見りゃあキミだってかなりのもんだぜ?
 なにかい? そんなちっさいナリのクセに、実はキミ強いのか? 違うだろう?
 正直、千帆さんのがだいぶ強そうだぜ。キミ、グーで殴られたら泣いちゃうんじゃない?
 だいたいさァ、こいつがこんなゴツい身体になっちまったのだって、キミのせいなんだぜ?
 …………いや、その件について責めるのはお門違いもいいとこだな。悪かったよ。訂正しよう。
 こっちのボロボロの死体のほうだ。脳ミソ取り出したのは僕だけれど、ボロボロになっちまったのはキミのせいだぜ?
 まァ、こいつだって自らヒーローになりにいったみたいだし、ボロボロにしたのはあいつだけど、でも巻き込んだのはキミだろ。
 いったい、どのツラ下げて千帆さんにあんなこと言えるんだい? その精神、とても気になるな。参考になりそうだ。ぜひとも教えてくれないか』

 と言いかけて、岸部露伴はどうにか言葉を呑み込む。
 普段ならば間違いなく言っていたし、別に川尻隼人の言い分に同意できたワケでもない。
 単に、彼が嫌いな『鬱陶しいガキ』と話すのを時間の無駄と思っただけだ。
375生とは――(Say to her) 前編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:35:52.38 ID:70zUrR+3

(余計なことをしていられる状況でもないしね)

 足元に倒れ伏している巨漢を一瞥してから、露伴は双葉千帆の去って行ったほうを見やる。
 離れていった彼女の姿は、とうに見えなくなってしまっていた。

(とりあえず、千帆さんは後回しにしてもいいかな。
 あんまり運動が得意なタイプには見えなかったし、どちらにせよあんな服装じゃあね。
 作品を描くにあたって一度穿いたことがあるけれど、スカートってのは運動に適しているとは言い難い。
 あんまり遠くまでは行っていないだろうし、しばらくしたら心細くなって戻って来るかもしれないからな。
 それに――)

 露伴のなかには、一つ確信があった。

(彼女はまだ答えていない。
 小説家と漫画家では、用いる手段こそ異なっているが……
 『物語を作る』という点で同じだ。
 彼女が物語を作る人間であるのなら、僕の質問を無視し続けられるはずがないんだ。
 あんな――最初の段階で止まってはいられない。渾身の答えをぶつけずにいられるものか)

 僅かに口元が緩んでいることに気付き、露伴は表情を戻す。
 まだ彼女の作品を読んですらいないのに、不思議と期待してしまっていた。

(まあでも、仕方がないか。
 あんなにおもしろいヤツの書く小説だぜ? 実に楽しみだ)

 などと考えながら、露伴は再び巨漢を見下ろす。
 その胸は上下しており、やけに太い動脈は小刻みに振動していた。
 わざわざ触れるまでもなく、生きていることは明らかだ。

(意識がないのに、こうしてやるべきことをやってるってことは、自律神経がきっちり働いてると。
 こんなふうに『ヘブンズ・ドアー』を使ったことはなかったけど、きちんと神経同士が繋がったみたいだな)

 岸辺露伴のスタンド『ヘブンズ・ドアー』の能力は、対象を『本』にすることだ。
 スタンド能力に開花した直後は、『本体である露伴が描いた絵を見せる』ことで『波長が合った』ものだけを本にできた。
 だが、スタンド能力とは進化していくものなのだ。
 現在となっては、『絵など見せずともヴィジョンが触れ』さえすれば『波長が合わずとも』本にすることが可能である。
 触れねばならないので動きの速い相手を捉えるのは難しいが、本さえすれば相手は意識を失う。
 その記憶が細かに記された本に命令を書き込めば、相手はそれに従うのである。
 たとえどんなに無茶なものであろうとも、だ。
 『時速七十キロで後方に吹っ飛ぶ』といった命令でさえ、可能とする。
 相手の脳に認識させずに、身体を操作することができるのだ。

 そこで露伴は先ほど、巨漢の身体に命令を下した。
 『自身の脳を喰らい、異なる脳を神経に繋げ』、と。

 不可能に思える命令であるが、巨漢はその記憶によると人間ではなかった。
 全身のどこからであろうとも有機生命体を喰らうことのできる――『柱の男』であったのだ。
 ゆえに、巨漢の身体は命令を達成した。
 自身の脳を取り込んで、異なる人間の脳を神経に繋いだのだ。
 実際のところ、脳移植は理論上可能なのである。
 無数に存在する神経や血管を繋ぐのが、技術的に難しいだけにすぎない。
 身体のほうから神経や血管が伸びてくる、柱の男の肉体ならば不可能ではない。

「放っておくワケにもいかないからな。
 重そうだから、適当な家に置いてやるだけでカンベンしろよ」

 ひとりごちて、露伴は巨漢の身体に手を伸ばした。
376創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:38:30.78 ID:Zen5c6pB

377生とは――(Say to her) 前編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:38:35.89 ID:70zUrR+3


 ◇ ◇ ◇


【2】


「なるほど。失念していたな。
 言われてみれば、たしかにそうだ。
 スタンドを使用すれば、人では不可能な精密動作であろうと可能となる。
 何せ、実験によって『頭さえ繋げられればボディを支配できる』という事実を知ったのが、スタンドを認識する遥か以前だったからな。
 このことに関しては、ついスタンドを考慮せずに判断してしまっていた。
 ならばもし脳だけが残った場合は、スタンド使いに移植をさせるとしよう。
 『恋人(ラヴァーズ)』など、非常に向いているとは思わないか?
 雇っているだけのスタンド使いであり、私への忠誠心など存在しない……が、そんなものはこの私には関係がない。

「それにしても――
 脳移植が可能ならば、多少疑問が生まれるな。

「『吸血鬼の脳を人間のボディに』ではなく、『人間の脳を吸血鬼のボディに』移植すれば――どうなるのだろうな。

「脳を失えば、吸血鬼のボディは動かない。
 元が人間であるのだから、人間の神経が繋げないワケがない。
 移植することは、決して不可能ではないはずだ。
 というより、脳移植を行うスキルさえあるのならば、確実に可能だろう。
 さて、この場合はいったいどうなるんだ?
 脳を針で貫くことで、私は人間を超越する肉体を得た。
 その超越した肉体に、針で貫かれていない脳は適合するのか?」

「答えは『不明』だ。
 そんなもの、試してみなくては分からない。
 かといって、別に試す理由もない。
 吸血鬼の頭を、吸血鬼のものではないボディに繋ぐ。
 その実験にはやるだけの意味があったが、こちらにはない。

「ただ、もしも適合するとすれば、言えることがある。
 あくまで仮定の話であるし、やはり私自身に実験を行うつもりなどない――が。
 どうにもまだまだ日が昇るには時間があり、目が冴えてしようがないので話を続けよう。

「――その脳の持ち主が善人であれば、死に行くまで苦悩するはめになるだろうな。

「吸血鬼の肉体に必要な食事は、『人間の血液』だけ。
 血液以外を欲さなくなるし、血液以外からエネルギーを得られない。
 無論、口に食料を放り込むことはできるが、その程度のエネルギーではまったく足りない。
 元より他者を踏み台と認識する輩ならばともかく、善人という連中はそうも行かないものだ。
 吸血鬼の脳さえ持ち合わせていたのなら、周囲の人間を食糧として認識することもできよう。
 なのに――脳は、人間のもののままだ。
 人間を人間と認識していながら、食事を取らねばならない。
 いかに人間を超越した肉体と言っても、食欲が消えるワケではないからな。
 むしろ消費するエネルギーが増える分、摂取するべきエネルギーも増す。空腹になりやすくなる。
 培ってきた倫理観と増幅する食欲、そのせめぎ合いを永遠に繰り返すことになる。
 しかも、そう簡単には死ねない。
 老いることもないし、多少自傷したところで再生して終いだ。
 中途半端に血を流すせいで、余計にボディは吸血を求めるだろうな。

「苦悩させようとしたならばともかく、善意から移植したのなら――はた迷惑もいいところだな」


 ◇ ◇ ◇
378生とは――(Say to her) 前編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:39:23.62 ID:70zUrR+3


「な……に、ィッ!?」
「ろ、露伴先生!?」

 露伴が目を見開き、傍らにいる川尻早人が悲鳴じみた声を上げた。

「バッ、バカな! これは――ッ!」

 横たわる巨漢を担ぐべく、露伴は両手を伸ばした。
 あまりにも大きな肉体を持っているため、片手で腕でも掴んで引きずるのも難しそうであったからだ。
 巨漢の腰付近に両手が触れた瞬間――露伴の両手は、巨漢の体内へと『沈んだ』。

「『喰』われているッ!?」

 腕を引こうにも、一寸たりとも動かない。
 まるで噛み付かれているかのように、微動だにしない。
 いや、違う。
 ほんの僅かにだが、動いている。
 腕を引き抜くことはできないのに、少しずつだが露伴の腕が呑み込まれているのだ。

(僕が犯した失敗は『二つ』……ッ)

 第一に、巨漢を両手で担ごうとしてしまったこと。
 手が片方でも空いていれば、『ヘブンズ・ドアー』を使用することができた。
 意識がない相手を本にできるのかは不明であるが、『ヘブンズ・ドアー』は急速に進化しているスタンドだ。
 いままでできなくても、この危機においてさらに進化するかもしれない。
 また、そのようなありうるのかも定かではない進化に頼らずとも、自分自身を本とすればよい。
 それで『喰われた腕を斬り落とせ』とか命令をすれば、片腕は失っても完全に喰われはしなかっただろう。
 漫画家にとって腕とは重大な仕事道具であるが、世の中には戦争で隻腕となっても傑作を生み出し続けた漫画家もいる。
 しかし、もはやそれさえ叶わない。
 両腕を喰われてしまっている現状、漫画家稼業はお終いだ。
 さすがに、足で書くというワケにはいかないだろう。

 そして、第二の失敗は根本的なものだ。
 露伴は、柱の男にとっての食事を見誤っていた。
 身体のどの部位からであろうと、生物を体内に取り込む。
 『ヘブンズ・ドアー』の命令で脳を喰わせたのだから、それについては認識していた。
 だが――『無意識』でも食事を取るとは、思っていなかったのだ。
 柱の男は食事をするに辺り、わざわざ『食べよう』などと意識する必要がないのだ。
 歩いている最中に身体に人間が触れれば、人間に気付かなくても身体が勝手に取り込んでいる。
 千年単位の長期睡眠中でさえ、通りがかった人間を無意識のうちに体内に吸収してしまう。
 人間が呼吸したり心臓を動かすのをわざわざ意識しないように、柱の男は無意識のうちに人間を喰らう。
 食事の方法だけでなく、食事に対する認識さえ異なっていることに露伴は気付いていなかった。
 意識せず食事をしているのだから、そんなものは『ヘブンズ・ドアー』の本に載っている道理がない。
 記憶を詳細に記した本で、記憶に残らぬ無意識について読み取れるものか。

「早人くんだったか? 僕は、もう無理だ」
「そんな! きっと、どうにか――」

 早人の気休めを、露伴は半ばで遮る。

「無茶言うなよ。喰われている僕が一番分かるさ。
 ふふ。そんな、泣きそうな顔をするなよ。みっともない。
 心配するなよ。別に、痛いワケじゃないんだ。むしろ、『気持ちがいい』な。
 初めて味わう感覚だよ。実に、素晴らしい体験だ。滅多にできるもんじゃない。
 これを作品に反映させられたら、どんなに痺れる一コマになるだろう。
 …………まァ、いまとなっちゃ不可能なんだけどね。何せ、ペンを持つ腕がないからな。ハッハッハ」
379創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:41:23.80 ID:Zen5c6pB
  
380生とは――(Say to her) 前編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:41:54.23 ID:70zUrR+3

 やれやれと肩を竦めて見せても、早人は無言である。
 露伴は顔をしかめて、露骨に不機嫌そうな口調になった。

「笑えよな、こういうときは」

 そんなやり取りをしている間に、二の腕までもが巨漢に呑み込まれていた。
 少しすれば肩まで浸食され、ついで顔や胸まで喰われてしまうことだろう。

「どうにもならないな、これは」

 潔く言い切って、露伴は足元のデイパックを早人へと蹴り飛ばす。
 巨漢を担ぐ際にジャマになると判断し、いったん地面に下ろしておいたのだ。

「それの外ポケットに紙が二つあるだろう。
 万年筆のキャップに挟まれたものと、もう一枚だ。
 万年筆に挟まれているほうは、万年筆と一緒に千帆さんに渡しておいてくれ。
 キミは彼女のことを嫌っているみたいで悪いけど、まあ死に行く人間のお願いだと思ってさ。
 イヤならイヤでも構わないんだが、その場合は人目に触れないようなところに処分してくれよ」

 困惑している早人をせかすように、露伴は口調を強くする。

「なに、ボーッとしてるんだよ! もう一枚のほうを渡せッ、早く!」

 ここに挟めという意味を込めて、露伴は口を大きく開く。
 理解できるか不安だったが杞憂だったようで、早人は紙を露伴の口に放り込んだ。

「できるだけ離れとけよ。
 顔を喰われる寸前に、この紙を上に放り上げてやるからさ」

 紙を咥えているので発音は悪かったが、伝わったらしい。
 もはや首まで喰らい付かれており、露伴には振り返って確認することさえできない。
 早人の足音が小さくなっていることから、遠ざかっていることは明白だった。

「もしものときのために、もう一度開けば出るようにしておいてよかったよ」

 軽口を叩くような口調で言いながら、露伴は『ヘブンズ・ドアー』を発現させる。
 本体の両腕が喰われてしまっているので、『ヘブンズ・ドアー』にも両腕はない。
 それでも、問題はなかった。
 いま必要なのは相手を本にする能力ではなく、咥えている紙を『蹴り上げる』力であるのだから。
 大振りな動作で蹴り上げられた紙は、勢いよく上昇して空中で開かれた。

「まァ、殺すのは悪いと思うがね。
 どちらにせよ死んでた身なんだし、生き長らえさせた僕が殺すんだから許してくれよ。
 現実を直視してしまう前に、寝ているうちに殺してやるからカンベンしろよ。すまないな」

 岸辺露伴の支給品は、二つあった。
 早人に託した万年筆が片方で、もう片方は『杜王港に設置されているコンテナ』。
 中身になにが入っているのかは杜王町在住の露伴とて知らないが、コンテナだけでもかなりの重量だ。

「まったく。罪なんて背負うもんじゃない」

 自嘲気味に吐き捨てた言葉は、コンテナが上空から落下した轟音に掻き消された。
381生とは――(Say to her) 前編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:43:25.49 ID:70zUrR+3



 露伴が推測した通り、双葉千帆はたいして遠くまで行っていなかった。
 民家の壁に背中を預けてへたり込んでいると、先ほどまでいた地点から轟音が響く。
 しばし逡巡したのち、戻ってみることにした。
 露伴の行動は理解できなかったが、彼のいるほうでなにかあったならば気にかかるのは当然だ。
 衝動的に逃げ出してしまったのに引き返すのは体裁が悪いが、それよりも心配な思いのほうが強かった。

「…………え?」

 先ほどまでいた地点に到着した千帆は、そんな間の抜けた声を漏らしてしまった。
 それも、仕方のない話であろう。
 ほんの少し前にはなかった巨大なコンテナが、住宅街のド真ん中に落ちているのだから。

「えっ? これ、えっ? 露伴先生は……?」

 意図せず零れた疑問に答えるように、いつの間にか近くにいた川尻早人が人差し指を伸ばした。
 その指の先には、コンテナ以外になにもない。

「あの下だよ。露伴先生は……自分を犠牲にして、あのバケモノを殺したんだよ」

 事態を呑み込めずにいる千帆に、早人は背負っているのとは別に持っているデイパックから万年筆と紙を取り出す。

「露伴先生から、お姉ちゃんにってさ」

 千帆が混乱しながらも紙を開くと、折り畳まれていた紙は三枚であった。
 そのすべてに、びっちりと文字が書き記されている。
 一行目を読んだだけで、それが双葉千帆へと岸辺露伴が宛てた手紙であることは明らかだった。


 ◇ ◇ ◇


「小説家、千帆さん――

「キミがこれを読んでいる以上、僕はきっともう死んでいるのだろう。
 ちなみにこの手紙は、キミが僕の書斎で難しい顔をしているときに書いている。
 自分が考え込んでいる間に、こんなものを書いているなど気付かなかっただろう。
 僕だって、驚いている。自分で書きながら、驚きすぎて少し鼓動が早くなっている。
 まさかこの僕が、こんなにありきたりで月並みな冒頭文を書くことになるとは、とても思っていなかった。
 これをキミが読むべき事態にならなかったときには、誰にもバレないようにこっそりと処分せねばならない。
 クソッタレ仗助やアホの億泰辺りに見られるのはもちろん、愛すべき友人である康一くんにだって見られたくはない。
 焼くのが一番手っ取り早いのだが、クソッタレ仗助のことを考えると最善手とは言い難い。まったく、本当に面倒なヤツだ。
 ともあれ、せっかくキミに宛てる手紙であるというのにあの男のことで紙面を割くのも苛立つので、とにもかくにも文章を続けよう。

「本題に入る前に、説明だけしておこう。
 この僕が、わざわざキミのために手紙など綴っている理由。
 一応、それだけは伝えておかねばならない。
 まさかとは思うが、この僕が高校一年生のキミに特別な感情を抱いている――
 などと、そんな盛大な勘違いをされた日には、僕はおちおちあの世でゆっくりしてもいられない。
 だいたい交際相手がいるというのに、手を出す気になんてなるものか。
 いや、まずい。これでは、彼氏がいなければ話は別だと取られかねない。
 この僕が、キミのような少女に特別な感情など抱くはずがないだろう。ふざけるな。
 頭に来て書いてしまったが、キミが勘違いをしていなければそれでいい。というかしていないだろう。
 万年筆を使っているせいで文章を消して書き直すことができないのだが、癪なのでこの紙で続けようと思う。
382創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:44:38.40 ID:Zen5c6pB
   
383生とは――(Say to her) 前編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:45:37.86 ID:70zUrR+3

「ひとまず、本題だ。
 いや、あくまで本題に入る前の説明か。
 それは、私が生前(これを書いている時点では生きているが)キミに質問を出していたからだ。
 センパイ面をして質問しておきながら、その答えを言わずに死ぬというのはいささか不本意でね。
 疑問文に疑問文で答えるヤツが鬱陶しいように、質問を出しておきながら答えを言わないヤツも鬱陶しい。
 どーでもいいヤツに鬱陶しがられようと知ったこっちゃないが、多少でもおもしろいと思った人間にそう思われるのはイヤでね。
 こうして、筆を取らせてもらった。
 なのでキミが質問内容を忘れているのならば、こんな手紙はもう読まなくていい。というか読まないでくれ。時間の無駄だ。
 ただ、その場合はこの手紙を他の誰にもバレないようにこっそり処分してもらいたい。この僕の遺言なんか聞く筋合いはないだろうが、切に願う。

「読み進めている以上、キミは僕の質問を覚えているのだろう。
 ――と書いてみて、分かったことが一つある。
 冒頭で書いて自然に鳥肌が立ったこの言い回しも、二度目となると慣れるものだ。
 こういうことが分かるのだから、何ごともやってみなくては分からない。

「ともかく、質問についてだ。
 『LESSON1』として、僕はキミに尋ねたのだ。
 『作品の主人公はこの状況でいったいどんな行動が可能だろうか』と。
 そしてそれに対する答えを言っておくために、僕はこうして手紙を書いている。
 ――のだが、こんな質問に決まった答えなどない。
 当たり前のことだ。
 書く人間によって違うさ。
 決まっているだろう、そんなもの。
 実際にキミがこの殺し合いで取る行動は、あとから思い返してみれば『たしかにあった現実』以外にありえないだろう。
 しかし――物語。
 小説にせよ、漫画にせよ、物語であるのなら別だ。
 あとから振り返って『取ろうとは思ったけれどやめたこと』だって、物語の主人公は取ることができる。
 『取ろうとすら思わなかったこと』だって、同じだ。
 なんだって取ることができるのさ、物語の主人公ってヤツはね。
 それが答えだよ。それ以外にはない。

「念のために言うが、ふざけてなどいない。
 ふざけているものか。物語ってのは、そういうもんさ。
 『事実は小説よりも奇なり』って言葉があるだろう?
 キミなら知っているだろうが、いかなる小説よりも事実こそもっとも奇妙だ、って意味だ。
 たしかに、そうだろうな。
 現実ってのは、なんだかんだで予想できないものさ。
 けれど、現実そのものなんて読みたいか?
 『たしかにあった現実』だけを読みたいか?
 僕は、御免こうむるね。
 伝記やノンフィクションも好きだけど、それらを読むときと物語を読むときの気分は別なのさ。
 実際にあった現実に縛られる主人公だなんて、心底下らないよ。
 『事実は小説より奇なり』。なるほど、正しい。物語は事実に及ばないさ。
 けれど――『小説は事実より嬉なり』。事実だって、物語には到底及ばない。
 だいたい、事実と物語は別物さ。
 別物同士を比べようったって、無理があるに決まっている。

「キミは現実をそのまま物語にしたいと言っていたが、そんなことやめちまえ。
 そんなものは、ノンフィクション作家に任せておけばいいのさ。
 ノンフィクション作家になりたいのなら止めないが、小説家なんだろ。
 勘違いしているかもしれないので、偉そうなことを言わせてもらおう。
 物語を作るのならば、書くべきは『現実(リアル)』じゃない。
 それを土台とした『現実感(リアリティ)』なのだよ。
 リアリティこそが、リアルならぬ物語に生命を吹き込む。
 リアリティなき物語はウソっぽいが、リアリティある物語は違う。

「――人の心を揺らす『エンターテイメント』だ。
384創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:46:30.26 ID:Zen5c6pB
385創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:49:21.43 ID:Zen5c6pB
386創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:50:47.60 ID:Zg0akZZp
 
387創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:51:12.83 ID:Zg0akZZp
 
388創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:52:05.05 ID:Zg0akZZp
 
389創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:53:32.67 ID:Zg0akZZp
 
390創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:53:41.52 ID:Zen5c6pB
391創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:54:15.81 ID:Zg0akZZp
 
392生とは――(Say to her) 前編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:54:23.06 ID:70zUrR+3

「そして『LESSON1』と言ったが、あれは嘘だ。
 いや、『LESSON1』でもあるのだが、それだけではなく。
 これこそが物語を作る上で、唯一にして最大のポイントだからな。
 つまり『FIRST LESSON』であり、同時に『FINAL LESSON』というワケさ。
 なので、言わせてもらうとしよう。

「卒業おめでとう、千帆さん。
 卒業贈呈品というワケではないが、この手紙を書くのに使った万年筆をキミに渡そう。
 やはり、僕の手には万年筆よりも、Gペンのほうが馴染む。
 武士には日本刀であるように、スナイパーにはライフルであるように、漫画家にはGペンである。
 そして小説家にこそ、万年筆は似合う。万年筆を漫画家に支給するなんて、あの男はセンスがないな。

「追伸――というほどのことでもないが。
 キミは『将来の夢が小説家』と言っていたがね。
 小説家にしろ、漫画家にしろ、作品で収入を得られなくては相応しくない呼称だとは考えていない。
 『読んでもらうために』作品を作る人間は、十分そう呼ばれていい人間だと思う。
 キミはキミの彼氏に物語を読んでもらったそうなので、キミは僕の基準では小説家だ。
 だから僕はただの女子高生としての千帆さんではなく、小説家である千帆さんをこの手紙の宛名としたのである。

「あと、最初に苗字で呼んだのは謝っておくよ。
 しばらく気付かなかったが、話してくれたキミの生い立ちを考えるに名前で呼ぶべきだった。

「――以上。
 漫画家、岸辺露伴。

「さらに追伸。
 途中でやめず最後まで読んだとしても、この手紙は処分しておいてくれ」


 ◇ ◇ ◇


 千帆の視界が歪んで、半ばで文章を追うのが難しくなった。
 それでも服の袖で目元を擦って、どうにか読み進めていく。
 何度も何度も袖を濡らして、ようやく手紙を読み切ることができた。
 最後の一文まで読むと、千帆は意図せずくずおれてしまう。
 感情的な非難を浴びせたのが最後となってしまったのが、どうしようもなく悔やまれた。
 人殺しとはいえ人の脳を破壊して、異なる人の脳を移植する。
 倫理に背く行動ではあったが、死に行く人を助けるために取った行動ではなかっただろうか。
 露伴も苦渋の決断であったかもしれないのに、どうして非難しかできなかったのか。
 小説家を目指す自分に対して、こんなに長い手紙を残してくれた人だというのに。
 プロの漫画家でありながら、素人小説家の自分に作品論を語ってくれた人だというのに。
 なぜ、言い分を聞こうとすらせずに、頭ごなしに否定ばかりしてしまったのだろうか。

「露伴先生、どうして……」

 歯を噛み締めながら、千帆は搾り出すように呟く。

「間違ってるよ、お姉ちゃん」

 それに対して返ってきたのは、冷たく低い声だった。
 とても――まだ小学生くらいであろう少年のものとは思えない。

「全然、まったく、完膚なきまでに間違ってる。
 百点満点中で二十点とか十点とか、そんなレベルじゃない。
 細かく採点されるまでもなく、パッと見ただけで〇点だよ。
 そんなふうに泣きながらへたり込んでるんじゃあ、どうしようもない。
 解答用紙に答えを書こうともせず、問題について考えようともせず、名前が記された答案から目を逸らしてるようなもんだ」
393創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:54:48.01 ID:AkvI2Hp4
 
394創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:54:48.69 ID:Zg0akZZp
 
395生とは――(Say to her) 前編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:55:02.07 ID:70zUrR+3

 早人は、振り向きすらしない。

「露伴先生のやったことを責めといて、露伴先生が死んだら泣く。
 僕がカチンと来てちょっと怒鳴ったら逃げといて、結局戻って来る。
 なにがしたいのか、全然分からない。
 なにもしたくないんじゃあないの。なにかすることから逃げて、さ。
 そんなんじゃあ……ダメなんだよ。間違ってるんだ。〇点しか取れないんだよ」

 詰まることなく、とうとうと続ける。

「人殺しはいるんだよ!
 僕は、それを知ってるんだ! お姉ちゃんだって見ただろう!?
 ママだって、ここにいるんだ! 人殺しなんかがいるこの場所にさ!
 人殺しってのは、必死になんなきゃ止められないんだよ! どんな手でも使うつもりの気持ちで!
 止めようとするだけじゃあ、ダメなんだ! 人を殺させないようにしようとしたくらいだと、結局殺されるんだよ!
 露伴先生だって、仗助さんだって、億泰さんだって、康一さんだって、承太郎さんだって……あんなすごい人たちそうだったんだ!
 殺すのを止めるつもりで頑張ったくらいじゃ、みんな死んじゃったんだよ! それも一回じゃない! 何度だってっ! 何度だってさっ!」

 そこまで一息で言ったのち、呼吸を整える。
 時間をかけて、荒くなっていた口調を落ち着いたものへと戻す。

「……そうさ。
 人殺しを止めるには、殺してやるつもりじゃないとダメなんだ。
 ぬるい気持ちでいると、あのときみたいにみんな死んじゃうんだよ。
 お姉ちゃんには分からないだろうけどね……
 でも、あの『第三の爆弾』を設置されて、何度も目の前で人が死ぬのを見せられてきた僕には分かるんだよ」

 それだけ言い残して、早人は千帆に視線を向けすらせずに去って行く。
 その足が、唐突に止まった。

「…………なんなのさ、お姉ちゃん」

 背後から抱き締められたからだ。
 千帆が返事をしないことに苛立ったのか、早人は声を張り上げる。

「もう、なんなんだよ!
 間違うなら、一人で間違っててよ! どうして僕まで巻き込むんだよ!!」

 早人は気付いていないが、千帆にも早人の言い分は理解できていた。
 彼女自身、殺すしかないと思った相手がいるのである。
 手にかける寸前で殺し合いに巻き込まれたが、そうでなければ包丁を突き刺していたことであろう。
 だから、早人の言葉に納得はしている。
 この世に殺す以外に手がないような悪人がいることなど、千帆にはよく理解できている。
 ただ、それを幼い少年が認識しているという事実が、千帆には悲しかった。
 そんなことを、早人に言えるはずがない。
 ゆえに、黙るしかないのだ。

 抱き締められた状態が数分続いて、ついに早人が根負けした。
 このままずっと動けないままでは困ると考えたのだろう。
 あからさまに嫌そうな表情をしながら、千帆のほうを向き直る。

「あーもう、いいよ。仕方ないから。
 そんなに行って欲しくないならついてくればいいだろ、お姉ちゃん」

 予期せぬ言葉に呆ける千帆をよそに、早人は杜王町の奥へと進んでいく。
 ゆっくりと遠ざかっていく背中を、千帆は急いで追いかけた。
396生とは――(Say to her) 前編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:55:19.24 ID:70zUrR+3



【E−7 杜王町住宅街(中心部)/一日目 黎明】

【川尻早人】
[スタンド]:なし
[時間軸]:四部終了後
[状態]:健康、漆黒の意志:小
[装備]:無し
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:ママを守る。人殺しは殺す。
1:本物の杜王町への手がかりを探す。
2:仕方がないので千帆と行動。


【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:健康、不安
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、万年筆@三部、露伴の手紙、ランダム支給品1〜2
[思考・状況] 基本的思考:ノンフィクションではなく、小説を書く。
1:早人と行動。
2:ゲームに乗る気はない。
3:琢馬兄さんもこの場にいるのだろうか……?


 ◇ ◇ ◇
397創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:55:24.67 ID:Zen5c6pB
398創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:55:25.79 ID:Zg0akZZp
 
399創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:55:30.36 ID:AkvI2Hp4
 
400生とは――(Say to her) 前編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:55:45.40 ID:70zUrR+3


 川尻隼人と双葉千帆が移動して、ほどなくして――
 住宅街の真ん中に落とされたコンテナが、小刻みに揺れ出す。
 振動が一分ほど続いてようやく収まったかと思いきや、ゆっくりと浮かび始める。
 いや、浮かぶという言葉は正しくない。
 『押し上げられて』いるのだ。
 コンテナの下にあるなにかによって。

「…………どう、なっている?」

 コンテナから這い出してきた男が、怪訝そうに呟く。
 筋骨隆々の巨漢である。
 太古の昔地底を住処としていた――柱の男が一人、エシディシ。
 その肉体に脳を移植された――レオーネ・アバッキオである。

「俺は……死んだ、はずだ」

 アバッキオの記憶は、エシディシによって腹を貫かれたところで途切れている。
 実際に貫かれたのはスタンドの『ムーディー・ブルース』であるが、スタンドのダメージは本体にフィードバックする。
 腹に穴が開いて生きていられる人間はいない。
 だというのに、どうして自分は生きているのか。
 それが、アバッキオには理解できない。
 しばらくしてからようやく、もう一つの腑に落ちない事実に気付く。

「……この、声は……?」

 思わず疑問を口にしたのは、アバッキオ自身であるはずだ。
 アバッキオ自身が、そう認識している。
 しかしながら、捉えた声が自分のものではない。
 特に意識せず声を出したはずなのに、唸るかのように低いのだ。
 咄嗟に口を手で押さえようとして、またしても違和感。

「なん……だッ、この手は……!?」

 自分の顔面に伸びてきた掌に、アバッキオは息を呑む。
 厚く、硬く、巨大な両掌。
 慣れ親しんできたものとは、似ても似つかない。
 掌からなぞるように身体を眺めていくと、アバッキオの目はどんどん丸くなっていく。

「手だけじゃあ……ねえ。どう……なってるッ!? 『ムーディー・ブルース』ッ!!」

 異変をスタンド攻撃と判断し、アバッキオは自身のスタンドを呼び出す。
 紫色のヴィジョンが問題なく現れたことに安堵して、分身へと命令を下す。

「俺が意識を失っている間になにが起こったのか……この目で見るしかないッ! 『巻き戻せ』ッ!!」

 カシャ、カシャ、カシャ――

 機械的な音とともに、『ムーディー・ブルース』の額にあるメーターが回転していく。
 数刻ののち、彼は真実を知ることになる。
 それが知るべきでない真実であろうとも関係なく、『ムーディー・ブルース』は本体の指示通りに真実を暴く。
401生とは――(Say to her) 前編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:56:02.80 ID:70zUrR+3



【E−7 杜王町住宅街(北西部)/一日目 黎明】

【レオーネ・アバッキオinエシディシ】
[スタンド]:『ムーディー・ブルース』
[時間軸]:JC59巻、サルディニア島でボスの過去を再生している途中
[状態]:動揺
[装備]:エシディシの肉体
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考・状況] 基本行動方針:――――――――!?
0:困惑。他の思考にまで頭が回っていない。
[備考]
※肉体的特性(太陽・波紋に弱い)も残っています。
※吸収などはコツを掴むまで『加減』できない。
402創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:56:05.32 ID:Zg0akZZp
 
403創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:56:11.58 ID:AkvI2Hp4
 
404生とは――(Say to her) 後編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:56:32.67 ID:70zUrR+3


 ◇ ◇ ◇


【3】


「――ふむ。

「読書をすると言ってあの老婆を追い出したが、やはり一度考えてしまうとどうにもならないな。
 文字を目で追っているというのに、なにも頭に入ってこない。
 これでは本を開くだけ無駄だ。読書を中断し、結論を下してから再開するとしよう。

「もしも、現実が逆であったとしよう。
 ジョナサン・ジョースターの頭が、この私の肉体に移植されていたのなら。
 あの当時、吸血鬼ではないただの人間を頭だけの状態で、手術が終わるまで生存させるのは技術的に不可能だが。
 とにかく、偶然その場に居合わせたスタンド使いの力なりによって、どうにか移植手術が成功したとしたら――ふん。

「考える前でもなく、分かり切っている。

「ヤツは、確実に己の命を絶つ。
 『波紋』が使えなかったとしても、自ら日光の下に身を晒す。
 いずれ吸血衝動を抑えられなくなるより、まだ衝動が弱いうちに人間として死ぬ。
 そういう愚かな男だ……そうでなくてはならない、この私が唯一尊敬したあの男は。

「しかし――
 またしても、仮定の話になるが。
 吸血鬼のボディに脳を移植された他人に、ジョナサン・ジョースターが出会ったのならば。
 この私には喜劇の主人公にしか見えないが、あの男には悲劇の主人公に見えるだろう移植者を――

「ヤツは、はたしてどうするのだろう。

「自分が吸血鬼の肉体を手に入れたなら、躊躇なく命を絶てるだろう。
 だが、自分以外の誰かが、人間の脳のままに吸血鬼の肉体を手に入れてしまったなら――

「『波紋』のエネルギーを流すことができるのだろうか。
 気に喰わないことに、貴族の家に生まれながら誰より優しい――あの男は」


 ◇ ◇ ◇
405創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:56:41.87 ID:AkvI2Hp4
 
406創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:56:52.00 ID:Zg0akZZp
 
407生とは――(Say to her) 後編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:56:54.00 ID:70zUrR+3


「よーォやく! やーっと! ついに! 反応見つけたぜ、ジョナサン!」

 顔を綻ばせている小柄な少年は、ナランチャ・ギルガという。
 彼の肩に乗っている全長五十センチほどの小さな飛行機は、プラモデルやラジコンの類ではない。
 それこそが、彼のスタンド『エアロ・スミス』なのである。
 取り付けられている機関銃や爆弾を用いた遠距離からの攻撃を得意としているが、それだけが能力ではない。
 周囲の二酸化炭素を探知するレーダーをも、『エアロ・スミス』は備え付けているのである。

「それも一人じゃねえ! 三人だ! より正確に言やァ、二人組と一人!」

 ナランチャより告げられる情報に、彼の同行者であるジョナサン・ジョースターは胸を撫で下ろす。
 コロッセオを見て回りたい気持ちを抑えてまで、人が集まるだろう住宅街を目指していた。
 殺し合いを命ぜられて怯えているだろう人々の元に、いち早く駆けつけるためである。
 にもかかわらず、一向に誰にも出会えずにいた。
 『エアロ・スミス』のレーダーに反応はないし、ジョナサンの研ぎ澄まされた感覚にもなんの反応もない。
 そのせいで焦りを募らせていたのが、ようやく発見することができた。

「どっちに行くんだ、ジョナサン?」
「そうだな……」

 ジョナサンが考え込んだのは、ほんの僅かな時間だけであった。

「まず、一人のほうに向かおう」

 一人だけで、心細い思いをしているかもしれないから。
 ジョナサンがそう続けると、ナランチャは納得したように深く頷いた。
 ナランチャの察知した反応を頼りに進みだしてすぐに、ジョナサンは眉をひそめる。

 カシャ、カシャ、カシャ――と。

 そんな奇妙な音が、ジョナサンの鼓膜を刺激したのである。
 波紋戦士の優れた五感ゆえに捉えられたらしく、ナランチャはなにも反応していない。
 神経を尖らせつつ歩んでいると、音はどんどん大きくなる。

(これはッ、向かっている地点から聞こえているのか……?)

 ジョナサンが警戒心を強くしたのと同時に、ナランチャが足を止めた。
 『エアロ・スミス』のレーダーを見られるのは、使い手であるナランチャ自身だけである。
 なので、当然ながらジョナサンも立ち止まるしかなくなる。
 怪訝に思ったジョナサンが声をかけようとすると、ナランチャは一人で呟き始める。

「バッ、まさか!? いや……でもッ、あの音は――ッ!
 は、はは……なんだよ! アバッキオのヤツ、生きてたのかよ!!」

 アバッキオという名は、ジョナサンもナランチャから聞いていた。
 この殺し合いに呼び出されるより前に、腹に大きな穴を開けられて死んだのだという。
 ジョナサンは考古学者志望であり、あまり医学には明るくない。
 それでも、さすがに分かる。
 腹に穴を開けられれば、腹にある重大な臓器も根こそぎ抉り取られ――人は死ぬ。
 たとえ波紋使いであろうとも、十分死に至る致命傷である。
 だというのに、ナランチャはなんと言ったのか。
 困惑してしまったがゆえに、ジョナサンはナランチャが走り去るのを止められなかった。
 ジョナサンが気付いたときには、ナランチャの背中はだいぶ小さくなっていた。
408創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:57:04.71 ID:AkvI2Hp4
 
409生とは――(Say to her) 後編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:57:20.26 ID:70zUrR+3

「しまッ!? 待つんだ、ナランチャ!
 アバッキオが生きてるっていうのは、いったいどういう――」

 どうにか引き留めようと、ジョナサンは咄嗟に疑問を口にする。
 言い切るより早く、答えは飛んできた。
 ナランチャは走る速度を緩めずに、顔だけジョナサンのほうを振り返って叫ぶ。

「これは、アイツのスタンド『ムーディー・ブルース』の音なんだよ!
 この音がしてるってことは、アイツが生きてるってことなんだッ!」

 なにを言っているのか、ジョナサンにはよく分からなかった。
 よく分からなかったが、よく分からないなりに考えてみる。

(スタンドは……ナランチャの話では、『一人一体』!
 そしてッ! 同じタイプはありえても、『まったく同じスタンドはありえない』!)

 ナランチャの反応を見るに、彼にとってアバッキオは本当に大事な仲間だったのだろう。
 ならば、とても『同じタイプ』から出ている音を間違っているとは思えない。
 ジョナサンはスタンドについて詳しくないので、これに関しては憶測にすぎないが。

(ならば……『まったく同じスタンド』なのか!?
 けれど、同じスタンドを別人が持つことはありえないらしい……!)

 ジョナサンの脳裏に、一つの仮説が浮かぶ。
 死んだはずの人間が、まるで生きているかのように動く。
 そういう現象には、心当たりがあった――ありすぎた。

(確実にそうだとは言い切れない。でも、もしかしたら……!)

 ジョナサンは瞳を閉じると、呼吸を整えていく。
 その独特の呼吸法によって、波紋のエネルギーを体内で精製する。

(屍生人について詳しく教えなかったのは、僕のミスだッ!)

 波紋を身体中に行き渡らせたのち、ジョナサンは目を見開く。
 そして全身の波紋を足裏に集めて、大きく跳び上がった。
410創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:57:23.79 ID:AkvI2Hp4
 
411創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:57:29.72 ID:Zg0akZZp
 
412生とは――(Say to her) 後編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:57:40.23 ID:70zUrR+3



【E−7 杜王町住宅街(北部)/一日目 黎明】

【私とあなたは友達じゃないけど私の宿敵とあなたの友達は親子】

【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
1:ナランチャを追う。アバッキオに屍生人ではないかという疑念があるも、現状で確証はない。
2:他の参加者を探すため、杜王町住宅街へと向かう。
3:(居るのであれば)仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
4:ジョルノは……僕に似ている……?
[備考]
※見せしめで死亡した三人に、『なにか引っかかる』程度ですが感じるものがあるようです。
※ナランチャの知る五部主要メンバーの情報を得ました。ただしナランチャ参戦時点で死んでいる人間については詳しくない。


【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド] :『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0:この音は……ッ、『ムーディー・ブルース』ッ!?
1:ジョナサンについていく。仲間がいれば探す。
2:もう弱音は吐かない。
3:ジョナサンはジョルノに……なんか……似てる。
[備考]
※一部主要メンバーの情報を得ました。ただし屍生人などについては詳しくない。
413創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:57:52.79 ID:AkvI2Hp4
 
414生とは――(Say to her) 後編 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:58:03.84 ID:70zUrR+3





【岸辺露伴 死亡】
【残り 88人以上】





【支給品紹介】


【コンテナ@四部】
岸辺露伴に支給された。
レッド・ ホット・チリペッパー戦の舞台となった杜王港に設置されていたもの。


【万年筆@三部】
岸辺露伴に支給された。
「万年筆ですって!? これが! 万年筆にみえるの?」のヤツ。
きちんと使用できたようなので、不良にブッ刺されるより前に回収されて支給されたらしい。



【備考】
※アバッキオの付近に、ブッ潰れたコンテナが放置されています。
※岸辺露伴の肉体は、コンテナの下敷き&アバッキオに吸収。
※岸辺露伴の死因は、自身の落としたコンテナによる圧死です。
415創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 05:58:29.35 ID:AkvI2Hp4
 
416 ◆ZAZEN/pHx2 :2012/02/12(日) 05:58:35.87 ID:70zUrR+3
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。
417創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 08:38:40.33 ID:GfLTCF5f
投下乙です
とりあえず感想だけ
折り重なるように巻き起こる悲劇…せつねぇー
全員のこれからに良い予感が全く持てない鬱展開にぞくぞくしました
418創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 15:04:52.51 ID:8jADp9pj
投下乙
このロワを稀に覗くだけの自分を惹きつける、素晴らしいSSでした
『経験者』を語り部に据えることで生まれる、圧倒的な『現実感』
そしてこの上もなく『岸辺露伴的』な行動と、遺された手紙……
これこそエンターテインメントだ!
419創る名無しに見る名無し:2012/02/12(日) 16:58:53.51 ID:1wpsuPA3
乙です バトン上手いなー
「一体どうなってしまうのか!?」的な振りにwktkします

あと、物凄く細かいようですが 
×エアロ・スミス ○エアロスミス です 
表記にブレがあるので、統一していただけるとありがたいです
420創る名無しに見る名無し:2012/02/13(月) 00:40:39.66 ID:l+iFt86B
乙!!!

なるほどそう来るか……って感じの展開。
予約の時点では露伴死亡は予想できなかった
ポルナレフ、リゾットに次ぐ解禁出場かつ全死亡キャラの仲間入りですな。
しかし、前者二人に比べてイマイチ露伴は活躍できてない気もする。
露伴先生ロワ運がないのだろうか……
421 ◆c.g94qO9.A :2012/02/13(月) 01:19:16.19 ID:9jCPtbKW
投下乙です。
相変わらずの引きのうまさに脱帽です。それぞれのコンビのいく末がまったく見えず、アバッキオ自身も一体どうなる事やら。
間間に挟まれたDIO様のモノローグが原作全開すぎて、凄い。

予約の分ですが、現在推敲中です。30分をめどに投下したいと思ってます。
422 ◆c.g94qO9.A :2012/02/13(月) 01:43:41.72 ID:9jCPtbKW
投下します。
423 ◆c.g94qO9.A :2012/02/13(月) 01:44:51.27 ID:9jCPtbKW
人と待ち合わせをするとその人の性格がよくわかる。
相手を待たせては悪い、そう考え10分、15分前から集合場所にいるなんてざら。そんな義理堅い人もいる。
少しぐらいは大丈夫だろう、俺とあいつの仲だから。そう言って平気で5分、10分の遅刻を繰り返す人もいる。

約束や誓いは時に困難を極める。言葉に含む意味以上のものを持つ時だってあるのだから。
あまりに拘りすぎると、義理堅いヤツから堅苦しいヤツに。ルーズすぎると、おおらかヤツがだらしないヤツに。
一概にどうすればいい、とはいえないのが難しいところ。相手の気持ちもわからなければ、自分の感情ですら時に大きく移り変わる。

周りを見渡してみてみるといい。
笑いが絶えない、明るく理想的ともいえる家族関係。今では言葉も交わさず、顔も見合わせない仲。
互いに尊敬の念を抱き、高みへと励まし合う友人同士。ほんの少しのすれ違いから絶交へと拗れていく。
熱っぽく、らんらんとした目で愛を語り合うカップル。数日後、顔を真っ赤に、罵倒合戦。

誓いも、誇りも、約束も。存外馬鹿げたものなのだ。正直者がアホを見る。
固く育った杉が真ッ二つ。固ければ固いほど、それは半面脆さを持つ。のらりくらりの柳は折れやしない。
必ずなんて言葉は必ず使ってはいけない。絶対なんて絶対この世にない。そんな奇妙なパラドックス。



心が壊れる音がする。あまりにも馬鹿げた理由で、人は人でなくなっていく。




424創る名無しに見る名無し:2012/02/13(月) 01:46:01.09 ID:jZrhp3cc
支援
425アルトリアに花束を   ◆c.g94qO9.A :2012/02/13(月) 01:46:38.50 ID:9jCPtbKW
奇妙な形の影が行く。大地を踏みしめ、大きな身体が一歩、二歩、ずんずん前へと進んでいく。
通りがかった街灯が影を照らした。巨大な男が少女を担ぎ、闇の名からぬっと姿を現した。
男の名はタルカス、少女の名はスミレ。一人の可憐な少女と、忠義に厚い西洋騎士。

二人の会話は街並みにこだまし、あたりに響いていく。騎士は周りを鋭い視線で警戒し、少女は無邪気に笑顔を見せている。
ナイトとプリンセス、大小歪な二人はどんどん道を進んでいく。

「だ、か、ら! 言った、じゃ、ない!」
「しかし、スミレ、使えるものは使わなければ……」

言葉の区切りごとに振り下ろされる小さな手。ペチペチと頭をはたかれるが、所詮子供のじゃれあいだとタルカスは気にも留めない。
彼の顔が曇ったのは別の理由だ。暗闇の中で遂には見つからなかった自分のカバン、ついさっきの自分の短絡さに思わず仏頂面になる。
そんなことを知ってか知らずか、少女は少し意地悪そうに、大男をからかい始めた。

「なぁに、タルカス、そんなに不安なの? アンタ、そんなでかい図体してるのに意外に憶病なのね」
「そうではない。しかし少しでも可能性があるのであれば、少しでも確率があがるのであれば、これを使わない手はないだろうが。
 それに地図をなくしたらどうする? 水は、食料は?」
「なんとかなるわよー! そんなことより早く行きましょ! 向かうはシンガポールホテルー、シンガポールホテルー!」
「……まったく、呑気なものだ」

タルカスはそう呟く。
少女はあまりに無警戒で無防備だ。自分が守るしかないと気合を入れなおしたタルカスは、一際注意を払い闇へと目を凝らす。
ここは戦場、一時だって気は抜けやしないのだ。
しかし、そこまで考えたタルカスは頭上に跨る少女の笑い声に頬を緩める。そんな無邪気さに彼は救われたのだ。そんな少女の器の大きさに、彼は安らぎを覚えたのだ。
無邪気で、いたずら好きで、口の悪さは折り紙つき。元気で朗らかな、じゃじゃ馬娘。そんな彼女だったからこそ、彼は救われたのだ。

かつて虚しさの果てに見つけた、メアリーのような底なしの優しさ。スミレにはそんな優しさがあった。
誰にでも、どんな相手にでも慈愛の手を差し伸べてくれるのだ。呪いに打ち負け、皆殺しに走ろうとした自分すら、彼女は受け入れた。

守りたい。タルカスはそんな彼女を守りたいと思う。
そんなことだけかと人は言うもしれない。彼も自覚はしている。きっと他人からしたら馬鹿げた理由なのだろう。
でもそれで充分なのだ。タルカスは誰かのために戦い、誰かのためにしか生きられぬ、馬鹿で愚直な戦士なのだから。

頭上のスミレが軽口をたたく。戦士である彼には気の利いた事など言えない。率直に飾らずに自分の気持ちを正直に伝える。
その真っすぐさが面白いのか、スミレは笑いをこぼし、続けて言葉を返してくる。
なんでもない会話ですら平穏を知らない彼にとっては貴重な時。忠誠を誓った相手との代えがたき悠久の時。
426創る名無しに見る名無し:2012/02/13(月) 01:47:07.11 ID:dfhf6k3d
紫煙(パープル・ヘイズ)

支援
427アルトリアに花束を   ◆c.g94qO9.A :2012/02/13(月) 01:48:01.76 ID:9jCPtbKW
だがそんな時も永くは続かなかった。
ここは戦場。血が洗い流され、死屍転がる慈悲なき場所なのだ。



「ッ!」
「きゃっ!」


風を切る鉄鎚、街灯横切る影が二人に飛びかかってきた!
決して緩めていたわけではない緊張感、張り巡らしていた警戒網を潜り抜け、突然の急襲。
タルカスはこの一撃に対し横ッ跳び、何とか紙一重でやり過ごす。しかし頭上にまたがるスミレの悲鳴に思わず怯んでしまった。

隙を見逃さず、相手は容赦なく追撃!
鼻先をかすめて行くのは鈍く光る鉄の塊。スミレの事を考えるといつもどおりに飛び回るわけにもいかず、タルカスはすぐに劣勢へと追い込まれてしまった。
スミレから預かった槍を操り、なんとか相手の攻勢をしのいでいく。重いハンマーの衝撃に、両手がジン……と痺れだす。
振り上げられては振り下ろされ、そうかと思えば横から刈り取るよう振るわれる鉄鎚。相当な重さであるはずなのにそれを感じさせない凄まじい速度。隙を見せない相手はかなりのやり手だ。

だがタルカスはそんな相手に攻めに出た! 普通であるならば及び腰になるところで逆に打って出る! 敵の第二陣が来る前に、彼は手の中の槍を鋭く放った!
このままではじり貧、手の中の槍もこの攻撃を受け続けていたらいずれ壊れてしまう。なによりスミレの身が危ない。
そう判断したタルカス。槍を突き刺し、振り回し、相手とは対照的に手数勝負の技巧戦術。スミレを担ぎ、慣れない得物であるが、それでも彼は歴戦の勇士。次第に立場は変わり、防戦から攻勢へと状況は変わっていった。

ほんの少しでいい、相手の隙を作り出したい。僅かでいい、スミレを逃す時間が欲しい。
相手の脳天目掛け振り下ろされた槍は金槌の柄により防がれた。跳ねあがった槍の衝撃そのままに、後ろへ跳び下がるタルカス。だが必死につかまるスミレの押し殺した声に、思わず足を止めてしまった。
闇の中、ぼんやり映る相手の影は動かなかった。カウンターを警戒したならば、なかなか慎重な相手だ。
それは決してタルカスにとってのプラスにはならない。慎重な相手であるならば尚更、スミレという弱みを見逃すことはしないだろう。
しかし時間を稼ぐならば、一度状況が落ち着いた今この時しかない。タルカスは肺一杯に空気を吸い込むと、空気を震わせるような大声で怒鳴った。

「名乗りもせずに襲いかかるなど卑怯千万ッ 戦士であるならば堂々と姿を現し、名乗りを上げてみせろッ!」

流れる沈黙。相手は声を返さず、だがタルカスの予想とは反して、大きく反応を示した。動揺したのか、驚いたのか。しかしはっきりと暗闇の中で動く気配を感じた。
貝のようにがっちりとしがみついていたスミレを下ろし、相手の反応を伺う。何をそんなに迷うことがあるのか、影はいまだ揺れ続け、声も発さず、姿も見せない。
タルカスは迷う。沈黙からは何も読み取れなかった。次の一手の決め手がない。
相手の腕を考えると受け身に回るわけにもいかない。かといって攻めに出るか? しかしスミレを放っておくわけにもいかない。
ならば逃げるか。敵前逃亡は騎士道精神に反する。なにより、スミレを抱えてこの相手に逃げ切れるとは到底思えない。

硬直状態、互いに相手の様子を伺う状況を動かしたのは謎の襲撃者だった。
タルカスの目の前で街灯の元へ姿を現した謎の人物。その顔に光がさした時、タルカスは思わず手にした槍を取り落としかけた。


「……タルカス」
「……ブラフォード?」


幾度となく死線を乗り越え、背中を預けた戦友がこちらを睨みつけていた。背筋も凍るような殺気に溢れた目つきで、タルカスを見るブラフォードがいた。



428アルトリアに花束を   ◆c.g94qO9.A :2012/02/13(月) 01:49:22.83 ID:9jCPtbKW
「どういうつもりだ、タルカス」
「それはこっちのセリフだ…………」

ブラフォードの問いに、タルカスも問い返す。知り尽くしたはずの相手の変わりように、互いに動揺は隠しきれない。
タルカスはブラフォードの変わりように驚くほかない。凍りつくような視線もだが、皮膚がひりつく殺気は決して戦友に向けられるべきものでない。
なにより身体にあいた大きな穴。向こう側の景色が見えるのではないかと思えるぐらいの大穴だというのに、血が一滴も流れていなかった。
ブラフォードもタルカスの変貌に眉をひそめる。鬼人、悪魔、怪物。そう評された男が不抜けた犬へとなり下がっていた。どこのものとも知らぬ小娘を抱え、騎士道気取りの間抜け面。
なによりタルカスはブラフォードと共に屍生人として蘇ったはずだ。だというのにその姿は間違いなく、生前のタルカスそのものだった。

ブラフォードが目にも止まらぬ速度で鉄鎚を振るう。舞いあがった風がタルカスとスミレ、離れて立つ二人の顔を撫でるほどの速さだった。
鉄鎚をスミレのほうへと向けると、ブラフォードは言った。

「なぜこんなモノをつれているのか、そう聞いているのだ、タルカス。
 我らが忠誠を誓ったのはメアリー女王、そして屍生人として我々を蘇らせて下さったディオ様だ。
 であるならばこんなモノは無用な存在。それともその少女はなにか? 主君にささげる生贄か何かか?」
「屍生人……? ディオ様……? 一体何を言っているのだ、お前は。それより傷は大丈夫なのか? その体、一体お前の身に何が起きているのだ?」
「とうに朽ち果てた身体、だが夜に生きるものとして生まれ変わった代償に我々は生きる屍となったのだ。血なんぞ流れるわけがなかろうが」

困惑の表情を浮かべるタルカス、苛立ち気に顔をしかめるブラフォード。噛み合わない会話は二人のすれ違いを大きくしていくだけだった。
しかし会話を経るにつれ、ブラフォードははっきりと理解した。目の前のタルカスは生前のタルカスそのものだ。どうやったかはわからないが、タルカスはディオに生き返らされることなく、現世に舞い戻ったようだった。
現状を把握できないままのタルカスを尻目に彼は大きくため息を吐く。そして嫌悪感を込めた目で、かつての盟友を睨みつけた。

「タルカス、貴様……なんという恥晒しッッッ 生前忠義を誓ったはずのメアリー女王に後足で泥をかぶせ、こんな小娘相手に尻尾を振るとはッ……!
 見損なったぞッ! 共に命を投げ出し、死を賭してまで義を貫いたと思っていたが……恥知らずだッ! この裏切り者ッ!」
「ブラフォードよ、聞いてくれ。俺は決してメアリーさまを裏切ったわけではない。
 考えてみてくれ。こんな殺し合いで、こんな年端もいかない少女を殺して王女は喜ぶか?戦も知らない子供を嬲り殺して彼女は笑ってくれるのか?
 違うだろッ! 王女は慈愛に溢れていた。王女は守ることをいつも第一とされていた。
 そんな彼女のために……殺すことが忠義だといのならば、貴様こそ、裏切り者だッ ブラフォードッ!」
「ならば貴様は否定するのかッ 彼女のためなら死を賭さない、誇りすらいらない、そう誓って我々は首を差し出したはずだというのにッ
 王女を悲しませるから、王女を苦しませるから。情けなしッ 鼻たれ小僧は慰められたいだけかッ 貴様の今のその態度、王女にすら、尻尾を振りご機嫌伺いかッ」
「貴様ァ、王女だけでなく我が誇りすら愚弄する気かッ」
「駄犬になり下がった貴様の誇りなんぞ、愚弄する価値もないわッ!」

売り言葉に買い言葉、かつて共に戦った二人が醜い口争いを繰り広げていた。
見下すブラフォード、訳もわからず馬鹿にされるタルカス。元々血の気の多い戦士同士だ、もはや衝突は必至。
どちらがともなく武器をとれば、あるいは琴線に触れるような言葉をひとつ吐けば、戦いはすぐにでも始まるだろう。
429創る名無しに見る名無し:2012/02/13(月) 01:49:41.51 ID:6WGXu3WQ
支援
430アルトリアに花束を   ◆c.g94qO9.A :2012/02/13(月) 01:51:01.42 ID:9jCPtbKW
「タルカス……」


あるいはスミレがいなかったならば、戦いは既に始まっていただろう。
血の雨が降り、理由もわからず、誇りも何もない、ただの野蛮な殺し合いが。

服の裾を引っ張られる感覚にタルカスは視線を下ろした。見ると長い間、黙り俯いていた少女が顔をあげていた。
唇を噛みしめ、キッと強い視線でタルカスを睨みつける。微かに灯った光が反射し、瞳の中で星が輝いていた。

怒りがまるで潮を引くように消え去るのをタルカスは感じた。何も言わなくても、スミレが悲しんでいる事がタルカスには理解できたのだ。
そして同時に彼女には覚悟があった。戦いは避けられない、だからタルカスに全てを任せ、彼を戦場に送りだそうという覚悟が。
何もできない無力感にスミレの小さな拳が震えた。本当のことを言えば彼女だって悔しい。
彼女がどれだけ願っても、ブラフォードが鞘を収めてくれるとは思えない。自分のせいで二人が戦わなければいけないと思うと胸が締め付けられる。

スミレは自分が情けない。優しく、自分を守ってくれるタルカス。自分はそんな彼の足を引っ張るばかりなのだ。
それでもスミレは上を見る。全てを丸ごと飲み込んで、それだからこそ彼女はタルカスの背中を押す。

何も言わずに、二人は見つめ合う。視線を合わせるためにしゃがんだタルカスの頭をスミレが優しく撫でた。
そして彼女は言う。

「シンガポールホテルで待ってるから!」

とびっきりの笑顔を見せるとカバンを背負いなおし、彼女は歩き出す。
最後に一度だけ心配そうな表情でタルカスを見つめ、そして今度は振り返ることなく、彼女は闇へと溶け去って行った。

「……下らぬ」
「……それが貴様の想いなのか、ブラフォード」

スミレの姿が見えなくなるまで眺めていたタルカスに投げかけられた言葉。背中越しにその言葉を聞いた彼は振り返り、戦友の目を覗きこんだ。
不思議なほど、頭の中が静まっていた。侮蔑をこめたブラフォードの視線に激昂することもなかった。怒りに狂っていたついさっきまでの事がうそのようだった。

それどころか、タルカスの中で湧き上がった思いは悲しみ。
戦友とこんな形で戦いたくはなかった。戦友のそんな言葉を聞きたくなかった。



お前は何も感じなかったのか……? スミレの、あの気高き魂を前にしても、お前の想いは変わらなかったのか……?
年端もいかぬ少女なのだぞ……。恐怖もあるはずだ。無力感も、悔しさも、悲しみも! あの小さな体で、スミレは全てを受け止めていたのだぞッ
だというのに、それでもスミレはあんなにも誇り高く! 決して下を向くことなく、俺を信じ、頼り、任せてくれた!
ああ、そうだ! 彼女は、スミレは……それでも笑ってくれたのだ! この俺に、この戦士に!
お前にもわかるはずだ、彼女の気丈さ、健気さ! そして彼女のその優しさが!



タルカスはそう思った。だが決して口にはしなかった。
ブラフォードの凍てつくような眼を見て、彼は黙って槍を構えなおした。
あんたの目がとても優しかったから、そうスミレが言ってくれた目を悲しみと決意の色に染めながら。


一時の静寂の後、二人の男が動いたのはまさに同時。
金槌を振りかぶるブラフォード。鉄槍をつきだすタルカス。
戦いが始まった。



431創る名無しに見る名無し:2012/02/13(月) 01:51:52.50 ID:jZrhp3cc
支援
432アルトリアに花束を   ◆c.g94qO9.A :2012/02/13(月) 01:52:38.26 ID:9jCPtbKW
金属音に紛れ、時折響く鈍い破壊音。鉄鎚がコンクリートを砕く音、鉄槍が金属を穿つ音は静まり返った町によく響いた。
タルカスの槍が纏わりつく髪の毛を切り裂いた。気合い一閃、大声をあげた巨体がブラフォードに突っ込んでいく。
ブラフォードはこれに対して鉄鎚を正面に構え、受け止める。同時に上下左右、四方向から黒い濁流の襲撃。

髪の毛に締めあげられた身体は速度を落とし、手に持った槍も標的を捕えることなくその場で止まる。
もう一度槍振り上げ、拘束を解く。だがその僅かな時間はブラフォードにとっては充分すぎる時間。今度は一転、防戦に入ったタルカス。襲いかかる金槌をさばくことに集中していく。
つばぜり合い、ぶつかり合い。大きく振り上げた鉄鎚が空ぶったのを見たタルカスは鋭い蹴りを放った。
咄嗟に身体を捻ったブラフォード、それでも蹴りの衝撃は吸収しきれず、吹き飛ばされる。同時にタルカスは詰まっていた距離を大きく取り直した。
道路で一回転、受け身を取ったブラフォードが憎々しげに表情を歪ませた。鉄鎚を持った手に血管が浮かび上がり、髪の毛がゾワリと震えた。

タルカスは考える。息詰まるような攻防の中、張っていた神経をほんの少しだけ緩め、汗ばむ手で槍を握りなおす。
正直に言うと、タルカスはこの戦いの終わりが見えなかった。互いに近距離線を得意としている二人であったが、決め手に欠く攻防が長い間続いていた。

ブラフォードは鉄鎚をもてあましていた。武器を振るうことに支障はない。しかし一流の戦士を相手にした時、その鉄鎚はあまりに重すぎた。速度の出ない武器を前に、なかなか会心の一撃を放てずにいる。
その上相手にしているのは巨漢、怪力のタルカス。髪の毛を容易くちぎり飛ばすその力に、なかなか自分のペースに持ち込めない。
一方でタルカスは纏わりつく髪の毛を前に、最後の詰めが詰め切れない。髪の毛と鉄鎚の多方向攻撃、ブラフォードの間合いに居続けてはあっと言う間に致命傷を喰らってしまう。
自然と攻めては引き、引いては攻めの繰り返しとなる。しかし屍生人となったブラフォードは疲れも見せず、多少の傷はものともしない。

戦いは止まってくれない。考えに沈んでいたタルカス目掛け、勢いをつけたブラフォードが突っ込んでくるッ!
迫りくるブラフォードの突撃をかわし、棒の部分で相手の顔を狙ってはたく。髪の毛によって防がれたが、体重を乗せ、そのまま槍を振り切った。
タルカスは考える。相手の繰り出す鉄鎚を避け、髪の毛をちぎり、地面を転がりながら考える。この戦いをどう終わらせるのか、ひたすら彼は考え続けた。


短い時間で交わされた会話を頼りに考えてみた。
ブラフォードは怨霊そのものだ。呪いを抱いたまま死に、呪いによって生かされ続けているブラフォード。
それはスミレに会うことがなかったタルカス自身の姿。タルカスはブラフォードと似ている。ブラフォードはもう一人の自分自身だ。


救いたい、スミレが自分の心を解き放ってくれた様に、かつての戦友を解き放ちたい。
呪詛の言葉をつぶやき、髪の毛を振り乱し、壊れた殺戮マシーンのように鉄鎚を振るう。
それはブラフォードの生きざまではないはずだ。気高い武人、それがブラフォードという男のはずだ。
取り戻してほしい。誇りを、そして心を。


最後に見たスミレの姿を思い出す。彼女の笑顔を思い出すと勇気がわいてくる。



「俺は……スミレのため、守るべきもののため…………!」
「BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」


胴体を粉砕せんと横方向に振るわれた鉄鎚。鉄槍で受け止め、タルカスは吠えた。



「負けるわけにはいかんのだッ!」
433アルトリアに花束を   ◆c.g94qO9.A :2012/02/13(月) 01:53:27.39 ID:9jCPtbKW
【C−4 中央/一日目 黎明】

【タルカス】
[能力]:黄金の意志、騎士道精神)
[時間軸]:刑台で何発も斧を受け絶命する少し前
[状態]:疲労(小)
[装備]:ジョースター家の甲冑の鉄槍
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:スミレを命に変えても守る。そして主催者を倒す。
1:ブラフォードの心を取り戻す。
2:誇りと心を取り戻してくれたスミレに感謝。必ず守って見せる。
3:戦いが終わればシンガポールホテルへ向かう。

【ブラフォード】
[能力]:屍生人(ゾンビ)
[時間軸]:ジョナサンとの戦闘中、青緑波紋疾走を喰らう直前
[状態]:腹部に貫通痕(戦闘には支障なし)
[装備]:大型スレッジ・ハンマー
[道具]:地図
[思考・状況]
基本行動方針:失われた女王(メアリー)を取り戻す
0:タルカスを倒す。
1:強者との戦いを楽しむ。
2:ジョナサン・ジョースターと決着を着ける。
3:女子供といえど願いの為には殺す。
434アルトリアに花束を   ◆c.g94qO9.A




ポタリ、ポタリ……。メトロノームのように一定に刻まれる音は融けだした氷柱が生んだ水滴音だろうか。
それとも……と、スミレは地面に横たわったまま視線を自分の体に向ける。真っ赤に染まった身体のどこからか血が流れ落ちている音かもしれない。
視界にうつるのはキラキラと輝く巨大な氷のオブジェ、真っ二つに折れた棒、手痛い反撃を喰らった鳥、そして……血の海に横たわる自分。


「ざ、まぁ……みろ」


よろよろと、今にも墜落しかねない鳥の後ろ姿に向けて、ニヤリと笑ってやる。
追いかけて行って焦らせてやろうかとも思ったが、もはや自分が立ち上がることすらできなくなっていた事に気づき、スミレはそうするのを諦めた。
片足は氷におおわれ、体のあちこちが、標本箱に飾られている蝶のように、氷柱で地面に縫い付けられている。
考えてみればそれも当然かな、とどこか他人事のように納得した。
無理矢理喋ったせいか、喉元に何かがこみ上げてくる。体全身を震わせるように咳き込み、口から飛び出してきた真っ赤な液体を眺める。
もう永くはないんだ……そうひとりごちることすらできず、スミレは全身から力をゆっくりと抜いた。背中に広がる自分の血が暖かく、心地よい。眠るように目をつぶった。

タルカスとの約束が守れそうにもない、そう考えると少しだけ悲しい。
今も彼は戦っているのではないだろうか。そうであるならば、せめて彼が戦っている間は、自分も戦っていたかった。
全力を尽くすことは確かにできた。ホテルに着く直前に、急に宙より降りそそいできた氷の雨、そして鋭い爪で襲いかかってきた一匹の鷲。
無駄な抵抗ではなかった。蹂躙され、いたぶられ、それでも油断しているクソッタレチキン野郎に思いきり、棒での一振りを叩きこめたのだ。
それが結果的にヤツの逆鱗に触れてしまったようだが、それでもスミレはちょっぴり自分自身が誇らしげだった。

鳥公が人間様を舐めてんじゃねーぜッ てめェはな、ただの猛禽類なんだよ、このダボが!
そんな想いで一発叩きこめたときはスカッとした。あの鳥野郎はさぞかし頭にきただろう。自分より遥かに劣る人間様に手痛いしっぺ返しを食らったのだから。
そう考えるとスミレは愉快だった。

段々と身体を動かすこともできなくなってきた。なんとか力を振り絞って、ぼさぼさになっていた髪の毛を、震える手で整える。何でもないことがえらく億劫で、けだるい。
寒い、凍ってしまいそうだ。指先の感覚がなくなっていく。体全身から温度が逃げて行く。
血の海の中で身体を丸め、横向きで膝を抱えるような姿勢をとった。少しでも自分の体を温めたい、そう思ったスミレは弱弱しく、滑る足を撫でてやる。


寂しい。このまま死んでいくのが怖かった。
誰にも看取られず、一人ぼっちで逝くのは寂しいことだった。スミレが想像した以上に死ぬということは孤独だった。
惨めさと後悔から彼女の目に涙が溢れてきた。わなわなとふるえる口から出る息は白く曇り、もはや言葉を吐くのは不可能なほどに、彼女の身体は弱っていく。

ポタリ、ポタリ……。涙が頬を伝い、綺麗な肌に一本の線を描いていく。次々と零れ落ちて行く水滴が真っ赤な波紋を作っていた。
もっと生きていたかった。もっとたくさんのことを経験したかった。もっと、もっと、もっと……。
彼女の願いの数だけ、雫がおちていく。無数とも思える数の願望が、浮かび上がり、また滑り落ちる。何度も、何度も、何度も……。


「育、朗……アンタがいれ、ばなァ…………」



―――寂しくなんかないのに。



震えるように吐き出された言葉。小さく響いていた水滴音が止まる。揺れ動いていた深紅の水面が、動くのをやめた。
やがて訪れた静寂。一度だけ開かれた瞳がゆっくりと閉じられた拍子に、最期の涙が落ちていく。
そしてそれっきり、音はやみ、少女は動かなくなった。