妖怪クロスオーバー 参ノ巻

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112創る名無しに見る名無し:2009/12/24(木) 19:54:06 ID:9FRpVWIj
   
113聖夜の鐘は開戦の報せ!7 ◆Omi/gSp4qg :2009/12/24(木) 19:54:50 ID:0WuI4AH6
 突然、何かが穴ボコさんを貫通した。穴ボコさんは叫び声とともに破裂して、その体は
分解する。
 何が起きたか克也にはわからない。恐ろしさに腰を抜かし、目を閉じてただ時間が過ぎる
のを待つしかない。

 離れて見ていたねずみ男はうろたえ、目をむく。
「げっ、ありゃもしかして妖怪殺し専用ってうわさの槍! 冗談じゃねえや」
 すそをまくり、ねずみ男はさっさとその場をあとにした。

 目を開けた克也の前には、犬夜叉が立っていた。
「さ、サンタ……?」
 克也はもちろん、サンタを信じていたわけではない。だが、すでに何度も妖怪をまの
あたりにし、またいかにもサンタのような男に助けられた今、サンタがいても不思議で
はないという気になった。
「おう、三太らしいな。おまえ、金目当てに妖怪を呼び出したな?」

 とりあえず死の危機から脱したことに、克也は安堵した。あとからやってくるのは、自責、
後悔の念だった。
「ご、ごめんなさい……」
「ま、命が助かっただけ感謝しろよ」
「サンタさん、お、俺はいいんだけど……妹の愛美は、あいつはいい子なんだ」
「ん?」
 それがどうした、と犬夜叉は言おうとした。

 木の裏に隠れてきいていたうしおは、ケーキを買えないでいた克也を先程見ていた。
 うしおはかごめに買い物袋を渡し、手を合わせて頼みごとをした。
「い……サンタさん」
 犬夜叉に近づき、かごめは白い買い物袋をそっと渡す。
「これ、その子にあげて」
「あん? いいのか?」
「いいから、ほら」

「おう、じゃあ、ほら。やるよ」
 犬夜叉は袋を克也に差し出した。
「い、いいの?」
「いいんじゃねえのか? 妹んとこに持ってってやれよ」
「あ……ありがとう!」

 克也はケーキやおもちゃが入った袋を抱え、うれしそうに駆けていった。
114聖夜の鐘は開戦の報せ!8 ◆Omi/gSp4qg :2009/12/24(木) 19:56:04 ID:0WuI4AH6
 出てきたうしおに犬夜叉がきく。
「やっちまってよかったのかよ? あのガキはいい奴じゃないぜ」
「いいんだ、俺があげたくなったんだ」
 うしおは、まぶしいようなすがすがしい笑顔を見せた。
「あの穴ボコ野郎を倒したのもおまえじゃねえか。おまえが渡しゃあよかったのによ」
 ねずみ男の強烈な悪臭に、犬夜叉は何もできないでいたのだった。
「いいよ、俺には似合わないや」
 今さっき妖怪をつらぬき殺した槍を手に、うしおは満足そうにする。

「ねえ、あの、その槍……」
 かごめは草太郎を思い出す。獣の槍を使い過ぎたために、自身が獣になりかけた男だ。
「ごめん、俺んち寺でさ、誰もいないから留守番なんだ。じゃあな」
 手を振り、うしおは走り去った。

「大丈夫かなあ」
 かごめは心配そうに、遠くなるうしおを見送った。
「何だか、あいつは槍の嫌な感じがしねえ」
 獣の槍は憎悪が練り込められた、恐るべき一個の妖怪だ。だが、それを持つうしおには
まったく別の明るさ、爽快さがあった。
「意外と、あいつは槍を使いこなすかもしれねえな」

「ねえ、槍があるってことは、長飛丸は……」
「ああ。どっかにいやがるだろうな。もし悪さしてたら、戦わなきゃならねえな」
 犬夜叉とかごめは、真剣な顔で唐巣神父の教会に向かった。
 その長飛丸・とらが真由子の家でハンバーガーをたらふく食らっているとも知らず。
115聖夜の鐘は開戦の報せ!9 ◆Omi/gSp4qg :2009/12/24(木) 20:00:28 ID:0WuI4AH6
十二月二十四日・二十時

 ぬーべーこと鵺野は生徒たちを帰し、また教室に戻った。
 ゆきめ、広、郷子、美樹は残ってパーティーの後片付けをしている。
「おまえたちもすぐ帰るんだぞ」
 うん、と広たちは気のない返事を返した。
 教師としてえこひいきはしないつもりだが、広には母がいないこともあり、鵺野は特に
目をかけてしまう。いけないなあ、と思うも、単に人間として広たちとは肌が合うのだ。

 不意に強力な霊気を感じ、鵺野は教室を出た。
「どうしたんだ?」
 異変を感じて、広たちは鵺野を追いかける。
 外の温度は低い。白い息を吐きながら、校庭を走る鵺野は霊気の跡を探した。
『救援要請。どなたか、お願いします』
 鵺野の心に、直接助けを求める声が響く。
「おまえはなんだ? どこにいる?」
『私は人工幽霊一号。そのまままっすぐ、来てください』
「人工幽霊?」

 夜の空気の中を走ると、不自然に歩道に乗り上げたオープンカーが見えた。
「車に霊が憑いているのか」
 オープンカーの運転席には、明るい色の髪を乱した女がうつぶせになっていた。
 鵺野は細い肩をつかみ、女の顔色を確認する。若い女の意識はない。
「事故?」
 追いついた郷子が、心配そうに鵺野にきいた。
「いや、これは妖怪がいたな……とりあえず、救急車を呼んでくれ」
「うん、行ってくる」
 郷子と美樹が電話をしに、学校へ戻っていった。

 鵺野は水晶玉を持って、霊視してみる。
「コブラだな」
「何ですかそれ? 妖怪?」と、ゆきめがきく。
「いや、車の車種だ」
「車の運転ヘタなくせにくわしいなー」
 広が少しあきれて言う。
「う、うるさい。それより、きいたことがある。コブラにボディコン、有名なゴーストスイーパー
だ。美神だったかな」
「ゴースト? 何それ」

「金で妖怪や悪霊を退治する連中だ。俺は大嫌いなんだが、だからってほうってはおけんな」
 鵺野は慣れないながらハンドヒーリングをこころみようと、手をかざした。
116創る名無しに見る名無し:2009/12/24(木) 20:02:13 ID:9FRpVWIj
   
117聖夜の鐘は開戦の報せ!10 ◆Omi/gSp4qg :2009/12/24(木) 20:03:11 ID:0WuI4AH6
「ん? これは……」
「どうしたの?」
「霊体がない」
「死んでるんですか?」
 ゆきめが、白い顔をしてたずねる。
「いや、違う。これは幽体離脱している」

「霊だけどっか行ってるの? 何で?」
 死んでいないことにやや安心して、広はまた質問した。
「わからん。だが、プロだしそのうち戻るだろう。それまで体に霊気を与えて、病院で生命
維持してもらおう」
 魂のない体は生きてはいても、単なる肉塊だ。いずれは生命活動も停止する。
「それにしても、すごいかっこうですね」
 ゆきめは美神のボディコンに目を大きくした。
「精神を高揚させて霊力を高めるために、こんなかっこうをするんだ。恐山のシャーマンも
こんな服を持ってるらしい」
 へー、と広も興味津々といったようすで、美神の突き出た胸、むき出しのももに目をやる。

「あと、女の魅力も魔力の一種だから、こうして利用するんだ」
「ぬーべーも魔力にやられてるんじゃないの?」
 広がからかって言うと、鵺野は赤くなって否定した。
「そ、そんなことはちょっとしかないぞ」
「ちょっとあるんじゃないですか」
 ゆきめが冷たい視線を送る。

 強い妖気の接近に気づき、鵺野は顔を上げた。
「鵺野先生」
 長い髪を結わいた、整った顔立ちの男がいた。
「玉藻……」
 妖狐だが人間を研究している、玉藻だ。
「ちょうどよかった。おまえ、医者だろ。見てくれ」
 玉藻は切れ上がった目で美神を見てから、微笑した。
「その必要はないでしょう。それより、伝えたいことがあります」

「なんだ?」
 不吉な予感をおぼえずにはいられない。鵺野は身を固くする。
「アシュタロス一派が本格的に動きだしました。彼女は何らかの関係者で、襲撃され、魂を
さぐられそうになったので幽体離脱して逃げたのです」
「アシュ? なんだそれは」
「魔族の反体制派。まあ、わかりやすく言えば悪魔のテロリストです」
 小さくうなり、鵺野は黒手袋をはめた左手であごをさすった。
118創る名無しに見る名無し:2009/12/24(木) 20:04:03 ID:9FRpVWIj
    
119聖夜の鐘は開戦の報せ!11 ◆Omi/gSp4qg :2009/12/24(木) 20:07:16 ID:0WuI4AH6
「感じますか? 最近、アシュタロスは天界・魔界・霊界とのつながりを遮断しました」

「馬鹿な! そんなことがあるとは思えん」
「もちろん、一時的なものでしょうがね。これが何を意味するか、わかりますか?」
「つまり……天界・霊界から助けは来ない」
「魔界正規軍もです。ごく小規模な助けはあっても、大部隊が援軍にくることはできません。
人間界は霊的に孤立しました」
 もし大妖怪が暴れだせば、天界・霊界・魔界のいずれかが警察的役目をにない、対処する。
これが基本なので、今までは名のある妖怪たちも目立った動きはひかえてきた。

「ということは……」
「この世界は無警察状態も同然です。天狗ポリスも地獄・閻魔大王府の後ろ盾はありません。
今はまだ妖怪たちもお互いにようすを見合っていますが、ひとたび均衡が崩れれば……」
 どこからか楽しげなクリスマスソングがきこえてくる。
「戦争ですよ、鵺野先生」
 玉藻はあきらめにも似た笑いを漏らした。
「人間がこの状態でやっていけるかどうか」
「だが……人間に味方する妖怪だってたくさんいるさ。おまえだってそうだろ?」
「人間は私にとって研究対象ですからね。なるべく保存したいとは思いますが、私は変り者
のほうですからね。……それにしても」
 玉藻は長い髪を揺らし、背を向けた。

「ちょっとしゃれた敵だと思いませんか? わざわざこの日を選んで攻めてくるなんて……」
 玉藻は微笑をたやさず、指を立ててあいさつする。
「メリー・クリスマス。アディオス、鵺野先生」
 玉藻は夜の闇に溶けるようにして、消えていった。

「なんでしょうね、あのキザキツネ」
 ゆきめは不機嫌そうな顔をしてから、鵺野を元気づけるように言った。
「大丈夫ですよ! 人間に味方する妖怪もたくさんいますし、人間にも強い人はいっぱい
いるじゃないですか」
「ああ、そうだな。俺もそんなには心配してない」
 ゆきめには意外なことに、鵺野はさほど深刻そうではなかった。

 郷子と美樹が走ってきた。
「ぬーべー、救急車呼んできたよ」「すぐ来るって」
 鵺野はうなずいてから、美樹にきいた。
「よし。美樹、おまえケサランパサラン、まだ持ってるよな?」
「え? え、えーとなんのこと」
「いや、いい。許すから、おしろいで増やしてろ」
「え?」
「いざ魔族が攻めてきたら、街にばらまくんだ。ケサランパサランは人間の希望で増える。
人類の危機となれば、人々は助かりたいと願うから、ケサランパサランが増えて人間に
幸運を与えて、きっと救われるさ」
「なーるほど」
 広は安堵し、深く息をつく。
「人類の危機?」
 なんのことやらわからず、美樹は困惑するばかりだった。
120創る名無しに見る名無し:2009/12/24(木) 20:08:31 ID:9FRpVWIj
    
121聖夜の鐘は開戦の報せ!12 ◆Omi/gSp4qg :2009/12/24(木) 20:11:58 ID:0WuI4AH6
十二月二十四日・二十時十一分

 横島忠夫とドクター・カオスはケーキ屋のバイトを終え、唐巣の教会へ向かった。若い
横島は美神の助手であり弟子で、頭にはバンダナを巻いて、冬でもジージャンだ。
 街のにぎやかな空気は遠のいて、街灯が点々と照らす道はさみしい。
 横島とカオスはケーキの箱を重ねて持ち、教会をめざす。

 夜道の向かいから、買い物袋を抱えた克也が走ってくる。
「あれ? おまえ、ケーキ買えなかったガキじゃないのか」
「あっ、ニセサンタ! 見ろよ、本物のサンタにもらったんだぜ」
 克也はおもちゃやケーキ、フライドチキンなどが詰まった買い物袋を見せびらかす。
「そーかよ、じゃあ俺はニセモノだから売れ残りのもらったケーキやるよ」
 横島はケーキの箱を一つ、買い物袋の上に乗せた。

「え、いいの?」
「おまえじゃねーっ、妹にだよ! 十年後、俺んとこに来るように行っとけよ、俺は横島忠夫、
横島忠夫だぞーっ」
 わめき散らしつつ、横島は早足に教会に向かい歩く。
 克也はとまどいつつも、妹が待つ家へと急いだ。

 少ししてから、黒いマントに身を包むカオスがたずねた。
「おい小僧、あのガキにやったのはバイト代で買ったやつじゃろ?」
「うるせーな、ニセモノの見栄があるんだよ!」
「で、わしらは売れ残りのシュークリームか」
「あのしみったれた教会にはお似合いだろ」
「わしらにもお似合いじゃな」
 カオスは顔のしわを深くして笑った。


 唐巣の教会には、すでに犬夜叉とかごめがいた。近所の信者たちも集まって、犬夜叉は
子供たちの相手をさせられる。
 扉が開いて、冷たい外気とともに横島が礼拝堂に入った。かごめがあいさつする。
「あっ、横島さん、めりくりー」
「はいはい、めりくり」
 不機嫌な横島を、同僚のおキヌが迎えた。
「お疲れさまです、横島さん。それ、ケーキですか」
「うん、全部売れ残りだけど」

「働いてきたんだろ? その銭で買ってやりゃあいいじゃねえか」
 サンタサンタと子供に袖や髪を引かれながら、犬夜叉はいらだたしそうにする。
「うるせーっ! 普段から薄給で働かされてる身になれ!」
 横島がシュークリームの箱を長い机に置くと、犬夜叉はようやく子供たちから解放された。

「犬夜叉、失礼なこと言わないの!」
 日暮かごめがしかりつける。神社の娘だが、カトリックに破門された唐巣神父は自分の
教会を広く開いているので、こうして入れてもらえる。
122聖夜の鐘は開戦の報せ!13 ◆Omi/gSp4qg :2009/12/24(木) 20:13:40 ID:0WuI4AH6
「いやあ、助かるよ横島君、カオスさん。今、コーヒーをいれよう」
 人の良さがにじみ出たような、丸メガネの唐巣神父が二人をねぎらう。
 唐巣は悪霊・妖怪退治をしても金を取らないため、自分を食わせるのも苦労していた。

「いや、わしゃ日本茶がええのう」
 カオスはシュークリームの入った箱を置き、ふるえながら長椅子に座った。千年生きて
ヨーロッパの魔王と言われたカオスだが、今では日本の老人のようだ。
 唐巣は奥へと引っ込んでいった。

「美神に全然似てねえなあ」
 犬夜叉は不思議そうにした。唐巣は美神の師だ。
「でしょ?」
 かごめも同じ思いでいる。
「あいつが甘やかすから、美神があんなんなっちまったんじゃねえのか」
「そーいや、美神さんは?」
 シュークリームをくわえつつ、横島はおキヌにきく。
「それが、まだ来ないんです。年末だからって未払い料金を回収に回ってるんですけど」
「年の暮れに取り立てか。ご苦労なこった」
 犬夜叉もシュークリームをほおばった。
「犬夜叉……そんなあからさまに言っちゃあ」
 かごめはおキヌにすまなそうな顔をしてみせる。

「本当のことじゃねえか。この栗なんとかは歯応えがなさすぎねえか。いくら食っても腹に
たまらねえ」
「犬夜叉、そんなに食べないの。ほら、口のまわりについてるよ」
 かごめはかいがいしく、犬夜叉の口をふいてやる。
 アルバイト中にカップルをいやというほど見た横島は、嫉妬の炎に身も焦がさんばかりだ。

「見せつけに来たんかおまえらは、チクショー! シュークリームやけ食いしたるーっ!」
 シュークリームを無理矢理詰め込み、横島が窒息しかけたところへ唐巣がコーヒーカップ
を手渡す。
 コーヒーでシュークリームを流し込むと、今度は熱さに苦しみ横島は礼拝堂を転げ回った。
「ぐわーっ、あぢーっ!」
 やれやれ、とおキヌたちは呆れ返って苦笑いするしかない。
123創る名無しに見る名無し:2009/12/24(木) 20:14:54 ID:9FRpVWIj
    
124聖夜の鐘は開戦の報せ!14 ◆Omi/gSp4qg :2009/12/24(木) 20:15:42 ID:0WuI4AH6
「くそーっ! 神様サンタ様ーっ! 俺に最高にいい女との、運命の出会いをくれーっ!」

 横島の叫びが響く。
 応えるように扉が開き、冷気が吹き込んだ。
「おおっ! 最高にいい女が……?」
 入ってきたのは、黒いコートに身を包む、小柄でつり目の男だった。
「なんだ、雪之丞かよ」
 期待を裏切られ、横島はがっくりとうなだれる。伊達雪之丞はかつてメドーサに利用され
かけた霊能力者で、今はさすらいのゴーストスイーパーだ。

「ケガしてるんですか?」
 あわてておキヌが駆け寄ると、伊達雪之丞は床に倒れこんだ。唐巣神父も近寄り、ヒーリング
をほどこす。
「これは、ひどい霊障だ」
 唐巣は手からやわらかい光を送り、雪之丞の霊的ダメージを癒した。雪之丞はやっとの
思いといったようすで口を動かす。
「み、美神がやられた……」
「何?」
 あまり興味なさそうにしていた横島が、反応を示した。

「おい、どういうことだ」
 犬夜叉がかがんできく。
「魔族の反体制派が、ついに動きだした……。奴らは美神の魂に含まれる、エネルギー結晶
を狙っている……」
 おキヌと唐巣のヒーリングで話ができるようになると、雪之丞は事実を重大さにふさわしい
深刻な顔できかせる。
「美神の魂にそいつがある。美神はさすがだぜ、幽体離脱して奴らに気づかれずに逃げた。
今、妙神山に伝えに行ってるはずだ」

「ということは……」
 横島は雪之丞の襟首をつかみ、激しく揺さぶった。
「てめーっ、美神さんとクリスマスに二人で何してやがったーっ!」
 まわりでかごめ、犬夜叉たちがずっこける。
「理不尽な取り立て食らってたんだよ! その美神のピンチを知らせに来てるのがわからねー
のかっ!」
 雪之丞が言い返した直後、犬夜叉は毛を逆立て、教会の扉をにらんで身構えた。

「これは……この妖気は!」
「つけられたか……すまねえ」
 雪之丞は痛々しい表情でうつむく。唐巣も強大な妖気に、血相を変える。
「おキヌちゃん、伊達くんと子供たちを奥へ!」
「は、はい」
 雪之丞をささえ、子供や信者たちをうながし、おキヌは奥へと消えた。

 まもなく、教会の扉が開く。冷たい風とともに、三つの影がやってきた。
125聖夜の鐘は開戦の報せ!15 ◆Omi/gSp4qg :2009/12/24(木) 20:18:01 ID:0WuI4AH6
「こうして神族の拠点を移動しながら、霊力の強い人間の魂を調べてエネルギー結晶を探せば
一石二鳥でしょ?」
 切りそろえた黒髪、飛び出た触角、額当てをつけ、太ももまでのタイツを腰で吊っている
のは、魔族三姉妹長女・ルシオラだ。三人のなかでは理知的に見えるのは、『兵鬼』の整備、
製造担当だからかもしれない。

「真面目だねえ」
 姉に半分呆れているのは、魔族三姉妹次女・ベスパだ。長い髪をのばした頭にはやはり
触角をつけ、体ににフィットしたスーツを身につけている。三人のなかでは最も好戦的な
せいか、目つきは鋭い。
「ルシオラちゃんはペチャパイで色気がないぶん、真面目さでカバーするしかないんでちゅ」
 魔族三姉妹末っ子のパピリオは、子供に見える。ポンポンが四つついた帽子をかぶって、
道化のようでもあった。

「な、なんて妖気だ。こいつぁ、殺生丸と同じか、もしかしたらあいつより……!」
 鉄砕牙の柄を握りつつ身震いする犬夜叉に、かごめも恐怖せざるをえない。
「そ、そんなにすごいの?」
「ああ……」

 そんな犬夜叉らをよそに、ルシオラの拳がパピリオの頭を打つ。
「あんたがよく言えるわねーっ!」
「パピリオには未来があるんでちゅーっ! もう終わってるルシオラちゃんとはちがいまちゅ!」
「やめなよ、あんたら」
 ベスパが止めに入ると、ルシオラがうらめしそうにベスパの胸をながめる。
「自分はあると思って……」
「別に思ってないよ! それより仕事だろ?」

 緊張感のなさに、かごめは肩透かしを食った思いだ。
「本当にあいつら、そんなすごいの?」
「ああ……とんでもねえ。爆流破で一匹仕留めたとしても、あとの二匹は……」
 命を捨てる覚悟で戦うしかない、と犬夜叉は腹を決めた。

「おまえら、美神さんを……」
 横島が、魔族たちに歩み寄る。
「横島、おまえじゃ無理だ、下がれ!」
 犬夜叉が鉄砕牙を抜くと、妖刀は大きくなって刃を光らせた。
 横島の瞳が熱く燃える。

「おまえら……!」
 慣れたようすで土下座すると、横島は頼み込んだ。
「僕を手下にしてください!」
 犬夜叉たちは思わずこける。
「スキあり!」
 横島の指に、「凍」の文珠が輝いた。文珠が効果を発揮すると、超低温が魔族を襲う。
 うず巻く冷気の中に、三体の氷像ができた。

「やったーっ! 討ち取ったり、ざまーみろーっ!」
 勝利に酔い、横島は踊るようにして喜びを表現する。
126聖夜の鐘は開戦の報せ!16 ◆Omi/gSp4qg :2009/12/24(木) 20:20:48 ID:0WuI4AH6
「い、いや」
 犬夜叉は鉄砕牙を構えて、警戒を解かない。

 煙の向こうで、三姉妹に貼りついた氷がはがれ落ちていく。
「うーっ、寒っ」
 ベスパは体を震わせて、手をさする。
「一瞬だけど絶対零度ぐらいまで下がったわ。霊力を一時的に上げるタイプらしいわね」
 ルシオラは冷静に横島を分析した。文珠の力も、魔族たちの薄皮一枚を凍らしたに過ぎ
なかったらしい。

「こいつおもしろーい! 飼いたい!」
 パピリオがルシオラにねだる。
「また? パピリオったら、すぐノラ犬だのノラ猫だのノラ妖怪だの拾っちゃうんだから」
「ちゃんと世話ちまちゅから、お願いっ」
「しょうがないわねえ……クリスマスプレゼントよ」
 結局妹には甘く、ルシオラは首輪を宙から出現させた。ルシオラが造ったものだ。

「それっ」
 ルシオラの投げた首輪が、横島の頭から首へと落ちる。首輪はちぢんで、首にぴったりと
はまった。
「こ、こんな、犬夜叉じゃあるまいしーっ!」
 横島があわてて首輪をはずそうとするも、もはや首輪は生まれたときからそうである
かのように首にくっついて、離れそうにない。

 この首輪は、まさに横島の運命を決定づける枷であった。

「きなちゃい、ポチ!」
 パピリオが手招きする。
「誰がポチやーっ」
 だが、横島の意志とは無関係に、首輪が光ると横島は魔族に引き寄せられた。
「いやーっ! 助けてーっ!」

「てめえ、横島を放しやがれ!」
 犬夜叉が鉄砕牙を振り上げ、ルシオラに向かう。刀は高速で振り下ろされたが、空を斬る
だけだった。
 ルシオラの姿が消えたかと思うや、すぐそばに現われる。鉄砕牙を構え直す間も、犬夜叉
にはない。
「幻術……!」

 ベスパの手から、光線が発射された。無理に体をねじり、襲いかかる凶悪な光を犬夜叉
は刀でさえぎる。
 犬夜叉の体は木っ端のように吹き飛ばされ、壁に打ちつけられた。
「ぐあっ……!」
「犬夜叉!」
 すぐにかごめは犬夜叉に駆け寄る。
「く、来るな、なんでもねえ」
 犬夜叉はふらつきながらも立ち上がり、刀を構えた。
「へえ、生きてるよ。妖怪はメフィストの転生先じゃないよね? 殺してもいいかい」

 ベスパがさらに妖気を高め、手に集中する。パピリオは無邪気な笑顔でうなずいた。
「そいつかわいくないし、いらないでちゅよ」
 かごめが悔しそうにいう。
「横島さんよりかわいいもん」
 横島が大きく口を開ける。
「おい!」
127聖夜の鐘は開戦の報せ!17 ◆Omi/gSp4qg :2009/12/24(木) 20:23:21 ID:0WuI4AH6
 そのとき、どこからか曲が流れた。『神の御子は今宵しも』だ。
 ルシオラは携帯電話を宙から出現させる。

「はい、土偶羅様?」
「妙神山攻撃に行くぞ。そろそろ戻らんかーっ」
「はーい。じゃ、すぐ行きます」
 ルシオラは電話を切って消すと、ベスパに顔を向けた。
「妙神山攻撃開始だって。早く帰りましょ」
「それよりあんたねー、着信音考えな? うちら悪魔だろ?」
「じゃあいい着メロサイト教えてよ」

 外へ向かう魔族たちに、犬夜叉は鉄砕牙を振るおうとした。
「待ちやがれ!」
 その犬夜叉の肩を、唐巣が押さえる。
「犬夜叉君。今は追ってはいけない」
「放せ、横島が……」
「犬夜叉君、耐えるんだ……!」
 唐巣の手から、『聖』の霊力が犬夜叉の体に送り込まれる。半妖の犬夜叉は動きを封じ
られた。

「パピリオがサイト教えてあげまちゅ」
 パピリオのあとを、引きずられるようにして横島がついていく。逃げようにも首輪が
光って、横島に自由を与えない。
「いややーっ! 助けてくれーっ!」
 奥にいたおキヌがたまらず、横島を追った。
「横島さん!」
 おキヌの手を雪之丞が引いて、止める。
「やめろ、今戦っても勝ち目はねえ」

「高いサイトはダメよ、パピリオったら携帯料金五万とかなんだもん」
「ルシオラちゃんは細かいことにうるちゃいんでちゅよ」
 外に出ると、魔族の三人は寒い夜空へと飛び立つ。

「俺は死にたくなーい! 他の誰がどうなっても、俺だけは死にたくないんやーっ!」

 横島の叫びも、むなしく冬の風のなかに消えていく。
 横島を捕らえた魔族三姉妹は、わずかの間に雲の向こうへと飛び去っていった。

 犬夜叉は外に飛び出し、妖気が消えた空のかなたを見上げて声を荒げた。
「横島! くそっ、おっさん、何で止めた!」
 唐巣は教会の入り口に立つ。
「落ち着くんだ。君も横島君を知っているだろう。彼はかならず生きて逃げ延びる」
 唐巣のやけに説得力ある言葉に、犬夜叉は冷静さを取り戻した。
「た……確かに。あいつなら」

「妙神山を攻撃って言ってましたけど……美神さんの霊体が行ってるんですよね?」
 おキヌは不安そうに、雪之丞にきいた。
「ああ。だが美神にしても、まあどーにかこーにか逃げてくるのは間違いねえ」
「そ、そうよね」
 二人の性質を改めて思い出し、かごめは多少安堵した。何があろうと、彼らは必ず自分
だけは助かるため、あらゆる手を使うだろう。
「伊達君、美神君の体の場所を教えてくれ。長く幽体離脱していると肉体に負担がかかる
からね」
 唐巣は息をつくと、黒い空をながめた。

「大変なクリスマスになってしまったな……」
128聖夜の鐘は開戦の報せ!18 ◆Omi/gSp4qg :2009/12/24(木) 20:26:32 ID:0WuI4AH6
十二月二十四日 二十時二十六分

 うしおは居間でカップラーメンに湯をそそいでいた。フタの上に獣の槍の柄を置く。
「あーあ、俺にはこいつだけかあ」
 冷たくなった獣の槍は、鈍く光っている。
「まあいいや。俺には似合ってるよ、なあ」
 長い友のように語りかけ、うしおは槍をさすった。

「おーい、うしおーっ」
 不意にきこえてきた女の声に、うしおは跳ねるように立ち上がった。
 廊下を慌ただしく走った先で、厚着した中村麻子が戸を開けていた。
「おかーさんに、あんたは栄養とってないから持ってけって言われてさー。あんたが普段
からろくなもん食べてないから、私がお使いさせられるのよ」
 などと言いながら、麻子はフライドチキンやケーキが入った箱をいくつも置いた。
 麻子の後ろで、井上真由子が笑顔を見せる。

「う、うるせーなーっ!」
 独りではないという喜びを隠して、うしおは怒っているようにしてみた。
「あんた一人クリスマスやってたんじゃないの?」
 靴を脱ぐと、我が家のように麻子は上がる。
「やっぱやめたの!」
「それ運びなさいよ、大変だったんだから」
 麻子に指図され、不満そうに見せながら内心感謝し、重ねられたいくつかの箱をうしおは
持ち上げた。

「麻子、がんばって持ってきたんだよ」
 真由子がうしおに教えてやる。
「よけーなことするよなーっ、たくよー」
 照れ隠しにつぶやき、うしおは箱を抱えて居間に戻った。
 居間で麻子があきれている。
「クリスマスにカップめん……」

「お、俺はこれが好きなんだい」
 カップラーメンの上に乗った槍を手にしたとき、うしおの目が変わった。
「うしお?」
 突風のように飛び出し、真由子と壁の間をすり抜け、うしおは外に出た。

「なんだ、この槍の鳴りかたは……」
 妖怪の存在を知らせて震え、獣の槍は音をきかせる。今度の音の鳴りようは普通では
なかった。
 冷たい風がやむと、何かの音が空からきこえる。
「上か?」
 見上げると、黒い雲のすきまにカブト虫のようなものが飛んでいた。
「なんだあれは……」

「よお、うしお」
 門の上に、とらがうずくまっていた。目は鋭く光って、昼とは違う「妖(バケモノ)」の顔だ。
「とら、あれは……」
「さぁ、知らねぇ。だが、かなりのモンだな。しかも一匹じゃねえ。あれは船みてえなので、
中に何匹かいるぜ」
「あ、ああ……」
 巨大なカブト虫は遠くなって、槍も鳴るのをやめた。

「今夜は人間どもの祭りなんだろ? おもしろくなることを願うぜ」
 口を耳まで裂き、三日月のようにして牙を見せると、とらは夜空へ飛び上がった。

 うしおは白い息を吐いて、これから来るであろう戦いに身を震わせた。
129創る名無しに見る名無し:2009/12/24(木) 20:30:48 ID:9FRpVWIj
   
130 ◆Omi/gSp4qg :2009/12/24(木) 21:02:08 ID:0WuI4AH6
終わり
投下終了でさるさん食らった
リアルタイムにしたかったのに途中時間間違えた……悔しい
出演
蒼月潮、とら、井上真由子、中村麻子@うしおととら
鵺野鳴介、ゆきめ、立野広、稲葉郷子、細川美樹、木村克也、玉藻@地獄先生ぬ〜べ〜
犬夜叉、日暮かごめ@犬夜叉
ねずみ男@ゲゲゲの鬼太郎
穴ボコさん@うしおととら 外伝
美神令子、横島忠夫、おキヌ、ドクター・カオス、唐巣神父、伊達雪之丞、
ルシオラ、ベスパ、パピリオ@GS美神 極楽大作戦!

役者も揃い、ついに最終章・アシュタロス編突入!
しかしここからがまた長いのであった
書き切れるかな……

支援ありがとうございました!
131創る名無しに見る名無し:2009/12/25(金) 00:12:23 ID:T6zSeiOT
乙です!!クリスマスなのにようやった、ようやった!!

明日の朝には枕元に獣の槍が刺さってるはずッ!!プレゼント的な意味で
 童守小学校の校庭に、空から少女が降り立つ。
「アシュタロス様配下・パピリオでーちゅ! 人間ども、覚悟するでちゅよ」
 ポンポンを四つつけた帽子をかぶるパピリオは子供の姿で、道化にも見えるがれっきと
した魔族だ。
「そしてパピリオ様のしもべ・ポチ様やーっ! 愚かなる人間どもよ、ひざまずけーっ!」
 ポチこと横島は黒いマントに身を包んで、いかにも悪役だ。魔族にさらわれペットに
さらわれたのをこれ幸い、とオカルトGメンにスパイの任務を押しつけられている。

 何でこんなことせにゃならんのだ、と横島は目に涙を光らせる。
「なんか静かでちゅねー?」
 横島が伝えた情報で、すでに生徒は避難していた。
「そ、そうですねえ」
(露骨に用意すんじゃねーっ! 俺が疑われるやないかーっ!)
 横島は冷や汗を垂れ流した。パピリオの霊力は、横島をはるかに超える。

「人間どもー! 稲葉郷子を出ちなちゃーい!」
 魔族は人間の魂に含まれるエネルギー結晶を探している。
 童守小の生徒、稲葉郷子が標的だという。魔族はエネルギー結晶を魂に含む人間を、兵鬼・
『みつけた君』で選び出し、標的を決める。が、横島が文珠でその兵鬼に異常を起こさせた
結果、郷子が選ばれた。
 ばれたら殺される、と横島は顔面蒼白、体を震わせた。

 童守小学校の児童たちは、体育館に集められた。
 いつも通り明るく騒がしい生徒たちの声が、広い体育館をにぎやかにする。だが、対照的
に教師たちの表情は暗い。

 ICPOオカルトGメン所属の西条輝彦は、教師で霊能力者の鵺野鳴介にも協力を願い
出た。
 鵺野の太い眉は、強い意志を感じさせる。
「俺は、ゴーストスイーパーというやつは嫌いだ。金で悪霊や妖怪を退治する連中は、信用
できん」
 体育館の準備室に、鵺野の声がよく響いた。
「あのねーっ、あいつらは人類の敵、悪党なのよ! 妙神山の神族も攻撃されて、みんな
行方不明だし」
 美神令子はいらだって、声を高くした。民間ゴーストスイーパーの美神も、非常事態を
前にオカルトGメンに加わっている。
 さらに美神の助手おキヌ、中学生で霊力のある日暮かごめ、過去から呼び出された半妖
犬夜叉、ほか七宝、弥勒、珊瑚も臨時隊員として参加していた。
「だが、あいつは主犯じゃないかも知れん。ただ言いなりになってるだけなら、味方に引き
込めるかも知れないだろう?」
 鵺野は、パピリオを説得できないかと提案している。
「あんた公務員でしょ? こっちは警察よ。税金とってんだから協力しなさいよ。こっちは
いつも高い税金払ってんのよ!」
「ゴーストスイーパーの美神と言えば、悪名はきいてるぞ。脱税のうわさもあるな」
 鵺野が疑いの目を向けると、美神は黙り込む。
「学校は警察権力には屈しない。それにそっちは国際警察で日本の警察じゃないだろう。
うちのやり方でやらせてほしい」
「鵺野先生、立派なお考えですわ」
 同僚の高橋律子が感動して豊かな胸を揺らすと、鵺野は急に顔をゆるくする。
「いやぁー、そうですか?」

「反体制教師ーっ、国家の敵めーっ! 君が代歌わんかーっ」
 怒りに燃え上がるような美神を抑え、西条は了承した。
「わかりました。ただし、一般市民に被害を出すわけにはいきません。少しでも危険が予測
されれば、行動に移ります」
 西条が仕方なく言うと、鵺野は強くうなずいた。
「わかった」


 鵺野はクラスの生徒たちを教室に集め、作戦会議を始めた。
「世界の命運はおまえたちにかかっているぞ。なんとかこっちに引き込むんだ」
「悪い妖怪なんでしょ? いいの?」
 女子生徒の中島法子は、心配そうな顔をした。
「まーいーんじゃねーの。かわいいし」
 金田勝という生徒が言うと、うんうんと男子たちは賛成する。
「あんたたちねーっ。あいつは妖怪でしょ?」
 あきれる菊地静という女子をよそに、鵺野は教え子たちに指示する。
「とにかく、ほめておだててその気にして、うやむやのうちに引き入れるんだ。おまえたち
そーゆーの得意だろ、頼むぞ」

 鵺野と生徒らが、校庭へ打って出る。稲葉郷子だけは体育館に残してきた。
「いやー、どーもどーも」
 もみ手して、鵺野はパピリオに近づいていく。高橋律子もすぐあとに続いた。
「うおーっ美人教師! 俺に保健体育を教えてくださーい!」
 黒いマントをひるがえし、横島は律子に飛びかかる。
「ぎゃーっ、変態!」
 律子の平手が飛び、鵺野の黒い手袋をつけた拳が追い打ちをかける。
「貴様、人類の敵と思ったら女の敵かっ!」
 横島が地面を転がって砂煙をあげた。
「発情期でちゅかねー、去勢ちまちゅか?」
「ひーっ、パピリオ様、そればかりはお許しを!」
 その光景をながめる木村克也という生徒は、自身の記憶をたぐっていた。
「あいつ、どっかで見たような……」
 横島がスパイということは、生徒たちにまでは伝わっていない。

「人間ども、稲葉郷子は連れて来たでちゅか?」
 パピリオが尊大な態度できく。
「ま、それは置いといて。どうだろう、人間を支配したいなら、人間のことを勉強して
みたら?」
 腰を低くした鵺野が申し出る。横島はいったいなんの作戦かと、気が気でない。
「何言ってるでちゅか?」
「うちに体験入学してみないか?」
「知識ならアシュ様に与えられてまちゅ」
「いや、知識と実践は違うと思うぞ。ものは試しだ」

「それに、学校にくれば給食が食えるぜ!」
 給食こそ学校の主目的、と言わんばかりの金田。
「パピリオはハチミツだけあれば生きていけまちゅ」
 パピリオは得意げに言う。
「じゃあ、僕が最高級ハチミツを取り寄せよう。でも、ハチミツ以外にもおいしいものは
たくさんあるよ」
 白戸秀一という生徒が、髪をいじりながら誘うと、山口晶という男子生徒も重ねる。
「だいたい、いまどき学歴が無いなんてかっこがつかないよ。履歴書の学歴欄に何も書け
ないし」
 そうだそうだと生徒らがうなずき合う。
「支配者が小卒もしてないなんて」「尊敬できないよなあ」

「うーん、そういうもんでちゅかね?」
 小さな腕を組み、パピリオは頭をかたむけた。
「そういうもんだ。試しに入ってみてくれ」
 鵺野がさらに強く勧誘すると、パピリオも乗ってきた。
「そこまで言うなら入ってやってみてもいいでちゅ」
「よーし、決まりだ。おまえたち、授業をはじめるぞ」
 はーい、と生徒たちはパピリオを囲んで教室に向かった。


 まずは社会の授業だ。
「さて、歴史の授業だ」
 生徒たちが教科書を開く。教科書の無いパピリオに、俺が僕がと男たちが競って教科書
を貸した。
「七世紀、大化の改新だ」
 黒板にチョークが当たり、固い音が響く。パピリオが手を挙げた。
「知ってまーちゅ。人間は争いばかりしてまちゅ。聖徳太子が物部氏を殺して、聖徳太子
の子供の山背大兄王を蘇我入鹿が殺して、中大兄皇子が蘇我入鹿を殺したんでちゅ。
 そんなだから、アシュ様は魔族の代表として人間を支配して、争いをなくすことにした
んでちゅ」
「うーん、なるほどなあ」
 思わず納得して、鵺野はうなる。
「先生が教えられて、どーすんだよ」
 金田が突っ込むと、笑いが起きる。鵺野は手袋をはめた左手を、頭にやった。
「ぬーべー、いつもと同じじゃなくていーじゃん。体育にしようよ」
 退屈していた立野広が言い出すと、生徒らはいっせいに賛同した。
「じゃ、そうするか」
 鵺野が応じるか応じないかのうちに、広は飛び立つようにして教室を出る。生徒たちは
パピリオを連れ、校庭へと走っていった。


 横島は美神たちのもとに訪れる。美神らオカルトGメンは、陰からパピリオを監視して
いた。
「ありゃどういうことですか! 作戦があるなら前もって打合せといてくださいよ」
「しょうがないでしょ。あの先公が勝手にやってんだから」
 美神は不機嫌そうにいう。視線の先で、パピリオたちは仲良くドッジボールをしていた。
「しかし、意外とうまく行くかも知れないな」
 西条はあごに手を当て、校舎に隠れてパピリオを注意深く確認する。

 西条のかたわらには、白衣を着たアメリカ人の中年男性が二人、中年女性が一人いた。
オカルトGメンにこのたび協力している、アメリカの妖怪研究機関「ハマー」のメンバーだ。
 計器を使って、周辺の「キルリアン値」を計測している。霊力を彼らはキルリアン値で
知る。
「信じられん。あのパピリオというメタモルフォーゼは、十万近くのキルリアン値を示して
いる」
 プロのGSである美神でさえ、九千程度だ。
「だが、キルリアン振動機は三十万出力分を用意してきた。あれ一体なら十分だろう」
 ハマーのメンバー三人はうなずき合う。

「でもさあ、別にあれならほっといていいんじゃないの?」
 かごめも植え込みに隠れて、パピリオのようすをうかがう。
 パピリオは子供たちと楽しそうに息をはずませ、ドッジボールに興じている。
「確かに妖気はすさまじいが……」
 錫杖片手に、弥勒はあごをさすった。珊瑚もうなずく。
「子供に見えるねえ」

「見た目はガキでもバケモンやぞーっ! 俺はいつ殺されるかもわからんのやーっ」
 横島は泣き、我が身の不幸をなげく。
「そうよ。それにあいつらが神族の拠点を攻撃して、小竜姫とかたくさんの神族や魔族正規
軍が生存不明になってるわ」
 美神は真面目な顔になった。
 横島のなげきは続く。
「あいつらにこき使われて、掃除したりシーツ洗濯したりシャワー直したり……」
「美神にこき使われてんのと、変わらねえんじゃねえのか」
 犬夜叉が思うままを口に出すと、かごめたちは思わず首を縦に振る。
「ちょっと、あんたたちねー!」
 さすがに美神は怒るが、横島も半分納得していた。
「まー、確かに」
「横島さん……」
 おキヌは苦笑いしかできない。

 そのとき、ハマーの一人、ケストラー博士が計器の動きを見て言った。
「小さいが、キルリアン反応だ。メタモルフォーゼがいる」
 美神は見鬼君を取り出す。見鬼君はキルリアン反応探知機と原理は同じだが、ザンス
王国の魔法技術が取り入れられている。見鬼君が指を差した。
「あいつの手下?」
 美神は横島に問う。
「い、いや、知らないっす。魔改造妖怪は用意してますけど、そいつじゃなきゃ俺には
何とも」

「子供たちに犠牲者は出せない。行こう!」
 銀の弾丸が込められた拳銃を手に、西条は黒髪をなびかせて飛び出した。
「ハマー機関の皆さん! 援護お願いします」
 ハマーの研究者たちは、キャスター付きの台に乗ったキルリアン振動機を動かした。
 犬夜叉、弥勒、珊瑚も校庭を駆ける。何事か、と生徒たちはドッジボールをやめた。

「バカ、出てくるんじゃない!」
 鵺野が止めたが、もう遅い。
「キルリアン振動機、展開お願いします!」
 西条の要請を受け、ケストラーたちがキルリアン振動機を作動させる。校庭が光の柵に
囲まれた。

 生徒の一人、小柄な栗田まことへと影が飛びかかる。
「鵺野鳴介! 多くの仲間たちの恨み、晴らしてくれる」
 僧の姿をした老人が、まことに向かって腕を伸ばした。腕は蛇のようになってまことを
からめ取る。
「う、うわーっ、恐いのだーっ!」

 犬夜叉が爪を尖らせ、すばやく斬りつけた。
 老人のような、人のようで人らしからぬ顔の妖怪は、斬られて姿を変えていく。
 孫の手のようなものが、地面に落ちた。
「なんだ? ずいぶん弱えな」
 手応えの無さに、犬夜叉は不思議がる。

「何で出てきた! あれは如意自在、たぶんパピリオとは関係ない」
 鵺野は犬夜叉たちを怒鳴りつけた。如意自在は仏具が変化した付喪神で、たいした妖怪
ではない。
「だってよお……」
 不服そうに、犬夜叉は西条に目をやる。

「うちの学校では、毎週あのぐらいの妖怪は出てくるんだ」
 当然のことのように鵺野が言うと、美神はあきれ顔をする。
「どーゆー学校よ」
 強大な霊力の高まりに、鵺野が振り向く。
 パピリオが燃え盛るような怒りとともに、霊力を強くしていた。
「だまちたんでちゅね……」
「違う!」
 鵺野が否定しても、もう遅い。
「許ちまちぇん、ポチ! 人間たちを皆殺しにしてやるでちゅ」
 いつのまにか、パピリオのすぐ後ろに横島はひかえている。
「かしこまりました、パピリオ様! さあお待ちかね、今週の魔改造妖怪やーっ!」
 黒いマントをひるがえし、横島がステッキのボタンを押す。

 宙に光が走り、上半身は女、下半身は長いムカデの妖怪が出現する。
 犬夜叉が知った顔で口を動かした。
「なんでえ、百足上臈じゃねえか」
 百足上臈は、かつて犬夜叉が倒したこともある小物妖怪だ。

「はじめからこうすりゃよかったのよ」
 美神は小竜姫から預かった勾玉『竜の牙』、魔族正規軍から預かった『ニーベルンゲン
の指輪』をかかげた。霊力が込められると、竜の牙は剣に、ニーベルンゲンの指輪は骸骨
を模した盾になる。
 ケストラー博士たちは、驚きの声を上げた。
「すごい、ミス美神のキルリアン値が九万を超えた」
「小竜姫たちの仇、覚悟ー!」

 美神は竜の牙を振り上げ、パピリオに向かって駆ける。
「ふん、たかが千マイトで寝呆けてるでちゅか?」
 魔族・神族は霊力をマイトという単位で知る。百足上臈が、まぶしく輝く邪悪な波動
を吐き出した。
 盾になったニーベルンゲンの指輪で、美神はかろうじて受ける。爆風が周囲に飛散した。
「な……!」
 パワーアップしたはずの美神は、木の葉のごとく吹き飛ばされた。

 百足上臈がまた波動を吐く。衝撃が空間を揺さぶり、閃光とともにキルリアン振動機
で作られた結界の一部に穴があいた。ケストラーが悲鳴に似た声で知らせる。
「ば、馬鹿な……。あのメタモルフォーゼはキルリアン値五十万を超えている!」
「ご……う、嘘でしょ!」
 信じられず、美神は目を見張る。だが事実、キルリアン出力三十万の結界が破壊されて
いる。

「ならば、私が……」
 風穴で吸おうと、弥勒が右手の数珠に手をかけた。
 同時に、虫の羽音がきこえてくる。
「ベスパちゃんの妖バチでーちゅ! 最猛勝なんかとちがって、妖毒は直接魂を壊ちまちゅよ」
「くっ……やはり奈落からきいているのか」
 弥勒はしかたなく右手を降ろす。

「全員死ねばいいでちゅ! ポチ!」
 パピリオの命とともに、横島は百足上臈の背に飛び乗り、人間たちを見下ろして高らか
に言う。
「おろかなる人間どもめ、滅びるがいい!」
 子供たちが横島に石を投げた。
「くそーっ、悪魔ーっ」「出ていけーっ」

 パピリオの手前、西条は霊剣を構えて横島をにらみつける。
「おのれっ、人類の敵め!」
「かっこいい!」「がんばれーっ!」
 生徒たちは西条に声援を送り、横島には罵声と石を投げつけた。
 飛んでくる石をよけつつ、横島は涙ぐむ。
「ちくしょー、ほんまは俺こそが身を犠牲にして人類に貢献しとるのに……」

 稲葉郷子がツインテールの髪をなびかせて、駆けつけた。
「やめて、私はここよ!」
「郷子、来るな!」
 広が強い声で制止した。
「そいちゅがターゲットでちゅね。エネルギー結晶を出すでちゅ」
 魂を調べるリングが、パピリオの手から投げられる。

 リングが大きくなって、郷子をすっぽりと入れた。リングについた四つのドクロが、内側
の郷子をにらむ。
「ああっ!」
 光が発せられ、郷子は意識をうしない倒れる。
『霊力・六マイト。エネルギー結晶存在せず』
 機械的に報告すると、リングはまた小さくなって、パピリオの手に納まった。

「郷子!」
 広が駆け寄る。魂を調べられても死ぬことはない。が、霊体が傷つき、普通の人間は
入院を余儀なくされる。
「なーんだ、ちがうでちゅ。ポチ、あとは頼んだでちゅよ」
「はっ、お任せを」
「さっさと終わらせて、早く帰ってくるでちゅ」
「はい!」
「私のこと、忘れたらダメでちゅよ?」
「は? はあ」
 何のことだかわからなかったが、横島はとりあえず返しておいた。パピリオは飛んで
いく。敬礼して見送る横島。

「待ってくれ、パピリオ!」
 鵺野が引き止めようと手を空に伸ばすが、パピリオは振り向きもせず小さくなり、空に
消えた。

「さあ、人間どもーっ、覚悟せいやーっ」
 百足上臈の背で、横島は凶悪な笑みを振りまく。西条がなだめて言った。
「横島君、パピリオはいなくなったんだから、もういいんだよ」
「うるせーっ! 俺にヨゴレ役押しつけやがって、おまえはさっさと殉職して美神さんを
俺に任せろ!」
 百足上臈の長い尾が地を打ち、校庭を激しく揺らした。西条は暴れ回る百足の体から
逃げる。
「君はそーゆー奴だと思っていたが、やっぱりそーゆー奴だったのか!」
 いらだたしそうに、美神が言いつける。
「横島クン! やめなさい」
「はっ、はい」
 すぐさま横島は飼い犬のように、美神の足元に手をついた。
 だが、百足上臈は長い体でのた打ち、暴れるのをやめない。校庭に亀裂が入り、子供たち
の叫び声が満ちる。

 美神の長い足がしなって、が横島を蹴りつけた。
「早くこいつを止めろーっ」
「い、いや、俺はただ乗ってただけで、別になんもしてないっす」
「けっ、百足上臈なんざ一発で片付けてやるぜ」
 犬夜叉が腰の鉄砕牙を抜き払った。濃くなった妖気が犬夜叉を取り巻く。

 鵺野は左手の黒い手袋を外す。紫のグロテスクな鬼の手があらわになった。
「南無大慈救苦救難……」
 白衣観音経を唱えると、鵺野の霊力はさらに増す。
 ケストラー博士らハマーの研究者たちが、騒然となった。
「すごい、あのメタモルフォーゼ二体どちらもキルリアン値九万前後まであがった!」
「だが、三人のキルリアン出力を足してもなお勝てない」

 犬夜叉が風の傷を飛ばし、鵺野が鬼の手で百足上臈を打つ。百足上臈はものともせず、
恐ろしい叫び声を上げ、また長い体で地面をたたいた。
 大音が鳴り響き地は縦に揺れ、がれきが八方に飛び散る。
「くそっ、どうなってやがんだ」
 百足上臈の強さに犬夜叉は悪態つく。鵺野は水晶玉を取り出し、百足上臈を霊視した。
「あいつは外から強力な魔力を与えられている。もとの妖怪とはまったく違うんだ」

「どーして弱点でもきき出して来ないのよーっ!」
 美神は横島を責め立て、剣の柄でこづき回した。
「だってこんな強いと思わなかったんすよーっ! パピリオが拾ったノラ妖怪に、ルシオラ
って奴が魔力を与えただけのザコなんです」
「パピリオどもはこいつより強いってこと? じゃーもーこの先どーせダメじゃん!」
 投げやりになる美神に、おキヌが泣いて懇願した。
「あきらめないでくださーい!」


 不意に、ヘッドライトが美神を照らした。大型バイクのエンジン音が響く。バイクは
目が覚めるような白だ。
 正義の象徴のような白色を、美神たちは注視する。

「戦わずにあきらめるとは、それでもおまえは美神家のゴーストスイーパーですか!」
 ヘルメットをかぶり、オカルトGメンの装備を身につけた何者かは、美神に向かって
バイクを駆る。
 すばやく竜の牙を取ると、白バイにまたがる女は厳しい声を飛ばした。
「竜の牙は変幻自在の神の武器、敵の特性にあわせて使いなさい! 今のあなたには豚に
真珠です!」
 竜の牙はまっすぐな剣から、騎士の槍に形を変えていく。
「あ……あなたは」
 西条は女の正体を知った。
 鉄の白馬にまたがる女は、槍を突き出す。

「私は、ゴーストスイーパー・美神!」

 百足上臈が、強烈な霊気の波動を吐き出した。
 光線にヘルメットが破壊され、乱れる髪とともに勇ましい女の顔があらわれる。
「ママ!」
 思わぬ母の助けに、美神は涙を光らせた。
 美神令子の母、美神美智恵の槍が、百足上臈の首を突き刺さす。

 魔力の中枢を突かれ、百足上臈は体を小さくしていった。魔力を与えていたヨリシロの
石が、地面に落ちる。
「槍が共鳴する部分が霊力の中心、チャクラが弱点と読みました」

「よし、あとは任せろ」
 犬夜叉の鉄砕牙が振り下ろされ、月を思わせる弧を描く。
 百足上臈は頭から両断され、裂けて地に崩れた。
 美神令子は母のもとへと走った。
「ママ! 来てくれたのね!」
 美神令子が中学生のときに死んだ美神美智恵だが、時間移動能力者なので過去から現代
に来ることができる。

 母の平手が美神令子のほおを襲い、強く打つ。雷のような衝撃に、打たれた娘は目を
回したようになって足をふらつかせた。
「戦って負けるならともかく、戦いを投げるとは何事ですか! それならいっそ、戦って
死になさい」
 犬夜叉たちもこれには面食らい、黙り込んだ。

「な……何よ」
 美神令子の声は震えていた。
「だって、突然魔族との戦いになって、小竜姫たちはやられちゃうし、敵は強いし、みんな
役に立たないし……」
 悪かったな、と犬夜叉、鵺野は眉間を狭くする。
「すごく、心細かったんだから!」
 母に抱きつくと、美神令子は大声で泣いた。子供に返ったように泣きじゃくった。
 早くに亡くした母との時間を取り戻すかのように、娘は泣き続けた。
 さすがの美智恵も、娘の頭にやさしく手を置いた。だが、声はかけなかった。

 美智恵の弟子、西条が二人に近づいた。
「先生、よく来てくださいました。そのかっこう、オカルトGメンに入ってくださったん
ですね」
 美神美智恵はうなずくと、毅然とした口調で話しはじめる。
「隊長と呼びなさい。ほかのみなさんもです。私は日本政府とICPOに対アシュタロス
特捜部の隊長に任命されました。今後は私の命令にしたがってもらいます。
 この事件は人類の存亡がかかっています。一切の権限は私にあります。異義は認めません」

 美神美智恵の冷徹な目が、犬夜叉、弥勒らに向けられる。
「俺たちもか?」
「すごいお母さんだね」
 珊瑚がつぶやくと、弥勒は深くうなずく。
「いやあ、まったく、すごい美人ですなあ。子がいるとは思えません」
 毎度のことながら、珊瑚はあきれ顔を作る。

「鵺野隊員、あなたもです」
 美神美智恵隊長にこう知らされると、鵺野はあわてて手を振る。
「お、俺も? いや、俺は教師をやめるわけには……」
「異義は認めないといったはずです。教員は休職です。すでに辞令は出ています」
「んな、無茶な……」

「事件解決まで、私はこの時代にいます。……おそらく、これが私の最後の時間移動です」
「まさか、ママ、私が中学生のときから来たの……!」
 美神令子の顔色が変わる。
 日暮かごめは、唐巣神父の話を思い出した。
「美神さんのお母さんって、中学生のとき亡くなったんですよね?」

「ということは、あなたは……」
 そうきいては、鵺野も強く断れない。美智恵は死ぬ運命を知りながら、みずからそこへ
突き進んでいるのだ。
「どうして出てきたんだよ」「そうよ、もう少しでうまくいくところだったのに」
 静たち生徒が、ICPOに抗議した。
「もういい、やめろ」
 鵺野が教え子たちを止めた。法子が残念がってうつむく。
「だって、せっかく友達になれそうだったのに……」

「俺にも責任がある。あの如意自在は、俺を狙ってきた。俺は今まで妖怪を退治したら社を
作ったりして供養していたが、どうやら通じていなかったようだ」
 自分のしてきたことは自己満足にすぎなかったのだろうか、と鵺野はふがいなく思う。

「私のことを考える必要はありません。それより、横島隊員」
 美神隊長に呼ばれ、横島の背すじも自然と伸びる。
「はっ、はい」
「あなたには、今後も敵艦に潜入してもらいます。情報を提供してください」
「何で俺だけなんすかーっ! バケモンの巣ですよ?」
 横島が泣いて訴えると、美神隊長は細いあごでうなずく。
「確かに、過酷な任務ですね。一人では荷が重いかも知れません」
 美神隊長が、隊員の顔を見回した。
「よし、俺も行く」
 犬夜叉が進み出て、銀髪を揺らした。隊長は首を左右に振る。
「あなたにこの任務は不適格です」
「な、なんでえ」
「うむ、おまえには向いてないな」
 納得して弥勒は言った。

 美神美智恵隊長は見下ろし、命じた。
「七宝隊員、横島隊員と行って補佐しなさい」
「お、おらか?」
 まさか自分が指名されると思わなかった七宝は、大きな尾の毛を逆立てた。

「隊長のご指名だーっ、来てもらうぞ」
 横島が七宝の首根っ子つかみ、引き寄せる。
「七宝ちゃん、大事な仕事よ、がんばって」
 かごめにはげまされ、七宝は小さな拳を震わせた。
「お、おらがしっかりせねば……」
143 ◆Omi/gSp4qg :2010/01/16(土) 17:31:12 ID:15fafb6l
おわり
なんか中途半端だけど
パピリオ、横島忠夫、西条輝彦、美神令子、おキヌ、美神美智恵@GS美神 極楽大作戦!!
犬夜叉、日暮かごめ、弥勒、珊瑚、七宝、百足上臈@犬夜叉
鵺野鳴介、高橋律子、立野広、稲葉郷子、細川美樹、金田勝、中島法子、菊地静、白戸秀一、
山口晶、木村克也、栗田まこと@地獄先生ぬ〜べ〜
ケストラー博士@うしおととら
如意自在@伝承妖怪


スレ違いかも知れませんが田の中勇さんの御冥福をお祈りします
144二人で見た夕日1 ◆Omi/gSp4qg :2010/01/21(木) 18:25:12 ID:hozBR5CS
 テレビはニュースで魔族の襲撃を伝える。
――魔族は小学校を襲撃し、少女一命が負傷、命に別状はないとのことです。
 敵幹部の一人、ポチを名乗る男の犯行声明によると、おろかなる人類は魔族にひざまずけ
という内容で……
 またこの事件に関してはICPOと自衛隊特殊災害対策室が協力して当たり……
 防衛大臣のコメントは……

 いまひとつ危機感のない報道だ。政府がパニックを回避するため、情報をある程度操作
しているためだ。
「失敗か。だが、人間どもがびびってやりやすくなるかもな」
 魔族三姉妹の上司、土偶羅魔具羅は危機感のなさに気づかず、単純に喜んだ。丸くて
大きい目、尖った口の土偶羅魔具羅は土偶に似ている。

 魔族たちは戦艦『逆天号』内のリビングルームで、テレビを見てくつろいでいた。
 横島はパピリオたちに茶を運ぶ。
「気にすることないでちゅよ、ポチ」
 パピリオは携帯ゲーム機で遊びながら、横島をねぎらった。横島はトレイを手に愛想
笑いする。
「いやー、もうしわけありません」
 首輪をつけられた七宝は、ゲームを教えられていた。
「これはなかなか難しいのう」

「ポチ、この調子で働けば、この島国をおまえに与えてやってもよいぞ」
 土偶羅魔具羅は愉快そうにした。横島は思わずうれしそうにきく。
「えっ、本当っすか?」

「調子に乗りすぎじゃないの」
 ベスパはティーカップを手に、不機嫌そうだ。
「す、すんません」
「いや、そうじゃなくてさ。まだ神族が全滅したと決まったわけじゃないし、エネルギー
結晶も見つかってないじゃないか」

「みつけた君がおかしいのかな? 壊して作り直そうかなー」
 ルシオラは自信なさげに、頭の触角を下げる。この魔族たちは、魂にエネルギー結晶を
持つ人間を探している。千年前、裏切った魔族メフィストが持ち逃げしたものだ。
 メフィストの転生先を検索する兵鬼・みつけた君は、横島の文珠により異常を起こして
いる。
145二人で見た夕日2 ◆Omi/gSp4qg :2010/01/21(木) 18:26:43 ID:hozBR5CS
「いっ、いやっ、ルシオラ様の作った兵鬼を、もう少し信じましょう!」
(俺があれを狂わせてることがばれたら、殺されてしまうー!)
 横島は青くなって、全身から汗を垂れ流した。

「えっ、そう?」
 ルシオラは素直に笑顔を見せる。
「でも、早くエネルギー結晶を見つけないと……」
 焦燥するベスパに、土偶羅魔具羅は説いてきかせた。
「なーに、気にするな。神界・魔界・霊界との通路は遮断されておる。さすがにこれほど
の妨害霊波を出されたアシュタロス様はお休みになられているが、南極・バベルの塔を
建造し終えれば、すぐお目覚めになる。
 アシュタロス様は当然、メフィストの転生先をご存じだ。エネルギー結晶はすぐ手に
入る。さすればアシュ様は力を取り戻される、もう勝ったも同然なのだ」

 ベスパはまだ不服なようで、口を曲げた。
「だけどさ、こうしている間に人間どもが対策を練って……」
「ベスパ、人間が小細工したとて、おまえ一人にも勝てんわ。ましてやこの逆天号に傷一つ
つけられまい。それ以前に、奴らは手を組むことすらできん。
 わしは何千年も人間を見てきたが、奴らときたら互いに殺し合うしか能が無い。どうせ
いがみ合って勝手に自滅するわい」

「じゃあ、じゃあ……私たちは、いったい何のためにここにいるんだ?」
 いらだたしそうにベスパが言うと、妙な沈黙が訪れた。
「ベスパちゃん……」
 パピリオの幼い顔は、何かを心配しているようだ。
「ま、まあ、楽しめばいいじゃないか」
 上司の土偶羅魔具羅はなだめて笑った。

 こんなにも強い魔族が、何を焦ることがあるのかと横島はいぶかしんだ。
(まあ、化け物の考えることなんてわからんな)
 自分で結論づけると、横島はシーツを洗うため部屋を出た。
146二人で見た夕日3 ◆Omi/gSp4qg :2010/01/21(木) 18:29:18 ID:hozBR5CS
 逆天号、まさに天に逆らう戦艦は、大きなカブト虫といった形をしている。
 亜空間に潜航することが可能で、今は周囲にうねうねとした光景を見せている。
 横島はタラップで、洗ったシーツを干していた。

(クソ女どもめ……今に見とれ。この船の心臓部を見つけて爆破して、全員始末してくれる)
 手柄を引っさげ凱旋すれば、一気に英雄扱いだ。
(美神さんもマザコンだからなあ……俺はお母さんを助けるわけだし)
 美神の母は歴史上、死んだことになっている。今隊長を務めているのは、過去から来た
美神の母だ。
 つまり、今回の事件で美神令子の母・美智恵は死ぬことになっている。

(だが、俺が歴史を変えてお母さんを助ければ……)
『愛してるわ、横島クン! 結婚して!』
(ええ話やなあ……)
 感動に打ちふるえ、涙せずにはいられぬ横島。
(いや、待てよ。それどころか、俺は世界を救うわけだし……何も一人の女に縛られること
はない)

「世界の半分(のねーちゃん)くらいいただいてもいいんじゃないかなーっ!」
 横島がつい口に出したとき、彼の後ろから笑い声がきこえてきた。
「世界の半分はちょっと欲張りすぎじゃない?」
 横島が引きつった顔で振り向くと、魔族の女が見下ろして座っている。
「ル、ルシオラ様」

 ルシオラは物見台から滑り降りてきた。
「い、いやーっ、夢はでっかく……なんちて」
 ルシオラの黒い瞳の奥に何があるのか、読みとろうにも横島にはわからない。
「あの、なぜここに?」

「今ぐらいの時間に、座標の修正をするために、異空間潜航からいったん通常の空間に出る
んだけどね」
 潜水艦がたまに海上に出る要領だ。ルシオラはタラップのへりに歩いていった。
「ここから見る景色がちょっといいのよ」
 逆天号は異空間を脱して本来の空間、雲の上を飛んだ。

 ルビーを溶かしたような夕日が、西の空に沈みつつある。
 果てしなく波打つ雲海は赤く染まって、空は紺から真紅へと際限の無いグラデーション
を見せた。
「ね、きれいでしょ」
 夕日の色になったルシオラが言う。だが、横島が心を奪われるのは、大自然が造り出す
壮大な美よりも、やはり女の美であった。
147二人で見た夕日4 ◆Omi/gSp4qg :2010/01/21(木) 18:31:36 ID:hozBR5CS
「はあ、きれい……ですね」
 あわてて横島は心の内で首を振る。
(いかん、いかんぞーっ! 今回だけは、今回だけはいかんのやーっ!)
 神族・魔族正規軍たちが攻撃を受け、小竜姫も生死不明だ。
 美神の母も死ぬことになっている。

「昼と夜のすきま……わずかの間にしか見られないからきれいなのかしら」
「そ、そうですかねー」
 心中の葛藤を、横島は表に出すまいとする。
「ねえ、ポチ。その服、パピリオが作ったんでしょ?」
「え? ああ、はい」
 いかにも悪役といった感じの、黒づくめに黒マントだ。
(あのガキ、よけーなもん作りやがって……)

「あの子も生きた跡を残したいのね」
 言葉の意味が、横島にはわからない。
「はあ?」
「知らないの?」
「何をすか?」

「魔界、神界とのアクセスを遮断していられるのは一年が限度。だから、私たちの寿命は
一年に設定されているの」

「え……? あんたら、一年しか生きられないわけ……?」
 突然知らされた事実に殴りつけられたような衝撃を受け、横島は石像のように固まった。
 ルシオラは淡々としたものだった。
「ええ。人間は、死んだら幽霊になったり生まれ変わったりするでしょ? でも、私たちは
完全に『消滅』するの。何も残らないわ」

(な……に?)
 口を半開きにしてほうける横島をよそに、ルシオラは微笑する。
「次のクリスマスは迎えられないわね」
 足元がいっぺんに崩れ落ちるような感覚に襲われ、横島の思考は停止した。
「千年前、自分の娘に裏切られたのがよほどショックだったのね。かわいそうなアシュ様
……」
「な……、ほ」
 本気で言ってるのか、と問いたいところを、立場上横島は耐える。

「ねえ、ポチ」
「は、はい」
「おまえはやっぱりスパイなんでしょ?」
「え?」
 いきなり図星をさされて、横島は縮み上がる。
148二人で見た夕日5 ◆Omi/gSp4qg :2010/01/21(木) 18:34:04 ID:hozBR5CS
「そりゃそうよね。おまえは十何年もこの世界で生きてきたんだもの。いまさら滅ぼす側に
味方するわけないわ」
「い、いや、そんな」
「いいのよ。さっききいたでしょ? もう私たちに敵はないわ。勝ちは決まってるもの」

 ルシオラが手を伸ばすと、横島は恐怖して息を止める。干されたシーツが風にはためく。
「でも、今はパピリオと遊んでやって」
 ルシオラの小さな手が、横島の手を握った。手のあたたかみが、やさしく横島に伝わって
いく。
「日が沈んじゃった。おまえも早く戻りなさい」


 昇降口のハシゴをルシオラが降りていった。横島は一人、タラップに残り立ち尽くす。
 空は黒さを増していく。
(たった一年……? 消滅する……?)

『私のこと、忘れたらダメでちゅよ?』
『じゃあ、じゃあ……私たちは、いったい何のためにここにいるんだ?』
『昼と夜のすきま……わずかの間にしか見られないからきれいなのかしら』

 三姉妹の言葉が横島の頭に何度も響く。強大な霊力の代償は、時間。彼女たちは『使い捨て』
だったのだ。
「だ……だからなんだ!」
 たくさんの神族、魔族正規軍が襲撃され、生死不明だ。
 美神の母も死ぬことになっている。
「命なんか、何とも思ってないくせに……」
 だが、憎悪の火が急速に小さくなっていくのを、このスパイは止められない。

「おい、横島」
「うわっ!」
 見下ろすと、横島の足元に七宝がいた。
「いつまで物干ししとるんじゃ。パピリオがげえむの相手せいと呼んどるぞ。おらでは
かなわんからな」

「あ、ああ。おまえも手伝えよ」
 横島は洗濯バサミを取り、シーツを取り込みはじめる。
149二人で見た夕日6 ◆Omi/gSp4qg :2010/01/21(木) 18:35:52 ID:hozBR5CS
「横島」
「なんだよ」
「おら、さっきルシオラとすれちがったが、おまえ……」
「あ、アホか! 俺だって、今度ばかりはわきまえとるわっ!」
「おら、まだ何も言うとらん」

 うっ、と横島は言葉に詰まる。七宝があきれてため息をついた。
「おまえはやっぱり……」「うるせーな!」
「おらな、実はおまえが裏切らんようにと、監視するためによこされたんじゃ」
「そうだったんか……くそーっ、誰も俺を信じてないんかーっ」

「当たり前じゃ。おまえのどの辺を信じたらいいんじゃ」
 言い返したかったが、横島自身誰よりも自分を信じていない。
「あー、どーせそーだよ、くそっ! でもな、今回だけは俺もわかってるつもりなんだよ」
「そうなのか?」
「ああ。何しろ、美神さんのお母さんが死ぬことになってるからさ」
「その話が、おらにはよく分からん。隊長は生きておるではないか」
「とにかく、そうなってんだよ。でも、歴史を変えることができるかも知れない。そうすれば、
隊長を助けられる……」

 だが、横島は小さな手のぬくもりを思い出していた。
150 ◆Omi/gSp4qg :2010/01/21(木) 18:45:33 ID:hozBR5CS
終わり
土偶羅魔具羅@GS美神 極楽大作戦!!

ちなみにだいたい霊力1000マイト=キルリアン値100000ではないかなと推測している
普段の美神100マイト弱
竜の牙とニーベルンゲンの指輪で武装して本気出した美神が1000マイト弱
獣の槍を持ったうしおが本気出すとキルリアン値108000
本気出した美神とうしおがだいたい同じぐらいでないかと考えた次第

で、まあこの手の漫画の主人公はだいたい普段は霊力約100マイト、
本気出すと約1000マイト=キルリアン値100000ではないかなと予想しました
151創る名無しに見る名無し:2010/01/22(金) 03:12:10 ID:WYmSFM6k
うおお何か久々に見たらすげえ盛り上がってる!!
超乙!
152通りがかり:2010/01/23(土) 09:21:02 ID:Hciulj8N
 鬼太郎も出てたよね?鬼太郎は悪魔ブエル
(ソロモン72柱の魔神の1柱で、50の軍団を率いる序列10番の地獄の大総裁)
とやりあったことがあるんですけど・・
この世界だったら、鬼太郎とんでもなく強そうに思える・・
でも封鎖されてて出てこれない??
153創る名無しに見る名無し:2010/01/31(日) 16:18:21 ID:RamOe872
でもそんとき鬼太郎ヤカンヅルの中で何年も戦ったんだよね
そのシリーズの最終回だったそうだし、
不死身の鬼太郎にとっては死に近いぐらいのことかもしれんね
154創る名無しに見る名無し:2010/02/11(木) 02:17:29 ID:tjJb9m59
規制解除?
155東方女難相1の0(再):2010/03/07(日) 23:29:24 ID:1w205a53
間違って前スレに書き込んでしまった……

いつも読んでます。
これまでも良かったけど、最近好きな作品が更にクロスして
どんどん展開が素敵になるのでここで私も久々の支援投下です。
が、最後まで書き終わらなかった……

***

次の作品にはほぼオリキャラが登場するので注意。
ラスボスと主人公をめぐり合わせる展開で
うまく原作を使えなかった……
一応、出展で無理矢理原作と紐付けてるけど9割9分オリ設定です。

***

だいぶブランクがあったのであらすじ
(一年以上経ってたのかよ!
 まあ、他にいくつか短編は投下してたけど……orz)

吸血鬼の館で門番をしている妖怪
紅美鈴@東方project、主に紅魔郷や非想天則 は、
自分が現職に就く前の遠い昔に
人間の夏目レイコ@夏目友人帳 と主従の契約を結んでいた事を思い出し、
妖怪である事を偽ってレイコの孫、夏目貴志と接触する。
親しくなっていく二人だったが、
ある日、
貴志が東方project・夏目友人帳どちらの世界観にもそぐわない
正体不明の凶悪妖怪、キューコン女@不安の種 に襲われ、
命を奪われる寸前まで追い込まれてしまう。
主人を救うため、美鈴は貴志の目の前で妖怪の力を発揮し、
キューコン女を葬り去った。
だが、やはり二作品には存在しないような、
強い悪意の眼差しがその光景を捉えていたのだった……
156東方女難相1の1:2010/03/07(日) 23:30:47 ID:1w205a53
「当時のご主人様……貴女のおばあ様が何故、中国へやってきたのか。
 私には分からず……今は知る由もありません」
戦いを終えた帰り道、夜のうす暗い気まずさを――それは夜の所為だけではないが――
最初にかき消したのは美鈴の言葉だった。
「祖母は、中国へは何回か?」
「いえ、少なくとも私の居た地域には一度きり……
 来たというよりは、通りすがったとか、立ち寄ったという雰囲気だったかもしれません。
 偶然そこに私がいて、勝負を申し込んだか、申し込まれたか、それすらももう定かではないのですが……」
「戯れに主従の契約を結んで放っておくなんて……
 あの人は本当に……本当に、すみません」
貴志は眉をひそめ、厳しいような悔しいような複雑な表情をした。
「そ、そんな! 謝るのは私の方です! 人間のふりをして、ずっとご主人様を騙して!!
 ……それに私は、おばあ様と戦ったからこそ分かるんです。
 あの人の行いに、悪意は無かったと」
「……そう、そうですね。
 僕にとっては悪い事ではなかったかもしれない。
 お陰で、貴女の様な素敵な人と巡り合う事ができた」
それは、貴志にとって本心の言葉だった。
だから、レイコの行いを素直に怒ることが出来ず、先の複雑な表情を見せたのである。
だが、美鈴は元々沈んでいた表情を更に曇らせた。
「違うわ、違うんです、ご主人様。
 さっきの妖怪をご覧になったでしょう……友人帳の意味、それは、
 友情の繋がりを広げる事だけではない……
 邪悪な妖怪を縛りつけ、彼女の世界を守ることも含まれているのです。
 私と彼女の契約は、つまり、あの妖怪と同じ……」
「違う、美鈴さんはあんな妖怪とは違う! 僕は知っている……!」
「貴方には分からない!」
貴志の悲痛な訴えは、美鈴により強い口調で一蹴された。
貴志は口ごもり――それ以上何も言えなかった。
自分には美鈴を擁護する権利は無いと思ったのだ。
彼女が人間ではなく妖怪だと知ったとき、確かに幻滅の感情を持ってしまった
自分の様な者に、妖怪の彼女を理解できるはずが無い、と……
「……! わ、私は……ご主人様……」
口から出てしまった言葉を押し戻すかのように、美鈴は口に両手を合わせた。
だが、もう遅かった。
お互いを一片たりとも憎んでいないにもかかわらず、
二人の友好関係は先ほどの出来事を境に崩れて行き、そして……

「そうだよ、君にはめーりんの事はわからない」

「誰!?」
美鈴と貴志が発した叫びには、緊迫したものというよりは
素っ頓狂な、ツッコミ的な雰囲気が強くあった。

両者とも全く見た事のない、
眼帯をした青年がいつのまにやら、そこにいた。
157東方女難相1の2:2010/03/07(日) 23:31:55 ID:1w205a53
僕が誰かなんてどうでも良いさ。
まあ、それっぽく言うなら……“秘法の伝承者”ってところかな?
僕は、血筋っていうだけで妖怪の近くにいる君とは全く異なる。
色々あってね……自分から神秘に触れる道へ行ったのさ。
だからめーりん、幻想郷も……君のこともよーく知っているよ。
修行で磨き上げられた武闘派の肉体!
気を操る程度の能力で練られた高潔な精神!!
だが、紅魔館というゴスロリ空間で暮らすうちに育っていった
夢見る少女らしさも兼ね備え……
お砂糖もスパイスも要らない、素敵なものを沢山持ってる!
君の事はなーんでも、知っているよ……
だから君を幸せに出来るのは僕だけなんだ!
そこの“ご主人様”も……レミリア・スカーレットですらも君を幸せには出来ない!!
なぜなら君には主従関係ではない……並んで歩く者が必要だからさ!!!
僕ならばそれができるんだ、うふふふ……
おやあ、怪訝な顔をしているねえ……
まあ、分かるよ。君をモノにするためには力が無いとね。
見せてあげよう、僕が君に相応しい人間である理由、
君と共にゆく僕の“歩み”……
さあ……僕の導きにお答え下さい! ……なん様!

***

「『しょなん』!? き、貴様っ、『諸難』と言ったか!!」
美鈴と貴志の会話を神妙な面持ちで聞いているだけであったニャンコ先生が、
口を開き、吼えた。
「しょ……なん……だと?」
美鈴もまた、戦慄の表情で、男の向こうにある宵闇を見つめた。
貴志も何がなにやら良く分からずに、ニャンコ先生と美鈴の見つめる先を見た。
闇は闇のままだったが、街灯が照らす足元に何かが落ちているのを見つけた。
……米粒だ。
生米が、闇からこちらまでの道筋を作っていた。
再び貴志が前を見ると、それまで静止していた闇が、ゆがみ始めた。
ボリ、ガリという不快な音と共に、闇の先に何かが動き、近づいている……
158東方女難相1の3:2010/03/07(日) 23:32:54 ID:1w205a53
それは、黒い体表(体毛?)に覆われた、やや大きめの餓鬼、という感じだった。
しかし、一般の妖怪とは……あらゆる造形の概念とはかけ離れた特徴が一つ。

顔が、縦、だったのだ。

パーツは目が二つ横に並び、少し下の真中に鼻、その下に口がある。
が、目と口は「上から下に」切れ長に避け、
その頭蓋が一体どうなっているのか全く予想できはしなかった……
もっとも、それを見ればショックの感情が強すぎて、
構造を冷静に分析する余裕など無いだろうが……

男はくっ、と笑って言った。
「だめだよめーりん、それに斑様も。
 恐れ多い存在だって分かっているなら敬称を付けないと。
 少なくとも僕の様な人間はそうしなきゃとても呼べやしない。
 それも、言葉の上にも下にも敬称をつけなければ……
 ですよね、『御諸難様』」

すると、「それ」の口が動いた。
何を思ったか――知性があるのか無いのか、それは呼ばれた言葉を復唱した。
(または、自己紹介のつもりだったのだろうか?)
だが、どの生物学的にもあり得ない構造の口蓋で、その通りの発語をする事はかなわず……
彼らの耳には、「それ」が誇る、真の名が届いたのだった。

「おッ、おぢょなん、んざアんンン」

***

諸難。

世界中のあらゆるつらい事、くるしい事を寄せ集めたようなその名を持つ妖怪? について
世界悪役妖怪会議のデータベース上でも、分かっている事はただ一つ。
それは、「キューコン女は人間の魂を食うらしい」の様な内容とは比較にならない、
危険で厄介な情報。
……人間がコントロールし、呪術的兵器として使うらしい、というものである。

“オチョナンさん”と呼ばれ、
時折家の守り神とさえされるそれが
(攻撃の対象にさえなっていなければ、
 逆に他の妖怪が気味悪がって寄ってこない事を有効に使えるからだろうか?)
実際にどの様な攻撃をするのか、世界悪役妖怪会議ですら分かっていない。

しかし、それは、指向性をもって対象に被害をもたらすのである。
攻撃する事は分かっているのに被害の具体的な記録が無いのは
記録者すら巻き込まれ、必ず死滅させられているからだとか、
それとも、物理攻撃や精神攻撃どころではなく、世界から抹消する様な力だとか言われているが、
少なくとも、正体不明かつ恐ろしい存在であるのは確かだ……というのが、妖怪界での通説である。
159東方女難相1の4(中断):2010/03/07(日) 23:33:45 ID:1w205a53
それではまた来週……できれば、また来週!!

オチョナンさん@不安の種

オチョナンさん? の被害者@不安の種
(単行本が今見つからず名前失念)
あるエピソードで、オチョナンさんらしき妖怪に片目を食われた少年
(そもそもオチョナンさんだったかどうか定かでない書き方にされてはいますが)
……が、歪んで成長したという設定で、
この物語におけるラスボスとして
オチョナンさんを参戦させる役になってもらいました。
無理矢理すぎる……
160150:2010/03/09(火) 21:00:38 ID:bhffrhDY
感想レスありがとうです!
投下乙です
あらすじわかりやすいです
正直元ネタよく知らないけど楽しめました おもしろいです
おチョナンさん怖っ

自分は規制などで投下が難しくなりました
読んでいただいてありがとうございました
161創る名無しに見る名無し
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