1 :
創る名無しに見る名無し:
3 :
創る名無しに見る名無し:2009/09/07(月) 20:12:44 ID:Y1qJzbJp
>>1乙です
即死するから早めに10レス迎えさせた方がよいよ
4 :
創る名無しに見る名無し:2009/09/07(月) 23:43:51 ID:aH6Epy5w
最近はこのスレも人減った?以前はもうちょっと人いた気がするが
人減るも何も、元から少なかっただけ
昔から少数の書き手が大量に投下することで持ってたスレです
魔法少女同士の戦いに巻き込まれる一般人男性の話を書きたいと思って構想中だけど
知恵と勇気だけでビルに風穴空けるような生物を相手にするのは難しい…
敵に分かりやすい弱点を作ってみるとかは?
というか戦って勝つこと前提なのか?
巻き込まれ型だと当事者の一人に守られるのが定番なんじゃないかと思うが
>>6 魔法少女りすかの主人公とか夜神月を基調とした、ある程度「ずるい」事をして
立ち向かうという事にするのはどうだろう?
正体と立場を偽って魔法少女同士それぞれに接触して、互いを噛み合わせるように仕向けるとか…。
>>6 プリティーな魔法少女には、ダンディーで対抗するんだ!!
魔法の使えない一般人で、能力と言えば人生経験のみ
こいつでなのは様みたいな娘の相手ができるのか考えてみたけど、自分には無理だった
──さぁて、どうしたものかね。
なんて、あたしの父──つまり先王が死んだことを知った家臣たちが、慌てふためくのを見
ながら思う。
「敵の狙いは何かな……やっぱり国? となると、王族であるあたしがむざむざと殺されるの
が最悪のパターンよね」
それにしても、唯一の肉親が死んだと言うのにこんなに冷静でいられるとはね、と自嘲する。
ほとんど親子らしいことはしていなかったとはいえ、些か自分が冷徹な人間のように感じられ
た。まぁこんな、冷静に色々考えなきゃいけないときには助かるのだが。
「となると、城からさっさと逃げた方がいいか」
──でもどこへ?
例え城を抜け出したとしても、あたしは一国の王女──今では女王であるが──であり、故
に国中の人間に顔を知られている。すぐに目撃情報が、この城を狙った賊に伝わるだろう。
「あ──姫! いえ、女王陛下!」
と、あたしを呼びながら家臣がこっちに近づいてくる。随分と焦ったような顔だが──何か
あったのだろうか。
「別に姫でいいわよ、まだ正式に王位を継いだ訳じゃないし──それで何?」
「はい。王宮に侵入し、国王陛下を殺害した六人の賊ですが、一人を除いて全て近衛兵が捕ら
えました」
「ふぅん──じゃああたしはもう自分の部屋に戻っていいかしらね」
今あたしは、周りを兵士に囲まれながら玉座に座っている。玉座の間は広く沢山の兵士を置
け、見晴らしがいいうえに扉も頑丈なので、こういう非常事態には役に立つのだった。
「いえ、それが」
家臣は、髭をさすりながら決まりの悪そうな顔をする。
「どうしたの?」
「その逃した一人ですが──あの『銀の射手』、だそうです」
「……何ですって。間違いないの?」
彼の言った言葉が信じられず、思わず聞き返した。
震えながら頷く家臣。
「はい──その賊たちの話や、兵士達の目撃情報からして、ほぼ間違いないかと。今のところ
死人は出てないようですが、もう何人もの王宮騎士や魔術師が倒されております」
「……そう」
──思ったよりも悪い状況のようだ。
『銀の射手』──この国でもトップクラスの傭兵として名高い魔法戦士……。まさか、そん
なビッグネームが……
「マズイわね……もし彼が噂通りの実力者だとすると、正直今の城の戦力じゃあどうしようも
ない」
「姫……」
「本当にどうしたものかしら……」
これが本当の八方塞がり、ってやつなのかもしれない。
一体どうすればこの状況を打破、とまではいかなくともせめて五分五分のところまで持って
いけるのだろうか。
やはり逃げるしかないのだろうか。しかしそれでは、さっきも挙げた問題点が──
「…………」
くそったれ、──と心中で毒吐いた時。
突然、部屋のドアが爆砕した。
「──!?」
流れ込んできた粉塵と熱風に顔を顰めながらそちらを見ると、そこには一人の男が立ってい
た。
背は結構高い。一七〇cmの後半くらいで、細く引き締められた体をしている。
その特徴的な銀色の短髪から覗く顔からは、まるで鋭く研ぎ澄まされたナイフのような威圧
感──空気を放っていた。
……人間の眼力が物理的に作用するなんて、初めて知った。
「……へぇ」
流れる冷や汗を隠しながら、余裕たっぷりに言う。……言えてるかな。
「あんたが『銀の射手』──思ったよりもいい男じゃ」
ない、とあたしが最後まで言い切る前に、突然彼の姿が消えた。一体どこに──
「──上か!!」
叫びながら玉座の上に立ち上がり、上を向きながら腰のサーベルを抜き放つ。激しい金属音
が鳴り響き、一瞬であたしの頭上まで移動してきた『銀の射手』──その手に握られた、日本
刀のような拵えの剣とぶつかり合った。
「ぐ──ッ!」
しかし──なんて、重さだ!
あたしがありったけの魔力で肉体を強化してるというのに──いや、それはあっちも同じだ
ろうが、しかし、『地にしっかり足をつけたあたし』が、『宙に浮いて踏ん張りの利かないこ
いつ』に完全に押し負けている──!?
「う、あ──!?」
踏ん張れたのはほんの一瞬だけ、まるで暴れ牛に撥ねられたかのように吹き飛ばされる。視
界が矢のように流れていき、ほとんど受身も取れずに地面に叩きつけられる。
「ぐ、ぅ」
魔力での強化のお陰で痛みはほとんどないが、それでも衝撃が体に結構きた。
まだまだ戦闘不能ではない──だが、これほどまでの能力差があるとはッ……。王位継承者
として、魔術や体術などの修行は物心ついた時からやっていたんだけどなぁ……
「姫!」
「姫様!」
あたしがぶっ飛んでコンマ数秒、慌てたように──というかこの惨状に今気づいたように臣
下や兵達が、倒れたあたしと『銀色』の間に割り込んで来る。
「大丈夫ですか、姫様」
名前も知らない兵士が、あたしの体を抱え起こす。
「ええ──なんとか」
体の軋みに顔を顰めながら見れば、まるで冗談のように兵士達が吹っ飛ばされていた。ボー
リングのピンも真っ青だ──って、ふざけたこと考えてるシーンじゃない。
こっちの方まで吹っ飛んできて目を回す兵士を一瞥する──死んでいない。鎧が砕け、その
下から酷い痣が覗いているだけだ。どうやら、峰打ちだったらしい。
さっきあたしに切りかかってきた時はしっかり刃を立てていたということを考えると、どう
やらあたし以外を殺すつもりはないようだ。
「なんかあたし、あいつに恨まれるようなことしたっけ?」
「さぁ……それは存じませんが」
噂に聞くだけで姿を見るのは本当に初めてなのだが──となると、恨みを買ったのは父だろ
う。
となると、この襲撃は王族に対する復讐──といったところだろうか。
「ったく、あの野郎余計なことしやがって──」
と、根拠もなしにあの世の父親に対して暴言を吐くあたしであった。
「……? どうしたんですか、姫様」
怪訝そうな顔でこちらを見つめる兵士(A)。
「あー、なんでもないなんでもない」
「それならいいのですが……と、それより」
眉根を吊り上げ、兵士は真剣な声音で言う。
「姫様、ここは我々に任せてお逃げください」
「ごめん、それ無理」
「──は?」
しかし、あたしの言葉に一転、目が丸くさせた。
「あいつ──兵士達に気をとられてるようで、ずっと意識をあたしから外してない」
思わず肩を竦めるあたし。
「今はあたしとの間に兵が一杯居るから手を出せないでいるけど、ここから少しでも離れたら
──」
右手の親指で首をつつー……と横になぞる。兵士が息を飲むのが聞こえた。
とはいえ、このまま動かないでいても結局は殺されるだけだし……なんて考えていると、突
然の爆発音とともに城が揺れた。
「何!?」
『銀の射手』が何かやったのか? と思いそちらを向いたが、どうやらこれは彼にとっても
イレギュラーの事態らしく、どこか驚いたような顔で、上を見つめていた──上?
彼に倣って上を向く。その瞬間、天井が爆砕してそこから一つの人影が降りてきた。
大聖堂の十字架のミスリル銀を溶かして作り、幾重にも対魔加工が施された、王宮騎士団長
にしか着ることを許されない西洋甲冑。
右手には巨大な突撃槍。二m近い身長の持ち主である彼よりもなお大きい。
兜から覗く髪は、太陽のような金髪だった。
「来た! 騎士団長来た!」
「メイン盾きた!」
「これで勝つる!」
兵士達の歓喜の声が響く。
それに答えるように、男はまるで踊るようにその槍を振り回した。
──レオン=サンライト。
我が国の王宮騎士を纏め上げる、実質王宮で最強の戦士のご登場だった。
……しかし、こいつ。
「……あんた、今日は腹が痛いとかいって休んでなかったっけ? 随分と元気そうじゃない」
「あははははは……」
と、レオンはこちらを向いて苦笑する。とてもその実力に似つかわしくない、ひょろひょろ
とした優男系の二枚目な顔が目に映った。
「いやぁ、部下から連絡が来まして……こんな危険が危ない! な時に腹が痛いなんていって
られず、とんずら使って通常では着かないような時間でカカッと王宮まで来たんですよ」
「そんで? もちろん天井の修理費は出すんでしょうね?」
「ところで──彼が『銀の射手』ですか?」
この野郎無視しやがった。あとで二割増しで請求してやる──なんて言ってる場合じゃない
か。
「えぇ──そうよ」
「ふうん、これはこれは噂に違わぬ実力の持ち主のようで」
その顔には相変わらず笑みが張り付いていたが、声は真剣そのものであった。あたしから視
線を外し、銀色の方を見据える。
『銀の射手』もレオンの実力を──手加減をできる相手ではないと悟ってか、その手の日本
刀の刃を返した。
どちらも一歩も動かず、視線を交わすだけ。
その雰囲気に飲まれてか、兵士達は動きもしなかった。自分達がどうにかできる状況でない
とわかったのだろう。
一触即発の空気。
ふと、誰かの息を呑む音がし──それを合図にしたように、二人の男は動いた。
さっきのあたしの立ち回りがお遊びのような激しい剣戟。正直目で追うのがやっとなほどの
レベルの高い攻防だった。
「姫様……」
と、先ほどの兵士が言ってくる。
「そうね。今ならなんとか逃げれるかもしれない」
レオンと『銀の射手』──二人の力はほぼ釣り合っている。
つまり、逃げるなら今のうち──
そうと決まればさっさと行動だ、とあたしは走り出す。
「──!!」
「おおっと、姫様はやらせないぜ?」
当然それを阻もうとする銀色の前に、レオンが回りこんだ。激しい金属音が鳴り響く。
「サンキュ、レオン! お互い無事だったら天井代ちゃんと払ってよ!」
「あははははははは……」
レオンの苦笑いと、剣戟の音を聞きながら、破壊されたドアから廊下に出た。
という訳で幕間でした。
明らかに異世界の異国みたいな世界観なのに、
日本刀とかセンチメートルとかが使われてるのは、まぁ、その、うん。
>>まなみ作者様
新作投下乙ですー
変身シーン……変身シーンか……
話はできてるけど、どんなコスチュームか
まだ決まってないのよねぇ。
候補としては黒い軽装鎧か、紋付袴とか。
中華の次はインドとか。レインボーm(ry
前スレ
>>408様
パロは多くなりそうですが、
それを抜きでも面白いと言われる作品を目指したいと思います。
あぁ……名前ミスった……orz
>>19 投下乙
正統派洋物ファンタジー突入かと思いきや突然のブロントネタで悲しみが鬼なったが
見事なSSだと関心するがどこもおかしくはない
…その……つまり続き頑張って下さい、ってことで……
>あぁ……名前ミスった……orz
俺のログには何もないな
投下乙です。
正直、前回とかけ離れてて、困ってしまった。いきなり戦争してるし、それの説明もないし。
話が進んだ印象がないっていうか。あと、タイトルは長くても略さない方がいいかと。
それ以外は面白かったです。
申し訳ないが俺も
>>21に同意だな
あまりに話が繋がってないというか、本題に辿り着く気配が見えないというか・・・
タイトルもまだまだ認知が薄い、増して新スレなのに、
「新感覚(ry」で切られても読み込みの浅い読者には何が何だか分からないよ
丹下桜復活! 丹下桜復活!
ロリ騎士2スレ目! ロリ騎士2スレ目!
ということで投下します。
目が覚めると見知らぬ天井――なんてどこぞのSSみたいなことは当然なく、朧気な視界にはよ
く知った幼馴染みの顔と、雲一つない真っ青な空が映っていた。
……あれ、これって膝枕ってやつ?
「……大丈夫?」
鴉がボクの顔を覗きなが言う。
そういえば、なんでこんな状況に陥っているんだろう。なんか、物凄くインパクトの強いものを
見た気がするが。
ゆっくりと体を起こす。どうやら、先ほどまで歩いていた道の端っこに寝ていたようだ。
「あーうん、別になんともないかな」
強いて言えばこいつの膝のところにちょうどあるコートのボタン――そこに当たってた後頭部が
痛いが、一々報告する事じゃあないだろう。
「……そう。なら、いい」
と素っ気なく(いつもとあまり変わらない)言って立ち上がる鴉。わざわざ無愛想に振る舞うのが
こいつなりの照れ隠しだと知っているボクは、そんな様子に思わずニヤニヤ。
「……何、笑ってるの」
「べっつに〜」
ニヤニヤニヤニヤ。
「…………!」
「危なっ!?」
こいつ、顔面狙って足降りおろしてきやがった!
それをなんとか転がって避け、勢いのままに立ち上がる。
「な、何をする!?」
「…………」
不味い……絶対怒ってる。いつもの無表情の時よりも微妙に眉がつり上がっており、心なしか頬
が膨らんでいる。
ああくそ、この怒りが自分に向いてなければ抱き締めたくなるほど可愛らしいのに!
「すまんごめん悪かった、謝るから許してくれっ……」
ひたすらへこへこと頭を下げまくる。情けないと思うなよ。誰だって素手でコンクリブロックを
破壊する相手を怒らせたくはあるまい。
「…………」
そんなボクを黙ったまま睨み付ける鴉。
「…………」
「…………」
長々と続く沈黙。
ええい、判決はまだか! このままじゃボクの寿命がストレスでマッハだぞ!
「……まぁ、別に、いい」
と、ようやく言う鴉。完全に機嫌が直ったわけではなさそうだが、当面ボクの骨や内臓がズタズ
タに引き裂かれることはなさそうである。
「……でも、御仕置きは、する」
「……え」
が、まだどうやら危機が去ったわけではないようだ。
お仕置き、って一体何をするつもりだ……?
と、ボクが頭の中で思いつく限り様々な拷問法を考えていると、
突然、鴉の真っ白な肢体が晒された。
「──は?」
思わず間抜けな声を出したボクを、誰が責められようか。
鴉は、唐突にボクの目の前で、そのコートの前のボタンを外し、下着姿を露わに……ってちょっ
と待てぃ!
「お前、下着の上に直接コート羽織ってたのかよ!」
前から一年中コート着てて暑くないのかと思ってたが、それが理由か!
「……さすがに冬場は服を着る」
「まぁそりゃな……ってそうじゃねぇよ! 春でも夏でも服は着ろよ! お前それじゃただの露出
狂の変態だろうが!」
今は人目がないからいいようなものの、こんな姿誰かに見られたら……あれ、ボク今凄くピンチ
じゃあ……
頭の中に『小学生男子、往来で同級生女子を下着姿に!』といった新聞の見出しがでかでかと印
刷される。
もしそんなことになったらボクの人生終わる。くそ、なんて恐ろしいお仕置きなんだ……! と
いうかちょっとニヤニヤ笑っただけでこれって割りに会わなさすぎだろ!
「た、頼むから服を着てくれ!」
ってか、ボクの人生云々はさておき、こいつの裸がボク以外の人間に晒されること自体が許せ
ん! こいつのあられもない姿を見ていいのは幼馴染であるボクの特権であり……って、混乱しす
ぎだ落ち着けボク!
「……わかった」
「あり?」
意外とあっさりと引いたな。ちょっと残念──っておいィ!
いつの間にか伸ばされた鴉の手がボクの腕を掴み、そのまま思いっきり引っ張る。その細腕から
は想像もできないような力で、ボクは凄い勢いで未だ下着を見せ付けている鴉の体に引き寄せられ
た。
「ぐ、ぉ──」
想像を絶する衝撃がボクの体を襲ったが、鴉はまったく身動ぎしない……こいつの体はルナ・チ
タリウム合金でできてるのか? いや、でも肌の感触とかしっかりと柔らかいし──
と、混乱の境地に達したボクをよそに、鴉はコートのボタンを閉めた。当然、ボクの体を巻き込
んで。
――え、何々? 何なのこの状況。
「あの〜……鴉さん? 一体これって……」
「……このまま……」
鴉の声が、吐息と共に伝わってくる。うん、何でだろう。女子の顔がこんなに近くにあるのに、
まったくロマンチックさを感じないんだが。
「……このまま、家に帰ってもらう」
あはははは、なんだそんなことか……あはははは。
…………
……なん……だと……
この状態のままうちに帰る?
ああつまり、どのみちボクの社会的抹殺は免れないということですかそうですか。
……いやまてよ、別に今なら鴉の恥態が晒されてる訳じゃないんだから、周りからみればただ小
学生がじゃれてるようにしか見えないのか。でもそういう問題じゃねえ! 何だろう、いまでも時
々一緒に風呂に入ってるのに、それとは違うこの恥ずかしさは!
「ちょ、これsYれにならんでしょこれ……」
「……御託はいい、さっさと歩いて」
ごつごつ、とコートの中でボクのスネを蹴って来る鴉。地味に痛い。
「わかったわかった歩くから……ってマジ痛いから蹴るのをやめてくれ!」
一体何なんだろうね、このシチュエーションは。
足の痛みに顔を顰めながら、歩き出す──ど同時に、向こうの方から女の人が歩いてくる。ちょっ
と幼い感じの顔(小学生のボクが言うのも変だが)には何か楽しいことでもあったのか笑みが浮か
んでいたが、ボクたちの姿を見たとたんに一転、目を丸くしてこちらに奇異の視線を向けてきた。
うぅっ、あまりの恥ずかしさに死にたい。
「うーまれてーくるーあーさとー」
「お前は何歌ってるんだよ! 余計に恥ずかしいだろうが!」
あぁ、何度でも言いたい。
この罰は明らかに罪とつりあってなさすぎだろう。
書いてて砂糖を吐きそうになった。
いや、むしろわたあめを。
>>20 一級読者の貴方が貧弱SS書きの俺に対し感想を書くことで俺の喜びが有頂天になった
この喜びはしばらくおさまる事をしらない。
>>21-22 突然舞台が切り替わったこと──そこら辺は後々説明していくつもりです。
タイトルに関しては、途中で切らないと
「名前が長すぎます!」ってエラーを吐かれるので。
正直、現時点でも結構ギリギリっぽいのですが。
……ところで、新スレ使うの早すぎた、のか……ッ!?
>丹下桜復活! 丹下桜復活!
情報おせぇw
予告だとタイトル全部入っていた件
チャプターがいらないかと。というか優先順位は普通は
タイトルの方優先じゃないのか…?
もしくは1レス目の頭にタイトル表示するとか、いろいろ方法はあるぞ
32 :
創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 17:46:58 ID:atHg63Iu
前スレもようやくウメコ登場で埋まったようだ
しかし四つ目のレスが気になったw
前スレの終り方ひでぇw
ギリギリで足りると思ったがギリギリ足りなかった
投下できなかった分をこちらに改めて投下・・・するつもりもない
だが私は謝らない
謝るかわりに筆を取る
都会の中心を彩る華やかなビル街は、今日も昼も夜も無く人通りが絶えない。
しかしその全てが人で溢れているわけではなく、中には人通りの少ない場所もある。
そんな寂れた街の一角に、ビルと呼ぶには小さな5階建ての建物があった。
くたびれたその建物の借り手は今ではただ一人しかいない。
その唯一の借り手は2階に借りた部屋を自分のアトリエとしており、
小さなアトリエの入り口に掲げられた分不相応に大きい看板には、
力強い筆文字で『筆魔女リライが悩みごと相談、無償で承り候』などと書かれていた。
今、アトリエの中には苦悩の唸り声が響き渡っている。
筆や絵の具、用紙などの画材があちこちに散乱している中、
唸り声のあるじはゴミ溜めのような机に向かって延々とタイプライターの調べを奏でている。
鬼のような形相で文字盤に向かうそのボサボサ髪のメガネ魔女を、
小さな幽霊のような白い魔物が頭上から不安げな表情で見下ろしていた。
「……むぅぅ、この展開もイカン!! これでボツ16回目ではないか!!」
書きかけの原稿を引き千切り、丸めて机の端に投げ捨てる魔女。
「ライター・リライ、そろそろ妥協してください。万一、原稿落としたらクビですよ?」
「やかましいぞエディー氏、気が散るから黙っていたまえ!」
宙に浮く担当編集エディーの言葉を歯牙にもかけず、
魔女作家リライは新たな紙をセットしてタイプを再開する。
……が、程なく新品だった紙は彼女の手の内で握りつぶされる。
「口惜しい……これでは真に迫るモノが一欠片も無いではないか!
このような程度の低いホラ話では、読者の目を引き付けることなどできはせぬ!」
振り返って手にした紙屑をドアに投げつけようとしたリライだったが……。
リライはそれを中断し、ずり落ちかけている丸メガネをかけなおす。
「む……少年、キミは誰だね?」
そこにはおどおどしながら目を泳がせる少年の姿があったのだ。
インターホンを押しても誰も出てこなかったので中に入ってみたらしい。
ちなみにインターホンはとっくの昔に壊れてしまっているので音は鳴らない。
「あ、あの……勝手に入ってしまってごめんなさい……。でもお願いが……」
「!! 悩み相談の依頼かっ!?」
「で、でも忙しいみたいだから、出直しま――」
そそくさと逃げ出そうとする少年の両手を、
音速で椅子から飛び出したリライがバシッと握る。
「よぉぉーーーく来てくれた少年!!
ベストタイミング、神の思し召し、千載一遇……。いや、とにかくちょうど良かった!!」
「え……えぇーっ!?」
「さぁ、早速悩みごとの内容を聞かせてくれ!」
少年が戸惑っているうちに、にんまりと笑うリライによって、
少年の身体はお客様用のボロ椅子の上に運ばれていた。
今、リライと少年は大手病院の一室を訪れていた。
ベッドでは、様々な医療器具を装着された幼い少女が眠りについている。
「この子がキミの妹さんかね?」
「はい……医者の話では、今夜が峠だと……」
現代医学では病魔に侵された彼の妹を救うことは出来ず、
どうしても妹を助けたかった少年は、偶然リライの噂を聞きつけ、
藁にもすがる思いで彼女の下へやってきたのだった。
「ふむふむ、大体わかった」
妹の顔をしげしげと眺めていたリライは、勝手に納得して頷くと、
スケッチブックを取り出し、さらさらと何かを書き始めた。
「……よし、キャラデザはこんな感じでいいかね?」
そうして少年の目の前に突き出されたのは、やや萌えキャラ化された妹の絵であった。
よく見ると、何故かその頭上には小さな王冠が乗っている。
「何やってるんですか……遊んでるヒマがあるなら妹を助けてくださいよ!」
「まぁ落ち着きたまえ、これは私の魔法には必要な作業なのだ。
創作も魔法もイマジネーションだからな、いかに無意識の深淵を開拓できるかという――」
「わ、分かりましたからそろそろ本題に入ってくださいよ!」
またリライの薀蓄というか一人語りが始まりそうになってしまったので、慌てて止める少年。
リライは語りに没頭し始めると止まらなくなるということを、
既に4回もノンストップで薀蓄を聞かされた少年は十分に理解していた。
「ふむ……まぁいい。では、魔法を使う前に約束してもらおう。
これから魔法によって起きること、そしてその体験を、決して他人に口外しないこと。
これを守ることが出来ないというのなら、私はキミに協力することは出来ない」
そうか、魔法のことが世間に知られるとマズイんだ。
少年はそう解釈して納得した。
「ええ、もちろんです。約束します」
「そうか、では魔法を始める。……っと、流石に場所が悪いな」
ここが病室だということに気付いたリライは、近くの公園へと場所を変えることにした。
「では、今度こそ始めるぞ」
公園のベンチで足を組んでいるリライは、少年を眼前に立たせ、
自身は表紙に魔法陣の書かれた分厚い本に、何事かを書き込み始めた。
更にぶつぶつと、呪文のようなものも唱え始める。
気になった少年は、本を覗き込もうと首を伸ばしてみるが……。
次の瞬間、自分が透明な水をたたえた井戸を覗き込んでいることに気付く。
「うわっ、なんだこれ!?」
慌てて身を起こして辺りを見回してみるが、
ここは少年が見たことも無い深い森の中だった。
植物は変わったものばかりが生えており、日本、いや地球であるかも疑わしい。
(助けてください!!)
ふと、少年の耳に助けを求める声が響いてくる。
その声には、不思議とどこか聞きなれたような感じを覚える。
それが井戸の中からだと気付き、再び井戸を覗いてみる少年。
井戸の水面には……王冠をかぶった彼の妹の姿が映っていた。
「お、おまえ!? 何やってるんだよ!?」
(勇者様、お助け下さい! 私はシスター王国の皇女です!
今、私の国は、病魔シックによって滅ぼされようとしているのです!)
「な、なにを訳のわからないことを言ってるんだよ!?」
(おねがいです、どうか助け……きゃあっ!!)
皇女が悲鳴をあげ、映像が乱れる。
やがて、井戸の水面には何も映らなくなった。
「……なんなんだ、一体……」
『設定がお気に召さなかったかね?』
「! リライさん!」
声をかけられた少年が振り向くと、
そこにはリライが半透明の身体で宙に浮いていた。
「リライさん、ここはどこなんですか? さっきのお姫様は一体……」
『ここは私が書いた物語の世界……。否、“書いている”物語の世界だ』
「書いている物語の世界……?」
少年は再び辺りを見回してみる。
言われてみれば、この世界には微妙に現実感が足りない。
『この私、筆魔女リライの力は、物語を紡いで仮想世界を作ること。
病魔に侵された妹さんと、それを助けようとする兄である少年。
そんな現実をモデルにして、軽く物語のプロットを組み立てておいた。もちろん、主人公はキミだ』
「僕が……物語の主人公?」
『ただし、この物語はまだ未完成だ。まだ登場人物たちのドラマが描かれていないからな』
「それで、僕はどうすればいいんですか?」
『主人公であるキミの役目は、病魔を倒してさらわれた王国の姫を救うこと。シンプルだろう?』
リライの話を聞いた少年は、眉をひそめて口をつぐんでしまう。
『どうした、少年』
「……これはただの物語なんでしょう? なら、仮に僕が病魔を倒すことに成功したとしても……」
『現実には何の影響も無いただのバカバカしい戯れだと……。
妹の命が助かることなどありはしない、と……そう言いたいのかね?』
「……………………」
『……確かに、これは物語だ。キミが殺されても現実に戻るだけだし、
この世界のモンスターが抜け出して現実の人間を襲ったりなんてこともない』
「じゃあ……」
『だが、これだけは覚えておくのだ少年よ。
世界の運命を変えられるのは、物語の主人公だけだということ、
そしておとぎ話を真実にできると信じる者だけが、物語の主人公足りえるということを』
静かにそう言うリライの表情はふざけているようには見えない。
むしろ、少年が知っている中で最も真剣な顔だった。
「……わかりました。僕、やってみます!」
『そうか、では健闘を祈るぞ少年!』
丸メガネを指でつまんでキラリと光らせると、リライの姿は宙に溶けていった。
少年は躊躇いながらも、冒険への一歩を踏み出した。
☆ △ ◇ ※ ☆ △ ◇ ※ ☆ △ ◇ ※ ☆ △ ◇ ※ ☆ △ ◇
そんなこんなで、少年は数々の冒険を乗り越え、とうとう病魔の居城までやってきた。
その右手には、病魔を倒すことができる唯一の武器と言われる聖剣が握られている。
『いよいよ最終決戦だな』
「リライさん!」
少年の前に再びぷかぷかと浮かぶ半透明のリライが現れる。
決戦が近いので応援に来たのだ。
『本当なら、私も“魔法少女パステル・リララ☆”とかで参戦したかったんだがな。
今はこの世界を構成・維持するのに精一杯で、そんな余裕が無いんだ』
「リライさん、少女って歳じゃないでしょう」
軽口を叩きつつ、少年は病魔の下へ赴く。
怪物なら物語の途中で何匹も倒してきた。
今更どんな輩が出ようと怖くは無い。
……しかし、病魔の姿は少年の想像を超えていた。
そのどす黒い身体は小さな城ほどもある。
全身の至るところに人間を食らうための赤い穴が空いており、
その内側からは無数の鋭い牙が飛び出てきている。
「な、なっ…………びょ、病魔ってレベルじゃないですよ!!」
『妹さんの中にあった病魔のイメージを元にしたんだ。
圧倒的なまでの苦痛と死のパワーで塗り固められている強敵だ』
「そ、そんな……!」
『油断するな少年、来るぞ』
「う、うわああっ!! 来るなぁっ!!」
向かってくる病魔に対し、少年は無我夢中で剣を振り回す。
その切っ先が病魔に触れた瞬間……。
(パキィィン……)
「あっ……!?」
唯一、病魔に対抗できるはずの聖なる剣は、実にあっさりと砕け散った。
恐怖に溺れた少年の内心を写すかのように。
病魔は文字通り、全身で牙をむいて少年を威嚇する。
「む、無理だ……こんな化け物に勝てるわけがない……」
腰を抜かして尻餅をついた少年は、そのまま力なく身を伏せてしまう。
少年の心を、絶望と諦めが覆う。
そうだ……所詮はこれは物語だ……。
ここで自分が死んだとて、現実に帰るだけ……。
何がどうなるわけでもないんだ……。
『あきらめるな!!!』
「……っ!?」
突然、リライが声を張り上げたので、反射的に顔を上げる少年。
『少年、あきらめてはダメだ!! 絶対に!!』
「リライさん……なんでだよ……」
『何故なら……キミに、あきらめる権利は無い!!』
「ええええええええええええええええ!?」
ずっこける少年に対し、リライは矢継ぎ早に言葉をつむぐ。
『いいか、少年! 今のキミは、物語の主人公なんだぞ!
主人公が恐れをなして逃げ出して、妹の命をあきらめる……。
そんな物語を、キミは読みたいと思うのか!?』
「いや、それは……」
『少なくとも私は嫌だぞ、絶対に!!
この私の著作歴に、そんな駄作の存在は許さん!!』
その論理展開は自己中心的で、感情論そのものだったが、
それでも、いやだからこそ、少年は真に迫るものを感じた。
この人は、物語をつむぐことに命を懸けているんだ……。
ならば自分は、主人公である自分は、それに応えなくてはならない。
少年は、刀身の無くなった聖剣を投げ捨て、立ち上がる。
病魔が再び牙をむいて威嚇する。
しかし、少年はもう怯まなかった。
「それで、奴を倒すにはどうすればいいんですか!?」
『走れっ!』
「走る!?」
『主人公であるキミは、ただ迷わずに前へ走り続ければいい!
ハッピーエンドへの筋書きはこの筆魔女リライが書いてやる……だから、決して恐れるな!!』
「……分かりました、恐れません!!」
意を決して、病魔に向かって走り出す少年。
その足取りは力強く、迷いは感じられない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
少年は地を蹴り、病魔に向かって飛び掛った!
☆ △ ◇ ※ ☆ △ ◇ ※ ☆ △ ◇ ※ ☆ △ ◇ ※ ☆ △ ◇
「手術は無事に終わりました。大丈夫、妹さんはお元気ですよ。
面会もOKですから、お見舞いに行ってあげてください」
現実に帰ってきた少年が病院に駆けつけると、
実にあっさりと、妹の無事が告げられた。
「良かったじゃないか、少年。キミのおかげだな」
病室への道を歩きながら、リライはパンパンと少年の肩を叩く。
「……結局、僕達がやったことに何か意味はあったんですかね?」
少々疲れたような顔をして、力の無い目でリライを見返す少年。
彼は満身創痍になりながらも、決死の覚悟で病魔を倒すことに成功したのだ。
「妹さんが助かったのも、物語とは関係ない偶然……だと思うかね?」
「い、いえ……その……」
「ふふふ、まぁ好きに取るといい。私はどちらでも構わないのだからな」
何がおかしいのか、リライはやけに上機嫌だった。
少年はリライに感謝を述べるべきか迷っていたが、
その過程で、とあることに思いが至る。
「……あの、そういえば、お礼はどうすれば……?」
「いや、要らないよ。もう貰ったからな」
「え?」
「あー、そうそう。前にも言ったと思うが、
私の魔法で得た経験については、絶対に他人に口外しないでくれたまえよ!」
「あ、はい、分かってます」
一昔前とくらべて魔法使いの存在は周知となったとは言え、
やはり魔法のことについて他人に知られるのはマズイのだろうか。
などと考えているうちに、少年は妹の病室に辿り着く。
「お兄ちゃん!」
少年の存在に気付くと、彼の妹は笑顔を咲かせて彼を迎える。
まだ点滴がつながれてはいるものの、聞いたとおり元気そうだ。
「おまえ良かったなぁ、こんなに元気になって!」
「あのね、あのね……あたしのこと、勇者様が助けてくれたの!」
「えっ、それって!」
「えへへ……夢の中のお話だけどね!」
少年は思わず廊下へ振り返る。
……が、既にそこにはリライの姿はなかった。
☆ △ ◇ ※ ☆ △ ◇ ※ ☆ △ ◇ ※ ☆ △ ◇ ※ ☆ △ ◇
魔女作家リライと担当編集エディーは、アトリエで乾杯していた。
「原稿、なんとか完成しましたね」
「うむ、危ないところであったがな」
リライ著作の人気シリーズ、『The Witch Writer』は無事に誌面に掲載された。
今回のシナリオは病魔に侵された恋人を救うために奮闘する勇者の物語。
世界観は陳腐だが、奮闘する勇者の心理描写には鬼気迫るものがある。
アンケートでの人気も上々のようだ。
「それにしても、あんな形で口止めをしなくてもいいと思いますけど。
正直に自作のネタに使わせて欲しいと頼めば済む話じゃないですか」
「ん、私の魔法で起きるってことを口外するなって話かね?」
「ええ」
「……………………」
何を思ったか、リライはそっと立ち上がり、窓から外を見下ろす。
「現実は物語を生み、物語は現実に影響を与える。……二つの世界は、密接に組み合わさっている。
飽くまでなるべくではあるが、私は自分の創作によって現実を変えたくはないのだよ。
ありのままの現実の姿、それこそが極上のネタを引き出すことのできる唯一無二の金脈なのだから」
エディーはまた体のいいことを言って己の世界に浸っているなとは思ったが、
編集のエディーとしては質の良い作品を上げてくれれば文句は無いので、
特にそれ以上追求する気は特に起きなかった。
「しかし思いつきで勇者と姫にしたのだが、
やはり原作通りに兄と妹にした方が良かっただろうか?」
「私はどちらでも構わないと思いますよ」
「そうか。実はだな、私にも妹が居てだな」
「聞いていません」
「妹も私と同じく、目が悪くて丸メガネでな。
地元に居た頃は丸メガネの姉の方、妹の方などと呼ばれていたものだ」
「だから聞いていません」
「生意気で我が侭な奴だったがな、いざ離れて暮らしてみるとこれが意外と寂し」
「これ以上続けるなら、自分は帰ります」
「薄情だなエディー氏は。ならば何か別の話題を出してみたらどうかね?」
「それでは、次の締め切りですが……」
「むぅっ、そう来たか……。
一つ書き上げたばかりなのだ、しばしの休息を許してはもらえぬだろうか」
「ダメです」
「ぬぐぐ……」
結局、缶ビールを一本空けただけで原稿完成の打ち上げはお開き。
リライはいつものように、エディーに見張られながらタイプライターに向かうのであった。
「いつも締め切りを先延ばしにしてるからこういうことになるんですよ」
前スレでウメ子作者もなんか書けと言われてむしゃくしゃして書いた
今は反省している
ネタにしても話にしても作りが上手くて、個人的に凄く好きな物語でした<リライのネタ帳
ウメ子のやりきれなかった分は、まとめサイトで補完してみては?
もしくは……このスレの埋めの為にとっておくおつもりでしょうか?
45get
鴉ちゃんまだかなー
まだかまだかと待つのもいいが
せっかくなら自分で新たな魔女っ娘や変身ヒロインを
作ってみてもいいんでないかな。
感想書く人が増えたらねw
投下されたら、まるでイナゴかネズミの様に住人が涌いてくる。
それがこの板の不思議。
つーか何だかんだで人いるのかね
投下無い時は無いけど、ある時はドバッと来るし
土日は意外といない。
むしろ平日の夜の方が人は多いね。
ある特定のスレに集中してるけど。
>>49 今より人増えて欲しかったらまず書け
話はそれからだ
55 :
武神戦姫凛 ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/09/26(土) 22:00:23 ID:Ur4g4Yx6
武神戦姫凛第四話投下します
武神戦姫凛 第四話『お転婆お嬢様がやってきた!』
連春に凛とシャニーが来てからすでに二週間。彼女らの活躍で、
獄牙のバイオモンスターは次々と破れ、僅かながらに治安もよくなっていた。
しかし、獄牙とて、そのまま黙っているわけではない。
「パリア、バイオモンスターの強化策の進行度はどうだ?」
獄牙本拠地の最上階。そこに幽覇とパリアが机を挟んで向かい合っていた。
「はい、順調です。もうまもなく使用することも可能になるかと」
「む、それならばよい。凛とシャニー…奴らがどれだけ強かろうが、所詮は
たったの二人。今度ばかりは奴らもお手上げだろうて…」
パリアが地下の研究所に向かい、その強化されているバイオモンスターが
入っているカプセルを眺める。
「これで、あの戦姫の二人組みも、フルボッコされちゃうわねぇ。
今から楽しみだわぁ、あの子たちが泣き喚いて、許しを乞いて、絶望する姿…」
ご機嫌な様子でいるパリアは思わず涎が垂れ、慌ててそれを拭いた。
研究員がパリアに今回のモンスターの資料を渡す。
「パリア様、思った以上の完成度です。特に防御力に秀でております」
パリアが渡された資料に目を通し、怪しく笑みを浮かべて
「うん、これならいい感じだわねぇ♪戦姫のお嬢ちゃんたちも、イチコロね」
結果に大満足なのかご機嫌な様子である。
「それじゃ、さっそく使うから、携帯用カプセルに突っ込んどいて」
パリアの指示に従い、早速研究員たちは、作業を開始する。
スキップをしながらパリアは研究室から去っていった。
―――連春の街では先日の偽戦姫事件で、荒らされた街もある程度復興を遂げていた。
しかし、完全というわけではなく、凛とシャニーは相変わらず大悟の家に泊めてもらっている。
さて、街が穏やかな朝を迎えた頃、二人は港に向かってジョギングをしていた。
特に何もないなら、朝稽古はやはり欠かせない。
「シャニー!今日はあたしが先に行かせてもらうよ!」
「ふふっ、そうそう負けないわよ?」
―――港に息を切らした凛と、余裕綽綽なシャニーの姿。
「はぁ、はぁ…くっそぉ、シャニーは相変わらず足速いなぁ」
「でも、凛もだいぶ速くなったんじゃない?さ、息を整えたら始めましょうか」
シャニーの言葉に顔をあげ、微笑む凛。
しばらくして、二人が軽く手合わせを始めようとした頃、港に一隻の船が入港してくる。
「ん?朝一の便か…」
気にせず、手合わせを続けようとする二人。だがしばらくして、ドドドドっと
轟音が船の方から近付いてくるのに気付き、そちらの方へと振り返る。
と、同時に何かが凛に飛びついてきた!
「うあ!?な、なんだぁ!?」
「凛お姉ちゃあ〜ん!!久し振りぃぃぃぃ!!」
凛に飛びついてきたそれは小柄な女の子。髪はツインテールで、色はオレンジ色。
「か、楓!?どうしてここにいるんだよ!」
楓と呼ばれた少女は聞こえてないのか頬擦りをなかなか止めない。
仕方なく凛は右腕に力を込めて
「天翔拳!!」
「あきゃああああ!?」
容赦なく吹っ飛ばした。楓が目を回してるうちに、凛は立ち上がり、ズボンについた砂を
払い落して、楓に歩み寄る。
「まったく…楓、いつまで渦巻き目でいるつもり?起きて」
自分で吹っ飛ばしておきながら、凛は無理やり起こす。
「う〜ん…はっ、凛お姉ちゃん、シャニーお姉ちゃん…!」
ようやく目を覚ますと、ゆっくりと立ち上がる。
「楓…いろいろ聞きたいことがあるけど、とりあえず、落ち着ける場所に行こうか…」
三人は港の近くにあるドーナツショップに入る。
「楓ちゃん、どうしてこんなとこに来たの?」
適当な席に座るや、すぐにシャニーが彼女に問い出たす。楓はちょっと考えたような
表情で切り出す。
「だって、凛お姉ちゃんも、シャニーお姉ちゃんも、私のこと置いてくんだもん…」
東雲楓は二人が日本の東雲道場で修行していたころに出会った、東雲家の一人娘である。
ある日、やってきた二人とはすぐに仲良くなり、一緒に武術修行をしたりもしたが
つい先日、二人が突然姿を暗ましたので、追いかけてきたのだ。
「お姉ちゃんたち、悪い人と戦って、昔のお師匠さんの仇を討つんでしょう?
私にも手伝わせてよ!」
一点の曇りもない表情で二人に言うが、本人たちはため息を吐く。
「あのなぁ、楓。あたしらのやってることは正義のためだって言っても所詮、
傍から見りゃ単なる復讐者。お前までこんなものに手を出さなくてもいいんだよ」
それにシャニーが続けて
「それにね、楓ちゃん…楓ちゃんには悪いけど、まだ未熟なあなたを巻き添えには
出来ないわ。ほら、今なら間に合うから早く日本に帰りなさい」
「でっ、でもぉ!」
「楓!言うこと聞けないなら、無理矢理でも帰りの便に乗せるからな!
痛い目に遭いたくないならさっさと帰る!」
心を鬼にして、凛は彼女を怒鳴りつける。それにたじろき、シュンとなる。
「凛、ちょっと言いすぎじゃない…?」
「なんだよ、シャニーも楓は危険な目に遭わせたくないだろ?」
空気が沈むなか、外から人々の悲鳴が聞こえ始める。
思わず凛が外に飛び出すと、そこには巨体で暴れまわる怪物の姿が。
鎧のような装甲を纏っており、見た目からして力強い印象を受ける。
「獄牙のバイオモンスターだ…!シャニー、行くよ!!」
「OK!楓ちゃん、ここで大人しくしててね」
「あっ、お姉ちゃんたち…!」
楓が声をかけようとした時にはすで、二人の姿はなかった。
楓は、何かを思いつめるような表情でいる。
「「戦姫転生!!!」」
二人の身体が光に包まれ、紅と黒のチャイナドレス風戦闘服姿へと変身する。
そして敵の前に堂々と降り立つ。
「あらあら、随分早かったわねぇ、戦姫のお嬢様たち?」
怪物のすぐ隣にパリアが姿を現す。
「パリア!また街の人たちを気分で苦しめてるな!」
「横暴な行い、許しはしない!」
「ふふ、粋がるのもいいけど、今回はあなたたちでは絶対に勝てないわよ?」
憤る二人を見据え、そして嘲笑う。
「なんだとぉ!?あたしもシャニーも、お前たちなんかに負けないんだから!」
「そうよ!獄牙…そしてあなたたちも必ず倒してみせるわ!」
「いいわ、やってみなさいよ。あなたたちだけじゃ絶対に倒せないということがわかるから」
怒りに身を焦がした凛は速攻で、飛び上り、バイオモンスターに向かって
拳を振るう。
「くらっとけ!雷刃拳!!」
戦闘開始と同時に必殺拳をお見舞いする!だが、無数の拳を叩きこんでもバイオモンスターは
ダメージを受けるどころか、怯むことすらない。逆に凛の拳に鈍痛が走る。
「つぅ…!な、なんだこいつ!?」
「凛!はぁぁぁ…!気功蹴!!」
シャニーは足に気を纏い、回し蹴りを空に放つ。すると、纏われた気が弾丸のように
飛び、敵にヒットする!だが、それは反動を利用し、シャニーの方へ跳ね返ってくる。
「うそ…!?ああぁぁぁぁ!!」
「シャニー!大丈夫!?」
吹き飛ばされたシャニーを救出し、なんとか間合いを取る。
「おほほほ…!凛、シャニー、いつまでもあなたたちの思うように事が運ぶとは
思わないことね。こっちもやられっ放しってわけにはいかないのでね。ちょっと
バイオモンスターを改良したのよ。ここまで成果を発揮出来るとは思わなかったわ!」
嘲笑うパリア。二人は敵の攻撃を避けながら、作戦を立てていた。
「バラバラに攻撃しちゃ駄目だ…シャニー、同時にやるよ!」
「わかったわ!」
二人は両腕に気を集め、練り始める。だが、そこに鎖が飛び、二人を巻きつける。
「なっ!?」
巨体からは想像も出来ない素早さで二人を巻きつけたバイオモンスターは
シャニーをつるし上げ、振り回し始める。
「きゃあぁぁぁぁ!?」
「シャニー!!」
平衡感覚を狂わせるほどにめちゃくちゃに振り回しながら、何度も地面に叩きつけていく。
「あぐ…ぅ……!」
全身傷だらけになったシャニーは、ようやく解放されるも、もう一度立ち上がる気力も
起きず、フラフラとその場に倒れ伏した。
「よくもシャニーを!」
キッと敵を睨みつけるも、拘束された状態ではどうしようもない。
バイオモンスターは無言で、その巨大な拳を振るい、凛を殴り飛ばした。
「うわああ!?」
防御体勢など取れるわけもなく、もろに食らい、蹲る。
そして休む間もなく、凛を吊るし上げ、その巨体が凛ごと飛び上がった。
「ふっふん、凛ちゃん♪ぺちゃんこになっちゃうかもね♪」
ご機嫌な様子のパリアは馴れ馴れしく凛にそう言う。
バイオモンスターは凛を下敷きにする形で高速で降下し―――潰した。
「ぐあああああああああっ!!!」
敵が退くと、そこにはピクピクと痙攣し、大きく目を見開いた凛の姿。
全身のダメージがひどく、骨が折れてないのが不思議な程であった。
「あらぁ、二人ともまだ生きてるのねぇ?まあいいわ、仲良く一緒に死んでもらいましょう♪」
満面の笑顔で、残酷な発言をすると、バイオモンスターが二人を再び鎖で締め付けようとする。
だが、その時。
「待ちなさい!!お姉ちゃんたちに、これ以上酷いことしないで!!」
「か…かえ、で……!」
楓が怒りの表情でパリアとバイオモンスターを睨みつける。
「あらあら、お譲ちゃん。危ないわよ…それとも死にたいのかしら?」
「楓ちゃん…!に、逃げて……!」
シャニーの言葉に楓は首を振る。
「お姉ちゃんたちが大変なことになってるのに、そんなこと出来ないよ!それに…
私、本気で二人の手助けをしたいんだから!…見てて!」
すると、楓の身体から気が解放されていく…そして叫んだ。
「戦姫転生!!」
楓の身体を光が包み上げていき、力を増幅させていく。
「ちょ、ちょっとぉ!もしかしなくてももしかして!?」
パリアから素っ頓狂な声が上がる。そこに、戦姫へと変身した楓の姿が!
桃色のチャイナドレス姿だ。
「か、楓…どうして戦姫転生が…!?」
「凛お姉ちゃん!私だって、お姉ちゃんたちに聖覇流拳法を教えてもらったんだもん!
頑張って、戦姫転生も出来るようになったんだよ!」
驚く凛に、そう答える楓。これには思わず苦笑いしてしまう凛。
「…おいおい、聖覇流拳法も…これじゃ形無しじゃないか」
「もう、イレギュラーな展開が起こるなぁ!バイオモンスター!その子も潰しちゃって!」
この状況に、さすがに驚いたパリアはバイオモンスターに命令する。
それに従い、拳を振るう。構えも取っていなかった楓は殴り飛ばされてしまう。
「きゃああ!!」
「いいわよぉ!もういっちょぶん殴っちゃって!!」
再び拳が振るわれ、直撃しそうになる。だが、今度は寸でのところで拳をしっかりと
受け止めた楓の姿が。
「一発もらっちゃったけど…おかげで見切ることが出来たわ!とりゃあああ!!」
その拳を軸に楓は小柄な肉体に見合わない、怪力で敵を高く持ち上げた。
そして、そのまま天高く放り投げる。
「ま、まさかそんなパワーがあるなんて…!」
驚愕するパリアに、楓は不敵な笑みを浮かべる。
「聖覇流拳法だけじゃない!私は日本で柔道もやってたからね!とぅあ!!」
空から落下してくる敵のもとへ飛び上がり、力を込めて拳を突き、一気に地面へ叩き落す。
悶絶しながら地面に叩き落され、その衝撃で纏っていた装甲が完全に砕け散った。
「今だ…!シャニー!!」
「…わかったわ!」
ボロボロの身体をなんとか起こし、気を練り上げ、同時に放つ!
「「気功弾!!!」」
二人の気弾が重なり、巨大になったそれは一瞬にしてバイオモンスターを貫く。
一瞬の沈黙の直後、バイオモンスターは光を発しながら爆発四散し、消滅した。
「あ〜あ〜…幽覇様に怒られちゃうじゃなぁい。まあいいわ、今度はそこの可愛らしい
お嬢様も一緒に叩き潰してあげるわ。またね」
パリアはそう言い残すと、後方に飛び上がりながら撤退していった。
変身を解くと同時に、楓はいきなりその場にへたり込んでしまう。
「楓!どうした!?」
「楓ちゃん!」
凛とシャニーが慌てて、彼女の元へ近寄り抱き起こす。するとぐぅ〜という音が響き
「お、お腹…空いた……お姉ちゃんたち…変身ってお腹空くんだね…」
その一言で心配そうな表情をしていた二人は、プッと吹き出す。
「ははは!楓ぇ、変身にまだ慣れてないんだな」
「それじゃあ、またドーナツでも食べる?」
シャニーの一言に楓は瞳を輝かせながらガバっと起き上がる。
「うんうん!ドーナツならいくらでも食べれるよ!」
笑い合いながら、三人は先ほど入っていたドーナツショップへと向かうのであった。
次回予告「楓が仲間に加わったのも束の間。獄牙は戦姫を倒すのではなく
街の人々をさらに苦しめることに決めた。人々の生きるための糧を失わせ、
それを助けようとするシャニー!怒りの蹴りが悪を断つ…!」
投下完了。規制されてるので代理人様に投下をお願いしました。
これでようやく主要な人物が集まったのでまとめの方に
設定集作っておきます。
64 :
レス代行:2009/09/26(土) 22:07:12 ID:Ur4g4Yx6
代行終了
剛よく柔を断つロリキャラktkr
本当に投下ペース早くてすごいなぁ
66 :
創る名無しに見る名無し:2009/09/26(土) 23:54:45 ID:QhUmPB3S
まなみの裕奈系譜とも言うべきパワーロリキャラきたわぁ
まなみの時もそうだったけどダメージ描写がなかなか痛そうよねw
>>54 このスレにも絵が描ける人が居ればいいんだけどねぇ
そのスレでも採用されてるのは公式絵師が居るゲーム制作スレのキャラがほとんどみたいだし
68 :
創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 19:47:12 ID:+I4Piocw
>>56 投下お疲れ様
メインメンバーが勢ぞろいですね
チャットとかあったんだな、気づかなかった
機会があればこのスレの人たちとチャットしてみたいが
前は土曜11時に定期チャットやってたんじゃなかったっけ
今でもやってんのかな?
>>69 チャットはもう無いと思うが。
随分前に閉鎖したと思う。
まとめサイトからチャットルームへは行けたみたいだね。
なんなら今夜少しだけやってみる?
よければ付き合いますよ。
>>71 今さっき入ってみたけど普通に使えたよ?
というかゲーマーズの作者さんがいたw
作者さんとの交流も悪くないかも
かなり良さげで楽しそうだな
まぁ一本指キータッチな俺じゃ無理っぽいが
今夜もお邪魔しようかな。
76 :
創る名無しに見る名無し:2009/09/30(水) 22:07:01 ID:asCowfn5
チャット俺も行ってみようかな
ここに来て、まさかのチャットブーム!?w
もう人いるよ
ぼったくりバーただいま営業中
そしてまた今日もチャットで執筆の時間が食われるという罠
81 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/01(木) 20:05:58 ID:erjG18uo
◎GAMER'S FILE No.7
『G・シューター』
アンチャー討伐のために制作されたパワードアーマー第二号。
普段は四次元ブレスレットに格納されているが、
腕に装備して『プレイ・メタモル』と叫ぶと自動で装着される。
アーマーは白を基調としたボディに青のストライプが入ったデザイン。
G・ファイターを元に、遠距離戦特化をコンセプトとして開発されたアーマー。
腰部のホルスターに短銃が搭載されている他、肩部に多数の火器が格納されている。
更に背部にはバーニアが内蔵されており、短時間の飛行が可能。
シンプルな初号機の反動か、やや過剰兵装の傾向があり、
実戦におけるパフォーマンスには疑問が残る作りとなっている。
アンチャーの本拠地である異次元の暗黒空間。
その中央にある玉座の間でグラスを揺らしていたアンチャーの首領の下に、
幹部の一人である大柄な男が、背中から微かな鬱憤をにじませながらやってくる。
「在楼か。どうした?」
「首領。ちょっと人間どもに舐めさせすぎでしょう」
「ふふふ、そうか? 私は良い余興だと思っているが」
「あのゲーマーズとかいう連中、私がちょっと大人しくさせて来ようと思います。構いませんよね?」
「ふふふ、それも良いだろう。戦果を期待しているぞ」
玉座の間を去り、出陣しようとする大柄な男に、
脇に寄りかかっていたひょろひょろとした男が声をかける。
「在楼。お前が出るほどの相手でもねェんじゃねぇの?」
「双弩。もし私がやられたら、後は頼むぞ」
「心にもねェことを言うなよ。気味が悪ィ」
嫌な顔をするひょろ男に、ふっと皮肉げな笑みを投げかけ、
大柄な男は地球へと繋がる次元の裂け目へと飛び込んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方、こちらは親睦と暇つぶしを兼ねて八重花の家に集まったゲーマーズ。
彼女らは昌子を除いた4人で協力ハンティングアクションのクリーチャーハンターをプレイしていた。
「ひゃっほう、突撃や! ……って、あら!?」
大型ランスを構えて大型クリーチャーに突進した千里のPC(プレイヤーキャラ)は、
あっさりと攻撃をはじかれ、その隙に大型クリーチャーに叩き潰される。
「突っ込むだけじゃダメに決まってるでしょ! ちゃんと正確に弱点を狙いなさいよ!」
そう怒声を発する八重花のPCは、手にしたハンマーを的確に弱点に命中させているため、
大型クリーチャーの装甲はどんどん剥がれていく。
「……弱点の狙撃なら……任せて……。…………ッ!」
悠々とボウガンで弱点を狙い撃っていた亜理紗のPCは大型クリーチャーの怒りを買い、
リロードの一瞬の隙に高速突進してきた大型クリーチャーに跳ね飛ばされたのだ。
「ちゃんと身を守ることを考えながら攻撃しなさいよ! 敵が動いてからじゃ遅いんだからね!」
そう喚く八重花のPCは、確かに敵の動きを予見して見事なヒット&アウェイを実践している。
「よし今だっ、7HITコンボ!! そんでもって反撃を確実にガード……なにぃっ!?」
片手剣による軽快なコンボを決めた後、大型クリーチャーの反撃を盾で防ごうとした佳奈美のPCだったが、
大型クリーチャーの攻撃はその小さな盾では防ぎきれず、盾を弾かれて怯んだ隙に追撃を食らってしまう。
「これは格ゲーみたいなディフェンシブゲームじゃないのよ! ガードを過信せず自分で避けなさい!」
そう声を荒げる八重花のPCは、大型クリーチャーとほぼ隣接してるにも関わらず、
敵の攻撃判定を完全に見切った、距離にしてドット単位、時間にしてフレーム単位の回避を行っている。
「うーん、まるで当たり判定が視認できているかのような動きでございますわねぇ。流石はアクションの達人・八重花さん」
ずずずと紅茶をすすりながら八重花の動きに感心する姫昌子。
一方、味方のボロボロの動きに八重花は痺れを切らしたようだ。
「……ちぇえい!!」
「あっ、なにすんねん!?」
大型クリーチャーの足元に突っ込んだ佳奈美と千里を、
八重花が振り下ろしたハンマーの衝撃波で吹き飛ばしたのだ。
「あんた達、下手すぎて邪魔なのよ! こんなことならソロ狩りやった方がよっぽど効率いいわ!」
その言葉通り、単独であっという間に大型クリーチャーを討伐してしまう八重花。
『ありがとうございます、あなたは村を救ってくださったエイユウです!!』
「えっへっへー、それほどでもないけどね!」
クリーチャーを倒した報酬をNPCから受け取って、ご満悦の八重花。
そしてプレイヤースコアには、驚異的な点数が表示される。
「どう? ボウガン封印でハードモードクリア時点でアベレージ100よ!
こんなミラクルな偉業、あんた達ごときには百年かけても達成できないでしょ!」
そのあまりにも尊大な物言いに、とうとう佳奈美がキレる。
「いいかげんにしろよ。八重花がスゴ腕なのは認めるけど、
そんな風にいつもいつも他人を見下してたら、それも台無しだろ」
「そういや、佳奈美って自慢とか全然せぇへんな」
「……佳奈美は……空手やってたせいか、礼節にはうるさい……」
キレた佳奈美に驚いた八重花は目を丸くする。
「……な、なによっ! 自分には出来ないからって僻んでんの!?」
「だからそういう問題じゃないって言ってるだろ!
自分の力を誇示することと他人を不愉快にすることは=じゃないぞ!」
説教を続ける佳奈美に、八重花はイライラしてきた。
「ひ、人の家に上がりこんでおいて、グダグダうるさいのよ!!
もうアンタら出てけっ、とっとと出て行きなさいよっ!!」
「ああっ、ウチらも巻き添え!?」
「分かった、好きにしろよ。一人で少し頭を冷やすんだな」
「か、佳奈美さん、待ってください!」
言うが早いか、あっという間に部屋を後にする佳奈美。
千里と昌子も慌ててその後を追う。
残った亜理紗は、乗り遅れたかのようにぽつんと佇んでいる。
彼女も追い出そうと声をかけようとする八重花だが、
先に口を開いたのは亜理紗の方だった。
「……八重花……」
「ん?」
「……一人は……寂しい、よ……?」
それだけ言うと、亜理紗もゆっくりと八重花の部屋を後にした。
「……………………」
急に静かになった部屋で、八重花は一人佇む。
先ほどまではギャーギャーうるさかったのが嘘のようだ。
「……一人……か……」
亜理紗の去り際の一言が、いやに八重花の胸に突き刺さっていた。
そのせいか、少し昔のことを思い出してしまう。
『八重花ちゃん、一緒に遊ぼうよ』
『やめとけよ。あいつ付き合い悪ぃし』
『そもそもあいつと遊んでも全然楽しくねーし』
『口というか、性格が悪いよなー』
『周りを気遣う気が全く無いってゆーか』
『全く、何様のつもりなんだかなぁ』
(あんなウスノロどもに、あたしの偉大さは分からないのよ!
あたしには仲間も友達も要らない! だってエイユウは孤独が宿命だもの!)
『『『『『エマージェンシー、エマージェンシー!!』』』』』
「!」
物思いに沈んでいた八重花は、いつもより大音量の召集で、はっと我に返る。
いきなり追い出されたゲーマーズ達は、ブレスレットを八重花の部屋に忘れていたのだ。
仲間達に届けるか連絡しようと思った八重花だったが……。
「一人……そうよ!」
魔が差したのか、ロクでもないことを思いついてしまう。
「あたし一人でアンチャーを倒せば、みんなあたしの実力を認めざるを得ないわよね!」
いたずらっぽい笑みを浮かべ、ブレスレットを掲げて叫ぶ八重花。
『プレイ・メタモル!!』
G・アクションのしなやかな装甲を身に纏うと、八重花は一人で現場に飛び出していった。
現場では、弓矢を装備したアンチャーが、周辺の建物を破壊していた。
たかが弓矢と思いきや、奴の放つ矢は閃光を纏い、高層ビルですら一撃で打ち砕いてしまう。
「人間ども……泣け、叫べ、喚けっ!! それが貴様らの唯一の存在価値なのだからな」
「待ちなさいっ!!」
「むっ」
急襲する八重花の蹴りを受け止め、打ち払うアンチャー。
八重花も空中でくるりと回って地面に着地する。
「おまえがゲーマーズか」
「へぇ、カタコトじゃないんだ。ってことは、中ボスクラス?」
そのアンチャーは、普段のアンチャーとは様子が違った。
サイズは完全に人間大で、その全身には外付けの白い甲冑をまとっている。
顔の部分にものっぺりとした仮面が装着されており、
アンチャー特有の黒くぬめった地肌の露出は全く無い。
「在楼だ。貴様の名前は?」
「G・アクション……あんたらから地球を守る、誇り高き戦士よ!」
八重花は一人で決めポーズを決める。
「貴様一人か。仲間はどうした?」
「あたしには……仲間なんて居ないっ!!」
飛び掛る八重花。
しかし……。
(バスッ)
「うっ!?」
左肩の重力制御ユニットを射抜かれ、八重花はバランスを崩して墜落する。
「どうした? かかってこないのか?」
対するアンチャーは、余裕たっぷりに次の矢を番えている。
「……このっ!!」
今度は敵の動きを良く見て、フェイントを織り交ぜて攻め込む八重花。
……奴が弦から手を離した瞬間が見えた、右腕狙いだ、避けられる!
(ビスッ)
「うあっ!?」
ウィップソードを振りかぶった八重花の右腕が貫かれる。
敵の狙いは分かっていたのに……それでも避けられなかった。
アンチャーが放つ矢の速度は、G・アクションの機動性能を遥かに上回っているのだ。
倒れこみ、痛む腕をかばう八重花の下に、アンチャーがゆっくりと近づいてくる。
「単独で突っ込んでくるとは愚かな奴だ……物語のエイユウにでもなったつもりなのか?」
倒れた八重花を見て、奴は余裕をかまして近づいてくる。
……今だ!!
「あたしは、強い……。だから、一人だって、あんたなんかに……ッ!!」
八重花は不意を付いて、射程内に入ったアンチャーに切りかかる。
(ドスッ)
「あうぅっ!!」
だがそれより早く、八重花の足が地面に縫いとめられる。
「貴様らは所詮、限りある命の生身の人間。我らアンチャーに敵うものか」
動けない八重花から、じっくりと距離を取り、
アンチャーは八重花の額に狙いを付け、弓を引き絞った。
「仲間の居場所を言え。10秒だけ待ってやる」
返事を待たず、アンチャーはカウントを開始する。
「あ、あたしは……」
「8……7……6……」
八重花の脳裏に、ゲーマーズの面々の顔が浮かぶ。
佳奈美、亜理紗、千里、昌子……。
「5……4……3……」
八重花は、ギリッと唇の端を噛んだ。
「あんたになんて……死んでも教えるもんか!!」
「2……1……0……!」
八重花は、目をつぶる。
「いつ撃って来るのか、わざわざ教えてくれてサンキュ」
「!?」
いきなり誰かの声が聞こえ、何事かと目を開く八重花。
声の主は、飛来した矢をブロッキングで弾いた佳奈美だった。
辺りを見回してみると、変身したゲーマーズ達が揃い踏みであった。
「ヤエちゃんも人が悪いなぁ。アンチャー来たんならメールしてくれればええのに」
「ブレスレットを忘れちゃった私達も私達ですけどね」
対するアンチャーは、仮面の奥でニヤリと笑った。
「来たか、ゲーマーズども! 一網打尽にしてくれる!」
「……クィック・ドロウ!」
「ぬぅ!?」
次の矢を番えようとしたアンチャーを、亜理紗の早撃ちが怯ませる。
しかし不意を突いたにも拘らず、致命傷には程遠いようだ。
「みなさん、一旦引いてくださいませっ!
奴の装甲は頑健のようです、闇雲に攻撃しても有効打は与えられません!」
「よし来たっ、みんな乗りぃ!」
昌子の号令で、千里が変形させたマシンに乗り込むゲーマーズ達。
「逃がすかっ!!」
負傷した八重花をマシンに乗せていたため、
隙だらけだった昌子に向けて、矢が放たれる。
(ブスッ)
「あっ……か、佳奈美さん!?」
佳奈美が盾となって代わりに矢を受けたのだ。
十字型に交差させた腕によって、何とか矢の貫通を防いでいる。
慌てて駆け寄ろうとした昌子を、佳奈美は後ろ足でぺいっと千里のマシンまで押し出す。
「あいつはあたしが食い止めておく!
だから昌子はその間にあいつを倒す方法を考えてくれ!」
「佳奈美、ダメぇっ!!! あいつは絶対に攻撃を外さない!!!」
マシンから身を乗り出した八重花が叫ぶ。
必死の形相の彼女に対し、佳奈美はニッと笑う。
「大丈夫だよ八重花。ちゃんとガードすれば、削られるだけで済む。
……と言っても長くは持たないから、とっとと行ってくれ昌子!」
「……わ、分かりました! 千里さん、お願いします!」
「ほい来た! 佳奈美、死ぬんやないで!」
そうして佳奈美を除いた4人は、即座に戦場から離脱して行った。
「仲間を逃がすために己が死ぬか。下らん、人間は下らんよ」
「下らんことに命を懸けるのがゲーマーと申しましてだな」
佳奈美はファイティングポーズを取る。
アンチャーは呆れたように鼻を鳴らして矢鞘に手をかけると……。
次の瞬間、佳奈美の身体を容赦なく撃ち抜いていた。
リーダー用の最新型アーマーであるG・パズラーには、いくつもの特殊機能が搭載されている。
今、G・アクションのアーマーにエネルギーを送り込むことによって、
G・パズラーの特殊機能の一つ、アーマー修復を発動しているのだ。
「……はいっ、これで大丈夫でございますのよ」
アーマーを修復され、G・アクション自体の治癒機能で怪我も治った八重花は、
何とか再び戦闘が可能な状態に持ち直す。
……が、それはあくまで身体的な状態の話だ。
完全な敗北を喫してプライドを粉々にされた八重花は、
しゃがみこんで額をひざにうずめたまま、動こうとしない。
そんな八重花を不安げに眺めながらも、
昌子は状況の分析、および現状打破のための議論を始める。
「奴の装甲は、G・シューターの銃撃を無効化するほど強力でした。
これを破るには、不意を付いての強力な一撃に賭けるしかないと思います」
「……アテは……あるの……?」
「ええ、亜理紗さんと八重花さんの力を合わせれば、きっと――」
「無理よ!!」
昌子の言葉を、悲鳴のような叫びで遮ったのは、八重花だ。
「仮にそれで装甲が破れたとしても、奴に攻撃を当てる前にこっちがやられて終わりよ!!」
「らしくないでヤエちゃん! あんなヘロヘロ矢、パパッとかわしたればええやろ!」
「だから無理!! 奴の弓矢は、あたしがかわせない……つまり誰にもかわせない!! どうしようもないのよ!!」
千里の叱咤を歯牙にもかけず、八重花は絶望の淵に沈む。
それほど彼女にとって、先ほどの敗北のショックは大きかった。
そんな八重花を見て、昌子は少し迷っていたが、
意を決して、そっと語りかける。
「……八重花さん、これはシミュレーションゲームの理屈なんですけど……」
「……?」
「『100%と0%以外を信じるな』って言葉があるんです。
要は、期待した結果が出なかった時のことを考えて行動しろって意味なんですけど……」
昌子は言いながら、どこから取り出したのか、小さな算盤をカチャカチャ弾きだす。
チーン!と何かの結果をはじき出した昌子は、それを八重花の眼前に突き出してみせる。
……尤も、その珠の並びの意味は八重花には全く理解できなかったが。
「敵の命中率は100%……ならば、逆に計算は楽です。外れた場合のことを考えなくて済みますから」
それを聞いた八重花の眉が、ピクリと動く。
頃合と見た昌子は、皆に作戦を伝えることにする。
「――と、こういう訳です。私と千里さんは先に行って陽動を行いますから、
亜理紗さんと八重花さんは、もうしばらくしてから出発してください!」
「オッケー司令官! 急いで出陣せんと佳奈美が危ないで!」
「ええ、行きましょう!」
昌子は去り際に、未だうずくまっている八重花に振り返る。
「大丈夫、八重花さんは勝てます。……そう、100%の確率で!」
昌子は力強くそう言って、八重花に静かに微笑みかけた。
二人が去ってからも、八重花は同じ場所にうずくまって動こうとはしなかった。
そんな彼女から少し離れたところで、亜理紗も何をするでもなく座っている。
昌子の作戦に従うならば、そろそろ出陣の準備をせねばならない時間だ。
しかし八重花と亜理紗のどちらも、行動を開始しようとはしない。
亜理紗は八重花が動き出すのを待っているのだ。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……亜理紗……あたしのこと、バカにしてる……?」
とうとう根負けしたのか、八重花が口を開いた。
それに対し、亜理紗は静かに返答する。
「……してない……」
「嘘……つかないでよ……」
「……ついてない……」
あくまで無表情にそう言う亜理紗。
出会って日の浅い八重花にはそれが彼女の本音かどうか測りかねたが……。
それでも話す相手が欲しかったのか、ぽつりぽつりと、内心を吐露し始める。
「あたし……きっと、『エイユウ』になりたかったんだ……」
顔を逸らし、亜理紗とは目を合わせないようにする八重花。
「強くて、一人でどんな敵とも戦えて、みんなから賞賛される……そんなエイユウに……」
「……………………」
「でも現実には『エイユウ』なんて居ないから、
あたしはどんどんゲームの世界にのめり込んで行ったんだ……。
そうしてたら……いつの間にか、一人ぼっちになってた……」
いつの間にか八重花の頬には、涙の道ができていた。
「あ……あはは……あたし、バカだよね……。
やっと、自分の力が生かせる場所を得たっていうのに……。
あたし……その中ですら、自分から一人ぼっちになろうとしてる……」
吐き出すようにそこまで言うと、八重花は再び顔を膝にうずめてしまう。
「……八重花は……一人じゃない……」
「ぇ……?」
その言葉を聞き、八重花は驚いたような顔で面を上げる。
「……少なくとも……今は……」
亜理紗が、笑った……ように見えたのは、八重花の見た幻だったのかもしれない。
精神的に不安定だった八重花は、残念ながらこの時の記憶を後々はっきりと思い出せないでいる。
「へぇ、確かに外れないな。今の避けようとしたのに」
佳奈美は全身矢ぶすまになりながらも、怯まずにアンチャーとの対峙を続けていた。
体中から血を流しつつも、ファイティングポーズとポーカーフェイスを崩さない。
「それで……その矢であたしを殺すには、あと何発必要なんだ?」
「言ってくれる。安心しろ、次で脳天をブチ抜いて仕舞いだ」
「へぇ、狙う場所を教えていいんだ?」
「防げるとでも思ってるのか? 人間ごときが」
「そちらこそ早く試してみればいいじゃないか。ひょっとして自信が無いのか?」
「……………………」
アンチャーは、ゆっくりと矢鞘に手をかけた。
(ゴゥゥゥーーーン!!)
「……!?」
その時、佳奈美の足元の地中が突然盛り上がる。
「佳奈美さん、大丈夫ですか!?」
「ギリギリ間に合ったみたいやな、光速で掘り進んだかいがあったわぁ!」
削岩機に変形した千里のマシンが佳奈美を庇うように現れたのだ。
アンチャーは素早く目標を変更し、マシンの先頭に立つ昌子を射抜こうとする。
「リフレクト・オーラ!!」
「ぬおっ!?」
昌子を狙った矢はガキィンと跳ね返り、アンチャーの足元の地面を抉った。
G・パズラーのエネルギー全てを一点に集めることで、
アンチャーの矢を弾き返す光の壁を発生したのだ。
「ふん、ちょこざいな手を使いおって……。
だがそのバリア……狭い範囲にしか展開できまい!!」
はみ出した昌子の足を狙おうと、次の矢に手をかけるアンチャー。
「残念、あなたの攻撃は終了いたしました。今はこちらのターンでございます」
「なんだとっ!?」
その言葉で、アンチャーは後方から轟音を立てて飛来するロケット弾の存在に気付く。
だがもう防御も回避も間に合わない。
ロケット弾の直撃を受け、アンチャーは宙に吹き飛ばされる。
「おのれ、不意打ちとは……!
地上に戻るのを待つまでもない、空から貴様ら全員蜂の巣にしてやろう!!」
「そんなこと、絶対にさせないっっ!!!」
「!? 貴様、一体いつの間に!?」
吹き飛ばされたアンチャーよりも更に高く、八重花が飛び上がっていたのだ。
「亜理紗が撃ったロケット弾に乗って近づいて、
アンタが振り返る瞬間、高く飛び上がったのよ!!」
アンチャーは慌てて八重花に弓を向けようとするが、
背後を取っている上、ここは自由の利きにくい空中だ。
八重花が大きく振りかぶって剣を突き立てる方が、ずっと早い。
「必殺……下突きィィィィィィ!!!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーー!!!」
アンチャーはそのままの勢いで、八重花の剣ごと地面に突き立てられた。
「き、貴様ぁ……こんな卑怯な奇襲など……!
それでも、地球を守る誇り高き戦士か!?」
「卑怯で結構。あたしはセンシでもエイユウでもない。ただの『宇崎八重花』なんだから」
「……がっ……首領、申し訳ない……」
アンチャーは絶命し、その身体は風に溶けていった。
「……ただの八重花……か……」
一人ごちる八重花の肩に、佳奈美が後ろから腕をかける。
「いや、そうじゃないだろ」
「……?」
不思議がる八重花に、亜理紗が佳奈美の言葉を引き継ぐ。
「……『ゲーマーズの宇崎八重花』……でしょ……?」
「…………うんっ!」
佳奈美と亜理紗に、思いっきり抱きつく八重花。
そんな三人を、千里と昌子は笑って見守っていた。
92 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 00:10:42 ID:zN1GNiJS
りえるうどりはごをとい
つんなかうさんめさにろ
ぎならつしてせんれさい
はいなぎてついなまいろ
千たうがやぎおさしそな
里ふえあろはわいたくひ
>>83 投下乙
今回、敵の幹部の名前が出てきましたね
何人敵が出てくるか楽しみです
かの名言「英雄っていうのはさ、英雄になろうとした瞬間に、失格なのよ」を思い出した
武神戦姫凛 第五話『連春、餓える』
獄牙本拠地では、毒花と、幽覇がテーブルを挟んで向かい合っている。
「申し訳ございません、幽覇様…私もパリアも、戦姫の娘たちを片付けることに
失敗してしまいました…」
顔を下に向ける毒花。だが、幽覇は意外にも穏やかな表所である。
「気にすることはない。確かにあやつらは思いのほか強敵だ。だが、それでも
まだ獄牙には余裕がある。特に…輸入関係は完全に獄牙が握っている」
「それはつまりどういうことでございましょう…?」
その意図を片膝を着いたまま顔を上げ、問いだす毒花。
「わからぬか?奴らとて、手立てがない作戦方法が」
そう言われると、毒花の変化が乏しい表情に一瞬明るさが戻ったように見え
「なるほど……さすがは幽覇様。いつもながら聡明なお考えです」
「よし、さっそく取り掛かれ。本殿の前にまずは内堀からだ…」
毒花が一礼して、その場を去ると幽覇は椅子を半回転させ、高層ビルの窓から
街を眺め始めた。
―――大悟の家。新たに楓が居候として加わり、賑やかさは更に増していた。
凛と楓はガツガツと、お椀に盛られたご飯や、おかずの春巻きや餃子を見境無く
食べていた。そして同時にお椀を大悟の父に向かって
「「おかわり!!」」
と、元気よく差し出した。大悟の父は、穏やかに再びご飯を盛り始める。
それを呆れ顔で見ているシャニー。
「もう凛、楓ちゃん、私たちはあくまで居候なのに、そんな真似をして…」
そんな言葉に凛も楓も頬に詰め込んだものを飲み込み喋りだす。
「うん……食べなきゃ、街の平和は守れないって!」
「そうだよ、特に私は一杯食べないと成長できないもん!」
「ほう〜?その割には、あまり詰まってないぞぉ、ここはぁ〜」
「もう!凛お姉ちゃん!私、絶対に凛お姉ちゃんより大きくなって見せるからね!」
つるぺったんな胸を指差す凛に楓はそう宣言する。
「はあ…ごめんなさいね、大悟君、お父さん。二人が我侭言っちゃって…」
98 :
武神戦姫凛 ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/10/04(日) 23:28:38 ID:wsHD9+tt
シャニーが謝るが、二人は首を振る。
「気にしないでよ、シャニー姉ちゃん」
「そうそう、獄牙と戦ってくれてる君たちへのちょっとした恩返しだと思ってください」
二人の優しさにシャニーは嬉しく思いながらも、おかずの取り合いをしてる
凛と楓を見て、再びため息をつくのであった。
―――翌日の夜。三人娘が大悟の家に帰ってくると、なにやら様子がおかしい。
大悟も、彼の父も落ち込んでいるような感じで。
「ただいまぁ…あれ?二人ともどうしたの?」
「ああ、お姉ちゃんたち…実はね…今日のご飯なんだけど」
「申し訳ないですが、今日はおかわりは遠慮してください…」
「ええ!?な、なんでぇ!」
楓が大声を挙げて、詰め寄るが、そうはいってもどうしようもない。
その夜の凛と楓は満腹になることはなく、腹の虫が泣き止まずにいた。
そして、また翌日。シャニーは街を散歩していた。いろんな人種がいる賑やかな街…
だが、突如、驚愕したかのような声が響きまわった。
「まあ!?これっぽちしかないのに、こんなにするの!?」
「はぁ…すみません、この前から急に食品類の値段があがったので…」
困惑する主婦に、平謝りする肉屋の店員。それもそのはず、いつもの数倍はするほど
肉の値段が跳ね上がっていたのだ。
「こっちも、普段食うものすら、削る有様で…お客さんには申し訳ないんですが…」
「わかったわ、もう別の店で買いますから」
怒って、行ってしまおうとする主婦に、店員は声をかける。
「たぶんね、他の店でも同じようになってると思いますよ」
「な、なんですって!?」
その店員の言うとおり、他の店の商品の値段も、何倍にも跳ね上がっていた。
一部始終を見ていたシャニーは、何かを感じ始めた。
「もしかして、大悟君の家で急にご飯が少なくなったのも…」
シャニーが急いで、大悟の家へと戻っていった。
支援
息を切らしながら、ようやく大悟の家に到着する。思ったとおりか、営業している
中華料理屋の方のショーウィンドウに飾ってあるメニューの値段もいくらか
値上げしていた。
「やっぱりだ…よし、大悟君のお父さんに聞いてみよう」
中に入ると、どんよりと、試合に負けたボクサーのような体勢で座っている
大悟父の姿が。シャニーは一瞬ビクっとなるが、それでも話しかける。
「あ、あのう…おじさま?もしかして…今は食べるものにすら困ってる状況ですか…?」
ゆっくりと顔をあげ、シャニーと目を合わせ
「どうしてそれを…いや、もう連春のすべての人が気づくころか…」
「ねえ、何があったんですか?」
シャニーの問いに、大悟の父は答え始めた。
獄牙が、食料品の輸入を極端なまでに制限し始め、ほとんどが極牙のものと
なってしまっている。そのため、物価はあがり、売る方も買う方もこのままだと飢え死にしてしまうと。しかし、どうしようもなく、頭を抱えることしか出来なかった。
それを聞いたシャニーは…
「わかりました!私がなんとかします!」
「ええ?シャニーさん、どうするおつもりで?」
シャニーはズボンのポケットから携帯電話を取り出し、どこかに連絡を取り始める。
そして電話が繋がった。
「もしもし、お父様?私です、シャニーです。お願いしたいことがあるんです…」
しばらくして通話が終わると、シャニーは嬉しそうに話し始めた。
「おじ様、もう大丈夫です。ハリソン財閥から食料提供が受けられることが決まりましたから」
「な、な、なんですとぉ!?ハリソン財閥って、シャニーさんの実家の…」
「そうだわ、街の皆さんにもお知らせしなくちゃ!」
そういって、シャニーは再び街へと繰り出していった。
―――その夜。シャニーは満足げに貸し部屋でくつろいでいた。
「シャニー!なあ、本当に食料、お前の実家からくれんのか!?」
部屋に入ってくるなり、無邪気に目を輝かせながら凛と楓が聞いてくる。
シャニーはそれに力強く頷いた。
支援
「ええ、お父様がアメリカから直送便を飛ばすって。明日の昼には到着する予定だそうよ」
「やったぁ!やっぱお金持ちって羨ましいなぁ!」
楓はつい本音が出ながらも飛び跳ねて喜んだ。
「よかったなぁ、これであたしらだけじゃなくって街のみんなも助かるってわけだ!」
「そうね…こんな真似をした獄牙は必ず叩き潰さくちゃね…」
シャニーは決意を新たにした表情で呟いた。だが…
―――翌日。連春中の人々にもたらされた報せは、輸送機墜落。であった。
連春に到着する寸前に、突然バランスを崩し、海の底へと墜落したということ。
「そ、そんな…こんなことって……!」
このことで悲しんだのはやはりシャニーだ。自分が安易に父に相談したばかりに
人々の期待を裏切り、財閥の人々を死へ至らしてしまった。
泣き崩れるシャニーに、凛と楓が歩み寄る。
「シャニー…お前のせいじゃないよ…こんな真似をしたのは獄牙に決まってる!」
「そうだよ、お姉ちゃん…ね、街のみんなも話せばわかってくれるよ」
慰める二人の言葉に、小さく頷くシャニー。だが、彼女たちの知らないところで
事態は深刻化していた。
獄牙では、毒花が幽覇に報告を行っている。
「幽覇様……ハリソン財閥の輸送機撃墜、完了致しました…」
「よろしい、これで完全に逃げ場を失った街の愚民どもは、これまで以上に
苦しむことだろう…そしてその怒りの矛先は…」
ほくそ笑む幽覇。彼女が予想したとおり、街は混乱に包まれていた。
「食い物がなけりゃ、生きていけねぇ!どうすりゃいいんだ!?」
「もう、売り物は高すぎる…かと言って、もう家の残りもほとんどない…」
「くそぉ…食い物をよこせぇ!!」
混乱のあまり、自制が利かなくなった一部の人々は金を払うなどという考えは消え去り、
街の食料品を売っているお店、レストランなどが襲われていた。
そして、彼らは凛たちが居候する中華料理店にまで現れた。
突然、窓ガラスが叩き割られ、一斉に暴徒と化した人々が押し入ってくる。
「食い物をよこせぇぇぇ!」
「ああ!やめてください!!」
「うるせぇ!!」
抵抗しようとする大悟や、その父を容赦なく殴り飛ばし、厨房にあった野菜や
米、肉などを衛生面など考慮することもなく貪り尽くしていく。
「みんなやめろ!こんなことで腹を一杯にしたってなぁ…!!」
騒ぎに気づき、三人が二階から降りてきた。凛は必死に人々を止めようとするが
聞き入れてはもらえない。
「うるさい!あんたたちが街を守ってもなぁ、まずは食わなきゃ生きていけないんだよ!」
「そもそもシャニー、あんたが、俺らに期待させといて落としたんじゃないか!」
住民の心無い一言がシャニーの心に突き刺さる。善かれと思ってやったことが
結果的に、このようなことになってしまった。もちろんシャニーに非など一つもないのだが
目の前のことにしか頭にない人々は逆恨みも同然にシャニーを責め立てる。
「この偽善者!金の力を誇示しようってだけなんじゃないか!?」
「ち、違います!私は皆さんのために…」
「だったら、すぐにでも飯をくれよ!!出来もしないくせに良い子ぶりやがって」
言葉攻めに、シャニーは反論することも出来ず、その場にへたり込んでしまう。
「お前ら!シャニーは悪くないじゃないか!」
「そうだよ!みんな自分勝手すぎるよ!」
凛と楓がシャニーを擁護するも、聞く耳を持たない暴徒たちには意味を成さなかった。
しばらくして、残ったのは荒らされた店内と、呆然と立ち尽くす大悟と父、
そして落ち込んだシャニーの姿。
「なあ、シャニー…本当、気にすることはないって」
凛の言葉に、首を振るシャニー。その表情は悲しみに溢れていたが…
「ううん、私が余計なことをしたから、こんなことに拍車が掛かってしまったのかも
しれない…凛、楓ちゃん、こうなったら獄牙の拠点に乗り込もう…!」
いきなり突拍子もないことを口に出すシャニーに困惑する二人。
「ど、どういうことだよシャニー!?」
「街を支配している獄牙の拠点なら、必ず食料がいくらでもあるはずよ…だから
獄牙を叩き潰して、食料を確保して、みんなを安心させるのよ…」
何時に無く、強硬手段で出ようとするシャニー。二人は少しだけ迷ったが、
結局はそれに同意することに。
街の北、連春の駅。そのすぐ近くにある獄牙の関連施設。入り口には見張りが
仁王立ちして何者も通さないようにしている。空には鮮やかな月が昇っている。
その月に三つの影が映り、大きくなったかと思うと、次の瞬間、見張りの男たちに
衝撃が走り、倒れ伏した。
「シャニー、楓、そっちはどうだ?」
「完全に気絶しているわ…大丈夫よ」
「こっちもOKだよ!あっさり片付いちゃった」
変身済みの三人が、見張りが意識を失ったのを確認すると、そそくさと施設内へと入る。
建物内でも、音を立てずに、静かに奥深くへと潜入していく。
そして地下へと到着すると、強固な作りで出来た大きな扉がある部屋を見つけ出す。
「守りが堅いってことは、まさに目的の場所と言わんばかりだなぁ…よぉし…!」
凛が気を右腕に集中し、一瞬の間の後、一気に扉に向かって突き出した。
拳が命中した場所から亀裂が走り、そのまま扉全体へと広がり、間もなく扉は崩れ去った。
部屋の中へと入ると、なにやら、いい匂いが漂ってくる。
「おっ!やったなぁ、シャニー!いきなり食料庫にたどり着けたじゃん!」
飛び跳ねて喜ぶ、凛。だが、シャニーは何か怪しいと感じ始める。
「なんだか、上手くいき過ぎなような気がする…」
「まあいいじゃない!シャニーお姉ちゃん、これを街のみんなに配ってあげれば…」
「ただでは…与えてあげるわけには……いかないわ」
唐突に入り口から響いた声に、三人が振り向く。そこにいたのは毒花であった。
相変わらず無表情のまま、三人を見つめている。
「さすがに、戦姫もこそ泥にならざるを得なかったようね…」
「毒花!あんたらがあんな真似でくる以上、こっちも手段を選んではいられなかったんでね!」
「ふふ……いいことを教えてあげる…獄牙は食料の規制、解いてもいいと思っているわ…
ただし、条件があるわ…」
そう言うと、毒花はポケットからカプセルを取り出し、床に落とした。
眩い光とともに、等身大サイズのバイオモンスターが現れた。
「この子と戦って、勝つこと…ただし…あなたたちの中から一人だけで」
モンスターの方は毒花が抑えているが、それが説かれると今にも暴れまわりそうなほど
ひどく興奮している。
「…嘘ではない?」
「約束は…守るわ」
シャニーの問いに答える。言葉に抑揚がなく、本当か嘘か分かりかねるが、シャニーは
決心したように一歩、前へと出る。
「わかった、私が相手になります!」
「シャニー!?こいつらは平気で人を苦しめるような連中なんだ、無駄に終わるかもしれないぞ」
凛の言葉に、シャニーはちょっとだけ何か考えたような表情で
「そうだとしても、今はやるしかないわ…!二人ともここは手出し無用よ…さあ、来なさい!」
バイオモンスターは腕を刃物の形状に変化させシャニーに斬りかかる。
「ドラゴンブレード!!」
亜空間から青龍刀を呼び出し、敵の斬激を切り払い、体勢を整え
「飛竜脚!!」
足に気を集中し、強烈な飛び蹴りをかまし、一気に壁に叩きつける。
だが、それをものともせずに起き上がり、高速でシャニーに接近、拳を腹部に放った。
「がはぁっ!!」
その衝撃で蹲り、武器を落としてしまう。思わず胃から逆流しそうになるが、
なんとかそれは押さえ込んだ。しかし、隙だらけになったシャニーを容赦なく
バイオモンスターは攻め立てていく。鋭い蹴りがシャニーに放たれた。
「きゃああ!!」
叩きつけられ、壁に無理やりめり込まされ、動きを完全に封じられると
その肉体に、いくつもの衝撃が走り、シャニーを死へと誘おうとする。
「ぐほ…あがぁぁ…」
吐血すると、意識が朦朧としてくる。もう目の焦点も合わなくなってきた。
「シャニー!!」
「すぐに助けるよ!」
見ていられなくなった凛と楓がシャニーを助けようとするが
「あら…そのような真似をしたら…さっきの約束は守れないわ…」
冷酷にそう宣言する毒花。シャニーは震えながらも二人を見やり
「そ、うよ…二人は、手出ししないで……大丈夫…必ず勝つから…!」
それを聞いた毒花はため息を吐きながら呆れたように彼女を見据える。
「そう……そんな格好でよく言えるね…じゃあ、死んでよ…」
その声を合図にバイオモンスターがとどめを刺そうと再び腕を刃に変化させ一気に
シャニーの胸に突き刺そうとする―――が、それは止まった。
苦しみ、悶える敵。その腕がシャニーの武器によって斬り離されたのだ。
「ふう…間に合った…!」
「なんて、奴…あんな遠くから落とした武器を操作するなんて…」
壁から抜け出ると、シャニーはバイオモンスターに止めの一撃を見舞う。
「星龍脚!!」
高く飛び上がり、気を最大まで高め高速で回転する!そのまま一気に敵へと突っ込み
貫通し、着地と同時にバイオモンスターは爆発四散した。
「…さあ、これで食料の供給は今まで通りにするわね?」
「……約束は守るわ。それに、本当の目的は達成できたし…」
「本当の、目的?」
首を傾げるシャニーに毒花は背を向けたまま答える。
「シャニー・ハリソン…あなたの心、とだけ言っておくわ…」
―――三日後。ようやく食料の売買も元の値段に戻りつつあった。
みんな口々に戦姫のおかげだと言うが…特にシャニーは暗い気持ちでいっぱいであった。
一人、港で海を眺めながら、少しでも気持ちを落ち着かせようとしていた。
「本当に、みんなそう思ってるのかな…お師匠様、私はどうすれば…」
次回予告「戦姫を倒すため、獄牙はバイオモンスターを一気に数体使うことに。
さすがの戦姫も数の暴力の前に成すすべはないのか。それとも…?今こそ放て、超奥義」
支援
投下完了です。まだ規制が解けないので代理人さまにお願いしました。
うーん、凛が活躍しない…。
>>92 ゲーマーズ作者様投下乙です。八重花が結構嫌な感じなキャラになってましたが
最後はちゃんと和解できてよかったです。戦いで敗北して弱気になってしまう
展開が個人的には好きだったり…wあと亜理沙はこれまでの話的に
むしろ八重花を責めるキャラかと思えば、むしろフォローする良い子でしたねぇ。
次回も頑張ってください。
109 :
レス代行:2009/10/04(日) 23:34:31 ID:wsHD9+tt
代行終了
代行乙ですー
町の人がどんどん救いようの無い連中になっていくw
これはまさかのBADENDフラグ!?
先が読めなくて不安ですが、続きが楽しみです。
投下乙
前に続いて町民外道ってかゴミすぎる、まさに愚民!
頑張ってる凛達がかわいそうに思えてきたよ… orz
>>98 投下乙
町全体がてこの巣窟みたいになってきましたね
114 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 19:51:44 ID:0BLIJgIG
てこ…?
まあいいや、投下乙でした
うーむ、街の人ダメな連中だ…だけど食わなきゃ死ぬっつうのも当然だしなぁ
今はこうでも最後はハッピーエンドを迎えることに期待したい!
117 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/07(水) 00:21:31 ID:l4k42A0w
はいはいよかったね
ふと思いついて書いてみました。
たぶん続かないと思いますがスレ投下してみます。(いっぺんやってみたかったんです)
天使ノ同盟 外伝
姫乃ノ受難
(序)
片瀬姫乃という少女がいる。
実生活では花も恥じらう女子高生。しかしてその実態は愛と正義の美少女戦士、翼聖姫エンジェルナイツとして夜の闇で蠢くテロリストだとか悪の秘密結社の人達と一戦つかまつるような人だったりする。
それで現在、なんやかんやあって悪の秘密結社サクセスの幹部『ウォルフ狼元帥』に弟子入りなんてしちゃっている彼女は、師匠に連れられて人里離れたへんぴな山奥まで足を運んでいた。
「こ、コ〜チ。まだ着かないんですか?」
電車で二時間、さらにバスに揺られて小一時間。
そこから徒歩で延々山道を歩き続けること三時間。
景色は鬱蒼と生い茂る木々で塗り固められていて、振り返れば舗装もされていない獣道が細々と続いている。
衣類やら携帯食料やらを詰め込んだリュックサックを肩に担いで師匠の後を追う姫乃は、この時点ですでに足はガクガク目はグルグル。いつぶっ倒れてもおかしくないような状態だった。
「もうじきだ。 ……疲れたのか?」
大きな男の背中が肩越しに少女を見る。
薄汚れた胴着から飛び出している首から上には犬だか狼だか分からない獣の頭がくっついているが、片目は黒い眼帯で覆われているので少女を見遣る瞳は一つきりだった。
「はい、ちょっとだけ」
だったら負ぶってやろうか?
そんな優しい台詞を期待しつつ恥ずかしそうに答える姫乃。
しかし彼女の師匠が弟子を甘やかすことは無かった。
「馬鹿者が。正義の戦士が簡単に弱音を吐くでない!」
口元に生え揃う鋭い牙を剥いて怒鳴った大男。
あう、としょんぼり頭を垂れる姫乃さん。
いや確かに彼の言葉は的確なのだけれども、仮にも悪の秘密結社で四天王の一角に数えられているような人間(?)が言うには不適切極まりない台詞だったりするワケで。
甘えたい盛りの子犬のような上目遣いで見上げる少女のことなんてお構いなしに、豪傑無双のウォルフ狼元帥閣下は今日も我が道を行くのでしたとさ。
この一人と一匹。もとい、二人は山奥にあるという一軒の寺を目指して歩いていた。
それは『犬鳴寺』と呼ばれる場所で、しかし寺と呼ばれているわりには住職の無い無人の建物だった。
ウォルフの所属している組織はどういった経緯なのか法的にこの寺と敷地を保有していて、今回、修行中の姫乃をさらにパワーアップさせようと二人してやってきたのです。
おかげで高校生であるハズの姫乃ちゃんの夏休みは根こそぎ失われようとしている。
そりゃあまあ、彼女の考えでは二人っきりで一つ屋根の下、一ヶ月間も生活するのだから色々とあれやこれや妄想しちゃうような展開もなきにしもあらず。
学園一の美少女ともてはやされている自身としては多少の自信だってあるし、大好きな人からのアプローチなら喜んでお受けしたって良いかなとか思ったり思わなかったり。
なのだけれど。
愛しの師匠は「フンッ」と鼻を鳴らして先を行くばかり。
姫乃ちゃんは悲しいかな「凄く可愛らしい女の子」としか見られていないようなのです。
肩を落として溜息吐いて、それでも師の後に続く姫乃はどうにも思っていたのとはえらい違う展開になりそうな雲行きに不安を隠しきれずにいた。
(1)
「よし。まずはここに巣くっておる妖怪を薙ぎ倒してこい!」
夕暮れ時。老朽化につき崩れ落ちる寸前といった趣の古寺を前に、師匠は仰せられた。
「え、あたしが、ですか?」
「他に誰がおる? 儂がやると今夜は野宿だが、それでも良いのか」
「うあぁ……」
世の中には『妖怪』だなんて呼ばれる化け物が多々存在する。
特に八百万の神を信仰する僕らのニッポンじゃあ、いつどこで遭遇したっておかしくないような愛すべき隣人達だったりする。
そんな妖怪達がようやく到着した一ヶ月間お世話になるはずの犬鳴寺に住み着いちゃったりしているものだから、か弱い姫乃としてはたまったものじゃあない。
豪傑無双のウォルフ狼元帥様は美少女一人で全部ぶちのめしてこいなんて仰せになっているわけさ。
そりゃあ確かにコーチが自慢の戟を振り回したりなんかしちゃった日には妖怪どころか建物までぶった切って、結局は何が住み着いていようと関係のない更地にしちゃうんだろうけどさ。
こういうのって巫女服とか着た人達が刀とか呪符とか振り回してやる事じゃあないの? とか思ったりするわけでして。
「はようせんか、馬鹿たれが!」
「ひ、ひゃい!」
しかしガルルと威嚇よろしく唸られたんじゃ身を竦ませてリュックを下ろすしかない。
都会を道行けば殿方であれば大抵が振り返るであろうほどに可愛くキメた服装の美少女が
人里離れた山奥で溜息混じりにポケットから青い石を取り出す様は違和感がどうとか言う前に怪奇でしかなかった。
「エンジェライズ・リフレクション!」
渋々ながらの変身。
微かに蒼い輝きを放つブローチ、つまりは聖神石を両手に握り込んで合言葉を唱えればたちまち光の粒子が少女の身体から溢れ出る。
溶けていくのはそれまで身に付けていた衣服。
新たに纏うのは白地に青色を基調としたプリマドンナよろしくの聖なる衣。
背中から生えだした真っ白な翼と手の中に出現した細身の、それでいてしなやかさと強靱さを併せ持つ薙刀らしき武具。
聖狼戟と名付けられたその矛は、少女が師匠について修行を行った末に手に入れたモノだった。
やがて纏わり付いていた光の欠片達がその輝きを失ったとき、そこには愛と正義の美少女戦士が仁王立ちしており。
すぐ隣で彼女の変身シーンを見つめていた師匠が狼だか犬だか分からない顔にびっしり生え揃う顎ヒゲを指で掻きながら、こんな感想を漏らした。
「しかしアレだな。変身の最中は素っ裸になっておるが、恥ずかしいとは思わんのか?」
「み、見たんですか?」
「うむ。武人としては貧相すぎる身体だな。しかし案ずるな、この一ヶ月間で見違えるほどの肉体に鍛え上げてやるわ!」
「コーチのエッチ!」
ちょっとちぐはぐな会話を織り交ぜつつ、頬を真っ赤にしつつの姫乃が背にした翼をはためかせる。
ウォルフ狼元帥としては少女の言い分が理解出来なくて小首を傾げるばかり。
「まあいい、ともかく事を済ませろ。日が暮れると色々と厄介だからな」
「は〜い (……なによヒトの裸見ておいて感想ってそれだけ? ぶつぶつ)」
「なんだその返事は!!」
「ひゃい!」
沈みゆくオレンジ色の太陽を尻目に師匠が一つきりの眼を細め。
変身中は『エンジェル・ランス』なんてご大層な芸名を持つ少女が微妙に切ない面持ちでそんな狼人間と今にも倒壊しそうな古寺とを見比べる。
そしてキッと表情を引き締めたエンジェルランスが前に向けて足を踏み出した。
(2)
犬鳴寺は周囲をススキか何かの雑草で取り囲まれている。
老朽化は著しく、細い柱の何本かはすでに腐食が進んで折れていたし黄ばんでしまっている障子の紙も穴だらけになっている。
夕日に取って代わろうとする月がやけに綺麗で、もの悲しい風情はさしずめ荒城の月、といったところだろうか。
そんな中に、人影があった。
でも、それは真っ当な人間の輪郭ではなかった。
「うみゃ〜」
鳴き声を上げた輪郭には女性特有のしなやかさがあって、長くほつれた白髪が夕日と月光に淡く照り返している。
その輪郭は腐りかけた縁台に寝そべっていて、時折ゴロゴロと床板の上を転がっている。
「あの〜、あなたが妖怪さんですか?」
自分でも間の抜けた問いかけだとか思いつつ、その輪郭へと近づいていったエンジェルランスが声を掛ける。
「うにゃ?」
それは、一言に要約すれば猫人間。妖怪っぽい名前で言うなら猫又とか呼ばれそうな容姿をしている。
人間のよりちょっと上に付いているモフモフの猫耳。お尻の所から生えだしている白くて長めの猫尻尾。
でもって白い毛並みが服の無い全身を覆っている。
そのワリに面立ちはすっきりしていて美人顔ときたもんだ。
猫又は声を掛けてきたエンジェルの方に顔を向けるとしばし注目、それから素早い動きで縁台から飛び降りると中腰姿勢のまんま少女の方ににじり寄ってくる。
「え、えっと。突然の事でごめんなさいなんだけど、そのお寺に一ヶ月お世話になるんでもし良かったらぶっ倒されて貰えませんか?」
私ったら何を言ってんのよ。
エンジェルランスは手にある聖狼戟をしゃんと持ち替えて矛先を向けた。
鋼の冷たい光を見たせいか、それまでのんびりリラックスモードだった猫又さんが一気に臨戦態勢へと移行する。
「シャー!」
「あ、あの。師匠の命令なんです。大人しく立ち退いてくれるなら私も無闇に傷付けたりはしませんから」
猫又さんは別に誰かを襲っているワケでもないし。こうやって地上げ屋よろしく一方的に宣告して襲い掛かるなんてヤクザみたいな所行はどうにも気分の良いものではない。
だからといって「戦えませんでした」なんて言ったところで師匠は納得しないだろうし、出来るまで何度でもけしかけられるのは目に見えている。
いやいや、業を煮やしたウォルフ先生がぶち切れて今晩からの住処を木っ端微塵に粉砕しないとも限らない。
だったら、なるべくなら友好的に立ち退いて貰えれば嬉しいかなあ、とか考えた姫乃の台詞。けれど意図は全くもって相手に伝わらなかったようで、
指先に鋭い爪を生やした猫又さんがじわりじわりとすり足で距離を詰めてくる。
戟を構えて腰を落としたエンジェルとしては何時でも必殺の突きが放てる体勢を維持しつつ相手の出方を窺うのが上策に思えた。
ところが……。
「え、消え――!?」
ふっと猫又の姿が真横にスライドしたかと思えば、次にすぐ真横から伸びてくる腕の気配。エンジェルランスは咄嗟に身を引く。目の前に艶光る鋭い爪が飛び出したかと思えばすぐさま引っ込んだ。
まずい、次の手が来る!
そう感じ取って相手の姿を確認する前に斜め後ろに跳躍する。翼で一回扇いだから手合いの射程圏内からはとりあえず脱したはず。
そう思って得物を構え直そうとした少女は、しかし白い残像を間近に感じて戟をそちらに向けた。
ガキンッ!
金属を激しく打ち鳴らす音がこだまする。
手向けた刃と鋭い爪とがぶつかり合ったのだ。
しかも腕力では向こうが数段上らしくて他に何かする前に弾き飛ばされてしまうエンジェル。
「この子、強い……!」
思わず吐いて出た呟き。背筋に嫌な汗が伝う。
そういえばと思い返すのは、エンジェルランスは一人では必殺技を使えないんだよなあ、なんて事。
エンジェルランスは相方であるエンジェルハープと二人で一対。
そのハープこと蒼井聖ちゃんは、物凄く不機嫌そうな笑顔で少女の修行行脚を見送った後は夏休みの宿題に追われ、
と言いつつも今頃はテレビゲームに夢中になっているかそうでなければ部屋でゴロゴロ漫画本など読みあさっているに違いない。
それはともかくとして。コンビ名『エンジェル・ナイツ』はランスとハープ、そのどちらが欠けても戦う変身ヒロインにあるべき必殺技が使えなかったりする。
「うにゃあ!」
少女の考えを遮って間合いを詰めてきた猫又が鋭い一撃を放つ。
咄嗟に身を捻ってやり過ごしたエンジェルが自分の腰を軸にして戟を回転させて牽制、どうにかこちらの距離に持って行こうとする。
「シッ!」
だが、得物の回転に鋭さが足りなかったのだろう。地べたに這いつくばるまでの低姿勢で切っ先をやり過ごした猫又が双眸に妖しい光を灯して懐へと飛び込んできた。
しまったと思う瞬間。
敗北と死。それまでのお気楽な考えが全て吹っ飛ばされて、頭の中が白く染まった。
突き上げられるのは貫手。
指先にある鋭い爪があれば少女の腹を抉ることだって容易だろう。
白翼の天使の顔が、自分でも分かるくらいに引きつった。
「そこまでっ!」
鋭い声があがったのはそんな時のこと。
一喝で猫又の動きを制したのはウォルフであり、それまで戦っていた二人は同時にそちらへと顔を向ける。
夕暮れから夜に移り変わろうかという頃合いで、闇の中に浮かぶシルエットはやはり薄汚れた胴着に身を包む半狼半人の大男であり。
その手に握られた巨大な矛がギラリと月明かりを照り返す。
ウォルフは畏怖堂々と両者の間に割ってはいると、こう言った。
「久しいな、タマや」
「にゃ〜☆」
文字通りの猫なで声で師匠に向けて小走り、飛び掛かった猫又さん。
呆気にとられて見守るエンジェルランスの事なんて眼中にも無いとばかりにじゃれる白猫女と、その長くて艶っぽい白髪を無骨そのものの手で撫でる狼男の図がそこにはあった。
とりあえず、こんなもんで。
ストーリー性は皆無ですがスレ違いでは無いハズ。
125 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/10(土) 01:19:48 ID:nYI5eB5H
投下お疲れ様です
ツンデレ師弟カワユスw
それはそうと、これってまとめサイトに載っけちゃっていいのかな?
はい。問題はありません。続くかどうかは疑問ですけど
127 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/10(土) 01:29:27 ID:nYI5eB5H
了解です
そのうち適当に載っけておきます
武神戦姫凛 第六話『超奥義!聖覇鳳凰拳』
―――獄牙の処刑場。ここでは許可なく連春から出ようとした者、いや逃げ出そうとした者、
獄牙に対して反抗した者に処罰が与えられる。今日も罪人たちが檻に入れられたまま
運ばれてくる。処刑場入口から、幽覇がパリアを連れてその姿を現し、
獄牙にとっての罪人たちの前に立つ。
「ゆ、幽覇ぁ…!!」
「ふふ、ご機嫌はいかがかな?お前たちはわれらに反抗したが…獄牙の軍門に降るならば、
許してやらんこともないが?」
幽覇の提案に彼らは幽覇をキッと睨みつけ、身を乗り出す。
「ふざけるな!誰が貴様らなどに!」
今回の事を起こしたグループのリーダー格が叫ぶ。
「ほう、貴様の意思は、皆の意思であるな?」
まるで確認するように言う幽覇に、叫んだ男の周りの人々は頷く。
「そうか…よし、パリアよ、奴を連れて来い」
「はぁ〜い♪すぐに連れて参ります〜」
軽い口調でその場を後にするパリア。そして数分後、パリアとともに現れたのは
巨大な四足歩行の牛型のバイオモンスターであった。
「我に反抗する気の者は、この場で死を与えようぞ」
「ぐっ、うお!?」
先ほどのリーダー格の男が檻から出されたと思うと、幽覇の念力によって
宙に浮かされ身動きできないまま、モンスターの足に縄で括りつけられ
走り出したら引きずられる体勢にされてしまう。
「もし、生き延びることができたら解放してやろう。それでは…パリア!」
「はぁい!じゃあ、お兄さん?抵抗するなら原型留めなくても生き残ってよね?そぉれ!」
パリアがバイオモンスターの尻を叩くと、猛烈な勢いで走り始める。
それに伴い、男も引きずられ、地面と強烈に擦れあうことに。
「うわああぁぁぁ!!」
「あらぁ?始まったばっかりでそんな大声出しちゃうなんて…根性無しだなぁ。
それにまだまだいろいろあるのよん♪」
明るくそう言うパリア。宣言通り、モンスターが走ってるコースは高跳び台が見えてくる。
それをモンスターは悠々と飛び越すが、男は強烈に叩きつけられてしまう。
「ぐおおおおおおおおお!!!」
男の悲鳴があがるなか、今度は無数に棘が設置されてる地面が見える。それもまた
バイオモンスターは飛び越すが、男の方は一瞬とはいえ、ぐさりと全身に突き刺さった。
「うぎゃ、ぐぎゃあああああああ!!!」
走る勢いで、無理やり棘を抜かされ、コースを進んでいく。
次に待ち受けるのは炎が迸るトンネルであった。元から人外のバイオモンスターは
この程度の炎ではびくともしないが、生身の男の方は平気なわけがなく、肉体を焼いていく。
「ごああああ!!!も、もうやめてくれぇぇぇぇ!!助けてくれぇぇぇ!!!」
全身に走る痛みと、刻まれた恐怖で男はついに許しを乞うが…。
「最後まで、生きてたら許したげる♪ほら頑張ってぇ♪」
あっさりとその言葉は拒否され、まだまだ続く処刑場コースを走り続ける。
ようやく一周し、バイオモンスターが停止するが、男の方は―――
「あらあら、もう誰…というより何?って感じになっちゃったねぇ」
人の形も残らぬような姿へと変貌していた。それを見た他の罪人たちの一部は
恐怖し、慌てて獄牙に逆らわないから許してくれと言うが
「何を言っている?貴様らは、この男だったものの言葉に同調していたではないか。
それを今さら取り消すというのか?ふん、甘い考えだ。パリア、続けろ」
「はいはーい♪じゃあ、次はあなたね。頑張って生き残ってちょうだい♪」
二人の宣告で、捕えられた者たちは、自らの行いを悔いながら、
処刑される順番を待つことになってしまった。
―――数時間後。その場に残っていたのは処刑に立ち会った幽覇とパリア、そして
処刑人であるバイオモンスターである。散らかっているものは肉片と赤い液体ばかり。
「ふっ、我に逆らうのが愚かなことだということ、地獄で悔いるがいい」
「あっ、幽覇様ぁ!」
と、ここでパリアが何か思い浮かんだように幽覇に声をかける。
「どうしたパリア?」
「逆らうといえば、戦姫の小娘ちゃんたちを、この子を使って殺す方法が思い浮かびました!」
その言葉に反応し、邪悪な微笑みを浮かべる幽覇。
「そうか…お前のことだ、さぞかし面白い方法なのだろう?」
「はい!戦姫が泣き叫んで許しを乞う姿…想像するだけで涎が出そうですわ」
―――数日後。牛型バイオモンスターと、それを連れたパリアが、某所にある
洋菓子屋の前に来ていた。この店、味こそ良いものの、最近は近くに出来た
大型ショッピングモールに客を取られていた。
「…だからぁ、この土地をさっさと獄牙に渡してほしいんだけどなぁ、おじさま?」
軽い口調で語りかけるパリアに、店主であるダグラスは憤り
「何度も言っている!私の店は絶対にお前たちになどやらん!」
やれやれと首をふるパリア。
「素直に退けてれば、これからの生活にも困らないようにしてあげたのに…
しょうがないね、バイオモンスター、この店潰して、このおじさまも殺してあげて?」
パリアの指示に従い、バイオモンスターはその巨大な角で店ごとダグラスを潰そうと
足をズサズサと地面に擦りはじめる。
そして突進を始めようとする…だが、モンスターは走り始めない。
「あらぁ、凛ちゃんじゃないの」
バイオモンスターの目の前に既にチャイナドレス姿に変身した凛が立ちふさがったからだ。
「パリア!理不尽な行いは、あたしが許さないよ!」
「ふぅ〜ん、出来るかしら?それにお仲間はどうしたのぉ?」
「お前らがバイオモンスターを作りすぎなんだよ!」
そう、シャニーと楓は獄牙の言うことを聞かない他の一般人の家宅や店に解き放たれた
バイオモンスターの退治のため、凛とは同行が出来なかったのだ。
「ま、こんな奴はあたし一人で十分だ!気功弾!!」
片腕に気を集め、バイオモンスターへ投げつけるが、それを角の一振りで弾かれてしまう。
「ちっ、じゃあこれでどうだ!飛竜脚!!」
勢いをつけ、強力な飛び蹴りをくらわそうと飛び掛る!だが
「なっ、なに!?うあああ!!」
それを物ともせず、短い突進を行った敵に逆に吹っ飛ばされてしまう。
「くそぉ……あぐぅぅぅ!?」
起き上がろうとするが、それよりも早くモンスターに踏み潰されてしまう。
「どう、凛ちゃん?この子はねぇ、あなたとは比べ物にならないほどの力を持ってるのよ。
じゃま、後腐れないよう、ささっと止めといきますかぁ!」
バイオモンスターがその角を凛に引っ掛け、そのまま空高く、かち上げてしまう。
重力に任せ、凛の身体が落下してくるが、その着地点はバイオモンスターの角だ。
「ふふん、串刺しになったら、こんがり焼いてバイオモンスターの餌にしてあげるわ♪」
だが、凛の肉体が無残に突き刺さるよりも早く、どこからか飛んできた光弾が
モンスターの顔面に直撃し、怯んだ隙に、残像が凛を助ける。
「しゃ、シャニー…!」
「凛、大丈夫!?」
「凛姉!凛姉にひどいことして、許さないよ!!」
凛を回収したシャニーと光弾を放った楓がパリアとバイオモンスターの前に立ち塞がる。
だが、やる気の二人に反してパリアは何か残念そうな表情でいる。
「あーあ、もうちょっとで凛ちゃんを殺せたのにぃ、やる気失せちゃった…
まあいいや、戦姫のお嬢さんたち、決着を付けたかったら今夜9時に野球場においで、じゃあね!」
言い残すと、パリアはバイオモンスターを連れて、フッと消え去っていった。
「お嬢さんたち、大丈夫ですか!?」
と、戦闘が終わり真っ先に声を発したのは洋菓子屋の店主ダグラスだった。
「ああ、なんとかね…おじさんこそ大丈夫だったか?しかしおじさんも
なかなか勇気があるねぇ、獄牙に屈しそうな人は何人も見てきたから…」
どこか悲しげに凛が言うが、ダグラスは首を振る。
「いや…この店はね、私が初めて開いた店なんですよ。だから思い入れがあってね。
だが、数年前から獄牙がこの街を支配するようになって、獄牙経営のでかい店が出来て…
当然ここの売り上げも伸びなくなってきたけど、それでも、奴らにだけは屈するものかと
現在まで守ってきたんです。今日は戦姫の皆さんのおかげで助かりました、ありがとう…」
心からお礼の言葉を述べるダグラス。
「シャニー、楓…今夜の戦いは負けられないな…!」
「凛!その身体で戦うつもり!?」
シャニーの言うとおり、先ほどの戦いで受けたダメージが酷く、気で回復させてはいるが
夜までにはとてもじゃないが全回復とはいかないだろう。
「凛姉ぇ、本当に大丈夫なの?無茶はしないでね」
「大丈夫だよ…それに、あのバイオモンスターには借りを返さなきゃいけないしな」
既に対策が思いついてるのか、少しだけ不敵な笑みを浮かべた。
―――夜9時。パリアに言われた野球場へとやってきた凛たち。既に変身済みだ。
到着と同時にスタンドのライトが光を発し、スタジアムを明るく照らす。
「はぁい♪言われた通りに来てくれたね、お嬢さんたち」
「パリア!あたしらが勝ったら、もうあの店には手を出すな!」
怒りを宿した瞳を、バックスクリーンから現れたパリアに向ける。
「うーん、考えてあげてもいいけど、まずはこの子達を倒してちょうだい♪」
そう言うと、スタジアムの地面が盛り上がりながら突き破れ、そこから
先ほどの牛型バイオモンスターが現れた…だが、量産されたのか三体いる。
「なっ!三体も!?」
「あらぁ、凛ちゃん怖じ気ついちゃった?でも、もう逃げられないよ」
野球場の入り口がすべて閉まり、逃げ場は塞がれてしまった。
「だけど…何体出てこようが必ず倒す!シャニー、楓、いくよ!」
「わかったわ…!」
「うん、頑張るよ!」
三人は散り、それぞれ目の前のバイオモンスターに挑みかかる。
楓は、突進してくるバイオモンスターの角をタイミングよく掴み取り、
そのまま巴投げをして、モンスターをひっくり返す。
「よぉし!気功弾!!」
起き上がろうとしている間に、気功弾を放ち、それが直撃すると爆発が起き、砂煙が舞う。
「やったぁ!…ええっ!?」
あっさりとやっつけたと思っていたが、バイオモンスターはピンピンとしており、
再び楓に向かって突進してくる。
「きゃああーっ!!!」
防御体勢も取れずに、突進をもろに食らった楓は空中で回転しながら、地面に叩きつけられる。
「豪裂脚!!」
シャニーは無数の蹴りをバイオモンスターに放ち、宙に浮かび上がったところを
「天翔拳!!」
強烈なアッパーを浴びせ、敵を吹き飛ばした。だが、その巨体に反してバイオモンスターは
上手く着地し、口から光線を吐き散らし、シャニーの肉体を焼いていく。
「うああああ!!!」
その光の渦のなかで、悶え苦しむ。ようやく、光線が収まった時には
シャニーのチャイナドレスはボロボロになり、肉体も酷いダメージを重ね、その場に倒れこんだ。
「シャニー!楓!」
上手く攻撃を捌いていた凛は倒れた二人のほうへ思わず振り向いてしまう。
「余所見してる場合じゃないわよ、凛ちゃん♪」
ニコニコとしながら言うパリアの台詞で、体勢を整えようとするが、もう遅い。
突進してきたバイオモンスターの角が凛の身体に勢いよく当たる。
「ぐあああああああああああああ!!!」
もし変身していなかったら間違いなくその角は凛の身体を貫通していただろう。
だが、それでも一瞬にして殺されそうなほどのダメージを受けた凛は痛みに絶叫し
口をパクパクさせ、膝をガクガクと揺らしながら、その場に倒れこんだ。
戦姫が倒れたのを見て、パリアはご機嫌の様子でいる。
「おほほほ♪戦姫のお嬢さんたちぃ、そんな強さで獄牙に逆らおうとしたのが
間違いだったのよぉ。でも、安心して?あなたたちが死んだ後、連春はとてもいい街になるわ。
だって、すべてが獄牙の思うがままなんですもの。逆らう人がいなくなれば、
争う必要もないじゃない?ま、個人の意思なんてものはないけど…
安定してるならそれでいいじゃない♪」
人々のことをなんとも思わないパリアの発言に、凛は倒れながらも拳を握り締めた。
「くっ…お前らの好きになんかさせるもんか…!」
「ふ〜ん、好きにさせないなら、どうにかしてみなさいよ?」
挑発するパリア。その挑発に受けて立つとばかりに、もう一度立ち上がる三人。
全身に走る痛みに、歯を食いしばりながら、凛が二人に話しかける。
「シャニー、楓…アレをやる!なんとか三体とも同じ地点に寄せ集めてくれ…!」
凛の言葉に二人が頷くと、渾身の力を込めて飛び掛っていく。
楓が一体のバイオモンスターの角に掴みかかると、そのまま天高く放り投げ
自由落下してくるそれの角を再び掴み取った。
「風車返し!!!」
掛け声とともに、ブンブンと振り回し、楓に突進してきたもう一体のバイオモンスターを
巻き込みながら、野球場の中央に投げ飛ばした。
「豪裂脚!!」
シャニーは先ほどは通じなかった技を今度は角に集中し、それを破壊、そして
「満月蹴!!!」
バック宙の要領で後方回転しながら、とどめの蹴りをバイオモンスターの顎にあて
楓が投げ飛ばした場所へと蹴り飛ばした。
三体のバイオモンスターが同じ場所へ集められたのを確認すると、凛は
両手に気を集めていく。それは今までのとは比べ物にならないほど、圧倒的な気。
その気がバチバチと弾け、凛の両手の間にボール状の姿で形を成していく。
「聖覇!!鳳凰拳!!!」
叫ぶと同時に両腕を突き出し、集まった気が放たれる。両手に収まる程度だった気は
発射と同時に一気に巨大化し、超高速で突き進んでいく。それを防ごうと
モンスターたちも光線を放ち遮断しようとするが、それすらかき消しながら
敵を飲み込んでいき、断末魔すら残さずに、跡形もなく消滅させた。
「どうだ、パリア!ちょっとは思い知ったか!!」
その威力の反動で、凛は後方へずり下がっていた。
「あ、あんな技まで使えるなんてねぇ…びっくらこいたよ」
聖覇鳳凰拳の威力を目の当たりにしたパリアはさすがに、冷や汗をかきながら
戦姫たちの方を見る。
「ま、いいわ。あのお店は諦めてあげなくもないけど…それは別の場所が
狙われるってことだよ、わかってる?」
そう言い残すと、パリアは姿を消していった。
「獄牙…どうしようが、あたしらで必ず食い止めてやる…!」
―――数日後。ダグラスの洋菓子屋は再び繁盛、というわけにはいかないが
凛たちがショッピングモール増設のための土地の奪い合いを阻止したおかげで
完全に閉店に追い込まれたりはしていなかった。
「よかったなぁ、おじさん。なんとか店を続けることが出来て」
「いや、あなた方のおかげですよ。取られた客はそう簡単には取り戻せないが
いつか必ず、昔のようにしたいと思っています」
深々とお辞儀をするダグラスに、凛は照れくさそうにしながら、手を振って別れる。
しばらくして、シャニーと楓が息を切らせる勢いで凛のもとへ走ってくる。
「二人とも、どうした?」
「また獄牙だよ、凛姉ぇ!」
「今度は遊戯施設を作ろうとして、南側を襲っているらしいわ、急ぎましょう」
諦めが悪いなと思いながらも、凛は二人と一緒に駆け出していった。
次回予告
「どうも、楓です!今まではナレーションっぽい次回予告だったけど、今回は楓が
やっちゃうよ!ぶっちゃけ、いい次回予告が浮かばなかったみたいなのね。
次回は連春に未知のウィルスが撒かれて、街の人も凛姉、シャニー姉も倒れちゃった!
でも、何故か私や一部の人は平気だったのよ。その人たちと協力して
解決してみせるんだから!楓のすっごい投げっぷり、堪能してね」
135 :
武神戦姫凛 ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/10/12(月) 02:59:26 ID:1cnc0PU5
投下完了です。今回も代行してもらいました。
>天使の同盟作者さん
敵組織の幹部に特訓してもらってるヒロインは新鮮だなぁ
そして姫乃の猫又に対しての台詞に吹いたw
丁寧にぶっ倒されてもらえませんかってw
投下乙でした
>その気がバチバチと弾け、凛の両手の間にボール状の姿で(ry
このくだりで、なぜかDBのピッコロさんを思い出してしまったw
凛の超必殺技の登場ということはシャニーや楓にも……
ついでに、まとめの管理人です。まとめの方、色々模様替えしました
・デザインを可愛い感じに変更
・連載物の作者別ページの作成
・連載物にウメ子追加 等々
その他もろもろいじりました。不具合があったら、罵ってください ノシ
まとめサイト改装乙なんだけど、背景色ピンクは勘弁してくれ・・・
読んでて目が痛すぎる
>>135 投下乙でした
後で読ませていただきます
背景色ピンクって痛いのか……。
おれ自サイトでそういうページあるけど、
言われた事が無いのでわかんなかったよ(汗
139 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 15:41:32 ID:U3cPrKM5
>>128 敵に支配された都市で孤軍奮闘お疲れ様です
腐敗と自由と暴力の真っ只中みたいな都市は大好きだ
>>135 投下乙でした。獄牙の処刑方法がエグいw
そしてパリアのサディストっぷりにほれるなぁ。
軽いい口調で、残酷なキャラってたまんない
>>136 まとめサイト管理人様、乙です。
すごく今更で、別にどうでもいいことですけど、左メニューは何故削除したんですか?
>>136 お疲れ様です
要望ですが、一行辺りの文字数をもっと増やして欲しいです
意図せず変なところで改行されてしまいがちなので…
お手数かけますが、よろしくお願いします
たしかに背景ピンクはちょっと辛いか?
デザインはそのまま、色は白ならどうかのう
いっそ作品ごとに作者に背景色決めてもらうってのはどう?
ページごとに色設定できるのかどうか知らないけど
おはようございます、まとめ管理人です。
>>137>>138>>143 背景ピンクは、じっ…と見てるとチカチカしますね。多分ピンクの色が濃いせいでした。
いっそのこともっとシンプルにしようと思い、あんな感じになりました。
遊びは無くなりましたが、目に優しい。
>>142 全体的に大きくしました。
自分でも前々から思っていたことなので、無事にできて良かった。
>>144 ページごとの背景色は残念ながら変えられないようです。白一択。
>
>>145 乙ですー、広くなって見やすくなったなぁ
でもぶっちゃけデザインは最初の奴が一番良かったような気がしないでもないw
ロリ騎士「ねぇねぇ、きゅーてぃーじじょさん?」
宮廷侍女「きゅっ!? ロリ騎士様。キューティーと言われるのは非常に嬉しいのですが…、私は“きゅうてい”。宮廷侍女ですよ〜」
ロリ騎士「きゅーて?」
宮廷侍女「きゅうてい、で御座います」
ロリ騎士「きゅーてい」
宮廷侍女「はい。その様な感じで御座います」
ロリ騎士「わかった! あのね、きゅーていじょじょさん」
壁|ω・`)<(はわゎゎゎ…名前を覚えてもらえない…)
誤爆 orz
(3)
すっかり日も落ちて夜。
師匠が修行場にと選んだ犬鳴寺では薄汚れた胴衣姿のウォルフ狼元帥と
どうにもやり切れない面持ちの片瀬姫乃と、そして先刻に少女が戦ったはずの猫又
『タマ』が仲良く囲炉裏を囲んで座っている。
夏場とは言え付近に民家もなく標高の高い立地上、じっとりと汗ばむような熱さは
ない。
夕食は鍋だった。師匠としてはもうちょっと気の利いた食材、たとえば鍋料理に
ぴったりな採れたての山菜だとかそれなりに値の張ったスーパーの鍋用肉だとかを
ご所望だったけれど、背負い袋から引っこ抜いた焼酎入りの一升瓶を傾ければそれは
それでまんざらでもないらしい。
一方でタマはといえば、さっきからずっとあぐらを掻いて座る師匠の膝の上で丸く
なって時折じゃれついていた。
「あの、コーチ。この子って一体何なんですか?」
姫乃はちょっぴりジェラシーを滲ませて尋ねる。
囲炉裏の火の上では吊り下げた金属鍋が、コトコトと湯気を立てている。
鍋に放り込まれた食材は水で戻すタイプの乾燥椎茸にジャガイモ、でもって
カリカリになっていた干し肉。いづれも電車からバスに乗り換える際に立ち寄った
スーパーで購入した物だ。
ウォルフ師匠は猫又さんの艶やかな白髪、なので光の照り加減によっては銀色にも
見える長い体毛を指で弄びつつ答えた。
「過去に我が師と二人、この寺に籠もって修行したことがあってな。
コイツは先に居着いておった住人だ」
また師匠はこうも言った。
「元は普通の猫じゃったのだが、我が師の死去の頃より化けるようになった。
恐らくは儂を元気づけようとしたのであろう」
ああ、そういえばウォルフ先生の師匠は、奥義伝授の際に先生が手に掛けて
しまったんだっけ。
姫乃は困惑気味に相づちを打つしか知らない。
彼が継承する武術は一子相伝の殺人拳で、ゆえに完全な技の継承には『師の殺害』
が含まれちゃったりするワケです。
姫乃は過去に「私はコーチを傷付けたりはしません」なんて大見得きって宣言
しちゃったけれど、その実どうすれば良いのかなんて見当も付いていない。
「不器用なりにも師に顔を似せるあたり、こやつも師を敬愛しておったのかも知れん」
囲炉裏を挟んでウォルフ師匠のヒゲに指を這わせる猫又さん。
師匠がそんなタマの動向に優しい笑みを向けていると、何を思ったのかタマは身を乗り上げてウォルフの頬をペロリと舐めた。
「がっはっは、そうかそうか、お前も嬉しいか!!」
狼元帥の豪快な笑い声が部屋一杯にこだました。
絶句したのは手を伸ばしても届かない距離にいる姫乃ちゃん。
言葉を失っている少女の面持ちに気付いたタマが、師匠の顎の下でニヤリとほくそ笑む。
『いつか絶対、師匠の居ないところで退治してやる!』
と、これが就寝間際に姫乃の決意した最優先事項だった。
(4)
山登りの疲れからか姫乃が泥のように眠って翌日。
この日は朝から霧が出ていたが、昼前には晴れて強い日差しが連なる山脈の陰影を際立たせていた。
姫乃が夏休みを犠牲にして行った特訓の初日はといえば、犬鳴寺に備え付けられて
いた錆び付いたナタを振るって、拾ってきた薪を切る作業。
これをしておかないと100円ライターをどれだけ持参してきたって意味が無い。
火が焚けなければお料理はもとよりお風呂を沸かすことさえままならないのだ。
「明日になったら筋肉痛だろうなぁ……」
薪を割りつつぼやく姫乃。
深い山中なので炎天下というほどには暑くはないけれど、高低差の激しい密林を駆けずり回って拾ってきた
樹木の欠片を機械的に割っていくなんて重労働を4時間あまり繰り返したのだから、もちろん全身が悲鳴を
上げているし、大汗かいているから着込んでいる白胴着が気持ち悪いし、できることならすぐさま素っ裸になって
途中で見かけた川に飛び込みたいくらいだ。
なお、ウォルフ師匠は最初こそ一緒に薪拾いしていたのだけれど、途中で何か異変を
感じたとかで周辺の探索に乗り出している。
「ふぅ〜。どうにか、終わった」
お気に入りのピンクの腕時計を見ると午後の三時になっていた。
結局、五時間ものあいだ労働に汗していた姫乃は足腰に加えて両腕までもが砲丸よろしく重くなっているのを
感じつつ、まだ傾いてくれないカンカン照りのお日様を見上げる。これでも都会の炎天下と比べれば幾分はマシ
なのだろうけれども、それでも立ち眩みで何時でもぶっ倒れる自信がある。
ふと手近にあった木陰に目をやると、そこにはいつから居たのか一匹の白い猫が欠伸半分にこちらを眺めている。
「あら、あなたどこから来たの?」
猫の毛は綿菓子みたいにフワフワで、よく手入れされているのか毛艶が良い。
その仕草に妙な色気というか気品を感じるから、きっと飼い猫だろう。
という事は近くに民家があるのかな?
とか何とか思いつつ、しゃがんで白猫においでおいでしてみる姫乃。
すると猫はおもむろに近づいてきて、そしてこう言った。
「その間抜けヅラを何とかしたらどうにゃ?」
え、と硬直する少女。白猫がニタリと口元を歪ませた。
「え、と。……まさか」
「妾はタマにゃ。おいおみゃあ、あんまチョーシくれてっとシメんにょ?」
「……%#&!!」
言葉にならない声を上げて尻餅をつく姫乃さん。驚きのあまり腰が抜けてしまったらしい。
これは後で聞いて知ることだけれどタマは妖怪で、だけど長時間人型に変化し続ける
のはワリとしんどいらしい。なので表が明るい間は猫の姿に戻って普通に生活していた
りするわけさ。
そういった事情をペラペラと曰うタマだけど、何よりもこの猫だか何だかよく
分からない生き物が普通に喋っていることに一番ビックリしていたりの姫乃。
だって、昨日の晩からつい今し方まで、話しているのを見たことが無いんだし。
そんな少女の心境になど興味もないとばかりにタマは悠々と言ってのける。
「まあ良いにゃ。ウスノロで頭の悪いおみゃあにも分かるように言ってやるにゃ。
ウォルちんは妾と将来を誓い合った間柄にゃ。おみゃあに入り込む隙にゃど欠片ほども
無いにゃ。分かったらちゃっちゃと荷物をまとめて出て行くにゃ」
「な、なんですってぇ!!」
ウォルちん、というのはたぶんウォルフ師匠を指しているのだろう。
じゃあ、将来を誓い合った間柄ってのは?
一般にそういうのを許嫁(いいなづけ)とか言うのだろうけれど、もちろん愛しの
コーチからそういった類の事なんて聞いたためしもない。
衝撃の新事実(?)に素っ頓狂な悲鳴を上げた姫乃。
白猫がまたもや「ニターッ」と笑むのが見えた。
(5)
ウォルフ師匠の帰宅は午後7時を過ぎた頃だった。
彼は荒縄に縛り付けた鮭を丸々一匹肩にぶら下げて犬鳴寺の敷居をまたぐと相も変わらぬだみ声で、
囲炉裏の前で体育座りの姫乃と部屋の隅っこで転がっている人型妖怪タマに呼ばわった。
「喜べお前達。今夜のメシを取ってきたぞい!」
威勢も良くズカズカ囲炉裏の前までやって来た狼元帥は、しかし妙な空気が漂っていることに気付いて足を止める。
体育座りしている姫乃さんは、目が座っているというか何というか『じと〜』とした面持ちでやって来た師匠を出迎えた。
またタマはといえば、よく見るとどこで拾ってきたのか赤いゴムボール相手にじゃれているけれど、どこか気が張っている
というか神経過敏っぽい雰囲気を漂わせている。
ウォルフ狼元帥はちょっと眉をひそめて、座っている姫乃のすぐ隣まで来ると膝を折って話し掛けた。
「何かあったのか?」
「……知りません!」
ぷいっと顔を背ける少女。半狼半人男が小首を傾げて部屋の隅っこに同じ問い掛けをしたが、タマは一瞥しただけで
満足な答えを返さなかった。それで気を取り直しての師匠が再び姫乃に声を掛ける。
「まあ良い。鮭は血を抜いてから刺身にするとしてだ、その前に風呂に行くぞ!」
「へ?」
風呂と聞いて変な反応を返してしまう姫乃。
そんな愛弟子をニヤリと見返して、狼男は立ち上がった。
「ここから3キロほど先に天然の温泉を見つけたのだ。湯加減も丁度良い。
軽く走ってから湯船に浸かるというのも乙なものだ」
言いながら彼は囲炉裏の近くに置きっぱなしになっている一升瓶を手に取った。
「いつまでふくれ面をしておるつもりだ。早うせんか、置いていくぞ?」
「あ、まってください、行きますってば!」
お風呂と聞いた瞬間に昨日の夜からまだ汗を流していないことを思い出した姫乃としてはせっかくのお誘いを
拒否する理由なんてこれっぽっちもありはしなかった。なので慌てて立ち上がるとそそくさ自分のリュックからお風呂セットを引っ張り出す。
ふと手を休めて部屋の隅っこに目を遣れば、そこには何時からかちょこんと座り込んで2人のやり取りを見守るタマの姿。
可愛らしい妖怪さんは、姫乃の視線に気付くなりムッとした表情でそっぽを向いてしまった。
(……タマちゃんの言ってたこと、本当なのかな?)
先程聞いた話がなんとなく懐疑的に思えて、そんな困惑の眼差しを師匠に向けると彼の目はじっとこちらの方を向いている。
かっちりと絡み合う視線と視線。
ウォルフ師匠の目は「まったくいつまで待たせるつもりだコイツは」と語っているように感じられる。
なぜだかほんのり嬉しくなって立ち上がった姫乃の顔に僅かばかりの笑みが浮かんでいた。
とりあえずこれだけです。
しかしスレに投稿するのって意外と難しいです。感覚的に一行の文字数と文章の長さとが折り合わない…。
>>152 投下乙です
外伝ということで気になって早速天使の同盟本編読みました
めっちゃ良かったです!
展開が上手くて、個人的にああいうのスゴい好きなのでハマりました!
外伝の続きも期待してお待ちしてます
>>153 有り難う御座います。そこまで喜んで頂ければ頑張って書き上げた甲斐があったというものです。
外伝の続きは……、まったりとお待ちくださいw
155 :
武神戦姫凛 ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/10/17(土) 23:39:26 ID:7yUm7tlB
武神戦姫凛 第七話『恐怖のウイルス!楓、投げ道一直線』
獄牙では、思いのほか戦姫によって与えられた被害が大きくなり始めていたことの
対策を練り始めていた。
「毒花よ、いい対策はあるか?」
幽覇は自身の髪の手入れをしている毒花にそう持ちかけた。
「…大掛かりですが……確実に戦姫と街の愚かな者どもを苦しめる方法が…」
「そうか、ではその作戦、お前に任せよう」
「はい…吉報をお待ちください……」
幽覇の髪の手入れが終わると毒花は、部屋から去っていく。
―――バイオモンスター製作工場。毒花の姿が見えると、職員たちが一歩引いて敬礼する。
「……お願いしておいた例のアレ…出来てる?」
何かを尋ねると、職員は一つのカプセルを取り出してみせる。
「これです。バイオモンスターから生み出した最新ウイルス…
指示通りAB型以外の血液型の人間に反応する仕組みになっております」
毒花は小さく頷いて、口元を緩ませる。
「それじゃあ……今夜、さっそく街中に散布するわ…皆、それに備えた防護服を
用意しといてね…」
そう伝えると、毒花は工場から出て行き、職員たちは、今夜の作戦のために
それの準備を始めだした。
獄牙の本拠地である中央ビルの屋上。そこに防護服とマスクで身を包んだ
毒花と数名の職員の姿。そして真ん中には巨大な装置。職員がカプセルの蓋を
あけると中から何やら紫色の煙のようなものがあふれ出す。
「毒花様、準備OKです」
「わかったわ…それじゃあ、満遍なく撒き散らして…」
設置してあった巨大な装置の中に紫の煙が吸い込まれていき、空高く舞い上がらせ
それは街全体に広がって飛び散り、降り注いでいく。
「明日が楽しみね……どれだけの者が苦しむことになるのかしら…?」
表情に乏しい毒花の顔に、薄らと笑みが浮かんだ。
―――翌朝。戦姫の三人は大悟の家で朝食をとっていた。
「凛姉ぇ!そのパンは楓のものだよぉ!」
「ふふん、こういうのは早いもの勝ちなんだよ、楓!あむっ」
躊躇なく、パンを口に突っ込む凛。楓はドバドバ涙を流している。
「楓も、もっと手の早さを鍛えときな…あ……な、んだ…!?」
喋っている途中で、突然息苦しくなり、凛はその場に倒れこんだ。
「凛姉ぇ!突然どうしたの!?パン喉に詰まらせたの!?」
ボケた台詞を吐くが、凛は本当に、苦しそうに息をしている。
「とにかく、お医者様を呼ばないと……うぅ…あれ……?」
「シャニー姉ぇ!?」
今度はシャニーもその場に倒れこんだ。楓が二人に近づき、額に手を当てると
「すごい熱…どうして突然、こんなことに…医者呼ばないと…!」
そういって電話をかけに隣の部屋にいくと
「!!…大悟くん、おじさん!」
家の主の二人までその場に倒れこんでいた。だが大悟の父だけはなんとか顔を上げる。
「ぐぅ…か、楓ちゃん……君は平気なのかい…?」
「うん…それよりも喋らないで、すぐにお布団引いて医者呼ぶから」
「あ、ありがとう…だが…気をつけるんだ……また獄牙の仕業だろう……」
そう言い残すと、再び顔を伏せてしまう。とにかく楓はすぐに四人分の布団や
熱取りシートや、タオルを用意し始めた。
―――二時間後。ようやく、医者が汗を拭きながら現れた。
「ごめんください。エルンストと申します、遅くなりました!」
エルンストと名乗った医者は眼鏡を掛け、若い顔立ちをしている。
「は、速くみんなを診てあげてよ!とてつもなく辛そうだから!」
来るなり、楓はエルンストの腕を引っ張り、四人が寝ている部屋へと案内する。
しばらくして、エルンストは四人の診察が終わると、小さく数回頷く。
「うーむ…東雲さん、あなた血液型は何型ですか?」
「え?血液型?AB型だけど…それがどうしたの?」
突然そんなことを聞かれて、一瞬困惑するが、素直に答える。
「そうですかぁ…実は私もAB型なのです」
「へえ、同じだね…ってそんなことはいいよ!それがどうしたのさ」
思わずエルンストに詰め寄り、答えさせようとする楓を、彼はまあまあと手をやり
今度は真剣な表情で話し始める。
「実はですね、ここに来るまでにも何軒か病人が出たというので診てまわったのですが
ここと同じように、AB型以外の血液型の人が倒れていて、AB型の人間はピンピンしてるのです。」
「そ、それって…つまりどういうこと?」
頭の上に?を浮かべながらすっとぼけた顔で尋ねる楓。
「つまり、感染するとAB型以外の人間がこのようになる未知のウィルスが
連春にばら撒かれたのでは、と…」
「ウイルス…でもでも、最近そんなの出回ってるなんて話は聞いてないし」
「いえ、それをすぐに作り出せる者たちがいますよ…獄牙とかね」
「獄牙!じゃあ、奴らを叩きのめせば、みんなを助けることが出来るってわけね!よぉし」
「待ってください、どこに行くんですか?獄牙の連中の場所へ行っても
必ずしも、ウイルスの解決策か何かが手に入るとは…」
すぐさま飛び出そうとする楓を呼び止めるエルンスト。それに対し楓は
「奴らのとこに行けばなんとかなるって!それじゃあね!」
結局、静止も聞かずに楓は飛び出して行ってしまうのであった。
「本拠地と言っても、解決できる物を取ってくるだけだもん、絶対大丈夫!」
―――中央ビル。そこの裏手から楓は侵入しようと考えていた。
「ささっと、行きますか…ん?あれは…?」
少し先を覗き込むように見ると、金髪の青年が辺りを見回しながら、入り込もうとしてる。
「ねぇねぇ、何してるの?」
「うわっ!?」
何の躊躇もなく尋ねる楓の声に驚き、慌てて振り返る青年。
「お、おい脅かすなよ…ん?お前、確か戦姫ってのやってる…」
「うん、東雲楓だよ」
「ああ、お前が…まったく、こういうとこも半人前なんだな」
「ちょ、どういうことだよ!楓の何が半人前なのさ!」
青年の言葉に、怒り、声を荒げる。
「戦闘力は凛やシャニーに及ばないって専らの噂だぜ、子どもっぽいし。
あと…お前もここに侵入しようってのに、目立つような行動するな。大声出したりとかな」
「あっ…ごめん…で、でも子どもっぽいって」
「それじゃ、俺は先に行かせてもらうぜ、長話してる場合じゃないんでな」
凛の言葉を遮断し、青年は先に行ってしまう。楓も慌てて彼の後を追う。
ビルの内部はいかにもな、オフィスビルと言った感じだが、特に警備員がいるわけでもなく、
かと言って、普通の人が出入りしている雰囲気でもない。不気味に静まり返っている。
「ねぇ、待ってよ」
「なんだよ、二人で行動してたら逆に目立つだろうが…」
迷惑そうに楓を振り払おうとする。
「だけど、バイオモンスターとか出てきたら、お兄ちゃんじゃ太刀打ち出来ないっしょ?
だったら護衛ってことで」
「いらねぇよ、そんなの。それに街の人のために薬取ってくるだけだ…そんなのと
遭遇したらとっとと逃げるだけさ」
そう告げて、先へ進もうとする青年を膨れっ面で楓は追いかけた。
長い廊下がようやく終わりに近づき、二階へ上がる階段が見えてきた。
「まったく、なんて構造してんだ、ここは…」
「…!危ない!!」
愚痴を溢している青年に向かって飛び掛り、彼を押し倒す。
「うわっ!?お、おい、いったいなんだよ…!あ…」
青年が立っていたとこを見るとそこには矢が突き刺さっていた。もしその場に
いたままであったら、間違いなく彼の脳を貫いていただろう。
「危なかったね、お兄ちゃん」
「ああ…悪いな、礼を言うぜ…アレックスだ」
「ほえ?」
「俺の名前だよ。二人で行動すんのに、名前がわからないと不便だろ。じゃ、先に行くぜ」
そう答えながら、先に階段を上っていく。楓もその後を追うが表情はどこか嬉しそうだった。
その後、二階をくまなく探したが、特にこれといったものはなく、二人は三階へ。
しばらくして、一つの部屋の中に入ってみると、そこは培養液が入っている
カプセルがいくつもある、やたらと広い研究室のような場所であった。
「なんだ、ここは…だが、なんだかありそうなとこだな…」
「アレックス兄ちゃん、手分けして探してみよ」
部屋の隅々まで探してみることに。黙々と探し続けて数十分すると
アレックスが、まとまった書類を見つけ出す。
「おい、楓。これ、よくわかんないけど、ウイルスがどうとか書いてあるぜ」
「え!?じゃあ、それをお医者の先生に渡せばなんか対抗策が取れるかも!」
希望が見えてきたことに喜び、微笑みあう二人。
「…お馬鹿さんたち……」
そこに低く、静かな声が響いた。同時に、部屋の入り口から足音が響いた。
「だ、誰だ!?」
アレックスが声を上げ、その者を見やる。それは毒花であった。
「毒花!!悪いけど、ウイルスへの対策法はこっちが頂くよ!」
「別に構わないわ……だって、ターゲットはあなただもの…」
その台詞とともに、毒花の後ろから人型の小柄なバイオモンスターが現れた。
「アレックス兄ちゃん、下がってて!戦姫転生!!」
敵を確認するや、すぐさま戦姫の姿へと変身する。
「天翔拳!!…なっ!?」
素早くバイオモンスターに接近し、アッパーを繰り出すが、その瞬間に
モンスターは消えて、楓の背後に回りこみ、拳を振り下ろす。
「ぐあっ!!くぅ、だったら!!」
ストレートを打ち込んできたバイオモンスターの腕を掴み、そのまま天井すれすれまで
投げ飛ばして、自身も飛び上がり、拳を振り上げた。
「流星落としだぁぁ!!」
それをバイオモンスターの腹部に叩き込もうとする。だが、それより速く
敵は方向転換し、逆にカウンターとなる形で楓の顔面にパンチが打ち込まれた。
「ぶっ!?ぐ、えぇ…」
その衝撃で、動きが止まった楓をバイオモンスターは容赦なく叩き落した。
「きゃあああ!!」
「楓!!」
アレックスが、楓を助けようとするが、その間に割り込む形で毒花が立ちふさがる。
「くそっ、邪魔すんな!」
「あなたには二つの選択肢があるわ……一つは、その資料を持って街の者どもを救いに行くか、
もう一つは、東雲楓と一緒に死ぬか…いいのよ、私は止めはしないわ……」
資料を持ち帰れば、ウイルスの解決策が出来るかもしれない。
しかしアレックスは握り拳を作り、毒花に殴りかかる。
「うおおお!!」
「馬鹿な坊や……」
だが、それはあっさりと避わされてしまう。そしてお返しとばかりに膝蹴りを腹部に見舞われる。
「ぐぅっ!!…くそ……」
「アレックス兄ちゃん!きゃあ!うああ!いやぁっ!!」
アレックスを何とか救い出そうと立ち上がろうとするが、腕を鞭状に変化させた
バイオモンスターの連撃が楓を痛めつけ、短い悲鳴を何度も上げさせる。
「か、楓…!くっそぉ、どうしたらいいんだ…!」
悔しい気持ちを噛み締めるアレックス。だが、ふと見た先に
薬品が入っている水筒ほどの大きさのガラス瓶がある。彼は小さく頷く。
「よし…うおおお!!」
素早く転がり込むように、ガラス瓶を掴みあげると、そのまま振りかぶって
バイオモンスターに向かって投げ飛ばした。それは見事、命中し豪快に割れると
中に入っていた液体がバイオモンスターの肉体を溶かしていき、さすがに堪えたのか
楓を攻めることを止め、その場に転がりだした。
「今だ…!やあああああ!!」
楓は何とか起き上がると、バイオモンスターに掴みかかり、そのまま飛び上がった。
「必殺!!東雲流地獄車ぁぁぁぁ!!!」
バイオモンスターを下にして降下し、床に激突させ、さらにバイオモンスターを掴んだまま
高速で回転して、反動を利用しながら何度も叩きつける。
完全に動きが止まった敵。楓の両腕に気が集まりだす。
「凛姉の真似っ子だけど…いくよ!聖覇!!鳳凰拳!!!」
凛程ではないが、その腕から巨大な気弾が飛び、バイオモンスターに直撃すると
一気に跡形もなく爆発四散する。
「ふん……仕方ないわね…」
どこか残念そうに言うと、毒花はその場から去っていく。
「アレックス兄ちゃん!大丈夫!?」
「俺は大丈夫だ…それよりも、お前の方こそ大丈夫なのかよ!」
見ると、楓はどこもかしこもボロボロ、鼻血を流し、膝も揺れていた。
「大丈夫…気力で全部治るから…」
そんな楓をアレックスは優しく抱きしめた。
「アレックス兄ちゃん…?」
「さっきは半人前なんていって悪かったな…お前、すげぇ奴だぜ。
楓、俺はどんなことがあっても絶対にお前の味方でいるぜ」
―――翌日。二人が持ち帰った資料を元にエルンストがすぐに薬を作りだし、
街の人々に無償で提供した。凛たちもなんとか持ち直している。
「楓、今回はお前のおかげだな」
「ありがとう、楓ちゃん」
凛とシャニーにそう、お礼を言われると、楓は照れながら頭を掻く。
「楓だけじゃないよ、アレックス…あ、ううん、なんでもない」
慌てて、取り消すが、凛とシャニーはニヤニヤしながら楓を見るのであった。
「ほほう、なんかいいことあったのか?」
「楓ちゃんも、ようやく大人になったのね」
「も、もう凛姉!シャニー姉!」
だがどこかその表情は嬉しそうな楓なのであった。
次回予告「シャニーです。獄牙の新型バイオモンスターはなんでも普通に喋れるらしいわ。
今まで全然喋らなかったのに、いったいどうしてかしら?なんだか知っていそうな
女性を見かけたけど…とにかく、私は戦うだけです。次回も華麗な脚技、お見せします」
投下完了です。投下代行してもらいました。
規制が長すぎて困る…。
>天使ノ同盟の作者さん
投下乙でした!後日、改めて感想を書きますね。
代行終了
>>152 タマにゃんこかわええ!かわええ!かわええ!
はぁはぁはぁはぁ・・・
>>162 投下お疲れ様です
バイオテロなんて大掛かりな事件起こす割には、
やることがいちいちセコイ獄牙w
(6)
犬鳴寺から小高い丘を三つ越えたところにある天然の温泉。
そこへ辿り着いたのはお風呂セット持参の姫乃と、一升瓶と簡単な風呂道具を抱えたウォルフ先生と、でもってなぜだか付いてきたタマ。
道のりは少女が考えていたよりも険しくて、さほど速く走ったわけでもないのに息も絶え絶えなんて有様だった。
「こ、コーチ。……遠いなら遠いと言って欲しかったです」
「たわけが。これしきのことで根を上げてどうする!」
「うにゃ〜☆」
天然石に囲まれた浴槽では乳白色の湯がほんのり湯気を吐き出している。
姫乃はそういえば今日は薪割りでヘロヘロだったなあとか、それにしたって真っ暗な山の中で自由に動き回れるほど
夜目の利くこの人達って一体何なのよ、とか色々と思いつつ今も余裕綽々といったふうに一升瓶を傾ける師匠と欠伸半分のタマとを見遣る。
「むう、先客がいるようだ」
ぜぇぜぇと荒い息を吐く姫乃を肩越しに見て師匠が声を掛けた。
彼の顎の指す方を見ると、そこには白濁の湯船にぽつねんと浮かぶ小柄な人影があった。
暗くてよく見えないけれど、輪郭から察して近くの山に住んでいるお猿さんかしら?
目を凝らして見ていると向こうもこちらに気付いたみたいで何やら居心地悪そうに身じろぎしている。
「よし。姫乃よ、ここは一つケンカ売ってこい。我らの入浴を妨げる不届き者をぶちのめしてくるのだ!」
「え、ちょ……!」
と、ここで師匠が仰る。
どうしてこうなるの?
っていうか誰も私たちの入浴を邪魔なんてしていないじゃないですか!
雲行きが怪しくなってきた成り行きに叫び出しそうになったけれど、ズンズン近づいてくる輪郭が人間とはちょっぴり違った趣を
醸し出していることを見つけて言葉を飲み込んだ。
微かな月明かりに照らし出された人影。
それは人間ではなかった。いや、中途半端に人間っぽいけれど、間違いなく人間ではなかった。
身体は全体的に華奢だった。皮膚はカエルみたいな粘液質な爬虫類系。
頭の上には皿があった。でもってゾウガメみたいな甲羅を背負っている。
……カッパ?
ザバリと湯船から引っこ抜いた手に水かきが付いていることを確認して思い至った少女。
『ムキャー!』
クチバシの付いた口元から奇妙な鳴き声が放たれたとき、姫乃は反射的に青いブローチを懐から引っ張り出していた。
「エンジェライズ・リフレクション!」
カッパさんってお湯とか大丈夫なんだ。とか至極どうでも良いことを考えつつ、聖なる衣に身を包んだ愛と正義の戦う変身ヒロイン、
エンジェルランスが青く艶光る自慢の戟を敵へと向けた。
(7)
「ちぇすとぉぉぉ!」
格好良くてそれっぽいキメ台詞が思いつかなかったので、とりあえず先手必勝とばかりに突き入れるランス。
ところがカッパさんは身体半分が湯船に浸かっているというのに物凄い敏捷性でひらりと身をかわす。
え、うそ。とか思いつつ、陸から再三の攻撃。
『クケェェ!』
しかし当たらない。それどころか一旦やり過ごした戟の柄の部分を、タイミングを見計らってガッチリ捕まえる。
カッパは手にした手合いの得物を信じられない怪力で引っ張った。
「きゃあっ!」
ザブン。
どうやら水(この場合はお湯だけど)の中はカッパさんのホームグラウンドだったみたいで、湯船に引きずり込まれたランスが
手足と翼をばたつかせているのなんてお構いなしにマウントポジションよろしく乗り掛かる。
馬乗りになった後は殴るでも関節技にもっていくでもなく、やけにエロい手つきで少女の身体のあちらこちらを揉みしだこうとするワケさ。
「もががが、あぶっ!」
(こ、コラ、どこ触ってんのよエロガッパ!)
叫ぼうと口を開けばお湯が入ってくる。
怒り全開で殴ろうとするけれどお湯の中では思うように身動きできないし、そもそも疲れ切っている状態では足掻こうにも力が出ない。
何より息をするのもままならないといった中じゃあ軽く意識が遠退いたってそれは仕方のない事なのです。
『クックック〜』
僅かに開いたクチバシの隙間から涎が垂れるのを見つけた。
ニヤついた目の奥にギラギラと欲望の光を見つけた。
エンジェルランスは命の危険よりも貞操の危機を感じた。
どうやらカッパさんは姫乃を同族のメスと勘違いしたようです。そうでなければ見境無く発情しちゃうくらい溜まっていたのか。
腰をカクカク前後運動させながらランスの着衣を剥ぎ取ろうとするカッパは、しかしすでに濡れそぼり程よく扇情的なビジュアルに
なっちゃっている少女を前に『このままでも良し』と判断したようで湯船でほんのり赤みを帯びた下半身を隠そうともせずに、それ
どころか見せびらかすように突き出してくる。
「ひぃ!」と恐怖に突き動かされてさらにジタバタ藻掻く天使さん。
スコン。
そんな中で、振り回した手がたまたまカッパのクチバシを擦った。
別にクリーンヒットしたわけではないから痛みは無いハズなのだけれど、キョトンとした面持ちで動きを止めてしまう。
きっと脳が揺れて軽い脳しんとうを起こしたのだ。しかもカッパの方が長い時間お湯に浸かっていたものだから半分のぼせている状態で、
だから動けなくなっちゃったのだろう。
咄嗟に理解したランスはここぞとばかりに全力で身を捻ってマウントから脱出、乳白色の中でさえ僅かな煌めきを放つ聖狼戟を拾い上げる
と湯船に転がっている両生類的な身体を柄の部分で何度も何度も引っぱたく。
やがて小突かれたのと茹で上がったのとで目を回したカッパが気絶した魚よろしくぷかりと浮き上がってくるといった次第。
荒い息を吐きながらもどうにか勝利を掴み取るエンジェルランスでした。
(8)
カッパさんが体中にたんこぶと青アザを作って逃げ去った後。
変身を解除した姫乃と傍で見ていた狼元帥&タマとで仲良く一緒に湯船に浸かっていた。
「お湯が気持ちいいですね」
「うむ」
最初は気恥ずかしさから石垣の両端に位置していた師弟。
けれど先刻のような不埒な物の怪が出現しないとも限らないし、声も届かない距離でぽつりと浸かっているのも寂しいので、
姫乃の方から師匠のところまで寄っていったのだ。
お湯が乳白色なら2人居並んでも大切な部分が見えることも無かった。
「酒を持ってきて正解だったな」
「飲み過ぎると身体に毒ですよ」
「なに、これしきの事で参るような躰では無いわ!」
「んもぅ」
師匠は湯船に浮かべた赤い盆にお銚子を置いて、一緒に持ってきたお猪口で酒を飲んでいる。
一升瓶からお銚子に移す作業はどうにも間抜けっぽいけれどこういう雰囲気を大事にする狼元帥としては気にもならないご様子。
もうちょっと色気のある展開を期待していた姫乃が再三の溜息を吐くといった顛末。
「うみゃ〜♪」
「タマ。お前も気持ちよいか、うむうむ」
これが二人っきりだったら姫乃だって羞恥心を捨て置いてもっと積極的なアタックをしたことだろう。けれどウォルフを挟んだ向こう側
にはタマが、少女にちょっぴり警戒の眼差しを向けつつ水面下で鋭い爪を剥き出しにしている妖怪さんが居るものだから迂闊に抱きつく
ことだってできやしない。
内心で歯ぎしりする姫乃さんが次に行った行動はといえば師匠のお猪口にお酌するくらいだった。
「あ、そういえばコーチ」
「む、なんだ」
「山を下りるとき、どうしてタマちゃんを連れて行かなかったんですか?」
「じゃあ注ぎますね」「おっとっと」なんて定石すぎる台詞を吐いてから、思い立った姫乃が疑問をぶつけてみる。
昼間タマが言ったように2人が将来を誓い合った間柄だとすれば、悪の秘密結社へと籍を移したウォルフが彼女を連れて行かなかった
のはどう考えてもおかしい。
これが人間で年頃の娘さんだったとすれば危険な仕事に巻き込みたくないとかいう理由付けもできるのだけれどタマはそもそも人間じゃあないし。
そんな疑問の払拭にはやはり直接尋ねるしかないというのが結論だったりするワケです。
姫乃の質問に、独眼の狼男は瞳をぱちくりさせて聞き返した。
「妙な事を言うヤツだな。なぜ儂がタマを連れて行かなければならんのだ?」
「え、だって……」
「タマが懐いておったのは儂ではなく、我が師『利鏡』なのだぞ」
コーチの先生はリキョウって名前なんだ。
いやいやそうじゃなくて。やっぱりタマちゃんの言ってた事って嘘だったのね。
姫乃は安堵の息を漏らした。
けれど、前々から気になっていたコーチの思い人、つまりは彼のお師様なる人物の名前が出てきたことで余計に不安に駆られちゃう。
ウォルフはその女性を奥義伝授の際に殺害している。
けれど彼にとって、その人は何者にも代え難いほどに敬愛する女性で。
私は、そのヒト以上に愛されることが出来るのだろうか?
湯煙の中で見上げると、朧に陰った下弦の月が周囲の星々に取り囲まれる格好で冷たい光を放っていた。
とりあえずここまでです。
ここから先、シリアスにするかギャグで通すか決めかねている状態ではありますが
何にしたってうpするまでちょっと時間がかかると思います。
(なお、ツマンネーと思われる人がいらっしゃいましたらNG登録するのが吉かと。他の作品が読みやすくなりますし)
それにしても皆さん文章巧いなぁ……。
>>168 おおっ、投下乙です!
他の作者様はもちろん、天使ノ同盟作者様の文章も非常に読み易いと思いますよー!
それにしても何も悪いことしてないのにカッパカワイソスw
170 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 23:57:49 ID:F/amJVTE
両者投下乙でした
>>161 顔面殴られて鼻血出すヒロインはなかなかいないなぁw
でもそんなヒロイン痛めつけ描写が好きwもっとやれ!
>>168 温泉回かと思いきや河童さんが痛い目にあっていたw
それにしてもみんないいキャラだ
“庄司まほ”は、ごく普通の女子小学生である。
ごく普通の小学生である彼女は、ごく普通に規則正しく目覚め、ごく普通に学校へ行き、
ごく普通に授業を受けた後、ごく普通に商店街の人々に挨拶しながら帰宅した後、
ごくごく普通に友達と遊びに出かけ、ごくごく普通に5時前には家に帰る。
パパもママも仕事が忙しく、今日の帰りは遅い。
歳の割りにしっかり者のまほは、晩御飯のしたくに取り掛かる。
そんな彼女の下に、丸っこい黒猫が慌てた様子でやってきた。
「あっ、トッペ! どうしたの?」
「まほちゃん、『ヨミテー』が現れたんだ!」
「本当!? すぐ行くよ!」
まほはコンロの火を止めるとエプロンを片付け、喋る黒猫に引き連れられて家の外に飛び出していった。
そして不思議な呪文を唱えることにより、その身をピンク色のフリフリドレスに包まれた姿へと変える。
そう、庄司まほの誰にも言えないたった一つの秘密。
それは、町の平和を守る魔女っ子であるということだった。
“広井ちぇんじ”は、ごく普通の女子中学生である。
ごく普通の女子中学生である彼女は、ごく普通に寝過ごして目覚め、ごく普通に慌てて登校し、
ごく普通に授業で居眠りし、ごく普通に帰り道で友達と一緒に寄り道した後、
ごくごく普通に門限を過ぎてから、ごくごく普通にこっそりと二階の窓から部屋に忍び込む。
……が、その姑息な努力は、ドアの向こうから現れた父親の存在によって脆くも崩壊する。
「ちぇんじっ!!」
「うわっ、パパ!? ご、ごめん、友達の誘いをどうしても断れなくって!」
「そんなことはどうでもいい! 急いで出撃するのだ!」
「えっ、まさかまた『ドークシア』が現れたの!?」
「うむ!」
「オッケー、任せてよパパ!」
門限破りがうやむやになったことに内心ほくそ笑みつつ、ちぇんじは特製バイクに飛び乗って走り出す。
そして解除コードを口頭で唱えることにより、その身をしなやかな青いレオタードのようなアーマーへと包まれた姿へと変える。
そう、広井ちぇんじの数多い秘密の内、工学博士である父親と共有している唯一のモノ。
それが、町の平和を守る変身ヒロインであるということだった。
少女達はまだ知らない。
今日という日が、二人にとって運命の日であることを。
現場に到着した少女達は宿敵である怪物の存在のほか、変身した互いの姿を認めた。
「あの人は、もしかして話に聞いていた“バトルヒロイン・スーパーチェンジ”かしら?」
「まさかあの子、巷で噂になってる“魔法少女・ミラクルマホー”なの?」
思わず湧いた素朴なライバル心から、軽くにらみ合う少女達。
『ふふふ、私の存在を忘れてもらっては困るな』
そこに割り込むように現れたのは、黒いモヤモヤに赤くニヤけ顔が描かれたような怪物だった。
「ヨミテー!! もう悪いことはやめなさい!!」
「ドークシア!! 今日こそあんたの最期の日よ!!」
『威勢がいいのは結構だし、私のことをなんと呼ぼうが構わんが、今日のおまえたちは私に勝つことは絶対にできんよ』
「バカ言ってんじゃないわよ!!」
言うなり、問答無用で真っ先に飛び掛かるちぇんじ。
その勢いの乗った拳は、容赦なく幼い魔法少女に襲い掛かる!
「わわっ!? な、なにするんですか!?」
とっさにかわしたものの、いきなり襲い掛かられたことでまほは動揺する。
いや当の殴りかかった本人すら、自身のとった行動に驚きが隠せないようだ。
「ご、ごめん! ドークシアに攻撃するつもりだったんだけど―――って、ええっ!?」
まほの魔法の杖から放たれた魔法の弾丸を、ちぇんじは紙一重でかわす。
的を失った弾丸は、遠くにそびえ立つ山に命中し、それを木っ端微塵にしてしまう。
「な、何すんのよっ!? 仕返しにしたって本気すぎるんじゃない!?」
「ち、違うんです!! か、身体が勝手に―――」
そこまで言ってハッと気付いた二人は、
それぞれヨミテー、ドークシアと呼んでいる怪物に目を向ける。
怪物は(普段からそうだが普段以上に)ニタニタと笑っていた。
「ヨミテー、あなたの仕業ですね!?」
「妖術だか魔法だか知らないけど今すぐ解除しなさい!! さもないと―――」
そうして握り締められたちぇんじの拳は、しかしまたしてもまほの下へ向かう。
そしてまほの方も、魔法で反撃を行ってしまう。
「ああっ、ごめんごめん魔法少女ちん!!」
「こ、こちらこそ、ごめんなさいバトルヒロインさん!!」
まほの生み出す炎の魔法がちぇんじの肌を焦がし、ちゃんじの鋭い足技がまほの魔法の杖にヒビを入れる。
自分達の意志と反して、延々と戦いを続けてしまう少女達。
「ドークシア、あんたっ……くっ!!」
「おやめなさい、こんなことが許されるとでも……うぅっ!!」
少女達は怪物に非難の言葉を浴びせようとするも、互いの攻撃を防ぐのに精一杯で二の句が続かない。
そんな少女達をあざ笑うように、怪物は自分から口を開く。
『何か勘違いしているようだが、今おまえ達が戦っているのは私のせいではない』
「嘘おっしゃい!! あんたのせいじゃなければ一体なんだってのよ!?」
『運命だ。おまえ達は戦いあわなければならない運命なのだよ』
運命―――。
その短い言葉は、何故か少女達の胸に重く響いた。
「で、でも……ど、どうしてなんです!? どうして私達が戦わなければならないんですか!?」
『それは、おまえ達が大切なことを忘れているからだ』
「大切なこと、だって!?」
『そう、今日という運命の日についてだ』
「運命の日? 今日という日が一体…………あっ!」
「そうだ…………そうだよ!」
そう、今日は10月21日。
彼女達にとって、とても大切な物が生まれた日。
『魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ、一周年おめでとう!』
『そして支えてくださったスレ住人のみなさん、本当にありがとう!』
『『これからも、魔女っ子&変身ヒロイン創作スレをよろしくね♪』』
というわけで祝☆一周年記念の楽屋オチSSでしたー。
これを機会に何か企画を行いたいので、みなさんから意見を募集したいと思います。
・コラボ小説
・アドベンチャーゲーム
・RPG
・キャラクター人気投票
・書き手さんへ100の質問
etc...
上に挙げたのはあくまで一例で、具体的な内容はまだ何も決まっておりません。
何か面白い案などございましたら、どしどしお寄せ下さい。
スレではもちろん、チャットの方でも受け付けます。(主に夜10時以降)
みなさまの活気溢れる意見をお待ちしておりまーす!
175 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/21(水) 22:56:49 ID:VhOkDdcJ
投下乙です。そうかもう一周年か…
個人的にはキャラ人気投票か作者さんへの質問かな
176 :
武神戦姫凛 ◇4EgbEhHCBsの代理投下です:2009/10/22(木) 01:38:27 ID:UevOhQyG
魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ一周年おめでとうございます。
今回はそんな一周年記念ということで、ちょっとだけ特別な話を投下します。
魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ一周年特別編
武神戦姫凛VS炎術剣士まなみ
紅いチャイナドレスを翻しながら走る一人の少女。
今日も獄牙のバイオモンスター相手に凛の拳が唸りをあげる。
「雷刃拳!!」
高速で接近した凛の拳が無数に敵に飛び、一瞬にして跡形もなく粉砕していった。
「ふん…遊びが過ぎたようね……」
「毒花!待てっ!!…ん?」
「この気は…?」
毒花は撤退しようとし凛はそれを追おうとするが唐突に、二人は何か別の気を感じ始める。
それは次第にこちらへ近づいてくるのが感じ取れた。
「これは…いったいいなんだ!?」
近づいてくる気に向かって構えをとる凛。すると、その気は急速に接近し始め
凛に飛びかかってくる。
「うあっ!?なんのぉ!!」
それの仕掛けてきた攻撃を間一髪で、捌きお返しに拳を打ち込む。
距離を取り、構えなおす。敵の姿を視覚する。それは角が生えた奇怪な化け物。
好戦的な視線を凛に与えている。
「これは……幽覇様に報告しなければ…」
「逃げるな毒花!…くっ!!」
未知の怪物に、毒花はこのことを伝えようとその場から撤退する。
凛は再度追おうとするが、それを怪物によって遮られてしまう。
「やろうってのか?よぉし、こい!」
凛が拳を突き出し、殴りかかるが、素早く空に舞い上がりながらそれを回避した
化け物は背後から凛に蹴りを浴びせにかかるが、それを見通していたのか、
横に転がりながらそれを避ける。
「なかなかやるな…だけど、もう見切らせてもらったよ!」
凛の片腕に気が集中し始める。そして振りかぶり、その気を投げつけた。
「気功弾!!」
球状に変化した気が敵に向かって飛び、回避させる間もなく、命中した。
「よっし!!手応え十分!!!」
のた打ち回っていた怪物は、形勢不利と見て、その場から逃げだしていく。
「あっ、待て!」
それを追いかける凛。すばしっこいうえに、屋根から屋根へと飛んだり、かと思えば
再び下りたりと、その変則的な動きのせいで見失ってしまった。
「毒花に続いて、また取り逃したかぁ…」
だが、諦めきれずに、その場から歩き出す。
街を夜の闇が覆う頃、さすがに今日は諦めようかと思った凛は家路にむかって歩きだす。
「あの謎の化け物なんだ?なんにせよ絶対に倒してやる……あっ…?」
再び、何かの気配を感じ始める。それは先ほどのとはまた違う気であった。
コツコツと、足音が聞こえ始め、月の明かりに照らされてそれは次第に姿を現していく。
白い着物の上に紅い羽織、ミニスカートのような形状の袴、ニーソックスが脚を纏い
腰には刀を帯刀した、清楚な顔立ちと黒く長い髪をした剣士の少女の姿がそこに見えた。
「ここは…いったい……?あなたは…?」
「お前は…まさかさっきの奴の…もしくは獄牙か?せやあああ!!」
剣士が尋ねてくるが、凛はそれを聞かずに、先手必勝とばかりに拳を突き出す。
「なっ!?と、突然なにをするの!?」
紙一重で剣士は避わし、その刀を抜く。
「…風斬刀!!」
凛は亜空間から、気合で剣を呼び寄せ、それで斬りかかって行く。
「仕方ない…暁一文字!」
剣士の方も、刀の名を叫ぶと、それに気が纏われていき、斬撃を斬り払う。
剣士にとってはあくまで防御のつもりの一振りであったが、凛は軽く吹っ飛ばされてしまう。
「うわっ!?なんだこいつ…!」
腕にはビリビリとした痛みが走る。目の前にいる剣士の力は予想以上だ。
「くそ…気功弾!!」
「!…烈火弾!!」
気弾を放つが、向こうが放ってきた赤い光弾がそれを相殺、さらに凛へとかすり当たる。
「!?あっつ!!!」
かすった箇所から走る痛みとそこから溶けそうなほどの熱さ。
その場でのた打ち回り、激痛をなんとかもみ消そうとする。
「く…こいつ、炎を使えるのか…」
「あなたが何者かは知らないけれど…立ち塞がるなら……私はあなたを倒す!!」
思わず、剣士の気迫に押されそうになる。刀を構えた剣士から発せられるそれは
散々苦しい戦いを乗り越えてきた凛にさらに上の世界を一瞬で見せ付けた。
「火柱ストォォーム!!!」
刀を振り上げると、前方に空高く巨大な火柱が昇り、一気に凛に向かって押し寄せてくる。
「うあああ!!」
避けようと思う間もなく、火柱に飲み込まれ、それが消えると全身からしゅうしゅうと煙が上がる。
「このままじゃ…!」
「火柱ストームを耐え切るなんて…あなた、ただ者じゃないわね」
剣士は敵ながら天晴れとばかりに感心するば、凛の方は、正直かなり焦っていた。
自分の技が効かず、相手の攻撃は強烈なものばかり…逃げ回っていても必ずやられる。
「こうなったら…あれをやるしかない!!」
凛の両腕、いや全身に気が集中し始め左腕を剣士に向かって突き出した。
「…武器を持った奴が相手なら……聖覇鳳凰拳を使わざるを得ない!!」
さらに右腕を突き出し、それを解き放った!剣士を軽く飲み込むほどの巨大な気の塊。
それが大地を破壊しながら剣士に向かって突き進んでいく!
「これは!?う、くぅっ!!」
剣士の方は刀を縦に構え、防御しようとするが、勢いに押され、土を盛り上げながら
ぐいぐいと後退していってしまう。
「いくら化け物じみたお前でも、聖覇鳳凰拳なら…!」
「ぬぅ……はあぁぁぁぁぁぁぁっ!!火炎大破斬!!!」
押されながらも、炎を纏った刀で力押ししながら、気弾を真っ二つに裂き、
剣士の後方で二つ爆発が起きる。
「く…はぁ、はぁ……」
だが、無傷というわけにはいかず、剣士も地に膝をついた。
「あれを斬り裂くなんて……ん!?」
「はっ!?…危ない!」
戦闘の途中で唐突に感じ始めた邪な気。二人は飛び引いて、飛んできた光弾を避ける。
現れたのは凛が戦った、謎の鬼のような化け物。
「次元鬼!!」
「お前、こいつを知ってるのか!?」
「私はこの次元鬼を追っていたの…だけど、突然空間が捻じ曲がるような現象にあって…
気づいたら、ここにいて、あなたと戦うことになった…」
剣士の説明に、凛は納得したように小さく頷いた。
「なるほど…どおりでバイオモンスターとは感じが違うわけだ…じゃあ、あんたは
別の世界の住人ってわけか?ここは連春って香港近くの街なんだけど」
凛の問いに何か考えるように剣士は答える。
「連春……聞いたことないわね…それに私がいたのは日本だし…」
問答する二人の間に、次元鬼は容赦なく、攻撃を仕掛けてくる。
それを避わしながら、凛は剣士に向かって口を開く。
「おい!あたしは!凛!!あんたの名前は!?とあ!!」
攻撃を避け、カウンターで拳を浴びせ、吹っ飛ばす。
「私は…新堂まなみよ!」
吹き飛ばされ、建物の壁にめり込んでいた次元鬼に、まなみの炎が飛び、燃やしつくしていく。
だが、そのとき!突然、電撃が流れている網のようなものが次元鬼に掛かり、
炎を遮らせる。
二人がネットの飛んできた方角を見ると、そこには
「毒花!!」
「毒花?」
「この連春でいいように暴れてる組織の根暗な幹部さ」
凛がまなみに説明する。毒花はゆっくりと二人に向かって歩き出す。
「一部始終、見させてもらったわ…なるほど……そこの剣士と…あの鬼は
…別世界の住人…幽覇様の指示通り、あれを試してみる…」
毒花は懐から小さなカプセルを取り出す。その中には人形サイズのバイオモンスターが。
それはカプセルの中で見た人すべてに不快感を抱かせてもおかしくはないほどに、
おぞましく溶け出していく。それを毒花はカプセルごと電磁ネットの中でもがく次元鬼に
向かって投げつけ、命中の衝撃でカプセルが割れたかと思うと次の瞬間、光を発しながら
融合し始める。
「こ、これは…!?」
「気をつけろ、まなみ!」
「この次元鬼なる怪物は…獄牙の実験材料に相応しいわ……」
融合が進むにつれ、その姿はさらにおぞましく、巨大に変化していき、
頭の角と牙が伸び、眼は大きな一つ目玉、全体的にごつごつした筋肉質へとなる。
「実験成功…さて、あとは戦闘力の調査ね…殺しなさい」
毒花の呟きと同時に、巨大な腕を二人に向かって振りかぶってくる。
「くっ!うああ!?」
「凛!きゃあぁぁ!!」
飛び上がって回避しようとするが、その巨体に似合わない速さでバイオモンスターも
空高く舞い、二人を地面に向かって強烈に叩きつけた。
「炎流波!!」
まなみの左腕が赤く発光し、火炎光線が見舞われる。だが、バイオモンスターは
巨大な口を開き、炎を軽く飲み込んでしまった。
「そんな!炎流波が効かないなんて!!」
「飛竜脚!!」
凛は脚に気を纏い、飛び蹴りをかます!それは肩の一部を貫いた。
「よぉし!!…ああ!?」
少しは手応えがあったが、しばらくすると、貫通した箇所が盛り上がり、再生してしまう。
そして一つ目玉から、電撃光線が発せられ、二人に降り注ぐように浴びせていく。
「うああぁぁぁ!!」
「きゃあああぁぁ!!」
悲鳴を上げながら、その場にへたり込んでしまう。その様子を見て毒花は口元を緩ませる。
「このまま死んでもらおうかしら…いや、サムライガールは捕らえて…その力を
獄牙のために使ってもらうのも……また一興か…」
毒花が視線をバイオモンスターに移すと、その巨大な腕がまなみを掴み上げる。
ダメージの影響で凛は、まなみを救い出すことも出来ずに見つめていた。
「それじゃあ…あとは、そこの愚かな戦姫を殺してお終い…」
再びバイオモンスターの攻撃が凛に炸裂しようとしていた…だが、そのときであった。
「……うああああああ!!!」
「な…これは……!?」
突如としてまなみの身体から火柱が上がり、彼女を掴んでいた腕を完全に燃やし尽くした。
毒花も、もう余力はないと踏んでいたので、驚愕してしまう。
「火炎閃光キィィィィック!!!」
脚に炎を纏い、超高速でバイオモンスターに蹴りつけ吹き飛ばすと、まなみは凛に視線を移す。
「凛!今よ、奴が再生を始める前に!!」
「わかった!はあぁぁぁぁぁ……!!」
まなみの言葉を受け、凛の全身に気が集中し、次の瞬間、一瞬にして敵の目の前へと飛ぶ。
「聖覇流奥義!!!」
凛の拳と脚の連打が、バイオモンスターに浴びせられていく。速く、だが、決して
軽い攻撃ではなく、一撃一撃が非常に重い。そして直撃した箇所から怪物は砕けていく。
「チェェェストォォォ!!!」
止めのアッパーカットが、最後に残った頭部を粉砕、跡形もなく完全に消し去った。
「これぞ…聖覇流奥義・天覇乱舞!!!」
聖覇流奥義をまじまじと見せ付けられた毒花は表情を曇らせる。
「融合型バイオモンスターは……まだまだ改良の必要がある…それが…
わかっただけでも…よしとする……」
そう言い残すと、再び霧に紛れるようにその場から消え去った。
気がつくと、夜が明け、街には朝日が差し込み始めていた。
それと同時に、まなみの身体は、眩い光に覆われていく。
「これは…帰るときが来たみたい…」
「そっか…数時間ぐらいの付き合いだったけど、まなみと知り合えたこと、誇りに思うよ」
「私もよ。それに違う世界でも、こうやって戦ってる人がいるんだもん、私も頑張らなきゃ…」
「あたしもだ。…なあ、いつかまた、会えるといいな…!」
「そうだね。いつか必ず…それじゃ、またね、凛!」
「ああ、ありがとう。まなみ!!」
まなみの身体を纏った光が一瞬、街全体を包むほど強烈になると、その直後には
すでにまなみの姿はなかった。まるで元から何もなかったかのように。
凛はまなみが最後に立っていた場所に軽く手を振ると、その場を後にした…。
というわけで、凛とまなみの共演話でした。
まなみもいつか何らかの作品に出したいと思っていましたが
ようやく実現できました。これからも頑張ってまいりますので
どうぞよろしくお願いします
以上、避難所より代理投下でした
一周年企画乙&GJでした♪
185 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/22(木) 06:01:51 ID:uQPbOZyp
まなみと凛のコラボレーション、読んでみたかった。ありがとうごさいます。
186 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/22(木) 23:11:56 ID:KmAvMIsb
投下乙です!
>>174 ゲーム製作って言うのは簡単だけどいざ作ると非常に大変ですからねぇ
無難に人気投票とかですかねぇ
>>183 コラボいいですね〜自分も自作品増やしてやってみたいものです
とりあえず人気投票の準備を進めてみます。
まとめサイトの機能を使えば割と簡単にできるっぽいので。
ただ、自分が無断で他所様の作品の人気投票を開催するわけには行かないので、
人気投票開催を認可して頂ける作者様はその旨をお伝えくださると助かります。
スレではもちろん、チャットの方でご連絡いただいても結構です。
どうぞよろしくおねがいしますー!
189 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 18:33:57 ID:581iQXDw
一周年したというのに全然盛り上がってないぞ!
せめてもの盛りage!
190 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 20:33:54 ID:9+vipdz5
みんな新作を考えているのかな。
作者様規制のため、代行です
(9)
――夢を見ている。
それは自分の夢なのか、それとも他の誰かが見ている夢なのか。
スライド写真のように移り変わる映像群をただ呆然と見守るだけでは判断できない。
処刑台へ向かう人々の列。真っ赤に染まった川とその先にある地平線を埋め尽くす骸の山。
刃と刃がぶつかり合って、そこから仄かな火花が散って消る映像。
恐怖を具現化したような黒々として巨大な何か。
そんな景色の隙間に少年が居た。
少年は目が赤くて茶褐色の髪をしていた。
彼は累々と続く屍の上に立っていて、その瞳がやけに悲しそうに見えた。
そこへ擦り寄ってきたのは同じ色合いの毛並みを持つ一匹の小さな影。
それはきっと生まれて間もない狼の子供で、気配に気付いた少年がふと自嘲気味に笑って、
しゃがみこんで小さな狼を両手で抱え込む。
赤い風がびゅうと吹いて、少年の羽織っていた布きれをはためかせる。
次の場面で少年は青年になっていた。
背丈が随分と逞しくなっていたけれど、面立ちがほとんど同じだったからすぐに分かった。
青年は手に長い木棒を持っていて一心不乱に振っている。
彼を遠巻きに見守るのは先程の狼――彼と一緒に月日を過ごしたであろう獣と、
そして銀色かとも思える艶やかな白髪をなびかせる女。
面立ちから察して二十は過ぎていないであろうその女性は小柄な身体と比べて随分と大きな、
複雑に刃の折り重なった矛を肩に担いでいて、鍛錬に明け暮れる青年に鋭いそれでいてどこか優しい目を向けていた。
次の場面で青年は地べたに踞って泣いていた。
何がそんなにも悲しいのかは分からない。どういった経緯なのかも分からない。
けれど彼の心を覆っている絶望が底なしに深い代物だということだけは理解出来た。
そして最後に見た映像には青年の変わり果てた姿が――。
半狼半人の大男が巨大な矛を振りかざし数百万にも及ぶ人々の死体の山の上で吠えたてている光景があった。
――その朝、目が覚めた姫乃さんがまず最初に見つけたのはよく知っている牙の生え揃った大口で、
どこからどう見ても獣としか思えない大口からはイビキ混じりの寝息が吐き出されていた。
「……え?」
何かとても重要な夢を見たような気がするけれど、どうにもぼんやりと霞がかっていて思い出せない。
起き上がろうと身をよじるけれど肩口にガッチリ大きな指が添えられていて身動きもままならない。
でもって、少女は狼男の胸板を枕にする格好で寝ていたんだと数秒間考え込んで思い至った。
「やだ、私なんでこんな……!」
状況が分かるなりボッと頬に赤みが差して、けれど無理矢理離れちゃうのもなんだか勿体ないような
気がして、師匠が目を覚まさないのを良いことに力を抜いて身を預けてみる。
コーチの胸板は筋肉質で毛深い。茶褐色の体毛にモフモフと頬をくすぐられていると何だかとても安心してしまう。
「そっか、私寝ぼけて……」
何となく覚えているのは深夜のこと。
用を足して帰ってきた自分がうつらうつらと見知った顔に吸い寄せられていって、何とはなしにそこに身体を
潜り込ませちゃったなんてことで、つまりは寝ぼけ眼の姫乃ちゃんが人肌恋しさのあまり師匠の懐に身を預けた
まんま寝息を立てましたとそういうことなのですよまったくもう。
嬉し恥ずかしほんのり顔を赤らめつつの少女が師匠の喉元を指で撫でてみると黒いお鼻がヒクヒクと動いて、
その反応が面白くて何度も繰り返してみる姫乃さんです。
「で、おみゃあは妾の旦那にナニをやっとるんにゃ?」
え、と思う瞬間。
ちょっとだけ顔を上げて声のした方を見ると、茶褐色の毛並みの向こう側からジト〜ッとした目で
こちらを窺っている化け猫タマちゃんの顔半分が見える。
どうやら彼女もまた狼元帥閣下の懐に潜り込んで暖まっていたクチらしい。
「いったい何時コーチがあなたの旦那になったのよ!」
声を潜めて鋭いツッコミを返した姫乃は、内心ではかなり焦っていたけれどここで引いたら猫又さんの
思うツボだと自分を奮い立たせて一歩も引かない構えを執った。
一方で、ほんのりムカつき加減のタマが眉間に皺を寄せすと小さな手から鋭い爪を伸ばす。
そこへ「む〜ん」と師匠の唸り声が合いの手を入れた。
(10)
陽がある程度昇って目を覚ましたウォルフ先生は顔を洗ってくると言い残して手桶片手に近くの井戸へと行ってしまわれた。
で、何がどうなってそうなったのかは分からないけれど、戻ってきたときには何故だか長くて艶やかな黒髪と雪のように白くてきめ細やかな肌が印象的な女性を連れていた。
「妖怪に襲われているところを助けてやったのだ」
と、これは師匠の仰りよう。
ポッと頬を染めて伏せ目がちに狼尻尾を見遣るのはその女性。
姫乃よりは一つか二つ年上らしい彼女は小さく会釈すると『スズリ』と名乗った。
青みがかった白い和服をカジュアルに着こなす彼女は自分探しの旅の途中らしくて、背負っている朱塗りで傷だらけの四本弦ギターを弾かせればそれなりの腕前とのこと。
彼女はなんと最近売り出し中で音楽雑誌なんかでも度々見かけるバンド
『あいす☆ぼっくす』のメンバー(担当はベース兼ボーカルなんだってさ)だったのです。
そんなスズリさんが何故にこんな人気もない山奥にいたのかを言えば、本人の証言を
信じるなら町へと向かう途中で道を間違えたから、らしいのだけれども。そもそもこの犬鳴寺が
ある山の近くに舗装された道路は無いし、登山客ならいざ知らず無理矢理に道を踏み外しでも
しない限りはこんな僻地まで登ってこられるわけがない。
……っていうか明らかに姫乃を見る時とウォルフ師匠を見る時とでは表情が違うのですけれども
これは一体どういう意味合いなのか小一時間問い詰めたい心境です。
昼間ということで元の白猫に戻っているタマちゃんはといえば柱の影からこの新たに出現した敵に
対して警戒と敵意の眼差しを向けつつ、でもってカリカリと剥き出しの爪を研ぐ音を立てていましたとさ。
それから強い日差しが幾分か和らぐ夕刻時までは姫乃の師匠でいてくれたウォルフ狼元帥。
山ん中を駆けずり回る障害物走的なランニングに始まって足腰を強化するためのスクワット、でもって師匠がかつての修行で使っていたという木人拳よろしくのアスレチック。
……なんでも反応速度を上げるためのトレーニング器具らしい。
とまあそんな、高校の部活動とはあまりにもレベルの違いすぎる修練に明け暮れた姫乃と付きっきりで怒声をがなり立てたウォルフ先生。
本日のメニューをこなした頃ともなれば少女は汗まみれで歩くのも億劫なくらい足腰ガクガクになっておりました。
そんな感じで夜の8時。
陽は完全に落ちきって野外電灯なんて一つも無い犬鳴寺周辺は一様に真っ暗で。
なのにセミとせっかちなスズムシの声、でもってカエルさんの重低音の効いた合いの手が飽きることもなくコーラスしている。
師匠がまた川まで行って獲ってきたのは二十匹ばかりの鮎で、本日は串に刺した鮎の塩焼きが晩ご飯になった。
「では、何か一曲弾きますね」
日中に助けてくれたのと晩ご飯をご馳走になったお礼ということで自慢の朱色ギターを胸に抱えたスズリさん。
ポロンポロンと弦を指で弾いた後には吟遊詩人よろしく物悲しくも美しい旋律を爽やかな歌声に乗せて、
見守る観客達を楽しませてくれた。
とはいえ、そんなスズリさんのポジションは常にウォルフ師匠の右隣で、反対側にいるタマちゃんと囲炉裏を
挟む姫乃としては心中穏やかではいられないのだけれども。
「あれ、なんだか眠くなって…?」
そうこうするうち。
姫乃は瞼が重くなってくるのを感じた。
スズリさんのギターから響く音色はずっと続いていて、だんだんと空の上を飛んでいるようなフワフワした
気持ちになってきて、気を抜いたが最後そのまんま意識が落ちてしまいそうになる。
見回せば、タマは座布団の上で丸くなって眠っていた。
ウォルフ狼元帥は腕組みしつつあぐらを掻きつつ、こっくりこっくりと船を漕いでいる。
そんな中で尚もギターを掻き鳴らすのはスズリさん。彼女の口元に妖艶な笑みが浮かんでいるのを見つけた。
この音色を聞いちゃいけない……!!
この頃になってようやく危機感を覚え始めた少女だけれども時すでに遅し。
必死に立ち上がろうとして、だけど床に突っ伏してしまった後はそのまんま夢の世界へと旅立ってしまったのです。
(11)
どれくらい経ったのか。一時間かそれとも半日ばかりのことなのか。
姫乃が目を覚ましたとき、囲炉裏の内側にくべられていた薪はもう
ほとんどが燃え尽きていて今にも消えそうな色合いになっていた。
「はっ……。コーチ!」
飛び起きて辺りを見回す姫乃はそこに奇っ怪な光景を目撃する。
「あら、起きてしまったのね」
犬鳴寺の堂内に静かな声が響く。
そこには相も変わらず青みがかった白和服をしゃんと着こなすスズリさんがいて、
彼女の背にある傷だらけの朱塗りギターが怪しい光を僅かに立ち上らせている。
そんな和服美人の奥に身の丈よりも巨大な塊があった。
「コーチ!」
その塊は氷だった。
8月の夜だというのに溶ける様子もなく、それどころかドライアイスを焚いたように
白い煙が床の上を這っている。
その氷の中にウォルフ狼元帥が居た。
巨大な塊の中で、愛すべき師匠はだらしく突っ立った姿のまんま縫い止められていた。
姫乃は彼の名を呼んで、だけど何の返事も無くて。
なので氷の傍にあるスズリさんへと向き直った。
「あなたは一体何者なの? どうしてこんな事をするの?!」
私はただコーチと一緒にいて、朝目を覚ましてから夜眠るまでその声を聞いていたいだけなのに、
お互いに顔を向け合っていたいだけなのに、どうして邪魔ばっかりするの?
怒りが込み上げてくる。ずっと懐に仕舞い込んでいる青いブローチを握り締めると、
今は火傷しそうなくらい熱くなっている。
スズリさんが指で自分の髪をすくい上げると、それまで艶のある黒髪だった部分が
みるみる青白く染まっていくじゃあないか。瞳の色もいつの間にか同じ色合いに変化していた。
「私ね、実は雪女なの。だからね、好きになっちゃったこのヒトを連れて行かなきゃ」
そう言って「ふふっ…」と妖艶に微笑む。
雪女って何よ。連れて行くってどういう事よ。意味が分からない。
分からないけれどはいそうですかと素直に持って行かせてはいけないって事だけは理解出来た。
「そんなの許さない!」
叫んだ姫乃が握り込む聖神石を勢い良く前へとかざした。
エンジェライズ・リフレクション!
そして変身するための合言葉を唱えれば少女の衣服は光の粒子となって溶け去り、代わって
聖なる戦いの衣と純白の翼、そして闘争心の具現化と過去に教えられた聖なる武器『聖狼戟』が出現した。
「私のコーチを返してもらいます!」
ちゃっかり「私のコーチ」とか言っている時点でアレなのだけれども。
とにかくガッチリ握り締めた戟を振りかざし、先端にくっついている青く色づく矛先を雪女スズリさんへと向けた。
「そう、あなたも普通の人間ではないのね。だったら遠慮無く、氷漬けにしてあげる」
すると彼女はほんのり驚いた風に真顔になって、1オクターブ低い声で囁いた。
こうして幕を切って落とした第三回戦。
猫又、河童ときてお次の相手は雪女さんだった。
196 :
代行:2009/10/28(水) 23:53:10 ID:DuAPJcxS
以上です
投下&代理 乙
クール&ビューティが代名詞の雪女さん登場で、姫乃ちゃんも気が気でない様子
っていうかウォルフさん頑張ればハーレム作れるんじゃない? 若干ヤンデレ多いけどw
しかし規制とは…厄介極まりないですな
198 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/31(土) 16:56:56 ID:mt632ZXX
せっかくのハロウィンなのに!!
……と言いつつ自分も巻き込まれ規制されてるので携帯からという有り様
しかしハロウィンって日本人に馴染みがないイベントだからなぁ
まあ魔女っ子ならハロウィン関連で困ってる人を助けるとか
変身ヒロインならパンプキンな敵と戦う話とか出来そうね
ランタンで変身するヒロインか…
って既にそれはエロゲーではやってたな
202 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/08(日) 09:08:25 ID:dwV8/g7o
誰もいない。規制中なのだろうか。
ええ規制中です
規制中ですとも
俺個人の意見を言わせて貰えば、
スレが止まり続けるよりは催促があった方が嬉しい
つ みんな冬の仕込みに入っている
どうもこんばんはー。
非常に今更感が溢れるのですが、
ようやくプリティサミーCBの番外編その2が完成したので投下させて頂きます。
ちなみに今回は番外編その1と違い、本編が終わった後のエピソードとなっております。
それではいっきまーす
『キミは高気圧少女!』
「…………はぁっ…………」
柔らかい栗色の髪の少年が、花畑の中でため息をついていた。
その手にそっと握られているのは、金色の魔法少女が使っていた扇状の魔法のバトンだ。
ここは月の裏側、ただし地球とは別の次元に存在する魔法の国・ジュライヘルム。
その中心にある女王や神官が住まう『皇の塔』、その一角に存在する庭園で、
薔薇の群生地を眺めながらため息をつくのが、少年の――人間体に戻った留魅耶の日課だった。
以前、事故で地球に飛ばされてしまったごく普通の魔法少年・留魅耶は、そこで魔法に憧れる少女、天野美紗緒と出会った。
彼は助けてもらったお礼に彼女に魔法を与え、美紗緒は魔法少女ピクシィミサに変身できるようになった。
そして最終的に、ピクシィミサの尽力のおかげで彼は無事にジュライヘルムに戻ってくることが出来た。
その後、魎皇鬼の知らせで美紗緒が元気に暮らしていることは分かったが、それでも留魅耶は美紗緒のことが心配でならなかった。
……いやそれ以前に、純粋に彼女に会いたくてたまらなかった。
しかし、地球に留まれる限界の年齢である十歳の誕生日も、今となってはとうに過ぎてしまっている。
もはや彼が地球に居る美紗緒に会う方法は皆無と言っていい。
だから彼はひたすらにため息をつき続けるのだ。
彼女を最も近くに感じることの出来る、紅い薔薇を見つめながら……。
「やっほー、ルーちゃん! ひっさしぶりー!」
「ん……樋香里(ひかり)ちゃん?」
そんな留魅耶の哀愁漂う背中に気付くことも無く、あっけらかんと声をかけるピンク髪のポニーテール少女。
このまるで空気が読めない少女の名は、樋香里と言った。
彼女は留魅耶と同い年の幼馴染だが、生まれつき強い魔力を秘めており、
次期女王候補として女王の傍らで訓練を受けている、いわばエリートである。
「ルーちゃん、しばらく見ないと思ったら地球行ってたんでしょ?」
「そうだけど、それは事故で……」
「ねー、地球ってどんな感じなの? 教えて教えて!」
樋香里の言葉で思わず地球に居た頃のことを思い出してしまい、前にも増して悲しげに眉を歪める留魅耶。
「……ごめん、今はそういう気分にはなれないんだ」
「ひっど〜い!! あたしの誕生日会、すっぽかした癖にぃ〜!!」
「いや、だからそれは事故で……」
「……あっ、そのバトン!!」
留魅耶が扇状のバトンを抱えていたことに気付くと、
樋香里は満面の笑みを浮かべながら、当然のようにそれをひったくろうとする。
「ルーちゃん、あたしがこういうデザインのバトン欲しがってたの覚えててくれたんだぁ!」
「だ、だめだよ、このバトンはっ……!」
「ありがとう! ずっとずっと大切に使うね!」
「……………………」
見つかった時点で既に手遅れである。彼女は言い出したらテコでも聞かない。
(……元々は樋香里ちゃんにあげるために買った物だし、仕方ないか)
無理やり取り上げられるよりはと、留魅耶は自分から樋香里にバトンを渡したのであった。
時間が時間だったこともあり、樋香里に誘われた留魅耶は昼食のために一緒に食堂まで赴く。
「あっ、見て見てルーちゃん、リョーくんがいるよ!」
樋香里が指差す方向には、陰鬱な表情で延々とため息を吐き続ける白髪の少年が居た。
注文した定食セットも一切手付かずである。
何を隠そう、彼こそ人間の姿に戻った魎皇鬼だった。
「どうでもいいけど、なんで僕は“ちゃん”付けなのに魎皇鬼は“くん”付けなのさ?」
「それはカッコ良さの差よ。ルーちゃんはどう見ても“ちゃん”って感じだもの」
「あっそ……」
留魅耶はどうも昔から女性に低く見られるところがある。
異性として意識してもらえず、弟か子分のような扱いをされることが多いのだ。
(ま、慣れてるけどね……)
ため息をつこうかとも思ったが、既に魎皇鬼のせいで食堂はため息で埋め尽くされている。
これ以上、場を重くしても良くないなと、留魅耶は変に気を回してしまう。
当の魎皇鬼は一際深いため息をついた後、全く料理に手をつけないまま立ち去ってしまった。
「リョーくん、ジュライヘルムに帰ってきてからため息をついてばっかり……」
「あいつ、地球で好きな子ができたんだよ」
何の気もなしにそう言った留魅耶だったが……。
「な、なんですってぇ!? それ本当なのルーちゃん!?」
それを聞いた樋香里は、目を吊り上げて留魅耶に掴みかかってきた。
「ほ、本当だよっ!! あいつ、その子が傷つけられた時とか、すっごい必死になってたし!!」
「……こ、こうしちゃいられないわ!!」
樋香里は留魅耶を投げ捨てると、一目散にどこかへ走り去って行ってしまった。
「ぼ……ぼく、し〜らないっと!」
留魅耶は冷や汗をかきながら現実から目を逸らし、とりあえず昼食を注文することにした。
「女王様!!」
「……ん、樋香里じゃない。どうしたの血相変えて?」
樋香里が女王の執務室に怒鳴り込んだ時、赤髪の女王は頬杖をつきながら書類に目を通している最中だった。
「聞いてください!! どうもリョーくんに、地球で好きな子ができたらしいんです!!」
「へー、魎皇鬼が? あのコも隅に置けないわねぇ」
樋香里の必死な様子がおかしく、思わずクスクスと笑ってしまう女王。
「笑ってる場合じゃないです! 早くそれが誰のことなのかを突き止めないと!」
「そうねぇ……もしかしたら、それって砂沙美のことかもしれないわね」
「知ってるんですか!?」
「あのコが地球でパートナーだった魔法少女よ、ホラ」
女王が差し出したピンナップには、無内容な顔で笑うツインテールの青髪の少女が写っていた。
「こ、この女がリョーくんをたぶらかしたのねっ!?」
拳を震わせて、全身で怒りの感情を表現する樋香里。
「女王様、あたし地球に行きます!! それでこの子にビシッて言ってやるんです、リョーくんはあたしのだって!!」
「何を言い出すかと思えば……アンタ、確かとっくに十歳になってるはずでしょ。それなのに地球に行きたいとか、死にたいの?」
通常、十歳を超えたジュライ人は、自身の身体を構成する“魔素”を大気に奪われてしまうため、地球で活動することは出来ない。
「魔素が全部抜け切る前に、ビシッと言ってバシッと帰ってきます!」
「バカ言わないで! 大体アンタ、空間移動魔法を使えないでしょ? どうやって地球に行って帰ってくるつもりなのよ」
「それは……そう、降臨の儀式の時みたいに自動の帰還魔法をかけてください!」
「あー、それはムリムリ。あれは神官全員の協力が必要だから。とてもじゃないけど、こんな私用に使える代物じゃないわ」
面倒くさそうに片手をひらひらさせる女王だが、樋香里は諦める気配は無い。
「女王さま、お願いします! あたしに力を貸してください!」
「……樋香里、ちょっとは弁えなさい。痴話騒動を傍から見てるのは結構面白いけど、アンタは仮にも次期女王候補なのよ。
その赤い髪に誓ったはずでしょ、立派に私の後を継いでくれるって」
赤い髪は、魔法使いの中でも最大級の魔力を秘めていることを示している。
つまりジュライヘルムを統べる女王に最も近い存在である証なのだ。
……尤も樋香里の髪の色は、赤というよりピンクに近いのだが。
「あたしは構いません! 次期女王の資格なんかよりリョーくんの方がずっと―――」
ガシャァーン!!
言い終わらない内に樋香里の身体は女王に蹴り飛ばされて窓を突き破り、皇の塔の最上階から最下層の巨大な湖まで一気に落下した。
しばらくしてのろのろと岸まで這い上がった樋香里は、無表情で髪や服に含まれた水分を絞る。
「この、スットコドッコイがぁーーー!!! そこで小一時間、頭を冷やしんしゃい!!!」
ずぶ濡れになった以外はピンピンしてる樋香里も凄いが、標高数キロはあろうという距離をメガホン片手に声を届かせる女王も流石である。
しかしそれでも樋香里は諦めない。
「……………………」
気だるい表情のまま、無言で新たな策を巡らせ始める。
そこへ……。
「ふっふっふ、話は聞いたぜ」
「あ、あなたは!」
そこに最初から居たかのようにふっと現れたのは、赤と黒で彩られた全身スーツを装備した、白髪の女性だった。
「あなたは魔法お庭番の頭領にして女王様の右腕にしてリョーくんのお姉さんでもある、
本名『魎呼(りょうこ)』、またの名を人呼んで『素晴らしすぎるお魎さん』じゃないですか!!」
「んーっ、解説台詞センキュー♪」
チュッとお魎が飛ばした投げキッスを、ヒカリは面倒くさそうに首を傾いでかわす。
「恋敵ってのはやっぱり早めにぶちのめしておくに限るよなー。あたしも若い頃は、陰険な紫ヤローと散々やりあったもんだぜ」
ふっ、とノスタルジーに浸って遠い目をするお魎。
そんなお魎をほっといて、樋香里はとっとと立ち去ろうとする。
「おいおい、ちょっと待ちなって! いーい奥の手があるんだよねぇー」
ヘラヘラ笑いながらそう言うお魎は、懐から奇妙な意匠の指輪を取り出して樋香里に見せびらかす。
「なんですか、それ……?」
「これはな、Mフィールドを自在に発動できる指輪なんだぜ」
「Mフィールド?」
「要するに、魔素の流出を防ぐバリアみたいなもんだな。これを使えばジュライ人でも地球で活動が出来る。魔法だってそのまま使えるんだぜ」
「本当ですかっ!?」
今まで生返事だった樋香里は、それを聞いて急激に目を輝かせ始める。
「でも、そんな便利な物があるなら何で今まで使わなかったんですか? それがあれば、降臨の儀式をリョーくん一人に任せなくても良かったじゃないですか」
「それがなぁ、エネルギーの残量が残り少なくてさ。多分、持ってあと数日ってとこだろうなぁ」
「エネルギーが切れてるなら充填すればいいじゃないですか」
「それが出来たら苦労しないさ。充填方法が分からないんだよ、これを作ったバカヤローはとっくの昔に死んじまったし」
「そんな貴重な物、どうしてあたしに使わせてくれるんですか?」
「なーに言ってんだ、さっきも言ったろ?」
お魎は、グッと立てた親指を樋香里の目の前に突き出す。
「恋敵はとっととぶちのめすに限る! あたしはいつでも戦う乙女の味方さっ!」
「お……お魎さん……あたし、頑張ります!! 全力でプリティサミーをぶちのめしてきます!!」
お魎の心意気に感激し、目を潤ませる樋香里。
それを見て満足げな顔をしながら、お魎は空中に○ラえもんのタイムマシンのような円形の穴を開けた。
彼女の魔法で作り出した地球行きの簡易ゲートだ。
「用事が済んだら、高い所に登ってあたしの名を呼びな。そしたら、責任を持って迎えに行ってやるからさ」
「何から何までありがとうお魎さん! それじゃ行ってきまーす!」
樋香里は指輪を人差し指に嵌めると、意気揚々とゲートの中に飛び込んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方、こちらは地球。海の星町である。
我らがプリティサミーこと萌田砂沙美は、親友の天野美紗緒と共に学校からの家路を歩いていた。
「美紗緒ちゃん、とうとう明日は合唱部の発表会だね!」
「ん……あ、そうね。……頑張ろうね、砂沙美ちゃん!」
砂沙美が屈託なく親友に笑いかける一方で……。
ぽーっと何かを考え込んでいた美紗緒は、ほんの少し遅れて砂沙美に笑顔を返す。
「う、うん! ずっとみんなで頑張って来たんだもん、本番で失敗するわけには行かないからね!」
言いながら、砂沙美は微かに美紗緒から顔を背ける。
あえて美紗緒から隠したその表情は、少し複雑そうだった。
「じゃあね、また明日!」
「うん、気をつけてね!」
分かれ道で、手を振って去っていく美紗緒。
砂沙美も笑顔で見送りつつも、美紗緒の姿が見えなくなると、再び複雑な表情を見せる。
砂沙美は美紗緒のことが心配だった。
美紗緒は昨日からどうも様子がおかしく、どうやら何かを思い悩んでいるようなのだ。
にも関わらず、そのことについて砂沙美には何も言っては来ない。
最初は単なる自分の気のせいで、実際はいつも通りの美紗緒なのかもしれないとも思った。
しかし何度もふっと沈んでいる美紗緒の表情を垣間見て、砂沙美は自分の思い違いではないという確信を得た。
以前の砂沙美だったら気付かないほどの些細な変化だったかもしれない。
だが砂沙美はピクシィミサの一件以降、すっかり美紗緒の嘘や隠し事に敏感になってしまった。
もちろん、親友だからと言って何でも話さなければいけないわけではないが、
それでも隠し事をされることで当時の嫌な思い出が脳裏をよぎってしまい、
どうにもやるせない想いを抱いてしまう砂沙美は、重いため息を吐く。
「ただいまぁ……」
「あら、お帰りなさい砂沙美ちゃん」
帰宅すると、居間でお茶を飲んでいた母の津名魅がニコッと出迎えてくれる。
そんな母の暖かい微笑みに、砂沙美は昔から何度も救われてきた。
釣られるように微笑む砂沙美に、津名魅は笑顔のまま、とある報告をする。
「砂沙美ちゃん、私ね……今度お仕事入ったの」
「えっ、いつから!?」
「月曜日からだから、3日後ね」
「……………………」
それを聞いて思わず表情を曇らせる砂沙美。
当然、それを見た津名魅は困ったような顔をしてしまう。
「ごめんなさいね、砂沙美ちゃん……やっぱり家に一人じゃ寂しいわよね……。
本当ならずっと一緒に居てあげたいのだけど……魎皇鬼もどこかに行ってしまったみたいだし……」
「……ううんっ、大丈夫だよママ! いきなりでちょっと驚いただけだから!」
「そう? ならいいのだけれど……本当に大丈夫なの?」
「いつものことだし、砂沙美は全然平気だよ! だから心配しないで、お仕事頑張ってきてね!」
無理に笑って誤魔化しながら、砂沙美は逃げるように自室に入っていく。
手にしたカバンを机に投げ出し、砂沙美は早々にベッドに寝転がった。
そうしていると、再び頭に浮かぶのは何かを悩んでいる美紗緒のことだ。
なんとも言えないもやもやした気持ち、しかし相談できる相手は居ない。
まさか美紗緒本人には言えないし、仕事前のママに言ってもただ困らせてしまうだけだ。
こんな時、魎皇鬼が居てくれればと思うこともある。
砂沙美にとって、彼は何でも気さくに話せる大事なパートナーだった。
今までそのことに気付いていないというわけでもなかったが、
それでもいざ居なくなってみると、魎皇鬼が傍らに居ない事実が砂沙美の胸に重くのしかかる。
だが泣いても笑っても、魎皇鬼はもう二度と地球には帰って来ないのだ。
……結局、自分は寂しいだけなのかもしれない。
天地と離れ、魎皇鬼と離れ、両親と離れ……。
そして今また、美紗緒との間まで何かが起きてしまわないかと、不安でたまらないのだ。
しかし今の砂沙美に出来ることは、ただベッドに寝転んで何も無い天井を見つめることだけであった。
「……ん……?」
砂沙美は異変に気付く。
白い天井の真ん中に、ぽっかりと黒い穴が空いて……。
「ふぎゃっ!?」
黒い穴から落下してきたピンクの物体に踏み潰され、砂沙美はあられもない声をあげてしまう。
「ここが地球!? どこなのプリティサミー、出てきなさい!!」
ピンクの物体―――ゲートを抜けて地球にやってきた樋香里は、
足元でぴくぴくしている砂沙美に気付かず、ぶんぶん首を振って周囲を見回す。
「……だああああーーーっ!!! なんなのよぉーーー!!!」
「え!?」
砂沙美が自分を押し退けて身を起こしたので、樋香里はようやく彼女の存在に気付く。
「あなた……」
「な、なによぅ」
ベッド脇に降りた樋香里は、顔を近づけてまじまじと砂沙美の顔を見る。
「……見つけたわ!! プリティサミー、あなたはこのあたしが倒す!!」
「えええええええええっ!!?」
突然の闖入者が扇状のバトンを取り出して魔法の力を溜め始めたので、砂沙美は慌てて後ずさる。
「女王様・直伝!! 焔螺爆龍滅覇!!!」
まるで邪気眼でも発動しそうな名前の技だが、これで原作準拠なのだから仕方が無い。
ともあれ魔法によって発生した荒れ狂う炎の龍が、砂沙美に襲い掛かる。
「ど、どげげぇぇぇーーー!!?」
慌てて部屋を脱出し、そのまま家の外まで逃げ走る砂沙美。
「な、何なのよ一体!? てゆーか、どどど、どうしようっ!!?」
樋香里の魔法が火種となった火災は、散らかしていた色んな物を燃料にどんどん燃え広がる。
その猛威は既に家全体にまで拡がっている。
このままでは隣家に燃え移ってしまうのも時間の問題だ!
「砂沙美ちゃん、私に任せて!」
「ママっ!?」
いつの間にか設置されていた特大脚立の上から砂沙美を見下ろす津名魅は、
どこから持ってきたのか六本もの放水ホースをそれぞれ消火栓に接続し、それを束ねて両脇に抱えて六方向に向けて放水を行う。
マルチWAYでありながら的確なその放水は、あれほど猛っていた炎をどんどん鎮火させていく。
「す、すごいよママ! 流石は萌田家のママだねっ!」
「うふふ……ママにおまかせ、ね?」
年甲斐もなくチャーミングにウィンクする津名魅を他所に、バックドラフト現象と共に砂沙美の部屋の窓を突き破り、樋香里が砂沙美の前に飛び降りてくる。
「プリティサミー!! あなたは絶対に許さないわ!!」
スス塗れになりながらも、威風堂々と砂沙美に指を突きつける樋香里。
「何が何だかさっぱり分からないけど、ここまでやられちゃ黙ってらんないよ!」
津名魅は消火に注力していてこちらは見ていない。
まだ他に人影は無いが、すぐに消防車や野次馬がやってくるだろう。
変身するなら今しか無い!
「プリティーミューテーション・マジカルリコール!!」
砂沙美がバトンを振り上げると、その身体が透過光に包まれ、一瞬でミニスカ振袖の魔法少女へとその姿を変える!
「とうとう正体を現したわね! 覚悟しなさい、あたしの極大魔法で―――」
「プリティ・コケティッシュ・ボンバー!!!」
「きゃああああああああああああああ!!?」
色々と溜め込んだ鬱憤を全力で解き放ったサミーの必殺技が直撃し、樋香里は一撃でノックダウンしてしまう。
なにせ、樋香里は実戦経験がゼロなのだ。ミサと死闘(?)を繰り広げてきたサミーとは場数が違うと言わざるを得ない。
「ふう……なんだったんだろ……」
そろそろ人が集まってきそうなので、気絶した樋香里を担いで路地裏に隠れて変身を解く砂沙美。
こうしてみると、ピンクの少女は中学生の砂沙美よりも一回り小さくて幼いようだった。
「砂沙美ちゃん!」
そんな砂沙美に声をかけてきたのは、心配そうな顔をした彼女の親友だった。
「あっ、美紗緒ちゃん!? どうしたの?」
「なんだか嫌な予感がして来てみたの。そうしたら……」
「そっか、ありがとね!」
ふふふっと笑いあう二人。
笑顔の邂逅がひと段落ついた後、さっきから気になっていた親友の背中の少女に目を向ける美紗緒。
「その子は?」
「ん〜、それが、砂沙美にもよくわかんなくて……」
「ふーん……」
まじまじと少女を眺めてみる美紗緒だが、気絶してもなお右手に握りしめられている物を見て、はっとする。
「砂沙美ちゃん、この子……きっとジュライヘルムから来たんだよ!」
「ええっ、ホント!? でもどうして―――」
「砂沙美ちゃん、なんとか火は消し止めたんだけど……」
「わわっ、ママ!?」
津名魅が割り込んできたため、二人は慌てて話を中断する。
「あら、美紗緒ちゃん。心配して来てくれたのかしら?」
「は、はい。でもご無事のようで、ほっとしました」
「ありがとう。それで、お家の話なんだけど……」
こんがり真っ黒焦げになってしまっている我が家を仰ぎ見る津名魅。
「こんな状態じゃ、とてもじゃないけどおやすみできないわよねぇ? 征木さんの家はお留守だから頼れないし……」
「うー、どうするのママ?」
「どうしましょうかしら……」
「……あのっ」
困り果てた萌田母娘を見かね、小さく声を上げたのは美紗緒だった。
「私の家、泊まりませんか? パパは今日は帰って来ないから、二人分ぐらいは泊まれると思いますし……」
「あら、それはありがたいお話だわ! 砂沙美ちゃん、そうさせてもらいましょう!」
「う、うん! ありがとう美紗緒ちゃん!」
美紗緒の家に泊まるなんて、何年ぶりだろう。
なんだか砂沙美はワクワクしてきた。
「じゃ、いこっ、ママ!」
「ううん、私はいいのよ、火事の後始末しないといけないし」
「えっ?」
「代わりにその子を連れて行ってあげてちょうだい」
「その子って……」
津名魅の視線の先には、砂沙美に背負われているピンク髪の少女の姿があった。
「なっ、なに言ってるのママっ! この子は―――!」
「この子は?」
「うっ……」
まさか魔法で火災を起こした張本人だなどと言える訳も無い。
「それじゃ砂沙美ちゃん、いってらっしゃい」
「う、うん……」
「美紗緒ちゃん、砂沙美ちゃんのことをよろしくおねがいするわね」
「は、はい!」
背負った少女のことは有耶無耶になったまま、二人は津名魅のスマイルに無理やり送り出されてしまった。
「……ね、美紗緒ちゃん……本当にこの子を連れて行っても大丈夫……?」
「私は構わないけど……ちょっとその子に聞いてみたいこともあるし……」
「で、でも……やっぱり危ないよぉ、この子の正体も分からないのにぃ……!」
「ううん、私には大体見当がついてるから……」
美紗緒はピンクの少女、そしてその手に握られたバトンを見やる。
少女は何とも幸せそうな表情で眠りについていた。
きっと素敵な夢を見ているのだろう。
「……ョーくぅん……大好きぃ……」
その微かな寝言を聞き、二人は少し苦笑いをした。
「プリティサミー……どうしてあたしのことを助けたの?」
天野家宅で目を覚ました樋香里は、納得がいかないような顔で静かに砂沙美に詰め寄った。
「ん〜、なんでと言われたってぇ……なし崩しというか、流石に路上に放置は出来なかったというか……」
「なによそれっ! そんな適当な理由で敵に情けをかけられたって言うの!?」
「て、敵って言われても、こっちはあなたが誰だかも分からないんだけど……」
凄い剣幕で迫る樋香里と、それにしどろもどろに応対する砂沙美。
そんな中、二人の間に美紗緒が割って入ってくる。
「私、天野美紗緒っていうの。あなたのお名前は?」
思わずむっと美紗緒に目をやる樋香里だが、美紗緒の妙な迫力の笑顔に圧され、しぶしぶと質問に答える。
「……樋香里。ジュライヘルムから来た、次期女王候補の樋香里よ」
「あ、やっぱりジュライヘルムの人だったんだ。美紗緒ちゃんの読み通りだね」
「でも、どうしてジュライヘルムの人がまた地球にやってきたの? もう儀式は終わったんじゃ?」
「儀式は関係ないわ! あたしはプリティサミー……あたしのリョーくんに手を出した泥棒猫に思い知らせるために地球にやってきたの!」
「リョーくんって、魎皇鬼ちゃんのこと?」
「ど、泥棒猫って言われても……あたしとリョーちゃんは別にそんな関係じゃないよぉ」
「言い訳無用ッ! プリティサミー、もう一度あたしと勝負しなさい!!」
「樋香里ちゃん、それだけのためにわざわざ地球までやってきたの?」
「そうよっ、文句あるのっ!?」
「行動力は認めるけど……ふぁぁ」
思わずあくびが出たので、砂沙美は壁にかけられた時計を見る。
針は既に0時を廻っていた。
「ふぁぁ……ごめん、もう遅いからまた明日ね……」
なんやかんやで疲れていた砂沙美は、返事も待たずに布団に潜り込んでしまった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 話はまだ終わって―――」
「樋香里ちゃん、私達ももう寝ましょう?」
「でも……!」
「大丈夫、砂沙美ちゃんは逃げたりしないわ」
そう言ってまた美紗緒が微笑みかけたので、樋香里はしぶしぶと床につくことにした。
しかしどうにも落ち着かず、寝付くことが出来ない。
(明日こそ見てらっしゃい、プリティサミーめぇ……。あたしのリョーくんをキズモノにした罪は重いんだからぁ……!)
手にした魔法のバトンを見つめ、プリティサミー打倒の闘志を再び燃え上がらせる樋香里。
そんな悶々とする樋香里に、こちらも眠れなかったのか、美紗緒がそっと話しかけてくる。
「あの、樋香里ちゃん……」
「ん……何よ」
「そのバトン、もしかしてルーくんが……?」
「……?」
樋香里はいぶかしむ。
確かにこれは留魅耶から貰った物だが、どうしてこの子がそれを……?
そこまで考えると、樋香里の恋愛脳はあっという間にその答えをはじき出した。
噂に聞いた留魅耶が関わっていたという魔法少女、それがきっと彼女なのだ。
「……ふふん、そうよ! これはルーちゃんがあたしへの誕生日プレゼントとして渡してくれたものよ!」
どう、くやしいでしょう?
と言わんばかりの表情で美紗緒を横目で見下ろす(?)樋香里だが……。
「……よかった」
「なっ、何よ、その顔は?」
美紗緒の表情は、樋香里の予想に反して晴れやかだった。
「ルーくん、本当にジュライヘルムに帰れたのか、ずっとずっと心配だったから。
でも、あなたがそれを持っているってことは、無事に帰れたんだ……本当に、良かった」
「ふ、ふん……!」
まぶしいぐらい喜びに溢れた瞳で見つめられ、樋香里は思わず顔を逸らす。
「樋香里ちゃん」
「……なによ?」
「教えてくれてありがとう」
「っ……!」
樋香里は頭から布団を引っかぶる。
心の中は、なんだか負けたような気分でいっぱいだった。
「さ、砂沙美ちゃん、大丈夫?」
「あたたたた……。やっぱり、本場の魔法の国の人はスゴイなぁ……」
砂塗れのお尻をはたきながら、てへへと笑うプリティサミー。
朝っぱらから樋香里に決闘を挑まれた砂沙美はしぶしぶそれを受け、
真正面から互いの魔法をぶつけ合った結果、僅かに押し負けたサミーが吹き飛ばされたのだ。
「えへへ、樋香里ちゃん、砂沙美の完敗! お手合わせありがとう!」
汚れた手をスカートでゴシゴシ拭き、それを樋香里に差し出すサミー。
……が、樋香里はうつむいたまま、その手を取ろうとはしない。
「樋香里ちゃん……?」
「……なんでよ」
「え?」
「なんで負けたのに、そんなにヘラヘラしてるのよ!!」
「え、だって……悪いことしようとしてる人には負けられないけど、樋香里ちゃんはそういうわけじゃないし……」
それを聞いた樋香里にキッと睨まれても、サミーは困惑するのみで、どうリアクションしていいのか分からない。
そんなサミーを見て、樋香里にはますます鬱憤が溜まっていく。
これでは何のために地球に来たのだか分かりゃしない。
「……ふん、まぁいいわ。目的も果たしたことだし、あたしジュライヘルムに帰る!」
言うなり、美紗緒の住んでいる高層マンション(50階)の壁をよじ登り始める樋香里。
そうして屋上に辿り着いた樋香里は、天を仰いで大きく息を吸い込む。
「お魎さあああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーん!!!」
さぁーん……さぁーん……さぁーん……。
「……あれ?」
しばらく待ってみても何も起こらないので、樋香里はもう一度大きく息を吸い込む。
「お魎さあぁーーーん、迎えに来てくださあああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーい!!!」
さぁーい……さぁーい……さぁーい……。
「……………………」
やっぱり何の返事も無い。仕方なくマンションから降りて、二人の下へ戻ってくる樋香里。
「おっかしいわねぇ、お魎さんってばまだ寝てるのかしら?」
「ねぇ、樋香里ちゃん!」
そんな樋香里を、二人はうふふと笑って迎えていた。
「お昼から、砂沙美達の合唱部の発表会があるんだ。良かったら樋香里ちゃんも見に来てよ!」
「なんであたしがそんなこと!」
「折角お友達になれたんだもの、樋香里ちゃんにも見て欲しいの」
「か、勝手にあなた達と友達にしないでよっ!」
「でも、他にすることも無いでしょ?」
「そ、そりゃ無いけど……あっ、そうだ!」
樋香里はポンと手を打つ。
「あたし、この際だから地球見物でもして来るわ。帰ったら女王様に自慢しちゃおっと」
適当な言い訳を見つけたので、鼻歌混じりにその場を離れようとする樋香里。
「あ、待って、樋香里ちゃん! これ、会場の場所だから!」
美紗緒はそんな樋香里の手に無理やり地図を握らせると、憮然とした表情で去っていく彼女を見送った。
「それじゃ砂沙美ちゃん、ちょっと早いけど私達も行きましょ!」
「うん、本番前に一度ぐらい合わせておきたいもんね!」
そうして砂沙美と美紗緒は、手をつないで会場まで向かった。
ちらほら集まってきている他の部員達と共に、軽く音あわせをして見る二人。
砂沙美はふと、美紗緒が昨日までの沈んだ表情を今日は一度も見せてないことに気付いたが、
わざわざそんなことを追求してみてもしょうがないので、気にせずに合唱の練習に集中することにした。
そうこうする内に、とうとう開演の時間がやってきた。
「みなさぁーん、今日は合唱部の集大成をお父さんお母さんに見せ付けてやるのよぉー!」
「おぉーーーっ!!!」
いつにも増して気合満々の伊達映美に、引きずられるように腕を振り上げる合唱部の面々。
そうして各員が配置につくと、舞台の幕が上がり、砂沙美達は父兄の方々を中心とした客層に温かい拍手で迎えられる。
その中にはもちろん、砂沙美や美紗緒の関係者も……。
(ママ……それに阿重霞お姉ちゃん……美紗緒ちゃんのパパさんまで! みんな、見に来てくれたんだ!)
更に何かに気付いた砂沙美は、あっと声を上げそうになった。
(美紗緒ちゃん、美紗緒ちゃん!)
(どうしたの?)
(来てるよ! 樋香里ちゃんが来てる!)
(! 本当に!?)
砂沙美の指差す方向には、確かにこちらをむすっとした目で見ているピンク髪の少女がいるのが分かる。
町に出てみても何も面白くなかった彼女は、結局ひまつぶしに会場までやって来たのだった。
美紗緒は砂沙美と満足気に微笑みあった後、範奏のため、集団から離れてピアノの前の椅子に座る。
ドクン……ドクン……。
なんだか胸が高鳴る。
美紗緒は今になって、合唱部の面々以外の前でピアノを弾くのが初めてであることに気付いた。
気分を落ち着けようと、ひとまず目をつぶって深呼吸を試みる。
そうして息を吐いて目を開いたとき、砂沙美が余裕のある笑みでこちらを見ていることに気付く。
美紗緒を安心させようとしているのだ。そしてそれは美紗緒自身にも伝わった。
美紗緒はゆっくりと鍵盤に指を乗せ……。
そしていつも通りの暖かい旋律を、その指先からつむぎ始めた。
聞こえてくるピアノの音にあわせ、砂沙美達も歌い始める。
演奏と歌を通し、合唱部の心が一つになっていく。
素敵な景色も 綺麗な花も♪
一人で見てると つまらない♪
一緒に笑って 泣いてくれる♪
友達が居るから 楽しいの♪
数分に渡って会場に歌声が響き渡り……ついに演奏も終わった。
途端、会場中が拍手の嵐に呑まれる。
決して技術的に抜きん出たものではなかった。
しかしその心の篭った歌とピアノは、聞いた者の心を打った。
呆然とその様子を眺めていた樋香里は、いつの間にか自分も手を鳴らしていることに気付き、慌てて両手を後ろに引っ込めた。
全てを出し切った合唱部の面々は、一様にみな笑顔だった。
支援
「砂沙美ーーーっ!! 素晴らしい歌声でしたわよぉーーー!!」
「ぐぇぇ!?」
発表を終えて会場の外に出た砂沙美を、真っ先に抱きしめ潰したのは彼女の姉の阿重霞だ。
その後ろからは、津名魅が微笑ましそうに姉妹のスキンシップを眺めている。
「お、お姉ちゃぁん……見に来てくれたのは嬉しいんだけど、大学はどうしたのよぉ?」
「バカおっしゃい、そんなもの抜け出してきたに決まってるじゃありませんか!
わたくしには砂沙美の晴れ舞台よりも優先する事象なんてございませんのよ!」
念のために確認しておくが、彼女の大学は海を越えた向こうの外国にある。
今日もまた、海の星町のどこかにサンダーフェニックス1号が突き刺さっているのだろうか……。
まぁそんなことは関係なくほっぺにキスの雨を降らせる姉に、砂沙美は苦笑しながら反対側の頬をかくしかない。
「ははは……これじゃ僕の割り込む隙間は無いみたいですね」
「えっ!」
そう言って、愛想笑いをしながら頭をかくその青年は……。
「て……天地兄ちゃぁーーーん!!」
短い髪を小さく後ろで縛ったその青年は、確かに砂沙美が恋焦がれる彼女の恋人・征木天地その人であった。
砂沙美は愛のパワーで阿重霞の馬鹿力を振りほどき、天地の胸にダイブした。
「ま、待ってたんだからぁ……。砂沙美、ずっとずっと一人で寂しかったんだからぁ……!」
「……砂沙美ちゃん……ごめん、俺……」
「黙らっしゃい!! 謝るぐらいなら今すぐお別れになって!!」
「まぁまぁ、阿重霞ちゃん。妹の恋路を邪魔するものじゃないわよ」
きぃぃと天地に掴みかかろうとする阿重霞の襟首を津名魅がひっ捕らえ、そのままこともなげに羽交い絞めに入る。
頚動脈を圧迫され、阿重霞はあっという間にぐったりしてしまった。
「それじゃあ砂沙美ちゃん、天地くん、しっかりね♪」
軽く口元に手を当てておほほと笑い、津名魅は青い顔の阿重霞を引きずって立ち去っていった。
(ありがとう、ママ、お姉ちゃん!)
心の中で家族に感謝を述べ、砂沙美はそのまま束の間の逢引を楽しむことにした。
天地が言うには、つい前日に砂沙美が合唱をやると聞き、
慌てて祖父の勝仁に土下座して許可を貰い、何とか一日だけの暇を許されたのだとか。
つまりもうそれほどしない内に、天地は帰り支度をしなければならないのだ。
しかし砂沙美だって、もう子供ではない。
寂しい顔一つ見せずに、それはそれとして思いっきり今の時間を楽しもうとする。
なにせ天地と話したいことは沢山あったのだ、一分一秒でも無駄には出来ない。
ママのこと。姉のこと。美紗緒のこと。合唱のこと。岡山のこと。魎皇鬼のこと。
そうして徒然と思うままに話すだけで楽しい時間、だがそれもあっという間にタイムリミットが来てしまう。
「……ごめん、砂沙美ちゃん……俺、もう……」
「あやまらないで! 砂沙美、楽しかったんだから!」
申し訳なさそうな顔で砂沙美を見る天地を、しかし砂沙美は笑顔で送り出す。
「天地兄ちゃん、今日はありがとう! 砂沙美、ずっと待ってるから!」
そうして駅に向かう天地に何度も何度も、その後姿が見えなくなるまで手を振った。
「……天地兄ちゃん……元気そうで、良かったな……」
「なぁーんだ……あなた、ちゃんと恋人が居たのね」
呆れたような顔で砂沙美に話しかけてきたのは、樋香里だった。
どうやら離れたところから天地とのやり取りを見ていたようだ。
「や、やだなぁ、見てたんなら言ってよぉー!」
「ふふっ、私も見てたわよ♪」
「み、美紗緒ちゃんまでー!」
木陰から出て来ていたずらっぽく微笑む美紗緒に対し、砂沙美は唇を尖らせて見せる。
ふと、二人は蚊帳の外になってつまらなそうにしている樋香里に気付き、彼女に向き直った。
「ところで樋香里ちゃん、これからどうするの?」
「さぁねぇ、お魎さんが気付いてくれない限りはジュライヘルムに帰る方法無いしー」
「自力で帰れないの?」
「空間移動魔法って難度が高いのよ。それこそジュライヘルムのトップエリートクラスじゃないと扱えないわ」
「ねぇ砂沙美ちゃん、サミーの力でどうにかしてあげられないかな?」
「うーん、流石に難しいと思うけど……」
「それじゃあ……」
あーでもない、こうでもないと、議論を続ける二人。
しかしそんな他所に、樋香里の身には突如として異変が起こっていた。
「……うっ!?」
突然、うめき声を上げてその場にうずくまる樋香里。
「えっ……ひ、樋香里ちゃん!?」
「ゆ……ゆびわ……が……?」
樋香里は全身がバラバラになりそうな痛みに苛まれる身体を無理やりよじり、何とか自分の人差し指に収まっている指輪を見る。
宝石部には亀裂が入っており、そこから徐々に激しい光が漏れ始め……そして、砕け散った。
「そんな……くぅぅゥっ!!!」
指輪が壊れたことによって、魔素の放出を防ぐMフィールドが完全に消滅する。
当然、樋香里の身体から光の粒子が放出され始める。
「この光……ミサの変身が解け始めた時と同じ……」
「じゃあ、この放出されてる光って、魔法の力なの?」
そこまで言って、はっと二人は顔を見合わせる。
地球人の自分達から魔法の力が抜けても変身が解けるだけだが、ジュライヘルム人の樋香里にとって、それは致命傷だ。
「どどど、どうしよ美紗緒ちゃん!? 魔法の力が抜け出したら、樋香里ちゃん死んじゃうよぉ!!」
「わわわわわ、わたしっ、110番してくる!!」
「おお、落ち着いてよ!! こういう時は119番でしょ!!」
「うっ、うん!!」
だが救急車を呼んだとて、ジュライヘルム人の樋香里を救う手立てがあるはずも無い。
それでも必死に公衆電話を探し、何とか樋香里を救おうとする二人。
その時……。
パコォーーーン☆
「んなっ……何コレぇっ!?」
突如として、二人の眼前に純和風の巨大なふすまが現れたのだ。
慌てるばかりの砂沙美だが、美紗緒はピンと勘付いた。
「これ、魔法の扉だよ! それもきっとジュライヘルム行きの!」
「ホントっ!?」
「え……あれ、あたし……?」
急に魔素の流出が止まり、困惑しながら身を起こす樋香里。
いつの間にか巨大なふすまの戸がガラッと開いていた。
ふすまを介して直接ジュライヘルムと繋がっているため、周辺の狭い範囲だけは何とか魔素を維持することが出来るのだ。
そして開いたふすまの奥から、神秘的な白布を纏った赤髪の女性が現れる。
「危ない所だったわね、樋香里」
「じょ、女王様!? 一体どうして!?」
「見て分かんない?」
女王の左腕には、青たんまみれのお魎の顔が抱えられていた。
「あ、あはははー……すまん樋香里、ゲロっちまった!」
「樋香里、帰ったらアンタもお仕置きよ!」
「うぅ……」
Sのケがある女王のお仕置きは容赦が無い。
うなだれる樋香里を他所に、女王は少し感傷に浸った目で辺りの景色を見渡していた。
「でも懐かしいわねぇ……地球に来たのなんて何年ぶりかしら」
「えっ! 女王様って、地球に来たことあるんですか!?」
「来たことあるどころか……っと、そんな話はどうでもいいのよ」
女王は砂沙美の姿を見つけると、ずいっと彼女の前に身を乗り出す。
「あなたが砂沙美ね?」
「は、はい……そうですけど、オバサンは?」
「オバ……!」
ぴき、と青筋を立てる彼女だが、女王という立場上、無理やり笑顔を作って堪える。
「あ、あーら、ごめんなさい……! 私はジュライヘルムを統べる女王よ」
「魔法の国の女王様……ってことは、リョーちゃんを地球に送り込んで魔法少女を探させたのは……」
「そ、私よ。魎皇鬼もいい子を選んだわよね」
女王は、ふっと微笑む。
「その節は本当にありがとう、おかげで地球とジュライヘルムの危機は回避されたわ」
「そ、そーなんですか?」
自分はやったことと言えば、適当に人助けをしただけだった気がするのだが……。
まぁ先方が助かったと言っているのだ、とりあえず感謝されておくことにしよう。
「それにしても……」
何事か、女王はまじまじと砂沙美の顔を眺める。
「……うーん、当たり前だけどやっぱり似てるわねぇ」
「? 何のことですか?」
「いいのいいの、こっちの話だから」
「???」
「……っと、流石にあんまりのんびりしても居られないわね」
疑問符を頭上に浮かべまくりな砂沙美はさておき、女王は樋香里をとっ捕まえると、そのままふすまに引っ張っていく。
「それじゃ、私達はそろそろ―――」
「あ、あのっ!!」
すっかり帰宅モードだった女王を、意を決した様子の美紗緒が呼び止めた。
「……あの、ルーくんは今……?」
「ん、あなた……?」
女王は美紗緒の顔を怪訝な目で眺め回す。
「……そっか、あんたが例の留魅耶が見初めたっていう魔法少女ね?」
「はい……ごめんなさい……」
美紗緒は、しゅんとうなだれてしまう。
「大丈夫、ジュライヘルムはあなたの罪を問うつもりは無いわ。代わりに留魅耶の奴をこってり絞って―――」
「そんなっ!! ルーくんは悪くありません、罰を与えるなら私にっ!!」
「……なるほど、留魅耶の奴が夢中になっちゃうわけだわ」
うんうん、と女王は勝手に納得する。
「さっきのは冗談よ。留魅耶は元気にしてるし、私も特に何もしてないから安心しなさい」
(たんこぶ塗れだけどね……)
樋香里とお魎は同時に心の中で突っ込んだ。
「あの……よろしければ、ルーくんに伝えて欲しい言葉があるんです」
「あっ、砂沙美もリョーちゃんにお願いします!」
「はいはい、何かしら?」
純な少女達を微笑ましく眺めながら、女王は彼女達のことづけを受け取る。
「確かに伝えるわ。それじゃ、今度こそ帰るから」
そうしてふすまの敷居をまたぐ直前で、女王は二人の魔法少女にそっと振り返る。
「……ふふっ、あなた達に会えて良かった」
上機嫌で微笑むと、女王はお魎を連れてふすまの奥へと消えていった。
しぶしぶ、それに続こうとする樋香里だったが……。
「樋香里ちゃん!」
砂沙美に呼び止められたので、振り返る。
「あたし達、樋香里ちゃんと友達になれてよかった!」
笑顔でそう言う砂沙美。見ると、同じく笑顔の美紗緒も同じ意見のようだ。
樋香里は少し戸惑った後……ゆっくりと、自分の手を出しだした。
それを迷わず、砂沙美と美紗緒はぎゅっと握り締める。
「……友達でも、リョーくんは渡さないからね!」
「あははっ、だから取らないって!」
「私はルーくんが取られたらヤだなぁ、なんて」
「うふふっ、言ってくれるじゃない!」
ひとしきりお互いに笑いあったあと、ふすまの奥から女王が呼ぶ声が聞こえたので、三人はしぶしぶ手を離す。
「じゃあね、樋香里ちゃん!」
「ルーくん達にもよろしくね!」
「うん……また―――」
会えるといいわねと言いかけて、樋香里は言葉を詰まらせる。
そうだ、今回自分が地球に来た手段は、もう失われてしまったのだ。
魎皇鬼や留魅耶と同じく、自分も二度と砂沙美達に会うことは出来ない。
代わる言葉を捜していた樋香里だが……。
ふと、何かを思い出したかのように振り返る。
「ピアノ……とっても良かったわよ」
「えっ、本当?」
「うん、でも歌は全然ダメダメだったけどね」
「あっ、ひっどぉ〜い!!」
「ふふっ、じゃあね!」
砂沙美の抗議に向けてチロッと舌を出し、樋香里はふすまの向こうへと消えていった。
直にふすまの戸が閉じ、ふすまそのものも宙に消えていく。
その形が完全に見えなくなってしまってからも、二人はしばらく無言でその辺りを見つめていた。
そうして二人きりの帰り道。
また何事かを考え込んでいた美紗緒だったが、意を決したように砂沙美人を見据える。
「……砂沙美ちゃん……私、決めたわ」
「えっ、何を?」
そう言う美紗緒の瞳は、なにかの決意に燃えていた。
「私……外国の音楽学校に行く!」
「えええええええええええっっっ!!?」
いきなりの宣言に驚く砂沙美を、美紗緒はちょっと申し訳無さそうな瞳で見る。
「実はね……パパが、ピアノ留学の話を持ってきてくれてたの」
「ひょっとして、最近なにかを悩んでるみたいだったのは……」
「うん……。黙っててゴメンネ」
「そっか、そうだったんだー」
驚きながらも、前からのもやもやが晴れたことにより、砂沙美はむしろスッキリする。
「私、砂沙美ちゃんと離れたくない……だから、行かないつもりだった。でもね……樋香里ちゃんと友達になったことで、教えられたことがあるの」
「教えられたこと?」
美紗緒は一瞬目を伏せ、しかし再び真っ直ぐ砂沙美を見据える。
「別れがあるからこそ、同時に新しい出会いもあるんだって。そしてその出会いは、きっと自分から一歩を踏み出さないと起きないものなんだってことを」
「……………………」
「だから友達……砂沙美ちゃんに依存して、殻に篭っていたら何も変わらない。
本当に強くなりたいのなら、大切な人と離れることを恐れちゃダメなんだって、それに気付いたの……」
それを聞いて、砂沙美はきゅっと自分の胸を抑える。
美紗緒の自省の言葉は、そのまま砂沙美の身にもつまされた。
(美紗緒ちゃん……友達に教えられたのは、砂沙美も一緒だよ。それにきっと、樋香里ちゃんも……)
美紗緒は静かに言葉を続ける。
支援!
って、どうしたんだ!?
「私……強くなって、私の中のピクシィミサにもう一度会うつもりだった。
でもね、きっとピクシィミサはどこにでも居るんだと思う。
だから私はそんな沢山のピクシィミサと出会い……そして救ってあげたい。
そう……砂沙美ちゃんが、樋香里ちゃんが、みんなが好きだって言ってくれた、私のピアノで……!」
留魅耶が見ていたら感涙したに違いない、はつらつとした前向きな自信に溢れた表情。
「そのために、私は外国で本格的にピアノを勉強したい……。…………砂沙美ちゃん…………わかって、くれる……?」
「もちろんだよっ!」
砂沙美は満面の笑みで美紗緒の手を取る。
そして美紗緒もそれを握り返す。
強く、強く。
離れ離れになるのが怖くないといえば、嘘になる。
それでも二人の少女の胸には、強い希望の光がともっていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方、再びこちらはジュライヘルム。
魎皇鬼と留魅耶は、庭園の一角でそれぞれ思慕に浸っている。
彼らは今、女王によって届けられた愛しい魔法少女達の言葉を反芻していた。
『砂沙美もリョーちゃんが居なくて寂しいよ……。
でも、リョーちゃんを悲しませたくないから、いつだって元気丸出しなんだ!
だから……リョーちゃんも、元気出してね! いっぱい笑わないと、立派な大人になれないんだから!』
『ルーくん……私、気付いたの。
離れ離れになるのは寂しいことだけど、だからこそ深まる絆もあるってことに。
ルーくん、私……あなたのこと、ずっと忘れないよ。その気持ちが、私を強くしてくれるから……』
「……砂沙美ちゃん……心配かけちゃってごめん……」
魎皇鬼は、ぎゅっと胸の前で拳を握り締めた。
「……美紗緒……ありがとう……」
留魅耶は、溢れかけていた涙をぐっと飲み込んだ。
強くなろう。
彼女達に恥ずかしくない男になろう。
もう二度と会えないとしても。
少年達は、そう決心した。
暖かくなって来たジュライの風が、そっと少年達の背中を後押しした。
春はきっともうすぐだ。
時間をまたげば猿さんカウントはリセットされると聞いた気がするのですが・・・ううむ・・・。
ともあれ、CB番外編その2でしたー。
軽い話にするつもりが、まさかのシリーズ最多の登場人物を誇る話になってしまい、てんてこまいでした。
投下できるのがいつになるかは分かりませんが、実はまだ物語は続きます。
どうかもうしばらくお付き合いくださいませー。
そして最後に一言。
横山智佐さん、結婚おめでとう!!
サミー作者さま投下乙乙です。
この投下量に懐かしさすら感じてしまう俺は明らかに魔女マニア。
ということで今から読んできまーす。
早速読んできた。
寂しさの中で大事なものを見つけ出すのって難しいんだよねー
心温まる話でハッピーエンドかと思いきや、砂沙美が孤独にw
あとこれは感想ってのじゃないけど。
はっちゃけてそうなキャラなのに心理描写がすごくしっくりくる。
最初から最後まで、ものすごく丁寧に書かれていると思いますまる。
そんな俺はいまだにTV版のサミーは見ていない。
242 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 22:17:53 ID:744pHfFo
また規制orz
そろそろ創発避難所にスレ立てるべきかもねぇ
今ならあっちの方が人多いだろうし
244 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 00:46:11 ID:OyB8eFMU
245 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/19(木) 07:52:51 ID:zcK9m7LT
誰もいない。
いや、俺がいる
>>245 前から思ってたけど一々言わんでええよ、人がいるとかいないとか
そういう細かい報告は。んなの見りゃわかるんだから
そんな寂しがりやな魔女の話でも書こうと思ったが、開始二行で断念した。
まあこのスレは独特なペースで進行しているわけで、動かないときは全然だが
人がいないわけではないのだ。
あまり思いつめないことをお勧めしておくぜ。
雑談で伸びることは滅多に無い、粛々としたスレだな
スレの8割が投下作品で締められているから、
投下が無ければスレも伸びない
250 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/23(月) 09:57:20 ID:7Tn9RJdt
ゲーマーズ作者も凛とまなみ作者も規制中なのか
憶測レスもええって。なんにせよ現状来れないんだろ
一々どうでもいいことでageるなと
そんなことでカリカリしてる奴の方がウゼェ
なんにせよ待とうぜ。そのうち、みんな帰ってくるよ。
ただ正直、作品投下でも相談事でもないのにageるのは俺もどうかなとは
ageなきゃいけないほどスレが下がってたわけでもないし
254 :
武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/11/29(日) 23:08:45 ID:cATgwmsO
武神戦姫凛第八話投下します
武神戦姫凛 第八話『悪魔に魂を宿した者』
獄牙の本拠地に一人の青年が黒いスーツを着た男二人掛かりで連れてこられていた。
乱暴に青年を放り投げると、スーツを着た男たちは部屋の主に一礼してその場から出て行く。
「よくきたな、嵯峨野邦彦」
青年の名を呼ぶ幽覇。嵯峨野という男は歯を食いしばりながら、顔を上げる。
彼はとある事情で獄牙に借金を作ってしまい、先延ばしにしてきた返済期限が
ついに明日へと迎えてしまった。
「そろそろ借金を返してもらおうと思っているのだが…金は用意出来たのか?」
「……なんとかまだ待ってもらえないか?」
「それは出来ん。無理だと言うなら…わかっておろうな?」
幽覇の言葉にがっくりと項垂れてしまう嵯峨野。だが、幽覇は怪しく笑みを浮かべ始めた。
「どうしてもというなら、助けてやらんこともない」
「ほ、本当か!?」
幽覇の言葉に少しだけ表情が明るくなり、顔を上げる。
「ああ、少しだけ我らを手助けしてもらえば、すべての借金を帳消しにしてやろう」
「やる!なんでもやるよ!その手段ってのはいったい?」
その言葉の直後に、待ってましたとばかりに、パリアが入室してくる。
「パリアよ、こやつをあそこに連れてゆけ」
「はぁ〜い♪それじゃ、嵯峨野君、ついて来てちょうだい」
「あ、ああ…」
二人の姿が見えなくなると、幽覇は再び怪しく微笑んだ。
パリアが嵯峨野を連れてきた場所。そこはいくつものカプセルが連なり、
中には培養液らしき液体が詰まっており、コポコポと音が鳴り響いている。
「ここは…?」
「うふふ♪あなただけには教えてあげる。ここが獄牙の誇るバイオモンスターの
製作工場よ。あなたにここでやってもらいたいことがあるの」
その言葉を聞くと嵯峨野の表情が曇りだす。
「もしかして…手伝えってのはここであの怪物たちを作るのをってこと?
……いくらなんでも、それは…」
「あらあら、借金返せなくてもいいの?困るでしょ?それにぃ…別にこの子たちの
製作を手伝えとかじゃないわ。そもそも、素人に任せられるわけないでしょ?」
「じゃあ、いったい俺に何をしろって言うんだ?」
「それはね……はぁっ!」
パリアは疑問を浮かべる嵯峨野の腕を掴み、見た目からは信じられない力で軽く
一つの空いているカプセルへと勢いよく投げ飛ばした。
「ぐっ!…い、いったいを何をしようってんだ!?」
カプセルの中から叫ぶ嵯峨野。パリアが指を鳴らすと、蓋が閉じられ、
底から粘着質の緑色の液体が溢れてくる。
「ふふん、嵯峨野君、獄牙はこの前すごいことを発見しちゃいました♪
なんとバイオモンスターは別の生命体とも融合することが可能なのですぅ♪」
「な、なんだって!?まさか、これは…!」
まさかと思い、溢れてくる液体を震えながら見つめる。
「ご想像の通り、それは液体化したバイオモンスターです♪さあ、ゆっくり融合していってね!」
「や、やめろぉぉぉぉ!!うああああああああ………!!」
液体状のバイオモンスターは嵯峨野の全身を包み込み、完全に彼の姿を
失わせてしまう。その様子を心底楽しそうに見つめるパリア。
「素敵だわぁ…人が怯える様、グロテスクなシーン…それをやったり見てるだけで
お給金がもらえるなんて、本当、いい仕事よね」
―――連春の外れにある古びた道場。床は穴が開き、埃が集り、蜘蛛の巣も張っている。
そこはかつて、凛とシャニーが修行していた場所。今回は楓も連れてきている。
「ここが凛姉とシャニー姉が修行してた…」
「そう、獄牙の野郎どももだいぶ痛めつけてやってきたからな。
幽覇たちも叩きのめしたら、聖覇流拳法を復活させる…それがあたしの夢なんだ。
そのために、まあここを綺麗にしておくぐらいならやっておいてもいいだろ」
凛ははりきって掃除を始めだし、楓もそれに続くように床を磨き始めた。
シャニーは庭掃除をしている。しばらくそうしていると、唐突に道場の前に
女性の姿が見え始めた。白いワンピースに、長い髪をしている。
「あのう…みなさんは戦姫の方々ですよね?」
尋ねてきた女性にシャニーはそちらへと振り向く。
「あ、はい。そうですけど…あなたは…?」
すると女性は突然泣き出し、シャニーにすがるように抱きつく。
「ちょ、どうしたんですか!?」
「うう…私の、大事な人を助けてください!」
とりあえず、ある程度片付かせた道場の縁側にその女性を座らせ、三人は話を聞くことに。
「先ほどはごめんなさい。私は吉野志穂と申します」
「それで、大事な人をってのは…?」
「はい…嵯峨野邦彦という人と私は恋人同士でした。だけど、彼は借金があり
それで連れてかれてしまい…その借金の相手というのが…」
「まさか…獄牙!!」
凛の言葉に小さく頷く志穂。
「借金をしてしまったのはアレだけど、あなたの大事な人も放っておけないですね」
「よぉし、凛姉、シャニー姉、速くその人を助けに行こうよ!」
「うん、手分けして探しに行こう」
三人は頷きあうと街へと駆け出していく。志穂も、心配そうな目つきで、後を追った。
街へと繰り出すと、凛と楓、シャニーと志穂の二手に別れ行動することに。
捜索の途中、路地裏でシャニーは志穂に話しかけてみる。
「ねえ、志穂さん…その嵯峨野さんという方とは長いお付き合いなんですか?」
「ええ、中学からの付き合いで…とても優しい人なんです、
だから心配かけたくなかったんでしょうね、借金のことを隠していたのは。
相談してくれればよかったのに…」
また泣き出しそうになる志穂の肩に手をやるシャニー。
「必ず見つけて助け出しましょう、志穂さん」
「ありがとう、シャニーさん…」
その時、物陰から小さく音が響き、シャニーは志穂を後方へ下がらせ、そちらに注意を向ける。
物陰から影が伸びると、それは素早く飛び出しシャニーに攻撃を仕掛けてくる!
「くっ!はあっ!!」
紙一重でそれをかわし、相手を確認する。それは右腕が巨大化している
人型のバイオモンスター。先端はするどく針となっている。
「志穂さん、下がってください!」
再度、襲い掛かってきたバイオモンスターの攻撃をひらりとかわすと、空中に飛び上がり
「戦姫転生!!」
変身の叫びとともに、シャニーの身体を光が包み込み、その裸体に黒いチャイナドレスが
纏われていく。カンフー靴と籠手も装着されると、バイオモンスターを睨みつける。
「獄牙…こいつを倒して、嵯峨野さんを返させてもらいます!」
勢いよく駆け出して、そのまま正拳突きを敵に繰り出す。
怯んだ隙を逃さず、シャニーの脚がバイオモンスターを痛めつける。
「豪裂脚!!」
無数の蹴りの乱打を浴びせ、宙に浮かせた後、そのまま自由落下に任せ頭から落とす。
「さ、もう大丈夫ですよ、志穂さん…」
「ええ…ありが……あ、危ない!!」
「はっ!?きゃああ!!」
志穂の警告を認識するよりはやく、シャニーは吹っ飛ばされていた。
バイオモンスターは、ノーダメージというわけにはいかないが、まだ辛うじて生きていたのだ。
「ぐう…!この……うああぁぁぁぁぁ!!!」
立ち上がろうとするシャニーの背に、その右腕に装着された針が突き刺さり、
激痛のあまり、シャニーは絶叫し、痙攣しかのようにぴくぴくと小刻みに震え、再び倒れ伏した。
彼女が動けないのを確認すると、バイオモンスターは志穂へとゆっくり近寄っていく。
「あ……あ…!」
恐怖で逃げることすら叶わない彼女にバイオモンスターは容赦なく、志穂にも
その腕を突き刺そうと、振りかぶる…だが
「………し……………ほ………」
「…え?」
突然、動作を中断し、その場に立ち尽くす怪物。
「し…ほ……!」
今度は先ほどよりも鮮明に彼女の名を呼びだす。
「ま、まさか……邦彦…?」
シャニーが辛うじて頭を上げると、彼女にとっては志穂がバイオモンスターに
殺されそうになっているように見えた。そして動きが止まっている敵の隙は逃さない。
「バイオモンスター……志穂さんには手を出させないわ!はぁぁぁ!!」
全身の気を集中させ、高速で突進、猛烈な腹部への蹴りから始まり、
無数の拳、脚の連打が目にも留まらぬ速さで決まり、止めにサマーソルトキックを繰り出し
勢いよく吹き飛ばした。
「聖覇流奥義…天覇乱舞!!」
「シャ、シャニーさん…あなた、なんてことを!」
「ええっ!?」
志穂は倒されたバイオモンスターへと駆け寄る。すると、それの身体から光が
発生し、それが収まるにつれ、その姿は人へと変わっていく。
「やっぱり…邦彦!!」
「し………志穂……」
息も絶え絶えな嵯峨野の姿がそこにはあった。それを見たシャニーはわなわなと震え
「そ、んな…あのバイオモンスターが嵯峨野さんだったなんて…」
「はぁ、はぁ……君が戦姫の…」
嵯峨野はシャニーに視線を移す。
「君に…頼みたいことがあるんだ……」
「は、はい…!なんでしょうか…?」
嵯峨野の手を握る志穂の隣に行き、彼の話を聞こうとする。
「連春の…遊園地の地下に……バイオモンスターの工場があるんだ…それを…うぅ」
「わかりました…必ず、私たちがそこを…!」
「ありがとう…頼むぜ……」
嵯峨野は段々目が掠れてきていた。それを涙を流しながら見つめる二人。
「志穂…散々迷惑をかけてしまったな……」
「そんなことない!…お願い…死なないで……!」
「ごめん、志穂…今まで、ありが…とう………」
それが最期の言葉であった。
「邦彦?邦彦……いやぁぁぁぁ!!」
泣き崩れる志穂の腕の中で、完全に動かなくなった。
「志穂さん…私たちが、必ず嵯峨野さんの仇を討ちます…だから…」
「シャニーさん…!」
涙を流しながらも志穂はシャニーを恨むような表情で睨みつけ
「邦彦を殺したあなたを私は許せない…!」
「…!そ、それは…」
結果的にはそうだとしても、本当に悪いのは獄牙だ。
しかし、彼女はそう割り切ることは出来なかった。
「人殺し…!」
一言そう呟くと、彼の亡骸を抱いて、志穂はその場から去っていった。
シャニーはしばらくの間、呆然と立ち尽くしていた。
「人殺し、か…誰も、私たちの気持ちは考えてくれない…」
「シャニー!」
「シャニー姉ぇ!」
その時、凛と楓が駆けつけた。
「二人とも……」
「どうした、シャニー?随分元気なくした感じだけど…」
「それと、志穂のお姉さんはどこ行っちゃったの?」
疑問を投げかける二人に、首を振る。
「志穂さんは…嵯峨野さんと帰っていったわ……」
「それじゃ、見つかったんだな?」
「ええ、一応、ね……それと、バイオモンスターの工場の場所もわかったわ」
表情が暗いまま、答えるシャニーに二人は不安そうにしているが、工場が見つかった
報せには驚き、目の色を変える。
「本当か!?じゃあ、さっさとぶっつぶしに行こう!」
「これで、街の人が理不尽に襲われる心配もなくなるね!」
喜ぶ二人を見つめていてもシャニーの表情は暗いままであった。
「…街の人、か……」
「どうしたんだよ、シャニー?調子悪いのか?」
「いや、なんでもないわ…」
「じゃあ、速く行こう!」
「う、うん…」
凛に引っ張られる形で、その場を後にしたシャニー。だが、どうしても
気分は晴れないままなのであった。
次回予告「押忍!凛だ。ついにバイオモンスターの工場にたどり着いたあたしたち。
ここをぶっ潰したら、あとは獄牙本部だけだ!だけど、そう簡単にはいかない。
毒花にパリア!お前らとの因縁もここらで終わらなくちゃな!
次回もあたしの拳で悪は粉砕だぁ!」
投下完了。かなり間が空いちゃってごめんなさい。
投下ペースを早めるどころか、遅くなってしまった…。
今年中に完結させたいとは思っています
久し振りの投下ktkr
相変わらず町の人たちがダメすぎるw
もうシャニーとか獄牙に味方しちゃえよw
投下乙です。
シャニーばかりひどい目にあっているような気がするなぁw
クライマックスも近そうだし、期待します
そりゃあシャニーも身体張って命懸けの戦いをして、相手の命を奪う苦さを押し殺してる辛さは推して計るべきものもあるけどさ、
今回はちょっとデリカシーが無い部分もあるんでない?
どんな姿になったとはいえ目の前で自分の手でその人の愛する人の命を奪えば、それは罵声の一つは浴びせられるよ。
それは綺麗汚いとは次元の違う誰だって当たり前の事じゃない?
それを考慮せずに、自分の辛さを分かってくれないって言葉が心に出るのはちょっとシャニー正義の味方として心に余裕が無いかも。
でも正義の味方とて生身の心持った存在な訳で、そういうやるせなさもまた当たり前なんだよね。
そこら辺が今後のスポットになったり?
そこらへんは難しい問題だよね
正義の味方を名乗っておきながら人を救えなかったシャニーには責任がある
だが力がありながら見てみぬ振りをするのもそれはそれで無責任ではないだろうか
シャニーには確かに正義の味方としての覚悟は足りなかったのかもしれないが、
それでも自分の力を誰かを助けるために使おうとする志は評価してあげたいと俺は思う
>>265 疲労し、他人に幻滅してもなお他人のためにまだ体が動く、誰かを救うために自分の力を使うってのは優しさの守備範囲なんだよな。
267 :
武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/12/10(木) 23:47:24 ID:GeFUbeuU
武神戦姫凛第九話投下します。
第九話『閃光と共に散れ!』
深夜の連春の遊園地。昼間は子供から大人まで、明るく楽しく騒ぎ、遊んでいるここも
この時間とあっては漆黒の闇に包まれ、静まり返っている。そこに三つの人影が
素早く物陰から物陰へと移動しながら遊園地へと向かっていく。
「シャニー、ここの地下に?」
「ええ…そこにバイオモンスターの工場があるって」
「こんな楽しそうなところの下に、怖いものを作ってるなんて…獄牙って
本当、悪趣味な連中だね!」
楓は幼い口調ながらも憤りを隠せずにいる。凛が二人に目をやる。
「よし、ここから先は変身して進もう」
「わかったわ」
「OK!」
「「「戦姫転生!!!」」」
三人の掛け声とともに、まず服がはじけ飛ぶ。そして一瞬にして光が彼女らを包み、
その光が戦闘用のチャイナドレスへと変わっていく。
凛は紅、シャニーは黒、楓は桃色のチャイナドレスを着た姿へと変わる。
「よし、みんないくぞ!ここで獄牙の奴らもおしまいだ!」
「ええ…」
「よぉし、頑張っちゃうよ!」
凛と楓が気合を込めているなか、シャニーはやはり元気がないままであった…。
遊園地の最奥部にある観覧車。その真下にあるマンホールの蓋を楓が
ひょいっと取り、持ち上げる。中はただの下水道のように見えるが
三人は頷き合うと、中へと入っていく。
地下をしばらく進んでいくと、汚らしい下水道の道から、整備されている
真新しい通路へと変化していく。そしてその先には、厳重に閉じられた大きな扉が。
「まったく…こんなに固く閉じてても意味ないっての。おおりゃああああ!!」
凛の拳が勢いよく放たれ、扉にめり込ませ、ひびが走る。
間もなく、扉は音を立てながら崩壊していった。
扉の先には文字通りの実験施設とでも言うべきな施設、怪しげな巨大なカプセルが並び
机の上には一般人でも内容は理解できなくとも、一目でそれというのが
わかりそうなほど、月並みな研究資料が雑多に置かれている。
緑色の液体が泡立ちながら満ちているカプセルの中には未知の生命体が入っている。
これが改造されて、バイオモンスターとなるのであろう。
「やはり、ここが…ん、あれは!?」
ふと凛が視線を移した先には青い液体が満ちたカプセルが並んでいる。そしてその中に
入っているのを見て、三人は驚愕する。
「に、人間が入っている…!」
楓の表情が驚きから、怒りに満ち溢れたものへと変わる。
「凛姉、シャニー姉…こんな施設はさっさとぶっ壊そう!」
「そうだな、やるぞシャニー!」
そう二人に言われるも、シャニーは…
「でも、このままにしておいた方がいいんじゃないかしら…」
「お、おいシャニー!何言い出すんだよ!?」
「シャニー姉ぇ、みんなを助けないつもり!?」
怒気を含んだ声で凛と楓はそう発する。しかしシャニーは首を振り
「…違う、下手に破壊すれば、この人たちにどんな影響が起こるかわからないわ」
「た、たしかにそうかもしれないけど…でもこのままってわけにはいかないだろう?」
「カプセルから出したら、死んじゃったりしないといいけど…ん?なにか来る!」
三人が言い争っているところに、突如としてこつ、こつ、と二つの足音が聞こえてくる。
その姿は次第にはっきりと見え始める。
「毒花!」
「パリア…!」
現れたのは獄牙二大幹部。腕を組んだままどちらも不敵な笑みを浮かべている。
「あらあら、ここまで来ちゃったのねぇ戦姫のお嬢様たち」
「でも……あなたたちのやろうとしてること、そう簡単に実行出来ると思うっているの……?」
すると、周りにあったカプセルが一斉にひび割れ、中からバイオモンスターの軍勢が
現れた。
楓は大量のバイオモンスターに向かい、構えを取る。
「凛姉、シャニー姉…こいつらは楓に任せて、凛姉たちは…」
無言で毒花とパリアの方へ視線を移す。二人はそれに応え、頷く。
「楓、ここは任せたよ」
「任せといて!!せいやぁー!」
楓は軍勢の中心に飛び込み、戦いを始め出す。凛は毒花に向う。
「あたしらもやろうか、毒花!!」
「いいわ……あなたの血を、飲ませてもらう………わ」
そしてシャニーもパリアに向かいあう。
「パリア、あなたを今日こそ討ちます!!」
「ふふ、面白いわねぇ♪その綺麗なお顔をグチャグチャにしてあげる♪」
四人を中心に気が充満し、それが頂点に達すると、大爆発を起こし、一気に地上に
飛び出した。凛と毒花はジェットコースター、シャニーとパリアは観覧車の方へと
気を纏いながら、肉眼では捉えられないスピードで移動していく。
凛はコースターの進路上に降り立ち、降下と同時に仕掛けてきた毒花を迎え撃つ。
「天翔拳!!」
急降下蹴りを繰り出してきた毒花の脚に凛の拳がぶつかり合い、両者とも、
その勢いで吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「ぐっ!さすがに、最高幹部様はなかなかできるな…」
「大した力ね……だけど…幽覇様はおろか、私にも及ばないということ…教えてあげる」
「なめんなよ!!おりゃああ!!」
凛が駆け出すと、一気にスピードを高め飛び蹴りの態勢に変わる。
「飛竜脚!!」
勢いを乗せた必殺キックが毒花に直撃しようとする。だが、彼女は紙一重でそれを
かわし、回転しながら、掌から気弾を放ち、凛を襲う。
「くっ、気功弾!!」
素早く反応し、ぎりぎりのところで、同じく気弾を飛ばし、相殺させる。
「う、うああ!!」
しかし、その距離上、相殺した際の爆発を回避することは出来ず巻き込まれてしまう。
「……素直に食らっていればよかったのに」
「う、うるせー…あがああっ!!」
毒花は乱暴な口調の凛を見下す態勢のまま、無言で彼女の腹部を蹴り、勢いよく叩きつけた。
「あっけない最期だったね……さようなら」
毒花が呟くと同時に、凛に向ってコースターが物凄い速さで走りだしてくる。
凛はなんとか起き上がろうとするが、なかなか立ち上がれない。
「く、くそう…!」
ジェットコースター勢いは当然止まることなく、凛に直撃した…と毒花にはそう見えた。
しかし、一瞬の間のあと、毒花の視界に映っていたのはギリギリのところで
コースターを受け止め、踏ん張り、耐えている凛の姿であった。
「な、んて…奴……!」
「うぐぐぐ…!うああぁぁぁぁぁ!!!」
辛い表情を浮かべながらも、絶叫しながらジェットコースターを毒花に向かって投げ飛ばす!
驚きのあまり、回避が遅れた毒花はそれの直撃を受けて吹っ飛ばされる。
「……ぐぅぅぅ…!?どこに…そん……な…力が…」
かなりの痛手のはずだが、それでも特に声を荒げたりはしない。
しかし疑問だけはストレートにぶつける毒花。
「あたしはなぁ…幽覇を倒すまでは死ねないんだ!毒花!お前なんかに殺されるわけにはいかない!」
よろよろと起き上がる毒花。その隙を逃さず凛が突進し、右腕を引っ込めると気が纏われる。
「聖覇流奥儀!!鬼神撃砕!!!」
叫びとともに、引っ込めていた右腕を一気に突き出し、
強力無比な正拳突きが毒花の腹部に勢いよく突き刺さる。
「………っ!!」
「一撃…粉砕!!」
拳を放すと、毒花はその場に音を立てずに倒れ伏した。
「毒花!あたしの勝ちだな!!」
「…そう、あなたは勝った……けど………それでも幽覇様には勝てない…」
「ちっ、負け惜しみかよ!」
「シャニー・ハリソン……あの者に注意することね………ぐふっ…!」
意味深な忠告を残しながら、毒花は吐血し、完全に事切れると、光の粒子となり消滅した。
「どういうことだ…シャニーに注意しろって…」
どこか不安げな気持ちを抱え、凛はシャニーの元へと向かう。
凛と毒花が戦いを繰り広げていた頃、シャニーは観覧車の前でパリアと対峙していた。
シャニーはパリアを睨みつけているが、パリアは怪しく笑みを浮かべたままだ。
「さあ、殺し合いを始めましょうか、シャニーお嬢様?」
「その前に、ひとつだけ聞かせてくれるかしら?」
「これからひっどい目にあうお嬢様のお願いなら、特別に聞いてあげるわよ♪」
あくまで軽いノリなパリアだが、シャニーは調子を崩さずに口を開く。
「バイオモンスターの工場に捕らえられてた人たち…まだ手を出していない?」
「ああ、あの人たちね。ええ、何もしてないわ。ただ捕まえているだけだから」
それを聞いて安堵するシャニー
「そう、よかった…あなたを倒してあの人たちを…」
「救うっていうの?本当にそれがお望みなのかしら?」
「なっ!?何を言って…」
パリアのぶつけた疑問にシャニーは何故だか一瞬驚いてしまう。
「シャニーちゃんはぁ、散々連春の人たちに責められてるんだもの。あそこに捕まってる
連中を助けたいなんて、本心なのかなぁ?」
「あ、当り前です!私は、この街の人のために…!」
「どんなに頑張っても自己満足…誰もあなたになんか感謝しない…そもそもこの街のために
なんて言って、本当は自分が正義の味方ぶりたいだけなんじゃない?」
パリアの言葉に困惑した表情を見せ始めるシャニー。
「う、うるさい!はあぁぁぁぁ!!」
シャニーは小さく飛び上がり、素早く回し蹴りをパリアに浴びせようとする。
しかし、パリアは余裕な表情のまま、片手で蹴りを放った脚を掴み、
そのまま投げ飛ばしてしまう。受け身も取れず、シャニーの全身に痛みが走る。
「きゃああ!せ…聖覇鳳凰拳!!」
なんとか起き上がり、巨大な気弾を放つがお見通しのように悠々と避けられてしまい
観覧車の一部を破壊してしまう。
「はぁ、はぁ……どうして、どうして当たらないの!?」
「慌てるシャニーちゃん、可愛いわねぇ♪そんな頭に血が上った状態じゃあ、
私に攻撃を当てようなんて、絶対に、無理♪」
パリアは息を切らしているシャニーに高速で接近し、彼女が防御する間もなく拳を放ち吹き飛ばす。
「うあああ!」
「まだまだ終わらないわよ!そぉれ!!」
シャニーを掴みあげ、そのまま空高く投げ飛ばし、黒いチャイナドレスの背の上に飛び乗る。
その重みと重力にシャニーは逆らえずにそのまま地面に強烈に叩きつけられてしまう。
「あああぁぁぁぁぁっ!!」
「いい悲鳴ねぇ…それが聞きたくてしょうがなかったわぁ」
全身傷だらけのシャニーを見つめ、手をかざすパリア。
「さて…それじゃ可哀想だけど、そろそろ殺してあげるわ♪」
かざした手に気が集まりだす。それは直撃したら肉片すら残るかどうか怪しいほど
巨大な気の塊である。刻一刻と迫る死刑執行の時間。パリアの浮かべる表情は
残酷な笑みであった…しかし、唐突にそれは苦しみの表情へと変わる。
パリアの胸に槍が突き刺さっていた。
「ぐあああぁぁ!!シャ…シャニー、ちゃん…まさか……」
倒れながらも槍を握っているシャニー。顔を上げると今度は彼女が不敵な笑みを浮かべていた。
「ドラゴンブレード…あなたの不意を突くにはこれしかなかったわ…はああああ!!」
別の空間から召還したドラゴンブレードを引き抜き、今度は縦に一刀両断する。
「あぁぁぁぁぁ!!」
絶叫しのた打ち回るパリアに、シャニーはさらなる追撃をしかけるべく、天高く飛び上がる。
そして蹴りの態勢に変わると、その脚の先に蒼い気が纏われ、超高速で降下しながら
パリアを狙い撃つ!
「聖覇流奥義!!彗星破断蹴!!!」
脚の先から広がった蒼い気は全身を包み込み、そのままパリアを貫く!
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
爆音を上げながら着地するシャニー。余りの勢いで、着地箇所が大きく凹んでいる。
「パリア…これであなたもお終いね……」
「ふふ……そうねぇ、シャニーちゃん…あなたは強かったわ…だけど…」
死が近くとも怪しい笑みを浮かべるのを止めないパリア。それに引いたように後ずさるシャニー。
「本当に、この街のためになる行動はなんなのか…よく考えるといいわ…うふふ……
あはははは……!」
狂気の笑みを浮かべながら、光に包まれ、パリアは完全に消滅した。
その後、獄牙の幹部を倒した凛とシャニーは楓のところへと戻る。
楓はところどころに傷を作りながらも、バイオモンスターを全滅させていた。
「やるじゃん楓!」
「ふふん、楓だって聖覇流拳法の使い手だもん!お姉たちに負けないよう頑張ってるもん!」
凛と楓が、盛り上がっている中、シャニーはパリアの言葉が頭から離れない。
「…この街のため、か…」
暗い表情のシャニーに凛が駆け寄る。
「なにブツブツ言ってるんだ、シャニー?」
「…え?い、いや、なんでもないわ…」
「シャニー姉ぇ、捕まってた人たちも解放したし、さっさとここ壊そうよぉ」
楓がシャニーの腕をぐいぐいと引っ張る。
しばらくして。遊園地の地下から巨大な火柱があがった。それはバイオモンスターの
工場が破壊された印であった。幹部も倒された今、獄牙の戦力はほとんど残っていない。
「あとは、幽覇の野郎だけだ!待ってろよ、幽覇!!」
凛の瞳に闘志の炎が燃え盛っていた。
次回予告「楓だよ!ついに獄牙の本拠地に乗り込む楓たち!楓は前に潜入したことあるし
案内しようと思ったら、あれれ!中の構造が変わってる!?それどころか
凛姉やシャニー姉とはぐれちゃうし…もう、迷路はゲームの中だけでいいよ!
それにしても…楓って目立ってない…」
投下完了。すみません、投下ペースが以前より遅くなった…。
なんとか昔みたいに早めて生きたいとこなのですが…。
年内に終わるかなぁ
275 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/11(金) 05:27:53 ID:C6X58HfE
>>274 投下お疲れさま
規制のおかげでレスの進行自体が遅くなっている。マイペースでお願いします。
シャニー迷いまくりだなぁ…でもこれまでの経緯的に
仕方ないとこもあるような。逆に凛はどこまでも真っ直ぐ感があるね
二人の正義の対比が面白い
>>274 投下お疲れさま。GJ!自分の行いに悩む正義の味方ってのは戦闘とは別に話に山場が出来て良いね。
その心のトンネルを抜けて思い切り暴れるイキイキとした姿には、鬱屈の反動のカタルシスがあるだろうと予想できて楽しい。
あと投下を年内に収めたい気持ちは分かるけど、年末は忙しいし、執筆なんかに使える週末は
溜まった疲れが一気に出て、無理すると風邪とか直ぐにひいちゃうから無理しないよう気をつけて。
投下は俺らには楽しい事だけど、作者さんにとっては義務でも仕事でも何でもないんだからね。
凛は男前だなぁ。シャニーは精神的に病みそうだがw
投下は早いのはありがたいが、やはり作者さんは無理せず
自分なりにやっていけばいいんじゃないかな
書くにしても気が乗らない時だってあるし
しかし以前、投下されてたブラックジュジュとかオーガストとかの
作者さんたちはもう投下はしないのかな?単純に忙しいのかもしれんが
凛、男前すぎるw
そして全く話題に上がらない楓・・・
>>278 ろここ作者さんなら避難所の方に来てたね
鴉ちゃんも続きを期待してるんだけど、どうなんだろう
過疎過ぎる
他に言うこと無いんか
282 :
武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/12/21(月) 22:10:20 ID:AeJh8Kxx
武神戦姫凛第十話投下します
第十話『獄牙決戦!心の行方』
獄牙のバイオモンスター工場を叩き潰し、二人の幹部、毒花とパリアを倒した凛たち。
これで戦力のほとんどを失った獄牙を完全に打倒するため、明朝に三人の戦姫は
幽覇がいる、連春の中央ビルへと向かう。しかし、ただ一人、シャニーだけ
不穏なものを心の内に隠していた…。
獄牙の本拠地である、中央ビルの前へとやってきた戦姫の三人。
不気味に静まり返ったビルを見渡し、凛が楓に対し口を開く。
「楓、お前この間、ここに潜入したんだよな?」
「うん!一番上までは行ってないけど、構造はわかってるよ!ほぼ一本道だから
すぐに幽覇のところにたどり着けるよ」
「なら、いいんだけど…」
無垢な笑顔で答える楓に、一抹の不安を覚える凛であった。
「とにかく、行くぞ!準備はいいな、二人とも!」
「全然大丈夫!いつでもいいよ!」
「え、ええ…いきましょう」
相変わらず、覇気がないシャニーだが、あまり気にしているわけにもいかない。
三人の気が高まり、それが最頂点まで達すると、光が彼女らを包む。
「「「戦姫転生!!」」」
掛け声と供に、三人の服が弾け飛び、一瞬の裸体を見せ付けたあと、それぞれに
纏われた光が新たなコスチュームを形成する。凛は紅、シャニーは黒、楓は桃色の
チャイナドレス風の戦闘コスチュームが彼女らを包み込んだ。
戦闘準備も完了し、三人は一気にビル内部へと突入する。しかし…。
「ああ!?おい、楓…複雑なものは何もないって言ってたよな?」
「そ、そう言ったけど…でもこんなの予想できないよ…」
三人の目の前に飛び込んできた光景。それは一本道の通路ではなく
植物が根を生やし、暗い雰囲気の屋内。しかもまっすぐに行けばいいというわけではない
複雑な迷路のような空間になっていた。
「とにかく、手分けして進めそうなとこを探していこうぜ」
「う、うん、わかった」
「そうね…」
頷きあうと、一先ず、それぞれ別々の部屋へと入り込み、階段なり、奥の通路なり
先へ進めそうなとこを探すことにした。
二人と別れ、適当な部屋を探っているシャニー。探りながらも、彼女の心の中には
いろいろなことがよぎってくる。
連春の人々からの罵倒の数々…誤りとはいえ、人を殺めてしまったこと、
パリアの言葉と、それに答えることが出来なかった自分自身…。
「……ちがう、ちがう…私はみんなのために戦っているんだ…!」
なんとか自分を立ち直らせようと、言い聞かせる。しかし、それでも
今までの出来事を気にしないなんて神経にはなれない。
その時であった、シャニーの心に向かって唐突に語りかける言葉が聞こえてきた。
『シャニー・ハリソン…本当にそれでいいのか?』
「!?…く、あなたは…」
すると、突然シャニーの周りが怪しく輝きだし、それは爆発するかのように
強い閃光を発した。
「きゃああー!!」
シャニーの叫びに気づいた凛と楓が大急ぎで、彼女が調査していた部屋に来るが
「シャニー!?…いない……」
「凛姉ぇ!シャニー姉ぇを探そう!」
どこかへと連れ去られたシャニー。彼女が倒れている場所、そこは広々としていて
余計なものは何もなく、窓の方に机があるぐらいで綺麗に整理整頓された、
オフィスの一室といったところ。
「……う、うん…?」
シャニーが目を覚まし、辺りを見渡そうとする。
「こ、ここは…?」
「目覚めたか、シャニー・ハリソン」
「!?…あ、あなたは…!」
声のした方へと振り向くと、そこにいたのは獄牙首領、幽覇の姿であった。
幽覇は大きな机の向こうに、椅子に座りながらシャニーを見据えている。
「幽覇!なぜ…いえ、今はそんなことはいいわ…ここであなたを倒す!」
シャニーは全身の気を集中し、先手必勝とばかりに幽覇に飛び掛る。
「飛竜脚!!…はっ!?」
高速で飛び蹴りを繰り出すが、攻撃が当たる直前に、幽覇の姿は、フッと幻のように
消えうせてしまう。
「なかなか速い…だが、私には追いつけまい」
背後から幽覇の声がすると、すかさず振り向き、拳に気を乗せる。
「気功弾!!」
シャニーの右手から気弾が放たれ、幽覇に向かって飛ぶが、彼女は片手で
それを弾き飛ばしてしまう。
「豪裂脚!!」
無数の蹴りの連打を幽覇に放ち、それは一寸の狂いなく、敵に直撃した…かのように思われた。
しかし、当たったと思った幽覇の肉体は霧のように消えうせ、シャニーの背後から衝撃が走る。
再び後ろに回りこまれ、手刀を首に打ち込まれてしまった。
「くっ…!」
「その程度か、シャニー?所詮、聖覇姉様の拳法など時代遅れということだ。
さて…では私の力をお見せするとしよう」
幽覇の長くボリュームのある髪が揺れたかと思うと、次の瞬間、シャニーの
目の前へと動いていた。
「なっ…!?」
「はぁぁっ!!」
幽覇の指先が目にも留まらぬ速さでシャニーの両膝を貫いた。
あまりの出来事に、その痛みを自覚するまで、一瞬の間があった。
「うぁぁぁぁ!!」
痛みが走り、血が噴出すると、絶叫しながら膝を地に付け、両手でなんとか身体を支える。
「これで、お前自慢の俊敏さも脚技も放てまい…シャニー、私に敵わないということは
今のでよくわかっただろう?」
そう言うと、ゆっくりとシャニーに歩み寄る幽覇。先ほどとは打って変わって
攻撃的な意思を感じ取れないほど、穏やかに。
「その傷自体は気力で回復も出来よう…だが、この場はどうしようもあるまい?」
「くっ……ここまでか…殺しなさい…!」
「本当にそれでよいのか、シャニー?私にはお前の心に渦巻くものが見えるぞ」
「な、なんのことです…」
幽覇とシャニーの目線が合う。
「辛い修行を耐えて、連春に戻ってきたというのに、街の愚民どもは、お前を
称えるどころか、少し気に食わないことがあったからとすぐにお前を責めるではないか。
そんな街の連中を守る価値は本当にあるのか?」
「も、元はといえばあなたが」
「私がこの街を支配したからとでも?心のあり方は、各々、昔から変わらんと思うがな」
幽覇の言葉にシャニーは言葉を詰まらせる。
「そんな身勝手な者どもに尽くす必要などない…それに、お前はハリソン財閥の令嬢。
本来はこのような真似をせず、人の上に立つ人間ではないか…」
「私は、そのような卑しい考えは…」
「お前が持っていなくても、陽凛明はどうかな…?」
「り、凛……?」
すると、幽覇の瞳が怪しく光り、シャニーがそれを見ると、瞳が段々、虚ろになっていく。
「そうだ。陽凛明はお前と違って、貧しい暮らしをしてきた。お前の暮らしを見て、
妬ましい思いをしていたかもしれないぞ。シャニー、お前と凛は親友だったかもしれないが、
本当にそうかな?親友の割にはお前の心のうちに気づいていないではないか…
本当に信頼しあう仲間なのか?」
「ちがう……ちがう…!そんなこと…」
幽覇の言葉が続くたびに、シャニーの瞳から光が失われていく。
「違わないさ…お前は孤独…街のものどもからも、親友と思っていた者からも
必要とはされていない……それどころか、皆、敵対心ばかり持っている…」
シャニーの脳裏に、すべての者が自分に襲い掛かる光景が浮かびだす。
その中には凛の姿も…それを見たシャニーは幻覚だと感じることもなく
ついに限界を迎えてしまう。
「あぁぁぁ……いやぁ…いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫し、涙さえ流しながら、その場に崩れ落ちる。
「もう、いやです……こんな、の…」
顔を手で覆い隠すように泣き崩れるシャニー。そんな彼女に幽覇が優しく手を伸ばす。
「シャニー・ハリソン…私の下へ来い…お前の苦しみを、私が解放してやろう」
シャニーがそっと顔をあげた先に見えた幽覇の顔は仏のように見えた…。
そして、ついに彼女は、幽覇の手を取る。師匠の仇だということを忘れたかのように。
「……誰からも必要とされないなら、私は…!」
「そうだ、素直に生きるのが一番だ…」
涙を流しているシャニーは気づかなかった。幽覇が怪しく微笑んだことに。
凛と楓は、ようやく見つけた階段を上り、最上階を目指していた。
「シャニーは、この先にいるはずだ…!」
「絶対助けようね、凛姉ぇ!…あっ!」
階段を上りきったのも束の間、その先にはバイオモンスターが道を塞いでいた。
「ちっ、まだこんなとこに化け物野郎を隠していたなんてな…ようし」
前に出ようとする凛。だが、それを楓は制止しようとする。
「楓?」
「凛姉、こいつは楓に任せて、凛姉は早くシャニー姉のとこにいって!」
素早く楓が怪物に飛び掛り、戦闘が始まった。凛はその様子を一度振り返り
見るが、すぐに向き直り、先へ進む。
「楓、ここは頼む…よし!」
―――ビルの最上階。上りきった凛の目の前には一つの扉が。
躊躇うことなく、その扉を開け、中へと入っていく。そこにいたのは
「遅かったな、陽凛明」
「幽覇!ようやくお前のとこにたどり着けた…お前を倒して、シャニーを取り戻し
お母さんの仇を討つ!」
凛が幽覇に向けて構えを取る。だが幽覇はあくまでゆったりとした姿勢のままだ。
「まあ、そう慌てるな…凛よ、まずはこ奴と戦ってみてはいかがかな?」
幽覇がそう言うと、コツコツと部屋の奥から足音が聞こえだす。
それが段々近づいていき、姿が次第に明らかになっていく。
「シャ、シャニー…よかった、心配したんだぜ」
凛がシャニーに駆け寄ろうとする。だが、シャニーはその手に気を集め
「…気功弾」
「なっ!?うわっ!」
いきなり、凛に向かって気を放ってきた。シャニーの全身から気が放出している。
それは本来の穏やかなものではなく、殺意に満ちたものであった。
「シャニー!?どうしたんだよ!」
「凛…あなたを殺す……」
凛の問いに答えることなく、シャニーは次なる攻撃の準備を始めていた。
「凛よ、やらなければお前がやられるぞ…ふふふ…あはははははは!!」
困惑する凛を見て、幽覇はあざ笑い、その笑い声が響き渡る…。
次回予告「凛だ…シャニーの奴、いったいどうしちまったんだ!?幽覇の野郎、
シャニーに何かしやがったな!だが、それがどうにか出来なきゃ、
あたしが殺されるだけだ…だけど、こんなシャニーと戦うなんて…
この拳で、シャニーを救ってみせる…」
投下完了です。なんとかここまで来た…といっても
今年もあとわずかですが。
>>277-278 ありがとうございます。こちらとしても無理はしないつもりで
やってるんですが、書くのは楽しかったりするので…w
でもペースはかなり落ちてしまったけれど
シャニー洗脳ktkr
このまま凛と楓も引き込んで、連春支配EDきぼんぬw
>>288 GJ!アホなんで具体的な感想とか出てこないけど楽しめた
精神を揺さぶられる正義のヒロインの姿は大好物
楽しんで書いておられるなら何よりだね
シャニー…裏切りというか、今までの仕打ちを考えると
しょうがないというか、なんだか悲しくなってくるなぁ
でもまなみの作者さんだし、今回も最後はハッピーエンドになると信じてる
◎GAMER'S FILE No.8
『G・ドライバー』
アンチャー討伐のために制作されたパワードアーマー第三号。
普段は四次元ブレスレットに格納されているが、
腕に装備して『プレイ・メタモル』と叫ぶと自動で装着される。
アーマーは白を基調としたボディに黄のストライプが入ったデザイン。
万能変形マシン『ドルフィン』を制御する媒介として開発されたアーマー。
当初、『ドルフィン』はパワードアーマーとは全く無関係に開発されていたが、
そのあまりの馬力の高さに生身の人間が操縦することは不可能と判断され、
精神感応式で操るパワードアーマーが後から開発されることになった。
アーマー単体でのスペックは、パワーが劣る他はG・ファイターとほぼ変わらない。
グワッシャァァァァァーーーン!!!
「あいたた……みんな無事!?」
「……なんとか……」
「ったく、千里の操縦はいつも乱暴すぎるんだよ」
「の、乗ってるこちらの身にもなって欲しいですわ!」
「はっはっは、すまんすまん」
変身中のゲーマーズ達は、ひっくり返ったマシンの下から何とか我が身を引きずり出す。
どうにか全員無事のようだ。
公道を猛スピードで疾走する四足歩行の獣型アンチャーを倒すため、千里に追跡を一任した一行。
命知らずの千里のドライビングで見事にアンチャーに追いつき、亜理紗と八重花の銃撃&鞭撃によりアンチャーを追い詰めたまでは良かったが……。
アンチャーに追いつくことしか考えていなかった千里は勢い余って目標を追い越してしまい、
慌てて方向転換しようとしてマシンをガードレールにぶつけ、見事に空中四回転クラッシュを決めたのだ。
当然、アンチャーにはその隙に逃げられてしまう。
『バッカもぉーーーん!!! こんな失態は、ゲーマーズ始まって以来だぞ!!』
立体映像で現れた長官は、すっかりカンカンである。
「も、申し訳ありません長官殿!! それもこれも全て千里さんが……!」
「ああっ、ウチ一人に責任押し付けるのはセコイでっ!?」
「いや、どう考えても千里のせいだろ」
「あたしもそう思う」
「かぁぁ、この裏切り者どもがっ!」
「……当前の反応……」
千里を冷ややかな目で見るゲーマーズ+長官。
しかし千里本人は妙に自信満々だった。
「だが安心せぇ、長官! ウチには起死回生の秘策がある!」
『秘策!? なんだねそれは!?』
「ふっふっふ……」
千里はビシッとVサインを長官に突きつける。
「失敗したら……ポーズしてリトライ選べばええんや!!」
「「『「「……はぁ?」」』」」
千里の意味不明の発言に、場の空気が白ける。
「い、いや、その……。そうすれば、またコースの最初からできるんやないかなぁーて……。ははは……」
慌てて弁解じみたことを言う千里に、ゲーマーズ達はますます冷ややかな視線を浴びせる。
「……ごめん、あたしゲーム脳って何かの冗談だと思ってたよ。本当にあったんだな」
「こ、この事実はどうにかして隠蔽しないと!! PTAにでも知られたらおしまいですわ!!」
「あたし……ゲームする時間、ちょっと減らそうかなぁ」
☆ゲーム脳は明確な根拠も無い、ほぼ完全に否定されている学説です。
身近に頭がパーなゲーマーが居たからと言って、安易に信じないようにしましょう!
「じょ、冗談やて、ほんの冗談! んもーっ、軽く言ってみただけなのにマジに取んなや!」
「……千里のボケは……つまらない……」
「関西弁キャラでボケがつまらないって、致命的じゃない?」
「大体、リトライって要するにリセットするってことでしょう!?
いつもいつも言ってますけど、失敗したからってリセットするのはおやめになってくださいな!
例えリセットしたって、ダダトルやガッシュが一度死んだ事実は変わらないんですのよ!!
千里さん、そんな彼らの犠牲を忘れてしまうつもりなんですの!? そんなこと、このわたくしが絶対に許しませんわ!!」
「だああっ、またいいんちょのリセット否定論が始まってしもたっ! つーかダダトルとガッシュって誰やねん!?」
「そんなことはいいから、急いでアンチャーを追うのを再開しないとヤバイだろ!!」
「キキッ! ゲーマーズ、オロカナリ!」
「え」
パァンッ!
「あ」
「……完了……」
ゲーマーズを嘲笑するために姿を見せた獣型(ネズミ型?)アンチャーは、あっさりと亜理紗に眉間を撃ちぬかれて消滅した。
「……ふう、これでお役ゴメンやな! ウチはそろそろバイトの時間や、ほななーっ!」
「あっ、逃げた!」
ゲーマーズが放心している一瞬の隙を突き、千里はあっという間にマシンに乗ってとんずらぶっこいていた。
『キミたちぃっ、今までは何も言わずにいたが、今日こそはビシッと言っておくぞ!!』
頭に湯気を立ち上らせた長官は、ゲーマーズ達を正座させると、くどくどとお小言を拝領たまわってくださる。
「……本人の居ないところで連帯責任でお説教……最悪なパターン……」
「いやあああああああ!! 優等生はお説教には耐性が無いんですのよおおおおおお!!」
『大体キミたちはなぁーっ、自覚が足りんのだ自覚が!! 地球の平和を守るという重大な使命を帯びているという自覚が―――』
prrrrrrrrr...
「ん、誰の携帯だ?」
「こ、こらぁっ!! あなた達、任務中は携帯の電源を切れとあれほど―――」
『いやすまん、私だ。ちょっと待ってくれ。……あー、こちら長官。何の用だ?』
軽い調子で電話に出た長官だったが、何事か顔色が変わる。
『そ、そうか……。分かった、後はこちらで何とかしよう』
長官は携帯を胸ポケットにしまうと、困ったような表情でゲーマーズに向き直る。
「長官さま、どうなさったんですか?」
『う、うむ……それが……』
「言いたいことがあるならはっきり言ってくれよ」
『五十嵐千里が……』
「千里が?」
『……警察に捕まったそうだ』
「「「「……はぁぁっ!?」」」」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「堪忍……堪忍や、おまわりさぁ〜ん……。もしオトンとオカンにこのことが知られたら……ウチ、ウチっ……!」
「はいはい、迎えに来たよ」
「おおっ、おまえらっ!」
交番で三文芝居を続ける前科者のところに、ゲーマーズ達が迎えにやってくる。
地球防衛軍の公権力で根回しされていたため、千里はあっさりと釈放される。
「やっぱ持つべきものは友達やなぁ……」
「礼なら長官におっしゃってくださいな」
「で、なんで捕まってたの?」
「それがなぁ……」
長官の説教からバイクで逃亡していた千里は、まずスピード違反で引っかかり、そしたら免許不所持で引っかかり、
そんで警官がしょっ引いてみたら、そもそも千里は免許を取得していないということが判明したのだ。
「あたしらバイクに乗せてる時も無免許だったのかよ。じゃあ3人乗りとか犯罪もいいところじゃないか」
「……それは……元々違法……」
「はっはっは、すまんすまん! どうにもウィンカーって奴が苦手でなー、教習所卒業できんかったんや」
「ええっ!! 免許取ろうとして取れなかったの!?」
「そんなまさか……千里さんの操縦技術を持ってすれば、運転免許ぐらい簡単に取れるでしょう?」
「いやいや、マシン動かすのに必要な機能はちゃんと把握できるんや。でも方向指示器とか交通ルールとかって、マシンの動作そのものには何の関係も無いやろ?」
「まぁ、確かに」
「……だからって……任務中に事故られても困る……」
「まーまー! 次はちゃんとミスらないようにするよってからに!」
自信満々にそう言う千里だが、ゲーマーズ達は不安な思いがぬぐえなかった。
今回の失態を重く見た地球防衛軍は、急遽ゲーマーズの教育を目的としたパワードアーマーのマニュアルを製作・配布することとなった。
防衛軍の秘密基地の一室で、軽くマニュアルに目を走らせるゲーマーズ達。
「へー、G・アクションが身軽なのって重力干渉機能のおかげだったんだ」
「おい、見ろよ亜理紗! G・シューター、自力で空が飛べるって書いてあるぞ!」
「……知らなかった……」
「G・パズラーのマニュアルにも、長官様に教えて頂いた機能以外の物がいっぱい書いてありますねぇ」
そうして自身のアーマーのマニュアルに目を走らせる傍ら、ゲーマーズ達は千里にチラリと視線を飛ばす。
先ほど彼女に手渡されたはずのG・ドライバーのマニュアルは床に放置されており、本人はレトロな携帯レースゲームに夢中になっている。
(ドガッシャァァァァァーーーン!!!)
「あっちゃー、最近なんか調子悪いわー」
レースゲーム内でもクラッシュしてしまった千里は、頭をポリポリとかく。
それを見ていた八重花は何か思うところがあったのか、こんなことを言い出した。
「あたし、チサトの欠点が分かった」
「ウチの欠点?」
「……だから……ゲーム脳でしょ……?」
「ボケがつまらないことじゃなくてか?」
「いや、それはそうだけど、そうじゃなくて!」
「ほう、面白そうやんか。言うてみぃ」
八重花は少し間を置くと、千里の目を真っ直ぐ見据えて再び口を開いた。
「千里は限界のタイムを追及するために、常にリトライありきのプレイをしている。
だからチサトにとって大きかろうが小さかろうがミスはミス、全てのミスが等価値でしかない」
「……………………」
「でも、それじゃダメなんだよ。あたし達には、残機なんて一つも無いんだから。
些細なミスを避けるために致命的なミスを招いたら本末転倒、ゲーマーズ全体のピンチに繋がる。
何よりも致命的なミスを避ける、要するに生き残るためのプレイをしなきゃいけないんだよ」
「…………ほーん、なるほどな」
真剣な表情で黙って八重花の言葉を聞いていた千里だったが……。
次の瞬間、表情をコロッと締まりの無い笑顔に変える。
「でもヤエちゃーん、損得で決める人生って空しいでぇ? 死んだら死んだで、そん時はそん時やろ! わっはっは」
「そん時で済みますかぁっ!!!」
「ぎゃああああああああああ!!?」
千里のあまりにいい加減な態度にぶち切れ、昌子が千里の耳を掴み上げる。
「いたた、いた、痛いて、いいんちょ!」
「私、委員長なんてやっていません!!」
「ええっ、ホンマに!? 三つ編みメガネっ子てコテコテやん!?」
「黙らっしゃい!!」
「いで、いででででで!! 耳、耳ちぎれるて、いいんちょ!!」
意地でもふざけた態度を崩そうとしない千里を、昌子は無理やり引っ張っていく。
「ともかく、千里さんにはたっぷり6時間ほど、長官様に用意して頂いた更生プログラムを受けていただきますわ!!」
「ぎゃああああーーーっ!! 嫌やぁーっ、自由を奪われるぐらいなら三千円払ったほうがマシやーっ!!」
「たった三千円で自由が買えると思ったら大間違いですわっ!!」
「た、助けてヤエちゃぁーーーーーーん!!!」
……バタン。
千里と昌子の姿は、重い扉の向こうに消えてしまった。
「……ねぇ、千里って昔からあんな性格なの?」
「……さぁ……?」
八重花の質問に、亜理紗は小首を傾げる。
「さぁ、って……あんた友達でしょ?」
「……友達だよ……」
「それなら―――」
二人の会話に、佳奈美も割り込んでくる。
「千里とあたし達、知り合ったの半年前なんだ」
「えっ、そうなの?」
「……佳奈美と近所のゲーセンで遊んでたら……千里がふらっとやって来た……」
「へー、もっと長い付き合いなのかと思ってた。もしかして佳奈美と亜理紗も?」
「いや、あたし達は中学入る前からだから……五年来ってとこだな」
「ふーん」
などと残された三人が雑談している間にも、千里と昌子は地獄の特訓を繰り広げていたのだ。
「走行中、目の前の信号機が黄色くなっています! さぁ、千里さんはどうします!?」
「赤になる前に突っ切る!!」
「どあほーーーーーッ!!!」
スパァン!とハリセンの音が部屋中に響く羽目になる。
「いいですか、千里さん! 考えるよりもまずはマニュアルの暗記です!
こういう状況では、こう行動するのが最も安全! そういう定石を全て頭に叩き込んで頂きます!」
「嫌やっ!!」
「嫌じゃ済まないんですのよっ!!」
再びスパァン!と音が響く。
……が、千里は少し寂しそうな瞳で昌子に訴えかけてくる。
「分かってくれや、いいんちょ……。ウチはな……型にハマるのが、どうしても嫌なんや」
「そ……そんな、勝手な……!」
「勝手なワガママみたいなもんだっちゅーことは分かっとる……やけど、ウチは……」
「……………………」
寂しそうに目を逸らす千里を見て、どうにも居たたまれなくなってしまった昌子は、それ以上は何も言う事ができなかった。
昌子一人が力なく戻ってきたのを見て、ゲーマーズ達は千里の特訓が失敗に終わったことを悟る。
「やっぱり無理だったか」
「……予想通り……」
「千里はバカだから、難しいことを言われても分からないんじゃない?」
『いや、それは違うぞ』
不意に立体映像の長官が現れ、話に加わってくる。
「長官さん、ここ防衛軍の基地なんだから、たまには生身で出てきたら?」
『残念だったな、私の勤務地はここではないのだ』
「あっそ……」
「それで、何が違うって?」
『あぁ、そうそう。前に、学習塾に授業を受けに行かせたことがあっただろう?』
「わたくしは現在進行形であそこに通ってますけどね」
『その時、学力テストがあったと思うが、それの結果が……』
長官は、千里のテストの結果を立体映像で浮かび上がらせる。
「えええっ!? 全教科満点じゃない!?」
「……奇跡すぎる……」
『いや、これはそこまで難しいテストではないんだ』
「そうなのか?」
「ちなみにわたくしも満点でしたわよ」
『とはいえ、ろくすっぽ勉強していない落第生に解けるほど簡単でもない』
ジロッと長官に睨まれたバカ三人組は、目を逸らして口笛を吹いた。
「やっぱりそうなんです。千里さんは頭が悪いわけじゃないんです」
「じゃあ分かってて悪ふざけしてんのか。余計に性質が悪いじゃないか」
「いえ、きっと彼女なりにどうしても譲れない一線なんだと思います。アイデンティティーというか……」
「なら、どうするの?」
「それは……」
昌子は、ぐっとこぶしを握り締める。
「……諦めましょう!!」
ゲーマーズ達は盛大にずっこける。
「……結論が高度すぎて、あたしらみたいなバカには理解できないんだが……」
「千里さんはきっと、自由気ままに突っ走るためだけにゲーマーズをやっているんです。
そんな彼女にマニュアルプレイを強要するのは、ゲーマーにゲームをやめさせるのと同じ! そんなことは理論的に不可能です!」
「……ゲーマーって……薬物中毒者以下……?」
とうとう諦めの境地に達した昌子に、しかし八重花が異を唱える。
「待ってよ昌子さん、それって勝利や記録に拘らないレクリエーション型のゲーマーの話でしょ?」
「……千里が折れないのは……きっとこのままでも上手く行くっていう自信があるから……」
「だけど千里みたいな求道型のゲーマーは、壁にぶつかれば必ず別の道を模索しはじめるはず。つまり、千里に今のままじゃ駄目だと思わせることが出来れば……」
「なるほど、その発想はありませんでしたわ!」
「……でも……どうすれば……」
『エマージェンシー!! エマージェンシー!!』
「なんだよ、こんな時に……」
「ううん、これはチャンスだよ! アンチャーを利用して、千里を矯正する方向に上手く持って行ければ……」
「なるほど、早速作戦を立ててみますわ!」
出現したアンチャーの情報を元に、即興で『五十嵐千里・矯正計画♪』の計画書を書き上げる昌子なのであった。
公道を疾走するアンチャーが再び現れたとの報に、ゲーマーズに召集がかかる。
再びG・ドライバーのマシンに乗り込むゲーマーズ達。
「まーた同じタイプのアンチャーが出よるなんて、なーんか都合よすぎひん?」
「バカなことをおっしゃらないでくださいませ! 読者に何かの伏線と勘違いされたらどうなさるおつもりですか!?」
「千里が頼りなんだから、今日も頑張ってくれよ!」
「そうそう、千里はゲーマーズの大黒柱なんだから!」
「……いよっ……大統領……」
「……ま、ええか。じゃあ出発するで」
操縦席の千里はマシンを発進させる。
一方、他のゲーマーズ達は互いに目配せする。
(いいですか皆さん、今回の作戦で上手いこと千里さんの無力を思い知らせてやるのですよ!)
(……もちろん……)
(うーん、なんだかドッキリみたいでワクワクするなぁ)
(一応言っとくけど、アンチャー倒すのも忘れちゃダメだからね!)
直に目的地に辿り着き、ネズミ型のアンチャーの姿を発見する。
「早速おったな、逃がさんでぇ!」
追いかける千里、しかしアンチャーは木々の生い茂った山の中に逃げ込む。
しかしこれは昌子達の作戦通りであった。
最初からこの山に追い込むことになるよう計算して、作戦開始位置を設定したのだ。
「アンチャーめ、随分と厄介なところに逃げ込んだわね!」
「おい、こんな木ばっかりのところに猛スピードで突っ込んだら事故りたいって言ってるようなもんだぞ!」
「千里さん、ここはマニュアル通り、安全策を!」
「……減速……」
ロールプレイに慣れている昌子を除いて、やや棒読みの忠告をするゲーマーズ達。
しかし……千里は一向にマシンを減速させる気配が無い。
「ちょ、千里!? 減速だって言ってるじゃない!?」
「ウチは絶対に妥協せぇへん……。妥協するぐらいなら、死んだ方がマシやっ!!」
「えええええええええ!? ちょっとお待ちくださ……ひええええっっ!!!」
忠告に全く耳を貸さず、トップスピードを維持したまま山に突っ込んでいく千里。
流石に上手くかわしていくものの、脇を木の枝がかすめていくのだからゲーマーズ達は気が気でない。
「うわ、すっげー! こんなに障害物がある場所をこんなにスルスル行けるのかよ!」
「……すごい動体視力……」
「先読みスキルも高いっぽい?」
「感心してる場合ですか! 仕方ないから次の段階に移りますわよ!」
昌子はG・パズラーの機能の一つ、高機能マップを立体映像にて浮かび上がらせる。
「千里さん、アンチャーを10時の方角に追い込んでください! あちらは崖ですから、追い詰めることが出来ますわ!」
「らじゃ! 追い詰めた後のトドメは頼んだで!」
そうしてアンチャーを崖に向かって追い込んでいく千里。
そしてとうとう崖まで到達する。
「さぁ、年貢の納め時……なにぃっ!?」
突如としてアンチャーが翼を広げ、崖から飛び立ったのだ。
「なんだアイツ、ネズミかと思ったらコウモリだったのかよ!」
「千里さん、急いで減速を! このままでは崖から落ちてしまいます!」
「……………………」
「……千里さん?」
急に黙りこくった千里は何を思ったか、なんと逆にマシンを加速させたのだ。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!? そっちには崖しか無いのよ!?」
「そんなん見りゃ分かるわ!」
「お、落ち着いてください千里さん! ここはマニュアル通り、アンチャーの逃走先を予測して先回りを!」
「マニュアルなんて関係あらへん!! これがウチのやりかたや!!」
更にマシンを加速させる千里。
崖はもう目前だ。
「ま、まずいって千里!! もう道が無いって!!」
「道が無いっちゅうなら……空飛んだるわぁーーーー!!!」
「んな、むちゃくちゃなっ!?」
「と、止まってぇぇぇーーーーーっ!!!」
ゲーマーズの絶叫も虚しく、マシンは全速力のまま崖を走りぬけ、宙にその身を踊り出した。
…………………………………………。
「…………あれっ?」
来るべき衝撃に備え、目をつぶって身を縮こまらせていたゲーマーズだったが、
いつまで経っても浮遊感が消えないので、恐る恐るその目を開けてみる。
「……何……コレ……」
「嘘でしょ……?」
「はっはっは、ウチの言うとった通りやろ!」
先ほどの千里の宣言通り、彼女の操るマシンは戦闘機型の航空形態に変形していたのだ。
飛行によって更なる加速度を得たマシンは、逃げるアンチャーに容易に追いつく。
「おっしゃ! 亜理紗、ヤエちゃん、頼んだで!」
「わ、分かった!」
「……フライトシューティング……」
ピシィッ!!
ガァァン!!
アンチャーの動きを八重花の鞭が止め、亜理紗のチャージ弾がトドメを刺す。
その的確なコンビネーションにより、ケリは一瞬でついた。
胸部を貫かれたアンチャーは、力なく山へ墜落していく。
「ま、今回はウチのプライドとド根性が窮地を救ったっちゅーわけや。思いつきの作戦でウチを矯正させようなんて、カフェモカよりも甘い考えやったな」
「……なんだ……見抜かれてた……」
「ん、どうした八重花? 考え込んじゃって」
「いや……昔々あるところに、車道を走るレースゲームだったはずなのに、最終的に空を飛び続けるのが最速になったゲームがあってさ……それを思い出しちゃって」
八重花がどうでもいいことで考え込んでいた一方、真面目に考え込んでいた昌子は、沈痛な面持ちで顔を上げた。
「……皆さん、わたくし達が間違っていたみたいです。きっとこの奔放さこそ、千里さんの力の根源なんで―――」
その時、マシンがガクッと大きく傾いた。
かと思うとマシンが再び変形し、地上用の形態に戻ってしまう。
そして航空形態ではなくなったため、当然ながらそのまま高度を失っていく。
「お、おい、どうした千里!?」
「な、なんやぁ!? 制御が効かへんぞ!?」
「ちょ、冗談じゃないわよ、あたしまだ死にたくない!!」
「……アーメン……」
「「「「ぎゃ嗚呼あああああああああああああああああああああ!!!」」」」
ゲーマーズ達の絶叫を乗せて、マシンは山に墜落した。
幸い、人や施設は特に無かったようだ。
「あいたた……みんな無事!?」
「……なんとか……」
「ったく、千里の操縦はいつも乱暴すぎるんだよ」
「の、乗ってるこちらの身にもなって欲しいですわ!」
「はっはっは、すまんすまん。……って、前にもこんなやり取り無かったか?」
変身中のゲーマーズ達は、ひっくり返ったマシンの下から何とか我が身を引きずり出す。
どうにか全員無事のようだ。
「でも、なんで急にマシンが元の形態に戻ってしまったんだろう」
「ウチの気合が切れちまったんかなぁ」
「まぁマニュアルにも乗ってないアクションなんだから、不具合があった可能性もあるんじゃない?」
「いえ、その……」
何故か、気まずそうに口ごもる昌子。
「ん、どないした委員長?」
「その、非常に言いにくいんですが……あの航空形態、マシンのマニュアルに普通に載っているんです」
「へっ?」
昌子の指摘に、慌ててマニュアルの該当部分を引っ張り出してみるゲーマーズ達。
「あっ、本当だ!」
「……確かにある……」
「安全上の問題で航空形態だけはプロテクトがかかっていたみたいですけど、ちゃんとマニュアル通りに手順を踏めば問題なく起動できるかと……」
千里に向けて、四方向からジト目の視線が集まる。
「何よ、やっぱり最初っからマニュアル読んでれば済んだ話じゃない」
「……だから言ったのに……」
「コマンド表読まずに対戦するバカはいないだろ」
「んな、ウチの味方はおらんのか!? ついさっきまで持ち上げノリだったやんけ!」
「ちなみにマニュアルにはこうも書いてあります。航空形態の使用は十分が限度で、それを超過した場合、自動で通常形態に戻ると……」
千里に対する視線の圧力が、更に強まる。
「い、いや……その……」
じとーっ……。
「……す……すんまそん……」
千里が頭を下げたのと同じ頃、先に落下していたコウモリ型アンチャーがひっそりと消滅した。
301 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/24(木) 03:24:52 ID:uDcniRyY
チャチャチャチャラララン♪
『ウチが誇り高きヤングレーサーこと、五十嵐千里や!
なぁ、雑魚をどっかんどっかんいてこますのって気持ちええよなぁ?
辺りがちんまい雑魚で溢れてたら、得物をぶんぶん振り回すだけで大量やろな!
……なーんて、何も考えずに突っ込んでりゃオッケーなゲームがウチは好きなんやが、
中にはそうもいかへん特殊なクリア条件のあるゲームも少なくなくってなぁ……。
そん中でも特に難しいクリア条件が、アレやよ、アレ。……えー、なんやったっけ?』
次回、ゆけゆけ!!メモタルゲーマーズ
Round10「超難易度ゲーム!? 人質救出指令!」
ジャジャーン!!
『ウチの記録、破ってみぃや!!』
・・・イブの未明に俺は何をやってんだろう
次は一部の方に人気と噂の亜理紗のお話です
>>302 感想になってなくないか
>凛作者さん
シャニーの積もりに積もった恨みがついに…って感じですな
でもこうなっちゃったのはシャニーが純粋ってことなのかなぁ
>ゲーマーズ作者さん
千里は無免だったのかwあまり反省の色が見えない千里に
なんとなく憤っちゃう自分は、お硬い人間なのかなぁ
304 :
武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/12/24(木) 23:36:53 ID:FK6QvKih
武神戦姫凛、第十一話投下します
武神戦姫凛 第十一話『凛VSシャニー!悪夢の対決』
静寂が支配する空間。代わりに殺気に満ち溢れた少女がいなければ、
穏やかな空間だったかもしれない。少女、シャニー・ハリソンはその殺気を親友であった
陽凛明に向けて放っている。
「シャニー!目を覚ませ!」
「…はぁっ!!」
「ぐっ!」
殺気に纏われた蹴りが凛を襲う。紙一重で避けるが、依然としてシャニーの殺気は
治まる気配を知らない。なおも、シャニーの連続攻撃が凛に放たれていく。
「く、そっ…ああ!」
足刀蹴りをガードするも、あまりの勢いに吹っ飛ばされてしまう。
だが、壁に激突する直前になんとか受身をとり、体勢を整える。
「どうした、陽凛明。このままではお前はシャニーに殺されるだけだぞ?」
横から嘲笑う幽覇。凛は歯軋りしながら彼女を睨みつける。
「うるせぇ!幽覇…てめぇがシャニーを洗脳したんだろうが!」
「洗脳?何を馬鹿なことを…そのようないつ解けるかもわからん不安定な手段などとらん」
「じゃあ、なんでシャニーがあたしが襲うんだよ!」
その問いに静かに答え始める幽覇。
「私はシャニーの心に語りかけてみただけさ。この街に守る価値はあるのかとね/
そう、彼女は今、自分の意思でここにいるのだ」
「なん、だと…?」
「凛よ…お前は親友の心の内にも気づけぬ愚かな友人だよ…」
幽覇がぼそりと呟くように、言うと同時に再びシャニーの攻撃が凛を襲いはじめる。
「凛…死ねぇ!!飛竜脚!!」
「ちっ、飛竜脚!!」
二人同時に放たれた飛び蹴りがぶつかり合う。
だが、脚技においてはシャニーの方が上だ。僅かなパワー差から凛は力負けし
床に叩きつけられてしまう。
「うああ!!シャ、シャニー…正気に戻れ!!」
「……豪裂脚!!」
「ぐがあああああああ!!!」
倒れながらも、シャニーに説得を試みるも、その言葉は届かず、彼女は無慈悲に
得意の連続蹴りで凛を高く蹴り上げる。
「天翔拳!!」
「…がはっ……ぐほぉ…!」
凛の身体が宙に浮いたところを、その腹部にアッパーを打ち込み、めり込ませる。
無防備なところに重たい一撃が加えられ、凛の胃の中のものが逆流する。
「はぁ…はぁ……シャニー…!」
親友同士の対決という展開に、幽覇は心底愉快なようで、怪しく笑みを浮かべたままだ。
「ふふふ…凛よ、辛かろう?苦しかろう?」
凛は倒れ込みながらも幽覇をキッと睨みつける。
「幽覇…!あたしは正義の武道家だ…こんなとこで終わるわけには…!」
「そのような肩書きは捨てて、我の部下にならぬか?」
「なっ…!?」
突然の申し出に困惑する凛。さらに幽覇は言葉を続けていく。
「お前たちは獄牙のバイオモンスターはおろか、毒花やパリアも倒したほど。
私の部下としては申し分ない力がある。今なら、これまでの行いを水に流してやろう…
どうだ、私とともに、この連春を王となろうではないか」
その台詞に当然、反抗する凛。
「ふざけるな!!誰がお前の手先になるものか!!あたしは…お前を倒す、
それだけのためにこの街に帰ってきたんだ!」
強い語気で吐き出す凛。その言葉を聞いた幽覇はため息を吐き、冷ややかな視線で凛を見つめる。
「残念なことだな…仕方ない、シャニーよ…今度は確実に息の根を止めろ」
シャニーが再び構えを取り、凛に対して殺気を放ってくる。
凛もなんとかヨロヨロと立ち上がりながら、構えを取り、その腕に気を集めていく。
「気功弾!!」
放たれた気弾を凛は冷静に、その軌道を捉える。
「…斬雷波!!」
気を溜めた手刀を水平に払い、飛んできた気弾を見事、跳ね返す。
それに対応できなかったシャニーは、自分の放った気に打ちのめされる。
「きゃあああ!!」
吹っ飛ばされるも、なんとか立ち上がるシャニー。その瞳に映る凛の姿はどこか悲しそうであった。
「シャニー!お前は本気で獄牙なんかの一員になってしまったのか!?」
息を切らしながら、立ち上がるシャニーが、憎しみがこもっているような目で
凛を見据えながら、答え始める。
「…私は、この街に来て、獄牙と戦い始めて…だけど、連春の人々は
身勝手なことばかり……本当の諸悪の根源はそんな人の愚かな心よ!」
さらにシャニーの台詞は続いていく。
「そして凛…あなただって、私を助けてはくれなかった……」
「シャニー…」
「こんな街、守る価値なんかないわ!!はぁぁぁ!!聖覇鳳凰拳!!!」
募った恨みで力をつけたのか、必殺の気弾はいつもより巨大であり、間もなく
凛に向かって、それは放たれる!
「…聖覇鳳凰拳!!!」
凛がそれに対抗して奥義を放つが、その気弾はシャニーが放ったものより
小さく、比べると弱弱しく見える。だが、それは気弾同士がぶつかり合った瞬間に
膨張し、憎しみの気弾を打ち破り、シャニーに直撃した!
「あああぁぁぁぁっ!!…なぜ……凛…?」
倒れたシャニーに凛は歩み寄り、上体を起こし、顔を上げさせると
パァン!と乾いた音が響いた。
「えっ…?」
「シャニー…このバカ!!」
平手を放った凛の目は怒りが込み上げている。そんな彼女を頬を押さえながら見つめるシャニー。
「お前は…みんなから称賛してほしくて、この街に帰ってきたのかよ!?
あたしらの目的はただ一つ…そこにいる、お母さんの仇討ち!そうだったじゃないか…!」
「でも、でも…人の人格まで貶めるような人たちを許せるわけがない!」
勢いのある語気でシャニーに本来の目的を思い出させようとする。
しかし、シャニーはそれに反論。だが凛はさらに語りかける。
「そんなのクソくらえだ…周りの人がなんだ、そんな罵倒で完全に否定されちゃうほど
シャニー、お前の中身はないのかよ!?違うだろ、あたしはシャニーがどれだけ
頑張ってきたか知っている…全部を許せなんて無理だろうけど…本当の悪を見失うなよ!」
シャニーの心に凛の言葉が響き渡る。
「帰って来い…シャニー!」
「凛…今からでも、遅くはないの…?」
シャニーの疑問に、凛は笑みを浮かべながら、口を開く。
「ああ、シャニー…!さあ!」
凛に向かって手を伸ばしていくシャニー…だが、その時であった。
「…!?あ、あああぁぁ……!」
「シャ、シャニー!!」
シャニーの背後から衝撃が走った。そこには幽覇の拳がめり込んでいた。
「まったく…シャニーよ、お前はやはり聖覇姉様の子か…ふん!」
幽覇が回し蹴りを放ち、シャニーは一気に街全体を見ることが出来る窓ガラスに激突、
そのまま外へ吹き飛ばされてしまう。
「シャニー!!」
「惜しいことをしたな、シャニー…凛の言葉などに耳を傾けるからこのようなことになる」
「幽覇ぁぁぁぁ!!鋼割り!!」
怒りに身を焦がした凛が高く飛び上がり、手刀を幽覇に向かって振り下ろす。
だが、それは寸でのところで受け止められてしまう。
「くっ!ぐぅぅぅ!!」
「愚かしい…凛、聖覇姉様の拳法などでは私には敵わないということ…知るがよい!」
「うあああぁぁぁぁ!!」
腹部に気が放たれ、凄まじい勢いで壁に吹き飛ばされ、叩きつけられる。
なんとか起き上がろうとする間もなく、幽覇は目にも留まらぬ速さで接近し
拳の連打を凛に浴びせてくる。
「ぐあ!ああ!ぐぅぅっ!う、うぇ…!」
「苦しいか?凛よ、もう一度聞こうか…私の部下にならぬか?」
短い悲鳴を何度もあげる凛を攻めるのを一度止め、再び問う幽覇。
「ふ、ざ…けるな…あたしの目的は…お前を倒すことだけだ!!」
「よし、わかった…では、ここでお前の処刑を始めるとしよう」
再度の申し出を断った凛を幽覇は冷徹な瞳で見つめ、無慈悲に、その指を凛の右腕に突き刺した!
「うあぁぁぁ!!」
「こんなものでは済まんぞ…ふふふ、ははははは!!」
指を突き刺したまま、下へと動かしていく。メチチと、鈍い音を立てながら、凛の
神経系を切り裂いていく。
「あがああああああああああ!!!」
「まだまだ終わらぬ…はぁぁっ!!」
さらに左腕にも指を突き刺し、同じように神経系を破壊していく。
「ぐあああああああああ!!!」
「さらに…念のために、な」
激痛のあまり転げまわっている凛の両肩を的確に幽覇は踏み潰した!骨まで砕け
完全に腕の感覚も無ければ、力も入らない。
「ぐおぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ふふ、心地よい悲鳴を何度も上げてくれる…さあ、これでお前ご自慢の拳も
振るえなくなった。脚は無事だが…それだけではどうにもなるまい?」
「ぐはぁ…はぁ……お前なんかに…許しは乞わない!」
腕がダラリと垂れ下がりながらも、なおも瞳だけは強い意志をもったまま叫ぶ。
冷ややかな視線を幽覇は浴びせ、その両手に気が集まりだす。
「では、ここでお別れだな…すぐにシャニーにも後を追わしてやろう…」
「くそぉ…お母さん……」
瞳に涙を浮かべながら、凛は最期の時が来るのを眺めることしか出来なかった。
だが、その時、眩い閃光が部屋を照らし出し、轟音が響き渡ると、幽覇に向かって
気弾が飛んでくる。
「…むっ!」
それをかわし、気弾が飛んでいた方角を見る幽覇。
「凛姉ぇ!無事!?」
「か、楓…!」
そこには、桃色のチャイナドレスを翻した小柄な少女、楓の姿があった。
楓は凛に駆け寄り、自身の気を凛に流していく。すると、傷つけられた凛の肉体が
多少なりとも回復していき、腕も再び自由に動かせるようになった。
「ふふふ…そうか、まだお前がいたな、東雲楓」
「凛姉にひどいことして!それとシャニー姉はどうしたのよ!」
「シャニーか…奴はもう奈落の底へと落ちていったよ」
幽覇の言葉に、楓の拳がわなわなと震える。
「よくもシャニー姉を!!聖覇鳳凰拳!!」
「や、やめろ楓ぇ!!」
凛の制止も聞かず、楓は奥義を使い、幽覇にぶつけようとする。しかし…。
その気弾を幽覇は受け止めると、それを自身の力も含めて跳ね返してしまう。
驚く間もなく、楓は諸に食らってしまう。
「きゃあぁぁぁぁ!!」
「か、楓ぇぇぇ!!」
その場に膝から倒れ込んだ楓は、そのまま意識を失ってしまう。
「ふ、まったくもって未熟…中途半端な力で、私と戦おうというのが甘いのだ」
吐き捨てるように言うと、凛に視線を移す。
「さて…今度は完全にお前一人だな、凛」
「くっ…!」
「いくら腕が回復したとはいえ、お前だけでは私には勝てぬ…そして私も仮に
お前が許しを乞うことがあっても、受け入れはしない…あるのは死…それだけだ」
静かに、冷徹に言い放つと、幽覇の気が高まり始める。
凛も再び、構えを取ろうとするが、その腕は震えている。
「(あたしが恐れを抱いている…?)」
先ほどまで強い意志を持っていた凛だが、圧倒的な幽覇の力と
仲間を失ったことから、本来の力を出せずにいる。
「凛よ、恐ろしいであろう?だがその恐怖もすぐに終わる!」
「だ、だめだ…!くそぉぉぉぉ!!」
ただその場で立ち尽くすしかない凛。このまま終わってしまうのであろうか。
その時、突然部屋の入り口が爆発する。その衝撃で凛と幽覇はお互い、
衝撃から身を守るようにその場から後ろに下がる。爆発の煙が消えると、そこにいたのは
「シャ…シャニー!!」
「凛!!」
凛の表情が恐怖に染まりかけていたものから一転して明るくなった。
シャニーが強い闘志を秘めながら、再び姿を現したからだ。
これには幽覇も驚かずにはいられなかった。
「シャニー…まさか生きていようとはな…」
「幽覇!私は、もうあなたのまやかしには惑わされない!そして、自分を信じて生きるわ!!」
強い意志がその瞳に宿ったシャニーはつい先ほどまでとは、別人のようである。
そして凛がシャニーに続く。
「幽覇…さあ、今度こそ決着をつけようぜ…!」
「ふはは!面白い…聖覇姉様の子らよ、これで完全に終わりにしよう…!」
次回予告
「シャニーよ。私はもう迷わない!凛、今度こそ、お師匠様の仇を討ちましょう!」
「ああ、幽覇の野郎…確かにめちゃくちゃ強いが…あたしらだって絶対に負けないぜ!」
「楓だよ〜…あまり出番がないままここまで来ちゃったなぁ…ぐすん」
「な、泣くな楓!お前はこれからの逸材なんだよ、たぶん!
それじゃ、次回はついに最終回だ!あたしらの最後の技、とくと見てくれよな!」
第十一話投下完了。かつてのペースを取り戻したく候。
と、いうわけで、次回は最終回です。まなみより短い話数だったので
少し早足な展開になったかもなぁ…。
ゲーマーズ作者さん
千里は無免許だったのねw上手くいけば結果オーライなんだろうけど
他の仲間からすれば、それはなかなか危険なことだなぁ。
あと、マニュアルをちゃんと読まないはあるあるw
>>290 悪堕ちな展開好きですw変身ヒロインの要素として
個人的には必要だと思っていますw
おお、まさか同じ週に連続で投下されるとは!
次回は試練を乗り越えたシャニーの大活躍が見られるのかしら
それにしても腕直して速攻でやられた楓カワイソス・・・
>>311 GJ!
次回は一人では敵わない相手に対してシャニーと凛の二人がガンダム種のキラとアスランばりの
絶妙のコンビネーションで二人で一つの新たな体術に開眼して圧倒するとかいう展開がくると熱いな
吹っ切れたシャニーの暴れっぷりが期待できて楽しみ
314 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/26(土) 07:27:48 ID:X+kqx5zu
葉緑菜族の族長令嬢あさみは兄の代わりに都で行われる族長会議に出席することになった。ところが突如何かが爆発して一瞬にして記憶を失った。
あさみが目覚めるとなぜか荒野地帯にいた。しかも驚くことに首から下が無いのである。あさみは再生を試みるも頭だけでは再生のエネルギーは足りなかった。
そんな中向こうから少女がやって来る。あさみは必死に叫んだ。その少女、黄砂族の跡取り娘ひとみは生首が助けを求めているのに驚くも急いで駆け寄り食べ物と水をあさみに与えた。
あさみは無事全身を再生し、2人は都に向かったのだが驚愕の事実が2人を待っていた。
その頃王宮では女東宮の高子が王宮の惨状に愕然としていた。
何と使用人の服だけが大量に落ちていたのである。高子はまさかと思い両親の部屋に行くと帝の父親と皇后の母親の服だけが落ちていたのである。
その時、妹の朋子がぐったりしながら帰宅したのだった。高子が朋子を見ると何と右腕が無いのである。高子が言うには両手両足を失って左手と両足は何とか再生したものも疲れはてて右手の再生を断念したのである。
朋子はテーブルに置いてある栄養ドリンクを発見するとあっという間に飲み干したのであった。そして朋子は右手の再生に成功したのだった。
その頃桜族の族長代理の美香はエレベーターに閉じ込められていた。しかし自分以外の人は全員服だけになっていた。
315 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/26(土) 08:37:04 ID:X+kqx5zu
そして美香はある技を使い天井に穴を開けた。
「レッドクライム!」
この技は溶岩族の技だったが美香の母親は溶岩族の出身のためこの技が使えたのであった。
そしてその後どうにか脱出したものも美香が見た光景では大人の服の抜け殻と倒れた子供たちでしかも子供たちは手足を失った子供も多い。
そんな中美香はある少女を発見する。
「紗理奈ちゃん!」
紗理奈は湖水族の族長令嬢だが母は桜族の出身(美香の大叔母)でまた年も同じなので仲がよかった。しかし紗理奈の体は首から下が存在しなかった。
美香は紗理奈の首を持つと急いで地下の食品売り場に向かった。だが店員が服だけになってしまい会計をどうしようか2人は悩んだ。
美香は頭だけになった紗理奈が心配だったがカートの中の紗理奈は案外元気である。しかし頭だけでは不便極まりないので再生するしか方法は無かった。
◎GAMER'S FILE No.9
『G・アクション』
アンチャー討伐のために制作されたパワードアーマー第四号。
普段は四次元ブレスレットに格納されているが、
腕に装備して『プレイ・メタモル』と叫ぶと自動で装着される。
アーマーは白を基調としたボディに緑のストライプが入ったデザイン。
機動性を第一に考えて開発されたアーマーで、随一の軽量ボディを持つ。
自身を可変重力フィールドで覆うことで、高速移動や空中ジャンプ等を可能とする。
剣にも鞭にも変形する万能武器『ウィップソード』が標準搭載されており、
近〜中距離のあらゆる戦闘に対応することができる汎用性の高いアーマーと言える。
反面、パワー不足は否めず、単独で重装甲の敵を撃破するのは非常に困難である。
アンチャーの本拠地である異次元の暗黒空間。
その中央にある玉座の間で本を読んでいたアンチャー首領に向かって、まるで掴みかかりかねない勢いで迫ってきたのは、アンチャー幹部の一人である双弩だ。
首領が自分の出撃を許可してくれないことに業を煮やし、直接陳情にやってきたのだ。
「首領ォッ!! なんで俺を出してくれねェんだよ!!」
「双弩、癇癪はみっともないですわよ」
双弩よりも更に小柄な女口調のアンチャーが脇から現れ、双弩をからかうように言葉を投げかける。
「苦椴、テメェは引っ込んでろ!!」
「いいえ、引っ込むのは貴方の方です」
「なにィ!?」
「わたくし苦椴、この度ゲーマーズ討伐を首領様から一任されましたの」
自信に満ちた笑みで、手のひらで自分を指し示す苦椴。
「てめぇごときが奴らに勝てるか!! 在楼がやられた相手だぞ!!」
「在楼の敗因は、同時に一体の敵しか攻撃できなかったことですよ。更に付け加えれば……バカ正直すぎたところでしょうか?」
「テメェっ!!」
今度は本当に掴みかかる双弩だが、苦椴は襟首をつかまれても済まし顔だ。
「おまえ達、少し静かにしてくれないか? うるさくて本が読めないだろう」
やれやれと言った様子で、首領が本から顔を起こす。
「だって、首領!!」
「双弩、今は苦椴に任せておくのだ。おまえはいざという時のための切り札なのだから」
「そ、だから今は大人しくお留守番してなさい。き・り・ふ・だ・ちゃん♪」
「テメェーーーっっっ!!!」
再び苦椴に掴みかかろうとする双弩だが、床に突然開いた穴に落ちてしまう。
穴はすぐに塞がり、双弩の喚き声をシャットダウンする。
「ふう、これでようやく静かになったな。それでは苦椴、後は任せたぞ」
「はい首領様、吉報をお待ち下さい」
アンチャー首領にうやうやしく敬礼し、苦椴は玉座の間を後にした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ちょっ、また亜理紗の一人勝ちなの!?」
ゲームセンターでミニゲーム集合型ゲームで対戦していたゲーマーズだったが、結果は亜理紗の圧倒的な独走勝利である。
「……楽勝……」
「イチダントエールは連打系のミニゲームばっかりだからなぁ」
「あ、亜理紗さんはシューターでしたか。だから連打は得意なんですのね」
「マリコパーティ2でも独壇場だったし……」
「どうでもええけど、いいんちょ何でコスプレしとるん?」
千里の言うとおり、昌子は金髪ツインテールのカツラに加え、原色系の生地にフリルを編みこんだ貴族風?コスチュームに身を包んでいた。
「決まってるでしょう、わたくしはお忍びでここへ来ているのよ? もしこんな所に来ていることがお父様やお母様にバレたら大変ですもの!」
「なら目立つ格好は逆効果と思うんやけどなぁ」
「……場違い……」
「昌子さんち、厳しいんだね……」
「話は戻るけど、これで一回連射速度を計ってみたらどうだ?」
佳奈美が休憩所にかかっていた連射測定器のシュワッチを見つける。
さっそく計測してみた結果、亜理紗は秒間17.8連射ということが判明した。
「おお〜、高○名人を超えとるで!」
「でもあの人、ホントは全盛期に17連射できたらしいけどね」
「……大したこと無い……」
「どうした、照れてんのか?」
顔を見られないように逸らしてしまった亜理紗を、佳奈美が肘で小突く。
面白がった八重花と千里が、先回りして亜理紗の顔を覗き込む。
「どれどれ……なんだ、いつも通りの無表情じゃん」
「ほんま亜理紗はポーカーフェイスやなぁ。もちっと可愛げってもんが―――」
「あら、やっぱり亜理紗ね?」
いきなり二人の間に首を突っ込んで会話に割り込んできたのは、ゲーセンには場違いなスーツ姿のお姉さんだった。
ゲーマーズ達は怪訝な顔をして、名前を呼ばれた亜理紗とお姉さんを見比べる。
当の亜理紗は少し目を丸くしていたが、すぐに呆れたようなため息をつく。
「……亜希子お姉ちゃん……仕事、どうしたの……?」
「あはは、営業回りの一休みってところよ」
「あら、亜理紗さんのお姉さまでございましたか。わたくし、田宮昌子と申す者でございます」
「あ、これはご丁寧にどうも! 私、○○化粧品の……じゃなくて、亜理紗の姉の河合亜希子と申します」
金髪貴族コスプレの昌子と慇懃におじぎと名刺を交換するスーツ姿の亜理紗の姉、亜希子。
傍から見ると異様すぎる光景である。
「亜理紗に姉ちゃんなんておったんですか。ウチ、千里です。ほなよろしゅう!」
「あ、あの……あたし、宇崎八重花です」
「佳奈美です。お姉さんのことは亜理紗から聞いてます」
「あらあら、みなさんのことも亜理紗から聞いていますよ。昌子ちゃんは賢いし、佳奈美ちゃんは頼りになるし、千里ちゃんは面白いって」
「……あの……あたしは……?」
名前を挙げてもらえなかった八重花は、所在無さげに自分の存在を訴える。
「あ、八重花ちゃんのことももちろん聞いていますよ。八重花ちゃんは……ふふっ」
「ええっ!? なになに、家で何を言われてるのあたし!?」
「……お姉ちゃん……言ったら怒るからね……」
「おお怖い怖い。というわけだから、ゴメンね八重花さん」
「は、はぁ……」
「……あたし、トイレ行ってくる。お姉ちゃん、早く仕事に行ってよ」
居心地が悪くなったのか、亜理紗は姉を睨みながらトイレに退散する。
一方、亜希子は興味深そうにゲーマーズ達に向き直る。
「でも、本当に驚きました」
「何がですか?」
「実はさっき、亜理紗とあなた達が一緒に遊んでいるところをこっそり見てたんです」
ふふふっ、と軽く思い出し笑いをする亜希子。
「最初、人違いとすら思っちゃいました。だってあの子があんなに嬉しそうな顔をしているところ、久し振りに見たんですもの」
「嬉しそうな……顔!!?」
ゲーマーズの間に衝撃が走る。
「……おまえら、亜理紗の表情の変化、分かったかぁ?」
「い、いえ……てっきりいつも同じ表情をしてるのかと……」
「無理もないよ。あたしも未だによく分からないし」
そんなゲーマーズのリアクションに、亜希子は少しうつむいてしまう。
「……ごめんなさい、あの子、自分の気持ちを表情に出すのが下手で……」
「い、いやいや、謝るのはこっちの方ですって!」
「いいえ、あの子が扱いにくい子だってことは、私もよく知っていますから……」
八重花が慌ててフォローするも、亜希子は表情を沈ませたままだ。
「あの子、無愛想で、そのうえ人見知りが激しくて……よく知らない相手にはつっけんどんで……。
だからとても誤解されやすいんですけど……家族や、大事な友達なんかには、とてもとても優しいんです」
一人一人の目を見て、ゆっくりと彼女達に語りかける亜希子。
「あの子と友達になってくれてありがとう。そして願わくば、どうかこれからもずっと友達でいてあげてください」
亜希子はゲーマーズ達に対し深々と頭を下げた後、ゲーマーズに別れを告げて仕事に戻っていった。
「……ただいま……」
「戻ったか亜理紗。姉ちゃんはもう帰りよったで」
「亜理紗さんのお姉ちゃん、いい人でしたわねぇ」
「姉なんてみんな妹には甘いもんだよ。あたしもそうだし」
「ええっ!? 佳奈美って、妹持ちだったの!?」
「悪い?」
「いや、悪くは無いけど、なんか意外で……」
「……お姉ちゃんの話はもういいでしょ……早くゲームの続きを―――」
『エマージェンシー! エマージェンシー!』
「あー、そろそろ来ると思ったわ。長官、今日の現場はどこや?」
『いや、今回は少し事情が違ってな。現場から少し離れた地点に集まって貰いたい』
「……なにかあったの……?」
『それが……信じられないことにアンチャーが駅前の商店街に立て篭もって人質を取り、日本政府に要求をしてきたのだ!』
「なんだって!? あいつらにそんな知能があったのか!」
『要求は日本政権の委譲……。当然だが、こんな条件を呑めるはずも無い。だが奴らは要求を拒否をすれば、人質ごとアンチャー兵士を自爆させると言って来ている』
「迂闊に突っ込んだら、人質に被害が出るってことですわね」
『その通り。だが対策は既に考えてある。作戦開始地点の座標を転送するから、5人揃ってそこに集結するように!』
長官の指示通り、作戦開始地点に集まったゲーマーズ達。そこは高層ビルの屋上だった。
双眼鏡で商店街の方を除いてみると、確かに沢山のアンチャーが人質達を羽交い絞めにしているのが見える。
「確かにここからなら全てのアンチャーが見下ろせますが、こんなに現場から離れたところから一体どうするんですの?」
「いやいや委員長、こういうシチュエーションでやることなんて決まっとるやろ」
ゲーマーズ全員の視線が、亜理紗に集まる。
『流石に察しがいいな。今回は亜理紗くんの狙撃によって、敵をすべて排除してもらう』
「でも、G・シューターは遠距離狙撃には向かないはずだろ? まさか人質に向けてロケット弾も無いだろうし」
『安心したまえ、そこも解決済みだ!』
長官は歯を光らせてダンディポーズを取る。
『G・シューターの射程が短い理由は、高密度の弾丸を高速で打ち出すためのパワーが無いためだ。要は動力不足なのだよ』
「それが解決できたの?」
『うむ、こんな状況にも対応できるように秘密裏に開発していたシステムが二つある。
もう一つはまたの機会に話すとして、今回の任務で使用するのは、G・フュージョンシステムと呼ばれるものだ。
これはアーマー同士を連結させることにより、一点にエネルギーを集中し、莫大なパワーを生み出すことが出来る!』
「おおっ!! 要するに、合体技ってことやな!!」
『G・パズラーに簡易マニュアルデータを転送しておく。後は昌子くんに任せたぞ!』
「は、はい! やってみますわ!」
『『『『『プレイ・メタモル!!!』』』』』
「欲するは強敵、そして勝利のみ。
道を追い求め続ける孤高の戦士……『G・ファイター』!!」
「千分の一秒を削るのに命を賭ける。
音すら置き去りにする光速の戦士……『G・ドライバー』!!」
「狙った獲物は逃がさない。
視界に映る全てを射抜く戦慄の戦士……『G・シューター』!!」
「あらゆる死地を活路に変える。
フィールドを駆け巡る躍動の戦士……『G・アクション』!!」
「全ての謎は、ただ解き明かすのみ。
真理を究明する英知の戦士……『G・パズラー』!!」
『『『『『五人揃って、メタモル・ゲーマーズ!!』』』』』
「……って、一刻を争うこの事態にこの決めポーズって必要なんですの!?」
「ったり前や、任務以外でのバイク使用禁止に続いて、これまで禁止されたらウチは泣くでっ!!」
「……変身しないで戦うと……怒られるし……」
「と、とにかく急いでパワードアーマーを連結しますわよっ!」
G・ドライバーのマシンを装甲車型に変形させ、マシンを囲うようにゲーマーズ達のアーマーを連結させていく。
まず昌子がマシンの中央で腰のプラグを座席に連結し、G・フュージョンシステムを起動させる。
次に千里は後部のエンジンに両足から伸びるプラグを連結し、制御を行う。
更に佳奈美と八重花がマシンの左右でそれぞれ左腕と右腕を連結させ、機体を支える。
最後にマシンの先端部分には、G・シューターの長銃を連結させた亜理紗が寝そべる。
「どうだ亜理紗、行けそうか?」
「……うん……アンチャー、全部丸見え……」
「ねぇ、一匹や二匹じゃないんだから、連射できないとマズイんじゃないの?」
「そうですね、とりあえず再装填時間のシミュレートをしてみます」
言うなり、そろばんを取り出してカチャカチャやり始める昌子。
ただし実際はG・パズラーの内部で計算されているので、これは単なるポーズである。
「計算終了! 弾丸発射から再装填までの時間は、きっかり2.4秒です!」
「……秒で言われても分からない……フレームで言って……」
「フ、フレーム……?」
「144フレームや、亜理紗。基準は60でええんよな?」
「うわっ、千里、計算はやっ!」
「……了解……その程度の間隔なら十分……」
「あ、あの……フレームとは一体……?」
「昌子は分からなくてもいいよ。専門が違うからさ」
「そ、そうですか、よく分からないけど分かりました」
昌子は頭を切り替えると、意味もなくノリノリで腰の剣を振り上げる。
「さぁ、みなさんのエネルギーを亜理紗さんに集めてください!! いよいよ作戦開始です!!」
「よっし、行くぞぉ!」
「オーライ、送ったで!」
「こっちもOK!」
「…………発射…………!!」
パァン!!
高圧縮のエネルギー弾が放たれ、人質を抱えたアンチャーの頭をあっけなく吹き飛ばす。
「よっしゃ、命中や!」
「まだ他のアンチャーには気付かれていません! 今の内にどんどん始末してくださいませ!」
パァン!!
パァン!!
静かな発砲音が響くたびにアンチャーが一匹ずつ消えていき、人質が解放されていく。
そろそろ他のアンチャー達も異変に気付いたようだが、事態の把握にまでは至っていないようだ。
パァン!!
パァン!!
「ん……?」
不意に、佳奈美が怪訝な声を出す。
「どないした、佳奈美?」
「いや、今の発射、前回から142フレしか経ってないような……気のせいかな?」
「細かっ! ってか、なんでそんな正確にフレーム測定できるのよ!?」
パァン!!
「んー……今度は137フレしか経ってないぞ?」
「ゲームと違ってリアル機械なんやし、誤差があるんとちゃうん?」
「こら、あなた達! 黙って集中しなさい!」
パァン!!
……………………。
「ん、どないした亜理紗?」
不意に、規則正しく鳴らされていた発砲音が消えたのだ。亜理紗を見ると、何かに気を取られているようだ。
ゲーマーズ達も双眼鏡でそちらを確認してみると、そこに人質に取られていたスーツの女性には見覚えがあった。
「おい、あの人……!?」
「う、うん! 亜理紗のお姉ちゃんだよ!」
「そういえば、頂いた名刺には駅前の化粧品メーカーに勤務していると書いてありましたわ!」
もう残っている人質は彼女だけなのか、アンチャー達は亜理紗の姉・亜希子を囲んで自爆の準備に入る。
「まずいっ、狙撃が気付かれたみたいだよ!!」
「どうするんだ昌子、このままじゃ人質が!」
「ちょ、ちょっとお待ち下さい!」
「悠長に作戦立てとるヒマは無いで!!」
「……うるさいッ!!!」
「!?」
突如として放たれた怒号に、ゲーマーズ達は思わずキョロキョロしてその声の主を探してしまう、
それもそのはず、その大きな声は、なんと亜理紗から放たれた物だった。
「お姉ちゃんは……私が助ける!! だからみんなは黙ってて!!」
亜理紗の大声に狼狽するゲーマーズ達の返事を待たず、長銃の引き金を引く亜理紗。
パァン!!
パァンパァン!!
間断なく放たれた狙撃弾が、亜希子を囲う全てのアンチャーを一撃の下に貫いた。
「れ、連射!?」
「おい昌子、どういうことだよ? 再装填には2.4秒はかかるって言ってたよな?」
「お、おかしいですわね……全員のエネルギー総量を計算した結果、確かにその数字が出たはずなのですが……」
ともあれその勢いのままアンチャーを次々と討ち果たし、とうとう駅前を占拠していたアンチャーの全滅に成功した。
「……完了……」
「亜理紗に任せっきりやったから、ウチら暇やったなぁ」
「すぐに民間人の安全確保に参りましょう。再びアンチャーが現れないとは限りませんから」
現場に向かうゲーマーズ達だが、彼女達が辿り着く頃にはほとんどの人が逃げ出した後で、残っているのは怪我をした亜希子ぐらいだった。
「亜希子さん、大丈夫ですか!?」
「あ、あなた達は……亜理紗のお友達の……?」
「ほら亜理紗、姉ちゃんを安心させたりぃ。……亜理紗?」
振り向いたゲーマーズが見たものは、顔を赤くして倒れている亜理紗の姿だった。
「お、おいっ、どないした亜理紗!?」
「……だ、大丈夫……」
「体温が上昇しています……風邪でしょうか?」
「いや、さっきの狙撃で集中力を使いすぎたんじゃないか?」
「そうかも、知恵熱って奴だよきっと」
亜理紗を助け起こそうとするゲーマーズ達だが、その時、彼女達の頭上に影が降りてくる。
「あははははっ、さすがねゲーマーズ!」
「誰だっ!?」
「私の名は芭=苦椴。栄えあるアンチャーの幹部が一人」
「この前の弓矢野郎の仲間か!」
上空から現れたそのアンチャーは、前に出会った幹部クラスと同じくサイズは完全に人間大で、顔の部分には仮面が装着されている。
大きく違う点と言えば、その全身に纏った白い甲冑からは羽が生えており、おそらくその羽の力で宙に制止していることだ。
「あなたですか、日本政権をよこせなんて無茶苦茶を言ったのは!」
「あれは言ってみただけよ。別に私達はこんな国の政権なんて欲しくは無いの。だって人間みたいな虫けらと共存するなんてまっぴらゴメンだもの」
「虫けらやて!」
「虫けらを皆殺しにして、その上にアンチャーが支配する世界を作り上げる……そのためには地球防衛軍ならびに、あなた達ゲーマーズはとぉっても邪魔なの!」
アンチャー幹部はそう言って高く飛び上がったかと思うと、一欠けらの羽を振り落とす。
散った羽は丸太ほどの大きさになり、煙と轟音を上げながらゲーマーズに飛来してくる。
「誘導ミサイルかっ!?」
「あたしに任せてっ!!」
飛来するミサイルに飛び掛り、ウィップソードで真っ二つに撃墜する八重花。
チュドーーーン!!
しかしミサイルの爆発に巻き込まれ、八重花は吹き飛ばされてビルに身体を打ちつけ、気絶してしまう。
「ああっ!? ヤエちゃーーーん!!!」
「あははははっ、これで一匹目! お次はどの虫が駆除される番かしらっ!?」
再び、アンチャー幹部の羽からミサイルが放たれる。
「あたしに任せろっ!!」
「ま、待てや佳奈美!! 無謀すぎるて!!」
「無謀でも何でも、やるしかないだろ!!」
千里の制止を振り切り、ミサイルに飛び掛る佳奈美。
チュドーーーン!!
直撃を食らい、あえなく真っ黒焦げになって墜落する佳奈美。
爆風だけ受けた八重花よりもダメージは大きそうだ。
「うぉぉぉーーーん!! 佳奈美、おまえ漢やぁぁぁーーーっ!!」
「それで、次はどなたが漢になっていただけるのかしら?」
「……くっ……」
「なんだ、名乗り出ないの? なら面倒くさいから、まとめていっぺんにバームクーヘンになりなさい!!」
大きく広げられたアンチャー幹部の羽から、三発のミサイルが一度に放たれる!
「い、いいんちょ、バリアやバリア!!」
「む、無理です! あのバリアではあの爆発は防ぎきれません!」
「なんやてぇーーーっ!?」
チュドドーーーン!!
あわやと言うところで、ミサイル全てが空中で爆発する。
息を切らせながら立ち上がった亜理紗が、短銃で撃ち落としたのだ。
「あ、亜理紗、助かったで! でも身体は大丈夫なんか!?」
「揺れ動くミサイルを全て撃墜するなんて……そう、あなたね? 私の可愛い部下達の脳天をブチ抜いてくれたのは」
「……お姉ちゃんに続いて、佳奈美と八重花まで……おまえだけは、絶対に許さないっっっ!!!」
亜理紗が吼えると同時に彼女の身体、というよりG・シューターのボディが鈍い紫色の光を纏い始めた。
「ふん、許さなかったらどうするって言うのかしら? 抵抗したところで、どうせこんがりハンバーグになる運命なのに!」
本気を出したアンチャー幹部の羽から、数え切れないほどのミサイルが放たれる。
十、二十ではきかない。ひょっとすると三桁に到達しているのではなかろうかという数だ。
しかし次の瞬間、G・シューターの全身に取り付けられた火器の砲口が全て開き、無数のミサイルを漏らさず撃ち落としていた。
「なん……ですって!?」
「うおおっ!? よう分からんが、すごいで亜理紗っ!!」
更に亜理紗は、背中のバーニアを展開して、空へと飛び上がった。
「あ、あれ……どうしてG・シューターが飛行できるんですか!?」
「んっ、マニュアルにはG・シューターは自力で飛べるって書いてあったやんけ?」
「確かにそうなんですけど、G・シューターの飛行能力はパワー不足を解消できないために、実用レベルには至っていないはず……」
『これは、まさかバーストモードか!?』
驚きの声と共に、二人の会話に長官が割り込んでくる。
「長官、なんやそれ?」
『作戦前に言っていた、秘密裏に開発していたシステムのもう片方だ!
G・シューターのリミッターを外すことにより、一時的に限界を超えたパワーを引き出すことができる!
ただしその反作用は大きく、アーマーはもちろん、装着者自身にも負担をかけてしまうのだが……』
「それじゃあ、先ほどの狙撃で再装填時間が短くなっていったり、いきなり倒れたりしたのも?」
『うむ、G・シューターのバーストモードが発動しかけていたのだろう……おそらく亜理紗くんの精神力に影響されてな』
「なるほど、パワードアーマーは感応式ですから、本人の意識が機構に影響を与えても不思議ではありませんものね」
「前にウチが気合で航空形態を作動させたのと同じ理屈かいな」
一方、宙に飛び上がった亜理紗だったが、アンチャー幹部によってばら撒かれた散弾機雷によって、四方を弾幕に覆われてしまっていた。
「なんや、あの弾幕は!?」
「あれじゃあ、ハエの通る隙間もありませんわよ!」
しかし驚いたことに、亜理紗は弾丸のカーテンをいとも容易くすり抜けていく。
そのままあっという間にアンチャー幹部の間近まで到達する。
「……シューターは……撃つだけじゃない……!」
「へえ、まさかこの弾幕を抜けられる虫けらが居るなんてね! でもね、そんな安っぽい火器では私の装甲を貫くことなんてことは―――」
バルルルルルルルルル……!!!
「できはしない……わ、よ……!?」
台詞を言い終わらないうちに、アンチャー幹部の装甲は至近距離での秒間17連射に貫通され、本人も致命傷を負う。
「う、うそ……い、嫌よ、射殺されるなんてっ……! 私の最期は……美しい爆死って、決めて……。…………」
力なく地上に墜落したアンチャー幹部の身体は、そのまま消滅した。
「……お姉ちゃん……大丈夫……?」
「ありがとう、亜理紗。私なら大丈夫よ」
地上に降りてきた亜理紗は、真っ先に姉の下へ駆け寄る。
一方の亜希子も、亜理紗を安心させるために頭を撫でてあげる。
「……私……お姉ちゃん達を助けるために、頑張ったよ……!」
「なるほど、亜理紗の強さの源はシスコンパワーなんやな」
「……何か……言った……?」
バーストモードで開いた全身の砲口が、全て千里に向く。
「げげっ!? じょ、冗談やて、早まるなっ!!」
ぷしゅー……。
「あ」
突如として、G・シューターは煙を上げて動かなくなり、亜理紗も気絶してしまった。
「どうやらタイムリミットのようですわね」
「限界を超えたパワーを引き出してたんやから、こうなるのも当たり前か」
「……ふふっ」
いきなり亜希子が笑い声をあげたので、千里と昌子は思わず振り返る。
「この子があんなに怒った顔をしているの、久し振りに見ました」
「いいんちょ、亜理紗の顔の変化……いや、分からなくても怒ってるのは分かるか」
「全身から怒りのオーラが見えました……」
「この子が何より怒るのは、自分の大切な人が傷つけられた時……。私もですけど、皆さんを危機に陥れたことに対して怒ったんですよ、きっと」
「…………」
少し照れくさそうにほほをかく千里と昌子。
「……ま、今日の亜理紗は頑張ったし、家まで送ってやるかい」
「あのー、私も一緒に乗せてもらっていいかしら?」
「あ、道が曖昧なんで助かりますわ。いいんちょは?」
「わたくしはちょっと駅前で買いたい物があるので、それを買ってから自分で帰りますわ」
「ほーか、んじゃほななー!」
亜希子と気絶した亜理紗を乗せ、千里操る四輪マシンは走り去る。
昌子もそれを見送ると、変身を解いて歩き去っていった。
「ねぇ……あたし達、忘れられてない?」
「忘れられてるな。確実に」
昌子達が去った後には、ダメージで起き上がれない状態のまま取り残された八重花と佳奈美の姿があった。
「たまにあるんだよね。主役級にスポット当てすぎて、サブキャラの消息を完全にスルーされることが」
「まだプレイ中だったのにゲーセン閉められちゃった時のことを思い出すなぁ」
道端で仰向けに寝っ転がったまま、どこか呑気に二人ごちる八重花と佳奈美。
通行人の通報を受けて彼女達が救助されるのは、もうしばらく後のことである。
『よう、樋口佳奈美だ。
学校帰りに街をウロウロしてたら、
同じく学校帰りの昌子を偶然見かけたんだ。
なのに声かけても全然気付いてくれなくてさ。
仕方ないから気付いてもらえるまで後を追ってみてるんだけど、
何故か昌子はどんどん足早になっていって、一向に気付いてくれる気配が無いんだ。
ちぇっ、こうなったら気付いてくれるまで地の果てまでも追っかけてやるよ!』
次回、ゆけゆけ!!メモタルゲーマーズ
Round11「彼氏彼女と隠れゲーマーの事情!」
ジャジャーン!!
『あたしより強い奴に会いに行く!!』
みなさんのおかげでとうとう二桁の大台に乗ることが出来ました。
ご愛読ありがとう、そしてこれからもよろしくおねがいいたします。
戦姫が次回で最終回のようですね。
どんな決着が付けられるのか今から楽しみです。
それでは良いお年を〜!
>>316 投下お疲れ様
新幹部登場か
今度幹部は手荒そうだ
あとゲーマーズの正体は
まなみみたいにばれないのだろうか
防女スレで迷惑かけてたのが、沸いたか…
防女スレ?
軍事板にある防衛女子校設立スレで見当違いな感想や憶測で
SS作者を萎えさせてきた奴が
>>327。断言していいぐらいパターンがまんま
実際、あそこではこいつの所為で何度か荒れたし消えた作者もいた
そんなこのスレと何の関係もない他板のスレ住人と同一人物認定とか、エスパりすぎじゃね?
無意味なレッテル貼りは荒れるだけだからやめて欲しいんだが・・・
ま、信じる信じないはそちらの勝手さ。まあ今は消えてるが
以前はこのスレのおすすめ2ちゃんねるに防女スレもあった
なんにせよ、こいつが話をちゃんと読まずにレス付けてんのは明白だが
おまえら大量に投下があった直後にしなきゃならないような話か?
あいにく俺もまだ読めてないのが何だが、一応感想書いてる
>>327がスレ的には一番マシに思える
334 :
武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/12/28(月) 23:36:26 ID:XcNUscgB
>ゲーマーズ作者さん
亜里沙かわええなぁw普段は無口っぽいけど
その正反対で、感情を露にしながら、ズバっと喋るシーンとか良いですね。
口に出さないだけで、仲間を想う気持ちとかも良い
さて、武神戦姫凛、最終話投下します
武神戦姫凛 最終話『永久の覇者』
今までの罵倒の数々や自身の心の闇を振り払い、完全復活したシャニー。
そして幽覇を倒すこと、それだけを目的に生き、強い心を持った凛。
二人の目の前にいるのは、師の仇であり、その師の妹である幽覇。
それぞれの気は普段より高まり、すぐに戦闘が始まってもおかしくはない。
「始める前に少し聞いておこうか。シャニー、何故ここから落ちても助かった?
いくら、戦姫の気でも、ダメージを負っていたお前では、余程のことがない限り助かるまい?」
戦いの直前に幽覇がそう聞く。今、彼女らがいるのは超高層ビルの最上階。
こんなところから転落したら、確かに無事では済むはずがないのだが。
「幽覇、この街にも、まだ信じることが出来る人たちがいたということよ。
そして、そういう人の存在を忘れていたのが私の汚点ね…」
シャニーはつい先ほどの転落した瞬間を思い返した。
為す術なく、このままでは転落死を迎えるだけ…そう思われた。しかし
「シャニーさん!!」
突如したから声が聞こえたかと思うと、固い地面に激突した衝撃ではなく
柔らかいマットのようなものに落ちた感覚がシャニーに走った。
しかし、あまりの出来事でそのまま一度、気を失ってしまった。
「う……う、ん…」
しばらくしてようやくシャニーが目を覚ますと、その周りには、数名の男たちの姿が。
「み…皆さん!?どうしてここに…?」
そこにいたのは、凛やシャニー、楓の居候先であった中華料理店の大悟とその父。
ウイルスの特効薬を作り、街の人々はもとより、凛とシャニーも救った医師、エルンスト。
そして、楓とともに、獄牙のビルへと潜入したアレックスの姿が。
「シャニー姉ちゃんたちが、幽覇のとこに乗り込むって聞いて来たんだ」
まず、大悟がそう口にする。その言葉に、大悟の父も、黙って頷いた。
「私たちに出来ることは少ない…ですが、せめてこの戦いだけは見届けたい」
エルンストはそう言いながら、シャニーの傷の手当てをしていく。
「頼むぜ…あんたらのことを信じてる奴もいるんだ…それと楓のこともよろしく頼む」
アレックスは、そう伝えると、ビルの最上階に視線を移した。
こうして、心身ともに軽くケアを受けて舞い戻ってきたのだ。
「なるほど…こ奴らを信じても仕方ないということを、教えてやる必要がありそうだな」
「その余裕、ここで終わりにしてやる!いくよ、シャニー!!」
「ええ、凛!!」
それぞれの気が、膨れ上がり、ぶつかり合うと、互いに飛び出し拳を交えていく。
「せい!やっ!」
「甘い甘い…まだまだ物足りぬぞ!」
「ぐっ!てぇい!!」
まずは凛の拳の連打が幽覇に攻撃を仕掛けていくが、それらすべてを捌かれ、
逆に殴り返されるが、なんとか再び拳を繰り出すも避けられてしまう。
「はっ!ふんっ!たあ!」
「その程度か!」
シャニーの蹴り技が、間髪なく繰り出されるが、幽覇が繰り出した蹴りの威力で
それは相殺されてしまう。
「ちっ、なんて奴だ…!」
「凛、ここは私が…」
シャニーの言葉に凛は頷く。そしてシャニーは幽覇に向かって飛び出していき
「飛竜脚!!」
まずはシャニーの脚に気が纏われ、それを幽覇にぶつけようとする。
「むんっ!はぁぁ!!」
しかし、それを両手で受け止めた幽覇は、そのままシャニーの脚を掴み、一本背負いの
要領で、彼女を投げ飛ばし、床に激突させる。
「きゃああ!!くっ…凛!!」
「なにっ!?」
幽覇が驚く間もなく、凛は彼女の懐へと入り込んでいた。
「もらったぁぁ!!」
まずは拳を腹にぶつけ、間髪入れず、連続で打撃を放っていく。これには幽覇も
防御すことも出来ず、されるがままに打撃を浴びていく。
「ぐぅぅっ!!」
「天翔拳!!!」
とどめに、幽覇の顎に必殺のアッパーカットが炸裂し、吹き飛ばした!
凛は強い眼差しで、床に倒れ込んだ幽覇を見る。
「どうだ幽覇!」
力強く誇るようにしている凛であったが、幽覇は低く笑いながら再び立ち上がる。
「ふふふ……この程度では、私を倒すことなど…出来ぬっ!!」
瞬間、幽覇の周囲から風が巻き起こり、凛とシャニーはなんとかふんばりそれに耐える。
「えっ…!きゃぁぁぁぁ!!」
「シャニー!?うあぁぁぁ!!」
風が止んだかと思うと、凛とシャニーは吹き飛ばされていた。幽覇は風でフェイントし
本命である気弾を飛ばし、二人を攻撃したのだ。
「な、なんの!風斬刀!!」
「ドラゴンブレード!!」
専用武器を召還し、同時に幽覇へと斬りかかろうとする。しかし幽覇も黙って
食らうわけはなく、服の袖から三節棍を取り出し、それぞれの斬撃をガードし、
そのまま棍を回転させ、武器を跳ね飛ばしてしまう。
「ちっ!」
武器を拾おうと、駆け出そうとする凛であったが、そこに気弾が炸裂し
凛を爆風で吹き飛ばしてしまう。
「うわあぁぁ!く、くそ…」
「凛!よくも…気功弾!!」
シャニーが掌に気を集め、それを投げるように幽覇に向かって放つが、それも
三節棍で、軽くかき消されてしまう。
「ああ……!」
「私には敵わない…そのことがよく身に染みただろう?」
絶望感を与えようとする幽覇の台詞に、凛とシャニーは首を振る。
「まだだ……あたしらはまだお前を倒すことを諦めちゃいない!」
「そうよ!お師匠様から授かった拳法は、悪しき者を断つ拳法よ!」
二人の瞳には今なお、闘志の炎が燃え盛り、消える気配を見せない。
だが幽覇は二人を見下す姿勢を崩さないままでいる。
「まったく大した自信だな…ではそれ諸共、貴様らを消し去ってくれる!!」
「やれるもんならやってみな!!」
「私たちだって、あなたにやられっ放しじゃないわ!!」
幽覇の腕から気が流れ出し、それは凄まじさを見せ付けるかのように、ばちばちと弾けている。
「はあぁぁぁぁ……!獄龍拳!!」
叫びとともに、幽覇は凛に向かって高速で突進してくる。
その拳は、触れるだけで、消滅してしまいそうな力を持っているが、凛は冷静に
気を集中させる。
「…鬼神撃砕!!!」
双方の拳がぶつかり合い、間の僅かな隙間に迸る気は、どちらかがその気に飲まれても
おかしくないほどのものとなっている。
「…うぅぅおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「なにっ!?ぐおぉぉ!!」
歯を食いしばりながら、凛は渾身の力を込めてその拳を幽覇の胸もとにぶつけた!
幽覇は部屋の壁に勢いよう激突し、すぐに身を起こすが、ダメージはかなりのものらしく
血が流れ出している。
「おのれ…!おぉぉぉぉ…!!邪覇魔閃拳!!!」
今度は巨大な気の塊をシャニーに向かって放つ。だが、シャニーもそれを
冷静に見極め、その脚に気を纏う。
「彗星!!破断蹴!!!」
シャニーはその塊に脚から突っ込んでいき、幽覇の気を粉砕しながら、幽覇の
身体を貫く勢いで、直撃する。
「ぐあああっ!!くっ、いったいどうしたことだ…」
先ほどまでは幽覇が圧倒していた。だが、突如として戦姫たちは、力をつけ
逆に幽覇を追い込んでいる。
「幽覇!確かにお前は強い。二人掛かりでも、すごい強さだ…」
「だけど、あなたの拳には心がない!本当の強さがない技になんか、私たちは負けない!」
二人の言葉に苦々しく感じた幽覇は二人を睨みつける。
「私に負けない、だと…?甘い、甘いわぁぁ!!」
逆上した幽覇の周りから無数の気弾が無差別に飛び交じり、戦姫を襲う。
それを二人は回避していくが、これでは近寄ることもままならない。
「ちっ…うあっ!」
「凛!!」
気弾の一つが、凛の額を掠める。ダメージは小さいが、このっまではいずれやられてしまう。
「この技からは誰も逃れはしない!ここで滅びろ戦姫の小娘ども!!」
高らかに笑い、攻撃の手を休めることはない。打つ手なしかと思われた。
「聖覇鳳凰拳!!!」
唐突に凛でもシャニーでもなく、巨大な気が幽覇に向かって放たれた。
「なにっ!?ぐあぁぁぁぁ!!」
「か、楓!!」
「楓ちゃん!!」
ようやく目を覚ました楓が、奥義を放ち、二人を助けたのだ。
凛とシャニーばかりに集中していた幽覇はこれには対応できなかった。
「凛姉!シャニー姉!幽覇、楓にだってすっごい技があるんだから!!」
隙が出来た幽覇に掴みかかり、そのまま天井すれすれまで飛び上がり、幽覇を床に
ぶつける体勢となる。
「東雲流!地獄車ぁぁぁ!!」
「ぐっ…あぁぁぁぁ!!!」
床に激突させると、再び飛び上がり、回転しながら跳ねるように、何度も何度も
幽覇の身体を床に叩きつけていく。
「凛姉!シャニー姉!今だよ!!」
「わかった!シャニー!!」
「いいわよ!凛!!」
一気に大ダメージを負った幽覇を挟むような形で二人は駆け出し、接近する。
「雷刃拳!!」
「豪裂脚!!」
「うあぁぁぁぁぁ…!」
二人の得意技が幽覇にすべて直撃すると、さらに気を全身に集中する。
「「究極!!!天覇乱舞!!!!」」
挟み撃ちの形で凛とシャニーの拳が、脚が、無数に放たれ、幽覇を打ちのめしていく。
その一撃、一撃は非常に重く、幽覇は床に手と膝をつく。
「チェストォォォォ!!」
「せいやぁぁぁぁっ!!」
しかし、休む間もなく、止めのアッパーカットとサマーソルトキックが幽覇を宙に浮かせる。
「「至高!!!聖覇鳳凰拳!!!!」」
「うあああぁぁぁぁぁぁ!!!これが、戦姫の…聖覇姉様の拳法……!」
そして、完全に無防備な幽覇に奥義を放つ。それに飲み込まれた幽覇の表情は苦しさより、
どこか悟ったような表情でいた。
戦いが終わり、そこには傷だらけだが、しっかり立っている三人の戦姫と
敗れ、息も絶え絶えな幽覇が倒れていた。
「……戦姫の小娘たち…私の負けだ…聖覇姉様の拳、否定していたものにやられた…」
「幽覇…何故、この街を支配して、お師匠様を…あなたのお姉さんを殺したの?」
シャニーが聞くと、幽覇はゆっくりと話始める。
「…それは、な……私も、姉様が元いた世界の再生のためだ」
「な…お前とお母さんが、この世界の人間じゃないってことかよ…?」
「その通りだ…私たちは生まれた時から、正反対の心を持った存在…
いつか、衝突することは避けられなかっただろう…」
聖覇と幽覇。二人は別次元の世界の人間。その世界は荒れ果てていたが、立て直す方法が
見つかった。それは人間界の感情から発せられるエネルギーを集めることであった。
それを転換して、世界の再生のために活かそうというもの。
聖覇は自信が編み出した聖覇流拳法を通して喜びや愛情などを教えようとしていたが、
それでは時間が掛かりすぎると、幽覇はあらゆる人種が集う、この街を支配して
手っ取り早く苦しみ、嫉妬、憎悪など、マイナス方面のエネルギーを集めることにした。
だが、人々を苦しめる行為をよしとしない、聖覇と対立することになり、今に至る。
「お前や、お母さんの世界が荒れてたことには同情するよ…けど」
「そのために、この街の人々を苦しめた行為…それは見逃すわけにはいきません」
「そうだな…私は……聖覇姉様のやり方を否定していたが…結果的にそれが
誤りだったということ…お前たちとの戦いで気づかされたよ……
だが、それは遅すぎたようだ…がはっ…!」
吐血し呻く幽覇。その命の火はついに消え去る時を迎える。
「戦姫…聖覇姉様の子らよ……許せとは言わぬ…だが、聖覇姉様に…すまなかったと
伝えてくれ……ぐふっ…!」
その一言を伝え、幽覇の火は消えた。
「幽覇…」
「私も、こうなるかもしれなかったのね…」
幽覇が倒されたことにより、獄牙は完全に力を失い、連春を支配するものは無くなった。
ついに訪れた平和に人々は歓喜する。戦姫を称える声も多数あったが
本人たちは話半分程度に止めて聞いていた。
―――三日後。戦姫たちは、かつての聖覇流拳法の道場へと戻ってきた。
凛は聖覇流拳法道場の看板を新たに作り、それを門の前に付ける。
「今日から、聖覇流拳法の新たなスタートだ。あたしはお母さんの志を受け継いでいくよ。
シャニー、楓、お前らはどうする?」
凛の問いに、シャニーは静かに答え始める。
「凛…私ね、今回のことで自分の未熟さを思い知ったわ…もっと精神的にも
強くならなきゃって思った。だから、私もここに残って修行のやり直しをするわ」
シャニーに続いて楓も、笑顔で喋り始める。
「楓も、もっと凛姉やシャニー姉みたいに強くなりたいから一緒にいるよ!
半人前だなんて言われたくないもん!それにお姉ぇたちが大好きだから!」
「そ、そうか。じゃあ、当分三人一緒のままだな」
「ええ、凛。そうと決まればさっそく稽古を始めましょう!」
以前、掃除や修繕を行ったとはいえ、見かけはまだまだボロボロな道場内で
三人は組み手を行い始めた。しばらくして凛とシャニーが試合を始める。
それは、どちらかの憎悪からではなく、正々堂々の戦いである。
「いくぜ、シャニー!!」
「かかってきなさい、凛!!」
それぞれの拳と脚がぶつかり合う。どちらもその表情は清々しく
汗の粒すら輝いて見える。どちらも互角のまま、決着はつかない。
「ようし…本気でいくよ、シャニー」
「わかったわ!」
「「戦姫転生!!!」」
チャイナドレス姿へと変身した二人の技が再びぶつかり合う。
外には澄み切った青空が広がっていた。
投下完了!これで戦姫の三人の話は終わりです。まなみの頃から変わらない
キャラの安定のなさとか、無理やりな展開とか多くて反省が多い…
とりあえず、少しでも読んでる人が楽しんでくれれば、これ幸い。
近いうちに、また、まなみの時みたいにネタ付き設定集でも作ってみるかなぁ。
今日はチャットに行ってみようかと思います。
それじゃ、見てくださった方々、ありがとうございました。よいお年を
>まなみ作者さま ゲーマーズ作者さま
投下乙&完結乙でした!
ここのところ投下ペースが早い!
しかし途中も含めてまだ読みきれてない部分もあり、申し訳ない。
年末でとめて読ませていただく所存につき、感想は後日必ず!
ともかく今年後半はあまり顔が出せませんでしたが、来年もまた
よろしくお願いいたします。ではではみなさま良いお年を。
戦姫終わっちゃったか
シャニーのネガティブさがすっかり吹っ切れたみたいで良かった
連春もこれからは良い町になるといいな
チャットの方は最近出入りが無いのかな?
チャット部屋は使わないと落ちるから、
上の方にあるってことは出入りは一応あるようだ
突然ですが、投下させてもらいます。
下記の作風が肌に合わないかたはスルーかNGをお願いします。
注意書き
:王道の一話完結変身ヒロインものではなく、ファンタジー戦記の色合いが強い一続きのストーリーものです。
:戦闘とシリアスばかりで女の子の萌え萌えな日常が皆無です。
:百合要素が濃いです。(好きじゃない方も多いので、特にここは注意してください)
:電波な台詞が多用されます。
:序盤は主人公が変身しません。
:無駄に長いわりに、投下ペースは非常に遅いです。
:「漢字(カタカナ)」等、中2的表現が多用されて若干恥ずかしいです。
では、投下いたします。
遠い昔、まだ、人類のほとんどが文明をもたず、原始と呼ばれた古代。西洋のとある国において、大規模な戦乱が巻き起こった。
戦争とは、国と国、民族と民族、宗教と宗教。対立する二つの軍団が争うものだ。
しかし、これは人類が経験する、最初で最後になったであろう、『種と種の生存競争』であった。
ひとつは「赤の王国(ポルフィルン)」。
ひとつは「血界の民(アルデマー)」。
二つの霊長が存在し、その力は拮抗していた。
互いに猿から進化し、現在の『人類』と何も変わらない姿をしていた。
しかし、彼らは互いが同種であると認めることはできなかった。
憎しみの連鎖。
戦乱は千年にわたり、続いたという。
数え切れない死が。多い切れない血が。地球を覆ったという。
争いを重ねる中、人は人ではなくなり、命の価値を失い、何のために戦っていたのかも忘れ。
正義など問題ではない。
ただ、生きることだけが正しさである。
すべては終わり――勝ったのは「赤の王国」だった。
Und Blood
小さな星の、小さな国で起こった、小さな出来事。
二人の少女の、奇妙な運命。
――些細だが、語られなければならない物語がある。
第一章『少女二人の赤い春』
1.出会いと幻影
現代。「赤の王国 ポルフィルン」にて。
まだ幼いセリス・ロッソ・スカルラットは、父、オリバー・ロッソ・スカルラット伯の馬車に連れられて市外を散策していた。
セリスは買い物が嫌いである。特に下町が嫌いだ。景観がひどいし、なによりにおいがきつい。
窓から外を見てみると、下衆どもの視線がいたい。目が焼かれそうでいやになる。
セリスは一度試してから、二度と外を見るなどということをしなかった。
父はこんな場所に用事があるというのだから、困ったものだ。貴族ともあろうものが、こんな下賎な場所で、何をするというのか。
何も無い場所だろうに。
早く家に帰りたい、と、セリスはひとりごちた。
今は父は買い物に出ていて、馬車には自分と従者一人。
侍女のルーミィを連れてくれば、まだ暇つぶしの遊びもできたものを。
しかし父と二人で遊びに出られるというのもめったに無い機会だし、おいてきてしまった。
なんということか、放置されるくらいならば、つれてくればよかった。
セリスは自分の読みの甘さを後悔した。
「……ん」
見えてしまった。
見たのではなく、あくまでちらと、閉めた窓の隙間から見えたのだ。
「ねえ、あれは何かしら」
「ふへっ……お、お嬢さん、いきなり話しかけられちゃ、このマイク、こまりやすぜ」
馬車引きのマイクがガラガラ声を返した。
東方からの輸入品の、「ゲームガール」だかボーイだかなんたらをピコピコとならしていたようだ。
父は新し物好きで、昔から伝統文化を守る傾向にあるこの国においては珍しい、他国の文明機器の収集をしている。
だからこそ、貴族の遊びよりこのような他国の遊びに夢中になる。
ちなみに、それをマイクが持っていたのは、父がこのゲーム機の新バージョン――たしかポケットだかミクロだか――を入手したから。
セリスは父のこういう変わった部分は嫌いではなかったが、個人的には係わり合いになりたくなかった。
セリスは、貴族らしい、おとなしいことが好きなのである。
淑女はダンスを習い、楽器を弾き、社交界でおしゃべりする。それが最上の幸せ。
とにかく、今は窓の外に見えてしまったものについてマイクに質問するのが先だ。
「マイク、あれはなに?」
「あれって……」
セリスの指差した方向を見るマイク。
「ありゃあ、スラム街でさぁ」
セリスの見たもの、それは、道だった。
汚らしく、整わない、この町の、さらに奥の部分。
道端に、ぼろ布をきた人々が座り込み、生気の無い目でこちらを、馬車を。
――いや、その先にいる、この窓の向こうの私を見ている!
セリスは驚愕した。
本で読んだことはあった。貧民街の存在。
しかし、これほどにリアルにその存在が、この哀れみが、この恐ろしさが目に飛び込んでくるとは!
汚らしい……! セリスはなんとなく首を横に振った。
(私はきれいな世界に住んでいるんだから、その裏側なんて知らないで良いの!)
セリスは美しい世界に住んでいた。貴族の世界である。
セリスにとっては、自分の知る世界、自分の人生の中で振れる世界こそが、世界の全てである。
いや、読書家で、年の割りに賢いセリスは、それが真実でないとしても、本人の認識が世界そのものを構成すると知っていた。
つまり、美しいものだけを見て死んでいった人間の生きた世界は美しいのだと。
セリスは、自ら汚らしいものから目を逸らし、美の中で生きようとしていた。
しかし、世の中そんなに甘くない。そもそも父は、貴族の中でもかなり俗っぽいほうだとはすでにわかっていた。
そんな父についてきたら、こうなるのも仕方が無い。
忘れよう。
今度は隙間なく、窓をしっかり閉めた。
これで、この世界ともお別れ。
目を閉じる。まだ、こびりついていた。
自分に向けられた憎悪。世の中に善も悪もなく、ただ、強さこそ運命をわかつということ。
生まれてきた場所を選べないという事実。
貧民街の彼らの目が、あまりにも、人間離れした力を持っていた。
少し、吐き気がする。もう休もう。
――しかし、セリスには休息は許されなかった。
いわゆる、厄日である。
どういう状況だ。
「はっ、無用心だな、貴族のお嬢さんがおつき一人でこんなところによぉ!」
こういう状況だ。台詞ひとつで説明可能。
「あなたたち……強盗ですね」
「賢いねぇお嬢ちゃん」
三人組の男。貧民街のものだろうか――おそらくそうだろうと思った。
目を見ればわかる。この男たちも、善悪を超越した世界に生きている。それに、体臭がなかなかに濃い。
マイクと自分を羽交い絞めにしている男と、見張りの一人。
「父は不在です。お金ならありません」
「この状況でクチ聞けるかよ」
一人手の空いている見張り役は、ナイフを取り出してセリスにつきつけた。
「お嬢ちゃん、あんたきれいだよ。ああ、汚れをしらないで育ったな、いい親をもったもんだ」
「それはどうも」
「つまりあんたは、怖さってやつを知らねえわけだ!」
男は突如ナイフをもった腕を振った。
最初は何をしたのかまったくわからなかったが、少しして町にどよめきが走り、セリスにも理解することができた。
どよめきの方向をみると、人が一人、倒れていた。ボロ布を着た老婆。
先ほど、セリスと目が合った、あの貧民街の住人。
額には、さっきまで男の手の中にあったナイフ。
一瞬だった。
老婆の生命はすでに停止していた。まるで、虫けらのように、軽い。
死が軽い。命が軽い。
「――お嬢ちゃん、あんた、未来を信じてたのかい?」
男が言葉を重ねる。
「美しい世界に生き、貴族として、淑女として、いろんな経験をして、幸せになって」
「決められた運命を幸せのまま全うして、そして、子孫に見守られて静かに死んでいくと」
「そんな未来を夢見ていた――いや、疑いすらしていなかったんじゃないのかい?」
「だがな、命ってのは、あんたが思ってるほど価値があるもんでもなければ、あんたが思っているように決められたもんでもねえ」
「今生きている人間は、誰にもひいきされてねえ、常に一人で戦って生きていくんだよ。わかるかい?」
「だから、運命だとか、神様だとか、そんな都合の良い言葉は嘘っぱちなんだ」
「この世界は、全て俺たち行動の結果だ」
「全て……俺たちの……」
「命を軽くしたのも、てめぇら貴族なんだよ!!!」
「――っ!?」
セリスは、生まれてはじめて恐怖を感じた。
いや、今まで多くの恐怖を感じたことはある。
父が輸入したホラー映画を見たとき、おばけが怖い、暗い夜。
ピアノの先生が怒ったとき。家庭教師の授業で同じ問題を五回間違えたとき。
しかし、そんな些細なものとはまるで違う。
魂が心から震えるほどの衝撃だった。
声が出ない。
そうだ、いうとおりなんだ。すべて、この男の。
私は、恐怖を知らなかった。
私の世界に無いものは、怖がりようがなかったんだ。
今まで、すべてそれらを拒んで、目を逸らし続けた。
だから今になって、やっと、正常に、怖く感じたんだ!
そう、今、まさにセリスの信じる世界を全て吹き飛ばさんと、嵐は近づく。
「俺はよ、貴族様から金をとろうなんて、思っちゃいねえんだよ」
ぺロリと唇を舐める男。その手には、二本目のナイフ。
「ただ、あんたのその小さな胸を引き裂いて、血をぺろぺろ舐めてみたいって――そう思っただけさぁ!!」
勢い良く振り下ろされたナイフ。
もうだめだ――セリスは目を閉じた。
案外短い人生だった。
大人になったらやりたいことがたくさんあった。
社交界に出て、素敵な男の人と出会って、いつか結婚して子供を生んで。
素敵な死を迎えるために、素敵な生を満喫したかった。
いや。
ここで引っかかる。
――この未来は、だれの未来だ?
セリスは、死に直面して初めて気づいた。この未来が自分のものでないことに。
これは、誰かの語った未来だ。自分の望みじゃなかった。
誰かが認めた価値だ。自分の価値じゃなかった。
自分で決めた人生なんて、いままで私は歩んでいなかったし、これからも歩もうとしていなかったんだ!
そのことに気づいた、そんなにうれしいことは無いのに、今、セリスは死のうとしている。
死は、生を輝かせる。
しかし、死を認識するまでに、人は寄り道をしすぎている。
セリスは間違いなく、今、人として生まれようとしていたが、同時に死のうとしている。
だが。そのとき、乾いた銃声が鳴り響いた、
「え……」
目を開けていたときには、すでに男は倒れていた。
物言わぬなきがらとなって。
正確無比に額を打ち抜かれた男は、おそらく苦しまずに即死だったろう。
「な、なんだとっ……っガハァ!?」
マイクとセリスを羽交い絞めにしていた二人の男が立ち上がる。が、それでは良い的だった。
二発目は、片方の男の心臓に直撃していた。返り血はほとんどマイクに降りかかった。
少しだけセリスのほほにかかったので、セリスは興味本位でそれを舐めた。塩辛かった。
最後の男はおびえた様子でなにかつぶやいていた。
――ま、まて、約束がちが……!
それが男の最後の言葉だった。
終わった。全て。
三人。いや、老婆を含めた四人の死体を残して、セリスの命を奪おうかとしていた重大事件は幕を下ろした。
そこに、少女が立っていた。
手に、拳銃を持っている。男たちを倒したのはこの少女だろう。
「あ……あなたは……?」
そう問うてから、セリスははっとした。目の前の少女が、あまりにも美しかったからだ。
服装は、貧民街のトレードマークとも言うべきボロ布。手には無骨な拳銃。
だが、少女は美しかった。
雪のように透き通った白い肌。風呂に何度も入る機会が無いだろうに、しかしなお美しく伸びたウエーブの金髪。
切れ長の目を覆う長いまつげ。その奥にルビーにたとえることすらできない、深すぎる赤い瞳。
唇は白い肌とは不釣合いなほど鮮やかなピンクで、ふっくらと柔らかそうに見えた。
少女の年齢はおそらくセリスと同じか少しだけ上。しかしすらりと伸びた手足や全体の雰囲気は、大人の色気をもかもし出していた。
ずいぶん長い時間、セリスは少女に見とれていたように思った。
いや、一瞬だったのだろうか。
間違いなく、セリスの時間は引き延ばされていたのだ。
もう一度、セリスが口を開こうとした。少女の名を聞こうと。
「――あなたは」
「まだ、終わってはいないわ」
セリスの言葉に、少女の第一声が重なった。美しい楽器の音色のような、穏やかで気品のある声だった。
「これは、運がよかったとるべきか、それとも、あなたが選んだ未来というべきか」
何にも課も見透かすような瞳で、セリスを見つめる。
「この町では、貧民は殺されても誰も気にしない。とがめない」
そう。こうして老婆が殺され、男三人が射殺されても、少しのざわめきがあった後はいつもの町に戻っていた。
まるで、彼らが最初からいなかったかのように。
「彼らは生きていなかったわね」
そして、少しだけ少女は笑った。
――満月のように。セリスを狂気にいざなうその笑顔が。
「あなたは、生きてる?」
今、輝き始めた。
2.二人の景色
少女の名を、グロリアと言った。
栄光。
貧民には似つかわしくない名だ――そう、以前のセリスなら思っただろう。
しかし、この少女には、それこそあつらえられたかのように。まるで、その言葉が少女とともに生まれ出でたかのように感じられる。
グロリアという少女は、セリスにはまさに、この世の栄光すべてをかきあつめて作られた人間に見えた。
幼い貴族の少女、セリス・ロッソ・スカルラットは、貧民の少女、グロリアに確かな憧れを感じていた。
その気持ちは父にもあったようだ。
はじめは娘の危機を救った恩人として家にまねき、もてなしていたが、話をするうちにグロリアという人間そのものに惹かれて行ったのだろう。
「養子にならんか?」
この言葉を父、オリバーが発するのに要した時間はそう長くは無かった。
グロリアはいくつか身の上話をしたが、やはりというべきか、親がいなかった。
この美しさは、ただならぬ家の血を継いでいるのだろうが、グロリア自身にもわかってはいないのだという。
母は貧民街の娼婦で、父はどこかの貴族。明確なのはここまで。父にはあったことが無い。
母が死んでからは、貧民街で苦しい暮らしをしていたのだという。
強い意志を秘めた、深紅の瞳を見れば、セリスにもなんとなく理解できた。この少女が背負ってきた運命を。
だがしかし、そのなかでも下郎に成り下がらず、正義感を保ち続けるのはすばらしいことだ。
まさに貴族の血のなせるわざである。
父はそういって、グロリアを養子に、と持ちかけたのだった。
「せっかくですが、お断りさせていただきますわ、ミスタ・スカルラット」
しばらく考えての第一声。
父もセリスも、目に見えてがっくりと肩を下げた。
「生活が楽ではないと、君自身が言ったではないかね。よければ、理由を聞かせてはもらえんかね」
父が食い下がる。セリスもうんうんとうなづく。
「わたくしは、家柄も学もない貧民風情でございます。もしこの家の名を汚すようになれば、申し訳がたちません」
「なんだ、そんなことかね。遠慮することはない。私はもともと世俗的な貴族と評判でね。家名など私の代だけで地に落ちている。しかし、君を幸せに暮らせるようにする財産くらいは持っているつもりだ」
父は陽気に笑った。
「そ、そうですか……」
グロリアは再び考えるそぶりを見せた。
これこそチャンスだと、セリスも口を挟む。
「そうです! グロリア様、お父様はなにも恩を感じてあなたに情けをかけようというわけではないのですよ。それよりもむしろ……」
セリスは父にめくばせして、続けた。
「あなたがとってもチャーミングでいらっしゃるから!」
「ああ、違いない!」
セリスと父はにっこりと、やはり親子、そっくりな笑顔をうかべた。
「あなたみたいに美しい女性は見たことがありません。私、グロリア様がお姉さまになったらうれしいと思います。とっても!」
「……そう。お褒めに預かり光栄です。うれしいですわ」
グロリアは少しだけ困った表情を浮かべたが、すぐにまた穏やかな微笑みに戻った。
「そこまで言っていただけるなら、わたくし、ここにお世話になることにいたしますわ」
――それに。
彼女は続けた。
「セリスさん、あなたがとても可愛らしいものだから、わたくしも妹が欲しくなってしまいました」
♪ ♪ ♪
グロリアが世間にとっての美しき才女グロリア・スカルラットとなり、セリスにとっての尊敬するグロリアお姉さまとなるには、そう時間はかからなかった。
養子になってから一年もたたないうちに、学問も音楽も同い年の少女たちをはるかに追い越し、加えてその美貌。
なにもかもが完璧。いや、それ以上の領域に達している。
そんなグロリアの評判を聞きつけ手紙を送ってくる紳士たちも後を絶たなかった。
もちろん、それらの手紙はそのすべてが本人に届くことなく親馬鹿に定評のあるオリバー・スカルラット伯によって破り捨てられていたが。
グロリアは多くの人の心を動かした。特に大きな変化は、セリスに起こった。
「お・ね・え・さ・ま」
「また来たのね。セリス、夜出歩くのはよくないとお義父さまにしかられたはずよ。そう、この前はルーミィにも怒られていたわね」
「まったく、みんなお堅いんです。私とお姉さまの時間をどうして邪魔したがるのかしら」
「ふふっ、やめる気はないわね。なら、今度は私も一緒に怒られてあげるわ」
セリスはすっかりグロリアを姉を慕い、甘えきっていた。
命の恩人だからという情などではない。グロリアの人間性がセリスを惹き付けた。
「お姉さま、今日もたくさんお話を聞きたいです!」
子供らしいパジャマ姿でグロリアのベッドに座るセリス。
「いいわよ。たくさんの物語も、語られなければ価値を持たないわ。だからあなたに話してあげる」
対照的に艶やかなネグリジェに身を包んだグロリア。
二人は寒い夜に肩を寄せ合い、毎晩物語に花を咲かせていた。
世間話をすることはあるが、もっぱらはグロリアから語られる、異国の冒険譚や逸話、伝説。
実際の歴史の話をすることや、哲学的なものまで、グロリアは実に多くのことを知っていた。
グロリアの亡き母が語り聞かせてくれたのだというその物語は、本を見ても載っていないものばかりで、セリスの心を強くひきつけた。
「東方の剣士の話が聞きたいな!」
「セリスは東方の話が好きね」
「うーん、東方好きというとお父様ににたのかもしれません、やっぱり」
「親子が似ることは、良いことだと思うわ」
「そうでしょうか」
「そうよ。きっとそう」
少しだけ悲しそうな顔をしたグロリアだったが、やはりすぐにいつもの微笑みにもどった。
「別の世界から来る魔物たちと戦う三人の少女剣士。あこがれてしまいます」
「英雄譚というものは、どの土地にも存在していて、そのどれもが勇ましく、興味深いわね……でも。語ってみて初めて気づくこともあるのよ。その、存在の虚しさに」
「……何を、ですか? お姉さま」
「人間というのは、あまりにもちっぽけね。どの場所でも、どの時代でも、誰かに守ってもらおうとしている。英雄の物語の中の英雄が強ければ強いほど、人間は弱い存在となる」
「でも、人間は弱いものです。だから私たちだって、衛士さんたちに守られています」
「そうね。そうだけど、私がいう弱さは、精神の弱さだわ」
「精神の?」
「物語の英雄は、とても強いけれど、現実にはそんな力を持った人間はいないわ。人間は、所詮人間の域を出られないのよ。どれだけ強くなっても、それ以上にはなれないの」
セリスは、そう語るグロリアの目が、なんだか悲しそうにも、嬉しそうにも見え、その複雑さに混乱するしかなかった。
グロリアは話を続けていく。
「運命に打ち勝っていくために必要なのは、特別な力ではないわ。ほんの少しの勇気よ」
「で、でも、運命は神様が決めていて、そう、今お姉さまがおっしゃったとおりじゃないですか。人間は人間の域を出られない。だから、神様にもなれない。超えられない」
「神などいないわ」
「え……」
グロリアは、セリスの価値観を一瞬にして粉々に砕いた。
「人の運命を決めるのは、すべて私たち、人なのよ。だから、人である私たちが……私や、あなた自身が未来をつくらなければならないのよ」
――だから、誰かが守ってくれると思ううちはまだ人は弱いの。
毎晩こうした議論を皮切りに、グロリアは多くの物語をセリスにした。
グロリアは生きる意味について四六時中考えているようで、セリスにはとてもじゃないがすべて理解しきれるようなことではない。
しかし、グロリアは必死で言葉の意味を飲み込もうとしているセリスをいとおしそうに見つめ、毎晩頬にキスをして「おやすみ」とささやいてくれる。
それだけで、セリスはグロリアの物語を真剣に受け止める労力を払う価値はあると思った。
どれだけ難しいメッセージだろうと、グロリアが自分に伝えようとしていることだ。
すべて、この身に受け止めようと。
こうして二人は慕いあい、愛し合いながら成長した。
そして、二人の物語が始まる。
それは、グロリアが養子に入って三年の歳月が流れたとき。
セリス、15歳。グロリア、17歳。
二人の青春は、このとき真っ赤にな血に染まったのだった。
3.一つの世界が終わる音
「はるか昔、この国『赤の王国(ポルフィルン)』と、異民族である『血界の民(アルデマー)』が戦ったという伝説は知っているわね、セリス」
「ええ、国つくりの伝説ですね。今の王家のご先祖様である、初代国王『タリズマン』様が騎士達を率い、『血界をもたらすもの(ファーストブラッド)』という族長率いる蛮族を討伐し、この土地を平定した」
「そうね。子供の絵本にものっているものね」
グロリアがスカルラット伯爵家の養子になって三年が過ぎようとしていた春。
五月だからか、グロリアは物憂げなしぐさだった。
それに、こんなに当たり前の物語をするのも珍しい。いつもは奇妙奇天烈な冒険譚を披露してくれるのに。
「セリス、あなたはファーストブラッドについてどう思う」
「どう思うって……悪い人、なんじゃないですか?」
「本当にそう思っているの? あなた『自身が』そう考えたのかしら」
「うっ、うーん……。そう言われていれば、確かにそんな根拠はないし、勝手な思い込みだったかもしれません」
「血界の民が蛮族だったという確証もないわ。この話は、まったくいびつね」
「じゃあ、お姉さまはどう思っているんですか?」
「そうね。ただしい物語の姿は、おそらくこうではないかしら」
昔、この土地には二つの民族があった。
一つは、『赤の王国』。一つは、『血界の民』。
彼らは何らかの要因によって出会い、衝突し、戦争となり。
そして、赤の王国は勝ち、血界の民は敗れた。
結果、この土地は『赤の王国』が支配し、今に至る。
「あれ、さっきとなにか違うんですか?」
「違いは特に無いわね。表現が変わっただけ。でも、心象が違うと思わない?」
「確かに、この場合は普通にありえる戦争ですね。王様の英雄譚でも、伝説でもない。普通の地域紛争です」
「そう、それほどの些細な物語なのよ。その些細な物語が、今は子供にまで広まっているほどに偉大な物語と化している。時間とは恐ろしいものね」
――そしてそれ以上に、人の心というものは。
「つまり、問題はこの国に正義があったように受け取れる語られ方をしている点ですか?」
「そうかもしれないわね。セリスは賢いわ」
そういうと、グロリアは暖かくやさしい手でセリスの頭をなでた。
「戦いに善悪などないのよ。勝てば正義、負ければ逆賊。運命に打ち勝ったものが作り上げた未来こそが、その者のためだけに輝き続ける」
そういいながら、グロリアの顔からどんどん笑顔がうせていった。
「打ち勝つものだけに、未来が与えられる。ならば、消えていったものたちは……」
なにかに恐怖を感じているかのように、その白い顔はさらに色あせている。
「お姉さま……?」
セリスは身を寄せ、グロリアの顔を覗き込んだ。
「セリス……!」
その時――
「おねえさ……むぅっ!?」
――セリスの唇がグロリアの唇によってふさがれていた。
(お姉さま……どうして……。でも、私、受け止めるって……すべて、お姉さまのすべてを受け入れるって、そう決めたから……)
セリスはそこまで考えた後、止めた。
目を閉じる。そのまま何年も流れたような気さえした。
伝わる、グロリアの柔らかな唇の感触。
夢の中にいるようだった。
先に唇を離したのは、グロリアだった。
「……ごめんなさい」
グロリアは涙を流していた。そんな姿をみたのはセリスは初めてだった。
なぜだか、今まで見た笑顔よりも、ずっと美しい表情だと思ってしまった。
「……ごめんなさい、ごめんなさい。セリス……今夜の私はどうかしてしまっているのよ……許して、セリス……」
「そ、そんな。お姉さま。お姉さまは悪くなんか」
「違うのよ……こんなつもりじゃなかった……近づくたびに……ふれてしまえば大切なものは壊れてしまう……私自身の幻想も、終わりを告げる日が来てしまうのよ……」
「お姉さま……」
「私を哀れむなら、今夜のことは忘れて、もうお眠りなさい。私の愛しいセリス」
「……はい」
グロリアの部屋をあとにしようとしたその時、グロリアはセリスの背中に再び言葉を投げかけた。
「セリス。もうすぐ終わるから。この幻想も、なにもかもが、あなたの心配の外で終わってくれるから。変わらずにはいられないこの世界も、少しだけまたましになるから」
「お姉さま、おやすみなさいませ」
セリスは、グロリアの言葉に肯定も否定もせず、扉を閉めた。
「だから……私が運命に打ち勝てなかったそのときは……あなたが私を……」
ぽつりと、扉の向こうで、小さく声が漏れた。
セリスには聞こえていた。
しかし、聞こえないふりをしなければならないだろうな、となんとなく思った。
そうしないと、グロリアが消えてしまうような気がしたから。
そうしないと、今の幸せが消えてしまう気がしたから。
扉を閉めた。
この音は、彼女にとって、一つの世界が終わる音だったのだろう。
何もかも、変わらずにはいられない。
今の自分という幻想を消し去り、新たな世界にたどり着くための、序章。
――二度目の誕生(セカンドブラッド)。
♪ ♪ ♪
「お父様、なによぅ、朝っぱらから」
「なに、たいしたことは無い。今日は家庭教師はお休みにしてもらったから、セリスにお使いに行ってもらおうと思ってね」
「お使い?」
「そうだ。ルーミィと一緒に町に行って貰おうと思ってね。――いや、心配することは無い。貧民街ではなく、良民の集まる繁華街だよ」
オリバー伯爵は娘にメモを渡した。
「このメモのお店で、お父さんの注文した輸入品を受け取ってくれないか。代金はすでに渡してあるから、私のサインをもっていけばわかるよ」
「わかったわ。ただし――今度お姉さまと私をシルク・ド・ソレイユに連れて行ってくれたらね」
「はは、もう立派な商人のやり口だな! これで町でもやっていけるぞ、セリス!」
「もう、うちのお父様は、女二人で町に行かせて危険だと思わないのかしら」
「あそこは治安がいいしねぇ。衛士さんが町中にいるから襲われることは無いよ。それでも怖いというなら……」オリバーは小箱をセリスに差し出した。
「なに、これ?」
「お守りだよ。町に行く途中であけると良い。町まではマイクに馬車を引かせる」
「……まあ、いいわ。ありがとう、お父様。行って来るわ」
「ああ、行って来なさい。私の可愛いセリス」
パタン。
扉の閉まる音。この乾いたこの音は、オリバー伯の世界の終わりを意味していたのだろうか。
その引き金は、ほかならぬ最愛のセリスの手によって引かれたのだろうか。
それは誰にもわからない。
「お上手だわ。お義父さま」
「これでよかったのかね、グロリア」
「ええ、完璧よ」
「なら、その物騒なものをしまってくれないか?」
「だめね」
「……やれやれ」
オリバーが座っていた机の下には、丁度セリスの死角になる位置にグロリアが潜んでいた。
その手には、拳銃。あのとき、セリスを助けたときに所持していたものだ。
その銃口はオリバーの額に向けられていた。
「グロリア、私は君になにか悪いことをしてしまったのかね? ならば謝ろう」
「あら、白々しいわ、お義父様。親子の仲ですもの。何もかもお見通しではなくって?」
「皆目検討がつかないよ。人の心はわからんものだ。特に君のような美人はね」
「そう……」
グロリアは立ち上がり、無言でオリバーの頬を張った。
乾いた音だった。すでにオリバーの命に潤いなどなかった。
グロリアの強すぎる栄光に、身を焦がされたかのように。
「ある地獄に、一人の女がいたわ。今のは、彼女の分よ」
「女……?」
「その女は、ある男と愛し合った。しかし、一夜の情熱などその男にとって何の価値も無かった」
「一体何を……」
「だから、二つの運命が忘れ去られた。一つはその女の運命。もう一つは、新たに生み出された運命」
「まさか……その女の名は」
「ソルシエール。とある貧民街の、汚らわしき娼婦。誰にもその命を顧みられなかった、ただの女。特別でもなんでもない、ありふれた女」
「そんな……では、君は……!」
「無知は罪ね。でもかまわないわ。言葉は語られてこそ価値がある。……そうだ、物語をしましょう。丁度、私がセリスにしていたように。誰よりも可愛い妹、セリスへの愛を表現するように」
「そんな……そんなことが……!」
「『お父様』。あなたは『ファーストブラッド』についてどう思うかしら?」
♪ ♪ ♪
「お父様の注文していた輸入品の『MANGA』も手に入ったし、これからどうしようか、ルーミィ」
「せっかく町に来たんだから、遊びに行きませんか、お嬢様。私、良いお店知ってるんです」
「そうね、せっかくだからね」
ルーミィに案内されて、裏通りに入るセリス。近道らしいが、うさんくさい。
なんだか、この薄暗い雰囲気は貧民街を思い出す。息苦しさ、そして、空気に満ちた『飢餓』のにおい。
(この町は衛士さんが守ってるから大丈夫だってお父様は言っていたけど……)
警察組織があれば犯罪率が0になるなら、犯罪に人類が頭を悩まされることなど、めったになくなることだろう。
そうならないのは、『そうでないから』にほかならない。
危険とは、どこにでも存在するものだ。
「ん……あれは」
ふと横道をみると、これまた怪しい店の裏で、男たちが寄ってたかって一人の男を殴り、けり、ののしっていた。
「……」
声をかけようとしたセリスの肩を、ルーミィがつかむ。
首を横に振るルーミィ。
――関わり合いにならないほうがいい。
そういっているようだった。
二、三秒考えたが、やはりルーミィが正しい。ここで無理に関わり合いになれば、三年前のようなことにならないとは限らない。
(でも……本当にこれでいいの……?)
三年前のあの時、自分はなにもできなかった。
恐怖すら知らなかった自分は、押し寄せてくる新たな世界観にただ圧倒されるだけだった。
この世界の美しいだけじゃない真実を知ったとき、自分は何を思った?
セリスは自らに問う。
そうだ。
運命は、すべて人の生き方に因るんだ。そう、お姉さまは言っていた。
そして、そのことは、三年前、すでに自分も感じていたことではなかったか?
セリスはもう一度、暴行を受けている男を見た。
遠くで、小声で、何をいっているのか正確にはわからなかったが、おそらく許しをこうているのだろう。
「……っ!」
唇をかみ、セリスは体ごと男たちの方向に向き直った。
そして、叫んだ。
「やめなさい!!!」
「ああ?」
男達がセリスを一度に見た。殴られた男までもが、セリスをその視線で射抜く。
数々の目にさらされ一瞬セリスはひるんだ。が、とまるわけにはいかなかった。
「どんな事情があるのかは知りません。その男が罪を犯したのかもしれません。しかし、私刑は犯罪です! 裁きは、法によってなされなければならない!」
「はぁ? あんたその服装、貴族か。なんでこんな裏通りにいるのかわからんが、帰るんだな。お嬢ちゃん。ここは貴族様が正義ごっこするような場所じゃねえぜ」
「正義ごっこなどではありません。これは、正しい生き方です。あなたたち愚者には、貴族がその道を示すのです」
「愚者だと? 舐めやがって、世間知らずなお嬢様風情が。おいお前ら、可愛がってやれよ。所詮女だぜ、ヤッちまえば従順になる、そいつのお付きごとな」
(しまった……!)
自分の危険は覚悟していたつもりだった。
一人なら小回りが聞くから、この裏通りを抜けて衛士に助けを求めることもできる。
しかし、今はルーミィがいる。
ルーミィを危険に巻き込むことを考えていなかった。
完全に頭に血が上っていた。
(どうする……! 逃げないと……、でも、それ以上にルーミィを守らないと……!)
どちらもやらなければならない。しかし、戦って勝てるわけがない。
男たちが迫ってくる。
(だめだ……! SHOUGIやチェスで言う『詰み(チェックメイト)』だ!)
「失礼」
セリスの前に、何かが割り込んだ。
エプロンドレスに身を包んだ、セリスと同い年の少女――ルーミィ。
「なぁっ!?」
風のように目の前まで移動してきたルーミィに驚き、のけぞる男。
「足元がお留守ですよ、おデブさん?」
足をはらわれ、自重でその頭を強く地面に打ち付けた男は、一瞬で失神してしまっていた。
男たちやセリスが驚く暇もなく、ルーミィはもう一人の男ののどに手刀を食い込ませていた。
一瞬で二人を昏倒させたメイド少女の恐ろしさにやっと気づいた最後の男は、あわてて懐から銃を取り出す。
「て、てめぇ! これ以上近づくと……!」
「やってみなさい。やれるものなら。あなたが引き金を引くより、私があなたの心臓を貫くのが早いですよ」
そういいながら、一歩、足を進めるルーミィ。後ずさる男。
「私は、私刑が悪いことだとは考えません。平民の私には正義感や法の尊守なんて生活の二の次ですし、あなたがたの関係ですものね。私には関係ありません。だから最初は見逃そうとしました」
「だったら、首突っ込んでくるんじゃねぇ」
「ですが、私にも許せない邪悪が存在します。それは、私の大切なセリスお嬢様を傷つけようとする愚か者です! あなたは、私が私刑に処します!!」
ルーミィがさらに踏み込んだ。その速度はまさに疾風怒涛。
「うあぁあああ! 来るなぁ!!!」
男は反射的に引き金を――引けない。
男の人差し指には、数本の針が刺さっていた。
神経を麻痺させる毒が塗られていたその針は、筋肉を完全に硬直させていた。これでは、銃も使い物にならない。
だが、そこまで理解したときにはもう遅かった。
ルーミィの振り上げた足が、男の腹部の直前まで迫っていたのだ。
男たちを、被害者を含め全員衛士に引き渡した二人は、表通りを再び歩いていた。
「はぁ、私ってやっぱりダメだぁ。お嬢様を危険な目にあわせました……」
「近道ってするもんじゃないわね。行きたい場所には、たとえ遠回りでも、確実にいける方法をとらなきゃ」
「はい。反省します」
シュンとするルーミィ。
だが、そんな場合ではなかった。
「っていうか、あなたあんなに強かったなら最初に言いなさいよ。十年以上の付き合いなのに、私が一番びっくりしたじゃない。……お父様が『女二人でも安心』と言っていたのは、こういうことでもあったのね」
「私が強い? いえ、そんなことはないですよ。私はお嬢様を守るためなら鬼にでもなれます。……むしろ、強くなったのはお嬢様のほうです」
「私が? 何もできなかったのに?」
「あの勇気が、人間の強さでなくてなんなのですか? 私は、お嬢様の言葉がなければ動きませんでした」
「そう……」
「強さって、力じゃないと思うんです。ああいう人間的な、正義感とか、優しさとか、そういったものだと思うんです。だから、お嬢様は十分貴族らしくて、強い淑女ですよ」
「そう、ありがとね、ルーミィ」
「いえいえ、私は、そんなお嬢様にあこがれてますから。……では、まだまだ時間はありますし、遊びましょうか!」
「あなた、あんなことがあってもまだぜんぜん懲りてないわね。こら、待ちなさい!」
♪ ♪ ♪
「お嬢様ー! こっちですよこっちこっちー!」
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよルーミィ」
ぜえぜえと息をきらすセリス。ルーミィの足の速さにおいつけない。
特別体力が低いわけではないが、これが労働者と箱入り娘の差だということか。
「セリスお嬢様。おっそいですねー」
指を刺してけらけらと笑うルーミィ。
「ルーミィが速いのっ!」
「しかし私は四天王では最弱です」
「そ、そんなバカな……! って、四天王って誰よっ!」
「お嬢様、四天王をご存じない!? あの四天王を!? 知ってました? 四天王の最後の一人はドラゴン使いだけど、そのレベルでは覚えないバリヤーを使えるから、実は改造厨だったらしいです」
「何の話をしてるのよ、ルーミィ、あなた最近お父様に毒されてるんじゃないの?」
「なははっ、そうかもしれませんね。でも、私はオリバー伯のように『ポ○モンは金銀まで!』なんてオッサン丸出しの時代遅れ発言はしませんよ。若いですからね」
「まったく、あなた平民の癖によくそこまで貴族に毒を吐けるわね。他の家だと間違いなく今までに400回は解雇されてるわね。おそらく死刑執行されること13回とか、そんな世紀末もありえるわ」
「それ、オリバー伯の輸入した『MANGA』のネタ入ってるじゃないですか! お嬢様もひとのこと言えませんね」
「そうね。そうかもね」
セリスは久々に、気持ちよく心のそこから笑った。
外に出ると開放的な気分になるのだろうか。おそらくは、ルーミィの明るい性格も手伝ってのことだろうが。
「そうだ、オリバー伯といえば、お嬢様、なにか小箱を受け取ったのでしょう? 中身はなんだったのですか?」
「ああ、あれね。ほら」
セリスは自分の胸を指差した。
「小さいですね」
「違うわよ!」
「冗談です。きれいなペンダントですね。ルビーですか?」
「たぶんね。お父様、わざわざ私にこんなものを……」
「まともなプレゼントをあのオリバー伯が……。私のボーナスを『ボーナスだけに、マーボーナス一年分』にしようと画策したこともあるあのオリバー伯が……」
「ちょっと! なに勝手に捏造してるの! あれはお父様のお得意の二流ジョークだわ。目が本気だからわかりにくいだけで」
「初見だとちょっとびっくりしますよね。どうでもいいですけど私は三流ジョークだと思います」
「自称『二流』だからいいの」
「さいですか」
「……あなた、今日はハイテンションね」
「はい! お嬢様と二人で遊ぶなんて、こんなに嬉しいことは無いです! お嬢様はちょっと怒ってます?」
「そうかしら」
「もしくは、なんだか落ち込んでるようにみえます……。あの、胸の大きさについては、私はお嬢様なら大きくても小さくてもイケる気がするので、大丈夫だと思いますよ?」
「な、何いってんのよあなた!? オヤジなのね、そうなのね!」
「ふふっ」
「な、なによぅ」
「お嬢様は、可愛いですよ。そうやって元気良く怒ってるところとか、笑ってるところとか。だから、悲しそうだったり元気がなく不機嫌に怒るのは、私、嫌だなぁって」
「……そんなこと、ないわよ。ルーミィと町で遊ぶのも、悪くは無いわね」
「でも、グロリア様と来たかったって、本当はそう思ってるんでしょう?」
「な、なんてそこでお姉さまの名前がでるのよ!」
「わかりますよ。端からみているだけでも……。ちょっと、妬けちゃうなぁ」
唐突に。
本当に唐突だった。
ルーミィの一瞬見せたその目の悲しみが、昨晩の。あの夜のグロリアの表情と重なって。
セリスの脳裏に、衝撃が走った。
「お姉さま……!?」
「お嬢様? どうしました?」
「戻るわよ、ルーミィ! マイクを呼びなさい!」
「え、あ、は、はい、了解しました!」
(なんだか、嫌な予感がする……!)
馬車は走る。セリスを――運命の少女を乗せて。
対となる少女の元へ。
二人の奇妙な運命の幕開けへ、また、少し、近づいていく。
その足音は、この世界の終わりの音であった。
4.永い、永い戦いの幕開け
「ここね、スカルラット家の隠し倉庫への入り口。……ふふ、三年間探しても見つからないわけだわ。まさかセリスの部屋にその入り口があるだなんて、普通思いつかないわ。ねえ、そうでしょう? ルーナ」
「はい。グロリア様の落ち度ではございません」
「そうよね。私だって人間だもの。妥当な推理しかできないわ」
グロリアと、その侍女のルーナ――セリスの侍女であるルーミィの姉――とともに、セリスの部屋の本棚の前に立っていた。
「お父様、この本を引いて、この本を押せば良いのね」
「ああ……」
精神をよほど疲弊したのか、若々しかったオリバー伯の顔にはしわが幾分か増えているようだった。
「『格闘ゲーム必勝法』『美少女ゲーム攻略論』。なるほどね。私もセリスも興味すら抱かない本だわ。セリスの部屋の本棚にお父様が勝手に置いた意味も少しは考えるべきだったわね」
「この家でそのような本を必要とするのは、旦那様と我が愚昧、ルーミィくらいのものですから」
ルーナが応えた。
「ほんとうにそう。大切な宝物の隠し場所なのだから、もう少し壮大にすべきだわ――最も、これほどにばかばかしいからこそ私にもルーナにも見つけられなかったのだけど」
楽しそうに言いつつ、オリバーから聞き出したとおりに本を引き、押した。
ごごご、と、お約束のような音が壁の向こうから響いてくる。
本棚は半回転し、その先に地下への階段があった。
「どんな罠を仕掛けているかわからないし、お父様に先に行ってもらいましょうか」
「……私を、もう父と呼ばないでくれ」
「あら、薄情じゃない。『血を分けた親子』じゃない。お父様?」
「……復讐のつもりなのか? 彼女の」
「いいえ」
「では、いったい――」
「――私は、生きている。そして今、ここにいる。それが最上の答えよ。それ以上もそれ以下もありえない」
階段を進みながら、オリバーはグロリアに質問を続けた。
グロリアはオリバーがいくら話しても不快ではないらしい。人質をとるという大胆な行動をしながら、この余裕。只者ではない。
「最初から、『アレ』が目的だったのか?」
「そう。最初から」
「養子を持ちかける前に、か?」
「もちろん。すべては、私が仕組んだことなんだから」
「仕組んだ……? やはり、あの強盗も……!」
「そう。可愛いセリスを助け出すと言うあの英雄的行為も、自作自演というわけ。あはは! どう? お父様。あなたの気持ちがすべてから回りに終わった気分は!」
(最初から、疑うべきだったんだ……)
思えば、貧民街の少女が銃を持って貴族を助けるなどと言う英雄的行為。
これはあまりにもでき過ぎていた。まず、その行為自体のうそ臭さもあるが、なによりあの幼さで銃を自在に扱い、男三人をまたたくまに倒したのだ。
常識的に考えて、信用できる相手ではなかった。
(見誤ったか……稀代の騎士と言われたオリバー・スカルラットも堕ちたな……)
しかし、オリバーにはまだ腑に落ちない点があった。
「ルーナは、いつから君についた」
「いいところに気づいたわね」
「最初からです」
グロリアが得意の物語口調を始める前に、ルーナが割り込んで冷たい声で答えた。
ルーナは妹のルーミィとは違い、感情を表に出さない。
しかし、この姉妹は代々スカルラット家に使える護衛術の専門家の出。忠誠心は誰よりも厚かったはずだ。
「私が5年前、町に使いに出たとき。グロリア様と出会い、一生使えるべき主君と悟ったのです」
「ということは、つまり……」
「そう、セリスが襲われる、ずっと前のことよ。そのときからずっとこの計画は進行していたの」
「では、三年前のあの日、セリスが珍しくルーミィを家においていったのも……」
「もちろん、ルーナに私が指示したことよ」
「はい。『たまには親子水入らずで過ごしてはいかがですか?』とセリス様に勧めるよう、グロリア様の言いつけを賜りました」
やはりそうか。ルーミィはルーナと同じく護衛術の達人。セリスが強盗に襲われれても息もする暇もなく強盗を返り討ちにしていたはず。
ルーミィはルーナと違い、わかりやすい性格をしている。特にわかりやすいのは、セリスへの異常な忠誠心と愛情だろう。
ルーミィはルーナと違い、裏切りを隠せるタイプではない。少なくとも、外に行かせたセリスはルーミィとともにいる限り安全は確保できるわけだ。ルーミィはまだスカルラット家の味方に違いないのだから。
やっとオリバーは合点がいった。そして、同時に少しだけ安心した。
(私の命に代えても、このグロリアをとめる。それが『彼女』への償い。そして、それがセリスを守ることにも繋がる)
――強く生きろ。セリス。私が運命に打ち勝てなかった、その時であっても。
この命に代えても、セリスだけは守ってみせる……!!
♪ ♪ ♪
「お父様! お父様!」
「お嬢様、それほどに急いで、一体何が……!」
「わからない、ただ、嫌な予感がするの。だからお願い、もっと馬を急がせて、マイク!」
「お嬢さん、これが限界でさぁ!」
「もっと、もっと早く……でないと、お父様が……お姉さまが……!」
――もう、二度と会えないかもしれない。
なぜだか、そんな予感があった。
今日。
もうすぐ、この世界が変わってしまいそうな。
すべてが変わらずにはいられない。そうグロリアは言った。
(でも、そんなのは嫌……。みんなで一緒に生きていかないと、私は……)
人は一人で生きていくことなんて、できない。
誰も、そんなに強くなることなんて、できないんだ。
孤独な運命と戦うつらさなんて、想像するだけでも、セリスには苦痛だったのだ。
♪ ♪ ♪
「人は一人で生きていかなくてはならないのよ。お父様」
グロリアが父、オリバーに語りかけた。
今三人は階段で地下につき、隠し通路によって隠し倉庫へ至ろうと歩いていた。
罠の類は無かった。それに、明かりの必要も無い。何の変哲も無い地下通路だが、壁に生えているコケのようなものが発光して視界は良好だった。
オリバーは少し考えて答える。
「私はそうは思わん、人は一人では生きていけないものだ。だから支えあっていくのだ」
「弱者の台詞ね。まるっきりそうだわ」
吐き捨てるように、しかし期待通りで嬉しいとでもいうような口調でグロリアは語る。
「人間には、見守ってくれる大きな存在なんてないのよ。みんな、自分の周囲の狭い部分の世界を切り取って、それだけを信じて生きている。本当に、孤独なものよ。
愛し合って、信じあっている人同士でも、その心のうちが理解できない。だから、傷つけあっていく。
正義とか、平和とか、自由と言う美しい言葉で真実をゆがめ、その先に光が存在しないことから目を逸らしている。
ねえ、人間は、世界が暗闇で満ちていると知っていながら、ずっと目を逸らして生きているのよ。だからお父様は人がよりそうものだと勘違いしてしまうの」
「では、君は人がどういうものだと思うのだ」
「『立ち向かうもの』だわ」
「何に」
「運命に、よ」
「運命だと?」
「そう。この世界そのものの、今まで背負った来た過去。そして未来のすべてだと言い換えてもいいわ。
現在と言う時間を生きる私たちは、過去も未来も認識することもできない。完全な前後不覚なのよ。だから恐怖を感じ、それを忘れるために気晴らしにはしってしまうわ。
暗闇に覆われている、この世界の真実の姿を忘れようと、虚構に走り自分を慰めるのよ。でも、それは弱さだわ。
人は永遠の暗闇と孤独の中で、ひたすらに世界と向き合うべきなのよ。孤独の中で、ただひたすらに、自らの道を走らなければならないの。それが、どれだけ危険な道だろうと。
その先に、光などないと知りながらも」
「人は、それほど強くはなれない。そんな心を持ったものなど存在しない」
「だからこそ。私はそれを達成しようとしている」
そして――それが私の生きる意味だと、悟ったのよ。
「……たどり着いた。これが……」
「スカルラット家の隠し倉庫だ。君たちのお望みの、ね」
「案内しなさい、お父様。『神の心臓』の在り処へ」
「……わかっているだろうが」
「ええ、神など存在しない。そして、『力』は何の意味も成さない。わかっているわ。それを知りながらも、私にはそれが必要だった」
「ファーストブラッドを狂信しているのか、グロリア」
「違うわね、むしろ共感といっていいわ。彼か彼女かは知らないけれど、あの人の気持ちがわかったから、今ここにいる」
「……後悔することになる」
「かまわないわ。さあ、早く」
倉庫にはスカルラット家の数々の宝物が収められていた。
なかなかに広い場所だが、そのいたるところに各地からあつめた珍しい機械や大図書館にも置いていない古書など、確かに価値のあるものが多くある。
保存状態はおせじにもよいとはいえない。確かに、セリスの留守中にしか出入りできない上、場所を知るのはオリバー本人と、この部屋を建築した今は亡き老大工だけ。
管理などとてもできなかったろう。
埃の舞う通路を通り、オリバーは最も奥の宝箱の前に来た。
倉庫の宝物の中でも最も古ぼけている。相当な年月をここで過ごしたのだろう。
「見ての通り、鍵がないと開かない」
「賢いわね。お父様、鍵を交渉材料にする気ね」
グロリアが言うのが早いか、ルーナはどこからとも無く針金やドライバーなどを取り出し、宝箱の前に座った。
「千年以上前のセキュリティが現代に通用するとでも思ったのですか、旦那様」
あざけりの気持ちは込められていなかっただろうが、その言葉の中には本来の主人であるはずのオリバーへの尊敬の念などまるで見て取れなかった。
ルーナは、心のそこからグロリアについていってしまったようだ。
宝箱は数秒程度で開けられてしまった。
「……これは」
「ワイン、ね。どう見ても」
ワインボトル。千年以上前の品と思っていたが、これはあきらかに時代が合わない。
「ブラフでした。お嬢様」
「そうね。千年以上前の宝物がワインなわけはないし、アレは『宝石』だものね。こんなものであるはず無いわ。これはどう見てもここ百年以内につくられたボトルだもの」
「宝箱はどうやら古いもののようですが、中身がすりかえられていた可能性があります」
「どう、お父様。これはお父様が中身を間違えたか、知らなかったのか。――それとも意図的に入れ替えたのか」
「……」
「まあ、いいわ。こうなれば自分で探すわ。お父様が黙っている限りね」
(そうだ……それでいい……)
なにも、オリバーは本気で千年以上前の宝箱が破られないと思っていたわけではない。
もっと確実な『勝算』があった。そして、グロリアもルーナもその策どおりに動いている。
「……このワイン、どうしようかしら。あまりに古いわね、ボトルも汚いし」
「破棄したほうがよろしいかと。保存状態に問題があります」
(そうだ。ルーナの言うとおり、捨てろ、グロリア……!)
「でも……このワイン、きれいだわ。血のように、真っ赤で……。とても、おいしそう」
空気が張り詰める。グロリアの視線がオリバーに突き刺さっていた。
(だめだ、動揺するな……!)
「口にすれば、別の世界が見えてしまいそうな。そんな狂気が見えるわ。――飲んでみようかしら、ねえ、お父様?」
「――っ!」
「他愛ないわね。うそのつけない性格なんだから」
グロリアはふっと息をついて、ワインボトルをいとおしそうに抱きしめた。
「良く考えたわ、どう見ても『ありえない』場所にゴールを設定し、無意識に候補から除外させる。そういえば、隠し扉でもこの手にやられたのよね」
「くっ……」
「お父様は最初にこの宝箱を見せた、当然、『最初から答えを見せるはずは無い』と私たちに思わせるため、とても自然な演技でね。さらに追い討ちだったのは、宝箱の鍵の甘さ。
――これほどにセキュリティが甘いはずが無い。そういう私たちの思い込みを期待したのだろうけど、二度同じ手は通用しないのよね」
そう。すべてグロリアの見抜いたとおりだった。
グロリアが探し求める『モノ』は、オリバーの倉庫の中で最も大切なものだ。
それを、あえて価値の低く見える宝箱の中に入れ、そして入れ物もワインボトルに変え、いかにも安っぽいものとして演出した。
そうすれば、その価値を知らぬものが盗み出したとしても自ら破棄し、悪用することはないと考えたからだ。
「神の心臓……いえ、『深紅の皇玉』と呼ぶべきかしら。伝承によると、それは固体にして液体。宝石の形をしている必要など無いのよね」
「ひとつ聞いて良いか、グロリア」
「なにかしら?」
「どこでそこまで知ったのだ。これはこの国でも一部の……『赤の騎士』と呼ばれる者しかしらぬはず」
「さて、ね。それは企業秘密とさせていただくわ」
グロリアはうっとりとした目でボトルを見つめる。
「これでこの世界の幻想は消え、何もかもが変わる。変わっていくこの世界で、人は闇の中を突き進む強さを手に入れることができる」
「本気でそう思っているのか……。人は孤独の中を生きる強さなど持っていない。考え直すなら今のうちだ」
「そうかしら。しかし、『そうならなくては』人はいずれ滅びの道を行くしかないのよ。だから、今ここで変わらなければならない。そのために私は……」
「グロリア……」
オリバーは、もはや説得もここまでと、娘に対する希望をここで初めて捨て去った。
目を閉じ、精神を集中させ、腕を大きく広げる。
「『赤の衣(アルマトゥーラ)』。いでよ、王の為に正義を貫く我が剣『エゾルチズモ』!!」
オリバーの体が詠唱とともに赤の光に包まれる。
光がはれ、そこに立っていたのは、鎧兜に大剣を携えた男の姿だった。
「『赤の騎士(ロッソ・カヴァリエーレ)』。オリバー・スカルラット。王に牙を剥く無法者に、死を与えよう」
「そう、それがお父様の騎士の姿。とても、素敵だわ」
まったく動揺した顔をみせず、グロリアは両手をパチパチと鳴らした。
「『深紅の皇玉』を預かる身だものね。それなりの強さをもたなければ。で、お父様……。あなたは、その剣で私を貫こうというのかしら? あなたの情熱で、私を燃やし尽くしてくださるの?」
「グロリア、本当に君が望むなら、神の心臓を喰らうが良い。私が君を滅するのは、それからだ。君が考え直すというなら、剣を下ろそう」
「情けをかけるというの?」
「できることなら、娘を斬りたくない。だが、神の心臓を得た後は、君は今までの君ではなくなる。……我が娘、グロリアではなくなる」
「そう……お父様は、先ほど『私を父と呼ぶな』といっておいて、やはり私をまだ娘と思ってくださるのね。いいわ、それ。お父様、可愛いわ。愛してるの、狂おしいほどに。セリスと同様に。家族だもの」
――だから。
「愛しいお父様、あなたの血が飲みたいの。よろしくて?」
(やはり――私は、娘と戦わねばならぬのか。それが運命だというのか)
だが、運命を超えることなどできはしない。
(ならば甘んじて受けようこの運命を)
「ルーナ。はずしてくれる? 入り口を見張っておいてくださらないかしら。これは、私とお父様の問題だから」
「承知いたしました。お嬢様、御武運を」
「大丈夫。これが私の運命の始まり。この運命を乗り越えて初めて、始まるのよ――私の、物語が」
「失礼いたします」
ルーナが背を向けて退出した。
オリバーとグロリアが向かい合ってたつ。
オリバーは剣グロリアに突きつけ、グロリアは右手に銃をオリバーに向けて、左手にワインを持っている。
「ラッパ飲みは、趣味じゃないのだけれど」
栓を器用に外す。
中に入っているのは、液体とも固体ともつかぬ、奇妙な物体。
美しい紅に輝く。『神の心臓』。
それは、『深紅の皇玉』と呼ばれる、この世界の至宝。
今、グロリアは『世界そのもの』を手にしていた。
そっと口をつけ、ボトルを傾ける。ボトルの内容物が口を、食堂を通り、胃に流れ込む。
「――っ!!」
グロリアの体が振るえ、ひざが折れる。
(これは……全身の血管に刺すような痛みが……! 『流れ込んでいる』んだ! 神の血液が……!)
「あ……ぐぅ……ああ……あああああああああ!!!!」
頭を抱えて大きく降りはじめるグロリア。
人知を超えた苦痛が彼女を襲っていた。
血管の中に無数の針を打ち込まれたような、体のうちから、破裂しそうなほどの力が押し寄せて来る。
「い、いや……いやああああああああああああああああぁ!!!!!!」
がんがんと頭を床に打ち付ける。
「グロリア……」
オリバーは哀れみの目で、娘を見ていた。いや、かつて娘であり、これから娘でなくなる、その中間の存在をみつめていた。
その苦痛を乗り越えた先に、グロリアの求める世界の形がある。
しかし、この苦痛はまだ序章に過ぎない。
グロリアの歩む道は、さらなる苦痛の連続であり、地獄すらなまぬるい生の地獄である。
ここで、終わらせなければならない。
それがオリバーの親心だった。
「はぁ……はぁ……」
「おちついたか、グロリア。……では、今楽にしてやろう」
オリバーは大剣を大きく振りかぶり、上段に構えた。
「我が娘であった何者かよ。生まれたばかりで失礼するが、これでお別れだ!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぁ!!!!!!」
オリバーの騎士剣。その高速の斬撃がグロリアの頭部にせまっていた。
オリバーはすべてが終わったことを確信した。
この一撃は、どのような生物だろうと、どのような強い鎧をまとった騎士だろうと、絶対に防げぬ、必殺の一撃。
大地を揺るがす力の奔流。
そのすべてをこめて、今、父は娘を滅しようとしていたのだった。
そして、剣が脳天からグロリアの体を両断し、この世から消滅させようとしたまさにその瞬間。
――グロリアは笑った。
さるさんに阻まれましたが、やっと投下終了。
次の投下で初戦闘〜第一章終わりです。
最初に変身したのがオッサンという変な物語ですが、どうかこれからもよろしくおねがいいたします。
373 :
◆4EgbEhHCBs :2010/01/08(金) 22:48:18 ID:SQRAGFjn
遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。
ただいまより、新作を投下します。
今回は短期連載なので、話数は非常に少なめになる予定です。
ジャンルは傭兵な変身ヒロインといったとこです。それでは投下します
機甲闘兵ソニア 第一話『衝突』
科学技術が発展した近未来。人々の暮らしは豊かとなり、平和を謳歌している。
世界も、地球統一政府が誕生し、それぞれの国が自立し、他国と手を取り合い、
平和な世界を守ろうとしている。しかし、政府のやり方に反発し、この世を乱そうとする
ものも少なくはなかった。
なかでもムルマという人物が率いる反政府組織ロギアは、当初はただのテロ組織で
ありながら、巨大な軍事力科学力を有し、地球統一政府所属の軍隊でも手を焼いていた。
そして、その勢力は拡大を続け、現在は北米、南米、アジア地域で紛争が勃発してしまい、
欧州やオセアニア、アフリカなども、いつ戦いに巻き込まれるかわからない。
人々は不安の中で生きていた。そこで、政府はこの事態を収拾するために、
とある傭兵部隊に連絡を入れた…。
北米某所。市街地などということなどお構いなしにロギアの軍勢が破壊活動を行っている。
そこに派遣されてきた政府の軍人たちが応戦している。
「くそっ!奴らは平気でぶっ放せるが、こっちは民間人への配慮が必要だ!」
「民間人の避難状況は!?」
兵士の叫びに、呼応し通信機からノイズ交じりに声が響いてくる。
『あと…もう少しだ!…それまで、持ちこたえてくれ…!』
それだけ言い残すと通信は切れる。その直後に、ロギアの兵士が政府軍の陣営に向かって
機関銃を乱射してきた。それをなんとか、瓦礫で防ぎ、耐えるがなかなか反撃の機会は訪れない。
「ちくしょう!このままじゃ、こっちもやられるのは時間の問題だぜ!」
「なんとかしなければ…あっ!おい、あそこ!」
一人の兵士が指差した方向には逃げ遅れたのだろう、少女がただ一人、崩れかけた家の近くで
すすり泣いている。そこにもロギアの銃弾が飛び、家が完全に崩壊し、少女を
押しつぶそうとする。政府軍も助けようにも自分たちの身の守りで精一杯だ。
しかし、その時であった。眩い閃光が走り、その場にいた者たちの目を眩ます。
光が止み、政府軍がそっとそちらへと視線を移すと、崩れた家の前に泣いていた少女と
それを抱きかかえて、政府軍側に走ってくる者の姿。その体格から女性と思われる。
褐色の肌に短い黒髪、背は女性としてはそこそこ高めであった。服装はジーンズに
シャツ、その上にシンプルなジャケットと、戦場にはあまり似つかわしくないものであった。
「もう大丈夫だよ…お兄さんたち、この子お願いね」
「お、おい!君も逃げた方がいい!」
兵士の言葉を無視して、女はロギアの軍勢に突撃していく。その姿は端から見れば
あまりにも無謀である。ロギアも彼女に向かって躊躇なく発砲していく。
だが、彼女はその無数の銃弾を掻い潜り、兵士の懐に飛び込むと素早く拳を突き
取り出したコンバットナイフで、次々と敵軍を切り倒していく。
しかし、その背後に回った敵兵士が発砲しようとする。気づいたときには
もう遅い、すぐに撃たれる!だが、吹き飛んだのは女ではなく、兵士の方だ。
「ソニア!あまり無茶をしないでください!」
「悪いね、アメリ!後ろは頼む!」
褐色肌の女、ソニアは一言そういうと、さらに敵軍に突っ込んでいく。
アメリと呼ばれた長いライトグリーンの髪をした女は、やれやれといった表情で
ソニアに群がる敵兵たちを一寸の狂いなく、撃ち倒していく。
どちらも戦闘不能にするだけで、急所を当てないようにしている。
政府軍は彼女らの活躍を呆然と見ているだけであった。
不利と見たロギアの軍勢はその場から撤退していく。とりあえずは政府軍の勝利だ。
しかし、突然現れた二人の少女に兵士たちは疑問をぶつける。
「お前たちは一体何者だ?どこから来たんだ?」
「あれぇ?上のほうから連絡が来てない?」
「政府軍はロギアを叩くために傭兵部隊に出動要請しました。それが私たち」
「い、いやその話は聞いているが…まさか」
こんな自分たちより、いくつか下の年齢である少女たちが傭兵などとは
なかなか信じられずにいた。そこに唐突に廃墟の空間に足音が響いてきた。
それに気づくと、ソニアとアメリは敬礼のポーズをする。
「レベッカ隊長!」
「うむ、二人ともご苦労。とりあえずは凌いだようだな」
二人が敬礼しているのは彼女らよりさらに小さい少女。周りの政府軍の兵士たちは
余計に頭が混乱してくる。
「え、ええ?あ、あなたが傭兵部隊の隊長?」
「そうです。傭兵部隊プラズマフォース隊長…レベッカ・シュナイダーです。
あなた方の部隊の隊長と面会したいのですが」
小柄なグレーの髪色をしている少女が隊長とは、余計にそんな傭兵部隊の存在を
信じられない。一応、軍服を着ているとはいえ、どっきりか何かと思ってしまう。
しかし子供のような容姿に反して、しっかりとした大人の雰囲気があるこの人物の
言うことを、とりあえずは聞き入れることにした。
政府軍キャンプ地。突然の夕立の音が騒がしく響く。一番奥のテントで
プラズマフォースの面々と政府軍隊長が対面し、両者の代表が握手を交じわす。
「よく来てくれました、プラズマフォースの皆さん。私は政府軍隊長の日向です」
「プラズマフォース隊長のレベッカ・シュナイダーです。どうぞよろしく。
それで、こちらが私の部下の」
「ソニア・ジルベルトです!」
「アメリ・クリュイテンスです」
敬礼して挨拶をする。日向は、それぞれの顔を確認するように見る。
「それにしても、噂は聞いておりましたが、本当に女性だけで構成されているのですな」
「驚かれましたか?」
「それはもちろん。ですが、先ほどの戦闘で確かな実力だとお見受けしました」
「あの二人はうちの部隊でも選りすぐりです。決して期待を裏切るような真似は致しません」
隊長同士が話している最中に、政府軍の兵士がソニアたちに話しかけてくる。
「本当にあの人が君たちの隊長なんだな…」
「そうよ。レベッカ隊長は、見た目は可愛いけど、めちゃくちゃ強いんだから」
「私たちの戦闘教官も務めてくれましたから」
そんな話をしている中、隊長たちは作戦内容の話へと移行する。
「さて、プラズマフォースの皆さんには、護衛任務についてもらいたい」
「護衛任務?」
「そうです。政府軍が開発したEXコアというエネルギーユニットの護衛を」
EXコア。それは多大なエネルギーが凝縮されたユニットであり、
大きさはビデオテープ三つ程度ながら、破壊に活かせば大陸を崩し、生活に活かせば
生活に必要なエネルギーを50年分は賄えるとも推測されている。
「なるほど、そのような代物ならば、奴らに渡すわけにはいきませんな」
「EXコアが保管されている施設の周りを皆さんにはお願いします」
作戦内容がわかると、レベッカは二人の部下に向き直る。
「聞いての通りだ。ソニア、アメリ、いくぞ!」
「「了解!!」」
夜九時ジャスト。雨も止み、プラズマフォースは指示通り、施設の外を見回っている。
今のところ、特に敵が攻めてくる気配はまだない。
「ふ〜…隊長、本当に奴らは来るんですかねぇ?」
「あれほどの代物を連中が放っておきはしまい。それよりも、ソニア!任務の最中に気を抜くな!」
レベッカの叱責に、ビシッと背筋を伸ばし、気を引き締めるソニア。
一方、双眼鏡で遠くを見つめているアメリ。
「アメリ、何か変わった様子は?」
「いえ、今のところ……引き続き警戒します」
そして、このまま緊張感がありながらも平穏な時間が流れていくかと思われた。
だが、施設の内部から突然爆発音が響き渡る!
「隊長!施設の方から!」
「施設内は政府軍の兵士たちが護衛しているはず…とにかく行くぞ!」
「了解!!」
迅速に施設内へと突入する三人を待っていた光景は。
「ひ、ひどい…」
爆発の影響か、焼け焦がれたもう動かない軍人たちが溢れかえっている。
しかし、なんとか意識を保っている者もいる。レベッカが駆け寄る。
「しっかりしなさい!どうしたのです?」
「ろ、ロギアが……奴ら、雨に紛れて……んぅ…」
そう一言告げると、事切れてしまう。
「EXコアの保管場所へ急ぐぞ!」
頷きあい、施設の最上階へと向かう。途中の道は荒らされて、整った道はほとんどなかった。
ようやく、保管場所にたどり着くと、そこには一人の女の姿。
そして、肌にぬめりがある、怪物のような者の姿。
「隊長!EXコアが!」
「貴様!何者だ!?」
レベッカの問いに、コアを持った女は振り向き、怪しげな笑みを浮かべる。
「初めまして、プラズマフォースの皆様…私、ロギア総帥ムルマと申します」
「ムルマだと!?」
敵組織の総帥が自ら出てくるとはさすがに驚きを隠せなかった。
だが、これは好機でもある。
「隊長、こいつをとっちめて、ロギアを一気に叩きましょう!」
「そうですその上でEXコアも取り返します!」
ソニアとアメリが意気込む。しかし怪物たちが、ムルマを守る立ち位置に移る。
「出来るかしら?この子たちは強いわよぉ?ただの軍人さんでは相手にならないわよ?」
「このような怪物まで所有しているのか…ロギア、どこまで底が知れぬのだ」
「私たちをただのテロ組織と思ったら大間違い。兵士はクローンで大量に作って
その技術の応用で、動物を無理やりにでも強化進化させて、こういった生物兵器…
そうね、キメラモンスとでも名づけましょうか」
レベッカの疑問に、ムルマは笑いながら、答える。そして、キメラモンスと
名づけられた怪物たちは大きく振りかぶって、拳を三人に向かって振り下ろす。
「おっと!お返しだぁ!!」
ひらりとかわし、ソニアは小型爆弾を投げつけ、それが炸裂する。しかし、大して効果はない。
「この!受けなさい!!」
アメリがハンドガンを取り出し、それを発砲する。怪物たちは仰け反るが
それも致命傷にはならない。
そして、キメラモンスの一体は腕を剣のようにし、斬りかかってくる。
だが、それをレベッカの鞭が防ぐ。
「隊長!」
「ソニア、アメリ…!まだ完全とはいえないが…あれを使うぞ!」
「りょ、了解!」
力付くで、絡め取った剣を振り払い、三人は横に並ぶ。
「「「コンバット・クロス!!」」」
三人の叫びと共に、それぞれ着ていた服が弾け、光が彼女らを包む。
その光はぴっちりとしたレオタード状になり、ソニアは赤、アメリは青、レベッカは緑色の
コスチューム姿となり、さらに、手甲にブーツが装着されていく。
「あらぁ…あなたたちも、そういう技術力があるんだぁ」
「お前たちのように、恐ろしい力を身につけている組織に対抗してな…
ソニア、アメリ、いくぞ!」
「「了解!!」」
ソニアはエネルギーを纏ったコンバットナイフを、アメリは巨大な銃を取り出す。
そしてソニアは一気に駆け出した!
「くらえぇぇ!!」
斬撃がキメラモンスの一体に炸裂、一瞬にして豆腐のように砕け散った。
さらに背後に回った怪物に回し蹴りのカウンターを浴びせ、拳を引く。
「マグナムナァックル!!」
強烈な正拳突きが決まり、ドカンと爆発、吹き飛ばした。
「レーザーマシンガン!!」
アメリは銃から光線を乱射し、キメラモンスたちを蜂の巣にしていく。
さらに銃が変形し、口径が広がる。
「スピリットキャノン!!」
一際、大きな光弾が飛び、まとめて怪物たちを吹き飛ばす。
レベッカは進路上の邪魔なキメラモンスたちを鞭を振るい、叩きつける、というより
切り裂いていき、一気にムルマに接近する。
「わざわざ、私たちの前に出てくるのが運の尽きだったようだな、ムルマ!」
「どうかしら?確かにあなたたちは結構強いみたいだけど…それだけでは
勝てないわよ!」
ムルマの腕から光が迸り、それがレベッカに向かって飛ぶ。紙一重で避けるが
避ける直前にいた場所はシュウシュウと煙が上がっている。
「貴様…人の範疇を超えた技だが…」
「もう人の世は終わり、とでも言っておこうかしら?」
唐突にレベッカの背後から怪物が現れ、襲いかかろうとする。しかし
「むん!ウィップブレード!!」
鞭からかまいたちのようなものが飛び、怪物を切り裂いた。
再び、ムルマの方へと振り向こうとするが、突然、外から轟音が響き渡る。
「むっ!?みんな伏せろ!!」
轟音はこちらに近づき、壁を外から突き破ってくる。現れたのは真っ黒なヘリコプター。
「遅くなり申し訳ありません、ムルマ様」
「いいわよ、この子たちと遊んであげられたし。さて、悪いけどEXコアは頂いていくわよ」
「くっ、逃がさないよ!」
ソニアが形振り構わずヘリに向かって突撃する。しかし、ヘリの機銃がソニアを狙う。
「うわっ!くっ!」
回避するが、近づくことは出来ず、ムルマを乗せたヘリはそのまま飛び去ろうとする。
「アメリ!」
「はい!」
銃をマシンガンに変形させ、ヘリを撃ちまくるが、致命傷とはならず逃してしまう。
「くそぉ!せっかく総帥をやれると思ったのに!」
「大丈夫だ、ソニア。アメリ、発信機は」
「マシンガンのどさくさに紛れてあのヘリに装着することが出来ました」
そう、逃しても追跡できるように発信機も一緒に放っていた。
アメリが銃をいじると、立体映像が浮かび上がる。そこに映し出されたのは世界地図。
北米から南下する赤い点も見える。これが先ほどのヘリである。
そしてしばらくして、それはブラジルの辺りで止まる。
「隊長、ブラジルに止まりました」
「ここが奴らの本拠地か、それとも発信機に気づかれたか…いずれにせよ、
ブラジルに向かう必要がありそうだな」
「ブラジルかぁ…あたしの故郷だな。あいつらうちの地元で何をするつもりだ?」
それぞれ考えていると、突然、背後から物音が聞こえてくる。ハッとなり、振り返ると。
「日向殿!」
それは傷だらけながらもなんとか生き延びていた日向の姿であった。
「レベッカさん…すまない、奴らにあのような戦力があるとは…これから…
ロギアの攻勢は凄まじくなっていくだろう…なんとかしなければ」
「大丈夫です、日向隊長。私たちに任せてください」
「EXコアを守るという任務を果たせていないからね。あたしたちが必ず取り返して、
ロギアを叩く!」
アメリとソニアの言葉を聞き、安心したかのように微笑し、日向は倒れた。
「日向隊長!」
「…大丈夫、気絶しているだけだ。他にこの施設内に生き残りがいたら彼らを救出、
その後、すぐにロギアの連中を追うぞ」
レベッカの指示に従い、二人はすぐに施設内を回り始める。
「ロギア…EXコアを奪って何をするつもりだ…?」
そして小柄な隊長は一言そう呟くと、部下の後を追い始めた。
次回予告
「ロギアの後を追い、ブラジルへと向かうプラズマフォース。密林に仕掛けられた
罠を突破し、行き着く先には謎の遺跡。そこで彼女たちを待ち受けるものとは?
狼のごとく、ソニアたちは戦場を駆け抜ける…」
投下完了。まなみや凛のようにギャグが入ることは
あまり無い、かもしれないです。
先ほどの通り、短い話ですが、よろしくお願いします。
>Und Blood作者さん
投下乙でした。なんだか壮大な感じがしますねぇ。
これからの展開が楽しみです
382 :
代理:2010/01/10(日) 23:42:23 ID:gwcEc1VO
レス内容
両者とも投下乙でした。
>>372 うーむ、ファンタジースレっぽい内容ですなぁ。
これからどんな内容になるのか、予想がつきませんぜw
>>381 短期連載ということは3、4話程度になるのですかね
傭兵な変身ヒロインって思えば、あまりいないような?
次の話も楽しみです。
それにしても、規制が多くて人少ないなぁ…
「ねぇアシュクロフト! ボク、魔女になるよ!」
「お、お嬢様。まだおやすみになられてなかったのですか」
使用人室に飛び込んで来たのが、自分が仕えている名家・ジェルマンの一人娘であることに気付くと、メガネの青年は読んでいた本を放り出して頭を抱えてしまう。
ジェルマン家のお嬢様のとっぴな言動に対し、彼が頭痛を覚えるに至る理由は三つある。
一つ、あれほど早く寝るように言ったはずのお嬢様が、日付が変わるほどの時刻まで当然のように起きていること。
二つ、使用人室にはお嬢様を入れるなと申し付けられている。お嬢様が自分からやって来たのだが、後でどやされるのは世話係である自分だ。
そして三つ目―――。
「お嬢様、女性が魔術を学ぶことはできません。そのことはお嬢様もご存知でしょう?」
新興の学問であった魔術学が、学会に正式に認められるようになって早100年。
今や魔術学も基礎学問の一つとなっており、ほとんどの学院が魔術学を必修としていたが、
女性蔑視の風潮漂うこの時代、その門戸は女性に対して開かれてはいなかった。
『魔術は男のための学問。穢れた女では修めることは不可能』というのが世間の常識だった。
「だからアシュクロフトのところに来たんじゃない。ボクに魔術を教えてよ!」
なるほど、確かに現役の学院生である自分なら、必修である魔術学に関してある程度の知識があって当然だ。
これはお嬢様には言っていないが、実は自分の専攻科目は魔術学だったりもする。
「無理ですよ、女性は体質的に魔術が使えないと家庭教師に教わりませんでしたか?」
「ボクもそう思ってたんだけどさ、ならどうして魔女なんて言葉があるの? 本当は女の人でも魔術は使えるんじゃない?」
アシュクロフトはそれを聞いて、お嬢様が急にこんなことを言い出した理由に合点が行った。
「また変な本を読んでいたんですか?」
お嬢様は本を読むのが好きだった。
それだけならいいが、お嬢様は非常に本の影響を受けやすく、感化されて騒動を引き起こすことが多いのだ。
5歳のころは少年冒険記に夢中になり、主人公の一人称を真似て自分のことを『ボク』と呼ぶようになった。
さらには9歳のころに騎士物語に夢中になり、主人公の青年騎士を真似て長いブロンドの髪を短く刈り落としてしまった。
そして12歳の誕生日を迎えて間もない今日、なんとまぁ魔女になると来たもんだ。
今度はどんな悪書を読んだというのか。
「ううん、今回は本じゃないんだ!」
「嘘をつかないでください。魔女なんて言葉は物語にしか出てこない言葉でしょう」
「そうなの?」
「ええ。魔女物語のほとんどは魔術が立証される以前に書かれたもの、つまりただのファンタジーなんですよ」
そうは言うものの、この件に関してアシュクロフトにも少し合点の行かないところがあった。
女性が魔術を修めることが“不可能”だというなら放っておけばいいものを、学会は魔術を志そうとする女性を積極的に“排除”しているのだ。
理由はよく分からないが、まるで世に魔女が現れることを学会が恐れているかのようにアシュクロフトには思えた。
だが何にしろ、まかり間違ってお嬢様が魔術を修得しようものならどれほどのトラブルが起こるか知れない。
万が一にもそんな事態にならないために、今ここでお嬢様を思い留まらせねばなるまい。
「でもさ、違うんだよ。ボクね、さっき外を眺めてたら見ちゃったんだ!」
「何をですか?」
「魔女!」
「は?」
「黒いローブの魔女がボクに魔術を見せてくれたの!」
「そんなバカな」
アシュクロフトは平静を装いつつも、内心は少々動揺していた。
世間知らずのお嬢様は知らないだろうが、実は巷で噂になっていることがあった。
高度な魔術を扱う謎の女が現れ、幼い少女をさらっていく、と。
「ボク、これからその人に会いに行こうと思うんだ。魔術を教えて下さいって」
「バカを言わないでください。魔女かどうかはともかく、不審者かもしれません。そいつはどちらへ行きましたか?」
「西の方に歩いていったよ」
「なるほど、お嬢様はここに居てください。私は少し外の様子を見てきます」
「うん、わかった!」
アシュクロフトは屋敷を飛び出し、西の方を捜索してみた。
しかし猫の影一つ見つからない。もう立ち去った後だろうか。
そうして屋敷の使用人室に戻ったアシュクロフトだが、お嬢様が居ないことに気付いて顔を青くする。
あわててお嬢様の部屋も覗いてみるが、もぬけの殻だ。
もしや魔女にさらわれてしまったのだろうか。
「こ、こうなったら仕方が無い!」
アシュクロフトは自室の床に巻物を広げ、指で人物捜索用の魔方陣を描き始めた。
魔術の無断使用は重大な学則違反だが、そうも言っていられない。
そうして発動した魔方陣がお嬢様の居場所を指し示した方角は、東であった。
「東? どういうことだ、西ではないのか?」
そこでアシュクロフトは、ドレッサーから小柄な使用人服が一着なくなっていることに気付く。
おそらくお嬢様は魔女が西に行ったと嘘をつき、これを着て東に屋敷を抜け出したのだろう。
つまり自分はすっかりお嬢様に出し抜かれたということになる。
だが恨み節を言っている暇など無い。
考えるよりも先に、アシュクロフトはお嬢様を追って走り出していた。
★ ★ ★ ★ ★ ★
そのころ、屋敷から東に位置する廃教会の中。
お嬢様はキラキラした瞳で黒いローブの魔女を見つめていた。
使用人服を着ていることもあり、その姿はまるで少年のそれだ。
先ほど自分の部屋の窓から見せてもらった魔女の魔術、それにお嬢様はすっかり魅せられた。
『魔術に興味があるなら東の廃教会までおいで』
その言葉に従い、アシュクロフトを騙してここまでやってきたのだ。
「やはり来たね、ボウヤ」
「ボク、女の子だよ?」
「ふふっ、分かっているさ。魔術を学びたくてここまで来たのだろう?」
魔女は指先から軽く火花を散らして見せた。
それを見たお嬢様はますます目を輝かせる。
魔女が言うには、自分は非公認の魔術研究組織の一員で、魔術に興味を持つ若い女性を勧誘して回っているのだという。
「私はフレデリカという。ボウヤの名前は?」
「ボクの名前?」
自分の名を問われ、お嬢様は露骨に嫌な顔をした。
「確かに両親から貰った名前はあるよ。でも、言いたくない」
「どうしてだ?」
「だってみんなボクのことを“お嬢様”って呼ぶばかりで、本当の名前なんて全然呼んでくれないんだ。どうせ誰も呼んでくれないなら、最初から教えない!」
「そうかそうか」
フレデリカは薄く笑って、お嬢様の頭を撫でる。
「古来より、名は体を顕すという。目に見えぬ力を重んじる魔術なら尚のこと。されば、呼ばれぬ名に固執する理由もあるまい」
「じゃあ、フレデリカはボクのことをなんて呼んでくれるの?」
「私を呼ぶときは“先生”を付けなさい」
「はーい、フレデリカ先生!」
「さて、ボウヤの呼び名だったな。流石にお嬢様と呼ぶわけにはいかないが―――」
フレデリカは口元に手を当て、しばし考え込む。
「うむ―――“魔嬢様”、というのはどうだ?」
「え?」
「“魔女”と“お嬢様”を合わせて“魔嬢様”」
「“マジョウ様”?」
「気に入らんか? 名前を変えるにしても、呼ばれなれた名前の原型を留めて置いたほうが色々と都合がいいと思うのだが」
「“魔嬢様”―――“まじょうさま”―――」
無表情でかみ締めるように何度もその呼び名を反芻するお嬢様。
一度その名を呼ぶ度に、少しずつお嬢様の口元から笑みがこぼれてくる。
「うん、それいい! ボク、今日から“マジョウ様”だ!」
「気に入ってもらえてよかった」
フレデリカは、そっとお嬢様の手を握る。
「では行こうか魔嬢様。しばらく家には帰れないかもしれないが、かまわないね?」
「うん、どうせボクのことを心配するような人なんて居ないし」
「お嬢様っ、ご無事ですか?!」
「えっ?」
教会の朽ちかけた扉を無理やりこじ開けて飛び込んで来たのは、鬼気迫る表情をしたアシュクロフトだった。
「狼藉者、お嬢様から離れろ!」
アシュクロフトは、口頭で術式を唱えて指先から炎を生み出し、それを魔女に投げつける。
投げつけられた炎は宙で旋回し、炎の槍となってフレデリカに襲い掛かる。
「ほう、ピタリの炎魔術の応用か」
フレデリカはアシュクロフトの魔術に感心した様子だが慌てることはせず、素手であっさりと炎を払いのける。
「若いのに研鑽を積んでいるようだな。だがまだまだ甘い」
「なんだと! うっ?!」
アシュクロフトの足元が凍りつく。
知らぬ間にフレデリカが設置していた隠行式の氷方陣の上に足を踏み入れてしまったのだ。
氷方陣から生じた冷気はどんどん上方に侵食していき、膝、腰と、徐々にアシュクロフトの自由を奪っていく。
このまま行けば、アシュクロフトの心臓が凍りつくのも時間の問題だろう。
「くっ、私の命に代えてもお嬢様を魔女に渡しはしないぞ!」
「その忠義は立派だ。だが通報されては厄介なのでな、悪いが口を封じさせてもらう」
「や、やめてっ! アシュクロフトに酷いことしないでっ!」
「!」
お嬢様がフレデリカの手を振り払い、凍っていくアシュクロフトに抱きついたのだ。
冷気が彼女の体にも移り、胸元から徐々に凍っていってしまう。
「ちっ、方陣解除―――」
「あっちぃぃぃーーー?!」
フレデリカが氷方陣を解除するよりも早く、アシュクロフトが飛び跳ねた。
その尻の部分からは煙が立ち上っている。
その勢いで氷方陣から飛び出したアシュクロフトから、氷が剥がれ落ちていく。
呆気に取られたフレデリカだったが、お嬢様が方陣の中に取り残されていることに気付き、慌てて方陣を解除する。
フレデリカを一睨みすると、お嬢様に駆け寄って抱き起こすアシュクロフト。
氷に包まれていたにも関わらず、お嬢様の両手のひらは少し焦げていた。
「お嬢様、もしかして今のは」
「こ、氷を溶かすには火を使えばいいかと思って」
「じゃあやはり、先ほどの私の魔術を真似て?」
お嬢様は見よう見まねで、先ほどのアシュクロフトの炎魔術を再現してみせたのだ。
とは言え、アシュクロフトの尻を焦がす程度の火力しか出すことはできなかったのだが。
そんなお嬢様に、フレデリカはますます感心したように言葉を投げかける。
「なるほど、ボウヤには魔術の才能がある。私の見立ては間違っては居なかった」
「ボウヤじゃない、マジョウ様だよ!」
「そうだったな」
少し怒った顔をしているお嬢様の顔をチラリと見ると、魔女はくるりと踵を返す。
「すまなかったね魔嬢様、この男を傷つけて。もう二度と会うことも無いだろう」
「ま、待ってよ、ボクを連れて行ってはくれないの?!」
「私が連れて行くのは、俗世を断ち切る覚悟を持った者だけだ。ボウヤにはこんなに大事に思ってくれる人がいるだろう?」
「それは―――」
お嬢様は思わず自分を抱きかかえるアシュクロフトを見上げる。
アシュクロフトは厳しい目つきでお嬢様を見つめると、黙って首を振った。
しゅんとしてしまったお嬢様は、顔を上げないまま、すまなそうにフレデリカに言う。
「―――ごめん、フレデリカ先生。ボク、今は一緒に行けない」
「やっぱりね。ボウヤ自身も誰かを大事にできる優しい子だ。大丈夫、ボウヤに魔術は必要ないよ」
謎の魔女、フレデリカは立ち去った。
ぼうっと彼女が去った方角を見つめるお嬢様を、アシュクロフトは自分の背中に引っ張り上げる。
「さぁ、帰りましょうお嬢様。もう夜が明けてしまいます」
「アシュクロフト、こんなことになっちゃってごめんね」
「いいんです、もう魔術のことは諦めていただけたみたいですから」
「ううんっ、ボクはいつか必ず魔術を学ぶよ! そして、絶対に魔女になるんだ!」
「そうですか。お嬢様が決めた道です、私はもう口出しするのはやめにします」
「じゃあ―――」
「ただし」
アシュクロフトは、色めき立つお嬢様の先手を打つ。
「私自身は一切お嬢様に魔術を教えるつもりはありませんから、そのつもりでよろしくおねがいします」
「ええー、そんなぁー!」
自分さえ手を貸さなければお嬢様が魔術を学ぶ術は無い。
時が経てばお嬢様の興味はまた新しい何かに移り、魔術のことなど忘れてしまうだろう。
そんな目論見がまるで見当外れだったことを、アシュクロフトは八ヶ月の後に思い知ることになる。
つづく
新作ラッシュなので、便乗投下してみました
これからよろしくおねがいします
>372
とても緊張感のあるお話ですね
最初のグロリアの登場が都合よすぎると思ったら、伏線でびっくりしました
>381
気持ちのいいアクション活劇ですね
これからの彼女達の活躍に期待しています
387 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/13(水) 16:38:29 ID:Rfh6CSdC
メタモルゲーマーズの作者さん、いつも楽しく読ませて頂いております。
今回勝手に二次創作を書いてみました。
【読む前の注意】
・作者さんに無断で書いていますので、本編にこれまでに登場した、あるいはこれから登場する設定と
矛盾や不都合が生じている可能性があります。
・特に昌子について、「18歳(高校3年生相当)だけど受験はまだ先」と仮定して書いた部分が存在します。
この点に関してはご指摘があり次第修正致します。
・その他極力本編の世界観を壊さないように執筆したはずですが、結構好き勝手やってます。
怒っちゃいやです。
チャチャチャチャラララン♪
『ここに登場するのは初めてになるか、ダンディな地球防衛軍長官だ。
聞くところによると佳奈美君たちの周辺に謎の女の子が出没するらしい。
その子の正体については諸説紛々、さっぱり意見がまとまらないそうだ。
それに引き換え私のダンディズムの源は正体不明なんてことはない。
この内面から滲み出る…、時間のようだ、ダンディズムについては
また日を改めてゆっくりと語ることにしようか』
次回、ゆけゆけ!!メモタルゲーマーズ
Extra Round A「敵か味方か、ゲーマーだけどゲーマーじゃない!?」
ジャジャーン!!
『地球の平和は、我々に任せたまえ!』
チャチャチャチャラララン♪
『ここに登場するのは初めてになるか、ダンディな地球防衛軍長官だ。
聞くところによると佳奈美君たちの周辺に謎の女の子が出没するらしい。
その子の正体については諸説紛々、さっぱり意見がまとまらないそうだ。
それに引き換え私のダンディズムの源は正体不明なんてことはない。
この内面から滲み出る…、時間のようだ、ダンディズムについては
また日を改めてゆっくりと語ることにしよう』
次回、ゆけゆけ!!メタモルゲーマーズ
Extra Round A「敵か味方か、ゲーマーだけどゲーマーじゃない!?」
ジャジャーン!!
『地球の平和は、我々に任せろ!』
「絶対6人目だよ!間違いないって!!」
「せやからアンチャーの黒幕が高見の見物しに来とるんやって言うとるやろ!?」
「……違う……不幸体質……」
「何度言わせる気よ!あれはストーカーだって!!」
「…またあのことでケンカしてるんですか?」
日曜の朝から八重花の部屋で繰り広げられている言い争いの原因はと言えば。
以前からゲーマーズ行きつけのゲーセンに出没するカチューシャを付けた女の子のことだった。
佳奈美たちのプレイをいつも見ているだけで、その子がゲームをプレイしている姿を見たことがなかった。
他のプレイヤーにも聞いてみたが、やはり答えは同じだった。
それだけならあまり気にする必要はないのかもしれない。
が、その子が最近アンチャーの出没先に毎回と言っていいほど現れるのである。
最初は偶然だと考えていたゲーマーズメンバーも、回を重ねるごとに必然だとの確信に変わっていった。
佳奈美説によると、あの娘は戦隊物で定番の6人目の仲間だ。
千里説によると、アンチャーの新幹部(もしくは大ボス)が正体を隠して現れている。
亜理紗説によると、いつも行く先々で被害に遭遇する巻き込まれ属性だ。
八重花説によると、もっとシンプルにゲーマーズの誰かをストーキングしているだけ。
それぞれ自説を主張し合って譲らない。
「そんなに言うなら外れた奴は当たった奴の何でも言いなりってことにする、1日ずっと!」
「ええ考えやなっ、後で泣き言は受け付けへんで!?」
「……提案……上等……」
「私も乗った!!」
「まぁまぁ、みなさんその話はこの辺で…」
宥めに入る昌子だったが、「でも私も…」などと呟きながら何か考え事をしている様子でもあった。
…と思うと突然、
「あ〜〜〜〜!思い出しました!!」
「何!?どうしたの!?」
「びっくりさせんといてや!」
「……昌子にしては……大きい声だった……」
「何を思い出したの、早く言いなさいよ!」
先が長いことが予想されたので、八重花は昌子に姫カツラを被せつつ言った。
「何がって、それをこれからゆっくり……って!?」
そこまで話すと昌子は黙り込み、また急に、
「あ〜〜っ!思い出しましたことよ!!」
「思い出したのは分かったよ!?」
「驚かすなっちゅうねん!!」
「……さっきとは別のこと……思い出したんじゃない……」
「くどいのよ、一体何を思い出したか早く言いなさいよ!」
「慌てないで欲しいですことわよ、丁寧に説明…!????」
再び黙り込んだ昌子は2,3拍置いて、
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
カツラを外したかと思うとそのまま血相を変えて脱兎のごとく部屋を飛び出して行ってしまった。
「本当にどうしたんだろう…」
「ブレスレット置いたままやで…」
「……また別のこと思い出したんだとしたら……3つか……」
「引っ張るだけ引っ張っておいて一体何だったのよ!?」
間もなく昌子から連絡があった。飛び出していった理由、と同時に3度目に思い出したこと、
それは今日は塾開催の模擬試験申し込み最終日だったのをすっかり忘れていたということだった。
別に午後に申し込んでも十分間に合ったのだが、昌子にとっては居ても立ってもいられなかったようだ。
「私たちと違って真面目で通っとるからな、昌子ちゃん」
「……一皮剥けば……コスプレ好きのゲームマニアだけどね……」
「それで!?最初と2度目に思い出したことって何!?」
「2度目のは『マジックキャラメル王の保土ほど子』とか何とか言ってたみたいだけど…」
「『マジックキャラメル王』!?そう言えばそんな超マイナーなパズルゲームがあった気が…」
「……知ってる……確かに似てる……」
「マジキャラ王」を思い出せなかった佳奈美はネットで検索してみたが、そこに登場する「保土ほど子」の
外見はあのカチューシャ娘にそっくりだった。『G・パズラー』である昌子にとってはどこかで見たのに
思い出せない状況がもどかしくてたまらず、それで大声を出す結果となったらしい。
2つの驚きの内容に大きく期待外れだった八重花は落胆した様子だった。
「なんだそんなこと…。それじゃ最初に思い出したことも大したことはないわね」
「……最初の驚き方が……一番小さかったね……」
「『あの子と一緒の部屋で模試を受けたことがある』、それが最初に思い出したことだって」
「!?何やてっ、そういうことあったんなら何で早く言わへんのや!?」
「そうよっ、そこからあの娘の正体がつかめるじゃないの!!」
「ゲホゲホ…あたしに言われても…昌子が見かけたのも数回程度だし、
特に言葉を交わしたことがあるわけでもないからなかなか思い出せなかったんだって」
「……でも手掛かりにはなる……試験の時のデータとかあるだろうし……」
「ということで長官のおっちゃん、いつもの通り権力総動員で身元特定頼むで!!」
『あのな、念のため言っておくが、私は便利屋か何かでは─────』
『エマージェンシー!! エマージェンシー!!』
結論から言えば長官の手を煩わすまでもなかった。アンチャー出現にゲーマーズが出動すると、
問題の少女はあっさり現れた。しかもアンチャー撃滅時の爆風に巻き込まれて気絶するというおまけ付きで。
「…ねぇ、どうするの!?幸い見たところ怪我はしていないみたいだけど…」
「亜理紗が考え無しにロケット弾ぶっぱなすからやで!!」
「……どちらかと言うとこの子が悪い……逃げるどころか近寄ってくるなんて……」
「ある意味手間が省けたじゃない、とりあえずどこかに連れて行きましょう」
ゲーマーズは人のいない公園に少女を運び、意識が戻るのを待った。新幹部説、ストーカー説をそれぞれ
強硬に唱える千里と八重花が正体を明かすのはまずいと主張したため、変身は解除せずにおいた。
気付くまでの間に少女の所持品から私立の高校に通う学生であること、
名前が『並木詩音(なみきしおん)』であることは判明した。
「…う、うん…」
「あ、気が付いた!ここはもう安全よ。さっそくだけどあなたが6人目の仲間なのよね!?」
「いや、あわよくばスパイしようとしとるアンチャーの幹部やろ、観念して白状せい!」
「……正直に言った方がいいよ……不幸体質なんだって……」
「誰をストーキングしてるの!?悪いことは言わないわ、今なら引き返せるわよっ!」
「!?!?!?何のことかぁ分からないですよぉ…」
当惑する詩音が落ち着くのを待って、ゲーマーズは質問を浴びせた。
「それじゃ最初の質問。どうしてアンチャー…あの怪物が現れるところにいつも現れるの?」
「えぇ?…なんとなくぅ、ですよぉ?」
「なんとなく、やって!?」
「分かるんですよぉ、あの化け物がどこに出るかぁ、だからそっちに行くんですよぉ」
「……わざわざ自分から行くの……アンチャーの現れるところに……?」
「そうですよぉ、そうじゃなきゃ毎回いませんよぉ」
「一言言ってもいい?さっきから喋り方が遅いのよ、もうちょっと早くしゃべれないの!?」
「えぇ〜、…それじゃ少しテンポ上げる、このくらいでいい?」
「普通に話せるなら最初からそのスピードでしゃべりなさいよ!」
「このテンポだと後で反動が来てますます遅くなるから、…このくらいなら平気だよぉ」
なんだか詩音は話し方まで『ほど子』そのものだった。どうしてこんなに面倒臭そうな子ばかり
出てくるんだろう、と4人はそれぞれ自分のことを棚に上げながら思った。
「…それじゃ次の質問ね、なんでアンチャーのところへ行きたがるの!?」
「せや!!自分がアンチャー側だから行っても大丈夫なんやろ!?」
「……心は行きたくなくても……どうしても体は行きたくなるんだと思う……不幸体質だから……」
「アンチャーあるところにゲーマーズあり、ストーキングのためでしょ?」
「ちょっとちょっとみんな、…6人目として名乗り出たいけど今までできなかったんだよね?」
「聴きたいからだよぉ、あの怪物が倒される時の音がぁ」
「「「「 音が聴きたいぃ!? 」」」」
詩音の言葉をそのまま記していると長くなるので以降は要約すると、彼女には他人には聞こえない音が
聞こえることがあるらしい。一度気になってその音の発信源へと行ってみるとアンチャーだった。
もちろん怖くて逃げ出そうとしたが、間もなく駆け付けたゲーマーズにより倒された時の音が
忘れられなくなったと言う。
「…みんなアンチャー倒す時音、聞こえる?倒されると音もなく消えていく、んじゃないの?」
「確かこの間の立て篭もりの時もアンチャー同士ですら気付いてなかった、ような気がするんやけど…」
「……多分詩音には聞こえるんだよ……私たちには聞こえない音が……」
「特殊能力の1つ…なのかしらね」
詩音の話に驚くゲーマーズの面々だった。
「えっとぉ、助けて頂いたお礼がしたいんでぇ、私の家まで来ませんかぁ?」
「…どうする、行っても大丈夫かな!?」
「罠の可能性も大ありやけど…もしそうでもここはあえて乗っておくっちゅうのも一つの手ちゃうか?」
「……私も行って……かまわないと思う……」
「それより人の家に行くんだから変身は解いた方がいいんじゃない?」
詩音の提案にどうするか考えたものの、変身を解除し自己紹介をしながら詩音の家へ向かった。
「えーっ、ここにあるの全部ゲーム音楽のCD!?」
「こっちはゲーム雑誌や攻略本かいな、2号で休刊になった『げーむあらま』まであるで!!」
「……このCDオークションだと……確か5万円くらいプレミア付いてる……」
「あまりにもシャレにならない誤植多発で伝説の『アミュゼスト』も創刊号から!?」
自分の部屋にお茶と羊羹を詩音が持ってくると、佳奈美たちはCDや書籍に圧倒されているところだった。
「全部自分で買ったんじゃないよぉ、雑誌はいらないって言う子から譲ってもらったのがほとんどだよぉ。
それからCDはおじさんが音効しているんでぇ、頼めばいっぱいくれるんだよぉ、
自分で買ったのもいっぱいあるけどねぇ」
「オンコウ?詩音ちゃんのおっさん、詩音ちゃんよりももっと温厚なんか!?」
「千里のつまらないボケはほっといて、音効って確かテレビとかに音楽とか効果音とか付ける仕事よね」
「……『ギャグゼウスや!』のSEなんか……20年も前のゲームなのにいまだに使われてる……」
「!!!そうですよね、やっぱり『正弦波愛好会』の音楽はどれを取っても素敵ですよね、
コマキのゲームははっきり言ってクソゲーだった場合、雑誌で紹介する時には『音楽がいい』で
お茶を濁していたという逸話も残っているくらいで…、特に新谷さん作曲のBGMは…。」
「…詩音ちゃん、キャラ変わってるよ。そんなに早口だと後で遅くなるんじゃないの?」
「…問題なしだよぉ、今のは対象外だからぁ」
…ますます詩音という女の子が理解できなくなる一同だった。
「それにしてもこんなにゲームのもの持っているなんて、詩音ちゃんって相当なゲーマーなんだね!」
「そうや、詩音ちゃんはどんなゲームが得意なんや?」
「ゲームぅ?しないよぉ、ゲーム機も持ってないよぉ」
「…え!?こんなにゲームのCDとか雑誌とかあるのに!?」
「もちろんしたいんだよぉ、でも買うきっかけつかめないんだよぉ」
詩音が言うには、両親からゲーム機を買ってもらえることになり一緒に買うソフトを何にするか
決めるため友達の家へ行ったりゲーム雑誌を見たり情報を集め、やっとこれにしようと決めると
面白そうな新作がたくさん発表になりまた決め直し、決まった頃には…の繰り返しだったようだ。
あまりに決まらないため両親も「別に1本に絞る必要はないんだよ、5本くらいまとめてでもいいんだよ」と
言ってくれたものの、詩音は「最初の1本は大事だからちゃんと決めたいよぉ」と主張し、
その分のお金でゲーム音楽CDを買うようになったらしい。
それに友達の家で他人のプレイを見ているうちにそちらの方が楽しくなってしまい、
自分の番になっても譲るようになっていた。詩音の帰った後、そんな様子を見ていた友達の母親が
「仲間外れにしないで詩音ちゃんにも遊ばせてあげなさい」と友達と揉めたこともあったらしい。
「だから誰も詩音ちゃんがプレイするとこ見かけなかったんだね」
「その母親と揉めた友達も災難やったろうなぁ…」
「……見ているだけで本当に楽しいの?……試しに1回やってみれば……」
「そうよっ、うちにはたくさんゲーム機あるから1台くらい貸してあげてもいいわよ?」
「自分でもそういう風に考えたことはあるんだよぉ、でもねぇ…」
ちょうどゲーム機の世代交代があった時、しばらく遊ばなくなるからと友達が旧世代機を
貸してくれたこともあったらしい。けれどある時はサウンドテストに聞き惚れているうちに
1日が過ぎ、ある時はプレイを開始しようとした瞬間に急用ができ、気が付くと進学に大事な時期で
それどころではなくなり、結局まともにプレイしないうちに返すことになったという。
「…Qiiウェアをダウンロードとかじゃ…ダメなんだろうな…」
「ゲームをやらないゲーマー…ってことになるんかなぁ」
「……ゲームができない呪いでも……掛けられてそう……」
「少なくとも本人はあまり深刻には受け止めていないみたいよ」
「そうだよぉ、ゲーム見てるだけで楽しいよぉ、…あっ!」
「どうしたの!?」
「あの化け物、アンチャーって言うのかなぁ、さっきの公園に出るよぉ」
「「「「 えぇ!? 」」」」
半信半疑ながら先ほどの公園に戻ってきたゲーマーズと詩音。
「本当に現れるのかな、アンチャー?」
「影も形もあらへんやんか!?」
「間違いなく出るよぉ、この下からぁ」
「……下って地面の中から……?」
「地面の中からなんてそんなことあるわけ…!!」
ドガアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!
ガシャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!
轟音と共に2体のモグラ型アンチャーが地中から姿を見せた。
「本当だったよ…どうする!?」
「どうするもこうするも、倒すしかあらへんやろ!!」
「……以下同文……」
「まあそうよねっ!!」
『『『『プレイ・メタモル!!!』』』』
「欲するは強敵、そして勝利のみ。
道を追い求め続ける孤高の戦士……『G・ファイター』!!」
「千分の一秒を削るのに命を賭ける。
音すら置き去りにする光速の戦士……『G・ドライバー』!!」
「狙った獲物は逃がさない。
視界に映る全てを射抜く戦慄の戦士……『G・シューター』!!」
「あらゆる死地を活路に変える。
フィールドを駆け巡る躍動の戦士……『G・アクション』!!」
ゲーマーズはさっそくアンチャーに攻撃を仕掛けようとするも、
「待ってだよぉ!…普通にやってたら2体とも倒せない気がするよ!」
緊急モードに口調をテンポアップさせた詩音の声が響いた。実際先制攻撃として
佳奈美が放ったパンチも亜理紗が至近距離から撃った弾も全く効いてはいなかった。
「ナンダ? イマノコウゲキハ ゼンゼンキカナカッタゾ」
「これはピンチかな〜って詩音ちゃん、アイツらの倒し方分かるの!?」
「特に根拠はないの、なんとなくそう思うだけ!」
「……それでもいい……言ってみて……」
「まず剣で頭から一刀両断にして!できれば引きこもりをこじらせてる人がいい!」
「…え…!?…なんであんたがそんなこと知ってるのよっ!?」
「頭に浮かんでることをそのまま言ってるだけよ、ウザカのことだったんだ。」
「ウザカって…なんちゅう略し方を…リミッター外した詩音ちゃんは何でもありやな…外す前もか」
心の傷口に思い切り塩を塗られたのを振り切るように、八重花はウィップ・ソードを振り上げ、
アンチャーへと振り下ろした。
ズパァッ!
真っ二つにされたアンチャーはそのまま地面に崩れ落ち…ずになおもそれぞれが独立に動き、
呆気に取られる八重花を体内にある空洞に挟み込んでしまった。
「詩音ちゃん、事態をより深刻にしただけやんか!?」
「それでいいの!いったん閉じ込められて中で滅茶苦茶に暴れれば弱点が出てくるから、
そこを出席日数足りなくて留年確実の人に撃ってもらえばいい気がする!」
「……悪気はないのは分かってる……でも覚えてろ……」
「暴れればいいのね、任せといて!?」
398 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/14(木) 23:52:20 ID:BCasRybR
うーん…二次創作するぐらい好きなのはわかるけど
無断で作るのってどうかと思うなぁ。
このスレやチャットなんかでゲーマーズの作者さんに先に断りを
ちゃんと入れるべきじゃないの?
八重花がアンチャーの空洞内であらん限りの攻撃を行うと、アンチャーは呻き声を上げながら
喉に当たる部分に赤黒い弱点と思しきものを露出させた。そこをすかさず亜理紗の弾が襲った。
パァン!
アンチャーは消滅し、内部の八重花も解放された。
「うーん、こういうことは先に言いなさいよ。よーしこの調子でもう1体も…、
ってまだ攻撃仕掛けてないのにもう分離してる!?」
「そっちは挟まれちゃダメ!そのまま閉じ込めて人質にしようとしてる!」
八重花は間一髪でアンチャーの隙間から脱出した。
「こっちはオヤジギャグに弱いような気がする!えせ関西弁を操るくせに
ボケがつまらない人が言うとより効果的よ!」
「…ボケの面白い関西弁使いならここにおるんやけどな」
「……アンチャーと戦闘中……早くつまらないボケ……と言うか今のも少し効いてる……」
確かに今千里が言葉を発した瞬間からアンチャーの動きが少し鈍くなってきている。
「…動き鈍くなったのは気のせいやと思うけどなぁ…、仕方ないから自信作を、
『アンチャーのあんちゃんや、あっちゃー』…」
「マズイ コオリツク ナゼ オレタチノ ジャクテンガ ワカルンダ…」
アンチャーはたちまち氷に包まれた。
「さあ運痴のくせに脳筋という救いようのない樋口佳奈美さん、今が攻撃のチャンスよ!」
「私だけ名指し!?今までぼかしてたのになんでよ〜!??」
佳奈美は理不尽さに対する怒りを拳に込めてアンチャーにぶつけると、粉々に砕けやがて消滅した。
「ふう、やっと片付いた…。詩音がいなきゃ絶対倒せなかったね…」
「そう言えば忘れとったけど、アンチャー倒した時なんか音出てたか!?」
「……全然聞こえなかった……やっぱり詩音だけに聞こえるみたい……」
「どんな音なのよ、ねぇ詩音、聞こえない私たちに説明してよ」
ゲーマーズは詩音から言葉が発せられるのを待った。
「えぇ、とぉ、です、ねぇ、アン、チャー、をぉ、倒した、時、のぉ、音、はぁ、アン、チャー、をぉ、
倒したぁ、時、のぉ、音ぉ、です、よぉ。それ、以外、のぉ、何者、でもぉ、ない、です、よぉ」
反動出まくりで超スローペースの口調になった詩音の発言に脱力するゲーマーズだった。
「こん、かい、も、いい、おと、を、きか、せて、いた、だき、まし、たぁ。
ごめ、んな、さい、もう、すこ、しで、もと、に、もど、…!!…新手が来る、気を付けて!」
「「「「 !! 」」」」
ゲーマーズに俄かに緊張が走った。
「アンチャーは全部で何体くらい?」
「ちょっと待って…100体は下らない!!」
「100体以上やてっ、ウチら今日戦うの都合3度目になるんやで!?」
「……これから100体相手にするのは……さすがにきついかも……」
「何とか対抗する方法はないの!?」
「…今のうちにミルクティーを急いで買ってきて!」
「…え、ミルクティー?確か入口の自販機にペットボトルが売ってたけど…」
「喉が渇いたから飲みたい…とか言うボケは無しやで!?」
「……千里じゃないんだから……そんなボケはよう言わんと思う……」
「何に使うか知らないけど行ってくるわよ!?」
「おーほほ、わたくしとしたことがブレスレットを置き忘れるという失態を演じてしまって、
大幅に参上が遅れてしまいましたわ!しかーしもう心配ナッシング、大船に乗ったつもりで……あら?」
昌子が絶句したのも無理はない。ボス格のアンチャーが次々に他のアンチャーを撃破する光景が
目の前で繰り広げられていた。
「オレガイチバンツヨイ! ダカラオマエタチハ イラナイ オレダケデイイ!!」
ドガガッ!
「ゴワッ オネガイダ モトニモドッテクレ …グワアアァァァ」
ボカガシャァン!!
「あー、一時はどうなることかと思ったよ」
「ミルクティー飲ませただけで相討ちさせられるとは思いもよらへんかったわ」
「……『Cブライアント』のキャッチシステム……思い出した……」
「おかげでこっちは高見の見物ね」
「あのアンチャーは糖分とたんぱく質、タンニンを含んだ水溶液を体内に入れると
理性を失って暴れ出すような気がしたのよ」
「それがミルクティーだったってこと!?」
「ウチらには難しいことはよく分からへんけど、そういうことやったんやなぁ」
「……でも最後に残る親玉のアンチャー……どうやって退治するの……?」
「もしかしてあれは自力で倒さないといけないの!?」
「それは『筑前青春記5』に散々はまった挙句、パソコン版だとユーザー作成のスクリプトで
戦国武将相手にあんなことやこんなこともできると聞いて購入を検討していそう人に…」
「…そ、そんな根も葉もないことをおっしゃるのはやめていただきたいことですわっ!」
「…え、…あぁ〜、あなたのぉ、ことだったんですかぁ?お願いがぁ、あるんですけどぉ」
ミルクティーを飲まされたアンチャーは雑魚アンチャーをことごとく倒し、ついに1体のみとなっていた。
「ゴミソウジ オワッタナ ツギハ ゲーマーズ ソウジダ」
「お待ちなさい!」
アンチャーが声のした方を向くと昌子が変身も解除して立っていた。
「チョコザイナ シニタクナケレバ ハヤクニゲロ」
「よくマイクテストに使われる『本日は晴天なり』という言葉は英語圏で使われる"It's fine today."を
直訳したものなんですけど、"It's 〜"が英語の発声法の要素を全て含んでいるのに対し、
単なる直訳である『本日は〜』はそうではないのでマイクテストに使うのはナンセンスです!」
「エ ソウダッタノカ… キエテ シマイタイ」
最後に残ったアンチャーも消滅した。
「…今ので倒せたんですか…?」
言った昌子もびっくりしていた。…と言うより他のゲーマーズの面々はそれまでに
あまりに驚きの連続だったので、いまさら驚く気にもなれなかった。
「そう言えばみなさんが詩音さんにしていた予想、全員外れでしたね」
「そうだね、でも6人目という私の予想が一番近かったよね!」
「!!…まだ分からへんで、すっかり油断させといてから正体を明かすっちゅうのもあり得へんとは…」
「!!……ゲームができないなんて……不幸体質以外の何者でもない……」
「!!アンチャーを倒す時の音が好きなんてストーカーと言えなくもないわよ」
佳奈美の発言に千里、亜理紗、八重花の3人は自分でも強引だと思いつつ意地を張りたくなった。
「あのぉ、誰が当たりだったかぁ、結論が出ないんだったらぁ、今度の日曜日ぃ、
私がみなさんの言うことをぉ、何でも聞くことにぃ、してもいいですよぉ」
「「「「「 えぇ!? 」」」」」
「今振り返るとぉ、アンチャーさんたちをぉ、倒す時にぃ、私ったらぁ、調子に乗り過ぎてぇ、
みなさんにぃ、失礼なことをぉ、言ってしまったようなぁ、気がしますしぃ、そのお詫びですよぉ」
「別にお詫びなんて…確かにちょっとムカついたけど」
「そうや、あれは詩音ちゃんの本心やない、気にする必要なんて毛頭ないで」
「……私もお詫びなんてしなくていい……これからも遊んでくれればいい……」
「そうよ、言うこと聞くとか関係無しに来週私の家に遊びに来なさいよ」
「今日は詩音さんありがとうございました、来週みんなで待っていますよ」
「うれしいよぉ、来週が楽しみだよぉ」
が。次の日曜日の八重花の部屋では。
「詩音ちゃーん、宿題どれくらい片付いた〜?」
「簡単な問題ばかりだけどいっぱい溜まってるからね、全速力で片付けてる!」
「詩音ちゃーん、レースゲームやってたら疲れたわ、5分でええからマッサージ頼むで」
「はい、肩と腰どっちをマッサージした方がいい?」
「……お腹空いた……外寒いから詩音買いに行ってきて……」
「今買いに行くから欲しい物リストにしておいて!」
「詩音、洗濯頼める?できれば風呂掃除もね!」
「うーん、佳奈美ちゃんの宿題もあるけどできる限りやっておく」
「紅茶が冷めましたわ、詩音さん入れ直して下さる?」
「やかんに火を掛けてるところだから沸き次第入れるよ」
気が付くと最速モードにさせて使い走りにしていた。
「…どうしてこうなっちゃったんだろう?」
「なんか詩音ちゃん見てると用事頼まないと損て気持ちが湧いてきちゃうんやな」
「……どさくさに紛れて……昌子まで用事言い付けてる……」
「そうよっ、昌子は賭けには参加してなかったんだから権利なしでしょ!?」
「立ってるものは親でも使えと言うことわざが日本にはあるんですのよっ、
まあ実際にお父様やお母様にそんなことをするかは別でございますけど」
「気にしなくていいよ、さて佳奈美ちゃんの宿題の続きを…あ、ちょっと頑張り過ぎたかも、
バ、ッ、テ、リ、ィ、ギ、レ、ミ、タ、ィ…。」
パタン
「うわー、詩音ちゃん大丈夫?」
スースー
「って寝てるだけかいな…、冷や冷やしたで」
「……ねえ……先週みたいなアンチャーが……今現れたらどうしようか……」
「この間は詩音さんがサポートしてくれましたから良かったですけど…」
「えっ、まさかそんなことあるわけ…」
『エマージェンシー!! エマージェンシー!!』
予感は的中し、ゲーマーズは満身創痍になりつつアンチャーを倒さざるを得なかったのだった。
チャチャチャチャラララン♪
『並木詩音、ですよぉ。
このところ八重花さんがぁ、佳奈美さんたちを呼ばずにぃ、
1人でアンチャーさんたちをぉ、倒しているんですよぉ。
アンチャーさんをやっつけることそのものはぁ、とってもいいことなんですけどぉ、
それで佳奈美さんたちとのぉ、仲が悪くなっちゃったんですよぉ。
でもぉ、アンチャーさんの場所をぉ、教えているのはぁ、私なんでぇ、
八重花さんがぁ、そんなことをする理由をぉ、私は知っているんですよぉ。
それはぁ…あれぇ、時間がなくなっちゃいましたぁ。』
次回、ゆけゆけ!!メモタルゲーマーズ
Extra Round B「私だけで十分!哀愁のスタンドプレー」
ジャジャーン!!
『モアイが口からドラゴン出して倒れそうな予感ですよぉ』
…すみません、プロットはできていますが書くかどうかは分かりません。
改めて無断で書いたことをゲーマーズ作者さんにお詫びしておきます。
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◎GAMER'S FILE Extra
『並木詩音(なみきしおん)』17歳
某私立高校に通う現役女子高生。ゲームはプレイしない(できない運命?)。
しかし他人のプレイ鑑賞は好きで、ゲーム音楽ファン(特に「正弦波愛好会」による作品)。
髪の長さ、身長、その他外見的特徴はほぼ平均。強いて言えばカチューシャを装着している点くらい。
…と思っているのは本人だけで、世間の常識とは乖離している面も多くある。
例えば学力も平均と本人は思っているが、昌子を除く4人から比べれば「十分過ぎるくらい」ある。
話すテンポもまた然りで、平均よりもかなり遅い。本人の意思で平均、あるいはそれ以上の
スピードにすることもできるが後で反動が来る場合もある。
ゲーマーズではないため装着アーマーはなし。ただしアンチャーとの交戦時には
出現場所、行動や特性を予測することができる。一応アンチャーの発する常人には聴き取れない
周波数帯の音波を感知している、らしいが真偽の程は不明。
投下お疲れ様でした。
また後日読ませていただきます。
間髪居れずに何ですが、続いて『まじょうさま』を投下します。
あれから隙あらばフレデリカを探してみたお嬢様だったが、手がかりすら見つけることは出来なかった。
かと言ってアシュクロフトに魔術の教授を頼み込んでも、彼は頑として首を縦に振らない。
仕方ないのでアシュクロフトの本棚から魔術学の本をこっそり拝借し、布団をかぶって読みふける毎日なのであった。
そんなある日、近くに新しい魔術学校が出来ると聞き、お嬢様は色めき立つ。
今まではマンツーマンでの個人指導をしてもらうことばかり考えていたが、設備のある場所で集団学習というのも悪くないかもしれない。
しかし女性蔑視社会の通例に漏れず、その学校も女人禁制であり、そこに潜り込むために少々お嬢様は小細工を弄する必要があった。
まずは塾に行きたいと両親にダダを捏ね、女性用の塾に通うことを許してもらう。
その塾はレディとしての作法に重点を置いて教育する方針で、もちろん魔術などの余計な学問を教えることもない。
ようやくお嬢様が貴族の娘としての自覚に目覚めたと、両親は喜んでお嬢様が通うことを許した。
次にお嬢様がしたことは、塾長の口止めだった。
特に使う当ても無かったお小遣いを切り崩して金を積み、自分がちゃんと出席しているように口裏を合わさせた。
最後にやったことは、魔術学校の生徒の一人から学籍を買い取ることだった。
とある生徒に話を持ちかけると、両親に無理やり捻じ込まれただけで全くやる気のなかった彼は、喜んでお嬢様の提案を呑んでくれた。
そうしてお嬢様は魔術学校の生徒としての生活を始める。
ボーイッシュな振る舞いが功を奏してか、怪しむ者は誰も居なかった。
魔術への熱意溢れるお嬢様は、その中でめきめきと頭角を現していく。
お嬢様は学校では“マジョウ=ルブラン”と名乗った。
なるべく目立たないように過ごすつもりだったが、根が気さくな性格なためか、友達はすぐに出来た。
その中でも特に仲が良かったのが、“トヨ=イワズゥ”と“クリスティアン=オイラー”の二人であった。
お嬢様とトヨ=イワズゥが初めて言葉を交わしたのは、二日目の授業が終わったあとの放課後だった。
トヨ=イワズゥはとても勤勉な少年で、机で自習を続けていたが、どうしても分からない問題に遭遇する。
すると隣のマジョウ=ルブランが同じく教本に夢中になっていることに気付き、試しにその問題について聞いてみることにした。
「ねぇマジョウ、ちょっといい?」
「なぁに、ボクに何か用?」
「いきなりで悪いんだけど、この問題について分からないかな?」
「えっ、これ?」
指し示された問題を眺めてみるお嬢様。
流石に一目で理解することはできなかったが、トヨに一言二言質問した後に、お嬢様は見事にその問題を解いて見せた。
「すごいじゃないか、マジョウ! こんなに簡単に解けるなんて!」
「ううん、キミが、えっと」
「トヨ=イワズゥって言うんだ」
「うん、トヨがボクの知りたかったことをちゃんと調べておいてくれたから解けたんだよ」
マメな性格のトヨと、大雑把に直感で考えるお嬢様。
対極とも言える二人の性質が、魔術の勉強に関しては不思議と噛み合い、二人はしばしば共に勉強するようになった。
408 :
まじょうさま☆まなぶ:2010/01/15(金) 01:08:37 ID:YNkk9Z6u
一方、クリスティアン=オイラーの方は、トヨ=イワズゥとは違って最初から友好的とは行かなかった。
彼は裕福な商家の子で、そこを少しばかり鼻にかけて偉ぶっているところがあり、同級生からの評判は芳しくなかった。
その反面、学問には真摯で、本人も利発であったために、最初のテストでは見事に学年二位の成績を獲得した。
しかし完ぺき主義のクリスティアンは、二位という順位を良しとはしなかった。
「おい、ルブラン!」
「え、キミは」
「クリスティアン=オイラーだ! 人の名前ぐらい覚えておけ!」
「ごめんよ、クリスティアン。それでボクに何か用なの?」
「あぁーもう、イライラするんだよおまえは!」
学年一位の座を得たのは、マジョウ=ルブランだった。
こんなおっとりした奴が自分の上に居るかと思うと、クリスティアンは無性に腹が立って仕方が無かった。
「とにかく、俺と魔術で勝負しろルブラン! 俺がおまえより優れていることを証明してやる!」
「えー、勝負なんて別にしたくないなー」
「うるさい、黙って勝負を受けろ!」
「それよりクリスティアンも一緒に勉強しない? トヨと約束があるんだ」
なんで俺がこいつと勉強なんかと思ったクリスティアンだが、これはチャンスだと思い直す。
マジョウ=ルブランがどんな勉強をしているのかを知れば、対策が立てられる。
直にやってきたトヨは、クリスティアンの存在に少し嫌な顔をしたが、ともあれ勉強会が始まる。
しかし意外にも、口は悪いながらも鋭い視点を持つクリスティアンの切り口は新鮮で、トヨはいつの間にか違和感無く彼の存在を受け入れていた。
そしてそれはクリスティアンの方でも同じだったようだ。
「ちぇっ、確かに天才だよルブランは。おまえに負けたんじゃ仕方ないかもな」
「クリスティアン、また一緒に勉強しようね!」
「―――あぁ、そっちのイワズゥも一緒にな」
「ありがとうオイラー、キミのおかげで僕もより高いところへいけそうな気がする」
こうして性格のまるで違う三人は、志を共にする親友同士となった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
ある朝、お嬢様が登校して教室に行くと、二人の親友が夢中でノートに何かを書き込んでいる現場に遭遇する。
「おはよう、クリスティアンにトヨ。何をしてるの?」
「あ、おはようマジョウ。これに挑戦していたんだよ」
トヨはお嬢様に奇妙な魔術式を見せる。
初めて見る式だったが、パッと見た感じでは非常に単純な構造で、大して意味のある式には見えなかった。
「なぁにコレ? この魔術式がどうかしたの?」
「なんだよルブラン、“バルマーの最終魔術”を知らないのか?」
「うん、知らない」
「どうだい、マジョウも一度試してみては?」
「簡単でしょ、こんなの」
お嬢様は式に従い、術式の発動を試みる。
―――が、不思議と上手くいかない。
途中でどうしても行き詰まり、術式の完成まで至らないのだ。
二度、三度と試してみても結果は同じだった。
「なにこれ?! なんで発動できないの?!」
「ほら、一見簡単に成功しそうな術式なんだけど、不思議と上手くいかないんだ」
「歴史上のどんな魔術家でもこれに成功した奴はいない。逆にこれが不可能だと実証できた奴もいない。天才魔術家バルマーが残した宿題さ」
マジョウならひょっとしたらという期待も単なる期待に終わってしまったので、彼らはすぐに別の話題に移った。
一方、お嬢様の胸の内では、むらむらとしたものが煮えたぎっていた。
この術式を完成させたら一体なにが起こるんだろう?
そんな言い知れぬ好奇心が後から後から湧いてきて、この日の授業の内容などまるで頭に入らなかった。
それからというもの、お嬢様は“バルマー”の探求にのめりこんで行った。
右から回ってダメならば、左から回り、それもダメなら上から登ると、とかく様々な方法を手当たり次第に試した。
それは必然的に様々な魔術式を研究することにも繋がったため、お嬢様は魔術の腕をメキメキと上げていった。
反面、歴史等の実技に関係しない科目の勉強を怠り、いつしかテストの成績はトップから滑り落ちていた。
念願のトップの座を得たクリスティアンだったが、その表情は苦々しく、お嬢様に何か言いたげながらも結局は何も言わなかった。
そうして半年もの間、脇目も降らずに“バルマー”に労力を注ぎ込み続けていたお嬢様だったが、
とうとう彼女が思いつくだけの可能性を全て試し終わり、探求にも行き詰まりが生じてきた。
“バルマー”は本当に解くことが可能なのか?
そんな疑念が湧いたこともあり、その頃からお嬢様の“バルマー”に対する興味は徐々に薄れていった。
こうしてお嬢様と“バルマー”の最初の出会いは終わる。
再びお嬢様が“バルマー”に挑戦する時がやって来るまで、二年の歳月を待たねばならない。
余談だが、後世に史学家の間でにわかにこう囁かれることになる。
『この時にジェルマン嬢と“バルマー”が出会っていなければ、後の歴史は大きく変わっていただろう』、と。
“バルマー”への興味こそ失ったものの、お嬢様の魔術への情熱は衰えることは無かった。
探求過程で副産物的に得た知識や技術は無駄にはならず、お嬢様を更なる魔術の深みへと誘っていった。
そしてそれは学業成績にも立派に反映され、いつしかお嬢様は成績トップの座を取り戻した。
再びトップの座を明け渡したにも関わらず、クリスティアンは何故か嬉しそうだったと言う。
もっとも、お嬢様本人は成績については全くの無頓着であったのだが。
「初学年の最優秀生徒は、マジョウ=ルブランだ。これにおごらず、来年も研鑽に励むように」
一年の学期が終わり、終業式でお嬢様は学年の最優秀生徒に選ばれる。
多少のやっかみも無いでは無かったが、大多数の生徒と教師は手放しでお嬢様の受賞を喜んだ。
お嬢様は人から好かれる天性の才能を持っていたのかもしれない。
こうしてお嬢様は魔術学校での一年目を修了する。
だがその次の一年こそ、お嬢様の人生でもっとも激動の一年となるのだった。
つづく
お疲れ様でした。
勘の鋭い方なら気付いたかもしれませんが、お嬢様には実在のモデルがいます。
とはいえ、実像からはかけ離れているので知らなくても特に問題は無いです。
皆さん投下お疲れ様
413 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/15(金) 15:36:45 ID:0JZV60aO
414 :
BIG BAD MAMA-RANGE KITCHEN :2010/01/15(金) 22:52:52 ID:YNkk9Z6u
第一話: パステルルージュ
”ママが言うには「触っちゃ駄目よ、これは大人のクレヨンだから」……”
――タンクメイジ 『アダルト・パステル』
科学と魔法が「共存」する、2000年代末の地球で。
12月、東京某所――
「あんたが今日またフラれたってえ、その話はいいんだけどさあ」
何本かあるうちで一番丈の低い鉄棒を選んで腰かけると、美香は首を落として上目遣いで辰美を睨んだ。
「とりあえずCD返せよ」
「え?」
目を真っ赤にした辰美が振り返る。
高校の終業式の後、ふたりは帰り道の途中の公園に寄った。
どんよりした曇り空、陽の光も弱々しい暗い日だった。
午前十一時の公園は寒波到来で冷え込みがひどく、お陰で全く人気がない。
砂場をうろついて砂を蹴りながら、中学校以来の親友の美香にぐちぐちと失恋話を聞かせていた辰美だったが
CDの催促をされるなり動きが固まった。美香が続ける。
「あたしがあれ貸したのってさ、夏休み前だったよねえ」
「う、うん。多分」
「多分じゃなくてそうなんだよ。でさ、ずっと催促し続けて、でもあんたは毎回忘れて
それでこうしてずるずると冬休みに突入しつつあるわけよ。まさか忘れたとは言わないよな?」
「ちょおっと待って! 今朝はさすがに覚えてた!」
美香のちょっと尋常でない剣幕にたじろぎつつ、鞄を開けてCDを探した。が、見つからない。
懸命に鞄を漁るふりをするが、授業がなかったのでろくに中身の入っていないことは
美香の座っている場所からでも分かった。
「また忘れたか……」
美香は息を吐いてうつむいた。
「マジ勘弁してほしいわ……新しいアルバム出るから昔のやつ一回聴きなおしたいんだけど、
あんたのお陰で冬休みブルーんなるわ……」
「いや、その、ゴメン……」
折りよく北風が公園に吹き込み、ふたりは慌ててコートの襟を立て、手をポケットにしまった。
「あ」
辰美が声を上げた。紺色のダッフルコートのポケットからそろそろと手を出すと、その手にはCDケースがあった。
「持ってきてました!」
「ホントか!」
美香の下に駆けていって、晴れやかな笑顔でCDを手渡す。美香も最初は笑っていたが、
返ってきたCDを眺めているうち、次第に表情が曇っていった。
「あのお、傷入ってますよケースにバッチリ……」
「へ?」
「ケースに傷入ってるっつってんだよ、ボケ!」
鉄棒に腰かけた美香から、半ば本気の前蹴りが飛ぶ。コートの腹に見事な砂色の靴跡をつけられて、
ああ、と情けない声を漏らしつつ辰美は砂場へとよろけていった。
「ってか傷ってレベルじゃなくてもう割れてんじゃんよほぼ!
どうせコートのポケットに突っ込んだまま家から持ってきたんだろ、ああ!?
そうやって、人間として最低限のマナーがなってねえからフラれんだよ毎度!
死ね! 死ねこのチビ、出っ歯、この……ああ! もうマジ最悪!」
「ご、ごめんなさい……」
「ホントに、見た目と一緒に中身も成長してないわあんた……」
美香の言葉に、今朝の告白の返事が辰美の中でフラッシュバックする。
『君のこと嫌いなわけじゃないんだけどね。
なんていうか、君のことやっぱり「女の子」として見られないかも。
部活じゃ先輩後輩でずっとやってきたからさ、可愛い後輩ではあるんだけど、その、ゴメンね』
「どうせ……クリスマス前に彼氏作ろうなんて浅はかな目論見でしたよ!
どうせガキですよあたしゃ! あ、もうダメかも」
砂場で立ちすくんでよよと泣きだす辰美にほだされて、美香も彼女のほうへ歩み寄った。
そして身長差のある辰美の頭をそっと抱き寄せて、
「まあ、こうやってあたしといつまでもつまんないどつき漫才やってりゃ、知らないうちに成長してるかもよ?
……でもあんた、ポケットに何入れてんの? めっちゃぎっしり詰まってる感覚するんだけど」
辰美を抱いたまま、コートのポケットを探った。ひと掴み取り出そうとすると、
がさっという紙の音と共に中身が砂場にこぼれ落ちた。
「げっ、何これ!」
美香はすかさずしゃがんで、足元にできたゴミの山を拾おうとする。
「何このプリント、新型インフルエンザ流行につき感染時の対応……学校の保健だよりか!」
茫然としている辰美をよそに、美香は点検を続ける。
「中身が二、三個残ってるっぽいチョコボールの箱」
「う、うん」
「文庫本の帯! 捨てろよ!」
「そ、そうだね」
「100円ライター!? なんで、まさかあんた煙草吸ってんの!?」
「あ、それは拾ったの! オイルまだ全然残ってるし何か使えるかなと思って!」
「んなもん拾うな!」
「ご、ごめんなさい」
「MD! これも誰かからの借り物か!? ちゃんとしたとこで管理しとけ!
鉛筆削り! これも拾ったのか!? お前シャーペンだろ!?」
「だって大学受験は鉛筆でって先生が」
「あと二年もあんだぞ、バカか!? これはレシート、レシート、レシート……
使い終わったホッカイロ、なんかストローの袋、またチョコボールかよ今度は空き箱だな、ちゃんと捨てろ!
どっかのポイントカード、しかもあんたの名前じゃないし! 赤い羽募金の羽根、ブレザーにでもつけとけ!
あとは紙くず、紙くず、紙くず……丸めたティッシュ、最っ低! やっぱあんたダメだわ」
美香はしゃがんだまま膝に鞄を乗せて開き、ビニールのエチケット袋を取り出すと
そこにゴミの山をまとめて放り込んだ。
「ああ待ってチョコボールとMDは返して」
言われたふたつだけさっと取って辰美に投げつけ、袋の口を縛ってしまう。
「……靴の跡、払ったら?」
辰美は言われるがままにコートの砂を払った。ゴミ袋を持った美香は溜め息を吐きながら立ち上がる。
「反対のポケットのやつも全部出せ」
「いや、もういいよ」
「あたしのCDと一緒に何入れてやがった、出せ!」
美香がコートの反対側のポケットへ手を伸ばそうとするのを、辰美が半歩引いてかわした。
と、辰美のローファーが砂に埋もれていた何かを踏みつける。
ポケットを狙う美香を警戒しながらそのまま踵を使って掘り出すと、それは小さな長方形の紙の箱だった。
振り返って拾った。汚れた白い箱にピンクのリボンが巻いてある。
リボンと箱の大きさから見て、口紅か何かの化粧品を収めたものらしい。
紙をちぎって開けてみるとやはり、新品の口紅。
キャップを取り、ぴかぴかの黒紫色のチューブをひねると、赤味の強いピンクのスティックが覗いた。
「おおお……」
「やめとけよ、んな拾った口紅なんて! 何ついてっか分かんないよ!」
「だってまだ新品だよ」
「そういう問題じゃなくて」
「じゃあ、これあげるよ、CDのお詫び!」
「ふざけんな!」
拳で殴られた。
ふたりは近所の『ランタンバーガー』で昼食を取って、それから別れて帰った。
帰り際、美香が手を振りながら叫ぶ。
「アレ使ってみたりすんなよ! どうせ砒素とか盛ってあんだよ、死ぬよ!
大体あんたに色合わないし! クレヨンでも塗っといたほうがマシだよ!」
(見た感じは、本当に未開封の新品なんだけどな)
両親が出ていて、彼女以外誰も居ない家で辰美は洗面所の鏡に向かう。
軽い癖のある長い黒髪、少し巻いた前髪が広い額に垂れている。
目は大きいが割りに切れ長で、黒目が小さいせいもあってあまり強い印象を与えない。鼻は普通の高さ。
口は薄くて横長、上唇がちょっとめくれて出っ歯気味だ。色も白くない。ごくごく平凡な顔だった。
140センチ台の身長に、ぶかぶかのブレザーが似合っていない。
手を洗ってから、高出力仕様のはずだったメイクを落とそうとして、はたとポケットの口紅に気づいた。
取り出して眺める。鏡に映る、グロスを塗っただけの唇の色と比べようとした。
(ちょっと赤が強かったかな……確かに合わないかも。美香なら合ったと思うんだけど)
美香は背も高いし、何より美人だった。大人っぽい色も合うはずだ。少し気の弱い、年上の彼氏が学校にひとり居る。
(くそっ)
口紅をひねった。スティックの代わりに、針のように細くて白い二本の腕が、万歳の格好で飛び出した。
「ひいっ」
口紅は辰美の手を離れて飛び、鏡にぶつかってから洗面台の中に転がった。
なおも口紅からは小人のような身体が、チューブから抜け出そうとしてもぞもぞとうごめいている。
辰美は飛びすさった。しばらく逃げ出すこともできずにその場で硬直していると、
洗面台を口紅が転がるかすかな物音も止んで、それから小人の頭が台から現われた。
「こんにちはっ!」
「は、はい!」
どうやら女性らしいその小人は、洗面台の縁によじ登って立ってみせた。
丈の合わないつんつるてんの赤いパンツスーツ姿で、背中にはやはり赤い透き通った昆虫の翅が生えている。
茶色い長い髪をしていて、辰美はパニック状態の思考の片隅で、何だか美香に似ている、と思った。
赤いスーツの女は満面の笑みらしき表情――
顔が小さい上、洗面台の照明で逆光になったせいもありよく見えなかった――を浮かべて、ハキハキと喋り出した。
「百瀬辰美さん、ですね?
初めまして、マジックルージュの解説係であなたのマネージャーになる妖精のペッキーです、よろしく!」
「ここ、こちら、こそ……」
「私は魔法界の小国、グラヴィーナから魔法少女をスカウトし監督するために派遣されました。
そしてあなた、辰美さんはめでたくこのマジックルージュの使い手に認められたのです! うれしい?」
「いや、そんなに」
「遡れば70年前、ヨーロッパはドーバー海峡に突如として出現した『ゲート』からの魔法の使者を皮切りに、
長らく絶えていた現実界と魔法界との交流が再開したことは、あなた学校の歴史の授業でも習ったわね?」
「はあ」
「以来両界の国交は続き、今日では文化、技術、あらゆる面で相互依存の関係にあることは万人がご存知のことです。
例えばそう、この蛍光灯!(と言ってペッキーは背後の照明を指差した)
マナソニック社の新開発で生まれたマナフィラメントなら、長持ちで光も柔らか、
光魔法で癒しの心理効果もあります! そうよね!?」
「う、うちは普通の旧式の蛍光灯ですが」
「あらそう。ま、いいわ。しかし恩恵ばかりではなく、犯罪に関しても魔法界からの影響は少なくありません。
横行する魔法犯罪への対策として、『魔法少女』の文化が発祥したのはここ、日本!
マッチョなおっさん連中ではなくキュートな十代の女の子の魔法の才能を開拓し、
地域から犯罪の芽を摘んでいく! 今では全日本魔法少女連盟が各地の魔法少女を統括、管理していますが」
「は、はい。それで?」
「本当はこういうスカウトの仕方は法律で禁止されているんだけど、今回は緊急事態なので
こうして突然お邪魔させていただいた訳ですが」
「無許可!?」
「関係書類は一応用意してあります、だから事後承諾って形になるわね」
そしてふたりは見詰め合ったまま、しばらく何も喋らなかった。口火を切るように、ようやく辰美が尋ねる。
「あたしが、魔法少女、ですか?」
「そうよ。あなたには魔法のスピリットとソウルがある! マジックルージュを操るヒロインにうってつけ!」
「小学校入学のときの魔力試験では普通人との結果でしたが」
「でも、魔法の才能は十代の二次性徴によって大きく変化することは保健の授業で習ったでしょう?
それに、このマジックルージュは特殊な変身魔法を使用するから、普通の魔法少女とはちょっと違うのよ」
「さいですか」
「どう? 納得できた?」
「いや全然」
そう答える辰美に、ペッキーは大げさな溜め息を吐いた――美香そっくりに。
「ま、突然押しかけちゃったんだしね……試験期間を設けましょう。
しばらくあたしの身柄と一緒にこのルージュを預けるから、
そのあいだに変身する機会があればそこで考えてもらうわ。もし駄目なら、あなたを諦めて別の人を探します」
電話が鳴った。辰美は動かなかったが、ペッキーが催促をした。
「電話に出てらっしゃい。あたしは大丈夫、いきなり消えたりしないから」
消えてほしいよと思いながら、辰美は電話へ急いだ。何故平凡極まる容姿と才能の自分が選ばれたのか?
見た目はチビで出っ歯、勉強もスポーツも並みかそれ以下。部活の書道部でもヘタクソ。
何故自分が? しかし、今まで選ばれてきた魔法少女もほとんどが最初そう思ったんだろう。
(そりゃ70年前なら素敵なことだったろうけど、今じゃホントによくあるテレビニュースの世界だわ)
受話器を取るなり、美香の罵声が響き渡る。
『こらてめえ、CD中身ねえぞ!』
「うそ」
『今すぐ持ってこい……公園で待ってるから』
「何で公園? 外寒いよ、もう出たくないよ」
『これからデートで待ち合わせなんだよ』
「岩崎くんと? お邪魔しちゃ悪いよ、また後日……」
『それが信用ならないからこうして電話してるんですけど!? 今ならケース持ってっから、早く!』
「わかったよ」
電話を切ると、階段を駆け上がって自分の部屋に行った。ラックからCDケースをごそっと引き出し
一枚一枚開けて中を確認する。あった。アイドルのCDのケースに何故か借り物が入っていた。
「『タンクメイジ』、最近流行りのオルタナティブ・マジックのバンドね」
いきなり耳元で声がして、辰美は驚いた。いつの間にかペッキーが肩に乗っている。
「マジック(Magick)は60年代末のサイケデリック・ロックと魔法国アルビオンの伝統音楽が合わさった
イギリス発祥の音楽ジャンルね。70年代初頭に流行したけど、その後すぐのパンクブームに押されて下火になったわ。
それから90年代、グランジ以降のアメリカン・オルタナティブ・ロックの流れの中で一部再評価が始まり、
タンクメイジは70年代マジックの影響を公言するグループでは今一番売れてるバンドね」
「へ、へええ」
「ロックは好きよ。あたしのお母さんは、ストーンズの69年ハイドパーク・フリーコンサートで飛んだのよ」
「はあ」
「とりあえず、CD返しにいかないとね」
辰美は言われるがまま、胸ポケットに口紅とペッキーをしまい込むと、制服も着替えず公園へと走った。
ポケットの中で揺さぶられながら、ペッキーが話す。
「私がこの地域に派遣されたのには理由があるのよ。
祖国グラヴィーナではつい数年前、革命が起こったの。
圧制を敷いていたグラヴィゾンド帝国が倒れて、民主制の新政権が興ったわ。
でも問題が残っているの。国内外に帝国軍残党が潜伏していて、ここ日本にも一派があるわ。
逃げ出したのは、革命以前白色テロで悪名を馳せた筋金入りの殺し屋たち。
危険な魔法技術を密輸して、この国にも悪影響を与えている。
そして連中は現在行方不明のグラヴィゾンド帝国皇太子の命令と称して、暴力で新政府転覆を目論んでいるとも。
連中を止めるにはマジックルージュの力が欠かせないと考えた新政府が、私を送り込んだわ。
禁断の魔法技術を無効化し、現実界から通じた根を断つためにはマジックルージュの威力を示さなければ」
「で、ここに、そのなんとか帝国が来てるってこと?」
「魔法犯罪組織が魔法少女と戦うには訳がある。政治的宣伝――これにはテロも含むけど、それと技術力の宣伝!
魔法少女を相手に戦闘用の魔法や使い魔の新技術を実験して、ブラックマーケットで売るのよ。
一種典礼化された、魔法少女が目的のテロなら、大きな戦争や紛争に関われない小さな組織でも
やがて本格的な事業への足がかりを作ることができるのよ。ここ、東京ならそれなりに魔法少女の層も厚い。
彼女たちを退ければ、宣伝効果はなかなかでしょうね。でも、マジックルージュを手にしたあなたなら戦える!」
「ちょっと、っていうかかなり怖いよ。そんな連中と関わりたくないなあ」
「でも、今誰かが戦わないと、いずれはもっとひどいことになる」
通学路を走り抜けていく。公園が見えたあたりで、ペッキーが叫んだ。
「止まって!」
辰美は立ち止まった。この寒空の下、公園には何故か人だかりが出来ている。
「はい?」
「魔法の反応があるわ」
「蛍光灯じゃない?」
「違うわ、もっと強い反応! さっそくね……」
「勘弁して」
「あの、とりあえず離してもらえません?」
「無理よ。もうしばらく待ってちょうだいね」
私服姿の美香が、ジャングルジムの上で黒い鞭で縛られて動けなくなっている。
鞭を持っているのはナチス風のデザインのカーキの軍服に鞍型帽子の、銀髪のボブカットの女。
女の隣にはもうひとり、エプロンドレス姿の少女が座っている。
「ねえラベンダー、この使い魔、デモンスネイルはあなたの宣伝通りの威力があるかしら?」
そう言って、軍服の女はジャングルジムの横に立つ巨大な怪物を見た。
カタツムリというよりはオウム貝のような、灰色の巨大で分厚い殻を背負った筋骨隆々の人型の使い魔で、
その背丈は貝殻のせいで腰をかがめていても、ほぼジャングルジムと同じほどの大きさがあった。
「うちの期待の新製品です。お宅の持ち込みで、ようやく実用化にこぎつけましたからね」
人だかりを見下ろすラベンダーと呼ばれた少女はその名の通り、ラベンダー色のエプロンドレスに靴、
ラベンダー色のリボンの巻かれた麦わら帽子、二つおさげの髪と瞳までラベンダー色だった。
目のぎょろっとした、そばかすだらけの顔の長い色白の女で、
物陰から様子をうかがう辰美は「赤毛のアン」をラッカーで塗り替えたみたいなやつだと思った。
「ああもう、最悪の予感的中だわ……」
「大丈夫よ、あなたならきっと出来る!」
辰美は頭を抱えた。ペッキーが励ますが、一向に効果はない。
「どうして捕まるかなあアイツ……」
「美香!」
ダウンジャケットの男子高校生が、公園の周りの人ごみをかき分けてジャングルジムに近づいていく。
辰美にも見覚えのある顔だった。
「げっ、岩崎くん」
「シゲ! 来んなよ、お前絶対役に立たないから!」
「彼女の言う通りにしたほうがいいわね」
軍服の女が言う。しかし岩崎は、意を決した様子で構わずジャングルジムによじ登ろうとする。
と、軍服の女が鞭を持っていない空いた手の指先を彼に差し向けると、
一瞬の稲光の後に、ジャングルジムの骨組みを掴んでいた岩崎がばったりと仰向けに倒れる。
「シゲ、おい、ちょっと!」
「大丈夫、気絶させただけよ。私としても余計な怪我人は出したくないわ、目当ては魔法少女だけ!」
「そろそろ来てもいいはずなんだけどなあ」
ラベンダーがやはりラベンダー色のベルトの腕時計を見て言った。
(ここに来てます、ってか)
「辰美、覚悟はいい?」
「全然よくないですけど、やるしかないんでしょう。まさか死んだりしないよね?」
「多分大丈夫」
「多分てねあんた……あ」
公園を囲む木々の枝をなびかせて、一陣の風と共に、箒に乗ったとんがり帽子の魔法少女が登場する。
少女は箒を公園の中央に停め、降り立つとバトンをジャングルジムの女たちに突きつけて叫んだ。
「魔法少女ミミックプリン、参上!」
「こんにちは。私はロック、プリズンロックよ。
魔法組織インペリアル・コンデムドから派遣され、今日あなたと戦うことになったわ」
(なるほど、あの魔女っ子あたしと同い年くらいだな。でも、あの名乗りは恥ずかしくないんだろうか……)
辰美は様子をうかがっていたが、
「インペリアル・コンデムドはグラヴィゾンド帝国残党の偽装組織よ。となると、彼女は勝てない」
ペッキーは言い捨てた。なおも傍観していると、前口上もそこそこにミミックプリンがバトンから金色の光線を撃つ。
狙いはプリズンロックの鞭だったが、使い魔がわずかに動いて盾となった。
光線は使い魔の岩のような肌に弾かれて消えた。ミミックプリンが唇をかみ締める。
「こうなったら肉弾戦ね」
「どうぞ、頑張って」
見物客もなんやかんやと野次を飛ばす。ミミックプリンはジャングルジムを隠すように立った使い魔へ突進していく。
使い魔が、盲目の蛇のような顎ばかりの頭をもたげる。
突進から大きく上段振りかぶり、黄色い光をまとったバトンを胸板へ叩きつける。しかし使い魔はびくともしない。
反撃。丸太のような腕の一振りで、ミミックプリンの身体が公園の奥の茂みへと消し飛んだ。
ジャングルジムの上のふたりは無表情で戦いを見物している。
美香は顔面蒼白で、魔法少女が消えた茂みのほうを見つめた。
辰美も目で軌跡を追った。十秒ほどして、木の枝葉を焼きこがす極太の光線が飛び出した。
見物人たちが眩しさに目をつむる。辰美も目を覆った。
光線は使い魔をじりじりと焼くが、やはり効き目がないまま、やがて光が消えた。
きな臭い匂いが辺りに立ち込める。音がして、茂みの中を何かが動いた。
使い魔が耳まで裂けた口を開いて、音のしたほうを狙って飛沫と共に毒々しい緑色の炎を吐いた。
炎は水鉄砲のように放物線を描いて、茂みを焼き払っていく。
そして物陰からミミックプリンの悲鳴が上がったところで火炎放射が止む。
「ゲームセットね!」
ロックの言葉と同時に、ラベンダーがジャングルジムを降りて、悲鳴のした場所までスカートをつまんで走っていく。
少しして、魔法少女を探り当てたらしい場所からラベンダーが言った。
「死んじゃいない。軽い火傷と、毒気を吸って気絶してるだけだ」
「ふうん」
ロックはつまらなそうな顔で唸った。そこへ、美香がおずおずと言い出す。
「あの、人質の役目は終わったでしょうか?」
「悪いけど、もうちょっと待っていただけるかしら? 待っていればもうひとりくらい来るでしょう」
「そうですね、応援の魔法少女隊が来るかも知れない。それまで待ってもいいでしょう、ちょっと冷えるけど……」
戻ってきたラベンダーの言葉で、捕まっている美香と隠れている辰美はがっくりと肩を落とした。
「ホント、寒くて死ぬわ!」
「ま、ま、ここに居ればきっとそのうちテレビにも映るよ。人質ってのも人気出るから」
「負けた魔法少女よりはね」
辰美は一端公園から離れ、人気のない路地に隠れた。
ポケットから口紅を取り出し、ペッキーを解放して言った。
「変身するわ。方法を教えて」
「決心ついたのね! よし、行くわよ! 鏡は持ってる?」
「ないよそんなの!」
「まあいいわ、そうね……」
ペッキーは翅で宙を飛びながら、辺りを見回した。路上駐車のワゴン車を発見すると、
「あれの窓かサイドミラーでいいわ。口紅を引くのよ」
「それだけ?」
「それだけ! 綺麗にね」
辰美とペッキーはワゴン車の助手席側の窓に顔を映した。暗いが、どうにか鏡代わりにはなりそうだ。
紫色のチューブをひねって、スティックを出す。口紅をゆっくりと、慎重に引いていく。緊張で震える指をどうにか御す。
「そう、ゆっくり、丁寧に……」
身体から血の気が引いていく。それは緊張のせいではなく、魔法の効果らしかった。
全身が氷のように冷たくなっていくようだった。指が止まった。口紅は塗り終わっていた。
窓ガラスに映る顔は真っ白だった。全身の筋肉が途端に強ばって、びくとも動かなくなる。
そして不意に目の奥から、焼けつくような熱があふれ出した。
視界が紅色の光で霞んでいく。凍りついた身体が、次第に熱さでほぐれていく。
光が晴れて視力が戻ると、ガラスに映った顔も変わっていた。手にしたそれも、もはや口紅ではなかった。
平凡な女子高生はガラスのどこにも映らない。知らない顔、魔法少女の顔。
「これでもう大丈夫、あとは身体が教えてくれる」
辰美はくるりと踵を返し、元来た道を戻っていく――ブーツの足音を響かせて。
「マナ・カウンターに魔法の反応あり」
ラベンダーが、手にしたガイガーカウンターそっくりの計器をロックに差し出す。
「二番手が来るわね。でも、今度は使い魔は下げておきましょう」
「どうして?」
ロックは肩をすくめた。
「使い魔が強いのか、魔法少女が弱いのか、これじゃ分かんないでしょう?」
「はっきりと結果が出るまでは、共同開発のプランも先送りですか」
「お金は大事よ」
美香が鞭に縛られたままの身体をくねらせて、
「どうでもいいけど、トイレ行きたいです、ハイ……」
「我慢なさい。次が終わったら離してあげるわ。私も寒いのは嫌い――監獄みたいで」
「来ましたよ」
人ごみがふたつに分かれて、彼女のための道を作った。
人垣を横目に公園へ入っていく彼女はバニーガールの衣装だった。
背の高い女だった。淡い紅色をした燕尾服の下は白いレオタード、
足には白い網タイツに、膝から下は燕尾服と揃いの色のエンジニアブーツ。
服の袖はパフスリーブで膨らんで、剥き出しの二の腕の先にはやはりピンクの指出しグローブ。
首にはクリップ式のピンクのボウタイ、頭にはピンクのシルクハット、鍔から白いバニーの耳が高くまっすぐそびえ立つ。
オールバックの金髪は後ろで一本にまとめている。ずれた帽子を直す。紅い瞳がロックを睨んだ。
「あら、今度の娘は名乗りはなし?」
「魔法少女パステルルージュ!」
ロックの耳元で声がした。彼女が振り向くと、ペッキーが軍服の肩章に腰かけている。
横にいたラベンダーがぐいと顔を近づけるが、ペッキーは飛び去ってバニーガールの肩に止まった。
「どうかな?」
「いーんじゃない」
バニー――魔法少女パステルルージュ――辰美が答える。
彼女の右手には金属光沢のある暗い紫のバトンが握られている。
手首を返して一ひねり。バトンの先から、昼間の光線の中でもはっきり見えるほど明るい紅色の光の刀身が伸びた。
「どうやらやる気のようね」
ロックがどこからともなく黒いホイッスルを出し、強く吹いて甲高い音を立てる。
すると、公園の地面を掘り返して無数の黒い人影の一団が出現した。
「こいつらスパルトイはただの人形よ、加減なくやって構わないわ。そうしなければ、あなたが殺されてしまうかもね」
軍服に鉄兜、ガスマスクのスパルトイたちは、棍棒を手に公園の入り口へ陣形を組んで迫っていく。
だがルージュは構えも取らず、硬い地面にブーツを鳴らしてまっすぐ歩いていく。
ひとりのスパルトイが前衛から抜け出して、彼女の行く手を遮った。ルージュの片足が持ち上がる。
前蹴りだった。使い魔がミミックプリンを弾き飛ばしたのに勝るとも劣らないスピードで、
蹴りつけられたスパルトイが陣を乱し、隊列をなぎ倒して転がっていった。ラベンダーが口笛を鳴らして手を叩く。
茂みに滑り込んでようやく止まったスパルトイは腹が潰れ、汚れた配管と配線からオイルと火花を散らしながら痙攣する。
「本当に人形みたいだ」
肩のペッキーが頷く。
「そういうこと。さあルージュ、みんなやっつけ――」
砂埃が舞ったかと思うと、ルージュの姿が消えた。見物人たちが声を上げる。
美香もロックもまだ、ルージュが消えた地点を見ていた。ラベンダーひとりが目で上空の影を捉える。
「上だ」
ピンクの影がジャングルジムに降り立つ。咄嗟にラベンダーが身を乗り出し、ロックを庇った。
だが斬り落とされたのは彼女の鞭だった。美香がジャングルジムから使い魔の足元へ転げ落ちる。
そして鞭がほどけると、感覚の戻らない腕をついてあたふたと起き上がり、公園の奥の木立へ逃げていった。
一方のルージュはジャングルジムの鉄棒をブーツの幅だけ歪ませて跳躍すると、
今度は美香が逃げていく方向の公園の木の天辺に爪先で立ち、剣をかざしてジャングルジムを見下ろした。
「彼女に手を出すな! 彼女に手を出さなくても、私が相手してやる」
ロックは慌ててラベンダーを押し退けた。
「ちょっと、余計なことしないでちょうだい……!」
「鞭を見て」
ラベンダーは短くなったロックの鞭を取り上げて、切り口を見せた。
鞭に仕込まれた鋼鉄のワイヤーの束はものの見事に切断され、滑らかな断面が磨かれたように光っていた。
「デモンスネイルの対魔結界にはうってつけのテスト相手です」
にやつくラベンダーを更に脇へ押しやり、ロックはルージュを見上げて言った。
「このまま逃げたらただでは置かないわよ」
「逃げるまでもないさ」
使い魔が毒の炎を吹き上げる。ルージュの足元の木がたちまち黒く焼け焦げて倒れるが、
その前にルージュは跳んでいた。着地点は公園のど真ん中、一体のスパルトイの頭の上。
卵を割るような音がして、鉄兜がへしゃげた。黒いオイルが溢れて土を汚す。
スパルトイの頭にまっすぐ立ったルージュは、次の跳躍から別のスパルトイ目がけて斜めにドロップキックを蹴り込み、
蹴られたスパルトイは胸を潰されてその場に横たわった。
キックから素早く身を起こすと、今度は殺到したスパルトイの足元を腕一本に持った剣でなぎ払う。
上半身と下半身の泣き別れて崩れ落ちる兵士たちを潜り抜け、正面に待ち構えていた敵の首を
振り下ろされる棍棒もろとも逆袈裟に斬り落とした。後ろに控えていた次峰の攻撃はすんでのところで
脇を通り抜けて避け、返す刀で背中を叩く。刀身の熱がスパルトイの背中を焼き、脊髄部の配管が破裂する。
飛び散るオイルが衣装を汚すのにも構わず、押し寄せる敵をなおもかわし、斬り捨てる。
隊列の最後のひとりを蹴り殺すと、彼女の通ったほぼまっすぐの道に沿って、
完全に壊れるか立ち上がれなくなるかして戦闘不能に陥ったスパルトイたちの垣根が出来上がっていた。
ルージュは顔についたオイルを裸の腕で拭い、残された使い魔と対峙する。
「こいつが真打って訳だ」
「そういうことよ。まずは合格点――問題はこいつに勝てるかどうかよ」
使い魔がにじり寄る。ルージュは真っ向から飛び込んで、胸に突きかかった。
使い魔が動きを止める。しかし光の刀身は胸板にぶつかったところで止まり、じりじりと皮膚を焼くばかりだった。
反撃のパンチが、棒立ちになったルージュを襲う。横に転がって避ける。
起き上がるなり更に踏み込み、使い魔の右膝にローキックを見舞う。
材木がへし折れるような大きな音がして、使い魔の巨体が傾いだ。その隙に離れる。
追いすがる毒の炎を屈んでやり過ごす。どこからともなく、ペッキーの叫び声が聞こえた。
「マジックルージュには必殺技があるわ! あなたの身体と剣が知ってるはずよ、それでとどめを刺しなさい!」
ステップを踏んで火炎放射から逃げながら、ルージュはバトンを初めて両手で握った。
刀身の色が暗く紅みがかる。寝転がる使い魔から目測で距離を取る。炎を避けつつも、段々と敵に近づいていく。
(もうじき踏み込めるな)
「デモンスネイル、さっさと決めろ!」
ロックの声に反応して、四つんばいになった使い魔の喉が唸りを上げた。火炎放射が一瞬の中断を挟むと、
勢いよく吐き出した毒液の霧を爆発させ、巨大な火球をルージュに見舞った。
しかし、火はあっという間にかき消される。振り上げたルージュの剣が炎を散らした。
ルージュの剣は今までの一文字ではなく、その光は溶接の火花のように荒々しく迸っている。
天を指す剣の形は、まるで山桜のようだった。
「秘剣――」
風を切るような踏み込み。剣の残像で、ようやく彼女の動作の軌跡が見えるほど。
大きく弧を描いた剣は伏した使い魔の頭部を正面から捉えた。
「「「「「「「「「「「「「「「桜華!」」」」」」」」」」」」」」」」
雷が落ちたような音に誰もが耳を覆った。閃光が目を眩ませた。地響きが轟いた。
巻き起こった風が使い魔の左右に砂埃の壁を作った。砂が止み、視界が戻ると、
剣を受けた使い魔はぼろきれのような皮膚と粉々の肉片の山になって、公園の地面に広がっていた。
真っ黒に焦げた左右の手足の一部と、やはり焼け焦げた殻の残骸の他に、
使い魔の元の姿を思い出させる部品は残っていない。
ルージュは剣を振り下ろした格好のままで立っていた。煤とオイルで汚れてはいたが、
敵を倒したと分かってから動き始めた彼女に、特にダメージを受けた様子はなかった。
ルージュがジャングルジムを見ると、すでにロックとラベンダーは消えていた。
「捨て台詞もなし、か」
知らぬ間に公園の上空ではヘリコプターが旋回していて、人だかりもぐっと人数が増えている。
見回すとジャングルジムの陰に、逃げたとばかり思っていた美香が茫然と立っていた。
彼女の横には、やはり呆けた顔で彼氏の岩崎がいた。美香が前に出る。
「あ、いや、何ていうか……ありがとうございました」
辰美はルージュの姿のまま彼女に微笑んで、拍手し歓声を上げる見物人たちにも
うやうやしく会釈をしてみせると、おもむろに一跳びしてそのまま公園から逃げ去った。
辰美は家の鏡に向かう。変身は解け、見慣れたいつもの顔が映っている。
「よくも振り落としてくれたわね」
気づくとペッキーが洗面台の縁に座っている。しまった、という顔をして辰美が頭を下げる。
「ご、ごめん! 気づかなかったわ」
「まあいいわ。初陣は大成功だったわね――やはり私の見込みは間違っていなかった!」
ふと、辰美はペッキーの先の言葉を思い出す。
「これって試験期間なんだよね?」
「あら、あれだけの活躍を見せておいてまだ決心つかない?」
「まあ、その、一応……もうしばらく預かっときます」
「分かったわ。ありがとう」
その日の夜。電話口の美香は普段と変わらぬ口調でいて、辰美はほっとした。
CDは明日でいいや、と美香が言う。
「それにしても、何だっけえ、パステルルージュ?
どうしてか分かんないけど、あの人見たとき最初、なんか辰美に似てんなこの人、って思ったんだよね」
「な、何を仰る」
「まー雰囲気全然違うけどね。あんたを大人にして、ヤバくした感じ?」
「や、ヤバイっすか」
「いやあ格好よかったよ、すごかったんだから……」
電話を終えて、辰美はベッドに寝転がる。ペッキーはまた明日と言ってどこかへ消えてしまった。
ケーブルテレビの魔法少女情報専門チャンネルにはパステルルージュのニュースが一瞬映って、
それからすぐ別の番組になってしまっていた。テレビを消した。
何が何だか分からない。変身が解けた後も、現実感は喪失したまま。
失恋のことも何もかも今日一日丸ごとが夢のようだ。
一度起き上がって電気を落として、辰美は眠り始めた。目を閉じると、瞼の奥にあの紅い光が残っていた。
投下終わりました
>>413 スレ立て乙です!
>>427 投下乙です!最近は新作ラッシュで盛り上がりが
いい感じですね
ウメ子は魔法少女である。
使命は前回判明した。
「ふあー……この時期は寒くて眠いわねぇ……。よし、二度寝しよっと」
「って、寝てんじゃねええ!!!」
布団にもぐりこもうとしたウメ子の頭を、メウたんがスパコーン!!とはたく。
「あいたっ!? メウたん、何するのよ!?」
「何するじゃねぇよ! おまえ使命を忘れたのか!」
「はぁ〜、そんなの分かりきってるじゃない。私の使命は次スレが立った後のスレを埋めること」
「分かってるなら寝てる場合か!」
「そーんな焦らなくたって、どうせまだまだスレなんて終わらないわよ。年末年始でみんなのんびりしてて……あれっ!?」
ウメ子はスレの残り容量を確認して我が目を疑った。
昨年には130KB以上は残っていた容量が、いつの間にか5KBを切っている!?
「分かったらとっとと起きろ! 中途半端な残りスレを埋めるのがおまえの仕事なんだよ!」
「ちぃぃ、新しい書き手だかなんだか知らないけど好き勝手にスレを進めてくれちゃって!! この私が中身の全く無い文章を水増ししてスレを埋め進めるのがどれだけ大変なことなのか分かってるのかしら!?」
「書き手の方々に逆恨みしてんじゃねぇ! 黙ってとっとと使命を果たせ!」
「コ、コンチクショーーーーウ!!!」
やけっぱちになったウメ子は、梅の枝の杖を振り上げる!
あっ、枝の杖ってなんか分かりづらいな!
「……っても、よく考えたら何すればいいの?」
「お、俺に言われても……」
「なんだかなぁ。使命って言えば聞こえがいいけど、ヒマな使命よねぇ」
「確かになぁ。ただダラダラしゃべくって埋めるだけじゃ飽きるよな」
「ふーむ、これはなかなか難解な問題だよメトソンくん」
梅の小枝に火をつけて口に咥え、あごに手を当てて思案のポーズを取ってみるウメ子。
もちろん元が残念な頭では、カッコつけたところでロクな考えが湧くはずもない。
「あっ、そーだ! お姉ちゃんに電話してみよっと!」
案の定、ヒマだから知り合いに連絡を取ってみるという非常に安易な手段を閃いた。
「姉ちゃん? ウメ子って姉ちゃんいたのか」
「いたのよ! 本邦初公開(?)、これが埋め魔女のお姉さんよっ!」
携帯電話……は持ってないので家電で姉の下へ電話をかけるウメ子。
「あー、もしもしお姉ちゃん? ひっさしぶりー、元気してたぁ? ん、何の用かとっとと言えって? そりゃもちろんヒマだからおしゃべりに付き合って欲し―――」
ガチャァン!と、脇に居たメウたんにも聞こえるぐらい大きな音を立て、一方的にかけた電話は一方的に打ち切られた。
「……怒られた。『この時期はシュラバなのだ、下らん用事でかけてくるのはやめたまえ!』って」
「ウメ子の姉ちゃんって何やってる人なんだ?」
「よくわかんない。たまに出かけるときもあるけど、いつも一人で仕事場に篭ってなんかやってるよ」
「ふーん」
「部屋に引きこもってなんかやってても、世間では変人にしか見られないのにね」
「表に出まくってるけど変人にしか見られてない魔法少女もここにいるけどな」
「……って、そうよ! お姉ちゃんを反面教師として、あたし達は積極的に外に出て活動するべきなのよ!」
「まぁ、そのほうが埋めのための話題は見つかりそうだしな」
「あっ、眼鏡っ子好きでスレに辿り着いた避難所のアナタ! まん丸メガネがトレードマークの魔法美少女ウメ子様の存在も忘れないようにね!」
「めざとく自己アピールしてるんじゃねぇよ!」
というわけで外に出かけた二人だったのだが、しゃべくっている間にスレが埋まってしまったことには気付きもしないのだった。