1 :
894 ◆wDkpIGVx1. :
なんか512k越えで書けません言われたから新スレ立ててしまった・・・
ただ立てただけですが、良いのかな
↓書こうとして書けなかった、前スレあずさんへのレス
>>716 まさかの阿久悠論光臨なのかw
ちょっと世代的に詳しくはないのですが
「熱き心に」は詞も良いけど曲が良いよね。あれは名曲。
「勝手にしやがれ」は歌える笑
>なんてことのない日常が、特別なものに代わる魔力を持っている。
>幼少時代、まわりは氷に閉ざされていた。けれど家に帰ると、母と、暖かい家族が待っていた。
>心の中は熱かった。今は、熱い状態が続く訳ではない。
↑もし短編小説にするのなら、このへんがポイントになりそうだね
3 :
優しい名無しさん:2008/09/13(土) 20:50:55 ID:rgQwAN+J
4 :
優しい名無しさん:2008/09/14(日) 21:55:03 ID:qX5ninQF
前スレへの
>>715 評価してくださってありがとうございます!
久々(?)に見に来て、読み返して恥ずかしくなりました・・・。
でも、評価もらって嬉しいです。調子乗ってまた書きたいなと思いました。
5 :
優しい名無しさん:2008/09/17(水) 02:21:47 ID:o5ORZOlx
せっかくだから投下してみる
リンキンパークを聴きながら
さっき雨が降っている気がした。
煙草は木の箱に入れて二本持っている。煙草よりこの箱の方が大切だった。
箱は、かつてハルウという女の持ち物だったという。僕が見ている先で、一匹の犬が街灯の光の下に現れ、またすぐに闇に消えた。
犬の荒い呼吸音だけが後に残った。ハルウは代々刑務官を務める家に生まれ、伝統に従ってその仕事に就いた。
刑務所のある地方は雨が少なく、塀の内側はいつも、深く広い青空の下にあった。ハルウは空を見るのが好きだ。
刑務官の仕事をしていては、他に楽しみはなく、何でも自由に楽しむというわけにもいかない。ハルウが空を見るのが好きなのは好都合だった。
その刑務所の囚人服のデザインは青地のつなぎで、肩口・袖・腰まわり・裾などに白い縫い取りが施されたものだった。
ハルウの習慣の一つに、10秒ほど空を眺めた後、すぐに視線を囚人たちの群れに移して、空の青に馴染んで見える囚人を探す、というものがある。
もし空の青に馴染む囚人がいたら、彼女はその囚人と友達になれるよう努力することにしている。
青さを網膜に焼き付けるイメージを持ちながら空を見上げて、首が痛くなる前に(彼女は数を数えている。とお、今がその時だ)地上を見る。
にじんでぼやけた囚人たちは穴を掘る作業に従事している。力を込めてつるはしを振るうが、穴は後で埋め直すことになっている。刑務官であるハルウはそれを知っていた。
素っ気なく動く背中ばかり。
でも、あの人は?あの青、まるで一人だけ違う色を着ているみたいじゃないだろうか。
その囚人を見つけるまでの時間は四秒だった。反射ではない、透過の青さがそこにあるように見えた。光はその囚人を通り抜けていた。
刑務官の仕事の中には囚人に作業を与え、それを監督するというものがある。ハルウはその囚人に木の小箱を作る作業を与えた。
箱を作るには、囚人と刑務官が何度も接触し合う必要があったからだ。やがて出来上がった箱は、煙草の香りを湿気から守るのにとても適していた。
僕は二本の煙草のうち一本を、その箱から取り出した。そしてすぐにまたしまった。ライターを持っていなかった。
箱を開けただけで香りが周囲に広がった。吸ってしまえばそれで終わりだ。残りは一本だけになってしまう。
雨が降った気がしたのは、どこかからラジオのノイズが聞こえてきたからかもしれない。
前スレでエラーが出て書き込めなかったので
前スレで感想を下さった方へのレスをこちらでしたいと思います
(前スレ)
>>724 アドバイスをいただいてから、いろいろ火星のことを調べまして、
資料考証の伴わない執筆がいかに自己満足で終わるかを実感しました。
「限りなく地球っぽいんだけどどこかちがうところ」として直感的に火星を選びましたが、
執筆の段階で火星に関する資料考証をしていれば、作品に盛り込める要素がもっともっとあったと反省しています
(前スレ)
>>726 アドバイスを踏まえて作品を読み返したら、細部に改良の余地がわんさかありましたorz
「短い旅」テイストについても、自分としてもそのテーマを持って執筆していたらまたちがった
面白さがあったのではないかと思い、非常に参考になりました
ケンイチとの交流を評価していただいた点については、素直にうれしいです
着想がそのシーンからだったので。
やはり、小説は他の方に読んでいただいていろいろご意見を聞かないとうまくなりませんね
すごく勉強になります。みなさん、ありがとうございました!
7 :
950:2008/09/21(日) 19:47:10 ID:jE9SXqX2
ペプシさん返信ありがとうございます。たまたま火星について書こ
うとして頓挫した時期があったのでついつい^^;
>>5さん。発想と構成は素晴らしい。だけど、(5W1Hいつ・どこで・誰
が・どうして・どうなったか)を守って書くようにした方がいいですよ。
ループ文になってたのでついつい、「10秒ほど」よりも「しばらく」の方
が読み手は気持ちいいと思います。音読をしてみて、読み手がスラ
スラと読める小説は素敵なものです。指摘坊でウザくてすいません。
8 :
優しい名無しさん:2008/09/24(水) 01:11:38 ID:TTwlcd3e
道端に落ちていた小さな木片はアイスの棒。
それは兄のことが好きで好きで堪らなかったのに、想いを果たせないまま死んだ少女が、
夏、自転車でプールに行く坂道の途中で、投げ捨てたアイスの棒だ。
僕にはよく分かっているよ。さあおいで。僕の口の中に。
やけによだれが出るな。
「なぜ撃った?」
ジープを飛ばすことだけしか残されていなかった。会話を交わす必要もなかった。
運転するロイドも助手席のマリーにも、もう人生に残されたものは何もなく、
ただ政府軍の追撃から逃げられるところまで逃げた後、何発もの銃弾に撃ち抜かれて死ぬだけだった。
おそらくあと一時間以内のことだろう。
でも市街地を走っている途中、なぜかマリーが一人の歩行者を射殺した。ロイドが訊いたのはそのことだった。
「あいつがとても醜いことをしているのが分かったから」とマリーは答えた。
「醜い?革命よりもか」ロイドはそう言うとおかしくなってきて、腹の底から笑った。
アクセルを踏み込んだまま、砂利道にをとらえるハンドルを小刻みに揺らしながらでも、彼は笑える男だった。
笑いはだんだん大きくなっていった。最後には身体ごと炸裂するような馬鹿笑いになった。
マリーはリボルバーと、補助用の小さな自動小銃も取り出して、二挺の銃を膝の上に置いた。
「そうね」
マリーはそう言い、左手でリボルバーを自分の眉間に、右手で自動小銃をロイドのこめかみに向けた。
左手は四本の指で銃身を包むように、いわば逆手に持ち、親指で引き金を引いた。右もそれと同時だった。
9 :
優しい名無しさん:2008/09/26(金) 23:23:30 ID:/C+2+Syg
ageとく。
10 :
優しい名無しさん:2008/09/26(金) 23:31:21 ID:1HwM1TJn
>>5 素人なので、構成がどうたらとかはよく分かりませんが、引き込まれました。続きが読みたいです。
とき。
ときどき、人を恨むことがあるんでしょう。
いま。忌々しい吐息が身体を動かしている。
憎い相手の身体にも血が流れていて、呼吸が熱を生んで肉は温まるんだよ。あなたと同じ。
何も考えてないの?
本当に何も考えてないの?
したいことが無いなんて嘘だよ。
例えばあなたの右手、上がらなくなっているけど、寂しい?
ボールが投げられなくて寂しい?ある朝、あなたが投げたボールが空に弧を描いて、やがて草原に落ちる。
それをあなたの××が拾ってくれて、笑みを浮かべながらあなたを見ている。
でも今、あなたはどこにいる?ほらね。遠いでしょう。
右手は上がらなくても、足は?足も同じだっていうの?
まち。
街。待ち。くだらないものばかりだね。
新しい流行の冬物が並べられたショーウィンドウの前をあなたは歩いていく。目はまっすぐにあなたの中を見つめながら。
そのまっすぐな目、好きだよ。でもあなたの背後に、誰かがいるね。
見るだけじゃなくて考えないとだめかも。聞いて・・・静かにして・・・考える。あなたの後ろにいるのはだれ?
たぶん簡単なこと、探しものが急に見つかるみたいに、その人はあなたの肩を叩いて笑う。
不安がなくなって思うことは、「なあんだ」だと思うよ。
「なあんだ、こんなことだったのか」って。
「みんなここにいたの?ずいぶん探しちゃったよ」って。
興奮してるの?
騒がないで、静かにしてね。
ゆる。
ゆるゆる。涙流れる。緩む。許す。
温泉みたいな頬から湯気がたちのぼる。
私にレスはつけないでね。泣くなんてたいしたことじゃないよ。さよなら。
12 :
優しい名無しさん:2008/10/04(土) 13:12:30 ID:1Atfy6jj
age
13 :
優しい名無しさん:2008/10/04(土) 13:18:32 ID:N7IXwCp3
もう小説は書きません
14 :
◆wDkpIGVx1. :2008/10/05(日) 23:00:25 ID:PW8dqOfJ
ここにUP用にさっき考え始めたものを、
完成前のメモとかの状態でうぷしてみるテスト。
--------------------
静かな生活
海を臨む丘の上の小さな家
女主人と使用人夫婦の三人暮らし
掃除をしていて、短刀がみつかる。かつて女主人が自害しようとした短刀。
女主人は、国の命運を左右すると代々言い伝えられてきた「巫女」だった。
しかしこの国が苦難に襲われたとき、伝説に反し、巫女が力を発揮することはなかった。
そのとき女主人は自害を試み、使用人夫婦に止められたのだった。
キア
「白い森の巫女」の最後の一人。24才。
ミオランテ侵攻のとき14才。
ソワカ
30才。「白い森の巫女」を信仰し、10代でヨリキとなった。
ミオランテ侵攻時、恋人のハイソルと共にキアを保護した。
「白い森の巫女」の求心力が完全に失われた後でも、キアを守りながら暮らしている。
ハイソル
36才。
白い森に仕える鏡職人だった。
素朴な性格の男。背が高い。
短刀をみつけたキアは笑う。
ああまで一本気に死を選ぼうとした当時の自分を想う。
それが自分だったとは思えないような、今となっては遠ざかってしまった心がそこにあった。
逃げることも降伏することも頭になかったし、怖さや悲しさを感じてもいなかった。
ただ死ななければならないということだけを理解し、それを実行することを考えていた。
死ぬための手順、うまいやり方。みつからないためにはどうしたら良いか。
月から見た地球
>>13 ,. ‐''三ヾ´彡シ,=`丶、
/'".:=≡ミ_≧_尨彡三:ヽ、
//.:;:彡:f'"´‐------ ``'r=:l
/〃彡_彡′,.=、 ̄ ̄ ,.=、 |ミ:〉
'y=、、:f´===tr==、.___,. ==、._ゞ{
{´yヘl'′ | /⌒l′ |`Y}
゙、ゝ) `''''ツ_ _;`ー‐'゙:::::l{ あきらめたら
. ヽ.__ ,ィnmmm、 .:::|! そこで試合終了ですよ・・・・
,.ィ'´ト.´ ´`"`"`゙″ .::::;'
イ´::ノ|::::l \ "' :::/
::::::::::::|:::::l ヽ、 ..:: .:::/.、
:::::: ::: |:::::ヽ ヽ、.......::::/..:::/!\\
::::::::::: |::::::::ヽ ``''‐--ァt''′ |!:::ヽ:::\
:::::::::::::|::::::::::::ヽ、 /i|iト、 |l:::::::ヽ:::::\
:::::::::::::|::::::::::::::/:ヽ、 ∧|i|i|i|〉. ||::::::::::ヽ:::::::\
>>14 >月から見た地球
が気になってしまった。
17 :
◆wDkpIGVx1. :2008/10/09(木) 00:24:38 ID:/4DesHhO
タイトル未定 (1/?)
海からの風が開け放した窓から吹き込んだ。その風に含まれた冷たさが、午後も遅くなってきたことをキアに気づかせた。
キアは手にした短刀を見ている。ずっとそれを見ているだけだった。
刀身がむき出しの短刀を胸の前に支えて眺めたまま、どのくらいそうしていたか分からない。
それはかつて彼女が、自分ののどを突こうとした短刀だった。
いわば愛しい昔なじみだ。愛しすぎて見るたびに愛の言葉を捧げたくなる。ユーリャ・ニチーカ・ソメフェルン・ムニカ ……
同居人のソナとハイソルが、同じ部屋に、キアの寝室にいた。
キアにはそれが奇妙なことに思えた。夫婦であるソナとハイソルの寝室にキアが立ち入ることはないし、同様に二人はキアの寝室に立ち入らない。
部屋に入るくらい互いに何とも思っていないから、それは単なる習慣に過ぎなかったが、ずっとそうしてきた。
だから海のそばのこの家に住む三人が、キアの寝室に揃っているのははじめてのことだった。どこか奇妙で、何より視界が窮屈だった。
狭い部屋の中で三人の間の距離は近い。ソナは一つしかない椅子に座り、編み物をしている。
長身のハイソルは、ソナに背を向ける恰好で壁際の本棚の前に立ち、何か大判の本を広げている。
キアは二人に訊いた――彼女は自分の声を聞くことで、自分が部屋の中央に立っていることをはじめて意識した――「なにしてるの?」と。
すると二人はいっせいにキアを見た。ソナは編んでいた織物をかたわらの小さなテーブルに置くと、その手をキアの方に差し伸べた。
水に漂うように緩やかな動作だった。彼女はキアの手から短刀を取り、それもテーブルの上に置いた。
そしてキアを抱きしめると、静かに泣き始めた。
ハイソルは広げていた本を片手にぶら下げたままキアを見ている。キアはその本を知っていた。
それはこの辺り一帯に自生する植物の図録だった。誰かが実地に調べたものを肉筆で記録した本だ。
「ハマナス見た?」と、キアは言った。
海に行く最後の斜面の途中に、ハマナスの群生があるのだが、その本にきちんと記録されているのだ。そのことがキアはなぜか嬉しかった。
ハイソルは手にした本にぼんやりと視線を移し、それからまたキアの顔を見た。そこに何かを探しているかのようだった。
つづく
思ったより難航中、、、
>>16 ご期待ください!! と自分を追い込んでみるテスト
19 :
◆wDkpIGVx1. :2008/10/11(土) 02:34:48 ID:H1DsO2SU
タイトル未定 (2/?)
やがてソナは、キアに起こったことを話して聞かせた。この日、二人は朝から家の中の片づけに取り掛かっていた。
別々に立ち働いていたのだが、昼食どきになってソナは、キアが「固まっている」のを見つけたのだった。
見覚えのない短刀を持ち、それを見つめる姿勢のまま立ち尽くしたキアはまったくの無表情だった。
耳元で名前を叫んでも、身体に手をかけて揺さぶっても、反応を示さなかった。
「石像になってしまったかと思った。覚えてる?西の泉にあった石像」
キアをベッドに寝かしつけながらソナはそんなことを言った。
かつて彼ら三人ともが、ある特別な共同体の一員として白い森と呼ばれる土地に住んでいた。
西の泉というのは白い森の一角にある泉のことだった。
その頃のキアは巫女として多くの人々の尊敬を受ける身で、
ソナとハイソルは彼女に仕える立場だった。それは十年も昔の話だった。
白い森は動乱によって崩壊し、今では人々に顧みられることもなくなっている。
ソナとハイソルは巫女だったキアを護って、逃げるようにこの海沿いの地方に移り住んだのだった。
半農半漁、時折街に出て、最低限の必要なものを購ってくる。
そんな生活の中で、三人にとって白い森の思い出は、
失われた栄光を懐かしむことができる、数少ない甘やかな慰めの一つだった。
豊かだった頃の思い出は、無条件に癒してくれる。そのような慰めは厳しい生活を越えていくとき、濫用してはならない。
彼らは本能的にそう悟り、白い森のことを互いに会話に上らせることは、とうに以前からなくなっていた。
そして近頃では、ソナにとって昔の記憶をたどることは、
何か夜空に流れ星を探すような、頼りない行為になってしまった。
見つかればすぐに消えてしまうし、遠い。
「ハイソルは?」
あごの下まで毛布を引き上げてくれたソナにキアはたずねた。
「山羊を戻しに行ったよ」
ソナの背後から陽光のだいだい色が差し込んでいる。
ソナは華奢で、逆光の中で表情を隠そうとする影までが薄手に見えた。目が笑っている。
キアは謝罪した。「ごめんね」
ソナのその表情をいたわりたいような気分だった。小さな手がキアの頬に触れた。
「なーんにも考えないで、今は眠りなさい。よだれ、いっぱい垂らすのよ」とソナは言った。
しかし寝つくまでの間、キアは考えごとをしていた。
西の泉のことを持ち出すなんて、ソナは何を感じたのだろう。
漠然とした不安が、昔のことを思い出させたのかもしれない。
さっきまでの自分が、遠い過去からの乱暴で無分別な腕にからめ取られていたことを、キアは理解していた。
ソナにも分かっているのか、それが不審だった。分かっていたら、説明しなければならないだろう。
そう思った途端に、億劫だ面倒だという思いが抑えようもなく、首の後ろ辺りにぐっとせり上がってきた。
それは急激な感覚の変化だった。ぜんぜんたいしたことじゃないのに、話しても理解されない、話しても話しても。
何回話しても、どのように話し方を変えて話しても。
キアはそう思った。止めることができなかった。自分の血管が収縮する音を彼女は聞いた。
面倒という思いはソナの各部を次々と麻痺させていき、真心も、骨格も、重要な部分から先にその思いが鈍く満たした。
身体は重い水の袋になり、自分の眼球は袋の表面に浮いた一つの水滴に過ぎなかった。もはや彼女は一歩も動けなかった。
眠りにつくことと朝が来ないこと、同時に二つの懇願を、彼女は自分の内側で叫んだ。
20 :
優しい名無しさん:2008/10/20(月) 14:54:22 ID:O+kxn74+
age
21 :
優しい名無しさん:2008/10/28(火) 01:59:20 ID:9Xs2QPrY
保守る
22 :
優しい名無しさん:2008/11/01(土) 22:51:27 ID:3in9B7fV
age
自分がラジオのDJになって、もう一人のDJ(女性)と話しているという妄想の中で、
僕は、アキハバラで起こった無差別殺傷事件について、語りあぐねている。
「あれは暴力なのかな?と思うんですよ」
「暴力って、自分があって、他人や世界があって、
それで初めて暴力という関係が成り立つと思うんですけど」
「あれは暴力じゃなかったのかも知れない、って少し感じてます。まだ上手く言えないけど」
「もっと別の種類の凶々しい何かだったんじゃないかなって」
いつもの番組のような楽しい会話が始まらないことに、僕の相棒は戸惑っている。
その戸惑いが、彼女の中の僕への注意を、何らかの形で高めていくのを僕は意識している。
それはなんという下劣な感情だろう。これが僕だ。僕はラジオのパーソナリティとは、死んでも言わない。
あまりにも娯楽の少ない私たちの生活に「ふと気づいた」という感じで、彼はある日ラジオを買ってきた。
ラジオなんてまともに聞いてみた経験がない。アンテナを伸ばして、ダイヤルをどこかに合わせたら聞こえてくるんだろうと思った。
彼はその通りのことをして、食卓のそばにそれを置いた。その夜から、夕食どきにはラジオを聞くのが私たちの習慣になった。
しかし私はラジオにはまったく慣れることができなかった。騒がしくて、出演者たちは皆何かにせき立てられていた。
ラジオから聞こえてくる歌の多くは、愛を消費の対象とするためのコマーシャルソングのようだった。
「これって楽しい?」
と私は彼にたずねた。
世間の人がこれを楽しいと思っているかどうかを考えていた、そう言って彼は笑った。ラジオが来てから三日目の夜だった。
彼がそれ以上考え過ぎるのを私は怖れた。何かと考え過ぎる性質で、
このまま現代社会における娯楽の意義についてでも、思索し始めかねない。
そう、私たちはただ少しの娯楽を求めていただけだった。娯楽なら、なくてもいいものだ。
せっかく買ってきてくれた彼には悪いが、私はラジオを消すことにして、手を伸ばした。
しかしちょうどその時、思いがけず、ビートルズのCOME TOGETHERがラジオから流れてきたのだ。私の好きな曲だ。
イントロに胸が高鳴るのを感じながら、私は「そうそう、こういうのが欲しかったのよ」と言った。
「シッ」と彼は言った。それはジョン・レノンに合わせたのと、
唇に指を当てて静かにしろと要求する、二つの意味を掛けていた。
私たちはすっかり嬉しくなって、曲に合わせて少し踊った。どちらからともなく手を取り合い、ステップが出たのだ。
いくらも踊らないうちに、曲が突然途切れてしまった。
不満を感じたまま、私は思わずラジオを睨みつけた。反感だけを顔からほとばしらせるような気分だった。
そのままで臨時ニュースを聞いた。緊張した声で早口に話す、ニュースキャスターの言葉を理解するのに頭が追いつかない。
窓の外が急に昼のように明るくなって、その次に耳を聾する轟音が響き渡る。
一瞬遅れて衝撃が来た。
Like a Rolling Stone の訳
昔はさ、きれいに着飾って
ホームレスにせっせと小銭を投げてたよね?
みんなは「おじょーちゃん。そのうち痛い目見るよ」って言ったけど
キミは冗談だと思ってたっけ。
ぶらぶらしてる人たちをいつも笑ってたけど
今では、キミはにぎやかに喋らない。
今では、キミは自信あるように見えない。
次のごはんにありつけるように、どうにかしなくちゃいけないからね
どんな気持ち?どんな気持ち?
家庭もなくなって
誰にも知られることなく、転がる石ころみたいになって。
良い学校に行ったんだよね?ミス・ロンリー。
だけど 搾り取られただけだったんだよ
道端で生きる方法なんて誰も教えてくれなかった
でも今じゃ、キミはそれに慣れないといけなくなったね。
「妥協はしない!」なんて言ってたけど
浮浪者なんかアリエナイ、って言ってたけど
キミはしみじみ理解した
その人たちは決して「言い訳」を売り物になんかしないって
吸い込まれるような目を覗き込んで、キミが取引を持ちかけても。
どんな気持ち?どんな気持ち?
一人きりで、家の心配もなくなって
誰にも知られることなく、転がる石ころみたいになって。
キミは振り返ってみようともしなかったけど、ピエロや芸人たちは怖い顔をして
キミをだましていたんだ
最後までそれがヤバイ事だって分からなかったけど
他の人たちは、キミみたいにならないようにしないとね。
メッキの馬に乗ったキミと、その交渉人と、その肩に乗っかったシャムネコ。
分かった時はキツイ。
そいつが全然いなくなって
キミから盗れるだけのものを、全部持っていってしまった後は。
どんな気持ち?どんな気持ち?
一人きりで、家の心配もなくなって
誰にも知られることなく、転がる石ころみたいになって。
塔の上のオヒメサマとセレブな人たち
ノリノリの飲み会。ブランドものなんかの交換会
でもそのダイヤの指輪は取っといた方がいいよ。質屋に持っていくんだから
見せかけのナポレオンが言うことを楽しんでたよね
さあ行きなよ。そいつが呼んでるよ。キミは断れない
何も持ってなくて、何も失うものがないから
キミはもう消えてしまって、隠すような秘密もないよね
どんな気持ち?どんな気持ち?
一人きりで、家の心配もなくなって
誰にも知られることなく、転がる石ころみたいになって。
二人の一人(1/3)
「もう、生まれるわ」静かにファス・チアが告げたのに対し、イリルは目をそばだてて言う。「まさか」
その言葉は、しっかりした性質のイリルにしては間が抜けていた。
生ぬるい湯に浸かった人が発するうめき声のように自動的な反応を、ファス・チアはイリルにして欲しくなかったが、
今はそのようなことはどうでもよかった。彼女は神女ナタリィに助けを求める。
「神女さま。私を導いてください。どうすれば良いですか?」
「息を20回吸って20回吐く間、黙っていてごらんなさい」と神女が答える。
「それから、あなた起こっていることを、イリルと私に教えてくださいな」
イリルは急に不安にとらわれ、「こんなに早まることがあるんですか?」と神女に訊ねる。
その答えはのんびりとした調子だった。「早まってはいませんよ。生命はただおのずから成ります」
1分前までは、イリルとファス・チアの口論のため、産室に重苦しい雰囲気が漂っていた。
口論は生まれてくる子供の限界確定権に関するものだった。
新生児の誕生前にその子供の限界を確定して、その代わりに魂への攻撃影響を完全に受けないようにさせる
「確定権」を、イリルは行使したいのだが、ファス・チアが賛成してくれないのだ。
色白の容貌を豊かな亜麻色の髪が彩り、いくらか丸顔なところが「栗の焼き菓子みたい」とイリルに揶揄されるファス・チアは、
普段はおっとりしていて、およそ人と争うことがない。
しかし一度「こう。」と決めたことにかけては、頑なだった。
頑なという言葉には、やがて軟化する可能性の隙間が少しは含まれていそうな感じがあるので、
ファス・チアに関してこの言葉が適当でないことを、イリルは知っている。
古い星の説話を集めるのが趣味のファス・チアは、ついには得意の「なんか大時代な雰囲気の台詞」まで持ち出して、
「産むのは私よ」などと言うのだった。
イリルとしても引き下がるわけには行かなかった。子供の将来がかかる話だ。
ファス・チアが寝台に横たわったときから繋いでいた手を、反感を表現するためにイリルが離したのも1分前だった。
しかし彼女たちは再び、どちらからともなく互いの手を求めていた。
「痛い?」とイリルは聞いた。
間を置いて、「まだ20回息してなかったのよ」とファス・チアが答える。
「痛いの?」
「痛くはないみたい」
「生まれる前に決めないといけないわ。どうしてもだめなの?」
「イリル。ファス・チアを急かさないでね」と、神女ナタリィが穏やかに割って入った。
「今はファス・チアにとって、人生に一度きりの大切な時間よ。ゆっくり過ごさせてあげましょう」
「私にとっても大切な時間です」きっぱりとイリルは応じた。
「お腹の上の、指一本分くらいの空中が、暖かいの」とファス・チアが言う。
イリルは思わず、膨らんだファス・チアの腹に手を置いた。大きな力が秘められているのを感じて、手はそこに優しく触れる。
「そう。ちょうど今あなたの手があるところに、太陽があるみたい」
神女ナタリィが「きっと春みたいな暖かさかしら。いいわね」と応じながら、
寝台の横の小さな祭壇から、透明の球体を捧げ持つ。
生まれてきた子供が宿る、ウビマロ珠と呼ばれる球体だった。それを運びながら神女が続けた。
「私は春の野遊びが大好きなの。いつも家族や友人たちと、手料理を用意して出かけるのよ」
二人の一人(2/3)
「限界のない子供は不安定の中を生きることになるわ。私は、あなたと私の子供が闇に落ちるのを許せないのよ」
イリルはファス・チアの目を見ながら言った。左目で相手の右目を、右目で相手の左目をみるつもりで、ファス・チアを見る。
それはイリルにとって一種のおまじないだった。ファス・チアに何かを本当に伝えたいとき、イリルはいつもそれを心に念じた。
このおまじないが効力を失ったときが二人の危機だと、胸のうちでイリルは感じている。
幸いにもこれまでそうなったことはない。
今度もファス・チアはイリルの眼差しを静かに受け止めながら、自分の意のあるところを真剣に伝えてきた。
「私たちの子供は闇になんか落ちないわ。あなたがいてくれるから……そうじゃないの?どうして、そう言ってくれないの?」
イリルはどう答えればいいのか分からなかった。限界を確定しなければ、その子供には無限の可能性が残される。
確かにイリルはファス・チアと共に、産まれてくる子供の人生を光の方向へ導くよう、全力を尽くすだろう。
しかし可能性があるということは、人の努力さえ覆されうるということだ。
二人の存在を超えてまで作用する力の前に、子供をさらすということに他ならない。イリルはそれが怖ろしかった。
ファス・チアはいつか視線を外したイリルの横顔を見守っていたが、やがてその頬を一粒の涙が伝った。
表情は歪まずに、涙だけが自然に流れた。
「口を挟みたいわけじゃないから、少しいいかしら?」
神女ナタリィが言った。イリルが頷くのを見て神女がたずねた。
「あなたたち自身は、限界のある子として生まれたの?ごめんなさいね、ただ気になっただけなのよ」
「私もイリルも、限界のある子として生まれました」とファス・チアが答えた。
「そうなの」
イリルが、「そういう二人からの子は、親と同じように限界のある子として産み出されることが多いと聞きました。
そうなのですか?」と、言った。
「そんなことないと思いますよ。それから……そう、ファス・チアが産むことになったのは、どうして?」と再び神女がたずねる。
今度の質問にもファス・チアが答えた。
「私が産みたかったんです」
「そうなの。くじで決める人も多いのよ。どちらが産んでも同じというのは、やっかいな時があるわね」
「やっかいなんかじゃなくて、私が産みたかったんです」
イリルはファス・チアと繋いだ手に力をこめた。神女に同じ言葉を同じ調子で繰り返したファス・チアの声は、少し震えていた。
「そうだったのね。くじだなんて、馬鹿なこと言ったわ。ごめんなさい」と神女が言う。
「イリルと私の子を、イリルじゃなくて、私が、産みたかったんです」
ファス・チアは、今度ははっきりと泣き出していた。
「くじで決めれば良かったね。イリル。そうすれば、決まるのは可能性だもんね。みんなと同じように……
でも私、産みたかったのよ。私たちの子を。私がね。でもくじで決めた方が良かったかな。そうだったら、ごめんねイリル」
28 :
優しい名無しさん:2008/11/07(金) 20:46:39 ID:jq1dn9cz
二人の一人(3/3)
ファス・チアと繋いだ右手から、ほとばしる光のようなものが伝わって、イリルの視界を貫いた。
その光の向こうにイリルはファス・チアを見ていた。
今のどの中で自分で作り出したように、はっきりとした言葉の形を感じながら、イリルはファス・チアに言った。
「謝るのは私よ。間違ってるのは私、それが今分かったわ。ファス、許して。
私はあなたに産んでほしかったのよ。あなたに、私たちの子を。あなたが産みたいと思ってくれたのと同じように。
その意味が今分かったの。生まれて来る子は、限界のない子よ。あなたが正しかった。
限界のある私たちが、自然に、お互いのしたいことを選ぶことができたんだから……そうするべきなのよ。
可能性のある子こそ、私たちの子ね。私たちに相応しい子だわ。それが分かったの」
イリルの頬にも涙が流れ、やがてそれがファス・チアの顔に落ちた。
あまりにも感情を昂らせた二人を神女がたしなめた。
それでも波が去った後には、前よりも親密な空気が、
今まででも最高に親密な空気が、ファス・チアとイリルの間にあった。
「雨降って地固まるっていうのよ」とファス・チアが言った。
「古いことわざ?」「そう」
神女が、空いているイリルの手にウビマロ珠を持たせながら、
「本当は私の役目だけど、あなたが持っても良さそうね」と言った。
「その珠を、さっきファス・チアが暖かいと言った辺りに捧げ持ってください。大丈夫、うまくいくわ」
その時が近づいたのを二人は理解した。
イリルは空いている左手で珠をファス・チアの上に支えた。
やがて神女ナタリィが、生まれて来る子供を祝福するための長い祈りを唱えはじめる。
神女の手は儀式に則って時に円を描く。水の中にたゆたうような動きだった。
ファス・チアが走り始めた鮮やかな痛みで現実に戻されながらも、神女の手の動きをぼんやりと眺めていると、
イリルが耳元でささやいた。
「神女を見ながら産むことないでしょう。私を見てよ」
ファス・チアは言われた通りにしながら言った。
「また、古いこと、言っても良い?」
「うん」
「愛してる」
イリルはファス・チアの唇に自分の唇を軽く触れさせる。
するとイリルの左手に、激流の水圧のように強い力が伝わる。
産室にはけたたましい叫び声と共に、むせ返るような生き物の臭気が満ち始めた。
29 :
優しい名無しさん:2008/11/07(金) 20:56:47 ID:TGnUurse
チンチン
チンチンはね
チンチンなんだよ
なんでチンチンなの?
ちんこの赤ちゃん語だからだよ
なんでちんこなの?
知らないし
high & dry の訳(てきとう)
週に二度 弾けることを 超イイと思ってるだろ。 坊や。
バイクで飛んでる。 降下する向こう側に 広がる地上を見てる。
認識のために 君は自分自身を殺す、
決して、 決して止められない。
君はまた鏡を壊す。
君じゃない何かに変わっていく。
僕を、見捨てないで 置き去りにしないで
僕を、見捨てないで 置き去りにしないで
捨て去られた会話。
君は 喋れない人になる。
君の中で崩れ落ちる すべてのかけら、
ただそこに座って まだセックスできることを祈ってるだけ。
君が世界を理解したと思ったそのとき、 君を憎む人々。
つばを吐きかける人々。
君はきっと、 絶叫することになるよ。
僕を、見捨てないで 置き去りにしないで
僕を、見捨てないで 置き去りにしないで
ああ 君が手に入れた中で一番いいものだね、
本当に 本当に、 こんなに素晴らしいものを持ってたことなくて
一番いいものだよ 君が手に入れたものの中で
まったく最高だったね 今 なくしたものは。
僕を、見捨てないで 置き去りにしないで
僕を、見捨てないで 置き去りにしないで
見捨てないで
置き去りにしないで
31 :
優しい名無しさん:2008/11/14(金) 21:48:41 ID:nor87Dq8
age
33 :
優しい名無しさん:2008/11/22(土) 14:37:29 ID:X2y6ldND
age
およそ二ヶ月振りに投稿します。実験として文体を変えてみました。
降りしきる雨は激しく、トタンの屋根を打つ音が辺りに満ちている。肌を撫でる空気は重く粘りを感じさせ、内に秘めた水気の多さを物語る。
辺りの大気は、濃い草いきれと水滴の臭いが混じったものである。視界を埋める色は白に煙った草の色だ。霧か靄かも判然とはせず、それが一層此処が現世から隔離された異界であるが如き気分を喚起させる。
けれども周辺に視線を走らせれば、見えるのは現世たる証、色褪せたベニヤ板からなる休憩所の内装である。余分なものなど無く、在るのは壁に据えつけられた木製のベンチと、中心に座する金属製の吸殻入れだけである。
窓を備えた壁には幾枚か、紙が貼り付けられている。果たして幾年経っているのであろうか、それらの紙は変色を通り越して半ば以上朽ちている。読解可能な部分から察するに、どうやら迷い猫の捜索願らしかった。
それらを視界の隅に収めつつ、男は口に咥えた煙草を吸った。スーツの姿の男である。服は濡れ、内側の様子を露にしている。傍らには手荷物たる鞄が置かれている。
驟雨であった。男の手荷物に傘は無く、どうするかと思案する内に、ふと目に止まったのがこの休憩所である。
「……」
男は無言で煙草を吸う。煙を肺に吸い込み、吐き出せばそれは周囲に満ちる白よりもなお白い煙となる。拡散せず、中に漂うそれを、男はただ見つめている。
辺りに人気は無い。もとより人が通らぬ場所なればこそ、男はこの道を歩いていたのである。
…けれども何にでも例外があるように、普段は人気の無い場所に人が通らぬという謂れは無い。
「こんにちは」
男の耳に、突然声が届いてきた。全く予期しなかったものである。不意の事態に、男は一瞬戸惑った。
「…あ、ああ、どうも」
咄嗟の反応で言葉を返してから、男は声の主を見る。何時の間に立っていたのであろうか、休憩所の入り口、そこに一人の女性がいる。白いワンピースに濡れ羽色の黒髪、歳の程は二十歳には満たないであろうが、それ以上は窺い知れない。
「そこ、よろしいですか?」
そう言って、女性は男の対面を指差す。その肌はひどく白く、陶磁器のそれを思わせた。
「あ、ああ、どうぞ」
否やと言える理由も無く、否やと言う理由も無い。未だ動揺を押し殺せないまま、男は答えた。
「ありがとうございます」
女性はそう言って、男の対面に楚々とした動作で腰を落とす。
それを見て、男は女性の躾の程に感心し――そこで、頭を小さく振りかぶった。
今更、どうでも良いことだと気付いたためである。
***
「今日も、ひどい雨ですね」
狭い休憩所、そこに満ちる、静寂ではない沈黙を打ち破ったのは女性であった。鈴を鳴らすような声である。
答える男は、やはり煙草を吸っている。視線は中に揺蕩う煙を見据えながら、言葉を紡ぐ。
「…今日来たばかりで知らないんですが、こっちは昨日も雨が降っていたんですか?」
応えの声も小さく、ともすれば互いの声は雨音に掻き消されそうな程である。
雨−−外では、依然として雨が降りしきっている。周囲を覆う白色の何かも消えず、むしろ幾分かその濃さを増した気配さえある。
「ええ、ここ最近ずっと雨で、…困りますよね」
吐息と共に女性が言う。同意を求める響きのそれに、男は答える。
「そうですねえ。ずっと雨というのは気が滅入るものですから」
男は煙草を咥えたまま深く息を吸い、吐く。男の口から出た煙は拡散せず、空中に残留する。その白を壁として、煙越しに男は女性を見る。
「本当に、……ええ、本当に困ります」
視界の中、女性は頬に手を当てて、ひどく物憂げな様子で呟いていた。
***
…しばらくという時間を、二人は雨音だけで満たしていた。それに耐えかねたのか、それとも単なる気まぐれなのか、今度も話の端緒となったのは女性の方であった。
「そういえば、あなたは…どうしてこちらに? この辺りなんて、見るものはないと思うのですけど」
視線が自身を捉えているのを感じつつ、けれども男は女性と視線を合わせない。代わりとでも言うように、吸っている煙草を吸殻入れへとやって、新しい一本に火を点ける。
一際深く息を吸って吐き出した煙は濃く、それを見ながら男は答えた。
「私ですか…そうですね、私の場合はまあ、私用ですよ。……取るに足らない私用ですが」
そう嘯く男の顔には、けれど何処か自嘲の色が浮かんでいた。最もそれが浮かんでいたのは刹那と言える時間に過ぎなく、一瞬の後には平然とした様子である。
「まあ、そうなんですか。…でも、いくら用とはいえ、ここまで来るのは大変だったんじゃないですか?」
問い掛けの言葉に、男は記憶を掘り返しつつ言葉を繋げる。
「そうですねえ。けれどまあ、たまには良いものですよ…不便さというのもね」
そう言うと、女性の返事も待たず、男は再び煙草を吸った。吐き出された煙は先程よりかは幾分薄く、それでも周囲を覆う白色よりはなお濃かった。
「……」
「……」
途切れた会話、それを繋げる言葉は無い。男の口から吐き出された煙はやはり、拡散することなく中空へと残留していた。
***
「……雨足が弱くなってきましたねえ」
男の呟き、それは自然と漏れたものだった。気が付けば、雨音は随分と小さくなっている。トタンの屋根を打つ音も小さく、それがために、声が女性の方へと届いたらしい。
「ああ、本当ですね」
答える声は、先程までと比べれば幾分明るい。どうやら、雨足が弱まったことを純粋に喜んでいるらしい。対する男は、懐から新しい煙草を取り出し、火を点けた。息を吸い、吐く。
「先程より若干ましとは言え、随分と……、おや、もう行かれるので?」
男が煙越しに見れば、女性はベンチから立ち上がっていた。それを見た男の問い掛けである。
「ええ、すいません。どうしても外せない用事があって…」
男の視界の中、そう答える女性の顔には申し訳なさそうな色が浮かんでいる。それを見るともなしに見て、男は言う。
「いえいえ、こちらこそ引き留めて申し訳ない。……行かれるのなら、お気をつけて」
「はい、ありがとうございます。それでは…」
男の言葉に、女性は一揖してから休憩所を出て行った。その後ろ姿は、見る間に周囲を覆う白に溶けて消えた。
***
「……さて、…私も行くか」
女性が立ち去ってからしばらく経ち。
一人呟き、男はベンチから立ち上がった。側に置いてあった鞄を手に取り、煙草を吸殻入れに捨ててから、休憩所の出口へと向かっていく。
外では未だ雨が降っている。雨足が弱いとはいえ、それは雨粒が微小になったことによるものである。それ故、むしろ周囲の白色はより濃くなっており、視界の確保もままならない程であった。
「……」
男は、煙草を吸う為に懐へと手をやった。けれども懐に這わせた指が伝えたのは、空箱の気配である。
辺りに人の気配は無い。無論、煙草を販売する場所など在る筈も無い。そのことを認識すると、男は吐息を一つした。
そうしてから、男は鞄を持って歩を進めた。ゆったりとした歩調で、依然として降る雨の中を、傘も差さずに道を歩いていく。
その姿は、すぐに周囲を覆う白に呑まれて消える。足音も雨音に掻き消され、最早休憩所の周りに人がいた気配は無い。
後にはただ、茫漠とした光景が残るだけであった。
Whatever/Oasis の訳
何でも選んだとおり自由にできる
そうしたければブルースだって歌う
何でも好きなように自由に言える
間違ってても正しくても大丈夫
いつも僕は思うんだけど
君はただ、みんなが君に見て欲しがっている通りに、ものを見てるね。
僕たちはいつまで、バスに乗っては大騒ぎしなければならないんだろう?
自分をみつめよう。
そんなにキツイことじゃないよ。
君は何でも言うとおり自由になれるよ
僕のものになってくれれば言うことないけどね
君は何でも望んだとおり自由にできるよ
そうしたければおしゃべりしてたって構わない
僕のこの心に
何かが見つかるかもしれないって、君は知ってる
かつては君のものだった何かが
今では、そいつは全て消えてしまったけど
だから楽しくないんだって、君は知ってる
そう、楽しくないんだ
楽しくないんだ
何でも選んだとおり自由にできる
そうしたければブルースだって歌う
何でも好きなように自由に言える
間違ってても正しくても大丈夫
君が何をしても 君がなんて言っても
そう、大丈夫なんだよ
君が何をしても 君がなんて言っても
そう、大丈夫なんだよ
ttp://jp.youtube.com/watch?v=6tuPBrSl9Nw&feature=related
お悩み解決館の自称小説家 え☆みい37歳は即刻死ね
38 :
優しい名無しさん:2008/11/27(木) 22:38:16 ID:WjI355ST
age
39 :
五十川卓司 ◇soalaRO1Zo:2008/11/27(木) 23:32:09 ID:ezds8/Xn
私の好きな言葉
光繊線路
小野剛
大内俊身
小川浩
大野和明
滝井繁男
今井功
中川了滋
古田佑紀
通話明細の蓄積漏洩
暴力団体の組織犯罪
旧郵政省の行政職員の利権
総人労と交換屋との愚劣な権力闘争
再就職先を確保するという利権争奪
小野寺正
児島仁
大星公二
西村守正
北海道人脈による旧郵政省関係者との対立を偽装した癒着
警察組織や検察組織までが、関与している
祷雅和、
小寺広哲、
佐田敦彦、
早苗慶太、
田中敏晶、
平木伸幸、
吉田俊宏
宇宙人のリスト(1/2)
宇宙人が地球にやってきて、既知の科学を超越した力で地球の征服を宣言したとする。
彼らは地球人類への温情として、もし人類の文化的な遺産でもって彼ら宇宙人を楽しませることができたなら、
征服を撤回して自らの故郷へ帰ろう、と、そのような申し出をした。
この試みのため、全ての文化ジャンルから一作品ずつを宇宙人に提出することになり、作品の選定が行われた。
膨大な数の名作群のすべてをここに列挙することはできない。だが一部を紹介するならば、まずお笑い芸人部門で選定されたのはダウンタウンだ。
ミュージック・ビデオ部門では、ジャミロクワイのヴァーチャル・インサニティが選ばれた。これは文句のないところだった。
コメディ映画部門は、スウィング・ガールズ。
このようにして、宇宙人の要求に応えるべく、作品のリストが作られた。
シリアス映画部門:ランド・オブ・プレンティ
画家部門:エゴン・シーレ
お笑い番組部門:ダウンタウンのごっつええ感じ
コメディテレビドラマ部門:王様のレストラン
シリアステレビドラマ部門:北の国から
ギャグマンガ部門:伝染るんです。
ストーリーマンガ部門:MONSTER
青春マンガ部門:スラムダンク
エロマンガ部門:少女セクト
AV部門:プレミアム・ビューティー穂花&沙雪
家庭用ゲーム機部門:ドリームキャスト
携帯型ゲーム機部門:ニンテンドーDSi
携帯音楽プレーヤー部門:KENWOOD HD10GB7
おかし部門:東鳩オールレーズン
ジュース部門:コカ・コーラ
ビール部門:COEDO Ruri
おにぎり部門:おかかおにぎり
宇宙人のリスト(2/2)
まだまだ続く。
「この中なら、これが最高だろう」そんな妄想で出来上がったリストは、宇宙人にあてたものではないことに僕は気づいた。これは僕のリストだ。
僕を喜ばせるためのリストだ。つまり、僕は宇宙人なのかもしれない。
ある女が僕と話をするときに声のトーンを上げたり、友達とおしゃべりしながら僕を見て、目が合うと笑ったりしていた。
ゼミの連中は、彼女が僕に気があると噂しているようだった。僕はそれを信じなかった。
彼女は素晴らしい首筋を持っている。僕はほっそりした女の首筋が好きだ。
それから彼女には、皆がゴキブリをつぶすようにある教授の悪口を言っていると、話が一段落した後、思い出したようにそっと小さな弁護の言葉を口にする、そんな優しさがあった。
静かな湖水が水滴によって満たされるような優しさだった。
でも僕は毎朝鏡を見る。そこに映る像の醜さを知っている。
そこにいるのはとても彼女に値しない人間の姿だ。
彼女のような賢明な人間が、それを知らないとは考えられない。だから僕はそのことについて考えるのをやめた。
僕が考えているのは、宇宙人ためのリストのことだけだ。
Virtual Insanity/JAMIROQUAI
(僕たちが生きていること)
まったく不思議だな。 人間は
小さいはずのものが大きくなっても なんでも食べてしまう
僕たちが僕たち自身のために存在する
そんな魔法の呪文を、誰が唱えられるんだろう?
僕はすべての愛をこの世界に捧げている
お前は目も見えない、息もできない、これ以上存在できないと
ただそう言われている
生き方を変える道もないと
人は奪うばかりで決して与えようとしないから
そして ほら 悪い方に変わるよ
僕たちが住むこの狂った世界を見なよ
罪に手を染めた人類の半数
そのために全員が捧げなければならないのは
ヴァーチャル・インサニティがつくる未来
僕たちみんなが持つ、この愛が役に立たなくなる
ねじれた新しい技術に支配されている
ああ みんな地下に住んでいるから、その音がまるで聞こえてないんだ
僕は人の陥っている混乱について考えているけど
何から始めたら良いのかさえ分からない
利己的な人々が作った、狂った結び目を解くことができたらいいのに
今では母親たちは子供の肌の色を選ぶことができる
自然に反するやり方
確かみんなは昨日までそう言ってたんだけど
もう祈ることしか残されていない
そうか 新しい宗教に入るときが来たのかな?
違う血筋同士を混ぜ合わせるなんて異常すぎるよ
明かさなきゃいけない何かが、こんなことの先にはあるはずだよ
ヴァーチャル・インサニティがつくる未来
僕たちみんなが持つ、この愛が役に立たなくなる
ねじれた新しい技術に支配されている
ああ みんな地下に住んでいるから、その音がまるで聞こえてないんだ
そう 地下に住んでいるから何も聞こえないんだ
このヴァーチャル・インサニティが
仮想の現実感を捨てるべきだ
それで悪いことなんて何もないよ
ヴァーチャル・インサニティに ― 生きる
ヴァーチャル・インサニティに ― 生きる
ヴァーチャル・インサニティとは 人類が生きていること
ttp://jp.youtube.com/watch?v=gJmX1z1NY2c
43 :
優しい名無しさん:2008/12/02(火) 17:37:10 ID:DYXcCnsn
age
首を掴まれて締め上げられることや
艶やかな意匠に身を包んで、肉欲を貪りあうこと
自分を殺して欲しいと思うと同じに、相手を殺したいとも思うこと
二人の人間が同じ考えを持てたら幸せな時間になろう
45 :
優しい名無しさん:2008/12/07(日) 23:27:44 ID:dc9t2AmL
アゲ
46 :
優しい名無しさん:2008/12/12(金) 21:37:19 ID:hdTfUyfo
age
There,there / radiohead
真っ暗闇の中で 僕は 君の目に映る世界へと歩いていく
話していると 折れた枝に足を取られる
感じるからといって それが存在するとは限らない
セイレーンがいつも 君を難破させようとして 歌っている
この岩場から離れて
さもないと、まるで 僕たちは 災難が服を着て歩いているようなものだよ
感じるからといって それが存在するとは限らない
感じるからといって それが存在するとは限らない
ほら、そこ
どうして そんなに 青ざめて 孤独 なんだい?
天が 贈ってくれたんだよ
君を、僕に
僕たちは事故
今にも
今にも起こりそうな事故
ttp://jp.youtube.com/watch?v=vs1DX32t38c
Creep / radiohead
君がいた頃 僕は君の眼を見ることができなかった
君は天使みたいで その肌は僕を悲しい気持ちにさせた
美しい世界の中を羽のように舞う
君は超特別
僕も特別でありたかった
でも僕は蛆虫
僕は異形
ふざけんなよ 僕に何ができる?
ここに居場所がないのに
痛みにもなりふり構わず
僕は力が欲しい
完璧な身体が欲しい
完璧な心も
僕がいなくなったら 君に気づいてほしい
僕は特別でありたかった
君が超特別だから
でも僕は蛆虫
僕は異形
ふざけんなよ 僕に何ができる?
ここに居場所がないのに
ああ
彼女 ドアから走って出て行った
走って出て行った
彼女 走る 走る 走る 走る ……
君を幸福にするもの全て 君が求めるもの全て
君は超特別
僕は特別でありたかった
でも僕は蛆虫
僕は異形
ふざけんなよ 僕に何ができる?
居場所がないのに
居場所がないのに
ttp://jp.youtube.com/watch?v=-x0vtBP1Zvk&feature=related
49 :
優しい名無しさん:2008/12/20(土) 14:24:24 ID:R1bgfja/
age
形見の白(1)
AVだとすごいよがって見えるかもしれないけど、本当はたいして気持ちよくもないんだよね。
他の女優はどうか知らないけれども。少なくとも私はそう。
あ、話してても同じこと言う人多いよ。「大声出さないといけないから疲れる」ってさ。演技演技。
まあ当然、まったく気持ちよくないわけじゃないけど、なんていうか一定なのよ。
気持ちよさの範囲が一定っていうか。いつも同じことしてる気にしか、ならないのさ。
仕事だからね。仕事を一件一件こなしていく疲れは、他のことしてても同じだと思う。
精神的なダメージとか、3P4Pとか、変なもの入れられたりとか、そういう大変さは別としてね。
そのとき、マリコも私もレズ物は初めてで、どういう風にやればいいのか全然分からなかった。
だけど打ち合わせの段階からなんか、私がリードすることになってるんだよね。意味わかんなかったけど。
「ユキちゃんなら大丈夫でしょ」ってディレクターが言って、全員「そうだな」って雰囲気で。
当然、みたいな流れだった。はあ?なんだよって感じさ。こっちは。
始めて半年だし、別にベテランってわけでもないのに、なんか妙な信頼感があるんだよね。
ユキちゃんはどんなプレイでもどんと来いでしょ?みたいな空気。
本当は私、エロイ女でもなんでもない。どちらかといえば淡白な方だと思う。
だけど顔つきのせいでそういう風に見られるんだろうな。「目に自信があるよねー」って、よく言われるような顔。
どうでも良いんだけどね。そういうのは。ま、リードしろっていうならやりますよ。はいはい。
そのときはそう思ってた。
>>35 主人公の男は自殺しに来ていたのかな
ともかくずごく面白く、上手いと思いました
ぜひ他の作品も読ませてください
52 :
優しい名無しさん:2008/12/27(土) 00:28:41 ID:CrtJfNhk
age
51ですが、一応訂正しておきます。見る人もいると思うので
>>34-35
54 :
優しい名無しさん:2009/01/01(木) 22:31:29 ID:S5EEryCV
age
55 :
優しい名無しさん:2009/01/07(水) 20:15:09 ID:yLx069NW
age
どうしても眠りにつけなかったから、惰性で咀嚼した。
これを人差し指を喉の奥深く突っ込んでリバースすることも出来たのに、そうしなくなったのはどういう訳だろう。
膨れ上がった胃に罪悪感を抱きつつ煙草に火をつける。オイルを入れすぎたライターは高く火を吐き、長い前髪が少し焦げた。
(オイルはね、中の綿が湿るくらいでいいの)
そう言っていたのは誰だったろうか。
思い出せない、僕は、知らない。
(ご飯にはね、一粒に7つの神様がいるの)
だから、僕はきちんと飯を食うようになった。
神様なんて信じたこともなかったのに。
(大丈夫、寂しくないわ。お空にたくさんの星たちがいるでしょう)
だから、僕は夜眠れるようになった。
僕の住むアパートから、星なんて見えなかったけど。
(ニコチンじゃ、寂しさは拭えないの)
だから、僕は一日に2箱吸っていた煙草を1箱に減らした。
浮いた金で、安物の指輪を買った。僕の小指には小さすぎる、3号のピンキーリングは、誰に買ったものだったのか。
僕は、知ってる。
拙い演技で君を精算したつもりだった。計算が苦手な僕は、やはり誤差を出してしまったようで。
−3000円
ふと立ち寄った街のアクセサリーショップの指輪の値段なんて、そんなものだろう。
自分には似つかわしい代物を未だに所持しているのは、3000円への未練じゃないことくらい、とうに分かっていた。
僕は知っていた。眠れない理由も、また煙草が2箱になったことも、頬を濡らしていたのは涙だということも
息苦しいのは泣いてるからだということも、君がもう戻らないことも。
全て、全て知りながら、つまらぬ演技を続けてまで、認めることが嫌だった。
弱虫な僕を君はまた笑ってくれるかい?鈴の転がるようなあの声で笑ってくれ。
耳を触りながら困ったように微笑んでよ。いつもみたいに。
叶わぬと分かっている願いを祈ることは愚かか否か。願いは叶わぬものだからこそ、祈るというならば
僕は、祈り続ける。7つの神様に。見えない星たちに。あの指輪に。
嗚咽はまだ、止まらない。
57 :
優しい名無しさん:2009/01/12(月) 01:59:55 ID:PgVSRaui
age
58 :
優しい名無しさん:2009/01/15(木) 20:04:12 ID:SGFHucpT
『パンチラのドラゴン』
街を二人の男が歩いていた。
「おいヤス、今日もパンチラ見るぜ!」「さすがドラゴンの兄ィ!頼もしいっスよ!」
二人が駅前まで来ると、前方からミニスカートをはいた少女が歩いてきた。
口をつぐみ横目で確認する二人の視界の端で、いたずらな風が彼女のスカートを軽やか
にはためかせ、今日の青空に余計に映える白をちらりと覗かせた。
「やったぜ、純白だ!」「さすがドラゴンの兄ィ!兄ィについて行けば間違いないッス!」
はしゃぐ男たちに、少女は冷たい目線を送った。
「あら、噂のパンチラのドラゴンさん?あなたは先ほどのを、パンチラだと思っていらっ
しゃるの?だとしたらあなたも、たいしたことはないのね」
「なにィ!?」
ドラゴンが険しい顔で少女をにらみつけた。
「ごあいにくさまだけど、あなた方がパンチラだと思ったのは、これよ!」
そう言って少女が手を叩く。すると、少女のスカートから白い塊がいくつも飛び出し、
天に向かって舞い上がっていった。
「あ、兄ィ!ありゃハトですぜ!」
「そうよ、私はマジシャンの娘、イリュージョニストなの!私の仕込みのハトを見て
勃起、もしくはそれに順ずる性的興奮状態を覚えるとは、噂のドラゴンもたかが知れ
るわ!」
高笑いする少女を見て、ドラゴンはぎりぎりと歯軋りした。そして彼は、いきなりそ
の場に膝からくずれおち、土下座したのだ。
「恥を忍んで頼む!お前のパンティーを見せてくれ!」「兄ィ!」
ドラゴンの、これ以上はない懇願に少女は動揺した。
「あなた・・・あなたパンチラのドラゴンでしょう!プライドは無いの!?」
「チラっとでいいから見せてくれ!この通りだ!」
そんなやり取りをしていると、通行人から通報を受けた警察官がやってきた。
「やばいっす兄ィ!ポリスが来たッス!」
「そうか、逃げるぞヤス!覚えてろよ、手品っ子め!」
ドラゴンとヤスは走り出した。彼らを、身長が2m以上ある巨大な警察官が七人
がかりで追跡する。
逃走する二人の背中を見つめながら、少女は自分にだけ聞こえる小さな声でつぶ
やいた。
「ドラゴン、あなたは私のイリュージョンの、初めての観客になったのよ。だか
ら、どうか無事でいて・・・決して死なないで・・・」
遠くから、パトカーのサイレンが聞こえていた。
おわり
62 :
優しい名無しさん:2009/01/20(火) 23:21:31 ID:Re3DmIGk
age
63 :
優しい名無しさん:2009/01/26(月) 00:15:27 ID:7g3brfv6
age
>>51 ひゃあ、一ヶ月の遅レスごめんなさい
まずは感想ありがとう
指摘の通り、主人公は自殺しに来ています
知り合いに見せたら「意味不明w」とか言われたのでちょっと嬉しいです
今は投下できるものがないのですが、近い内に何か書いて投下するかもしれません
65 :
優しい名無しさん:2009/01/31(土) 20:51:28 ID:dMLmOyfh
age
66 :
優しい名無しさん:2009/02/07(土) 13:01:59 ID:Opx/K1pc
age
「君が来てくれて、みんなの顔に笑顔が目立つようになったよ」
と大空太陽さんは言ってくれた――
駅のエスカレーターで盗撮に間違われた。
僕は貧相である。身なりがよくない。誤って煙草の火がリュックに触れた。穴が空いた。ちょうど盗撮の穴みたいだ。
そのリュックを片手に持って、エスカレーターをのぼっていた。だから盗撮野郎に間違われた。
周りの目が痛い。リュックの中身を確認された、しかし当然、小型カメラなんぞの類はない。警備員は、そのままどこかに行ってしまった。
僕が自殺をしようと考え出したのは、この頃からだったと思う。いやウソ。なに言ってんだ。
金がない。だが煙草は大事。あるいは食事よりも大事だ。
僕は海に来ていた。波打ち際で貧相な枝を拾った。僕と似ている。
――そうだ。この枝で僕の行く道を決めていこう――
逆らってはいけない。例えば、枝が指し示した方向には必ずいく。
そうして、紆余曲折しながら辿り着いた先が、この孤児院だった。
この孤児院の顔は、大空太陽という名前のかただ。できすぎている。その名の通り心が広いかた。僕を不審者扱いしないで、そのうえ雇ってもらった。
僕は一日でキレイになった。実はまだ若い。僕は変わった。好青年みたいだ。子ども達からしたわれた。嬉しかった。
しかしまさか、こんな僕が、一人の定時制に通っている女の子から、妙に好かれて、あんなことになってしまうとは……いや実は予想はしていた。
しかし僕は昔から、あるいは生来的に、迫られるとイヤと言えず、そのままずるずると行くところまで行ってしまう人間なのだ。
僕とあの子は、今日、海に来ていた――
68 :
セブン ◆unBGf6ZgAA :2009/02/12(木) 19:53:06 ID:MUknRbNg
奇怪な女
横切る老婆
堕食の少女
言葉の羅列
幾つかの候補を猫は考えていた
猫は考えていた
口髭がピクリと動く
静まり返った執務室
椅子に座っているのは精巧な彫像だったが髭を動かせるという点で彼は猫だった
瞳に反射する室内光が煌めく
一秒遅れてドアを叩く音がする。ゆっくりと音を立てて扉が開き、消え入りそうになりながら少女が入ってくる
目だけを動かして猫は部屋に入ったものを睨む
少女は怯えながらもその猫に近づく
おずおずと
じりじりと無遠慮に距離を阻めるそれに猫は警戒しながら口髭を揺らした。
瞬間猫は少女の腕の中に居た
一瞬の出来事に彼は毛を逆立てる
キュッと靴を鳴らして向きを変えるとゆっくりと少女は口を開いた
「帰りましょう。猫ちゃん。」
・・・・今までと打って変わって猫は猫らしくナアと鳴いた
69 :
優しい名無しさん:2009/02/13(金) 05:30:47 ID:xJrqjgXU
70 :
セブン ◆unBGf6ZgAA :2009/02/14(土) 01:24:54 ID:xH1h1zWw
永遠に続く廊下
無機質な回廊
孤独の終焉
・・・地獄という場所
彼は考えていた
その言葉達が意味する唯一つのものを
ドアの外にはただ空寒く、端の見えない廊下だけが続いていた・・・
少女の手は冷たかった
生きてる人間じゃないみたいに
ゆっくりと・・・時々ステップも織り交ぜて・・・少女は廊下を歩いている
少女の腕の中でゆっくりと氷が解けたみたいに猫は自分を取り戻しつつあった
・・・・回廊の何処かから猫の鳴く声が小さく響いた。
>>69 ありがとう
小説って難しいね・・・
71 :
優しい名無しさん:2009/02/16(月) 01:17:21 ID:6BgpWZBj
ぶるぶるぶぶるぶ
凍える冷気が吹きすさむのは何故だろうか?
ここは寒い
そもそも僕がいる場所、ここは・・・何処?
斜め上の照明が一定の間隔で後ろへ後ろへ下がっていく光景は単調で味気ないものだった。
終わりのない廊下に猫は疲れきってしまった。
BGMが何処かで鳴っている様なリズム感の在る歩行は逆に彼の精神を蝕んで逝った。
少しずつ絶望に食われていくような、彼は酸の雨に打たれる石像の様にじっと少女の腕の中で唯耐えていた・・・
時々ゆらりと揺れる照明が彼を現実へと引きずり戻す。眠ったとたん、自分がこの迷宮に置いてかれる気がして眠れない。
虚ろな眼が異常に光を反射して、揺れる髭だけがただ変わらず彼の口元を無邪気にくすぐっていた
・・・気が付くと僕は迷宮の中に一人つっ立っていた
投下します。
眩しい程に照る太陽、降り注ぐ日差しを遮る雲は無い。それに加えてこの時期にしては珍しく強い日差し、肌を撫でて行く風は微風である。
蒼穹と呼ぶに相応しい空の様相だ。望むべくも無い程の好天気であった。
「ねえ。今日が何の日か分かる?」
周囲に広がるのは無機質な高層建築ではない。曲線を中心として構成される石畳の遊歩道、青々と繁る幾つもの常緑樹と裸の落葉樹。少し離れた所には噴水があり、水音を響かせている。
満ちる空気は長閑さを孕んでいて、薄汚れた都市の空気とは別種のものだ。
街の中心から随分と離れた公園――それが今居る場所だった。
春先と間違うばかりの気温の高さ、滲み始める汗に、着ていたダウンジャケットを脱ぎながら正人は答える。
「今日は、…そうだね――バレンタインだ」
ベンチに座る正人は、畳んだジャケットを隣に置いた。そうして手荷物からペットボトルを取り出し、中身を喉に流し込んだ。
来る時には暑く感じていた風が、一転して丁度良い塩梅に感じられるようになる。
一息吐いて周囲を見回せば、人の姿が見とめられる。ジョギングをする者、犬の散歩に来ている者、正人と同様にベンチに座り休憩する者――公園を利用する様々な人々の姿がある。
そうした中でも一際目立つのは家族連れの姿だ。青空の下、子供達が溌剌と駆け回っている。
正人とてこの天気に誘われて公園に来た口である。子供達にとっては言わずもがなだ。
「丁度、一年前だったよね」
ふと、脳裏に一昨年の状況が甦る。当時は今よりも遥かに大変だった。当座の生活資金を確保するのに必死で、今のように出掛ける暇など存在しなかったのである。
残業に次ぐ残業。翌日になってから帰宅というのも珍しくはなかったのだ。蓄積する疲労によって肉体はおろか精神さえ磨耗していた――それでも生活は一向に良くならず、どれだけ努力しようとも現状維持が精一杯だった。
だが、そんな時に――いや、だからこそか――正人は、ある出来事を経験した。
それはある人との出逢いであり、お蔭で当時の状況から脱却することが出来たのである。
「一年、か……長いようでいて、あっという間だったなあ」
あれから全てが好転した。働き振りを評価され上へと抜擢されたのだ――給料は多いとは言えないが、それでも生活を送る分には差し障りが無い。そうして正人は現在の、土曜日に公園で安らぐことの出来る立場になれたのである。
それを思うと感謝してもしきれない――本当に、正人は心の底から感謝していた。
「アナタといると、時間なんてどうでもよくなっちゃう」
僕もだよ――そう、言葉には出さずに心の中で正人は思う。本当に、これ程愉快なことはないだろう。
「はは、それは嬉しいな」
「ホントなんだから」
口の端を歪め、正人は今こうしている現実を噛み締めた。
「ありがとう、詠美」
****
一月の始めだったと、そう正人は記憶している。彼女は中途入社の新人として配属された。
「ごめんなさい。これ、やってもらえませんか?」
その言葉に正人は背後を振り向いた。つい数瞬前まで取り組んでいた仕事、苦痛すら覚える程の単純作業にようやく没頭し始めた所である。
甘美な気配の、一種催眠状態とも取れるその状態から現実へと引き戻され、正人は苛立ちを覚えていた。
…邪魔だなあ。人がせっかく調子に乗っていたのに。
それが紛うことなき正人の本心であった。――少なくとも、それは背後を見るまでは本心たりえた。
けれどもそうした内心を押し隠し、平静を装って振り返れば。
「――」
後ろを見た正人は言葉に詰まった。邪魔だ、という気分は一瞬で跡形も無く消え去った。代わりにただ、可愛いな――そう思った。原因は正人の眼前、そこに立つ女性であった。
粘性のそれではなく、静けさとしての黒を基調としたスーツ。白くたおやかな指先と、ふわりと空気を孕んだ滑らかなセミロングの髪。襟から覗く鎖骨、服越しでもその重量を感じさせる大きめの乳房。
スカートに覆われた脚は健康的な太さである。女性特有の柔らかさを感じさせる肉体だ。
他方顔はといえば、目鼻立ちは整い、大きめの瞳は純粋さを秘めている。一見すればあどけない印象を与えかねない容姿とは裏腹の、着ているスーツのその色が、女性に奇妙な魅力を持たせていた。
そんな女性の、書類を持った右腕が正人へと伸ばされている。左腕は自らの髪をかきあげていた。
指先には解れた髪の毛が掛かっている。そうして腰をかがめて、瞳を正人へと向けていた。
「…どうしました?」
問い掛けの言葉に、正人は女性を不躾に注視していたことに気が付いた。我に返り視線を外す。
「あ、いえ…な、何でもないです…」
何でもなければそもそもとして凝視などしないだろう、ということ位は正人とて理解している。それでも自分がしていたことを相手に指摘されたというのは酷く恥ずかしく、咄嗟ということも相俟って他に適当な言葉が思いつかない。
「と、とりあえず、これをやればいいんですね?」
顔が赤くなっていると自覚できた。動揺を誤魔化すようにして話題を摩り替える。女性の持つ書類を指差し問うた。
「ええ、そうしてもらえると助かります」
女性はほっとした顔で言うと、正人に書類を手渡した。手渡そうとしてその瞬間、背後を通った同僚に軽くぶつかり、姿勢が崩れた。中腰であったために脚が前へと、正人の方へと伸びる。
「きゃっ」
一瞬の声と共に、正人の視界を女性が埋める。咄嗟に反応しようとするが椅子に座っていたこと、そして元々の距離が近いこともあって大した行動は出来なかった。
当然の結果として、女性は椅子に座る正人にぶつかることになる――より正確には、正人に向かって倒れこんだ。
あ、という声がどちらのものであったかは判断できない。或いは二人が同時に発したものかもしれなかった。
「す、すいませんっ」
先に動いたのは女性だった。慌てた様子で立ち上がる。
「あ、いえ…。別に、大したことは……」
正人の言葉に嘘は無い。それでも元からの性根なのか、女性は気遣わしげな視線を向ける。それに気付いて、正人はもう一度大丈夫だと言った。それきり、会話が途絶える。
「……」
「……」
魔が射した、と良く言われる状況である。二人の間に満ちる沈黙、それに耐え切れなくなったのは正人の方だった。
「え、ええっと――これをやれば、いいんですよね?」
状況を頭の中で反芻し、元の路線へと修正する。手に有るのは渡された書類である。
「あっ、は、はい。そうです」
互いにニ、三言交わし、仕事の期限などを確認する。そうして必要事項を聞き、仕事に戻ろうとした正人に、女性が声を掛けた。
何事かと見れば、
「よろしくお願いします」
そう言って女性は頭を下げて微笑んだ。少しばかりの照れを含んだ笑みだった。
それを見て心臓の拍動が増加した。――それが、八木正人と塚本詠美の出会いだった。
それからというもの、正人は視界の中で彼女を、詠美を探すようになった。見つかるまで動き続けるとまではいかなかったが、見つかれば積極的に話し掛けるようにした。
その行動を最初は強引かもしれないと思っていたが、疑念は数週間もすると溶けて消えた。二月のあるとき、詠美ははにかみながら正人にあるものを手渡したのである。
チョコレートだった。義理ではあったが、紛れも無くチョコレートであった。そうしてそれを貰った瞬間、正人は自分が正しかったと確信した。
――バレンタインデー。その言葉は男子校出身だった正人にとっては縁が遠く、そしてだからこそ何よりの――こうすれば仲が良くなるという――証拠になり得たのである。
それからも正人は機会があれば会話し、可能な限り二人の距離を縮めようと努力した。彼氏がいるらしいとは聞いていたが、それは別段どうでもよかった。
だから距離を縮めるための行動は様々な手段をもって成され、正人は心の底からそれを正しいことだと思っていたのである。
――それが、一昨年のことだった。
****
気が付けば、西の空に夕陽が浮かんでいた。朱とも橙とも取れる色合いだ――あるいは、その両方かもしれない。茜色に染まる空、飛び交う黒い影は鴉である。
周囲を見渡せば木々もただ一色に染め上げられている。陰影が濃くなり、あらゆるものの細部が曖昧になっていた。
けれどもその一方で夕陽の方角、斜陽を遮るものへと目を遣れば、そこには厚みの無い影絵の世界が広がっている。
「一年前のこと、はっきりと憶えてるよ」
甘い郷愁の念を惹起させる鴉の鳴き声に――その郷愁に、正人は丁度一年前の今日を思い出す。
「ああ。僕もだよ――当然、ね。何しろあの時のことは、今でも昨日のことみたいに思い出せるから」
心の中、深く刻み込まれたその記憶は何処までも鮮明で、色彩や感触はおろか満ちていた空気の匂いすらその範疇だ。
今に至るまでに幾度となく反芻した記憶である。その度に甘い痛痒が胸に生じるけれども、正人はそれすらも心地よく感じていた。
自分の言葉に、違えることも躊躇も無く、半ば自動化された行動で正人はその時の光景を脳裏で再生する。
「この公園で」
「僕は会ったんだよな――結構遅い時間だったと記憶しているけど」
その日、正人は珍しく仕事が早く終わっていた。本来ならば深夜まで時間が掛かるような案件だったのだが、事情が変わったのである――無論早いとはいえ、既に夕闇の時刻は越えていたのだが。
それでも常より少ない仕事の量、久し振りに十分な時間をもって日課をこなせると正人は意気込んだ。
何時ものように、目立たない服装で公園に向かったのである。当然、万が一に備えた荷物も忘れずに。
「夜中だったよね」
「ああ、そうだった。人気の無い静かな夜だったなあ。月が綺麗だったよね。そんな状況で――」
正人とて、さしたる期待はしていなかった。何時ものことを、少し何時もとの違う時間にこなすだけ。
あくまでもそれだけのことだと認識していたし、最近の人気の多さを見るにつけ、それ以上は難しいとも感じていたのだ。
…だからそれは、正人にとっても予想外のことだったのである。
「私をいきなり抱きしめて」
「僕が言ったんだよな――好きだ、って」
公園に着いた正人は、最早定位置となった場所に陣取った。来る途中で購入した肉まんを頬張りつつ、双眼鏡を構えて観察を開始する。
この公園は自然環境が豊で木々も多く、小動物も暮らしている。その一方で近くには住宅地となっており、正人にとって観察するには絶好の場所だったのである。
「私、すっごく驚いたんだから」
「まあ、我ながら性急だとは思ったけど…」
そうして観察すること一時間、正人の集中はすぐ近くで鳴った物音によって遮られた。咄嗟に観察を中断して、気配を殺す。していることは観察でしかないが、見つかると色々と面倒だからだ。
そうして呼吸を静め動きを止めて、音の発生した方を見た――それを見た時に正人を占めた昂揚感は、筆舌に尽くし難い程だった。
「殆ど接点なんかなかったのに」
「いやあ、何と言うか。君は気付かなかったかもしれないけど、僕の方は君のことを見てたんだよ。一目見た時から気になって――いわゆる一目ぼれ、というやつかな。あの時君の姿を見かけたら、いてもたってもいられなくなったんだ」
そこには、黒のスーツを着た一人の女性が居た。帰路であるのか、ヒール故の硬質な音を響かせ早足で歩いている。
腕に掛けられたハンドバックが揺れている。夜風にセミロングの髪が靡いている。
女性。その女性に正人は見覚えがあった。詠美である。見間違える筈もない――何しろ、正人の観察の対象は他ならぬ彼女であったのだから。
双眼鏡の先、閉じられたカーテンの向こう側に居ると思っていた正人は、詠美がこの場に居るという事実に驚いた――ふと辺りを見回すと人気は無い。何時もと違い彼女に付き添う男は見当たらなかった。
「そうして、その場の勢いで」
「君のことを人気の無い、公園の奥へと連れて行ったんだよなあ。…いやはや、面目ない。あの時はいかんせん舞い上がっちゃって、どうにも冷静じゃなかったんだよ」
後は楽――といえば楽なものだった。幾度も頭の中で想像した通りに、背後から近付いて側の草むらに引き込んだ。そうして、
「そこの、桜の木の下で」
「僕が君のことをどんなに想ってるかを話してさ」
「私のことを――」
****
「ひひっ」
意識的に生み出した虚構の会話に堪えきれなくなり、発作的に正人は笑った。最初は喉を鳴らす程度だったが、時間と共に大きくなり、終には身体全体を震わせて哄笑した。
げらげらげら――公園中に響き渡らせようとでもするかのように呵々大笑する。周囲の人間が、一人でベンチに座る正人に訝しむような視線を向ける。
だが正人は微塵も気に掛けず、ジャケットを持ってベンチから立ち上がった――その間も笑い続けている。
痙攣と見紛うばかりに揺れる身体とは対照的に、視線はある桜の樹へと向けられていた。一見して何の変哲も無い桜、けれども正人だけがその特別性を知っている。
げらげらげら――笑いながら正人は思う。
今日はバレンタインだ。本場の流儀に乗っ取って何かあげるべきだろうか。
そこまで考えて、正人は再び哄笑した。自分の申し出を断った女にあげるものなぞ、突き立てたナイフ以外にありはしない。
西の空には今にも姿を消しそうな夕陽がある。正人の笑いは陽が沈み切るまで続いていた。
すいません、修正します
×バレンタイン
○バレンタインデー
('A`)……全然違うよ、これ。
×魔が射した
○天使が通る
78 :
優しい名無しさん:2009/02/20(金) 17:30:47 ID:HLlNriNz
「ここは水族館?」
掠れた声を出して自分の声に驚く
ごくりと喉を鳴らしてもう一度それを試してみる。
「ここは昔水族館だったのかなぁ・・・?」
わざとらしい響きを含めつつ喉を鳴らしつつ言葉を口から出してみる。
細く尖った目を持った生き物が円筒状の空間にぽつんと立って周りを見渡している。
「僕喋ってるよね?何時から喋れるようになったんだろ・・・」
頭をぽりぽりと掻きながらいかにも落ち着いた風にその生き物は一人ごちた。
周りを遊回する魚だった者達の残像が切れ長の瞳に七色に移しだされる
白く骨身を帯びた肉の塊たちが水も無い空間をそれが当たり前のように泳いでいる。
不可解な世界だ。 この部屋に入る前のことを何も思い出せない。
全ての経緯について必死に思い出そうとするのだが、如何にしてここにたどり着いたか
自分が何処から来たのか、全く思い出せないのだ
「よくわかんないや・・・」
何かを考えようとしてやめ 猫は目の前の虚ろな魚達に意識を移していった
ごぼごぼごぼ・・・・一匹の魚が何かを言いたそうに泡の塊を吐き出した。
79 :
優しい名無しさん:2009/02/20(金) 17:33:23 ID:HLlNriNz
わざとらしい響きを含めつつ喉を鳴らして言葉を口から出してみる。
間違えた・・・
80 :
優しい名無しさん:2009/02/20(金) 17:56:28 ID:HLlNriNz
彫像のように猫は立っていた
円筒状の空間に一人
口髭を気だるそうに揺らしながら部屋の中心に歩いていく
懐から小さなステッキを出すと彼のそばに居た一匹の魚を小突いて言う
「アリスは帰ったよ。」
ごぼごぼごぼ・・・無数の泡が小突いた魚の口から溢れ続けてる
「僕も仕事に戻らないといけないからね。」
周りの魚達をねめつけながら猫は呟く
・・・気が付くと一枚の金属製のトランプがいつの間にか猫の前に置かれていた。
「どうも。」
すらりとした猫は気品ある動作でそのカードを拾うと
誰も居ない場所に一礼するとすっとその部屋から去っていった。
ごぼごぼごぼ・・・・一匹の魚が何かを言いたそうに泡の塊を吐き出した。
「 。」
81 :
優しい名無しさん:2009/02/20(金) 17:57:06 ID:HLlNriNz
下の鍵括弧は間違えたやつです。
ごめんなさい
82 :
優しい名無しさん:2009/02/26(木) 15:03:26 ID:0K9jAN7v
age
83 :
優しい名無しさん:2009/03/01(日) 20:34:17 ID:gMInxnd5
age
84 :
優しい名無しさん:2009/03/09(月) 19:13:47 ID:0gJVN0f0
age
85 :
優しい名無しさん:2009/03/10(火) 17:05:24 ID:oLERb6GJ
剥がれ落ちるうろこ
足下にぱらぱら落ちる
魚のうろこ魚のうろこ
虹色の裏側がきれいな魚のうろこ
やがてそれは僕の足下に山のように重なって僕を飲み込んでしまう。
裏側の見えない汚らしい剥げ落ちた表をあらわにして僕は魚になる。
86 :
優しい名無しさん:2009/03/10(火) 17:31:18 ID:oLERb6GJ
・・・・・ひたひた クスクス ひたひた クスクス・・・・・・
健次郎は周りをきょろきょろとしながら洞窟の中を当ても無く進んでいた
裏庭の空き地にずうっと前から誰も住んでいない洋館があって
同じ組の健太にその事を昨日何となく話したのがこうなった原因だと思う・・・
思い出すと何だかいらいらした。
健次郎「あいつだけ逃げやがって・・・。」小声で毒づく
そもそもこの場所を見つけたのも
こんなとこに入ろうって言ったのもあいつじゃんか
リュックサックの脇からお母さんについでもらったお茶を飲みながら健次郎は心なしか寒気を感じた・・・
ぶるぶるぶるぶる・・・・少年は自分の心細さに気づき少し怖いと思い始めていた
壁にかけてあるガスランプが心なしか入り口のそれより少し暗く感じていた・・・
健次郎「健太!!もう俺帰るわ!!」 少年はそう一言大きく言うと返事も確認しないで
来た道を一気に駆け戻っていった
暗がりの中で少女だけがそれを見つめていた。
87 :
優しい名無しさん:2009/03/10(火) 17:32:54 ID:oLERb6GJ
訂正です。ガスランプが→ガスランプも
88 :
優しい名無しさん:2009/03/10(火) 17:37:43 ID:oLERb6GJ
朝お母さんに作ってもらったお茶を取り出して飲みながら
訂正2つもorz・・・
89 :
おばしゃん:2009/03/10(火) 17:50:50 ID:L3wGrJwY
うんこのしみがついてました
90 :
優しい名無しさん:2009/03/11(水) 18:43:06 ID:6NWq6tG+
びっしりとね
91 :
優しい名無しさん:2009/03/22(日) 12:38:16 ID:keNMG96m
新作募集中!!
92 :
優しい名無しさん:2009/04/02(木) 22:31:30 ID:p1o7qFYU
age
何時からこうしているか分からない。外からは音がしない。数日前か、数週間前か、それとも数ヶ月前だろうか――時間の感覚はとうに消え果てている。
昼間だというのにカーテンは閉め切られている。薄暗い部屋には停滞の汚濁が満ちている。腐臭と埃の臭いが鼻を刺激する。
俗に言われる文化的な生活など、最早送れなくなって久しかった。それは私だけではなく恐らく全ての人間にとってそうなのだろう。
現に、幾度うるさく思ったか分からないあの喧騒が消えている。
無論通常の生活を送ろうと思えば送れるだろう。けれどもそれは、精々数分しか保てない。数分後には、私は恐慌の果てにいるに違いない――今いる一線を踏み出して。
「……」
呼吸の音さえうるさく感じられる。身体を動かすことさえ恐ろしい。身動きをして、音を立てたら気付かれてしまう。
いや、より正確に言えば音はあるのだ。けれども日常の喧騒は、人が生活する音はない。
まるきり無人の世界だ。猫はおろか鳥の鳴き声一つない。けれども、そんな中で耳に届くのだ――忍び寄る気配とでも言うべきものが。
それは、足音を立てている。私たちが気付くように。耳を澄ませば聞こえてくる。隣の部屋も、上の部屋も人が住んでいるのに音はしない。
停止した空気の中で、それの気配だけが酷く濃厚だ。
ドアの外にいる、と分かる。ひょっとしたらいないのかもしれない。だがそれは、其処にいたということを否定するものではない。
私が何処かに移れば、その影に。見えない所に、気配だけを濃厚にして存在しているかもしれない。
とまれ、そういった意味で、其処には確かにそれがいるのだ。
ドアの向こうだけではない。道という道に、かつては私たちが歩いた道路を自在にそれが闊歩している。動き回っている。
ゆっくりと、嗅ぎ回っている。
じとりと嫌な汗が背筋に浮かぶ。嗅ぎ回っている――そう、私たちはそれに嗅ぎ回られている。狙われている。見つかったら、どうなるか分からない。
死ぬのか、生きるのか、それすらもわからない。ただそれ故に恐ろしい。
「……」
一体どれ程経ったろうか。電池を抜いた時計では分からない。時を刻むものはもう存在しない。
そんな状況で、不意に人のような声がした。高い靴音。まるで軍靴のような響きを伴って、声が何かを言う。
勿論それを私は聞き取れない。何故なら声の主は人ではない。それが分かる。気配がする。
だが、その声は恐ろしいものでありながら、同時に救いの声でもある。声を出すそれの向こう、通り過ぎた道から人の気配がする。
人の時間だ。あの声を境にして、私たちは少しばかりの自由を得る。勿論大きな声を出すことなんて出来はしない。
その許容範囲が広がっただけで、それらは至る所に潜んでいる。だが店は開くし、食料を入手することも出来る。
足音を忍ばせば外出することさえ出来るのだ――最も娯楽施設などはとうの昔に条例で潰され、どれ程店が残っているか怪しいが。
それでも、人にとってこの時間――夜明けの数時間だけは、怯えながらも篭ることをしなくてすむ貴重な時間だ。
声を挙げるそれが近付くのを感じ、私はドアへと歩み寄る。ドアの向こうにいた気配は薄れている。恐怖感も薄れている。
ドアノブにそっと手を掛けた。アパートの中ほどに位置する私の部屋、そこから十メートル程度離れた所をそれが歩いている。
近付いてくる。丁度彼岸の彼方から此方へと戻るように、ドアを境界としてそれが近付いてくるのを感じた。
勿論見てはいない。気配だ。だがそれでも十分過ぎる。
私とそれの距離が詰まるに従い、私はドアノブを回していく。目的は一つだ。それが通り過ぎる瞬間に、ドアを開けるのだ。
何故そうするのかはわからない。だがドアを開ける瞬間はそれが通り過ぎた瞬間でなくてはならず、そうしなくては恐ろしいことになる――そうなると、本能が訴えている。
しきたりだ。何を起因とするかも因習ですらないただのしきたりだ。なのに私はおろか、凡そ人は全てこのしきたりの下で生きている。
下らない――そう思うだけの思考は失せた。恐怖感に支配された。何もかもが自動的で受動的だ。
側に来た、と感じる。同時に指先が染み付いた慣習としてドアノブを回しきり、ドアを開けた。頭を屈めて外に出る。
錆び付いた臭い、外だというのに爽快感の欠片もない空気。死に絶えた大気を肺に入れる。
ねとりと纏わり付く崩壊の気配を打ち消すほどに鮮明に感じ取れるそれの気配。
白み始めた空に目を細め、ふとそちらを見遣った。
通り過ぎる筈のそれ、通り過ぎた筈のそれが私の視界に入る。
半透明の体に揺らぐ極彩色の流動体。どこか歪な人体を想起させ、形状を維持せんとする蠕動。
それが足音も高らかに進むその光景は、酷く現実感を欠いている。あれ程恐れていた恐怖はなく、ただ奇妙な感慨だけがあった。
それは私が見ているのに気付いているのかいないのか、一定した足取りで道を進み私の視界から消えていく。
「――」
何気なく視線を巡らすと、隣人がドアを開けて出てきた所だった。視線が合う。互いに会釈して、彼女は私の側をすれ違っていった。
言葉はない。言葉を交わすなどという習慣は外では存在しえなくなっている。
私は隣人の背中を見送ってから、自分の部屋に戻った。戻ろうとした。
時間は限られている。食料を補給しなければならない。一時とて無駄には出来ない。
そう思った矢先のそれだった。私の背後、振り向いた今となっては正面。そちらへと視線を遣り、不意に気付いた。
ドアの縁に、樹が一本生えている。濃い緑だ。
くねる枝葉は人工物のように張りがあるのに、アパートに壁に張り付いた根の様子は、それが紛れもなく偽者でないと訴えている。
伸びた蔦は壁一面を埋め尽くし、幹は外へと張り出している。先程私が頭を屈めたのはこの所為だったのか。
それにしてもと思う。今まで気付かなかったのが不思議な程だ。そもそも気付かなかったのだろうか。
本当に気付いていなかったのだろうか。
この樹は本当に樹なのだろうか。『樹』。吸い取る養分は一体何処から調達するのだろう――そこまで考えて私はもう、ああ成る程、と納得していた。
納得したのが我ながら不思議だった。
------------------------------
こんな夢を見た
ところでこのスレ見てる人いるのかしらん、と思ったり
95 :
優しい名無しさん:2009/04/12(日) 22:34:11 ID:z0bEXgZ7
age
96 :
優しい名無しさん:2009/04/21(火) 15:50:30 ID:477Eibb0
age
97 :
優しい名無しさん:2009/04/24(金) 22:34:32 ID:uGQQHfvE
保守
98 :
優しい名無しさん:2009/05/03(日) 20:09:56 ID:XrTmqbIY
age
99 :
優しい名無しさん:2009/05/11(月) 04:33:38 ID:Q9ycfuEM
( ^ω^)通信学校の事情のようです
100 :
優しい名無しさん:2009/05/11(月) 04:44:30 ID:Q9ycfuEM
<ヽ`∀´>えぇっと…、今日から内藤君はうちのクラスに入ってもらう訳だけど…
(;^ω^)お、はいですお。
<ヽ`∀´>まぁ、うちは他の学校と違っていろんな人がいるからね。
ま、テキトーにやってたらすぐ慣れて来るニダ。
(;^ω^)あはは…はぁい;
101 :
優しい名無しさん:2009/05/11(月) 05:13:12 ID:Q9ycfuEM
( ^ω^)なんか…学校て言うより会社っぽいお…小綺麗に絨毯とかあるお…
('A`)あ!あの…すいません!ちょい通してww
(;^ω^)あ、はいですお;
('A`)やべw金ないわwwギコ一本頂戴ww
(,,゚Д゚)まぁたか!おまえたまには自分で買えよ!てか吸った分金返せゴルァww
('A`)そのうち返すって。そのうち
(,,゚Д゚)こりゃあ返す気ねぇなこいつ。
(;^ω^)…やっべぇモノホンヤンキーだ;超こえー;
102 :
優しい名無しさん:2009/05/11(月) 05:25:58 ID:Q9ycfuEM
(;^ω^)とりあえずエントランスっぽい所座っとくお;次の授業は…えぇと…うわ、まだずっと先じゃん;
(@∀@)でね、そのあとリュードを助けに来るカインが超かっこいいんですよー
川〇〜〇)へぇーすごいねぇ!
( ^ω^)おや、人がいるお…。ここもしかして休憩所かお(…アニメの話か?)
(@∀@)それでねーそれでね…
( @∀@)チラッ
(@∀@)その次の展開が…
( @∀@)…チラ
(;^ω^)…向こうの子にさっきからチラ見されてるお;
転入生だからかお?
あんまいい気しないお;
103 :
優しい名無しさん:2009/05/11(月) 05:40:34 ID:Q9ycfuEM
ξ゚听)ξしぃさぁ〜…
(*゚ー゚)ん?
ξ゚听)ξお腹へったー…
(*゚ー゚)ふぅん。
ξ゚听)ξねね!昼飯いこ!向こうのファミレス超やすいべ
(*゚ー゚)えー…今漫画読んでるじゃぁん。
ξ゚听)ξお腹へったら漫画もまともによめねぇよ!目が霞むよ!空腹で!
(*゚ー゚)……ぷっ、今のおもろ…
ξ゚听)ξねーいこよー
(*゚ー゚)えー…他の子といきなよー。…昨日ずーっと仕事できついんだってぇ
マジで。
ξ゚听)ξ…うぅ、そっかー…
(*゚ー゚)…わかったよ、行こう。
ξ゚听)ξおww
ξ゚听)ξでさぁ、しぃ休みある?今度とか、
(*゚ー゚)なんで?
ξ゚听)ξ一緒あそぼーかなぁーと…
(*゚ー゚)あー…じゃあ出来たら連絡するよ。
ξ゚听)ξそっかー。
104 :
優しい名無しさん:2009/05/11(月) 05:53:28 ID:Q9ycfuEM
( ^ω^)なんか「ξ゚听)ξ」カワイイ系の清純派と「(*゚ー゚)」綺麗めのケバい子がしばらく話してどっかいったお
( ^ω^)あの二人は相当仲良いのかな?なんかやたら清純派の子が喋ってたけど…
キーンコーンカーンコーン。
( ^ω^)およ?始まりのチャイムかな?
('A`)うわわ;遅れるぅ;!
(;^ω^)うわ;!さっきのヤンキー;目があってしもた;
('A`)……
('∀`)どもwwさっきおったねww
(;^ω^)え;あ、う、うん
('A`)あ!やべ!授業始まるし!またな!
( ^ω^)あ…はぁい…
(;^ω^)…まじびびった;ヤラれるかとおもた
105 :
優しい名無しさん:2009/05/22(金) 12:54:06 ID:iYhU0SzZ
私は起床し、顔を洗いに洗面所に向かった。
自分の顔を鏡で見ると、鼻穴から夥しい数のウジ虫が蠢いていた。
私は咆哮に近い喚きで家中を響かせ、恐慌しながらウジ虫を払い除けた。
後ろで、私の飼っている黒猫が嗤笑している。
払い除けて地面で這いずっているウジ虫を、黒猫は旨そうに蝕んだ。
保守
106 :
◆McA.FEX2U6 :2009/05/23(土) 14:57:11 ID:Lpu0Iwp5
無題
一度でいいから君に会いたい。
そう書かれた手紙を握りつぶして、わたしはペットボトルの麦茶を飲み干した。
都合の良い話だ。
わたしを振ったのは彼なのに。
いや正確には―彼が大きなきっかけを作り、ワタシが振った。
二年前付き合っていた彼は、ある日薔薇の花束を持って待ち合わせ場所に来ていた。
関係は良好だったので、何の疑いもなく花束に喜んだわたし。を、彼はおちょくった。
「僕ね、宇宙人なんだよ。」
泣きそうな顔でいわれても、あまり面白くない冗談だった。
それでも笑って、花束を受け取ると彼は本当に泣き出してしまった。わたしは驚いて彼の少し長い前髪を掻き上げるようにして頭をなでた。
「どうしたの?」
「・・・・宇宙人なんだ。星に帰るべきだと・・・・思うんだ。
僕は、ここでは生きていけないと医者に言われて・・・・もう無理だって」
どう答えたものか
彼はひとしきり泣いた後、さよなら、と帰路に着いた。わたしは呆然と周囲の目に晒されながら彼を見送った。
電話で、別れたいならはっきり言えとなじり、わたしが彼と決定的に別れたのはその二日後だ。二日間、意味も分からず悩み、彼の電話も通じなかった。
そしてその日、彼は首を吊りかけたと、一週間後に人づてに聞いた。
彼がどうして欲しかったのかわからない。
病院で蝉の声を聞きながら、首吊りの理由を聞いた。医者は気に病むことはないとかなんとかほざいたが、自分の電話の後に首を吊ろうと彼が決心した事実は曲げようがなく。
その前に宇宙人だといっていた理由も分かった。だがそれは余計にわたしを責めた。
かと言って今更宇宙人を理由によりを戻すことなどできず、わたしは彼と一切の連絡を絶った。
そして今。
一体どうやって住所を突き止めたのか。
手紙は一行で終わっている。
あの時別れを決意した自分は彼と彼を宇宙人と言わしめるものと戦うことから逃げたのに。どうして彼はわたしを追いかけたのだろう。
もしかしたらまた巧くやろうと、言ってくれるだろうか。
あるいは戦わなかった自分の臆病さを責めるのかもしれない。
どちらも自分の独善的な、考えからのような気がしてわたしは、再度手紙をひねり潰した。
さようなら
宇宙人になってしまったあなた。
107 :
T.M:2009/05/26(火) 22:39:34 ID:27S7dFxp
煙草を持つ手が震えているのは目の前にいる女を意識していた訳ではない。
この計画をまさに今、すでに実行しているのだ。それが成功する時、又は失敗する時が来る。その両方の自分を想像し、そのどちらもの感情が脳裏を交互に行き来していた。二つの相反する結果と感情が脳内に浮かび止まない。
108 :
T.M:2009/05/26(火) 22:42:20 ID:27S7dFxp
まさかこの小さな円形のテーブルを挟んだ目の前にいるこの女が知るわけはないが絶対に気づかれてはいけない思いから震えを抑えることはできなかった。(気付かれてはならない)
弘昌は意識をそらす様に意識した右手でコーヒーカップに指を伸ばした。
109 :
優しい名無しさん:2009/05/27(水) 23:55:23 ID:pNjRvKsk
110 :
優しい名無しさん:2009/06/06(土) 00:02:41 ID:KUDYQ1BB
age
111 :
ストレイドッグス ◆4hlZmPaZmc :2009/06/06(土) 16:25:22 ID:woEohN7p
新参です。小説素人ですが楽しそうだったので参加します。
タイトル 「ストレイドッグス」(0/?)
僕はもう死んでる。
だけど死人ではない・・・・・・。
僕は死後の世界を知らない。
この世界から出たことが無いから・・・・・・。
僕はもう死んでる。
だけど死人ではない・・・・・・。
僕はもう人ではなくなってしまった。
僕は『ストレイドッグ』―――天国へも地獄へもいけず、この世界をさまよい続ける野良犬。
自分で自分を殺した、弱くて惨めな負け犬の魂。
なんでドックじゃなくてドックズなの?
この前母親から聞いた話なんだけどね。3世紀前の話だからもう3000年も前の話。ちなみにそれよりも2000
年前はマンモスがいた。その前は恐竜。
人っていうのがいてね。その数はかつての恐竜繁殖数の全盛を軽く一世紀で達してそいつら、509億まで殖えたんだって。
昔は繁殖ができる生命がその者同士で争われていなかったからね。
世界を征服していて食物連鎖の頂点にいて力をもっていた時代だった。とりあえず。
そいつらは限りない自分たちの歴史に不安を感じていたんだって。
自分も何か書いてみようかな。
115 :
優しい名無しさん:2009/06/23(火) 22:33:48 ID:TyS9dEFo
超短篇か。面白そうだね。
彼らは自分たちの力を高く掲げて知らしめた。
でも彼らは繊細だったんだ。方向を間違えてしまった。彼らは不安になって後退していった。
そして孤独になったんだ。世界の中にとびこんでいきたかったのに、そこには自分に似たものしかいなかった。
117 :
優しい名無しさん:2009/06/30(火) 12:56:40 ID:CVCjUkud
age
118 :
優しい名無しさん:2009/07/05(日) 19:03:56 ID:BtQYLl+W
age
119 :
優しい名無しさん:2009/07/13(月) 20:51:04 ID:LlUgxP9P
age
120 :
掌編:2009/07/16(木) 22:32:23 ID:XOiLKB0M
鴨社会に不景気がやってきたので、鴨々は議論を重ね、最終的にこんな結論に至った。
(不景気だ、不景気だ。昔々の祖先が背負ってきた葱を食い潰してばかりではいけない。
貯蓄せよ、貯蓄せよ。葱で出来た塔を建てて毎日崇めよう。その塔の維持と発展に全力を注ごう。
目の前に一本の葱があるなら、半分は塔の下に埋めよう。もう半分は塔の上に乗せよう。
いつか来る飢餓王国のために自分の胃袋の事は十年くらい忘れておこう)
鴨たちは喜んで痩せていったのだが、葱の塔は枯れていった。
それを見ていて虚しくなった新世代の鴨々は、葱を背負って旅に出た。
その下で、地面はこういう事を考えていた。
(鴨が葱を背負ってやって来た。
一度栄えて、駄目になってしまったあの国から。
昔々、たった五六羽の葱を背負った鴨々から始まったあの国から。
今、彼等とよく似た格好で、新世代の鴨々が私の上を歩いていく。
しかしその足取りは彼等のそれと比べてあまりにも覚束無い)
その原因について、地面は一昼夜考えていたが、気付くと新世代の鴨々は川に乗って流されていたので、考えるのをやめた。
121 :
優しい名無しさん:2009/07/23(木) 02:28:08 ID:GW9LwCuY
保守
122 :
優しい名無しさん:2009/07/31(金) 00:40:37 ID:3ezDzRJ1
保守
123 :
優しい名無しさん:2009/07/31(金) 05:18:10 ID:Zbys1SOA
私は祖父母に見送られながら家を飛び出した。
学校へ向かうダラダラ坂の途中で新しい友達と出会い、
二人連れたって学校へ向かった。
転校先のこの学校には、私をいじめるクラスメートはいない。
私の居た都会から離れているせいか変わった外見の子は多いけど、
私のこの伸びきった首も人のことをとやかく言えたものじゃない。
あの頃は虐めから逃れたい一心で必死だった。だから行動を起こした。
そして私は、祖父母のいるこの町へ転校することになったのだ。
幸いここには、私の首のことでああだこうだとからかってくる人はいない。
隣の席の友達は本を読んでいる。芥川龍之介の新しい短編集だ。
「いまどき芥川なんて、アンタ渋いわね」
私がそういうと友達は、
「あらそう?でもアタシたちの時代では新進作家だったのよ」
と左半分焼け爛れた顔をこちらへ向けて反論した。
「私は活字だらけの本は苦手。やっぱり漫画のほうが面白いわ」
私はそういうと、ランドセルから手塚治虫の「火の鳥」昭和篇を取り出し、
二人並んで黙々と本を読み始めたのだった。
124 :
優しい名無しさん:2009/08/07(金) 12:13:16 ID:25TW3Ztr
age
125 :
優しい名無しさん:2009/08/08(土) 01:32:43 ID:P++yrRY1
○●○創作文芸板競作祭・夏祭り2009○●○
「おい、そこの君、小説で喧嘩しないか?」
夏に関する作品を書く競作祭です。
テーマ……夏
会 場……「アリの穴」
http://ana.vis.ne.jp/ali/index.html 枚 数……3枚〜32枚(アリの穴表示換算)
日 程……投稿期間 8/16 (日) 0時 〜8/19(水) 23:59:59 まで
感想期間 1作目投稿 〜8/23(日)21:59:59 まで
・作者さんは感想期間中、自作の感想欄に他者の作品の中からベストスリーを選んで投票してください。
読者賞とは別に作者賞を選出します。(1位:3点、2位:2点、3位:1点)
・記名投稿・枚数超過は参考作とします。
・一人一作限定
・得点はアリの穴に表示される得点を採用します。
◎備 考
・内容説明欄に「創作文芸板夏祭り2009」と入れて下さい。
・作者さんは他作品へできるだけ感想をお願いします。みんなで祭を盛り上げましょう。
・優勝しても何ももらえません。
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1249563003/ 祭りの歴史
http://soubun.s370.xrea.com/ 数十人規模の祭りが開催されます。
どうだ?腕に覚えのある奴はいないか?
3枚で優勝できるかもしれないぞ。
126 :
優しい名無しさん:2009/08/17(月) 18:12:40 ID:4Ua/PmG3
age
127 :
優しい名無しさん:2009/08/25(火) 19:38:18 ID:MZr6nfSM
保守
128 :
優しい名無しさん:2009/09/01(火) 01:01:31 ID:VCYZVNjl
保守
即座に書いた掌編 推敲してないから文おかしいかもですが見逃して
カキ氷ばかり食べていたら猫に叱られた。
「君、御母堂に冷たいものを食べ過ぎるなと言われたことは無いのかね?」
「あったような、無かったような」
「はっきりと意見を述べたまえ。君は私を馬鹿だと思っているのかい?」
「とんでもない」
「じゃあ何と思っているのだ」
「猫だと思ってる」
「うむ。ならよろしい」
猫は満足気に頷いて外へ出て行った。集会にでも行くのだろう。
猫の世界も色々と付き合いが大変らしい。帰ってきたらどうせ偉そうに愚痴られるのだ。
それまでカキ氷でも食べてまっていよう、と思ったらいちごシロップの中身がほとんど無い。
ピンク色の液体がかすかにプラスチックの容器にこびりつき、夏の終わりのような哀愁を感じる。
切ない。次のシロップなみぞれにしよう。
わたしはシロップを買いにスーパーへ行く為、身支度を始めた。
あ、早速間違えがorz
次のシロップなみぞれにしよう。 →次のシロップ「は」みぞれにしよう。
すみません……。
晒してみようかな。
どこでもない、どこにでもあるおはなし
ある国の、ある町に貧乏な家の一人娘がいました。
一日の食事は、パン屋の廃棄でもらったパンの耳5本だけ。
年頃の娘なのにもかかわらず、着ている服はボロ雑巾のよう。
履いている靴はどこかで拾った男物の皮靴。もちろん、ぶかぶかでボロボロ。
そんな彼女の家は間違いなく貧民層でした。そして一般階級の住人からは「歩くゴミ」として認識され、彼女が表通りを歩けば石を投げられました。
そしてそのパン屋は表通りをずっと行った先にあり、廃棄をもらってくるのは彼女の役目でした。
彼女は表通りを通る時、いつも全力疾走しなければなりませんでした。
飛んでくる石が当たらないように。心ない言葉が刺さらないように。
それでも彼女は懸命に生きていました。
家族には「大丈夫だから」と、笑顔を振りまきながら。夜は誰にも聞こえないベットの中で、嗚咽にまみれて泣きじゃくり、自分の不幸を呪いながら。
それでも彼女は懸命に生きてきました。
・・・・
・・・彼女なんてなんか紛らわしいですね。せっかくですから名前を付けてあげましょうか。そうだ、Mにしましょう。え?いくらなんでもひどいって?そうでしょうか?実際、名前なんて何でもいいのです。どうせ、より分けるための目印でしかないのですから。
・・・・
ある冬の日のパン屋で廃棄をもらった帰り道。駆け抜けていく表通り。Mはその足を止められずにはいられませんでした。
自分には一生縁のないだろうブティック。そのショウウインドウの前に、それはそれは素晴らしい靴が飾ってありました。
一瞬で目を奪われてしばらく見入っていたのも束の間、後頭部に鈍痛が走ります。Mは反射的に走り出しました。ボロボロの革靴がぶっかぶっかと音を立てましす。
「二度と汚いツラ見せんな!ゴミが!」
Mは泣きながら家路に着きました。
その夜のこと。Mは真っ暗闇の中で昼間見た靴を思い出していました。
『あんなに素敵なくつ見たことない!ああ、欲しいっ!けど・・・絶対買ってもらえないだろうな・・・ああでも・・・』
Mには、収入と呼べるものがありました。月一回、ビンの蓋を大量に集めて、あるところに持っていくと本当に、わずかですが小銭をくれるのです。家族にも内緒にしてある小遣いでした。
Mはその小銭で、たった一個の飴玉を買うのが何よりの楽しみだったのです。あまーい味が口の中に広がっていくのは何よりも代えがたいひと時でした。生きがいといっても過言ではありませんでした。でももちろん、そんなお金では靴は買えません。
Mは夜通しさんざん悩んで悩みぬきました。
そして・・・
『そうだわ!あれならなんとかなるかもしれない!』
そしてMは思いつきます。もっとも愚かしい方法を。
この町には不思議な話がありました。
年頃の女の子が、店の前でモノ欲しそうに見ていると、どこからともなく足の長い、ステッキを持ったおじさんが現れる、と。
そして彼が出す3つの質問をちゃんと答えられたら、欲しいものを買ってくれる。
という話です。
彼女はその話にかけてみることにしました。実際、それしか方法がなかったのです。
そう、「今の彼女」にとって・・・
それからそれから、Mのけなげな努力の日々が始まりました。
パン屋からの帰り道、全力疾走の途中、必ずブティックの前で足を止める。そしてショウウインドウの中の靴に対して、物欲しそうな顔をして立ち尽くす。
時間にしてわずか13秒。それが毎日の洗礼を掻い潜ってきたMがはじき出した、足を止めることのできる「猶予の時間」でした。
その時間を過ぎれば、容赦なく、それは彼女に向かって飛んできます。
Mはその13秒にすべてを懸けました。
『わたしにだって、何か一個くらい、いいことがあったっていい。こんなにも不幸なわたしに、奇跡が起きなければ不公平よ。そうでしょう?神サマ?』
もとは誰かのものであった皮靴。今はすっかりMのものになってしまいました。ブカブカ具合も。蒸れて放つようになった異臭も、いつも間にかなった水虫も。もうすっかりMのものです。
でも、神サマは首を縦には振ってくれませんでした。
春になり、夏になり、秋になって雪が降ろうとも。
その雪が溶けて暖かくなり、太陽が容赦なく照りつける時期になろうとも。
月一回の飴玉が彼女を奮い立たせました。ボロボロの体に生気を宿し、悲鳴を上げる精神に鞭を打ちます。
彼女の目当ての靴はいつの間にかショウウインドウを飾ることなく、店の奥に引っ込んでいました。
もうその実物を見ることはできません。ボロを纏ったMがおしゃれなブティックになど入れるはずはありませんでした。
それでも彼女はまったく気にしないでその行為を続けました。もう網膜に焼き付いて離れないあの靴の素晴らしさ。Mはすっかり虜になっていました。
それよりも、なぜ自分の前にあしながおじさんが現れないのかが不思議でした。
なぜなんだろう?彼女は首をかしげます。そしてまたベッドの上でうんうん唸って悩んでたどり着きました。
『あっ、そうか!時間が短かったんだわ!』
13秒では短すぎる。でもそれを過ぎれば自分の身に危険が及ぶ。ではどうすればいいか?簡単だ。危険が及ばない時間に行けばいい。つまり、表通りに全く人がいない時間それはそう、
真夜中。
それからそれから、Mのさらにけなげな努力の日々が始まりました。
パン屋の帰りに、家族が寝静まり町が停止した真夜中に、彼女はブティックの前に立ち続けました。朝方、一般層の住人が出てくるまでです。
閉まったシャッターの中。彼女はもう姿を見ることのできない靴に思いをはせました。
『神サマ!神サマ!どうかどうか、わたしを幸せな気持ちにしてください!』
そしてついに・・・・
夏が終わり、秋が来て、雪が降るようになったある日の真夜中・・・
どさっ。
Mはブティックの前で崩れ落ちました。
連日の疲労と空腹。ついに体にヒビが入ったのです。そのヒビはすぐに全身に及びました。
朦朧とした意識の中、Mは本能的に察しました。
「ああ、私はここで終わるんだ」と。
最後の力を振り絞って、彼女は仰向けになり、天を仰ぎました。
天空からは白い雪が降ってきています。
あー。
最期の景色にしては上出来だなと、Mは自嘲しました。
『結局のところ・・・
私の人生ってなんだったんだろう?生まれてからいいことなんて一つもなかったような気がするなあ。
ほしいものも我慢して、ずっとひもじい思いもして。町のみんなから嫌われてずっとずっと辛い思いをし続けて・・・弟は大丈夫かな?せめて幸せに生きていってほしいな。あんな家じゃ無理かな。
あー結局、神サマは最後まで私にイジワルだったなあ。そんなもんかもしれない。そんな都合のいいようにはいかなんだよね。それはこれまでのことで身にしみて分かっていたはずなのに・・・
なんで私はこうして生まれたんだろう?なぜ貧民層の娘として生まれなければならなかったのだろう?せめて一般層に生まれたならばこんな思いをしないで済んだのに。ちゃんと作り笑いじゃない笑顔で毎日楽しく、幸せに暮らせていたかもしれないのに。
一般層の人たちは、私が月一回楽しみにしている飴玉なんて簡単に手に入ってしまうんだ。
それどころかケーキだって。なんなのだろう、この差は。ホイップクリームがたっぷり乗ったケーキ、かたや飴玉一個。一体なんなのだろう?この差は。
でも・・・
<いいえ、神サマは最後にプレゼントを用意していました。
本当に最後の最後まで隠されていたプレゼントです>
私は死にたかった。毎日毎日死にたくて仕方無かった。
真夜中に包丁を手首に当てた。そのまま引けばよかったのに、涙があふれて家族の顔が浮かんで包丁は手から滑り落ちた。
家の前の木に輪っかを作った。踏み台も用意した。あとはすとんといけばそれでよかったのに、輪に手をかけたら震えが止まらなくなり踏み台から降りた。
郊外を走る鉄道の線路に寝てみた。あとはそれまで待っていればよかったのに、汽笛が聞こえたら飛び起きて線路の外にでた。
・
・・・いつもいつも、私の中にある何かが邪魔をした。
自分ではどうにもできなかった。
自分ではどうしても幕を落とせなかった。
誰も見ることのない悲劇は続けられた。
でも、今ようやく私ではない誰かの手で幕が降りていく。
拍手はない。泣く人もいない。そもそも、誰も見ている人なんていやしない。
それでも私はうれしい。
演じきったから。
これで何も考えないで済むんだ。もう明日から表通りを通ることも、必死に走って石を避ける必要も、罵声に怯えて暮らす日々も。パンの耳だけの食事も、やり場のない怒りと悲しみも。家族に精一杯の強がりで見せる笑顔も。必死でごまかそうとする空腹も。
わたしがもし、一般層に生まれていればなんてバカで空しい妄想も。
飴玉一個で無理やり生き続ける必要も。
毎日毎日、ブティックの前に立つなんて愚かしい行為も。
全部もう、なにもかも、考える必要なんてないんだ。
もう、何も感じなくて済むんだ。
もう全部が、今ここで終わってくれるのだから』
Mは、長年背負ってきた重い荷物を下ろしたかのような、安堵の表情を浮かべました。
何かが光って見えました。
彼女はゆっくりと身を起してそれを見ます。
お話の通り、足の長いステッキを持ったおじさんがいて彼女に包みを差し出しました。
開けなくても、包みの中身を、彼女は知っています。
「おそいよ。ばあか。」
おじさんはにっこり笑いました。
彼女もにっこりと笑いました。
・・・・・
翌朝、ブテイックの前に若い女性の死体が横たわっていました。
「なんでこんなところに貧民層の女が?」
「あれだろ?この町のおとぎ話。あれを信じたんだろ?」
「あーあれか。店の前に立ってるとあしながおじさんとかいうのが現れてほしいものを買ってくれるって話か。」
「ばかなやつだな。そんなの貧民層の連中が作り出した夢物語だってのによ。」
「まったくだ。そんなバカな話信じて挙句の果てに死んじまうとはな。まったくばかだ」
「ほんとまったく愚かものね。どうでもいいけど、さっさと片付けてほしいわ。邪魔だし、臭いし。」
「ばかもの愚か者。」結局のところ、彼女のけなげな努力はその一言で片づけられました。
集まった野次馬は口々に好き勝手な言葉を吐きました。
すぐに憲兵が来て、彼女の死体をずた袋に入れました。
その様子を、帽子をかぶった一般層の男の子が見ていました。
たしかに愚かものだ。
でも。ああ、でも。
なんて幸せそうな顔をしてるんだろう。
・・・・・
Mが死んだ翌日のことです。
「やっと買えたっ!」
件のブティックから、一人の娘が幸せいっぱいの顔で出てきました。
手にはMが欲しがっていたあの靴・・・
この娘は、一般層の娘ですが、月一回の小遣いはわずかなものでした。
でも娘は、コツコツとその小遣いを貯金に回し、他一切を我慢してきました。
そして二年たった今日、ようやくその努力が実ったのです。
「もう、すっごいうれしい!はやく履かなくちゃ!」
娘は雪の道にしゃりしゃりと足跡を残しながら家路を急ぎました・・・
どこでもない、どこにでもあるおはなし。
ある国の、ある町に貧乏な家の一人娘がいましたとさ。
・・・・・
えっ?その娘の月一の小遣いを教えてくれですって?
そうですね。金額にして飴玉一個分ってとこでしょうかね。
ね?つまりはそういうことなんですよ。
ひどいですか?Mがかわいそう?
いやいや、何をおっしゃいます。
神サマは最後の最後にMの願いをかなえてあげたじゃないですか。
ね、つまりはそういうことなんですよ。
以上です。バ改行。多レス失礼しました。
※冒頭で一人娘といいながら、弟がいることになってますがどうでもいいやぁ。
140 :
優しい名無しさん:2009/09/09(水) 13:28:43 ID:+34olSZh
保守
141 :
街灯 第一話:2009/09/13(日) 01:00:41 ID:VBnd6sAz
言い争いをしている一組の男女。二人の間には醜い憎悪しか感じられない。…こんな光景を何度見てきただろう。
私の元で結ばれ、私の元で別れていった。
「(また、終わるのか?何故、君達は繰り返すのだ?私にはわからない…何故、人と人とが出会い、 別れを繰り返すのかが)」
女の頬を涙が伝う。こらえきれない嗚咽が漏れている。
「やだっ、やだよ…離れたくないよぉ…ヒック、ウグッ…」
男は煙たそうな表情で女を見つめていた。
「お前のそういう所が嫌なんだよっ!ったく、うぜぇんだよ!」
男は泣き縋る女を突き飛ばし、足早にこの場を去ろうとしていた。女は尚も泣き縋る…
「やだってば…」
女の手は力なく解け、男を止める事は出来なかった。
「(…終わったか、あっけないものだな)」
女はいつまでもその場で泣き続けていた。雨が降り、ずぶ濡れになろうとも彼女はそこに居続けた。雨の雫で彼女の頬は濡れていた。
もう、涙ではないようだ。女はふと上を見上げた。雨の降る空からは何も見えない。そこには黒い雲が広がるだけ…女は震えていた。
寒さ、寂しさ、恐怖、絶望感…そんな感情が彼女を包み込んでいた。
…どれくらいの時間が経ったのだろう?女はまだ空を見続けていた。力の無い瞳で空を見続けている。
「(死んだのか?)」
女に降る雨の雫が止まった。雨が止んだわけではなさそうだ。女の横には一人の少年が立っていた。少年は笑みを浮かべ、女に話しかけていた。
「…風邪、引いちゃいますよ?」
女は少年を見つめると…
「あはっ、新手のナンパぁ?あはははっはあっははっははっはっははっはっはあははっはは、ケホッ、ケホッ…」
「ほらぁ、無理するからですよ。大丈夫ですかぁ?」
咳き込む女の背中をすかさず少年がさする。女は少年を睨みつけ、思い切り手を払い除ける。
「さっ、触んじゃないわよっ!」
「…ずっと見てきたんですよ、今日まで。気持ち悪いですよね?あはははっ…偶然を装って現れるなんて、とんだ卑怯者ですね」
「…へ?」
女の顔が変わっていた。
「ずっと見ていたんです、貴女の事を…ずっと待っていたんです。卑怯だと言われても、馬鹿と言われても…僕は」
少年の口を手で塞ぐと、女は下を向く。女の眼は潤んでいた、一つ、二つと雫が落ちる。
「…知ってたよ、全部知ってた。もう言わなくて良いよ。隣の子でしょ?…でもね、私なんかと関わっちゃ駄目だよ。
私は色んな男を見てきた、酷い目にもたくさんあってきた…だけど、また拾ってくれる男を探してる。結局、誰でも良いんだよねぇ…ははは」
少年の顔は曇らなかった。少年は何も言わず、女を抱きしめていた。
「…だから、駄目だって」
「良いんです。未琴さんと一緒に居られるなら…未琴さんが好きなんですっ!」
女…未琴の頬が赤く染まっていく。
「…バカ」
「(不思議なものだな、人間どもの考える事は私には理解出来ぬ。後、何人の人間達をこの下で見ていれば理解出来るのだろう。
後、どれだけ見続けることが出来るのだろうか…所詮、動く事の出来ぬ私には理解が出来ぬのだろうか?感情とは何なのだろう…)」
142 :
街灯 第二話:2009/09/13(日) 01:03:34 ID:VBnd6sAz
「(あの二人はどうなったのだろうか…幸せという儚い時間でも手に入れたのか。
幸せ…ふふ、私がこんな事を考えてしまうとはな。所詮はひと時の淡い夢。幸せなどそんなものだ。また来る事になるさ…幸せなどない。)」
どれくらいの月日が流れたのだろうか…あれから何組もの人々が別れと出会いを繰り返していった。
―もう、街灯自身…自分を見失っていた。何年、何十年と繰り返される別れと出会い。男女関係からの縺れ合いからの殺し合いもあった。
皆、憎み合い、憎悪に満ち溢れた表情で別れていく。そして、今日も
「(さて、見せていただこうか。君達の茶番劇を)」
―街灯の心は、何時しか荒んでいた。考える事を止め、茶番として楽しむ様になっていた。
「(…くだらん、実にくだらん。愛など…幸せなど…全て、妄想であり、幻想に過ぎないというに。繰り返せっ!もっとだっ!もっと私を楽しませろっ!
種の保存の為に互いを貪り合うんだっ!)」
「終わったのっ!」
「(何故だ?何故、食い下がる?先にあるのは不幸な結末なんだぞ?)」
「…もう、終わったのっ!いい加減あきらめてよっ!しつこいなぁ…」
半ば、呆れ顔で女が呟いた。ぐっと腕を掴んだまま、何も喋れないでいる男。
「………」
「どうせ繰り返すだけでしょ?戻ったって同じ事じゃないの?」
女は黙ったままの男を見つめ、言葉を続けた。
「(そうだ。所詮、繰り返すだけなんだ…そして、新しい宿主を探せば良い。お前等人間共は、それが似合っている。)」
「もうさ、変わんないって…潔くしとかないと、次なんて見つかんないよ?どうせ…」
「…もう…良い…俺はただ…謝りたかった…謝りたかったんだ…」
女の言葉を遮り、それだけを言うと…男は手の力を緩めていく。そして、うつむいたまま涙の雫を落としていた。
「(今度は、男か…見苦しい…実に、見苦しい。くくっ、情け無い男だな。男もあきらめた様だな…今夜はもう終わりか…女が走り去り、
男がとぼとぼと帰る情け無い姿が目に浮かぶ。)」
「何で離しちゃうの?いつもみたいに食い下がってくれなきゃ…」
―街灯の思惑とはずれてしまった様だ。その場に残っている女。走り去る様子は見受けられない。それどころか、自分の言葉を否定してしまっている。
「………」
男は、顔を上げてニッコリと微笑んでいた。そう、満面の笑みで…
「ふ〜ん、良いんだね?わかったよ…もう行くから…本当にさよならだからね」
「………」
男からの返事は無い。ただ、優しく微笑みかけているだけだ。
143 :
街灯 第二話:2009/09/13(日) 01:05:28 ID:VBnd6sAz
「(未練がましい女だ。自分が出した結論を否定するとはな)」
「…さよなら」
ゆっくりと踵を返す女。もう振り返る事は無いだろう…二人は終わったのだから
「…ミク、ありがとう」
男が発したのは、『さよなら』ではなく…『ありがとう』。
「…え?」
次の瞬間、夜空に『パーンッ』という乾いた音が鳴り響いた。男が最後に呼んだ『ミク』という女が振り返った先に男の姿は無かった。
そこにあるのは、元・男だ。手にした銃で頭を打ち抜き、倒れていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!」
人のものとは思えない絶叫が、辺りに木霊した。ミクは、男の亡骸に縋り付き、泣きじゃくっていた。
「(っ!?)」
一部始終を見ていた街灯も、理解できないでいる。
「何で…?何でっ?」
その問い掛けに応える者は、もういない。
「(何故だっ!?何故…)」
男が何故死んだのか…それはもう、誰にもわからない。「ありがとう」…それだけが全てとでも言うのだろうか。
「(何故だ…何故、自らの命を絶つ必要があるんだっ!?探せば良いだろう…新しい場所を。繰り返すのがお前達ではないのか?)」
街灯は困惑していた。殺し合いはあっても、自害などという結末は初めてだった。
「やだ…冗談だよね?いつもの冗談だよね?…起きてよ。こんな所で寝てたら風邪引いちゃうよ。ねぇ…ヒロ…ヒロ…」
ミクの言葉は少しずつ小さく、力ないものに変わっていく。ヒロと呼んだ肉体を抱きしめ、留まる事無い涙を流す。
「(…もう、帰っては来ないんだ。男は死んだのだ…やめろ…やめてくれ…何故だ、何故だ)」
ミクの呼びかけは、魂を失ったヒロの肉体に届くことは無い。もう、二度と目を覚ますことも無い。
「あはは、帰ろっかっ♪喧嘩なんて、やめ、やめっ!帰ったらヒロの大好きなカレー作ってあげるからね。…帰ろ」
流れる涙は止まる事は無い。涙を流しながらも…必死に取り繕った笑顔。ヒロの肉体を抱きかかえ、ゆっくりと街灯の下から姿を消した。
あの二人がここに来る事は二度とないのかもしれない。
「(これが人なのか…?)」
それから半刻が過ぎ…遠くの方から、サイレンが聞こえた。それが、あの二人に鳴らされた終幕を告げるサイレンなのかは…街灯に知る術は無い。
144 :
街灯 第三話:2009/09/13(日) 01:06:16 ID:VBnd6sAz
これは、ずっと…ずっと…昔。そう、街灯が生まれた頃の話。たくさんの祝福を受けて、彼は生まれた。
真っ暗だった夜道を照らす、温かみのある光を放つ街灯がそこにはいた。彼は、愛されていた。犯罪の温床であった夜道を守る光として…
「(…まったく、人というのは大変な物だな。こんな暗くなるまで働かなきゃならんのか。だが、清々しい顔だな。微笑ましいものだ。
その笑顔の向こうには、何が待っているのだろう)」
足早に家路を急ぐ男達。疲れた表情はしているものの、街灯の感じた清々しい顔をしている。
「親方、最近すごいがんばってますね。」
「ほんっと、まるで人が変わってみてぇだよ。」
二人の若い男たち。まだ幼さの残る少年にも思える。間に挟まれた精悍な顔つきをした『親方』と呼ばれた男。
「(親方…この男の名前なんだろうか)」
親方と呼ばれた男は、照れ臭そうに二人を見た。
「おいおい、それじゃあまるで、俺がサボってたみてぇじゃねぇか」
「はははっ、そんな事ないですって。いつも以上に気合が入ってるなって思ったんですよ。」
「だな、何かあったんすか?」
男の足が、街灯の灯りの下でふと止まる。
「子供がな…子供が生まれたんだ。」
二人の少年は驚きを隠せないでいた。
「こらこら、そんな驚く事ないだろ?」
「え…いや、驚きますって。いきなりの爆弾発言なんですもん。」
「そうっすよ。つうか、いつの間に女作ってたんすか?そんな素振り見せなかったくせに」
「あーあ、俺達って信用されてねぇなぁ。それならそうと言ってくれりゃ、お祝いしたのに…」
「そうっすよ」
少年たちは、肩をすぼめ、いじけるようにうつむく。
「(ぬぅ、めでたい事だというのに)」
街灯にはわからなかった。何故、少年たちがいじけているのかが。その態度に腹立たしささえも感じていた。
「ケン、ユウジ。…ごめんな、話せなくて。何度も話そうと思ったんだが…」
「へへっ、わかってますよ。恥ずかしかったんですよね?」
「だてに、一緒に仕事してきたわけじゃねぇっすから。」
少年たちの言葉に、戸惑う男。
「…それもあるんだが…」
「ん?」
「何すか?」
「(何だ?)」
男の言葉を、街灯も気にしていた。
「お前ら、俺に女が出来たりしたら…すごい勢いで祝おうとするだろ?」
少年たちは顔を見合わせ、うなづく。
「安月給のくせに、後先考えねぇで祝うだろ?金の使い方も知らねぇお前たちがそんなことしてみろ?
月末には、ピーピーになっちまう。そんな姿は見たくねぇんだ。だからな、気持ちだけ持って今夜は家に来い。」
「親方…」
「別に怒ってるわけじゃねぇんだ。そんな顔すんじゃねぇよ。今夜は宴だ、朝までガッツリ飲むぞっ!」
「「はいっ!!」」
「(ほほう、なるほどな)」
憎い心意気。とでも言おうか。三人は笑いあっていた。満面の笑み。仕事で泥だらけの服で寄り添い、肩を組んで歩き始めようとしていた。
「…ちゃーんっ!ダイちゃーんっ!」
少し離れた場所から、女の声が響く。小柄の品のある女性だ。足早に駆け寄るその手の中には、小さな赤子が大事に抱きかかえられていた。
「おうっ!ゆう…」
ーカッ
目も眩む閃光が辺りを包んだ。男の声は届かない。最後まで発する事さえ許されなかった。光がおさまった後には、何も残っていなかった。
街灯自身も、灯りを失い、思考は停止していた。
微かに残る街灯の遠い記憶。あの光が何なのか、男たちは、女は、赤子は…知ることも出来ない。
街灯の奥底に眠る記憶は、途切れたフィルムのように止まっていた。
age
146 :
優しい名無しさん:2009/09/18(金) 12:09:38 ID:Jx0aNHba
age
147 :
優しい名無しさん:2009/09/24(木) 20:24:13 ID:PxOjqT3x
支援
148 :
優しい名無しさん:2009/09/30(水) 22:56:52 ID:HKy3eZXB
保守がてら短編
流れてくるスティックパンをひたすら詰めるバイトがある、と言ってたのは誰だっただろうか。
それとも何かの本に書いてあったのだろうか?
詰めても詰めてもベルトコンベアを流れてくるスティックパン。
詰める。詰める。詰める。
終わりの見えない作業。
終わりの無い時間。
まるでわたしの人生では無いかと思ったら笑いが込み上げてきた。
飲んでいた缶ビールを片手に堪えきれずゲラゲラと笑っていたら不審そうな目つきで自分を見つめるババアが居てああ自分は公園のベンチの上に座っているんだったと他人事のように思った。
チクショウうぜぇとクソバアア。何だよ。楽しいから笑って悪いかよ。こっち見んなよ。
せっかくの楽しい気分が台無しになった。
わたしは笑うのを止めてババアに中身の残った缶ビールを投げつけた。
残念、ハズレ。ビールが地面を濡らす。
ババアはびくびくと肩を震わせながら逃げるように公園を出て行った。
その姿はヒキガエルのように惨めだったがわたしはちっとも面白く感じなかった。
あ、ヒキガエル。
そこでわたしはスティックパンをひたすら詰めるバイトをしていたのがヨシダだと言うことを思い出した。
イントネーションのおかしい言葉遣いで「あのバイトはしんどかったね。空気がコールタールみたいにドロドロしてたんよ。
もし空気が本当にコールタールになったら窒息して死んでたわ。あ、雰囲気的には死ねたかも」とつまらないのに笑いながら言っていた。
あー何で忘れてたんだろう。忘れてた理由が解らない。ひとつ新しいことを覚えるとひとつ何かを忘れてる気がする。
大切なことも重要なことも一生覚えておこうと思ったことも忘れてしまう。世の中は不思議なことでいっぱいだ。
そう言うことでこの件は考えないようにしている。全ての問題が考えるだけで答えが出たら奇跡だ。奇跡なんて起こらない。
「キリストみたいに静かに祈っても神様も救いも奇跡も届かない」。かつて偉大なるカウンターカルチャーの教祖、ルーシー・モノストーンはそう言った。
と言ってもわたしはカウンターカルチャーとサブカルチャーの違いも解らないしルーシー・モノストーンの曲を一曲も聴いたことが無い。
これもヨシダが変なイントネーションで言っていたこと。いわゆる受け売り。
そこまで考えてわたしは何でこんなどうでも良いことは覚えてるんだろうと思った。本当に世の中は不思議だ。
「ああ、コイジちゃんここに居たん?」
頭上から声が降ってくる。
顔を上げるといつも通りの妙にむかつく、でも嫌いになれないにやにや顔を浮かべたヨシダが居た。
「煙草買ってきよ」
「……ああ」
一瞬何のことか解らず、次の瞬間にヨシダに煙草を買ってくるように頼んだことを思い出した。
そうそう、煙草が切れてたんだ。
「…………」
「何? 早く渡してよ」
手を差し出し催促するわたしに、ヨシダはにやにや顔を少し傾げ
「んーお礼の一言ぐらいくれても良いんちゃう?」と言った。
差し出していた手をヨシダのヒキガエル色のジャージのポケットに突っ込む。
「ふぉお」とヨシダが奇声を上げる。こっちじゃ無い。じゃああっちのポケットか。
「ちょいちょいちょい強引だよ。そんなにぼくにお礼を言うのが嫌なん?」とヘコんだような声を出しながら、
実際に声だけのヨシダを無視してラッキーストライクの箱を開ける。ゴミは地面に落とす。
ヨシダが「ポイ捨てダメゼッタイ」と言ってババアに投げつけた缶ビールと煙草のゴミを拾う。
それを何の躊躇いも無くわたしのピーコートのポケットに突っ込む。
「何すんの。やめてよ」
「ゴミの始末は飼い主が」
「意味不明。日本語喋れ」
「にゅふふふふ」
「気持ち悪い笑い方すんな。死ね」
「生きる」
「じゃあわたしが死ぬよ」
「それは駄目かなー?」
「何で」
「何でもー」
にやにやにや。
ああ、むかつく。嫌いになれない自分もむかつく。いらいらしてくる。
意味も無く髪の毛に指を突っ込み引っ掻き回す。がしゃがしゃがしゃ。
ラッキーストライクの箱が地面に落ちる。肩が重い。赤ん坊が乗ってるみたいだ。
顔を上げられない。どんどん落ち着かなくなってくる。足が小刻みに震える。
胸の内側がざわざわする。何で生きてるのか解らなくなる。呼吸する意味。食べる意味。排泄する意味。
「当然」と定義される曖昧でどうしようもなくてグレーゾーンに居た出来事が白と黒の世界の隙間から零れて壊れてゆく。
ああわたしはもう駄目だ。どんどん駄目になってゆく。皮膚が鱗のように一枚一枚剥がれて最後には大量の鱗が公園のベンチの上に積もるんだ。
積もった鱗は風に乗ってどこまでも流れてゆく。鯉のぼりのポールの上。アスファルトに浮かぶ水溜りの中。
赤い水玉の傘を差して微笑むユリエの口。
ひやりとしたものがわたしの手に触れる。何。何? 「そろそろ帰ろうか」どこに? どこに帰るの?
お母さんはもう居ない。お父さんも居ない。ユリエは? ユリエはどこに行ったの?
赤い水玉の傘がお気に入りだったユリエ。晴れの日でも傘を差そうとしてお母さんに怒られていたユリエ。泣くユリエ。
それを宥めるわたし。「チョコレート食べよう」。そう言うとユリエはにっこりと笑う。
満開の桜のように艶やかな、見ていてうっとりしてしまう笑い。ふといらいらが収まる。
肩から赤ん坊が退く。足の震えが止まる。顔を上げる。髪の毛の絡まったわたしの手をヨシダの骨ばった手が包んでいる。
「ユリエは? ユリエはどこ? お母さんもお父さんも居ないの。ユリエはまだひとりで留守番が出来ないの」
そう。ユリエは怖がりで人見知りで、いつもわたしやお母さんの影に隠れていた。
なのに知っている人にはべたべたと甘えて、可愛らしい笑顔を浮かべる。
「死んだよ」
「嘘」
「本当。思い出してみ?」
……そうだった。ユリエは死んだんだ。お母さんもお父さんもユリエもみんな死んだんだ。
わたしだけ生きてるんだ。ヨシダの顔を見る。にやにや顔。細い瞳に髪の毛がぐしゃぐしゃでピーコートにパジャマ姿の老けた女が映っている。みずぼらしい。同情さえ感じる女だ。
「そろそろ帰ろうよ、母さん」
髪の毛の絡まった手をヨシダが引っ張る。尻がベンチから上がる。
空いた手でヨシダがラッキーストライクを拾う。
「今日の昼ご飯は冷やし中華にしようか」
それは良い。ユリエも喜ぶ。楽しくなってわたしは笑った。ゲラゲラと笑った。
151 :
優しい名無しさん:2009/10/07(水) 03:12:45 ID:tnOI0IgI
保守
152 :
優しい名無しさん:2009/10/14(水) 20:49:34 ID:YqhIxEKc
保守
★
154 :
優しい名無しさん:2009/10/20(火) 20:27:01 ID:eYNi8UjT
age
155 :
優しい名無しさん:2009/10/25(日) 20:20:12 ID:E3rUlVa5
保守
156 :
優しい名無しさん:2009/11/04(水) 21:09:56 ID:ESvDoHxT
age
ほしゅ
夜になると母は、これは二人だけの秘密よと言って泣いているのです。
子供のように声を上げて泣く。14歳になった私は耐え切れず、その場で飴玉を噛み締めました。
バリバリバリバリと、飴玉は私の口の中で砕けます。
甘い香りが私の口の中から発せられると、母は泣くのをやめました。
これは二人だけの秘密よ。一生、あなたが死ぬまでずっと、これは私とあなただけの秘密なのよ。
そう言い残し、あれから10年が経ちますが、私は母の顔を見ていません。
母はあの日以来ずっと仮面を付け、誰にも、誰にも誰にも表情を見せることをしなくなりました。
先日20年ぶりに会った祖父が自慢げに母が中学生の頃のアルバムを取り出してきました。
「これは、おまえさんがまだ小さいときに見せたことがあるんだけど、何せ小さかったからね、覚えていないだろうけど。」
そう言い訳した後、1ページずつ丁寧にめくっては、笑んだり怒ったり泣いたりする母の表情を見せてくれました。
私はそのたくさんの写真を眺めながら、泣いていた頃の母の顔を思い出そうとしましたが、なぜか泣いている母の声と、あの時の香り以外の情報を脳から引き出すことが出来ませんでした。
スと、襖がゆっくりとした音を立てて開く音が聞こえました。
あの日から、周囲の人間はまったく気が付かずにいたのだと、このときにやっと判ったのです。
それほど、周囲の人間からの興味というのは全く自分にはそそがれていなかったのでしょうけれど。
私は振り返り、その姿を確認しました。
相変わらず仮面をつけてはずさぬ母の冷たい表情がそこにはありました。
そして母は私に近寄り、言いました。
「おまえは、もう笑わないどころか、表情も失ってしまったようだね。」
嘆くような声で。
158 :
優しい名無しさん:2009/11/12(木) 17:33:37 ID:XMeCfQsK
ここにうpされているのって、扱いは超短編でしょうか?
159 :
優しい名無しさん:2009/11/16(月) 18:58:45 ID:XQfwkxXP
会場は怒号のような歓声に沸いていた。
いや、今この瞬間全世界が熱狂していた。
笑みを浮かべかけ、ふい彼は戸惑ったように唇を噛み、グローブに覆われた手で口元を押さえた。
シロップみたいな涙の粒がいくつも頬を滑り、彼はとうとう上体を折って顔を覆った。
秀でた額に長い前髪が落ちかかり、しゃくりあげる度に細い身体が揺れる。
華奢なうなじが場違いに痛々しい。
彼は勝利した。
経済的事情とバッシングの嵐、トレーナーとの軋轢。
思うように練習に集中できない中、ひとつのミスもなくプログラムを終え、全てを出し切ったのだ。
過去最高のパフォーマンスだった。
やがて彼は背を起こし、涙に濡れた頬のまま笑顔で―――10歳にも満たない子供のようなあどけない、無邪気な表情で―――観客に応える。
投げ込まれる花束やクッションのいくつかを拾い上げ、大事そうに抱きしめては手を振る。
喜びのために身体の内側から光り輝き、仕草はまだ演技の途中であるかのように優雅だ。
俺は関係者を押し退け、カメラマンにぶつかりながらリンクを回り込む。
幾度か制止の声が聞こえたが脚は止まらなかった。
美談じゃないか。
長年のライバルにおめでとうを言うだけだ。
自由にさせてくれ。
彼を抱きしめてよくやったと言ってやるくらい。
こんな時でもなけりゃ、赦されないじゃないか。
彼は夢見るように氷の上を漂って来ると、生真面目な表情で俺に手を預けた。 ―――ミスタ・フェアプレイ、ふたつめの美談だね。
スマソ、最後改行し損ねた。
161 :
優しい名無しさん:2009/11/26(木) 03:16:12 ID:E0Umpn88
保守
空はもう大変に蒼くなってしまいました。
「こりゃあ骨が折れるぞ」
と、ペンキ塗りのおじさんは言いました。
彼等は真っ青になった空を真っ白に塗り直さなければならないのです。
僕もこりゃあ一晩はかかるなと思いましたが、彼等に一瞥をくれただけで、なにごともなかったかのように通りすぎました。
街は真っ青になった空のせいでてんてこ舞いでした。
向かい側のパン屋のおやじは、せっせとつぶあんパンにさくらの塩漬けをのせなければならなくなったし、
お隣りの花屋は店にある青い花を全て捨ててしまわなければならないのでした。
あなたのペニスを、私の膣の中に、「あなたのペニスを私の膣の中に……」そんな感じのこと言って欲しいんでしょ?それに何の意味があるの?
そうは行かない。あなたの思う通りになるものなど、この世に何一つとしてない。私は本当はこう言っている。「てめえの腐れチンポ俺の穴に出し入れして何が楽しいんじゃこのクソボケ」
「てめえの腐れチンポ俺の穴に出し入れして何が楽しいんじゃこのクソボケ」 >ALL。
164 :
優しい名無しさん:2009/12/15(火) 23:09:13 ID:1xSEYse8
age
淡々と流され起承転結の承だけが延々つづいて展開がないので屈強なコーティングされたネームプレートは鉛筆なんかじゃ刻めない。
括弧間が白紙だ。ネームプレート握り締めゆりちゃんは一人でうずくまるけど、自体は一向に変わらない。
ツルリとしたネームプレートがゆりちゃんの涙をどうでもいいとあしらって、ゆりちゃんの声吸い取って冷淡。
「 、 、 、 、 ? ???」
ゆりちゃんは一人で誰もいないし神様も信じないからゆりちゃんの羽化不全なコールはゆりちゃんの喉の奥で不完全なまま踏み潰された。時折嗚咽交じりに。
ゆりちゃんの伸びたつめがネームプレートにあたって折れた。
ネームプレートは返事をしない。埋める空欄だけで固まったゆりちゃんのネームプレートはいまだ悲しいほど新品で。
「誰か、」と呼ぶ名前ももたないゆりちゃん。口に出さずに「誰か、」と思った。誰か、誰か、誰か、誰か。続く言葉は多々あれど、誰が?
思い知らされて泣かされてゆりちゃん。今日も泣き疲れて眠るまで、さよならおやすみまた明日。
Kというクラスメイトがいた。友達じゃなかった。
学校の屋上の扉の鍵の開け方を知っているということだけが僕と彼女の共通点だった。
僕が時たま屋上にくると、彼女はいつもいた。いないことのほうが稀だった。僕は屋上からみる町が好きだった。彼女は屋上は好きだけど町は嫌いと言った。
理由を聞いたら「虫の集まりみたいだから」と言われた。僕は「ふうん」とだけ答えた。彼女の言うことは大抵よくわからない。
彼女に対する二人称はいつだって『彼女』である。恋愛対象の意味での『彼女』ではない。ただの二人称だ。苗字を呼ぶほど親密ではなかった。名前は尚のこと。
『女』、というと、なんだかいやらしい。でも『女子・女生徒』というような清楚さが彼女にはない。
彼女は善良じゃなかった。万引きをしているようだった。援助交際もしているようだった。煙草も吸う。髪の毛もバカみたいな金髪だった。
僕は万引きも援助交際も煙草も金髪もバカも嫌いだった。それでも彼女を嫌悪してはいなかった。彼女には常に潔さのようなものがあった。目だけがひやりとさめていた。だからかもしれない。
今日も彼女は屋上の片隅でぼんやり煙草を吸っていた。
「肺癌になるよ」と僕が言うと、「長生きしたくないんだよ」と、『虫の集まりみたいな町』を見下ろしながら彼女はぼんやり笑った。
真っ白なワイシャツが、すこし大き目のセーターが、規則正しく折り目の付けられたプリーツスカートが、或いは彼女自身が、不似合いな笑顔だった。齟齬に自然と眉根が寄った。
彼女は煙草をゆっくりゆっくり、味わうというよりは子供が嫌いな食べ物を無理矢理租借するような塩梅で、時間をかけて吸い終えた。
ぱっと僕の頭の中には『消費』という文字が思い浮かんだけれど、なにを指すのかは僕には知らないし、きっと関係ない。なぜなら彼女は友達でもなんでもないから。
煙草の火種をコンクリートに押し付けて消すと、彼女はまとっていた気だるそうな雰囲気を一掃する身のこなしでぱっと立ち上がった。
プリーツスカートが誇らしげに翻って真っ白な内腿が一瞬あらわになる。膝の裏のラインが、びっくりするほど美しかった。造形的に、だ。
ときめいたりしない。ドキっともこない。ただきれいだなあと思った。純粋に。
「もう行く」
「行くの?」
「うん」
脈絡もなにもない子供のような会話と素直な頷きに動物みたいだなとおもったけれど、よくよく考えたら僕も同じ動物だった。どこに行くのかは知らないけれど、きっとどこかに行くのだろう。きっとどこでも行くのだろう。きっと彼女は自由だろう?
立ち上がった彼女の足は迷いなく屋上の扉に向かい、扉は彼女を吸い込んで、そのままどこかに運んでいく。彼女の『行くところ』へむかって。
明日は彼女に会うだろうか? と思った。
翌日彼女は飛び降りで死んだ。僕はひとりで「なるほどそこか」と、彼女の『行くところ』を知り納得した。
『ともだちじゃない子のはなし』
深夜の電話、電波はどっぷりドリップ。
ツーカーな会話ツーカーな文句。
わたしたち 少女じゃなきゃだめだ。
わたしたち 少女のまま生きて、
わたしたち 少女のまま死にたい。
わたしたち、わたしたち、動物が好きで人間が嫌い。女も男も軽蔑した処女。可愛いものだけ愛でて生き、綺麗なものだけ愛でて死にたい。気高く鋭い一閃の刃だ。
夜のダウナー。
「死ぬときはきっと、普段ならすきでも似合わなくて恥かしくて一生着れないすてきなドレスで、お気に入りの歌を口ずさんで、美しいものを見て、「あらなんだ、きれいなものもあるじゃないか」と、気軽く笑って飛び降りたい。そうして、もう二度と目覚めたくない。」
目覚めると不思議の国にいた。それからもう何年も経つ。
毎日蟻の群れを見ている。毎日蟻の群れの中にいる。わたしは不思議な気持ちでいる。
わたしはここで死ぬのだろう。
わたしは不思議の国に生まれ、わたしは不思議の国に生き、わたしは不思議の国に殺される。
不思議と不思議はなかった。
歳を取る歳を取る歳を取る歳を取る成長する成長する歳を取り成長するこの手がこの足がこの身体が成長する歳を取る老いる老いていくだれにも愛でられないままにわたしひとりの秘密のままにわたしひとりの寵愛の元に
「どうせ巡るなら落ちた滝つぼでぐるぐる回ってあがってこないで誰にもみつからないほうがいいわ」とアリス。
「どうせ落ちるならとても高いところから落ちて原型も留めないぐちゃぐちゃにして面影ひとつ残さないほうがいいわ」とリデル。
夜の携帯越し。
わたしたちきっと、別々に死ぬ。でもたましいは一緒。
169 :
優しい名無しさん:2009/12/25(金) 17:20:54 ID:gfkvbOzE
age
レモンの形をした月が昇る
悪夢を見る
やるせない日
171 :
優しい名無しさん:2010/01/10(日) 17:17:55 ID:ztznnsWP
あげ
172 :
優しい名無しさん:2010/01/19(火) 19:02:15 ID:MElYLW6s
age
173 :
優しい名無しさん:2010/01/29(金) 06:43:53 ID:2R62/e6c
age
174 :
優しい名無しさん:2010/02/07(日) 16:42:31 ID:lfk0RXRN
age
175 :
優しい名無しさん:2010/02/16(火) 13:21:36 ID:eLxnRZsL
あげ
176 :
優しい名無しさん:2010/02/24(水) 11:16:22 ID:mR3p9NHO
age
177 :
優しい名無しさん:2010/03/06(土) 13:29:17 ID:OO715OVJ
age
178 :
優しい名無しさん:2010/03/13(土) 17:36:35 ID:w/k1A1GB
保守
179 :
優しい名無しさん:2010/03/20(土) 19:13:52 ID:6Xvf0xKJ
保守
何について書いて欲しいか要望してみなさい
少なくとも要望してみることはできる、叶えられるかどうかは別としても
彼女の部屋には一度上がったことがある。彼女の部屋は存外普通の女の子らしいものだった。
デスクの横にカレンダーがあった。シンプルな、使いやすそうなものだった。今日までの日にちがすべて、バツ印で消されていた。
彼女は日々を消化して生きる。
女の子らしい可愛らしい、時間の止まったような部屋で、彼女は追い越した日々すべてに、バツを打って生きていた。
文体に悩みがある。
読んで視覚化しやすいように書いてるつもりだけど、言葉が足りないかもしれない。
または反対に、語が多すぎて読みにくいと感じるかもしれない。
もう人に読んでもらってみるしかない。
難しいことは考えず、フィーリングで感想言ってもらえると嬉しい。
えっとー、トリップの付け方とか忘れちゃったー。
過疎ってるから大丈夫だよね?
1
「びろーん」
男は自分の顔を両手で左右に引き伸ばした。その幅は六十センチ以上ある。
「……」
咲河凛可は絶句して、モチのように広がった人間の顔を凝視する。
午後十時。人気の無い住宅街の路上。鳴田国際高校の制服の上にダッフルコートを着込んだ少女が立ち、彼女の目の前でスタジャン、ジーンズの若い男がおどけてみせる。
そこまでなら問題ない。
しかし凛可の脳は最初の衝撃を凌ぎ、何が異常なのか、という具体的な情報を取り込み始めていた。
男の顔は、頬が柔らかいなどというレベルじゃない。顔全体が骨格からして伸びている。人間にはありえないほど切れ長な目の中で、溶けたような瞳が自分を見ていた。
「れろれろれろれろ」
薄く広がった前歯の間から赤い舌が覗き、白い息のなかでのたうつ。
「い、いいいい、ぁふぁー……」
凛可は足の力が抜けてへなへなと座り込んだ。叫び声を上げたかったのだが、臨界寸前で力尽きてしまった。
ぱちゅん、と音がして男の顔が元に戻る。男は屈み込んでくると、空いた両手を凛可の腰に回して、軽々と肩の上に担ぎ上げてしまった。
「い、あ、え?」
「初ーの獲物はジョシコウセイ、軽いぞー、かわいいー」
俄かに周囲の闇が濃くなった。木々と潅木に囲まれている。凛可の身体は公園の中に、それも一際暗い一画に運ばれつつあった。
状況を理解すると身体が小刻みに震え始めた。のどが詰まって声が出せない。ほんの数メートル先の路上は街灯に照らされている。
せめてその光の中に逃げ込みたいと願ったが、その時強い風が吹いて、凛可の視界は自分の髪の毛で閉ざされてしまった。
希望がまったく断ち切られたような気がして、涙が溢れた。
しかし風が一瞬で止んだあと、凛可の目の前には黒い円筒が立っていた。
円筒はどうも人間らしい。水球選手がつけるようなキャップを被り、水中メガネで目を隠し、黒いマントを身体に巻きつけていた。顔と足元が闇に映える。つまり裸足だった。
奇異な人影は、凛可に向かって声をかけてきた。
「安心したまえ、マドモアゼル」
凛可の移動は止まった。自分を担いでいるスタジャンの男が凍りついたからだ。
ごめん、素で読みにくい……。
コピペするだけじゃなくて、改行に気を使えば良かった。
でもこのスレ住人なら、なんとか読んでくれる!
男の描写をオノマトペとか台詞に頼りすぎじゃない?
というか、普通人間の顔が60センチに広がるわけはないんで、
導入部分を書き足して、読者を物語に慣らしてほしいというか……
視覚化したいならもっと地の文で語るべきだと思う。
言葉が足りなすぎて何が起きてるのか理解するのに時間かかる。
そのわりに遠回しで冗長だから読みにくい。
小説ってよりも状況説明文に近いかも。
>>185 おお、ありがとうございます!
ちゃんと読んでもらえて嬉しい。
遠まわしで冗長だってのは、まったく意識できてなかった。
自分の行きたい方向を考えるに、この点に注意してさらに言葉を削っていこうと思う。
やっぱ人の意見は参考になる。
ありがとう、ありがとう!
>>186 いやいやいや待ってくれ、遠回しで冗長だけど言葉は全然足りてないってw
「地の文で語れ」って言っただろ?
自分も分かりにくい書き方してすまなかった。
遠回しで冗長なのは、状況説明文になってるからだよ。
あんまり小説っぽくないんだ。淡々としすぎてるというのかな。
こねくり回した結果、朝顔のツルみたいな文章になったんだろうけど、
描写するための文章としては足りてないんだよ。
自分が結構こってり書く方だから余計にそう思えるのかもしれないが。
なんか、も少し長めの話を読みたい。
今の話だと短すぎて、判断しにくいところの方が多いから。
>>187 いや、言葉が足りないのは分かってる。
方向性の問題だ。
言ってることは分かりやすく、こちらとしても理解しているつもり。
地の文はこれ以上増やせない。
事件の発端を遅らせることもできない。
なら言葉をより削る方向でいこうと思った。
こちらとしては、予想以上に良いレスを頂いている。
ありがとう。
189 :
優しい名無しさん:2010/04/11(日) 18:45:19 ID:mzw8TOpM
保守
190 :
星のない家:2010/04/22(木) 04:50:37 ID:/3khHmGg
好きでもないアルコールをストレートで無理矢理喉に捻じ込んだ。
わき腹にゾワリと鳥肌が立って、後味の悪さに喉の奥から熱っぽい吐き気がせりあがって来る。それを今度は氷で冷えたペットボトルのお茶でクールダウンさせて、落ち着いた頃にまたアルコールを煽る。
片手には多く両手に足りる程度に繰り返した頃には吐き気に滅入りアルコールの入ったビンを掴む腕が上がらなかった。最後に口をゆすぐようにお茶を目いっぱい喉に流し込んで、椅子に座って、待つ、待つ、待つ、待つ。
期待していた高揚感は待っても一向こなかった。
嫌なことを、嫌々行う、自分の身体の使い方に、感傷的な気分になった。涙が滲んだ。ただの塩分。乾けば塩の塊だ。
流れてしまうと顔を洗った意味がないので、ティッシュを押し当て目元でぬぐった。自分のどこまでもゆめみがちで感傷的な演技がかった気分と、自分のどこまでも効率重視な現実的思考回路の齟齬に、知らずに口元が笑いに変わった。
認識と、実行は、また、別の話だ。自分の悪趣味なちぐはぐの性質を認識はしていたが、それを矯正しようという気は微塵もなかった。好きなのだ。自分の悪趣味でちぐはぐな性質が。それに振り回され痛い目を見る自分が。
すべて自分で完結していた。わたしで終わる物語だ。
酔いはまだまわって来なかった。落胆はなかった。期待はあったが、そんなものだろうという思いもあった。
悪趣味でちぐはぐの性質は、常に二面以上の思考回路を携えていて、そういった点も気に入っていた。状況に合わせて都合のいい思考回路を選びとるので、自然とおおよそのことでは不平や不満は生まれない。
それでも『酔い』がほしいわたしはもう少し性質の悪い方法で酔いを得ようと考えた。
幸いなことに医者の処方してくれた薬はまだたくさんあった。まっしろく広げたやわらかいティッシュの上に、プチンプチンと音を立てて転がりでてくる錠剤を見ていると、なんとなく小さい頃にやはり同じようにティッシュに金平糖を並べて眺めていたことを思い出す。
色とりどりの錠剤は金平糖のように甘くはないが金平糖よりは酔っていられる。
でも金平糖の方が、あの、無秩序に転がる七色の星々の方が、安心は、できたかもしれない。あのカラフルで甘い舌の上でとけ消える星は、現実的な錠剤よりも、ゆめみがちで、小さいけれど、それでも、どれでも、なによりも。
詰め詰めになっちゃった
改行もなく読みづらくてすみません…
元の改行までの一文が長いので、『文が長いよ!』とエラーがでて
毎回あわてて改行を挟んでいくのですが、
長文読みづらい! など他にもなにかご指摘あればいただけると嬉しいです。
ちなみに
>>165 >>167 >>168と同一です。
こちらも含めてなにかご意見頂けると幸いです。
192 :
優しい名無しさん:2010/05/02(日) 16:17:12 ID:w7uaqYg5
長文読めるようになったら感想書きます。
錠剤からこんぺいとう たのしいね なみだの塩と 砂糖
>>191 ごめんね、ごめんねー!
あっぷされた直後に読んで、後で感想書こうと思ってたのに今まですっかり忘れてたよー。
ホラ、レスが無いとスレの存在そのものを忘れがちじゃん。
正直、読み辛いけどそれはきっと横書きだからだね。
縦書きだったらそんなでもないと思うんで、そこは目つぶるとして。
まず、長い割に事件が起こらなさすぎる。
「、」も多すぎ。
しかしところどころハッと目を引く良い表現も散見できる。
>>193がエッセンスを抽出して詩にしちゃってるけど、良いところはだいたいそこら辺だと私も思う。
良いところを伸ばしつつ、もっとコンパクトにしたほうがいい内容だと思う。
1/4
あの日も風の強い日だった。
「こんな日なら絶対空とべるぜ」
そんなありふれた言葉もあいつから発せられると特別な響きを持った。
僕らはツタヤに入り、あいつはいつもの通り逆万引きをしていた。
僕はその行為を逆万引きと呼び、あいつはキャッチアンドリリースだよと言っていた。
要は簡単。
買って読んだ本をそのまま棚に戻すのだ。
「なんでそんなことするの?」
僕は初めの「犯行」の時にそれを聞いた。
「理由なんていらないだろ、いたずらになんて」
そう、あいつにとってそれはいたずらでしかなかった。
他愛もないいたずら。
高校生になってまで、そんなことをしているあいつのことが僕は好きだった。
「どうせ、読んだ本は全部覚えてるから大丈夫なんだよ」
僕はその時ちょっとだけ意地悪になった。
あいつが今リリースした手の本の二四八ページを開いて言った。
「じゃあ、二四八ページの一五行目のセリフは?」
あいつは笑っていった。
わかるはずない、と。
でも、とあいつは続ける。
「百四十四ページのセリフはよかったな」
そういって諳んじてみせた。
僕はそのページを見ると、本当にあいつが言ったセリフが書いてあった。
そんなやつだった。
京都四条の丸善が閉店する日、大量の檸檬が置かれていったそうだ。
でも、たぶん丸善以外、しかもツタヤに檸檬を置いていったのは僕たちだけだろう。
『檸檬』の上に置かれた二つの檸檬を見て僕らは大爆笑した。
2/4
今でも覚えてる。
五月十八日。
突然夜中にあいつから電話がかかってきた。
「なぁ、世界ってお前が思ってるほど悪いもんじゃないぜ。むしろ、世界は素晴らしい」
そして、最後に一言。
わるいな。
翌日あいつは死体になって発見された。
自殺だった。
僕はまだ高校生で何も知らなかった。
死がどんな意味をもって、それによって引き起こされることとか、とにかく全ての死に関することを完全には理解できてなかった。
ただ、耳の奥には「世界は素晴らしい」のフレーズが残った。
僕は確かめなくてはならなかった。
この世界は本当に素晴らしいのかどうかを。
僕は勉強ができた。
小学校三年生の時に教師が両親に言ったらしい。
「あなたがたの息子さんは素晴らしい。素直だし勉強もできるし。将来が楽しみです」
それで、僕は僕の役割をはっきりと認識した。
大人たちが僕に求めるのは学力と素直さだ。
それと同時に分かったことがあった。
大人たちを騙すことは簡単だ。
この二つのことを理解した僕は、それから数年間ただ勉強して、素直であり続けた。
演じるのは苦痛じゃなかった。
それは簡単なことなんだ。
だって、大人たちは小さな僕がそんなこと考えているとも知らないのだから。
そして高校受験。
僕は当然のように北海道で一番の私立高校と地域で一番の高校どちらにも受かった。
両親はまだ親元を離れるのは早いと言って僕に地元の高校を勧めた。
僕はただ頷いた。
3/4
そう、僕は素直な人間だったからだ。
僕は勉強はできるし、素直だし、でも天才ではなかった。
一番にはなれないのだ。
それでも北海道という地域において十番以内の成績を残すことができる程度で僕は十分満足していた。
僕に求められているのはその程度の学力なのだから。
そして、あいつが死んだ。
世界は素晴らしい、とあいつは言って死んだんだ。
僕はあいつが死んで三ヶ月たった後に学校へ行くのをやめた。
簡単に言うと、二年の夏休み明けから学校へはいかなくなった。
時間を開けた理由は僕とあいつが親友で、彼の死を悼み学校へ行けなくなったという誤解をうまないためだった。
僕はそのとき京都大学の法学部を受けるつもりでいた。
僕は自分が学校にいかなくなったあとのことを緻密に予想した。
きっと、僕が勉強を捨てたらみんな焦るだろうな、と。
そして、どうにかして学校に来させようとするだろう。
そうなったら、全部元通り。
僕はこの腐った世界で元通り生きて京都大学の法学部に一浪でもして入っていただろう。
三年で司法試験でも受けて弁護士か検事になっていただろう。
でも、そうならなかった。
教師も両親も僕の学力なんて全然見てなかったのだ。
僕を見ていてくれたのだ。
僕と言う存在を尊重してくれていたのだ。
世界は素晴らしかった。
あいつの言うとおりだった。
4/4
僕はそれから長い夏休みを取った。
本当に長い夏休みだ。
勉強なんて全然していないけど、学力の貯金で私立大学に受かった。
でも大学にも行かなかった。
僕は休み続けて二年で大学をやめた。
そして、大学をやめてから三年たとうとしている。
合計で何年とかは全く関係ない。
ただ、僕にとっては夏休みでしかないのだから。
そして、僕はようやく動き出そうとしている。
この風の強い日に。
もっとこの世界が素晴らしいものなんだって、誰かに伝えるために。
うおお!
これは読みやすくて面白かった。
難を言えば、僕が世界を素晴らしいと感じた件はもっと書き込んでもらいたかった。
そこがいちばん重要なところでしょ?
この短い物語のクライマックスであるわけだし。
>>199 感想ありがとうございます
それにしても、なるほど!
そこを重点的に書かなきゃテーマがぼやけちゃうもんね
精進します!
201 :
優しい名無しさん:2010/05/21(金) 16:08:14 ID:VUUN6bgO
あげ
202 :
優しい名無しさん:2010/05/22(土) 00:53:22 ID:D4+L2/QY
あほ
203 :
優しい名無しさん:2010/06/13(日) 21:09:29 ID:hiafPGBd
保守
204 :
優しい名無しさん:2010/07/01(木) 13:20:44 ID:yPdWSXgW
保守
205 :
夕暮れ隠し:2010/07/10(土) 04:53:44 ID:cEMjGhms
夕暮れはおうちに帰る合図。
夕焼けはおばけが出る朱信号。
友達のはしゃき声はいつしか消えていき、何時の間にしか知らぬ子の声が混ざる。
ぼくは まっていた
ゆうぐれにあらわれるともだちをぼくはまっていた ぶらんこにのって
おそらのまっくらにあしがとどくまで ぶらんこをこいで
キィ…キィ…
キ ィ …
『き ョ うは ど コ に いク?』
ぱぱもままもいないおうちはもおいや
あのことずっとあそびたい
『きょうもあそこがいい』
ともだちいっぱいいるところ
なんじになってもだれもいなくならない
ちょっとこわいけど
とてもたのしいところ
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数日後、某所で変死体が発見されました。
顔や体には所々に殴られた様な青痣があり、だけど其れにも関わらず歪み等は一切在りませんでした。
その代わり、眼は潰され口は耳まで切り裂かれ
体は頭のてっぺんから綺麗に半分に分かれていました。
服装等で身元の付いた男の子でしたが
両親の顔からはいつぞ一粒もの涙は零れる事はありませんでした。
206 :
夕暮れ隠し/後:2010/07/10(土) 04:55:54 ID:cEMjGhms
ちょっとでも(色んな意味で)怖くなっていただければ幸いです。
面白いね。
オリジナリティはともかく、1レスでこの雰囲気を作り出せるのは中々のものだと思う。
ちょっとしたところが惜しい。
例えば冒頭、「おうち」「おばけ」など子供っぽい言葉が使われてるのに、
3行目の言葉は大人っぽくて違和感がある。
締めの6行も、ですます調は無い。
でも色んなことを想起させるのはセンスがいい。
208 :
優しい名無しさん:2010/07/30(金) 23:50:48 ID:+kwP3HB+
保守
209 :
優しい名無しさん:2010/08/13(金) 19:59:24 ID:T2s3+GtH
保守
210 :
ちょっと一本:2010/09/13(月) 01:55:22 ID:1Z2a4KLa
「あぁぁ…」
月に二度とある病院に通院する香苗という、少女と呼ぶには多少遅い女性が、コーヒーショップの喫煙席で大きなため息をついていた。
節約という言葉ばかりが目に付くこのご時世に、病院に行く前にコーヒーを飲み、文庫本を読み、時たま煙草をふかす時間が香苗の小さな楽しみだった。
(そういえば家のパソコンの横に置いてあった気がする…。)
脳裏に、前につき合っていた人に貰った上質の煙草ケースと、先日オイルを入れたばかりのジッポが思い浮かんだ。
「はぁ…」
まだ熱いカフェオレを一口飲んで、その火傷しそうな熱さを確かめながら喫煙席をくるりと見渡すと、当たり前なのだが皆灰皿がテーブルの上にある。
それを見ると、漂う副流煙が肺に入るのも相まってもっと煙草が恋しくなる。
(折角喫煙席に座ったのにな…)
周囲に喫煙者がおらず、友人らといる時は気を使っていつも禁煙席に座り、自宅でも気管の弱い家族がいたりで吸わないように心がけているからこそ、この
「どうぞ吸ってくださいな」
と言わんばかりのこの席でひとりいるというのに煙草を吸えないのは辛かった。
煙草がないと生きていけない!という程のヘビースモーカーではなく、むしろ二週間に一箱吸うかどうかの軽い喫煙者なので、どうしても吸いたいという訳ではないのだ。
その筈なのに今この瞬間、体はものすごく煙草を欲している。
その時ふと後ろからカチンという小気味良い音が聞こえた。
ジッポの音だ。
音の方を見れば、自分の父親と同じくらいか、妙齢の男性が二人でコーヒーを飲みながら会話をしている姿があった。
「増税がね…」
「…煙草がー……」
来月からはじまる煙草増税について話している。丁度自分も、さっき自動販売機の前に立って同じ事を思っていた所だった。
(…もしかすると)
少し、迷ったがこういう時は肩身が狭い者同士助け合いが出来るのではないか。私だったらそうするだろう、と思い
ー思い切って声をかけてみた。
「すみません。煙草を一本だけ、いただけないでしょうか」
使い込まれたジッポでつけられたマイルドセブンは、いつも自分が吸ってるものより美味しく感じられた。
「ちょっと一本」
887文字の掌編です。
自分の体験を元にした、というよりそのままの体験談ですw
よく赤の他人に貰いタバコできるな。
俺にはできん。
でも若い女の子に声をかけられて、おぢさんの方も嬉しかったことだろう。
良いことしたな!
>>212 自分の頭のどこかに、同じような状況で同じような事があったんですよね、自分じゃないんですが。
診療の前で動揺転じて高揚してテンションもおかしくなってたかもしれません(笑)
若いと言っても20代後半に差し掛かったような女ですが^^;
私もいつかそんな自体に遭遇したら躊躇いなく同じ事をすると心にきめております。
214 :
a:2010/10/12(火) 23:34:44 ID:ptjNw2l6
215 :
優しい名無しさん:2010/10/28(木) 20:59:34 ID:Y1cXWuLA
保守
216 :
トランプ:2010/10/31(日) 03:09:37 ID:ZkvmnLfn
うるさい・・うるさい、僕の邪魔をするな。
僕がこの世で一番偉いんだ。
一番強いんだ、一番綺麗なんだ。
だからお前らは黙って見ておけばいい。この僕の道を。
僕は世界で一番の存在なんだ
217 :
トランプ:2010/10/31(日) 03:12:57 ID:ZkvmnLfn
ざわ・・ざわ・・・ギャーキャハハ。
( ^ω^)・・・
人込み・・人込み・・・人ゴミ。
( ^ω^)・・・
毎日見ていて吐き気がする。
( ^ω^)
どうせここに歩いてるゴミどもなんて僕より使えない価値の無い人間なんだ。
218 :
トランプ:2010/10/31(日) 03:19:24 ID:ZkvmnLfn
( ^ω^)プッ
唾を地面に吐き出す、すると汚れた地面に落ちていた汚れたスペードのカードに唾が当たる
( ^ω^)・・・僕の唾を受け取ってくれてありがとう。ついでに僕以外のゴミを消してくれると嬉しいお
スペードに話し出すブーン、しかし、当然無機物以外の何者でもない
カードが勝手に話し出すわけもなくカードはただそこにあるだけだった
( ^ω^)何言ってるんだ僕、帰って寝るお
219 :
トランプ:2010/10/31(日) 03:24:00 ID:ZkvmnLfn
住処にしているアパートに着くとブーンはドアノブを回そうとして
ガチャ
回らなかった
( ^ω^)?
もう一度回そうとしてみる
ガチャ
( ^ω^)(鍵が掛かってるのか?)
そう思い鍵を取り出しドアノブに突っ込む・・が、今度は鍵が入らなかった
(;^ω^)?!
ブーンはここでようやく異変に気付いた
220 :
トランプ:2010/10/31(日) 03:32:14 ID:ZkvmnLfn
(;^ω^)(思い出すお・・何か心当たりを、やっぱり3ヶ月も家賃を滞納したのが不味かったんだお)
思い出し絶望するブーン、追い出されて当然の理由、常識的に考えて当たり前だった。
( ^ω^)(どうしよう・・親の保険金で今までは暮らして来れたけど最近もうその貯金も
雀の涙ほどしか残ってないし何より僕は働かせて貰えるような器じゃないし)
ドンッ!!
イライラしてつい自分の元居た部屋に蹴りをいれる、ブーンは焦っていた。
スキルもコネも親も兄弟さえ居ないブーンの人生はもう完全にチェックメイトだった。
( ^ω^)どうしよう・・僕は世界で一番偉いはずなのに・・一番綺麗で一番・・・一番・・・
それはブーンが自分自身の心を守る為に作った妄想
しかし現実の前ではそんな妄言、妄想、幻想など無意味に、見事にそれは打ち砕かれた。
221 :
トランプ:2010/10/31(日) 03:41:37 ID:ZkvmnLfn
( ;ω;)何の才能も無いブーンはこれからどう生きればいいお!
ふと、道路の脇の汚い地面に落ちた、汚いトランプのスペードのカードが脳裏によぎった
( ;ω;)(きっと今までの僕の不幸な人生はあの汚いトランプが運んできたんだお!粉々にして幸せを取り戻すお!!)
打たれ弱いブーンは心を守る為に責任転嫁しました。そしてトランプの元へ走ります。
( ;ω;)(あった!あの不幸のスペードさえ破り捨てれば・・!!)
ビリッ!!ビリリッ!!
トランプに駆け寄って全力でスペードを破り捨てるブーン。しかし現状は変わりません。
( ;ω;)さぁこれで僕は幸せになれるお!!早く幸せよ来い!!!
そうブーンが叫ぶとブーンの見ていた世界が白に染まりました。
222 :
トランプ:2010/10/31(日) 03:48:16 ID:ZkvmnLfn
酔っ払い運転をしているおじさんの車に跳ねられたのです。
ブーンは人形のように空へと投げ出され頭を打って死にました。
彼は幸せになりました。彼を苦しめ縛り付けるものなどもうこの世に無いからです。
血塗れのブーン見たさに人が次第に集まります。
ほとんどの彼らの目にはブーンは不幸な人に見えています。
けれど1人だけ。
「・・いいなぁ」
と呟やいた人が居ましたとさ
おしまい
223 :
トランプ:2010/10/31(日) 03:52:11 ID:ZkvmnLfn
書いてる途中欝が酷かった・・・小説書くの難し過ぎるorzおやすみです。。。
なんというか……コメントに困る……。
225 :
優しい名無しさん:2010/11/17(水) 21:51:54 ID:BQDyAV3J
保守
朝から冷たい雨が降っていたので傘を持って家を出たのだが、
正午少し前にはあっさりと晴れてしまった。なんとなく馬鹿にされた気分だった。
もはやくるくると小さくまとめておくしかなくなった傘を、
クリケットのような仕草で投げやりに振ってみたら、
偶然道路を転がってきた何かに傘の柄が当たった。
球体のそれは弾き返され、思いがけない速さで転がっていく。
赤茶けた色の回転を見るかぎり、なぜか玉ねぎが道路を転がってきたのらしい。
傘の柄が打ち返した先には、買い物袋からこぼれ落ちた野菜を拾い集める姿勢のまま、
目を丸くして玉ねぎの回転を見守る若い女の姿があった。
玉ねぎはちょうど彼女の足元で止まった。
路面に表面を傷つけられて、もう使いものにならないだろう。こういうときは謝るべきだろうか?
迷いながら女を見ると、同じように曖昧な表情を浮かべたその顔に見覚えがあった。
今朝、テレビの天気予報で見かけた「お天気お姉さん」。
全国放送の画面の中からいつも笑顔を振りまいている人気者が、
手を伸ばせば届きそうな距離にいる。
どこか納まりの悪さを感じ、何より、とっさに事実を上手く認識できなかった。
女は玉ねぎを拾い上げ、手の中のそれを不満そうに見つめた。次にこちらを見る。
長い髪がテレビの中と同じで、しかし身体つきはさらにほっそりとして見える。
彼女の野菜を打った傘に気づくと、黒い瞳の中にためらいが浮かんだが、
やがて意を決したように、彼女の口は「ごめんね」の形に動いた。
声は聞こえない。ほんの一瞬のことだった。
文章は上手いが、内容に比べると無駄に長い……ような気がする。
しかしそこはもう好みとスタイルの領域。
普通に上手いから、好きな方向にいけばいいよ!
>>227 あまりだらだら書かないように気をつけてみようかな
ありがとう。勇気が出るよ
229 :
優しい名無しさん:2010/12/03(金) 22:06:38 ID:JX+zEjSe
捕手
リクエスト通りにならないだろうけど
誰かがリクエストしてくれてその通りに書いてみる練習がしたい
じゃあ、なんか萌えるヤツ書いて
田舎娘が都会に憧れる話とか。
おお、いいねぇ。
そういうアプローチは新鮮だわ。
234 :
優しい名無しさん:2010/12/15(水) 21:40:18 ID:Jg4KZGzW
保守
235 :
優しい名無しさん:2010/12/15(水) 22:34:45 ID:5xZf0HCg
雪の降りそうな夜、家が燃えた。
炎は積まれた稲わらを赤々と照らし、裏の雑木林を焦がした。
火の消えた家の跡からは、家の主とその祖母の亡骸が発見される。
十四の娘だけが生きのびた。
彼女は問われる。君が、やったのか。
首を縦に振り、不器用そうに笑う。
問われる。どうしてこんなことをしたんだ。
首をかしげ、不器用そうに笑う。
彼女は何も話さない。
彼女は何も喋らない人間だった。
なにも言わない彼女に、周囲の人間はいつも苦労していた。
話さないと分からないじゃないか。
ただすような言葉に、彼女の口は不器用そうな笑いを浮かべるだけだった。
少女は学校に行けず、家に閉じこもる。
火鉢に薪をくべながら祖母が言葉をかけた。
何でも言ってみな。お前のしたいこと、何でも言ってみな。
赤く照る薪に手をかざしながら、少女は不器用そうに笑う。
その薪の炎が薄らぐ頃、その唇から言葉が漏れた。
東京に行きたい。
孫の言葉に祖母は笑った。
祖母は父に話す。こいつ、東京に行きたいんだそうだ。
父も笑った。
彼女の声は、もう発せられることがなかった。
代わりに赤い炎が上がったのだ。
236 :
優しい名無しさん:2010/12/16(木) 00:01:12 ID:O1WOl/ya
田舎娘が都会に憧れる話だからな。分かってるんだろうな。
うーむ、萌えるヤツじゃなくて、燃える話ときたかw
まあ、こういうユーモアのセンスは嫌いじゃない。
238 :
優しい名無しさん:2010/12/29(水) 19:44:44 ID:JlSi3owc
「雪でも降ればいいのに」
千夜はつぶやいた。
カーテンの外は白々とした風景が広がっていた。
平たい雲がふたをし、町をモノトーンに落としていた。
窓に頬をつける表情が、千夜のメランコリーを僕に教える。
「調子、良くないのか」
言って彼女に手を伸ばすと、千夜は避けるように身体をよじった。
「忙しいから」冷蔵庫を開き、言う。
ときどき、千夜は不機嫌になる。
それには理由なんてない気がしていたし、理由があるとしても僕には分からないことのような気もしていた。
ふたりでトーストをかじっていると、千夜は言った。
「あなたと暮らしているとね」
テーブルに視線を落としたまま、続きの言葉を探す。
「百万年の氷」
ようやく紡ぎだされた言葉だった。
そうしてまた、沈黙が落ちる。
「そんな感じがするの」
言ってしまって、千夜はようやく僕の目を見た。
「そう」
と僕は言った。
他に言うべき言葉が、分からなかった。
千夜は、いつものように、微笑んでみせた。
「行ってくるよ」
鞄を持ち、手荷物を確認し終えてから、僕は言った。
そうして左腕を上げ、千夜を待つ。
千夜は、いつものように、身体を寄せる。
僕は、いつものように、抱きしめる。
冷たくて、細い、身体だった。
「いってらっしゃい」
その声が、いつもより幾分ほそい気がした。
僕は千夜の頭をなぜ、玄関のノブをひねった。
某サイトで編集者があなたの小説の感想を送ります!
みたいな企画があったから、送ってみたら感想が届いたけどさ
一応読んだ。それだけってのがわかった。
期待はしてなかったけど、ちょっと悔しい。
240 :
(*゚ー゚)は通信学校に通うようです:2011/01/01(土) 06:48:32 ID:NESnnMrB
(*゚ー゚)…身体がだるい…、昨日遅くまでジョルジュやツン達と遊んでたせいかな…授業の話が全然耳に入らない。
<ヽ`∀´>「つまりこれがまぁぞくに言う源氏物語であってまぁ今の恋愛小説とそんなに変わらないと言うかニダ…」
ニダー先生は私の担任で、国語の担当をやっている。
顔がアジア系で外人ぽく、
怖い系だがたまにギャグ(つまらない)も飛ばす昔ちょっとやんちゃしてたんだろうなぁ…と言う感じの先生。
嫌いではないけど、私は教師自体あまり好きじゃないからこの人もニガテ。でも悩んでる時に声かけてくれて、しかもタバコ渡して来たの。私が吸ってたのバレてたみたい。いやその前に渡すなよ!って話だけどね
<ヽ`∀´>「しぃ、ちゃんと目ぇ開けて聞かないと頭入んないぞニダ〜?」
(*゚ー゚)「はぁい…。」
ξ*゚听)ξ「ねね、あそこに変な人いるよ!」
(*゚ー゚)「どこ…」
ξ*゚听)ξ「ほら、小学校のジャージみたいなの着てる人!メガネかけてる!あれ絶対ヤバイって!ププ」
(*゚ー゚)「あ〜マジだね。ごめん私眠くて目がぼんやり…ふぁ〜」
ξ*゚听)ξ「もう〜そっけないなぁ…あ、てか授業終わったら水着買いにいこうよ!」
(*゚ー゚)「えぇ?やだよ。海ニガテだもん」
ξ*゚听)ξ「うん、意味わかんない。」
ξ*゚听)ξツンは私の友達の一人。1番仲がいい…と思うけどツンは学校にはあんまり来なくて外でもあんまり会わないからたまに来た時に一緒に遊ぶんだ。
何だか謎めいてる女の子で何やってるかドコにすんでるかもよくわらない。ただ私と同い年なのに「仕事」をしてるみたい。肝心の仕事はと言うと…
( ゚∀゚)「おい、しぃ!」
(*゚ー゚)「うわ!いきなり何!?」
( ゚∀゚)「いや、ショボンの奴がな?お前に話があるってよ!」
(*゚ー゚)「話ってなに…」
241 :
(*゚ー゚)が通信学校に行くようです:2011/01/01(土) 07:05:22 ID:NESnnMrB
(;´・ω・`)「え、えっとあの…なんていうかその」
(*゚ー゚)「??」
(;´・ω・`)「き、教科書忘れたからみして下さい!」
(*゚ー゚)「…は?」
( ゚∀゚)「いいじゃねぇか!みしてやれよしぃ」
(*゚ー゚)「アンタ隣りなんだからジョルジュが見せてやりなよ」
( ゚∀゚)「心配すんな!俺も忘れたんだ!」
(*゚ー゚)「…あっそ。まぁいいけどさ」
ξ*^凵O)ξ「ショボン君、若いね…ププ」
(*゚ー゚)「若い?」
ξ*゚听)ξ「何でもないよ」」
(*゚ー゚)「………」
( ゚∀゚)ジョルジュと(´・ω・`)ショボンのコンビ。実はこの子達が私が最初に知り合った友達だ。
ジョルジュは遊び人風に見えてテンションが異様に高いけど実はしっかりしている変なお調子者キャラ。
ショボンはお金もちのボンボンで気弱君って感じ。いつも敬語でなおせと言ってもまた敬語言ってるようなそんな子。ジョルジュによるとゲームがうまいらしい。ゲーム狂の私からしたらそこは気になるトコだけどね
242 :
(*゚ー゚)が通信学校に行くようです:2011/01/01(土) 07:16:00 ID:NESnnMrB
(*゚ー゚)なんてキャラの紹介やってるうちに授業終わるなんて思ってたけどまだあと25分もあるよ。あ〜だめだ、ねるしかないわこれわ
と考えていた時、教室のドアからすごい剣幕で英語の( ´∀`)モナー先生がやって来た。
( ´∀`)「に、ニダー先生!ここ危ないからドアのカギしめてモナ!早くモナ!」
<ヽ`∀´>「カギ?一体何があったんですかニダ?」
(;´∀`)「いやあの話とかマジでいいから早くそっちのドアしめてモナ!」
<ヽ`∀´>「突然いわれても何がなんだか
教室の外「う、ウワアアアアアアア!!」
243 :
(*゚ー゚)が通信学校に行くようです:2011/01/01(土) 07:22:58 ID:NESnnMrB
(; 'A`)「ウワアアアアアアア!!くそ、くそくそくそ!!くそお!」
<;ヽ`∀´>「うわわ!なんだありゃあニダ!?
うちの生徒のドクオ君がスコップ振り回して玄関であばれてるニダ;」
(; ゚∀゚)「うわ何だよアレ」
(*゚ー゚)「………馬鹿な奴………。」
ξ*゚听)ξ「え?何か言った?」
(*゚ー゚)「なんにも」
244 :
(*゚ー゚)が通信学校に行くようです:2011/01/01(土) 07:31:03 ID:NESnnMrB
ドクオって子の事はあんまりわからないけど、随分前から学校では有名だった。「暗い」「話さない」「オタク」「キモい」だとか、陰で散々言われまくってた子だ。
あの子とは一度だけ話した事がある。すんごく最近だけど、何であんなになってんのかは大体想像はつく…
それを説明するには多分結構昔の時間から話さなきゃ…
245 :
(*゚ー゚)が通信学校に行くようです:2011/01/01(土) 07:32:44 ID:NESnnMrB
第一話「過去の偶像」
246 :
遠い夢:2011/01/04(火) 15:04:30 ID:HTgiL3Am
私は普通になった私の夢を見る。
人間関係も、仕事も上手くいき、年相応に恋愛もおしゃれもして平凡な人生をおくる夢。
中学生の時、友達と「普通にはなりたくないね」なんて会話をしてたことを思い出す。
その「普通」を実現するためにどれだけの労力を要しているか、幼い私たちはわからなかった。
私の「普通にはなりたくないね」という願いはききいれられた。
私は、外にでられない。道行く人々が全員私の悪口をいうから。
私は、食べられない。食べ物ですら私を罵倒するから。
私は、親が死んだら生きられない。仕事がないから。だれも雇ってはくれないから。
私は・・・私は。
目を覚ましたらもう死んでしまおうと思った。
目を覚ましたときに見えた窓から飛び降りよう。ドアノブ使って首吊ろう。
でも、その窓はあまりにも高く、ドアノブはあまりにも遠かった。
>>246 文章が読みやすくて良いな、と思った
普通になる…というちょっとした一言が、後に大きな意味を持ってしまったということを、
ストーリーで見せる方向にしたらもっと面白かったのでは。
文章力ある人はストーリーをどんどん書いていけば良いのです
248 :
優しい名無しさん:2011/01/19(水) 21:02:56 ID:wdfzmx88
age
試作品小説です。長いです。
ぼくの一日は薄暗い部屋ではじまる。と言うよりも、いつも薄暗い。
常に黄ばんだカーテンが日差しや景色、すべてを隠してしまっている。開けてもいいのだと思う。
だってここはぼくの家で、ここはぼくの部屋なのだから。
憧れていた、ようやく親が与えてくれた自分だけの部屋。
でも、なぜかカーテンはずっと開けてはいけない気がして、
部屋を貰った日から、カーテンを開けたことは一度もない。
たまに新入りのお手伝いさんが「今日は良い天気ですよ?カーテン開けましょうか?」と聞いてくるが、
ぼくは首を縦に振ったことは一度もない。
新入りだから、ぼくがカーテンを開けないことを知らないのだろう。
中堅やベテランと言っても過言ではないお手伝いさんはいっぱいいるのだから、誰か教えてあげれば良いのに。
もともとは白かったはずの、まだらに汚れがついた灰色の天井を見ながら、
ああ、今日はこの汚れが人の顔っぽい、おんなのこかな?とか想像する。
壁だけはなぜか真っ白だから、見てもつまらない。大体、そんなことを考えるのは二十分ぐらいだろうか。
お手伝いさんの誰かが朝が来たことを伝えに来て、食事を運んでくる。
ぼくは何も言わない。
お手伝いさんも無言で去ってゆく。
お手伝いさんは両親がお金を出して雇っているわけであり、ぼくがお礼を言ったりするのはおかしいんじゃないか、と思う。
だって、お金を貰っているんだから。それがお手伝いさんの仕事であり、彼女たちは当然のことをしているまでだ。
今日の朝食はボルトや砕けたスパナ、様々な鉄くずの入った冷めたカレーライスと、異様な臭いのするヨーグルト、濁った水だった。
やれやれ、朝からカレーライスなんて。昨日の晩御飯を朝ごはんに、方式か? あれ? 昨日の夜はカレーライスだっただろうか?
まぁ、どうでもいいが、お腹が空いているのは確かなので、まずはカレーライスに手をつける。
ほど良い辛さと、鉄の混ざった味がする。
うん、うまい。ボルトが舌をざらざらとすべるのが楽しくて、つい飴玉のように転がしてしまう。
とか、そんな風にしていたらカレーライスの皿はすっかり空になってしまった。
次はデザート、ヨーグルトである。ぼくは昔からお腹が弱く、牛乳やヨーグルトといった乳製品を食べるとすぐにトイレに行きたくなる。
かといって、嫌い、というわけではなく、好きの分類に入るのだから、自分の胃腸を恨むほかない。
ヨーグルトは酸味が効いていて、とても美味しかった。しかし、最後に飲んだ水がぬるく、なんだか台無しな気分になった。
ぬるい、なんて中途半端だ。冷たいか熱いか、どちらかを出してくれれば良いものの。
お手伝いさんにはきつく言っておこう。
朝食が終わったら、ぼんやりする。大体、ぼくは一日中ぼんやりしている。
学校? ああ、そうだ。学校に行かないと。
お膳を下げに来たお手伝いさんに「制服ってどこだっけ?」と聞く。
するとお手伝いさんは無表情に、「今日は学校はお休みですよ」と言った。
今日は休日だったのか。恥ずかしい。ぼくはうつむきながら小走りで自分の部屋へ戻る。
そのうち、なんだか無性にイライラしてくる。何かを壊したくなって、部屋を見渡すがぼくが寝起きをするベッド以外、何もない。
母は物の多い部屋が嫌いで、常に無駄をはぶくような性格だった。その性格を、息子の部屋にまで押し付けるなんて。なんて母親だ。
更にイライラしてくる。と、カーテンが目に留まる。今まで一度も開けたことのないカーテン。
あのカーテンをカーテンレールから引きちぎってやりたい。いや、でも。いやいや。
壊せ。壊せ。全部壊せ。あのときみたいに。あのときの両親みたいに壊してやれ。
……あのとき? あのときっていつだっけ?
ぼくはふらふらとカーテンに近寄る。開けてはならない気がするカーテン。
知ったことか。今はイライラがマックスで、なんだかすべてのことがどうでも良くなっているような、ぼんやりとして曖昧な気分だ。
ぼくは黄ばんだカーテンを掴むと、全力を込めて引っ張った。プチプチッ、と軽快な音を立てながらカーテンレールから外れ、カーテンは布になる。
窓は細い鉄の棒が何本も突き刺さり、窓が開かないようになっていた。
隙間から見える風景では、外には大きな庭と、それを囲むように有刺鉄線の張られた高い塀があった。
庭ではパジャマ姿の青年たちが、何が楽しいのか走り回っている。
ここまで奇声が聞こえてきそうな、そんなアクロバティックな動きをしている人間もいる。
あの青年たちは誰だ。ぼくにはあんな知り合いなんていない。両親の招いた客だろうか?
布を持ちながら、なんとなくその光景を眺めていたら「駄目だよ」とガチャン、と言う音とともに、後ろから声をかけられた。
右半分は精悍な顔立ち、左半分は丸出しの機械の男性だった。
「君はまだ外に出ちゃ駄目だからね。外も見ない方が良いよ」
父はぼくをやさしく諭し、お手伝いさんを呼んでカーテンを直すように指示した。
父は真っ白でアイロンのかかった白衣をはためかせながらぼくのベッドに腰掛け、ぽんぽん、と隣に座るように促す。
ぼくはそれに従い、父の隣に座る。
「どうしたの? なんだか機嫌が悪いみたいだけど」
「今日はウロボス年三十五月S日で土星だから学校のある日だと思ったのに、違って、恥ずかしくて、そしてイライラしたんだ」
ぼくは父に、牧師に懺悔するように、あるいは小学校の先生におもらししてしまったことを告白するように、ぼそぼそと話した。
「誰にだって間違いはあるよ」
真っ白な骨に金色の結婚指輪の輝く指がぼくの肩に乗せられる。
「今日もね、君に話がある人が来ているんだよ」
「今日も? 昨日、誰か来ました?」
「ああ、そうだね。覚えていないだろうね。ごめんね」
父は苦笑しながら「それで、会ってみてくれるかね?」と言う。父の頼みをぼくが断るはずがない。
父は「テストでいつも満点を取れ、百点と九十九点は天と地ほど違う」といったからぼくは常にテストで百点を取った。
父が「お前は男なのにかわいい顔をしているよな。お前、ちょっとこっちこいよ」と言われたときは素直に近づいて――どうしたんだっけ?
一緒に遊んだのかな。あれ、でもあの父と一緒に遊んでくれた父は別の父だ。
じゃあ何をしたのかな。まぁ、これは本人に聞けば良い話だ。
「お父さん、ぼくはお父さんと何をしたっけ?」
「ん? 何のことだい?」
「お父さんがぼくの顔がかわいいからこっちへこいって言って、それで、何をしたっけ?」
「詳しい話をきくのは、わたしの仕事です」
そこに割って入ってきたのはドーベルマンの頭の上にちょこんと帽子を載せて、紺色の制服らしきものを着た犬だった。
「君はお父さんに何をされたのか? どうして、お父さんとお母さんをあんな目に合わせたのか。
昨日も聞いたけど、もう一度答えて欲しい」
「ぼくはあなたみたいな犬に会ったことがない。それに今は父と会話している。父に聞けば良いじゃないか」
ぼくは隣に座っている父を指差す。
第一、ぼくが両親をあんな目に合わせたとか、この犬は何を言っているんだ? あんな目? 何の目だよ。
時々天井からぼくを睨み付けてくる目のことか。大きくて緑と青の入り混じった綺麗な目で、視線が会うとにやけてしまう。きっと美女なんだろう。
「ですからわたしは犬ではありません。そして、そこの人もあなたのお父さんではありません」
何を言っているんだ、この犬?
ぼくが怪訝そうな表情を浮かべていたのだろう。お父さんは――犬はお父さんじゃないと言ったが――「だから無理なんですよ」と言った。
何が無理なんだろうか。ぼくは父の頼みはすべて聞いたし、叶えてきた。両親のことを愛していた。
「どうしようもない。人生おしまいだ。あの女を殺してしまった」
泣いて震えながらそういった時、ぼくは父の人生を終わらせてあげるべきだと思い、壊した。
実はまだ息の合った母も、ちゃんとぼくが壊してあげた。
ああ、でもあの母は何人目の母だっけ。父も何番目か、覚えてないから、どうでも良いことなのだろう。
ぼくがそんなことを考えている間に、父と犬の話はまとまったらしく「またきます」とドーベルマンの首をぺこりと折って犬は帰っていった。
犬は犬小屋にいろよ。
「お父さん、犬を家にいれないで」
父は曖昧に微笑んで(といって、精悍な顔立ちの方だけであり、機械の方は変化無し)それからぼくととりとめもない話をした。
ぼくが「緑色の電波にはシーチキンが有効だ。カエルの神様が言っていた」と教えてあげると、父は神妙な顔をして、平べったいファイルに挟んだ紙に何かを書き込んだ。
そして「じゃあ、またね」と言って父は去っていった。
ぼくは父の白衣の背中をじっと見送った。ガチャン、と重たい鍵の掛かる音がする。
ぼくはベッドに寝転び、いつもどおりぼんやりする。
ぼんやりしていると、食事の時間になって、そして夜がやってきて、眠る。
ああ、そうだ。でも今日は赤い猫と遭遇したとき、週刊少年ジャンプとエビフライ、どちらが有効かまだカエルの神様に聞いていなかった。
それを聞いたら、ぼんやりしよう。
毎日の記憶も、過去の記憶も何もいらない。すべてがぼんやりしてしまっていい。ぼんやりすれば、時間は流れて、ぼんやりしたままでも生きてゆけるのだから。
まぁ、あんな風には壊れたくないよね、やっぱり。……あんな風?
何を考えているんだ、ぼくは。何のことかさっぱり解からない。それがおかしくて、ついふっ、と笑ってしまった。人生に疲れ果てたような老人の声がした。
誤字脱字、空白スペースのミスなどはおゆるしください。
おおおおおお!
いいじゃぁないか〜!
すごくイイ!
いやー面白かった。
夢中で読んでしまったよ。
この本があったら間違いなく買う!
あっという間に引き込まれてしまった
もっと、どんどん読みたいと思える。すごい!
256 :
優しい名無しさん:2011/02/17(木) 00:02:33 ID:1/Pa2bn8
age
257 :
バニー:2011/02/17(木) 23:12:50 ID:uhsW1/Ab
『バニー、お前はか弱い。抵抗なんぞ無駄さ』
俺は金切り声をあげて暴れた。座っていた椅子が倒れ、医者の手から聴診器が飛び、硝子の花瓶が砕け散る。
隣の部屋から駆け付けて来たジェイムズが太い腕で俺を抱えた。奴は俺の腕やら背中やらをさすりながら話しかける。
「デイヴィ、落ち着いて。怪我はないね? 大丈夫、この人はお医者さんだ。知ってるだろう? パブリック・スクールからずっと一緒だった、仲良しのスコットだよ」
赤ん坊をあやすような口調に肚が立ったが、食いしばった歯の間からは啜り泣きが漏れるだけだった。くそ、我ながら手が付けられない。
「ジェイムズ、そのまま押さえていてくれ。鎮静剤を打とう」
医者は平淡に言った。
「わかった」
「ノー!」
薬は嫌だ。俺はもがいたが、ジェイムズは身体全体を使って俺を押さえ込み、素早く袖を捲った。
「ノー!」
俺はのたうった。医者の膝が俺の手を床に縫い止め、注射針から血管に吐き気を送り込んだ。ジェイムズの名を呼ぼうとしたが、途中で舌が縺れた。
奴は狼の目でじっと俺を見ていた。雄牛のように厳つい両肩。癖のある硬い髪。同い年の義弟。
――地獄へ堕ちろ。
数ヶ月前、俺は誘拐された。財産の大部分は実子のジェイムズが相続したが、養父は著名な富豪だった。
彼は既に亡く、爵位を継いだばかりのジェイムズが交渉人を雇い、農園や別荘を迅速に売却した。奴は殆ど言い値を支払い、お蔭様で俺は“ごく短期間で”解放された。
鎮静剤のもたらす眠りの沼。重い泥の中をあがき続け、疲れきった頃ふいに上澄みの中へ浮かび上がった。酷く怠い。
「――看護人は?」
「嫌がるんだ。メイドも駄目だ。他人に怯えて」
部屋の向こうで誰かが会話している。医者とジェイムズだ。
「君が世話をしているのか」
呆れたような医者の声。同級生のスコット・なんとか。俺は泣き出した。
「ずっと落ち着いていたから、手はかからなかったんだ。急に悪化して――ああ失礼、目を覚ましたようだ」
あおのいたまましゃくり上げていると、ジェイムズが気付いてやって来た。腋の下に手を入れてベッドに上半身を起こさせ、背の下にクッションを宛がう。俺は赤ん坊よろしくされるがままだ。
「デイヴィ。どうした、夢でも見たのかい」
ジェイムズは俺の顔を覗き込み、親切にも涙を拭った。
「お願い」
俺はジェイムズに縋り付いて訴える。
「酷いことしないで。良い子になるから。なんでもするから」
俺は少し離れたところから自分の肉体の行動を眺めていた。
『バニー、諦めろ。お前は子兎、俺達は猟犬だ』
258 :
バニー:2011/02/17(木) 23:14:01 ID:uhsW1/Ab
ウォートン卿に引き取られたのは十一の終わりだった。
俺は卿をペドじゃないかと疑った。卿には血の繋がった息子がいたし、俺は四代遡っても貴族とは関わりの無い馬の骨だ。チャリティならもっと派手な経歴の子供を引き取るだろう。
母親を脳病で亡くし、飲んだくれの父親にも死に別れたというだけの、ありふれた不幸しか持ち合わせない俺になぞ高値がつくはずもない。
俺は危ぶみながらもウォートン家へ向かった。貧困はすべての不幸の始まりであり、赦されざる罪悪だ。この業病から逃れるためならリスクは厭うまい。
十二になれば施設にはいられない。高等教育を受ける唯一にして最後のチャンスだった。
予想に反してウォートン卿は変質者ではなかった。伏せりがちで線の細い、厳しい教師のような男だった。
「君は優秀なんだってね、デイヴィッド」
卿の息子のジェイムズは父親に似ず身体の巨きな少年だった。おっとりして誰にも親切だが、その目は感情が読めない。
差し出される厚い掌、優しげな微笑み。何ひとつ信じられない。
――卿の相手じゃないなら、俺はこいつのために買われたんだろうか。
父子は係累がない。病がちの父親は、一人息子に自分亡き後の慰めを用意したつもりなのかもしれない。
ビジネスの駒にも使えるようにと見目好く賢しい子供を選ぶ。貰われ子が自分のものだと知っている息子は鷹揚に振る舞う。
いかにもあり得そうなことに思われた。
「そんなことないよ」
俺は努力した。
母に無視され、父に酒瓶で殴られ、寒さとひもじさを耐えた揚句にこんな侮辱を受けるのなら、相手からなるべく多くを引き出してやらねば割に合わない。
学校では優等生で通し、屋敷では感謝と愛情に満ちた第二の息子を演じた。ウォートン卿の健康と歓心に気を配り、ジェイムズには時々ちいさな喧嘩を仕掛けた。
本気でぶん殴らないように怒気を調節するのは、わざと殴られるより骨が折れた。
屋敷で飼っているマスチフよりも俺を愛していると、ジェイムズは真面目くさって言い、毎度その台詞で仲直りした。
努力の甲斐あって卿の正式な養子になった時には、喜びよりも戸惑いのほうが勝った。彼等の大袈裟な抱擁には息が詰まったものだ。
俺はまったく彼等になじめない異邦人だったが、卿にもその息子にもうまく取り入ったつもりでいた。
略取に遭ったのはミセス・ホワイトのパーティの帰りだった。ホテル暮らしの彼女は郊外の大邸宅ではなく自分の起居するホテルでサロンを開いた。
いつものように俺は会を早々に失礼した。酔い醒ましに数ブロック歩くつもりで、送りは断った。まだ人通りもあり、さして遅い時間でもなかった。
暖かく晴れたいい夜だった。あの角で乗り物を拾おうと思った矢先、両脇を取られた。抵抗する間もなく、石畳の隙で砂粒が星々の光を照り返していた。右側の男が囁いた。
「グッド・イヴニング。ところでミスター、貴方のその見事な金髪、よもや紛い物じゃないでしょうな?」
259 :
バニー:2011/02/17(木) 23:16:30 ID:uhsW1/Ab
俺は悪漢どもに殴られ、小突かれ、犯された。髪は不格好に刈られ、ウォートン邸に送り付けられた。
奴らは俺が抵抗らしい抵抗をしないと言って嗤い、反応が悪いと言っては銃器や刃物や用法も定かでない恐ろしげな器具をちらつかせた。
俺はやめてくれ許してくれと泣きわめき、張り飛ばされてむせんだ。止めようとも思わない涙がいくらでも流れ、過呼吸を起こすと紙袋を被せられた。
実家で、養家で、学校で、社会で腹一杯疎外された揚句にこれか。どうしてここにいるのが俺で、誰か他の奴じゃないんだ?
「運がいいな、バニー。俺達はプロだ。いい子にしていれば殺しはしない」
おぞましい犯罪者どもは俺を子兎と呼び、いいように扱った。奴らを昂揚させ、俺自身も行為をたのしむよう言い聞かせられたが、無理な相談だった。奴らは養父やジェイムズのことまであげつらい、俺を嬲った。
「ごめんなさい、父さん。許して許して許して――」
俺はたちまち音をあげた。子供の頃しばしばそうしたように、肉体は慈悲深き道化神デウス・エクス・マキナの自動操縦に任せ、魂は薄暗がりを漂った。
肉体は加害者を父と認識したらしかった。父もよく俺を折檻した。彼は母と俺を意図的に混同していた。
――グラディス、この役立たずの阿婆擦れが。客引きも自分でできねえのか。早いとこ酒を入れねえと俺は死んじまう。おまえは亭主を殺す気か、ええ?
「バニー、おい、なんだって? こっちを見ろ。俺の目を見るんだ」
リーダーらしい赤毛の男が俺の肩を掴んで盛大に揺さぶった。痛い。俺はぎこちなく頬笑み、相手は俺を放り出した。
「くそったれめ、躾はやめだ! こんなに弱いなんて聞いてねえぞ」
――では、誰から何を聞いたのか。
微かな疑念が湧いたが、男の剣幕に怯えて俺は小さくなった。もう痛いのは嫌だ。苦しいのも、寒いのも、ひもじいのもだ。
世の中の幸福の絶対量が決まっているとしても、これじゃ俺の取り分が少な過ぎる。
あるいは死んだほうがマシだったのかもしれないが、殺されたいとは露ほども願わなかった。ジェイムズが身代金の支払いに応じると知ったからだ。生きられる限りは生きるしかない。後のことはその時だ。
希望が見え始めた途端、俺は吐瀉した。熱が出ていた。男達は俺を罵ったが後始末をし、水を飲ませ、毛布で包んだ。二度三度と嘔吐を繰り返したがもはや誰も俺に手をあげず、犯されもしなかった。
260 :
バニー:2011/02/17(木) 23:18:23 ID:uhsW1/Ab
「デイヴィッド、捜したよ。行こう、向こうでロバート達が待ってる」
書架の梯子の下から黒っぽい髪の少年が呼んでいる。彼を見下ろすのは気分が良い。困らせてやりたくなって、俺は少し勿体ぶってみる。
「君だけ行けよジェイムズ。俺は行かない」
「何故?」
「9代前の先祖の自慢は聞き飽きた。彼らは嫌いだ」
――勿論、おまえのこともだ、ウォートン・ジュニア。
目を開けると歪んだ白い壁が見えた。いや、壁ではなく天井だった。ひっきりなしにたわんで見える。眩暈だ。
畜生、呼吸が苦しい。頭が痛い。胸が差し込む。吐き気もする。咽喉が焼けるようだ。
鼻と口を覆っているものを無理にも外すと肺の裏から何かがせり上がってきて、俺はもんどりうった。一瞬手足が引き攣れ、それから放り出されるように解けた。金属がぶつかり、ガラスが砕けた。その音が酷くこたえる。
看護人がやって来て、横たわったまま首を捩じ曲げてえづいている俺の顎の下に素早く金属の皿を突っ込んだ。
黄緑色の胃液を吐きながら、俺は自分が体の中に随分とんでもない色を隠し持っていたものだと訝った。
俺は数人がかりで取り押さえられていた。胸糞悪い捕手の面に唾を吐いてやると、相手は俺の胸といわず頬といわず平手で叩いた。俺は床に引き倒され脚をばたつかせた。
一人が俺の上に馬乗りになって手を振り上げた時、鋭い制止の声とともに素早く割り入った人間があった。
そいつは相手を突き飛ばし、俺を助け起こした。黒い髪、暗い瞳、岩棚のような背。
ジェイムズだった。
奴の姿を認めた途端、水の中を覗くようだった照準が合い、羽毛よりも軽やかだった手足に鉛を詰め込まれた。
機械仕掛けの神は去り、俺は再び肉体の主に返り咲いた。復帰後第一の仕事は怪我の痛みに呻くことだったが。
「やあ兄弟、手数をかけるね」
俺は背筋を伸ばしてジェイムズに挨拶すると、それきり虚脱した。
ジェイムズは俺に無体を働いた看護人どもをその場で解雇し、病室を最上等のものに変えさせた。
奴は病院の最高経営者だった。ハーバート・ミルズ・ウォートンの養子が誘拐され暴行を受けたことを世間から隠すために、病院を丸ごとひとつ買い取ったのだ。
容態が落ち着くまでは退院を勧めないという医者の意見が容れられ、俺は隔離された。皮膚病と寄生虫に冒された野良犬は、消毒がすむまで屋敷にあげるわけにはいかないのだ。
発熱が続き、俺は癇癪を起こして看護人に当たった。そいつに非はなかったが、肉体的に成熟した人間の雄だというだけで耐えがたい嫌悪を催した。
事情聴取に来た警官にもそれは抑えられなかった。相手は俺の身に起きたことを正確には知らなかったが、察せられたかもしれないという恐怖は拭えなかった。なにしろ俺は早朝の路上ではねられた時、半裸だったのだから。
相手の目の色に俺は硬直した。声帯が腫れ、利き手を傷めていたことを盾にほとんど質問に答えなかったが、パニックに陥った。
「申し訳ないが――」
ジェイムズが何か言い、警官は椅子から立ち上がった。
俺は被害者だ。鶏姦罪で法廷に立つぐらいなら猟銃で頭を吹っ飛ばしたほうがマシだ。
「デイヴィ、止すんだ」
手首を掻きむしっていた手を掴まれ、血まみれの傷口から外された。噛み締めた奥歯がぎしぎしいう。俺は震えながらジェイムズの掌を指でなぞった。
――帰りたい。誰の目も届かないところへ行きたい。
すでに精密検査の結果は出ていた。誘拐犯どもはたしかにプロだった。俺は性病にさえ罹患していなかった。下司な病院にとどまるほどの容態ではないはずだ。
ジェイムズは顔を歪め、馬鹿力で俺を抱擁した。
「デイヴィ、君が無事でよかった」
爆発的な笑いの発作に襲われた。俺は汚れ、ひしゃげてしまった。もう直らない。いったいどこが無事なんだ?
261 :
バニー:2011/02/17(木) 23:20:16 ID:uhsW1/Ab
俺はウォートン邸へは戻らなかった。ジェイムズは俺を別荘へ遣った。使用人といえば先代の執事とその妻が女中に居るきりの、寂れた隠居屋敷へ。衆目に曝すわけにはいかない、俺は奴の恥なのだ。
俺は片輪になっていた。脚はみっともなくびっこを引き、腕は強張ってフォークもろくに握れないありさまだった。
取るに足らない使用人どもが視界の端をかすめてさえ激昂し、目につくものを片端から破壊した。矛先の定まらない怒りはいまやつむじ風から嵐になり、俺を翻弄した。
ジェイムズが俺を置いたきり本邸に戻ったのも気に食わなかった。奴が居れば居たで余計に苛々するのだが、居なければ癇癪玉を破裂させることさえ上手くできない。
奴は事件の揉み消しや売却した資産の穴埋めに奔走しているのだ。俺のために、俺のせいで! 有り難くて身の置きどころもない。
「デイヴィッド、マッサージの時間ですよ」
猫撫で声の療法士が近づいて来る。俺はひそかに身震いし息を詰めた。きちんとリハビリテーションを行えば手足の痺れも取れるのだとか言ってジェイムズが寄越したこのちんぴら、こいつが世界で一番虫酸が走る。
医者でもないくせに俺の服を剥ぎ、食い物や姿勢にまで口を出す。痛む傷痕をさんざっぱら揉みしだき、ボケ老人か乳幼児にでも話し掛けるような口調であんよは上手と来る。
「ミスター・マイロス」
体温計を渡しながら俺は抵抗を試みる。
「テオと呼んで下さい、デイヴィッド。熱はないようだ」
「……テオドア、今日は気分が悪い」
施療者と患者には特別に強い信頼関係が必要だとの言葉は無視して言い募ったが、訓練は毎日続けなくては効果がないと返された。
療法士は屈み込んで俺の靴を脱がせ、トラウザースの裾を捲り上げた。足湯をつかわされ、腕は肩から広範囲に温湿布をするためにシャツをはだけられる。
俺は唇の裏側を噛んで耐える。着衣が乱れるというのはなんと無防備なことか。裸の腕を取られるとそのままもげてしまうような気さえする。
湿布、マッサージ、動作訓練。最後に入浴。一通り終える頃には消耗のあまり内側から擦り切れる。またあの波がやって来て俺は身体を保てなくなる。
前のめりに倒れ込んだ俺をいけ好かない療法士が支える。他人の体温が気色悪い。
誰も俺に触るな。俺を見るな。俺は何も持ってない。自分自身しか俺のものじゃないのに、それさえ気前よく搾取させてやらなけりゃ生きることもままならないのか。
−−だったら死んだほうがマシだ。
「ウォートン卿は酷い方だ。貴方が災禍に遭い、保険会社がふたつ潰れた」
『バニー、お前の主人は愛情深いな。聖ジョージが十万人様だ』
−−いいや死ねばおしまいだ。俺は一生遊んで暮らすんだ。ウォートンの金で。
俺は胸に拳を当て、衿に歯を立てて爆発をやり過ごす。
療法士の手が俺の背を撫でている。不快だが発作を完全に免れるまで振り払う余裕もない。
「引き替えに彼は聖ジョージとドラゴンを百万組受け取った。それなのにこんな状態の貴方を一人にしておくなんて」
俺はマイロスの顔を見た。
誘拐事件はジェイムズが全力で抹消した。俺はちょっとした交通事故の巻き添えを食っただけ、それすら公表はしていない。保険会社がいくつ潰れようとウォートン家と結び付ける者はいまい。まして支払われた保険金の額を知る者なぞ。
「デイヴィッド、私は貴方の忠実な友人です」
男の息が首筋にかかった。
262 :
バニー:2011/02/17(木) 23:24:22 ID:uhsW1/Ab
脅迫者はなかなか賢い男だった。不動産は税金がかかり、美術品は足がつくため受け取らない。俺は時計やタイピンやカフスボタンを譲り、年金が振り込まれるごとに小切手を切った。
マイロスはそのつど丁寧に礼を言い、人でなしのウォートン卿と別れて誠実な友人たる自分と一緒に南洋へ行くべきだと仄めかした。
「サモアか、フィジーか、ハワイもいい。あんたのような怪我人や神経の細い者は、温暖な土地で静養すべきだ。西洋に汚染されていない、誰も我々を知らない土地で」
俺は心動かされたふりをし、リハビリに身を入れた。
突如としてジェイムズがやって来た。事業を整理し終え、こちらで俺の世話をすると言う。
「心配しないでいいんだ、デイヴィ。あちらはもうすっかり片付いたからね」
リハビリにも立ち会うと言い出すに及んでマイロスの顔色が変わった。こいつは今、金蔓を篭絡している最中なのだ。邪魔は歓迎できない。
いらない、と俺はジェイムズに言った。マイロスがほくそ笑むのを目の端で確認しながら。
「テオと二人きりのほうが集中できる」
もう、手足は日常生活に不自由ない程度に回復してきていた。何も問題はない。
数日後、俺はマイロスを連れて邸の裏手に広がる狩猟場へ向かった。ジェイムズは顔色が悪いと言って引き留めたが、気分転換に野歩きをするだけだと振り切った。
空は寒々として低く垂れ込めていた。木々の葉もうなだれ、何もかもが重くくすんで見えた。
『バニー、兎だって追い詰められりゃ猟犬を蹴り殺すんだぜ』
俺は背後からマイロスを撃った。
相手は撃ち抜かれた肩から倒れ込んだが、すぐに起き上がって向かって来た。
怪我人とは思えない力だった。銃を弾き飛ばされ、地面に転がされた。血が胸元に滴って俺は悲鳴を上げた。
力いっぱい腹を蹴り上げると、相手は近くの糸杉の幹にぶつかって口と腹から血を噴いた。銃声は後からやって来た。
足音。断末魔。犬の吠え立てる声。下薮を薙ぎ倒してジェイムズが現れた。
奴は無造作にマイロスに近づくとさらに弾丸を撃ち込んだ。
それからへたり込んだままの俺を後ろから抱き抱えるようにして銃を握らせ、すでに虫の息の脅迫者から生命の気配が完全に去るまで引き金を引き続けた。
君が心配で、追い掛けて来てよかった、マイロスが乱暴を、銃が暴発、視界が悪くて、恐ろしい事故−−
ジェイムズが何か言っていたが、昏い渦が這い寄って来た。
テオドア・マイロスがその後どうなったのか知らない。銃の暴発による事故死か、たんに行方不明者のリストに氏名を書き加えられたに過ぎないのか。いずれ偽名だったろう、どこにも存在しなかった男だ。
俺はジェイムズと一緒に本邸へ戻った。
263 :
バニー:2011/02/17(木) 23:29:58 ID:uhsW1/Ab
ジェイムズの留守に入り込んだ奴の書斎で、それを見つけた。保険金の支払明細書。四社で百二十万ポンド。ドラゴン退治の聖ジョージが刻まれたソヴリン金貨にして百二十万枚。契約は上限百二十万ポンドとあった。
養父は投機に失敗して死んだ。ジェイムズは爵位を継いだばかりで、遺産の大半は不動産と紙屑同然の利権、現金は少なかったはずだ。
相続税のために、ジェイムズは俺を使って保険金を詐取した。脅迫者を消した。
殺すことはなかった。金が続く限り払うつもりだったじゃないか。あの男がウォートンの財産にまで欲目を出しさえしなければ。
そうなる前に、この世から消してしまうよりはどこへでも一緒に行くべきだった。
マイロスは金を欲しがっていた。新しい土地でやり直したがっていた。たとえ終着駅が阿片窟だったとしても、こんな終わりよりは。
この手で人を殺めまでしたのに、結局のところ俺はウォートンの生きた質草でしかなかった。
こじ開けた金庫にもたれて窓ごしにテラスが暮れて行くのを眺めていると、両腕を掴まれた。
ジェイムズは外出着のままだった。蒼褪めているためにアンバーの瞳がますます獣じみている。
奴は俺の手の中の紙切れをやる瀬なさそうに見詰め、口を開く。
「デイヴィ、僕は−−」
聞いてはいけない。砕けてしまう。耳を塞がなければ。俺は身悶える。拘束は緩まない。カーテンの陰から道化師の仮面が覗く。ジェイムズの低い声が乱反射する。
憐れみ深い機械仕掛けの神が、滑るように近付いて来た。
<終>
以前一部投下して規制に紛れてそのままになってたのを少し手直ししました。
解答編というか対編みたいなのを今書いてます。
文体とかどうでしょうか…
1レス目は酷い。
誰が何をして、誰が喋ってるのか分からない。ざっと読むと何人いるのかさえ分からない。
こりゃひでぇと思ったけど、なぜか2レス目から安定して普通に読める。
とりあえず人の名前を統一したほうが良いかと。
地の文はまったく悪くないのに「」が入って人が喋りだすと途端に混濁する。
急に分かりにくくなる。
「」の前後が悪い。
地の文で書かれているところだけなら悪くないのに。
ところでアーヴィン・ウェルシュ好き?
>>265 忌憚ないご意見ありがとうございます。
1レスめはデイヴィが医者の診察中に錯乱してジェイムズに取り押さえられる場面なんですが、確かにとっ
散らかってますね…
アクション描写と会話の挿入が特に苦手です。
以前途中まで投下した時はセリフが良いとコメ貰ったたので「」内はそんなに変でもないんでしょうか。
人名を統一してないのは翻訳物を意識したんですが…
Irvine Welshはトレインスポッティングと続編しか知りません。
このタイトル洒落てて好きです。
人の悪いところを分析するのは自分のためにもなるんで、もうちょっと目を通してみました。
文章自体は味があっていい。
パーツはいいのにまとまりが悪い。
どうも序盤、現在と回想が入り乱れるのがすごく良くないのだと思われます。
あと空白行もわざと入れてるなら、場所が間違ってる。
コピペする時にそうなってしまったものとして読んでますが。
人名を統一してないのは翻訳モノを意識してのことだろうとはわかってましたが、
まあ翻訳モノ自体があまりよい文章とされていないことを、どこかで読みました。
アクション描写が苦手とのことですが、マイロスを撃ったくだりはかなりいいです。
他にもアクション的場面がありますが、かえってアクション場面のほうが生彩がある気がしますね、個人的に。
駄作ですが、スレが盛り上がっているので、投下します。掌編です。
月曜日の夜は必ず、彼女の元へ訪れる。それが八年前からぼくの決まりとなっていた。
台風が直撃していようが、テストでへとへとになった日でも、必ず、月曜日の夜、真っ暗な空の下、寂しい道をひとりで歩く。
手には明治の板チョコが大量につまったビニール袋を提げている。
彼女は明治の板チョコ、それも赤いフィルムが眩しいハイミルクが大層お気に入りだった。
彼女は「明治製菓がなければわたしは死んでいる」とまで言った。それは比喩無しに、本当だろうとぼくも思う。
誘蛾灯がちかちかと光り、携帯電話が普及した現代では希少価値すら感じる電話ボックスがぽつんと佇んでいる。
ボックスにはいたるところにいやらしいお店の広告が貼り付けてあり、そこから色褪せ、剥げ掛かっている緑色の公衆電話が覗いている。
ここは、そういう場所なのだ。
彼女には夜でも輝き続ける街や、デコレーションされた携帯電話は似合わない。
時間が止まったように、けれども仕方なく進み続ける時計の針にしたがって、ゆっくり朽ちてゆく、寂しい、最後は誰からも忘れられてしまう、この場所が似合っている。
彼女はここで、この町で朽ちて、死ぬ。それは八年前に神が定めた、絶対的な未来である。
かつかつと自分の革靴が立てる音だけをしばらく響かせると、とある廃墟がある。
正確に言えば「廃墟に見える病院」であるが、医者も看護士も、患者も全員死人のようにうつろな瞳をしているし、
病院自体も心霊スポットですよ、と他人に言っても、その人はあっさり騙されるだろう。
ほのかな明かりがカーテンからこぼれる廃墟に、ぼくは足を踏み入れる。全体的に薄暗い。
ちかちかしているものや、切れてしまった電球もある。
受付にはいつも日本人形のようなのっぺりとした顔の女性がいて、ぼくらは一瞬だけ視線をかわして、歩を進める。
エレベーター彼女がここに来る前から壊れているので、ぼくは階段で彼女のいる六階に向かう。
最初はきつかったが、八年もやっていれば体も慣れるし、なにより、彼女がここで死ぬことと同じように、
ぼくは毎週月曜日の夜に階段を登って彼女の元を訪れることは、神が定めたことなのである。感情論を持ち出すことではない。
六階の、右から三番目の個室。そこが彼女の領域だ。ぼくはノックせず、ガラリと扉を開ける。
彼女はベッドの上で上半身だけを起こしている。
脂にまみれた髪の毛はべたべたで、ぼさぼさであっちこっちに跳ねている。
だが彼女はパーティにでも行くかのような、豪奢なドレスに身を包んでいる。本
日は光沢のある、深緑のドレスだった。
ただし、しわくちゃであり、服のいたるところを飾っているレースは黄ばんでいるし、ボタンのメッキは剥がれてしまって、シーツにぽろぽろとこぼれている。
「やあ」
ぼくはビニール袋を持っていない方の手を挙げ、軽く挨拶する。
「こんばんは。一週間ぶりだね」
彼女はこちらを見て、セリフを読むような口調で言う。
当然だ。実際、これは茶番なのだ。様式美のようなものであるから、セリフだって構わない。
「チョコレート、持ってきたよ。ハイミルク」
「ありがとう。そんな素敵な友人がいて、わたしは幸せだ。いや、不幸だ。どっちだと思う?」
「さぁ、どっちだろうね。どっちでも良いんじゃないかな」
「それもそうだ。君と、ハイミルク。それがある。その事実のみを事実として、何の意図も込めずに受け止めれば良いだけだ」
彼女はセリフ口調のまま、ぼくが差し出したビニール袋を白磁のような手でうけとり、赤いフィルムをはがしてチョコレートにかぶりつく。
がりがりがり。ぺろっ。
彼女が自分の唇についたチョコレートを舐める仕草はひどく色っぽい、とぼくは密かに思う。
まるでとても美味しい血をすするような、吸血鬼のようだ。
ぼくは突っ立ったまま、彼女がチョコレートを食べる姿を見つめる。
彼女はチョコレートしか食べられない。水を飲むことが出来ない。髪の毛は整えられない。服はドレスしか着ることが出来ない。
靴は履けない。そもそも歩けない。外に出られない。ぼく以外の人間とはまともに会話が成立しない。いつもセリフを読むような口調でしか喋れない。
すべては、八年前に神が定めた。神は彼女の父親の友人に微笑みを向けた。
ゆえに、彼女は足の腱を切断され、ナイフで床に縫いとめられながら、家族が殺されていく様子を、一部始終見ることになった。
幸せだった、幸せとは気づかないぐらいのありふれた日常と、優しい家族を一度に失った。
父親の友人は、そのまま隣の家を襲撃し、偶然友人たちとプールに行っていた息子を除いて、全員を殺し、その場で首を切って死んだ。
そして、その息子がぼくで、ぼくと彼女はお隣さんであった。
八年前の彼女は、常に短い黒髪とラフな服装で、甘いものを嫌う、なんだか男の子のような女の子だった。
うっとおしいような日差しの下でも、元気に走り回り、昆虫を素手でつかんでは、自慢するよう、唇端を上げながらにぼくに見せびらかしていた。
ぼくの家族は本当の家族じゃなく、ガラクタのような出来損ないの家庭だったので、家族が死んだところで、天涯孤独になった以外何もなかったのだが、彼女はすべてを失った。そ
して、様々なことが出来なくなった。食べられなく、飲めなくなった。幸せだった家庭を思い出す行為が何の関連であれ、彼女に拒絶反応を起こさせる。だ
からこの廃墟のような病院に収容された。壊れた彼女が、廃墟にいる。
まぁ、どこにでもあるような、ありふれたお話である。
むしろ飽和しすぎて、うんざりする。当事者たるぼくもそう思う。
テレビでは毎日誰が殺されたとか、たった数分の報道で人の死と不幸を伝える。
殺されること。壊れること。
すべては神が定めた。神が定めたことなのだから、どうしようもない。
嘆いたところで意味などない。運命は覆せない。壊れたグラスは元には戻らない。時計の針は常に進み、すべてが朽ちていく。
グラスが壊れることも、時計の針が止まったり戻ったりすることは、けしてありえない。それも、神の定めた、絶対的な未来である。
彼女はハイミルクを一枚、ぺろりと食べきった。チョコレートのついた指をぺろぺろと犬のように舐める。それが、合図だ。
「元気そうで良かったよ。じゃあ、また今度」
「ああ、わたしも君が元気そうで、そしてハイミルクがあってとても嬉しい。そうだ、帰りは空から青色の猫の死骸が降ってくる可能性がある。
透明だからタチが悪い。ビニール傘では駄目だ。ちゃんとした傘を差して帰らないと、駄目だ」
「ありがとう。君は優しいね」
「友人に忠告するのは、人として当たり前のことだよ」
彼女はチョコレートの残滓を探すように、指を舐め続けている。
香りでも楽しんでいるのだろうか? 白磁の指はよだれでベタベタになって、薄暗い蛍光灯に反射してぬるりと怪しげに光っていた。
その姿を最後に確認して、扉を閉めた。
そしてぼくは廃墟から、寂しい町から常に明かりの途切れることのない、喧騒の支配する街へ帰る。
公衆電話には誰も目を向けもしない、そもそも電話ボックスすらない街へ。さようなら。また来週。月曜日の、夜に会おう。
青い猫の死骸には精々気をつけるよ。透明だっけ? ぼくは傘を持ち歩かない主義だけどね。
すべては神の定めた未来。神の微笑みに壊された彼女が朽ち果てるのを、ぼくは彼女の隣で見続ける。
改行ミス(2つめ)申し訳ありません。
また、他の改行ミス、誤字脱字はおゆるしください。
>>267 空白行は場面転換的な意味で入れました(一部失敗)。
1レスめ、錯乱の下に冷静さがあるような乖離っぽさを出したかったのですが…
小説はあんまり書いたことがないので、昔見た映画を曖昧な記憶を探り探り書き起こしているようなもどかしい感じです。
添削&リライトスレとかあるといいですね。
何かが決定的に足りない。
リアリティか?
訴えかけてくるものを何も感じないのは、主人公の感情が平板すぎるからだと思われる。
主人公が現実感を失っているのならば、それは作品にとって特に書かねばならない要素。
感情の動きがないので、主人公が彼女のところへ通う動機がはっきりしない。
表面的に理由を感じられないのなら、それについてこそ、主人公の感情の動きがあるべき。
「すべて神が定めたこと」という諦めがあるなら、そのことについて主人公は深いところで嘆いているはず。
それは小説の表面に出すべき。
主人公の感情が麻痺しているように見えても、感情の動きはいくらでも書く理由がある。
それがないので全体的に味がない。
そんな感じ?
>>268-270 夜、ちかちかする蛍光灯、表情のない職員…彼女の領域は昭和っぽくていいですね。
子供時代の彼女の描写も好きです。
彼女は狂気を装っている気がします。
彼らが病院を出て昼の時間を生きる話を読みたいです。
一部てにをは(?)が気になりました。
私はむしろこの作品において主人公は影法師のような存在でいいと思います。
むしろヒロインをもう少し掘り下げるというか浮き立たせてほしい。
好みの問題ですが。
>>273 ありがとう、調子がいいとき探して読んでみます。
>>275 ほほう、そういう見方もあるんですか。
ある意味勉強になる。
確かに彼女にもっとウェート置いて書いても面白いかもしれない。
それはそれでかなり改訂することになりますが。
答えは決して一つじゃないですからね!
「タイトル未定」の作者です。早速批評、感想、ありがとうございます。
これは「試作品」を作った直後に作った話で「偏食家で精神生活破綻者」の
ヒロインを書きたい、と前から妄想していたものを形にしてみたものです。
しかし、自身の妄想を完全に「彼女」には出来ませんでした。
「偏食家で精神生活破綻者」以外は、すべて装置です。「ぼく」も装置です。
機械のようなものです。ですから味なんてありません。
ゆえに、不完全な「彼女」のこの作品は駄作なのです。
また、「彼女」がトリックスターですべて「彼女」の手のひらの中かもしれませんね。
どうでも良い補足ですが、「試作品」でジャンプとエビフライが出てくるのは
わたしがジャンプっこの愛知県民だからで、「タイトル未定」でハイミルクなのは
わたしが一番甘いと思う板チョコがハイミルクだからです。どうでも良いです。
「試作品」に関しても、実は思うところがあるのですが、
人によってはSF系っぽい、という意見があったので、黙っておくことにします。
みなさま、レスありがとうございました。
このスレがにぎわっているのはうれしいです。
実験作を先ほど仕上げてみたので、今度、機会をうかがってうpろうか、考え中です。
ということは
>>275の見たてのほうがより正しかったのか。
それならそれで、序盤「ぼく」一人のシーンが長すぎるし、存在感が大きすぎるのはミスリード的だ。
そして、どうして俺はそういう風に感じてしまうんだろう?
同じものを読んで
>>275は作者の意図を汲み取ってるのに。
こういう感じ方の違いは自分が書く上でちょっと問題になるな。
自分の意図とは違う方向に捉えられる可能性が高いってことだし。
その他にも色々問題出てくる。
試作品は確かにSFっぽいところがある。だからこそ良かった。
age
280 :
優しい名無しさん:2011/02/28(月) 13:18:06.83 ID:30xqUHcf
age
この食べ放題の焼肉屋は繁盛している。
夜の九時を過ぎているが、客席は七割ほど埋まっていた。
我々四人は仕切りのついたボックス席で、魚介や肉の載った焼き網を囲んでいた。
黒髪をアップにしてる加藤郁子が、焼き網からイカの切り身をつまみ上げながら言った。
「わたくしたちの活動っていまひとつパッとしませんわよねぇ」
化粧っけの薄い四十八歳の独身だが、美人ではある。
私の右に座っている安原勝利が、ビールのジョッキをあおってから向かいの郁子に答える。
「それは違うヨ、俺たちゃ手際がいいだけだって。若い連中とは違うのサ!」
もじゃもじゃの白い蓬髪と絶やさない笑顔が印象的な六十歳の男だ。
「まったく、肉の脂がはねてかなわんな」
私の向かい、郁子の隣で食べていた田淵平蔵が、つぶやいて眼鏡を外した。
私はその眼鏡に度が入ってないのを知っている。我々のグループで最年長の七十二歳。
彼はケイオスウェーブに曝されてからの驚異的な身体能力の向上と回春ぶりを、家族にはひた隠しにしている。
安原が私に向かって提案してきた。
「いっそのこと郁子ちゃんをサ、凛可ちゃんのグループの若い子とトレードしちゃおうよ、サキさんや」
サキさんとは私、咲河健太郎のことだ。五十五歳で、髪はもう白い面積のほうが多い。
私は答えた。
「凛可たちのところは全員政府に登録された、いわば公務員なんですよ。そういうわけにはいきませんよ、安原さん」
「わたくしだって、若い人の前で裸になんてなれません!」
郁子があごをあげてそっぽを向く。
凛可とは私の娘で、次元接続体の一人だ。
彼女とそのボーイフレンドが率いるグループは、政府に公認されたただ一つの、次元接続体による治安維持組織だ。
我々四人も、全員がいわゆるシニアであり、そして次元接続体だった。
ただし、我々は特殊な能力を持っていることを、公には秘密にしている。
私は言った。
「まだ食事時間は残っていますが、そろそろ会計を済ませましょう、皆さん」
「なにヨ、まだ三十分も残ってるじゃない、サキさん」
「わたくし、もうちょっと食べたいですわ」
「最悪の場合、この店内で事が起こるかと思いましたが、場所がちょっとズレそうなんです。時間的には近いですよ」
私は仕事道具の入った銀色のブリーフケースを持ち上げた。
ケースと私を交互に睨みつけながら田淵平蔵が言う。
「ワシをこんな所で暴れさせるつもりだったのか? アンタにはまったくかなわん」
「俺は新しい秘密兵器でも見せてくれるのかと思ってたヨ。ただの親睦会ってことはなかったか」
「わたくし、今日も脱ぐんですね、こんなに寒いのに、脱がせるんですね」
「まあ大事がなければそれに越したことはないんですが……」
そう、私の「事件予報」など外れてしまえばその方がいい。
しぶしぶと言った様子で、全員が席を立った。
今日は私のおごりだが、四人分で一万円もしないのはリーズナブルだ。シニア料金の者が二人いたというのもある。
そろって店を出て、かじかむような冬の夜気にさらされる。
「ドコ?」
「さあ?」
安原の問いに、私はまだはっきりと答えられない。
安原は爪楊枝で歯をほじくり始めた。
田淵平蔵はカーキ色のジャンパーからタバコを取り出す。
郁子はニワトリのように頭を左右に向けてきょろきょろした。
その時、事件予報が「今」と迫ってきた。
「来る!」
私の視線は、店に接する道路へと導かれた。
広い駐車場をはさんでいるため、今いる店の出入り口からは三十メートルほど離れている。
そこへ猛烈なスピードで、二台の乗用車が左から突っ込んできた。
前を走っていた車は、交差点に入る直前に急ブレーキを踏んだ。
タイヤの軋む叫びに続いて、ぐしゃりと砕ける音が重く低く響く。
後ろの車は止まりきれずに追突していた。
この二台はなんらかの発端から、ここまで煽り合いを続けてきたのだろう。
ここで忍耐も尽きて爆発だ。
我々は見守った。
普通の人間同士のいざこざなら手出しはしない。
潰れた後ろの車から、何かわめきながら若い男が出てきた。
威勢よく腕を振り上げているが、それだけだ。
応じるように、前の車からも人影がのっそりと現れる。
こちらは……鈍く光る金属製の装甲服に全身が包まれていた……。
装甲服には筒やら管やらがごちゃごちゃ付いていて、それは武装を思わせる。
その人影が警告のように右腕を真上に向けると、腕の先から炎の柱が伸びて夜空を焦がした。
我々のあいだに緊張が走った。
間違いなく発明家タイプの次元接続体だ。
彼らは普遍的な素材から、この世の様々な法則を超越した器物を作り出す。それが能力の顕現なのだ。
しかしこれで左の男が腰でも抜かして、装甲服が立ち去ればこの事件もおしまいなのだが……。
左の男は雄叫びのような声を出した。
見る間に体が膨らみ、服が破れて散る。
身の丈三メートルにもなる、タテガミを生やした獣人が出現していた。
かえって装甲服のほうが慄いて後ずさりしている。
二人の次元接続体。
これ以上は様子見していられない。
私は懐から、ゴムでできたゴリラのマスクを取り出し、被った。
「はいはい、脱ぎます、脱ぎます」
そう言いながら郁子は、人気のない暗がりの植え込みに向かって、小走りに走っていく。
田淵平蔵はため息をつきながら眼鏡をケースに入れ、無言で私に差し出した。
「で、どっちからやんの?」
声のほうを向いても安原の姿は無かった。彼は不可視のフィールドで透明化している。
私は言った。
「飛び道具を持っている右からです。ほっとくと思わぬ被害が出る」
「じゃ、俺は左のおサルちゃんをかまってやるか」
主の見えない足音が獣人に向かっていった。
事件予報が的中しても、私は嬉しくも悲しくもない。
ただ、市民としての密かな義務を遂行するだけだ。
ゴリラの目穴から覗き、より危険だと判断した装甲服の人物に視線を注ぐ。
すでに田淵平蔵が早足で向かっていた。
「こぞぉぉぉぉう!」
田淵平蔵は怒声をあげて相手の気を引いたが、次の瞬間、常人にはありえない速さで右にステップした。
彼が寸前までいた場所の足元を赤い光線が貫き、アスファルトが小さな炎を上げて燃える。
レーザーか?!
身体能力で常人をはるかに凌駕するとはいえ、狙いの定まった光など次元接続体でも避けられない。
しかし田淵平蔵はかわし続けた。もう道路のあちこちが小さな火の手を上げている。
彼は元々合気道の師範として長い人生を過ごしてきた。
衰えずに活きる経験と次元接続体の身体能力が、狙いを定めさせないのだ。
装甲服の人物は足元ばかりを撃っていた。
未知の相手に恐れながらも、周辺への被害を気にしている。
男か女か分からないが、この人物も新たな力に踊らされている初心者に過ぎない。
決して悪漢というわけではないのだ。
目の端では巨人が両腕を振り回して地団駄を踏んでいた。
透明な怪力の持ち主だけでも厄介なのに、頭上からは大きな鳥の足が踏みつけてくるのだから堪らないだろう。
空中で羽ばたき、鳥の足で攻撃をしているのは郁子だ。
半人半鳥の姿は、顔以外不燃性の黒い羽毛で覆われている。
四人の中で彼女だけが変身といえるような能力をもち、空を飛べるので何かと重宝する。
そちらのこともあるし、こちらも手早く処理しよう。
非力な自分が狙われたらアウトなので、数瞬レーザーに気を取られたが、私は再び装甲服に意識を集中した。
あたふたと動く装甲服に対して神経を研ぎ澄ませると、緑に輝く何十本ものワイヤーが見えた。
ワイヤーは装甲服から生え、何もない中空に伸びている。
多次元接続だ。
私はそのワイヤーを一本ずつ、しかし素早く切っていく。
ケイオスウェーブから与えられた私の力は、事件予報だけではない。
次元接続体のパワーソースである、多次元からの力の流入を断ち切ること。
それも私の武器なのだ。
私は比較的非力な存在だが、私の能力は次元接続体にとって致命的なものといえよう。
接続を半分も切ってやると、装甲服の動きはかなり鈍くなった。
携帯できる高出力レーザー、目だったタンクもない火炎放射器、普段着にできるほど動力のもつ賦力装甲服。
そんなもの、現代の科学力では作れない。
製作した本人は新しい法則を発見した天才だと思い込んでいるだろうが、そうではない。
他人が同じ構造を複製したとしてもガラクタができあがる。
けっきょくは我々の身体能力と同じ、次元接続が動力源であり作動原理なのだ。
接続を断てば、動力も落ちる。
もう動くことすらままならない装甲服の背後に、田淵平蔵は回りこんだ。
おぶさるように組み付き、ヘルメットを剥ぎ取る。
若い男の頭部が露出した。
ひどく怯えて、声もだせないでいる。
大して悪いこともしてないのに、我々のことがさぞかし怖ろしいことだろう。
我々だろうと政府だろうと、突如出現しはじめた強力すぎる個人の力に対して、決定的な対策を持っていないのが現状だ。
だが、我々には愛がある。甘くはないものだが。
私は意識の集中を断たないようにしながら、仕事道具を持って装甲服へ近づいていった。
田淵平蔵は装甲服の男の首に腕をまわし、ぎゅっと絞めあげて彼を落とす。
質量保存の法則も、エネルギー保存の法則も無視する我々次元接続体だが、人間の生物学的弱点は大抵の場合通用する。
目の前まで行ったとき、男は動力の切れた装甲服に支えられて、立ったまま気絶していた。
少し離れたところでは、安原と郁子が巨大な獣人の注意をそらしてくれている。
私はひざまずいてブリーフケースを開けた。
中には注射器が四本と手錠が四つ入っている。
注射器の薬液は鎮静剤のサイレース、手錠はダイヤル式のロックが付いたチタン製だ。
私は装甲服の男の手袋を取って、手錠をはめた。
開錠のナンバーは警察の対策班の者なら、すでに知っている。
本当は足首にもはめたいのだが、今回は装甲服が邪魔で無理だった。
私が目で合図を送ると、田淵平蔵は男の頬をはたいて目を覚まさせる。
そこへ間髪を入れずに私は注射してやった。
男が正気を取り戻し、口をぱくぱくさせる。
「あわわわ、ひわっ、ひわっ?!」
私はゴリラのマスクを彼の顔にくっつくほど近づけ、彼の目を見ながら言った。
「悪夢から覚めたとき、君が力の使い方を学んでいることを、強く望む」
サイレースが効き始め、男の目がとろんとしてきた。
すでに動力の戻っている装甲服を軋ませながら、彼はおとなしく、力の抜けた様子で道路に座り込んだ。
一人済んだ。
そう思ったとき、左方にあった車の屋根が突然つぶれ、激しい音とともに窓ガラスが飛び散った。
身をすくませた私のもとに、車の屋根の上から安原の声が届く。
「ちくしょう、あのヤロウ! 痛い目あわせてやっからな!」
どうも獣人に投げ飛ばされたらしい。
透明な、足音だけの存在が車の上を走っていく。
「サキさん! 逃げられますわ!」
郁子が羽ばたきながら警告してきた。
道路上にはすでに四〜五台の車が渋滞し、車から降りてきた者、焼肉屋から出てきた者、十数人が遠巻きに様子を見ている。
獣人は車の渋滞している方向に向かって、身を翻したところだった。
賢い判断だ。
しかし、私は君のような存在を野放しにはできない。
君には最低限のレクチャーを受けてもらう義務がある。
私は筋肉の盛り上がる巨体に意識を集中した。
視覚化された多次元接続である、緑のワイヤーが体中に生えているのが見えた。
しかし接続を切る数秒を稼がなければならない。
田淵平蔵が弾丸のような速さで突っ込み、巨体の膝裏に体当たりをかました。
バランスを崩したところへ、頭上から郁子が鳥の足で襲いかかる。
私は接続を切り続けた。
獣人の巨体は見る間に縮んでいき、筋肉の隆起が萎んでいく。
腕を振り回しつつ縮みゆく獣人は、透明な何かに腕をひっぱられて引きずり倒された。
そこへ田淵平蔵が取り付き、首に腕を回して絞め落とす。
田淵平蔵が離れると、路上には裸の男が仰向けになって気絶していた。
「ワシの役目は終わった。あとはヘマをせんでくれよ」
田淵平蔵はそう言い残すと、腕で顔を隠して稲妻のように走り去った。
私はポケットから車の鍵を取り出し、どこを見るでもなく小声で言った。
「安原さん、車を頼みます」
「あいよ」
返事とともに鍵が受け取られ、不可視のフィールドに包まれて見えなくなる。
郁子は頭上の高いところで羽ばたき、闇の中のカラスといった体でゆっくり旋回していた。
私は気絶した男のそばまでブリーフケースを持っていくと、彼の手首と足首にチタンの手錠をかけた。
それから右手で注射器を取り出し、左手で男の頬を強く叩いて目を覚ませた。
正気づく前に素早く、サイレースを注射する。
男はがばっと上半身を起こすと、私にすがりついて大声で哀願した。
「やめてくれ! 殺さないでくれ!」
私は涙ぐむ男の顔にゴリラのマスクをくっつけて、先ほどと同じ台詞を言った。
「悪夢から覚めたとき、君が力の使い方を学んでいることを、強く望む」
サイレースが効き、彼は眠りに落ちた。
これでボランティアは終わりだ。
私はブリーフケースを持って、ゆっくりと立ち上がった。
時間にして5分程度だが、軽い渋滞が発生し、十人以上の人々が遠く取り巻いて私のことを注視している。
私は田淵平蔵ほど敏捷に走れないし、透明にもなれない。
だが。
私が右腕を上げると郁子が急降下してきて、足で私の肩をがっちりとつかんだ。
黒い翼が数回羽ばたいたとき、私の身体は空中を運ばれていた。
肩がかなり痛むのだが、空を飛べるのはやはり格別の気分だ。
クラクションの音に振り向くと、呆然と私を見送る人々のあいだに車を通そうとしている安原の姿が見えた。
ちょっと驚いたことに、服の袖口が破れ、顔に血が付いていた。
周囲の人々が事件と関連付けた印象を残さなければいいが。
一度遠くへ行ってから、また現場近くに戻ってくるのが我々のパターンだ。
我々は空き地を挟んで現場を見渡せる、住宅地の路上にいた。
こちら側は街灯のない暗がりで、道路は空き地より低い位置にあった。
まず見つけられることはないだろう。
みな経験を積んだ者たちなので、特に打ち合わせなどしてなくても、だいたい同じ場所に集まってくる。
私はすでにマスクを取っていたが、郁子はまだ半人半鳥のままで、片足に自分の脱いだ衣服をつかんでいた。
息を潜めて見守っていると、すぐにサイレンの音が聞こえてきた。
パトカー、救急車、そして次元接続体対策班の乗ったワゴン車が到着する。
警官が現場の整理を始め、救急隊員は担架を降ろし、対策班の者が倒れている次元接続体の検分に当たる。
実は、作業している彼らの中に、我々と内通している者が複数いる。
そのツテを利用して、高価なチタン製の手錠は私の手元に戻るのだった。
これで安心だ。
なんといっても彼らは、特製の拘束具を持っているのだ。
私の能力を器具にしたような物で、次元接続体の特殊能力を無効化する。
やはり発明家タイプの次元接続体のお手製であり、種類の違うものが一つずつ、計二つある。
言い方を換えれば、今までのところこの世に二つきりしかないのだが。
倒れている二人はこの後、身元を照会され、次元接続体のリストに載り、
ケイオスウェーブと次元接続体について、分かっていることのレクチャーを受ける。
そして特殊な力を活かせるよう、任意で協力を求められるだろう。
特に若者には、道しるべが必要となるはずだ。
現場の様子を横目で見ながら郁子が言った。
「今日も今日とてチンピラ退治……」
私は低く笑った。
「我々が居合わせなかったら、果たしてチンピラのいざこざで済んだかな?」
「そうそ、騒ぎになって若い連中が駆けつけたら、辺りは火の海、瓦礫の山ヨ?
俺らときたらケンカさえさせない手際の良さ!」
顔に血糊を付けた安原が得意そうに言った。
「安原さんは家に帰る前に、顔を洗ったほうがいいですよ」
「こんなん、なんでもねえヨ」
安原が破れた袖で顔をこすると、傷のない皮膚が現れた。
肉体の頑強さと異常なまでの治癒力は、次元接続体にありふれた力であったが、安原のは特に強い。
田淵平蔵が眼鏡を押し上げ、難しい顔をして言った。
「しかし増えたな。三ヶ月に一度は起こってるぞ、こんなことが……」
「去年は半年に一度あるかないかでしたわねぇ、確かに」
郁子が羽で顔をこすりながら相槌を打つ。
私は言った。
「混沌の波がどこまでの混乱をもたらすかは分かりません。
しかし生きてさえいれば、人間は適応していきますよ。我々みたいな年寄りでもね」
「フン」
田淵平蔵に鼻を鳴らされてしまった。
彼の前で自分を年寄りと呼ぶのは、確かにおこがましかったかもしれない。
安原があくびをしながら言った。
「そろそろ帰ろうや。食って暴れたら、眠くなっちまったワ」
「じゃ、みなさん車に乗ってください。今日はお疲れ様でした」
「わたくし、服を着るのが大変なので、このままお空を飛んで帰りますわ」
「サキさん、今日はワシに運転させてくれんか? 家では年を理由に運転させてもらえんのだよ」
「分かりました。お願いします」
私は田淵平蔵に鍵を渡し、我々は車に乗り込んだ。
「では、ごめんあそばせ」
郁子が黒い翼をはためかせ、暗い夜空に溶け込んでいった。
それと同時に車が動き始める。
我々は緊張の解けた、ゆったりした雰囲気を味わった。
飛び去った加藤郁子は、安いイラストの書き手として、三匹の猫と質素な暮らしを送っている。
鼻歌をうたいながらハンドルを握っている田淵平蔵は、メンバーのうちで最強の男だが、
家では盆栽の手入れに余念のないご隠居さんだ。
後部座席でいびきをかき始めた安原勝利は、建設機械のカスタマイズを請け負う立派な技師であり、
私、咲河健太郎はしながない地方公務員でしかない。
我々には家庭があり、つつましい生活がある。
普通の人間として暮らしてきた時間のほうがはるかに長いのだ。
我々はただの市民でしかない。
ただ、素知らぬふりができないだけの。
ただ、心に正しい燠火が燃えているだけの。
それだけの者でいようと、我々は努めている。
いつか、あらゆる事に限界がくるかもしれない。
だが我々は、いや人間は、それを超えてさらに先へ進めるものと、私は固く信じている。
おしまい
すごく面白かったです
郁子が58歳だったら完璧でした
>>289 あざーっす!
そしてサーセーーーン!
紅一点だからってちょっと下心出しちゃった……。
確かに50代にはするべきでした。
失敗失敗。
ちなみに郁子のモデルは、この前読んだ「斜陽」の主人公、かず子です。
291 :
実験 1:2011/03/07(月) 00:46:09.03 ID:0mAwIamj
これは夢の話なんですよ。ええ、何度も言いますけど、夢の話なんです。
夢の中で、ぼくはあーたんの家で一緒に遊んでいたんです。あーたん? 彼女のことですよ。
あーたんとは幼稚園から一緒だから、今でも彼女のことをあーたんと呼んでしまうんです。癖です。気にしないで下さい。
普通に考えたら思春期すぎた男女が恋愛感情なく仲良くしない、男女間に友情は成立しない、とか言われてますけど、ぼくとあーたんは友人でしたし、
恋愛感情はなく、友情は成立していました。まぁ、昔からずっと一緒だったから、恋愛感情を恋愛感情として認識できなかった、と言われてしまえば反論は難しいんですけどねぇ。
これは現実の話ですが、最近のあーたんは様子がおかしかったんです。
壁や天井を指差して血痕が見える、虫がいる、ムカデみたいなやつ! と言うんですけど、ぼくには見えないんですよね。
それに「誰かがわたしの悪口を言ってるの。誰かじゃない。お母さんとお父さん。わたしが出来損ないだから悪口言ってる。
ゆうくんもわたしのこと出来損ないだと思ってる? 思ってないよね? ゆうくんだけはわたしのこと、わたしのこと、悪口言わないよね?」。
そのときは確か、あーたんの両親は二人そろって仲良くお買い物に行ってたはずなんですけどね、あーたんがそう言うんならそうなんじゃないですか。
まぁ、とにかく、そんな調子だったんです。
後、ひとりでぶつぶつ言ってたり。
ああ、あーたんはメポロロロンさんとお話してるって言ってたっけ。
ぼくには見えないから、メポロロロンさんがどんな人か解かんないんですけど。あーたんは素晴らしい人、神様みたい、宇宙的神様って言ってました。
ああ、で、当日の話ですよね。何度でも言いますけど、夢ですから。夢の中であーたんの家に行って、何故?
ああ、ぼくらはしょっちゅうお互いの家に行き来してたんです。お互い、自分の家のように間取りが解かるんですよ。
大抵は、おしゃべりしたり、ゲームで対戦したり、健全でくだらないことをしていましたね。
普段どおり、二回軽くノックしてあーたんの部屋に入ったんです。
するとあーたんは、右手には包丁、左手にはチェーンソウを持って自分の部屋の中心で、にっこりと微笑んでいました。
あーたんは笑うとえくぼができてすごくかわいいのに、普段はむっつりしてるんで、ああ、珍しいなって思って、
夢だから、ぼくの願望、つまりあーたんに笑って欲しい、ってのが反映されてるんだなって思いました。
292 :
実験 2(終):2011/03/07(月) 00:46:46.24 ID:0mAwIamj
「ゆうくん」
あーたんは微笑みながらぼくの名前を呼びました。
「わたしね、決めたの。お母さんとお父さんを殺すの。あの二人、四六時中わたしの悪口言ってるの。わたしのことを出来損ないと思ってるからね。
だったら何で産んだんだろうね。だからね、殺すの」
「そうかい」
ぼくはあーたんの両手に握られた、鈍い色を放つ刃物を眺めていました。切れ味がよさそうだな、と思いました。
「ゆうくんはわたしのこと、出来損ないって思ってないよね?
悪口、言ってないよね? もしそうだったら、ゆうくんも殺さなくちゃいけないの」
あーたんの表情は一転して悲しげなものになって、子どもみたいで、今にも泣き出しそうでした。幼稚園の頃、運動会で転んだときも同じ顔をしてました。
「ぼくはあーたんのことを出来損ないと思ったことも一度もないし、悪口も言ったことないよ」
「メポロロロンさんに誓える?」
「メポロロロンさんとは会ったことがないけれど、あーたんにとっての宇宙的神様みたいだから、宇宙的神様に誓って、そうだよ」
「そっか。良かった」
あーたんは心底ほっとしたような笑顔を浮かべて、頬にえくぼが出来ました。
「ねぇ、あーたん」
「何?」
「ぼくがお母さんも、お父さんも、あーたんも殺してあげようか?」
何故そんな提案をしたか、ですか? だから、夢だからですよ。
夢の中で殺人をしたら、何かの法に触れるんですか? 個人がどんな夢を見ようが自由なんじゃないんですか?
夢で提案した理由? あーたんをこれ以上、苦しめる存在を排除したいと常々思っていたからですよ。それは他人だけでなく、あーたん自身もそうだったんです。
あーたんは常に苦しんでいました。本当は笑えばすっごく魅力的な女の子なのに、みんな、あーたんのことを出来損ないだとか、散々悪口を言ってたみたいなんでね。
証拠? あーたんがそう言ってた。本人が言ってた。それが証拠です。何か問題でも?
なんだかあなたのこと、ぼくは嫌いです。もう話したくないんですが。ええ、はぁ、じゃあ、続けますよ。
あーたんはちょっとびっくりしたみたいに目を見開いて、でも、予想通り、みたいな表情で、「じゃあ、わたしも一緒に殺して、ね?」とぼくに頼みました。
「これ以上、この世界にいたら、わたしはおかしくなっちゃうと思うの。ゆうくんのことだけは、ずっとずっと、信じていたいのに、疑っちゃうの。
だから、もういやなの。お願いするね」
ぼくは笑顔でうなずいて、あーたんから包丁とチェーンソウを受け取りました。
そして、あーたんの首をチェーンソウで切断しました。チェーンソウが肉を切り裂く、嫌な音ががりがりと響きました。あーたんはずっと微笑んでいました。
あーたんの首と胴体を完全に切り離して、四肢を切断した後、え、切断した理由? ありませんよ。
しいて言えば、なんとなく、ですね。話を戻します。あーたんの両親がいるリビングに向かいました。
あーたんの両親は大変仲がよく、いっつもあーたんのことなんて存在してないみたいに二人っきりの世界にいて、チェーンソウの音にも気づかなかったみたいに、
二人で何やら話しながら、くすくすと笑っていました。
ぼくは二人の目の前に立ちました。ぼくの服とチェーンソウはあーたんの血で汚れていたので、
あんな両親でも驚いたように「ぐぇ」と、蛙を踏み潰したような声を上げました。
人間ってこんな声が出せるのか、まぁ、夢だからな、と思って父親の首にチェーンソウを母親の首の真ん中に包丁を突き立てました。
二人とも目は見開かれてるし、舌はでるんでるんになって唇からはみ出てるし、バケモノでしたよ。
思い出すだけでも気持ち悪い、その部分は悪夢ですよ。
その後は、同じです。二人とも首と胴体を切り離して、四肢も切り離しました。
ですから、理由はありません。あの、いい加減にしてもらっていいですか? そろそろ家に帰りたいんですけど。
ああ、で、その後、チェーンソウと包丁をリビングに放置して、自分の家に帰って、服を脱いで、シャワーを浴びて、ベッドに入りました。
夢の中で眠るのは変ですかね? そう言うこと、あなたにはありませんか? そうですか。
で、目が覚めたらあなたがたがぼくのまわりを取り囲んでいて、殺人容疑だの死体損壊だの因縁つけて、ここまで連れてきて、同じ話を何度もさせてるんです。
警察って愚かな人間集団なんですね。夢と現実を混合させてるなんて。はい、これでぼくの話はおしまいです。
もういいですか? 帰らしてくださいよ。疲れました。え、夢と現実を混合してるのはぼくだって?
何言ってるんですか。ああ、もしかしてこれも夢なのかな? まったく、不愉快な夢だ。悪夢です。
う〜ん、チェーンソーが良くない。
家の中でチェーンソー使って気付かれないとか、ありえない。
のこぎりの方がリアルだし、不気味さも増した。
惜しい!
294 :
優しい名無しさん:2011/03/20(日) 02:08:34.12 ID:lPHq/w+v
復興age
295 :
誰か書いてください:2011/03/24(木) 12:24:07.31 ID:Jfuwdqhf
今朝見た夢あらすじ
西太后時代あたりの中国っぽい背景、現代風のビジネススーツ着たアメリカ人ぽい女性が素封家の男性に望まれて嫁ぐ。
でも夫は嫉妬深くてだんだん狂気を帯びてきて、ついには片脚を切断されてしまう。
2畳ぐらいの石造りの小部屋で作り付けのベンチに座らされて、明らかにおかしい夫が道具取りに行ってる間も、妻は諦めたのか放心状態。
大柄な夫が出入口の窓を塞ぐようにして入ってくる。
左膝に布を置かれて金づちで力いっぱい何度も叩かれ…
妻の隣で微動だにしない小泉今日子似の召使?の女が怖かった。
その後気を許した夫に連れられ外出。
レストランかなんかで夫が席を外した隙にずっと妻を助けようと画策していた元同僚?のリチャード・ギアみたいな男があらわれる。
が、ギアが乗り物を手配しに行ってるうちに夫に取り返されてしまう。
往来に飛び出し、遠ざかる傘付きリキシャーを目にして膝をついて歎くスーツ姿のギア。
赤い傘の房飾りが揺れて、なんかギアにも夫と通じる狂気が垣間見え、妻のゆくすえに恐怖クライマックス。
場面変わって夫は少し落ちぶれたのか、小さい車椅子で召使とアメ横みたいなバザールへ来る妻。
召使は車椅子を押さずに脇道へどんどん入って行く。
慌てて追い縋る妻が小泉今日子似であること、召使が妻の脚を羨んでいることがはっきり解り、キモさ計振り切れ。
297 :
優しい名無しさん:2011/03/25(金) 00:46:05.49 ID:4X2B0xVn
途中で疲れた練習作品を試しにうp
わたしがピアスに魅せられたのは中学生のころでした。
当時、わたしは周りの人間に溶け込もうと、人間のフリをしたバケモノでした。
わたしの心には獣がいるのに、セーラー服のスカートを短くしたり、おそろいのシュシュをしたり、そんなことで、
周りから獣の存在を、わたしがバケモノであるということを、隠すことに日々労力を払っておりました。
雨の冷たい、二月のことでした。
その日は運動靴を新しくした翌日で、真っ白な運動靴は泥にまみれてぐちゃぐちゃな、
溶けて腐ったチョコレートみたいな色になっていました。
わたしはなんだか面白くなりました。まるで、自分のようだと思ったのです。
泥まみれの靴で軽くリズムを踏みながら歩いていると、何かつったっているのがわかりました。
その「なにか」が女性で、黒髪のきれいな美人で、何で美人が傘もささずに冷たい雨に打たれているのか、
そもそも不審者? とも思ったのですが、わたしはそのとき、すでにその美人の耳に大量に光るピアスのことで頭がいっぱいでした。
耳たぶに、軟骨に、名前もわからないような場所に、美人の耳にはいたるところにピアスが存在していました。
わたしは思わず足を止めました。泥水がぱしゃん、と跳ねて美人が今気づいた、ような顔でわたしを見ました。
美人は微笑みました。わたしはびっくりして、どうして良いかわからず、出来損ないの笑顔を返しました。
普段、あれだけ獣を隠すためにつけてきた仮面が、うまくかぶれないのは、そのときが初めてでした。
「あなたってバケモノね」
美人はお酒に焼けた、ノイズの混ざったような声で言いました。
雨の中でしたが、美人の言葉は確実にわたしの耳に届きました。
それは、美人がピアスという特別性を持っていたからか、それとも何か別の理由があったのか、わたしには解かりません。
「あたしにはね、バケモノがわかるの。あなたもバケモノよ。自覚ある? ない? あるよね?
自分が周りと違うって、自分の中に、醜い何かが存在するって」
普通、初対面の人にこんなことを言われたら、大抵の人間はこの美人をイカれている、と思うのでしょう。
しかし、わたしは大抵の人間ではありませんでした。そもそも、人間ではないのです。
「わたしは、一生バケモノなのでしょうか?」
わたしは言いました。その声は弱弱しく、けれども響きを持っていました。
「ええ。バケモノはバケモノのままよ」
美人は微笑んだまま断言しました。
それはわたしの耳には天啓のようにも、永遠の地獄にも聞こえました。
「どうしたら、あなたのようなバケモノになれますか? あなたのように美しい、バケモノに」
* * *
過去の夢を見た翌日、わたしは十三個目のピアスホールを作りました。
あれからもう、何年経ったでしょうか。
あの美人は、美しいバケモノは、今どうしているのでしょうか?
文章はかなり上手い。
それゆえ、いい意味でいろいろ気になって仕方ない。
ここまででは主人公は可愛い中学生で、一体どのようなバケモノ性を持っているのかまったく分からない。
ピアスがバケモノの印のように扱われている、その理由は何か。
気になるぜー。
長編の冒頭としては良い出来。
しかしこれで完結かな。
長く書くとしたら「ですます調」だと辛くなるので注意されたし。
ここでうpされた上手いもののほとんどは、視点のブレがない。
世の中プロでさえ、めちゃくちゃなヤツが多いのに。
やっぱ視点にブレがないと、それだけで格段に読みやすい。
今ふと気付いたんだが、このテイストは「逆万引き」の人かな?
親友が突然死んじゃうやつ。
違ってたらごめん。
コメありがとうございます。
試作品や駄作、実験作をうpしている人間です。
あーごめん、ごめん。
そっちの人だったか。
辛いことも言ってるけど、相変わらず視点は完璧だよね。
今回のはしっとりしてて、心理描写とかホントに上手かった。
かなりウラヤマ。
303 :
綾香の花火:2011/04/03(日) 18:41:11.44 ID://Hr6AYn
「あなたも次元接続体かもしれません」
テレビで政府広報のコマーシャルが流れている。
しかし万野原綾香にとっては、もっと重大な感心事があった。
鏡の中の自分の顔に集中する。
現在三十三歳だが、三十代になってから日々化粧の乗りが悪くなっている気がした。
テレビが続けている。
「怪我が瞬く間に治癒してしまったり、難治性の症状が消えてしまったなどという体験をされてませんか?
次元接続体には起こりうることなのです」
綾香は手首を捻って、ファンデーションの塗り方に一工夫してみた。
細分を見るには部屋の明るさが足りない。
電灯のスイッチを入れるか、カーテンを開くか。
「……などの能力が現れたのが平成十三年以降のことでしたら、是非、最寄の医療機関、保健所などにご相談ください」
綾香は自然光を選択し、閉ざされたカーテンに向かって左の手のひらを広げる。
カーテンまでは三メートルあるが、ドレッサーの前を離れる必要はない。
手のひらを向けて、花火を出すだけだ。
パチッと軽い音がして、手のひらから紫とピンクの火花が散ると、一瞬遅れてカーテンが開く。
陽光が差し込んでみると、化粧の具合は思っていたよりずっと良かった。
「あなたの能力、最適な使い道を発見しましょう。我々と一緒に!」
政府広報はそう締めくくった。
長くて意味不明だとの批判を受けているが、止まらず流されている。
もちろん綾香にとっても、大した意味のないコマーシャルだ。
ペットボトルで試したが、動かせる力は一キロ弱、力が及ぶ距離は六メートル前後。
これでは手品師になるのが関の山だ。
政府が税金で、種ナシの手品師を雇ってくれるだろうか。
それどころか、近所の物笑いの種になりかねない。
綾香は間違いなく、次元接続体だった。
話題のケイオスウェーブなど見たことも感じたこともないが、十日ほど前にこの能力が現れた。
はじめは赤やら青やらの火花が、手のひらから自在に出せるだけだと思っていた。
一人息子で小学四年生の優輝は、
「お母さんすごい! 花火だ、花火だ!」と、目を輝かせて喜んだ。
そして、この花火が優輝にも飽きられてきた五日前、綾香は手を触れずに、離れた物を動かす力があることを知った。
だから何だ、とも思う。
射程六メートルでは、別に立って歩いて行ってもいいのだし、二リットルペットボトルは重すぎて、もう動かせない。
綾香は鏡を覗き、メイクの仕上がりを確認しながら、独り呟いた。
「次元接続体っていっても、誰もがスーパーヒーローってわけじゃないのよねー」
そんなことより。
綾香は気持ちを切り替えて立ち上がった。
そんなことより、夕飯の材料を買いに行かなければ。
304 :
綾香の花火:2011/04/03(日) 18:41:53.21 ID://Hr6AYn
日曜の午後だけあって、スーパーはほどほどに賑わっている。
本売り場のそばを通った時、「子供の喜ぶ野菜料理」というタイトルが目に入った。
綾香は興味を持ち、内容を確かめるため、棚の前に行って本を手に取る。
ふと視線を上げると、前方一つ向こうのコーナーにいる青年が気になった。
青年はこちらに背を向けていたが、ちらりと横顔が見える。
間違いない。
優輝の担任の篠原先生だった。下の名前は忘れた。
篠原先生はまだ二十代だが、息子の優輝によると、
「先生ってカツラなんだよ! だって頭の皮が動くんだもん! みんな言ってるよ!」
ここから見る限り、先生の髪はまったくカツラには見えない。
しかし、だからこそ!
消し難い好奇心が、地鳴りのように綾香の心を揺らす。
常人では望めない、おあつらえ向きの力があるではないか。
実は今までのところ、「花火」を人に向けて放ったことはない。
何事にも初めてはあるものだ。
綾香はゆっくりと右手を上げた。
小さな破裂音とともに、赤と黄色の火花が散る。
目で照準を付けることができるので、力は間違いなく篠原先生の頭頂部に届いているはずだ。
こう、ちょっと上の方へ、くいっくいっっと。
綾香の思うとおりに、先生の髪の毛が上方に引っ張られる。
残念、どうみても自毛だ。
篠原先生が急にくるりと振り向いた。
綾香は慌てて顔を伏せ、知らん振りしようとした。
少しの間を置いて、万野原の母親じゃないか、と篠原先生の声がした。
確かにそうなのだが、口の利き方がおかしい。
綾香はややキツイ目付きをして顔を上げた。
目が合うと、篠原先生はぺこりと会釈して笑顔で言った。
「万野原優輝くんのお母さんですよね? 担任の篠原です」
ほぼ同時に、やはりなかなかの美人だ、とも聞こえた。
綾香は何とか平静を装って返事をした。
「はい……万野原です。いつもお世話になってます……」
これは、心の声が聞こえる……と考えてよいのだろうか?
「優輝くんはいつも元気で、クラスのムードメーカーなんですよ」
快活そうに笑う篠原先生。
だが、彼の裏の声は綾香を戦慄させた。
『母親がこれだけ美人なら、優輝もそりゃあカワイイわけだ』
その心の声は、確かにセクシャルなイメージを帯びていた。
305 :
綾香の花火:2011/04/03(日) 18:42:34.47 ID://Hr6AYn
「優輝にッ……!」
優輝に何かしたら許さない、と言いかけて綾香は口を噤んだ。
その言葉を発すれば、余計な注意が優輝に向けられてしまうだろう。
相手は一日の半分を優輝とともに過ごしているのだ。
何をされるか分かったものではない。
彼を公に糾弾するにしても、何を根拠にすればいいのか。
そもそも、思っているだけなら自由だ。
綾香は強い自制心をもって言い直した。
「……優輝にはもっと落ち着いて注意するように……言ってるんですけど」
「いや、男の子は元気なのが一番ですよ」
元気でカワイイ、カワイイ元気な男の子、フハハ、とも聞こえた。
もうこれ以上この男のそばにいたら、自分が何をするか分からない。
「それでは、また」
そう言って綾香は足早に離れた。
もう買い物ができる精神状態じゃなく、店の出入り口へ向かう。
『おかしなところのある母親だな。美人にありがちなことか』
篠原の心の声はまだ聞こえていた。
綾香は気を引き締めて無視し、足を速める。
『直弥もカワイかったが……』
その名を聞いて、綾香は動けなくなった。
優輝と仲の良かった友達だが、最近家に遊びに来ない。
『優輝はどうやって落としてやろうか……』
綾香の全身を震えが走った。
恐怖によるものか、怒りによるものか分からない。
来た方向を振り返ったが、もう篠原の姿は見当たらない。
声も途絶えた。
探し出して突進し、殴りつけて、尋問したい。
しかしそんな事件を起こしたら、後になって次元接続体として能力が認められたとしても、
今、優輝を守る者がいなくなってしまう。
いや、そんな事件にはならないだろう。
篠原は綾香よりも頭一つ分背が高く、男の基準でいってもがっしりした体格だ。
武器を持っていても、腕力では敵わない。
ここは引くしかなかった。
綾香は震えて笑う膝をなんとか動かして、強烈な敗北感とともに乗って来た車に戻った。
306 :
綾香の花火:2011/04/03(日) 18:43:15.92 ID://Hr6AYn
窓の外では、春一番らしい風に吹かれて、洗濯物が揺れている。
綾香は窓辺に立ち、虚ろな表情でそれを眺めていたが、頭の中はめまぐるしい奔流に支配されていた。
相談すべき夫は明日まで出張だ。いや、まず電話しなければ。
脅威が身近に迫っている。優輝には厳しく注意を……いや、しばらく学校を休ませなければ。
いつまで? こちらはどう対策を立てるべきかも分からないのに。
篠原はすでに犯罪を犯している可能性が高い。
その証拠は何かないものか。あるとしてどうやって手に入れるか?
いっそのこと、能力を明かして、篠原と直弥くんを詰問するか?
それでは直弥くんを深く傷つけてしまうかもしれない。
だが、途惑っていては優輝が危ない。
「あっ」
眺めていた洗濯物の、小さなタオルが風に吹かれて、洗濯バサミを離れた。
綾香は反射的に手を伸ばし、花火を出した。
しかし、綾香とタオルの間には窓ガラスがある。
遮蔽物があっては力が届かないだろう。
だが、綾香は我が目を疑うことになった。
小さなタオルは風になびきつつ、空中にとどまっている。
手繰るように引き寄せ、窓を少しだけ開いてタオルを取り込む。
綾香の心に、一瞬だけ静寂が訪れ、続いて怒涛のような唸りをあげて何かが込み上げてきた。
この力は!
物体を貫通して影響を及ぼす!
綾香は急いで階下に降りていった。
サンダルをつっかけて玄関を出ると、すぐに振り向いてドアに鍵をかける。
そうしておいてから、右手を上げ、ドアの向こう側にあるサムターンの辺りに勘で狙いを付けた。
小さな破裂音とともに、黄色と青の火花が散る。
続いて、ドアの取っ手のあたりがカチリと音を立てた。
綾香が手を伸ばして確認すると、ドアは何事も無く開いた。
篠原の住居の鍵も、構造的に大差ないだろう。
このとき、日常に背を向けて、自ら歩み去る覚悟が、綾香の魂に刻まれた。
躊躇している時間はない。
綾香は急いで寝室に上がっていった。
寝室に着くとドレッサーの前に座り、化粧を落とし、髪をひっつめに結んだ。
それからモスグリーンのスラックスを脱ぎ、ジーンズにはき替えると、
夫のクローゼットから紺色のジャンパーとキャップを取り出して、身につける。
そして、軍手とガーゼのマスク。
装束を整えて姿見を覗くと、パッと見は何かの業者に見える。
それが大事だった。
綾香の心は決まっていた。自分はこれから犯罪を犯す。
不法侵入をし、あわよくば盗みを働く。
良心の呵責などという甘さは無かった。
307 :
綾香の花火:2011/04/03(日) 18:43:57.08 ID://Hr6AYn
綾香はコンビニの駐車場に車を停めた。
篠原のアパートまでは約百メートル、ちょうどいい。
住所は、優輝とやり取りされた年賀状で知ることができた。
綾香の生活圏内だったので、特定は容易かった。
軍手をはめ、念のために持ってきたダンボール箱を小脇に抱えて、綾香は車を離れた。
篠原の住処であるコーポ・ロビンソンは、露天駐車スペースの付いた安っぽい建物だった。
このアパートの二階、階段から二番目の部屋に、綾香の求める物がある可能性は高い。
綾香はしっかりした足取りで挑んでいった。
駐車スペースを通りすぎ、階段の上り口に足をかけた時、一番近くのドアが開いた。
ショルダーバッグを持った若い女が出てくる。
綾香は怪しまれるのも恐れず立ち止まり、サムターンとドアチェーンの場所を目に焼き付けた。
これで大分手間が省ける。
若い女は綾香のことなど気に留めず、携帯で話しながら遠ざかっていった。
綾香は階段を上った。
目標の部屋のドアには「篠原誠」と表札が付いている。間違いない。
問題は篠原誠が在宅かどうかだが、居たとしても大きな問題ではなかった。
より安全な月曜の明日に、同じことをもう一度やるだけだ。
綾香は迷うことなく花火を出し、見えないサムターンを頭の中で捻る。
カチリと音がした。鍵は掛かっていた。
綾香はドアを慎重に開き、静かに頭を突っ込んでいく。
玄関に靴はない。
ドアから左手に台所、右にはトイレのドアがあった。
正面にある引き戸を開くと居室だろう。
今のところ人の気配はない。
綾香は意を決して中に入り、ドアを閉め、鍵をかけた。
何も反応はなく、もう篠原が留守なのは確実だ。
土足のまま上がりこみ、正面の引き戸をゆっくりと開く。
居室の中は綺麗に片付いており、左にベッド、右の壁際に本棚、正面の窓辺には事務机があった。
机の上にはラックに挟まれた十冊程度の本、ペンたて、デスクライト、丸めた布巾、そしてノートパソコンが置かれていた。
綾香の求めていたものはこれだった。
証拠があるとすれば、パソコンの中か、携帯電話の中しかない。
部屋の中に入ってみると、ベッドのわきの壁一面に、何十枚もの子供の書いた絵が貼り付けてあった。
生徒に描かせた篠原の似顔絵だ。
その絵を見て綾香は、自分が重大な過ちを犯してるのではないかと、初めて途惑った。
しかしよく見ると、書いてある名前が男の子のものばかりだ。
やはりパソコンの中身は調べなければならない。
綾香は気を引き締めた。
308 :
綾香の花火:2011/04/03(日) 18:44:38.39 ID://Hr6AYn
篠原の机の前に座り、綾香は軍手をはずした。
考えてみれば、軍手なんかいらなかった。
ノートパソコンを開き、ちょっと探したあと、スイッチを入れる。
パソコンが起動するあいだ、綾香は何気なく机の上の丸めた布巾に目をやった。
そして息を呑む。
震える手で取ってみると、布巾と見えたものは男児用の下着だった。
もちろん新品じゃない。
綾香の咽喉は詰まり、涙がこみあげてきた。
これは明らかに犯罪の証拠だったが、それでもこれでは証拠にならない。
奥歯をかみしめて嗚咽をこらえていると、パソコンが操作できる状態になった。
綾香はパッドを指でなぞって画像フォルダを開く。
予想通りのものが出てきた。
ネットで拾い集めたであろう、少年の裸が写った画像ばかりだ。
これが小学校教師のパソコンだと思うと忌まわしいが、児童ポルノの単純な所持では罪にならない。
もっと他の、自分が見るに堪えないようなものを、綾香は探しださなければならなかった。
画像フォルダの最後のほうに、「宝」と名前の付けられたフォルダがあった。
綾香は確信とともにそれを開く。
中には携帯で撮影されたと思われるサイズの画像が、何十枚も詰まっていた。
ズボンと下着を下げ、シャツをたくし上げた、うつろな表情の少年。
「直弥くん……!」
綾香は嗚咽を漏らし、涙をこぼした。
両手を口にあて、震えながら泣く。
しばらくそうして感情の爆発が治まったあと、綾香は鼻をすすりながら捜索を再開した。
被写体はまだ直弥くん一人だけのようだった。
その中に決定的な一枚を発見した。
少年のむきだしの下腹部に唇をつきつけ、こちらに視線を送っている篠原の顔を、自分で撮影したものだった。
背景にはランドセルを置いておく棚が写っている。
これだけ見れば、被害児童が直弥くんだとは特定できない。
犯行現場は学校の教室だとはっきりしているうえに、犯人である篠原自身が被写体だ。
求めるものを見つけ、綾香はパソコンの電源を落とした。
これは丸ごと奪わせてもらう。
できることならこの部屋に火を放ち、すべて焼き尽くしてしまいたい。
綾香はなんとか衝動を抑えると、持ってきたダンボールにパソコンを入れ、玄関に向かう。
玄関に着き、ドアノブに手を伸ばしたところで音に気付いた。
レジ袋のガサガサいう音と低い足音が近づいてくる。
足音はドアの前で止まり、鍵をいじるような金属音が続く。
この部屋の住人が帰宅した。
ドア一枚を隔てた向こうに篠原がいる!
309 :
綾香の花火:2011/04/03(日) 18:45:24.62 ID://Hr6AYn
玄関のドアを勢いよく開けて篠原が入ってきたとき、綾香はトイレの中で息を潜めていた。
トイレは玄関を入って右の位置にある。
綾香は荒くなりそうな呼吸を必死に抑えて、頭を巡らせた。
まだ勝算はある。まだ戦える。
思いもしない事態に遭遇した時、人の時間は一瞬止まる。
その隙に、立てた計画通り、よどみなく、繊細な作業も正確に行えば。
綾香はトイレのドアをわずかに開いて、耳を澄ませた。
レジ袋を置く重い音がしたあと、篠原の足音が居室に入っていく。その背中が見えた。
一、二、と数えて、綾香はトイレを飛び出した。
出ると左足のつま先でトイレのドアを閉め、右手で玄関のドアを開ける。
玄関を抜けるとすぐに振り返って、勢いよくドアを閉じた。
箱を持った不自由な左手の花火でサムターンを回し、同時に右手の花火でドアチェーンをかけた。
ドアチェーンの方は、うまく入ったか確証が持てない。
「誰だ!」と、部屋の中から叫ぶ声が聞こえたときには、綾香は玄関の前の塀を乗り越えようとしていた。
地面まで三メートルはある。
しかし骨折さえしなければ、捻挫程度で済めば、勝ち目はあった。
綾香は飛んだ。
着地と同時に上のほうでガツンと音がした。
ドアを開けようとしてチェーンが引っかかった音に違いない。
「くそ!」篠原の悪態も聞こえる。
飛び降りた衝撃は予想より、はるかに少ないものだった。
もしかしたら、次元接続体の頑健性によるものか? 何の問題もない。
綾香はつま先立って、階段の上り口にある、端の部屋を目指した。
向かいながら右手の花火を放ち、その部屋の鍵を開ける。
やはりその部屋の住人である若い女は、まだ帰宅していなかった。
頭の上をあわただしい足音が通過していくが、綾香は音を立てないよう、冷静にゆっくりとドアを開けていく。
素早く中に入り、またゆっくりとドアを閉じながら、覗き穴に目を当てる。
音が出ないよう、完全には閉めない。
視界に篠原が入ってきた。
狼狽して周囲をきょろきょろ見回してから駐車スペースを突っ切り、アパートの敷地から外へ走り出して行った。
今になって綾香は、自分の息がひどく乱れていることに気がついた。
心臓が早鐘を打ち、手足も震えてくる。
そのまま覗いていると、篠原が戻ってきた。
相手を見失ったとなれば、ほかに盗まれた物が無いか早く確認したいだろう。
篠原が階段を上って視界から消えると、少しの間を置いて、ドアを閉める音がかすかに聞こえてきた。
綾香は慎重に部屋を出た。
310 :
綾香の花火:2011/04/03(日) 18:46:05.77 ID://Hr6AYn
結局はこれで良かったかもしれない。
教師をしている知能があれば、自分の敵が普通ではないと、後になって篠原にも気がつくだろう。
夕暮れのなか帰宅し、車を車庫入れしながら、綾香はそう考えた。
パソコンには、いくらか手を加えなければならない。
体はくたくただったが、頭は冴えていた。まだやるべきことがある。
パソコンを持って家に入ると、リビングの灯りが点いていた。
優輝が一人でソファに腰かけ、テレビを見ている。
「優輝!」
綾香は思わず大声で呼びかけ、パソコンをキッチンのテーブルに置き、急いで駆け寄っていく。
優輝は面食らったような顔をして、小首をかしげながら言った。
「お母さんどこ行ってたの? そんなカッコで」
綾香はそれに答えず、優輝の隣に座り、息子の肩を強く抱き寄せた。
おもむろに右手をかざし、優輝の髪に向かって花火を出す。
「優輝、ほら花火」
「もうそれ見飽きたよー」
テレビに視線を戻そうとする優輝に対し、綾香は努めて平静を装いながら質問した。
「優輝、お母さんに秘密にしてること、ない?」
「えー、そんなのないよ」
その声と同時に、佐山くんに貰ったえっちなマンガ、バレちゃったのかな、と聞こえる。
綾香は奥歯をかみしめた。
優輝にそんなものはまだ早い。後で探し出して処分しよう。
しかしそんな声が出てくるなら、優輝はまだ無事だ。綾香の胸に温かい安堵が広がった。
綾香は続けて、次の懸念を口にした。
「直弥くん、このごろウチに来ないじゃない? あんなに仲良かったのに。学校には来てるの?」
「来てるけど、アイツこのごろ暗くなっちゃってさー」
綾香の目が涙で滲んだ。鼻をすすりながら続ける。
「じゃあ、親友の優輝が元気づけてあげなきゃ。でしょ?」
「お母さん、泣いてるの?」
「ううん、花粉症みたい。直弥くん、お母さんのアップルタルトが好きだったでしょう。明日作っておくから、
食べにきてって、ウチに呼ぶのよ」
「うーん」
「絶対よ」
「分かった!」
明るい返事とともに、もう一つの声が聞こえた。
『お母さん、また変なドラマでも見たのかな?』
その純真さに触れて、綾香の口もとに微笑みが広がった。
311 :
綾香の花火:2011/04/03(日) 18:46:47.11 ID://Hr6AYn
午前四時。
灯りを消した寝室のベッドに腰かけ、綾香は明けてゆく空を眺めていた。
疲労困憊してたが、こんな日に眠れるわけがない。
篠原のパソコンは、夜中に校長の自宅へ置いてきた。
警察に行くことも考えはした。
しかし、そうした場合、まず綾香の身元と能力を明らかにしなければならなかったろうし、
綾香自身が窃盗で逮捕される恐れもあった。
事情を汲んでもらえたとしても、今度は被害児童の特定が始まる。
直弥くんが、さらに傷つくことになるような可能性は排除したかった。
結果として篠原に下される罰には言うことないが、他の部分が最善とは言いがたい。
だから校長宅を選んだ。
職歴の長い校長ともなれば、ちょっとした地域の顔であり、自宅の位置は綾香も知っていた。
花火を使って進入し、キッチンのテーブルの上に警告文とともにパソコンを置いてきた。
パソコンはデスクトップを掃除して、そこに「宝」フォルダを移動させておいた。
宝フォルダの中身の、直弥くんと特定できるような画像は消去してある。
子供の下腹部と篠原の顔、そして教室が写っている数枚だけを残した。
もちろん、全ての画像は綾香のフラッシュメモリに保存されている。
警告文には以下のようなことを書いた。
このパソコンが、教師篠原誠のものであること。
宝フォルダの中身を見ること、他の画像も参考にしてもらいたいこと。
犯罪は教室で行われており、こちらは被害児童の特定もできている上、証拠も持っていること。
そして何より、「このような真似のできる自分が見張っている」ということを。
警察ではなく、なぜ自分の自宅にこのパソコンが持ち込まれたのか、ベテランの校長ならその意味をはっきり理解するだろう。
戦慄とともに。
小心だったり繊細だったりすれば、命の危険を覚えても不思議はない。
綾香はそこまでするつもりは無いが、今日にでも何らかの動きがなければ、すぐ次の行動を起こす心の準備があった。
これで戦いが終わったとも限らない。
だが、それよりもまず。
疲労がいくぶん回復したような気がして、綾香は立ち上がった。
それよりも、まずアップルタルトの仕込みに入ろう。
直弥くんが食べきれないほど作ろう。
お土産に持たせても余るほど作り、夫にもおすそ分けしてあげよう。
312 :
綾香の花火:2011/04/03(日) 18:47:28.49 ID://Hr6AYn
方になって、優輝が学校から帰ってきた。
玄関から元気のありあまった声がする。
「ただいまー! 直弥、連れてきたー!」
揺れる優輝のランドセルの後ろから、おずおずと直弥くんがついてくる。
綾香の前までくると、彼ははにかみながら言った。
「お、おじゃまします……」
今は暗いとはいえない。
しかし以前はもっとハキハキした、喜怒哀楽のはっきりした子だった。
胸のうちの愁嘆を悟られないよう、綾香は明るい笑顔で返す。
「お久しぶり、直弥くん。今日は腕によりをかけて作ったから、いっぱい食べていってね」
「ありがとう、おばさん」
直弥くんは伏し目がちに答えた。
そこへ優輝が身を乗りだしてきて言った。
「大変なんだよ、お母さん!」
「何かあったの?」
綾香は平静を装ったが、自分の目が輝いているのを感じた。
「篠原先生が、病気になったから先生やめちゃったんだって!」
「そう……。大変ね、篠原先生も」
綾香は身体全体に染み渡ってゆく、静かな勝利感を束の間味わった。
あとでPTAと連絡をとって詳細を聞こう。
直弥くんに目をやると、彼はやや固い表情で、素知らぬふりをしていた。
本当の勝利を得るまでには、まだ時間がかかる。
綾香は子供たちをテーブルにつかせて、タルトを切り分けた。
「はい直弥くん」
綾香は直弥くんの前にタルトの載った皿を差し出すと、そのままの姿勢で続けた。
「ね、直弥くん。これ、ちょっとよく見て」
「え? なに?」
直弥くんが身をかがめて皿に視線を落とすと、綾香の手のひらがパチンと音を立て、彼の目の前に青と黄色の花火が咲いた。
「わっ!」
「お母さん、見せちゃっていいの!?」
「いいのよ、直弥くんは優輝の親友でしょ? だから特別」
そう、自分は直弥くんを特別扱いする。これからも。
彼は綾香と優輝にとっての恩人なのだ。
彼が望んだことではないにしろ、形を持たない醜悪な悪意に、
立ち向かい、打ち倒すことができる形を与えてくれたのは、彼だ。
「この花火を見ちゃったからには、優輝と直弥くんとおばさんは、もう仲間よ。この花火のことは三人だけの……」
「秘密」と続けようとして、綾香は言葉をのんだ。
その言葉はたぶん、篠原によってすでに使われている。
綾香は両方の手のひらから花火を出し続けながら、言い直した。
「この花火はね、わたしたち三人の……絆のあかしよ」
「おばさん、すごい! すごいよ!」
直弥くんの顔に、子供らしい輝きが宿った。
「もう仲間なんだから、直弥くんも何か困ったことがあったら、おばさんに相談してね。
おばさん強いし、頭も良いし、タルト作りも上手なんだから!」
綾香がそう言うと、三人はそろって笑いあった。
事はそう簡単にはいかないだろう。
だが、綾香には自分の力の本質が分かりかけてきていた。
この力は、自分と何かを、つなぐ力なのだと。
それは、心と心をつなぐ力にもなり得る。
傷が癒せないとしても、新しい記憶と信頼と、絆で塗りこめてしまおう。
先は長いかもしれないが、兆しは明るい。
少なくとも、今、この瞬間は笑顔であふれているのだから。
おわり
313 :
妹の話:2011/04/22(金) 22:39:41.44 ID:+q9oeyCH
保守のためage
ぼくの妹の話なんて誰も興味がないと思うけれど、妹の話をしようと思う。
それは聞いてもらうことで、何か意味があるのか、ぼくが語ることに価値はあるのか、解からないけれど、話そうと思う。
妹は家族と言う贔屓目から見ても、とても可愛かった。
髪の毛がふわふわで、声も綿菓子のように甘ったるい、周りがちやほやして、女子に嫌われるようなほどの美少女だった。
ただ、破壊することが趣味だった。
妹がまだ幼稚園に通っているときから、その趣味は始まっていた。
アリの行列を一匹ずつ踏み潰したり、昆虫の足をもぎとったりした。特にお気に入りだったのは、蝶の羽をむしることだった。
昆虫が死んだり、苦しんだり、もがいたりするすがたを見て、妹は更なる苦痛を与え、喜んだ。
小学生になると、動物を壊し始めた。どこからか野良猫を拾ってきて、生きたまま解体した。そして、その肉を焼いて食べた。
妹は無邪気な笑顔で「まぁまぁって感じだけど、まぁまぁだからあんまり美味しくないよ」と言った。
猫の断末魔は、隣にあるぼくの部屋まで聞えて、次第に家中になんともいえぬ、鉄っぽい臭いが染み付くようになった。
中学生に上がった妹は、父親を壊した。
生きたまま四肢を切断し「ダルマみたい」と甘ったるい声で笑った。
切断され、ショック死している父の目に妹はフォークをつきたて、それを口に運び、キャンディのように舐めた。
妹は次に、母親を殺した。妹は母親になついていた。だからだろう。
頚動脈を狙い、首を絞めてあっという間に破壊し、首を切断した。
頭を切り開き、優雅な仕草で脳みそにスプーンを差し込み、食べた。
「人間の脳みそって意外に美味しいのね。確か他人の脳を食べると頭が良くなるんだっけ? 違ったっけ? ねぇ、お兄ちゃん解かる?」
唇についた脳みその残骸を舐めながら、妹は小首をかしげた。
幼稚園のころも、小学生のころも、中学生のころも、妹の破壊を、ぼくは隣でずっと見ていた。
止めようとは思わなかった。ただ妹は破壊がしたいだけで、好きなことをしているだけなのにどうして止めなくちゃいけないのか解からなかったし、なによりぼくは妹のことが好きだった。
もちろんラヴじゃなくてライク。兄妹愛としての感情だ。
高校生になった妹は、いよいよと出番、と言うかぼくを破壊し始めた。
カッターナイフ、ハサミ、包丁、チェーンソー、釘。多数のものによって、ぼくは拷問を受け、苦痛を与えられた。
いっそ殺してくれ、と思うほどの激痛だった。
「なぁ」
「何? お兄ちゃん?」
「お兄ちゃんはもう耐えられない。殺して」
「それはだーめっ」
妹はにっこりと有無を言わせず拒否し、手に持っていたチェーンソーで自分の首を切り落とした。
ぼくは手に穿たれた釘を抜いて、妹の首から溢れる血をすすった。重たい鉄の味がした。そして、ほんのり甘かった。
次に、妹の乳房を切り取り、焼いて食べた。上に載せたバターと相性バツグンで、脂肪がほどよく甘く、弾力があり、美味しかった。
何故妹が自殺したのか。何故ぼくは妹の体を食べているのか。疑問に思っている人がほとんどだと思う。
理由は簡単だ。
妹は自殺したんじゃない。自分で自分を壊しただけなんだ。そして、ぼくは気まぐれで妹の肉体を食べている。気まぐれには、理由が必要ない。
今まで様々なものを破壊してきた妹は、きっと、自分を破壊したくて仕方がなくなったのだろう。
妹の肉を食べながら、ぼくはそう思った。
ぼくの妹の話はこれでおしまいだ。
語る価値があったのかは、ぼくにはいまだにわからないが、ぼくにはちょっぴり猟奇な、でもとっても可愛い妹がいた、そんな自慢話だ。
うーむグロい。
クライブ・バーカーとか思い出すな。
1レス程度の要約形じゃなくて、もっと長く書いてみればいいのに。
>>314 いつもの試作品の人です
長編は書いたことないので、常に掌編になってしまいます
うん。
コメントもいつも人なんだ、すまない。
ここは既に俺たち二人のパラダ〜イス!
317 :
祀理古都:2011/04/30(土) 18:34:31.91 ID:17lQdGcW
ネクラ文系少女こと祀理古都は視える人らしい。視えるってあれだ、所謂ユーレイだ。
古都はいつもぶつぶつひとりで呟いていたり、手首に包帯が巻いてあったり、なんだか危ないヤツだった。
そんなやつだから、当然派手グループに目をつけられていじめられた。
なんか色々、ひどいことされたり、具体的に言えば、処女奪われてハメ撮り画像流出させたり、犬の糞を食べさせられたりしてた。
派手グループを敵に回したくないから、みんな見てみぬふりか加勢していた。
わたしは高校生にもなっていじめなんて幼稚だけど、高校生だからこんなひどいことも平気で出来るんだなって思った。
だけど、いじめは長くは続かなかった。
まず、派手グループのトップ的なやつが謎の突然死を遂げた。その二日後にグループのナンバーツーも突然死した。
これは祀理古都の呪いじゃないか。
冗談半分どころか、本気八割でそんなことがささやかれ、残りの派手グループはおびえながら、
古都に土下座とかしてたけど、最終的には派手グループやいじめに加担してたやつらはみんな死んだ。
古都のクラスは生徒数が半分以下になって、しょうがいなから他のクラスにバラけさせた。
そしてわたしのクラスに祀理古都が来た。
教師でさえおびえていて、クラスメイトは猛獣を見るかのようにネクラ文系少女をこそこそと見て、怯えていた。
わたしは想像する。
きっと古都は高校に上がる前までも、同じことをしてきたのだろうと。
まぁ、呪いとかオカルトは信じない主義だけれど、自分をいじめたやつらを何かしらの方法で殺して、自分を守って生きてきたのだろう。
なんて浅はかなんだ。
だったら自分が死ぬのが一番てっとち早い、解放方法なのに。
祀理古都は一生このままなんだと思う。
まぁ、ただ、そんなことをわたしが思った、それだけのお話。
古都ちゃんの名字の読み方教えて!
まつり こと です
なんとなくつけた名前なんで読みにくくてサーセすみません
320 :
やたら不純:2011/05/04(水) 19:37:42.17 ID:bVDCxiwI
やたら不純。
姉はサセ子として有名だった。
サセ子とはセックスをさせてくれる子、の略である。姉は誰とでも、まさに修羅のごとくセックスをするので、有名の度合いもそれはそれは高かった。
何故姉が「サセ子」にまでなったのか、それは妹であるわたしとしても納得できる理由で、ようするに我らが母が淫乱だったゆえ、その血を姉が受け継いだのである。
淫乱ってこわい。
姉がサセ子であると書いたが、さてわたしはと聞かれると、ノーである。
わたしは恐ろしき淫乱の血をなんとか受け継がずに済んだのである。
だからこそ、淫乱の恐ろしさを、サセ子の怖さを知っているのだ。
姉の話に戻ろう。
やたら不純で恐ろしい我が姉は、やたら美しかった。
淫乱な母もやたら美しいので、淫乱な人間はやたら美しいのかも知れない。
わたしの容姿については聞かないで欲しい。
やたら美しいので、やたらもてる。
言い寄る男、というか男女問わずセックスし、セックスしては切り捨てていった。
サムライの如き生き様だ。
そう言う意味では姉は男前、サムライなのであった。
そんな姉であるが、高校に上がる前に、頚動脈を切って自殺してしまった。
理由は今もって不明である。
実にあっけない淫乱の終焉で、まだ生きてるんじゃないのか? ドッキリか何かなの? と思ってしまうぐらい、あっけなかった。
やたら不純で美人でサムライな姉なんて最初からいなかった気がするから不思議であるが、
姉のことを思い出すと何故かモノクロームの映画を観ている様な切ない気分になって、わたしは泣いてしまう。
うーん、いい。
テキスポの方で褒めコメントを貰うだけのことはある。
新タイトル「ぼくの日常」と同じ系列の、なんだか良く分からないけどいい、と思ってしまう何かがある。
322 :
優しい名無しさん:2011/05/22(日) 19:38:45.47 ID:xasfFfnf
保守
――セリヌスのダモンは朋輩ピンティアスをモイロスと呼んだ。
彼等は万物の根源を数とし天球の楽を奏で、厳しい戒律のもとに学んでいた。
師ピュタゴラスはアクラガスとシュラクサイの戦闘に巻き込まれ殺された。
ゆえに弟子達は権謀から身を遠ざけ、公正を守り、越し方行く末を思い、執着を捨て、なんどきも心を平らかに過ごすことを自らに課した。
しかしピンティアスは過ちを犯した。
僭主ディオニュシウスを批判したのである。
否、批判の意図はなかったが、そのように受け取られかねない言を発した。
不用意であった。
つい、ディオニュシウスの詩を酷評して採掘場へ監禁されているフィロセヌスについて云々したのである。
聞いていた者のうちにピュタゴラス学徒を疎んじる者がいたので、彼は捕縛され、いくらも経たないうちに叛逆罪で極刑と定まった。
ピンティアスはそれが沙汰ならば受け入れねばなるまいと思った。
だが法によればなんぴとも財産を処分し遺族の便宜を図る時間を与えられるはずである。
彼はしばしの猶予を請うた。
僭主は「おまえ自身と同じだけ価値あるものが形代にでもならねば、いかに遵法でも放免はなるまい」と嘯いた。
持ちものである金銀や奴隷を預け置くのでは駄目だというのである。
「私自身より価値ある者を担保に据えましょう」とピンティアスは言った。
かくて、死刑囚ピンティアスの猶予のために盟友ダモンが召し出された。
ダモンは話を聞くと顔色も変えずにうなずいた。
身代わりに留め置かれようと言う。
ディオニュシウスは度肝をぬかれた。
彼はダモンは怖じけて断るだろう、そうしたら二人ながら笑いものにしてやろうと考えていたのである。
「ピンティアスが戻らねばおまえを刑に処す。それでもか」
「よろしゅうございます」
ダモンは旅の守りにと自分の首から五芒星のメダルをはずしてピンティアスに掛けてやった。
ピンティアスはダモンを一度抱擁するなり早速と故郷へ旅立った。
役人達はダモンを愚かな鹿と嘲ったが、若者は平然として独房へ連れられて行った。
数日後、ディオニュシウスが獄舎へやって来ると、ダモンは格子の外に盤を置いて獄卒と雙六に興じていた。
「おまえは死が恐ろしくないのか」
ディオニュシウスが呆れると、彼は格子の向こうで溜息を吐いた。
「父母が亡くなったので、私はセリヌスから祖父を頼って海路でこのシュラクサイへ参りました。子供の頃のことです。死への船出も、きっとあんなものでございましょう」
「船が苦手か」
ダモンは肩を竦めた。
「ピンティアスは戻らんぞ」
「戻りますとも」
「誰でも自分の命は惜しいものだ」
「ええ。それでも彼は戻ります」
「なぜそう言い切れる」
「なぜでも」
ディオニュシウスは気味が悪くなった。
この男は頭に病でもあるに違いない。
「細鑿を差し入れてください、王よ。私は石工なんです。この駒はひどすぎる」
翻した衣服の裾に、ダモンの声が無邪気に追い縋った。
さて、約定の日、刻限を越えてもピンティアスが戻らないので、ダモンは容赦なく刑場へ引き出された。
見物のざわめきに紛れ、すっかりダモンの馴染みになった獄卒がピンティアスの裏切りを罵った。
しかし当の本人はこの期に及んでまだピンティアスを信じていた。
「船が遅れでもしたのだろう」
とうとう若い石工の手が穿たれようというまさにその時、杭を持つ刑吏の腕を掴んだ者がある。
ピンティアスであった。
「ダモン・セリヌンティウス、おまえのモイロスが今戻ったぞ」
ピンティアスはさっさとダモンの縄を解くと、磔架から退かせてしまった。
そして自ら縛につき死を待った。
ダモンがピンティアスのキタラーを爪弾き、不思議な旋律に場内は涙した。
僭主は二人を無罪に処した。
ディオニュシウスはピンティアスとダモンに自分を友情の三人目に加えてほしいと懇願したが、いくら頼んでも二人はけして是とは言わなかった。
「王よ、我が学派の結束をカルタゴとの戦いに利用できると考えてはなりません」
二人はディオニュシウスを振り切り、師の故郷サモスへ渡ってしまった。
あとにはダモンの手になる雙六の駒だけが残された。
彼等は互いをモイロス(運命の人)と呼んでいた、とディオニュシウスは採掘場へ出かけてフィロセヌスに聞かせた。
フィロセヌスは石灰石の粉にまみれたまま「早く牢屋へ戻してくれ」とぼやいた。
ディオニュシウスは笑い出し、フィロセヌスを解放してやった。
失脚しコリントスで文字を教えていたディオニュシウスから、音楽学者アリストクセノスがじかに聞いた話である。
<了>
心が洗われるな
欣喜雀躍とか久しぶりにみたわ。
欣喜雀躍してくだせぃっ!
ヘ(´・ω・`)ヘ Heyピーポ
|∧
/ /
(´・ω・`)/ Heyピーポ
/( )
(´・ω・`)三 / / >
\ (\\ 三
(/ω・`) < \ 三
( /
/ く どけどけ踊る
ホントに欣喜雀躍する奴は初めて見た。
332 :
優しい名無しさん:2011/06/23(木) 20:26:27.31 ID:346WqFOd
age
夏まっさかりの太陽が、橋の上を進む男たちを照りつけた。
彼らの行く先には、震災で崩壊し、放射線で汚染された、原子力発電施設が待ち受けている。
集団の先頭を歩く男が、空を見上げて呟いた。
「今日も暑いな」
彼の頭は放射線防護服の白いフードに覆われ、防塵ゴーグルと防塵マスクを着けているため、顔は分からない。
だが、その放射線防護服は半袖、半パンだった。
下に着ている作業服も半袖、半パンだ。
彼に続く二十人の男たちも全員、日焼けした逞しい腕と脚を、風にさらしている。
後ろの男が先頭の男に訊いた。
「半袖の防護服なんて意味あるんですか?」
先頭の男は落ち着いた声で答える。
「意味はある。クールビズだ。夏服は涼しいだろう?」
「そうじゃなくて……」
「放射線防護服なんていっても、どのみち放射線は防げん。細かいことは気にするな」
「プルトニウムとか付着したらどうなるんですか!」
「プルトニウムか、世の中そんなものもあるかもしれん。気合と感性で避けろ。お前にもそれができる」
「……」
新入りらしい、その男は押し黙った。
「忘れるな、俺たちはただの原発作業員じゃない。鋼の原発作業員だ。誰も死なん!」
「……孫受けですよね」
その時、ガイガーカウンターがいっそう高く唸り始めた。橋の半ばを過ぎたのだ。
「はい、駆け足ー」
先頭の男がランニングスタイルで走りはじめると、後ろの男たちも続く。
「カーチャンの為ならエーンヤコーラッ!」
「……カーチャンの為ならエーンヤコーラ」
橋の上を小走りに、汚染地域に突入していく男たち。
放射線、放射性物質、天候、政治的思惑。
鋼の男たちは自らの染色体の損傷にも負けず、今日も様々なものと闘い続ける。
未来に賭けて。
>>334 あっざーーーーーーーーーーーーーーすっ!
テキスポ来なせい。
テキスポ自体は壊れかけのようだけど、投稿者のレベルは高いよ。
336 :
砂原 ◆SeOVkba5Tw :2011/06/25(土) 07:11:49.38 ID:z72kZFhl
>>336 おおおおおおおおっ! このスレで2レスもつけば大・好・評!
この「アトミック・クールビズ」はテキスポの800字バトルに参戦した作品なのれす。
800字バトルってのは800字で作品を書いて、優劣を争うもの。
テキスポ、今日いきなりクラッシュしてて焦ったけども。
大好評だったので、調子に乗ってもう一編うpしちゃう。
これも参戦予定。
338 :
夏のさだめ:2011/06/26(日) 02:17:37.00 ID:rzRjoGCR
俺は平凡な男だ。
地元の高校、大学と進学し、今は実家から自転車で通える会社に勤めている。
ただ、夏まっさかりともなると、俺はある特別なものを視た。
初めて視たのは十八年前、俺が六歳のときだった。
夏祭りの帰り道、父母と歩いていると、家へ向かう枝道にかかる橋の上から、女が飛び降りた。
川面に水柱を立てたきり女は消える。
俺は大騒ぎした。
その時は父も橋の方向を眺めていたらしい。
そんな事なかったと宥められたあと、熱中症を疑われて病院に担ぎ込まれた。
それから夏がくる度に、彼女を視た。橋から飛び込み、水面に消えるさまを。
齢を重ねると、近所の高校の夏服を着ている少女だと分かった。
いつの間にか、彼女の歳を追い越してしまった。
その夏の夕べにも彼女を視た。
帰宅する途中だった。
人通りの少ない橋の上、彼女はうつむいて水面を見つめている。
彼女はもう、夏の風物詩でしかない。
俺は躊躇無くペダルを漕いだ。
だが、橋の袂まで行っても、彼女は立っていた。
ここまで近づけたことはない。こんな角度から彼女を視るなんて初めてだった。
何が起きるか分からない。
俺は自転車を降り、用心しながら、それでも彼女に近づいて行った。
彼女の腕と脚は殴られたような痣だらけだった。
生々しい。
腕を伸ばせば届くところまで来たとき、俺は声をかけずにいられなかった。
「君、何をしてるんだ?」
彼女はこちらを見もせず、欄干を越えようとした。
「待て!」
俺は彼女をつかんで引き戻し、振りほどこうとするのを押さえつける。
彼女は泣いていた。
「辛くて……辛くて」
俺は彼女を抱きしめていた。
「俺が……守ってやるから」
それが妻との出会いだった。
もう、橋から飛び込む少女の姿を視ることはなかった。
ユートピア思い出した
もう少し長い話しで読みたい
800字程度だから寸詰まりになりがちだけど、
個人的にはあんまり長く書く話でもないかなと思ってる。
1600字程度にできればちょうどいいかな。
ところでユートピアってなんだい?
>>340 びっくりするほどユートピア!
びっくりするほどユートピア!
>>341 びっくりするほどユートピアって初めて知ったわw
凄まじい儀式だな!
343 :
擬似的:2011/07/04(月) 01:48:41.92 ID:K2CipLsA
今、手を握っていることに意味はあるのかな?
二人の空いているもう一方の手は、互いの性器に触れている。
触れているだけではなく、愛撫している。快楽を与え合っているのだ。
それが目的なら、手を握り合う必要なんてないはずだが、私たちはそのままでいた。
少なくとも私はそうしたかったからだ。彼-がどうかは知らない。
相手の気持ちを考える余裕などなかった。あるのはただ彼-が与えてくれる快楽と、
(つまり、奪われた私の快楽)
過ぎていく何かにすがりつくような気持ちで、私も相手に与えている快楽と、
(奪った快楽)
これらに属さず、繋いだままで静かに置かれた、
二人のもう一方の手だけだった。
電流は先に私からほとばしった。
暖かな遠い空中へと、支えもなく投げ出されるような感覚。
私は彼-への感謝と、同じ感覚を感じてほしい願望から、
電流の中に埋もれそうになる意識を懸命にとどめた。
そして彼-の性器に与える刺激がより深く、より繊細になるよう、心を尽くす。
「いっぱい」
ふいに彼-が、そんなことをつぶやいた。深い夢の中で眠りながら話す人のようだった。
その声を聞いたとたん、私の中からは自分の快楽が消え、彼-への愛しさだけが残った。
私は彼-の唇に自分の唇を当てた。反応は弱々しく、それが一層私の欲望を掻き立てた。
私は性器を握る手に全ての想いを込めた。彼-の背中が弓なりに曲がった。
彼-の電流がやってくる。手の届くところにそれが感じられる。
その瞬間、自分の身に起きたことが信じられなかった。
興奮のあまりだろう、私たちはどちらからともなく、
性器に当てていたのではない、もう一方の繋いだ手を離してしまった。
すると、電流は止まった。私と彼-の間には、もう何も存在しなかった。
私たちは互いを、歩きながらうつむいて見るアスファルトの路面のように、見た。
そこにはもう何もなかった。
おぢさん、こーゆーのグロより苦手なんだけど、評価したほうかいいかい?
とりあえず、苦手意識を持って読んだせいか、素でダメなのか、何がなんだかよく分からないよ!
リハビリ作品
イライラする。やたらイライラする。毎日わたしは何かにイライラしている。
例えばマクドナルドの店員の笑顔。何愛想振りまいてんの?そんなやっすい笑顔となんていらないからさっさとコーラ寄越せよ。
わたしは不機嫌を表に出さず、あくまで穏やかにコーラをひったくるように受け取ってプラスチックの椅子に座る。そして辺りを見回してみる。
バカっぽい話をしてるバカっぽい高校生たち。大人しそうだけど妄想逞しそうなネクラ女。
いわゆる草食系男子とか言いつつ、皮一枚剥いだら性欲の塊で常に瞳をギラギラさせて女を狙っていそうな醜い生物。
全てにイライラする。でも一番イライラするのは自分だ。
こいつらに愛想笑いしたり、媚びへつらったり、頭下げたり、
何より同じ世界に生きている自分、死ぬ勇気なんてカケラもないバカでバカで仕方なくて愚かな自分にイライラする。
コーラをズルズルと飲み干してマクドナルドを出る。イライラする世界よ、ようこそ。
さらにイラつくネタを提供してあげよう。
マックで一番喜ばれるのはコーラらしいぞ。
なんせ原液は無料で仕入れてるらしいから。
俺はマックで飲み物なんて、まず買わない。
マックでコーラなんてブルジョワジーだな、ねねねタン?
当たり前のように個人特定乙
どう受け取っていいかわからない感想ありがとうございます
ドリンク系は原価安いのは知ってます コーラはスーパーで買う節約派です
ふへへ、笑われちゃったぁ〜。
ところで
>>333の「アトミック・クールビズ」が800字バトルでグランプリを獲ったんですぞ!
もう一週間も前だけど、報告忘れてたわ。
このスレは大丈夫なのか?
351 :
優しい名無しさん:2011/09/01(木) 21:47:36.97 ID:bFxuBoD3
age
アゲ厨が出現してしまったか
何かうpらねばなるまい。
ちょっと古いが短いの。
353 :
怪人の夕べ:2011/09/03(土) 03:33:21.36 ID:Kzk6INH/
「お前さ、信号待ちってする?」
築四十年のボロアパートの一室で、カマキリ男がクモ男に尋ねた。
クモ男はほおばっていた焼きソバを、あわてて飲み下して答える。
「するんじゃないの、普通?」
「車が通ってなかったとしてもか?」
カマキリ男は黄色い大きな目をぎょろっと回して、クモ男の四つある目のうち、上の二つを見つめながら訊いた。
「そりゃまあ一応、俺たち改造人間だし」
「だからだろ、俺たちトラックに撥ねられたって平気じゃねーの? なんで信号待ちなんかすんの?」
クモ男はやきそばを箸でこねくりまわしながら答えた。
「俺たちはちょっとふっとぶだけで済むけど、トラックの運転手には迷惑かかるじゃん。だいいち君はどうなんだ、カマキリ男くん?」
「待つよ」
「なんで?」
カマキリ男は緑色をしているだけの、普通の両腕を組んで答える。
「どこで子供たちが見てるか、わかんねーじゃん。信号無視なんて見られたら教育に良くない」
「だよねー」
「総統もさ、なんでヒーローっぽい改造してくんなかったのかね、俺たちのこと。お前はまだいいよ、クモ男って感じするもん」
「君なんてさ、カマキリだっつっても肌が緑で目が大きいだけだもんねぇ? あと頭がちょっと尖ってるかな」
「でもさ、いいこともあったぜ? こんだけ目がでかくなったのに、痒くないんだぜ」
「痒く、ってなに?」
「花粉症。改造受けたら治っちゃったね」
「へー」
そんな感じで怪人たちの夜は更けてゆく。
二人は知らなかった。
毎晩、ボロ部屋のカーテンに映し出される二人の怪人の影絵に胸躍らせる、近所の子供たちがいることを。
入院してました。お久しぶりです。
拝啓、天国のお母様、オレは大学を中退して、流行の最先端、ニートひきこもりになりました。
と死んでもいない母親を死んだことにしてしんみりした雰囲気を吐き出しながら、しかしオレが大学中退ニートひきこもりと言う事実は変わらないのであった。
それにオタクだしね。てへりっ☆
四畳半のオレの城(築六十二年、フロ無し、トイレ共同)はエロゲーが積んであったり、妖艶な姿をした俺の嫁(二.五次元)のフィギュアが大量にあったり、
八ヶ月かけて作ったガンダム(シャアザク)のプラモがあったり、
かと思えば食べ終わったコンビニ弁当やカップ麺の容器、コカコーラのペットボトルの残骸があちらこちらに散らばっていて、
オレのことを知らない人が見たら、ゴミ溜めかと思われるだろう。
しかしオレにとっては城である。戦闘城砦である。マスラヲ? マクロス? ナデシコ? そんな感じである。わかる人がわかればよろし。ご了承下さい。
そんなニートひきこもりであるオレ、もちろん好きでニートでひきってる訳ではない。
大学に入ったら脱オタして大学デビューしてサークルで女の子とキャッキャウフフ☆な展開とか
バイトで活躍して店長に褒められるとか、そんなありきたりだけど超ハッピーリア充タイムを期待していた時期がわたくしにもありました。
あったんですが、全てが真逆で、大学生活はドブ色、サークルに入っても女の子と話しなれてないし、チャラいDQNに圧倒されたり、バイトしたら失敗だらけで店長に叱られてクビにされたり、本当に何なのこれ。
何で現実って攻略不能な訳? オレ生まれてきた時人生ハードモード設定しちゃったの? とか思う訳ですよ、ええ。偉い人にはそれがわからんとです。
そんなオレが、人生の一大決心をした。もったいぶりらいけど、もったいぶってるうちに聞いてくれる人がいなくなりそうな悪寒なので、とっとと言う。
自爆テロである。
この超平和国家スパイ天国日本で、自爆テロ。
冗談?
ラノベの読みすぎ?
違う。
オレは本気である。
幸運なことに大学では薬品関係の勉強をしていた。
それに今の世の中は「ザ・殺人術」とか爆弾の作り方とか載ってる本は売ってるところには売っている。
便利な密林さん、マジぱねぇです。
オレは三ヶ月の期間を費やし、破壊力ハイパーな爆弾を作った。
乗り込み先は国会議事堂。
決行日は今日。
英語で言えばトゥデイ。
じゃあちょっくら、ニートのひきこもりの底力、平和ボケした世の中に見せてやってきますよ。
んじゃ、行ってきますか。
357 :
わたしの家族:2011/09/30(金) 15:13:08.00 ID:yxYNbcC/
メーオセイオーと三回唱えれば来てくれるダークヒーローなんていない世界だけど今日のわたしの世界はいつもと同じで泥沼でハッピーイエー。
不登校の弟が今日も深夜アニメの録画したの(なんかやたら語尾がおかしくて、やたら白いモヤのモザイクがかかってるヤツ)見てて、
同じく不登校の妹はそんな弟にちょっかい出してはサンドバックにされてて、
同じく不登校のわたしは、駄菓子を食べながらその光景を見ていて、
社会的不登校なお母さんは「納豆ねばねば納豆ねーる納豆が納豆が納豆が……」とゲシュタルト崩壊なう。
わたしの家のお父さんは社会的優等生くんだったけど、
お母さんいわく
「お父さんは別の家のお父さんになっちゃったから、もうサヤ達のお父さんじゃないの。
お父さんはお父さんは別のお父さんになって、
サヤ達のお父さんは消えてしまったの向日葵畑の向こう側へ十二月の向日葵は大層綺麗ね、って十一次元の彼女が言ってたわ」
「お前ジャマなんだよ向こう行けよもう死ねよ」ドカバキ。
「なんでお兄ちゃんあたしにだけそんなひどいこと言うの? ねぇなんでなんで。お母さん、おかーさーん」しくしく。
「納豆納豆、え、何? 今、お母さん、納豆で忙しいの納豆納豆……サヤー」納豆納豆。
「ああ、ごめん。お母さん。わたし今、練り飴練るので忙しいの」ねーるねる。
本当はヨーグリッチをほじくるのに忙しいんだけどね。てへっ。
ヒーローなんていない。大好きなメーオーセーオーもいない。
世界線も変動しない。
そんな世界だけど今日もわたしの家族は最低で最悪で醜悪でにぎやかで楽しいです、まる。
358 :
俺とミサコ:2011/10/17(月) 21:21:44.22 ID:5xlwnjVF
ミサコ曰く、地球は狙われているらしい。……って何に?
そんな意味のわからん女が自分の妹である、と言う事実は目を背けたいとしか言いようが無いが、
しかし背けたところでそこにミサコ。俺の後ろにべったり張り付いてやがる。お前は背後霊か。
「お兄ちゃん、地球は狙われてるんだよ」
今日もミサコの電波攻撃開始。ビビビビ。
「へー。地球防衛軍にはがんばって貰いたいねぇ」
「お兄ちゃんには地球に対する危機感が足りてない。バファリンの優しさを見習うべきだよ! お兄ちゃんが地球防衛軍になってよ!」
「いやぁ、俺は一介の高校生やるんで忙しいんだよ。あ、今日部活だから晩御飯は適当に食べといて」
「えー、お兄ちゃん部活なの? ミサコ放置で部活? ひどい!」
「ひどくない。お前もオカ研なんて幽霊帰宅部入ってないで、運動部入れよ」
「嫌。運動きらい」
「運動嫌いで地球が守れるんですかね、ミサコさん?」
「守れるもん! わたしには宇宙神から授かったマル秘パワーがあるもん!」
「へー、すげーな」
設定が。
そんな会話をしながら、俺ら兄妹は学校へ向かう。
本日も快晴なり。
早く妹の中二病が治りますように、といるか解からん宇宙神に祈っておいた。
モテ期
人生十七年、今まで一度もモテたことの無かったオレにもとうとう「モテ期」とやらが来たらしい。
通常ならばそれはとても嬉しくてニヤニヤが止まらないだろうところであるが、オレの場合は違うのであった。
オレの「モテ期」の相手、つまりオレのことを好き好き大好き超愛してるな相手は――有体に言えばストーカー女だった。
ストーカーだから、日常のストーキング行為は当たり前。
無言電話、愛してる愛してる愛してると延々綴られたロングファックス。
教えても無いのに、携帯電話の電話(留守電)やら、メールやらに大量のラブコール。
最近に至っては自宅に届くオレ宛の郵送物が謎の失踪事件を遂げている。
通常であれば、即刻ポリスメンにお助け女神事務所をするところであるが、オレはしないし、その予定は無い。
何故なら、そのストーカー女――白雪はオレの好みのドストライク、超絶美少女なのである。
天使のわっかが出来ているセミロングの黒髪。陶器のように滑らかな肌。小さな顔には大きなアーモンド形の瞳と、薄い桃色の唇が嵌め込まれ、
町中で出会ったら確実に見とれるタイプの女子。
流石「モテ期」、まさかここまですごいとは思わなかったぜマサルさん……ゴクリ。
ストーカーゆえ、白雪は当然の如く、オレが白雪のことを好きだと思っているし、
もしかしたらもう付き合っている気分で明るい家族計画すら立っているかも知れない。
失礼な友人には「あいつ美人だけどマジヤバいって。早く警察突き出すなりどうなりしろよ。お前、刺されるぞ」
など、言われているが、オレはもう人生に三度も訪れる気がしない「モテ期」を楽しんで、
ゆくゆくは明るくラブラブちゅっちゅな家庭を白雪と作る所存である。
>>359 そういう状況に憧れるわ
女にストーカーされたいな
>>360氏
「未来日記」のゆのさま、「さよなら絶望先生」のまといちゃんなど、
美少女ヤンデレキャラは正義だと、わたくしは思っております。
>>361 くだらない質問をしますが
あなたは結構、男慣れしてる子ですか?
セックス、なんて言葉が普通に小説に出てくるのでどうなのかなと
>>362 童貞的な意味で言えば魔法少女です。
男性は苦手です。人間自体、お話すると緊張しちゃうタイプですわ。
>>363 30歳まで先は長いですが、頑張ってください。
たしか30歳まで処女なら魔法少女になるんでしたっけ?
ちょっと知識不足でわかりません。
いったいみんなどこでねねね様の小説読んできたのかと思ったらこんなスレもあったのか。
彼方氏
テキスポでも「ねねね」名義で活動しております。
探偵とぼく
「何故世の中の蒙昧たる愚民どもは俺の偉大なる才能に気づかないのかっ……!」
ソファーに腰掛けた木田が、忌々しそうに呻いた。一体何度目か、数えるのも面倒だ。
「木田、探偵やめなよ」
ぼくな何度と無く言ってきた忠告を、友人にもう一度告げた。
「貴様の分際で何を言う! 探偵は浪漫だ! 怜悧さと聡明な推理力、
すかした台詞……全て俺に当てはまるだろう! 言わば俺の天職だ」
「……って言っても開店閉業中みたいなものだし、犬猫探しだの、浮気の調査しかしてないじゃん」
「ふふん、甘いな。だから貴様は俺の足元にも及ばぬのだ。
俺の爪の垢を全身煎じて飲むと良い。今の仕事は……その、将来への布石、投資である!
日々業務に勤しむことによって、素敵で可憐な事件が俺の元へ舞い込んでくるのだ!」
「今の仕事……」辺りで歯切れが悪くなったのは気のせいではないだろう。
本人も苦虫を噛み潰したような表情をしている。
こんな具合にぼくと自称スーパー探偵木田の日常は、何の変化も無く連続される。
>>367 「ぼくな」は「ぼくが」かな
できれば起承転結の物語に挑戦してもらいたい。
小節の学校へ行くようになってからどういう風に変わっていくのか興味がある。
371 :
優しい名無しさん:2011/10/21(金) 23:52:44.41 ID:ebSH31Ff
369はストーカーかよ
>>369 十代の女がアップしてる他の作品と比べたら段違いで上手い
>>371 くっくっく、そういう奴が出てくると思ってた。
このスレでは、ほとんど二人だけで遊んでた時期があるので、覚えてしまっても不思議はない。
なんで今になって、ねねねブレイクなのか分からないが。
長いのは合同本ように書いてあって、
ここで投稿するのは息抜きです。
わたくし、どこからレスポンスしていいかわかりません。
おめめがぐるぐるねるねるです。
>>374 合同本の完成を祈ってるぜ。
後で後悔しないように、何度も推敲してくれ。
>>375氏
もう推敲と完成はしてあって、相方の原稿ごにょごにょって感じです……。
もちろん良い本作ります!わたくし、燃えておりますゆえ。
>>376 期待してるぜ
ところで、キリシタンになったら結婚するまで処女を守らないといけないって話は本当?
それならそう簡単に恋愛できないのでは・・・
サオリ
「暇やー」
わたしのベッドに寝転びながら、サオリが本当に暇そうに言った。
「暇なら帰れば?」
「帰っても暇やし、なら自分のとこいた方が暇潰れるし」
冷徹な言葉でも、のらりくらりと交わすサオリ。
「だったらさ、趣味とか、部活とか」
「無理無理無理。うち無趣味やもん。強いて言えば授業中の昼寝?
みたいな。運動やって嫌いやし、文化部なんてネクラなオタクばっかやんけ」
「文化部の人に謝りなさい」
「は? なんでうちが謝らんといけん訳? 本当のこと言っただけやし」
そう言うと、サオリはベッドの上で足をばたつかせる。
「……本当はウチかて解かってるて。無趣味で無価値で、どうしようもないぐらい。
何かとりえでもあれば救いやけど、うちには何ひとつない。平凡な、どこにでもいる女子高生。埋没する存在」
「まぁ、そんなもんだよ。大半の高校生は。サオリだけじゃない」
「慰めはいらんねん。聞いてくれるだけでよくて、聞いてもらう女々しい自分が嫌やねん」
「……あそ」
サオリは、ばたばたさせていた足を止め、部屋に静寂が満ちる。
数秒後。
「よっしゃ。うち復活! めちゃ元気! 超がんばる!」
がばりとベッドから飛び起き、ベッドの上に立ったサオリがはなまる笑顔で言った。
わたしはサオリのこういうところが大好きだ。
普通の高校生は無趣味で無価値。でもいいじゃん。開き直り?
なんとでも言え。人生、楽しんだもの勝ちだ。
- - -
>>377氏
自宅が浄土真宗ゆえ、ミサには毎週通ってキリスト教の勉強はしますが、
洗礼は受けません。
ただ未来のだんな様に失礼ゆえ、貞操を守る所存でありますし、
デブスゆえ、恋愛などありませぬ。本と結婚致します。
>>378 貞操を守るとは、良い心掛けだね
その小説を読んで気になったんだけど、君って学生の時は何部だったの?
>>379氏
ありがとうございます。
中学→パソコン部
高校→文芸サークル(実際はオタクの巣窟)
高校転校して文化部に体験入学するものの、志の低い人ばかりで1度でやめる
です。
>>380 そこらの高校に君みたいに幅広く本を読んでる子なんていそうにないもんな
昔ならともかく、今の時代はネットが無ければ文学マニアとの交流も難しい。
文系の大学へ行く気は無いの?
>>381氏
個人的なお話でスレを消費はいかがか、と思うゆえ、メールで
read_or_die☆@vivi.to