そしてしばらくして、それはブラジルの辺りで止まる。
「隊長、ブラジルに止まりました」
「ここが奴らの本拠地か、それとも発信機に気づかれたか…いずれにせよ、
ブラジルに向かう必要がありそうだな」
「ブラジルかぁ…あたしの故郷だな。あいつらうちの地元で何をするつもりだ?」
それぞれ考えていると、突然、背後から物音が聞こえてくる。ハッとなり、振り返ると。
「日向殿!」
それは傷だらけながらもなんとか生き延びていた日向の姿であった。
「レベッカさん…すまない、奴らにあのような戦力があるとは…これから…
ロギアの攻勢は凄まじくなっていくだろう…なんとかしなければ」
「大丈夫です、日向隊長。私たちに任せてください」
「EXコアを守るという任務を果たせていないからね。あたしたちが必ず取り返して、
ロギアを叩く!」
アメリとソニアの言葉を聞き、安心したかのように微笑し、日向は倒れた。
「日向隊長!」
「…大丈夫、気絶しているだけだ。他にこの施設内に生き残りがいたら彼らを救出、
その後、すぐにロギアの連中を追うぞ」
レベッカの指示に従い、二人はすぐに施設内を回り始める。
「ロギア…EXコアを奪って何をするつもりだ…?」
そして小柄な隊長は一言そう呟くと、部下の後を追い始めた。
次回予告
「ロギアの後を追い、ブラジルへと向かうプラズマフォース。密林に仕掛けられた
罠を突破し、行き着く先には謎の遺跡。そこで彼女たちを待ち受けるものとは?
狼のごとく、ソニアたちは戦場を駆け抜ける…」
投下完了。まなみや凛のようにギャグが入ることは
あまり無い、かもしれないです。
先ほどの通り、短い話ですが、よろしくお願いします。
>Und Blood作者さん
投下乙でした。なんだか壮大な感じがしますねぇ。
これからの展開が楽しみです
382 :
代理:2010/01/10(日) 23:42:23 ID:gwcEc1VO
レス内容
両者とも投下乙でした。
>>372 うーむ、ファンタジースレっぽい内容ですなぁ。
これからどんな内容になるのか、予想がつきませんぜw
>>381 短期連載ということは3、4話程度になるのですかね
傭兵な変身ヒロインって思えば、あまりいないような?
次の話も楽しみです。
それにしても、規制が多くて人少ないなぁ…
「ねぇアシュクロフト! ボク、魔女になるよ!」
「お、お嬢様。まだおやすみになられてなかったのですか」
使用人室に飛び込んで来たのが、自分が仕えている名家・ジェルマンの一人娘であることに気付くと、メガネの青年は読んでいた本を放り出して頭を抱えてしまう。
ジェルマン家のお嬢様のとっぴな言動に対し、彼が頭痛を覚えるに至る理由は三つある。
一つ、あれほど早く寝るように言ったはずのお嬢様が、日付が変わるほどの時刻まで当然のように起きていること。
二つ、使用人室にはお嬢様を入れるなと申し付けられている。お嬢様が自分からやって来たのだが、後でどやされるのは世話係である自分だ。
そして三つ目―――。
「お嬢様、女性が魔術を学ぶことはできません。そのことはお嬢様もご存知でしょう?」
新興の学問であった魔術学が、学会に正式に認められるようになって早100年。
今や魔術学も基礎学問の一つとなっており、ほとんどの学院が魔術学を必修としていたが、
女性蔑視の風潮漂うこの時代、その門戸は女性に対して開かれてはいなかった。
『魔術は男のための学問。穢れた女では修めることは不可能』というのが世間の常識だった。
「だからアシュクロフトのところに来たんじゃない。ボクに魔術を教えてよ!」
なるほど、確かに現役の学院生である自分なら、必修である魔術学に関してある程度の知識があって当然だ。
これはお嬢様には言っていないが、実は自分の専攻科目は魔術学だったりもする。
「無理ですよ、女性は体質的に魔術が使えないと家庭教師に教わりませんでしたか?」
「ボクもそう思ってたんだけどさ、ならどうして魔女なんて言葉があるの? 本当は女の人でも魔術は使えるんじゃない?」
アシュクロフトはそれを聞いて、お嬢様が急にこんなことを言い出した理由に合点が行った。
「また変な本を読んでいたんですか?」
お嬢様は本を読むのが好きだった。
それだけならいいが、お嬢様は非常に本の影響を受けやすく、感化されて騒動を引き起こすことが多いのだ。
5歳のころは少年冒険記に夢中になり、主人公の一人称を真似て自分のことを『ボク』と呼ぶようになった。
さらには9歳のころに騎士物語に夢中になり、主人公の青年騎士を真似て長いブロンドの髪を短く刈り落としてしまった。
そして12歳の誕生日を迎えて間もない今日、なんとまぁ魔女になると来たもんだ。
今度はどんな悪書を読んだというのか。
「ううん、今回は本じゃないんだ!」
「嘘をつかないでください。魔女なんて言葉は物語にしか出てこない言葉でしょう」
「そうなの?」
「ええ。魔女物語のほとんどは魔術が立証される以前に書かれたもの、つまりただのファンタジーなんですよ」
そうは言うものの、この件に関してアシュクロフトにも少し合点の行かないところがあった。
女性が魔術を修めることが“不可能”だというなら放っておけばいいものを、学会は魔術を志そうとする女性を積極的に“排除”しているのだ。
理由はよく分からないが、まるで世に魔女が現れることを学会が恐れているかのようにアシュクロフトには思えた。
だが何にしろ、まかり間違ってお嬢様が魔術を修得しようものならどれほどのトラブルが起こるか知れない。
万が一にもそんな事態にならないために、今ここでお嬢様を思い留まらせねばなるまい。
「でもさ、違うんだよ。ボクね、さっき外を眺めてたら見ちゃったんだ!」
「何をですか?」
「魔女!」
「は?」
「黒いローブの魔女がボクに魔術を見せてくれたの!」
「そんなバカな」
アシュクロフトは平静を装いつつも、内心は少々動揺していた。
世間知らずのお嬢様は知らないだろうが、実は巷で噂になっていることがあった。
高度な魔術を扱う謎の女が現れ、幼い少女をさらっていく、と。
「ボク、これからその人に会いに行こうと思うんだ。魔術を教えて下さいって」
「バカを言わないでください。魔女かどうかはともかく、不審者かもしれません。そいつはどちらへ行きましたか?」
「西の方に歩いていったよ」
「なるほど、お嬢様はここに居てください。私は少し外の様子を見てきます」
「うん、わかった!」
アシュクロフトは屋敷を飛び出し、西の方を捜索してみた。
しかし猫の影一つ見つからない。もう立ち去った後だろうか。
そうして屋敷の使用人室に戻ったアシュクロフトだが、お嬢様が居ないことに気付いて顔を青くする。
あわててお嬢様の部屋も覗いてみるが、もぬけの殻だ。
もしや魔女にさらわれてしまったのだろうか。
「こ、こうなったら仕方が無い!」
アシュクロフトは自室の床に巻物を広げ、指で人物捜索用の魔方陣を描き始めた。
魔術の無断使用は重大な学則違反だが、そうも言っていられない。
そうして発動した魔方陣がお嬢様の居場所を指し示した方角は、東であった。
「東? どういうことだ、西ではないのか?」
そこでアシュクロフトは、ドレッサーから小柄な使用人服が一着なくなっていることに気付く。
おそらくお嬢様は魔女が西に行ったと嘘をつき、これを着て東に屋敷を抜け出したのだろう。
つまり自分はすっかりお嬢様に出し抜かれたということになる。
だが恨み節を言っている暇など無い。
考えるよりも先に、アシュクロフトはお嬢様を追って走り出していた。
★ ★ ★ ★ ★ ★
そのころ、屋敷から東に位置する廃教会の中。
お嬢様はキラキラした瞳で黒いローブの魔女を見つめていた。
使用人服を着ていることもあり、その姿はまるで少年のそれだ。
先ほど自分の部屋の窓から見せてもらった魔女の魔術、それにお嬢様はすっかり魅せられた。
『魔術に興味があるなら東の廃教会までおいで』
その言葉に従い、アシュクロフトを騙してここまでやってきたのだ。
「やはり来たね、ボウヤ」
「ボク、女の子だよ?」
「ふふっ、分かっているさ。魔術を学びたくてここまで来たのだろう?」
魔女は指先から軽く火花を散らして見せた。
それを見たお嬢様はますます目を輝かせる。
魔女が言うには、自分は非公認の魔術研究組織の一員で、魔術に興味を持つ若い女性を勧誘して回っているのだという。
「私はフレデリカという。ボウヤの名前は?」
「ボクの名前?」
自分の名を問われ、お嬢様は露骨に嫌な顔をした。
「確かに両親から貰った名前はあるよ。でも、言いたくない」
「どうしてだ?」
「だってみんなボクのことを“お嬢様”って呼ぶばかりで、本当の名前なんて全然呼んでくれないんだ。どうせ誰も呼んでくれないなら、最初から教えない!」
「そうかそうか」
フレデリカは薄く笑って、お嬢様の頭を撫でる。
「古来より、名は体を顕すという。目に見えぬ力を重んじる魔術なら尚のこと。されば、呼ばれぬ名に固執する理由もあるまい」
「じゃあ、フレデリカはボクのことをなんて呼んでくれるの?」
「私を呼ぶときは“先生”を付けなさい」
「はーい、フレデリカ先生!」
「さて、ボウヤの呼び名だったな。流石にお嬢様と呼ぶわけにはいかないが―――」
フレデリカは口元に手を当て、しばし考え込む。
「うむ―――“魔嬢様”、というのはどうだ?」
「え?」
「“魔女”と“お嬢様”を合わせて“魔嬢様”」
「“マジョウ様”?」
「気に入らんか? 名前を変えるにしても、呼ばれなれた名前の原型を留めて置いたほうが色々と都合がいいと思うのだが」
「“魔嬢様”―――“まじょうさま”―――」
無表情でかみ締めるように何度もその呼び名を反芻するお嬢様。
一度その名を呼ぶ度に、少しずつお嬢様の口元から笑みがこぼれてくる。
「うん、それいい! ボク、今日から“マジョウ様”だ!」
「気に入ってもらえてよかった」
フレデリカは、そっとお嬢様の手を握る。
「では行こうか魔嬢様。しばらく家には帰れないかもしれないが、かまわないね?」
「うん、どうせボクのことを心配するような人なんて居ないし」
「お嬢様っ、ご無事ですか?!」
「えっ?」
教会の朽ちかけた扉を無理やりこじ開けて飛び込んで来たのは、鬼気迫る表情をしたアシュクロフトだった。
「狼藉者、お嬢様から離れろ!」
アシュクロフトは、口頭で術式を唱えて指先から炎を生み出し、それを魔女に投げつける。
投げつけられた炎は宙で旋回し、炎の槍となってフレデリカに襲い掛かる。
「ほう、ピタリの炎魔術の応用か」
フレデリカはアシュクロフトの魔術に感心した様子だが慌てることはせず、素手であっさりと炎を払いのける。
「若いのに研鑽を積んでいるようだな。だがまだまだ甘い」
「なんだと! うっ?!」
アシュクロフトの足元が凍りつく。
知らぬ間にフレデリカが設置していた隠行式の氷方陣の上に足を踏み入れてしまったのだ。
氷方陣から生じた冷気はどんどん上方に侵食していき、膝、腰と、徐々にアシュクロフトの自由を奪っていく。
このまま行けば、アシュクロフトの心臓が凍りつくのも時間の問題だろう。
「くっ、私の命に代えてもお嬢様を魔女に渡しはしないぞ!」
「その忠義は立派だ。だが通報されては厄介なのでな、悪いが口を封じさせてもらう」
「や、やめてっ! アシュクロフトに酷いことしないでっ!」
「!」
お嬢様がフレデリカの手を振り払い、凍っていくアシュクロフトに抱きついたのだ。
冷気が彼女の体にも移り、胸元から徐々に凍っていってしまう。
「ちっ、方陣解除―――」
「あっちぃぃぃーーー?!」
フレデリカが氷方陣を解除するよりも早く、アシュクロフトが飛び跳ねた。
その尻の部分からは煙が立ち上っている。
その勢いで氷方陣から飛び出したアシュクロフトから、氷が剥がれ落ちていく。
呆気に取られたフレデリカだったが、お嬢様が方陣の中に取り残されていることに気付き、慌てて方陣を解除する。
フレデリカを一睨みすると、お嬢様に駆け寄って抱き起こすアシュクロフト。
氷に包まれていたにも関わらず、お嬢様の両手のひらは少し焦げていた。
「お嬢様、もしかして今のは」
「こ、氷を溶かすには火を使えばいいかと思って」
「じゃあやはり、先ほどの私の魔術を真似て?」
お嬢様は見よう見まねで、先ほどのアシュクロフトの炎魔術を再現してみせたのだ。
とは言え、アシュクロフトの尻を焦がす程度の火力しか出すことはできなかったのだが。
そんなお嬢様に、フレデリカはますます感心したように言葉を投げかける。
「なるほど、ボウヤには魔術の才能がある。私の見立ては間違っては居なかった」
「ボウヤじゃない、マジョウ様だよ!」
「そうだったな」
少し怒った顔をしているお嬢様の顔をチラリと見ると、魔女はくるりと踵を返す。
「すまなかったね魔嬢様、この男を傷つけて。もう二度と会うことも無いだろう」
「ま、待ってよ、ボクを連れて行ってはくれないの?!」
「私が連れて行くのは、俗世を断ち切る覚悟を持った者だけだ。ボウヤにはこんなに大事に思ってくれる人がいるだろう?」
「それは―――」
お嬢様は思わず自分を抱きかかえるアシュクロフトを見上げる。
アシュクロフトは厳しい目つきでお嬢様を見つめると、黙って首を振った。
しゅんとしてしまったお嬢様は、顔を上げないまま、すまなそうにフレデリカに言う。
「―――ごめん、フレデリカ先生。ボク、今は一緒に行けない」
「やっぱりね。ボウヤ自身も誰かを大事にできる優しい子だ。大丈夫、ボウヤに魔術は必要ないよ」
謎の魔女、フレデリカは立ち去った。
ぼうっと彼女が去った方角を見つめるお嬢様を、アシュクロフトは自分の背中に引っ張り上げる。
「さぁ、帰りましょうお嬢様。もう夜が明けてしまいます」
「アシュクロフト、こんなことになっちゃってごめんね」
「いいんです、もう魔術のことは諦めていただけたみたいですから」
「ううんっ、ボクはいつか必ず魔術を学ぶよ! そして、絶対に魔女になるんだ!」
「そうですか。お嬢様が決めた道です、私はもう口出しするのはやめにします」
「じゃあ―――」
「ただし」
アシュクロフトは、色めき立つお嬢様の先手を打つ。
「私自身は一切お嬢様に魔術を教えるつもりはありませんから、そのつもりでよろしくおねがいします」
「ええー、そんなぁー!」
自分さえ手を貸さなければお嬢様が魔術を学ぶ術は無い。
時が経てばお嬢様の興味はまた新しい何かに移り、魔術のことなど忘れてしまうだろう。
そんな目論見がまるで見当外れだったことを、アシュクロフトは八ヶ月の後に思い知ることになる。
つづく
新作ラッシュなので、便乗投下してみました
これからよろしくおねがいします
>372
とても緊張感のあるお話ですね
最初のグロリアの登場が都合よすぎると思ったら、伏線でびっくりしました
>381
気持ちのいいアクション活劇ですね
これからの彼女達の活躍に期待しています
387 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/13(水) 16:38:29 ID:Rfh6CSdC
メタモルゲーマーズの作者さん、いつも楽しく読ませて頂いております。
今回勝手に二次創作を書いてみました。
【読む前の注意】
・作者さんに無断で書いていますので、本編にこれまでに登場した、あるいはこれから登場する設定と
矛盾や不都合が生じている可能性があります。
・特に昌子について、「18歳(高校3年生相当)だけど受験はまだ先」と仮定して書いた部分が存在します。
この点に関してはご指摘があり次第修正致します。
・その他極力本編の世界観を壊さないように執筆したはずですが、結構好き勝手やってます。
怒っちゃいやです。
チャチャチャチャラララン♪
『ここに登場するのは初めてになるか、ダンディな地球防衛軍長官だ。
聞くところによると佳奈美君たちの周辺に謎の女の子が出没するらしい。
その子の正体については諸説紛々、さっぱり意見がまとまらないそうだ。
それに引き換え私のダンディズムの源は正体不明なんてことはない。
この内面から滲み出る…、時間のようだ、ダンディズムについては
また日を改めてゆっくりと語ることにしようか』
次回、ゆけゆけ!!メモタルゲーマーズ
Extra Round A「敵か味方か、ゲーマーだけどゲーマーじゃない!?」
ジャジャーン!!
『地球の平和は、我々に任せたまえ!』
チャチャチャチャラララン♪
『ここに登場するのは初めてになるか、ダンディな地球防衛軍長官だ。
聞くところによると佳奈美君たちの周辺に謎の女の子が出没するらしい。
その子の正体については諸説紛々、さっぱり意見がまとまらないそうだ。
それに引き換え私のダンディズムの源は正体不明なんてことはない。
この内面から滲み出る…、時間のようだ、ダンディズムについては
また日を改めてゆっくりと語ることにしよう』
次回、ゆけゆけ!!メタモルゲーマーズ
Extra Round A「敵か味方か、ゲーマーだけどゲーマーじゃない!?」
ジャジャーン!!
『地球の平和は、我々に任せろ!』
「絶対6人目だよ!間違いないって!!」
「せやからアンチャーの黒幕が高見の見物しに来とるんやって言うとるやろ!?」
「……違う……不幸体質……」
「何度言わせる気よ!あれはストーカーだって!!」
「…またあのことでケンカしてるんですか?」
日曜の朝から八重花の部屋で繰り広げられている言い争いの原因はと言えば。
以前からゲーマーズ行きつけのゲーセンに出没するカチューシャを付けた女の子のことだった。
佳奈美たちのプレイをいつも見ているだけで、その子がゲームをプレイしている姿を見たことがなかった。
他のプレイヤーにも聞いてみたが、やはり答えは同じだった。
それだけならあまり気にする必要はないのかもしれない。
が、その子が最近アンチャーの出没先に毎回と言っていいほど現れるのである。
最初は偶然だと考えていたゲーマーズメンバーも、回を重ねるごとに必然だとの確信に変わっていった。
佳奈美説によると、あの娘は戦隊物で定番の6人目の仲間だ。
千里説によると、アンチャーの新幹部(もしくは大ボス)が正体を隠して現れている。
亜理紗説によると、いつも行く先々で被害に遭遇する巻き込まれ属性だ。
八重花説によると、もっとシンプルにゲーマーズの誰かをストーキングしているだけ。
それぞれ自説を主張し合って譲らない。
「そんなに言うなら外れた奴は当たった奴の何でも言いなりってことにする、1日ずっと!」
「ええ考えやなっ、後で泣き言は受け付けへんで!?」
「……提案……上等……」
「私も乗った!!」
「まぁまぁ、みなさんその話はこの辺で…」
宥めに入る昌子だったが、「でも私も…」などと呟きながら何か考え事をしている様子でもあった。
…と思うと突然、
「あ〜〜〜〜!思い出しました!!」
「何!?どうしたの!?」
「びっくりさせんといてや!」
「……昌子にしては……大きい声だった……」
「何を思い出したの、早く言いなさいよ!」
先が長いことが予想されたので、八重花は昌子に姫カツラを被せつつ言った。
「何がって、それをこれからゆっくり……って!?」
そこまで話すと昌子は黙り込み、また急に、
「あ〜〜っ!思い出しましたことよ!!」
「思い出したのは分かったよ!?」
「驚かすなっちゅうねん!!」
「……さっきとは別のこと……思い出したんじゃない……」
「くどいのよ、一体何を思い出したか早く言いなさいよ!」
「慌てないで欲しいですことわよ、丁寧に説明…!????」
再び黙り込んだ昌子は2,3拍置いて、
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
カツラを外したかと思うとそのまま血相を変えて脱兎のごとく部屋を飛び出して行ってしまった。
「本当にどうしたんだろう…」
「ブレスレット置いたままやで…」
「……また別のこと思い出したんだとしたら……3つか……」
「引っ張るだけ引っ張っておいて一体何だったのよ!?」
間もなく昌子から連絡があった。飛び出していった理由、と同時に3度目に思い出したこと、
それは今日は塾開催の模擬試験申し込み最終日だったのをすっかり忘れていたということだった。
別に午後に申し込んでも十分間に合ったのだが、昌子にとっては居ても立ってもいられなかったようだ。
「私たちと違って真面目で通っとるからな、昌子ちゃん」
「……一皮剥けば……コスプレ好きのゲームマニアだけどね……」
「それで!?最初と2度目に思い出したことって何!?」
「2度目のは『マジックキャラメル王の保土ほど子』とか何とか言ってたみたいだけど…」
「『マジックキャラメル王』!?そう言えばそんな超マイナーなパズルゲームがあった気が…」
「……知ってる……確かに似てる……」
「マジキャラ王」を思い出せなかった佳奈美はネットで検索してみたが、そこに登場する「保土ほど子」の
外見はあのカチューシャ娘にそっくりだった。『G・パズラー』である昌子にとってはどこかで見たのに
思い出せない状況がもどかしくてたまらず、それで大声を出す結果となったらしい。
2つの驚きの内容に大きく期待外れだった八重花は落胆した様子だった。
「なんだそんなこと…。それじゃ最初に思い出したことも大したことはないわね」
「……最初の驚き方が……一番小さかったね……」
「『あの子と一緒の部屋で模試を受けたことがある』、それが最初に思い出したことだって」
「!?何やてっ、そういうことあったんなら何で早く言わへんのや!?」
「そうよっ、そこからあの娘の正体がつかめるじゃないの!!」
「ゲホゲホ…あたしに言われても…昌子が見かけたのも数回程度だし、
特に言葉を交わしたことがあるわけでもないからなかなか思い出せなかったんだって」
「……でも手掛かりにはなる……試験の時のデータとかあるだろうし……」
「ということで長官のおっちゃん、いつもの通り権力総動員で身元特定頼むで!!」
『あのな、念のため言っておくが、私は便利屋か何かでは─────』
『エマージェンシー!! エマージェンシー!!』
結論から言えば長官の手を煩わすまでもなかった。アンチャー出現にゲーマーズが出動すると、
問題の少女はあっさり現れた。しかもアンチャー撃滅時の爆風に巻き込まれて気絶するというおまけ付きで。
「…ねぇ、どうするの!?幸い見たところ怪我はしていないみたいだけど…」
「亜理紗が考え無しにロケット弾ぶっぱなすからやで!!」
「……どちらかと言うとこの子が悪い……逃げるどころか近寄ってくるなんて……」
「ある意味手間が省けたじゃない、とりあえずどこかに連れて行きましょう」
ゲーマーズは人のいない公園に少女を運び、意識が戻るのを待った。新幹部説、ストーカー説をそれぞれ
強硬に唱える千里と八重花が正体を明かすのはまずいと主張したため、変身は解除せずにおいた。
気付くまでの間に少女の所持品から私立の高校に通う学生であること、
名前が『並木詩音(なみきしおん)』であることは判明した。
「…う、うん…」
「あ、気が付いた!ここはもう安全よ。さっそくだけどあなたが6人目の仲間なのよね!?」
「いや、あわよくばスパイしようとしとるアンチャーの幹部やろ、観念して白状せい!」
「……正直に言った方がいいよ……不幸体質なんだって……」
「誰をストーキングしてるの!?悪いことは言わないわ、今なら引き返せるわよっ!」
「!?!?!?何のことかぁ分からないですよぉ…」
当惑する詩音が落ち着くのを待って、ゲーマーズは質問を浴びせた。
「それじゃ最初の質問。どうしてアンチャー…あの怪物が現れるところにいつも現れるの?」
「えぇ?…なんとなくぅ、ですよぉ?」
「なんとなく、やって!?」
「分かるんですよぉ、あの化け物がどこに出るかぁ、だからそっちに行くんですよぉ」
「……わざわざ自分から行くの……アンチャーの現れるところに……?」
「そうですよぉ、そうじゃなきゃ毎回いませんよぉ」
「一言言ってもいい?さっきから喋り方が遅いのよ、もうちょっと早くしゃべれないの!?」
「えぇ〜、…それじゃ少しテンポ上げる、このくらいでいい?」
「普通に話せるなら最初からそのスピードでしゃべりなさいよ!」
「このテンポだと後で反動が来てますます遅くなるから、…このくらいなら平気だよぉ」
なんだか詩音は話し方まで『ほど子』そのものだった。どうしてこんなに面倒臭そうな子ばかり
出てくるんだろう、と4人はそれぞれ自分のことを棚に上げながら思った。
「…それじゃ次の質問ね、なんでアンチャーのところへ行きたがるの!?」
「せや!!自分がアンチャー側だから行っても大丈夫なんやろ!?」
「……心は行きたくなくても……どうしても体は行きたくなるんだと思う……不幸体質だから……」
「アンチャーあるところにゲーマーズあり、ストーキングのためでしょ?」
「ちょっとちょっとみんな、…6人目として名乗り出たいけど今までできなかったんだよね?」
「聴きたいからだよぉ、あの怪物が倒される時の音がぁ」
「「「「 音が聴きたいぃ!? 」」」」
詩音の言葉をそのまま記していると長くなるので以降は要約すると、彼女には他人には聞こえない音が
聞こえることがあるらしい。一度気になってその音の発信源へと行ってみるとアンチャーだった。
もちろん怖くて逃げ出そうとしたが、間もなく駆け付けたゲーマーズにより倒された時の音が
忘れられなくなったと言う。
「…みんなアンチャー倒す時音、聞こえる?倒されると音もなく消えていく、んじゃないの?」
「確かこの間の立て篭もりの時もアンチャー同士ですら気付いてなかった、ような気がするんやけど…」
「……多分詩音には聞こえるんだよ……私たちには聞こえない音が……」
「特殊能力の1つ…なのかしらね」
詩音の話に驚くゲーマーズの面々だった。
「えっとぉ、助けて頂いたお礼がしたいんでぇ、私の家まで来ませんかぁ?」
「…どうする、行っても大丈夫かな!?」
「罠の可能性も大ありやけど…もしそうでもここはあえて乗っておくっちゅうのも一つの手ちゃうか?」
「……私も行って……かまわないと思う……」
「それより人の家に行くんだから変身は解いた方がいいんじゃない?」
詩音の提案にどうするか考えたものの、変身を解除し自己紹介をしながら詩音の家へ向かった。
「えーっ、ここにあるの全部ゲーム音楽のCD!?」
「こっちはゲーム雑誌や攻略本かいな、2号で休刊になった『げーむあらま』まであるで!!」
「……このCDオークションだと……確か5万円くらいプレミア付いてる……」
「あまりにもシャレにならない誤植多発で伝説の『アミュゼスト』も創刊号から!?」
自分の部屋にお茶と羊羹を詩音が持ってくると、佳奈美たちはCDや書籍に圧倒されているところだった。
「全部自分で買ったんじゃないよぉ、雑誌はいらないって言う子から譲ってもらったのがほとんどだよぉ。
それからCDはおじさんが音効しているんでぇ、頼めばいっぱいくれるんだよぉ、
自分で買ったのもいっぱいあるけどねぇ」
「オンコウ?詩音ちゃんのおっさん、詩音ちゃんよりももっと温厚なんか!?」
「千里のつまらないボケはほっといて、音効って確かテレビとかに音楽とか効果音とか付ける仕事よね」
「……『ギャグゼウスや!』のSEなんか……20年も前のゲームなのにいまだに使われてる……」
「!!!そうですよね、やっぱり『正弦波愛好会』の音楽はどれを取っても素敵ですよね、
コマキのゲームははっきり言ってクソゲーだった場合、雑誌で紹介する時には『音楽がいい』で
お茶を濁していたという逸話も残っているくらいで…、特に新谷さん作曲のBGMは…。」
「…詩音ちゃん、キャラ変わってるよ。そんなに早口だと後で遅くなるんじゃないの?」
「…問題なしだよぉ、今のは対象外だからぁ」
…ますます詩音という女の子が理解できなくなる一同だった。
「それにしてもこんなにゲームのもの持っているなんて、詩音ちゃんって相当なゲーマーなんだね!」
「そうや、詩音ちゃんはどんなゲームが得意なんや?」
「ゲームぅ?しないよぉ、ゲーム機も持ってないよぉ」
「…え!?こんなにゲームのCDとか雑誌とかあるのに!?」
「もちろんしたいんだよぉ、でも買うきっかけつかめないんだよぉ」
詩音が言うには、両親からゲーム機を買ってもらえることになり一緒に買うソフトを何にするか
決めるため友達の家へ行ったりゲーム雑誌を見たり情報を集め、やっとこれにしようと決めると
面白そうな新作がたくさん発表になりまた決め直し、決まった頃には…の繰り返しだったようだ。
あまりに決まらないため両親も「別に1本に絞る必要はないんだよ、5本くらいまとめてでもいいんだよ」と
言ってくれたものの、詩音は「最初の1本は大事だからちゃんと決めたいよぉ」と主張し、
その分のお金でゲーム音楽CDを買うようになったらしい。
それに友達の家で他人のプレイを見ているうちにそちらの方が楽しくなってしまい、
自分の番になっても譲るようになっていた。詩音の帰った後、そんな様子を見ていた友達の母親が
「仲間外れにしないで詩音ちゃんにも遊ばせてあげなさい」と友達と揉めたこともあったらしい。
「だから誰も詩音ちゃんがプレイするとこ見かけなかったんだね」
「その母親と揉めた友達も災難やったろうなぁ…」
「……見ているだけで本当に楽しいの?……試しに1回やってみれば……」
「そうよっ、うちにはたくさんゲーム機あるから1台くらい貸してあげてもいいわよ?」
「自分でもそういう風に考えたことはあるんだよぉ、でもねぇ…」
ちょうどゲーム機の世代交代があった時、しばらく遊ばなくなるからと友達が旧世代機を
貸してくれたこともあったらしい。けれどある時はサウンドテストに聞き惚れているうちに
1日が過ぎ、ある時はプレイを開始しようとした瞬間に急用ができ、気が付くと進学に大事な時期で
それどころではなくなり、結局まともにプレイしないうちに返すことになったという。
「…Qiiウェアをダウンロードとかじゃ…ダメなんだろうな…」
「ゲームをやらないゲーマー…ってことになるんかなぁ」
「……ゲームができない呪いでも……掛けられてそう……」
「少なくとも本人はあまり深刻には受け止めていないみたいよ」
「そうだよぉ、ゲーム見てるだけで楽しいよぉ、…あっ!」
「どうしたの!?」
「あの化け物、アンチャーって言うのかなぁ、さっきの公園に出るよぉ」
「「「「 えぇ!? 」」」」
半信半疑ながら先ほどの公園に戻ってきたゲーマーズと詩音。
「本当に現れるのかな、アンチャー?」
「影も形もあらへんやんか!?」
「間違いなく出るよぉ、この下からぁ」
「……下って地面の中から……?」
「地面の中からなんてそんなことあるわけ…!!」
ドガアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!
ガシャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!
轟音と共に2体のモグラ型アンチャーが地中から姿を見せた。
「本当だったよ…どうする!?」
「どうするもこうするも、倒すしかあらへんやろ!!」
「……以下同文……」
「まあそうよねっ!!」
『『『『プレイ・メタモル!!!』』』』
「欲するは強敵、そして勝利のみ。
道を追い求め続ける孤高の戦士……『G・ファイター』!!」
「千分の一秒を削るのに命を賭ける。
音すら置き去りにする光速の戦士……『G・ドライバー』!!」
「狙った獲物は逃がさない。
視界に映る全てを射抜く戦慄の戦士……『G・シューター』!!」
「あらゆる死地を活路に変える。
フィールドを駆け巡る躍動の戦士……『G・アクション』!!」
ゲーマーズはさっそくアンチャーに攻撃を仕掛けようとするも、
「待ってだよぉ!…普通にやってたら2体とも倒せない気がするよ!」
緊急モードに口調をテンポアップさせた詩音の声が響いた。実際先制攻撃として
佳奈美が放ったパンチも亜理紗が至近距離から撃った弾も全く効いてはいなかった。
「ナンダ? イマノコウゲキハ ゼンゼンキカナカッタゾ」
「これはピンチかな〜って詩音ちゃん、アイツらの倒し方分かるの!?」
「特に根拠はないの、なんとなくそう思うだけ!」
「……それでもいい……言ってみて……」
「まず剣で頭から一刀両断にして!できれば引きこもりをこじらせてる人がいい!」
「…え…!?…なんであんたがそんなこと知ってるのよっ!?」
「頭に浮かんでることをそのまま言ってるだけよ、ウザカのことだったんだ。」
「ウザカって…なんちゅう略し方を…リミッター外した詩音ちゃんは何でもありやな…外す前もか」
心の傷口に思い切り塩を塗られたのを振り切るように、八重花はウィップ・ソードを振り上げ、
アンチャーへと振り下ろした。
ズパァッ!
真っ二つにされたアンチャーはそのまま地面に崩れ落ち…ずになおもそれぞれが独立に動き、
呆気に取られる八重花を体内にある空洞に挟み込んでしまった。
「詩音ちゃん、事態をより深刻にしただけやんか!?」
「それでいいの!いったん閉じ込められて中で滅茶苦茶に暴れれば弱点が出てくるから、
そこを出席日数足りなくて留年確実の人に撃ってもらえばいい気がする!」
「……悪気はないのは分かってる……でも覚えてろ……」
「暴れればいいのね、任せといて!?」
398 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/14(木) 23:52:20 ID:BCasRybR
うーん…二次創作するぐらい好きなのはわかるけど
無断で作るのってどうかと思うなぁ。
このスレやチャットなんかでゲーマーズの作者さんに先に断りを
ちゃんと入れるべきじゃないの?
八重花がアンチャーの空洞内であらん限りの攻撃を行うと、アンチャーは呻き声を上げながら
喉に当たる部分に赤黒い弱点と思しきものを露出させた。そこをすかさず亜理紗の弾が襲った。
パァン!
アンチャーは消滅し、内部の八重花も解放された。
「うーん、こういうことは先に言いなさいよ。よーしこの調子でもう1体も…、
ってまだ攻撃仕掛けてないのにもう分離してる!?」
「そっちは挟まれちゃダメ!そのまま閉じ込めて人質にしようとしてる!」
八重花は間一髪でアンチャーの隙間から脱出した。
「こっちはオヤジギャグに弱いような気がする!えせ関西弁を操るくせに
ボケがつまらない人が言うとより効果的よ!」
「…ボケの面白い関西弁使いならここにおるんやけどな」
「……アンチャーと戦闘中……早くつまらないボケ……と言うか今のも少し効いてる……」
確かに今千里が言葉を発した瞬間からアンチャーの動きが少し鈍くなってきている。
「…動き鈍くなったのは気のせいやと思うけどなぁ…、仕方ないから自信作を、
『アンチャーのあんちゃんや、あっちゃー』…」
「マズイ コオリツク ナゼ オレタチノ ジャクテンガ ワカルンダ…」
アンチャーはたちまち氷に包まれた。
「さあ運痴のくせに脳筋という救いようのない樋口佳奈美さん、今が攻撃のチャンスよ!」
「私だけ名指し!?今までぼかしてたのになんでよ〜!??」
佳奈美は理不尽さに対する怒りを拳に込めてアンチャーにぶつけると、粉々に砕けやがて消滅した。
「ふう、やっと片付いた…。詩音がいなきゃ絶対倒せなかったね…」
「そう言えば忘れとったけど、アンチャー倒した時なんか音出てたか!?」
「……全然聞こえなかった……やっぱり詩音だけに聞こえるみたい……」
「どんな音なのよ、ねぇ詩音、聞こえない私たちに説明してよ」
ゲーマーズは詩音から言葉が発せられるのを待った。
「えぇ、とぉ、です、ねぇ、アン、チャー、をぉ、倒した、時、のぉ、音、はぁ、アン、チャー、をぉ、
倒したぁ、時、のぉ、音ぉ、です、よぉ。それ、以外、のぉ、何者、でもぉ、ない、です、よぉ」
反動出まくりで超スローペースの口調になった詩音の発言に脱力するゲーマーズだった。
「こん、かい、も、いい、おと、を、きか、せて、いた、だき、まし、たぁ。
ごめ、んな、さい、もう、すこ、しで、もと、に、もど、…!!…新手が来る、気を付けて!」
「「「「 !! 」」」」
ゲーマーズに俄かに緊張が走った。
「アンチャーは全部で何体くらい?」
「ちょっと待って…100体は下らない!!」
「100体以上やてっ、ウチら今日戦うの都合3度目になるんやで!?」
「……これから100体相手にするのは……さすがにきついかも……」
「何とか対抗する方法はないの!?」
「…今のうちにミルクティーを急いで買ってきて!」
「…え、ミルクティー?確か入口の自販機にペットボトルが売ってたけど…」
「喉が渇いたから飲みたい…とか言うボケは無しやで!?」
「……千里じゃないんだから……そんなボケはよう言わんと思う……」
「何に使うか知らないけど行ってくるわよ!?」
「おーほほ、わたくしとしたことがブレスレットを置き忘れるという失態を演じてしまって、
大幅に参上が遅れてしまいましたわ!しかーしもう心配ナッシング、大船に乗ったつもりで……あら?」
昌子が絶句したのも無理はない。ボス格のアンチャーが次々に他のアンチャーを撃破する光景が
目の前で繰り広げられていた。
「オレガイチバンツヨイ! ダカラオマエタチハ イラナイ オレダケデイイ!!」
ドガガッ!
「ゴワッ オネガイダ モトニモドッテクレ …グワアアァァァ」
ボカガシャァン!!
「あー、一時はどうなることかと思ったよ」
「ミルクティー飲ませただけで相討ちさせられるとは思いもよらへんかったわ」
「……『Cブライアント』のキャッチシステム……思い出した……」
「おかげでこっちは高見の見物ね」
「あのアンチャーは糖分とたんぱく質、タンニンを含んだ水溶液を体内に入れると
理性を失って暴れ出すような気がしたのよ」
「それがミルクティーだったってこと!?」
「ウチらには難しいことはよく分からへんけど、そういうことやったんやなぁ」
「……でも最後に残る親玉のアンチャー……どうやって退治するの……?」
「もしかしてあれは自力で倒さないといけないの!?」
「それは『筑前青春記5』に散々はまった挙句、パソコン版だとユーザー作成のスクリプトで
戦国武将相手にあんなことやこんなこともできると聞いて購入を検討していそう人に…」
「…そ、そんな根も葉もないことをおっしゃるのはやめていただきたいことですわっ!」
「…え、…あぁ〜、あなたのぉ、ことだったんですかぁ?お願いがぁ、あるんですけどぉ」
ミルクティーを飲まされたアンチャーは雑魚アンチャーをことごとく倒し、ついに1体のみとなっていた。
「ゴミソウジ オワッタナ ツギハ ゲーマーズ ソウジダ」
「お待ちなさい!」
アンチャーが声のした方を向くと昌子が変身も解除して立っていた。
「チョコザイナ シニタクナケレバ ハヤクニゲロ」
「よくマイクテストに使われる『本日は晴天なり』という言葉は英語圏で使われる"It's fine today."を
直訳したものなんですけど、"It's 〜"が英語の発声法の要素を全て含んでいるのに対し、
単なる直訳である『本日は〜』はそうではないのでマイクテストに使うのはナンセンスです!」
「エ ソウダッタノカ… キエテ シマイタイ」
最後に残ったアンチャーも消滅した。
「…今ので倒せたんですか…?」
言った昌子もびっくりしていた。…と言うより他のゲーマーズの面々はそれまでに
あまりに驚きの連続だったので、いまさら驚く気にもなれなかった。
「そう言えばみなさんが詩音さんにしていた予想、全員外れでしたね」
「そうだね、でも6人目という私の予想が一番近かったよね!」
「!!…まだ分からへんで、すっかり油断させといてから正体を明かすっちゅうのもあり得へんとは…」
「!!……ゲームができないなんて……不幸体質以外の何者でもない……」
「!!アンチャーを倒す時の音が好きなんてストーカーと言えなくもないわよ」
佳奈美の発言に千里、亜理紗、八重花の3人は自分でも強引だと思いつつ意地を張りたくなった。
「あのぉ、誰が当たりだったかぁ、結論が出ないんだったらぁ、今度の日曜日ぃ、
私がみなさんの言うことをぉ、何でも聞くことにぃ、してもいいですよぉ」
「「「「「 えぇ!? 」」」」」
「今振り返るとぉ、アンチャーさんたちをぉ、倒す時にぃ、私ったらぁ、調子に乗り過ぎてぇ、
みなさんにぃ、失礼なことをぉ、言ってしまったようなぁ、気がしますしぃ、そのお詫びですよぉ」
「別にお詫びなんて…確かにちょっとムカついたけど」
「そうや、あれは詩音ちゃんの本心やない、気にする必要なんて毛頭ないで」
「……私もお詫びなんてしなくていい……これからも遊んでくれればいい……」
「そうよ、言うこと聞くとか関係無しに来週私の家に遊びに来なさいよ」
「今日は詩音さんありがとうございました、来週みんなで待っていますよ」
「うれしいよぉ、来週が楽しみだよぉ」
が。次の日曜日の八重花の部屋では。
「詩音ちゃーん、宿題どれくらい片付いた〜?」
「簡単な問題ばかりだけどいっぱい溜まってるからね、全速力で片付けてる!」
「詩音ちゃーん、レースゲームやってたら疲れたわ、5分でええからマッサージ頼むで」
「はい、肩と腰どっちをマッサージした方がいい?」
「……お腹空いた……外寒いから詩音買いに行ってきて……」
「今買いに行くから欲しい物リストにしておいて!」
「詩音、洗濯頼める?できれば風呂掃除もね!」
「うーん、佳奈美ちゃんの宿題もあるけどできる限りやっておく」
「紅茶が冷めましたわ、詩音さん入れ直して下さる?」
「やかんに火を掛けてるところだから沸き次第入れるよ」
気が付くと最速モードにさせて使い走りにしていた。
「…どうしてこうなっちゃったんだろう?」
「なんか詩音ちゃん見てると用事頼まないと損て気持ちが湧いてきちゃうんやな」
「……どさくさに紛れて……昌子まで用事言い付けてる……」
「そうよっ、昌子は賭けには参加してなかったんだから権利なしでしょ!?」
「立ってるものは親でも使えと言うことわざが日本にはあるんですのよっ、
まあ実際にお父様やお母様にそんなことをするかは別でございますけど」
「気にしなくていいよ、さて佳奈美ちゃんの宿題の続きを…あ、ちょっと頑張り過ぎたかも、
バ、ッ、テ、リ、ィ、ギ、レ、ミ、タ、ィ…。」
パタン
「うわー、詩音ちゃん大丈夫?」
スースー
「って寝てるだけかいな…、冷や冷やしたで」
「……ねえ……先週みたいなアンチャーが……今現れたらどうしようか……」
「この間は詩音さんがサポートしてくれましたから良かったですけど…」
「えっ、まさかそんなことあるわけ…」
『エマージェンシー!! エマージェンシー!!』
予感は的中し、ゲーマーズは満身創痍になりつつアンチャーを倒さざるを得なかったのだった。
チャチャチャチャラララン♪
『並木詩音、ですよぉ。
このところ八重花さんがぁ、佳奈美さんたちを呼ばずにぃ、
1人でアンチャーさんたちをぉ、倒しているんですよぉ。
アンチャーさんをやっつけることそのものはぁ、とってもいいことなんですけどぉ、
それで佳奈美さんたちとのぉ、仲が悪くなっちゃったんですよぉ。
でもぉ、アンチャーさんの場所をぉ、教えているのはぁ、私なんでぇ、
八重花さんがぁ、そんなことをする理由をぉ、私は知っているんですよぉ。
それはぁ…あれぇ、時間がなくなっちゃいましたぁ。』
次回、ゆけゆけ!!メモタルゲーマーズ
Extra Round B「私だけで十分!哀愁のスタンドプレー」
ジャジャーン!!
『モアイが口からドラゴン出して倒れそうな予感ですよぉ』
…すみません、プロットはできていますが書くかどうかは分かりません。
改めて無断で書いたことをゲーマーズ作者さんにお詫びしておきます。
----
◎GAMER'S FILE Extra
『並木詩音(なみきしおん)』17歳
某私立高校に通う現役女子高生。ゲームはプレイしない(できない運命?)。
しかし他人のプレイ鑑賞は好きで、ゲーム音楽ファン(特に「正弦波愛好会」による作品)。
髪の長さ、身長、その他外見的特徴はほぼ平均。強いて言えばカチューシャを装着している点くらい。
…と思っているのは本人だけで、世間の常識とは乖離している面も多くある。
例えば学力も平均と本人は思っているが、昌子を除く4人から比べれば「十分過ぎるくらい」ある。
話すテンポもまた然りで、平均よりもかなり遅い。本人の意思で平均、あるいはそれ以上の
スピードにすることもできるが後で反動が来る場合もある。
ゲーマーズではないため装着アーマーはなし。ただしアンチャーとの交戦時には
出現場所、行動や特性を予測することができる。一応アンチャーの発する常人には聴き取れない
周波数帯の音波を感知している、らしいが真偽の程は不明。
投下お疲れ様でした。
また後日読ませていただきます。
間髪居れずに何ですが、続いて『まじょうさま』を投下します。
あれから隙あらばフレデリカを探してみたお嬢様だったが、手がかりすら見つけることは出来なかった。
かと言ってアシュクロフトに魔術の教授を頼み込んでも、彼は頑として首を縦に振らない。
仕方ないのでアシュクロフトの本棚から魔術学の本をこっそり拝借し、布団をかぶって読みふける毎日なのであった。
そんなある日、近くに新しい魔術学校が出来ると聞き、お嬢様は色めき立つ。
今まではマンツーマンでの個人指導をしてもらうことばかり考えていたが、設備のある場所で集団学習というのも悪くないかもしれない。
しかし女性蔑視社会の通例に漏れず、その学校も女人禁制であり、そこに潜り込むために少々お嬢様は小細工を弄する必要があった。
まずは塾に行きたいと両親にダダを捏ね、女性用の塾に通うことを許してもらう。
その塾はレディとしての作法に重点を置いて教育する方針で、もちろん魔術などの余計な学問を教えることもない。
ようやくお嬢様が貴族の娘としての自覚に目覚めたと、両親は喜んでお嬢様が通うことを許した。
次にお嬢様がしたことは、塾長の口止めだった。
特に使う当ても無かったお小遣いを切り崩して金を積み、自分がちゃんと出席しているように口裏を合わさせた。
最後にやったことは、魔術学校の生徒の一人から学籍を買い取ることだった。
とある生徒に話を持ちかけると、両親に無理やり捻じ込まれただけで全くやる気のなかった彼は、喜んでお嬢様の提案を呑んでくれた。
そうしてお嬢様は魔術学校の生徒としての生活を始める。
ボーイッシュな振る舞いが功を奏してか、怪しむ者は誰も居なかった。
魔術への熱意溢れるお嬢様は、その中でめきめきと頭角を現していく。
お嬢様は学校では“マジョウ=ルブラン”と名乗った。
なるべく目立たないように過ごすつもりだったが、根が気さくな性格なためか、友達はすぐに出来た。
その中でも特に仲が良かったのが、“トヨ=イワズゥ”と“クリスティアン=オイラー”の二人であった。
お嬢様とトヨ=イワズゥが初めて言葉を交わしたのは、二日目の授業が終わったあとの放課後だった。
トヨ=イワズゥはとても勤勉な少年で、机で自習を続けていたが、どうしても分からない問題に遭遇する。
すると隣のマジョウ=ルブランが同じく教本に夢中になっていることに気付き、試しにその問題について聞いてみることにした。
「ねぇマジョウ、ちょっといい?」
「なぁに、ボクに何か用?」
「いきなりで悪いんだけど、この問題について分からないかな?」
「えっ、これ?」
指し示された問題を眺めてみるお嬢様。
流石に一目で理解することはできなかったが、トヨに一言二言質問した後に、お嬢様は見事にその問題を解いて見せた。
「すごいじゃないか、マジョウ! こんなに簡単に解けるなんて!」
「ううん、キミが、えっと」
「トヨ=イワズゥって言うんだ」
「うん、トヨがボクの知りたかったことをちゃんと調べておいてくれたから解けたんだよ」
マメな性格のトヨと、大雑把に直感で考えるお嬢様。
対極とも言える二人の性質が、魔術の勉強に関しては不思議と噛み合い、二人はしばしば共に勉強するようになった。
408 :
まじょうさま☆まなぶ:2010/01/15(金) 01:08:37 ID:YNkk9Z6u
一方、クリスティアン=オイラーの方は、トヨ=イワズゥとは違って最初から友好的とは行かなかった。
彼は裕福な商家の子で、そこを少しばかり鼻にかけて偉ぶっているところがあり、同級生からの評判は芳しくなかった。
その反面、学問には真摯で、本人も利発であったために、最初のテストでは見事に学年二位の成績を獲得した。
しかし完ぺき主義のクリスティアンは、二位という順位を良しとはしなかった。
「おい、ルブラン!」
「え、キミは」
「クリスティアン=オイラーだ! 人の名前ぐらい覚えておけ!」
「ごめんよ、クリスティアン。それでボクに何か用なの?」
「あぁーもう、イライラするんだよおまえは!」
学年一位の座を得たのは、マジョウ=ルブランだった。
こんなおっとりした奴が自分の上に居るかと思うと、クリスティアンは無性に腹が立って仕方が無かった。
「とにかく、俺と魔術で勝負しろルブラン! 俺がおまえより優れていることを証明してやる!」
「えー、勝負なんて別にしたくないなー」
「うるさい、黙って勝負を受けろ!」
「それよりクリスティアンも一緒に勉強しない? トヨと約束があるんだ」
なんで俺がこいつと勉強なんかと思ったクリスティアンだが、これはチャンスだと思い直す。
マジョウ=ルブランがどんな勉強をしているのかを知れば、対策が立てられる。
直にやってきたトヨは、クリスティアンの存在に少し嫌な顔をしたが、ともあれ勉強会が始まる。
しかし意外にも、口は悪いながらも鋭い視点を持つクリスティアンの切り口は新鮮で、トヨはいつの間にか違和感無く彼の存在を受け入れていた。
そしてそれはクリスティアンの方でも同じだったようだ。
「ちぇっ、確かに天才だよルブランは。おまえに負けたんじゃ仕方ないかもな」
「クリスティアン、また一緒に勉強しようね!」
「―――あぁ、そっちのイワズゥも一緒にな」
「ありがとうオイラー、キミのおかげで僕もより高いところへいけそうな気がする」
こうして性格のまるで違う三人は、志を共にする親友同士となった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
ある朝、お嬢様が登校して教室に行くと、二人の親友が夢中でノートに何かを書き込んでいる現場に遭遇する。
「おはよう、クリスティアンにトヨ。何をしてるの?」
「あ、おはようマジョウ。これに挑戦していたんだよ」
トヨはお嬢様に奇妙な魔術式を見せる。
初めて見る式だったが、パッと見た感じでは非常に単純な構造で、大して意味のある式には見えなかった。
「なぁにコレ? この魔術式がどうかしたの?」
「なんだよルブラン、“バルマーの最終魔術”を知らないのか?」
「うん、知らない」
「どうだい、マジョウも一度試してみては?」
「簡単でしょ、こんなの」
お嬢様は式に従い、術式の発動を試みる。
―――が、不思議と上手くいかない。
途中でどうしても行き詰まり、術式の完成まで至らないのだ。
二度、三度と試してみても結果は同じだった。
「なにこれ?! なんで発動できないの?!」
「ほら、一見簡単に成功しそうな術式なんだけど、不思議と上手くいかないんだ」
「歴史上のどんな魔術家でもこれに成功した奴はいない。逆にこれが不可能だと実証できた奴もいない。天才魔術家バルマーが残した宿題さ」
マジョウならひょっとしたらという期待も単なる期待に終わってしまったので、彼らはすぐに別の話題に移った。
一方、お嬢様の胸の内では、むらむらとしたものが煮えたぎっていた。
この術式を完成させたら一体なにが起こるんだろう?
そんな言い知れぬ好奇心が後から後から湧いてきて、この日の授業の内容などまるで頭に入らなかった。
それからというもの、お嬢様は“バルマー”の探求にのめりこんで行った。
右から回ってダメならば、左から回り、それもダメなら上から登ると、とかく様々な方法を手当たり次第に試した。
それは必然的に様々な魔術式を研究することにも繋がったため、お嬢様は魔術の腕をメキメキと上げていった。
反面、歴史等の実技に関係しない科目の勉強を怠り、いつしかテストの成績はトップから滑り落ちていた。
念願のトップの座を得たクリスティアンだったが、その表情は苦々しく、お嬢様に何か言いたげながらも結局は何も言わなかった。
そうして半年もの間、脇目も降らずに“バルマー”に労力を注ぎ込み続けていたお嬢様だったが、
とうとう彼女が思いつくだけの可能性を全て試し終わり、探求にも行き詰まりが生じてきた。
“バルマー”は本当に解くことが可能なのか?
そんな疑念が湧いたこともあり、その頃からお嬢様の“バルマー”に対する興味は徐々に薄れていった。
こうしてお嬢様と“バルマー”の最初の出会いは終わる。
再びお嬢様が“バルマー”に挑戦する時がやって来るまで、二年の歳月を待たねばならない。
余談だが、後世に史学家の間でにわかにこう囁かれることになる。
『この時にジェルマン嬢と“バルマー”が出会っていなければ、後の歴史は大きく変わっていただろう』、と。
“バルマー”への興味こそ失ったものの、お嬢様の魔術への情熱は衰えることは無かった。
探求過程で副産物的に得た知識や技術は無駄にはならず、お嬢様を更なる魔術の深みへと誘っていった。
そしてそれは学業成績にも立派に反映され、いつしかお嬢様は成績トップの座を取り戻した。
再びトップの座を明け渡したにも関わらず、クリスティアンは何故か嬉しそうだったと言う。
もっとも、お嬢様本人は成績については全くの無頓着であったのだが。
「初学年の最優秀生徒は、マジョウ=ルブランだ。これにおごらず、来年も研鑽に励むように」
一年の学期が終わり、終業式でお嬢様は学年の最優秀生徒に選ばれる。
多少のやっかみも無いでは無かったが、大多数の生徒と教師は手放しでお嬢様の受賞を喜んだ。
お嬢様は人から好かれる天性の才能を持っていたのかもしれない。
こうしてお嬢様は魔術学校での一年目を修了する。
だがその次の一年こそ、お嬢様の人生でもっとも激動の一年となるのだった。
つづく
お疲れ様でした。
勘の鋭い方なら気付いたかもしれませんが、お嬢様には実在のモデルがいます。
とはいえ、実像からはかけ離れているので知らなくても特に問題は無いです。
皆さん投下お疲れ様
413 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/15(金) 15:36:45 ID:0JZV60aO
414 :
BIG BAD MAMA-RANGE KITCHEN :2010/01/15(金) 22:52:52 ID:YNkk9Z6u
第一話: パステルルージュ
”ママが言うには「触っちゃ駄目よ、これは大人のクレヨンだから」……”
――タンクメイジ 『アダルト・パステル』
科学と魔法が「共存」する、2000年代末の地球で。
12月、東京某所――
「あんたが今日またフラれたってえ、その話はいいんだけどさあ」
何本かあるうちで一番丈の低い鉄棒を選んで腰かけると、美香は首を落として上目遣いで辰美を睨んだ。
「とりあえずCD返せよ」
「え?」
目を真っ赤にした辰美が振り返る。
高校の終業式の後、ふたりは帰り道の途中の公園に寄った。
どんよりした曇り空、陽の光も弱々しい暗い日だった。
午前十一時の公園は寒波到来で冷え込みがひどく、お陰で全く人気がない。
砂場をうろついて砂を蹴りながら、中学校以来の親友の美香にぐちぐちと失恋話を聞かせていた辰美だったが
CDの催促をされるなり動きが固まった。美香が続ける。
「あたしがあれ貸したのってさ、夏休み前だったよねえ」
「う、うん。多分」
「多分じゃなくてそうなんだよ。でさ、ずっと催促し続けて、でもあんたは毎回忘れて
それでこうしてずるずると冬休みに突入しつつあるわけよ。まさか忘れたとは言わないよな?」
「ちょおっと待って! 今朝はさすがに覚えてた!」
美香のちょっと尋常でない剣幕にたじろぎつつ、鞄を開けてCDを探した。が、見つからない。
懸命に鞄を漁るふりをするが、授業がなかったのでろくに中身の入っていないことは
美香の座っている場所からでも分かった。
「また忘れたか……」
美香は息を吐いてうつむいた。
「マジ勘弁してほしいわ……新しいアルバム出るから昔のやつ一回聴きなおしたいんだけど、
あんたのお陰で冬休みブルーんなるわ……」
「いや、その、ゴメン……」
折りよく北風が公園に吹き込み、ふたりは慌ててコートの襟を立て、手をポケットにしまった。
「あ」
辰美が声を上げた。紺色のダッフルコートのポケットからそろそろと手を出すと、その手にはCDケースがあった。
「持ってきてました!」
「ホントか!」
美香の下に駆けていって、晴れやかな笑顔でCDを手渡す。美香も最初は笑っていたが、
返ってきたCDを眺めているうち、次第に表情が曇っていった。
「あのお、傷入ってますよケースにバッチリ……」
「へ?」
「ケースに傷入ってるっつってんだよ、ボケ!」
鉄棒に腰かけた美香から、半ば本気の前蹴りが飛ぶ。コートの腹に見事な砂色の靴跡をつけられて、
ああ、と情けない声を漏らしつつ辰美は砂場へとよろけていった。
「ってか傷ってレベルじゃなくてもう割れてんじゃんよほぼ!
どうせコートのポケットに突っ込んだまま家から持ってきたんだろ、ああ!?
そうやって、人間として最低限のマナーがなってねえからフラれんだよ毎度!
死ね! 死ねこのチビ、出っ歯、この……ああ! もうマジ最悪!」
「ご、ごめんなさい……」
「ホントに、見た目と一緒に中身も成長してないわあんた……」
美香の言葉に、今朝の告白の返事が辰美の中でフラッシュバックする。
『君のこと嫌いなわけじゃないんだけどね。
なんていうか、君のことやっぱり「女の子」として見られないかも。
部活じゃ先輩後輩でずっとやってきたからさ、可愛い後輩ではあるんだけど、その、ゴメンね』
「どうせ……クリスマス前に彼氏作ろうなんて浅はかな目論見でしたよ!
どうせガキですよあたしゃ! あ、もうダメかも」
砂場で立ちすくんでよよと泣きだす辰美にほだされて、美香も彼女のほうへ歩み寄った。
そして身長差のある辰美の頭をそっと抱き寄せて、
「まあ、こうやってあたしといつまでもつまんないどつき漫才やってりゃ、知らないうちに成長してるかもよ?
……でもあんた、ポケットに何入れてんの? めっちゃぎっしり詰まってる感覚するんだけど」
辰美を抱いたまま、コートのポケットを探った。ひと掴み取り出そうとすると、
がさっという紙の音と共に中身が砂場にこぼれ落ちた。
「げっ、何これ!」
美香はすかさずしゃがんで、足元にできたゴミの山を拾おうとする。
「何このプリント、新型インフルエンザ流行につき感染時の対応……学校の保健だよりか!」
茫然としている辰美をよそに、美香は点検を続ける。
「中身が二、三個残ってるっぽいチョコボールの箱」
「う、うん」
「文庫本の帯! 捨てろよ!」
「そ、そうだね」
「100円ライター!? なんで、まさかあんた煙草吸ってんの!?」
「あ、それは拾ったの! オイルまだ全然残ってるし何か使えるかなと思って!」
「んなもん拾うな!」
「ご、ごめんなさい」
「MD! これも誰かからの借り物か!? ちゃんとしたとこで管理しとけ!
鉛筆削り! これも拾ったのか!? お前シャーペンだろ!?」
「だって大学受験は鉛筆でって先生が」
「あと二年もあんだぞ、バカか!? これはレシート、レシート、レシート……
使い終わったホッカイロ、なんかストローの袋、またチョコボールかよ今度は空き箱だな、ちゃんと捨てろ!
どっかのポイントカード、しかもあんたの名前じゃないし! 赤い羽募金の羽根、ブレザーにでもつけとけ!
あとは紙くず、紙くず、紙くず……丸めたティッシュ、最っ低! やっぱあんたダメだわ」
美香はしゃがんだまま膝に鞄を乗せて開き、ビニールのエチケット袋を取り出すと
そこにゴミの山をまとめて放り込んだ。
「ああ待ってチョコボールとMDは返して」
言われたふたつだけさっと取って辰美に投げつけ、袋の口を縛ってしまう。
「……靴の跡、払ったら?」
辰美は言われるがままにコートの砂を払った。ゴミ袋を持った美香は溜め息を吐きながら立ち上がる。
「反対のポケットのやつも全部出せ」
「いや、もういいよ」
「あたしのCDと一緒に何入れてやがった、出せ!」
美香がコートの反対側のポケットへ手を伸ばそうとするのを、辰美が半歩引いてかわした。
と、辰美のローファーが砂に埋もれていた何かを踏みつける。
ポケットを狙う美香を警戒しながらそのまま踵を使って掘り出すと、それは小さな長方形の紙の箱だった。
振り返って拾った。汚れた白い箱にピンクのリボンが巻いてある。
リボンと箱の大きさから見て、口紅か何かの化粧品を収めたものらしい。
紙をちぎって開けてみるとやはり、新品の口紅。
キャップを取り、ぴかぴかの黒紫色のチューブをひねると、赤味の強いピンクのスティックが覗いた。
「おおお……」
「やめとけよ、んな拾った口紅なんて! 何ついてっか分かんないよ!」
「だってまだ新品だよ」
「そういう問題じゃなくて」
「じゃあ、これあげるよ、CDのお詫び!」
「ふざけんな!」
拳で殴られた。
ふたりは近所の『ランタンバーガー』で昼食を取って、それから別れて帰った。
帰り際、美香が手を振りながら叫ぶ。
「アレ使ってみたりすんなよ! どうせ砒素とか盛ってあんだよ、死ぬよ!
大体あんたに色合わないし! クレヨンでも塗っといたほうがマシだよ!」
(見た感じは、本当に未開封の新品なんだけどな)
両親が出ていて、彼女以外誰も居ない家で辰美は洗面所の鏡に向かう。
軽い癖のある長い黒髪、少し巻いた前髪が広い額に垂れている。
目は大きいが割りに切れ長で、黒目が小さいせいもあってあまり強い印象を与えない。鼻は普通の高さ。
口は薄くて横長、上唇がちょっとめくれて出っ歯気味だ。色も白くない。ごくごく平凡な顔だった。
140センチ台の身長に、ぶかぶかのブレザーが似合っていない。
手を洗ってから、高出力仕様のはずだったメイクを落とそうとして、はたとポケットの口紅に気づいた。
取り出して眺める。鏡に映る、グロスを塗っただけの唇の色と比べようとした。
(ちょっと赤が強かったかな……確かに合わないかも。美香なら合ったと思うんだけど)
美香は背も高いし、何より美人だった。大人っぽい色も合うはずだ。少し気の弱い、年上の彼氏が学校にひとり居る。
(くそっ)
口紅をひねった。スティックの代わりに、針のように細くて白い二本の腕が、万歳の格好で飛び出した。
「ひいっ」
口紅は辰美の手を離れて飛び、鏡にぶつかってから洗面台の中に転がった。
なおも口紅からは小人のような身体が、チューブから抜け出そうとしてもぞもぞとうごめいている。
辰美は飛びすさった。しばらく逃げ出すこともできずにその場で硬直していると、
洗面台を口紅が転がるかすかな物音も止んで、それから小人の頭が台から現われた。
「こんにちはっ!」
「は、はい!」
どうやら女性らしいその小人は、洗面台の縁によじ登って立ってみせた。
丈の合わないつんつるてんの赤いパンツスーツ姿で、背中にはやはり赤い透き通った昆虫の翅が生えている。
茶色い長い髪をしていて、辰美はパニック状態の思考の片隅で、何だか美香に似ている、と思った。
赤いスーツの女は満面の笑みらしき表情――
顔が小さい上、洗面台の照明で逆光になったせいもありよく見えなかった――を浮かべて、ハキハキと喋り出した。
「百瀬辰美さん、ですね?
初めまして、マジックルージュの解説係であなたのマネージャーになる妖精のペッキーです、よろしく!」
「ここ、こちら、こそ……」
「私は魔法界の小国、グラヴィーナから魔法少女をスカウトし監督するために派遣されました。
そしてあなた、辰美さんはめでたくこのマジックルージュの使い手に認められたのです! うれしい?」
「いや、そんなに」
「遡れば70年前、ヨーロッパはドーバー海峡に突如として出現した『ゲート』からの魔法の使者を皮切りに、
長らく絶えていた現実界と魔法界との交流が再開したことは、あなた学校の歴史の授業でも習ったわね?」
「はあ」
「以来両界の国交は続き、今日では文化、技術、あらゆる面で相互依存の関係にあることは万人がご存知のことです。
例えばそう、この蛍光灯!(と言ってペッキーは背後の照明を指差した)
マナソニック社の新開発で生まれたマナフィラメントなら、長持ちで光も柔らか、
光魔法で癒しの心理効果もあります! そうよね!?」
「う、うちは普通の旧式の蛍光灯ですが」
「あらそう。ま、いいわ。しかし恩恵ばかりではなく、犯罪に関しても魔法界からの影響は少なくありません。
横行する魔法犯罪への対策として、『魔法少女』の文化が発祥したのはここ、日本!
マッチョなおっさん連中ではなくキュートな十代の女の子の魔法の才能を開拓し、
地域から犯罪の芽を摘んでいく! 今では全日本魔法少女連盟が各地の魔法少女を統括、管理していますが」
「は、はい。それで?」
「本当はこういうスカウトの仕方は法律で禁止されているんだけど、今回は緊急事態なので
こうして突然お邪魔させていただいた訳ですが」
「無許可!?」
「関係書類は一応用意してあります、だから事後承諾って形になるわね」
そしてふたりは見詰め合ったまま、しばらく何も喋らなかった。口火を切るように、ようやく辰美が尋ねる。
「あたしが、魔法少女、ですか?」
「そうよ。あなたには魔法のスピリットとソウルがある! マジックルージュを操るヒロインにうってつけ!」
「小学校入学のときの魔力試験では普通人との結果でしたが」
「でも、魔法の才能は十代の二次性徴によって大きく変化することは保健の授業で習ったでしょう?
それに、このマジックルージュは特殊な変身魔法を使用するから、普通の魔法少女とはちょっと違うのよ」
「さいですか」
「どう? 納得できた?」
「いや全然」
そう答える辰美に、ペッキーは大げさな溜め息を吐いた――美香そっくりに。
「ま、突然押しかけちゃったんだしね……試験期間を設けましょう。
しばらくあたしの身柄と一緒にこのルージュを預けるから、
そのあいだに変身する機会があればそこで考えてもらうわ。もし駄目なら、あなたを諦めて別の人を探します」
電話が鳴った。辰美は動かなかったが、ペッキーが催促をした。
「電話に出てらっしゃい。あたしは大丈夫、いきなり消えたりしないから」
消えてほしいよと思いながら、辰美は電話へ急いだ。何故平凡極まる容姿と才能の自分が選ばれたのか?
見た目はチビで出っ歯、勉強もスポーツも並みかそれ以下。部活の書道部でもヘタクソ。
何故自分が? しかし、今まで選ばれてきた魔法少女もほとんどが最初そう思ったんだろう。
(そりゃ70年前なら素敵なことだったろうけど、今じゃホントによくあるテレビニュースの世界だわ)
受話器を取るなり、美香の罵声が響き渡る。
『こらてめえ、CD中身ねえぞ!』
「うそ」
『今すぐ持ってこい……公園で待ってるから』
「何で公園? 外寒いよ、もう出たくないよ」
『これからデートで待ち合わせなんだよ』
「岩崎くんと? お邪魔しちゃ悪いよ、また後日……」
『それが信用ならないからこうして電話してるんですけど!? 今ならケース持ってっから、早く!』
「わかったよ」
電話を切ると、階段を駆け上がって自分の部屋に行った。ラックからCDケースをごそっと引き出し
一枚一枚開けて中を確認する。あった。アイドルのCDのケースに何故か借り物が入っていた。
「『タンクメイジ』、最近流行りのオルタナティブ・マジックのバンドね」
いきなり耳元で声がして、辰美は驚いた。いつの間にかペッキーが肩に乗っている。
「マジック(Magick)は60年代末のサイケデリック・ロックと魔法国アルビオンの伝統音楽が合わさった
イギリス発祥の音楽ジャンルね。70年代初頭に流行したけど、その後すぐのパンクブームに押されて下火になったわ。
それから90年代、グランジ以降のアメリカン・オルタナティブ・ロックの流れの中で一部再評価が始まり、
タンクメイジは70年代マジックの影響を公言するグループでは今一番売れてるバンドね」
「へ、へええ」
「ロックは好きよ。あたしのお母さんは、ストーンズの69年ハイドパーク・フリーコンサートで飛んだのよ」
「はあ」
「とりあえず、CD返しにいかないとね」
辰美は言われるがまま、胸ポケットに口紅とペッキーをしまい込むと、制服も着替えず公園へと走った。
ポケットの中で揺さぶられながら、ペッキーが話す。
「私がこの地域に派遣されたのには理由があるのよ。
祖国グラヴィーナではつい数年前、革命が起こったの。
圧制を敷いていたグラヴィゾンド帝国が倒れて、民主制の新政権が興ったわ。
でも問題が残っているの。国内外に帝国軍残党が潜伏していて、ここ日本にも一派があるわ。
逃げ出したのは、革命以前白色テロで悪名を馳せた筋金入りの殺し屋たち。
危険な魔法技術を密輸して、この国にも悪影響を与えている。
そして連中は現在行方不明のグラヴィゾンド帝国皇太子の命令と称して、暴力で新政府転覆を目論んでいるとも。
連中を止めるにはマジックルージュの力が欠かせないと考えた新政府が、私を送り込んだわ。
禁断の魔法技術を無効化し、現実界から通じた根を断つためにはマジックルージュの威力を示さなければ」
「で、ここに、そのなんとか帝国が来てるってこと?」
「魔法犯罪組織が魔法少女と戦うには訳がある。政治的宣伝――これにはテロも含むけど、それと技術力の宣伝!
魔法少女を相手に戦闘用の魔法や使い魔の新技術を実験して、ブラックマーケットで売るのよ。
一種典礼化された、魔法少女が目的のテロなら、大きな戦争や紛争に関われない小さな組織でも
やがて本格的な事業への足がかりを作ることができるのよ。ここ、東京ならそれなりに魔法少女の層も厚い。
彼女たちを退ければ、宣伝効果はなかなかでしょうね。でも、マジックルージュを手にしたあなたなら戦える!」
「ちょっと、っていうかかなり怖いよ。そんな連中と関わりたくないなあ」
「でも、今誰かが戦わないと、いずれはもっとひどいことになる」
通学路を走り抜けていく。公園が見えたあたりで、ペッキーが叫んだ。
「止まって!」
辰美は立ち止まった。この寒空の下、公園には何故か人だかりが出来ている。
「はい?」
「魔法の反応があるわ」
「蛍光灯じゃない?」
「違うわ、もっと強い反応! さっそくね……」
「勘弁して」
「あの、とりあえず離してもらえません?」
「無理よ。もうしばらく待ってちょうだいね」
私服姿の美香が、ジャングルジムの上で黒い鞭で縛られて動けなくなっている。
鞭を持っているのはナチス風のデザインのカーキの軍服に鞍型帽子の、銀髪のボブカットの女。
女の隣にはもうひとり、エプロンドレス姿の少女が座っている。
「ねえラベンダー、この使い魔、デモンスネイルはあなたの宣伝通りの威力があるかしら?」
そう言って、軍服の女はジャングルジムの横に立つ巨大な怪物を見た。
カタツムリというよりはオウム貝のような、灰色の巨大で分厚い殻を背負った筋骨隆々の人型の使い魔で、
その背丈は貝殻のせいで腰をかがめていても、ほぼジャングルジムと同じほどの大きさがあった。
「うちの期待の新製品です。お宅の持ち込みで、ようやく実用化にこぎつけましたからね」
人だかりを見下ろすラベンダーと呼ばれた少女はその名の通り、ラベンダー色のエプロンドレスに靴、
ラベンダー色のリボンの巻かれた麦わら帽子、二つおさげの髪と瞳までラベンダー色だった。
目のぎょろっとした、そばかすだらけの顔の長い色白の女で、
物陰から様子をうかがう辰美は「赤毛のアン」をラッカーで塗り替えたみたいなやつだと思った。
「ああもう、最悪の予感的中だわ……」
「大丈夫よ、あなたならきっと出来る!」
辰美は頭を抱えた。ペッキーが励ますが、一向に効果はない。
「どうして捕まるかなあアイツ……」
「美香!」
ダウンジャケットの男子高校生が、公園の周りの人ごみをかき分けてジャングルジムに近づいていく。
辰美にも見覚えのある顔だった。
「げっ、岩崎くん」
「シゲ! 来んなよ、お前絶対役に立たないから!」
「彼女の言う通りにしたほうがいいわね」
軍服の女が言う。しかし岩崎は、意を決した様子で構わずジャングルジムによじ登ろうとする。
と、軍服の女が鞭を持っていない空いた手の指先を彼に差し向けると、
一瞬の稲光の後に、ジャングルジムの骨組みを掴んでいた岩崎がばったりと仰向けに倒れる。
「シゲ、おい、ちょっと!」
「大丈夫、気絶させただけよ。私としても余計な怪我人は出したくないわ、目当ては魔法少女だけ!」
「そろそろ来てもいいはずなんだけどなあ」
ラベンダーがやはりラベンダー色のベルトの腕時計を見て言った。
(ここに来てます、ってか)
「辰美、覚悟はいい?」
「全然よくないですけど、やるしかないんでしょう。まさか死んだりしないよね?」
「多分大丈夫」
「多分てねあんた……あ」
公園を囲む木々の枝をなびかせて、一陣の風と共に、箒に乗ったとんがり帽子の魔法少女が登場する。
少女は箒を公園の中央に停め、降り立つとバトンをジャングルジムの女たちに突きつけて叫んだ。
「魔法少女ミミックプリン、参上!」
「こんにちは。私はロック、プリズンロックよ。
魔法組織インペリアル・コンデムドから派遣され、今日あなたと戦うことになったわ」
(なるほど、あの魔女っ子あたしと同い年くらいだな。でも、あの名乗りは恥ずかしくないんだろうか……)
辰美は様子をうかがっていたが、
「インペリアル・コンデムドはグラヴィゾンド帝国残党の偽装組織よ。となると、彼女は勝てない」
ペッキーは言い捨てた。なおも傍観していると、前口上もそこそこにミミックプリンがバトンから金色の光線を撃つ。
狙いはプリズンロックの鞭だったが、使い魔がわずかに動いて盾となった。
光線は使い魔の岩のような肌に弾かれて消えた。ミミックプリンが唇をかみ締める。
「こうなったら肉弾戦ね」
「どうぞ、頑張って」
見物客もなんやかんやと野次を飛ばす。ミミックプリンはジャングルジムを隠すように立った使い魔へ突進していく。
使い魔が、盲目の蛇のような顎ばかりの頭をもたげる。
突進から大きく上段振りかぶり、黄色い光をまとったバトンを胸板へ叩きつける。しかし使い魔はびくともしない。
反撃。丸太のような腕の一振りで、ミミックプリンの身体が公園の奥の茂みへと消し飛んだ。
ジャングルジムの上のふたりは無表情で戦いを見物している。
美香は顔面蒼白で、魔法少女が消えた茂みのほうを見つめた。
辰美も目で軌跡を追った。十秒ほどして、木の枝葉を焼きこがす極太の光線が飛び出した。
見物人たちが眩しさに目をつむる。辰美も目を覆った。
光線は使い魔をじりじりと焼くが、やはり効き目がないまま、やがて光が消えた。
きな臭い匂いが辺りに立ち込める。音がして、茂みの中を何かが動いた。
使い魔が耳まで裂けた口を開いて、音のしたほうを狙って飛沫と共に毒々しい緑色の炎を吐いた。
炎は水鉄砲のように放物線を描いて、茂みを焼き払っていく。
そして物陰からミミックプリンの悲鳴が上がったところで火炎放射が止む。
「ゲームセットね!」
ロックの言葉と同時に、ラベンダーがジャングルジムを降りて、悲鳴のした場所までスカートをつまんで走っていく。
少しして、魔法少女を探り当てたらしい場所からラベンダーが言った。
「死んじゃいない。軽い火傷と、毒気を吸って気絶してるだけだ」
「ふうん」
ロックはつまらなそうな顔で唸った。そこへ、美香がおずおずと言い出す。
「あの、人質の役目は終わったでしょうか?」
「悪いけど、もうちょっと待っていただけるかしら? 待っていればもうひとりくらい来るでしょう」
「そうですね、応援の魔法少女隊が来るかも知れない。それまで待ってもいいでしょう、ちょっと冷えるけど……」
戻ってきたラベンダーの言葉で、捕まっている美香と隠れている辰美はがっくりと肩を落とした。
「ホント、寒くて死ぬわ!」
「ま、ま、ここに居ればきっとそのうちテレビにも映るよ。人質ってのも人気出るから」
「負けた魔法少女よりはね」
辰美は一端公園から離れ、人気のない路地に隠れた。
ポケットから口紅を取り出し、ペッキーを解放して言った。
「変身するわ。方法を教えて」
「決心ついたのね! よし、行くわよ! 鏡は持ってる?」
「ないよそんなの!」
「まあいいわ、そうね……」
ペッキーは翅で宙を飛びながら、辺りを見回した。路上駐車のワゴン車を発見すると、
「あれの窓かサイドミラーでいいわ。口紅を引くのよ」
「それだけ?」
「それだけ! 綺麗にね」
辰美とペッキーはワゴン車の助手席側の窓に顔を映した。暗いが、どうにか鏡代わりにはなりそうだ。
紫色のチューブをひねって、スティックを出す。口紅をゆっくりと、慎重に引いていく。緊張で震える指をどうにか御す。
「そう、ゆっくり、丁寧に……」
身体から血の気が引いていく。それは緊張のせいではなく、魔法の効果らしかった。
全身が氷のように冷たくなっていくようだった。指が止まった。口紅は塗り終わっていた。
窓ガラスに映る顔は真っ白だった。全身の筋肉が途端に強ばって、びくとも動かなくなる。
そして不意に目の奥から、焼けつくような熱があふれ出した。
視界が紅色の光で霞んでいく。凍りついた身体が、次第に熱さでほぐれていく。
光が晴れて視力が戻ると、ガラスに映った顔も変わっていた。手にしたそれも、もはや口紅ではなかった。
平凡な女子高生はガラスのどこにも映らない。知らない顔、魔法少女の顔。
「これでもう大丈夫、あとは身体が教えてくれる」
辰美はくるりと踵を返し、元来た道を戻っていく――ブーツの足音を響かせて。
「マナ・カウンターに魔法の反応あり」
ラベンダーが、手にしたガイガーカウンターそっくりの計器をロックに差し出す。
「二番手が来るわね。でも、今度は使い魔は下げておきましょう」
「どうして?」
ロックは肩をすくめた。
「使い魔が強いのか、魔法少女が弱いのか、これじゃ分かんないでしょう?」
「はっきりと結果が出るまでは、共同開発のプランも先送りですか」
「お金は大事よ」
美香が鞭に縛られたままの身体をくねらせて、
「どうでもいいけど、トイレ行きたいです、ハイ……」
「我慢なさい。次が終わったら離してあげるわ。私も寒いのは嫌い――監獄みたいで」
「来ましたよ」
人ごみがふたつに分かれて、彼女のための道を作った。
人垣を横目に公園へ入っていく彼女はバニーガールの衣装だった。
背の高い女だった。淡い紅色をした燕尾服の下は白いレオタード、
足には白い網タイツに、膝から下は燕尾服と揃いの色のエンジニアブーツ。
服の袖はパフスリーブで膨らんで、剥き出しの二の腕の先にはやはりピンクの指出しグローブ。
首にはクリップ式のピンクのボウタイ、頭にはピンクのシルクハット、鍔から白いバニーの耳が高くまっすぐそびえ立つ。
オールバックの金髪は後ろで一本にまとめている。ずれた帽子を直す。紅い瞳がロックを睨んだ。
「あら、今度の娘は名乗りはなし?」
「魔法少女パステルルージュ!」
ロックの耳元で声がした。彼女が振り向くと、ペッキーが軍服の肩章に腰かけている。
横にいたラベンダーがぐいと顔を近づけるが、ペッキーは飛び去ってバニーガールの肩に止まった。
「どうかな?」
「いーんじゃない」
バニー――魔法少女パステルルージュ――辰美が答える。
彼女の右手には金属光沢のある暗い紫のバトンが握られている。
手首を返して一ひねり。バトンの先から、昼間の光線の中でもはっきり見えるほど明るい紅色の光の刀身が伸びた。
「どうやらやる気のようね」
ロックがどこからともなく黒いホイッスルを出し、強く吹いて甲高い音を立てる。
すると、公園の地面を掘り返して無数の黒い人影の一団が出現した。
「こいつらスパルトイはただの人形よ、加減なくやって構わないわ。そうしなければ、あなたが殺されてしまうかもね」
軍服に鉄兜、ガスマスクのスパルトイたちは、棍棒を手に公園の入り口へ陣形を組んで迫っていく。
だがルージュは構えも取らず、硬い地面にブーツを鳴らしてまっすぐ歩いていく。
ひとりのスパルトイが前衛から抜け出して、彼女の行く手を遮った。ルージュの片足が持ち上がる。
前蹴りだった。使い魔がミミックプリンを弾き飛ばしたのに勝るとも劣らないスピードで、
蹴りつけられたスパルトイが陣を乱し、隊列をなぎ倒して転がっていった。ラベンダーが口笛を鳴らして手を叩く。
茂みに滑り込んでようやく止まったスパルトイは腹が潰れ、汚れた配管と配線からオイルと火花を散らしながら痙攣する。
「本当に人形みたいだ」
肩のペッキーが頷く。
「そういうこと。さあルージュ、みんなやっつけ――」
砂埃が舞ったかと思うと、ルージュの姿が消えた。見物人たちが声を上げる。
美香もロックもまだ、ルージュが消えた地点を見ていた。ラベンダーひとりが目で上空の影を捉える。
「上だ」
ピンクの影がジャングルジムに降り立つ。咄嗟にラベンダーが身を乗り出し、ロックを庇った。
だが斬り落とされたのは彼女の鞭だった。美香がジャングルジムから使い魔の足元へ転げ落ちる。
そして鞭がほどけると、感覚の戻らない腕をついてあたふたと起き上がり、公園の奥の木立へ逃げていった。
一方のルージュはジャングルジムの鉄棒をブーツの幅だけ歪ませて跳躍すると、
今度は美香が逃げていく方向の公園の木の天辺に爪先で立ち、剣をかざしてジャングルジムを見下ろした。
「彼女に手を出すな! 彼女に手を出さなくても、私が相手してやる」
ロックは慌ててラベンダーを押し退けた。
「ちょっと、余計なことしないでちょうだい……!」
「鞭を見て」
ラベンダーは短くなったロックの鞭を取り上げて、切り口を見せた。
鞭に仕込まれた鋼鉄のワイヤーの束はものの見事に切断され、滑らかな断面が磨かれたように光っていた。
「デモンスネイルの対魔結界にはうってつけのテスト相手です」
にやつくラベンダーを更に脇へ押しやり、ロックはルージュを見上げて言った。
「このまま逃げたらただでは置かないわよ」
「逃げるまでもないさ」
使い魔が毒の炎を吹き上げる。ルージュの足元の木がたちまち黒く焼け焦げて倒れるが、
その前にルージュは跳んでいた。着地点は公園のど真ん中、一体のスパルトイの頭の上。
卵を割るような音がして、鉄兜がへしゃげた。黒いオイルが溢れて土を汚す。
スパルトイの頭にまっすぐ立ったルージュは、次の跳躍から別のスパルトイ目がけて斜めにドロップキックを蹴り込み、
蹴られたスパルトイは胸を潰されてその場に横たわった。
キックから素早く身を起こすと、今度は殺到したスパルトイの足元を腕一本に持った剣でなぎ払う。
上半身と下半身の泣き別れて崩れ落ちる兵士たちを潜り抜け、正面に待ち構えていた敵の首を
振り下ろされる棍棒もろとも逆袈裟に斬り落とした。後ろに控えていた次峰の攻撃はすんでのところで
脇を通り抜けて避け、返す刀で背中を叩く。刀身の熱がスパルトイの背中を焼き、脊髄部の配管が破裂する。
飛び散るオイルが衣装を汚すのにも構わず、押し寄せる敵をなおもかわし、斬り捨てる。
隊列の最後のひとりを蹴り殺すと、彼女の通ったほぼまっすぐの道に沿って、
完全に壊れるか立ち上がれなくなるかして戦闘不能に陥ったスパルトイたちの垣根が出来上がっていた。
ルージュは顔についたオイルを裸の腕で拭い、残された使い魔と対峙する。
「こいつが真打って訳だ」
「そういうことよ。まずは合格点――問題はこいつに勝てるかどうかよ」
使い魔がにじり寄る。ルージュは真っ向から飛び込んで、胸に突きかかった。
使い魔が動きを止める。しかし光の刀身は胸板にぶつかったところで止まり、じりじりと皮膚を焼くばかりだった。
反撃のパンチが、棒立ちになったルージュを襲う。横に転がって避ける。
起き上がるなり更に踏み込み、使い魔の右膝にローキックを見舞う。
材木がへし折れるような大きな音がして、使い魔の巨体が傾いだ。その隙に離れる。
追いすがる毒の炎を屈んでやり過ごす。どこからともなく、ペッキーの叫び声が聞こえた。
「マジックルージュには必殺技があるわ! あなたの身体と剣が知ってるはずよ、それでとどめを刺しなさい!」
ステップを踏んで火炎放射から逃げながら、ルージュはバトンを初めて両手で握った。
刀身の色が暗く紅みがかる。寝転がる使い魔から目測で距離を取る。炎を避けつつも、段々と敵に近づいていく。
(もうじき踏み込めるな)
「デモンスネイル、さっさと決めろ!」
ロックの声に反応して、四つんばいになった使い魔の喉が唸りを上げた。火炎放射が一瞬の中断を挟むと、
勢いよく吐き出した毒液の霧を爆発させ、巨大な火球をルージュに見舞った。
しかし、火はあっという間にかき消される。振り上げたルージュの剣が炎を散らした。
ルージュの剣は今までの一文字ではなく、その光は溶接の火花のように荒々しく迸っている。
天を指す剣の形は、まるで山桜のようだった。
「秘剣――」
風を切るような踏み込み。剣の残像で、ようやく彼女の動作の軌跡が見えるほど。
大きく弧を描いた剣は伏した使い魔の頭部を正面から捉えた。
「「「「「「「「「「「「「「「桜華!」」」」」」」」」」」」」」」」
雷が落ちたような音に誰もが耳を覆った。閃光が目を眩ませた。地響きが轟いた。
巻き起こった風が使い魔の左右に砂埃の壁を作った。砂が止み、視界が戻ると、
剣を受けた使い魔はぼろきれのような皮膚と粉々の肉片の山になって、公園の地面に広がっていた。
真っ黒に焦げた左右の手足の一部と、やはり焼け焦げた殻の残骸の他に、
使い魔の元の姿を思い出させる部品は残っていない。
ルージュは剣を振り下ろした格好のままで立っていた。煤とオイルで汚れてはいたが、
敵を倒したと分かってから動き始めた彼女に、特にダメージを受けた様子はなかった。
ルージュがジャングルジムを見ると、すでにロックとラベンダーは消えていた。
「捨て台詞もなし、か」
知らぬ間に公園の上空ではヘリコプターが旋回していて、人だかりもぐっと人数が増えている。
見回すとジャングルジムの陰に、逃げたとばかり思っていた美香が茫然と立っていた。
彼女の横には、やはり呆けた顔で彼氏の岩崎がいた。美香が前に出る。
「あ、いや、何ていうか……ありがとうございました」
辰美はルージュの姿のまま彼女に微笑んで、拍手し歓声を上げる見物人たちにも
うやうやしく会釈をしてみせると、おもむろに一跳びしてそのまま公園から逃げ去った。
辰美は家の鏡に向かう。変身は解け、見慣れたいつもの顔が映っている。
「よくも振り落としてくれたわね」
気づくとペッキーが洗面台の縁に座っている。しまった、という顔をして辰美が頭を下げる。
「ご、ごめん! 気づかなかったわ」
「まあいいわ。初陣は大成功だったわね――やはり私の見込みは間違っていなかった!」
ふと、辰美はペッキーの先の言葉を思い出す。
「これって試験期間なんだよね?」
「あら、あれだけの活躍を見せておいてまだ決心つかない?」
「まあ、その、一応……もうしばらく預かっときます」
「分かったわ。ありがとう」
その日の夜。電話口の美香は普段と変わらぬ口調でいて、辰美はほっとした。
CDは明日でいいや、と美香が言う。
「それにしても、何だっけえ、パステルルージュ?
どうしてか分かんないけど、あの人見たとき最初、なんか辰美に似てんなこの人、って思ったんだよね」
「な、何を仰る」
「まー雰囲気全然違うけどね。あんたを大人にして、ヤバくした感じ?」
「や、ヤバイっすか」
「いやあ格好よかったよ、すごかったんだから……」
電話を終えて、辰美はベッドに寝転がる。ペッキーはまた明日と言ってどこかへ消えてしまった。
ケーブルテレビの魔法少女情報専門チャンネルにはパステルルージュのニュースが一瞬映って、
それからすぐ別の番組になってしまっていた。テレビを消した。
何が何だか分からない。変身が解けた後も、現実感は喪失したまま。
失恋のことも何もかも今日一日丸ごとが夢のようだ。
一度起き上がって電気を落として、辰美は眠り始めた。目を閉じると、瞼の奥にあの紅い光が残っていた。
投下終わりました
>>413 スレ立て乙です!
>>427 投下乙です!最近は新作ラッシュで盛り上がりが
いい感じですね
ウメ子は魔法少女である。
使命は前回判明した。
「ふあー……この時期は寒くて眠いわねぇ……。よし、二度寝しよっと」
「って、寝てんじゃねええ!!!」
布団にもぐりこもうとしたウメ子の頭を、メウたんがスパコーン!!とはたく。
「あいたっ!? メウたん、何するのよ!?」
「何するじゃねぇよ! おまえ使命を忘れたのか!」
「はぁ〜、そんなの分かりきってるじゃない。私の使命は次スレが立った後のスレを埋めること」
「分かってるなら寝てる場合か!」
「そーんな焦らなくたって、どうせまだまだスレなんて終わらないわよ。年末年始でみんなのんびりしてて……あれっ!?」
ウメ子はスレの残り容量を確認して我が目を疑った。
昨年には130KB以上は残っていた容量が、いつの間にか5KBを切っている!?
「分かったらとっとと起きろ! 中途半端な残りスレを埋めるのがおまえの仕事なんだよ!」
「ちぃぃ、新しい書き手だかなんだか知らないけど好き勝手にスレを進めてくれちゃって!! この私が中身の全く無い文章を水増ししてスレを埋め進めるのがどれだけ大変なことなのか分かってるのかしら!?」
「書き手の方々に逆恨みしてんじゃねぇ! 黙ってとっとと使命を果たせ!」
「コ、コンチクショーーーーウ!!!」
やけっぱちになったウメ子は、梅の枝の杖を振り上げる!
あっ、枝の杖ってなんか分かりづらいな!
「……っても、よく考えたら何すればいいの?」
「お、俺に言われても……」
「なんだかなぁ。使命って言えば聞こえがいいけど、ヒマな使命よねぇ」
「確かになぁ。ただダラダラしゃべくって埋めるだけじゃ飽きるよな」
「ふーむ、これはなかなか難解な問題だよメトソンくん」
梅の小枝に火をつけて口に咥え、あごに手を当てて思案のポーズを取ってみるウメ子。
もちろん元が残念な頭では、カッコつけたところでロクな考えが湧くはずもない。
「あっ、そーだ! お姉ちゃんに電話してみよっと!」
案の定、ヒマだから知り合いに連絡を取ってみるという非常に安易な手段を閃いた。
「姉ちゃん? ウメ子って姉ちゃんいたのか」
「いたのよ! 本邦初公開(?)、これが埋め魔女のお姉さんよっ!」
携帯電話……は持ってないので家電で姉の下へ電話をかけるウメ子。
「あー、もしもしお姉ちゃん? ひっさしぶりー、元気してたぁ? ん、何の用かとっとと言えって? そりゃもちろんヒマだからおしゃべりに付き合って欲し―――」
ガチャァン!と、脇に居たメウたんにも聞こえるぐらい大きな音を立て、一方的にかけた電話は一方的に打ち切られた。
「……怒られた。『この時期はシュラバなのだ、下らん用事でかけてくるのはやめたまえ!』って」
「ウメ子の姉ちゃんって何やってる人なんだ?」
「よくわかんない。たまに出かけるときもあるけど、いつも一人で仕事場に篭ってなんかやってるよ」
「ふーん」
「部屋に引きこもってなんかやってても、世間では変人にしか見られないのにね」
「表に出まくってるけど変人にしか見られてない魔法少女もここにいるけどな」
「……って、そうよ! お姉ちゃんを反面教師として、あたし達は積極的に外に出て活動するべきなのよ!」
「まぁ、そのほうが埋めのための話題は見つかりそうだしな」
「あっ、眼鏡っ子好きでスレに辿り着いた避難所のアナタ! まん丸メガネがトレードマークの魔法美少女ウメ子様の存在も忘れないようにね!」
「めざとく自己アピールしてるんじゃねぇよ!」
というわけで外に出かけた二人だったのだが、しゃべくっている間にスレが埋まってしまったことには気付きもしないのだった。