933 :
モジリ兄:03/02/08 11:01 ID:ddIh1F1D
『War With The Newts』Karel Capek
日本語版では『山椒魚戦争』として創元SF文庫より。
SFの形をとってますが、メッセージとしては人間に対して
「ぶっちゃけ、お前らってどうよ?」と質問を投げかける
内容です。読んでると、介護ロボットやアシモのことが
ガシャコーンガシャコーンと頭をよぎります。
チャペックは『ダーシェンカ あるいは子犬の生活』『園芸家12ヶ月』で
ホノボノさせてくれましたが、実は相当シリアスな人ですね。
ユダヤ人強制収容所で亡くなったんだったっけか。
『カラマーゾフの兄弟』
ちょうど
>>97の魚好きあたりまで。ロシアの名前のつけ方を知ってると楽しめる。
また、プルードンやバクーニンの名前まで出てきた。
そういうのは同時代の共犯幻想みたいで、羨ましいな。
例えば、私の祖父は明治天皇死去も大正天皇死去も昭和天皇死去も見てきて、
そういうのはかなり羨ましかった。東郷元帥や乃木大将が歴史上の人物じゃなく、
よく目にする文字だったのに羨望をもった覚えがある。
・購入書籍
・戸坂潤『日本イデオロギー論』(岩波・品切)
・『父・夏目漱石』(夏目伸六・旧角川文庫)
・『漱石の思い出』(夏目鏡子・同上)
日本国際政治学会『太平洋戦争への道』全八巻(朝日新聞社)
の中の、ロンドン軍縮条約から統帥権干犯に動く時代付近を
読みました(図書館で)。改めて、まさに今の風潮と酷似している
ことを痛感しました。
937 :
大人の名無しさん:03/02/09 22:53 ID:LKKU4yte
内田百
日没閉門
"The Overspent American: Why We Want What We Don't Need"
(Harper Collins)
複数のクレジットカードを持ち、それぞれのカードに
何千ドルもの負債をつけながら、なぜアメリカ人はもっと大きな家、
もっと大きな車、豪華なバケーション、流行の服を買い続けるのか。
高い失業率、容赦ないリストラが続くなかで、なぜ消費は大きく
減速しないのか。本書ではアメリカ人の過剰消費の根底には、周囲からの
圧力(「お隣は新車買ったわよアナタ〜ん」)とともに、自分の階級を
ひとつでもあげたいと願う気持ちがあると分析している。
アメリカ人と階級意識についての本をあさってる間にみつけた
一冊だけど、階級を規定するものは消費力である、と主張する
社会研究の一派はちょっと違うな、とこの本を読むと思わされる。
お金持ってても「品」は買えないやね。
『崩壊する映像神話』
6章 映像ジャーナリズムの裏側
これで本書を読了。
全体として、もうひとつ踏み込んだ記述を期待したいように思える
ところも多く、特に、政治的な情報操作の実例に関する部分は、
もっと詳細に書かれていてもいいのではないかと思いました。
そのことは、表紙やあおり文句から受ける印象を考えれば、なおさらです。
それが逆に、「見かけや宣伝にだまされるな」という実例を
提示しているのだとしたら、それはそれで、うまくできた本と
いうことになるのでしょうけれど。
ある程度の時間を公共の交通機関の中で過ごす予定があるので、
持っていって読むのに手頃な文庫を選ぼうと思っていたところ、
朝刊の広告で高村薫の文庫が出ていることを知り、買いました。
文春文庫『半眼訥訥』がそれです。
「世相を見すえる作家の初の雑文集」とのことで、比較的短い文章を
集めてあり、細切れの時間の中で読むにはちょうどよさそうです。
941 :
オバコ:03/02/15 14:23 ID:Re2aHERM
『マンガ狂につける薬』終了。読みたい本が山程ふえてしまった。
とりあえず借りてきてある『バカにつける薬』に移行。
しばらくよそに行っていたんですが、その行き帰りの新幹線の中で
読んだ本を報告します。
まず高村薫の『半眼訥訥』を読み始めました。
最初の東京と大阪の港湾地域の比較などは、「言われてみれば確かに」と
うなずけることで、導入はよかったのですが、全体として、
新聞に掲載した短文を集めたもので、テーマがあちこちにとび、
また、自室で読んでいるのと違って、なにか気がついたことを
蔵書で確認するというわけにもいかなくて、新幹線の中で集中して
読むには、精神的にやや落ち着かない本のように思えてきました。
そこで、半分ほど読んだところで、もう一冊、予備のつもりで
バッグに入れておいた宮部みゆきの『ステップファザー・ステップ』を
取り出して、読み始めたのでした。(購入した経過は
>>524を参照)
これは、大変におもしろく、読後感のよい物語です。
超売れっ子の宮部さんの作品なので、基本設定その他はネット上で
いくらでも見つけられるだろうと思いますから繰り返しませんが、
瑣末と思えるようなことにいたるまで「世の中のこういうことは
肯定してしまいたくはないな」と思うような点が、
ちゃんと肯定しない書き方になっているところが非常に好ましく
感じられるのです。
例えば、双子が運動部の「規律」を嫌っていると思える点など・・・
ああ、そうそう、「ワンナイト・スタンド」の礼子先生の裁判のことを
知った後の「物語の書き手」による評価なども好感が持てます。
帰りの新幹線で最終章を読みかけたところで駅に着いてしまったので、
その晩もう遅かったのですが、最後まで読まずにはいられませんでした。
943 :
大人の名無しさん:03/02/16 21:06 ID:VDFAjxYb
岩波新書
「進化の隣人 ヒトとチンパンジー 」
松沢哲郎著
昨年、NHK教育テレビの人間講座として放送された内容をベースにしたもの。
いわゆる専門家が、わかりやすく書いた類のものだが、著者は学生時代は哲学を
履修していて大学院以降に現在の学問に身を置いたのだとか。岩波にしては珍しく
中学入試やら小学校の国語の教科書に教科書として取り上げてもいいと思われるくらい、
優しくわかりやすく書かれている。
名無しさん@魚好きさんへ。
今年のバレンタインの報告はまだですか?
去年のキャバクラで貰ったチョコレートを
ちょっと自慢してたのは、笑えました。
今年もお願い致します。
旧版『夜と霧』
最初から76ページまでの解説部分読了
各収容所の状況と、そこの管理者の記述。
ま、殺されるために収容所に入れられるわけだ。死刑囚が死刑を待つ場所みたいなもんだ。
拷問なんちゅうのはなんか吐かせるためにするんだろうが、なんの意味も無く、管理者の
趣味で拷問する様子がアカハダカハダカにかかれている。
興味深い記述
・刺青をした収容者はすぐ医務局に報告され、呼ばれて、殺される。殺された後、その
収容者の皮膚はきれいに剥ぎ取られて、管理者の妻の所に送られる。彼女はその刺青の
入った皮膚でランプシェードやブックカバー、手袋を作らせる。
ということで、カラマーゾフは最初のところでとまったままなのだ。今日、尻を叩かれた。
叩かれたので読む。これから、頻繁に叩いてください。
>>929 『夜と霧』おわり。旧版で買うべき。
カラマゾフ、離れてたら内容忘れた。また最初から読まなきゃならない。
『アホでマヌケのアメリカ白人』(マイケル・ムーア)
第5章 バカタレどもの国
の途中まで。
949 :
タク:03/02/22 21:50 ID:6cvkkylj
『娘の学校』なだいなだ。これ面白い。
950 :
大人の名無しさん:03/02/23 20:44 ID:hXrYqLm8
岩波新書「天皇の軍隊」―兵士たちの近代史―
第二章まで。社会学の本かと思うくらい、多面的に観察している。
『アホでマヌケのアメリカ白人』(マイケル・ムーア)
第6章 ちきゅうにやさしくキビシイ話 まで。
いつのまにかベストセラーになっていたようで、おまけに
映画「ボウリング・フォー・コロンバイン」も大盛況で
全国上映されることになったらしく、それ自体は、大変喜ばしいことです。
で、いろんな書評でも書かれているとおり、非常に真面目で
一読する価値の大いにある内容を、実に楽しめる文章で読ませてくれる
大変におもしろい本なのです。
しかしなぁ・・・・・すごく売れているらしいけれど、みなさん、
これをどんなふうに読んでいるのか(どう受けとめているのか)が
すごく気になります。
これって、「あー、おもしろかった」で終わる本じゃなくて、
さて、それじゃ、この日本はどうなの? 自分たちはどうしたらいいの?
というところへ進んでいく(進まなきゃおかしい)本だと思うのです。
アメリカは突出しているけれど、ここに書かれていることは、結局、
「し・ほ・ん・しゅ・ぎ」ってどういうものなのかという話なのでは。
http://www.hanmoto.com/bd/ISBN4-7705-0158-7.html 『ゴーマニズム思想講座 正義・戦争・国家論 』
(竹田 青嗣・橋爪 大三郎・小林 よしのり )
対談集なんだけど、竹田と橋爪の国家論・正義論・民主主義論・人権論の対談は非常に素晴らしい。誠にうべなえるものばかり、さすが本職の学者。
で、対談集なんだから小林よしのりも参加してるんだが、どうも駄目駄目。とっちらかった自分の私怨話ですぐ脱線し、編集者に軌道修正される。
これは竹田・橋爪の思想論といっていい対談集である。
で、この二人が対談するだけじゃこんな本は売れない(爆
そんな感じで、以前から付き合いのある小林も入れるとこの本は売れる。小林効果である。
簡単に言おう。吉本の対談集のページ毎にサトエリの写真が混ざってて、そして『サトエリ、吉本に学ぶ』
なんかだったら吉本を読み解けないサトエリファンは買うだろう(w
そそ、小林よしのりファンは小林本だから買うのだ。竹田と橋爪の高度な正義論・
アリストクラシー論・民主主義の限界論なんぞは理解できなくても、
小林よしのりの毎日新聞に対する私怨、オウムに対する私怨、
川田龍平系エイズ団体に対する私怨、そんなもんがかかれてりゃ、
それでモノを知った気になれるのだ。小林ファンには最高の書物である。
で、売れるんだから橋爪・竹田もホクホクである。対談の中では明らかに
小林をスルーして対談している場所が結構あって楽しい。
思想初心者のコバ信者にとっての小林よしのりは、アイドルヲタのサトエリ
みたいなもんだ。廣松渉とは言わないが、少なくとも丸山圭三郎くらい
読めるようになってから小林よしのり読みやがれってんだ、べらぼうめ、はっはっは。
『アホでマヌケのアメリカ白人』
第7章 男たちへの挽歌
第8章 ウィ・アー・ナンバー・ワン!
軍事費、ではなくて、軍事費の「増額分」の何分の一かでも、
国内の民生でどれだけのことができるかということができるかということが
ざっくばらんに、それでいて核心を突いて述べられます。
全く他人事ではありません。
955 :
大人の名無しさん:03/02/26 22:47 ID:vmlQV5ii
『家事場のバカぢから』
ものは考えようでやる気も出るんだな〜。
今日は家事を自分なりに爽やかに頑張れました。
956 :
311:03/02/26 23:10 ID:5b0tzN+a
一昨日 青井夏海「スタジアム 虹の事件簿」
昨日 青井夏海「赤ちゃんを探せ」
今日 アン・マキャフリィ「だれも猫には気づかない」
いずれも 草原推理文庫
どれも面白くて、一気に毎日1冊
「赤ちゃん」シリーズに続きを速く読みたい!!
957 :
大人の名無しさん:03/02/26 23:16 ID:LkrDkjqY
加納朋子
「いちばん最初にあった海」角川文庫
泣け。おまいら。
『アホでマヌケのアメリカ白人』
第9章 巨大でシアワセな牢獄
第10章 脳死寸前民主党
つくづく思うのだけれど、アメリカがよその国の人権問題を
大騒ぎするのは、非常におかしなことなのです。
今日の購入書籍
・『拝啓マッカーサー元帥様』(中公文庫)
・『渋江抽斎』(岩波文庫)
・『歴史の終り』上中下(フランシス・フクヤマ)
・魯迅『阿Q正伝・狂人日記』(岩波文庫)
・租税貢納論(岩波文庫)
・『受験のための警察用語集』
『拝啓マ元帥』は昔、大月書店から出てて絶版になったやつだ。私は呉の書評で読みたくてしょうがなかった。中公文庫で出てたのは知らなかった。帰宅して読む。こりゃ、面白い。
日本人が戦争に負けて占領される。これはドイツも同じなんだが、日本人、少なくとも50万人以上がGHQに手紙を出している。ドイツではこんなことは起こらなかった。
そりゃ、4カ国による共同統治だからかもしれないが、こういうのは日本人特有だろうな。
冒頭に来る手紙はこんな内容。
『とても素晴らしい指導者マッカーサー元帥様、いきなりの手紙をお許しください。私は姓名判断をやってます。
日本が負け、アメリカが勝つのはわかってました。亜米利加で姓名判断をすると、
亜・・・亜細亜の盟主になる、米・・・日本と共通の瑞穂の国、利・・利益を、加・・・加える。
マッカーサー元帥様の名前もやりました。マッカーサー(松嘉佐)松は常緑の素晴らしい木、
それを嘉みする、といういいお名前です』
『笑点』の都々逸ネタのような本当の話である。で、この手紙を書いたのが一般の庶民ではない。
某県県議会議長である(本書には名前まで載っている(w
『アホでマヌケなアメリカ白人』
第11章 人民の祈り
エピローグ
これで本書を読了。
重大な問題をこれほど真面目に、それでいながら楽しく笑いながら
読める本というのは珍しいのではないかと思います。
売上げは好調なようで、書店では、目に付くところに平積みされ、
「100万部突破」などと書かれたPOPが置かれていますが、
これは、これで、喜ばしいことには違いありません。
しかし、それにしても気になるのは、こうした本が売れれば売れるほど、
現実に日本政府が国際舞台で行っていることがこの本で批判されていることに対して
無批判であった場合に(残念ながら、そういう場合は往々にしてあります)、
そして、その日本政府に対して多くの国民が無批判であった場合に、
「いったい日本人っていうのは、何を考えているのか?」
「本を購入する能力はあっても、それを読んで理解する能力はないのでは?」
なんてふうに世界中の人達から思われるようなことになりはしないかということです。
一応、新スレを立てておきました。
http://human.2ch.net/test/read.cgi/middle/1046420314/l50 でも、もう少しこのスレを使うつもりです。
962 :
大人の名無しさん:03/02/28 18:27 ID:fBLwHKMT
「日本はテロと戦えるか」(アルベルト・フジモリ、菅沼光弘 扶桑社)
改めて「9.11」を思い出したよ。
963 :
すめら待永:03/02/28 19:56 ID:H7gHE7Sq
カムバックしないでノータリン.
ダシール・ハメットの『血の収穫』
(田中西二郎訳、創元推理文庫)を読み始めました。
>>767に書いたように(『赤い収穫』というのは勘違いでした)、
大西巨人の『神聖喜劇』の中で主人公が読んでいた本で、しかも、
そのことに特定の意味があるようで、ずっと気になっていました。
今日は、48ページまで。
禁酒法時代(?)のアメリカ、仕事の依頼を受けた探偵が依頼人を
訪ねますが、会えないまま依頼人は殺害されてしまいます。
スレ立て1周年でした。
「透明人間の告白」 H・F・セイント
(帯文)
ウオール街の証券マン、ニックは偶然巻き込まれた事故で突如「透明」
になってしまった。透明になったら無限の自由が手に入ると思っている
あなた、ちょっと待って下さい。透明な生活は楽ではありません。
食事は? 買い物は? 生活費は?
でも見えても見えなくても、人は生きていかねばなりません。
透明人間の苦難と哀しみの底から、不透明な現代が浮かび上がってくる
秀逸な作品。
『血の収穫』
97ページまで
探偵がいろんな人と接触して殺人犯が誰なのかを追及するが
みんな本当のことだけを話してくれるわけではないので、
真相を解明するまでに相当な回り道をしてしまう、という展開に
なるのかと思っていたら、いきなり・・・・・
でも、まだまだ物語は続きます。
『血の収穫』
168ページまで
大変無造作に拳銃が使われ、脇役以下の人達は、あっさり死んでしまい、
そのことは特に重要なこととして扱われることもありません。
『血の収穫』
209ページまで
主要な登場人物(死んだ人を除く)が全員登場して講和会議です。
まだページが100ページ近く残っているので、おそらく決裂するのでしょう。
ところで、よそのスレにも書きましたが、
>>874-919のあたりで報告した
『ネコでもわかる? 有事法制』の共著者の一人、小西誠は、
反戦自衛官として知られた人なのですが、大西巨人の『神聖喜劇』の
愛読者で、自営隊内で反戦活動を始めたのには、『神聖喜劇』の
影響もあったということを最近になって知りました。
そうなってみると、法案や規則の条文を徹底的に読んで批判している
『ネコでもわかる? 有事法制』は、実におもしろく読むべき本で
あったのかもしれません。
血の収穫』
258ページまで
主役級の登場人物がさらに殺されていきます。それもあっけなく。
私利私欲のために他人の命をきわめて軽々しく扱う、といったあたりが
『神聖喜劇』で東堂太郎が火葬場にこの本を携えていったことと
関係あるのかどうか・・・・・いずれにしろ、明日あたりには
読み終えることになりそうです。
『血の収穫』ダシール・ハメット
308ページまで
この本を読了。
ハードボイルドという分野を確立したとされるこの小説は、
探偵が考え込んでしまったりすることもほとんどなく、行動し、
物語が展開していって、テンポよく読んでいけます。
で、問題なのは、『神聖喜劇』の東堂太郎がこの本を読んでいたことの
意味ですが、とりあえず、『血の収穫』の中に火葬場についての
記述があるとかそういうわけではないことは確認できました。
『神聖喜劇』でそのことが書かれていた部分を引用します。
第一巻 第二部 混沌の章 第三 現身(げんしん)の虐殺者 の中にあります。
> その翌翌年盛夏、一日の晴れた午前、私は、母方の叔父を荼毘(だび)
>に附するため、福岡市南郊の火葬場へ出発した。私は、病臥中の母の代理
>であった。戦火は華北の一地点からまさに拡大しつつあって、巷(ちまた)
>に召集兵の往来が目立ち始めた。追い立てられるような焦燥感と不透明な
>虚無感とが、その日ごろ、私の内側に同居し、次第に蔓延(はびこ)って
>いた。それでもやはり私は、田舎道をそこに近づく霊柩車の中で、前田夕
>暮(まえだゆうぐれ)の「馬の脊をひしと撻(むちう)つ紐鞭(ひもむち)
>の音いたいたしこの焼場みち」を思い出したり、ここで芥川龍之介(あく
>たがわりゅうのすけ)晩年の作中人物がヴィルヘルム・リープクネヒトの
>『追憶録』を読むのである、と考えたり、しながら、初訪問の火葬場につ
>つましい興味をつないだ。前年の春、西条靫負(ゆぎえ)と近しくなった
>私は、彼の影響もあって、たとえばリープクネヒト著『土地問題論』を一
>読していた。しかし火葬場行きの私がたずさえていたのは、ダシル・ハメ
>ット作“Red Harvest”〔『血の収穫』〕であった。
(引用部分の括弧内の読みは、原文ではルビ。)
光文社文庫版『神聖喜劇』第五巻の巻末の解説の最後に評論家
(という肩書)の坪内祐三氏は、こう書いているわけです。
> 『神聖喜劇』はまた読書小説の傑作でもある。本、本屋、そし
>て読書体験に関する具体性に満ちた描写は本好きにはこたえられ
>ない。
> 私は、第一巻の終わり、十九歳の夏に東堂が、母方の叔父を荼
>毘(だび)に附する火葬場でダシル・ハメットの『血の収穫』を
>読んでいたシーンが、つまり、「しかし火葬場行きの私がたずさ
>えていたのは、ダシル・ハメット作“Red Harvest”〔『血の収
>穫』〕であった」というたった一行が、脳裏に強く焼きついて離
>れない。これからも、繰り返し、時どき、そのシーンのことを思
>い出すことになるだろう。
ここで、『神聖喜劇』からの引用中の
西条靫負は、東堂の高等学校での親友でマルクス主義者。
「戦火」は、1937年7月に始まった日中戦争。
ヴィルヘルム・リープクネヒトはドイツ社会民主党の創立者の一人。
また、ハメットは、戦後、反資本主義的な見解を表明して赤狩りの
マッカーシーの槍玉にあげられたが、『血の収穫』にそのような思想傾向が
反映しているわけではない(創元推理文庫の解説による)とされています。
昨日も書きましたが、人の命が軽く扱われてしまう戦時ということと
結び付けて『血の収穫』が選ばれたのだろうかとも思えますが、
それだけでは、坪内氏の解説のような強烈な印象を説明するには
とても十分とは言えません。
そこで、さらに、「芥川龍之介晩年の作」とはなんのことだろうと思い、
探してみたら、意外と簡単に見つけることができました。
内容で思い当たる作品がないので、ネット上の青空文庫で晩年の
芥川作品のうち読んだことのないものを開いて「追憶録」という言葉で
検索してみたところ、運良く最初に開いた作品が目的のものでした。
『玄鶴山房』(げんかくさんぼう)というのがその作品です。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/36.html 青空文庫で読むこともできますが、私の手持ちの本にも入っていた
ように思うので探してみたら、旺文社文庫の『O・ヘンリー短編集』が
出てきた段ボール箱の中にちゃんと入っていました。
『河童・或る阿呆の一生』という芥川晩年の作品を収録した旺文社文庫です。
で、旺文社文庫は、作品についての解説が比較的充実しているので、
まず解説の方をざっと読んでみました。
すると・・・・・そうだったのか!
目的のことと無関係ではないだろうと思われることがちゃんと書いてあります。
それはどういうことかというと・・・・・時間がないので、
というか、『玄鶴山房』を読んでみてから、改めて明日書きます。
ごめんなさい。
これを読んで興味を持たれた方は、青空文庫の『玄鶴山房』を
読んでみておいてください。
芥川龍之介『河童・或る阿呆の一生』旺文社文庫版より「玄鶴山房」
およびその解説(吉田精一)
解説に書かれていることのうち、今の問題と関係あると思われる
部分の要旨は、以下のとおり。
>作品発表当時、最後に大学生が社会主義者リープクネヒトの『追
>憶録』(龍之介の愛読書でもあった)を読むということが問題に
>なり、雑誌「新潮」で、なにもリープクネヒトでなくても娯楽雑
>誌の類でもいいじゃないかという批評が出た。これに対して、リ
>ープクネヒトを読ませた点に新時代が感じられておもしろいとい
>う意見を批評家の青野季吉(すえきち)だけが述べた。それを読
>んだ龍之介が青野に書いた手紙によると、龍之介は、作品の最後
>で山房以外の世界に触れさせ、そこに新時代があることを暗示さ
>せたいという意図を持っていたのだった。そして、龍之介は、チ
>ェーホフが『桜の園』で新時代の大学生を二階から転げ落ちるこ
>とにしていたことも念頭に置いていた。
このことは、新潮文庫版の『河童・或阿呆の一生』巻末の
「玄鶴山房」の解説でも、ごく簡単に触れられています。
つまり、『神聖喜劇』の中ではタイトルを挙げられていなかったものの、
この『玄鶴山房』では、登場人物が火葬場に行くのに持参して読む本が
作者によって特に意味付けがされて選ばれた本だったわけです。
ということは、『神聖喜劇』の作者大西巨人も、そのことを踏まえた上で
「ここで主人公が火葬場に持って行く本には特に意味があるのだ」という
読者へのメッセージとともにその本を提示しているということになるでしょう。
(そして、そこに強烈な印象を受けた坪内氏は、当然、『玄鶴山房』の
意味を理解した上で、「本好きにはこたえられない」という感想を
述べていると思われます。)
で、そういったことを理解した上で、では、新時代を暗示させようとした
芥川に対して、『神聖喜劇』でハメットの『血の収穫』が選んだ大西の
意図ですが、これは、当然、時代背景抜きには考えられないと思います。
『玄鶴山房』が発表された1927年(昭和2年)は、
どのような時代であったかというと、
1925 治安維持法公布 普通選挙法公布
日本プロレタリア文芸連盟成立
1926 労働争議激化 文相、学生の社会科学研究を禁止
1927 金融恐慌 日本軍山東に出兵
(旺文社文庫の芥川略年譜から抜粋)
1917年にはロシア革命が成功し、日本でも労働運動が高揚し、
禁止されるほど学生による社会科学研究が盛んに行われた時代であり、
「新時代」の到来が期待されていたと言えるのではないでしょうか。
一方、『神聖喜劇』の主人公が火葬場に『血の収穫』を持って入った
(1937年と思われる)のはどのような時代かというと、
1927年以降、共産党弾圧、世界恐慌、満州事変、五・一五事件、
滝川事件、二・二六事件などを経て1937年の日中戦争開始に至る、
将来に明るい希望の持てない時代であったと言えるのでは。
「殺して分捕る」戦争の時代に、「人生は真剣に生きるに値しない」という
ニヒリズムに陥っていた当時の主人公を象徴するものとして、
私利私欲のために簡単に人の命が奪われるハードボイルド小説が選ばれた
とそんなふうに考えてみました。
975 :
タク:03/03/07 20:55 ID:ND35YULG
>魚好きさん
『神聖喜劇』を早く購入し読み直したくなりました。ありがとう。
976 :
大人の名無しさん:03/03/07 21:31 ID:nkVuxu+N
『中国怪食紀行』 小泉武夫 光文社
夫の読んだあとに読んだが、面白かった。
小泉さん、いろんなもの食べすぎ。
カメムシの幼虫まで、あんた・・・
『もの食う人びと』 辺見傭(人偏いらない?)
これもまずまず。
食べることばかりだ。
http://images-jp.amazon.com/images/P/4101226318.09.LZZZZZZZ.jpg 靖国 新潮文庫
坪内 祐三 (著) 内容(「BOOK」データベースより)
「軍国主義の象徴」か、あるいは「英霊の瞑る聖地」か。八月がくるたびに、
閣僚の公式参拝の是非が論じられる靖国神社。
しかし、そもそも靖国は、建立当初はどのような貌をした場所だったのか
―イデオロギーにまみれ、リアルな場として語られることのなかった空間の
意外な姿を膨大な史料を駆使して再現し、近代化を経て現在に引き継がれる、
日本人の精神性を発見する痛快な評論。
温泉入って寝るまでに第五章まで。山口昌男の弟子の面目躍如たる出来。
978 :
タク:03/03/08 14:20 ID:YwNdLylh
>976
そんなあなたにお勧めの1冊、『土を喰う』水上勉。
物の味の本質に立ち返ります。
芥川龍之介『河童・或る阿呆の一生』から
「点鬼簿」「蜃気楼」
昔、読んだような気もするのですが、念のため読んでみました。
死の影の漂う陰鬱な短編です。
>>974の2行目
>『血の収穫』が選んだ
は
>『血の収穫』を選んだ
の誤りです。
『京の川』水上勉。
981 :
大人の名無しさん:03/03/08 18:18 ID:bDSDL793