魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ3

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1創る名無しに見る名無し
魔女っ子もの、変身ヒロインものの一次、二次SS、絵も可
皆さんの積極的な投下お待ちしております

まとめサイト
http://www15.atwiki.jp/majokkoxheroine/

過去スレ
魔女っ子系創作スレ
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1224577849/

魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ2
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1234927968/l50
2創る名無しに見る名無し:2009/04/20(月) 23:47:58 ID:jBbLLeYy
>>1
さて、今スレはどんな作品が出てくるか
3創る名無しに見る名無し:2009/04/20(月) 23:52:26 ID:iABWM07I
>>1乙〜
4創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 00:06:20 ID:N38T6DON
>>1

前スレまだ容量余ってるから、よほど重いの以外はそっちに投下してくれ
5創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 19:08:14 ID:bGvPeHs2
>>1乙である。
この前、パッと思いついたのが熟女の変身ヒロインだったw
6創る名無しに見る名無し:2009/04/22(水) 02:14:17 ID:SKDgq515
奥様は魔女的な?
7創る名無しに見る名無し:2009/04/22(水) 17:13:06 ID:aobLnDlu
昔、活躍していて復帰したタイプか、まさかの現役デビュータイプか
一応、このスレだとまなみのお母さんが、熟女ヒロインということに
なるのだろうか。見た目は若いというのもお約束だしw
8創る名無しに見る名無し:2009/04/28(火) 18:50:37 ID:/FVLZew5
ほしゅ
9創る名無しに見る名無し:2009/05/01(金) 23:52:23 ID:8l0lplT6
前スレ埋まったから次はここか
しかしみんな新年度で忙しいというのがよく分かるな
10創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 23:24:31 ID:fx3C3c5c
1おつー
これで即死クリアっと
◎GAMER'S FILE No.1
  『樋口佳奈美(ひぐちかなみ)』17歳
  某公立高校に通う現役女子高生。
  得意なゲームジャンルは格闘ゲーム。
  高い身長、長い黒髪、そして吊り目が容姿上の特徴。
  他人からは誤解されがちだが、本人は割りと温厚な性格の模様。
  ちなみに運動能力が同年齢の平均と比べて著しく低い、
  いわゆる運動音痴であることが確認されている。

  装着アーマーは格闘に優れた『G・ファイター』で、
  アンチャーとの交戦時には、白兵戦による前線維持を担当する。




今日はシトシト雨の絶好のゲーセン日和だったが、
そんなことに関係なくメタモルゲーマーズの出動命令はやってくる。

緊急コールの指示通りにやってきたゲーマーズは、
ショッピングモールを荒らす怪人たちの姿を発見する。

「いたな、アンチャー!」
「……天知る……地知る……ゲーマー知る……」
「今日こそ年貢の納め時や!」


『『『プレイ・メタモル!!!』』』


三人の声が重なる。
パワードスーツに包まれた彼女達は、
決めポーズをつけながら名乗りを上げる。


「欲するは強敵、そして勝利のみ。
 道を追い求め続ける孤高の戦士……『G・ファイター』!!」

「千分の一秒を削るのに命を賭ける。
 音すら置き去りにする光速の戦士……『G・ドライバー』!!」

「狙った獲物は逃がさない。
 視界に映る全てを射抜く戦慄の戦士……『G・シューター』!!」



『『『三人揃って、メタモル・ゲーマーズ!!』』』



「よっしゃ、決まったな! 徹夜で考えたかいがあったわ!」
「……中二……臭い……」
「その割にはノリノリだったじゃないか」

おしゃべりしつつも、ゲーマーズは戦闘体制を取る。
対するアンチャーは三匹。
数がピッタリということで、三人は散開して一匹ずつ相手にすることにした。
カナミは、デパートの衣類売場でアンチャーの一匹と戦っている。

「コノッ! ヤロッ! クソッ!」

手刀、蹴り、上段、中段、下段。
そのあらゆる攻撃を、カナミは片手で楽々と捌く。

『ブロッキング』

敵の攻撃にあわせてこちらも手を出し、
攻撃の軸をずらすことで、それを無効化する技。
これはよほどの動体視力と、敵の動きを読む能力、
そして的確な身体動作が出来なければ不可能な技だ。

カナミは運動が得意なほうではない。
だが、動体視力と格闘センスだけは生まれつき人より優れていた。
だからこそ、格闘ゲーム界の女王と呼ばれるほどの腕前になれたのだ。

そんな彼女が「自分の思い通りに動く素早い身体」を手に入れたことで、
ゲームの世界に留まらない、無敵の戦士が誕生することとなった。
正に水魚の交わりと言う他無い。

「グッ……ナメヤガッテ!」
「……そこだっ!!」
「ブゲラッ!!」

痺れを切らしたアンチャーが大技を出そうとした間隙に、
カナミは蹴りの乱舞を潜り込ませる。
トドメのかかと落としがアンチャーの脳天を打ち砕き、
飛び散ったアンチャーの体液が、売り場の服に付着する。

「あっちゃー、やっちゃったよ。まぁ仕方ないか」

そう言ってポリポリと頭をかくカナミは、
直前まで戦っていたアンチャーのことは既に忘れたかのようだ。

こうして全く苦戦することも無く、カナミはアンチャーの討伐に成功した。




カナミが売り場の外に出ると、
ちょうど穴だらけになったアンチャーの身体が消滅する所だった。

その下手人であろう小柄な紫髪の少女は、
銃をくるくる回して遊んでいる。

「なんだ、アリサももう終わりか」
「……速射してれば……終わった……」
「チサトは?」
「……向こう……」
「どれどれ」

アリサが指し示す方向を見ると、
二台(?)のマシンが公道でカーチェイスをしていた。

四輪形態に変形していたアンチャーと、
同じく四輪マシンを操るチサトだ。
次の瞬間、チサトはアンチャーの内側に潜り込むと、
後輪を滑らせて勢い良く幅を寄せ、
挟み込むようにアンチャーをガードレールに叩き付けた。

哀れアンチャーは、ペチャンコになって消滅する。

「おう、おまえらも終わったか」

チサトはマシンから降りると、二人の下に歩いてくる。

「思ったよりつまんないね、この仕事」
「……ヌルゲー……すぎる……」
「そう言うなや、初っ端から強いの出てきても困るやろ。
 ゲームってのは難易度高けりゃええもんとちゃうで」

あーだこーだ言いながら変身を解除しようとする三人だが……。

『エマージェンシー、エマージェンシー!!』
「ん、どうしたんだ?」
『ゲーマーズ諸君、新手だ! 気をつけたまえ!』

長官の言うとおり、ゲーマーズの前に新たなアンチャーが三体現れていた。

「なんだ、また三体だけか」
「また散って一体ずつ倒すってことでええな?」
「……了解……」

即座に作戦を確認すると、ゲーマーズは再び散っていった。




「何度やってもあたしには勝てないよ、諦めな!」

先ほどの戦闘に続いて、戦闘を有利に進めるカナミ。
違う点があるとすれば、今度は攻め重視だということか。
怒涛の攻撃に、アンチャーは防戦一方である。

「さぁ、トドメだっ!!」

アンチャーのガードを割り、カナミはフィニッシュブローの体勢に入る。

「双龍け……うわっ!?」

突然、背後から衝撃を受け、カナミは吹っ飛ばされる。
一匹に集中し、ガラ空きだったカナミの背中を、別のアンチャーが攻撃したのだ。

「……もう一匹隠れてたのか。逆ドラマティックモードってか……上等だッ!」

逆上したカナミは、二匹纏めて吹き飛ばそうと、再び必殺技の体勢に入るが……。

「ぐぁっ!? ……な、なんだって!?」

再び脇から吹き飛ばされたカナミは、後ろを振り返って唖然とする。

二匹、三匹どころではない。
4,5,6,7,8……。

とにかく、数えられないほどの数のアンチャーが、彼女を取り囲んでいた。
逃げ場は……無い。
「……ちっ!!」

カナミは、玉砕覚悟を決めた。
しかし、そこにアンチャーの群れをすり抜けて何かがやってくる。

「カナミぃっ、はよう乗りいっ!!」
「チサトっ! アリサも!」

チサトの操るホバークラフトだ。アリサも乗っている。
言われたとおり、咄嗟に飛び乗るカナミ。
カナミを回収したホバークラフトは、素早くその場を離脱する。

「危ない所やったな」
「助かった、サンキュ!」

ぐっ、と親指を立てあう二人。

「しっかし、マジでビビった。まさかあんなに大量に湧くなんて」
「カナミはタイマン以外はからっきしやからな」
「……私も……正面の敵にしか対応できない……」
「でも、何でこんな急に大量の敵が?」
「……トラップ……」
「せやな、ウチら完璧にハメられたみたいや」
「最初の三匹が既におとりだったってことか」
「……戦ってる間に取り囲まれてた……」
「まぁ今は逃げるほか無いわなぁ」

チサトはそう言ってエンジンを全開にするが、
即座に四輪に変形したアンチャー達が追ってくる。

「あーあー、マズイわぁ、振り切れん。
 この形態じゃバイクや四輪ほどのスピードが出えへんねん」
「……じゃあ……四輪にすれば……?」
「この状況で小回り効かんマシンなんて自殺行為やで」
「……どっちにしろ……このままじゃ死ぬ……」
「そや、アリサの銃でどうにかならんか?」
「……奴ら……軽い弾は効かない……。
 でも……重い弾当てるには……動き止めないと……」
「さよか……」

問答を続けるチサトとアリサだが、
なかなかこれぞと言う突破口は見つからない。

その時、何かを考え込んでいたカナミが口を開く。

「チサト……アンチャーの一匹を狙って、正面から突っ込んでくれ!」
「アホ抜かせ、この形態はパワーも他より落ちとんのやぞ?
 そんなんしたらカウンターもろうてマシンごと砕け散って仕舞いや!」
「一匹だけなら……あたしが、攻撃を止める!!」
「止める? どないして?」
「説明してるヒマは無い! でも、絶対に止めてみせる!」
「せやけど……!」
「……カナミは……言ったことは必ず実現する……」
「…………分かった、どうなっても知らんからなっ!」

チサトはカナミを信じることに決めると、
手頃なアンチャーの一体に狙いを定め、正面から突っ込む。
対するアンチャーも再び人型に変形し、
ホバークラフトごと木っ端微塵にしようと待ち構える。
そんなアンチャーに相対するように、
カナミはホバークラフトの船首に立った。

「なんや、何する気や!?」
「クケケッ! コナゴナニシテヤル!」

アンチャーは巨大化した右手をカナミに向けて振り下ろす!


(ガキィン!)


結果から言おう。
ホバークラフトは粉々にはならなかった。

何故なら……超スピードで突っ込むホバークラフトの上で……。
カナミが、向かってくるアンチャーの攻撃をブロッキングしたからだ!

「アリサっ、今だっ!!」
「……チャージ・ショット!!」
「グギャアアアアアアアアアアア!!」

一瞬、動きの止まったアンチャーに向けて、
アリサはエネルギーを充填しきった必殺の一撃を放つ!
それを受けたアンチャーは、粉々になって消滅する。

「ははは、どうなることかと思うたが流石はカナミや!」
「……この調子で……全部狩る……!」

勢い付いたゲーマーズは、
続いて新たなアンチャーに狙いを定める。

「ブロッキン――……あっ、しまった!!」

カナミがブロッキングのタイミングを外してしまった。
百戦錬磨のカナミが、この土壇場で失敗する。
それほどまでに、このブロッキングの難易度は高かった。

「……ちぃっ、ブースト・オン!!」

咄嗟にチサトがマシンを加速させたため、
攻撃態勢に入っていたアンチャーを、逆にカウンターとなる形で吹き飛ばす。

「あ、あれ? 突っ込んだらマシンが砕け散るんじゃなかったのか?」
「ドアホ、これは奥の手や。マシンに無理を強いるから、何度も使える手とちゃう。
 それにまだ後があるって知っとったら、すぐ気ぃ抜いて手ぇ抜くやろカナミは」
「……カナミは……いつも2ラウンド目で油断する……」
「……………………」

バカにされつつも、気合を入れなおしたカナミは、
今度こそブロッキングを連続で成功させ、
何とかアンチャーを各個撃破して殲滅することに成功した。




勝利を収めつつも、ボロボロになったゲーマーズ達は、
地べたに座り込んで反省会を始めていた。
「……ま、今回でウチらにもそれぞれ弱点があることが分かった」
「ちょっと、慢心してたのかも知れないな……」
「……反省……」

いつも自信満々のゲーマーズも、今日ばかりは流石にしおらしい。

「で、ウチ考えたんやけどな。特訓として、
 今日のゲーセンは苦手なジャンルをプレイするってのはどうや?」
「なるほど。いいね、面白そう」
「……たまには……いいかも……」
「よし、それじゃ今日のゲーセンでやるゲームは、
 カナミはベルトアクション、アリサはロボ対戦ゲー、
 そんであたしは……格ゲー辺りってことでええかな」
「そうだな、そんな感じでいいと思う」
「……意義なし……」

自分らの弱点を克服しようと、決意を固めるゲーマーズであった。



チサトは宣言通り格ゲーをプレイしていた。
彼女は他の二人に比べ、苦手と言えるようなジャンルが少ない。
だから格闘ゲームもそれなりにこなせるのだが、
さっきからどうにも気が散ってミスが多発している。
何故なら……。

「……おい、おまえら。そこで何しとん」
「いや、チサトの指導をしてあげようと思って」

1面のボスにすら辿り着けずにやられたカナミは、
あっという間に格ゲーエリアに舞い戻ってきたのだ。
呆れるチサトを尻目に、カナミは対面の筐体にコインを投入する。

「……私は……見学……」

アリサに至っては、ロボ対戦ゲーをチラ見しただけで嫌気が差して帰って来たのだ。
いつも見ている格闘ゲームを眺めてる方がずっと気が楽らしい。

「うんうん、やっぱり格闘ゲームは楽しいね♪」
「……シューティングが……一番……」
「おまえらなぁ……」

などと言っている間に、
あっという間にチサトのキャラはカナミのキャラにボコボコにされていく。

『K.O!! PERFECT!!』

「……チサト……成長してない……」
「なぁに、上手くなるまであたしが付き合ってやるよ」
「…………前途は、多難やな」

チサトは一人、ため息をついた。
こいつらゲーマーは自分の好きなゲームしかやらない。
そんなことは最初から分かりきっていたことだったのだ。



結局、特訓を忘れて思い思いのゲームで遊び出すカナミ達であった。
好みの偏った偏食ゲーマーズの明日はどっちだ!
17創る名無しに見る名無し:2009/05/03(日) 23:58:10 ID:Ywff0QUg
投下乙です
アリサの無口なしゃべり方が可愛いね
苦戦して反省して結局好きなゲームするのなw
18創る名無しに見る名無し:2009/05/05(火) 09:30:15 ID:mvTYSpXc
おお、ゲーマーな変身ヒロインってのは斬新かも
19創る名無しに見る名無し:2009/05/07(木) 19:32:07 ID:zEURxwz5
規制やっと解けたー!
ので勢いに任せてメタモルゲーマーズ投下しまっす!
 ◎GAMER'S FILE No.2
  『河井亜理紗(かわいありさ)』15歳
   某公立高校に通う現役女子高生。
   得意なゲームジャンルはシューティング。
   ただしシューティングと名の付くジャンル全てが得意というわけでは無い。
   身体がとても小さいことと、紫髪のポニーテールが容姿上の特徴。
   無口というより小声で、幼い容姿に見合わない毒舌を度々吐く。
   弓道部に所属しているが、幽霊部員と化している模様。

   装着アーマーは射撃に優れた『G・シューター』で、
   アンチャーとの交戦時には、遠距離からの攻撃で前衛を援護する。




「ゲーマーズのメンバー……増やすべきだと思わへんか?」

ゲーセンのPCコーナー前にメンバーを招集した千里は、
何の前フリもせず、いきなりそう提案した。

「何だよ、藪から棒に」
「……三人で……十分……」
「まぁ聞けや。前回の敵は数が多かったから苦戦したろ?」
「そりゃあ数が多かったからな」
「……うん……多かった……」
「でな、ウチ考えたんや。ウチらのチームには足りないパーツがある!って」

千里はそう言って、人差し指を振り上げる。

「タイマンしか出来ないファイター!!」

佳奈美を指差す。

「正面の敵にしか対応できないシューター!!」

亜理紗を指差す。

「そして、操縦しか出来ないドライバー?」
「いや、それは無問題やろ」
「……棚上げ……ズルい……」

ジト目で抗議する二人だが、
そんな視線を千里は軽く受け流す。

「ともかく、ウチらに足りないのは広範囲の敵を効果的に迎撃する能力や」
「確かに、あたしの能力では囲まれたらお仕舞いだ。悔しいけど……」
「……私も……背後の敵には、気が回らない……」
「せやろ、だからホラ!」

千里が二人の前に突き出したのは、ゲーマーズのブレスレットだ。
もちろん、三人が既に持っている物とは別の物である。

「……新型……どうしたの……?」
「これな、長官におねだりして作ってもろうたんや。
 一撃離脱型の機動性重視のアーマーやて。ウチらの弱点を補うのにピッタリやろ」
「で、肝心の装着者は誰がやるんだい?」
「そう……本題はそこや!」

千里はPCモニターを叩く。
「おまえら、TASって知っとる……いや、流石に知らんわけないか」
「TAS? 何だそりゃ?」
「ちょ、佳奈美っ! ゲーマーなら流石に聞いたことあるやろ!?」
「知らんもんは知らん」
「……まぁ、格ゲーのTASってほとんど無いからな。
 格ゲー馬鹿の佳奈美らしいっちゃ、らしいわ」

やれやれ、と頭を振る千里。

「亜理紗はもちろん知っとるよな?」
「……Tool Assisted Speedrun……」
「せや!」


 ◎TAS(タス)(Tool Assisted Speedrun)
   ツールの助け(中途セーブ&リトライ等)を借りたプレーのこと。
   人間の一発勝負のプレーとは違ってやり直しを繰り返すことで、
   極限のプレーや面白プレーなどを見せるエンターテイメントプレーを目的としている。
   一般的にはクリアまでのタイムアタックを競う場合が多い。


「ウチもTASにはいつも泣かされとってなぁー。
 今んトコ、タイムアタックで256戦8勝248敗なんや」
「……実機プレイでTASに8勝もしたの……?」
「せや!」
「…………千里、馬鹿でしょ……」
「褒め言葉やな!」

ふんぞり返る千里。

「……でも、TASは所詮ズル技……。
 ……実戦の役には立たない……違う……?」
「いいから、ちょっとこの動画見てみ?」

千里は某動画サイトに上がっている動画を再生する。

その動画は有名アクションゲームのプレイ動画で、
プレイヤーキャラは超人的な身のこなしを行い、
並み居る雑魚敵をバッタバッタとなぎ倒していた。

「へー、無駄のない良い動きだな。上手いじゃんコイツ」
「……TASだから当たり前……。……っ!?」
「気付いたか、亜理紗?」

千里はニヤリと笑う。

「ん、ボーナスキャラが出現したのに逃したのか?
 なんだ、TASってのも万能じゃないんだな」
「アホ抜かせ、TASが失敗するかい」
「??? じゃあ何で失敗したんだよ」
「……あのボーナスキャラの出現は完全ランダムで、先読みは不可能……。
 でも、TASなら出現を確認してから時間を戻せば確実にGETできるはず……。
 ……なのに、この動画はそうしなかった……。いや、できなかった……つまりっ!?」
「ウチも最初は勘違いしたんやけどな……そう、これはTASやない!
 実際に人間が実機でプレイしている、正真正銘の通常プレイ動画や!」
「つまり、この動画を上げた奴は、
 TASと見紛うような超人的なプレイが可能なゲーマーってことか」

佳奈美は無意識に舌なめずりをする。
「なるほど、興味湧いたな。そいつに会いに行ってみようじゃないか」
「ほな、早速」

千里は、ブレスレットで長官を呼び出す。

『こちら地球防衛軍の長官だ。ゲーマーズ諸君、何かあったのかね?』
「おう長官。プロパイダをハックして、この動画上げた奴の住所を割り出してくれや」
『むっ、何のためにだね?』
「もちろん地球の平和のためや!」
『そうか、それならばよかろう!』

あっという間に、ゲーマーズの手元に情報が送られてくる。

「宇崎八重花(うざきやえか)……これがそいつの名前か」
「八重花……ヤエちゃんでええな」
「……馴れ馴れしさに定評のある千里……」
「まぁ住所も分かったことだし、行ってみよか」

立ち上がる千里だが、何かを思いついて再びPCに向かう。

「おっとと。いきなりお邪魔すんのもアレやし、コメント書いとくか」

『スーパーハカーの知り合いに頼んでうp主の住所は突き止めた。
 今から会いに行くからよろしく。 貴方の秘密を知るゲーマーより』

「これで、よしと」
「……脅迫文書……?」
「それじゃあ行こうか」

千里のバイクに三人乗りし、
ゲーマーズは宇崎八重花の下へと向かった。




『帰って』

宇崎家宅のインターホンを鳴らしたゲーマーズだが、
まぁ当然というか、無碍な拒絶を受ける。

「そないなイケズ言わんといてやー。
 ヤエちゃんのプレイに感銘を受けてはるばる来たんやでー?」
『警察呼ぶわよ?』
「残念だったね、あたし達は国家権力と繋がっているんだ。
 何故ならあたしたちは、地球防衛軍所属のメタモルゲ――」
「ドアホ!! ヒーローがいきなり正体ばらすなや!!」
「……ヒロイン……だけどね……」
『メタモルゲーマーズ? 最近、噂になってる連中?』

インターホンの声色が変わった。
それからしばらく押し黙っていた彼女だが……

『……興味出た。上がっていいよ』

玄関のドアが遠隔操作で開く。

「ほな、おっじゃましまーす!」

遠慮を知らずに意気揚々と上がりこんだ千里に、残りの二人も続いた。




家の中に居た小柄な栗色ショートカットの少女、八重花。
彼女の部屋には古今のアクションゲームが多数散らばっていた。
やはりアクションが得意分野なのだろう。

「――……っちゅーわけでな、
 腕の立つゲーマーに仲間になって貰おうと探してたんや」

そんな彼女に、千里は切々と事情を説明する。

……が、当の八重花はくんくんと鼻を鳴らし、
その話よりも別のことが気になって仕方ないようだった。

「……あんたら、ヤニの臭いがするね」
「あぁ、堪忍。さっきまでゲーセンにおったんでな。
 せやけど、ウチらは一人も吸わんから安心しぃや」
「何だ、あんたらアーケードゲーマーなの?
 やっぱ帰って。アーケードのゴロツキどもは虫が好かない」
「え……そ、そないなこと申されましても……」

再びの拒絶に慌てる千里。
一方、佳奈美はアーケードを馬鹿にされてカチンと来たようだ。

「ふん、流石にコンシューマーゲーマー様はお高く止まってるね。
 どーせ外に出て野良対戦で負けるのが怖いから引き篭もってるんだろ」
「なっ!!」

あからさまに侮辱され、今度は八重花が眉を吊り上げる。

「亜理紗、千里、行こうよ。こんな奴を仲間にしても仕方が――」
「待ちなさいよ!!」

佳奈美が振り返ると、八重花は何かのゲームを彼女の前に突き出した。

「あたしと、これで勝負しましょう?
 これであたしが負けたら、あんた達の仲間になってあげる」

八重花が手にしているゲームは、
スカッシュ・シスターズという非常に有名な対戦格闘ゲームだ。
コンシューマー専用ゲームながら、佳奈美も経験がある。

「ただし、プレイするルールはあたしが決めるわ。文句無いわよね?」
「……いいだろう、ゲーマーならゲームで決着つけないとな」

八重花からコントローラを受け取り、戦闘態勢に入る佳奈美。

「ヤエちゃんには悪いが、この勝負もろうたな。
 格ゲーで佳奈美に勝てる奴がおるわけがない」
「……スカシスなら、佳奈美は大会で優勝もしてる……非公式のだけど……」

『READY......FIGHT!!』

八重花と佳奈美の対決の火蓋が、切って落とされた。



「かっ…………!」

アンチャーと初遭遇した時ですら微動だにしなかった亜理紗と千里が、
驚愕のあまり、目を見開いている。

この勝負は、互いに3機ずつ残機を持って始まった。
そしてその勝負が終わった今、それぞれ残っている残機は……。


  佳奈美:0機  八重花:3機


「かっ……完敗やないかっ!? どないしたんや佳奈美!?」
「……そ……そんな……佳奈美が負ける訳が……」

二人に声をかけられても、何も言えずに歯軋りする佳奈美。
一方、八重花は得意げに口を開いた。

「やっぱりね、こんなことだろうと思ったわ。
 あなたが優勝したって言う大会、どうせ『閉点』の『アイテム無し』ルールでしょう?」
「……!」

図星だった。
佳奈美がこのゲームの大会で勝ち得た勝利とは、
平地での一対一という、イレギュラーの絶対に起こらない状況での物だった。
そこでの勝負は、正面からの格闘技術が全て。小細工は全く挟む余地が無い。

しかし今、八重花が佳奈美に対して得た勝利はそれとは全く別種の物だ。
移り変わる地形、不意に現れるお邪魔キャラ、何が出るか分からないアイテム。
彼女はそれら全ての不確定要素に柔軟に対応し、
対応しきれずに実力を出せない佳奈美を一方的に蹂躙したのだ。

そう……言うなれば、手段を問わない何でもありの戦い……。

「これだから格ゲーマーって嫌いなのよ。
 ガチガチのルールに守られた戦いしか出来ない癖に、自分を強いと思い込む」
「…………卑怯…………」
「亜理紗……?」

普段、滅多に感情を表に現さない亜理紗が、目に見えるほどに憤っていた。

「……あんな卑怯な戦いじゃなければ……佳奈美は、負けないっ!!」
「亜理紗……」
「はん、バカじゃないの?」

食って掛かる亜理紗に対し、小バカにしたように鼻を鳴らす八重花。

「あんたら、未知の生物と戦ってるって言ってたけど、
 そいつらは正々堂々ルールに乗っ取って戦うような、スポーツマンシップ溢れる連中なの?」
「…………っ…………」

言葉を詰まらせる亜理紗。
悔しいが、八重花の指摘は確かに的を射ている。

先日のピンチは、アンチャーは必ず真っ向勝負を仕掛けてくる物だと、
ゲーマーズ達が勝手に決め付けていたせいだ。

「……そいつの言うとおりだ、あたしが甘かった。今日は出直そう」
「……佳奈美……」
亜理紗の頭を撫でて、落ち着かせようとする佳奈美。
一番悔しいのは彼女だろうに……。
佳奈美の意を汲めば、亜理紗も大人しく引き下がらざるを得ない。

その時……。

『エマージェンシー! エマージェンシー! バイスシティーにアンチャーの群れが――』

「仕事か。行くよ、二人とも!」
「……あまり……気が乗らないけど……」
「ほな、また来るからよろしゅう!」
「もう来るな!」

半ば八重花に追い出されるように、三人は家を飛び出して行った。



「ルール無用……勝ったもん勝ち……。……せや!」

現場に急行しながらも、まだ策を巡らせていた千里は、
何かを思いついたのか、不意にポンと手を打つ。

「勝てば官軍、手段を選ばないでええんならまだ手はあるで!」
「……何するつもり……」
「怒らせてでもアンチャーとの戦いの場に引きずり出したらええねん。
 一度でもゲーマーズとして戦えば、後はウチがなぁなぁにしたる」
「怒らせるって……既に嫌われまくってんのに、あれ以上どうやって怒らせる気だよ?」
「まぁ、見とき!」

そう言って、イヒヒと笑ってみせる千里であった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


招かざる客がやっと出て行ったので、
ようやく八重花は中断されたゲームの攻略を再開できた。

「ここのパターン、まだ完全じゃないな……」

一人でブツブツ言いながら手元のノートに攻略メモを書き込む八重花。
その時……。


(ドガアアアアアアアアァァァァァァン!!)


「な、なによっ!?」

いきなり、部屋の壁が衝撃音と共に大破したのだ。
そこから転がり込んできたのは、奇妙な黒い生物……。
ノックアウトされたアンチャーだった。

「ヤエちゃん、すまーん! 巻き込むつもりは無かったんやー!」
「……大嘘……」

空いた穴からひょっこり顔を出す千里と亜理紗。
その身には既にパワードスーツが装着されている。
千里がへらへら笑っていることから、故意であろうことは明白だ。
更に向こうでは、佳奈美が敵を食い止めるために戦っているのが見える。
「あんたら、どういうつもりよ?」
「……手段を……選ぶのはやめた……」
「で、ウチらの仲間になるって件、考えてくれたかいな?」
「……………………」

人の家を破壊しておいて、この言い草だ。
これ以上こいつらの相手をしても無駄だと悟った八重花は、
眉間にしわを寄せつつも、無視してゲームを続けようとする。

不意につんざくようなアンチャーの奇声が響き、八重花は思わず耳を塞ぐ。
見ると、鳥形のアンチャーの群れが空を覆っている。

「何よ、アンチャーってこんなにうるさい連中なの!?」
「……今日のは……特にうるさい……」
「こいつらおる内は、やかましゅうてゲームできんやろ。
 どや、今回だけでいいからウチらと一緒に戦ってみいひんか?」

ブレスレットが八重花の足元に放り込まれる。

「さぁ、それを腕に巻いて、プレイ・メタモルって叫ぶんや!」
「…………今回だけだからね」

根負けしたのか、八重花はやれやれと頭を振り、
ブレスレットを拾うと、腕に装着する。

「地上の敵は佳奈美が何とかするから、ヤエちゃんは空中の敵を頼むわ」
「はいはい、分かったわよ」

八重花は面倒くさそうに返答すると、変身コマンドを叫ぶ。


『プレイ・メタモル!!!』


八重花の身体が光に包まれ、アーマーが装着される。
彼女が変身したのは、機動性重視のG・アクションだ。

「さぁ、早速頼むで、ヤエちゃん!」
「……………………」

腰を低く落とし、戦闘態勢に入る八重花だが……。



(プシュ〜)


『Bメンヲセットシテクダサイ』



「な、なに!? なんなのよコレ!?」
「……容量……切れ……」
「あちゃー、おしゃべりに時間使いすぎたな」

いいところですが、どうやらディスクチェンジが必要のようです。
G・アクションの活躍はまた来週!


「ちょ、ちょっと待ちなさいよぉーーー!!」
27創る名無しに見る名無し:2009/05/07(木) 19:38:18 ID:zEURxwz5
必要なんだかどうだか分からない薀蓄を延々と書いてたら、
いつの間にか結構な長さになってしまったので一旦切りました

続きもなるべく早めに書きます
28創る名無しに見る名無し:2009/05/07(木) 21:22:43 ID:HBmyLvt/
是非とも基板とかやってもらいたいw
29創る名無しに見る名無し:2009/05/08(金) 09:27:30 ID:pXfUF2Dy
GJ!!
Disc2とかじゃなくてB面なんだ…(;^ω^)

いやぁ、面白いなあ、亜理沙ちゃん持って帰りたい。早く続きを…えいっ
ガチャガチャ...バキッ!!
30炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/08(金) 19:52:58 ID:REz4ZN4H
炎術剣士まなみ 第十八話『剣士散華』

 今日も朝のニュースは、まなみたち三剣士の話題で持ちきりだ。
『新堂まなみ、次元鬼を倒し、子どもを救う!』だの、
『姫倉伊織、次元鬼に支配された街を解放』だの、
『水無瀬裕奈、骨付き肉を食べながら、敵を蹴り倒す』だの、相変わらず連戦連勝である。

次元鬼も、以前の戦艦スカルローグが落とされてからというもの、勢いは
かなり削がれてしまった。剣士の強さに今日も頭を悩ませている。
「ウルムよ、剣士どもを倒すことは出来ぬと申すか?」
「は、はい…今の我らでは奴らに対抗する手段がもう残ってはいないのです…」
フリッデに呼び出されたウルムは、膝を震わせながら答える。

それに溜息を吐いたフリッデはそっと視線をウルムに向ける。
「では、ウルムよ。次の戦い、お前たち次元鬼三姉妹の全てを持って剣士の娘たちを
倒してくるのだ。よいな?」
「そ、それは…」
「不満か?」
「いえ、とんでもございません!必ず、奴らを始末します」

フリッデが炎の中に消え去ると、ウルムは思い悩むように玉座の間を後にした。
三姉妹の部屋に帰ると、中ではベルディスとスクリタがなにやらビクビクしている。
「ウルムお姉さま…フリッデ様はなんと?」
ベルディスが聞き出してきたのに、対し、ウルムが答える。
「次の戦い、我らの命を賭けてでも剣士どもを倒してくるようにとのことだ」

聞いた瞬間、スクリタが大きく目を見開く。
「そ、それって私たちに死ねって言ってるようなものじゃない!どんな次元鬼も
剣士を倒せなかったのに、私たちが勝てるわけない!」
半狂乱気味に叫ぶスクリタ。

「ベルディス…何か、新たな次元鬼はいないか?」
「もう、やれるだけのことをやりましたわ…早い話が剣士どもに対抗する手段はありません…」
「そうか…」
表情が暗く、部屋の中も重たい空気が漂う。その時、ガチャっとドアが開かれようとした。
31炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/08(金) 19:53:50 ID:REz4ZN4H
「!?…何者だ!」
ウルムがドアの方へと叫ぶ。部屋は完全に三姉妹の私室で、一般の次元鬼が
入ってきていいものではなかった。
「あまり怖い声を出さないでくれ…僕は君たちに協力しにきたんだ…」
ドアが開かれた。そこには特になんの装備もしていない男の姿が。

「貴様は…確かギノスのエルガ!」
そこにいたのは、かつてまなみたちに壊滅させられたギノスの大将エルガであった。
「おや、次元鬼のみなさんに知っていてもらえるなんて光栄です」
「ふんっ、剣士どもに敗北した負け犬が私たちに協力なんてね」

「おっと、これは手厳しい。僕も剣士には恨みがある。でも普通に戦ったら勝ち目はない」
ベルディスが身を乗り出してくる。

「なにを分かりきったことを言ってるんですの。結局協力だなんて口だけなのかしら?」
「おっと、まだ話は終わっていない。勝算はちゃんとある。これを使えば…」
エルガが懐から、ボトルを取り出す。中には透明な液体が入っている。
「それはなんだ?まさかただの水とは言うまいな?」

「…ギノスはメリアス国の聖水晶を狙っていた。結果は失敗したが、あれから
出る聖水を、僕は自分の分だけしか手に入れられなかったなんてことはない」

聖水晶の聖水と聞き、次元鬼三姉妹の目の色が変わる。
「聖水だと!?エルガ、貴様それはつまり…」
「ああ、この聖水を使えば剣士たちにも勝ち目はある。でも普通にこれを使うだけでは
勝つことはまだ難しい。そこで次元鬼の力でこれをさらに強力にしてほしいのさ」
「分かったわ、エルガ。で、こんなことを申し出たということは
何か報酬が欲しいのかしら?」

ベルディスの言葉に待ってましたとばかりに、話し出す。
「あなた方のパワーアップに成功したら、僕を次元鬼の幹部にしてもらえないかね?」
「ちょっと、ただの人間風情が次元鬼の仲間入りだなんて…」
スクリタが憤るが、それをウルムは制しする。

「…いいだろう。次元鬼の幹部でも何でもしてやろう」
「ウルムお姉さま、こんな奴を次元鬼の仲間入りをさせていいの!?」
「こ奴の聖水が無ければ、我らに勝ち目はないままだろう」

スクリタは納得いかないような表情を浮かべたままだが、ウルムは何か
考えているように目をつむっていた。そしてベルディスは聖水をエルガから
受け取り、研究室へと移動した。
32炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/08(金) 19:55:37 ID:REz4ZN4H
それからしばらくして、ベルディスが次元鬼のエネルギーを混ぜ合わせた
聖水を持って帰ってきた。いや、既に聖水というよりは邪水というべきか。
「出来ましたわ!ウルムお姉さま、エルガは?」
「ああ、エルガは特別な客間へ案内してある。特別だからな…」
「ふふ、お姉さまもお人が悪い。それでは早速、邪水の力…試してみましょう」

三人は邪水をセットした巨大なカプセル内へと入る。ベルディスが
カプセル内で何やらスイッチのようなものを弄ると、カプセルが低いうなりを上げる。
「さあ、始まりますわ。お姉さま、スクリタ、準備はいいですわね?」
「もちろんだ」
「これで、あの剣士たち…特に裕奈をボコボコに出来るのね!」
「では、作業開始…!」

次の瞬間、怪しい紫色の光が彼女たちを包み込む。それぞれ苦悶の表情を
浮かべるが、しばらくするとそれが快感のように明るい表情へ変わる。
そして光が収まり、三人がカプセルから出てくる。彼女らの纏っていた鎧は
禍々しい形へ変形し、触れればそのまま、消滅してしまいそうなほど
邪悪なオーラを発生させている。

差人は非常に喜々とした表情を浮かべ、自分の手を見る。
「力が…満ち溢れてくるようだ…!」
「これなら剣士どもにも負けはしないわ」
「お姉さまたち、早速奴らを蹴散らしに行きましょう!」
「ふふ、慌てるなスクリタ。我らに力をくれたエルガに礼をしなくてはな…」
そう言ったウルムは邪悪な笑みを浮かべていた。

客間のソファに腰掛け、三姉妹を待っているエルガ。彼女らが部屋へと入ってくると
立ち上がり、パチパチと拍手をする。
「おお、おめでとう。パワーアップは上手くいったようだね」
「ああ、エルガよ、貴様のおかげだ」
ウルムから感謝の言葉を聞かされると、エルガは照れながら頭をかく。

「ははは。なに感謝されるほどのことでは。それでは約束通り、
僕を幹部に取り立ててくれるね?」
「ああ、もちろんだ。私は約束を守る。お前を…次元鬼として受け入れてやろう!」
すると、エルガの周囲から機械アームが飛び出し、エルガを捕らえ、横にあったベッドへ拘束する。
33炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/08(金) 19:56:24 ID:REz4ZN4H
「うわあ!う、ウルム!これはいったいどういうことだ!」
突然の出来事に声を上げ、困惑した表情のエルガ。ウルムは静かに笑いだす。
「…ふふふ…はははは!まったくまるで頭の回らない男だな。我ら次元鬼が次元鬼以外の
者を受け入れ、取り立てるとでも?何の警戒もせずにノコノコやってくるとは本当に
おめでたい奴だ。ベルディス…あとは好きにしろ」

ウルムとスクリタが部屋から出ていき、ベルディスは怪しく微笑む。
「それでは、始めましょうか…痛くても我慢してね?うふふふふふ…!」
「や、やめろ……うわああああああああああああああああああっ!!」


昼過ぎの東京は、気持ちよく晴れた青空が広がる。まなみの家には
防衛軍から武田がやってきていた。
彼は、モジモジと下を向いている。彼の机を挟んだ向かい側にはまなみが。
「武田さん…何か言いたいことがあるなら、はっきり言ってください」
「すすすすみません!えーあー…しっかりしろぉ、省吾…」

小声で自分を叱咤すると、顔を赤くしたままだが、まなみに向き直る。
「ま、ま、まなみさん!ここっ今度の日曜日に、僕とデートしてください!」
叫ぶように言い切ると、再び素早く下を向く。そしてそっとまなみに視線をやる。
「だ、ダメでしょうか…?」
「武田さん…デート、ですか…いいですよ」

案外あっさりと受け入れてくれたことに武田は一気に明るくなる、目を輝かせる。
「あ、ありがとうございます!やったああ!!」
飛び上がって喜ぶ武田。二人の様子を見ていたのか外から裕奈と伊織が入ってくる。
「やったじゃん!武田さん!」
「よかったですね。まなみさんも結構素直でしたね」

「ちょっと伊織、どういう意味よ。た、ただ日曜は暇だったから相手してもいいかな
なんて思っただけなんだから」
「まぁた照れちゃってぇ。まなみちゃんも子供だね♪」
「裕奈、あんたにだけは言われたくないわよ」
二人がまなみのことを茶化しているその時、突然テレビに電源が入る。
34炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/08(金) 19:58:15 ID:REz4ZN4H
そして砂嵐の映像が映りだしたかと思えば、次の瞬間、次元鬼三姉妹の姿が。
「剣士の小娘たち、ご機嫌いかがかな?」
「う、ウルム!前は電話かけてきたけど、今度はテレビジャック?」
「ふふふ、今日はお前たちに決闘を申し込みにきた。受けるか?」
突然の決闘の申し込みに、三人は困惑するが、すぐに意を決したように答える。

「あんたたちとの決闘、断る理由もないしね。受けるわ!」
「そうこなくてはな。では場所は高尾山だ。待っているぞ」
言い残すと、テレビは消える。そそくさと支度を始める三人に武田が口を開く。
「まなみさん!これは罠です!いきなり決だなんて、何かあるに決まってます!」

「武田さん…そうだとしても、あいつらを倒すチャンスでもあるんです…それに
みんなを傷つけたくはない…武田さんはここで待っていてください!」
三人は駆け出していく。その姿を武田は見守るしかなかった。
「くそぉ…俺だって防衛軍なのに、あの娘たちに頼るしかないなんて…情けない…」


高尾山に到着すると同時にそれぞれ変身する剣士たち。
変身が完了すると同時に、紫色の閃光とともに次元鬼三姉妹の姿が現れる。
「よくきたな、新堂まなみ、水無瀬裕奈、姫倉伊織…」
「なぁによ、いきなり確認するみたいに」
「うふ、それはね、裕奈。あんたたちも今日で終わり、名前を聞くのも最後だから
せめて記憶に留めとこうってウルムお姉様の粋な計らいよ」

その言葉に、眉間に皺をよせる三剣士。
「私たちがあなた方に敗北するということですか?あり得ないです!」
まなみが伊織に続いていく。
「そうよ!それにあなたたちでは私たちに勝てないなんてとっくに分かってるはずでしょ!」
「甘いな、まなみ…我々がいつまでも同じだと思うなぁっ!」

ウルムがまなみに斬りかかると、続きベルディスが伊織に、スクリタが裕奈に攻撃を仕掛ける。
35炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/08(金) 19:59:07 ID:REz4ZN4H
その戦いはほとんど互角であった。まなみが炎流波で一旦ウルムと距離を取る。
「へぇ…確かに前よりは強くなったかもしれないけど、思ったほどじゃないわね」
「そうか…では、そろそろ本気を出させてもらおう!」
宣言すると、ウルムがまなみの視界から消え失せる。そして探す間もなく
まなみは吹き飛ばされた。ウルムは一瞬の間に背後へと回っていた。

「な…なに、この速さは…!?」
「まなみちゃん!」
「まなみを気遣ってる余裕はないわよ、裕奈ぁ!」
スクリタが裕奈に掴みかかろうと腕を伸ばす。避ける間もなく裕奈は
首根っこを掴まれ締め上げられてしまう。

「かはっ…」
「あははは!そぉれ!」
そしてそのまま勢いに任せ裕奈を地面に叩きつけ、身動きできない裕奈を踏みつぶす。
「うあぁぁぁぁぁっ!」
「もう二度とその生意気な口を聞けないようにしてあげるんだから!」

「まなみさん!裕奈ちゃん!」
伊織が二人を助けようとするが、目の前にベルディスが一瞬で回りこむ。
「伊織、あなたの相手は私よ…これまでの恨み、とくと味わいなさい!」
ベルディスの剣が伊織に一閃する。辛うじて回避するが、剣から発生した
衝撃波が伊織に思わぬ追撃を掛け、彼女に直撃する。
「きゃああぁぁぁ!…くっ、いつもの三姉妹じゃ、ない…!?」

まなみはウルムに何度も斬りつけられ、その紅の戦闘着はボロボロだ。
裕奈は泥汚れが激しく、スクリタに負わされた傷の痛みを堪え、苦悶の表情を浮かべる。
伊織は着物こそ、比較的、他の二人より無事だが、肉体的ダメージの大きさは変わらない。
「ま、まなみちゃん…あいつら、いつもより全然強いよ…」
「いったい、何があったっていうの…?」

「驚いたか、剣士ども。お前たちではもう、我々に勝つことは出来ない」
「あはは!あたしらを苦しめた剣士もただの雑魚だね♪てゆーか、もうあたしらの
出る幕なくない?お姉さまたち」
完全にまなみたちを舐めた態度を取る三姉妹。
36炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/08(金) 20:00:07 ID:REz4ZN4H
「そうねぇ、じゃあ、あの新型次元鬼でも試してみようかな?」
突然、黒い煙が発生したかと思うと、そこから、狼のような姿をした次元鬼が現れた。
「剣士の小娘たち、この次元鬼を倒すことが出来れば、今回は見逃してあげてもいいわよ?」
「くっ、完全に舐めてるわね…そいつを倒して、あなたたちも倒してみせるわ!」

まなみが威勢よく宣言すると同時に火炎弾を作り出し、連続で発射する。
「伊織ちゃん、あたしたちもいくよ!」
「うん、絶対に負けません!」
裕奈が水流波を、伊織は雷神波を次元鬼へ浴びせる。だが、次元鬼は三人の攻撃に
怯むどころか、微動だにせず、攻撃を弾いてしまう。

さらに間もなく次元鬼が口から光線を発射し、三人に連続で浴びせていく。
「うあぁぁ!くっ…裕奈、伊織…こうなったら、あれをやるよ!」
「りょ、了解だよ、まなみちゃん」
「これからは逃れられはしない…!」

三人が腕を次元鬼に向かって腕を突き出し、炎、水、雷の気が高まっていく。
「「「龍陣波動!!」」」
それぞれの気が混じりあい、光線となり次元鬼に直撃する。そして三人同時に
刀を抜き、一斉に斬りかかる。

「「「逆鱗超破斬!!!」」」
まなみたちの代から以前の剣士たちでも倒せなかった者はいないと言われた
必殺の合体技が次元鬼へと炸裂した。それは次元鬼に少しのズレもなく、直撃した!
…が、次元鬼はそれでもかすり傷一つ付かず、余裕といった表情をしている。

「そ、そんな…こんなことって……!ああっ!?」
ただでさえ信じられない光景だったのに、さらに信じられないことが起きてしまう。
ひび割れしたことはあってもすぐに修復された、まなみたちの愛刀が折れ、
砕け散ったのだ。三人は今ので力を使い果たしたかのように膝から崩れる。

そしてその様子をあざ笑う三姉妹。
「どう?本当に勝ち目なかったでしょう?裕奈…それじゃさよならだね」
裕奈へゆっくりと近づいていくスクリタ。そして裕奈を抱え上げる
「うぅ…スクリタ…あああああああああ!!」
裕奈の胸に衝撃波を浴びせ、頭から叩きつける。裕奈はもう動くことも叶わず
その場に倒れ伏した。
37炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/08(金) 20:00:54 ID:REz4ZN4H
「伊織、散々生意気な口を聞いてくれたあなたももう私には抗えない…」
ベルディスの腕から光が走り、伊織を包み込んだかと思うと、次の瞬間に
爆発した!ドサッと伊織がその場に倒れるがなんとか顔をあげる。
「ベル、ディスさ、ん…絶対に、許さない…うあああ!!」
「どう許さないっての?この負け犬が!伊織、あんたは負けたんだよ!」
何度も伊織を踏みつけ、伊織は意識が遠のいていく。

「裕奈ぁぁぁ!!伊織ぃぃぃ!!」
「まなみ、恐ろしいか?その恐怖をしっかりと刻み込め!!」
まなみを無理やり起こすと、腹に蹴りをお見舞いし、まなみが蹲くまると
腕から最大級の破壊光線を放射し、まなみに浴びせる。
「うああああああああ!!」
まなみも他の二人と同じくその場に倒れ伏す。

夕日が沈み、三剣士が倒れ、次元鬼三姉妹は喜ばずにはいられなかった。
「ふふふ…あははははは!!ついに、ついに剣士どもを倒したぞ!」
「これでもう、地球侵略の妨げになるようなのはいませんわね、お姉さま!」
「エルガ、あんたも役に立つじゃん」
エルガと呼ばれたのは狼型の次元鬼であった。

「それじゃ、帰りましょうお姉さま」
「ああ、フリッデ様に報告しなくてはな」
次元鬼三姉妹がその場から姿を消すと、同時に、その場へ走ってくる男の姿が。
「裕奈さぁぁぁん!伊織さぁぁぁん!…まなみさぁぁぁぁぁん!」
それは武田であった。倒れているまなみを抱き寄せる。

「う…たけ、ださん…ごめんなさい……デート、出来なくなっちゃった…」
息も絶え絶えのまなみに首を振る武田。
「そんな…いいんです!それよりも皆さんを病院へお連れします!
絶対に死なせはしません!」

瀕死の重傷を負ったまなみたちを乗ってきた車へと乗せ、急ぎ
病院へと向かう。…しかし、まなみたちの命はいつ尽きるともわからない。
剣士たちは復活出来るのだろうか?そして次元鬼を打倒することが出来るのだろうか…?
38炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/08(金) 20:03:43 ID:REz4ZN4H
まなみ投下完了
>>1スレ立て乙です。今スレもよろしくお願いします。
39創る名無しに見る名無し:2009/05/08(金) 21:49:29 ID:E21/cDs7
次元鬼が可哀想になってきたと思った直後に剣士たち大ピンチ!
これから次元鬼のテクノロジーと現代医学の対決が始まるのですね(違
40創る名無しに見る名無し:2009/05/08(金) 23:54:03 ID:yMZgBjlh
最近の三姉妹はコミカルな一面が多かったけど今回は恐ろしい敵というのを
思い出させましたな。エルガは次元鬼に改造されちゃったのか…
そして剣士はみんな死にかけ…裕奈の痛めつけシーンは可哀想になってくるなぁ
41創る名無しに見る名無し:2009/05/09(土) 21:04:30 ID:ml54xfA1
ちゃっちゃとメタモルゲーマーズの続き書きました
よろしくお願いします
 ◎GAMER'S FILE No.3
  『五十嵐千里(いがらしちさと)』19歳
   その日暮らしのフリーター。
   得意なゲームジャンルはレーシング。
   他、マシンを操縦するジャンルなら大抵の物が得意。
   燃えるような赤い髪を短く刈り上げており、
   エセ関西弁で饒舌に喋るのを含め、ゲーマーズの中でも目立つ存在。
   バイクが趣味で、タイムアタックが煮詰まった時は、
   リアルドライブで気分転換しつつ感覚を研ぎ澄ませてるとは本人の弁。

   装着アーマーはあらゆるマシンを制御できる『G・ドライバー』で、
   アンチャーとの交戦時には、状況に応じたオールマイティな役目をこなす。




☆前回のあらすじ
ゲーマーズは動画サイトで見つけた凄腕アクションゲーマー、
宇崎八重花(うざきやえか)を仲間に引き入れようと試みる。
最初は断っていた八重花だが、ゲーマーズが三顧の礼にて誠意を尽くしたため、
その誠意に応えようと、ついに『G・アクション』に変身することを決意する!




『プレイ・メタモル!!!』

八重花が叫ぶと、ブレスレットが輝き出し、
大気中の元素を固定して作り出したパワードスーツが現れる。
そのアーマーは八重花の身体を包み込むと、軽い蒸気を上げる。

変身完了!!
機動性に優れた戦士、『G・アクション』の誕生だ!!

「てなわけで、この前は出鼻をくじかれよったが、今日こそ頼むでヤエちゃん!」
「……………………」

空を覆うアンチャーの群れをビシッと指し示す千里だが、
八重花はそれには答えず、軽いジャンプや短距離のストップ&ゴーを繰り返している。

「ヤ、ヤエちゃ〜ん……?」
「……『試運転』……」
「はん?」

背後の亜理紗が何かをつぶやいたので、千里は振り返る。

「……あたしも……初めてのゲームではやる……。
 ああやって……自機の操作感覚、確かめてる――」

そこまで言って、亜理紗はピクリと反応する。

「…………来るっ!!」


(ブォッ!!)


八重花が、地を蹴った。
一瞬で千里と亜理紗の頭上を飛び越えたかと思うと、
まるでそこに足場があるかのように宙を蹴って進路を変える。
その一瞬で、八重花は鳥形アンチャーの懐まで飛び込んでいた。
もちろんアンチャーはまるで反応できていない。

「どいつもこいつも……バカにしやが、って!!」
「グェェ!?」

あらゆる鬱憤を籠めた八重花の回転蹴りが、アンチャーの脇腹に命中する。
蹴り飛ばされたアンチャーは、他のアンチャーを巻き込みながら派手に吹き飛ぶ。

「アタラシイゲーマーズカ! イチモウダジンニシテヤル!」

アンチャー達は、屋根に着地した八重花を包囲するように陣を敷く。

「クケケッ! トツゲキィッ!」

八重花の下に、三又槍を抱えたアンチャーの群れが一気に突撃してくる。

しかし八重花は慌てた風も無く、軽々とその攻撃をすり抜けるばかりか、
腰からサーベル状の武器を取り出し、すれ違いざまに次々と敵を切り伏せていく。

「……すごい……この数の敵に対し、どう動き、どう攻撃すればいいか、
 一瞬で判断し、最も効果的なアクションを最小限の動きで行っている……」
「これが、G・アクションの……いや、ヤエちゃんの力か!」

千里と亜理紗は援護するのも忘れ、八重花の動きに見惚れている。

「……あっ……しまった、アイツ……!」

はっと我に返った亜理紗は、
ボウガンを手にしたアンチャーが八重花を狙っていることに気付く。

「バカメ、キヅクノガオソイワ! シンゲーマーズノイノチ、オレガモラッタ!!」

慌てて銃を抜こうとする亜理紗だが、もう遅い。
しかし……。


(スパァン!)


「ギャワッ!?」

狙い撃とうとしたアンチャーは、発射寸前に攻撃を受けて倒される。
八重花が武器を鞭に変形させ、離れた位置から打ち払ったのだ。

この武器は、G・アクションに標準装備されている『ウィップ・ソード』。
剣にも鞭にも変形し、どんな状況でも戦える万能武器だ。

「……敵に囲まれたあの状況で……危険な敵を瞬時に判断して、潰すなんて……」
「クソウ! ウテェ! ウテウテェ!!」

無数の射撃手により矢の嵐が降り注ぐが、
八重花はすぐにその弾幕に穴を見つけ出し、そこへ飛び込む。
そして同時に、その場にいたアンチャー達を撃破する。

「……安全な位置……見切ってる……。
 死なない位置……勝てる位置……完全に見切ってるんだ……!」
「ごっついなー、もうヤエちゃん一人いれば全部倒せるんちゃうん?」

八重花の神技に、千里と亜理紗はただただ感心するしかない。
そうこうしている内にほとんどのアンチャーは倒され、
残るはボス格と思われる巨大な一体のみとなった。

「オノレ……ヨクモカワイイブカタチヲ……!」

ボスは巨大な鉄球に手足がついたような形状の生物だ。

「オレノナハ、キエローデビル……キサマモナヲナノレ!!」
「あたしの名は……躍動の戦士、G・アクショ――」

八重花はそこまで言いかけて、
ニヤニヤとその様子を見守る千里と亜理紗の存在に気付く

「……べ、別に名前なんてどうだっていいでしょ!
 とにかくあんた、暴れるなら他所行って暴れなさいよ!
 あたしん家の近くで暴れられたら迷惑なのよ!」
「あーあ。あとちょっとでこっちの世界に引き込めたのに」
「……惜しい……」

誤魔化しつつ、決着をつけようと飛び掛る八重花。
しかし……。


(ドガァッ!!)


「うっ!?」

デビルの腹部から小さな鉄球がバラ巻かされたのだ。
不意をつかれた八重花は直撃を食らってしまい、吹き飛んでしまう。

「ドウシタ? コノテイドカ?」
「くっ……舐めるな!!」


(ボカァッ!!)


「う……ぐ……!?」

再び、デビルの攻撃が八重花に直撃する。
今度は両腕による殴打だ。
先ほどの無敵ぶりが嘘のように、八重花は一方的に攻撃を受け続ける。

「な、なんやぁ!? ヤエちゃん、なして急にやられ始めたんや!?」
「……あいつ……『初見殺し』だ……!」
「しょけんごろし?」
「……あいつの攻撃……不規則な癖に、素早くて攻撃範囲が広い……。
 いくらアクションの達人でも……数機は費やさないと見切るのは無理……!」
「な、なんやとぉ!? 数機費やすって、ウチらは身ぃ一つやで!?」

亜理紗の言うとおり、デビルの攻撃は変則的だった。
腹部から鉄球をノーモーションで発射し、
一方でその両腕を伸縮させ、予測もつかない動きで殴りかかる。
それの挙動があまりにも癖がありすぎて、
どう避けたらいいか、八重花ほどの実力者でも見当が付かないのだ。

「ちっ……!」
「ニガサン!!」
「うっ!?」
距離を取って態勢を立て直そうとした八重花を、
デビルの網状に変形した腕が捕らえた。

「サンザンヒッカキマワシテクレタガ……コレデトドメダッ!!」
「っ……!!」

動けない八重花に、巨大な鉄槌と化したもう片方の腕が振り下ろされる……!


(ドガァッッッ!!!)


「あ……あんた……!?」


八重花を守るように立ちはだかったのは、佳奈美だった。
佳奈美も地上の敵を殲滅完了し、ボスの下へ向かってきたのだ。

「ぐっ……!」

しかし鉄槌を正面から受け止めたのだ、
流石に佳奈美の顔に苦痛の表情が浮かぶ。

「ぐ、ぐおおおっ!!」

佳奈美は辛くも鉄槌を押し返すと、
デビルの腕を蹴り砕き、八重花を解放する。

「はぁ……はぁ……。な、なんのつもりよ!?」
「仲間がやられそうになっていたから、助ける。何か問題あるか?」
「仲間……勝手に仲間にしないでよ」
「いいから下がってな。あいつは、あたしが倒す」

強がる八重花を下がらせようとする佳奈美だが、
そう言う佳奈美も今の一撃で相当なダメージを受けていることは傍目でも分かる。

「……ふん、無理よ。あなたにはあいつの攻撃は見切れないわ」
「そうかもな」
「分かったら、とっとと下がって! あいつはあたしが――」
「ナニヲヨソミシテイル!?」
「!」

二人が言い争いを続ける間に、
デビルは腕を再生させ、再び攻撃を仕掛けてきたのだ。

「くっ!」

咄嗟に佳奈美は前に飛び出し、再びデビルの攻撃を受け止める。
タイミングをずらされる為、ブロッキングも不可能だ。
デビルは更なる追撃を加えようと、一旦腕を引くが……。

「……貰った!! 双龍拳!!」
「グオオッ!!?」

その僅かな間隙を縫うように、
佳奈美の研ぎ澄まされたアッパーが、デビルを吹き飛ばす。

「攻撃が避けられないなら……より大きな攻撃でやり返せばいいっ!!」

それを聞いて、デビルはむくりと起き上がる。
「……コムスメガ……コノオレト、タイキュウリョクショウブスルツモリカ!?」
「ああ、そうさ。自信が無いなら降りてもいいけど?」
「イイダロウ……スグニペチャンコニシテヤルガナ!」

互いにゆっくりと歩み寄ると、
申し合わせたかのように一発ずつ殴り合いを始める佳奈美とデビル。

「どぉりゃ!!」「グホォ!!」
「ガァァ!!」「うげぇっ!!」
「だぁらっ!!「ヌグゥ!!」
「グォォ!!」「ぐぁっ!!」

佳奈美とデビルの殴り合いは、いつ終わるとも知れず続く。

「あ、頭おかしいんじゃないの!?
 こんなに体格差がある相手とガチンコ勝負なんて、正気じゃないわ!!」

動転する八重花に対し、遠巻きに見ていた亜理紗は納得したように手を打つ。

「……そうか……『相打ち上等』……」
「まーた専門用語が飛び出しおったなぁ」
「……相手の攻撃をわざと受けて、その後隙に確実かつ強烈な反撃を行う……。
 ……佳奈美が最も得意とする……肉を切らせて骨を絶つ戦法……」
「なーる、ボスとの耐久力に格差のあるアクションゲーマーには出来ない発想やな」

千里達は呑気に感心しているが、
当の佳奈美はどんどんデビルに追い込まれてしまっていた。
ズタボロのフラフラになっている佳奈美に対し、デビルはまだ余裕だ。
やはり地力、というか体格に差が有りすぎる。

「やっぱり、いくらなんでもムチャクチャすぎる!」
「ムッ!? ウォッ……!!」

見ていられなかった八重花は、
佳奈美と戦っている隙を突いて、デビルに飛び蹴りを決める。
デビルはダメージこそ軽そうなものの、大きく吹っ飛んで倒れる。

そうして生まれた僅かな時間で、八重花は佳奈美に話しかける。

「ねぇ、なんだっけ、あんたの名前」
「……佳奈美、だけど? 何だよ急に?」
「佳奈美、あんた強がってるけど、本当はあと何発も持たないでしょ?」
「…………ちぇっ、バレた?」

口内から出血してたり、足がガクガクだったりしてるのを見れば誰でも分かる。

「元々、先に攻撃を食らってるあんたは耐久力勝負じゃ不利。
 この状況を打破するためには、強大な一撃による逆転に賭けるしかない」
「強大な一撃? 何かアテでもあんのか?」

八重花は、力強く頷く。

「格ゲーとアクションにも、少しだけなら共通点がある。
 だからあたし達がその共通点を合わせれば、必ずあいつを倒せる」
「共通点って?」
「それは――」

八重花に何かを耳打ちされ、佳奈美は納得したように頷く。

「フタリマトメテカカッテクルキカ? ソレナラバ――」
身を起こしたデビルは、なんと腕を4本に増やす。

「サァ……ツギノイチゲキデ、コナゴナニシテヤロウ!」
「それはこっちの台詞よ!!」
「どっちが勝つかなんて、やってみりゃ分かる!!」

地を蹴って下から駆け寄る佳奈美。
宙を蹴って上から飛び掛る八重花。

しかし、デビルはその両方を完全に迎撃できる体勢を整えている……!

「オワリダ……ムッ!?」

突進する二人の身体が、闘気を纏い始めた。

「テラ・クラッシュ!!」
「ソウル・クラッシャー!!」

共に突進系の必殺技を発動したのだ。
奇しくも互いに技の名前も似ている。

「ソウキタカ……ダガコノタテヲヤブルコトガデキルカナ?」

増やした腕を盾に変え、何重にも重ねたデビルは、不敵に笑う。
しかし……。

「……ヌゥッ!?」

佳奈美の身体がドリル状に回転を初めたのだ。
それに巻き込まれるように八重花の身体も吸い寄せられる。

それを見た亜理紗は、思わず声を上ずらせる。

「……そうか……その手があった……!
 二人のプレイヤーキャラクターによる合体必殺技……!
 格闘ゲームとアクションゲームの数少ない共通点……!」
「どうでもええけど、ウチらすっかり解説役やな」

合体必殺技の名の通り、今や二人の必殺技は完全に重なり合っている。
そこにあるのは既に佳奈美と八重花の技ではなく、一本の強大な矢だ。

「テラソウル・クラッシュクラッシャーーーー!!!」
「グギャオオオオオオオォォォォォ!!?」

センス皆無の技名はさておき、
二人が全力を込めて生み出した矢は、
キエローデビルの盾を、まるで豆腐のように打ち抜いていく。
そして矢は、とうとうキエローデビルの本体に到達する……!


(…………ボゥン!!)


キエローデビルの中心を貫いた小さな破壊は、
しかし放射状に拡大を続け、臨界点に達した時、とうとう弾ける。
キエローデビルの身体は強い風となって、近隣住宅の屋根を揺らした。



こうして辛くも初勝利を収めたG・アクションであったが、
特に感慨がある風でもなく、あっさり変身を解く。
そうして自宅に向かって歩き出す八重花に、佳奈美が併走する。

「八重花、おつかれさん!」
「全く……あんたの捨て身の戦法には恐れ入ったわ」
「ははっ、ちょっとは格ゲーマーのことも見直しただろ?」
「さぁね。でも助けてくれたお礼だけは言っておくわ」
「礼なんて水臭いな、これから一緒に戦う仲間だろ?」
「勘違いしないでよ。騒音が迷惑だったから、今回だけ手を貸しただけ――」

言いながら、空いた穴から部屋に戻ろうとする八重花だが、
部屋のあまりの惨状を見て、言葉を失う。

戦闘の流れ弾により、部屋の中は無茶苦茶になっており、
八重花愛用のゲーム機も、木っ端微塵に大破していたのだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


今、八重花を含めた四人はゲーセンに来ていた。
『ゲーム機を弁償するから』という千里の言葉に釣られた八重花は、
そのままなし崩しにゲーセンまで連れてこられたのだ。

「……アーケードは嫌いだって言わなかったっけ?」
「ここは禁煙やさかい、ちょいと付き合ってやー!」

千里になだめられつつ、不機嫌な顔で筐体を見渡す八重花。

「格ゲーや音ゲーばっか……やっぱりあたしにはアーケードは――」

八重花はそう言いかけて止まる。
彼女の瞳は、筐体の一つに釘付けになっていた。

「イ……インディアン・プレデター!!?
 版権問題で回収されたはずの幻のベルトアクションが何故ここにっ!!?」

慌てた八重花は、更に周囲を見回す。

「よく見たら、『電池を食らう』や『ヨイキューレの冒険』まであるじゃない!?
 どれもこれも諸事情で家庭用に移植されていないタイトルばっかり!!」
「ウチは他にも穴場のゲーセンやレゲーショップをぎょうさん知っとるで」

千里はニヒィ、と笑う。

「な、ヤエちゃん? ウチら、友達になろうやないの!」
「……しょ、しょうがないわねぇ。そ、そこまで言うなら仲間になってあげるわよ」

あくまで仕方なくよ、と言いたげな様子で承諾する八重花だが、
興奮を抑えきれずに身体がウズウズしてるのは傍目からでもよく分かった。

「さ、さてと、100円100円……あった!」
「おっと、待った!」
「あ、何すんのよ!?」

八重花が取り出した100円を佳奈美が奪い取ったのだ。
「その前に、あたしともう一度勝負してもらおっかな」
「なんでよ、いいから100円返しなさい!」
「あれー、勝ち逃げする気かなー? それとも自宅じゃなきゃ力を出せないとかー?」
「……先にケンカを売ったのは……八重花……」
「わ、分かったわよ、でも1回だけだからね!」
「まぁ今日の所はな!」

佳奈美はニッと笑うと、八重花に100円を投げ返す。

「なぁ、折角やから全員参加でゲーマーズ最強決定戦ってのはどうや?」
「……いいね……賛成……」
「その発想は無かった、でもあたしも賛成」
「もう何でもいいわ。好きにしてよ」

こうして千里の提案でゲーマーズ全員で対戦することになったのだが……。

「よし、早速ストレートファイターで……」
「それはあんたが有利すぎでしょ。
 ラストファイトで死なずにどこまで行けるか勝負にしましょ」
「……ピストルバァールのハイスコア勝負……」
「アホウ、4人対戦つったらマリコカートに決まっとるやろ!」

ゲーマーズ達は、みな自分の得意ジャンルを一方的に要求するばかり。
このままでは一向にラチが明かないので、
間を取って落ち物パズルの『よぷよぷ』で勝負することになりました。



誰が勝ったのかは……ナ・イ・シ・ョ♪








  ☆スペースが余ったので唐突に次回予告!

   チャチャチャチャラララン♪

  『よっ、樋口佳奈美だ。
   八重花の加入であたし達ゲーマーズの欠点も克服され、体勢は磐石!
   ……と思いきや、意外な欠点がまたまた大浮上!?
   その欠点を克服するために特訓を始めるあたし達だが……。
   そんな時、またまた新たな凄腕ゲーマーが現れた!
   そのゲーマーとは……ええっ、こんな真面目そうなメガネっ子!?」


  次回、ゆけゆけ!!メモタルゲーマーズ

  Round5「始まりはライトゲーマー!」


   ジャジャーン!!


  『あたしより強い奴に会いに行く!!』
50創る名無しに見る名無し:2009/05/09(土) 21:14:03 ID:ml54xfA1
言いたいこと言いっ放しの八重花が嫌われないかが心配
あと亜理紗ファンの方、全然見せ場なくてゴメンよぉー
51創る名無しに見る名無し:2009/05/09(土) 22:39:45 ID:1/RuAZxm
すげぇ仕事はえぇな!
52創る名無しに見る名無し:2009/05/09(土) 23:04:39 ID:ml54xfA1
>>51
本当は一本に纏めて投下する予定だったのを分けたので、
前編投下した時点でほとんど書き終わってました
あと、GWで書き溜めできたってのもあります
53炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/15(金) 18:51:26 ID:D3RZpcxx
次回予告「次元鬼に敗北したまなみたちは恐怖に縛られ、戦意を喪失していた。
しかし、次元鬼の攻撃が止むことはない。武田が、悠美が、戦い、傷つくとき
まなみたちが新たに得る力とは?次回『剣士復活!新たなる力』


前回、次回予告が出来てなかったので、投下前に入れてみました。
それでは、炎術剣士まなみ投下します。
54炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/15(金) 18:52:39 ID:D3RZpcxx
炎術剣士まなみ 第十九話『剣士復活!新たなる力』

 剣士たちの圧倒的な力に散々悩まされていた次元鬼三姉妹。しかし、かつて
まなみたちが滅ぼしたギノスの将軍、エルガから入手した聖水の力を利用し
パワーアップを果たした。三姉妹の猛攻に剣士たちは圧倒され、手も足も出ず
瀕死の重傷を負わされてしまう…。

「まなみさんたちは…絶対に死なせはしない!」
武田の乗った車は防衛軍特別病院へと急ぐ。三人の命の灯は、いつまで持つか分からない。
外はすでに闇に包まれ、途中から雨が降り始めていた。

病院へと到着すると、連絡を受けていた医師たちが素早く、三人を集中治療室へと運ぶ。
武田は医師たちにお願いしますと、深くお辞儀をした。

手術は完了したが、三人の容態は安定しない。
待合室で武田がため息をついていると、部屋の入口の方から足音が聞こえ始める。
それは武田の方へと近づいてくる。

「ゆ、悠美さん…」
まなみの母、悠美が深刻な顔で立っていた。
「武田さん…まなみちゃんたちは…」
武田はしばらく俯き、ようやく顔をあげ話し始める。

「今のところは大丈夫のようです…ですが、未だに意識が戻らないようなのです…」
「やはり、次元鬼に負わされた傷は、剣士の治癒能力と組み合わせても
危ないようですね…」
そう言うと、悠美は三人が眠っている病室へと入室する。

部屋の中ではところどころ包帯が巻かれ、痛々しい三人の姿が。
悠美はまだ目覚めぬ娘に近寄り、涙を浮かべながら、手を握る。
「まなみちゃん…こんなになって…お母さん、まなみちゃんを助けてあげられなくて
ごめんね…!まなみちゃんも、裕奈ちゃんも、伊織ちゃんも必ず救うわ…」

「炎心変幻!」
悠美が炎の気を纏いながら剣士の姿へと変身する。
「悠美さん、いったいなにを?」
武田が疑問をぶつける。

「私は剣士として、そして母としてあの子たちを必ず救います。
それが母としての務めだから。だから安心して?」
そして、悠美が手を胸に当てると、全身から気が三人へと流れ始める。
すると、三人に生気が戻ったかのように、顔色に艶が戻ってくる。

気の放出が終わると、悠美はその場に膝をつく。
「悠美さん!」
「だ、大丈夫です…この子たちのことを思えばこれしきのこと…」
笑顔で言うが、傍目から見ても明らかに疲れが一気に溜まったのが分かるほど
悠美は息を切らしていた。
55炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/15(金) 18:53:48 ID:D3RZpcxx
それからまなみたちの容態は安定に向かい始めた。悠美の気を移したこともあるが
剣士の治癒能力も凄まじいとまでいかなくても、確かなものであった。
しかし、武田の表情は暗い。まなみたちが無事でも再び次元鬼が襲ってくれば
今度こそ、勝ち目はない。まなみたちだけでなく、地球が危ない。

「くそぉ…いったいどうすれば奴らに勝てるっていうんだ…まなみさんたちでも
圧倒されてしまったんだぞ…」
悩む武田に、悠美が静かに口を開く。
「気力全解放…」
「えっ?」

「まなみちゃんたちが次元鬼に勝つ唯一の方法…体内に眠る気の全てを自在に
操ることが出来るようになれば、その力は時空をも歪めるほど…」
「剣士の力にそのようなものが…」
「そんなの必要ないよ…!」

突然声がし、二人が振り向くと、まなみが横になったままだが、眠りからは覚めたようだ。
「まなみちゃん!よかった…お母さん、もうどうしようかと思っていたの」
悠美が喜ぶが、まなみはそちらへ振り向こうとはしない。
「お母さん、武田さん…私、もう戦うのは嫌…!」
「まなみさん、勝てる見込みが出来たのに突然、どうしたんですか!?」

ようやく、上半身だけ起こすと、まなみは俯いたまま、涙をポロポロと流す。
「…私、怖いの!あいつらなんかに絶対に負けないって思ってたのに…なのに、
負けちゃって…あの時の三姉妹のことを思い出すだけで震えが止まらなくなるの…!
もし、また戦ったら今度は殺される…私、死にたくない!」

三姉妹との戦いで完敗し、心にも傷を負ったまなみは死への恐怖が刷り込まれていた。
今まで連戦連勝だったまなみにとって、初めての挫折であった。
そして両隣に寝ていた裕奈と伊織も起きだす。表情はまなみのそれと同じだ。

「まなみちゃん、あたしも…怖い。スクリタなんて敵じゃないって、そう思ってたのに
今じゃ勝てる気がしないよ…」
「私も…です。私たちが敵わないとこまで次元鬼は一瞬でいってしまった…」
三人は、恐怖に縛られ、とてもまた戦えるとは思えない…。

「まなみちゃん…そうよね、ごめんね、お母さん無理に戦わせたりして…」
悠美は娘を抱き締め、頭を撫でる。そして、裕奈と伊織にも目をやる。
「武田さん…今のまなみちゃんたちを、また戦わせるなんて…私には出来ません」
56炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/15(金) 18:55:04 ID:D3RZpcxx
「悠美さん…分かりました、僕だって地球防衛隊隊員です!次、次元鬼が襲ってきたら
今度は僕が皆さんをお守りします!」
武田が決意も新たに、宣言した。

「ごめんね、武田さん…でも、でも…」
謝るまなみに、武田は首を振る。
「何も言わないでください。今まで守られた分、それの恩返しです」
武田は穏やかな表情でそう言った。


次元魔城では次元鬼三姉妹がフリッデに勝利の報せを伝えている。
「フリッデ様、剣士の小娘どもを始末して参りました」
「本気の私たちの前には赤子同然でしたわ」
「まさにあたしたちの大勝利です!」
三姉妹が嬉々と報告する。しかしフリッデは険しい表情をしている。

「次元鬼三姉妹よ、そのことはよくやったと称えてやろう…しかし、
まだ新堂まなみの母親がいることを忘れてはいないだろうな?」
そのことを言われても、余裕の表情を浮かべる三姉妹。

「三剣士が敵わなかった我らに新堂悠美如き、取るに足らないことだと…」
「この愚か者が!我らに楯突く者は、どんなものでも容赦なく始末しろ!
それが次元鬼の掟だ!」

フリッデの怒声が響くと、三姉妹は慌てて姿勢を正す。
「も、申し訳ありませんでした!直ちに出撃します!いくぞ、ベルディス、スクリタ!」
「ふむ、万が一にもしくじることはないようにな」
二人を連れ、玉座の間から出ていく。それに従って狼型の次元鬼となった
エルガも着いていく。


病院のテレビが、臨時ニュースを流し始める。
『中野に次元鬼が現れ、破壊活動を行っています!ですが、皆さん、安心してください。
もうすぐ、剣士の皆さんが現れ…ん?追加?』
キャスターが話してる途中、番組スタッフが横から、新たな原稿を渡す。

『あ、新しい情報です!剣士の皆さんは…次元鬼に敗北したとのことです!
で、ですが、視聴者の皆さん…あ、諦めないでください!』
キャスターは平静を保とうとしているが、見れば分かるほど狼狽している。
57炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/15(金) 18:56:00 ID:D3RZpcxx
それを見ていたまなみたちだが…。
「みんな…ごめんなさい…私たちが負けちゃったから…」
悲しそうにしているまなみを、それでも優しく抱く悠美。

「大丈夫…大丈夫よ、まなみちゃん…お母さんがなんとかしてくるから」
「お母さん…まさか!?」
「お母さんが、次元鬼と戦います。まなみちゃんたちにこんな思いをさせた者を
絶対に許しはしない…」
まなみの予想通り、悠美は自ら戦う気だ。しかし、三人でも敵わなかった相手に
悠美だけでの勝算は低い…。

「やめて、お母さん!」
「大丈夫よ。まなみちゃんたちを守るのがお母さんの役目なんだから」
言うと、まなみが引き留める間も無く悠美は外へと駆け出していく。
「まなみさん…僕もあなた方のために!」
続いて武田も飛び出して行ってしまう。まなみたちはただ、
その様子を見ていることしかできなかった。


「脆い…我らを邪魔立てする者がいなければ、人間界など所詮はこの程度…」
次元鬼三姉妹と次元鬼エルガが中野の街を廃墟へと変えている。
と、そこへ何者かが近づいてくるのを感じ取ったウルムはそちらへ視線をやる。

「来たな、新堂悠美!」
「次元鬼…人々の平和を壊し、恐怖を与え…なによりまなみちゃんたちに行った仕打ち…
剣士として、母として、許しません!炎心変幻!!」
悠美を包み込むように火柱が発生し、その中で、歳を感じさせないほど
若々しい肉体に着物、袴、羽織が現れ、彼女を包む。最後に刀が炎の中から誕生した。

「炎術剣士、新堂悠美ここに見参!次元鬼…あなた方を成敗します!」
その強い眼差しを、スクリタが一笑する。
「ぷっ、成敗します!だって。出来るわけないじゃん。まなみたち三人がかりでも
あたしら倒せなかったのに、あんただけで何が出来るっていうの?」
58炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/15(金) 18:56:52 ID:D3RZpcxx
スクリタの言うとおり、あまりにも無謀な戦いである。だが、悠美は一歩も引かない。
「そう簡単に行くとは…思わないことね!」
悠美がスクリタに向かって飛び、斬りかかる。しかし、スクリタは紙一重で回避し
裏拳で悠美の後頭部を殴り、続けて、腹に膝蹴りをお見舞いする。

「ぐぅぅ!くっ、こ、これしき…!炎流波!!」
痛みに蹲るが、すぐに体勢を立て直し、火炎光線を三姉妹に向けて放つ。
だが、それをベルディスが張ったバリアが防いでしまう。

「新堂悠美よ、無駄な足掻きとまだ分からないのか?」
「そうだとしても…私は負けません…娘も、世界も守ってみせる!はぁぁぁぁ…!!」
刀に炎の気を纏わせていく。そして眼がカッ!と見開いた瞬間、高く跳び上がる。

「火炎!大破斬!!」
炎術剣士最大の技が放たれ、三姉妹に炸裂しようとした。
それをウルムが出現させた剣が止め、鍔迫り合いとなる…だが、勝敗はすぐに決した。
悠美が力負けし、吹き飛ばされてしまった。

「どうだ、どうあっても我らの勝利は揺るがない!エルガ、悠美を始末しろ!」
地上で破壊活動を行っていたエルガが、悠美に飛びかかり、爪で何度も
切り裂き、腕に噛みつく。

「ああぁぁぁぁっ!!」
悲鳴をあげながら、地上へと落下していく。このままでは地上に叩きつけられてしまう。
だが、巨大な手が彼女を救い上げた。悠美が振り返ると、そこには巨大ロボの姿が!

「大丈夫ですか、悠美さん!?」
「うっ…武田さん…」
「次元鬼め、地球にはまだ地球防衛軍だってあるんだ!
この新型ロボ、防衛大帝ガドライシグマなら、前みたいにはいかないぜ!」
悠美を地上に降ろすと、背中の翼から剣を取り出し、構える。

「ふん、木偶の坊に何が出来る?エルガ、軽く捻り潰せ」
エルガが口から破壊光線を放つ!それをシグマは持っていた剣で防ぐ。
「以前より、パワーアップしているんだ!くらえ!ガドライビィィィィム!!」
シグマの目からお返しとばかりに光線が放たれる!それをなんとか避わすエルガだったが
かすったのか、皮膚が少し焼かれている。

「ちっ、ふざけた真似を!ベルディス、スクリタ。奴を破壊するぞ」
三人が同時に発射した光線がガドライシグマの腕を粉砕、胴体を貫き、一撃で
戦闘不能にしてしまう。
「くっそぉぉ!ぐぅあ…」
武田は攻撃の衝撃で、気絶してしまう。
59炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/15(金) 18:58:01 ID:D3RZpcxx
「まったく、大人しくしていれば、もうちょっとだけ長生きできたというのに…」
「でも、もう本当におしまいだね♪」
三姉妹が二人に止めを刺そうと、徐々に、近づいてくる。だが、その時であった!

「ま、待ちなさい…!」
「…わざわざ死にに来たか?剣士の小娘ども!」
その場にまなみ、裕奈、伊織の姿が!しかし、恐怖心を拭えたわけはなく、
三人とも、膝は震え、以前の戦いでついた傷はいまだに痛々しい。

「まなみちゃん!駄目よ…逃げなさい!」
「それは出来ないよ…どんなに怖くても、お母さんや武田さんを見捨てることは
なんて出来ない…炎心変幻!!」
「そうだよ…あたしだって怖いけど、みんなを犠牲にはしたくない!水心変幻!!」
「ただ、世界が崩壊していく姿を眺めるのだけは嫌です…雷心変幻!!」

それぞれ剣士の姿へ変身する。しかし、刀は前回砕け散り、三人には次元鬼に
対抗するほどの武器がない。
「万全の状態でも私たちに敵わなかったのに、あなたたちって本当にお馬鹿さんね」
ベルディスが嘲笑う。それぞれが前回と同じ相手と対峙するが…。

「どうしたの、裕奈?もしかしてぇ、あたしのこと怖くなっちゃったのかな?
前みたいに減らず口の一つでも叩いてみたら?」
「くっ…スクリタ…ま、負けないんだから!」
裕奈が拳を放つが、虫も殺せないような威力だ。当然軽々と避わされてしまう。

「ベルディスさん…雷神波!」
「どうしたの、伊織?よく狙って撃たないと…こんな感じに!」
狙いが定まらず、雷神波は当たらない。見本とばかりにベルディスが電撃を放ち
伊織はそれを浴びせられてしまう。

まなみは脇差を抜き、それでウルムの首を狙うが、弾かれ、蹴り飛ばされる。
「まなみ、我らには勝てないということ、散々思い知っただろう?」
「…うぅ、悔しい…もう、もう私たちじゃ駄目なの…?」
目に涙を浮かべるまなみ。容赦なくウルムはまなみを衝撃波で吹き飛ばす。
60炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/15(金) 18:59:00 ID:D3RZpcxx
「さあ、今度こそ死ぬがよい!」
「じゃあねぇ、裕奈♪地獄で三人仲良くしててよね」
「そろそろお別れのようですわね。ま、伊織、あなたの骨ぐらい拾ってあげますから」
一ヶ所に集められたまなみたちに向かって、三姉妹の同時攻撃が降り注ぐ。


死を覚悟した三人は目を強く閉じる。…しかし、まなみたちには痛みの一つも走らない。
痛みもなく一瞬で葬られたのだろうか?そっと三人が目を開けるとそこには
「ああ…お母さぁぁん!!」
「「悠美さん!!」」
身を呈して、間に割って入った悠美は三姉妹の攻撃を諸に浴びてしまう。

「あぁぁぁぁぁ…!まな、みちゃん…諦めないで……」
言い残すと、膝からがくりと崩れ落ち、眠るように横たわる。
その瞬間、三剣士の心の底から、何かが溢れてくる。恐怖、怒り、悲しみ、
あらゆる感情が混ざり合っていく。

「次元鬼……よくも、よくもお母さんを…絶対に許さない!!!」
涙交じりに、まなみが叫ぶ。するとどうしたことか、まなみたちの身体から
それぞれの気が放出され纏われる。今まで受けた傷が全て消え、
さらに砕けたはずの刀が手元で再生され完全に元の形を取り戻す。
いや、前よりも斬れ味に磨きがかかっていそうだ。

その様子に次元鬼三姉妹も驚きを隠せない。
「くっ、いったい何事だというのだ!?」
「どうなろうと、あたしらに勝てるわけがないってことを教えてやるんだから!」

スクリタが裕奈に攻撃を仕掛けるが、その攻撃を繰り出す間もなく、裕奈の
水の気を纏った蹴りに吹き飛ばされ叩きつけられる。
「ぐっ!そ、そんなマグレ当たりなんか!」
「スクリタ…あんたはあたしが倒す!水撃砲!!」
両手に膨大なまでの気を集め、極太の水流として飛ばす!それはスクリタを
一気にビルへと押しだし、叩きつける。

伊織は手裏剣をベルディスに投げつけ、怯んだ瞬間に苦無で斬りつけていく。
「ぐあああ!伊織…なんでよ…なんでさっきより全然強くなってるのよ!
あの怯えた眼はどこに行っちゃったのよ!?」
61炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/15(金) 18:59:55 ID:D3RZpcxx
「もう、私たちは負けない…!ベルディスさん、悪逆非道な行い!
雷術剣士、姫倉伊織が許しません!稲妻乱舞!!」
天候を強制的に雷雲へと変化させ、無数に稲妻を降り注がせ、ベルディスに浴びせていく。

突然のパワーアップに気が動転したウルムは剣を手に、まなみへ斬りかかるが
それを軽く捌かれ、逆に何度も斬撃を浴びてしまう。
「な…なぜだ…なぜ突然、こうもお前たちは強くなった!?」
「…怒りと悲しみ、そして死への恐怖…それらを受け入れ乗り越えた時、私たちは
全ての気力を解放することに成功した…!もう、あなたたちに負けはしない!
火炎流星キィィィック!!」
空高く跳び上がり、超スピードで落下しながら炎を纏い、蹴りを浴びせ
ウルムは軽く数百mは吹き飛ぶ。


「ちっ、撤退するぞ!」
ウルムの呼びかけにベルディスもスクリタも同意して、去ろうとする。
「逃がさない!裕奈、伊織、行くよ!!」
「オッケー、まなみちゃん!」
「わかりました!」

撤退しようとする三姉妹に向かって腕を突き出し、気を集める。
「「「龍陣波動!!!」」」
気が混じりあい、一気に放たれる!
「くっ、エルガァァァァ!!」
ウルムの叫びに呼応し、エルガが三姉妹を守る形で割って入り、光線に直撃する。
その間に、三姉妹は姿を消した。

「あいつら、逃げちゃったよ!」
「次元鬼三姉妹…次は必ず仕留めるわ…とにかく、今はあの次元鬼を!」
「はい!」
三人は跳び上がり、空中で刀を高く掲げる。刀のみならず、全身に気が集まり、
それぞれを包み込む。そして、同時に降下し刀を斬り下ろす!

「「「逆鱗!!真!!大破斬!!!」」」
以前のように綺麗な星型には斬らず、無数に斬りつけ、間もなく三人が納刀すると
同時に爆発四散、次元鬼エルガは消滅していった。
62炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/15(金) 19:01:25 ID:D3RZpcxx
戦闘が終わり、変身を解く三人。まなみは悠美のもとへ駆け寄る。
「お母さん!お母さん!」
「…まなみちゃん…」
悠美は辛うじて無事だった。しかし、受けた傷は痛々しい。

「お母さん…私のために、こんな…ごめんなさい…!」
「いいのよ、お母さん、まなみちゃんが無事ならそれでいいの…うぅ…」
まなみの胸の中で目を閉じる。
「お母さん!」
「大丈夫、気絶しているだけみたいです」

そこに武田が現れる。
「申し訳ありません、まなみさん。僕は結局役に立たなかった…でも悠美さんの
ことは防衛隊の医療で必ずよくします。だから安心してください」
「武田さん…ううん、武田さんもすごく頑張ってた。武田さんがいなかったら
私、本当に駄目になってたと思う。…お母さんのこと、よろしくお願いします」


悠美は武田の連絡で来た特別車に乗せられ、病院へ。しばらく動くことは出来ないようだ。
まなみは新たに手にした力で、必ず平和を守ると改めて誓う。
「お母さん、見ていて…私たちは絶対に次元鬼に負けない!」


次回予告
「こうして次回予告するのは久々かもね、裕奈だよ!」
「伊織です。でも今さら掛け合いにするだなんて…」
「まなみよ。まあ、いいじゃない。…次元鬼、今度は宇宙から地球を攻撃しようと
してるらしいわ」
「でもでも、今回パワーアップしたあたしたちなら絶対に負けないよ!」
「ベルディスさん…あなたとも決着をつけないといけないですね」
「次回は『激闘の宇宙!月面決戦』よ。部屋を明るくして見てよね!」
「いまさら、それ言うんだ…」
63炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/15(金) 19:06:00 ID:D3RZpcxx
まなみ投下完了。まさかここまで長くなるとは…
二段変身がどうも好きじゃないので、パワーアップしてけど
見た目の変化は無しです。これからようやくクライマックスに向かってきます。

>>ゲーマーズ作者さん
面白いですねぇ、ところどころに思わずニヤリとしちゃったりする
ゲーム名が出てきたりして。八重花はいいツンデレw
64創る名無しに見る名無し:2009/05/15(金) 23:47:54 ID:G9mTTBat
投下乙。まなみママンは退場したのかな初期は
まなみをいじくる印象が強かったけどやっぱり優しいママだった
65創る名無しに見る名無し:2009/05/16(土) 01:04:55 ID:aSuAjApQ
戦闘への恐怖に怯えるまなみ達がたまりません
ジュルリ
66創る名無しに見る名無し:2009/05/17(日) 20:04:23 ID:grtnY+Go
はじめまして
まなみの敵は北欧神話の時をつかさどる
ウルド、スクルド、ベルダンディがモデルですね
あとまなみは炎(火)、裕奈は水、伊織は雷
雷はローマ神話ジュピター(木)モデルですね
これからも投下をお願いします
ゲーマーズもメンバーは増えそうですね
次回で5人目ということで
もう打ち止めなのかな
SSを期待しています
67創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 19:51:14 ID:MJ67ENpj
まなみたちが変身するとき小道具は使わないのだろうか
疑問だ
68創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 23:21:00 ID:aYW096DY
まなみとメタモルのコラボレーションがあっても面白い。
69創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 23:55:10 ID:TSJww0hh
コラボねぇ、作者さんたちがお互い、良いと思わないと難しいだろうなぁ
ジュジュやオーガストの作者さんたちは忙しいのかな
70創る名無しに見る名無し:2009/05/19(火) 00:53:26 ID:t97mVSSX
魔女っ子vs変身ヒロインin魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ
きぼんぬw
71創る名無しに見る名無し:2009/05/19(火) 16:07:21 ID:sOVmJJca
魔女っ娘vs変身ヒロインって…
どっちのキャラも大事にし過ぎて高確率でgdgdになって終わる予感が…
巧い書き手じゃないと難しいだろうな
72創る名無しに見る名無し:2009/05/19(火) 17:33:33 ID:sht1eWq9
なぁに、戦隊のvsシリーズも実際は全然vsしてないから問題は無い
73創る名無しに見る名無し:2009/05/19(火) 20:11:16 ID:m8edvFFE
>>70
ジュジュ・オーガストVSまなみ・メタモルゲーマーズか
興味あるな
74オーガスト作者:2009/05/20(水) 00:59:12 ID:a54sgG/0
……ごめんやす。
仕事が修羅場ってて、投下が難しい状況です。
今、この時間も追加の仕事やってる状況でして……。orz
75創る名無しに見る名無し:2009/05/20(水) 07:31:40 ID:t518qNcJ
74さん、またきてください。そんなことより、まなみかメタモルゲーマーズの新作が投下の気配を感じる。
76まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/05/20(水) 18:53:31 ID:CwoQmys5
なかなか次の話が完成しない…出来れば、明日か明後日には
投下したいとは思ってはいるのですが。

>>66
次元鬼三姉妹はその通りです。でも伊織の雷は特にモチーフはないですね。
とりあえず、三人の能力は単純に属性みたいなものです。

>>67
特に変身道具はないですね。基本的に、本人たちの意志で
変身も解除も自由に行えます。

コラボか…面白そうですけど、自分のキャラだけで手一杯に
なるだろうし、正直厳しいですね…。
他の作品のキャラを上手く動かす自信もないし。
77創る名無しに見る名無し:2009/05/20(水) 18:58:32 ID:J3AchDfW
>>76
ありがとうございます
投下に期待しています


78サミー書きたい人:2009/05/20(水) 21:10:57 ID:6TxBSAQm
どうもお久しぶりです。

やっぱりサミーが書きたいので、後書きで触れてた姉の話を書いてみました。
時間軸的には4話と5話の間ぐらいでしょうか。
番外編ということで、本編より壊れた話になっておりますのでご了承下さいw

それでは投下します。
『お姉さん襲来! 嵐を呼ぶ妹争奪戦!』



日本から見て海外のとある大学の一室、生徒会室で、
真剣な表情で書類の束とにらめっこしている紫色の髪の女生徒がいた。

「阿重霞(あえか)さま、お茶が入りました」
「あら、気を使ってくれずとも構いませんのに。でもありがとう」

紫髪の女生徒は気難しい顔から一転、ニコリと笑うと、部下が運んできたお茶を受け取った。


彼女の名は萌田阿重霞。
留学生の身で、ここサンダーフェニックス大学の生徒会長を勤める才女である。
容姿端麗、頭脳明晰、文武両道、おまけに礼儀正しく人当たりも良いという、
およそ思いつく限りの無敵要素をぶちこんだ究極超人の彼女だが、
たった一つだけ……読者から見れば萌え要素なのかもしれないが、
実際に巻き込まれる関係者にしてみれば迷惑極まりない欠点があった。

それは……。


その時、小さな封筒を持った男子生徒が生徒会室に入ってくる。

「会長、妹さんから手紙が届いてますよ」

ドビシャァ!

書類の束が空中に舞い上がった音である。

男子生徒が何が起こったかを理解するより前に、
手紙は彼の手から抜き取られて会長の手に渡っていた。

「砂沙美〜、貴方は本当に姉想いの優しい子ですわぁ!
貴方が頻繁に手紙を送ってくれるから、
阿重霞お姉ちゃまは海の向こうで一人寂しくても、頑張ることができるの!」

手紙にチュッチュとキスを繰り返す阿重霞の脇で、書類の束が散らばって地面に落ちた。
仕事の量が一瞬にして倍増したようだ。

――そう、阿重霞は末期のシスコンだったのである。

「さてさて、早速中身を読んでお返事書かないといけませんわねぇ」

るんるん気分で鼻歌を歌いながら封を空け、手紙を読み始める阿重霞。
……が、同封されていた一枚の写真を見て、阿重霞は石化する。

そこには照れ笑いをしながら頭をかく青年と、
そのわき腹に抱きついて頬を染める青髪の少女が写っていた。

『――というわけで、砂沙美はめでたく天地兄ちゃんと恋人になれました!
 砂沙美のことはいつも天地兄ちゃんが守ってくれるから、阿重霞お姉ちゃんは心配しないでね!』

(そ、そんな……わたくしの可愛い砂沙美と、天地さまが……?)

阿重霞はぷるぷる震えながら手紙と写真を見つめて居たが、
突如として立ち上がり、机を叩く。
「……ユリ、ユマ! わたくしは今すぐ日本に飛ぶわ!
 サンダーフェニックス1号の発進準備をなさいっ!!」
「はっ!」

阿重霞の側近は指示を受けると、どこかに連絡を飛ばす。

「お待ち下さい会長、生徒会の公務はまだ終わってません!
それにTF号は我らが生徒会の秘密兵器、安々と使うわけには……!」
「黙りなさい!! わたくしは生徒会長ですのよ!!」

普段の人当たりのいい性格もどこへやら、
目の吊り上がった阿重霞はすっかり暴君と化している。

「阿重霞さま、発射準備完了です!」
「うむ!」

頷いた阿重霞が生徒会長の椅子に座ると、床が抜け、
阿重霞の身体は椅子ごとTF号の内部に運ばれる。

「阿重霞さまご搭乗! いつでも発射OKです!」

大学のグラウンドが割れ、そこからロケットのような形状のジェット機が現れる。
これぞサンダーフェニックス1号!
地球上の何処へでも1時間以内に駆けつけることの出来る生徒会の秘密兵器である。

「さぁ、発進よ! 目標は日本、海の星町!!」

散らばった書類と溜まった仕事の数々を振り返らず、阿重霞を乗せたジェット機は発射された。



  1.サンダーフェニックス  
    青く可愛い妹の下へ
    行け!風を巻いて
    サンダーフェニックス
    あの妹のしあわせのために
    行け!日本に海外に
    愛する妹を泣かせる者は誰か
    呼んでいるあの声はSOSだ
    サンダーフェニックス
    青く可愛い妹の下へ
    行け!風を巻いて



(認めません……砂沙美と天地さまのお付き合いなんて……。
天とお母様が許しても、このわたくしが絶対に許しませんわ!)

強烈なGに晒されながら、一方通行な決意を固める阿重霞であった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



場面は変わって、こちらは海の星町である。

今日もデートの真っ最中である砂沙美と天地は、
二人並んで川原の草むらに仰向けになって、空を眺めている。
「はぁー……いい天気だなぁ、砂沙美ちゃん」
「うんー……いい天気だねぇ、天地兄ちゃん」

(天地兄ちゃんと一緒だと、空を眺めているだけで幸せな気分になってくるよぉ……)

こうしてほんわかした気持ちで寝っ転がっていると、
なんだか世界に存在する全てのものが愛おしく感じられてくる。

(それにしてもすがすがしいぐらいのいい天気だなぁ……。
太陽はさんさんと輝いてるし……。雲はゆったりと流れて行ってるし……。
巨大なジェット機は飛行機雲を作りながらこっちに突っ込んでくるし……)

「……って、どげげぇっ!!?」
「危ない、砂沙美ちゃん!!」

咄嗟に天地が砂沙美を庇う。
轟音を立てて飛来した謎のジェット機は、
二人から僅かに逸れて川原に突き刺さり、激しい土煙を上げる。

「……けほっ……あー、死ぬかと思いましたわ」

土塗れになった顔を拭いながらジェット機から現れたのは……。

「お、お姉ちゃん!? 阿重霞お姉ちゃんなの!?」
「さっ……砂沙美ーーー!!!」
「ぐぇぇ!」

阿重霞は砂沙美の姿を確認すると、音速で彼女に抱きついた。
圧迫された砂沙美は、潰れたカエルのような声を上げてしまう。

「会いたかったわ、こんなに大きくなってー!!」
「く、苦しいよお姉ちゃん!」
「あら、ごめんあそばせ」

阿重霞は、おほほと誤魔化し笑いをして砂沙美を解放する。

「でも、どうして急に帰ってきたの?
先に連絡しておいてくれれば、晩御飯の用意しておいたのに」
「それは……そうでしたわ!」

本来の目的を思いだした阿重霞は、脇で唖然としている天地に向き直り、
腰に片手を当てて居丈高なポーズを取ると、人差し指をビシリと突き立てた。

「天地さま、わたくしは貴方と砂沙美の交際は認めません!!
今ここで砂沙美と別れるか、もしくは岡山の土になるかを選んで頂きます!!」
「えええええっ!!?」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん、何を言い出すの!」
「さぁ、答えてください!!」

突然のことに動転する天地に、阿重霞は容赦なく詰め寄る。

「い、いきなりそんなこと言われましても……」
「て、天地兄ちゃんは砂沙美の恋人だよっ!」
「砂沙美ちゃん……」

砂沙美に絶対に離さないと言わんばかりに抱きつかれ、天地も覚悟を決める。

「そ、そうです! 俺は砂沙美ちゃんと別れる気なんてありませんっ!」
「……そう……あくまで交際を続けるとおっしゃるのね……」
二人に背を向け、口元に手を当てながら物憂げに歩き去っていく阿重霞だが……。
次の瞬間、側近から投げ渡された襟付き黒マントをぶわぁっと羽織り、二人に振り返る。

「どうしても砂沙美とお付き合いしたいと言うのなら……このわたくしを倒してからになさい!!」

両手を腰に当てて仁王立ちでそう宣言する阿重霞。
黒マントと相まって、放たれる気迫はまるで魔王か何かのようだ。

場が一瞬にして危険な空気に包まれたことに気付いた天地は、慌てて弁解を始める。

「あ、阿重霞さん、落ち着いてくださいよ! 俺は、別にそんな――」
「にょっほっほー、面白そうなことやってるわねぃ!」
「!? 誰ですっ!?」

土手の上から投げかけられた甲高い闖入者の声に、
阿重霞が真っ先に反応し、砂沙美たちもそれに続く。

一触即発の空気を持ち前のKYさでぶち破ったのは、もちろん……。

「ミ、ミサ!? 何しに来たのよ!!」

トラブルの匂いを目ざとく嗅ぎ付けた、漆黒の金髪魔法少女だった。

「決まってるでしょう、痛快トラブルあるところに必ずピクシィミサの姿あり!
あたーしも飛び入りで砂沙美ちゅわん争奪バトルに参加させてもらっちゃうわよー!」
「何が争奪バトルよ、今は立て込んでるんだから邪魔しないでよ!」
「ドントウォーリー、砂沙美ちゅわんはミサがガッチリバッチリ守って見せるわよぉん」
「き、気色悪いこと言わないでっ!」

口喧嘩を始めてしまった二人の少女を他所に、
ミサと天地を見比べていた阿重霞は、あることを思いつく。

「……よろしい、ではこうしましょう」

阿重霞の瞳の奥が、きらりと光った。




阿重霞に引き連れられ、一行は海の星中学校の校庭へとやって来ていた。

「さて、ここならスペースも十分ですわね」

そう言って、阿重霞は校庭を見渡す。
校舎や校門の辺りには野次馬による人垣が出来ている。

阿重霞は改めて咳払いをすると、口を開く。

「どなたが砂沙美を手に入れるかは、競技大会で決めることに致します」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!」
「そ、そんな……何のためにこんなことをするんです!」
「イヤッホーーー!! ミサはこういうのを待ってたのよーーー!!」

困惑する二人と、一人歓喜する魔法少女。

「参加者はあたくし、天地さま、そしてそこの金髪少女の三人でよろしくて?
他にエントリーしたい方はいらっしゃるかしら?」

阿重霞はぐるっとギャラリーを睨みつけるが、
彼女の眼光に臆したか、名乗りを上げるものは一人も居ない。
「……決まりね、それでは競技の準備に入りましょう。……ユリ、ユマ!」
「はっ!」

阿重霞の一声で行動を開始した部下二人は、
校庭に線を引き、特設テントを建て、カメラまで用意し、
あっという間に海の星中学校を競技会場に変えてしまった。




最初の競技は100m走だ。

ばっとマントを脱ぎ捨てると同時に、
阿重霞の格好は愛用の拳法着を纏った戦闘スタイルへと変わる。

「阿重霞さん……本当にやるんですか?」
「お嫌でしたら棄権して頂いて結構ですのよ。
所詮、貴方様の砂沙美への愛はその程度ってことですから」

流石にムッとした天地は、何も言い返さずにスタートラインに着く。

「ふふん、それでこそ砂沙美ちゃんのラバーよねぇ」

ミサも気取ったポーズで髪を撫で上げながらも、既に準備OKだ。

『位置について……よぉーい……!』

パァン!

空砲の音と共に、三人は一斉にスタートラインから飛び出す。


最初の50mほどは必死に走る天地が先頭に位置していたが、
カーブに差し掛かった辺りで阿重霞が急加速、
僅かに及ばず、天地の目の前でゴールテープは阿重霞によって切られてしまった。

『一着、萌田阿重霞さん。二着、征木天地さん』

ちなみにアナウンスを担当しているのは通りすがりの海の星放送部員である。

「なかなかやりますわね、天地さま。でもわたくしの勝ちですわ」
「くそっ、次の種目で挽回して見せます!」
「天地さん、頑張ってー!!」

少し感心したような目で天地を見る阿重霞と、悔しそうに地面を叩く天地。
そして設置された表彰台の上のVIP席から声援を送る砂沙美。

「あ……あたーしを忘れないでぇ……」

そんな三人に意も介されず、ミサは酸欠でコース上に倒れているのであった。




その後も、幅跳び・高飛び・砲丸投げ等々、様々な競技が行われたが、
結果はことごとく阿重霞が堂々の首位、そしてミサはダントツのビリケツであった。

「さーて、次が最後の競技ですわね、天地さま」
「くっ……お、俺は負けません!」
「天地さーん、負けないでー!!」
既に阿重霞の総合優勝は確定しているが、
それでも天地は諦めず、砂沙美も力の限り応援を続ける。

『それでは、これより最後の競技を――ふっふっふ……お遊びはこの辺でジ・エンドよん!』
「えっ!?」

突然、スピーカーから放送される声色が変わった。
見ると、そこにはアナウンスを担当していた放送部員を足蹴にして
特設テントの放送席をジャックしたミサの姿があった。

「……ピクシィミサさん、どういうおつもりかしら?」

阿重霞は眉をひそめ……しかし動じた様子もなく、静かにミサに問う。

『こーんなロートルな肉体勝負なんて、フレッシュな魔法少女にはふさわしくないのよー!
これからはミサ流のオンステージでドッカンドッカン行かせてもらっちゃうわー!』

ミサは振り回したマイクをバトンに変化させると、
空砲を構えて競技の開始を待っているボランティアの先生に向けて魔力を放つ!

「コーリング・ミスティクス!! ガンマン女!!」

実銃を撃ってみてー、という悪意と呼ぶにはささやかな願望が実体化され、
ウェスタンハットにくたびれたジャケットを羽織う、西部風のラブラブモンスターが現れる。
その肩には背負った棺桶には、ありとあらゆる火器が詰まっているのだ。

「ミサは泥棒さんの時にスタディしたのよ! ピストルは魔法より強いってね!」
「魔法少女自ら、魔法の存在価値を全否定っ!?」
「ミサはいつでもストローングな物だけの味方よ! それは魔法も例外じゃないわ!
さぁガンマン女! 文明の利器であのシスコンシスターを蜂の巣にしちゃいなさい!」

ミサの指示を受け、ガンマン女がガトリング砲を担ぎ出す。
ギャラリーが密集してる中であんなものを撃たれたら辺りは大惨事だ!

「……そちらがそういうおつもりでしたら、こちらも容赦はしませんわよ」
「ほえ?」

阿重霞がパチンと指を鳴らすと……。


ゴゥゥゥーーーーーーン!!


ほどなくして、轟音と共に一機の戦闘機が上空に現れた。

「こちらユマ! 攻撃目標確認、撃滅します!」

阿重霞のトランシーバーにそう通信が入った次の瞬間……。


ドガァァァァァーーーーーーーン!!!


放たれた誘導ミサイル―――サイドワインダーによって、ガンマン女は跡形も無く吹き飛んだ。

……と思いきや、元となった先生は黒こげで出てまいりましたので皆さんご安心を。


動転してしまったのはミサである。
絶対の自信を持ったラブラブモンスターが、まさか一般人に倒されるとは……!
「さっ、砂沙美ちゃん!? ママりんと言い、アンタのファミリーは一体何者なのっ!?」

そう言って表彰台を振り返るミサだが……。

「……あれ? 砂沙美ちゃんわぁ?」

キョロキョロと辺りを見回してみるが、やはり見当たらない。
しかし直にそれどころでは無いことに気づく。
ミサの背中に阿重霞の殺気が突き刺さっているのである。

「……モ、モダンウェポンなんてやっぱり野蛮でダメね!
次こそ魔法の力で思い知らせてやるからリメンバーしてるのよ!
ていうか怖いからとっとと海外のスクールにリターンしちゃってねっ!」

ミサは負け犬丸出しな台詞を吐き捨て、脱兎のごとく逃げ出していった。


「さて、邪魔者は消えたわね。後は砂沙美を――」
「待ちなさい!!」
「……今度は何ですの?」

特設テントの上に飛び乗り、颯爽と現れたのは……!

「プ、プリティサミー!?」
「……あ、あれ……ミサは?」

ミサの暴走を止めるべく現れたサミーだったが、
肝心のミサはもう泣いて家に帰ってしまった後だ。
つまり、正義の魔法少女は既に用済みである。

しかし、それでも現れてしまった以上、何か理由をつけなくてはなるまい。

「……し、姉妹ゲンカもサミーにおまかせ! プリティサミー、調停役に参上でぇす!」
「調停役ですって?」

ギィン、と阿重霞の殺気がサミーの身体を貫く。
思わず怯んでしまうサミーだが、
『お姉ちゃんに怒られるのぐらい慣れてる!』と思い起こし、身を奮い立たせる。

「そ、そうです! あたしは阿重霞さんと砂沙美ちゃんの仲を取り持つためにやってきたんです!」
「そうでしたか、それは殊勝なことでございますわね」

阿重霞は雰囲気を和らげ、ニッコリと微笑む。

「ですが……それならば、砂沙美と天地さまの仲を引き裂いては下さりませんか?」

そう言う阿重霞は、口元は微笑みながらも、目は全く笑っていない。

「お、お姉ちゃ……お姉さん! あなたは大事なことを忘れています!」
「大事なこと?」
「それは、砂沙美ちゃん自身の気持ちです!」
「砂沙美の気持ち……と、言いますと?」
「それは、天地さんが大好きだっていう――」

ギィン!

阿重霞の視線に殺気が復活し、サミーを射抜く。
しかしサミーは怯みつつも、そんな姉の視線を真っ直ぐに見返した。
どちらも一歩も引かないまま、時間だけが過ぎて行く。
……そうして、数刻後。

「……わかりましたわ。プリティサミー、貴方に免じて今日の所は引き下がりましょう」
「えっ」

意外なことに、引き下がったのは阿重霞の方からだった。

「ですが、これだけは言っておきますわ」

阿重霞はサミーの耳元に口を近づけると、ボソっとつぶやいた。

『変装なら、もうちょっと上手くやりなさい。……砂沙美』
「え゛!!」

何事も無かったかのようにニッコリと上品に笑う阿重霞。
サミーはその笑顔に背筋が凍る物を感じた。

「それでは、わたくしはそろそろ大学に戻ります。ユリ!」
『はい、ただいまそちらに着陸いたします!』

阿重霞が合図して間もなく、
ユリの操縦するサンダーフェニックス1号が校庭に着陸し、
コクピットに乗り込んでいく阿重霞たち。

「それではプリティサミー、妹をお任せしましたわよ!」

そう言って笑顔で手を振る阿重霞。
コクピットのドアは閉じられ、サンダーフェニックス1号は発射された。

「サミー、阿重霞さんに砂沙美ちゃんのことを頼まれたのかい?」
「え……ええ、まぁ……」

天地の問いにも、サミーは曖昧に答えるしかない。


そうして姉を乗せたジェット機を見送りながら、サミーは思うのである。

(やっぱり……お姉ちゃんには敵わないなぁ……)



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



サンダーフェニックス大学に戻った阿重霞だったが、
あれから仕事のペースが遅くなり、
物憂げに外を見つめることが多くなった。
当然、部下達も心配している。

(砂沙美が……あんな風にわたくしに逆らうなんて……。
幼かった妹も、いつかは自立していくものなのですわね……)

何とも言えない郷愁が、阿重霞の胸をつつく。

そんな阿重霞を元気付けようと、
小さな封筒を持った男子生徒が生徒会室に入ってくる。

「会長、妹さんから手紙が届いてますよ」
ドビシャァ!

書類の束が宙に舞うが、流石に部下達も慣れたもので、
その全てを地面に落ちる前に回収する。

「砂沙美〜、待ってましたわよぉ!」

るんるん気分で鼻歌を歌いながら封を空け、手紙を読み始める阿重霞。
……が、突然動きが固まる阿重霞を見て、部下達は「またか」とため息をつく。

『――今度、合唱部の発表会があるの。
上手く歌えるか心配だけど、一生懸命頑張って見るよ!
でも、お姉ちゃんに聞かせられないのはちょっと残念だなぁ』

阿重霞は例によって突如として立ち上がり、机を叩く。

「……ユリ、サンダーフェニックス1号の発進準備をなさいっ!!」
「はっ!」
「か、会長ぉ! せめて公務を終わらせてからに……!」
「お黙り!!」

部下達の静止も聞かずに、あっという間にTF1号に乗り込む阿重霞。

(砂沙美、待ってなさい! 今すぐ急行して、お姉さまが応援してあげますわ!)

強烈なGに晒されながら、喜ぶ妹の顔を想像して顔をにやけさせる阿重霞であった。




                            <おしまい>
88創る名無しに見る名無し:2009/05/20(水) 23:23:35 ID:t518qNcJ
投下乙
89創る名無しに見る名無し:2009/05/20(水) 23:30:06 ID:SxxQbYrr
まなみでもメタモルでもなく、サミーが投下されるとはなw
90創る名無しに見る名無し:2009/05/21(木) 11:48:34 ID:HRiNer/D
まなみもメタモルも地球防衛軍つながり、そこをうまく使えばコラボレーションができるかも。
91創る名無しに見る名無し:2009/05/21(木) 12:15:06 ID:JhQUikM9
そうか、武田はゲーマーだったのかw
92創る名無しに見る名無し:2009/05/21(木) 19:40:40 ID:+5BPx8J8
@まなみと佳奈美
A裕奈と亜理沙
B伊織と八重花はなんとなく体の特徴が似ているような気がする
髪の長さは若干違うけど色は似ている
身長も@>B>Aだし
次元鬼がまなみと間違えて佳奈美を襲撃したりして
93創る名無しに見る名無し:2009/05/21(木) 20:17:20 ID:SFYsaIyy
ん、身長って八重花>亜理紗なの?
イメージ的には確かにそんな感じだけど
94創る名無しに見る名無し:2009/05/21(木) 20:33:20 ID:+5BPx8J8
>>93
亜理紗は身長がとても小さいと書いてある
八重花は小柄と書いてある
そこから判断しただけです
95創る名無しに見る名無し:2009/05/21(木) 21:05:15 ID:SFYsaIyy
ほんとだ、よく読んでるなー
96創る名無しに見る名無し:2009/05/21(木) 22:50:33 ID:n7N7J5UX
いろいろ想像するのは自由だと思うが
実際にコラボするかどうかは作者さんたち次第というのは
忘れないようにね。
自分もなんか作品作ってはみたいがいい設定が思いつかんなぁ
97創る名無しに見る名無し:2009/05/21(木) 23:24:43 ID:zmSOT1G1
いっそ第三者が二次創作で書いちゃえば?
その方がむしろキャラを平等に扱えるかもしれんし
もちろん一次創作者の許可は必要だけど
98創る名無しに見る名無し:2009/05/21(木) 23:35:05 ID:HRiNer/D
まなみの過去の話で裕奈と伊織がゲーム好きという記述が出ている。
99炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/22(金) 18:33:38 ID:qEyMgYcz
炎術剣士まなみ第二十話投下します。
100炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/22(金) 18:34:45 ID:qEyMgYcz
炎術剣士まなみ 第二十話『激闘の宇宙!月面決戦』

 次元鬼三姉妹に一度は敗北した剣士たちだったがあらゆる感情を受け入れ、
乗り越えた時、体内に眠る全ての気を解放した気力全解放状態となり
三姉妹に逆転することに成功した。

「全てを甘く見て調子に乗った結果がこれか、次元鬼三姉妹よ?…この愚か者めが!!」
次元魔城、玉座の間。女帝フリッデは三姉妹に怒り心頭である。
三姉妹は誰一人として、フリッデと目を合わせることが出来ない。

「もうよい、三姉妹たちよ。お前たちとは、これで我も縁を切る」
その言葉の意味は―――死だ。
「お、お待ちくださいフリッデ様!」
ベルディスが声をあげる。

「わ、私に剣士どもを倒す機会をお与えくださいませ!」
「ベルディスよ。何か策があると申すか?」
「そ、その通りですわ。必ず、奴らの首をここに!」
「よろしい。もう一度だけチャンスをやろう。ただし、失敗した場合は…分かっておるな?」

フリッデは厳しい目でベルディスを見据える。それにビクつきながらも
静かに頷き、一礼して玉座の間から下がった。
そして部屋へと戻ると、スクリタが詰め寄ってくる。

「お姉さま!本当に奴らを倒す策はあるの?」
「ええ、一応ね…」
その言葉に、ウルムが眉をひそめる。
「一応とは、不安だな。本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫ですわよ!それでは、私行って参りますますので」

つかつかと、部屋から出ていくベルディス。ドアノブに手を掛けようとして瞬間、
思い出したかのように、二人の方へ振り向く。
「ウルムお姉さま、スクリタ…いろいろありましたけど、二人と姉妹でよかったですわ」
言い残すと、溶け込むように消え失せる。
101炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/22(金) 18:35:48 ID:qEyMgYcz
「お、お姉さま…」
スクリタがポツリと、姉の名を呟く。二度と会えない気さえして。
ウルムはただ、腕を組み、何か考えるように目を瞑っていた。


自宅の居間からぼんやりと、まなみは庭先を眺めていた。
悠美は自分と入れ替わりに入院することになり、武田とのデートも本人から
それをしている場合ではないと、延期になった。決意を新たにしたのはいいが
何か心に隙間が出来てしまったようだ。そんな彼女に伊織が話しかける。

「まなみさん、お気持ちはわかりますけど、悩んでてもしょうがないですよ。
ね、これから裕奈ちゃんも誘って、みんなで気晴らしにお出掛けでもしましょうよ」
「う〜ん…それもそうね、行こっか!」
まなみが答えると、伊織は微笑みを浮かべてまなみを外へと引っ張る。

―――新宿。以前、三剣士が揃い踏みで怪獣のような大きさの次元鬼と
戦った場所でもある。裕奈も合流して、三人はアイスクリームを食べていた。
「冬も近いけど、こういう時期のアイスもおいしいねぇ!」
「あんたは何時だって、なんでもおいしいって言うじゃない」
「もう、まなみちゃんったら!あたしだって嫌いな食べ物くらいあるんだから!」
「いや、そんなことを自慢げに言われても困るんだけどね」

二人の掛け合いを伊織は微笑を浮かべながら見ている。そして、ふとアルタの
オーロラビジョンを見ていると、流れていた映像がぶつ切りになり、
新たに地球の映像が映し出される。さらにアングルは変わり、今度は謎の
巨大戦艦が映し出された。戦艦は骨を組み合わせたかのように禍々しい外見である。

「二人とも!あれ見て!何か様子がおかしいですよ」
宇宙進出してると言っても、地球の各国政府であのような船を造ったという
話はない。その戦艦の砲筒のようなものが側面から飛び出し、
小さなコロニーを狙い澄ました!

「いけない!」
いくら止めたくても、不可能な距離だ。砲台に光が凝縮されたかと思えば、次の瞬間に
それは解放され、コロニーに向かって放たれた!その閃光は一瞬にして
それまで何事も無く暮らしていた人々ごと、コロニーを粉砕してしまった。
102炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/22(金) 18:37:01 ID:qEyMgYcz
破壊の映像を見せられ呆然としている三人に向けて
オーロラビジョンの映像がまた変わる。
「剣士の小娘ども、ご機嫌いかがかしら?」
「ベルディスさん!」
大画面をいっぱいに使って、ベルディスは話し出す。

「今の見てくれたかしら?あなたたちが早く来ないと、人間どもの宇宙施設は
全部、粉微塵よ?うふふ…」
伝えると、オーロラビジョンがさきほどまで映し出していた映像へと切り替わる。

「まなみちゃん!伊織ちゃん!」
「ええ、早く宇宙へ行きましょう!」
「ベルディスさん…絶対に許しません!」
三人は頷きあい、さっそく駆け出す!…が、同時にストップする。

「でも…どうやって宇宙に行くの?」
「ええと…軌道エレベーターを使えばいいのよ!って、あれは赤道付近の国に
しか無いんだった…まさかシャトルなんか用意してもらえないだろうし」
まなみの言葉に伊織が何か思いつく。
「まなみさん!こういう時こそ防衛隊の人に頼めばいいんじゃないですか?」

と、いうわけで極東地球防衛軍基地までやってきたまなみたち。
事情を話せば、あっさりと受け入れてくれた。
「では、月面基地までオートパイロットで動きます。まなみさん、お気を付けて!」
「ありがとう、武田さん。それじゃ、行ってくるから!」

防衛隊の用意した宇宙船のハッチが閉まり、武田は手を振って見送る。
そして、空の彼方へと飛び立ち、地上からすぐに豆粒のように小さくなり見えなくなった。

「まなみちゃん、わかるよぉ、熱かったねぇ」
裕奈がニヤニヤしながら、まなみを茶化す。
「ち、違う!べ、別に協力してくれたからお礼言っただけで…」

そんな二人を呆れたように見ている伊織。
「まなみさん、裕奈ちゃん!そんなお話をしてる場合じゃないですよ。
もうすぐ月みたいですから、変身しましょう!」
「おお、珍しく伊織ちゃんもマジだねぇ…!」
103炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/22(金) 18:38:35 ID:qEyMgYcz
「ベルディスさんの行い、絶対に許しておけない…だから…!?」
伊織が言いかけると突然、外が赤く光り、その中心から光弾が宇宙船に向かって
飛んでくる!それは宇宙船に直撃し、大爆発を起こした!
あとに残ったのは宇宙船の残額のみであった…。

「ふふ…剣士の小娘どもをこうも簡単に…うっ!?」
まなみたちを一網打尽にしたと思い、笑うベルディスだったが、すぐにそれは
怒りの表情へと変わる。

「ベルディスさん!どこまでも卑怯極まりない!」
「危うく死んじゃうところだったじゃない!」
すでに変身を完了していた三剣士が宇宙空間に降り立った。剣士の力をならば
真空内で動き回るくらい、どうってことはないのである。

「ベルディス!コロニーに住んでいた人たちの無念を晴らさせてもらうわ!」
「うるさい!もう私にはあなた達を倒すしかないのよ!」
焦りの表情も混じりながらも、ベルディスは体色が緑の一つ目の次元鬼を
三体呼び寄せる。肩には棘が付いており、その手には斧を持っている。

「来なさい!いくらでも相手をします!」
伊織が勇ましく叫び、苦無を握りしめ、次元鬼に向かって突き進む。
次元鬼は斧で苦無を受けるが、伊織は素早くそれを捨てて、背後に回り込む。
「天雷飯綱落とし!!」

伊織は次元鬼の腰を掴むときりもみ回転しながら勢いに任せて
月面へと投げ落とした!高速で、抵抗する間もなく、次元鬼は月面へと叩きつけられ
クレーターをさらに深くしながら消滅した。

「伊織ちゃん、やるねぇ!あたしも負けてられないよ!」
続いて裕奈が月に次元鬼を誘い出して構えを取る。何も考えずに突進してくる
次元鬼の腕を素早く掴み、背負い投げでその場に叩きつける!

「必殺!水迅疾風拳!!おおりゃあああぁぁぁぁ!!」
次元鬼に馬乗りになり、水を纏った拳でマシンガンの如く、目にも止まらぬ速さで、
何度も殴りつけていく。殴られた個所から順に次元鬼は消滅していった。
104炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/22(金) 18:39:24 ID:qEyMgYcz
「最後は私よ!真・炎流波!!」
まなみの両腕に炎の気が集約され、一気に放つ!極太の火炎光線を次元鬼は
ギリギリで回避するが、なんと光線はカーブして戻ってくる!
それに焼かれて次元鬼は消滅していった。

「くっ、小娘たちが…よくも!」
「こうでもしないと、戦えないんですかベルディスさん?
汚いですね、さすが次元鬼はきたない」
「し、忍びのあなたに言われたくありませんわ!それに今のでおしまいだと
思っているの?まだまだ弾はありますのよ!」

ベルディスの言葉が終ると、同時に太陽系から外れた何もなかった宇宙空間に
歪みが生じる。それはワームホールとなり、何かが出てくる。
姿を見せたそれは地球サイズの惑星だ!
「別の銀河系から呼び寄せたこの惑星で、あなたたちごと、月も地球も
ぺちゃんこに潰してあげますわ!」

惑星はまなみたちを挟んで月へと進む。このままではベルディスの言う通りに
なってしまう。しかし、剣士は慌てずに刀を構える。
「裕奈、伊織!全力でいくよ!」
「オッケーだよ、まなみちゃん!」
「はい!そうそう次元鬼の好きにはさせない!」

三人は刀のみならず、その身にも気力を纏い、全身から気が放出されていく。
「「「はあああぁぁぁぁっ!!」」」
そして三つの斬撃が急接近してくる惑星へと炸裂した!一瞬にして惑星は勢いが削がれ
止まると同時に、輪切りにされる。その光景にベルディスは唖然としている。

「な…小娘たち…どうしてこんなことが…!?」
「ふっ、地球への影響を考えなくていい宇宙なら、ざっとこんなものよ。はあぁっ!!」
まなみの腕から炎が迸り、斬られた惑星を完全に消滅させた。

「ベルディスさん!もう地球をどうこうしようなんて思わないで!」
「くっ、伊織…私には、もう後がないの…!ここであなたたちを倒さないといけないのよ!」
ベルディスは閃光を放ち、剣士の目を眩ませる。
「うっ!ベルディスは!?」
「…あ、あれ見て二人とも!」
105炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/22(金) 18:40:30 ID:qEyMgYcz
裕奈が指差した方角に、コロニーを襲った戦艦の姿が。そして、そこから怪しい紫色の
光が走り、伊織に向かって急接近してくる。
「あうっ!…ベルディスさん…!」
「伊織、そろそろ決着をつけましょう…うぐっ…!」
光はベルディスの姿へと変わる。見た目はつい先ほどまでと変わらないが、
その雰囲気はどこかおかしい。

「まなみさん、裕奈ちゃん、あの戦艦をお願いします!」
二人は黙って頷くと、戦艦の方へと向かっていった。伊織はベルディスと
その場に二人きりとなった。

「ベルディスさん…明らかにさっきよりかなり気が増幅していますね…
いったい何をしたんですか?」
「…あの戦艦の中には次元鬼をパワーアップさせる装置があるのよ。代わりに
私は命を賭けることになったけど……剣士を、なにより伊織、あなたを殺すためなら
なんだってするわ!」
「きゃあぁっ!」

伊織でも捉えられないほどの速さで、ベルディスは剣で斬りつけ、月面へと蹴り落とす。
砂煙が伊織を包み、せき込みながら、ベルディスを見据える。
「くっ、ベルディスさん…私だって負けるわけにはいかないんです!」
バチバチと電撃が左手に生じ、それを放つ。しかし、両手を突き出したベルディスは
それを消し去ってしまう。

「雷神波が効かない!?」
「こんなもので私は倒せないわよ!今までの恨み全てを受け取りなさい!」
剣を鞭へと変形させながら、月面へと降り立つ。そして目にも留まらぬ速さで
鞭を振るう。なんとか転がりながら避けるが、ベルディスは新たにもう一つ鞭を
出現させ、それを伊織の足へと絡ませる。

「しまった!ああっ!」
そのまま、軽々と逆さ吊りにされ、念力で固定されてしまう。
「…伊織、あなたさえいなければ!ふんっ!」
「ああっ!うあぁっ!いやあっ!」
常人には捉えられぬ勢いで鞭を振るっていく。伊織は短い悲鳴を数えきれぬ程上げ、
念力が解けると、その場にぐったりと倒れ伏した。
106炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/22(金) 18:41:55 ID:qEyMgYcz
「ふう…どうやら、まなみも裕奈も、まだ戦艦の方に手こずってるようですわね。
あなたを助ける存在はいない…止めよ、伊織…死ねぇぇ!!」
鞭を再び、剣に形を変え、伊織の心臓目掛けて突き刺そうとする。
しかし、気力の限りを尽くして、伊織は転がって脱出する。

「まだ動く力が残っているの?でも、この戦いは私の勝ちね、伊織」
「いいえ、ベルディスさん…あなたの負けです!」
「なんですって?…な、これは…ぐぁぁぁ!」
突然、ベルディスの身体に激痛が走り、さらに痺れも生じてくる。

「即席のパワーアップ…それにあなたは耐えられなかったんです!
だからさっきの雷神波も、効かなかったんじゃない、効いてないつもりだったんです!」
伊織の言葉にベルディスは黙り、間もなく、静かに笑いだす。

「ふふふ…そう…ここまでだということね…。だけど、伊織!あんただけは
絶対に殺してやるっ!!」
ベルディスが鬼のような形相で伊織に向かって剣を構えて突き進む。
その姿には、元のお嬢様のような美しさは微塵も感じられない。

「死ねっ!伊織ぃぃぃぃ!!」
「はあぁぁぁぁっ!!」
両者がすれ違い様に斬り合い、背を向けあう。間もなく膝をついたのは…ベルディスだ。
「くっ!」
伊織は肩に傷を負いながらも、雷の気を刀に纏いながら、ベルディスに飛びかかる。

「雷鳴!真!破ざぁぁぁん!!」
刀を突き刺し、休む間もなく、X字に斬り裂く!
「あああぁぁぁぁっ!!…い、伊織…伊織ぃ!!」
「…終わりです、ベルディスさん…!」
血を吐きながら叫ぶベルディスに哀れむような目をする伊織。

「何故…どうして伊織…あなたは強い…?」
最期に疑問を残しながら、ベルディスは粒子状に溶け、月の空へと消滅していった。

「…それが…それが、剣士だからです。ベルディスさん…」

107炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/22(金) 18:43:26 ID:qEyMgYcz
伊織はまなみたちの元へ急ぐ。戦艦はちょうど、破壊されたところだ。
「伊織!ベルディスは?」
「ベルディスさんは…斬りました。だけど…」
「だけど?どうしたの伊織ちゃん?一人、敵がいなくなったのに」

ハテナマークを浮かべる裕奈。伊織は切なげな表情でいる。
「最期のベルディスさんの姿がすごく悲しくて…あんなになってまで私たちを
倒したいなんて…敵なのに、哀れでならなかったんです」
「伊織…」


―――次元魔城。次元鬼三姉妹の部屋で、ウルムはわなわなと怒りに震え、
スクリタは信じられないといった様子で呆然と立ち尽くしている。
「ベルディスお姉さまが…死んだ…?」
「くっ、剣士の小娘ども…」

ウルムは部屋に吊るしてあった剣を取りだし、鞘から抜く。
「剣士ども、私がお前たちを…」
「待って、ウルムお姉さま!次はあたしが行くよ」
「スクリタ…」
「あたしだって剣士を倒す手段は持ってるよ…必ず倒してみせるから…!」
スクリタの瞳には憎悪の炎が燃え盛っていた。

次回予告
「伊織です。ベルディスさん…いえ、今は考えるのはやめます」
「まなみです!次回は街に現れる次元鬼の破壊兵器!それに立ち向かう私たちだけど
何故だか力が出なくて、大苦戦!」
「裕奈だよ!そうそう、それにあたしはみんなとはぐれちゃってさらに大ピンチ!」
「次回は、『死闘!地獄の街』です。次元鬼もさすがに焦ってるみたいです…」
「スクリタ…あんたには絶対に負けないんだから!」
108炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/05/22(金) 18:46:14 ID:qEyMgYcz
まなみ投下完了です。俺的には剣士最強は伊織だったり。
そして、さらばベルディス…。
109創る名無しに見る名無し:2009/05/22(金) 19:06:05 ID:rQ/7GSm1
投下乙
クライマックスも近づいているようですね
110創る名無しに見る名無し:2009/05/22(金) 19:45:46 ID:rQ/7GSm1
次はメタモルの新作を祈念しています
111創る名無しに見る名無し:2009/05/22(金) 20:37:30 ID:XHmJLkK2
ご期待に答えて投下しますw
 ◎GAMER'S FILE No.4
  『宇崎八重花(うざきやえか)』16歳
   某私立高校に通う現役女子高生だが、現在休学中。
   得意なゲームジャンルはアクション。
   栗色のショートヘアで、亜理紗ほどでは無いが身体が小さい。
   言いたいことは何でも言ってしまう性格で、
   それに起因する他人との衝突は一度や二度ではない。
   自身のプレイ動画をネットに上げるのが趣味。

   装着アーマーは機動力、瞬発力に優れた『G・アクション』で、
   アンチャーとの交戦時には、身の軽さを生かした斥候・かく乱を担当する。




今日は土曜日。
ゲーマーズは、八重花の家に集まっていた。
八重花の家はそれなりにソフトが揃っているので、
ゲーマーズ達も思い思いのゲームで遊んでいる。

佳奈美はTVで格闘アクション。
千里は携帯機で3Dレース。
亜理紗はレトロなゴーグル型マシンでシューティング。

トイレから帰ってきた八重花は、
佳奈美が未だに同じゲームをプレイし続けていることに気付いて声をかける。

「佳奈美、また飛鳥の拳やってんの?」
「弱点の乱戦を克服しないといけないからね」
「それなら同じ飛鳥でも、ストライダー飛鳥の方をやればいいのに……」
「……佳奈美にそんな玩具は必要ない……」
「亜理紗、やらんのならバーチャルガール代わってな」

ごちゃごちゃ言いつつ、全員揃ったので4人は部屋の奥の空間に振り返る。
そこには立体映像で現れた長官の姿があった。
ゲーマーズ達は伝えたいことがあると言われ、長官に呼び出された(?)のだ。

『ゲーマーズ諸君、よく集まってくれた』
「で、長官。なんだよ話って?」
「今日は新作の発売日なんだから早くしてよ。
 まぁマイナーな洋ゲーだから売り切れることは無いと思うけど」
『実は、前々から気になっていたことがあるんだがな……』

長官は立体映像の向こうでデスクに肘を突き、顔の前で両手を組む。

『キミたち……学力低いだろ?』


(ピシィッ!!)


空気が一瞬にして凍りつく。



  樋口佳奈美 17歳
  『追試の鬼』の異名を持つ落第生。

  河井亜理紗 15歳
  出席日数が足りず、留年が決定的。

  五十嵐千里 19歳
  高校中退のドロップアウト組。

  宇崎八重花 16歳
  諸般の事情により休学中。



(ドガァーン!!)


固まった空気が臨界点を迎えて爆発する。

「だからなんやぁーーー!? 古傷えぐるなやぁーーー!!」
「学校なんて行っても時間の無駄だよっ!」
「……長官……学歴信者だったの……」
『や、や……す、すまない、責めるつもりじゃなかったんだ!』

蜂の巣を突付いたような騒ぎに、慌てて弁解する長官。

『ただね、ゲーマーズの中に一人は学術に長けた者がいた方がいいんじゃないかと思うんだ。
 状況を的確に分析できる、参謀のような仕事を担当するゲーマーズがね』
「つまり、勉強できるゲーマーをゲーマーズに加えろってことか?」
『その通り!』
「でもなぁ……実際、ゲームにここまでハマるような輩は9割方ダメ人間やで?」
「……リアルが充実してれば……ゲームの世界には逃げない……」
「ちょっ、こっち見るな亜理紗!!」

八重花が慌てて手を振る一方、佳奈美はぐっと握りこぶしを作っていた。

「まず、他人に頼ろうって発想が間違ってるだろ。
 ゲーマーズに学力が必要だというなら、あたし達自身が見につければいい」
「おおっ、流石は佳奈美! 孤高の求道女!」
「さぁ長官、教えてくれ! 勉強を教えている 道 場 はどこだっ!?」


(チーーーン……)


「……佳奈美」
「なんだ、千里?」
「勉強を教えとるのは道場やなく…………塾や……」

長官は頭を抱えてしまった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


長官のツテで嫌々ながら学習塾にやって来たゲーマーズ。
教室の席に詰まれた分厚い参考書を見るだけで嫌気が差しているようだ。
「うへぇ、例え攻略本でもこんな分厚い本読むのは勘弁やで」
「……八重花の……攻略ノートの量よりマシ……」
「あれは自分で確認するためのものだからいいのっ!」
「技のフレームを暗記するのなら得意なんだけどなー」

もうすぐ授業も始まる時間なので、ゲーマーズ以外にも生徒が集まってくる。

「こいつら、平日は学校で勉強尽くしなんでしょ?
 なのに土日もこんなとこで缶詰めなんて、頭おかしいんじゃないの?」
「パンピーにしてみりゃ、自宅に缶詰めでゲーム攻略してる奴のが変人やろうけどな」
「……あの子とか……すごい……」

亜理紗の指差す方を見てみると、まだ授業が始まる前にも関わらず、
参考書をババッと読み進めながらノートに要点を書き写している女生徒の姿があった。
黒髪を三つ編みにしたメガネっ娘で、絵に描いたような真面目な優等生だ。

「うわぁ……ああいう秀才さんってリアルに存在するんだ」
「いいんちょタイプって奴やな」
「あたしらも見習おうよ。そろそろ授業始まるし」

(キーンコーンカーンコーン)

チャイムが鳴り、講師が入ってきたので、
ゲーマーズ達もおしゃべりをやめ、腹を括って授業を受けることにする。




(キーンコーンカーンコーン)

昼を跨いで総勢4時限にも及ぶ授業を、
ゲーマーズは息も絶え絶えながらも何とか完走した。

「うー……今日だけで一生分の勉強をした気がする……」
「……同感……早くゲームのコントローラに触れたい……」
「まだ待ってくれ、後ちょっとで終わるから」
「佳奈美、まだ勉強してるの?」
「……佳奈美は一旦集中しだすと……すごい……」
「これでやっとるのが中学生用の英単語ドリルじゃ無かったら良かったんやけどな」

ともあれ久々にゲーム以外に全力を出したゲーマーズは、
使命を果たしたとばかりに晴々と教室を後にしたのであった。
そのまま塾のある建物から出ようとするが、
ふと八重花は隅っこのベンチに座っている人影を見つける。

「秀才さんじゃない、あんなところで何を――あっ!」

何かを熱心に覗き込む彼女が手にしていたのは、
辞書でも単語帳でもなく……紛れも無い、携帯ゲーム機だった。

「ね、ね、ね! あなたもゲームやるんだね!」
「えっ!?」
「あたしもゲーム大好きなの! 秀才って、ゲームやらないものだと思ってた!」

お仲間を見つけたとばかりに食いつく八重花。

「ねぇ、何のゲームをやってるの?」
「い、いえ、これはその……し、失礼します!」

秀才少女は慌ててゲーム機を鞄にしまうと、そのまま逃げるように駆け去ってしまった。
「ちぇー、つれないなぁ。……あれっ?」

八重花はベンチに携帯ゲーム機が落ちているのに気付く。
これは先ほどの秀才少女が持っていたものだ。
裏には『田宮昌子(たみやしょうこ)』と名前の書かれたシールが貼ってある。

「あー、ウチも慌ててる時はたまにやるわ。
 中に入れたつもりが、身体と鞄の隙間に入れてしまうんやよね」
「で、何のゲームやってたのかな」
「おいおい、勝手に人のゲーム始めるなよ」

などと言いつつ、佳奈美も興味しんしんだ。
電源が入ったモノクロ液晶に表示されたのは、『NETRIS』の文字。

「ネトリスか。定番中の定番の落ち物パズルだな」
「……昔……ライト層を中心にブームが起きた……」
「勉強の息抜きにハマったクチかい。よくある話やな。」

そのままワイワイとネトリスの思い出話に花を咲かせる三人。
そんな彼女らを他所に、八重花は驚愕に目を見開いていた。

「……ねぇ。あんたらのネトリスのハイスコアっていくつ?」
「何、突然? 確か500万ぐらいだったと思うけど」
「……800万……」
「へっ、その程度かい! ウチなんて1400万――」
「9000億」
「………は?」
「正確には、九千九百九十九億九千九百九十九万九千九百九十九点……」

999,999,999,999

八重花が突き出した携帯ゲームのディスプレイには、確かにそう表示されていた。

「ネ、ネトリスをカンストやとぉ!? 冗談やろっ!?」
「あたし、自己ベスト出すのに1時間はかかった気がするんだけど……」
「……こんな記録出すほどネトリス続けたら……頭おかしくなりそう……」
「むしろ頭がおかしいからこその秀才かもしれへんな……」
「でも、こんな腕を持っててしかも秀才。長官の要求にピッタリじゃない?」
「確かにな、勧誘してみる価値はあると思う」
「で、ヤエちゃんのハイスコアは?」
「さぁ、急いであの秀才さんを探すわよ!!」
「…………誤魔化した…………」

早速ゲーマーズは、秀才少女――田宮昌子の後を追って駆け出した。
ほどなくして、しずしずと家路についている昌子の姿が見つかる。

「ねぇ秀才さ……昌子さん、待ってよ!」

八重花に呼び止められた昌子は、
相手がさっきの少女だということに気付くと、目を泳がせる。

「……な、なんですか、貴方達? わ、私に何か用事でも?」
「ウチら、みんなゲーマーなんや。いいんちょもそーなんやろ?」
「ち、違いますよ! 学問一筋の私がゲーマーのはずないじゃないですか!」
「でも、さっき落としたコレは……」
「あっ!」

八重花が差し出したゲーム機を、昌子は慌てて奪い返す。
「こ、これは勉強の息抜きにちょっとやってただけです!
 私はゲームなんてこれぐらいしかやったことありません!」
「……やっぱり……ただのライトゲーマー……?」
「いや、でもみんな始まりはライトゲーマーやし」
「そうだな、これから経験値積めばきっと――」


(ドガァーン!!)


その時、爆音が辺りを包む。

「な、なに!?」
「アンチャーだ!!」

佳奈美の言うとおり、空から爆弾のように降ってきたアンチャーの群れだった。
昌子を勧誘しているところだったが、今はこっちに対処せねばなるまい。


『『『『プレイ・メタモル!!!』』』』


ゲーマーズは即座に変身し、名乗りを上げる。


「欲するは強敵、そして勝利のみ。
 道を追い求め続ける孤高の戦士……『G・ファイター』!!」
「千分の一秒を削るのに命を賭ける。
 音すら置き去りにする光速の戦士……『G・ドライバー』!!」
「狙った獲物は逃がさない。
 視界に映る全てを射抜く戦慄の戦士……『G・シューター』!!」
「あらゆる死地を活路に変える。
 フィールドを駆け巡る躍動の戦士……『G・アクション』!!」


『『『『四人揃って、メタモル・ゲーマーズ!!』』』』


『エマージェンシー、エマージェンシー! アンチャーが――』
「遅いわ長官、もう変身しとる!」

ゲーマーズ達がいつもの軽いノリで戦闘態勢に入る一方、
それを目の当たりにした昌子は腰を抜かしていた。

「メ、メタモルゲーマーズ!? ほ、本当に実在したなんて……」
「ほな、いいんちょにゲーマーズってもんを見せ付けとこか」
「そうだな、その方が後で説明する手間も省けて楽そうだ」

言うが早いか、ゲーマーズは散開して戦闘を開始する。

まずは千里がブルドーザーで敵を蹴散らし、
討ち漏らした敵は佳奈美がトドメを刺して回る。
一方で、八重花は飛行するアンチャーを足場に空中を制し、
それをフォローする亜理紗の正確な銃弾がアンチャーの脳天を打ち抜いていく。

たまたまゲーマーズが現場にいたこともあり、
アンチャーは体制を整える間もなく総崩れとなり、撤退を始める。

「逃がさないよっ!!」
「あっ、待てや! 奴らは追っても無駄やって!」
千里の静止も聞かず、八重花は一人でアンチャーを追って行ってしまった。

「……ま、すぐに戻ってくるやろ」

八重花をほっとくことに決めた千里は、へたり込んでいる昌子に振り返る。

「さてどうやろ、いいんちょ?
 ゲーマーズの仕事ってこんな感じやけど、
 ウチらと一緒に正義のために働いてみる気はあらへんか?」

良い返事が貰えると高を括り、軽い調子で尋ねた千里だったが……。

「何が正義のためよ……貴方達のやっていることはただの殺し合いじゃないっ!」

当の昌子は、目を剥いてゲーマーズを批難してきたのだ。

「そ、そう言わんといてや……ウチら、同じゲーマー同士やろ?」
「あ、あなた達と一緒にしないで!
 私は絶対に貴方達みたいな人に力は貸さない!
 どうしてもって言うのなら、その銃で好きにすればいいわ!」
「…………っ…………」

カッとなって思わず腰の銃に手をかけかけた亜理紗だが、流石に思いとどまる。

「……私、帰ります。もう二度とゲーマーズなんかに勧誘しないで下さい」

小声で、しかしハッキリとそれだけ言い、
昌子はゲーマーズに背を向け、立ち去っていった。

「……………………」

ゲーマーズの間に、重い沈黙が流れる。
その時、アンチャーを追っていた八重花がふらっと帰ってくる。

「アンチャーども、異次元空間に消えちゃって……あれ、秀才さんは?」
「それがなぁ……」

千里は八重花に事情を説明する。

「……あの秀才さんが、本当にそんなことを言ったの?」
「マジやから困る」
「……嘘ついて……どうする……」
「でも、確かに彼女の言うとおりだよ。あたしらがやってるのは、ただの殺し合いだ」

佳奈美の一言で、ゲーマーズの間に暗い空気が漂い始める。
……が、八重花だけはそんな面々を困ったような顔で眺めていた。

「その……言いにくいんだけど……」
「ん、なんだよ?」
「……えーと、ちょっとあんたら家まで来て!」

八重花に無理やり引っ張られるように、ゲーマーズは八重花の自宅に向かった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『何が正義のためよ……貴方達のやっていることはただの殺し合いじゃないっ!』
『どうしてもって言うのなら、その剣で好きにすればいいわ!』
TV画面に台詞が表示される。しかもフルボイスである。

ゲーム機に刺さっているソフトは、シミュレーションゲームのファイターエムブレム。
ガチンコの高難易度でゲーマーを唸らせる一方、
魅力的なキャラクターでライト層にも一定の人気を誇るタイトルだ。

「なんだコレ!? 彼女が言ってた言葉そのまんまじゃないか!」
「これ、めっちゃ有名な台詞だよ。あちこちでネタにされてるし」
「……要するに……ゲームの受け売り……?」
「どうでもええけど、その台詞一つ聞くのにエラい損害やな」
「う、うるさい! 思考系は苦手なのよ!」

千里の言うとおり、八重花操る味方の軍勢はほぼ壊滅状態だった。

「でもゲームの台詞を暗記して、しかもリアルで使うなんて、
 やっぱりあの昌子って子はライトゲーマーじゃないってことか?」
「どーだろ? FEシリーズはライトでも好きな人多いし」
「……ライトは……1本のソフトにハマると結構やりこむ……」
「でもなぁ……」

佳奈美に八重花に亜理紗はあーだこーだ言いあってるが、
そんな三人を他所に、千里は何か思うところがあるようだ。

「……うーん、まさかとは思ったが、やっぱりそうみたいやな」
「何が?」
「実はな、ウチも独自に凄腕のゲーマーを探しとってな」
「八重花の時みたいに?」
「せや。それで目ぇつけといたのがコイツや」

千里はWEBサイトの画面を印刷した物を差し出す。
それはPCゲームのエイジオブヴァンパイア……の、オンラインランキングだった。

「これって確かRTS(リアルタイムストラテジー)の奴だよね」
「ストラテジー? なんだそれ?」
「……シミュレーションゲームの……すごい奴……」
「まぁ噛み砕いて言えばそうやな。で、この1位のプレイヤー見てみ?」
「……『syo-ko』……つまりショーコ……」
「これが田宮昌子……あの秀才さんだって言いたいのか?」
「本当に? オンラインの1位って相当やりこまないと駄目だよ?」
「まぁネトリスの件を考えたら納得は出来るかな」
「シミュレーションとパズルって本質的には似とるからなー」
「……裏……取った方がいい……」
「そーやな、長官に頼んでみよ」

例によってブレスレットで呼び出した長官をコキ使った結果、
あっさりと『syo-ko』=田宮昌子が判明した。

「これで、いいんちょはライトゲーマーを自称しとるが、
 実態はヘビーゲーマーそのものの隠れオタっちゅーのがハッキリしたわけやな」
「だとしたら何で隠してるんだ?」
「そりゃアレだよ、優等生な自分のイメージを崩したくないんじゃない?」
「ありがちやけど切実な理由やなー」
「じゃあ後はこれらの証拠を本人に突きつけて脅迫するって方向でOK?」
「……異議なし……」
「昌子に証拠……ぶふっ」

自分の親父ギャグに勝手にウケている千里は置いといて、
ゲーマーズ達は昌子を人気の無い場所に呼び出すことにした。




今は既に使われていない電波中継用の鉄塔。
そのふもとで、ゲーマーズは昌子と対峙していた。
ちなみにここは「人が来ないから」と昌子の方から提案された場所だ。

「どや、ネタは上がっとるんやで! 言い逃れできるもんならしてみぃ!」
「ゲーマーとしての力を思いっきり振るえるんだ、悪い話じゃないだろう?」
「……大義名分のある破壊……甘美……」
「ちょうどあなたみたいなゲーマーが必要だったの、お願い!」
「わ、私は……」

詰め寄るゲーマーズに対し、昌子は小鹿のようにプルプル震えていたが……。

「わ、分かりました……貴方達の、仲間になります……。
 だから、私がゲームオタクだってことは誰にも言わないで下さい……」

集めた脅迫ネタの数々が功を奏したのか、昌子は割りとすんなり承諾した。

「ハナシわかるなぁ、やっぱり秀才はんは違うわ」
「はい、これブレスレット! 早速変身してみて!」
「……キーワードは……『プレイ・メタモル』……」
「りょ、了解しました……」

昌子はおずおずとブレスレットを受け取り……。


『プレイ・メタモル!!!』


そう叫ぶと同時に、彼女の身体にアーマーが装着される。
昌子が変身したのは、情報処理能力に優れた『G・パズラー』だ。

「よっし、これで仲間が5人に増えたな!」
「これからよろしく頼むで、いいんちょ――」

(バシッ!!)

「愚民どもがわたくしに触れようなんておこがましいのよ!」

昌子の肩に手を回そうとした千里の腕が払いのけられたのだ。

「はぁっ!? 何のつもりや!?」
「つーかなんだよ、あの金髪のカツラ!?」

佳奈美の言うとおり、昌子の頭には、
いつの間にか金髪くるくるのツインテールのカツラが装着されている。
口調や表情が高飛車になったのも相まって、普段の彼女とはまるで別人のようだ。

「その格好、もしかしてファイターエムブレムの……?」
「そうよ、カラリーネのコスプレよ、文句あるっ?」
「……なら……メガネ外せ……」
「外したら見えないんだから仕方ないじゃない!! ……っとと」

ゲーマーズのペースに乗せられそうになってしまった昌子は、
コホンと咳払いをして仕切りなおす。
「大体、あなたたちはゲーマーを名乗ってらっしゃるくせに、
 ファイエムの名台詞の一つも知らないなんてどーいうことでございますの!?」
「いや、知らなかったものは仕方が無いだろう」
「ファイエムは国民的名作でございましょーが! 勉強が足りませんのよ、勉強が!」

昌子は頭に湯気を立ち上らせて説教するも、
ファイターエムブレムにさして興味の無いゲーマーズ達には返答のしようがない。

「ともかく、わたくしの秘密を知った貴方達には、全員この場で消えてもらいますわ!
 そう……貴方達自身から頂いた、このアーマーの力を使ってね!!」
「な、なんやてっ!?」
「なんて卑怯な奴なんだ、八重花以下じゃないか!」
「だからイチイチあたしを引き合いに出すのはヤメロっ!!」
「兵は詭道! 簡単に騙されるおバカなあんた達が悪いのです!
 さぁ、貴方達にも以前わたくしが受けた苦痛を味わって頂きますわっ!!」
「……何する……つもり……!?」


/////////////////////////////////////////////////


『ゆけゆけ!!メタモルゲーマーズ5 〜始まりはライトゲーマー!〜』

   To be Continued...


  ゲーマーズの戦いは終わったわけではない。
  この続きは、期待の次回作で……!


スーパーフレコン用ソフト
『ゆけゆけ!!メタモルゲーマーズ6 〜対決、G・パズラー!〜』

   Coming Soon...


/////////////////////////////////////////////////

「なっ、これ1本だけじゃシナリオ完結しないんか!?」
「分割商法なんて汚いぞっ!!」
「おーっほっほっほ、続きが知りたければまたフルプライス払いなさい!」
「……ま……なんだかんだで買うんだけどね……」

さぁ、TVの前のみんなも続編を買いにゲームショップへGO!
発売日は未定だけどな!
121創る名無しに見る名無し:2009/05/22(金) 20:48:21 ID:rQ/7GSm1
投下乙
まなみとゲーマーズのどちらも読めて
うれしいな(笑)
122創る名無しに見る名無し:2009/05/22(金) 21:01:54 ID:XHmJLkK2
猿さんウザイなぁw

上の方で話題になってましたが、ゲーマーズ最小は亜理紗であってます。
そこまで深く読み込んでくださる方がいらっしゃるとは、感涙です。
ありがとうございます、そしてこれからもゲーマーズをよろしく!
12392:2009/05/22(金) 21:09:04 ID:rQ/7GSm1
>>122
すみません勝手に推測してしまって
たまたま軍事板から遊びに来てこのスレにはまったものです
実は私自身もこういう作品を書こうと考えていて
たまたま覗いてまなみのほうにはまり、次にゲーマーズにも
はまってしまいました
また遊びに来ます
新作を期待しています
124創る名無しに見る名無し:2009/05/22(金) 23:52:45 ID:4LYkkCHH
二人とも乙でした!

>まなみ作者さん
星斬ったり…戦闘力イデオン並みw
ベルディスもいいキャラだったけど、
やっぱ敵だからこうなる運命だったか…

>ゲーマーズ作者さん
五人目かぁ、変身して人格チェンジとは面白いキャラだw
次はあるだろう彼女の戦闘シーンも楽しみ
125創る名無しに見る名無し:2009/05/23(土) 09:18:35 ID:PqTXuCh1
投入乙。ゲーマーのリーダーは佳奈美ですか。それにしても佳奈美とまなみ、一字違いですね。
126創る名無しに見る名無し:2009/05/23(土) 16:41:09 ID:YHyiowdw
まなみたちやゲーマーズのイラストを見てみたい
127創る名無しに見る名無し:2009/05/23(土) 22:03:21 ID:ejTvgpCf
ええと、オリジナル(でも色んなネタをパクってる)小説を書いてみたのですが
ここにアドレス晒して良いのでしょうか?

tp://www9.ocn.ne.jp/~hotman/syoko_rennsai/syoko_tensi2.html

内容は戦う変身ヒロインが成長していく話で、かなり長い代物になっています。
是非とも感想をお聞かせ願いたいです。
128創る名無しに見る名無し:2009/05/23(土) 23:05:14 ID:PqTXuCh1
こちらにもその作品を書いてください。まなみやメタモル以外の作品も読んでみたいです。
129創る名無しに見る名無し:2009/05/23(土) 23:23:21 ID:X115gKvc
最近必ずageる人がいるな…sageないのか
そして何故かまなみやゲーマーズのことを取り上げる…
なんなんだ、いったい
130創る名無しに見る名無し:2009/05/23(土) 23:23:52 ID:ejTvgpCf
ごめんなさい。
それをやろうとすると2〜3スレが丸々潰れてしまいそうなんで、とてもじゃないけど出来ません。
131創る名無しに見る名無し:2009/05/23(土) 23:53:56 ID:yAqR9BVr
>>129
現行スレにはまなみとゲーマーズしか投下されてないからじゃね?
132創る名無しに見る名無し:2009/05/23(土) 23:57:46 ID:X115gKvc
>>131
そうだけどやたら両作品に触れるし
関連性見つけようとしてて、且つageるからなんか気になって
sageを知らないのか、素でageてるのか
133創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 17:21:30 ID:2CE9Nmjj
>>127
>>130
とりあえず一部読んでみました
エクセルに貼り付けてみようとしたが
膨大ですね
ちなみまなみのSSもエクセルに貼り付けたが
あまりに容量が大きくなりすぎて断念しました
134創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 19:01:19 ID:2/pza900
なんでエクセルに貼り付けようとしてんだ?
135創る名無しに見る名無し:2009/05/25(月) 18:05:27 ID:1qI1RwjC
同上
僕が無知なだけならゴメンなさいなのですが
エクセルって表計算(データベース?)ソフトですよね?
文書データを貼り付ける意図が分かりません。
136創る名無しに見る名無し:2009/05/26(火) 07:36:53 ID:TSbRCPPB
まとめサイトにまなみの新作が載せてあった。管理人乙。サミーとゲーマーズの新作もお願いします。
137創る名無しに見る名無し:2009/05/26(火) 11:40:14 ID:gnVckzH6
>>136
wikiなんだから君がやったっていいんだぜ?
138創る名無しに見る名無し:2009/05/26(火) 20:58:38 ID:xPqL+vVi
どこが魔法なのかがわからない
139創る名無しに見る名無し:2009/05/26(火) 21:00:24 ID:2XU29b+S
突然どうした?
140創る名無しに見る名無し:2009/05/26(火) 22:56:49 ID:TSbRCPPB
魔法だけでなく変身する少女でも可。まなみやメタモルゲーマーズは変身少女。
141創る名無しに見る名無し:2009/05/27(水) 16:17:52 ID:Bb1g2Hlt
>>137
失敗しました
142創る名無しに見る名無し:2009/05/28(木) 19:01:00 ID:iQsQGQnz
まもなく新作投下の予感がする
143創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 16:45:09 ID:XgVW0opR
新作投下祈願あげ
144創る名無しに見る名無し:2009/05/31(日) 23:51:46 ID:bVrPYHm+
創作意欲が湧くスレだ
145創る名無しに見る名無し:2009/06/01(月) 19:47:08 ID:6N8Rufh4
>>144
是非またお越しください
新作を歓迎しています
146炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/02(火) 19:23:42 ID:BNeAk4Lq
炎術剣士まなみ第二十一話投下します
147炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/02(火) 19:24:37 ID:BNeAk4Lq
炎術剣士まなみ 第二十一話『死闘!地獄の街』

 ベルディスとの宇宙決戦の後、まなみたちはまっすぐ家路に向かったのだが…。
「まなみちゃ〜ん…本当に、この方法で帰るの?」
「しょうがないでしょ。だって宇宙船は壊れちゃったし、月面基地も修復で
精一杯だって言うし、軌道エレベーターを使うお金もないし」
「で、でも…いくら私たちが真空でも動けるからって、これはどうなのでしょう…?」

不安な二人の肩をまなみは笑顔でポンと叩く。
「絶対、大丈夫だって!さあ、東京に向かって降下よ!」
「ちょっと、まだ心の準備が…きゃああぁ〜!?」
裕奈と伊織はほとんど突き落されるように大気圏突入をしていく。
それにまなみも続き、三剣士は普通に暮していれば絶対に体験しないことを
することになってしまった。


それから八時間後、深夜の新堂家屋敷。すっかりぐったりしている三人が
居間で寝転がっていた。
「いやいや、よかったわ、無事に帰ってこれて。お金も全く掛からなかったしね」
明るく言うまなみだったが、裕奈と伊織はジト目で彼女を見つめる。

「まなみちゃん…いくらなんでも、貧乏性過ぎやしない…?」
「着地点が誤って沖縄になったからって、気力全開の時空転幻で東京に
戻ってくるなんて…戦い終わったあとに、これはなかなかきついですよぉ…」
「ま、まあそう言わないでよ。ほら、今日はうちに泊まっていきなって」
そそくさと布団を用意するまなみ。その様子を見ながら裕奈がつぶやく。
「まなみちゃん…悠美さんに似てきた?」


―――次元魔城。スクリタが地下の部屋で、東京の様子を窺っている。
「見てなさい、剣士ども…!明日はあんたたちの最期の日になるんだから…」
スクリタは部屋の棚から禍々しい形をしている石を取り出した。
「人界に恐怖を降り注ぎ、我ら次元鬼に力を…」
ぶつぶつつぶやくと、手に持った石が怪しく光を放ち、それは東京を
包み込んでいった。
148炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/02(火) 19:25:52 ID:BNeAk4Lq
翌日。一番早く目が覚めたまなみは、目のあたりを擦りながら、テレビの電源を入れる。
朝のニュースが流れ、特に異変が起こったようなことはない。
『では天気予報に…あ、はい…臨時ニュースです!原宿に巨大な戦車が現れました!』
映像が映し出される。それは人間が扱う大きさのものではない。
『警察では、このことに関して調査を進め…』

まなみが裕奈と伊織を揺さぶり起こそうとする。
「裕奈、伊織、起きて!」
「…むにゃむにゃ…な、なぁにまなみちゃん…もうちょっとだけ寝かしてよぉ…」
「そんな場合じゃないっての。また次元鬼よ」
その言葉に、飛び跳ねるように起きる二人。

「それって本当なんですか?」
「たぶんね。人が作ったこともないような巨大な戦車を用意できるのなんて
次元鬼ぐらしかいないだろうし。確かめに原宿に急ごう!」
早々に準備を始めるまなみと伊織。しかし、裕奈は冷蔵庫に向かっていた。

「ちゃんと食べないと、力でないよ。何があるかなぁ〜と…おっ!」
裕奈が見つけたのは、まなみ秘蔵のデカプリンであった。人のものでもお構いなしに
その場で、プッチンして口の中へ流し込む。その表情は非常に幸せそうである。
「はぁ〜おいしかった〜!それじゃ、着替えますか〜」

裕奈が振り返ると、その表情は一気に青ざめる。恐ろしい剣幕でまなみが腕を組んでいる。
「ゆ・う・なぁ〜!急ぎだってのに、何をしてるのかなぁ〜?」
「え、え〜と…ほら!腹が減っては戦はできぬって言うじゃない!」
「そんなの知るかぁ!人の楽しみを奪っといてそれか!…とりあえず、
次元鬼の方を優先だけど、終わったらお仕置きだからね!」

むんずと裕奈の寝巻の襟首を掴み、無理やり引っ張ていく。
裕奈はドバドバ涙を流しながら、勘弁して〜と叫ぶのであった。


原宿。いきなり現れた巨大戦車に、人々は警察の指示もあり、近寄らないようにしている。
そこに、まなみたちがやってくる。
「くぅ〜、お仕置きは後じゃなかったの、まなみちゃぁん」
「前座みたいなものよ。それよりも、何が起こるか分からないんだから、気を付けてね」
149炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/02(火) 19:26:56 ID:BNeAk4Lq
三人が様子を窺っていると、突然、戦車から轟音が響き、煙を出しながら
まなみたちに向かって動き出す。
「やっぱり、私たちが目的みたいね!変身するわよ!」
「オッケー!」
「はい!」

「炎心…」
「水心…」
「雷心…」
「「「変幻!!!」」」
三人が気力を解放し、周囲を光のドームが包み込む。その中で、それぞれ
着物姿へと変わっていき、変身が完了すると、すぐに構える。

戦車は三剣士に照準を合わせ、砲弾を放ってくる。それを回避し
裕奈は真正面から戦車を止めようと駆け出す。
「あたしなら、こんなもの…きゃあっ!?」
決して、油断していたわけではない。裕奈の態勢も悪くなく
彼女のパワーはいつもならこんな戦車如き、軽々と投げ捨てられたはずだった。

しかし、戦車は裕奈を跳ね飛ばし、まなみと伊織に高速で突進していく。
「くっ!火柱ストォォォム!!」
足を止めようと、キャタピラを狙い撃つが、ビクともせず、何事もなかったかのように
戦車は突進を止めない。

「はああぁぁぁ!!」
伊織が手裏剣とまきびしを無数に投げつけるが、その堅牢な装甲には意味を為さず
乾いた音を立てながら、弾かれ、二人も裕奈と同じように跳ね飛ばされてしまった。

「あぁぁぁっ!くっ、どういうこと…?いつもならこんなものに
やられはしないのに」
「ベルディスさんとの戦いのダメージが残ってるからでしょうか…?」
三人が疑問を抱いていると、一瞬風が吹き荒び、それが止むと戦車のハッチのところに
スクリタが現れ、足を組んで座っている。
150炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/02(火) 19:28:18 ID:BNeAk4Lq
「スクリタ!あんたね、こんなものを持ってきたのは!」
「あったり〜!ベルディスお姉さまの形見みたいなものよ…剣士ども、
必ずあんたたちを殺してやるんだから!…裕奈、まずはあんたからよ!」
スクリタの鋭い視線が裕奈に向けられると、周囲が怪しい紫色に光り、裕奈を
包み込んでいく。

「なっ、なによこれぇ!?」
「裕奈、あんたを地獄に送ってやる!」
光は一層強くなり、閃光が発したかと思うと、そこには裕奈の姿はなかった…。
「裕奈!?」
「スクリタさんの姿もない…あうっ!?」
戦車の砲撃が伊織を襲う。残された二人は、その攻撃に裕奈を欠きながらも
応戦するしかなかった。


「う、うぅん…こ、ここは…?」
裕奈が目を覚ますと、そこはどこまでも広がる砂漠であった。
「ちょ…なんなのよ…まなみちゃんも、伊織ちゃんもいない…」
心に不安が広がるが、じっとしていてもしょうがないと、裕奈は
あてもなく歩き出す。

しばらくすると、突然地面が盛り上がり、そこから、巨大な蟻地獄のような
怪物が現れた!それは裕奈に鋭い顎を向ける。
「何が出てきたって!絶対に負けないんだから!」
裕奈が飛びあがり、先手必勝とばかりに、その拳を振るう。

だが、腕に鈍い痛みが走るだけで、怪物には大して効果はないようだ。
「うっ…さっきの戦車もそうだけど…絶対、なんかおかしいよ!うわっ!?」
避ける間もなく、裕奈は怪物の顎に挟まれてしまう。

「くっ、こん、なの…きゃあぁぁ!!」
そのまま身体が真っ二つにされそうな程の激痛が裕奈を襲う。
悲痛な叫び声を上げ、痛みから逃れようとするが、脱出は叶わず、
そのまま、蟻地獄の巣へと裕奈は引きずり込まれてしまった。

巣の中で、力なく裕奈が横たわっていると、足音が聞こえだす。
それは裕奈の方へと近寄って行き、次の瞬間、強烈に蹴りを入れる。
151炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/02(火) 19:29:38 ID:BNeAk4Lq
「あぐっ!?…す、スクリタ…!」
蹴り飛ばされた裕奈が顔を上げると、そこにはスクリタの姿が。
「ふふ、無様ねぇ裕奈。そろそろあんたの顔も見納めにしたいわけよ、こっちは」
スクリタが構えを取ると、裕奈も立ち上がり、構えを取る。

「スクリタ、そうそうあんたなんかに負けないんだから!てやあぁぁ!!」
気合いを込め、拳を突き出すが、スクリタはそれを軽々と受け止め、
そのまま、裕奈を投げ飛ばし、壁に叩きつけた!

「うあぁぁ!くぅ、まだまだなんだから!」
再び立ち上がり、猛ラッシュで打撃を叩き込んでいくが、スクリタは
それらをすべて捌き、カウンターの一撃を腹部へと浴びせる。

「あぐ…かはっ…!ど、どうして……」
「ふふっ、裕奈?さっきからおかしいと思ってるよね?なんで格下の相手にも
まるで歯が立たないのか?それはね、あんたたちはもちろん、東京中の
人間どもの力を封じ込ませたのよ。普通に立ち向かったら、剣士たちには
勝てないんなら、あんたたちを弱くしちゃえばいいってこと」
「ど、どこまでもずるい奴だね…そんなにあたしに負けるのが怖いんだ?」

スクリタは、懐から怪しいオーラを放つ宝石を取り出した。
「この中に、あんたたちの力を封じ込めてあるの。勝ちたかったら
頑張って奪ってみれば?」
「わざわざネタバレどうもね!後悔させるんだから!」
裕奈が刀を抜き、スクリタに斬りかかっていく。だがスクリタはそれを避け、
手刀で捌いていく。

「はぁ…はぁ……ま、だまだ…水刃波!!」
刀に水の気を纏わせ、振るうと刃が切り裂こうと飛ぶが、スクリタの放った
光線でそれはただの水に戻ってしまう。

「ああ…!」
「ふふ…裕奈、あんたはもう絶対に勝てないということ、わかったかな?」
スクリタが指を鳴らすと、空中に映像が映し出される。
それは巨大戦車と対峙しているまなみと伊織の姿だ。
力を奪われ、三人でもきつかったのが、裕奈を失い、いいように弄ばれている。
152炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/02(火) 19:31:12 ID:BNeAk4Lq
「まなみちゃん!伊織ちゃん!」
「二人が無様に死んでいくのを見届けてから、ゆっくりと
じわじわ甚振って処刑してあげるよ。あはははっ!」
勝ち誇ったように笑うスクリタ。裕奈は拳を握り締めブルブルと震わせた。

「人の命を…軽々しく扱って……スクリタ…絶対にあたしが倒す!!」
「へぇ、言うじゃない。でもぉ、どう頑張ろうと結果は見えてるでしょ?」
「それはどうかなぁ…あんた、力を奪ったら油断ばかりじゃない!」
すると、唐突にスクリタを水が纏わりつく。それは先ほどの裕奈の技で
飛び散った水であった。

「な、なんなのよ!ゆ、裕奈…あんたのどこにそんな力が…!?」
「あたしのこと、ただの力馬鹿だなんて思ってたのがあんたのミスよ!てやああ!!」
限界まで気を煉り、スクリタを水の縄で縛りつけていく。そして思わず
力が封じ込められた宝石を落としてしまう。

「し、しまった!」
「もらったぁぁぁぁ!!」
全速力で駆け抜け、宝石を拾い上げると、壁に投げ叩きつけ飛び蹴りをかました!
粉砕された宝石から、いくつもの光が飛び出し、それは東京中に降り注ぎ
都民はもちろん、まなみや伊織の元へ飛ぶ。そして裕奈にも光が融合していく。

「裕奈、どこまでも忌々しい奴!」
「スクリタ!あんたと決着をつける時みたいだね!おおりゃああああ!!」
裕奈が最大まで気力を増幅させ、空を斬り裂くと、そこから次元間を繋ぐ
穴が作られた。

「次元をも斬り裂くなんて…ぐあぁ!?」
「なかよく東京にご帰還よ!とぉあっ!!」
裕奈の蹴りを浴びせられ、無理やり次元の穴へと突っ込まされるスクリタ。
そして裕奈も続いて次元の穴へ飛び込んでいく。


原宿はすっかり荒らされ、まなみと伊織は肩で息をし、衣装もすでにボロボロだ。
「はぁ…はぁ…くっ、このままじゃ…え!?」
唐突に二人に光が降り注ぎ、身体の底から力が湧きあがりだす。
153炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/02(火) 19:32:22 ID:BNeAk4Lq
「まなみさん…!」
「うん!はあぁぁぁ!!」

刀を振るい、剣圧で戦車を横倒しする。そしてジッと両手を見つめる。
「いったいどうして突然力が戻ったの…」
その時、上空に時空の歪みが生じ、中からスクリタが吹っ飛ばされるように
飛び出し、裕奈が続いてくる。

「裕奈ちゃん!大丈夫だったの!?」
「全然!まなみちゃん、伊織ちゃん。スクリタがあたしらの力を奪ってたから
いつも通りに戦えなかったんだよ。でも、もう大丈夫だから!」
裕奈が二人に満面の笑みでVサインをすると、両手に気を集める。

「水撃砲!!」
物凄い勢いで放たれた水の光線が螺旋状に渦巻きながら戦車へと直撃する!
そのまま、水圧により押し潰されていき、戦車はあっという間にスクラップへと変貌する。

「くっ、裕奈…!」
「スクリタ!あんたとの因縁もここまでよ!」
憎悪と怒りの視線を向けるスクリタに向かって言い放つ。
「いい気にならないでよね!裕奈、あたしはあんたを絶対に殺してやるって
決めてるんだから!」

スクリタが裕奈に飛びかかり、二人は互いに武器を持ってるにも関わらず
怒涛の殴り合いを展開する。しかし、力が戻ってしまえばその戦闘力の差は歴然。
裕奈が一瞬の隙をついて、スクリタに拳をめり込ませる。
「ぐ、あぁ…!裕奈ぁ…!」
「スクリタ!これでおしまいよ!水迅大乱舞!!」

裕奈は目にも止まらぬ速さでスクリタに拳を、脚を連続で浴びせていき、
アッパーカットで空高く叩き上げ、自身も飛び上がり、止めの
オーバーヘッドキックでスクリタをビルに叩きつけた。

「ああぁぁぁっ!!」
「スクリタ!あんたもここでおしまいよ!!」
その言葉を聞くと、スクリタは静かに低く笑いだす。
154炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/02(火) 19:33:45 ID:BNeAk4Lq
「な、なにがおかしいのよ!?」
「あははは……裕奈…確かにあたしもどうやらここまでのようね…あんたに見事に
やられたわ…だけど、必ずいつかあたしは戻ってくる!…裕奈、あんたを
殺すためにね…!その日まであんたを呪って呪って…呪い尽くすんだから!」

狂ったかのように宣言するスクリタ。裕奈はその様子を見て、一瞬震えるが、
すぐにスクリタを睨みつけ、刀を抜く。

「そんな呪いなんかに…負けない!消えろスクリタ!水迅真破斬!!!」
動揺しながらも、最後の必殺の一撃を繰り出し、スクリタを斬り裂いた。
「ぐあああああああ!!……た、楽しみに待ってなさい…ゆ、うなぁ…!!」
不気味に笑みを浮かべながら、スクリタは消滅していった。

息を切らしながら、裕奈はスクリタが消滅した場所を見つめている。
「裕奈、大丈夫?…よくやったね、裕奈」
まなみが裕奈の肩に手をやると、少し俯き気味だが、小さく頷く。
「うん……スクリタ…あたし、あんたとは二度と戦いたくないよ…」


―――次元魔城。ウルムがじっと座りこんでいる。やがて、ゆっくりと目を見開いていく。
「ベルディスに続きスクリタ…お前も逝ってしまったか…。安心してくれ、
もうすぐ私もいくことになるだろう…だが、必ず…剣士たちを道連れにしてくる。
…必ずだ…!」
ウルムの左手に炎が浮かび上がり、それを剣に当てた。
剣は恨みがこもったかのように黒い炎をまとわせていった…。


次回予告
「裕奈だよ。スクリタ…最後はちょっと怖かったかな…」
「伊織です。まあ、あまり気にしないほうがいいよ、裕奈ちゃん。それよりも
まなみさん、ウルムさんと決闘するって本当ですか?」
「まなみです。本当だよ。あっちから決着をつけようって持ちかけてきたんだけど
なにか裏があったりしそう…二人も気をつけて」
「次回!『決闘!まなみ対ウルム』頑張ってね、まなみちゃん!」
「ウルム…私は、みんなのためにも、絶対にあなたに勝つ!」
155炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/02(火) 19:36:18 ID:BNeAk4Lq
投下完了。ベルディスに続いてスクリタさらば…

まなみとかのイラストも描いてみようかと
いろいろやってみてるんですけど、上手くいかないなぁ。
というかまともに描ききれてない。絵が上手い人尊敬しちゃいます
156創る名無しに見る名無し:2009/06/02(火) 19:36:47 ID:TDBQTCRM
157創る名無しに見る名無し:2009/06/02(火) 19:37:01 ID:gJIwKsZ2
>>146
投下お疲れ様
今度はスクリタも消えましたね

まなみの次はメタモルゲーマーズですね(笑)
158創る名無しに見る名無し:2009/06/02(火) 20:14:16 ID:ISRmk67g
>>155
投下乙でした。スクリタいつか復活したりするんだろうか
そんな気がする

>>157
最近催促レスよく見かけるけど全部あんた?
あまりそういうのはどうかと思うんだが。
他の作品投下直後に催促は尚更。なんか失礼だと思う
159創る名無しに見る名無し:2009/06/03(水) 18:47:58 ID:VN1UkQmd
>>147
投下乙
次元鬼は戦車に戦艦を所有しているのですね
それらを打ち破るまなみたちはすごい力の持ち主なのですね
160創る名無しに見る名無し:2009/06/03(水) 23:29:47 ID:7PXOUF/y
前回、星斬ってるからなw
161創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 21:18:19 ID:a4yLvCLe
GJ!もうすぐラストなのかぁ…

次回でウルドが消える前に…次元鬼三姉妹の絵…三姉妹がどんな姿なのか、ちょっと見たかったな…
162創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 20:26:41 ID:TNHtICwz
まなみもゲーマーズも楽しく読ませてもらってます。これからのストーリーも期待しています。
163創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 07:08:08 ID:MOxLvLfB
まとめサイトまなみ更新乙
164炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/09(火) 19:45:27 ID:auE1peJw
炎術剣士まなみ 第二十二話『決闘!まなみ対ウルム』

 ―――新堂家屋敷。まなみは庭で、木製人形相手に居合いの練習をしていた。
自身の実力を確かめ、気を高めるために。
カッと目を見開くと気合一閃、目にも止まらぬ速さで抜刀し、人形を真っ二つにする。
「ベルディスにスクリタが死んだとなれば、必ずウルムは最後の勝負を
仕掛けてくるはず…どんな手でくるかは知らないけど、いつでも来なさい!」

その様子を居間から裕奈と伊織が見ている。
「まなみちゃん、すごい気迫だねぇ…もぐもぐ」
「やっぱりウルムさんと戦うこと、考えてるのかな?…むぐ、もぐ」
二人はそんなことを話しながら、羊羹を食べていた。

まなみが一通り修練を終えると、タオルで汗を拭きながら視線を裕奈たちに移す。
「あっ羊羹、私にも頂戴よ」
「えぇ〜もう全部食べちゃったよ」
裕奈が困った顔しながら言う。しかし、明らかに口の周りが伊織より汚れている。
「裕奈!あんた、また私の分まで食べたでしょ!」
「ち、違うもん!おいしいからってまた手を出したりなんてしてないもん!…あ」

裕奈が口を滑らせると、まなみの額にいわゆる怒りマークが浮かび上がる。
「ゆ・う・なぁ〜!あんた少しは遠慮ってものはないのかなぁ〜?」
青ざめ後ずさる裕奈。
「ご、ご、ごめんまなみちゃん!謝るから…許してほしいな、ごめんちゃい!」

つい茶目っ気が出ながら謝る裕奈だったが、当然、悪ふざけのようにしか
まなみには聞こえず、裕奈のおでこにデコピンを炸裂させ、両手をはたく。
「つぅ〜…ほんとごめんって…」
おでこを押さえながら、軽く涙目でまなみを見る。
「ふん、食べ物の恨みは恐ろしいんだから…はっ!?」

喋っている最中に、嫌な気配を感じたまなみはサッと飛び退くと
まなみの立っていた位置に弓矢が突き刺さった!
「まなみさん!大丈夫?」
伊織が思わず身を乗り出す。まなみは少し息を吐き、矢を見つめる。
「大丈夫だよ伊織…手紙?」
165炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/09(火) 19:46:34 ID:auE1peJw
矢には手紙が結ばれていた。いわゆる矢文であろう。まなみがそれを解き
広げると、丁寧な字で何やら書いてある。
「これは…ウルムからだ!」
「ウルムから!?なんて書いてあるのまなみちゃん?」

まなみが手紙の内容を読み始める。そこには初めにまなみたちへの
恨み辛みが書いてあったが、三人は気にも留めず先へと読み進める。
次元鬼三姉妹の最後の一人として、まなみと決闘をしたいというものであった。

「明らかになんかあると思うなぁ…」
「私も。まなみさん、慎重になった方がいいかもしれないですよ…?」
しかしまなみは、二人の忠告を聞いても、既に自分の意志を決めていた。
「あっちから決闘しようっていうなら、受けて立つわよ…この前みたいに
三対三じゃない、一対一の真剣勝負…私が勝てば、それで次元鬼もおしまいなんだから。
二人も、手出し無用よ」

まなみの完全に固まった意志の前には、二人のどんな言葉も入らないだろう。
それが分かっているから、裕奈も伊織も心配だが本人の意志を尊重することに。
「分かったよ、まなみちゃん」
「でも、危ないと思ったら私たちも乱入しますからね」
「ありがとう、二人とも…来るならいつでも来なさい、ウルム!」


―――無人島の洞窟。ウルムは坐禅を組み、微動だにせず、石柱に向かい合ってる。
「……ぬんっ!!」
一瞬にして気を高め、それを放出する。一瞬の間の後、石柱は粉々に粉砕された。
「剣士ども…特にまなみ。貴様を倒すには生半可な方法では駄目だろう。
結局、貴様に勝つには正攻法しかあるまい…」

ウルムは剣士たちへの恨みを片時も忘れることなく、修行をしている。
今まで次元鬼が滅ぼしたり支配してきた世界は、そんなことをしなくても
次元鬼の圧勝は当たり前であった。しかし、地球は違った。

剣士という守護者がおり、次元鬼は幾度となく破れ、一度は勝利しても
すぐにまた逆転された。勝つには正攻法しかない…ウルムにとって、
このような修業は今まで不要だった。だがそれでは勝てない。
剣士を倒すためなら、どんなことでもやるつもりである。
166炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/09(火) 19:47:38 ID:auE1peJw
島の奥地にあった滝に向かってウルムが剣を振るうと、バサーンと大きな音を立てながら
滝が綺麗に縦に真っ二つとなる。そしてウルムは不敵な笑みを浮かべる。
「まなみ…私はお前を超えてみせるぞ…!」
ウルムの体内から気が放出されると、地響きがなりながら、周りの岩や植物が
揺れ、弾け飛んだ。

まなみもウルムも特訓を繰り返した。それはどちらも今までとは比べ物にならないほど
その戦闘力を高めていた。そして決闘当日…。


―――江ノ島。夏なら海水浴客などでいっぱいになる海も、北風吹きすさぶ
寒空の下では、人っ子一人いない。そこにまなみたちがやってきた。
「うわ、さむっ…!まなみちゃんも伊織ちゃんもよく平気だねぇ…へっくしゅ!」
裕奈がくしゃみをし、鼻水を垂らしながら二人のほうを見る。

「裕奈ちゃんも、まだまだ鍛錬が足りないね。これぐらい余裕なんだから」
伊織が明るく答えるが、彼女が来ている服は妙に膨らんでいた。
「本当に鍛錬の成果なのぉ?怪しいなぁ…」
裕奈がジト目で伊織を見据えると、唐突に伊織に掴みかかった!
「ちょ、ちょっと裕奈ちゃん!なにするの!?」

「こうするの!」
伊織が来ていたコートを無理やり剥ぐと、中から大量のカイロが落ち出てくる。
それを呆然と見つめるしかなかった伊織。そして裕奈はニヤニヤしている。
「伊織ちゃ〜ん?鍛錬とか全然関係ないじゃない」
「か、カイロ返して裕奈ちゃん!それないと寒すぎて…はっくしょん!」

伊織もくちゃみをし、裕奈と同じようにブルブルと震える。
「…まなみちゃんは本当に大丈夫そうだね」
ふと裕奈がまなみを見ると、震える様子すらなく、ジッと水平線の彼方を見つめていた。

「………来たっ!炎心変幻!!」
気配を察したまなみが変身し、刀を抜く。次の瞬間、水平線の彼方からまばゆい閃光が
走り、三発ほど破壊光弾が飛んでくる!まなみは冷静にそれらを斬り払った。
「…ウルム!」
上空からウルムがその姿を現し、ゆっくりと砂浜へと降下する。
167炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/09(火) 19:48:49 ID:auE1peJw
「まなみよ、よくぞ逃げ出さずに来たな」
「逃げるわけないでしょ。さあ、やるんでしょ?」
「ではあそこの高台へ移動しよう。ついてこい」
ウルムが飛び上がると、まなみは裕奈と伊織の方へ振り返る。
「二人とも、ここで待っててね。私、必ず勝ってくるから!」

そう言うと、まなみも高台へ向かって飛翔する。
「まなみちゃん…負けないでね!」
「ご武運を!まなみさん!」
二人の単純な言葉は、十分にまなみに力を与えた。

高台へ到着すると、お互い向かい合い、静かに刀を抜く。
そしてまなみが刀を構える。それに続いて、ウルムもゆったりとした構えを取る。
「…いくぞ!!」

先に動いたのはウルムだ。駆け出し、一瞬にして最高速へ到達すると
まなみへ斬りかかる!それをまなみは上手く防ぎ、鍔競り合いへと移行する。
「くっ!このぉ…!」
「まなみぃ!我ら次元鬼の恨み、その身で思い知るがいい!」
ウルムがまなみの態勢を崩し、強烈な蹴りをかまし、吹っ飛ばす。

「きゃあっ!…くっ、まだまだよ、炎流波!!」
「うおおっ!?」
なんとか受け身を取ったまなみは火炎光線をウルムに浴びせ、一旦距離を置く。
そして、足に炎の気を纏わせていく。
「火炎!流星キィィィィック!!」

破壊力絶大な必殺キックを、ウルムは寸でのところで避わし、再び斬りかかる。
今度はまなみも上手く対応し、急激に接近したかと思えば
離れ、またすぐに斬り結ぶ。どちらも隙なく動き、決め手に欠けていた。

「なかなかやるな、まなみ!」
「そっちこそね…!でも私は絶対に負けない!」
二人は空を駆けるように、空中で斬り合っていき、お互いの強烈な一撃が
ぶつかりあい、両者とも吹き飛ばされるが、すぐに構えなおす。
168炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/09(火) 19:49:52 ID:auE1peJw
しばらくどちらも押し黙り、睨み合うが、直後ウルムが口を開く。
「……ベルディスにスクリタ…そして今まで貴様ら剣士どもに倒されてきた
次元鬼…私は奴らの無念と憎悪の思いを背負っている。そしてそれが私を貴様にも
負けぬほどの力を与えてくれる!」

ウルムの言葉通り、確かにいつもよりもずっと強い。
本来ならば、例えウルムでもまなみはそう苦戦はしないからだ。
「ウルム、あなた初めて現れた時と比べるとだいぶ印象変わったわね。
でもそれなら、私だって裕奈に伊織、お母さん、武田さん…私を信じてくれてる
人たちの思いを背負ってる!私だって、負けるわけにはいかない!」

そして二人の気が最大にまで増幅されていく。いよいよ次の一撃で勝負が決まるか。
「まなみよ…これで貴様を殺す!」
「あなたたちのような者がいる限り、炎は死なない!はあぁぁぁぁっ!!」
刀に炎を纏わせ、ウルムに向かって駆け出す。
対するウルムも剣を怪しく発光させながら突進する。

ズバァァン!という大きな音を辺りに響かせながら、空中で交差しながら
お互いの一撃を斬り浴びせる。着地し、しばらく硬直する。
…次の瞬間、まなみは肩を押さえだした。ウルムの一撃をそこに浴びてしまったようだ。
「もらったぁ!まなみ、覚悟ぉぉぉ!!」
ウルムが身動き出来ないでいた、まなみにとどめを刺そうと飛びかかってくる!

だがしかし、直後ウルムは苦しみだした。まなみの空いていた左手に
脇差が握られ、それがウルムの腹部に突き刺さっていたのだ。
「ぐおぉぉ…ぐっ、だが、この程度では…私は倒れぬ!」
脇差を力任せに抜き取り、投げ捨てると、腕から破壊光線を発射する!
「炎流波!!」

まなみも負けじと炎流波で切り返す
お互いの光線技がぶつかり合い、綱引きのような状態が続いていく。
「くぅっ……!」
しかしまなみは、肩の傷の痛みで思うように力を発揮できないでいる。
「終わりだぁぁ!まなみぃぃ!!」
「絶対に…負けないんだからぁー!!うああぁぁぁぁ!!」
気力を振り絞り、炎の勢いを一瞬でも強め、ウルムの光線を押し戻していく!
「なっ!?ぐあぁぁぁぁ!!」
169炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/09(火) 19:51:05 ID:auE1peJw
自分の光線と憎き相手の炎が合わさり、ウルムの方へと反射される。
そして、避けることなど出来はせず、ウルムはそれを諸に浴び、膝をついた。
「ウルム……これで終わりよ!火炎!!真・破斬!!!」

天高く跳びあがり、火炎を纏った刀でウルムを頭から一気に斬り裂く!!
「うぐぅあぁぁぁぁぁ!!」
ウルムはその場で絶叫し、一瞬痙攣するとその場に仰向けに倒れた。
まなみはくるっと上空で回転しながら、ウルムの前に着地する。

「ウルム…」
「まな、み…貴様の勝ちだ……!だが、な…私が死んでも…次元鬼は
滅んだわけではない…!我らの偉大なる女帝フリッデ様がいる限り…」
「女帝フリッデ、ですって…!?」
まなみにとっては初めて聞く名だ。今まで三姉妹が次元鬼のトップだとばかり
思っていたからだ。

「ふふ、まだまだ恐怖はこれからだ…ぐっ、ぐほお!」
ウルムが吐血しだす。さすがに限界のようだ…。
「では、な…まなみ、地獄でお前を待っている、ぞ……!ぐふっ…」
言い残すと、ウルムは光を発し、消滅していった。


「女帝フリッデ…それが最後の、敵…!」
「まなみちゃ〜ん!!」
まなみが月を見つめながら呟いていると、そこに裕奈と伊織がやってくる。

「裕奈、伊織…」
「まなみさん、ウルムさんを倒したんですね!」
「これで次元鬼もおしまいってわけだね!やったじゃん!」
「二人とも…まだ戦いは終わってないよ…」
二人が喜んでいるが、言わないわけにはいかない。まなみはウルムの言葉を伝えた。
170炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/09(火) 19:52:23 ID:auE1peJw
「そんな…三姉妹で終わりではなかったということ…?」
「そう、次元鬼の長ともなれば、いったいどれだけの力を持っているのか・・・」
まなみと伊織の表情が曇りかけるが、裕奈は…。

「もう!二人とも暗いよぉ!どんな奴でもあたしらが頑張って戦って
倒すってのは変わらないじゃん!三姉妹倒した直後にこんな空気は嫌だよぉ」
裕奈が、ぷくっと膨れていると、思わず二人も笑みが零れる。

「あはは、そうだね裕奈ちゃん。まだ姿を見たわけでもないのに、いろいろ考えすぎちゃった」
「ごめん、私も不安になるような言い方して。私たちが力を合わせれば
どんな敵にだって絶対負けないんだから…!」
そうして、三人は家路へと着いていった…その表情はさらなる強敵にも
臆せず、戦うという強い意志があった。

―――次元魔城。いまだかつてないほど、その妖力は高まっていた。
フリッデは玉座に座り、頬杖をついている。
「次元鬼三姉妹、これで全員逝ってしまったか。まったく使えん者どもだ
…まあよい。かくなるうえは、我、自ら人間界に赴き、
人間どもに破壊と殺戮を与えてくれよう…」
次元魔城が最頂点に達した妖力に包まれ、次の瞬間、跡形もなく消え去った…!


次回予告
「次元鬼三姉妹も倒して、平和になったと思ったのにまだいるんだねぇ」
「ボヤいてもしょうがないわ、裕奈。私たちは戦うだけよ」
「まなみさん!裕奈ちゃん!東京に、次元鬼が大量に溢れてます!」
「さすがにここまでくるとえげつないことしてくるね…どうするのまなみちゃん?」
「決まってるでしょ、こういう時のお約束!次元鬼の本拠地に殴りこみよ!」
「次回は『破滅の序曲!次元魔城現る!』です。私たちは力の限り戦います!」
171炎術剣士まなみ ◆4EgbEhHCBs :2009/06/09(火) 19:56:22 ID:auE1peJw
まなみ二十二話投下完了です。
フリッデ自体は前から登場してるけど、まなみたちは
会ったことすらないので。次元鬼三姉妹、さらば…。

>>161
いまだに剣士三人娘すら描けてなくて…次元鬼三姉妹も
描きたいんですけど、まだまだ当分先のことになりそうです、ごめんなさい。
というか、まだほとんど絵の描き方を練習してるようなレベルですw
172創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 20:09:40 ID:Q0UtXNYW
>>164
投下乙
これで3姉妹とお別れですね
矢文で宣戦布告ですか、時代劇みたいだ
(矢文自体はシンケンジャーにも出ていた)
あと決戦の場所は江ノ島ですか
となると小田急や中央線に土地勘のある人ですね
これからの活躍を期待します
173創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 23:33:17 ID:2WH2kafO
投下乙!ついに次元鬼三姉妹も全滅か…敵なのに寂しいのう
まなみとウルムの戦いはどっちも引かずに互角でいい戦いだった
そして次回から最終決戦に移るのね。フリッデはどれだけ強いんだろ?
174創る名無しに見る名無し:2009/06/10(水) 20:39:26 ID:glRwrtpF
ゲーマーズを読み返しているとゲームの名前を微妙に変えているが
笑える、次はどんなゲームのパロディが出てくるのか期待している
175創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 23:54:57 ID:7CM+X5mx
まなみは侍、ゲーマーズはゲーム+パワードスーツ
オーガストは巫女とみんなその変身姿にモチーフ的なものがあるな。
動物をモチーフにした変身ヒロインとかどうか
…東京ミュウミュウがあるか
176創る名無しに見る名無し:2009/06/14(日) 18:27:36 ID:LTikxv5z
>>175
イラストがあればよいのだが
177創る名無しに見る名無し:2009/06/15(月) 20:29:40 ID:jCVEMTnM
ゲーマーズの続きが読みたい
178創る名無しに見る名無し:2009/06/16(火) 16:42:41 ID:YZ7At0iF
避難所よりレス代行
179レス代行:2009/06/16(火) 16:43:36 ID:YZ7At0iF
炎術剣士まなみ第二十三話投下します
180炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs:2009/06/16(火) 16:44:25 ID:YZ7At0iF
炎術剣士まなみ 第二十三話『破滅の序曲!次元魔城現る!』

 地球防衛隊特別病院の一室。そこに新堂悠美が窓の外を眺めている。
外には大きなもみの木があり、それを看護師たちが装飾し、クリスマスツリーへと
その姿を変えさせていた。病院に入院、通院するのは防衛隊員だけではなく
その身内も利用できるので、子どもも入院してるのだろう。

しばらくすると、ドアをノックする音が鳴り
ゆっくりと、ドアが開くとまなみが入ってくる。
「お母さん、今日も来たよ」
「まなみちゃん。毎日ありがとうね」
「いいんだよ、次元鬼は滅んだわけじゃないけど、ようやく余裕が出来たし」

まなみは持ってきた花を、花瓶に入れる。
「ごめんね、まなみちゃん。お母さん、こんな大怪我してなければ、
まなみちゃんたちに苦しい思いをさせずにすんだのに」
「もう、本当大丈夫だから気にしないで。私がここまで戦えてるのも
お母さんの特訓の賜物だからね」

その言葉を聞くと、悠美は不敵に笑う。
「あら、そうなの?じゃあ、退院したら、もっと厳しいやり方にしようかな?」
「ちょ…ちょっと、それは勘弁してぇ…」
「うふふ、冗談よ。それにね、お母さんが、まなみちゃんに教えることは
もう無いかな…お母さんがいなくても立派に戦えるようになったし」
そう言った悠美は、どこか、寂しさを漂わせていた。


―――六本木。裕奈と伊織がふらふらと街を散策していた。
「裕奈ちゃん、遊んでていいのかな?まだ次元鬼は滅んだわけじゃないのに」
「だって、本拠地がどこの空間にあるのか分からないんじゃこっちから
攻めようがないじゃない。だったら、あっちから仕掛けてくるまで
あたしらは気力を溜めとかないと!」
伊織が心配そうな目つきで聞くが、裕奈はにこにこと微笑みながら答える。
181炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs:2009/06/16(火) 16:45:12 ID:YZ7At0iF
「まあ、それもそうなんだけどね」
「だからぁ、どんどん遊ぼうよ!次はクレープ食べに行こ!」
「裕奈ちゃんは本当、よく食べるね。…でも私達、女同士でなんだか寂しくない…?」
伊織がそのことを口にすると、裕奈はショックを受けたかのような表情に。
「う…そういうこと言っちゃやだよ、伊織ちゃん…まなみちゃんは武田さんがいるしね…」

はぁっ、とため息を吐く二人。と、その時であった!突然轟音があたりに響きだす。
「うわっ!?なんなのいったい!?」
「ゆ、裕奈ちゃん!あれ見て!」
伊織が指さした方角には東京タワー。しかし、それが揺れながら、ガラガラと
崩れ、倒れていく。そして、そこには東京タワーの代わりに、
巨大な禍々しい雰囲気を漂わせた、黒き城がそびえ立っていた。

放送機関はタワーが破壊されたため、その放送体制をサブの電波塔や
衛星放送に切り替えて、現在の状況を各所に伝える。
「今朝、突如現れた、この黒い建造物が、東京タワーを破壊しながら現れました」
キャスターは、物怖じせずにそう言うと、カメラの方に向いたまま
城へと向かっていく。すると、中から影が向かってくる。

「あっ!中から誰か出てくるようです…!」
カメラを向けさせ、キャスターも覗き込むようにしていると、黒い影は
次の瞬間、カメラに向かって飛びかかった!
「うわぁっ!?た、助けてくれー!」
突然の攻撃にカメラマンは悲鳴を上げながら助けを求めるが、キャスターや
他のスタッフもいつの間にか、別の影…いや、次元鬼に襲われていた・

さらに、城からは次々と次元鬼が現れ、街へと向かっていく。
「うああ!…て、テレビをご覧の皆さん!私たちはここまでのようです!
ああっ!なんとか、捕まらないように逃げ出してください!そ、それではさようならぁ!」
そのキャスターの一言を残して、映像は途切れてしまう。

放送はスタジオに戻るかと思われたが、次に切り替わり映し出されたのは角を生やし、
玉座に座った黒い服装の女性の姿であった。それは不敵に笑いだす。
「人間どもよ、どうだ面白かったか?あの殺戮がこれから、時と場所を選ばず
行われることになる。我は女帝フリッデ。次元鬼の長だ。次元鬼三姉妹は
倒れたが、我がいる限り、次元鬼の侵攻は終わらないのだ」
182炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs:2009/06/16(火) 16:45:57 ID:YZ7At0iF
淡々と述べると、最後に一言付け加える。
「貴様ら人間どもは、頼りにしてる剣士の小娘どもが我を倒すと思っているだろうが
期待しない方がよいぞ?あやつらなど我にとっては屑同然なのだからな。そして、
この次元魔城は難攻不落だ。剣士どもでは近づくことさえできまい。ふはははは!!」
高笑いしながら、映像は消えていき、フリッデの姿は見えなくなった。


放送後、病院のテレビでその放送を見ていたまなみは、立ち上がる。
「まなみちゃん…行くのね?」
「お母さん…次元鬼がここまで大胆な行動に出るとは思わなったわ。
だったら急がないと、どんどん犠牲になってく人が増えちゃう…そんなの
黙って見過ごすわけにはいかないから!」
まなみは病室から出ると、大急ぎで、外に駐車してあった自分のバイクに乗りこむ。

「炎心変幻!!」
バイクで駆け抜けながら、剣士の姿へと変身し、現場へと急ぐ。
芝公園に到着すると、すでに辺りは次元鬼だらけで、まなみは斬り払いながら突き進む。
「まなみちゃん!」
すでに裕奈と伊織も変身し、大量の次元鬼と戦っていた。

「裕奈、伊織!二人とも大丈夫?」
「はい、なんとか。この次元鬼たち…大したことはないですけど、さすがに多すぎます…」
伊織の言う通り、三人の周りを囲む次元鬼たちは文字通り数え切れないほどで
街の風景も、すべて次元鬼の影へと変わっている。

三人は次元鬼に反撃する隙を与えないように、次々と斬り倒していく。
しかし、さすがに多勢に無勢。次元魔城に近づくことさえ叶わない。
「くっ、キリがない!」
「このままじゃ、次元鬼の城にも近づけないよ」
三人が手をこまねいていると、突然、まなみの背後にいた次元鬼が吹き飛ばされ
波を描きながらバタバタと倒れていく。

三人が振り向くと、そこにいたのは…!
「武田さん!」
防衛軍の巨大ロボ軍団である!中心に武田の搭乗しているロボが腕を組んでいた。
「まなみさん!雑魚どもは僕らに任せて、皆さんはあの城へ!」
まなみが二人と目を合わせ頷くと、進路上の邪魔になってる次元鬼を
斬り倒しながら、進んでいく。
183炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs:2009/06/16(火) 16:46:43 ID:YZ7At0iF
「さあ、次元鬼ども!我々地球防衛軍の新型ロボ軍団が相手だぜ!
ガードバスターで蹴散らしてやる!」
勇ましく叫ぶと、ファイティングポーズを取る武田のガードバスター。
それに続いて、他のロボも構えを取り、次元鬼を蹴散らしていく。


―――次元魔城門前。ついにたどり着いた敵の本拠地を前に、
まなみは二人に語りかける。
「裕奈、伊織、次元鬼の本拠地よ…覚悟はいい?」
「まなみちゃん、何を今更って感じだよ」
「そうですよ。私たちはいつまでも三人一緒。生きるも…死ぬも…!」

まなみは静かに頷く。
「そうだね…ありがとう二人とも。…それじゃあ、いくわよ!!」
まなみが、門を蹴破り、城内へと駆け出すと、裕奈と伊織もそれに続く。

城内も案の定、次元鬼が満ち溢れていたが、三人はそれを物ともせず、
それぞれの術や剣術で、倒していく。
「まったく、どいつもこいつも!」
「往生際が、悪いんだから!」
「死にたい者は出てきなさい!いくらでも相手になります!」

戦いは続き、しばらくすると、三人の周りには倒された次元鬼たちが
大量に転がっていた。無論、三人は無傷である。
「ふぅ…ようやく落ち着いたわね」
「さあ、急いでフリッデとかいう奴のとこに行かなきゃ!」
裕奈が城の奥へ進み、まなみも同じく進む。だが、伊織はその前に
倒れた次元鬼に向かって合掌する。

「ごめんなさいね、私たちも負けるわけにはいかないの。
…さようなら、心を蝕まれた者たち…」
言い残すと、二度と振り返らずに、まなみたちの後へと続く。
184炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs:2009/06/16(火) 16:47:32 ID:YZ7At0iF
三人は城の最上階を目指そうと、階段を上っていくが、連続で階段があるわけではなく
三人はそれを探している。裕奈は、木で作られた扉を開け、部屋へと入る。
「ここは…誰かの部屋?」
裕奈が部屋の中を見渡すと、そこには三つベッドがあり、壁には武器が
掛けられ、他にも数々の実験道具なども置いてある。

そしてふと、机を見ると、そこには日記と思われる本が置いてある。
裕奈は好奇心のあまり、それを開く。
「これ…次元鬼三姉妹の日記…!?じゃあ、ここは三姉妹の部屋?」
日記には、三姉妹の日々の出来事はもちろん、剣士についても書いてある。

初めて地球侵略した日に、まなみが現れたこと。さらに裕奈や伊織と
剣士が増えたこと。悠美を洗脳し、まなみと戦わせるが、失敗したこと。
海での戦いでも負けたこと。戦艦を沈められ、もう対策がなかったこと。
驚異的なパワーアップを果たすが、結局剣士も力をつけ逆転されたこと。
ベルディス、スクリタが死んだこと…。

そこで日記は終わっている。ウルムがまなみに敗れ、死亡したため
日記をつけるものがいなくなったからだろう。裕奈は日記を持つ手が震えていた。
「あいつら…フリッデとかいう奴にいい様に利用されていただけなのに…
絶対に許さないよ、女帝フリッデ…あたしらがギタギタにしてやるんだから!」
裕奈は決意を改め、部屋から出る。


三人はようやく、次のフロアへの階段を見つけ、それを上ると、
ただっ広い部屋に出た。そこはまるで闘技場のようである。
「随分と大きいとこに出たわね…二人とも、気を付けて」
「ええ…むっ、そこぉ!」
気配を察知した伊織が手裏剣を、そこへ投げつける。
グサっと刺さった音がはっきりと聞こえた。…しかし、倒れる音は聞こえてこない。

「…何も出てきませんね…手応えはあったんですけど」
伊織が首を傾げていると、今度は背後にその気配が感じ取られる。
「水撃砲!!」
裕奈が水流を気配のする方へ飛ばすが、それは突然消え失せる。
185炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs:2009/06/16(火) 16:48:17 ID:YZ7At0iF
その気はひとつだったものが二つ、三つと増えていく。
そして彼女らの前にその姿を現した!猿のような頭に、毛むくじゃらの胴体、
虎の手足に、尻尾は二本の蛇。それはまるで―――

「…鵺?」
「鵺?鵺ってなぁに?」
「裕奈ちゃんは何も知らないのね…鵺っていうのは、簡単に言えば、
いろんな動物が合体した魔物だよ」
伊織がやれやれといった感じに裕奈に説明する。

「二人とも、あっちはやる気満々みたいよ…!」
三体の鵺は涎を垂らしながら、グルルルと低く唸り声を上げる。そしてさらに
同時に瞳が光ったかと思うと、次の瞬間、鵺たちは半透明になり
重なり合っていく。瞬間、眩い光が発せられたかと思うと、次には巨大化していた!

「元々合体してるのが、さらに合体したってわけ?裕奈、伊織、いくよ!」
まなみの掛け声に応じ、全員同時に飛びかかっていく。
「火炎流星キィィィック!!」
「水迅疾風拳!!」
「雷神掌!!」
それぞれ、得意の格闘技を放つが、尻尾の一振りで、弾き返されてしまう。

さらに、その巨大な口から垂れる涎は溶解液となり、辺りを腐食させ、
火炎まで吐き、三人はなんとかギリギリで回避していくが
隙が出来たところを、尻尾の蛇から追い撃ちの光線が放たれる。

「くぅぅ!…裕奈、伊織、大丈夫?」
「な、なんとか…こんなとこで足止めを食らってる場合じゃないのに…」
「この鵺の弱点を早く見つけないと…」

しかし、三人が対策を練る暇を鵺は与えない。その各所から攻撃で
三人は防御と回避で精一杯な状態である。勝機を見出すことは出来るのだろうか…?


次回予告
「次元鬼の切り札であった鵺を相手に戦う三剣士。
そしてついに剣士の前に姿を現した最後の敵、女帝フリッデ。その圧倒的な力の前に
剣士は傷つき倒れていく…希望の力は絶えてしまうのか?
次回『戦慄の女帝!剣士敗れたり』闇が地球を飲みこもうとしている…」
186炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs:2009/06/16(火) 16:49:03 ID:YZ7At0iF
今回は規制されてるので、レス代理の人に頼んで投下しました。
次回を入れて、まなみもあと、残り二話です。
ちょっと書いてて寂しくなってきたり…。

>>176
すみません、キャラ絵はやっぱ最終回辺りでも
出来てないと思うです…絵描き始めたのが遅すぎた。



代行終了!
187創る名無しに見る名無し:2009/06/16(火) 18:53:15 ID:EX+84n6B
投下乙です!代理さんも乙!
残り2話か…なんとも感慨深いですなぁ…
最終決戦らしく敵もてんこもりで残りの話も期待。
188創る名無しに見る名無し:2009/06/16(火) 19:18:35 ID:t7HIW4fa
>>178
投下乙
残りの話も期待しています
まなみが終わっても新作をよろしく
189創る名無しに見る名無し:2009/06/16(火) 23:40:29 ID:F9i864dQ
投下乙です〜あと二回か…寂しくなるなぁ
それにしても鵺を出すとはなかなか渋いですな

>>188
こう、新作を期待したくなるのはわかるんだが
なんか要求っぽいからそう言うのは止めた方がいいと思うんだ
190創る名無しに見る名無し:2009/06/18(木) 07:04:27 ID:c2AosEXe
投下の前に、皆様に謝らねばならないことが3つあります。



1.中途半端なところで話を切った癖に、続きを書くのに一月近くかかったこと

2.しかもその理由が最近出た某ゲームにハマっていたからということ

3.前回で「鉄塔」と書いてしまったが、どう見てもコンクリート製です本当に(ry



それではゲーマーズ第六話、始まり始まり〜
  ◎GAMER'S FILE No.5
  『田宮昌子(たみやしょうこ)』18歳
   高偏差値の某公立高校に通う現役女子高生。
   得意なゲームジャンルはパズル及びウォーシミュレーション。
   学力に優れた優等生で、容姿も三つ編みメガネという生真面目な物だが、
   実はコスプレが趣味で、特に金色ツインテールのカツラを被ると性格が豹変する。
   本人はあくまで真面目な優等生というイメージを維持したいらしく、
   自分の趣味を周囲に知られることを極端に恐れている模様。
   余談だが、ゲーマーズの中では珍しいリセット否定主義者である。

   装着アーマーは多機能レーダーと最新の兵装を搭載した『G・パズラー』で、
   アンチャーとの交戦時には、チームの司令塔を担当する。


  ☆前回のあらすじ
  ゲーマーズは自分達の弱点を補うために向かった道場で、
  田宮昌子(たみやしょうこ)というメガネっ子ゲーマーに出会う。
  彼女はゲーマーズに積極的にアプローチをかけ、自ら仲間になることを望む。
  しかし昌子は内心では本当に仲間になるつもりなど毛頭無く、
  変身アイテムを騙し取ると、『G・パズラー』となって襲い掛かってきた!
  そう、彼女の正体は、悪の金髪大魔王だったのだ!!


「さぁ愚民ども、前作からのデータの引継ぎは完了なさったかしらっ?」
「終わったけど、なんで今時パスワード制なんだよ!」
「……しかも……キーボード使えないコマンド入力……」
「二回も入力ミスしてやり直しするハメになったよ……」
「パスワード解析して最強データ作ってもええか?」

格闘ゲーマーの佳奈美。
シューターの亜理紗。
レースゲーマーの千里。
アクションゲーマーの八重花。
そして、パズラー兼SRPGマニアの昌子。

十人十色のゲーマーが一堂に会しただけあって色々とギャーギャーうるさいが、
それはともかく無事に準備が完了したようなのでそろそろ本題に入ろう。

「それでは改めてもう一度宣言しておきますけど、
 わたくしの秘密を知ったあなたがたには消えていただきます!」

そう言ってG・パズラーに変身した昌子が前傾姿勢となったので、
それを見た千里は慌てて両手を振る。

「あ、あかんて! 暴力で物事を解決しようとするのは良くないで!」
「脅迫で解決しようとなさってた貴方たちに言われたくはありません!!」

千里の偽善的平和主義な提案を歯牙にもかけず、昌子は猛スピードのダッシュを開始する!
ゲーマーズ達は未だ変身前である、絶体絶命……!

……と思いきや。

「わたくしを仲間にしたいのなら、捕まえて『説得』してみることね!」

ゲーマーズの下へは向かわず、電波塔のヘリに飛び乗っていた昌子は、
それだけ言い残すと、あっという間に電波塔の屋上まで登っていってしまった。

ちなみに彼女の言う『説得』とは、ファイターエムブレムの特徴の一つで、
特定のキャラクターで敵ユニットと隣接して『説得』コマンドを実行することで、
その敵を自軍の仲間に加えることが出来るというシステムである。
「…………どーする?」
「…………そりゃ、昌子さん追うべき……なのかなぁ?」
「…………正直……相手にするの、めんどい……」
「…………とりあえず変身しよか?」

『『『『プレイ・メタモル!!!』』』』

なんかもう、色んな意味で鬱陶しい昌子の相手にウンザリしつつも、
放置する訳にもいかないので、ゲーマーズはアーマーをまとって変身する。

「まぁええわ、ウチがちゃっちゃと登って『説得』して来たるわ」

言うが早いか、千里はマシンをバイクに変形させ、
コンクリートで出来た電波塔の階段を華麗なテクニックで登っていく。
二輪で階段を登るというだけでも常人にはまず不可能だが、
その速度がほぼ最高速で維持されているというのだから驚きだ。
ライン取りが的確で無駄が無いのも相まって、あっという間に電波塔を上り詰めていく。

「へー、千里の技ってあんま見たことなかったけど、すごいじゃない」
「……千里は……バカそうだからよく誤解される……」
「バカって言うなーーーっ、アホって言えやーーーっ!!」

余所見して亜理紗に突っ込みつつも、どんどん屋上に近づいていく千里だったが……。


(カチッ)

(チュドォーーーーーン!!!)


「な、なんだぁ!?」

千里の動向を見守っていた佳奈美達は、思わず声をあげる。
突然、千里の足元が爆発したのだ。
哀れ千里は宙に放り出され、黒焦げとなって脇を流れるドブ川に墜落する。

『おーーーっほっほっほ、言い忘れてましたけど、
 この塔にはG・パズラーの能力でトラップを仕掛けまくっておきましたわ!
 ゆめゆめ一気に突っ切ろうなどと考えず、ビクビクしながら一歩ずつ慎重に登ることね!!』

電波塔のてっぺんから拡声器片手に勝ち誇る昌子。
爆発の原因が彼女の仕掛けた地雷と知り、ゲーマーズも即座に反省会を始める。

「トラップか……千里は最短ルートを一直線に走るから、絶好のカモだな」
「……バナナだったら……キャンセルできたのに……」
「どっちにしろカーブ中だったから無理でしょ」
「お、おまえら……ちぃとはウチの身を心配せんかいっ!!」

ドブ川から必死に這い上がって来た千里が文句を言う。

「まぁまぁ、千里のおかげで敵の手の内が分かったんだから」
「……千里……大儀であった……」
「うん、敵の出方も分かったところで全員で突入しようよ」
「それなら先頭の露払いはあたしに任せな。
 トラップを全部ジャストガード、もしくはその場回避して無力化してやるよ」
「あー、後は頼んだで。ウチの犠牲を無駄にせんといてな」

満身創痍の千里を後に残し、三人は電波塔を登り始める。
作戦通り佳奈美が道を切り開き、亜理紗と八重花が後に続く。
慎重に油断無く歩みを進める佳奈美だったが……。
(カチッ)
「あ」

トラップを見抜くスキルを持っているわけではない佳奈美は、
あっさりと仕掛けを作動させてしまい、一気にトラップ群が襲い掛かってくる。

(ピュウ!)
「おらぁっ!!」

(ジャキン!)
「せいっ!!」

(ドガガッ!)
「だりゃぁっ!!」

放たれる矢、飛び出す槍、飛来する石つぶての群れ。
己を狙ったその攻撃を、しかし佳奈美は全て正確に弾き、かわす。

「よっしゃ、どんなもんだ!」
「できれば……後ろの方に流さないようにしてくれると助かるんだけどなぁー」
「……露払いの……意味ない……」
「やー、悪い悪い!」

佳奈美が防いだトラップの一部はそのまま後方の八重花や亜理紗の元へ飛んでいってるのだ。
何とか全てかわして事なきを得てはいるものの……。
ともあれ、そうして進むうちに階段が一旦途切れ、少し開けたフロアに出るが、
未だトラップの猛攻は一向に止む気配が無い。
だがそれでも佳奈美は全く怯まずにトラップを迎撃し続けた。

「へっ、こんなもんか!? この程度の攻撃じゃあたしを傷つけることは――」


(ガシャァーーーン!!)


「……あれ?」

佳奈美が他のトラップに気を取られてる隙を突いて、
上から降ってきた鉄格子が、あっさりと佳奈美の四方を塞いだのだ。
少々思索すると、鉄格子に向かって思いっきり蹴りを入れてみる佳奈美。
……が、超合金で出来た鉄格子はそんなことではびくともしない。
仕方ないので、佳奈美は両手を腰に当ててふんぞり返ることにする。

「……どうだ、傷つけられてはいないぞ!」
「威張ることじゃないでしょーーー!!」
『おーっほっほ、なんておマヌケなのかしら!
 眼前のトラップにしか対処できないなんて、イノシシと同じね!』

どこから見ているのか、壁に取り付けられたスピーカーから昌子の声が流れる。

「……やっぱり……正面突破は、無理……?」
「仕方ない、亜理紗はここで佳奈美と一緒に待っててよ。
 後は身の軽いあたしが、一人で行ける所まで行ってみる」

軽く身体を動かして自機感覚を確かめながらそう言う八重花。
そんな八重花を、亜理紗が呼び止める。

「……待って……」
「え?」
「……1つ……アイデアがある……」

八重花は、ぶっすーと音が聞こえそうなほど頬を膨らませていた。
それもそのはず、彼女の小さな背中には、
短銃をくるくる回す亜理紗が、涼しい顔でどっかりと居座っているのだ。

「……八重花が避けて、私が撃つ……完璧な分業プレイ……」
「っくぅぅ、どうしていつもいつもあたしが割りを食うのよ!
 がんばれロクエモンやる時でもいつも背負う側だったしぃー!」

八重花には兄と妹が居るのだが、
協力プレイをする際には兄にはいつも背負う役を押し付けられ、
妹の方もだだを捏ねるので、結局は八重花が折れて下になるハメになるのだ。

「……どんな高難易度でもベストを尽くす……それがゲーマー……」
「んもーっ、分かったわよ! やればいいんでしょやれば!」

半ばヤケクソで、亜理紗を乗せて階段を駆け登る八重花。
それを察知したトラップ群が、二人を狙う!

「あそこっ!!」
「……(ガァン、ガガガァン!!)……」
「おっと、危ない危ない」

八重花がトラップの場所を察知し、亜理紗がそれを撃ち抜いて破壊する。
僅かに撃ち漏らしたトラップも、八重花が軽い身のこなしでかわしていく。
即興の思いつきにしては、なかなかのコンビネーションだ。
そうして低身長コンビは、いくつものフロアを制して上の階へ登っていく。
昌子の待つ屋上フロアまであと少し……。

『コンビプレイで突破とは、なかなかやりますわね!
 だけど、この城塞ミッドガルドはそう簡単には攻略できなくてよ!』

ただの電波塔に大層な名前をつけた昌子の声がスピーカーから響くと同時に、
どこから調達したのか、なんと巨大な丸太の群れが八重花達に向かってくるではないか!

「げぇーーーっ!!?」
「……あれは……銃撃で止めるのは無理……」

慌ててフロアから脱出して下り階段に逃げ戻る八重花達だが、
待ち構えていた落石トラップが、彼女達の背中を焦がす。
何とか逃げ切れるかと思えば、いつの間にか逃走先に針山が敷き詰められている。
……逃げ場が無い。

『おーーーっほっほっほっほ、絶望しなさい!!
 連鎖、連鎖! トラップのだ〜い連鎖ですわ〜〜〜!!』
「こなくそーーーっ!!」

背に腹は変えられないとばかりに、
八重花は自ら電波塔から飛び出し、宙にその身を投げ出した。
転がる落石は針山に直撃し、砕け散る。
なんとかトラップからは逃れられたものの、このままでは地上に墜落してしまう。

「んがっ!!」

八重花が咄嗟に階段の淵に掴まったため、二人は何とか落下を免れる。

「……八重花……クライミングゲームも得意なの……?」
「違うわよっ、落下死ゲーは崖捕まりのスキルが死亡率に直結すんのよ!!」
『んまっ、今の大連鎖で生き残るとは生意気な!
 ならこれでも食らうとよろしくてよっ!!』
(ドグワァァァーーーン!!)


「んなっ!?」

八重花達から見て少し上の辺り、
電波塔の外壁を覆うコンクリートの壁が、内側からの爆破によってふっとばされたのだ。
木っ端微塵になった元壁は、落石物となって八重花達に襲い掛かる……!

「こ……こうなったらアクションゲーマーの底力、見せてあげるわよっ!!」
「……何……する気……?」

八重花は素早く階段によじ登ると、地を蹴り、再び宙に飛び出す。
そしてなんと、八重花は亜理紗をその背に負ったまま、
落下する瓦礫を足場にして、ぴょんぴょんと上に登り始めたではないか!

「田宮昌子! このまま貴方のところまで、一気に行かせて貰うわ!!」

瓦礫の落下よりも早いスピードで、どんどん高く上り詰めていく八重花。
しかし当然だが、登るに連れて瓦礫の足場もどんどん少なくなっていく。

「まだまだぁ!! ここが勝負どころよっ!!」

最後の瓦礫を、全身全霊を込めて蹴り飛ばす八重花。
全力のジャンプで二人の身体はぐんぐんと上昇し、屋上は目前だ。
しかし……僅かに届きそうで届かない。

「くっ……あとちょっとなのにっ!」
「……八重花……あなたのことは、忘れない……」
「は?」

亜理紗はぐいっと八重花の肩に足をかけると、
そのまま八重花を足場として踏み捨て、昌子の居る屋上まで飛び移ったのだ。
哀れ、踏み台にされた八重花はまっさかさまに落下していく。

「あ、亜理紗……覚えてなさいよぉー!!」

八重花の声が聞こえたが、振り返ることはせず、
亜理紗は真っ直ぐにそこに佇む敵を見据える。

そう、そこには腕を組んで待ち構えていた昌子の姿があった。

「仲間を犠牲にしてここまでやってきたのね……。
 ……いいえ、わたくしはあなたを責めたりしませんわ。
 時として、勝利のためには涙を呑んで大切な仲間すら犠牲にする必要もあります!
 非情采配とそしられようとも、皆のため、決して負けるわけには行かないのです!
 ユリアン、ヒグマ、デューガ……貴方たちの犠牲は、決して無駄には致しませんわっ!!」

大仰な科白を述べている内にすっかり自分の世界に突入してしまった昌子に対し、
亜理紗は面倒くさそうに銃口を向ける。
が、昌子は慌てた様子も無く、ちっちっちっと指を振る。

「おおっと、短気はいけませんわ。
 この辺りにはね、事前に可燃性のガスが散布されているの。
 火器なんて使おうものなら、あなたの身体は一瞬で丸焦げですわよ!」
「……なるほどね……」

鼻を鳴らして昌子の言葉が嘘でないことを確認し、手持ちの銃を捨てる亜理紗。
ちなみに今撒かれているガスは人体には無害という都合のいいものなので、
良い子は生身でガスを吸引してみたりしないように注意して欲しい。
作戦がピタリとハマったことに気を良くした昌子は、
腰からレイピアを抜き放ち、亜理紗に向かって突きつける。

「ふふっ、銃の使えないあなたなど恐れるに足らず!
 このカラリーネ自ら、成敗して差し上げますわ! 覚悟っ!」

レイピアを高く振り上げ、亜理紗に突進する昌子だが……。


(ボガァッ!!)


「はぁん!?」

実にあっさりと、素手の亜理紗に殴り返されたのだ。

「くっ、よくもこのわたくしの顔に傷を……ぐぇっ!!」

狼狽する昌子を、亜理紗は更に蹴り飛ばす。
さらには倒れた昌子に、馬乗りになって殴打を開始する。

「はぐっ!! ……ちょ、ちょっとお待ちに……げぇっ!!」

昌子の言葉を意にも介さず、無表情の亜理紗はひたすら昌子を殴り続ける。
何とか逃げ出そうとじたばたする昌子だが、一向に逃れることが出来ない。

これは亜理紗が強いのではない。
昌子の方が弱すぎるのだ。
何故なら昌子は思考系ゲームばかりプレイしてきたため、
反射神経を始めとした、直接戦闘に必要なスキルが全く育っていないのだ。

「おぶっ!! ……お、落ち着きなさい、バイオレンスは人気下がる……おぇっ!!
 ……あ、あなたはわたくしを『説得』に参ったのではないのですか!? ……ひぇっ!!」
「……みんなの……カタキ……」

もはやどっちが『説得』してるのか分からない状況だが、
とかく昌子は必死に亜理紗に語りかけ、亜理紗は淡々と昌子を殴り続ける。

その時……。

「はいはい、ストップや亜理紗。こっちは全員無事やで」
「……千里……佳奈美……! ……ついでに八重花……」
「ついで扱いすんなっ!」

ゲーマーズの面々が、千里操るバイクに三人乗りで現れたのだ。

「そろそろトラップ除去完了したころかなぁ思て、
 登ってきてみたらヤエちゃんが空から降ってくるんやもん、えらいビビったわ」
「亜理紗、さっきはよくも人をゴッシーのごとく乗り捨ててくれたわね!!」
「……佳奈美はどうやって鉄格子から……?」
「さっきの爆発の衝撃で鉄格子が傾いてさ。そんで隙間から出れた」
「それをウチが拾って、一気にここまで駆けあがって来たわけや」
「……でも良かった……あの状況でも千里と佳奈美が無事で……」
「えっ、あたしが一番危なかったんだけど!?」

八重花の突っ込みを無視して、佳奈美達に駆け寄る亜理紗。
その為に解放された形になった昌子だが、
未だ屈するつもりは無いらしく、ダメージの残る身体に鞭打って立ち上がる。
「くっ……わたくしは腐っても戦場貴族のカラリーネ!!
 いくら多勢に無勢でも、貴族の誇りにかけて貴方がたに屈したりは――あっ!!」
「隙ありィ! いただきや!」

こっそり背後に回っていた千里が、昌子の金髪のカツラを奪い取ったのだ。
その下からは、真面目っ子の象徴である黒い三つ編みが露わになる。

「かっ、返しな……! ……い、いえっ、返して……ください……」

さっきまでの威勢はどこへやら、昌子の声は一気にトーンダウンし、
立ち振る舞いも、小動物のようにビクビクオドオドしたものへと一変する。

「へっへー、流石にこのカツラ抜きでのロールプレイは恥ずかしいんやな」
「ロールプレイ? RPGのことか?」
「違うよ。平たく言えば、なりきりごっこのこと」
「……最近のRPGは……ロールプレイ要素が薄い……」

ダベるゲーマーズ達を他所に、
昌子は所在なさげに目を泳がせるばかりだ。

「……そ、その……ご、ごめんなさいっ!!」

昌子は変身を解除するとゲーマーズにブレスレットを差し出し、
間髪入れずに地面に頭を擦り付ける。

「こ、こんなつもりじゃなかったんです!
 すみません、ごめんなさい、許してくださいっ!
 どうか、私がゲーマーだってことを周囲に公表するのだけは勘弁してください!!」
「え、えっと……」

あまりにも昌子の様子が切実なので、
ゲーマーズ達にも罪の意識が芽生えてきたようだ。

「……いや、あたし達こそ昌子に謝らなくちゃいけないよ。
 そんなに気に病んでることを脅迫の道具に使ったりしてさ」
「あー……せやな。いくら仲間を増やすためとはいえ、ちょっとやりすぎやったわ」
「しょ、昌子さん……ごめんなさいっ!」
「……ごめんなさい……」
「みなさん……ありがとうございます……」

揃って頭を下げる4人。
おかげで昌子のほうも気持ちがほぐれてきたようだ。

「それはそうと、何でゲーマーっちゅーのをそんなに隠したいんや?」
「……家の両親……とても私に期待していて……。
 沢山勉強して偉い人になれって、口癖のように言うんです……。
 ゲームで遊んでばっかりの人にはなっちゃいけないよ、って……」
「うわぁ……耳が痛い……」
「でも両親のことは大好きだから、その期待に答えるように頑張っていたんです。
 そんな私だから、遊びといえば、たまにお爺ちゃんとする将棋や、パズルゲームぐらいで……」
「……そっかー、いいんちょは立派やなー。それに比べたらウチは……」

「でもある時……学業のストレスから、あるゲームに夢中になってしまったんです……」
「それがファイターエムブレムだったのか」
「そ、そうです……パッケージのカッコイイ男性キャラクターに惹かれて、つい衝動買いを……」
「そんでそれを切っ掛けに、今度はシミュレーションゲーム自体にハマってしもうたワケやな」
「分かる、分かります! 真面目に生活してると、その反動でゲームにハマってしまうんですよね!」
「ヤエカのどこがどう真面目なんだよ」
「子供の頃はとっても真面目な子だったの!!」
「はいはい」
「……じゃあ……さっきのコスプレも……」
「は、はい……ファイエムの世界観に浸りたい気持ちが強すぎて、
 気が付いたらリアルロールプレイにまで手を出してしまって……」
「ウチは元ネタ知らんけど、高笑いとかしはってエラい没入ぶりやったね」
「は、恥ずかしながら私……キャラクターに成り切ると、
 つい気が大きくなって高飛車になってしまう悪癖があるんです……」
「じゃあG・パズラーに変身した時にそのカツラ被ったのも?」
「はい……私は気が弱いので、まともに戦える自信が無くて……。
 なのでカラリーネに成りきれば、強気で戦えると思ったんですけど……」
「……強気というか……横柄……」

昌子はここで一旦話を切り、改めてゲーマーズに向き直った。
その瞳は少々震えながらも、何か強い決意が見て取れる。

「ほ、本当は、私……あなた達メタモルゲーマーズに憧れていたんです!」
「なんだって? じゃあ街で会った時は何であんな態度だったんだ?」
「そ、それは、その……私の体面上、あの街中で正直な気持ちを伝えることは出来なくて……」
「なるほど、だからゲームの名台詞を使ってウチらを試したわけやな」
「……八重花以上の……ツンデレ……」
「だから人を引き合いに……というかあたしってツンデレ扱いなの!?」
「あ、あの時の無礼を詫びるためなら何でもします……。
 だからおねがいです……私も、メタモルゲーマーズとして一緒に戦わせてください!!」
「いいよ」
「あっさりだなー。賛成だけど」
「だって最初からそのつもりだっただろ?」
「……戦力的には……申し分ないと思う……」
「決まりやな」

千里は、そっと昌子に手を差し伸べる。

「今回はウチらも悪かったし、お互い水に流そうや。
 ゲーマー同士なら一度対戦すれば分かりあえる……そやろ?」
「ち、千里さん……ありがとうございます!」
「そうかぁ? あたし、ゲーセンで対戦した相手と何度もリアルファイトになったけど」
「折角いい話でまとまったんだから、そういうこと言わないの!
 そりゃ、あたしだってチルドクライマーやバルーンウォーズでいつも兄貴とケンカになるけど……」
「……でも……これで5人集まった……」
「そう……5人パーティこそ、最も各々の実力を発揮できる黄金比!
 JRPGは4人が多いけれども、5人パーティこそが真の王道なのでございますわっ!」
「せやな、戦隊物も大体5人だし……って、待てや、いつの間に!?」

いつの間にやら金髪のカツラを千里から奪い返した昌子は、
再びお姫様キャラへと成り切り完了していたのだ。

「わたくしが貴方達のお仲間になったからには、もう心配は要りません!
 あんな化け物ども、わたくしの指揮と貴方達の力があれば恐るるに足らず!
 さぁ、この世界に平穏をもたらすため、共に戦い抜きましょう!」

そう言って仲間に向けて力強く腕を振り上げる昌子だが、
皆は既にゲンナリした表情だ。

「……なぁ、このノリっていつまで続くん?」
「……きっと、照れ隠しなんだよ」
「……それに付き合う方はしんどいけどな」
「……仲間にするの……やっぱりやめない……?」

頼れる(?)仲間は増えたものの、
別の方向性で苦労は増えそうな予感でいっぱいのゲーマーズであった。
199創る名無しに見る名無し:2009/06/18(木) 07:14:46 ID:c2AosEXe
ゲーマーズのメンバーは、多分これで全員だと思います
特撮みたいに中盤での追加戦士も無い・・・はずです

ところでまなみの最終回が近いみたいですね
どんな風に決着がつくのか、楽しみにしています
200創る名無しに見る名無し:2009/06/18(木) 07:48:04 ID:KWvqhzQC
投下乙。
201創る名無しに見る名無し:2009/06/18(木) 20:20:15 ID:DMh86r7H
乙〜 イイキャラしとるな昌子www
パズルとSRPGが得意とかなんという俺
202ディーナ・シー 魔法少女地獄 1/9:2009/06/19(金) 15:20:16 ID:LDyYjvg0
柁那市は血に飢えた街だ――魔法少女たちの、魔力(マナ)に満ちた紅い生き血に。

かつて全日本魔法少女連盟から独立自治の権利を勝ち取り、
連盟無認可の草魔法少女たちにとっての解放区、魔法少女界のエル・レイとさえ呼ばれたこの街も、
管理者であった名家・田沼姉妹が消された94年4月5日の事件以来荒廃の一途を辿り、
3年後の今日ではもはや、暴力と魔法のみが支配する魔女っ子だらけのニューヨーク1997へと変貌していた。

死せる巨獣に群がる腐肉漁りの獣の如く、魔法使いたちが
空白と化した広大なテリトリーを狙って柁那市へ押し寄せ、通り一本、家一軒を奪い合う無秩序状態が始まった。
稀に縄張りらしい縄張りを築くことのできる者もいたが、その多くは
侵入者たちや敵対組織の容赦ない攻撃に曝され、早晩崩れ落ちる砂上の城に過ぎなかった。

数少ない実力者のみが勝ち抜ける過酷な街、その評判が草魔法少女たちをますます惹きつけた。
己が威を知らしめんと、国内のみならず世界中から野心溢れる若き魔女が訪れる。
連盟は事態の収拾を図り、「オペレーション・ダーナ」と称した鎮圧作戦を展開するも、戦闘は泥沼化。
ついにはスキャンダルと、柁那市の治外法権の状態を維持・利用せんとする一部政治勢力の策謀により
「オペレーション・ダーナ」自体が中止される運びとなった。
晴れて柁那市は無法を許された。止める者は誰も居ない。我こそはと目論む者は皆、柁那の地に砂と消えた。
魔女本来の敵であるはずの妖魔悪鬼さえ、その名を聞けば震え上がるという戦場。

そして3年後の今――長梅雨と、絶え間ない市街戦の気配に街は暗く震えている。

『次は終点、柁那。終点、柁那です――』
柁南線柁那駅の一番線ホームに電車が滑り込む。午後三時、下り電車と違って乗客はまばらだった。
エンマは空いた座席に投げ出していた荷物を担いで立ち上がると、車内放送を聴こうとしてiPodのイヤホンを片方外した。
『本日、傘の忘れ物が多く発生しています。お降りの際は、お忘れ物のないようご注意下さい――』
イヤホンを耳に戻した。右肩にボストンバッグ、左肩にギターケースを提げて電車を降りる。
大きな駅の中を、天井から下がった案内板を睨みながら歩く。人込み、改札、売店。ビニール傘と新聞を買う。
203ディーナ・シー 魔法少女地獄 2/9:2009/06/19(金) 15:21:07 ID:LDyYjvg0
エンマの服装――ガウチョスタイルとゴシックパンクの悪夢の融合を見た店員が、一瞬怯えた目をする。
白いノースリーブシャツの上から白黒の髑髏模様のポンチョを羽織り、
腰元は編み上げの黒いホットパンツにベルトはファハ、脚はボーダーのニーソックスと黒革のボタ。
スプレーでがちがちに固めたストレートのボブの黒髪には、冗談のように小さいガウチョハットを斜に被せている。
真っ赤な口紅以外はモノクロの、針のように細い体躯で、氷のように冷たい雰囲気の強面の美人。
この街で変わった服装の若い女を見たら、そいつは堅気じゃない、魔法少女だ――誰もがそう考える。
エンマは店員の表情から学習した。イエス、自分は確かに魔法少女だ。
いささか歳を取り過ぎたが、カリフォルニアはサンバーナディーノ生まれの魔法少女。

北口改札から出る。駅ビルの中を少しうろうろして、スターバックスコーヒーを発見し中に入る。
窓際の席に着くと、買ったばかりの新聞を広げて読んだ。
「柁那新聞」、朝刊地方紙。魔法少女関連の事件欄が、一般の事件欄とは別の面に設けてある。
記述は中立的というよりは機械的で、発生地点と妖魔の匹数、外見、行動、
対応した魔法少女の名前、戦闘の結果と被害について最低限の情報が羅列されている。
一般の事件欄に戻る。十代の少女絡みの傷害事件が数件。そちらもやはり、内容は詳しく書かれていない。
新聞を畳んで、後は窓から、雨に煙る駅前をしばらく眺めた。ごく平凡な繁華街の風景だが、
駅前のロータリー周辺にはちらほらと、エンマのように突飛なファッションの少女が散見できた。
周囲の通行人は、彼女らをそれとなく避けて歩いている。駆け寄っていく者、話しかける者は誰ひとり居ない。

エンマが調べた限りのことだ。
柁那市はこの三年間というもの群雄割拠の状況が続き、
魔法少女たちは妖魔そっちのけで縄張り争いを繰り広げているが
そもそもの発端は田沼姉妹の跡目争いで、伝説のコンビ「ネガティヴクリープス」に代わる
第二のカリスマの座を狙った姉妹の弟子たち――ヴァニティーメイ、ミンキーアップル、シーナらの抗争だった。
三人それぞれが他の弟弟子と、柁那市外からの流入者を駆り集めて
二代目ネガティヴクリープスを僭称し、他の二派を排除すべくキャンペーンを張り始めた。
宣伝合戦はやがて井伊場町のボーリング場「マジカルボール」前での乱闘騒ぎへと発展し、ここに「第一次柁那抗争」が始まる。
当初は、妖魔退治に二組以上のグループが駆けつけた場合に行われる「精密な誤爆」が抗争の主たる手段だったが、
ヴァニティーメイがミンキーアップルの必殺技「アレイ・アップル」を側頭部に受けて二日後に死亡するという事件が起きると、
抗争はいよいよ過激になっていく。少女たちの実家や学校への襲撃・放火は茶飯事となり、
三団体は公然と敵対勢力への攻撃を優先するようになって、妖魔退治の能率は急激に落ちた。
一般市民にも多数の被害が出始め、やがて傷害致死容疑での補導に抵抗したアップルが警官三人を殺害する事態にまで発展した。
204ディーナ・シー 魔法少女地獄 3/9:2009/06/19(金) 15:21:48 ID:LDyYjvg0
窓越しに、一人の少女と目が合った。
よれたカーキのパーカーと、ひどく色褪せたぶかぶかのジーンズ姿の少女で、
深く下げたパーカーのフードと野球帽のつばから、微かにだが鋭い眼光が覗けて見え、エンマの注意を引いた。
少女は雨の中傘も差さず、ずぶ濡れのままスターバックスの大きなガラス窓の前で立ち止まっている。
野球帽からはまっすぐな長い金髪がこぼれ落ちているが、
色は不自然に強く黄味がかっていて、どうやら天然ものではない。
魔法少女ではないのか? だとしたらコスチュームがないのか、それとも変身前なのか?
まだ熱いトールのカプチーノを一息で飲み干すと、新聞以外の荷物を持って店を出た。
傘を差すとき、透明のビニール越しにパーカーの女を一瞥したが、相手は両手をポケットに突っ込んで
どこかあさっての方向を所在なさげに眺めていた。
エンマは彼女に向かって歩いていき、何も手出しせずそのまま脇を通り過ぎた。
相手も手を出そうとはしなかった。しかしエンマは、パーカーの女が発する
真夏の熱気のようにむっと立ち込める殺気と魔力を見逃しはしなかった。
エンマは駅前から、当てもなくずっと歩いていく。
傘のビニールも雨音も喧騒も全て貫いて、細い背中を突き刺す視線と、追いすがる硬い足音とを引きずりながら。

歴史の授業の続き――
マスコミは抗争を煽りたて、スキャンダルが吹き荒れる。
アップルの両親はファミリーカーで練炭自殺した。シーナの家族は彼女を置き去りにして街を去った。
抗争に参加した少女たちは学校から自主退学を強いられ、多くはそれに抵抗もしなかった。
戦争があまりに忙しく、登校自体をとっくに忘れていたからだ。
三団体の戦闘力は対人用に先鋭化され、死傷者数はうなぎ上りになった。
「妖魔殺しの魔法を、人間にも使ってみたい」――凶暴な衝動が、抑制を失った少女たちを衝き動かす。
沈黙していた諸勢力がにわかに抗争へ参加する。市外からも続々と草魔法少女が流れ込み、狂騒状態に油を注ぐ。
昼夜を渡っての市街地戦、本来守るべき市民にまで魔法と炎は牙を剥く。
この時期、市内からの脱出者が相次いだ。家を捨てて、あるいは家を失ったために逃げる人々も少なくなかった。

三年後の現在、街は表向き平和で平凡な相貌を保っている。
街を分割する諸勢力が共有している、94年当時の狂乱状態を再現しかねないという危惧に裏打ちされた
暴力行為の構造化がその原因だろうとエンマは推測する。
組織間の戦闘は一種儀礼化し、戦場の選択にも多少の慎重さをうかがわせるようにはなった。
過去三年間の抗争事件の規模の推移を調べれば、それは容易に読み取れることだった。
とは言え全くイレギュラーのない訳ではない、掟を知らないよそ者がいつでも、いくらでも出入りしている。
彼女らは既成の魔法少女グループにとって厄介ごとの種だから、日常のゴロまきとは別に
見慣れない十代の少女を監視する、大手組織の「眼」が何人も徘徊していると聞いた。
今エンマの後を尾けているのもその一人かも知れない。人気のない場所に来れば、何か仕掛けてくるはずだった。
通りすがる誰もがエンマから目を逸らしていく――コスチューム姿と、制服姿の女生徒と、それから警官は別として。
205ディーナ・シー 魔法少女地獄 4/9:2009/06/19(金) 15:23:03 ID:LDyYjvg0
94年7月4日。
県警の機動隊と警備部特殊班が動員されるも、伝説的な戦い「柁那駅騒乱」において、
共通の敵に対する一時的連帯を見せた魔法少女らの強力な抵抗に退けられ、多数の死傷者を出す結果となった。
自衛隊出動さえもが企図されたが、連盟とその支援団体の政治的な働きかけからこれは中止され、
最終的には連盟独自の鎮圧部隊結成及び「オペレーション・ダーナ」の発動が決定される。

湿気と人いきれで蒸す商店街のアーケードを潜り抜ける。住宅街へ分け入る。
公団住宅に併設された、遊具の少ない狭い公園をやり過ごす。
そこからずっと歩いていくと、ようやくおあつらえ向きの空き地に行き当たった。
96年完成のはずのマンション建設予定地で、敷地内に散らかったゴミの量を見るに
どこかのグループの集会場らしかったが、雨の日にわざわざ屋根のないこの空き地を使いはしないだろうから
パーカーの女と話をつけるには悪くない場所のように思えた。
エンマが鍵の外された門を抜けて入り、空き地の中央に立って待つと
パーカーの女は少し躊躇する様子を見せながらも、結局後に続いて入って来た。

94年9月1日。現役の連盟加盟者二千人から成る魔法部隊が、柁那市侵攻を開始した。
柁那駅騒乱の参加者を中心にアンチ警察、アンチ連盟をスローガンに掲げた新勢力が勃興すると
この流れに同調した「ネガティヴクリープス」各分派はこれと同盟を結び、柁那市全域を挙げて魔法部隊との全面対決に入る。
新興勢力「BfB(ブラックフラッグ・ブリゲイド)」のリーダーで当時17歳のシニカルビビを筆頭に
市街戦の経験豊かな魔法少女たちは、市内全域で鎮圧部隊に対するゲリラ作戦を展開した。
戦闘は一進一退のまま一ヶ月間が過ぎたが、
鎮圧部隊の装甲車が路上に倒れた少女を轢き殺すビデオ映像が流出して社会問題化、
非難に晒され身動きの取れなくなった連盟と、長引く戦闘に疲弊した新勢力は
政府の仲介を得て10月18日に停戦協定を締結。市は四勢力に割譲されることとなる。

「私に用があるのか?」
エンマはiPodを止め、後ろを振り返ると、流暢な日本語で話しかけた。
一方、パーカーの少女はエンマから10メートルほどの距離を取って立ち止まった。
相変わらず両手をポケットに入れたままで、身構える様子はまだない。低い声でゆっくりと答える。
「あんた、出来るんだろ?」
「どれを?」
「これさ」
ずぶ濡れだった少女の身体から突然、雨粒が弾け飛んで輝いた。
勘付いたエンマは肩に乗せていた傘をそっと背中へ落とす。少女が手を広げて跳ぶ。飛び膝蹴り。
軽く屈んでかわすと、少女はエンマの肩の上を越していった。
落ちかけていた傘がエンマの身代わりに膝を受け、へしゃげて彼女の背後の地面を転がった。
膝をついて着地した少女は、少し心外そうな顔をしながら身を起こすと、
「この街でこいつを避けられたのは初めてだな」
「技自体のせいじゃない、魔力放出のタイミングが悪いんだ。夜や雨の日には気をつけたほうがいい」
二人は数歩動いて足場を変え、向き直った。
少女はエンマが両肩からバッグとギターケースを下げているままなのを見て、
「荷物は降ろさなくていいのかい?」
「構わない」
「次は当てる」
少女はジーンズに付いた泥を払うと、ファイティングポーズを取る。
206ディーナ・シー 魔法少女地獄 5/9:2009/06/19(金) 15:23:44 ID:LDyYjvg0
「あーあれ誰?」
不意に、ロリータ風ドレスの一団が門を潜って現れた。
全部で十二人、揃いの赤いドレス姿の少女たち。手にしたバトンの錘はリンゴを模っている。
リーダー格らしき、背が高い、茶髪のおかっぱ頭の少女は、仲間が差し出した傘の下で
一人だけ槍のように長いバトンを携え、向き合ったままの二人へ近づいてくる。
「ここがあたしらの場所だって知って――まさか、知ってたらあんたたち入ってこないよね」
エンマは一団のリーダーをちらと見ると、パーカーの少女に尋ねた。
「知ってるか?」
「知らね」
パーカーの少女は首を横に振る。十一人がはやし立てる。
「ロッテンアップルズ知らねーの!」
「妖魔なんて居ないじゃん、ほら、何やってんのお!」
「さっさと出てけよボケェ!」
予想外の闖入者らの実力――エンマはほとんどを雑魚と見た。
リーダー格は少しだけ強い魔力を持っていて、体格もいい。それでも準備運動には不足だった。
エンマの興味は依然としてパーカーの少女にある。
最初の飛び膝蹴りは難なくかわせたが、もし不意を打たれていたら分からない。エンマはパーカーの少女に言った。
「邪魔みたいだし、移ろうか」

「ロッテンアップルズ――」
パーカーの少女が構えを解いて、アップルズへ大仰な身振りで振り向いた。
「あの、四人ぶっ殺したミンキーアップルの弟子筋なんだって?
いつでも真剣(ガチ)がウリだって? 妖魔相手じゃヌルくてやってらんないって――」
空き地に転がった、壊れた傘の残骸を指差して
「あれ見てよあれ。ね、汚してごめんね」
「だから何」
戦闘態勢に入りつつあるリーダーの無意識の魔力放出が、仄かな赤い光となってエンマの眼に映った。
「このまま帰してくれるのかよ? え、あたしらこのまんま逃がしてくれんのかよ?
あんたらの溜まり場にゴミ置いて、まんまで帰んだぜ、おい?
骨の一本も折っとこうとか思わねえの、半殺しにしてやろうとかさあ!」
アップルズの十一人が傘を捨て、バトンの先を二人へかざした。パーカーの少女が唇の端を持ち上げる。
「やれよ」
「そんなに頼むなら、言う通りぶっ壊してやるよ」
リーダーがバトンを振って指示を出そうとする寸前に、エンマが荷物を肩から滑らせた。
地面に落ちたギターケースの蓋が跳ね上がり、黒塗りの殻竿が飛び出してエンマの右手に収まる。
バレーボール大の紅色の光弾が、ギターケースの落ちる音に反応したアップルズのバトンから一斉に放たれる。
207ディーナ・シー 魔法少女地獄 6/9:2009/06/19(金) 15:25:08 ID:LDyYjvg0
暴動の後片付けが始まると共に、街には少しずつ人々が戻ってきた。
勢力均衡、蜜月――だが長くは続かなかった。
主に新勢力に馳せ参じたよそ者連中絡みのトラブルが頻発していたし、
NC分派の三団体、特にヴァニティーメイ派とミンキーアップル派の遺恨も消えてはいなかった。
シニカルビビが自身をリーダーに、より強固な指揮系統の組織された新体制を立ち上げると
彼女らの独裁を恐れた下部構成員たちが、わずかに残されていた空白地帯、特に
VM領とMA領との間に設けられた、柁那駅から南北に延びる軍事境界線に目をつけ、
両勢力のどちらかに水面下でのバックアップを受ける形でこの境界線上の地域を奪い合うようになった。
軍事境界線としての役割は形骸化し、実質的には両勢力直接に領域を接するようになると、「精密誤爆」の伝統が復活し始める。
また、多くの魔法少女が抗争中に退学してしまったせいでやはり空白だった小中高校内の権力構造に、
目敏い新たな実力者たちが居座ってしまったため、これら学生勢力と旧勢力との軋轢も日増しに高まっていくことになった。
95年6月から9月にかけては、停戦条約中で敢えて明確に領有権の設定されなかった軍事境界線に
妖魔の襲撃が集中したことも、土地争いに拍車をかけた。
一年前と同じ、妖魔の処理中の精密誤爆が直接対決へと発展する流れで
95年9月9日、ここに「第二次柁那抗争」が勃発する。

パーカーの少女が光弾を越えて再び跳んだ。エンマは殻竿を逆袈裟に振り上げた。
打ち棒が、彼女を狙った八発の光弾を一振りで全てかき消す。0.5秒間の動作。
パーカーの少女の膝が、横並びになったアップルズの左端の一人の顔面をまともに捉える。
血と、折れた前歯が飛沫く。エンマは彼女とは反対側に切り込んだ。一秒経過。
パーカーの少女が着地する。エンマの打ち棒がアップルズの肩を砕く。返す刀の二撃目が隣のアップルズを襲う。二秒。
アップルズは慌てて散開し、二手に分かれてそれぞれを取り囲みにかかるが
振り向きざまの肘打ちと回転する打ち棒とが、一人ずつを軽々と沈めてしまった。

バトンでの打撃を外したアップルズの手首を、パーカーの少女が手刀で撃つ。
手首の骨は安々と砕け、バトンが跳ね飛ぶ。うめくような悲鳴を裏拳が封じる。
背後から殴りかかろうとした次の敵は脇腹を後ろ回し蹴りで潰され、前のめりに倒れる。
エンマ――殻竿が風を切ってうなる。打ち棒は変幻自在の軌道を描いて、アップルズを次々に片付けていく。
踊るようなエンマのステップに泥が散る。首、肩、腰、脚、
打たれるがままのアップルズは、糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちる。
試合を邪魔された代わりに、互いが互いに技を披露し合っているようだった。だがエンマは未だに魔法を使っていない。
208ディーナ・シー 魔法少女地獄 7/9:2009/06/19(金) 15:25:51 ID:LDyYjvg0
「名前を訊いておこうか」
十一人が戦闘不能になると、一人残されたリーダーにパーカーの少女が詰め寄る。
「シ、シルキーアップル」
「パクリかよ。あんたは?」
「エンマ」
「あたしは槙村ミキ。さて、どっちが仕上げる?」
「譲るよ」
「じゃ、遠慮せずいただいときましょ」

第二次抗争は比較的短期に決着した。ビビとシーナが、抗争を始めた二派への制裁を名目に同盟を結び、
VM派とMA派両者に徹底的な攻撃を加えたためだ。9月20日、VM派は同盟軍に降伏。
10月3日、MA派の本拠地であった健康ランド「だなランド」跡廃墟が陥落。同盟軍は抗争の終結を宣言する。
逮捕・補導を免れた旧VM派とMA派のベテラン勢はシーナ派に合流し
また、旧MA派の若年層は多くがかつてアップルの部下だったミニー・ケミカリー率いる学生勢力
「柁那市中学生徒会総連」に吸収されたが、一部残党はNCの正統な継承者を名乗り、チーム「ロッテンアップルズ」を結成。
しかしある噂では、現在アップルズを名乗るチームの大半は隠れ蓑、こけおどしの偽者で、本体は市外に潜伏し
現在失踪中のミンキーアップルの指揮の下、捲土重来の機会を虎視眈々とうかがっているのだそうだ。

ミキは、シルキーの渾身の上段突きを身をひるがえして避けた。
次の突きも紙一重でかわし、ミキが後ろに跳ねて間合いを取ると、
シルキーのバトンの先端が紅色の光線を放つ。着地の瞬間を狙われたミキは直撃を食らった。
地面を転がされ、積み上げられた建材に叩きつけられる。
ミキが倒れたまま動かなくなると、シルキーが歪んだ笑みでエンマに振り返る。
「次はてめえだ」
だが、エンマは殻竿を構えようともせず、ただ首を振るだけだった。
ミキがやおら起き上がってきたからだ。

同盟軍は名目上ちょうど市の中央部を南北で分ける愛羅幹線を境に、
北をNCシーナ派、南をBfBの領分としているが、
両軍だけで市内全域をカバーできている訳では決してない。
愛沢町の私立盟愛女子高を本拠に、周辺をテリトリーとする学生勢力「龍燈会」、
市内の公私立全ての中学校にネットワークを築いている「柁那市中学生徒会総連」、
柁那市立第七小学校を基点に勢力拡大中の年少者グループ「チルアウト」、
愛羅幹線上で頻繁に暴走行為を行い、南北勢力の頭痛の種になっているレディース出身「サキュバス」、
他に泡沫勢力および各団体の下部組織を含ると約60の魔法少女グループが市内で活動していて、
これにフリーランスの一匹狼たちを加えて総勢800人の魔法少女が柁那で戦っているというデータがある。
なお、現在連盟許認可の魔法少女の総数が5051人、無認可を含めるとおよそ一万人と言われているので
全国の魔法少女の内8%が柁那市に集中していることになる。
柁那市と同じく人口約20万の小田原市には97年4月のデータで12人、神奈川県全体では103人、
人口1200万の東京都全体でも382人だから、柁那市の魔法人口の密度が異常なことは一目で分かるはずだ。
209ディーナ・シー 魔法少女地獄 8/9:2009/06/19(金) 15:26:45 ID:LDyYjvg0
咄嗟に光線を受け止めたため、ミキは右の手のひらに軽い火傷を負っていたが、
その程度の負傷は問題にはならなかった。
シルキーが立て続けに放つ光線を、ミキは飛び石を渡るように踏み越えて、間合いを詰めていく。
最後の長く低い跳躍でシルキーの懐へ飛び入る。シルキーはバトンを横ざまに薙ぎ払うが、
足元に伏せ込んだミキの頭上の空を切るだけだった。もはや防御も、回避のチャンスもない。
驚くほどよく伸びる左フックがシルキーの顎を粉砕する。

かつては連盟の規約に縛られない、個人の正義と良心に従っての自主的活動が許された街だった――
というのが建前。後ろ暗い過去のある者、連盟からの追放者、妖魔狩りに取り憑かれた者、
アイドル志願、喧嘩屋、殺し屋、これら有象無象の守護者がネガティヴクリープスで、
そのカリスマと政治的手腕、魔法と暴力の才能がこの街の抱えた破壊力を押さえ込んでいた。
今日、魔力は垂れ流しで、街中が魔法で溢れかえっている。誰もが魔法の底なしのインフレーションに倦んでいる。
浪費。
大量消費の時代。

幸いにも死人が出なかったことを確認し、エンマとミキは空き地を立ち去ろうとしたが
外の道路はいつの間にか、ロッテンアップルズとは別の新しいグループによって囲まれていた。
全員が私服姿、年齢は二十歳前後と見える八人ほどのグループで
荷物は傘くらいで、目に見える武装はしていないが、佇まいからして堅気とは言い難い緊張感を漂わせている。
「中に転がってるのはどこの組の連中?」
「ロッテンアップルズだそうで」
グループの一人の質問にミキが答えた。誰かが空き地に入って、倒れているアップルズを調べる。
「救急車呼んだほうがいい」
「ここはロッテンアップルズの縄張りだって、さっきあいつらから聞いたんだけど」
ミキが訊くと、グループの一人の女が携帯電話を取り出しながら言った。
「ゴロまきついでに、そういう嘘の宣伝でよそ者相手に名前を売ってんだよ。
ここらで出たのは初めてだけど、雨だからあたしらが居ないと思ったんだろうね」
携帯電話のカメラをミキとエンマに向けて、二枚ずつ撮った。女はメールを打ちつつ、
「あれをやってくれたのは正直ありがたいくらいだけど、
騒ぎを起こした以上、今夜中に柁那駅辺りからは出ていってもらえるかな。
顔写真を回す。明日あんたたちを見かけたら、そのときは無事を保証できない」
「もう一度やるか? さっきみたいに」
エンマはミキに尋ねたが、ミキは首を横に振った。
「止めとく」
エンマは賢明な選択だと思った。柁那駅周辺はシーナ派のテリトリーで、高年齢で実力派の魔女が揃い踏みしている。
彼女たちがシーナのグループの構成員だとしたら、先のアップルズのように容易い相手ではない。
携帯電話の女が電話をかけながら、二人に言った。
「売り込みたいなら、柁那駅から七駅下って、洸葉駅に行ったらいいかも知れないよ。
賭け試合やってる奴らとか、妖魔も最近多いし……」
「そいつはどうも」
210ディーナ・シー 魔法少女地獄 9/9:2009/06/19(金) 15:27:31 ID:LDyYjvg0
エンマとミキは大人しく引き下がると、
それぞれアップルズから借りた傘を差して、駅の方向へ、並んで歩いていった。
最初は二人とも押し黙っていたが、ミキがふと口火を切った。
「歳いくつ?」
「23」
「ここで売り込みするにはちょっと老けてんね。どこから?」
「アメリカ」
そこで再び会話が途切れた。少ししてから、今度はエンマから質問をした。
「何歳?」
「17」
「この街では長いのか?」
「まだ一週間ってとこ」
「用事は?」
「敵討ち」

そこからまただんまりで、とうとう駅に戻ってきた。ミキがそっと呟く。
「集団行動苦手なんだけど、でも連れは欲しくて。強い相棒が欲しいな、と」
「もっと人脈とか、土地勘のある人間を頼ったほうがいいんじゃないのか?」
「にんげん、ね」
「得体の知れないやつと組んで、寝首掻かれるとは思わないのか」
「手持ち切れてて、もう取られるもの持ってない。これだって半分たかりみたいなもんだし」
券売機の前で、洸葉駅までの運賃を確かめながらエンマはミキに言った。
「私の個人的なトラブルに巻き込まれたらつまらんぞ」
「それでもいいよ。あんた凄腕だもん、組めたら最高だって」
「私にはあれしか芸がないかも知れん」
「それの中身がちょっと見えた。あの棒以外に」
ミキは、殻竿を収めているエンマのギターケースを指差した。
「あたし殴り合いしかできないから、そこんとこ頼りにしたいな、と」

エンマはミキと顔を見合わせた。
駅構内の光の下では、今まで帽子のつばで影になっていた顔が初めてはっきりと見えた。
ミキはとても大きく、くっきりとした目をしていて、最初はその印象ばかりが強かった。
目の次に特徴的な、薄くて大きな口で笑うと、両の頬に深いえくぼができる。
額で切り揃えた髪と相まって、自己申告の年齢以上に子供っぽい雰囲気がした。

「洸葉駅?」
「うん」
エンマは二人分の切符を買った。ミキは手を差し出して、エンマの鞄を受け取った。
211創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 19:57:53 ID:QWWh1dKi
新しい魔法少女きてるー!
これは続きを期待していいのかな?
212創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 21:16:08 ID:zldUbXUm
>>202
投下乙
>>186
まなみのイメージは
http://marie.saijin.net/~mujoh/PD071106.jpg
を思いついた
213創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 21:19:49 ID:zldUbXUm
214212:2009/06/19(金) 21:21:28 ID:zldUbXUm
ごめんなさいページが見つからないみたいなので
取り消します
215212:2009/06/19(金) 23:26:39 ID:zldUbXUm
216創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 23:38:35 ID:JJPzqzTu
エロ画像張るなよ
217創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 13:22:40 ID:5awMwTob
おいおい…エロ画像一つ貼るのにどんだけレス使ってんだよ
218創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 01:04:31 ID:O/x1qu3h
まなみ作者?調子乗りすぎだろ
219創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 01:18:13 ID:ziDMPUJf
まなみはポニテじゃなくてストレートヘアーだろ?
本当に作者ならそんな根本的なミスしないと思うけど
220創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 11:22:13 ID:I23iPHeA
最後には絵を描くとか言ってたから本人だろ

それでエロ画像とか調子に乗ってんな 自分が何やってもうけるとか
なんか勘違いしてんじゃね?

長編さっさと終わらせろよ
221創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 19:32:29 ID:IJY8AgyF
まなみの作者が絵を描いておきながら「思いついた」なんて珍妙な言い回しする訳ないだろ
222創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 23:55:06 ID:WBvLJO8t
作者本人ならトリップつけて投下するだろ
それなのに作者のせいにして、言い掛かりにも程があるわ
223創る名無しに見る名無し:2009/06/22(月) 16:55:57 ID:64QkAvlf
>>220は荒らしたいだけのクズだからスルー推奨
224創る名無しに見る名無し:2009/06/22(月) 19:27:26 ID:YzYV2GFd
投下がいくつかあったと言うのに、
お前らは感想を書くでもなしに荒らしにだけ入れ食いかよ
父ちゃん情けなくて涙出てくらあ

>まなみ作者さん
武田さんイカすわぁ
巨大ロボ軍団って絵面想像したらすごいことになったw

>ゲーマーズ作者さん
八重花ちゃんがイジメられっ子すぎるw
このままではまた引き込もってしまうのでは…w

>魔法少女地獄作者さんすごい濃い世界観だなぁこのハードな世界でどんな物語が展開されるのか楽しみにしています!
225魔法少女アリス1/6:2009/06/23(火) 20:20:26 ID:Euj6YeNV
昔書いた作品をうpしてみる。

ACT・1 魔法少女との出会い


某月某日の朝、ふと目を覚ますと――。

???「あ、おはようございます♪」

「………………」

いわゆる魔女っ娘スタイルの少女が俺の目の前にいた。

???「朝ごはんの支度、出来てますよ」

「あの、えっと……どちらさまでしょうか?」

顔立ちからして高校生、いや、中学生にも見える。

???「もしかして……昨夜のこと、覚えていらっしゃらないのですか?」

「昨夜のこと?」

え―と、昨夜は確か……。

………………
…………
……

「ちっくしょ―!! 糞社長がぁああああああ!!!!」

俺は昨日まで勤めていた工場をクビになり、友人が勤めてるスナックでしこたま呑んでいた。

真琴「ちょっとちょっと! 飲み過ぎだって」

「うるせぇ! 酒でも飲まなきゃやってらんねぇんだ!!」

真琴「ハァ……」

スナックのママ「どうすんだい? お客さんはこの人だけだから
          荒れるのは別に構いやしないんだけどさ」

真琴「すいませんママ……私が家まで送ります」

スナックのママ「ふ〜ん……」

真琴「な、なんですか?」

スナックのママ「今日はもう店じまいにしようかね。
          この人送っちゃいな」

真琴「はい、迷惑かけてすみません」

スナックのママ「何言ってんだい。お客さんなんだから迷惑なワケないさ」

「なんだYO!! もう呑ませてくれないんかYO!!」
226魔法少女アリス2/6:2009/06/23(火) 20:21:27 ID:Euj6YeNV
真琴「あ―もう! アンタの家で呑みなさいよ!」

スナックのママ「真琴ちゃんは“送り狼”だね、フフフ」

真琴「ななななな、何言ってるんですか!!」

「んだよ、お前も酔ってんのか? 顔赤くしちゃって」

真琴「う、うるさいっ!!」

バシッ、と必殺の真琴チョップが炸裂。

「いてぇ!!」

………………
…………
……

う―ん、頭が痛い。

???「……どうですか?」

「いや、もうちょっと待って……」

まだこの娘は出てきてないな。
俺は二日酔いで弱っている脳に負担をかける。

頼む、もう少しだけ頑張ってくれよ……。

………………
…………
……

真琴「本当にここでいいの?」

真琴に肩を借りつつなんとか家の近くまで辿りつく。
つ―か友人とはいえ女に寄りかかっている俺ってど―よ。

「ああ、お前ん家ココだろ?」

真琴「アンタの家もすぐそこじゃない。心配だから送ってくわよ」

「いいよいいよ、さすがにそこまで迷惑かけてらんねぇから」

真琴「でも……その……」

なんだ? 真琴のヤツ、妙にソワソワしてるな。

「あ―! そ―ゆ―ことか?」

真琴(ドキッ!!)

「今日の飲み代請求する為に俺ん家に来るんだな!?」

真琴「……は?」

「だが残念だったな。家には金なんて1円も無いぞ! なんせ給料日まであと一週間だしな。
 それにクビになったから生活費を優先させてもらう――」

バキッ!! と必殺の真琴ストレ―トが炸裂。
227魔法少女アリス3/6:2009/06/23(火) 20:22:14 ID:Euj6YeNV
真琴「もういい! この鈍感バカ!!」

真琴は何故か怒って帰ってしまった。

「あいたたた……なんで殴られなきゃいけないんだよ」

くそっ……頭がクラクラしてきた。
なんとか家まで着いたけどもう倒れそうだぞ……。

「え―と、鍵……は」

……無い。

「うあ……マジかよ」

もしかしてスナックに忘れてきたのか、はたまた道中に落としてきたのか。
思わずその場に仰向けになる。

「あ―、もうダメだ。このまま寝るしかないか……」

???「えっと、あの……」

「んぁ?」

どこからか声がする。

???「柏木誠治(かしわぎ せいじ)様……ですか?」

誠治「ああ……そうだけど、つ―か真琴か? 今更名前聞いてどうすんだ……?」

???「いえ、私は、その……真琴さんてお方ではないんですけど……」

誠治「ま、ど―でもいいや。お前、俺ん家の鍵って持ってないよな?」

???「鍵、ですか? どうして鍵なんか……」

誠治「鍵失くしちゃって家に入れないんだよ」

???「それなら私が……えいっ」

誠治「んぉ?」

彼女の手が一瞬光り、ガチャッと音がした。

???「これで鍵は開きましたよ」

誠治「お―、お前すっげ―な!」

???「エ、エヘヘ……」

誠治「これで布団でゆっくり寝れるよ。ありがとうな」

――なでなで。

???「あ……」

誠治「……で、君は誰なの?」

???「あ、はい。申し送れました。私はアリスと申します」
228魔法少女アリス4/6:2009/06/23(火) 20:22:59 ID:Euj6YeNV
アリス……まるで外国人の様な名前だな。
日本語は流暢だし、それに日本人の女の子みたいな顔立ちだし……。

はは―ん、まさか……。

誠治「アリスちゃんは家出でもしてきたの?」

アリス「え?」

ったく、事情は解らんが親御さんは心配してるぞ?

誠治「うっぷ……」

アリス「どうなさいましたか?」

ヤバイ、本格的に気分が悪くなってきた。

アリス「えっと、その……貴方にお願いがあるんですけど……」

あ―もう、あんまり話し込むと体力が持たん!
この娘は家出娘で1泊させてくれとかそんなお願いだろう。

誠治「わかった」

アリス「え? それは契約のことをおっしゃっているのでしょうか?」

契約?
まぁ今はどうでもいい。とにかく寝たい……。

誠治「そうそう、契約な。だからとりあえず家に入ろうか」

アリス「は、はい……」

家に入り、すぐに座布団を折り曲げる。

アリス「あ、あの……」

誠治「ああ、そこのベッド使っていいよ。俺は床で寝るから」

アリス「あの、そういうことじゃなくて……」

誠治「じゃあお休み」

アリス「えっと……あの……」

誠治「Zzz……」

………………
…………
……

誠治「………………」

アリス「思いだしましたか?」

誠治「えっと……アリスちゃん、だっけ?」

アリス「はい、そうです♪」

名前を思い出してくれたのが余程嬉しかったのか、アリスはにこやかな表情で応えた。
229魔法少女アリス5/6:2009/06/23(火) 20:23:56 ID:Euj6YeNV
誠治「あのな、人生には悲しいことが多くてなあ、実は俺も仕事をクビになったんだよ」

アリス「?」

誠治「だけどな、家出はダメだぞ? 第一、親御さんが心配してるだろ?」

アリス「あの……私、家出はしてないんですが」

誠治「え? 違うの?」

アリス「はい」

家出じゃない……どういうことだ?

誠治「え―と、そういえば家の鍵……」

アリス「ああ、あれは魔法を使わせていただきました」

……魔法?

誠治「魔法っていうとRPGとかでおなじみのあの魔法?」

アリス「R、PG……? すみません、よく分からないのですが」

誠治「あの、呪文唱えて炎とか出したり……」

アリス「炎とはいきませんが火を出すくらいなら」

誠治「……じゃあこれに火を点けてよ」

俺はタバコを口に咥えた。

誠治「ホラ、この先端ね」

アリス「は、はい……」

アリスの指がタバコに触れると……。

アリス「えいっ」

――ポゥッ

誠治「!?」

火が……点いた。

アリス「これでよろしいでしょうか?」

誠治「あ、ああ……」

落ち着け……、落ち着くんだ。
俺はタバコの煙をじぃっと眺める。

誠治「……ちょっと手を見せてもらえる?」

アリス「は、はい」

アリスの手をまじまじと見る。
ふ―む、普通の人間の手だよな……。
230魔法少女アリス6/6:2009/06/23(火) 20:24:41 ID:Euj6YeNV
更にアリスの手を取り、撫で回しながら丹念にチェック。

アリス「あんっ……、その……くすぐったいです……」

どこにも異常は見当たらない。
と、いうことはさっきの魔法といいその魔女の格好といい……。

誠治「……本物の魔女……なのか?」

ガチャ

真琴「誠治―、二日酔いだろうと思ってキャベヅン買ってき……た…………」

俺の家は玄関のドアを開けたらすぐ前に部屋があるというボロアパ―トで
つまり真琴の目に飛び込んだのは俺とアリスが手と手を取り合っており
しかもアリスは顔を赤らめながら俯いている状態ゆえ、これは誰が見てももう……。

真琴「……お邪魔しました」

誠治「いや、ちょっと待て!」

真琴「この変態ロリコン男――――!!」

真琴は走り去った。
このアパ―ト壁が薄いから隣人に今の言葉聞こえちゃってるんじゃ……。

誠治「はぁ……」

アリス「あの……今の人、誠治様の奥様ですか?」

は? 奥様?

誠治「いやいや、ただの友人。まぁ、女友達の中では一番親しいけどな」

アリス「よかった……契約違反だったらどうしようかと思いました」

誠治「あ、その契約ってなんだ? そういえば昨夜もそんなこと言ってたな」

アリス「はい。私は誠治様と契約しましたね!」

なんでそんなに嬉しそうに言うんだ? それに様付けって……。
何故か嫌な予感がする。

誠治「あのさ、契約の内容って……なに?」

アリスは頬を紅く染めてこう言った。

アリス「あなたと私が夫婦になることです」

誠治「………………」

アリス「ふつつかものですが宜しくお願いします、誠治様♪」
231創る名無しに見る名無し:2009/06/23(火) 20:43:54 ID:BRutVt2h
>>225
投下乙
232創る名無しに見る名無し:2009/06/23(火) 23:48:56 ID:shi0kIcS
なかなかのんびり穏やかな感じの作風だねぇ
これからも期待
233創る名無しに見る名無し:2009/06/24(水) 19:22:45 ID:fgCTEgPY
アリス投下乙です
やっぱのんびりした雰囲気が一番だな
234炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/06/24(水) 23:46:07 ID:u0vHEU7j
炎術剣士まなみ第二十四話投下します
235炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/06/24(水) 23:46:54 ID:u0vHEU7j
炎術剣士まなみ 第二十四話『戦慄の女帝!剣士破れたり』

 ――――次元魔城門前。街に溢れかえっていた次元鬼は地球防衛軍の
ロボット軍団があらかた片づけていた。武田は汗を拭くと、周りに指示を送る。
「よーし、剣士の皆さんを援護しにいくぞ!」
指示を受け、全機が次元魔城へと向かうが…

「うおっ!?な、なんだこれは!」
城へと近づこうとすると、突然、城の周りがバチバチと電撃を帯びた半透明の壁に
遮られて、弾かれてしまった。
それぞれ、レーザー兵器やミサイルで破壊を試みるも、傷一つつかない。

「隊長!これでは我々が城へ侵入するのは不可能です!」
宮本が叫ぶ。武田は思わず握り拳を叩きつけた。
「くそっ!我々はここで見守るしかないのか!…まなみさん…」
そして、思い人の名を呟いた。彼女の身を案じ、祈るしかないのか…。
ふと空を見上げると、ぱらぱらと東京では珍しい、雪が降ってきていた。


城内では三剣士と鵺の戦いが激化していた。コロシアムのように縦にも横にも
広い空間で、三人は分散しながら攻撃を試みている。
まなみが素早く鵺の片足を斬りつけ、攻撃される前に回転ジャンプで
避けながら後退する。しかし、決定打とはならない。

続いて裕奈が鵺の尻尾である蛇を掴むと、一本背負いで投げ飛ばすが
その巨体からは信じられないほどの身軽さで受け身をとり
お返しとばかりに前足の一振りで裕奈を吹き飛ばす

今度は伊織が鵺の背中に苦無を突き刺し、そこに稲妻を叩き込む!
さすがに鵺も仰け反り悶えるが、次の瞬間、伊織に炎を吹きかける。
回避するも稲妻は止んでしまい、鵺はその驚異的な再生能力で火傷を塞いだ。

「くっ、このままじゃ力負けする!」
「時間をかけないで一気に決めましょう!」
「OK!負けないんだから!」
三人が鵺を取り囲むように、散らばると、それぞれ片腕を突き出す!
236炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/06/24(水) 23:47:36 ID:u0vHEU7j
紅、蒼、山吹色の光が発生し、それが鵺に向かって放射される。
「真・炎流波!!」
「水撃砲!!」
「豪・雷神波!!」
光が鵺に直撃し、鵺を痛めつけながら天井へと叩きつけた!
そしてそのまま自由落下しながら、今度は地面へぶつけ、衝撃を与える。

「ふっふん!どんなもんよ!」
裕奈が鼻を指でこすり、自慢げに動かなくなった鵺を見据える。
「さあ、早くフリッデのとこへ向かいましょう!」
三人は頷き合い、広間を後にしようとする。
…だがその時!鵺の目が再び怪しい光を灯した。

そして、その瞳から青く光る閃光を無防備に背を向けている剣士へと放つ!
「きゃあああ!」
完全に不意打ちを食らった三人は、そのまま倒れこんでしまう。
なんとか、鵺の方へ向き直り、再び刀を構える。

「くっ…完全に倒したかどうか、確認するべきだったわね…」
「あれ食らってもまだ立ち上がるなんてしつこい奴なんだから!」
「どんな強敵でも、必ず弱点はあるはずなのに…」
鵺の鋭い爪が三人に向かって振り下ろされるが、それを回避する。

「攻撃は見切れても、このままじゃ埒があかない!」
「いったいどうすれば…あっ!」
伊織があることに気づいた。先ほど、自分が突き刺した苦無は抜けることなく
そのまま刺さっている。同時に行った稲妻攻撃の火傷こそ消えているが
苦無の刺さっている箇所に攻撃を集中すれば、あるいは…!

「まなみさん!裕奈ちゃん!鵺を倒す方法が見つかりました!」
「本当!?じゃあ早いとこあいつをやっつけなきゃ!」
「伊織、どうすればいいの?」
三剣士は、鵺の攻撃を捌きながら、作戦を話し合う。
237炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/06/24(水) 23:48:23 ID:u0vHEU7j
「鵺の背中に私が刺した苦無がそのまま残ってるんです。そこを全員の力で
狙い撃てば…そのためにはまず動きを封じないと!」
説明を受け、頷き合うと、まずは裕奈が鵺の正面に回り込み、軽く水流を浴びせる。
「ほらほら!あんたの相手はあたしがするよ!」

指をクイクイっと揺らし、鵺を挑発する裕奈。思った通り、鵺は裕奈に向かって
突進してくる。それをタイミングを合わせ、真正面から力強く受け止めた!
「ぬぅぅぅっ!…ま、まなみちゃん伊織ちゃん!」
歯を食いしばり、なんとか堪える裕奈。彼女が時間を稼いでいる間に
伊織は地上に、まなみは天井すれすれまで飛び上がる。

「もうちょっとだけ頑張って裕奈ちゃん!はあぁぁぁぁ!!」
伊織が着物の袖口から手裏剣を四つ取り出し、それを掲げると
気を送り込み、手裏剣を巨大化させた!それをまなみに向かって投げつける!
「まなみさん!!」
「OK!燃えよ…生命あるものの如く!」

両手に集まっていた炎を飛んできた巨大手裏剣に放つ!炎を纏ったそれは
まなみの目の前で急停止したかと思うと、次の瞬間、四枚それぞれ
鵺の前後ろの両足に高速落下し、突き刺さった!
それにより、鵺は苦しみの咆哮を上げ、身体を激しく揺らしている。

裕奈と伊織が、まなみのいる地点へと飛びあがり、三人は自由落下しながら
両腕を背中に突き刺さった苦無にむかって突き出した!
それぞれの気が混じり合い、一気に放たれる!
「「「虎王竜巻!!」」」

鮮やかな三色の光線は渦を巻き、それは身動きが出来ずに悶絶している
鵺の背中から腹部まで一気に貫通!光線の余波は床へと広がり、壁にぶつかると
波のように打ち上げられ、消滅した。
そして鵺も、胴体の風穴から光を放ちながら倒れ伏し、木っ端微塵に爆発した。

「やったぁ!」
「ようやく倒せましたね…」
「そうね…思いのほか、時間を食っちゃったわ…さあ急ぎましょう!」
三人は広間奥へと向かう。
238炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/06/24(水) 23:49:17 ID:u0vHEU7j
そこには階段などはなく、ちょうど三人が入れるほどの広さの
魔法陣のようなものがポツリと書かれていた。三人がその上にゆっくりと乗ると
魔法陣から光が発生し、それはだんだん強くなり、彼女たちを包み込む。
そして、どこかへと空間転移させて、その場から姿を消し去った。


―――まなみたちが気がつくと、目の前には石造りの巨大な扉があった。
「…裕奈、伊織…いくよ!」
まなみが息を吐き、刀に手を掛け…居合いの要領で抜刀し、扉を斬り裂く!
扉は周りの壁ごと、斜めにずり落ち、その先を露わにした。

「ここまでにいた次元鬼はすべて片づけたわよ…女帝フリッデ!!」
まなみが勇ましく叫んだその先には、玉座にゆったりと腰掛けているフリッデの姿が!
しかし、特に慌てる様子もなく、薄ら笑みを浮かべたまま、剣士を見据える。

「ついにここまで来たか、剣士の小娘ども…我の力で作り上げた鵺まで倒すとは
さすがだな。しかし、お主たちもつくづく惜しいものよ…それほどの力があるならば
腐りきっている人間どもを粛清し、自分たちの世界をも築けただろうに」
「あんたたち次元鬼みたいなこと、するわけないでしょ!勝手に人様の
家に上がり込んで、暴れまわっておいて、なにを偉そうに!」
裕奈が怒りを露わにし、それをフリッデにぶつけた。

「ふっ、我らがわざわざ地球に乗り込まなくても、そう遠くなくこの世界など
滅びに向かうのは目に見えておる。ならば、我らが支配した方が、この世界の
ためだと思うがな…?」
「そんなの、あなたのエゴです!確かに、あなたの言うとおり、人は
自らの手でこの世界を汚し、同族同士で殺し合っているかもしれません。
だけど、そんな人たちのために、良い人たちの平和を脅かすわけにはいきません!」
自分たちの世界は、必ず持ち直す。そう信じた意志が伊織の瞳から窺えた。

「正義と平和のため、今こそ次元鬼を倒す!女帝フリッデ、勝負!!」
まなみが刀を抜き、それに二人も続く。だがフリッデは相変わらず、
余裕の表情のまま、玉座に座り込んだまま、頬杖をついている。

「いいだろう、我が負けることなどあり得んがな。その証拠に、我は
このままお主たちの相手になろう。さあ、どこからでも来るがいい!」
「くっ、なめないでよね!!」
裕奈がフリッデに向かって飛びかかり、一刀両断しようと刀を振り下ろす!
239炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/06/24(水) 23:50:01 ID:u0vHEU7j
「なっ…!?」
「どうした、水無瀬裕奈?お前の力は我の指先に負けるのか?」
驚く裕奈。目の前に写る光景、それは人差し指一本で刀を受け止めたフリッデの姿。
その指にも切り傷一つついていない。そして軽く裕奈を吹き飛ばしてしまう。

フリッデは変わらずその姿勢を崩さない。伊織が一瞬にして背後に回り
斬りつけようとするが、玉座の周りから無数の触手が飛び出し、伊織を絡め取る。
「うああっ!こ、この…!」
「姫倉伊織、お前は素早さは天下一品と聞いていたが…亀にも劣るな」
触手が伊織を絡めたまま、天井すれすれまで伸び、勢いに任せ、彼女を壁に叩きつける!

「裕奈!伊織!はあぁぁぁっ!!」
まなみは脇差を抜き、自身の気を両刀に込める。真紅に発光している刀を
フリッデに向かって振りかざす!

「くっ、ぐうぅぅ!!」
「新堂まなみ、その太刀筋は悪くないが、我の前には所詮、子供騙しよ」
完璧に捉えていたはずだった。しかし、頬杖を突くのを止めたフリッデの
両手に、まなみの刀は掴まれていた。そしてその腕からまなみに向かって電撃が流れる!

「きゃああぁぁぁ!!うっ…かは…」
「どうした?星を斬り裂き、時空を歪める剣士の力とはその程度か?」
フリッデは倒れてる三人を蔑んだ視線で見つめる。
そして、何か思い出したかのように怪しい笑みを浮かべ始める。

「外は雪が降っておるようだのう…」
呟くと同時に、フリッデと三人の間に、立体映像が唐突に浮かびあがる。
外で暴れていた次元鬼の軍団は防衛軍の手によって片づけられていた。
一見すると、東京に大混乱が持ち込まれたとは思えないほど、平穏な風景…
しかし、都庁が映し出されたかと思うと、次の瞬間、大爆発を起こし、崩壊した!

「なっ…!?フリッデ!あなた、何をしたの!?」
「見ての通りよ。我の力を適当に東京で炸裂させたのだ。どこが爆発するかは
分からぬ…完全に運で生死が左右されるというのは面白いであろう?」
240炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/06/24(水) 23:50:48 ID:u0vHEU7j
残酷な発言をし、笑うフリッデに三人の怒りは募り、握り拳を震わせる。
「フリッデ!絶対に許さない!火柱ストォォォォム!!」
「ふん…愚かな」
怒りの火炎を放ち、それをフリッデにぶつける…が、それさえも片手で
受け止められ、投げ返されてしまう。

その隙をついて、裕奈が飛びかかり、水の気を両手に集める。
「くらえ!水撃砲!!」
「甘いわ!自分の技で潰れろ、水無瀬裕奈!!」
「きゃああああ!!」
空中で放たれた水流を、フリッデはバリアを張り、反射してしまう!
避けることも叶わず、自らの水流で壁に叩きつけられてしまう。

「裕奈ちゃん!よくも!稲妻波動!!」
雷の気を溜めこんだ右腕を床に叩きつけ、電撃の波が床を破壊しながら
フリッデに突き進む!
「全ては無駄…姫倉伊織、それを知るがいい!」
「くあぁぁぁぁっ!!」
フリッデが電撃を吸収すると、腕から光線に変換し撃ち返す!
伊織も裕奈と同じく自分の技で倒れてしまう。

「火炎流星キィィィィック!!」
「剣士どもは、全員学習能力がないのだなぁ…」
まなみが炎を纏った脚で、フリッデを狙うが、それも強力なバリアの前に
遮断され、まなみの足に鈍痛が走っただけで終わってしまう。

「うぅ…かすり傷一つつけられないなんて…!」
「まなみさん、こうなったら龍陣波動を使いましょう!」
「あたしも賛成!フリッデ!いくらあんたでも、これは防げやしないんだから!」
三人が両腕を突き出し、それぞれの気を集約していく。
だが、フリッデは相も変わらず、ゆったりと構え、防御しようとすらしない。

「「「龍陣波動!!!」」」
炎・水・雷の強烈な気がフリッデにすさまじい勢いで放たれ。直撃する!
「今よ!たあああ!!」
まなみの掛声に応じて、裕奈と伊織も飛びかかる。
「「「逆鱗!!真!!大破斬!!!」
241炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/06/24(水) 23:51:32 ID:u0vHEU7j
それぞれの刀が渦を巻くような形の気を纏い、振り下ろされる!
そして、フリッデを斬り裂いた!三人は息を切らしながら女帝に振り返る。
「ふふ…なかなかやるではないか、剣士ども…だが貴様たちの力の全てを
持ってしても、我を倒すことは出来ぬ!」
「ぐぅ…そ、そんなバカな…」

フリッデの腕からは血が流れている。確かにダメージは負わせられたが
決定打にはならない。そして、フリッデの手の平から眩い閃光が放たれる!
「きゃああああ!!」
「あぁぁぁぁ!!」
「うああぁぁぁ!!」
それは三人に直撃する。すると彼女たちの身体が光を放ちながら、剣士の衣装が
消え失せ、元の普段着へと戻ってしまう。

「!?…へ、変身が!」
変身が解けてしまったことに、驚愕する三人。それでもまなみは腕を震わせながら高く上げる。
「え…炎、心…変幻…!」
まだ戦える、そう信じて今一度変身の術を唱えるが…何も起こらない。

「うぅ、そんな…」
「もう変身するための気力も残っておるまい。だが、お前たち程の者を
殺すのは惜しいでな。お前たちが我の部下になるなら、助けてやらんこともない」
フリッデの提案を聞くと、三人は痛みに顔を歪めながらも立ち上がる。

「ふざけないで…!誰があなたなんかの部下に!」
「そうだよ…あたしたちはみんなのために戦う…!」
「悪魔なんかに、地球は渡さない…!」
強い意志のこもった瞳で、女帝を睨みつける。それにフリッデは呆れた表情で。

「そうか、残念だのう……お前たちを我自ら処刑する!!」
フリッデの眼光が三人を貫く!一瞬の衝撃が走り、次の瞬間、足が重くなっていく。
「これは…!あ、足が…!?」
242炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/06/24(水) 23:52:17 ID:u0vHEU7j
見ると、それぞれ足の指先から身体が石化していく!
「単に殺すのではつまらん…我に逆らった愚か者として、永遠に見せしめにしてくれよう」
少しずつ、だが確実に石化は進んでいき、身体がだんだん動かせなくなっていく。

「うぁぁ……!いやぁ…」
苦悶の表情を浮かべる裕奈。下半身まで完全に石となる。
「くぅぅ…こ、この…!」
伊織の抵抗むなしく、首下まで石化していく。
「フ、フリッデぇ………」
女帝に向かって腕を伸ばしたまま、他の二人と同じく、まなみも完全に石像と化した。


―――東京は、謎の爆発が不定期に起こり、大混乱。防衛軍が人々を
避難誘導させている。その最中、突如として、夜空にいくつもの立体映像が浮かび上がる。
そして、映し出されたものは、女帝フリッデの姿だ。
「人間どもよ、我のクリスマスプレゼントはどうだ?お前たちに、さらに
面白いものを見せてやろう…これだ!」

映像が切り替わる。上空の映像に釘付けの人々の表情は次の瞬間、絶望へと変わる。
そこには、希望の光であった剣士の三人娘が石像となった姿。
「ま、まなみさん……!」
誘導を行っていた武田は絶句し、その映像を見つめるしかなかった。

「人間どもよ、お前たちの守護者はもういない!諦め、我の前に跪け!
所詮、お前たちの未来は絶望しかなかったのだ!ふははははは!!」
フリッデの高笑いが、響き渡り、それと時を同じくして、暗雲が地球を包み込む。
もう希望は潰えたのか?剣士たちの復活はないのであろうか?
太陽の光を再び見ることは出来ないのだろうか…?


次回予告
「みんなで、泣いて、怒って、笑って…そんなのが出来なくなる世界なんてごめんだよ!」
「女帝フリッデ!あなたの闇が上か、私たちの、人々の希望の力が上か…」
「今こそ、教えてあげるわ!裕奈、伊織、最後の戦いよ!」
「「「次回、最終回!『明日への光!優しき星に祝福を』」」」
「まだまだやりたいことがいっぱいあるんだから!行こうまなみちゃん!伊織ちゃん!」
「人々の平和、そして私たちの夢のため…絶対に勝ちます!」
「裕奈、伊織、そしてみんな…本当にありがとう」
243炎術剣士まなみ ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/06/24(水) 23:53:04 ID:u0vHEU7j
24話投下完了。まだ規制されてるので、代理さんに投下をお願いしました。
いろいろありましたが、ここまでこれたのも、応援して下さった
方々のおかげです。ありがとうございました。

あと、絵のことですが、こっちはまだ、全然完成していません。
完成はまだ当分先になるだろうし…。もしかしたら途中で挫折するかもしれないし。
なんにせよ、投下する時はちゃんと宣言しますので…

では次回、最終回です。


代行終了
244創る名無しに見る名無し:2009/06/24(水) 23:57:16 ID:HoKJRu1x
次回最終回か……なんだか不思議な気分だ
245創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 12:10:16 ID:O6HQtmlg
投下乙、次で最終回か寂しい感じがする。
246創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 23:06:53 ID:XiD7/fGM
投下乙!ついに、最終回手前か…
剣士のどんな攻撃も効かないフリッデ強すぎだろ、常考…
あーまなみ第二期とかあるといいなぁ
247創る名無しに見る名無し:2009/06/26(金) 11:32:44 ID:rZSpAq7G
投下乙
最終回か……DVD-BOXとか買ったらまなみ二期あるかなぁ…
248創る名無しに見る名無し:2009/06/26(金) 23:54:28 ID:Id73LRmR
アリス作者に触発されて昔のメモ帳漁ってみたら、使えそうなネタがあった
のでちょっと手直ししつつ投下してみる

魔女っ子と呼んでいいかは微妙な感じだが、まぁご容赦w
249デキル屋にいらっしゃいませ:前編 1/8:2009/06/26(金) 23:55:16 ID:Id73LRmR
「困るよ少年、探偵事務所はお悩み相談所じゃないんだ」
「で、でも、なんとかなりませんか?
 お金なら何とか払いますから……!」

原田 健太(14)は、困っていた。
ある悩みがあって、あちこちの探偵を訪ねたのだが、
彼の悩みは探偵の専門外らしく、誰も相手にしてくれない。

「いくら出しても無理だ。これは当人同士の問題だろう?
 探偵にできるのは情報を集めて推理することだけだ。こういうのは調停屋にでも頼むんだな」
「…………………………」

結局、とぼとぼと事務所を後にすることになる健太。

「……ちょっと待て少年」

突然、探偵が健太を呼び止めた。

「え、何ですか?」
「どうしてもってんなら、デキル屋に行って主人のマキミに会いな」
「デキル屋……? マキミ……?」
「ああ、デキル屋のマキミは文字通り『何でもできる』、ある意味ヤバい奴だ」

(ヤ、ヤバい奴って……)

その形容からして、あまり自分からは会いたくない人物のようだ。
だが、健太は目的のためには引くわけには行かなかった。

「……そのデキル屋ってのは、どこにあるんですか?」
「ほれ、地図だ。
 マキミは気分屋だから簡単に頼みを聞いてくれるとは限らんが……。
 まあ、実際どうなるかはわからんから一度行ってみても損は無いだろう」
「あ、ありがとうございました……」

地図を受け取った健太は、しばし迷った後、結局デキル屋に向かってみることにした。
これが、原田 健太と不思議なお店『デキル屋』との、奇妙な縁の始まりだった。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「はあ〜い♪ 願ったことがなんでもかなっちゃう夢のお店、デキル屋へようこそ!(はあと)」

地図に従い、町外れのアパートの二階にやってきた健太を出迎えたのは、派手な衣装に身を包んだ黒髪の女性だった。
歳は見た目からは良く分からないが、割と若い。が、少なくとも成人はしてそうだ。
アパートの中は天井や壁に染めた紐などが飾り付けられてる他は、
書類やパソコンが乗っている机がいくつか配置してあるような、普通の事務所だった。

「あ、あなたがデキル屋主人のマキミさんですか……?」
「そっ、あたしがマキミよ。ちなみにこう書くの」

マキミが指をパシッと鳴らすと、
健太の手元に飛んできた白紙の名刺に、同じく飛んできた筆が、大きく『魔奇魅』と書いた。

「こ……この紙と筆、生きてるんですか……!?」
「面白いこと言うわね。ただ魔法の力で動かしてるだけよ」

(ま、魔法の力って……)
250デキル屋にいらっしゃいませ:前編 2/8:2009/06/26(金) 23:56:00 ID:Id73LRmR
事も無げに言う魔奇魅に、当然ながら健太はたじろいでしまう。

「それで、そろそろここに来た用件を聞きたいのだけれど」

その言葉に、健太は目的を思い出す。

「お、俺は原田 健太って言います。
 あ、あの……お願いがあってここに来たんですが……」
「ええ、わかってるわ。デキル屋では、どんな願い事でも叶えてあげるわよ」
「ほ、本当になんでもお願いしていいんですか?」
「基本的にね。ただ、あたしがどうしてもやりたくないことはパスさせて貰ってるの」
「え……やりたくないことって、例えば……?」
「さっさと君の願いを言った方が早いわ。
 願いの内容を聞いてから、やりたいか、やりたくないかを判断するから」
「じゃ、じゃあ……魔奇魅さん、俺がお願いしたいことはそのう……」

健太は言いにくそうに口ごもる。

「俺の両親を…………仲直りさせて頂きたいんです……」
「あら、夫婦喧嘩かしら?」
「そんな生易しいものじゃないんです……。
 二年位前から急に仲が悪くなって、今じゃ顔をあわせることすらしないんです……」
「……そういうのは離婚調停にでも任せるのがいいんじゃ無いの?」
「冗談はやめてください! こっちは真剣なんです!
 他の探偵事務所では全部断られました……ここが、最後の希望なんです!」
「…………………………」

魔奇魅は、何かを見定めるかのように、じっと健太を見た。

「……OKOK、私に任せておきなさい」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、このくらいデキル屋には簡単な仕事だわ」
「ありがとうございます! ……でも、一体どうやって仲直りさせるつもりですか?
 会ってみればわかると思いますけど、今の両親の仲の悪さは尋常じゃないんですよ」
「でも、昔は仲良かったんでしょ? それなら今『できる』魔法を使うだけで簡単ね。
 今の二人のいがみ合っている記憶を封印して、仲良かった頃の感覚を思い出させてあげればいいのよ」
「……ちょ、ちょっと待ってください! そんなことができるんですか?」
「舐めてもらっちゃ困る、あたしはデキル屋、魔奇魅よ。やろうと思えば一日で世界征服することだってできるわ」
「……あの、いくらなんでも冗談ですよね?」
「ホントよ。諸事情、諸問題があるから実行はしないけど」

何処まで本気か分からず困惑する健太に、魔奇魅は、フフッと笑って見せた。

「さてと、それで貴方に払ってもらう代償だけど……」
「え……代償……?」
「代償は代償よ。料金や対価と言い換えてもいいわ」
「えええっ!!! た、ただじゃないんですかあ!?」
「当たり前でしょ、こっちも商売なんだから。慈善事業とは違うのよ」

(な、何を取られるんだろう……。心? 命? 魂?)

ゴク……
思わず恐ろしい想像をしてしまった健太は、渇いた喉をぬらす。

「そうね、まだ初回だし、依頼内容も軽いし……五万円で手を売ってあげるわ」
「お……お金ぇっ!?」
「なに? まさか五万円でも高いって言うの?」
「あ、あの……こういうところって、心とか、魂とかを要求するもんなんじゃないんですか……?」
「はあ? 他人のそんなもんを貰ったところでなんの役に立つってのよ。
 大体私は、心はともかく魂なんて胡散臭いものの存在は認めてないわ」
251デキル屋にいらっしゃいませ:前編 3/8:2009/06/26(金) 23:56:41 ID:Id73LRmR
(デキル屋よりは胡散臭くないと思うけど……)

何にしろ、一つしか無い物を要求されなかったのは幸いだ。
しかし、健太はそれ以前の根本的な問題に気付いた。

「そ、そのう……俺、今五万円も持って無いんですが……」
「あらそうなの? じゃあ明日辺りに改めてもってきてくれればいいわ」
「い、いえ……貯金自体が五万円も無くて……」
「え? なら貯金は全部でいくらぐらいなのよ?」
「ゲーム機買うために溜めてた二万ちょっと……」
「……あんたねえ、そんなんで探偵を雇おうとしてたの?
 そりゃ断られるに決まってるじゃない」
「す、すみません……」

魔奇魅はハア、と息をついた。

「仕方無いわねえ、払える時にちょっとずつ払いに来なさい。待っててあげるから」
「は、はい、ありがとうございます!」

健太は勢い良く頭を下げる。
この人は信用できる。根拠も無くそう思えた。

「それで……いつ家にきてくれるんですか?」
「家? あんたの? ……なんで?」
「え? だって俺の両親の仲直りをさせてくれるんじゃ……」
「ああ、それはもうすんだわ」
「え?」
「だから、あんたの両親はもう仲直りしたって言ってんの」
「え……え? ど、どういうことですか?」
「あんたの家に帰ってみればわかるわよ。ほら、さっさと帰った帰った!」

意味が理解できない健太に、魔奇魅は面倒くさそうに手を振る。

「……わかりました、とりあえず今日は帰ります」

とりあえず健太は魔奇魅を信じることにし、玄関のドアを開けた。

「あ、そうそう。もしここ以外であたしにあったりしても、絶対に話し掛けたりしないでよ」
「え……ええ、気をつけます」
「それと、商売の性質上、あんまり大勢の顧客に詰め掛けられるのは都合が悪いの。
 あたしやこの店のことを他の人には絶対言うな……とまでは言わないけど、不用意に宣伝したりしないでちょうだい」
「は、はい、わかりました」
「そうだ、言うまでも無いと思うけど、興味本位であたしのことを詮索したりはしないことね。
 例え出来心だったとしても、そんなことをしでかした瞬間にあんたの首は飛ぶから。そのつもりで」
「は……はい……」



★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



「今日も君の作る御飯は美味しいね、良子」
「ええ、だって毎日貴方のために心をこめて作ってるんですもの」
「ははは……」
「うふふ……」
「…………」

魔奇魅の言葉通り、両親は仲直りをしていた。
それどころか、不気味なぐらい仲が良い。
252デキル屋にいらっしゃいませ:前編 4/8:2009/06/26(金) 23:57:22 ID:Id73LRmR
「兄ちゃん……父ちゃんたち、どうしちゃったの?」

健太の弟、健吾(11)も、
両親のあまりの変貌振りに呆気に取られているようだ。

「えっと……きっと、何かいいことがあったんだよ。うん」
「なんか納得いかないなあ……」

疑惑の目で両親を眺める健吾。

(俺だって納得いかないよ……本当に何でも『できる』んだな、あの人……)

「ふう……」

健太はため息をつく。

(いいなあ、望んだことがなんでもできる力なんて……。
 そんな力があれば、俺ももっと楽しくて、凄い人生が遅れただろうに……)

健太が寝て、次の朝になっても、両親はずっと仲の良いままだった。



次の日の朝、健太は自分の自転車を駐輪所から引っ張り出していた。
それは再び魔奇魅に会って、話を聞きたかったからだ。

「あれ、兄ちゃん何処行くの?」
「ああ、ちょっとデキル屋に……あっ」
「デキル屋?」

突然話し掛けてきた健吾に、健太はうっかり口を滑らせてしまった。

「ねえねえ、デキル屋って何? デキルって何ができんの?」
「いや、その……な、何でもさ」
「……もしかして、父ちゃんと母ちゃんが仲良くなったのに関係あんの?」

(な、なんでこんな鋭いんだコイツ……)

「ねぇねぇ、どうなのー?」

観念した健太は、正直に話すことにした。

「……そうだよ。デキル屋で頼んで二人を仲直りさせてもらったんだ」
「すっげえ、デキル屋ってそんな魔法みたいなことできんだ! 僕もデキル屋に行ってみたいな!」
「駄目駄目、なるべく内緒にするように言われてんだ」
「え〜、兄ちゃんのケチ〜!
 ふんだ、そこら中の奴にデキル屋のこと言いふらしちゃうもんね〜!」
「わわわ、ちょっと待て!」

健太は慌てて健吾を引き止める。

「じゃあ、僕もデキル屋に連れてってよ。じゃないと言いふらすからね!」

健太は魔奇魅の言葉を思い出す。

―――あたしやこの店のことを他の人には絶対言うな……とまでは言わないけど―――

(まあ、健吾にだけならいいか……言いふらされるよりはマシだと思うし……)
253デキル屋にいらっしゃいませ:前編 5/8:2009/06/26(金) 23:58:03 ID:Id73LRmR
「……仕方ないな、一緒に連れてってやるよ。でも、他の奴にはデキル屋のことは内緒な。母さんや父さんにも」
「うん!」

健吾を後ろに乗せ、自転車は走り出した。



兄弟二人を乗せた自転車は、団地の真ん中を通る。
広場では子供が何人か集まって元気に遊んでいる。
その時、健吾が何かを発見する。

「……! 兄ちゃんあれ!」
「何? あっ!」

健吾が指差したところには、女性が倒れていたのだ。
慌てて自転車を止め、女性に駆け寄る二人。

「だ、大丈夫ですか!?」
「あ……す、すいません……。ちょっと転んでしまって……」

女性はよっこいしょ、と立ち上がり、土を払う。

「心配かけてごめんなさいね。それじゃ……」

女性はニコっと二人に笑いかけ、その場を去ろうとする。
しかし、女性の顔を見た健太はあることに気付いた。

「あ……貴方は……!?」
「え?」
「兄ちゃん、どうかしたの?」

(ま……魔奇魅さん……?)

女性は魔奇魅に瓜二つだった。
違うことといえば、髪の色が所々白いこと、地味な格好をしていること、
そして……松葉杖をつき、右足を引きずっていることだった。

「あ、あの……魔奇魅さんですよね?」
「……? ええ、私は確かにマキミですけど、どこかでお会いしたことありましたっけ?」
「そ、そんな、デキル屋でお世話になった健太ですよ! ほら、名刺もくれたじゃないですか!」

健太は魔奇魅に貰った紙を女性に見せる。
女性は目も悪いらしく、大きな文字にも関わらず読むのに苦労しているようだ。

「……『魔奇魅』? 違いますよ、私は川崎 牧美(22)。牧場の牧に、美しいって書くんです」

(別人……なのか……?)

「す……すいません、人違いだったみたいです」
「そうですか。では私はこれで……」

会釈をして立ち去ろうとした牧美だったが……。

「あっ!」

ほどなくドテッ!と転倒する。

「だ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫大丈夫……」
254デキル屋にいらっしゃいませ:前編 6/8:2009/06/26(金) 23:58:45 ID:Id73LRmR
再び身を起こすが、やはりまた転倒する牧美。

「兄ちゃん……この人トロすぎ……」
「そ、そう言うなよ……きっと足が不自由なせいなんだよ」

どうにも見ていられなかった二人は、牧美を家まで送っていくことにした。



「本当にごめんなさいね、わざわざ送ってもらっちゃって……」
「いえいえ、どうせ俺たち暇な中坊と小坊ですから」
「デキル屋はどうなったんだよ兄ちゃん……」

送ってもらった礼にと、二人は牧美にお茶をご馳走してもらっていた。
もっとも、今の状況に辿り着くまでに牧美がお茶をこぼした回数は数え知れないのだが……。

「それにしても、あんな短期間に連続で転ぶ人なんて初めて見たよ」
「こ、こら! 失礼だろ健吾!」
「ふふ、いいのよ。本当のことだから」

はあ、と牧美はため息をつく。

「私、むかしっからそうなのよね……ただでさえドジなのに身体が不自由で、
 だから何をやっても失敗ばかりで……お金もまともに稼げないの……。
 生活費もほとんど双子の姉さんの仕送りに頼ってるばっかりで……」

双子の姉さんという単語に、健太はピクりと反応する。

「あの……そのお姉さんの名前は……?」
「翔子ですけど、なにか?」
「その人は、今何処に……?」
「それが……行方不明なんです……」
「行方不明?」
「ええ、お金だけは何処からともなく送られてくるんですけど……。
 もしかして何か危険な仕事をしてるんじゃないかって、私心配で……」

牧美は不安そうに顔を曇らせる。

(もしかしてその人がこそが魔奇魅さん……?)

「それで、健太さんは何故私の姉のことを……?
 もしかして、姉について何か知ってるんじゃ……」
「うっ……」

健太は迷った。
牧美に魔奇魅の話をしてしまってもいいのか?

(……確信も無いのに、期待させるようなことを言うのは良くないよな。
 話すなら、魔奇魅さん本人に確認を取ってからの方がいいか)

そう考えた健太は、とりあえずは黙っていることにした。

「い、いえ……ただ何となく気になっただけです」
「……そうですか……」
「あの、お茶ご馳走になりました」
「あら、もう帰っちゃうの? もうちょっとのんびりしていってもいいのに」
「すみません、用事を思い出したもので……。ほら健吾、行くぞ」
「わ、わかったよ……勝手だな兄ちゃんは……」

健太はまだお茶を飲んでいた健吾を無理やり立ち上がると、牧美に頭を下げる。
255デキル屋にいらっしゃいませ:前編 7/8:2009/06/26(金) 23:59:27 ID:Id73LRmR
「それじゃ、身体に気を付けてくださいね」
「ええ、暇なときにまたきてね」

ブツクサ文句を言ってる健吾を後ろに乗せ、健太はデキル屋に自転車を走らせた。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



コンコン

「お客さんみたいね。一体どなた?」
「ど、どうも魔奇魅さん……」
「あら、いらっしゃい健太」

魔奇魅はパソコンに向き合って何かを打ち込んでいた。

「あ、昨日はどうもありがとうございました」
「ん〜ん、大したことじゃないわ。それより早く代金払ってね」
「そ、それはまた後日に……」
「アラ残念。じゃあ、今日はまた別のご依頼かしら?」
「い、いえ、その……お礼もかねてだったんですが……」

どうも魔奇魅の前では緊張して、上手く言葉が出てこない。
相手は間違いなく普通の人間では無いので、当たり前といえば当たり前なのだが……。

「その……聞きたいことがあるんです」
「ん〜、なにかしら?」

作業を続けたまま、振り向きもせずに返事をする魔奇魅。

「その……川崎 牧美さんって人を知ってますか……?」

ガチャ

「えっ?」

気付いた時には、健太の右腕は飛来した手錠によって壁のパイプに繋がれていた。

「さてと……」

ゆっくりと立ち上がり、健太に向き直る魔奇魅。

「ま、ま、ま、魔奇魅さん! ななな、何するんですか!?」
「あんたが牧美と会ったことは知ってたわ。あたしと関係が有るんじゃないかと考えたこともね」
「えええっ!!? 牧美さんに聞いたんですか!?」
「あの子は何にも知らないわ。ただ、あたしが知ってるだけ。
 言ったでしょう? あたしに『できない』ことは何も無いって。
 例えばあんたの心を読んだり、離れたところで起きたことを知ったりするなんて朝飯前よ」

(確かにこの人だったらそれぐらいは普通にできそうだ……)

「さて、と……あんたには、あたしの詮索をするなと言ったわよね?」

ボキボキと指を鳴らして健太に詰め寄る魔奇魅。

「に、兄ちゃんを虐めるな!」
256デキル屋にいらっしゃいませ:前編 8/8:2009/06/27(土) 00:00:09 ID:uVDjQkzN
その時、健太の前に飛び出してきたのは、彼の弟の健吾だった。

「……………………」

魔奇魅は一瞬呆けたような顔をすると、気勢がそがれたのか、彼らに背を向ける。

「あ、あの……」
「可愛い弟さんね」
「え……。……は、はあ……」

健太を拘束していた手錠は勝手にはずれ、ガチャリと地面に落ちた。

「とっとと帰んなさい、今日のところは弟さんに免じて許してあげる。だけど……次は無いわよ」
「は……はひ……」
「ほら、行こうよ兄ちゃん!」

身体が硬直して上手く動かなかった健太だが、
健吾に無理やり引っ張られる形で、デキル屋を後にした。



★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



「デキル屋の姉ちゃん、怖い人だったね」

帰り道、自転車を押して歩きながら、適当に言葉を交し合う健太と健吾。

「ま、まあな……でも、今回は約束破った俺も悪かったし……」
「そうか、兄ちゃんまだ代金払ってないんだろ?
 そんなら怒るの当たり前じゃんか。悪いの全部兄ちゃんじゃん」
「…………………………」

しかし、結局のところ魔奇魅と牧美はどういう関係なのだろうか?
魔奇魅の反応を見る限り、全くの無関係と言う訳でも無さそうだが……。

(なんでも『できる』魔奇魅さんと、ドジで身体の不自由な牧美さんか……)

「おーい、健吾! ボール取ってくれよ!」
「ん?」

見ると、野球ボールが道路を渡ってこちら側に転がってきている。
向こう側の広場では、健吾の友達が野球をやっているのが見える。

「おっけ、今取るよ」
「お、おいっ!」

健太が止める間もなく、健吾は道路に飛び出す。

ガァアン!

「け、健吾……!」

猛スピードで突っ込んできたスポーツカーにはねられ、
健吾の身体は宙を舞っていた……。



〜 後編へ続く 〜
257創る名無しに見る名無し:2009/06/27(土) 00:00:50 ID:Id73LRmR
蔵出し品なので、後編も既に出来てます
でも一片に投下もどうかと思うので、また明日にでも・・・
258創る名無しに見る名無し:2009/06/27(土) 23:50:14 ID:1ymL6/N7
投下乙。
259創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 11:18:41 ID:vBHhZCfP
デキル屋投下乙です
新作の投下嬉しいな
260デキル屋にいらっしゃいませ:後編 1/9:2009/06/28(日) 19:05:20 ID:slXdzxUL
健太の通報で駆けつけた救急車によって、健吾は付近の病院へ搬送された。
道中、健吾は健太の呼びかけに全く反応せず、素人目にも危険な状態であることが容易に見て取れた。
病院に到着後、健吾はすぐに手術室へ直行する。

そして、手術が終わり、健吾と共に医師達が出てくる。

「健吾っ!!!」
「お医者様、健吾は大丈夫なのですか!?」

知らせを受け、駆けつけていた健太の母が医者に問う。

「……最善は尽くしましたが、楽観できる状況ではありません」
「そんな……健吾……!」
「落ち着いてください、助からないと決まったわけでは……」

医者と終わりの無いやり取りを続ける母を残し、健太はふらりとその場を離れる。
そんな健太の耳に届いた医師達の噂話が、さらに彼の心を重くさせた。

「内蔵の損傷が酷すぎる……明日まで持てば奇跡だな」
「まだ小学生だろう? 可愛そうに……」

健太は、考える。
自分に、何かできることは無いのかと。
そして、一つの希望に思い当たる。

(……デキル屋!! そうだ、魔奇魅さんならきっと健吾を救える!!!)

それに気付くが早いか、彼は疾風のように駆け出す。
廊下を走ったことを看護婦の一人が咎めたが、彼の耳には入らなかった。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「弟さんが危篤だって?」

魔奇魅はソファーに深々と腰掛けて、キセルから煙を吹かせていた。
自分でも必死の形相をしていることが分かる健太にしてみれば、
その余裕綽々の態度には憎たらしささえ感じてしまう。

「お願いです魔奇魅さん! 弟を……健吾を助けて下さいっ!!!」
「……難しい注文だね。デキル屋に不可能はないけど、
 医者がさじを投げた人間の命を救うなんて、決して楽な話ではないわ」
「お金なら多少高くても払います! だから、だから……!」
「……わかったわ。それじゃあ、10億円頂こうかしら」
「!!! じゅ、10億円!!?」
「あら、高かったかしら。でも悪いけど、一円たりともまけるわけにはいかないわ」
「そ、そんな……いくらなんでも10億円だなんて……」
「払えないんだったら黙って帰りなさい。かわいそうだけどね」

ギリッ
健太は悔しさから、歯を食いしばった。

「一人の子供が死にそうなこんな時に、なんでそんな大金を貰わないと助けてくれないんですかっ!?
 なんでも『できる』くせに……どうして『できない』人のことを助けてくれないんだっ!!!」
激昂した健太は、思わず口から出るままに魔奇魅に向けて叫ぶ。
「…………………………」
「はあっ、はあっ、はあっ……」
261デキル屋にいらっしゃいませ:後編 2/9:2009/06/28(日) 19:06:01 ID:slXdzxUL
魔奇魅はしばらく黙って健太の言うことを聞いていたが、ため息をついた後、口を開く。

「……言いたいことはそれだけかしら? それで結局のところ、10億円は払えるの? 払えないの?」
「…………払えま……せん……」

そう言う健太の声は、かすれていた。
それは、大声を出したことだけが理由ではない。

「それならとっとと出て行ってもらえるかしら。
 あたしには他にやらなきゃいけない仕事とかが山ほどあるの」
「…………………………」

健太は、これ以上この人物と話しても無駄であることを吾った。

「……もう帰ります……。
 もう、ここには……デキル屋には、二度と来ません……」

バタン!

扉を乱暴に閉め、健太はデキル屋から出て行った。
外は、彼の心情を表すかのようにドシャ降りの雨だった。


魔奇魅は、ずぶぬれになって走り去る健太の背中を二階の窓から見送っていた。
健太の姿が見えなくなると、魔奇魅はカーテンをしめ、また元いた机に戻る。
そして、両手で顔を覆い、懺悔するようにこうつぶやいた。
「ごめんね牧美……。ごめんね……」



★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



健太がそれから何処をどうさまよったのか、
それは本人ですら覚えていない。
気がつけば、既に雨は止み、朝日が顔を覗かせていた。

彼は家や、病院に戻るのを躊躇った。
逃げ場の無い現実に直面するのが怖かったからである。
しかし……。

「健太、こんなところにいたのか!」
「と、父さん……」

偶然、買出しをしていたらしい父親に出会ってしまった。

「ほら、すぐに病院に帰るぞ」
「父さん、俺……」
「安心しろ健太、健吾なら助かった」
「え……?」
「危険な状態だったらしいが、奇跡的に回復したそうだ」
「ほ、本当に!? 健吾!!」
「あ、おい! 待て!」

健太は父親の静止も聞かず、病院へ走った。



262デキル屋にいらっしゃいませ:後編 3/9:2009/06/28(日) 19:06:42 ID:slXdzxUL
「よかった……健吾、健吾……!」
「何だよ兄ちゃん、おおげさだなあ……」

父の言葉通り、健吾は無事だった。
それどころか、口を聞けるぐらいまで回復している。

「念のため、もう数日は入院して頂きます」
「大丈夫ですよ、検査が終わればすぐに退院できます」
「先生方、本当にありがとうございました!」

健太は出て行く医師達に頭を下げる。

「……はあ、安心したら腹減ってきたな……」
「じゃあコレ喰う? 母ちゃんたちが持ってきた果物」
「ん、じゃあ貰おうかな」

果物をほうばる健太。
しばし、兄弟水入らずで団らんの時が流れる。

「……じゃ、そろそろ帰ろうかな」

健太は腰を上げる。
なんだかんだで徹夜したので、家に帰って寝たいのだ。

「明日また来てよ! 土産つきで」
「はいはい」

適当に流し、部屋を出る健太。

「あれ、さっきの先生たちだ」

健吾を診察していた医者達が、近くでなにやら話しているのが聞こえる。

「しかし、不思議なこともあるもんですなあ」
「ええ、破裂していた内臓がこんな急激に再生するなんて……」
「まるで魔法ですな。まあ、まだまだ人体には神秘が多いということでしょうか」
(魔法……? ……ううん、まさか。
 あの魔奇魅さんが、無報酬でそんな真似をしてくれるもんか)

気にするのを止め、とっとと帰ろうと歩き始めた健太は、不意に車椅子に乗っている人物に目が止まる。

「あ、あれはまさか……」

確認のために人物の前に回りこむ健太。
そして、その人物は彼の予想通りの人物だった。

「ま、牧美さん! 車椅子なんかに乗って、どうしたんですか!?」
「あら、健太くん。こんな所で会うなんて寄寓ね。どうして病院に?」
「ちょっと弟が怪我したもので……。それより一体どうして車椅子になんか……」
「……私、左足も動かせなくなっちゃったの……」
「そ、そんな! 昨日は一応歩けてたじゃないですか!」
「ええ、昨日まではね……。でも、今日の朝に目が覚めた時、急に動かなくなっていたの……」
「そんな……」
「お医者様に言われたわ。全く原因がわからないって……」
「原因がわからない……?」
「……子供の頃からそうだったの。右足が動かなくなったのも突然で、原因がわからなかったの……。
 それだけじゃない、目も、耳も、手の指も、どんどん使えなくなっていってるの……」

(どんどん身体のあちこちが使えなく……どんどん、何も『できなく』なっていく……?)
263デキル屋にいらっしゃいませ:後編 4/9:2009/06/28(日) 19:07:24 ID:slXdzxUL
「……私、怖いの……。
 このまま原因不明の病気で、いつか全身が動かなくなって死んじゃうんじゃないか、って……」
「……その……お姉さんには、左足が動かなくなったことを……?」
「ううん、伝えてない……。伝えるのが怖くて……」
「伝えるのが、怖い……?」
「……翔子お姉ちゃんはね、凄い人なの。
 なんでも、なんだって、あっという間にできるようになっちゃうの。
 それに比べて、私は何かできるようになるどころか、どんどん何にもできなくなっちゃう……。
 きっとそんな私が恥ずかしくて、翔子お姉ちゃんは家を出てっちゃったんだわ……」
「そんな、牧美さんのせいじゃないですよ! きっと何か他に理由が……!」
「ううん、きっと私のせい。そんな……気がするの……」
「…………………………」
「……それじゃ、健吾くんにもよろしくね」

牧美は、無理に作ったような笑顔を見せると、
なれない様子で車椅子を転がし、廊下の向こうに消えていった。

(健吾が奇跡的に回復したのと同時に、牧美さんの右足が……?)

何故か、健太にはそれが単なる偶然とはとても思えなかった。
健太の脳裏に、当然のごとくあの店の名前が浮かぶ。

(もう一度、デキル屋に行こう……)

何か確信めいたものを持った健太は、デキル屋へと四度足を向ける……。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「魔奇魅さん!」
「あら健太、どうしたの?
 もう二度と来ないんじゃなかったのかしら」

魔奇魅はのんびりとコーヒーを飲んでいた。
なんだか目が腫れているように見えるのは気のせいだろうか。

健太は、一息置いてこう切り出す。

「……弟が、一命を取り留めました」
「……あらそう、よかったじゃない」
「…………川崎牧美さんが、歩けなくなりました」
「………………あら、そう」

平静を装ってはいるが、魔奇魅は健太と目を合わせたがらない。
そんな魔奇魅の態度から自分の推測の確信を得、健太はさらに詰め寄る。

「魔奇魅さん!! 本当のことを教えてください!!
 弟を、健吾を助けてくれたのは……魔奇魅さん、貴方だったんでしょう!?」
「……………………」
「そして、そのために…………牧美さんが犠牲になった……。……違いますか?」
「……見事なぐらい荒唐無稽な推理ね。根拠も理屈も何も無い」

魔奇魅さんは健太に背を向けて立ち上がる。

「でも……だからこそ、当たってることもあるのね……」
「じゃあ、やっぱり……!」
264デキル屋にいらっしゃいませ:後編 5/9:2009/06/28(日) 19:08:05 ID:slXdzxUL
「健太、あんたの想像どおり。牧美はあたしの双子の妹。
 そして…………自分では、何も『できない』子なの……」
「それって……」
「私が『できる』ことを増やすたびにね、牧美が『できる』ことは少なくなっていくの。
 この前は左手の人差し指が動かなくなったし、その前は右目が失明したわ」
「…………………………」
「今回、あたしが『できる』ようになったのは『一時強化の魔法』。
 弟さんの回復力を強化することで、内臓の再生を促進した。
 そして……その魔法を得たことで、牧美の右足が犠牲になった……」
「そんな……」
「私が『なんでもできる』ようになれば、牧美はなんにも『なんにもできなく』なってしまう。
 もしかしたら、明日にでも、息をすることすら『できなく』なってしまうかもしれない。
 そうなったらもう手遅れ。
 私は『できる』ことを増やすことはできるけど、『できない』ことを増やすことはできないわ。
 そしてそれは牧美も全く逆のベクトルにおいて同じ。
 だから私は牧美を守らなきゃならない。でも、私が直接牧美に何かをすることはできない。
 私が牧美にできることと言ったら……不自由しないよう、お金を送るぐらいしかないのよ」
「じゃあ……もし、死人を生き返らせるようなことを可能にしてしまっていたら……」
「おそらく……牧美は心臓を動かすことすら『できなく』なるでしょうね……」
「…………………………」

しばし、二人の間に静寂が訪れる。

「……どうして……」

沈黙を破り、健太は純粋な疑問を口にした。

「どうして、魔奇魅さんと牧美さんはそんな関係に……?
 どちらかが『できれば』どちらかが『できない』……
 そんな……そんな理不尽な摂理があっていいんですか……?」
「……理由はわからないわ。私も牧美も、生まれも育ちも普通の家庭。
 そんなことがあるのかはわからないけど、神様のいたずらとしか……」
「本当に……本当に何もわからないんですか……?」
「ただ、一つだけ思い当たることがあるとすれば……」

魔奇魅は目を伏せた。

「貴方はできないことはできないとはっきり言えた。
 10億円も払えない、と。例え弟の命がかかっていたとしても」
「……?」
「……だけど……あたしは言えなかった。
 できもしないことをできるって言い続けた」

(10億円ぐらい払える! だからお母さんを助けてよ!)
(あたし、弱くなんて無い! あたしに出来ないことなんて無いんだからっ!)

「若い頃の私は、根拠の無い万能感に任せて、
 突っ張って、突っ張って、突っ張り続けた……。
 だから、きっと…………バチが当たったのね……」
「バチ……虚勢の罰……?」
「あたしが『何でもできる』ようになったのと同時に、牧美は『何もできなく』なった。
 あたしが『できる』ことを増やすたび、牧美は『できない』ことが増えていった。
 でも……あの頃のあたしは、それに気付いていなかった……。
 どんどん調子に乗って、『できる』ことを増やし続けた……。
 そして…………気がついた頃には、あの子の左足は動かなくなっていたのよ……」
「そんな……罰にしたって、こんなのいくらなんでも酷過ぎますよ!」
「でも……こんな力を手に入れた切っ掛けは、他には何も思いつかないの……」

魔奇魅はチラリと健太を見ると、また目をそらす。
265デキル屋にいらっしゃいませ:後編 6/9:2009/06/28(日) 19:08:47 ID:slXdzxUL
「……いつしかあたしは牧美を真っ直ぐ見れなくなったわ……。
 だって、あの子は何も知らないのに、あたしはあの子を苦しめ続けているんだもの……」
「だから……牧美さんと顔をあわせるのが辛いから……自ら、家を出た……?」
「……そうよ……」

魔奇魅はため息をつく。
その姿は、『何でもできる』人間とは思えないほど小さく見えた。

「……そんなわけだから、これからもデキル屋をよろしくね。
 まだ『できない』こと以外なら、なるべく安い値段で引き受けてあげるから」
「……魔奇魅さん、昨日は……。
 ……その、すみませんでした……酷いこと言って……」
「気にしないで。それに今回のことはあたしが勝手にやったサービスよ。
 それより、前回の代金を早く払ってね」
「あ……はい」




次の日。
健吾に見舞いに来た健太は、魔奇魅に聞いた話を伝えた。

「へえ、じゃあやっぱり僕を助けてくれたのは魔奇魅ねーちゃんだったんだね」
「やっぱりって?」
「夜中にウンウン唸ってる時にさ、魔奇魅ねーちゃんが部屋に来たような気がしたんだ。
 今までは夢だって思ってたけど、やっぱり現実だったみたいだから」
「そうか……」
「それにしても、牧美ねーちゃんがあんなだったのが魔奇魅ねーちゃんのせいだったなんて……」
「うん……」
「……牧美ねーちゃん、さっき僕の病室に遊びにきたんだ。
 自分のせいじゃないのに歩けないなんて、かわいそう過ぎるよ。なんとかならないのかな……」

健吾は何かを考え込んだ。

「……ねえ、やっぱり魔奇魅ねーちゃんが『できなく』なれば、牧美ねーちゃんは『できる』ようになるのかな?」
「そうかもしれないけど、それは無理だろ。魔奇魅さんは『できない』ことを増やすことは『できない』って言ってたし」
「じゃあ、なんで『できない』ことを増やすことが『できない』のさ? 魔奇魅ねーちゃんは何でも『できる』んでしょ?」
「それは……」
「僕なんか、学校の勉強『できる』ようになったと思ったら、またすぐに『できなく』なっちゃったんだよ」
「それは『できない』んじゃなくて、『しない』だけ……」

言いかけて、健太はハッと気付く。

「『できない』から『しない』……『しない』から『できない』…………そうか!」




「魔奇魅さん、お願いがあります」

健太はまたしてもデキル屋にやってきた。
魔奇魅も予想していたのか、なれた応対である。

「何かしら? なるべく簡単な依頼をお願いね」
「僕を……デキル屋で働かせてください!」
「……なーにを言い出すかと思えば……」

魔奇魅さんはチッチッチッと指を動かし、同時に宙に浮くスプーンが僕の額をコツコツと叩く。
266デキル屋にいらっしゃいませ:後編 7/9:2009/06/28(日) 19:09:28 ID:slXdzxUL
「ウチはデキル屋よ? この仕事ができるのはあたしだけ、バイトくんなんかに出番は無いわ」
「だから! その仕事ができないようになればいいんです!
 魔奇魅さんが『何もできなく』なるように、僕が代わりに働きます!」
「え? それってどういう……」
「魔奇魅さんが念力で何かを取り寄せたいとき、僕が代わりに持ってきます。
 魔奇魅が誰かの動向が知りたいとき、僕が代わりにあちこち駆け回って調べます。
 何かを『する』から、『できなく』ならないんです。
 だから、僕が色んなことを代理でやって、魔奇魅さんは何も『しない』ようにすれば、いつかきっと……」

魔奇魅は、キョトンとした目で健太を見ていた。

「……あの…………駄目、ですか……?」
「……ハッ……」

魔奇魅が口を開く。

「アハハハハハハハハハ! 最高! それ面白い!」

魔奇魅は、心底愉快そうに笑う。

「じゃあ……!」
「アハハ、うん採用! だけど、一つお願い」
「なんですか?」
「給料は余分に出すから、どうか牧美の世話もしてやってくれない?」
「もちろん、最初からそのつもりでしたから!」
「ありがとう健太……アハハ、こんなに笑ったの久しぶり……」

そういう魔奇魅は、本当に愉快そうで……嬉しそうだった。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「その机はこっちね。その荷物はこっち」
「へ〜い……」
「魔奇魅ねーちゃん、これもデキル屋の仕事に入んの……?」
「もちろんよ。ちょうど大掃除したかったところなのよね〜♪」

あれから二週間、健太と健吾は、朝からデキル屋事務所の掃除を手伝わされていた。

「でも、今までは一人でやってたんだろー?」
「念力使ってね。そうすれば一発なんだけど、『しない』ことにしたんだから仕方ないじゃない」
「だからって本人が手伝いすらしないのは納得いかないんですけど……」
「まあまあ、細かいことは気にしない♪」

なんだかんだいいつつ、昼を過ぎる頃には大分かたづいてくる。

「ん……そろそろ牧美さんが散歩に出かける時間だ。
 魔奇魅さん、牧美さんの様子を見てきます」
「うん、お願いね」
「あ、兄ちゃんサボリはズルいぞ!」
「残念だったな健吾、これも業務のうちだ」

健太は文句を言い続ける健吾を尻目に、颯爽と自転車に飛び乗った。



267デキル屋にいらっしゃいませ:後編 8/9:2009/06/28(日) 19:10:09 ID:slXdzxUL
「健太くん、見て見て!」
「あっ、牧美さん!」

ちょうど散歩中だった牧美を見つけた健太は、目を疑った。
牧美は車椅子に乗ってはいなかったのだ。
ただし、片方の腕で松葉杖をついてはいたが。

「車椅子に乗らないでも大丈夫なんですか!?」
「私、左足が動くようになったのっ!! ほらっ!!」

確かに、牧美の左足は彼女の意思を伝えている。

「この調子で、また右足も動かせるようにがんばるわね!」

希望に満ちた顔で、牧美はそう言って笑った。




「兄ちゃん兄ちゃん、大変だよ!」

思わぬ吉報を手に入れた健太は、すぐにそのことを魔奇魅に報告しようとデキル屋に戻る。
すると、何事かと慌てている健吾に出迎えられる。

「なんだよ、どうした?」
「魔奇魅ねーちゃん、魔法の一つが『できなく』なっちゃったんだ!」
「! やっぱりそうなのか!」
「やっぱりって……健太くん、どういうこと?」

健太は、魔奇魅に牧美が歩けるようになったことを伝える。

「そう……牧美が……」

魔奇魅は両手で顔を覆う。

「よかった…………本当に、よかった……」

魔奇魅は泣いていた。
顔は隠していたけど、健太にはすぐにわかった。

「これで、牧美ねーちゃんの目を見て話せる日が一歩近づいたね!」
「ナマ言いやがって、このっ!」

健太は健吾の頭を肘でつついてやった。




魔奇魅が『できなく』なったのは、テレポート……。
一瞬で想った場所にワープできる魔法だった。

「これでこっそり子供の病室に忍び込んで、
 その子の人生を左右するようなイタズラとかが『できなく』なるわけね」
「健吾の時のこと言ってるんでしょうが、誤解を招くような表現は止めてくださいよ……」
「ふふ、結局あの時はタダ働きしちゃったからね。健太はあたしに借りがあるってわけ」
「それを言ったら魔奇魅さんも一人じゃ牧美さんの足を元に戻せなかったでしょう? お互い様ですよ」
「あはは、そうね……」
268デキル屋にいらっしゃいませ:後編 9/9:2009/06/28(日) 19:10:53 ID:slXdzxUL
魔奇魅は、突然俯いた。

「……? どうしたんですか?」
「いや、ね……あたし、ずっと傲慢だったなって思って……」
「傲慢……?」
「こうやって助け合うことが『できる』から、人間は一人では何も『できない』……。
 ……そんな、簡単なことを、あたしはずっと忘れていたんだわ。
 何でも『できる』自分を呪いながら、あたしは『できる』ってことの本当の意味を考えてもみなかった」
「一人で何でもできたら、こんなに沢山人間がいる意味無いですもんね」
「そう……。それに気付かせてくれて……ありがとう、健太……」
「そ、そんな……水臭いですよ。俺はただ……」

ジリリリリリリリリン!

健太の言葉を遮るように電話が鳴る。
魔奇魅がすかさず受話器を取る。

「はい、こちらはデキル屋です。ご用件は―――」

受話器の向こうの相手と色々とやりとりし、
最後に依頼を承った旨を伝え、魔奇魅は電話を切る。

「さあ、これからが大変ね! 早速仕事だわ!
 できなくなったテレポートの代わり、しっかり頼んだわよ、デキル屋助手!」
「テ、テレポートの代わり!?」

健太の背筋に嫌な予感が走る。
思わず助けを求めて後ろを振り返ったが、
彼の愛する弟は、既にその場から逃げ出していた。



「ほらほら〜、もっとスピード出しなさいよ、デキル屋助手!」
「坂道はキツいっすよ〜!」

魔奇魅を後ろに乗せた自転車を、必死でこぐ健太。

「兄ちゃんがんばれ〜!」
「あ〜っ、健吾、いつの間に乗ってたんだ!? おまえは自分で歩けっつーの!!」

今日もいい天気の、絶好の仕事日和。
デキル屋が閉店するための戦いは、まだ始まったばっかりだ。


〜 おしまい 〜
269創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 19:12:52 ID:slXdzxUL
いつ書いたのか覚えてないぐらい昔のブツなので、
我ながら色々と荒唐無稽だったり描写不足だったりするんですが、
それはそれで味かな、と思ったのであまり直さずに投下してみました

感想など頂けると嬉しいです
270創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 23:29:50 ID:YRHmEs9c
投入乙
271創る名無しに見る名無し:2009/06/29(月) 01:31:35 ID:Hl1TWqYf
投下乙
なんか全体的に雰囲気が好きだ。いいもの読ましてくれてありがとう!
272創る名無しに見る名無し:2009/06/29(月) 22:43:41 ID:Tg3ZROPo
>>269
新作投下乙です
また思いついたら投下してちょ
273創る名無しに見る名無し:2009/06/30(火) 00:09:09 ID:Cz3erzXJ
投下乙ばかりで感想を書く人がいないよな、このスレ
274創る名無しに見る名無し:2009/06/30(火) 11:23:32 ID:SsSs7stA
そういうお前も感想書いてないじゃん
率先して感想書けよ
275創る名無しに見る名無し:2009/06/30(火) 11:53:51 ID:SsSs7stA
と、言うだけなら簡単なのは俺も同じなので、
率先して読み直して感想書いてみた

>>269
なんとも不思議な話だなぁ
魔奇魅の過去はチラっとしか触れられてないけど、
まだ魔法が使えなかった時期に母親を病気か何かで亡くしてしまったという事なのか?
そしてそれを切っ掛けに魔法の力に目覚めたとか?
だとすれば牧美を苦しませることが分かっていながら、健吾を助けようとした理由も分かるかな
面白かったけど、もうちょっと細かい所に掘り下げがあれば、より良くなったと思う
276創る名無しに見る名無し:2009/06/30(火) 18:53:30 ID:lksfxWe3
まあ、作者さん的には投下乙だけより
一言でも話の内容に触れてもらった方が嬉しいだろうしな。

>>243
さすがに最後だけあってフリッデはめちゃくちゃ強いな
まなみたちも石にされちゃって。前半の鵺戦も好き
最終回期待してます

>>269
『できる』ことをしたら代わりに妹の『できない』ことが
増えてしまうなんてなぁ…悲しい話だ。
でもしなくなっていったら、妹さんも回復したみたいだし
今後は暗くなることは少なそうでよかった
277創る名無しに見る名無し:2009/07/04(土) 19:18:20 ID:qF4dLNhR
>>243
フリッデのモチーフは蛇ですか
蛇女は見たものを石にするという話があるので連想した
278創る名無しに見る名無し:2009/07/05(日) 14:54:28 ID:9E/mNsOp
まとめサイトの閲覧者が3000を超えている
結構人気のあるスレみたいだ
279創る名無しに見る名無し:2009/07/07(火) 19:25:21 ID:Va9ZfAHg
新作祈願
280創る名無しに見る名無し:2009/07/09(木) 00:26:06 ID:DY0goNnR
新作を欲しがった時、その本当の意味での新作は、君の胸にあるのさ
さあ。
281創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 20:33:01 ID:KrbU98w1
まとめサイトも更新されなくなった
たぶんまなみの作者が自分の作品を
更新しているだけだったみたい
282創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 20:51:04 ID:l4yOcJgu
一々報告するようなことか?
それにこの板のスレがしばらく停滞なんて珍しくもないんだがな
283創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 21:45:29 ID:S+hk3WwN
それより管理人しっかりしてくれよって思う
帯の部分は管理人しか編集できないのに、現行スレが更新されたのはつい最近だし
284創る名無しに見る名無し:2009/07/11(土) 10:22:29 ID:EM2v4epI
俺は普段全く編集してないけど、
2スレ目が埋まった後に誰も拾ってなかったSSを全部一気に載っけたぜ
さながら最終日にまとめてやった夏休みの宿題のようだった
285創る名無しに見る名無し:2009/07/13(月) 16:10:55 ID:wgBO9syo
>>281-284
申し訳ない。いや本当に。言い訳なんてしない。
責任がある以上、忙しいなんて言い訳にもならんからね。

言われてからやるなんて、なさけない上に恥ずかしいやね。
これからはちゃんと気を付けます。
足りないところがあったら言って下さい、頑張りますから。
286創る名無しに見る名無し:2009/07/13(月) 20:03:58 ID:5f7pDL5w
>>285
お疲れ様です
ありがとうございました
287創る名無しに見る名無し:2009/07/13(月) 20:43:03 ID:+RyGj9nv
>>285
管理人さんですか?
場所を提供してもらえるだけでも十分ありがたいことですから、
お忙しいならあんまり無理はなさらないで下さいね
288 ◆zavx8O1glQ :2009/07/13(月) 23:25:23 ID:oywYFpkL
>>285
しばらく離れていたのですが、自分もこれからちょいちょいwiki更新
手伝っていきます、一人で背負い込まないでくださいね。

で、なんだか自分の中で魔女汁があふれて来てしまったので、また暫く
お世話になります、どうぞよろしくお願いします。
289ろこ☆もーしょん! 第1話 1/3:2009/07/13(月) 23:33:57 ID:oywYFpkL

第一話『聞いてみる?』



「——こうして我々は魔族を打ち倒し、かけがえのない仲間たちの尊い犠牲の上、見事
銀河に平和を取り戻す事ができたのであった……と」

 感無量のため息を深く吐きながら、夜空を見上げる。
 街から少し離れているだけだというのに、この公園では自分の部屋よりいくらか多く
の星が見えた。

「うーん、泣けるなあ……」

 プリントアウトして持ってきた自作小説を読み終えた私は、溢れ出る涙を止めること
が出来なかった。なんていい話なんだろう。
 真夏の夜風が、ぬるぬるとした感触で私の髪に湿気を含ませる。きっと風も感激して
いるのだ。私は今ここに、自分が天才であることを確信せずにはいられない。
 女子高生作家、華麗にデビュー! そんな電車の中吊りが頭の中で次々と印刷されて
いくのを、いやいやまだ早いなんて首を振って制する。

 読み合わせでチェックした誤字にもう一度目を通し、膝の上で原稿を整える。あとは
これを持って帰ってデータを直すだけ。
 そうしたらネット掲示板に貼付けて、あの人の反応を待つのだ。憧れのあの人もきっ
と褒めてくれるに違いない。
 わくわくしている胸をぎゅっと押さえつけ、大きく伸びをしてから立ち上がる。

 ——と、目の前に小さな女の子が立っていることに気がついた。

 生暖かい風が私達の間を通り過ぎ、嫌な汗が背中を伝う。
 音読を聞かれるのが恥ずかしくてわざわざこんな公園まできたというのに、なんとい
うことだろう。

「き、聞いてたの?」

 少女は黙って大きく頷くと、オレンジ色の乱れた頭がばさりと揺れた。

「途中からね」

 細いハスキーボイスと共に、ゆっくりと戻る顔の中で見開かれた瞳は、目を合わせて
いるのにどこか私よりも遠くを見ているような、少し悪く言うと病的な瞳だった。
 一瞬よぎった恥ずかしさを押し殺し、思わず声が裏返る。

「お、女の子がこんな時間に遊んでちゃだめでしょ。パパもママも心配するよ」
「うん、もう帰るとこ」

 少女はくたびれたクマのぬいぐるみ型リュックを背負っていて、それと背中の隙間に
は身の丈ほどもある黒くて細長い棒が挟まっていた。

「じゃ、またね」

 てくてくと小さくなっていく少女をしばらく見つめ、そこでようやく落ち着きを取り
戻した私は、どことなくさびしそうなその後ろ姿に、急いでサンダルを履き直した。
290ろこ☆もーしょん! 第1話 2/3:2009/07/13(月) 23:36:20 ID:oywYFpkL

「ね、ねえ待って。送ってあげるよ、おうちまで」

 声に足を止めた少女がこちらへ振り返る。
 相変わらず目を見開いているものの口元はかわいらしく微笑んでいて、私は何故かそ
の不気味な笑顔に魅力を感じ、小走りで少女の後を追った。

☆ ☆ ☆

 青く照らされる広い芝生の中、一本だけのびた歩道を並んで歩く。
 まるで何かのキャンペーンガールみたいなエナメルワンピースが、きらきらと月の光
を反射していた。

「名前はなんていうの?」
「ろここ」

 歩幅を少しだけ落とし、じっくりと少女を眺めてみると、他にもおかしな点がいくつ
が見受けられた。
 乱れまくったオレンジ色の髪の奥にインカムつきの巨大ヘッドホンを装着していて、
先ほど見えた細長い棒は、先端が電話の受話器みたいな形をしているのだ。

「ふうん、ろここちゃんていうんだ。可愛い名前だね」

 おまけにさっきからげよげよ聞こえて来る足音に目をやれば、カエルの形をしたス
リッパを履いている。これは大変な不思議ちゃんかもしれない。

「うん」

 最近の親ってのは無茶な名前をつけるからなあ、なんて自然と微笑みがこぼれてしま
い、それに気付いたのか、ろここちゃんが足を止める。

「さっきのお話は、自分で作ったの?」
「そうだよ、すごいでしょ」

 しばしの沈黙のあと、ぷっとなにか吹き出す音が聞こえた。
 最初はそれがくしゃみか何かかと思ったが、よくよく見てみると、ろここちゃんが肩
をふるふるさせて笑っているのだった。

「なによー、失礼しちゃうなあ」

 こんな小さな子に私の作品の良さが分かるわけない。そう思ってわざと頬を膨らませ
て見せると、ろここちゃんはくすくす笑いながら、頭のヘッドホンをぐいと外し、私に
差し出してきた。
291ろこ☆もーしょん! 第1話 3/3:2009/07/13(月) 23:37:30 ID:oywYFpkL

「聞いてみる?」
「ああ、何か聞いてたのね?」

 言われるがままに渡されたそれを付けてみると、耳のあたりはほんわかと温まってお
り、なんだか甘い香りが鼻をくすぐった。

「何も聞こえないよ」
「ちょっと待ってね」

 ろここちゃんがすらりと背中の受話器棒を引き抜き、私が胸に抱えていた原稿に触れ
ると、突然ヘッドホンから男の人の声が聞こえて来た。

「おお、あんたか。丁度よかった」
「へ? あ、あのどちら様で……」

 もちろん聞いた事のない声で、それなのに「あんた」なんて馴れ馴れしいものだから
私はちょっと面食らってしまった。

「どちら様って、あんたが書いたんじゃねえか、この俺を。名前が何かって聞いてるん
だったら『銀河滅亡帝国ファーギャラクシー』としか答えようがないね。恥ずかしくっ
て言えやしねえよ、そんなもん。いやー、俺はこんな文章表現で表に出たくねーわ。自
分に酔い過ぎだって、もっと読者の気持ちを考えて書いてくれよ。まじ勘弁——」

 唖然。
 それは確かに私の書いた小説のタイトルだった。マシンガンの様に喋り続ける声から
身を隠すようにしてヘッドホンを外し、そっとろここちゃんの手へと戻す。
 
 これは決していたずらなどではない。そう思わせる何か妙な空気が私を包んでいた。
一体何が起きているのか分からない、それでも胸の鼓動が自分を紅潮させていく。

「なんなのコレ……」
「ハートフル・ボコーダー」

 思わず床にへたり込んでしまった私の前で、ヘッドホンを付け直したろここちゃんが
颯爽と受話器棒を構えていた。

「い、いや。あなたは一体……」
「ろここは魔女でね、モノの声を聞くことができるの」

 一陣の風が、すっかり力の抜けてしまった私の手から、原稿の束をはらはらと奪い
取って行く。

「送ってくれるんでしょ?」

 長い間隔をもってぼんやりと光る街灯の切れ間、僅かな月明かりに照らされるろここ
ちゃんの不気味だけど憎めない笑顔、そして「魔女」という言葉が、私を捕らえて離さ
なかった。


 つづく
292 ◆zavx8O1glQ :2009/07/13(月) 23:43:01 ID:oywYFpkL
更新ペースにばらつきが出るかもしれませんが、心温まる少し不思議を目指して頑張ります。
ではでは、よしなに。
293創る名無しに見る名無し:2009/07/14(火) 19:54:14 ID:qm1WsMwX
>>289
投下乙
久しぶりの魔女ものですね
長編になりそうなので期待しています
294創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 10:48:47 ID:TeLjy0QF
これはいやだなw
295創る名無しに見る名無し:2009/07/16(木) 19:46:54 ID:Hw6ldcz8
次のメタモルゲーマーズではどのようなゲームの名前が
出てくるのだろうか
296創る名無しに見る名無し:2009/07/16(木) 21:36:36 ID:di8B7ceH
サイトのSSにID消し忘れがあったから直しといたぜ
297創る名無しに見る名無し:2009/07/18(土) 16:31:19 ID:MhYtJsSe
まなみ作者もゲーマーズもどこか行ってしまったみたいだ
298創る名無しに見る名無し:2009/07/18(土) 20:55:14 ID:LIaprVZK
ドラクエで忙しいんじゃね?w
299まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/18(土) 22:10:42 ID:PEjbeiWe
いやぁ、俺まだドラクエは買ってないんすよ…
というわけで、長らくお待たせして本当にごめんなさい。
ようやく最終回完成しましたのでただいまより、投下します
300まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/18(土) 22:12:04 ID:PEjbeiWe
炎術剣士まなみ 最終回『明日への光!優しき星に祝福を』

―――前回までのあらすじ
最後の次元鬼・鵺を倒し、次元鬼族の長である、女帝フリッデのもとへと
たどり着き、対決する三剣士。しかし、フリッデの圧倒的なパワーの前に
剣士の攻撃は悉く無効化され、一方的に攻撃され、ついには変身が解けてしまう。
そして剣士は石化され、人々の希望は打ち砕かれる…。

夜空に石化した三人の姿が映る。見たものは皆、その表情は絶望が色濃く、
恐怖に震えていた。
「け、剣士がやられたのか!?」
「も、もうだめだ!俺たちはおしまいだ!!」
半狂乱となり、叫び、頭を抱えて縮こまる。

「人間どもよ、これが我の力だ!所詮剣士など、小娘に過ぎない!
絶望に震え、二度と日の光を拝めない未来しかお前たちにはないのだ」
フリッデの高笑いは東京はおろか、全国に響き渡る。
それと同時に、地球は暗黒に包まれていく。決して夜だから暗いのではない。
女帝が放った暗黒が星すべてを包み込んだのだ。

「くそっ!僕たちは諦めるしかないのか!?」
武田がガンッ!とコントロールパネルを悔しさを滲ませながら殴り、叩く。
思わず、ロボットから飛び降り、着地すると次元魔城の方角を見つめる。
「まなみさん…まなみさぁぁぁん!!」
その叫びは今まで呼んだ中でも特に魂からの叫び。しかし、武田一人の力では
何も起こることはない…。

「うおおお!くそったれぇ!!」
地に伏せ、涙さえ流しながら何度もアスファルトに拳骨を当てた。
その時、彼の真後ろに一瞬眩い光が放たれ、武田が振り向くと同時に光は止む。
そこにいたのは長い金髪をなびかせた青いロングドレス姿の少女。
両手で包むように、水晶玉を大事そうに持っている。

「あなたは…?」
武田が女に問いかけると、彼女は真剣な表情で口を開く。
「私はフィリナ=メリアスと申します。以前、新堂まなみさんたちに、
祖国メリアスを救ってもらいました」
「まなみさんたちから聞いています。その…あなたがなぜここに?」
301まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/18(土) 22:13:17 ID:PEjbeiWe
再び武田が質問すると、フィリナは水晶を見つめながら答える。
「まなみさんたちの…いえ、この世界の危機というのは存じてます。私は剣士の
皆さんに恩返しをしたい、そう思ってこの聖水晶を持ってきました。
これの力を使えば、まなみさんたちを復活させることが出来るかもしれない…」
そう言って、彼女は水晶を高く掲げる。

「聖水晶よ…正義のために、その力を現し給え!」
聖水晶が眩い光を発生させる。それが収まると、武田は思わず空に浮かんでいる
まなみたちの映像へと目をやるが…彼女たちは以前、石化したままだ。
「…うぅ、聖水晶の力だけでは女帝フリッデの力を超えることもままならない…
ごめんなさい、武田さん…お力になれなくて…」

申し訳なさそうに頭を下げるフィリナに武田は慌てた表情。
「い、いえ、あなたが謝ることではありませんよ。…しかし、そうなると…」
武田はついに万事休すかと、脳裏に最悪の事態が過ぎった。
その時、不意と足音が聞こえ始め、武田はそちらへ振り向く。
そこにいたのは悠美であった。

「悠美さん…動いていいんですか?」
「ええ、私は大丈夫。武田さん、フィリナさん、まなみちゃんたちを蘇らせるには…
人々の希望の力が足りないの」
「希望の力…?」
悠美が小さく頷く。

「そう…みんなが絶望しきっているのに、どうやって未来へと世界を進める
力がまた蘇るでしょう…人々が希望を取り戻せば…必ず」
「人々の希望…そ、そうだわ!」
何かを思いついた様子のフィリナは聖水晶に力を注入させる。

「武田さん、この世界の放送機関をあなた方の使用している機械で使うことは出来ませんか?」
「え?う〜ん、わかりません…でもなんとかしてみましょう」
武田は急いで、ロボットの操縦席に装着されている通信回路を開く。
302まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/18(土) 22:14:53 ID:PEjbeiWe
「宮本、こちら武田だ。そっちは大丈夫か?」
一瞬、雑音が混じるが、途中から音声はクリアとなり、宮本の声が聞こえてくる。
『隊長!こっちは大丈夫です!それよりも…』
「ああ、分かってる。宮本、いきなりだが、放送機関の電波を借りてきてくれ!」
『隊長、いったいなにをしようっていうんですかい?』
「いいから急いでくれ!」

武田の声に大慌てで、作業を開始する宮本。こうしている間にも
絶望は拡大し、闇は広がっていく。ようやく、宮本からOKサインが出ると
武田は悠美とフィリナをロボットの前面に招く。
「フィリナさん…それで、どうするのですか?」
「この聖水晶の力を使い、映像を世界中に届けるのです。人々に全てを諦めるのは早いと
いうことを伝えるのです。上手くいくかどうかはわかりませんが…やってみる価値はあります」

武田がコックピットからモニター付きの通信機を持ってくると、回路を繋ぎ電源を入れる。
そして同時に聖水晶から眩いばかりの光が走り、世界中の空に、剣士の映像ではなく
フィリナの姿が映し出される。
「皆さん、私はフィリナ・メリアスと申します。突然のことで驚かれましたでしょうが、
今は緊急事態なのです。先ほど映し出されていた通り、剣士の方々は敗北しました。
ですが、私たちが諦めてしまっては、本当に終りなのです」

フィリナに続いて武田が横から入り、映像に映りだされる。
「突然すみません!私は地球防衛軍所属の武田省吾と申します!剣士の皆さんを
救うには人類の力が必要なんです!だから希望を捨てずにいてください!」
そして悠美が最後に姿を現す。

「新堂まなみの母、新堂悠美と申します。みなさん、娘とそのお友達を信じていてください。
すべての人の思いが届けば、まなみちゃんたちは必ず、もう一度立ち上がります!」
悠美の台詞を最後に、唐突に映像は途切れた。
次元魔城から放たれた魔力により映像はかき消されたのだ。
「まったく、愚かな者どもだ。このようなことをしても何の意味もなさぬ」
フリッデは三人の行動をあざ笑う。人々に希望は戻るのだろうか…?
303まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/18(土) 22:16:00 ID:PEjbeiWe
―――桜花高校。学生や教員のみならず近隣住民が避難しているそこに映像が
映し出される。それを見ていた少女が呟く。それはまなみの友人の一人、沙羅であった。
「まなみ…あたしはあんたの友達なんだから…負けないで…もう一度立ち上がって!」
彼女に呼応してか、少しずつ周りの人たちも立ち上がっていく。
「そうだ…もう一度その勇姿を見せてくれ!」
「いつまでも応援してます!だからお願い!」
気づくと、学校にいた人全てが彼女たちを応援していた。

―――新宿区にある大きなビルの入り口。そこにも人々が避難していた。
そして彼も例によって映像を見ている。スーツを着た女性が真剣な表情で見つめている。
「裕奈さん…あなたはもう一度、アイドルをやるんでしょ?こんなとこで終わっていいの!?」
彼女は深沢紗枝。裕奈を一度、大人気アイドルに仕立てた程の実力者だ。
さらに、周りにいたボディビルダーのようにごついおじさん、眼鏡を掛けた細見で
長身の男、裕奈LOVEと書かれた鉢巻をした学生が立ち上がる。
「裕奈ちゃぁ〜ん!!もう一度、その歌を聞かせてくれぇ!」
「僕たちはそのためなら、いくらでも力になるぞ!」
「頑張れぇぇ裕奈ちゃぁぁぁん!!!」
そして、彼らの様子を写真に収めるラフな服装の女。彼女は川村真紀、剣士の娘を
気に入ってる女性記者。
「ほら、こんなに応援してくれてる人たちがいるのに…あなたたちは負けられないのよ!」
自然と声は大きくなり、先ほどまでの絶望も消え失せていた。

―――吉祥寺。ひだまり幼稚園には先生たちと、園児たちにその親御さんが
避難している。園児たちは石にされた彼女らの姿に泣き喚いていたが、フィリナの話を
聞くと、なんとか泣き止む。そして一人の少年が叫ぶ。
「伊織お姉ちゃん、もう一回僕と遊んでよ!伊織お姉ちゃーん!頑張れー!」
和馬は、大好きな伊織の名を何度も叫ぶ。そして周りの園児たちも応援を始め、
母親たちは穏やかな表情で自分の子どもたちを見つめる。
「まなみさん、裕奈さん、そして伊織さん…子どもたちとまた遊んでください…
あなたたちのために私たちも希望を捨てません」
先生の一人、真白も空を見上げながら呟いた。

人々の応援の声は、どんどん広がっていき、いつしか世界中へと広がっていく。
それは集まっていき、眩い光へと変化していく。それは次元魔城へと飛び、玉座の間を
粉砕し、剣士の前へと降り立つ。
「な、なんだこれは!?」
さすがの女帝も驚き、その光の強さに目を覆う。光は三人を包み込んだ。
304まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/18(土) 22:17:23 ID:PEjbeiWe
人々の希望の力が集まってできた光は、石化した三人の身体を再び、元の姿へと
変化させながら、さらに新たな力を与えていく。そして最大級の光が発生した
次の瞬間、石化した三人からそれぞれの属性のオーラが放出され
指先から、元の色へと戻り、息を吹き返していく。そして、彼女たちを再び剣士の姿に変えた。

「小娘ども…何故だ……!?」
フリッデは憤りを隠せない。
「これが人の力…あなたが考えているほど、人の力は弱くはない!」
「そういうこと!みんなが信じてくれてる限り、あたしたちは負けないんだから!」
「女帝フリッデ!ここであなたを…斬ります!!」
蘇った三剣士は神々しいまでの気を纏い、フリッデを睨みつける。

「だが、いくら復活したところで我との力との差は歴然!今度は完全に息の根を
止めてくれるわ!はぁぁぁぁ!!」
両手に気を集め、一気にそれ解き放つ。しかし、まなみは片手を振るうだけで
それを弾いた!
「なに…?」
「フリッデ!もう、あなたには絶対に負けない!」

「はああああ!!稲妻波動!!」
前回放ったのとは比べ物にならないほど、巨大な電撃の波がフリッデに飛ぶ。
「ぐう!き、貴様…!」
その衝撃に驚き、思わず玉座から立ち上がり、拳を握り伊織を睨む。

「おぉりゃあああ!水迅大乱舞!!」
高速で裕奈がフリッデに接近し、間髪入れず何発も拳を浴びせ、蹴りつけていく。
とどめのアッパーカットでフリッデを吹き飛ばす。
「ぐあぁぁぁ!な、何故だ…お前たちに何故、これほどの力が…!?」

その疑問にまなみが答える。
「女帝フリッデ、あなたにはわからないでしょうね…人の思いと絆の強さ…
確かにあなたの言うような人もたくさんいるけど、人はあなたの思うほど弱くはない!」
そう言い、刀を構え、そこに炎の気を集めていく。
305まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/18(土) 22:18:39 ID:PEjbeiWe
「それでも、我を倒せるというのか新堂まなみ!はあぁぁぁ!!」
「火炎!真!破斬!!てやああああああ!!!」
フリッデが気を集め、バリアを張りまなみの刃を受け止める。
しかし、それは一瞬にしてひび割れ、砕け散った!

「な…!?うぐあぁぁぁぁぁ!!」
まなみの刀がフリッデに一閃!女帝はその場に倒れ伏した。
「ゆ、許さぬぞ剣士ども!ぬぅぅん!」
「きゃあ!」
フリッデの渾身の力で放った一筋の光線がまなみの額を霞め、瞬間、血が流れ出す。

「まなみちゃん!!」
「大丈夫ですか!?」
心配する二人にまなみは、頭を押さえながら、軽く微笑む。
「だ、大丈夫…それよりも、私たちの力を合わせて、フリッデを…!」
頷きあう三剣士。そして刀を合わせていき、そこにそれぞれの気を集めていく。

「「「今こそ悪を断つ力をここに!」」」
合わせた刀を、そのまま高く掲げ、体が眩く発光しだす!
「「「逆鱗!!超龍覇!!!」」」
光と化した三人が解け合い、」その姿は巨大な龍へと変わる!咆哮をあげると、
フリッデに向かって飛び出す!

「お、おのれぇ!」
フリッデが光線を放つがそれをもろともせず弾き、何事もなかったかのように突進を
続け、そのまま一気に女帝の身体を貫通した!
「ぎゃああああああああああ!!!……く、み、見事だ……剣士の小娘ども…
だがな…我ら次元鬼族は滅びぬ……必ず復活し、この世を闇に…染め上げる……!」
最期に、呪いの言葉を残し、フリッデは完全に消滅した。

そして剣士が変身した龍はそのまま、東京上空へと飛びあがる。
そこで三人の姿へ戻り、分離した。
「次元鬼がまた復活するかもしれないなら…!」
「完全に封印しないと!」
「裕奈!伊織!最後の大仕事と行くわよ!」
306まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/18(土) 22:20:11 ID:PEjbeiWe
頷き合うと、上空で三角の形に並び、両腕を三角の中心に向かって突き出した。
「この世に漂う次元鬼の魂よ…!」
「平安のために、ここに集まらん…!」
術に呼応して、剣士が倒してきた次元鬼の魂が東京タワー跡地に集合する。
無論、次元鬼三姉妹と女帝フリッデの魂も…。

「「「剣士が超奥義!!!封印の術!!!」」」
叫びが響き赤白い光が放たれる。その光はタワー跡地に沈んでいき、次第に収まっていき
完全に光は見えなくなった。
「「「荒れた大地を、生きとし生けるものの結晶を、再び現わせ!!!」」」
そして最後の術、それが放たれると、次元鬼によって破壊されたものが元の姿を取り戻し、
封印された次元鬼の真上に東京タワーも姿を見せた。しかし…

「うぅっ……!」
「まなみちゃん!?」
「まなみさん!?」
術が終わったのも束の間、まなみが力尽きたかのように、ゆっくりと地上へと落ちていく。
そして、裕奈と伊織が慌てて彼女を追いかける。


―――力なく横たわっているまなみ。そこへ二人が駆け付けた。
「まなみちゃん!!」
「しっかりしてください!!」
裕奈が抱き起こすが、まなみは目を覚まさない…。いくら呼びかけても揺すっても
変化はない。最悪のことを想像し、二人の表情が青ざめる。

「そ、そんな…まなみちゃん、冗談はやめてよ…ねぇっ!!」
「まなみさん……いや、いやだ……まなみさぁん……!」
ぽろぽろと涙がこぼれ、嗚咽をあげる二人。そこに遠くから声が聞こえだす。
「まなみさぁーん!!はぁはぁ、裕奈さん!伊織さん!」
武田が息を切らしながら、三人の元へ駆け寄る。すぐ後ろには悠美とフィリナの姿も。
307まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/18(土) 22:21:45 ID:PEjbeiWe
「武田さん、悠美さん、フィリナさん…まなみちゃんが……!」
瞳を赤くしながら、三人を見つめる裕奈と伊織。
「まなみさん!しっかりしてください!」
裕奈に代わって、武田がまなみを抱き寄せるが、やはり反応は返ってこない…。

「まなみちゃん、お母さんよ…まなみちゃんのおかげで、ちゃんと元気になれたわ…
だから、まなみちゃんもしっかりして…お母さんを一人にしないで…!」
悠美も小さく震えながら涙を流す。気づくと、後ろでフィリナも泣いていた。
「ごめんなさい、まなみさん…聖水晶でも、もうどうにも…うぅ、えぐ…」
人を蘇らせる、そんな芸当は神秘の力が込められたものでも無理であった。

そして武田は彼女を強く抱き締めた。
「まなみさん、あなたがいない世界では、僕は生きていけない…だから…
もう一度、その笑顔を見せてください…!」
告白した瞬間、涙がまなみの頬に落ちる…その時、まなみの身体から炎が燃え上がった。
驚きのあまり、声も出ないが、その炎は周りに被害を与えず、優しく包み込んだ。

「……んっ…み、みんな…?」
ゆっくりと目を開き、呟いた。全員が一瞬の間を置いた後、泣き顔は喜びの顔へと変化した。
「まなみさん…まなみさん!!」
「まなみちゃん!よかったぁ…よかったよぅ…!」
裕奈と伊織が涙を拭くと飛び上がって喜び、同時にハイタッチした。

「まなみちゃん、お母さんに心配かけちゃいやよ…?でも、今回は御苦労さま…」
「本当です、まなみさん、本当にありがとう」
悠美とフィリナはまなみを労い、微笑んだ。

「まなみさん…よかった、もしものことがあったら、僕は…」
また泣きそうな武田に軽く微笑むまなみ。
「武田さん…私こそ、ごめんなさい…そしてみんなありがとう」
お礼を述べるまなみ。そして裕奈と伊織がまなみと肩を並べ、お互いを見ると軽く笑い合う。
「「「成敗、完了…!」」」
308まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/18(土) 22:22:59 ID:PEjbeiWe
―――三ヶ月後。日曜、夜の武道館。舞台上は暗いが、すでに観客がひしめき合い、
超満員となっている。そして唐突に流れ出した音楽に観客は歓声を上げる。
「みんなぁー!!今日はあたしのために来てくれて、ありがとぉー!!」
その声に観客はうおーうおーと吠えながら、ステージ上を見つめる。
「今日は最後まで楽しんでいってねー!」
『『『うおぉぉぉぉ!!裕奈ちゃぁぁぁぁん!!!』』』

ステージに現れた裕奈の姿に、観客は興奮しまくりだ。そして最初の歌で
すでに顔が真っ赤なものまでいた。
次元鬼との戦いの直後、すぐにアイドルに復帰した裕奈は、ブランクもなんのその、
瞬く間に、再びトップアイドルの座を手にした。

歌手のみならず、映画にドラマにバラエティと剣士効果もあるのかは知らないが
いろんな分野で活躍していた。
ステージはあっという間にアンコールまでこぎ着けた。裕奈には珍しく
静かで穏やかな歌を歌い、そして最後に一言呟いた。
「みんな、だ〜い好き!」

その一言で、一瞬静まり返ったかと思うと、武道館を割らんばかりの大歓声が
響き、ファンは吠えに吠えまくった。ようやく治まると、裕奈は口を開く。
「みんな、今日も本当にありがとう。あたしが今、ここに立ててるのも、あの時、
みんなの応援があったからです。あたしたちを信じてくれた人たちがいてくれたからです。
あの時は辛いこと、悲しいこと、いっぱいあったけど、今、とっても幸せです!
みんなも諦めないで突き進んでください!そして、あの時の気持ちを忘れないで…!」

裕奈の言葉に観客は静かに全員頷いた。そして裕奈は笑みを浮かべながらも
一粒の涙をこぼしながら、いつまでも手を振りながらその場を後にした。
309創る名無しに見る名無し:2009/07/18(土) 22:25:12 ID:16fpIQEo
ついに最終回か…支援
310創る名無しに見る名無し:2009/07/18(土) 22:29:34 ID:Q0EFuUuy
お疲れ様でした。
311創る名無しに見る名無し:2009/07/18(土) 22:30:42 ID:16fpIQEo
ばいさるか?
312創る名無しに見る名無し:2009/07/18(土) 22:31:08 ID:Q0EFuUuy
涙が出てきました
また投下しにきて下さい。
313創る名無しに見る名無し:2009/07/18(土) 22:44:46 ID:16fpIQEo
本人の投下終わり宣言も無いのに終わらしとるw
てか、やっぱバイさるかな
314まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/18(土) 23:01:21 ID:PEjbeiWe
―――吉祥寺のひだまり幼稚園。子供たちが室内でお絵かき遊びや粘土遊びをしている。
そこに真白先生がニッコリと笑顔でやってくる。
「はい、みんな〜今日は伊織お姉ちゃんが来てるよ〜」
そこに伊織が現れた。
「みんな、元気だった?今日も楽しく遊ぼうね」

どっと子供たちが伊織に群がり、遊んで遊んでと元気に飛び跳ねる。
伊織は今後の進路を子供たちのお世話がしたいという理由で大学で幼稚園教諭の免許を
取ることに決めていた。そして、少しでも子供たちとふれあいたくて、ボランティアで
ひだまり幼稚園によく来るのだ。

「伊織お姉ちゃん!僕たち、お姉ちゃんに見せたいものがあるんだ!」
「え〜それってなぁに、和馬くん?楽しみだなぁ」
和馬たちは自分たち専用の棚から、それぞれ紙を取り出す。
そこにはクレヨンで絵が何枚も描かれていた。

「これね、伊織お姉ちゃん!あと、まなみお姉ちゃんに、裕奈はお姉ちゃんもいるよ!」
それは剣士の絵であった。剣士の活躍が子供たちなりにたくさん描かれている。
「お姉ちゃん大好きだから、頑張って描いたんだよ!どう?」
一生懸命描かれたそれに、伊織は微笑み、和馬の頭を撫でる。

「ありがとう和馬くん、みんな。お姉ちゃん、とっても嬉しい。お姉ちゃんが
頑張れたのはみんなのおかげだよ。こうして遊んでいられるのも、私たちだけの
力じゃなくて、みんなのおかげ…本当にありがとう」
そういうと、軽く目の辺りをこする。そして再び笑顔になると、子供たちを
外へ連れて遊具を使って一緒に遊びだした。
315まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/18(土) 23:02:49 ID:PEjbeiWe
―――広々として、緑が広がる丘。長髪の少女がそこから、遠くの街を眺めていた。
そして、声を上げながら彼女に駆け寄る青年の姿も見える。
「まなみさ〜ん!オレンジジュース買ってきましたぁ!」
「ありがとう、省吾さん!」
名字ではなく名前で呼ぶまなみに、照れながら飲み物を手渡す武田。

「いつだっけ、デートする約束したの?」
「確か、秋の頃でしたっけねぇ…」
「そっかぁ…ごめんね、省吾さん。こんなに待たせることになっちゃって」
まなみが申し訳なさそうに謝ると、武田は首を振る。

「いいんです!それにあの時は、いろいろ大変でしたし…」
「そうだね…私たちが死にかけて、お母さんや省吾さんが必死に戦ってくれて…
あの時はありがとう、省吾さん」
「いやいや、まなみさんのためなら、僕はいくらでも命を張りますよ!」
「ふふ、省吾さんったら…」
「まなみさん…!」

まなみのことを見つめる武田。まなみは頬を赤らめている。
「しょ、省吾さん…ちょっと、まだ心の準備ってのが…!」
「僕は、今日ぐらいは強気で…って、うおっ!?」
武田が足もとの石につまづいて、バランスを崩し、まなみに向かって倒れこむ。

「す、すみませんまなみさん……ん?なにかいやーな予感が…」
武田がそっと上を覗くと、その手には何やら柔らかい感触。さらに上を見ると
怒りの炎を燃やしたまなみの顔があった。
「だぁぁ!こ、これは…不可抗力ってやつで…!」
「許すと思うの、省吾さん…?ふん!」
「だわあぁぁぁ!?」

まなみの鉄拳がヒットし、武田は空中で回転させるほどの勢いをつけながら
地面に叩きつけられる。
「ご、ごめんなさい…」
「もう!どんな理由でも、助平な真似したら怒るんだから!…本当に、しょうがないんだから…」
最後は苦笑しながら、武田の手を取り、彼を起こす。

「まなみさん…」
「じゃあ省吾さん…これからどこへ行こうか?」
まなみはニコッと微笑んだ。
「あなたとならどこへでも」
「そう、じゃあ私と同じだね…行こ、省吾さん」

透き通るような青空と輝く陽の下、二人はどこともなく飛び出して行った。
316まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/18(土) 23:05:51 ID:PEjbeiWe
ばいさるでした…投下の時間をもっと決めとけばよかったです。
炎術剣士まなみは、ひとまずこれでおしまいです。皆様いかがだったでしょうか?
まとまってない設定と、しょっちゅうブレるキャラに拙い文章能力でしたが
僕としては、やりたいことはやれました。ここまで頑張ってこれたのも
ひとえに、応援してくれた皆様のおかげです。本当にありがとうございました。
今後は、新作も考えていることはいますが、もうちょっと練ってからにしますw
それにまなみも、また外伝でも番外編でも、やってみたいことがありますしね。
まなみと裕奈と伊織の冒険と戦いはとりあえず今は終わり、今は。
もしかしたら今後の作品に出たりするかもしれませんw
それでは、長くなりましたので、終わりにしたいと思います。
読んでくれてありがとうございました!
317創る名無しに見る名無し:2009/07/18(土) 23:45:02 ID:16fpIQEo
最終回乙でした。ちゃんと最後は三人が幸せそうでよかった
それにしてもまなみはやっぱ武田とくっつくのかぁ
いつか二人の結婚式が見たいな。お疲れさまでした
318創る名無しに見る名無し:2009/07/19(日) 19:38:54 ID:51RilyR2
投下お疲れ様でした
とりあえずはまなみたちも普通の女の子に戻ったみたいだ
でも変身能力は消えてないはずだから
数年後危機が迫ったときに変身したりして
319創る名無しに見る名無し:2009/07/19(日) 23:04:45 ID:gza8t8kg
長い連載もとうとう完結したのですね・・・
嬉しいやら寂しいやら、とにかく感慨深いものがあります
また新たな作品を書いてくれるのではないかという期待もありますが、
今はただただこの一言


本当にお疲れさまでしたー!
320創る名無しに見る名無し:2009/07/22(水) 00:08:59 ID:DJTX6m+i
>>まなみ作者さま

長期連載本当にお疲れさまでした!
少々離れていた時期があり、全部読めていない部分もあるので
感想はまた後日是非改めて書かせていただきたい!

また新たなものなり、関連作であり期待していますが
なにより無理はなさらないでくださいです。

ではでは再度、お疲れさまでしたあ!
321ろこ☆もーしょん! 1/3  ◆zavx8O1glQ :2009/07/22(水) 23:09:36 ID:DJTX6m+i
第2話『そこへ至った理由』



 この子が魔女——?

 同じ疑問が繰り返し頭をよぎる。
 ろここちゃんを家まで送ると約束していた私は、自転車を押しながら小さな背中でぶら
ぶらと揺れているクマのリュックを追っていた。

 もしも彼女が本当に魔女だとするならば、先ほどの出来事、つまり自分で書いた小説に
愚痴をこぼされるという体験もまた本物ということになる。
 それはあらゆる面で信じがたいのだが、自転車のカゴで揺れている原稿はまるで不当な
死刑執行への抗議をしているようで、何かいたたまれない気持ちになってきた。

「本当に魔女なの?」
「うん」

 不意に問いかけても、返事に迷いは感じられない。

 街灯に集まったアブラゼミが、けたたましいノイズを増幅させる。
 きっと私の人生というチャンネルは、何かの事故が起こって特別番組を放送中なのだ。

「ろここちゃん……」

 ならば次にするべきことは決まっている。面倒なことは考えなくていい、ただテレビの
前で目を輝かせればいい。

「な、なに? 気持ち悪いよ」

 ろここちゃんの死んだ魚みたいな目はどちらかというと少々薄気味悪いのだが、大きく
見開かれているせいでまばたきのストロークがとても長く、ぱちぱちと開閉するまぶたを
じっとみていると吸い込まれそうになってしまいそうだ。

「あ、ごめんね。私はリコっていうの。よろしく」
「リコ」
「ちょっと名前にてるでしょ? 私キャラメル持ってるの、食べる?」
「塩のやつ?」

 そんなくだらないお喋りをしながら到着した住宅街。
 魔女の家というものに自転車を押したままたどり着けるのか疑問だったのだが、そんな
不安をよそに、ろここちゃんは一軒の家の前で立ち止った。

「……こ、これが魔女の家!」

 大袈裟に驚いたふりをしながら、まじまじと見回してみるが、どう見ても普通の民家で
あり、薄暗い光の奥からは夫婦喧嘩と思われる怒号と金切り声が飛び交っている。
 
「ううん、知らない人の家」
322ろこ☆もーしょん! 2/3  ◆zavx8O1glQ :2009/07/22(水) 23:11:31 ID:DJTX6m+i

 そう言いながらろここちゃんは背中からナントカいう受話器の棒を抜き出し、呼び鈴の
プラスチックカバーを叩き始めた。
 この棒には物質の声を聞き出す力があるはずなので、もちろん私はだまってそれを見な
がら、一体何がはじまるのかと期待に胸を踊らせていた。

 時折跳ねたり、仕切り直したりしながらコミカルな動きを披露してくれるろここちゃん
なのだが、突然振り向くと息をはずませながら口を開いた。

「うまく押せない!」
「え、押したかったの?」
「っう、うん」

 上ずった声に何故か魅力を感じつつチャイムを押すと、玄関を開いてくれたのは機嫌の
悪そうなおばさんだった。

「どなた?」

 そこで私はようやく、自分で何をしているのか分からないことに気がついた。

「ろここちゃん、どうしたらいいのこれ」

 ろここちゃんは答えずに、降ろしたクマのリュックから汚れたティーカップを取り出す
と、私を素通りしておばさんの前へと立ちはだかった。

「お届けにあがりました」
「一体なんなの?」

 差し出されたティーカップに不審を抱いたのか、おばさんは眉間にしわを寄せながら、
私たちの顔と交互に見比べ始める。所々欠けてしまっているティーカップもそうだが、私
たちもエナメルワンピースにパジャマという相当に怪しいコンビなのだ。
 さらに玄関の奥からどたどたという音とともに、おじさんまでもが現れた。

「こんな遅くに何だというんだ」
「お父さんとお母さんはどうしたの? 連絡してあげるから電話番号おしえなさい」
「い、いえ私たちはその……なんというか……」

 空気を読まずに胸を張っているろここちゃんの襟をつかみ、ずるずると引っ張る。周囲
は既に穏やかでないガスが充満し始めていた。一触即発である。

「し、失礼しますっ!」
「ちょっと待て! このガキ!」

 繊細な心の持ち主である私は、人に怒鳴られることに慣れていないので、たちまち身が
すくんでしまった。
 一方ろここちゃんの手からティーカップを奪い取ったおじさんは、少しの間しげしげと
それを眺め、眼鏡をかけ直す。

「このティーカップ、引っ越しのときになくなったペアの片方じゃないか……」

 おじさんのつぶやきに、おばさんもはっと口をふさぐ。
 ろここちゃんはそれを見計らったように私の手を振りほどくと、受話器棒をカップへと
伸ばし、静かに口を開いた。

「覚えててくれました?」
323ろこ☆もーしょん! 3/3  ◆zavx8O1glQ :2009/07/22(水) 23:13:57 ID:DJTX6m+i

 押し黙る二人。

「そのような顔をなさらないでください。このように欠けてしまった私に、再びカップの
役目をさせろなどとは申しません。ただ一つだけ心残りがあってここへ戻って参りました」

 突然饒舌に語り出すろここちゃんの前、二人の顔から険しさが消えつつあった。
 その表情は恐らく、私が公園で味わった不思議な気持ちからくるものに違いない。

「できることなら、どんな場所でもいい。せめて一つの場所で生きる喜びを、ささやかな
その喜びをあの人と、もう一度だけ」

「もう片方、まだあったよな……」
「え、ええ。まだ物置に」

 私はこのティーカップが二人にとって並々ならぬ想い出の品であることを悟った。

「どうかお願いです、役目は果たせずとも、あなたたちが許してくれるのならば——」
「わ、わかったわかった、確かにこれはウチのもんだ。受け取るからもう帰ってくれ」

 冷たく静かに言い放たれた言葉に、ろここちゃんは少しだけむっとした表情を見せたが、
リュックを背負い直すと私の手を引っ張った。

「リコ、もう行こう」


☆ ☆ ☆


 追い出された玄関から空を見上げると、今日は風が強かったせいで雲が少なく、遠くで
小さい月が力強い金色の光を放っていた。

「ねえ、ろここちゃん。あれでよかったの?」
「なにが?」
「魔女なんでしょ? 喧嘩ばかりの夫婦が仲直りしてハッピーエンドとかじゃないの?」
「ろここはお届けに来ただけで、そんなのに興味ないもの」
「ふうん……」

 汗ばんだ頭をかきながら、再び自転車のスタンドを上げる。
 閉じられた扉の向こうからは、かすかに笑いあう声が聞こえた気がした。

 ——この子は本物の魔女だ。



つづく
324 ◆zavx8O1glQ :2009/07/22(水) 23:14:58 ID:DJTX6m+i
だいぶ間が開いてしまってすみません。
第二話投下おわりです。
325創る名無しに見る名無し:2009/07/24(金) 02:02:26 ID:Ho3bYjWS
投下乙!
ろここちゃんの「うまく押せない!」で2828してしまったw
この独特の雰囲気が堪らないwww
326創る名無しに見る名無し:2009/07/24(金) 22:21:01 ID:9n3+nc66
いいなぁ、こういうの
327創る名無しに見る名無し:2009/07/24(金) 23:26:12 ID:VDBihOxv
ゲーマーズの作者はどこへやら。ドラクエにはまっているな。
多分本編にもノラクエという形で出てきそう。
328創る名無しに見る名無し:2009/07/26(日) 12:34:56 ID:EbaxIYRI
いやいや俺はととモノ2だと見た
329創る名無しに見る名無し:2009/07/26(日) 20:12:25 ID:3UUGLO/W
空気を読まずに未読をすべて読破したので
いまさらながら、まとめて感想なんかをば

>>前スレ550 ヤム
いいなあ、このホラーチックな感じ。
謎のキャンディという発想がすばらしい。
不思議要素は残しつつも完結させてしまうところがもどかしい!

>>前スレ578 魔法少女ユミナ
実はこのスレって魔女世界を描いたものが多くないんですよね。
そんな俺の期待を背負って「いっきま〜す!」って、
そのままどこいっちゃった!?

>>ウメ子
毎スレ最後に現れるウメ子。
このスレの看板魔女になっちゃったりして(てかすでにそう?)
アリだと思います。正直俺もちょっと書いてみたいw
330創る名無しに見る名無し:2009/07/26(日) 20:14:19 ID:3UUGLO/W
>>202 ディーナ・シー 魔法少女地獄
かっけえ! 世界観の説明と物語の同時進行っていうのがすごくかっけえ!
ダークな世界なのについつい引きずりこまれてしまうのは、
少女達のネーミングセンスに何かほんわかしたものがあるからだろうか?
戦闘シーンのスピード感もたまらん。

>>225 魔法少女アリス
唐突な出会い、唐突な契約。
魔女っ子系独特の不思議感があって俺は好きです。
あれ、でもこれACT1なんだよね!? ね!

>>249 デキル屋へいらっしゃいませ
これはすごい。設定と物語がちゃんと絡み合っていて
クールに見えて人情深い魔奇魅のキャラも魅力的です。
ラストはちょっぴりほろりときてしまいました。
もし読んでいない方がいたらぜひ!
331創る名無しに見る名無し:2009/07/26(日) 20:24:43 ID:3UUGLO/W
>>サミー番外編「お姉さん襲来! 嵐を呼ぶ妹争奪戦!」
このドタバタ感w 変わってないようで楽しめますた。
時間的には連載時の途中ということでしたが、番外編としてもってくる
ところがたまらんです。
それとサンダーフェニックスはTFじゃなくてTPだろ!
なんて珍しくツッコミいれたりして! ウフフ

>>ゆけゆけ!!メタモルゲーマーズ
得意なゲームジャンルをモチーフに変身する少女という発想がwww
それだけでも個性的なのに、昌子の壊れっぷりといったらないぜ!
このwktk感をどうにかしてくれ! 続き期待!

>>炎術剣士まなみ
感想かくにあたって最初から読み直したんですが、このボリュームで
ちゃんとまとめて大円団エンドってのはすごい!
途中から次元鬼にも感情移入しちゃって、そのうえ個人的にはスクリタが
ちょっと好きだった分、悲しいものがありましたw
でも、あの三姉妹ならきっと地獄?でも楽しくやっていけるはず!
そして、長期連載お疲れ様でした!
332ろこ☆もーしょん!第三話 1/3 ◆zavx8O1glQ :2009/07/27(月) 23:24:14 ID:FVvTTR7R

第三話「魔女とわたし」



「じゃあ、そうやって持ち主のところに物を返して回ってるんだ?」
「そ」

 言って私に背中を向けると、ろここちゃんはリュックをがしゃんと大きく揺らす。
 その音からしてずいぶんと色々なものが入っているようで、ふかふかしたクマの身体は
ところどころ出っ張ったり、角張ったりしていた。

 これまで割と純情な人生を歩んできた私にとって、魔女という響きは決して悪いもので
はなく、悩んだり困ったりしている人を助ける正義の味方だったりする。
 それはもちろん漫画やテレビの影響かと思うのだが、常々感じる疑問があるのだ。

「でも、一体なんだってそんなことをしているの?」

 あるべきものをあるべきところへ、失った大切な気持ちを思い出させるため。おおよそ
思い描ける理屈はそんなところだろうか。
 しかしそこで繰り出されたろここちゃんの返答に、私は稲妻にも似た衝撃を受けた。

「だって、他にすることないんだもの」

 あくまで私の想像だが、あの夫婦は先ほどのやりとりで何か大切なことを思い出してい
るはずだ。それは一時的なことかもしれないが、とにかく良い方向への啓示を与えられた
ことに間違いはない。
 それをこの子は暇つぶしのように言ったのだ。興味がないなんて謙遜していたが、本当
に興味がなさそうなのだ。

 暇つぶしで人助け。ろここちゃんは見た目あっぱらぱーな感じこそすれ、私の想像をは
るかにこえた偉大な魔女なのかもしれない。

「でも、呼び鈴押してくれてありがとうね」

 偉大なのだが呼び鈴の高さには、ほとほとお困りのようであった。

「どういたしまして」

 両手を絞るように伸びをしたろここちゃんは、手首についた腕時計のようなものに目を
やると「あ」と小さく声をだした。

「どうしたの?」
「またやっちゃった」

 小さなゴムバンドにはピンク色のかわいいウサギの顔がついていて、眠っているように
目をつむっている。
333ろこ☆もーしょん!第三話 2/3 ◆zavx8O1glQ :2009/07/27(月) 23:26:09 ID:FVvTTR7R

「これね、ほら目を閉じてるでしょ? こうなると魔女の世界に戻る門が閉じてるの」
「それって帰れなくなっちゃったってこと?」
「ううん、また目を開いたときには戻れるんだけどね」

 要するに単なる門限タイマーらしい。

「へえ、次はいつ目を開けるの?」
「さあ?」
「じゃ、じゃあさ、次に目が開くまでどうするの?」

 私は門限を過ぎて戻れなくなったろここちゃんを心配することよりも、突然降って沸い
た楽しそうな予感に興奮を抑えきれなかった。

「どうって……どうしようかなあ」
「わわ、わたしの家に来ない?」

 魔女との生活。

「リコのおうち?」
「そ、そう! 次に目が開くまでさ、私の家で、その、あの……」

 魔女との冒険。

「ちょ、ちょっと落ち着いてよ」
「落ち着いてなんていられるわけないでしょ!」

 魔女とわたし――



☆ ☆ ☆



「いたたた、そんなに引っ張らないでよ、行くから、行くから」

 途中もちろん人とすれ違ったりするのだが、どの人も私からろここちゃんを奪おうとして
いるようなそんな目つきで、いつ襲われるのか不安でしかたない。
 たとえるなら銀行で大金を下ろして――なんてフレーズを思いついて首を振る。
 ろここちゃんは現金では買えないのである。

 そんな焦りから私は途中で自転車を置き去りにして、ろここちゃんを半ば引きずるよう
に自宅の前までたどり着くことに成功した。
334ろこ☆もーしょん!第三話 3/3 ◆zavx8O1glQ :2009/07/27(月) 23:27:11 ID:FVvTTR7R

「ここが私の家!」
「あれ、一人暮らしなの?」

 私は小さいときに母を亡くし、ほとんど父親の手ひとつで育てられた。
 父は私に対して過剰な愛を注いでくれていたのだが、思春期を迎えて大人になるにつれ、
何かそれが気恥ずかしいように思えて、わざわざ自宅から離れた高校を受験したのだ。

「さ、入って」

 もともと高校には寮があって、もちろんそこへ入る予定だったのだが、父親の「リコは
そんなところに納まる器ではない」という一言で、なぜかこうしてアパートを借りて貰っ
ている。

「うわっ、汚い!」

 最初のうちは学校からいろいろ問題があると言われたのだが、不思議なことにそれらは
次第に誰も口にしなくなっていった。詳しいことは知らないのだが、私の父はどうも日本
の法に縛られない仕事をしているらしい。

「魔法で片付けられる?」
「できないよ、そんなの……」
「そんじゃーしょうがないか」

 私は物がごちゃごちゃあるほうが落ち着くので平気なのだが、ろここちゃんが嫌がるの
なら仕方ない。
 なにせ魔女と生活するのだ。お互いにとって気持ちの良い場所が望ましいに決まってる。
 とりあえず床にたまったゴミ袋を蹴りながら、私は最深部への突入を決意した。



☆ ☆ ☆



 数十分後、お世辞にも女の子の部屋とは言いがたいが、新しめのアパートだったことも
あり、なんとか綺麗な空間を作り出すことができた。

 人間とは不思議なもので、普段全くやらないようなことでも、ちょっとしたきっかけが
あれば張り切ってやりこなしてしまうのである。

 ――いや、そうではない。私はろここちゃんのために部屋を片付けたのであり、これは
ろここちゃんのもつ魅力、つまり魔法の力が私にそうさせたのだ。

「部屋の片付けもあっという間! 魔法って本当にすごいわ!」
「へ? ろここなにもしてないよ?」

 またまたご謙遜。
 やっぱりろここちゃんは素敵な魔女なのである。



つづく
335 ◆zavx8O1glQ :2009/07/27(月) 23:29:02 ID:FVvTTR7R
第三話投下おわりです。
と久々にage攻勢

「あっぱらぱー」をぐぐる自分に疑問を感じる今日この頃でした。
336創る名無しに見る名無し:2009/07/27(月) 23:32:44 ID:mVJ5KsGI
投下乙です

魔女っ子に振り回される話なのかと思いきや、
語り部の女子高生の暴走の方が酷いw
337ろこ☆もーしょん!第四話 1/3 ◆zavx8O1glQ :2009/07/30(木) 22:35:46 ID:Ol8FAeq0

第四話「かりかりベーコン」



 どこまでも広がる水平線、熱い日差しを照り返す白い砂浜。
 飛びそうになった麦わら帽子を深くかぶり直しても、風はまるで誘うように私の長い髪
を引いている。

 自然とこぼれた笑みにあわせて振り向くと、遠くまで続く足跡の先ではオレンジ色の髪
をした、小さな少女が手を振っていた。

「リコー」

 その声はろここちゃん。不思議な魔女のろここちゃん。
 彼女の狂った鳩みたいな瞳には、きっと可憐な私が映っていることでしょう。

「ろここちゃーん」

 波の音が、風の音が、ろここちゃんを走らせる。
 嬉しそうな顔が息をはずませながら、ぱたぱたと。

「ろここね、ご飯つくったんだよ」
「すごいなあ、お料理もできるのね」
「ほら、見て!」

 小さなポケットをまさぐると、現れたのはロケット型のウインナー。

「おいしそうー」
「まってまって」

 ろここちゃんは恥ずかしそうにうつむいて、すっと私に向き直る。

「はい、あーんして」

 なんだかちょっぴり照れるけど、ろここちゃんなら大丈夫。

「あーん」

 閉じるまぶたの向こうには、ぼんやり笑顔とウインナー。
 全てがスローモーションで、それはまるで夢みた――

「あっづううっ!」
338ろこ☆もーしょん!第四話 2/3 ◆zavx8O1glQ :2009/07/30(木) 22:36:45 ID:Ol8FAeq0

 その時、額に生じた鋭い痛みで身体が跳ねた。続けて強い衝撃が体中を襲う。
 詰まった呼吸を落ち着かせてから辺りを見回すと、そこは私の部屋だった。

「起きた?」
「え」

 声に目を上げると、ろここちゃんのしましまパンツが覗いていた。
 私の額には、かりかりに揚がったベーコンが張り付いていた。



☆ ☆ ☆



「だってせっかく作ってあげたのに、リコったら全然起きてくれないんだもん」
「ごめんごめん。じゃあこれ、ろここちゃんが作ってくれたの?」

 口をとがらせるろここちゃんの前、白い小皿の上では焦げた肉片が噴煙を上げている。
 ふと鏡に目をやると、おでこにはベーコン型の焼印が押されており、手で触れてみると
ひりひりと痛みが走る。ダメージは意外と深刻なようだ。

「これを見ながらね、作ってみたの」
「どれどれ」

 指差された場所には見覚えのある本が置いてあり、これはかつて一人暮らしを始める際
に購入して一度も使われなかった「男の朝飯!」というレシピ本である。

「あちゃー、これ読んで作ったのか」
「うん、だめだった?」

 このレシピ本はそのタイトルが示すように大変大雑把にできており、手順などは巨大な
極太明朝体で2、3行書いてあるだけなのだ。これではいくら魔女でもまともな料理を作
れるはずもない。
339ろこ☆もーしょん!第四話 3/3 ◆zavx8O1glQ :2009/07/30(木) 22:37:38 ID:Ol8FAeq0

 真っ黒なベーコンを口へと放り込んでから折り目のついたページを開き、そこに書かれ
た記事に目を通してみる。

「でもさ、料理なんて魔法でぽーんと出せるものなんじゃないの?」
「昨日も言ったと思うけど、ろここはそういうのできないんだよ」

《かりかりのベーコンは、普通に調理するよりもカロリーが控えめです!》

「控えめなんだ」
「まだ見習いだからね」
「じゃあ、大きくなったら色々なことができるようになるの?」
「そう、お空を飛んだりね。料理も出せるようになるかも!」

《かりかりのベーコンは、塩分たっぷりでミネラルもいっぱいです!》

「夢いっぱいね」
「そうだねー、早く大人になりたいな」
「大人かあ……そういや、ろここちゃんって歳いくつなの?」
「えーと、100と8つ」

《かりかりのベーコンは、保存も効くので大変長持ちします!》

「ふーん、すごいなあ」
「ねえリコ、食べ終わったら自転車取りに行かないと」

 何度も噛んで少しだけ柔らかくなったベーコンから、ほんのりと塩気が広がった。
 飲み込んでみると後味はあっさりしているようで、もう一つつまんで口へと運ぶ。なん
だかクセになりそうだ。

「じゃ、顔洗ったら着替えて行こうか」
「うん」

 窓を開けると、夏の優しい風が子供たちの笑い声を運んでくる。
 魔女と生活することになって迎えた、初めての朝。
 ろここちゃんとかりかりベーコンには意外な共通点が数多くあることを、私は知った。



つづく
340 ◆zavx8O1glQ :2009/07/30(木) 22:38:59 ID:Ol8FAeq0
第四話投下終了です。

>>336
そこを突っ込んで貰えるとは、この上ない喜び。
投下ペースも上げられるようにがんばります。
341創る名無しに見る名無し:2009/07/30(木) 22:40:10 ID:zKcDF8Qe
かりかりベーコンの香り……
342創る名無しに見る名無し:2009/07/31(金) 14:59:50 ID:hzfSWCHD
>>327-328
遅筆で申し訳ない・・・
ゲームにハマっていたのは本当ですが、
それはドラクエじゃありません
というかそもそも買ってません
正解はCivRevでした

しかしノラクエネタはきっちり頂きましたw
きっとその内に使わせてもらいます

>>201>>331
ウザキャラとして作った昌子を好きになって頂けるとは・・・w
だからというわけではないですが、今日も昌子メインです
どうぞよろしく
  ◎GAMER'S FILE No.6
  『G・ファイター』
  アンチャー討伐のために制作されたパワードアーマー第一号。
  普段は四次元ブレスレットに格納されているが、
  腕に装備して『プレイ・メタモル』と叫ぶと自動で装着される。
  アーマーは白を基調としたボディに赤のストライプが入ったデザイン。

  初期研究を兼ねてプロトタイプとして開発された初号機アーマー。
  それ故に取り立てて特徴が無く、特別な機能も装備も持たないが、
  代わりにパワーが他のパワードアーマーの二倍近くまで強化されている。
  シンプルな構造ゆえ、操縦はアーマーの中でも容易な部類に入るが、
  それだけに実戦でのパフォーマンスは装着者本人の格闘センスに大きく左右される。



例によって溜まり場にされた八重花の部屋で、
連れてこられた昌子は地球防衛軍・長官と対面していた。

『キミが新しいメンバーの昌子君か!』
「は、はい……至らない点は多いと思いますが、これからよろしくおねがいします」

立体映像の長官に対し、新メンバーの田宮昌子は深々と頭を下げる。

『うむうむ、礼儀正しい上に真面目そうな子だな!
 気に入った! 昌子君、キミをゲーマーズの司令官……つまりリーダーに任命する!』
「ええええええええええええっ!!?」
「そ、そんな……私なんかがリーダーだなんて……!」
『いやいや、キミなら必ず立派なリーダーになれるはずだ!
 素晴らしい戦果を挙げてくれるのを期待しているぞ!』
「あ、ありがとうございます! 精一杯頑張ります!」

長官のえこひいきで、あっさりと昌子が司令官に任命されてしまった。
古参のゲーマーズ達は不満たらたらだ。

「……新参に……リーダーなんて任せていいの……?」
「せやな、ここはホンマのリーダーであるウチがガツンと……」
「いつ千里がリーダーになったんだよ」
「あたしは適任だと思うけどな」

ともあれ新リーダーの下、ミーティングが始まる。
フけようとした佳奈美と千里だったが、長官の一睨みでしぶしぶ席に着く。

「す、すみません……え、えーっとですね……。
 これは皆さんの能力を総合的に考えた結果、最良と思われる布陣でして、その……」

ボードを指し示しながら立案した作戦の説明をする昌子だったが、
どうにも手先が震えている上に、ボソボソ喋りなので要領を得ない。

「……あーっ、もう、まだるっこしいわぁ! これでも被っとき!」
「あっ、それは―――愚民ども、何でこの程度のことが分からないんですのよ!」

業を煮やしたチサトに金髪ツインテールのカツラを被せられた昌子は、あっという間にテンションが変わる。

「いいですか!? ここはこれこれこうで、こうなって、
 ああいうことだから、そういうことになるわけでございます! つまり―――」
「確かにこっちのがずっと話が早いな」
「……早いけど……ウザイ……」

怒涛の勢いで姫昌子が解説を終えたところで、
ちょうどアンチャー出現の報が入ってくる。
『エマージェンシー!! ゲーマーズ、出動せよ!!』

「了解いたしました! さぁ皆様、行きますわよ!」
「ラジャー、司令官!」
「……作戦、理解できた……?」
「ごめん、もう忘れた」
「まぁ適当にやっとりゃ何とかなるやろ」

作戦もバッチリで気合抜群の昌子とは対照的に、
他ゲーマーズはどうにもしっくり来ていなかったが、
ともあれアンチャー討伐のために出撃するのであった。




現場に到着したゲーマーズ達は、名乗りを行う間もなく昌子の指示通り動かされるハメになる。

『いてっ!! くそっ、この野郎!!』
「佳奈美、反撃はダメよ! 敵をその地点に釘付けにして動かさないで!」
『りょ、了解……!』

『ぜぇぜぇ……2時方向の敵のかく乱終わったわよ!』
「八重花、次は8時方向の敵をかく乱! 急いで!」
『えぇ〜、反対方向じゃない! ……わ、分かったわよ!』

「……あっちに二匹……そっちに一匹……」
「亜理紗、6時方向の敵は!?」
「…………いない……と思う…………」

「……あのー、ウチの仕事は……」
「千里さんは緊急離脱用に待機だって説明したでしょう!」
「す、すんまそん……」

佳奈美は一切反撃を許されずに敵の足止めに専念。
八重花は四方八方を飛び回って敵の陽動・かく乱。
亜理紗は銃すら持たせてもらえずに双眼鏡で敵の位置の確認・報告。
千里に至っては、いつでもマシンを発進できる状態で何もせずに待機である。

「亜理紗、索敵報告遅い!!」
「…………っ…………」
「八重花、次11時!!」
『えぇ〜!? ちょっと休ませてよ〜……』
『昌子、こっちももう限界に近いんだけども!』
「泣きごと言わないっ!! これは全て勝利のためなんですのよっ!!」

ゲーマーズ達の表情は徐々に曇っていくが、
それに気付かない昌子は自分の思い通りに戦局が動いていることに気を良くする。
そうして想定通りの布陣に敵を誘導できたため、昌子は作戦の最終段階に入る。

「ふっふっふ、いい感じに敵を一箇所に固められたわね!
 みなさん、千里さんのマシンに乗って離脱ですわっ!」
「ふぃー、やっと出番かいな」

千里はマシンを四輪駆動に変形させると、
ゲーマーズ全員を回収しつつ離脱を始める。
昌子は後部座席から後方のアンチャーの群れを見下ろすと、
腰からレイピアを抜き放って高く掲げると同時に叫ぶ。

「さぁ、今よ! サンダーグングニル!!」
G・パズラーからの指令を受けて地球防衛軍の軍事衛星から放たれたビームが、
昌子の前方に固まっていた敵集団を、MAP兵器のごとく一撃で壊滅させる!
あれだけ群れていたアンチャー達は、一瞬で全て蒸発してしまった。

「おーっほっほっほ、上手く行きましたわね!」
「うっわぁー……えげつない技やなぁ」
「あー、だからアンチャーを固めてたのか」
「しんどかったけど、一件落着かな」
『素晴らしかったぞ昌子くん! 次もこの調子で頼むぞ!』
「ありがとうございます!」

初陣にしてこの手並み、長官も大満足である。

「さてみなさん、これからもよろしくお願いしますね!」
「……冗談じゃない……やって……られるか……」
「亜理紗?」

不満が頂点に達した様子の亜理紗は、
双眼鏡を投げ捨てると、マシンから飛び降りる。

「ちょ、ちょっと亜理紗さん!?」
「……もう……あんたの指示なんて聞いてたまるか……。
 ……私がしたいのは……シューティング……。
 マスコットの……数当てゲームがしたいわけじゃない……っ!」

横目でそう吐き捨てると、昌子に背を向けて歩き始める亜理紗。

「……で、でも……しょ、しょうがないじゃない!
 G・シューターの射撃は構造上、遠距離攻撃には向かないのよ!」

昌子は亜理紗の背中に向かって声を荒げるが、
亜理紗は振り返りもせずにそのまま歩き去っていってしまった。

「……すまん、ウチも二抜けや」

千里はマシンを変形させて残ったメンバーを強制排出すると、
バイクに変形させたマシンに跨り、首だけを昌子に向ける。

「走り屋のウチが何もせずにじっとしてるのは耐えられへん。
 司令官には悪いが、いくら作戦でもぶっちゃけやっとれんわ」
「そ、そんな……千里さんまで……」
「……ほな、ウチはもう行くで」

心なし申し訳無さそうにしつつも、千里はエンジン音を響かせて走り去っていった。

しばらく放心していた昌子だったが、
不意にキッと目を吊り上げ、後ろに居た佳奈美と八重花に向き直る。

「佳奈美、八重花、あの二人を連れ戻してきて頂戴!
 もう一度ミーティングをやり直さねばなりませんわ!」
「あたし、嫌だよ」

そう即答したのは八重花だ。

「あたし、どんな仕事でもG・ファイターとしての仕事はちゃんとやるよ。
 でも、内輪揉めの仲裁役なんてその仕事の内には入ってないと思う」
「そ、それはそうですけど……!」
「それに司令官である昌子さんの指示で離反したんなら、それは昌子さんの責任でしょう?
 あたし、ゲームの外の人間関係でまで他人の尻拭いなんてしたくない」
「うっ……」
言葉を失う昌子を尻目に、八重花は腕時計を見ると、昌子を一瞥しつつ歩き出す。

「それじゃ、あたし急ぐからもう行くよ。もうすぐ古市でソフトのワゴンセールがあるんだ」

呼び止めようとしたものの、昌子は言葉が出せず、
八重花の背中が見えなくなったと同時に、昌子はその場にへたり込んでしまった。
ロールプレイを続ける気力も無くなったのか、外した金髪のカツラは両手にぎゅっと握られている。

「こ、こんなことって……」

最後に残った佳奈美はちょっと困ったような顔をしていたが、
昌子の前に回りこむと、屈んで昌子の顔を覗き込んだ。

「なぁ昌子、ちょっと落ち着いてくれよ。
 今回はちょっとアレだったけど、きっとみんな話せば分かってくれるって」
「佳奈美さん、あなたも私が間違っていると言うんですか!?」
「間違っているというか、改めるべき部分は改めた方が――あっ、どこ行くんだよ!?」
「家に帰るんですよっ!!」

佳奈美の問いには答つつも、昌子はカツラを投げ捨てて走り去っていってしまった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


郊外に建てられた老人ばかりが住む古アパート。
そこの一室で、田宮文吉(66)は新聞をヒマそうに眺めていた。
妻に先立たれ、息子もとうの昔に自立済み。
今の楽しみは孫娘の成長を見守ることぐらいである。

(ピンポーン)

玄関のベルが鳴る。
どうせ勧誘の類だろうと思って出た文吉だったが、
思わぬ来客に驚くと共に、歓喜することになる。

「おお昌子、遊びに来てくれたのか! ささ、入りなさい!」
「……ありがとうお爺ちゃん。お邪魔します」

そうして家に上がった昌子だが、その表情は暗い。
最初は浮かれていた文吉も、流石に様子がおかしいことに気付く。

「どうしたんだい昌子、何かあったのかい?」
「……………………」

無言で目を逸らす昌子。
ふと、部屋の片隅の将棋盤が目に入る。

「……将棋! そう、お爺ちゃんと将棋をやりに来たんです!」

誤魔化すようにそう言って、作り笑いをする昌子。

「そうかい、昌子と将棋をするのは久しぶりだね。
 どれほど強くなったのか楽しみだなぁ」

異変に気付きつつも、文吉は昌子の意を汲んで、
何も言わずに将棋の相手をすることにした。


パチン。


パチン。


「……………………」


対局が進む。
互いに無言だ。

昌子は時折、何かを言いたそうに文吉をちらちら見るが、
実際に言葉を口に出すまでは至らない。
文吉の方も気になりつつも、あえて追求することはしない。


パチン。


パチン。


「……王手、です」

金将と飛車が王将の逃げ道を塞いだ所を、置かれた香車が狙い打つ。
文吉の手持ちには盾に出来る駒も無い。

「うーん、参った、降参だ!
 強くなったなぁ、昌子。駒の動かし方が絶品だ」
「……ありがとう、お爺ちゃん」

昌子は控えめに笑うが、明らかに無理をしている。
勝ったのに、全然嬉しくなさそうだ。

そんな昌子に、文吉はそっと尋ねてみる。

「なぁ、そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?」
「えっ……」
「何かあったんだろう? 僕で良ければいくらでも相談に乗るよ」
「……………………」

そう言われて、少しほっとしたような顔を見せる昌子。
元々祖父に相談したくてここへ来たのだが、なかなか切り出せなかったのだ。
しばらくして、昌子はポツリポツリと話し始めた。

「……ゲームを……やっていたんです。……友達と一緒に」
「へぇ、どんなゲームだい?」
「え、えっとそれは……擬似戦争ゲームというか……」
「ふむふむ、それで?」

「私……チームのリーダーに任命されてしまったんです……。
 私なんかをとても高く評価して頂けて……嬉しくて……」
「ほう、良かったじゃないか」
「だから、その期待に応えようと……敵に勝つために、全力を尽くしました……。
 この子の役割はこうだ……彼女の能力はこう生かすべき……等という風に、
 みんなが最高の力を発揮できるように、真剣に考えて指示を出したんです……」
「よく頑張っているじゃないか」
「でも……なのに、みんな分かってくれないんです……」
うつむく昌子。

「やってられない……私の指示なんか聞きたくないって……そう、言うんです……」
「……そうか、なるほどなぁ」

文吉は大体の事情を飲み込んだようで、うんうんと頷いた。

「ちょっと厳しいことを言ってしまうことになるかもしれないが……いいかな?」
「……………………」

昌子は少し迷ったようだったが、無言でコクンと頷いた。

「いいかい、昌子。おまえは頭がいいから、人には分からないことが分かる。
 どう動けば効率が良いか、どうすれば勝つことが出来るのか……」
「それがいけないことだって言うんですか……?」
「それはもちろん長所だ。だけどね、それだけではいけないんだよ」

文吉は親指を立てると、軽く自分の胸を突付いてみせる。

「昌子が動かそうとしているものは、心のある人間だ。
主義もあれば感情もあるし、癖だってある。
指先一つで思い通りに動いてくれる将棋の駒とは違うんだよ」
「……………………」

痛いところを突かれ、昌子は再び俯いてしまう。
昌子とて、そのことには気付いていたのだが……。
それでも自分が人間を動かすのが下手だという事実はどうしようもなかった。

そんな昌子を見て、文吉もフォローの言葉を入れる。

「大丈夫、昌子はちょっと大事なことを忘れているだけだ。
 それを思い出せば、人間の動かし方もすぐに分かってくるはずさ」
「えっ……?」
「簡単なことさ。ゲームは楽しむものだろう?
 結果がどうあれ、友達と一緒に楽しめる……。
 僕は、それが一番正しいゲームの有り方だと思っている」
「結果がどうあれ……一緒に楽しむ……」

はっとする昌子。

「そ、それですよお爺ちゃん!! 私、勝ちに拘りすぎてたのかもしれません!!」

昌子の表情は、ぱぁっと明るくなる。
孫娘が元気を取り戻したのを見て、文吉も胸を撫で下ろす。

『エマージェンシー、エマージェンシー!』

折良く、ブレスレットから緊急コールが入る。
またしてもアンチャーが出現したのだ。

「ありがとうお爺ちゃん! 私、行って来ます!」
「おう、なんだか分からないが頑張れよ!」

昌子は文吉に手を振ってアパートを後にすると、そのまま現場に急行した。



「昌子、ちょっと待ってくれ!」

現場に急行する途中の昌子を呼び止めたのは、佳奈美だった。

「佳奈美さん! 早く現場に向かいましょうよ!」
「いや頼む、ちょっと話を聞いてくれ!」

無理やり昌子の腕を捕まえ、正面を向かせる佳奈美。
その表情が真剣そのものだったため、昌子も応じることにする。

「……これからまたアンチャーとの戦闘になって、
 昌子が指示を出すと、またみんな反発するかもしれない……。
 でも……亜理紗も、千里も、八重花も……。
 みんなみんな、ただゲームが大好きなだけなんだ。
 だからこそそれが行き過ぎて、ほんのちょっとだけ暴走することもあるけど……。
 でも決して悪気があるわけじゃない……そこのところ、分かってあげてくれないか?」

そう言いながら、佳奈美は回収していた金髪のカツラを昌子に手渡す。
自分は昌子をリーダーだと認めている。
佳奈美の瞳は、確かにそう言っていた。

「佳奈美さん……ありがとう、でも大丈夫です!
 私、今回はちゃんと勝算がありますから!」

そう言って微笑んだ昌子は、受け取ったカツラをすぽっと被ったのであった。



かくして集合したゲーマーズ達。

『さぁ昌子くん並びにゲーマーズ諸君!
 今回も素晴らしい活躍を期待しているぞ!』
「お任せください長官殿!」

長官の激励を受け、昌子はゲーマーズ達を見渡す。
亜理紗などは昌子の顔を見るなり、露骨に嫌悪する表情を見せる。

「さぁみなさん、今回もわたくしの指示に従ってもらいますわよ!」
「……おまえなんかの……指示を聞けるか……。
 ……私は……好きにやらせてもらう……」

真っ先に任務放棄を宣言した亜理紗だったが……。

「待って亜理紗ちゃん、今回はこれを使ってくださいまし!」
「……えっ、これって……」

昌子が持ってきたのは巨大なロケットランチャーだ。
確かにこれなら距離による威力の減退を気にせず攻撃できる。
どこから持ってきたのかは長くなるので割愛させて頂く。

「今回はアンチャーを発見次第、これで撃滅して構いませんわ!
 そんなに弾数ないけど、亜理紗ちゃんなら効果的に使ってくれるわよね!」
「……………………」

戸惑い顔で、昌子の顔とロケットランチャーに視線を何度か往復させる亜理紗だったが、
意を決したようにそっとロケットランチャーに手を触れると、つぶやくように口を開く。

「……やってみる……」

昌子が心の中でガッツポーズを取っていたのは言うまでも無い。
続いて、千里と八重花にも指示を出す。

「千里さんはこの地点までなるべく速く八重花さんを運んで下さい!」
「おおっ!? 今回はかっ飛ばしてええのんか!?」

「八重花さんはマシン上で雑魚の攻撃を防ぎつつ、
 目標地点に到達したら付近に居るはずの敵コマンダーを撃破して下さい!」
「分かった!」

単純明快かつ爽快な指示を受け、目を輝かせて早速出発しようとする二人。

「あっ、待ってください! 出発する前に、アレをやらなきゃいけませんわよ!」
「おっ、そうやな!」

ゲーマーズ達は、隊列を組む。



「欲するは強敵、そして勝利のみ。
 道を追い求め続ける孤高の戦士……『G・ファイター』!!」
「千分の一秒を削るのに命を賭ける。
 音すら置き去りにする光速の戦士……『G・ドライバー』!!」
「狙った獲物は逃がさない。
 視界に映る全てを射抜く戦慄の戦士……『G・シューター』!!」
「あらゆる死地を活路に変える。
 フィールドを駆け巡る躍動の戦士……『G・アクション』!!」
「全ての謎は、ただ解き明かすのみ。
 真理を究明する英知の戦士……『G・パズラー』!!」




『『『『『五人揃って、メタモル・ゲーマーズ!!』』』』』




「ほな、行ってくるで!」
「大将討ち取ってくるからね!」

八重花を乗せて発進する千里のマシン。
千里も八重花も、やることが明確になれば強い強い。
あっという間にアンチャー達を蹴散らしていく。
業を煮やしたアンチャーが徒党を組んでも、
狙い済ました亜理紗のロケランが突き刺さり、道を切り開いていく。

「よ〜し、いいわよ二人とも〜!」

双眼鏡で千里と八重花の様子を眺めて応援する昌子。
その脇では亜理紗が黙々とロケットランチャーを打ち込んでいる。

一方、ぽつんと取り残された者が約一名。

「リーダー、あたしの仕事は?」
「えっ! そ、その……」

昌子は血の気が引く。
他三人の理解を如何に得るかということに傾倒しすぎて、
理解を示してくれた佳奈美のことをうっかり忘れていたのだ。
「あの……私と亜理紗さんの護衛を……」

俯いてしまった昌子の肩を、佳奈美はぽんっと叩く。

「大丈夫、あたしはこういう仕事は好きだよ。
 それに今回は敵を倒してもいいんだろ?」

ニッと笑う佳奈美。
ほっとして、思わず笑い返す昌子。

――その時、千里から通信が入る。

『大変やリーダー!! ボスが意外と強くて、ヤエちゃんてこずっとる!!』
「なんですって!? 佳奈美さん、亜理紗ちゃん、作戦を変更して全員で突撃ですわ!」
「いいけど、途中の雑魚はどうするんだ!?」
「お二人の力で無理やり蹴散らしてくださいっ!」
「……了解……!」
『ど、どうしたんだね昌子くん!? 今回はちょっと無鉄砲すぎやしないかね!?』
「長官殿、勝ち負けなんて二の次、三の次ですわ!
 やっぱり、ゲームは楽しまなくてはいけませんわよね♪」

昌子は絶句する長官にウィンクすると、
自ら腰のレイピアを振り上げ、アンチャーの群れに突撃していった。
もちろん佳奈美と亜理紗もそれに続いていく。

『……一応、地球の命運がかかった仕事なんだがなぁ……』

やっぱりゲーマーズにアンチャー討伐を任せるのは間違いだったのかもしれないと、
今更ながら後悔し始めてしまう長官なのであった。


数時間後、ズタボロになりながらもボスを倒したゲーマーズ達は、
実に楽しげな笑顔を咲かせておりましたとさ。



  ☆スペースが余ったので、復活の次回予告!


   チャチャチャチャラララン♪


  『…………河合亜理紗…………。
   ………………………………。
   ……TVゲームは……一人で遊ぶもの……。
   ……そう思ってる人は……多いと思う……。
   ………………………………。
   ……それなら……どうしてフレコンは……。
   コントローラーが……二つ付いてるの……?』


  次回、ゆけゆけ!!メモタルゲーマーズ

  Round8「孤独なエイユウ、マルチなゲーマー!」


   ジャジャーン!!


  『……見ている場所が違う……それがシューター……!』
352創る名無しに見る名無し:2009/07/31(金) 15:09:59 ID:hzfSWCHD
なんとか今日中に書き上げられて良かった・・・
何故なら明日からm(ry

何だか夏休みの宿題に追われていた小学生時代を思い出しましたw
次回はm(ryのせいで遅くなるかもしれませんが、ご容赦ください
353創る名無しに見る名無し:2009/07/31(金) 19:48:05 ID:S7mA4YgH
さすがバカと知性を併せ持つ昌子だぜ!
というかカツラつけても理性は保ってるのかw

人数も増えたけど、それぞれの個性も出てきていい感じ。

忙しくなるみたいですが気長にまってますので
スレのこと忘れないでね!
354まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/31(金) 22:12:51 ID:gjfV6UAy
ろこ☆もーしょん作者さん、ゲーマーズ作者さん、投下お疲れ様です。
今回は炎術剣士まなみの外伝ってことで、まなみのお母さんである悠美の
若い頃の話を投下します。
355炎術剣士まなみ外伝 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/31(金) 22:14:39 ID:gjfV6UAy
炎術剣士まなみ外伝  新堂悠美物語・出会い編

次元鬼を滅ぼしたまなみたち。彼女らはそれぞれの日々に戻っていった。
まなみの母、悠美はそのことを報告しに亡き夫の眠る地へと出向いていた。
墓の前で手を合わせ、穏やかな目つきで見つめている。
「誠一さん、まなみちゃんとお友達は巨悪を倒したわ。誠一さんも見ていてくれたわよね?
本当に、私たちの娘は立派に成長してくれたわ…」

悠美は何か思い出すような感じで空を見上げる。
「でも、まなみちゃんも、私と誠一さんが出会わなかったら存在しなかったのよねぇ…」
そして微笑を浮かべながら、また墓の方へ向き直る。
「あなたと出会った時、私はかなり荒んでたっけ…」
かつての記憶を引き出し、思い浮かべる悠美…。


―――21年前。東京の新堂家宅。外からでも薄らと怒号が聞こえてくる。
そして大きな音を響かせながら勢いよく玄関の扉が開かれ、長い髪の少女が
飛び出してくる。そしてその後を追うように出てくる彼女の母。
「悠美!あなた、いい加減にしなさい!」
「うるせいな!そんなわけわかんねーもんに付き合ってらんねーよ!」

悠美は母を睨みつけながら、口を開く。
「剣士の修行なんて、もう嫌になったんだよ!なーにが、正義のために戦えだ、
そんな漫画みたいなことが起きるわけでもねーのに、あんなのやってられっかよ!」
「悠美!あなたはまだ見たことはないでしょうけど、魑魅魍魎の類いは本当に
いるのですよ。だからこそ、剣士の一族はそういった存在を倒すために…」
「知らないよ、そんなの。あたしには関係ないね!」

母の話を切ると、悠美は背を向けバイクに乗りこむ。
「悠美!もうあんな子たちと付き合うのは止めなさい!」
「誰と遊ぼうがあたしの勝手だろ?じゃあな!」
母の制止も聞かず、悠美はバイクを走らせ、どこかへ行ってしまった。


悠美がついた場所は自宅から少し離れた公園。そこに悠美と同じように
特攻服で着飾った少女たちが数名いた。
「おお、悠美〜遅かったじゃん?」
「よっ、恵理!ああ、ちょっとババァがうるさくって。悪かったな」
356炎術剣士まなみ外伝 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/31(金) 22:15:47 ID:gjfV6UAy
母を口汚く罵りながら、バイクを停車させ、恵理という少女の方を向く。
「で、うちのグループに喧嘩売ってきたのがいるんだって?」
「そうそう、亜紀の奴が一方的にぶっ叩かれたんだって」
「…許せねぇな。よし、あたしがとっちめてやるよ。そいつらどこだ?」
「高速の下んとこの例の公園に今夜集まるらしいよ」
例の、と聞いて悠美の目つきが変わる。

「例のって、化けもんが出たとかいうとこか?」
「そうそう、それそれ。本当に出るんかねぇ?」
恵理の言葉に、少し表情が険しくなる。最近、化け物が現れて人を襲うなんて噂が
絶えないのだ。しかし、確たる証拠もないので、噂は噂と世間では流されていた。
「はっ!くだらないね、そんな噂を信じてなんになるよ?それよりも、さっさと
あいつらぶちのめしてやろうぜ」

目的地へ到着すると悠美は率先して先頭へ出る。そこには同じく女暴走族がたむろし、
やってきた悠美たちの方を睨みつける。
「どうも〜!突然だけど、うちの亜紀を可愛がってくれたのは誰だか教えてくれない?」
悠美の言葉に反応して、一人の背の高い金髪の少女が前へ出てくる。
「おめぇかよ、うちの亜紀をやったのは?」

女は噛んでたガムを吐き捨てると、いやらしく笑いながら答える。
「その亜紀とかいうのはしらねーけど、うちの彼氏に手ぇ出したんだからこれは
報いって奴じゃねぇの?まあ、いい声あげるからみんなでモグラ叩きしてやったけど!あははは!」
汚い笑いをあげる女に対して、悠美は拳を握り締めた。
「そうか……許さねぇ!あたしがぶち殺してやる!」

勢いよく啖呵を切る悠美だったが、相手のグループからは一斉に笑いが起きた。
「ぷっははは!ぶち殺すだって!」
「聖子は昔から空手やってて、男も敵わないんだぜ?お前みたいな弱そうなのが相手になんの?」
蔑ました笑い声が響く中、悠美も不敵に笑みを浮かべた。
「ふふ…こっちこそ大笑いだよ、そんなもんで威張り腐るなんて。どっちが強いか教えてやるよ!」
357炎術剣士まなみ外伝 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/31(金) 22:16:48 ID:gjfV6UAy
悠美が速攻で拳を突き出し、聖子という女の頬を殴りつけ、さらに素早く回し蹴りを
繰り出し、反対の頬にも衝撃を与えた。その光景に、先ほどまで笑い飛ばしてた
少女たちは唖然とし、今は黙っていた。
「ぐぅっ!て、てめぇ…よくもあたしの顔に!」
「はっ!聖子だっけ?名前に似合わない不細工な顔になったねぇ?でも、あんたには
それがお似合いだよ!」
「くっ、ざけんなぁぁぁ!!」

思いきり、振りかぶってパンチを繰り出すが、悠美は受け身をとり、勢いを利用し
そのまま投げ飛ばした。そしてそのまま聖子は気絶してしまう。
修行して身につけた力も、今では単なる喧嘩の道具と化していた。
「ふっ、ざっとこんなもんね。で、次は誰があたしの相手になるよ?」
「ちっ……てめぇ…!」

余裕しゃくしゃくの態度をとる悠美、そして彼女の強さに後ずさる不良少女たち。
微動だにしない空気のなか、突如、それは破られた。
「君たち!いったいなにをしているんだ!?」
そこに一人の青年の姿が現れた。服装からして警察官の彼の姿を見た瞬間、
悠美と敵対してたグループはあっという間にバイクに乗りこみ、逃走を始める。

「てめぇ、覚えてろよ!」
伸びてた傷だらけの女を回収しつつ、その場から蜘蛛の子を散らすように消え
残されたのは悠美たちのグループと、警察官のみ。
「くっ、逃げられた…君たち、悪いがちょっと話を聞かせてくれないか…」
「はあ?お前なんかに話すことなんか何もねーけど?」

悠美が反発し、青年の手を払いのける。
「ちょ、ちょっと悠美…」
「はっ!相手が誰でも関係ないね!」
さすがにまずいかと心配した恵理が悠美を制止しようとするが、それを聞こうとはしない。
「あたしを捕まえようってんなら、力づくで来なよ!」

「君!何も君をどうしようっていうんじゃない、頼むから話を…」
あくまで話し合いでケリをつけようとしているが、悠美は構えを解かない。
だが、その時であった。突如として、公園の外から轟音が響き出した。
「!?…な、なんだ!?」
全員が音の方に振り向くと、そこには巨大な黒い影が…。
「あ、あれって!?」
「…噂の…怪物?」
358炎術剣士まなみ外伝 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/31(金) 22:18:00 ID:gjfV6UAy
黒い影は悠美たちの方へと接近してくる。
「こっちにくるよ!」
「ちっ、ズラかるよ!マッポの兄ちゃんも、早く逃げな!」
「ぐっ、僕は警察官なんだ。君たちを守る義務がある!」
悠美の言葉に、青年はそう返すが、膝は軽く震えている。

恵理たちは早々にバイクに乗りこみ、逃げる準備は完了していた。
「悠美!さっさと逃げよう!…悠美?」
「恵理…お前ら、先に逃げろ」
「ちょっ、悠美」
「いいからさっさと逃げろ!!」
悠美の声に、ビクッとすると恵理たちは悠美の方を一瞬振り返りつつも、その場を後にした。

「くっ…君も早く逃げろ!」
「うるせぇ!お前、めちゃくちゃビビってんじゃねーか!!」
「な、何を…うぐっ!…」
青年の腹を殴り、無理やり気絶させると、二人乗りの体勢でバイクに乗り
恵理たちとは別方向へと突っ走り始める。だが、怪物は逃がさんとばかりに後を追ってくる。

「ちぃ!ついてくんじゃねーよ!」
ジグザグに動きながら、なんとか引き離そうとする。そして、途中にあった
廃ビルを見つけると、怪物の姿がないことを確認し、青年を連れて中へと入り、
一気に屋上まで駆け上がる。
「ふぅ…なんとか巻いたか…おい、起きろよ」
「うっ…ここは…」

青年が頭を押さえながら、目を覚ますと、周りを確認する。
「あっ、君!君がここへ連れてきたのか?それに、あの怪物は?」
「とりあえず、引き剥がした…まあしばらくしたらまたトンズラするさ」
「そうか…すまない、助けてもらって。本当なら僕が助けなければいけないとこなのに」
お礼を言われると、少し赤面する。
「べ、別に…あたしだけ逃げて、お前が殺されたとかだと後味悪いしな…」
「ははっ、案外いい子じゃないか、君」
「なっ…!?あ、あたしはそんなんじゃねぇよ!」
首をブンブンと勢いよく振り、真っ向から否定する。
359炎術剣士まなみ外伝 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/31(金) 22:19:32 ID:gjfV6UAy
「…僕は誠一。君の名前は?いつまでも君とお前じゃ不便だし」
「あたしは…悠美、新堂悠美」
「悠美、ちゃんか。…答えたくなければそれでもいいんだけど、聞いてもいいかな?」
「なんだよ?」
「悠美ちゃんは、どうしてこんなことをしてるんだ?」

その質問に、悠美は少し俯き、どうしようか悩む表情を見せるが、しばらくすると
意を決め、答え始める。
「うち…親が厳しくてさ、けんし…あ、いや、習い事とかいろいろやらされてて、
それで、あたしのやりたいことなんて全然できなくて…それで…」
「自由が欲しかったってこと?」
「ああ…誠一だっけ?あんたもあたしのこと落ちこぼれとか、そう思ったろ?」

悠美の言葉に首を振り、肩に手をやる誠一。
「そんなことないよ。でも、悠美ちゃんはもっと笑った方がいいぜ?
だって、こんなに可愛いのにもったいないよ」
誠一の言葉に、悠美は一瞬にして真っ赤になる。
「な、なな!?か、可愛いって…!やめろよ、恥ずかしい…」

真っ赤なまま、目を逸らす。汗もタラタラ流れていた。
「ははは、そういうとこが可愛いと思うんだ…むっ!?」
誠一が悠美をからかっていると、唐突にビルがガタガタと揺れ出す。
そして、それが治まると、二人がいる屋上に何かが飛んでくる。
「こ、こいつ…!まだ探してやがったのか!」

怪物が、ついに二人を発見し、現れた瞬間に襲いかかってくる。
「くっ!悠美ちゃん、逃げるんだ!」
「お、おい!やめろ誠一!」
危険を顧みず、怪物に向かって飛び出す誠一。
「ふう、大丈夫だ…化け物め!」
震えが前よりはないことを確認すると、拳銃を発砲するが、まるで効き目がない。
しかし、撃たれたことに怒ったのか、怪物は勢いをつけ、張り手で誠一を叩きつける。
「うああっ!」
「誠一!おい、しっかりしろよ!おい!」
反応は返ってこない。それを見て、悠美の握った拳が震えだした。そして敵に向かって立ち上がる。
360炎術剣士まなみ外伝 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/31(金) 22:21:37 ID:gjfV6UAy
「て、てめぇ…許さねぇ……!わかったよ…やりたかないけど、やるよ!炎心変幻!!」
悠美の身体が炎に包まれ、その中で全裸となり、上半身は白い着物に、紅い羽織、
下半身に袴と、足袋と草履が現れ装着される。さらに籠手が纏われ、腰に刀が現れる。
「炎術剣士…新堂悠美ここに見参!怪物野郎、成敗してやる!」
剣士の姿へ変身した悠美は刀を抜き、構えを取る。すると怪物の方も腕を鋭利な刃物へと変えた。

「やろうってか?…くらえ!」
果敢に斬りかかると、向こうも上手く斬り結んでくる。両者とも、一歩も引かずに
剣戟は続き、怪物が大振りで悠美の足下を狙うと、彼女は高く飛びあがる。
「燃えとけ!炎流波!!」
左腕が紅く発光し、そこから火炎光線が飛び、それは怪物を包み込んだ。
そして動きは見られなくなる。

「へっ、そのままお陀仏になりな!…うあっ!?」
納刀しようとした瞬間、数本の縄のようなものが炎の中から飛び出し、それは
悠美の身体に巻きつき、身動きを取れなくさせる。
「くっ…まだくたばってなかったのかよ…!」
もう片方の腕を縄状に変化させた怪物が炎の中から出てくる。さすがに無傷と
いうわけではなくところどころ火傷を負っている怪物は怒りをその巨大な目玉に宿し、
動けない悠美に向かって刃を向ける。

「くそぉ…放せ、この…!」
容赦なく刃は悠美に向かって突き出され、思わず目を強く閉じる…が、彼女は
まだ生きていた。頬に赤い筋ができ、そこから血が流れ出す。
「あたしを恐怖で埋め尽くそうって魂胆か…」
怒りに身を焦がすが、どうにもならない。と、そこで怪物は脇で倒れてる誠一に視線を移す。

そして、徐にその刃を彼に向ける。
「ま、まさか…や、やめろ!」
しかし、容赦なく刃は振るわれようとしていた。そして突き刺そうとした瞬間、
悠美の全身から火柱が上がり、怪物の片腕を焼き尽くす。
それに驚き、ダメージを負った怪物は再び悠美に向かって刃を振るう。
しかし、悠美の刀が一閃すると、今度はその腕も斬り落とされた。

両腕を失い、のたうち回る怪物に対して、悠美はゆっくりと構え刀に炎が纏わる。
「これで…とどめだ、化け物野郎!火炎大破斬!!」
高く飛びあがると、頭から一気に一刀両断し、着地と同時に刀を鞘へ納める。
ズシン、ズシンと怪物が二歩ほど歩き終わるろ、真っ二つに裂け、完全に消滅した。
「成敗、完了…!」
361炎術剣士まなみ外伝 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/31(金) 22:23:29 ID:gjfV6UAy
「…おい、起きろって」
「う、うん…あ、悠美ちゃん…か、怪物は!?どうなったんだ!」
変身を解き、誠一を起こす。彼は起きると同時に状況を確認しようと慌てる。
「あ、ああ…どっかいっちまった…」
「どっかにいった…?悠美ちゃん、何か隠してはいないよね?」

「か、隠すようなことなんて何もねーって!…意外と鋭いな…」
小声で、呟く。誠一は自分の服をパンパンとはたき、立ち上がる。
「う〜む、謎だらけだな…しかし、世の中ほんと不思議なことが起きるもんだ」
「そ、そうだな…ま、今回のことはあたしらだけの秘密だ。じゃ、じゃあ、あたしはこれで!」
「あ!ちょっと待って!」

呼び止められた悠美はビクっと反応する。
「な、なんだよ!今更、僕は警察だから君を補導するよ!とか言い出さねぇだろうな!?」
「違う違う。…また今度会わないか?」
思わぬ誠一の言葉に、悠美は少し戸惑い気味。ようやく顔を上げると

「な、ナンパか?いいのかよ警察官がそんなことして?」
「ち、違うよ。ただ…ここでお別れしちゃうのもなんか、寂しいからさ…」
「それがナンパなんだよ。…ちょっと書く物、持ってんなら出せ」
誠一はポケットをまさぐって、ボールペンと、手帳を取り出した。

そして、それに悠美は何かを書き出す。
「これ!うちの電話番号!かけんなら、夜の6時頃までにな。それより後だと
親父が帰ってきてるからな。じゃあ今度こそ、バイバイ」
「あ、あともうひとつ!」
悠美は出口に向かって歩き出すと、再び呼び出される。

「まだなんかあんのか?」
「悠美ちゃん、可愛いんだから、もっと女の子らしくしたほうがいいよ。言葉使いも
そんな、無理にぶっきらぼうな口調じゃなくてさ」
そう指摘され、悠美は少し頬を赤く染める。
「うっせ!どうせ、あたしは女らしくないよ!じゃ、じゃあな!」
振り返らずに、走り出し、外に停めてあったバイクに乗りこむ。

あてもなく、街を突き進み、悠美は感慨に浸っていた。
「誠一か…なんかおかしな奴だったなぁ…」
そして河原につくと、近くの自販機でコーラを買い、それを少し飲む。
「ぷっはぁ……暴走族、止めるか…」
呟くと、一気に残りを流し込み、再びバイクでどこかへと走り出す。
362炎術剣士まなみ外伝 ◆4EgbEhHCBs :2009/07/31(金) 22:31:46 ID:gjfV6UAy
投下完了です。本編と悠美の性格はかなり違いますが、昔の話なのでw

>ろこ☆もーしょん作者さん
ろここちゃんはしましまパンツなのか…なんだかベーコン食べたくなってきましたw

>ゲーマーズ作者さん
仲間との対立話とかうちは全然やってなかったので参考になります。
昌子にとってあの、カツラは必須アイテムなんだなぁw
それぞれの特性というか、そういうのを理解して単に指示を出すだけじゃなくなって
結束が強まったように見えるなぁ

まとめサイトに炎術剣士まなみのネタバレとネタ付き設定集を
入れました。興味ある人はどうぞ。とんでもない能力になってますが
まあ宇宙恐竜の一兆度みたいなもんですw
でもネタバレなだけに、まだ本編を読んでない人は見ない方がいいかも。
363創る名無しに見る名無し:2009/07/31(金) 23:48:06 ID:kltoOLZF
投下乙です。まなみママンのキャラが全然違うw
若い頃は不良だったのね。これからどうなるかも期待してます
設定集も見てみます
364創る名無しに見る名無し:2009/08/01(土) 19:12:04 ID:XRFmLjQZ
おっと、早速まなみの番外編が!
お母さんレディースだったのかw
これってもしかしたら続いたりするのかな?
楽しみにしてます。

設定集も読みました。
武田が美化されてるのは気のせいか!?
そしてコマンド、はりきりすぎwww
365創る名無しに見る名無し:2009/08/01(土) 19:21:22 ID:o9GrLqvt
ろことゲーマーズとまなみの新作投下乙
ゲーマーズは話が動き出しましたね
あとノラクエがいつ出てくるか楽しみです
まなみのバイク好きは母親譲りなのですね
誠一は母の秘密を知っていたのかな
知ったとしたらいつのなのかな
あと設定集追加乙
作者は三鷹や武蔵野など多摩東部の中央線沿線在住みたいですね
さらに伊織はゲーム好きと言うことは
ゲーセンでゲーマーズのメンバーと会ったことがあるかも

366創る名無しに見る名無し:2009/08/01(土) 19:36:34 ID:XRFmLjQZ
いやー、俺は最終回が江ノ島付近だったんで、ご近所さんかと睨んでたんだぜ
ってなんだこの流れ!

正体を明かすあたりはまた一つのドラマになるんでしょうなあ。
楽しみ楽しみ。
367ろこ☆もーしょん!第五話 1/3 ◆zavx8O1glQ :2009/08/01(土) 21:19:54 ID:XRFmLjQZ

第五話「100円玉」



「ねえリコ、走らなくてもいいんじゃないの? 鍵かけてあるんでしょ?」

 ろここちゃんの手を引きながら、私は昨晩自転車を置き去りにした場所を目指していた。
 聞かれたとおり鍵はかけてあるのだが、もう一つ大事なことを思い出したのである。

「げ、原稿が!」
「あー、あの小説の」

 まだ未完成とは言え、もしあれが他人の手に渡ってしまったら盗作されるのは目に見え
ている。そんなことにも気が回らなかったなんて、昨日の私はどうかしていたに違いない。

 首を振る。

 しかしそれは、あまりにも愛くるしいろここちゃんという存在の成せるわざ。女子高生
という輝かしい称号を持つ私ですら、魔女という媚薬の前では無力だったのだ。

 うなずく。

「やっぱり、ろここちゃんはすごいわ」
「……は?」

 普段あまり外へ出ない私にとって、近所といっても住宅街はまるで迷路のようで、おお
よその位置に見当はつくものの、記憶は少々あいまいだ。
 同じ場所をぐるぐる回るという漫画的アクシデントに見舞われつつも、ふと足を止めた
ろここちゃんが口を開く。

「リコ、あそこ!」

 女子高生が乗りこなすには少々時代遅れ感のあるフォルム。そしてまさに今カゴの原稿
へと手を伸ばす少年がいるではないか。

「あいや待たれよ! そこな少年!」
「わっ!」

 振り返った少年の身体がびくんと揺れる。

「ぶはっ」

 ろここちゃんは私のセリフに吹き出していた。



「ご、ごめん。盗ろうとしたわけじゃないんだ。何かなと思って……」

 虫アミを持つ少年は、ランニングと半ズボンという夏休みの化身のような姿をしており、
落ち着いて考えてみれば、彼が小説の盗作をするような人間でないのはすぐに分かった。

「そうだよね、こっちこそ大声だしてごめんよ。少年」
「少年じゃないよ。俺はユウっていうんだ」

 とは言え、原稿に手を伸ばしていたのは事実であり、これが例えば小説の放つオーラを
感じ取ってのことならば、彼もまた只者ではないのかもしれない。
368ろこ☆もーしょん!第五話 2/3 ◆zavx8O1glQ :2009/08/01(土) 21:21:31 ID:XRFmLjQZ

「俺、道に迷っちゃってさ」
「あら、このへんの子じゃないんだ?」

 ともかく彼の話によると、夏休みを利用しておばあさんの家に遊びにきたのだが、近所
に親しい友達もいないので、引き止めるおばあさんを振り切って昆虫探しに来たらしい。

 こんな住宅街の中に一体どんな昆虫が潜んでいるのか知らないが、強がるユウ君の姿は、
父親から距離をおいた自分と妙にダブるものがあり、それを放っておくことはどうしても
できなかった。

「さあ、ろここちゃん、出番よ!」
「しょうがないなあ……」

 私は知っている。ろここちゃんは迷子のティーカップを自宅に届けられるのだ。
 ユウ君の所持品から声を聞き出せば、家に送ることぐらいわけはない。

「そういうもんでもないんだけどね」

 言いながらろここちゃんは、受話器の棒をユウ君へと伸ばした。
 不安そうな顔を向けるユウ君の服や靴、虫アミなどへ聴診器のようにあてがっていく。

「人の想いがつまったものじゃないと、声は聞こえないのよ」
「想いのつまったもの?」
「そ、ただ存在するだけの物はしゃべったりしないの」
「ふーん」
「お姉ちゃんたち、さっきから何を……」

 私たちの非日常的オカルトトークに、たまらずユウ君が口を挟む。と言っても説明する
のも面倒なので、まあまあなどとなだめつつ作業は続けられた。

「ポケットから何か聞こえる」
「むむ、ちょっとごめんよ少年」

 そこには小さな財布が入っていて、私はろここちゃんの言うとおり中から一枚の100
円玉を取り出した。
 ここへくるとユウ君はすでに涙目になっており、そんな彼の財布を物色する私は非常に
絵面が悪い気がする。

「ち、違うのよ。取ろうとしてるわけじゃないのよ!」

 これは急がねばと思うや否や、ヘッドホンに手をそえていたろここちゃんが、ぼそりと
つぶやいた。

「道、わかるって」
「よかったー、でもなんで100円玉?」
「さあ?」
369ろこ☆もーしょん!第五話 3/3 ◆zavx8O1glQ :2009/08/01(土) 21:22:34 ID:XRFmLjQZ

 はてな顔を浮かべる私たちの前に、ユウ君が乗り出してくる。

「それ、おばあちゃんがくれたんだ。何か好きなもの買いなさいって、いまどき100円
じゃなんにも買えないのにさ、それに俺、お母さんから沢山お金貰ってきてるし」

 数えはしなかったが、確かに財布には数千円が入っていたと思う。
 彼の身に着けている服も真新しく虫アミだって新品みたいなのに、それでも声が聞こえ
たのは100円玉だけなのだ。

「本当おせっかいなんだよな。そんなのいらないって言ったのにさ」

 私は何かこみ上げてきた苛立ちのような感情を抑え、ユウ君の頭にそっと手を置く。

「なあ少年よ、その100円にどれほどの価値があるのか、君は今から身をもってそれを
知ることになるだろうさ」



☆ ☆ ☆



 いつの間にか陽は高く登り、住宅街から外れたのどかな田園に大きな雲の陰をおとす。
 そこには手ぬぐいを被ってはたはたと走り回る、おばあさんの姿があった。

「あ、おばあちゃん!」

 私はその声に、名探偵が難題を解決したような笑みを浮かべて見せる。

「あ、ありがとうお姉ちゃん! ……と」
「ろここだよ」
「ろここちゃん!」

 道中さんざん強がっていたユウ君も、おばあさんの顔を見たとたん気が緩んでしまった
のか、少々声を上ずらせている。
 私はこういうところが子供のかわいさなんだなあなんて、向けられた背に声をかけた。

「少年、忘れもんだよ」

 親指ではじいた100円玉が、くるくると宙を舞う。

「それでお菓子でも買ってやんなさい」
「うん!」

 両手でそれを受け止めたユウ君の向こうでは、おばあさんが何度もお辞儀をしていた。
 私たちは二人の姿が見えなくなるまで見守ってから自転車の進路を自宅へととる。

「どう? 暇つぶしぐらいにはなった?」
「まあまあかな」

 今日はスイカでも買って帰ろう。
 良いことをした日の夕涼みは、気持ちがいいに決まっているのだ。



つづく
370 ◆zavx8O1glQ :2009/08/01(土) 21:23:20 ID:XRFmLjQZ
五話投下終了です。

「ろここちゃん」でぐぐってみたら、本当にそういう名前の方がいらっしゃるそうで、
そうなると一話にて「おかしな名前」なんて書いたのは大変失礼にあたります。

ここに深くお詫びするとともにリアルろここちゃんの前途を祝してage
371創る名無しに見る名無し:2009/08/02(日) 19:51:56 ID:eEEknPrL
投下乙
372創る名無しに見る名無し:2009/08/02(日) 23:43:28 ID:IURdSq5h
投下乙でした!いい話だな〜それにしても、
ろここって名前の人って案外いるんですねぇ。
珍しい名前だから自分もそんないないと思っていたw次回も期待します

>>366
まなみの最終回って東京タワーじゃなかった?

>>371
そんな一言のために何故ageる?
373創る名無しに見る名無し:2009/08/03(月) 01:39:11 ID:NBI3ejbb
>>372
そうだ最終回じゃないや、
なんか勘違いしてみたいw
374ろこ☆もーしょん!第六話 1/3 ◆zavx8O1glQ :2009/08/03(月) 23:24:37 ID:NBI3ejbb

第六話「こころのサラウンド」



 古ぼけた木造店舗がひしめき合う商店街。
 昼下がりの太陽は人通りの少ないアスファルトを焼き、ところどころ残る打ち水の跡が
独特な夏の香りを生み出している。

「こんにちはー」
「オウらっしゃい、お嬢ちゃんたち見ない顔だね」

 さび付いた白看板に描かれた「フルーツモリタ」の文字はその中にあった。
 モリタさんと思われるおじさんは額に汗を浮かべながら、愛想笑いとは思えないほどの
まぶしい笑顔を向けてくれている。
 今まで町のはずれにあるこの商店街には足を運んだことがなかったのだが、こういった
風情のある店で買い物をするのは嫌いではない。

「スイカ欲しいんですけど、おいしいの選んでください」
「二人で食べるのかい? まかしときな!」

 外で自転車のサドルにまたがっていたろここちゃんも、スイカをぽんぽんと叩き始めた
モリタさんに興味を持ったのか、お店の中へと入ってきた。

 実際のところ音でスイカの味が分かるということはないらしいのだが、こういったもの
は極めて心情的な問題であり「これがうまいよ!」と笑顔で言われたものがマズイなどと
いうことはあり得ないのだ。
 モリタさんはぐいと額をぬぐうと、ひとつの大きなスイカを選んでくれた。

「でも選んでくれだなんて嬉しいねえ、よかったらもう一個持ってきな!」
「ええっ、いくらなんでもそれはサービスしすぎですよ」
「女の子二人にゃちょっと重いかな? 食べ終わったら早いうちにまた取りにおいで」
「いやでもそんな、いくらなんでも」

 壁に張り付いたスイカの値札を剥がすモリタさんは、少しだけ悲しそうな顔をしていた。
 私がここに越してくる少し前、駅のそばに新しいスーパーができ、それからというもの
フルーツモリタを始め商店街の客足は減る一方らしい。

「値段がかなわないのは最初から分かってたんだがね、最近じゃあっちの方が良いモン揃
えてることも多くてね」

 こういう話はよくニュースでも見かけるのだが、実際目の前にしてみると何ともいえな
い物悲しさがあり、モリタさんの額に再び浮かび始めた汗は、まるで涙のようにも見えた。
 とは言え、私にできることはスイカを食べて喜ばせてあげるぐらいなので、それならま
たここへ来て「おいしかったです!」なんて言ってあげるのが一番だろうと、そう思った
矢先――

「ねえリコ、おいしくて安いなら私たちもそっちで買おうよ」
「こりゃ手厳しいなあ」

 私はろここちゃんの頭をはたいた。

「あいた!」
375ろこ☆もーしょん!第六話 2/3 ◆zavx8O1glQ :2009/08/03(月) 23:26:06 ID:NBI3ejbb

 ろここちゃんは物質の声を聞けるという、とてもステキな魔法を使えるのだが。

「お姉ちゃん、なにも叩かなくたって……」

 人の気持ちに関しては、まったく無関心なのである。

「ろここちゃん、スイカ割りするわよ!」
「な、なんでいきなり!」
「おじさん! ビニールシートとタオルと、なんかバットっぽいものある?」
「ええ? そ、そりゃまああるけど」


☆ ☆ ☆


 お店の前に広げられたシートにどかんとスイカを置き、嫌がるろここちゃんをずるずる
と引きずって、ぽんと肩を叩く。

「ちょっともしかして、私がやるの?」
「あったり前じゃなーい」

 ぼさぼさのオレンジヘアーからヘッドホンを奪い取り、タオルで目隠しをする。
 心配そうに腕を組んでいるモリタさんにウインクを送ってから、ろここちゃんの身体を
ぐるぐると回した。

「わー!」

 その叫び声に、道行く人々の足が止まる。
 これが私であってはならなかった。例えこのような所でスイカ割りをしている女子高生
がいたとしても、最近の若い者は無茶をするな、ぐらいにしか思われないのだ。

「リコー、どっちー」
「もうちょっと右ー!」

 できるだけ、たくさんの人に届くように大きな声を出す。
 それが小さなろここちゃんだからこそ、老若男女問わない人々を釘付けにするのだ。

「えーい!」

 こーん、とビニール越しにアスファルトを叩く音。それはさらに人々をひきつける。

「ざーんねん! もう一回!」
「ちょっと手、手がしびれて……」
「ほらほら、ぐずぐず言わない!」

 次第に集まってきた人々も最初は怪訝な顔を見せていたが、ろここちゃんの一生懸命な
姿に顔をほころばせていく。

「今度は左! もうちょっと左!」
「向き過ぎだぞ! 右、右だ!」
「叩くときは思い切り叩けよ!」

 それはいつしかフルーツモリタの前を黒く埋め尽くすほどの大声援となっていた。
 何度も失敗を続けるろここちゃんの口元は、少しずつ真剣なものへと変わる。
376ろこ☆もーしょん!第六話 3/3 ◆zavx8O1glQ :2009/08/03(月) 23:27:21 ID:NBI3ejbb

「よーし、いいぞ! そのまままっすぐだ!」

 そう、ろここちゃんには足りないのだ。

「おチビちゃん頑張ってー! 今度こそいけるよ!」

 人の声に耳を傾けることが。

「せーの!」

 聞け、今こそ――こころのサラウンド。

「やーー!」



 ぱかーん、と頼りない音が、ピンク色の空に響いた。

「ど、どうだった!」

 手ごたえを感じたのか、ろここちゃんは自分でタオルを振りほどく。
 そして目の前に広がっている人々の山に一瞬たじろぐも、少しだけひびの入ったスイカ
を見て嬉しそうに顔を緩めた。
 たくさんの喝采がろここちゃんを包む中、私はスイカの前へ出て両手を広げる。

「皆さん、ありがとうございます! ろここちゃんはスイカを割ることができました! 
つきましては、こちらのスイカをここへいる皆さんと分けたいと思います!」

 モリタさんに用意してもらっていた紙皿を配り、私とろここちゃんでスイカを砕きなが
ら、並ぶ笑顔へとそれを渡していった。

 すでに生ぬるくなった、そして人数で割ってしまうと少々物足りなさのあるスイカ。

「オヤジ、スイカひとつくれ!」
「うちはふたつちょうだい!」

 それでも一体感の結果として出されたそれは、夏の暑さを忘れるにはちょうど良いもの
だったのかもしれない。


☆ ☆ ☆


「いやー驚いた。処分も覚悟してたのに、全部売り切れちまったよ」
「そこまでは考えてなかったんですけどねえ」

 実のところスイカ割りを提案したのは、ろここちゃんに人の声の大切さを知ってもらい
たかったのが本音であり、スイカが売り切れたのは極めて誤算なのである。

 夕焼けに染まる空の下、からからと自転車を押す音が住宅街に響く。
 ふとろここちゃんの顔を覗いてみると、今までとは違った柔らかい笑顔をたたえていた。
 私は何も言わず空を見上げて、ろここちゃんの頭みたいな色の雲に向かって、優しく微
笑んでみせた。



つづく
377 ◆zavx8O1glQ :2009/08/03(月) 23:28:32 ID:NBI3ejbb
第六話投下終了です。

実際スイカ割りってしたことないんですよね。
378創る名無しに見る名無し:2009/08/04(火) 10:15:01 ID:bwlXjWxk
>>377
やばいよ…いい話だよ…。
前の話の100円の下りは良かった。凄く良かった。
年を拾うと涙脆いんだよ…。
死んだおばあちゃん思い出すんだよ…。
こういう優しい話は大好きだ。
なんか昔のNHKの夕方にやってたようなドラマを思い出したよ。GJ!
379創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 15:31:14 ID:GL5sHK86
昔は100円玉って大抵のものは買える夢の塊だったんだよな
チューチュー買って5円飴買ってうまい棒買って大吉10円ガム買って…
時には100円の宇宙戦艦ヤマトのプラモ買って、作ったコスモタイガーを紙飛行機みたいに投げて壊してw
380創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 18:19:38 ID:ybmrvt6i
>作ったコスモタイガーを紙飛行機みたいに投げて壊してw

壊したらあかんやろうが! その100円は……その100円はなあ!



ということでwiki更新しました。

掲載
ゆけゆけ!!メタモルゲーマーズ Round7
ろこ☆もーしょん! 1〜6話

>>まなみ作者さま
ママン外伝の話数をどうしてよいか分からずに保留しております。
○○編、○○編って続いていくのかな、とも思いまして。
ご連絡あればこちらで載せますのでー

>>wiki管理者さま
相互リンクのリンク先が消えているようですので、ご連絡まで。
381創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 21:13:51 ID:GL5sHK86
>>380
そういう破天荒な遊びも子供ん時の醍醐味なのよ
後になって菓子食ってる友達見て羨ましくなったり、使い道を怒られたりしてお金の大切な使い方を覚えたんだ
382避難所より代行です:2009/08/06(木) 01:29:55 ID:SripvwTK
スレ見ないで、Wiki編集してしまいました。
とりあえず、外伝はあと何話か続いていきますので一応連載に入れました。
ありがとうございました。

>ろこ☆もーしょん作者さん
ええ話や…リコの作戦が功を為したなぁ。モリタさんも同時に助けられたし。
そしてスイカ割り懐かしいなぁ、確か小学生の頃に
地域のイベントでやったけど、一番手なのに、まさかのスイカ直撃で
かなり空気が読めない行動になってしまっていた…w
383避難所より代行です:2009/08/06(木) 01:30:46 ID:SripvwTK
依頼者は「まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs」さん。
規制とのことです
384避難所より代行です:2009/08/06(木) 01:32:10 ID:SripvwTK
すみません、安価をコピー漏らしていました。正しい文面は↓です。それでは失礼致しました

>>380
スレ見ないで、Wiki編集してしまいました。
とりあえず、外伝はあと何話か続いていきますので一応連載に入れました。
ありがとうございました。

>ろこ☆もーしょん作者さん
ええ話や…リコの作戦が功を為したなぁ。モリタさんも同時に助けられたし。
そしてスイカ割り懐かしいなぁ、確か小学生の頃に
地域のイベントでやったけど、一番手なのに、まさかのスイカ直撃で
かなり空気が読めない行動になってしまっていた…w
385ミサト:2009/08/13(木) 23:53:03 ID:CZZ3zZlw
記念カキコ
386ミサト:2009/08/14(金) 00:42:45 ID:LGfil4kR
デキル屋にいらっしゃいませ
http://www15.atwiki.jp/majokkoxheroine/pages/101.html
を読みました
ファンタジーな世界がそれぞれの登場人物の部屋で繰り広げられる
世にも奇妙な物語です。
内容は詳しく書くと落ちが見えてしまうので伏せますが
誰かを犠牲にする事で魔法を操る魔法使い?と現実的に苦しめられている環境
に悩む少年
その二つの環境がぶつかりあう事で生まれる心の変化が少年の目線
で選択と葛藤のジレンマをリアルに表現された感動的な作品です。
短編なので、サクッと気軽に読み切れる内容です。
お勧めです。
387烈火の魔女:2009/08/16(日) 17:33:51 ID:YVoZs99a
烈火の魔女。
……みっともないコードネームだ。
でも、それが今のあたしに残っている唯一の名前だった。

あたしは今日も上から指令を受けるがまま、“ギシ”を狩りに赴く。
飛行金属で出来た箒に乗って、コンクリートに囲まれた商店街を疾走する。
人の気配は無い。おそらく既に住人避難の手配が済んでいるから。
もっとも、この寂れようでは避難するような住人など最初から居なかったのかもしれない。


現場に到着すると、“ギシ”は居た。
軒先に屈みこんで泥水を啜っていた奴に対し、
あたしは明確に敵意を込めて呼びかけの言葉をかける。
奴は腰だけ先に持ち上げ、人間には不可能な捩れた動きで立ち上がる。
それからゆっくりと遠心力をかけ、あたしの方に振り向いた。

一見すると人間の女性に見えなくもないが……やはりそれは難しい。
頭部から生える黒い紐束は、髪と呼ぶには太すぎる。
目玉は飛び出している上に、左右で大きさがまるで違う。
鼻やあごはニュルニュルと終始変形しており、
骨どころか皮膚すら存在しているかどうか怪しいものだ。
そして何より足が無い。
幽霊だから……ではなく、触手の塊がその身を支えているから。


奴らは、“ギシ”と呼ばれている。
そう呼ばれている由来。そもそも奴らは何者なのか。
そんなことは知らないし、興味も無い。
奴らは人間を模す。そして食らう。
だから狩る。それだけだ。


奴は間接を無視した角度でゆったりと首を傾げると……。
次の瞬間、その形の定まらない右腕を伸ばして、あたしに突きかかって来た。
あたしは右手の箒でその攻撃を払いのけると、空いている左手でマッチに火をつける。
余談だが、片手でマッチに火をつけるのは他人に自慢できる数少ないあたしの特技の一つだ。
あたしはマッチを奴に向かって軽く放ると、
間髪居れずに掌を宙のマッチに向け、思いっきりマナを放出した。
マッチの小さな火が、巨大な炎塊になる。周辺の酸素が、一瞬でただの熱源になる。
奴はその熱源に巻き込まれ、ギィィと不気味ながらも苦しげな悲鳴を上げる。
思った以上に火力が強かったため、巻き込まれそうになったあたしは慌てて身を庇う。

あたしの血に宿るマナは、炎のマナ。
燃え盛る炎の力を増大する。
並みの“ギシ”なら、この攻撃を食らっただけで一発だ。

だが生憎、奴は並みの“ギシ”ではなかったようだ。
奴の胴が割り開かれ、そこから現れたムカデの背骨のような触手が上半身と下半身を分断する。
そうして長大化した奴の身体は、全長30mはあろうかという巨躯へと成長した。
その長身が震えると、その身を包む火の粉はあっけなく払われた。

あたしは舌打ちをして、咄嗟に飛び退く。
その体型から予想された通り、奴はその長い体躯を振り回してあたしをなぎ払おうとする。
あたしは素早く身を翻して箒に跨り、急上昇して奴の攻撃を回避する。
店舗の軒先や電灯が根こそぎ吹っ飛んだ。

危機一髪で空に逃れたあたしだが、ここも安全ではない。
息をつく間もなく、奴はその紫色の狐のような顔をこちらに突っ込ませてくる。
既に人間のフリをしていた頃の面影は微塵も無い。
人間を形どっていたパーツは全て奴の体内に吸収されたようだ。
388烈火の魔女:2009/08/16(日) 17:34:33 ID:YVoZs99a
奴が怒涛の攻撃を仕掛けてくる。
尾や頭を振り回すその軌道を、あたしは正確に見切り、かわしていく。
あたしみたいな虫けら相手にあんなに暴れ狂って、ご苦労なことだ。
ふと億劫になったあたしは、懐から取り出した煙草に火をつける。
わざわざその時間を作ってまで。
火をつけたマッチの方は、奴に一応ぶつけてやったが、
大したダメージにはなっていないだろう。
あたしはゆったりと煙草の匂いを嗅ぐ。




別に余裕があるわけじゃない。
奴らは常軌を逸した怪物だ。
単純な馬力だけなら常に奴らのほうが遥かに上回っている。
戦闘のリズムがちょっとでも崩れれば、あたしは死ぬしかない。

それでも、あたしの脳髄は冷え切っていた。
肉体の鼓動がどんどん早まっていくにもかかわらず、
それに反比例するようにあたしのテンションは底辺へと向かっていく。

興味が湧かない。
こいつらの一匹や二匹を倒したところで何がどうなると言うのだ。
また、こいつらにあたしがやられたところで、すぐに代わりの魔女が来るだろう。




焼けた葉っぱの香りがあたしの鼻腔に充満する。
煙草は吸わない。吸わないが、煙草の匂いを嗅いでいると何故か落ち着く。
同僚には迷惑な趣味だとよく言われるが、あたしはやめるつもりはない。

……おっと。奴の攻撃が更に激しくなってきた。
煙草程度の火種ではまともな火力にはならないので、武器には出来ない。
かと言って、ポイ捨てはあたしの主義に反する。
あたしは煙草の火力を上げて、一瞬で燃やし尽くして灰にする。

あたしは再び懐を探る。次に取り出したのは缶ウィスキーだ。
奴が突撃してくるのを紙一重ですり抜けつつ、
片手でタブを起こして、奴の身体に缶の中身をぶちまけた。
続いて火を摺ったマッチを再び奴の身体にぶち当てる。

燃え盛る奴の身体。だがその動きは鈍らない。
奴を殺すには人間界の炎では駄目だ。
だとすれば魔界の炎が必要になる。
魔女の血から導かれる、全てを焼き尽くす獄炎が。

あたしは両手を前に突き出し(おっと、手放し運転だ)、
全力で奴の身体、正確には炎上している炎にマナを送り込む。
もうもうと美しく輝いていた柑子色の炎は、
あたしの干渉によって禍々しい赤黒い炎に変わる。
赤黒い炎は、瞬く間に奴の身体を侵食し、食らい尽くす。

奴はギィィ……いや、ギェェか?
まぁそんなのはどっちでもいいか。
とにかく、奴は表現しづらい悲鳴を上げ、
融け堕ちた肉体は地上に墜落していった。


389烈火の魔女:2009/08/16(日) 17:35:13 ID:YVoZs99a
今日も終わった。つまらない仕事が。
あたしは地上に降り立ち、再び煙草を取り出す。
……ん?

ガキが居た。まだ年端も行かない雄のガキだ。
ガキは目を爛々と輝かせて、このあたしを見ている。
避難しなかったのか?
それとも何処かから紛れ込んだのか。
終わったこととは言え、どちらにしても迷惑なガキだ。

ガキの方はあたしに興味があるようだが、
あたしは付き合ってやる義理はない。
背を向け、早足で歩き出す。
煙草に火をつけようと、マッチを手に取る。

炸裂音。
あたしの身体が宙を舞った。
強い力ではたき飛ばされたあたしは、コンクリートの壁に叩き付けられる。
一瞬、ガキの仕業を疑ったが、流石にそんなわけはなかった。



ふざけんな……聞いてないぞ、もう一匹居るなんて……!!



隠れていたのであろう、現れたもう一体の“ギシ”は、
一時的な呼吸困難で動けないあたしの身体に、尖らせた触手を容赦なく突き立てた。
血がはじけ飛ぶ。内臓の一部がイった。

奴は、あたしに牙を向けて笑った……ように見えた。
戦闘不能になったあたしを、ゆっくりと食らう気だ。



そうか……今日で終わりか……。
思ったより……遅かったな……。



ふっと自嘲的に笑ったあたしは、力なく俯く。
すると、あたしの血が身体から流れ出している所が目に映る。
思わず傷口を抑えた両手が真っ赤に染まる。
何をやってるんだあたしは。
そのままにしておけばいい。
あたしの中の魔女の血なんて、全部流れ出てしまえ。
あたしは手に付いた血を振り払った。



…………。
……………………。
………………………………?



来な…………い…………?


390烈火の魔女:2009/08/16(日) 17:35:56 ID:YVoZs99a
不審に思ったあたしは、既に貧血が始まっている頭を無理やり起こす。
霞んだ視界の端に、“ギシ”の背中が映る。

“ギシ”の牙は、あたしには向いていなかった。
その牙は、凄惨な光景に腰を抜かしている少年に向けられていた。





死ねない……。


まだ……死ねないッ!!!





内から湧き上がった激情に突き動かされ、あたしは無理やり立ち上がった。
それに気付き、“ギシ”が再びこちらに頭を向けた。

血の足りない身体がふらつく。
箒やマッチはさっきの攻撃で吹き飛ばされて見当たらない。
酒はあの一本だけだ。
武器は何も無い。あたしの身体そのものを除いて。


“ギシ”がゆっくりと狙いをつけ、あたしに突進してくる。
避ける体力も無いと思ったのだろう。実際にその通りだ。


あたしは、傷口からあふれる血潮を再び両手に塗りたくる。
魔女の血には、大量のマナが秘められている。

……いや、この解釈は不正確だ。
魔女の血は……マナ、そのものだ。


最後の力を振り絞り、あたしは両手からマナを発する。
塗りたくられた血液から火花が飛ぶ。
高まったマナが、とうとう自然発火を起こす。
燃え盛る血液。まるで赤い油みたい。
手先が煮えたぎるように熱い。さっきから寒気がしていたからちょうどよい。

構わずに突っ込んでくる“トガ”の身体に、手が触れる。
いや、ギリギリで触れていない。
限界まで圧縮した炎のマナが発した超高温は、
“トガ”の身体をあたしに触れる前に融かす、どころか一瞬で蒸発させてしまう。
自ら火に飛び込んできた虫は、その勢いのまま……。
骨も皮も肉も……灰すら残さないまま、現世から消失してしまった。




限界を迎えたあたしは、仰向けにバッタリと倒れこむ。
見上げると、真っ青な顔で慌てて走り去る、逆さまな少年の姿が見えた。


391烈火の魔女:2009/08/16(日) 17:36:38 ID:YVoZs99a
不思議だ。
気分がすっきりしている。
これが死を目前にした悟りというものだろうか。
あたしはもう二度と開かないことを期待して目を瞑る。


「烈火の魔女。ごくろうさま」


そんなあたしの行為を邪魔するように、声がかかる。
仕方なくあたしは再び瞼を開く。

誰かがあたしの顔を覗き込んでいるのが見える。
よく見ると、見知った顔だ。

「シミズか……」
「キヨミズよ」

清水の魔女。こいつのコードネームだ。
理屈はよく分からないが、どんな酷い怪我でもたちどころに治してしまうマナを持っている。
あたしの開いた腹は、いつの間にかこいつの力によって塞がれていた。

「なんだよ……もうちょっとでかっこよく死ねたのにさ」
「あなたにそんな権利は無いわ」
「へいへい、どーせあたしは無感情な戦闘ロボットですよ」
「子供、助けようとしたでしょ」
「……見てたのか?」
「見てたわ」

あたしは大きく後ろから回した腕で、頭をかく。
どうにもばつが悪い。

「……冷めた目で物事を見ようとしても、いつも最後は血が滾って我を忘れちまう。ダメだな、あたしは」
「諦めなさい。あなたには達観なんて向いていないわ」
「どうしてそう思う?」
「達観の才能が無いから」


……ぷっ。


「あははははは」
「何がおかしいの?」
「いや、今の言葉で自分ってもんがちょっと分かった気がしてね」
「あらそう」


思いっきり笑ったあたしは、身を起こす。
ちょっと見渡してみると、吹き飛んだ箒はすぐに見つかった。
マッチの方は泥水に浸かって使い物にならなそうだ。


「じゃ、行こうぜシミズ」
「キヨミズよ」


あたしは思わず鼻歌を歌う。
仕事の後にこんなに機嫌が良いのは、あたしにしては珍しいことだった。
392創る名無しに見る名無し:2009/08/17(月) 19:56:26 ID:NxIvAjTP
おお、クール系魔女は久々ですね。
頑張ってるのに少年には怖がられてしまうあたり、なかなか物悲しいものがあるなあ。
達観しつつある(?)彼女を祝して投下乙でした!
393創る名無しに見る名無し:2009/08/17(月) 23:00:11 ID:YAsswWnv
烈火の魔女
そんなに変な名前ではないと思う。
ただ、ボーイッシュな感じはしそうだ。
394創る名無しに見る名無し:2009/08/17(月) 23:23:18 ID:ygt3SQWU
古くさいとか安っぽいとか、
そういう意味で嫌いなんじゃないか?
395創る名無しに見る名無し:2009/08/18(火) 00:22:06 ID:9lIzURYW
ふぅ…俺も誤ってトリップで書きこまないようにしなくちゃ…
間違いなく大量のレスがもらえてもリスクが大きいw
創作発表板は過疎気味だから、みんなも来てね!
396創る名無しに見る名無し:2009/08/18(火) 00:23:28 ID:9lIzURYW
ごめん誤爆w
397創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 14:38:31 ID:tHRd0fdm
踏んじまったw
http://imepita.jp/20090823/525940


7月初頭ぐらいには4000行ってなかった記憶があるんだが、何か急激に伸びたな
やっぱアレか、夏休み効果って奴なのか
398創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 18:04:56 ID:7cYn7ycb
>>397
5月中旬は2000くらいだった
まなみの過去の話を読んでみたいとかそういう理由があると思う
 ボクには黒贄鴉、というやたらと不吉な名前をした幼馴染の少女がいる。
 名は体を表す、というのは事実のようで、腰まで伸ばした長髪、歳に似合
わない鋭さを持った瞳、そして一年通して着込んでいるロングコートは全て
墨で塗りつぶしたような漆黒。鉛筆や筆箱などの文房具まで黒で統一する手
の込みようだ……正直、夏場は見てて暑苦しい。なんでそんなに黒が好きな
んだ? と聞いたら、
「……格好いいから」
 と、非常に簡潔に答えてくれましたとさ。
 背はそれほど高くなく、同年代の標準よりちょっと小さいくらい(ちなみ
にボクより大きい……この年代で比べたら女子のほうが男子より成長が早い
のは分かっている。分かっているのだがなんか悔しい)。当然、胸も──や
めておこう。女子の体格とかに触れるのは褒められたものじゃあ少なくとも
無い筈だ。
 口数はそれほど多く無く表情の変化も少ないので、今一何を考えているの
かよくわからない。ボクみたいに長く付き合っている人間ならともかく、ほ
かのクラスメイトなどから見るとなおさらのようで、そのためかこいつの友
達はボクを含め片手で数えられる程度しかいない──無論、色恋沙汰などまっ
たくの皆無だ、というかこいつと付き合いたければまずボクを倒し──げふ
んげふん。
 で、さっき言ったように無表情且つ無口のため分かりづらいが──こいつ、
中々に激情家だ。表に出てこないので分かりづらいが。去年だったか一昨年
だったか、その自らの数少ない友達を虐めた上級生を、見るも無残なボロ雑
巾へと変貌させた事件は非常に有名だ。そのせいで、ますます周りから敬遠
されるようになったが、本人は少なくとも満足そうだった。その友達との友
情も深まったようではあるし、まぁ結果オーライ……なのかな。
 と、そんな前置きは置いといて。
 鴉とボクは──晴れて魔法少女と魔法少年となりました。
 いや、嘘でも法螺でも冗談でも戯言でもないって。頭も別におかしくなっ
てない。
 勿論、自分が何も関係のない第三者で、こんなこと言い出す人間がいたら
精神病院を真っ先に勧めるが、間違いなく事実なのだからどうしようもない。
 現実は小説より奇なり──そんな言葉が身に染みて理解した日、ボクが一
〇年かけて培った常識が覆された瞬間。
 それは、四月の某日。
 ボクらがまだ、四年生に進級したばかりの時だった──
401 ◆ou9R03Zjjo :2009/08/24(月) 14:28:02 ID:bqO16XYm
このスレの色々素晴らしい作品を見て、
思わず衝動的に書きなぐってしまいました。
夏休みを利用してちょくちょく書きだめしてるのに
今だ魔法少女への変身シーンまで到達してませんが、
頑張って完結まで持って行きたいと思います。よろしくお願いします。
にしてもタイトル長ぇw
402創る名無しに見る名無し:2009/08/24(月) 18:55:23 ID:VW4MkCHN
停滞したかと思うと期待の新連載が現れるのがこのスレの良いところ
鴉たんの活躍が早く見たいお
「あー、春だなー……」
 放課後、学校帰りの道。桜並木から散り行く桜の花を眺めながら、隣を
歩いている幼馴染、黒贄鴉に話しかけた。かけたの、だが。
「…………」
「……いや、何か言おうよ。反応してくれないと虚しいじゃないか」
 気心の知れてる(筈)の幼馴染は、全く反応してくれなかった。
「……あー、春だなー」
「いや、人の台詞パクんなや」
「……『そうだねー』とか同意しろとでも?」
 今一感情を感じられない口調で言う鴉。せめてもうちょっと気持ちを込
めて喋れないのだろうか、こいつは。
「いや、別にそういうわけじゃないけど……なあ、お前もうちょっとコミュ
ニケーション能力を身に付けた方がいいんじゃないの?」
「……別にいい。どうせ、コミュニケーションをとる相手なんてほとんど
いない」
「そういう問題じゃないんだけどな……」
 こいつの会話のしなさ加減は、もはや尋常じゃないと思う。もう何年も
幼馴染をしているが、こいつがボクを含めた『身内』意外と自発的に会話
しているのを見たことがない。
「というか、コミュニケーションを取ろうとしないから取る相手が出来な
いと思うんだけどさ」
「…………そうかも」
 そう言ったきり、黙り込む鴉。……本当にそうかも、とか思っているの
だろうか。
 ……どうでもいいが、前から思ってたけどランドセルが致命的に似合っ
てないな。多分着ている、真っ黒なロングコートのせいなのだろうけれど。
 何でいつもこんなもの着ているんだろう。絶対可愛い格好とか似合うと
思うのに……今度刹木でも呼んで着せ替え人形にして遊んでやろうか……
でもこいつ反応とか淡白だから服装で弄っても今一楽しくないと思
「…………ねぇ」
 う、なんて考えているとさっきまで黙っていた鴉が口を開いてきた。…
…どうやら黙っていたのは何か考えてたかららしい。
「……やっぱり、人と話するの慣……」
「……?」
「れたほうがいいかな」
「変なところで切るなよ」
 玉藻ちゃんか? そのネタが分かる小学生は中々いないぞ、多分。
 まぁ喋り方はともかく、質問自体はまともだ。ふむ……
「そりゃそうだろうな。お前は喋らなさすぎだよ」
「……むぅ」
「ま、いきなりほかの人と話すのは大変だろうから、ボクとか、とりあえ
ず身近な人間とかで練習するといいんじゃないかな。自然な会話の切り出
し方とか」
「……うん」
 と頷く鴉。そして、また何かを考え込むように口を閉ざした。
 さて、一体どんな風に切り出してくるかな?
「……桜、と聞いてまず何を連想する?」
「む」
 ふむ、結構まともな出だしだ。
 これなら後から話をどんどん膨らめられる──ちなみに、よくありがち
な『今日はいい天気ですねー』とかは駄目だ。絶対に途中で話題がなくな
る……まぁボクはさっき似たような文句で会話を始めようとしたけどさ。
「そうだな……ボクはやっぱり、無難なところで『桜餅』とか──って、
なんだよ?」
 ボクが答える途中で、『ちっちっち』というように指を振る鴉。
「……その認識、連想は実に貧困」
「何をう」
 ならば、ボクのものよりも高尚な連想ができるとでも? ……いや、お
世辞にもボクのがそんな面白い連想じゃなかったのは認めるんだけど。
 ……でも、こいつの考えることなんて、どうせ、なぁ。
「……桜と聞いて連想するものと言えば、あれしかない」
「ほうほう、言ってみろ」
「……勿論、カードキャプターさくら」
「言うと思ってたよ。絶対サクラ大戦かそれのどっちかだと予想はしてた
さ」
「……ダカーポ、という選択肢もあった」
「なんで小学生が桜、と聞いてエロゲーを連想することができるんだ?」
 知ってるボクもボクなんだけど。
 いや、悪いのはボクじゃないんだ! いつも鴉のアニメの鑑賞に付き合
わされたり、ゲームのプレイを見せられたり──つまり全ての元凶は鴉だ
ったんだよ!
 勿論、『な、なんだってー!?』なんて有名なリアクションが出ること
はなかった。
「……それじゃあ御題を変える」
「ふーん」
「……ダカーポ……そこから『DC』と聞いて連想するもの」
 DC、ね。一般人だったらそのものズバリ『音楽用語としてのダカーポ』
を思い浮かべるだろうな。……しかし、こいつだったら一体どんな連想を
この単語から連想するのだろうか。
 うーむ、幼馴染の腕がなるぜ(意味不明)!
「そうだな──ディバインクルセイターズ?」
「……私はデーモンカード」
「RAVEか……中々渋いところからチョイスしてきたな、ボクは好きだった
けど。なんというか、王道なバトル・冒険漫画って感じで」
 最近、少年誌で腐女子に媚を売る漫画が多すぎて困るよな。それは、少
年漫画のあるべき姿ではないと思う、否、決してない!
「……マドギワ?」
「あぁ、いやなんでもない」
「……そう」
 まぁ少年漫画云々は置いといて、今は鴉のコミュニケーション能力の向
上を目指すときだった。
「まぁさっきの切り出しは中々よかったんじゃないか? 結構話が後に繋
がったし」
「…………」
 無表情、黙ったままでガッツポーズする鴉。可愛い。
「でも、やっぱお前は先ずその無表情を直すべきだと思うよ……何ていう
か、一見さんにはちょっとキツイ印象与えてる気がする」
「……無表情キャラは今時のニーズ」
「もう劣化綾波とか長門とか正直お腹一杯です……いや、大好きだけどさ
無表情」
「……なら問題ない」
「いや、ボクの好みとか関係なく、君がちゃんと人とコミュニケーション
をとれるようにするのが目的だから。そこ勘違いしないよーに」
「…………了解」
 といかにも渋々、といった風に渋る鴉だった。可愛い。
 だがしかし、可愛いだけでは世の中やっていけないのである。ここは厳
しくいかないと。
「じゃぁとりあえず、笑ってみ? それだけでも結構印象が変わると思う
から」
「……こう?」
 と言いつつ、鴉は首を傾げながら微笑んだ。可愛い。
 でも、これは……
「うーん……なんというか、凄くやらしい」
「…………!」
 ボクの言葉を聞いた鴉が、珍しく驚いたような表情をした。可愛……い
かん、繰り返しのギャグは三回までと相場が決まっているんだった。
「何ていうか、何か企んでいるように見えるんだよな、どうも。『ニコ』
じゃなくて『ニヤ』って感じ」
「……なん……だと……」
 ……ちょっと驚きすぎじゃないか? 何か今日はリアクションがデカイ。
かぁいい。
「もっとこう……自然な感じで…………でも、ボク、お前がフィギュアと
か同人誌とかお目当てのものをゲットしたときの、今みたいなニヤニヤ笑い
しか見たことないんだよな」
「……!? ……いや、そんなことは……」
「そんなことは?」
「……ない……?」
「疑問系かい」
 ま、物心つく前から幼馴染だったわけだし、一度くらいは心からの笑みを
見せてくれたこともあるかもしれない。何も、こいつも昔っからこうだった
わけじゃ……ッ?
「……どうしたの?」
「いや、ちょっと頭痛がしただけ……うん、大丈夫。なんともない」
「……なら、よかった」
 と、ボクの顔を見つめながら鴉はそう言った。なんとなく、ほっとしたよ
うな顔に見える。やっぱり今日のこいつはやけに表情が豊かだなぁ、まぁそ
こがかぁ……あ、すいませんそろそろ自重します。
「……ま、それはさておき、とりあえず普通に笑ってみ、普通に」
「……普通に」
「そう、お前がいつも見てる二次元美少女のような満面の笑みを浮かべるの
だ……間違えても言葉とか、アニメ版の楓みたいな笑いはやめろよ」
「……わかった、やってみる」
 そう言うと鴉は俯き、その白魚のように柔らかそうな両の手で、顔のいた
る部分を揉んでいた。
 …………。
 こいつ、そんなことをしないと普通に笑うこともできないのか!? そん
な一〇歳児って……ひょっとしなくてもかなり歪んでるんじゃないだろうか。
なんか気づくのが遅い気がするが。
「……顔あげてもいい?」
 鴉の声で思考中断。まぁ、考えても詮無いことだ。ボクは、『今・ここに
いる』黒贄鴉と一緒に過ごしているのが楽しいのだから。
「あぁ、いいよ」
「……それじゃ──」
 勢いよく顔を上げる鴉。
「…………」
「…………」
「…………ぐふっ」
「……マドギワ!?」
 さっきの鴉の微笑みをビームライフルとすると、アトミックバズーカかマ
クロスキャノン並の衝撃がボクの頭を揺らした。
 あー、なんていうか……GJ!
 そんな莫迦な思考を最後に、そこで一旦ボクの記憶は途切れることとなる。
407 ◆ou9R03Zjjo :2009/08/24(月) 19:36:17 ID:bqO16XYm
>>402
うれしいこと言ってくれるじゃないの。
おかげで投稿明日からにしようかなぁ、と
思ってたのに、急いで投下してしまった。

正直、文章は下手だしネタは寒いだろうけれど、
感想とかいただけると幸いです。
408創る名無しに見る名無し:2009/08/24(月) 23:56:08 ID:VW4MkCHN
うおおっ、まさかの当日配信とは驚いたな!
来るとは思わなかったから全くスレに意識が行ってなくてゴメン・・・

パロディギャグが中心の話になるのかな?
魔法少女に変身する時が今から楽しみ
409創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 15:08:03 ID:/jS5AtWg
このスレ読み応えあるなぁ
410レス代行:2009/08/27(木) 22:48:24 ID:xaO7VaXz
レス代行です
411武神戦姫凛 ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/08/27(木) 22:49:14 ID:xaO7VaXz
どうも以前、炎術剣士まなみを書いていた者です。
新作が出来たのでこれから投下致します。
412武神戦姫凛 ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/08/27(木) 22:49:58 ID:xaO7VaXz
武神戦姫凛 第一話『暗黒の街に光を!二つの嵐が巻き起こる』

 時は少し先。中国の香港に隣接した人口島にある街、連春。様々な人種・民族が暮らす
サラダボウルな街であり、独立した存在でもある。だが、その実態はあらゆる産業に
参入し、多額の財を築いた幽覇という者を総帥とする闇組織・獄牙が支配した
暗黒の街と化していた。一見綺麗で平和に見えるその街も、弱者はいいようにされ、
強者は好き勝手に生きている。特に、獄牙はそのテクノロジー技術で生み出した
バイオモンスターを備え、その戦闘力は警察はおろか軍すら手に負えないほどであった…。

その連春の港に二人の少女の姿が。片方は茶髪のお団子ヘアーの髪型で活発な印象を受ける。
もう片方はスラっと伸びた脚と、長い金髪、青い瞳が印象的な大人びた印象を受ける。
「着いたね、シャニー。長かったなぁ…」
シャニーと呼ばれた金髪の少女は、静かに頷く。
「そうね…もう五年は前かしら。ここを離れたのは。凛、とりあえず街の様子を…」
と、言い掛け、先の方を見ると、屈強な男たちに囲まれている少年の姿が。

「けっ、逃げ足の速い野郎だ!」
「ちょ、ちょっと、肩がぶつかっただけじゃないか!」
「へっ、うるせぇな。歯向かう奴にはちょっと痛い目を見てもらわないとなぁ…!」
男が拳を合わせ、ごきごきと鳴らし、腕を振り上げる。それを見た少年は思わず目を強く閉じる。
だが次の瞬間、少年が目を開くと、そこには飛びながら拳を男の頭に浴びせた少女の姿が。

男の首はゴキャっという感じで曲がっている。
「ぐおおぉぉぉぉ…!」
「子どもを、数人で痛めつけようとするなんて…あんたたち、それでも男!?」
「な、なんだてめぇ…ああ?女じゃねぇか!正義の味方気取りで一人で
飛び込んでくるとはいい度胸してるじゃねぇ…うおぉああ!?」

男が踏み出そうとした時、今度はシャニーの飛び蹴りが炸裂していた。
「一人じゃなくて、二人ね。それよりも…あなたたちでは私たちには勝てないわ。
諦めて、さっさと帰りなさい」
シャニーのその言葉に憤ったのか、血管を浮かばせながら叫ぶ。
「このアマ!生かしちゃおかねぇぞ!!」
413武神戦姫凛 ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/08/27(木) 22:50:43 ID:xaO7VaXz
二人を囲んだ男たちは一斉に、襲い掛かってくる。しかし、二人は同時に
高く飛び上がり、それを回避しながら一瞬にして背後に回りこむ。
「しょうがないなぁ…やるよ、シャニー!」
「わかったわ!」
構えを取り、それぞれ男たちにむかって、拳を振るい、蹴りを浴びせていく。

一瞬にして数人のうち、二人ほど倒され、残った連中は、思わぬ出来事に焦りを感じる。
「な、なんだこいつら…!くそ、覚えていやがれ!」
逃げ帰っていく男たちに、凛は舌を出し
「べぇー!もう二度とこんなことすんな!」
子どものように投げかけている。一方、シャニーは助けた少年のもとに駆け寄る。

「大丈夫?」
「う、うん…ありがとう、お姉ちゃんたち強いんだなぁ」
「そうでしょそうでしょ!もっと褒めてもいいんだよ?」
えへんと胸を張る凛を無視して、シャニーは話を続ける。
「それよりも、あの人たちは?」
「またここにいると、あいつらが来るかもしれない…俺の住んでるとこに来てよ」


少年の誘いを受け、彼の住家に赴くことに。そこは、小さな中華料理店であった。
まだ朝早く、開店はしていないようだ。中へと連れられ、適当なとこに腰掛ける。
「で、自己紹介がまだだったね。俺は大悟。中華料理屋の父さんと連春に来たんだ」
「あたしは陽凛明(ヤン・リンメイ)だよ。凛って呼んでね。で、こっちは」
「シャニー・ハリソンよ。大悟君、さっきのは…」
大悟は店の外を見渡し、誰もいないのを確かめると軽く息を吐き、話し始める。

「たぶん、獄牙の連中だと思う」
「獄牙?」
頷いて、大悟は話を続けていく。
「獄牙はこの街の支配者なんだ。弱い人から金を奪ったり、暴力を振るったり。
中には殺されちゃった人もいたんだ…」

大悟の話を聞いた凛は、バンっと勢いよくテーブルを両手で叩く。
「ひどい!対抗できるような人はいないの?」
「無理だよ、だって警察どころか軍隊まで、獄牙には逆らえない。獄牙は
バイオ技術で怪物を作ってて、そいつらには軍の武器すら効かないんだから。
この街のことは幽覇の思うがままってことさ」
「幽覇!?」
414武神戦姫凛 ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/08/27(木) 22:51:27 ID:xaO7VaXz
思わず、凛もシャニーも身を乗り出す。
「今、幽覇って言ったね…?」
「う、うん…どうしたの二人とも?いきなりびっくりしたよ」
「幽覇…まさかとは思っていたけど、やっぱりこの街の支配者に…!」
二人の表情は険しいものとなる。その瞳には怒りの炎が宿っていた。


−−−連春のバー。そこは街の荒くれ者どもの溜まり場である。
そこに先ほど凛たちに蹴散らされた男たちがカウンターに座っている大柄な男に
対して、話をしている。
「…というわけなんです。だから、ゴルドス様の力を貸していただけないかと…」
そのゴルドスと呼ばれた男が、一気に酒を飲み干し、振り返る。

腕すべてで口元を拭くと、男たちを睨みつける。
「つまりなにかい、俺にてめぇらの復讐を手伝えってかい。俺を使おうってか?」
「い、いえ、決してそんなつもりでは…ぐああああ!?」
ゴルドスに殴られ、言葉が強制的に途切れてしまう。他の男たちは恐怖で震えながら、
なんとか頭を上げている。

「まったく、たかが女二人如きに、痛い目合わされた上に…何を調子に乗っていやがる」
もう一杯酒を飲み干し、腕を組み、目を瞑るゴルドス。
「…だが、幽覇様の支配するこの街で、何かしようって奴を放っておくわけにもいかんな」
「で、では!?」」
「いいぜ、その女どもを血祭りにあげてやろう。俺にはバイオモンスターを
使う権限もあるしな。どうせなら見せしめも兼ねてド派手にぶちかましてやろうぜぇ…!」
不気味な笑みを浮かべると、男たちを連れて、店の外へと出て行った。


−−−場所は再び、大悟の家。
「ねぇ、大悟。幽覇の居場所ってわかるかな?」
「さ、さすがにそれはわかんないよ。でも、獄牙はいろんなとこに拠点があるから
それをしらみつぶしに探していけば、見つかるかもしれない…」
嫌な予感がした大悟は、二人を見つめる。そしてシャニーが口を開く。
「獄牙…幽覇を潰すために、私たちはここに帰ってきた。大悟君、安心して。
私たちが連春に平和を取り戻してみせるから」
415武神戦姫凛 ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/08/27(木) 22:52:10 ID:xaO7VaXz
笑顔で大悟にそう返すシャニー。
「そのためになんとか、獄牙の連中を潰さないとね!」
凛が拳を握り、パンパンと叩く。気合も十分といったとこだったが…。
唐突に窓が大きな音を立てながら、豪快に割れる。
「な、なんだ!?大悟、シャニー!伏せろ!」

ガラスの破片が飛び散り、三人は姿勢を低くし、頭を抑える。
続いて、何やら球体状の物が投げ入れられてくる。それは床に当たると、
煙を放出し、部屋の中に一気に広がり始める。しばらくしてそれはようやく収まりだす。
「ごほっ、ごほっ…シャニー、大悟、大丈夫?」
「私は大丈夫……!?凛、大悟君がいない!!」
大悟がいなくなったことに気づいた二人は、周りを見渡す。

ふと玄関の方を見ると、封筒が置かれている。それを取り上げ、開封すると
中には手紙が入っていた。
「なになに…ガキを取り返したかったら、港の第三倉庫に来い。獄牙…!」
凛は手にした手紙を握りつぶし、シャニーと目を合わせ、お互いに頷く。
迷うことなく、二人は外へと飛び出していった。


ようやく、お日様が昇りだし、外が明るくなってきた頃に、獄牙が指定した
第三倉庫に二人は到着した。
「獄牙!大悟をとっとと返せ!」
勇ましく奥の闇に向かって叫ぶ凛。直後、気味の悪い笑い声が響き渡る。
「ふはははは…よく来てくれた。お前たちか、調子に乗ったお嬢さんたちは」
奥から、大柄な男、ゴルドスが現れた。彼に引きずられるようにぐるぐる巻きにされた
大悟が後ろから現れる。

「お姉ちゃんたち!」
「大悟!あんた、大悟を放しなさいよ!」
ゴルドスはあくまで、余裕の態度のまま、放し始める。
「まあまあ、慌てんなって。お前らもなかなか強いらしいからな。
すると、低い唸り声を上げながら、二体の人とも動物とも取れない生命体が現れた。
緑色の皮膚、太い腕、長い爪、血走っている一つ目玉と誰から見ても、まさしく化け物だ。
416武神戦姫凛 ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/08/27(木) 22:52:54 ID:xaO7VaXz
「こ、こいつは…!シャニー!」
「くっ!」
シャニーに向かってその爪が振り下ろされるが、間一髪、なんとか避ける。
「お前らにはこいつらと殺し合いをしてもらおうか。まあ、勝ち目などないだろうがね!」
二人はなんとか、攻撃を転がりながら避け、後退する。

「シャニー、さすがにこいつらには敵わないね…」
「そうね…凛、今こそ私たちの修行の成果を見せる時よ!」
「何をごちゃごちゃ言ってやがる!やれぇ!」
巨大な腕が振り下ろされるが、高くジャンプし回避すると、大きめのコンテナの上に着地する。

「「戦姫転生!!!」」
二人がそう叫ぶと、その肉体が光に包まれていく。普段着が弾け、一瞬全裸となると
光が新たな衣装を二人に身に着けさせる。凛は赤の、シャニーは黒のチャイナドレス風の
服装だ。さらに腰には帯が巻きつき、凛はニーソックスが装着されるが、シャニーはこれ
見よがしに?そのスラっとした生脚を晒したままである。

変身した二人の姿に、ゴルドスも、大悟も、一瞬、何が起こったのか分からなかった。
「て、てめぇら!いったい!?」
驚きの表情のまま、問いだすゴルドスに向かって二人は叫ぶ。
「あたしらは…非道は許せぬ、正義の武道家ってとこかな!」
「獄牙!もうこの街をあなたたちの思い通りにはさせない!」

宣言が終わると二人は同時に敵に向かって飛び掛かる。
「こしゃくなぁ!やれぇ!」
バイオモンスターが二人を迎撃しようと腕を前に突き出そうとする。
しかし、二人の足に突如として青い力が纏われる。
「「飛竜脚!!」」

急激にスピードが増し、空間を裂く勢いで、怪物どもが体勢を整える前に蹴り倒す。
その反動で回転しながら着地するとファイティングポーズを取り、
凛は拳を握り、シャニーは片足を上げる。
417武神戦姫凛 ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/08/27(木) 22:53:37 ID:xaO7VaXz
怒りに震え、モンスターは咆哮をあげながら突っ込んでくるが、二人は微動だにしない。
凛は腕を引き、突進してくる敵に合わせ、拳を突き出し
「天翔拳!!」
カウンターで返し、強力で燃え上がるようなアッパーカットを浴びせ、一撃で転倒させる。

シャニーは高く跳ね、回転しながら
「獅子撃かかと落とし!!」
重たく、地の底まで響く一撃を敵の顔面に浴びせ、かかとをめり込ませる。

「雷刃拳!!」
「豪裂脚!!」
凛は拳を、シャニーは蹴りを無数に放ち、その強烈な一撃ごとに、敵は砕けていき、
完全に消滅していった。最後に、二人が拳を作り、もう片方の手のひらへとぶつける。
「「押忍!!!」」

ゴルドスはというと、バイオモンスターが倒されたことが信じられないといった
様子で、歯軋りをしながら、二人を睨んでいる。
「き、貴様らぁ…よくも…!こうなればこのガキを…」
「気功弾!!」
ゴルドスが手に持ったナイフを突き刺そうとするが、それよりも早く、凛は
手に集めた気をボールのようにしてその腕に向かって投げつける。

「ぐあぁぁぁ!!」
「大悟君!」
シャニーがダッシュで大悟のもとへ駆け寄り、救出する。
「くっそぉ、てめぇらは獄牙のブラックリスト入りだぜ…!覚えてやがれ!」
捨て台詞を残し、ゴルドスはその場から逃げ出していった。

「大悟、大丈夫?」
「う、うん…ねえ、お姉ちゃんたち、本当に何者なんだ…?」
二回も自分を救ってくれた二人を疑ったりするつもりなどはない。だが、
別の姿へ変身したばかりか、目の前で軍も対抗できなかった怪物たちを蹴散らした
少女たちが何者かなのか、それを聞きたくなるのは当然であった。

お互いの顔を見て、しばらく何か考えてるかのような表情を浮かべた後、
軽く微笑みながら二人は話し出す。
「うん、教えてあげる。あたしたちのことを」
「まあ、その前にお腹も空いたし、大悟君のお店の中華料理でもいただこうかしらね」
そこで自分たちの話をする、そう決めて、三人は一度、大悟の家に戻ることに。
二人と、獄牙の幽覇との関係はなんなのであろうか…それはまた次回に語ろう。
418武神戦姫凛 ◇4EgbEhHCBs レス代行:2009/08/27(木) 22:54:23 ID:xaO7VaXz
投下完了です。今回は規制されてるので投下を代理してもらいました。
前作のまなみが侍で和だったから、今回は中華風でいくぜ。
じゃあ、これの次回作は洋風なのかどうかは定かではありませんがw
新作、どうぞよろしくお願いします。

>鴉ちゃん作者さん
いいですねぇ、このパロネタで思わずニヤリとしちゃうような言葉も出たりして。
これからの展開、特に鴉ちゃんの変身シーンが楽しみですw頑張ってください。
419レス代行:2009/08/27(木) 22:55:11 ID:xaO7VaXz
レス代行終了です
420創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 23:44:16 ID:Gx1fwzVz
新作投下乙です。アクション性が高いなぁ
あと今回はなんとなく国際的ですねぇ
次回も楽しみにしてます
421創る名無しに見る名無し:2009/08/29(土) 16:25:26 ID:Hs/VZfiw
まなみ作者殿
新作投下お疲れ様
期待しています
話は変わりますが
まなみの母が小説家という話ですが
どういう作品を書いているのか楽しみです
422創る名無しに見る名無し:2009/08/29(土) 18:24:03 ID:zhT2WocJ
>>419
こういう格好いい話は大好きだ
423創る名無しに見る名無し:2009/09/02(水) 23:24:52 ID:nD2CCLwY
新作が二つも来てるなぁ、期待しまくりんぐ
それとゲーマーズはまだかしらねぇ…なんて
424創る名無しに見る名無し:2009/09/04(金) 18:31:36 ID:X6+Tp28n
>>423
ろこもーしょん作者氏も来ていないな
425武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/04(金) 22:56:07 ID:YPWe5G4k
武神戦姫凛、第二話投下します
426武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/04(金) 22:57:11 ID:YPWe5G4k
武神戦姫凛 第二話「二人の秘密」

 獄牙の本拠地である巨大な高層ビルの最上階。そこに前回、凛たちに敗れた
ゴルドスが冷や汗を流しながら、両膝、両足を床に尽き、ひれ伏している。
その先には作りが豪華なテーブルを挟んで、両脇に、片方は紫色の長い髪をし、
白い肌、スレンダーな女、もう片方はショートカットの黒髪でスタイルの良い、
肌は小麦色をした長身の女。

そして彼女たちの間には、椅子に腰掛けた髪が床につくほど長く、どこか神秘的な
印象を受ける美女の姿が。彼女は鋭い眼光でゴルドスを見据える。
「…それで、お前はバイオモンスターを倒されたばかりか逃げ帰ってきたということか」
「い、いえ!あの女たちが、妙な拳法を使って変身までするような奴でしたから
幽覇様にご報告をと…」
「危険だと思うのならば、その場で早々に処分せい!貴様は獄牙の面汚しだ。毒花、やれ」

幽覇が手を軽く振ると隣にいた、白い肌の女がゴルドスにゆっくりと歩み寄る。
「獄牙に出来損ないはいらないの…ゴルドス、あなたはここで死になさい」
「ぐっ…くそぉ、死んでなるものかぁぁぁ!!」
逆上した大男は毒花に殴りかかるが軽く避けられ、すれ違いざまに額に指が突き刺される。

「ごぉ、がぁ…!」
「愚か者は…死ね」
指を抜くとゴルドスは仰向けに倒れ、同時に光を放ち、肉の一欠けらも残さず爆発し、消滅した。
その様子を見ていた長身の女は、軽く笑いながら口笛を吹く。
「ヒュー!毒花、ダイナミックな殺り方するじゃない♪」
「パリア…あなたも今度やってみれば?きっと、癖になるわよ…?」

二人の会話を聞きながら、幽覇は指令を出す。
「そこまでにしろ二人とも。ゴルドスの言っていた拳法使い…我らに覚えのあるものかもしれぬ」
その言葉に、二人は真面目な表情となり
「まさか…聖覇流拳法…!?」
「しかし、この街にあった聖覇の道場は以前潰したはずです。もう、それの使い手など…まさか!?」


パリアの言葉に、静かに頷く幽覇。
「そうだ…そのまさかだ。あの、小娘たちが帰ってきたということだ」
そういって、幽覇は後ろの窓から連春の街並みを眺める。
「(聖覇姉さま……あなたの娘たちも、後を追わせてやるぞ…)」
427武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/04(金) 22:58:07 ID:YPWe5G4k
その頃、凛たちは大悟のうちの店で食事を取っていた。シャニーは丁寧に食べてるなか
凛は、手当たり次第に皿に盛られている春巻きやザーサイを食している。
それを呆れ顔で見ている大悟。
「凛お姉ちゃん、よく食べるなぁ…」
「ん?食事は生き物の三大欲求だからね!いっぱい食べとかないと」

食事が終わると、ナプキンでごしごしと口を拭いた凛が口を開く。
「…それじゃ、あたしたちのことを話そうか」
「大悟君、私たちは、五年前まではここ連春で暮らしていたのよ…」
「そうなんだ…で、どうしてしばらくここを離れてたの?」
「離れていたというか、離れざるを得なかったというか…」

−−−九年前の連春。凛は交通事故で両親を失い天涯孤独の身となっていた。行く宛も
無く、拾ったパンを食べ、ボロボロの傘で雨風を凌ぐ。涙を流しながら油の臭いのする
毛布を羽織って寝る。悲惨な毎日だったが、ある日、そんな彼女を見つめる
緑色の長い髪を流し、それでいて穏やかな目つきをしている女性が現れた。
彼女は体育座りで、縮こまっていた凛に話しかける。

「あなた、毎日ここで?お父さんとお母さんは?」
「……死んじゃった」
「…そう、か。…私ね、この街で道場を開こうと思ってるの。あなた、一緒に来ない?
こんなところでの生活では大変でしょう?ちゃんと寝るとこ、食べるとこが必要なはずよ」
その誘いの言葉に戸惑い気味の凛。
「でも、あたし…そんなお金持ってないし…」

そんな彼女に優しく微笑みかける。
「そんなのはいらないわ。だって、これからは私があなたのお母さん代わりになるから…」
そういって、彼女は凛を優しく抱きしめる。
「…私の名前は、聖覇。あなたのお名前は?」
「あたし…あたしは凛。陽凛明…」

こうして、凛と聖覇との共同生活が始まった。聖覇は凛を時に厳しく、時に優しく
まさに娘同然に育て、凛もまた幼くして両親を亡くし、思い出の少ない彼女ににとって、
聖覇は次第に本当の母親だと感じ始めていた。
聖覇の開いた道場は初めの頃こそ、女の開いた道場だのなんだの言われ、なかなか
門下生が集まらなかったが、娘であり、初の門下生でもある凛は聖覇の下で
メキメキとその腕を上げていき、その噂を聞きつけた者は揃って道場に入門してくる。
428武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/04(金) 22:58:56 ID:YPWe5G4k
そんなある日、聖覇流拳法の道場に一人の少女がやってきた。色白で黄金の髪を伸ばしている。
彼女はゆっくりと道場の門を開ける。まだ稽古の時間ではないが、代わりに朝稽古を
している凛の姿が。凛は中に入ってきた少女の姿に気づく。
「あれ?あなたもうちに入門したい人?」
「う、うん。私、シャニー・ハリソンっていうの。あなたは?」
「あたしは陽凛明。凛でいいよ。よろしく!」

それが、凛とシャニーが初めて出会った日。彼女はハリソン財閥の令嬢であったが、
お嬢様暮らしが退屈になり、刺激を求めての入門であった。しかし、一見軽い動機ながら
そのやる気は本物で拳法を習い始めたのは凛よりも遅かったが、武の才能があったのか、
凛に負けず劣らずな力を身につけていった。お互い切磋琢磨して腕を磨き、
二人は次第に親友であり良きライバルとなっていった。

だが、平和な時間は長くは続かなかった。凛とシャニーが十二歳の頃、今日もいつも通り
稽古と組み手。組み手をする時の二人の表情はとても楽しそうであった。
「はい、それまで!二人ともよくここまで腕を上げたわね」
「そ、そうですかぁ?なんだかお師匠様にそう言われると嬉しいです」
「ふふん、だってお母さんの教え方が上手いんだもん。あたしたちだって強くなるよ!」
そう褒め称える聖覇に、シャニーは照れくさそうにし、凛は自慢げに胸を張っている。

そんな二人に微笑みかける聖覇。ふと時計を見ると時刻は既に夕方を回っていた。
「あら、もうこんな時間か…私はお買い物に行ってくるから、二人は
遊んでいなさい」
そう言って聖覇は街へと向かっていった。

夕焼け空の下、聖覇が歩いている最中、彼女は何かに気づいたのか、ふと足取りを止める。
彼女の背後に長髪の女が腕を組みながら立っている。
その両隣には彼女を守る立ち居地で女の姿が。
「……幽覇、言ったはずです。私はあなたの軍門には降らないと」
「聖覇姉さま、どの道、この街は私の物となるのです。素直に私の下へ来たほうが
可愛い教え子たちを傷つけないで済みますよ?」

「お黙りなさい!私はそのようなことは許しません。それに、あなたが求めているものが
この街にはあったとしても、あなたには力を貸すことはないでしょう」
その言葉に、やれやれと呆れた表情でいる幽覇。
「仕方ない…例え姉と言えど、私に敵対するなら…今、ここで消す!毒花、パリア、
あなたたちは下がっていなさい」
両隣の女が数歩後ろへと下がり、姉妹はまっすぐに対峙する。
429武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/04(金) 22:59:58 ID:YPWe5G4k
「幽覇…あなたでは私には勝てない…もう何度もやりあってわかっているはずです」
「それは今までの結果でしょう?だが、今回は違う。必ずあなたに勝つ」
何者も入り込めない空気が漂い始め、二人は構えを取る。
一陣の風が吹きすさぶと、同時に両者が攻撃を繰り出し、眩い閃光が辺りに走った。


道場では帰りが遅い聖覇のことが心配でならない凛とシャニーの姿が。
「シャニー、お母さんいくらなんでも遅すぎじゃないかなぁ…?」
「お師匠様に限って寄り道なんてしないだろうしね…探しに行こう!」
頷くと、二人は聖覇を探しに飛び出していった。

しばらくして、二人が路地裏にやってくると、そこには傷だらけで倒れている
聖覇の姿と、それを見下すような視線で見つめる三人の女の姿が。
「お師匠様!?」
「お母さん!!」
「……くっ…凛…シャニー……」
二人が駆け寄り、聖覇を起こそうとする。そして凛は女たちを睨みつける。

「あんたたち…よくもお母さんを!!」
「許さないわ!」
激昂する二人の少女の姿を見て、ほくそ笑む幽覇。
「お前たちが、お弟子さんってわけか…まあ、私が相手をするまでもないだろう。
毒花、パリア、適当に甚振りなさい」

その言葉を聞き、毒花は凛と、パリアはシャニーと対峙する。そしてそれを見た
聖覇は小さく首を振る。
「に、逃げなさい…凛、シャニー…!」
しかし、その言葉を聞かずに二人は敵に向かって修行の力を発揮しようとした。
だが、二人の怒りは届かなかった…相手の女たちは二人よりも速く、強かった。

毒花は凛の正拳突きを軽く受け止め、逆に鳩尾に重い一撃を浴びせる。
「ぐがぁ…!うぅ……」
「どうしたの…師匠の仇を討つのではないの?情けないお顔が晒されているよ…?」
冷淡に述べる毒花は続けて凛を何度も蹴り、殴る。凛は声にならない叫び声をあげる。

パリアはシャニーの飛び蹴りを受けとめ、投げ飛ばし、馬乗りで拳の連打を浴びせた。
「あぐっ!うぁぁぁ…!」
「確か、あなたってハリソン財閥のお嬢様だったかしら?ふふ、可愛いお顔が
台無しねぇ、腫れあがっちゃって…でも、そういうのが私、ゾクゾクするのよねぇ」
残酷な笑みを浮かべながら攻めを止めず、シャニーは泣き叫ぶ…。
430武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/04(金) 23:00:59 ID:YPWe5G4k
それからのことを二人はよく覚えていない。いつ一方的な攻撃が終わったのか、
聖覇はどうなったのか、分かっているのはボロボロで牢屋の中で倒れているということ。
「……シャニー、生きてる…?」
横になったまま、なんとか声を出し、相棒の安否を確かめる。
「…ええ、なんとかね……凛、手も足も出なかったね…」
「ダメだった…お母さんの、仇取れなかった…うぅ…えぐ……」

泣き出す凛に、シャニーは寄り添って慰めようとする。だが、彼女も涙は止まらない。
その時、こつこつと足音が聞こえだした。それはだんだんこちらへと向かってくる。
「…凛…シャニー……!」
「お母さん!?」
「お師匠様!?」

それは二人と同じく、ボロボロな姿の聖覇であった。彼女は気を集中させ、鉄格子を
破壊して、二人に寄ると、もう残りわずかな気を二人に与えて傷を回復させる。
「お母さん、どうして…?」
「なんとか、隙を見て脱出してきたのよ…凛、シャニー、あなたたちに、これを託すわ」
そういって、徐に懐から巻物を取り出す。

「私でも、あの幽覇を止めることが出来なくなった以上、連春は幽覇の者となるわ…。
そして私たちの道場も間違いなく潰されるでしょう…だからあなたたちは最後の希望。
これを持って、日本の東雲道場に向かいなさい。そこで、この巻物に従って修行して、
いつか、必ず幽覇を…さあ、ここから逃げなさい」
そう言って、聖覇は二人に逃げるようにする。

「そんな、逃げるならお母さんも一緒に!」
訴える凛に首を振る聖覇。
「私はもう…それに、必ず追っ手が来る。だから私はそれを食い止めるために残るわ…」
「お師匠、様…!!」
「…速く行きなさいっ!!」

踏み出せずにいる二人を怒鳴りつける聖覇。二人は何度か振り返りながら、外へと
脱出していく。彼女たちが囚われていたのは街の中央の巨大なビルだったようだ。
港に到着すると、一瞬ビルの方から光が走ったのが見えた。まるで命が弾けたかのような。

「お師匠様ぁ…!」
「うぅ…泣く、な、シャニー…!お母さんの仇を、いつか必ず討つために、あたしたちは
強く、強くなってここに帰ってくるんだから…!」
だが、自身もそれを抑えることは出来ずにいる凛。だが、瞳には決意の炎が宿っていた。
こうして二人は育った連春を離れ、日本で修行を積むこととなった。
431武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/04(金) 23:01:49 ID:YPWe5G4k
−−−話を聞いた大悟は、二人の過去に驚愕してばかりだ。
「俺、なんて言えばいいか分かんないけど…大変だったんだね…」
「気にしないで、大悟君。…お師匠様の言った通り、幽覇はこの街を支配していたわ。
だから私たちは彼女を倒し、この街も救ってみせる…」
「そのために身につけてきた聖覇流拳法なんだからね」
二人はその瞳に強い意志を宿している。

そんな中、唐突に外から轟音が響き渡った。
「!?…シャニー、行くよ!」
「OK!大悟君、ここで大人しくしててね」
「う、うん。気をつけてね」
心配する大悟に軽く微笑み頷くと二人は飛び出していった。

商店街方面でバイオモンスターが一つの店を潰しているのが見える。
さらに逃げ惑う人々の姿も。それを見た凛とシャニーは同時に変身する!
「「戦姫転生!!!」」
変身が終わると、一気に凛は拳を、シャニーは脚を突き出し、攻撃する。
不意打ちを食らった敵はそのまま横に倒れる。凛が続けざまに気を集中させる。
「気功弾!!」
反撃の隙を与える間もなく、敵を撃破した。圧倒的なまでの戦いだ。
「「押忍!!!」」

だがその直後、背後から乾いた拍手が聞こえてくる。
「いやいや、お見事お見事…以前よりは強くなったみたいね、お嬢さんたち?」
「でも…それでも幽覇様はおろか、私たちにも勝てない…」
紫色の長髪と白い肌の女、黒髪の小麦色の肌の女、この二人を忘れるわけは無い。
432武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/04(金) 23:04:12 ID:YPWe5G4k
「毒花に…」
「パリア!」
二人を睨みつける凛とシャニー。だが、向こうから闘気は感じられない。
「残念だけど、今日はあなたたちの相手をする時間はないのよねぇ。というか
どれだけ強くなったか、確かめに適当にモンスター放っただけだし」

「くっ、それだけのためにあんな真似を!?」
「許せない!」
そのために、罪も無い人を苦しめ、破壊行動を行った二人に怒りが込み上げる二人。
だが、そんなことなど何とも思っていない様子の毒花とパリア。

「ふふ、まああなたたちが獄牙を瓦解させるほどのことをやってみせれば、
幽覇様も相手をしてくださるかもね。それじゃ、またね〜♪」
「だけど……あなたたちも師匠と同じ道を歩むだけ…死にたくなかったら、早く
この街から逃げた方がいいわよ…?」
そういって、二人は霧のように姿は解け、消えていった。

とりあえずは敵を退けた二人。その表情は決意の炎が改めて宿っていた。
「あたしたちは絶対に、この街を救う…!そしてお母さんの仇を討つ!」
「幽覇、首を洗って待っていなさい…!」
街の中央に聳える巨大ビルに、いや、幽覇に向かってそう語る二人であった。


次回予告「連春の人々は二人の救世主が現れたことに喜びの声を上げる。
だが、卑劣な獄牙の罠が凛とシャニーに襲い掛かる…街に拳の唸り声が響き渡る…!」
433武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/04(金) 23:08:03 ID:YPWe5G4k
投下完了です。ちょっと戦闘シーンが短いけど、それはまた次回に。

>>421
ただなんとなく小説家って設定なんで…ほとんど家にいる
お母さんだから家で出来る仕事ってことでこういう設定に。
だから漫画家とかでも全然いいわけで…う〜ん、まあジャンルはいろいろってことでw
434創る名無しに見る名無し:2009/09/04(金) 23:49:24 ID:g4r0kO1B
投下乙でした。過去にいろいろあったのか
いつか日本で修行してた時の話も知りたいなぁ

ところでこのスレも450KB越えてるし、そろそろ次スレか?
前回より遅かったような、連載する人が少ないからか
435創る名無しに見る名無し:2009/09/05(土) 16:31:40 ID:unOlPag9
>>433
投下お疲れ様
次が楽しみです

まなみの母の設定は単純だったわけですね
ラノベ作家であったら面白かった
もしくは自分の体験談を基にした小説を書いているのかな
436創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 21:29:05 ID:ER0lWBHR
>>434
てことは「彼女」が再びこのスレに舞い降りるのか?
437創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 23:43:14 ID:p6aH8qT4
一応、早めに立てておいた。

魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ4
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1252248113/l50
438創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 20:30:58 ID:pvLKWbJZ
これは……みんなウメ子待ちなのかな?
439創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 22:10:07 ID:raQxYOqS
てゆーかROM専な人が多いだけじゃ。
ウメコは480KB越えたあたりでしょう。あと、乙ぐらい言っとけよ

>>437
スレ立て乙
440創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 22:23:33 ID:rFz7emkL
>>439
ウメ子作者乙
まー、まだ50KB近くも余ってるから埋めには気が早すぎるな

>>437
スレ立て乙
441創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 22:43:57 ID:raQxYOqS
>>440
ウメ子作者じゃないってw
過去スレの傾向を見てそう判断しただけ
442創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 18:29:22 ID:MJp5ubjC
ウメ子作者も他の作品書いてくれたらいいのにな
443創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 21:50:11 ID:gv0rBpOX
というかウメ子待望されまくってるけど、
もし来なかったらどーするんだお前らw
444武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/10(木) 22:13:38 ID:ElTsBUDc
武神戦姫凛、第三話投下します
445武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/10(木) 22:14:27 ID:ElTsBUDc
武神戦姫凛 第三話『救世主は悪魔!?』

 連春に現れた二人の少女、凛とシャニー。彼女たちがここに来た理由は復讐のため。
だが、正義と平和のためでもある。街の人々が苦しめられているのを見れば、
二人の怒りが爆発する。その結果、早々に正体はバレてしまったが…。

「すごいな、お嬢さんたち!」
「もう、この街で絶望しながら死ぬしかないと思っていたのに、あなたたちのような
人が現れるなんて…この世も捨てたもんじゃないねぇ」
そういって街の人々は凛とシャニーを歓迎した。
街の人々の信頼も得て、幸先は良さそうだと思われた…が、ことはそう上手くはいかない。

−−−獄牙の本拠地。毒花とパリアが幽覇に報告をしている。
「…ということです、幽覇様」
「ふむ、奴らの力など恐れるに足りんことだとは思うが、街の連中が一丸となると
少々やっかいか…よし、毒花、例のバイオモンスターを使え」
その言葉に、反応し、怪しい微笑を見せる。
「例の、でございますか……さぞ面白いことになるでしょう…」

毒花が獄牙アジトの地下へと赴く。そこは巨大な研究施設があり、ある種、ありがちな
培養液が詰まったカプセルがいくつもあり、その中にはバイオモンスターの試作品が
何体も眠っている。毒花が来たことで研究員たちは彼女に敬礼する。
「毒花様、お疲れ様です!」
「そんなに堅苦しいことはしなくてもいいのよ…それよりも、例のバイオモンスターは…?」

彼女の言葉に研究員の一人がスイッチを押す。すると、彼らの目の前に床から巨大な
カプセルがせり上がってくる。中は、ボコボコと泡立ち、スライムのような軟体生物
二体ほど眠っている。
「いつでも、使うことが出来ます。もちろん、あの能力も持たせてあります」
「上出来よ…それじゃあ、今夜さっそく使うから、よろしくね…」

毒花に了解しましたと告げて、研究員たちは彼女を見送る。
姿が見えなくなると、カプセルの方に向き直り、コンピュータをいじり始める。
電撃がカプセル内に流れ始め、スライムの形が段々と人型へと変わっていく。
シルエットからして女性のようであった。
446武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/10(木) 22:15:13 ID:ElTsBUDc
賑やかな街である連春も、夜が近くなると、中心地から外れたとこから、静かに
穏やかな雰囲気となっていく。大悟の家では、彼の父親が、凛とシャニーを歓迎していた。
「いやぁ、息子を助けてもらったどころか、あなた方はこの街も救うために
やってきてくれたとか…感謝感激って奴ですよ」
褒めちぎる親父さんに、二人は少々照れ気味。

「いやぁ、あたしたちにとってもここは故郷だし」
「そうです、そこで苦しんでる人を見捨てるなんてことは出来ませんから」
「今時、立派な娘さんたちだ!よし、今夜はここに泊まっていきなさい」
「え、でも、今日はご馳走してもらいましたし、そこまでお世話になるわけには…」
シャニーが遠慮するが、親父さんは首を横に振る。

「まだ寝泊りするとこも決めていないなら、とりあえず今晩ぐらい、全然良いですよ」
二人は顔を見合わせ、しばらく考えていたが。
「じゃあ、お言葉に甘えて今夜は泊めさせてもらおうかな」
泊まるとこを決めていないのは事実だし、素直に言うとおりにすることに。

「お姉ちゃんたち、泊まっていくの?嬉しいなぁ」
「せっかくだしね。ね、大悟、トランプでもして遊ぼうか」
「うん、いいよ!じゃあ俺の部屋でやろう!シャニーのお姉ちゃんも早く早く!」
「はいはい…」
テンションが高くなっている大悟と凛に少々呆れながら、二人に付き合うことにするシャニー。
しかし、彼女たちが楽しい時間を過ごしている間に事件は起きる…。


連春の中央街。そこの一角にあるホテルに、二人の女の姿が。
一見なんの変哲もない光景ではある。
だが、彼女がホテルにはいってしばらくすると、外から見てても分かるほどの閃光が
ロビーから走り、大爆発を起こした。ロビーにいた人たちは、奇跡的に無事だったが
その目には憎悪が秘められていた。そして一人の職員が呟く。
「くっ…連春の救世主…違う、さらなる悪夢だ…」
447武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/10(木) 22:16:00 ID:ElTsBUDc
翌日。凛とシャニーは大悟の家を去ることに。
「お姉ちゃんたち、行っちゃうの?」
「いつまでも世話になりっぱなしになるわけにはいかないしね」
「大悟君、獄牙を潰すまで私たちはこの街にいるから、会おうと思えばまた会えるわよ」
シャニーのその言葉に、小さく頷く大悟。


二人は、街の中心街へと向かう。行き交う人々は、昨日と違って何やら、二人を
疑念の目で見ている。
「…シャニー、なんかみんなの様子がおかしくない?」
「そうね…まあ気にしてもしょうがないわ、宿を探しましょう」
気にはなるが、それを振り切り、ホテルへと向かう。

「な、いったいどうしたっていうの!?」
二人が見つけたホテルは入り口から破壊されており、多くの人々が避難のために外へと出ていた。
そして、二人の姿に気づいたホテルの従業員がすごい剣幕の様子で
「お、お前ら!!よくもうちのホテルをぶっ壊してくれたなぁ!!」
「ちょ、ちょっと!どういうことよ!?あたしらは今、ここに来たばっかだよ!」

そんな凛の抗議の声など、届かず周りの人々の怒りの視線は治まらない。
「いや、昨日の夜に、ここに来て、いきなり破壊行動をしていたのは間違いなく
あんたらだった!見間違えるわけがない!」
「救世主ぶりやがって!実際はこの街の新たな支配者にでもなろうって魂胆だったんだな!?」
周りから知らないことで責め立てられ、二人は困惑する。

「本当に私たち、そんなこと知りません!」
「まだしらばっくれるか!ええい、みんなでひっ捕らえ!」
抗議は意味を成さず、周りの人は二人を捕まえようと囲おうとする。
「くっ、逃げるよシャニー!」
「わ、わかったわ!」
完全に包囲される前に、二人は建物の上に飛び上がって、屋根伝いにその場から離れる。
追えー!という叫びが響き、民衆は彼女らを追いかける。

とりあえず、人目のつかないところへと大急ぎで逃げてきた二人。
息を切らしながら、凛はシャニーに話しかける。
「はぁはぁ…シャニー、いったい何が起きたんだと思う?」
「う〜ん、獄牙の仕業だと思うけど…みんなの誤解を解くには、それをなんとかしなくちゃ…」
448武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/10(木) 22:17:20 ID:ElTsBUDc
二人がどうするか考え中の頃、大悟は街に買い物でやってきていた。
しばらくすると、街の人々が、こっちに向かって走ってくるのが見えはじめる。
「うわっ!?いったいなんなんだ!?」
何が起きてるのか分からない大悟に気づいたのか一人の青年が話しかけてくる。

「おお、大悟じゃないか!」
「ねえ、いったいみんなどうしちゃったの!?」
「お前も知ってるだろ、例の二人」
「二人…もしかして、凛お姉ちゃんとシャニーお姉ちゃん?」
その言葉に頷く青年。

「ああ、あいつらなぁ、救世主のふりして本当はこの街を自分らの物に
しようとしてたんだぜ!昨日の夜も、ホテル始め、街の一部があいつらに破壊された」
その言葉に驚愕する大悟。
「そ、そんな馬鹿な!だって二人とも昨日はうちに泊まっていったんだよ?そいつらは
偽者かなにかだよ!獄牙の罠かもしれないじゃないか!」

「なに、お前あいつらを泊めたのか!?じゃあ、お前も同罪だ!!」
ほぼ暴徒と化している民衆は二人を匿ったものだと思い、大悟を捕まえてしまう。
「なんだよ!放せよぉ!」
「うるさい、お前はあの二人への見せしめだ!」


街の中央広場。そこに大悟は柱へと縛られ、くくり付けられてしまっていた。
「悪いが大悟、あの二人が救世主でもなんでもないとわかった時点で、お前にも
それ相応の謝罪をしてもらわなきゃいけないんだ」
「くそ〜お姉ちゃんたちは別に何もしてなかったぞ!うわっ!?」
反抗的な態度をとる大悟に平手が飛ぶ。

「口答えするな!よぉし、もう一発…ぐっ!?」
殴ろうとした男の腕にどこからか、石が投げつけられた。
石が飛んできた方角を見ると、建物の上に二つの人影が。それは次第にはっきりと見え始める。
「あれは!あの二人じゃないか!」
そう、そこにいたのは凛とシャニーの姿。何故か変身済みである。だが、どこか様子がおかしい。
449武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/10(木) 22:18:10 ID:ElTsBUDc
二人は高く飛び上がり、大悟の目の前に降り立つ。
「お姉ちゃんたち!助けに来てくれたんだ!ね、二人はそんなこの街を
破壊とかなんてしてないよね!?」
大悟の言葉に、二人は黙ったままだ。だが、しばらくして、シャニーが怪しげな表情で口を開く。

「大悟君、私たち、ホテルの破壊とかやったよ?」
「…え?」
何を言っているのかわからないといった表情の大悟に追い討ちをかける。
「だってぇ、あたしたちは本当は獄牙の一員なんだ。だから破壊でもなんでもするよ…
こんなことだってねぇ!!」

凛の片手から光弾が飛び、周りの人々のいる地点に命中、爆発した。
辺りはあっという間に大混乱に陥る。
「や、やめてよ!お姉ちゃんたち!」
「大悟、あんた生意気な口を利いてると…殺すよ?」
凛の腕が振り上げられ、大悟は思わず、強く目を瞑る…だが、その時であった!

「ぐわっ!な、なんだ!?」
自分たちがやつたのと同じく、凛の腕に石が命中する。そして、辺りに声が響く…。
「私たちの姿を使い、人々を欺こうとする獄牙…!」
「天はあんたたちの悪事を見逃さない!戦姫転生!!!」
台詞が終わると、ビルの天辺から眩い光が放たれ、それが止み、人々の目に飛び込んできたのは…

「!?…どういうことだ!凛とシャニーが、もう一組現れやがった!?」
そこにいたのは、もう一人の凛とシャニーであった。変身した姿が人々の瞳に映る。
大悟を甚振ろうとしていた方の凛が思わず焦りの表情を浮かべる。
「くっ…貴様たち!」
「語るに落ちたって奴ね!あんたたちがあたしらの評判落としのために街を荒らして
いたまではよかったかもれないけど…わざわざ表に出て大悟を始末しようとするなんて!」
450武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/10(木) 22:19:00 ID:ElTsBUDc
「こうなれば、このガキを…!」
「そうはさせない!気功弾!!」
「うおあぁ!」
偽者のシャニーが大悟を殺そうとするが、本物がそれを防ぎ、偽者がのた打ち回っている
うちに、凛が彼を救出する。

「大丈夫!?」
「うん、また助けらちゃったなぁ…」
「さあ、安全な場所に逃げて!」
凛の言葉に頷くと、大悟は素早く周りの人々の輪の中に逃げ込む。

そして本物と偽者は静かに並び、対峙する。
「おのれ、陽凛明、シャニー・ハリソン…こうなればお前たちをこの場で消す!!」
「出来るかしら?あなたたちのような卑劣な悪党には、私たちは負けないわ!」
「だまれ!うがあああああ…!!」
咆哮をあげながら、偽者の二人は醜い獣の姿へと変貌を遂げていく。
思わず嫌悪感を抱くほどの。

「うわぁ、こんな奴らがあたしたちの姿を真似てたっての?最悪だなぁ」
「死ねぇ!!」
げんなりした表情の凛に向かってバイオモンスターが飛び掛るが、凛はカウンターで
額に拳を浴びせ、続けて膝蹴りをお見舞いする。

「おのれぇ…!ぐおおおお!!」
「昔から、偽者は本物には勝てないってお約束なのよ!」
シャニーは素早く回し蹴りを連続で浴びせていく。
「天翔拳!!」
そして続けざまに岩をも砕くようなアッパーを浴びせ吹き飛ばす。

「シャニー!とどめといくよ!」
「OK!はぁぁぁぁ…!!」
二人の目の前に、小さな光が集まっていき、段々と形を成していく。
それは、気合の念力みたいなので亜空間から召還した専用武器。
451武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/10(木) 22:19:48 ID:ElTsBUDc
「風斬刀!!」
「ドラゴンブレード!!」
凛は柳葉刀、シャニーは青龍刀を持ち、それに気を集中させていく。
「「聖覇流一刀両断!!!」」
二人の叫びが重なり、同時に飛び上がると一気にその刃を振り下ろし、
バイオモンスターを頭から切り裂いていく。怪物どもは断末魔も残せずに、消滅していった。

「「押忍!!!」」
拳を空いてる手のひらにぶつけ、吼える。終わったのを確認して大悟が二人に近寄る。
「お姉ちゃんたち!よかったぁ、俺、もしも姉ちゃんたちが悪いことしてたら
どうしようかと思ったよ…」
周りの人々も、申し訳なさそうに、二人に話しかける。

「す…すまなかった…あんたらは全然悪いことなんかしてなかったのに、話も聞かずに
あんな行き過ぎた行動をしちまって…」
「私たち、なんていったらいいのか…とにかくごめんなさい!」
二人に対して謝罪する人々。その様子に微笑んで返す。

「大丈夫、一番悪いのは獄牙の連中なんだから」
「皆さんの誤解が解けたなら、私たちは平気ですよ」
そう言いつつも、二人の心には少しだけ不安は残っていた…。
だが、それ以上にこのような行動に出る獄牙に対して怒りが込み上がるのであった。

次回予告「かつて、凛とシャニーが日本で修行していた頃、お世話になっていた
東雲道場。そこの当主の娘が連春にやってきた!彼女は凛たちに会いたいというだけで
単身やってきたのだが…そんな中、またも人々を苦しめる獄牙。
二人は立ち向かうのだが…!?次回も凛の拳が唸る!」
452武神戦姫凛 ◆4EgbEhHCBs :2009/09/10(木) 22:21:22 ID:ElTsBUDc
投下完了。もっとペースを早めたい今日この頃…

>>437
スレ立て乙です!
453創る名無しに見る名無し:2009/09/11(金) 02:48:51 ID:1QCR5pEr
投下乙です
冤罪系の話は読んでて胃がキリキリします
それにしても街の人々ムカつくわぁw
454創る名無しに見る名無し:2009/09/11(金) 20:36:50 ID:f+sBTzf+
投下お疲れ様
修行先の娘が登場するのか
もしかして3人目の仲間かもしれないな
あと二人の変身道具は何のだろう
455創る名無しに見る名無し:2009/09/11(金) 21:09:13 ID:+2Xtupt1
>>452
投下乙です。街の人怖いなぁwある意味リアルだけど。
あと武器の召還が気合いの念力で亜空間からってのに吹いたw
しかしペースは十分早い気もするけどなぁ
定期的に投下してるのはこのスレだとあなたぐらいじゃないかな
456創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 12:22:37 ID:dgHi+GQt
変わり身だけは早いクズ市民は変身ヒロイン物の定番だね
457創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 23:31:51 ID:duV9qeuM
どうもです。今回はまなみ外伝の続きを投下します。
458まなみ外伝 ◇4EgbEhHCBs:2009/09/17(木) 23:32:34 ID:duV9qeuM
炎術剣士まなみ外伝 新堂悠美物語2 秘密

 今でこそ、優しく、娘を愛でる母親となった悠美であるが、若い頃は剣士の修行が
嫌になり、親には汚い言葉を使い、ましてや暴走族をやって周囲に迷惑ばかりかけていた。
しかしある日、警察官の青年・誠一と出会い、直に魑魅魍魎の類と戦ったことにより
その心境の変化が訪れた…。

「はぁぁぁ!!せいやっー!!」
気合を込めた斬撃は周りの木々を一瞬にして切り落とした。
前回の事件から半年後、悠美は剣士の修行にも真面目に取り組んでいる。
その姿には、悠美の母も驚かずにはいられなかった。

「悠美、あなた最近はどうしたの?」
「どうしたって何が?」
「だって、あなたちょっと前までは荒れ放題だったっていうのに…」
悠美は苦笑を浮かべながら母を見る。
「ま、まあ、あれは若気の至りってことにしといてよ。じゃ、あたしちょっと出かけてくるから!」

そういって、悠美はバイクに跨ってどこかへ行ってしまった。
「でも、帰りは相変わらず遅いのよね…もう暴走族は止めたみたいだけど、
いったい、どこで何をしてるのやら…」
小さくなっていく悠美の姿を見ながら、小さく呟いた。


悠美は街の喫茶店に入り、オレンジジュースとサンドイッチを購入し、適当な席へと座る。
そして、しばらくすると、新たな客が入店してくる。
悠美は、その客に向かって手を振る。それに気づき、その客は悠美の方へとやってくる。

「悠美ちゃん、待たせてごめんね」
「いいよ、別に。誠一は警察官だからな。おおっぴらには来れないだろ?」
先日、出会ってからというもの、二人は少しでも時間が合えばこうやって、
食事をしたり、出かけたりしていた。
459まなみ外伝 ◇4EgbEhHCBs:2009/09/17(木) 23:33:22 ID:duV9qeuM
「でな誠一、あたし…大学に行くことにしたんだ」
悠美の言葉を聞き、誠一は関心したように。
「おっ、この前までやんちゃしてたとは思えないほど、随分熱心だね」
「うっせ!こちとら毎日勉強で頭がいてぇんだ」
ちょっと怒った顔を見せる悠美に、苦笑する誠一。

「まあ、頑張ってるのはいいことさ。あとは、もっと女の子らしくなれればねぇ」
誠一の一言に、ため息をついて俯く悠美。
「はぁ…ダメなんだよなぁ、あたし言葉使いは意識してもなかなか治らなくて…」
落ち込み気味な悠美に、慌てて誠一は取り纏う。
「ご、ごめん悠美ちゃん、そんなつもりじゃなかったんだ」

それに首を振る悠美。
「別にいいよ。でもな、いつか誠一を見返すほどに、物腰穏やかな大和撫子ってのに
なっていせっからな!見てろよ!」
「あはは、その意気意気…でも、もう言葉使いが…」
「あ…くそぉ、癖になってる…」
赤くなって、頭をかく悠美。そしてその様子を微笑んでみてる誠一。

その後は、適当な話題を話して、誠一は仕事があるからと別れることに。
「それじゃあね、悠美ちゃん」
「ああ、今日は楽しかったよ。また今度な」
そういって悠美が去ろうとすると、誠一は何かを思い出したかのように
彼女の方に向き直る。

「あっ、悠美ちゃん!」
「ん?なんだよ?」
振り返る悠美に、何か考え込んだ感じの表情の誠一。
「う〜ん、僕たちが出会った時にさ…怪物に襲われたじゃないか」
「あ、ああ…そ、それがどうした?怪物野郎はどっかに行っちまったみたいだけど」

自分の秘密を話せるわけはなく、適当にお茶を濁そうとする。
だが、誠一が言いたいのは悠美のことがどうこうではなかった。
「最近、署内でも怪物騒ぎが多くなっててね…もちろん、本当かどうかはわからないし
そんなお伽話って具合に署内では切り捨てられてるんだけど、でも僕はこれは本当の
ことだと思って調査してる。どうも廃工場とかに入った人とかが襲われてるとか…
悠美ちゃんもくれぐれも気をつけてね」
460まなみ外伝 ◇4EgbEhHCBs:2009/09/17(木) 23:34:16 ID:duV9qeuM
そう言い残すと、誠一は軽く手を振って、悠美と別れた。
「怪物か…やっぱ、あの時倒した奴だけじゃないんだな…それにしても
誠一の奴、ビビってた癖に調査なんかするのか…?」
少し心配になるが、一先ず家へ帰ることにしてバイクを走らせる。

「あら、おかえりなさい。今日は早かったじゃない」
「ただいま…なあ、母さん、話があんだけど…」
「あら、珍しいじゃない、あなたが自分から何か話そうとするなんて」
意外そうにしつつも、どこか嬉しそうな表情の悠美の母。
二人は居間で話をすることにした。

テーブルを挟んで二人は向かい合わせに座る。
「それで話なんだけど、あの…魑魅魍魎って奴らの話なんだ」
「あら、最近は修行も真面目にやってると思ったら、戦う相手にも興味が沸いてきた?」
「沸いてきたも何も、この前、一回戦ったいうか…」
悠美の言葉に思わず、彼女の母は身を乗り出す。

「なんですって!?悠美、どうして言わなかったの?」
「だって、その時の状況説明したら、絶対なんか言われると思って…」
「まあいいわ。で、あなたが無事ということはちゃんと退治出来たのよね?」
「それはバッチリよ。完全に消滅するとこまで見たしね」
それには力強く頷いて答える。

それに安心して…いや、すぐに何か不安そうな表情の母。
「…で、悠美、あなた誰かに変身は見られてないわよね?」
コクコクと頷く悠美。
「あ、ああ…変身は見られてないよ…近くに気絶してた奴ならいたけど」
「そう、ならいいわ…って、本当にその人気絶してたんでしょうね?」

疑う母に、困惑気味な悠美。
「だ、大丈夫だって。本当にそいつは気絶してたって。次に目を覚ました時には
あたしも変身を解いてたって。それよりも、ああいう怪物に襲われた奴って
また襲われたりする可能性はあるの?」
「え?そうねぇ、そういう可能性はほとんどないと思うわ」
461まなみ外伝 ◇4EgbEhHCBs:2009/09/17(木) 23:35:05 ID:duV9qeuM
その言葉に胸を撫で下ろす悠美。しかし、続けて聞いた言葉でまた表情は変わる。
「だけど、魑魅魍魎の怪物どもも、知性はあるのよ。ただ暴れるだけじゃなくて
自分たちのことを調べようとしてる者がいたら、手を打ってくるかも」

そのことを聞いて、すぐに立ち上がると、外へと駆け出す。
「悠美!どこへ行くの!?もう晩いのよ!」
「ちょ、ちょっと用事思い出したの!それじゃ!」
母の制止も聞かず、悠美は慌てて外に出て、バイクに乗り込み、走り出していった。


その頃、誠一は最近怪物騒ぎが多いところへとその足を運んでいた。
そこは、すっかり寂れた廃工場。見た目からしておどろおどろしい。
到着すると、辺りを見回し、何か怪しいものはないか確認する。
「特に、様子がおかしいものはないな…でも、絶対に何か…」
そう呟くと、工場の中へと入っていく。

入ってしばらくは使い古された機械が並んでいるだけだったが、奥に進むにつれ
蔓がひしめき、工場内というより、まるで森林のようになっていく。
「なんだここは…やはり怪物かなにか出てきてもおかしくは…!?」
突然、横から、蔓が飛び、彼を捕まえようとするが、誠一は寸でのとこで避ける。

「やっぱりだ…!ようし、食らえ!」
持ってきていた銃を蔓に向けて発砲、命中すると蔓は死んだかのように
その場に落ちていき、地面に転がる。
「とりあえず、署に報告しなければ…」
周りを警戒しながら、彼はその場を後にしようとする…だが、新たな蔓が彼を襲った!

「うおぉ!?しまった…」
悔しそうに歯軋りをする誠一。そして間もなく、さらに奥からズシンズシンと
大きな足音が響いてくる。

一方、バイクを飛ばし誠一の行方を追う悠美。
「確か、誠一は廃工場とか言ってたな…何も無けりゃあいいけど…」
大急ぎで駆けつけ、バイクに乗ったまま工場の扉を突き破り、中に突っ込む悠美。
道は誠一が進んでいたのと同じだ。
462創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 23:35:16 ID:S+PTUd7W
支援
463まなみ外伝 ◇4EgbEhHCBs:2009/09/17(木) 23:35:54 ID:duV9qeuM
先へ進むと、そこには蔓に巻きつかれて身動きできないでいる誠一と
巨大な花のようなものを背負った4足歩行の怪物の姿が。
「誠一!!」
「ゆ、悠美ちゃん!?くっ、こっちに来ちゃダメだ!」
悠美の姿に驚くものの、彼女を巻き添えにしないために叫びをあげる。

「そ、そんなことできるかよ!でも…」
誠一を助けるには方法は一つ。剣士に変身することだ。だが、それは彼に自分の正体を
ばらしてしまうということ。しかし、迷っている時間はない。
「しょうがないか…!誠一!ちょっとすごいことするけど、ビックリすんなよ!」
すると、彼女の周りから火の気が迸り、辺りに広がっていく。

「な、何が起きるっていうんだ…!?」
「炎心変幻!!」
悠美を中心に火柱が上がり、それの余波で、誠一を縛り上げていた蔓は焼き切れ
怪物も、吹っ飛ばされる。誠一はその光景をただ見つめることしか出来なかった。
そして炎が止む。

「炎術剣士、新堂悠美ここに見参!!大事な人を傷つける魑魅魍魎!成敗する!」
勇ましく名乗りをあげ、怪物へと斬りかかる。
「あ、あれは…悠美ちゃん、なのか…!?」
何が起きたのかまだ飲み込めない。目の前で怪物相手に戦っている少女は
ついさっきまで知り合いだった少女が変わったもの。そう理解するのに時間を費やした。

「火炎閃光キィィィック!!」
炎を纏った脚で、飛び蹴りをかまし、怪物を大きく吹き飛ばす悠美。
それに負けじと、巨大な花を回転させ、花びらをカッターのように飛ばしてくる。
「なんの!てやああ!!」
すべての花びらを目にも留まらぬ速さで斬り払い、続いてその左腕が真紅に発光する。

「炎流波!!」
火炎光線が敵の周りを焼き払い、完全に逃げ場を封鎖する。
「とどめだ!暁一文字!!」
叫ぶと同時に刀に炎が纏わりつき、燃え盛っていく。
「火炎!大破斬!!」
その巨大な花から、胴体まで一気に一刀両断!怪物は断末魔をあげ、
もがき苦しみながら、消滅していった。
464まなみ外伝 ◇4EgbEhHCBs:2009/09/17(木) 23:36:42 ID:duV9qeuM
魑魅魍魎退治が終わり、悠美は変身を解こうとするが、誠一が、彼女に声をかける。
「悠美ちゃん…君は本当にあの悠美ちゃんなのか?」
いまだにこんなことが起きたことに信じられないでいる誠一。目の前でアニメや
漫画のように少女が変身し、怪物を退治したのだから。いや、怪物の存在そのものだって
非現実的ではあるが、誠一としては知り合いにこんな力があることの方が驚きは強かった。

悠美は暗い表情で、語りだす。
「…そりゃ信じられないだろうね…でも、目の前で起こったことが真実なんだ。
そして…あたしはあんたの思うような人間じゃないんだ…ごめん…!
誠一、あたしもう、あんたに会うことは出来ないよ…」
変身を解き、バイクに跨る悠美。その表情はどこか寂しそうだ。

「待ってくれ、悠美ちゃん!この前の化け物も、君が倒したんだろ!?
だったら…ありがとう。僕は二回も助けてもらっちゃったね」
笑顔で、彼女にお礼を述べる誠一。だが、悠美は…。
「誠一、あたしのことはもう忘れてくれ…」
「悠美ちゃん!君の秘密なんてどうでもいいんだよ!僕は君が…」

「ありがとう、誠一…あたし、そう言ってくれるだけで嬉しいよ。
でも、あんたにあたしの秘密がこんな形で知られた以上、もう会うことは出来ない…!
さようなら、誠一…!」
振り返らずにそう告げて、そのまま、バイクを走らせ、その場から去っていく。
「悠美ちゃん!!」

夜の街を突っ走る悠美。その瞳からは涙が零れ落ちていた。
「ごめん、ごめん…誠一…!うぅ…えぐ……!」
人気の無い河川敷で停車すると、嗚咽をあげながら、涙する。
空には月が浮かぶも、雲によってすっかり覆われていた。
まるで、二人の心境を表してるかのように。
465創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 23:37:16 ID:S+PTUd7W
容量は大丈夫そうかな
466まなみ外伝 ◇4EgbEhHCBs:2009/09/17(木) 23:37:38 ID:duV9qeuM
投下完了。規制されてるので、代理人様に代行してもらいました。
凛の続きはまた次回に。
467以上、避難所よりレス代行でした:2009/09/17(木) 23:38:46 ID:duV9qeuM
ついでに次スレ

魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ4
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1252248113/
468創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 23:39:23 ID:S+PTUd7W
代理投下乙
469創る名無しに見る名無し:2009/09/18(金) 17:51:03 ID:39OVAPwh
投下乙でした。
いきなり正体バレで次回の展開が気になるとこ
470創る名無しに見る名無し:2009/09/18(金) 18:19:56 ID:7mAwFRMV
投下乙
炎術剣士は他人に変身を見られるとまずいのかな
471創る名無しに見る名無し:2009/09/18(金) 19:54:43 ID:7mAwFRMV
>>465
あと18KB
まなみ外伝をもう一つ書いても大丈夫なくらいだ
472創る名無しに見る名無し:2009/09/18(金) 20:59:46 ID:LBJHdcBJ
まなみ来てたのか
外伝は内容が濃くて良いなぁ

そしてまだ20KBもあるとかw
やっぱりスレ立て早すぎたな
473創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 20:06:04 ID:slJGIqa8
このスレのキャラたちで格ゲーとか作られないかな〜
474創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:26:53 ID:6A1Kg47p
それにはまずイラストに起こさないと…
容姿がはっきり描写されていないキャラが多いし
475創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 05:55:07 ID:NN9aBYKY
このスレで格ゲーでるなら絶対ゆゆるちゃん使いになるわ俺
476創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 14:26:46 ID:kYpVXUK2
○新堂まなみ
スピードとパワーのバランスが取れた万能タイプ。
二刀による攻撃や火炎弾で牽制しつつ、
隙を見て火炎大破斬を狙え!

○ゆゆるちゃん
隙は多いが、強力な技をたくさん持っている一発逆転タイプ。
蛸棒、中華鍋ガード、拡声器ビームなどは比較的使いやすいが、
スリッパ飛行は真上にしか飛べないので注意が必要だ!

○樋口佳奈美
パワー型だがディフェンシブな技が多いので、上級者向け。
とりあえずブロッキングで敵の攻撃をしのぎつつ、
相手の隙を見つけてコンボを決めるのだ!

○天神はづき
杖術をメインに戦う中距離タイプ。
イッタンモメンやカマイタチの力を借りた技も使えるぞ。
霊力を込めた精霊棍での一撃は強力無比!

○ジュジュ
数々の強力な飛び道具を持つ、掟破りの常時飛行キャラ。
ロッドなどの近接技もあるが、やはり遠距離主体で戦うのがお勧め。
誘導するマジックアローや機銃で敵を蜂の巣にしてやれ!

○陽凛明
多彩な打撃技を持つスピードタイプ。
天翔拳や雷刃拳で休む間を与えず攻め立てるべし
シャニーを呼び出しての合体必殺の威力は絶大だぞ!

○ろここ
少々扱いが難しいトリッキーなタイプ。
ハートフル・ボコーダー、かりかりベーコンなど、特殊な技が多い。
女子高生の自作小説はエターナルフォースブリザードと同等の威力を持っている!

○ウメ子
数々の外道魔法を使う隠しキャラ。
本体はメウたんと揶揄されるぐらいにメウたん技が強力だ。
戦うのはメウたんに任せて自分は適当に寝っ転がっていよう!
477創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 22:07:39 ID:7MYSCImd
うむ、いいのう〜
自作小説がエターナルフォースブリザードと同等の威力には吹いたw
まなみは確かにスタンダードなイメージだな
478創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 11:15:28 ID:/736MndS
>>476は頑張った!思いっきり褒め称えたい!
479創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 21:35:03 ID:NW+IIH+/
格ゲーもいいが、カードゲームなんかも悪くないかな
個性的な作品が多いからな、このスレは

ところでウメコ来ないなあ…規制されてるのかな?
だとしたら代行レスしてもらえばいいんだろうけど
まあ単純に作品が出来てないだけかもわからんが
480埋め魔女ウメ子の大冒険・Tri 1/4:2009/09/22(火) 22:29:31 ID:PycLnOcW
ウメ子は魔法少女である。
使命は今はどうでもいい。

「ウッメー、五ヶ月ぶり! とうとうみんながお待ち焦がれの誰もが認めるスレのアイドルの登場よ!!」
「待ち焦がれはともかく、スレのアイドルなんて誰も言ってない言ってない」

水着姿で天に人差し指を突き立てるウメ子と、前足の片方を器用にナイナイと振るメウたん。

「本当は残り一桁に突入してから始動したかった所だけども、今回は大人気に応えて大増量でお送りするわね!」
「無駄に書き溜めてあるストックを放出しときたかったなんて言えないもんな」

☆埋め魔女の秘密・その1☆
ウメ子のSSはあまりにも内容が無いので、数時間もあれば一本書きあがってしまうのだ!

「まぁそれはともかく……メウたん、海行くわよ海っ! ガッチリ泳ぎに行くのよ!」
「海に泳ぎに? なんでこんな涼しくなってきた時期に今更?」
「うっさいわね、夏休み中にはスレが埋まると思ってたのよ!!」
「まーたぶっちゃけてるなぁ……」
「ぶっちゃけでもなんでも行くったら行くのよっ! 設定は真夏のイブよ!」

以下、夏真っ盛りという設定を前提にお楽しみ頂きたい。

「ま、まぁ、まだまだ熱いしな! ウメ子が海に行きたくなる設tt……気持ちも分からんでもないな!」
「そうそう、膳は急げよ! 早いうちに場所取りしなくっちゃ!」
「急ぐのは善な。まぁ腹減ってきたから膳も急いでほしいけども」

普段はgdgdなウメ子だが、遊びに関する行動力は無駄に高く、
既に海へ行くための準備は完全に整っている。
セパレート水着を着こんで、浮き輪を腰に巻き、シュノーケルを被り、
その肩にはウメ子の体躯ほどもある大きな生ビールサーバーが……。

「ちょっと待てえええっっ!! なんでそんなモン担いでるんだよ!!
 おまえまだ未成年だろうが、魔法少女が倫理を踏み外してどうする!?」
「なーに勘違いしてやが……してるのよ!」
「へっ?」
「これは熱い砂浜で喉をカラカラにさせたオジサマ達から小金をせしめ……。
 もとい、ぱぁーっと振舞って楽しんでもらおうと思って用意したものなのよ」

ウメ子はキラリン、とメガネを光らせる。

「そ、そうだったのか……。すまないウメ子、
 俺はてっきりいつも通りに非行に走ったのかと……」
「気にしないでメウたん、誰にだって勘違いはあるわ」

ちょっとションボリするメウたんに対し、
メガネを光らせて笑いかけるウメ子。

(ウメ子……とうとう魔法少女としての自覚に目覚めてくれたのか!)

メウたんは、目がうるうるしそうになるのを必死で堪える。

「よ、よーし……そうと決まれば早く海に行こうぜ!」
「ウッメー! 早いトコ一杯やりた……泳ぎたいしね!」

かくして一人と一匹は、電車に乗って遊泳地へと向かった。



481埋め魔女ウメ子の大冒険・Tri 1/4:2009/09/22(火) 22:30:19 ID:PycLnOcW
「……ぬわあんでこうなるのよ……」

遊泳地に到着したウメ子だったが、
よりにもよってタイミング悪く台風による高波警報が発令されており、
今は雨こそ降っていないが、強風が吹き荒れており、
この荒れ狂う海ではとてもじゃないが海水浴など出来たものではない。
当然ながら人影も無いため、客にビールを売りつけることも出来ない。

「あーもう、やってらんないわ!」

腹いせに、背負ったサーバーから伸びた給水ホースから、
直接ビーr(強制終了:サーバーの中身は泡立ち麦茶です)をゴクゴク飲み始めるウメ子。

「雨降らないうちに帰ろうぜ。羊は濡れるとプリティー強度が20%減なんだよ」
「ヒック……雨や風なんかであたひを止められるわけらいれしょー?」

麦茶を浴びるように飲んだかいがあり、ウメ子はろれつが回らなくなってきた。

「あらひは埋め魔女ウヘ子! 魔法のひからで全部解決ひょーっ!!」
「お、おい! 何するつもりだよ!?」

ウヘ子……じゃなかった、ウメ子はビ……麦茶臭い梅の小枝を振り上げる!

「ショーチクバイショーチクバイ! カジツシュハワインヨリウメシュハッ!」
「おおっ!? 雲が割れて隙間から太陽が!?」

なんと、魔法で天候を変えてしまった!
今まではしょぼい魔法ばっかりだったが、実はやれば出来る子なのかもしれない。

「……よく考えたら、太陽出したってしょうがなくね?
 別に雨が降ってたわけでもなく、問題なのは強風なわけだし」
「よっひゃあーーーー!! おひょぐわよぉーーーー!!」

メウたんのツッコミは耳に入らなかったのか、
未だ大荒れの海に向かって千鳥足で走っていくウメ子。

「お、おい待てよ! こんな荒れてる海に入ったら――」
「ひぎゃあああああああああーーー!! だずげでえええええええええーーー!!」
「バッカ野郎、だから言っただろうに!!」

案の定、波にさらわれてゴボモガと必死にもがいているウメ子。
メウたんも助けたいのはヤマヤマだが、迂闊に飛び込んでもミイラ取りがミイラになるだけである。

「くっ……プリティさしか取り得がないこの俺じゃどうすることもできない……!」
「ぼがぼがぁーーーーーーっ!!! ひんじゃううううううううーーー!!!」

ウメ子の身体は、荒れ狂う波に飲まれて沈んでいった。






                   埋め魔女ウメ子の大冒険   〜 完 〜




482埋め魔女ウメ子の大冒険・Tri 3/4:2009/09/22(火) 22:31:00 ID:PycLnOcW
「とうっ!!」

その時、勇敢にも荒れ狂う海に飛び込む人物がっ!!

「あ、あんたはいつものオッサン!?」

突如として現れた救世主、オッサンの手により、
溺れたウメ子は救出された。

「オッサンすげぇ! よくこんな状態の海からウメ子を助けられたな!」
「ふっふっふ、私はライフセーバーの資格も持っているのだよ」

*とても危険です! 良い子は真似しないでね!

ともあれ、倒れて動かないウメ子に駆け寄って揺すってみるメウたん。

「おい、ウメ子! ……ダメだ、目を覚まさない!」
「水を飲んだのかもしれない。私に任せなさい」

ウメ子を寝かせ、人工呼吸をしようと顔を近づけるオッサンだが……。

「……ぎゃ嗚呼あああああああああああああああああ!!! 寄るな痴漢っ!!!」
「へぶっ!?」

寸前で目を覚ましたウメ子の起き上がりアッパーカットにより、
哀れ、オッサンは吹っ飛んで海に落ちる。

「いやあああああああ、ちょっと唇ついたああああああ!!!
 消毒っ、汚物は消毒!! アルコールで消毒よおおぉっ!!!」
「お、おい、落ち着けよウメ子!!」

メウたんの静止も聞かず、ヤケクソで浴びるようにアルコール入り麦茶を飲み始めるウメ子。

「ごぶっ、ごぶっ……。……うっ……おええっ!!」
「ほーら言わんこっちゃない……」

当然の帰結として、胃袋の中の物を戻し始めるウメ子を、
呆れた表情で眺めるメウたん。

「あいてて、これだけ元気があれば大丈夫そうだな」

顎をさすりながら海から上がってくるオッサン。

「オッサンこそ大丈夫か? めっちゃ直撃したじゃん」
「ははは、この程度は日常茶飯事だから慣れっこさ!」
「そ、そうか。ならいいんだけど」

言いながら、メウたんはウメ子に振り返る。
砂浜に倒れ付したウメ子は、ぴくぴくしながら胃袋の中身を垂れ流している。
羊の身体でなかったら頭を抱えていたところだろう。

「私が送っていこうか?」
「いや、いいよ。そこまで迷惑かけられねぇし」
「そうか……。気をつけたまえよ」

オッサンと別れ、メウたんはウメ子と共に家路に付いた。
483埋め魔女ウメ子の大冒険・Tri 4/4:2009/09/22(火) 22:31:41 ID:PycLnOcW



「ひっくしょー……ほれもこれも全部メウはんのせいらよ!!」
「黙れ酔っ払い!! 勝手に人のせいにすんな!!」

海水よりもアルコールを大量に飲んでぐでんぐでんのウメ子を背中に乗せ、
頭を小突かれながらも健気に家路を歩き続ける我らがメウたん。

「あらひが溺れはほわ止めなかったメウはんのせいらんらから!!」
「止めただろ!! その上でおまえが勝手に海に突っ込んだんだろ!!」

「与党が惨敗して政権交替しらろもメウはんのせいひょ!!」
「そんな国政を動かすような力が俺にあったら、おめぇの使い魔なんてやってねぇよ!!」

「○ンスターハンターの無料期間が切れはのもメウはんのへいよ!!」
「ケチらずに課金しろ!!」

こうして言い争い続ける二人の声は、いつまでも、いつまでも……。
否、二人が家に到着するまで続いたそうな。



*未成年の飲酒、および飲酒水泳は硬く禁じられています。
 良い子は絶対に真似をしないでください!

「スレのアイドル、メウたんとの約束だぜ♪」
「こらああああああ!! メウたん、勝手に何ほざいて――ぐひぃっ!?」

ウメ子の脳みそにズキィンと鈍痛が走る。
飲みすぎで二日酔いなのである。

「ウメ子みたいになりたくなければ、みんなはルールを守ろうな♪」
「メウた(ズキィン) ……ぐうう、覚えてなさいよぉぉ……」

頭を抱えてのた打ち回るウメ子だが、
まだこのスレの埋め立ては終わっていない。
立て、立つんだウメ子!

「も……ダメ……」

あ、昏倒してしまった。
まぁ次回にはきっと何事も無かったかのようにピンピンしてることだろう。
というわけでまた来週!
484創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 22:33:18 ID:PycLnOcW
埋め魔女の秘密その2以降は俺も知らない
それではまた来週
485創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 22:50:09 ID:btxcFR+X
ウメコktkr
リバースした魔法少女は初めて見たぜw
そしてオッサン良いキャラすぎるw
486創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 23:42:41 ID:8Vr2PXWH
リバースされたビールは俺がおいしくいただきました
487創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 09:17:52 ID:ERd02bKQ
言おうと思ってすっかり忘れてましたが、
小田原のウメ子さんのご冥福をお祈りいたします


そしてこちらのウメ子は今週も埋めウメ!
ウメ子は魔法少女である。
使命はやっと思いついた。

「正義の魔法少女の使命は、悪の魔法少女を倒すこと! そうに決まってるわ!」
「いつウメ子が正義の魔法少女になったんだよ」
「あぁん? 何か言った?」
「い、いいえ、なんでもありません」

ウメ子がバリカンをぶるるん言わせると、子羊のメウたんは大人しく&礼儀正しくなった。
良い子のみんな、これが魔法の力だよ!

「それで、肝心の悪の魔法少女はどこにいるんだ?」
「ふっふっふ、それならアテがあるわ」

ウメ子はまん丸メガネをキラリと光らせた。



ウメ子がやってきたのは、魔法少女協会事務所だ。
魔法少女に関する情報なら、大抵はここで手に入る。

「なるほど、ここでお尋ね者の魔法少女を調べるんだな」
「そういうこと! さぁとっとと情報をよこしなさい!」

てなわけで、受付のおねーさんに食らいつくウメ子。

「いらっしゃいませ、どんなご用件ですか?」
「悪い奴! 悪の魔法少女の情報を探しているの!」
「悪の魔法少女……恐喝、無銭飲食、器物破損、
 その他モロモロの罪に問われている魔法少女の報告が入っていますね」
「そいつよ! そいつの名前を教えなさい!」
「ええと、名前は……埋め魔女ウメ子って――」

ガシャァン!

「メウたん、逃げるわよ!」

いきなりテーブルをひっくり返され、受付のおねーさんが状況を理解できないうちに、
ウメ子はメウたんを抱えて光の速度で魔法少女協会事務所から逃走完了していた。

「埋め魔女ウメ子……やっと見つけたわ!」

その様子を何故か事務所の屋根のてっぺんから見ていた謎の魔法少女は、
箒に乗ってウメ子の後を追うのであった。




事務所から逃げ出したウメ子は追っ手が来ないことを確認し、自然公園のベンチで一息つく。
ぜぇぜぇ言って息を切らせながら、何故かメウたんに食ってかかるウメ子。

「馬鹿メウたん!! 何で私が指名手配されてるのよ!?」
「何で俺に言うんだよ!? つーか今までの悪行からすれば当ぜ――」

(ぶるるん、ぶるるるぅーん!)

「い、いえ……ど、どうしてでしょーねぇ、おっかしいなぁ」
「きっとこの私の活躍に嫉妬して、嘘の報告をした悪の魔法少女がいるに違いないわ!」

ウメ子は目を怒らせ、髪を振り乱し、自分を陥れた悪の魔法少女を探す。
「どこなのっ!? 隠れたって無駄なんだから、早く出てきなさい!!!」
「また適当ぶっこきやがって……別に誰も隠れてねぇ―――」
「はははははは!! よく私が隠れていることに気付いたわね、埋め魔女ウメ子!!」
「えぇっ!!?」

ペンチの背後の草むらから、勝気そうな魔法少女が箒に乗って飛び上がる。

「埋め魔女ウメ子、あなたの命運もこれまでよ!」
「サラサラの青髪に長身の魔法少女!? モコモコ赤毛で小柄なウメ子とは対象的だ!」
「ああっ!? 今まで完全にスルーされていた身体的特徴にさり気に触れないでよっ!
 あんたの地肌が土紫色の気色悪い色だってことをバラすわよ!?」
「だから適当ぶっこくな!! 俺はメ○ープと違って普通の羊カラーだ!!」
「ばっ……!! 迂闊にそれ系の名前を出すんじゃないわよ!! 消されるわよバカ羊!!」
「ちょ、ちょっと私を無視しないで!! そろそろ本題に入るわよ!!」

登場早々忘れ去られそうになったNew魔女っ子が、強引に一人と一匹の会話に割って入る。

「とにかく、あんた誰なのッ!? 名前を名乗りなさい!!」
「ふふふ……私の名は、掘り魔女ホリ子! 次スレが立った後のスレを埋めるという、あなたの使命を邪魔するためにやってきたのよ!」
「な、なんですってぇ!?」

驚愕に目を見開くウメ子。

「そっか……このスレを埋めるのが私に課せられた使命だったのね!!」
「……は?」
「なんだなんだ、そんなことなら早く言ってくれれば良かったのにー!」
「まさかあなた、自分の使命も知らなかったとでも!?」
「そんなの知らなかったに決まってるじゃない!」
「胸を張って言うことじゃないでしょうが!」
「自分に自信を持つのは良いことよ!」
「反省する心も無いとただの自己中だけどな」

またまた収拾つかなくなりそうなので、ホリ子は咳払いをして一旦仕切りなおす。

「……コホン。とにかく、私の使命はスレが埋まるのを防いで、名作SSがdatの腐海に沈むのを防ぐこと!
 なんたって私の視力は1.2! どんな些細なSSも見逃さないわ!」
「微妙すぎるだろ! せめて学校測定最高値の2.0行けよ!」
「私はメガネでキャラ付けして売り込むような姑息な真似はしないのよ!
 とにかく、私の素晴らしき魔法の力をあなた達にとくと見せてあげるわっ!!」

ホリ子は、ヒノキを彫り上げて作った魔法の杖を振り上げる。

「ホリディサンディバケーション……ミミズンニクチャンダトオチミラー!!」


どばばぁーーーん!!


http://mimizun.com/log/2ch/mitemite/namidame.2ch.net/mitemite/kako/1224/12245/1224577849.html
http://mimizun.com/log/2ch/mitemite/namidame.2ch.net/mitemite/kako/1234/12349/1234927968.html

「…………なに、コレ?」
「どう!? 私の力があれば、ゆゆるもまなみも読み放題よっ!!
 そして直に、この3スレ目も私のコレクションに加えてあげるわ!!」
「……いや、その……」

ウメ子は困ったようにポリポリと頬をかいている。

「その……言いにくいんだけど……」
「何よ!? 言いたいことがあるならハッキリ言いなさい!!」
「いや……わざわざ過去スレ掘り起こさなくても、今はまとめサイトあるから過去作ぐらいいつでも読めるし……」
「なっ、まとめサイトですってぇ!? いつの間にそんなものが!?」
>>1も読めねーのかあんたは」
「き、帰国したばっかりで知らなかったんですのよ!」

どこの国から帰国したのかはあえて突っ込まないでおいてあげて欲しい。
そしてウメ子のターンはまだ終わらない。

「それともう一つだけ言っておくと……」
「な、なによ!?」
「あんたが来てウダウダ言ってくれたおかげで……このスレ、ますます埋まっちゃったよ?」
「……はっ!?」

ホリ子は慌てて髪を振り乱して周囲を確認する。
……いや、確認しようがしまいがスレは埋まっていくのだが……。

「……いっ、今のナシ! 最初からやり直しするわよ!」
「もう遅いってば。時間もスレも逆方向に流れることはありえないのよ。
 それにそうこう言ってる間にもどんどんスレは埋まって行くし、時計の針は進んでいくし、
 あめんぼが別に赤くないように時間という砂が刻々と流れ落ちていくのは止められないというか止めようがないわけで、
 無駄な抵抗は止めたほうが身のためだわよんという忠告をしつつ、
 人生諦めが肝心だから諦めさえすれば楽しく生きられるわよーなんて大人の意見を言ってみたり、
 でもでもって、やっぱりみんな誰でも楽しく生きたいわよねー、
 そんな人生を楽しく生きたい人にお勧めなのが、この魔女っ子&変身ヒロイン創作スレだったりするのよん。
 沢山の書き手が集まっていて名作もより取り見取り、
 中でもこの私、埋め魔女ウメ子直筆の超人気大作である、埋め魔女ウメ子の大冒険などは―――」

あからさまにわざと無駄に長い科白をべらべらと語り続ける埋め魔女ウメ子に対し、
血相を変えた掘り魔女ホリ子は、慌てて光り輝く魔法で作ったエネルギー弾を思いっきり振りかぶって埋め魔女ウメ子に向かって撃ち放ったのであったが、
当の埋め魔女ウメ子は、その程度のたわいもないお子様じみた安っぽい攻撃は、
てんで楽勝おちゃのこさいさいと言った様子でひらりと身軽にかわしてしまい、
余裕綽々で反撃に移ろうとするも、愛用の梅の枝をどこかに落としてしまったことに気付いてしまい、
慌てて―――いや、別に動じたりするようなことは全く無く、悠々と梅の枝を捜して辺りをキョロキョロするも、
生憎ながら近くに梅の木は植林されて無いようであり、仕方ないので掘り魔女ホリ子を放って置いて梅の木を探しに向かおうとしたものの、
そうはさせじと掘り魔女ホリ子が埋め魔女ウメ子の行く末を素早く回りこんで通行止めを行いながらその杖を再び振り上げてまいりまして、
その強烈な魔法の力を炸裂させようと試みるが、当の埋め魔女ウメ子は余裕を持った表情でニヤニヤと笑っており、その顔は非常に不気味な物を感じさせ―――。

「ちょ、何で説明文までいきなり長大化してるのよ!?」
「それはもちろんこの由緒ある創作発表板の人気スレである魔女っ子&変身ヒロイン創作スレの
 看板(?)娘である埋め魔女ウメ子の知性あふれる語り口はこのくらい長くなってしまうのは必然であって、
 短くまとめるのが作家の腕の見せ所とおっしゃる人もおらっしゃるけれども、やはり名作と呼ばれる作品には、
 それなりの文章量という物理的な重みが必要不可欠であると、魔女っ子&変身スレのアイドル、埋め魔女ウメ子としては考えるわけであり―――」
「だああああああああああああああああああああああっ!!!
 だからやめなさいってばあああああああああああああああああああ!!!
 今すぐやめないと、絶対にぜったいにぜったいにぜぇぇぇぇったいに、
 ずぅぇええええええええええええええええええええええええええええっっったいに、
 許さないわよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

などと掘り魔女ホリ子が抗議するために声を張り上げることでも、スレはどんどん埋まってしまうわけであり、
このままではスレが埋まってしまうのも時間の問題でしかあらず、
掘り魔女ホリ子は必死になって埋め魔女ウメ子を倒そうとしているようだが、
仮に掘り魔女ホリ子が埋め魔女ウメ子を倒すのに成功したとしても、スレは埋まるものであり、
スレが埋まっていくのは自然現象でしかありえないために、埋め魔女ウメ子が存在しなかったとしても、
スレが埋まってしまうのは止められない時代の流れと言わざるを得ないわけであり―――。

「と、止めてっ! お願い、今すぐ止まってぇ!! スレが……スレが埋まっちゃう!!!」