ラノロワ・オルタレイション part10

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1創る名無しに見る名無し
このスレは、ライトノベル作品を題材にバトルロワイアルの物語をリレー形式で進めてゆく、
「ラノロワ・オルタレイション」という企画の為のスレです。
※内容に流血や死亡を含みますので、それを予め警告しておきます。



前スレ
ラノロワ・オルタレイション part9
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1266590299/l50



ラノロワ・オルタレイション@wiki (まとめ)
http://www24.atwiki.jp/ln_alter2/


ラノロワ・オルタレイションしたらば掲示板 (避難所)
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/10390/


予約用のスレ(予約スレ part2)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10390/1255965122/l50
※予約のルールに関してはこのスレの>>1を参照のこと。
2創る名無しに見る名無し:2010/04/29(木) 23:29:12 ID:taG7hP8O
 【参加作品/キャラクター】


 3/6【涼宮ハルヒの憂鬱】
    ○キョン/○涼宮ハルヒ/○朝倉涼子/●朝比奈みくる/●古泉一樹/●長門有希
 4/6【とある魔術の禁書目録】
    ○上条当麻/○インデックス/○白井黒子/●御坂美琴/○ステイル=マグヌス/●土御門元春
 4/6【フルメタル・パニック!】
    ○千鳥かなめ/○相良宗介/●ガウルン/○クルツ・ウェーバー/○テレサ・テスタロッサ/●メリッサ・マオ
 4/5【イリヤの空、UFOの夏】
    ○浅羽直之/○伊里野加奈/●榎本/○水前寺邦博/○須藤晶穂
 3/5【空の境界】
    ○両儀式/●黒桐幹也/○浅上藤乃/○黒桐鮮花/●白純里緒
 1/5【甲賀忍法帖】
    ●甲賀弦之介/●朧/●薬師寺天膳/●筑摩小四郎/○如月左衛門
 4/5【灼眼のシャナ】
    ○坂井悠二/○シャナ/●吉田一美/○ヴィルヘルミナ・カルメル/○フリアグネ
 2/5【とらドラ!】
    ●高須竜児/○逢坂大河/●櫛枝実乃梨/○川嶋亜美/●北村祐作
 2/5【バカとテストと召喚獣】
    ●吉井明久/○姫路瑞希/○島田美波/●木下秀吉/●土屋康太
 3/4【キノの旅 -the Beautiful World-】
    ○キノ/●シズ/○師匠/○ティー
 3/4【戯言シリーズ】
    ○いーちゃん/○玖渚友/●零崎人識/○紫木一姫
 3/4【リリアとトレイズ】
    ○リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ/○トレイズ/○トラヴァス/●アリソン・ウィッティングトン・シュルツ


 [36/60人]


 ※地図
 http://www24.atwiki.jp/ln_alter2/?plugin=ref&serial=2
3創る名無しに見る名無し:2010/04/29(木) 23:31:15 ID:taG7hP8O
 【バトルロワイアルのルール】

 1.とある場所に参加者60名を放り込み、世界の終わりまでに生き残る一人を決める。

 2.状況は午前0時より始まり、72時間(3日)後に終了。
   開始より2時間経つ度に、6x6に区切られたエリアの左上から時計回り順にエリアが消失してゆく。
   全エリアが消失するまでに最後の一人が決まっていなければゲームオーバーとして参加者は全滅する。

 3.生き残りの最中、6時間毎に放送が流され、そこで直前で脱落した人物の名前が読み上げられる。

 4.参加者にはそれぞれ支給品が与えられる。内容は以下の通り。
   【デイパック】
   容量無限の黒い鞄。
   【基本支給品一式】
   地図、名簿(※)、筆記用具、メモ帳、方位磁石、腕時計、懐中電灯、お風呂歯磨きセット、タオル数枚
   応急手当キット、成人男子1日分の食料、500mlのペットボトルの水4本。
   (※名簿には60人中、50名の名前しか記されていません)
   【武器】(内容が明らかになるまでは「不明支給品」)
   一つの鞄につき、1つから3つまでの中で何か武器になるもの(?)が入っている。

 ※以下の10人の名前は名簿に記されていません。
  【北村祐作@とらドラ!】【如月左衛門@甲賀忍法帖】【白純里緒@空の境界】【フリアグネ@灼眼のシャナ】
  【メリッサ・マオ@フルメタル・パニック!】【零崎人識@戯言シリーズ】【紫木一姫@戯言シリーズ】
  【木下秀吉@バカとテストと召喚獣】【島田美波@バカとテストと召喚獣】【土屋康太@バカとテストと召喚獣】

 ※バトルロワイアルのルールは本編中の描写により追加、変更されたりする場合もある。
   また上に記されてない細かい事柄やルールの解釈は書く方の裁量に委ねられる。


 【状態表テンプレ】
 状態が正しく伝達されるために、作品の最後に登場したキャラクターの状態表を付け加えてください。

 【(エリア名)/(具体的な場所名)/(日数)-(時間帯名)】
 【(キャラクター名)@(登場元となる作品名)】
 [状態]:(肉体的、精神的なキャラクターの状態)
 [装備]:(キャラクターが携帯している物の名前)
 [道具]:(キャラクターがデイパックの中に仕舞っている物の名前)
 [思考・状況]
  基本:(基本的な方針、または最終的な目的)
  1:(現在、優先したいと思っている方針/目的)
  2:(1よりも優先順位の低い方針/目的)
  3:(2よりも優先順位の低い方針/目的)
 [備考]
  ※(上記のテンプレには当てはまらない事柄)

 方針/行動の数は不定です。1つでも10まであっても構いません。
 備考欄は書くことがなければ省略してください。
 時間帯名は、以下のものを参照してそこに当てはめてください。

  [00:00-01:59 >深夜] [02:00-03:59 >黎明] [04:00-05:59 >早朝]
  [06:00-07:59 >朝]   [08:00-09:59 >午前] [10:00-11:59 >昼]
  [12:00-13:59 >日中] [14:00-15:59 >午後] [16:00-17:59 >夕方]
  [18:00-19:59 >夜]   [20:00-21:59 >夜中] [22:00-23:59 >真夜中]
4創る名無しに見る名無し:2010/04/29(木) 23:32:40 ID:MbRGuJs1
>>1乙〜
前スレはちょうど状態表が終わったとこで埋まったのかw
5創る名無しに見る名無し:2010/04/29(木) 23:33:33 ID:kb4ZCf0M
すれ立てありがとうございます。
こちらで、報告を代理投下終了しました。
6創る名無しに見る名無し:2010/04/29(木) 23:47:42 ID:taG7hP8O
>>4
それは奇跡か、はたまた書き手さんはそこまで計算をしていたのか……!



新作、そして代理投下乙! 各々の想いが積み重なった作品だったと確信です。
掘り下げが凄いですな。今回は出番の少なかったインデックスにも次に期待!

晶穂は順調にフラストレーションが溜まって……!
変に暴走するのか、それとも「生きがい」的なものを見つけられるのか。ここが重要なターニングポイント!
大佐殿も夢でうなされるものの、いつもの様に警戒は怠らずに自分を出せるのは強さか。
けれど辛いよな……どうしても「もしも」を考えてしまうのは人のサガというもので。

そして大河。歩くR-18になりつつも、ここでようやく一つ乗り越えたといったところか。
ヴィルヘルミナの助力に感謝、だが今からが本当の勝負なんだよなぁ。
精神的にも強くなる事を義務付けられるであろう「これから」に、どう立ち向かうか期待。
あとヴィルヘルミナ先生は手術お疲れ様です。勿論ティアマトー先生も。
水前寺の事も気苦労として圧し掛かるやもでしょうが、ガンバ!

そしてその水前寺が全く止まらないwwwwwwww
お前もうちょっと悠二にも出番くれてやれwwwwwww
もう「坂井特派員」になるのも時間の問題かもわからんね……!
7創る名無しに見る名無し:2010/04/29(木) 23:54:22 ID:MbRGuJs1
前スレ投下乙、代理投下乙。

丁寧に話が進んだなー
メールについて保留にしつつ、ちゃんと連絡取った男2人は相変わらずの安定感
ヴィルヘルミナは保護者役と留守番役が板についてきたなw
そして晶穂が危ういなあ。今すぐ暴発ってことはなさそうな感じだけど、後々にどう響くか……
8創る名無しに見る名無し:2010/05/01(土) 14:04:42 ID:zFkn9pDJ
今気づいたんだけど、キノ、肩車の二人、師匠のところの三人って総合殺害数が同じなのね。
フリアグネ組は少佐の働きで殺害数が抑えられている感じか。
9創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 03:14:11 ID:N6JrG0qh
投下乙です。

さすがの大人数捌き……悠二と神社がリンクして、これで電話関係もだいぶすっきりしたなーw
手術もしたり天体観測も早めにしたりと、停滞していた神社組が一気に動いた感じ
その分、止まりっぱなしの悩みっぱなしな晶穂はどうするべきかどうなるべきか……先が気になる子だなあw
一連のタイトルどおり、クロスのさせぐあいが絶妙なお話をありがとうございますw GJでした


>>8
今はマーダーもチームワークの時代なのか……w
フリアグネ様も実質3人殺してるしなー
それでいてマーダースタンスのキャラ二人を再放逐したりもしてるしw
10創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 03:38:59 ID:peLWrcwL
投下乙です。
おお、一人一人がとても丁寧にかかれてるなーw
テッサの不安、大河の苦痛、晶穂の鬱憤ととても解りやすくらしいと思いました。
状況も解りやすくなって、どう動くかな?
これからが楽しみです
GJでした
11 ◆UcWYhusQhw :2010/05/02(日) 03:40:47 ID:peLWrcwL
お待たせしました投下始めます
12必要の話(U) ◆UcWYhusQhw :2010/05/02(日) 03:43:16 ID:peLWrcwL
【0】



『それとまったく同じ事ですよ』




【1】




「ここにしますか」
「そうだね……そうしよう」

そう呟きながら、格好が似ている二人はある建物を見つめていた。
窓ガラスの向こうには、無数のソファーとテーブルが置かれ、理路整然としている。
テーブルには一つずつメニューが置かれていたその建物は、俗にファミレスと言う。

「ガラス張りだけど……大丈夫か?」
「壁際に鎮座すれば問題ないでしょう」
「そうかな……」
「それに、此処は美味しそうです」
「………………」

瓜二つの二人は喋りながらも中に入っていく。
店頭のパフェが書かれたのぼりに目を輝かした一人がキノという。
そのキノの姿に、ゲンナリとした表情を浮かべたのがトレイズといった。

二人は出会った後、直ぐ南下を始めた。
休める場所を探すと言っても、火事が起きた近くで休むのは得策ではなかったからだ。
北か南かで二人は悩んだものの、建物が入り組んだ南部で休む事に決め、行動を開始する。
そして、大きいホールを目印に二人は進んでた所、二人は此処を見つけたのだ。

「……どうやら、中に休憩する所があるみたいだ……ああ、ベッドもある……素晴らしい」
「……ちょっとーキノー!? 二人ばっかりずるいー!」
「ああ、ごめん。エルメスは其処で待ってて」
「……えー」
「……可哀想だし、中に入れてあげようよ」

路上に留めてあったモトラド、エルメスが幸せな表情を浮かべるキノに対して文句を言う。
キノは、室内にモトラドの入れるはどうかと思ったが、エルメスを不憫に思ったトレイズが結局中に入れた。

「……いっそバックにしまっておこうか」
「それはそれでいいかもしれない」
「二人とも、酷いこと言うね」
「あはは……キノさん、随分荷物多いみたいだね」
「……ええ。片っ端から掻っ攫ったもので」

そんな冗談を言い合いながら、トレイズはキノが空けたバッグの中を見て、荷物が多いことに気付く。
キノは少し笑いながら、多い理由を話し、先行してファミレスの中に入っていた。
トレイズは少し怪訝に思い、何か考えた表情を浮かべながらもキノの背を追う。
二人は、そのままファミレス内のソファーに腰を下ろし、休む事にした。
13創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 03:44:16 ID:N6JrG0qh
 
14必要の話(U) ◆UcWYhusQhw :2010/05/02(日) 03:44:34 ID:peLWrcwL

暇潰しにメニューを眺めたキノが、其処に書かれているオムライスをじっと見つめている。
ふわふわ卵に、クリームのソースが満遍なくかかっていていかにも美味しそうな写真だった。
うっとりとキノは眺めて、そして可愛いお腹の音がなる。

「……作ろうか?」
「いいんですか!?」
「どうせ、夕飯が近いし、いいよ。材料は此処にあるだろうし……」

やれやれといった表情を、トレイズは浮かべ、厨房に向かっていく。
とても幸せな表情のキノがとても印象的で、トレイズはクスリと笑った。


「ああ…………なんて、幸せ」
「現金だね、キノ」
「美味しいものが食べれて、ふかふかのベッドで寝れる……ああ、素晴らしい。それ以上のものなんてある? いや無い!」
「…………特に変わらないキノで何か安心するよ」

一人、幸せな表情を浮かべ、楽しそうにしているキノ。
そんなキノを見ながら、エルメスは安心したようなうんざりしたような声を上げたのだった。




【2】



「………………ああ、美味しかった」
「凄い食欲だ……」

幸せそうに呟くキノをトレイズは唖然とした表情で見つめていた。
トレイズは、オムライス、サラダ、リゾット、パフェなどなど、4人前ぐらいの量の料理を作っていた。
それを、キノはあっという間に食べあげてしまったのである。
トレイズは自分の分のオムライスをまだ食べ終わってのに、だ。
キノの凄まじい食欲に、ただ驚きを隠さないでいる。
それと少し呆れもしていた。

「ああ、わざわざこんな美味しいもの作ってもらってありがとうございました」
「別にいいよ……こっちも食べたかったし」
「そうですか」

トレイズは微笑みながらも、手を振っていた。
大した事はしてないつもりだったので、キノの大げさとも言える感謝の言葉に恐縮している。
キノはきょとんしながら、トレイズの困ったそうな笑みを見ていた。

「それで……キノさん」
「はい?」

食事を済ませゆったりとしていたキノに、トレイズは居住まいを正し見据える。
その表情は真剣そのもので、意志の篭った瞳をキノに向けていた。
15創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 03:44:57 ID:9OVV93eS
 
16創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 03:45:43 ID:N6JrG0qh
 
17必要の話(U) ◆UcWYhusQhw :2010/05/02(日) 03:45:52 ID:peLWrcwL
「さっき、色々教えてもらったけど……」
「ええ……」

最初あった時に軽く情報交換はしていたが、詳しいものはしていなかった。
そこで、食事をしながらトレイズはキノから色々聞いていたのである。
キノの話を簡単に纏めて言うとこうだ。
キノは山の近くから始まって、暫く街を彷徨っていたらしい。
そして火事を見つけて、トレイズに出会ったと。
言っている事は可笑しくなくて、疑う要素は無い筈なのだ。
けれど、


「誰かに会ってますよね? そしてその相手を――――殺している」

トレイズはそれを嘘だと断定して、キノを真っ直ぐに射抜く。
テーブルの下に、右手で持った銃を忍ばせながら。
キノはトレイズに行動に動揺することもなく、無表情でトレイズを見つめている。
さりげなく、ジャケットの下の忍ばせたナイフをいつでも取り出せるようにしながら。

「どうして、そう思ったんですか?」

キノは抑揚の無い声でトレイズに問う。
テーブル挟んで向かい合いながらも、キノは何処かゆったりとしている。
それは余裕から着ているのかトレイズには解らなかったが、ペースだけは自分が保とうとした。


「“臭い”だよ」
「“臭い”?」

キノの問いに対するトレイズの言葉はとても、簡単で。
その呟いたトレイズの一言をキノは反復し、そのままトレイズに問い返す。
ああ、とトレイズは言葉を続け、臭いの意味を答える。

「キノさんから……血の臭いがする。嗅ぎ慣れた嫌な臭いだ」

トレイズは若干表情に陰りをみせ、嫌そうに呟く。
出会ってトレイズがまず思った事は、キノから血の臭いがしたことだった。
微かではあるが、あの錆びた鉄の臭いにも似たあの臭いがしたのだ。
キノが、返り血を浴びた様子は無い。
だが、トレイズもそういった現場に慣れてるからこそ、直感的に理解できたのだ。

「そうですか。ですが……それだけで疑う理由になると思いませんが」

キノは澄ました顔して、食後のお茶を口にする。
剣呑としたトレイズにあくまで冷静で。
トレイズが疑う理由は主観的なものでしかない。
状況証拠すらない、ある意味言いがかりに近いものでしかないのだ。
別にそれに怒る必要もなく、キノはただ淡々と事実を言うだけ。

「まだ他にもある」

そんなキノに対してトレイズは表情を崩さず、見つめたまま喋る。
臭い以外の理由があるとキノを問いつめながら。
トレイズがキノを嘘と断定したもう一つの理由、それは。

「荷物、何でそんなに沢山持ってるんだ?」
「適当に拾っただけですよ」
「拾っただけ……それで、一人一つしか支給されてないはずの名簿を……なんで一つ以上あるんだ?……まさか拾ったとでもいいのか?」
18創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 03:46:10 ID:9OVV93eS
 
19創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 03:46:59 ID:N6JrG0qh
 
20必要の話(U) ◆UcWYhusQhw :2010/05/02(日) 03:47:21 ID:peLWrcwL
先程、デイバックの開いた先から見えた荷物。
沢山含まれた荷物の中で、本来一人一つしかないはずものが一つ以上あったのだ。
死体から拾ったとでも言えば理由になるだろうが、隠す理由が無い。
今までそれを隠していたという事、血の臭いがした事。
それにエルメスから聞いたキノという人物像。
全てを総合して、考え付いた結論。
その結論通りならば、キノは人を殺している。

「キノさん。俺が考え至った答え。それを言わなくても……キノさんはそれを分かるはずだ」

あえて、答えを言わずにキノを見据えるだけ。
トレイズは拳銃を強く握り返し、キノの一挙一動を注目する。
キノの動き次第では、トレイズは銃を使わなければならない。
だが、緊張とは裏腹に、キノが危険な動きをしないというものを予測していた。
エルメスから聞くキノの人物像が正しいのならば。


「……………………」

キノはトレイズを見ながら、トレイズの行動を熟慮する。
トレイズがここで、自分が人を殺したという事を暴く真意。
キノ自身は此処までトレイズに殺意を向けたことはなかった。
隠し事は沢山したものの、害意を抱いてはいない。
なのに、トレイズは仮初の友好関係を崩そうとしている。
その、自分の命を縮めようとしてるともいえる愚挙。
其処までして、トレイズがキノを問いつめた真意。
全てを纏め考え、キノは一言、口にする。


「ええ、一人殺しました」

そして、人を殺した事を素直に白状した。
だけど、キノは表情を変えずにもう一度お茶を啜る。

「一人、最悪な奴がいましてね。零崎人識って人ですけど。殺し合いをやる羽目になったんです」

キノの脳裏にあの男の姿が思い浮かぶ。
全く最悪な奴だった。
もう二度とやりたくない相手。殺したからもうやりあう事ないけれど。

「まあ、それで何とか勝てたので殺しました。正当防衛かどうかは言う気ありませんけど」

大分端折ったが、一つ隠していた事は白状した。
別に話しても、問題ないといえば問題ない事なのでキノはすまし顔でいる。
何ればれていた可能性だってありえるのだから。此処で隠し通す理由など無かった。
それよりも、重要なのは人を殺したことに対して、トレイズがどうでるかがだ。

「それで、貴方はそれを聞いてどうするんです?」

今度はキノからトレイズに対しての問いかけ。
キノが殺人者である事を知ってのトレイズがどう動くかだ。
だが、やはりキノはトレイズがどう出るか何となくだが理解できていた。
少し、思考的に似ている面はあるかもしれない。

21創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 03:47:37 ID:9OVV93eS
 
22創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 03:47:52 ID:N6JrG0qh
 
23必要の話(U) ◆UcWYhusQhw :2010/05/02(日) 03:48:55 ID:peLWrcwL
「別に。俺はキノさんの行動を悪く言うつもりはない」

トレイズは無表情のまま、答える。
人殺しが悪い……なんてトレイズが言える立場ではない。
トレイズ自身、殺しの経験だってある。
ここで性善説を語るなんて馬鹿な行為を行うなんて絶対にしない。
だから、此処で、トレイズがキノに対して行う事は一つ。


「それをふまえて、改めてキノさんに提案する。手を組んでくれ」

改めてキノと手を結ぶ事を提案する事だ。
エルメスから聞き、自らが肌で感じたキノの力を利用する。
大切な人を護る為に。


「手を……ですか?」

キノはトレイズに向かってそう尋ね返す。
最も予測できていた事だけれども。
此処で、彼が殺しを否定しなくてよかった。
もし、そうならば、多分もう刺し殺してただろう。
そんな事を言う人間ではないのは理解できてはいたけど。

「俺には、力が『必要』だ。大切な人を護る為に」


そう、力が必要だった。
リリアを護る為の力が。
でも、自身の力では限られている。
あの女の人を殺せなかったように、トレイズの力では敵わない相手が。
リリアを護る為に、リリアの害になる者を倒すために。

「君の力を借りたい。君が『必要』だと思うから」

トレイズは今、必要だと思える人に対して提案をする。
いや、提案ではない。確認だ。
トレイズにとってキノの応えは予想できている。
何故ならば。トレイズにとってのメリットはキノに直結するのであるから。

「…………ボクはですね」

キノはお茶を片手に、視線はトレイズの方向に向けていた。
すっかり冷めてしまったお茶を一気に飲みこみ言葉を続ける。
24創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 03:49:05 ID:N6JrG0qh
 
25必要の話(U) ◆UcWYhusQhw :2010/05/02(日) 03:49:53 ID:peLWrcwL
「『必要』ならば、人を殺します」

トレイズの言葉を借りて、必要を強調しながら。
自分が居る立ち位置を明確にしながら。
言葉を紡ぎ続けていく。

「自分が生き残るのに『必要』だから」

自分が生き残る為に。
自分が生き延びる為に必要なら、殺す。
自分以外の必要のない存在を殺していく。
それが、キノが選んだ選択であるのだから。

「貴方はどうなんですか?」

もう、何度目かわからない問い掛け。
答えは解っているというのに、確認する為にも繰り返して聞いていく。
トレイズは少し逡巡しながらも言葉を発する。

「俺は……リリアを護る為なら。その為に『必要』ならば……だよ」

あえて、殺すという表現は使わなかった。
それはトレイズ自身の心の迷いか。それともただ使いたくなかっただけか。
その答えはトレイズにしか解らないけど。

「そうですか。でも結局行き着く答えは同じだと思いますけどね」

トレイズの答えににべもなく言い放つキノ。
自分のために殺すキノと他人のために殺そうとするトレイズ。
『必要』ならば手を染める。
過程は違いと言えど、答えは全く同じなのだろう。
きっと、それは、手に血を染めた事がある人間だけが知っていることなのだから。
26創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 03:50:14 ID:N6JrG0qh
 
27創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 03:50:34 ID:9OVV93eS
 
28必要の話(U) ◆UcWYhusQhw :2010/05/02(日) 03:50:35 ID:peLWrcwL
「さて、ボクは言った通り、もしくは聞いた通り、生き残るなら殺す事に悩みません。
 結果として、生き残るのに『必要』ならば、誰だって殺すと思います」

それは暗にトレイズと組んだとして、必要ならば殺す事があるかもしれないという事。
重いリスクを背負った上で、それでもキノと手を組むと言うなら

「それでもいいなら……」
「……ああ、いいよ」
「ならば、手を組みましょう」

キノはトレイズと手を組む。
生き残る為に、互いに『必要』だから。

「エルメスの事もありますしね。食事を用意してくれたのもある。恩は沢山有りますし」

エルメスと再会させてくれ、食事も用意してくれた。
キノにとって恩は沢山ある。
そして、メリットもあるのだ。
キノが強いと思った人間はもう此処では二人もいるのだ。
ならば、協力して力を貸す、仮初の相棒がいるのなら、役に立つ。
見たところトレイズは戦力面では劣らないであろうと判断した上だった。
故にキノはトレイズと手を組む事を決めたのだった。

「よかった……なら、よろしく」
「ええ、よろしくお願いします」

そして、二人で交わされる握手。
仮初の相棒への、協力を告げる握手だった。

「さて、なら俺は夕飯でも作るよ。どうせまだ食べるんだろ?」
「…………ええ。食べられる時に食べますから」
「解った……あ、それとシャワールームがあるみたいだからついでに入ってくればどうだ?」

トレイズは底なしの胃袋を持ちそうなキノにそう告げ、立ち上がる。
歩きながら、キノにも休憩を取るようにといいながら。
キノは少し嬉しそうにトレイズのほうを向き言った。

「シャワーですか?」
「ああ。血の臭いも付いてるだろうし……“女の子”だから入ったほうがいいだろ?」

そのトレイズの言葉に、キノは驚愕の表情に染まる。
キノの表情に気付かず、自分が成した事に気付かないままトレイズは、厨房に入っていった。



29創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 03:51:22 ID:N6JrG0qh
 
30必要の話(U) ◆UcWYhusQhw :2010/05/02(日) 03:51:33 ID:peLWrcwL
【3】



「ビックリした……」
「まさか気付くとはね。やっぱり聡いや」
「そうだね。かなり聡く鋭い人だ…………というか、居たの? エルメス」
「居たよ、ずっと前から」
「黙ってたから、気付かなかった。珍しいね」
「たまにはTKOは護るよー」
「………………TPO?」
「そう、それ……まあ運ばれる時、黙っててと言われてたんだけどね」
「彼に?」
「うん。此処までつれてきてもらった恩もあるし、それで」
「そう」

「……で、キノ」
「何? エルメス」
「結局何人殺したの?」
「五人」
「わお。随分とまた派手に殺したね」
「まあ、残り四人は使えそうもなかったし。まさか同じ人を二回殺すと思わなかったけど」
「何それ?」
「後で詳しく話すよ。面倒になりそうだし。まあこれは彼に話すと不都合が起きそうだったし言わなかっただけ」
「流石キノだねえ」
「殺せそうもない……と思った人とも出あったけどね。それがあったから彼と組んだ」
「ああ、こっちもそのような人とであったよ」
「やっぱり、そういうのが一杯居るようだね。彼と組んでよかった」

「そうそう、エルメス。彼と行動してみてどう思う?」
「んー……そうだね。アア見えてクレーマーな所はあるかも」
「……………………クレバー?」
「そう。それ。あながちクレーマーでも可笑しくないけど」
「成程……というか、彼も結構慣れてるね」
「そうだね。一回修羅場から帰ってきたし」
「へえ。というか何か似てる所あるね」
「ああ、ちょっとキノと似てるね」
「根本は全然違うけど」
「キノと一緒だったら困るけどね」
「まあね……実際エルメスが乗せただけあって、優秀かな?」
「かもね……あーでも」
「何? エルメス?」
「何か重要な所で大ポカしそうな感じ」
「……成程。まあ、カバーすればいいか……とりあえずは『必要』かな」

「さて……エルメス」
「何?」
「お腹減った。彼はまだかな?」
「…………あっそう」


31創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 03:52:37 ID:N6JrG0qh
 
32必要の話(U) ◆UcWYhusQhw :2010/05/02(日) 03:52:46 ID:peLWrcwL
【D−4/北部 ファミレス内/一日目・夕方】


【キノ@キノの旅 -the Beautiful World-】
[状態]:健康、空腹
[装備]:トルベロ ネオステッド2000x(12/12)@現実、九字兼定@空の境界、
[道具]:デイパックx1、支給品一式x6人分(食料だけ5人分)、空のデイパックx4
     エンフィールドNo2x(0/6)@現実、12ゲージ弾×70、暗殺用グッズ一式@キノの旅
     礼園のナイフ8本@空の境界、非常手段(ゴルディアン・ノット)@灼眼のシャナ、少女趣味@戯言シリーズ
【思考・状況】
 基本:生き残る為に最後の一人になる。
 1:トレイズと組んで行動。今は休憩する
[備考]
 ※参戦時期は不詳ですが、少なくとも五巻以降です。
   8巻の『悪いことができない国』の充電器のことは、知っていたのを忘れたのか、気のせいだったのかは不明です。
 ※「師匠」を赤の他人と勘違いしている他、シズの事を覚えていません。
 ※零崎人識から遭遇した人間についてある程度話を聞きました。程度は後続の書き手におまかせです。
 ※スクーター@現実とエルメス@キノの旅がファミレス内にあります



【4】



「何とか……上手くいったかな」

トレイズが厨房内で、一息を付く。
薄氷の上を歩いていたような気がしないでもない。
組めるという自信はあったが、それでも不安は多少なりともあったのだ。
それでも、今彼女と組めて、生きている。
もう、それだけで成功だった。
彼女の力は必要だったから。

「そして……『必要』なら俺は……」

リリアの為に、殺すのだろうか。
必要ならば、殺せるのだろうか。
殺すのだろう。
でも、何故かそれを明言する気にはなれなかった。

「まあいいか……今は何かを作ろうか」

何処か自分と似ている彼女。
だけど根本的なところでは全然違う彼女。

『彼女』だと気付いたのは食事の最中。
あれだけ、嬉しそうに食べる笑顔は、正しく女の子だったから。
そう、リリアのような笑顔を浮かべて。

「リリア……どうしてるかな?」

心に浮かんだ、リリアの顔に少しだけ不安になって。


それを吹き飛ばすように、トレイズはフライパンを力強く振った。


33必要の話(U) ◆UcWYhusQhw :2010/05/02(日) 03:53:30 ID:peLWrcwL
【D−4/北部 ファミレス内厨房/一日目・夕方】

【トレイズ@リリアとトレイズ】
[状態]:お腹に打撲痕、腰に浅い切り傷
[装備]:コルトガバメント(8/7+1)@フルメタルパニック、コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、フライパン、鷹のメダル@リリアとトレイズ、
[道具]:デイパック、支給品一式、、銃型水鉄砲
[思考・状況]
 基本::リリアを守る。彼女の為に行動する。
 1:キノと組んで行動。今は料理作ってその後に休憩
 2:今度は北東の辺りでリリアを捜してみる。
[備考]
 マップ端の境界線より先は真っ黒ですが物が一部超えても、超えた部分は消滅しない。
 人間も短時間ならマップ端を越えても影響は有りません(長時間では不明)。
 以上二つの情報をトレイズは確認済。
34創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 03:54:18 ID:N6JrG0qh
 
35必要の話(U) ◆UcWYhusQhw :2010/05/02(日) 03:55:25 ID:peLWrcwL
投下終了しました。
支援ありがとうございます。
何か、ありましたら指摘をお願いします
36創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 04:04:50 ID:N6JrG0qh
投下乙です。

ここぞという場面ではしくじらないトレイズ殿下、今回も大きな死亡フラグを抱えたまま生き延びたかw
キノとトレイズはもちろん、合流したエルメスも交えた会話が物騒ながらもおもしろいw
にしてもキノはよく食べるなあ。はらぺこキャラが板についてきたっていうか、何色食べるんだw
しかし、一人で五人も殺してるマーダーにもついに相方ができたのか……これからどう動くか楽しみです
37創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 09:25:45 ID:AdlK8IaM
投下乙です

死亡フラグ抱えながらもそれでも生き残るトレイズ殿下w
いやあ、確かに面白い会話でしたわw
さて、組んだのはいいがいざという時の切り捨てのよさでは殿下よりキノの方が強いからな…
他のマーダーがいる内はいいが…
38創る名無しに見る名無し:2010/05/05(水) 14:24:32 ID:dt8OYbsN
殿下愛されてるなぁw
39創る名無しに見る名無し:2010/05/07(金) 01:18:35 ID:0qvUZNdc
おお、また予約がw
スピード回復してきた様でなによりですw
40 ◆EchanS1zhg :2010/05/13(木) 22:47:21 ID:2u8hSfei
これより投下を開始します。
 【0】


直感は過たない。誤るのは判断であある。


 【1】


陽の傾きに少し濃さを増した青い空。そこに重く響く銃声が木霊する。
遠い空の彼方へと伝わってゆくそれは、まるで何かの始まりを告げる号砲のようで――




「けっこう、難しい……」

弾丸を呑み込み、なお平然と揺らぐことなく存在する漆黒の壁を見つめながら黒桐鮮花はそう呟いた。
その壁の前方にはドラム缶が置かれ、その上には彼女が狙っていた塗料の入った缶が立てられている。
無論。弾丸が壁に呑み込まれた以上、本来の的である缶はまったくの無事だ。
傷ひとつなく。ペンキ一滴たりとも零してはいない。

ため息をひとつつき、鮮花はリボルバーから空薬莢を地面に落として新しい弾丸を込め始めた。
青い空の下。広大な飛行場の外れ。漆黒の壁の前に質素な的。生まれたての復讐者(リベンジャー)。
黒桐鮮花は拳銃の練習をしているのである。

「拳銃は当たらないってのが当然だからね。まぁ、気長に練習してゆくといいさ」

どうにも納得いかないという風の鮮花の後ろで、彼女の”先生”であるクルツ・ウェーバーがそう言う。
気休めにしてもおもしろくない言葉だ。
鮮花が無視して的へと向き直ると、すっと彼の手が身体へと伸びてきた。

「ほらほら、力が入りすぎだって。硬くなってると余計当たらなくなるよ。
 右腕はまっすぐ。頭の向きもそれに合わせて。……視線、利き腕、銃が全部同じ直線の上にくるように。
 でもって左腕は支えるように。伸ばさなくていいから、上半身がブレないよう脇をしめて――」

まるで楽器の調律をするかのようにクルツは鮮花のそこかしこを微妙に動かし、正してゆく。
触れられるのは不快だったが、触れられた部分がはっきりと楽になるのも解り、文句を言うこともできない。

「足の幅はそれぐらいで……重心は後ろの右足にね。ああ、腰は引かなくていいか――」
「どこ触ってるのよ!」

文句よりも先に手が出た。
振り向きざまのアッパーカット。喰らったクルツの身体は宙に浮き、一瞬の後、芝生の上へと沈む。

「…………つつ。……鮮花ちゃん。
 ナイス反撃だけど、拳銃を持ちながらアクションする時はトリガーから指を外しておこうね。
 でないと、暴発しちゃって危ないからさ。そんな風に」

7発目の弾丸は天へと消えた。
彼女が狙うべき的である塗料の缶は未だ無傷。勿論、ペンキ一滴たりとも零れてはいなかった。



「やれやれ……」

射撃練習を続ける鮮花より離れ、顎をさすりながらクルツは格納庫の近く、横に倒したドラム缶の上へと腰掛けた。
彼女の後姿を眺め、制服の上に浮かび上がる女性らしいラインを堪能した後、視線を周囲へと走らせる。
クルツがこの場所を射撃練習の現場と選んだのは、弾が逸れても事故が起こらないようにという配慮もあったが、
一番の理由は見晴らしだった。
だだっ広い滑走路に、芝生だけの使われてない土地。何者かの接近を察知するに容易く、奇襲の恐れは少ない。
南に大きな格納庫を背負っているため、街の方からの狙撃を受ける心配もないと、
一見無防備なようでいて実に堅牢なシチュエーションである。

鮮花の持つコルトパイソンから轟音が二度三度と響き、木霊する。
これであらぬ方向へと消えた弾丸の数は二桁に上ろうかというところだったが、それでもまだ的には命中していなかった。
いつかには動く的を用意するなどと言ったが、まだまだそれ以前の状態でしかない。
若干肩透かしの感は否めないが、しかしこれでそのまま終わってしまうならそれはそれでいいともクルツは思う。
復讐の為に銃を覚え、世界で一二を争うほどにまで――なんて人間はこの世に何人もいなくていいのだから。
誰かのために復讐を果たす。それは否定しない。しかし、復讐が生き方だなんていうのは少し寂しく悲しい話だった。



「ただいま戻りました」

軋んだ音を立てて開く扉の音にクルツが振り向くと、そこにはいつもどおりの平然とした顔を見せる白井黒子が立っていた。

「ごくろうさま。それで成果は?」
「ええ。概ね問題なく、予め定められていた通りに」

黒子はひとつ頷くと、クルツの隣に座り、パックのフルーツジュースをストローで飲みながら報告を開始した。

「仰られていた場所に小さな商店街がありましたので、取り急ぎ必要な物はそこで調達いたしました。
 日持ちする食料品に飲料。マットレスに毛布。後は数点の衣料品。及び、殿方にはご報告できないエトセトラ。
 どれも人数分より多めに確保してまいりましたので、その点はご心配なく」

元々、この飛行場を根城とするための物資を調達しに出立したのはクルツなのであるが、
目的地とした百貨店に敵の気配を感じたので止む得ず中断となった。
なので、些か以上にかっこのつかない形ではあるが、瞬間移動能力者である白井黒子にお願いしたという次第である。
もっとも、この近くには百貨店ほどの大きな商店はなかったので得られたものは比べると貧相だが、これもまた仕方がない。

「途中で誰かを見かけたりは?」
「幸か不幸か、敵も味方も見ておりませんわ」

そうか。と、クルツは安堵と残念さが交じり合った溜息を零した。
彼女が不幸に出会わなかったのは単純に喜ばしいが、未だ仲間の影も形も見えないのはやや不安を感じる。

「それで……”彼女”の件なんですけれども……」
「ああ、どうだった?」

黒子の言う”彼女”とは、先刻保護したばかりの”伊里野加奈”のことである。
浅羽直之の意中の人であり、そして黒子が拾ったパイロットスーツらしきものの持ち主でもあった。
今は、格納庫の端にある詰め所の中で二人中睦まじく休息をとっているはずだ。

「ええ。クルツさんの仰ってたとおりでしたの」
「そうか……」

当たってほしくはなかった想像がその通りだったことに、クルツと黒子の二人は陰鬱な表情を浮かべた。
転がり込んでくる問題はどれも難解でいて、受け止めがたいものばかりである。
43創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:49:38 ID:VRKrkuQ8
「血塗れだった服の着替えをお手伝いした時に確認しましたが……」
「やっぱり、アレは彼女の血じゃない?」
「ええ、それに。仰られた通り、伊里野さんの身体には無数の注射痕を見つけることができました」
「だろうな……」

伊里野加奈についての想像はふたつ。
ひとつは彼女がなんらかの機動兵器のパイロットであること。もうひとつは彼女がすでに殺人を犯していること。
最初のは黒子の拾ったスーツより、後のは彼女自身と出会った時に想像、推定したことだ。

「彼女は、いったい”ナニ”なのでしょうか?」

遠くを見つめるクルツへと黒子は尋ねる。
クルツならば知っていると確信しているのだろう。そして、クルツはそれを正しく知っていた。

「……そうだな。
 まず表向き……と言っても社会からすればこれも裏かもしれないが、あえて表として言うなら彼女は”パイロット”だ」
「それは、以前に仰られていたアームスレイブだとか言う……?」
「どんなものに乗っていたかまでは解らない。
 ただ同じ様に機密性の高いプロジェクトに参加し、それが軍隊の主導であったことは間違いないだろうな」

クルツが彼女の世話を黒子や浅羽に任せているのは何もクルツがそれを放棄したからではない。
彼よりのアプローチはすでにここに来た直後に済ませている。

「所属は言えませんの一点張り。身体が貧弱すぎるが、白兵戦の訓練を受けた様子も見受けられる。
 そして例のスーツ。彼女はどこかの《物語》のエースパイロットだったという訳だ」

そして、

「本当に平凡な少年。実は世界の敵に立ち向かうエースパイロットの少女がどこかで出会う。
 ははっ、”まるでどこかで聞いた話”だな。
 さぞかしスペクタクルとスリル。サスペンスとロマンに満ち溢れた《物語》だったんだろう」

だがしかし、

「それだけではありませんのね……?」

故に、《物語》は《Happy ever after (彼らは幸せに暮らしましたとさ)》では終わらない。



「さきほどは表と仰られましたが、では裏があるのですわね? しかし、それを私が聞いてもよいのでしょうか?」
「俺としては黒子ちゃんからも少々話を聞きたいと思ってね」

クルツは黒子のほうへと向き笑顔を見せた。
しかしそれはいつもの軽薄なものではなく、どこか寂しげで。こんな顔もするのかと黒子は素直に思った。

「彼女の髪の毛を見たかい?」
「白い髪の毛……ですが、あれは生まれつきではないようですけれども……」
「ああ。オシャレってわけでもない。はっきり言っちまえば”クスリ”だな」
「薬物……」

伊里野加奈の頭髪は遠目に見れば白一色で、彼女の容貌とよくあって美しく見えた。
しかし、近づいてよく見ればそれは美しいばかりのものでないことがはっきりと解ってしまう。
白髪の合間に見える僅かに色のついた毛髪。根元に見える色の濃い部分は白髪が彼女の地毛ではないことを表し、
不純物の混じったその白は踏み荒らされた雪の地面を想像させる。

それだけではなく、白雪姫のように白い肌は病気(アルビノ)のそれで、一見は美しいそれも観察すればボロが散見できた。
線の入った不健康な爪。乱暴な注射の痕は黒ずみ、瞳は充血したままで、呼吸には時折ノイズが混じる。
まるで、それは”美しいモノ”を作ろうとして、完成を目指して人間が人間を作り上げた不出来な”結果”のようであった。
45創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:50:12 ID:mW/4ilj+
 
「チャイルドソルジャーって知ってるかい?」
「……言葉だけならば」
「あの子も”ソレ”だな。どこで拾われたのか、それともその為に作り出されたのか、そんなことは知らないが……」
「…………」
「可哀想なのは、彼女は自分が本当は何者かってことすら知らないだろう」

それは彼女が人間(ヒト)であることを否定する言葉であり、彼女が道具(モノ)でしかないことを肯定する言葉だった。

「非道い話ですわね……」
「まだ”まし”なほうさ彼女は。刷り込みでも計算でも彼女には浅羽って心の支え、生きる希望がある」

世の中にはそんなものすらない。そんなものが偽物だった。そんなことがあることをクルツは知っている。
だから彼らはまだいいほうだともクルツは思う。例え誰かの道具でも、そこに《物語》があるなら生きてることは証明されるのだ。



「それで、私に聞きたいこととはなんでしょう?」
「ああ。黒子ちゃんに……いや、黒子ちゃんの方の世界にさ。”ああいうの”、心当たりないかなってね?」

心当たり。そんなものは黒子の頭の中にはいくらでも”あった”。

「ビンゴ……かな?」
「参りましたわね。でも、確かに”ああいうの”でしたら、私たちの世界の方が進んでいると言えますわ」

人間を薬漬けにして、時には直接脳を弄り、電極を刺し、薬を止め処なく投与し、部品を埋め込む?
そんなのは、そんなことは、超能力者を”生産”する学園都市ではごく当たり前に行われていることであった。

「表裏と言い表せば……そうですわね。
 私たちの世界で言えば、公に使われている技術が表。そうでない非合法なものが裏だと言えるでしょう」

当たり前の発言だったが、しかしその言葉が当たり前だということを知ったからこそ、黒子は学園都市が危ういと思えてしまう。
それはつまり、変わらないのだ。
合法とされていることも、非合法とされていることも。ただ都市に住む人間に与えられているかそうでないかの違いに過ぎない。
黒子はいくつかの事件を経て学園都市の暗部を僅かに垣間見た。僅かではあるが、聡いが故に気づけてしまっていた。
自分たちは一体どんなものの上(ギセイ)に立っているのか。それがどれだけおぞましいものなのか。

「はは、話に聞いてるだけじゃ黒子ちゃんの世界はすごくおっかない所みたいだな。
 国民全員に麻薬配ってラリらせて、こっちはいい薬。あっちは悪い薬ってんで統制とってるなんてさ」
「ええ、そうですわね。私も今更ながらに人間が技術を持つことの恐ろしさを痛感していますわ。
 もっとも、私は人間がその技術を正しく御せるであろうことも信じていますけれども」

《物語》は、外から見ることで初めて知ることのできるものもある。それは既知の発見であり、未知の実感であった。

「それで、彼女の手首にはまってた鉄球のことなんだけど。黒子ちゃんの方では見覚えない?」
「どうでしょうか。少なくとも同じものというのは見た覚えがありませんが……あなたのほうは?」
「さぁね? 彼女が乗り込むなにかの操縦に関連してるとは思うけど、断言はできないな」
「そうですか。まぁ、そのなにかがなければ関係ない話ですむのでしょうね」

十二発目の銃声が鳴り響いた。未だ的は倒れていない。《物語》は進んでいるようで進んでいないのか、それとも……?


 ■
47創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:51:18 ID:VRKrkuQ8
48創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:51:31 ID:mW/4ilj+
 
「それで彼女と浅羽さんの処遇はどういたしますの?」

黒子の言葉にクルツはふむと首を捻る。
そこらへんの諸々を導き出すための会話ではあったが、しかしあまり有益な情報はそこになかった。

「とりあえずは俺たちの中で保護するしかないかな。
 彼女、時々目が見えてないってこと気づいたかい? 記憶の混乱もあるみたいだし、そうするしかないよなぁ。
 ……野郎なら簀巻きにしてそこの壁の中に放り込んでやるんだが、そういう訳にもいかないし」

困った困ったと言いながらクルツは立ち上がって尻についた埃をはたいた。黒子も苦笑を浮かべながらそれに倣う。
二人とも、現実主義者(リアリスト)ではあるが人情派(オヒトヨシ)でもあるのだ。

その誰かを助ける義理がないとしても、助けてはいけない理由がなければ素直に助ける。
博愛主義や社会正義を掲げる真似などしない自然体のただそれだけ。
普遍でいてかけがえのない貴重なパーソナリティであった。


十三発目の銃声が鳴り響く。的になっていた塗料の缶は撃ちぬかれ、真っ赤なペンキがぶちまけられた。




 【2】


浅羽直之は恐怖に震えていた。
それを彼女には悟らせまいと彼は彼なりの努力はしているのだが、若さゆえの経験不足かとても足りてはいなかった。
恐る恐るといった態度も、時々どもる声も、落ち着かない視線も、全てが彼の不安を外に表していた。
まるで親の財布から金をくすねた子供のようにか、それともデートの約束を間違えてすっぽかした翌日の風にかと、
不審者オブ不審者。この中で隠し事をしているのは誰でしょうと出題すれば、みんな手を上げて浅羽と答えるだろう。

それぐらいに彼は恐怖していた。
愛する伊里野加奈に。
正しくは、彼女が浅羽にとっての伊里野加奈であるのか。それが確かでないことに。

幸いか、やはり不幸なのか、彼女は浅羽の様子に疑問を持っていないようで、それがまた彼を振るわせるのであった。



「…………あ、あの。顔は痛くない?
 大丈夫かな? あの時は、ぼくは……いや、ぼくも……なにがなんだか……必死で」

時折、隙間風が入ってくるボロっちい詰め所の中。
皮がバリバリに罅割れたソファに並んで座り、浅羽直之と伊里野加奈は歪で通じ合わない言葉を交し合っていた。

「へいき。浅羽に殴られるのは大丈夫だったから」

一体なにをどう考えたらそうなるのか、浅羽にはさっぱりわからない。
せっかく会えたというのに。彼女と会えたならもう誰かを殺そうとするのは止めよう。ただ彼女を守ろうと思っていたのに。
得られたのは再び失うかもしれないという恐怖。そして、それはすでにギリギリのところまで進んでいるのかもしれない。

「浅羽を守るから」

真っ白なブラウスに黒の膝丈のスカート。多分、どこかの制服なんだろう――に着替えた伊里野が儚い笑顔を見せる。
伊里野加奈はロボットみたいだとよく言われることがある。
喜怒哀楽の表現に乏しく、するべきことだけをただこなしている。そんな姿がそう見えるのだというのだ。
そりゃ知らない人からすれば――という限定的な条件をつければ浅羽もそういった印象を認めないでもない。
50創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:52:20 ID:mW/4ilj+
 
しかし、浅羽は知っている。伊里野が感情表現に乏しいのはそれを必要とする場面が少なくて、ただ苦手なだけなのだと。
その証拠に、打ち解ければ彼女は浅羽に色々な姿を見せてくれて、とても感情豊かな女の子だと教えてくれるのだ。

なのに、今の伊里野加奈は浅羽から見ても、まるでロボットのようでしかなかった。



「浅羽。部活は?」

何がおかしいんだろう。何をどこで間違えたのだろう。一体、何がいけないというのだろう。
全部そうなのかもしれない。最初から無理のある話だったのかもしれない。

「伊里野。今日は部活は、ないよ。……部長がどこにいるのかもわかんないし」

浅羽は彼女が非常に脆く、危うい存在であることを知っている。少しの間違いで彼女が壊れてしまうことを知っている。
伊里野には自分しかいないことも知っている。彼女のことなら一番よく知っていると宣誓することだってできる。

「じゃあ、電話しないと」

だからこそ、気づいてしまった。
彼女がただいるだけで幸せだというぐらい鈍感ならばまだよかったのに。
それならば、少なくとも破滅の瞬間までは恐怖を感じずにいられたはずなのだ。
しかし、彼女をずっとずっと見てきたから気づいてしまった。何度も何度も失敗したから気づいてしまった。

「電話はもうしなくていいよ。その……榎本さんも、もういないし」

彼女が、もうすでに伊里野加奈であって伊里野加奈ではないことに。

「浅羽とふたりきり」

あの時とも、あの時とも、あの時とも、違う。こんなのは初めてで、そして最悪かもしれなかった。

「そうだね」

性質の悪い冗談のようだった。宇宙人が伊里野の皮を被って自分を騙そうとしているんじゃないかと思える。
まるでSF小説に出てくるできそこないの人工知能のように、今の伊里野には単純なアルゴリズムしかないように感じる。

「次はどこに行くの?」

一体、どこでこうなってしまったのか。そんなことはいくらでも想像できる。
榎本の死が告げられた時かもしれない。自分が殴ってしまった時なのかもしれない。
再会した時に心を支えていたものが折れたのかもしれないし、そもそもここに来た時からなのかもしれない。
どこかに彼女を痛めつけたやつがいるのかもしれないし、悪い魔法使いに魔法をかけられた可能性だって否定できない。

「さぁ……これからどうなるのかもわからないし。伊里野はどこか行きたいところはある?」

しかし、原因なんかはどうでもよくって、重要なのはこの壊れかけのラジオみたいな伊里野はどうすれば救えるのかだ。
もう手遅れなのかもしれない。そんな風に思える根拠はいくらでも存在する。
それでも救いたい。これは本心。でも、もう楽になってしまいたい。これもまた本心だった。

「…………浅羽と一緒に映画を見たい」

本当に彼女は自分のことを浅羽直行だと認識しているのだろうか?
誰に対してでも『浅羽』という役割を与え、夢を見るだけの彼女になってはいないだろうか?
52創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:52:45 ID:VRKrkuQ8
53創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:53:10 ID:mW/4ilj+
 
「うん。そうだね――」

そんなことはわからない。
なぜなら、浅羽自身も彼女が本当に伊里野加奈なのか、伊里野加奈だと思い込んでいるのか判別がつかないから。
彼女がすでに偽物であるという真実を得ることは決してできず、それなのに疑い続けなくてはならないのだから。

「――また一緒にに映画を見たいね」

それは、とてもとても悲しくて、とてもとても恐ろしいことだった。




 【3】


飛行場より少し離れた街の一角。ほとんどテナントの入っていない寂れた雑居ビルの一室に少年と少女の姿があった。

「……本当。確かに銃声が聞こえる」
「肯定だ。
 あの音には聞き覚えがある。使用している弾丸は.357マグナム弾に違いない。
 6発撃った後に間があったことから、6発まで装填できるタイプの回転拳銃だと推測することができる。
 これだけでは特定には至らないが、おそらくはコンバットマグナムかコルトパイソンあたりだろう」

少年の言葉に、呆れと感心が半分半分の溜息を吐くのはリリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツという少女。
そんな彼女の態度にまったく動じず、少し怒っているようにも見える真面目な顔の少年は相良宗介。
飛行場へと戻ってきた二人はそこから聞こえる銃声に足を止め、目立たない一室の中でその様子を伺っていた。

「それで、どうすればいいの? なんだか危なそうなんだけど……」

カーテンで閉ざされた窓の方を向き、リリアは怖いというよりもがっかりといった風に言葉を漏らした。
一度は諦めたが、もしかしたら飛べるかもと飛行場に戻ってくれば何やら物騒な気配。
せっかく……なのに、というのが彼女の率直な気持ちだ。

「決断を早まる必要はない。あの銃声の主が我々に対し敵性であるか否かはまだまだ確認すべき余地がある」
「……? どういうことなのソースケ?」

覗き込むように見上げるリリアに、やはり動じることもなく宗介はその理由を説明し始めた。

「まず、あの銃声は戦闘によるものだとは考えられない。
 銃声が一種類であること。またその感覚が緩やかでほぼ一定であり、それが長く続いていること。
 以上のことからその可能性は否定される。戦闘が起きているならばどれも考えられないことだからだ」

リリアは少し埃を被ってるソファの上でうんうんと頷いた。

「おそらく、銃声の主が行っているのは拳銃の試射だろう。
 戦場において最も大切なことは信頼性だ。人間。情報。武器装備。信頼できないものは一切使用する価値がない。
 なので与えられた装備の点検及び試用は余裕がある限りしておくべきとされるのが常だ。
 銃声の主はそれをあの飛行場で行っているのだろう。
 あれだけ広い飛行場ならば銃の試射をするにはもってこいだ。銃声の主がわざわざ足を運んだのも頷ける」

表情を変えることなく淡々と語る宗介に、リリアはなるほどなるほどと相槌を打った。

「つまり、銃声の主は戦闘におけるプロフェッショナルであり、この場においても冷静さを失っていないことが想像できる。
 ならばこの様な状況において愚直に殺し合いを進めるのがどれだけ大きなリスクを孕んでいるのかも理解しているはずだ」

それって、つまり? とリリアが続きを促がす。
55創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:53:52 ID:mW/4ilj+
 
「交渉の可能性はあるはずだ。うまくいけば不戦協定。もしくは合同作戦を申し込めるかもしれない」

なるほど! と、リリアは小さな手のひらを打ち合わせた。


そして、リリアと宗介は――……




 【4】


「ねぇ、クルツ? 今更なんだけど……」

ようやく最初の的に弾を命中させ、意気揚々とまではいかないまでも多少は気の晴れた鮮花。
彼女は後ろを振り返ってクルツが黒子とのおしゃべりに熱中していることに気づくと、ちょっとムッとしてそこに戻った。

「おいおい鮮花ちゃん。今は先生だろ? 敬愛するクルツ先生って」
「はいはい先生。それで今更なんだけど、拳銃の弾って練習に使っちゃってもよかったの?」

今更とはこのことだった。
鮮花の持つコルトパイソンに付属していた弾丸は30発。
この内、半分ほどはもう使ってしまっており、そして練習がこれで終わったとも思えない。
ならば”実戦”で使う分は? と、鮮花が疑問に思うのは道理であった。

「復讐の為の弾丸なんて1発あれば十分だよ。まぁ、用心して2発か3発かな?」

対するクルツの回答は鮮花の予想してなかったものだった。
てっきり、弾丸はまたどこかで調達すればいいと言うと思っていたのだ。
しかし彼からすれば、29発目までの練習は30発目を当てるためにあるのだという。

「必要なのは決着をつけるための必殺の一発だ。
 鮮花ちゃんは別に、兄さんの仇と戦いたいって訳じゃないだろう?」
「……そうね。確かに、私は戦い方を教えてもらってるんじゃなかった。必要なのは殺す手段よ」

納得し、鮮花は右手に握った拳銃を見つめた。
例えこれが拳銃でなくナイフだとしても、刀やあるいは毒物なのだとしても、それは何も変わらないのだ。
鮮花は仇を討つことを欲した。ただ、その為に取った武器が偶然銃だったということにすぎない。
必要なのは殺す意思。そして、その為の確実な手段。だからこそ、自分は今ここにいるのだと鮮花は再確認する。

「それで、動く的の話はどうなったのよ?
 止まってる的だけじゃ練習にならないって言ったのはあなたよ。
 それともあれかしら。あなた自ら的になってくれるとか? ねぇ、”先生”?」
「おいおい。師匠から弟子への最後の試験が『俺を倒して行け』だなんて時代劇じゃあるまいし……勘弁してくれよ」

鮮花のサディスティックな笑みにクルツは両手をあげて降参すると、代替案を提示した。

「まぁ、先生からのサービスとして仇とやらの足止めぐらいは手伝ってあげるよ」
「…………」
「それとも、自分だけで正々堂々とした”綺麗”な仇討ちを望んでいる?」
「…………いいえ。手伝ってもらえるなら悪魔の手でも借りるわ。手段を選ぶほど私は強くないから」

熱く、そして冷たい瞳を向ける鮮花に、クルツは「君は長生きするよ」と笑った。
57創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:54:15 ID:VRKrkuQ8
58創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:54:53 ID:mW/4ilj+
 
「本当。敵討ちなどとは野蛮極まりない――と、おや? あそこにいるのは浅羽さんではないですか」

目の前で行われる物騒な会話に辟易し、ふと滑走路の方へと視線を向けた黒子はそこに浅羽の姿を見つけた。
どうしてあんなところにいるのだろうか? 伊里野は一緒じゃないのか? どうにも様子がおかしい。

「ん? あいつどうしたんだ?」
「さぁ? 私たちを探しているのでしょうか……と、気づきましたわね」

本当に黒子たちを探していたのか、浅羽は彼女ら3人に気づくと慌てた様子で近づいてきた。
近くで見れば必死の形相だ。何かあったのだと聞かなくてもそれぐらいは解り、何があったのかも想像がついた。

「い……い、い……伊里野がどこにもいないッ!」

そして、それはあまりにもありきたりななにかの始まりだった。


 ■


「いなくなったって、どういうことだ!? ずっと一緒じゃなかったのか?」
「それが、……トイレに行って戻ってきたら、どこにも」
「ティーはどうしましたの? あななたちを見張っていたはずですわよ!?」
「え? ぼくは全然、見てないけど……」
「そもそもどうしていなくなるのよ? あんたたち、探しあってたんでしょう?」
「ぼくだってそんなことわからないよっ!」

顔を真っ青にした浅場を前に、クルツたちもそれぞれに緊張や不安の色を顔の上へと浮かび上がらせる。
どうやら伊里野加奈が行方不明となったらしい。しかし一体どこに、どうしていなくなってしまったのか?

「とりあえず、そんなに遠くまでは行ってないだろうが……」

クルツはだだっ広い飛行場を見渡し、歯切れ悪く呟いた。
浅羽は伊里野がいなくなったことをただ心配している。だが、クルツはそれとは別のところに不安があった。

「(いきなり、撃ってはこないよな……いや、油断できないか?)」

心的外傷性ストレス障害に、薬物の過剰摂取によるフラッシュバック。精神薄弱による攻撃性の増加。
クルツから見た伊里野加奈の印象は壊れた兵士のそれと変わらない。
そして、そんな兵士が原因で堅牢だった陣地が混乱し、一夜にして壊滅。なんて話も珍しくはないのだ。
もしかすれば浅羽を確保できたと思った彼女が自分たちを殺そうとしているのかもという可能性もなくはない。

「ティー! どこにいますの? 返事をなさいませ!」

格納庫の扉を開き、黒子が中へと大声で呼びかけている。だが、あの小さな彼女がひょっこりと現れる様子はない。
果たしてあの子もどこに行ってしまったのか、事態を目の前にクルツは唇を噛んで失敗を自覚した。

一時たりとも目を離すべきではなかったのだろう。
浅羽が伊里野を見張り、ティーが2人を見張り、黒子がそれを気にかけ、彼女と連携しながら自分は鮮花を見守る。
こうしておけば最低限うまくいくだろうと思ったのが甘かった。
浅羽は短絡的で頼りにならないし、伊里野は精神不安定。ティーは大切な人を失い自殺未遂をしかけた直後である。
頼りになる黒子にしてもまだ中学生でしかないのだ。
これからの為になんて余裕を持った考えをせずに、全員倉庫の中に放り込んで鍵でもしておくのが正解だったのかもしれない。
「伊里野! 伊里野!」
「おい、待てッ!?」

大切な人の名前を叫びながら浅羽が飛行場の出口へと向かい走り出してゆく。
一瞬。捕まえようとクルツの手が伸びたが、僅かな躊躇いによりそれは届かなかった。
彼をここで捕まえて今更どこかに拘束したとしても事態は進展しない。
ならば彼と彼女のことはもうふたりだけに任せておけば――なんて考えが頭の中を一瞬過ぎったのだ。
しかし、彼らを助ける義理は存在しないが、助けない理由もまた存在してはいない。

「……黒子ちゃん。悪いが頼む。タイムリミットは次の放送だ。彼女たちが見つからなくても一旦帰還してくれ」
「お引き受けしましたわ」

瞬間。黒子の小さな身体が隣から消え、滑走路の向こうへと現れた。そして次の瞬間にはまた消えて先に現れる。
それこそ、瞬く間に彼女の姿は視界より消え、だだっ広い飛行場にはクルツと鮮花の二人だけが残されることとなった。


 ■


「それで私たちはどうするの? 練習の続きをすればいいのかしら?」
「いや……」

黒子が残して行った鞄を取り上げ、クルツは鮮花に向かってゆるゆると首を振った。

「とりあえず、寝床と飯の用意をしておこう。帰ってきた時に暖かいもの食わせりゃガキ共も落ち着くだろうしな」
「そう。なんだか感覚が掴めてきそうなところだったんだけど、まぁいいわ」
「それに案外2人ともこの飛行場の中にいるってことも考えらるぜ」
「じゃあ、私は少し見て回ってみようかしら」

そして二人は軋む音を立てる扉を潜り、格納庫の中へと姿を消した。



後に残されるのは、飛行場の片隅にぶちまけられた真っ赤なペンキと13の空薬莢。
バラバラに散らばったそれは風に吹かれてカラカラと音を立て、少しだけ赤みを増した陽光を受けてどこかへと転がり始めた。




【B-5/飛行場/1日目・夕方】

【クルツ・ウェーバー@フルメタル・パニック!】
[状態]:復讐心、左腕に若干のダメージ
[装備]:ウィンチェスター M94(7/7+予備弾x28)
[道具]:デイパック、支給品一式、ホヴィー@キノの旅、ママチャリ
     缶ジュース×17(学園都市製)@とある魔術の禁書目録、エアガン(12/12+BB弾3袋)、メッセージ受信機
     デイパック、支給品一式、黒子の調達した物資
     姫路瑞希の手作り弁当@バカとテストと召喚獣、地虫十兵衛の槍@甲賀忍法帖
[思考・状況]
 基本:生き残りを優先
 1:寝床と食事の用意をしながら黒子たちの帰りを待つ。
 2:その後は状況に応じて休息をとり、また今後の動きについて相談しあう。
 3:宗介、テッサ、かなめとの合流を目指す。
 4:鮮花の復讐を手助けする。
 5:メリッサ・マオの仇を取る。
 6:摩天楼で拾った3人。特に浅羽とティーの動向には注意を払う。
 7:次のメッセージを待ち、メッセージの意味を考える。
[備考]
 ※土御門から“とある魔術の禁書目録”の世界観、上条当麻、禁書目録、ステイル=マグヌスとその能力に関する情報を得ました。
 ※最初に送られてきたメッセージは『摩天楼へ行け』です。次のメッセージがいつくるかは不明です。
61創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:56:19 ID:mW/4ilj+
 
62創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:56:23 ID:c2YzYHGS
 
63創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:56:45 ID:j5wykbvt
【黒桐鮮花@空の境界】
[状態]:復讐心
[装備]:火蜥蜴の革手袋@空の境界、コルトパイソン(5/6+予備弾x12)
[道具]:デイパック、支給品一式、包丁×3、ナイフ×3、
[思考・状況]
 基本:黒桐幹也の仇を取る。そのためならば、自分自身の生命すら厭わない。
 1:寝床と食事の用意をしながら黒子たちの帰りを待つ。
 2:暇な時間は”黒い空白”や”人類最悪の居場所”などの考察に費やしたい。
[備考]
 ※「忘却録音」終了後からの参戦。
 ※白純里緒(名前は知らない)を黒桐幹也の仇だと認識しました。




 【5】


「もう、ソースケったら」

ガランとした埃っぽい部屋の中でリリアはいなくなってしまった宗介に悪態をついていた。
別に行方不明という訳ではない。確かな理由があり、リリアもそれに納得して送り出したのだ。

「早く戻ってきなさいよね」

天井にまで届きそうな大薙刀を胸に抱え、リリアは自分を励ますように声を発する。
宗介がここから離れたのは例の銃声の主を発見し偵察。場合によってはそのまま交渉へと移る為であった。
ここは任せてほしい。そういうと彼は窓を開き、雨どいを伝ってするすると壁面を降りて行ってしまったのである。

「はぁ……」

腕時計で時間を確認してみるが、まだ10分も経っていない。
すぐに戻りつもりだと宗介は言っていたが、それは何時なのか。少なくとも放送の時間には遅れないとの話だったが。

「あー……、我慢、我慢」

今から後を追ってみようか? なんて悪魔の誘惑をリリアは頭を振って追い払う。
ひとりでいるのは不安だ。宗介が隣にいないのはとても心細い。
しかし、宗介は戻ると言ったのだ。それにこの部屋は目立たず安全だとも言った。今は彼を信じるのが任務なのだと思う。

「でも、……ちょっとだけなら」

そう言って、リリアはソファから立ち上がると、こそこそと部屋を横断して窓の傍まで移動した。
閉じたままにしておけと言われたカーテンを少しだけ、ほんの少しだけ開いて、ほんの少しの隙間から外を窺う。
別にそこに何があると期待してたわけじゃない。
いてもたってもいられない気持ちを少しだけ解放しよう。そんな心の息抜きのつもりであったのだ。だが――

「んっ!?」

そこに小さな少女の姿があった。
ほとんど目の前。
窓辺よりおよそ5メートルほど先。隣のビルの屋上に据え付けられた給水タンクの天辺にその少女は立っていた。
65創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:57:00 ID:2PrHCg6L
 
66創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:57:01 ID:mW/4ilj+
 
67創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:57:10 ID:c2YzYHGS
 
68創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:57:26 ID:8EtFWmu2
「(いつの間に? それにどうやってあんなところに?)」

ウェーブのかかった髪の毛を頭の左右でくくった少女は何かを探しているらしく、キョロキョロと周りを見渡している。
身体は向こうの方を向いているが、いつこちら側を向くかわからない。
もし悪人だったらどうしよう。それならばすぐにカーテンを閉めて息を殺して隠れないといけない。
でもいい人でこちらの仲間になってくれるならどうしよう。思い切って声をかけてみたほうがいいのだろうか?
たった1秒、そして2秒。ドキドキと打ち鳴らされる心臓の音にあわせてリリアの中で2つの選択が行ったり来たりする。
宗介はいない。制限時間は後何秒? リリアはどちらの答えを選択すればいい?


ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ――と、たっぷり5秒。


ギリギリのタイミングでリリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツが選んだのは――……




【B-5/市街地/一日目・夕方】

【リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:早蕨薙真の大薙刀@戯言シリーズ
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本:がんばって生きる。憎しみや復讐に囚われるような生き方をしてる人を止める。
 0:『隠れる?』or『声をかける?』
 1:宗介の帰りを待つ。
 2:飛行機を飛ばしてみる。
 3:トラヴァスを信じる。信じつつ、トラヴァスの狙いを考える。
 4:トレイズが心配。トレイズと合流する。


【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:鉄釘&ガーターリング、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ
[道具]:
[思考・状況]
 基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
 0:あの子たちったらどこに行ったのでしょう?
 1:いなくなったティー、伊里野、浅羽を探して飛行場に連れ帰る。(放送の時間までには帰る)
 2:状態が落ち着けば、この世界のこと、人類最悪のこと、浅羽と伊里野のことなど、色々考えたい。
 3:御坂美琴、上条当麻を探し合流する。また彼ら以外にも信頼できる仲間を見つける。
[備考]:
 ※『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
   現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。




 【6】
70創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:57:52 ID:c2YzYHGS
 
71創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:57:56 ID:2PrHCg6L
 
「我々の意思は、我々自身に生き続けることを欲求しそれを実行させる。
 それは種としての生命の目的が生み増やし永く存在し続けることだからに他ならない。
 故に、私と認識する私自身を含め、
 種の全体からすれば細胞の一片でしかないような個体それぞれにも余すことなく固有の意思が持たされている。
 時にこれらの意思は環境によりゆらぎを生じさせ、衝突や変化する様を見せるだろう。
 これが我々にもたらされた感情や情動というものだ。
 意思を持つものはそれに突き動かされ、また新たな感情を覚え、時には自身に疑問を抱くこともあるだろう。
 生。そして生の前に広がる世界は果てしなく広く限りがない。
 その広さに惑い、行く先を見失うことも度々あるに違いない。そんな時、我々はどうすればいいのか?
 確かな答えを私は持ち合わせない。
 歩き出すのが正解なのか、とどまることが正解なのか。
 新しい可能性を模索することか、まだ存在するかもしれない可能性を振り返ることなのか。
 しかし、君は歩き始めた。
 そこに明確な目的があるとは私からは見受けられない。おそらく自身の中でも整理のつかないことなのだろう。
 無理もない。君は寄る辺を失ったのだから。
 新しい世界はいつでも闇の中だ。一歩一歩、おそるおそる――」

「だまれ」

「にゃあ」



目を覚まし、黒子に浅羽たちを見張っているよう言われ、気づいた時にはティーはシャミセンを抱いて道路の上を歩いていた。
怖くもない。勿論、楽しくもない。なにかに期待しているわけでもなく、かといって悲嘆にくれているわけでもない。
古くなったアスファルトのように灰色で曖昧な気持ち。感じられるのは僅かな虚しさ。

「ところで私の食事はまだかね?」
「もうすぐ」

向かう先。立ち並ぶビルの合間に見覚えのある大きな建物が見えた。
ティーはもう一度だけ彼を見てみようと思う。歩き出すというのなら、そこからにするのが正しいと思ったから。



ティーはシャミセンを抱いて歩いてゆく。猫はあたたかい。それだけは今確かなことだった。




【C-5/市街地/一日目・夕方】

【ティー@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:RPG-7(1発装填済み)、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式、RPG-7の弾頭×1
[思考・状況]
基本:「くろいかべはぜったいにこわす」
 1:シズの元へもう一度行ってみる。そして、それからのことをそこで考える。
 2:百貨店でシャミセンのごはんを調達したい。
 3:RPG−7を使ってみたい。
 4:手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
 5:『黒い壁』を壊す方法、壊せる道具を見つける。そして使ってみたい。
 6:浅羽には警戒。
[備考]:
 ※ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。
73創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:58:32 ID:mW/4ilj+
 
74創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:58:52 ID:c2YzYHGS
 
 【7】


「伊里野! 伊里野ッ!」

名前を繰り返し口にしながら走る。まるで、そうしなければ彼女の名前を忘れてしまいそうだから。

「伊里野! 伊里野……伊里野……!」

身体の中に埋め込まれた時限爆弾みたいな心臓の鼓動を無視して、ひたすらに全力疾走する。
通りを横切り、走って、次の通りを覗き込み、彼女の姿が見えなければまた走り出す。
べたべたとした汗が身体中に浮かび上がっていて気持ち悪い。吸い込む空気が少なすぎて吐き気がする。
それでも走る。折れた手がズキズキいっても、肩の傷が開いて熱くじっとりしたものが染みてきても。

「……伊里野……っは、……伊里野……、……伊里野……!」

今、走らなければならないということが、どうしてだかわかる。
どんどんどんどん心の中の伊里野が遠ざかってゆく。まるで陽に当てられた写真が色褪せて消えてゆくように。
伊里野の表情。伊里野の声。伊里野と一緒にしたこと。伊里野にしてしまったこと。伊里野の為にできたこと。
なにもかもがまるで他人事のように、鮮烈だったはずの記憶が、急速に消えてゆこうとする。

「伊里野……っく、は……ぁ……伊里野……伊里野………………!」

壊れてしまったのは彼女なのか。それとも自分自身なのか。それともこの世界に潜む悪意のせいなのか。
これは宇宙人の仕業なのかもしれない。あいつらは自分を拉致誘拐しただけでなく偽の記憶も刷り込んだのだ。
じゃあどうして記憶に綻びが? ああ、それは肩に受けた銃弾のせいだ。きっと体内に埋まっていた虫に当たったんだろう。
だから虫が見せていた幻の記憶は頭の中から消えてゆく。浅羽直之は狂った世界の中で正常な人間に戻れるのだ。
そうしたら宇宙人を見つけてやっつけてしまおう。一匹つかまえて帰れば一躍、世界の有名人に――

「伊里野ああああああああああああああああ!!」

違う違うそうじゃない。伊里野は伊里野だ。間違っちゃいない。壊れているのは世界のほうだ。浅羽直之の記憶に嘘はない。
六月二十四日は何の日だった? マンテル。チャイルズ=ウィッティド。この次にくるものは? そう、ゴーマン空中戦。
思い出した。ミストカクテル。あれがあれば人の記憶なんてどうにでもなってしまうんだ。よくもまたこんなことを!
そうじゃない! そんなことはどうでもいい。もうそんなことは、そんなことだから! そんなことだから! ああ、今は――

「伊里野……!」

走れ。止まるな。止まれば負けだ。彼女の足は速いぞ。全力疾走し続けないと追いつけない。チャンスはこれ限り。
今見失ってしまえば、もう二度と彼女は目の前に現れない。その確信がある。これは脅しなんかじゃない。本気の本気だ。
だから走れ。身体のことなんてどうでもいい。浅羽直之は自分よりも肉体のほうが大事だっていうのか? 違うだろう?
このまま終わっていいはずがない。あの夏が全て幻に終わってしまうなんて、そんなことがあっていいはずがない。

「…………伊里野ぁ……! ……っ! ……い、ぁあああ……!」

あの《物語》が、結末すらなく白紙に戻ってしまうなんて、そんなことはあまりにも残酷すぎる。それは残酷すぎる。
76創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:59:34 ID:2PrHCg6L
 
不意に地面が顔面へと急接近してくる。地面なんて避けようがあるはずもなく激突。ぶっ倒れたのだと気づいたのはその直後。
たったこれだけで限界なのか? いやそうじゃない。まだまだ走れる。今だったら足の腱が切れようが走れる気がする。
じゃあ、どうして地面に這いつくばったままなのか。どうして身体が持ち上がらないのか。それは――

「無意味な抵抗はよせ。こちらの質問に答えるのならば命の保障はし、捕虜としての扱いをしてやる」

ああ、こいつは。一度ぼくをボコボコにして、まだ殴り足りないというのだろうか。なんてひどいやつなんだ。
どうして折れている方の腕を捻り上げる? 折れていることは知ってるだろうに。
ああ、でも。どうせ痛めつけるならその腕でいい。だから足だけは折らないでくれ。そしてそれだけで満足してくれ。

「お前が飛行場から出てきた姿をこちらは確認している。話せ。あそこには今、何者がどれだけの武装を持って存在する?」

こんなのに構っている場合じゃない。身包みを剥ぎたいなら自由にしろ。もっと欲しいなら後ろで順番待ちをしていろ。
行かなくちゃいけないんだ。もう時間がないんだ。約束は10時だったけど、彼女はもっと前からそこで待ってたんだ。
じゃあ今度はぼくがもっと前から待っててあげないといけないじゃないか。だから離せ。約束を破らせるつもりなのか?
遅れたらもう取り返しがつかないんだ。世界滅亡の危機なんだ。どうしてこいつにはそれがわからない?

「素直に話せば今度も見逃してやる。だから抵抗をするな」

うるさい!



――離せ!



――行かなくちゃならないんだ!






【B-5/市街地/一日目・夕方】

【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:全身に打撲・裂傷・歯形、右手単純骨折、右肩に銃創、左手に擦過傷、(←白井黒子の手により、簡単な治療済み)
      微熱と頭痛。前歯数本欠損。
[装備]:毒入りカプセルx1
[道具]:デイパック、支給品一式、ビート板+浮き輪等のセット(少し)@とらドラ!
      カプセルのケース、伊里野加奈のパイロットスーツ@イリヤの空、UFOの夏
[思考・状況]
 基本:伊里野と一緒にいる。
 0:行くかなくちゃ!
 1:伊里野の元へと走る。
 2:だから邪魔をしないでくれ。
 3:もう時間がないんだ。
[備考]
 ※参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。
 ※伊里野が「浅羽を殺そうとした」のは、榎本たちによる何らかの投薬や処置の影響だと考えています。
 ※伊里野に関する記憶が薄れていってること(トーチ化の影響)をなんとなしに自覚しています。
78創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 23:00:08 ID:c2YzYHGS
 
79創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 23:00:36 ID:mW/4ilj+
 
80創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 23:00:43 ID:8EtFWmu2
81創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 23:00:53 ID:c2YzYHGS
 
【相良宗介@フルメタル・パニック!】
[状態]:全身各所に火傷及び擦り傷・打撲(応急処置済み)
[装備]:IMI ジェリコ941(16/16+1、予備マガジンx4)、サバイバルナイフ
[道具]:デイパック、支給品一式(水を相当に消耗、食料1食分消耗)、確認済み支給品x0-1
[思考・状況]
 基本:この状況の解決。できるだけ被害が少ない方法を模索する。
 0:少年(浅羽)より飛行場の情報を聞き出す。
 1:情報を検討した後、飛行場に向かうか一旦リリアの元に戻るか判断。
 2:飛行機を飛ばしてみる。空港へ行って航空機を先に確保する? 航空機用の燃料を探す? 自動車の燃料で代用を試してみる? 
 3:まずはリリアを守る。もうその点で思い悩んだりはしない。
 4:リリアと共に、かなめやテッサ、トレイズらを捜索。合流する。




 【8】
83創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 23:01:23 ID:mW/4ilj+
 
84創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 23:01:24 ID:VRKrkuQ8
85創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 23:01:28 ID:2PrHCg6L
 
淡い橙色に包まれ始めた街の中を白く儚げな少女がただ歩いていた。
その足取りは迷いなく、迷うことすら知ってはいなく、ただ想い描く憧憬の世界をまっすぐと進んでいるようであった。

無表情。しかしもう死んでしまった彼が見れば、彼女は実に上機嫌ではりきっているのだと見抜いただろう。
彼女が自分からなにかをしたいなどと思い、それを実行に移すことは非常に珍しいのだから。


「浅羽がいるから」


白い灯火が揺れる。


「だって約束したから」


小さな炎は今にも掻き消えそうで、少しの風でもゆらゆらと揺れて見えたり見えなくなったり。


「好きな人ができたから」


揺れる火はその形を維持することができなくて、記憶は散り散りに、想いはバラバラに。


「浅羽がすき」


心の中の幻燈が彼女に最後の夢を見せる。




幸せそうに、本当に幸せそうに彼女は歩く。その向こうに彼が待っていると信じて。


その存在はおぼろげで、


もう、誰も彼女の名前を思い出すことすらできない。




【B-5/市街地/1日目・夕方】

【伊里野加奈@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:“トーチ”状態。その灯火は消える寸前。
[装備]:トカレフTT-33(8/8)、白いブラウスに黒いスカート
[道具]:デイパック、支給品一式×2、トカレフの予備弾倉×4、インコちゃん@とらドラ!(鳥篭つき)
[思考・状況]
 基本:浅羽とデートする。
 1:10時にバス停で待ち合わせ。10時半からの映画を浅羽と一緒に見る。
[備考]
 ※既に「本来の伊里野加奈」はフリアグネに喰われて消滅しており、ここにいるのはその残り滓のトーチです。
   紅世に関わる者が見れば、それがフリアグネの手によるトーチであることは推測可能です。
 ※元々の精神状態と、存在の力が希薄になった為、思考をまともに維持できていません。
 ※伊里野加奈は皆から忘れ去られかかっています。
87創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 23:02:08 ID:mW/4ilj+
 
88創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 23:02:17 ID:2PrHCg6L
 
89 ◆EchanS1zhg :2010/05/13(木) 23:02:23 ID:2u8hSfei
以上、投下終了しました。支援感謝です。
90創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 23:02:23 ID:c2YzYHGS
 
91創る名無しに見る名無し:2010/05/14(金) 12:42:56 ID:Kk8lOxt2
投下乙です

ああ、もうなんて言うか…どこもかしこも凄く、混沌です…
92創る名無しに見る名無し:2010/05/14(金) 12:58:31 ID:YZKpFiAQ
投下乙ですー
タイトルの通りみんなバラバラにw
つーか宗介、お前いきなり制圧しといて交渉する気ねーだろw
伊里野は次で消滅しそうだが、果たして浅羽は間に合うのか
次の人へのハードルがなんだか高そうな感じw
93創る名無しに見る名無し:2010/05/14(金) 21:04:26 ID:EYj3g5q0
宗介とクルツはさすが玄人って感じやな
94創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 12:33:10 ID:2Wrj+83S
どうなるんだwww
95 ◆MjBTB/MO3I :2010/05/15(土) 16:03:09 ID:Hf4GI4MF
予約していたパートを投下します。
96【Hg】ハイドリウム ◆MjBTB/MO3I :2010/05/15(土) 16:06:11 ID:Hf4GI4MF
"一旦休む"という行為によって得られるのは、疲労の回復だけには留まらない。
動きを止める事で、何かを考える時間。
動きを止める事で、現状を振り返る時間。
休息というものはさながら温泉の効能の様に、複数存在しているものなのだ。

勿論、それは両儀式にとっても例外ではない。
チェアに深く深く腰掛けながら、彼女はゆったりと思考の海に沈んでいた。
ふと店内からガラス越しに外を見れば、すっかり太陽が傾いているのがわかる。
夕焼け、という現象によって引き起こされる紅の光が大体の時刻を想像させる手がかりとなっていた。

「もう、夕方か……」

結局、自分が大喜びするような収穫は無かったように思える。
面倒ごとを押し付けられたりするのは今更なので、というか自分が選んだ道なので文句は今のところは言わない。
収穫とは、現在の自分の立場についての話ではなく――"人類最悪について"、のただ一つである。

「あいつ、どこにいるんだ」

辺りを視て回る、とは言ったものの謎は相変わらず謎のままだ。
この街の中に人類最悪が住み着いていることを示す痕跡も、未だ無いように思える。
まだこの街の全てを視終わったわけではないので何とも言えないが、少し気の滅入る話である。

もしかしたらこの街の中にはいないのかもしれないが、それは考えたくない。
故に式は"人類最悪はこの街に潜んでいる"という前提を基に思考を巡らせる。
だがその場合、あの狐面の男がどこにいるのかという答えは現状では出す事が出来ない。
ではこの街にいなかった場合を前提とした場合、どうなるのか。
そうなると今の自分には視て回る事しか出来ないのだから、どうしたものかと迷うしかない。

この街自体が何の変哲も無いものであるわけが無い事は、式も重々承知している。
まるでこの"サバイバル"が始まる直前まで人がいたかのような、そんな痕跡と雰囲気。
ナインボールに興じていたあのバーでも、中途半端に料理や飲み物が残されたテーブルが混じっていたわけで。
その事自体に気付いた際に大騒ぎしたわけではないが、これが恐らく"人類最悪"に繋がるヒントなのかもしれないと式は考える。
そうやって中途半端に情報を与えられてしまうのが、こうして考え込んでしまう原因にもなっているのだが――――それはそれとして。

それでもそれなりに、いくつか浮かんだ仮説もある。
何も感じ取れないという事は、即ち"何も感じ取れなくしている"という事に繋がるのではないか、という事だ。
思い出すのは、"元凶"荒耶宗蓮の力。
視界に入っているというのに、視覚で捉えているというのに、全く気配を感じられなかった男。
彼のその異常さの正体は"結界"。
気配を遮断し数多の攻撃をも寄せ付けないその効力は明らかに、そしてあからさまに並ではなかった。
つまり早い話が、

「結界でも張って、引きこもってるのか……?」

経験を基に式はこんな仮説を浮かべていた。
とは言ってもそれならばそれで簡単に対処が出来てしまうはずだ、とも式は考える。
この自分をこんな場所に呼んでいる以上、人類最悪は"直死の魔眼"を把握していると考えるのが妥当だ。
ならば当然、魔眼への対策を完了させていない方がおかしい。

それに解らないのは人類最悪の居場所だけではない。
この街の中で行われている"人類最悪が送る定期的な放送"も、何がどうなっているのかがわからないのだ。
何処で放送しているのか。何処から聞こえてきているのか。そもそもどういう仕組みなのか。
こればかりは"結界だ"の一言で済ませられる問題であるとは、式には到底思えないのだった。
勿論、荒耶宗蓮の様な気配遮断とは別の、視覚へと訴えかける魔術を使用している可能性もある。

「いや……待てよ……? 荒耶……結界……違う。むしろ荒耶の、あいつのビルみたいな、モノか?」

しかしここまで考えていた式の脳裏を掠めたのは、更に異なったモノ。
モノの正体とは、その荒耶宗蓮が生み出した凶悪な檻だ。
97創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 16:07:00 ID:6ei5WhgD
 
98【Hg】ハイドリウム ◆MjBTB/MO3I :2010/05/15(土) 16:07:31 ID:Hf4GI4MF
荒耶宗蓮。
結界を張る事を得意とするあの男は、あるマンションを世界から切り取る事で最硬最強のアジトへと変貌させていた。
方法は複雑にして怪奇。相克する"死"と"生"の二つの矛盾を長期間生み出し、魔力を染み込ませ、意のままにするというものだ。
世界から切り離され異界と化したその建造物は荒耶宗蓮の魔力で満たされており、さながら彼の胃袋とも言うべきものと成り果てていたのである。

彼はその中では間違いなく無敵であったし、彼の意のままに物事は確実に着々と進んでいた。
マンションの内部であれば瞬間移動など朝飯前。主の好きな事を好きな時に出来る、と言っても過言ではなかった。
ならば、だ。
どこから聞こえているかも解らないのに、どこにいても聞くことが出来る放送。
端から消えていく街。明らかに困難であるはずの現状把握。塩分に例えられた、力加減の操作。
それらは全て、荒耶宗蓮のあの力ならば再現できるのではないのだろうか。

まさか、と思う。
荒耶宗蓮は消えた。もうしばらくは出て来れないだろうと、自分の感覚がそれを確信している。
ならばまさかあの人類最悪はここまでの力を持っているのだろうか、と疑ってしまう。
疑えてしまう。その"まさか"という言葉が、今は凄く重い。
そもそも人類最悪はこの"両儀式すら呼び寄せた"のだ。
そんな男が、元凶であり宿敵であった力を持っていてもおかしくはない。
むしろ、"相応しい"とまで思えてしまう。
ああ、憎らしい。腹の立つ話だ。
もしそうなら、本当に気持ちのいい話ではない。


――――ああ、さっさと、殺したいものだ。


チェアから立ち上がった式は、いつの間にか独りになっていた事に気付く。
ああ、そう言えば皆別行動を取っているのだったか。
そんな事を思い出すと同時に、空腹を示すサイレンが腹の奥から鳴り響いてきた。
こんなときにでも腹は減るのだな、となんとなく安心する。

とりあえずアイスだけでは物足りないので、式は食べ物を探す事にした。


       ◇       ◇       ◇
99創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 16:08:18 ID:6ei5WhgD
 
100創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 16:09:18 ID:6ei5WhgD
 
101創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 16:12:19 ID:6ei5WhgD
 
102【Hg】ハイドリウム ◆MjBTB/MO3I :2010/05/15(土) 16:12:30 ID:Hf4GI4MF
フリアグネの供述が正しければ、確実に死んでいるはずであろう白い髪の少女。
あれが何故生きているのかを推理しながら百貨店の内部を歩き回る、そんな男が一人。
正体は、現在絶賛別行動中のトラヴァスである。

支給された食料を機械的に口に運びながら、白い少女について思案する。
フリアグネは嘘をついている様子は無い。曰く、確かに彼女を殺したという。
ファンタジーやメルヘンじゃああるまいし、死んだ人間が生き返るなど有り得ない話だ。
それなのに、"そういうこと"ならば、やはりあの狩人が何かしでかしたとしか思えない。
だが"舞踏会"の最中に出会った少年は、フリアグネがこのような手品を使うとは教えてくれなかった。

それは何故か。

恐らくは用心深いあの少年のことだ。律儀にも"訊かれたことにだけ答えてくれた"のだろう。
アグレッシブな行動のデメリットがここに来て発動したか、とトラヴァスは苦笑を一つ。
だが同時に、少年の警戒心に心の中で拍手。やはり彼は賢しい、と再認識出来たのが嬉しいのだ。
才の有る子は好きだ。特にああやって判断力に長けているならば。

しかし"フリアグネについて"の話で完結させてしまったのは失敗だったな、とトラヴァスは反省する。
恐らく少年に影響された情報は"フリアグネの固有の能力"のみ。
この様子ならば少年は、“紅世の王”全体が持つ能力についてを語ってくれてはいないと見える。
余計な情報を与えた所為で墓穴を掘る、という握手を防ぎたかったからこその行動に違いない。

「"僕がフリアグネについて知っていることは、あまり多くありません。それでも、助かるための行動にはなりますか?"……ね。
 ああ、やられたやられた。彼は本当にフリアグネの事についてしか教えてくれなかった。丸め込まれたのはこちらの方か。
 "フリアグネについて知っていること"、ね。それだけに満足せず、"“紅世の王”について知っている事"も聞いておくべきだった。
 フリアグネの持つ多彩な二つ名の内の一つだろう、と考えていた自分のミスだなこれは。“紅世の王”、か……紅世の、王……“紅世”……」

恐らく、死者が蘇ったかのようなあの手品は"「フリアグネが」ではなく「紅世の王が」持つ能力"なのだろう。
“王”などというものだから、フリアグネこそが紅世の頂点に立つただ一人の存在であると思っていたが、これは違う。
フリアグネの過去の発言を改めて思い出せば解る。
まず間違いなく紅世は独裁国家ではない。様々な“王”達が様々な思惑を持ちひしめき合う、いわば"連合王国"なのだ。
そしてその王達はフリアグネの披露した手品を再演出来る。
否、というよりもまず条件として"再演出来なければ王とはいえない"。
103創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 16:14:38 ID:6ei5WhgD
 
104【Hg】ハイドリウム ◆MjBTB/MO3I :2010/05/15(土) 16:14:45 ID:Hf4GI4MF
「前提としてそういう仕組みが存在していたならば、"フリアグネの特色のみ"を語っていても隠し事をしていた事にはならないだろう。
 銃を突きつけられ、持っている情報を開示する様迫られていたあの状況下でここまで計算するとは。怒るに怒れないじゃないか、全く……」

さて、ここまで仮説を組み上げる事が出来たトラヴァスだが、ここから一つの壁にぶち当たる事になる。
壁の正体は"答え合わせが必要であるという現実"だ。
現状の目視、そして少年の手を借りる事によって成立したこの仮設も所詮"仮説"。
中に混じっているはずであろう誤りを把握し訂正しなければ、無意味どころか足を引っ張るものと化してしまう。

「実際に訊ねてみるか……」

とは言え、フリアグネは非常に饒舌な男だ。
彼自身のコレクター気質と相俟って、奇妙な韻を踏む独特の声を聞く機会は非常に多い。
その所為だろうか、彼は強大な力を敢えて見せる事で相手にプレッシャーを与える、という戦略を好んでいるようだ。
持っている確かな力――実際に凶悪な性能であるからタチが悪い――を体と頭で覚えさせ、対策を練る暇と余裕を与えぬまま封殺する。
そんなフリアグネの性格ならば「よく気付いたね……合格だ」などと言って、喜んで解説をしてくれる可能性が高い。
伊達に身近で振り回されてはいないのだ、この発想には自信がある。
少年の情報もあることだ。答え合わせの問題はこれでクリアだろう。

しかし、答えが正解であったならそれはそれで問題だ。
仮説が正しい場合、彼はつまり"殺人現場さえ見られなければ、完全犯罪も不可能ではない"という事になる。
あの少女が実際に生き返ったのか、もしくは炎の揺らぎにも似た蜃気楼の様な存在なのかは知らない。この際後で訊く。
どちらにしろ、死を生に偽装出来る能力というものは厄介だ。本当ならば今までの仮説全てが間違いなのが望ましい。
つまりはフリアグネがただ気まぐれのままに「殺したよ」と嘘をついただけであって欲しいのが、トラヴァスとしての本音だ。
だがそうも言ってはいられないのでトラヴァスは早速移動を開始。
答え合わせの為にあの自由気ままな王の捜索を開始した。


「おや、食事は終わったのかい?」


全くの偶然だろうが、あっさり再会した。
まあいい、手間が省けた。

「ええ。万が一の事がありますし、ここの商品には手をつけてはいませんが」
「毒殺の危険性を考慮してかい? それともただお上品なだけかな……そう言えば“和服”は?」
「別れてからそれきりですよ」
105【Hg】ハイドリウム ◆MjBTB/MO3I :2010/05/15(土) 16:17:39 ID:Hf4GI4MF
フリアグネと出くわした現場は、先程の集合場所とはまた違う箇所に存在する女性用衣服の販売店だった。
先程の婦人服売り場とは客層が違うのであろうこのコーナー。こいつは何の用事があったんだここに、と考えたがそれも一瞬の事。
そう言えば彼には"可愛いマリアンヌ"とかいう恋人がいたのである。故に律儀にも土産物を探しているのだろう。
だが如何せん大衆向けの香りがするこの店では納得がいかなかったらしい。
妥協も出来なかったのか、何も持たずに買い物――というより人のいない今は"略奪"が正しいか――を終了した。

「些か安物の香りがするのは避けられないかと。どこか、例えば専門店街でもない限りは、希望通りのものは少ないのでは」
「やはりそうなるだろうね。ならば、狙い目は摩天楼か……? ただの住居ビルということもないだろうし」
「もしくは中央部でしたら、他の店舗が存在する可能性もあるのではないでしょうか」
「確かに……地図によれば街の南側は更に栄えているようだしね」

地味に北東部から目を反らせようとするトラヴァス。
愛娘を想ってのことである。

「さて、フリアグネ様……お訊ねしたい事が」
「なんだい?」

ここで、本題。

「白い髪の少女についてです」

フリアグネがじっとこちらを見ている。
トラヴァスは涼しい顔で続ける。

「何故彼女は、この百貨店から"自分の足で出て行ったのでしょうか"」

トラヴァスの問い。その短い言葉は確かに紡がれた。
すると時間が止まったかのように、二人は見つめ合う。

「ふっ…………」

フリアグネが微笑む。
トラヴァスは変わらない。

「よく気付いたね……合格だ」

そしてトラヴァスが予想していた呟きを、フリアグネは一字一句違わず発する。

「良いだろう、そうでなくてはね。それに別段こちらが不利益を蒙るわけでもない。
 あれはね、あの存在を、我々は“トーチ”と呼んでいる。望むならば教えてあげよう、その正体を」
「感謝の極み」


       ◇       ◇       ◇


とりあえず美味そうな中華まんが販売されていたので、迷わず奪ってレンジでチン。
ほっかほかになったそれらを口に運びながら、式は気まぐれに店内を移動していた。
特に理由はない。強いて言えば"視て回る"を実行しているといったところか。
そうしてふと、たどり着いた先は何の因果か女性用衣服売り場。
流石に上質の和服は売ってはいないだろう、と思いつつも覗いてみたのだが。

和服は無かった。
代わりに、“スーツ”と“眼鏡”が居た。
106創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 16:19:20 ID:6ei5WhgD
 
107【Hg】ハイドリウム ◆MjBTB/MO3I :2010/05/15(土) 16:21:07 ID:Hf4GI4MF
会話をしているのだという事は解る。相変わらず内緒話の好きな男達だ。
まあ正直こちらはこのゲームを早く終わらせられれば知ったことではないのでどうでもいい
好きにやればいいと思う――と言いたいところだが、あれが自分を罠に陥れる準備だったりすると困る。
ので、とりあえず聞き耳を立ててみることにした。

「……とまぁ、そういうわけで私も思い出したというわけさ。“紅世の王”としての義務を、ね」
「それはなんとも」

だが、その判断は正解だったのかもしれない。
式の耳に聞き覚えのある言葉が届いたのだから。

「……へぇ」

“紅世の王”。この言葉から連鎖的に思い出すのは、最初に出会った少年の話だ。
その内容は、坂井悠二と名乗った彼が随分と人間離れしてしまったその経緯と理由の物語。
曰く、彼は“紅世の王”に喰われて人間ではないものに変わってしまった、とか。
そしてあのフリアグネの発言から察するに、奴自身がまさにその“王”なのだろう。

――――つまりあいつは、坂井悠二の敵か。

だが、式としてはそんな事はこれまたどうでも良かった。
坂井悠二の敵と同行していたという事実も、恥じるべきものとは思えない。心底どうでもいい。
ただ、奴が普通ではなかったという理由がこれでようやく判明した、ということが嬉しいだけ。
改めて魔眼越しに、フリアグネの姿を捉える。
普通の人間のものとは微妙に違う、まるで炎の揺らぎにも似た不思議な線が見える。

今までフリアグネのことなどどうでも良かったし、むしろ嫌いな方だった。
だがこうして奴の素性が少しだけ判明しただけで、ほんの少しだが興味が湧いたように思う。
こんな"黒桐の居ないどうでもいい世界"には飽きかけているが、こうしてみればフリアグネはいい暇つぶしになるのかもしれない。
いつか“眼鏡”の方といざこざを起こし始めるのだろうから、その辺りの時期が一番の見頃か。

「おや、“和服”。来ていたのか……ふふっ、見たかい少佐。"どうやら毒殺の危険は無さそうだ"」
「……警戒しすぎた私が逆に道化ですかね、これでは」

桜前線か何かの様な感想を抱いていた式に、フリアグネとトラヴァスは気付いたらしい。
すっかり会話を終えた彼らは、苦笑しながら話しかけてきた。
彼らの笑いを生み出す源は、視線から察するにどうも自分が奪ってきた大量の中華まんらしい。

「なんだ、欲しいのか。あげないぞ」
「いや、別にそういう事を期待していたわけではないさ」
「だよな。まぁ安心しろ、代わりにお前には……お前らしい土産を用意してある」
「ほう、不思議と太っ腹だね」

真っ先に話しかけたフリアグネに対して軽口で返すと、式はごそごそとデイパックを漁る。
出したのはまず一升瓶だ。実に上等の日本酒であるそれは、式がこの店舗に来る途中で通り魔的に奪ってきたものだ。
ちなみに余談だがラベルには力強い文字で"大吟醸・諏訪部"と書かれてある。一応、深い意味は無いはず。

「ほら、お前酒好きだろ」
「いや別に?」
「嘘吐け。オレに薦めてただろ」
「ああ……だが特別私が酒豪というわけではないさ」
「なんだそれ。折角持ってきたのに……じゃあこっちな」

どうもそこまで嬉しいプレゼントではなかったらしく、反応が薄かった。
いつかにバーに行って酒まで出してきたのはあちらの方だというのに、これは正直どうなのかとは思う。
しかしよくよく考えればあの酒絡みの行動は、フリアグネが対話を円滑に進めようとしたまでだったのだろう。
108創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 16:24:07 ID:6ei5WhgD
 
109【Hg】ハイドリウム ◆MjBTB/MO3I :2010/05/15(土) 16:24:33 ID:Hf4GI4MF
「おや……随分と細やかなデザインで面白いが、これは一体?」

だが続いて式が出した可愛らしいフィギュアには、フリアグネは食いついた様子だった。
当然これも、式がこの店舗に来る途中でアレしたものである。

「えっと、タイトルは何だったか……」
「その外箱には書いていないのかい?」
「ん? あ、本当だ。えっと――"超機動少女カナミン"、らしい」
「……ほう。まあ燐子の素材には悪くは無いかな。些か小さいけれど」
「ああ、じゃあやる。その代わり……」
「その代わり?」
「次何かいいもの見つけたら、迷わずよこせ」
「なるほど……つまり賄賂というわけだね、これは」

手渡されたフィギュアをデイパックへと入れるフリアグネ。
その動作が終了した事を確認したトラヴァスが口を開く。

「さて、これで各々英気を養う事が出来たわけですが……これから、どうしましょうか?」

意図は問題提議。
当然の流れである。百貨店内での戦闘が一区切りしたことで、彼らの一応の指針も途絶えているのだ。
そしてそれに関してはフリアグネも今だ答えが出ていないらしく、顎に手を添える仕草を取る。
式に至っては最早考えてさえいない。好き勝手に辺りを見回す姿からは"どうぞ好きにして感"バリバリである。

「――――あ、全く関係ない話題になるけどさ」
「ん?」
「さっきのお前達の話、最後の方をちょっとだけ聞いてたんだ」
「……ああ、なるほど」

挙句に式は、現在の話の流れを無視してマイペースに口を開いた。
だがフリアグネとトラヴァスは怒りを露にする素振りは見せず、相槌を打つ。
変わらず会話が成立したのを確認すると、式は続きを話し出した。

「お前“紅世の王”だったんだな」
「ああ、そうだけれど……それが?」
「いや別に。“紅世の王”だったら、最初に闘ったときの強さも納得だなって、そう思っただけだ」
「……そうか」

何を言いたいのか、とでも言いたげなフリアグネの声。
怪訝そうなあの様子なら、もしや今後の指針のヒントになる話でもしてくれるのか、と彼女に期待していたのかもしれない。
ただ如何せん、前述の通り式はこれからの指針だとか、そういった類のものはどうでも良かったのだ。
何故ならもうフリアグネの強さの秘密も判明し、賄賂も渡せた。それに満腹で疲労も癒せている。
彼女的にはもう、今すぐにやる事なんて無い。これからまずどうするかという目先の目標も持ち合わせてはいない。
強いて言えばこの街から抜け出す方法を探す事だが、上策が見つかっていない今それも指針として掲げるには微妙だ。

「じゃあ、やる事もやったしオレは一抜けだ。さっきのフロアに戻ってるから……決まったら報告してくれ」

故に式は考える事を終了。受身の態勢に移行した。
元々自分には何も無い。元の街でだって、蒼崎橙子が仲介してくれた依頼の通りに動くだけの毎日だったのだ。
だから去ろう、と考えて回れ右。そのまま一歩踏み出したときである。
110創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 16:26:13 ID:6ei5WhgD
 
111【Hg】ハイドリウム ◆MjBTB/MO3I :2010/05/15(土) 16:27:40 ID:Hf4GI4MF
「“和服”」

甘ったるい声に止められた。

「“紅世の王”について知識を持っているような口ぶりだが……誰から聞いたんだい?」

ああ、そこに食いつくか。
式は振り返る。

「オレに話してくれたのは、坂井悠二って奴だよ。特徴も言うか?」


       ◇       ◇       ◇


目の前の式が言う"坂井悠二"の特徴は、まさにあの少年と合致していた。
そう。あの"舞踏会"に巻き込まれた冷静な少年だ。
トラヴァスは、目の前の彼女が例の少年との繋がりを持っていた事に内心驚いた。
だが勿論顔には出さない。面白い偶然もあったものだ、というその感想は心の中で留めておく。

「なるほど……」
「ああ。色々不安がってたようで、なんていうか大変そうだった」
「しかし、そうか……あのミステスまでここに呼ばれていたとは……不幸なものだね、どうも」
「まあ不幸と言えば不幸だろうな。オレはあいつに"本人の気持ち次第だ"って言ってやったけど」
「うふふ、それはまた和服らしい回答だね」

だが考えてみれば偶然に感嘆する事はあれど、別段この事実は自分を揺るがすものではなかった。
和服曰く、坂井少年は色々と和服に愚痴を言った後に立ち直った。というだけの事だ。
その後の有能ぶりはこちらが確認している事だし、特に問題は無い。
今も相変わらずマイペースな和服の事だ。坂井少年の力になることは無くとも、足を引っ張る事はしていないに違いない。
フリアグネも坂井少年の事はご存知であるらしく、ちょくちょく会話に華を添えるように発言をするだけで、懸念すべき仕草は無い。
これは、ただの和服の自己申告。"ついでに話す"レベルであり、軽快すべき事でもない話題だろう。
余計な事を言って"舞踏会"での接触を悟られるわけにも行くまい。
今はただ、北東にフリアグネ達が向かう事を避ける事に全力を尽くせば良い。
トラヴァスはそう考え、特に緊迫する事もなく和服の話に時折相槌を打つ程度までにとどめた。
だが。


「まあ、"襲われない限り不老不死みたいなモンだ"っていうんだからな――大変そうな事だけは解るさ。同情はしないけどな」


和服本人としてはなんとなく呟いたのであろう、この言葉。
それが、坂井悠二の素性を知らぬトラヴァスが抱いた予想を覆し始める。
112【Hg】ハイドリウム ◆MjBTB/MO3I :2010/05/15(土) 16:28:55 ID:Hf4GI4MF
       ◇       ◇       ◇


「不老不死……だって? “ミステス”が?」
「ああ。運が良かったとか言っていた覚えがあるけど、詳しい話はちょっと覚えてない」

フリアグネにとって、和服の発言がここまで衝撃を伴ったのは初めてだった。
自分が中身を知りたがっていたあのミステスが、和服と一時同行していたらしいあのミステスが、まさか。
まさか、半不老不死となっているとは。

「零時、迷子……! “零時迷子”だ!」
「フリアグネ様?」
「間違いない! そうかそうか、そうか! あの宝具が、こんなところに……!」
「フリアグネ様、落ち着いてください。説明を望みます」
「眼鏡の言う通りだ。落ち着いて鏡見てみろ、だいぶ気持ち悪いぞ今のお前」
「ん、ああ……すまない。しかし、そうか……うふふ、そうか、そうか……!」

和服を通じて知った、あのミステスの悩み。
その一つ一つのパーツを解体し組み上げ察するに、間違いなく彼はその身に零時迷子を宿らせている。
いずれ消えていく宿命を背負ったはずの松明の炎が消え行かない理由など、それしか有り得ない。
他に理由が見つからない。宝具の知識に深いからこそ抱ける核心。これは、正に、僥倖!

「……和服。その“ミステス”とは何処で出会い、そして何処へ姿を消したんだい?」
「会った場所は近いぞ。オレがここから北の辺りに飛ばされて、それからすぐ出会ったんだしな。別れたのもその辺だ」
「そうか……北か。別れて時間が経つとは言え、これは収穫かもしれないね……!」
「だから落ち着けって。さっきのカナミンでも見て深呼吸したらどうだ」

なんだか先程からどさくさ紛れに好き放題言われているが、今のフリアグネは一向に気にしなかった。
何せ、あの秘宝中の秘宝がまさに手に届かんとしているのである。
零時迷子さえあれば、あの愛しのマリアンヌが存在の力に困る事も無い。
転生するまでの繋ぎとしても十分過ぎるお釣りが帰ってくる。
最高だ。最高の気分だ。歌でも歌いたい気分だ、とフリアグネは笑みを隠さず狂喜する。

「水を差すようですがフリアグネ様、一つこちらからも少年に関する報告が」

だがここで一際冷静な声色が耳に入ったことで、フリアグネは笑みを止めた。
声の主は他でもない、“少佐”であった。

「出会った場所は北部という事でしたが……私は彼をこの周辺で目撃しています」
「…………なんだって? まさか燐子を解き放ったあの時かい?」
「ええ、正しく。静観した対象として報告したその少年は、記憶を振り返れば間違いなくその坂井悠二の特徴と合致しています。
 更に加えるならば、彼の行き先が不明である為に以降の推測は不可能です。しかし少なくともこの百貨店周辺には期待が出来ません」
「あ、そう言えばオレと別れたときもあいつは百貨店の方に向いて走ってたな。多分、北の方には戻ってないと思う」

少佐の突然の告白。そして和服の更なる追加情報。
和服の素振りからして、口裏を合わせているわけではないのであろう。
つまり彼は北東とは真逆の方向へと走っていったということになる。
113創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 16:31:08 ID:6ei5WhgD
 
114創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 16:31:49 ID:6ei5WhgD
 
115【Hg】ハイドリウム ◆MjBTB/MO3I :2010/05/15(土) 17:02:20 ID:Hf4GI4MF
「……よし、少佐。これまでの情報を基に、ミステスの目的地の推測を」
「はい。可能性としては川沿いに南下したか、中央部の"天守閣"とやらを経ての南下。もしくは川の上流へと進んでいったか、でしょう」
「では和服。君は、自身の記憶に間違いがないと誓えるね?」
「こんなくだらない事で嘘をつくわけが無いだろ。さっきも言ったけど、オレは目的地がどこになろうと文句は無いんだ」

二人の答えをよく咀嚼し、頭に叩き込むフリアグネ。
彼はカナミン不在のまま深く深く深呼吸。目を閉じ、何度も繰り返す。
そうしてようやく冷静さを手繰り寄せ、取り戻し、両目を開いた。
そこにはいつも通りの紅世の王がいる。

「では、まずは“零時迷子”の解説が先かな。そうでないと納得してくれないだろうからね」
「お気遣い、感謝します」
「そしてもう一つ。ここで私が提示する指針として、"ミステスの追跡"を候補に挙げておく。
 少佐と、そして一応和服も……異論があるならばそれを考え、かつまとめる時間を与えよう。刻限は放送までだ。
 放送終了後に入口に集合。各々の意見を合わせて決定した行動を取る事にする……それまでは各人、再び自由行動だ」

すっかりその冷静さを取り戻したフリアグネは、そこまで言うと静かに息を吐いた。
そしてこれまたいつもの様に、不敵な笑みを浮かべる。

「では語ろう……私が求める、零時迷子の話を」


       ◇       ◇       ◇


フリアグネの視線が北東へと向けられた瞬間、トラヴァスは密かに焦りを覚えていた。
北東への期待値が存在しない事は、和服に出会うまでのフリアグネとの道中で証明済み。
だからこそそっと背中を一押しすれば、娘が潜む北部は安心だろうと思っていた。
それなのにあまりにもイレギュラーに過ぎる和服に、全てを壊されるところだった。

にも関わらず、同時にそれを救ってくれたのも和服。
彼女の供述と自分の発言に関連性があったことが、窮地を脱する鍵となったからだ。

マイペースで、敢えて悪く言うならば"空気が読めない"といったところである和服。
今回の件で学習した。今最もその発言に注意するべき相手は、間違いなく彼女だ。
彼女は誰の味方でもない。そして敵でもない。ある意味で空虚、ある意味で傲慢だ。
相変わらずフリアグネのことも、そして自分のことも信用してはいまい。

しかし、坂井少年の捜索を推されることになったのも、正直なところ予測外かつ困った話だ。
折角の若い才を潰してしまうのは避けたいが、生憎フリアグネは熱心な様子。
加えてイレギュラーな和服少女両儀式も、こと指針においては無気力の極みだ。
“零時迷子”の正体も謎だが、察するにフリアグネに手に入れられると困るのだろう。
更に言えばフリアグネが“零時迷子”を手に入れる為、坂井少年に何か良からぬ事をしでかす可能性が高い。
こうなればどうにかして、坂井少年の身を護る必要が出てくるだろう。出来る限り、全員に悟られぬよう。
坂井少年がフリアグネに見つからなかったという結果になれば幸いなのだが、果たして。

トラヴァスの瞳が静かに、眼鏡越しに光る。
その刹那、フリアグネによる零時迷子の解説が始まった。
116【Hg】ハイドリウム ◆MjBTB/MO3I :2010/05/15(土) 17:03:24 ID:Hf4GI4MF
【C-5/百貨店・1F女性用衣服売り場/一日目・夕方】

【フリアグネ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:吸血鬼(ブルートザオガー)@灼眼のシャナ、ダンスパーティー@灼眼のシャナ、コルデー@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式×2、酒数本、狐の面@戯言シリーズ、『無銘』@戯言シリーズ、
     ポテトマッシャー@現実×2、10人名簿@オリジナル、超機動少女カナミンのフィギュア@とある魔術の禁書目録(?)
[思考・状況]
基本:『愛しのマリアンヌ』のため、生き残りを目指す。
1:零時迷子の解説後、しばし解散。放送後に再度集合し出撃。
2:放送後にトラヴァス、両儀式と集合。坂井悠二を追跡したい。
3:トラヴァスと両儀式の両名と共に参加者を減らす。しかし両者にも警戒。
4:他の参加者が(吸血鬼のような)未知の宝具を持っていたら蒐集したい。
[備考]
※坂井悠二を攫う直前より参加。
※封絶使用不可能。
※“燐子”の精製は可能。が、意思総体を持たせることはできず、また個々の能力も本来に比べ大きく劣る。

【両儀式@空の境界】
[状態]:健康、頬に切り傷
[装備]:自殺志願(マインドレンデル)@戯言シリーズ
[道具]:デイパック、支給品一式、ハーゲンダッツ(ストロベリー味)×5@空の境界、日本酒
[思考・状況]
基本:ゲームを出来るだけ早く終了させ、“人類最悪”を殺す。
1:フリアグネの話を聞いたら自由行動なので休憩する。悠二はご愁傷様。
2:ひとまずフリアグネとトラヴァスについていく。不都合だと感じたら殺す。
3:幹也の言葉に対しては、今は考えないでおく。
[備考]
※参戦時期は「忘却録音」後、「殺人考察(後)」前です。
※自殺志願(マインドレンデル)は分解された状態です。

【トラヴァス@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーP38(6/8、消音機付き)、フルート@キノの旅(残弾6/9、消音器つき)
[道具]:デイパック×3、支給品一式×3(食料・水少量消費)、フルートの予備マガジン×3、
     アリソンの手紙、ブラッドチップ(少し減少)@空の境界 、拡声器、早蕨刃渡の太刀@戯言シリーズ、
     パイナップル型手榴弾×1、シズのバギー@キノの旅、医療品、携帯電話の番号を書いたメモ紙、
     トンプソン・コンテンダー(0/1)@現実、コンテンダーの交換パーツ、コンテンダーの弾(5.56mmx45弾)x10
     ベレッタ M92(6/15)、べレッタの予備マガジン×4
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗っている風を装いつつ、殺し合いに乗っている者を減らしコントロールする。
1:フリアグネの解説を確認後、今後の策を練りたい。坂井悠二の身の安全の確保についても含めて。
2:当面、フリアグネと両儀式の両名と『同盟』を組んだフリをし、彼らの行動をさりげなくコントロールする。まずは北に行かせない事
3:殺し合いに乗っている者を見つけたら『同盟』に組み込むことを検討する。無理なようなら戦って倒す。
4:殺し合いに乗っていない者を見つけたら、上手く戦闘を避ける。最悪でもトドメは刺さないようにして去る。
5:ダメで元々だが、主催者側からの接触を待つ。あるいは、主催者側から送り込まれた者と接触する。
6:坂井悠二の動向に興味。できることならもう一度会ってみたい


【超機動少女カナミンのフィギュア@とある魔術の禁書目録(?)】
少なくとも学園都市内では好評放送中の魔法少女アニメ、その主人公のフィギュア。
作中ではインデックスが大ファンである。衣装のカラーリングは某主役MSの様なトリコロールらしい。

【日本酒@現実】
ただの日本酒。ラベルに関してはノーコメント。
117 ◆MjBTB/MO3I :2010/05/15(土) 17:05:03 ID:Hf4GI4MF
以上で投下完了です。

したらばでも報告しておりましたが、さるさんを喰らっておりました。
長時間の占有、申し訳ないです。
118創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 18:01:56 ID:4HPRIjki
投下乙です
フリアグネチームは悠二探索か
まぁ北がビンゴなわけだがw

誤字を発見しましたので報告
握手→悪手
軽快→警戒
119創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 20:20:32 ID:2cp22lz/
合わせて投下乙です

>アがれはしない十三不塔――(シーサンプーター)
団体さんがおもしろい具合にシャッフルされたなあ
これは次、誰が誰とどう絡むのか想像するだけでも楽しいw
ラストの消えかかった伊里野から哀愁が……浅羽間に合うかどうか
この二人の物語も最終局面を迎えようとしているのかもしれぬ……

>【Hg】ハイドリウム
おお、ここにきて式と悠二の登場話が活きるか!
そういやフリアグネはまだ零時迷子のこと知らなかったのだね
凶悪マーダーチームに当面の目標ができたところで悠二逃げてーw
あとちょっと待て諏訪部w
120創る名無しに見る名無し:2010/05/15(土) 21:30:31 ID:9MT/gNhs
どちらも投下乙ー、そしてGJ!

>十三不塔
これはまた自然な流れで分散したなあ
クルツの大人っぷりが実にいい味出してる
そして……イリヤはどうなる?! てか宗介ー!w

>Hg
うおお。互いの知識の交換の経緯が実に「らしい」なあ
てかカナミンのフィギュアwwwww
121創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 01:56:02 ID:bq8rd00C
ふと思ったのですが、この前の話でイリヤの存在の力をほとんどフリアグネが喰ったことが分かったので、フリアグネの状態表に存在の力が回復したことを書いておいた方が良いのではないでしょうか……?
122 ◆MjBTB/MO3I :2010/05/17(月) 20:56:23 ID:6SyiA6hd
>>118
修整しておきましたー。指摘感謝。
全部楽しそうな様子だから困るw

>>121
伊里野がトーチ化した前作で記述を省かれていた為、今回も省いてます。
個人的には「んー、問題なくね?」と思ってますが、どうでしょうか。
123創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 21:25:30 ID:j4ofFBEv
>>121
そのあたりは書き手さん任せでいいと思うよ。
なにも状態表だけ見て書くというわけではないし、ここの人たちは
「ステータス」より、きっちりSSのほうを読んで繋げてくれると分かるから。

そしてMjB氏、執筆お疲れ様でした。
Break Inのときも思ったけど、氏の書く式はすっげえらしいなぁ……。
上手いこと場を切り抜けた少佐も、余裕を崩さないフリアグネ様も素敵だ。
新しい目標も見つけたことだし、この三人、見逃せないぜー。
124創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 22:01:00 ID:cCdouTOc
フリアグネ組もそうだし、朝倉組や忍者と姫ちゃんもそうだけど
マーダーサイドの繋ぎがここまでおもしろいってのもすげえわw
125創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 22:35:26 ID:p/m3EYOy
問題ねーと思います
状態表なんてメモ帳みたいなもんだし一々詳細まで書かなくてもよいかと

つか、普通はちまちま一人ずつ吸い取って力を回復するようなもんでもないしな
126創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 22:55:24 ID:a0fpyPhN
そういえばトーチが消えた場合放送どう扱われるんだろう
消えてなくてもどう扱われるかが気になるけど
127創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 23:55:13 ID:cCdouTOc
そもそも狐さん今寝てるからなw
トーチになったことすらわからんと思う
128創る名無しに見る名無し:2010/05/18(火) 16:48:58 ID:FUVMACFU
まあ、流石に徒を呼んだんだったらそこらへんの事情ぐらいは知っているだろw
放送で言っても誰も分からない事はあるかも知れないがw
129創る名無しに見る名無し:2010/05/18(火) 16:54:47 ID:jsW5LfGp
トーチは存在した証ごと消えるんだっけ?
名簿とかからも抹消されるのかな
会場の外にも影響が及ぶようであれば、狐さんも忘れちゃうんじゃないか?
130創る名無しに見る名無し:2010/05/18(火) 19:31:13 ID:M64S12WS
そのへんがどうなるかが登場人物の世界考察とかに結構関わってきそう
131創る名無しに見る名無し:2010/05/21(金) 23:48:55 ID:XZU4CFm4
そういやインコちゃんはデパートに放置されたままかな?
132創る名無しに見る名無し:2010/05/22(土) 14:20:55 ID:5yrXgnBv
>>131
イリヤが持ってるよ
133 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:01:24 ID:0N9dfAH6
お待たせいたしました。これより投下を始めます。
134最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:02:24 ID:0N9dfAH6
等間隔に並んだ病院の薄暗い照明が、ちかちかと不健康に明滅を繰り返した。
天井につり下げられた蛍光灯は暗闇をぬぐい去るために存在しているはずなのだが、それ自体が闇を強調しているように感じられる。
空気までもが窒息したような重苦しい沈黙の中、坂井悠二は廊下を歩いていた。

施設の奥へと進むにつれて暗さが増しているような気がする。もしかしたら、最奥では頼りない明かりなど本当に無意味になるのかも知れない。
病院に巣食う深淵は、あるいはこの世界を刈り取っている真っ黒な空白と同一のように思われた。
いやな想像から逃れるように悠二は歩を進める。
窓からさす明かりが想像の闇と同じく濃さを増していることも演出に一役買っていた。
微生物どころか人間まで殺菌するかのような消毒液の臭いを振り払い、足早に階段を上がる。

紅世の王との戦いを経て、年齢にしてはかなりの度胸を身につけた悠二だったが、こういう場所の不気味さはそれとはまた別種のものである。
夜の病院に、一人。そこから想起される恐怖は非日常的でありながら多分に日常的なものだ。
もっとも、この男ならそんなものは馬鹿馬鹿しいと切って捨てるのかも知れない。
長方形に伸びた狭苦しい部屋に水前寺はいた。

「おお、悠二クン。首尾はどうだったかね?」

資料の保管用の場所なのか、味気ない色のファイルが収められたロッカーに容積のほとんどを明け渡している小さな部屋である。五メートルほど伸びた部屋の一番奥で、水前寺は何語かも分からない書類に埋もれるようにパソコンを操作していた。
病院の重い雰囲気を跳ね返すような水前寺の野太い声に、悠二は自身の手柄を報告する。

「上々、かな。急患の駐車場に置かれてるのがあった。エンジンも動いたし、そのまま使えると思う」

次なる足として求めていた救急車は割合簡単に見つかった。懸念は鍵のありかだったが、事務室の様な場所に隠す気配もなく置かれていたので逆に拍子抜けしたくらいである。
悠二の言を聞いてに水前寺は結構、とやたら大きく頷いた。それくらいこなしてもらわねば困ると言うかのようだ。
135最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:03:55 ID:0N9dfAH6

「こちらも悪くはない。別れて早々起動中で放置されていたこのパソコンを見つけ、ついさっき飛び飛びながら全体の映像を見終わったところだ」
「つけっぱなし、だったんだ」
「ここもまたセレスト号の一部というわけだよ、悠二クン」

促され、悠二はパソコンの位置まで近づくとディスプレイを見るために腰を折った。
水前寺が解析した眼鏡型カメラは、説明によると電池の続く限り全自動的に映像を記録し続ける仕組みらしい。

「任意にオンオフなどされていてはどうしようかと思ったよ。ドキュメンタリーには視聴者を引き込む臨場感もさることながら、同時に必要なのは客観性だ。
意図的に編集を加えられては見えるものも見えなくなってしまう」

演説を続けながら、水前寺がファイルをクリックする。まずこれを見ろということらしい。

「これなどはどうかね? 中々の眼福だよ」

再生された映像には、一人の少女が映っていた。
カメラが固定されているのか、アングルもなにもないそのままの記録映像といった趣である。画像がかなり鮮明に記録されているせいか、それでも不便は感じなかった。
悠二は我知らず息をのむ。映し出された女性が、ロビーで物言わぬ姿となり果てていた朝比奈みくるだと気づいたからである。
今は亡き映像の少女は、その最期と同じくメイド服を着ていた。それを眺めたり他の場所をきょろきょろしたりしながら、どうしたものかと思案顔である。

既に死んでいる少女。惨劇を連想させる映像に悠二の鼓動が早まる。
彼女はしばらくあれこれと思いを巡らせていたようだが、やがてごく自然な動作でメイド服の裾に手をかけ下着姿になった。
さらに、ためらいも見せずにブラジャーを脱ぎ捨てると、その豊満と言うにもあまりにも健康的に育った両の乳房をレンズの前に惜しげもなくさらけだした。

「って、な、な、な、なんなんだよこれは!」
「ものすごく早いな。こんなのはまだ序の口だよ。む、さてはお前、肝が据わってるようで実はかなりオクテだな?」
「そ、そんなことはどうでもいいだろ!」
「ふん、オクテでなければなんだ。おっぱい恐怖症か? 君は胸がまったいらな女性でなければ欲情できないタチの人間かね? 
それがどうとは言わんが少しは耐性を持っていても悪いことはあるまい。幸い映像はまだまだ続くどうしたのかね悠二クン応答せよ悠二クン」

顔を真っ赤にして画面から背を向ける悠二に、水前寺が矢継ぎ早に続ける。悠二の心臓はさっきと全く違う理由でばくばくと波打っていた。

「まぁ悠二クンが巨乳派か貧乳派かは置いておくとしてもだ。少なくともこの映像の記録者はそれはもう驚く程に豊満な女性の肉体を好んでいると見える。
信じられるかね? 確かな意図のもとに記録されていた映像の実に九割が女性関係で占められている。

これは音声から推察されたのだが持ち主は現状の把握さえままならずにいたようなのだ!
にもかかわらず、だ!こと女性関係に関しては実に素晴らしい行動力ではないか!しかも彼は驚くべき早さで女性の全裸を収録せしめたのにあきたらず、その後も隙あらば着衣の上からの接写を試みている。
これが実に扇情的でね! おれは思わずプロの手口ではないかと疑ったよ。

あまつさえコンビニに立ち寄ればエロ本を上から下まで物色しつくすという徹底ぶりだ。
ちなみに、な。彼女の下着に付いていた血。あれはなんとこの映像の記録者が吹き出した鼻血だよ。
もう一度言おうか、ハ・ナ・ジだ。これはマンガか何かかね? 
一体どこの世界に女性に着替えを決意させる程の鼻血を吹き出す人間がいるというのだ。

これはもう一般の男子学生の枠を完全に越えている! 変態、ドスケベという言葉すら生ぬるい。言うなればそう、エロスの求道者とでも言うべき極限化された使命感の……」
「あ、あの。他には何かなかったのかな?」

放っておけばどこまでエスカレートしそうな水前寺の長広舌を悠二はやっとの思いで遮った。顔がまだ赤いままなのを感じる。
水を差された水前寺はあからさまに不機嫌な顔で悠二を見たが、やがて何かを諦めたように大げさなため息を一つつくと、わざとらしくやれやれなどと言いながら腰を下ろした。
演説中に立ち上がっていたのだ。

136最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:04:52 ID:0N9dfAH6
「ふん、カマトトぶりよってからに。好きなものをその場で好きと言えんのでは、後で後悔することになるぞ。まぁいい、ならば本題に入ろうではないか」

まだ少し収まりきらない動悸を抱えながら悠二は画面に向き直った。
最初から本題に入ってくれという言葉がちらりとよぎるが、同時に強く理解してもいる。
水前寺は、この状況で無意味に回り道をするような男ではない。

「やはり、一番はここだろうな。収穫と言ってよいかは言葉に迷うが」

惨劇、と言うしかない映像だった。
映像は朝比奈みくるがにこやかな笑顔でお茶を運んでくるところから始まっていた。だが、のどかなのはそこまでだ。
運ばれてきたお茶に口を付けてすぐに、記録者の視点が激しくぶれだした。血を吐いているのか画面に赤いものが混じる。
次の瞬間、画面はひきつけを起こしたかのように一層強く揺れた。そして、それきり動かなくなる。記録者である人間が絶命したということだろう。

悲鳴。喧噪。現れた十代中頃の人間に着物姿の男が射殺される。逃げ出そうと朝比奈みくるが背を向けるが、同じ人間に一刀のもとに切り捨てられる。
最後に残った少年は銃を構えて抵抗の意志を見せたが、逆に奪われてあえなく銃弾をその身に浴びた。
全部で五分にも満たない、ささやかな時間のできごとである。

「安全装置にくらい気を回せ……バカ者が」

水前寺がつぶやいて、動画が止まる。言葉には惜しむような響きがあった。
生々し過ぎる映像に、悠二は鉛を胃に落としたような衝撃を覚える。

「この後さらにグロテスクな映像が続くのだが、そちらまで見る意味は薄いだろうな。肝心なのは……」
「集団を、中から崩壊させようと動いてる人間がいる」
「さすがに聡いな。その通りだ悠二クン。少し映像をさかのぼれば、犯人が明確に仲間として振る舞っている場面も記録されていたよ」

おれからはこんなところだ、と締めくくるように言って水前寺は動画を終了した。
質問を求められたが悠二からは特別引っかかる点も見あたらない。強いていえば映像の殺人者が今どこにいるのかだが、それを聞きたいのは水前寺も同じことだろう。

「とりあえず、ヴィルヘルミナさんに連絡を」
「うむ、特徴だけでも伝えておくといいだろうな。こうしている間に神社に潜り込んでいないとも限らん」
「じゃあ早速……ちょっと待って、外に誰かいる」

窓の向こう、壁に背を向けて座る水前寺の肩越しに動くものが見えた。
気づいた水前寺も窓にへばりつくような体勢で注意深く視線を飛ばす。

「なに? 注意を怠ったつもりはなかったのだが……なるほど、確かに誰か歩いてきて いるな。というかあれは……」

何かを言おうとした水前寺だったが、彼にしては非常に珍しいことに具体的な言葉を紡ぐことができないようだった。
片手で頭を抱え、まとわりつく靄を振り払うように大きくかぶりをふる。
思い出せそうで思い出せない、そんな仕草だ。

「く、おれとしたことが。我が新聞部の部員の名をド忘れするとは。あれはまぎれもなく伊里野特派員ではないか」

現れた人影は女性だった。どこかの学校の制服に身を包んだ、小さくてはかない印象の少女だ。遠目でもわかる真っ白な長髪と大通りの真ん中を進むふらふらした足取りが、弱々しさを強調している。
意志も目的も希薄な、目を離せば宙に溶けてしまいそうな少女。

「知り合い、なんだ」

少女から視線を注いだまま、悠二は言った。「知り合い」を強調するような言い方に、我ながら含みがあるなと感じる。
悠二は、水前寺の言うド忘れの原因に心当たりがあった。

「あのさ、水前寺・・・・・・ちょっといいかな」

彼女は、トーチだ。消滅まで、もういくらもないだろう。

137最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:08:13 ID:0N9dfAH6
◇  ◆  ◇  

「あ、あのっ!」

アイドルタレントにでも話しかけるようカチカチの声が背後から投げかけられたのは、白井黒子が次のテレポートをせんとしたまさにそのときだった。

「な、何をしてるの、で、しょう……か?」

背後を取られた己の迂闊さを恥ながら反射的に振り向いた黒子だったが、次の瞬間には過度の警戒は無用だと悟る。
五メートルほど先のビルの一室、カーテンにくるまるように隠れながら顔だけ出してこちらを窺う少女の姿は「いかにも緊張しています」といった体で、どこをどうひっくり返しても善良な一般市民の域を出ない。
マンガならカーテンの白地のあたりに「ドキドキ」とでも書き文字がされる場面である。

何者かに脅されていると考えられなくもないが、それにしては表情に恐怖の色がなさすぎる。感じられるのはどちらかというと好奇心である。
人捜しの真っ最中である黒子のメンタルは平静とは言いがたいが、それを差し引いても危険のある相手とは思えなかった。

「初めまして。私、白井黒子と申します。少々事情があって人を捜している最中ですので、ご用件は手短に願いますわ」
「は、初めまして。リリア・シュルツです。えと、本名はもっと長いんだけどとりあえずそれで。あの、用ってほどのものはないん、だ、けど……」

しどろもどろである。目も泳ぎまくっている。
黒子よりも少し年上らしいこの栗毛の少女は、どうやら本当に用も何もなくただ話しかけてきただけらしい。
状況を考えれば不用心極まりないが、見たところずっと隠れていたようだしつまりは心細さに耐えかねたのだろう。
カーテンの隙間から長いものが見えたが、どう贔屓目に見ても彼女に扱えるとは思えない。

「でしたら、こちらから。このあたりでどなたか人をお見かけしませんでしたこと?」
「あー、うん。特には、誰も。さっきからここに隠れていたもので……」
「了解ですわ。隠れるというのは正しい判断だと私も思います」

期待は薄かったが、やはり彼女は何も見ていないらしい。黒子は気がはやるのを感じながらテレポートに移ろうとしたが、さすがにこのままでは愛想が悪いと思い直す。

「あちらの飛行場にクルツ・ウェーバーという殿方と黒桐鮮花という女性がいます。私のお仲間ですので、お一人でいるのが不安でしたら保護してもらうといいですわ。
ざっと見たところ、このあたりに今危険人物はいないようですし」
「あーソウスケがちょうど今そっちの方に……って、何よ、わざわざ偵察に行く必要なかったんじゃない」
「ソウスケ? 相良宗介さんのことですの?」

記憶にある名前に黒子が聞き返すと、リリアは多少戸惑いながら肯定を返してきた。頬に十字の傷というのは教えられた特徴とも合致する。
黒子は事前にクルツから知り合いに関する情報を教えられていた。でなければ、買い出し中誰かと遭遇していたとしても、敵味方の判別ができるはずもない。

「確かその方はクルツさんのお仲間のはずですわ。ならばなおのこと、早く合流なさるのをお勧めします」
「わ、分かった。そうする。ありがとう!」
「どういたしまして。私も次の放送には戻ります。それでは、ごめんあそばせ」

本当は飛行場まで連れて行くのが一番安全なのだが、さすがに三人の捜し人を抱える黒子はにそこまでの余裕はない。
この一帯の危険度が低いことは確かであるし、飛行場は決して遠くない。宗介なる人物との合流を待てば、かなりの安全が確保されるはずだ。
後は彼女の身に、予測もつかない突発的な不幸が訪れないよう祈るしかない。
興奮気味のリリアの視線を見送り代わりに感じながら、黒子は再び連続テレポートのために意識のスイッチを切り替えた。


138最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:10:06 ID:0N9dfAH6
白井黒子と名乗った少女が視界から完全に消え去っても、リリアは彼女の居たビルの屋上あたりをじっと見つめていた。
頬に手を当てる。少し上気しているが大したことはない。
胸に手をやる。大丈夫、バクバクいう痛いほど波は収まっている。もう足も震えていない。
そこまで確認したところで、緊張の糸がぶちんと音を立ててちぎれた。

「はぁ〜〜〜〜〜。何よ、怖がることなんてなかったんじゃない、もう」

体中の空気を総入れ換えするような特大のため息を吐き出しながら、リリアは安堵の尻餅を付く。
さんざん迷った末にほとんど勢いに任せた形の接触だったが、して正解、いや大正解だったと言えるだろう。
何しろこうも簡単に飛行場の安全を確認できたのである。それもわざわざ自分の足で偵察に出ているソウスケに対し、リリアは居ながらにして、である。
あんなかわいらしい子が嘘を付くとも考えにくいし、ここはリリアが大いに褒められる場面である。むしろ、ソウスケにはその義務があるとさえ言えよう。

「さて、これからどうしよう……むむ」

自画自賛するだけでなく、リリアは次のことも考える
大人しく待っているのがいいということは分かっていた。飛行場にはソウスケの仲間がいるというし、交渉をするまでもなく両者は合流を果たすだろう。
その後はどうなるか。無事仲間を得たソウスケはリリアを迎えに戻ってくるに違いない。そして、最早しなくてもよい説明をリリアに行い、晴れて二人は飛行場を目指す。

「……だったら、こっちから会いに行ってもいいんじゃないかしら」

誰かに承認を求めるようにリリアは言った。

「うん、そうよね。だってそうした方が時間も手間もはぶけるもの。
ううん、違うの。ほんとはあんまりよくないってことは私だって分かってるわ。
でも実際やっちゃえばそんな危険はないだろうっていうか。いやそれよりこれはむしろ、新たにもたらされた情報にもとづく、いわば現場の判断であって……」

一つ一つ確認するように、わたわたとときに身振りをまじえながら虚空に向かってつぶやく。
それは自らを説得するというよりは、自分じゃないもっと大きな何かに正当性を認めてもらいたがるようであった。
安全を保証する情報は次々出ている。飛行場までの道のりは限られており、入れ違いになる心配も少ない。
敢えて選ばれた都合のいい情報が、ますますリリアに活気を与える。
黒子との接触が成功に終わり気が大きくなっていたのもあるだろう。
しかし、それより何より。

「……まぁ、大丈夫よね。たぶん。きっと」

リリア・シュルツという少女は、元より何かをじっと待つということが得意な人間ではなかったのである。
立ち上がった直後、黒子の瞬間移動を脳が認知する余裕を取り戻し、目を白黒させながら首を傾げたことさえ余談に過ぎない。

139創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:11:41 ID:Km75qb2g
140創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:12:32 ID:52DY0pF8
 
141最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:12:39 ID:0N9dfAH6
◇  ◆  ◇  

少年は、伊里野が既に死んでいると言った。

「助からない、と? 他ならぬ伊里野特派員がか」
「……うん。というか、今の彼女はもうトーチになっていて、本当の彼女は……」
「トーチについての教示はヴィルヘルミナ女史から簡単だが受けている。聞けば悠二クンも特殊ではあるがその一人だそうではないか。
困難ではあっても、何か方法があるのではないか?」
「僕の場合は本当に特例中の特例だから、あてにはならないと思う。僕自身が専門家ってわけじゃないし、何よりも彼女の灯はもう消えかけてる。
……仮に方法があったとしても、時間そのものがないんだ」
「どれくらいある? 伊里野特派員が消えるまでの時間は、あとどれくらいだ?」

水前寺は悠二の口からその時間を聞いた。なるほど、短い。
何かを成すためには、あまりにも短すぎる時間だろう。

病院近くの、使われていたのかも怪しい真新しいバスターミナルである。ぴかぴかのベンチに、こちらもまた出来たての公衆電話が備え付けられている。

「あさば」

不意に、かぼそい声が聞こえた。向かい合う水前寺たちなどまるで見えていないかのようにベンチに座り込んだ伊里野だ。

「あさば、まだかな」

伊里野であって伊里野でないもの、などと水前寺は考えない。たとえ、水前寺の知る伊里野加奈が既に死亡しているのだとしても、目の前の彼女はそれをそっくりそのまま引き継いだ存在だという。
だとしたら、それが伊里野加奈でないなら何なのか。
園原電波新聞部の伊里野特派員でないとしたら、一体何だというのか。

「答えたまえ。伊里野特派員」

目の前にいるはずなのに、ともすれば意識が外れそうになる。
142創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:14:00 ID:Km75qb2g
 
143創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:14:01 ID:52DY0pF8
 
144最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:14:16 ID:0N9dfAH6
水前寺は、風がふけば散りそうな程に小さくなってしまった伊里野に合わせるように、厳かに言った。

「浅羽は、浅羽特派員はこの近くにいるのかね?」
「十時にまちあわせ。十時半から映画をみるの」
「そうだ。その約束をしたのはいつだ? 
 今か? さっきか? それとも、もうほんの少し前か?
 応答するんだ、伊里野特派員」

返事が返ることなど、ほとんど期待していなかったのかも知れない。
伊里野が水前寺たちのことを認識しているかさえ怪しい。
いや、希望的観測を抜きにすれば彼女は認識などしていないだろう。
それでも水前寺は何かを紡ごうとかすかに動く伊里野の口元をじっと見つめる。
誰かと一緒にいてこれほど黙ったのはいつぶりだろうかとふと思った。ないはずはないのだが、記憶を辿っても該当する場面は浮かんでこなかい。もしかしたら、かつてなかったのかも知れない。

さっき。
入理野の細い唇がそんな形に動いたように感じられた。気のせいである可能性が高い。それと望む意識が作り出した幻覚だったかも知れない。
だとしても、水前寺にためらうつもりは微塵もなかった。

「……救急車は動くのだったな」
「水前寺、何を」
「少しこの場を任せる。携帯を借りていくので『何かあったら』連絡してくれたまえ。なに、危険は危険だがすぐ戻る。悠二クンは安心して待っていればいい」
「……何をする気なんだい、水前寺。残念だけど、彼女は、もう」

大したことはない。眼鏡の位置を直し、悠二に背を向けながら水前寺はそう言った。

「この近くに『いなくてはならない』浅羽特派員の首根っこをひっつかんで連れてくるだけのことだ。
 何しろ、一人では女との約束も守れんような甲斐性なしの後輩なのでな」

言うなり、水前寺は駆けだした。
時間はもうない。まったくもって足りなさ過ぎる。
だからこそ、この水前寺邦博が行かねばならないのだ。

145創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:15:10 ID:52DY0pF8
 
146創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:16:13 ID:52DY0pF8
 
147最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:16:41 ID:0N9dfAH6
◇  ◆  ◇  

行かなくちゃならないというのに、男はまったく理解してくれない。
さっきからわけの分からないことを言いながら浅羽の折れている方の腕をぐいぐいとせめ立てている。
猛烈な吐き気から混沌とする意識の狭間で浅羽は思う。そんなことして何が楽しいんだ。そんなに欲しいなら腕の一本や二本いくらでもくれてやる。
だから離してくれ。
切り落としてくれたっていい。
僕を伊里野のところに行かせてくれ。

「落ち着け。繰り返すがこちらに攻撃の意志はない。飛行場の中の人物と交渉するにあたり、情報を必要としている」

男の言葉は知っているはずなのに浅羽の中で一向に意味のある形を結んではくれない。
きゅるきゅるきゅるとテープを早回ししたような、いやそうじゃない、それは彼女の、伊理野の使っていた言葉で。
火事場の馬鹿力なんてうそっぱちだ。浅羽は今こんなにも必死なのに、またがっている男はぴくりとも動かない。

それとも、まだ足りないのか。伊理野のところに辿り付くには、まだ必死さが足りないというのか。力を貸すための神様の審査は、こんなにも厳しいものなのだろうか。
だったらもう腕なんて言わない。足をやったっていい。走るための足がなくても、這ってでも行ってやる。
体を丸ごとあげたっていい。だから浅羽を、浅羽直之の意思を、お願いだから伊理野のところに。
一つの音に意味を圧縮して。漢字と一緒。

それもちがう!


わぁわぁと意味不明のうめきを重ねる少年に対し、相良宗介は埒が明かないと感じ始めていた。
少年の症状は戦場に心折られた脱走兵のそれである。恐慌状態を脱するには安全な場所への移動と長期間の療養が不可欠だが、言うまでもなく不可能だ。
理解しやすい日本語の運用に関してはネイティブに比しても遜色はないと自負しているが、そもそも相手が聞く耳を持たないのではどうしようもない。

いっそのことこのまま彼を場内に引きずり込み、人質の形で強制的に交渉の席を設ける。というのも考えないではないが、見たところ少年は傷の手当てを受けている。
場内の人間と友好な関係を築いていたのだとすれば相手を徒に刺激することになってしまう。敵性と判断できない以上、軽はずみな行動は避けるべきだろう。
ではどうする。というところで、宗介は僅かながら判断に迷う。

(失敗したな。戦場でのパニックほど厄介なものはない)

力による脅しも論理的な説得もまるで効力を持たない。行動に支障のない骨を折ったところで、火に油を注ぐだけだろう。
さりとてこのまま解放したところで事態がいい方に転ぶとはとても思えなかった。手を離した瞬間、飛行場に逃げ帰られる恐れがある。場内の人間が宗介にどのような第一印象を抱くか、想像に難くない。
そもそも、この状態が長く続いていることが宗介にとっては手落ちである。大声こそ出させないようにしているが、万一この場を第三者に見られでもしたら宗介にとって大変に不利なことになる。
事態は急を要する。宗介は決断した。兵士に求められるのは迅速な判断力だ。

「ひとまず貴様を気絶させるのが最善と判断した。事態の説明は中の人間と友好を結んだ後、誤解を招かないよう慎重を期して行うことにする。
心配するな、体は誰にも見つからないよう、上手く隠しておく」
「イ、リ……ヤ…ガッ……ァ…………ッ!」

銃の練習をしていたことから中の人間は戦場の心得があると考えられ、だとすればパニックを起こした兵士への対処について理解を得られる可能性も高い。
とっさの判断にしては我ながら妥当な落としどころだと、宗介は自分の兵士としての能力を再確認しつつ、少年の首に手を伸ばした。

148創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:17:06 ID:52DY0pF8
 
149創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:18:20 ID:52DY0pF8
 
150創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:18:55 ID:Km75qb2g
151創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:19:15 ID:52DY0pF8
 
152最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:19:58 ID:0N9dfAH6
「ソウスケッ!」

瞬間、響いた甲高い声に宗介は何故か原因不明の迫力を感じ、伸ばした手をびくりと引っ込めた。続いて後頭部に謎の衝撃が走る錯覚に襲われるがそちらは錯覚のままで終わってくれる。
いつの間にか吹き出していた冷や汗を隠しつつ、宗介は路地の一本から顔を出した少女に声を発した。

「リリアか! 待っていろといったはずだ、なぜ来た!」
「そ、それがちょっと状況が変わったというか……」
「どういうことだ? 説明を求める」

宗介より離れること十メートル、民家の塀に隠れるような形でぽつりぽつりとリリアが語ったところによると、彼女は自分より先に場内の人間と友好的な接触を果たしたらしい。

「それで、私がソウスケの名前を出したら、飛行場にはクルツって人がいるから安心して行けばいいって……」
「クルツ? クルツ・ウェーバーとその少女は言ったのか?」

少年を組み伏せたままの姿勢で、宗介はリリアの情報を脳内に再構築する。
瞬間移動がどうのと報告に一部詳細な説明を要する部分もあるが、接触はリリアの意思が発端の多分に偶発的なものであり、罠の可能性は低いと考えられた。

「了解した。状況その他から考えあわせるとその人物が嘘を言っている可能性は低く、情報の信頼度は高いと判断できる。だが、君の行動そのものは軽率と言わざるを得ない」
「そ、それはごめんなさい。でも、それより、あの……」

中にいるのがクルツならば、先だっての射撃練習も傍証となるだろう。事態の変化に理解が追いついたことで、宗介の緊張が和らぐのを感じる。
リリアの身に差し迫った危機がないことだけに安心してしまった宗介は、だから何故未だ彼女が距離を取ったままなのか察することができなかった。

「その子、なんでまたそこにいるの……?」

しまった、と。気づいたときにはもう遅かった。
怯えるように自分の身を抱くリリアは唇まで青白く染まってしまっている。小刻みに震えているのはこの距離からでも確認できるし、目は焦点の定まらぬままあちこちさまよっている。

153創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:19:59 ID:52DY0pF8
 
154最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:20:41 ID:0N9dfAH6
「その……離してあげ、たら、どうかしら。わたっしは、もう、大丈夫だし、何かその子ずっとどこかに行こうとしてるみたい。それに……」

途切れ途切れに、ときどきガラクタのようにひっくり返った声になりながら、リリアが告げる。

「正直、私その子あまり見たくない」

何と言えばいいのか分からなかった。
ことは強姦未遂である。男である宗介には想像することも難しいが、当時の記憶は皮膚に染み込んだ汚泥のようにいつまで残り続けるに違いない。

「……そうだったな。すまない。俺の配慮が足りなかった」

腹の底に溜まったざわざわとした疼きを押し殺し、宗介は自分にできることだけを行った。
ぐったりと横たわる少年の身を起こし、リリアの視界から外れた路地に連れていく。
一度地面に横たえてから体の各所を点検し、怪我の悪化と意識の有無を確かめた。
一応の無事を確認し終えたところで、宗介は努めて平坦な声で言った。

「手荒な真似をしたことについては謝罪する。だが、俺は貴様がそれに値することをしたと同時に思っている。
場内の仲間の元に戻るなら、俺にそれは止められん。だが、そうしないというなら、一刻も早くこの場から消えてくれ」

少年からの返事はなかった。
長い長い沈黙が降りた。その間少年はぴくりとも動かず、宗介でさえまさか死んでしまったのではないかと心配するだけの時間が過ぎた後、芋虫のようなのっそりした挙動で暗い路地の陰に飲まれるように立ち去って行った。

「大丈夫か、リリア。無理をさせてしまった。重ねて申し訳なく思う」

元の路地に戻った宗介は、できる限りの言葉を述べた。リリアの顔は多少血色が戻ったように見えたが、震えがまだ収まりきってない。

「うん、大丈夫……ごめん……ありがとう」
「ここでは休息もままならない。場内に入ろう。警戒を完全に解くことはできないが、クルツがいるならそう時間をかけずとも落ち着けるはずだ」
「……うん」

不器用ないたわりを精一杯見せながら、宗介はリリアと連れだって飛行場の中に入っていく。
あの少年のことをリリアが早く忘れられるといい、宗介なりにそんなことを思った。


155最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:21:49 ID:0N9dfAH6
【B-5/飛行場入り口/一日目・夕方】

【相良宗介@フルメタル・パニック!】
[状態]:全身各所に火傷及び擦り傷・打撲(応急処置済み)
[装備]:IMI ジェリコ941(16/16+1、予備マガジンx4)、サバイバルナイフ
[道具]:デイパック、支給品一式(水を相当に消耗、食料1食分消耗)、確認済み支給品x0-1
[思考・状況]
 基本:この状況の解決。できるだけ被害が少ない方法を模索する。
 1:飛行場の中に入る。
 2:飛行機を飛ばしてみる。空港へ行って航空機を先に確保する? 航空機用の燃料を探す? 自動車の燃料で代用を試してみる? 
 3:まずはリリアを守る。もうその点で思い悩んだりはしない。
 4:リリアと共に、かなめやテッサ、トレイズらを捜索。合流する。

【リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:早蕨薙真の大薙刀@戯言シリーズ
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本:がんばって生きる。憎しみや復讐に囚われるような生き方をしてる人を止める。
 1:飛行場の中に入る。
 2:飛行機を飛ばしてみる。
 3:トラヴァスを信じる。信じつつ、トラヴァスの狙いを考える。
 4:トレイズが心配。トレイズと合流する。
156最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:23:32 ID:0N9dfAH6
◇  ◆  ◇  

連続テレポート時の視界は映写機の画像を次々入れ替えるようなものだ。
飛び飛びの映像が切り替わっては後ろに流れていく。すっかり馴染んだ感覚に身を任せながら、黒子は暮れなずむ無人の街を文字通り飛び回った。
リリアと名乗った少女と接触した以外、黒子はまだ誰も見つけられていない。
焦りこそ自重しているが、夜の暗がりは黒子を急かすように、いよいよその影を濃いものにしている。

これはレースではないのだ。テレポートの隙間で頬を撫でる風に意識を冷やしてもらいながら、黒子は自戒する。一歩でも遠くに飛ぼうとする意識はすれ違いの不運をもたらす恐れがあった。
あてと呼べるものが何もない黒子では、捜査は自然高所からのローラー的なものにならざるを得ない。それにしたところで一人では限界があり、今のところ得られたのは限られた時間の浪費という結果だけだ。

徒労さえ感じさせる探索の中で、自分の足が無意識に南を向いていることに黒子は気付いていた。
デパートを目指しているのだ。
出会って間もない伊理野という少女や、ろくに自分のことを話さなかった浅羽などは手掛かりに関してお手上げに近いが、もう一人のターゲットであるティーは違う。
ずっと一緒にいた分だけ、情報のアドバンテージは前の二人より大きい。
彼女は、デパートで何かショックな出来事に遭遇したという。災禍に見まわれた少女が失踪してまでその現場を訪れようという発想の不自然さに黒子も気付いてはいたが、何しろ他に目標にできるものが何もない。
一風変わった少女の心中を何とか推し量りつつ、黒子は他と比べて背が高めなビルの屋上めがけて、もう何度目かも分からなくなったテレポートを敢行する。

「……見つけましたわ!」

急激に開けた視界の向こうに、ティーの歩く姿があった。
ちょうどデパートが肉眼で捉えられる程の場所である。
黒子の視力が届くギリギリの位置にいるため、人間というよりは小さな白い何かとしか判別できないが、息の絶えた街で動くものは何よりも目立つ。
子供らしい低身長に雪のような髪の組み合わせは見間違えようもなかった。
ティーの目標はやはりデパートだったのか、迷いない足取りで真っ直ぐ進んでいる。正面の入り口に手をかけるのが距離を詰めた黒子の位置からもはっきり見てとれた。

デパートまではまだ百メートル単位の距離がある。入るのは自分がわずかに後になりそうだが、どうにか発見には至った。
ラストスパートとばかりにテレポートを重ね、黒子は目と鼻の先にまで迫ったティーの姿を捕らえようとする。
無意識に緩みそうになる気持ちを再度引き締めながら、黒子は跳躍を繰り返す。着地の際、ツインテールに結ばれた髪が夕闇に舞ってゆるやかになびいた。

157創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:23:42 ID:52DY0pF8
 
158最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:24:46 ID:0N9dfAH6
【C-5/百貨店/一日目・夕方】

【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:鉄釘&ガーターリング、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ
[道具]:
[思考・状況]
 基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
 1:ひとまずティーの確保を優先(放送の時間までには帰る)
 2:状態が落ち着けば、この世界のこと、人類最悪のこと、浅羽と伊里野のことなど、色々考えたい。
 3:御坂美琴、上条当麻を探し合流する。また彼ら以外にも信頼できる仲間を見つける。
[備考]:
 ※『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
   現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。

【ティー@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:RPG-7(1発装填済み)、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式、RPG-7の弾頭×1
[思考・状況]
基本:「くろいかべはぜったいにこわす」
 1:シズの元へもう一度行ってみる。そして、それからのことをそこで考える。
 2:百貨店でシャミセンのごはんを調達したい。
 3:RPG−7を使ってみたい。
 4:手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
 5:『黒い壁』を壊す方法、壊せる道具を見つける。そして使ってみたい。
 6:浅羽には警戒。
[備考]:
 ※ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。


159創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:25:10 ID:52DY0pF8
 
160最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:25:59 ID:0N9dfAH6
「……あっちの大きな建物に入って行った」

白井黒子の姿が百貨店に消えるのを見届けると、身を隠す必要のなくなった少女は給水タンクの裏から静かに姿を現した。

「ななな、何今の? まるでワープみたいに……」
「遠目ではあるが御坂美琴と同じく自在法の気配は感じられぬな。外見から言っても、彼女が御坂美琴の言っていた友人とみてほぼ間違いあるまい」

黒子がティーを発見したビルから、さらに数十メートルほど西に外れた、ビジネスホテルの屋上である。
坂井悠二の手掛かりとなるバギーを求めて東へと向かっていたシャナ、アラストール、島田美波の一向はさしたる進展もないまま、百貨店近くにまでやってきていた。

「何かを探してるみたいだった」
「我らと同じく、人捜しの最中であったのかもな。接触の機を逃したのは失敗だった知れん」
「仕方ない。ろくに確認せずに近づいて攻撃されるよりはまし」
「二人ともよくこの距離からあれこれ見えるわね……」

ひどくぐったりした様子で美波が言った。全身で疲労をアピールするようにセメントの地面に膝をついている。
シャナは情けないなぁと率直な感想を抱いた。
橋の前でトーチと出会って以降、体力を消費するようなことは何も起きていないのである。
疲れるほどの移動さえできていない、というのが逆に問題になるくらいなのだ。
風向きの関係かホテル上空の熱波がちょうどシャナ達の進行方向を塞ぐように広がっていたのが主な原因である。
シャナにとっては些細としか思えない物音やら何やらにいちいち驚く美波との移動は予想外に手間のかかるものだったのであり、結局かなりの時間を徒歩での移動に費やしてしまった。
再び炎の翼を用いての飛行に切り替えられたのがついさっきのことである。時刻は間もなく放送を告げ、求める悠二は未だ影さえ捕まらない。

「ふむ。シャナよ、今からでもあの少女を追ってみる気はないか?」
「あの人間は急いでた。何かトラブルに巻き込まれてるのかも知れない。御坂美琴には悪いけど、今は悠二を追いたい」

アラストールの案にシャナは短い、しかし断固とした口調で答えた。

「しかしそれも想像に過ぎん。いずれにせよ、判断するには情報が不足し過ぎているのは分かるな?」
「それはそうだけど……」
「あるいは、これを転機と見ることもできよう。あのトーチと出会って以降、我らは成果と呼べるものを何ら得られていない。
むろんシャナの言うような危険もあるが、この場で合った縁をそう悪い方にばかり捉えるのは、疑心暗鬼というものであろう」

押し黙ったまま、シャナは前を向いた。
アラストールにも一理ある。制服の少女本人に危険がないことはほぼ間違いないところであるし、急いでいるから危険だというのも短絡過ぎるだろう。アラストールの言う通り、彼女の持つ情報が悠二との距離を縮めてくれるかも知れない。
だが、同時に、一刻も早く悠二を求めて飛び立ちたいという気持ちもシャナの中に歴然とあった。さっきの少女には悪いが、妙なことで足止めされるのは全力で避けたい。

「具体的な根拠に欠けた、多分に観念的な物言いであることは我も承知している。
ならばこそ、ここはシャナに任せようではないか。箱庭に囚われた身の我々では、どのみち完璧な判断など下せるはずもないのだ。
島田もそれでよいな?」

シャナの迷いを見透かすかのように、アラストールが決断を後押しする。
ちらりと視線をやると、美波が情けない姿勢のままおっけー、などと手を振っていた。
一番悪いのはぐずぐず言うだけで何も行動しないことだ。時間の浪費は最大の悪手である。

「分かった」

シャナは決断した。
端的に発せられた言葉は二人の同行者に速やかに承認され、シャナ達はそれに従って行動を再開した。

161創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:26:05 ID:52DY0pF8
 
162最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:27:36 ID:0N9dfAH6
【C-5/市街地/一日目・夕方】

【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:メリヒムのサーベル@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品x1-2、コンビニで入手したお菓子やメロンパン
[思考・状況]
 基本:悠二やヴィルヘルミナと協力してこの事件を解決する。
 1:決断に従って行動する。
 2:島田美波を警護しつつ、彼女に協力。姫路瑞希を捜索し、水前寺を神社に連れ戻す。
 3:以上の目的を果たしたら一旦神社へと戻る。
 4:東にいると思われる“狩人”フリアグネの発見及び討滅。
 5:トーチを発見したらとりあえず保護するようにする。
 6:古泉一樹にはいつか復讐する。
[備考]
 紅世の王・フリアグネが作ったトーチを見て、彼が《都喰らい》を画策しているのではないかと思っています。


【島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康、鼻に擦り傷(絆創膏)
[装備]:第四上級学校のジャージ@リリアとトレイズ、ヴィルヘルミナのリボン@現地調達
[道具]:デイパック、支給品一式、
     フラッシュグレネード@現実、文月学園の制服@バカとテストと召喚獣(消火剤で汚れている)
[思考・状況]
 基本:みんなと協力して生き残る。
 1:シャナに同行し、姫路瑞希と坂井悠二を探す。ついでに水前寺も。
 2:川嶋亜美を探し、高須竜児の最期の様子を伝え、感謝と謝罪をする。
 3:竜児の言葉を信じ、全員を救えるかもしれない涼宮ハルヒを探す。
[備考]
 シャナからトーチについての説明を受けて、「忘れる」ということに不安を持っています。


163最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:30:08 ID:0N9dfAH6
◇  ◆  ◇  

やっと解放された足は思うように動いてくれなかった。
どこかも分からなくなってしまった街の中を浅羽はとぼとぼと歩く。思うように動かないと言いつつも足は別に苦痛を訴えたりはしていないし、なんだかんだで前には進んでいる。
つまり、浅羽の肉体というより精神の問題なのである。あの粗暴で意味不明の男にはなせはなせと泣き叫んだ浅羽は、いざそうなってみると亀のように鈍重な動きしかできないでいる。
これでもかというくらいに捻られた腕が微熱にも似た鈍痛をもたらしてくるが、大した問題ではない。浅羽の脳内は竜巻に蹂躙されるゴミ処理場のようにぐちゃぐちゃで、物理的な痛みなど正しく認識できているかも怪しい状態である。

浅羽直之は今すぐ走り出してしかるべきだと理解しているのに、それさえ実行に移せないでいる。伊理野の捜索を阻むものはもう存在していないはずなのだが。
安物映画に出てくる火星人のように理不尽な苦痛ばかり与えてきたあの男は、それこそ観察を終えた宇宙人のような唐突さで浅羽を放り捨てた。
所詮地球人に過ぎない浅羽に抵抗などできるはずもなかったのだ。内蔵の一部と血液をすっかり抜き取られてしまった浅羽は動くのもままならず、大人しく草原に倒れ伏すしかない。

栗色の髪をした女の子の姿が浮かび上がった。
そうだ。思い出した。まったく無力だったにせよ、それでも抵抗しようとした浅羽の体から力が失われたのは、あの女の子の声を聞いたからである。
もたらされたのは侮蔑の表情だ。見えもしなかったのに、彼女の中で浅羽はすでに人間ではなく、破棄されるべき汚物に過ぎないことが気持ち悪いほど強く感じられた。
言いわけは浮かんでこない。伊理野のために、という題目を封じられた浅羽に自己弁護の術はなかった。

かっとなって。ついできごころで。それはテレビの中だけで見るフィクションと変わりない事件の常套句だ。
夕飯の席を慎ましやかに彩るそいつらは、眉をひそめられつつも自分たちとは別の世界の人間だったはずだ。
だというのに、浅羽はそんな連中と同類になってしまった。居間に座っていたはずの浅羽はいつの間にか消えてしまい、変わりにテレビの中に現れる。
浅羽の痴情は電波に乗って太陽系全体に届けられ、翌日から近所の人がいやぁねぇなどと言いながら浅羽の背中に嫌悪の視線をよこすのだ。

突如膝が抜けて、浅羽はみっともなくすっ転んだ。空想の苦みは現実の痛みにたやすくとって変わる。こんなときに、右腕はあのときの胸の柔らかさを思い出していた。どれだけ自己嫌悪めいたことを重ねても、その記憶は浅羽の体に鮮烈に焼き付いている。

それでもいい、と浅羽はやはりそこに立ち戻る。伊理野がいるなら、伊理野を守れるなら。馬鹿の一つ覚えと言われたって構いやしない。
だって、現に自分は伊理野と再会することができたのだ。銃で撃たれても怯むことなく、伊理野をその手で抱きかかることができた。
今だって、たまたまはぐれてしまっているけどすぐに。少しすればすぐに。
ああ、とコンクリートのひんやりした感触に浅羽はふと素朴な疑問を抱いた。
すぐっていつのことだろう。

顔をあげる。街が蟻の巣のように縦横無尽に分岐を繰り返している。
すぐとは無限に広がる街路の組み合わせをすべて探索しつくした後のことだ。
そのことを思い出したとき、浅羽は静かに気絶したのかも知れない。

「……まったく、見れたものではないな」

覚醒していたかどうかも分からないので、目の前にいつの間にか大型の車が止まっていたことも別に不思議に思わなかった。
運転席から自分を見下ろしているらしい人間の姿を浅羽は確認しない。首を上げる気力がない。
声からとりあえず男であることは分かるので、その時点で浅羽の捜査対象からは外れていた。
男が車から降りる気配がした。また何かされるのだろうかと思った。このまま誘拐でもされるのか。それは困ると浅羽は思う。
そうして、男は混濁した浅羽の記憶を無理矢理掘り起こすような大声で、季節の分からぬ黄昏の煤けた空に向かって砲丸投げのように叫ぶのだ。

「き っ た ね ――――――――――――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」
164創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:30:24 ID:Km75qb2g
 
165最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:32:02 ID:0N9dfAH6
がつん、とハンマーで殴られたような特大の衝撃が浅羽をおそった。
それはどうやら体中でぶつ切りになっていた浅羽の回路を入れるスイッチであったらしく、夢から覚めるような猛烈な勢いで浅羽の体は次々に現実認識を取り戻していく。

「ぶ、部長?」

もちろん、水前寺だった。

「何を当たり前のことを言っているのだ浅羽特派員! 君は俺がカマドウマか何かに見えているのかね? それともあれか、行き倒れた末に美女と乳繰りあう白昼夢でも見ていたのか。夢を見るのは結構だがせめて身なりと場所には気を遣いたまえ。今の君は汚い、実に汚い。
ぼろくずの親戚かと思って頭からどかんとひいてしまうところだったぞ。どかんと」

機関銃のような勢いでまくし立てられても、そもそもなぜ水前寺が突然現れたかも分かってない浅羽にまともな返事のできるはずもない。
白昼夢と言うなら今がまさにそうなのではないかなどと新たな妄想が生まれるが、浅羽は自分の頭がよりにもよって水前寺のコピーを生み出すなどと面倒きわまりない選択をするとは到底思えなかった。
本物と確信するしかない水前寺相手に浅羽は口を開こうとするが何も言えない。もっともそれは度重なる異常事態のせいというより、水前寺という変人を前にした浅羽の日常の行動であった。
寝ころんだまま口をぱくぱくさせる浅羽を面白いものでも見るかのように眺めていた水前寺が、ふっと笑った。

「乗れよ。こんなとこで寝てる時間はないんだろうが」

そのときいとも簡単に起きあがることができた自分の体に浅羽はさすがに乾いた笑いを漏らしたくなった。あれほど無理だ無理だと叫んでいたのに、自分の体はどこまで身勝手なのだろう。
細かい事情は分からないが、水前寺は浅羽をずっと捜していたらしい。詳しくは乗ってから話すと常と変わらぬ一方的な口調で言われた。

「ってうわ!? 何ですかこれ」

よく見ると救急車そのものであり、不思議なくらいそこら中べこべこに傷がついた車の助手席から中が見えた瞬間浅羽は叫んだ。
車内はおびただしい量の紙で埋め尽くされていた。さすがにルームミラーなど運転の妨げになるような部分には貼られていないが、それを除けばまるで黒魔術の儀式のような執拗さで大量の紙がばらまかれている。
そして、そのことごとくに『伊理野』『伊理野特派員』『伊理野加菜』などといった文字が乱暴に殴り書きされているのだ。

「あ、あの部長、これって……?」

いきなりこんなものを見せられて、部長も伊理野を探していたんですねなどと喜べるような浅羽ではない。
浅羽の困惑に水前寺はああとなんでもないことのように答えた。

「これってお前、伊理野特派員に決まっているだろうが。 んんっ? まさかお前覚えてないと言うんじゃあるまいな? この後に及んでそんなこと言うならはっ倒すぞ、おい」
「そ、そんなことあるわけないでしょう!? ここにきてからも伊理野のことはずっと……」
「よかろう。そうでなくてはわざわざおれが走り回った甲斐がないというものだ」

答えになっていない答えで自分だけ勝手に納得する水前寺に、浅羽は会話の糸口を見失う。
水前寺はどこまでも水前寺らしく、浅羽の了承も得ずに傷だらけの救急車を発進させた。

「今からお前を、伊里野特派員のところに案内する」
「っ!? 部長、伊理野がどこにいるか知ってるんですか!?」
「だが、その前に話しておかねばならんことがある」

浅羽の悲痛とさえ言える叫びはまたしても水前寺の言葉に遮られた。

「……伊理野特派員は、もう助からん」

そこから先の話は、浅羽にはよく理解できなかった。
本物の伊理野がどうの、記憶が薄れてどうの、存在がどうしたなどという話はいかにも水前寺の好みそうな話の一系列としか思えず、一向に浅羽の耳に定着しない。
その上、当の水前寺が今まで見たことないくらい大真面目な顔をしているのだ。これが浅羽の理解を更に遠ざける。
166創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:32:29 ID:52DY0pF8
  
167最後の道 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:33:17 ID:0N9dfAH6
悪い冗談としか思えないのに、水前寺がどうしようもなく本気であることが、浅羽には分かってしまうのだ。

「やはり、信じられんか」
「信じるも信じないもないですよ! 意味分かんないですって! 
そりゃ伊理野の体はぼろぼろだけど、だからって消えるとか言われても……」

普段なら冷や汗がでるくらいの速度でかっ飛ばす車の中で、浅羽は声を荒げる。
内容を考えればたとえ水前寺であっても殴りかかってよさそうなものであるが、なぜか浅羽はそれができずにいた。

「おれも無理に信じろとはいわん。だが浅羽よ、この先で伊理野特派員がお前を待っていることだけは確かだ。
少しでいい、一緒にいてやれ」

もしかしたら、本当なのかも知れない。
たとえ一瞬でも、それさえ満たぬ極小の時間であったとしても、浅羽にそのような思いを抱かせるほどに今の、そしてこれまでの水前寺には力があった。
与太にしか思えない研究に大真面目にのめり込む気まぐれな新聞部の部長。
浅羽にとって超人にも等しい水前寺の言動は、この場においてそれこそ超常現象めいた説得力をもって厳然と立ち塞がっていた。
でも。もし。そんなことって。
そうだとしたら。

それきり水前寺は何も言わなかった。
爆弾をくくりつけられた死刑囚のようにがなり立てるエンジンの音も、右から左に流れ落ちていく。
沈黙は恐怖だ。
特に、普段誰よりもやかましい水前寺がもたらす沈黙は、どんな暴力よりもたやすく浅羽の心を蝕んでいく。

「……消えたら、その人はどうなるんですか」

そんな、仮定の話をしてしまう。

「忘れられる。ごく一部の例外を除いて、関係した全ての記憶と記録がこの世から抹消される」
「そんな……」

それは自分も、水前寺さえも例外でないということなのだろうか。
浅羽の中に仮定が広がる。
あの夏の日。退行した伊理野がどんどん現在の記憶を失っていったように、浅羽もまた彼女のことが分からなくなるときが来るというのだろうか。
プールサイドでの出会いから始まるあの夏の日々が全て消えてなくなってしまう。そんなことが許される世界が、本当にあっていいのだろうか。
だとしたら、彼女は何のために存在していたのだろう。

ついたぞ、という水前寺の言葉の後、僅かな慣性が浅羽の体を押さえつけた。
ここが水前寺の目的地ということらしい。運転席の部長は動こうとしない。数メートル先のバス停まで、一人で歩いていけということらしい。
そこに、蜃気楼のようにおぼろげな、真っ白な少女が座っていた。

「……部長の言うことが正しいのかそうでないのか、僕には分かりません」
「そうか」
「どっちでもいいんです。何があっても、最後まで伊理野の側にいるって決めたんですから」
「……そうか」

小声で礼の言葉を述べて、浅羽は車を降りた。
純白の少女は浅羽のことなど気付いてもいないかのように、心細げに前を見ている。
浅羽を無視するかのような少女の姿に、怯むことなく正面に回り込み、彼女の視界を塞ぐ。
少女が顔を上げた。そして、浅羽の名を紡ぐ。
浅羽は決心し、言葉を返した。

「伊理野」

まずは、名前を呼ぼう。
そして、映画を見よう。

168創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:33:27 ID:52DY0pF8
 
169創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:34:20 ID:52DY0pF8
 
170創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:35:16 ID:52DY0pF8
 
171創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:36:00 ID:52DY0pF8
 
172創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:36:17 ID:Km75qb2g
  
173創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:37:02 ID:52DY0pF8
 
174創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:37:03 ID:Km75qb2g
 
175創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 02:37:45 ID:52DY0pF8
 
176代理:2010/05/23(日) 02:41:16 ID:Km75qb2g
【B-4/市街地/一日目・夕方】

【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:全身に打撲・裂傷・歯形、右手単純骨折、右肩に銃創、左手に擦過傷、(←白井黒子の手により、簡単な治療済み)
      微熱と頭痛。前歯数本欠損。
[装備]:毒入りカプセルx1
[道具]:デイパック、支給品一式、ビート板+浮き輪等のセット(少し)@とらドラ!
      カプセルのケース、伊里野加奈のパイロットスーツ@イリヤの空、UFOの夏
[思考・状況]
 基本:伊里野と一緒にいる。
備考]
 ※参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。
 ※伊里野が「浅羽を殺そうとした」のは、榎本たちによる何らかの投薬や処置の影響だと考えています。
 ※伊里野に関する記憶が薄れていってること(トーチ化の影響)をなんとなしに自覚しています。

【伊里野加奈@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:“トーチ”状態。その灯火は消える寸前。
[装備]:トカレフTT-33(8/8)、白いブラウスに黒いスカート
[道具]:デイパック、支給品一式×2、トカレフの予備弾倉×4、インコちゃん@とらドラ!(鳥篭つき)
[思考・状況]
 基本:浅羽とデートする。
 1:10時にバス停で待ち合わせ。10時半からの映画を浅羽と一緒に見る。
[備考]
 ※既に「本来の伊里野加奈」はフリアグネに喰われて消滅しており、ここにいるのはその残り滓のトーチです。
   紅世に関わる者が見れば、それがフリアグネの手によるトーチであることは推測可能です。
 ※元々の精神状態と、存在の力が希薄になった為、思考をまともに維持できていません。
 ※伊里野加奈は皆から忘れ去られかかっています。



【水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!
[道具]:デイパック、支給品一式、「悪いことは出来ない国」の眼鏡@キノの旅、ママチャリ@現地調達、テレホンカード@現地調達
[思考・状況]
 基本:この状況から生還し、情報を新聞部に持ち帰る。
 1:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「シャナ」「朝倉涼子」「人類最悪」の3人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 3:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。

【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ、アズュール@灼眼のシャナ、湊啓太の携帯電話@空の境界(バッテリー残量100%)
[道具]:デイパック、支給品一式、贄殿遮那@灼眼のシャナ、リシャッフル@灼眼のシャナ、ママチャリ@現地調達
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。
 1:シャナと再会できたら贄殿遮那を渡し、神社に戻るよう伝える。
 2:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「シャナ」「朝倉涼子」「人類最悪」の3人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 3:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
[備考]
 清秋祭〜クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻〜14巻の間)。
 会場全域に“紅世の王”にも似た強大な“存在の力”の気配を感じています。
177代理:2010/05/23(日) 02:42:21 ID:Km75qb2g
代理投下しゅうりょうしました
178 ◆olM0sKt.GA :2010/05/23(日) 02:43:45 ID:0N9dfAH6
……書き込めるようになったかな。

代理投下ありがとうございます。改めてご支援ありがとうございました。
179創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 05:10:43 ID:fiR0igVX
投下乙です
ここで切るのかーーー!!
登場人物たちの心情がよく伝わってきました
夕暮れに消えていきそうな少女の情景が切ない
180創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 06:51:10 ID:E+G43Qx2
浅羽と伊里野はついにクライマックス突入か…どうなるんだこれ
水前寺はよくやった

悠二と水前寺の思考欄、キノに関することは書き忘れでしょうか?
181創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 10:40:26 ID:52DY0pF8
投下乙です。
ついに伊里野と浅羽の物語は決着するのか……どうなるのかすごくハラハラしますね。
全員がギリギリのタイミングで動き続けて、ここで!というところでフェードアウト。とても緊張する話でした。
放送までの残り少し、本当に彼らはどうなっちゃうのか。
GJでした。
182創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 10:57:30 ID:SQ4GDC1X
投下乙です
水前寺はファインプレーすぎるw流石行動派ですね。
浅羽も間に合ったし、次回どうなるか楽しみだなぁ。

あと疑問点があるのですが、シズが息絶えたのは百貨店の外だったはずでは?
183創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 23:20:46 ID:SQ4GDC1X
誤字を発見したので報告
伊理野加菜→伊里野加奈
あと、浅羽の状態表の参考の[が外れていましたよ
184創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 01:55:39 ID:r2fdn3wy
投下乙ですー。
おお、各キャラがらしいなぁ
リリアは震えるよなぁ、あの状況じゃ。
水前寺がいい男すぎる……w
正真正銘、舞台が整い役者が揃ったイリヤの空のクライマックス。
さて……どうなるか……楽しみだ。
GJでした。

誤字は>>183の方があげてるように後半、伊里野が伊理野なっています
185 ◆olM0sKt.GA :2010/05/24(月) 02:05:09 ID:HcRtNVO4
みなさん、感想ありがとうございます。

もろもろの誤字と抜けについてはwikiにて修正したいと思います……すみません。
シズについても、申し訳ありません、内容に変更ない範囲で描写を差し替えたいと思います。

それでは、報告まで。
186創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 02:26:58 ID:TIZ1cr31
投下乙です
なあにこの舞台作りw シチュエーションが完璧すぎるw
次、浅羽と伊里野はどうなるのかどうなってしまうのかw

あと追加で指摘なのですが、タイトルの「最後の道」が被ってますよ(108話)
同タイトルだとwikiにページが作れなかったと思うので、改題するなりしたほうがいいかと
187創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 02:29:18 ID:IpyqD/00
投下GJ! 壮絶すぎる……!
全員が全員、各々出来る事をやりつくそうとする姿が美しい。
伊里野と浅羽の下に颯爽と駆けつける水前寺も格好いい……が、どこか切ないなぁ。
イリヤ勢がまさしく爆発寸前。ここからどうなるのか、どうなってしまうのかに期待せざるを得ない。
いやはや、本当に素晴らしい引きです。飲み込まれました。本当にGJです!
188 ◆olM0sKt.GA :2010/05/25(火) 21:01:17 ID:tSQm5MoI
>>186
反応が遅れて申し訳ありません。
wikiに「forever blue (前後編)」でページを作成いたしました。
事後報告で申し訳ありませんが、こちらのタイトルに改題いたします。

また指摘のあった抜けと、ティーの向かった先について微修正(目的地を百貨店ではなく路地の一本、という形)を行っております。
描写はほぼ以前のままですが、ご確認をお願いします。
189創る名無しに見る名無し:2010/06/12(土) 22:04:33 ID:b7yRIauX
師匠らの予約も来たな
これで放送まで行くなぁ
190創る名無しに見る名無し:2010/06/12(土) 22:54:35 ID:qeuQWH7l
いや、まだ南はほとんど残っている
てかこの会場、北と南で時差が四時間以上あるわけだがw
191創る名無しに見る名無し:2010/06/13(日) 02:53:38 ID:6TtVyNpA
上条さんとか全然動いてないもんね…
192 ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:26:28 ID:dWPu8r7d
大変お待たせしました。
期限をオーバーしましたが投下します
193創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:27:18 ID:/XQwAY9W
194創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:27:55 ID:MC1JeO9R
195disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:27:59 ID:dWPu8r7d
「さてと……あれが目的地……かな?」

陽が傾き始めた頃、僕はようやく目的地に辿り着いた。
今日何度目かもよく憶えてないが、息抜きに煙草に火をつける。
煙草から上がる煙の先に見えるのは、紅い神社の象徴とも言えるもの。
それを見つめながら、僕――ステイル=マグヌスは少しほっとした。
あの場所には彼女がいるのだ。
コンビニで会ったあのちっこい少女が言った事が正しいならだけど。
護りたい、護りたかった彼女がいる。
そう思うと、正直心が躍った。
自分がもうその立場にいるべきではないというのに。
それでも、安堵し喜ぶくらいなら罰は当たらないだろう。
本来居るべき立場の相手は知らない女に現を抜かしてるようだしね。

「鳥居……鳥居ね」

煙草を吸いながら、目の前のランドマークを見つめる。
日本の神社に必ずといっていいほどあるこの鳥居。
生憎僕はこの鳥居に関してはよく判らない。
死んだ土御門なら詳しそうだけど。

……まぁ、死んだならそれまでさ。

死んだ人間が『此処』になんて存在しないのだから。
土御門なら、煉獄か地獄に行ってるだろうし。
天国だけはありえないと思うけど。
……まあ、それは僕も一緒なんだけどね。
別に僕は構わないけど。
あいつも妹の為なら、喜んで地獄に落ちたんじゃないかな。
まあ、知る由もないか。

「……ふむ、一体どうしたんだろうね」

何だろうか。
頭がコンビニに居た時より、大分すっきりとしている。
理由はよくわからないけど。
ぼけっとしてるよりは、よっぽどいい。

「さて……」

鳥居の講釈はその先にいる彼女に聞くとして。
今は、その鳥居の前にに現れた人。
メイドの格好をした女が此方を睨んでいるのだけど。
その対処をどうしようか?

邪魔するなら、排除するだけどね。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




196創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:29:30 ID:f1UOR/mL
197disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:29:45 ID:dWPu8r7d



「……うん……むふぅ……?」

どたどたと何かが忙しなく駆けて行く音が響く。
その音のせいか、また何処か忙しないのを感じ取ったか。
痛みの余り、気を失っていた逢坂大河はパチリと目を開けた。
欠伸をしながら、目をぱしぱしとする。
まだ、寝ぼけているせいか、いまいち状況が把握できない。
気を失って、その後、どうなったのだろうか。
忙しそうな足音は今は聞こえなかった。
とりあえず起きようと大河は思うが、欠伸が止まらない。
大河は眠たそうに、目をこすろうとして

「…………ひっ!?」

その自分の身体の『異常』に気付く。
眠気があっという間に弾け飛んだ。
大河はきょろきょろしながら自分の右腕を見つめている。
大河の右腕には人体に本来存在しない無骨な鋼が括りつけられていた。
何故、そんなものが自分の身体につけられてるのかと一瞬考えて、すぐ答えが思いつく。

「ああ、そうか……そうだよね」

これが、先程の苦痛の結果。
酷い痛みを耐え切って得た、大河の新しい『手』だった。
人の肌の温もりなど、感じられない、存在しないただの鉄。
でも、不思議と自由に動かす事ができる。
まるで、本物の手のような。
そんな、錯覚がした。

「……………………おなか減った」

血を沢山流したせいだろうか。沢山体力を使ったせいだろうか。
おなかがぐーと音を鳴らす。
誰も、聞いてないかなと大河を辺りを見渡すが、誰も居る訳がない。
大河はその事を確認し、もぞもぞと布団から這い出す。

「あれ……?」

そこで、更にもう一つ身体の異変に気付いた。
着ていたはずの服が、無い。
下着すら、無い。
つまり全裸で寝ていた事になる。
誰も、見ていないのに、少し大河は恥ずかしくなってしまう。
大河は頬を紅く染めながらも、ハンガーにかかっていた制服と畳まれた下着を見つけた。
兎も角、外に出るにも服を着ないと話にならない。
そそくさとパンツを穿いて、そこで大河は右手に違和感を感じる。

「感覚が無い……」

右手の指をいくつか動かしながら、その事実に大河はただ驚く。
義手なのだからある意味当然なのだが、それでも今まで慣れ親しんだものが無くなると言うのは、切なくなってしまう。
大河はその事に、少し不機嫌になりながらも、ブラをつけようとして
198disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:30:46 ID:dWPu8r7d

「…………あれ、くそっ……あー…………うがーーー!」

上手く、出来ない。
後ろのホックが上手く嵌らないのだ。
理由は単純で、右手の感覚が無いから上手くできないのだ。
重みが感じられないから持ってる事すら忘れそうになるぐらい。
ちまちました作業を好まない大河は苛々して、堪らない。

「あーもういいっ!」

そして、諦める。
元々ブラが必要かどうか怪しいぐらいの胸のボリュームだ。
哀れといわれるぐらいに、哀しいほどに無い。
だから、ブラが無くても、まあ問題ない。
問題ないけど、イラつく。

大河は苛々が更に募りながらも、制服のブラウスを着ようとする。
だが、ボタンをはめるのにも、やはり苦戦してしまう。
今度はホックより小さいものだから、尚更苛々してしまう。
何度か試行錯誤をくりかえし、悪戦苦闘の結果

「だぁーーーー! ふざけんなぁああああ!」

びたんとブラウスを畳みに叩きつける。
つまり、大河の敗北だった。
そして、苛々が無くなって、現れるのは哀しみ。

「こ、こんな事も出来ないのかっ……私は!」

哀れで、悔しかった。
小学生でも出来る当たり前の行為が、自分は出来ない。
右手が変わっただけなのに、普通の生活すらままならないのか。
悔しくて、哀しくて。

「くそっくそっ……」

悪態を吐きながら、大河は思う。
本当、こんな所につれて来られたせいで喪失ばっかり味わっている。
竜児も北村も、実乃梨も、そして自分の手も。
失ってばっかだ。
だけど、
199創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:31:41 ID:/XQwAY9W
 
200創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:32:01 ID:MC1JeO9R
201disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:32:30 ID:dWPu8r7d

「失ってばっかで………………いられるかっ!」

失ってばっかでいられない。
逢坂大河が、失ったままで苦しんでいられるか。
強くなければ、強くなければいけない。
ならば、右手の喪失ぐらいなんだ。
こんなので泣いていられるか。

もう、高須竜児は居ないんだから。
一人で生きていかなければならないのかだから。

「見てろ……」

見つめるのは鋼鉄の右腕。
新たな自分の身体の分身。
そいつに向かって大河は吼える。

「絶対に扱いこなしてみせるからな、このっ!」

これから、生きていく中で共に過ごす分身を。
扱いこなしてみせると、大河は誓う。


だから、今は――――




「……あ、大河さん。起きた?」
「おう、ばか晶穂。服を着たいから手伝え」
「えっ……ええっ!?」



素直に、助けを乞おう。







202創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:32:47 ID:/XQwAY9W
 
203創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:32:49 ID:MC1JeO9R
204創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:33:30 ID:f1UOR/mL
205創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:33:37 ID:/XQwAY9W
 
206disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:33:59 ID:dWPu8r7d
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「さてはて……神社にメイドさんとか違和感しか沸かないけど……君は誰だい?」
「そちらこそ、貴方は何者……いや、『何モノ』でありましょうか?」

ステイルと、メイド――ヴィルヘルミナのファーストコンタクトは極めて緊張したものになった。
ステイル側としては、シャナの言葉があるとはいえ、この者がヴィルヘルミナであるという確証はとれない。
それに、シャナが神社から離れた後、激変があったかもしれない。
態度に余裕を保っても、予断は許さない状況なのは確かだ。

ヴィルヘルミナ側としては、この男が何者かは推測できる。
インデックスが語っていた存在、ステイル=マグヌスの容姿とほぼ一致している。
彼女が語る言葉を信じるならば、まあ信頼に足る人物である事は確かなのだ。
だが、一つ、警戒するに値するものがある。
それは、ステイルがトーチになっている事だ。
この男は既に、死んでいる。それも十中八九フリアグネの仕業によって。
あの男が遊びで作った存在ともいえるかもしれないが、何か細工をしているかもしれない。
その事が、ヴィルヘルミナを緊張させているのだ。

「まあ、僕から名乗ろうか。ステイル=マグヌス。必要悪の教会のものだよ……シャナって子の伝言も預かっているのだけど」
「……!」

口火を切ったのはステイル。
ここで、彼女に余計な警戒をさせるのも、よくない。
安心させて、早いうちに、インデックスに会わせて貰った方がいい。
だからこそ、持っているカードは早めに切る。
案の定、シャナの名前を出したら目の前のメイドさんは強く反応した。
つまり、

「君が……ヴィルヘルミナで、いいのかな?」
「ええ、そうであります……何時、彼女と?」
「ほんの少し前だよ。インデックスがこっちに居ると、聞いたのだけど……会わせてもらえるかな?」
「彼女は何といってたのでありましょう?」
「そうだね、そのまま君に会ったら、保護してもらえって。それで出来る事なら、君に従えって言ってたよ」
207disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:34:58 ID:dWPu8r7d
ステイルの目的は、インデックスとの再会だ。
当座の目的は、それしかないのだ。
だからこそ、早いうちに目的を伝えて、ヴィルヘルミナの警戒をとくしかない。
ならば、隠し事する必要など、意味はない。

(…………さて、どうでましょうか?)

ヴィルヘルミナは心中で考える。
最初に神社にやってきた少年同様、今回もヴィルヘルミナの判断に一任されてる。
その上で、この男、ステイル=マグヌスの処置を考えなければならない。
手段の一つとしては、ここで、この男を消すの手だ。
トーチという不確かな存在、フリアグネが仕掛けをしている危険性を考えると悪い手ではない。
しかしながら、この男はインデックスの知り合いだ。
彼女からの情報によると、有用な人物であるのは確かであった。

それに、シャナが、この男を消さなかったという事実もある。
ステイルが、シャナの名前を信用を得る為に、会っていないのに使ったとも考えられるが、それは極めて低いだろう。
此方がシャナとの連絡手段を持っているのなら、ばれたらお終いなのだから。
それ故に、シャナの伝言は確かなものだといえる。

となるとシャナ、ひいてはアラストールが細工してないか、確認しているはずだ。
そして、彼女達はこの男を消さなかった。
シャナ達もこの男を程度はしらないが、信用したのだろう。
ならば、自分が此処で彼を消す事は不味い。
故に、消すという選択肢をヴィルヘルミナの頭の中から無くした。
ならば、この男をどう扱うのか。

「貴方は、インデックスにあってどうするつもりなのでありますか?」
「別に、護るだけだよ。彼女は大切なのだからね」
「それは、他者を害してでもありますか?」

まずは、重要な点。
彼がインデックスを守る為なら、他の人間ですら殺す……そういう人種であるならば、受け入れる事は出来ない。
現状、自分しか戦力になる人間はいないのだから、警戒するのは当然だった。

「彼女を傷つける者が居るなら躊躇しないよ。僕自身は……そうだね、彼女を護れればそれでいい」
「他者を害さない証拠がありますか?」
「……そう言われると困るんだけどな。どうやって示せばいいかな?」

ステイルは眉を潜め、ヴィルヘルミナを見つめている。
少し、困った様子のステイルにヴィルヘルミナはある提案した。
208創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:35:05 ID:/XQwAY9W
 
209創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:35:23 ID:MC1JeO9R
210創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:35:49 ID:/XQwAY9W
 
211disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:36:20 ID:dWPu8r7d
「そうでありますな……ならば、インデックスを護るついでに、我々の仲間を護ってくれればいい。それだけでいいのであります」
「な……!?」

これこそ、現状、ヴィルヘルミナが彼を扱う上でベターとも言える選択肢。
そして、最低限、これだけは許容しては貰わないと困る最低限のラインだった。
まず、この男を此方に引き入れるというのは、シャナが許容した時点で決まっていた。
ステイルはフリアグネに敗北したものの、インデックスの話を聞くならば、実力者である事は確かなのだから。
インデックスとシャナのお墨付きがあるならば、あの少年よりは信用できる。

だが、困った所は彼が一人の人間しか固執しないという点だ。
恐らくインデックスだけでも生き延びれば、それでいいと考える人間だろう。
今の所、他の人間を襲わないにしろ、恐らく彼女だけしか護らない。

それでは、困るのだ。
正直な所、ステイル自体にヴィルヘルミナが今思うところなどない。
此方の仲間になっても、言う事は余り聞かないのは承知だ。
インデックスと離して行動させるというのは無理だろう。
しかし、それでもいい。
今、必要なのは、単純な戦闘要員だ。
仲間の身を護る戦えるものがほしい。
だからこそ、ステイルには、インデックス以外の者を護ってもらいたい。
それだけが、許容させなければならない事なのだから。

「……そうだね、正直に言っちゃうと、僕はインデックスを護るだけで精一杯かもよ? 実際の戦闘で護れるかなんて、その場にならなければわからない」

そのヴィルヘルミナの提案に対してステイルが返す言葉は曖昧な事で。
ヴィルヘルミナは憮然としてステイルを見つめる。
だが、ステイルは表情を崩して

「……まあ、でもインデックスを護るついでに、あくまでついでに。護るかもしれないけどね」

肩をすくめながら、答えた。
その提示された許容ラインに、一先ずステイルは乗った。
実際、戦闘になったらどうなるかわからないが。
とりあえず、それで信頼を得られるのなら、それを飲むしかなかった。

「……………………そうでありますか」

ヴィルヘルミナは無表情のまま、くるりと踵を返す。
交渉が成立した事に、安堵も、歓喜もしないまま。
あくまで、事が成った事実を受け入れながら

「着いてくるであります」

ステイルに対して、そう言った。
あくまで、事務的な返事にステイルは肩をすくめながら、ヴィルヘルミナの背を追った。
インデックスに、会えるという期待に少なからずも、心を躍らせながら。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




212創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:36:27 ID:MC1JeO9R
213創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:36:32 ID:f1UOR/mL
 
214創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:36:48 ID:/XQwAY9W
 
215創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:37:17 ID:MC1JeO9R
216創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:37:36 ID:f1UOR/mL
 
217創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:37:41 ID:/XQwAY9W
 
218disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:38:17 ID:dWPu8r7d
「…………うん、美味しい」

パクリと白いお握りを口にしながら、笑顔を浮かべる大河。
何はともあれ、酷くおなかが減った。
体力の消耗を回復するにも、エネルギーの摂取は大切だった。
小さい身体に、似合わずバクバクとお握りを食べていく。

「大河さん、その手大丈夫なんですか?」
「んー? まあ持つぐらいなら余裕よ」

その喰いっぷりを脇で眺めながら、晶穂は呟いた。
ヴィルヘルミナから、人が着たから此処で待機を指示されたが、やっぱりどうにも手持ち沙汰だった。
だから、大河を眺めるしかないのだが、やっぱり気になってしまう。
大河の右腕がロボットのようなモノになっているのが。
其処に存在するものに、ひたすら違和感しか感じない。

逢坂大河は小さいけど、それはそれでとても整った美少女だった。
長くウェーブのかかった茶色の髪。
美しく可愛い、けど、少し獰猛そうな顔。
小さな体から溢れ出そうなパワー。
正しく、手乗りタイガーと称させるに相応しい存在だった。

けど、今はその無機質な金属の塊が完璧ともいえる身体を侵食している。
その腕は正しく、欠損を感じさせるもので。
非日常の塊ともいえる、逢坂大河に似合わない姿だった。

物憂げに晶穂はそんな大河の身体を見ている。
傍から見ても、可哀想だと思うのに本人は何処か元気だ。
空元気かもしれないけど、それでも気丈に振舞っている。
そんな事ができる大河が、羨ましいと思って、また自分と違うんだなと思い知らされてしまう。
きっと自分が、そんな義手をつける羽目になったら、泣き喚くだろう。
手術だって怖くて、痛みに耐えられないと思う。
そして、機械の手がついたことに、絶望するだろう。

そんな事を思ったら怖くて怖くて仕方がない。

元気な大河が、何処か凄くて、羨ましくて。

自分がとても、ちっぽけに思えてくる。

そう思ったら、哀しくて。
俯くように、膝に顔を埋めてしまう。
涙は、出なかった。

(……どうして、わたしは……こんななんだろう)

こんな、自分が哀しくて。

深く、深く、沈んでいく。


ずぶずぶと音を立てて、



――――沈んでいく。
219創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:38:57 ID:f1UOR/mL
 
220disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:39:04 ID:dWPu8r7d
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






くそっ…………あの無表情女め。
思いっきり、引っ掛かった。
あたかも、此処にインデックスが居るような口ぶりだったから居ると思ったら離れてるだと。
もうすぐ、放送で連絡が来るからそれまで待機してろだと。

……ちっ。

苛々しながら、僕は気分を変える為に、外で一服をしていた。
渋々とだが結局、待機することにした。
彼女が行った場所わからない現状、連絡を待ってそれから向かう方がいいだろう。
素直に言う事を聞くのが妙に癪だけどね。


「……うん?」

煙草を吸いながら、少し気を抜いてると社務室から一人の少女が出て行く。
何か元気無さそうだけど、別に僕はそれに気を止めなかった。関係ないし。
むしろ、社務室から、何かいい臭いがして、そっちの方が気になる。
……そういえば、まだ何も口にしてないか。
どうせ、暫く居るのだし、それくらい貰ってもいいだろう。
そう思って、僕は煙草を捨て、社務室に入っていく。


「…………あん? あんた、誰?」

そこにいたのは小柄で茶髪の少女。
奇異といえば、機械の様な右腕がとても特徴的な少女が凶暴な視線を浮かべていく。
恐らくヴィルヘルミナの仲間と呼べる存在だろう。
そして、護れとかのたまい、これが護る存在なんだろう。気乗りしないけど。

「……一応名乗っておこうか。ステイル。ステイル=マグヌス……まあとりあえず此処のチームに参加する事になったよ」
「あっそう……私は逢坂大河。よろしく」
「よろしく……そのお握り一つ貰うよ」
「勝手にしないさいよ」
221創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:40:06 ID:f1UOR/mL
 
222disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:40:06 ID:dWPu8r7d
大河と名乗った少女はぶっきらぼうに言いながら、こちらにお握りを一つを投げてくる。
僕はそれを受け取り、自然と彼女の隣の座布団に腰を下ろした。
そして、そのまま、お握り食べた。
中の具は鮭で、程よい塩気だ、うん、美味しいね。
そのまま、黙って食べていく。

特に喋る事も無く、こちらも話すことが無いからただ黙って、食していく。
それにしてもこの少女、何個食うんだ。
もう五つぐらい食べてるんじゃないか?
見かけによらず……食べるね。

「太るよ」
「うっさい」

大河はガッと軽く足蹴りをしてくる。
あんま、言われたくない所みたいだね。
黙っておこう。


「……………………ねえ、あんた」
「……うん?」

暫く、黙々と食べていると今度はあっちから話しかけてくる。
僕は暇だったし、彼女の方を向く。

「なんで、あんた此処に?」
「別に、護りたい人がいたからだよ」
「そう…………インデックス?」
「……………………何でわかるんだい?」

彼女にいい当たらたのに戸惑いを隠せない。
ヴィルヘルミナから聞いたわけじゃ無さそうだし。

「別に……此処に居た人達考えたら、あの子しか思いつかなかっただけよ」
「なるほどね……」
「すきなの?」

思わず、食べていたお握りが喉につまりそうになってしまう。
この女…………何故、分かる。

「わかりやすいのよ、思いっきり表情に出てる」
「…………」
「あははっ……その表情……思いっきり馬鹿みたい……くくっ」

自分の顔をぺたぺたと触ってるとこの女は僕を指差して笑い始める。
僕はムッとしながら、腹立たしくなりながら文句を言う。
223創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:40:10 ID:MC1JeO9R
224disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:40:54 ID:dWPu8r7d
「別に……君には関係ないだろう」
「ええ……そうね……けど」


そう言った彼女は、何処か寂しそうな表情をして。


「叶うといいね……私はもう、無理だから。もう遅いから」


そう、呟いた。

けど、それは僕を見つめていない。
何処か遠くを見ているようだった。
そんな、彼女に何か声をかける事なんてしない。
僕は、関係ないし。

それに、僕の想いは叶わないものだ。


好きな彼女が見ているのは僕じゃない。


きっと――――。





「まあ、応援ぐらいはしてやる。あんた不器用そうだし」
「ガキに言われたくないよ」

大河の意地の悪そうな笑みに僕は文句を言う。
少なくとも、こんな小さな子に言われる筋合いはない。

「うっさいわね。これでも高校生よ」



……年上だった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






225創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:41:04 ID:MC1JeO9R
226創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:41:28 ID:/XQwAY9W
 
227disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:41:39 ID:dWPu8r7d
ふらふらと歩く。
よくわからなかった。
境内をぐるぐると回る。
どうして、こうなったのだろう。
わたしはどうして、こうなったのだろう。

わたしが何かしたのかな。
何かしたからこうなったのかな。
わからないな、よくわからない。


ハジマリは何時だったのだろう。
浅羽と出逢ったときから。

でも、それ自体はとても平凡な出逢いのはず。
そして、平凡な物語のはずなのに。

何処から狂い始めたのだろう。

一体何処から……






……………………………………あれ?


わたしと浅羽が拗れたのって何だっけ。

何があったから、拗れたんだっけ。





228創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:42:08 ID:f1UOR/mL
 
229disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:42:31 ID:dWPu8r7d
…………………………あれ?


ああ、そうだ、あの少女だ。
非日常な少女のせいだ。

名前は、


いり……いり



……あれれ?



そうだ、かなだ。
あの子が現れて。
何を……したんだっけ。

あの子はそもそも


……どんなの子だっけ?







須藤晶穂と伊里野加奈の『物語』始まる事が無く。

そのまま、消えていく。

その瞬間まで、後どれ位残ってるだろう?



須藤晶穂が――――




伊里野加奈を忘れるまであと―――――



230創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:42:59 ID:/XQwAY9W
 
231創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:43:09 ID:f1UOR/mL
 
232disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:43:13 ID:dWPu8r7d
【C-2/神社 境内/一日目・夕方】

【須藤晶穂@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:意気消沈
[装備]:園山中指定のヘルメット@イリヤの空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
 基本;生き残る為にみんなに協力する。
 1:…………………………あれ?
 2:部長が浅羽を連れて帰ってくるのを待つ。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






233創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:43:54 ID:f1UOR/mL
 
234disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:43:58 ID:dWPu8r7d
皮肉かもしない。

主人公になれなかった人間が。

主人公を、ヒーローを、他人に譲った人間が。


一度、命を落として。


また、主人公になろうとしている。



そんな、皮肉に満ちた物語が。


静かに始まろうとしている。




【C-2/神社/一日目・夕方】

【ヴィルヘルミナ・カルメル@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン一箱(7/20)、缶切り@現地調達、調達物資@現地調達
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。しばらくは神社を拠点として活動。
 1:神社を防衛しつつ、御坂美琴とキョン。炎髪灼眼の討ち手と島田美波の帰りを待つ。
 2:状況に応じて、警察署や南の方にいるであろう上条当麻への捜索隊を編成して送り出す。
 3:ステイルは、警戒しながらも様子を見守る。

【逢坂大河@とらドラ!】
[状態]:疲労(小)、精神疲労(小)、右腕義手装着!
[装備]:無桐伊織の義手(右)@戯言シリーズ、逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式
     大河のデジタルカメラ@とらドラ!、フラッシュグレネード@現実、無桐伊織の義手(左)@戯言シリーズ
[思考・状況]
 基本:馬鹿なことを考えるやつらをぶっとばす!
 0:まだ、食べる。
 1:ステイルはちょっと応援


【ステイル=マグヌス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:“トーチ”状態。ある程度は力が残されており、それなりに考えて動くことはできる。
[装備]:筆記具少々、煙草
[道具]:紙袋、大量のルーン、大量の煙草
[思考・状況]
 基本:インデックスを生き残らせるよう動く。
 0:食事をとる。
 1:今は連絡待ち。
 2:とりあえずある程度はヴィルヘルミナの意見も聞く。
[備考]
 既に「本来のステイル=マグヌス」はフリアグネに喰われて消滅しており、ここにいるのはその残り滓のトーチです。
 紅世に関わる者が見れば、それがフリアグネの手によるトーチであることは推測可能です。
 フリアグネたちと戦った前後の記憶(自分がトーチになった前後の記憶)が曖昧です。
 いくらかの力を注がれしばらくは存在が持つようになりました
235創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:45:05 ID:f1UOR/mL
 
236disappear/oblivion ◆UcWYhusQhw :2010/06/14(月) 00:45:19 ID:dWPu8r7d
投下終了しました。
沢山の支援ありがとうございます。
此度は期限を大きくオーバーしてしまい大変申し訳ありませんでした。
何かありましたら、指摘をよろしくお願いします。
237創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:52:32 ID:N5IWGokM
投下乙です
ステイル……そうか、お前はまだ頑張れるのか
行き先がバッドエンドでしかなくとも、胸を張って上条さんにバトンタッチしてほしいね

とりあえず読んでて気になった脱字、加字?をあげておきます

>手段の一つとしては、ここで、この男を消すの手だ。

>そして、そのまま、お握り食べた。

>彼女にいい当たらたのに

>「別に……此処に居た人達考えたら

>……どんなの子だっけ?

>須藤晶穂と伊里野加奈の『物語』始まる

>皮肉かもしない。
238創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:57:19 ID:/XQwAY9W
投下乙です。
大河がいちいち可愛いなぁ、なんでだろう?w
そして、トーチ化したのに逆に存在感の増してきたステイルw
可愛いのとかっこいいのが合わさって、よいお話でした。
GJです!
239創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:59:28 ID:f1UOR/mL
投下乙です

そういえばステイル大河より年下だったなw
この二人の掛け合いは面白かったけど、それもいつまで続くのか…
全体的に漂うはかなさが良かったです
240創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 00:59:51 ID:1xInRMhh
乙でした
自分が死んでいるという事に気づかないままのステイルが切なす
ヴィルヘルミナという補給線がある間は、存在はそのままっぽいけど…
大河は大河で、見ていられんなぁ
そしてイリヤの影響が晶穂にまで…一体どうなるやら


こちらも脱字報告
>>201
>一人で生きていかなければならないのかだから。
241創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 01:03:17 ID:OYuev/RZ
投下乙です〜
ステイルは何事もなく到着したか。存在の力を補給してもらったおかげか人間味が増しているように思える
大河も早速復活したことだし、これはインデックスとの邂逅が楽しみなシチュエーションですね


一つ指摘を
晶穂が伊里野のことを忘れかけていますが、晶穂は「『物語』の欠片集めて」でヴィルヘルミナから
『この世の本当のこと』を教えてもらっているはずなんで、伊里野が消えてもその存在は忘れないはずです
242創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 01:19:33 ID:f1UOR/mL
>>241
明確に『この世の本当のこと』を教えてもらっているという描写は無いみたいよ
もちろん教えてもらっている方が流れとしては自然だけど
243創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 01:51:51 ID:OYuev/RZ
>>242
『この世の本当のこと』を知っている=人間以外にもフレイムヘイズや紅世の徒という存在がいる
ということなんで、描写としては「『物語』の欠片集めて」の中だけで十分
あの場に晶穂がいなかったとかなら話は別だが
244創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 01:56:49 ID:MC1JeO9R
投下GJ!
皆の想いが少しずつ交錯していく……神社組は実に丁寧だ。
ステイルは半ばはめられた形だが、これからどう動いていくやら……w
そして、服を満足に着られない大河にうわあああってなった。
そうだよな……義手とは言え、そうなんだよなぁ……。
245創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 00:09:57 ID:HytxEUpM
246「作戦会議」― IN Bennys ― ◇LxH6hCs9JU 代理:2010/06/15(火) 00:21:30 ID:HytxEUpM
 あかね色の空が夕飯のメニューを想起させる、車道沿いのファミリーレストラン。
 専用駐車場に停められている黒白の車は、サイレンの音とパトランプの色を消し、主人たちの会食を守る。
 店先の街灯が灯るまで、あと数時間。舞台となるファミリーレストラン『Bennys』では、三名の来客が席についていた。

「おなかがすきました……」
「これなんてどう? 苦瓜と蝸牛の地獄ラザニアだって」
「メニューを広げるのは構いませんが、コックは不在なようですよ」

 修道服を着た少女と、セーラー服を着た少女と、長い黒髪を持つ妙齢の女性が、店内奥の禁煙席に陣取りくつろいでいる。
 会話からは健在な様子が窺えたが、三人の格好はボロボロで、どうしようもなくグシャグシャだ。
 スカートのプリーツは端が焼け焦げ、長い黒髪には埃が付着している。肌には汗や血の臭いが滲んでもいた。
 店内には彼女たちしかいないが、貸し切り状態であったとしても、あまり飲食店に入るのに好ましい格好とはいえない。
 どこでなにをすれば、こんな風に汚れてしまうのだろうか。
 疑問に思ったところで、これが電撃使いとの苦闘の結果であるという回答を飲み込める者はいないだろう。

「それじゃあ、そのへんのテーブルに残っている食べ残しをもらおうかしら? 一応、腐ってはいないみたいだし」
「あなたの力の応用力には驚かされるところですが、食べ残しをいただくくらいな自分で作る手間を取ります」
「おなかがすきました……」

 セーラー服の少女、朝倉涼子の分析によれば、このファミリーレストランに人が訪れた形跡はない。
 しかしながら、店内のテーブルには食べ残しの料理――『彼女たち以外の客』がいた痕跡が、確かに残されていた。

 緑、白、黄、色とりどりのソフトドリンク。大皿に盛られたチーズとスナック、それにバーベキューソース。
 フォークが墓標のように立つイカスミパスタに、手つかずのまま冷えて固まった地中海風パエリヤ。
 喫煙席のほうまで視野を広げると、すっかり炭酸の抜けた中ジョッキや、吸殻だらけの灰皿まで置いてあった。
 まるでいつかの天守閣みたいな――そう思い至っても、口に出す者はいない。今は、些事よりも食事である。

「意外っ。師匠、料理ができるの?」
「ごはん……」
「こういう店の食材は、冷凍物がお決まりです」

 師匠と呼ばれる、長い黒髪の女性が席を立った。向かう先は厨房である。
 朝倉涼子はおしぼりで手を拭きながら言った。

「よかったわね、浅上さん。師匠がごはんを作ってくれるって」
「はい」

 ぐきゅるるるるるるるるるるるる〜

 返事の後に、あうあう。
 修道服の少女――浅上藤乃のおなかから、空腹を訴える音が鳴った。


 ◇ ◇ ◇


 やがて、朝倉涼子、浅上藤乃、師匠の三人が座るテーブルに、ほとんど解凍しただけの晩餐が並べられた。
 からあげやフライドポテトなどのツマミ系は、元から温めるだけなので簡単だ。見栄えもメニューの写真と遜色ない。
 カニグラタンやコロッケ、トーストなども及第点と言える。が、やはり見劣りするものも幾つかはあるようだ。
 エビピラフはメインであるはずのエビの主張がおとなしく、アンチョビピザはどれがアンチョビかわからない。
 鉄板系はほぼ全滅と言えるだろう。この店の人気メニューらしいハンバーグにいたっては、ソースの色が違っていた。
 サラダ系は作るのが面倒くさかったのか、テーブルにはまったくと言っていいほど緑がない。まるで一人暮らしの男性の食卓だ。
247「作戦会議」― IN Bennys ― ◇LxH6hCs9JU 代理:2010/06/15(火) 00:22:12 ID:HytxEUpM
 それら、用意したのはすべて師匠と呼ばれる女性であるが、いただきますのかけ声もなしに真っ先に食べ始めたのもまた、師匠である。
 食事は取れる内に取っておけ、という心得を同行者二人に実践して教えるがごとく、猛然と目の前の料理を食らう。
 三人の中で一番空腹に苛まれていただろう浅上藤乃は、フォークを握れどなかなか手を伸ばせなかった。師匠の食の迫力のせいである。

「――だからね、私たちに欠けているのはチームワークだと思うのよ」

 極めて事務的な夕食を進めつつ、朝倉涼子が話を切り出した。
 彼女も彼女で、喋りながら箸を止めるということはない。
 聞き手に回る師匠も、テーブルマナーの是非を問う気は毛頭ないらしい。
 浅上藤乃は料理の確保を一旦諦め、ドリンクバーからもらってきた冷たいカルピスをちびちびと飲んでいた。

「利害関係が一致しただけの一時的な関係であるとはいえ、私たちが三人一組のチームであることに変わりはないわ。
 チームで動けばメリットが得られるけど、同時にデメリットも生まれてしまうの。
 私たちの場合、比重としてはデメリットのほうが大きいわね。私たちに必要なのは、そのデメリットを少しでも多く潰す作業。
 デメリットによって生じた隙を潰す、と言い換えたほうがいいかしら。作業っていうのも語弊があるけど、これはそのための会議なの。
 特に、さっきみたいに相手も複数の場合。チームワークで挑んでくる有機生命体は、必ずこちらのチームの弱点を見抜いてくるから厄介なのよね」

 師匠は相槌を返さない。浅上藤乃も、意識は目の前の料理へと移っていた。

「チームである利点を正しく活用したいのよ、私は。ただでさえ、私たち三人はタイプが違うのだし」
「――そう、タイプが違う」

 ソースで汚れた唇が、艶っぽく動いた。
 師匠は、一度おしぼりで口元を拭う。

「世間一般で語られるチーム……私たちの場合はトリオ、いえ、三人一組(スリーマンセル)とでも言いましょうか。
 なんにせよ、私たちの間に広義の意味での『チームワーク』などという言葉は当てはまりません。
 あなたの言うとおり、タイプが違うのだから――これが決定的な答えではありませんか。証明終了です」

 朝倉涼子の先程までの弁舌を、一蹴するかのような師匠の発言。
 もちろん、これにすぐ納得できるほど朝倉涼子も寛容ではない。

「でもね、師匠。それは意地を張っているようにしか聞こえないのよ。協調性って言葉を――」
「一つです」

 食い下がろうとする朝倉涼子の言葉を遮り、師匠は強く断言する。

「銃で死ぬ相手は私が殺し、銃で死なない相手はあなたが殺す。
 私やあなたが殺せない相手は彼女が『曲げて』殺す。
 私たち三人が持ち合わせておくべき作戦など、これ一つで十分です」

 カチャリ――と、スプーンと食器の接触で音が鳴った。
 朝倉涼子と師匠はいつの間にか食べる手を止め、浅上藤乃だけが一人で食べ進めていた。
 もぐもぐ、という健康的な咀嚼音は、すべて彼女のものだろう。

「下手な連携は身を滅ぼします。必要なのは、役割分担とその徹底。先の戦闘でも、私は失敗したとは思っていません」
「役割分担は正しくできていたってこと? 確かにそうかもしれないけれど、結果を見れば――」
「ならばそれは、単純に実力の問題です」
248「作戦会議」― IN Bennys ― ◇LxH6hCs9JU 代理:2010/06/15(火) 00:23:14 ID:HytxEUpM
 理性的に話を進めよう。そう心に決めていた朝倉涼子の顔が、見るからに渋った。

「はっきり言いましょうか。私たちに欠けているものは、チームワークではなく『情報』です。
 あなたたち二人に限って言えば、経験も不足していると断言してよいでしょう。
 特にあなたの能力は、情報あってこそのものでしょう。相手や状況に合わせ、適確に適応化し、応戦のための応用する。
 先の戦闘も……御坂美琴、電撃使いでしたか? もっと早い段階で相手の特性を見極められれば、完全勝利も容易だったはずです」

 朝倉涼子は師匠の指摘に対し、沈黙での肯定を返した。
 浅上藤乃は口に入れたナゲットをよく噛んでから、こくこくとカルピスを飲み干す。

 対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス――パーソナルネーム『朝倉涼子』。
 彼女の強みは師匠が指摘するとおり、『情報』にこそある。
 人、場、あるいは個、空間に存在するありとあらゆる情報を操作し、結合し、連結し、凍結し、ときには書き換え、状況を有利に動かす力――。
 有機生命体の言語では到底説明しきれないであろう朝倉涼子の真価にして真骨頂を、師匠はよく見抜いていると言えた。
 いわば、朝倉涼子の能力とは完璧なまでの『応用力』――それを最大限に発揮するためには、人を、場を、そして個を、よく知ることが重要だ。

 浅上藤乃が席を立つ。からになったグラスを持って、とてとてとドリンクバーのスペースに歩いていく。
 朝倉涼子は嘆息の後、言った。

「完全勝利も容易、か……零点だった私も、いつの間にか高く評価されたものね」
「あなたの他にも、ああいった存在がいる。ああいった存在に、あなたは拮抗しうる。事実を鑑みての再評価です」
「ありがとう、と一応言っておくことにするわ。それからごめんなさい。師匠は師匠で、ちゃんと考えてくれているのよね」
「もう一方的にあなたを殴り続けるという手間はごめんですからね」

 一方的? 師匠、それは記憶障害よ――と朝倉涼子は言いかけて、寸前でやめた。
 グラスにオレンジジュースをついできた浅上藤乃が、また席に着く。

「でも、情報かあ。競争相手の知識なんて、情報統合思念体からダウンロードできる環境なら一発なのになあ」
「今はアクセスできない環境なのでしょう。なら、自ら諜報活動に専念するしか道はありません。敵を知り、己を鍛えるのです」
「温泉のときみたいに、他の有機生命体と接触を持てということ? 理には適っているけど、師匠らしからぬ提案ね」
「いえ、そうではありません。今後は、標的に対した場合はまず半殺しにし、情報を搾り取れるだけ搾り取ってから殺すことにします」
「やっぱり師匠は師匠だったわ」

 浅上藤乃は気品ある物腰で、優雅に口元を拭っている。さすがはお嬢様学校の出身。
 師匠が用意した食事はまだ二割ほど残されていたが、既に三人は食べることをやめ、作戦会議に没頭していた。

「全体で見れば、あなたや御坂美琴のような人間はやはり少数でしょう」
「少数でしょうね。ほとんどは銃で死ぬ、師匠が殺せる生命体ばかりだわ」
「心得るべきは、その見極めですね。接敵の際は注意力を、そして観察力を働かせるようにしなさい」
「見極めたら、適材適所。メインとバックアップに分かれるといったところかしら」
「連携と呼ぶにはずさんですが、これが私とあなたの最適解です。理解はできるでしょう?」
「そうね。さすが師匠だわ。あなたと一緒なら負ける気がしない――なんて、そういう慢心が身を滅ぼすのよね」
「そのとおりです」

 やがて――こっくり、こっくり、と。浅上藤乃が舟を漕ぎ始めた。
 師匠と朝倉涼子の二人が、揃って黙る。視線はお互い、浅上藤乃の今は無垢な顔にいった。
 あどけなさの残る、疲れ切った表情。まぶたは、とろん。ほとんど落ちかけ、やがて頭を垂れるようにして。
249「作戦会議」― IN Bennys ― ◇LxH6hCs9JU 代理:2010/06/15(火) 00:24:00 ID:HytxEUpM
「…………すー」

 浅上藤乃は眠りに落ちた。
 朝倉涼子は苦笑する。

「あらあら、寝ちゃったわ。彼女、湊啓太に電話することをすっかり忘れているみたい」
「忘れているのなら好都合です。現状、湊啓太とコンタクトを取ることに利点はありませんから」
「それもそうね。ところで、師匠」

 朝倉涼子は浅上藤乃の身体をそっと横にしてやり、声を潜めて師匠に喋りかけた。

「師匠って、自分の分だけじゃなく私たちの分の食事まで用意してくれるほど面倒見がよかったかしら?」
「もののついでです。くだらないことを言わないでください」

 師匠は口に残ったソースの味を、水で流し落とす。
 テーブルの上の散らかった惨状を目にし、しかし片づけようという気は毛頭ないようだ。

「食べてすぐ寝ちゃうだなんて、浅上さんも行儀が悪いわよね。それとも、それだけ疲れていたってことかな」
「なにが言いたいんですか?」
「一服盛ったんじゃない?」

 コトン、と師匠がやや強めにグラスを置いた。
 朝倉涼子は薄ら笑っている。口の端を緩やかな三日月にし、瞳をぱっちりと開いた、優等生のポーズだ。

「私が、浅上藤乃の料理に睡眠薬を混入したと?」
「睡眠薬とは限らないわね。睡眠作用のある薬なら……そうね。スタッフルームを探せば、風邪薬くらいは普通にあるでしょうし」
「そんな暇がいつあったというのですか」
「師匠、料理を作るって言ってずっと奥に引っ込んだままだったじゃない。その間、私たち二人は師匠の行動に関与していないわ」
「そうかもしれませんね」

 師匠はまたグラスを持ち上げようとして、すぐに置いた。
 グラスの中は、既に空になっていたから。

「初めて立ち寄った建物で、師匠が家探しをしない理由もないものね。金庫くらいは見つかったのかしら?」
「貨幣や紙幣は国によって様々です。いただくならどこでも売り捌ける物品が好ましいのですが、そう上手くはいきません」
「まあ、ただのファミレスじゃあね。でもここに立ち寄ったのは、そもそも金品目当てじゃないでしょう?」
「なにが目当てだったと言いたいのですか」
「休むことが目的でしょう?」

 朝倉涼子は手の平を広げ、あっけらかんと言った。

「この椅子取りゲームが始まって、そろそろ十八時間。師匠だって人間だものね。疲労はごまかせないはずよ。私だってそうだもの」
「……私個人の疲労と、浅上藤乃を眠らせたことと、どう関係があると?」

 師匠の返事。その『種類』を鑑みて、朝倉涼子は、クスリ。声に出して笑った。

「結論から言ってしまえば、『湊啓太への連絡』という手間を省きたかったんじゃないかしら。
 浅上藤乃を今後も武器として使っていくのなら、湊啓太の存在ははっきり言って邪魔でしかない。
 私たちにとっては一文の得にもならない復讐なんだし、そのために時間を浪費するのはナンセンスよね。
 じゃあどうすればいいのか。答えは単純。疲れている子には、眠っていてもらいましょ。それだけのことよ」
250「作戦会議」― IN Bennys ― ◇LxH6hCs9JU 代理:2010/06/15(火) 00:25:08 ID:HytxEUpM
ちらりと、二人の視線が横たわる浅上藤乃の寝顔にいった。
 彼女は人間だ。人間で、普通の女子高生だ。経験豊富な旅人でもなければ、ましてや宇宙人でもない。

「もともと疲れていたんですもの。一時でも気が緩んでしまえば、朝までぐっすりよ。いざというときには、叩き起こせばいいんだしね」
「……テーブルに並べられた料理には、私やあなたも手をつけています。そのことについてはどう説明しますか?」
「師匠、大げさなくらいがっついていたわよね。浅上さん、すぐ近くの料理にしか手をつけられなかったみたい」
「意図的に、私が彼女のペースに掌握したと」
「私はそもそも、おクスリとか効かないしね」
「なるほど。しかし、私の疲労との関連性が皆無です」
「浅上さんが眠ってしまったんじゃ、私たちも休まざるをえないわ。なにしろ、チームなのだから」

 師匠はきっと、朝倉涼子に対して弱みを見せまいとしたのだろう。
 浅上藤乃への対応、もとい小細工は、要するに大義名分なのだ。
 経験豊富な旅人とはいえ、彼女も人間。人間は、疲れる生き物だから。

「……湊啓太の件については、あなたが適当に話をでっちあげておきなさい。今後、浅上藤乃を動かしやすいようにね」
「了解したわ。師匠はどうするの?」
「奥に従業員用の休憩室がありますので、そこで休ませてもらいます」
「あら、私が寝込みを襲うかもしれないわよ?」
「私が寝込みを襲われるような女だと思いますか?」
「……表のパトカー、回収しておくわ。安眠を邪魔されたくはないし」
「放送の記録もしっかり取っておくように」

 朝倉涼子の『探り』に対する答えを、自ら口にすることはなかった。
 師匠は店の奥に、朝倉涼子は店の表に、それぞれ分かれ、各自やるべき仕事をこなす。

 彼女たちはなにより、効率を重んじる。そんな彼女たちだからこそ、功を焦る愚は犯さない。
 休息は必要だ。食事は明日の勝率を上げ、睡眠は明日の生存率を高める。
 それに、休息は――『情報』を纏め上げる絶好の機会でもある。


 ◇ ◇ ◇


「杞憂よ、師匠」

 朝倉涼子はガラス張りの扉を開け、店の表玄関に出る。そこで、一声。

「これは教えてあげられないけれど――このゲームに、『湊啓太』なんて人物は存在しないわ」

 空に残した呟きを耳に入れる者は、いない。
 朝倉涼子の行動は、人間でいうところの『ひとりごと』に該当する。
 そこに、どんな意味が込められていようとも――ひとりごとは、ひとりごとだ。

「だから、つまり、正解はね。浅上さんの勘違いだったのよ」

 態度から見て、浅上藤乃が嘘をついているとも思えない。嘘をつく理由も考えられない。
 ならば、正答はそれ一本に絞れる。彼女が通話したという湊啓太は、湊啓太ではなかった――ということ。

 朝倉涼子は知っている。正確には、今しがた知った。
 この世界に、いやこの物語に、『湊啓太』という登場人物は存在しない。
 名簿外の十人、その内の生き残りと判断できる四人の中にも、いない。
 検索し、照合したから、絶対にいないと言い切れる。
251「作戦会議」― IN Bennys ― ◇LxH6hCs9JU 代理:2010/06/15(火) 00:26:50 ID:HytxEUpM
 だって――長門有希の情報の中には、きっちり『湊啓太を含まない六十人の名前』しか記録されていなかったのだから。

「まあ、湊啓太という名前が偽名、もしくは浅上さんの覚え違いという可能性も、捨て切れないけれどね」

 さすがにそこまでは面倒見切れない。求めているのは楽観なのだから、ここは安易に楽観することにしよう。
 湊啓太はこの地にはいない。つまり、もう三日も持たないであろう浅上藤乃の復讐は、叶わないということだ。
 ご愁傷さま、と心には思えど、実際にねぎらいの言葉をかけることはありえない――朝倉涼子は、一人笑みを作る。

「島田美波。如月左衛門。紫木一姫。それに“狩人”フリアグネ。引き出せた名前はこの四つね」

 停車中のパトカーをデイパックに収納するという、案外の力作業を行いながら考える。
 警察署で得た、長門有希の持つ情報。正しくは、長門有希の中に詰まっていた情報。
 それをゆっくりと、時間をかけて消化・吸収していく中で、朝倉涼子はまだ見ぬ競争相手たちの名前を知った。
 といっても、名前だけだ。顔も、性別も、人間か非人間かもわかったものではない。

「名前が載っていなかった十人について、長門さんは最初から知っていたということなのかな?」

 朝倉涼子は仮定するが、その謎は現段階では解明できない。真実を情報として抽出するためには、さらなる時間が必要だった。
 今のところは、名前がわからなかった四人の存在確認と、湊啓太という名を持つ少年の不在確認だけ。
 あるいは、師匠と浅上藤乃が目覚め、再び動き出す頃には――新たな『結果』が、朝倉涼子の頭に下りてきているかもしれないが。

「なんにせよ、師匠が寝てくれているのなら好都合だわ。『湊啓太として電話を受けた誰かさん』とも、お話しておきたいし――」

 携帯電話の番号は、既に浅上藤乃から聞いている。店内に電話があることも確認済みだ。
 自身の弱さは情報量の少なさにあると考える朝倉涼子、だからこそ――交友関係は広く持たないといけない。

「友達を作らないと、孤立しちゃうしね。それは学校でも、急進派でも同じ。コミュニティは築いておきたいものだわ」

 あらたかの作業を終え、朝倉涼子はまた店内へと足を踏み入れる。
 時刻は午後六時に近づき、店頭の照明はいつの間にか灯っていた。



【E-3/車道沿い・ファミリーレストラン『Bennys』/一日目・昼(放送直前)】
252「作戦会議」― IN Bennys ― ◇LxH6hCs9JU 代理:2010/06/15(火) 00:27:30 ID:HytxEUpM
【師匠@キノの旅】
[状態]:健康、睡眠中
[装備]:FN P90(35/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x17)@現実、両儀式のナイフ@空の境界、ガソリン入りペットボトルx3
[道具]:デイパック、基本支給品、医療品、パトカーx3(-燃料x1)@現実
      金の延棒x5本@現実、千両箱x5@現地調達、掛け軸@現地調達
[思考・状況]
 基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。
 0:寝る。
 1:朝倉涼子を利用する。
 2:浅上藤乃を同行させることを一応承認。ただし、必要なら処分も考える。よりよい武器が手に入ったら殺す?


【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労(中)、長門有希の情報を消化中
[装備]:なし
[道具]:デイパック×4、基本支給品×4(−水×1)、軍用サイドカー@現実、人別帖@甲賀忍法帖
      シズの刀@キノの旅、蓑念鬼の棒@甲賀忍法帖、フライパン@現実、ウエディングドレス
      アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣、金の延棒x5本@現実、パトカー@現地調達
[思考・状況]
 基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する(?)。
 1:長門有希の中にあった謎を解明する。
 2:放送後にでも、電話を使って湊啓太(と藤乃が思い込んでいる誰か)に連絡を取ってみる。
 3:師匠を利用する。
 4:SOS料に見合った何かを探す。
 5:浅上藤乃を利用する。表向きは湊啓太の捜索に協力するが、利用価値がある内は見つからないほうが好ましい。
[備考]
 登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。
 銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。
 長門有希(消失)の情報に触れたため混乱しています。また、その情報の中に人類最悪の姿があったのを確認しています。
 長門有希(消失)の保有していた情報から、ゲームに参加している60人の本名を引き出しました。


【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:無痛症状態、腹部の痛み消失、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本:湊啓太への復讐を。
 0:……すやすや。
 1:電話があればまた電話したい。
 2:朝倉涼子と師匠の二人に協力し、湊啓太への復讐を果たす。
 3:他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。
 4:後のことは復讐を終えたそのときに。
[備考]
 腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。朝倉涼子の見立てでは、3日間は持ちません。
 「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。
 「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。(最後の対決のほぼ2日前)
 湊啓太がこの会場内にいると確信しました。
 そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。
 警察署内で会場の地図を確認しました。ある程度の施設の配置を知りました。
253「作戦会議」― IN Bennys ― ◇LxH6hCs9JU 代理:2010/06/15(火) 00:28:11 ID:HytxEUpM
以上代理投下終了しました
254創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 00:51:09 ID:R+6ehAEe
投下、代理投下乙〜

>disappear/oblivion
ステイル、丸め込まれたw まあトーチだしなあ
なんかステイルと大河という組み合わせが意外かつ美味しい。
そうだよな、大河は恋愛を中心に据えた物語での主人公の片割れだもんな……w
その一方で晶穂のブレかたが……!
丁寧でよい繋ぎでした。GJ

>「作戦会議」― IN Bennys ―
こいつらは相変わらず、功利的で殺る気マンマンなのに妙に和みますなw
3人チームと言いつつ、藤乃を蚊帳の外に平気で置いちゃう2人が素敵w
そして着々と長門の情報を取り込んでいく朝倉涼子……しかも電話かける気だと!?w
この先が気になって仕方なくなる、上手い「溜め」を魅せてくれたお話でした。GJ
255創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 23:46:10 ID:0PURhsgz
投下乙ですー。
なんか藤乃が可愛いぞw
朝倉も長門の情報から10人の名前を知ったし……恐ろしいw
次は電話するみたいだけど、どうなるかな?
次楽しみです。GJでした
256創る名無しに見る名無し:2010/06/15(火) 23:52:08 ID:m5Es4TuD
投下乙です

ぶっそうなのに妙に和むというか…w
朝倉も面白いことするしどうなるやらw
257創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 20:44:40 ID:/z2/3FnK
ところで書き手が伸ばしたいパートが無ければそろそろ放送?
258創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 21:11:51 ID:tF/LinoG
南の方、放送直後から動いてないんだぜ
259創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 23:13:57 ID:OAk5wqgV
温泉に向かってる上条・姫路組、いーちゃん・ハルヒ組、温泉でだべってるあーみん・かなめ組は必須
忍者と姫ちゃんは診療所に誰も近づかない限り必須でもないと思う
260創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 05:13:13 ID:StLkRUM1
今のうちに作品人気投票に備えて大体の順番決めておくわw
261創る名無しに見る名無し:2010/06/29(火) 21:23:31 ID:I699wCJf
南の方何でこんなに人気がないんだろう?
動かしにくいのか?
262創る名無しに見る名無し:2010/06/30(水) 00:24:43 ID:k1+rA9VQ
単純に集合だし難しい
263創る名無しに見る名無し:2010/06/30(水) 03:31:18 ID:wzBWxkoQ
自己リレーで書けない人多数だと思われ
264創る名無しに見る名無し:2010/06/30(水) 21:16:27 ID:nCrEBbNd
あんまり時期が空くのなら自己リレーおkでもいいと思うぞ
265創る名無しに見る名無し:2010/07/01(木) 15:23:30 ID:BGFNVg7/
とかいってたら予約二つも入ってるw
どっちも楽しみだなぁ
266創る名無しに見る名無し:2010/07/01(木) 16:36:09 ID:UoVW+6bs
大人数だな
無論、全員が急に集結するとは限らんがどうなるやら
267創る名無しに見る名無し:2010/07/01(木) 18:45:47 ID:iQNa+MRY
朝倉さんと同じ制服+朝倉さんと同じような髪型×2
穏やかにすむだろうか?
268創る名無しに見る名無し:2010/07/01(木) 22:46:58 ID:BGFNVg7/
俺が興味があるのはむしろ上条さんVSいーちゃんかな
269創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 03:15:58 ID:0dnQpFHb
270 ◆MjBTB/MO3I :2010/07/08(木) 23:53:39 ID:z7aks9Wx
大変お待たせいたしました。
予約期間も投下宣言も守れませんでしたが、投下させていただきます。
271Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/08(木) 23:55:57 ID:z7aks9Wx
百貨店近くの路地裏にて。
白井黒子は、遂に逃走中のティーと対面する事が出来た。
何故ここに来て路地裏なのかという理由は、別に長く語るほどのことではない。
黒子がティーの名前を呼んだ瞬間、撒くつもりだったのか路地裏に入っていったからというだけの事だ。
逃げる相手を追いかけたら、自然と追い詰めた場所が路地裏だっただけの話。
追跡中に予測したルートから見るに、恐らくはこの抜け道を経て百貨店に向かうつもりだったのだろう。
だがそんな追いかけっこも、もう終わりだ。それを告げる意味も含め、黒子はティーの名を改めて呼んだ。

「ティー」
「……」

しかし返事は無い。
無視されたのだ。

「戻りますわよ」
「……」
「ティー!」

呆けたように、ある方角へと視線を移したまま、無言。
まるで言葉が通じていないか聞こえていないか、そのどちらかかと見紛う様子だった。

「ティー……いい加減になさい!」

無視。どんなに話しかけても、無視。
あまりの無法ぶりに、黒子の声もつい荒いものになってしまう。
だがそれでもティーは黒子の目の前で立ち止まったまま、ある一点を見続けるだけだ。
あまりにも頑固であると言うほか無いティーのその姿に倣い、彼女が見ている方向へと自身の視線を移してみる。
視線の先には、遺体が一つ。正体はクルツから聞いている。勿論、そこで起こった出来事だって把握している。
遺体の名はシズで、ティーの大切な人。ティーに後追いをさせる程――幸運にも未遂だったが――の相手。
そんな"人だったモノ"が、視線の先にある。
272Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/08(木) 23:56:44 ID:z7aks9Wx
なるほど。やはりそういうことか。

そんな男の死体が近くにあって、おまけに怪しすぎる建物まであって。
挙句の果てにティーは彼の遺体だけを眺め続けている、そんな現状。
黒子は、こうしてティーを確保するその瞬間まで、この少女が逃げた理由を考えていた。
いくつか説は挙がっていた。その上で、最も可能性が高いものも割り出していた。
同時に、その最も高確率だった説が当たっている事を、黒子は望んでいなかった。
けれどこの状況を俯瞰すれば、もう確定だ。その説は、当たってしまっていた。

「……結局、復讐ですのね?」
「……!」

復讐。それが、黒子の導き出した予測だ。
それを言葉にした瞬間、ティーの体が正解を告げるかのように一瞬ぴくりと動く。
そして一度こちらを見て、また遺体へと視線を戻した。
先ほどと同じ様な風景。だが一つだけ違う要素がある。

「もういちど、あのひとをみてから、かんがえようとおもってた」

ティーが、語りだしたのだ。
まるでサスペンスドラマでよくある、追い詰められた犯人の様に。
二重の意味で崖っぷちの、あの犯人達の様に。
彼女の言葉が、作られていく。

「いきろっていわれた。でも、どうするべきかわからなくなった」
「どうするべき、とは?」
「"どうやっていきればいいか"が、わからない」

視線は、遺体に向いたままだ。
だが理由が解った今ならば、もうそれでも構わない。
黒子はティーを刺激しないように務めながら、会話を促していく。

「だから、もういちどあのひとをみれば、あのひとをみれば、どうすればいいかわかるとおもった」
「……それで? つまり?」
「それで、いまきめた。つまりそういうこと」
「……そうですか」
「そう。やっぱりわたしは、こうするしかないとおもった」
273Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/08(木) 23:57:58 ID:z7aks9Wx
ティーの想いが、少しずつ言葉になっていく。

「たぶん、あのおおきなたてものがあやしい」
「百貨店ですわね」
「ひゃっかてん。あそこに、いまからいく」
「敵討ちですか? あそこに目標がいない場合もありますが、どうするつもりですの?」
「いなかったら、これからさがす」
「……そうですか、わかりました。ではもうここまでです」

しかし、ここまでだ。もう十分。ティーが何をどう考えているのかは今ここで全て晒された。
ならばもういい。これ以上は聞いていられないし、聞く時間も無い。
こちらは一刻も早くティーを連れ帰り、飛行場で今後について考えなければならないのだ。
ティーには申し訳ないが、ここで自白の時間は終了。無理矢理にでも飛行場へと帰港してもらう。

さぁ、テレポートの時間だ。言い訳は後でする。もう一度クルツ達を含めて、対話をするそのときにだ。
黒子は自身のその能力でここから退散するため、ティーの腕を掴もうと動く。

「猫の主観での話になる可能性が高いと考え、敢えて発言は慎んだのだが」

そのときである。貫禄のある声が響いたのは。

「しかし言わせて貰わねばなるまい……突然で申し訳ないが、"キミは些か、不平等ではないかね"?」

声を発したのは、もはやお馴染みの三毛猫だった。
名はシャミセン。性別はまさかまさかの雄。ティーと共に行動する支給品である。
いや、そんな紹介はどうでもいい。猫が喋ること自体にももう慣れきってしまった。だから問題はそこではないのだ。
"不平等"。そう、突如このシャミセンという猫はよりにもよってそんな言葉を口にしたのだ。なんだか、腹が立った。

「……あなた、今の状況をわかってらっしゃるの? 危険ですのよ!
 彼女は突如風紀を乱した挙句、孤独な道を選んだ! ならば力ずくでも止めるのが筋でしょう!?」
「確かに現状、明らかに危険な選択であるとこちらも思わざるを得ないのが正直な感想だ。
 更にティーが私を連れ出している事から考えるに、私もこの危うい旅路に巻き込まれるのであろう。
 しかしだ、だがそれでも私は彼女を止めようとは思わない。だからと言って煽動するつもりもない。
 激流に身を任せ同化する様に、あるがままを受け入れようと思うのだ。それは一体何故だと思うかね?」
「はぁ?」
「理由は一つ。私が猫だからだ」
「…………はあぁ!?」

相変わらず、突拍子の無い語りをする猫だ。来世はきっと立派な衒学家になってくれるであろう。
しかし彼はどうしろというのか。シャミセンの言葉はまだ何の答えにもなっていないどころか、状況を理解しているとは思えない。
自分が危険な状況に立たされているというのに、それに文句の一つも言わないつもりとはどういう事か。
彼は散々猫と人間とは考え方が違うとは言ってはいたが、命が大事なのはどんな生き物でも一緒ではないのか。
わからない。この猫が何を考えているのかがわからない。まさか悟りの境地にでも到っているのか。

「猫であることに、何の関係が……! 前置きなど構いません! あなたは何故私を止めようと……!」
「猫であるからこそ、違う種族である人間のことは俯瞰出来ると言うことだ。
 君達が動物の観察をするように、君達が植物の観察をするように、だ。違うかね?
 ではそれを踏まえ、ティーに対する君の不公平さを説明する取っ掛かりとなる質問を放とう。
 質問はたった一つだ。そう、たった一つ。だがそれがもっとも重要だと私は思う。
 故にどうかこの猫が放つずるい質問を、全力で受け取って欲しい。そして全力で答えを導いてもらいたい」

そして、我慢しきれなくなった黒子が場所も弁えずに叫ぼうとする姿にも動じず、シャミセンは言う。

「キミが彼女の立場ならば、キミはどうするかね?」

熱く煮えたぎっていた黒子の心に、シャミセンのこの一言が氷の針となって突き刺さった。
274創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 23:58:35 ID:o6S160P7
275Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/08(木) 23:59:18 ID:z7aks9Wx
「な……っ! わ、私は……」
「恐らく、考えたくは無かっただろう。同情はする……しかし謝罪はしない。
 同時に、ずるい質問であるといった手前だ。答えを急かそうと言うつもりも毛頭ない。
 難しい問題なのは解る。ゆっくりと考えてくれても構わない……と言いたいが、ティーは待ってはくれないだろう。
 ならば、だ。ならば今は、これに瞬時に答えられないようであれば、彼女を止める筋合いは一向にないと思われる」
「そんなことは……!」
「キミも人の子だ。恐らく全てを見ずに流す事など出来はしないだろう。
 キミの大事な人間に関連した行動を重視するはずだ。そしてティーは今、そうしているのだ。
 この行動を止めるためにはある種、自身が無欲でなければならないように思える。さて、キミには止められるかね?
 因みに私にはとても出来そうに無い。私も私の身内が死んでしまったならば、感情が動かざるを得ない"たち"であるからだ」

黒子は歯噛みせざるを得なかった。
常々"猫と人間の違い"を強調していたにもかかわらず、ずるい質問を投げかけてきたシャミセンの存在が憎く思えてしまったのだ。
確かに自分は、感情に流される部分もある。冷静沈着を気取っているが、"お姉様"に何かあればすぐに感情が出てしまう。
風紀委員(ジャッジメント)として、プロ集団の一員としての自分を崩さずに仕事をこなしてきた日々。
そんな積み重ねがあろうとも、自分の大切なものに牙が向けられれば、自分はどうなってしまうだろうか。
"脱ぎ女"の噂で平静を保てなくなった時の、あの醜態を思い出す。

「し、しかし私も優先すべき事くらいは理解して……!」
「そもそもキミはあの、黒桐鮮花といったか……彼女を結局は止めなかったはずだ」

しかもシャミセンの武器はそれだけではなかった。
黒桐鮮花。死んだ兄の敵討ちを目標としている同行者。
その彼女の行動を放置しているという事実を、この猫は突いてきたのだ。

「黒桐鮮花の問題は良しとし、現状ではティーに対しては否定を突きつける。これが不公平でなければ、何が不公平か。
 ……勿論私は人間ではなく猫であるからして、この見解には一部誤りが見られるやもしれない。
 だが各々、誰かが誰かの言葉を全否定するならば、それなりに何かを考えねばならぬというのは同じだ。
 我々猫にも派閥争いや「縄張りの争いなどで相手と闘う時はある。そしてそれは相手を否定する事から始まるケースも多々存在する。
 白井黒子よ、キミは今ティーの縄張りの目の前で、彼女がそれなりの理由で起こそうとする行動を眺め、止めようとしている。
 ならば質問にはどう答える? 答えぬならばそれまでだと、私はそう思う。私はそう思い続けている。私はそう信じている。
 ちなみにこれはティーの擁護の為の発言ではなく、私自身も彼女を止められる理由と理論を持たぬからこそだ、と改めて表明をしておこう」

それこそが彼の口にした"不公平"の正体だった。
確かにそうだ。黒桐鮮花とティーの考えに、どれだけの差異があるというのか。
黒桐鮮花は力を持ち、ティーは力を持っていないから?
違う。前者が能力を持っていたとしても、彼女は銃に拘っている。そしてその銃の腕は素人だ。
後者は能力を持っていない無能力者といえるが、逆に銃器の扱いを心得ているのだ。
思いの強さが違う。いや、そんなことはない。両者は同じだ。こんなものは時間になど左右されはしない。
ああそうだ人種が違う。いや、だからどうした。肌の色が違っているのは事実だが、だから何?

「少し苛めすぎただろうか。もしもそうならば申し訳ない……ならば白井黒子よ。一つ例え話をしよう」

黒子が必死に思考を組み立てている間に、シャミセンの言葉が続けられる。

「ティーの今の思いは、例えるならば松明の炎だ」
「松明……」
「そう、松明だ。それは強く燃え続け、生じる熱のおかげで簡単に触る事が出来ない」

ティーとは違い、シャミセンの瞳は射抜くようにこちらに向けられている。
使い古された言葉であるが、それはまるで美しい宝石のようで、見ていて吸い込まれてしまいそうだ。
だがその魔性の瞳には、意思がしっかりと込められている。

「そして君は、言わばその炎を消そうとする一陣の風だ」
「……洒落たものですわね」
「そう言われたのは初めてだ……さて、確かに風は炎をかき消す事は出来よう。
 だが中途半端な強さでは、逆に炎を燃え上がらせる結果となるのは明白だろう」

猫が随分と面白い例えを持ち出してきたものだと感心しかけるが、それは平時であったらの話。
正直、今は笑えたものではない。
276Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:00:26 ID:z7aks9Wx
「ではもう一度訊こう。君の風は、松明の炎を消す事が出来るほどに強いだろうか? ぶつかって直、競り勝てるだろうか?
 黒桐鮮花の件を別物とし、そしてなおかつ彼女を止めると言うならば……それには相応の風力が必要になると見受けられるがね」

炎を消し去るためには、吹き荒ぶ風にならなくてはならない。
巨人が泣いているかのような声を伴う荒々しい風にならなくては、ただの燃料と同義である。

「私は……」

白井黒子の導き出した結論は、如何に。


       ◇       ◇       ◇


「いない……どこか奥にでも入り込まれたかもしれない」
「参ったものだ……あの遺体も含めて、の話だが」

一方変わってシャナと美波、そしてアラストール。
彼女達は、結局あの謎の少女を追いかけて百貨店の近くにまでたどり着いていた。
現在はその巨大な建物の上空で静止。上空から俯瞰している状態である。
だが辺りは発展している事もあってか背の高い建物も多く見られ、全てを見通すのは少々骨が折れた。
これはどうももっと深く探索しなくては、という結論を出し、百貨店近くを鳶の様にぐるぐると飛行するシャナ。
だがそんなときに限って、外に遺体が一つことに気付いてしまう。見知った背格好でも顔でもないことから、どうも知り合いではない。
ついでに、誰にどうやられたかも不明。だが恐らく百貨店で何かあったのだろうとは簡単に予測出来た。

「検死でもするべきかもしれんな」
「うん。さっきの人間に関係あるかもしれないし……じゃあ、高度を下げる」
「えっと、こういうときなんていうんだっけ……"Kuwabara, Kuwabara."……だっけ?」

"まさかあの少女が殺したのだろうか"、という説までもを浮かべつつ、シャナはゆっくりと降下を開始した。
島田美波を吊ったままの状態であるため、その速度は遅い。この場に落下傘部隊が同席していたら、全員に先を越されていくだろう。
通学路を徐行する車の様な速度を保っている今は隙だらけ極まりないため、辺りを注視し警戒を怠らないのも忘れずに。

「ん?」

その判断は正解だったのだろう。今度は百貨店の屋上で何者かが歩いている姿が目に入った。
仲良く一列に設置された何台かの自動販売機の前を、ゆらりゆらりと横切っている。
性別は先ほど発見した遺体とは違い、女性だった。そしてその右手には大きな鋏がある。
力なく動くさまは、どこか夢遊病に苛まれる人間のようにも見える。
こんなときに次から次へと、と悪態をつきかけたとき、ふと目が合った。

「いや、違う……!」
「ぬぅ! シャナよ、あれは!」
「え、何?」

だがその謎の人物の顔を見て、シャナ達は自身の間違いに気付いた。
女性の顔には生気が無いとは思っていたが、それは当然のこと。
何故なら"彼女"はいわゆる有機生命体ではなく、無機物だったからだ。
人形。否、あれはマネキンだ。女性型のマネキンが、勝手に動いている。
更に言えばもっと違う。あれはただのマネキンではない。ましてや怪奇現象でも、都市伝説でもない。

「燐子か!」
「どうしてこんな所に……まさか!」
「だから何!? やばいの!?」
277創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:01:42 ID:o6S160P7
278創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:02:27 ID:FJsHX/9M
 
279創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:03:28 ID:FJsHX/9M
  
280Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:04:10 ID:z7aks9Wx
何の変哲も無いマネキンの、特に機能が備わっているわけではない作り物の瞳が、こちらを完全に捉える。
その瞬間、シャナの体の隅々にまで急激な怖気や悪寒が巡りに巡った。額に脂汗が滲み、全身に鳥肌が立つ。

「……ッ!」

襲い掛かってきたのは、尋常ではない密度の殺気だった。
ただの一個の燐子とは思えない。むしろ弱い部類であるはずの固体としては異常過ぎる。
シャナは目を見開いたまま動きを止めてしまうが、同時にその脳裏にとある“王”が浮かび上がった。
その王は雪の様に白いスーツを着た優男。衣服と同じくらい白い炎を纏い、様々な宝具でシャナを追い詰めた実力を持っていた。
近代では五指に数えられる強大な“紅世の王”であり、フレイムヘイズ殺しの異名で恐れられていた圧倒的強者。

愛に生き、愛に殉じた彼の名は、フリアグネという。

そう、シャナは彼の強大な力を燐子越しにも関わらず敏感に感じ取ってしまったのだ。
フリアグネの殺気が襲い掛かる。ビリビリとした重圧の激しさは全く笑えない。
燐子越しであるにも関わらず、彼の鋭い眼光に捉えられたときのようなプレッシャーを覚える。
凶悪な槍に体ごと心を射抜かれたかの様な感覚に苛まれ、体は止まったままだ。
明らかに、隙だらけ。

「「シャナ!」」

アラストールと美波の声でふと我に帰る。見ればあの燐子が、槍投げの要領で大きな鋏を投げつけてきた。
直線的な動きに何とか対応し、持ち手の部分をキャッチするシャナ。すぐさまお返しとばかりに相手に投げつける。
鋏は狙い通りの機動を描いて燐子の頭部に命中。相手は沈黙し、それ以上動く事は無かった。
過多と言っても良かった殺気とは裏腹に、あまりにもあっけない最期である。

「弱い……」
「うむ、恐らくはあの人類最悪が口にした"淡水と海水"の範疇であると言う事かもしれん」
「ね、ねぇ? で、結局なんだったの!?」
「でもあの殺気は間違いなく……!」
「うむ、あの狩人と見て間違いないだろう……それは我も同意見だ」
「ねぇちょっと、だから一体何!? さっきのは何なの!?」
「島田美波もいるし一旦引くわ! 元来た道を戻るのが最良と思うけど、どう?」
「上策だ。奴に見つかっている可能性もあるが、一度体勢を立て直すぞシャナよ」
「おーい」
「「後で説明はする」」
「……Jawohl(了解)」

一般人を伴った状態では、強敵の根城の近くになど長居は無用。結局彼女らは、来た道を戻る事となった。
再び高度を上げるとそのまま空中で機動を変え、その場から飛び去っていく。
追跡していた対象の少女のことは諦めざるを得なかったのは、実に惜しかったのだが。
北へ、北へ、北へ。島田美波との"まるで拷問スタイル"な飛行も、もはや慣れたものだ。

「ん……?」

何度羽ばたいた頃だろう。地上をふと見下ろしたとき、南下している二名の人間を目撃した。
しかもただの二人組ではない。その内一人はまさかのトーチである。
二人は自転車に乗っている。川沿いに進んでいる様で、百貨店に立ち寄る気配は無い。
そうして相手の行き先を目で追って確認しているうちに二人はどこかへ消えてしまった。
保護しようと思ったのだが、判断ミスによる失敗である。

「あの女のほうはトーチだったわ。しかも、もう後しばらくしない内に消えそうね」
「またトーチか……ねぇシャナ、男の子の方は普通だった?」
「うん。ただの人間だったけど……それが逆に、不可解」
「逆に普通すぎたな。そればかりか、怪我を負ってはいるものの致命的ではない」

三人は、突如現れた彼らがどんなストーリーを進んできたのかを考える。
281創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:04:13 ID:lZKHnKgh
 
282創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:05:13 ID:GMLxyu7m
 
283創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:05:29 ID:s3QdCimD
284創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:05:32 ID:FJsHX/9M
 
285創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:06:13 ID:GMLxyu7m
 
286創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:06:38 ID:zTOU2tFJ
 
287Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:08:12 ID:Irtxw7OV
「向こうから逃げてきたのかな? 怖い人がいたとか」
「雰囲気は和やかだったみたいだし、そういうのじゃあないと思う」

美波の問いを否定。
確かに他にも強大な王がいるのかとも考えられたが、恐らくはハズレだろう。
もしも正解だとしても、片方がトーチとはいえ生身の人間の方が無事と言うのは、どうにもおかしいのだ。

「彼らが向かっていた逆の方角へ進めば何かわかるかもしれん。
 友好的な人物がいたか、もしくは休息には丁度良い場所があったか」
「どちらにしろ損は無さそうね……行ってみましょう」
「あいよー」


       ◇       ◇       ◇


浅羽と伊里野の再会をプロデュースしたあの後、水前寺は彼らを二人きりにし、その旅立ちを見送るという道を選んだ。
それはあの浅羽が、"伊里野の願いを叶えたい。ぼくは二人きりで映画館に行く"、と表明したからである。
こんな場所で無力な人間が二人でのんびりデートと洒落込むなど愚の極み。危険だとは当然思う。
それに、可愛い特派員達がリスクの高い道を行こうとしているのならば、部長としてはノーを突きつけるべきだとも思った。
だが結果的に水前寺は、浅羽達二人の旅を許した。二人の意見を尊重し、全てを任せる道を選んだのだ。
理由など大量だ。

浅羽が本当に本気だったのもある。
伊里野だって浅羽と二人きりになった方が嬉しいだろう、と結論を出したのもある。
この二人の間には、もはや自分が入る余地など一切無いのだろうと理解出来たのもある。
最期くらい部員の願いを叶えてやらなくて何が部長か、という別方向での責任感に燃えたのもある。
そして。
どうせこのまま伊里野は消えてしまうのだから好きにしろ、と投げやりに考えてしまったのもある。
あまりにも儚げで、下手を打てばこのまま目の前から消失するであろう伊里野をこれ以上見たくなかったのも、ある。
浅羽を理由にして、目に見える現実を地平の向こうへ追い返してしまいたかったのも、ある。

288Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:09:16 ID:Irtxw7OV
「…………」

水前寺は今、珍しく無気力な姿を晒していた。
なんと珍しい事に、ベンチに横になってただただぐったりしているのだ。
行動を共にしている現在の相棒、坂井悠二に見られようが知ったことかと言わんばかりだ。

そう。今回の出来事と選択は、破天荒な彼の心にもかなりダメージを与えていたのである。
悠二から伊里野の現状を聞いてから現在まで、かなりな痩せ我慢を決行していたのだが、それも限界が近い。
そうして心が随分と堪えたがために、こうして惰眠を貪る様な休息を続けているのだ。

苦楽を共にしていたと言える"伊里野特派員"が消えてしまうという現実。
消えると解っていて、それでも伊里野と一緒にいることを選んだ浅羽を煽るような自分の行動。
そして危険を承知で二人を見送るという、蛮行にも思える選択。
短い時間の中で告げられた事実と、正しいと思いつつも危険も孕んでいることも承知の発想。
浅羽と伊里野を"せめて最期は二人きりにしてやる"という、危険やリスクは承知での選択肢。
そしてその選択肢のおかげで嫌でも実感させられた、"結局はそれ以上に自分に出来ることは何も無かった"、という現実。
今までの"伊里野がいた"という当たり前の日常に戻れなくなる、という確実な未来。

水前寺の鋼の心をも疲弊させるには十分な要素が揃っている。
品揃えは抜群で、在庫もたんまりだ。取り寄せだってもってこい。
水前寺が何も言わず、何も言えずに立ち止まるのも頷けるだろう。
しかしそれだけではない。水前寺をここまで追い詰めた要素はまだある。

「…………はぁ」

結局、伊里野が消えて悲しむ浅羽の姿を見たくなかった水前寺は、彼に「ほんとうのこと」の詳しい説明をしなかった。
"理解をする間を与えなかった"以上、伊里野が消えたとき浅羽が彼女のことを忘れるであろう事を理解していたが、その上でである。
浅羽は存外に弱い。あの伊里野が消えてしまっては、心が壊れてしまうかもしれない。そうでなくとも暗雲を落とすのは明白だろうと予測出来る。
故に水前寺は浅羽に何も言わなかった。いっそ伊里野を認識出来なくなる方が、本人にとって幸せかもしれないと考えたのだ。
289創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:10:21 ID:zTOU2tFJ
 
290創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:10:38 ID:s3QdCimD
291創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:10:41 ID:bxsYdHwB
292Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:11:09 ID:Irtxw7OV
だがそれはある種の巧妙な罠。それこそが、水前寺が背負う一番のストレスを作り出すきっかけだった。
自分で選んだ道で、かつ今更だというのは理解している。だから本来はこんなことで迷う資格は無いと承知で、けれどもしんどさを覚える。

浅羽を弱いといっておきながら、その実一番弱かったのは、自分。
"伊里野が消えた事実を前に苦しむ浅羽"を見たくないと思って"この選択をした"にも関わらず、
それと同時に、このまま"伊里野の事を綺麗さっぱり忘れた浅羽"を受け入れる勇気すらも無かったのだ。
伊里野を失って悲しむ浅羽も見たくなくて、伊里野を忘れた浅羽も見たくない。
どちらも不可能なのに求めてしまう、哀しき性。忌まわしいものだと思う。

そこで水前寺は今、このまま浅羽と同じ様に"忘却の彼方へと沈む道"を選び取ろうとしていた。
そうすれば自分も浅羽と共に、伊里野のことを忘れられるからだ。浅羽の姿を見ても、何の疑問も後悔も持たなくなるからだ。
何せ辛いのだ。逃げたいのだ。全て忘れてしまいたいのだ。何もかもが無かった事に出来るなら、それが一番いいとすら思えたのだ。
正直なところ、自分は紅世の王やらなんやらをまだ目撃していない状況であり、非現実的な技を実際に食らったり観察したわけでもない。
どうも宇宙人にも関係無さそうな話題であったのも手伝って、この自分の頭と言えども理解に達していない部分も少なくないのである。
ヴィルヘルミナ曰く、理解度――今は仮にこう表現する――が低い、または少ない人間は忘却の渦に巻き込まれるという。
つまり、今の自分ならば伊里野加奈を忘れる事が出来る可能性が高いという事だ。

そこから"このまま忘れた方が辛い思いをしなくて済むならばもうそれで良いか"、という結論に至るまでは実にスピーディーだった。
伊里野の事を、この出来事を心に刻んだままならば、恐らくは想像以上にしんどい思いをしてしまうに違いないから。
だから、もう何も無かった事にする。
我ながら弱気だと思う。まだ二十年にも満たなくとも常人のそれよりは遥かに濃い、そんな水前寺邦博の人生の中で初めて抱いた感情だ。
数十年後に今の自分を思い出したなら、きっと黒歴史扱いするかもしれない。いや、覚えてないのだから歴史も何も無いわけだが。

もう良い、もう疲れた。もうこの件についてはノーコメントで行こう。
ああ、このまましばらく仮眠としゃれ込むのも悪くないかもしれない。
目覚めた頃には伊里野は消失し、もうこのことに触れなくても済むというわけだ。
よし、その作戦でいこう。いっちゃおう。俺に出来ることはやりきった。
例えてみれば、100円玉一枚でラスボスにまで進んだものの、最後はわからん殺しで見事に撃沈。
これが自分の進んだルートだったのだ。今の自分にはお似合いのオチだ。
それじゃあ、もうこれでさようなら。お疲れ様でした、今日のお勤めはここまでです。
おやすみなさい。はい、目ぇ閉じたー。


「……!?」
「! ……!」


途端、なんだか騒がしくなってきた。
どうしたどうした何があった何が。何が起こってるんだこんなときに。
眠らせてくれ。おれはもう良いんだ、引き止めないでくれ。
今は生憎SOS団団長の気分じゃあないんだ。皆大好き水前寺部長というわけにはいかないんだ。

「水前寺!」

だが。
突然向けられた声に驚き、閉じていた両目を見開くと同時に上半身が勝手に飛び起きた。
激しく聞き覚えのある声だった。芯の通った、活発な印象を覚えさせるすっきりとした声。
ゆらゆらと歩く酔っ払いにすら"気をつけ"と敬礼をさせてくれやがりそうな、強気の話し方。
確かテレビで似たような声の有名人を見たことがあったような。しかし名前が思い出せない。
えっと、確か苗字が清水か水橋かで、それから名前が、

「……あんた何やってんの?」

違った。目の前にいたのは、清水でも水橋でもない。島田だ。
そう、島田美波。突然水前寺目掛けて大声を出したのは、あの"島田特派員"だったのだ。
その後ろでは真っ赤な髪の少女が、坂井悠二と興奮気味に話をしている。
あの様子だと、あの子は関係者か。
現実逃避的にそんな風に推理をするもすぐにやめ、もう一度視線を戻す。

やっぱり目の前にいるのは、島田美波本人だった。
293創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:12:18 ID:zTOU2tFJ
 
294創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:13:52 ID:s3QdCimD
295Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:13:56 ID:Irtxw7OV
       ◇       ◇       ◇


映画館へ、映画館へ、ただ今は映画館へ。
浅羽は走る。夕焼けで紅く染まっていく街の中を、ひたすら走っていく。
ペダルをこいで、こいで、こいで、こぎまくる。
伊里野はいつか消える。それももうすぐだと聞いた。だからもう何も考えない。
今はただ、伊里野の傍に居続けるだけだ。その権利に、その義務に、かじりつくのだ。


少し、時間を戻しての話。

水前寺による送迎が終了した直後、伊里野が"映画館へ行きたい"と望んでいる事を聞いた。
ついでに改めてもう一度、伊里野が消えてしまいそうになっていることを聞いた。
詳しい理由や仕組みは聞かされなかった。ただ、水前寺ともう一人の誰かの表情が、本気だった。
ただ、それだけだった。けれど、

「じゃあ、今から映画館に行きます……二人きりにしてください、伊里野と」

こう宣言する為の理由としては、充分過ぎた。彼らの言葉を信じるには、充分過ぎたのだ。
水前寺は少し迷っているようだった。当然だろう、部員が独断で動くと言うのだから。

「わかった。もう、おれはこれ以上は動かん。浅羽特派員に託そう」

それでも水前寺は了承してくれた。わがままを聞いてくれたのだ。
程なく、名前の知らないもう一人の誰か――年齢が読めない顔立ちだが多分先輩――が、ママチャリタイプの自転車を用意してくれた。
つまりこれで映画館に行けということなのだろう。理解力が低い自分でも理解出来る。これこそ、自分に託された武器なのだ。

「近辺にはこの一台しかなくてね。僕らは自分で使うことになるし……。
 ごめんね、どうにか二人乗りで頑張って欲しい……彼女は、伊里野ちゃんは任せた」
「はい! ありがとうございます、えっと……」
「悠二。坂井悠二だ」
「ありがとうございます、坂井さん!」
「浅羽特派員、道中気をつけろよ」
「はい部長!」

正直なところ片手運転で二人乗りは危ないと思ったけれど、もうあまり時間がないというので了承。
"まだ映画の時間じゃないのに"、と疑問を浮かべる伊里野に「先にサイクリングに行こう! 二人っきりで!」と嘘の理由を説明。
幸運にもその理由が嬉しかったらしく、微笑んで頷いてくれた伊里野。彼女を後ろに乗せ、しっかりと体に捕まってもらった。
そこで遂にペダルを踏み始めたが、やはり細やかな段差やら何やらで自転車全体が振動し、片手だけで支えられなくなりそうになる。
まるで自転車の乗り方を覚えたばかりの子どものようだった。いや、もしかしたら比べるのも失礼かもしれない。もちろん子どもに。
まずい、このままでは倒れて伊里野に怪我をさせてしまう。どうにかしなくては、どうにか、どうにか、どうにかせねば。
結局、折れている右腕を無理矢理に動かして両手運転に切り替えた。死ぬほど痛い。恐ろしい激痛が襲い掛かってきた。
痛い、凄く痛い、超痛い。自分を組み伏せたあの男の人を恨むばかりだ。くそう、覚えてろ、ぶん殴ってやる。くそう、痛い。くっそう。
けれどそれでも根性で、どうにかバランスを整えることに成功。これならどうにかなるぞ、と安堵の溜息をついた。
瞬間、背中に柔らかいもの――伊里野に付いている女性特有のそれ――が当たっている事に気付く。
またもバランスを崩しかけた。伊里野が小声で「だいじょうぶ?」と問いかけてきた。大丈夫だ、顔が真っ赤な事以外は。
湯掻いている蟹の様に赤くし、男性特有の生理現象を起こさんとする正直な体に抗いながらペダルを漕ぐスピードを速める。
どうにかなった。後は既に決めている道筋通りに進み、映画館に向かうだけだ。
振り返れば、水前寺と坂井悠二の姿が次第に遠くなっていく。自分は前へと進みだしているのだという、何よりの証明だった。

そして、今に至る。


出発以降は真っ直ぐ南方へと向かっていた浅羽達は、"C-4"の橋に辿りついていた。
この川を横断する一つ目の橋を渡り、城の敷地内を進んでいくというのが当初の予定である。
何せ早い。ここを無事平穏に南下すれば、後はもう一度橋を渡って、映画館に向かえば良いだけである。
普通はそうする。急いでいるなら誰だってそうする。多少危険だがそれでもリターンは大きいのだから。
しかし、今回はそうもいかなかった。
296創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:14:52 ID:zTOU2tFJ
 
297創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:15:42 ID:s3QdCimD
298Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:16:14 ID:Irtxw7OV
「もえてる……」
「だね……キャンプファイアーみたいだ」

対岸にあるホテルが、読んで字の如く見事に燃え盛っていた。比喩ではない、本当に炎に包まれているのだ。
何がどうなってこうなったのかは解らない。及び知らぬ超自然的な理由なのかもしれないし、人が起こしたことなのかもしれない。
だが理由などどうでもいい。考えるべきなのは、あれが燃えていることによる損失だ。

冷静に考えろ。
多分、あんなことになっているということは人が沢山集まっていてもおかしくないだろう。
野次馬というわけではないが、とにかく人の目を引くのは確かなわけで。
そして釣られてやってきた中に、危険な人間が紛れ込んでいるとも限らないのだ。

最高の近道が出来なくなった。いきなりの予定変更だ、頭が痛い。
仕方が無いので橋は諦め、そのまま川沿いに下っていく事にした。
電波塔の近辺まで向かった後に、そこからD-5の南側にある橋を渡って西へ進むという寸法だ。

「あさばとえいが、ってはじめて。すごく、たのしみ……」
「えっ……あ、ああ。うん、そうか、そうだよね。そう、だね」

そんなドタバタしたルート変更を行って少しした時、伊里野がぽつりと呟くように話しかけてきた。
"映画が初めて"で、楽しみだと。彼女は後ろに乗ったままそう言ったのである。

初めて、だって? おかしい。だって映画は一度行ったことがあるのに。
どうしてこんな事を言うのか。いや、待てよ。まさか、考えたくは無いが、そういうことなのだろうか。

浮かんだ疑問点を反芻する内に、この会話の感触に覚えがあったことに気付く。
そして確信する。驚くほどすんなりと、その答えに至った。そうだ、間違いない。今の伊里野は"そういうこと"なのだ。
水前寺達は恐らく、今の彼女を見ても何がどうなっているのかわからなかっただろう。だが自分には理解出来る。自分なら解る。

この伊里野の姿は、軍部からの逃避行開始後しばらくした頃の"それ"と同じだ。
園原から離れて暫くした頃に八つ当たりをされた後。もっと特定するならば、今の彼女は"獅子ヶ森駅にいた伊里野加奈"そのもの。
つまり彼女の記憶は、"浅羽と初めてのデートをする日"にまで、再び逆行しているのだ。
299創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:16:25 ID:zTOU2tFJ
 
300創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:17:01 ID:s3QdCimD
301創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:17:30 ID:zTOU2tFJ
 
302創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:19:03 ID:s3QdCimD
303創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:19:09 ID:zTOU2tFJ
 
304Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:19:38 ID:Irtxw7OV
間違いない。挙動、目、話し方、そして話題。全てがあのときと一致している。
浅羽以外の人間を拒絶するまでではない事と、今自転車を漕いでいる浅羽を"浅羽"だと認めている事だけが、あの時との違いだ。
更に言えば、今は電話越しでないのに時空が繋がっているのである。

大変だ。まるで"バッグの中のイヤホン"の様に、奇妙で複雑な事になっている。
伊里野が暢気ともいえるような要望を唱えた理由が、今更ながら遂に理解出来た。
彼女の時間は初デートの時にまで遡っていて、伊里野は獅子ヶ森駅のときと同じ様にずっと自分を待ち続けていたのだ。
まさか今更気付くなんて。もっと早く気付いているべきだろうに!

そうなると、自分はどうするべきなのだろう。
この状況下で、映画館に向かっている最中に何をすればいいのだろう。
何か気の利いたことでも話せられればいいのに、何も思い浮かばない。
彼女が満面の笑みを浮かべていられるような事が出来ればいいのに、何も思いつかない。
伊里野の記憶は"浅羽と出会って間もない時期"なのだ。思い出話すら大して満足に出来ないという事なのだ、つまりは。

どうした、これが最後なんだぞ。映画館に間に合うかどうかも解らないんだぞ。
今すぐに後ろの彼女が消えてしまってもおかしくないんだぞ。
もっと言えば、無防備な姿をスナイパーに捉えられてもおかしくないんだぞ。
そりゃあお前が園原から逃げていたときは、適当に話を合わせるだけでよかっただろう。
伊里野はすぐに離れないと知っていたから。逃げて逃げて逃げ切れば、永遠に二人きりになれると考えていたから。
だが今は違う。今は何者かから逃げているわけでもない。どう足掻こうが最後は消える運命なんだ。
奇跡でも起きない限り、彼女は時間を止めたままで淡雪の如く消えてしまうんだ。UFOの夏なのに淡雪、傑作じゃないか。
考えろ浅羽直之。考えて、考えて、考えろ、諦めるな。諦めたら試合終了などという温いものではないのだから。
こんなものはもはやロスタイムに過ぎない。本当に最後で最後のボーナスタイムでしかないのだ。
どうにかしろ、何とかしろ、やるべきことを思いつけ。後悔したくないのならば。

「どんな、映画やってるだろうね」
「あさばとなら、どんなのでもいい」

結局何も思い浮かばず、浅羽は取り留めの無い話をするに至った。
浅羽が話し、伊里野が答え、浅羽が話し、伊里野が答える、それだけの時間が過ぎていく。
他人が見れば勿体無いと口にするだろう。だが今の浅羽にはこれが精一杯だった。

自信が、失われていく。彼女の記憶の日に合わせた気の利く行動など出来るものかと、自分の無力に悔しさを覚える。
ここで早くも浅羽は、"自分ではダメかもしれない"という弱い考えを抱くに至っていた。


       ◇       ◇       ◇
305創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:21:40 ID:zTOU2tFJ
 
306Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:21:43 ID:Irtxw7OV
あの赤髪の少女こそが、坂井悠二の求めていたシャナという人物だった事。
そのシャナの力を借りて美波達は空を飛び回り、悠二と水前寺を探し続けていた事。
途中でシャナが進路を変え、そのおかげでこうして再会が出来たという事。
再会後にどうするかの指示は既に受けているという事。
そしてもう一人の捜索対象である"姫路瑞希"が見つからないという事。
ついでに"涼宮ハルヒ"のあれこれも進展なし、という事。

あれから水前寺は、こういった類の事件・事実などを美波から聞くことになった。
単独行動をしていた間、彼女達はどうも大変だったらしい。すまんと素直に謝る。
それに対し美波はというと、"まぁ見つかったわけだし良いわよもう"、と一言。存外慈悲深かった。

「まぁ、アンタをこってり絞るのはウチじゃなくてヴィルヘルミナさんの仕事だしね」
「む……確かにそうかもしれん。だがすまん、今はまだ帰れん。帰るわけにはいかんのだ」

いつもの勢いがなく、重い表情。
常とは違う自分の態度を敏感に感じ取ったのだろう、美波は深く溜息をつく。

「あのさ……何があったの?」
「ああ、いや」
「さっきウチらが見た“トーチ”と関係あるんでしょ? 何があったの?」

ストレートな質問がまず一つ放たれ、ついつい言葉を濁してしまう。
すると、まるでそれを狙っていたかのように追撃の言葉が飛んできた。
このままでは終わらんぞという意思が透けて見える。
流石は特派員と認めた女。こういうところもしっかりしている。
相変わらずの力強さだと、改めてそう思った。

もういい、ここまでだ。そもそも島田特派員から今までの事を隠す意味など無いのだ。
後ろで"ふりあぐねがどうのこうの"と話をしているシャナと悠二の声をBGMに、水前寺は全てを話した。
そしてその上で言う。もうすぐだから放っておいてくれ、と。自分が選択したのだからもうこれで良い、気にせんでくれ、と。
正直もうしんどいのだ、と俯き加減で呟く。

そんな感じでしばらく一人で喋りまくって、身の上話は終わった。人に愚痴を言うのは初めてだったと思う。
顔を上げて見てみれば、美波は微かに震えていた。怒っているのだろうか。
確かに彼女の性格ならば、男の愚痴などそう好きでもないだろうから仕方が無いかもしれない。
だが私は謝らない。キリッ。なんつって、ははは、はは……はっ、なっ、ちょっ! えぇ!?

「ああああだだだだ! あだだだだだだだだだだ! 島田特派員! 痛い! 痛いぞ! メーデーメーデー!」

突然関節技を決められた。痛い。
一体何をするんだ島田特派員! と抗議しつつ、どうにか技を振り払う。

「何腐ってんのよ! 馬鹿じゃないの!?」
「腐っ……!? いきなり痛みを与えてきて何を言うか!」
「うるさい黙れ! アンタおかしいわよ! いつもなら"島田特派員、どうしてここに?"とか真っ先に聞くだろうにそれもなし!
 口を開けば諦めの言葉ばかり! もうがっかりよ! ウチを慰めてくれたアンタはどこにいったの!? 強引な水前寺邦博はどこにいったわけ!?」
「な……っ! そ、それを今言うか!」
「今言わないでいつ言うのよ! 馬鹿! 馬鹿! 馬鹿ぁ!」

どうやら"愚痴るという行動自体"にではなく、水前寺の"態度と行動に対して"怒りを覚えたらしい。
だがそんな事を言われたところでどうしろというのか。的外れな怒りにしか思えないのが水前寺の正直な感想だ。
挙句には傷心中のこちらを思いきり罵った挙句に関節技を決め、なおもこちらに襲い掛かってきている。

五月蝿いのはどちらの方だ。君におれの心がわかるとでも言うのか。傲慢ではないのかそれは。
異常に腹が立ってきた。今まで鬱屈状態のまま所為か、無性に派手に暴れたい。
浅羽と伊里野の初デートの最後、浅羽妹と死闘を繰り広げたときの様に、喧嘩を繰り広げたい。
そう思ったときには既に、ゴングが脳内で響き渡っていた。"「喧嘩を繰り広げた」なら使ってもいい"。
早速、お返しのストレートパンチを繰り出してやった。奇襲じみた戦法が幸いし、華麗にヒットした。
307創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:23:11 ID:bxsYdHwB
308創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:24:11 ID:zTOU2tFJ
 
309創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:25:24 ID:s3QdCimD
310Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:25:25 ID:Irtxw7OV
「理由は告げたはずだ! おれはもう良いんだ! 浅羽特派員の姿を、知覚したくはないのだ!」
「いったたた……アンタ、それって早い話が逃げってことじゃない! 現実逃避っていうのよそれ!」
「違う! 戦略的撤退だ!」
「ふ……ふざけんなこの……負け犬ー!」

更に続けて、水前寺は思いのたけをぶつけて追撃に移った。
関節技では分が悪いので、長いリーチを活かした当身に持ち込む算段である。
しかし一方の美波の方も関節技一辺倒ではない。こちらと同じ様に拳や蹴りも持ち込んでくるつもりらしい。
あっという間に拳や脚が交錯し合い、二人の動きは激しい戦闘へと発展した。
殴ったり殴られたり、蹴ったり蹴られたり、関節を決めたり決められたりしている。
それでも口は動き続けるから、不思議だ。

「何も知らないからそんなことを言えるのだよ島田特派員! そうやって、部外者の立場から見るから!」
「部外者だとぉー!? ウチをSOS団の団員とかいうのにしたのは、特派員にしたのはどこのどいつなんじゃー!」
「身内がトーチになったわけでもあるまい! ただの死別とはわけが違うのだ! それもわからずに……!」
「わかってるわよ!」

互いの言葉と技がぶつかり合って、互いにボロボロになっていく。恐ろしい勢いだ。
視界の端では悠二とシャナが何事かとこちらを見ている。だがそれでも喧嘩は止めない、止まりはしない。
気付けば水前寺は髪型が崩れ、美波はヘアゴムがどこかに行ってしまったのかポニーテールではなくなっている。
しかし互いにそれも眼中に無い。今はとにかく、互いが互いをマットに沈めたいと思うばかりなのだ。マット無いけども。

「わかっていない! ヴィルヘルミナ女史の話を聞いて、解ったふりをしているだけに過ぎんくせに!」
「うるさい! ウチの頭の中を勝手に決め付けないでッッッ!」

この会話を合図にしたかの如く、遂に水前寺はとどめとばかりに思い切り力を込め、踏み込み、拳を放った。
喧嘩関連の武勇伝は無いものの、敵を倒すなら十分過ぎると思う、そんなパンチだ。当てる、当てる、絶対に当てる。当ててやる。

「この件に関してはっ、もうっ……口出しをするなぁああぁあッッ!」
「絶ッッッッッッ対に断る!」

しかし、受け流された。
怒りに任せただけの拳は見事にテレフォンパンチへと化けてしまっていたらしい。
何をどうされたのかは解らないが、とにかく体勢を大きく崩されてしまっている。
311創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:26:51 ID:zTOU2tFJ
 
312Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:27:52 ID:Irtxw7OV
「全部解ってるわよ……辛いのは解ってるわよ……! あんたがどうしようもなかったってのも、ちゃんと……!
 だって、そうじゃないと…………そうじゃなけりゃ、本気でアンタとこうして喧嘩したりなんかっ! しないッッッ!」

バランスを崩して倒れていくその瞬間は、目に映る全てがとても緩慢に動いていた。
増しに増した集中力が成せる業だと、何かの本で読んだ事がある。今の自分の状態はそれか。
だが体は動かない。動かそうと思っていても、相手の気がそれを許さないとでも言うかの様に。
しかしなまじ集中しているおかげで、相手の言葉だけははっきりとよく聞こえた。
そして、

「Halten Sie den Mund! Der Narr!!(その口閉じてろ! この馬鹿野郎ッ!!)」

水前寺の左頬に、美波の怒りの鉄拳がクリティカルヒットした。
関節技でもないのによく効いた。カウンターだったことだけが理由ではないだろう、きっと。
一瞬宙に浮かんで、背中からばったりと景気よく倒れた。幸運にも頭は打っていないが、代わりに打ち付けた背中が痛い。

「アンタに……っ! アンタに教えてあげるからっ! 静かに聴きなさい!」

だがまだ終わらなかった。まるで修羅と化したのではないかと見紛うほどのオーラを纏い、美波が近付いてくる。
彼女はその体の上で馬乗りの態勢を取った。更にこちらの襟首を掴んでくる。とどめを刺すつもりかもしれないと思い、歯を食いしばった。
だが、かと思いきや彼女はそのまま動きを停止する。暫く無言で見詰め合ったと、彼女は大きく大きく息を吸い込み、

「ウチはヴィルヘルミナさんだけじゃない、あそこのシャナにも"ほんとうのこと"を聞いた! でもウチは現実から逃げるつもりは無いわ!
 現実から逃げて、知らないまま過ごし続けるのだけは、絶対に嫌だから! あんただってそんな奴だったはずでしょうが!
 真実を恐れんな! 新聞部の部長でしょ!? ジャーナリストなんでしょ!? こんな特ダネ目の前にして、腐ってんじゃないわよ馬鹿ぁー!」

こう叫んだ。聞き逃したという言い訳を予め封殺する為か、それとも叫ばずにいられなかったのか。またはその両方かもしれない。
耳の奥がきいんと鳴って、不快感を伴う音が暫く収まらずに残留し続ける。毎度お馴染み、耳鳴りという現象だ。
そして同時に、美波の言葉が頭の中で大きく跳ね回っていた。耳鳴りを伴って、止まる事の無い輪舞を繰り返している。


真実を、恐れるな。ジャーナリストだろうが、か。


そうだ。自分は新聞部部長兼SOS団団長。ジャーナリストであり、同時に皆を纏め上げるべき"部長"なのだ。
そんな自分が何をしていると言うのだ。どうしてこんな弱い考えに飲み込まれていたと言うのだ。
浅羽が男を見せていたというのに。たった一人の女の為に動き始めたというのに、自分は何をしていたのか。
ただただ恐怖と後悔を覚えていただけではないか。ちっとも前に進もうとせず、立ち止まるばかり。
なんたる失態。数十年経たなくても黒歴史だ。水前寺邦博として、あってはならぬ大事件だ。
313創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:28:17 ID:zTOU2tFJ
 
314創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:28:28 ID:s3QdCimD
315Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:29:32 ID:Irtxw7OV
動かなくては。
今からでも遅くは無い。
きっと、きっとまだ間に合う。
否、これから間に合わせてみせる!

「きゃっ」
「っと、すまん」

美波も疲弊していたのだろう。こちらが上半身を起こすと、上に乗っていた彼女はそれだけで倒れてしまった。
それでも互いに体を起こしあい、立ち上がる。どう見たってぼろぼろで、無様な姿だ。
けれどそれでも今は構わなかった。むしろ妙な爽やかさが体を駆け巡っている。

「ありがとう、島田特派員。目は覚めた」
「……っ!」

髪がぐしゃぐしゃのままな美波の頭をそっと撫で、歩き始める。
目標はすぐそこにいる坂井悠二とシャナ、そしてアラストールとやらだ。

「坂井クン」
「何だい?」
「……ほんとうのこと、をもっと詳しく聞かせてくれ。女史の説明は簡単簡素簡潔過ぎてダメだ。
 実例を見せてくれたわけでも無し……このままでは、伊里野特派員を忘れてしまうかもしれん。それは困る」

本当に今更ながらのお願いだと思う。
無理なら無理で、いつでも地面に頭をこすり付ける所存である。

「敢えて僕は何も言わなかったけど……そう、か。彼女を、忘れたくないかい?」
「ああ……当然だ」

けれど、悠二は責める事も煽る事もせず、話を聞いてくれている。
隣にいるシャナも何も言わない。何も言わずに、いてくれている。

「大切な人だから?」
「それも、あるがな……だが、それだけじゃない」

ふぅ、と一度大きく溜息をついて間をおく。言いたい事をどう言葉にしようかを考えるためだ。
肉体的な意味の疲労に苦しんでいる身なので苦労するかと思ったが、一寸の間を置くだけで驚くほど言葉が生まれてきた。

「島田特派員の言葉で目が覚めたよ。うむ、今ならば強く自信を持って言える。
 おれはSOS団の団長であり、そして元々はジャーナリスト。そう、新聞部の"部長"だ!
 だからこそ見届けなくてはならない! 現実に起こることを認め、その全てを記憶し記録する義務がある!
 そして同時に、部長として特派員の未来をこの目で確認し、受け止めるのが義務だ……そうだ、それが出来なくて何が部長か!」

そうだろう? と最後に振り返って美波に同意を求める。
"うっさいえらそーに"、と笑いながら返された。なるほど、こういうのも悪くはない。

「……良いのかい?」
「全てを知る覚悟も、それを覚え続ける覚悟も出来た。記録と記憶はジャーナリストの仕事。そうだろう?
 だから頼む、おれに真実を、全てを細かく教えてくれ……おれは、"そういう未来"を選びたい。浅羽の為にも、だ」
「……ああ! わかった!」

再会して、言い争って、喧嘩して、わかりあう。
なんだか安い青春ドラマのようだと、水前寺は一瞬そんな感想を抱く。
だがこういうのもたまには良いと、そう思えた。

夕焼けの光が強くなってきた。時間は、確実に進んでいる。


       ◇       ◇       ◇
316創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:30:01 ID:zTOU2tFJ
 
317Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:30:38 ID:Irtxw7OV
やっとこさ"D-5"の橋にたどり着いたというところで、浅羽の疲労がピークに達した。
片腕にハンデを背負った状態での運転、挙句に二人乗り。
なおかつ、頑強なわけでもない学生がよくやった、とむしろ褒められてもいい距離を走った末である。
せめて原チャリならよかったと思うばかりだが、手近なところに無かったんだから仕方ない。
車ならもっと良かったかもしれないが、水前寺の様に無免許で運転する勇気ははっきり言って皆無だ。

この橋に到着するまでの道中、特にその後半はもう地獄の苦しみだった。
興奮状態だったのも手伝って無視を続けられた腕の痛みも、今になってみると正直辛い。
こうして現在も、タイミングを見計らったかの様に腕や脚が震えだしている。
映画館はまだ先なのに。ここからが踏ん張り時だというのに、この体は。本当に使えないやつだ。

「あさば」

ふいに耳元で声がした。話しかけられたのだ、と気付くまでに数秒のディレイを要した。

「な、なに……?」

汗だくで橋を渡りながら、訊ねる。
大丈夫、会話は出来る。それなら大丈夫だ。まだ余裕があるということだ。
そう、大丈夫。大丈夫、諦めちゃ、ダメだ。だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょう、ぶ。

「きゅうけいしよう。あさば、つらいでしょ?」
「……いや」

だいじょうぶだから、しんぱいしないでほしい。
そんなことばをきいてしまったら、あまえたくなってしまう。
だいじょうぶだから、もんだいないから、だいじょう、ぶ、だ、から。

「うそつかないで」
「うそじゃ……うそじゃ…………」
「あさばがつらいのをみるの、つらいよ」
「…………」

はい、ダメでした。
結局浅羽はブレーキをかけ、無様な姿を晒しながら停止する。
伊里野が先に降りたのを確認してから自分も降り、自転車を橋の欄干に立てかける。スタンドを使う気力も無かった。
決して心地よくなどない疲労感が浅羽を包み、汗が流れに流れてシャツが体にへばりつく。
腹式呼吸などに縁の無い生活を送っていたせいで、呼吸をするたびに肩と胸が上下した。

「ごめん、伊里野……もっと鍛えておけば……」
「きにしてない」

だが、そこまでだ。痛みを訴えていた肺も段々と自己主張を抑えてきたし、おかげで伊里野に話しかける余裕も出てきた。
勿論未だに腕もぶるぶると震えていたりなどして、辛い事には変わりは無いのだが。
空気が美味しい。この街は、地球にしてみればかなり強引な発展を行った様に見えるのに、断然良い味がする。
ちょっとしたスポーツマン気分だ。バッドエンドに一直線で進むマラソン選手とでもいったところか。ああ、全然傑作じゃない。

またも、無言が続く。

儚げな伊里野の姿は綺麗で、可愛くて、いつも通りだ。
まるで、もうすぐ消え行こうとしているとは到底思えない。

しかし何故だろう。こうして見ていても時々、目を放した隙にどこかに消えてしまいそうな感覚を覚えるのだ。
今、例えば握手をしようとするとしよう。彼女は生きている人間なのだから、握手自体は出来るだろう。当然だ。
しかしそうであると解っていても、互いの手が触れられずにすり抜けてしまう気がしてしまう。不安を覚えてしまう。
318創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:31:26 ID:zTOU2tFJ
 
319創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:32:15 ID:zTOU2tFJ
 
320創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:32:16 ID:s3QdCimD
321Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:33:37 ID:Irtxw7OV
「あさば……?」

伊里野の目をじっと見つめたまま、彼女の手を握った。そうしなければならない気がした。
この手が、彼女を繋ぎとめる最後の鎖にも思える。いや、鎖では冷たすぎるからリボンだ、リボンにしよう。
自分と伊里野をリボンで結ぶ。決して離さないぞとばかりに、手をぎゅっと握る。
柔らかくて、暖かい。生きている。彼女は今、確実に生きているのだ。そう感じるには充分だった。


と思っていたのに。不意に、謎の喪失感を覚えた。


目を見開いて、ぞっとした。視界の中では確かに伊里野がいる。
気のせいだっただろうかと思うが、そうは思えない。
握っているはずの手の感触が、一瞬だが失われた気がしたのだ。
更に、じっと見つめていたはずの伊里野を、一瞬だが"探してしまった"。

まさか、これが終わりの合図なのだろうか。
最後を告げる鐘代わりの、いわゆる前兆だとでも言うのだろうか。

もう終わる? もう消える? 最後? これが最後? 何もかもが、無くなる?

怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い。時間が迫ってくるのが、怖い。
時は待ってくれない、なんて言葉は本やテレビで散々聞いたのに。
そのはずなのに、なんの心構えも出来てなかったのかもしれない。
漠然としていた恐怖が、だんだんと圧縮されていく。現実感に溢れていく。

「あさば」
「……何? 何、伊里野! どうしたの!?」

そんな中で、伊里野が呟く。消え入りそうな声で、そっとだ。
焦りを覚えた浅羽は、そのトーンに反して一人大声で答えた。声も上擦っている。

周りに危険人物がいるかもしれないという危惧など、もう考える暇は無かった。
これが最後の会話になったらどうしよう、と考えるだけでもう泣いてしまいそうだ。
鼻水や涎をだらだらと流す無様な姿まで後もう少しと押し迫られている。
だが悟られてはならない。伊里野にはせめて、最後まで笑っていて欲しいのだ。
そう、最後。最後って言うのは彼女が消える事で、彼女が消えるって事はそれは、つまり!

「これからも、いっしょにいられるよね……? わたし、いっしょに、いたい」

混乱する自分をよそに、伊里野が、そう言って、微笑んだ。
消えそうになっているらしい伊里野が、そう言って、微笑んだ。
辛くて辛くて泣きそうになっている浅羽に、消えそうになっているらしい伊里野が、そう言って、微笑んだ。
何も出来なくなって、辛くて辛くて泣きそうになっている浅羽に、消えそうになっているらしい伊里野が、そう言って、微笑んだ。

優しい、天使の様な微笑み。彼女の背中に、純白の羽を見たような気がした。
本当に綺麗だ、可愛い、最高。

ああ、もう。
やっぱりダメだ。
やっぱり、こんなのが最後じゃあダメだ。こんな哀しい最後なんでお断りだ。
本当はもっと言いたい事があって、本当はそれを伝えてしまいたいんだ。
彼女の記憶が何だろうが、言いたいことは沢山あるんだ。

もう、我慢出来ない。

浅羽は、伊里野を強く強く抱きしめた。急な事で驚いているのだろう、息を呑む音が耳元で聞こえた。
やはり彼女にとっては"急な事"だったのだろう。記憶が逆行しているのだ、仕方が無い。拒絶されないだけ良しだ。
322創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:34:48 ID:zTOU2tFJ
 
323創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:35:40 ID:zTOU2tFJ
 
324Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:36:05 ID:Irtxw7OV
浅羽は自分の思いを全て、彼女に伝えきるつもりだった。記憶なんて関係なしに、言いたいことだけ言う事に決めたのだ。
"記憶が追いついていない"今の伊里野には、恐らく何が何だかわからないかもしれないと思いつつも、こうなったらやってやる。

だって心が叫んでいるから。伊里野の記憶に拘った所為で何も言えないままになってしまうなんて絶対に嫌だと、そう叫んでいるから。
だからもう良い。たとえ伝わらなくても良い。彼女が今生きている時間は"今"ではなく初デートの日なのだという事実だってどうだっていい。
伝える。伝えるのだ。今から、自分の思いを、全て!

「帰ったらまた学校へ行こう。鉄人定食なんかにも一緒にチャレンジしよう!
 部長と一緒にまた何かを究明するのも良い! また髪が伸びたら僕が切る!
 帰ったら、そうやっていつもの時間に戻ろう! 地球で、一緒に生きていこう!」

彼女が消えるという話だって、もう知らない。
自分は彼女と一緒に園原に帰りたいと思っている、ただそれだけなのだから。

「伊里野……僕は、僕は、君の事が……!」

後悔しない為に。せめて最後は、少しでも綺麗に飾れるように。
あの夏を、浅羽と伊里野の物語を、再開(はじ)めよう。

「君の事が、好きだ!」

南の島。そこで叫んだ告白を、もう一度。
伊里野自身はあの出来事を記憶していないだろうけれど。

「大好きだ、愛してる! 伊里野っ!」

ここで言わなきゃ、もう終われないのだ!

「伊里野! 伊里野っ! 伊里……げほっ、げほっ!」

むせた。だがどうした、こんなもんじゃないぞ!

「愛してる! 伊里野のことをっ! 伊里野のことが! ぼくはっ! 大好きだぁぁぁああぁあぁぁあぁ!」

懇親の大絶叫。喉や周りのことなど一切考えず、遂に言ってやった。
究極の自己満足だと思う。突然の大声での告白など、ドン引きものだろう。
再び両肩が上下に動く。だが今の浅羽を包むのは心地よい方の疲労感だ。
ああ、言った。これでいい。後は間に合わないだろうが映画館に向かうだけだ。

ここで、ようやく伊里野が震えていることに気付いた。
そりゃそうだ。彼女の"時間軸"から考えるに、ただの部活仲間から突然のセクハラを受けたようなものなのだ。
急いで体から離れた。何を言われるか解らないと思い、心の中で身構える。

「……浅、羽?」

"はっきりとした声質で"名前を呼ばれた。
予想だにしなかった出来事が目の前で起こり、浅羽の頭が一寸固まる。

「浅羽、わたし……わたしは……」

伊里野が少しずつ言葉を紡いでいくと同時に、その目からルビーが一粒零れ落ちた。
いや、違う。これはルビーじゃなくて涙だ。夕焼けに光ってそう見えたのだ。
そしてその涙を生んだ瞳を見れば、生気が宿っている。見間違いではない、確実に先程とは全く違う。
虚ろな瞳はもうそこにはなくなっていた。どこか危なっかしい、記憶が逆行しているときに見られた雰囲気も、消し飛んでいる。
これは宇宙へと旅立っていく直前の伊里野と全く同じだ。完全に一致した。
325創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:36:30 ID:s3QdCimD
326創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:36:44 ID:bxsYdHwB
327創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:36:59 ID:zTOU2tFJ
 
328創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:37:46 ID:zTOU2tFJ
 
329創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:38:12 ID:s3QdCimD
330Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:38:43 ID:Irtxw7OV
「浅羽、浅羽! 浅羽ぁっ!」
「伊里野……!」
「浅羽っっっ!」
「伊里野っ! 伊里野ぁ!」
「どうしてかな……! 凄く、頭がすっきりしてるの……ねえ、なんで、わたし……っ!」
「伊里野……伊里野、良かった! 伊里野!」
「ふしぎ……すごく嬉しくて、浅羽が今、"とっても近いの"!」
「うん、うん! そうか、そうか伊里野! そうなんだね伊里野!」

何故なのかだなどと訊くまでもない。
つまりは、戻ったのだ。
浅羽の自爆覚悟の告白によって、伊里野の記憶は"今"へと進んだのだ。

最後の最後、自己満足にも思えた叫び。
その果てにはいまどき安っぽい小説でも見ないような、とんでもないシナリオが待っていた。
告白の言葉が引き金となって復活だなんて、王道中の王道過ぎだ。見る人が見れば物笑いの種そのものだろう。
だがそれでも良かった。関係ない。今は奇跡が確かに起こった、それが現実なのだ。
最後の最後の土壇場に、気まぐれな神様が浅羽にチャンスをくれたのだ。きっとそうだ。
神様、いるならありがとう。いたならいたで、こんな街に呼ばれるのを防いで欲しかったけど。

「好きだ……大好きなんだ、ぼくは! 伊里野が大好きだ! 愛してる!」
「わたしも……わたしも、好き! 浅羽がっ、浅羽が大好き!」

お互いに涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、もう一度抱きしめあう。
大粒の涙を流しながら、伊里野は笑っていた。とても大きな声で笑っていた。
そうだ、これがこんな街に連れて来られた後もずっと求めていた、彼女の真の姿だ。
もう二人は止まらない。止まる事など許されないのだ。

その奇跡を祝福するためだろうか、橋を横断するように強い風が吹き始めた。
風は二人を撫ぜ、髪や服を揺らしていきながら、段々とその勢いを増していく。

「結婚しよう!」
「えっ!?」
「式は和洋どっちだっていい! 伊里野が好きな方で良い!」
「けっ、こん……? けっこんって、けっこんって、"あの"……!?」
「そうさ! ずっと一緒にいられるんだ!」

勢いに任せているのもあるだろうが、気付けば浅羽はとんでもないことも口にしていた。
だがこれは本音だ。浅羽は本当に彼女と結婚出来ればそれだけで死んでもいいとも思えたのだ。
もはや本能だ。ロマンもへったくれも無い、どうしようもないプロポーズだ。
夕焼けに染まる橋の上でと言えば聞こえは良いが、それでも無茶苦茶な宣言だった。

「結婚したら……結婚したら、そうだね! ずっと一緒! 浅羽と、ずっとずっと一緒!」
「そうだ……そうさ、結婚だよ伊里野! 結婚しよう! ずっとずっと大好きだ! 伊里野ぁ!」
「うん! 結婚! 結婚しよう、浅羽! 結婚! 浅羽と結婚! 浅羽大好きっ!」

けれど伊里野は、それでよかった。むしろ、"それがよかった"のかもしれない。
彼女は浅羽の想いに答え、同じく大声で結婚を口にする。そして、今までで一番大きな声を出して笑った。
風はますます強くなっており、遂に音も伴うようになってきていた。しかしそんなものでは彼女の笑い声は掻き消えなどしない。
互いに抱き締め合ったまま、踊るようにくるくると橋の上を舞う。車道に出たり歩道に出たりと、なかなかに忙しいダンスだ。
そしてふいに、それは終了。突如伊里野の体が浅羽から離れた。まさか時が来てしまったのだろうかと、かなり焦る。
しかし彼女はしっかりと両腕でこちらの肩を掴んでおり、じっと見つめてくれていた。大丈夫だった。まだ、伊里野はここにいる。
331創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:38:54 ID:zTOU2tFJ
 
332創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:39:43 ID:zTOU2tFJ
 
333Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:40:37 ID:Irtxw7OV
「……ねぇ、浅羽……お願いがあるの」
「お願い……?」

そしてそのまま、伊里野がこんな事を言った。
その言葉の意味を捉えるまでに少しディレイが発生したが、すぐに我に帰る。
いいだろう、ばっちこい。心の中で呟く。
今の浅羽は何でも聞くつもりだ。本当に、もう何だって良い。

「うん、お願い。ずっと、夢だったの……笑わない?」
「笑わないよ」
「うん、じゃあ……」

伊里野の唇が、微かに動いた。
そして誰かに聞かれたら恥ずかしいと言うかのような声量で、言葉を紡ぐ。



「キス、して」



小さな小さな声でも確かに耳に届いた。
伊里野の願い。伊里野の夢。その正体は、とても甘いものだった。

「き、す……え、それって……それって!?」
「うん……」

浅羽は、自分の体が固まっていく感覚を覚えながらも、それでもどうにか脳味噌をフル回転させていた。
喉が鳴る。緊張のあまり唾を飲み込みまくる。まさかのキスを、しちゃっていいのか、と考える。
だがすぐに考える。良いじゃないか、結婚するんだしと。
そうだ、ぼくらはこの地で今、新婚さんになったのだ。
ぼくは新郎、君は新婦。ここから帰ったら、すぐにでも二人きりの生活が始まるんだ。
文句を言われるわけないじゃないか。

キスは、愛し合うが故に出来るもの。
愛し合う二人だけに許された、最高の特権なのだ。

伊里野が、ゆっくりと目を閉じた。受け止める準備はもう出来ているのだろう。
浅羽の方はといえば、まだまだ混乱してしばらく時間がかかるだろうと自分でも思っていたのだが、違っていた。
勇気を振り絞って目を閉じ、伊里野の願いを叶える準備を既に完了させていた。後は少しの距離、顔を近づけるだけだ。

色々な思い出が、脳内を猛スピードで駆け巡る。
全ては伊里野の為だった。けれど自分はここまでたどり着く道中で、色々な過ちを犯した。
きっとそれは許される事ではないし、現実に今自分は罰を受けている最中なのだろう。

本当に色々な事があった。今この瞬間が、全ての集大成だ。
そう。このキスは、浅羽が伊里野の唇に刻む"よかったマーク"なのだ。
彼女の心に永遠に残るミステリーサークル。それが、二人の、キス。



「浅羽……愛してる。ありがとう」



二人の唇の距離がもう残り数センチと迫ったとき。
伊里野が再び、浅羽にしか聞こえない程小さな声で、そう呟いた。
334創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:40:52 ID:s3QdCimD
335創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:41:45 ID:s3QdCimD
336創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:41:58 ID:zTOU2tFJ
 
337Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:41:59 ID:Irtxw7OV








その刹那。
強かった風の速度が、一瞬だけ絶頂を向かえる。
そしてあっさりと、何もなかったかのように、凪いだ。







338創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:42:40 ID:zTOU2tFJ
 
339創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:43:26 ID:s3QdCimD
340創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:43:32 ID:zTOU2tFJ
 
341Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:43:50 ID:Irtxw7OV
       ◇       ◇       ◇


「あ……」
「……消えた」
「あの子が……!」
「遂にか」
「そう、か。伊里野特派員……」

水前寺邦博と島田美波の大喧嘩の後、本人達に頼まれた"ほんとうのこと"の解説。
それが済んでからしばらくして、各々思い思いに過ごし始めた頃である。
名簿を見た悠二が唐突に"異変"に気付き、声を上げる。
それに続いて全員が悠二へと迫り、彼の手にある名簿を見て、同じく察知した。

「知覚、出来る。おれは記憶している……! 記憶しているぞ、島田特派員!」
「ウチも! ウチもわかる……覚えてる! でも……」
「ああ、驚いた……不思議だ、"こうなる"のか」

名簿から、伊里野加奈の名前が消えていたのだ。物理的に。
あるべきところに彼女の名前はなく、別の名が繰り上がってその位置に収まっている。
それはトーチが消えた際に起きる、"現実を補修する力"が発動した証だ。
つまりあの少女のトーチは、伊里野加奈という存在は、この世界から完全に消失したということである。
そして同時に、水前寺が伊里野のことを覚えている。これはつまり、土壇場での解説が功を成したという事だろう。

「そうか……終わったのだな、これで」

憑き物が全て取れた様子の水前寺がそう呟きながら、ベンチへと倒れこむように座った。
背もたれに体重を預けたまま大きな溜息を一つつき、乾いた笑いを短く浮かべる。

「浅羽、伊里野、両特派員は……間に合ったのだろうか」
「…………」

悠二は、この質問に答えることが出来なかった。

「そこらへんにあった自転車だしな……」
「…………」

シャナも同じく、彼の質問に答えられないようだった。

「……流石に映画館は、分が悪かったかもしれん」
「…………」

アラストールも、無言だった。

「やはり……これもこれでやはり、多少は辛いな。解ってはいたつもりだったが。
 ……っと、ああ、自分で選んだ道なのだから、こんなことを言うのはおかしいな。すまん。
 こんな無駄に暗くて重くしてしまって……いかんいかん。こういうのはおれの仕事ではないんだ」

空元気半分なのだろう。少しだけ声が上ずっているのが判る。
だが誰もそのことは言わないし、言えない。言えるわけがない。
悠二も、シャナも、アラストールも、今は無言で様子見に徹している。
何をどう言えば彼の負担を下げられるかを模索しつつも、実行可能なものを思いつくことが出来なかったのだ。

「それでも、二人は一緒にいられた……全ては"そこ"に詰まってるんだって、ウチはそう思う」

が、美波だけは違っていた。
彼女だけは水前寺の言葉を受けてなお、口を開いたのである。
この街に来てからの付き合いは長い方だとは、既に本人達からは聞いている。
だから彼女は口を開ける理由があって、権利があって、勇気があって、力があったのだろう。
342創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:45:06 ID:s3QdCimD
343創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:45:36 ID:zTOU2tFJ
 
344創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:45:56 ID:s3QdCimD
345創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:46:19 ID:zTOU2tFJ
 
346Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:46:23 ID:Irtxw7OV
「アンタの選択は正しかったよ……Der Direktor.(部長)」

更に、さっきとは逆に水前寺の頭を撫でる美波。
その行動に対し水前寺は文句の一つを言うかと思ったが、意外にも何もなし。
彼女の手を無言で受け入れ、同時に何かを喋っているのか、口を微かに動かしている。
予想に過ぎないが、きっと美波に対し小声で礼を言っているんだろう。多分、水前寺はそんな男だ。

「んじゃさ……もし良かったら、ウチのヘアゴム探してくれない? さっきの喧嘩でどっかいっちゃった」
「っと、そうだったな。すまないが坂井特派員も協力してくれ」
「わかっ……ん? え? 特派員?」

背伸びをしながらの美波の頼み事を了承し、いつも通りの姿に戻った水前寺。
悠二は二人の様子に安心感を覚えていた途中だったが、突如水前寺が言い放った言葉に驚いた。
あのーどういう事なんでしょうか水前寺に島田さん、と思わず質問をする。
すると美波は苦笑いを浮かべながら「まーた始まった」と一言。明確な回答は無い。言った本人に聞けということか。

「あのー、つまりは?」
「今までの君の活躍と情報提供へと感謝の意を込め、今からそう呼ばせてもらう!
 同時に君を我がSOS団の団員に任命だ! これから改めて宜しく頼むぞ、坂井特派員!」
「は? ちょっと話の内容が唐突過ぎてよく……いや、そういえばSOS団って、ああ、そんな事も言ってたね……秘密組織とかいうやつ」
「そう、その秘密組織だ。というわけで団員が一名増えましたとさ、めでたしめでたし。頼りにしてるぞ坂井特派員よ!」
「あははは……」
「ちょっと! 何勝手に決めてるの!? 悠二を変なグループに引き抜かないで!」

水前寺の言葉を受け、苦笑しながら"そう言えばそんな言葉がちょくちょく出ていたな"と考えていた途中。
意外にもシャナが全力でお断り宣言を発してきた。会話に割り込んでまで、水前寺の言葉をぶった切っている。

「あーあ、遂にウチにも後輩が出来ちゃったかー。水前寺はほんと仕方ないわよねー」
「ちょっ、お前っ! まさか裏切る気!? あんな自分勝手な変人が統率するグループなんかにいて良いの!?」
「まぁまぁシャナ、島田さんにも考えがあるんだよきっと。だからそこまで言わなくたって……」
「うるさいうるさいうるさぁい! 悠二だって何まんざらでもないって顔してるのよ! そんなだから変なのに引っかかるのよ!」
「ではさっそくSOS団の活動を開始! まずは島田特派員のヘアゴム探しだ、キビキビ行くぞー!」
「些か活動内容が安い気がするのは我の気の所為か……まあ良かろう、シャナも手伝ってやるがいい」
「はぁい……」
「まぁ安心しろシャナクン。君も功績を上げれば、SOS団の特派員として認められるであろう。除け者にはせんさ。
 というかむしろ、今すぐでも別に構わんのだぞ? 島田特派員の身辺警護的なこともしてくれていたのだしな?」
「いらん!」
「"シャナ特派員"か……ふむ、特派員とは何をする者なのかは解らぬが、実に新鮮な響きだな」
「あ、アラストールまでぇ……っ!」

先ほどの重苦しい雰囲気は何処へやら。あっという間に、この場は和やかなものへと変わっていった。
皆はまるで仲良く四葉のクローバーでも探すかのように、全力かつ入念に事に励んでいる。
これを楽しいと思うのはまだまだ不謹慎かもしれない。けれど、今はこれでいい気がする。
出口の見えない鬱屈とした世界が広がるよりは、全然。

「ああ、シャナ」
「何?」

しかし物語はこれで終わりではない。浅羽が戻ってくるまでの事もあるし、もう一つの大きな問題が残っている。

「百貨店のフリアグネの話だ……また後で、もっと詳しく話そう」
「うん。あれは絶対に放ってはおけない……!」
「貴様が出会った“少佐”という人間の事も気になる。安心を勝ち取るまでは、まだまだ先は長いな」

課題は、終わらない。


       ◇       ◇       ◇
347Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:47:20 ID:Irtxw7OV
紅色に輝く川沿いを、自転車で進む。
目指すは映画館。必ず行かなくてはならない場所。
休憩はもう充分したから、後は一直線。
デイパックも二つになったし、一人でもどうにか出来ると思う。





こうして一人きりで映画館に向かっていると、思い出す。
一人きりの夏休み。水前寺邦博に指示され、山にこもったあの日々だ。
まるで隔離された気分で、正直結構辛かったのは秘密である。





結局あの山篭りは、なんの収穫もなかった。
最後は一人でプールに忍び込んで、孤独にひとしきり遊んで終わり。
目立った収穫なんて、プールは実に気持ちよかったという感想ただ一つのみ。





ボーイミーツガールなんて夢のまた夢、あんなのはフィクションの世界だけだった。





新たな出会いがあったわけでもないし……今思えば本当、寂しい夏休みだったな。
348創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:47:55 ID:s3QdCimD
349Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:48:12 ID:Irtxw7OV
【C-5/百貨店近くの裏路地/一日目・夕方】

【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:鉄釘&ガーターリング、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ
[道具]:
[思考・状況]
 基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
 1:迫り来る質問に対し、どう答えるべきか迷っている最中。
 2:ひとまずティーの確保を優先(放送の時間までには帰る)
 3:状態が落ち着けば、この世界のこと、人類最悪のこと、浅羽と伊里野のことなど、色々考えたい。
 4:御坂美琴、上条当麻を探し合流する。また彼ら以外にも信頼できる仲間を見つける。
[備考]
 『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
  現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。


【ティー@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:RPG-7(1発装填済み)、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式、RPG-7の弾頭×1
[思考・状況]
 基本:「くろいかべはぜったいにこわす」
 1:シズの元へもう一度行った結果、彼の敵討ちをする事に決定。
 2:百貨店でシャミセンのごはんを調達したい。
 3:RPG−7を使ってみたい。
 4:手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
 5:『黒い壁』を壊す方法、壊せる道具を見つける。そして使ってみたい。
 6:浅羽には警戒。
[備考]
 ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。
350創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:49:29 ID:zTOU2tFJ
 
351Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:49:47 ID:Irtxw7OV
【B-4/市街地/一日目・夕方】

【水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康だがフルボッコ、髪の毛ぐしゃぐしゃ
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!
[道具]:デイパック、支給品一式、「悪いことは出来ない国」の眼鏡@キノの旅、
     ママチャリ@現地調達、テレホンカード@現地調達、湊啓太の携帯電話@空の境界(バッテリー残量100%)
[思考・状況]
 基本:この状況から生還し、情報を新聞部に持ち帰る。
 1:浅羽の帰りを待ちつつ、皆で島田美波のヘアゴムを捜索。
 2:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「朝倉涼子」「人類最悪」の二人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 3:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
 4:記録されていた危険人物(キノ)のことを神社に伝える。
[備考]
 伊里野加奈に関連する全ての忘却から免れました。「ほんとうのこと」を理解した結果です。


【島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康だがフルボッコ、鼻に擦り傷(絆創膏)、髪を下ろしている
[装備]:第四上級学校のジャージ@リリアとトレイズ、ヴィルヘルミナのリボン@現地調達
[道具]:デイパック、支給品一式、
     フラッシュグレネード@現実、文月学園の制服@バカとテストと召喚獣(消火剤で汚れている)
[思考・状況]
 基本:みんなと協力して生き残る。
 1:自分のヘアゴムを皆で探す。
 2:シャナに同行し、姫路瑞希を探す。
 3:川嶋亜美を探し、高須竜児の最期の様子を伝え、感謝と謝罪をする。
 4:竜児の言葉を信じ、全員を救えるかもしれない涼宮ハルヒを探す。
[備考]
 シャナからトーチについての説明を受けて、「忘れる」ということに不安を持っています。
 伊里野加奈に関連する全ての忘却から免れました。「ほんとうのこと」を理解した結果です。
352創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:50:10 ID:s3QdCimD
353創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:50:22 ID:zTOU2tFJ
 
354Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:50:44 ID:Irtxw7OV
【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:メリヒムのサーベル@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品×1〜2、コンビニで入手したお菓子やメロンパン、
[思考・状況]
 基本:悠二やヴィルヘルミナと協力してこの事件を解決する。
 1:悠二も水前寺も見つかったので、ヘアゴム捜索。その後悠二とフリアグネについて会議。
 2:島田美波を警護しつつ、彼女に協力。姫路瑞希を捜索し、水前寺を神社に連れ戻す。
 3:以上の目的を果たしたら一旦神社へと戻るつもりだが……。
 4:百貨店にいると思われる“狩人”フリアグネの発見及び討滅。
 5:トーチを発見したらとりあえず保護するようにする。
 6:古泉一樹にはいつか復讐する。
[備考]
 紅世の王・フリアグネが作ったトーチを見て、彼が《都喰らい》を画策しているのではないかと思っています。


【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ、アズュール@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、リシャッフル@灼眼のシャナ、ママチャリ@現地調達、贄殿遮那@灼眼のシャナ
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。
 1:シャナと再会出来たので後で贄殿遮那を渡し、神社に戻るよう伝えるつもりだったが、フリアグネが……。
 2:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「朝倉涼子」「人類最悪」の二人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 3:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
 4:記録されていた危険人物(キノ)のことを神社に伝える。
[備考]
 清秋祭〜クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻〜14巻の間)。
 会場全域に“紅世の王”にも似た強大な“存在の力”の気配を感じています。
355創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:50:53 ID:s3QdCimD
356創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:51:33 ID:s3QdCimD
357Memories Off ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:51:48 ID:Irtxw7OV
【D-5/東側の橋の上/一日目・夕方】

【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:全身に打撲・裂傷・歯形、右手単純骨折、右肩に銃創、左手に擦過傷、(←白井黒子の手により、簡単な治療済み)
      微熱と頭痛。前歯数本欠損。
[装備]:毒入りカプセルx1、ママチャリ@現地調達
[道具]:デイパック、支給品一式、ビート板+浮き輪等のセット(少し)@とらドラ!
     カプセルのケース、伊里野加奈のパイロットスーツ@イリヤの空、UFOの夏、伊里野のデイパック、トカレフTT-33(8/8)
[思考・状況]
 基本:映画館に行く。その理由とは……?
[備考]
 参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。
 伊里野のデイパックの中身は「デイパック、支給品一式×2、トカレフの予備弾倉×4、インコちゃん@とらドラ!(鳥篭つき)」です。


 伊里野加奈に関連する全てを忘却しました。世界を修復する力に飲み込まれています。
358 ◆MjBTB/MO3I :2010/07/09(金) 00:52:34 ID:Irtxw7OV
投下終了。
ほんと、すいませんでした。何かありましたらどうぞ。
359創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 00:53:23 ID:s3QdCimD
360創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 02:02:41 ID:91+TF06F
二人で心中なんて、そんな甘い結末にはならなかったかー
浅羽…おまえこれからどうするんだ
投下乙でした
361創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 02:13:09 ID:s3QdCimD
投下乙です
ふぅ……なんか読み切ったあとの読後感がすごいな、これ
浅羽じゃないけど、読んでいるこっちも頭真っ白になっちゃったというか、なんというか……
伊里野が消えていくまでの壮絶な流れと、いざ消えてからの静謐な流れが……上手く言語化できない……w
なんかそれだけ、読み終わったあとが真っ白になっちゃった感じなんだよなあ……なんだろう、ほんとにこれ
気の利いた感想も書けないし細かいことも考えられませんが、とにかく堪能させてもらいました
難パートの執筆、本当にお疲れ様です
362創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 03:03:00 ID:mln4F/5W
おお、すげえ……
消える前にもいい箇所たくさんあったのに、もう消えてしまったことしか考えられない
なんだろう。なんだろう。読んでて力を抜かれてしまったというかw
363創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 17:30:11 ID:tpAnk6/F
乙です
二人の物語もこれで終わりか…
リリア襲ったりしてたのが嘘みたいだw
名簿からは消えたけど、狐さんは覚えていられるのかどうか…

後、細かいことですが、伊里野の死亡?表記がありませんでしたよ
364創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 22:40:23 ID:Dmxwm14R
おお、こうなったか……不思議な読後感
水前寺と美波は、なんというか「本当に仲間になった」感が凄い
こっち側にシャナたちが介入するというのも予想外だったというか
でもって、浅羽は1人で映画館、か……妙にさっぱりしちゃっているのが、もう、たまらないなあ
ああ、たまらないよ!(←褒め言葉)
365創る名無しに見る名無し:2010/07/10(土) 00:14:25 ID:dYFdeVVQ
投下乙です。
不思議な読後感といいますか、イリヤとUFOの夏という作品がここでこういう終わりを迎えた?のに、なんとも言えない感慨を覚えました。
特に、今回の話で中心に立っていた水前寺。やっぱり女の子相手でも顔面パンチですよねw
あらてめて、GJでした。

さて、UFOの夏な後半はとてもよかったのですが、前半の部分に矛盾を感じる部分を見つけてしまいました。
したらばの雑談・議論スレのほうに書き込んでおきますので、ご一考お願いします。
366 ◆MjBTB/MO3I :2010/07/14(水) 00:56:52 ID:1MumoIpB
修整箇所をしたらばのスレッドに投下させていただきました。
初っ端にミスがありましたが、確認していただければ幸いです。
367創る名無しに見る名無し:2010/07/17(土) 03:00:05 ID:7Le35J5e
今更すぎっが投下乙
イリヤ読んだの随分前だがそれでもこの作品にはあの原作さながらの澄があった
やべえなあ、これ
消えるまでもだけど消えた後の心地いい風が吹き去っていっちまった後感っつうかなんつうかが
美波はもうイリヤ原作なんじゃねってくれえなじんでるなw
368創る名無しに見る名無し:2010/07/26(月) 09:55:50 ID:5XSCjHfb
ネタバレ名簿の事なんだけど、トーチ化して死んだ人と普通に死んだ人のランプ?の色を分けた方が分かりやすくない?
369創る名無しに見る名無し:2010/07/26(月) 12:22:37 ID:TTRypzWa
面白い提案だと思うよ
@wikiモードだと色指定にhtmlのカラーネーム使えるから、それっぽい色にしてみたら?
トーチだと寒色系かな、あんまり暗いと見づらいからslateblueとか
370創る名無しに見る名無し:2010/07/26(月) 18:49:01 ID:5XSCjHfb
とりあえず編集してみた
何か異論があればどうぞ
371創る名無しに見る名無し:2010/07/26(月) 19:00:50 ID:5XSCjHfb
死亡者一覧の方もいじってみたけど、どうもしっくりこないなあ
372創る名無しに見る名無し:2010/07/26(月) 21:44:21 ID:/sSWGRW3
一瞬ネタバレ名簿は、伊里野の名前を名簿から消失させる……というの考えたけどそうすると消滅した話にジャンプできないんだよなぁ。
373創る名無しに見る名無し:2010/07/26(月) 22:58:16 ID:hAOV/3qk
文字反転でないと見えないようにする、というか下地の色と合わせるとかしてみたら?
374創る名無しに見る名無し
リンク張ってあると文字色変えられなくない?