「(下手すぎるのになんか輝いてるよな。いっそ清々しささえ感じるわ……)」
「(こんなとこであそこまで夢中になって歌えないよな…。なんか格好良く思えてきた)」
「ひーとーつにーなれるのぅさぁ えぇいえんにーなれるのぉさぁー! ……センキュー!!」
誰もいない場所に向かって手を振る男を見て、二人は痛々しい目で男をそっと見守っている。
二人の目は可哀相な子を見る目になっているが、男は相変わらずマイワールド(自分の世界)に入っている。
「次はEXILE…いや、福山雅治で『桜坂』だな。EXILEはもうちょっとテンション上がってからだなー」
「(EXILE聞いてみたくない? なに歌うつもりだったんだろ?)」
「(それよりもまだテンション上がるらしいぞ。っていうかまだ歌う気らしいし…)」
ぼそぼそと小声で話しつつ、二人はそっと男の背中を見守っている。
男はゆっくりと足でリズムを取ると、静かに歌い出した。
明後日の方向に向かって歌う男と、後ろから見守る観客が二名。
一人ジャイアンリサイタルは小さなコンサートに変わり、男の歌声が夜の闇に響き渡った。
「センキュー! センキュー! ……いやーやっぱCHEMISTRYは高いなぁおい! んじゃあ次はちょっと
方向変えて嵐でも歌っちゃうかー!! やべーチョー気持ちィー!!」
爽やかな笑顔で男が一人で喋るのを、背後の観客二名はずっと眺めていた。
桜坂から都合4曲、次こそはEXILEだろうと待ち続け、何故かCHEMISTRYを聞く羽目になっていた。
最初は声をかけようか迷っていたが、なんとなくEXILEが聞きたいという理由で、ずっと男の歌を聴いていたのだ。
「(ねぇ、もう疲れたんだけど…)」
「(ああ、正直俺ももういいかなーと。それにアイツEXILE忘れてないか?)」
二人はしゃがみこんでボケーッと男を眺めている。頬杖をついて、なんでこんなことになってんだろうという顔だ。
「(ねぇ、しょうけら。この歌終わったらどうする? 話しかける?)」
「(……夜雀よ、お前があの男だとしてさ、これだけ熱唱してたのをずっと後ろで聞かれてたって
場合だったら、お前どうする?)」
「(……恥ずかしくて死にたくなるわね)」
「(だろ? だからさ、ここはそっと帰ろう)」
二人は頷きあうと、そっと立ち上がって――振り付けで後ろを向いた男と目があった。
「……」
「……」
「……」
沈黙が三人の間を支配する。さっきまで騒々しかった歌声が止み、そのせいか恐ろしく静かに感じる。
男は上体を捻らせ、首だけ後ろを向いている。夜雀としょうけらは、そんな男と向き合っていた。
痛いくらいの沈黙。男は頭の中が処理しきれていないのか、口を開いたまま硬直している。二人は
そんな男を見て、気まずさと申し訳なさで、つい目を逸らしてしまった。
二人が目を逸らしたのを見てか、男の顔に表情がもどる。
「え、えっと……い、いつから、そこに?」
正直に答えて良いものかどうか迷ったが、早いか遅いかに大して差はないだろうと二人は判断した。
「えぇっと……二曲目の最初辺りから、かな?」
ぽく、ぽく、ぽく、ちーん。そんな音が聞こえた気がした。
「ああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
男は顔を両手で抑えると、絶叫しながらバタバタと道の上を転がり回った。
「ご、ごめんなさい! なんか気持ちよさそうに歌ってたからつい」
「ついじゃねーよついじゃよおおぉぉぉッ!! うわあぁぁぁぁ死にてええぇぇぇぇ!!」
「だ、大丈夫だって! 福山の桜坂は上手かったから!」
じたばたもがいていた男がピタリッ、と止まった。
しょうけらが褒めたのが良しと判断したのか、夜雀も口を合わせる。
「そ、そうよ、すごく上手かったわ! その次のミスチルも良かったわよ!」
「……マジで?」
「マジマジ! だから黙って聞いてたんだって」
慌てて二人が褒める。途中歌詞を忘れたらしく鼻歌で誤魔化していたのは言わなかった。
男はしばらく黙っていると、すくっと立ち上がって、
「途中歌詞忘れてたけどな……」
と、ぼそりと呟いた。
「……」
「……」
「……」
痛々しい沈黙が、再び三人の間を流れた。
三人から離れた場所から、ひっそりと隠れている影が一つ。その影は木の上から気配を殺し、その場を静観している。
三人を見つめる視線は鋭く、鋭利な刃物のようだが殺意は感じられない。
影は静かに男の顔を見ている。
「――あれは大嶽丸じゃねぇか。それにあっちは夜雀にしょうけら。なんで生きてるんだ?」
大嶽丸(おおたけまる)――かつて京で暴れまわった鬼の姿を見つめたまま、影――朱の盆(しゅのぼん)
は静かに三人を眺めていた。
「相変わらず歌が下手だなぁ…」
投下終了です。なんか一斉に登場人物増えてきました
登場人物・参考文献・Wikipedia
鞍馬天狗
濡女
小豆磨ぎ
石ノ目(乙一)
雷獣
隠神形部
山ン本五郎左衛門(名前だけ)
大嶽丸
夜雀
しょうけら
朱の盆
当初の設定とは全てが大きく変わって登場。
・雷獣は鵺と出る予定だった
・大嶽丸は当初色物じゃなく格好良かった
・夜雀、しょうけらはもっとおどろおどろしいキャラだった
・朱の盆はまだ登場する予定じゃなかった
なんで大嶽丸がこんなキャラに……
次回は大嶽丸は放っておいて再び酒呑童子と女郎蜘蛛が登場です
…この二人とも当初の設定とは違うんだよなぁ…
投下乙ー
>>491 支援感謝です。あざーす!
あと酒呑童子と餓鬼の絵あざーす!まだ見れてないけど超嬉しいです!
なぜ特定されてしまったのかわからないんだがw
どういたしまして、毎度楽しみに読ませていただいてますです
マジで!?絵を書いてくれた人だったとは思わなんだですw
偶然かw
乙です!
シリアスとギャグのギャップがたまらんw
これからの展開に期待
そろそろ容量が気になってきたね
ウィキに載せたほうがいいんだが
あざっす!あざーっす!
(翻訳)ありがとうございます!自分が書いた物のキャラの絵を描いてもらってとても嬉しいです!
あざーす!あざーっす!
(翻訳)一言御礼申し上げたく書き込みをさせていただきました。ありがとうございます。
保守!
>>497 髪の濡れた感じとか質感出てていいです!
ちょっと胸大きめ!?
上手い絵描けてうらやましいです
文に絵に乙乙です
そろそろ次スレの話などしつつ、このスレは落とさないでしばらく残しておいたらどうでしょ
WIKIにまだ守って守護紅門しか載せられてないので
女二人は次スレに貼ってもらえんでしょうか
まだ半分も残ってるけど次スレか。容量はどれくらい残ってるんだろ?
今457
480越えて少しすると落ちるっぽい
そろそろやね
過疎っぽいがなんだかんだで500で次スレまで行くってのは凄いよな
そんだけ投下が多い証拠でもあるしこの板で3スレ目まで続くのは少ないだろ
もう少し書き手が増えればもっと活気づくんだろうな
そういえば「外へと続く道の怪談」の続きまだかな・・・・
>>505 俺も続き気になってた
もしかしたら作者妖怪に喰われてるかもしれんな。こう、モニュリと頭から丸ごと・・・
これでよければ依頼してきていいでしょうか
あ、参のじゃなくて参ノか
そこだけ直します
俺はいいと思う
うん、賛成
私は一向にかまわんッ!!
お願いしてきますた
立ててもらえんね…… 依頼スレ上げてこようか
全て他人任せの現代っ子なんでお任せします
っつうかスレ立てるやり方知ってれば自分で立てるんだけどね…
>>515 一般ブラウザなら「創作発表板」のトップから立てられるよ
専用ブラウザなら板を開いて、「新規スレッド投稿」とかそういうのがあるはず。
俺は最近別のスレを立てたので立てられないんだな……
>>514は結局上げてないようなので上げてきます
ご、ごめ おんそく
なんかアクセス悪いようで…
遅れてageてしまった俺カコワルイ
リロードしてなかっただけか…orz
それはそうと立ったとしてもこの後40kbを消費しないと移れないけど
>>517 いえいえ申し訳ない
リロード忘れが最近激しいもので
なんかレスがかぶってしまうねw
このスレの投下まだWIKIに全部載せられてないので
できたら残しといてほしいんですが
把握です
とりあえず後20KB近くは余裕があるので即落ちることはないと思います
>>520 乙です!
>>520 乙です!
新規の書き手さん、長めの投下は次スレでお願いしたい
岩手の海岸、ザンビアたちは潮風に髪を乱していた。
南方妖怪のアササボンサンたちが歌い踊る。
「ウッハウッハー! ウッハウッハー! ウッハウッハー! ハー!」
「ポー!」
妖怪アカマタは哀しげなため息をもらした。
彼ら南方妖怪は今、大麻の栽培・密輸で生計をたてている。
「麻薬中毒であいつらはずっとあの調子だ。
俺だけは大麻はやらないから、まともでいるが……」
だが、アカマタは長い間、悪夢の中にいる気がしていた。
「岩手には雪女郎たちの売春宿がある。地図と紹介状だ。そこから青森に行くといい。
じゃあな」
アカマタはザンビアに紙を差しだした。
「……ありがと」
ザンビアは複雑な表情で受け取ると、ドラキュラ三世、
ワイルドとともに目的地をめざした。
アカマタは西洋妖怪の背を見送り、売人のもとへと蛇の尾を動かした。
「今度の商売相手は芸能関係か。面倒なことにならなきゃいいが……」
未来を憂い、また鬼太郎と運動会で競った過去を思い、アカマタは首を振る。
「どうしてこんなことになっちまったんだろうなあ。鬼太郎……」
自嘲の笑みすら作れず、アカマタは曇った空を見上げるしかなかった。
526 :
絶滅:2009/08/30(日) 15:36:28 ID:GOxmghsq
動物園の隅にあるプレハブの展示場は流行らず、ねこ娘は退屈していた。
「どうしてこんなことになっちゃったのかしら」
剥製や骨格標本を見渡し、ねこ娘は小さくため息をつく。
ニホンオオカミ、ドードー鳥などと書かれたプレートが置かれている。
あるアイドルが先日、公園で裸になって逮捕され、大麻所持で再逮捕された。
つきあいのあったねこ娘はとばっちりで、動物園に設置された
絶滅動物記念館の担当に飛ばされてしまった。
おかげで獣臭さからは解放されたが、退屈で仕方がない。
ローマ法王来日にあわせた、動物愛護団体向けの施設だが、
いかにも間に合わせだった。
要するに、ねこ娘は左遷されたのだ。
昼前に、新しい剥製が搬入された。
ハンコを押し、業者を見送ると、ねこ娘は箱を開け緩衝材を取りのぞく。
「何の動物かしら……」
つぶやいてみたあと、剥製を見てねこ娘は気をうしないそうになった。
「そんな……うそよ……ああ……」
ねこ娘はその場に座り込んだ。プレートには、
『ニホンカワウソ』
とだけ書かれてあった。
「ああ……かわうそ!」
間違いなく、その剥製はかつての友、かわうそであった。
「どうして、どうしてこんなことに……」
ねこ娘の目から床に涙が落ちる。
「鬼太郎……どうしてこうなったの? あんた何してるの……?」
はじめのやつタイトルつけわすれちった
こんくらいの投下なら容量大丈夫だよね
今465kb
余裕余裕
いつも読んでます。
これまでも良かったけど、最近好きな作品が更にクロスして
どんどん展開が素敵になるのでここで私も久々の支援投下です。
が、最後まで書き終わらなかった……
***
次の作品にはほぼオリキャラが登場するので注意。
ラスボスと主人公をめぐり合わせる展開で
うまく原作を使えなかった……
一応、出展で無理矢理原作と紐付けてるけど9割9分オリ設定です。
***
だいぶブランクがあったのであらすじ
(一年以上経ってたのかよ!
まあ、他にいくつか短編は投下してたけど……orz)
吸血鬼の館で門番をしている妖怪
紅美鈴@東方project、主に紅魔郷や非想天則 は、
自分が現職に就く前の遠い昔に
人間の夏目レイコ@夏目友人帳 と主従の契約を結んでいた事を思い出し、
妖怪である事を偽ってレイコの孫、夏目貴志と接触する。
親しくなっていく二人だったが、
ある日、
貴志が東方project・夏目友人帳どちらの世界観にもそぐわない
正体不明の凶悪妖怪、キューコン女@不安の種 に襲われ、
命を奪われる寸前まで追い込まれてしまう。
主人を救うため、美鈴は貴志の目の前で妖怪の力を発揮し、
キューコン女を葬り去った。
だが、やはり二作品には存在しないような、
強い悪意の眼差しがその光景を捉えていたのだった……
530 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/07(月) 00:16:46 ID:1h27udo2
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次スレあるよ